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美琴「おかえりなさい、とうま」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:23:32.78 ID:r9n19+zk0
>>1
・ss初心者に加えスレ立てるの初めて。
・上琴になる予定、でも禁書も大好き。
・かなり遅筆。

最初は某スレに投稿してたけど、途中でスレ違いに気付いたのでこっちにすることにしました。
自己満足を垂れ流す予定なんで気分が悪くなったなら見ないほうが良いかもしんない。
見てくれた人の暇つぶしになってくれるといいなー
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「ただのクマです、通して下さい」デスガイド「よし通れ」 @ 2025/07/01(火) 01:46:57.85 ID:AZqAU1up0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1751302017/

速水奏「プロデューサーさんにスカウトされた話」 @ 2025/06/30(月) 23:35:01.77 ID:EyxvIr6M0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1751294101/

invest in reverberations dull fallout hoopla @ 2025/06/29(日) 12:49:23.56 ID:fSRAeK0bo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1751168963/

テスト @ 2025/06/29(日) 01:16:24.52 ID:VUhgeNEw0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1751127384/

おトイレ @ 2025/06/29(日) 01:03:06.12 ID:YzFWZ2ToO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1751126586/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part7 @ 2025/06/28(土) 18:43:24.71 ID:5y5+uScJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1751103804/

頼む! @ 2025/06/28(土) 02:14:21.86 ID:wTso3bhIO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1751044461/

頼む!見逃してくれ! @ 2025/06/28(土) 02:12:47.45 ID:t/vvooNwo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1751044367/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:26:07.67 ID:pdfpNJYDO
期待
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:26:25.33 ID:r9n19+zk0

〜某カフェテリアにて〜


時間帯は夕方。
とあるカフェテリアにて3人の少女が集まっていた。
皆が同じ学校と言うわけではなく、縁あって機会があれば集まり談話している。
今日は行きつけの百貨店の一階に新しい店が出来たということでその味見をしようという計画だった。
ファミレスのようなボックス型ではなく、円形のテーブルに4つの椅子を囲った形である。
本来であればその椅子には3人ではなく4人なのだが、その少女は事情があって今はいない。
そして、女3人集まればなんとやら、といった風になるはずなのだが………

「はぁぁー」

1人の少女が漏らしたため息によってあまり会話が成り立っていなかった。
その少女の名前は御坂 美琴。とある名門中学に通う二年生である。
先ほどからぼんやりと何かを考え込んでため息をつく、というサイクルを繰り返している。
もちろん、そんな彼女を残りの2人が放っておけるはずがない。

「えーっと、御坂さん?」

頭に花飾りをつけた少女 初春が尋ねる。
これで何回目だろうか?しかし美琴は答えない。たとえ答えたとしても―――

「え?ううん、何でもない」

―――と答えるだけだ。
さすがにここまで来ると心配になってくる。
“あの”美琴がここまで悩んでいるのだ。
もしかしたらなにか大変なことがあったのかもしれない。

「ねえ、初春。御坂さん、ホントどーしたんだろ?」

黒いロングヘアーの少女、佐天が初春に尋ねるも彼女は首を横に振るだけ。

「白井さんなら何か知っているのかもしれませんが……」

今はここにいない少女の名前は白井。彼女は美琴の後輩であり、相棒でもある人物だ。
白井は美琴を敬愛しており(若干逝き過ぎな面もある)、詳しい事情も知っているかもしれない。
だが彼女は仕事で今は忙しくここにはいない。その事実が悔やまれる。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:27:42.49 ID:r9n19+zk0

「御坂さん!」

意を決して佐天が大きな声で呼んだ。

「えっ?何?どうしたの?」

佐天にとって美琴は恩人でもある大切な人だ。だからこそ悩んでいるなら助けになりたい。
自身がたとえLevel0であったとしても出来ることは必ずあるはず、そう思うのはいけないことだろうか。

「何か悩みがあるんじゃないですか?」

「無い無い。大丈夫だから」

このやりとりにもいい加減飽きてきた。

「大丈夫なわけないじゃないですか。さっきからずっとそれですよ?」

「ごめん……」

うなだれてしまった。少し強く言いすぎたかもしれない。
その気持ちを読み取ったのか、今度は初春が話を続ける。

「御坂さん。私たちにとって御坂さんは大切な友達です」

「卑怯な言い方ですけれど、信頼していただけるなら打ち明けていただけませんか?」

卑怯だな、そう、初春思ってしまう。
しかしこんな言い方をしなければきっと教えてはくれないだろう。

「うん……二人ともありがとう」

ここまで想われているのだ、話したほうが良いのかもしれない。
美琴はおそるおそる悩みを打ち明けた。

「えっと…ね――――――――――








「――――――つまり御坂さんは恋をしてらっしゃると」

「……うん」

初春と佐天は愕然とした。想像していたものとはかなりかけ離れていたからだ。
しかし、よりにもよって恋とは……
失礼だが安堵してしまう。そして同時に可愛いと思ってしまった。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:28:28.30 ID:r9n19+zk0

「御坂さん!」

意を決して佐天が大きな声で呼んだ。

「えっ?何?どうしたの?」

佐天にとって美琴は恩人でもある大切な人だ。だからこそ悩んでいるなら助けになりたい。
自身がたとえLevel0であったとしても出来ることは必ずあるはず、そう思うのはいけないことだろうか。

「何か悩みがあるんじゃないですか?」

「無い無い。大丈夫だから」

このやりとりにもいい加減飽きてきた。

「大丈夫なわけないじゃないですか。さっきからずっとそれですよ?」

「ごめん……」

うなだれてしまった。少し強く言いすぎたかもしれない。
その気持ちを読み取ったのか、今度は初春が話を続ける。

「御坂さん。私たちにとって御坂さんは大切な友達です」

「卑怯な言い方ですけれど、信頼していただけるなら打ち明けていただけませんか?」

卑怯だな、そう、初春思ってしまう。
しかしこんな言い方をしなければきっと教えてはくれないだろう。

「うん……二人ともありがとう」

ここまで想われているのだ、話したほうが良いのかもしれない。
美琴はおそるおそる悩みを打ち明けた。

「えっと…ね――――――――――








「――――――つまり御坂さんは恋をしてらっしゃると」

「……うん」

初春と佐天は愕然とした。想像していたものとはかなりかけ離れていたからだ。
しかし、よりにもよって恋とは……
失礼だが安堵してしまう。そして同時に可愛いと思ってしまった。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:29:26.16 ID:r9n19+zk0

「ならここで私たちと時間を過ごしてる暇なんてないですよっ!」

「片思いなら尚更じゃないですか、デートとか誘ったりしないと!」

「デッデデデート!?無理!!そんにゃの無理!!」

取り乱す美琴。
そういえば彼女は先ほど話してくれた内容から察するに――――――かなり純情過ぎる。
ちなみに悩んでいた内容は大きく分けて3つ。

@相手はかなり鈍感
A美琴が素直になれない
B相手の周りには魅力的な女性が多い

と、いったものであり、途中でのろけ話になりそうになったことが多々あったがそこは割愛。

「でもこのままじゃ難しいですよ……」

佐天は正直に言ってしまった。
その言葉に涙ぐむ美琴。その様子は普段からは想像できない。
すると、なにやら初春から黒いオーラが漂ってきた。
美琴の弱々しい態度に嗜虐心がそそられたらしい。

「御坂さん……考えても見てください」

「初春さん?何を?」

美琴は初春に目を向ける。

「その人はかなり鈍感なんですよね?」

「しかも御坂さんが素直になれないせいでかなり損をしていると思います」

「電気をぶつけたりしたら、好感なんて持ってもらえるわけないですよ」

「最悪、嫌われているかもしれません」

顔面蒼白、な、美琴。
だが、初春は止まらない。

「それにその人にとって、女性は御坂さんだけじゃないんですよ?」

「御坂さんとは違って、素直で、お淑やかで、間違っても雷撃なんてぶつけません」

「なら、そんな女性に心奪われても仕方ありません。いや……」



「――――――既に奪われているのかもしれませんね――――――」



そう言って、初春はカップを手にとって中身をすする。
ちょっ!?という佐天の制止も彼女には聞こえない。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:31:29.96 ID:r9n19+zk0

「御坂……さん?」

「…」

その呼びかけには美琴は答えられなかった。
色々と頭の中で想像してしまっている。
だが、それは明確な形で像を成していないだろう。
だから初春は美琴の耳元で囁いた。逃がさないように、逃げられないように。

「これから先、御坂さんがどれだけ想いを募らせようとその人はあなたを見てくれません」

「他の女と一緒に愛を育みます」

「御坂さんじゃない女性と抱き合ったり、キスしたり、その先までも……」

「今、御坂さんが悩んでいるこの瞬間もきっとそういうことをしているんじゃないですか?」

「彼の上に跨り、腰を振って、食べてるんですよ」

「そのうち彼は御坂さんの存在を忘れていきます、他の女性によって塗りつぶされていくんです」

「そしてその女性は“こう”思うでしょうね」

「ああ、本当に、あの女は愚かだったな、って」

「それで良いんですか?」

初春の囁きによって明確な未来が見えてしまったのか、美琴は恐怖に震えている。

「嫌よ……そんなの……いや…いや…」

佐天も初春の豹変にガタガタと震えている。

「じゃあ…どうすればいいか…わかりますよね、御坂さん?」

「どうすれば…どうすればいいの?」

藁にもすがる思いなのか、涙を湛えながら初春に答えを求めた。

「簡単なことですよ。素直になれば良いんです。」

「……………それだけで………いいの?」

意外な答えなのか、美琴は驚いている。

「ええ、それが一番大切です。御坂さんはその人とどんなことがシたいですか?」

「当麻と一緒に抱き合ったり、キスしたり、望まれるんだったら……その先までだって……でも……」

相手の名前はトウマというらしい。
しかし、なにか不安要素があったのか、逆接が続いた。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:33:37.24 ID:r9n19+zk0

「もしかしたら、またスル―されちゃうんじゃないかって思うと……」

すると初春は呆れたようにため息をついた。

「それがいけないんですよ。奪われてもいいんですね?」

「嫌っ!!」

即答する美琴。しかし今の初春はなんなんだろう?
彼女は年上のハズの美琴を優しく撫でながら、助言する。

「無理矢理でもいいじゃないですか」

「そんなことしたら…嫌われちゃうんじゃ……」

優しく優しく甘く甘く初春は美琴に囁く。

「どうだっていいんですよ……そんなこと」

「え?でも……」

戸惑う美琴に初春は続ける。

「大切なのは“結果”ですよ?」

「強引にその人を御坂さんのモノにすればいいんですよ」

「そうすれば彼は御坂さんをスルー出来なくなります」

「トウマさんの中に御坂さんの存在が刻まれるんです」

それを想像してしまったのか、美琴の表情にわずかな恍惚が浮かんだ。

「後はじっくり、嬲るように、ねぶるように」

「その人の心を汚し、犯し、堕とすんです」

「いいえ」

「トウマさんの心を御坂さんで満たして上げればいいんですよ」

この言い換えが効いたのか、美琴の罪悪感は薄れていく。
先ほどの陰りのあった表情とは激変して今では決意が瞳に宿っている。
そして初春は鞄から手錠を差し出して、こういった。

「御坂さん、良かったらコレ使って下さい」

「うん。ありがとう」

「(ういはる!?手錠って!?御坂さんも受け入れているし!?)」

佐天の突っ込みは届かない。

「連絡先を知ってるなら早いほうがいいですね。悠長にしていると他の女に寝とられちゃいますよ?」

「ありがとう、初春さん、佐天さん。じゃあ行ってくる」

「(いやいやいやいやおかしいよ絶対)」

美琴は財布から現金を抜き出しテーブルにおいて、迅雷の如く去って行った。





「ねえ、初春」

「なんですか、佐天さん」

「ちょっとやりすぎなんじゃ……」

「ダメですねぇ、佐天さん。そんなこと言っちゃあ……」

「え?初春?なんで手錠用意してんの?ねえ?」

「大丈夫ですよ、気持ち良くシてあげますから……」

「初春!?ちょっとまっ――――――――

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:36:27.12 ID:r9n19+zk0

〜とある学生寮の一室〜【上条当麻】

ツンツン頭の高校生こと、上条当麻はテーブルに向かって勉強をしていた。
正直に言って頭は悪いほうなので、たびたび補修なり追加課題を出されてしまう。
いつもに比べれば、課題ははかどっているほうだ。その事実が彼にとって少し寂しい。
部屋に響く筆音が、それだけしか無い事実が、ひどく不愉快に思える。

「だめだな。やめよう」

そう言って、テーブルに広がった道具一式を片づけ、しまう。
後方に倒れ仰向けになる。虚しい、悲しい、そんな気分だ。
すると、ベッドに置いてあった携帯電話が鳴りだした。
手にとって確認すると送り主は御坂 美琴。
どうやら電話らしい。だが、今は出たくはなかった。
ベッドにそれを放り投げ、独り物思いにふける。
しかし着信音は止まない。仕方が無いので電話に出ることにした。

「なんだよ。ビリビリ」

『当麻?今何してんの?』

ふと、何か違和感を覚えたが、それが何かはわからない

「何って……なにもしてねーけど」

『じゃあ、暇なの?』

「そうだな」

『ならいつもの場所に来てくれない?』

「お前――――――」

断ろうとして、それは止めておいた。このままの状態はあまりよろしくない。
ならばこの誘いに乗って気を紛らわせよう。

「わかったよ。今から行けばいいのか?」

『うん。待ってる』

通話を終えて、のそのそと外出の用意をする。
学生服のまま勉強していたので特に着替える必要もない。
コートを羽織り、マフラー、手袋を準備して、携帯と財布を所持する。
あのビリビリ中学生からの呼び出しで良い思いをした事は無いので、一応財布の中身もチェック。
先日仕送りと僅かな奨学金が入って来たばかりなので、余裕はあるようだ。
電気、ガス栓を確認して、靴を履き、ドアを開けて。

「じゃあ行ってくるな、インデッ――――――」







―――――その言葉がどれだけ無意味で、どれほど当たり前だったのか―――――







「……行くか」

上条は虚ろな心のまま待ち合わせの場所へと向かった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:37:58.04 ID:r9n19+zk0
暗い思考のまま歩を進めて、気が付いたら待ち合わせの場所に着いていた。
公園に植えられている樹木はあの夏の頃に比べ生気が無く枯れており、まるで今の自分の心を映しているかのようだ。
辺りを見回すと待ち人はベンチに腰掛けてなにやら飲み物を飲んでいる。

「おっす。いきなりなんだよ?」

努めて明るい声を出し用件を尋ねた。

「うん。ごめんねいきなりで」

そう言って美琴は上条に缶コーヒーを差し出してきた。受け取るとソレはややぬるい。
待たせてしまったのは気が乗らなかったとはいえ急がないで歩いてきたせいだ。

「いや、こっちもだいぶ遅れちまったし。ごめんな」

負い目を感じてこちらも謝る。
そこでまた電話している時にも生じた違和感を覚えた。

「(なんか変だな?)」

「どうしたの?」

怪訝な顔をしていた上条に美琴は疑問に思ったのか、心配するように窺ってくる。

「なんでもねーよ。それで?」

「夕飯作ってあげようと思って。材料はもう買ってあるから」

ベンチに置いてあったモノを掲げて見せる。
ビニール袋に捺されているロゴはいつも自分が通っているスーパーのものだった。

「えーと……どういうことでせうか?」

「いろいろと助けられたし、そのお礼」

「別に礼なんて……」

「それにほら、アンタと落ち着いて話す機会ってあんまり無いじゃない?」

それは誰のせいだよオイ、と言いたくなるが我慢する。
せっかくの好意を無駄にはしたくはない、それに―――――
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:39:43.22 ID:r9n19+zk0

「当麻?」

「あぁ、悪い悪い……って……アレ?」

「さっきから変よ」

「…………名前」

「うん?」

「いつから名前で呼ぶようになったんだっけ?」

「嫌だった?」

「嫌じゃねーけど………そうだよ…なんか変だと思ったら……」

美琴をビリビリ扱いして彼女が怒らなかった日は無い。それに上条は呼び出しをくらっても急ぐ様子を見せなかった。
ならば遅れてきたことにそれなりの洗礼やら罵声やら飛んでくるはずなのだ。たとえそれが理不尽なものであったとしても。

それが―――――無い。

「御坂のほうこそ変だろ」

「私が?」

「ビリビリしねーじゃねーか。いやいやいや別にして欲しい訳ではなくてですね……」

慌てて言い訳するも電撃に警戒するように構える上条。
いつもの美琴ならそれを誘っていると認識して彼に望み通りのモノを与えてあげただろう。
しかし、その“いつもの”がやってこない。不審に思って彼女を見やると呆れたような目付きでこちらを見ていた。

「あのねぇ……」

「こっちの事情でいきなり呼び出したんだからそんなことするわけないでしょ」

「それともシて欲しいのかしら?当麻は?」

そんなことを言いながらも帯電する様子は無かった。つまるところビリビリ中学生は卒業したらしい。

「ソンナコトナイデスヨ御坂サン」

「あと名前」

「へ?」

「名前で呼んでよ」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:40:57.02 ID:r9n19+zk0
頬を赤らめて恥ずかしがりながら、それでも真っ直ぐに上条を見つめてお願いする美琴。
彼女の変わりようについていけなくなり上条は混乱してしまう。
思考は絡まり空回りして何と言えばいいか解らない。
その様子に美琴はため息をつき、両手の荷物を置いて距離を詰めた。

「ねぇ。とうま」

右手が腰にまわされて、左手を頬に優しく添えられて、撫でられた。

「み…さ……か?」

近すぎる距離のせいで彼女から感じる柔らかさにボーっとする。

「みこと……でしょ?」

濡れた瞳、頬にかかる甘い吐息、鼻をくすぐる髪の香りに侵され正常な判断が出来ない。

「み…こと」

「もう一回」

「みこと」

「うん、それでよろしい」

そう言って美琴は離れた。
触れられていた頬に残った温かさが冷めていくと同時に思考も元に戻る。

「ぼーっとしてないで。当麻、部屋まで案内してよ」

既に荷物を両手に持ってニヤニヤしながら促してきた。
からかわれたことに気付いて顔が赤くなり、少しばかり腹が立つ。
しかしその話を蒸し返すのも情けないし、かといってやられっぱなしは気に食わない。

だから―――――

「重いだろ?片方貸せよ」

美琴の左手のビニール袋を強引に奪い、空いたその手に自らの右手を繋ぐ。

「ちょっと!?」

この反撃は予想していなかったのか、本日初めての美琴の戸惑いを聞いた。

「美琴は俺の住んでる場所知らねーだろ?案内してやるから」

彼女がどんな顔をしているかは上条にもわからない。
なぜなら顔を背けそっぽを向いているからだ。
でも、わかることもある。
右手から伝わる美琴の左手、それは小さくて、柔らかくて、冷たいのにあたたかい。
照れくさくて見れるわけがない。なんでこんな幼稚な反撃を選んでしまったのか言えるわけがない。




ぬくもりが―――――






―――――欲しかったなんて―――――





13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 00:45:09.69 ID:r9n19+zk0
今回はここまで。
また今度ー
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 01:48:46.95 ID:vw3jAoIDo
乙!
ヤンデレールガンか
某スレのヤツも読みました
まさか続きがくるとは…
超期待
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 02:02:18.75 ID:V1902Eq+0

その某スレとやらを紹介してもらおうか。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 02:15:42.64 ID:vw3jAoIDo
>>15
>>3-8が某スレで出てた部分
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 02:18:36.64 ID:vxEM1qJIO
これは…なんとなくだがR18の展開になりそうな予感
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 02:24:53.42 ID:V1902Eq+0
>>16 ありがとう。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 02:59:46.11 ID:frmcbBIno
ヤンデレなら最初にそう書いてくれ
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 17:26:43.58 ID:ydfhIRbQ0
つづけたまへ
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 22:45:06.49 ID:hUC5sHfA0
黒春か。超期待しよう。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:08:22.43 ID:ZudnnFql0
【御坂美琴】


「へー、ここに住んでるんだ? なんか想像と違うわね」

「どんな想像をしてんだよ」

彼が住む学生寮に辿り着き、辺りを見回す。
やはり私が生活する寮とは雲泥の差だ。もちろん言葉に出さないが。

「何階にあんの? 当麻の部屋は」

「無視かよ。七階だ」

どこかふてくされた様子で上条はエレベーターへと促した。ちなみに未だ手をつないだまま。
彼は私からの突然の申し出に戸惑っていたが、それはこちらも同じだと言いたい。
食材の詰まったビニール袋をひったくったのは、まあ理解できる。
要するに女の子に荷物を持たせてわけにはいかないからだろう。
だがしかし、わざわざ手を繋ぐ必要があるだろうか? 無い……はずだ。
別に嫌なわけじゃない。むしろ内心小躍りしたくなるほどに嬉しい。
この状況は今まで想像していた一〇八の計画のうち三つを満たしている。

@名前で呼び合う
A手を繋ぐ
B夕飯を作ってあげる

一気に三つも実現できて嬉しい、非常に喜ばしい。だからこそ違和感が拭えないのも事実で……
“あの”上条当麻が理由もなく手を繋いできたのだ。おかしくないわけがない。
けれど、そのことを指摘すれば、もしかしたら手を離されてしまうかもしれないので聞くこともできない。
取りあえずこれからの計画を頭の中で予行演習しようとして―――――重要なことに気が付いた。

「(私って結構大胆なことしてる!?)」

初春にアドバイスしてもらって勇んでここまで来たが、冷静に考えてみると今からしようとすることは犯罪レベルではなかろうか。
コートに手を突っ込んで、用意した“ブツ”を触って確認する。
二つの円環状の金属とそれを繋ぐ鎖が音を立て、また、プラスチック製のケースが指先に触れた。

「(でも……こうしないと………当麻は…)」

本来ならこういう事はしてはいけないことであるのはわかっている、つもり。
女が男を犯すというのはあまりない例だ。
年頃の男性にとってはもしかしたら据え膳として好意的に受け止めてくれるかもしれない。

しかし逆の立場であったなら?

仮に私に好意を寄せる男性がいて、私にはその気は無くて、そんな状況で強姦されようものなら――――――

「(許さない。絶対に)」

当たり前だ。相手の気持ちを踏みにじり、無理やりにでもモノにしようとする人を彼はきっと愛してはくれないだろう。
仮に彼がそんな人柄だったならば私はここまで惚れることはなかったに違いない。

「(うん。やっぱりやめよう)」

だがこのチャンスを不意にするつもりはない。
初春はやや強引過ぎる方法を示したが、その過程で良い事も言った。

すなわち―――――素直になる事。

恥ずかしいとかそんなモノは捨ててしまおう。
大切なのは自分の気持ち。どうしたいのか。どうすればいいのか。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:09:42.88 ID:ZudnnFql0

「(当麻に喜んで欲しい)」

独り暮らしの男性なら女性から手料理を振舞ってもらえれば嬉しいはず。
私としても好きな人に自分が作った料理を食べてもらえるだけでも幸せ。
さらに美味しいと言われようものなら………ヤヴァイかもしれない。
ヤバイではなくヤヴァイ。ここは重要なところだ。

「美琴。着いたぞー」

どうやら思考を飛ばし過ぎていたらしい。
上条当麻なる人物が住んでいる一室の前に辿り着いていた。

「えっと…鍵は」

左手に持っていた荷物を置いて、ポケットをあさる当麻。
普通逆じゃないの、と突っ込みたくなる。

「(やっぱ変)」

そこまでして私と手を繋いでいたいのか? いや嬉しいけどさ。

「(寂しいのかな?)」

嬉しいのに、喜べない。
それはきっと理由が欲しいからか。
彼が求める理由がわからないから、ソレを聞いて安心したい。
でもそれは中で聞くことにする。今はただただこの瞬間を噛み締めよう。

「開いた。中に入ろ――」

「ちょっと待って」

「なんだよ?」

「私が先に入るから当麻は30秒後に入ってきなさい」

「……なんで?」

「すぐにわかるから」

会話を区切り、彼から手を離して上条宅に侵入。
こちらが落ち着く前に入ってこられると困るので鍵を掛けた。
ドアの向こうからは、意味わかんねーよ! つーかなんで鍵まで!? と声が響いている。

話が変わるかもしれないが、当麻は一人暮らしだ。
いつからその生活を続けているのかはわからないが、独り暮らしなのだ。
男子高校生であるとはいえ未成年の子供がそんな生活で精神的に正常で在り続けることは難しいと思う。
学園都市には様々な人が集まるも、そのほとんどが親元を離れ過ごしていくことを余儀なくされている。
そんな状況で、能力開発だの授業だのを続けていくことは厳しいはず。
それらに疲れて、帰りついた場所には誰もおらず、声をかけてくれる人がいないのはとても寂しい事。
私には黒子――――大切なパートナーがいてくれるからさみしくなんかない。
部屋に戻ってきたとき、出迎えてくれるあの子の声に何度救われたことか。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:12:01.54 ID:ZudnnFql0



だから言ってあげたい



かちゃり



内側から掛けた鍵が開けられる



ドアが開かれて現れる、彼



私の大好きな人、上条当麻



どっくん、どっくん



心臓の鼓動が五月蠅い



とても緊張するけれど



それでも伝えたい―――――











「―――――おかえりなさい、とうま―――――」









25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:15:13.80 ID:ZudnnFql0

































どさっ











彼の左手から何かが落ちた音がした。
どうやらあまりにも驚いたせいか、買い物を落としてしまったらしい。
困った。あの中には卵とか入ってなかったっけ?あーあー割れてたらどうすんのよ?
せっかく今日はオムレツとか作ろうと思ってたのに……
そんなにうれしかったのかな。
だとすれば私も嬉しいよ。だってとうまに喜んで欲しくてやったんだから。
でもさ。流石にこの展開は読めなかったというか………
悪気は無かったのよ、本当に。だから聞いても良いよね?





26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:17:20.41 ID:ZudnnFql0
ねえ、とうま






どうしてそんなに驚いてるの?






ねえ、とうま






どうしてそんなに顔が青白いの?






ねえ、とうま






どうしてそんな目をしているの?














ねえ、とうま







なんで幽霊と会うかのように―――――












――――――――――私を見るの?








27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:24:22.33 ID:ZudnnFql0
みんなごめん。
某スレで投下したのはネタだったんだ。
でも、続きを妄想するとどうしてもヤンデレにはならなそう。
健全な方向に頑張って修正予定。
あと濡れ場的な要素は実は考えてなかったり。

平日に投下は難しそうだから、続きは時間かかりそうです。
ではまた今度ー
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:54:42.64 ID:b2D53Uc2o
乙〜
ヤンデレはなしか
ちょっと残念な気が…
まぁ、そのへんは作者さんに任せます
続き楽しみに待ってます!
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 12:42:22.69 ID:DAIswtM00
ハッピーエンドになってくれれば何も言わない
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 13:36:59.95 ID:8fsL71mj0
上条さんのリアクションが…
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 19:10:06.30 ID:2b1Z8N1DO
濡れ場もヤンデレも無いほうが良いな
支援
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 20:32:05.98 ID:4yQ1JA7o0
超支援
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 20:37:54.47 ID:6jAPhbA9o
>>31
濡れ場ってラブシーンの総称であってエロシーンとは限らないんじゃなかったっけ?
34 :1だよ [sage]:2011/03/07(月) 20:50:25.37 ID:ZudnnFql0
>>33
マジっすか!?
じゃあエロシーン未定でお願い。

あと大したことじゃないけど、訂正がありんす。多すぎて情けないけど。
>>9-10の【上条当麻】→【少年】に
地の分に書いてある 上条並びに上条当麻 → 少年 に変更。
ストーカーとかのNTRじゃないよ、ただこっちのほうがわかりやすいかなってさ。
35 :1だよ [sage]:2011/03/08(火) 03:28:25.29 ID:mOFeQ5t30



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



どうしてこうなったのだろう?



私を押し倒すようにして倒れこんだ彼を見て、何度考えたかわからないことを頭に浮かべる。


―――――なんで?


すまない、それだけを壊れた録音機器のようにうわ言を繰り返している。
これが私を絶望から救い出し、他者のために何度も命をかけて戦う英雄なのだろうか。
知っている“彼”からかけ離れ過ぎているその様子に戸惑いを隠せない。


―――――どうして?


わからない。わからないからどうすればいいかわからない。
そんな泥沼の思考。そして私はもう一度自問する。


―――――どうしてこうなったのだろう?





36 :1だよ [sage]:2011/03/08(火) 03:30:33.15 ID:mOFeQ5t30
ピンポーン♪



その音のおかげで現実に戻ることが出来た。
なんにせよ当麻を運ばなければならない。
扉を開け、手伝ってもらおうとして……

「舞夏?」

「御坂かー?なんでこんなところに……―――――ッ!!」

外にはエプロンドレスのメイド衣装を着た友達の土御門 舞夏がいた。
彼女は不思議そうに私を見て、そのまま床に倒れこんでいる彼を視界に入れるとすぐに顔色を変える。

「ごめん舞夏、手伝って」

「そうだなー。これは……ちょっと予想外だな」

二人で苦労しながらもベッドに運び、上着を脱がせて寝苦しくない格好にする。
一段落したところで張りつめた糸が切れたのか、私はへたり込んでしまった。
もうなにがなんだかわからない。舞夏が来てくれなかったら、ずっと混乱し続けていたかもしれない

「ねえ。さっき予想外って言ってたけど………」

舞夏が当麻の知り合いなのは知っていたが、わざわざ寮を尋ねてくるほどの仲だとは知らなかった。

「兄貴がなー、隣に住んでいるんだがなー」

「そうなんだ」

「でも今日は上条に用があって来たんだぞー」

彼女の用件とはこうだ。
当麻は最近落ち込んでいて精神的に危ない状況だったらしい。
学校に通っている間は周りに人がいるが、下校時刻以降となるとそうはいかない。
舞夏の兄も今日は用事があって自宅に帰れないので、彼女に様子を見てあげて欲しいと頼んだそうな。
そして舞夏は呆れるようにため息をついた。

「まったく、あのシスターは何をしてるんだかなー」

「え?」

なんでここでシスターが出てくるのか?シスターってインデックスの事だろうか?
あの銀髪碧眼の修道女。おそらく当麻にとって―――――特別な人。
ズキリ、胸が痛い。
こんなときに何を考えているのか。私なんかより今は彼を優先させるべきだ。

「インデックス…のこと……よ……ね?」

「そうだなー」

「でもなんで?まさか―――――っ」

「知らなかったのかー?あのシスターと上条は同棲しているんだぞー」
37 :1だよ [sage]:2011/03/08(火) 03:32:19.51 ID:mOFeQ5t30

その言葉がどれだけ残酷な意味を以て私を貫いただろう。



『――――――既に奪われているのかもしれませんね――――――』



数時間前に誰かが私に告げた言の葉が、再度耳元で囁かれる。


『これから先、御坂さんがどれだけ想いを募らせようとその人はあなたを見てくれません』


                                 当麻は


『他の女と一緒に愛を育みます」


       あのとき


『御坂さんじゃない女性と抱き合ったり、キスしたり、その先までも……』


             誰 を 見 て い た ?


『そのうち彼は御坂さんの存在を忘れていきます、他の女性によって塗りつぶされていくんです』


うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい
うるさいほかうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい
うるさいうるさいウるさいのウるさいウるさいウるさいウるさいウるさいウるさいウるさい
ウルさいウルさいウルさいウルさいウルさいウルさいウルさいウルさいウルさいウルさい
ウルさいウルさいウルさいウルさいオンナウルさいウルさいウルサいウルサいウルサい
ウルサいウルサいウルサいウルサいウルサいウルサいウルサいウルサいウルサいウルサい
ウルサいウルサいウルサいウルサいウルサいウルサいウルサイナンテウルサイウルサイ
ウルサイコロウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ
ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイシテウルサイウルサイ
ウルサイウルサイウルサイ――――――――――――――――――――――――シマエ






38 :1だよ [sage]:2011/03/08(火) 03:35:03.98 ID:mOFeQ5t30

「御坂っ!!!」

「――――――――――――え?」

舞夏に両肩をつかまれて怒鳴られた。
彼女にしては似つかわしくない、感情を露わにした、表情。

わたしは いま なにを ?

愕然とした頭では処理が追いつかない。
あの囁きが耳にこびりついて離れない。

「御坂…」

私の頭を抱えるように抱きしめる舞夏。

「ごめんなー」

優しくあやすようにして頭を撫でられる。
あたたかい、そんな気分になっていく。
自然に私の両手は彼女に回されて、抱きしめる。

「御坂の気持ちはわかっていたはずなのになー」

「……ごめん………舞夏」

「甘えたっていいんだぞー」

「……ありがとう…」

でも甘えてばかりではいられない。
まずは当麻をどうするべきかを考えないといけないのだから。

「もう大丈夫。落ち着いたから」

「んー、じゃあ兄貴に連絡を取ってみるなー」

携帯を取り出し電話をして、兄に繋がったらしい。彼女は当麻を一瞥して会話に集中していった。
出来ることもないので当麻のそばに近寄りベッドに腰掛けて、その寝顔を見つめる。
これを見るのは何回目かな……
穏やかな寝息を立てながら深い眠りについている。
もう魘されてはいないようなので、安心してしまった。
普段のやる気のないような締りのない顔とは異なり、あどけない表情をしている。
39 :1だよ [sage]:2011/03/08(火) 03:37:04.71 ID:mOFeQ5t30

私は上条当麻を知っているようで知らない。

不幸体質のせいで色々な酷い目に遭いながらも、それに押しつぶされることなく在る人。
たとえ命の危険にさらされることにになろうとも、守りたい、その気持ちだけで戦い抜く英雄。
そしてその生き方を貫く過程で記憶を失ってしまったこと。

―――――たったそれだけ

それらは全て第三者の視点から見た人物像に過ぎない。
彼が何を見て、聞いて、何を想い、悩んだのかを私は知らない。

―――――知りたい

その理由なんてわからない。
知ってどうする? そんな問いが聞こえたような気がした。
それもわからない。

―――――だけど、ね

「私は……当麻にあんな顔して欲しくないわよ」

髪を撫でる。

思ったよりも硬い髪質はハリネズミを想起させた。
もしかしたら前世はそれだったのかもしれない。
想像すると、不謹慎かもしれないが、笑みがこぼれてしまう。
彼にそっくりのハリネズミがちょこちょこと歩きまわるのだ。可愛すぎる。

私はどうだろう。
わからない。でも当麻の前ではハリネズミだったのかな。
ツンツンしていて、私の心に入り込んでくる彼を遠ざけようとして、
本当は淋しいくせに変に強がって、でも構って欲しくて、そんな哀しい生き物。

「ね、とうま。……いいよね?」

「とうまに触れてないと、私……さみしいよ」

そして頬をなぞろうとして――――――











「御坂ー」


「ひゃうあぁぁぁ!!」










―――――失敗した。
40 :1だよ [sage]:2011/03/08(火) 03:39:40.74 ID:mOFeQ5t30

「御坂ー、この非常事態の中で寝込みを襲うのはどうかと思うぞ―」

舞夏は呆れたようにしてため息交じりに非難の目を向けてきた。

「おっおおおお襲うだなんてそんなつもりじゃっ!?」

「か お 近かったな―(ついでに真っ赤だぞー)」

「そっそそれは!……なんというか…その…ほらっ!いつもみたいな脱力系の表情じゃなくて穏やかな寝顔で子供っぽいというか……なんかこう可愛いというかこんな表情できるんだなってだからそのギャップにヤられそうに………って…違う!!今のは違う!!あぁーだから違うからそんな目で見るなぁぁぁぁああーーーっ!!!」

彼女の目がより冷たいなにかを纏う。

「…………………………御坂」

「…………はい」

「上条が寝てるのに騒ぐのはいただけないな―」

「ごめんなさい」

何とも言えない空気になってしまった。

「それで……その…なんて?」

いたたまれなくなり、強引にでも話を戻す。
もっともこうなったのは私の責任なのだが……
しかしその質問に何故か舞夏は戸惑うようにして、難色を示した。

「……どうしたの?」

「あー、いや、別に言えないわけじゃないんだがなー」

兄貴が何考えているかわからない、と付け加えて続ける。

「私としては一度病院に連れて行ったほうがいいと思ったんだが……」

「うん」

当然だと思う。
精神的に危ない状況で、かつ、倒れてしまうほど疲弊しているならばそうするべきだ。
なにが彼をここまで追い詰めているのだろう?
41 :1だよ [sage]:2011/03/08(火) 03:42:22.61 ID:mOFeQ5t30

「このまま現状維持だそうだ」

「え? でも……なんで?」

「詳しい理由は教えてはくれなかった、でもな」

「…」

「兄貴のほうも今から無理矢理にでも帰るらしい。だから心配するな、って言ってたな」

納得できない。
でもどうすればいいかわからない。
もしかしたらなにか事情があるのかもしれないから。
そしてそれを私は知らない。何も出来ない。

「取りあえず私はもうお暇するなー。あとこれを贈呈するぞー」

そういって舞夏は何かの鍵を差し出す。

「兄貴から預かっていたんだが、御坂が持っていたほうが有効活用できそうだからなー」

「………でも……………私は……」

もちろん意に沿わない形とはいえ、欲しい、と思う。
どうせなら持ち主から直接預かるほうが嬉しいが。
だが、それとは関係なく――――――

「御坂が置かれている状況は全部じゃないがある程度は聞いているぞー」

「なら――――――」

知っているならば何故渡そうとするのか?
むしろ彼女のほうがソレを有効活用できるはずなのに……

「それを承知で渡すんだなー」

「舞夏?」

「御坂が持っていたほうが意味があるからなー」

なかなか受け取ろうとしない私の手を掴み、握らせる。

「これは勘なんだがなー。私はこの件に深入りできないと思うんだ」

悲しそうに、何かを諦めるようにして、微笑む。
そして玄関先に向かい、帰ろうとして、振り返って言った。

「時間が時間だからなー、あまり遅くならないようにするんだぞー?」


キィー


バタンッ


ドアが閉まる。


静寂――――――





42 :1だよ [sage]:2011/03/08(火) 03:44:09.54 ID:mOFeQ5t30
手を開き、ソレを見つめる。


深入りできない、そう、彼女は言った。
ならば私には出来ると言いたいのか。
別に“託す”などと重いニュアンスで渡したわけではないだろう。
それはわかっている……はずなのに。




時刻を確認する。
残った時間で何が出来るか模索――――――決定。

携帯電話を取り出し、馴染みの相手を呼び出す。


「もしもし?」


「うん、わかってる」


「お願いがあるの」


「場所は――――」


「うるさいわよ」


「後で説明するから」


「うん、ありがと」


ピッ


通話を切り、しまう。


大きく息を吸い、吐く、深呼吸。


両袖を捲り上げ、肩に手を当て、ぶんぶん回し、気合い充填。







――――――――さて、やりますか











43 :1だよ [sage]:2011/03/08(火) 03:54:18.19 ID:mOFeQ5t30
眠れなくて投下してしまった。
でも今は眠い。

また今度ー
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 11:49:30.44 ID:X6cQxI7vo
GJ!
続き楽しみに待ってます
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/08(火) 14:18:13.27 ID:6LzfR2Ld0
>>1
次も期待してる
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 14:30:56.80 ID:Nti8V98o0
dkdkwkwk
47 :なすーん [なすーん]:なすーん
                     __        、]l./⌒ヽ、 `ヽ、     ,r'7'"´Z__
                      `ヽ `ヽ、-v‐'`ヾミ| |/三ミヽ   `iーr=<    ─フ
                     <   /´  r'´   `   ` \  `| ノ     ∠_
                     `ヽ、__//  /   |/| ヽ __\ \ヽ  |く   ___彡'′
                      ``ー//   |_i,|-‐| l ゙、ヽ `ヽ-、|!  | `ヽ=='´
                        l/| | '| |!|,==| ヽヽr'⌒ヽ|ヽ|   |   |
  ┏┓  ┏━━━┓              | || `Y ,r‐、  ヽl,_)ヽ ゙、_ |   |   |.         ┏━┓
┏┛┗┓┗━━┓┃              ...ヽリ゙! | l::ー':|   |:::::::} |. | / l|`! |i |.        ┃  ┃
┗┓┏┛     ┃┃┏━━━━━━━.j | l|.! l::::::ノ ,  ヽ-' '´ i/|  !|/ | |リ ━━━━┓┃  ┃
  ┃┃    ┏━┛┃┃       ┌┐   | l| { //` iー‐‐ 'i    〃/ j|| ||. |ノ        ┃┃  ┃
  ┃┃   ┃┏┓┃┗━━━.んvヘvヘゝ | l| ヽ  ヽ   /   _,.ィ ノ/川l/.━━━━━┛┗━┛
  ┃┃  ┏┛┃┃┗┓     i     .i  ゙i\ゝ`` ‐゙='=''"´|二レ'l/″           ┏━┓
  ┗┛  ┗━┛┗━┛    ノ      ! --─‐''''"メ」_,、-‐''´ ̄ヽ、              ┗━┛
                   r|__     ト、,-<"´´          /ト、
                  |  {    r'´  `l l         /|| ヽ
                  ゙、   }   }    | _|___,,、-─‐'´ |   ゙、
                    `‐r'.,_,.ノヽ、__ノ/  |  |      |、__r'`゙′
                            |   |/     i |
                             |          | |
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 15:09:30.34 ID:w3vATn4e0
続き期待!!
49 :1だよ [sage saga]:2011/03/09(水) 00:16:05.49 ID:7f1o9zsU0

【少年】


柔らかい感触を背に感じて、その違和感を覚える。
目蓋を開き、視界に映る薄暗い天井。

「………あ…………れ……?」

少年は身を起こし、辺りを見回した。

「俺は…………………寝てた……のか?」

はて? なんでこんなことになってるのか? 全く記憶にございませんわ。
寝ぼけた頭でそんな馬鹿らしいことを考える。アホらしい。
もぞもぞとベッドから這い出して気がついた。


     ベッド?


「なんで俺は“ここ”で寝てんだ?」

頭を振り、意識を無理矢理覚醒させる。
自らが置かれている状況を整理する。そしてその違和感も。

ベッドに居たこと。

あり得ない。
そもそも眠っていたこと自体が違和感の始まりなのに。

「俺は寝てたのか?」

そうだとすれば、ずいぶん久しぶりだったと思う。
ここ二週間眠りに就いたことなんて無かったのだから。

「んぁ〜」

取りあえずなんでこうなったのか、記憶の前後から把握しようとして―――――



ぐー きゅるるー



そんなベタな音が少年の腹から鳴りだした。
たとえ漫画であろうとそんな音は使わないだろうに。

「(今何時だっけ?)」

テーブルの上に置いてあるだろうデジタル時計を手探りで探し、手に取る。
ボタンを押して発光させる―――21:37 FRY

「どーりで腹も減るわけだ」

電気を付けて、部屋が明るくなった。
暗闇に目が慣れていたせいで、あまりの眩しさに目をつぶる。
目蓋越しに光を受けて、慣れさせ、ゆっくり、開く。

「――――――――――え?」

視界に入った光景が変で彼は戸惑いの声を上げてしまった。
厳密な意味で言えば、光景が変では無く、テーブルの上に置いてあるモノが。

テーブルの上に置いてある―――――――料理が。

はてさて?
首をかしげ、本日二度目の疑問を浮かべた。
これはもしや日頃の頑張りをどこかで見ていた妖精さんが作ってくれたのだろうか?
不幸体質にもめげず、諦めず、必死に生きていたワタクシを憂いで部屋の妖精さんが作ってくれたのか?

当たり前だがそんなわけない。そんな縁なんて彼には無いのだから。

この部屋で料理が出来るのは彼だけであり、もちろん作った覚えは無い。
それにご飯は出来たてが美味しいのだ。わざわざ冷まして後で食べようとする理由も無い。
そんな食べ物を冒涜するような真似はぶるじょわじいが許してもこの万年金欠貧乏無敵学生が許さない。
だいたいにしてこんな目立つ場所に食べ物を置こうものなら―――――
50 :1だよ [sage saga]:2011/03/09(水) 00:19:22.18 ID:7f1o9zsU0



「あ……」



久しぶりに、眠る、ということをしてテンションが変だったらしい。




「……………………あは」




笑う。久しぶりに眠ることが出来た自分自身に。




「―――――あはは」




嗤う。忘れていた、否、忘れようとしてた自分自身を。









「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハ―――――――――――ッ!!」









少年は―――――――――わらう。

















 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
51 :1だよ [sage saga]:2011/03/09(水) 00:26:20.74 ID:7f1o9zsU0
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「で、これはいったいなんでせうか?」

ひとしきり“わらい”終えた後で冷静になって考える。
そこで、皿に下敷きにされて留められている紙を見つけた。
丁寧に引き抜き、折りたたまれているそれを開き、中に目を通す。


『当麻が寝てしまったので、取りあえず帰ります。
 既に見ていると思うけど夕飯は作っておいたから。
 台所に汁物もあるからそれもどーぞ。
 どんな理由があんのかは知らないけど、溜めすぎは良くないわよ?
 困った時はこの美琴せんせーに相談しなさい。
 本当に心配したんだから、バカ当麻。

                        御坂 美琴  』


「―――――――――――――――」

何と言えばいいか、わからない。そんな風な表情を少年は浮かべた。
その置手紙をそっと折りたたみ、改めて彼女が作ってくれたものを見る。

「―――――――」

ゆっくりと、おそるおそるラップ越しに触れて、当たり前かもしれないが指先から感じるそれは冷たい。
しかし、ほんのりと胸のどこかがあたたかくなるような気がして、あの手のぬくもりを思い出した。

いったい何をしていたのか?

彼女が振り解かないのをいいことに、手を繋いで、まるで縋るように離さなかった。
あまつさえ部屋に招き、勝手にぶっ倒れて迷惑をかけてしまった。
そしてなにより―――――

「―――――食うか」

ぼんやりとしたまま少年は台所に向かい、彼女が残してくれたものを電子レンジに入れて温めなおす。
さらに鍋に弱火を掛け、閉じられていた蓋を開け中身を確認。
冷えているはずなのに食欲を誘う香りがして、胃がまた空腹を訴えるように音を鳴らした。
そのまま出来上がるまで、虚ろなまま立ちつくして………
52 :1だよ [sage saga]:2011/03/09(水) 00:30:08.78 ID:7f1o9zsU0



                           とうまー



  ごはんまだー?




                 ねえってばー







          おなかへったんだよ





                     もう我慢できないかも






 いつまで待たせるつもりなのかな






                  ねえ とうまー


どれくらい意識が飛んでいたのか、鍋はグツグツ煮えたぎり泡を噴き出していた。
後ろからは仕事が終わった事を告げる電子音が鳴っている。
慌てて火を消し、電子レンジも黙らせた。

「――――――すまん」





53 :1だよ [sage saga]:2011/03/09(水) 00:31:54.87 ID:7f1o9zsU0
「いただきます」

手を合わせ、そう、言う。
もちろんその言葉に続く者はいない。
またもや暗い方向に向かいそうになるのを打ち切り、レンゲを持つ手を伸ばした。

献立は 炒飯 中華スープ。

美琴の料理は一時は冷めていたにも関わらず、素晴らしい出来だった。
少なくとも、この状態ですら少年よりも上手といえる。
出来たてならばもっと美味しかったのかもしれない。
叶うならばその状態で食べたかったが、そんな贅沢を言おうものならば殴られるだろう。
黙々と、食事と言う名の動作を消化するように、食べる。

「まずい」

作った本人が聞けば間違いなくキレる言葉が口から出てしまった。
手は止まらない。

「つめたい」

湯気が出ているそれらを掻き込むようにして流し込む。
それでも手は止まらない。

「おいしく………ない」

震える声で、泣きそうになりながらも、それでも少年の手は止まらない。
不味い ではなく まずい。
冷たい ではなく つめたい。
美味しくない ではなく おいしくない。
その違いにどんな意味を込めているのかは、彼にしかわからない。





食事を終え、後片付けを済ませ、シャワーを浴び、寝床の準備をする。それはもう慣れたサイクル。
そこで浴室に電子音が鳴り響いた。

「電話…か? 誰から?」

画面に映る相手の名前は 月詠 小萌
ゲッと言いたくなるのを我慢して通話モードに切り替える。
せっかくシャワーを浴びてすっきりしていたのに、顔から脂汗が噴き出してしまった。
54 :1だよ [sage saga]:2011/03/09(水) 00:35:12.14 ID:7f1o9zsU0

「もしもし?」

『上条ちゃんですか?』

「はい。どうしたんですか? こんな時間に」

『どうしたもこうしたもないですっ!!』

「うわっ!?」

『土御門ちゃんから上条ちゃんが倒れたって聞いて何度も連絡したんですよ!!』

「……すみません」

『まったくもー、それでもう大丈夫なんですかー?』

「大丈夫です。ご心配おかけして申し訳ないです、ハイ」

『はぁー。上条ちゃんの大丈夫は信用ならないですよー』

「ゴメンナサイ」

『いいですか? だいたいいつもいつも―――――』

「(……また始まったよ)」

『ちゃんと聞いてるんですかっ!!?』

「聞いてます!」

『…………もういいです。それで明日の補習なんですが―――』

「はい」

『休みにします』

「はい?」

『上条ちゃんの明日の補習はお休みです』

「いいんですか?」

『急に倒れられても困りますからねー。だから明日はゆっくり休んでください』

「ありがとうございます小萌せんせー」

『上条ちゃーん? 何か勘違いしてないですかー?』

「へ?」

『明日の分は課題に変えて後日渡します。当然なのですよー』

「ですよねー。そうですよねー」
55 :1だよ [sage saga]:2011/03/09(水) 00:37:16.62 ID:7f1o9zsU0

『…』

「小萌先生?」

『………本当に……心配したんですから………』

『自分自身では気付いていないかもしれないですが―――――』

『最近、上条ちゃんの様子がおかしいことぐらい先生にはわかってます』

『先生だけではないですねー。クラスのみんなも薄々感づいていると思いますよ?』

「それは―――――」

『心配したのは〈先生だから〉だけではないのですよ?』

『わたしは先生であり、この学園都市に住む大人でもあり―――――』

『上条ちゃんのことを家族のように思ってます』




    とうまは大切な家族なんだよ




「―――――ッ!!」

『無理矢理聞き出そうとはしません。でも―――――』

『もし話したくなったら、もし耐えられなくなったら』

『いつでも“わたし”のところを尋ねてください』
56 :1だよ [sage saga]:2011/03/09(水) 00:39:35.23 ID:7f1o9zsU0


どんな返事をして通話を終えたかは覚えていない。
気が付いたら携帯電話を操作してアラームをセットしていた。
浴槽内の布団にくるまり体を休める。眠気があろうと無かろうと今の彼にとって関係ない。
そして自問する。

いつからこうなったのか?

最初は現実が辛すぎて眠ろうとすることが多かった。
次に眠ることが怖くなった。
そして最終的には眠ることが出来なくなってしまった。
とはいえ、彼は高校生であり生活もある。
日中は学校に行かないといけないので、疲れた状態では今日のように倒れて周りに迷惑をかけてしまうかもしれない。
そういった事情で、この場所では起きていても体は動かさない。

「ははは」

“わらって”しまう。
浴槽なんかよりも部屋のベッドのほうが休まるに決まっている。
しかし、ここで夜を明かせば翌日にはあそこに彼女がいてくれるような気がして、出来ない。
そしてそんな日が来るわけないのに、幻想に縋りついている自分が情けな――――――

「違う」

その思考を否定するように言葉に出して、言う。

「幻想なんかじゃ……ない」

嘘をついている。
口に出した言葉が嘘だってわかっている。
彼女がこの部屋に来ることなんて二度とない。
そんな風にしてしまったのは他でもない少年自身なのだから。

「“ねる”か」

自らに言い聞かせるようにして呟いた。
瞳からは生気の色が失せ、目蓋を閉じ、意識を殺す。

人によってはそれを眠ると表現するかもしれない。
しかし間違いなく彼は起きていた。
ただ考えることを止め、放棄したに過ぎない。
これが彼にとって“ねる”ということ。

ある意味で少年は眠っており、起きており、そして―――――





――――――――死んでいた。






57 :1だよ [sage saga]:2011/03/09(水) 00:48:54.44 ID:7f1o9zsU0
うい、今回はこれでおしまい。
言うか言うまいか、かなり迷ったが言うことにした。





見てくれてありがとう。レスしてくれてありがとう。





ではまた今度ー
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 01:09:38.37 ID:2kn6FiBn0
ふむ…これは俺の想像する上琴に近いものがあるな。超支援
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 02:19:41.64 ID:Qqnfu+iPo
乙〜
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 18:05:15.95 ID:xfm5+VVDO
>>1乙
何か見ててつらいんだが、見てしまう…
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/09(水) 19:35:17.85 ID:pVH3vowq0
インベーダーさん…。
支援
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 20:50:20.96 ID:zA4qd+QDO
激しく乙!!
続き期待
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 20:50:52.36 ID:zA4qd+QDO
激しく乙!!
続き期待
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 21:56:47.03 ID:ejru56qQ0
なんてこった・・・超期待スレだったな。乙なんです。
禁書大好きな上琴スレって素晴らしい。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/09(水) 22:30:25.20 ID:6XKm+zUF0
SSから作者の才能が滲み出ておる…!
超期待乙
66 :1だよ :2011/03/10(木) 00:56:11.93 ID:A5wGzjDV0
投下ー
67 :1だよ [sage sage]:2011/03/10(木) 00:58:24.04 ID:A5wGzjDV0

【御坂 美琴】


「(あうあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜)」

布団を頭から被った状態で悶える。
客観的にみれば不気味に見えてしまうかもしれない。
時刻はすでに1時を回り(13時ではない)、ベッドの上でナニカがもぞもぞと蠢いているのだ。
気味が悪過ぎだろう。

「(うぅ〜返事が来ないよぉ〜)」

携帯電話を取り出し、開く。
液晶画面の光で布団に包まれた世界が若干明るくなる。
新着メールは――――――無し。
わかっていても落胆は避けられない。

今どうしているのだろうか?

もしかしたらまた魘されているのかもしれない。
そんな想像をすると胸が酷く締め付けられるように痛む。
今すぐにでも寮から抜け出して様子を確かめたい、そんな衝動が膨れ上がる。
しかし舞夏の義兄が今は見ていてくれているらしいので、私が行ったところで役には立たないかもしれない。

イライラする 

それが何故かはわからない。
理由を考えれば考えるほどにそれは募るばかり。
これでは今夜は眠れなくなってしまう。
だから違う事を考えるようにする、といっても結局は当麻関連なのだが。

「(食べてくれたのかな)」

あの時の残された少ない時間を使って作った料理。
本当ならもっと時間をかけたかったが今回は無理だった。そう、今回は。
次はもっと頑張るつもり。だから、その機会を得るためにメールをした…………のに……

「(うぁぅ〜〜)」

寝がえりを打ってまた悶える。
その拍子に布団がずれて外気が入り込んできた。
寒気がいくらか私の頭の熱を冷まして、冷静にしてくれた。

「寝ようか」

言い聞かせるようにして呟き、布団を掛けなおす。
その前にもう一度だけ、と言い訳し確認するも――――――

「――――――えっ?」





着信  上条 当麻




68 :1だよ [sage sage]:2011/03/10(木) 00:59:04.38 ID:A5wGzjDV0
現在進行形で電話が来ている。
待ち人からの予想外のリアクションに思考回路は再燃化して妄想暴走。

でっでで電話ぁあ!?メールじゃなくて!!?要するにアッアアアアレよね?これは文章ではなく直接言いたいことがあるってことよね!?何を?いったい何を言うつもりなのよ!?今日のお礼?メール見たってこと?いやまて待ちなさいおちつけ落ち着くのよ御坂美琴!今までどれだけぬか喜びさせられたか忘れたの?そうよだいたい持ち上げて落とすのは当麻の常套手段じゃないの!アイツから電話が来る時はいつも厄介事に巻き込まれてるときでしょ!!取りあえずしんこきゅうよ深呼吸はい吸ってーはい吐いてーはい吸ってーはい吐いてーよしオチ着いた!はい落ちツイタ!でっでででもでも待って一応なんて言うか考えたほうが良いんじゃないの?でもなんて?明日も作ってあげるとか?いやそれじゃ明日だけになるからダメだ!だからほらっ!決めたじゃない!素直になるって!!じゃあアレだ!これからもずっと当麻のご飯作ってあげる!………って……アウト!絶対アウト!引かれるだけよそんなこと言ったら!でもアレは?今日手を繋いできたのは当麻のほうからじゃない!?ってことは脈有り!?異性として見てもらえてなかったわけじゃないの!?つまり―――――(以下略)―――――

―――――そんなやり取りを刹那で終わらせ、通話ボタンをプッシュ。


「もっもしもし?」

『―――――』

最初は突っかかってしまったが、この程度では大丈夫だろう。
相手からの返答は無い。緊張しているのか?
しかしなにかおかしい。

「当麻?どうしたの?」

『―――――』

む?また返事が無い。ホントにどうしたんだろう?
それにしたって何かが引っかかる。具体的にはほら――――









アイツから電話が来る時はいつだって厄介事に巻き込まれてるときでしょ!!









「―――――誰よアンタ」

自分でも驚くほど冷たい言葉が出た。
先ほどまでの熱は放出され一気に冷める。

そうだ。考えてみればおかしい。
当麻は相手が誰であろうと気を使い過ぎる。
お礼とはいえこんな時間に電話するわけがない。
それでも電話してくるとすれば非常事態に巻き込まれている時。
しかも土壇場で、こちらの話を無視して、聞きたいことだけを聞き出し、勝手に切る。そんな奴だ。
なのにそれが―――――無い。一方的に黙っている。
69 :1だよ [sage sage]:2011/03/10(木) 01:00:04.28 ID:A5wGzjDV0

『―――――――――へえ?』

そこで初めて相手の反応があった。
男の声。高校生ぐらいの年齢と予測。

「―――」

今度はこちらが黙る番。
向こうから電話が来た以上、用事があるのはず。
上条 当麻とあったのが非常に気がかりだが、こちらからそれを出すわけにはいかない。




―――――沈黙




どれくらい時間がたったのか、数秒の事か、はたまたそれ以上か。
男が口火を切る。

『聞かないのかにゃー?』

「―――」

答えない。

『――――――上条当麻』

「―――ッ」

『我慢比べは終わりにするぜよ。超電磁砲』

『こちらの用件は一つ』

『お二人にとってお馴染みの公園で待っている。早くしないと――――』

『大事な大事な幻想殺しが危ないぞ? じゃ、待ってるにゃー』

そう言って通話が切れた。ベッドから跳ね起きた。
制服で行くわけにもいかないので、私服を引っ張り出し着替える。

速く 速く 速く――――ッ!!


「なにをしているんですの? お姉さま」

70 :1だよ [sage sage]:2011/03/10(木) 01:04:45.60 ID:A5wGzjDV0
その声に慌てて振り返る。迂闊だった。
明らかに今起きた、とは言えない存在感を醸し出し、黒子がベッドに腰掛けこちらを見ていた。
気絶させるしかない……か?

「黒子」

「こんな時間に能力を使えば大騒ぎですわよ?」

「それでも行かないといけないの」

「わたくしは風紀委員です」

「それを承知で言ってるの」

急がなければいけないのに下手に動けば拘束される。そんなジレンマ。
そして張りつめた空気を解くように、唐突に黒子がため息をついた。

「確かにわたくしは風紀委員です。が――――」

「それ以上にお姉さまのパートナーを自認しておりますのよ?」

「もっと信用して下さいませ。黒子はちょっぴり悲しいですの」

少々お待ち下さい、そう加えて彼女も着替え始めた。

「く……ろ…こ?」

「寮から出るにはテレポートしたほうが良いのではありませんか?」

「そう…だけど……」

「ただし。わたくしも同行する、それが条件です」

「それは…」

「詳しい事情は知りませんが、こうしている時間すら勿体無いのでは?」

その通りだ。そして確実にアイツのもとに行くためにはその方法しかない。
でも……その前に言わなければならない。
詳しい事情も問い詰めず、私の力になろうとしている相棒に。
71 :1だよ [sage sage]:2011/03/10(木) 01:05:55.01 ID:A5wGzjDV0

「………黒子」

「今更ですの」

「そうじゃなくて……『自認』じゃないわ」

「え?」

「私だって黒子をパートナーだって思ってる」

彼女を胸元に抱きよせ、捕まえる。
こんな抱擁をするのはいつ以来か。

「ありがとう黒子」

「それはわたくしの台詞ですわ。お姉さま」

私には黒子がいる。
これほどまでに想い、想ってくれる、そんな人が。

当麻は?

私以上に苦しみ、恋焦がれている人はきっとたくさんいるに違いない。
けれど今の彼は独りだ。傍には誰もいない。シスターはどうして傍にいてあげないのだろう。

ギチリ

歯と歯がきしんで音を立てた。本当にイライラする。
舞夏には失礼だが、彼女の義兄もあの女も正直に言って気にくわない。

「お姉さま?」

「……なんでもない」

そんなことよりも当麻のことが優先だ。
アイツらには後日、文字通り電撃訪問してやろう。

「じゃあ」

「では」


「「行きましょうか」」




72 :1だよ [sage sage]:2011/03/10(木) 01:12:31.48 ID:A5wGzjDV0
黒子の力を借りて辿り着く。
あの男は私と当麻のお馴染みの公園と言ったが“ここ”はそんな場所ではない。

夜闇は深く、誰もいない公園の侘しさがより一層その暗さを引き立てていた。
自動販売機は自ら発光することによって、
設置されているベンチは街灯という名のスポットライトに照らされて、その存在を主張している。
しかしてそれらは私の知っているソレではない。
時間帯が、用件が、気分が変わるだけで


        日常         非日常
ここは“お馴染みの公園”から“ただの戦場”に変容する。


「誰も……いない…ですわね」

誰がいないのか。
それは私を呼び出した男か、当麻か、それとも第三者の人間か。

「―――――そうでもないみたいよ」

電磁波によるレーダーを駆使して察知。
あちらも二人で来たらしい。







「にゃー。わざわざご足労いただき光栄の極みですたい」







一人はにやにやと笑いながら




もう一人はダルそうに杖をつきながら









舞台に現れた。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
73 :1だよ [sage sage]:2011/03/10(木) 01:15:20.72 ID:A5wGzjDV0
また今度ー
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 01:16:14.42 ID:PZDASUY/o
良いところで引きやがってえええええ
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 01:39:40.37 ID:A/1EYmwDO
切り方が鬼畜
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 01:40:46.50 ID:FJtn2BBto
焦らしプレイキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 01:44:11.39 ID:XaRugP/q0

美琴ちゃん…
上条さん…
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 02:16:05.04 ID:Fy6V45UIO
一方さんキタ━━━(Д゜(○=(゜∀゜)=○)Д゜)━━━!!
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 13:02:32.62 ID:uOBCjTg70
うひょォ!一方通行様だァ!惚れちまいそォだぜェ!
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 13:57:47.85 ID:JE+39tSAO
凄まじい焦らしだ…乙

俺達「おかえりなさい、>>1
という流れだな
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/03/10(木) 15:46:21.82 ID:Ha+vgPWC0
美琴のおかえりなさい、とうま
でインデックスさんを思い出したわけだな。
スレタイが禁句事項とは…
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 18:35:44.51 ID:XaRugP/q0
スレタイが当麻じゃなくて
とうまなのは意味あったんだな

上琴ハッピーエンドに期待したい…
83 :1だよ [sage sage]:2011/03/10(木) 19:24:26.35 ID:A5wGzjDV0
今更訂正
>>71
×「私だって黒子をパートナーだって思ってる」

○「私だって黒子をパートナーと思ってる」
84 :1だよ :2011/03/11(金) 00:26:37.50 ID:E13dhYVD0
投下ー
85 :1だよ [sage sage]:2011/03/11(金) 00:27:43.50 ID:E13dhYVD0
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「当麻を何処にやったの」

敵意と言う名の雷光が抑えきれず帯電、威嚇。
相手は派手な金髪にサングラスをかけた、高校生ぐらいの少年だった。
私にはその少年に見覚えがある。8月最終日、そして大覇星祭のときに当麻と一緒にいたはずだ。
しかしこんな夜中にグラサンとか随分と頭がイッてるのではないか。
そして電話越しでも思ったが、にゃーにゃー口調が私をわざと挑発しているようで腹が立つ。


「にゃー」


――――ブチッ


頭の何かがキレて、即座に電撃をかます。


「――――――」


この反応をあらかじめ想定していたのか、隣にいた別の少年が横から遮った。
放たれた電撃は向きを変えてベンチに直撃。
わかっていたとはいえ、こうも簡単に対処されるとムカツク。


「それで?なんでアンタまでここにいるのよ」


「一方通行」


白髪に紅い瞳の少年、一方通行がダルそうに髪を掻きながら答えた。

「ただのサービス残業ですゥ」

「しかしいきなり喧嘩腰とはなァ、カルシウム足りてますかァ?」

久しぶりの邂逅で、とはいえ数か月しか経っていないのだが、胸の内に燻っていた憎悪が甦る。
私の妹たちを蹂躙し、暴辱し、虐殺した白い悪魔。

それは違うのかもしれない。

蹂躙も、暴辱も、虐殺も、全ては私からの視点。
彼は単に実験していただけなのだから。
研究者の指示に沿って、“道具”を用いて実験した。ただそれだけ。

道具《大切な妹》を使って実験《殺》した。ただ、それだけ――――――ッ!

視界が明滅する。
チカチカする。
頭に血が上り過ぎて前が見えない。

今度はいったい何をしようとしているのか。
一万もの妹達を奪い、挙句の果てには―――――



―――――私から当麻さえも奪うのか


86 :1だよ [sage sage]:2011/03/11(金) 00:29:38.34 ID:E13dhYVD0
そんな怒りを知って知らずか、呑気な声が響く。

「こちらとしても予想外だったんだにゃー」

「まさか“あの”超電磁砲が御供を連れて来るとは、なあ」

おどけるようにグラサンが私の隣に顔を向けて言った。
ずっと沈黙を守っていた黒子が口を開く。

「ゲスの分際でお姉さまを語らないでくださいまし」

「それともわたくしがいる事に何か不都合でも?」

「殿方を誘拐した 衆道の ホモ サピエンスさん?」

妙に含みを持った毒舌。グラサンの顔が引き攣る。

「あー、そんな趣味は無いぜよ」

「そして悪いが、空間跳躍者には席を外してもらう。おいロリコン」

「黙れシスコン。愉快なオブジェになりてえのかァ?テメエは―――よォ!!」

なんら脈拍も無く、一方通行は首に巻いてあるチョーカーに触れて―――――





カチッ






―――――加速した。





マズイッ!!


高速で迫る脅威に反射的に電撃を放ち迎撃するも、それはあらぬ方向に変えられる。
当たり前だ。コイツの能力は知っていたはずなのに。
風を引き裂き、纏い、突してくる敵の狙いは私の隣にいる―――

「黒子!!」

名前を叫ぶもそこには既に誰もいない。
私の相棒は、大切なパートナーは、一瞬で空の彼方に連れ去られてしまった。

そして――――

「おっと、ここは通さないぜい。そもそもオレに用があるのはそちらのほうじゃないかにゃー?」

事態は一向に悪くなっていくばかり―――――





87 :1だよ [sage sage]:2011/03/11(金) 00:43:45.59 ID:E13dhYVD0
コレ昨日のうちに投下しとけばよかった。
こんな切り方だけど、焦らすつもりは無いんだ。
最近投下ペースが書き貯めに追いついて来た。

そして――――

明日には元に戻すよ。また今度ー

事態は一向に悪くなっていくばかり―――――


88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 01:02:22.82 ID:rCRRnzSAO
「おかえりなさい、>>1
超乙

俺達「(あうあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜)」
続きが気になって眠れんww
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 02:19:16.80 ID:C9uvxydso
乙〜
続き待ってます!
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 13:25:12.74 ID:bokjnGaH0
これは……続きが楽しみだ……
91 :1だよ :2011/03/11(金) 20:00:59.61 ID:E13dhYVD0
地震の影響でいつもの時間に帰れなさそう
だから今投下ー
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
92 :1だよ [sage saga]:2011/03/11(金) 20:02:55.61 ID:E13dhYVD0

【白井 黒子】


なんですの?この状況は?


わたくし白井黒子は疑問を隠せませんの。


お姉さまに同行して、二名の誘拐犯と顔を合わせ、


その片割れに連れて去られたまでは、まあ、良いのですが。


いえ、良いわけないのは重々承知ですの。


はやくお姉さまに合流しなければならないことぐらいわかっています。


でも…………その前に言わせてもらえませんか?



なんで



どうして













貴方は呑気にベンチでくつろいでますのっ!!?












地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
93 :1だよ [sage saga]:2011/03/11(金) 20:04:23.72 ID:E13dhYVD0

話は少し遡る。


「黙れシスコン。愉快なオブジェになりてェのかァ?テメェは―――よォ!!」


あまりの唐突なその行動に反応出来なかった。
腕を掴まれ、片腕で抱き寄せられた。
迂闊。“他の事”に気をとられ、先制を許してしまった。
振り解かなければならない、なのに。

「危害は加えねェ、黙ってついて来い」

耳元で囁かれ、その真意がわからず、気が付いたら空を飛んでいた。
信じてはならない。だから能力を使い転移しようとしたが……

「テレポートすンなよ。落とすからなァ」

その言葉に害意は無かった。
現に背中に回された手は敵と呼ぶには優しすぎる。

「(いったい何故?)」

あの場から離れた別の公園に降り立ち、解放された。
一方通行と呼ばれた少年はまたチョーカーに触れた後、頭をガリガリ掻いている。

「だりィー、なンでこンなことしなくちゃならねェンですかねェ?」

めんどくさい、そんな態度。
まるでこの状況が不本意であると言っているかのように。

「……どういうことですの?貴方たちはいったい―――」

彼はその問いに答えない。
なぜならば―――――




―――――傍の自販機へ行くことに忙しいから。





「――――――は?」

唖然、愕然、立ちつくす。
普通ここは戦闘になる場面だろ、おい。
しかもどこか満足そうに(目当ての物があったから)、ベンチに座り込んだ。

「あン? なに見てやがる?」

こちらを睨み(ただ見ただけ)、缶のプルタブを開け、飲む。
一息で全部飲んだのか、別の缶に手を伸ばしていた。

「……………ッチ」

いきなり何かを投げ渡される。
反射的にそれを受け取り、確認すると……


缶コーヒー 無糖 ほかほか


「(いやいやいや、欲しいなんて言ってませんの)」

そんな心の声を無視して、彼はくつろいでいる。
そして話は元に戻るわけだ。

地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
94 :1だよ [sage saga]:2011/03/11(金) 20:05:56.65 ID:E13dhYVD0

「そういえばテメェは変なこと言ってたなァ?」

はて? 変なこと?

「誘拐とかほざいていただろうがよォ」

「違いますか? 殿方、上条当麻さんを誘拐したのではなくて?」

それが今回の発端。

「ンなことするか。どうして三下の野郎を攫う必要がある?」

それは前提を覆す事実。
攫っていない、こんな時間に電話で呼び出す、そしてこの状況。

「それでは貴方たちの狙いは――――」


―――――お姉さま


「オメデタイ勘違いしてンじゃねェよ」

「殺る気全開だったのはオリジ……超電磁砲だけだろうが」

その通り。
あの金髪グラサンも、一方通行も戦おうとする気配が無かった。

「何が目的で?」

「あのシスコンが一対一で話があるンだとよ。だが……なァ…」

疑念は深まるばかり。
なればどうしてこんな回りくどいことをする必要が?

「今の状態は危険だなァ。超電磁砲のヤツはよォ」

心当たりは、ある。

「三下の事で全く周りが見えてない。まァ、オレにも責任があるけどなァ」

上条当麻が関わるとお姉さまは色々な意味で人が変わってしまう。
今回はそれが悪い方向に転がり、怒りで冷静とは程遠い精神状態。

後悔する。

あの時、挑発になんかのらないで、怒りを諌めなければならなかった……のに。


『私だって黒子をパートナーと思ってる』

自身をそのように想ってくれていた、その事実が嬉しくて。


『まさか“あの”超電磁砲が御供を連れて来るとは、なあ』

今まで独りでいるのが当たり前だった、その事実が悲しくて。
それでも自らを望んでくれたお姉さまが、否定されるような気がして。


『ゲスの分際でお姉さまを語らないでないでくださいまし』

誇りにしているからこそ、あの男の言葉は否定しなければならなかった。


その結果がこのザマだ。
同行すると言いながら、現に自分はここにいる。
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
95 :1だよ [sage saga]:2011/03/11(金) 20:06:53.98 ID:E13dhYVD0

「(行かなければ)」

もし何らかの刺激でお姉さまがキレたらどうなることか。
あの金髪グラサンがどんな能力者かは知らないが、良くて半殺し、最悪……
風紀委員として、なによりパートナーとして、そんな事態は絶対に阻止しなければ。

しかしどうやって?

目の前の男は超能力者、そしてその中の最強。
振りきる自信は正直に言って、あまり無い。
転移を繰り返せば何とかなるだろうか………やるしかない。

「させねェよ。悪いがココは通さねェ」

そんな葛藤を見抜くように一方通行が遮った。

「それにこの配置をおかしいとは思わねェのかァ?」

「加えて言うなら、あのシスコンは無能力者だ」

配置?

あちらには無能力者、怒りで不安定の超能力者。
こちらには最強の超能力者、大能力者。


変だ。


そもそも分散させる意味がわからない。
大切な話があるなら、日常においてそれを告げれば良い。
何故こんな真夜中の、非日常を選ぶ必要がある?
何故あの男はわざわざ“上条当麻”を引き合いに出して怒らせる?
無能力者が超能力者に喧嘩を売るなんて、正気の沙汰じゃない。

わからない。
自分は効率主義者ではないが、あまりに――――非効率的。

「シスコンは全て承知でこの展開を選ンでンだ」

「テメェにとって超電磁砲が大切なように」

「超電磁砲にとって三下が大切なように」

「アレにも譲れないモンがあンだよ……………ケッ」

吐き捨てるように言い放つ一方通行。
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
96 :1だよ [sage saga]:2011/03/11(金) 20:07:53.77 ID:E13dhYVD0

「お姉さま……」

また、だ。

肝心な時に傍にいられない、この無力感。
残骸(レムナント)事件の際に二人のいる世界の一端を知った。
そして、それに向かって自分なりに追いつこうと頑張ってきた、つもり。
だがしかし、遅い、と嗤うように事態は急激に変化していく。
先月末、お姉さまは急に行方をくらまし、そして帰って来た。

行き先は―――――ロシア。

目的は―――――核兵器の使用を阻止。

結果は―――――成功。

表向きは、そう、公表されている。
けれど自分にはわかる。
きっと別の事情があったことが。
さらにそれには上条当麻が関わっている事も。

全ては憶測であり、根拠など無い。
あるとすれば、それはパートナー故の経験と直感からか。
それに気付いた時、思った。

ああ、まただ。また置いて行かれた、と。

自身と彼女との間に絶対的な隔たりがあると、わかっている。
超能力者と大能力者という現実。



それでも―――――


それでも共にいたいと願うのは傲慢なのだろうか?


力が無ければ、大切な人を支えることすら許されないのか?


お前の手は届かない、諦めろ、そう、現実は言うのか?


本当に………無力……だ。


地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
97 :1だよ [sage saga]:2011/03/11(金) 20:09:47.43 ID:E13dhYVD0

「―――――いらねェのかよ?」

「え?」

思考中に突然声をかけられ、驚く。
顔を上げると、いつの間に席を立ったのか、近くにいた。
持っていた缶をひったくられる。

「チッ、ヌルイじゃねェか。コーヒーを侮辱してンのか!? ア゛ア゛ン!!?」

待ってろ、そう言ってまたもや自販機に向かう一方通行。
杖をつきながら、歩くことが不便なはずなのに。
というか、自分は彼に足止めされているのでは?

「さみィだろうが。ソレで時間つぶしてろ」

新しく買ったソレをまた放り投げられた。

空中を舞う、缶。

呆然とソレを見て、苦笑してしまう。
今度は“自分から手を伸ばし”受け取る。
白髪の少年はベンチに座りなおし、今度は不貞腐れ始めた。
顔をそむけそっぽを向いている。

「ったくよォ。なンでこンなことしなくちゃならねェンですかねェ」

「(それはわたくしの台詞ですの)」

プルタブを開け、両手で包みこんで、いただくことにする。
かじかむ指先が缶に触れて温かい。

「(…………苦い)」


彼から渡されたソレは――



ちょっとだけあたたかく――



とてもにがいモノだった―――――




地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
98 :1だよ [sage saga]:2011/03/11(金) 20:13:42.92 ID:E13dhYVD0
また今度―


遅ればせながら
>>1「ただいま、>>80>>88
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
99 :1だよ [sage saga]:2011/03/11(金) 20:30:33.88 ID:E13dhYVD0
すまん訂正。

>>95
×自分は効率主義者ではないが、あまりに――――非効率的。
○自分はある程度効率を優先するタチであるが故に、それの意味することが。
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 18:29:44.83 ID:EMrVwOGL0
乙、続き待ってる
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 21:24:45.09 ID:u4vsnbqP0
続きが気になるぅ
102 :1だよ :2011/03/13(日) 02:27:14.57 ID:0z6cuUx40
投下の前に注意書きという名の予防線をば。
※今回はいつもに増して空白と――(ダッシュ)が多い。だって好きなんだもん。

では投下ー
103 :1だよ :2011/03/13(日) 02:29:34.90 ID:0z6cuUx40


【御坂 美琴】


「あっちは心配しなくても大丈夫。手を出さないように言ってるからにゃー」

「信用ならないわね」

だが、目の前の金髪グラサンにゃーにゃー男からは、荒事に持ち込もうとする者特有の気配が感じられない。
それは先ほどの一方通行にも同じことが言える。
あの第一位がそんな風にしていたのを今だに信じられないが、事実だ。

「こうしてまともに会話する初めてかにゃー?」

「そうね。どこかで見た気もするけど、覚えてないわ」

「はじめまして。オレの名は土御門 元春。舞夏の義兄であり、上条当麻の友達だにゃー」

「その友達が当麻を襲うわけ?」

「あー、電話で言ったことは嘘だにゃー」

「はあ?」

「かみやんが危ないってのが嘘」

「…」

「というのも嘘。本当は危なかったり?」

「おちょくってんの、アンタ」

「まあまあ、軽いジョークだにゃー」

「用件は? 今イライラしてんの。誰かさんに叩き起こされたせいで」

「それは う そ ♪」

「あ゛ぁ゛ん?」

「凄んでも説得力無いぜ超電磁砲。なんせこんな真夜中にたった2コールで繋がる早さだったからにゃー」

「大方、かみやんからの連絡が来ないか乙女全開だったに違いないぜよ」

「……………どうやら死にたいようね」

何の為にこうしているのか、わからなくなってしまう。
こんな茶番をするために、ここにいるわけではないのに。
そしてこれが挑発行為であると理解していながらも、焦りは止まらない。
早く本題に入れ、そんな意味を込めて睨みつけた。

「本当に通じない奴だにゃー。はぁ、前置きはこの辺でいいか」

そう言って、彼は道化の仮面を脱ぎ棄てるように口調を変えた。
軽く、おどけた雰囲気が、重く張りつめる。
まるでこちらのほうが本来の貌であると言わんばかりに。
104 :1だよ [sage saga]:2011/03/13(日) 02:31:19.21 ID:0z6cuUx40

「まずは現状を把握してもらう」

「上条当麻は今自宅で“ねて”いる。危害なんか加えちゃいない。そもそも用があったのは―――」

「私、ってことかしらね」

土御門にとって当麻が目的ならば、わざわざ他人を呼び出す必要は無い。
つまるところ自分に用があるだろうことはわかっていた。
理解が速くて助かる、彼はそのように返し本題に入った。

「こちらの言いたいことは一つだけだ。」

「なによ」

「上条当麻に近寄るな」

「…………理由は?」

「答える義理は無い」

「そ、お断りよ。用件はそれだけ?」

「そうだな」

本来ならばそこで終わったはずの会話。
けれど私はこの機会を不意にするつもりは毛頭無い。
なぜなら彼が当麻の事情を知っているかのような気がしたから。
そしてそれを引き出すキーワードを私は知っている。

「こちらからも質問させてもらうわよ」

「…………何を?」

「あのシスターは何処に居るの?」

「―――――――――ッ」

ほんの僅かだが、纏う気配が崩れた気がした。
どうやら成功したらしい。その隙をついてたたみ掛けるように詰問する。

「舞夏から聞いたわ。アンタ、当麻の隣に住んでるんでしょ?」

「だったら彼女のことも当然知ってるわよね?」

「そしてわざわざ警告してくるような人種だもの。あの娘が何処にいるか知っているはずよ」

唐突に姿を消したらしいインデックス
同時におかしくなった当麻
この警告

あまりにタイミングが良すぎる。
根拠は無いが関連があるに違いない。
105 :1だよ [sage saga]:2011/03/13(日) 02:35:05.90 ID:0z6cuUx40

「それを聞いてどうするつもりだ?」

「決まってる」

ああ、ここで理解した。
何故コイツが、あのオンナが、気にくわないのかを。


「アンタから力ずくでも居場所を吐かせて、引きずってでもあの部屋にぶち込んでやる!」


私よりも当麻の近くにいながら、私が欲しがる場所にいながら、
あんな風に倒れるまで疲弊した彼を放っていたのだ。
許せるわけがない。許して良いわけがない。
本当に―――――気にくわない。

「何が同棲よ、何が友達よ、ふざけないで!!」

「当麻の命が危ない? よくも平然とそんな嘘がつけるわね」

「はっきり言うわ。アンタに当麻の友達を語る資格なんて無い」

もちろん私にはそんな事を言う資格なんて無いかもしれない。
加えて、これが滅茶苦茶な八つ当たりとわかってる。
それでも今まで溜めこんだドロドロとした感情が、言葉に成って流れ出るのを止められない。

「近寄るな? それは私の台詞よ!!」

「あんな風になるまで当麻を放っておいたクセに!!」

「こんなときだからこそ傍にいるのが友達でしょうが!!?」

私は当麻の特別なんかじゃない。
私は……当麻にとっては…友達ですら………ない。
私は………きっと……ただの………

だからこそ―――――嫉ましく、妬ましい

「答えなさい。何処にいるの?」

三度目は無い。最後通告だ。
放電し、雷撃を集束させる。

「無理だな」

「オーケーわかったわ。アンタがそこまで我を張るんなら――」

やはり彼は答えなかった。
もう我慢できない。後悔させてやる。

「勘違いするな。禁書目録の居場所? なら教えてやる」

「何処にもいない。それが答えだ」

「いいかげんにし――」


待て、何処にもいない?


答えの意味を悪い方向に捉えてしまい、集中力が乱された。
束ねた雷が拡散しそうになる。

「世界中どれだけ探そうが誰にも見つけることはできない」

待ってよ。それは………つまり……

「なぜなら禁書目録は既に―――――」





「―――――死んでいるのだから―――――」




106 :1だよ [sage saga]:2011/03/13(日) 02:38:40.70 ID:0z6cuUx40

「話はそれで終わりか?」

告げられた真実の意味の重さのあまりに呆然とする私に対して、
土御門は用件は済んだと言わんばかりに立ち去ろうとする。

「待ちなさい!!なんでっ!? なんで……インデックスが…」

「……………幻想御手、乱雑解放、絶対能力者計画」

彼は答えない。
代わりに歩みを止めて読み上げるように、私が関わった事件の数々を口にした。

「もしかしてこの程度で自分が特別だと思っているのか? だとすれば酷いな」

「オレ“たち”がいる世界が表とか裏とか、そんな低い次元だとでも?」

「はっ。笑わせてくれるなよ超電磁砲」

「ロシアでその一端に触れたお前なら解っているはずだ」

「お前ごときが、たかが超能力者風情が、敵う世界じゃない。今一度警告するぞ?」


「上条当麻に近寄るな」


「一応、警告はした。御坂美琴、あとはどうしようとお前の勝手だ。だが覚えておけ―――――」





「―――――Fallere825」




107 :1だよ [sage saga]:2011/03/13(日) 02:39:35.39 ID:0z6cuUx40

瞬間―――


豹変する


重く、から、押し潰す


張りつめる、から、凍りつく


先のソレですら、ヌルイと嘲笑うかのように


背中越しに放たれているモノは、混じり気の無い純粋な―――――




―――――殺気




かつてあの第一位ですらここまでの高純度を放っていただろうか?




「もしお前のせいでかみやんが傷ついてみろ。そのときは――――」




必ず―――



お前を―――





「―――――殺してやる―――――」














108 :1だよ [sage saga]:2011/03/13(日) 02:40:18.31 ID:0z6cuUx40





















                  認めない











109 :1だよ [sage saga]:2011/03/13(日) 02:41:12.82 ID:0z6cuUx40

「――――な」

土御門は再び去ろうとする。

「―――るな」

聞こえているかどうかなんてわからない。

「ふざけるな!!」

だが言わなければならない。



『オレ“たち”がいる世界が表とか裏とか、そんな低い次元だとでも?』

《それでも共にいたいと願うのは傲慢なのだろうか?》



『お前ごときが、たかが超能力者風情が、敵う世界じゃない』

《力が無ければ、大切な人を支えることすら許されないのか?》



『上条当麻に近寄るな』

《お前の手は届かない、諦めろ、そう、現実は言うのか?》






               認めるわけにはいかない




110 :1だよ [sage saga]:2011/03/13(日) 02:42:25.68 ID:0z6cuUx40

だって―――




『何やってんだよ、お前』




あのとき―――




『どかねえよ』




アイツは―――




『お前が傷つくところなんて見たくねえんだよ!』






―――――それに抗って、戦っていたのだから―――――





111 :1だよ [sage saga]:2011/03/13(日) 02:44:46.04 ID:0z6cuUx40

上条当麻は特別だから戦っていたわけではない。
幻想殺しがあるから、力があるから、戦うわけではない。
守りたい人がいて、助けたい人がいる。それだけで彼には戦う理由になる。
たとえ何が、誰が立ち塞がろうと決して諦めないで、必死に手を伸ばし続けた。
そしてその結果、御坂美琴という少女を救ってくれた。


だから認めない。


土御門元春の言葉は上条当麻の否定とほぼ同義。
たとえ土御門にどんな事情が、理由があったとしても、
傷だらけになりながら、それでも救ってくれた上条のために、


“私だけは”認めるわけにはいかない。


結局、私は自分自身にもイラついていたのだ。
上条当麻にとって特別な存在でなければ、近しい関係でなければ、
傍に居てはいけないと思い込んでいた。
周りから認められる理由が、名分が、欲しかったんだと思う。
そしてソレが私には無いから、ソレを持っている人に劣等感を抱いていた。


でも“そんなこと”は、どうでもいい。


好いた人を支えたいと思うことに理由なんていらない。
友達とか、家族とか、恋人とか、そんな立場がなければいけないのか。
そうであるならば、そんな“特別”に価値は無い。
思い出す、疲弊して、倒れる直前の彼を。

泣いていた

涙を流していたわけじゃない。
それでもそんな顔をしていたように見えた。
インデックスが失われたのが真実ならば、彼はそのことに傷ついているのだろう。
私に出来ることなんてたかが知れているかもしれない。
もしかしたら私に出来ることなんて無いかもしれない。

それでも―――

当麻には泣いて欲しくない、傷ついて欲しくない、そう、思う。
私はただ当麻には笑っていて欲しい。
彼には笑顔でいて欲しい。

だから―――

どうすればいいのか、どうしたいのか、
この決意を言葉に成してカタチにしよう。
112 :1だよ [sage saga]:2011/03/13(日) 02:45:57.70 ID:0z6cuUx40



「当麻が困っているのに、泣いているのに、黙っていられるわけないじゃない!!」

「アイツにあんな顔して欲しくない! 泣いて欲しくない!」

「だから私が守る! 傷つけさせやしない! させるもんですか!!」

「御坂美琴が! 上条当麻を傷つける全てから!! 守り抜いてみせる!!!」



それは土御門に、世界に、なにより自分自身に向けた約束という名の言葉。



人はそれを、このように、称す。



誓い、と。



「この想いは絶対に幻想なんかじゃない!」


「それでもアンタたちが否定するってんなら―――」




「―――――私が一生懸けて証明してやる!!―――――」



息が荒い。長々と大声で叫んだので当たり前だ。
だがこの想いを告げたことに後悔なんて微塵もない。
土御門は聞こえたのか、再度立ち止まり呟いた。

「―――――、――」

聞こえなかった。その内容はわからない。
もちろん何と言われようが訂正するつもりは無い。

けれど………

その背中はどこか寂しくて

彼はそのまま夜の暗闇に紛れるように、消えていった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
113 :1だよ [sage saga]:2011/03/13(日) 02:49:18.08 ID:0z6cuUx40
また今度―
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 02:52:26.85 ID:9ejAZO1Ko
おつー
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 02:55:36.92 ID:B6ucvBdq0
乙!
超電磁砲6巻の当麻思い出すな・・・
地震とか色々大変だけど頑張ってくれ!
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 03:25:17.66 ID:9E5ta7eIO
乙でした!
インさんやっぱりお亡くなりになっていたか…
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 04:29:20.43 ID:0RkmL7Pko
乙〜
続き待ってます!
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 05:05:48.86 ID:/eOHlDpAO
>>1
インデックス…(;人;)
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 19:36:30.24 ID:Za+DhNQ50
シリアスっすな〜
果たして美琴は上条さんを救えるのか…
120 :1だよ [sage saga]:2011/03/14(月) 00:20:19.42 ID:ViGHE5yk0
投下―
121 :1だよ :2011/03/14(月) 00:22:00.24 ID:ViGHE5yk0
age忘れた…
122 :1だよ [sage saga]:2011/03/14(月) 00:22:44.41 ID:ViGHE5yk0
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「お姉さま!!」


突然、後ろから呼ばれて驚いた。
そして振り向く。

「くろ――、ぐふぉッ!?」

最後まで言わせては貰えず、おまけに抱きつかれた。
後ろから、しかも強く飛びこまれたせいで、腰がイタイ。
倒れそうになるのを、両足に力を込めて踏みとどまり堪える。

「ちょっ―――」

「黒子は心配で!心配で!!」

どうやらかなり不安にさせてしまったらしい。
詫びの意味も込めて頭を優しく撫でる。

「大丈夫。ちょっと口喧嘩しただけだから」

「本当に無事で良かったですの。あまり心配させないでくださいまし」

思えば、あのグラサンにも白髪野郎にもしてやられてばかりだった。
怒りと焦りに駆られ、非常事態であるからこそ冷静で在らなければならないのに。
そう考えるとなんだか情けない。

「………あっ!」

そこで思い出した。
黒子はあの野郎と一緒にいたのだ。

「黒子は!?そっちは大丈夫だったの!??」

「へ? えぇ、まぁ……」

何と言えば良いかわからない、そんな微妙な顔をしている。

「黒子?」

「…」

「はぁ、でも無事で良かった」

「エエ、全クモッテソノ通リデスノ」

どこか後ろめたそうに、目を逸らした。
引き攣った顔をして、そして頬をほんのりと紅く染めている。
それは寒さのせいか、急いで合流しようとしたせいか、それとも―――
向こうで何が起きたのか、私にはわからない。

「ありがとう。こんな時間に付き合ってくれて」

「お気になさらないでくださいませ。これは自分で望んだことなのですから」
123 :1だよ [sage saga]:2011/03/14(月) 00:24:16.13 ID:ViGHE5yk0
結局、この騒動は私一人の空回りだったのかもしれない。
しかし得た物もある。
それは、これ以上関わるならば日常には帰れない、ということ。

こんな言い方はしたくはないが、たかが男子高校生が一人ぶっ倒れただけなのだ。
年頃の少年が何かに悩み、困って、溜めこんで、その疲労から倒れた。
そして私は彼の事を心配して、支えようとした。それだけ。

しかし、ソレが上条当麻である場合は事情が異なる。

私にとって彼は日常の象徴でもあり、
矛盾しているかもしれないが、同時に非日常も象徴している。
なぜなら彼は色々な事件に首を突っ込んでいるだろうから。

絶対能力者計画
海原光貴
外からの侵入者による地下街の出来事
残骸(レムナント)
大覇星祭で起きた何かの事件
学園都市の機能が麻痺した時の出来事
デモが激しいフランスからの電話
大怪我にもかかわらず病院から脱走したあの馬鹿
クーデターで荒れているイギリスからの電話
そして第三次世界大戦

列挙するだけで目眩がしてくる。
私が知っているだけでこんなにもあるのだ。
きっとこれら以外にもあるだろうという確信が妙に悲しい。

故に、上条当麻は日常にして、非日常。

そして土御門元春は上条当麻を引き合いに出して、深夜という非日常を選び、私に警告した。

『ロシアでその一端に触れたお前なら解っているはずだ』

「(知ってるわよ、そんなことぐらい…)」
124 :1だよ [sage saga]:2011/03/14(月) 00:27:42.74 ID:ViGHE5yk0

先月の出来事を回想する。
当麻がロシアにいるのを偶然知り、危険が迫っていることを知って、ようやく私は行動した。
借りを返すという言い訳をして首を突っ込んで、ソレらを見てしまった。

「(私だって……警告する………あんなの…)」

本当に異常だった。
正常に、そこには異常が存在していた。



まるで空想世界から飛び出したかのような―――――巨大な空中要塞



縦横無尽に空を駆ける―――――人型の化け物



そして―――――あの黒い、光



いや、黒いとか、光とかの言葉では表現できない―――――なにか。



そこまで思い出して、自身の体が震えていることに気がついた。
怖い。あのデカブツよりも、バケモノよりも、私にはアレが恐ろしい。
正直に言って、アレは見る人にトラウマを植え付けると思う。
傍にいた妹も愕然として震え、怯えていた。
別にアレが私たちに対して、具体的に何かしたわけではない。

ただ、そこに在ること自体が恐ろしい、そんなモノ。
125 :1だよ [sage saga]:2011/03/14(月) 00:28:43.16 ID:ViGHE5yk0

「……当麻」

そんな危険極まりない世界でいつも戦っていたのか。
いつだってそう、彼は危ない事件に自分から首を突っ込んでいる。
そして私はそれを知る機会は何度もあったはずなのに……
行動しようとしなかった自分が恨めしい。
たとえ出来ることが無かったとしても、
彼を想うならば、イギリスから電話があった時に行動すべきだった。

「(何があったっていうのよ……)」

私は間に合わなかったのかもしれない。
当麻を狙う輩をボコり、学園都市から飛び出して、それでも彼には会えなかった。

『禁書目録は既に――――』

数える程度しかまともに会話したことがない、あのシスター。
彼女はクーデターの前までは当麻の傍にいた。
そして彼がロシアから帰還した際にはいなかった。
よって、その間に何かが起きたという事。

「お姉さま?」

呼びかけられて、かなり深いところまで潜っていたことに気付かされた。
黒子が心配そうにこちらを見ている。

「なんでもない。帰りましょ」

これ以上、外にいたら間違いなく体が明日に響くので、
大丈夫、そう加えて彼女に帰還を促した。

しかし―――

ふと、夜空を見上げ、思う。


二人の身に何が起きたのか?

どうしてこんなことになってしまったのか?



その問いに夜空は答えず―――



ただただ雲を厚く張るばかり――――



126 :1だよ [sage saga]:2011/03/14(月) 00:32:01.16 ID:ViGHE5yk0

【  】


この日、少女は誓いを立てた。

それが後にどのような影響を及ぼすかは、誰にもわからない。

なぜなら、未来のことを完全に予測するなど、誰にも出来ないのだから。

しかして過去と現在から鑑みるに、一つだけ確かなことがある。




「――――少女は誓いを守れない――――」




守ることなんて不可能だ。

確信を以て、そう言える。

それは未来に於いて、御坂美琴が上条当麻を守れない、ではない。

そもそも前提条件を満たしていないのだ。



つまり―――



過去に於いて、上条当麻という人物が“死んでいたら”どうだろうか?

現在に於いて、上条当麻なんて人物が“いなければ”どうだろうか?



憐れな少女は“それ”を知らない。

愚かな少女は“それ”を知らずに誓いを立てた。

憐れで、愚か。

守りたい人は既に存在しないのに。



本当に滑稽――――



この世界のどこにも――――






「―――――上条当麻はいないのに―――――」







127 :1だよ [sage saga]:2011/03/14(月) 00:38:27.03 ID:ViGHE5yk0
また今度ー
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 00:39:31.29 ID:DMdNICRFo
つまり…どういうことだってばよ?
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 01:03:04.86 ID:/QFH67nDO
中条さんの出番なのか…?
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 09:30:33.31 ID:UHs3zzzAO
>>129
だれそれ おいしいの?
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/14(月) 11:16:07.23 ID:yPH4kATC0
"いつも通りの"上条当麻はいないってことでは?
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 17:42:02.50 ID:4t/yAMQDO

これってまさかBADエンド?
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/14(月) 18:32:13.04 ID:k63rPDXAO
上条さんは実はもう死んでるってことでおk?
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 23:04:31.98 ID:NgR8wgVw0
インデックス死んでるの残念だがストーリー的に面白いな
美琴が地獄から引きずり出す展開なら10回は読むかもしれん
135 :1だよ :2011/03/15(火) 00:05:16.53 ID:FZQCDlOv0
投下ー
136 :1だよ [sage saga]:2011/03/15(火) 00:07:47.78 ID:FZQCDlOv0

【少年】


深夜2時を遥かに過ぎた時刻、それは健全な高校生が起きているはずのない時間帯。
しかし電気は付いていて部屋は明るく、
その主はぼんやりとガラステーブルに肘をついて呆けていた。
要するに、彼はその状態で“ねて”いた。



カチャッ



室内に響く解錠の音。
その音が耳に入り、少年の目蓋は開く。
意識を覚醒させ時計を見ると―――――02:56SAT

「もうそんな時間か」

玄関先に視線を移して客人が入るのを待った。
そして―――

「にゃー。本当に起きてるとはびっくりだぜい」

「待ってるって言っただろ?」

金髪グラサンにゃーにゃーシスコン陰陽師、もとい土御門が部屋に入ってきた。
チャイムを鳴らさず合鍵で侵入したのは、もしかしたら彼が少年を気遣ったのかもしれない。

「それで? 何に使ったんだよ?」

「それは秘密ですたい」

少年は呆れるように、そして疑念の眼差しを向けて確認するも、
土御門はまともに答えず、借りたもの―――携帯電話を彼に手渡した。

「本当に、危険なことに使わなかったんだろうな?」

「約束だからちゃんと守ったぜよ」

「信じらんねー」

「ひどっ!!」

三時間ぐらい前に土御門から部屋を尋ねられ、携帯電話を貸してほしいと少年は頼まれた。
最初は嫌だったが、結局いくつかの条件を付けてしぶしぶ貸したわけである。
非常時でもないのに他人に自分の携帯を渡してしまうなんて、少年のお人好し具合は深刻と言えるだろう。

「まだ眠れないのかにゃー?」

「“ねて”はいるぞ。それに結構メリットもあるんだぜ?」

突然の話題転換に少々驚きながらも、少年は苦笑しつつ答える。
便利ではあると思う。
寝坊することも無いし、いつでもどこでも体を休めることができる。
慣れないうちは本当に困ったが、慣れてしまえばどうという事はない。
そして夢を見なくて済むようになった。これが一番の利点。



                  それはきっと、壊れたから


137 :1だよ [sage saga]:2011/03/15(火) 00:09:24.44 ID:FZQCDlOv0
「今日、倒れたのに?」

答えられない。
別に肉体に疲労が溜まっていたわけではないと思う。
こうなってしまってからは自身の状態がより細かくわかるようになった。
倒れたのは恐らく、美琴のせい。具体的には彼女の放った“あの言葉”が原因。

「なあ、かみやん」

「なんだよ」

「いったい何があったんだ?」

「それは聞かない条件だろ」

携帯電話を貸し出す条件は三つ。
一つ目は荒事、他人を陥れるような目的には使わない。
二つ目にプライバシーを侵害するような真似はしない。
そして三つ目は、これ以上―――――

「それを承知で聞いている」

「言いたくない気持ちがわからない訳じゃない」

口調が変わり、より真剣な眼差しで尋ねる土御門。

「だがな、正直に言ってアレは異常だ」

「科学サイドから見ても、魔術サイドから見ても」

「どうしてあんなことになったのかが理解できない」

「傍にいたはずのレッサーもサーシャ=クロイツェフも知らないと言っていた」

「二人が見たのは結果だけ。過程は謎のまま」

土御門が聞いているのはインデックスの死について、ではない。
彼女の死因は憶測ながら、必要悪の教会から答えが出ている。
しかし彼の言う“アレ”は解明できていないらしい。
当然かもしれない。当事者たる少年は口をつぐんでいるのだから。
だがそれは決して、“言わない”ではなく、“言えない”
少年自身が理解できていないのに、何度聞かれようが答えることは不可能だ。

「……はぁ、わかった。もう聞かない。でもこれだけは答えろ」

「お前が……右方の……フィアンマを………」

そこで彼は珍しく躊躇うような顔を見せた。



「―――殺したのか?―――」



「ああ。俺が殺した」

即答する。誤魔化す理由も無い。やったのは自分。
だが、不思議と罪悪感は感じなかった。



                  それはきっと、[×××]から



土御門は少年がまさか躊躇せず答えるとは思わなかったのだろう。
まるで信じられないモノを見るような目をしているような気がした。
サングラスのせいでよくわからなかったが、それでも彼にはそう感じた。



                  それはきっと、[×××]から




138 :1だよ [sage saga]:2011/03/15(火) 00:10:22.90 ID:FZQCDlOv0



―――――静寂



この無音を少年は苦痛に感じない。
仮に感じるのであれば土御門の問いに返した事実に関して、後ろめたい気持ちがあるに他ならない。
感じるとすれば空虚。ただそれだけ。

「今日は、もう、帰る、にゃー」

震える声で土御門は帰る旨を伝えた。
これ以上は無意味だと悟ったのか、その無音に耐えられなかったのか、はたまた――――
振り向かず、彼を見送らず、虚空を見上げ少年は告げる。

「土御門」

「……なんだ?」

「ステイルと神裂に伝えてくれ」

「何を?」

土御門は内容を促したが、少年が何を言付けるかを知っている。
なぜならこれは何度となく繰り返したやり取り。
彼が帰る際に行う儀式のようなもの。

「インデックスが死んだのは俺のせいなんだ」

「あいつらは優しいから、そうじゃないって言ってくれたけど……」

「俺だけが責任を背負うなって……怒ってくれたけど……でも………」

「それでも俺がインデックスを守れなかったことは」

「変わらない、変えられない事実なんだよ」

例えるならこれは懺悔。
隣人からその罪を赦されているはずなのに、少年はこの儀式を続ける。

「わかった。伝えておく。……だがな、かみやん」

「それでも、俺は言う。禁書目録が死んだのはお前のせいじゃない」

土御門も幾度となく赦しを与える。
それは彼が必要悪の教会に所属しているからではない。
上条当麻を友人であると、
ただの監視対象ではなく共に戦場を駆けた戦友であると、思っているからこそ。



―――故に、友の赦しは届かない―――



「じゃあ、お暇させてもらうにゃー」

「…土御門」

「…」

「ありがとう」

「また来るぜい」

掠れた声で少年は感謝の意を伝える。
そして土御門は去っていった。
139 :1だよ [sage saga]:2011/03/15(火) 00:12:02.25 ID:FZQCDlOv0





―――――静寂





この無音を少年は“苦痛に感じる”。
それを教えてくれた、そして植え付けた元凶である人物を思い浮かべ、彼は問うた。


「なあ、インデックス」


「なんで死んじまったんだよ?」


「言ったじゃねえか、必ず俺はお前の所に帰るって…」


「なのに………なんで………………」









なあ、インデックス







お前が死んじゃったらさ








俺はいったい――――










何処に帰ればいいんだよ―――――――












第一話 『特別』 完
140 :1だよ [sage saga]:2011/03/15(火) 00:14:52.47 ID:FZQCDlOv0
やっと区切りがついた。次回は時間がかかるっぽい。
ではまた今度―
141 :1だよ [sage saga]:2011/03/15(火) 00:26:29.90 ID:FZQCDlOv0
あと補足

土御門がわざわざ携帯を借りたことに違和感があるかもしんない。
確かに着信元を偽装するのは出来るかもしれないけど、
土御門が彼と会話する口実を作るため、ということで納得して欲しいどす。


142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 01:34:12.70 ID:g04+MTN4o
乙〜
続き気になる…
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 04:21:50.36 ID:yFqpbujGo
ちょっとまて気になりすぎる。
ちゃんと畳んでくれよ!一番いいハッピーエンドを頼む。乙!
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 11:54:44.97 ID:HKjqAZ6n0
ちょっとヘタ錬呼んでくる
145 :1だよ [sage saga]:2011/03/19(土) 01:51:51.38 ID:w/tOYH6N0
幕間 『土御門の独白』


【土御門 元春】


暗闇に一人、少年はいた。
彼の名前は土御門 元春。
必要悪の教会の一員、魔術師。
そしてこの学園都市では幻想殺しの監視役。

科学側の人間でありながら、魔術分野にも精通している数少ない人間。
魔術側の人間でありながら、科学分野における最高峰の学園都市に住む人間。

しかしそのどちらもが正しく、同時に間違っている。彼は魔術側でもなく科学側でもないのだから。
その対極に位置する二つの立場を生かし、行う活動は多岐にわたる。
大抵、上条が何らかの事件に巻き込まれるときは彼が関わっていると言っても過言ではない。


彼の目的は何か?


土御門は多角スパイ。
それだけならば、暗躍するだけでいい。
少なくとも数時間前の騒動を起こす必要はない。
まして自身の都合で騒ぎを起こす必要なんて。
今のところ事件が起きる知らせも無く、平和な日常になっている。

しかし―――

「(このままで済むはず無いぜよ)」

正直に言って、ここ半年はおかしい。
第三次世界大戦が起こり、イギリスではクーデター起きた。
それらの黒幕たるローマ十字聖教のトップ《神の右席》が行動を起こして、学園都市は危機に陥った。
神の右席が行動し出したのは、ローマ十字聖教の計画を何度となく潰してきたから。
そして、それらに直接かかわり表立って行動してきたのが―――

「かみやん」

そう、上条当麻。
だがここで思考は止まらない。
なぜなら先ほどの遡りにはまだ続きがある。

そもそもにして上条は学園都市に住むただの高校生。
右手に特殊な力はあるものの、それを除けば一般人に過ぎない。
思想が偏っているわけでもなく(ある意味では偏っている)、
性格が破綻しているわけでもなく(ある意味では破綻している)、不幸なだけの少年。

「少し、ではないけどにゃー」

話を戻す。
そんな少年が魔術、という世界に関わるきっかけを作りだした人物がいる。


禁書目録


上条が派手に動くおかげでその影は薄れがちだが、
あらゆる意味において、間違いなく彼女は重要人物だろう。
禁書目録が上条に接触し、この半年で色々な事件が起きた。

では彼女が死んだことで次に何が起きるのか?

土御門はそれを懸念している。
それは彼の目的にも関連しているから。

《義妹を守る》

これだけが全てにおいての目的。
彼女がいるから学園都市の平和を守る、それだけ。
幻想殺しも、現在身を置いている暗部《グループ》も所詮手段に過ぎない。
過ぎないのに―――


『―――守ってあげて―――』


脳裏に甦るは、託された願い。
己の無力さを呪い、血を吐くようにして紡いだ、そんな想い。
146 :1だよ [sage saga]:2011/03/19(土) 01:57:05.34 ID:w/tOYH6N0
「毒されてるにゃー。これは」

監視するのが仕事だったはず。
しかし日常にも身を置いていたせいか、いつしか感情移入してしまうようになった。

『はっきり言うわ。アンタに当麻の友達を語る資格なんて無い』

「(友達………)」

これは嘘。彼はただの監視対象。

『こんなときだからこそ傍にいるのが友達でしょうが!!?』

「(友達じゃ……ない…)」

これも嘘。
大切な人で無いならば、事あるごとに理由を付けて上条の部屋を訪れる必要はない。
だが、何度彼を訪ねても、返ってくるのは懺悔のみ。
懺悔という名の、土御門の無力を突き付けられるだけ。

「友達であるわけ……ないぜい」

本当に友達で、大切な戦友であるならばそれを赤の他人に渡したりはしないだろう。
あの人もこんな気持ちだったのだろうか?
いつもあの病室で現実を思い知らせれ、
自分には何もできないから誰かに頼むしかない、そんな現実《絶望》。

『―――でも……後悔したくないから―――』

『―――できることをしないでこんな気持ちになるのはもうイヤだから―――』

あの人はこうも言っていた。
土御門もそれに同意する。だから行動した、つもり。
上条が倒れたと聞いて、彼が穏やかに“眠っている”と聞いて、彼は二つの賭けに出た。

片方の結果は上出来、いや、予想以上と言える。
上条から携帯を借り、御坂美琴を呼び出して、近寄るなと警告する。
彼女が彼に好意を抱いてることなんて、当事者を除けば周知の事実。
当然ながら彼女は反発し、危険を承知で彼を支えると叫んだ。

『私が一生懸けて証明してやる!!』

まるでプロポーズだ。流石にあんな過激なことを大声で叫ぶとは思うまい。

「お似合いかにゃ?」

本当にあの二人は似ている。
もっとも、似ているだけで同じではない。
美琴の決意は上条を彷彿とさせるが、明らかに彼とは異なる点がある。
それを指摘するのは無粋。言わないでおこう。

そしてもう片方の賭け。
これに関してはどうなるかはわからない。御坂美琴次第だから。
それに関しては正直に言って期待半分、後悔半分と言ったところ。
なぜなら―――

「(俺が殺した………か……)」

上条は臆面もなくそう言った。今でも土御門には信じられない。
たとえ敵であろうと、今まで彼は命までは奪わなかったはず。
どうして土御門が右方のフィアンマが死んだ事を知っているか、それはレッサーから聞いたから。

『気絶していた上条の周辺に“散らばっていた肉片”は―――
 それらに付着したモノから察するに……フィアンマです……きっと…』

彼女は当分肉類は喉を通らないだろうとゲンナリしていた。
それほどまでに悲惨な現場だったらしい。

つまり―――

上条が、そんな残虐な方法を選んで殺した、ということ。
土御門は今日、彼の口から聞かされるまでは信じていなかった。
だが、事実らしい。認めたくはないけれど。

「なあ、かみやん。
 オレは《ベツヘルムの星》で何があったかが聞きたいわけじゃないんだ。
 お前自身に何が起きたのかを……それだけを…知りたいんだよ………」

暗闇にて、土御門の独白は続く。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/19(土) 02:37:38.71 ID:fhMQ0HPQo
寝落ち?
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/19(土) 04:00:15.48 ID:UIzYTjMoo
暗部堕ちじゃね?
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/21(月) 13:08:04.21 ID:BsUWQW8Oo
>>1は生きてるか?
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/24(木) 20:31:13.73 ID:Ea2WRvJN0
俺が時を止めた・・・
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/29(火) 21:58:23.00 ID:9hQjzZYFo
続きをまだ期待している・・・
152 :1だよ [sage saga]:2011/03/30(水) 01:45:52.50 ID:Rb3SJZyC0
>>149
生きています。
ただいま二話作成中。思ったよりも難しい。
最初はヤンデレでエロで書こうとして気が付いたら、シリアスになってしまった。
全体の流れは考えているけど、文章化に難航中。
このスレを見てくれた人の期待に添えるように頑張るよ。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/30(水) 02:27:27.25 ID:UKQ9VaV3o
良かった
続きの方は気長に待ってます!
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/30(水) 02:28:07.60 ID:kHoIshMYo
ヤンデエロリアスか…
何かカッコイイな

がんばってくれ待ってる
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/30(水) 09:54:04.87 ID:xVuGRrPIo
キターーー
いつまでも俺は待つぜー
156 :1だよ :2011/03/31(木) 12:04:15.72 ID:ho39OfvX0
少し出来たので、投下ー
157 :1だよ [sage saga]:2011/03/31(木) 12:06:37.64 ID:ho39OfvX0

【少年】


「……………これで連絡は終わりです。
 お昼で終わりだからって、みなさん浮かれ過ぎないで下さいねー」

担任が出ていくのを見計らって、教室内は一気に喧騒に包まれる。
クラスメイト達は先ほどの注意を聞き入れる気が無いかのように、これからの予定を話し合っていた。
たとえばそれは、友人同士で遊ぶ約束や、どこに行くか、どんなことをして過ごすか等々…
しかし悲しいかな、その中には甘酸っぱい色恋モノが無いのは、皆がそれに縁が無いことを暗に示唆している。

それは少年自身にも言えること。
彼には年相応に恋愛に興味はあるものの、誰かに恋などしたことは無かった。
というよりは異性との縁に諦めを持ってしまっているので、
女の子をそんな目で見たことが無いという表現が正しい。

「あるぇー? かみやん今日は補習はどしたん?」

「かみやんに補習が無いとなんか違和感があるにゃー」

「それはアレか? 喧嘩売ってんですか二人とも?」

青く染めた髪、耳にピアスを付けた友人が土御門と共に話しかけてきた。もとい喧嘩を売ってきた。

「小萌先生が日頃の上条さんを憂いて今日はお休みにしてくれたんだよ。
 (追加課題は出るらしいけどな…………………………はぁ)」

「もったいないわ。ボクなら土下座してでも、補習して下さい!!って頼むで」

「それじゃあ小萌先生の気遣いを無碍にすることになるにゃー」

「あかん! それ困る! なにこのジレンマ!? どっちに転んでも地獄やねん!!?」

「一回病院行くか? 腕の良い医者知ってるから紹介するぞ?」

「かみやん。どれだけ医療技術が進歩しようともコレは誰にも治せないにゃー」

こんな馬鹿馬鹿しい会話が少年にとっては、ささやかながら癒しとなる。
独りではないから。部屋に戻った時のあの孤独感に苛まれることがないから。
今は恋愛などと高望みはしない。ただ、傍に誰かがいてくれるだけで良い。
そんな風に三人で友人同士の会話を楽しみながら、学校から出ようとしたところで青ピが話を切り出した。

「かみやんは午後暇なわけやね?」

「へ? まあ、そうなるな」

「じゃあ、久々にデルタフォースでゲーセンにでも行かへん?」

「………良いな。行くか」

最近は色々と忙しかったせいか、遊びに行くことなどしていない。
小萌先生はゆっくり休めと言っていたけれど、友達と過ごす時間のほうが良いと思うのだ。

少年はインデックスを失っても、表面上はなんら変わりはしなかった。
彼がロシアから帰還した後に待っていたものは、日常においての責務。要するに学生としての義務。
どれだけ少年が世界を股に駆ける英雄であろうと、ここでは一介の学生に過ぎない。
様々な事件のおかげで平常授業を受けていないので、このままでは間違いなく進級が危ぶまれる。
だから特別授業、補習、課題を済ませなければならない。そんな毎日が続いていた。

最初はそれで良かった。
悲しみに浸るよりも日常生活を過ごすほうがいくらかは建設的だから。
インデックスがいないという事を除けば、少年は外では普通だった。
授業を受け、補習に追われ、課題に奮闘する、そんな高校生の日常。

しかし。

それは部屋の外での日常。
少年の住む部屋の中にはソレがない。失われてしまった。
どれだけ忙しい時間を過ごしても、目を逸らしても、最終的に彼を迎えるのはシスターのいない現実。

いつまでも日常に帰ることができない現実。

きっと今でも少年は非日常にいるのかもしれない。
大切な人は、守りたかった想いは、全てあの場に置いて来てしまったから。
中身を失い、残ったのは外側だけ。


空虚

158 :1だよ [sage saga]:2011/03/31(木) 12:07:39.61 ID:ho39OfvX0

「つっちーは?」

「…………」

「土御門?」

「……どうやらゲーセンには行けないみたいだぜい」

「えぇ!なんで!?まさかまた例の、お義兄ちゃん♪ か、ゴルァ!!?」

「青ピ、男が言っても気持ち悪いだけだぞ。
 それに土御門に用があるならしょうがねえよ。今回はお流れだ」

「あー違う違う、オレじゃない。ほら、アレ」

「「……………………アレ?」ってどれやねん?」

土御門が指した方向は、この高校の正門。
正確に言うと校門の傍に立っている女の子。
彼女は校門に寄りかかりながら、空を見上げ物思いにふけり、
手に持っている携帯電話を見て、ため息を吐き、ソワソワとして落ち着かない様子。
そしてまたぼんやりと空を見上げ……(以下略)
まるで恋人と待ち合わせしているかのような、絵になる風景。

「ちょっ!?あの娘が着とる制服は常盤台中学やないか!??
 なんでこんなところに………待て、どっかで見たことあるで」

青ピはその人に見覚えがあるようで、記憶の何処かを探っている。
土御門はその人が誰か、そして誰を待っているのかを知っているようで、ニヤニヤしている。
少年は顔にびっしり脂汗を噴き出しながら、動揺している。
そんな三人が醸し出す異様な雰囲気に気付いたのか、女の子が振り向いた。



少年に視線を合わせ、柔らかな笑みを浮かべる。



次に、瞬時に顔を真っ赤に染め上げ、高速で横に振り回す。



そして、不愉快なモノでも見たのか顔色を変え、頭から敵意という電気を発している。




「あのコ凄まじく危ない気がするんやけど………」

「確かにアレはちょっとマズイかにゃ?」

「なんでこんなところにいるんだよ……」

それぞれの反応。
当然かもしれない。
現在進行形で彼女は電撃を纏っている。
間違いなく、風紀委員に連絡しても構わないレベルの危ない雰囲気。

「もしかして……常盤台の超電磁砲? 電気放っとるし……
 というか雑誌で見たし……可愛いなぁ……超能力者は見た目も超級かいな…」

「そんなわけで、かみやん頑張ってー」

「俺にどうしろと………」

青ピも彼女が誰か気付いたらしい。
土御門は無責任なエールを送ってきた。
159 :1だよ [sage saga]:2011/03/31(木) 12:08:26.73 ID:ho39OfvX0

「青ピ。彼女はかみやんに用事があるみたいだ。だからゲーセンは無理だぜい」

「むー、残念やなー。つっちー、あのコもかみやん病患者かいな?」

「夏休み最終日に見ただろ?
 あまりにラヴ過ぎて、公衆の面前で押し倒すほどに重症だにゃー」

「純真無垢な常盤台のお嬢様中学生さえ調教しとるんか。
 まさに外道やね。かみやん殴ってええ? いや、殴らせろ」

「そんなことしたらお前は真っ黒焦げ確定だにゃー」

「男には負けるとわかっていても、殴らなあかんときがある!
 それに電撃プレイならボクとて望むところや!!もちろん緊縛もアリやで!?」

「紛うこと無き変態がココにいるぜよ……」

「義妹に手を出しとる犯罪者に言われとうないわ!」

「ア゛ン?それはどういうことかにゃー?」

少年を差し置いてギャーギャー騒ぐ青色と黄色。
色は違えど、二人は間違いなく変態だった。
これは余談だが、もし少年の髪の色が赤だった場合、
デルタフォースでは無くシグナルフォースだったかもしれない。

「「かみやん!」」

「んだよ」

「「用事が出来た!!」」

「へいへい」

声を揃えて言う二人。
どうやらゲーセンで決着を付けるらしい。
それに混じることが出来ないのは少々悲しいが、仕方が無い。
放置されているせいで今もなお絶賛帯電中の雷撃物体にはあまり関わりたくないが、
わざわざ校門前に来るほどの用事が彼女にはあるのだろう。

「ぐふふ、今日もボクのショットガンが火を吹くで!」

「青ピはすぐに前へ突っ込むからにゃー。フォローする身にもなって欲しいぜい」

「いやいや、あの威力が最高やんか? 
 クリーチャー共をこう…………ドゴンッ!って」

「至近距離じゃないと威力が出ないにゃー。
 だからせめて手榴弾か閃光弾で怯ませてから……」

「そのためにつっちーがいるんやないの。援護能力がピカイチやもん。
 ボクには出来へんで? だから安心して突っ込めるんや」

「まあ、青ピは近接戦の技術が高いからにゃー
 いつかの乱戦、弾切れの時のナイフ捌きは俺もビビったぜよ」

「というわけで、ボクの背中は任せたで?」

「オーケー後ろからザックリやるにゃー」

「ソレ……ボクに……やないよね?ね?
 なんで?なんで不気味に笑っとると?つっちー!?」










「お前ら、それ………協力プレイだろ……」
160 :1だよ [sage saga]:2011/03/31(木) 12:09:13.04 ID:ho39OfvX0

女の子が寄りかかっている校門の出口とは反対の隅を通り抜けて、
目的地へ向かいながら談笑するその様は、とても決着を付けるとは言い難い。
肩を寄せ合い、楽しいそうに、笑いながら離れていく青ピと土御門。
その後ろ姿を見て、少年の胸に切なさが込み上げる。
それは仲間外れにされたから、ではなく。




友人と語り合う




こんな当たり前の時間すら




インデックスが過ごせないことが








                サビシク、カナシイ







泣きそうになってしまう。
周囲を悲しませないようにインデックスの死は隠している。
姫神や小萌先生には彼女が帰国したという形で伝えた。
ある意味でそれは嘘じゃない。本当にイギリスに行ったのだから。

「ダメ……だな。“外で”こんな顔すんのは……」

少年は決めている。
あの部屋にいないときは、そんな悲しいキモチを表に出さないようにすることを。
だから振り切るように、少年はいつもの表情を浮かべて彼女のところに向かい尋ねた。

「で?お前はなんでこんなところにいるんだよ?」


161 :1だよ [sage saga]:2011/03/31(木) 12:10:42.41 ID:ho39OfvX0
また今度ー
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/31(木) 12:24:53.54 ID:AqpqeCk3o
こんな時間にキター!
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/31(木) 12:28:33.17 ID:EiGgXn2do
乙乙
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/31(木) 12:44:54.48 ID:CqDG2pNyo
うおおお投下乙
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/03/31(木) 13:27:34.72 ID:SnXT95LAO
はやく御坂は股開け
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/31(木) 14:16:14.99 ID:SF0U0P1eo
続き待ってた
乙です!
167 :1だよ :2011/04/01(金) 20:24:53.60 ID:/23T7aG90
投下―
168 :1だよ [sage saga]:2011/04/01(金) 20:25:39.46 ID:/23T7aG90

【御坂 美琴】


「で?お前はなんでこんなところにいるんだよ?」

めんどくさそうに、ダルそうにしながら当麻がこちらまで来た。
その態度はかなり失礼ではなかろうか。
仮にも女の子が校門で待っているのだから、もう少し嬉しそうにして欲しい。

「あのね。メール送ったのよ?
 全然返事してくれなかったアンタが悪いでしょうが」

「……メール?来てたっけ?」

学ランのポケットに手を突っ込み探る彼。
わかってました。わかってましたとも。
どうせこうなることぐらい予想していました。
でも期待ぐらいしていいじゃない。
こう………息を切らして走ってくるとかさ。

「あ、やべ……」

当麻は携帯電話を取り出そうとして………出せなかった。
それも予想済みですよーだ。
今まで何回アンタにメール無視されてきたと思ってんの?
………なんか悲しくなってきた。

「自宅に忘れてたんでしょ?」

「それっぽい。すまん」

彼は申しわけなさそうに謝ってくる。
うっ。なんか罪悪感が……
突然高校にまで押しかけたのは私なんだから、そこまでしなくても良いのに。

「どした?」

「なんでもない。こっちもごめん。いきなり押し掛けたりして」

「いやこっちも悪かったよ」

「キリが無いからやめよ?そういうの」

互いに謝り続ける流れはこの場においてはあまりよろしくない。
ここは校門で今は下校している生徒が他にもいる。
彼らは私たちが、いや、実際は私の着ている常盤台中学の制服が珍しいのだろう、無遠慮な視線を向けてきた。
それにようやく気がついたのか、当麻は若干焦りを見せる。

「取りあえず場所を変えようぜ。適当にファミレスでいいか?」

「そうね。丁度お昼だし。でも良いの?」

「なにが?」

「アンタ、いつも貧乏学生だのなんだの言ってるでしょ。
 それなのに外食なんて珍しいなと思って、ね」

「お前の中では俺はボンビラス星人なのか?
 たまには上条さんだって外食するときもありますよ」

「何よボンビラス星人って」

「知らねーの?貧乏神の住む星の人だぞ」

そんなアホらしい会話をしながら、二人、歩く。
彼は高校生。私は中学生。
着ている制服は違うし、学校も異なる。

でも

こうして並んで歩いていると、なんだか錯覚してしまいそうだ。
まるで同じ学校に通っていて、そして共に下校して、これから一緒に過ごす。
それは私が望んでいた時間。当然私も嬉しい……けど…
169 :1だよ [sage saga]:2011/04/01(金) 20:26:54.78 ID:/23T7aG90

「アレでいいか?」

「うん」

店の中に入り、スタッフに案内され、席に座る。
店内はお昼時なので当たり前というべきか、なかなかの盛況ぶりを見せていた。

「ご注文はどうされますか?」

「えーと、日替わりランチのAセットで。あとドリンクバーを」

「…」

「そっちはどうするんだ?」

「…」

「おーい。美琴さーん」

「……あ、ごめん。私も彼と同じもので」

「日替わりランチのAセットが二つ、ドリンクバーを二つ、以上でよろしいでしょうか?」

「はい」

ドリンクバーのグラスが運ばれて来て、それを手に取るも不思議と体は動かなかった。
先ほどから私は俯いたまま両手で包む込んでいるグラスに視線を留めたままでいる。
なぜなら、頭を占めている考えがなかなか離れようとしてくれないから。

インデックスの死

いまいち実感が湧かない。
それは私が彼女と親しい間柄では無かったから?
知人との永久の別れをあまり経験したことが無いから?

それとも。

目の前の少年が“いつも通り”だから?

そこまで考えて当麻に視線を移す。
彼は私の態度を不審に思ったのか、神妙な顔つきをしていた。
170 :1だよ [sage saga]:2011/04/01(金) 20:29:22.61 ID:/23T7aG90

「どうしたんだよ。さっきからぼーっとして」

「……ねえ。当麻は―――

「何が良いんだ?」

「………………は?」

「ドリンクバー」

「何でもいい」

「んじゃ、行ってくるわ」

手渡されたグラスを彼は受け取り、ドリンクサーバーのほうへ歩いて行った。
その背中を見つめ、少し、ほんの少しだが吐き気が込み上げる。

「ねえ…………当麻は……なんで…」

土御門から告げられた真実はあまりに残酷だった。
当麻にとって身近な人が死んでしまったということ。
それは彼の夢が否定されたことに他ならない。

みんなで無事に帰る

そんな優しい、誰もが望むHappy End。
それを目指して、私の知らない場所で彼は頑張っていたに違いない。
私の時も黒子の時もそうだったのだから。
いつだって彼はその時その時で守りたい誰かのために戦い抜いてきた。
死にかけたことなんて一度や二度では済まないだろう。
彼の入院状況を調べればわかることだ。
たくさん傷つけられ、痛めつけられ、足掻いた末の結末が―――

寝食を共にし、恐らく彼にとって何よりも守りたかった人の喪失。

なのに。

悲しいはずなのに、辛いはずなのに。当麻はそんな雰囲気を感じさせなかった。
その理由はだいたい分かっている、つもり。
恐らく記憶喪失の時と同様、周りに気遣っているのだろう。

「………………はぁ」










171 :1だよ [sage saga]:2011/04/01(金) 20:30:46.92 ID:/23T7aG90








「おーい。ビリビリさーん。ため息をつく度に幸せが逃げますよー」

不意に横から声をかけられ、振り向きそうになるのを堪えた。
ここで反応すれば“ビリビリ”なるものを認めたことになるから。
イライラを抑えながらそのまま無視していると、頭に何かが乗せられ、
その感触に驚いて首を90度横に回す。

「店内でビリビリはだめだろ、おい」

「誰のせいよ、誰の。あとビリビリ言うな」

馴れ馴れしく頭に手を置いている当麻を睨む。
彼は半ば引き攣った顔をして、そして何故か真剣な顔つきになった。
左手に持っていたグラスをテーブルに置き、
(もう片方のグラスは当麻が座っていたほうに置かれていた)

「美琴……お前………」

「何よ………って、えぇ!?」

そのまま急に顔を覗き込まれる。
接近してくる当麻に驚き、顔を後ろに引こうとする、が。
頭に置かれた手がいつの間にやら押さえ付ける手に変わっており、ソレが出来ない。

「(近い近い近いちかいちかいチカイィィーーーーーーーッ!??)」

彼の突然の奇行に動揺。
ナニをするつもりなのか。
ここは公共の場であり、いや、そうではないかも。
だがしかし、こんな衆人環視の場で……そんなに近寄られると……

「(あうあうあうあうあうあうあうあうあう)」

視界に入っているのは当麻。
視界を占めているのも当麻。
思塊に這入っているのはとうま。
思塊を絞めているのもとうま。

そんな馬鹿げた考えがよぎる。
しかし強引に振りほどこうとしても、彼の顔に表情に魅入られてしまい、動けない。

表情

いつもの気だるそうな目付きが、真剣味を帯びていて
思ったよりも長い睫毛が、瞳を映えさせていて
男性にしては意外にも唇が瑞々しく潤っていて

目が――――――逸らせない。

思考に霞が掛っていくが何故かわかった。
これが所謂“ぼーっとする”だろうか?
何も考えられない。息をするのも億劫になる。
ただ、目の前に在るモノが、今は全てであり、統べて。
その一つ、唇が艶めかしく動いて、言の葉を紡いだ。


「みこと」

172 :1だよ [sage saga]:2011/04/01(金) 20:33:22.78 ID:/23T7aG90
実際はどんな響きで呼ばれたかどうかわからない。
しかしそれはどこか甘く、優しい声。
そしてそれを聞いた瞬間―――――


ゾクッ


疼く


何処かと言われれば、それはカラダであり、ココロ。


疼く


どうしてかこの感覚がひどくもどかしい。


疼く


このもどかしさを止める手段は


うずく


このまま距離を詰めれば良いと


うずく


本能的に知っている


ウズク


「とう―――















「お前………目元が少し腫れてるぞ。寝不足か?」













173 :1だよ [sage saga]:2011/04/01(金) 20:34:09.62 ID:/23T7aG90





 ………………………………」


「……………………」


「……………」


「………」


「…」


数瞬前までの浮ついた気持ちはどこかに吹っ飛んでいた。
あのままだったらモラル的に危なかったのかもしれない。
TPOを全く弁えていなかった。それをこの男は教えてくれたのだと推測する。
流石、高校生。さすが年上。刺すが鈍感野郎。
しかし彼は、あのぽやぽやしたモノを吹き飛ばしてくれたのは事実。

だから。

左手で愛しい当麻の胸座を掴み上げ、引き寄せる。
彼は異変を感じ取ったのか、離脱するために右手を離そうとして……離せなかった。
理解したらしい。右手を離したその時に惨劇が幕開けることを。

募る想いを右拳に込めるように握りしめる。
とはいえ別に怒っているわけじゃない。決して。全く。

コレはお礼なのだから。

怒鳴るような真似はしない。そう、笑顔で。

お礼をするのだから。

そのまま感謝を込めて、右下から彼の頬を目掛けて―――――










―――――殴る











 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
174 :1だよ [sage saga]:2011/04/01(金) 20:35:02.01 ID:/23T7aG90
次はちょっと時間かかる。
ではまた今度―
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/01(金) 22:55:35.27 ID:b5VmAo0Zo
さすが上条さんw
乙です!
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/04/02(土) 12:16:21.22 ID:IWHGwU+p0
さすが、フラグ解体師ww
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/04/02(土) 14:59:46.57 ID:6zxOjOyIo
なんか今までの流れからだとこういうシーンもなぜかシリアスに感じてしまう俺はさすがゆとりというとこか……
なにはともあれ>>1
178 :1だよ :2011/04/03(日) 18:46:00.62 ID:bkQZ6C1u0
投下ー
179 :1だよ [sage saga]:2011/04/03(日) 18:47:24.45 ID:bkQZ6C1u0
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あのー」

「…」

「そのー」

「……」

「美琴サン?」

「………メロンソーダ」

「ただいまお持ちしまするっ!」

運ばれてきた料理を私たちは(私は無言で)終えて、今では食後の一息をついていた。
おかわりを頼むと、まるで給仕の如く当麻はサーバーのほうへ突貫し、すぐさま戻ってくる。

「もういいよ。怒ってないから」

「……すまん」

「わかってないクセに」

「ゴメンナサイ」

きっと彼は私が不機嫌な理由を理解していない。(それがイラつく)
けれど自身が原因であると思って謝っている。(それはノーコメント)
そんな状況のせいでなかなか本題に入れなかった。

「話が先に進まない」

「そういえば……用件は何だったんだ?」

本当にこの男は……
もしかして昨日の部分だけ記憶が無いのでは?
と、言いたくなるのを堪える。

「昨日、いきなり倒れたでしょ。心配したんだから」

「あ……………悪い」

「おまけに連絡も来ないし」

「面目ない」

「当麻、さっきから謝ってばかりじゃないのよ」

「本当の事だからな。心配掛けてしまったのは。だから…ごめん」

本当に、申し訳なさそうに項垂れる当麻。
少し言い過ぎたかもしれない。
でも、凄く心配したことだけはわかって欲しい。

「で?」

「で、とはなんのことでせうか?」

「原因。わかってんの?」

「それは……だな………」

「それは?」

「その……イギリスに行ってたのは知ってるだろ?理由は話せねーけど。
 だから当然、学校も休んでた訳で……受けなかった授業の代わりに補習とか課題とか出されて忙しいんだよ。
 最近はそれら片づけるのに全力投球してたから、たぶん疲れが溜まってたんじゃねーかな」

それは本当かもしれない。
夏休みの際に当麻の課題を見せてもらったが、お世辞にも彼のアタマは良いとは言えない。
そして、定期的にイタリアやイギリスなどの外国に行っているのであれば尚更、勉学に遅れが出る。
しかも恐らくコイツは外に出ることに関して正規の手続きを踏んでいない。
であれば、当然、授業も学校側からはサボりとして扱われて出席状況も危ういのではないか。
一昨日までの私であったならば、彼の言に納得していただろう。

しかし。
180 :1だよ [sage saga]:2011/04/03(日) 18:49:22.27 ID:bkQZ6C1u0






「それだけ?」





181 :1だよ [sage saga]:2011/04/03(日) 18:50:55.76 ID:bkQZ6C1u0

「……………………ああ。ってか他に何があんだよ」

コレは嘘だ。
当麻が落ち込んでいる本当の理由を知っているので、彼の答えに苛立ちを覚える。
見え透いた嘘ほど白々しく滑稽なモノは無い。
それにこちらの質問に答えるまでの一瞬、ラグがあったのを私は見逃さなかった。
加えて、ほんの少し垣間見えたナミダも。

しかして、すぐにソレは“いつも通り”に覆われて見えなくなる。
その一連の変化を見て、彼が変なところで器用に思えた。
だが、彼は知らない。

その器用さが、強がりが、余計に私を苛立たせることを。

「手伝ってあげよっか?」

「……へ?」

「だから課題。補習はどうにもならないけど、課題だったら手伝えるかなって。
 またアンタが過労で倒れられたら嫌だもの。そうなったらあのシスターも悲しむんじゃない?」

シスターという単語がかなり当麻を揺さぶったのか、
“いつも通り”がひび割れて、雰囲気が変わり出した気がする。
もしかしたら白々しいのは私のほうなのかもしれない。
インデックスの事を知っていながら、彼女を引き合いに出して自分の要求を通そうとしている。
これはもはや白々しいでは無い。
本当に、卑怯で、嫌な、女。

「なんでそこでインデックス?」

「舞夏から聞いたのよ。あのシスターと同棲してるんでしょ。
 あと舞夏にも感謝しなさいよね。アンタをベッドに運ぶのを手伝ってもらったんだから」

「そうか。後で言っておかないとな。あと………インデックスなんだが……
 アイツはイギリスに帰ったよ。で、あちらの保護者さんと交流してたところで……」

「クーデターに巻き込まれた、と」

「そんなところ。ちなみにアイツは無事だから心配すんなよ」

なるほど。どうやら“そう”なっているらしい。
そしてこれ以上彼女の話題は出したくないのか、当麻は強引に話題を変えた。

「でもなー流石に中学生に手伝ってもらうわけには」

「夏休みの課題の一部をその中学生に解かれたのは誰だったのかしらね」

「アレはお前が勝手に…………なんだか悲しくなってきた」

「で、どーすんの」

「あーうー」

こちらの提案を受けるかどうか、かなり迷っているっぽい。
どうしたものか、と腕を組み必死に唸っていた。
この様子から見て、あとひと押しで堕ちる、と思う。
182 :1だよ [sage saga]:2011/04/03(日) 18:52:21.69 ID:bkQZ6C1u0

「代わりに私にも頼みがあるの」

「珍しいな。明日は地震か?その果てに停電、断水、阿鼻叫喚!?」

「今度は反対側を殴られたいようね。
 それとも、アンタの部屋だけ“そう”してあげましょうか?」

「いえいえいえ平にご容赦をば。それで頼みとはなんでせう?」

「料理の練習に付き合って」

「何故に?」

「中学を卒業したら私も一人暮らしをしてみたいのよね。
 それで……その………まあ…………自炊の練習」

「お前はまだ二年生だろ?早すぎじゃねえの?」

「それは私の勝手。良い条件でしょ?
 私はアンタの課題を見る。アンタは私の作った料理の味を見るってことで」

「昨日お前が作ってくれたモノ食ったけどよ、十分上手かったぜ。
 それに白井とかに頼めば喜んで付き合ってくれるだろ」

「黒子は………どんなものでも美味しいって言ってくれるから。
 あんまり参考にならないのよ」

「……………はぁ〜」

観念したのか、呆れるようにため息をつきやがった。
というか、それをする度に幸せが逃げるって言ったのはアンタじゃなかったっけ?

「いや、こんな態度は失礼だな。じゃあ………頼んで良いか美琴?」

「こちらこそ。よろしく当麻」

やっと了承してくれた。
変なところで頑固にならなくても良いのに。
しかし課題と言えば、彼の今までの態度に違和感が……

「さっきから引っかかってたんだけど……」

「俺はお前の変わり様に引っかかってるけどな」

「うっさい。…………自分で誘った手前、言いにくいけどさ」

「構わねえよ。言えって」

「………………嫌じゃ…………ないの?」

「全然。寧ろ俺からしてみれば、ありがとうって言いたいな。
 課題は手伝って貰えるし、女の子の手料理がタダで食えるんだ。
 どこをどう考えたらそんな風に捉えられるんだよ」

「学校の前で待ってたけど、正直に言って、会った瞬間逃げられると思ってたから。
 それこそ課題だの補習だのを理由にされて、ね」

「実は………土御門…えーと、さっき見たと思うんだが金髪でサングラス掛けたヤツがいただろ?
 アイツは俺の隣に住んでいてな、昨日俺がぶっ倒れたのを聞いて担任に連絡してくれたんだ。
 おかげで今日の補習は免除。ゆっくり休めって先生に言われたよ。つまりタイミングが良かったってところ」

「…………………………そう。その人って当麻の友達?」


「そうだな。大切な――――――友達だ」

183 :1だよ [sage saga]:2011/04/03(日) 18:53:46.96 ID:bkQZ6C1u0

誇らしそうに、そう、言った。
胸が痛い。ズキズキする。
土御門に学校前で遭遇したのはこちらとしては予想外だった。
未だに彼への嫉妬心は抑えきれなくて、つい敵意をむき出しにしてしまった。
あんな決意をしたばかりなのに自分が情けない。
あの言葉には嘘は無い。誓って言える。

でも。

未だに私は“立場”というモノに拘っているのかもしれない。

だって。

『美琴はなんでこんなことをしてくれるんだ?』

そんな風に理由を問いただされるのが、怖い。
私からの提案を当麻はしぶしぶながらも受け入れた。
もちろん練習なんて嘘。ただの口実。しかし彼はそれを信じてくれた。
客観的見れば、当麻のほうに恩恵が多すぎる。
けれどそのことに気付いて欲しくない。

『好きな人を支えたいと想う事に立場なんていらない』

自分自身で勝手に縛り付けていた鎖を私は引きちぎった、つもり。
しかしそれはあくまで自分自身に向けた言葉であるから。
御坂美琴にとって上条当麻は大切な人でも、逆はどうかわからない。

上条当麻は御坂美琴にどんな位置づけをしているのか?

知りたい。聞きたい。確認したい。
それは、当麻自身から明かされる私の立ち位置への期待から、ではなく、
いつの日か彼から尋ねられた時への対処のため、要するに言い訳が欲しいから。
だから葛藤に苦しみながら、喉に引っかかっているソレを絞り出し、言う。

「当麻にとって…………」

「?」

「私は…………友達なのかな………」

「…………わからん」

「…………………そう、よね。ごめん。変なこと言って」

尋ねたことを後悔してしまう。
でもこれは自業自得。今まで彼にしてきた仕打ちを忘れたわけじゃない。
これは、事あるごとに突っかかって理不尽な扱いをしてきた、自分の勝手な理由で独りよがりな行動を取ってきた、


報い。

184 :1だよ [sage saga]:2011/04/03(日) 18:55:05.10 ID:bkQZ6C1u0








「美琴。勝手に話を終わらせるな」







185 :1だよ [sage saga]:2011/04/03(日) 18:57:39.99 ID:bkQZ6C1u0


不意に



「お前が何を考えてるかわかんねえけど、続けるからな。

 俺にとって美琴は………ただの知り合いってほど他人行儀じゃねえし……

 かといって……言ってて悲しいけど、友達って呼べるほど親しいわけじゃない、と思う。

 腐れ縁って言うのは……俺自身嫌だな。なんか嫌々一緒にいるみたいで。

 喧嘩友達ってのも…………こうしているとやっぱ違う気がする。だから、きっと」



独白めいた話を一端区切り、表情を崩して、穏やかに



「きっと、俺にとって美琴は美琴なんだよ。それだけは確かなんだ。

 自分自身何を言っているかわからねえけど、この言葉が一番しっくりくるんだ。うん」



満足そうに、そう、言って頷く当麻。



186 :1だよ [sage saga]:2011/04/03(日) 19:00:18.25 ID:bkQZ6C1u0







「…………なによ、ソレ、バカじゃ、ないの?」

その言葉が私にとってどんな影響をもたらすのか、彼は気付いていない。
仮に意図して言ったならば、普段から鈍感扱いされないはず。


「私は、私って、当たり、前の、事で、しょうがっ」


別に特別を貰ったわけじゃない。これは当り前の言葉。

けれど。

ソレには柔らかく、包み込むような優しい意味が含まれていて、
まるで、いまのままで良い、と言われたかのようで、
あたかも、等身大の自分を認めてもらえたかのようで、

先ほどの暗い気持ちが、涙腺を通して、外に流れようとする。
それを見られたくなくて、俯き、膝に添えた両手に力を込めて堪えるも、止まらない。




ぽろぽろと




ぽろぽろと




どうして当麻の言葉はこうまでして胸に響くのだろうか?
その所以はわからない。シスターズの一件から鑑みるに偶然とは思えない。
しかし、ただ一つ、わかっていることがある。
それは彼に出会い、知り合い、好いてしまった以上、他の男性を好きになれる自信が無いという事。
でもソレを認めてしまうのは彼に好き放題されているようで、なんだか癪に障るから。
だからせめてささやかな反抗の意を込めて言ってやるのだ。






「ばかよ。アンタ…………………ばかっ」







187 :1だよ [sage saga]:2011/04/03(日) 19:13:49.79 ID:bkQZ6C1u0
>>177
これらはあくまで美琴視点だから、ね。
当麻ラヴフィルターが入ってるから、誇張表現が多い。
だからどこかで違和感があるかもしんない。

あと今更>>1の内容に追加をば。
これは原作22巻までのIFモノ。
正直、超電磁砲本関連は聞きかじった程度。つーか原作しか持ってない。
仮に出したとしても、深くまでは出さないっす。

ではまた今度ー
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/03(日) 19:16:39.83 ID:2ISYN4ODO
乙!!
続きが楽しみ
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/03(日) 22:16:07.38 ID:Qrl79KzRo
乙!!
やっぱ上条△
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/04(月) 00:32:08.61 ID:KeG8jToAO
上条△ッ!
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/04(月) 04:32:53.68 ID:y/tHx2/vo
乙〜
続き待ってます!
192 :1だよ :2011/04/04(月) 23:49:00.96 ID:KM7FAnvG0
急に視点が変わるけど勘弁。
では投下ー
193 :1だよ [sage saga]:2011/04/04(月) 23:49:54.86 ID:KM7FAnvG0

【浜面仕上】


「うわぁ、見てくださいよ浜面。
 あの女の子マジ泣きしてます。向かいの男が彼氏さんなんですかねぇ」

「じろじろ見んなよ。かわいそうだろうが」

テーブルを挿んで対面にいる少女、絹旗最愛に対してワタクシ、浜面仕上は注意を促した。
野次馬根性を出して瞳を煌かせている彼女を見ていると、その見た目通りの幼さに安心してしまうのはなぜだろう。
ちなみに現在お昼時。ファミレスにて集まった4人《アイテム》で昼食と憩いを取っている。

「浜面、喉渇いた。逝ってこい」

「あ、私もです。行って来てください」

訂正。昼食と憩いを摂取しているのは絹旗とその隣に座っている麦野沈利だけらしい。
現に、先ほど俺に運ばれてきた日替わりランチBセットにはまだ箸を伸ばせてはいない。
なぜなら絹旗曰く、

『滝壺さんの頼んだモノがまだ来ていないのに浜面は食べるんですか? 食べちゃうんですか?』

とのこと。
これはいつもの程度の低い嫌がらせだが、いちいち噛みついても仕方が無い。
それに彼女の言い分も、確かにアリかなー、と思ったのだ。
隣に座っている滝壺理后は気にしなくていいと言ってくれたけど、気付いてしまったので躊躇われる。
よって彼女の分が運ばれてくるまで我慢しているわけだが……わけなのだが……

「…」

チラッと手元に置いてある、変わり果てた日替わりランチBセット君を見る。
彼(彼女か? どっちでもいいか)は運ばれてきた当初は鉄板をジュージューさせながら、

『―――さあっ! 食べるなら出来立ての今だぜ!!―――』

と言ってくれていたのに、その声はもう聞こえない。聞こえなくなってしまった。
代わりに返ってくるのは無音という名の非難。
おろしハンバーグとライスからは生気(湯気)が無くなり、
サラダはドレッシングを吸い過ぎてしまいヘナヘナしている。

「………すまん。Bセット君」

「なに超意味不明なこと言ってんですかっ!」

「へいへい行ってきますだ―」
194 :1だよ [sage saga]:2011/04/04(月) 23:51:59.56 ID:KM7FAnvG0

絹旗に追い立てられ、二人分のグラスとついでに滝壺と自分の分も掴み、サーバーのほうに向かい、歩く。
そしてグラスに中身を注いでいる間、妙な感慨に囚われた。
こんな理不尽な扱いをされながらも、コレが懐かしいと思ってしまう。

「生き残ったんだよな……俺たち」

言葉にしてもいまいち実感がわかない。
あの第三次世界大戦から生還して、今は学園都市に戻ってくることが出来た。
滝壺を守ろうとして、敵対していた麦野を説き伏せて、別れていた絹旗と合流し、また《アイテム》にいる。

奇跡だと思う。

どこかでなにかが違えば、滝壺、麦野、そして自分の誰かが失われていた。
しかし、どういうわけかみんな無事でいる。
“彼女”は失われてしまったが、それを除けば限りなくHappyEndに近い。
もっとも、これは終わりではなく、始まり。
これからどうするのか、どうなるのかはわからない。
それは他ならない自分たちの行動で決まること。

「守ってみせるさ」

決意を改めて言葉に成す。

初めて心の底から守りたいと思った人がいる。
初めて自分が居たいと思える居場所が出来た。

これは別にスキルアウト時代を低く見積もっているわけではない。
あの時も十分楽しかったし、居場所と言えば、そう、言えた。
しかし結局のところ、無能力者というレッテルにいじけて流されただけ。
今いるアイテムは最初は流された節もあるけれど、抜けようと思えば“あの時”抜けれたのに、
それをしなかったのは単衣に滝壺と“彼”のおかげだと思える。

仮に“あの時”滝壺を見捨てていたらどうなっていたか?
仮に“あの時”以前に“彼”に出会っていなかったらどうなっていたか?

あまり想像したくないが、きっと良い未来とは言えないに違いない。
195 :1だよ [sage saga]:2011/04/04(月) 23:53:55.74 ID:KM7FAnvG0

「本当に人生どう転ぶかわかんねえよな………」

そう呟きながら、その“大切な居場所”に戻って―――



「おせーよ。なにチンタラしてんだぁ? 焼き殺されたのかテメェは」


「超遅いです。浜面は所詮、超浜面ということですね」



―――コレだよ。


「ひでえ言われようだ。………滝壺は麦茶で良かったよな?」

二人にグラスを渡して、我が恋人に癒しを求めて話しかけることにした。
彼女の前にはラザニアが置かれており、どうやら注文の品が来たらしい。
と、いうことはようやく俺も昼食にありつける。
待たせたな。Bセット君!!

「…」

「滝壺?」

滝壺がぼーっとしていることがあるのはよくある、が、様子が変。
彼女はある一点を見つめながら、視線を動かさない。
もしかしたら自分がいない間に何か起きたのだろうか?

「絹旗。滝壺はどうしたんだ?」

「いえ……さっきからこんな感じなんですよ。
 話しかけてもあまり反応が無いですし………」

席に座りつつ麦野に目で問いかけても、肩を竦めて、さあ? といった感じ。
不審に思って、残った3人で視線の先を追うと…………………

「さっきのカップルさんですね………って!?」

「あん?………あのクソガキは…」

「……誰? 知ってんの?」

絹旗と麦野が顔色を変えた。
俺は正直に言って“女の子のほうは”知らない。とはいえ、どっかで見た顔だとは思う。
196 :1だよ [sage saga]:2011/04/04(月) 23:54:55.54 ID:KM7FAnvG0


「………………超電磁砲」


滝壺はその疑問に答えるように呟いた。

「超電磁砲って………アレか? あの有名な?」

もしかしたら暗部絡みの人物かと思ったけれど、そうじゃないらしい。
彼女は自分ら、特に麦野とは違って表舞台で花咲く超能力者なのだから。
しかし麦野と絹旗の反応は、ただの“知っている人”に対するものを超えている。
まるで相対したことがあるかのような反応。
仮にそうであるならば、それを聞くのはあまりよろしくない。
自分が知らないという事は、浜面仕上がアイテムに入る前であり、当然“彼女”もその場にいたことになる。
尋ねるとたぶん麦野は落ち込むだろう。ただでさえ―――

「…」

麦野本人に気取られないように注意して伺うと、
案の定、彼女は件の二人を見ていながら見ていなかった。
その表情はまるで遠い過去を懐かしむように見えるが、そうでは無い。
自らの手で“彼女”を殺めてしまった――――――後悔が浮かんでいる。

だから。

「超電磁砲の向かいに座ってるのは何者なんだろうな?」

余計なお節介かもしれない。
けれど、せめて今この場においては、
今日の本件に入る前は、そんな顔をして欲しくないんだ。


「恋人じゃないんですか? ということは高位能力者ですかね。浜面とは超違って」

「ま、そう思うのが妥当ね。浜面とは違って」

「大丈夫。そんなはまづらでも私の大切な人」







「お前ら最後が余計だ。そして滝壺ありがとう愛してるぞ。
 あと…………………アイツは無能力者だよ。そう言ってたからな」


小手先だけの気遣いは功を奏した。
しかしてその矛先が少しばかり俺に向いてしまったのは想定外。
それに辟易しながらも悪態を付きつつ、マイラバ―に感謝も忘れないようにする。
いやはや滝壺みたいな恋人は俺には勿体無いかも。
197 :1だよ [sage saga]:2011/04/04(月) 23:56:18.88 ID:KM7FAnvG0



「「「…」」」



すると三人揃って目を丸くして俺を見ていた。
おお、これはレアな表情だ。
絹旗と滝壺はまだしも、あの麦野がこんな顔をするとは。
記憶のアルバムに焼き付けておこう。


「浜面はそんなに死にたいのかにゃーん? いや死ネ」

「浜面の超キモイ発言はこの際クズ箱に捨てるとして…
 超キモ面はあの彼氏さんを知ってるんですか?」

「はまづら。ありがとう。わたしも愛してる」


一部聞きたくない発言があった気がするが、聞こえなかったふりだ、そうしよう。

「(しかし……どうしたもんかねぇ…)」

超電磁砲やカップル云々の話になるよりかは良いかもしれない。
前者に関しては先に述べた通り。
後者は……正直に言って、麦野に対してまだ後ろめたい気持ちがあるから。
滝壺を選んだことに後悔は無いけれど、これはまた別の問題。


「アイツは……名前は知らねえけど………
 俺がアイテムに入るきっかけを作ったヤツだよ。ってか麦野は知ってると思ったんだけど……」

「……ああ、浜面が裏から依頼された仕事だっけ? でも、そこまで詳しい事情は知らないわよ。
 私が知ってるのはアンタが初任務に失敗したぐらいかしら? 当時はさして興味が無かったし」

「ほう。超面白そうですね」

「わたしの知らないはまづら?」


うむ。作戦通り興味の対象が完全に移った。
危惧していた麦野は“当時は”と言ったのだから大丈夫と信じたい。
こんな下っ端扱いの昔話でも関心は惹けるらしい。それが失敗話なのは情けないけど。
そして話そうとして、その彼らを横目見る。
……そういえば、なんだかんだで俺はあの二人に縁があったのかもしれない。
当時は任務の詳しい事情は知らなかったけれど、後になって調べてみたのだ。


「はまづら?」

「……ん? ああ悪い」

「なに超勿体ぶってんですか」

「ちげえよ。今考えてみればあの二人に俺は縁があったんだなって思ったんだ」

「へえ? あのクソガキとも何かやらかしたんだ?」

「厳密に言えば彼女じゃなくて、その母親だけどな」

「浜面はバニー好きの変態だと思ってましたが違うようですね。
 まさか人妻好きの超ド変態だったとは…………知りませんでした」

「断じて違う!!」


母親発言をした途端、麦野と絹旗はまるで汚物を見るかのような目を向け、
滝壺はうるうると瞳を濡らし上目づかいになって俺を非難しだした。
やめてくれぇ!そんな目で見ないでくれよぉ!!



「話が進まねえだろうが。
 えっと……アイツに会ったのは―――――



198 :1だよ [sage saga]:2011/04/04(月) 23:58:02.19 ID:KM7FAnvG0












               ―――――と、言うわけだ」



話をしてみると意外にも、三人は横槍を入れなかった。
ある程度は真剣に話を聞いてもらえると語り手としては結構嬉しい。
折を見て、滝壺とこんな感じの話をしてみたいと思う。
それは彼女には俺自身のことを知って欲しいし、彼女がどんな生を送ってきたかを知りたいから。
俺とは違って高位能力者でありながら暗部に堕ちたのだから、きっとそれなりのワケがあったのだろう。
ソレが悲しいものなら恋人として支えたい。独りで抱え込まないでほしい。


―――其れをただただ、ワタクシ浜面仕上は切に願う―――


「…」

「ということは、あのツンツンさんに超感謝しなければならないですね。
 おかげで便利な浜面が手に入ったんですから」

「はまづらが傷つけられたことを考えると複雑……」

麦野はなにやら黙りこみ思案にふけっている(なんか不味いことを言ってしまったのか?)
絹旗は不謹慎なことを言いやがった(俺は道具かよ!?)
滝壺は話と現状とを考えて心境は板挟みらしい(ありがとう!なんか嬉しい!!)
199 :1だよ [sage saga]:2011/04/04(月) 23:59:36.83 ID:KM7FAnvG0

「……浜面は彼を恨んでないんですか?」

「なんで?」

「気づいてないんですね。浜面は話しているときどこか嬉しそうに、と言うより、
 誇らしそうに語ってました。普通はもっと苦々しく語るものです」

「わたしもそう思う。だから複雑」

「ある意味で……彼は浜面をアイテムに……
 いえ、血生臭い世界である“裏”へと叩き落とした張本人なんですよ?」

「そうだな……でも…」

恨む、か。それが普通なのだろうか?
絹旗の言うように、この世界に深入りするのはあの事件で俺が失敗したのが引き金となったのは事実。

けれど。

最初に自身で言ったように、所詮はきっかけに過ぎない。
スキルアウトに、暗部に身を堕としたのは結局のところ自分の責任。
それを誰かのせいにするのは筋違い。


それに―――


「アイツがいなかったら俺はこの場所にはいなかった。

 アイツと喧嘩していなければ、もしかしたら“あの時”俺は滝壺を見捨てて逃げていたかもしれないんだ。

 恥ずかしくて本人の前じゃきっと言えねえけどよ、恩人って勝手に思ってる」


これは偽りない本音。

「殴り合った後に芽生える友情ですか。やめてください超暑苦しいです超キモイです」

せっかく良い話をしたつもりなのに、暑苦しいって、キモイって、オイ。
ひどい。俺の大切な思い出が………




200 :1だよ [sage saga]:2011/04/05(火) 00:01:01.69 ID:c1FOQB4h0



「思い出した」

そんな時、ずっと沈黙していた麦野が突然言い出した。
彼女の発言に、絹旗も滝壺も不思議そうにしている。かく言う俺も同様。


「どっかで見たと思ってたのよねー
 あの男だけだったら思い出せなかったけど、クソガキのおかげで思い出したわ」

「えっ。知ってるのか」

「噂だけなら浜面も知ってるはずよ。学園都市第一位が無能力者に負けたって話」

「ああ。あのとんでもない噂ですか。超あり得ないです」

「………おい………その無能力者ってまさか………」


待て待て待て待てい麦野さんや。それは流石にちょっと。
しかし何故か否定できない気もする。


「そ。確か………かみじょう、だったかしら」

「嘘…だろ? どうやって勝つんだよ。あの一方通行に」

「キモ面に同意するのは超癪ですが、そうです。どんな手段を使っても無理ですよ。
 浜面の話では殴り合いだったのでしょう? それなら第一位には反射がありますから」

「普通はそうね。でも……彼が“普通”で無ければ?」

「むぎの、どういう意味?わたしもその…かみじょうが普通じゃないのはわかるけど……」

「滝壺はわかるのか?」

「うん。だって、あの人からはAIMの力場が全く出てないから」

「へ?」

「滝壺さんが言うなら、確かに異常ですね」

「そうなのか?」

「はい。研究者曰く、浜面のようなLevel0から麦野みたいにLevel5まで、
 程度の差はありますが、能力開発を受けたのであれば何らかの形で力場は出るそうですから」

「これは浜面と滝壺がロシアにいて、追撃しようとしたとき小耳にはさんだ話だけど、
 “上”が言うには…………彼の異名は《幻想殺し》……だったかな?」

「幻想殺し? しかも“上”!?」

「そしてアンタと同じようにロシアにいたらしいわ」

「はあ!? 一方通行だけじゃなくてアイツもいたのかよ!??」


衝撃の事実。
どうやら恩人殿は俺の予想を遥か斜め上に行く人だったらしい。
でもそれは変じゃないか?
一方通行を倒すような猛者と戦ったワケだけど、贔屓目に見ても結構接戦だったんだぜ?
201 :1だよ [sage saga]:2011/04/05(火) 00:02:45.71 ID:c1FOQB4h0


「理由は知らない。で、なんで上層部が絡むかと言えば、
 学園都市の外に出て行った幻想殺しを“回収しろ”って命令があったから」

「ちょっと待って下さい。さっき超電磁砲のおかげで思い出したって言ってましたよね?
 もしかして今話題の……彼女が核兵器を止めたって話と何か関連が?」


「あんまり問い詰めないでくれる? 私だって完璧に覚えてるわけじゃないんだから。
 あのガキは…“回収”する部隊を殲滅したんだっけか。

 ま、要するに…

 浜面の恩人さんはアンタが思ってるような輩では無い、ということ。

 そしてあの二人は何らかの形で裏事情に関わってしまい“上”に睨まれてるでしょうね。

 今こうしている瞬間も私たちと同様に監視されてるんじゃない?

 きっと…………これから先まともな生活は出来ないわ」


麦野が言ったことが本当ならば、そうなるだろう。
まさか俺の昔語りがこんな形で広がるとは夢にも思わなかった。
あの二人はこれから俺と滝壺が味わった痛みを受けるのか?
現に今もそうなのかもしれない。ソレを考えるとなんだか切ないし、イライラする。

ふと、今話題の方々の席に目をむけると、そこには誰もいなかった。
俺たちが話に夢中になっている間に出て行ったらしい。


「長話は性に合わないわね。もうそろそろ時間だし、行きましょう」

「そうですね」

「そうだな」

「うん。行こう」


そのまま余韻に浸りそうになる流れを麦野は打ち切り、本題に入る。
あの二人の事で少々忘れていたけれど、
今日は“彼女”―――かつて《アイテム》に所属していた―――フレンダの墓参り。
このことは麦野自身が言いだしたことであり、そのために皆集まったのだから。


「そうそう、浜面」

「んだよ?」

「“ソレ”食べないの?」


言われてみて気付いた。
いつの間にか滝壺はラザニアを平らげており、器は空になっている。
対して、俺のBセット君は………


『              』


無音の非難を超越して迸る殺気を放っているのは勘違いだと思いたい。
ごめん。即行で片すからせめて俺の腹の中で安らかに眠ってくれ。
202 :1だよ [sage saga]:2011/04/05(火) 00:04:06.03 ID:c1FOQB4h0
また今度―
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/05(火) 01:09:21.88 ID:sIxqseAWo

ちょっとはまづらもいでくる
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 01:12:15.99 ID:00zAmRGwo
Bセットくゥゥゥゥゥゥゥン!!!
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 03:21:26.93 ID:DkaYeFaEo
乙〜
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 19:35:14.15 ID:GZFt1RbDO
サードマンが絡んできたか

楽しみだ
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 21:45:19.60 ID:AXyn8Tzao
浜面まで物語に絡むのか…期待!!
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/07(木) 01:32:11.51 ID:j6s0ADfo0

美琴上条さんパートは毎度胸が痛くなるから
アイテムパートにちょっと和んだ
209 :1だよ :2011/04/07(木) 03:19:04.35 ID:9cfwBqj00
投下―
210 :1だよ [sage saga]:2011/04/07(木) 03:20:28.92 ID:9cfwBqj00

【少年】


「………不幸だ」

いつもの口癖が出てしまった。
ファミレスで美琴の様子が変だったので心配してみれば殴られてしまい、
会話しているさなかに尋ねられた質問に答えれば彼女に泣かれ
おかげで店内にいた人々からは冷たい眼で睨まれる始末。
幸い食事は終わっていたので、美琴の腕を強引に掴み、会計を済ませて逃げるように店を後にした。

「(俺の………せいか…)」

そう呟いて、自分に手を引かれながら後ろからトコトコ付いてくる元凶を見る。
(念のため右手で手を繋ぎ、左手で自分と彼女の鞄を持っている)
美琴は顔を俯かせているため、その足取りは覚束なく、そしてたぶんまだ泣いているっぽい。
それはグズらせている音が現在進行形で聞こえてくるからだ。

「(言い方がまずかったかな……)」

考えながらも、取りあえず落ち着ける場所を探し………見つからない。
いつもの公園に連れていくのも一つの案だが、この状況を少しでも長引かせたくはなかった。
美琴に早く泣きやんで、元に戻って欲しいから。
しかしながら周囲の人通りは多く、すれ違う人々が美琴に対して向けているのは奇異の目。
こんな状況では意地っ張りの彼女の事だから、意地でも顔を上げないだろう。

「(コレをいったいどーしろってんだ……)」

焦る気持ちを抑えながら縋るような気持ちで辺りを見回す。
そして視界に入る、表通りよりかいくらかはまだマシな場所―――

「(もうアレしか…………ねえ……のか?)」
211 :1だよ [sage saga]:2011/04/07(木) 03:21:01.74 ID:9cfwBqj00




―――路地裏



212 :1だよ [sage saga]:2011/04/07(木) 03:22:03.53 ID:9cfwBqj00

「(いやいやいやあんな場所に中学生を連れ込むなんてどこの犯罪者だよ)」

だが、問題の少女は普段の快活な様相は見る影も無く弱弱しい。
そんな様子に庇護欲と父性本能? が込み上げてくる。


己の矮小な風評と泣き美琴。


どちらを取るべきか余計に混乱してしまい―――結局。

「ああもうっ!! 美琴、こっちだ」

意を決してそこに入ることにした。
めでたくロリコン犯罪者になってしまった気分がする。
路地裏ということもあって、そこは日当たりが悪く、やや暗い。
まるで今の心境と行動の意味を表しているかのようだ。

「(さようなら俺の健全イメージ)」

ガラガラと音を立てて崩れていくソレに涙を呑んで別れを告げ、
付近の安全を確認する……懸念していた不良たちはどうやらいないらしい。
そのことにほんの少しだけ安堵して、持っていた鞄らを地面に置く。

「悪かった。ごめん。だからもう泣かないでくれよ」

振り返り、両手を合わせ、拝むような気持ちで謝るも返事が無い。
表情も見えない。だから不安になってしまう。
やはり友達発言を否定したのがダメだったのか?
しかしあの時言った気持ちは偽りのない本音。
彼女とは、友達と呼べるほど親しい、とは言えない。
出会うたびに電撃をぶつけられ、追い回される関係を“友達”と呼ぶ奴がいたら、正直ビビる。
けれど俺自身にとって彼女のことは(ビリビリを除けば)嫌いじゃない。
むしろ御坂美琴は好感が持てる人物だと思っている。


『美琴は美琴』


そう言ったのはちゃんとした理由がある。
昨日と今日とで彼女の様子が変わったような気がした。
加えて美琴からの提案など、今までの扱いからは到底信じられない。
とはいえ、その原因を訪ねても恐らくは答えてはくれないと思った。
だが、それらが俺にとって良いことであれ悪いことであれ、無理はして欲しくはない。
だからインデックスの言葉を借りて、暗に自身の気持ちを伝えた、つもり。


『とうまはとうま、なんだよ。
 家族って言葉も良いけど……ね。
 その……私にとってはコレが一番合ってるって、思うかも』


恐らくインデックスは上条当麻に対して、在りのままで良いという気持ちを込めていたのだろう。
これは言われた側への、全てに対する許容。
互いの関係が変わろうと、変わらないモノがある、そんな意味。
213 :1だよ [sage saga]:2011/04/07(木) 03:22:45.08 ID:9cfwBqj00















―――そんな風に 心から思えたら どんなに良かったことか














214 :1だよ [sage saga]:2011/04/07(木) 03:24:30.03 ID:9cfwBqj00

なぜなら―――



『美琴は “俺の知っている範囲の” 美琴 “で在って欲しい”』



変化への否定。そんな意味も含めて彼女に言ったのだから。
自分の体調を気遣ってくれるのは嬉しいが、本音を言えば近寄らないで欲しかった。
美琴の変化へ対する忌避の理由はわからない。
あるとすれば、嫌な予感がした。それだけ。
ただ、外で偶然出くわして、喧嘩になって、
電撃を放たれながら追い回されるだけ、そんな関係で在って欲しい。
もっとも、ここまで歪んだ意味を他者は受け取れないだろう。
これはあくまでこちらの願い。《言葉》とは受け取りようによって中身は変わる。

だから。

「ごめんな」

謝る。
その後ろ暗い願いを気取られたかもしれないから。

「……美琴?」

しかし未だに返事が無い。
そして挙句の果てには無言のまま背を向けられて、そっぽを向かれた。

「…」

そんな反応がどこか懐かしく思えて、苦笑してしまう。
あの銀髪シスターとすれ違いを起こしたときも、こんな感じだった。

「(あの時はどうやって仲直りしたんだっけ? 確か……)」

最近は彼女の事を思い出す行為は独りでいる場合を除き避けていたが、
そこに解決策があるような気がして、胸にこみ上げる悲しみを抑え込みつつ記憶の糸を手繰る。
思い返すと、ソレは結構過激な行為。
けれどたとえ美琴に怒られるようになったとしても、この流れが変わるのであれば構わない。
本当に、女の子って、ずるい。

「悪い」

一応、これからやろうとすることにあらかじめ謝罪する。
そして美琴の肩を掴み、強引にこちらを向かせて、

「………えっ? ちょっと何を!?………ふにゃぁっ!??」

動揺しているうちに左手を彼女の腰に回し、引き寄せ、強く抱きしめる。
ちなみに放電されても困るので右手を頭に当てるのも忘れない。

「その……こうすれば泣いてるところを見られねえだろ? 俺にも」

自分にさえも言い訳をしながら、右手で美琴の頭を撫でる。
落ち着かせるように、優しく、優しく。
215 :1だよ [sage saga]:2011/04/07(木) 03:26:32.07 ID:9cfwBqj00

「(あたたかい………な……)」

彼女から伝わるオンナノコ特有の柔らかさや、服越しからでも感じられる体温、
そして髪から香る甘い匂いに思考が侵され、ぼーっとする。

だけでなく。

常に感じていたインデックスを失った悲しみが募る一方で、
どこか満たされる想いも感じてしまう。




         哀しい のに あったかい




シスターの時とは異なり、此処にココロの触れ合いは―――無い、はず。
しかし肉体的な意味で、人との触れ合いによって感じる温かさが心を癒してくれていた。

「(なに………やってんだよ…俺は……)」

自分の願いと実際の行動との矛盾に自嘲し、無意識のうちにため息がこぼれる。
先ほどそう在りたい関係を言葉にしたはずなのに、ソレを壊しているのは他ならない自分自身。
少なくとも彼女とはこんなことをするような間柄ではないのに。
だが、その事実に気がついていながらも、両腕は動かない。



それはきっと―――



「(わかってる)」



美琴からの提案を断れなかったのも、全ては―――



「(そんなことぐらい、わかってるっ、のにっ)」



美琴が振り解こうとしないのをいいことに
インデックスの時もこうしたからと言い訳をして
欠けた心の隙間―――孤独感、寂寥感を埋めるために必死で







美琴のぬくもりに溺れていた。







216 :1だよ [sage saga]:2011/04/07(木) 03:28:40.00 ID:9cfwBqj00
また今度―
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/07(木) 04:11:31.80 ID:WmGI9r420
良いね!
上琴は大好きだけど、砂糖山盛り展開が多すぎて正直食傷気味だった。
こういうシナモン風上琴SS待ってたわぁ。
最後はハッピーエンドになると信じて応援してるよ。
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/07(木) 04:28:13.53 ID:gmDsVp3Qo
乙!
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/07(木) 09:48:38.09 ID:8tuP7pwDO
乙!!
シリアス上琴も大好物です
期待してます
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/07(木) 12:02:59.22 ID:j6s0ADfo0
乙です
心理描写が繊細ですごいなぁ
すごく切ない…
なんとか二人で哀しみを乗り越えてほしいな
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 03:52:40.84 ID:ajPhKC0SO
うわあ、切ない……
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2011/04/09(土) 12:41:05.34 ID:E0XsYikAO
追いついたぜ


ハッピーエンドは当然だがその過程がハラハラしてたまらないwwがんば!
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 14:13:40.02 ID:SwWaAkOq0
sageろよksてっきり来たかとおもったじゃねえか
[ピーーー]もしもし
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 14:15:27.46 ID:sHIZbQqso
sage推奨ってだけであって強制はされてないの
そんなに噛み付く必要ないの

ということで今度からメール欄にsageっていれてなの
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/09(土) 23:46:44.37 ID:v154tynlo
この板ってsage進行だったん?初めて知ったわ。検索した限りだとスレでは触れられてないみたいだし。
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/10(日) 00:03:40.91 ID:5GpohafRo
ルールではないけれど板全体で、スレが上がる=投下があった時、の方が
更新が分かりやすくて良いだろうという読む側の暗黙の了解みたいなものがあるんだよ

あと上がってると荒らし来て投下終わる前にスレ埋まったりするし

むしろ、なんでそんなに上げたいのか聞きたい
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/10(日) 00:50:44.46 ID:5z8aLpYTo
まだだったか…
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/11(月) 16:28:07.25 ID:7UIe7mSAo
あげるのもさげるのもさ、専ブラ使ってりゃ一括更新したときにわかるやないか
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/11(月) 18:43:11.67 ID:mLzhky7fo
誰しもが専ブラいれてるわけじゃねーから黙ってsageてろ
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 02:40:18.92 ID:aplV/iqJ0
>>1お疲れ。
でも。そろそろ。来てほしい。
続きが。読みたい。
231 :1だよ [sage saga]:2011/04/18(月) 20:31:07.74 ID:jaWTsVB+0

【御坂 美琴】


どうしてこうなったのか?


と問われれば、私のせいです、としか答えられない。
最初は公衆の面前で泣かされてしまい、しかしどうすればいいかわからなくなって、
結局流されるままに現状維持。ただただ子供じみた反抗心から当麻を困らせようとしただけだった。
そして逃げるようにしてファミレスを後にした時、自身が彼と手を繋いでいることに気付いた。
実際、外に出た時点ですでに落ち着いていたのだが、
それを悟られればその状態が解除されるような気がして、またもや現状維持。
手を繋いでいたいと言えばいいのにそう言えないのは、私と彼がソレをするような関係では無いから。

そして連れ込まれる路地裏。
急展開に戸惑いを隠せない。
当麻にはそれを気付かれてはいないと思う。彼も自身の行動に混乱しているみたいだった。
彼がこのような場所に引きこんで、酷いことをするような輩で無いのはわかってはいた。
しかしソレとは裏腹に、暗い場所に連れ込まれることによって不安が募る。
そんな私に対して、彼がしたことは――――――謝罪


『悪かった。ごめん。だからもう泣かないでくれよ』


確かに私が泣いてしまったのは当麻の言葉が原因なのは事実。
けれど彼が本当の意味で悪いわけではない。
逆上してもおかしくないのに、客観的に見ても過剰とも言える謝罪を繰り返す当麻の行動によって、私の中で罪悪感が募る。
耐え切れず、つい背を向けてそっぽを向いてしまった。
このままではキリが無い。こんなことがしたいわけじゃない。
どうにかして現状を打開しようと、もう大丈夫だと、彼と他でもない自分自身を安心させようとして―――



『悪い』



―――抱きしめられた



232 :1だよ [sage saga]:2011/04/18(月) 20:31:50.28 ID:jaWTsVB+0











「――――――」












当麻の唐突な奇行、何の脈絡も無い抱擁によって思考回路はショート寸前。
意中の男性から、ということもあって意識が飛びそうになり、落ち着こうとして、でも出来ない。
激しい運動をしていたわけでもないのに、心臓の鼓動は加速し呼吸が乱される。
しかし、この抱きしめられている状況で、ハァハァするのは変態と思われそうだ。
だから荒れる呼吸を無理矢理抑え込み、平然としようとして………………失敗した。
口気呼吸から嗅気呼吸に切り替えたのがダメだったのか、
鼻から通して伝わる当麻成分によって脳髄を侵される。


「(とうまの におい)」


もちろん、とろけさせているのはソレだけではない。
彼に包みこまれるようにして抱かれているので、四方八方あらゆる包囲から感じる当麻の感触、
そのおかげで私と彼の物理的な距離はゼロに等しく、視界を占める当麻(近過ぎるため顔は見えないが)
上記二つでも対処に困るのに、新たに加わった“におい”が私を殊更思考停止へと追いやっていた。


そして―――


頭部から感じる、当麻の手。
それはどこまでも温かく、優しかった。
彼の行為はいくら人目を避けているとはいえあまりに過激で、
本来なら気恥ずかしさが込み上げて暴れていたかもしれない。
それを出来なかった、というより出来なくしたのは単衣に彼のこの行為―――撫でているせいだろう。
その年下扱い、子供扱いに不満を感じるはずなのだが不思議とそれは無かった。
感じるのは安心感。ただそれだけ。
233 :1だよ [sage saga]:2011/04/18(月) 20:32:20.71 ID:jaWTsVB+0



情けない



与えられた安堵感が一瞬で無力感へと変わる。
当麻の事を想い、なんとかして支えようとして、でも実際は彼を困らせてばかり。
終いには彼に支えてもらっている始末。本当に情けない。
色々な意味で、泣きたいのは当麻のほうだろうに。

安堵感が無力感に変わる、そう表現したけれどそれは違うのかもしれない。
なぜなら現に今も彼の優しさに安らぎを感じてしまっているのは本当だから。
つまり、安らいでいる自分に無力さを感じていた、が正しい。
端的に言えば。






あたたかい のに かなしい







「(なにやってんのよ………私は……)」

自分の願いと実際の行動との矛盾に自嘲し、別の意味で泣きそうになってしまう。
先日、自身の目的を言葉にして確固たる決意をしたはずなのに、ソレを穢しているのは他ならない自分自身。



だから―――



泣きたいのは私じゃないはずだから


安らぐべきなのは当麻のほうだから


この抱擁に未練はあるけれど


当麻をもっと感じていたいけれど




「当麻、ありがとう。もう大丈夫だよ」




告げる。


234 :1だよ [sage saga]:2011/04/18(月) 20:33:03.02 ID:jaWTsVB+0
筆が進ない。すまん
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 20:38:16.77 ID:f4rFRjHUo
乙〜

てか色んなSSが脳内で混じった
ちょっと最初から読み返してくるww
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/18(月) 22:01:51.79 ID:qIgcajwYo
俺の思考回路もショート寸前です
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 23:15:45.86 ID:aplV/iqJ0
乙!!
この切ない感じがすごくいい!!
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) :2011/04/19(火) 01:11:58.82 ID:F6bflIGF0
このSSはなんか違うんだよな、
いい意味で引き込まれる・・乙
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/19(火) 02:05:38.64 ID:d5OixlQdo
乙!
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/19(火) 07:01:19.20 ID:Iz4fLATB0
乙!続きも気になるっテカ
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/19(火) 14:47:08.10 ID:mWvlta7AO
えんだああああああああああああああああああああああ!
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) :2011/04/20(水) 01:25:23.29 ID:wuZCJ9Wl0
二人とも幸せになってほしいもんだ乙
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/21(木) 02:19:42.77 ID:xcShfKhDO
>>241
まだはえーよ
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 14:19:34.45 ID:CdzfxKNo0
上琴の話ってさ、インさんがイギリスに帰ったり空気だったりするけどさ、
ここでは殺されてるとかすごいな・・・
245 :1だよ [sage saga]:2011/04/22(金) 19:53:58.61 ID:G+2AagiF0
sage ageに関しては前回sageたままにも関わらず、
レスしてくれた人がいたのでsage進行にしようかな。みんなありがとよ。
>>1は気まぐれんだから投下するとき、たまにageるかもしれないけど。
では231-233の続きをば。故に短いんだが。
246 :1だよ [sage saga]:2011/04/22(金) 19:55:57.53 ID:G+2AagiF0
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「当麻、ありがとう。もう大丈夫だよ」

密着体勢であるので平常通りの音量を出すわけにもいかず、当麻の耳元で囁くように。
加えて、彼の気遣いを無駄にしないよう、こちらが落ち着いている旨を悟らせるためにも優しく伝える。
すると私の声と共に生じた吐息が彼をくすぐったのか、体を震わせて ひゃぁうっ!! という奇声が聞こえた。
その男性らしからぬ意外な反応に対して、逆にこっちも戸惑ってしまう。

「どしたの?」

「……………こそばゆかっただけだ。それより……もう大丈夫なのか?」

「うん」

「そっか。なら上条さんも安心です」

照れくさそうに頬を掻きながら抱擁を解く当麻。
離れていく当麻成分に少なからず後ろ髪がひかれそうになるが、その感情を表に出すわけにはいかない。
そしてある程度冷静になったところで、はてさて。


「「…………」」


場を支配する沈黙。
お互いにどんな意図があったにせよ、人目が薄い路地裏で抱き合ってしまったのは事実で。
今更ながら気恥ずかしさやら何やらが込み上げてくる。
当麻はわずか数瞬で顔面に汗を垂れ流し、真っ赤に染めて今にも土下座しようとしていた。

「すっすすすんませんでし―――

「ストップストップストォーーップッ!!
 取りあえず落ち着きましょ落ち着きなさい落ち着いたわよね?」

矢継ぎ早に声を出して彼の行動に制止を掛ける。
周りに人がいないとはいえ、こんなところで騒げばどうなるかわからない。

「………………はい」

「ここであったことはもう気にしないほうがいいわ。お互いのためにも、ね」

「そうだな」

すると当麻は傍らに置いてある私の鞄を拾い、
その底部に付着した砂利やら埃やらを手で払って、鞄をこちらに差し出して、言った。

「じゃあ、この辺でお開きでいいか?」

「は?」

「美琴の用件はもう済んだんだろ?
 今日は課題に手を付けないで休めって言われたからなー」

確かに私の提案は彼の課題を手伝い、代わりにこちらの練習に付き合ってもらう、そんな感じ。
もしかしたらこのウニ頭の中にはソレしか入ってないのかもしれない。
それ以上の事柄………せめて私のこれからの予定を聞いて、それに付き合うとか……そんな言葉は無いっぽい。
もっと当麻との時間を共有したいという乙女の気持ちを切り伏せるような一撃に呆然としていると、
彼は差し出した鞄をいつの間にか私に預け、左手で自身の鞄を肩に担いで背を向けながら表通りへ去ろうとしていた。

「いやいやいやアンタなに勝手に帰ろうとしてんのよ!?」

「だからお前の用事は済ん………美琴サン? どうしてバチバチしてるんでせうか!??」

当麻は振り返って、気だるそうに先の言を繰り返そうとして、私の不機嫌具合に気付いたらしい。
右手を―――幻想殺しをこちらに突き出して防御姿勢を取りながらビックリしている。
247 :1だよ [sage saga]:2011/04/22(金) 19:57:40.30 ID:G+2AagiF0

「(当然………か。はぁ)」

仕方無いことかもしれない。
彼と二人で平穏を過ごす、みたいな時間は正直に言って無いに等しい。
思い返せば、偽海原の時も事情があったし、ペア契約の時も彼は嫌々という感じだった。
それ以外のときも素直になれず雷撃を振りかざし追いかけまわしてばかり。
要するに。



彼は知らないのだ。



具体的に言えば、彼氏彼女の振り でもない
罰ゲームという理由も持た ない
まして小さなコトに腹を立て電撃を放た ない



御坂美琴 を。



それは当麻に責任があるはずもなく、私のせい。自業自得。
ならば。
知らないのなら、これから知ってもらえればいい。

「とうま?」

気付かないうちに漏れていた電撃を消し、彼に歩み寄り、学ランの端を掴む。
こちらの態度の豹変っぷりに驚いているのか、どうなのか、口元が引き攣っていた。
あまつさえギュルンッと顔を高速で逸らし、またもや赤く染めていた。はて? どうしたのだろう。
とはいえ、目を交わしてもらわないと困るので両手を彼の頬に添えて向きをこちらに変更させる。

「今日はお休み、なんでしょ?」

「お…おう」

「だったら……さ」

「お……おおう」

「お買いもの、付き合ってくれない?」

「お………おう?」

「ありがと。じゃあ、行こう?」

意外にもすんなり了解を得ることができたので、先行して当麻を促す。
すると、彼は何故かしばらく呆けていた……と思ったら、

「って、なんでそうなるんだっ」

「? 嫌?」

「嫌じゃ………ないけど。
 じゃなくて。どうしてわざわざ俺を買い物に付き合わせるんだよ? 他のヤツに―――

「嫌じゃないんでしょうに」

「うぐっ」

「今日は暇。家に帰ってもやることは特になし。だったら外で過ごすほうが健全よねー」

この言い方はよろしくないかもしれない。
なぜなら、彼の予定を全ての理由にしているのだから。
248 :1だよ [sage saga]:2011/04/22(金) 19:59:59.92 ID:G+2AagiF0

「それに……」

「それに、なんだよ?」

この言葉を告げようとして、どれほどの時間が経ってしまったのか。
今まで、恥ずかしいからと素直になれずに罰ゲームなどを理由にして、彼との時間を過ごそうとしてきた。
その理由に“自分の気持ち”を含めてこなかった、
あるいは言葉にしようとしなかったことが原因で当麻を困惑させているのであれば、彼との距離が開いてしまったのであれば。
恥ずかしいとかそんなモノに負けるわけにはいかない。


「私が当麻と遊びたいの。それじゃ…ダメかな?」


しかしながら、こんな風にストレートな物言いをするのは慣れてないので、彼の顔を直視できるわけも無く。
負けるわけにはいかないとか言いながら、顔を俯かせてしまった。情けない。

「ダメじゃ………ない。こっちも変なこと言って悪かったよ。じゃあ行くか」

「うん」

漸く本当の意味で了解を得ることができて、安心してしまう。
きっと、これからもこんな感じで彼を誘えばいいと知ることができたから。
そんな風に彼との時間を重ねていけ……ば………?

「あれ?」

かすかな疑念がよぎった。
けれどもそれが何かはわからない。

「美琴? どうしたんだ?」

「………ううん。なんでもない」

振り切るようにして、怪訝な表情をしている当麻の右手を掴み、表通りに出る。
しばらく暗がりの中にいたので陽の光がちょっと眩しい。

「で。買い物って何処に行くんだ?」

「適当」

「………おい」

「特に考えてなかったんだからしょうがないじゃない」

「あー、じゃあ歩きながら考える、で良いか?」

「そうね」


私の疑念も当麻と過ごす時間への期待によって

陽の光が影を照らすように“この時は”消えていった―――

249 :1だよ [sage saga]:2011/04/22(金) 20:01:37.74 ID:G+2AagiF0
また今度ー
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 22:35:45.89 ID:u0RFAC7vo

これのラストが全く想像できないぜ…
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 00:30:08.43 ID:bv0RfBrx0
乙!次回のワクワクさんもバーストだぜ!
252 :1だよ [sage saga]:2011/04/24(日) 15:57:10.95 ID:sr1ouXJX0

【土御門 元春】


「にゃー。どうしたものかねぇ」

『なにが………でしょうか?』

土御門は上条と別れた後は、結局青ピとも別れることになった。
それはそもそもデルタフォースでゲーセンに〜の件は上条を気遣っての計画であり、その主役が来れないのであれば意味が無い。
となれば空いた時間をどうするか、と悩んでいたところ土御門の携帯に着信アリ。
しかも相手が相手なので青ピの前で通話するわけにもいかず……
そこで彼が空気を読み過ぎたのか深読みし過ぎたのか、帰る旨を告げて早々と去ってしまった。
電話してきた相手の用件はだいたい分かっているため、正直気が進まないのだが、出るしかない
偶然近くに《幻想殺しと超電磁砲が愛を語らう公園 byアステカ》があったので、
そこの適当なベンチ(昨夜想い人を誘拐されたと思い込みキレた雷神の怒りによって破壊されたベンチ、では無い)
にどっかりと座り電話することにしたのである。

「ねーちん。せっかくオレが友達と久しぶりに友情を温めようとしてたのに……」

『それは先ほど謝ったではありませんかっ』

「冗談だ。それで? 今日 は いったいどんな用事なのかにゃ?」

『それは………ですね……』

「……………はぁ〜」

自然、ため息が出てしまう。
このやり取りを今まで何回重ねてきただろうか。

「もう即席の理由作りは飽きたぜい。いいかげん素直に言ったらどうだ?
 かみやんが心配で心配でしょうがありますぇーーーん、って、な」

『っな!? ちちち違います!!?』



「違わないだろうが。事有る毎に電話されていちいち報告する身にもなってみろ。

 毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩電話が来るんだぞ、おい。

 しかもそれら全ての内容の9割はかみやんのことで占められている。

 さてねーちん、これの何処が ち が う ん だっ!?」



つい言葉に怒気が宿り声が大きくなってしまう。
最初は良かったのだよ。
学園都市にいるので把握しづらい“外”のことなどの情報を得られるのだから。
しかし。だがしかし。
数を重ねるごとに通話の内容が歪みを帯びてきたのだ。
一昨日など『そちらでは紅葉が色づく季節ですね』から始まり、もう……なんて言うか………泣きたかった、にゃー。

『そんなことより!!……………コホン。
 あの件がこちらで片付いたので、その報告です』

無理矢理話を変えやがった。
でもな、ねーちん、オレは絶対に忘れないぜよ。
その電話のせいで何度も愛しの舞シスターとの蜜月が邪魔されたんだからな。
この募り積もり積もった恨みはどうしてくれるのか。
が、このままでは話が進まないので、黒くドロドロと濁った感情が滲み出そうになるのを抑え、本題を促すことにする。
253 :1だよ [sage saga]:2011/04/24(日) 15:57:45.23 ID:sr1ouXJX0

「どうなった?」

『処断されました。幸い、といっていいのか相手は何処にも所属していないフリーでしたので』

「それはなにより」

『やはり彼らを派遣したほうがいいのでは?
 今回はたまたまそちらに乗り込まれる前に身柄を押さえることが出来ましたが、次はどうなるかわかりませんよ?』

ねーちん、もとい神裂火織が言っていることを説明するには、まず“あの件”から語らねばならない。
第三次世界大戦が表では終結とされて数日後、上条を狙っている魔術師がいるとの報告が《必要悪の教会》に入った。
その魔術師はどこの勢力にも加担していない傭兵、といえば聞こえは良いが、
つまるところ魔術をある程度修めた三流以下の実力で、戦後の混乱に紛れて《幻想殺し》を確保し、名を挙げようとしたらしい。
そのころ上条は禁書目録を失ってから立ち直りを表向きには見せていたが、それでもやはり危険であることに代わりはない。
しかし《必要悪の教会》も大戦後の後始末やらに追われていたので、学園都市に長期間護衛を送る人員を割くことが出来なかった。

故にどうしたのか。
長期が無理であれば、短期であれば良い。
“学園都市”という魔術師が手を入れにくい場に入られる前に先手を打つ、ということ。
コレが功を奏し、問題無く、神裂と天草式十字清教らの手によって下手人は捕える事が出来た。

ちなみに神裂が言った“次”とは、
今回はたまたま相手が雑魚レベルであったから上条に辿り着かれる前に上手く確保できたが、
後はどうなるかわからない、ということを示唆している。
要するに『忙しいのは重々承知です。しかし、それでもほとぼりが冷めるまでは護衛を付けるべきだ』と言いたいらしい。
だが。

「幻想殺しはあくまで学園都市の“物”だ。
 現在魔術側に“ソレ”が狙われていると確定していないのに護衛を派遣するのはおかしい」

『しかしっ!!』

「ねーちんのソレは私情が入り過ぎている。
 それに、だ。その程度の理由でアイツらが許すと思うのか?
 幻想殺しという、上条当麻という道具を慰めるために?」

『貴方は本気でそう思って―――

「―――るわけないだろ。だがな、仮にねーちんとか天草式を派遣してどうするつもりだ。
 お互いにとって大切な人を亡くしてしまった、とかで傷を舐め合うつもりなのか?
 たとえそうなったとしても、かみやんは癒される側では無く、癒す側に回るだろうな。これは賭けてもいい」

 ――ッ』

神裂は心配なのだろう。
傍目から見ても禁書目録と上条は仲が良かった。
それこそ、かつて彼女と絆を深めていた神裂やステイルが嫉妬するほどに。
そして死んでしまったシスター。
上条の心境を図ることができるのは、ある意味で彼らしかいないのかもしれない
254 :1だよ [sage saga]:2011/04/24(日) 15:58:41.75 ID:sr1ouXJX0

「かみやんを心配するのはわかってる。
 だから昨日言っただろ? 護衛兼慰安役をこっちで派遣するって。
 相手も快く了解してくれたから大丈夫だ」

その役者とは御坂 美琴。
この学園都市に七人しかいない超能力者の一人。
ロシアの件で若干“上”に睨まれているものの、彼女は世界の裏事情とはあまり縁が無い。
そして上条に懸想しており、人格も善であるので彼を裏切るような真似はしないだろう。



なにより―――



正直に言って、絶望に叩き落とされた上条を支える役は誰でも良かった、というのが本音。
神裂には魔術だの科学だのと理由を告げたが、そんなモノはどうにかできる、と思う。たぶん。恐らく。
話が逸れてしまうかもしれないが、上条は多くの人から慕われており、その人望は厚い。
そんな彼が精神的に参っていると聞けば、きっと彼らは支えようとしてくれるに違いない。
神裂、五和、その他かみやん病患者などなど。
にもかかわらず、あえて御坂美琴を選んだのは



―――彼女が上条当麻が記憶喪失であることを知っているから、につきる。



神裂たちは上条の事情に気付かず、御坂美琴は土御門と同様にソレに気付いた。
この違いは大きい。それだけ上条を注視しているということだから。
土御門の場合は彼を監視する任に就いていることもあり、また、入れ替わり術式の事件に関わることができたからこそ気付けた。
彼女がどういった経緯でソレに気付いたのかが気になるが、この際置いておくとしよう。

確かに記憶喪失の件を知らずとも上条を立ち直らせることは不可能じゃない。
けれど“あの”上条だ。自分のことなんて後回しにしてしまいかねないのだ。
というより彼の事情を知る者はだいたいにして禁書目録のことも知っているため、傷を舐め合うような関係になってしまう。
それではダメだ。


つまり。


性格が善でそれなりに信頼できる
荒事にも対応できる
インデックスをあまり知らない
(科学側の人間であれば)禁書目録を知らない
上条に対してある程度好意を抱いている
記憶喪失を知っている


これらを満たしているのが知りうる限り一人しかいない。
255 :1だよ [sage saga]:2011/04/24(日) 15:59:18.27 ID:sr1ouXJX0

「(オレって最低)」

苦笑する。
彼女らは心から彼を想って心配しているのに、自分はその感情を利用しているのだから。
この先、また学園都市で何かが起きたとき、上条は戦場に駆り出されるだろう。
そしてその戦場で失敗してもらうわけにはいかない。
だからこそ彼には早く立ち直って貰わなければならないのだ。
義妹と友の約束を守るためにも、必ず。

『そうですか……貴方がそういうなら……大丈夫でしょう』

「そんなわけだ」

『ええ。お願いします』

「…………はぁ〜」

その頼むような声色に、ついため息が出てしまう。
上条を心配するのは構わないが、神裂のほうこそ辛いはずなのにどうして、こう、ねぇ?
それは皮肉かつ不謹慎な話、彼女はインデックスを失った経験があるので、上条よりは耐性があるのかもしれない。

「…………どんな気分なんだろうな」

『土御門が私にソレを聞くのですか?』

「………」



わかるはずもない

記憶を失い それでもシスターの笑顔を守ろうとして戦い

絆を深め 血の繋がりのある肉親よりも家族と言える仲になって

この世界に生まれて初めて得た大切な人を

果てに喪った男の気持ちなんて―――




―――わかるはずもない―――




256 :1だよ [sage saga]:2011/04/24(日) 16:08:07.05 ID:sr1ouXJX0
補足。
土御門が上条の記憶喪失に気付いたのは、ヘブンズフォールから数日後。

土「つか、ヘブンズフォールの説明をかみやんが聞いた時点で犯人に気付かないとおかしくね?」

土「実の父親のツラを忘れるとかありえねー」

土「あれ? そう言えば原作一巻の時に頭にダメージ受けてなかったっけか?」

土「ってことは、つまり?」

な感じです。しかし本文に入れると流れがずれてしまうので、入れませんでした。

ではまた今度―
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 16:24:03.94 ID:/6r5U/pDO
超乙です!
あとエンジェルフォールな
258 :1だよ [sage saga]:2011/04/24(日) 16:27:14.95 ID:sr1ouXJX0
間違えたー
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/24(日) 16:29:51.83 ID:35sZtD5Wo
天使が降ってきただけでも大事だったのに天界が降ってくるなんておそろしいッ…
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/24(日) 21:28:49.75 ID:8f63mjCAO

美琴と他ヒロインの違いにやっと気づいたわ
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 22:19:37.49 ID:y2SsF07Ro
でも記憶喪失しってるって何かあれメリットなの?って感じなんだよな
16巻買った当初は上琴来るか―!?なんてテンションあがってたのに何もなかったうえに22巻でインデックスにも知られちゃったしな…
あれってなんか意図あったんかよ、かまちー
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/04/24(日) 22:24:52.67 ID:jZpcjGiwo
記憶喪失自体を知ることが重要だったんじゃなくて「記憶を失ってもなお上条さんは〜」ってその後に自覚した自分の感情に意味があったんだよ。
一応美琴は妹編からロシア編までの一連の行動に?がりがあるんだよな
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 22:32:12.96 ID:y2SsF07Ro
つまり上条当麻という人間の芯を知ることが目的だったわけか?
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/04/24(日) 23:01:18.63 ID:jZpcjGiwo
目的ってか今後美琴を動かすための動機とか伏線的なものだったんだと思う。
まぁ記憶喪失を知ったこと自体も後のために何かしら意味はあったんだと思うがね。
265 :1だよ [sage saga]:2011/04/24(日) 23:08:12.99 ID:sr1ouXJX0
記憶喪失を知ってるから、って理由としては弱くね? と思った人への補足。

土御門の選択は
上条が記憶喪失であることを知っている、というより
上条が隠してきた秘密を彼女が知っている、からの判断。

土御門は、上条にとってある意味で御坂が特別なのでは? と深読みし過ぎた、ということ。
文中にあるように、つっちーは御坂がどうやってソレを知ったかの経緯を知らないんだ。

文章表現って難しいな。
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 23:16:40.67 ID:y2SsF07Ro
補足ありがとうございます
納得しました
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/25(月) 02:15:45.36 ID:UTAyw5Xxo
乙!
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/02(月) 20:43:37.27 ID:Ics5jo0R0
そろそろ、来るか!?
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/05/07(土) 05:20:25.58 ID:CfJwJwFL0
いないいない
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/05/07(土) 08:13:24.10 ID:wqDJYd5do
ババァメントですの!
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/07(土) 16:32:49.95 ID:RHracuyWo
なんかこの頃さ、
自分にたとえ男だとしても触れられてると眠くなってくるんだよね
これってかなりストレスたまってる状態なのかねぇ

かみやんみことに抱きつけて羨ましいぜ・・・・・
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/12(木) 20:01:25.15 ID:2YKP0ofDO
そろそろ来て欲しい(´・ω・`)
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 01:17:41.75 ID:SSwlsIXPo
おーい
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 01:18:08.85 ID:SSwlsIXPo
おーい
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 01:19:05.95 ID:SSwlsIXPo
おーい
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 02:19:50.77 ID:34T9vOGe0
連投すんな
気楽に待とうぜ
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 02:24:41.02 ID:SSwlsIXPo
すまん…
エラーで投稿出来てないと思って何度もやってしまった
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/23(月) 23:40:08.75 ID:TmAlWmpIo
そろそろ一ヶ月経とうとしてるわけだけど作者さんは生きてるのかな?
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/27(金) 22:21:22.47 ID:BsnDd7mfo
諦めない。いつまでも更新し続ける。
280 :1だよ [sage saga]:2011/05/31(火) 17:36:23.78 ID:AsBa+XRL0
touka-
281 :1だよ [sage saga]:2011/05/31(火) 17:37:26.75 ID:AsBa+XRL0

【御坂 美琴】


「おーい」

「…」

「美琴さーん?」

「……」

「御坂美琴さーん?」

「………」

「もう帰って―――

「ダメよ」

 ―――ですよね〜」

歩きながら考える、ということになったが、正直どうすればいいかわからない。
能力を使う際の演算は簡単なのに、肝心な時―――当麻と二人っきり―――に上手く機能してくれないのは何故だろう?
こーゆー時ってどうすればいいのか、それは誘ったのが私のほうなのだから、行き先を決めるべきなのは当然こちらのほうだ。
しかし、彼との時間を過ごしたいあまり考えなしに勢いで押し切ってしまったので、の―ぷらん。
買い物と言ったものの、いったい何を買うというのか。
いや、買い物は諦めてゲーセンで遊ぶというのはどうか。
いやいや別にお金を無理に使わないといけない訳でもなし。
当麻は口を開けば不幸とか、貧乏とか、後ろ向きな発言を積み重ねるような男だから、開き直ってウインドウショッピングとか……


――――――ダメだ。


コイツはソレを好むような輩では無い。
ってか、私だけが楽しんでも、“楽しくない”だろうことは予測できる。
結局この時間が終わった後になって、ただ彼を振り回したという独り善がりに気付き、自己嫌悪に陥るだけ。
ならば彼が有意義な時間を過ごせるようにするにはどうすればいい?
買い物と口にしたのだから、上条当麻が買いそうな物々を考えてみる。




――――――卵




卵、エッグ、セール、お1人様一点限り、128yen。
おおよそ、二人きりで買うには非常に色の無いモノしか浮かばない。
何が悲しくて念願のデートでそんな物を買わねばならないのか。
全くいい案が浮かんでこない自分の情けなさに、つい頭を抱えたくなってしまうが、悩んでいても時間を浪費してしまう。
かといって無計画に突っ込んでいくわけにもいかないのだ。
282 :1だよ [sage saga]:2011/05/31(火) 17:38:40.49 ID:AsBa+XRL0


……なんで私ばっかり悩まないといけないのよっ


なんて、逆上してしまいそう。
そんな時、私の思考泥沼状態に焦れたのか、はたまた察してくれたのか、当麻のほうから助け舟が入った。

「あ〜、美琴? 無理に考える必要無いんじゃないのか?」

「いや……でも…」

「丁度いいところにほら、セブンスミストがあるし、そこに入ろうぜ」

「そんな適当な……」

「そうでもねーよ。ちゃんと上条さんは考えてますのよ?
 というよりは、お前が俺をスルーしてた間に買い物リストを思い出しただけだけどな」


――――――それを早く言えっ!


どうやらこちらに焦れたわけでも、察してくれて気を利かせてくれたわけでもないらしい。
後者のほうは恐らくあり得ないだろうことは思っていたが、いざ当麻の鈍感さを突き付けられてしまうと遣る瀬無くなってしまう。

「なに暗いオーラ出してんだ?
 なんか漫画にありがちなエフェクトが出てるんですけど………」

「うるさい。さっさと中に入るわよ」

当麻の掌を左手で掴み、強引に引っ張って、今しがた決めた行き先へと向かう。
後ろから、ちょっ!? 美琴サン!? 急に引っ張らないでっ!? なんて聞こえてくるが無視だ無視。
考え込んでいた時間分は取り戻さないといけないのだから。



――――――顔が熱い。



一人であーだこーだ悩んでいた自分が馬鹿みたいに思えてしまい、つい、カッとなってやった。
私が必死に計画を立てようとしていたのをコイツがブチ壊した。だから頭に血が上っているんだと思う。
決して当麻と手を繋いだから、じゃない。
けっして とうまの てのひらを にぎることが できたから じゃない…………もん。 
283 :1だよ [sage saga]:2011/05/31(火) 17:39:29.39 ID:AsBa+XRL0

早足でセブンスミストの入り口をくぐり、エスカレーターへと直行。
すれ違う人たちからなにやら視線を感じるが、ここでソレらに負けて手を離すのも………なんかイヤだ。
しかし恥ずかしいことには変わりがないので、顔を俯かせることで我慢し、足の回転速度を上げる。
室内は若干暖房が利いているせいで体が熱い、息も脈拍も乱れている気がする。
もしかして繋いでいる掌は汗ばんでいるんじゃないだろうか? それは別に当麻の…(以下略)
いい加減、一息つける場(エスカレーター)に着かないのか、そんな考えが過り顔を挙げて―――偶然、前方の男女と目が合ってしまった。

二人は高校生ぐらいの年齢で、少女は少年の腕に自身の腕を絡ませ、べったりとくっついている。
まあ、つまり、カップルだった。紛う事無き。おまけにラヴ時空を纏い、周囲の色がえらくピンクってる。
それらは大して問題ない…………かもしれない………が…………
こちらに向ける目付きに問題がある。
まるで。


(「見てごらん、ハニー」)

(「ええ。なんか初々しいカップルね、ダーリン」)

(「付き合ったばかりのハニーそっくりだよ。顔を真っ赤に染めて、照れ隠しに強引に引っ張ってるところなんて、ね」)

(「だってダーリンが鈍感なのがイケナイんじゃないっ。振り向いてもらうために私がどれほど苦労したと思ってるの?」)

「HAHAHA、ごめんよハニー。その分だけ今夜は僕が頑張るから許してくれないか?」

「もうっ、ダーリンのえっち。でも………期待してるから。好きよ、ううん、大好き」

「ありがとう。僕も大好きだよ。ハニー」


なんて被害妄想してしまいそうなぐらい、生温かい。
いや、妄想じゃないかもしれない。だって後半部に ( ) が付いてなかった気がする……よう………な…


「〜〜〜〜っ!!」


当麻と付き合うことになれたらそんな風にだっだだだだぁりんなんて呼ぶの!?
無理無理無理無理無理無理絶対無理!!そんなの人前で言うなんて恥ずかしいじゃない!
第一、カップルなんてまだなってないし………それに……はっははははにぃなんてとうまが呼ぶわけないじゃないのっ!!何考えてるのよ私は!?
……あ…けど………二人っきりなら……その…べっべつに言っても良いというか……当麻に頼まれたら拒否できないとゆーか………
ってもし付き合えることになったらどーしよ!!やっぱヤるの!?当麻と!?週末はとうまの部屋でぬっぽりとっ!??


「おい……どうした? いきなり立ち止まって」


いやいやいやそんなのまだ早いから私中学生だからでもでもとうまからもとめられたらこばめないかもしんないよ
けどけどとうまのことだからちゅうがくせいだなんだのいってそーゆーのはひかえてくれるってばっ
そうだそうだわたしはちゅうがくせい!そうっ!ちゅうがくせいなんだから……………チュウがくせいなんだもん
まだチュウだって……………………………………………………………チュウ…………だって……………………
284 :1だよ [sage saga]:2011/05/31(火) 17:41:46.50 ID:AsBa+XRL0


「美琴?……っておまっ、なんで泣きそうな顔でこっち睨んでるんだよっ!??」
 

だよね。まだ付き合ってすら……ないんだよね。妄想……か。
自然ため息が出てしまう。息と共に先ほどまで頭に孕んでいた熱も混ぜていたのか、急激に冷めていく気がした。

「なんでもない」

「そんなわけねーだろ」

「本当よ。さっきすれ違った二人の雰囲気に当てられただけ。アンタだって見たでしょ?」

「そりゃ………見たけど…だからって…」

「女の子にも色々あんの。そしてこの話はおしまい」

無理矢理な理由で話題を打ち切ると、当麻はどこか釈然としない表情で、しかし頷いた。


きっと。


さっきのカップルの空想会話の前半分は私の願望。
鈍感な想い人をいつか振り向かせてみせる、そんな願いを込めた望み。
流石にあの呼称は私の描いたものではないと信じたいが、たぶん憧憬への揶揄を無意識のうちに含めていたのだろう。
別にあんな風に呼び合いたいだなんて思ってるわけではない。

歩きながら、ふと、思う。
今の私たちの様相を第三者側から見たらどのように見えるのだろうか。
年下の少女に手を引っ張られる年上の少年。
なかなかシュールかもしれない。

当麻はこんなの嫌かな?
なんだかんだで男だ女だ年上だ年下だを気にしそうな輩であるのだからやはり不愉快かもしれない。
この場所に来る前に悩んでいたときに懸念していた事柄―――独り善がり―――に今更気がついて後悔してしまう。
当麻は考えていることがモロに顔に出そうな人、要するに隠し事が下手っぽいと思うので、ソレを確認するために後ろを振り向こうとして―――止めた。


――――――もし、迷惑そうな顔をしていたらどうしよう。怖い。


今までの“私”だったら、 この御坂美琴サマと手を繋ぐことができるんだから感謝しなさいよねっ! など言えたかもしれない。
アホだ。この鈍感が裏に秘められた気持ちを読み取ってくれるはずがない。
恐らく いや全然嬉しくね―から など言いそう。
じゃあ解く? と言っても……それは……正直に言って………まだ手を繋いでいたいです、ハイ。
つまり、自分から手を離したくは無い、けれど当麻の嫌がられることはしたくない、しかしそれを確かめる勇気が無い、ということ。
285 :1だよ [sage saga]:2011/05/31(火) 17:42:51.38 ID:AsBa+XRL0


故に。


そんな優柔不断な私にできることはヘタレた方法だけだった。
やや強めに握っていた、力を込めていた左手を―――緩める。
手を繋いでいるというより、ただ触れ合わせていると表現したほうがいいのかもしれない。

歩を進める反動でズレたり離れようとしたりする、掌と掌。
それが嫌だから、まだ触れ合っていたいから、少しずつ歩く速さは遅くなっていく。


――――――なにやってるんだろ?


わざわざ当麻にとって手を解きやすいようにして。
離すのがイヤなら、離さないように離れないように強く当麻を握ってしまえば良いのに。
いつからこんな相手の顔色を伺うような臆病者になってしまったのか、こんなの“私”らしくない。




だから―――














「うぇっ!?」 「へっ?」












286 :1だよ [sage saga]:2011/05/31(火) 17:43:35.13 ID:AsBa+XRL0


故に。


そんな優柔不断な私にできることはヘタレた方法だけだった。
やや強めに握っていた、力を込めていた左手を―――緩める。
手を繋いでいるというより、ただ触れ合わせていると表現したほうがいいのかもしれない。

歩を進める反動でズレたり離れようとしたりする、掌と掌。
それが嫌だから、まだ触れ合っていたいから、少しずつ歩く速さは遅くなっていく。


――――――なにやってるんだろ?


わざわざ当麻にとって手を解きやすいようにして。
離すのがイヤなら、離さないように離れないように強く当麻を握ってしまえば良いのに。
いつからこんな相手の顔色を伺うような臆病者になってしまったのか、こんなの“私”らしくない。




だから―――














「うぇっ!?」 「えっ?」












287 :1だよ [sage saga]:2011/05/31(火) 17:44:31.63 ID:AsBa+XRL0


故に。


そんな優柔不断な私にできることはヘタレた方法だけだった。
やや強めに握っていた、力を込めていた左手を―――緩める。
手を繋いでいるというより、ただ触れ合わせていると表現したほうがいいのかもしれない。

歩を進める反動でズレたり離れようとしたりする、掌と掌。
それが嫌だから、まだ触れ合っていたいから、少しずつ歩く速さは遅くなっていく。


――――――なにやってるんだろ?


わざわざ当麻にとって手を解きやすいようにして。
離すのがイヤなら、離さないように離れないように強く当麻を握ってしまえば良いのに。
いつからこんな相手の顔色を伺うような臆病者になってしまったのか、こんなの“私”らしくない。




だから―――














「うぇっ!?」 「えっ?」












288 :1だよ [sage saga]:2011/05/31(火) 17:45:51.06 ID:AsBa+XRL0

それはいったいどちらが放った声だったのだろうか?
なんて問いに意味はない。驚いたのは私のほう。

実は私のほうは手を離すつもりだった。

自棄になってあの状況になってしまったのだから、とりあえず、こんな周りに目がある場所では無く一息つける場所に着いて、
そして適当にごまかすように笑い飛ばしてしまえば“こう”なる前に仕切りなおせると思ったからだ。

なのに、その予定は覆されることになる。

私の左の掌から感じるのは、彼の右の掌の感触。
びっくりして思わず振り返ると、何故か当麻のほうも驚きの表情を浮かべていた。
まるでこちらの反応が予想外と言わんばかりに。

こっちだってアンタの反応が予想外なんだけど……

互いに固まって立ちつくす、私と彼。


「「……………………………………………」」


どれくらい硬直していたのか、突然慌てるように当麻のほうから手を振り解かれてしまった。
喪失する肌の感触に落胆の声を上げそうになってしまい、けれどソレを必死に喉の奥に押しとどめる。

「あっ…いや……これはなんと言いますでしょうか……つまり……」

目を泳がせて心なしか頬が紅い当麻に対して、私は非難するわけでもなく、ただ、 どうして? という意味を込めて目を向ける。

「……ご」

「ご?」

「ごめんなさいぃぃいいいいーーーーーっ!!」

そう叫びながら当麻は、私を追い抜いて奥のほうへ向かって爆走して行ってしまった。
突然の逃走に置いてけぼりにされてしまい呆けてしまい、目だけが彼を追う。
数か月前まで繰り返していた逃走劇の時と同様の全速力で駆ける当麻。
けれど今回とソレは何処か違う気がする。
何処が? と問われても、具体的に表現しにくい。
しかし敢えて言うならば、今までと違いなぜか、 勝った! という気がする、というところか。


………あ、こけた。


何処にも躓くような障害物は無いはずなのに、見事に足を捕られ、ずべしゃっという効果音が離れている此処にも聞こえてきそう。
当麻はその勢いのままヘッドスライディングの如く床を滑っていき、そして動かなくなってしまった。
289 :1だよ [sage saga]:2011/05/31(火) 17:46:49.01 ID:AsBa+XRL0


……って! 呆けてる場合じゃない! 


「当麻! だいじょ―――」


慌てて当麻に駆け寄り、大丈夫かどうか声を掛けようとしたのだが………
彼の派手な虚仮っぷりを心配したのか、近くにいた女子に手を差し伸べられ当麻は助け起こされていた。
いや、助け起こされてしまったというべきか。
何処かおっとりした雰囲気の、そして何故かピンク色というジャージにしては目立つモノを着ている高校生ぐらいの女の人。
少なくともセブンスミストはジャージ来る場所では無いと思う。あとさり気に胸が私より大きい気がする、しかも結構美人だし、イラッ。


……はぁっ


顔に手を当てて思わずため息をつき、やはり手を離してしまったのは失策だった、と先の選択を後悔する。
コイツは手を繋いでおかないと、私とのデート―――個人的にはそう思ってる―――の時でさえ他の女と接触して、こちらを放置してしまう輩なのだ。

「今度から当麻専用の首輪でも用意したほうがいいのかな……」

その言葉は自分でも声に出していたことに気付かなかったのは、胸の内にドロドロと濁ったモノのせいかもしんない。

だからだろうか?

当麻のほうに向かって改めて歩を進めている私の進行方向にいた他のエキストラども(買い物客と従業員)が、
怖れ慄いて道を開けていたことにも気付くことができなかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

290 :1だよ [sage saga]:2011/05/31(火) 17:47:52.67 ID:AsBa+XRL0
また今度―
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/31(火) 18:28:57.65 ID:6ZwO75hIO
続きキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
乙です!
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/31(火) 20:10:48.05 ID:yL/f9urno
ウオォォォン待ってたよー
超おつです
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/31(火) 20:37:17.33 ID:0JFKmqNX0
更新キタァーーーーーーーー!
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/31(火) 21:40:43.37 ID:l+SeqbODO
うわあああああああん
やっと更新ぎだああ
>>1のこと、ず、ずっと…まっ、まっでだんだがらねっ!!
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/06/01(水) 01:34:25.52 ID:AfyG9+910
>>1がきたあああああ
待ってたよ…まじで…
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/01(水) 02:28:54.73 ID:KOuvgMm+0
待っていたぞ!

助け起こしたのは滝壺さんか……?
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/01(水) 17:53:37.42 ID:WyBEchwO0
さあ!早く続きを…!!
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/02(木) 02:50:34.90 ID:HUZ9f6BIO
キタ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━ !!!!

待ってたよ。あきらめないで。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/06/02(木) 19:25:12.18 ID:qTJnuFZAO
あげ
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/02(木) 19:40:40.30 ID:8gqqfxM90
>>299
なにゆえ?
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/03(金) 01:04:18.63 ID:0JVlncvAO
>>299
(´・ω・`)
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/06/03(金) 11:18:08.21 ID:9wwfLYZAO
>>299
氏ね
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/03(金) 12:30:29.01 ID:qQi7id+DO
>>302(笑)
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/06/03(金) 12:31:51.85 ID:czPRNVuFo
>>302
オマエモナー
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/06/03(金) 22:52:46.08 ID:9wwfLYZAO
>>303>>304
うわあ^^;
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/06/04(土) 17:49:25.54 ID:M/pXMkUAO
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/04(土) 17:53:21.56 ID:LP7WfqXoo
>>306
いいぜ、まずはブチ[ピーーー]
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/04(土) 17:55:05.67 ID:qRaEA+da0
>>306
お前、他のスレでもあげてるだろ?
わざとか?
荒らしなら消えろ
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/04(土) 22:44:35.53 ID:CfEKWYqAO
また AOの評判が悪くなるのか…orz
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/06/04(土) 23:56:30.95 ID:M/pXMkUAO
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/06/04(土) 23:57:55.92 ID:M/pXMkUAO
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/05(日) 05:28:57.64 ID:RKLR6Tjm0
俺「おかえりなさい、いち」
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/06/05(日) 16:21:41.66 ID:57872c6AO
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/05(日) 16:23:05.61 ID:0Z3lfOBDO
>>313
またおまえか いいかげんにしろ
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/05(日) 17:13:55.32 ID:oYW2lMAa0
>>313
楽しいのか?
まぁ、いちいちやるってことは、本人は楽しんでんだろうけど
ほんと残念な奴だな
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/06/06(月) 21:52:04.83 ID:r49nKSIAO
マダー
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/06(月) 22:00:40.55 ID:jfIO8/0DO
>>316
またか
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/06/07(火) 01:45:57.64 ID:n/mE4cc9o
バ関西がsageくらい覚えろ
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/06/08(水) 20:50:50.80 ID:mieJwrHAO
またか
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/08(水) 21:02:11.48 ID:XIaoemxSo
>>319はいはいワロスワロス
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 21:15:26.32 ID:ZAVeYGiN0
>>319へ憤りを感じる人たちへ

>>319は他のスレでも荒らしをしてる奴
他のスレでもだけどさ、>>319の関西・北陸のことは無視しようぜ?
いくらコメントしても無駄だから
せっかく作者が書いてくれてるSSを汚したくないし
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/06/13(月) 22:34:43.87 ID:HUJmimyAO
まだか
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/20(月) 16:17:56.24 ID:4bMZM0Hr0
舞ってる
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/22(水) 18:58:11.18 ID:jbLVr3NMo
待ってて良かった
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/24(金) 02:54:21.56 ID:mHGS3i0h0
そう思える
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/26(日) 03:26:50.27 ID:ffwH8ozG0
未来が
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/06/26(日) 16:03:32.64 ID:TScjD9ySo
ぶち
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2011/07/18(月) 19:08:47.37 ID:YCbb/BWG0
ええ
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/04(木) 02:22:09.90 ID:EvHG2w0Vo
待ってるんだよ
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/10(水) 19:20:07.27 ID:o3mmByIro
そろそろ復活してくれないかな
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/19(金) 18:32:56.53 ID:EA1w+Ecuo
待ってます
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/26(金) 00:55:54.34 ID:d+wCXBf+o
>>1は生きているのか?
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/30(火) 09:24:35.89 ID:riXD05x80
終わり?
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/31(水) 19:05:00.90 ID:Qv/XKs2v0
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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