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魔法少女まどか☆イチロー - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆pbCrJT38xt7R [sage]:2011/04/09(土) 19:59:07.41 ID:y4wKISZKo


 鹿目まどかは、荒廃した暗い街の中で、“闇”と戦う一人の長い黒髪の少女の姿を見た。

 闇の中心には、巨大な歯車のようなものが見える。まどかにとって、これまで見た
ことのない物体。でもそれが危険なものであることは本能で理解できた。

 巨大なビルが宙を舞う。

 闇と戦う少女は、不思議な力を持っているらしく、飛んでくるビルやコンクリートなどの塊をかわしながら、
巨大な闇に向かって攻撃をしようとする。

 しかし、少女の力はその闇に対してはあまりにも小さかった。

 十分な攻撃を加えるどころか、相手側からの攻撃をかわすだけで精いっぱいといった印象だ。

「酷い……」その光景を見てまどかは言葉をもらした。

「しかたないよ。彼女一人には荷が重すぎた」

 どこからともなく声がする、と思ったら彼女の隣には、小型犬くらいの大きさで、白い身体、
そして赤い瞳をもつ不思議な生物だ。

 しかし、まどかはその時、不思議とその生物のことを知っているような気がして、“それ”が
喋ることをなんら不思議とは感じなかった。

 白い生物は、まどかの動揺を他所に淡々と喋る。

「でも、彼女は覚悟の上だよ」

 次の瞬間、何かの波動のようなもので吹き飛ばされる黒髪の少女。

「そんな、あんまりだよ! こんなのってないよ」

 絶望的な戦いを強いられている少女の姿を見て、まどかもまた悲しくなった。

 ふと、戦っている少女と目が合った気がした。遠くにいるはずなのに、なぜか彼女の顔や
体型が目の前にあるように感じることができる。自分と同じくらいの歳の少女だ。

「あきらめたらそれまでだ」白い生物は相変わらず淡々とした調子で喋る。

「でも、キミなら運命を変えられる。その力がキミにはあるんだ」

「ほ、本当なの……? 本当に、私にそんな力があるの?」

「もちろんさ」

「ど、どうすればいいの?」

「そのために、僕と契約して、魔法少女になってよ!」

「魔法……、少女?」


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SPACE CRAZY CUP総合スッドレ @ 2021/07/27(火) 07:29:31.50 ID:MPpes1ed0
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男「最近バッティングセンターに通ってる俺だけど、いくらなんでも銃弾は打てねえ」 @ 2021/07/26(月) 21:15:01.83 ID:PpChbESi0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1627301700/

テスト @ 2021/07/26(月) 07:17:46.82 ID:HgOrfgVgo
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桃子「お姉ちゃん」春香「えっ」 @ 2021/07/26(月) 00:11:58.85 ID:cFSyeT5I0
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【神様になった日】ひな「文化祭に行くのじゃ!」 @ 2021/07/25(日) 19:17:57.07 ID:z9oCCTqC0
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藍子「暑い……」 @ 2021/07/25(日) 15:06:41.96 ID:y1B+CBuDO
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張り切ってまいりましょう、鋏を持って! @ 2021/07/25(日) 10:27:10.98 ID:rqBvS9Bqo
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サンダルチャリで九州一周してくる @ 2021/07/24(土) 07:14:18.88 ID:Y69GX7vtO
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2 :♯田布施マリナーズ [saga]:2011/04/09(土) 20:01:45.03 ID:y4wKISZKo
「え?」

 不意に目の前の生物が爆発した。
 正確には、何かにぶつかって砕け散ったと言ったほうが正しいかもしれない。

「ええ?」


 状況が分からずその場に立ちすくむまどか。そんな彼女の後ろから、彼女を追い越すように
歩いて行く一人の背の高い男性。

「あなたは……」

 どこかで見たことのあるような白い野球のユニフォーム。そして背中には、大きく
「51」という文字が見える。



 彼女が目を開くと、そこはいつもの自分の部屋だった。

「夢オチ?」

 わかっていた、といえばわかっていた。巨大なビルが飛び交うあんな非現実的な光景が現実とは
思えない。

 しかし、夢の中で見た黒髪の少女、そして背番号51の野球選手とは、どこかで会ったような感じが
したのだった。








       魔法少女 まどか ☆ イチロー







  第一話  感情を、おさえることにしました。自分が、壊れると思いましたから。
3 :トリを失敗したorz ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:05:28.18 ID:y4wKISZKo
 その日、担任教師の早乙女 和子は、朝のショートホームルームの時間に転校生を紹介した。

 転校生が教室に入ってくると、生徒たちはざわく。

 まどかには、一瞬で空気が変わったように思えた。

 長い黒髪に黒のカチューシャ、それが彼女の見に纏うミステリアスな雰囲気を更に増幅させるようだ。

(あの子は……。うそ……)

 まどかは、彼女の顔に見覚えがあった。

 夢の中で戦っていた、あの少女だ。

「はい、それじゃあ自己紹介いってみよう」担任は笑顔で促す。

「暁美 ほむらです。よろしくお願いします」

 担任教師のどこか浮ついた雰囲気とは対照的に、ほむらはとても落ち着いた声ではっきりと自己紹介をし、
ゆっくり礼をした。とても中学生とは思えない立ち振る舞いに圧倒されるクラスの生徒たち。

 それはまどかも例外ではない。

 ふと、彼女と目が合う。

 その真っすぐな視線に、彼女は居心地が悪くなるのを感じた。

 暁美ほむらは自分のことをあまり語らない。好奇心を持て余す女子生徒たちが彼女の周りに集まり、
色々と質問しているけれど、必要最低限の答えをするのみで、それ以上の会話の発展はない。
「なんか、嫌な感じだな」

 まどかの親友でもありクラスメイトの美樹さやかはそう言ってほむらから目をそらした。さやかはああいう
タイプは苦手なんだろうな、とまどかは思う。

 暁美ほむらは感情を表に出さないタイプ。感情を前面に出すさやかとは対称的だ。

「……」

「そういやまどか、さっきあの暁美っていう転校生と目があったよね」

「え? いや」

「知り合いなの?」

「そういうんじゃないけど……」

 夢の中で会った、などとはなぜか言えない。

「ちょっとまどか」不意にさやかが呼びかけてくる。

「なに、さやかちゃん」

 顔を上げると目の前に、暁美ほむらが立っていた。

「保健係の鹿目まどかさんは、あなたね」

「え、はい」

「気分がよくないの。保健室に連れて行ってくれるかしら」

「あ、はい。ちょっと待ってね。じゃあ、行こうか暁美さん」

 まどかは、ほむらを連れて教室を出ようとするけれど、彼女のほうが先にずんずんと外へ歩いて行くのだ。
まるで目的地がわかっているように。
4 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:06:48.25 ID:y4wKISZKo
「あの、暁美さん」

「……」

 まどかが呼びかけると彼女は立ち止まる。

「?」

「ほむら……」

「ほむらと呼んでもらえない。私もあなたのことはまどかと呼ぶわ」

「え、うん」

「じゃあ、行きましょう、まどか」

「うん……」

 初対面なのに、下の名前で呼ばれるなんて幼稚園のころならばともかく、最近ではあまりなかったことだ。

 でも、不思議と悪い気はしなかった。なんだか、いつも呼ばれているような気がしたから。


   *


 その日の夕方、まどかは親友のさやかと一緒に大型ショッピングモールの中にあるCDショップにいた。

「それにしてもあの転校生、ちょっと気味が悪いよね」さやかはまだ、あの暁美ほむらのことを気にしている
らしい。

「気味が悪いって?」

「いや、なんていうか、あんまり自分のことは喋らないし、それに」

「それに?」

「時々まどかのこと、見てるじゃない?」

「そ、そうだけど」

「ねえまどか、本当にあの子と会ったことはないの?」

「うん」

「なんなんだろうな。モヤモヤする。明日学校で問い詰めてみようか」

「やめてよさやかちゃん」

「冗談だよ冗談」

「本当? 目がマジだったような……」

「あはは、じゃあ私、向こうでちょっとCD見てくるから」

「うん、わかった」


《助けて――》


「え?」

 さやかと別れた直後、まどかの頭に直接響く声がした。

 この声は、どこかで聞いたことがある気がする。
5 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:08:29.37 ID:y4wKISZKo
《助けて、まどか――》

 今度は確実に聞えた。しかも自分の名前を呼んでいる。

 まどかは周囲を見回した。

 誰もこちらを気にした様子はない。しかし声は確実に聞えるのだ。

「誰? どこにいるの?」

 まどかはその声に誘われるように、その場から走りだした。

「あ、まどか。どこに行くんだよ」

 さやかの声を他所に、まどかは動き出した。
 ショッピングモールには、現在改装中で立ち入り禁止の区域がある。
 薄暗いその空間にまどかは足を踏み入れた。

《助けて――》

 その声とともに、天井から何かが落ちてくる。

「あっ!」まどかは驚きの声を出してしまった。

「ううう……」

「あなたはあの時の猫さん?」

「ね、猫ではないけど……」

 猫のような大きさの、白い色をした生物。大きな尻尾と、耳の中から垂れている長い毛のようなもの。

 そして丸く赤い瞳。

 夢の中で見た、あの生物だ。

「大丈夫?」

《ううう……》

「酷い傷……」

 その白い生物はボロボロで傷だらけであった。交通事故にでもあったのか。

「そいつから離れなさい、鹿目まどか」

 再び聞き覚えのある声が無人のフロアに響く。薄暗いから声がよく通る。

「ほむら……ちゃん?」

 声の主は、転校してきたばかりの暁美ほむらであった。しかし暗くてよく見えないけれど、
彼女の格好は学校の制服とは違い、やや灰色がかった妙な服装で、腕にはなぜか、
円盤状の楯ののようなものを付けていた。
6 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:09:56.37 ID:y4wKISZKo
ただ、全体的に地味な色合いの服装にも関わらず、彼女の頭につけられたカチューシャは、
優しい桃色をしている。

「今すぐここから離れなさい」

「だって、この子、怪我してるし」

「あなたには関係ないわ」

「でも、私に助けを求めたのよ」

「いいからそいつをわたしなさい」

「でも……」

 何か焦りと悲しさを感じさせるほむらの目に、まどかは背中が少し冷たくなるのを感じた。

 彼女は、どうしたんだろう。

「まどか!」

「さやかちゃん」

 親友の美樹さやかが声をかけてきた。自分の様子を心配して追いかけてきたのだろう。

「暁美さん、だったよね。そんな格好で何をしているんだ」

「あなたには関係ないわ」

「行くよ、まどか」

「で、でも……」

「早く!」

 美樹さやかに手を引かれ、まどかはその場を走り去った。


   *
7 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:11:04.30 ID:y4wKISZKo
 その後、まどかたちは同じ中学校に通う巴マミと出会う。
 巴マミは、まどかたちが助けた謎の生物、キュウべえと契約した魔法少女だったのだ。

 マミは偶然遭遇した魔女を、魔法少女の力で撃退し、その効果を見せつける。
 そしてマミの魔力で回復したキュウべえは、まどかに対して言うのだ。

《ぼくと契約して魔法少女になってよ》

 キュウべえと契約をすれば、何でも願いごとを一つかなえられるという。
 その代わり、人々の絶望や呪いが具現化した“魔女”という存在と戦う魔法少女にならなければならない。

 戸惑うまどかたちに対して、マミはしばらく自分、つまりマミ自身の戦いを見て、
それで決めてもらおうと提案する。

 そしてまどかとさやかは実際にマミの戦いに同行することになった。

 その間、ほむらはまどかたちと関わらず、以前のようにまどかを見ることもなく
(まどかたちにとって)不気味な沈黙を保っていた。

 そんなある日、まどかは友人の美樹さやかのお見舞いに同行して病院に来ていた。
 病院には、さやかの幼馴染の上條恭介が入院している。

 見舞いの帰り、まどかとさやかの二人は、病院の壁に魔女の“卵”であるグリーフシードを発見する。

 グリーフシードを放置しておけば魔女が生まれてしまうのは明らか。まして、人の多い病院ともなれば、
魔女の魔力で多くの犠牲が出てしまう可能性が高い。

 さやかの提案で、さやかとキュウべえがグリーフシードを見張り、まどかが巴マミを探すことになった。
魔女を倒すには、魔法少女としての能力(チカラ)持つマミの存在が不可欠だからだ。

 その後、駅前の『○八うどん』で温卵ぶっかけうどんを食べていたマミを発見したまどかは、
二人でさやかたちの待つ病院へと向かった。

 病院ではすでにグリーフシードが孵化して、魔女の結界が発動していた。このためマミとまどかの二人は
魔女の本体がいる、結界の最深部へと向かおうとする。



 しかし結界の入り口には、これまで沈黙を保っていた暁美ほむらがいた。
8 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:12:11.95 ID:y4wKISZKo
「もう“私たち”の前には現れないでって、言ったわよね」優しい口調ではあるけれども、
言葉の節々に敵意の感情がにじみ出ている声でマミは言った。

「今回の敵は強力。あなたには力不足」薄暗い結界の中で、彼女のつけた桃色の
カチューシャがやけにキレイに見える。

 魔女の結界の中で対峙する巴マミと暁美ほむら。

 その後継を、まどかはどこかで見た気がした。

 しかし思い出せない。

 ふと、ほむらが構える前にマミの魔法が発動した。
 黄色いリボンのようなもので、あっと言う間にほむらの身体は拘束された。

「うぐっ……」

 両手両足もしばられて身動きが取れない状態のほむら。

「マミさん……」思わず不安になったまどかは彼女に声をかける。

「大丈夫よ鹿目さん」そう言ってマミはまどかに微笑みかけると、表情を引き締めてほむらのいる
方向に向き直し言った。「しばらくそうしていなさい。帰りに解放してあげる」

「ダメよ、今回の相手は……」

 しかしマミは、ほむらの話を最後まで聞かず、結界の奥へと向かって行った。マミに手を引かれ、
まどかも歩きだすけれど、まどかにはほむらの言葉が気になって仕方がなかった。


   *

 
「マミさん!」

 結界の最深部ではさやかとキュウべえが待っていた。どうやら二人とも無事らしく元気そうだ。
さやかとキュウべえの姿を見てほっとするまどか。

「どうやら間に会ったみたいね」

 そう言うとマミはまどかたちの前に出た。

「あなたたちはそこで隠れて見ていなさい」

「マミさん、気をつけて!」まどかは不安な心を打ち消すように声を出した。

「大丈夫、今日のお姉さんは強いのよ」

 そう言ってマミは、片目をつぶる。

《マミ! 魔女が来るよ》
9 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:13:15.60 ID:y4wKISZKo
 キュウべえの声とともに、魔女が姿を現す。しかし今回の魔女は、これまで見てきたような
おどろおどろしいものではなく、可愛らしい縫いぐるみのような姿だった。

「さあ、ちゃっちゃと片付けましょう」そう言って、マミは持っていたマスケット銃をバットのように振り回して、
魔女に叩きつける。魔女はその衝撃で吹き飛び、壁にぶつかった。

 戦いは終始、マミが優勢に進めている。

 以前のように、ピンチらしいピンチもない。まだ孵化したばかりだからなのか、魔女のほうも抵抗らしい
抵抗を見せておらず、マミの攻撃を一方的に受けているだけだ。

「よっしゃあ、マミさん行けえ!」

 マミの攻勢に喜ぶさやかの横で、まどかは不安を感じていた。

 どこかで見たことのあるような光景。

「さあ、そろそろトドメを行くわよ」

 マミはそう言うと手のひらに魔力を集め、大きな銃、というか大砲を形作る。


「ティロ・フィナーレ!!」
 

 魔女に対する止めの一撃。
 並みの魔女ならば、マミのこの一撃をくらって無事でいることはない。
 並みの魔女ならば……。

「マミさん!?」

「え?」

 ここにいる誰もが勝ちを確信したその時、マミの目の前に巨大な芋虫のような化け物が、
大きな鮫のような牙を持つ口を広げて彼女に襲いかかっていた。


 間に合わない――


 まどかの脳裏に、首のないマミの死体の映像がフラッシュバックする。
10 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:14:26.76 ID:y4wKISZKo
 ここで“また”、マミさんは死ぬの?



 レーザー――


「な」


 ビィーム!!!!



 巨大な化け物が、マミの身体を飲み込もうとしたその瞬間、その身体に何かが当たった。
そして同時に、化け物は内部から爆発した。

「マミさん!」

 強烈な爆発と煙の中で、地面にへたり込むマミの姿が見えた。

「何があったんだ? あ、待てよまどか!」

《危ないよまどか!》

 さやかやキュウべえが止めるのも聞かず、まどかはマミの元に駆け寄った。

「あ、ああ……」

「マミさん」

 まどかはマミの顔をそっと触る。外傷はない。

「か、鹿目さん」

 まどかが触ったことで、正気を取り戻したのか、マミは虚ろな表情で彼女の苗字を呼ぶ。

「危ないところだったね」

「誰!?」

 煙の向こうから人影が見える。
 暁美ほむらかと思ったけれども、彼女よりもずっと大柄だ。大人の男性くらいある。

「間に会って良かったよ」ベージュのジャケットを着た男性はそう言った。

「あなたは……、イチロー?」

 マミとまどかの目の前にいるのは、ユニフォームを着ていないから分かりにくかったけれども、
間違いなく米大リーグ、シアトルマリナーズの外野手、イチローその人であった。

「そうだ、キミを助けに来たんだ。鹿目まどかクン」

「どうして、私の名前を……」

「ちょっとちょっとちょっと!!」

 まどかとイチローとの間に割って入るように、さやかが飛び出してきた。

「どうしてイチロー選手がこんなところに? いや、本当にイチローさん? そっくりさんじゃなくて??」

「ああ、間違いなく僕がイチローだよ」

「メジャークォリティーの?」

「え、うん……」

「さやかちゃん、落ち着いて」

 まどかは興奮するさやかを宥める。
11 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:16:38.30 ID:y4wKISZKo
「あの、イチローさん」

「なんだい」

「私たち、どこかで会ったことありました?」

 まどかは以前、イチローの夢を見たことがある。しかし彼は、まどかが物心ついたころにはすでに
海の向こうでプレーしていた。

 直接イチローと会う、などということがあるはずもない。

 つまり、まどかはイチローと夢の中でしか会ったことはないはずだ。それなのに、なぜか彼女は
イチローと会ったことがあるような気がしてならなかった。

「……いや、はじめましてだよ」

 イチローは少し考えるそぶりを見せつつ、そう答えた。

「何言ってんだよまどか! あんたとイチロー選手が会うことなんてあるわけないだろう? あたしたち、
平凡な中学生だよ」

「えへへ、そうだよね」

「それはそうとマミさん」

「ふえ? マミさん」

 さやかの言葉に、マミのほうを振りかえるまどか。

「よかった、忘れられたかと思ったわ」

 マミはまだ立ち上がっておらず、女の子座りで笑顔を見せた。

「大丈夫ですかマミさん」

「ええ、何とか。少し魔力と使い過ぎたみたい」

「大丈夫ですか? 私につかまってください」そう言ってまどかはマミを抱き起こす。
「ありがとう、鹿目さん」

「いえ」

「それと……」

「ん?」

「本当は一番にあなたにお礼を言わなければならなかったのよね」

「ああ」

 マミは長身の男性に目線を向ける。

「危ないところを助けていただき、ありがとうございます」

「いや、いいよ。大したことはしていない」

「あの、イチローさん」マミを抱えながら、まどかは恐る恐る聞いた。

「なんだい?」

「どうしてここに、日本にいるんですか?」

「あ、確か今ってもう……」さやかも何かに気づいたように言った。

 今はもう、シーズンオフではない。日本ではなく、米国で野球をしているはずである。

「それはね……」
12 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:19:30.78 ID:y4wKISZKo
 ふと、遠くから声が聞こえる。


「イチロー!」


「ん?」


「イチロー! 気を付けて、魔女の本体はまだ生きてるわ!!」


 物凄い勢いで、こちらに向かってきたのは、先ほど巴マミに魔法で拘束されていた暁美ほむらであった。

「危ない!!」

 いきなりまどかを突き飛ばすマミ。

「……!?」

 まどかの意識はイチローのほうを向いていたので、急につきとばされたまどかはバランスを崩す。
地面に倒れこむ瞬間、まどかの目の前に物凄いスピードで何かが通り過ぎた。それはまるで、
駅のホームを通り過ぎる急行列車のように。

 地面に倒れこむ。

 肩に衝撃とともに痛みが走る。しかし今のまどかには、そんな痛みを感じる暇はなかった。

 マミは、自分を守るために突き飛ばしてくれた巴マミはどこにいるのか。

「マミさん!」

 倒れこみながら、さきほどマミがいた場所を確認する。

 そこには、黄色い魔法少女の衣装の身を包んだ巴マミの姿があった。



 よかった――



 しかしほっとしたのもつかの間だった。


 まどかを助けるために、突き出したマミの右腕は、完全に千切れていた。



   つづく
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/09(土) 20:30:25.37 ID:uVwNn6gh0
つづけ!
14 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:33:21.69 ID:y4wKISZKo
と、思ったけど主人公が全然出てきていなかったので、ついでに第二話も投下したいと思います。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 20:33:25.75 ID:/qI1JHYSO
これは期待…!
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 20:33:46.66 ID:V0mZO7KeP
ワロス
17 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:38:35.31 ID:y4wKISZKo
   第二話

   あこがれを持ちすぎて、自分の可能性をつぶしてしまう人はたくさんいます。
   自分の持っている能力を活かすことができれば、可能性は広がると思います。   



 元々力のぬけていたマミの身体は、肩腕を失ったことによりバランスを崩し、その場に倒れこんだ。

「マミさん!」

 マミのもとへ駆け寄ろうとするまどかをさやかが止める。

「待ってまどか! あいつが来る」

 先ほど爆発したかと思われた、大きい顔のついた芋虫のような怪物が、再びその姿を現したのだ。

「イチロー!!」

 振り返ると、魔法少女の服装をした暁美ほむらが到着していた。

 彼女の視線の先には、背の高い細身の青年がいる。

「これを」

 ほむらがそう言うと、いつの間にかイチローの手に黒いバットが握られていた。ミズノ製の木製バット。
イチローがいつも使っているやつだ。

「ふんっ」

 バットを受け取ったイチローはその場で素振りをする。
 すると、その振りで出来た風圧がカマイタチとなり、化け物の身体の一部がまるで鋭利な刃物で
斬られたかように、分離してしまった。

「凄い」

 美しい、と言うほかないほど完ぺきなフォームでバットを振るイチロー。

 しかしその美しさとは裏腹に、そこから生み出される風は強力な武器となっていた。

「ふんっ!」

 今度は、鋭利な刃物というよりも強力な鈍器のように大きな風圧が魔女を襲う。
 地面が揺れるほど。

「イチロー、そいつは本体じゃないわ。本体はもっと奥にいる!」

 いつの間にか、イチローのすぐ側に移動していた暁美ほむらは彼にそう告げた。

「わかった。そこの倒れている彼女を頼む。それから球を一つ」

「一つでいいの?」

「十分さ」

 ほむらは、円形の楯のような物の中から、ローリングス製のメジャーリーグ公式球を手渡す。
18 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:41:18.90 ID:y4wKISZKo
 それを受け取ったイチローは、狙いを定め、それを投げた。

 バッティングのフォームに勝るとも劣らない無駄のない、それでいて美しいフォームが、
一直線で部屋の奥へと進んでいく。

 レーザービーム

 アメリカでそう呼ばれたイチローの送球だ。

 次の瞬間、まるで太陽のような眩しい光が周囲を包んだ。まどかは、あまりの眩しさに思わず
目を閉じてしまう。

 一体何があったのか。

 爆発?

 これで死んでしまうの?

 色々な不安がまどかの脳裏を掠める。 

 しかし次に目を開いた時、そこは先ほど見た病院の敷地内の通路であった。

「あれ? ここは……」

「結界は消えたわ」

「あ……」

 彼女の目の前にいたのは、まどかと同じ学校の制服に身を包んだ暁美ほむらの姿だった。

 そして、彼女の後には、さきほど魔女の結界内で見た、私服姿のイチローがいた。

「ほむらちゃん……、それにイチローさんも」

「あれ? あたし、何してたんだ」

まどかと同じように気がついたさやかも、すぐには今の状況が理解できていないらしい。

「わっ、イチロー選手。本当にいるよ。ってことはやっぱり夢じゃ」

「夢……?」

 振りかえると、そこには制服姿の巴マミが横たわっていた。

「マミさん!」

「マミさん、大丈夫!?」

 さやかがマミを抱き起こす。意識はないようだ。

「でも、確か……」

 まどかの記憶では、マミの右腕は千切れていたはずだ。その場面が脳裏に焼き付いている。

「あれ、右腕が……、ある。やっぱりあれは――」

 しかし、今のマミには、しっかりと右腕がある。これはどういうことか。

 やはり、さやかの言うとおり夢だったのか。
19 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:43:35.81 ID:y4wKISZKo
「夢じゃないわ」

 まどかのわずかばかりの希望を打ち砕くように冷たく響く暁美ほむらの声。

「夢じゃ、ない?」

「ええ、たしかに魔女の結界の中で巴マミの腕はなくなった。でも、彼女は魔力でその肉体を再生させたの。
彼女が今、意識がないのは、魔女との戦いで魔力を消費した上に、更に肉体再生をやってしまったからね」

「そんな……」

「あなたたちもわかったでしょう?」

「え?」

「魔法少女は、“普通の人間”ではないの。普通の人間でありたいのならば、キュウべえと契約して
魔法少女になろう、なんて思わないことね」

「あ、そういえばキュウべえはどこに行ったんだ?」そう言ってさやかは周囲を見回した。

 しかしキュウべえらしき白い生物は見当たらない。

「さっきまで一緒にいたのに」

「んもう、なんだよ。肝心なときにいなくなって。それよりまどか」

「え?」

「マミさん運ぶの手伝って。丁度ここは病院だし」

「あ、そうか」

 まどかはさやかと協力して、マミを外来病棟まで運ぶことにした。

 しかし、ほむらはそれに付き合うこともなく、踵を返した。

「いいのか? ほむら」とイチローを声をかける。

「いいのよ」そう言ってほむらは歩きはじめた。

 まどかは、そんなほむらの後ろ姿を見つめながら、寂しく感じるのだった。

「ほらまどか、行くよ」促すさやか。

「う、うん」

 夕焼けの中で、ほむらとイチローの会話が微かに聞えた。

「ところで今日の夕食はなんだい?」

「明太子スパゲティーよ」

「……そうか」

「ごめんなさい、お買い物に行く暇がなくて」

「いや、気にしなくていいよ。そこは――」

 それにしてもあの二人の関係は何なのだろうか。まどかはそんなことを考えながら、
マミを支えて歩いた。
20 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:45:48.95 ID:y4wKISZKo
   *


 翌日の病院。

「本当にごめんなさいね、心配かけて」

 病院のベッドで巴マミは弱々しくも笑顔を見せる。

「いや、よかったですよ。意識が戻って」

 まどかは、素直に巴マミが生きて、そして意識が戻ったことを喜んでいた。

「そうですよマミさん、やっぱり魔法少女はこうでなくちゃ」

 さやかも、彼女を元気づけるように言う。

 病院にまどかとさやかの手によって病院に運び込まれたマミは、その日のうちに意識を取り戻した。

 医者からは過労によるものだ、と言われたけれども、それが魔力の過剰な消費によるものだということは、
まどかにもさやかにもわかっていた。

 そして翌日の学校の帰りに、まどかたちは入院しているマミを見舞う。

「マミさん、その……、手、大丈夫ですか?」

「え? うん。大丈夫よ」

 マミは、結界の中で千切れたはずの自分の右手を閉じたり開いたりして見せる。

「私のせいでマミさんが……」

「気にしないで鹿目さん。むしろ犠牲になったのが私でよかったわ」

「そんな」

「だって、私は魔法少女だからこうして腕も再生することができる」

「……」

「魔法少女って、こうやって一般の人たちを守ることも義務みたいなものだから」

「マミさん……」

「さすがマミさん、素敵です」さやかは少しおどけながら言う。

「もう、遊びじゃないのよ。魔法少女は」

「……はい」

「ああ、まだ少し疲れが残っているみたい」

「え?」

「しばらく、一人で休ませてくれないかしら」

「そ、そうですね」

「それに、そっちの子は他に行きたいところがあるんじゃないかしら」

 マミはさやかのほうを見て悪戯っぽく笑う。
21 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:48:18.25 ID:y4wKISZKo
「はい? わたし?」

「ああ、上条くんだね。ここの病院に入院しているもんね」

「いやいや、何を言っているんですかマミさん」

「あら、違ったかしら」

「なんで知っているの?」

「お姉さんの情報網を舐めないでもらいたいわね」

「マミさーん」

「うふふ。それじゃ、行ってきなさい」

「は、はい。それでは、失礼します」顔を真っ赤にしながら、さやかは一礼する。

「マミさん、またきますね」

「ええ」

 まどかとさやかは、マミに別れを告げ、病室を出る。

「ねえ、まどか」

「なに、さやかちゃん」

「マミさん、ああ言っているけど」

「うん、魔力の消費ってことは、普通に休んでいるだけじゃ回復できないよね」

 さやかとまどかは、これまでマミやキュウべえから魔法少女に関する説明を一通り聞いている。

 魔法少女が魔力を消費すると、自身の魔力の源泉であるソウルジェムと呼ばれる宝石の
ようなものの中に、“穢れ”がたまってしまう。

 その穢れを除去することによって、魔法少女は消費した魔力を回復させるのだ。

 穢れを除去するには、魔女の卵であるグリーフシードが必要となる。
 まだ、魔女が孵化しそうにないグリーフシードの中に、ソウルジェムの中にたまった穢れを移すことで、
穢れを除去し、魔力を回復させることができるシステムらしい。

 グリーフシードは魔女の卵であり、魔女本体を倒せば手に入れることができる(ただし、
今回のようにグリーフシードが得られないこともある)。

 魔女を倒すには、当然ながら魔力が必要だ。

 しかし、今のマミは多量に魔力を消費しており、とても魔女と戦える状態ではないことは
二人にもわかっていた。
22 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:49:50.74 ID:y4wKISZKo

「どうしよう、さやかちゃん」

「どうしようって、言われても」

「そうだ、あの子に、ほむらちゃんに頼んでみたら」

「私は反対だよ」

 まどかの提案に、さやかは即座に反対を表明した。

「どうして」

「あの子、どうも信用できないんだよね。素生もよくわからない上に、なんだか知らないけどメジャーリーガー
と一緒に住んでいるんだよ」

「そうだけど……」

「私たちだけで何とかするしかないんじゃないかな」

「さやかちゃん、まさか」

「いや、もちろん私が魔法少女になるって、わけじゃないよ」

「……」

「キュウべえなら何か知ってるはずなんだけど。くそ、あいつ昨日から全然見ないけど、どこいったんだよ」

「それはいいんだけどさやかちゃん」

「ん? どうしたのよ」

「わたし、中庭のほうで待ってるね」

「え、どうして?」

「どうしてって、ほら」

「もう、気を使わなくてもいいのに」

「いやいや、悪いよ」

「そ、そうかな」

「もうすぐ上条くんも退院できそうなんでしょう?」

「あ、うん」

「じゃあ、終わったら呼んでね」

「ああ、わかった」

 ここでまどかは一旦、さやかと別れ病院の中庭へと向かった。
23 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:52:35.61 ID:y4wKISZKo
   *


 さやかは少し緊張しつつ、ドアを叩いた。

 しかし、いつも聞えるはずの返事がない。

 もう何十回と行ったであろう幼馴染の見舞い。すっかし見慣れた病室の入り口からは、
何かやら不穏な空気が漂っているように思えた。

「恭介? 入るよ」

「……」

 返事がない。寝ている?

 そうではない。上条恭介はベッドから身を起こし、虚ろに窓から外の風景を見ているだけだった。

「どうしたのさ」

「……さやか」

「あのさ、恭介。新しいCD買ってきたんだ。あの、一緒の聞こうよ」

「やめてくれ。今はそんな気分じゃないんだ」

「何があったの?」

「僕の指……、動かなくなった僕のこの手」そう言って恭介は震える手をじっと見つめる。

「……」

「医者から言われたんだ……、今の医学じゃ、治る見込みがないって……」

「恭介、でも諦めなければ」

「もう無理なんだよ! 僕はもう、あの頃みたいにヴァイオリンは弾けない。音楽なんてもう、くそっ、くそっ」

「恭介っ」

「慰めなんていらない」

「でも……」

「もう、治らないんだから、おしまいだよ。奇跡や魔法でもない限り……」

「奇跡……、魔法」

 ふと、さやかが窓の向こうを見ると、外に見覚えのある白い生物が横切ったような気がした。

(あれは……)

 震えながら涙を流す恭介を見ながら、さやかは言う。

「あきらめないで恭介。奇跡も、魔法もあるんだよ!」

「いい加減なことを言うなよ」

「いい加減なんかじゃ、ないよ」

 そう言うと、さやかは踵を返し病室を出た。目に涙が浮かび、前がよく見えない。

 上條恭介がヴァイオリンを弾けなくなる。大好きなヴァイオリン。

 幼馴染のさやかには、彼が音楽にどれほど情熱を傾けているかよくわかっていた。
 
 だからこそ、ヴァイオリンが弾けなくなるということは何よりも辛いことだ。

 絶望する恭介を、さやかはそれ以上見ていることはできなかった。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/09(土) 20:53:52.55 ID:XTlxcvsYo
イチローの契約金はほむらが払ってるの?
25 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:54:50.19 ID:y4wKISZKo
 病院の廊下を歩きながらさやかは思案する。

 そうだ、私が魔法少女になれば――

 願いごとは、恭介の身体が元の、ヴァイオリンの弾ける身体に戻ること。

 今、さやかの恩人とも言える巴マミは入院しており動けない。魔力の消耗によって、
体力も低下している。魔力の回復には魔女の持つ卵、グリーフシードが必要だが今の
マミにはそんな力は残っていないだろう。

 自分が魔法少女になってマミの代わりに戦えば……。

 恭介も救うこともできるし、マミの力にもなれる。親友のまどかは、あの性格だから戦いには
向かないだろう。だから、自分がやるしか……。

 さやかは昨日から行方不明のキュウべえを探すことを考えた。

 あいつと契約して、絶望している恭介を助ける。


「どこへ行くんだい?」


 ふと、何者かが声をかけてきた。聞き覚えのある声だ。

「あなたは……」

 そこには長袖のシャツにジーンズ姿のイチローがいた。

「たまたま見かけたものでね」

「あなたには、関係ないことです。あいつ、暁美ほむらはどうしたんですか?」

「今日は別行動だよ。いつも一緒にいるわけじゃない」

「そうですか。では、私はこれで」

 さやかは、イチローと目を合わせないように通り過ぎようとした。

「まさかとは思うけど――」

「……」

「キミは、キュウべえと契約しようとしているのかな?」

「!!」
26 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 21:00:20.23 ID:y4wKISZKo
 さやかの脚が止まる。

「ここの病院に入院している幼馴染の怪我を治すために、とか」

 イチローのその言葉にさやかは振りかえり、彼の顔を鋭く睨みつけた。

 彼は動揺する様子もなく、こちらを悠然と見据えている。さやかはまるで、自分の心

がすべて見透かされているような気持ちになった。

「だ、だったらどうだっていうんですか?」

「巴マミの様子は知っているだろう?」

「う……」

「魔法少女になるということが、どれだけ過酷な運命迎えるかということも」

「だから、それもあなたには関係ないでしょ」

「……そうだよ」

「だったら」

「確かに僕には関係ない。しかし、キミを大切に思っていてくれる人はどうだい?」

「え?」

「鹿目まどかは、キミが戦いの運命に身を投じることをどう思うだろう」

「それは……」

「美樹さやか。安易に魔法なんて“力”に頼るのはよくない」

「それなら、どうすればいいのさ」

「明日、今日と同じ時間にまた病院に来てくれ」

「はい?」

「キミの幼馴染の、えーと……」

「上条恭介」

「そう、その上条くんという子を励ましてみせるよ」

「励ます? どうやって? まさかあなたが直接行って励ましますか」

 できるわけがない。さやかはそう思った。

 ヴァイオリンという手段を奪われた恭介がいかに絶望しているのか、彼女には痛いほどわかって
いたからだ。

「いや、僕にはそれはできない」

「え? じゃあどうやって」

「僕の“尊敬する人”に来てもらうことにするよ。彼ならきっと、奇跡だって起こせるはずだ。
もちろん魔法なんか使わずにね」

「奇跡? そんな」

「魔法少女になるかならないかを決めるのは、それからでも遅くないと思うよ」

「……」

「それじゃ、またいつか」

 そう言うと、イチローはさやかの向かう方向と逆の方向へ歩いて行った。

 さやかは、その姿を茫然と見つめるよりほかなかった。



   今度こそ本当につづく
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/09(土) 21:02:37.79 ID:uVwNn6gh0
イチロー“が”尊敬する人…!?
きっ気になるッ!
28 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 21:05:32.81 ID:y4wKISZKo
 本日はこれにて終了いたしたいと思います。
質問等につきましては、すいませんが中盤以降のネタバレもありますのでご容赦ください。

 次回、第三話ではスペシャルゲストが登場します。

 それでは、メジャークオリティー(おやすみなさい)!
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 21:15:56.96 ID:fjGo6G+n0
ほむほむとイチローさんだとwwww

おつ、期待
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/04/09(土) 21:30:57.34 ID:PbQfPP6AO


やっぱりイチローはすごいなあ
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/09(土) 22:02:25.30 ID:BddD1mUuo
イチローなら仕方ない
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 22:55:40.25 ID:/BCQ67AA0

そして、なんぞこれwwww
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 23:32:53.46 ID:fRWcuEXSO
地の文に違和感を感じないこともないが、期待してまってる。

やっぱイチローが絡むSSは面白いな
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/04/09(土) 23:50:13.22 ID:ktfIxkN20
>>温卵ぶっかけうどんを食べていたマミ

ワロタ
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/10(日) 00:46:11.10 ID:cc8IwXt/o
イチロー大活躍

なおマミさんは、生存
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/10(日) 01:01:04.20 ID:YJThbnE30
乙 おもしろかった
てっきり変身してメジャーリーガーになるもんだと
さしずめ、きゅうべぇはダン野村か
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/10(日) 01:02:34.46 ID:S+/RP0Bio
誰かはやると思ってたけど、想像以上のクオリティで吹いたw
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/04/10(日) 02:47:22.46 ID:DS94RLk3o
普通に介入して助けるだけかと思ったら
まさかのほむらとコンビで行動とは予想外だった
マミは生還したけど一旦お休み状態か
と言うことは杏子の出番フラグもあるな
そしてQBが出なかったのも気になる
これは続きも期待せざる得ない
39 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/10(日) 20:35:15.56 ID:5SfnCg8To
>>34
そこに気づくとはやはり天才か……

というわけでみなさんこんばんは。
1〜2話は説明や、端折った場面も多く読みにくかったかもしれません。
第三話からが本番です。いや、むしろ三話だけが本番かもしれません。
それは言い過ぎか?
というわけではじまります。
40 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/10(日) 20:38:17.43 ID:5SfnCg8To
 


         魔法少女 まどか☆イチロー


             第 三 話

 こんなに苦しいのは自分だけか、と思うこともたくさんあります。
 それを見せるか見せないかの話です。
 みなさん、ぼくのことは、疲れていないと思っていませんか?
41 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/10(日) 20:41:00.18 ID:5SfnCg8To
 さやかがイチローと会った翌日。

 彼女は行こうかどうか迷ったけれど、結局上条恭介の入院する病院に行くことにした。

「イチローさんの尊敬する人って、誰なんだろうね」

 一人で行くのは少々心細かったため、まどかも一緒だ。

 不安がないわけではない。というよりむしろ、不安しかない。あの状況で半ば自暴自

棄になった恭介をどうやって励ますというのだろうか。

 イチローは一体誰に頼んだのか。

 そうまでして自分を魔法少女にさせたくないのか。

「どうしたのさやかちゃん」まどかがさやかの顔を覗きこむ。

「いや、なんでもないよ」

 どうも考えるのは苦手だ。小学生のころから考えるよりも先に身体が動いてしまう性

格だっただけに、頭の中でぐるぐると考えていると嫌になってくる。

 恭介の病室に行く前に、一度巴マミの病室に寄って様子を見に行くと、マミは昨日よ

りは元気そうな顔をしていた。けれども、最初に会ったときのような覇気はまだ感じら

れない。

 さて、マミのことも気になるけれど、今のさやかにとっては、やはり恭介のことだ。

 病室に行くと、昨日よりも若干落ち着いた恭介がいた。

「どうしたんだ? 今日は二人で」

 落ち着いている、とうより気力が萎えていると表現したほうが正しいかもしれない。

「今日はさ、恭介を元気づけようと思って、ここに“ある人”が来る予定なんだ」

「元気づける? 別にそんなこと頼んでないよ」

「ああ、うん。そうなんだけどさ。もう決まっちゃったことだし」

「どういうこと?」

 さやかと恭介がそんな会話をしていると、病院のスピーカーから聞き慣れない音楽が

流れてきた。

 やたらテンポの早い曲でドラムの音が激しく響く。

「ああ、この曲は」まどかが何かに気がついたようだ。

 たしかにこの曲にはさやかにも覚えがある。










 布袋寅泰の『スリル』だ!
42 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/10(日) 20:43:16.52 ID:5SfnCg8To


「うおおおおおおおおおおお!!!!!」

「ぬわっ!」

 急に恭介が寝ているベッドが動いたかと思ったら、そこから何者かがはい出してきた。

「ぎゃあ!」

「わあああ!」

 その人影をよく見ると、上半身が裸で下半身は黒タイツの男だった。男の頭髪は生え

ているけれども極めて薄く、ハゲと言っても過言ではない。

「うおらあああああ!!」

 気合いを入れて、その男は右へ左へと勢いよく倒れたかと思ったら、今度はシャチホ

コ立ちと言われる特殊な三転倒立をキレイに決めて見せた。

 そして素早く立ち上がると、気合いを入れて叫ぶ。


「俺が江頭2:50だああああああ!!!!」


「うそ……」


「きゃあああ!! さやかちゃん、凄いよ! エガちゃんだよ! 本物のエガちゃんが

いるよ!」

 まどかは、イチローと会った時よりも明らかに興奮している。

「なんでこんなところに。何かの間違いじゃないの? バラエティ番組の収録現場を間

違えたとか」さやかはありえる可能性を口にしてみた。

「今日はあの、イチローくんの頼みでここに来た!」

 間違いではなかった。そう思いさやかは頭を抱える。

 なんだか危険そうなので、まどかだけでもこの病室から逃がそう。そう思い隣にいる

まどかのほうを見ると、すでにそこにはいなかった。

「え?」

 いつの間にかまどかは、江頭2:50の隣にいたのだ。

「あの、エガちゃん、じゃなかった。江頭さん」

「なんだお前は!」

「私、鹿目まどかって言います! あなたのファンなんです! もしよろしければ、そ

の、後でサインもらってもいいですか?」

「え、ああ、いや……」

 普通の客(特に女性)とは違う反応に少々うろたえる江頭。

「ごめんね、本番中そういうことを言うのは」

「あ、ごめんなさい」

「いや、いいからいいから」

 恥ずかしそうに小声で話をしている江頭の様子は、見ているさやかのほうが恥ずかし

くなるほどである。
43 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/10(日) 20:45:13.29 ID:5SfnCg8To
「くそう、気を取り直して、ドーン」

 そう言うと、江頭はチャコット製の黒タイツの股間の辺りに右腕を突っ込んで、『ドーン』
の動作をやった。

「ドーン」まどかも手をグーの形にして、上に振り上げながらそれに合わせる。

「ドーン」(江頭)

「ドーン」(まどか)

「ドーン」(江頭)

 なんだこの光景は。

 さやかと同様に、ベッドにいる上条恭介もあっけにとられているようだ。しかしエンジン
のかかってきた江頭はそんなことは気にしない。

「お前が上条恭介だな!」ギロリと、不気味な目線を恭介に対して向ける江頭。

「え、何か」

「事故で身体が不自由になったのは確かに気の毒だ。だが俺は、お前なんか励ましてや

らねえぞ!!」

「はあ?」

「おい、話が違うじゃないか」思わず声を出すさやか。

「外野は黙ってろ!」しかし江頭はそれを一喝する。

「べ、別に励まして欲しいなんて頼んでませんよ」興奮する江頭に対し、恭介はやや冷

めた口調で反論した。

「とう」

 恭介が言い返すやいなや、江頭は軽く飛んだ後、彼にジャンピングエルボードロップ

をくらわした!

 江頭の身体は細いので、多少体重を乗せたとしてもそれほどダメージにはならない。
けれど、入院生活で弱っている恭介に対してはかなりの衝撃になることだろう。

「お前何やってるんだよ! 相手は入院患者だぞ」

 さやかは文句を言ってみたものの、今の江頭に彼女の言葉は届かないようだ。

「自惚れるなクソガキ!」

 ゴホゴホとせき込む恭介に対して江頭は叫ぶ。

「な、何をするだ……」

「上条恭介、お前はモテモテらしいな」

「はい?」

「俺の調べたところだと、志筑仁美という女子生徒がお前のことを好きらしいぞ」

「え、うそ……」

「さやかちゃん!」

 江頭のその情報に、恭介よりもさやかのほうが先にショックを受けた。
44 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/10(日) 20:48:19.41 ID:5SfnCg8To
「俺のライブに来るやつらなんて、結婚はおろか恋愛だってまともにできねえような
やつらばっかなんだ!

 俺はそういうやつらを励まさなきゃ、元気づけなきゃならないんだよ!

 お前なんかは、ぜえええええったいに、励ましてやらねえんだからな!!」

「だったらアンタなんのために来たんだよ!」さやかは外から(無駄だとわかりつつも)ツッコミを入れる。

「俺が今日ここに来た理由、それは……」

 先ほどまでの喧騒がうそのように静まり返る病室。


「上条きょうすけえええええええええ!!!」


 その静寂を江頭は自らビリビリと破り捨てた!

「今日はお前に一言ものもおおおおす!!」

「出た! モノ申すのコーナーだよさやかちゃん!!」

「まどか落ち着け」

 江頭ほどではないけれど、興奮するまどかをなだめつつさやかは、もう突っ込んでも

無駄だと悟り、そのまま成り行きを見守ることにした。

「なんでしょうか」不機嫌そうな顔の恭介。

「お前、ヴァイオリンを弾いていたらしいな」

「そうですけど、それがなにか」

「お前にとって、ヴァイオリンってのは、そんなに大事なものか」

「何を言っているんですか」

「聞いてんだよ、答えろ!」

「だ、大事ですよ。大事だった、と言ったほうがいいかもしれませんが」

「だった?」

「ほら、もう知ってるんでしょう? 僕の指はもう以前のように自由には動かせないんです。
だから、もうヴァイオリンは弾けない。だから、音楽なんて……」

「お前にとって、ヴァイオリンは大事なものなんだな」

「……はい」

「そんなに大事か」

「そうです」

「だったら命かけられるか?」

「え?」

「だから命をかけられるかと聞いているんだ」

「どういうことです」

「だからさ! 命がけでヴァイオリンを弾きたいって気持ちがあったかって聞いてんだよ!

 明日もし死ぬって分かってて、それでも弾き続けたいと思っていたか!? ああ??」

「それは……」

「ヴァイオリンを弾くな、弾くと殺すぞ。そう言われて、それでも弾きたいと思ってたのかよ!」

「いや、そんなことは」
45 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/10(日) 20:51:07.99 ID:5SfnCg8To
「俺はな、命をかけているぞ! お笑いに命をかけてるんだ!! わかるか!!」

「命を……、かける」

「俺はお笑いをやめるくらいだったら死んだほうがマシだ!!

 笑いのためだったら寿命が縮まってもいいし、死んだっていいんだ!!!!」

「……!」

「俺は今まで命がけで笑いをやってきた!

 番組の収録中にプールの中で死にかけたこともある!

 病院に担ぎ込まれたことだって一度や二度じゃねえ! 

 それでも俺はやめねえよ! お笑いは俺の生きている証だからな!

 その覚悟だよ! それくらいの覚悟があってお前は音楽をやっていたのか!?

 お前のヴァイオリンに対する、音楽に対する気持ちってのはどの程度だ!」

「……どの程度って……」

「絶望するってのはな、その、本当に死にたくて死にたくてしょうがなくなるんだよ。

 生きてるのが辛くなるんだよ!

 俺はなんのために生きてるんだってな。俺からお笑いを取りあげたら多分そうなるよ。もうそれしかないんだもん。
 
 病気で芸ができなかった時期は、毎日死ぬことばっか考えてたよ!
 
 本当に、毎日毎日だ。だが俺は踏ん張った。
 
 もう一回芸がやりたかった。観客が笑うところが、見たかった!
 
 たくさんの仲間が支えてくれた!

 そいつらに恩返しする意味でも、俺はステージに立ちたかったんだ!!!」

「……!!」

「上条恭介!! 今のお前は不幸なんかじゃない! 憂鬱な雰囲気に酔って周りに甘えて
いるだけのただのお子様なんだ!」

「うっ……」

 とうとう恭介は、一言も言い返せないまま黙り込んでしまった。

「恭介。……もし、もしも本当にお前が絶望して、死にたくなったなら、俺のライブを
見にこい」

「……え? ライブ?」

「俺の姿を見ろ。そしたらさ――」

「……」




「死ぬのがバカらしくなるぜ」
46 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/10(日) 20:52:58.60 ID:5SfnCg8To
 息切れをしながら語る、そんな江頭の話を聞いて、まどかは涙をぬぐっていた。

「エガちゃん、カッコイイよ」

 さやかも、ほんの少し江頭のことをカッコイイと思ったけれど、それを口にしたら
負けたような気がしたので絶対に言わなかった。

「あっ、バイトの時間だ!」

 突然、江頭は左腕を見て(当然時計はしていない)そう言うと、特に別れの挨拶もなしに、
病室から出て行ってしまった。

 江頭が出て行った病室は、今度こそ本当に静かになった。

「ああ、エガちゃん行っちゃった……」まどかは本当に残念そうに言う。

「あの、恭介?」

 江頭が出て行った後、ピクリとも動かない恭介に対し、さやかは声をかけて見る。

「……めん」

「え?」

「ごめん、さやか」

「ど、どうしたんだよ一体」

「僕がバカだった」

「さやかは全然悪くないのに、キミや家族に八つ当たりしたりして、本当にバカだ」

「どうしたんだよ、今さら」

「僕は諦めない」

「恭介?」

「僕は諦めないよ。たとえヴァイオリンが弾けなくなっても、僕は、音楽が好きなんだ!」

「あんた……」

「そうと決まればさっそくリハビリだ。絶対に治ってやる」

「うん」

「さやか」

「え? なに」

「ごめん、そして、ありがとう」
47 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/10(日) 20:55:05.13 ID:5SfnCg8To
   *

 
 恭介もすっかり元気を取り戻したため、さやかたちは安心して帰宅することした。

「それにしてもカッコ良かったよね、エガちゃん」まどかが顔を赤らめつつ、嬉しそうに喋る。

 さやかにとって恭介が元気になったことは非常に嬉しいことではあるけれども、それが
江頭2:50のおかげだと思うと、なんとなとなく釈然としない思いが残った。

「あの、すいません」

「え?」

 受付付近で病院の職員らしき女性が二人に声をかけてきた。

「私ですか?」

「ええ、あの、鹿目まどかさんというのは……」

「あ、私ですけど」

「ああ、よかった。実はある人からこれを渡して欲しいと頼まれたもので」

「これを?」

 まどかは、職員の女性からA4サイズの封筒を受け取る。

「何だろう」

 そう言いながらまどかは封筒を開け、中のものを出す。よく見るとそれは色紙だった。

「あっ」思わず声を出すさやか。

「エガちゃんのサインだあ」

 まどかが受け取ったものは、紛れもなく江頭2:50のサインの書かれた色紙であった。
しかも封筒には、色紙だけなくオリジナルの絵ハガキまで入っている。

「エガちゃん、覚えててくれたんだね。嬉しいな」

 まどかは、あの病室で江頭にサインをねだっていた。そしてそれを江頭はしっかり
覚えていたようだ。


「カッコイイじゃん……」


 さやかは「負けた」と思ったけれど、同時に心が少し楽になった。
48 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/10(日) 20:56:26.00 ID:5SfnCg8To
   *


 その日の夜、まどかは江頭2:50からもらったサインや、メッセージの書かれた絵ハガキ
を見ながらニヤニヤしていると、父が部屋のドアをノックしてきた。

「まどか、起きてるか?」

「なあに、お父さん」

「さやかちゃんから電話だ」

「え? さやかちゃん」

 どうしたのだろうか。

 不思議に思いつつ、まどかは電話のある居間へと向かった。

「もしもし、さやかちゃん? どうしたの」

『あ、まどか。ごめん、おお、落ち着いてき、聞いてくれないか……」

「さやかちゃんこそ落ち着いて。どうしたの?」

『それが、ついさっき、マミさんのことが気になって病院に電話をかけてみたんだけど』

「うん」

『マミさん、病室からいなくなってたんだって。今病院の人が探してるって』

「ええ!?」




   つづく
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/10(日) 20:57:03.40 ID:gs/QWNtN0
エガちゃんかkk江頭△
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2011/04/10(日) 20:57:41.76 ID:1hKOlbQ7o
江頭△
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/04/10(日) 20:58:49.63 ID:5+9SuO8AO
江頭△
52 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/10(日) 21:00:26.84 ID:5SfnCg8To
とりあえず終わります。
スペシャルゲスト、いかがだったでしょうか。
イチローさんの活躍を期待した方はすみません。
次回は、出てきますんで、勘弁してください。
それでは、おやすみなさいませ。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/04/10(日) 21:26:23.49 ID:Bv7LCvTLo
江頭△
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/10(日) 22:03:13.17 ID:okZ6lnHPo
乙っちまどまど!
エガちゃん脳内再生余裕でした
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/10(日) 22:36:48.84 ID:fs8sXz8Yo
江頭△
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/11(月) 03:05:31.44 ID:Pj5y/UMJo
仰木監督だと思ってたがこれは良い
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国・四国) [sage]:2011/04/11(月) 07:26:43.45 ID:dzSSRwkAO
リリカルなのはの中の人は、エガちゃん好きだけど、
まどかは、わからん。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/11(月) 16:31:59.88 ID:MSQOD32DO
無双が許されるのはイチローとセガールだけ!

あんこちゃん期待
59 :エガポン面白かったね ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:07:30.10 ID:YSX7FtLEo
 みなさんこんばんは。
 エガちゃん好きが多くて安心しました。

 今宵こそは、イチローさんのターンです。それでは、やっちゃいます。
60 :まど☆イチ ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:08:56.15 ID:YSX7FtLEo



   魔法少女 まどか ☆ イチロー


          第四話


 いつも、恐怖と不安と重圧を、抱えています。
61 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:12:03.53 ID:YSX7FtLEo
 江頭2:50が上條恭介のいる病室で暴れていた同じ時刻――

 巴マミはベッドの上で濁りきった自らのソウルジェムを眺めていた。

 数日前まで、キレイな黄金色の輝きを見せていたそれは、今は見る影もない。

恨み、妬み、悲しみ、恐怖、あらゆる負の感情のが自分の心の中に流れ込んでいるのを感じる。

 さやかやまどかなど、後輩たちの前では元気そうに振舞ってはいたけれども、

彼女たちが部屋を出て行った後、イライラがとまらず親指の爪を噛んだりした。

 マミはグッと、ソウルジェムを握りしめ、それを指輪の形に変化させる。

 このままではいけない。事態を打開するための方策をあれこれと考えてはみるけれども、

どれも上手くいきそうにない。

 そんな時、不意に人の気配を感じた。

 まどかたちが戻ってきたのだろうか。そう思い顔を上げると、そこには見覚えのある黒髪の
少女が立っていた。

「あなた……」

 暁美ほむら。マミと同じ魔法少女の女子中学生だ。

「なんの用?」

 以前のように、感情を覆い隠して優しげに言うことができない。生の感情が声とともに漏れ出す

のを抑えられない。

 ほむらは無言で何かをこちらに投げてよこした。

 ぽとり、とシーツの上に球状の物体がころがる。

「グリーフシード……」

 いわゆる“魔女の卵”。魔女が孵化する前のグリーフシードには、魔法少女のソウルジェムに

たまった“穢れ”を除去する効果がある。

それが、魔法少女にとって失われた魔力を回復させるための唯一の方法。
62 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:14:48.82 ID:YSX7FtLEo
「どういうこと……?」マミはほむらを睨む。

 仲間ではなく、むしろ敵だと思っていた相手からの施しに彼女の心はいたく傷ついた。

「使いなさい。今のあなたには、新しいグリーフシードを狩るだけの余力はないでしょう?」

「……」

 図星だ。体力自体は回復しつつあるけれども、魔力の消耗はいかんともしがたい。

「このまま魔力を回復しなければ、どうなってしまうか。あなたはもう、わかっているのでは?」

 ほむらのその言葉にマミは奥歯を噛みしめる。

 時間とともに心が黒く染まって行く感覚。

 魔法少女の力が、明るく熱いものであるならば、今のマミの力は暗く冷たいものだ。

「ここの病院で戦った魔女がいるわね」

 唐突に話し始めるほむら。

「それがなにか」

「あなたはあの時、あの魔女と戦った時に、死ぬ運命だった」

「……」

「右手一本で済んだのは、不幸中の幸い、いえ、むしろ不幸中の不幸だったのかもしれない」

「何が言いたいの」

「鹿目まどかに関わるのはやめなさい」

「またその話……」

「魔法少女になった後の、結末は変えられない」

「……」

「あの子を道連れにするつもり?」

「違うっ! 私はっ……」

「……」

「私は、一人でも多くの人を……、護るために……」
63 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:16:43.02 ID:YSX7FtLEo
 自信が、誇りが、崩れて行く。

 今まで自分は何をやってきたのか。

 それはとても正しいことだと思っていた。

 本当は怖かったのだ。怖くて怖くて、そして寂しくて。

 そこにあの子が現れた。



 鹿目まどか――



 闇に沈みそうになる自分のこころを照らしてくれる太陽のような少女。

 欲しい。あの輝きが欲しい。

「もし、あの子に何かあったら――」

 ほむらは、マミの思考を断ち切るように、一瞬語気を強める。

「その時は私があなたを“始末”する」

 一切の感情を排したその言葉に、マミの背筋が凍る。しかし同時に、

そんな冷酷な言葉が心地よくもあった。


 死ね、

 殺す、

 壊す、

 犯す、

 盗む、


 心が負の感情を求めている。

 あれだけ嫌っていた感情を、今は求めずにはいられない。

 もう、自分は自分ではないのか。




 そう思った瞬間、巴マミは壊れた。



   *
64 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:19:13.62 ID:YSX7FtLEo
 夜の街で、家を抜けだしたまどかは、同じく家を出たさやかと合流する。

「マミさんはどこ?」

「わからない。携帯も通じないし。とにかく病院にはもういないって」

「そんな……」

「マミさん、あんな身体でどこへ」

「考えても仕方ないよさやかちゃん」

「う、うん。そうだな」

「マミさんを探そう」

「マミさんが行きそうなところ……」

「行きそうなところ」

 二人はマミのことを考える。

 ふと、まどかは気づいた。

 自分はマミのことをどれだけ知っているのだろうかと。魔法少女として戦っていたことは
知っている。魔法少女に関する知識を色々と教えてもらった。

 しかし、個人としての巴マミはどうだろう。

 実は彼女のことはあまり、というかほとんど知らない。

 紅茶やケーキが好き、というくらいは知っているけれど、それ以外はよくわからない。

マミと会う時、彼女の服装は常に学校の制服だったし、魔法少女の時の衣装と学校の制服以外、

私服姿を見たことがない。


 結局、まどかは魔法少女としての巴マミしか知らないのだ。

 個人としての巴マミは、何が好きで、何が嫌いで、どんな家族構成で、どんな音楽を聞いて……。

「マミさん……」

 結局その日、マミが見つかることはなく、翌日も学校があったため、そのまま家に帰ることになった。
65 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:20:57.63 ID:YSX7FtLEo
 翌日、まどかは普段あまり行くことのない三年生の教室がある階へと足を運んだ。

 マミを探す手掛かりがなにかるかと思ったからだ。

 しかし――

「巴マミ? あんまり聞かないな」

「巴さん? いたっけ。ああ、休んでるんだ」

「あんまり話をしたことないからなあ」

「なんか上品な感じだけど、近づき難いっていうか……」

「あの髪型はどういう構造なんだろうか」

「……だれ?」

「アンタ、あの子のなんなのさ」

「……、胸が……、いや、何でもない」

「放課後になるとさっさとどっか行って、よくわからないって感じ」

「一人暮らしなんでしょう?」

「うーん」

 正直、同級生からの話ではマミの人となりを把握するのは難しかった。

 入院していたけれど、病院から行方不明になった女子生徒。

 しかしながら、同じ学校の生徒たちの関心は極端に低かった。

 中には、同じクラスの生徒ですら、巴マミの存在を知らない者がいたのだ。

 まるで、巴マミという人間がこの世からいなかったかのように感じさせられる。

 マミは三年生の新学期にこちらに転校してきたようで、転校してからまだ、親しい友人もいなかったようだ。
 
66 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:23:52.75 ID:YSX7FtLEo
 昼休みの屋上。

「ねえ、さやかちゃん」

 父の作った弁当を食べながら、まどかは隣にいるさやかに話しかける。

「なに」

「人って、なんだろうね」

「どうしたのまどか、ずいぶん哲学的なことを聞くじゃない」

「いや、そんな難しいことじゃないんだけど」

「わたしバカだから、あんまりそんなことはわからないよ」

「三年の人たちにね」

「うん?」

「マミさんのことについて色々聞いてみたの」

「そう……」

「マミさんのこと、ほとんどの人が知らなかった」

「……」

「マミさん、色々がんばっていたのにね」

「そうだよね」

「やっぱり、辛いよね。わかってもらえないと」

「うん」

「さやかちゃん」

「なに」

「探そうよ、マミさんを。まだこの街にいるはずだよ」

「どうしてそう思う?」

「なんだかわからないけど、感じるの。まだ近くにいるような気がして」

「そっか。じゃあ、付き合うよ」

「ありがとう、さやかちゃん」

「マミさんは、私たちの命の恩人だしね」

「うん」


   *



 その日の放課後、まどかたちはマミの行きそうな場所、好きそうな場所などを探し回ってみた。

しかし、マミらしき人影はおろかその痕跡すら見つからない。

 この日街は、人通りのわりに静かで異常なほど平和だ。

 街中を歩き回りくたくたになった二人は、夕闇に染まる公園のベンチに腰掛ける。
67 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:26:58.85 ID:YSX7FtLEo
「マミさん、見つからないね」群青色の空にポツリと浮かぶ一番星を眺めながらさやかは言う。

「うん……」一方まどかは俯き、足元を見た。

「やっぱり、どこか別の場所に行ってしまったのかなあ」

「それは……」

 ないと思う。根拠はないけれども、まどかにはそんな確信があった。

「私、もう一度探してみる」

「ねえまどか、そろそろ帰った方がいいんじゃないか? まどかのお父さんも心配してる
だろうし」

「それでも、もう少しだけ」

「まどか……」

「行こう、さやかちゃん」

「ん、ああ」

 まどかは折れそうになる自らの心を鼓舞するように立ちあがり、そして一歩ずつ歩き

はじめた。

 しかし次の瞬間、二人は全く違う世界に足に踏み入れてしまう。

「ここは……」

「まどか!」

 自分たちは今まで公園内にいたはずだ。しかし今はまったく別の場所にいるような感覚。

この空間には覚えがある。

 現実であるけれど、その一方で夢の中にいるような感覚の空間。

「魔女の、結界……?」

「大変だまどか!」

 病院の近くで見たような、マミについて行った時に見たような、あの魔女の結界の内部に今、
まどかとさやかはいた。

 結界内には魔女の使い魔が侵入者を排除しようと襲ってくる。魔法少女であるマミのように、
対抗手段を持たないまどかたちにとって、この空間は危険である。


それこそ、オオカミの群れの中に放り込まれた羊のように。
68 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:30:52.50 ID:YSX7FtLEo
 不安の表情を隠さないさやか。しかし、それを横目にまどかは別のことを考えていた。

「ねえ、さやかちゃん」

「なんだよ。早く出口を探さないと」

「この空間、どこかで見たことがあるよ」

「え?」

「マミさん……」

「はい?」

 ぐるぐると回る不気味な空間、その中にはティーカップやポット、銀色のマスケット銃、

それに黄色い花など、マミを彷彿とさせるようなアイテムがいたるところに散見された。

「奥に行こう、さやかちゃん」

「どうしたんだよまどか。こんなところ……」

「多分、出口はないと思う」

 どこまで進んだのかよくわからない。時間も、空間もゆがみきった結界の中でまどかは
自分の勘だけを頼りに、ひたすら最深部へと向かった。

不安がないと言えばうそになるけれど、それ以上に自分でもわからない何かが彼女を
突き動かしていた。

 幸い、病院のときのように途中で次々に使い魔が襲ってくる、ということはなかった。

虫や小さな鳥のような使い魔が寄ってくる程度だ。


 そして、不気味な鉄製のドアが目の前に現れる。


 おそらく、この先に行けば……、マミはいる。


 まどかは、震える手をグッと握り締め、覚悟を決めてからドアノブに手をかけた。

 その先は、結界の最深部らしく、開けていた。

 先には一面に広がる麦畑も見え、天井も明るい黄色を中心とした配色だ。


 空間の中央には、壊れて、ボロボロになった乗用車がひっくり返っていた。。
69 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:34:48.96 ID:YSX7FtLEo
「あの車って……」さやかがそう言いかけた瞬間、

「……!」

 車からどす黒い泥のようなものが溢れだす。

 そしてその泥は、小さな山のような塊となる。それはまるで、巨大なスライムのよう

にも見える。

「あれは……」


《あれが巴マミだよ、まどか》


 聞き覚えのある声が耳、ではなく脳裏に響いた。

「キュウべえ!」

 白い身体に大きなシッポ、そんな犬でも猫でもない謎の生物がそこにいた。

「今、あれをマミさんって言ったの?」やや涙声になりながらまどかは聞く。

《もちろん。正真正銘、巴マミ姿さ》

「そんな! だってあれ、あの姿、完全に魔女じゃないか!」

 キュウべえの言葉を聞いたさやかが反論する。

《そうだよ、魔女だよ。マミは魔女になったんだ》

「どういうこと、キュウべえ!」

《魔法少女が魔力を使えばソウルジェムに穢れがたまる。その穢れがどんどんたまって

いって、完全に染まれば彼女たちは魔女へと変化する》

「そんな……」悲しみとともに言葉が漏れる。

《魔法少女から魔女へ、狩る者から狩られる者へ。実に自然なサイクルさ》

「そんなのってないよ」

《どうしたのさ。当り前のことじゃないか》

「当り前って……」

《どうしてそんなに驚いているのさ》

「あなた、魔女になるなんて一言もいってないじゃない!」


《キミたちが聞かなかったからだよ》
70 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:37:16.27 ID:YSX7FtLEo
「ちょっと待って、ふざけないでよ。あれがマミさんっていうの?」さやかも動揺して

いる。

《むしろマミは幸せだと思うよ》

「幸せ……?」

《こうして魔女として再び生きることができるのだから。今度は希望ではなく呪いや絶望
をまき散らす側として》

「……!」

 足元が揺れる。

 地震?

 違う。

 先ほどまでこの空間の中央でうねうねと蠢いていたスライムがこちらに向かって、一直線に
触手のようなものを伸ばしてきた。

「危ない!」とっさに身を伏せるまどか。

 爆発――

 空気の振動が肌に伝わる。

 気がつくと身体がふわりと浮いているように感じた。爆風で吹き飛ばされたのだろうか。
それにしては、優しく包み込まれているような。

 まどかは勇気を振り絞って目を開けた。すると目の前に、見覚えのある顔があった。

「ほむら……、ちゃん?」

 桃色のカチューシャをつけた魔法少女姿の暁美ほむらが、まどかを抱いて飛んでいた

のだ。

 そして着地。衝撃などない、まるで羽毛のようなやわらかい着地だった。すぐ横を見ると、
自分と同じようにイチローに抱かれるさやかの姿が見えた。



「どこ触ってんのよ!」


「あいたっ!」
71 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:40:23.11 ID:YSX7FtLEo
 とりあえず、さやかとイチローとのやりとりは見なかったことにして、まどかはほむらに言う。

「ほむらちゃん、助けてくれてありがとう。それで、あの魔女は……」

「彼女は、巴マミね」

「知ってるの……? だったら」

「無駄よ」

 まだ何も言っていないけれど、ほむらはまどかの考えをすべて見透かしたかのように言った。

「ほむらちゃん……」

「魔女になってしまった魔法少女は、すでに“生前”の記憶は持っていない。だから、
何を言っても通じないわ」

「それでも」

「このまま彼女を放置していれば、ほかの魔女と同じように無関係の人間を引きこんで、
新たな犠牲が出てしまうから」

「ほむらちゃん、どうするの?」

「ほむら」

 すっと、ほむらの右肩に男性の手が優しく乗せられる。

「イチロー……」ほむらが振り返ると、そこにはイチローがいた。

「大丈夫、美樹さやかだっけ? 彼女なら安全な場所に避難させた」

「頬がちょっと腫れてるけど」

「そこは聞かないでくれ」

「さやかちゃん、無事でよかった」

 イチローと一緒ならまず大丈夫だろう、という気持ちがまどかにはあったので、それほど
さやかに対する心配はなかった。

 それよりも気がかりだったのは魔女のほうだ。
72 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:42:52.74 ID:YSX7FtLEo
「イチロー、あの魔女は私にやらせて」

「どうして?」

「魔法少女のけじめは、魔法少女がつける」

「ほむらちゃんちょっと待って、あれはマミさんだよ」ほむらの冷徹な言葉に、
まどかは口を挟む。

「そう、あれは“巴マミだったもの”。今は――」

 その先の言葉はわかっていた。

 いやだ、聞きたくない。まどかがそう思った瞬間、

「待ってくれ、僕に考えがある」

 イチローがほむらの言葉を遮るように言う。

「イチローさん……」

「イチロー、考えってなに。前にも言った通り魔女になったら……」

「わかってるさ。でもやれることはやりたい」

「イチロー……」

「鹿目まどかくん、だったね」ふと、イチローはまどかのほうを向いて話しかける。

「は、はい」

「全てを救うことはできないかもしれない。ただ、ほんの一部だけでも救えるのなら、

僕はそれをやろうと思う」

「え……?」

 その時、まどかには、イチローの言っていることがすぐには理解できなかった。

「ほむら、バットを」

「わかったわ」
73 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:45:22.64 ID:YSX7FtLEo
 そう言うと、ほむらは腕についた円盤からバットを取り出す。

 バットを受け取ったイチローは、魔女の待ち受ける空間の中心部へと向かった。

 一瞬放たれる黒い霧、それと同時に複数の黄色いリボンがイチローの手足に絡まった。

「ぐっ!」

 動きを封じられるイチロー。

「イチローさん!」まどかが叫ぶ。。

 追い討ちをかけるように、イチローに絡まった黄色いリボンがじわじわと黒く染まっ

ていく。

《あれは不味いね》脳裏に響く声。

「生きていたのね、キュウべえ(チッ)」

 ほむらの舌打ちが聞こえた気がしたけれど、まどかは聞かなかったことにした。

 爆発に巻き込まれたのかと思われたキュウべえは、とくに傷を負った様子もなく、
四本の足でしっかりと立っている。

《あのリボンから、直接恨みや妬みなどの負の感情が流しこまれる。魔法少女ならともかく、
普通の人間があの攻撃をうけて耐えられるはずがないよ》

「そんな……」動揺するまどか。

 しかしほむらは平然としている。

「……甘いわね」

 そしてポツリと、小さく言葉を発した。

「え?」

 ついに、イチローに絡まったリボンがすべて黒くなった。

 ひと目で不味い状況だとわかる。

「うおおおおおおおお!!!」

 イチローが、今まで聞いたことのないような叫び声をあげた。

 これは本格的に不味いのか。不安になるまどか。


しかし次の瞬間、イチローの身体は黄金色に輝きはじめたのだ。
74 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:49:23.88 ID:YSX7FtLEo

「きゃっ」

 あまりの眩しさにまどかは目をつぶってしまった。

 しかし、眩しさを我慢して目を開いた時、そこには――


 夢で見た、あの背番号51番。


 イチローは私服姿から、野球のユニフォーム姿になっていた。

「メジャーリーガーたるもの、応援だけでなく、相手の恨みや辛みをも自分の力に変え

ることができなければ、一流とは言えない。敵地でのブーイングはどんな勲章や称賛に

も勝る」

 ユニフォーム姿のイチローはオーラが格段に違った。

「さあ、いこうか」

 イチローがバットを構える。

 すると中心部のスライムから、複数のマスケット銃が浮かび上がり、そから多数の魔弾が発

射された。

 しかしイチロー素早くバットを振り、風の壁を作って全ての魔弾を落とす。

「こんなものかい?」

 そう言うと、イチローは再び素振りをして、今度は竜巻を起こした。

「きゃあっ!」

 竜巻の風圧は、まどかたちの元にも届く。するとほむらはまどかの前に立ち、風から

まどかを守った。

「ほむらちゃん、ありがとう」

「別に、どうってことはないわ」

 まどかは、ほむらの背中越しにイチローの姿を見た。すると、魔女の本体のすぐ側にまで
接近した彼の姿があった。

「やめてイチローさん!!」

 ゆっくりとバットを構えるイチロー。

 そして、再び世界は光に包まれた。
75 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:51:51.96 ID:YSX7FtLEo
   *


「……っか」

「…………どか」

 誰かの呼ぶ声が聞こえる。

「まどか!」

「え?」

 気がつくと辺りはすっかり暗くなっていた。

 空には無数の星が見える。

 まどかは、自分が公園のベンチに横たわっていることに気がついた。いつの間に寝てしまったのか。

「まどか、よかった」

「さやかちゃん……?」

 まどかはさやかに抱き起こされ、抱きしめられた。ほんのりと彼女の使うシャンプー

の香りを感じる。

「私、魔女の結界にいたはずじゃ」

「それがいつの間にか戻っていたんだ。どうやら、あの二人が助けてくれたらしい」

「あ……」

 よく見ると、学校の制服姿の暁美ほむらと、ユニフォームではなく私服姿のイチローが立っていた。

「あの、ほむらちゃん、イチローさん」

「おっと」そう言うとイチローは何かを持って近づいてきた。

「え? あの……」

「はい」そう言って、イチローは手を出す。

 まどかの手には、黄金色に輝く小さな装飾された宝石のようなものが載せられた。
76 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:57:01.20 ID:YSX7FtLEo
 見覚えがある。これはマミがかつて見せてくれた彼女のソウルジェムだ。

『こんな姿で、ごめんなさいね』

 マミの声が聞こえてきた。それも耳からではなく、頭に直接話しかけられる感覚。
キュウべえとの会話に近い。

「え、マミさん?」

『ええ、そうよ』

「マミさんなの? ねえ、私です。わかりますか? 美樹さやかです」さやかは、まどかの

持つソウルジェムを覗きこむように言った。

『ええ、とってもよく分かるわ。相変わらず元気ね』

 まどかには、どうしても言いたい言葉があった。それを言うために大きく息を吸う。

「マミさんごめんなさい」

『どうしたの、急に』

「私、マミさんのこともっとわかってあげられたらよかったのに、その……、魔法少女

のことばかり気にして」

『別にそんなの気にすることじゃないわ』

「でも、マミさん、ずっと苦しんでいたし」

『そうね、苦しいことはいっぱいあった』

「バビさん……」さやかは既に涙を流していた。鼻が詰まってしまったため、まともに

名前も呼べないようだ。

『でもね、とっても嬉しかった』

「え?」

『あなたたちと出会えて、私は一人じゃないって思えて。本当に、嬉しかったの』

「でも私たち、全然マミさんの役には……」
77 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 21:00:41.50 ID:YSX7FtLEo
『役に立つとか立たないとかの問題じゃないわ。あなたたちの存在は、私にとって大事なものなの。
一年前の交通事故で死ぬ運命だった私には、贅沢過ぎるほどよ』

「本当ですか?」

『ウソをついてもしょうがないでしょう?』

「……」

『ああ、もう時間がないみたいね』

「マミさん!」

『あなたたちに出会えて、本当に良かった。この言葉はウソじゃない。できれば、
魔法少女じゃなくて、普通の女子中学生として出会いたかったけど』

「それは……」

『それから、また助けられたわね。暁美さんとイチローさんには』

「……」

 マミの言葉に、イチローもほむらも無言であった。

『本当にありがとう。色々と失礼な態度をとってごめんなさい』

「気にしてないよ」とイチロー。

「……大したことじゃない。やったのはすべてイチローだから」

『こんな姿になってしまったから、お礼ができないのは残念だけど』


 しばしの無言。 


『それじゃ、もう時間ね。ありがとう。まどかちゃん、それにさやかちゃん――』

「マミさん?」

『さよなら――』

 今までずっと苗字で呼んでいたマミが、下の名前で呼んでくれた。それだけでも嬉しい驚きだった。

 けれども、まどかの手の上で輝いていたマミのソウルジェムは、まるで風に吹かれた
ロウソクの火のように、ゆらめいて、そして消える。

「マミ……さん……」

 ソウルジェムは乾いた砂のように崩れ、そして風とともにどこかへと流されていった。
78 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 21:03:53.85 ID:YSX7FtLEo
   *


《まったく、わけがわからないよ》

 まどかたちの様子を、少し離れた場所で見ていた、ほむらのすぐ側にキュウべえが現

れてつぶやいた。

《わざわざ、魔女化した巴マミの中から彼女の意識だけを刈り取って再構成する。あの

イチローという男は、なんでこんな無駄なことに多大な労力を使ったのだろう。本当に

理解できないね》

「そう……」

《まあ、わけがわからない、という点ではキミも同じだけど》

「キュウべえ……、いえ、インキュベーター」

《なんだい?》

「さっさと消えなさい。次は撃ち抜くわよ」

《…………》

「…………」

《やれやれ、物騒だな。僕の身体を破壊したところで意味なんてないのに。

まあ、撃たれたらまた面倒だから、今日のところは引き上げるよ》

 そう言うと、キュウべえは闇の帳のなかに姿を溶かして行った。

 キュウべえがいなくなったことを確認したほむらは、ぽつりとつぶやく。


「あなたたちには、おそらく永遠に理解はできないでしょうね。私たち、人の気持ちなんて」





   つづく 
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/11(月) 21:17:30.57 ID:g+G1WYcIO
乙っちまどまど
マミさん……
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/11(月) 21:35:43.20 ID:SuZS1Gk50
乙。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/04/11(月) 23:24:32.31 ID:izTrc42ko

イチロー△
マミさんも救われてよかった
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/12(火) 00:59:19.08 ID:glUDTZ6/0
>>43
>「な、何をするだ……」
おい
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/12(火) 10:02:26.47 ID:r6AKgbVIO
そういう君はジョナサンジョースター
84 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:13:11.28 ID:irie9aEZo
>>82
こういう小さいネタに気づいてもらえると嬉しね!

さて、携帯モバイルでこのスレを見たら、若干読みにくかったので、
携帯でも見やすいよう改行には気をつけたいと思います。
85 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:14:23.76 ID:irie9aEZo




            第五話


 ひとりの人間のできることは、かぎられています。
86 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:16:40.30 ID:irie9aEZo
 アメリカ西海岸・ワシントン州シアトル――

 古いレンガの建物が立ち並ぶパイオニアスクエアのすぐ南にある巨大な建物を
少女は見上げていた。

 セーフコフィールド。大リーグの野球チーム、シアトル・マリナーズの本拠地である。
ひんやりとした空気の中、青々とした天然芝の上に彼女は立った。

 グラウンドではユニフォーム姿のメジャーリーガーたちが練習をしている。

 一般の人々の中でも特に体格に恵まれた男たちの中で、それほど身体は大きくはないけれど、
その分一際強力なオーラを発する選手がいた。


 彼の名は、イチロー。


 イチローは彼女の姿を見ると、柔らかな笑顔を見せて歩み寄ってくる。

「やあ、キミだったのか」

 突然の言葉に少女は戸惑う。

「どうして、私のことを」

「ここ最近、時空の乱れが大きくてね、誰かが時間を巻き戻していると思ったんだ。
まさかキミのような可愛らしい子だったなんて」

「可愛い、なんて……」

 少女は屈託のないイチローの言葉に思わず目を伏せてしまう。

「僕とキミとは、会ったことがあるのかな?」

「いえ、こうして直接会うのは初めてです」

「そうか……」

「勝手なことを言ってごめんなさい。どうか、私に力を、貸してください」

「……」
87 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:18:29.37 ID:irie9aEZo
 イチローは一瞬無言になり、それからそっと彼女の頭に手を乗せた。

「え……?」

「今までよく頑張ってきたね」

「でも、私一人ではどうすることもできなくて、結局貴方の力に頼るしかなくて」

「ひとりの人間にできることは、限られているんだ」

 はじめてできた親友を守りたい。

 その一心で彼女は戦い続け、いつしか孤独の中に身を沈めていた。

 氷のように心を閉ざすことで、自我を守っていた。

「誰だって一人では限界がある。僕だってそうだ。一人だと、野球ができないだろう? 
キミも、一人で我慢する必要はない。僕を頼ってくれていい」

 イチローの手が、彼女の頭に触れ、その手のぬくもりが少女の心に届いたとき、
まるで堰を切ったように目から涙があふれ出てきた。

 いきなり泣き出した少女の姿に、イチローは困った顔をしていた。
彼女も、イチローを困らせまいと涙を止めようとするがなかなか止まらない。

「ああ、よしよし」イチローはそう言って自分のタオルを少女に渡した。

「そういえばまだ」

「……?」

「まだキミの名前を聞いていなかったね」

 そう言えばそうだった。

 こちらはイチローのことを知っているけれど、向こうは自分のことをほとんど知らない。
スーパースターであるイチローを前に、かなり舞い上がってしまったようだ。

 少女はゴシゴシとタオルで自分の顔を拭いて、まだ充血している目でイチローの顔を見据えた。
88 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:20:21.97 ID:irie9aEZo
「ほむらです」

「え?」

「暁美、ほむらと申します」

 イチローはその名を聞くと、安心したように微笑む。

「よろしく、ほむら」そう言って彼は、右手を差し出した。

「よろしくお願いします」

 ほむらも手を差し出す。イチローの手は、毎年200本以上の安打を生みだす天才打者
とは思えないほど、柔らかく感じた。


   *


 シアトル郊外。

 ほむらはイチローの自家用車の助手席に乗っていた。
 本当ならすぐにでも日本に帰りたのだけれど、
寝不足と泣き顔でむくんでしまったほむらの顔を見かねたイチローが自宅に招待したのだ。

 行きの車中で、彼女は今までの経緯や状況をかいつまんで説明した。

「それでキミは、その友達の鹿目まどか君を助けるために時間を逆行していると」

「はい」

「その『ワルプルギスの夜』というのは強力なのかい?」

「それはもう、並みの魔法少女では太刀打ちできません」

「なるほどね」

 イチローは、ほむらの言葉を特に疑うこともせず聞いていた。

「ところで、キミの能力……」

「はい」

「キミの能力は、時間を操ることができるんだよね」
89 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:23:16.44 ID:irie9aEZo
「はい、時間を一時的に止めることができます。これが私の、ほかの魔法少女にはない
最大のアドバンテージです」

「その能力なんだけど……」

「私の能力が、なにか?」

「なるべくなら、使わないほうがいいかもしれない」

「……どうしてですか?」

「いや、何となくなんだけど悪い予感がするんだ」

「悪い予感……」

「ああ、ほむらは、球場に入る時、その能力を使ったよね」

「ええ」

「その時も、変な感覚がした。口では上手く言い表せないんだけど、こういう感じの時は、
大抵悪いことが起きる」

「悪いこと……」

 しばしの沈黙。

 イチローは、何かを考えているようだけれども、ほむらには彼が何を考えているのか
完全には推測できない。

「わかりました」沈黙を破るようにほむらは声を出す。

「ん?」

「なるべく、使わないようにします、私の能力」

「そうか、よかった」
90 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:25:39.68 ID:irie9aEZo
   *


 しばらくすると、イチローの自宅に到着する。

「凄い家……」車から降りたほむらは、そう感想を漏らした。

「アメリカではなかなかリラックスできる場所がなくてね。だから自分でリラックスできる
空間を作ったのさ」

 そう言いながら、イチローは自宅玄関のチャイムを鳴らす。

 玄関のドアを開けると、見覚えのある女性が顔を出した。

「おかえり、イチロー。あ、いらっしゃい。ええと……」

「はじめまして、暁美ほむらです」

 セミロングで落ち着いた雰囲気の女性は、イチローの妻、弓子であった。

「ほむらちゃんね。私、鈴木弓子です。よろしく」

「よ、よろしくお願いします」

 弓子は少女のような快活さを持っている一方で、大人の雰囲気も兼ね備えている。

「こんな可愛い子が時間を操っているだなんて」

「あなたも、わかるんですか?」

「いいえ、私にはわからないわ。でも、イチローと“あの子”にはわかるみたい」そう言うと、
弓子は視線を後ろに向けた。

「あの子?」

 不意に何かが近づいてくる気配を感じる。

「ワンワン!」

 一匹の柴犬が、ほむらに飛びついてきたのだ。
91 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:28:56.17 ID:irie9aEZo
「きゃあ」

「こらこら一弓(いっきゅう)、自重しなさい」

「ワンッ」

 尻尾を振って自分に飛びついてくる茶色の柴犬は、イチローのような瞑らな瞳でじっと
ほむらを見つめている。

「可愛い」ほむらは一弓を見て、思わず笑みがこぼれる。

「……」

「……」

 気がつくと、イチローと弓子夫妻が笑みを浮かべながら、こちらを見ていた。

「あの、どうかしましたか?」

「いや、キミはそんな笑顔もできるんだな、と思って」イチローは照れながら答える。

「やっぱり女の子は、笑顔が一番よね」と弓子も続く。

「あ、いや」

 ほむらは、自分の顔が熱くなるのを感じた。

「照れなくていいじゃないか」

「……!」

 その後、ほむらはイチローの家の浴室を借りて服も着替えた。

 彼女はすでに魔法少女としての能力を有しているため、入浴はおろか、
食事すらしなくても良い身体になっていた。けれども、こういった行為は嫌いではない。

 ドライヤーで髪を乾かし、イチローたちのいる居間に出て見ると、弓子が嬉しそうに
何かの入った箱を持ってきた。


「ほむらちゃん、これなんだけど」

「あの、なんですか?」

 弓子は、ゆっくりと箱を開ける。そこにはいくつかの髪飾りが入っていた。
92 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:31:52.73 ID:irie9aEZo
「近所の人からもらったんだけど、ウチでは使わないから困ってたの。でもちょうど良かった」

 確かに、弓子には少し似合いそうもない子どもっぽい髪飾りが多い。

「このカチューシャなんてどうかしら。ほむらちゃん、カチューシャが凄く似合ってるから」

 カチューシャが似合う、そんな風に言われたのは初めてだった。

「あ……」

「どうしたの?」

 ほむらは、箱の中にある一つのカチューシャを手に取る。

 桃色のカチューシャ。この色は彼女の親友であった、鹿目まどかが好んだ色だ。

「これ、可愛い」

「あら、じゃあ付けてみて」

「恥ずかしいです」

「いいから」

 弓子に促されるまま、ほむらは桃色のカチューシャを付けてみた。

「ほら、鏡を」そう言って、弓子はどこから持ってきたのかよくわからない鏡をほむらに
かざして見せた。

「……」

 今まで、黒や紺などの地味な色のものしか付けたことのなかったほむらにとって、
その柔らかな桃色はとても刺激的に思えた。

「ワンッ」

「ほら、一弓も可愛いって言ってるわ」

「……ありがとう」ほむらはそう言って一弓の頭を撫でる。

 撫でられた一弓は、耳を横に寝かすようにして、気持ち良さそうに目を閉じるのだった。
93 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:34:43.70 ID:irie9aEZo
   *



 その後、日本に戻ったほむらとイチローを街で出迎えたのは、どう見ても堅気には見えない
大柄な男性二人組であった。

 一人はまるで鬼のような強面、もう一人は色黒で背の高い、どこかの組長の
ボディーガードのような風貌である。

「おう、イチ」

「久しぶりやな」

「わざわざすみません、ササキさん、キヨハラさん」

「なあに、あのイチローの役に立てるんならこれくらい大したことないで。
ワイでよかったらいくらでも使ってくれ。ワハハハ」キヨハラと呼ばれた男はそう言って豪快に笑う。

「イチ、俺たちはいつだってお前の味方だ」ササキも同じように笑った。
笑った顔も迫力があって怖い。

「ありがとうございます、お二人とも」

 次に二人の視線は、ほむらの方向に移る。

「そっちの娘さんが、話にあった魔法少女ってやつか」

「暁美ほむらです」

 ほむらは表情を崩さず、そう自己紹介をしたものの、内心はかなり動揺していた。

「おう、しっかりしとる姉ちゃんやないか。なあ、ササキさん」

「そうだな。ウチの娘とは大違いだ」

「……」

「……」

 ササキのその言葉に、イチローとキヨハラは絶句していた。

「なんだよ、二人とも」

「ササキさん、そんなリアクションに困るようなこと、言わんといてください」

 キヨハラは遠慮がちにそう言った。
94 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:38:44.79 ID:irie9aEZo
   *


 市内某所にあるレストラン。

「あまりこういう所で見せるもんやないと思うけど」そう言って、キヨハラはテーブルの
下から麻袋を取り出す。

「なかなかすばしっこくて苦労したぞ」その中から佐々木は手を突っ込んで、
白い物体を取り出して見せた。

「これは……」

 間違いなくキュウべえである。それも一体だけではない。

「あの鹿目まどかっちゅう女の子にしょっちゅう近づいていたからな。彼女をマークしとけば、
かなり狩れたぞ」そう言った佐々木は、再びキュウべえ(だったもの)を麻袋の中に戻した。

「……」

 ほむらは、何を言っていいのかよくわからなかったので、そのまま黙っているほかなかった。

「ああ、ついでにこんなんもあったで」そう言うと、キヨハラは上着のポケットから、
小さな球のようなものを取り出す。

「これは、グリーフシード……」

 魔女の卵でもあるグリーフシードが四個ほど出てきた。

「ああ、変な化け物倒したらその中から出てきおった。なんや役に立つものらしいけど、
ワイらには必要ないからな。お嬢ちゃんにあげるわ」

「え? あの」

「いらんのか?」

「いや、ありがとうございます。助かります」

 ほむらはグリーフシードを受け取った。アメリカに行っている間、魔力の補給ができなかったのでこれは助かる。

「まあ、イチローが帰ってきたからには、ワイらにできることはここまでや」

「そうだな、じゃあ失礼するか」

「あ、あの!」

 ほむらは立ち上がる。

「なんだい、お嬢ちゃん」

「どないしたん」

「ありがとうございます!」

 ほむらは、二人を見据えてはっきり礼を言った後、深々と頭を下げた。
95 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:40:28.38 ID:irie9aEZo
「なに、気にするなよ」

「こんな可愛いお嬢ちゃんとイチローのためやったらなんでもするで。また困ったことがあったらいいや」

「イチも元気でな」

「ありがとうございます、ササキさん、キヨハラさん」

 ササキとキヨハラという二人の大男たちは、これからどこで飲もうか、などと話をしながら店を出て行った。

 それを見送ったほむらは、テーブルの向かい側の席に座るイチローを見据える。

「イチローさん」

「なんだい」

「絶対に、世界を救いましょう。ワルプルギスの夜を、倒しましょう」

「ああ」

 イチローは、力強く返事をする。

「あ、そうだ。それと」

「なんですか?」

「お互い、敬語はやめよう。これから、一緒に戦う仲間なんだから」

「仲間……」

 ほむらは、少しだけ考えて、大きく頷いた。

「わかったわ、イチロー。一緒に頑張りましょう」

「よし、頑張ろう、ほむら」
 



 それから約二週間後、まどかとさやかの二人は、巴マミに最後の別れを告げることになる。
96 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:46:19.09 ID:irie9aEZo
   *



 街の展望台。

 営業時間外であるにも関わらず、長い髪を後ろで束ねた少女は都こんぶを噛みながら、
夜の街の風景を見ていた。

「巴マミがくたばったって聞いたけど、なんか変なことになってるな」

 赤髪の少女は闇の中に話しかける。

 その闇の中から二つの赤い光が浮かび上がってきた。

 キュウべえと自称する人間の言葉を喋る謎の白い生物だ。

 その長い髪の少女もまた、キュウべえと契約して魔法少女となった一人である。

《暁美ほむら、そしてイチロー。街の異変はこの二人が原因だよ》

「イチローってのは、あのメジャーリーガーのイチローのことだろう」

《そうだよ。どうやら助っ人としてこの街にやってきたようなんだ》

「助っ人ねえ」

《あの二人は存在自体がイレギュラーだよ》

「存在自体がイレギュラー? どういうことだそりゃ」

《うん。暁美ほむらに関しては魔法少女ということ以外は、僕もよくわからない。
そしてイチローについても、こいつは本当に滅茶苦茶なんだ》

「滅茶苦茶?」

《魔法少女でもないのに強大な“力”を持っているし、しかもそれを自分のためではなく、
他人のために使うんだよ。理解できないね》

「へえ、アンタが理解できない相手か」

《これまでずっと、僕たちの世界には関わらない人間だったようだし》
97 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:48:16.24 ID:irie9aEZo

「まあ、正直、魔法少女でもない輩に魔女を狩られるのはこっちとしても迷惑だ」

《キミならそう言うと思った》

「つまりアレだろう? 魔女の代わりにあいつらも狩ってしまえばいいてことか」

《さすが話が早い。でも気を付けて、あのイチローという男は、相当手ごわいよ》

「暁美ほむらとかいうやつよりもか?」

《暁美ほむらの能力もイマイチよくわからないけれど、魔力自体は大したことはない。
それより怖いのはイチローのほうだ。彼の力には底が見えない》

「底、ねえ」

《聞くところによると、イチローという選手はまだ四月の段階ではベストではないらしい。
六月から八月にかけて、能力がピークに達するようなんだ。つまり、現段階ではまだ
その力は本格化していない……》

「はいはい、わかったよ。つまり奴の能力がピークを迎える前に、早めに始末しときゃいいんだろ?」

《そういうことさ。ああいうイレギュラーな要素は、早急に排除しておかないとね》

「へっ、まあアンタの言うことを聞くのは癪だけど、こんな良好な狩り場で、アタシの魔女狩りを
邪魔されたくないからな」



《それじゃあ頼むよ》









《佐倉杏子――》




   つづく
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/04/12(火) 20:52:54.66 ID:RNCFqFaTo
終わり
99 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/12(火) 20:53:32.61 ID:irie9aEZo
今夜はこれでおしまいでございます。
バトルもなく退屈だったやもしれませんが、その代わり次回は杏子ちゃんが出てきますよ。
それでは、おやすみなさいませ。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2011/04/12(火) 21:09:07.87 ID:LVRPofIh0
イチロー系は普通に面白い
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/12(火) 21:15:48.23 ID:B7saWlOI0
ちょっとササキとキヨハラ魔女狩ってるwwww
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2011/04/12(火) 21:22:02.38 ID:m+LwmnWco
流石は大魔神と番長
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/12(火) 21:49:26.03 ID:5+Wlbx1vo
杏子がイチローに勝てる姿が想像できんな
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/12(火) 22:59:39.18 ID:DMwDxpT+o
杏子はいとも簡単にほだされそう
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage saga]:2011/04/12(火) 23:14:37.57 ID:LVRPofIh0
ところで今更なんだが     「キュゥべえ」じゃなかったっけ?
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/13(水) 03:35:47.43 ID:uL0Ag5fIO
キヨさん達に狩られるとか悪夢だなw
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/13(水) 09:20:34.29 ID:qrKmLKZm0
イチロー+番長+大魔神って最強布陣じゃないか
もういっそキヨハラとササキもワルプルギスの夜に連れて来ようよ
108 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 20:36:03.68 ID:awUMhXhYo
>>105
ご指摘の通り、表記は「キュゥべえ」が正しいようなので、以降は修正しておきます。
それにしても、読み方に何か違いはあるのでしょうか。

というわけで、今夜もやってしまいます。
109 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 20:37:10.04 ID:awUMhXhYo





       第六話

  夜食はラーメン。最高です。
  具は、白菜だけでいいんです。
110 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 20:40:12.12 ID:awUMhXhYo
 市内のスーパーマーケット――

 制服姿の暁美ほむらは生鮮食品売り場で買い物かごをもって途方にくれていた。

 日本に戻ってから二週間以上。魔女狩りや戦いの準備のため、色々と忙しい
毎日を送っていたため、食事を疎かにしていた。

 もちろんほむら一人なら問題はない。魔法少女は魔力によって生命を維持しており、
人間の食事を口にすることは補助的な意味でしかない。

 しかし彼女の相棒、イチローは違う。

 超人的な能力を持っていたとしても、やはり人間だ。

 これまで店屋物やインスタント食品、それにスパゲティなど簡単なもので済ませていたけれど、
その能力を発揮するためには、ある程度家庭の味も必要ではないかとほむらは思っていた。

 というのも、シアトルで食べた弓子夫人の料理は、単なる美味しさだけでなく栄養バランスも
考えられてており、食べれば無限の力が湧いて出てきそうなほど生命力にあふれていたからだ。

 イチローが継続的に結果を残していったことも頷ける。

 何でも一通りこなすイチローだが、料理だけはできない。

 ゆえに、彼のために食事を用意することは、ほむらにとって数少ない恩返しの手段でもある。

「むむむ……」

 弓子の話だと、イチローは好き嫌いも多いので料理には苦労しそうである。
 しかしほむらはまだ中学二年生。味覚も完成されていないし、あまり経験もないため、
複雑な料理はできそうもない。

「あ、ほむらちゃん」

「え?」

 振り向くと私服姿の鹿目まどかの姿があった。

「まどか……」
111 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 20:43:01.25 ID:awUMhXhYo
「ほむらちゃんも買い物なの?」

「ええ、あなたも」

「うん。お父さんに頼まれてお使いだよ」

「お父さん?」

「うん」

「そう」

「今日はイチローさん、一緒じゃないの?」

「……彼はいないわ。私だけ」

「そうなんだ。私はね、今から御夕飯の買い物をするんだ」

「私もよ」

「今日のご飯はなに? うちはね、ハンバーグだよ。お父さんが好きなんだあ。
なんか子どもっぽいかもだけど」

「そんなことはないと思うけど」

「そう? それで、ほむらちゃんのところの夕食なに?」

「え?」

 ほむらは頬に手を当てて少し考える。

 イチローが好きなもの。好きそうなもの。

「カ……・、カレー?」

「なんで疑問形なの?」

「いや、うん。カレーよ」

「そうなんだ」

「……」



「イチローさんが好きなの?」
112 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 20:44:20.46 ID:awUMhXhYo
「な、何を言ってるのよ。イチローが好きなのはカレーよ」

「だからそう言ってるじゃない」

「……」

「?」

「いや、なんでもないわ」

 ほむらは、動揺を気づかれないよう大きく息を吸った。生鮮食品コーナー独特の
ひんやりとした空気と野菜や海の幸の入り混じった匂いが鼻腔を刺激する。

「どうしたのほむらちゃん、顔赤いよ」

「なんでもないって言ってるでしょう」

「それで、なんのカレーを作るの?」

「カレーはカレーでしょう」

「そうじゃなくて、チキンカレーとか、ビーフカレーとかあるじゃない?」

「そ、そうねえ……」

「あらお嬢ちゃんたち、おつかい?」

 声のした方向を向くと、頭に三角巾をつけ、エプロンをしたいかにもパートの
おばちゃんっぽい女性が声をかけてきた。

「はい、御夕飯のおつかいです」まどかが明るく答える。

「そうなの、偉いわね。今日はお魚が安いわよ」

「そうなんですか?」

「ええ、沢山入ってね。エビとかイカとかね」

「……そう」


 ほむらは、何かを考えつつ鮮魚コーナーを凝視した。
113 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 20:46:27.83 ID:awUMhXhYo
   *


 夕日に染まる街。買い物を終えた二人は、途中まで一緒に帰ることにした。

 そして分かれ道。ここから先は、別々の道を通って家路につく。

「じゃあね、ほむらちゃん。またね」

「さよ……」

 さようなら、と言いかけて一瞬ほむらは言葉を切った。

「どうしたの、ほむらちゃん」

「またね」

「うん、またね」

 ここで「さよなら」と言ったら、二度と彼女に会えないような気がしたから。



 しばらく歩くと、道に長い影が見えた。見覚えのある影の形。目を上げると、そこには、
長い髪を後ろに束ねた、ショートパンツ姿の活発そうな少女がいた。

 彼女の手には、よっちゃんイカの袋があった。

 ほむらはその少女のことを知っている。

「アンタが暁美ほむらかい?」

 少女もほむらのことを知っているらしい。しかし、少なくとも“この世界”では初対面だ。

 ほむらは彼女の名前を口に出す。

「佐倉杏子……」

「アタシのことを、知ってるのか?」

「そうね、あなたの目的もだいたいわかるわ」

「驚いたね。やっぱり、あの白い奴が言った通り、あんたはイレギュラーな存在だよ」

「そう」
114 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 20:48:35.79 ID:awUMhXhYo
「目的がわかるんだったら、話は早い。私を、あいつのところに案内しろよ」

「……」

「大人しくアイツのところに連れて行ってくれれば、アンタは見逃してやってもいい」

「見逃す?」

「アンタがこの街から出て行くんだったら、同じ魔法少女の誼で見逃してやってもいいって、
言ってんだ」

「あの人はどうなの」

「アイツは邪魔だ。魔法少女でもない奴がこっちの世界に首を突っ込んだらどうなるか、
教えてやる必要がある」

「そう……。なら付いてきなさい」

「あん?」

「どうしたの、案内してあげるからついてきなさい」

「おいおい、ここは、『彼に会いたいなら、私を倒してからにしなさい』とかいう展開だろう?」

「何を言ってるの」

「いや、だって」

「こんなところで戦っても無意味よ。それに、さっき買ったアイスクリームが溶けてしまうわ」

「アイスクリーム……」

「じゃあ、行きましょうか」

「わかったよ。お前、ええと……」

「ほむらよ」

「ん?」

「暁美ほむら」

「そうかい」
115 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 20:52:07.50 ID:awUMhXhYo
   *


 暁美ほむらの家はどこにでもありそうな一軒家だ。彼女の話だと他の家人はいないらしく、
今はそのイチローというメジャーリーガーと二人で住んでいるという。

 年頃の女子中学生が男と二人で暮らすというのもどうなんだろうかと、杏子は思った。

 家に足を踏み入れると、そこに魔力があることを感じる。

 普通の人間にはわからなくても、魔法少女である杏子にはわかる。

「この魔力は、結界か?」

「そうよ、魔法少女の力を使って結界を張っているの。安全のために」

 家の中に入りながら、ほむらは言う。

「随分警戒心が高いんだね。助っ人で来たのに、魔力で護られてちゃ話にならないんじゃないのか?」

 ほむらは、一旦台所に行くと手を洗ってから、買ってきた材料やアイスクリームなどを冷蔵庫に収納していた。

「おい、早くイチローってやつに会わせろよ」

 杏子は、やや苛々しつつラムネ菓子をかみ砕いた。

 しかし、そんな杏子の態度でも、ほむらは動揺することもなく、淡々と買ってきたものを冷蔵庫に入れて行く。

「アイスクリームはちゃんと冷凍庫に入れないと溶けてしまうでしょう」

「そりゃそうだけどさ」

 冷蔵庫に夕食の材料らしき食材を入れ終ると、ほむらはくるりとこちらを向いて、つかつかと歩きはじめた。

「おい、どこへ行くんだ?」

「彼のところよ。あなた、イチローに会いたいんでしょう?」

「ん、そうだな。ところでイチローってのは、この家にいるのか?」

「ええ、そうよ」

「なんか、人の気配がしないから、てっきり出かけているのかと思ったぜ」

「結界を二重にしているから」

「二重の結界だって?」

 ほむらについていくと、地下室へと続く階段に到達した。

 階段を下りると、再び魔力を感じた。さっきよりも強い魔力だ。

「魔法少女の力でこの家全体に、そして地下のこの部屋自体にもう一つ結界を作っているの」

「随分厳重だな」

「そうね」
116 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 20:54:13.65 ID:awUMhXhYo
 ほむらは、地下室のドアに手をかけると、すぐには開けず、顔だけ杏子のほうに向けた。

「さっき私は『安全のため』って言ったけれども」

「そういえば、言っていたな、そんなこと」

「それは、彼の安全のためというよりも、周りの環境の安全のためだから」

「ん?」

 ほむらはドアノブに手をかけ、部屋を開ける。

 その瞬間、物凄い風を感じた。それもかなり鋭く、頬が切れてしまいそうな風だ。

 目の前が真っ白になったような気がしたけれども、すぐに視界は元に戻った。

 そして部屋の中をよく見ると地下室に一つの人影が見える。

「イチロー、ただいま」

「やあ、おかえり」

 汗で濡れたTシャツにハーフパンツ姿のイチローがそこにいた。
手には黒光りする細いバットを持っている。

(こいつが、イチロー……)

 初めて生で見るイチローの姿に、杏子は圧倒されてしまう。

 本当に人間か?

 地球上の生物であるかどうかすら怪しい。魔女でもなければ魔法少女でもない、
なにか得体の知れない力を、彼女は感じた。

「おや、そちらの子は?」

 イチローは杏子の姿を見てからほむらに聞く。

「佐倉杏子。この子も魔法少女よ」

「なるほどね。僕はイチロー」

「し、知ってる」杏子はそっけなく答える。

「そうか、よろしく」

「ふん」

 杏子はイチローから目をそらした。
117 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 20:56:40.18 ID:awUMhXhYo

「イチロー、これから御夕飯だから、シャワーを浴びてきたらいいわ」

「ああ、そうさせてもらうよ。ところで、今日も出かけるのかい?」

「今日は出かけないわ。家で作るの」

「家で……、作る」

「……もうスパゲティは作らないわ」

「ほむらのスパゲティーも嫌いではないけどね」

 ほむらとイチロー。そんな二人の会話に割って入るように、杏子は声を出す。

「おいちょっと待てよ」

「ん?」

「どうしたの」

「アタシを無視して勝手に話を進めるんじゃねえよ」

「御夕飯の後にしてちょうだい」

「ちょ、ちょっと……」

「さて、シャワーを浴びるか」そう言うと、イチローはさっさとシャワールームへと向かって行った。

「くそっ、なんなんだよあいつらは」

 地下室に一人取り残された杏子は、そうつぶやいた。

「ん?」

 よく見ると、杏子は右手に持っていたうまい棒を握りつぶしていることに気がつく。
円筒の形をしていたそのお菓子は、見る影もなく粉々になってしまっていた。


 このまま捨ててしまうのはもったいないので、杏子は袋をあけて粉末状になった
うまい棒(だったもの)を口の中に流しこんでみる。

「ゴホッ」

 当然むせた。
118 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 20:58:53.98 ID:awUMhXhYo
   *


 一階のリビングに行くと、ほむらが制服の上からエプロンをつけて調理の準備をしていた。

 しかしその手つきはぎこちない。

 スマートフォンの画面を見ながらうんうんと頷いた後に冷蔵庫から先ほど入れた食材を取り出す。
そして大きな鍋を取り出すと、そこに水を入れて火をかけた。

 なんだか嫌な予感しかしない。

 そうこうしているうちに、シャワーを浴びて着替え終わったイチローがリビングに現れる。

「ほむら、今日は何を作るんだい?」

「シーフードカレーよ」

「なんだって? それは楽しみだな」

 イチローはまるで子どものように無邪気な笑顔を見せた。先ほど禍々しいオーラを出していた者と
同一人物だとはとても思えない。

「何か手伝えることはあるかい?」

「そうね」

「ご飯を炊こうか」

「ダメよ、あなたがお米をといだらお米の粒が砕けてしまうわ」

「じゃあ野菜を切ろうか」

「あなたがお野菜を切ると、まな板どころか流し台ごと切ってしまうわ」

「僕にできることはなかなかないな」

「気持ちだけで嬉しい。後はわたし――、きゃっ」

「どうした」

「え、エビ」

「うん、エビだね」

「動いてる」

「新鮮だね」

「ごめんなさい、私エビって触ったことがないから」

「誰もが最初は初心者だ。さあ、頑張って」

「うう……」
119 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 21:02:19.86 ID:awUMhXhYo
 そんな二人の光景を見ていた杏子はたまらず立ち上がり、二人のもとへ行く。

「ああ、もう!」

「え?」

「どうしたんだい?」

 エビの前に悪戦苦闘している二人が杏子を見る。

「まったく、見てらんねーっつうの。いいからもうすっこんでなよ。
手本を見せてやるからさあ」

 そう言うと、杏子は手際よく料理の準備をやり始めた。

 他人の家の台所は使いにくいというけれど、ほむらの住んでいる家のシステムキッチンは、
わりと使いやすかった。

「だいたいなんでシーフードカレーなんだよ。初心者なら普通のカレー作れよ。
エビに触ったことないやつが作ってどうすんだ」

「……」ほむらはとくに反論せず俯く。

 杏子は、ほむらが苦戦していたエビを難なくさばく。もちろん、背ワタを取ることも忘れない。
野菜なども手早く切りつつ、先ほどほむらが火にかけていた鍋に目をやる。

「こんなデカイ鍋で何を作る気だよ。あんたら二人しかいないんだろう?
二週間ぐらいずっとカレーだけで過ごす気か?」

「なるほど、それも悪くない」

 イチローはそんなことを言っていたけれど、とりあえず杏子は彼の発言を無視することにした。

 大型の鍋をガスコンロから外し、大きめのフライパンを用意する。

「アンタ、サラダくらいは作れるだろう?」

 杏子のその言葉にほむらは頷く。

「ドレッシングはアタシが作るから、ほむらは野菜を切ってくれ」

 調理をしながら、指示を出す。

「僕は何をすればいい」と、イチローが聞いてきた。

「イチローは布巾かなんかでテーブル拭いといて」

「わかった」

 こうして、杏子の指揮で夕食の準備が進められたのだった。
120 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 21:04:54.01 ID:awUMhXhYo
  *


 それからしばらくして、食卓の上には三人分のシーフードカレーとサラダなどが用意されていた。

 もちろん、調理のほとんどは杏子がやった。

「おお、美味しそうだな」イチローは笑顔で言う。

「凄いわ」

「へへ……」

 杏子も褒められて悪い気はしない。

「まさかフライパンでカレーを作るなんて」

 ほむらは、杏子から見てあまり表情が変化しないけれど、その声からして驚いているのがわかる。

「カレーを鍋で作らなきゃいけないっていう決まりはないんだぜ」

「そうね。でも意外」

「なにがだよ」

「あなたはジャンクフードばかり食べている印象が強かったから、料理ができるなんて
思わなかった」

「なんでお前、私がジャンクフードばっか食ってること知ってんだよ」

「それは秘密」

「……まあいい。別に料理ができないわけじゃねーよ。やらなかっただけだ。魔法少女にとって
栄養バランスなんて、大して関係ないからな。それに最近はホテル暮らしだし」

「二人ともすまないが」

 不意にイチローが本当にすまなそうに声を出した。

「どうしたの、イチロー」

「なんだよ」

「そろそろ食べてもいいかな。さっきからずっと空腹で」

「そうね、いただきましょう」

「おう」
121 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 21:07:56.99 ID:awUMhXhYo
 久しぶりに作ったカレーだけれども、わりと上手く出来たと杏子は思った。

「おいしい……」

「うまいな、これ」

 二人も美味しそうに食べている。

 それを見て、杏子は自分の家族がいた頃のことを少し思い出してしまった。

 かつては貧乏だったため、外食などはできず、食事は自炊するよりほかなかったのだ。
そのため料理は幼いころからよくやっていた。

 ちなみに大きいエビは高くて買えないので、近所の田んぼで捕まえてきたザリガニをさばいて
エビとして食卓に出していた。


「杏子は料理が上手なんだな」カレーを食べながらイチローが言う。

「慣れ慣れしく下の名前で呼ぶなよ」

「まあいいじゃないか」

「別にいいけどさ」

「いいのか」

 食卓は思った以上に和やかな雰囲気につつまれていた。杏子は、もっと殺伐とした空気になるのかと
思っていたけれど、まったく違っていたのだ。

 そのため彼女は、自分でも信じられないことを喋っていた。

「どうして料理をしようって思ったんだい?」

「アタシはさあ、食べ物を粗末にするってのが許せないんだよね」

「ほう」

「不味い料理を作るってことはその、食べ物痛いする冒涜だって思うわけよ。不味かったら誰も食べないだろう?」

「そうだね」

「だから、少しでも美味しく調理してやりたいって、思っただけさ」

「キミはなかなかいい子だ。いいお嫁さんになるよ」

「……!」

「どうした?」

「……バッ、バカ! 何を言ってやがる」

 杏子は自分の顔が熱くなるのを感じた。そんなことを言われたのは生まれて初めての体験だったので、
どうしていいのかわからず動揺してしまった。
122 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 21:10:26.42 ID:awUMhXhYo
  *


 食後、三人でデザートのアイスクリームを食べた。買い置きをしていたものではなく、
さきほどほむらが買ってきたものだ。しかも三つ。

 杏子は、まるで自分の訪問が予想されていたようで少し気味が悪くなった。

「ところで、メシを作ってて忘れそうになったけど、アンタたちに質問があるんだ」

 杏子は、カップ型アイスクリームの蓋の裏についたクリームをスプーンでがりがり削りながら聞く。

「なに」答えたのは、ほむらだった。

「ぶっちゃけ、アンタらの目的はなに?」

「目的?」

「そう、目的。こんな街にわざわざメジャーリーガーを連れてきてまでやろうとしてることよ」

「二週間後、この街にワルプルギスの夜と呼ばれる最大級の魔女が出現するわ」

「なに?」

「今までの私やあなたが狩ってきた魔女とは比べ物にならないほど、巨大で強力な魔女よ」

「……」

「その魔女を倒すこと。それが私たちの目的」

「はあ? たったそれだけのためか?」

「そうよ」

「……」イチローは無言でアイスを食べている。

「ところでよう、なんでそのワルプルなんとかって奴が来ることがわかるんだよ」

「……」

「ん?」イチローはアイスを食べる手を止めた。

 ほむらがそんなイチローと目を合わせる。魔力による“念話”を使っている様子はない。

 純粋なアイコンタクトといったろころか。

 お互いに下の名前で呼び合っているし、料理をしているときもやけに仲がよさそうだったので、
お互いに考えていることがわかるのだろう。
123 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 21:12:23.87 ID:awUMhXhYo
「あれ、チョコのほうがよかったかい?」

「いや、アイスの話じゃなくて」

 杏子は二人のすれ違いっぷりに思わず椅子からずり落ちそうになった。

「コホン。とにかく、ワルプルギスの夜が来るまで、あなたには大人しくしていてもらいたいわ。
その後は好きにしていいから」

「オイ待てよ」

「なに」

「アタシがアンタ達の言うことをはいそうですかと聞くと思っているのか?」

「聞いてもらわないと困るわ」

「第一、アンタの言ったことが真実だっていう根拠はあるのかい?」

「そんなものはない」

「それに、今日会ったばかりで信用しろという方が無理だよな」

「どうしろと言うの?」

「そうだな……」

 杏子は、視線の先をほむらからイチローに移した。アイスクリームを食べ終えたイチローが杏子の視線に気づく。

「残念、もう全て食べてしまった」

「いやいや、そうじゃなくて」

「この人は、何かを食べているときは基本的にマイペースだから」と、ほむらが残りのアイスを食べながら言う。

「マイペースってレベルじゃねえだろうがよ!」

「さわがないで、アイス溶けるわよ」

「おお、いけね」

 杏子は残りのアイスをかきこむように全て食べた。
124 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 21:15:17.94 ID:awUMhXhYo
「それでイチロー」

「なんだい」

「アタシと勝負しろ」

「いきなりどうして」

「アタシと勝負して勝ったら、何でも言うことを聞いてやる。でも、アタシが勝ったら、
アタシの言うことを聞いてもらう。どうだい?」

「ほう……」

「あなたは何を言ってるの」

 ほむらが二人の会話に割って入る。しかし、杏子は気にせず、イチローに対して話を続けた。

「悪い話じゃないだろう? 初対面のアンタたちの言うことを聞いてやるって言ってんだから」

「でも――」

「いいよ」

「はい?」

 答えを渋るほむらに対して、イチロー本人は軽く承諾してしまった。

「いいと言っているんだ」

「へ、へえ……、話が早い」

「ただし、暴力はダメだ。僕は女の子に攻撃する趣味はないからね」

「あんだと?」

「でも野球ならいいよ。野球選手として、野球で負けたのなら納得ができるからね」

「ほう……」

 イチローの言葉に、杏子はニヤリと笑った。



   *
125 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 21:17:21.45 ID:awUMhXhYo
 近所の河川敷――

 薄暗い河川敷の野球場に、杏子とイチロー、それにほむらの三人が立っていた。

「イチロー、アンタは野球なら納得できるって言ったね」

「そうだね」

「じゃあ、アタシがここからアンタにボールを投げるから、それを五本中、一本でもホームランにできれば、
何でも言うことを聞いてやるよ。その代わり、アタシが五本全部抑えられたら、アンタの命は貰う。どうだい」

「うーん……」イチローは髭の生えたアゴを手で触りながら少し考える様子を見せている。

「なんだい、命を賭けるってことに怖気づいたのか?」

 杏子はわざと悪役っぽく笑って見せる。こうやって相手をビビらせるのも勝負のうちだ。

「五本中一本ってのは、ちょっと厳しいんじゃないかな」

「へえ、自信がないなら十本中一本でも構わないぜ」

「いや、そうじゃなくて」

「なんだよ」

「五本中、四本でいいじゃないか」

「はあ?」

「だから、キミが五本投げて、四本打てば僕の勝ち。三本以下だとキミの勝ちということで」

「何言ってんだ、ふざけてんのか?」

「別にふざけてはないよ。ちゃんとストライクゾーンに投げてくれれば、どんな球だって打ってみせるよ」

「な……、その言葉、後悔させてやる」

 佐倉杏子は魔法少女である。

 彼女の身体はすでに魔力によって強化されており、日常でも一般人をはるかに超える身体能力を有している。

 故に、本気を出せば魔法なしで時速160qくらいの球を投げることも可能なのだ。

 しかも彼女は、小学生のころは近所の子どもたちと野球をやっていた野球少女でもあった。

「へっ、後悔すんなよ」
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage saga]:2011/04/13(水) 21:22:42.47 ID:ejF61U+W0
 死 亡 確 認
127 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 21:25:41.22 ID:awUMhXhYo
 ほむらの出した、メージャーリーグ公式球を右手に握った杏子は、大きく振りかぶる。

 イチローのほうも、おなじみの黒いバットを構え、左打席で彼女の球を待ち受けている。

「あれ?」

 気がつくと、彼女の投げたボールははるか遠くの夜空に消えて行くのが見えた。

「飛距離80qっていったところかしら」夜空を眺めながらほむらはつぶやく。

「ちょっと、何があったんだ」

「惜しい、成層圏までは届かなかったようだ」

「成層圏とか、何いってやがる」

「ガッカリだな、佐倉杏子」

「ああん?」

「あんな球では打った気にはならないよ」

「くっそおおお、何がなんだかわかんねえけどムカツクぜ」杏子はくわえていた、
プリッツ明太子味(九州限定販売)をかみ砕き、ふたたび振りかぶった。

「あー」

 またもや、球は星になる。

「……ふふ、……ふふふ」杏子の肩がふるえる。

「どうした杏子」

「フハハハハハ、わかったよ畜生、あまり使いたくはなかったけどね」

 そう言うと、杏子は指輪にしていたソウルジェムを取り出し、魔法少女へと変身した。

 自身のイメージカラーである燃えるような赤を基調とした魔法少女の姿。

 その力は、元の姿の何百倍にも相当する。
128 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 21:27:44.06 ID:awUMhXhYo
「なるほど、これがキミの本気か」

 イチローは、魔法少女の姿を見せてもふてぶてしいほど落ち着いている。

 その態度に、杏子のプライドは更に傷つけられた。

「魔法少女の力、思い知らせてやるよ!」

 杏子は大きく振りかぶり、そして球に魔力を込め、そして投げた。まさに魔弾。

「どりゃああああ」

 杏子の投げたボールは、バックネットを突き破り土手にぶつかり、そして爆発した。

「ふう、なかなかの威力だ」

 煙を上げる土手の爆発跡を眺めながらイチローはつぶやく。

「どうだい。アタシが本気を出せばこれくらい余裕だよ。降参するなら今だよ。
っていうか、あと一本でアンタ終わりだね」

「そうだな」

 イチローは、バットを立てて杏子のいる方向に向け、そして構えた。

(まだやる気か)

 少なくとも、魔法少女として投げる球を、誰かに打たれる気はしなかった。今の杏子の投げる球は、
どんな兵器よりも速い自信がある。

「とどめだ!」


 ――ッ!!!


 魔力によって眩しい光が放たれる。

 これで、終わった。この球を触ってただでいられるわけがない。

 しかし、

「……うそ……だろ」

 球はイチローの後方へはいかず、杏子の頭上を真っすぐと越えて行った。

 翌日、ロシアの人工衛星が隕石にぶつかって破損したというニュースが流れたけれど、
それはまた別の話。


 なお、五球目を投げる気力は、すでに杏子にはなかった。




   つづく
129 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/13(水) 21:30:22.92 ID:awUMhXhYo
今夜はこれでおしまいです。
なんか、イチローさんは普通に家でカレー食ってるだけでも面白いと思うのは筆者だけでしょうか。

ちなみに紳士なイチローさんが、魔法少女とはいえ、女性を傷つけるなんてことはしません。
(プライドはズタズタに斬り裂いたけどね)
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/13(水) 21:30:42.04 ID:y0EzYDEp0

イチローにとってHRはヒットの打ちそこないだからな…
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/13(水) 21:31:38.61 ID:AuY0CAw2o
お疲れ様でした。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/14(木) 00:22:09.35 ID:h6R1ZE34o
乙 ペースも早いし面白いわ
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/14(木) 04:55:00.08 ID:aQzo0cKo0
「残念、もう全て食べてしまった」
イチロー可愛過ぎワロタwwwwwwwwwwwwwwww
134 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:20:40.68 ID:zE5pNBgpo
 お晩です。いよいよ物語も佳境に入ってまいりました。

 私ごとですが、右ひじが痛くて上手くキャッチボールができません。

 そんなわけで、投下いきます。
135 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:24:42.49 ID:zE5pNBgpo




                第七話



 苦しいことの先に、あたらしいなにかが見つかると信じています。
136 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:26:23.80 ID:zE5pNBgpo
 彼女は朝が苦手だった。

 目覚める直前のあのまどろみの中で、彼女は夢を見るのだ。

 あの最悪の日の記憶。何度も何度も彼女は夢で見る。
自分にとって一番の親友を失ったあの日。崩壊した街の中で空は暗く染まり、悲しみが心を支配する。

 いやだ。

 もうこんな思いはしたくない。

 ぐっと唇をかむ。

 彼女は何度も何度も、数え切れないほどこんな夢を見ている。

 夢の中で誰かが叫んでいる。

 誰だろう。

 彼女は耳をすませた。
 

「はやく起きろ!」


「え?」

 目を開けると、そこにはエプロン姿の佐倉杏子がいた。

「あ……」

「あ、じゃないよ。アンタ今日は学校だろう。早く起きねえと遅刻するぞ」

「……イチローは?」

「別にあいつは学校でもなんでもねえだろう。とにかく、早く起きて顔洗ってこい。
寝ぼけた顔してんじゃねえぞ」

「この顔は元々よ」

 なぜ杏子がここにいるのだろうか。ほむらは少し考えて、数日前のことを思い出す。

 イチローに勝負で負けた杏子は、アンタたちの言うことを聞く、とか言ってほむらの家に
そのまま転がり込んだのだ。
137 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:29:32.35 ID:zE5pNBgpo
 言うことを聞くなら出て行ってくれ、というほむらの要求は無視されてしまったのだが。

 イチローは、別に反対しなかったのでこのまま杏子とほむら、そしてイチローの三人で
暮らすことになった。冷静になって考えて見れば、なんとも奇妙な共同生活である。

 顔を洗い、制服に着替えるとすでに食卓には朝食が準備されていた。

 こんがりと良い具合に焼きあがった食パンやスクランブルエッグ。

 まるでドラマに出てくるようような朝食だ。

 イチローは、朝起きるのが遅いので、いつも彼女は一人で食事をして出かける。
もちろん、朝食といってもパンを焼いて食べる程度である。

「さっさと食っちまいな」

 やや乱暴な言葉とは裏腹に、杏子の調理は丁寧だとほむらは思う。


 朝食を終えて学校へ向かう道のり。

 いつもの一緒だ。何も変わらない。春の日差しが少しずつ夏の日差しに変わりつつある。
しかし、夏は未だにきていない。

 もう、ずっとこないかもしれない。

 そんなことを考えながら歩いていると、不意に声をかけられる。

「おはよう、ほむらちゃん」

 一瞬、息が止まるかと思った。

「おはよう……」

 けれども、動揺は見せない。

 声の主は鹿目まどかだ。彼女のすぐ後ろには、その友人の美樹さやかもいる。

「元気そうだね、ほむらちゃん」

「そうね」

「一緒に学校行こ、ね」

「……」

 ほむらは一緒にいるさやかのほうを見た。複雑そうな表情をしているけれど、以前のように
ほむらの存在そのものを拒絶しているようには見えない。
138 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:35:35.07 ID:zE5pNBgpo
「行こうよ」そう言ってややはにかみながら笑顔を見せる。

「ええ、行きましょう」

 そう言ってほむらは二人と歩きはじめた。

 日常――

 それはとても尊いものだ。失って初めてわかる。

 今の自分は彼女たちと違う。わかってはいたけれども、残酷ではあるけれど
それは紛れもない事実。

 この日々があるから、まどかは幸せそうな笑顔を見せる。

 もしも、この日常を失って彼女一人だけ生き残ったとして、まどかは幸せそうに
笑うだろうか。

(私は、何か大きな勘違いをしていたのではないか……)

 学校に着いて、退屈な授業を受けながらほむらはそう思う。

 何よりも、鹿目まどかを守ることを最優先させてきたほむら。
しかし、そのための犠牲も大きかった。

 別の時間軸では、まどかの親友、さやかを死に追いやってしまったこともあった。

 結果から見ると、さやかの死は魔法少女になる、という彼女の意志から
導き出されたものである。

 それでも、魔法少女になることの意味を知っているほむらならば、そんな悲劇を防ぐことも
できたかもしれない。

 今回は、イチローがさやかの魔法少女化を防いでくれた(※第三話参照)。


 一人の人間が魔法少女にならずに済んだのだ。


 ほむらは、まどかを守りたいという一心で魔法少女になった。

 しかしイチローは、もっと大きな考えているはずだ。彼の思考の全てはわからない。
 ただ、自分よりもはるかに周りのことを考えていることは確実だと彼女は思う。

 そしてほむらもまた、この世界を、この日常を守ろうと思うようになった。


 それがイチローという存在と行動をともにすることの義務であると思えたからだ。
139 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:36:44.83 ID:zE5pNBgpo
 授業が終わると、教室内の空気が緩む。

 昼休みである。

 この学校の昼休みは、皆が思い思いの場所で食事をすることができる。

「ほむらちゃん」

 まどかが呼びかけてきた。

「なに」

「一緒にお昼ご飯食べようよ」

「……わかったわ」

「よかった」

「どうして?」

「今日ね、私サンドイッチを作ってきたんだよ」

「作ってきた?」

「うん、お父さんに手伝ってもらったけどね。ほむらちゃんと一緒に食べようと思って」

 まどかの笑顔に、ほむらは少し嬉しくなった。

「おおいまどか、行こうよ」と、別の場所にいたさやかがまどかたちを呼ぶ。

「うん、ちょっと待って」

「どこへ行くの?」とほむらが聞くと、

「屋上。今日は天気がいいから気持ちいいよ」

「そう。天気……」

 ほむらは、教室から窓の外を見た。

 今日の天気予報では、降水確率0%だったはずだ。

「あれ? なんか暗いね」

「……!」

 しかし、窓の外は、まるで雨雲でもかかっているかのように、暗くなっていた。


 ほむらには、この光景に見覚えがあった。
140 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:38:01.85 ID:zE5pNBgpo
   *


 昼の12時過ぎ。

 テレビからみのもんたの声が聞こえる時間に、杏子は昼食の野菜炒めを作っていた。
ほむらには弁当を持たせてあるので、イチローと自分との二人分である。

 ふと、窓から差し込む光が弱くなっているのに気づく。雲行きが怪しくなったのだろうか、
とその時杏子は思った。

「なあ、イチロー! 洗濯物取り込んどいてくれる?」

 この日、朝早くから杏子は洗濯をして、庭の物干し台に干していたのだ。

 しかしイチローからの返事はない。

 さきほどまでイチローは、庭で軽いストレッチをしていたはずなのだが。

「イチロー! 聞えてるのか? 洗濯物を取り込んでくれって言うんだよ。アタシは今、
昼メシを作ってるんだから」

 振り返って大声を出してみる。

「……」

 やはり返事はない。

 意図的に無視している、というわけでもなさそうだ。

 嫌な予感がした杏子は、ガスを止めて庭に向かう。

 庭ではトレーニング用のジャージを着たイチローが無言で空を見上げていた。

「イチロー……?」

 イチローのただならぬ様子に驚いた杏子は、イチローの視線の先を見る。するとそこには、
巨大で黒い雲のような塊が見える。

 しかし、雲にしては明らかに質量を感じさせるその物体が、この世のものではない魔力を
帯びたものであることは、魔法少女である杏子にはわかった。

「イチロー、これって」

「すぐにほむらに連絡してくれ」

「ああ、わかった」

「なんだか、とても悪い予感がする……」

 イチローは、独り言のように呟いた。杏子は、それほどイチローとの付き合いが長いわけでは
ないけれど、先ほど交わしたわずかな言葉の中で、彼が恐怖を感じているように思えた。
141 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:39:53.86 ID:zE5pNBgpo
   *


 異変を感じたほむらは急いで階段を上り、そして屋上に出る。

 屋上から見える空はすでに青空ではなく、黒と灰色の二色に染まっていた。

「あれは……」

 ほむらには覚えがある。この空は、あの時と同じ。

 災厄の魔女、ワルプルギスの夜。

 しかしなぜ今。彼女の記憶では、まだ一週間以上はあったはずなのだが。

「ほむらちゃん!」

「ほむら!」

 ほむらのあとを追いかけてきたまどかとさやかの二人が屋上に到着する。

「あれは」

「ええ……?」

 二人も空の様子に驚いているようだ。

「ほむらちゃん、あれってもしかして……」まどかが恐る恐る聞いてくる。

 彼女にはワルプルギスの夜の話はしていない。けれども、魔法少女になることができる才能のある
少女である。なんとなく感覚でわかるのだろう。

「あれは、魔女よ」

 ほむらはごまかすことなく答えた。

「でも魔女って、普段は結界の中とかに隠れているってマミさんが……」さやかは反論する。

「それは狩られる心配のある力の弱い魔女だけ。あの魔女は、強力な魔力を有しているから、
結界を作って隠れる必要もないの」

 世界を破滅に導く可能性のある最大の魔女。

「ほむらちゃん……」

「まどか!」

 心配そうにほむらの名を呼ぶまどかに対し、ほむらはしっかりと彼女の目を見据えて呼びかけた。

「なに、ほむらちゃん」

 不安であることは彼女の目を見れば分かる。
142 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:41:11.88 ID:zE5pNBgpo
「まどか、あの魔女は“私たち”が必ず倒す。だから、あなたたちは自分の身を守る
ことに全力をかけて」

「ほむらちゃん、私――」

「お願い、私たちを信じて」

 まどかが魔法少女になって戦えば、それこそ大きな戦力となるだろう。

 しかしその代償は、まどか自身をワルプルギスの夜を超える更に強大な魔女へと
変えてしまうという大きなものだ。

 割に合わない。

 何より、まどか自身は、マミのように自ら魔女になることを望まないだろう。
もちろん、ほむらも望まない。

「私は、あなたたちに無事でいてほしい。全て終わったら、一緒に昼食を食べましょう、
まどか。それに、さやかも」

「おっ、私のことも忘れてなかったんだね」

 少し意外そうな顔をしたさやかはそう言って片目を閉じた。

「必ず私たちが何とかするから。あなたたちは生き延びて。約束」

「わかった。約束だよほむらちゃん」

「うん」

「私の方からも約束、いい?」

「なに?」

「必ず生きて帰ってきてね」

「ええ」

「頑張って、ほむらちゃん」

「ほむら、負けるなよ」

「負けないわ。だって――」






 私たちには、あのイチローがついているのよ――




   *
143 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:43:30.34 ID:zE5pNBgpo


 その後、ほむらは先生に断ることもせず学校を抜けだす。

 イチローたちとは、街の郊外にある公園で落ち合うことになっていた。あそこなら民家も少ないし、
多少派手な戦いになっても被害を最小限に食い止めることができる、という考えからだ。

 ほむらは、公園に向かった走った。

 ほむらはまだ中学生だから、車の運転はできない。また、学校周辺の道路は大変混雑していて
バスやタクシーなどの公共交通機関もあてにならなかった。

 ゆえに頼れるのは自分の足のみ。いくら、魔法で身体を強化してあるからといって、
人間の体力には限界がある。

 ほむらは走りながら空を見上げた。

 空を漆黒に染める“それ”は、今までにないほど大きく見えた。まるで、空に浮かぶ島。
いや、大陸と言ったほうがいいだろうか。とにかく巨大であり、強力である。魔女から発せられる
魔力がほむらの皮膚をも刺激するようだった。

《どこへ行くんだい? 暁美ほむら》

 聞き覚えのある声に、彼女は足を止める。

 聞き覚えどころか、忘れたくても忘れることのできない声だ。

「インキュベーター……」

 人間の言葉を喋る白い生物、キュゥべえこと、インキュベーターである。。

《空のアレ、見えるだろ? 凄いじゃないか》

「ええ、そうね」

《もっと感動するかと思ったけど》

「どういう意味?」

《アレは半分、キミが作ったようなものだよ》

「私が……、作ったようなもの?」

《最初、僕もよく状況がわからなかったんだけどね。でもあの魔女を見て僕は確信したよ》

「……」
144 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:47:15.67 ID:zE5pNBgpo
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
《キミはこの世界の時間を巻き戻していた。それも何度も》

「……」

《恐らく、別の時間軸にいる僕が、キミと契約した後に時間を逆行させたんだね。
だから僕の記憶にキミとの契約した場面がない》

「それと、あの魔女とどういう関係があるの」

《やだなあ、もう薄々分かっているんじゃないのかい?》

「わかっている?」

《この世界はね、途中で止まっているんだよ。ある日を境にキミが時間を逆行させてしまうからね。
いうなれば、時間という川の流れをせき止めているような状態だ》

「せき止める……」

《そして、再び流れを元に戻すためには、そのせき止められた水を一気に解放する必要がある》

「もしかして……」

《この世界が受けるべき災厄を、キミは何度も時を巻き戻すことによって、避けていたんだ。
でもね、災厄そのものを無くすることはできない。

 借金の返済日を引きのばせば引き延ばすほど、ダムの放水を先延ばしにすればするほど、
帳尻を合わせるために災厄の規模はどんどんと膨らんでいくんだ》

「そんな……」

 ほむらは、イチローの言葉を思い出す。

 彼は、ほむらの能力、つまり時間を操る能力をあまり使わないほうがいいかもしれない、と忠告した。


『いや、何となくなんだけど悪い予感がするんだ――』


 彼の予感は当たった。しかし、遅すぎた。

《ほむら。キミは何度も僕の邪魔をしてくれたね。でも今となってはそれも感謝しているよ。
あんなにも大きな魔女を生みだしてくれたんだから。
あれだけの規模なら、この惑星(ほし)だけでなく、太陽系くらいは消してしまうんじゃないかな。
そして、大宇宙にとってはこの上もない“力”を手に入れることができる。
 暁美ほむら、キミはとても素晴らしい働きをしたね》

「私は……」
145 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:49:00.42 ID:zE5pNBgpo
 滅びを回避するために、たった一人の親友を守るために、ほむらは何度も時間を逆行させ、
あらゆる手を尽くしてきた。

 しかし、その行為が自分で自分の首を絞めていた。

 恐怖から逃げるあまり、この世界そのものを壊してしまうほどに事態を悪化させてしまったのだ。

「うう……」

 今までの行為は全くの無駄だったのか?

 インキュベーターの思い通りになるまいと、必死にもがいていたことが、無意味どころか、
より最悪な事態へと発展させてしまった。

《見てごらん、暁美ほむら。あの魔女が孵化したとき、宇宙は新しい時代へと進んで行くのかもしれないね》

「……!」


 あの魔女はまだ、孵化していない。


 影は巨大だ。しかしそれは周りに帯びている魔力によるもので、核自体はそれほど大きいものでは
ないのかもしれない。

 後悔とは『後から悔いる』もの。今は進むべき時だ。後悔などしている暇はない。

《これからどうするんだい?》

「無論、戦うわ」ほむらは即答する。

《無駄だと思うよ。あれほどの魔力だ》

「できる。あの人がいるもの」

《いくらイチローだからって、この事態は収拾不可能だね。もちろん、方法はないわけじゃない》

「……」ほむらには、インキュベーターの言う、方法が何であるか、すでに分かっていた。

《鹿目まどかを、魔法少女にすればあるいは――》

 答えを聞く前に、ほむらはインキュベーターの身体を銃で撃ち抜く。

 インキュベーターにとって身体など飾りのようなもの。何度破壊しても無駄であることはわかっていた。
それでも彼女は、白い生物を撃ち抜かずにはいられなかったのだ。

 そして彼女は走りだす。己の愚かさを噛みしめて、彼らの待つ場所へ。
146 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:51:22.10 ID:zE5pNBgpo
   *


 丘の上の公園――

 既に、杏子の魔法により人払いのすんだ公園は実に静かである。そこに、イチローと杏子が
待っていた。

 ほむらには伝えなければならないことがあった。

 こんな状況になってしまったのは、半分以上自分に非があるということを。

「イチロー、私、その……」

「おっと」

 ほむらが声に出そうとした瞬間、イチローの人差し指を彼女の唇に軽く触れる。

「え? ちょっと」

 いきなりの行為に彼女の脳内は沸騰してしまった。

 傍から見ていた杏子も、赤面しているのが見えた。

「今は過去を振り返っている余裕なんてない。目の前の事態に全力を尽くそう」

「……ええ、わかったわ」頭の中が熱くなったら、ほむらは一周回って逆に冷静になった。

「“お楽しみ”のところ悪い。で、あのデカイのはどう料理するんだ?」杏子が皮肉交じりに聞いてくる。

 しかしほむらは皮肉の部分を無視して話を進めた。

「私が、魔力を込めた信号弾をここから撃つわ。それでおびき寄せる」

「そんなんで来るのか?」

「あの規模の魔女になれば、一般人からいちいち魔力を集めたりなんかしない。
より効率良く魔力を集めるために、多くの魔力を持つ、魔法少女を狙う」

「それじゃあ、私たちは」

「そうよ。狩る者から“狩られる者”になるの」

「へっ、おもしろいじゃん」そう言うと杏子は右手の拳を握り、それを左手の掌に打ちつけた。

「……」

 一方、イチローはじっと空に浮かぶ影を見つめていた。

「イチロー……?」ほむらは静かに、イチローの名を呼ぶ。
147 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:53:05.66 ID:zE5pNBgpo
「……」イチローは答えない。

 よく見ると、イチローの肩が小刻みに震えているように見える。

 もしかすると、ほむらはそう思って彼の左手を握った。彼女の思った通り、イチローの手から
微かな震えを感じ取ることができた。

 イチローでも恐れる存在。

 今、ほむらたちはそれを相手にしているのだ。

「イチロー、……怖い?」

「ああ、怖いよ」

 イチローはあっさりと恐怖を認めた。その答えはほむらにとっては意外だった。

 こんな時、男性はもっと意地を張るものだと思っていたからだ。

「ほむらは怖いかい?」

「……ええ、とても怖いわ。でも……、ここで逃げるわけにはいかない」

「そうだね」

 イチローの震えが止まった。

 同時に、ほむらの中にある恐怖心も、和らいだ気がした。

 恐怖を感じないことが勇気ではない。恐怖を感じ、それでも前に進むことが勇気なのだ。

「それじゃ、行きましょう」

 ほむらは、頭につけていた黒のカチューシャを投げ捨て、桃色のカチューシャをつけ直す。
そして自身のソウルジェムを出現させ、魔法少女へと変身した。

「それじゃ、アタシも行くか」杏子も赤を基調とする魔法少女の姿へと変身する。

「僕も、今回は最初から本気を出さなければならないようだね」

 イチローは力をためる。彼が大きく息を吸うと身体から不思議な光があふれてきた。

「うおっ、眩し!」杏子は目を細める。

 一瞬のうちに、イチローの服装が先ほどまでのトレーニング用ジャージから、純白が眩しい
シアトル・マリナーズのホームユニフォームへと変わった。

「さて、はじめようか」

「ええ」ほむらは、腕の円盤から、55式信号拳銃取り出し空に向ける。


 これが最後の戦い。もう後には引けない。これ以上時間を巻き戻せば、どうなるかわからないのだから。
148 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:54:50.35 ID:zE5pNBgpo
   *


 午後からの授業は全て中止となり、まどかたちは家路につくことになった。

 空に浮かぶ黒い影。見滝原の街を覆う黒い影に、まどかやさやかたち以外は誰も
気が付いていないらしい。

 それなのに、なぜ授業がなくなったのだろうか。

 まどかは疑問に思いつつも、家へと向かった。やはり、どこか別の場所に避難したほうが
いいのだろうか。

《どこへ逃げても無駄だよ、鹿目まどか》

「え?」

 耳からではなく頭の中に響く。

《やあ、久しぶりだね》

「キュゥべえ……」

 まるで猫のように、住宅の塀の上にちょこんと座っている白い生物がまどかに話かけてきた。

「なんの用?」

《どの道この世界は終わり、そう言おうと思ってね》

「どういうこと?」

《どういうことって、言葉の通りさ。キミも見えているだろう? あの魔女の姿が》

 まどかは空を見上げる。不気味な黒い影は、何度見てもそこにある。

《今まで出てきた中でも最悪の魔女だよ。あの闇は全てを飲み込む。この街どころか、
世界中をね》

「酷い……」

《そう思うだろう?》

「でも……」

《……?》

「ほむらちゃんたちが必ず何とかしてくれる。約束したもの」

《もう、魔法少女でどうにかできるレベルじゃないんだけどな》

「どういうこと?」

《戦いは始まっているよ。キミも見るかい?》

「何を言っているの」

《暁美ほむらやイチローが戦っている姿だよ。キミも気になるだろう?》

「それは……」

《ほら》

 キュゥべえの思考がまどかの頭の中に流れ込んでくる。
149 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:57:03.66 ID:zE5pNBgpo
 見覚えのある光景。丘の上の公園だ。ほむらたちはここにいるのか。

『イチロー!』

 魔法少女姿の暁美ほむらの姿が見えた。何か焦っているようにも見える。

 空中には、見たことのない化け物が飛んでいる。恐らく、魔女の使い魔というやつだろう。
 ほむらとはまた違う、赤い服を着た魔法少女の姿が見えた。
槍を使って、使い魔たちを叩き落としていた。

 少女がほむらに向かって叫ぶ。

『どうなってんだよ! イチローは!!』

『そんな……』銃を手にしたほむらは明らかに動揺している。

『アタシと戦ったときよりも明らかに弱いぞ! 何があったんだ』

『……』

 彼女たちの視線の先には、空中でバットを振り戦っているイチローの姿が見えた。

 常にクールだった彼に似合わぬ苦悶の表情が遠くからでもはっきりと見て取れる。
どんな魔女でも一撃で倒せると思っていた彼が苦戦しているのだ。

 それほど、強力な敵なのか。

 まどかの頭の中に流れ込んでくるイチローの姿は、明らかに精彩を欠いた動きをしている。

 呪いの力?

 なぜなのだろう。

《どうも、あのメジャーリーガーも苦戦しているようだね》

「そんな……」

 イチローが苦戦。考えたくもない現実。まどかの頭の中にあるイチローは、常にスマートで、
どんな困難にもさっそうと対処できると思っていた。

《残念だけども、キミにイチローや暁美ほむらを助ける方法はないよ。ただ一つの例外を除いて》

「例外……」

《わかっているだろう? 僕と契約して魔法少女になるんだ。キミの潜在能力は宇宙うの法則をも変えかねない
ほどのものがある。もしキミが魔法少女になったら、イチローやほむらも救うことができるかもしれない》

「私は……」

《これが、今のキミにできることだ》

 まどかは、もう一度イチローの姿を頭に思い浮かべる。

 苦戦するイチロー。彼を助けるために、どするべきか。


「今の、私にできること――」





   つづく
150 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 21:00:38.52 ID:zE5pNBgpo
今宵は、ここまでにしとうございます。


水曜日から木曜日にかけては、一番仕事の疲れがたまるころですね。
それでは、おやすみなさい。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/14(木) 21:21:09.30 ID:3dtD7A05o
お疲れ様でした
152 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 20:52:27.91 ID:5vPqj+Z0o




            第八話 

 ぼくは、すばらしい仲間から、なにかを学びたかった。
「純粋な思い」っていいなぁと思いましたね。
153 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 20:54:23.56 ID:5vPqj+Z0o
 初めて目にする光景と言ってもいい。

 あのイチローが苦戦している。それだけでほむらには恐怖であった。

 せまりくる不気味な使い魔たちを、バット一振りで制圧していく。
しかし、倒しても倒しても敵は出てくる。

「ぐっ!」イチローの左肩の辺りが何者かに斬り裂かれた。

「イチロー!」ほむらは思わず叫ぶ。

「大丈夫だ」

 純白のシャツがジワリと赤い血で滲む。傷が浅かったことと、
利き腕の右でなかったのが不幸中の幸いだ。

 地面に着地したイチローは、次にバットをボールに持ち替え、空中に向かってボールを
投げた。

ひときわ大きな化け物に、ボールが命中し、破裂する。

「油断すんなイチロー!」

 イチローの後方に迫った巨大コウモリの使い魔を、杏子が槍で叩き落とす。

「すまない」

「貸しにしとくぜ」そう言って杏子は顔をそらした。

「ふんっ」再びバットを持ったイチローは、膝を曲げて跳躍する。

 跳躍する高さも、浮遊時間も明らかに先ほどよりも減っている。

 イチローの身体に何があったのか。ほむらは、遠距離攻撃用のライフルを構えながら、
彼の身体の異変に思考を巡らせる。

 確かに、まだイチローが本調子になる季節ではない。とはいえ、以前戦った時よりも
戦闘力が落ちているのは問題だ。しかも現在進行形で弱くなっている。

 毒?

 呪い?

 それとも、すでにイチローの身体は限界だったのか。


 不安がジワジワとほむらの心を覆う。このまま魔女化してしまいそうなほどの不安であった。
154 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 20:55:45.65 ID:5vPqj+Z0o
 ほむらは空に向けて銃を撃った。地を這う使い魔と違って、空中を飛ぶそれは
狙うのが難しい。しかも使い慣れていないライフルならなおさらだ。

 もし、自分が巴マミや鹿目まどかのように、飛び道具を使う魔法少女であったら、
もっとイチローを上手くフォローできただろうか。そう思うと残念でならない。

 ほむらがかつて生きていた別の時間軸では、鹿目まどかはキュゥべえと契約して、
魔法少女になっていた。そして彼女の扱う武器が、弓だったのだ。まどかは、
魔力で作られた矢を弓で放ち、数多くの魔女や使い魔を倒していた。

 まどかの矢は、魔力を感知して自動追尾するらしく、どんな目標でも百発百中だったのだ。

 もしここに、あの頃のまどかがいれば。

「いけないっ」

 ほむらは、そんなことを一瞬でも考えた自分を嫌悪した。彼女がここまで頑張ってきたのは、
まどかを魔法少女にさせないためでもある。

 ほむらちゃん――

 まどかの声が聞こえた気がした。

「自分で何とかしないと」ほむらは、弾の無くなったライフルを捨て、拳銃に持ち替えた。

「ほむらちゃん!」

「え?」

 振り返ると、そこには制服姿の鹿目まどかがいた。

「まどか! どうしてここに!?」

 なぜ、彼女が今ここにいるのか。

「キュゥべえから聞いたの! イチローさんが苦戦している姿が見えて」

「……!」

 その言葉にほむらは絶句する。キュゥべえこと、インキュベーターは執拗に鹿目まどかを
魔法少女にしようとしていたからだ。
155 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 20:56:57.38 ID:5vPqj+Z0o
「それで、私にできることを――」

 目の前が真っ暗になりそうだった。

 もしまたここで、時間を逆行させたりしたら、もはや自分どころか、
この世界そのものがどうなるかわからない。

 やり直しはできない状況なのだ。

「まどか、あなたまさか……」

 知りたくもない現実。

 その時、まどかは肩にかけていたカバンの中から何かを探し、そしてそれを取り出した。

「それは……」

 可愛らしいピンク色のハンカチーフに包まれた箱。

「私の作ったサンドイッチ、イチローさんに食べてもらおうと思って」

「サンドイッチ……」

「本当はほむらちゃんと一緒に食べようと思ったんだけど、今はイチローさんのほうが
必要だよね」

「イチローに……? っは!」

 ほむらは、急いで「念話」で杏子と連絡を取る。
念話とは魔法少女同士が使えるテレパシーのようなものだ。

『杏子、聞える? 聞きたいことがあるの』

『なんだほむら、今、忙しいんだぞ』

『大事なことだからちゃんと答えて』

『何なんだ?』

『あなた、今日の昼食は何を食べたの?』

『はあ?』

『答えて』
156 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 20:58:23.55 ID:5vPqj+Z0o
『昼食は、食べてねえよ。というか、昼過ぎにあの変な影を見つけて、食ってる
暇なんてなかったし』

『イチローも?』

『ああ、あいつもだ。それがどうした』

『イチローは、朝食を食べたの?』

『ああ? アイツ、起きるの遅かったからな。コーヒー一杯と、クッキーを数枚
かじったくらいかな』

『ああ……』

『どうしたんだ』

 ほむらは一旦、念話を切ってまどかの顔を見た。

 まどかは、気づいていた。なぜ自分が気がつかなかったのだろうか。
 ほむらは、自分の愚かさに唇をかむ。

 そして再び頭の中で念話のスイッチを入れるほむら。

『杏子、お願いがあるの』

『なんだ』

『一旦、イチローを前線から下げるわ。私が代わりに前線に行くから』

『何をする気だ?』

『栄養補給。イチローは私たちとは違って、普通に食事をしないと力が出ないの』

『なんだって?』

『それしか考えられないわ』

              、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
『そうか、イチローも、アタシたちと違って人間だったんだな』

『そうよ。だから――』

『わかった、その代わり』

『なに?』
157 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 20:59:17.07 ID:5vPqj+Z0o
『お前はこなくていい、前線はアタシ一人でやる』

『杏子!』

『弱い奴に、周りでフラフラされてちゃ、邪魔なんだよ。メシ食って出直してこいって感じよ』

『杏子、あなた……』

『イチローを、戻す』

『無理はしないでね』

『わかってるよ』


 数分もしないうちにイチローが戻ってきた。

「ああ、キミは……」

 戻ってきたイチローに、まどかが駆け寄る。

「あの、イチローさん」

「なんだい?」

「これ、サンドイッチ作ってきました。食べてください」そう言ってサンドイッチの入った
ランチボックスを差し出す。

「ありがとう」イチローは、遠慮する素ぶりすら見せず、すぐにサンドイッチを受け取った。

 相当お腹が減っていたようだ。

 立って食べるのはお行儀が悪いことだけども、今は非常時なので仕方がない。

 イチローは、箱からサンドイッチ(おそらく卵サンド)を取り出して一口食べる。

「うまい!」

「本当ですか?」

「ああ、とっても」

 イチローは、一瞬でまどかの持ってきたサンドイッチを平らげてしまった。
158 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:00:43.41 ID:5vPqj+Z0o
「すまないまどかくん、本当はもっと味わって食べたかったんだけど」

「いいんです、イチローさん。それとこれ」

 まどかはカバンからまた別のものを取り出した。小さな箱のように見える。

「これは……!」

「はい、ユンケルです。お母さんがいつも飲んでいるもので」

「うむ、いいお母さんだ」

 イチローは、箱からユンケルの瓶を取り出し、一気飲みした。
(※良い子のみんな、ユンケルは一気飲みしないほうがいいよ。お兄さんとの約束だ)

「ふう……」イチローはゆっくり息を吐く。

「あの、イチローさん?」

「まどか、下がったほうがいいわ」ほむらはそう言って、まどかをイチローから離れさせた。


 待つこと数秒、イチローの身体から湯気が立ち上る。と、次の瞬間純白のユニフォームが
更に輝きだした。破れていた肩や脚の部分が修復され、傷も治っていく。
原理はよくわからないけれど、とにかく凄い力が沸いていることはほむらにもわかった。

「凄い……」

「そうね、凄いわ」

 二人は、もはや凄いとしか言えなかった。

「ほむら!」

「はい!」

 ほむらは、腕の円盤からボールを取り出し、イチローに投げてよこした。
本当はすぐ近くに寄って手渡したかったけれど、気迫が強く近づけなかった。
まるで試合前のイチローのように。

『杏子、聞える? 今すぐそこから離れなさい』
159 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:02:04.04 ID:5vPqj+Z0o
『何があった』

『ソウルジェムを壊されたくなければ、すぐにその場から離れるのよ。全力で』

『……、わかった』

 空を見上げると、そこには百以上に膨れ上がった使い魔の群れがあった。
これだけの使い魔を持つ魔女である。はっきり言って、そこいらの魔女の比ではない。

 しかも、まだ孵化していないのだ。

「いくぞ!」

 サンドイッチを食べ、ユンケルまで飲んだイチローは気合い十分に球を構える。


 レーザー


 ビーム!!!


 ボールは、真っすぐ影に向けて飛んでいく。しかも強く回転しているため、周囲に風を起こす。

 しかもその風は、どんどんと強くなり、竜巻まで起こし始めた。

 影を守る魔物の群れに、イチローの投げた球が吸いこまれるように飛んでいくと、
周囲にいる使い魔どもは、その風圧に吹き飛ばされ、または巻き込まれてどんどんと落ちて行く。

 圧倒的なパワー。これがイチローの本気。

「もう一回」

 イチローは再び球を投げた。

 今度は腕の振りで、彼の周囲に強い風がま気起こる。身体をバネのようにしなやかに使い、
最後まで腕を振りきる。強力かつ、正確無比な力で使い魔をどんどんと落としていくイチロー。

 効率が違い過ぎる。

「危ねえなイチロー! こっちまでやられるところだったぞ」ボロボロになった杏子が戻ってきた。

「だから離れなさいと言ったはずよ、杏子」
160 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:03:20.18 ID:5vPqj+Z0o
「離れたって巻き込まれちまうよ、あの使い魔どものようにな! って、そりゃいいが、
そのツインテールのガキは誰だ」

「え? 私……?」

 気の強そうな杏子の声に、まどかは驚いているようだ。

「彼女は鹿目まどか、私の“友達”よ」ほむらは、まどかが答える前に彼女を紹介した。

「……ほむらちゃん」

「へえ、そいつは魔法少女、……には見えねえな」

「彼女は普通の中学生よ」

「なんでこんなところにいるんだよ」

「イチローにお弁当を持ってきてくれたの。まどかのおかげで、イチローは復活することができたの」

「復活って、むしろやり過ぎじゃねえのか?」

「ん……」

 空を見ると、数百匹はいたであろう、魔女の使い魔はほとんどいなくなっていた。

 イチローのレーザービームで、軒並み潰されていったのだろう。

「残るは、あの本体だけか」

 イチローが、じっと空に浮かぶ巨大な黒い影を見据える。



《でも時間切れのようだね》



 脳裏に響くその声に、全員の視線が集まる。
161 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:05:25.62 ID:5vPqj+Z0o
「キュゥべえ……」まどかのつぶやく声が聞こえた。

 白い悪魔とも言うべき、キュゥべえことインキュベーターが、公園の柵の上に座っていた。

《魔女は孵化する。こうなってしまってはどうしようもない》

「なに言ってんだ? あの気色悪い使い魔どもは全部蹴散らしたぞ!」
杏子が反論する。

《外にいる使い魔は、魔女本体を守るためにいたにすぎない。孵化してしまえば、
もう必要ない。だからいなくなったんだ》

「それって……」


 空中に浮かぶ黒い影。青空は消え、重たい色の雲が空を覆う。

 よく見ると、黒い影が、何かを形作った。

「……」

 公園にいる、イチロー、ほむら、杏子、まどか。全員が絶句する。


《あれが魔女の本体だよ》


 その形はまるで空中要塞。いや、城塞と言ったほうがいいか。

 ところどころに大砲などが見える、まさに城。

 ほむらが今まで見たどの魔女とも違う形。しかもその形はいかにも攻撃的だ。

「試してみるか」イチローがボールを持ち構える。

 真っすぐの軌道で、球は魔女本体へと吸い寄せられていく。

 しかし――

 使い魔や数々の魔女を簡単に葬り去ってきたあのイチローのレーザービームが効かない。
本体に到達する前に防がれているようだ。
162 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:06:59.54 ID:5vPqj+Z0o
《魔女の周囲には、魔力による『壁』があるんだ。あの壁は強力だよ。たとえ核兵器でも壊せないくらいに》

「そんな、じゃあどうしたらいいの!?」まどかが叫ぶ。

《方法がないわけじゃない……》

 インキュベーターの瞳が怪しく光る。

「あなた……」



《それは――》



「……」


《魔法障壁を壊して、中に侵入するんだ。ああいう、外側が硬いタイプの魔女は、
意外と中は脆いものだよ》


「へ?」

 わりと具体的な内容に、周囲は拍子抜けした。

「なに?」

《まあ、それができればの話だけどね》

「それは本当なの?」ほむらがインキュベーターに詰め寄る。

《僕がウソをついたことがあるかい? それに、こんなウソをついて僕に何の得があるというのさ》

「魔女の倒し方を教えることだって、あなたにはメリットはないはずよ」

《確かにね。でも――》

 白い悪魔は、猫のように軽い身のこなしで、柵から降りると、詰め寄ってきたほむらをすり抜け、
後ろにいたまどかの肩に飛び乗った。

 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
《このままキミたちがもがく姿を見るのも、面白いと思ったからさ》
163 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:07:55.69 ID:5vPqj+Z0o
「でもキュゥべえ、さっき核兵器でも壊せないって」今度は、インキュベーターを肩に乗せたまどかが聞く。

《そうだよ。だけど、一点に力を集中すれば、可能性がないわけじゃない》

「一点に集中……」

《これからどうするか、キミたち次第だ。まあ、せいぜいがんばってよ》そう言うと、
インキュベーターはまどかの肩から降りて、どこかへと行ってしまった。

「ほむら、それに杏子」

 今までずっと黙っていたイチローが呼びかける。

「なに?」

「なんだよイチロー」

 二人はイチローの顔を見た。

「僕があの外壁を何とかしてみせる。二人は、その後の突入のために力を温存しておいてくれ」

「イチロー?」

「マジで言ってんか? お前」

「僕は本気さ。危ないから、鹿目まどかクンは安全な場所に避難させといてくれ」

「イチロー……」

「ほむら」

「なに」

「不安そうな顔をするな」

「私は、信じていないわけじゃないの。でも」

「僕だって不安だよ。でもやるんだ」

「イチロー……、わかったわ」ほむらは頷く。

「それとまどかクン」イチローが、まどかのほうを見た。

「はい、なんですかイチローさん」
164 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:08:53.80 ID:5vPqj+Z0o
「サンドイッチありがとう。あと、ユンケルもね」

「いえ、どういたしまして。また、食べてくれますか?」

「ああ、喜んで」

 避難をさせるため、杏子がまどかに近づく。

「ほらほら、鹿目まどかとか言ったね。今から連れて行くから」

「え? え?」

 杏子はまどかをまるで大きめの荷物を運ぶようにひょいと肩に抱え上げた。

「ふわ」

「杏子、レディは優しく扱わないと」イチローが笑いながら声をかける。

「アタシもレディだよ! ふんっ」

「私も行くわ」

「おっと、待ちな」

 ほむらが杏子たちに歩み寄ろうとすると、まどかを抱えた杏子はそれを止めた。

「なに?」

「アンタはイチローの傍にいてやれよ」

「どうして?」

「一人ぼっちは、寂しいだろう? まあ、アタシもすぐ戻ってくるけどさ」

「……、わかったわ」

 杏子とまどかはその場を離れ、公園にはほむらとイチローだけが残る。
165 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:10:00.88 ID:5vPqj+Z0o
「じゃあ、いくか」

 イチローは、ボールを持って精神を集中した。


「ぬおおわああああああああああああああああああああああああ!!」


 公園の石畳がめくれ上がるほど強く地面を蹴って、イチローはボールを投げる。

 強力な弾道が魔女めがけて襲いかかったけれども、魔女本体は傷一つ付いた様子はない。
魔女全体を覆う見えない壁は未だ健在のようだ。

「次だ」

「はいっ」

 ほむらは、再びボールを投げてよこす。
 イチローはさっきよりも強く、そして何より正確に投げ込む。

「……」ほむらは、イチローの気迫と力、そして技術の高さに言葉を失った。

 数週間一緒に暮らしただけでは、イチローのことは何もわからない。彼女はあらためてそう思うのであった。

 再び投げる。

 宇宙が歪むほどの衝撃。自分が魔法少女でなかった吹き飛ばされていただろう。

 投げる、投げる、投げる。

 五十球を超えた当たりで、イチローは肩で息をしはじめた。イチローは外野手。
集中して多く投げるということはあまりしないはず。

 とはいえ、本職の投手ですらここまで連続して投げることはないだろう。

「イチロー! 少し休んで」

「休んで人類が救われるならそうするよ」

 イチローは大きく振りかぶって、投げる。


 光の線は魔女に吸い込まれる。けれども、壁がなかなか破れない。
166 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:11:36.17 ID:5vPqj+Z0o
「イチロー……」

 ほむらの目の前がゆがむ。イチローの右手から、血が流れ出していた。
脅威の回復力を持つイチローですら、再生しきれないほどの傷。

「ボールがもうない。ほむら、ボールだ」

「……」ほむらが右手にボールを持つ。

 しかし、投げられない。

「ほむら!」

 涙でイチローの姿が歪む。

「私……」

 スッと、誰かがほむらの右手からボールを抜き取った。

「誰?」

 杏子が戻ってきたのかと思い振りかえる。しかし、杏子ではなかった。

「ダルビッシュ!?」イチローの声が聞こえる。

「お久しぶりです、イチローさん」

 北海道日本ハムファイターズのダルビッシュ有投手だった。
 イチローよりもさらに高身長の彼の身体は、テレビで見るよりもずっとたくましく感じる。

「ダルビッシュさん、なんでこんなところに!」

「自分にも、協力できることがあればと思ってね」

 ユニフォーム姿のダルビッシュが、グラブにボールを投げ込む。
 彼の着ているユニフォームは、ファイターズのものではなくWBC(ワールドベースボールクラシック)
で着ていた日本代表のユニフォームであった。

「WBCでは、イチローさんに救われましたからね。だから今度は僕が、
イチローさんと一緒に人類を救うんです!」
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) :2011/04/15(金) 21:13:21.71 ID:qzFAVv+ro
ダルビッシュwww
168 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:13:32.18 ID:5vPqj+Z0o
「ダルビッシュ、お前」

「投げるのは僕に任せてください。イチローさんは、得意なほうで」

「わかった」

 イチローは気合いを込める。

 再び身体が光った。これまでの帽子とグラブの野手モードから、バッティンググラブに、
バットを持った打者モードへと変身したのだ。
 しかも、ユニフォームはシアトルマリナーズのものではなく、日本代表のユニフォームであった。

「イチローさん、僕が球を投げます。イチローさんはそれを打ってください」

「ダルビッシュ!」イチローが、立てたバットを持つ右腕を投手に向ける、
あの独特の仕草をしながら呼びかける。

「はい」

「打ちやすい球を投げようと思うな。僕から三振を奪うつもりでやれ」

「わかっています! もとよりそのつもりです!」

「それでいい」

 イチローが構えるとダルビッシュは振りかぶった。
 元々ダルビッシュは、振りかぶるタイプの投手ではない。そのダルビッシュが、
持ち味のバランスを無視して大きく振りかぶるのだ。

「でりゃあああああああああああああああああ!!!」

 イチロー並みか、それ以上の豪速球が打者に迫る。

「ふんっ!」

 目にもとまらぬ速さでイチローはバットを振り抜いた。

 打球はまっすぐに魔女へと向かう。イチローは先ほど、自分が何度も投げていたところと
寸分たがわぬ場所に当てる。
 すでに激しい投球で、腕がボロボロになっているにも関わらず、イチローは普段と変わらない
美しいフォームで、ボールを魔女へぶつけていった。


 ボールがバットに当たるたびに衝撃波が起こる。
169 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:16:41.40 ID:5vPqj+Z0o
「イチロー……。貴方がこんなに頑張っているのに、私は何もできないなんて」

 ほむらは、涙をぬぐいながらつぶやく。

「そんなことはないよ――」

「誰?」

 今度は、ダルビッシュほどではないけれど、長身で童顔の男性がほむらに話しかけてきた。
 彼も、イチローたちと同じ日本代表のユニフォームを着ている。
 背番号52番、イチローの一番弟子を自称する、福岡ソフトバンクホークスの川崎宗則であった。

「どうしてここに」

「僕はイチローさんの行動は常に気にかけているからね。人類の存亡をかけて戦っているイチローさんを
応援にきたんだ」

「応援って、一体何をするの?」

「それは、応援だよ。ただ純粋に」

「純粋に応援?」

「イチローさんはね、応援すればそれに答えてくれる人なんだ。いつでもね」

「……」

「イチローさん! 頑張ってください!!」川崎は大声を出す。

「イチロー! 負けないで!」ほむらも負けずに声を出す。

 自分の声は届いているのだろうか。

 不安ではあったけれど、そんなことを気にしている場合ではない。

「お待たせ、って、コイツ誰だ?」まどかを安全な場所に送った杏子が戻ってきた。

「そんなことよりも杏子、イチローを応援するわよ」
170 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:19:02.13 ID:5vPqj+Z0o
「はい? 何を言ってるんだ」

「イチロー! イチロー!!」

「おい、お前」

「イ・チ・ロー! イ・チ・ロー!」

 気がつくと、ほむらたちの周りには、野球選手が集まっていた。やたらアゴの大きい選手や、
クマのような体格をした選手もいる。

「イ・チ・ロー! イ・チ・ロー!」

「イ・チ・ロー! イ・チ・ロー!」

「イ・チ・ロー! イ・チ・ロー!」

 選手たちの声が、次第に大きくなっていく。
 声そのものが大きくなっている、というよりも声が増えている感じだ。

 声はやがて、地鳴りのように響き、街全体を包んで行く。

 イチローの身体が大きくなったように見えた。

「イ・チ・ロー! イ・チ・ロー!」

 ほむらはも叫ぶ。声が枯れるかと思えるくらい叫んだ。

「ちくしょー! イチロー! 負けんじゃねえぞ!」杏子もつられて叫んだ。

 錯覚かもしれない。けれども、この街が、日本が、そして世界がイチローを応援しているように思える。

「ふんっ!」

 イチローの一振り魔女を揺らす。

 まさかと思ったけれど、明らかに魔女の作る魔力の防壁に影響を与えているのだ。

「行ける……」誰もがそう考えた。
171 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:22:08.23 ID:5vPqj+Z0o

「イ・チ・ロー! イ・チ・ロー!」

 希望の光が見えてきたのか、応援する声にも力が入る。


 しかし――



「ぐっ」これまで全力でボールを投げていたダルビッシュが膝をついた。無理もない。
イチローへの投球はそれだけ負担が大きいの。

「そんな、後少しなのに……」

 しかし勢いは止まらない。

「ダルビッシュ! あとは任せろ」

 そう言って出てきたのは、ロサンゼルス・ドジャースの黒田博樹投手だった。

「黒田さん」イチローの顔が明るくなる。

「俺たちもいますよ!」楽天の田中将大や阪神の藤川球児、広島の前田健太など、
球界の名だたる投手たちがすでに控えていた。

「お前たち……、よし、行こう!」イチローは再びバットを構える。

 黒田の大きく体を使った投球は、ダルビッシュとはまた違った迫力だ。

 そんな黒田の球も、イチローは魔女に向けて打ち出していった。

「イ・チ・ロー! イ・チ・ロー!」

「イ・チ・ロー! イ・チ・ロー!」

「イ・チ・ロー! イ・チ・ロー!」


 応援の声が響く。


 音が消えた。


 その瞬間、ついに均衡が破れたのだ。

 ほむらは何の能力も使っていない。けれども、時が止まったような感覚だった。

 ほんの一点、小さな穴ではあるけれど――


「きた……」
172 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:25:04.19 ID:5vPqj+Z0o

 壁が、破られた。


「ほむら! 杏子!」イチローが叫ぶ。

「イチロー!」

「待たせやがって!」

 イチローが両脇にほむらと杏子の二人を抱えるようにして飛ぶ。

「イチローがんばれー!」

「負けるなー!」

 背中から応援する声が聞こえてきた。

 その声に後押しされるように、イチローたちは真っすぐ、魔女へと向かう。

 途中、イチローは誰に言うでもなく、まるで独り言のように言葉を発した。

「インキュベーターがいたら言ってやりたいね」

「……」

「……」

 ほむらと杏子は、その言葉を黙って聞く。


「キミが思っているほど、人類は弱くない、と」


 ワルプルギスの夜は防御壁の一部を破られてもなお、不気味にその巨大な姿を晒したままだった。




   つづく
173 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/15(金) 21:27:48.28 ID:5vPqj+Z0o
 今夜はこれにて試合終了とさせていただきます。
 今回のゲストキャラはいかがだったでしょうか。
 次回はついに最終回となります。どうか最後までお付き合いいただければ幸いでございます。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2011/04/15(金) 21:31:50.32 ID:lvA76DVUo
乙!
まさにオールスターだな
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/15(金) 21:52:58.58 ID:PkraSrKHo
これ魔女は天国にいるはずの村田さんなんじゃ・・・
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/04/15(金) 22:04:17.59 ID:XtSFbeBfo
日本球界も捨てたもんじゃないな
次回のWBCも是非優勝してほしい
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/15(金) 22:05:14.49 ID:DwZNoUQCo
お疲れ様でした
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/15(金) 23:18:16.01 ID:ntAZadcDO
いよいよ最終回か楽しみだな

アゴのでかい=内川としてもう一人は誰だよww
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/16(土) 00:27:55.54 ID:nZxaeqwN0
面白過ぎる
イチローSSはハズレが無いなwwwwwwwwww
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/16(土) 15:17:07.62 ID:P5XgaNJi0
最後は原監督とグーパンチだ!
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/16(土) 19:05:05.73 ID:KaEInDTVo
これにクルム伊達と室伏が援軍に駆けつけたらQBの母星粉砕できるぞ
182 :まど☆イチ ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:22:22.68 ID:AwbvG8G4o
 みなさんこんばんは。週末の夜、いかがお過ごしでしょうか。

 おかげさまで『魔法少女まどか☆イチロー』(略してまど☆イチ)も残すところあと一話となりました。

 すぐにでも最終話を投下したいところなのですが、今朝突然電波を受信してしまったので、
先にそっちを投下したいと思います。
183 :まど☆イチ ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:24:25.90 ID:AwbvG8G4o


   一発小ネタ劇場 魔法少女まえだ☆マギカ

(※まどマギを見ていない人にはちょっと分かりづらいネタです)



 ☆朝の登校風景

緒方「おはよう、前田。今日も可愛いね、この」」

前田「お前に言われんでもわかっとる」

野村「お二人は本当に、仲がいいのですねえ」

 ☆転校生

山本コージ「今日は、転校生を紹介します」

佐々岡「佐々岡、真司です」

前田(む、アイツは……!)


 ☆魔女の結界

緒方「やばいぞ前田、変な生物とかいるし。ここはキケンだ」

前田「お前に言われんでもわかっとる」

???「あら、スライリーを助けてくれたのね、ありがとう」

緒方「だれ?」

???「私は、大野豊。魔法少女よ」

緒方「魔法少女?」

大野「その前に、一仕事すませないとね」

前田「……」

大野「七色の変化球(ティロ・フィナーレ)!!」


 ☆契約

大野「これでもう、大丈夫」

スライリー「助かったよ、大野(呼び捨て)」

緒方「お前、何者だよ」

スラ「ぼくの名前はスライリー。実は前田と緒方の二人にお願いがあってきたんだ」

前田(お願い?)

スラ「ぼくと契約して、広島東洋カープの選手になってよ!」



 ☆修羅の道

佐々岡「ダメよ前田智徳。広島東洋カープに入ってはいけないわ」

前田「お前に言われんでもわかっとる」

佐々岡「あそこに入ったら、野球選手として生涯怪我に苦しむことになるわ」

前田「前田智徳は死にました」
184 :まど☆イチ ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:25:48.39 ID:AwbvG8G4o
なぜこんなネタを書いてしまったのか。自分でもよくわかりません。

というわけで、本編どうぞ↓
185 :まど☆イチ ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:27:15.47 ID:AwbvG8G4o



           最終話


いつだって、チャンスのときには力が入るものです
186 :まど☆イチ ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:28:46.60 ID:AwbvG8G4o

 魔女に接近するとその大きさがよくわかる。

 姫路城よりもさらに巨大な物体が空中に浮いているのだから、凄くないはずがない。

 イチローに抱えられたほむらと杏子は、防御壁にわずかにできた穴から中へ侵入する。

 すると、侵入者を察知したのか、外側についていた砲台が一斉にこちらを向いてきたのだ。

「とても素晴らしい歓迎だね」

 イチローが手を離し、ほむらと杏子は分散した。

 光の弾丸がこちらを狙う。誘導型ではないので、一度かわしてしまえば何とかなるけれど、
数が多い。

「とにかく中だ! 内部に入るぞ」イチローは、目に見えない防御壁まで後退すると、
その壁を蹴って一気に本体まで接近した。

 激しい砲撃が続く中、イチローは飛びながら空気の壁を作り、砲撃の狙いをそらし続ける。

 イチローの撹乱もあって、三人は何とか城の入り口までたどり着くことができた。

「中心部に行くわ。そこにある魔女の核を壊せば、こいつが倒せる」

 ほむらは自分自身に言い聞かせるように言った。

「ああ、わかってるぜ。腕が鳴るな」杏子はそう言って魔力で槍を作りだす。

 城の中は複雑な迷路のように入り組んでいる。その点は他の魔女の結界と対してかわらない。
ただ、ほかの魔女と違い、ここは結界ではなく魔女の身体そのものだということだ。

「お、きやがったぜ」杏子が槍を構える。

 通路の先に、不思議の国のアリスに出てくるようなトランプの兵隊が数体、手に槍や剣を持って
こちらに迫ってきた。
187 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:31:10.30 ID:AwbvG8G4o
「一気に片付け――」

「下がりなさい」

 杏子が全てを言い終る前に、ほむらは持っていたサブマシンガンで、兵隊を打ち倒した。

「おい、ほむら」

「この先どれほど続くかわからないわ。魔力は極力節約しながら戦いましょう」

「へっ、しょうがねえな」

 その後も、襲いかかってくる敵を、ほむらの武器や、杏子の槍、そしてイチローの素振りで
どんどんと倒していく。これだけ巨大な城だ。中心部に行くにはかなり長い道のりになるだろう
とほむらは考える。

 しかし負けるわけにはいかない。

 三人は、襲いかかってくる使い魔を倒しながら走る、走る。とにかく走る。

 服もボロボロだ。魔力を使えば、傷や破れた服を治すこともできるけれど、
今はそんな小さな魔力ですら彼女には惜しい。

 とにかく、少しでも多くの力を残した状態で魔女の本体の、その中心部、
つまり核に到達しなければならない。


 いくつかの部屋を抜けると、大きな空間にたどりつく。まだ、中心部といった感じではない。

 よく見ると、部屋の中心部に何か黒い物体があった。
 ほむらたちが近づくと、その黒い物体は一気に形を変える。

「なんやアカンわアイツ。野球を全然わかっとらん……、ブツブツ」

 どう見ても、ノムラカツヤにしか見えない巨大なガマガエルが出現した。

 それを見た杏子は言う。

「ほむら、ボールをくれよ」

「どうしてあなたが?」
188 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:32:54.94 ID:AwbvG8G4o
「いいから」

 ほむらからボールを受け取った杏子は、イチローを見る。

「ああ、なるほどね」

 そう言うと、イチローはゆっくりとバットを構えた。

 杏子は、イチローから少し離れると、大きく振りかぶって全力でボールを投げ込む。

 そのボールを、イチローは素早く打ち返す。

 その瞬間、強烈な光と衝撃波が発生した。


  
「 神 の 一 打(サーバダウン)!!!」



 イチローの打球は、ガマガエルを突き抜け、後ろの壁すら破壊する。

 ガマガエルの身体は砕け散り、もはや見る影もない。

「さて、行くか」心なしかサッパリとした表情で、イチローは二人に呼びかけた。

「ええ、行きましょうか」

 ほむらたちは、更に魔女の中心部へと向かった。
189 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:34:56.14 ID:AwbvG8G4o
   *


「はあ、はあ、はあ……」

 三人は肩で息をしながら走りきった。

 目の前にある巨大な門。

 負の魔力が、ビリビリと肌を通じて感じてしまう。

「僕が開こう」そう言って、イチローは門に手をかける。

 人一人の力では決して開きそうにない、巨大な門は、イチローの両手によって開かれていく。

 これが、魔女の最深部。

 まるで太陽のように輝く光の球体が部屋の中央に浮かんでいる。

 世界を滅ぼしかねない、「最悪の闇」とも言えるワルプルギスの夜の核が、眩しい光の塊である。
なんとも皮肉な姿だろうとほむらは思った。

 さすがに核の周辺には使い魔は出てこなかった。それはそうだろう。
最も重要な部分がある部屋でドンパチをやるバカはいない。

 ほむらは再び魔女の核を見た。

 眩しいほどの輝きを放つその核。
 何度となく親友を死に追いやり、これを倒すために何度も彼女は時を遡った。

 結果的に多くの無駄と犠牲を生みだしてしまったけれど、やっと罪滅ぼしができる。


 ほむらは自分の持っている爆弾を取り出した。もう残り少ないけれど、自分の持っている
全ての魔力を添加すれば、部屋ごとこの核を破壊することができることだろう。

「イチロー、それに杏子」ほむらは二人に呼びかける。

「なんだよ」

「どうしたんだい?」
190 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:36:35.22 ID:AwbvG8G4o
「今まで本当にありがとう……」

 ほむらは二人の顔を直視することができない。

「私は、幸せだった」

「おい……」

「……」

「それで二人に、最後のお願いがあるのだけれど」

「なんだよ、最後って」

「イチローと一緒に、ここから逃げて。あなたたちの力なら、数分でここから脱出できるはずよ」

「……」

 杏子は答えない。イチローも無言だ。

「確かに、外側と比べて内部は弱いかもしれない。だから、ここを破壊するために、
私が魔力と爆薬で、出来る限り大きな爆発を起こして破壊する。
 だからあなたたちはここから――」




「断るね」




 ほむらの言葉を断ち切るように杏子は答える。

「杏子、でも」

「その役目、私がやるよ」

「何を言ってるの?」

「アンタが使っているそのショボイ爆弾よりは、もっと効果的な破壊ができると思うぜ、アタシのほうがさ」

「これは私自身のけじめなの、だから私にやらせて」

「けじめ?」
191 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:38:22.89 ID:AwbvG8G4o
「そう、けじめ。時間を何度も繰り返すことによって、こんな事態にさせてしまった私のけじめ」

「ほむら、今けじめって言ったね」

「ええ、言ったわ」

「だったら、あのまどかとかいう女の子はどうなんだ?」

「それは……」

「アンタ、あいつと友達なんだろう? そいつに断りもなく、勝手に逝っちまうのか?」

「ん……」

「ほら見ろ、けじめを付けきれてねえじゃんか」

「でも、それとこれとは」

「ほむら」

「なに」

「友達は、大事にしなきゃな」

 そう言うと、杏子は片目を閉じる。

「イチロー、そいつを頼む」

「……、ああ、わかった」そう言うと、イチローはほむらを抱きかかえる。
いわゆるお姫様抱きというやつだ。

「杏子! 私は」

「じゃあな、さっさと行け」杏子はほむらから目をそらし、背中を向けた。

「杏子」今度はイチローが彼女に声をかける。

「なんだよ」杏子は背中で答える。

「カレー、美味しかった。あと、夜食のラーメンも」

「ふん。……達者でな」

「杏子!」ほむらは叫んだけれど、身体に力が入らなくなっていた。



   *
192 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:40:29.92 ID:AwbvG8G4o
「さてと……」

 魔女の中心部で杏子は独り言を言う。
 ただ、念話のスイッチは入れてあるので厳密には独り言ではない。

「アンタ、アタシたちを随分苦しめてくれたんだってね。まあ、アタシがこうして対峙るすのは
初めてらしいけどな」

 杏子は先ほどまで持っていた槍を捨てる。槍は、魔力で出来ているため、
持ち主から離れると消えてしまった。

 そんな槍の姿を見て、自分もいずれこうなるのかと思うと切なくなる。

「なあ、魔女さんよ。アタシがここでアンタと一緒に逝ってやるんだ。感謝しなよ。
こんな美少女と一緒に逝けるんだからね」

 そう言って、杏子は束ねていた自分の髪をほどく。髪をほどいたとき、彼女は何かに
解放されたような、ほっとした気持ちになった。

「これから死ぬっていうのに、こんな風に落ち着いた気持ちになれるのも不思議だな。
もっとも、魔法少女になっちまったら、最初から死んだようなものだけどさ」

 杏子は自嘲気味に笑う。


 彼女は、魔法少女になることの意味、そしてその後に待ち受ける運命をほむらから聞いていた。


 普通なら絶望してしまうその事実を、心安らかに受け入れることができたのはなぜだろう。

 何度も考えたけれど答えは出ず、結局、杏子は考えるのをやめた。

「私って、バカだから難しいことは考えられねえよ」

 ゆっくりと、杏子は自身のソウルジェムを手に取り、そして握りしめる。


「イチロー、それにほむら。短い間だったけど、ありがとう」

 ここで、杏子はひと呼吸置く。



 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「また家族ができたみたいで嬉しかったよ」



 それが杏子の最後の言葉だった。


   *
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2011/04/16(土) 20:41:23.06 ID:lgaRCcvBo
あんこちゃん…
194 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:41:58.58 ID:AwbvG8G4o
 杏子からの念話が途切れた次の瞬間、空中に浮かぶ巨大な城からいくつも火が噴き出す。

 イチローに抱かれたまま、ほむらはその光景を見つめていた。

 あれだけ強かったワルプルギスの夜が、鹿目まどかの力を借りない限り、
何度挑んでもかなわなかった存在が、墜ちて行く。

「杏子……」

 ほむらは悲しくなったけれど、まだここで泣くわけにはいかない。そう思い大きく息を吸った。

「……」イチローは、ほむらの気持ちを察しているのか、無言だった。



 公園から、少し離れた駐車場に、鹿目まどかは待っていた。

「ほむらちゃん!」

 イチローは静かに着地して、ゆっくりとほむらを下ろす。

「……」ほむらはアスファルトを踏みしめ、まだ自分が生きていることを感じた。

「ほむらちゃん! 無事だったんだね」

 まどかは泣いていた。

「まどか、私は大丈夫……」

 つられてほむらも泣きそうになったけれど、なんとかそれはこらえた。

「本当に良かった。あの変な魔女は」

「大丈夫よ、皆で倒したわ」

「イチローさんや、ほむらちゃんたちが?」

「……いいえ、違う」

「え?」
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/04/16(土) 20:42:54.58 ID:eA2+HpJAO
あんこ……
196 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:44:48.29 ID:AwbvG8G4o
「皆が、貴方を含め、応援してくれた皆がいたから勝つことができたの」

「……そんな」

「それで、私はあなたにお礼と……、お別れを言いに来たの」

「え? どういうこと」

「魔法少女である以上、普通の人と同じように生きていくことができない。
これは前にも言ったよね」

「どうなるの?」

 ほむらは、まどかのその疑問に直接は答えなかった。

「……今まで迷惑かけてごめんね」

「ほむらちゃん、何を言っているの? 意味がわからないよ! っあ!!」

 まどかは、ほむらの身体の異常に気がついたようだ。

「ほむらちゃん、身体が……」

「うん」ほむらは自分の手を見る。

 手の平から足元が透けて見える。

「まどか」

「なに?」

「あなたと会えてよかった」

「私もだよ、ほむらちゃん」

「ありがとう」

「いい、笑顔だね」

「そう?」
197 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:47:17.32 ID:AwbvG8G4o

 ほむらは、随分久しぶりに笑った気がした。

 こんなにも安らかな気持ちで笑えたのは、生まれて初めてかもしれない。

 身体が随分軽くなったように感じる。質量そのものがなくなってきているのだろうか。

「イチロー」

 最後に、この戦いにおける最大の功労者である彼に礼を言わなければいけない。

「なんだい、ほむら」

「色々と迷惑かけてごめんなさい」

「気にするな。僕も楽しかった」

「本当は、スパゲティ以外の料理も作ってあげたかったけど」

「ほむらのスパゲティ、美味しかったよ」

「ありがとう、本当にありがとう。それと、弓子さんには、ちょっとごめんなさい」

そう言ってほむらは、弓子から貰った桃色のカチューシャを優しく触る。

「どうしたんだい?」

「イチロー」


















   大好き――
198 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:48:11.76 ID:AwbvG8G4o



          エピローグ 


自分自身が何をしたいのかを、忘れてはいけません。
199 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:51:40.81 ID:AwbvG8G4o

 彼女は目を覚ますと、そこは病院のベットではなく、自宅のベットであった。

 そうだ、もう退院したのだ。退院してからすでに数日経っているにもかかわらず、
未だに入院中の感覚が抜けない。

 これから大変だな。

 そう思いながら、少女は眼鏡をかけた。

 春の光の中、桜はもう散ってしまったけれど、こういう陽気は好きだ。

 その日は初めての登校ということもあって、母親に自働車で学校まで送ってもらい、
事務室や職員室等で手続きを済ませる。

 そして、いよいよ、自分が所属するクラスへと向かった。

 担任の教師から紹介され、彼女は自己紹介をする。

 緊張のため、上手く言葉が出ない。その時、声が聞こえた。

「頑張れ」

 クラスの誰かが言ってくれたらしい。彼女は勇気を振り絞って、はっきりと大きな声で自己紹介をする。
 こんな大きな声を出したのはいつぶりだろう。
 なんだか、壁を一つ超えた気持ちになった。

 午前の授業がはじまるまでの少しの時間、彼女の周りに数人の女子生徒が集まってくる。

「いやあ、びっくりしたよなあ。ずっと入院していた子って聞いたから、もっと大人しいのかと思ったら、
けっこうはっきりと喋るじゃない」

 髪の短い、活発そうな女子生徒だった。

 普段から大きな声を出すことなんて滅多にないのだけれど、やはり第一印象は大事なのだな、
と彼女は思った。
200 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 20:54:01.74 ID:AwbvG8G4o
「気分が悪かったら、私に言ってね? 私、保健係だから」少し長めの髪を、リボンで二つに束ねた
女子生徒も、笑顔で話しかけてくる。

 あなたは?

「ああ、ごめんね。私、鹿目まどか。よろしく」

「そして私は美樹さやかだ、よろしくね」

 こちらこそよろしく。彼女は、はにかみながら笑顔でそう言った。

「ところで、その髪飾り」

 まどか何かに気づいたように、彼女の付けているカチューシャを指さす。

 え、これ? 
 
 彼女は、自分の頭につけたカチューシャを触る。どこで貰ったのかわからないけれど、自宅にあったものだ。

 それをひと目見たときから、とても気に入っている。

「とっても可愛いね。私、その色大好き」

 あ、あの……。

 彼女は、あまり褒められ慣れていないので、そんな風に言われるとどう反応していいのか困ってしまう。

 しかし、何も言わないのは失礼だ。だから、笑顔で自分の気持ちを表現する。



 ありがとう、とても嬉しい。






   お わ り
201 :まど☆イチは終了しました ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 21:02:57.70 ID:AwbvG8G4o
 終わった。やっと終わった。

 わずか一週間という短い間でしたけれど、お付き合いいただいた皆様、ありがとうございます。
 本当は八話で終わらせる予定だったのですが、最終決戦が間延びしてしまったため、
もう一話追加することになりました。

 最終話なのに盛り上がりに欠けてしまい申し訳ない。

 マミさんや杏子ちゃんの扱いについて、不満のある方もいるかもしれませんけれど、
これに関しては筆者なりの理由(言い訳)がございます。

 今からお風呂に入ってからその後書きますんで、心に余裕のある方はご覧になってください。
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/16(土) 21:27:44.13 ID:kRjfucl3o
理由(言い訳)に期待
203 :まど☆イチ反省会 ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 21:51:22.81 ID:AwbvG8G4o
 みなさんこんばんは。ハイパー言い訳タイムの時間がやってまいりました。

 当初の構想では、マミさんも杏子ちゃんも助かる予定でした。
 しかし蓋を開けて見ると、魔法少女は全員消滅ということになってしまったわけです。

「一度魔法少女になってしまったら、もう二度と元には戻らない」というのは、アニメの設定
ですが、この物語でもその原則を踏襲させていただきました。

 というのも「イチローさんにもどうしようもできないこと」があった方がいいのではないか、
と考えたからです。

 基本的にイチローさんは万能キャラなので、何でもできます。しかしそれでは面白くない。

 イチローさんにすら、どうすることもできない事態。そういうのがあってもいいのではないかと。


「全てを救うことはできないかもしれない。ただ、ほんの一部だけでも救えるのなら、僕はそれをやろうと思う」


 マミさん編の時のイチローさんの言葉です。

 何でも思い通りにはできない、だから人生は苦しいけど楽しいのだと。
 まあ、そう思うようにしております。
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/16(土) 22:00:08.22 ID:kRjfucl3o
イチローSSが面白いのはイチローの存在がチート(笑)だからだと思う
205 :まど☆イチ反省会 ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/16(土) 22:00:52.46 ID:AwbvG8G4o
ぶっちゃけエガちゃん書いてる時が一番楽しかった。
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/16(土) 22:06:13.53 ID:x9IRnuDco
せっかくイチロー出てるんだから全員救われないと本編と被ったイメージが強いな
マミと杏子が死ぬなら本編と同じにしてさやかも魔女化させて殺しちゃえばよかったのに
そうした方が良かった気がする
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/04/16(土) 23:41:14.09 ID:VGZIzfpAO
いやいや、面白かったよ 乙
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/17(日) 13:57:39.62 ID:N3kf0gFH0
いっそのことイチローのチート機能で鬱フラグブレイクさせてほしかった
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [saga]:2011/04/17(日) 18:58:05.47 ID:Kzsbzqt3o
エガちゃんはフラグブレイクしてくれたけどね!
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/17(日) 20:52:49.13 ID:zVt1NXtd0
杏子ちゃんはやはり聖女だった
間違いなくだ
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉) :2011/04/18(月) 01:37:33.12 ID:Y4VRS1im0
良い作品だった!
次回作に期待ッス!!
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 21:45:01.54 ID:Suym29puo
次はエガちゃんメインで
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/19(火) 01:14:45.05 ID:znqONKLDo
よかった
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/22(金) 17:18:10.24 ID:8mjLRjQ6o
本編はほむら以外
死亡者と生存者がこのSSと逆だったな
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 19:58:42.68 ID:4pzfsgDIO
乙っちまどまど!
216 :アマガミちょっとおまけ劇場 ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/22(金) 20:37:29.10 ID:rVsJXJLKo
 みなさまこんばんは。>>1でございます。
 まど☆マギの最終回、いかがだったでしょうか。まだ未見の方もおられると思うので、
内容については触れないでおきましょう。

 さて、このスレも最終回を迎え、しばらく経ったようなので、近いうちにHTML化の依頼
も出しておこうと思います。読んでくださった方、感想をお書きくださった方、ありがとうございます。

 次回作について期待してくださった方もおられるようですが、次回作の構想は……


 あります。

 それも、誰もやらないようなクロスカップリングでやるつもりです。
 かなりマニアックなネタなので、このスレ以上に地味になるやもしれません。
 それでは、いつか皆様とインターネットの片隅でまたお会いできることを楽しみにしております。



  まど☆イチ作者◆tUNoJq4Lwkこと、イチジクでした。
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/22(金) 21:06:15.15 ID:1YbNiopxo
乙 次回作楽しみにしてるよ!
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/23(土) 20:50:20.75 ID:ucaSKhh9o
乙 イチロースレがまた一つに…
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2011/04/23(土) 21:43:31.85 ID:oqLgWEW3o
12話のリボンほむらを見て、桃色カチューシャほむらを思い出したのは秘密だよ。
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/24(日) 23:13:34.77 ID:yhA1AoqS0
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