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らき☆すたSSスレ 〜ポリエステルより愛を込めて〜 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/04/10(日) 12:16:09.42 ID:Gp1b1DT20
ここは「らき☆すた」のSSスレです。

・どんなジャンルでもどんどん投下したまへ〜 by こなた
・でも、他所からの作品の無断転載は絶対ダメよ! by かがみ
・あとね、あんまりえっちなのはちょっと恥ずかしいから遠慮してほしいな by つかさ
・メール欄に「saga」と入力するとこの板特有のフィルターを回避できます。「sage」ではありませんよ。
 代表的な例が「高良」です……よろしくお願いしますね by みゆき
・長編作品はタイトルをつけてもらえるとまとめるときとかに助かります! by ゆたか
・それと、できればジャンルを明記するようにしてほしいの。
 特定のジャンルが苦手な人もいると思うから…… by あやの
・パロディとかクロスオーバーとかもおっけーだけど、
 あんまり度が過ぎると他の人に引かれっから気をつけろよなー by みさお
・シラない人へのハイリョがアればgoodネー byパティ
・初めてでもよっしゃーいっちょ書いたろかって人大歓迎するでー by ななこ
・まとめてくれる人募集中です……そして、現在のまとめ人には感謝してます…… by みなみ
・お題を出せば書いてくれる職人さんもいるっス。ネタのため……
 いや、いろんなお話を読んでみたいんで、いいお題があったら書いてみてください! by ひより
・そしてそして、SSだけじゃなくて自作の絵もOK!
 投下された絵は美術室に展示されるからジャンジャン描くべしっ! by こう
・注意! 荒らしへの反応は絶対ダメ。反応する悪い子は逮捕だ! by ゆい


(避難所)
 PCから->http://jbbs.livedoor.jp/auto/5330/
 携帯から->http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/auto/5330/

(まとめサイト)
 http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/

(SSスレ用画像掲示板)
 http://www.sweetnote.com/site/luckystar/
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【進撃の巨人】俺「安価で巨人を駆逐する」 @ 2024/04/27(土) 14:14:26.69 ID:Wh98iXQp0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714194866/

諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714136403/

少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/10(日) 22:40:40.42 ID:P5y3E6ag0
>>1
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/04/10(日) 22:41:27.01 ID:bSWy6y4i0
>>1 乙です!!
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/04/11(月) 00:09:24.98 ID:z6KMFFHAO
>>1
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/04/11(月) 00:21:09.32 ID:6imJkJCm0
新たに立ち上がりました。
よろしくお願いします。

所で、前スレの『花見』のご感想があればよろしくです。
自分の作品は感想書き難いかな?難しい表現なんかはあまり使わないようにはしているつもりです(難しい表現は知らない)

感想は次回作品の肥やしにもなりますので。他人の書いた作品の感想も参考になる。
過去、まとめサイトの作品の感想も意外と参考になったりするのでよろしくお願いします。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) :2011/04/11(月) 18:36:30.40 ID:RTn2xgGb0
>>5
花見読ませていただきました
自分は口下手なんであまり良い感想は書けない事を先にお詫びしておきます
原作でも進路がバラバラになってしまいこの4人だけで集まる事があまりなくなってしまったので嬉しかったし読んでいて楽しかったです
お互いの予定がなかなか合わずに簡単に集まれなくなっていく切なさが出ていてなんとも言えない気持ちになりました(いい意味で
自分はらきすたの中でこの4人が大好きなんだなと再認識させられました
わけわからない感想ですいません
ありがとうございました
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/11(月) 18:55:12.83 ID:wTWk/1xSO
いやモンハンやりにとか、結構気軽に集まってた気が
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/04/11(月) 19:30:02.54 ID:6imJkJCm0
>>6
どうもありがとうございます。

>>7
自分の作品は原作に忠実でないのでお許しを。
と言うよりは逸脱している話ばかりかもしれない。
それでもキャラの性格などは崩さないように書いているつもりです。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [saga]:2011/04/16(土) 17:02:52.68 ID:ciq0zFMAO


こなた「震災から一月以上たったね」
ひより「アニメにも影響でまくりでしたね。津波カットとか…」
かがみ「アンタらは結局それか」
こなた「いやいや、そういうつもりじゃないって。けどあれだね…さすがに言わせて欲しいんだ」
かがみ「…何をよ」
こなた「阪神大震災や新潟の地震の時はここまでマスコミ騒いでないよね?!東京も被害にあった途端コレってふざけてんの?!」
ひより「…復興税って、関西の時はしてないっスよね!いくら原発事故まであったとはいえおかしいっス!」
かがみ「まて!落ち着け埼玉県民!」

不謹慎すんません。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/04/16(土) 22:09:47.22 ID:tDJI03730
>>9
こなたならそう言いそうだね。
原発事故に関しては今、一喜一憂してもなんの解決にもならない。こらから何十年、何百年かけて処理することになるから。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/16(土) 23:16:08.45 ID:8DmNLpNSO
言うわけねーだろ
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/04/17(日) 00:17:06.89 ID:WsfV4BoO0
>>11
その意見を待っていた。


第4回のコンクール人気投票結果が出ました。
http://vote3.ziyu.net/html/dai4.html

同じく第5回コンクール投票を開始します。
〆切は4/23(土)24:00 です
投票所
http://vote3.ziyu.net/html/dai5.html
よろしくお願いします。

好評ではないみたいだけど止めろとの意見もないのでこのまま続けます。

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/04/17(日) 11:19:05.18 ID:WsfV4BoO0
ここのスレは80行6000バイトまでOKらしいね
もう少し詰めて書けそうだ。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/04/19(火) 20:33:33.39 ID:m/qSQ+3e0
何も浮かばない。何かお題でもあれば浮かぶかも。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/20(水) 19:36:56.28 ID:TaLUFlyw0
投下します。
時事ネタど真ん中で。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/20(水) 19:38:05.32 ID:TaLUFlyw0
*原作にない一部設定は捏造です。

非常の中の日常


 成実ゆいは、警察署で当直勤務をしていた。
 何か起きない限りは、特にやることもない。
 音量を抑えたテレビを漫然と眺めていた。ときおり入る地震速報のテロップには、もうすっかり慣れてしまった。
 同じく当直の後輩は、パソコンでお役所仕事的などうでもいい書類を作成していた。


 3月11日の大地震発生から1ヶ月以上が過ぎていた。


 埼玉県内の親類の無事は、3月11日中に確認できた。
 従妹のこなたは「本とフィギュアがめちゃくちゃになったよ」と嘆いていたが、怪我がなかったのは幸いだった。両親も妹もおじさんもみんな無事が確認できた。
 問題は、東北地方に単身赴任している夫のきよたかだった。なんとか連絡がついたのは二日後。無事だと分かったときは思わず泣きそうになった。
 夫は、被災した工場設備の復旧作業のためしばらくは帰ってこれないという。夫が勤めている工場が生産しているものは現地の復興には欠かせないもので、その復旧はなんとしても優先されなければならないことだった。
 ゆいは、すべてを放り出して現地に駆けつけたい思いをぐっと押さえ込み、「体には気をつけて」と言って電話を切った。
 私情を挟まず自分の持ち場で本分を尽くすのが公僕の務めだ。それをいまさら放棄するわけにはいかない。
 それ以来、こちらから連絡することはしていない。夫が日々の激務で疲れ果てていることは分かっているから。
 夫から電話がかかってきたときは、いつもどおりの成実ゆいとして日常と変わらない会話をかわした。「がんばって」とも「無理しないで」ともあえて言わない。


 地震発生直後は、信号機・標識等の損害状況の巡回点検、地震に伴って発生した交通事故の処理などで奔走した。
 その後は、東北地方に支援物資を運ぶ民間車両への「緊急輸送車両確認証明書」の発行手続や、輪番停電で信号機が停止した主要交差点の交通整理などで忙しかった(「無計画」停電のせいで翻弄されっぱなしだったが)。
 それらの仕事も今はもう落ち着いている。
 被災地への災害派遣は機動隊が中心で、交通課の警察官にはお呼びはかかっていない。
 「余震等に伴う不測の事態に備え非番の場合も自宅待機せよ」という命令はいまだに解除されてないが、仕事はルーティーンワーク中心の通常態勢に戻りつつある。

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/20(水) 19:38:42.56 ID:TaLUFlyw0
 後輩が作成した書類を回してきた。たいして中身も読まずにハンコを押して、課長席に置いておく。
「しかし、これって本気なんですかね?」
 後輩が、ホチキス止めされた分厚い資料の束を掲げた。表紙には「部外秘」とスタンプが押されている。表題は「重大事態における県民の避難誘導について」。
 中身はパラパラと読んだが、愉快な内容ではない。
 最悪の場合には県民すべてを県外に避難させることとされており、その場合における埼玉県警の具体的な行動計画が記載されていた。その規模の避難誘導となれば、当然、交通課の警察官も総動員ということになる。
 避難の方向は西が想定されていた。となれば、「重大事態」の内容も見当がつくというものだ。埼玉県から北東方向を見れば、今回の震災ですっかり有名になってしまった原発がある。
「上の方は本気なんでしょ。じゃなきゃ、こんなもん配らないよ」
「杞憂ですんでほしいですけどね」
「誰か偉い人が言ってなかったっけ? 起きる可能性のあることはいつか必ず起きるって」
「マーフィーの法則ですね」
「そう、それ。そういうのは、交通事故だって原発事故だって変わんないよ」
 違うのは頻度だけ。
 あとは、どこまでを想定して、どこまで準備しているか。想定を超えた場合にも対応できるだけの余裕があるか。その違いでしかない。


 突如、警察無線から音声が流れてきた。
「こちら、サイケンツウカン。サイケンツウ5、応答せよ」
 ゆいは、無線を手に取って応答した。
「こちら、サイケンツウ5。サイケンツウカン、どうぞ」
「事故発生……」
 事故発生の場所・時刻、判明している状況などが告げられた。人類滅亡のその瞬間でさえ決して変わらぬであろうと思わせる淡々とした声で。
「サイケンツウ5、了解。現地向かいます」
 節電の影響かどうかは定かではないものの、交通事故件数は徐々に増え始めている。ほとんどが物損事故だが。


 ゆいは、後輩とともにすばやくパトカーに乗り込み、サイレンを鳴らしながら、夜の闇の中へと消えていった。


終わり
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/04/20(水) 21:45:40.97 ID:GtN3f0Ut0
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ここまでまとめた


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>>17
乙です。
個人的には『人類滅亡』の文字はあまり見たくないですね。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/04/24(日) 00:04:17.52 ID:SAKGC/C+0
第5回のコンクール人気投票結果は無投票により無効とします。

同じく第6回コンクール投票を開始します。
〆切は5/1(日)24:00 です

投票所
http://vote3.ziyu.net/html/dai6.html

よろしくお願いします。

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/04/24(日) 00:22:17.75 ID:SAKGC/C+0
かなり書き込みが減ってきました。
らき☆すたの人気が落ちたから?
そうは思わない。一時の事だと信じたいです。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/24(日) 00:49:19.90 ID:BMxEmTYHo
まぁ、単にブームが去ったというかなんというか
新しいモノはいくらでも供給されてくるからね。盛者必衰とはよく言ったもんで
かなり前から人は減ってたし、アニメ二期でもない限りはどうしようもないなぁ
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/24(日) 01:07:10.73 ID:4rYTAWgSO
ただでさえ人減ってるところに前のコンクールでトドメ刺されたって感じだな
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/04/24(日) 10:44:50.69 ID:SAKGC/C+0
やはりコンクールですか。もうやっても参加者いないかな。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/24(日) 12:27:15.70 ID:MQGXE4DOo
いやーコンクールはあったほうがいいよ
過疎ってても毎回10近くエントリーあるし、力作も出てくるし
それこそ作者のモチベ上げる生命線になってんじゃないかな
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/24(日) 14:55:26.39 ID:xqkvE9hR0
コンクールは存続した方がいいとおもう
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/04/24(日) 17:33:44.33 ID:SAKGC/C+0
>>24-25
コンクールはGWが終わったらやろうと思ってます。
27 :名無しNIPPER [saga]:2011/04/26(火) 15:10:59.03 ID:+5Ol+kQio
>>27
楽しみにしてるんだぜ
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/04/27(水) 08:34:13.48 ID:UU9cVfEAO
>>27
…自演?
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/02(月) 00:15:12.97 ID:k/IqQcA40
第六回コンクールの結果が出ました。
http://vote3.ziyu.net/html/dai6.html

前回と同じように一票もありませんでした。
続きは二十一回コンクール終了後にしたいと思います。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/02(月) 14:01:42.17 ID:k/IqQcA40
>>14でお題を募集したのですが何も無かった。
思い浮かんだストーリを書いたのだが見直しにもう少し時間がかかりそうです。

『お題』があれば書いてみたいと思います。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/03(火) 18:29:15.79 ID:LHISK67c0
>>30
雨降りの午後、とかどう?
ピンポイントすぎたら適当な感じにしてください。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/03(火) 22:34:29.47 ID:bzxCjw150
>>31
『雨降りの午後』ですか。雨って結構お題になるよね。確か第一回コンクールのお題が雨だった。
とりあえず考えてみましょう。

 それではssを投下します。このスレで初めての長編かな。よければ読んでみて下さい。
33 :時の悪戯  1 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:36:13.83 ID:bzxCjw150
 ある日の夕方、買い物を終え帰宅中の時だった。大通りの反対側にこなちゃんを見かけた。
つかさ「おーい、こなちゃんー」
何度か呼んだけど気付いてくれない。それならば後ろから近づいておどかしちゃえ。そう思った私は大回りしてこなちゃんの後ろからそっと近づいた。
つかさ「わー!!!」
後ろから大声で叫んだ。こなちゃんはゆっくりと振り返った。驚く様子も無くボーと私の顔を見ている。やっぱり私じゃ誰も驚かないのかな。
こなた「つ、つかさ、つかさじゃないか」
つかさ「へ?」
急に私の両肩を鷲づかみにしてきた。つぎの瞬間こなちゃんの目から涙が出ていた。私は何が何だか分からなかった。
こなた「逢いたかったよー四年ぶりだ」
今度は私を抱いて泣き始めてしまった。
つかさ「四年ぶりって、一昨日会ったばかりだよ」
抱きしめるこなちゃんの力強さ、泣きっぷり、とても演技をしているように見えない。それにこんなこなちゃんを見たのも初めて。
つかさ「く、苦しいよ、一体どうしたの?」
こなちゃんは私の台詞に我にかえったのか抱きついた手を離した。
こなた「ご、ごめん、いきなりで驚いたでしょ、時間が無いから単刀直入に言うよ、本当はみゆきさんの家に行こうとしたんだけど、本人の方がいいよね」
つかさ「本人?……本人って私?」
こなた「良いかな、一回しか言わないよ、〇年〇月〇日、つかさ、つかさは、死んでしまう」
え、何を言ってるんだろう、私が死ぬって。でもその日は。
つかさ「その日って今度の日曜日だよね、皆でコンサートに行く日だよ、そんな未来の日なのに」
こなちゃんは頷いた。
こなた「詳細は話せないけど、私は四年後の世界から来たから分かるんだ、いいかいつかさ、その日はコンサートに行っちゃダメ、一歩も外に出たらダメ
    そうすればつかさは助かる、それが言いたくて」
つかさ「そんな事急に言われても、それにいったいどうして私は死ぬの」
私はこなちゃんをじっと見た。四年後のこなちゃん。分からない。今のこなちゃんと区別が出来ない。本当に未来のこなちゃんなのかな。
こなた「その日、つかさは交通事故に会う……これ以上は言えない、そうだよね、いくらつかさでもこの話は信じ難いよね、
    それじゃ、明日なんだけど、私とかがみがチケットの事で大喧嘩をする、それでかがみはコンサートに行かないって言う筈なんだ。そうしたら信じて」
つかさ「それだと、コンサートにはこなちゃんとゆきちゃんだけで行く事になるけど?」
こなた「かがみは最終的には行くことになるよ……出来ればつかさには生きていて欲しいから……それじゃあね」
こなちゃんは走り去って行った。私は呆然とこなちゃんを見送った。

『時の悪戯』

次の日、私達は喫茶店でコンサートに行く打ち合わせをしていた。でも……
かがみ「一体どう言うことよ」
重い口調で話し出すお姉ちゃん。
こなた「見ての通りだよ、かがみん」
お姉ちゃんは拳を振り上げてこなちゃんを殴ろうとしたけどヒラリと避けてしまった。
かがみ「こんな時にその呼び名はするな、こっちは本気なんだ、もう一度言ってみろ」
お姉ちゃんの顔が険しくなった。普通ならここまで怒るなんて考えられない。
こなた「だからチケットの枚数間違えて同じ列で予約できなかった」
淡々と話すこなちゃん。
かがみ「チケットは任せろって言ってたわよね、どう責任とるのよ、誰か一人離れて観る事になる」
つかさ「私がその席に行けば……」
かがみ「つかさは黙ってなさい、私は今怒ってるのよ」
私の話なんか聞く状態じゃない。
こなた「あのコンサートは大人気だった、四枚手にできるだけでも凄い事なんだよ、それをそんな風に言われるなんて、かがみなら出来るって?」
こなちゃんの口調も荒々しくなってきた。私はいやな予感がしてきた。
かがみ「出来る、出来ないの問題じゃない、こなたのその態度が気に食わないのよ」
こなた「私は最初からこの態度だよ」
かがみ「そんな態度なら私はコンサートなんか行かない」
もう収拾がつかない。こなちゃんとお姉ちゃんの言い合いの喧嘩が始まってしまった。そしてこなちゃんとお姉ちゃんは席を立つと帰ってしまった。
私とゆきちゃんは喫茶店に取り残されてしまった。
34 :時の悪戯  2 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:37:28.68 ID:bzxCjw150

みゆき「すみません何も出来ませんでした、あんなに怒っている二人を見たのは初めてです」
私は何も言えなかった。昨日のこなちゃんの言葉を思い出したから。
みゆき「どうしたのですか顔色が悪いですよ、確かに凄い喧嘩でしたけど、きっとあの二人の事ですから仲直りするに違いありません、心配は要りません」
私を励ましてくれている。と言うよりは自分にそう言い聞かせているような感じだった。私の顔色が悪いのはお姉ちゃん達の喧嘩のせいじゃない。
ゆきちゃんになら話しても大丈夫かな。そういえばこなちゃんは最初にゆきちゃんに話すつもりだったって言っていた。
私は思い切ってゆきちゃんに昨日の出来事を話した。
みゆき「つかささんが交通事故死ですか、穏やかではない話ですね」
ゆきちゃんは暫く腕組みをして考えた。
みゆき「つかささん、昨日の泉さんは現代の泉さんだと思いますよ」
つかさ「え、現代のって、さっきまで会っていたこなちゃんって事なの、でも、今日の喧嘩を当てたし、お姉ちゃん、コンサートに行かないって言ったのも当てたよ」
みゆき「これから私が言う推測と昨日の泉さんが四年後から来たと言う話し、どちらが現実的か比べてみて下さい」
ゆきちゃんは暫く間を置いて話し始めた。
みゆき「泉さんはコンサートの予約を失敗してしまいました、当初チケットの予約はかがみさんがする予定でした、あの時の泉さんを見る限りかなりの自信があったと思います、
    しかし失敗してしまいました、引き受けた手前素直に謝れなかった、それでも三枚のチケットは使いたい、そこで泉さんは一人欠席者を作ってしまえば良いと考えた、
    昨日偶然に会ったとつかささんは言いましたが、最初から泉さんはつかささんに会うつもりだったのです、偶然を装いつかささんに会って
    未来から来たと言って事故の話をします、つかささんなら信じてくれるに違いないと、つかささんが欠席すれば三枚のチケットは有効になります、
    先ほどの喧嘩もよく考えてみてください、泉さんがあの態度をすればかがみさんが怒るのは火を見るよりも明らかです、」
つかさ「こなちゃんは失敗を誤魔化すためにワザとお姉ちゃんを怒らせたの?」
みゆき「つかささんに交通事故の話を信じさせるためにです」
つかさ「でもゆきちゃん、でも、本当に昨日のこなちゃんが四年後から来たとしたら……」
ゆきちゃんは目を閉じて、私を見ないようにして話した。
みゆき「現時点でタイムマシーンが作れるような技術はありません、仮にあったとしても国家レベル、軍事レベルの最重要極秘になるでしょう、それがたった四年で一般人の
    泉さんが使える可能性を考えてみて下さい、私はつかささんの話を聞くべきではありませんでした、これほど泉さんに怒りを覚えたのは初めてです」
ゆきちゃんはゆっくり席を立った。このままだとコンサートどころか私達四人が一緒にいられなくなっちゃう。
つかさ「ゆきちゃん待って!!」
ゆきちゃんは立ち止まった。なんて言えば良いんだろう。言葉が見つからない。だけど何か言わないと。
つかさ「ゆきちゃんもコンサート行かないの?」
ああ、なんでこんな事しか言えないの。暫く私を見てゆきちゃんは席に戻って座った。
みゆき「泉さんに対して怒ったとしてもコンサートに行く、行かないは別問題です、私は行きます、つかささん」
つかさ「でも、あんなに怒ってたのに」
私は不思議に思った。
みゆき「泉さんが悪いと言っても全てが嫌いになったわけではありません、それに余りある良い所も沢山あります、それはつかささんも分かっていますよね」
私は頷いた。ゆきちゃんは微笑んだ。
みゆき「きっとかがみさんも同じだと思いますよ、どうですか一緒に帰りませんか、駅までになりますが」
つかさ「ちょっと考え事があるから、先に帰っていいよ」
みゆき「そうですか、御代は私が払っておきますから、お先に……」
ゆきちゃんはオーダー表を取るとレジで会計を済ませて外に出て行った。

 ゆきちゃんの言っている事は正しいと思う。どう考えたってこなちゃんが悪い。だけど昨日のこなちゃんの話が私の頭から離れない。自分が死ぬって話だからかもしれない。
ゆきちゃんはこなちゃんが嘘をついた理由まで話していたけど、そうだよね、こなちゃんならそんな嘘もつくかもしれない。だけど昨日のこなちゃんのあの真剣な表情、
私を見た時の涙、抱きついた時の力強さ、あれが演技とは思えない。なんだか頭が混乱してきちゃった。もう帰るかな。
私は喫茶店を出て駅に向かった。もうお姉ちゃんは家に着いた頃かな。帰ったらお姉ちゃんと話してこなちゃんと仲直りさせないとね。
「わー!!」
突然の声に驚いて仰け反った。声のする方を向いた。そこにはニヤニヤと笑っているこなちゃんが立っていた。
こなた「驚いたね、この前のお返しだよ」
まだ心臓がドキドキする。まさかこなちゃん、帰っていなかったなんて。
こなた「何度も声をかけたのに気付いてくれなかったんだもん、みゆきさんと一緒じゃなかったの」
昨日と逆になっちゃった。えっ、さっきなんて言った。『この前の』って言ってた。昨日のこなちゃんは四年後の世界のこなちゃんじゃない。私を騙した。私だってそのくらい分る。
チケットの失敗を誤魔化すために私を騙した。いくら私でも許せない。私はこなちゃんを睨み付けた。こなちゃんは私から一歩引いた。
こなた「やっぱりつかさでも怒るんだ……はぁ」
こなちゃんはその場でうな垂れてしまった。私もゆきちゃんと同じ、こなちゃんの全てを嫌いになったわけじゃない。このまま突き放したってなにもならない。
つかさ「どうして?」
私は一言そう言った。こなちゃんは俯いた顔を私に向けた。
こなた「あのチケット、三枚しか予約できなかった、どうしようもなかった、出来ることは全てやった、だけど……出来なかった」
つかさ「それならちゃんとそう言えば良かったのに、お姉ちゃんだって怒らなかったと思うよ」
こなた「でも、でもね、私から引き受けた予約だった、だから失敗したなんて言えないよ、みんな言い訳になるから」
ゆきちゃんの言っているのと同じだ。さすがゆきちゃん。なんて感心していられない。
つかさ「こらから一緒に家に行ってお姉ちゃんに謝りに行こうよ」
こなた「私もそのつもりだった、だけど一人じゃ行き辛くって、つかさとなら行けそうだよ、喫茶店で一枚別に買ったチケットの席で良いって言ってくれたし」
つかさ「あれはお姉ちゃんがあんなに怒ってるから言っただけ」
こなた「ありがとう、あれが無かったらかがみに謝りに行けなかった」
そう改まって言われると照れちゃうね。とりあえず話はまとまった。早速私達は家に向かった。
35 :時の悪戯  3 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:38:47.05 ID:bzxCjw150

 家の玄関に着いた。私はこなちゃんに玄関の前で待つように言った。
つかさ「ただいま、お姉ちゃん居る?」
暫くすると二階からお姉ちゃんが下りて来た。
つかさ「ちょっと時間いいかな、外で話したい事が……」
かがみ「何よ、言いたい事があるならここでも良いじゃない」
少し怒り気味だった。やっぱり喫茶店の影響がまだ残っている。でもここで挫けちゃだめ。
つかさ「どうしても外で話さないといけないの、お願い」
私は両手を合わせて頼んだ。
かがみ「しょうがないわね」
お姉ちゃんは渋々玄関の扉を開けた。外にはこなちゃんが居る。
こなた「かがみ、さっきはごめんなさい」
お姉ちゃんがこなちゃんを見るなり謝った。お姉ちゃんも何かこなちゃんに言いたかったみたいだった。きっと文句の一つもあったに違いない。
だけど先に謝れたらこれ以上何も言えない。お姉ちゃんは一回ため息をついた。
かがみ「あのコンサート、人気があるのは分ってた、チケットが四枚取れるか私も心配だった、はっきり言うとね、もし私がチケットを予約していたら
    一枚も取れる自信はなかった、それでもこなたは四枚予約をした、どんな形であれそれは認めるわよ」
こなた「かがみ……」
おねえちゃんはこなちゃんが何か言おうとしたけど直ぐに止めた。
かがみ「もういいわ、私も大人気なかった、もうこの話は無しにしましょう、ただ一言言わせて、何故昨日言ってくれなかった、その時言えば違っただろうに」
こなた「タイミングを失っちゃって、本当は昨日言えば良かった」
一件落着。私は胸を撫で下ろした。二人の笑顔を見てそう思った。
つかさ「こなちゃん、せっかくだから夕食食べて行かない?」
かがみ「いいわね、どう、どうせ時間はあるんでしょ」
こなた「どうせは酷いよ〜」
私達はこなちゃんを家の中に招いた。お姉ちゃんとこなちゃんは昨日会っていた。もうその時から喧嘩は始まっていたのかもしれない。
あれ。昨日会っていた。お姉ちゃんとこなちゃんは昨日会っていた……
つかさ「お姉ちゃんとこなちゃん、昨日会っていたって言ったよね?」
かがみ「そうよ、こなたの家に行っていた、つかさは買い物だったわね」
それじゃ昨日私に会ったこなちゃんは誰。そうだ。お姉ちゃんと別れてからに違いない。
つかさ「こなちゃんとお姉ちゃんが別れたのは何時?」
こなた「夕食たべてからだから、夕方7時くらいかな」
あり得ない。昨日あの時間にこなちゃんと会うなんてあり得ない。
つかさ「こ、こなちゃん、私が喫茶店から出たとき脅かしたよね、その時『お返し』って言ったけど……」
こなた「え、あれは、どのくらい前かな、2から3週間前だよ、つかさに不意をくらって後ろから驚かされた、そのお返しだよ、さっきからどうしたの」
昨日の話じゃない。もう直接聞くしかない。
つかさ「こなちゃん、昨日、私と会わなかった?」
お姉ちゃんとこなちゃんは顔を見合わせた。
こなた「つかさ大丈夫?」
心配そうに私の顔を覗き込むこなちゃん。
かがみ「私達の為にそこまで親身になってくれるのは有難いけどもういいわよ、仲直りもしたしコンサートも行くわ、安心して」
つかさ「そ、そうだね、食事の準備があるから、こなちゃん少し休んでて」
かがみ「それなら私の部屋で」
お姉ちゃんとこなちゃんはお姉ちゃんの部屋に向かって行った。

 昨日のこなちゃんは言った。喧嘩したけど結局お姉ちゃんはコンサートに行くって。今の所その通りになっている。コンサートの当日私は交通事故に遭うのかな。
その日私が一歩も外に出なければ助かるかもしれない。だけどあのコンサート、私だって行きたい。こうやって集まれるのも学生生活最後になるかもしれないし。
私はどうすればいいのかな。ゆきちゃんにはもう相談できない。それにお姉ちゃんやこなちゃんも私の話をまともに聞いてくれそうに無い。
私一人で決めなきゃいけない。コンサートに行くか行かないか。
みき「ほら、つかさ何してるの、おなべが吹き零れるわよ」
慌てて私は火を弱めてお鍋の中をかき回した。焦げなかったみたい。今は料理に集中しよう。

36 :時の悪戯  4 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:40:08.50 ID:bzxCjw150
 
 こなちゃんは帰った。お姉ちゃんと楽しそうに食事をし、会話も楽しんだみたいだった。だけど私はそんな気分になれなかった。
もう普段なら寝ている時間。でも眠れない。私はいったいどうなるのかな。
突然私の携帯電話が鳴り出した。相手はゆきちゃんだった。こんな遅い時間になんの用事だろう。
この時間ならゆきちゃんも寝ているのに。それに普段ならメールで連絡くるのに。
つかさ「もしもし」
みゆき『夜分申し訳ありません、起こしてしまいましたか?』
つかさ「うんん、眠れなくて起きてた」
みゆき『喫茶店では失礼しました、あの時私は怒りでどうかしていました』
つかさ「気にしてないよ、それよりお姉ちゃんとこなちゃんは仲直りしたから、それにお姉ちゃん、コンサートに行くって」
みゆき『そうでしたか、四年後の泉さんの言った事と同じ展開になっていますね』
その時ゆきちゃんがなんで私に電話してきたのか分った。
つかさ「ゆきちゃん、あの時こなちゃんはお姉ちゃんと一緒にこなちゃんの家にいた、だから、だから」
慌ててその先が言えない。
みゆき『それを聞きたくて電話をしたのです、これは軽率な行動はできませんね』
つかさ「ゆきちゃん、信じてくれる?」
みゆき『信じる、信じないの問題ではありません、実際につかささんが見たと言うならば考えなければなりません、もう時間が遅いですね、明日、時間ありますか?』
つかさ「えっと、明日は自習があるから夕方からなら時間があるよ」
みゆき『そうですか、午後7時、駅前の喫茶店で待ち合わせますか?』
つかさ「うん、ありがとう、お姉ちゃんとこなちゃんにも話す?」
みゆき『お二人はある意味で現実主義者です、常識から大きく外れた問題に対してはおそらく真剣に受け止めないでしょう、話さない方がいいと思います』
家でのお姉ちゃんとこなちゃんのを見て私もそう思った。ここはゆきちゃんの言うとおりにしよう。
つかさ「それじゃ、おやすみ」
みゆき『おやすみなさい』
携帯を切って机に置いた。ゆきちゃん。なんだか急に頼もしく感じた。何か解決策があるのかもしれない。安心したせいなのかな何か急に眠気が。
もう寝よう。明日のことは明日考えよう。
37 :時の悪戯  5 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:41:41.41 ID:bzxCjw150

 次の日、午後7時喫茶店で席を取って待っているとゆきちゃんがやってきた。
みゆき「おまたせしました、待ちましたか?」
つかさ「うんん、ちょっと待っただけ」
ゆきちゃんは席に着くと紅茶を注文した。
みゆき「つかささんが四年後の泉さんに会ったと言う大通りを見てきました、何も変わりはなかったですね」
早速ゆきちゃんは問題を話し始めた。
つかさ「私の妄想か幻覚でも見たのかな、でも、あのこなちゃんはこなちゃんだったし、ちゃんとお話もしたし、こなちゃんの態度が私と何年も会っていなかったみたいだった」
みゆき「私はつかささんを疑ったりはしていません、何か手掛かりを探していただけです、見つかりませんでしたけど……」
つかさ「私、どうすればいいかな?」
ゆきちゃんは暫く私を見ていた。
みゆき「つかささんが今度の日曜日コンサートに行くと交通事故に遭って亡くなってしまわれる、それは何も知らなかったからです、未来から泉さんが来たとしたらその時点で
    私達は未来の情報を手に入れた、もしかしたら交通事故を回避できるかもしれません」
つかさ「え〜と、分んない、どうすればいいの」
みゆき「未来の泉さんの言うとおりに日曜日、つかささんは外に出かけなければ助かります」
それって、私にコンサートを欠席してって言っているの。それが出来ればこんなに悩まない。
つかさ「でも、あのチケットこなちゃんが一所懸命にとってくれたチケットだよ、それにあのコンサート、皆楽しみにしてた、ゆきちゃんだってそうじゃないの?」
ゆきちゃんは黙ってしまった。
つかさ「私だって行きたい、交通事故があるなら気をつければきっと避けられるよ」
みゆき「交通事故は自分だけで起こすものではありません、相手がいるのです、私達だけ気をつけても回避できる可能性は五割です、あとの五割は相手次第、危険すぎます」
つかさ「ゆきちゃん、もう私達四人、こうして集まる事が出来なくなるかもしれない、だから、皆が集う時間を大事にしたい」
みゆき「それならば、このコンサートに行くのを中止しましょう、それならば皆同じです、その代わりにお食事でも」
つかさ「そんな私の為にそこまでしなくてもいいよ、それにお姉ちゃん達が承知しないよ」
みゆき「私は只、今度の日曜日をつかささんの命日にしたくない、それだけです、分っていてみすみす見逃す訳にはいかないです、その可能性があるなら私は……」
ゆきちゃんの目から涙が出ている。あの時と同じ。こなちゃんが流した涙と同じ。私のために。
みゆき「ごめんなさい、でも聞いてください、つかささんが亡くなればもっと悲しむ人がいます、ご両親、お姉さん方、特にかがみさんが悲しみは計り知れないかもしれません、
    コンサートは何れ行く機会もあるでしょう、しかし、亡くなってはもう二度とできません」
こんなに私を心配してくれるなんて。
つかさ「未来のこなちゃんの話はしない方がよかったかな、そうすれば何の心配もなくコンサートに行けた、でもゆきちゃんがこれじゃコンサートに行っても楽しくないよね、
    チケットは連番で三枚あるから三人で行ってきて、それが一番いいかも、余ったチケットは別席だけどゆたかちゃんにでも……」
ゆきちゃんは首を横に振った。
みゆき「つかささんの代わりは止めておいた方がいいと思います、小早川さんがつかささんの代わりになってしまうかもしれません、はっ!!!」
ゆきちゃんは何かに気付いたみたいに大きな目で私を見た。
みゆき「私達がコンサートに行く行動自体が交通事故を招くのかもしれません、そうなれば例え三人で行ったとしても交通事故に遭うかもしれません」
やっぱりコンサートに行くのは中止にした方がいいかもしれない。だけどそれをするには大きな難関がある。
つかさ「ゆきちゃんの考えは分ったよ、だけどお姉ちゃんとこなちゃんにどうやってコンサートを諦めてもらうの?」
本当の事を言わないで納得させるなんて出来るかな。私もゆきちゃんも嘘をついてもすぐにバレちゃうし。本当の事を言っても信じてもらえない。
さすがのゆきちゃんも腕を組んで考え込んでしまった。わたしも考えた。ふと浮かんだ。だけどあまりにも当たり前すぎて参考にもならいかも。だけど言わないよりましかな。
つかさ「ねぇ、ゆきちゃん、今の私達って四年後のこなちゃんが来なければこんな話ししていないよね、それは四年後のこなちゃんが現代に来たから
    歴史が変わったって事だよね……」
ゆきちゃんは腕組みを止めて私を見た。なんか呆気に取られている感じだった。ダメもとで続けちゃえ。
つかさ「私思うんだけど、歴史が変わっちゃたら私が交通事故に遭うのも変わっちゃうかもしれないよ、私じゃなくてお姉ちゃんかもしれないし、交通事故が起こらないかもね、
    それならこんな話しても無意味だよ、未来なんて決まってないのと同じ」
みゆき「量子力学の不確定性原理に基づくパラレルワールドの事ですね、その説が当てはまるなら……」
つかさ「え、なにそれ?」
お経のように何を言っているのか分らない。
みゆき「話すと長くなりますので、要はつかささんが言うようにこの世界の未来は決まっていないと言う説です、泉さんが交通事故で亡くなった世界もあれば、生きている
    世界もあると言う事です、もしかしたら私達はその分岐点に居るのかもしれません、もし、世界が一つの未来しかないのなら、私達がどんなに抗っても
    つかささんは交通事故に遭って亡くなってしまいます、でもつかささん、つかささんは言いました、確かに今、こうして話している事実、これは、四年後の泉さんの
    世界では無かった出来事、もう歴史の歯車が変わっています」
これでも充分長い話だよ。話しているうちに笑顔に満ちているゆきちゃん。私の言った事が何かのヒントになったのかな。あの喜び様は何なんだろう。
みゆき「歯車は多いほうがいいはずです、かがみさん、泉さんにもこの話をするのです」
つかさ「昨日は話をしない方が良いって……言ってたよね」
みゆき「私は交通事故を回避する事ばかり考えていました、これから行う事は未来を変える行為なのです」
ゆきちゃんが変わった。確信的な何かを見つけたみたい。私には何がなんだか分からない。ゆきちゃんに従った方がいいのかもしれない。
つかさ「お姉ちゃん達に話すのはいいけど、私、話す自信がないよ、りょうし何とかの話なんか説明できない」
みゆき「量子力学の話はする必要はないですね、コンサート前にもう一度皆で集まって話した方がいいかもしれません、喧嘩で中途半端になってしまっています」
つかさ「そうだね、明後日はどう、お姉ちゃんと私ならこのくらいの時間なら空いてるよ」
みゆき「私も大丈夫です、泉さんには私から伝えておきましょう」
38 :時の悪戯  6 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:47:29.46 ID:bzxCjw150
 私は家に帰ると早速お姉ちゃんに話をした。
かがみ「四年後のこなたがだって?」
私は頷いた。お姉ちゃんに笑われるか相手にされないと思った。お姉ちゃんは笑わなかった。とりあえず話だけは聞いてくれた。ゆきちゃんが相談にのってくれたおかげなのかな。
かがみ「つかさが嘘をつくとは思えないし、つかさもコンサートは楽しみにしていた、つかさが行かないとする理由もない、あとはつかさが幻覚でも見たとしか思えない、
    私はそんな時間を越えた事象が起きるなんて信じない……でも幻覚だったにしろつかさが見たと言うのなら、四年後のこなたの言うようにつかさは行かないのが賢明ね」
お姉ちゃんはあっさり答えを出した。でもそれは私が一番したくない答えだった。
つかさ「でも、お姉ちゃん……」
かがみ「つかさが死ぬなんて冗談じゃない、予定通り行動してその通りになって後悔するより行かない方がいい」
私が言うのを止めるように言った。お姉ちゃんは私がなんて言うのか分っちゃってるのかな。
つかさ「ゆきちゃんは皆コンサートに行くのを中止した方が良いって」
かがみ「未来のこなたはつかさにだけ行くなと言った、そうよね」
私は頷いた。
かがみ「何処で、何時、どんな風に事故に遭うのか言ってない、話さなかったのか、話せなかったのかは知らない、でもあいつだってバカじゃない、つかさだけが行かなければ
    避けられると考えたに違いない、今ここで余計な詮索や行動はかえって危険よ」
意外だった。お姉ちゃんは未来のこなちゃんの言うとおりにしようとしている。
かがみ「私が事故に遭うと言うのならこんな事はしないわよ、どうせ起きっこない、でもね、他人となるとそうはいかない、分かってつかさ、つかさが死ぬところなんて……」
私はもうこれ以上なにも言えなかった。自分が死ねばそれで終わり。だけど生きている人はその後も生きていく。お姉ちゃんのその悲しい顔を見たら分かるよ。
お姉ちゃんが私と同じ立場だったらきっと私はお姉ちゃんを行かせない。
かがみ「さてと、明後日皆で最終決定、こなたの意見も聞いてみたい、まぁ、今のこなたに聞いても何も分からないだろうけどな」

 コンサート当日が来た。皆の会合ではお姉ちゃんの強い希望で私だけ家で留守番する事になった。私もそれを承知した。
つかさ「行ってらっしゃい、お姉ちゃん私の分まで楽しんでね」
お姉ちゃんは何も言わず手を上げ微笑んだ。そして玄関を出て行った。

 家族の皆も今日はお出かけ、私一人でお留守番。家で一人になるのは何年ぶりだろう。そういえばお姉ちゃんはよく一人でお留守番をしていた。
何だか急に静かになった。うんん。夜じゃないから静かじゃない。外の音が聞こえる。遠くで子供達がはしゃいで遊んでいるのかな。声が聞こえる。
時より大きな車のエンジン音も聞こえる。そういえば風邪をひいて寝た時、こんな音が耳に入ってきてそれを子守唄代わりに眠ったかな。
なんだろう。この感じ。寂しいのにホッとする。やっぱり私も本音はコンサートに行かない方がよかったと思っていたのかな。
そうだよね、もしかしたら今日死んじゃうかもしれない日。未来から来たこなちゃん。あれは本当だったのかな。お姉ちゃんは幻想だって言った。
もしかしたら夢だったのかもしれない。私、夢と現実も区別できなくなったのかな。もういいや。こんな事考えていたら気が滅入っちゃうね。テレビでも見よう。
居間に移動したときだった。机の上に封筒が置いてあった。見覚えのある封筒だった。封筒を取り中身を見てみた。コンサートのチケットが三枚……。
間違えない今日行くはずだったコンサートのチケットだ。どうしてこんな所に。こなちゃんが予約したんじゃなかったの。まさか、こなちゃんは忘れ物が多いから
お姉ちゃんが預かったのか。時計を見た。まだ電車に乗っていないかもしれない。携帯電話を手に取りお姉ちゃんに電話した。出ない。きっともう電車に乗ってしまった。
どうしよう。そうだ、こなちゃんに電話してみよう。
こなた『もしもし……つかさ、何か用?』
つかさ「こなちゃん、お姉ちゃんがね、チケット持って行くのを忘れちゃった、お姉ちゃんもう電車に乗っちゃったみだいで連絡とれないの」
こなた『えー、それを心配して預けたのに、かがみが自らそれじゃダメだよね』
嘆くような声だった。暫く沈黙が続いた。
こなた『分かった、私はこれから家を出る所だからそっちに寄ってから行くよ、まったくかがみは……』
つかさ「ごめんね、お姉ちゃんにはメールしておくよ」
こなた『つかさが謝る必要はないよ、まったくかがみは肝心な時にこれだからね〜』
冗談っぽく笑い声も混じっていた。
つかさ「それじゃ待ってるよ」
39 :時の悪戯  7 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:48:44.61 ID:bzxCjw150
携帯を切った。忘れ物をしたお姉ちゃんは久しぶりだった。高校時代では三年間を通じて数える程も忘れ物なんかしたこと無いのに。特に自ら進んで預かったのに
忘れるなんてお姉ちゃんらしくない。そのまま携帯でメールを打ってお姉ちゃんに送った。数分もしないうちに返信が来た。やっぱり電車に乗っていた。
『まったくの不覚だった、こなたには感謝のしようがない、知らせてありがとう』
こんな内容だった。私が忘れ物をした時でも一度も怒らなかった。だけど自分には厳しい。と思っているとダイエット中なのにお菓子を食べたりする。そんなお姉ちゃんが好き。
私のコンサート行きを最後まで反対していた。結局それに皆が折れたみたいなもの。私を大事に思ってくれるのはいいけど、もう私もそんな甘えが許される歳ではなくなっている。
これが最後の甘えになるかもしれない。うんん、最後にしなきゃいけない。こなちゃんやゆきちゃんも。いつも私は皆に迷惑かけちゃっている。起きるかもしれない交通事故も
私の不注意が原因なのかもしれない。しっかりしないとダメなんだ。
ふと時計を見た。そろそろこなちゃんか来る時間。
『キー、ガシャン!!!』
外から大きな音が聞こえた。車が急ブレーキをした音。何処かにぶつかった。しかも家から近い。妙な胸騒ぎがした。玄関を出て音のする方に向かった。
近所の人達もこの音で皆出てきている。その中の一人は携帯電話で話している。きっと救急車か警察に電話をしているに違いない。信号の無い交差点。一台の乗用車が電信柱に
激突していた車の軌跡を追った。その先に人が倒れていた。長髪の青い髪の毛、小柄な体格、すぐに分かった。
つかさ「こなちゃん!!」
叫んだ。そして駆け寄った。一見なんの外傷は見られなかった。だけどぐったりしていて動かない。私はこなちゃんの名前を何度も呼んだ。何の反応もない。
どうして、どうして、交通事故に遭うのは私じゃなかったの。なんでこなちゃんが。これじゃ私とこなちゃんが入れ替わっただけじゃないの。そんなのないよ
つかさ「こなちゃん、起きて」
優しく言葉をかけた。動かない。閉じた目はまるで寝ているみたい。どうして。私はしゃがみ込んでこなちゃんを触ろうとしたけどできない。こんなのは認めない。
こなちゃんはこれを望んでいたの。横たわるこなちゃん。私は何度も声をかけた。周りの音がどんどん小さく聞こえてくる。
目の前が急に暗くなった。遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。

 私は布団の中に居た。辺りを見回すと自分の部屋にいる。そしてパジャマを着ていた。夢。あれは夢だった。まだ心臓の鼓動がドキドキしていた。よかった夢で。
起き上がると枕が濡れていた。机の置き鏡を見ると顔に涙の跡があった。夢で泣いていたなんて、こんなの初めて。それにしてもリアルな夢だった。
あれが正夢だったら、私の代わりにこなちゃんが交通事故に遭う。未来のこなちゃんは事故の話は話せないって言っていた。
もし、未来のこなちゃんと会わなかったら、お姉ちゃんがチケットを忘れた時家にチケットを取りに行くのは私かお姉ちゃん。まさか、こなちゃんは最初から自分が犠牲に
なるつもりだった。だから事故の話はしなかった。そんな。私はこなちゃんが命を懸けてまで助けてもらうような事していないよ。でも夢は夢。逆夢になる事も。
とりあえず顔を洗いに行こう。置時計を見た。まだ午前七時。休日ならまだ熟睡している。
40 :時の悪戯  8 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:50:04.69 ID:bzxCjw150

かがみ「おはようつかさ」
顔を洗っていると後ろからお姉ちゃんの声。タオルで顔を拭いて振り向いた。
つかさ「おはよう」
かがみ「珍しいわね、休日にこんなに早く起きるなんて」
お姉ちゃんを見た。高校時代と同じようにツインテール、そして着ている服を見て驚いた。夢で見たお姉ちゃんの着ている服と同じだった。
つかさ「お姉ちゃん、その服って……」
お姉ちゃんは得意げにポーズをとって見せた。
かがみ「どう、気に入った、高校時代買ったけど一度も着なかった服よ、着る機会がなくってね、今日はこれで行くつもり」
それで昔の髪型に戻したんだ。お姉ちゃんは何を着ても似合うからいいけど、その服で出かけて欲しくない。
つかさ「その服だと子供っぽいような気がするけど」
かがみ「やっぱりつかさもそう思うのか、それだけが気になっていたのよね」
ガッカリするお姉ちゃん。一度も着ていない服もなんだか可愛そうな気がしてきた。
つかさ「それなら髪型を変えれば、ポニーテールにするとか」
かがみ「それもいいか、サンキュー」
お姉ちゃんは自分の部屋に戻っていった。ああ、着替えて欲しかったのにこれじゃ逆効果だった。こうなったら見た夢の話をしてみようかな。
ダメダメ、夢の話をしたって。それにもうお姉ちゃんに頼るのは止めにするって。自分で考えなきゃ。とりあえずお姉ちゃんがチケットを忘れなければいいはず。
お姉ちゃんの部屋に向かった。
つかさ「お姉ちゃん入るよ」
部屋に入るとお姉ちゃんはリボンを取って髪を梳かしていた。
かがみ「ん、何か用なの」
つかさ「お姉ちゃん、こなちゃんからチケット預からなかった?」
かがみ「預かったと言うより私が管理した方がいいと思ってね、それがどうかしたの」
やっぱり夢と同じだ。ここで私が釘を刺しておけば忘れないよね。
つかさ「チケット忘れないようにしてね、お姉ちゃん肝心な時に失敗するから」
お姉ちゃんは笑いながら立ち上がり机の上のカバンを開けた。
かがみ「それは抜かりないわ、もう出かけ用の鞄に入れてある、これで忘れたならこなたに言い訳できないわよ」
それを見て安心した。これで忘れない。
つかさ「そうだよね、お姉ちゃんがそんなので失敗しないよね」
そのまま部屋を出ようとした。
かがみ「つかさ待って、今回は本当に済まないと思っている、でもこうするしか無かったのよ、今度皆で穴埋めするから」
私も他にどうすれば良いか分からない。
つかさ「お姉ちゃん、私どうしたら良いのか分からない、もし未来が一つしかないなら私達がどんなに頑張ったって交通事故に遭うんだよね、ゆきちゃんが言うにはりょうし
    何とかの不覚でいけない原理だと未来は決まっていないって、でも私見ちゃった、こなちゃんが交通事故に遭う夢を、決まっていなくても事故は起きるかも」
言わないはずなのに言ってしまった。そして夢を思い出して涙が出ていた。そんな私を見てお姉ちゃんは笑った。
かがみ「ふふ、みゆきの言っているのは量子力学の不確定性原理のことでしょ、詳しい理論はみゆきの方が詳しいわよ、そうね、パラレルワールドが本当にあるなら未来は
決まっていないかもね、でも考えてみて、来が幾つもあっても私達はその中の一つしか経験できない、結局未来は一つしかないのと同じよ、それにつかさの見た夢の内容をこれ以上聞く気は無いけど、夢の通りになりたくなければ夢とは逆の事をすればいいじゃない」
つかさ「もう、やってるよ、できれば今着ている服を着替えて」
かがみ「さすがつかさ、私は何も言う事はないわ、着替えて欲しいなら何度でも着替える」
お姉ちゃんはタンスを開けて服を選び始めた。
つかさ「やっぱり着替えなくていいよ、着替えたって同じかもしれない、それにその服着たかったでしょ」
かがみ「このままで良いのなら嬉しい、ありがとう」
お姉ちゃんはそのまま鞄を持った。
つかさ「え、もう出かけるの、まだ早いよ」
かがみ「だから行くのよ、普段どおり行ったら同じ結果になる、これは私なりの対策、つかさ程ではないけど私もそれなりに考えているのよ、買い物でもして時間を潰すわ」
初めてだった。占いも信じないお姉ちゃんが自分から行動するなんて。
かがみ「つかさのそうやって何時でも一所懸命な所、凄いと思う、私はちょっと手伝いをするだけ」
私を初めて褒めてくれた。優しかったけど私を褒めるなんて一回もなかった。お姉ちゃんはそのまま部屋を出て玄関に向かった。
かがみ「行ってきます」
つかさ「行ってらっしゃい、お姉ちゃん私の分まで楽しんでね」
お姉ちゃんは何も言わず手を上げ微笑んだ。そして玄関を出て行った。
夢と同じだった。お姉ちゃんの出かける姿が夢と重なった。

 今日は運命の日、未来のこなちゃんの言うようになるのか、私の夢の通りになるのか。私はどっちも望まない。とりあえず私の夢では何処でどんな事故があるのか分かっている。
あの交差点に行かなければ事故は避けられる。でもこなちゃんは私が事故に遭うって言っていた。夢と同じようにあの交差点だったら避けられる。

41 :時の悪戯  9 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:52:55.28 ID:bzxCjw150
 暫くすると家族の皆は次々に出かけて行った。夢の通り私は一人でお留守番をする。やっぱり普通にして居られない。こんな時は料理をするのが一番。いやな事とか忘れられる。
台所に入った私はテーブルに封筒が置いてあるのを見つけた。見覚えのある封筒。まさかとは思いつつも封筒の中身を確認した。チケットが四枚入っていた。
頭の中が真っ白になった。あれほど注意したのにお姉ちゃんはチケットを忘れた。私が夢の話をしたからかもしれない。それとも変えられない運命なのかな。
携帯電話を取り出しお姉ちゃんに電話をしようとした。手が止まった。これじゃ夢と全く同じ、でも他に何をしたら良いのか分からない。このまま放っておくかな。
だめだよ。お姉ちゃんは後から来るこなちゃんにチケットを取りに頼むに違いない。それともお姉ちゃんが取りに来るかも。あの交差点は普通家に帰るなら通るから
お姉ちゃんも危ない。気ばっかり焦ってなにも思いつかない。そうだ。ゆきちゃんに電話しよう。ゆきちゃんなら方角が違うから、まず私の家に来るなんてないよ。
携帯に電話をしようとすると私の携帯電話が鳴った。ゆきちゃんからだった。
つかさ「も、もしもし」
みゆき「こんにちは、つかささん、今、かがみさんと一緒です」
え、早い、どうして。そうか、ゆきちゃんとお姉ちゃんはから早く出かける約束をしていたんだ。
みゆき『ところで、そちらにコンサートのチケットは在りませんでしたか』
つかさ「あるよ、今、家にあるよ」
みゆき『そうですか、私もそう思ったのですがかがみさんは忘れていないと言っていましたので、周辺を探したのですが見つかりませんでした』
ゆきちゃんの話し声が遠くなった。近くにお姉ちゃんが居るみたいだ。何かを話している。ゆきちゃんがマイクを押さえているのか声が聞き取れなかった。
みゆき『かがみさんは反省しているらしくつかささんに申し訳ないと言っています、ここからそちらに戻るとコンサートの時間に間に合わないので泉さんにそちらに行ってもらう
    事になりましたので、よろしくお願いします』
ダメ、それは一番しちゃいけない。
つかさ「ダメだよ、こなちゃんは家に来ちゃだめ」
みゆき『と、言いましても既に泉さんと連絡をしていまして……今頃はもうそちらへ向かっています』
私がモタモタしていたからだ。私ってなんでこんなにノロマなんだろう。このままだとこなちゃんが家に来ちゃう。
つかさ「分かった、ありがとう」
みゆき『すみません、よろしくお願いします』
携帯電話を切った。もう考えてなんて居られない。私が駅まで行けばこなちゃんはあの交差点を渡らなくて済む。こなちゃんと行き違えにならないように携帯電話で連絡を
取ろうとした。でも電車に乗っているから出てくれない。メールで『駅で待っててね』と打って送った。こなちゃんはメールをあまり見ない、だけど何もしないよりまし。
急いで身支度をしてチケットの入った封筒を胸のポケットにしまって家を出た。

 私は未来のこなちゃんの忠告を無視した。もしかしたら駅に向かう途中で私は事故に遭うかもしれない。それよりこなちゃんが事故に遭うのが嫌だった。
玄関を一歩出た所で立ち止まった。急に怖くなった。足が震えている。周りを見回した。子供の頃から馴染みの風景、何も変わっていない。でも怖い。
車のエンジン音が聞こえる度に身がすくむ。もう外に出ちゃったから今更戻れない。私は覚悟を決めた。
あの交差点を通るのは止めた方がいいかもしれない。橋を渡らないで遠回りしよう。時間がかかるけどこっちの方が安全。ゆっくりと壁に身を寄せながら駅に向かった
42 :時の悪戯  10 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:54:12.41 ID:bzxCjw150

 駅の前に着いた。普段の三倍位の時間が掛かってしまった。駅前を探したけどこなちゃんの姿は見当たらない。携帯電話を確認したけど着信もメールもなかった。
まだ電車の中なのかな。改札口の前で暫く待った。
五分くらい待った位だった。携帯電話が鳴った。慌てて確認をする。こなちゃんからだ
つかさ「こなちゃん、今何処なの」
こなた『つかさこそ何処なんだよ、ダメじゃないか家から出たらいけなかったんじゃないの?』
つかさ「そうだけど、こなちゃんが危ないから」
こなた『へ、何言ってるの』
そうだった、こなちゃんは私の見た夢は知らないのを忘れていた。
つかさ「私のメール見た?」
こなた『え、メールなんかしたの』
わぁ、こなちゃんやっぱり見てない。こなちゃんは何も話してこなかった。メールを確認しているのかな。こなちゃんの返事を待った。
こなた『駅で待ってて書いてあるね、つかさ今駅にいるのか、私はつかさの家の前だよ』
つかさ「今家は留守だから誰もでないよ、今駅に居るよ」
こなた『なん〜だ、行き違えか、それじゃ今からそっちに戻るよ、チケットはちゃんと持ってるよね?』
つかさ「うん、持ってる」
こなちゃんはあの交差点を渡っちゃったんだ。良かった、何も起きなかった。でも何度も通るのは止めた方がいいよね。
つかさ「こなちゃん、帰りは橋を渡らないで来て」
こなた『何で、遠回りじゃん、そんなの疲れて嫌だよ』
そうだ、ちゃんと訳を話せば分かってくれる。
つかさ「家の近くの交差点を通ると危ないから、今朝夢でこなちゃんが交通事故に遭う夢をみた」
こなた『ふふ、はははは、つかさだって忠告を破って外に出ているのに説得力ないよ、とにかく急がないとコンサートに遅れちゃうし、そこで待ってて』
つかさ「ちょっとこなちゃん、冗談じゃないってば、聞いて……」
こなちゃんは電話を切ってしまった。私は何でここに居るんだろう。もう何も出来ない。走って行ってもこなちゃんの方が先に交差点を渡っちゃう。
でも……何もしないよりいい。家に向かって私は走った。
やっぱり私は一人じゃ何も出来ない。忠告を守らないで外に出て行って、これで何かあったら私は、私は、お姉ちゃん達に何て言えば良いの。
「わー!!!」
後ろから突然の声だった。振り向くとこなちゃんだ。急に止まれない。足がもつれてそのまま倒れてしまった。
つかさ「いててて……」
ちょっと手を擦りむいちゃった。起き上がってこなちゃんの居た方を向いた。私から五、六メートル位離れた所にこなちゃんは居た。
片手に携帯電話を持っていた。こなちゃんは私に携帯電話を見せながら話した。
こなた「お急ぎで何処までいくのかな、つ・か・さ」
つかさ「だって、え、どうゆうこと、私の家に行ったんじゃないの」
こなた「改札口につかさがいやにオロオロしてたから、ちょっとね……なかなかいい反応だったよ」
こなちゃんは駅から私に携帯電話をかけた。こなちゃんの悪戯だった。
こなた「ちょっとフザケすぎたかな、大丈夫?」
こなちゃんは家に行っていなかった。良かった。私は胸を撫で下ろした。
こなちゃんに一歩近づいた時だった。後ろから押し出されるような風が吹いた。
それは音もなく私のすぐ後ろを通り過ぎた。こなちゃんは固まったように私を見ていた。そして数秒後。
『ガシャーン』
鉄の塊が叩き付けられるような大きな音がした。音のした方を見ると大きなトラックが壁に激突していた。そのトラックを追いかけるように男の人が走ってくる。
後ろから来た風はトラックが私をかすめた時のものだった。
この事故は運転士さんが坂道でサイドブレーキをかけずにエンジンを止めて降りてしまった。ギアはニュートラル、だから無音でトラックは坂道を走って下って行く。
そして近づいても気が付かない。私はこなちゃんに呼ばれなかったらあのトラックに轢かれていた。
こなちゃんは私の側に駆け寄った。
こなた「危なかった、一歩前に出ていなかったら当たっていたよ」


43 :時の悪戯  11 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:55:28.48 ID:bzxCjw150
 これが未来のこなちゃんが言っていた事故みたい。おかしいな。安心したのかな。怖かったのかな。涙が出てきた。
こなた「つかさ……」
こなちゃんはどんな反応していいのか分からないみたい。私もどうして良いかわからない。遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。こなちゃんは壁に当たったトラックを見た。
こなた「怪我人は出なかったみたいだね、パトカーだけだよ」
つかさ「うん、」
私が出来るのはチケットを渡すことだけ。こなちゃんにチケットの入った封筒を渡した。こなちゃんは封筒を受け取って中身を確認した。
こなた「さてと、つかさ行こうか」
つかさ「行こうって、何処に?」
こなた「コンサート」
つかさ「で、でも、私は……」
こなた「事故はもう避けたよね、もう大丈夫だよ、行こう、一席だけ別席だけど、じゃんけんで決めよう」
つかさ「それじゃお姉ちゃんに連絡しないと」
私が携帯電話を出そうとするとこなちゃんは私の腕を掴んで止めた。
こなた「連絡はしなくていいよ、かがみ達を驚かそう、その方が面白いよ」
つかさ「でも、お姉ちゃんきっと怒る」
こなた「もうここにつかさが居る時点で怒られるよ、気にしない、気にしない、それにここに来たのは私を助ける為だったんでしょ、私が事故に遭う夢を見たって言ったよね、
    つかさが来なかったら私が事故に遭ってたかも、ありがとう」
にっこり微笑みかけるこなちゃん。確かに事故は避けられた。でももしこの事故が未来のこなちゃん言っている事故じゃなかったら。もうそんな風に考えるのはよそう。
こなちゃんの笑顔で不安が全て吹き飛んだ。
つかさ「うん、行こう、コンサート」

かがみ「つ、つかさ、なんであんた来てるのよ!!!」
会場に着いて私をみるなり捲くし立てて怒るお姉ちゃんだった。こなちゃんの言う通りだった。
かがみ「一体どうして来たの、説明しなさい」
その時私は夢の出来事、ゆきちゃんと携帯電話のやりとり、駅までの道のり、色々な出来事が頭の中で一度に浮かんできてしまった。何から言って良いのか分からない。
つかさ「えっと、えっと」
口が付いていかない。
かがみ「早く帰りなさい、今からでも遅くない」
何も言えないまま帰されそうになった。
こなた「かがみ、ここまで来て帰すなんて鬼だよ、折角きたんだし、ほらほら、もうコンサート始まっちゃうよ」
かがみ「こなた、さてはあんたがそそのかしたのか!!」
こんどはこなちゃんに向かって怒り出した。
こなた「とにかく会場に入ろう、コンサートが終わったら話すから、一席別になっちゃうからジャンケンで決めよう……ジャンケンポン」
こなちゃんは一方的に話を進めた。私とゆきちゃんとこなちゃんはこなちゃんの掛け声に合わせてジャンケンをした。お姉ちゃんも手を出した。
私がグーを出して他の皆はパーを出していた。
こなた「あちゃー、つかさ悪いね、別の席だけどごめんね」
こなちゃんは封筒からチケットを一枚取り出して私に渡した。
つかさ「うんん、途中から来る事になっちゃったから、これで良かったよ」
お姉ちゃんはまだ納得いかない様子だった。だけどこなちゃんは私を先に会場に入れて席に向かわせた。

 元々このコンサートはこなちゃんが行きたがっていたコンサート。私はどっちかって言うと皆と一緒に居たかっただけだったかもしれない。
周りは誰も知らない人ばかり。これで楽しめるかな。
コンサートが始まると周りの人達がノリノリだった。そうだよね。もうここに来たら楽しまなくちゃね。私は今までの事を忘れて周りの人達と一緒に楽しんだ。

コンサートが終わり待ち合わせのレストランで皆と合流した。皆の表情が明るい。コンサートが始まればみんな同じなのだなと思った。
お店でこなちゃんは私の見た夢の話をお姉ちゃんとゆきちゃんに話した。コンサートに向かうとき電車の中でこなちゃんに話した夢の内容をこなちゃん独特のユーモアたっぷりで
話した。お姉ちゃんはこなちゃんの話にのめり込むように聞き入っていた。こなちゃんとお姉ちゃんはお話に夢中になってしまった。ゆきちゃんは二人から少し距離を置いていた。
今ならゆきちゃんに話せるかな。
つかさ「ゆきちゃん、ちょっといいかな?」
ゆきちゃんは私の方を向いた。
みゆき「大変な目に遭いましたね、お怪我は大丈夫でしたか」
つかさ「ちょっと手を擦りむいただけ」
擦り剥いた手をゆきちゃんに見せた。ゆきちゃんは何も言わず私の手を見ていた。
つかさ「ねぇ、結局未来のこなちゃんの話はどうなっちゃったのかな、それに未来のこなちゃんはどうやって来たのかな」
ゆきちゃんは目を上に向けて少し考えていた。そして、話に夢中になっているこなちゃんを見た。
みゆき「泉さんの顔を見てください、楽しげにかがみさんと話しています、よほど嬉しかったのでしょうね、すこし誇らしげにも見えます」
つかさ「え、こなちゃんが嬉しかったって、皆でコンサートに行けたって事?」
みゆき「いいえ、泉さんがつかささんを助けたからです、よほど嬉しかったのでしょうね、思えば人を助けるなんてそう簡単に出来るわけではありません」
つかさ「それは分かるような気はするけど……」
やっぱりゆきちゃんでも分からないのかな。
みゆき「逆につかささんが亡くなられたらどうでしょう、その悲しみはきっとご家族と同じ位になると想像できませんか?」
それは何となく分かる。私は頷いた。
みゆき「未来の泉さんの世界ではつかささんは亡くなられた、その悲しみが、想いが、時間と空間を越えた、そして、この世界のつかささんを救った」
つかさ「それって量子力学なの?」
ゆきちゃんは笑った。
みゆき「ふふ、学問とは全く別の話です、私の想像です、聞き流して下さい」
どちらにしても私はこなちゃんに助けられたのは確か。
つかさ「私の夢も説明できる?」
みゆき「不思議な夢ですね、しかし説明はできます、かがみさんの着ていた服は高校時代の休日、皆で買い物に行った時に購入された服ですね、私は覚えていますよ、
    記憶の奥底にあった服のイメージが出てきたのかもしれませんね」
こなた「ちょっとつかさ、みゆきさんにも話してるんだから邪魔しないでよ」
つかさ「ご、ごめん」
ゆきちゃんはこなちゃんの話に参加した。そして、こなちゃんの独擅場が続いた。
44 :時の悪戯  12 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:56:56.76 ID:bzxCjw150

 食事が終わり解散となった。私とお姉ちゃんは帰りの電車に乗っていた。コンサート後のこなちゃんの話をしていた。
つかさ「最後は何も喋れなかったよ」
かがみ「あいつの独り舞台だったな、アニメとゲームの話意外であいつがあれほど興奮して話すのははじめて見たわ」
つかさ「そうだね」
その後お姉ちゃんは一言も話さなくなった。お姉ちゃんの様子が何となくさっきまでとは違った感じだった。私も声をかけ辛かった。電車を降りても話し合う事は無かった。
駅を降りて改札を出て暫く歩いた時だった。
かがみ「つかさ、待ちなさい」
二人は立ち止まった。お姉ちゃんは真剣な顔で私をみていた。そういえばもう少し先に行くと私がトラックに当たりそうになった所を通る。
つかさ「どうしたの、事故の話ならこなちゃんが全部しちゃったよ」
かがみ「事故ね、そうそう、つかさは助かった、そうだった、家でじっとしている必要はかった、そうよね……」
ソワソワして、悲しい顔になった。どうしてだろう。明らかにこなちゃん達と会っていた時と違う。
つかさ「もしかして、私が家を飛び出したの怒っているの?」
かがみ「怒る、何故私が怒る、つかさ、私に言いたい事があるならはっきり言いなさいよ、みゆきから聞いたんでしょ」
お姉ちゃんは何を聞きたいのか分からない。
つかさ「ゆきちゃん、ゆきちゃんがどうしたの、私はゆきちゃんと夢の話をしてただけだよ」
かがみ「話さなかったのか、みゆきらしいわね」
お姉ちゃんは肩を落とした。
つかさ「もう時間も遅いし帰ろう、何か話があるなら帰ってからでもいいよ」
駅の近くなのにもう殆ど人は居ない。お姉ちゃんの表情からするときっと話は長くなる。
かがみ「未来のこなたはつかさに外に出るなと言った、今更それが幻想だったとか夢だったとか言うつもりはない、あの事故を考えれば答えは一つしかない、
    私がチケットを忘れなければこんな騒ぎにはならなかった、そもそも私がこなたからチケットを預からなければ良かったのよ、あのコンサートは元々
    こなたの提案だった、一番行きたい人がチケットを持つべきだった、そんなのは直ぐに分かるはず、未来のこなたは何故そう言わなかった、それで全て解決しただろう」
お姉ちゃんの言っている意味が分かった。お姉ちゃんは自分を責めている。
かがみ「つかさ、何故あの時私でなくゆきがつかさの携帯電話に連絡したと思う?」
そういえばそうだった。何故なんだろう。
かがみ「出かける前つかさは私に言ったわよね、チケットを忘れるなって」
つかさ「言った、それは夢で……」
かがみ「私はつかさの夢の内容もろくに聞かないで出かけた、つかさが何故注意したのか、その真意を確かめなかった、私はチケットを持っている気になっていただけ、
    昨日準備した時確かに入れた……入れていなかった、台所で鞄にチケットを入れるときお母さんと話している間に入れ忘れた、つかさに何て言えばいい、言えないわよ、
    みゆきには駅で落としたと言って、駅でこなたに電話しようとしたけど出来なかった、私はこのまま中止になってもいいと思った」
つかさ「ゆきちゃんは私に電話した時、チケットが在るかって聞いてきたけど、それにこなちゃんにこなちゃんにチケットを取りに行くよう連絡したって」
かがみ「私が駅から戻ってきたらみゆきが電話をしていた、だから私は電話を切るように言ったのよ、みゆきは全く違う内容をつかさに話した、こなたに連絡したのはみゆきよ」
私やこなちゃんにバレるのが嫌だった。それでお姉ちゃんは私と話したくなかったのか。私がお姉ちゃんを怒らないようにゆきちゃんは嘘をついた。
つかさ「お姉ちゃん、黙っていたら夢と同じになっていたかも」
かがみ「そうよ、その通り、私はこなたとつかさの命を危険に曝した、少しばかりの見栄の為に……みんな私が悪い、許して……」
見たことのないお姉ちゃんだった。見栄っ張りの所があるのは知っていたけど、それがこんな形で出てくるなんて。目が潤んで今にも泣き出しそうなお姉ちゃん。
でもなぜかお姉ちゃんを責める気にはなれなかった。
つかさ「もういいよ、お姉ちゃん、終わった事だし、帰ろう」
かがみ「何故よつかさ、こなたもみゆきもそう、何故怒らない、何故よ」
逆切れ気味に怒鳴った。そういえばゆきちゃんも怒っていない。こなちゃんは私とゆきちゃんの携帯電話の会話は知らない。だけど知っていても怒らなかったと思う。
つかさ「それはね、私もこなちゃんも事故に遭っていないから、こなちゃんが事故に遭っていたら怒るよ、きっと未来のこなちゃんの世界ではそうだったかもね」
お姉ちゃんは黙って聞いている。さらに続けた。
つかさ「お姉ちゃんがチケットを忘れたのならどうやっても忘れていたと思うよ、私が注意しても忘れたくらいだから、私やこなちゃんは忘れん坊だから話にならないよね、
    ゆきちゃんもああ見えて高校時代は結構忘れ物とかしてたんだよ、四人で一番しっかりしてるのがお姉ちゃん、だからこなちゃんはチケットを預けた、
    未来のこなちゃんもお姉ちゃんに注意しなかった、それにお姉ちゃんは言ったでしょこなちゃんはバカじゃないって、違うかな?」
かがみ「今となっては違うかどうかも確かめられないわ、未来のこなたに聞かないかぎりね」
四年後になったら私の会った四年後のこなちゃんとは違うこなちゃん。もう永遠に聞けない。だけど分かるよ。
つかさ「ほら、見てお姉ちゃん」
俯いたお姉ちゃんを呼んだ。お姉ちゃんは私を見た。
かがみ「見るって、何を見るんだ?」
つかさ「私だよ、私は事故に遭ってないしまだ生きているよ、もう歴史は変わったよね」
私をみてお姉ちゃんは笑った。
45 :時の悪戯  13 [saga sage]:2011/05/03(火) 22:58:23.04 ID:bzxCjw150
かがみ「ふふ、気楽なもんだな、その性格少し分けて欲しい」
『わっー!!!!』
つかさ・かがみ「ひぃー」
突然後ろから声がした。私は仰け反って驚いた。私とお姉ちゃんは後ろを向いた。そこにまつりお姉ちゃんが居た。
まつり「こんな所で二人とも何してるの?」
ニヤニヤしながら私達を見ていた。
かがみ「ちょっと、驚かさないでよ」
いのり「まつり、かがみ……つかさまで居るのね、何しているの?」
いのりお姉ちゃんの声、私達が声のする方を向くと、いのりお姉ちゃんとお父さん、お母さんが立っていた。
まつり「うゎー、駅で家族全員と鉢合わせなんて、偶然もいいところだね」
みき「こんな遅くまで、まったく、夜遊びもほどほどにしないと……」
まつり「夜遊びじゃない、こっちは仕事で遅くなったの、それより、かがみとつかさの方が危ない」
いきなり私達に振られてしまった。
かがみ「ちょ、何も知らないのに言い掛かりはやめてよ」
まつり「声をかけたら驚いたじゃない、それがなによりの証拠」
かがみ「後ろから大声でこられたら誰だって驚くわよ」
お姉ちゃんとまつりお姉ちゃんがいつもの言い合いの喧嘩を始めた。
みき「いい加減になさい、こんな道端で喧嘩なんかしない」
お母さんが間に入って事態は収まった。
ただお「なんの約束もしていないのにこうやって自然に集まるのも不思議なものだ」
私が事故に遭って死んでいたらどうなっていただろう。それはあの時、四年後の未来から来たこなちゃんを思い出せば分かるよ。
悲しげだった。少なくとも皆はこうしていられないのは分かる。
いのり「皆で帰りましょう」

いのりお姉ちゃんの一言で皆は家の方向に歩き出した。そうだ、あの交差点を通る。私は腕時計を確認した。午後十一時五十分。まだ今日は終わっていない。
つかさ「ねぇ、折角皆集まったから、こっちの道から帰ろうよ」
まつり「えー、その道って橋を渡らない遠回りの道じゃない、もう私は疲れてクタクタ、早く帰りたい」
いのり「私はどっちでもいい」
かがみ「こっちの道に行くと美味しいお菓子屋さんがあるわ、皆に教えてあげる」
私に目で合図をした。お姉ちゃんは私の意図が分かったのかもしれない。
みき「かがみがたまに買ってくるあのお菓子ね、ついでだから教えてもらおうかしら」
ただお「懐かしいな、子供の頃はわざわざ遠回りして帰ったものだ、たまには遠回りでもいいじゃないか、まつり」
お父さんの言葉にまつりお姉ちゃんは渋々頷いた。

 駅から家までの十数分、家に着けば未来のこなちゃんが言う事故は無かった事になる。歴史は変わる。そして私はこれからも生きていける。
ゆきちゃんは帰りがけに言った。パラレルワールドは考えられる全ての可能性の数だけの世界があるって。だから私の見た夢の通りになった世界もあるに違いない。
こなちゃんが事故で死んだ世界。私が死んだ世界。お姉ちゃんが……。もういいや。そんな考えをしていたら鬱になっちゃうよね。私は転んで擦り剥けた手を見た。
これからはもう未来のこなちゃんの世界とは違う世界が待っている。未来はどうなってしまうのか分からない。もっと悲しい事がおきるかも。もっと楽しい事が起きるかも。
それはほんの数秒の違いで変わっちゃう。私にはそんな数秒の判断なんかできないよ。でもこうしている間にも何かが変わっているのかもしれない。皆の歩きが遅くなった。
みんな楽しそうだな。お姉ちゃんがまつりお姉ちゃんにお菓子のお店を教えていた。あのお菓子のお店は私もよく買いに行っている。今度こなちゃん達にも教えよう。
これからも皆と一緒に居られますように。心の中で祈った。

 家に入ると丁度日が変わっていた。私は携帯電話を取り出してこなちゃんとゆきちゃんにメールを打った。
『無事に家に着いたよ』
すぐに返事が来た。
『よかった』『よかったですね』


46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/03(火) 23:02:52.57 ID:bzxCjw150
以上です。
タイムトラベル物はこの作品で三作目になります。
もうネタ切れかな。意外性もなく面白みにかけたかもしれない。それでも読んでくれる人がいれば嬉しいです。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/03(火) 23:25:56.75 ID:bzxCjw150
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ここまでまとめた


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48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/05(木) 22:17:28.37 ID:pVTJ24670
>>46
乙、爽やかな締めがいいね。
タイムトラベルっつーのもありがちなテーマかもしれんけど、やっぱ読んでて面白い。

しかし1レスにけっこう入るもんだねえ
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/06(金) 01:27:12.01 ID:zpab2kbO0
>>48
そう言ってもらえると嬉しいです。


>>13に書きましたけど大事な事なのでもう一度
ちなみにここのスレは80行6000バイトまでOKらしいね
しかし今回では80行の前で6000バイトをオーバーしてしまいました。
1文字何バイトなのだろうか?

>>31
お題『雨降りの午後』今書き始めた所です。連休中間に合うかどうかは微妙です。
他の方も振るってご参加を!!


50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/08(日) 20:44:37.79 ID:ANRNGYQX0
投下いきます。
51 :お祓い [saga]:2011/05/08(日) 20:45:36.83 ID:ANRNGYQX0
 いのりは、家で夕飯の準備をしていた。
 両親は旅行で不在のため、自分と夫と娘の分だ。
 とはいっても、米をといで炊飯ジャーに入れてスイッチを押すだけ。おかずは母が作ってくれたものが冷蔵庫に入っているから、それを温めればすむ。
 ご飯が炊き上がるころには、夫が地鎮祭の仕事から帰ってくるはずだ。

 そこに、神社の古参の巫女が客をつれてやってきた。
「いのり様。特別なお祓いのご依頼のお客様です」
 特別なお祓い──神社内での隠語だ。年に数回はそんな依頼がある。
 それは一子相伝の秘儀でもあるので、柊家直系のみきといのりだけにしかできない。
 みきが旅行でいない以上は、いのりが対応するしかない。
 その依頼主を顔を見て、
「あら? みさおちゃんにあやのちゃんじゃないの。どうしたの?」
 妹のかがみの友人である二人が、いささか憔悴したような表情でそこに立っていた。確か、あやのは、みさおの兄と結婚したばかりのはずだ。
 二人から話を聞く。
 なんでも、あやのの夫でもあるみさおの兄(以下、「旦那さん」と呼ぶことにする)が、先日突然倒れて病院にかつぎこまれたそうだ。
 旦那さんは、病院のベッドで四六時中うなされっぱなしで、食べ物も受け付けない状態。点滴をうっているものの、衰弱する一方。
 原因は不明。精密検査を受けても何も異常はなく、医者はお手上げ状態だという。
 このままでは、やがて衰弱死するのは避けられない。
 そして、
「うわごとのようにずっと言ってるの……殺されるって……」
 あやのがぽつりとそう言った。
 これは悪霊かなんかがついているに違いない。もう神仏の力にすがるしかないということになって、こちらに飛んできたというわけだった。
「「お願いします」」
 二人がそろって頭を下げた。
「場合によっては、結構なお値段になるけどいい?」
 足元見るみたいで嫌な言い方だが、現実問題として神社という家業はボランティアではない。それで柊家の生計を維持しているのだから。労力と成果に見合うだけの報酬はもらわないとならない。
「お金なんていくらでも出すぜ」
「借金してでもお支払いいたします」
「分かったわ。すぐに準備するからちょっと待ってて」
 いのりは、すばやく神職の服に着替え、術式の道具を入れたかばんを手に取った。
 二人を連れて玄関に向かおうとしたとき、娘に見つかった。
「お母さん、どっか行くの?」
 娘の頭に手を置く。
「ちょっと急なお仕事が入っちゃったの。巫女さんの言うことをきいてきちんとお留守番しててね」
「はーい」

52 :お祓い [saga]:2011/05/08(日) 20:46:21.43 ID:ANRNGYQX0
 車を飛ばして、病院に到着。
 旦那さんが寝ている個室に直行する。
 個室に入ったとたん、いのりの背筋に悪寒が走った。
 ベッドの上の旦那さんをとてつもないものが覆っていた。悪霊なんて生易しいものではない。それは、純粋な殺意だった。
 簡単にいえば、呪殺だ。
 不幸中の幸いは、プロの仕業ではないことだった。
 見たところ、素人が藁人形に五寸釘を打ったら効いちゃったというレベルのものだ。逆にいえば、それが効いちゃうぐらいに純度の高い殺意だということでもある。
 プロだったら、これだけの純度の高い殺意があれば、相手を瞬殺できただろう。
 とはいえ、このまま放っておけば、ほどなく死ぬことは間違いない。

 いのりは、看病についていた旦那さんの両親やあやのやみさおを個室から追い出すと、術式を始めた。
 呪詛返し。
 母がやっているのを見たことはあるが、自分で本番をやるのは初めてだ。
 これは、「特別なお祓い」の中でもとりわけ難易度が高い。失敗すれば、返し損ねた呪詛がいのり自身に降りかかってくる。そうなったら母を呼んでくるしかないが、間に合う保証はない。
 言葉に力を込め祝詞を読み上げる。
 旦那さんを覆っていた殺意が吸い上げられ、凝縮されて固まった。
 その殺意の塊がいのり目掛けて襲いかかってくるのを、和紙で作った人形(ひとがた)で受け止める。
 それで終わりではない。この強大な殺意は、その意を果たさない限り消え去りはしない。
 だから、いのりは命じた。
「汝、その主に帰れ」
 人形(ひとがた)が、青白い光に包まれ、そして消え去った。
「ふぅ……」
 力が抜けた。玉のような汗が床に滴り落ちる。

 ドアを開け、廊下で待っている家族に告げた。
「終わりました」
 みんな雪崩を打つように個室に入り、ベッドに駆け寄った。
「あなた!」
「兄貴!」
 じゃっかん気色がよくなった旦那さんが眼を開ける。
 あやのもみさおも、感極まって泣き出した。
「「ありがとうございました」」
 旦那さんのご両親が、いのりに対して深々と頭を下げた。
「悪いものは祓いましたので、二、三日もすれば回復するでしょう」
 いのりは、何度も何度も頭を下げる一同に見送られて、その場を去った。
 去り際にさりげなく請求書を置いていくのを忘れない。

53 :お祓い [saga]:2011/05/08(日) 20:47:06.34 ID:ANRNGYQX0
 一週間後、巫女服姿で境内を掃除していたいのりのもとに、お客さんがやってきた。
 あのときの旦那さんだ。すっかり元気になった様子である。
 社務所の縁側に並んで腰をかけた。
 先日の「特別なお祓い」の料金はさきほど社務所の窓口で払ってきたそうだ。
「お祓い料は、あんなもんでよかったんでしょうか?」
 請求書に記載した金額は、300万円。一般家庭にとってみれば決して安くはない金額だが、医者もお手上げだった命を救った代金と考えれば格安ともいえる。
「うちは明朗会計だからね。もっと払いたかったら、賽銭箱にでも入れてってよ」
「はぁ……。そうさせていただきます。本当にありがとうございました」
 旦那さんは、頭を下げた。
「しかし、あれは何だったんでしょうか?」
 あのとき、いのりは誰にも詳しいことは説明しなかった。
 そして、今日、旦那さんは家族を誰一人伴わず、ここにやってきた。思い当たる節はあるのだろう。
 だから、いのりは端的にこう言った。
「呪い」
「呪いですか……」
「恨みを買うような覚えはある?」
「……」
 旦那さんは沈黙した。
「答えづらいなら、質問を変えてみようか。お嫁さんのあやのちゃんはモテる方かしら?」
「ええ、まあ。俺なんかにはもったいないぐらいの嫁さんですからね。あれは、結婚する一年前でしたか。あやのにしつこく言い寄る男がいましてね。最後には、ストーカーなんとか法とかいうので、警察が出てくる騒ぎになりまして」
「それは災難だったわね」
「そうそう。あのときは、弁護士のかがみさんのお世話になりまして。柊家のみなさんにはお世話になりっぱなしです」
「へぇ、かがみがね。そういうのもあの子の仕事なわけか。で、そのしつこい男は、今どうなってるかしら?」
「……退院して家に帰って新聞のお悔やみ欄を見たら、そいつの名前が出てました」
 こんなことは、あやのには話せないだろう。だから、旦那さんは一人で来たのだ。
「あなたが気に病むことじゃないわよ。それがひとを呪い殺そうとした当然の報いだから」
「でも……」
「そいつが死ななきゃ、あなたが死んでた。かわいいお嫁さんや、妹さん、ご両親を悲しませるわけにはいかないでしょ?」
54 :お祓い [saga]:2011/05/08(日) 20:47:47.66 ID:ANRNGYQX0
 旦那さんは改めてお礼を述べて去っていった。
 いのりは、竹箒で境内の掃除を再開した。
 ぽつりとつぶやく。
「さて、私にも報いがあるかしらね……」
 あのあと帰ってきてから一晩中水を被ってみそぎをしたが、それでも気は晴れなかった。
 経緯はともあれ、人の死に関与したことには違いない。はっきりいえば、自分の術式で人を殺したのだ。
 母のみきは、気に病むことはないと言ってくれたけど、そう簡単に割り切れるものでもない。
 いつまでそうやって引きずっていると、悪い運気を引き寄せてしまうというのも分かってはいるのだが……。

55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/08(日) 20:48:13.52 ID:ANRNGYQX0
以上です。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/09(月) 00:11:29.74 ID:GvwI+gZ50
===========================================================


ここまでまとめた


===========================================================
乙です
眠いのでとりあえず纏めだけしておきました。
後日読ませて頂きます。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/09(月) 20:00:00.58 ID:F0AgS5QSO
−かすたむしんでれら−

かがみ「…なにしてんの?」
こなた「んー、今度近所の幼稚園でやる演劇の脚本たのまれてねー」
かがみ「ふーん。で、どんな話?」
こなた「幼児に分かりやすく、シンデレラをちょっとアレンジしたものをってね」
かがみ「ほほう、アンタにしてはまともね」
こなた「十人のシンデレラが城に向かいながら、戦って戦って戦いぬいて、最後に残った一人がシンデレラオブシンデレラとして王子様に求婚を…」
かがみ「まて。色々とおかしすぎる」
こなた「いやー、男の子もいるから、ちょっとバトル物っぽい要素もいるかなって」
かがみ「いや、ちょっとじゃないから。シンデレラの面影微塵もないから」



数日後

こなた「…没りました」
かがみ「そりゃそーだ」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/10(火) 21:48:58.25 ID:MVDYNgx90
>>57の作品はまとめました。

>>55
読ませていただきました。
人呪わば穴二つ ってやつですね。
幸せを望むのが祈り。不幸を望むのが呪い。同じ望むでも違いますよね。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/11(水) 22:49:25.78 ID:0VRpK7ISO
−命の輪の小ネタ−

かがみ「あんた達、付き合い始めてそろそろ一年よね」
こなた「うん、それくらいだね」
かがみ「…で、もうヤッたの?」
こなた「…下品ですよ。かがみさんや…」
かがみ「あんたよりはましだと思うんだけど…まあ何て言うか、わたしも人並みには興味あるしね」
こなた「…まあその先週…」
かがみ「先週って事は土日ね。そうじろうさん達がみんな余所に泊まって、二人っきりだったはず」
こなた「なんでそんなこと知ってんの!?」
かがみ「ふふふ…蛇の道は蛇ってね」
こなた「それ、使うところ間違ってると思う…」
かがみ「まあまあ…で、どうだったの?」
こなた「うう…えーっと…それはアレと言うにはあまりに大きすぎた…」
かがみ「…はい?」
こなた「太く、長く…それはまさに鉄塊だった」
かがみ「…それ…ちゃんとできたの…?」
こなた「…翌日、痛くて一日動けませんでした…」
かがみ「…ご愁傷様…」



小ネタというか下ネタ。
ぶっちゃけると没ネタ。
十五禁くらい?
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/12(木) 20:21:52.26 ID:GT6BqFm50

>>59は許容範囲内の気がするけどどうでしょうか?

沈黙はボツと判断します。

次のまとめまで保留します。

61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/12(木) 21:16:10.76 ID:gzYPx0VSO
没ネタってのは命の輪で使おうとして止めたってことです。
入れられそうな箇所が無かったので。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/12(木) 21:48:22.15 ID:GT6BqFm50
>>
61命の輪の外伝に纏めればいいのかな
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/12(木) 23:21:57.60 ID:gzYPx0VSO
はい、それでいいかと。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/15(日) 07:51:23.27 ID:wx4aVVgM0
らきすた世界の七不思議

1.柊みきの若さの秘密
こなた「一番気になるのはこれだよね。五十歳は超えてるって噂もあるのに、まるで二十代みたいだし。実は整形してるとか?」
みゆき「整形による若返りの効果は長続きしないといわれてます。若さを保つには整形を繰り返さないとなりません。保険もきかないでしょうから、かなりの費用がかかることになりますが……」
こなた「ただおさんが奥さんのためとはいえそこまで金を注ぎ込むというのも考えづらいね」
みゆき「遺伝的な要因が大きいのではないでしょうか?」
こなた「もしそうだとすれば、かがみやつかさも、五十歳になってもぴちぴちお肌ってことになるね」
みゆき「あやかりたいですね」
こなた「あるいは、柊家には代々、若返りの秘術が伝わっているとか?」
みゆき「歴史のある神社ですから、その可能性もありますね」


2.高良ゆかりは開眼するとどうなるのか?
こなた「開眼した目でにらまれると石化するとか?」
かがみ「メドゥーサか!?」
こなた「その目が開いたとき秘められた力が開放されるみたいなのもありがちだよね」
かがみ「おまえはなんでそっち思考なんだよ。確かに、あの目が開いたらなんか怖そうだけどさ」
こなた「そうだよね」


3.職業が不明な人々
かがみ「成実さんの旦那さんとか、みゆきのお父さんとか、みなみちゃんのお父さんとかね」
つかさ「ゆきちゃんのお父さんとかみなみちゃんのお父さんはお金持ちそうだから、大きな会社のえらい人なのかな?」
かがみ「可能性は高いわね。多国籍企業の海外支社の支社長とかなら、めったに家にいないっていうのも納得だし。それに比べれば、成実さんの旦那さんは普通の会社のサラリーマンって感じね」
つかさ「どんな会社なんだろう?」
かがみ「儲かってる会社には違いないだろうけど、何もヒントがないから、さっぱり分からないわね」


4.天原家はどれぐらい金持ちか?
こう「公式ガイドによるとふゆきちゃんが働く必要がないっていうぐらいだから、めちゃくちゃ金持ちなんだろうな」
ひより「少なくても、高良先輩や岩崎さんの家よりは上っスよね」
こう「株とか土地とかたくさん持ってたりする資産家とか」
ひより「めっちゃお嬢様っスね。桜庭先生がどんな経緯で天原先生の友達になったのかが気になるっス」
こう「そっちの方が謎かもな」


5.金魚のたまはどこまで大きくなるのか?
みゆき「ネットで調べたら、体長40センチ、重さ2キロの金魚が捕獲されたことがあるという記事を発見しました」
こなた「でかっ! それもう金魚じゃないよ!」
つかさ「そんなに大きくなっちゃったら、うちの池でも飼えないよぅ」
かがみ「やっぱりダイエットさせないと駄目かしら……」


6.山辺たまきの素顔は?
こう「公式ガイドによると美人な顔にコンプレックスがあって隠してるってことだけど」
ひより「美人は美人だけど、らきすた世界にはないタイプの顔なんじゃないっスかね」
こう「ベルばらのキャラみたいな感じとか?」
ひより「リアルな劇画調とかもありえるっスよ」
こう「確かにそんな感じなら、コンプレックスになっても不思議じゃないわな」


7.泉そうじろうの書いている小説のジャンルは?
かがみ「こなたの話じゃ露骨な官能小説や萌え系のラノベとかじゃないみたいだけど」
みゆき「一軒家を購入し泉さんを私立高校や(おそらく)私立大学に通わせるぐらいの充分な収入があるということから考えますと、コンスタントに売れ続けてたくさん書けるジャンルでしょうね」
かがみ「いまどき純文学なんてたいして売れないでしょうし、ミステリーかSFあたりかしらね。オタクなそうじろうさんが手を出しそうな分野な感じだし」
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/15(日) 08:54:43.73 ID:6fsVaUKW0
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ここまでまとめた


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>>59
@wikiモードでつくらなかったのでコメントフォーム付をけられませんでした。ご容赦を。

>>64
こう言う不思議があると想像が膨らみ二次製作のネタになるんですよね。

お題『雨降り午後』苦戦中……の関係でコンクールはちょっと延期。
だれか代わりに主催やってれる人がいれば進めちゃっていいですよ。



66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/23(月) 22:36:14.09 ID:Q/SzUYs60
お題『雨降りの午後』で作りました。
投下します5レスくらい。
67 :雨降りの午後 1 [saga sage]:2011/05/23(月) 22:38:14.06 ID:Q/SzUYs60
ほのか「夕方には雨が降りそうだからチェリーのお散歩はお昼に済ませたほうがいいわね」
みなみ「そうするよ」
短く答えた。チェリーの散歩で雨が降るのはそう珍しい事ではない。雨の日で散歩に行ってもチェリーは嫌がらないし私も苦ではない。とは言っても降らないにこしたことはない。
居間の窓越しから空を見上げた。雲はまだ薄く雨が降るのはもう少し時間がかかりそうだ。お昼を食べて少し休んでから行くことに決めた。
その間本でも読んでいよう。部屋に向かった。

 自分の部屋に戻ると何かを忘れているような気分になった。何だろう。そうだった。今日はゆたかが来る日だった。何をのん気にしていたのだろうか。急いで居間に戻った。
みなみ「今日はゆたかが家に来る約束をしていたのを忘れていた、午後のチェリーの散歩は……」
ほのか「ああ、そういえばそんな事言っていたわね、チェリーの散歩は私がするからいいわよ」
みなみ「ありがとう」
私は部屋に戻ろうとした。
ほのか「その代わりにお願いがあるの」
みなみ「なに?」
ほのか「晩御飯のお買い物に行って来て欲しいの、ゆたかちゃんも食べるでしょ」
私は時計を見た。もうお店は開いている時間だった。
みなみ「それなら今行くよ、何を買えばいい?」
お母さんはメモ紙に書きとめお金と一緒に私に渡した。
ほのか「今日は休日の割引キャンペーンの日、いつものスーパーでお願いね」
みなみ「うん、わかった」
玄関で靴を履いて外に出ようとした時だった。電話が鳴った。お母さんが受話器を取った。電話の相手が気になったのでその場に止まった。
ほのか「みなみ、泉さんから」
靴を脱いで電話に向かった。
みなみ「もしもし……」
こなた『みなみちゃん、買い物に行くところだったんだって丁度よかったよ、今日午後からゆーちゃんがそっちに遊びに行くって言ってるんだけどね、ちょっとそんな状態
    じゃないんだ、熱が出ちゃってね、それでも行くって言うから困っちゃってさ』
最近は保健室に行く事も無かったのに。
みなみ「授業で分からない所があったのでみゆきさんに教えてもらおうと」
こなた『そうなんだ、みゆきさんの講師ならゆーちゃんも行きたがるのは分かるよねー』
みなみ「ゆたかに代われますか」
こなた『今薬飲んで眠っている所、さっきまで薬を飲むのも嫌がってね、だから代わりに私が電話してるって訳』
確かにこれでは家に来られない。今日は諦めよう。
みなみ「私がみゆきさんに教えてもらって明日学校でゆたかに教えるから……そう伝えて下さい」
こなた『うん、分かった伝えておくよ、ごめんね、みなみちゃん』
みなみ「いいえ、お大事に」
こなた『ありがとう』
電話を切るとお母さんが心配そうな顔をして私を見ていた。
ほのか「来られそうにないの?」
私は頷いた。
ほのか「それじゃ買い物は行かなくていいわよ」
みなみ「いや、行ってくるよ、みゆきさんにお礼もしないといけないし」
ほのか「そうだったわね、夕食はこっちで食べてもらいましょう」
再外へ出た。

 玄関を出ると冷たい風が顔を撫ぜた。昨日までの暖かな日とは違って季節が戻ったような北風だった。体を竦めていた。この気温差でゆたかは体調を崩したに違いない。
ゆたか月に何日も休むこともあった。それなのに学校の成績は悪いほうでない。私が数日学校休んでいたら授業に追いついていけるだろうか。少なくとも今よりは悪いはず。
ゆたかのどこにそんな力があるのだろうか。知り合って一年余り、まだ友達のそんな所までは理解できていない。しようとしていないのか。

 マーケットで買い物を済まし家の扉を開けたときだった。廊下にチェリーが寝そべっていた。
みなみ「ただいま」
ほのか「おかえり、外は寒いし雨が降りそうだからチェリーを入れておいた、ちょっと早いけどお昼の用意をするわね」
みなみ「ありがとう」
チェリーは寝そべったまま動かない。チェリーを飛び越えるように廊下を渡った。
私は買ってきた袋とお釣りをお母さんに渡した。お母さんは袋の中身を確認した。
みなみ「みゆきさんの家に行く準備をしてくる」
ほのか「すぐご飯だから」
みなみ「うん」

 部屋に戻り準備をして昼食をとってみゆきさんの家に向かった。向かったと言っても道路を挟んだ隣の家。玄関を出て数十秒で着いてしまう。
みゆき「いらっしゃい……小早川さんの姿が見えませんが」
しまった。欠席するのを連絡していなかった。
みなみ「今朝連絡があって、急な発熱したそうです」
みゆき「そうでしたか、どうぞ入ってください」

68 :雨降りの午後 2 [saga sage]:2011/05/23(月) 22:39:26.32 ID:Q/SzUYs60
 勉強会を始めてみゆきさんの部屋で質問をいくつかした時だった。みゆきさんの様子が違うのに気が付いた。顔色も優れない。
みなみ「どうしました、気分でも悪いのですか」
みゆき「い、いいえ」
みゆきさんは暫くボーとしてから答えた。これは間違いなく熱がある。
みなみ「やはり気分が優れないのですね、もうこの問題の要領は分かりましたので」
私はノートをしまった。
みゆき「まだ三十分も経っていません、大丈夫です」
私が立ち上がると止めようとしたのかみゆきさんも立ち上がったがふらついていた。
みなみ「帰ります、明日の大学に差し支えますよ」
みゆき「……そうですね、すみません……今朝の急に冷え込んだのが原因かもしれません」
みなみ「お大事に……」

みなみ「ただいま」
お母さんは少し驚いた顔をして私を見た。
ほのか「あら、早いわね、もう勉強会は終わったの?」
みなみ「みゆきさんも体調が良くなかったから」
ほのか「最近風邪が流行っているみたいだから気をつけないとね」
お母さんはチェリーの散歩用の綱を持っていた。散歩に行くつもりだったみたい。
みなみ「お母さん、私時間が空いたからチェリーの散歩行って来るよ」
ほのか「それじゃお願いしちゃおうかしら」
私に綱を渡すと居間の方に向かって行った。私はチェリーの居る所を向いた。さっきと同じ廊下で寝そべっている。
みなみ「チェリー、お散歩行こうか」
チェリーは耳だけを私の方向に向けた。動く気配がない。今度は散歩用の綱をチェリーに見せる。
みなみ「散歩に行く気ないの?」
今度はゆっくりと起き上がり自ら私に近づいてきた。綱をチェリーに付けると尻尾を振り出した。
ドアを開けると外はポツポツと雨が降り出していた。天気予報よりも早い雨降り。

雨降りの午後の散歩。傘を差しながらチェリーと歩く。買い物に行った時よりも幾分寒く感じる。何か今日はモヤモヤとした気分、気分が晴れない。
お天気のせいばかりではないみたい。思い通りにならない日なんて今までいくらでもあったのに、今日は特に気が重い。
いつもの散歩道を歩いているとチェリーの歩みが急に止まった。チェリーは公園の方向をじっと見たまま動こうとはしなかった。
みなみ「行こう……」
晴れの日なら子供たちが居るから遊んでもらえる。しかしこの雨では誰一人公園には居ない。綱を少し強めに引いて諦めさせようとした。チェリーは四足に力を込めて抵抗した。
こんな時のチェリーは何をしても動かない。好きにさせてあげるしかなさそう。綱を緩めてチェリーを自由にした。チェリーは公園の中に入り公園中央で歩みを止め、命令を
しているわけでもないのにお座りをした。チェリーは誰かを待っているのか。公園の周りを見回したがいくら休日とはいえ雨で公園に遊びにくる子供はいない。
お母さんの躾なのか、それならば散歩前に何か言うはず。

『ふぅ』
溜め息を一回、もう数分を過ぎた。チェリーはまだ動く気配はない。このまま強引に連れて行くことも考えたが帰っても特に急ぎの用もあるわけではない。
公園を見回した。静か……。静かだけど音が聞こえる。
傘に雨が当たる音、地面に当たる音、水溜りに当たる音、それらが混ざって耳に入る。音がするのに静かに感じるのは何故。
昼下がりの公園、晴れていれば子供たちが遊び、大人たちは集う賑やかな場所。砂場で山を作ったり、ブランコを漕いだり、滑り台で滑ったり、ジャングルジムで……
そう、この公園で私は幼い頃遊んだ。ここに居るだけで楽しかった。おそらく数時間だっただろう。だけど凄く永い時間を遊んだような記憶。
みゆきさんも居たような……みゆきさんは覚えているだろうか。
そんな楽しかった公園だった。だけど小学校の中学年になる頃には公園で遊ばなくなった。高学年にはチェリーと散歩に行く時に寄る程度になってしまった。そして今……
もう私は高校二年生。あの頃に比べると時間の流れは目まぐるしく早い、そう感じているだけなのか。この公園はあの時と少しも変わっていない。公園で遊ぶなんて……
もうあの時には戻れない。幼い頃には戻れない。
『クゥン〜』
甘えた声でチェリーが鳴いた。チェリーは綱を咥えて引っ張っている。もうここには用はないのか。違う。綱を外してと言っている。
その時気が付いた。チェリー……この公園で私と遊びたかった。昔のように。
幼い頃チェリーと一緒にここで遊んだ。一緒に走ったり、ボールを投げたり……。
でもそれはチェリーが子犬だったから出来た事、成犬となった今、この公園で綱を外す行為は許されない。
チェリーの目の前でしゃがんだ。
みなみ「ここは綱を外してはいけない所、今度外しても良い広場に行こう」
チェリーはまだ綱を引いている。他の所ではなくここで遊びたい。そんな風に言っているようだ。
私はチェリーを抱きしめた。差していた傘が落ちて私にも雨が当たった。
みなみ「ごめん、チェリー……」
チェリーの動きが止まった。そして噛んでいた綱を離し私の顔を舐めてきた。分かってくれたのだろうか。チェリーを離し落ちていた傘を拾った。
雨とチェリーの濡れた体のせいで私の服も濡れてしまった。

69 :雨降りの午後 3 [saga sage]:2011/05/23(月) 22:40:30.55 ID:Q/SzUYs60
 気付くと雨足が強くなってきた。雨の音も強くなる。こうなっては静かには感じない。地面に当たった雨が私の靴を濡らす。
みなみ「帰ろう」
私が歩き出すとチェリーも付いてくるように歩き出した。

みなみ「ただいま」
私の姿を見てお母さんは驚いた。
ほのか「びしょびしょじゃない、傘は持っていったはずよね」
みなみ「帰り転んでしまった……」
お母さんは二つのタオルを私に渡した。一つは自分の首に掛け、もう一つのタオルでチェリーの体を拭いた。
ほのか「着替えなさいね……そうそう、散歩に行っている間にお友達がきたわよ、居間に通しておいたから」
みなみ「うん……」
友達、誰だろう。今日の会う約束はゆたかとみゆきさんだけだったはず。着替えを終えると居間に向かった。
みなみ「ひより……こんにちは」
ひより「こんにちは、悪かったかな……アポ無しで来ちゃって」
片手を前に出して謝っているように見える。アポなしでも構わない、嬉しさがこみ上げてきた。
みなみ「そんな事はない、今日はどうして……」
ひより「いやぁ〜ね……雨で予定が中止になっちゃって、勉強会やるって言ってたでしょ、便乗しようと思って来たんだけど……二人ともダウンなんてね」
みなみ「みゆきさんに少し教えてもらったから、それをヒントに解けそうな問題が幾つかある」
ひより「そうなの、それじゃ二人だけでやってみる?」
私は頷いた。私達は自分の部屋に移って勉強会をすることになった。

ひより「さすが高良先輩、こんな解き方があるなんて」
ひと段落した。ひよりの持っているノート。勉強には使っていないものがある。そういえば居間に居るときも持っていた。ひよりはノートを鞄にしまうのを私は見ていた。
それにひよりは気が付いた。
ひより「ん、これ?」
ひよりはノートを鞄から取り出し私に見せた。私は頷いた。
みなみ「そのノートは、一回も使っていなかった」
ひより「ネタ帳、最近なにも浮かばなくってね、部活でテーマを決めたんだけど……困ったもんだ」
みなみ「テーマ?」
ひより「『お題』って言えば分かるかな、ただ漫画を描くとダラダラになるから同じテーマで描く」
みなみ「学校でよくやった作文みたいな物?」
ひより「そんな格式ばったものじゃないよ」
みなみ「そのお題って何?」
ひより「子供時代……なーんて、言われてもね、もう少しアウトロー的な……なのが良い」
みなみ「アウトロー?」
ひより「い、いや、何でもない……」
ひよりは何を慌てているのか分からなかった。
みなみ「子供時代……私達は未成年、子供みたいなもの」
ひより「中学・高校は子供でも大人でもない中途半端な年代なんだよね、もっと小さい頃イメージが欲しいんだけど、そんな頃なんてもっとネタがない」

 子供の頃のイメージ、チェリーとの散歩を思い出した。あの情景……。楽しい思い出なのに切ない感じ……
ひより「あっ、ごめんね、みなみちゃんには関係ない部活の話だったね、勉強も一段落したし、帰ろうかな」
ひよりは帰り支度を始めた。関係ない話でも良いから今日はもう少し居て欲しい。
みなみ「その子供の頃のイメージ、出来るかもしれない」
ひより「出来る……出来るって?」
私はピアノの前に座った。あの公園に居た時のイメージに合う曲を弾いた。言葉では表現できない。

子供の情景からトロイメライ……。そんなに難しい曲ではない。名前の通り夢のようなこの曲。だけど大人になるとただ夢の世界でしかなくなる、あの時に戻れない切ない曲。
公園での出来事を思い出しながらゆっくりとその曲を弾いた。

 弾き終わった。ひよりは何も言わない。ダメだったか……はずしてしまった。ピアノから目をひよりに向けられない。
所詮あの感情は私だけの特別なものだった。他人に伝えることも話すこともできない。自分のした行動が恥ずかしくなった。
ひより「う〜ん、何だかね……」
やはりそうだった。
みなみ「付き合わせて悪かった、何かの役に立つと思っただけ……」
ひより「うんん、そうじゃなくて、聴いたことのある曲だけどなんて言ったっけ?」
みなみ「トロイメライ」
ひより「そんな名前だったね……」
ひよりはまた何も言わなくなってしまった。

70 :雨降りの午後 4 [saga sage]:2011/05/23(月) 22:41:44.86 ID:Q/SzUYs60
ひより「もう一回いいかな?」
私はひよりの方を向いた。彼女はにっこりと微笑んだ。
ひより「なんとなくイメージが湧いてきた、もう一回いいかな」
みなみ「もう一回?」
ひより「うん、それに今度はちゃんと聞きたいしね、みなみちゃんの演奏」
この曲を聴いて涙する人がいると言う。幼い日の思い出がそうさせるのか。戻れない過去を憂いでいるのか。私たちがこの曲を聴いてそう思うのなら大人になったと
言う事なのだろうか。そんな自覚も感覚も無い。

 夕方近くになったのでひよりは帰ると言い出した。夕食をと誘ったが家族で食べる約束があるとの事だったので無理は言えなかった。そこで私は駅まで送ることにした。
外に出ると小雨になっていた。傘を差すほどではない。
ひより「ごめんね、せっかくのお誘い断っちゃって」
みなみ「いや、約束があるのなら仕方が無い」
ひより「それに何度も演奏させだし」
みなみ「それも問題ない……」
私はひよりを見た。いったいあの演奏で何をイメージしたのだろうか。少し興味が湧いた。
ひより「ん、何?」
私の目線に気が付いた。
みなみ「い、いや、演奏でなにがイメージ出来たのか聞きたかった」
ひよりは空を見ながら言った。
ひより「ごめん、言葉に出来ないんだよね、なんて言ったらいいのか……やっぱり私腐ってるからも……」
そう、私も言葉にできなかったから音楽にした。それなら私の体験を話した方がいいのかもしれない。
みなみ「ひよりが来る前、私はチェリーと一緒に……」
私はトロイメライを弾くに至った体験を話そうとした。
ひより「ストップ!! それより先は言わないで」
ひよりは突然手を私の前に出して話すのを止めさせた。
みなみ「なぜ」
ひより「言葉にできないから良い場合もあるし、みなみちゃんが演奏した曲のイメージを大事にしたい」
以前泉先輩の家でひよりの描いた漫画を読んだことがある。その中には私とゆたかがモデルと思われるエピソードが幾つかあった。ひよりは実際に起きた事も題材にしている。
それなのにさっきひよりは私の話を聞こうとはしなかった。
みなみ「ひよりは見聞きしたものでも漫画にするのでは?」
ひより「見聞きと言うよりは実体験をネタによくするね、でもそれはあくまで自分の体験がネタなんだ、人の体験はあまり使いたくないんだよね…
…だから、つかさ先輩のネタノートはあまり見たくない……」
そんなこだわりがあったとは知らなかった。
そういえばひよりはいつから友達になったのだろうか。一年生のごく早い時期だったような、気が付いたらひよりが居た。自然に私とゆたかの会話に入ってきた記憶がある。
今思えばそれは私とゆたかを漫画の題材にしたかったのかもしれない。

みなみ「ひより……もう駅を過ぎている」
ひより「え?」
ひよりと私は駅の改札口から十メートル程はなれていた。ひよりはそのまま通過してしまった。私が言わなかったらどこまで行くつもりだったのだろうか。
ひより「ははは、私ったら、今日はどうかしてるね……」
苦笑いしながら慌てて改札口に戻り切符を購入した。切符を購入すると私近づいてきた。
ひより「それじゃ、また明日学校で」
振り返って駅に入ろうとした。
みなみ「待って……」
ひより「なに?」
みなみ「……完成したら、見てみたい、ひよりの漫画……」
ひより「最初からそのつもり、ゆーちゃんにも見せたいしね」
みなみ「それじゃ、明日……」
ひよりは駅の奥へと進んで行った。

 ひより、私と何故友達になった。
別れ際そう聞きたかった。だけど実際は全く違った事を言っていた。帰り際のひよりの笑顔。その質問をしたら同じ質問を返されそうだ。質問されても私は答えられない。
理由なんか無いのかもしれない。成っていた事実があるだけ。だけど、それが心地いい。きっと公園居た時の感情を理解してもらえたから。ひよりに聞いた訳ではないに、
そんな気になっているだけかも。なんだろうこの複雑な気持ちは……
気付くと雨はもう止んでいた。道行く人たちは皆傘を畳んでいる。私も傘を畳んだ。雲の切れ目から夕日が顔をのぞく。帰るか……

71 :雨降りの午後 5 [saga sage]:2011/05/23(月) 22:43:01.94 ID:Q/SzUYs60
 帰るとお母さんは夕食の準備をしていたが一段落したのか手を休めて私の居る居間に来た。
ほのか「田村さんと部屋に居る時、ピアノを弾いていたわね、何度も何度も……同じ曲」
みなみ「うん」
ほのか「みなみの小さい頃を思い出すわ」
微笑み優しい目で私を見ている。私が小さかった頃の様に。
みなみ「お母さんが小さかった頃はどんな子だった?」
お母さんは更に目を細め私の目線より高い方を向いた。遠い目と言うものなのか。
ほのか「小さい頃ね……私はみなみほどピアノは上手くなかった、だけど……楽しかった」
お母さ……、夢でも見ているかのような顔。母は座ると子供の頃の話をし始めた。同じだった。私と……
きっとどんなに歳をとっても変わらないものなのかもしれない。

みなみ「おはよう」
ゆたかは本を読んでいた。私の声に気付かない。私が席に着いた頃にようやく気付いた。
ゆたか「あ、みなみちゃんおはよう」
ゆたかの持っている本を見た。表紙は真っ白だった。私がゆたかの持っている本を見ているのに気が付いた。
ゆたか「あ、これ、これは田村さんが描いた漫画」
あれから一週間経つ。もう完成したのか
ゆたか「まだ下描きだって言ってたけど、ちょっと漫画の世界に浸っちゃってみなみちゃんの来たのが分からなかった」
教室を見回したがひよりの姿がない。
みなみ「ひよりは……」
ゆたか「私がこの漫画見るのが恥ずかしいって言って部室へ行っちゃった」
確かに人に見られるのは小恥ずかしいのは理解できる。
ゆたか「みなみちゃんも見てみる、タイトルは『雨降りの午後』だって、田村さんのいままでの漫画とちょっと感じが違うんだよ」
このタイトルを聞いて何か体に電気が走るような感覚が過ぎった。
みなみ「少女は雨の中、犬の散歩をしていた、そして……誰もいない公園を通りかかる」
ゆたか「え、どうして……分かるの?」
もう見なくても内容は分かった。ひよりのイメージは私の見た出来事そのまま。なにか嬉しい。私の感じたものは特別なものではなかった。
みなみ「なんとなく……」
ゆたかは私に漫画を差し出した。
みなみ「完成したら見る」
そう約束したから。
ゆたか「見た感想が欲しいって、なんて言えばいいかな、言葉に出来ないよ」
みなみ「言葉に出来ないでいいと思う」
ゆたかは納得できないような顔をしながら漫画をひよりの席にしまった。
ゆたか「ん?」
ひよりの机の中から別の本が落ちた。ゆたかは拾いその本を開いた。
ひより「わー!!!」
突然後ろからひよりがその本を覆い隠すように奪い取った。ゆたかは硬直していた。
ひより「はぁ、はぁ、これは見てはならない物だから……」
息が荒い、走ってきたみたいだ。
ゆたか「見ては……ならない……もの」
ゆたかの顔がみるみる赤くなっていく。
ひより「みちゃった……かな……」
ゆたかは小さく頷いた。
みなみ「いったい何の本?」
ひよりも少し顔を赤らめた。
ひより「い、いやね、未完成だし、見たって面白くないよ」
みなみ「面白いかどうかは見なければ分からない、私も見てみたい」
ゆたかの表情とひよりの慌てぶりでどんな本なのかは想像つく。この前言っていたアウトローとはこの事なのか。それでも一度見てみたい。ひよりの作ったものなら。
ひより「えっと、さっき言わなかったかな……見てはならないものって……」
みなみ「見てはならない物なら何故そんな見つかり易い所に、それに私達に見てはならない本は年齢的にない」
ゆたか「……私も続き……見てみたい」
ゆたかも見方になった。ひよりは暫く黙ってしまった。
ひより「……分かった……完成したら……でいい?」
みなみ・ゆたか「うん」
始業のチャイムが鳴った。黒井先生が来る。周りの生徒は一斉に自分の席に戻った。

また今日も普段通りの生活。あと何回あの曲、トロイメライを弾きたくなるだろうか。これから先、幼い頃の思い出なんか必要無くなるのか。
それとも思い出している時間もないほと忙しくなるのか。どちらもも悲しい。あの時のチェリーとの散歩での体験、お母さんの表情。『雨降りの午後』を見たゆたかの反応。
どれも悪い感じはしなかった。
またあの曲を弾きたくなった。放課後、音楽室のピアノを借りて弾こう。何人が立ち止まって聞いてくれるか。それは気にしない。忘れない様に、遠い将来の為に。




72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/23(月) 22:44:25.37 ID:Q/SzUYs60
 以上です。つかさが出演しないssを作るのは久しぶり。ちょっと手間取ってしまった。
面白くないですが読んでくれれば幸いです。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/23(月) 22:45:28.62 ID:Q/SzUYs60
コンクールは6月からお題を募集したいと思います。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/23(月) 22:57:48.59 ID:Q/SzUYs60



ここまでまとめた



75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/27(金) 14:49:06.86 ID:zgfhbEbX0
 触発されまして、雨降りの午後で書いてみました。
3、4レスで済むかなどうかな。

タイトルは、『シェルブールの雨傘』
76 :シェルブールの雨傘 1 [saga]:2011/05/27(金) 14:51:26.32 ID:zgfhbEbX0

 ”雨降りて、待ち人来たらず”

 まったく、よく当たる占いだと思う。
それこそ、悔しいくらいに。

 おととい本州に上陸した台風が、昨日の夜から暴風雨を関東にもたらしていた。
電車は軒並みストップ、とはいかないまでもダイヤは狂い放題。
おかげで今日のみなみちゃんとの予定はキャンセル。
せっかくの早起きも無駄になって、退屈しのぎの雑誌も本もまるで頭に入ってこない。
いつもは嫌いじゃない土曜お昼ののんびりしたテレビ番組も、とても見る気にはならなかった。

 お姉ちゃんは12時過ぎに起きて軽く食事をしたら、すぐにかがみ先輩のとこに遊びに行ってしまった。
私には、それが羨ましくてしょうがない。
私とみなみちゃんの距離、物理的な距離と心の距離、それがもどかしい。
それは遠慮だったり自重だったり、引け目を感じて大雨の日に彼女を家に呼べないことだったり、
こんな日じゃ迷惑かもって一歩踏み込むのを迷ったりすることで。

 時間を重ねるごとにそんな、重たく蒸した今日の空気みたいな、
澱んだ空間が二人の間に広がってくのを感じる。

 ”一番の親友”なんだけどな。
77 :シェルブールの雨傘 2 [saga]:2011/05/27(金) 14:52:44.77 ID:zgfhbEbX0

 雨は一向に弱まる気配を見せず、ざらざらとこの家に降り注ぐ。

『また明後日、学校でね』

 みなみちゃんとのメールは、彼女のそんな一言で締めくくられていた。
返信して、そのままメールし続けてればよかったんだけど。
なんで私、なんにも返さなかったんだろ。

 返信。
To:みなみちゃん
『やっぱり、今から遊びに行っちゃダメ?』

 文字にしたらホラ、たったこれだけ。
あとはキーを押すだけ。
だけど、指先がどうしても動かない。
もどかしいなあ、切ないなあ。

 携帯を畳んでポケットにしまって、私はソファに横になった。

 雨音がざらざらと、耳にさわった。
78 :シェルブールの雨傘 3 [saga]:2011/05/27(金) 14:53:58.30 ID:zgfhbEbX0


 気が付けば、時計の短針はとうに3を通り過ぎていた。
お昼寝には少し長すぎたけれど、しょうがないと思う。

 習慣的に携帯を開けば、新着のメールが一通。
誰かな、みなみちゃんだったら嬉しいな。
なんて、寝ぼけまなこをこすりながらメールを開封する。

From:みなみちゃん
『やっぱり、これから遊びに行ってもいい?」

 夢かと思って眉間をつねった。
夢じゃなかった。
気のせいかと思って下書きを見た。
私のメールは送られてないままだった。

 アドレス帳を開いて彼女の名前を確かめる。
キーを二回押して電話を耳にあてる。
繰り返すコール音を聞きながら、祈った。
お願い、神様。
いやな占いを叶えるくらいなんだから、私のお願いも聞いてください。
お願い……お願い!

 不意にコール音が切れた。

 後に続くのは、彼女の声。
優しく私の名前を呼ぶ、控えめな声。

 ありがとう、神様。

「……みなみちゃん、メールありがとう。あのね……」
79 :シェルブールの雨傘 4 [saga]:2011/05/27(金) 14:54:54.70 ID:zgfhbEbX0


 電話を切ってから、私は手早く準備を済ませた。
朝のうちにメイクも着替えも済ませて、そのままでいたのが幸いだったみたい。
お昼寝のせいでくずれた髪のセットも、湿気のせいにして適当にまとめちゃえばいい。
とにかく今は、一分一秒の時間がもったいなかった。

 お姉ちゃんはきっと夕飯まで帰ってこないし、おじさんは朝からずっと書斎にカンヅメでお仕事中。
だから、お昼ごはんの残りと一緒に置手紙を残していこう。
心配かけちゃったらごめんなさい、でも、笑って許してくれたら嬉しいです。

 お気に入りのレインブーツを履いて、愛用の傘を持って、物音を立てないように玄関をくぐった。
今日はお泊りになるかもしれません、いってきます。
なんて手紙に書いたのと同じことを、おじさんに聞こえないとわかって囁きながら。

 外は相変わらずひどい雨、軒下に居てもし水しぶきが服を濡らすくらい。
玄関から見える道路は水たまりだらけ。
電車の運行状況なんてめちゃくちゃで、止まってるのだってあるかもしれない。
みなみちゃんの家に着くのは、いったい何時くらいになるんだろう。
夕方なんて通り過ぎて夜までかかるかも、もしかしたらたどり着けないかも。
きっと今日は帰れないし、明日だってどうなるかわかんない。

 小さすぎる私の体は、すぐに不安に負けそうになる。
だけど今日は、そんなことで縮こまってる場合じゃないんだ。
80 :シェルブールの雨傘 5 [saga]:2011/05/27(金) 14:56:29.60 ID:zgfhbEbX0

 私は鞄から携帯を取り出して、そして、二通のメールを見比べる。

 To:みなみちゃん『やっぱり、今から遊びに行っちゃダメ?』(13:05)
From:みなみちゃん『やっぱり、これから遊びに行っていい?』(13:22)

 おんなじことを考えてた、私たちの時間差は、17分。
たった17分しかない?
17分もある?
そんなの、どっちでもいい。
距離が近づけば時間差は小さくなる。
今日みなみちゃんが踏み込んでくれた一歩ぶん、私たちの距離だって縮まった。
それじゃあ今度は私の番。
もう一歩、ううん、何歩でも踏み込んでその17分の時間差を、それを生み出している距離を無くしたいって思う。
もっともっと、みなみちゃんに近づきたいって思う。
だから勇気を出して。
私は、みなみちゃんに会いに行く。

 携帯を鞄に閉まって傘を開くと、私は土砂降りの只中へ体を躍らせた。

 傘にかかる雨の音色はざらざらと、まるで歌っているようだった。

81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/27(金) 15:05:30.23 ID:zgfhbEbX0
 以上でーす。
 タイトルは内容となんも関係ないです。
ただ、ゆたかとみなみには似合う言葉のような気がしてならなかったのでつけました。
この子らはいやになるくらい良い子ちゃんで、まったくもう。
 しかし休み一日潰した価値はあったと思いたい。
ここまで読んでくださったこと、感謝します。 
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/27(金) 23:13:22.30 ID:AVOlIoDb0

ここまでまとめた。


>>81
短期間で完成とは凄いです。
読んでるのが恥ずかしくなるほどのゆたかの想いがよく出ている。GJです。

自分のSSが切欠で作ったのなら何より嬉しいです。
83 :忘れていました [saga sage]:2011/05/28(土) 23:44:30.43 ID:wJlmHDf80
こなた「5月28日って何の日だか知ってる?」
かがみ「さあ」
みゆき「何かあったでしょうか、何も思い浮かびません、しいて言えば花火の日?」
つかさ「……」
こなた「皆……冷たすぎだ」
かがみ「ちょっとこなた何処にいくよ……走って行ってしまった」
みゆき「なにか悲しげな表情でした、5月28日と言ったら今日ですね、何か悪い事でも……あったのでしょうか」
つかさ「今日はこなちゃんの誕生日だよ……」
かがみ・みゆき「!!!」

っと言うことで忘れていました。

こなたの誕生日でした。おめでとう。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/05/29(日) 07:20:00.66 ID:IeCUAX0AO
ひより「当日中に思い出してもらえただけマシっスよ泉先輩」
パティ「…シカタないヨ。ワタシタチもこうの誕生日ワスれてましたし」
毒島みく「新参の私はしゃあないけどね」
ほのか「決まったのも割と最近だものね」

以上、新スレなってから誕生日をスルーされた皆さんからのコメントでした。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/29(日) 08:53:35.65 ID:qgOWdjOC0
>>84
毒島・ほのかについては全くデータがなかった。
パティ、ひよりは……忘却の彼方でした。

毒さんとほのかのデータを知っている人は教えて下さい。
まとめサイトの資料室に反映したいと思います。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 16:33:20.69 ID:ygLrJwh5o
1/3 若瀬いずみ
1/25 桜庭ひかる
2/3 八坂こう
2/8 黒井ななこ
2/14 小神あきら
3/2 柊まつり
3/6 高翌良ゆかり
3/20 柊ただお
4/16 パトリシア・マーティン
4/22 毒島みく
5/4 小野だいすけ
5/9 岩崎ほのか
5/24 田村ひより
5/28 泉こなた
6/12 柊みき
6/15 宮河ひなた
7/7 柊かがみ、柊つかさ
7/20 日下部みさお
8/20 泉かなた
8/21 泉そうじろう
8/24 柊いのり
8/28 ゴットゥーザ様
9/6 宮河ひかげ
9/12 岩崎みなみ
9/17 天原ふゆき
10/7 成実ゆい、美水かがみ
10/18 白石みのる
10/20 チェリー
10/25 高翌良みゆき
11/4 峰岸あやの
11/10 山辺たまき
11/26 永森やまと
12/20 小早川ゆたか

ちなみにみき、いのり、まつりは2009年のおきらくカレンダー
ただお、いずみ、山さん、毒さん、チェリーはこなヨメ
みのる、だいすけ、ゴットゥーザ様はスタンプリーが出典
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 16:33:57.66 ID:ygLrJwh5o
なんだ?高翌良が文字化けしたぞ
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/29(日) 16:48:39.69 ID:qgOWdjOC0
>>87
ありがとうございます。
文字化けはsagaを入れていないからですね
入れると高良はそのまま表示されます。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/29(日) 17:06:02.63 ID:qgOWdjOC0
誕生日は資料室に書き込みました。
その他分からないところは空欄です(身長とか)
分かる人が居れば編集して下さい。
http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/548.html
です。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/05/29(日) 18:19:47.87 ID:ygLrJwh5o
>>88
ふむ・・・文字コードの関係ですかね。

とりあえずこなヨメ見ながら軽く追記してみました。
チェリーの出身地はちょっと驚いた。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/29(日) 18:50:52.13 ID:qgOWdjOC0
>>90
どうもです。SS作成の資料にします。

そういえば呼称もいろいろ変わってきてるんだよね?
つかさの呼称が変わったような?
みさおがつかさと言ったり
あやのもひいちゃんって言ってたっけ?

ゆたかがひよりを呼ぶ時は今でも田村さんなのかな?
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/05/29(日) 20:08:58.27 ID:ygLrJwh5o
>>91
8巻以降はゆーちゃん⇔ひよりちゃんですね。
基本的にいずみの登場後は苗字で呼び合うのはいずみだけみたいです。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/29(日) 20:28:41.22 ID:zbqYm+wSO
在校生以外だと

確実に変わったのは
みさお、あやのがつかさの事をつかさ、ひーちゃん
つかさがあやのの事をあやちゃん

プライベートのみの可能性ありで
みゆきがみなみの事をみなみ
みなみがみゆきの事をお姉ちゃん

本気なのか冗談なのか
こなたがあやのの事をあーや
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/05/29(日) 22:00:56.88 ID:IeCUAX0AO
冗談を含めるならみゆきはみなみを「みーちゃん」って呼んだのもあったよ。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/29(日) 23:54:57.17 ID:zbqYm+wSO
>>94
それは冗談じゃなくて、最初そう呼ぼうとしたけど、みなみに嫌がられたから止めたみたい
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/30(月) 00:21:19.29 ID:HFWp9mjS0
呼び方だけでもssが作れそうだ。

ある意味かがみだけが呼び方が変わらないのかもしれない。
親しくなると呼び捨てになるくらいかな。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/30(月) 22:53:10.94 ID:HFWp9mjS0
第二十一回コンクールの日程について。

6/1〜6/3  お題募集

6/4〜6/7  お題投票・決定

6/13〜6/19 投稿期間

6/21〜6/26 投票期間

こんな感じでよろしいですか?。

投票所は前回の反省より避難所で教えられた設定で行います。


98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/31(火) 06:38:18.74 ID:XVf2xBc70
>>97
乙、良いと思われ!
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/31(火) 20:25:53.32 ID:N+HgmgGX0
☆第二十一回コンクールの開催のお知らせ☆

お題を決めましょう

少し早いけどお題募集中です。書きたいお題、読みたいお題どしどし現行スレに投下してください。6/3(金)まで



コンクールが初めての人はまとめサイトのコンクールの項目を見ると感じが分かるかもしれません。

http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/84.html

↑今までのコンクール作品とお題

よろしくお願いします




早速お題案 『恋』
らき☆すたのキャラもそろそろ恋愛の一つや二つあってもいいかなと。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/31(火) 21:06:00.24 ID:a1JUTnUSO
恋愛は通常SSで書き尽くしたなあ

お題案「成長」

今回ばかりはチャレンジブルな色物は避けたいところ
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/05/31(火) 21:21:02.83 ID:N+HgmgGX0
>>100
みなさん他のSSも書いているのか。
初めて書いたのがらきすたssで、その後もらきすたしか書いていない自分が恥ずかしくなってきた。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/05/31(火) 23:05:51.24 ID:5nrcmDKAO
なら自分はもう一度お題はポリエステルで
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/06/01(水) 00:13:44.39 ID:G+0xooiAO
>>102
また?! お題『おにぎり』
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/06/01(水) 20:39:52.69 ID:L0QLxyzAO
☆(=ω=.)
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/01(水) 22:39:57.80 ID:hfHZtoJR0
読み専の俺に死角はなかった

お題案、「空気」で
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/01(水) 22:50:45.80 ID:3NsjAOvq0
お題案その2 『誤解』

何度か出しているけど結構票取れる。書きたい人いるんじゃないかな?
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/02(木) 16:21:26.39 ID:Ysw9rS2Ho
お題無しの完全フリーに一票
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/02(木) 18:43:02.60 ID:YdhqGFor0
>>107
完全フリーって事は単純にストーリと文章だけで決めるでいいのかな。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/02(木) 20:01:11.64 ID:x65gMTJpo
「変」
ただ変なssってだけじゃなくて変革をもたらしてくれそうな・・・
本スレ(笑)見てるとそう思えてくる
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/02(木) 20:42:07.74 ID:Ysw9rS2Ho
>>108
そだね。副賞なしになるね。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/02(木) 22:27:16.95 ID:YdhqGFor0
>>107
お題がフリーになった場合大賞を選ぶ基準が曖昧になるような気がする?
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/02(木) 22:59:05.62 ID:Ysw9rS2Ho
「いいと思ったものに一票」で逆に基準ははっきりすると思うけど。
シリアスとギャグで「ストーリー」を基準に比べるほうが難しいよ。

(あくまでお題フリーでコンクールをやるとしたら
 の話であって、お題制そのものよりフリーのほうが優れてる、なんて話ではないです)

ということでお題案をひとつ
「サマースポーツ(夏の遊び)」
ちょうどこれからの夏を考える時期だし
ウインタースポーツがお題だったときもあったしで。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/02(木) 23:44:24.52 ID:YdhqGFor0
コンクールお題案まとめ(出た順)

『恋』『成長』『ポリエステル』『おにぎり』『空気』『誤解』『フリー(無題)』『変』『サマースポーツ』


いまの所9個の案が出ています。明日の6/3日24:00まで受け付けます。


全く関係ないけど、恋/変……字が似ていると思うのは自分だけだろうかw
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/04(土) 00:00:44.51 ID:F1CC1+Sv0
☆第二十一回コンクールの開催のお知らせ☆



お題は出切ったようですね。それではお題投票に移りたいと思います。期限は6/7(火)24:00です。

>>113の中から好きなお題を選んで投票して下さい。

ちなみに『フリー(無題)』に決まりますとお題は無く、自分の一番作りたいssを作る事になります。この場合の投票は部門なしの一人1票。

大賞と副賞のみとなります(第一回〜十七回までの方法に戻ります)。

その他のお題に決まった場合は今まで通りとなります。

お題投票所↓
http://vote3.ziyu.net/html/odai.html

115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/04(土) 00:02:52.85 ID:F1CC1+Sv0
☆第二十一回コンクールの開催のお知らせ☆



お題は出切ったようですね。それではお題投票に移りたいと思います。期限は6/7(火)24:00です。

>>113の中から好きなお題を選んで投票して下さい。

ちなみに『フリー(無題)』に決まりますとお題は無く、自分の一番作りたいssを作る事になります。この場合の投票は部門なしの一人1票。

大賞と副賞のみとなります(第一回〜十七回までの方法に戻ります)。

その他のお題に決まった場合は今まで通りとなります。

お題投票所↓
http://vote3.ziyu.net/html/odai.html

116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/04(土) 00:45:25.89 ID:F1CC1+Sv0
二重投下をお許し下さい。

お題案の感想をそれぞれ付けてみた。主観的なので参考にもなりませんw

『恋』
恋愛ものはらき☆すたでは意外と少ない。原作があまり恋愛を取り上げていないのもあるかもしれない。
百合的な展開か、失恋になるのか、大恋愛に発展するのか、ヤンデレ的な展開になるのか、色々面白そうなお題ではありますね。


『成長』
らき☆すたの殆どのキャラがまだ未成年だからこのお題は打って付けかもしれない。
とは言っても大人も精神面では成長するわけで色々面白い展開が期待できますね。

『ポリエステル』
……通常作品で作ってみたがコメントすらもらえなかった……

『おにぎり』
これは面白い題材かも。日常品をお題にすると意外とジャンルが広がる。まさにギャグからシリアスまでできるかもね。

『空気』
これも日常ごく自然にある物。十七回コンクールのお題『水』と共通するものがあるかもしれない。
物ではなく意味で捉えるとまた別の展開が期待できるかな。

『誤解』
これもジャンル的には幅広く作れるお題かもしれない。起承転結の『転』であっと驚くような展開ができるかな。


『フリー(無題)』
まさに自分にとってのらき☆すたとは、と問われているお題ですね。感じたまま自分の想いを全て文字にして挑むしかない。

『変』
これは抽象的で解釈によっては面白い展開が期待できそう。

『サマースポーツ』
一番苦手なお題です。これに決まったら何も書けないかもしれない。
第六回コンクールの『ウインタースポーツ』でも参加者が一番少なかった記憶があります。


以上です。どんなお題に決まるか楽しみです。








117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/04(土) 22:13:52.45 ID:F1CC1+Sv0
かがみ「静かね……」
こなた「そうかな、私はそうは思わないけど」
かがみ「静かよ、もう少し私達が騒いでもいいと思うけど」
こなた「わー、わー、わわわー、ぎゃー」
かがみ「……それはただうるさいだけだ」
こなた「ふふふ、それはきっとコンクールモードに入っているからだよ」
かがみ「コンクールモード? 何よそれ」
こなた「これからコンクールのお題が決まるけど、どの候補になってもいい様にイメージを作っておくんだよ」
かがみ「それで投下が少なく成る訳ね、で、こなたはどんなイメージを持っているんだ?」
こなた「イメージ……それは言葉では表すことができないほど複雑で繊細かつ……」
かがみ「はいはい、分かりました、何も考えていないでしょ」
こなた「……」
かがみ「図星かよ」
こなた「ま、もう少し経てば私達の大活躍が見られるよ」
かがみ「それはどうかしら、最近後輩達の人気が上がってきたわよ、うかうかしていられないわ」
こなた「そうだよね、どうしよう」
かがみ「こればっかりはどうしようも無いわ」
こなた「そうだね、私達は私達だし、さて行こう、夕焼けに向かって、ゴー!!!」
かがみ「おい、何処に行く、いつから青春ドラマになった……」

暇なのでこなた達に騒いでもらいました。
118 :そして、つながりつづく命の輪 [saga]:2011/06/06(月) 01:32:33.09 ID:6Ed5jB1T0
投下行きます。

命の輪のシリーズで、最終回っぽい話です。
最後ということで、オリキャラの名前もだしたりしてます。
119 :そして、つながりつづく命の輪 [saga]:2011/06/06(月) 01:33:18.07 ID:6Ed5jB1T0
 シトシトと雨が降る。なんとも嫌な天気だ。
 いっそ派手に大降りになってくれでもしたら、あの日に重なることも無いだろうに。
 とある喫茶店の窓際の席で、一人の青年がそんな事を考えながら、目の前のアイスティーをストローでかき混ぜた。
「…待った?」
 不意に横から声をかけられる。青年はゆっくりとそちらに顔を向けた。
「いや、あんまり…」
 青年は声をかけてきた女性、柊かがみに少し億劫そうに答えた。
「雨…っていうか、この降り方はなんかイヤよね」
 かがみはそう言いながら、青年の対面の席に座り、注文をとりにきたウェイトレスにコーヒーを頼んだ。
「あんたは相変わらずアイスティーね」
「…まあな」
 やはり億劫そうに答える青年に、かがみは呆れ気味にため息をついた。
「こなたも、いつもアイスティーだったものね…最初に頼んだのがそれだったからって」
「変なところでめんどくさがるのが、アイツらしいな」
 青年は苦笑すると、ストローに口をつけてアイスティーを一口だけ飲んだ。
「やっぱり、やめとく?」
 かがみがポツリとそう呟く。
「どうして?」
 青年は窓の外を見ながら、そう答えた。
「なんか、忘れられないみたいだから…こなたの事が」
「…別に忘れるために、結婚するわけじゃないだろ」
 かがみの言葉に、青年は窓からかがみへと視線を移し、少し怒ったような口調でそう言った。
「そうね、ごめんなさい。今のはわたしが悪かったわ」
 かがみが苦笑しながらそう謝ると、青年はまた窓の外に視線を戻した。
「それじゃ、ちょっとだけ真面目な話を…ね」
 ウェイトレスが持ってきたコーヒーにミルクを入れながら、かがみは少し声を落としてそう言った。
「せいたろう、せい君、ダーリン…どれがいいかしらね?」
「…なんだそりゃ」
「呼び方。今までみたいにせいたろうがいいのか…それとも、こなたみたいにせい君とかダーリンって呼んだ方がいいのか」
 そう言ってかがみはコーヒーを一口飲んで、青年…せいたろうの横顔を見つめた。
「…好きにしてくれ」
 そして、興味なさ気に答えるせいたろうに、呆れたようなため息をついた。
「味気ないわねえ…これまでの関係を変えようっていう、乙女の一大決心に対する答えじゃないわよ」
「乙女って柄じゃないし、そんな大袈裟な問題でもないだろ」
「…そういうのはきっちり突っ込むのね」
 そう不満そうに答えながらも…かがみは微笑んでいた。



― そして、つながりつづく命の輪 ―



120 :そして、つながりつづく命の輪 [saga]:2011/06/06(月) 01:34:09.69 ID:6Ed5jB1T0
「…またか」
 目を覚ましたせいたろうは、そう呟きながら上半身を起こした。
「またかって…またあの夢?」
 隣で寝ていたこなたも、同じように上半身を起こす。
「悪い、起こしたか?」
「ううん、あなたが起きるちょっと前に起きてたよ」
 こなたはそう言いながらベッドから降り、寝室のドアへと向かった。
「喉、乾いてるよね?何か持ってくるよ」
「…悪いな」
 少しばつが悪そうに答えるせいたろうに微笑みかけ、こなたはドアを開けた。


「わたしが死んじゃう夢…か」
 持って来たお茶を飲みながら、こなたがそう呟く。
「しかも、後妻がかがみって…やっぱりあの時のお願いかな?」
「…だろうな」
 せいたろうもお茶を飲み、そして大きなため息をついた。
 こなたの命を賭けた出産。その中でこなたはせいたろうに、自分がもし死んだらかがみを娘の母親として迎えて欲しいとお願いをしていた。
「あの時はかがみにマジ切れされちゃったよね…」
 どこか懐かしそうにこなたが呟く。そして、右手を口にあて、首をかしげた。
「でも、なんで急にそんな夢見るようになったんだろ…ここんところしょっちゅうでしょ?」
 こなたがそう聞くと、せいたろうは腕を組んで考え込んだ。
「多分…怖くなったんだろうな」
 そして、そうポツリと呟いた。
「怖く?」
「ああ、なんて言うんだろ…無くなるっていうか無してしまうっていうか…うまく言えないな」
 せいたろうは頭をかいて首を振った。
「悪い。忘れてくれ」
 そして、お茶を飲み干してベッドの方に向かったが、こなたが動かずなにか考えるような仕草をしてるのに気がついた。
「どうかしたか?」
 せいたろうがそう声をかけると、こなたは顔を上げた。
「人はね、いつか必ず死ぬんだよ」
 そして、さほど大きくはないが、はっきりとした声でこなたはそう言った。
「なんだ急に…」
 せいたろうは呆れたようにそう言いながらも、ベッドに腰掛けてこなたの話を聞く体勢をとった。
「それは絶対に避けられないものだし、怖いものだと思う…わたしもそういうこと考えて、怖くなることあるよ」
 こなたはそう言ってから、ため息を一つついて、せいたろうの方を見た。
「でもね、そう言うことを考えすぎて、生きることそのものが怖くなる…そんなのは嫌だよ…あなたがそんな風に考えちゃうのって、わたしは嫌だよ」
 こなたはせいたろうの横に座り、その小さな身体を大きな身体に預けた。
「…嫌、か…じゃあ、考えないようにしないとな。俺もお前が嫌な思いをするのは、嫌だからな」
 そう言いながら、せいたろうはこなたの髪を撫で始めた。
「…うん」
 こなたが気持ち良さそうに目を閉じる。
「あなたのそういう素直なところ、好きよ」
「子供か、俺は」
 こなたの言葉に、せいたろうは少し憮然とした表情をした後、呆れたようにため息をついた。
「…まったく。なんだかんだ言っても、お前には敵わないな」
 そして、そう呟いた。それを聞いたこなたがプッと軽く吹き出し、目を開けて夫の顔を見上げた。
「変な人。こういうのは勝ち負けじゃないでしょ?」
「…まあな」
 なんとなく煮え切らないせいたろうの返事に、こなたはクスクスと笑いベッドから立ち上がった。
「それに、勝ち負けで言ったらわたしはずっとあなたに負けっぱなしだよ」
 そう言いながら数歩前に歩き、芝居がかった仕草で振り返る。
「よく言うでしょ?先に惚れた方が負けだって」
 そして、柔らかく微笑んだ。
「そんなもんかねえ…」
「そんなもんだよ」
 少し呆れがちなせいたろうに軽い感じで答え、こなたはベッドに寝転んだ。
「さ、納得したところで寝よっか。明日かがみ達来るから、早めに起きないとね」
「納得とかそう言う話だったかなあ…ってかホントに呼んだのか」
「そりゃそうだよ。折角の愛娘の晴れ姿だもの…あ、電気消してね」
 そう言いながら布団に潜り込むこなた。せいたろうは苦笑して照明のスイッチに手を伸ばした。



121 :そして、つながりつづく命の輪 [saga]:2011/06/06(月) 01:35:58.96 ID:6Ed5jB1T0
 良く晴れた空。少し涼しげな風。その心地よい日差しの中を歩くかがみが、気持ち良さそうに大きく伸びをした。
 かがみの両隣を歩くつかさとみゆきがそれを見てクスリと微笑む。
「いい季節になったわねー」
「そうですね」
 欠伸交じりのかがみの言葉に、みゆきが頷きながら答える。
「それにしても、娘の高校の制服が届いたからって、みんな呼びつけてお披露目するようなものなのかしらね」
 かがみが呆れたようにそう言うと、みゆきは少し考え込むように顎に人差し指を当てた。
「わたしは良く分かりませんが…それだけこなたさんが、娘さんを大事に思ってると言うことですよ」
 そして、そう言いながら微笑むみゆきに、かがみは苦笑を返した。
「それはそうなんだけど、こっちを巻き込まなくてもねって思うわ」
「でも、何だかんだ言っても、お姉ちゃんこういう時はちゃんとくるよね」
 逆方向から口を挟んできたつかさに、かがみの表情が憮然としたものに変わる。
「…暇なのよ…仕事辞めたら、こんなに時間が余るとは思わなかったわ。こんなことなら、もうちょっとなんか趣味を持っとけば良かったわね」
 そこまで話してから、かがみは大きくため息をついた。
「で、暇なわりには時間が経つの早いのよね…あんな小さかった子がもう高校生だし。歳取ると時間が早く過ぎるってホントだったのね」
 しみじみとそう言うかがみの横で、つかさもため息をつく。
「わたし達も、だいぶ変わっちゃったしね…」
 そして、つかさは自分のお腹を手でさすった。
「そういえば、体調の方は大丈夫なのですか?」
 それを見たみゆきが、少し心配そうにそう言った。
「うん、もう安定期に入ったから」
 二人の会話を聞きながら、かがみは空を見上げた。
「つかさも、もう四人目なのね…」
 かがみの呟きを聞いたみゆきが首を傾げる。
「四人目だと、なにかあるのでしょうか?」
「ほら、わたし達四人姉妹じゃない」
「ああ、なるほど…そうですね」
「…お母さんに追いついちゃったね」
 かがみとみゆきの会話に、つかさが照れくさそうに頬をかきながらうつむいた。
「今度のも女の子だったら、つかさの家も四人姉妹ね。お母さんと違うのは、一番最初に双子を産んだってところかしら…っていうか、お母さんがわたし達産んだのってもうちょい歳いってからだったらしいから、追いついたっていうより追い抜かしたって感じよね」
 なにか懐かしいものを語るようなかがみを見ながら、みゆきは人差し指を頬に当て首をかしげた。
「かがみさんは、今後のご予定は無いのですか?」
「子供?…無理無理。あの悪ガキ一人でも手一杯なのに、これ以上増えたらわたしが持たないわよ」
 パタパタと手を振りながら答えるかがみを、つかさが訝しげな顔で見た。
「お姉ちゃん。暇してるって…」
「それとこれとは別よ…四人も育ててるあんたやお母さんを本気で尊敬するわ…っていうかさ」
 妙にいい笑顔で自分の方を向くかがみを見て、つかさは少し身を引いた。
「つかさのところはみんないい子に育ってるわねえ…一人、うちのと交換しない」
「お、お姉ちゃん…それはちょっと…」
「じゃあ、お婿さんに貰ってあげて」
「気が早いよお姉ちゃん…」
「まあ、冗談だけどね」
 本気で困った顔をするつかさにかがみは軽くそう言って、大きなため息をついた。
「ってかね…わたしはもっと器用に生きれると思ってたのよね」
 そして、かがみはそう言いながら二人より少し前に出て、手を頭の後ろで組んだ。
「でも、実際はみゆきみたいに仕事を続けてるわけじゃないし、つかさみたいに家庭をうまくやれてるわけでもない…器用と言うより器用貧乏だったって感じね」
 どことなく諦めたような口調でそう言うかがみの後ろで、つかさとみゆきは顔を見合わせた。
「わたしもつかささんも、何もかも上手くいっている訳ではありませんよ」
 そして、かがみのほうを向きそう言うみゆきに、つかさが頷いてみせる。それを聞いたかがみが肩越しにチラッと後ろを向いた。
「そう?そんな風には見えないけど」
「お隣の芝は青く見えてしまうものですよ、かがみさん」
 にこやかにそう言うみゆきに、かがみは苦笑して見せた。そして、少し立ち止まって、また二人と並んで歩きだした。
「そういうものかしらね」
「そういうものですよ…わたしも、自分がダメだなって思うこと沢山ありますし」
 みゆきは人差し指を顎に当てて、少し考えるような仕草をした。
「そうですね…たとえば、夜の方が淡白なのではと思ったりとか…」
「…ああ、なるほど」
 かがみは、みゆきが四人の中で未だに一人、子供の出来ないことを悩んでるのを思い出した。
「っていうかそれは旦那の方が種無し…」
「あります!ちゃんと検査しました!」
 かがみの言葉に思わず大きな声を上げるみゆき。つかさは困った顔でみゆきの方を向き、かがみはそっぽを向いて笑いをこらえるように肩を振るわせた。
「…か、かがみさん!」
 恥ずかしさから顔を真っ赤にしたみゆきが、かがみに向かい怒ったように声を上げる。
「まあまあ…っていうか検査したって事は、みゆきも疑ってたって事じゃないの?」
「そ、それは…もう、知りません!」
 頬を少し膨らませてそっぽを向くみゆき。かがみはこらえきれずに、声を上げて笑った。
「二人とも、その辺にしといてよ。往来でするような話じゃないでしょ?」
 二人の会話を聞いていたつかさが、怒ったような口調でそう言うと、かがみとみゆきはばつが悪そうに顔を見合わせた。
「…ごめん」
「…すいませんでした」
 謝る二人にたいし、つかさがため息をつく。
「お姉ちゃんに色々言われてた、高校時代が懐かしくなってきたよ…」
「いいじゃない、成長できてるって事なんだから」
 かがみはそう言ってから、どこか遠くを見るように顔を上げた。
「…でも、ほんと懐かしいわね」
「そうですね…制服、変わってないそうですよ」
 みゆきがかがみの隣に並び、これから向かう泉家の方を向いた。
「そうじろうさんは…見たかったでしょうね」
 みゆきの言葉に、かがみとつかさが頷いた。

122 :そして、つながりつづく命の輪 [saga]:2011/06/06(月) 01:36:45.81 ID:6Ed5jB1T0


「ほら、おじいちゃん。制服だよ。お母さんと同じ、陵桜だよ」
 仏壇の前で、一人の少女がそう言いながらくるっと身を翻した。そして、その少女…こなたとせいたろうの娘であるなゆたは、二つ並んだ遺影に微笑みかけた。
「聞いてよ、おじいちゃん。お母さんったらさ、まだ高校の制服持ってたんだよ」
 遺影の一つ、祖父であるそうじろうに、なゆたが楽しそうに話しかける。
「それでね、わたし着てみたんだけどすごく小さくてさ、おへそは見えるしパンツも見えそうだし、すごい事になってたよ」
 なゆたはそこまで言ってから、人差し指を顎に当てて考えるような仕草をした。
「あー、でもおじいちゃんはそっちの方が嬉しかったかな?…なんて言ったら、おばあちゃんに怒られるかな」
 そしてそう言いながら、もう一つの遺影、祖母であるかなたに笑いかける。
 なゆたはしばらく遺影を見つめた後、ため息を一つついて仏壇の前に正座をした。
「…わたし、高校生になったよ」
 呟くようにそう言いながら微笑む。
「大変だったよ、陵桜合格するの。お母さんもお父さんもさ、勉強じゃちっとも役に立たないんだよね…おじいちゃんがいたらなって何回か思っちゃったよ」
 話しながら、なゆたの顔が徐々にうつむいていく。自分が床を見ているのに気がついたなゆたは、首を横に振って顔を上げた。
「おじいちゃんはさ、そっちでちゃんとやれてる?おばあちゃんと喧嘩とかしてない?…わたしとお母さんみたいにさ」
 なゆたは目を細め、二つの遺影を眺めた。まだそれほど時間は経ってないのに、ひどく懐かしく思えた。
「あの時、おじいちゃんは何も言わなかったよね…きっとわたし達は大丈夫だって、思ってくれてたのかな」
 目の前が少し滲んでくる。なゆたは慌てて服の袖で目をこすると、勢い良く立ち上がり、自分の頬を軽く叩いた。
「大丈夫。わたしは…わたし達は大丈夫だよ、おじいちゃん」



123 :そして、つながりつづく命の輪 [saga]:2011/06/06(月) 01:38:00.66 ID:6Ed5jB1T0
 リビングに入ってきたせいたろうが、テーブルの上の料理を見て少し眉をひそめた。
「また、随分たくさん作ったな…なゆたは?」
 両手に皿を持ってキッチンの方から来たこなたにそう聞くと、こなたは皿をテーブルに置いてから、仏間の方を指差した。
「おじいちゃんにご報告。制服見せてあげるんだって」
「そうか…って、おい。こなた」
「ん、なに?」
「なんだ、その格好…」
 テーブルに皿を並べているこなたの格好は、自身が高校時代に着ていたセーラー服だった。
「ふふ、なんか懐かしくなって着てみちゃった…どう?まだまだ現役で通るんじゃない?」
 せいたろうに見せ付けるように、笑顔で身を翻すこなた。せいたろうは額に手を当てて首を横に振ると、ソファーに座って大きくため息をついた。
「こなた…無理するな」
「うわー、なにそれひどい反応」
 こなたは不満気な顔で自分の身体を見回した。
「見た目はまだイケてると思うんだけど…」
 せいたろうはもう一度ため息をついて、仏間のあるほうを見た。
「なゆたに張り合うなよ…」
「あ、ばれた?…いやー、若いって良いわよねー。あの姿見たら、お母さんも頑張らなきゃって思うわよ」
「何を頑張るんだかな」
 仏間の方を見たまま呟くせいたろうの隣に、こなたが腰掛ける。
「…何考えてるの?」
 そして、そう優しく囁きかけた。
「いや…養父さんにも見せたかったなって」
「そうだね…お父さんなら泣いて喜びそう」
 こなたはそう答えて、せいたろうと同じように仏間の方を向いた。
「せい君は、お父さんのこと良く気にかけてくれるよね」
「そりゃそうだ。恩人だからな…あの人には、返しきれないくらいの恩があるんだよ」
「お父さんから恩?なんだろ…」
 訝しげな表情で考え込むこなた。せいたろうは、そのこなたの頭にポンッと手をのせた。
「お前を託してくれた…これ以上の恩はないだろ」
 その言葉を聞いて、こなたはしばらく固まった後、せいたろうに抱きついて身もだえを始めた。
「…久しぶりに見たな、それ」
 そんなこなたに呆れながら、せいたろうは軽くこなたの髪を撫でた。
「やっぱり、養父さんは早すぎたよ…もっと生きてても良かったはずだ」
 髪を撫でながら漏らしたせいたろうの呟きに、こなたの身もだえがピタッと止まった。そして、抱きついたままでせいたろうを見上げる。せいたろうも手を止めて、こなたを見下ろした。
「そうだね…でも、お父さんは天寿を全うしたって思ってるよ」
「そうなのか?」
「うん…お父さん、言ってた。もう、自分は全部やり遂げたって。わたしが結婚して、子供産んで、ちゃんと育てられるようになったから、自分の役割はもう終わったんだって…だから、何時どんな死に方をしても、それが自分の寿命だって…そう、言ってた」
「そうか…ホントに、強い人だったんだな」
「…うん」
 せいたろうはため息をついて、天井を見上げた。
「その言葉を、ちゃんと受け入れられるお前もな」
 そして、そう言いながら、こなたの髪を再び撫で始めた。
「わたし?…わたしが強いのは当たり前だよ」
「…えらい自信だな」
「わたしは、泉そうじろうの娘で、泉せいたろうの嫁で、泉なゆたの母なんだよ?弱くなる要素がどこにあるっていうのよ」
 得意気な顔でそう言うこなたに、せいたろうは思わず苦笑してしまった。
「…せい君、ちょっと馬鹿にしてるでしょ」
 そのせいたろうの態度に、こなたが不満そうな顔をする。そのこなたに、せいたろうは自分お顔の前で手を振って見せた。
「んなことないよ…つーか、時間良いのか?準備の最中だったろ」
「あ、そうだった…って、うわっ」
 こなたは時計を見て慌てて立ち上がろうとしたが、慣れない服のせいかバランスを崩して床に倒れそうになった。そして、それを助けようとせいてろうが腕を掴んだが、支えきれずに一緒に倒れてしまった。
「…いたた…せい君、ちゃんと支えてよ…」
「悪い。ちょっと油断した」
 せいたろうは自分の下敷きになっているこなたに謝り、身体をどけようとしたところで、部屋のドアが開く音を聞いた。
124 :そして、つながりつづく命の輪 [saga]:2011/06/06(月) 01:38:43.90 ID:6Ed5jB1T0
「…え、なにこれ。どこのイメクラ?」
 そして聞こえてきた娘の声に、なんとなく頭を抱えたくなった。
「違うぞ、なゆた…ってかなんでイメクラだ」
「そういうプレイでしょ?お母さんのカッコがそんなだし」
 せいたろうは未だに自分の下に居るこなたを見た。確かに制服姿の妻を押し倒してるようにしか見えない。
「…いやん」
 夫と娘に見つめられて、こなたは思わず身体を隠すように両手で抱きしめた。
「こんな時間からお盛んね…仲がよろしいことで」
 呆れたようにそう言いながら、なゆたは手近なソファーに座った。
「なんだったら、なゆたも混ざる?」
 そのなゆたに、立ち上がったこなたがそう言うと、なゆたは目をつぶって頭をかいた。
「お、お父さんが良いって言うなら…」
「うん、のってくれたところで悪いけど、せい君いないし」
 こなたの言葉に、なゆたは目を開けて部屋を見回した。
「…ここで逃げますか…ってか、お母さん。そのカッコでかがみさんたちに会う気なの?」
「そうよ。まだまだお母さんもイケてるでしょ?」
「見た目はね…ってか娘としては普通に恥ずかしいんだけど」
 呆れ顔で答えるなゆたに、こなたは微笑んでみせた。
「こういうお母さんは嫌い?」
 そう聞いてきたこなたに、なゆたも微笑んでみせる。
「…まさか」
 なゆたはソファーから立ち上がって、こなたの身体を軽く抱きしめた。
 そして、囁く。

「大好きだよ」

 これから先もつながりつづいていく母という存在に、精一杯の愛おしさを込めて。



― おしまい ―
125 :そして、つながりつづく命の輪 [saga]:2011/06/06(月) 01:42:10.52 ID:6Ed5jB1T0
以上です。

このシリーズも長いので、ちょっと一区切りにしようかと。
どうしてもこの設定で書きたいって話が浮かんだら、また書くかもしれません。
その場合もこれより後の時系列にはならないと思いますが。

まとめの方で熱心に読んでくださった方もいて、ありがとうございました。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/06(月) 21:32:51.87 ID:jHRIUROp0


ここまでまとめた。

命の輪のシリーズの一段落ですね。
自分がこのスレを知った頃には既にあったタイトルですね。
長い間続けられるのは凄いと思います。
恐らくコンクールに参加されると思いますがよろしくです。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/07(火) 19:29:06.79 ID:Z9K6u0j10
☆第二十一回コンクールの開催のお知らせ☆



お題は出切ったようですね。それではお題投票に移りたいと思います。期限は6/7(火)24:00です。

>>113の中から好きなお題を選んで投票して下さい。

ちなみに『フリー(無題)』に決まりますとお題は無く、自分の一番作りたいssを作る事になります。この場合の投票は部門なしの一人1票。

大賞と副賞のみとなります(第一回〜十七回までの方法に戻ります)。

その他のお題に決まった場合は今まで通りとなります。

お題投票所↓
http://vote3.ziyu.net/html/odai.html

投票がまだの人はお早めに……
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/08(水) 00:20:22.16 ID:xe0nNnE00
☆第二十一回コンクールの開催のお知らせ☆

お題投票結果が出ました。
http://vote3.ziyu.net/html/odai.html


『サマースポーツ』と『変』が同数票でした。
この二つで決選投票も考えたのですが、ここは主催者の権限で『変』に決めさせて頂きます。

理由。
前コンクール(第六回)において『ウインタースポーツ』というお題が使われてる点、これは夏と冬の反対語と同じ単語のスポーツ
を使用しているので酷似しています。
それに対して『変』は今までに無い素材である。コンクールのお題はなるべくかぶらない方が良いと言う考えから
『変』に決めさせて頂きました。












129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/08(水) 01:26:45.91 ID:9Be/9ovSO
どうでもいいけど投稿期間って二週間じゃなかったっけ
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/08(水) 02:13:24.99 ID:GDmBvLq3o
サマースポーツ(夏の遊び)じゃないの?
夏の遊びっていうかっこ書きを無視した理由はあるのん?
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/06/08(水) 02:48:35.37 ID:6QcC9O5Zo
だな
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/08(水) 06:35:57.92 ID:UeubUfl20
投稿期間が二週間ならまだ決めるに余裕があります。

独断なのはある程度覚悟はしていた。
反応を見て変えるつもりだったので同数票の
『サマースポーツ』『変』の決選投票をしたいと思います。
今別のpcなので今夜にでも設置したいと思います。

133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 13:02:32.19 ID:M+Pges3f0
乙乙
ギリ6月おさまんなそうね
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 13:03:11.79 ID:M+Pges3f0
乙乙
ギリ6月おさまんなそうね
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 13:03:40.06 ID:M+Pges3f0
乙乙
ギリ6月おさまんなそうね
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 13:05:20.61 ID:M+Pges3f0
騙された、連投すまん
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/08(水) 17:27:01.30 ID:6QcC9O5Zo
>>132
いや、別に同数になったときは最後の一票ってことで運営が決めるのは普通
>>130が言ってるのは、(夏の遊び)があるとないとじゃまるで意味が違うからじゃないの

まぁ、設置された時点で言うべきことではあるが


決選投票に何日かけるのが知らんが、やるなら一週間ずらしたほうがいいんじゃね
お題発表してから一週間後に投稿期間開始が基本だし
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/08(水) 19:53:29.76 ID:xe0nNnE00
☆第二十一回コンクールの開催のお知らせ☆


すこしゴタゴタしています。ご迷惑をおかけしています。
>>132
助言ありがとうです。

決選投票は三日間
6/10(金)〜6/12(日)

これに伴い投稿〜投票の日程もずらします。

投稿期間:6月20日(月)〜 6月26日(日)24:00
投票期間:6月28日(火)〜 7月04日(月)24:00

ですかね

ちなみに決選投票でも同数票になった場合は
投票時のコメント数と内容を見て主催者で決めさせて頂きます。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/08(水) 20:01:50.37 ID:9Be/9ovSO
投稿期間は二週間じゃないのか?
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/08(水) 20:03:13.81 ID:9Be/9ovSO
投稿期間は二週間じゃないのか?
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/08(水) 20:04:32.66 ID:9Be/9ovSO
悪い、二重カキコ
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/08(水) 20:09:15.72 ID:xe0nNnE00
投稿期間って二週間でしたっけ?

すると

投稿期間:6月20日(月)〜 7月02日(日)24:00
投票期間:7月05日(火)〜 7月11日(月)24:00

となります。
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/06/09(木) 22:05:54.42 ID:D71Q72hTo
なるほどなー
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/09(木) 23:57:48.36 ID:mFQrW+cu0
☆第二十一回コンクールの開催のお知らせ☆


それでは決選投票を始めます。
http://vote3.ziyu.net/html/kettei.html

お題投票の結果です。参考にして下さい。
http://vote3.ziyu.net/html/odai.html

決選投票でも同数票になった場合は
投票時のコメント数と内容を見て主催者で決めさせて頂きます。


投票期限:6月12日(日)24:00

投票延長の為投稿と投票期間を変更します。

投稿期間:6月20日(月)〜 7月02日(日)24:00
投票期間:7月05日(火)〜 7月11日(月)24:00



確かに投稿期間は二週間でしたね。思い出しました。
このくらいの期間がないと作れない。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 00:37:46.71 ID:ldrWtO8+0
サマースポーツ(夏の遊び)でいいんだよね?
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/10(金) 00:51:03.67 ID:XXICxchB0
>>145
スポーツを辞書で引くと

楽しみを求めたり、勝敗を競ったりする目的で行われる身体運動の総称。陸上競技・水上競技・球技・格闘技などの競技スポーツのほか、レクリエーションとして行われるものも含む。

(夏の遊び)を入れなくてもいいのではないでしょうか?
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/10(金) 01:00:51.63 ID:XXICxchB0
スポーツと言うととかく競技のイメージがあるけど
楽しみを求めるものスポーツではないでしょうか。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/10(金) 01:13:31.02 ID:l2AayNLfo
>>145
おk

>>146
実際の意味どうこうじゃなくて言葉の持つイメージの方が重要
夏の遊びといえば花火や肝試し、キャンプなども含むわけで、これらをスポーツというには無理がある
何より「」つきで提案されたのだから、そのまま入れればいい

まぁお題に投票する人はここ見てるだろうし、特に今から変更する必要もないが
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/10(金) 20:07:46.01 ID:dBTT0goSO
らきすたとは直接関係なくて、京アニ繋がりってだけなんだけど

観鈴ちんの中の人がゴールしちまったよ…
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/06/10(金) 20:24:49.41 ID:7c6tEYkAO
川上さんの冥福をお祈りします…
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/10(金) 20:47:32.79 ID:XXICxchB0
川上とも子さんですか。
声優はあまり詳しくないから調べました。
まだ若いですね。ご冥福をお祈りします。

152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/11(土) 00:39:47.09 ID:MPc6vss30
--二つのお題--

かがみ「……」
こなた「どうしたの?」
かがみ「スポーツって色々な意味があったなんて知らなかった」
こなた「楽しむために体を動かすってことかな、でもね……その競技を職業にする人が出てからスポーツって言うとこの意味が大きいね、
    本来楽しむべき遊びが生活と名誉を懸けて行う競技になっちゃったんだよ、ある意味悲しいことかもしれない……」
かがみ「……」
こなた「純粋に楽しまなきゃ本当のスポーツとは言えないんだよ」
かがみ「こなたがそんな事を言うなんて……変だ……」
こなた「変……あまりいい意味では使わないみたいだけど変わるって事は凄いことなんだよ、そう、芋虫が蝶になるような変化……
    変態……そんな劇的な変化をしてみたいとは思わない?」
かがみ「どうしたんだ、こなた大丈夫か、しっかりしろ」
こなた「大丈夫だよ……スポーツのおかげで何度みたいアニメが潰れたか、ゆるさない」
かがみ「良かった、元に戻った」
こなた「え? 私何か言った?」
かがみ「こいつと一緒にいると私が変になるわ」

決選投票、みさなんよろしくお願いします。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/13(月) 00:05:10.01 ID:Cgy7TUU90
☆第二十一回コンクールの開催のお知らせ☆


決選投票の結果を発表します。
http://vote3.ziyu.net/html/kettei.html


一票差で『変』となりました。

同数票だったらどうしただろうか?
ちょっとヒヤっとしました。


今後は予定通りの進行となります。


投稿期間:6月20日(月)〜 7月02日(日)24:00
投票期間:7月05日(火)〜 7月11日(月)24:00

それでは皆さん頑張りましょう!!
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/13(月) 00:29:31.71 ID:Cgy7TUU90
お題決定

かがみ「こなた、さっきは一体どうしたのよ」
こなた「どうしたって?」
かがみ「本当に何も覚えていないのか?」
こなた「うん」
かがみ「まぁいいわ、それよりお題が『変』に決まったわよ、どうする?」
こなた「……うーん」
かがみ「やっぱり悩むわよね、結構このお題は難しい」
こなた「いや、もう私は出来たよ」
かがみ「マジかよ、私なんか何思い浮かばん……で、どんな……」
こなた「『変なかがみん』これで決まり!!」
かがみ「…………親指立てて……どや顔までして……それは私に喧嘩を売ってるのか」
こなた「え、これは冗談……あ、かがみ、マジになって……本気になったら認めたことになっちゃうよ……う……うわー」
かがみ「まてー」
……
……
つかさ「あーあ、ほったらかしにしちゃって、鬼ごっこなんかしてる場合じゃないのに……皆さんはそれぞれのイメージで盛り上げて下さいね」
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/13(月) 05:28:10.15 ID:OTPVtgRRo
ただの打ち間違いだろうから何も言わなかったけど、修正されてないから一応
投稿期間:6月20日(月)〜 7月03日(日)24:00
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/13(月) 20:14:20.53 ID:Cgy7TUU90
>>155
ありがとうございます。日付と曜日が合っていない。
まとめサイトを修正しておきます。

157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/19(日) 18:48:54.71 ID:xxFr1Jho0
☆第二十一回コンクールの開催のお知らせ☆


少し早いですけど日付が変わり6/20(金)になりましたら投稿期間の始まりです。

どしどし投稿お願いします。一般作品も随時募集しています。


投稿期間:6月20日(月)〜 7月03日(日)24:00


なお本スレが混んでいる時、何らかの原因で書き込みが出来ない場合、最終日で投稿が重なってしまった場合。
は避難所にも投稿できます。(時間は厳守)
避難所は>>1を参照してください。



158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/19(日) 19:13:51.17 ID:xxFr1Jho0
 もし、コンクール作品をまとめたい場合、参考にして下さい。


@作成はアットウィキモードでお願いします(コメントフォームを付ける為です、
 要らない人はワープロモードもしくはそのままテキストモードで、特に指定がなければアットウィキモードになります)

Aコメントフォームはコンクール終了時に付けますのでよろしくお願いします。

Bアットウィキモードで1200行もしくは50kバイトを超えると書き込みできなくなります。この場合はページを分けます。
 作品名(ページ1)をワープロモードで作成、作品名(ページ2)をアットウィキモードで作成します。
 そして(ページ1)の最後の行に(ページ2)に飛ばせるようにリンクを張ります。
 前コンクール『ともだち記念日』『遺書』が実際にページを分けていますので参考にして下さい。
 どこで分けるかは自由ですが2ページ目のアットウィキモードの容量を超えないように。
 50kバイトを超えそうな人はあらかじめどこでページを分けるか指定してくれるとありがたいです。
 


Cまとめサイトの第二十一回コンクール作品にまとめた作品名を書き込みリンクを張ります。

 以上です。詳細は前回コンクールを参考にして下さい。
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/19(日) 19:23:55.48 ID:xxFr1Jho0
>>158の補足。

 まとめサイトの作品名は 本スレID:+作品名でお願いします。
IDがあると同じ作品名が投下された場合に有効になるからです。
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/20(月) 00:39:02.07 ID:Lixpt7ro0
−−−その後−−−

ひより「こんにちは」
つかさ「あ、ひよりちゃんいらっしゃい」
ひより「泉先輩とかがみ先輩は何をしてるっスか、鬼ごっご?」
つかさ「『変』ってお題で喧嘩しちゃってるの」
ひより「それはそれは、仲のいいことっス」
つかさ「ひよりちゃんは『変』で何か物語りを作れる?」
ひより「『変』……奥が深いっスね、私的には接戦になった『サマースポーツ(夏の遊び)』の方が……」
つかさ「どんなの?」
ひより「夏は危ない遊びが沢山あるっス」
つかさ「生でしちゃって妊娠とか」
ひより「えっ!! ちょ、つかさ先輩」
つかさ「確かにそうゆう遊びは危険だよね、する時はコン〇ームは必須だよね」
ひより「もうその辺にしましょう、つかさ先輩のイメージが……」
つかさ「私のイメージって何、ねぇ、ひよりちゃん教えて」
ひより「そ、そういきなり言われても……」
つかさ「教えて!!」
ひより「ひぃー」
……
……
みゆき「ふぅ、これでは進行できませんね、まだコンクールは始まったばかりです、落ち着いて皆さんは書いてくださいね
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/21(火) 19:29:55.46 ID:Rt0/CV830
コンクール作品投下いきます。
162 :時渡り [saga]:2011/06/21(火) 19:30:49.25 ID:Rt0/CV830
 金曜日、陵桜学園での昼休み。
 いつもどおり三人で集まって弁当を広げる。
「みゆきは、なんでこの学校受けたの? みゆきの成績なら、都内の進学校でも選び放題じゃない」
「陵桜は、母の母校なんですよ。それで私も行ってみたくて」
「中学の担任に、もっと上の学校受けろとか言われなかった?」
「言われましたし、迷いもしましたけど、一定レベル以上ならどこも変わりませんから。学力の向上は、入学後の勉強次第でどうにでもなりますし」
「ゆきちゃん、えらいなぁ。私だったら、とてもそんなふうには考えられないよ」
「つかさは、ここに入るのもギリギリだったし、入学後もさっぱりよね」
「あう〜」
 たわいのない話が続く。
 しかし、かがみは何か違和感を感じていた。
 なんか変だ。何かが足りない。
 そんなもどかしい感じが沸き起こってくるのだが、その正体がさっぱりつかめない。
 そんなかがみの隣で、つかさはときどき首をかしげていた。
「つかささん、どうかしましたか?」
「ううん、なんでもないよ」
 つかさは首をふったが、その表情はさえないままだった。
 その日は、何事もなく終わり、それぞれつつがなく帰宅した。

 翌日、土曜日。
 柊家は、両親が旅行、まつりが朝から遊びに出ていて、昼食は、いのり、かがみ、つかさの三人だった。
 つかさは、ごはんを口に運びながら、ときどき首をかしげていた。
「つかさ、どうしたの?」
 つかさは、かがみの顔を見て、しばらく間をおいてから口を開いた。
「お姉ちゃん。なんか最近、変な感じしない? なんか物足りないような……」
「つかさもか。実は私も最近、妙にむずむずした感じで落ち着かないのよね。なんか足りないような気がして」
「お姉ちゃんもそうなんだ」
「なんか嫌な感じよね」
 そんな双子のシンクロ具合を見て、いのりが、
「占いでもしてみる? 私もたまにはやらないと腕がなまるし」
 かがみとつかさは、同時にうなずいた。
163 :時渡り [saga]:2011/06/21(火) 19:32:00.62 ID:Rt0/CV830
 昼食が終わって、三人は神社の奥殿にやってきた。
 普段は、母のみきといのり以外には中に入れない。この神社の秘中の秘でもあった。
「さきに言っとくけど、この部屋の中のことは口外無用だからね」
 いのりの念押しに、かがみとつかさは神妙にうなずいた。
 扉にかかっている南京錠を開けて、中に入る。
 中は意外に広く、正面には大きな祭壇があった。そして、壁一面に呪符がびっしり貼られている。そのどれもが、真新しく見えた。まったくといっていいほど劣化してない。
「ここって建て替えたの?」
 かがみの問いに、いのりは、
「昔のままよ。新築同然なのは、壁にびっしり貼ってある御先祖様の呪符のおかげだって言われてるけどね。あとついでに言っとくけど、呪符の効力を一時停止しないと、柊家の血筋以外の者は攻撃されるからね」
「ええっ!」
 つかさの顔がひきつった。
「罰当たりな泥棒がここに忍び込んで心臓発作で死んだなんて記録が明治以降だけでも5件ぐらいはあるし」
 つかさが青ざめる。
 いのりは、水をためた桶を祭壇の前においた。
 御幣を手に祝詞を唱える。桶の水がたちまち煙をあげて蒸発した。
 祝詞を唱え終わり、御幣を下ろす。
「さて、何が出るかしらね?」
 水煙の中に、立体ホログラム映像のごとく、何かが浮かび上がってきた。
 青い長い髪の小柄な女の子。頭のてっぺんに飛び出たアホ毛が特徴的だ。
 それを見て、かがみとつかさが同時に叫んだ。
「こなた!!」
「こなちゃん!!」
 二人の頭の中を走馬灯のごとく記憶が駆け巡った。こなたが存在していた過去の記憶がよみがえり、存在してない過去と二重写しになって、頭の中を混乱させた。
 頭痛がして、二人は頭を抱えた。
 そんな二人を見ながら、いのりは、
「ああ、思い出した。こなたちゃんね。いきなり消えちゃうなんて、何があったのかしら」
 いのりは、再び祝詞を唱えた。
 水煙の中の映像が変化していく。こなたの姿がどんどん小さくなっていき消えて、どこかの病院の映像に切り替わった。
 産婦人科病院。医者が何かを書いている。映像が拡大されていくと、それはカルテだった。
 文字は判然としないが、読み取れる部分だけを拾っていくと、
164 :時渡り [saga]:2011/06/21(火) 19:32:49.11 ID:Rt0/CV830
──泉かなた
──人工妊娠中絶
──母体の生命にかかる危険を防止するため

「「……」」
 それを見たかがみとつかさは絶句していた。
「こなたちゃんのお母さんって、体が弱かったんだっけ? なるほど、ありえたかもしれない歴史が現実になっちゃったわけか」
 いのりは、一人で納得していた。
「どういうことよ……?」
「過去の歴史ってね、確定されてるもんじゃないのよ。常に揺れ動いてるし、結構頻繁に変わったりもしてる。でも、普通は誰もそれに気づかない。記録も記憶も塗りかえられちゃうから──っていうのは、死んだおばあちゃんの受け売りだけどね」
 かがみは、信じられないといった表情だった。
「まっ、私も御伽噺かと思ってたけど、実例に遭遇するとはね」
「こなちゃんを救う方法はないの? いのりお姉ちゃん」
 つかさが泣きそうな顔でそう訴えた。
「ないわけじゃないけど」
 いのりは、あっさりそう答えた。
 かがみとつかさが、身を乗り出した。まさに、いのりを押し倒さんばかりに。
「二人とも落ち着いて」
 いのりは、二人の肩に手をかけ、押し戻した。
「過去が変わったなら、もう一回変えてやればいいのよ。柊家の秘伝中の秘伝だけど、やってみる?」
 二人は神妙な顔でうなずいた。
 いのりは、祭壇から和紙でつづられた本を取り出した。
 ぱらぱらとめくる。
「あった、あった。『時渡り』の術」
 いのりは、御幣を二人に向けると、祝詞を唱えた。
 すると、二人を青白い火花が包み込み、そして、消えた。
「あっ、成功しちゃった」
 祖母の話では、本当に必要とされるときにしか成功しないから、めったに成功するもんじゃないってことだったのだが。
 あまりにあっさり成功しちゃったため、いのりはしばし呆気にとられていた。

165 :時渡り [saga]:2011/06/21(火) 19:33:43.07 ID:Rt0/CV830
 青白い火花が収まり、再び目を開けると、そこは変わらぬ奥殿であった。
 しかし、いのりの姿が見えない。
「いのりお姉ちゃん?」
 つかさが呼びかけに答える者はいない。
 かがみは外に出るべく扉を開けようとしたが動かない。
「移動先ぐらいちゃんと考えてよね、もう」
 かがみは、いのりへの文句を口にしつつ、扉を押したり引いたりしてみるが頑として動かない。
「体当たりで破るしかないかしらね」
 かがみが助走をつけるべく構えたところで、唐突に扉が開いた。
 扉を開けて現れた人物は、
「あら? 『時渡り』のお客様かしら?」
 若き日の柊みきだった。見た目は全然変わらないが。
「お母さん」
 つかさの言葉に、みきは目を丸くした。

 自宅の居間。
 かがみたちの現在と変わるところは特にないが、しかし、そこは間違いなく過去だった。みきの腕に幼いまつりが抱かれていることが、そのことを証明している。
 とりあえず年月日を確認したところ、泉かなたの妊娠推定時期のおよそ一ヶ月前だった。まつりの年齢は2歳ぐらいのはずだ。
「いのりお姉ちゃんは?」
 つかさの問いに、みきが答える。
「学校行ってるわよ」
 時計の針がさす時刻を信じる限りでは、確かに小学校に行ってる時間帯だ。
「ただおさんは、外に出てるわ」
 みきがお茶を入れて、二人に差し出した。
「生まれてもいない孫の将来の姿を見るというのも、乙なものだね」
 そう言ったのは、かがみやつかさにとっては、写真でしか見たことのない祖母だった。柊家につらなる者の常で、見た目は若い。
「「……」」
 かがみとつかさはどう反応してよいものか分からず、無言のままだった。
「まずは、お話を聞かせてくれるかしら?」
 みきに促されて、かがみが事情を整理して話した。
166 :時渡り [saga]:2011/06/21(火) 19:34:33.70 ID:Rt0/CV830
 それを聞き終わったみきは、
「そう。将来のいのりは、ちゃんとやってるのね」
 感慨深げにそう言った。
 そして、
「とりあえず、その泉さんのお宅に行かないことには話が始まらないわね」
 みきは椅子から立ち上がると、
「お母さん。私は、これから二人を連れていきますので、まつりをお願いします」
「分かったよ」
 祖母に抱かれたまつりはみきに手を伸ばしたが、みきがその頭に手を置き、
「ちょっと出かけてくるから、お留守番しててね」
「あーい」

 泉家の邸宅も、現在となんら変わるところはなかった。新築まもないというところだけを除けば。
 インターフォンを鳴らすと、中からかなたが出てきた。
「すみません。わたくし、柊みきと申します。突然で申し訳ありませんが、込み入ったお話がありまして」
 かなたは、みきの隣にいるかがみとつかさをちらりと見てから、
「どうぞ、中へ」
 かがみは、家の中をちらちらと見回した。
「そうじろうさんは?」
「夫なら、今日は原稿を届けに東京に出ています。帰りは夕方でしょう」
 それは都合がよい。これから話すことは、泉そうじろうには聞かせられない話だから。
 居間のテーブルを四人で囲んだ。
「お構いなく」
 みきはそう言ったが、かなたは人数分のお茶を出した。
「すみません」
 一息ついてから、かがみが事情を話した。
 ひととおり話を聞き終わったあと、かなたはたずねた。
「かがみちゃんが知るこなたは、どんなふうに育っていたかしら?」
 かがみは、言いづらそうにしつつも、ありのままを話した。
「フフフ。そうよね。そう君だけで育てたら、そうなっちゃうわよね」
167 :時渡り [saga]:2011/06/21(火) 19:35:17.17 ID:Rt0/CV830
 かなたは、微笑んだ。そして、
「こなたは幸せそうかしら?」
「ええ、まあ、人生を謳歌していたかと……」
 かなたは、ますます微笑んだ。
「あっ、あの……」
 つかさが言いかけたのを、かなたが止めた。
「分かってるわよ、つかさちゃん。こなたはちゃんと生まれるわ」
「ありがとうございます」
 かがみは頭を下げた。
「お礼をしなきゃならないのは私の方よ、かがみちゃん。こなたのことを教えてくれてありがとう」
 それで話は終わった。
「それでは、私たちはこれで失礼させていただきます」
「もう少しお話をお聞きしたかったですけど」
「未来のことを知りすぎると、また歴史が変わってしまう可能性がありますので」
 みきは、きっぱりとそう言った。そして、付け加える。
「あと今日のお話は、旦那さんには……」
「ええ、分かっております。夫には内緒にしておきます」
 三人はあらためてお礼を述べて泉家宅をあとにした。

 柊家に戻ると、みきは二人を連れて奥殿に入った。
 二人を元の時間に帰さなければならない。
「いのりが帰ってくる前にすませちゃわないとね」
 まつりはまだ幼いから未来から来たかがみやつかさのことを覚えていることはないだろうけど、いのりが二人に会ってしまったら、いろいろとややこしいことになりかねない。
「お母さん、ありがとう」
「別にたいしたことはしてないわよ。これからあなたたちを元の時間に戻すから、年月日と時刻を教えて」
 かがみが答えると、
「多少の誤差もあるから30分ぐらいは余裕を見た方がいいわね」
 みきは御幣を二人に向け祝詞を唱えた。
 二人を青白い火花が包み込み、そして、消えた。

168 :時渡り [saga]:2011/06/21(火) 19:36:09.77 ID:Rt0/CV830
 いのりがそこで待っていたのは、ほんの30分ほどだった。
 ふと気配を感じて振り向くと、唐突に青白い火花が飛び散った。
 そして、その中から現れたのは、かがみとつかさにほかならない。
「お帰りなさい」
「こなちゃんは!?」
 つかさが前のめりに、いのりに問い詰めたが、
「そんなのわかんないわよ。携帯でもかけてみれば?」
 かがみは携帯を取り出し、電話帳を開いた。
 消えていたこなたの番号が復活している。間違いない。こなたはこの世界に確かにいる。
「もしもし、こなた。あんた、どこにいるの? ん、こっちに向かってるって? ああ、そうだったわね、今日は遊ぶ約束してたもんね。余計なとこによらないでさっさと来なさいよ、じゃあ」
 かがみは、携帯を閉じるとほっとしたように胸をなでおろした。
「よかったよぉ」
 つかさが泣きそうな顔でそう言った。
「二人とも、こなたちゃんが来る前にさっさと家に戻んなさい」
「うん」
 足早に去っていく二人の背中に御幣を向けて、いのりは小さく祝詞を唱えた。
 特定の記憶を消し去る『事忘れ』の術。
 『時渡り』の術は秘伝中の秘伝であるから、『時渡り』をした者からは関係する記憶を消しておくこと──御先祖様が残した本には、そう書いてあった。
 二人の記憶からは、過去に行って帰ってきたことはもちろん、こなたの消失騒動自体も消え去ったはずだ。
 二人にとっては、こなたがいる普通に普通の日常が普通に続いている。ただ、それだけのはず。

169 :時渡り [saga]:2011/06/21(火) 19:36:59.01 ID:Rt0/CV830
 週明け、月曜日、陵桜学園での昼休み。
 いつもどおり三人で集まって弁当を広げる。
 こなたは、黙々とチョココロネを食べながら、しきりに首をかしげていた。
「こなちゃん、どうしたの?」
 つかさが問う。
「いや、なんかこう、何か忘れているような感じがしてね。DVDの限定版は予約したはずだし、忘れてることなんてないはずなんだけど」
「宿題とかじゃないでしょうね?」
 かがみがそう突っ込むが、
「いやいや、最近は宿題も出てないし、大丈夫だよ。でも、なんか忘れてるというか、足りないというか、変な感じなんだよね」
 こなたは、かがみとつかさを見回した。
 いつもどおりの三人での昼食。何もおかしいところはないはずなのに、何かが変だ。
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/21(火) 19:37:37.76 ID:Rt0/CV830
以上です。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/21(火) 21:13:46.72 ID:/q5l7CG30
「時渡り」bPでコンクールエントリーしました。

172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/06/23(木) 18:50:26.13 ID:gCMO3e9H0
>>170
乙です。
読みました。そしてここに来るのは2年ぶり。
相変わらず過疎ってんな。

なんか、かがみたちが本当に危機感感じてるのか、妙にほのぼのしてる感じが良かったです。
そして、まゆきさんが、いつも通りはぶられてて安心した。
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/25(土) 21:38:15.38 ID:lxhY7YvZ0
−−−それからどうなるの?−−−

みゆき「泉さん、かがみさん、つかささん、田村さん、もういい加減にいたしましょう、話が進行致しません……」
ゆたか「こんにちは、あれ、高良先輩そんなに落ち込んでどうしたのですか?」
みゆき「実は、あちらの四人が、少々トラブルを起こしまして……」
ゆたか「お姉ちゃん達、追いかけっこしているね、確かに困っちゃったね」
みゆき「コンクールも期間ももうすぐ半分になると言うのに……」
ゆたか「そうですね、まだ見た所一作品しか投下されていないですね、ペース的には遅い方なのかな」
みゆき「そうでもないですよ、来週になれば順次投下されて来るでしょう」
ゆたか「確かお題は『変』でしたね、うーんとね、私ならこんなストーリで……」
みゆき「待ってください、ここで小早川さんの考えを出すのは不公平になります、コンクールの主旨に反します」
ゆたか「そうでしょうか、もう私達がこうして話している事自体が誰かのヒントになってしまいますよ、
    そもそも何が切欠になるのは運の要素が強いと思います、ご飯を食べているとき、顔を洗っているとき、
    そんなものもヒントに成り得る……でも、それは考えて、考え抜いた人じゃないとヒントは出てこないです、
    つまり本気にならないとストーリなんて出てこないです、ですから私が出した案もヒントにはならないと思うのですが……」
みゆき「……面白いですね、小早川さん、私と議論して論破するおつもりですか……望むところです」
ゆたか「えぇ、ち、違います、そんなつもりでは……」
みゆき「いいですか、そもそもSSと言う物はですね……ああたらこうたら……」
……
……
こなた「ふぅ、やっとかがみを振り切った」
ひより「ふぃ、やっとつかさ先輩を振り切った……」
こなた「あれ、みゆきさんとゆーちゃんなにしてるんだろ」
ひより「熱い論戦みたいですけど……ゆーちゃん頑張ってるな高良先輩相手に」
こなた「今回のコンクールどうなるかな……」
ひより「今は高良先輩とゆーちゃんを止めないと」
こなた「止めるってどうやって?」
ひより「それより皆さん、頑張っていきましょう!!!くれぐれもタイムオーバーは避けてください」
こなた「……ひよりん、誰に言ってるんだよ……」
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/27(月) 23:16:48.38 ID:QtQxp9cu0
それではコンクール作品を投下します。

15レスくらいかと想います。
175 :変化  1 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:20:41.46 ID:QtQxp9cu0
『コンコン』
ドアのノック音、誰だろう私を起こすのは。
『コンコン、コンコン』
ゲームをして徹夜したんだ、もう少し寝かせてほしい。それに今は夏休みじゃないか。
ノックが止んだ。ゆっくりとは起きた。思いっきり背伸びと欠伸をした。ノックのせいで眠れなくなってしまった。私を呼んだのは誰だろう。
お父さんならノックと一緒に言葉で起すよ、パティは夏休みでアメリカに帰っているから……ゆーちゃんか。時計を見ると午前七時、まだ三時間も寝ていない。
とは言ってもまた寝るのも気が引ける。呼ばれてみるか。部屋を出て居間に向かった。

ゆたか「昨日つかさ先輩が来ておじさんに何を聞いたのですか」
声が居間の方から聞こえた。足が止まった。昨日つかさが家に来たって。それは知らなかった。
そうじろう「ゆーちゃん、知っていたのか……こなたには内緒にと言われたんだ、話すわけにはいかない」
私に内緒ってどうゆう事だろう。このまま居間に行かない方が良さそうだ。忍び足で声の聞こえるギリギリの所まで戻った。
ゆたか「お姉ちゃんはぐっすり寝ています、私にも話せない内容なのですか?」
ゆーちゃんはそれでノックをして私が寝ているのを確かめたのか。
そうじろう「そうだな、こなたがこの時間に起きるわけもない……たいした事じゃない、こなたがかなたの死を知ったのはいつごろかって聞いてきた」
つかさのやつ、なぜ内緒でそんな質問をお父さんにしたんだ。そんな質問なら私に直接聞けばいい。
ゆたか「それでおじさんは何て?」
そうじろう「昔はこなたにはっきりかなたが死んだとは言ってない、しかしお墓参りも行っている、位牌もある、おそらく小学校に入学する前後には認識はしているはずだ」
そうだった。お母さんが亡くなっていたのは私がまだ幼い頃、その死を知ったのはいつだったかな、多分お父さんので合っているいと思う。
ゆたか「つかさ先輩はなぜそんな質問をしたのかな?」
そうじろう「オレも質問したんだが答えてくれなかった、こなたに内緒にするぐらいだ、多分何か事情があるのだろう、あまり突っ込んで聞かなかった」
事情って。つかさにどんな事情があるって言うんだ。
ゆたか「まさか、つかさ先輩のお母さんに何かあったのかな……病気とか」
そうじろう「こらこら、滅多な事を言うものじゃありません」
ゆたか「ごめんなさい」
おばさんに何かあった、そうならかがみも何か変化があってもいい。かがみは昨日会っているけど何か変わった感じは受けなかった。
あっ、そうか。私とかがみが会っているから家に私が居ないのを知っていてつかさは家に来た。つかさは最初からそのつもりで家に来たのか。
つかさらしくない。内緒でコソコソするなんて。
ゆたか「でもお姉ちゃんは凄いです、私は悲しい表情なんて一回も見たこと無いです」
そうじろう「そう見えるだけかもしれない、こなたはこなたで悲しい時もあったかもしれない」
ゆかた「そうですか、私には分かりません」
そうじろう「残念だが親は子供より先に亡くなる、自然の摂理だ、ゆーちゃんもいつかは分かる時がくる」
そういえば、私はお母さんの事で泣いた事はない。悲しいと思った時もない。だけどつかさやかがみ、みゆきさんのお母さんを見て羨ましいと思った時は何度かある。
たまにかがみとつかさはおばさんの話をするけど私に対する当て付けかと思った時だってある。でもそれを表に出した事はない。
そんな事をしたってお母さんが生き返るわけもないし、それにもう私は大学生、もうお母さんが居ようが居まいがもう関係ない。
そうじろう「そういえばゆーちゃんは実家に帰らなくていいのか?」
ゆたか「はい、夏休みの宿題がもう少しで終わるので、それから帰ろうかと思っています」
そうじろう「そうか……そうそう、くれぐれもさっきの話はこなたに言わないでくれ、バレたらつかさちゃんに申し開きができない」
ゆたか「はい」


   『 変化 』


176 :変化  2 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:22:21.87 ID:QtQxp9cu0
 つかさの話は終わったかな。このまま部屋に戻って寝てもいいけど、さすがにもう目が冴えた。私はついさっき起きたような感じで居間に入った。
こなた「おはよう〜」
そうじろう・ゆたか「おはよう」
そうじろう「今日は編集で出かけなければならない……」
ゆたか「あ、えっと、今日はひよりちゃん達が来て勉強会する予定なんだけどいいかな?」
私が来るなりいきなり話を切り替えた。今までもこんな風にされた事あったのかな。まぁいいや、つかさは隠れて何かしているけど悪い事をしている訳じゃなさそうだ。
でも内緒にしているのが気になる。そんな思いに成った時電話が鳴った。
こなた「私が出るよ」
受話器を取った。
かがみ『もしもし、泉さんのお宅ですか?』
こなた「かがみ、おはよう」
かがみ『こなた、あんた携帯に何度電話したら出るのよ』
こなた「家に居る時は持っていない方が多いからね、で、用はなに?」
かがみ『今日空いているかしら?』
ほう、かがみの方から誘うなんて珍しい事もあるもんだ。昨日会ったばかりで何の用なんだろう。
こなた「空いているけど?」
かがみ『それなら家に来てくれない、相談したい事があるのよ』
かがみが私に相談って、信じられない。雨でも降りそうだ。
こなた「相談って、私で良いの、みゆきさんの方がいいんじゃない、それに相談なら電話でも出来るじゃん」
かがみ『……電話じゃできない相談なのよ……それにこなたじゃないと……』
言葉に力がない。ふとゆーちゃんの言った言葉がよぎった。まさかおばさんに何かあったのだろうか。そんな相談されてもどうして良いか分からない。
返答が出来ない。どうしよう……
かがみ『……で、来てくれるの?』
ひよりん達が来るみたいだし家にいてもしょうがないな、それに断ったら後味が悪そうだ。
こなた「わ、分かったよ取りあえずそっちに行くよ」
かがみ『ありがとう、待ってるわ』
受話器を置いた。
一回溜め息をついた。
こなた「これからかがみの所に遊びに行ってくるよ」
そうじろう・ゆたか「いってらっしゃい」

177 :変化  3 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:23:47.36 ID:QtQxp9cu0
 柊家に着くと私はかがみの部屋に案内された。おばさんは普段と変わらずとても元気そうだった。病気になっているとは思えない。かがみは私になんの相談があるというのか。
相談があるなら昨日のうちに話して欲しかった。
部屋に入るとかがみは椅子に座っていた。表情がいささか困ったように見えた。
かがみ「思ったより早かったわね、お茶でも飲んで……」
こなた「そんなのより相談って何?」
単刀直入に聞いた。かがみはまだ話す準備が出来ていないのか一回深呼吸のような仕草をした。
かがみ「相談というのはつかさの事よ……」
つかさ、そういえばつかさはどうしたのだろう、いつも家を訪ねると真っ先に飛び出してくるのに。
こなた「つかさ、つかさがどうかしたの、そういえばつかさは何処に?」
かがみ「……さあね、何処かに行ったわ、こなた、あんた何か心当たりはない?」
こなた「心当たりって言われても……」
かがみは立ち上がった
かがみ「そうよね、心当たりがあるなら昨日この話になっていた、本当は昨日話そうと思っていた……だけど出来なかった……
    夏休みが始まって直ぐだった、こうやって朝から何処かに行くようになった、部屋で何かやっているみたいだけど教えてくれない」
夏休みから丁度一ヶ月、そういえば夏休みなってからつかさと一回も会っていなかった。かがみやみゆきさんとはもう何度も会っているのに。
こなた「まぁ、部屋に一人でする事の中には人には話したくないのもあるけどね」
かがみ「ばか、こっちは本気で心配しているのよ、話しかけても『何でもない』で終わり、こんなの今までなかった、冗談は止めて」
こなた「それならつかさの部屋の中を調べてみたら、つかさは居ないし、バレないようにすれば大丈夫だよ」
かがみ「つかさの部屋に入るならこなたを呼ばないわ」
かがみは私に何かをさせたいのか。嫌な予感がしてきた。私は身構えた。
かがみ「つかさが何処に行って何をしているのか尾行して探って欲しい」
やっぱりそんな気がした。
こなた「確かにつかさは心配だけど、尾行するならかがみだってできるじゃん、何故私?」
かがみ「私じゃ直ぐにバレちゃうじゃない、こなたは子供に変装できるでしょ、高校時代映画館に子供料金で入ったわよね」
あの頃をまだ覚えていたのか。かがみ達の直ぐ近くに居たのに帽子を取るまで気が付かなかったのを思い出した。
こなた「それでどうやって尾行するの、つかさがいつ家を出るかなんて分からないよ」
かがみ「私に考えがあるわ」

 三日後の早朝、私は駅の前に居る。柊家の最寄りの駅だ。かがみからの携帯電話を待つ。つかさが家を出たら連絡がくるようになっている。
そう、私はかがみの頼みを聞き入れた。何故だろう。私はかがみの頼みを聞いたのか。普通ならつかさが何をしようとしているなんてあまり興味はない。
つかさはわざわざ家に来てお父さんに質問をした。私に内緒なんて。しかもかがみにも内緒。彼氏でもできたか。いいや、彼氏ができてあんな質問なんかしない。
お母さんが亡くなったのをいつ知ったか……なんて。つかさはあんなやさしいお母さんがいる。三人の姉までもいると言うのに何が不満なんだ。まったくもって不愉快だ。
待っている時間が暇すぎるせいか怒りが込み上げてきた。携帯ゲーム機でも持ってくればよかった。
突然携帯電話が鳴った。かがみからだ。
かがみ『今つかさが出たわ、後は頼むわよ……』
こなた「分かったよ、言っておくけどつかさがどんな事をしているか知ってから後悔しても知らないからね」
かがみ「私はつかさを信じているから……」
かがみは電話を切った。信じているなら私にこんな事をさせるなと突っ込みたかった。でももう引き受けた。引き受けたからには手抜きはしない。
被っていた帽子を深々と被り直した。髪の毛は全て帽子の中、今まで着たことのない服、一見小学生にも見える身長……これは関係ないか。気を取り直して…他に思い当たらない。
これでは誰が見ても泉こなたとは思うまい。と思う……

 しばらく待つとつかさがこっちに向かってきたのが見えた。私はさりげなく切符売りの側で立っていた。つかさは私の直ぐ目の前を通過した。しめた、つかさは私に全く
気付いていない。かがみの話だと電車に乗るまでは確認していると言っていた。つかさは切符を買うはずだ。つかさは自販機の前で立ち止まり切符を買った。
つかさがいくらの切符を買ったのか確認した。つかさはそのまま改札口に入っていく、透かさずわたしもつかさと同じ値段の切符を買い、つかさの後を追った。

 つかさとやや距離を置いて電車を待つ。切符の値段からすると駅は二つか三つ先と言ったところか。そう遠くではない。つかさをそこから見てみた。
つかさの持っている物は何だろう。お弁当でも入っているみたいだ。お弁当を一緒に誰かと食べるのか。誰だろう、女性なのか男性なのか。私の知っている人なのか。
つかさの表情を見ると電車が来るのが待ち遠しいような感じを受ける。何だろう、彼氏と公園でデートのような……そんな気さえしてきた。

 駅を降りるとつかさは辺りを見回している。何だろう、まるで何かを探しているような感じだった。特に電車から出てきている乗客を見ている。そうか、
かがみが後を付いてきていないか確認しているのか。かがみが尾行を諦めた理由が今分かった。つかさにしてはすごい警戒心だな。ますますつかさが何処に行くのか
興味が湧いてきた。

178 :変化  4 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:24:52.39 ID:QtQxp9cu0
 改札口を出たつかさはまるで慣れた町のように進み始めた。この町に私の知り合いはいない。つかさに付いて10分位しただろうか、一件の家の前でつかさの足が止まった。
つかさは何の迷いも無くインターホンを押した。遠くで表札が見えない、誰の家だろう。暫くすると玄関のドアが開いた。男性だった。もちろん私は知らない人。
年齢は三十歳くらいだろうか。男性は親しげに話しかけている……そうか、そうだったんだ。つかさは彼氏、恋人……に会いに来たんだ。
つかさと男性は話に夢中、私が直ぐ近くに居るのに気が付かない。つかさは年上が好みだったとは思わなかった。もうこれ以上居ても意味は無い。これから彼氏とお楽しみだろう。
かがみにはつかさに彼氏が出来たと伝えるかな。何かちょっと寂しくなってきた。彼氏が出来たくらいで私に会わなくなるなんて、女の友情ってそんなものなのかな。
私が家を離れようとした時だった。
男性「おーい、かなた、柊さんがきたぞ」
かなた、かなただって、咄嗟に直ぐ近くの電信柱に隠れた。
女の子「わーい、巫女のお姉ちゃん」
ドアからもう一人出てきた。今度は女の子だ。小学校低学年よりも幼く見える。4、5歳くらいかな。女の子は玄関から飛び出すとすぐさまつかさに抱きついた。
つかさ「おはよう、かなちゃん、今日もいっぱい遊ぼうね」
かなた「うん」
なんだ、どうゆう事なんだ。つかさの目的はこの女の子に会うためなのか。女の子はつかさが巫女をしているのを知っているみたい。それに女の子の名前がかなた……なんて。
男性「いつもすまないね」
つかさ「いいえ、それではかなたちゃんを預かりますね」
男性「夕方前までには戻る予定です、一応鍵を預けて置くよ、何かあったら携帯によろしく」
つかさ「はい」
つかさの親戚の家なのかな。それならかがみなら気が付くはず。この家の人とつかさの関係が全く分からない。男性はそのまま家を出て駅の方角に歩いて行った。
つかさは男性から受け取った鍵でドアの鍵を閉めた。
つかさ「それじゃ、公園にいこっか?」
かなた「うん」
二人は手をつないで駅の方向とは反対に歩いていった。他人に鍵を預けるなんて、よほどつかさが信頼されているのが分かる。やっぱりあの男性はつかさの恋人なのだろうか。
もう少し調べる必要があるな。女の子はつかさにすごく懐いているのが分かる。つかさの手を引くようにして歩いていた。

 公園に着いた二人、つかさは公園の木陰にシートをひいた。女の子は靴を脱いでシートの上に腰を下ろした。つかさは鞄からピンポン球くらいのボールを取り出した。
右手でそのボールを握り両手を女の子の目の前に出した。女の子は右手を差した。つかさは右手を開く、しかしボールは無かった。つかさは左手を開いた。ボールが左手に
移っていた。女の子は笑いながら拍手をした。これって手品、マジックじゃないか。私が見ても騙されるくらい上手だった。つかさは次々とボールを使ったマジックを
女の子に見せている。いつの間につかさはあんなのを覚えたのか。まさか、つかさが部屋で何かしていたってかがみが言っていたけど、マジックの練習をしていたのか。
ますますつかさが分からなくなった。
つかさはボールをしまうと、靴を脱ぎ女の子前に座った。今度は本を取り出し女の子に読んで聞かせ始めた。ここからじゃ聞き取り難い、一度公園を出てつかさ達に近づいた。
植え込み越しなら気付かれないだろう。つかさは童話を読んでいた。女の子は真剣につかさに耳を傾けていた。お昼はつかさの作ったお弁当で昼食。
まさに至れり尽くせりだった。つかさに女の子が懐くはずだ。

179 :変化  5 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:26:46.77 ID:QtQxp9cu0
 お昼を過ぎ、日が西に傾き始めた頃だった。急に女の子の表情が暗くなった。つかさが何度か呼びかけても反応しなくなってしまった。
かなた「ママに会いたい……」
つかさの動きが止まった。つかさは困ったような悲しいような複雑な表情をした。
つかさ「お母さん……ママは遠い所に行ったんだよ」
かなた「おまじないして、ママに会えるおまじない、約束したよ」
雰囲気が一変した。いままであんなに笑顔だった女の子が今にも泣き出しそうになってしまった。あの女の子の言い方と表情、つかさの答えでピンと来た。
女の子のお母さんは亡くなっている。それにしてもおまじないってなんだろう。
つかさ「そうだったね、約束だったね、それじゃね……おまじないしてあげるよ」
かなた「やったー!!」
女の子は立ち上がり飛び跳ねて喜んだ。
つかさ「座って……」
女の子はつかさの言った通りにした。つかさは女の子の頭に手をそっと当てると目を閉じて何ならブツブツと言いはじめた。呪文かなんかだろうか。数分くらい経った。
つかさ「えい!!  終わったよ」
女の子はキョロキョロと周りを見回した。
かなた「ママ……ママは?」
つかさ「そんなに直ぐは来ないよ、準備があるから……明後日、あさってになったらきっと会えるよ」
お母さんに会えるおまじない、あのくらいの歳で死を告げるのは酷なのは理解できるけど良い方法とは思えない。明後日、つかさはどう言い訳をするつもりなのか。
かなた「ありがとう、お姉ちゃん」
満面の笑みでお礼をする女の子。つかさ、今まで凄いと思っていたけど最後の最後で大失態をしたね。無計画なつかさに怒りさえ感じてきた。
男性「おーい」
かなた「パパ」
公園の入り口に男性が立っていた。女の子は走って男性に飛びついた。
かなた「パパ、巫女のお姉ちゃんがおまじないしてくれたよ、ママに会えるよ」
飛び跳ねながら男性の周りをグルグルと廻った。男性は悲しい顔をしてつかさを見た。つかさも悲しい顔で返した。
男性「予定より早く終わってね、娘を引き取りに来たよ……どうだい、夕食でも、こんなお礼しか出来ないが」
つかさ「いいえ、かなちゃんと遊べただけで良いです」
男性「今度はいつ来てくれるのかな」
かなた「あさって、あさってだよね」
つかさ「う、うん、明後日……」
かなた・男性「さようなら」
つかさ「さようなら」
男性は女の子の手を取り公園を出た。女の子は何度も振り返り手を振った。つかさも二人が見えなくなるまで手を振った。そして、二人の姿が見えなくなった。
つかさは暫く立ったまま動かなかった。

 つかさはシートをたたみ、片付け始めた。そして一回大きな溜め息をついた。今更後悔しても遅い、自業自得だ。私のミッションもコンプリートした。
このまま帰ってかがみに報告する……なんて出来ない。つかさには責任をとってもらわないと、あの女の子、かなたちゃんを悲しませるわけにはいかない。
つかさは公園の出口に差し掛かった。私も公園の出口に向かった。出口で会ってもつかさは私に気付かない。俯いているだけだった。
私は帽子を取り、髪を元に戻した。
こなた「つかさ」
つかさは二、三歩進んでから立ち止まりゆっくりこっちを向いた。突然飛び上がって驚いた。
つかさ「こ、こ、こなちゃん、何でこんな所に」
こなた「手品、朗読、お弁当……ママに逢えるおまじない……」
つかさ「え、え、こなちゃん、今まで見てたの?」
こなた「聞きたい事があるよ、良いかい?」
私はかがみとの約束を破って自分の姿をつかさに見せた。かがみに言い訳ならいくらでも出来る。でもかなたちゃんの言い訳はもっと難しい。

180 :変化  6 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:28:12.71 ID:QtQxp9cu0
 私達は公園に戻りベンチに座った。私はつかさを尾行した理由を話した。
つかさ「お姉ちゃんがこなちゃんに頼んだの?」
こなた「そうだよ、私は秘密を話した、今度はつかさの番だよ、あの女の子とつかさの関係を話して」
つかさは俯き黙ってしまった。今更秘密もないだろう。
こなた「話せないの、無責任なおまじない許さないよ、あの女の子のお母さんは既に亡くなっているんでしょ?」
つかさは両手を握り締めている。今の言葉はそうとう堪えたかもしれない。観念したのか顔を上げて私の目を見て話し始めた。
つかさ「夏休みが始まった日、丁度一ヶ月くらい前かな、巫女の手伝いをしてた、境内の隅で女の子が一人泣いていた、迷子だと思って話しかけた、だけど
    泣いてばかりで何も話してくれなかった、まずは泣き止んでもらおうと思って、おせんべい占いをして見せた、あの時はおせんべいじゃなくてクッキーだったけどね」
こなた「おせんべい占い?」
つかさ「文化祭の時、私がした占いだよ、覚えてないかな、おせんべいを割ってその形から……」
ああ、思い出した。そういえばそんな事していたな。
こなた「みゆきさんに教えてもらったやつかい?」
つかさ「うん、それで女の子の名前を当てちゃった、たまたま偶然に女の子の付けていたリボンに書いてかったからすぐ分かったんだけどね、そしたら急に泣き止んで
    もっとしてって言うから、今度はそろそろお父さんが迎えにくるよって言ったら、おじさんが直ぐにやってきた」
なんとなく分かってきた。巫女服きているつかさが二回も未来を言い当てた。何か不思議な力をもっているように見えたのかもしれない。
つかさ「かなちゃんってすごく人見知りするんだって、私がかなちゃんを笑わせたからおじさん驚いちゃって……それでいろいろおじさんと話しているうちに
    かなたちゃんの遊び相手になってくれって頼まれちゃって、断ろうと思ったけど、かなたってこなちゃんのお母さんの名前、なにか運命みたいなのを感じて
    引き受けた」
なるほど、運命か、あの子の名前がかなたじゃなかったら私もこうしてつかさと話していないかもしれない。
こなた「手品はみゆきさんに教えてもらったね?」
つかさは頷いた。
つかさ「かなたちゃんが魔法をもっと見せてって言うから、手品を練習した」
それだけであんなに上達するものなかな。もっともつかさは料理が上手いから手が器用なのは確かだな。でも、問題はこれからだ。
こなた「それで、魔法がエスカレートしてつかさはとんでもない約束をしたって訳だね、言っておくけど手品やマジックでかなたちゃんのお母さんなんか出せないよ、
    どうするのさ、明後日、あの子になんて言うの、中途半端な希望は後で何倍の悲しみになるよ」
怒った口調に自然になった。そんな私を尻目につかさはポケットから財布を出して一枚の紙を取り出して私に差し出した。
手にとって紙を見た。写真だ。かがみが写っていた。
こなた「いきなりかがみの写真なんか見せてなんのつもりだよ」
写真をつかさに突き返した。
つかさ「それ、お姉ちゃんじゃないよ、よく見て……かなたちゃんのお母さんだよ」
慌てて写真を見直した。長髪を下ろしているけど何度みてもかがみにしか見えない。
つかさ「ね、凄いでしょ、双子の私よりお姉ちゃんに似ている人がいるなんて、この写真を見て思いついたんだよ」
こなた「思い付いたって、何を?」
つかさ「お姉ちゃんにかなたちゃんのお母さんになってもらうの、一日、うんん、一時間でいいの、それでもうこれで逢うのが最後だよって言ってもらう」
なるほど、かがみに内緒にしていたのはこの理由か。だけどつかさは重要な事を忘れている。
こなた「かがみがそんな役を引き受けると思う、妹でしょ、少しは考えようよ」
181 :変化  7 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:29:19.68 ID:QtQxp9cu0
つかさは怯んだ。
つかさ「お願いすれば、理由を言えばきっと……」
こなた「かがみは嘘を付くのが嫌いだ、それに恥かしがりやで相手が幼い子供だとしても演技なんかできるとは思えない、なぜ約束する前にかがみに聞かなかったの?」
つかさ「まさかこんなに早くかなたちゃんがおまじないを思い出すとは思わなかったから……」
やっぱりつかさはつかさか。もう話にならない
こなた「つかさご自慢、柊家秘伝のおまじないの効果を楽しみにしているよ」
皮肉を言って私は立ち上がり帰ろうとした。
つかさ「待って、こなちゃん、ごめん……ごめんなさい」
こなた「謝るなら私じゃなくてあの子に謝って」
今度は私に助けを求めるつもりなのか、結局つかさは遊び半分だったに違いない。子供心を弄んでいた。可愛そうに、かなたちゃん。
つかさ「この前、こなちゃんに内緒でおじさんに会いに行ったの、こなちゃんがおばさんの死をいつ知ったのかって」
自分で内緒にするって言っていて自分で破っている。何のつもりだろう。私もかがみとの約束を破ったから人の事言えないか。
つかさ「かなちゃんを見て分かっちゃった、私ってよくお母さんの話をするけど、こなちゃんからしてみれば辛い話しだったよね、だから直接聞けなかった、お母さんの死を
教えてあげる時期はいつが良いかなって……こなちゃんが知ったのは五歳くらいだよね、かなちゃん、もうその歳になったから……
教えてあげようと思ったの、なるべく悲しまないように考えて……」
こなた「その考えた結果がおまじないなんて、やっぱりつかさは何も分かってない、お母さんの死を知って悲しまない方法なんかないよ、余計な事しないで放っておけばいい」
あれ、何を言っているんだろう。私は悲しいなんて思った事んて一度もなかったのに。どうしてだろう。
つかさ「そう、そうだよね、私の身内でまだ亡くなった人が居ないから何も知らないかもしれない、でもかなちゃんと遊んでいると笑顔でママ、ママって何度も言ってくるから、
    ……そんなの見ていられないよ」
つかさの目が潤み始めた。両手を握って体を強張らせて震えていた。そんなつかさを見ているとさっきまでの怒りが消えてきた。本気なのか。
少なくとも面白半分でやっていはいない。一ヶ月もあの子と接してきたつかさが出した結論がおまじないか……
やり方は気に入らないけどつかさのあの子を思う気持ちは本物みたい。気が付くともう日は完全に沈んでいた。いつまでもここには居られない。
こなた「明後日だよね、こんな所に居て良いの、かがみを説得しなきゃいけないでしょ、行こうつかさの家に」
つかさ「こなちゃん!!」
笑顔で叫んだ。
こなた「悪いけどおまじないに納得はしていからかがみがかなたちゃんのお母さん役をする説得の手伝いはしないよ、見ているだけ……」
つかさ「それでもいいよ、ありがとう」

 公園でつかさとかなたちゃん見ていいた時、ふとゆい姉さんを思い出した。私がかなたちゃんと同じ歳の頃、ゆい姉さんが私の世話をしてくれていた。
細かいところまでは覚えていない。だけど少なくとも手品まではしていない。ゆい姉さんは私の親戚、つかさは親戚でもない赤の他人になぜあそこまで本気になれる。
名前が私のお母さんと同じだから。かなたちゃんのお母さんがかがみと瓜二つだから。つかさは運命って言っていたっけ、運命か……ただの偶然にすぎないのに大げさだ。

 柊家の近く着いた頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。つかさは家では話し辛いというので神社の入り口にかがみを呼び出した。見ているだけって言ったのにもう
破ってしまった。私もお人よし過ぎるか。
かがみが来ると私とつかさが一緒に居るのを見て驚いた。思わず言い訳を言いそうになった。だけどもう話したくない。後はつかさに任せる。
つかさはあの写真をかがみに渡してから今までの経緯を話し出した。かがみは写真を見ながらつかさの話を聞いていた。話が終わるとかがみはつかさに写真を返した。
かがみ「結論から先に言うわ、つかさの計画に私は賛成しない、かなたって言う子のお母さん役なんか出来ないわ」
即決だった。かがみらしいと言えばそれまでだが、もう少しは悩むと予想していた。つかさの話し方が良くなかったのか。いや、少なくともちゃんと経緯は話していた。
つかさ「どうして……」
早くもつかさは涙目だ。しかしかがみはそんなつかさに同情する素振りを見せない。
かがみ「そんな事をしたらあの子、またお母さんに逢いたいって言うに違いないわ、それにちゃんと死を認識してくれそうにないと思う、つかさが今までしてきた
    手品やおまじないの延長として見るに違いない、あの子にとってつかさは巫女の秘術を使う魔法使いみたいな存在、そんな幻想は後々大きな悲しみしか残さない」
反論の余地はない。ごもっともだ。これはつかさの負けだな。
つかさ「かなちゃんは私の手品を魔法だなんて思っていないよ……サンタクロースだって幻想だよね、でも、嘘だと分かってもお父さんやお母さんに怒ったりしないよね、
    それと同じだよ、お願いお姉ちゃん、何もしなくていいよ、かなちゃんの目の前に立ってくれるだけでいいから」
驚いた、つかさが反論をするなんて、しかもそれなりに説得力があった。サプライズとして割り切るか。その考えならそれも悪くない気がしてきた。
かがみは何も言わなかった。これも珍しい。かがみは直ぐに言い返すのが普通だ。ツッコミかがみはどこに行った。
かがみ「私はそのかなたって子に一度も会っていない、もちろんその母親にだって、どんな性格なのか、癖は、仕草は、声は、いったいどうすればいいのよ、
    容姿が似ているからって成りきれるものじゃない……私はそんな演技力なんかないわ」
かがみの本音ってところか。そうだろうね。写真だけじゃ分からないものがあるのかもしれない。子供は意外と直ぐに見破っちゃう。
つかさ「お姉ちゃんに演技なんて望んでないよ、だから立っているだけで……」
かがみ「私は案山子かよ、それよりこなたはこの件をどう思ってる、さっきから黙って、母親のいないこなたならその子の気持ちは分かるでしょ」
かがみは私の方を向いた。その言葉にはちょっと引っかかるものを感じた。お母さんは居ないけどそんなのは人それぞれだ。かなたちゃんとは違う。
つかさ「お姉ちゃん、そんな言い方は止めて……こなちゃんはお姉ちゃんと同じような意見だった」
かがみ「それなら結論はでたようなもの、諦めなさい、協力できない」
かがみは振り向くとそのまま帰ってしまった。だいたい予想はしていた通りの展開になった。

182 :変化  8 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:31:02.54 ID:QtQxp9cu0
 つかさもだいたい予想していたのか、あまり動揺しているように見えなかった。
こなた「つかさもバカだな、私がかがみと同じ意見だなんて言わなければ良いのに」
つかさ「だってこなちゃんはそう思ってたんでしょ、嘘なんかつけないよ」
こなた「でもつかさは嘘をつこうとしている、かなたちゃんにね、矛盾してるよ」
つかさは夜空を見上げた。
つかさ「嘘はね、ついていいのといけないのがあると思ってる、全ての嘘がダメならサンタクロースも七夕も映画も全部無くなっちゃうよ、辛くて悲しい真実より楽しくて愉快な
    嘘の方がいいよね」
これがつかさなのか、高校時代、いや、ほんの一ヶ月前のつかさならこんな事は言わない。それにかがみを注意するなんて。かがみは注意されているのに気付いていない。
でもつかさは私がどんな気持ちか分かってかがみに注意した。
つかさ「それよりこんちゃん、朝から私をずっと見ていたからご飯食べていないでしょ、家で食べていかない?」
確かにかがみから配給されたスポーツドリンク意外は口にしていない。お腹が空いている。
こなた「家に帰ってから食べるよ」
つかさは私の目を見ながら話し始めた。
つかさ「できれば、出来ればでいいんだけど、明後日、あの公園に来て欲しい、お姉ちゃんが来ても来なくても」
かがみが来ても来なくてもあの子には辛くて悲しい真実が待っている。私はそれを直視できる強さなんてない。
こなた「悪いけど行けそうにないや、それにかがみは気が変わる事なんかないと思うよ」
つかさ「……分かった、私、頑張るよ……お姉ちゃんはまだ脈があるよ、だってこなちゃんを怒っていなかったでしょ、きっと心の奥底では行く気になっていると思う」
確かにかがみは怒っていなかった。それはそれで驚きだけどね、かがみが理由を言って断った時はほぼ気が変わる事はない。それは私がかがみと知り合ってから
見つけた法則みたいなもの。ただ単にしたくないって言ったならかがみをその気にさせる方法はいくらでもある。今回ばかりは望み薄しって所だな。あんなに理由を言われたね。
こなた「そうかな、かがみは諦めた方がいい」
つかさ「やるだけやってみるよ、私とお姉ちゃんは家が同じ、会う機会は皆よずっとり多いから、説得してみるね」
こなた「私は何も力になれない、ごめん」
つかさ「うんん、いいよ、私が始めた事だし、私が解決しないとね、いろいろありがとう、あとでポケットの中見てみて」
こなた「それじゃね……」
私達は別れた。

 帰宅して自分の部屋で少し考えた。
つかさとかなたちゃんとのやりとりが頭に浮かんでは消えた。かなたちゃんとつかさの出会いはつかさを大きく変えた。何だろう、大人になったって言うのかな。
ついて良い嘘と悪い嘘か。考えさせられる言葉だった。つかさはかなたちゃんの為に嘘をついた。人の為につく嘘は良いってつかさは言いたいのかな。人を楽しくさせる嘘なんか
なかなかつけないよ。幼い子供がつかさを大人にするなんて、それに比べれば私なんてまだまだかもしれない。かがみもそんなつかさの変化に気が付かないなんて不思議だな。
そういえばつかさはポケットの中って言っていたな。自分のポケットの中に手を入れた。何か入っている。掴んで目の前に出してみた。ボールが一個。
つかさが手品で使っていたボールじゃないか。いつの間に入れたんだろう。それよりお腹が空いた。

居間に向かうと誰も居なかった。そうだったゆーちゃんは実家に帰った。お父さんは出版社に出かけている。ゆい姉さんは夜勤で来ないか。
抵当に冷蔵庫の材料で料理を作った。
一人で食事をする。今日が初めてではないのに何か寂しく感じる。さっさと食べて後片付けをしてすぐに自分の部屋に戻った。
さて何をするかな。久々にゲームにインするかな。パソコンのスイッチを入れようとした。机の上につかさのボールがある。そういえばここに置いたのだった。
つかさは今頃かがみを説得しいるのかもしれない。いくらつかさでも今度ばかりはかがみを動かせない。明後日つかさはあの子になんて言うのだろう。
ボールを掴みあげた。つかさの手品、どれだけ練習したのか。私のポケットに気付かれずに入れるなんて……やっぱり何もしないなんて出来ない
私は見届けないといけない。お母さんと同じ名前の女の子、同じ結果を見るなら一度、母さんに逢わせてあげたい。それにはかがみの協力が不可欠。
かがみの説得くらいは私にもできる。でも今度ばかりは私にも説得できる自信はない。
しばらく考えた。ただ闇雲に言ってもだめだろう。みゆきさんに相談するか。それしかない。時計を見た。まだみゆきさんは起きている時間だ。携帯電話取り出し電話をかけた。

183 :変化  9 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:32:04.18 ID:QtQxp9cu0
みゆき『もしもし、泉さんですか、こんばんは』
そしておまじないの話をした。
みゆき『そうですか、つかささんはおまじないをしてしまったのですね、おまじないをする時期をいつにするのか悩んでいました、泉さんを参考したかったみたいですね』
みゆきさんはつかさの計画を知っているみたいな言い方だった。
こなた「もしかしておまじないの計画ってみゆきさんが考えたの?」
みゆき『いいえ、手品、おまじないは全てつかささんが考えました、手品の選定と方法は私が用意をしてつかささんに教えました、みるみる上達して私も驚きました』
こなた「教えたって事は、みゆきさんはおまじないに賛成なんだよね」
みゆき『そうですね、基本的には賛成です、しかしそれはかがみさんが参加してくれる条件が必要です』
つかさはみゆきさんに全てを話していたのか。それなら話は早い。
こなた「そのかがみなんだけど、おまじないをした事を散々けなしたあげくに断っちゃった、つかさは何度か試すって言ってたけど……どうしたらいいのか分からない」
みゆき『そうですか、かがみさんは断りましたか……それで泉さんはどうだったのですか?』
こなた「どうって?」
みゆき『質問を変えます、泉さんは反対しなかったのですか?』
こなた「……反対した、もしかしたらかがみよりも反対したかもしれない」
みゆき『実は私も当初は反対したのですよ、しかしつかささんの熱意と信念で変わりました』
こなた「私は……つかさのとかなたちゃんが遊んでいる姿を見たし、その時のつかさのは輝いてた、それにおまじないをした時のかなたちゃんの笑顔が印象的だった……」
みゆき『それをかがみさんに話されてはいかがですか、心境の変化がおきるかもしれません』
こなた「かがみは理由を言った時は梃子でも動かないよ、今までの経験からそうなんだ、かがみを説得するには時間が短すぎるよ」
みゆきさんは黙ってしまった。さすがのみゆきさんも打つ手なしか。
みゆき『理由を言わなかったら泉さんは説得できるのですか?』
こなた「意外と簡単だよ、それじゃ私だけでするよって一回引き離しちゃえばいい、するとかがみは……」
みゆき『それをしてみてはいかがですか』
割り込むように話してきた。
こなた「それが出来れば苦労しないよ」
みゆき『及ばずながら私も手伝わせていただきます、私は早速かがみさんに電話をして泉さんの方法を試してみるつもりです』
みゆきさんにそれができるか心配だ、それでもみゆきさんが直接かがみに言ってくるれるのは効果は高いかもしれない。
こなた「それじゃ私もやってみるかな」
みゆき『その調子です、ですけど間隔をあけた方がいいと思います』
こなた「それじゃ私は明日してみるよ」

184 :変化  10 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:35:51.62 ID:QtQxp9cu0
 私はかがみを呼び出した。昨日と同じ神社の前、私が一方的に誘った。だから来るかどうかはわからない。
かがみは私が言った時間通りやってきた。
かがみ「昨日のみゆきに続いて今度はこなたか、あんたは反対していたんじゃないの、それとも別の用でもあるのか」
この調子ではみゆきさんの説得は効果なかったみたい。だけどここに来たのだから全く効果が無かった訳じゃなさそうだ。もう作戦とかそうゆうのは考えない。
こなた「そうだね、私はつかさがおまじないをする所を直接見た、その時は怒りすら覚えたよ」
かがみ「それなら私を呼ぶ必要なんか無いじゃない、つかさの自業自得よ、放っておけばいいわ」
怒鳴っている。かがみも悩んでいるに違いない。
こなた「私もそう思った」
かがみ「だったらなぜ?」
私はポケットからボールを取り出した。そしてかがみに見せた。かがみは首を傾げてそのボールを見た。ボールを右手で握り両手をかがみの前に出した。
こなた「どっちだ?」
かがみは即座に右手を指差した。右手を開けるとボールがあった。
こなた「大当たりだね」
かがみ「なにバカやってるのよ、当たり前じゃない」
こなた「今のつかさならこのボールを左手に移すことができる、知らない間にポケットに入れる事だってできる、もちろん種も仕掛けもあるけどね、必死になって覚えたと思う」
かがみ「あんた何がいいたいの?」
こなた「おせんべい占いから始まったつかさの嘘、嘘が嘘を呼んで最後は死んだ母親まで行き返そうとしている、それでもあの子にとってつかさは魔法をつかう巫女様なんだよ、それなら最後まで巫女様で居させてあげようよ」
かがみ「私が母親の役をしたら、もう終わりよ、全ての嘘がバレるわよ」
こなた「バレるかどうかは分からないよ、その場だけバレなければいいよ、そのうちバレるだろうけどね」
かがみ「そんな中途半端でいいのか、かなたと言う子はつかさを恨むわよ」
こなた「つかさがサンタクロースの話をしたの覚えているかな、子供の頃はあれだけ信じていたのにある日それは嘘だと分かってしまう、でも誰も恨まないむしろ感謝するでしょ」
かがみ「私はサンタクロースかよ」
こなた「そのくらいの気持ちでいてくれた方がいいかもね、何があってもその責任はつかさが負うから安心して」
かがみは一回大きな溜め息を付いた。やれやれって感じだ。
かがみ「こなた、かなたって子の母親は何で亡くなったのか聞いている?」
私は首を横に振った。そういえば何も聞いていなかった。
かがみ「詳しくは教えてくれなかった、去年の台風5号は覚えているわよね」
そういえば全国に大被害を与えた台風だ。私は頷いた。
かがみ「台風の水害で流されたらしいわ、あの子の目の前でね……流された日を思い出してしまうわよ、それでも私にその母親役をさせたいのか、みゆきは何も言えなかったわよ」
みゆきさんの説得が失敗したのはこのせいなのか。つかさもそこまで言わなくていいのに。これもついてはいけない嘘なのか。ある意味つかさはかがみよりも嘘が嫌いなのかも。
こなた「逢いたいと言ったのはかなたちゃん本人だよ、災害の恐怖よりも逢いたい方が強い……」
かがみ「言い切るわね、直接話していないのによく分かるわね」
かがみもしぶとい。もうダメかもしれない。
こなた「かなたちゃんは母親の姿を思い出せる、だけどね、私は写真でしかお母さんを知らないんだ、遊んだことも、話したことも覚えていない、
    かなたちゃんがまだ母親の死を知らないうちに逢わせてあげたい、それがつかさの願い、そして私の希望だよ、もう言うことはないよ、あとはかがみが決めて」
かがみは黙って私を見ていた。演技のつもりで出そうと思った涙だけど自然に出ていた。おかしいな、今になって悲しい感情が湧くなんて。私はボールをかがみに差し出した。
かがみ「これを、私に、なぜ?」
こなた「つかさに返す、渡したら伝えて、私は明日公園に行くって」
かがみ「それなら直接しなさいよ、家はすぐ近くよ、つかさも家にいるわ」
こなた「かがみから渡して欲しい、それで最後につかさに言うといい、母親役はしないってね」
ゆっくりと手を伸ばしてボールを受け取った。つかさに渡すのが嫌そうだった。そうじゃない。つかさに会うと明日の話になるからだ。それが嫌なんだ。
かがみ「ボールは渡すわよ……でも明日は約束出来ない……悪いけどもう少し考えさせて」
変わった、確かに少しだけどかがみの態度が変わった。あとはつかさに懸けるしかない。だからボールをかがみに預けた。少しでもつかさと話す機会を。
今のつかさならきっと……



 家に帰るとつかさからメールが来ているのに気が付いた。『ありがとう』それだけのメッセージだった。かがみを説得したお礼なのか、私が明日立ち会うのを喜んでいるのか、
ボールを返したお礼なのか、それともかがみが明日母親役をしてくれるようになったのか、いろいろな意味で取れる。電話して聞いてみるのが手っ取り早い。だけど
それは出来なかった。もし、かがみが来ないと言ったら明日の立会いに行きたくなくなるから。どうせ全ては明日分かってしまう、だから返信もしない。


185 :変化  11 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:36:54.90 ID:QtQxp9cu0

 今日は調子が悪い。人身事故で電車が遅れていた。もっと早く起きればよかった。車で行けばよかったか。いまさらそんな後悔しても遅い。
ホームで電車を待っている。つかさはもう公園に居る時間だ。このままだと大事な約束を破ってしまう。気ばっかりが焦ってしまう。かがみは一緒なのか。
もう対面しちゃってるかな。早く来てくれ〜

電車は三十分遅れで到着した。何とか間に合いそうだ。目的の駅に着くと飛び出すように改札口に出た。公園に向かおうとした時だった。かがみが改札口のベンチに座っていた。
つかさと一緒じゃなかったのか。さては一度は断ったけど気が変わってここまで来たのはいいけれど、断った手前、行くに行けない状態になってる。まったく世話のやけるかがみ。
こなた「かがみ、何してるんだよ、もう時間が無いよ」
私を見上げじっと見つめるかがみ。折角ここまできて立ち往生はさせない。
こなた「もう覚悟を決めてかなたちゃんの所に行こう、つかさが待っているよ」
かがみ「かなた……私は……」
立ち上がる気配がない。もう待っては居られない。私はかがみの手を掴み引っ張った。かがみはやっと重い腰を上げた。掴んだ腕を持ったまま私は走った。最初は少し
抵抗したけど直ぐにペースを合わせて走ってくれた。やっと覚悟を決めたようだ。嬉しかった。かがみが来てくれた。それだけでいい。この調子だとかなたちゃんの前でも
ただ突っ立っているだけかもしれない。偽者だとバレてしまうかもしれない。それでも構わない。

 公園に着いた。つかさとかなたちゃんがシートの上に座っていた。公園の入り口でかなたちゃんの方を指差した。
こなた「あの子がかなたちゃんだから、会ってくれるだけでいいからね、無理に演技なんかしなくてもいい、息が整ったら近づいて名前を呼んであげて」
かがみは暫く公園の周りを見回すとゆっくりとかなたちゃんに近づいて行った。つかさがそれに気が付いた。かなり驚いた様子だ。やっぱりかがみは一度断ったのか。
つかさは直ぐに公園の入り口に居る私に気が付いた。手を上げて答えた。するとつかさはゆっくりと立ち上がった。かなたちゃんはつかさを見上げた。
かなたちゃんはつかさが見ている方に体を向けた。そこにかがみが居る。
かなた「ママー」
叫ぶと同時に立ち上がり裸足のままかがみに駆け寄った。そしてそのままかがみに抱きついた。かがみは突っ立ったまま見下ろしていた。
名前を呼んでって言ったのに何もしない。ここまで恥かしがりやとは思わなかった。
あれ、かがみの体が震えている。緊張してしまったのか、なんだか見ていられなくなってきた。つかさも心配そうにかがみ達を見ている。
つぎの瞬間顔から数滴の水……涙?
良く見るとかがみは目にいっぱいの涙を浮かべていた。かがみはしゃがみ込んでかなたちゃんを抱きしめた。
かがみ「かなた……」
息を呑んだ。一変して迫真の演技、なんだやれば出来るじゃないか。これだ、これを私は見たかった。もっと近くで見たい。
「こ、これは、これはどうゆう事ですか……」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。振り返るとはみゆきさんが居た。そしてみゆきさんに手を掴まれているかがみが立っていた。
えぇ、また振り返った。そこにはかなたちゃんを抱いているかがみが居る。かがみが二人。
みゆきさんの連れて来たかがみはかなたちゃんを抱いているかがみを見て呆然としていた。
こなた「かがみ、かがみだよね?」
みゆきさんが連れて来たかがみに問いかける。
かがみ「だったら私は誰なのよ」
この口答え、みゆきさんの連れて来たかがみは本物だ。それじゃもう一人のかがみは……
抱き合っている二人を見ていると親子そのものだ。疑いの余地はない。かなたちゃんの母親……つかさのおまじないは、かなたちゃんのお母さんを生き返られた。
そんなバカな……心の中で何度も呟いた。
私、つかさ、かがみ、みゆきさん、四人は二人を見ていた。時間が止まったように。ただ見ていた。
かなたちゃんとかがみにそっくりの女性は本当の親子のように……一年ぶりの再会を喜んでいた。

 これはおまじないの効果でも奇跡でもない。かなたちゃんのお母さんは亡くなっていなかった。それだけの話だった。だったら何故もっと早く気付かなかった。
それも簡単だ。かなたちゃんのお母さんは洪水で助けられたときに頭を強打したらしく強度の記憶喪失になっていた。身分を証明するものを一切持ってなかった為に
誰だか分からなかった。母親の治療した施設はここからかなり離れた場所にあったので捜索が難航したようだ。偶々リハビリでこの町に来た。本当はあの駅に降りる予定では
なかったが人身事故で一時的にあの駅で待機していた。そこに私がやってきた。そしてかなたちゃんを見て全ての記憶が戻った。それだけの話……

186 :変化  12 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:38:09.28 ID:QtQxp9cu0
 あけみさんが身の内を話し終わり皆が落ち着きを取り戻した頃だった。あけみさんは私に近づいてきた。
あけみ「本当にありがとうございました、強引に引っ張られた時はどうなるかと思いましが、かなたが、娘が私の記憶を取り戻してくれました」
私に何度も頭をさげるあけみさん、驚いた、声までかがみそっくりだ。双子のつかさが他人に見える。
こなた「お礼ならつかさに、私はおまじないを実現しようとしただけ……です」
そう、つかさのおまじないがなければこの親子は逢えなかった。私はそれに便乗しただけ。
あけみさんはつかさの方を向き何度も頭を下げた。つかさは照れくさそうに手を頭の後ろに当てていた。だけどなんかおかしい、つかさの表情が少し悲しげに見える。
みゆき「……奇跡としかいいようがありません、よかったですね」
あけみ「ありがとうございます」
かがみ「ここまで私に似ている人が居るなんて……」
あけみ「私も驚いています……」
しばらく私達はみゆきさんの言う奇跡の余韻に浸りながら会話をしていた。するとあけみさんは何かを思い出したようだ。
あけみ「あっ、そうでした、私は施設に一度戻らなければ、記憶が戻ったのを知らせないと、一年間お世話になった人達にお礼をいわないといけません、それに突然居なくなって
    私を探しているかもしれませんし、急がないと」
あけみさんは立ち上がった。
かなた「ママ……」
かなたちゃんはあけみさんの腕をつかみ止めた。
あけみ「すぐ戻ってくるから……」
今度は両手で腕をつかんだ。今にも泣き出しそうだ。また別れてしまうのではないか。そう思っているに違いない。
つかさ「あけみさん、一緒に連れて行ってあげて、そうすればきっと施設の人も喜ぶと思います」
あけみさんは少し考えた。
あけみ「そうですね、それがいいかもしれない、かなたも離れたくないでしょうから」
つかさはかばんから何かを出してあけみさんに差し出した。それはあけみさんの写真と鍵だった。
つかさ「太郎さんから預かったものです、受け取って下さい」
あけみさん写真を受け取ると自分の写真をじっと見た。
あけみ「この写真……結婚した時のもの……太郎……」
旦那さんを思い出したのか、あけみさんの目がまた潤み始めた。
つかさ「太郎さん、今日は帰りが遅いって……だから鍵を預かりました……」
あけみ「そうですか、つかささん、今までかなたの相手をしてくれて有難う、今度家に遊びに来て、主人と一緒にお礼がいいたい、皆様もどうぞご一緒に……」
つかさは返事をしなかった。あけみさんは一礼するとかなたちゃんの手を引き駅の方角に歩いて行った。かなたちゃんは母親、あけみさんの顔を見上げて目線を一度も
そらす事はなかった。そう、一度もつかさに振り返って手を振らない。ずっとあけみさんを見ていた。つかさが悲しい顔をしたのがなんとなく分かった。
私達は二人が見えなくなるまで見送った。

かがみ「……奇跡って本当にあるのね」
一言、ぽつりと言った。かがみから『奇跡』なんて言葉が聞けるとは思わなかった。
かがみ「つかさ、こなた、みゆき、ごめん、私は間違っていた、みゆきが駅に迎えに来なかったらと思うと……今までの自分が恥かしい」
かがみも駅前まで来ていたのか。時間差だったか。みゆきさんは諦めていなかった。私の説得だけだったらかがみは来なかったのか。
みゆき「いいえ、泉さん、つかささんには遠く及びません、お恥ずかしながら……」
かがみ「なんだか私、とっても嬉しいわ、どう、四人集まるのも久しぶりじゃない、これから私の奢りで食事でもどう?」
かがみの奢りなら断る理由はない。
こなた「賛成」
みゆき「いいですね」
つかさは黙って何も言わない。
かがみ「つかさ、行くんでしょ?」
つかさ「う、うん……」
かがみ「どうしたのよ、歯切れがわるいわね、今回一番の功労賞はつかさなんだからもっと喜びなさいよ」
つかさが元気のない理由は分かっている。少し静かな所で少し落ち着きたいに違いない。この公園は静かだ。
こなた「奇跡にもう少し浸りたいんだよ、つかさは」
かがみは少し間を空けてから話した。
かがみ「そう、私とこなたでお店を予約するから、二時間後、会いましょう」
こなた「実は私も浸りたい、良いでしょ?」
こんな時はつかさを励まさないとね。
かがみ「それじゃ、みゆき」
みゆき「はい、お供いたします」
二人は駅の方に歩いて行った。

187 :変化  13 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:39:18.85 ID:QtQxp9cu0
 
 公園は私とつかさ二人だけ、静かになった。つかさの顔は一段と悲しく見えた。
こなた「つかさ、そんなに寂しいなら、かなたちゃん、あけみさんが戻るまで預かっていれば良かったんじゃないの?」
つかさは首を振った。
つかさ「あけみさんに写真を渡す時、かなちゃんのポケットに手品で使ったボールを入れた……」
全く気が付かなかった。もうつかさの手品は芸術的にさえ感じてしまう。
こなた「何で、また手品でかなたちゃんを楽しませなくていいの?」
つかさ「もう手品をする必要がないから……楽しませる必要がないから、もうかなちゃんとは会わない」
こなた「必要あるって、あけみさんも言ってたじゃん、遊びに来てって」
つかさ「かなたちゃんがあのボールを見ていつか奇跡を起こした巫女さんが居たね…って思い出してくれればいいよ」
かなちゃんの願いを叶えてしまったつかさ、もうかなちゃんはつかさを必要としていないと思っているのか。
こなた「お母さんと一年ぶりの再会だよ、どうしてもあけみさんに集中しちゃうよね、つかさを見なかったくらいでそんなに落ち込むなんて、思い込みすぎだよ」
つかさは私の目を見ながら真剣な顔をした。
つかさ「私ね、このおまじないが終わったら……かなちゃんのお母さんになっても良かったかなって思ってた」
こなた「はははは、お母さんだなんて、お母さんはね結婚しないと成れな……」
私は固まった。まさか、かなたちゃんのお母さんになるって、太郎さんと結婚するって意味なのか。冗談なのか。
かがみに頼まれてつかさを尾行していた時を思い出した。あの時旦那さん、太郎さんと話していたつかさは親しげだった。私があの時思ったのは勘違いではなかった?
こなた「まさか、太郎さんの事、好きだったの?」
つかさは頷いた。
これは事故だ。悲劇だよ。
こなた「つかさ……太郎さんとは……その……何処までいったの……かな?」
もちろん性的な意味で聞いた。これは興味本位で聞いたんじゃない。親友として聞かなければならない。
つかさ「まだ告白もしていないよ、でも、このおまじないが失敗したら告白するつもりだった……失敗すればかなちゃちゃんもあけみさんを諦めてくれる……
    100%失敗のおまじないなんだよ……そうだよね、こなちゃん……それなのに……好きになっちゃいけなかったのかな……そんなのないよね……
奇跡が起きても……喜べないよ……あんなにかななちゃは喜んでいるのに……最低だよね……私って、いけない事したのかな……教えてよ、こなちゃん」
こなた「つかさ……」
すがりつくように答えを求めるつかさ。私は何も答えられない。いや、かがみやみゆきさんだって答えられない。
深い関係になっていなかった。少し安心したけど私はつかさを甘く見ていた。ベビーシッターごっこをしていただけだと思っていたけど、つかさはもう大人の階段を昇っていた。
つかさにとってかがみは来ても来なくても良かったのか。告白もしていないから恋愛とは程遠い……だけどそんな淡い恋に真っ直ぐなつかさを少し羨ましく思った。
つかさ「私、ついてはいけない嘘をついていた……それでこなちゃん、お姉ちゃん、ゆきちゃんも騙して恋を実らせようとしてた……うんん、かなちゃんも騙そうとしてた、
きっと罰が当たったよね、こなちゃん、私を嫌いになっちゃったでしょ、きっとお姉ちゃん、ゆきちゃんも……」
自分の欲望の為か……正直に言っていれば直ぐに手伝ったのに。それに奇跡の罰って何なんだよ、こんなの反則だよ。ゲームにもないシチュエーションだ。
かがみやみゆきさんはどうか知らないけど、私はつかさをもっと好きになった。このまま抱きしめたいくらいだ。
だけどつかさは嘘をついた。ついてはいけない嘘を。
しかも私のお母さんへの想いを利用したのは許さない。
こなた「つかさ、私は許さない、だから責任をとってもらうよ」
つかさ「……何をすれば許してくれるの……」
つかさは目を閉じた。覚悟を決めたようだ。
つかさがかなたちゃんにおまじをかけた時分かった。もう終わっていたと思っていた。諦めていた。そして出来ないと思っていた。
だから自分に嘘をついていたってね。
今のつかさなら出来る。奇跡を起こしたつかさなら私を救ってくれる。

188 :変化  14 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:40:31.07 ID:QtQxp9cu0
こなた「お母さんに逢えるおまじない、私にかけて」
つかさ「え、なに言ってるの、そんなおまじないしたって、こなちゃんは亡くなっているのを知っているし……無理だよ、出来ないよ」
こなた「責任を取ってくれるんじゃなかったの?」
つかさは戸惑いながらもシートを広げた。
つかさ「座って……」
私は靴を脱いでシートの上に座った。つかさは目を閉じ私の頭に手を乗せた。ここで呪文のようなのを唱えるはず。しかしいつまでも黙っていた。
つかさの顔を見るとつかさは涙を流していた。
つかさ「こなちゃん、もう止めようよ、こんなの悲しいだけだよ」
私はそれでも黙っておまじないを受け続けた。
明後日を待つ必要はない、おまじないをした結果は分かっている。奇跡は二度も起きない事も。つかさの涙が私の膝に落ちるのが分かる。
私も涙が出てきた。悲しい。そう、悲しかった。だからつかさやみゆきさんのお母さんが羨ましかった。だからかがみの説得で涙が出た。悲しくなかったなんて嘘だった。
お母さんの記憶が殆ど無い私はいつか逢えると心奥底に期待していた。どこかで生きているのではないかと。このおまじないはその淡い期待すら消し去ってくれる。
そう、私はお母さんと本当のお別れがしたかった。お母さんはもう居ないと、とどめを刺して欲しかった。
大事な人と逢わせたおまじない、それは大切な人との別れのおまじないに変わった。
このおまじないは本来こうして使うもの、そうでしょ、つかさ……
私の心の問いに答えるようにつかさは呪文を唱えた。つかさの目から涙が消えた。
つかさも、もう二度と逢えない、片思いの彼とその娘、かなたちゃんにお別れをしている。そんな気がした。

こなた「終わったよ、こなちゃん」
私は立ち上がり靴を履いてシートから離れた。するとつかさはシートを畳んだ。するとつかさはクスクスと笑い始めた。
こなた「何がそんなに可笑しいの?」
つかさ「だって、こなちゃん、大学生にもなっておまじないをかけてって、真顔で言っちゃうんだもん、かなちゃんみたにね〜」
なんかカチンときた。
こなた「そう言うつかさは既婚の男性に手を出そうとするなんて、この先何人の奥さんを泣かすのかな〜」
つかさ「恋するのは自由だよ、ゲームでしか恋の出来ないこなちゃん」
つかさが口答えしている。いつもは私の一方通行で終わっちゃうのに。かがみとは違う新鮮さを感じた。
こなた「そんなに背伸びすると怪我するよ」
つかさ「冒険しないと大人になれないよ」
そうさ、つかさはもう大人さ、また新しい恋をすればいい。その調子ならもう大丈夫だね。
こなた「つかさに言われたくない」
つかさ「こなちゃんに言われたくないよ」
お互い言うことが無くなった。沈黙がしばらく続いた。
こなた・つかさ「ふふふ、はははは〜」
笑った。二人で笑った。なんだろう、今までのわだかまりが流れ去ったように清々しい気分だ。
こなた「さてと、行こうか、かがみとみゆきさんが待ってるよ」
つかさ「そうだね、行こう」



189 :変化  15 [saga sage]:2011/06/27(月) 23:41:50.92 ID:QtQxp9cu0
こなた「ただいま」
そうじろう「おかえり、こなた」
家に帰るとお父さんはすでに帰っていた。仕事が終わったみたいだ。
そうじろう「どうした、何か良いことでもあったのか、そんな楽しそうにし……」
お父さんは話すのを止めて私をじっとみている。
こなた「何か私の顔に付いてる?」
そうじろう「い、いや、ちょっとお母さん、かなたの面影が……こなた、お前も大人になったな……来年はもう二十歳か……」
私は何も変わっていない。つかさに遠く及ばないよ。だけど私にお母さんの何かを感じたと言うのなら……
こなた「それなら、お母さんの話をしてよ」
そうじろう「珍しいな、こなたの方から聞いてくるなんて……」
こなた「出来れば私の生まれる前、お母さんと出会った頃、それから亡くなった時の話が聞きたい」
お父さんは少し顔をしかめた。やっぱり。
こなた「無理ならいいよ、部屋に行くから……」
そうじろう「座りなさい、話す、話すが……少し覚悟して聞きなさい」
私が席に座るとお父さんはお母さんの話を語りだした。流石作家のはしくれ、まるで隣にお母さんが居るみたいにリアルに表現する。いや、私を通してお母さんに
語りかけているみたい。そして、お母さんの亡くなった話は初めてだったせいか、涙無しにはいられなかった。
そうか、そうだった。何故今まで気が付かなかったのかな。
つかさのおまじないはもう一つ奇跡を起こした。 私はお母さんに逢えた。いや、もうずっと前から逢っていた。お父さんとお母さんの話をする度に……
でも今なら私が想えばいつでも逢える。
つかさのおまじないはそれを気付かせてくれた。


 その後、あの一家がつかさの前に来ていない。もしかしたら太郎さんはつかさの恋に気が付いていたのか、今となっては知る術はない。その必要もない。
二度と会わないかもしれないのだから。
つかさはあの事は忘れたように振舞っている。天然で、空気で、いつもかがみの陰に隠れて目立たない。夏休み前と何も変わらない。
皆は奇跡の裏にある本当のつかさを知らない。
いつか話すだろうか。私とつかさだけの秘密になるかもしれない。それはつかさが決めれば良い。その時、私が答えられなかった答えが見つかるといいね。
ちょっと危ないつかさの恋の冒険、でもそれは私達を巻き込み奇跡を呼んだ。そして、私達を変えた。




190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/27(月) 23:42:28.27 ID:QtQxp9cu0
以上です。
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/27(月) 23:58:00.40 ID:QtQxp9cu0
「変化」bQでコンクールエントリーしました。

192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/06/30(木) 23:47:03.23 ID:akTJswLo0
第二十一回コンクールの開催のお知らせ☆


どしどし投稿お願いします。一般作品も随時募集しています。


投稿期間:6月20日(月)〜 7月03日(日)24:00


なお本スレが混んでいる時、何らかの原因で書き込みが出来ない場合、最終日で投稿が重なってしまった場合。
は避難所にも投稿できます。(時間は厳守)
避難所は>>1を参照してください。
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/02(土) 11:31:57.98 ID:OxhATtZL0
----あれ?、どうなってるの----

こなた「うーん、これは思ったよりやばい状況かも」
ひより「え、高良先輩とゆーちゃんの論性っスか、そうですね高良先輩の優勢っスね」
こなた「いや、そっちじゃないよ、コンクールの参加者が……」
ひより「現時点で……2作品ですか……」
こなた「このままだとこの2作品で終わっちゃうよ……」
ひより「確かに2作品は寂しいっスね」
こなた「どうしよう、ひよりん、なんかss考えて投下しちゃってよ」
ひより「いや、いきなりそんな事言われても……それに中の人が一人一作品しか出せないって言ってるっス」
こなた「中の人って誰?」
ひより「中の人はですね、深い事情があって出られないっス」
こなた「うーん、何言ってるのか分からないけど、ひよりんが出せないんじゃ、しょうがないね私が考えるしかない」
ひより「泉先輩も同じっス、中の人は同じですから出せませんよ」
こなた「うーん、どうしようもないね、どうしよう」
ひより「どうしよう……」
こなた「どうしよう……」
……
……
みなみ「まだ1日ある、大丈夫だと思う」
こなた「わぁ!! びっくりした、いきなり出てきて……」
ひより「……そうです、そうっス、みなみちゃんの言う通り、まだ時間はあります、落ち着いていきましょう」
こなた「そうだね、最終日のラッシュに期待と祈りを込めて……」




194 :コンクール作品「あの夏を越えて」 [saga]:2011/07/03(日) 13:40:06.07 ID:eHUo2gyQ0
コンクール作品の投下いきます。
195 :コンクール作品「あの夏を越えて」 [saga]:2011/07/03(日) 13:41:49.32 ID:eHUo2gyQ0
 蝉の声が響き渡り、空には入道雲が浮かぶ、ある真夏の日。
「調子はどうだ?」
 一人の男性が病室に入ると、その妻である女性がベッドの上で身を起こし、窓の外を居ていた。
「大丈夫なのか?寝てなくて…」
「うん…今日はちょっと調子がいいから」
 答えながらも、女性は窓の外を見続けていた。
「…聞いたよ。あの子のこと」
 そして、ポツリとそう呟いた。
「…そうか」
 男性は大きくため息をついた。今日はその事を伝えに来たのだが、知っているのならば特に言うことは無いと思い、ベッドの側に椅子を引き寄せ座った。
「わたしより先にいっちゃうなんてね…」
 女性の寂しげな呟きが、男性の胸を締め付ける。
「あの子には、この夏よりもっと向こうまで行ってほしかった。わたしの分まで、ずっと…そして、できれば守って欲しかったな…」
 続く女性の言葉に、男性は何も言えず、無念そうに顔を伏せるだけだった。



― あの夏を越えて ―



「帰りは遅くなるからな。俺の分の晩飯は用意しなくていいぞ」
「うん、分かってるよ」
 玄関で靴を履きながら、念を押すように言う泉そうじろうに、娘のこなたは軽く頷きながら答えた。
「それじゃ、行ってくるよ」
「ほい、いってらっしゃい」
 軽く手を振るそうじろうに、こなたも軽く手を振りながら答え、ドアを出て行くまで見送った。
 ドアが閉まるのを見てから、こなたは大きく伸びをした。
「さてっと、今日はどうしよっかな?折角の休みなんだし…」
 そして、そう言いながら振り向くと、従姉妹の小早川ゆたかが少し困った顔をして立っていた。
「お姉ちゃん。今日は家事当番だよ」
「…わ、わかってるよゆーちゃん」
 こなたは頬に汗をかきながら、ゆたかに手を振って見せた。それでもゆたかはこなたを信用しきっていないのか、表情を変えずにじっとこなたを見つめていた。
「もしかして、前にさぼったのまだ怒ってらっしゃいます?」
「らっしゃいます。あの日はわたしも用事あったんだからね」
 ゆたかは不機嫌そうにそう言うと、こなたに背を向けて自分の部屋に戻った。
「んー、なんとかご機嫌取りしないとなー…とりあえず、今日は真面目にやろうかな」
「デスネー。モンクいいながらカジするユタカ、ハジめてミましたヨ」
 独り言に返事が返ってきて、こなたは驚いて後ろを振り向いた。そこにはジョギングから帰って来た居候の留学生、パトリシア・マーティンがタオルで汗を拭きながら立っていた。
「何時の間にいたのパティ…びっくりしたよ。ってか、こんな暑いのによく走れるねえ」
「カラダはシホンですヨ、コナタ」
 さほど疲れた様子も見せずにパティは靴を脱ぐと、玄関を上がりシャワーを浴びるために二階にあるバスルームに向かおうとした。
「あ、そうだパティ。お昼何か食べたいのある?」
 そのパティを呼び止めるようにこなたがそう聞くと、パティは振り向いて両手を大きく広げた。
「オソーメンたべたいデス!」
「オッケー…ま、簡単でいいよね」
 オーバーアクションのパティに、こなたは苦笑しながらそう答えた。
「しっかし、ホント今日も暑いねー」
 自然ににじみ出た汗を服の袖で拭う。朝からひっきりなしに蝉の声が聞こえる。外に出ればきっと溶けそうな位眩しい日差しが降り注いでいるだろう。文句のつけようのない真夏日だ。
 こなたは大きく伸びをして、とりあえずキッチンで洗い物をしようと階段に足をかけた。
「…ん?」
 そして、ふと覚えた違和感に足が止まる。こなたは玄関の方を向いた。
 なにかがいる。玄関には誰もいないはずなのに…実際目に写っているのは何もおかしい所のない玄関なのに、なにかがいるという感覚を覚える。
「…気のせい…だよね」
 こなたは自分に言い聞かせるようにそう呟くと、軽く頭を振って階段を上り始めた。



196 :コンクール作品「あの夏を越えて」 [saga]:2011/07/03(日) 13:42:37.80 ID:eHUo2gyQ0
 正午過ぎ。昼食のそうめんをすすりながら、しきりに廊下に続くドアの方を気にしているこなたを見て、ゆたかは首をかしげた。
「お姉ちゃん、ドアがどうかしたの?」
 そう聞いてみると、こなたはなにか考えるように少しうつむき、すぐに顔を上げてパタパタと手を振った。
「なんでもないよ、ゆーちゃん」
 変なお姉ちゃん。ゆたかはそう心の中でつぶやいて、小皿にそうめんつゆを追加しようとして、瓶の中が空なのに気がついた。
「おつゆ、冷蔵庫にあったっけ。取ってくるね」
 ゆたかはそう言って席を立ち、冷蔵庫の方に向かった。
「…あっ!」
 そして、ドアの前を通り過ぎようとしたときに、こなたがそう声を上げた。ゆたかが立ち止まりこなたの方を見ると、こなたはしまったという風に口を押さえていた。
「どうしたの、お姉ちゃん。さっきから変だよ?」
 ゆたかがそう聞くと、こなたは困ったように頬をかいた。
「あー…その、なんていうか…えっと…ゆーちゃん、その辺りさ…なにか変じゃない?」
 こなたにそう言われて、ゆたかは自分の周りを見回したが、特におかしなところは見当たらなかった。
「…?別になんともないけど…」
「そ、そっか…だったらいいいんだよ、うん。きっとわたしの勘違いだよ」
 やっぱり変だ。ゆたかはこなたが何かを隠してるように感じたものの、特に追求するような理由もないのでそれ以上は何も言わないことにした。



 昼食後。こなたはそうじろうの部屋で掃除機をかけていた。
 その最中に、手を止めため息をつく。
「…ゆーちゃん、怪しんでるだろうなあ」
 思わずそう呟いてしまう。
 部屋を見回しても、玄関で感じた何かが居るという感覚は無い。少なくとも、この場にはその何かは居ないようだ。
 こなたは昼食の間中それを感じていた。何かは部屋のドアの前で、じっとこちらを見ていた…ようにこなたは感じていた。
 だから、ゆたかがその側を通りかかった時に、思わず声が出てしまったのだ。
 こなたはもう一度ため息をついた。一緒に昼食をとっていた、ゆたかとパティは何かに気がついている様子は無かった。
 自分一人だけが感じる奇妙な感覚。話したところで信用してもらえるとは思わず、下手をすると頭がおかしいのではないかと疑られそうだ。
「…良く考えたら、そっちのほうがいいかもね」
 自分一人がおかしいのなら、それはそれだけで終わってしまう話だ。
 ふと、こなたは部屋の中央にある座卓の上に、携帯電話が置いてあるのを見つけた。
「あれ、お父さんのだ…忘れてっちゃったんだね。しょうがないなー」
 こなたは苦笑しながら、掃除を再開した。
 



197 :コンクール作品「あの夏を越えて」 [saga]:2011/07/03(日) 13:43:16.41 ID:eHUo2gyQ0
「やっぱり、お姉ちゃん変だったよね?」
 自分の部屋で机に向かい勉強をしながら、ゆたかは床に仰向けに寝転んで漫画を読んでいるパティにそう聞いた。
 パティは漫画をたたんで横に置き、上体を起こしてゆたかの方を向いた。
「おヒルのトキのですカ?…んー、ごハンのマエからなにかキにしてましたネー」
 パティは腕を組み目を瞑って考え込んだが、すぐに顔を上げて首を少しかしげた。
「…コナタにしかミえないナニカがアソコにいたのでしょうカ…」
 おどろおどろしげの言うパティの言葉に、ゆたかは顔をしかめてシャーペンを置いた。
「怖いこと言わないでよ、パティちゃん…」
 そして、情けない声を上げながら、椅子を回してパティのほうを向いた。
「ソーリーです…デモ、そういうのはコナタにチョクセツきいたほうがいいとオモいますデスヨ」
 そう言いながらパティは立ち上がり、部屋の出口へと向かおうとした。
「あ、ちょ、ちょっと待って」
 それを見たゆたかが、慌ててパティを引き止める。
「ドウカしましたカ?」
 パティは動きを止め、首だけをゆたかの方に向けた。
「え、えっとね…普通に聞いても、素直に答えてくれないと思うの。ホントに何か変なものが見えてるなら、わたし達を巻き込まないように嘘つくと思うんだ…こなたお姉ちゃん、そういうところ優しいから」
「…オーケー、わかりマシタ。それではナニかタイサクをたてるとして…フクからテをハナしてくだサイ。ノびちゃいますヨ」
 パティの言葉を聞いて、ゆたかの背筋を冷たいものが走った。自分の両手は何も掴んではいない。そもそもゆたかの座っている場所からパティには、手が届かないのだ。
「パティちゃん…わたし、掴んでないよ…」
 震える声でゆたかがそう言うと、パティの顔色が青くなった。
「…デ、デハ、コレはナンですカ…?」
 そして、そう呟いた後、パティは糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。
「パティちゃん!?」
 ゆたかはパティの側に行き、その体を抱き上げた。呼吸はしているし、心臓も動いているようだ。
「パティちゃん!どうしたの!?パティちゃん!」
 しかし、いくら呼びかけても返事をせず、光を失った目はゆたかの方を見ようとはしなかった。
「…や、やめてよ、パティちゃん…ホントに、こんな冗談…やめてよ…」
 突如として起きた異変に、ゆたかはただパティの体を揺さぶり続けることしか出来なかった。



198 :コンクール作品「あの夏を越えて」 [saga]:2011/07/03(日) 13:43:55.96 ID:eHUo2gyQ0
 二階の掃除を終えたこなたは、続いて一階の掃除をしようと階段を降りていた。そして、最後の一段を降りたところで『パティちゃん!?』と叫ぶ、ゆたかの声が聞こえた。
 何かよくない事が起きた。こなたはそう直感し、持っていた掃除機を投げ出し、ゆたかの部屋の前まで走った。そして、ドアに手をかけたところで、動きを止めてしまう。
 アレが中に居る。そう感じたこなたはしばらくドアの前で躊躇していたが、中にはゆたかやパティが居ることを思い出し、意を決してドアを開けた。
「ゆーちゃん!パティ!」
 中にいるはずの二人に声をかける。ゆたかは床に座り込んで、パティの体を膝の上に抱えていた。
「…こなたお姉ちゃん…パティちゃんが…パティちゃんが…」
 こなたに気づいたゆたかは、顔だけを向けてそう呟き、そのまま泣きじゃくり始めた。
「どうしたの、ゆーちゃん?パティに何かあったの?」
 こなたはそう聞きながら、ゆたかが抱いているパティの顔を覗き込んだ。
「…え」
 そして、パティの生気の無い目を見て絶句してしまう。
「ちょ、ちょっと、なにこれ…何の冗談?」
 こなたがそう言いながらゆたかの方を見ると、ゆたかは力なく首を横に振った。
「わからないの…パティちゃんが服を掴まれたって言って、それで急に倒れて…」
 こなたはとっさに部屋にいる何かの方を見た。きっとあいつがパティに何かをしたに違いない。しかし、それが分かったとして、一体どうすればいいのかは見当もつかなかった。
「…お父さんを…」
 呼ぼう。そうこなたは言おうとしたが、そうじろうが部屋に携帯を忘れていたことを思い出し、言葉を切った。そして、少し考えた後こなたはゆたかのほうを見た。
「呼びに行って、ゆーちゃん」
「…え」
 その言葉に、ゆたかは驚きの表情を見せた。こなたは手近にあったメモ帳に、とある駅名とその近くにある喫茶店の店名を書き、そのページをちぎってゆたかに手渡した。
「お父さん、携帯持って無くて連絡がつかないんだよ。何時もここで編集さんと打ち合わせしてるから、連れてきて」
「そ、それならお姉ちゃんが…」
「わたしは…」
 こなたは視線をゆたかから何かに移した。
「…あいつを見てるから。これいじょうパティに何もしないように…それに、ゆーちゃんが行った方がお父さん信じると思うんだ」
 そう言って、こなたは苦笑した。
「そんなこと…でも、うん…わかった」
 その表情を見て、ゆたかはぎこちなく頷き、メモを握り締めた。そして、抱いていたパティをこなたに託し、こなたの見ている方を警戒しながら、部屋を出て行った。
「ゆーちゃんは物分りが良くて助かるよ…さて、どうしたものかな…」
 部屋の中の何かは動く気配を見せない。こなたはとりあえずパティをベッドに寝かせて、その側の床に座った。
「…どうしよう…」
 こなたの口から、不安げな呟きが漏れた。ゆたかの前では押さえていた恐怖がじわりとにじみ出てくる。そして、膝を抱えて顔をうつむかせたが、別の異変に気がつき顔を上げた。
「なんで、こんな静かなの…?」
 外から聞こえてくるはずの音が無い。家の前を走る車の音。近所の人の声。なにより、うるさいくらいの蝉の声。それらが何一つ聞こえてこなかった。
 こなたは立ち上がって窓に向かい、ロックを外して開こうと手をかけた。
「開かない…?な、なんで…」
 いくら力を込めても窓はびくとも動かない。どころかガタガタと揺れることすらなく、まるで絵に描かれた窓を開けようとしているようだった。
「お姉ちゃん!」
 それでもこなたが窓を開けようとしていると、部屋にゆたかが飛び込んできた。
「玄関が…玄関が開かないの!」
 こなたはそのゆたかの言葉に顔を青ざめさせる。そして、部屋にあったゆたかの椅子を掴むと窓に向かった。
「…ゆーちゃん、ごめん」
「え?」
 こなたは椅子を両手で持って振り上げ、思い切り窓に叩きつけた。しかし、椅子は派手な音をたてて窓に弾かれ、部屋の中央に落ちた。
「…そんな…」
 こなたは衝撃でしびれた手を唖然と見つめた。この家に閉じ込められた。不安と恐怖が大きくなり、ゆたかの前だからとなんとか整えていた体裁すらも失いかけていた。
「い、いやーっ!」
 横に居たゆたかが突如悲鳴を上げ、こなたは驚いてそちらを見た。
「や、やめて…やめてよ!引っ張らないで!」
 ゆたかは半狂乱になって、自分の服の裾を手で払っていた。こなたは、パティが服を引っ張られた後倒れたと言うゆたかの言葉を思い出し、なんとかしないとと思ったが、何も思いつかずすがり付いてくるゆたかを見つめることしか出来なかった。
「助けて!…お姉ちゃん、たすけ…」
 そして、ゆたかはそのままずるずるとその場に倒れ伏した。
「ゆ、ゆーちゃん…」
 ゆたかはパティと同じように虚ろな目を開いたまま、ピクリとも動かなくなっていた。こなたの体を恐怖から来る悪寒が這い上がる。
「い、いやだ…いやだー!」
 こなたは叫び、部屋から転がるように逃げ出した。



199 :コンクール作品「あの夏を越えて」 [saga]:2011/07/03(日) 13:44:43.06 ID:eHUo2gyQ0
 こなたは家の中の部屋と言う部屋を回り、あらゆる外と繋がる窓を開けようと、あるいは壊そうとしたが、どこも開くことも壊れることも無く、ただ疲労と恐怖が重なっていくだけだった。
 最後にこなたが辿り着いたのは、そうじろうの私室だった。テーブルに残されたままの携帯を見つめ、こなたはその場に座り込んだ。
 そして、ズボンのポケットに自分の携帯が入っていることを思い出し、アドレス帳に並ぶ友人や親戚に片っ端から電話をかけようと試みた。
 しかし、電話は繋がらないどころか呼び出し音すらならず、まるで故障しているかのように沈黙していた。
「どうして、どうして繋がらないの…助けて…誰か助けてよ…」
 こなたは祈る様に携帯を握り締めた。すると、突然携帯が着信音を鳴らした。ディスプレイを見ると友人の柊かがみの名前が出ていた。こなたは震える手で通話ボタンを押した。
「か、かがみ…?」
『あ、こなた?…なによ、繋がるじゃない』
 電話の向こうから、かがみのどことなく呆れたような声が聞こえ、こなたは安堵感から涙を流していた。
『なんかね、日下部からアンタに電話が繋がらないから、代わりにかけてみてくれって言われてね…なんか用事あるみたいだから』
「た…たすけて…助けて、かがみ!」
 かがみの言葉を遮って、こなたはそう叫んでいた。
『な、なに?声、大きいわよ…』
「家から出られないの!ゆーちゃんとパティが!助けて!助けてよ!」
『ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ。意味がわからな…え、なにお父さん?…切れって…待ってよ、まだ話の途中…え、あ、ちょ』
 プツッと音が切れ、携帯は再び沈黙してしまった。
「かがみ…?かがみ…かがみ!」
 こなたはかがみに電話をかけてみようとしたが、先ほどと同じように携帯はまったく反応を示さなかった。
「…そんな…」
 絶望感に包まれ、こなたは携帯を床に落とした。そして、何時の間にかあの何かの気配が部屋の中にいることに気がついた。
「…いやだ…こないで…いやだよぉ…たすけて、お父さん…」
 こなたはこらえきれず、手で顔を覆って泣き出した。
「ひっ!?」
 涙の伝うこなたの頬を、生温かな何かが撫で上げる。
「やめて…もうやめてよぉ…」
 こなたは泣きじゃくりながらそれを振り払おうとするが、もがく手は空を切るだけだった。



200 :コンクール作品「あの夏を越えて」 [saga]:2011/07/03(日) 13:45:09.84 ID:eHUo2gyQ0
 辺りを染める夕焼け。そして、ひぐらしの鳴く中をそうじろうは自宅に向かい歩いていた。
「…思ったより早く終わったなあ」
 夕飯はなにか適当なものを作るとして、冷蔵庫に何が残っていただろうか…そうじろうはそんな事を考えながら角を曲がり、そこで立ち止まった。
 目の前にある一本の電柱。その側に何かがいるような気がする。何も見えないと言うのに、何かがいるという感覚をはっきりと感じていた。
「君は…誰だ?」
 そうじろうはその何かに思わずそう聞いていた。なんとなく、それが人であるような気がしたのだ。そして、同時にひどく懐かしい感覚をその何かに感じていた。
 しばらくその何かのいる辺りを見つめた後、そうじろうは家に向かって走り出した。
 早く家に帰って欲しい。何故かは分からないが、そうじろうはその何かがそう訴えかけているように感じたのだ。

 その場を離れる直前。そうじろうは懐かしく、そして愛おしい声が聞こえた気がした。



 泉家に辿り着いたそうじろうは、呼吸を整え門をくぐり、玄関のドアノブを握った。
「…あれ?」
 しかし、ドアノブはびくともしない。鍵がかかっているとしても、ノブが回らないというのはおかしい。そうじろうは鞄から家の鍵を取り出し、鍵穴に差し込んで回そうとしたが、それもまったく回る気配はなかった。
「どうなってるんだ、これは…」
 どうにかならないものかと、鍵やドアノブを動かそうとしていると、背後でチリンと自転車のベルの音がなった。
 そうじろうが振り向くと、かがみが自転車から降りてスタンドを立てていた。
「かがみちゃん…どうしたんだい?こなたに会いに?」
 門をくぐって歩いてきたかがみにそうじろうがそう聞くと、かがみは軽く頭をかいた。
「んー、まあそんか感じなんですけど…お父さん、遅いよ!」
 かがみは道路の方を向いて、そう大声を上げた。そうじろうがそちらを向くと、一人の男性が自転車から降りてよろよろとこちらに歩いてきていた。
「…かがみが速いんだよ…お父さん、歳なんだから…」
「何言ってるのよ。こなたんちに行こうって言ったのお父さんでしょ?」
 息も絶え絶えな男性に、かがみが愚痴っぽく呟く。
「急に携帯取り上げて切ったと思ったら、これだもの…何がどうなってるのよ」
「…しょうがないよ。あのまま話してたら、繋がってしまったかもしれないからね」
 息を整えた男性が玄関の前に立ち、家全体を見回す。
「…かがみちゃん、こちらの方は?」
 そうじろうがかがみにそう聞くと、かがみは首を少しかしげた。
「あ、おじさんは会ったこと無かったっけ…わたしの父のただおです」
 そう言えばさっきお父さんとか言ってたっけ…そうじろうがそんな事を思っていると、ただおがこちらを向いて顎に手を当てて考えるような仕草をした。
「どういう状況なんでしょうか…えーと」
「あ、泉こなたの父で、そうじろうと言います」
 そうじろうがそう言いながら軽く頭を下げると、ただおも同じように頭を下げた。
「どうも、柊ただおと申します…娘がいつもお世話になっているようで」
「いえ、こちらこそ…」
「そんな挨拶はいいから、早くしてよ」
 頭を下げあう二人を、かがみがそう急かす。
「そ、そうだね…えーっとそうじろうさん。それで、どういった状況なのでしょう?」
 ただおに改めてそう聞かれ、そうじろうは頭をかいた。
「いや、それが私も今帰って来たところで…とりあえず、ドアが開かなくて家に入れないといったところなんですが…」
「なるほど」
 ただおは頷くと、再びドアの前に立った。
「…強力だけど単純…というか雑だねえ…人間じゃないかもしれないね…」
 そう呟きながら、ただおは右手でドアを払うような仕草をした。
「これで大丈夫かと。入ってみてください」
 そして、そうじろうの方を見てそう言った。
 そうじろうが恐る恐るドアノブを握り回してみると、先ほどのことが嘘のようにあっさりと回りドアが開いた。
「これは一体…」
「まあ、見ての通り…といった理解で十分ですよ。悪意は感じませんから、あまり警戒する必要はないでしょうな」
 ただおはそう言って、家の中を見た。
「そう…ですか」
 そうじろうはただおに頷いて家の中へと入り、ただおとかがみがその後に続いた。



201 :コンクール作品「あの夏を越えて」 [saga]:2011/07/03(日) 13:46:05.45 ID:eHUo2gyQ0
「こなたー…ゆーちゃーん、パティちゃーん」
 家に入ったそうじろうは、家にいるはずの娘達の名を呼びながら、一階の部屋を回った。こういう時、いつもなら誰か一人くらいは返事が返ってくるのだが、それが無い事にそうじろうは不安を感じていた。
 そして、ゆたかの部屋に入ったそうじろうは、床に倒れているゆたかを見て慌ててその体を抱き上げた。
「ゆ、ゆーちゃん!?どうしたんだ!?」
 声をかけながら揺さぶっても、まったく反応が無い。
「安心してください。少しずらされているだけですから…あちらのお嬢さんも」
 後ろに立っていたただおが、そう言いながらベッドの方を指差した。そうじろうがそちらを見ると、パティがベッドの上に寝転んでいた。
「ずらされている…ですか?」
「ええ…まあ、あまり深くは考えないようにしてください」
 ただおはそう言いながらゆたかの体を床に下ろさせ、ゆたかの額を右手の人差し指で軽く小突いた。そして、パティのほうに向かい同じようにその額を小突く。
「…う…ん?」
 少し呻きながら、ゆたかが首を振る。その目には先ほどまでとは違い、しっかりと生気が戻っていた。
「ゆーちゃん、大丈夫かい?」
「あ…おじさん…わたしどうなって…あ、パティちゃんは?」
 ゆたかの言葉にそうじろうがベッドの方を向くと、パティもゆたかと同じように生気を取り戻した目で部屋を見回していた。
「よかった…そうだ、お姉ちゃん…こなたお姉ちゃんが…」
 そう言いながらゆたかは立ち上がろうとしたが、体をふらつかせその場に座り込んだ。
「体力を消耗しているようですから、少し休ませておいた方がいいでしょう」
 ただがそう言いながら、天井を見上げた。
「あとは、上ですかな…」



 ゆたか達を部屋で休ませてる間に、三人は二階に上がりそうじろうの私室へと入った。
「…こなた」
 そこには、部屋の中央で膝を抱えて座り込んでいるこなたがいた。そうじろうは部屋に入ろうとして足を止めた。こなたの側に何か…帰り道で気配を感じたものとは違う何かがいる気がした。
「どうやら、アレが原因ですな」
 ただおも同じ事を感じているのか、そう言って一つ頷いた。そして、まだ廊下にいるかがみのほうを向いた。
「かがみ、そっちの隅に立てなさい」
 そう言いながらただおは、部屋の角の辺りを指差した。
「え、なんで?」
「今は、そういう役割だよ」
「…はいはい」
 かがみは諦めたようなため息をついて、指示に従い部屋の隅に移動した。
「あの、いったい…」
「ああ、あまり気にしないで。こういうときの作法のようなものですから」
 不安そうなそうじろうにただおはそう答え、部屋の中のこなたのほうを向いた。
「娘さんは、特に何もされていないみたいですな」
 ただおはこなたに近づき、その側にいる何かに向かい右手を差し出した。
「君は分からないかもしれないが、悪意が無くとも人に迷惑をかけることもあるんだ…とりあえず、今日は帰ってもらうよ」
 そして、その手を払った。何かの気配が、ゆっくりと霧散していくのをそうじろうは感じた。
「…おとう…さん?」
 周りの気配を察したのか、こなたが顔を上げ周りを見回した。そして、そうじろうの姿を見つけると、四つんばいでその側に向かった。そうじろうはこなたに駆け寄ってその小さな体を抱きとめた。
「おとうさん…怖かったよぉ…」
 胸に顔を埋めて、子供のように泣きじゃくるこなたの髪を、そうじろうはあやすように撫でる。
「…アレは一体なんだったんでしょうか」
 こなたをあやしながら、そうじろうはただおに向かいそう聞いた。
「犬…だと感じましたが、何か心当たりはありますかな?」
「犬ですか…犬…まさか…」
 そうじろうは帰り道に会った、懐かしい気配と分かれたときに聞いた言葉を思い出していた。

『そう君…あの子は、まだあの夏にいるわ』




202 :コンクール作品「あの夏を越えて」 [saga]:2011/07/03(日) 13:47:05.63 ID:eHUo2gyQ0
 数日後。暑さの増す夏の盛り。かがみとつかさが泉家の門前に立っていた。
『はーい、すぐ出ますー』
 インターホンからそう聞こえた後、玄関からゆたかが顔を出した。
「あ、かがみ先輩、つかさ先輩、こんにちは」
「こんにちは、ゆたかちゃん。こなた達は?」
「えっと、まだ戻ってきてませんね」
「ああ、そうなんだ…ちょっと早かったかしら」
 かがみは首を傾げて、つかさの方を見た。
「…だから、そう言ったのに」
 不満そうにそう言うつかさに、かがみは苦笑いを返す。
「悪かったわよ…ゆたかちゃん、ゴメンだけど中で待たせてもらっていいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
 かがみの言葉に頷き、ゆたかは二人を家の中に招き入れた。



「グレイトですヨ!おフタリさん!」
 居間に入ってくるなり、パティはそう言いながらソファーに座っているかがみとつかさに向かって親指を立てて見せた。
「えーっと…褒められてるのかな?」
「だと思うんだけど…別にオタク趣味を満足させるために、この格好で来たわけじゃないわよ」
 つかさは苦笑しながら、かがみは呆れた表情でそう呟いた。
 二人は巫女装束を…それもバイトの時に着るような簡易的なものではなく、神事に用いる正式な巫女装束を着込んでいた。
「ワカってますヨ。キョウの…えっと、ナンでしたでしょうカ?」
「え、えっと…確か神様がなんとか…」
 パティに急に聞かれ、ゆたかは少し慌てて答えようとしたが、はっきりとした答えは知らないようだった。
「守神(もりかみ)よ。この前みたいなことが無いように、正式にこの家に迎えるの」
 かがみが呆れたようにそう言うと、ゆたかとパティは罰が悪そうに頭をかいた。
「わたし達もあんまり良く知らないんだけどね…お父さん、わたしたちに役割は振るけど、それがどういうことなのか教えてくれないから」
 横からつかさがフォローするようにそう言うと、かがみが頷いた。
「そうね…まあ、お父さんが言うには、あんまり知りすぎちゃダメらしいんだけどね」
 そして、出された冷たいお茶を一口飲んでため息をつく。
「あの…それで、この前のアレって一体なんだったんですか?」
 ゆたかがかがみにそう聞くと、かがみは少し考えるように頬をかいた。
「あれ、聞いてなかったの?」
「はい…なんか聞きづらくて…」
「アレは、そうじろうさんの知り合いだったみたいね…」
 かがみはそう前置きし、とある夏の話をし始めた。



 その病院には一匹の野良犬が住み着いていた。
 本来なら衛生上好ましくないことなのだが、元々が躾の良い飼い犬だったのか、特に悪さをすることも無く建物の中に入ることも無く、それに患者の精神的な助けになることもあったので容認されていた。
 その病院にとある女性が入院してきた。重い病を患った女性は満足に出歩くことも出来なかったが、体の調子のいい時には夫に車椅子を押され、病院の庭を散歩していた。
 犬はその女性の何が気に入ったのか、散歩にいつも付き従うようになった。まるでお姫様を守る騎士のように、車椅子の前を堂々と歩くその姿は、いつしか病院のちょっとした名物になっていた。
 しかし、女性が入院して数ヶ月が過ぎて迎えた夏。その犬は病院の前の道路で車に引かれ死んでしまった。
 そして、女性もまたその夏を越えること無く他界してしまった。



203 :コンクール作品「あの夏を越えて」 [saga]:2011/07/03(日) 13:48:01.20 ID:eHUo2gyQ0
「…わたしを、お母さんと間違えてたのかな」
 病院の庭の隅。単純ながらもしっかりと作られた犬の墓の前で、こなたはそう呟いた。
「どうだろうな…覚えてないだろうけど、こなたもあいつと会ってるからなあ」
「そうなの?」
 自分の呟きに答えるそうじろうに、こなたは驚いた表情を見せた。
「ああ、赤ん坊だったお前とな…ぐずって泣いてるお前の頬を舐めてあやそうとしてたけどな、気持ち悪がって余計に泣いてたよ」
 そういいながら、懐かしそうな表情を見せるそうじろう。こなたはその顔も見ながら、あの日のことを思い出したいた。
「あやそうとしてたんだ、あれ…」
 赤ん坊の頃と変わらないリアクションをしていた。そう思うとなんだかおかしくなって、こなたはクスリと笑った。
「守ろうとしてくれてたんだよね」
 そして、お墓に向かいそう言うこなたに、そうじろうは頷いた。
「すこし…というか、だいぶ乱暴なやり方だったけどな」
「だねえ」
 苦笑するそうじろうに、こなたも同意する。
「そろそろ、始めてもよろしいですかな?」
 二人の後ろに立っていたただおがそう言うと、そうじろうは頷きこなたと共に脇へ寄った。その場所に、巫女装束を着たただおの娘のいのりとまつりが小さな神輿を置く。
「…暑いし、重い」
「文句言わないの。この後、泉さんの家までこれを運ぶんだからね」
「マジで…?車とか使おうよ…」
「それじゃ神事にならないでしょ」
 文句を言うまつりと、それを諭すいのり。
「…なんだか悪い気がするんですが」
 それを見たそうじろうが、困ったように頬をかきながらそう言うと、ただおが軽く声を上げて笑った。
「心配いりませんよ、これも役割ですから。まつりも、文句は言っても心得てはいますから」
「そう、ですか」
 そうじろうはそれ以上は何も言わず、神事を見守ることにした。
「…ねえ、お父さん」
 そうじろうと同じように神輿の方を見ていたこなたが、声をかけながら服の裾を引っ張った。
「ん、なんだこなた?」
「その犬ってさ、どんな犬だったの?」
「そうだなあ…」
 こなたの問いに、そうじろうは空を見上げた。それに習うようにこなたも空を見上げる。
「あの入道雲みたいに、大きくて白い犬だったよ」


 抜けるような真夏の青い空。漂う入道雲。鳴り止まない蝉の声。
 その中を、新たな家族を迎える祝詞が朗々と響き渡る。

 あの夏を越えて、どこまでも。



― 終 ―
204 :コンクール作品「あの夏を越えて」 [saga]:2011/07/03(日) 13:49:03.56 ID:eHUo2gyQ0
以上です。

時間が無くて最後の方が少し雑になった気が…。
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/03(日) 15:01:48.81 ID:B6JXw60i0
「あの夏を越えて」3でコンクールエントリーしました。

やっと三作品目、ちょっと嬉しいかった。お疲れ様です。
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/07/03(日) 19:03:33.15 ID:1nbwpztA0
>>204 乙です



現時点で3作品…。
かなり危機感を感じますね…
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/03(日) 20:01:55.34 ID:B6JXw60i0
コンクール主催者です。

0時付近まで来られないのでもしコンクール作品が投下されましたら>>158
参照にしてまとめて頂けると助かります。

208 :4×2=?(声ネタを自重しないものとする) [sage]:2011/07/03(日) 22:01:54.42 ID:gD7Vc5yAO
コンクール作品投下いきます。


目の前のこの光景は何なのだろう。
田村さんとその先輩達、それと双子の姉が盛り上がっていて、こなちゃんがハブられている。変なの…こういうの、ヲタク談義って言うんだろうか、そういうのだったハズなのに…
「ねぇゆきちゃん。なんでこうなったんだろうね」
「何故なんでしょうね?泉さんが何かネタ…というような台詞をかがみさんにふったのが発端だったのはわかりますが」



4×2=?(声ネタを自重しないものとする)


209 :4×2=?(声ネタを自重しないものとする) [sage]:2011/07/03(日) 22:03:45.20 ID:gD7Vc5yAO
ある日曜日。私達四人(ひーちゃんはデート、日下部さんはサークルでいない)はゆきちゃんお奨めの喫茶店に来ていた。

「そんで、みさきちがレポート表紙つけ忘れてさ」
「あぁ、私もやったわ。大学指定レポート表紙でしょ?こっちはレポートなんて初めてなんだから大目に見て欲しいわよね」
「だよね〜、引用部の書き方とかめんどいしさ。みゆきさんも大変じゃない?」
「そうですね。書き間違えると一枚全て書き直しですから、参考文献の処も気が抜けません」
「あれ、そういうのって、パソコン使うんじゃないの?」
「「「………つかさ(さん)、世の中には、手書きしか認めない堅物教授もそんざいするんだ(の)(です)よ」」」
何か触れてはならない事だったみたい。あれ、でもみんな違う大学……どんだけ〜。

「ここだここ。紅茶専門店」
「だから言ったんだよ、たまきに道案内させるなって」
「でも言い出しっぺも店知ってるのも山さんなんだけど」
「まぁまぁ、奢りなんだからいいじゃん。ひよりんの」
「私っスか?!あれ、泉先輩達?」
「おやひよりんじゃない」
別のお客さんが来たと思ったらひよりちゃんだった。他の人達は…あれ、ゆたかちゃん達じゃないんだ。他に友達居たんだ。意外。
「あ、泉先輩じゃないですか。この前はどうも」
「あ〜、こないだコスプレしてきたOGさんか」
「てことはあのラブレターの人もいるのかな?」
「…今のでわかったわ。陵桜のアニ研の人達ね」
「かがみさん、ラブレターって何の話でしょうか?」
ゆきちゃんにはそういえば話してなかったっけ。というかこの人達はアニ研の人達なんだ。
「…とりあえず、みんな座らない?先輩達に自己紹介しなきゃなんないし、ついでに店の人の視線も痛いから」


自己紹介も注文も済んで、一段落。
「じゃあ、別にヲタクのイベントが近くであった訳じゃないんだ」
「まぁ山さんのリラッタヌグッズ買うのの付き添いですけどね。皆さんは?」
「ああ、私達は「くっくっく、タダじゃ教えられないねぇ」…またアンタは」
「タダって、何なら言いんです?トーストにジャムとマーガリンをつけましょうか?」
「たまき、それ店のサービス以下だから。で、一体何ですか要求は」
思えばこの一言を言ったのがこなちゃんの運のツキだったと思う。

210 :4×2=?(声ネタを自重しないものとする) [sage]:2011/07/03(日) 22:06:07.69 ID:gD7Vc5yAO
 

「かがみと契約して魔法少女になってよ」


…沈黙が訪れていた…何言ってるのこなちゃん。
その沈黙を破ったのは八坂さんだった。
「とりあえずひよりん、ティロフィナーレしよっか」
「いやいや、髪からすれば私はほむほむっス」
「黙れ、黙ってマミれ」
「じゃ毒さんはおりこね」
「漫画のキャラなの私」
…私とゆきちゃんは未だ沈黙中。えっと、魔法少女?契約?何の話?
そんなことを考えていたら、お姉ちゃんがある言葉を発した。
ひよりちゃん曰く「この瞬間、『ダメー!』と叫べば良かったかも知れないっス」とのこと。
「…アンタは毎度毎度…この前は人にランドセル背負った蝸牛やれと言ったと思ったら…おっけぃ、こなた」


「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」


全員が退いていた…こなちゃんなんか顔面蒼白だった。お姉ちゃんの顔、すごく怖い。お姉ちゃんの堪忍袋の緒が切れちゃったみたい。
「おぉ、ヤンデレだ」
「ヤンデレだね、結局、ロシアまで追うヤンデレ」
「かがみ先輩、義手義眼になっちゃいますよ。ひよりん、鮭弁当買って来な」
「超了解っス。ついでに超鯖缶買ってきます」
「急げ、先輩がせん/ぱいされる前に」
…超鯖缶って何?
あれ、アニ研の子達は退いてない…普通にしてる。あ、お姉ちゃんが息を吐いた。
「…助かったわ。理解してもらえて」
「いやいや、魔術側の方が好きなんで反応遅れてすいません」
「やさこ、科学側苦手だっけ?」
「あ、滝壺誰かやらなきゃ」
「毒さんやりなよ。私フレンダしちゃったし」
「え、なら私浜面?」
「だいじょうぶ、そんなやさこをわたしはおうえんしてる」
「そこは応援しないで」
「えっと…つまりはかがみんのアレ、何かのネタだったの?」
「何かって…禁書の麦野ですよね」
「そう。こなたの暴走が酷い時のために使おうと思ってたんだけど…予想以上だったわ。まぁ…」
こいつはアニメを選んだじゃないの…ドラマCDじゃなくて。
211 :4×2=?(声ネタを自重しないものとする) [sage]:2011/07/03(日) 22:12:30.57 ID:gD7Vc5yAO
ってよくわからない台詞をお姉ちゃんは呟いた。
ドラマCD?アニメ?
「出てない私達への挑発ですかそれは」
「やさこはゲーム出てるじゃんか…はっ」
「どしたたまき。ろくでもない事思い出したみたいだけど」
「かがみ先輩が今生きていると言うことは…世界は泉先輩の手で滅びる!」
…はぃ?こなちゃんが世界を?なんで?
「…山辺さん。蝸牛ひっぱるのやめてくれない」
「世界の危機だ。しかも滅亡確定の」
「山さんー、帰ってこ〜い」
「今すぐ過去に飛ばないと。さぁキスショットさん!」
「へっ、わ、わたし?キスショット?誰?」
「先輩、そこは『元』をつけるとかしないと。それにかがみ先輩が二十歳になるまでは無事っス」
「あと一年くらいだけど…というか私をトラックに引かせて[ピーーー]気?それにこなたアニメでしか知らないから。だから化物語しかわからないわよ」
「…え〜。ならミスドとかも」
「通じないわよ」
「携帯食も家のあちこちにしかない存在の跡も」
「それ羽川さんネタじゃないむしろ」
「風呂場での千枚通しも」
「月火よねそれ。いや和解シーンだけどさ」
「撫子にフルボッコされるのも」
「え、何それ。新作のやつ?ちょっと私まだ読んでないんだけど!」

…こんな感じで今に至る。誰かこなちゃんに助け舟出さないかな。私やゆきちゃんが話しかけたら
「…」
と無言だった。

「何か調子狂っちゃうね」
「ま、まぁ、かがみさんも以前『ラノベの話がしにくい』『こなたはバカテスの良さをちゃんと理解してない』と言っていましたから。これはその反動ではないかと」
ストレス溜まってたのかなぁお姉ちゃん。
変な光景だけど…まぁお姉ちゃんには気分良いのかも知れないね。

「私って、ホント馬鹿…」

Q 4×2=?(声ネタを自重しないものとする)

A あり得ない1がハブられて1:2:5に別れてしまう。


以上です。
……コンプティークの方でまどかネタやってたからついやってしまった。
麦野の声優は小清水氏(旧ドラマCDでかがみ役)。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/03(日) 22:49:50.37 ID:B6JXw60i0
戻りましたので 編集します

213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:02:22.44 ID:B6JXw60i0
4×2=?(声ネタを自重しないものとする)
4でコンクールエントリーしました。

さぁ、あと1時間。作成中の人は急いでね
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:05:34.02 ID:B6JXw60i0
4×2=?(声ネタを自重しないものとする)
の作者の人に注意です。
>>221にフィルターがかかって性格に単語が表記していません。
まとめてしまいましたが。修正を許可しますので修正して下さい。

修正ができなければここで修正単語を指示していただければこちらで修正します。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:06:27.60 ID:B6JXw60i0
>>214 性格=正確に修正w
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:17:35.28 ID:+AnOJenx0
失礼致します。

コンクール作品の投下をさせて頂きます。
まとめなのですが、そこらへんの知識に疎いので、非常に申し訳ありませんが、どなたかまとめてくださると、非常に嬉しいです。


では、投下します。
217 :事変 [saga sage]:2011/07/03(日) 23:19:46.98 ID:+AnOJenx0



 心変わりなんて簡単にしてしまうものである。



 「親切」を「偽善」に変えることは容易い。例え誰かが自分をどんなに慕ってくれたって、どんなに助けてくれたって、「あいつはお前を出世のための道具としか捕らえてない」と一言耳に吹き込まれてしまえば、そいつのことを信用することなんてできなくなってしまうだろう。



 「偽善」を「親切」に変えることも容易い。例え誰かが出世に利用しようと自分にいい顔で近寄ってきたところで、「あいつは誰にでもああやって優しくしてやってるいいやつなんだ」と一言耳に吹き込まれてしまえば、そいつのことを簡単に信用してしまうだろう。




 
 何よりも恐ろしいのは、心変わりの媒体となった情報の「真偽性」が問われないことである。





【 事変 】




218 :事変(2) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:22:05.36 ID:+AnOJenx0





「この中の誰かが盗った……とは考えたくないですが」

 口火を切ったのはみゆきだ。右手を頬に当て、おずおずと話した彼女に視線を向けたのは、こなた、つかさ、日下部、峰岸、そして私の五人。皆が皆いい顔をせず―――特に私に関しては一番怖い顔をしていたのだろう―――そちらを向いたので、みゆきは「す、すみません……」と小さな声で言った後、顔を俯けてまた押し黙ってしまった。




 事件は至って単純だ。私の財布の中にあった三万円。それがこなたの部屋に集まってからのこの三時間のうちに、きれいさっぱり無くなってしまったのである。百円二百円程度ならまだしも、数万円単位に上ってしまっている以上大問題である。先ほどまで部屋の中のありとあらゆるところを六人全員で探していたのだが、見つかるはずもなく。気づけば誰が指示したわけでもないのに、部屋の机を中心に座り込んで、皆押し黙っていた。



 みゆきの言ったこと。それはこの中の六人、誰もが考えたくもないことなのかもしれないこと。しかし、残念ながら私は既にそうとしか考えられない状況に陥ってしまっていた。この部屋についてから、財布は外に持ち出されてはいない。しかし、中の三万円だけが、この部屋から喪失している。三万円がないことを発見するまで財布は開いてすらいないのだから、落っことしてしまったとも考えられない。この捻じ曲げようのない事実から打ち出される合理的判断、そこにお金が無くなってしまったことに対する哀しみ、怒り、焦りといった感情も相まって、私の思考はそれだけに凝り固まってしまっているのである。凝り固まった思考は私の中に「猜疑心」という太い芯をつくってしまったようだ。


 しかしそんな思考を表に出すことを私はためらった。珍しく真剣な、しかし棘を感じさせないような表情のこなた。先ほどの発言の後から変わることなく、俯いたままのみゆき。困ったようにきょろきょろと視線を泳がせるつかさ。口をへの字に曲げて、険しい表情を浮かべる日下部。重たい空気に押しつぶされてしまうかのように、身を屈めて小さくなっている峰岸。私の視界に入っている五人の様子を見ていると、疑わしさと同時に潔白さも感じてしまう。私は、犯人でないものを犯人扱いしてしまうことが何よりも怖かった。闇雲に人を疑っていては、見えているものさえ見えなくなることは無論だ。そして当然のことだが、潔白のものを犯人扱いして信用を失うようなこともしたくない。私の「良心」が「猜疑心」をわずかに上回っているおかげで、私はほかの者同様に押し黙るという行動をとることができていた。


 続く沈黙。部屋に充満する重たい空気が、ここに存在している表情をくぐもらせる。夏のむしむしした暑さを避けるために稼動させている冷房の空気が嫌に冷たく、そして妙に澄んだ匂いがする。副産物として生まれているうなり声のような音が、唯一耳に入り込んでくる。
 今すぐにでも、この「猜疑心」を外に出してもよかった。だが犯人を特定するには、誰かを疑うには、情報があまりに少なすぎていた。私は自分の中でぐつぐつと煮えたぎっているこの感情を表に出す機会を虎視眈々と狙っていた。
219 :事変(3) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:24:14.47 ID:+AnOJenx0





三分ほど経ったところで、私の左隣に胡坐をかいて座っていたこなたが、物憂げにたまった息を吐き出す。ほへぇという緊張感のない音が不要な位に響く。部屋の中で起こった小さな変化に皆が目をやったところで、

「疑いたくはないけどさ、もし誰か持ってるんだったら早く出しちゃったほうがいいよ〜。かがみん怒ると怖いしさ〜」

 そう言った。いつも通り。冗談ともとれるようなこなたの口調は毎度ながらに一切の棘を感じない。



 しかしこの瞬間、私の猜疑心が、私に行動を起こさせる。



「こなた」
「ん?何?」
「……あんたのポケットの中、確認してもいい?」


 私の声は震える様子も上擦る様子も無かった。極めて冷静を装って、私はカードを切った。正面に座っていたつかさが驚いた顔を向けるが、私はそれに反応することもなく、曇った目をこなたに向け続けた。

「……疑ってるの?」

 同時にこなたの表情も複雑に変化する。呟くように発せられた言葉は私の良心を刺激した。私と同様に、こなたも曇った表情を見せ始める。しかし、私は自分の打ち出した合理的な判断を信じてさらに言葉を紡ぎ出す。


「あんた個人を疑っているわけじゃない。「言いだしっぺが一番怪しい」っていうでしょ?沈黙の口火を切ったのがあんただったから、それだけよ」


 実際のところ、私はこなたをそれほど疑ってもいなかった―――といっても完全に信用できる状態ではないのだが―――。「言いだしっぺが一番怪しい」。安い推理小説などにありがちな文句だが、このような状態に陥った時はこの行動が定石だと言えるはずだ。ただ単純に切るべきカードを切っただけであり、闇雲に猜疑心をぶつけるような悪行だとは、私は毛頭思っていない。


「ふぅん」


 ま、いいけどね。続けてこなたはそう言った後、ゆっくりと立ち上がると、自分の服についているポケットをすべて裏返してみせた。単純だがじつにわかりやすく潔白を示す手段であり、同時にこなたらしいとも感じる。


「私は盗んでないよ、かがみ」


 すべてのポケットが裏返ったのを確認し、くるりと一回転まわってからこなたはそう言った。罪悪感を持ってはいなかったのだが、言葉を放った時のこなたの表情が目に入った瞬間、私の良心からずきりという音が響いたのを私は感じた。言葉選びを忘れた私は、

「ん」

 と言葉にもならない頷きをして、こなたから曇った目を逸らした。私の対応のせいか、自分が一番初めに疑いをかけられたせいか、はたまた重たい空気のせいかは知らないが、こなたはいつものような飄々とした表情をバッサリと切り捨ててしまったようである。しかし、私が納得したと言うことは理解してくれたようで、ポケットをすべて中に仕舞い込むと、またゆっくりと腰を下ろした。


 一枚目のカードを切ることに成功したおかげで、幾分か次のカードを切りやすくはなった。私はこなたから逸らした曇った目を右隣の人物――峰岸に目を向ける。


「峰岸、あんたの番」


 こなたに告げた時よりも気分が幾分楽なのは、こなたに疑いをかけたことで、自分の猜疑心を一度表に出したからだろうか?私は先程よりも少し身の丈にあった「冷酷さ」というマントを纏って、峰岸に向かって言葉を発した。

「柊ちゃん、私も犯人候補にあがってるの?」

 峰岸は困ったように笑いながら、そう返す。被疑への応対が、こなたよりも幾分余裕があるように感じられた。いつもは安心できる笑顔だが、今については形容しがたいものを感じてしまう。

「隣に座ってたからよ。近くに座っている人の方が犯行は行いやすい、でしょ?」

 ここでも私は合理的判断に従った。猜疑心を表に出しながらも、良心を庇う余裕はまだ持ち合わせているようである。あくまで峰岸という個人に疑いをかけたわけではない事を切に主張した。
 私の意図が伝わったか伝わらないかはさておき、峰岸も素直に従った。こなた同様、ゆっくりと立ち上がると、両手を真横に広げ、私に身体を預けた。


 
 そして果たして峰岸も、潔白であった。



220 :事変(4) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:26:55.37 ID:+AnOJenx0




「お姉ちゃん……もういいでしょ……?」


 峰岸が腰を下ろし、私が曇った目を逸らしたあたりで、声をあげたのは正面に座っていたつかさである。困惑の混ざったその言葉は蚊の鳴くように小さなものであったが、私の中では確かに、はっきりと、大きく響いた。膨張しつつあった猜疑心が瞬間表に出ることを拒み始め、小さくなりつつあった私の良心は、ここぞとばかりに音を立てる。


「きっと誰も盗んでないよ……そんな風に人を疑うなんてよくないよぉ……」


 つかさの声が上ずり始めたのは、感情を表に出さないようにせき止めていたダムが崩れ始めているからなのかもしれない。とめどなく溢れる小さな言葉の数々には、マイナスにベクトルが傾いた感情が隠されることなく含まれていた。
 こなたを疑った。峰岸を疑った。みゆきも日下部もまだ疑っている。しかし、つかさの発した言葉は私の猜疑心を確かに怯ませた。疑うのはよくない。この中に犯人は誰もいない。そして私自身、これ以上はもう疑いたくない。そんな感情でさえ、ふつふつと浮き上がってでてきそうである。


 思えばつかさはこういう子だった。騙されやすい、鵜呑みにすると私はよく言っていたのだが、つかさは決して人を疑おうとしなかった。猜疑心を表に出さない。仮に誰かが原因だったとしても、彼女は怒らなかった。「わざとじゃないもんね」。そう言って、必ずその人のことを考えていた。


 私にはこういった配慮が足りない。つかさの言うことは確かに正しい。もう一度部屋を探してみよう。曇りがかった瞳を一度透明なものに戻そうと目を閉じる。少し考えを落ち着かせようと大きく息を吸う。



「続けるべきだよ、かがみ」



221 :事変(5) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:27:23.29 ID:+AnOJenx0
 しかしそんな中耳が捉えたのは、抑揚のほとんど感じられないこなたの言葉だった。



「こな、ちゃん……?」
「この中に犯人はいないんでしょ?なら全員調べても問題ないじゃん」



 驚愕。意外。そんな単純な感情を頭に巡らせながら私は目をゆっくりと開ける。中心に映ったのは、機会的に口を動かして言葉を紡ぎ出すこなたの姿。いつものような飄々とした笑顔でも、先程のように複雑に変化していた顔でもない。「人形」と比喩することがおそらく最も正しいだろう「無表情」。こなたの顔を覆っていたのはそんな簡単で、しかし絶対的なものであった。
 その瞳は、私と同じように曇りがかって。しかし、ぶれることなく真っすぐとつかさを見据えている。

「なんで……なんでこんなことさせたいの!?」
「なんでやめさせたいの?」

 つかさの震える声にも、容赦なく切り返す。こなたの「冷酷さ」は私のものよりもずっとその小さな身の丈に合うものであった。カードを切るその顔に一切の迷いも感じられない。


「つかさ、私たちは誰も盗ってないんでしょ?でもかがみは私たちを疑ってる……しょうがないよね、大事なお金がなくなっちゃったんだもん。疑いたくもなるよね」


 見据えられていたのはつかさであったが、その言葉はつかさではなく、私を捕えた。平坦に流れ出る抑揚のないそれは、私が表に出していた猜疑心を縄で縛って締めつける。心の奥に戻ろうとしていたこいつを吊るしあげ、晒してやるかのように。


「かがみの疑いたい気持ちは、全員が潔白であることを示さなくちゃ、無くなんないよ。今やめたら……ダメだよね?」
「こなちゃん!」
「それとも……」


 冷酷に。確かに。こなたの声はトーンを下げる。



「つかさは誰が盗ったか知ってるから、そんなこと言ってるのかな?」



 つかさは最後に小さい、小さい悲鳴を上げ、それきり何も言わなくなった。



「さ、続けよ、かがみ」



 こなたはまだ冷静だった。彼女の行動は確かに正しいものである。私の猜疑心を「処刑」する。そのための一番確かな手段をひたすらに遂行しようとしたのである。
 しかし、こなたの行動を私は受け入れることを拒んだ。それは表に縛り上げられた猜疑心が、ひたすらに心の奥に戻りたがっているから。そして、心の奥に閉じ込められた良心が、ひたすらに表に出たがっているから。


「かがみ」


 しかし、この猜疑心を心の奥にしまうことはもう許されていない。良心がどんなに大きな音を立てて扉を叩いても、今、私が表に出しているのは猜疑心であるのだから。


「……日下部」
「続けんのか?」

 視界に入る日下部に強く、鋭く、そして険しい瞳。

「……こなたの言う通りよ、あんたたちが全員潔白だと、言いきれるのなら続けるべきじゃない?」



 それでも私は、もう引き下がることなんて、できなかった。



 日下部も、続けてみゆきも、私の指示に素直に従った。そして、この二人を調べ切っても、やはり三万円は出てこなかった。


222 :事変(6) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:28:52.80 ID:+AnOJenx0





 「後は……」

 私は再びその目を自分の真正面に向けた。頭を傾け、あれきり俯いたままになってしまっているつかさにもう一度目を向ける。思いだしたかの様に、再び良心が激しくドアを叩き始めた。
 できればつかさに疑いをかける前に三万円が見つかって欲しかった。あわよくば、ここまでの誰かが盗っていたことになった方が私の気持ち的にも楽だったのかもしれない。誰も盗ってなんていない。疑うことなんてやめよう。懇願したつかさの姿が脳裏から離れず、私はその後の一言を発することができずにいた。


「かがみ」


 こなたの声。相も変わらず抑揚のないそれは、私の猜疑心を縛りあげた縄をより締めつける。合理的に考えれば、今一番犯人である可能性が高いのはつかさで間違いない。しかし、そこまでわかっていても、こなたの押しの一手が合っても、私は動けずにいた。


「かがみったら」
「つかささんは……盗ってないと思いますよ」


 私の身体を、金縛りのようなものから解放してくれたのは、みゆきの声であった。ふいと顔をあげ、表情に見せたのはひとかけらの、しかし強い勇気。耳を疑う私の方にそれを向け、みゆきは続ける。


「皆さんだって知っているはずです。つかささんは嘘をつきません。人を疑いません。いつものつかささんを見ていればわかると思います。少なくても私はそう思います。……そんなつかささんが、ましてや大好きなかがみさんのお金を黙って盗ったなんて思えません……かがみさんだって辛くありませんか?妹であるつかささんを疑うなんて」

「そうね……ひーちゃんはやってないと私も思うよ」


 みゆきの言葉に、続くのは峰岸の言葉。


「ううん……ひーちゃんだけじゃない。泉ちゃん、高良ちゃん、みさちゃん……みんな柊ちゃんが大好きだもん。誰もそんなことしないんじゃない……?最初から皆を疑うことが間違いだったんだって……。きっとつかさちゃんを調べたって三万円は出てきたりしない。もうこんなことやめて……もう一回部屋の中を探さない?」


 みゆきの表情から感じるものが、強い勇気だとすれば、峰岸の表情から感じるものは深い慈悲だった。二人の言葉は小さな石となり、私の心の中に投じられ、小さな波紋を起こした。

 辛かったから。やめたかったから。これ以上人を疑いたくなかったから。猜疑心を締めあげられても、動けなかったのはそれだった。冷酷にカードを切った?合理論だから疑っているわけじゃない?そんなのは嘘だ。私の今にまで行ったことはすべて、悪行と言っても過言ではないだろう。人を疑うこと、それはとても辛いことで、いけないことだった。
 良心が扉をこじあけ、縛り上げられた猜疑心の横に並ぶ。もうよそう。やめよう。二人の言葉を聞いて確かにそう感じた。今、それを許していないのは、私の猜疑心じゃない……


「かがみ、でも、続けるんでしょ?」


「こなた……もういいわ、やめましょう」




 私は、ゆっくりと、しかしはっきりと、言葉を発した。



223 :事変(7) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:30:31.01 ID:+AnOJenx0




「なんで?……もしかしてみゆきさんと峰岸さんの言葉を聞いたから?……でも今はつかさが犯人の可能性が一番高いんだよ?」
「こなた……犯人が誰とかそうじゃないの」
「何を言ってるの?違うよ、騙されてるんだよ!」


 こなたの声調が少しずつ大きくなってくる。思わず私は重たい空気と言葉を飲み込む。


「大体、つかさが疑われそうになった瞬間にみゆきさんと峰岸さんがそんなこと言うの?自分たちも疑われたのに、そんな風にかばうの?もしかしたらつかさが犯人かもしれないのに?ねえ……」
「こなた……」
「もしかして、三人でグルになってお金を取ろうとしてるんじゃないの!?だから、つかさばっかり庇って」



「おいちびっ子!!」



 言葉をまくしたてるこなたを一声で止めたのは日下部の声。張りつめた空気が一度吹き飛んだかのように感じる。

「誰かを疑ってんのは、もうちびっ子だけだよ。どうしてそんなにつかさを疑ってるんだ?」

 強気な口調で、しかしまるでいつもと変わらないかのように話す日下部に、こなたはきっと顔を向けている。悲しみと怒りが混じったその顔を見ても、日下部はすんなり言いきった。





「もしかして、自分が最初に疑われたから、嫉妬してるだけなんじゃねぇの?」








 静寂に響いた日下部の声を上書きするかのように、突然大きな音が拡散した。部屋の中心の机に、こなたの小さな左手が叩き下ろされた。言葉にするのは簡単だが、この場にいる全員の意識をそちらに集中させるには十分なものである。




224 :事変(8) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:32:53.89 ID:+AnOJenx0




「嫉妬するに決まってんじゃん!!!自分が犯人じゃないのに真っ先に疑われて!!!犯人かもしれない人が疑われないなんてさ!!!!」


 続いて響いたのはこなたの怒声………いや、悲鳴だった。「冷酷さ」なんてとうに放り出しており、そこにいるのは、ありのままのこなた。


「私の時は、誰もそんなこと言わなかったじゃん!!!それって私が犯人っぽかったから!!?かがみが私を最初に疑ったのもわたしが犯人っぽかったから!?」


 痛いくらいに響くこなたの声は部屋中を支配し続ける。


「こんな風に私たちの友情を崩されて!!!それでも自分は友情を笠に着て守られて!!!!疑いたくはないけど……でもそうだと思うと!!!許せないんだよ!!!……もしかしたら、犯人はいないかもしれないよ、っていうかいない方がいいよ。でももしかしたら……いるかもしれないじゃん!!!そんな……汚い奴がさ!!」


 こなたの心はもう壊れていた。裂けんばかりに、心に溜まったものをそのまま吐き出し続けた。目からは熱い雫がとめどなく溢れ、振り下ろしてそのままの左手が、小さく震えていた。


「だから!!!」
「こなた!!!」


 こなたがしていたことは悪行なんかじゃなかった。こなたは自分の為に、みんなの為に、なによりも私の為に、「正義」を貫こうとしただけだった。疑うことは悪くない。悪いのは疑いを引き起こした犯人なんだ。そんなことをずっと、こなたは心の中で響かせ続けていたんだろう。
 だから、私は大きな声で、叫んだ。こなたの悲鳴をせき止めた。私はこなたの出したSOS信号に、答えなくてはならない。こなたの「正義」を否定せず、肯定してやらねばならない。


「わかった……もうわかったから……つかさ」
「え………?」


 私の声で、顔をあげるつかさ。そして気づくのは、涙を流していたのが、こなただけではなかったこと。つかさもまた、沈黙を貫きとおす中で、様々な思いが自分の内側をめぐり、そして溢れだしてしまったのだろう。
 私はゆっくりとつかさに近づいて、両肩にそっと手をおく。


「ごめんね、つかさ。これから私の言うことを聞いて欲しい」
「………」
「私はつかさは疑ってない。……だけど、まだ、もしかしたらこの中に犯人がいて、怖いと思ってる部分もあるの」
「………」
「こなたもね、つかさを疑ってるんじゃなくて、そう思ってたから、あんな風に言ったんだと思う」
「………」
「だから、この中に犯人がいないこと。それだけ……それだけでいいから、確かめさせて、くれない?」
「おねえちゃん………」
「あんたが持ってるはずないわ。それはわかってる……けど、ちょっとだけ協力してほしいの」


 強く。強く。


「また、みんなと普通に笑いあえるようになりたいから、ね?」


「……わかった、いいよ、おねえちゃん」


 つかさがゆっくりと立ち上がる。私の顔を見ると、にっこりと笑ってくれた。そして、

「こなちゃん……ごめん……」

 こなたの方を向くと、小さな声で謝った。

「………ううん、私もつかさにすごくひどいこと言った。……ごめん」

 交わされる謝罪。しかしこれで、また少し空気が軽くなる。わだかまりが薄まっていく。もう一度私の方を向いて、にっこりと笑って、そして、両手を水平に広げる。
 何もないことなんてわかってる。私は、安心して、つかさに触れた。


225 :事変(9) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:33:57.59 ID:+AnOJenx0





「え?」





 スカートの右ポケット。






 そこにあったものはまぎれもない。





 三枚の一万円札。





 無音の風にかすかにのって、それは一枚一枚意志が存在するかのように、ひらりひらりと舞った後、そっと地面に着陸した。




226 :事変(11) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:35:29.81 ID:+AnOJenx0





「あ、それは……」


 嘘だ。


「これは、今日いく前にお母さんが……」


 嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。


「つかさ……本当に」
「違うの!これは盗ったやつじゃない!お母さんに頼まれてて……」


 嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。


「つかささん……」
「皆聞いて!盗ったやつじゃないの!!お母さんに」


 嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。


「おねえちゃん!!!」





 嘘だ。





「最低」




 一言だけそう言って、私はこなたの部屋を出た。それから一人で、家に帰ったのだが、そこからの記憶がない。





227 :事変(12 Final) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:37:17.83 ID:+AnOJenx0





「あら、かがみはもう帰ってたのね」

 意識が戻ると、私は自分のベットに横たわっていた。瞼が重たく感じるあたり、眠っていたらしいのだが、お母さんの一言で、目が覚めたみたいだ。日が西日に傾いており、これ以上眠っていることはよくなかったのだが、私はどうも起きたくなかった。

「つかさは?一緒じゃないの?」

 子を思う親心ゆえに浴びせかけられる普通の質問。しかし私はそれを答える気分ではなかった。頭も、身体も自分ではどうしようもできないくらいに重たくて、動かすことさえ億劫になっていた。

「かがみ、具合悪いの?」
「……そうっぽい」
「あら、そう……。じゃあ、後で晩御飯持ってきてあげるから、しっかり寝てなさい。それと……」



 一瞬間が空き、響く。






「今日つかさに、払い込みの用事を頼んだんだけれど、泉さんのお家にいく前に一緒にいってくれた?」






 思考が停止する。瞬間、身体が軽くなり、不可抗力的に上半身を飛びあがらせる。


「え?なにそれ?」
「あら、その様子じゃ言ってないのね。確かにあの子に三万円、預けたはずなのだけれど……」


 変わらない声調で浴びせかけられたのは、捻じ曲げることなんてできない、衝撃の真実。






「さ、さん……?」
「まいいわ。後、三万円で思い出したけどかがみ、自分の部屋の机に三万円、置きっぱなしだったわよ!てっきり額が同じだからおいてったのかと思ったのだけれど……」






 その後、もう二言三言述べた後、お母さんはまるで平和そうに、私の部屋の扉を閉めた。




 誰もいなくなった私の部屋。ちらりと横目で確認すると、机の上から飛び立つ三枚の一万円札。
 無音の風にかすかにのって、それは一枚一枚意志が存在するかのように、ひらりひらりと舞った後、そっと地面に着陸した。








 どんなものを持ってしても、抑えられなくなってしまった大規模な事件を「事変」と言うらしい。
もしも、この一連の出来事が、すべて私の空想の物語であったならば。私はその作品に「事変」と名付けるだろう。







end
228 :事変 [saga sage]:2011/07/03(日) 23:39:14.26 ID:+AnOJenx0


終了です。

「変」で思いつくストーリーがこんなものしかなくて……失礼致しましたorz
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/03(日) 23:48:59.71 ID:B6JXw60i0
「事変」 5でコンクールエントリーしました。
230 :未来を思い出に変えて [saga]:2011/07/03(日) 23:56:05.11 ID:jg8blceH0
突貫工事で執筆しました。
誤字だらけだと思う……。
あと、長いです。
231 :未来を思い出に変えて1/15 [saga]:2011/07/03(日) 23:56:59.73 ID:jg8blceH0
一.

今日もいつもどおりの朝が来て、いつもどおりの晴れた日で、そしていつもどおり私は遅刻寸前で、今私はグラウンドを駆け抜けているところだった。
昨夜の深夜アニメはいつもどおりに面白かったものだから、ひと段落して寝ようと思っても興奮して眠れなくなってしまったのだ。
まったく、アニメのせいだ。別に私が悪い訳じゃないよね?うん、うん。
校舎に駆け込み、ロッカーから上履きを抜き出し、放り投げ、すばやく履き替えた。これもいつも通りの動作だった。
廊下を走るな、と言う張り紙をガン無視して突っ走り、3年B組と書かれた表札の前で急停止する。
さすがにもう夏だ。汗が体中から噴出し、髪の毛から雫が垂れる。
この扉を開けると、やはりいつもどおりの風景が広がっているのだと思った。

「せんせーっ!遅刻じゃないです!白いセールスマンに契約して魔法少女にならないかって頼まれまして、何でも叶えるって言うんですけど胡散臭くて、断ろうとしているうちにこんな時間になってしまいました」

いつもどおりだと思っていたら、少しだけ違った。

「ほう、先週は魔女に襲われた言うてたな」
「あれ?」

つかさがどんな顔してこっちを見ているのか気になったのだが。

「あれ?やない。早う、席付け」
「つかさも遅刻ですか?」

あいにく、つかさのいる筈の席には誰もいなかった。
かわりにみゆきさんと目が合うと、困ったような顔をしてつかさの席のほうへと視線をずらした。
私は先生の方へと顔を向けた。しかし、先生まで困った顔するのだった。
そして生徒達の方へと向き、少し息を吸い込んでから声を上げた。

「あー、聞いてくれるか?」

騒がしかった教室が、突然凍った様にシンとなった。
どうしてだろう。走ってきたからと言って、こんなにも胸が苦しいものなのだろうか?

「今日来てないから不思議に思った奴もおると思うけど、柊つかさなんやけどな、病気で暫くの間、入院する事になった」

女子の声で、何かヒソヒソと話しているのが聞こえる。男子の一部はもっと大きな声で騒いでいるのがわかった。

「今、精密検査を受けているところやから、詳しい事は分からんけど、良くなるように願ってやってな」

知らなかった。そんな事、聞いていなかった。いったい昨日は何があったと言うんだろう?
胸が苦しい理由は、このことを暗示していたのだろうか?まだ苦しい。締め付けられているみたいだ。

232 :未来を思い出に変えて2/15 [saga]:2011/07/03(日) 23:57:35.04 ID:jg8blceH0

二.

「つかさの部屋はここよ。個室だけど、病院の中だから静かに頼むわよ」

かがみの案内で、つかさが入院している部屋へと通された。
かがみたちの通学路の途中に病院があったので、みゆきさんの家とは正反対の方向に来てしまった。
つかさは起き上がったベッドの背もたれに上半身をもたれながら、隣に座るつかさのお母さんと談笑していたところだった。
つかさの腕には点滴の針が刺さり、足の指には何かのセンサーが付けられているのが見えた。
いつも着けているリボンはなく、いつもと違うつかさに不安を覚えた。

「あ、お姉ちゃんだ。それにゆきちゃんに、こなちゃんも」
「あらみなさん、わざわざありがとう」

つかさとかがみのお母さんにお辞儀をされ、私は軽く頭を下げた。
垂れた自分の髪の隙間から、ふと隣を見ると、きれいなフォームで深々と礼儀正しくお辞儀をするみゆきさんがいたため、それにならって私は慌てて深く頭を振り下ろした。

「つかささん、こんにちは。突然の入院と聞いてビックリして来たんですよ」
「心配かけてごめんね。すぐに私、元気になって学校に行くからね」
「無理するんじゃないわよ。あせってまた体長をこじらされちゃ堪らないんだから。私たちは別に急いでなんかいないわよ」
「オホホ?かがみんに連れられてきたんだけど、一番あせってたのは結局かがみんだったみたい。病院の中で迷子になりかけたんだよ。いやぁ、みゆきさんがいなかったら未だにたどり着けなかったかもしれないね」

それを聞いたかがみは、急に顔を赤く染め、そっぽを向いてしまった。

「うっさいな、いいじゃないの無事に着いたんだから」

場所は違えど、今話していることや、ハイテンション具合やらは、いつもと変わらない日常だった。
つかさの身に何が起こったのか、詳しい事はかがみから聞いた。
それによると、昨日の夕方の下校途中から腹痛をうったえ始め、家に着いた頃には既に自力で立つのがやっとの状態だったと言う。
慌ててこの病院に連れて来たところ、そのまま入院となったのだそうだ。
今は点滴の投与で落ち着いているが、それは薬のお陰で今の状態を保てているだけで、今の元気なつかさは仮のもの言うことだ。
精密検査は今日一日かけて行われた。結果は早ければ今日中に分かる。
その時になれば、家族ではない私とみゆきさんは、ただのお邪魔虫になってしまうわけだ。今日は長居出来ない。
もとより、みゆきさんの家が遠いため、夜遅くまでいる事はそもそもはそもそも出来ない。
病人に負荷をかけることもない。
かがみも含めて、私たちは病院を後にしたのだった。

みゆきさんと二人で、電車に乗った。お互い口数は少なく、でも無理して何かを言おうとするわけでもなかった。

「明日、かがみさんが、つかささんの事について、また詳しいことを教えてくれるはずです。それまで待ちましょう」

みゆきさんが、ポツリと無言の空間を切り開いた。

「うん、きっとすぐ治るよ」
「はい」

当たり前だと思った。病気を治すために病院にいるのだから。
問題はすぐに治るのかどうか。
しかし、常識的に妥協したこの願いさえ、裏切られる事となった。

233 :未来を思い出に変えて3/15 [saga]:2011/07/03(日) 23:58:33.45 ID:jg8blceH0
三.

次の日、かがみは登校しなかった。
何度も携帯に電話やメールを送っているのにまったく返信が来ない。
せっかくこの私が珍しく、携帯電話を活用していると言うのに、かがみは一体何をしているのか。
何をしているのか、それをイメージしようとして、頭をブンブン振って一旦脳味噌をシャッフルした。
なんせ昨日の今日だ。検査結果は既に出ているのだろう。
だから授業中は、何も考えない。

「なんや泉。今日はえらい集中しとるやないか」
「え?」
「え?やないわ。目ぇ開けながら寝とったんやないやろな。ゲームも大概にしときぃよ」

周りから笑い声が聞こえる。笑えない、まったく面白くない。
ただ砂時計の砂を眺めているような、途方もなく無益な時間に思えた。

授業が終わり、私はみゆきさんと下校していた。これから二人で、また病院へ向かうのだ。
校門を出て、左に向きを変えると、石垣に持たれかかりながら、地面を見つめるツインテールの少女がいた。
あんなところで待っていたんだ。いつから?ひょっとして朝からいた訳じゃないだろう。
おそらく、病院を経由してここへ来たんだろう。

「かがみ!どうしたのさ。電話したんだよ」
「ごめん、こなた、みゆき」
「かがみさん、顔色が、優れませんよ?」
「うん……」
「その、つかさがどうかしたの?いつもどおり登校できるのは、いつになるの?」
「もう、戻れないの」
「え?」

ずっと地面を見つめていたかがみが、私に抱きついた。
膝を地面に付けて、顔を私のお腹に押し付けて、ただかがみがプルプルと震えているのが感じられた。
嗚咽が暫く続いた。かがみが続きを喋られるまで、そっと傾けられた頭を抱きしめる。
しっとりとした紫色の髪が、柔らかく私の指に絡んでいる。

「変わっちゃった。私、もういつもみたいに、笑えないかも知れない……。いつもどおりには二度とならない」
「どういう、ことですか?ゆっくりで良いです」
「つかさはね……、つかさはねっ……」
「うん」

また暫く、嗚咽があった。かがみの顔は見えないが、今どんな表情なのかは簡単に想像できた。

「つかさは……。ガンなんだって。もう……、治らないんだって」

みゆきさんも、そして私も、何も言わなかった。いや、何を言えばいいのかわからないのだ。
かがみはいつもの冷静さを取り戻しながら、声を低くして唸るように言葉を続けた。

「レントゲン写真を見せられながらお医者さんに言われたの。リンパ管にガンが出来てたの。そこを中心にしてもう、全身に転移し始めてた。お腹を痛がっていたのは、胃ガンのせい」
「そんなのって……。つかさは?つかさはこの事を知ってるの?」
「ううん、その事は伝えてない。すぐに治る病気だと思ってる筈よ。だって不安を煽るだけじゃない。それを自覚して出来る事は少ないわ。なぜならつかさの寿命は、たったの数週間」

234 :未来を思い出に変えて4/15 [saga]:2011/07/03(日) 23:59:33.51 ID:jg8blceH0

四.

「よっ、つかさ、お見舞いに来たわよ」
「おぉっ、大所帯でやって来たね。ああ、いまつかさは寝てる所だよ」

病室の奥を見ると、かがみとつかさのお姉さんであるまつりさんが座っていた。
そう言えば、代わりにお母さんがいないようだ。家に帰ったのだろうか。

「ま、そこに座りなよ」
「気持ち良さそうに寝ていますね」

みゆきさんがじっとつかさを見つめている。
私とかがみはまつりさんの言うとおりに。ベッド横の椅子に腰掛けた。

「かがみ、うちの神社にリボンが落ちてたけど、これあんたの?」
「うん?違うわね、これはつかさのリボンよ。なんで神社に……、あぁ、病院に来るときに落としたんだ」
「……、そうだ。かがみん、ちょっとそのリボン貸してよ。つかさが起きないように、それを結ぶからさ。ちょっとみゆきさんどいて」

私は半ば強引にリボンを奪うと、つかさの方へと手を伸ばした。
なにやらまつりさんもノリノリのご様子で、ニヤニヤしながら私といっしょに席を立った。
ひらひらとはためいたリボンが、みゆきさんの小ぶりで可愛い鼻に直撃したのが見えた。

「は……はひぃ、ひく、く、くしゅん!」

あぁ……。

「う、うん……。あれ?」
「つ、つかささん。起こしてしまい、申し訳ありません」
「みんな、来てたんだ。あ、こなちゃん。それ私のリボン」
「あ?これ?ヌハハハハ。まつりさんが神社で拾ったんだって。あ、そうだ。ならベッドに結んどくよ」
「ありがとう、まつりお姉ちゃん」
「いやあ、目立つからね。黄色は」
「それをあんた、つかさが普段付けてるリボンだったこと、わかってなかったじゃない」
「ぐぅ……」
「えへへ、ごめんね。私すぐに良くなって、お礼にクッキーたっくさん、焼くからね」

いいや。つかさは二度とクッキーを焼けない。

「そ、そうだね、楽しみにしてるから」
「つかささん、無理しないでくださいね」
「大丈夫だよ、今は外出禁止だけどさ。私、こんな病気すぐに治しちゃうから。そしたらさ、新しく出来たケーキバイキングのお店に行こうよ」
「ええ」

きっと、ケーキも二度と食べられない。

「そうだ、海に行きたいな。去年みたいに、皆でさ。成実さんの運転はちょっと怖かったけど」

もういやだ、こんなの耐えられない。だって、つかさはもう、海を見ることは決してない。
でもその事は言わないと、かがみとみゆきさんと約束したのだ。
ぐっと握った拳に、汗でねっとりとした感触が気持ち悪い

「ごめん、つかさ、みんな。ちょっと急用を思い出しちゃった。ごめん、先に帰るね」

私は逃げるように病院を飛び出したのだった。

235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 00:00:14.78 ID:lLV+qDCo0
☆第二十一回コンクールの開催のお知らせ☆

これで投稿期間終了を宣言します。

投票期間:7月05日(火)〜 7月11日(月)24:00

となりますので。よろしくお願いします。



『注意事項』
エントリーbS、4×2=?(声ネタを自重しないものとする)
の作者の人に注意です。
>>221にフィルターがかかって正確に単語が表記していません。
まとめてしまいましたが。修正を許可しますので修正して下さい。

修正ができなければここで(現スレット)修正単語を指示していただければこちらで修正します


よろしくお願いします。
236 :未来を思い出に変えて4/15 [saga]:2011/07/04(月) 00:00:19.93 ID:8Rw4Lkkv0

五.

私は家に帰らなかった。
お父さんには、今日はかがみの家に泊めてもらうと電話を入れたのだ。
携帯電話が便利だと言うのが、ようやく理解できてきた気がする。
私は今、病院の近くのマンガ喫茶にいる。時間はもうすぐ夜の九時。そろそろ良いだろう。
結局、マンガを読むのに集中できず、どんなストーリーだったのかまったく頭に入っていない。
マンガ喫茶の会計を終えると、私は病院へと再び足を向けた。

夜の病院と言うのは、意外にも不気味さなどは少なく、人の気配も感じられて安心感がある。
それもそのはず、灯りはぽつぽつと点いている。
そもそもこの施設の中には大勢の患者さんや、夜勤中のナースやお医者さんがまだいるのだから。
ホラーの中でも定番中の定番の場所設定だったが、あれは廃病院とか、そういった類だっただろうか?まあ、どうでも良いや。
私は堂々と、いっさいの不信感を感じさせずに、玄関にいる警備員をスルーして病院へと突入した。
ナースとすれ違ったが、軽くお辞儀をして(泊り込みで付き添いをしている者ですが、なにか?)という雰囲気をかもし出しながら闊歩した。
そして難なくつかさの部屋にたどり着くと、そうっと、スライドドアを開いた。
そこにはベッドで安心したように眠るつかさの姿があった。
だまって入院していれば、自分は必ず回復すると信じているつかさ。
その寝顔が、私には怖かった。夏だと言うのに、汗をかいているというのに、急に寒くなった気がした。

「つかさ、つかさ。起きて、つかさ」

私はつかさの肩を叩いた。

「う、うぅん?」

目をこすりながら、私の顔を見つめようとする。
そこで気がついたが、こんなに暗かったら私が誰かわからないのではないか。

「こなちゃんの声?どうしたの?」
「つかさ、私がわかる?」
「うん、こなちゃんだよね?どうしたの、まだ真っ暗だよ?」
「つかさ、だまって、聞いてほしいんだ」

私は、今日の夕方にかがみから聞いた、つかさの本当の現状をありのまま全てを、つかさにゆっくりと言い聞かせた。
ガンだと言う事、治らないということ、そしてつかさの命は、残り数週間で終わりを迎えるということを。
真実を伝えるというのが、こんなに簡単なものだとは思っていなかった。
一度口を開いたら、後から後から残酷な言葉を吐き出す自分の口が、自分のものではない様に思えた。
全てを語った。暗くてつかさの表情が分からない。

「こなちゃん、それは、私のためを思って、教えてくれたんだよね?」
「うん……」
「ありがとうこなちゃん。本当に辛かったのは、みんなだったんだね」
「違うよ!私たちの事なんて考えなくていいから。だからさ、自分の事を考えて良いんだよ。つかさが私に甘えてくれれば、それだけで良いんだよ」
「ありがとう……」

相変わらずつかさの表情は分からないが、言葉の端が震えているのが、つかさが泣いているのだとわかる、ただ一つの証だった。
何気なくベッドの手すりに手を添えると、手になじむやわらかい物に当たった。
今日の夕方に自分で結んだ、つかさの黄色いリボンだった。こんなに暗くても、鮮やかな黄色が闇を弾いている様に良く見えた。
このリボンを付けて、元気良く登校して、なんの不安もなく当たり前の日常を、当たり前に謳歌していた、あの頃のつかさが脳裏によぎった。
かがみは言っていた、いつもどおりには二度とならない、と。

「酷いよね、酷すぎるよね。つかさはまだ「待って」」

ハッとした。私の小さな同情は、ますますつかさを傷つける。今の言葉はただの毒だ。
つかさはまだやりたい事たくさんあるよね。そう言ってなんになる?出来る事は限られている。

「私、せめて一つだけやりたい事があるの。こなちゃんお願い、叶えて」

237 :未来を思い出に変えて6/15 [saga]:2011/07/04(月) 00:01:50.59 ID:8Rw4Lkkv0

六.

金曜日。結局、その日は眠れなかった。
だから寝坊はしなかったものの、頭が働かずにボーっとする。
自分の席について、うつらうつらしていると、かがみが教室に入ってきて私の席の前にやって来た。
みゆきさんが不思議そうにこちらを見ているのがわかる。
ちょっと来なさいと、私の手を引いて人のいない会議室の中に連れ込まれた。何をするつもりなのかと、寝ぼけた頭で考えた。

バシンッ

強烈な衝撃が、寝ぼけた脳天を貫いた。大きな音が無人の会議室に響く。
訳が分からないまま、私は会議室の床にしりもちを着いた。
暫く呆然としていたが、頬がじんと痛くなって、初めてかがみに頬を叩かれたのだとわかった。

「な、なんのつもりさ!」
「昨日の夜、つかさから電話がかかって来たわ。あんた、つかさに言ったわね?秘密にするって約束したじゃない」
「それは……」
「なにをしたのか分かってるの?あんたのした事は、ただの逃避よ。つかさに対して黙って、嘘をついて、自分に罪を被せられるの嫌になったんでしょう?この約束を破った時に、一番苦しむのはつかさなの!あんただけ楽になろうなんて、許さない!」
「かがみ、私は……」

私は必死で言い訳を考えている。あぁ、かがみの言っている事は正しい。言い訳なんて出来る訳ない。
私はうつむいた。

「ごめん、ごめん、なさい……」

涙がこぼれた。私が泣いている。何年ぶりの事だろう?

「謝らなくていいわ。私にも、つかさにも、今さらその言葉はどうでもいいの。ただ、その気持ちは忘れないで。あんたにはやるべき事があるわ。私も、そしてみゆきにもお願いするから」

私はゆっくりと顔を上げた。かがみと目が合うと、ばつの悪そうな顔をして吐き捨てるように言った。

「つかさが、海に行きたいって言ってる」

238 :未来を思い出に変えて7/15 [saga]:2011/07/04(月) 00:02:45.55 ID:8Rw4Lkkv0

七.

携帯が鳴った。かすむ目をごしごしとこすり、携帯を開くとかがみからだった。現在早朝の三時。モーニングコールだ。
夜九時に、前と同じくつかさの部屋に侵入。そのままベッドの隣にあった長椅子の下に潜り込み、一夜を過ごした。
きゅうくつな場所から体をひねり、ズルズルと這い出す。再び夜の病院。この光景を目のあたりにしたものは、ホラー映画も真っ青だ。
ベッドではつかさがまだ眠っていた。

「つかさ、起きろ〜」
「あと五分……」

申し訳ないが、布団をひっぺ返してつかさをたたき起こした。
部屋の片隅には車椅子が置かれていた。
つかさがすでに自力では立てないほど脚力を失っていた事を知ったのは、つい昨日の事だった。
しかし今回、この車椅子を使う事はしない。私はつかさを背負い上げた。
都合のいい事に、今はつかさに点滴は投与されていない。
つかさと私の身長差はある。誰かがこの様子を見れば、きっと不恰好なのだろうが、そもそも誰にも見られないように病院を抜け出す事が今のミッションだ。

「こなちゃん、なんだか緊張するね」
「しーっ、静かに。敵はどこに潜んでいるか分からないからね」

ベッドに結わいであったつかさの黄色いリボンが、今日は久しぶりにつかさの髪を縛っている。
ナースも誰もいない廊下。つかさに負荷を掛けないように、走る事はしない。
ただ目立たないように、黒いジャージを上下に着込み、闇にまぎれて廊下を突き進む。
エレベーターは誰かが使用しているかもしれないため、非常階段を使って一階に降りる。
また少しの距離を廊下を進まなければならない。しかしすぐに出られる。そんな時に、背中のつかさがピクリと動いた。

「こなちゃん、後ろから足音が聞こえる」
「むむっ、トイレに隠れよう」

私たちは、二人で女子トイレの個室に隠れた。もちろん、鍵もかけて。
女子二人でトイレに篭る。一人は無防備。なんかエロい……。もちろん何もしないが。
足音が通過していき、しんといっさいの物音がしなくなった。
体力には自信があるが、さすがに体格差もあって、つかさを支える腕が限界に近づいている。

「よし、行こう」

トイレを出たなら、すぐにガラス張りの廊下が見える。ガラスの向こうは、病院の中庭だ。その廊下の一番すみっこに、非常用の扉があった。
鍵がかけられていて、外からは鍵がなければ開かないが、内側からなら誰でもサムターンを回せば開けられる構造だ。
私たちはそれを開いて、外へ出た。まだ太陽は顔を出していないが、空がすでに白んでいた。とびっきりの快晴だった。

「きれい……」

つかさが耳元でささやく。百パーセント同意だった。
中庭を抜けて、病院の駐車場に行くと、予定通りの場所にステーションワゴンが一台、駐車してあった。
車の隣には、みゆきさんとかがみが立っている。

「さあ、乗ってください。海へ行きましょう」
239 :未来を思い出に変えて [saga]:2011/07/04(月) 00:03:43.70 ID:8Rw4Lkkv0
>>235
いま投下中のものはどうなります?
240 :未来を思い出に変えて [saga]:2011/07/04(月) 00:04:19.82 ID:8Rw4Lkkv0

八.

「みゆきさん、そこ左!」
「は、はいっ」
「みゆき、安全運転で良いけど。警察に目を付けられないように、周りの車に合わせてね」
「ゆきちゃん、大丈夫?」
「あ、あの。申し訳ありませんが、あまり沢山の事を言われると混乱してしまいそうです」

無免許で運転するみゆきさん。車はみゆきさんのお母さんのものを黙って拝借してきたのだそうだ。
メモで借りた事を書置きしてきたというが、家で大騒ぎになるに違いない。
いや、つかさが病院にいない事から、柊家でも大騒ぎになるはずだ。どう転んでも二人が家に帰ればただじゃすまないのだ。
かがみもみゆきさんも、私よりもずっと重いもの賭けて、今回の旅行を手伝っている。
自動車の運転については、私もみゆきさんも、昨日、病院に行く途中で買った本を読んで復習してきたが、やはり実践となると難しい。
みゆきさんの家から病院までの道のりの間に、多少は慣れた様子だが、道路状況に合わせた的確な運転など、そう簡単に出来るものではない。
道路標識や交通ルールに関しては、みゆきさんがほぼ暗記しているようなので、あとは目立った行動や事故を起こさないように、慎重に走るようにする。
みゆきさんには運転に集中してもらうとして、カーナビと併用しつつ、助手席では私も地図を見ながらみゆきさんに人間ナビをしている。

「つかさ、眠いの?」

ミラー越しに、後部座席を覗くと、うつらうつらするつかさに、かがみが心配そうに顔を覗き込んでいた。

「うん、ごめんね。みんな私のために頑張ってるのに」
「気にしないの。疲れたのよね。寝てる間に着くわよ、寝てなさい。でも調子が悪くなったらすぐに言うのよ」
「わかった。ごめんね……。ちょっと休むね」

確かに、歩く事すら出来ない病人には、車で遠出する事は激しい体力の消耗に繋がる。
医者が外出を禁止している要因なのだから、もちろんそれを承知の上でやっている訳だ。しかし無視できる要素ではない。
つかさの調子しだいでは、すぐにユーターンして帰る事もあるだろうし、最悪の場合は救急車だって呼ぶ覚悟だ。

「みゆきさん、ETCカードは挿入されてる?」
「はい、もちろん」
「よおし、そこ左車線に寄って。インターチェンジに入ったら、高速に乗るよ。一本道だし、速く着くからつかさの負担も少なくて済む筈だよ」
「はい」

太陽が顔を出し、真っ赤の朝焼けが見えた。今日も暑くなりそうだ。

241 :未来を思い出に変えて9/15 [saga]:2011/07/04(月) 00:05:02.91 ID:8Rw4Lkkv0

九.

「ほら、つかさ。海よ」
「みんなありがとう!すごいよ!空がこんなに広い!」
「つかさ、カニよ。カニ」
「見えないよ、あ、いたいたカニだ」

つかさはかがみに背負われて、とてもうれしそうにはしゃいでいる。
まだ朝だからなのか、海岸には誰もいなかった。私たち四人だけでこのビーチを貸しきっているようだ。
私は護岸でへばっているみゆきさんに、そろりそろりと背後から近づいていた。

「てりゃ」
「はひぃっ!?」

近くの自販機で買った缶ジュースを、みゆきさんの首元に押し付けのだ。
さすがみゆきさんだ。あまりに想像通りで、萌え過ぎるリアクションに嫉妬してしまう。

「みゆきさん、お疲れ様」
「あ、ありがとうございます。私、運転に向いてないかもしれません……」
「いやいや、初めての運転でここまで無事にたどり着けたなら十分。とりあえず黒井先生よりはマシな運転だったよ」
「そうですか?まだ帰りもありますから、頑張りませんと」
「そ、そうだね」

まずい、つかさより先にみゆきさんが疲労で倒れそうだ……。
それでも。海に来れて良かった。つかさも楽しそうだ。

「こなたー、みゆきー!何してるのよ、こっちに来なさいよ!」
「砂浜がふかふかだよー!」
「はいはい!」

私はみゆきさんの手を引いて、双子の寝転ぶふかふかビーチへ駆けた。
その後、私たちは近くの記念碑に、立派な南京錠を付けた。さらにその鍵には、つかさのリボンも縛り付けてある。
昨日、みんなで話し合ってお金を少しずつ払い合って、みゆきさんが買って来たものだ。
目立たない場所に取り付けたため、上手くいけば数十年はここにぶら下がったままだろう。
私たちはこの鍵のように、強固に繋がっているのだ。
南京錠には、こう書かれている。

「We are eternal friends, Tsukasa Kagami Konata Miyuki」

私たちは永久の友達、つかさ かがみ こなた みゆき

242 :未来を思い出に変えて10/15 [saga]:2011/07/04(月) 00:05:45.36 ID:8Rw4Lkkv0

十.

病院に帰った私たちが待っていたのは、かがみのお母さん、みきさんの叱咤ではなく、みゆきさんのお父さんの激昂でもなく、つかさを乗せる車椅子だった。

「そうです。帰る途中の三十分くらい前から、返事がほとんど無くなっていました。目は開けているので、眠っている訳ではないと思うんですが、ぼーっとしてるみたいで」
「酸素マスクを準備しますので、個室で様子を見ましょう。疲れかも知れません。まったく無茶をして」
「すみません……」

かがみがナースに事情を説明している。私はつかさの手を握っていた。
個室に搬入されるつかさの目は、今日の朝とは全く違って、朦朧として視線が定まらない。
部屋の中には柊一家がそろっていた。かがみを責める者はいなかったが、安心できる状況にないのは見ての通りだった。
みきさんがやさしく微笑んで、私たちを迎えた。

「みんな、つかさの為にありがとう。もう大丈夫だから、みんな帰って休んでちょうだい」
「でも、私が言いだしっぺで、それでつかさがこんな「こなたちゃん」」

みきさんの手が、私の頬に触れた。

「私たちでは叶えられなかったつかさの願いを、あなた達が一生懸命に叶えてくれた。本当にありがとう。だから今度は私たちの番」

ね?と、私の目を見るみきさん。断れるはずも無かった。

「みゆきちゃん、あの車を運転して帰るのは大変でしょう?」

そう言ったのは、いのりさんだった。

「え、でも」
「運転、任せなさいよ。ご家族の方には、私が説明するわ。かがみも、一回帰りなさい。それで今日一日休むのよ」

あぁ、本当にこれで良かったんだろうか?これでつかさの為になったんだろうか。
意識のはっきりしないつかさを見ると、自分のせいに思えて胸が痛いのだ。
そんな間にも、ナースが病室に入ると、手際よく点滴の準備を始めた。
初めてつかさのお見舞いに来たときにも付けられていたセンサーを、またつかさの指に付けていく。心電図を取っているのだそうだ。
口には酸素マスクが装着され、どんどん重症患者のように思えてきた。

「こなた、ごめん。帰りましょう」

私はかがみに引かれて、つかさの病院を後にしたのだった。

243 :未来を思い出に変えて11/15 [saga]:2011/07/04(月) 00:06:29.90 ID:8Rw4Lkkv0

十一.

せっかくの日曜日だった、何をする気にもならなかった。
ただ一つ気のなるのはつかさの事だ。
昨日一晩、結局何が起こったのか分からなかった。
柊一家そろって、ずっと付き添っていたのだろうか?私たちが、つかさを海に連れて行ったことを、本当に感謝してくれているのだろうか?
もし、みきさんの笑顔が、偽者だとしたら。そう思うと、怖かった。
みゆきさんも大丈夫だっただろうか?もはやいのりさんの話術に期待するしかない。
そんな事を延々と考えながら、部屋の中でゴロゴロと過ごしていると、ノック音が部屋に響いた。

「お姉ちゃん、かがみさんから電話だよ」

ゆーちゃんの声で、私は飛び起きると、一目散に電話に出た。

「あ、かがみ。どうした?」
「こなた、すぐに病院に行くわよ!つかさの呼吸と心拍数が上がってるの、痙攣もしてるそうなの。みゆきにもすぐに伝えるつもり」
「わ、わかったよ!」

私は乱暴に受話器を叩き付けると、玄関に急いだ。

「ゆーちゃん、出かけてくるね。今日は遅くなりそうなんだ」

間に合え!
病室に駆け込むと、つかさは酸素マスクに付け、二種類もの点滴を繋げているがわかった。
かがみがいる他には、みきさんとまつりさんが、心配そうにつかさを見つめていた。みゆきさんはまだらしい。

「こなた、よく来てくれたわね。少しは収まったんだけど、見ての通り調子は良くないわ」

ぜぇぜぇと激しく呼吸していて、とても苦しそうに思えた。

「こなた、もしかして気にしてるかもしれないけど、これは海に連れて行った事とは直接関係ないから」
「どういうことなの?」
「ガンが、脳に転移した可能性があるんだって。今は、脳の調子を良くする点滴で、とりあえず今の状況を収めようとしてるそうだけど。でも峠だと思う」
「脳!?そんな。これからどうなるの?」
「そんなの、分かる訳ないじゃない。一旦落ち着いたとしても、つかさの様子がどうなるのか分からないし、それにもしかしたら、今日……」
「そう、なんだ……」

いつかこうなる事は覚悟していたけれど、いざこうなってしまうと、なんてやるせないんだろう。
じーっと、苦しそうなつかさを見つめる。
学校で、宿題を忘れたとかがみにすがるつかさ。感動者の漫画を読んで涙を流すつかさ。
つかさの家に行って、いっしょに部屋でゴロゴロした思い出。
去年、つかさと海水浴をした思い出、そして昨日、海に行った思い出。
それら全て、過去の思い出であり、今目の前にある光景も、一秒ごとに思い出へと変化していく。
生きるというのは、未来を少しずつ思い出に変えていく作業なのかもしれない。
いつか、つかさの様に未来を全て使い切り、そして思い出を振り返ったとき、満ち溢れたものであったなら、それは生きるという作業を全うした証と言えるだろう。
私もその作業をする一人の人間で、この病院での一連エピソードも、必ず思い出へと変えてしまうのだ。
少し寂しくもあり、誇りにも思う。でも、まだ過去のものにしたくは無い。
つかさ、頑張れ!私が諦めてどうする!?
私は思い出したように、つかさを励ました。そうさ、まだだ。

「つかさ、頑張れ」

私はつかさの手を握って、ささやくように言った。かがみも、私の真似をする。
扉が開いた音がして、目を向けると、いのりさんとみゆきさんが、並んで入ってきた。

「あら、こなたちゃんもいるのね。みゆきちゃんと途中で一緒になったわ」
「つかささんの様子はいかがですか?」
「うん、少し落ち着いたみたい」
「おっし、ちょっくら私が差し入れ買って来るかな。今日は長くなりそうだ」
244 :未来を思い出に変えて12/15 [saga]:2011/07/04(月) 00:07:00.20 ID:8Rw4Lkkv0

十二.

日が沈んだ。私が病院に着いてから、半日が立った。
つかさは穏やかな寝息を立てて眠っている。
じーっとつかさを見ていたら、ぱちりと目が開いた。

「ん?ふわー、おはよう。あれ?みんな……」
「つかさ、目が覚めたの?私が誰か、わかる?」
「わかるよお、かがみお姉ちゃんだよ。それにいのりお姉ちゃん、まつりお姉ちゃん、お母さん、お父さん、それからゆきちゃんに、こなちゃん!」
「良かった……」

つかさの親夫婦が、安堵しながら二人で話している。
つかさは口をへの字にして、うんうん唸っていた。

「あれ?海に行ってからの事、覚えてないや……」
「なんでもないよ、帰りの車の中で、疲れて眠っちゃったんだよ」
「そうなんだ……、ところで今、なん曜日?」
「日曜日ですよ。時間は夜七時過ぎです」

暫く、安否を確認した後、ナースを呼んで現状の報告。それから、ちょっとした検査が始まった。
こんなに大人数いても邪魔なので、親夫婦以外は帰宅する事になった。
ふう、と私は一息。良かった。本当に良かった。

「泉さん、涙が、流れていますよ?」
「え?これは違うよ。みゆきさんこそ、泣いてるでしょ?」
「お互い様ですね」

いのりさんが、まつりさんにお金を渡していた。

「これで皆で、レストランで夕食を食べていきなさいよ。私は疲れたから帰るわ」
「ふだんケチケチしてるのに、今日はちょっと多すぎじゃない?」
「今日は良いのよ。ほら行きなさいよ」
「よしみんな、タダで焼肉食べに行くぞ!」
「いいわね。こなたもみゆきも、来てよ。今はパーッといきたいのよね」

その日の焼肉は、人生の中で、一番おいしかった。

245 :未来を思い出に変えて13/15 [saga]:2011/07/04(月) 00:08:11.61 ID:8Rw4Lkkv0

十三.

私もみゆきさんも、かがみも毎日のようにつかさにお見舞いに行った。

「ねえ、こなちゃん。今日って何曜日だっけ?」
「今日は水曜日だよ」
「え?もうそんなに日にちが進んでたの?」
「うん、それよりも今日はね、みさきちが弁当をひっくり返してさ、その時の顔が面白かったんだよ」
「あいつがいると、毎回、何かやらかすのよね、その度に私も巻き込まれるのよ。こなたも一緒だけどね」
「そんな事ないよ」
「あはは、と、ところでゆきちゃん、海に行ったときから何にも覚えてないんだけど、私どうしたんだっけ?」
「あのあと、つかささんは寝てしまったんですよ。だから覚えていないんだと思います」
「そ、そっか……、なんだかすごく昔の事の気がして……。ところで今日って、月曜日だよね?」
「水曜日よ、つかさ」

つかさが意識を取り戻して以来、新しい物事を覚える事が出来なくなってしまった。
ガンが脳に転移したのは、やっぱり事実らしいのだ。
海に言ったあの日以来、あの時のまま、時間が止まってしまっているのだ。
あの時、海に連れて行く事が出来て良かった。
タイミングがずれていたら、海に行った思いでは作られなかったのだから。
246 :未来を思い出に変えて14/15 [saga]:2011/07/04(月) 00:09:05.46 ID:8Rw4Lkkv0

十四.

つかさが登校していた。そして一緒にバスに乗り、かがみも交えて会話をする。
当たり前のように学校へ行くと、みゆきさんが待っている。
今度はみゆきさんを交えて、つかさと会話を楽しむ。
べつに不思議な事じゃない。分かっていた。これは夢なのだと。
私の強い願望が、今目の前に再現されているに過ぎない。

「こなちゃん、いつもの事が、いつもどおり変わらずにいたら良いって、思う?」
「そうかもしれない。だから進路希望調査で迷うんだよ。つかさもそうでしょ?かがみやみゆきさんみたいに、将来を見てないし。私は今が最高に楽しければいいって思ってる」
「なら、これからやって来る激変を、受け止めてくれるかな?」
「きっと、受け止めるよ」

つかさがニコッと笑った。

木曜日。その日、昼休みに私たちの部屋に、かがみはやって来なかった。
授業が終わっても、かがみが来ない。不審に思い、かがみの教室を覗いたが、やはりかがみの姿は無かった。
最近、携帯するようになった携帯電話が、突然震えだした。
着信はかがみからのものだった。
内容はいたってシンプルなものだった。

つかさが死んだ。
247 :未来を思い出に変えて15/15 [saga]:2011/07/04(月) 00:09:38.21 ID:8Rw4Lkkv0

とうとう、この時が来た。
つかさは、命と言うろうそくを全て燃やしきった。確かに短いろうそくだったけど、すごく太くて、その炎は真っ赤に輝いていた。
燃えカスなど一切残さず、全部燃やし尽くした。
気になるのは、どうしてかがみだけが、その時病院にいたのか?きっとつかさの異変について、連絡があったのだろう。
私たちには内緒で病院へ行ったのだ。

「こなたさん、気持ちは分かりますし、私もかがみさんのした事にいい気はしませんが、でもかがみさんの気持ちも考えて欲しいんです」

確かに、妹の死という最も神聖な領域に、私たちが侵入して欲しいと思わなかったのかもしれない。
かがみが産まれた時に、つかさが産まれて、かがみの人生と一緒に、つかさの人生もあったんだろう。
マンガ十冊買ってもらうことで許してやろう。

「ねえ、みゆきさん。ちょっと付き合ってよ。今、すごく海に行きたいんだ。近くでいいからさ。夜までそこに居たいんだ」
「それは良いですね。私も丁度、行きたいと思っていました」

その日のは七月七日。七夕で、かがみとつかさの誕生日。
そしてつかさの命日でもあった。
東京湾から見る星空は、とてもまばらだったが、織姫も彦星も確かに見えた。
今日、この空に星が一つ増えた。無事にあの星空へ迎え入れられただろうか。
私は泣かない事に決めていた。みゆきさんもその様だ。

ハッピーバースデー、つかさとかがみ。それからさようなら、つかさ。寂しくなど無い。
この海は、あの海岸に繋がっている。あの南京錠に書かれた様に、どうなっていようと私たちは永久の友達なのだから。
248 :4×2=?(声ネタを自重しないものとする)の作者 [sage]:2011/07/04(月) 00:11:35.49 ID:9pEwLmhAO
>>214

確認しました。…>>221じゃなくて>>211ですね。
こちらから修正できないので「トラックに引かせる気?」に修正お願いします。
249 :未来を思い出に変えて15/15 [saga]:2011/07/04(月) 00:12:58.60 ID:8Rw4Lkkv0
以上です!
時間ギリギリorアウト!?で申し訳ありません。
どうにか参加させてください。。。。。。

つかさのモデルは、つい先月死んだ父親。まあ、海には行ってないけど。
最近は小説より奇なりな事が多すぎる。。
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 00:13:46.56 ID:lLV+qDCo0
コンクール主催者です。

>>247
なかなかの力作とは思いますが時間がオーバーしてしまっています。
一般作品として登録させていただきます


>>248
了解しました。修正します。
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 00:16:30.61 ID:lLV+qDCo0
☆第二十一回コンクールの開催のお知らせ☆

これで投稿期間終了を宣言します。

投票期間:7月05日(火)〜 7月11日(月)24:00

となりますので。よろしくお願いします。

252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 00:31:53.19 ID:lLV+qDCo0
>>249『未来を思い出に変えて』
の作者の方、まとめるにおいて、恐らく1ページでは収まりきれないので分割する事になります。

どこで分けるのか指定して下さい。


253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/07/04(月) 00:51:28.85 ID:9O6mbDcs0
>>250
未来を思い出に変えての作者です。
コンクールの規定を読み返しましたが、投稿開始が0時前なのでセーフではないかと。
終了宣言されたのでパニックにてなりましたが、よく考えたら前例は沢山あるはずです。
もともと、タイトルに投稿数を先に宣言するのは、こういった事態に対処するための救済処置だったような。。

>>252
七.の直後でお願いします。
どこのレスで切っても不自然さはないようになっているので、真ん中でぶっつりと。
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 00:57:57.64 ID:lLV+qDCo0
−−−−お疲れ様−−−

こなた「なんとか作品が出揃った」
ひより「そうですね……」
こなた「どうしたのさ」
ひより「え、まぁ、タイムオーバーした作品が出てしまったので……」
こなた「うーん、私も何度もそうゆう作品を目にしている、その作品を想うとエントリー出来ないんだよ、これを理解してくれとは言わないけ     ど、決めたルールだから……許して下さい」
ひより「ゆるして下さい」

こなた「エントリーされた作品の作者の皆様、お疲れ様でした」
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 01:04:34.38 ID:lLV+qDCo0
>>253
投下時に記載された必要レス数の2/3以上の投下が終わっていること。

と規約に書かれています。落とされた過去作品はこれでアウトになっています。

256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 01:18:54.26 ID:lLV+qDCo0
>>255
他に救済できる方法があれば教えて欲しい。できればエントリーしたいのです。
257 :未来を思い出に変えて [saga]:2011/07/04(月) 01:20:28.77 ID:8Rw4Lkkv0
>>255

>連続投稿規制に引っかかった場合、以下の2条件を満たした場合のみ投稿期限を超えたものも有効とする。

>投下時に記載された必要レス数の2/3以上の投下が終わっていること。


連続投稿規制にひっかっか場合はとあります。
例えば、私が十一.くらいで、連続投稿規制を受けたときに、以上のルールが適用されます。

この辺のルールを作る際、私もいろいろと議論に参加していたので、なんとなく覚えてます。

二年ぶりの投稿なのですが、最近は落とされているんですか!?
私は毎回、こんな感じで投稿をしていたような……。
258 :未来を思い出に変えて [saga]:2011/07/04(月) 01:27:29.22 ID:8Rw4Lkkv0
議論中ですがすいません。寝ます。。
ダメなら仕方ないですが、さすがにこの作品に気合を入れすぎたので、諦めきれず……。
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 01:30:31.39 ID:lLV+qDCo0
今回の規定は十三回目から適用になっていますね。
それから特に変えていないみたいです。

規約には以下も書かれています。
時間延長は一切不可とする。(書き込みに時間がかかる、ネットに繋げない媒体に完成作品がある等、一切の障害も含む)
これだと完全に救済できませんね。

私は十四回から参加していますが何作か落とされている作品を見ています。
なぜ時間に厳しくなったのか経緯はわかりませんが。
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/07/04(月) 01:42:01.92 ID:9O6mbDcs0
>>259
たしかそれはかなり初期の話で、携帯的なもので書いたけど、直接投稿できない。
一回パソコンに転送するから、ちょっと待ってくれ。
と言う人が現れたのが事の始まりですね。
なのでそれは、投稿開始の時間規制だったような。
ふうむ。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/04(月) 01:45:12.15 ID:5jBhRETSO
自分は別に参加扱いでもいいと思うけどなぁ…

まぁコンクールに参加出来た出来なかったで読む人の数が大して変わる訳でもないし
仮に優勝したからといって金一封がもらえる訳でもないけどね

そんなことより柊姉妹の誕生日SSよろしくね!
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/07/04(月) 01:49:59.01 ID:1Hon5hpuo
その2年前である2009年5月に、間に合わず落とされた作品があるわけだが
wikiのログ見れば分かるが時間延長が一切不可と明記されてるのは2008年から
それ以降に“連投規制に引っかかった場合のみ”と条件付で書き加えられてる

2009年の件の流れはここ参照
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/auto/5330/1184852988/56
263 :未来を思い出に変えて [saga]:2011/07/04(月) 02:11:07.49 ID:a1pSnA6q0
>>262

かがみん弁護士そんな事言ってたか。
て言うか、そうだ思い出した。
24時に規制で投稿に間に合わないなら、避難所スレに書けといのが基本ルールだった!
そして24時に間に合うようにしていた気がする!

うわ、やってしまった。リレーの投稿宣言とか、他のルールも混じって混乱してたんだ。
コンクールのルール完全に忘れてたよ。なんかこの一ヶ月がもう……。
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/04(月) 02:21:08.19 ID:l3bwKB9I0
せっかくの作品だし、参加でいいんじゃない?
色々な経緯あってのルールだと思うけど、それはそれとしてなんのためのルールかって思ってしまうよ。
差し出がましい発言だったらすまん
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/07/04(月) 02:29:55.29 ID:9O6mbDcs0
参加規約は、忘れた思い出を取り戻すため、参加する前に読み直していたけど、解釈がずれてたわ。
さすがに2年のブランクは大きいな。
こういったルールを自分で作っておいて、本当に申し訳ない。
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/04(月) 07:57:35.79 ID:vaau5j6v0
コンクール主催者です。

自分も規則に縛られるのはあまりすきじゃない。

で、ある考えを思いつきました。

時間がないので夜に発表します。
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/04(月) 12:25:13.88 ID:l54qr4ISO
つーかコンクールが成立するかも怪しい作品数なのに、弾く必要ないだろ
二年前とは事情が違う
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/04(月) 16:34:21.79 ID:KAHVLN2AO
時間内に投下してね→時間間に合いませんでした→せっかくだから通してやろうぜ
なんの冗談だよ。あげく主催が規則に縛られるのは好きじゃないとか……
特に理不尽な訳でもない、ごく当たり前の時間制限で

もう規約全撤廃しちゃえよ
守られないルールに意味なんかない
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/04(月) 17:40:36.15 ID:l54qr4ISO
投下が殺到するような人気コンクールなら、規約に厳しくてもいいだろうけど
こんな過疎ってんだから多少の融通は効かせようぜ
なにも一日遅れで投下して参加させろとか言ってる訳じゃないんだし
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/07/04(月) 18:11:44.32 ID:X/9BqyqU0
なんのための参加規約かと言えば、
コンクールに参加した人が平等に競える環境にするため
まとめ役の人の負担を減らすため。
スポーツのルールに近いね。
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/07/04(月) 19:57:01.62 ID:yL5+Vu+v0
 締め切り時刻超過投稿の救済のために規約改正するにしても、明確な規定にしないと解釈に幅が出ていざというときに揉めるし、そうなると主催者にも負担がかかる。
 その反面で、過疎状態・投稿作品減少も深刻な問題。
 とすれば、投下作品数が少ない場合の締め切り自動延長条項を設けるという手もありだろうか。
 試案としては、下記のとおり。

 「コンクール作品の投下締め切り時刻の24時間前の時点で、コンクール作品投下数(投下途中のものも含む)がA以下のときは、締め切り時刻を24時間延長するものとし、以後も同様とする。ただし、延長回数は合計B回までとする。延長条件に合致することを確認したときは、主催者が本スレでその旨宣言すること」

 主催者の負担は増えるけど。
 これなら解釈の幅は少ないだろうから、そのときになって揉めることはあるまい。
 事前に告知されたうえでの締め切り延長なら、締め切り超過の救済ではないから、平等性を害する度合いはやや少ないだろうし。
 AとBの数字をどう定めるかが問題だが。
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 20:16:25.67 ID:lLV+qDCo0
主催者です。

>>267-270
意見は聞かさせて頂きました。

>>271は今後の話なので。今は話しません。


今回のコンクールは10作品くらいだと予想していた。
理由は決選投票の総数が15票だったのでそのくらいかなと。
だから最終日はかなり混むのではと思っていた。

実際は最終日までで2作品しか投下されていなかった。正直焦った。
キャラを使ってなれない1レス掛け合いで催促もしてみたけど効果はなかった。
このままなら中止も視野にいれていました。
実際今回の作品数は過去最低の数だと思う。


5分前で作品が投下されていなかったので宣言の準備をしていて、宣言をしたら
投下中の作品があった。

これが経緯です。

5作品あれば一応投票ができるので運用上は問題はない。しかし、
『未来を思い出に変えて』の作者が参加したいと意思表示を明確にだしてきたので迷っている所です。

ペナルティ付きで許可してもいいかなと思っているのですが。
具体的なペナルティは総投票数から−3票する。

一つでも反対意見があれば作者には諦めてもらいましょう。


23時まで待ちます。
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/07/04(月) 20:24:52.63 ID:jELpdlr00
いやあ、反対意見は必ず一つはあると思うから、その条件は厳しいような。
まず、参加規約の書き方にろブレがあったのが、今回の混乱の原因なわけで。
参加規約を読んだ上で投稿してる作者に落ち度は、意外に少ない
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/04(月) 20:30:48.05 ID:+w1KFJNNo
いや、ただの発表会をやりたいならルールなしでいいけど
コンクールやりたいならルール厳守が当然だろ
というかルール厳守じゃないとコンクールにならない
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/04(月) 20:35:32.50 ID:5jBhRETSO
規約だのペナルティだのお硬いなぁ

普通に参加でいいじゃん
ただライバルを減らしたいようにしか見えないよ
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/07/04(月) 20:35:54.03 ID:jELpdlr00
コンクールありきのルールじゃないか?
満足いくコンクールを開くためのルールなのだから、
ルールのためにコンクールが満足に出来ないなら、やはりルールの改定なり必要だろ。
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/04(月) 20:48:44.64 ID:5jBhRETSO
                  ._」   L_/    /
                ., ´: : :>、_/z‐七<
              ./: : :,zチ‐" : ∧: `丶ゝ:. \
              /: : : .//: : : :/: 小 : : : |: : : : : \
            /): : : レ: :,-‐フ:/ | \:.:.|`ヽ: : : : :.\
           ///).|/:/〃  |   ヽト、: :|: : : :l: : :l
          /,.=゙''"/ : |:. :/z=、    テミ、: |: : : :| : : |
   /     i f ,.r='"-‐'つ イ j`ヽ    r┘ヾj: : :| | ト、.|
  /      /   _,.-‐'~:. :Y|7 ハ.}    {.ィ_ハ|リ|: ハ:| | `|
    /   ,i   ,二ニ⊃ : :|弋廴ノ     弋_ノ ∧ 小:|  こまけぇこたぁいいんだよ!!
   /    ノ    il゙フ ぃ: : :|     r‐ ┐    ハj: ハ |
      ,イ「ト、  ,!,!|ハ:.: ト、: :ト、    l  ノ   ,人: :/ リ
     / iトヾヽ_/ィ"|. \|. \|\|r―┬<//}:.:/
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 21:07:11.78 ID:lLV+qDCo0
主催者です。

23時まで待つこともなかった。

ルールの改定は必要だろう。しかしもう実際に運用してしまった以上変える分けにはいかない。

と考えると今回は規約通りするのが妥当か。

余計な事を考えすぎた。

お手数をおかけしました。

今回は規約通りにさせて頂きます。

規約の改定については今後も話していきたいと思います。

『未来を思い出に変えて』の作者には余計な期待を持たせてすみませんでした。


以上

279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/07/04(月) 21:08:45.95 ID:1Hon5hpuo
参加規約にブレはないと思うけどなぁ
正直言ってしまうと、参加規約ではどう読んでもアウト。ゴネてるようにしか見えんよ
ルールに曖昧なところがあって、というならそこは対応を考えて然るべきだけど

ルール改定するにしても、それは次回から。既に開催されてるのを途中からというのは別の話
俺個人の意見としては、反対はしないと言うことで
個人の救済は絶対にすべきではないと思うが、コンクールの成立のため……という名目ならまぁ主催の判断
一応の公平性は保てるんじゃないか

>>275
>>261で自分が書いてるけど何かもらえるわけでもなし、それこそライバルも糞もないでしょ
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 21:15:28.97 ID:lLV+qDCo0
主催者です。

問題は参加者が極端に少ない時どうするかに尽きると思う。

それがなければ私は悩まなかった。
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/07/04(月) 21:17:51.19 ID:pgBmJSpv0
じゃあ、参加で良くない?
俺的にコンクールのが大事。
過去最小か……。
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 21:22:41.34 ID:lLV+qDCo0
>>281
そんな事言われるとまた悩んでしまうよ。
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/07/04(月) 21:30:30.45 ID:pgBmJSpv0
まあ確かに、救済処置とか言う言葉に振り回せれすぎてるかもな。
感情論抜きにしても、俺たち側からすれば参加者数が増えた方がいいよね。
客観的に見て、このスレの活性化とかを目指すやら、採用かな。
これは救済ではなく、完全にこっちの都合だけどね。
ぶっちゃけ、本当にコンクールが危ないし。
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 21:38:06.88 ID:lLV+qDCo0
>>283
それなんだよ。
危機感はある。前回、投票設定の失敗したのは自分だから何も言えないけど。
採用してもしなくてもまた汚点を残しそうで。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 21:50:36.69 ID:lLV+qDCo0
主催者です。

最終決定です。

何度も変更してすみません。『未来を思い出に変えて』を正式に採用します。
一日放置したからもうペナルティは与えたのと同じ。
6としてエントリーします

どっちも汚点ならこっちを選ぶ。

あとは投票者にお任せです。

それでは纏めさせて頂きます。
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/04(月) 22:06:03.17 ID:rtplTmoNo
>>285
乙です
今後のことは改めて考えるとして、今は英断だと思います
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/04(月) 23:31:53.96 ID:lLV+qDCo0
☆☆ 第二十一回コンクール開催 ☆☆


投票を始めます。時間になりましたら投票を開始して下さい。

お手数ですが『お題』『ストーリ』『文章』

の三部門で一票づつお願いします。

「お題」部門投票所へ→http://vote3.ziyu.net/html/odai21.html

「ストーリー」部門投票所へ→http://vote3.ziyu.net/html/story21.html

「文章」部門投票所へ→http://vote3.ziyu.net/html/bnsyou21.html

投票期間:7月05日(火)〜 7月11日(月)24:00
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/05(火) 00:42:48.42 ID:2CaHP/bSO
文章部門の投票所がおかしいような
289 :未来を思い出に変えて [saga]:2011/07/05(火) 00:49:04.75 ID:OnZTPhm50
未来を思い出に変えての作者です。
スレを見たらエライ事になっていまして、今回の件は申し訳なかったです。
主催の方と、今回の関係者にご迷惑おかけしました。
コンクールに参加可能と言うことで、本当にありがとうございました。
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/05(火) 01:18:21.37 ID:NwXXjjPP0
>>288
ご指摘ありがとうございます
修正しました。
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/05(火) 01:23:52.40 ID:NwXXjjPP0
一応他の部門の設定を再チェック。
問題ない事を確認しました。
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/06(水) 21:43:05.55 ID:jvYoNPYA0
避難所で今後のコンクール規約について話しています。
興味のある方は参加して下さい。
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/07/07(木) 00:19:27.49 ID:djnx7cQSO
かがみ、つかさ誕生日おめでとう!
誕生日SS書いてるけど間に合わないよ!
多分、土日になるよ!

…時間を下さい。
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/07(木) 00:36:43.97 ID:sd7HSbV30
誕生日ss作る余裕がなかった。
よろしくお願いします。
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/07(木) 00:50:56.70 ID:2xYFi3kSO
つかさかがみおめでとーーー!!!!

自分は読み専でしかないけど、SS期待しとります!
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/07/07(木) 01:13:54.52 ID:YycOVpvQ0
つかがみ誕生日おめ!
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/07/07(木) 01:22:39.40 ID:/N4+1rgbo
そうか、七夕か。かがみ&つかさ誕生日おめでとう
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/07(木) 20:53:26.42 ID:sd7HSbV30
☆☆ 第二十一回コンクール開催 ☆☆


投票を始めます。時間になりましたら投票を開始して下さい。

お手数ですが『お題』『ストーリ』『文章』

の三部門で一票づつお願いします。

「お題」部門投票所へ→http://vote3.ziyu.net/html/odai21.html

「ストーリー」部門投票所へ→http://vote3.ziyu.net/html/story21.html

「文章」部門投票所へ→http://vote3.ziyu.net/html/bnsyou21.html

投票期間:7月05日(火)〜 7月11日(月)24:00


投票数が思わしくないので宣伝です。

三部門に別れていますがそんなに厳粛にならず、気楽に考えてください。
好きな作品3つを適当に分けて投票してもいいし、三部門とも一つの作品に投票しても構いません。
時間はまだありますのでゆっくり選んで下さい。よろしくお願いします。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [saga]:2011/07/07(木) 23:59:36.40 ID:LIrAAvMd0
ーミイラ取りー

みゆき「泉さん。かがみさん達の誕生日SSの調子はいかがでしょうか?」
こなた「…実はね、昨日PSストアが復旧したんだよ」
みゆき「…はあ」
こなた「それで、お詫びのゲームパックってのがあってね、まあただだし折角だからDLしとこーかなーって…」
みゆき「手にPSP持っているのはそれでですか?」
こなた「…みんなのスッキリてのが意外と面白くて…いやまあお金出してまでやろうってほどではないんだけど…」
みゆき「…泉さん」
こなた「あ、でもほら!この本棚整理のゲームとかみゆきさん好きそうじゃん!ちょっとやってみる!?」
みゆき「いえ、わたしは…まあ、少しだけなら」

二時間後

こなた「あの、みゆきさん…そろそろ返して…」
みゆき「もう少し待って下さい…ここをこうすればもう少しタイムが…」
こなた「…こうなるとは思ったけど…」
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 00:33:05.63 ID:bvh5KoESO
みゆきさんって意外と頑固なんだよね
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/10(日) 07:34:53.91 ID:Sew32FbM0
----やっと落ち着いた、だけど---

こなた「なんやかんやでコンクールも大詰め、どうなるかな、なんか待ってるほうからするとドキドキするよね」
ひより「その待ってるのがいいんっスよ、待つのが一番楽しいとも言われているっス」
こなた「そうかな〜さっさと決めて欲しい気がする、もどかしいよ、新しいSSも考えられないほどに……」
ひより「大げさっスね泉先輩は、何か決まっても何かが変わるようなコンクールじゃないっスよ」
こなた「何かをして何も変わらない事なんてないよ」
ひより「え?」
こなた「たとえどんなに小さな出来事でも変わるもんさ、道端でありんこを踏むか踏まないかでも歴史は変わる」
ひより「なにか哲学ですね、こうやって生きているってのが変わっていくっス……って話が変わっちゃったじゃないっすか!!」
こなた「ふふ、お題をちょっと意識してみた」
ひより「『変』……ですか、難しいお題だったような」
こなた「まぁ、難しい方に入るのかな、参加人数から考えるとね」
ひより「一番『変』を表現している作品って何だろう?」
こなた「投票に影響する事は言えないよ」
ひより「そうでした……」
こなた「でも、それほど厳しいくはないかな、昔は最終日にレビュー(感想)しちゃったくらいだからね、本来は終了してからするよね」
ひより「そういえばやっていましたね、そんなの」
こなた「だからそんなに厳粛に考えなくていいんだよ、自分が気に入ったのに投票しちゃえばね」
ひより「それだったら泉先輩も感想書いちゃえば、宣伝になるっス」
こなた「いやいや、人の作品にどうこう言うような立場じゃないよ、それに自分で自分作品の感想なんか書けないし」
ひより「え、泉先輩も作品出してるっスか、教えてください」
こなた「な・い・しょ」
ひより「えー今更内緒って……」


こなた「っと言うことで、皆さん投票お願いします〜」
ひより「コンクール広報からのお知らせでした」


こなた「……で、いつから広報なんかできたの?」
ひより「さぁ?」
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/10(日) 08:47:50.04 ID:Sew32FbM0
-----------------ここまでまとめたーーーーーーーーーーーー

303 :隣星 [saga]:2011/07/11(月) 00:26:05.46 ID:mChtApYP0
投下行きます。

だいぶ遅れてしまいましたが、柊姉妹の誕生日SSです。
304 :隣星 [saga]:2011/07/11(月) 00:26:57.27 ID:mChtApYP0
 七月に入りすぐの、とある日の喫茶店。
 泉こなたは友人の柊つかさと共に軽い食事を取っていた。
「で、相談事って何?」
 フォークにパスタを巻きながらこなたがそう切り出すと、つかさはつかさは少し照れくさそうにはにかみ、鞄から一つの小箱を取り出した。
「これ、なんだけど…」
 綺麗にラッピングされた小箱は、どう見ても何かのプレゼント用だった。こなたはフォークを止め少し考えるとその小箱に手を伸ばした。
「ありがとう、つかさ」
 こなたの手を見たつかさは、慌てて小箱を後ろ手に隠した。
「ち、違うよ!こなちゃんにじゃないよ!」
「ちぇ、残念」
 こなたは不服そうに口を尖らせると、またフォークにパスタを巻き始めた。
「もう…これはね、お姉ちゃんへの誕生日プレゼントなんだ」
「…かがみの?」
 こなたは少し不思議そうに小首をかしげた。
「うん…それでね、相談ってのは、これをどう渡したらいいのかなって事なんだけど…」
 つかさの言葉を聞いたこなたは、ますます不思議そうに首を傾げる。
「どうしたらって…何時も通りに渡せばいいんじゃないかな?」
「…えっと…それがね…初めてなの…」
「なにが?」
「…お姉ちゃんに誕生日プレゼント渡すの」
「…へ?」
 こなたはしばらく唖然とした後、恥ずかしげにうつむいているつかさをまじまじと見つめた。
「い、今まであげた事無かったの?」
「う、うん…なんか、そういうの無くて…」
「ふーむ…」
 こなたは少し眉間にしわを寄せて考えた後、必要以上に大量に巻いたパスタを口に入れた。



― 隣星 ―



305 :隣星 [saga]:2011/07/11(月) 00:29:09.76 ID:mChtApYP0
「…さて、どうしたものか」
 家の玄関をくぐりながら、こなたはため息をついた。少し考えてみるとつかさには言ったものの、特にいい考えが浮かぶことなく家まで戻ってきてしまったのだ。
「おかえり、こなた。みゆきちゃんが部屋でまってるぞ」
 家に入ると、丁度通りかかった父のそうじろうが、そうこなたに声をかけてきた。
「…みゆきさんが?」
 こなたの返事に、そうじろうが訝しげな表情をする。
「メールで家に行くことは伝えてあるって言ってたぞ?」
「…なんと」
 こなたは慌ててポケットに入れてある携帯を取り出し、メールボックスを開いた。
「ホントだ…相談事があるって」
 その様子を見たそうじろうがため息をつく。
「五割だな」
「な、なにが…?」
「俺の知る限りで、お前がメールや着信をチェックする確立だ」
「お父様、それはあんまりですわ…」
 こなたはばつが悪そうに頭をかきながら、自分の部屋へと向かった。


「や、みゆきさん。おまたせ」
 こなたは陽気な口調でそう言いながら部屋に入り、部屋の中央に座っているみゆきの隣に座った。
「こんにちは、泉さん。メールはちゃんと目を通してくださいね」
 そのこなたに、みゆきは微笑みながらそう言った。
「…何で見てないってわかるの」
「廊下の会話が聞こえてきましたので」
「そうでしたか…申し訳ございません」
 茶化すように謝るこなたに、みゆきは少し困った顔をしたが、すぐに表情を戻した。
「それで、相談なんですが…」
「うん…ってかみゆきさんがわたしに相談って珍しいね」
「そうでしょうか?…えっと、実は先程かがみさんとお会いしてまして、お誕生日のことで相談を受けまして…」
 そこまで聞いて、こなたは自分がつかさから受けた相談のことを思い出した。
「みゆきさん…まさかその相談って、つかさに誕生日プレゼントをどう渡そうかって事なんじゃ…」
 こなたの言葉に、みゆきは驚いたように瞬きをした。
「そ、そうです、その通りです…もしかして、泉さんも同じ相談をかがみさんから…?」
「いんや、わたしはつかさから。同じような相談されたから、もしかしてって思って」
「そうでしたか…」
 みゆきは顎に人差し指を当てて少し考えた後、小首をかしげた。
「と、いうことは、かがみさんとつかささんがお互いに誕生日プレゼントを贈ろうとしている、ということですか?」
「そうなるねー。双子とはいえ、なんというシンクロニシティ…そういや、つかさはプレゼント渡すの初めてって言ってたけど、かがみはどうなんだろ?」
「はい、かがみさんも初めてだと仰ってましたね」
「そっかー…こう言うのって姉妹とかだと祝わないものなのかなあ」
「どうでしょう…わたしは一人っ子なのでなんとも…」
 こなたとみゆきは少しうつむいて、しばらく考え込んだ。
「…まあ、こういう事を他人に相談するってのは、よっぽど切羽詰ってるんだろうねえ…特に、かがみ」
 そして、そう言いながらこなたは床に仰向けに寝転んだ。
「さて、どうしようかなあ」
 呟くこなたの顔を、みゆきが覗き込む。
「お互いプレゼントを渡そうとしているということを、話せば良いのではないでしょうか?そうすれば上手くいくと…」
 こなたはみゆきの言葉に目を瞑り頭をかいた。
「うーん…わたしもそうは思うんだけど、味気が無いって言うか、もっとこうサプライズ的な何かが欲しいな、と」
「サプライズですか…」
 みゆきは少し困った顔をして、こなたから視線を外した。
「そう、なんかこうプレゼントシーンが盛り上がるような、ロマンチックな演出をだね…」
「素敵だとは思いますが、難しいですね…今年の七夕は星も見えないようですし」
 みゆきの呟きに、こなたが勢いよく上半身を起こした。
「七日、雨降るの?」
「いえ、曇りのようですね。週間予報でそう言ってました」
 こなたの行動に少し驚きながらみゆきがそう言うと、こなたはニンマリとした笑みを浮かべた。
「それだよ、みゆきさん。それでいこう」
「え、それって…」
「ちょっと耳貸して」
 こなたはみゆきの耳元に顔を近づけ、ゴニョゴニョと何かを呟いた。そして、こなたが顔を離すと、みゆきは難しい顔をして考え込み始めた。
「えーっと…ダメだったかな?」
 そのみゆきにこなたがそう聞くと、みゆきは慌てたようにこなたに手を振って見せた。
「いえ、その…それを行なうために、何が必要なのかを考えてまして」
「それじゃ、とりあえず賛成なんだね」
「はい、とても素敵なことだと思いますよ」
 みゆきが嬉しそうにそう言いながら微笑むと、こなたは照れくさそうにそっぽを向いて頬をかいた。
「じゃ、じゃあ資材の調達はみゆきさんにまかせていいかな?わたしは場所を確保しとくから」
「場所はどこか当てがあるのですか?」
「うん、まあこの辺だとあそこしかないかなあって…ま、その辺はなんとかするから任せといてよ」
「わかりました。では、お任せしますね…上手くいくといいですね」
 最後に付け足したみゆきの言葉に、こなたは深く頷いた。



306 :隣星 [saga]:2011/07/11(月) 00:31:05.22 ID:mChtApYP0
 七月七日。夜の鷹宮神社。
 厚い雲のおかげで星明りすらなく、真っ暗な道をこなたとつかさの二人は歩いていた。光源といえば、こなたの持っている足元を照らすのが精一杯の、頼りない光を放つペンライトだけ。
「…こなちゃん。もうちょっと明るい懐中電灯無かったの?前が見えないよ…」
 つかさが少し怯えた声でこなたにそう聞いた。
「大丈夫だよ。ちゃんと目印通りに歩いてるから。それより手を離してはぐれたりしないでね?あと、プレゼント落としちゃダメだよ」
 こなたが軽い口調でそう言うと、つかさはこなたの服を掴んでいる手に力を込め、反対の手に持っているかがみへの誕生日プレゼントをちゃんと持っていることを確認した。

 しばらく歩いたところで、こなたが立ち止まった。そして、ペンライトで足元を調べ、チョークか何かで描かれているらしい、人一人が立てるくらいの丸い円を探し出した。
「つかさ、ちょっとここに立って。それで向こう向いてね」
 こなたに促され、つかさは恐る恐るその円の中に入り指定された方を向いた。
「…こなちゃん、これなに?」
「まあ、ちょっと待ってよ。そろそろだから」
 こなたがそう言うと、少し離れた場所でチカチカと光が瞬いた。
「お、向こうも準備できたみたいだね…それじゃ」
 こなたはペンライトを頭の上にかかげ、クルクルと回した。すると、つかさの目の前が一気に明るくなり、その眩しさにつかさは思わず目をつぶってしまった。
「…わー」
 そして、眩しさに慣れ、目を開けたつかさは思わず感嘆の声を上げた。
 たくさんの小さな輝き。それが川のようにつかさの目の前に広がっていた。まるで、雲で見えない天の川がそこに降りてきているようだった。
「凄い…これ、こなちゃんが用意したの?」
 目の前の光景に息を呑みながらつかさがそう聞くと、こなたは少し苦笑しながら頭をかいた。
「わたしはほとんど何もしてないけどね…ほら、つかさ。対岸の方見てよ」
 こなたにそう言われつかさが対岸を見ると、そこにはかがみと付き添っているみゆきの姿が見えた。
「さ、舞台は整ったよ。後はそのプレゼントを渡して、かがみから受け取るだけだよ」
「え、渡すってここで?って受け取るって?」
 こなたは、混乱したかのように戸惑うつかさの肩を軽く叩いた。
「かがみも、だったんだよ。今年、プレゼント渡そうって考えてたの…さ、いっといで」
 そして、そう言いながら、つかさの背中を天の川の方へと押した。
「い、行くって…この中に?」
「大丈夫だよ。ちゃんと上を歩けるようにしてるから」
 こなたがそう言いながら手に力を込めると、つかさは諦めたように川に足を踏み出した。

「…わー」
 踏み出した光の上。つかさは川を見たときと同じような感嘆の声を上げた。
 足元に広がる天の川。その上を歩くつかさは、まるで自分が彦星に会いに行く織姫になったような気分だった。そして、川の丁度中央あたりに来たところで、同じように川を歩いてきたかがみと向き合った。
「…神社に入るなって言われてたの、こういうことだったのね」
「…そうだね。これ、どうやってるんだろ」
「多分、小さい電球を敷き詰めて、その上に透明な板を張ってると思うんだけど…よくこんなことするわね」
 呆れたようにそういうかがみに、つかさは苦笑した。
「でも、嬉しいよね。わたし達のために、こういうことしてくれるなんて」
「…まあ、そうね」
 そっぽを向いて照れたように頭をかくかがみが少しおかしくて、つかさはクスリと笑った。
「それはそうと…みゆきから聞いたんだけど、つかさも同じ事考えてたのね」
 気を取り直したかがみがそう言うと、つかさは無言で頷いた。
「みゆきにも不思議がられたけど…周りから見ると、わたし達がお互い祝ってないっておかしいのかしらね」
「どうだろ…近すぎたのかもしれないね。わたしとお姉ちゃん」
 つかさは少し首を傾げて考えた後、ポツリとそう呟いた。
「近すぎた?」
「うん。ずっと隣にいたから、逆にお互いが見えてなかったのかも。感じたり、知ったりは出来ても、見えてないから色々抜けちゃってたのかも」
 つかさの言葉に、かがみはポカンと口をあけて固まった。
「…あ、あれ。わたし変な事言った?」
 かがみの反応に、つかさが不安そうにそう聞いた。
「え、あ、いや、そうじゃなくて…驚いたのよ。つかさがそう言うことちゃんと考えてるなんて…」
「あ、お姉ちゃんそれちょっとひどいよ」
 少し頬を膨らませてむくれるつかさに、かがみは思わず笑い出してしまった。
「ごめんごめん…でも、そう言われればそうよね。ずっと隣だったから、か」
 かがみはうつむいて。自分の足元の天の川を少し眺め、そして顔を上げた。
「そうね…一年に一度くらいは、こうやって向かい合うのも悪くないわね」
「うん」
 かがみの言葉に、つかさが満面の笑みで答える。
 しばらく二人はお互いの姿をしっかりと見て、そしてどちらとも無く誕生日プレゼントをお互いの前に差し出した。
「それじゃ、つかさ」
「うん、お姉ちゃん」

『お誕生日、おめでとう』



― おしまい ―
307 :隣星 [saga]:2011/07/11(月) 00:33:25.32 ID:mChtApYP0
以上です。

色々あったんです。パタポンとか。
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/11(月) 19:48:14.62 ID:Z1GIaXbE0
>>307
纏めました。

誕生日を祝うのは家族くらいかな、こんな誕生日なら歳をとるのも悪くないと思う。

かがみつかさの誕生日は過ぎたけど七夕は旧暦もあるのでお題としてはまだまだ旬かもしれません。

309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/11(月) 22:54:41.06 ID:Z1GIaXbE0
 ☆☆ 第二十一回コンクール開催 ☆☆




いよいよ投票〆切まであとわずかです。

投票が未だの人は急いで下さい。

「お題」部門投票所へ→http://vote3.ziyu.net/html/odai21.html

「ストーリー」部門投票所へ→http://vote3.ziyu.net/html/story21.html

「文章」部門投票所へ→http://vote3.ziyu.net/html/bnsyou21.html

投票期間:7月05日(火)〜 7月11日(月)24:00

310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/11(月) 23:05:36.55 ID:Z1GIaXbE0
コンクールの発表ですが、投票結果のスクリーンショットの貼り付けを誰かにお願いできませんでしょうか?
前回やって頂いて大変助かりました。
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/07/12(火) 00:02:42.66 ID:tZtlZOwl0
投票終了!?
ワクワクドキドキ
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/12(火) 00:29:44.39 ID:wffLWMs+0
☆☆ 第二十一回コンクール開催 ☆☆




結果を発表します。
計算が苦手なので間違いはすぐに指摘して下さい。


まず総得票から 「お題」「ストーリ」「文章」の順ですl

エントリーNo.01:ID:Rt01CV830氏:時渡り      2+0+2=4票

エントリーNo.02:ID:QtQxp9cu0氏:変化       3+2+3=8票

エントリーNo.03:ID:eHUo2gyQ0氏:あの夏を越えて 1+5+2=8票

エントリーNo.04:ID:gD7Vc5yAO氏:4×2=?(声ネタを自重しないものとする) 0+0+0=0票

エントリーNo.05:ID:+AnOJenx0氏:事変       3+3+0=6票

エントリーNo.06:ID:jg8blceH0氏:未来を思い出に変えて 1+2+2=5票



大賞は8票同数により

ID:QtQxp9cu0氏:変化   と  エントリーNo.03:ID:eHUo2gyQ0氏:あの夏を越えて


部門賞

「お題」

エントリーNo.02:ID:QtQxp9cu0氏:変化 と エントリーNo.05:ID:+AnOJenx0氏:事変

「ストーリ」

エントリーNo.03:ID:eHUo2gyQ0氏:あの夏を越えて

「文章」

エントリーNo.02:ID:QtQxp9cu0氏:変化

となりました。 各賞を取った方、おめでとうございます。運営としては不手際ばかりでどうもすみませんでした。
これにこりずにコンクールを盛り上げえてくれると助かります。


終わり
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/12(火) 01:44:36.37 ID:wffLWMs+0
纏めサイトを編集しました。
ご確認お願いします。
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/07/12(火) 01:51:37.12 ID:Pbbx3R+3o
ああ、しまった投票昨日までだったか。忘れてた

乙。SSはやっとく
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 10:12:18.35 ID:04K3EIZSO
>>312
おつおつ。

「変化」良かったです。つかさスキーの人だよね?(タイムスリップとか狐の話の)
投票所のコメにも書いたけど、久しぶりに泣かされたぜ
つかさかがみの誕生日ものも読みたいなー(チラッ

あと「事変」もなんかドキドキして面白かった!
このあとどうなったのかすごい気になる。仲直りできたのかな?
後日談書いt

「あの夏〜」の人、これもっと時間あったら話が広がって絶対大作だった予感!
というわけで暇があったら第2部執筆の方よろしくお願いします!

「未来を〜」の人はつかさの残機ムダにすんなww

あんま長ったらしく感想書くのニガテだから、全員分の感想書けなくて申し訳ないけど
他のも全部楽しめました。みんなお疲れさま。過疎に負けず、これからも頑張って!
応援してます!

そして>>307はあとで読むます(`・ω・´)フンス
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/12(火) 19:27:51.27 ID:wffLWMs+0
>>315
『変化』の作者です。つかさスキーの人……まぁ否定はしません。その通りですから。
(タイムスリップとか狐の話の) そんなssを作っています。
コンクールは14回から参加しています。暇があったら私の作品を探してみて下さい。
今『隣星』に触発されて書いている所です。いつ出来るかは分かりません。
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/12(火) 19:33:22.12 ID:wffLWMs+0
>>314
貼り付けありがとうございました。
318 :コンクール作品「あの夏を越えて」 [saga]:2011/07/12(火) 22:28:16.08 ID:jIirpsNX0
思ったより評価いただきありがとうございました。
特に部門別になってから一度も取れなかったストーリーを取れたのは嬉しかったです。
前コンクールのが会心の出来だったので、実は今回のはまったく自信がなかったんですよね…。


>>315
すいません。
期待していただいてなんですが、時間もらっても雑な地文が直ったり誤字が直ったりするだけで、お話はこれ以上広がりません…。

319 :事変 [saga sage]:2011/07/13(水) 00:56:25.33 ID:6Vp6znuK0
事変の作者でございます。
部門賞いただきましてありがとうございました。
コンクール以外でも定期的に作品をあげていきたいですね。……もちろん今作のようなバッドエンドでないものを……。


>>315
嬉しい評価をありがとうございます!
後日談ですか……むしろ書いてくださるt
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/13(水) 11:11:50.83 ID:Qtvdw4RSO
>>303-307
読み終えた!
やっぱりこの双子はいいなー。
つかさとかがみを織姫と彦星に当て嵌めてるのがたまらん(*´д`)

あと、こなたとみゆきが部屋で2人きりなのに
読者の為にわざわざ耳打ちしてるのに吹いた
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/13(水) 11:13:23.94 ID:Qtvdw4RSO
>>303-307
読み終えた!
やっぱりこの双子はいいなー。
つかさとかがみを織姫と彦星に当て嵌めてるのがたまらん(*´д`)

あと、こなたとみゆきが部屋で2人きりなのに
読者の為にわざわざ耳打ちしてるのに吹いた
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [saga]:2011/07/16(土) 12:16:47.21 ID:sd0EbWpH0
>>321
感想ありがとうございます。

言われて気がつきましたが、みゆきが「どうして、この状況で耳打ち?」見たいな事を聞いて。こなたが「お約束だから」って答えるのを完全に入れ忘れてましたね。
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/17(日) 18:59:44.28 ID:4rvS51Kg0
ふぅー
やっと出来た。柊姉妹の誕生日ss。
コンクールとか色々あったので作る気はなかったのですが
『隣星』に触発されて作ってみました。
やっつけ仕事みたいだけど読んでくれれば幸いです。
5レスくらい使用します。


324 :七夕  1 [saga sage]:2011/07/17(日) 19:02:12.14 ID:4rvS51Kg0
こなた「ごめーん、待った?」
みゆき「いいえ、私も先ほど来た所です」
そんなはずないよ、もう20分は遅れている。さすがはみゆきさん、かがみなら待っているかどうかも疑わしい。
まぁ、今日はそんなかがみ達の誕生日プレゼントの選定にみゆきさんと待ち合わせしたんだった。
こなた「……あの、遅刻の理由……聞かないの?」
みゆき「謝ったので問題ありません、次回から気をつけて下さい……行きましょう」
な、何だろうこの圧迫感は。日本刀でバッサリ切られた感じだ。かがみが言うのとは重みが違う。普段からギャーギャー言う人よりこっちの方が効果ある。
今度から気をつける事にしよう。

さて、どうするか。もう冗談でプレゼントを選ぶ歳でもないな。この前みたいにコスプレグッズじゃ面白くないし……
都内の有名デパート。そこで私達は選ぶことにした。
こなた「うーん」
唸るしかなかった。どの品を見ても予算オーバーだった。流石デパート、みゆきさんを見ると鼻歌でも歌うように品定めをしている。経済力の差を見せ付けられた。
こなた「あのー、みゆきさん、ここの品はかがみやつかさはあまり喜ばないような気がするんだけど……」
みゆき「そうですね、どんな物が良いと思いますか?」
こなた「化粧品なんかはどう、口紅とかアイシャドウとか……」
う、咄嗟に出てしまった。化粧品もピンキリ、微妙な選定だ。みゆきさんなら高級品を選びそうだ。
みゆき「……もう化粧をしても良い歳ですね、場所を移りますか」
化粧品売り場に移動する途中だった。
みゆき「泉さん、お昼はどうしますか、もう良い時間ですが」
腕時計を見た。もうお昼をまわっていた。私が遅刻したせいかもしれない。
こなた「私もお腹空いた、お昼食べてからにしようかな」
意見は一致し、レストラン街に進路を変えた。

 適当に空いている店を見つけてそこに入った。注文をして少し落ち着いた頃だった。
みゆき「もうすっかり準備が終わっていますね」
こなた「え?」
私が聞きなおすとみゆきさんは窓の外を指差した。外は七夕の飾りつけがされている。この事を言っているのか。
こなた「七夕祭りの笹飾りの事?」
みゆき「そうです」
こなた「今年も梅雨はまだ終わりそうにないよ、織姫と彦星はまた逢えないね」
なんて、心にもない事を言ってみたりした。
みゆき「本来の七夕は旧暦の七月七日です、今で言うと立秋の辺りになりますから昔の方が晴れの日は多かったと思いますよ」
こなた「そうなんだ、しかしかがみもつかさもこんな日が誕生日で良かったね、忘れ難いし……私の誕生日なんか……」
みゆきさんはクスクスと笑い出した。
みゆき「泉さんは五月二十八日ですね、忘れないのは忘れられないからです、その日がどんな日なのかはあまり関係ないと思います」
私は反論せず水を一口飲んだ。みゆきさんは外を見ながら話した。
みゆき「七夕は幼い頃の思い出の方が沢山ありますね、成長するにつれてお祭りをしたのかさえ忘れてしまいます」
こなた「そりゃそうだよ、今になって短冊に願い事なんてね、昔は健気なもんだった」
みゆき「どんなお願い事をしたのですか?」
みゆきさんは目線を私に向けた。はて、何も思い出せない。
こなた「なんだろうね、思い出せないや、みゆきさんは覚えてる?」
みゆき「お恥ずかしながら、私も覚えていません、何か書いたのは覚えているのですが」
こなた「書くとすれば……お母さんに逢いたい、くらいかな」
みゆきさんは黙ってしまった。あれ、そんなに悲しげな表情なんかして。
みゆき「すみませんでした、嫌な事を思い出させてしまいました」
みゆきさんは深々と頭を下げた。いやいや、そんな謝れるほど私は嫌な思いなんかしていない。
そこに私達が注文した料理が運ばれてきた。なんか気まずくなった。こっちも話し辛くなった。あんな事言わなきゃ良かった。
そういえばかがみやつかさはあまりそうゆうのは気にしないな。私の前でよくおばさんの話もするし。
さっきからみゆきさんとかがみ達を比べて私ったらなにやってるんだろ。邪念を捨てないと良いプレゼントなんか選べない。


325 :七夕  2 [saga sage]:2011/07/17(日) 19:03:35.30 ID:4rvS51Kg0
 食事が終わりそのまま化粧品売り場に移動した。
色々見てきたがなんかしっくりこない。別の場所に移った方がよさそうだ。私はみゆきさんに声をかけようとしたが見当たらない。
あれ……。さっきから向こうで化粧のデモをやっているけど、もしかして……。
人だかりを掻き分けてデモを見るとそこにはみゆきさんが店員に化粧をしてもらっていた。周りの客は感心して店員の話を聞いていた。

みゆき「すみません、断りきれませんでした……」
何度も私に頭を下げて謝るみゆきさん。正面からみゆきさんを見て驚いた。まるで別人……化粧、化けるとはよく言ったものだ。
そこには大人の女性が立っていた。私と並んだら親子だと勘違いされそうだ。店員がみゆきさんの素質を見抜いて誘ったに違いない。侮れない、みゆきさん。
みゆきさんはバッグから濡れタオルを取り出し化粧を落とそうとした。
こなた「いいよそのままで、たまには大人の気分でいいじゃん?」
みゆき「……何か落ち着きませんが……泉さんがそう言うのであれば……」
さて、もうここに居るのは良いだろう。
こなた「やっぱりかがみ達には違う物が良いと思わない?」
しかしみゆきさんは動こうとはしなかった。みゆきさんの心の中では二人に化粧品を贈るに決定したみたい。しようがない、付き合うか……

 あれから一時間は経っただろうか、みゆきさんは化粧品売り場でじっと立ち止まったまま動かなかった。口紅の陳列棚を見ている。
こなた「みゆきさん、決まった?」
みゆき「それが……お二人にどんな色が似合うのか……迷ってしまいました」
なるほど、口紅には決まったけど色で迷っていたのか、適当でいいよ……とは言えないな。あんなに迷っているみゆきさんを初めて見た。
こなた「かがみは出しゃばりで口うるさいから色は薄めでいいよ、つかさはいつも地味で目立たないから濃い色で良いんじゃないの?」
みゆきさんは暫く私の顔を見てから話した。
みゆき「……お二人の性格とは反対の色……そう、そうですね、その発想はありませんでした」
みゆきさんは薄い色の口紅と濃い色の口紅を手に取った。そして私に見せた。
みゆき「これでどうでしょうか?」
そんな事言われても思いつきで言ったのに、真に受けちゃって……みゆきさんの選んだものなら間違いはないかな。
こなた「いいねぇ〜これで決まりだよ」
するとみゆきさんはじっと私を見た。
みゆき「泉さんは何かプレゼントを決めたのですか?」
しまった。私はまだ何も決めていなかった。
こなた「ま、まだだったりして」
みゆき「もし良かったら私と泉さんの二人でこの口紅を贈るのはどうでしょうか?」
これはいいかもしれない。便乗できるし割り勘でお財布にも優しい。
こなた「うん、便乗……じゃない、私も今そう思ったところだよ」
私は財布を出して一個分の金額をみゆきさんに渡した。
みゆき「それでは買ってきます」
こなた「それにしても……みゆきさん」
みゆき「何でしょうか?」
みゆきさんは立ち止まった。
こなた「いやね、みゆきさんもかがみを出しゃばりで口うるさいと思っていたのかなって、つかさも地味で目立たないって……」
みゆき「え?」
きょとんとして私を見ている。
こなた「だって、否定しなかったし、それでこの口紅選んだでしょ?」
みゆきさんの顔がみるみる赤くなっていった。化粧をしているせいか少し色っぽくも見える。
みゆき「え、あの、決してそのような……そのような意味ではなく……」
昔、似たような事をつかさに言ったのを思い出した。みゆきさんの仕草がなんとなくつかさに似ている。あの時はインフルエンザの話だったな。
弁解しようとしているけど、何を言っても誤解されちゃうんだよね。
みゆき「取りあえず、買ってきます」
小走りに店員のもとに行った。
あの恥じらい方はかがみにもつかさにも無い、萌え要素……なんて昔は言っていたけど、そんな事が言えるのももう何年もないのかもしれない。ちょっと寂しいかな。

326 :七夕  3 [saga sage]:2011/07/17(日) 19:04:45.53 ID:4rvS51Kg0
 買い物も終わり、駅に向かって私達は歩いていた。みゆきさんが突然立ち止まった。私は二、三歩進んでから止まりみゆきさんの方に振り向いた。
こなた「どうしたの?」
何も返ってこない。うな垂れていたので下から覗き込むように様子を見た。みゆきさんの目に涙がたまっている。
こなた「ちょ、どうしたの、具合でも悪いの?」
みゆき「先ほどの事を思い出すと…何故か……うう……」
みゆきさんの涙は頬をつたって落ちていく。化粧が落ちて崩れてきた。これはまずい。私は辺りを見回し近くのお手洗いにみゆきさんの手を引いて向かった。

 濡れタオルで涙を拭うみゆきさん。もうすっかり化粧は落ちてしまった。いつものみゆきさんに戻った。やっぱりまだこっちの方がみゆきさんらしくて良い。
落ち着いたら喫茶店で休むことにした。
みゆき「お騒がせしてすみませんでした、もう大丈夫です」
喫茶店の中、もうみゆきさんは大丈夫の様だ。
こなた「さっきはどうして?」
答えてくれるとは思わなかった。突然道端で泣き出すなんてよっぽどの事がなければ出来ない。でもあえて聞いてみた。
みゆき「……口紅を買った時から、思っていました、いつまで私達はこうしていられるのかと、これからの事を思うと急に寂しくなってしまって……」
以外にすんなり答えてくれた。そんな悩みは悩んでもどういようもない。
こなた「私達は高校時代、自然に出会った、だから最後は自然に別れるのはしょうがないね、これからの事を考えると、就職、結婚、引越し、病気や事故での……」
みゆき「……すみません……そんな事ではありませんでした」
こなた「へ?」
みゆきさんは私が話しているのに割り込んで止めた。これまたみゆきさんらしくない。
みゆき「お別れはいずれ……そうなるのは分かっています、私は……私は、かがみさんを出しゃばりで口うるさい……つかささんを地味で目立たないと思っていたなんて……」
落ち着いたはずのみゆきさんの目がまた潤み始めた。
こなた「……ぷっ!! ふふふ、」
思わず吹き出して笑ってしまった。まだあの事を考えていたなんて。もうとっくに終わったと思ったのに。
みゆき「なぜ、何故笑うのですか?」
こなた「ふふふ、だって、私達っていったい何年付き合っているのさ、私がかがみやつかさ、みゆきさんに良いイメージしかないなんて無いから、それはかがみやつかさも
    同じだよ、今まで私とかがみ達の会話や態度で分からなかった?」
みゆき「それは……」
こなた「好かれようとすれば良い所だけ見せれば良い、なんて思ってると悪いところが余計に目立っちゃうもの、でもそれで良いんだよ、かがみとつかさを見て
    そう思うようになった、それにあの二人はそれを意識していないから、きっと四姉妹だからその辺の交際術が自然と看に付いたんじゃないのかなって、
    私とみゆきさんは一人っ子だしね、みゆきさんもたまには思った事をそのままあの二人に言ってみれば?」
みゆき「そうですか、そうですね……泉さんは行き当たりばったりでお調子者ばかりだと思っていましたけど、しっかり考えているのですね」
こなた「そうそう、行き当たりばったりで……ちょ、いくらなんでもそれは酷い……」
みゆきさんは笑った。そして早速私に今までに無い事を言ってきた。これが本音なのだろうか。そんなのはどうでもいい。良いことばかりしか言わなかったみゆきさん。
みゆきさんは良いと思ったのはすぐに採用してしまう。それだからあれだけの博学になったのだろうか。この切り返しの早さに感心するばかりだ。
みゆき「ところで七月七日なのですが、私の主催で行いたいのですがよろしいですか?」
みゆきさんの家でやるのか。それも良いかもしれない。
こなた「かがみとつかさが承知すれば良いよ」


327 :七夕  4 [saga sage]:2011/07/17(日) 19:06:50.23 ID:4rvS51Kg0
 七月七日、今日は休日。
柄にも無く少し早めに来てみゆきさんの手伝いをした。さすがに料理の豪華さには驚かされた。
約束の時間通り主役の二人は来た。
かがみ・つかさ「こんにちは、お邪魔します」
みゆき「いらっしゃい、どうぞ中へ」
みゆきさんが二人を自分の部屋に案内した。そこには既に私が居る。かがみはえらく驚いた顔をした。
かがみ「こなたが約束の時間より早く来るなんて……雪でも降るかもしれないわね」
予想通りの台詞だ。この程度で反応していたらかがみの友達にはなれない。
こなた「お誕生日おめでとう、つかさ」
つかさ「ありがとう」
かがみ「……一人忘れていないか?」
みゆき「かがみさん、つかささん、お誕生日おめでとうございます、少ないですが召し上がって下さい」
料理をテーブルに並べた。
それから私達は、食事をしながら楽しいお喋りを続けた。

みゆき「かがみさん、つかささん私達から、心ばかりのプレゼントです、受け取って下さい」
かがみ「私達?」
みゆき「はい、私と泉さんで選びました、気に入っていただければ幸いです」
つかさ「なんかワクワクするよ」
こなた「二時間も考えて選んだんだよ」
ほとんどみゆきさんが選んだだけど。ここは自分も参加しているのをアピールしないと。
みゆきさんは机の引き出しを開けて二つの品を取り出した。
みゆき「それでは出しゃばりで口うるさい、かがみさんにはこちら、地味で目立たない、つかささんにはこちらを」
そうそう、二つの口紅はそれぞれ違った色……あれ、みゆきさんは何て言った……
その時、私は悪寒が背筋を過ぎったのを感じた。
かがみ「……みゆきが自らそんな事を言うはずはないわ、わざわざ早くから来てみゆきにそう言うようにした訳ね……」
鋭い目線が私に突き刺さる。だめだよみゆきさん、合同プレゼントなんだからそんな事言ったら私が疑われるじゃないか。と言える状態じゃない。
いつもは聞き流してくれるはずのつかさまでが私を睨んでいる。
つかさ「ゆきちゃんにそんな事言わせるなんて……許さないよ」
こなた「あ、あの、これは言わせたんじゃなくて……話の成り行きでこうなったのであって……」
みゆきさんは事の重大さに気付いていない。ポカンとして私達を見ていた。
かがみ「こなた、あんたちょっとこっちに来なさい、今日と言う今日はお仕置きが必要ね、最近少し図に乗りすぎなのよ……」

かがみのお説教が始まってしまった。つかさもそれを後押しする。私には弁解などをする隙さえ与えてくれなかった。私はかがみの足元に正座をさせられている。
確かに私が本当にみゆきさんにあんな事を言わせたのなら、誕生日にすることじゃないしみゆきさんに大きな傷を負わすことになる。
私だってそのくらい分かるよ。あれはみゆきさんが自分の意思で言ったんだよ。プレゼントを選んだ時の話をすればかがみだって分かるよ。
しかしそんな心の叫びがかがみに届くはずもない。
かがみ「今更泣いても遅いわよ、帰って頭を冷やしなさい」
いつの間にか涙が出ていた。これが私の悪戯なのなら笑ってやったさ。だけど……どうすればいいのか分からない。泣くしかなかった。


328 :七夕  5 [saga sage]:2011/07/17(日) 19:08:17.82 ID:4rvS51Kg0
 私は自分の家に帰っていた。帰されたと言った方がいいのかもしれない。もう日はすっかり沈んでしまった。もうかがみ達も帰ったかな。
かがみとつかさの誕生日を祝うはずがこんな結果になるなんて。
これがかがみとつかさ、みゆきさんの別れになってしまうのでは。みゆきさんが悪いのか。違う、私が悪い。
普段の行いの結果。これ以外にない。それは謝る。だけどこのままお別れなんて納得できないよ。もう一度会わせて欲しい。弁解は出来なくなくとも謝りたい。
そうじろう「おーい、こなた居るか?」
ノックと共にお父さんがノックと共に部屋のドアを開けた。
そうじろう「悪いがこの回覧板をお隣に渡してきて欲しいのだが」
こなた「いいよ」

 家を出て回覧板を見てみるとお隣さんは閲覧のチェックがしてあった。まったくお父さんは良く見ないんだから。もう一つ先の家だな。
回覧板を渡した帰り道。
「行き当たりばったりでお調子者の泉さん、どこへいくのですか?」
後ろから声をかけられた。後ろを向くとかがみとつかさが居た。
かがみ「さっきから声をかけているのに……鈍いわね」
つかさ「私達が来たって言ったらたぶん出てきてくれないと思ったから、おじさんに頼んでもらったの」
私は立ち止まって二人を見たまま動かなかった。動けなかった。
かがみ「話は全てみゆきから聞いた、みゆきもタイミングが悪かったわね、そうゆう所が疎いと言うのか……今回はこなたに非は無かった」
つかさ「ごめんなさい」
いきなり謝られてもしっくりこない。
こなた「でも……私は今まで……」
かがみ「そうね、今までのこなただったら絶交していたかもしれない、だけどあんた、みゆきを庇ったでしょ?」
こなた「うんん、庇ってなんかいない」
かがみは一回溜め息ついた。
かがみ「それなら何故『私はしていない』って言わなかった、言い訳なら十八番でしょうに、それに絶対に涙なんか流さなかったでしょ?」
つかさ「こなちゃんがしていないって言ったら、ゆきちゃんの立場が無くなっちゃうよね、そうでしょ?」
そんなに積極的に庇ったわけじゃない。したともしなかったとも言えなかった。
かがみ「こなた、行くわよ!!」
じれったくなったのか、高校で放課後、帰る時のように声をかけられた。
こなた「行くって、どこに?」
かがみ「決まってるじゃない、みゆきの家よ、私達の誕生日まだ終わってないわよ」
こなた「でも……」
かがみ「でももへちまも無いわよ、私はまだこなたに祝いの言葉を言ってもらってないから」
つかさ「こなちゃんの好きなゲームも持ってきて良いから、行こうよ」
まるでわがままな妹を諭しているように私を誘ってきた。これが姉妹ってやつなのかな……なんか涙が出てきた。
かがみ「……泣くことなんかないじゃない……分かったわ、無理強いはしない、5分待ってあげる、それまでに向こうに止めてある車に来て、来なくてもいいわよ」
つかさ「私がここまで運転してきたんだよ、私は来て欲しいな」
私は二人の顔を見た。急に空が明るくなった。月明かりが射してきたようだ。二人の唇がいやに目立って見える。そうか、あの口紅を塗ったのか。
かがみは控えめな薄い色、つかさは艶やかな濃い色だった。あの時のみゆきさんみたいに二人とも大人びて見えた。
かがみ「それじゃ」
二人は車の止めてある方に歩いて行った。


 ふと空を見た。まん丸の月が夜空を照らしていた。雲が流れている。このまま綺麗な夜空になりそう。
明日も休日、時間はまだたっぷりある。私はまだあの二人を祝っていない。みゆきさんにも一言言わないとね。

今日は七夕、夜空が晴れれば願い事が叶う日。さっき家で願ったあの願い、叶えられそう。
私は車の方へ歩いて行った。


329 :七夕  5 [saga sage]:2011/07/17(日) 19:09:06.53 ID:4rvS51Kg0
以上です。
私の文章は淡々としていると評価があった。確かに淡々としているかもしれない。別にそれを意識して書いているわけではない。
語彙の少なさが原因かな。もっと繊細で燃え上がった表現ができればいいのですが。
ただ読んで分かり易いようにはいつも考えて書いています。
330 :七夕  5 [saga sage]:2011/07/17(日) 19:24:00.32 ID:4rvS51Kg0
ここまでまとめた
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/19(火) 23:14:34.49 ID:lJJ5z1rZ0
かがみ「静かね」
こなた「静かだね」
かがみ「だから言ったのよ、時期遅は出したらダメだって、おかげで白けてるじゃない、急いで書いたから内容も酷いわ」
こなた「そうだね、反省してます……」
かがみ「さっさと次の出しなさいよ」
こなた「……そんな急に出来ないよ」
かがみ「イメージも出来てないの?」
こなた「うん……」
かがみ「しょうがないわね、私がお題を出してあげるわ……っと言っても私も思い浮かばない」
こなた・かがみ「う〜ん」
かがみ「やっぱり募集するしかないわね」
こなた「皆さん、何かお題ありますか〜出来るかどうか分かりませんが募集しますよ〜」
かがみ「そんなんでお題が来ると思うのか、もっと熱意をみせなさい」
こなた「お手柔らかにお願いします……」
かがみ「あ〜もういい私が頼むわ」


冗談はさておき、お題を募集したいと思います。便乗で書きたい人も大歓迎です。
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/21(木) 11:02:09.08 ID:oqSikcsSO
>>324-329
おつおつ。柊姉妹SSdd。

誕生日に涙の2連発はキツいなぁ(´・ω・`)
仲直りしてるからいいけど、
この4人はこんな些細なことで亀裂入らないと思う
個人的にはらき☆すたらしくもっとハッチャケて、
笑顔で始まり笑顔で終わる誕生日だったらな〜と思ってしまった…

しかし最後のつかさの運転、なにか一悶着ありそうww

>>331
みさお誕生日とか
もう過ぎちゃったけど
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/21(木) 19:47:50.40 ID:F7SD9sRk0
>>332
些細なこと〜
その辺りは作っていて感じてはいたけどね。
もっと深刻なのも考えたけど、喧嘩って結構些細な事から始まるもの。
深刻な喧嘩だと修正が大変なので妥協しました。


みさおの誕生日を忘れていた。柊姉妹誕生日を作っていたせいでまた遅れてしまった。
そういえばみさおメインはまだ一つも作っていない。
誕生日ssではないけどみさおのss作ってみるかな。時間を下さい。

334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/21(木) 20:09:20.87 ID:CMPpIclSO
というかこの人のSSって大半喧嘩が絡むよね
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/21(木) 20:09:58.15 ID:CMPpIclSO
というかこの人のSSって大半喧嘩が絡むよね
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/21(木) 20:25:44.16 ID:CMPpIclSO
なんで二重カキコになってるんだ…
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/21(木) 20:32:39.88 ID:F7SD9sRk0
それだけらきすたのキャラ達が仲が良いって事です。
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/21(木) 22:56:50.52 ID:CMPpIclSO
いや、普通に意味がわからない…
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/22(金) 00:36:58.99 ID:B35KgK4w0
確かに自分のssには喧嘩シーンが沢山出てくる。でも最後は仲直りしているはずです。
現実的に喧嘩→仲直りが一番難しい。ある意味憧れみたいなものかもしれない。
っと言っても喧嘩をテーマにしている訳ではなく物語りの過程で使っているだけです。

しかしこう指摘されると喧嘩シーンを少し考えるかな。ワンパターンって言われそうだし。もう言われてるかw

340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/07/24(日) 12:45:27.32 ID:nUcy50xAO
〜移行しましたね〜

こなた「ついにアナログ放送終了したね」
かがみ「まだ東北3県は移行してないわよ。それにケーブルで見てる人はデジアナ放送されてるし」
こなた「まぁそんなのはどうでもいいとしてさ」
かがみ「おい」
こなた「改めてこのリモコン見てると思うんだよ」
かがみ「何をよ」
こなた「この『デジタル』『アナログ』切り替えボタン。本当に必要だったのかなぁって」
かがみ「アレじゃない?チャンネル変更に慣れるまでとか」
こなた「それに…後から売るテレビってこれが無くなった分安くなるのかな?もぅアナログのは必要ないんだから。高かったら値切れ」
かがみ「なんかヤバそうな発言はよせ」


…安くなるよねTV?そのために今チューナーで見てるんだから
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/24(日) 13:01:05.02 ID:dIfu3w0f0
安くも高くもならないかもね。
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/24(日) 13:09:29.55 ID:v3uZ7UlSO
つかさ「うちの黒電話はいつデジタルになるの?」
かがみ「言うな……」
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/24(日) 13:50:31.31 ID:dIfu3w0f0
黒電話の強みは停電でも使えるところです。
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/26(火) 07:51:37.26 ID:Edl3ysDIO
俺は喧嘩→仲直りな流れのSS好きだなー
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/07/27(水) 21:10:30.62 ID:OIU6cSaf0
>>344
これからも喧嘩シーンはあると思いますがよろしくお願いします。

みさおメインで書いているが……なんだろうこの難しさは。
いくつかのssでは何度か出した事はあるが、いざメインとなると
なかなか話が進んでいかない。
気長に作ります。
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/03(水) 01:08:58.76 ID:tGMcVJjy0
ゆたか「8月になったね」
ひより「台風のせいで少し気温が下がったかな、それで節電は大助かりだけど」
ゆたか「ひよりちゃんは何か節電してる?」
ひより「ん〜特に何もしていないような」
ゆたか「電気の半分以上がエアコン関係だって」
ひより「半分以上ね〜と言われても一度味わった蜜の味は忘れられないもの」
ゆたか「でも節電しないと……」
ひより「そうだけど、ある物は使いたくなるのが心情なのでして」
ゆたか「熱中症になるまで使わないのも考え物だけどね」
ひより「程々に、出来る範囲でいいのでは?」
ゆたか「難しいね……」
ひより「今に始った問題じゃないから」
ゆたか「それじゃ一緒に考えましょう」
ひより「ん〜これから〆切りに間に合わないから、こっちの方が切羽詰ってる」
ゆたか「あ、八坂先輩が来た!」
ひより「ちょっとトイレ行ってくるから、私の事聞かれたら部室に行ったって伝えて」

こう「あれ、さっきひよりの姿が見えたような?」
ゆたか「部室に行くと言っていました」
こう「ひよりがそう言う時は……トイレでも行ったな……」

ひより「今に始った問題じゃない……」
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/06(土) 21:53:11.49 ID:2ULRwuxn0
過疎ってるからここに書きます。

まとめサイトのメニューに「今日の人気ページ」という項目を入れたけどいかがでしょうか?
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [saga sage]:2011/08/09(火) 00:18:22.23 ID:d/NsmpcQ0
今日の人気ページ、凄くいいと思う
あとSSまとめって、ランダムにとべたりすると、知らない奴とかも読めて便利だよなとは感じる

投下いく
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [saga sage]:2011/08/09(火) 00:20:04.58 ID:d/NsmpcQ0

  『いつか見たあの場所へ』


「こなちゃん久しぶりー。お邪魔するねー」
「久しぶり、つかさ。サザエさん方式になりかけていた頃から考えると、全然会ってなかった気がするよ」
「あんまりそういうこと言わないほうがいいと思うけど――それ何のページ?」
「ん、ただのSSまとめサイト」
「えす……えす?」
「そ、SS。サイドストーリーのこと。好きな作品をね、他にはどんな話があったのかな、このキャラはきっとこんな一面もあるんじゃないのかなって、考えたことを形にするの。それを発表しあって、皆で楽しむところがここ」
「へー……でもこなちゃん、大学卒業してから小説書いてるんだよね? お仕事以外に、こういうのも書くの?」
「仕事とは別。これはね、本当に好きだからやるの。コミケと同じ」
「コミケ……」
「あはは、そんな嫌な顔しなくても大丈夫だよ。もう無理矢理連れて行くなんてしないから――それより、見て、このスレ」
「あんまり書き込みがないね……」
「そ。これでもね、五年くらい前は凄く賑わっていたんだよ。一日に幾つもSSが投下されて、でも感想が書き込まれる前に次の作品が投下されちゃって……感想が貰えなかったとき、そりゃあがっかりしたもんだよ」
「ふうん……こなちゃんも書いたの?」
「書いたよ。幾つも書いて投下したんだけど、満足がいくものは中々かけなかった。途中で止めちゃった作品なんて幾つ書いたかわからないくらい。だけど、それでも書き続けた――どうしてだろうね。当たり障りのない感想がほとんどで、でもそんなのに一喜一憂しちゃう自分に嫌気まで差していたのに」
「……誰かに何かを言ってもらうことが嬉しいからじゃないのかな」
「……」
「お菓子だってそう。たとえ嘘でも、おいしいって言ってくれることが、次に何かやろうって頑張る気持ちを作ってくれる。私だって最初に作ったお菓子はあんまりおいしくなかったけど、皆がおいしいって言ってくれるから、次はもっとうまく作ろうって作ってるうちに、どんどん上手になってきたから」
「――本職になるくらいだから。つかさのお菓子は、誰よりもおいしいと思うよ」
「えへへ――ありがとう」
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [saga sage]:2011/08/09(火) 00:21:32.76 ID:d/NsmpcQ0
「でも、つかさは私達を――オタクを理解していない」
「え?」
「私達はね、実際他人なんてどうでもいいんだ。感想を貰おうなんて、貰ったところで次に何をするべきなのかも見えてこない。ただ、書くものは自分が書きたいものだけ。自己満足をひたすら続けることで、自分の中にある何かわからないものと向き合う。そうやって、自分なりにその作品を膨らましていく。そう、言い換えれば――」
「言い換えれば?」
「ただその作品が好きだから書いていたんだ。技術なんてものは関係なく、自分が作品と向き合って、違う――そう、高校生の私に言わせるなら『愛』と向き合っていたんだよ」
「……よくわからないよ、こなちゃん。ただ書きたいから書くんでしょ? 思ったことを素直に書いていけばいいんだよね?」
「んー。単純に言えばそうなんだけどね。こういうのはお菓子じゃ例えられないからなあ。変態みたくなっちゃうし」
「だったらだけど、こなちゃんはなんで書くのを辞めちゃったのかな? この作品……らき……すた? が嫌いになっちゃったの?」
「ううん、全然違う」
「だったらなんで」
「こういう世界は、ジャンルの移り変わりが激しいんだ。一つだけにいつまでもとどまっていることは出来ないの。いつまでも同じアニメが再放送しないことと同じなんだよ」
「それじゃ、まるで――使い捨てだっていってるような――」
「――否定したいけど、否定できない。私達はそういうものだから――でも、これ見て」
「?」
「今でもちゃんと書き続けている人が居るんだ。この人たちは、私が知っている頃に居た人たちじゃないかもしれない。私がコンクールに挑んで負けっぱなしだったころ一緒に競った人たちかもしれない。高良の真ん中に馬鹿みたいな『翠』がいっぱい並んでいた頃を知らないかもしれない。だけどいいんだ。今でもこの人たちは書き続けている。私と違ってね」
「そういえばこなちゃん、高校生のとき、ネットのコンクールで賞を取ったって言ってたよね。お姉ちゃんは呆れてたけど、もしかして――」
「鋭いね、つかさ。確かにこのスレだよ。そして私が小説家になった起源でもあるんだ。私が賞を取った頃はこんなにいっぱい賞はなかったけど、ね。何年も見てなかったら、こんなところまで変わっちゃうもんなんだ」
「――そんなに言うなら、書けばいいと思うけど」
「……」
「作品と向き合うとか、そんなことどうでもいいと思う。こなちゃんがちょっとでも書きたいと思う気持ちがあるんなら――このスレに、一つくらい、その、えすえすを入れてもいいんじゃないかな? こなちゃんが好きだったから、今のこなちゃんが居る。だったら、またここに戻ってきて、少しくらい恩返ししてあげようよ」
「つかさ……」
「できるでしょ、こなちゃん。今じゃ、立派な小説家さんだもんね」
「でも、設定とか全然覚えていないし――」
「そんなの、また読み返せばいいよ!」
「――――珍しいね。そんなに熱くなるなんて」
「だって……こなちゃん、凄く寂しそうなんだもん。なんだか、自分のお墓を見るような感じで――」
「お墓、か。確かに、私はここに居た自分を殺してから、別の場所に――他の作品に――いっちゃったのかもね」
「……」
「いいよ、書いてみる」
「ほんと!?」
「うん。やれるだけ昔の自分に戻ってみる。うまく書けるかわからないけど、私は、この作品――らき☆すたが大好きな一人だったんだから」
「――頑張って、こなちゃん」
「でもねつかさ」
「なに?」

「これね、私たちの奴なんだよ」

「――――――――!?」
「よおし、つかさの恥ずかしいところとか、つかさの恥ずかしいところとか、つかさの恥ずかしいところとか、思いっきり妄想して形にしちゃおう!」
「ご、ごめんこなちゃん。今の無し! 使うならせめてお姉ちゃんにして!」
「今更取り消せないよ。それと今のちょっと黒めな発言もグッジョブ! 感動系ばっかりじゃなくて黒い先生の妄想ネタが氾濫していた時代を思い出したよ。さあ! どんどんエンジンかけてくからねー!」
「ひ……ひどいよこなちゃん……ぐすっ」
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [saga sage]:2011/08/09(火) 00:28:17.15 ID:d/NsmpcQ0
短い奴だけど、投下終了。
読んでくれた人、ありがとうございます。
それと結構古参のような雰囲気を出してるけど、作者はアニメ始まって同時期くらいに入ってきたような奴なんで

……はあ、もう五年近く経ってるのか
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/09(火) 23:56:07.10 ID:w93kNkaI0
『今日の人気ページ』は日替わりで作品が更新されると思って入れてみました。思わぬ作品に出会えて驚きや感動があるかも。
大タイトル(長編、短編、トップページ等)は表示しないようにしまたが、暫く様子を見て調整したいと思います。

>>351
このスレが出来た頃の話はまた聞きたいですね。
自分は投下してから三年目、アニメ放映が終わってからになる。
だからこのスレの最盛期を知らない。自分的にはまったりしているのが好きなので今よりもう少し賑やかくらいがいいかな。

新作投下しようとしましたが、もう少し修正したいと思います。週末くらいには投下でそうです。期待せずに待って下さい。
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/10(水) 00:08:56.28 ID:oIbITU/20






ここまでまとめた




354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/12(金) 22:16:52.94 ID:2LkPp8n/0
さて。完成したので投下します。

思いのほか時間が掛かってしまった。グダグダかもしれませんが読んでくれれば幸いです。
355 :私とこなた  1/11 [saga sage]:2011/08/12(金) 22:21:18.30 ID:2LkPp8n/0
 今日の部活は疲れた。珍しく担任の先生が来たせいかもしれない。私は制服に着替え終わり鞄を取った時だった。しまった。明日提出するプリントを
教室に忘れてきたに気が付いた。どうしようもないほどのおっちょこちょいだな。

 教室に戻り自分の机の中のプリントを鞄にしまった。ん……隣のクラスから話し声が聞こえてきた。もう終業時間も間近、自分の教室にはもう誰も居ない。
それに何か聞き覚えのある声が混ざっている。何気なしに隣のクラスの扉の窓から中を覗いてみた。そこに二人の生徒が楽しそうお喋りをしていた。
あれは、柊の妹じゃないか、それにお喋り相手は……なんて言ったっけな、名前は忘れたが柊が高校になってからの親友だ。長髪で青い髪のちっこい子。
話に夢中で時間を忘れている感じだった。それに柊の妹は柊と一緒にいつも帰っていたっけな。私は扉を開けた。
みさお「おーい、もう終業時間だぞ」
二人の会話が止まり、二人は私の方を向いた。
つかさ「え……もうこんな時間なんだ……」
???「そういえば……もう夕方だね……しまった早く帰らないと」
青い髪の子は急に慌てだして帰りの準備をし始めた。
つかさ「でも、お姉ちゃんがまだ来ていないよ……」
柊の妹は柊を待っていたのか……まてよ、確かお昼に柊が言っていたな。
みさお「柊は会議が終わったら眼鏡っ子と帰るって言ってたぞ」
二人は顔を見合わせた。
つかさ「……そういえばそんな事言ってたような……ゆきちゃんと何か用事があるって……」
???「えーつかさ、それはないよ、今までこんな時間まで待ってて……ばかみたいじゃん」
柊の妹も鞄を取り帰りの支度をした。

それから私達三人はそのまま一緒に教室を出た。そして校舎を出る間、二人はまた話しに夢中、こっちからは何も話せない状態だった。
とはいってもこの二人に何を話して良いのかも分からない。
校舎を出ると校庭の先にバスが止まっているのが見えた。あのバスの後は暫く待たないと来ない。
みさお「よっし、先に行ってバスを止めといてやる」
私は走り始めた。その時、私の横から風の様に追い越して行く人影……青い髪の子だった。みごとな前傾姿勢、風になびく長髪、みるみる距離が広がっていく。
私は全力で走った。しかし距離はどんどん離れていった。

???「おーい、速く早く〜」
バスの乗車口から手を振っている。全力で走ったのに……何故。曲がりなりにも陸上部員の私が帰宅部の生徒にここまで差を付けられるなんて。
部活で疲れているから全力が出せなかった……そんなのは言い訳だ。負けは負けだ。
私がバスに乗り込もうとした時、柊の妹が息を切らして走ってきた。
つかさ「はぁ、はぁ、こ、こなちゃん……速過ぎだよ、日下部さんも……」
柊の妹がバスに乗ると程なく発車した。私達は一番後ろの席に座った。柊の妹はまだ息が乱れている。私は青い髪の子をじっと見つめた。
???「あの、何か?」
みさお「バス停までのあの走り素人には出来ない、もったいないな、今からでも運動部に入れば即戦力になるぞ」
すると青い髪の子は人差し指を立てて私の目の前に出した。
???「だって、夕方のアニメに間に合わないじゃん」
みさお「へ?」
何を言っているのかこのちびっ子は、こいつはそんな理由で部活に入らなかったのか?
みさお「ま、まじなのか、それ、マジで言っているのか?」
ちびっ子は深い溜め息を一回ついた。
???「はぁ、だからあまり走りたくなかったんだよね……私にとってはそっちの方が大事なんだよ……それはそれとして……どちら様でしたっけ、つかさの友達?」
言葉を失った、ちびっ子は私と柊がよく一緒に居るのを見ているはず、今更『はじめまして』的は言い方をされるなんて。
つかさ「こなちゃん、本当に知らないの、お姉ちゃんの友達の日下部みさおさんだよ……」
???「う〜ん、かがみの友達……覚えていなかったりして、うちのかがみがお世話になってます」
ぺこりとお辞儀をした。うちのかがみがだって。どうやったらそんな台詞が出てくるのか。
つかさ「そういえば……まだ紹介していなかったかな……お姉ちゃん何もしないから……友達の泉こなたさんだよ」
泉こなた。そういえばそんな名前だったかもしれない。思い出した。ちびっ子はそのまま柊の妹と話をし始めた。その内容はゲームやアニメの内容だ。
おかしい。柊とどこに同じ接点があるのか。柊はアニメの話なんてしない。ゲームだって時々話題に出るくらいだ。
私はちびっ子の様子を観察し続けた。

356 :私とこなた  2/11 [saga sage]:2011/08/12(金) 22:22:19.07 ID:2LkPp8n/0
 バスを降り、電車に乗り換えて暫くするとちびっ子は駅を降りた。
結局ちびっ子はいわゆるオタクである事意外何も分からなかった。柊の友達ならもう少し同じ要素もあるかと思ったが……
みさお「わからないな、ちびっ子……」
つかさ「実はね、私も同じ事言われた、駆け足速いねって言ったらね」
よほど私が驚いたのが印象に残ったのか。ちびっ子の話題になった。
みさお「いや、ただ勿体無いなって思ってね」
つかさ「こなちゃんって運動はあまり好きじゃないみたい」
みさお「そういやスポーツ中継でアニメが延期になるって嘆いていたっけ」
ちびっ子の話をしている。こうしてみると柊の妹は柊と違っておっとりしているな。柊が別の友達と帰るのを忘れていたくらいだし。まてよ……
柊の妹とこうして話すのは今までなかった。中学から知っている人なのに。クラスが違うからか。
登校時はいつもこの姉妹は一緒だった。そんな時出会っても柊の妹と会話を交わす事はなかった。それに柊も一度も紹介していない。
柊の妹が遠慮しているだけなのかな。遠慮ってどんな遠慮なんだよ。異性でもないのに話すくらいは幾らでも何時でも出来たはず。
つかさ「どうしたの?」
私が考え事をしていると心配そうな顔をして私を見ていた。
みさお「い、いやね、柊の妹と一緒に帰るのも初めてと思ってね」
柊の妹は暫く上を見て考えていた。
つかさ「こうやって話すのも初めてかもしれないね、何故だろうね」
みさお「きっと柊が私を会わせたくなかったんじゃないか」
つかさ「ごめんなさい、今度お姉ちゃんに言っておくよ」
柊の妹は急に悲しい顔をした。冗談で言ったのに真に受けちゃっている。本当にこの子は柊の妹なのか。大人し過ぎるし優しすぎる。柊に同じ質問をすれば
きっと『私は紹介なんかしないわよ、あんたから話しかければいいじゃない』って言われるに違いない。
みさお「冗談だって……」
そう言うと少し笑顔を取り戻した。
つかさ「ゆきちゃん、高良みゆきさんも紹介していないよね?」
みさお「眼鏡をかけている子、今日柊と帰った学級委員長さんだね」
柊の妹は頷いた。
みさお「ちびっ子が紹介されないのだからね……ってことは私のクラスのあやの、峰岸あやのも同じかな」
つかさ「峰岸さんも中学から知っているけど、あまり話したりしないから……」
その原因の一部は柊にありそうだ。
気が付くつともう柊の家の近くまで一緒に歩いていた。私の家の分かれ道までもうすぐだ。
みさお「私はこっちだから」
つかさ「……今日はありがとう」
みさお「ありがとうって、そんなお礼を言われるような事してないぞ」
つかさ「だって日下部さんと話せたし、こなちゃんも喜んでると思うよ」
そうは思わなかった。少なくともあの態度を見れば私に全く関心がないに違いない。
みさお「どうかな、あのちびっ子、喜んでいるようには見えなかった」
柊の妹はクスっと笑った。
つかさ「こなちゃんは面白いよ、お姉ちゃんと一緒に居る時は特にね」
みさお「それは何となく分かるようなきがする、さっきだって終業時間まで夢中でお喋りしているくらいだし」
つかさ「今日も見たいアニメがあるらしいよ」
だからあんなに慌てていたのか。面白そうな奴だな。
つかさ「あ、もうこんな時間、それじゃまた」
みさお「柊の妹、話せてよかったよ」
私達は別れた。柊の妹は照れくさそうに自分の家に向かった。

357 :私とこなた  3/11 [saga sage]:2011/08/12(金) 22:23:35.18 ID:2LkPp8n/0
 
 次の日、登校すると早速あやのに昨日の出来事を話した。あのちびっ子に駆けっこで負けたのは言わなかった。なぜか負けたのが妙に悔しかったからだ。
あやの「そうだったの、そういえば私も妹ちゃんやその友達とあまり話したりしない、楽しそうな人たちね」
かがみ「おっす」
そこにちょうど柊が登校してきた。
みさお・あやの「おはよう」
かがみ「昨日つかさから聞いたわよ、あんた色々話したそうね」
なんだ、してはいけないような言い方は。朝会っていきなりそんな口調で言わなくても。
みさお「話したけど、それがどうかした、柊の妹も結構良い奴だよ」
かがみ「つかさも同じ事言ってたわ……つかさはみんな同じように言うから信用できないのよ」
みさお「おいおい、私はそんな性格悪いのかよ」
かがみ「少なくとも良い方とは言えないわね」
朝から不機嫌だ。ここはあまり意地を張るとこじれるだけだな。
みさお「それはないよ〜」
あやの「まぁ、まぁ、二人ともそのくらいにしましょう」
あやのも合いの手を出してくれた。柊の険しい顔もすこし落ち着いたよう。
みさお「それより、こんどちびっ子や眼鏡っ子、柊の妹をちゃんと紹介して欲しいな」
かがみ「……もう話しているわよね、もう私が改まってする事じゃないわ、話したければはなせば良いじゃない」

思った通りの答えだった。冷めた言い方だった。なんか私達を合わせたくないような感じにすら聞こえた。そんな柊の言葉に私もなんだか冷めた感じになった。
これが原因かどうかは分からない。分からないけど高校二年は柊の妹のクラスの友達とは言葉を交わしたり会ったりはしなかった。

358 :私とこなた  4/11 [saga sage]:2011/08/12(金) 22:24:55.71 ID:2LkPp8n/0
 
 高校三年生になった。クラス割りは二年と同じだった。柊はやけに悔しがっていた。それは傍から見ている私にも分かるほどだった。
三年生になり程なくした頃だった。柊の妹とちびっ子が私の教室に来た。目的は分かっている。きっと柊の妹が教科書を忘れてきたのだろう。
二年の時もそうだった。月に何度か来ていた。そのおかげか柊の妹とは二言三言、話す機会はあった。でもちびっ子を連れて来たのはいいチャンスかもしれない。
丁度ここにはあやのも居る。柊を見ると本を読んでいて柊の妹に気が付いていない。
みさお「柊の妹じゃないか、柊になんか用か?」
つかさ「えっと、英語の教科書を忘れちゃって……」
やっぱり。
みさお「おーい柊、妹が来てるぞ」
気付いた柊がこっちにやって来た。
かがみ「つかさ、また忘れ物したわね、今度は何よ」
つかさ「えっと、英語の教科書、お姉ちゃんのクラス、授業あったでしょ?」
かがみ「しょうがないわね」
柊は自分の机に教科書を取りに言った。柊の妹の影に隠れているようにちびっ子がいた。何か言いたいのかな。もじもじしていた。
二年の時はそんな恥かしがり屋には見えなかったが。ちびっ子は柊の妹の背中を人差し指で突いた。
つかさ「あ、ごめん、そうだった、こなちゃんも教科書忘れたの……」
珍しいこともあるもんだ。ちびっ子が教科書を借りにきたのは初めてかもしれない。
かがみ「こなた、あんた置き勉してたんじゃないの、忘れようがないじゃない」
置き勉……私だってそんなのはしたことない。なんて奴だ。
こなた「いやー、なんて言うか、たまたま昨日宿題をしようとしたら……忘れちゃった」
かがみ「教科書はもうつかさに貸したからないわよ」
こなた「いや、忘れたのは世界史の教科書、五時限目なんだ」
つかさ「黒井先生、厳しいから……お願い」
つかさは柊に手を合わして頼んでいる。世界史は六時限目だったな。
みさお「それなら私が貸そうか、こっちも授業があるからお昼休み取りに来れば?」
こなた「さっすが、みさきち、ありがとう」
みさきち、みさきちって言われた。何でそうなんだ。
みさお「みさきちって……」
こなた「だってみさきちじゃん〜」
こ、こいつは。
みさお「おい柊、こいつになんか言ってやってくれ、教科書を借りる態度じゃないよ」
柊は溜め息をついたまま私達を見ているだけだった。もしかしてちびっ子は柊達の前では私をそう呼んでいるのか。
こなた「かがみも何も言わない、決まったね、みさきち、お昼休みよろしく!!」
みさお「ちょっと待った、ちびっ子!!」
後ろを向いて帰りかかったが、この声にピタリと動きが止まった。
こなた「ちびっ子って、前からそう思っていたね」
みさお「思うも何も見たまま言った」
こなた「かがみ〜みさきちに何か言ってよ」
柊は私達の近くに歩いてきた。
かがみ「だからあんた達を会わせたくなかったのよ、同類だから反発するのは目に見えてた」
同類……それはない。私は人差し指をちびっ子に向けて怒鳴った。
みさお・こなた「こいつと同類だなんて思わないでくれ!!!」
ちびっ子も私に指を向けていた。
みさお・こなた「はっ!!」
磁石で反発でもしたように私とちびっ子は一歩退いた。同じ反応をするとは思わなかった。あやのはそんな私達を見て笑っている。柊や柊の妹も今にも吹き出しそうだった。
私とちびっ子だけが真顔で柊に怒鳴っていた。皆もそう思っているのか。ちびっ子と同類。なぜインドアのオタクと私が一緒なのか。何故だ。理解できない。
かがみ「その反応、同類以外なにものでもないわ、もういい加減にしなさい」
柊は柊の妹に英語の教科書を渡した。
こなた「かがみ、世界史の教科書を貸して」
なんてやつだ、私の好意を無にする気なのか。
かがみ「残念でした、私の教科書は乱丁見つかって注文中なの、今日の授業に黒井先生が持ってくる事になってる、言っておくけど峰岸のもそうだから」
こなた「そんな〜」
涙目になってしまった。
かがみ「日下部の教科書を素直に借りなさいよ」
みさお「いいや、さっきの態度で貸したくなくなった」
こなた「けち……」
ちびっ子はそのまま自分の教室に戻っていった。柊の妹は私を悲しそうな目で見ながらちびっ子の後を追った。

359 :私とこなた  5/11 [saga sage]:2011/08/12(金) 22:25:57.15 ID:2LkPp8n/0
 かがみ「確かにこなたが忘れたのが悪い、だけどそこまでしなくても……あだ名で呼ばれたくらいで怒ることでもないだろう」
あやの「そのあだ名、みさちゃんらしくて良いと思うけど」
いや、あだ名は別になんと呼ばれようと気にしない。二年生の時ちょっと話したくらいであそこまで親しくされると何か違和感が込み上げてきた。それよりも……
みさお「それよりちびっ子と同類ってどうゆうことだよ」
かがみ「どうもこうもないわよ、言葉の意味その通り、改めて似たもの同士ってのが再確認出来たわ」
あやのも相槌を打つ。これは否定すれば否定するほど突っ込まれる。もうこれ以上否定してもだめだと感じた。私はそのまま自分の席に着いて一時限目の準備をした。
柊達もこれ以上私に話しかけなかった。

 昼休み、柊がちびっ子の教室から戻ってきた。私とあやのもお弁当を食べ終わった頃だった。教室の入り口に柊の妹が立っていた。私を見ている。まさか。
みさお「ちびっ子のやつ教科書を借りるのに柊の妹をパシリに使っているのか?」
かがみ「こなたは日下部から借りるつもりはないみたいね、もう黒井先生の鉄拳も覚悟の上、つかさはそんなこなたを放っておけない……そんな所かしら、
    それにこなたは人をパシリには使わない、何かを頼むなら自分も動くわよ」
柊の妹は自分の意思でそこに立っているのか。ちびっ子の為にか……柊もちびっ子を深く理解しているみたいだな。
かがみ「日下部、貸すにしろ、貸さないにしろ白黒つけてつかさに伝えた方が良いわ、このままだと昼休みずっとあのまま立っているわよ」
それは困る。あんな目でずっと見られたらこっちが悲しくなってしまう。それにこうゆう話に私は弱い。机の中から教科書を取り出して柊の妹の所へ行った。
みさお「ちびっ子に、これで良いんだろ?」
教科書を渡すと柊の妹は大事そうに抱え、笑顔で答えた。
つかさ「ありがとう」
そして足早に自分の教室に戻って行った。
かがみ「いい所あるじゃない、見直したわよ」
私の肩をポンと叩いた。
みさお「あれはちびっ子のためじゃない、柊の妹の心意気に打たれただけだよ」
かがみ「それでも良いわよ、ありがとう」
すると眼鏡ちゃんが教室に入ってきた。
みゆき「乱丁の歴史教科書、お昼に入荷したので先に受け取って来ました……」
柊とあやのは教科書を受け取った。
かがみ「ありがとう、でも、その必要はなかったわね、日下部が貸したわよ」
眼鏡ちゃんは私に深々と頭を下げるとそのまま自分の教室に帰っていった。それを追うように柊も教室を出た。
もしかして柊の策略だったのか。いやいや、柊がこんな手の込んだ事をする訳がない。ってことは柊の妹、眼鏡ちゃん、それぞれがちびっ子の為にした。
あやの「泉ちゃん、みんなに慕われているのが分かったような気がする」
私は言葉を返せなかった。
五時限目が終わるとちびっ子自ら教科書を返しに来た。


360 :私とこなた  6/11 [saga sage]:2011/08/12(金) 22:27:35.03 ID:2LkPp8n/0
 あれから一年が経った。まさかちびっ子と同じ大学に通うことになるとは思わなかった。もちろん二人で決めたわけじゃない。偶然の一致。
腐れ縁ってやつなのか。泉こなた、柊つかさ、高良みゆき、この三人は柊の友達だった。あの教科書の一件以来、私達は急激に会うようになった。
みさお「どうだい?」
かがみ「今見たばかりじゃない、もう少し待って」
今は柊の家にお邪魔している。用件はレポートのチェックだ。ちびっ子と私の二人で作った。柊は一通りレポートを読み終えたようだ。
かがみ「言っておくけど、大学も学部も違うから私が見てもこれでいいかどうかは分からない、講師特有の癖も分からない、だから誤字、脱字のチェックくらいしかできなかった」
みさお「それでも充分さ、第三者が見てくれるだけでも在り難いよ」
柊はレポートを机に置くとお菓子を一つつまみ話し出した。
かがみ「あんたとこなた共同レポートって言ってたわよね、はっきり言うわよ、こなたはこのレポートの二割も関係していないじゃない、確かに文字の数からすると
    日下部とほぼ同じ、だけど回りくどい言い回し、必要のない仮定を入れて文字数を稼いでいるだけよ」
みさお「そうだろうね、それは私でも分かる」
そのちびっ子はアルバイトでここには来ていない。私が代わりにチェックを受ける事になっていた。
かがみ「だったら一言言ってやりなさいよ、何も言わないと調子に乗るわよ」
みさお「それも高校時代で分かってる」
かがみ「どうしたのよ、こなたと取引でもしたのか」
不思議そうに首を傾げる。
みさお「私は出だしが苦手なんだ、だから例え二割でもちびっ子が書いてくれたおかげでレポートが進んだ、柊の指摘してくれた箇所はちびっ子に直させる」
かがみは溜め息をついた。
かがみ「あんた、いいように使われているわね、同じ会社に就職したらきっとこき使われるわよ、てか、なぜこなたが来ていないのよ、アルバイトなんか理由にならない、
    共同制作にならないじゃない、このレポートの点数は二人とも同じになるのよ、普通は損得考えるだろう、訳がわからん」
腕組みをして呆れ顔をする柊だった。
みさお「使われていると言えばそうかもしれない、でもそんな事言ったら今こういて柊にレポート見てもらっているけど、柊はこれで何かを得るものはあるのか、
    他人の、しかも全く違う大学生のレポートのあら探し」
かがみ「……得るものねぇ……ある訳ない、こっちは頼まれてしているのだから、当たり前じゃない」
みさお「でも断ることも出来た」
柊は言い返してこなかった。
みさお「そんな所だ、私達なんてそんなにたいした理由で動いている訳じゃないんだよ」
かがみ「じゃ何の為に?」
みさお「さぁ?」
かがみ「なによ、答えがないのか……期待した私がバカだったわ、まったく、そう言う脈絡のない所はこなたとそっくりだ」
柊は机の周りを片付け始めた。何を期待していたんだ。ちびっ子か……また一緒にされた。あいつの顔が脳裏に浮かぶ。やっぱりちびっ子と私は違う。
みさお「ちびっ子だよ」
かがみ「いきなりなんだ」
柊は手を休めず片付けながら話した。
みさお「高校時代あいつと駆けっこをした、もちろん正式なものじゃなく校庭からバス停まで、それで見事に負けた」
かがみ「こなたの俊足は私も認めるわ、それがさっきの話と関係するのか」
みさお「ちゃんと練習すれば恐らくレギュラーは確実、県大会レベル以上の実力だ、短距離走は素質が九割くらいだからな」
私はあの時の出来事を柊に話している。なぜだろう。昔はこんなのは話せなかった。
かがみ「……それも否定はしないわ、あいつは妙に運動神経は良いわね」
みさお「俊足ならどんなスポーツだってできるさ……そうさ、部活をしてみなって言ったんだ、そうしたらちびっ子はなんて言ったと思う?」
柊は片付けていた手を休めて考えた。
かがみ「そうね、あいつの事だから……夕方のアニメが見れないとか、面倒くさいとか言ったんじゃない」
みさお「それが理由なのか、そんなどうでもいい理由で自分の力を潰していいのか」
かがみ「な、なんだ、私に聞いてどうする、それはこなたに聞いてくれ」
柊は引いた。思わず感情的になってしまった。私は一呼吸して気分を落ち着かせた。
みさお「ちびっ子にしたら駆け足が速いとか運動神経はあってもなくても関係ない、好きなアニメやゲームをしていた方がいいんだ……渡しはそんな時間を
    費やして練習した、他の人よりかは手を抜いていたかもしれない、だけどそれなりにやってきた……でも勝てなかった、これって不公平だ、
    必要のない能力なら私にくれって……」
361 :私とこなた  7/11 [saga sage]:2011/08/12(金) 22:28:44.99 ID:2LkPp8n/0
かがみ「ふ〜ん」
柊はニヤリと微笑しながら私を見た。
みさお「な、なんだよ」
柊お得意の突っ込みか、ダメ出しかな、どちらにせよ冷たく言われるんだろうな。そんな覚悟をした。
かがみ「時折見せるこなたとのいざこざの原因の一部がやっと分かったわ、日下部らしくもない、いつもならそんなの気にしないじゃない、天性の才能には敵わないわ、
諦めなさい」
突っ込みでもダメ出しでもなかった。むしろ慰めに感じる。
みさお「そんなものなのかな、ちびっ子はその天性を捨ててしまってる」
柊はレポートを開いて私に見せた。何をしたいのか分からない。私は首を傾げた。
かがみ「……まだ分からないの、それじゃこなたと同じね、よくこのレポート見なさい」
柊はレポートを私の目の前に突き出した。よく見るとちびっ子の書いた箇所は訂正の線がいっぱい引いてあるけど私の書いた箇所は一箇所もなかった。
かがみ「これってセンスよね、学部が違う私でも分かり易い文章、結論も断言的で日下部の思考がよく分かる、こんな書き方、だれでも出来るものじゃない、
    私の見た限り誤字以外に修正する箇所はない、むしろ手本にしたいくらいよ」
みさお「またまた、冗談で煽てても何も出ないぞ」
私は笑い飛ばした。
かがみ「日下部は自分の天性が何かも分かっていない、こなた以上に才能をゴミ箱に捨てている、レポートを見る限りこなたは手抜きやいい加減に書いてはいない、それはきっと
    日下部の実力を知っているから、追い付こうとしているのよ、あんたの駆け足みたいにね」
目が真剣だった。冗談ではない。柊は本気で言っている。
みさお「追い付こうとしてるって何で分かる、ちびっ子に聞いたのか?」
柊は悲しい顔になった。
かがみ「追い付こうとしてもすぐ引き離される……何度もね、みゆき……高良みゆき、私と張り合っている事すら気付いていない、もう高校で諦めた、
    だから日下部やこなたの気持ちは理解できる」
みさお「ふ〜ん」
かがみ「な、何よ」
今まで柊に突っ込みを入れるなんて出来なかったからな、このチャンスを見逃すわけにはいかない。
みさお「眼鏡ちゃんと柊じゃ結果は私でもわかる、もっとレベルを下げないとダメだ、眼鏡ちゃんもライバルとは思わなかったに違いない」
かがみ「悪かったわね、高望みなのは分かっていた、いいじゃない、なんだ、その納得した態度は、てか、納得するな!!」
みさお「でも柊に褒められるほど私は達筆だったとは思わなかった」
かがみ「それはあくまで個人的な意見、世間一般の評価とは違うからそれだけは言っておくわ」
それでも他人から良い評価を貰えるのは滅多にない、嬉しかった。
かがみ「才能なんて誰も教えてくれない、一生それに気が付かない人が殆どよ、こなたのように気付いても使わない人もいる、でもそれは珍しい事ではない、才能があるからと
    言って強制したら意味はないわ……才能に気が付いて自分の為に使う人、他人のために使う人、良い事、悪い事に使う人、様々ね、」
みさお「それで、柊は見つかったのか」
かがみ「さあね……」
冷たく一言、でもそれは私に対してじゃない。柊自分自身に言っているような気がした。確か柊は弁護士になるのが夢だったような。気が変わったのかな。聞きたかったけど
柊の表情からして聞けるような状態ではなかった。

362 :私とこなた  8/11 [saga sage]:2011/08/12(金) 22:29:49.16 ID:2LkPp8n/0
 レポートの下書きも終わり、そろそろ帰ろうとした時だった。柊にここまでして貰って何もしないのは心苦しい。
みさお「今度柊がレポートとかあったら見てやろうか」
かがみ「日下部に……その気持ちだけ頂くわ」
相変わらず素直じゃないな。
『コンコン』
ドアがノックされ扉が開いた。つかさだった。
つかさ「ただいま……あ、日下部さんいらっしゃい」
みさお「おっす」
かがみ「おかえり、早かったわね……」
つかさ「うん、あやちゃんからいろいろ料理を教えてもらったから、それでね、これから教えてくれたたケーキを作ってみようと思うんだけど……日下部さんも、どうかな?」
みさお「ご馳走様〜」
かがみ「こら、少しは遠慮ってものを……」
つかさは嬉しそうに部屋を離れた。私はもう暫く居る事にした。柊は私を早く帰したかったのか。まぁそんなのはどうでもいいや。
みさお「そういえば卒業してからあやのとよく会ってるな、つかさは料理の専門学校だろ、今更あやのに何を教わるんだ」
かがみ「そこまでは知らないけどレパートリーは峰岸の方が多いって言ってたわね」
みさお「凄いな、つかさはそこまで料理が好きなのか」
確かに何度かつかさの料理を食べたけど、食べるごとに美味しくなっているのが分かる。
かがみ「好きな事が出来るのが一番、『好きこそ物の上手なれ』とは良く言ったものね、つかさが初めて作った料理なんか食べられたものじゃなかったわ」
みさお「悪食の柊でも食えない物があるのか?」
かがみ「誰が悪食だ!!!三秒ルールとか言ってるやつに言われたくない!!!」
うわ、高校時代一回しかしていないのによく覚えているな。ここは下手に反論すると返り討ちあうな。
それよりつかさは始めから料理が上手かった訳じゃなかったのか。好きな事か、それで飯が食えるならそれが一番だな。私の好きなことって何だろう……。
かがみ「全く、そうゆう所もこなたそっくりだな」
その台詞は高校時代から何度も聞いている。でも何故か昔ほど違和感がなくなって聞こえる。慣れとは恐ろしい。

 しばらくするとつかさが自作のケーキと紅茶を持ってきてくれた。そこで三人で雑談をしながら楽しく過ごした。ケーキの味はもう店の味とさほど変わらない。
あやのよりも上手くなったかもしれない。つかさは料理の才能があったのか。それとも好きだから才能がついたのか。
そもそも自分だけで食べるのであればここまで美味しく作る必要がない。他人が食べて美味しいと言わせたいと思わないと美味しく作れない。
そういえばつかさは私に教科書を借りに来た。関係ないこなたの為に。なるほどね。つかさの優しさが料理を上手くしたのか。
柊はそんな妹を持って羨ましいと思った。
結局私は夕食までご馳走になってしまった。


363 :私とこなた  9/11 [saga sage]:2011/08/12(金) 22:31:42.20 ID:2LkPp8n/0
みさお「そんな事があってね〜」
大学、キャンパスの休憩所で先日あった出来事をちびっ子に話した。
こなた「かがみに褒められた……みさきち何か取引しなかったか?」
驚いた様子で私に話した。確かにあの時私も驚いた。私はレポートをちびっ子に渡した。
こなた「へ?」
みさお「へ……じゃない、約束通り修正はよろしくたのむぜ」
ちびっ子はレポートをペラペラと捲った。
こなた「……かがみのやつ居ないからって容赦ないな……これを修正するのか……徹夜になるかも」
みさお「なんなら図書館で一緒にやろうか?」
こなた「いいや、いいよ、約束通り修正して私から講師に提出するから……」
ちびっ子はバックの中にレポートをしまい込んだ。驚いた。もっと私を頼るかと思ったら意外とすんなりと言う事を聞いてくれた。柊の言ったのは本当だったのかもしれない。
こなた「さて、これから軽食でもして帰ろう、私の奢りでいいから……この前のバイトで臨時収入が入ったからね」
ちびっ子が奢るって、これは出会ってから初めてかもしれない。
みさお「折角もらったのだから大事にしないと、何か買いたいのがあるんだろ?」
なんて心にもない事を言ってみたりした。
こなた「そこまでお金に困ってないよ、行くの、行かないの?」
みあお「いく」

 ちびっ子行き付けの喫茶店。ちびっ子がオーダーをした。もちろん奢ってもらうのだから文句は言えない。
みさお「こなた、おまえ何か好きな事はあるのか?」
料理が来るまでの間どうせ暇だから何気なく聞いた。名前もあだ名で呼ぶのをやめてみた。
こなた「好きな事ね、いっぱいあるよ、えっとアニメから言おうか……」
みさお「いやいや、そう言う事じゃなくて、これからの事を聞いてるんだ、つかさや眼鏡ちゃんはもうやりたい事は決まってるみたいだし」
こなた「……やりたい仕事を聞いてるの?」
みさお「そうそう」
名前はなんの反応もなかった。このままこなたにするかな。
こなた「やりたい仕事ね……お父さんはフリーダムだし、ゆい姉さんは子供の頃から警察官になりたがってたし……」
途中からコゴニョゴニョ言いながら考え込んでしまった。何も決まっていないか。それは私も同じ。これじゃこのままじゃ話が持たないな。
みさお「決まっていないみたいだね、私もそう、柊もまだ決まっていないみたいだぞ、仲間だな」
話の繋ぎに柊を出してみた。
こなた「ああ、それはそうだよ、かがみは何も決めていないから」
あっさり答えた。
みさお「何か知っているのか?」
こなた「かがみは私達と同じクラスになりたかったから文系を選んだ……その結果は見ての通りさ」
そんな話は初めて聞いた。私は文系の方が楽そうだからって……柊って本当は何がしたいんだ。理系って感じではない。理系でも多分やっていけるとは思うけど。
あの弁護士って嘘だったのか。しかしそんな理由で決めていいのか、柊ってそんなに感傷的だったのか。
こなた「みゆきさんに言わせると文系も理系も関係ないって言ってた、結局文系も数学とか使うし、理系だって文系の知識が必要だってさ、まぁその通りだけどね」
みさお「『しっかりしなさい』なんて言っておいて、一番しっかりしないといけないのは柊じゃないのか?」
こなた「今頃分かったの、だからみさきちって言われるんだよ、かがみはああ見えて場当たり的」
みさお「その名前はちびっ子しか呼んでないだろ」
言い方がむかついたら呼び名を元に戻した。しかしちびっ子と話していると訳が分からなくなってくる。途中から理系だの文系だのって……何を話していたんだっけ。
こなた「……わたしも先の事は考えていないよ……なんでそんなの聞くの?」
ああ、そうだった。進路の話をしてた。
みさお「この前柊とそんな話になってね、私達もぼちぼち考えた方がいいかなって」
ちびっ子は暫くまた考え込んだ。これじゃ話が続かない。もっと身近な話にすれば良かった。料理が来てしまった。
こなた「ここまで安定した社会だと食べて行くことだけを考えればさほど苦にはならよ、学生の私だってこうやって人を奢るくらいは稼げるしね」
フォークを片手に淡々と話した。
みさお「なんか夢がないな〜ゲームとか漫画が好きならもう少し夢があってもいいんじゃないか」
こなた「夢ね〜」
また黙って料理を食べ始めた。
みさお「アルバイトって何をやってるんだ?」
こなた「あれ、言ってなかったっけ、高校時代からやってる、ただのコスプレ喫茶だよ」
みさお「コ、コスプレ……良いのかそんなのして?」
こなた「みさきちの思っているような如何わしいものじゃないから……今度峰岸さんでも連れて遊びに来てよ、かがみ達も来てるしね」
人を誘うくらいだから大丈夫そうだ。食事が終わった頃だった。ちびっ子は飲み物を口に含んだ。
こなた「それで、将来の事聞いてどうするの」
みさお「そろそろ考えないと最悪無職になるだろう」
ちびっ子は微笑んだ。
こなた「明日の事も分からないのに数年先の進路を考えてどうするのさ、みさきちらしくない」
みさお「いや、分からないかもしれないけど、考えないとダメだろ」
こなた「さ〜て、もうみんな食べたよね、店出ようか」
なんかスルーされた。もっとも始めからちびっ子とこういった話はまともに話せないか。ちびっ子は席を立った。奢られた身だから私も出ないといけないな。

 ちびっ子と話していてなにかデジャビュのようなどこかで似たような事が起きた感覚が霧のようにモヤモヤする。そうだ柊だ。あいつも聞いたらはぐらかされた。
性格は違うけど思考の方向性は同じなのかもしれない。これは面白いのを発見した。でも、そんな事柊に言ったら怒るだろうな。ちびっ子も怒るかもしれない。
なんだかんだ言ってちびっ子と柊は似たもの同士……ってことは私も……それこそあの二人に怒られそうだ。

364 :私とこなた  10/11 [saga sage]:2011/08/12(金) 22:33:24.09 ID:2LkPp8n/0
 
 さっきから気になっていた。喫茶店を出て直ぐだった。道路の反対側に幼い子供が一人で歩いている。辺りを見回していた。親を探しているに違いない。きっと迷子だ。
足取りもヨタヨタとして不安定だった。近くの人々は気が付かないのか素通りして行く。
みさお「ちびっ子、なんかあれ、危なくないか?」
こなた「みさきちも気付いたみたいだね」
ちびっ子も同じ方向を向いていたからそれは分かった。これかあらあの子の所に行こうと言おうとした時だった。子供はフラフラと歩道を外れて車道にはみ出してきた。
なぜ近くの人は止めないんだ。
みさお「まずい、止めよう」
私は走り出した。そこに車が近づいてきた。まずい。微妙なカーブがある道。車は子供に気付いていないようだ。間に合いそうにない。その時私の横を加速して通り過ぎる青い陰。
ちびっ子は猛ダッシュで子供に近づいた。車がちびっ子に気か付いて急ブレーキをかける。タイヤと道路が擦れる音が響く、私は思わず顔を背けた。

 タイヤの擦れる音が止まると辺りが騒ぎ始めた。いったいどうなった。こなたは、子供は。
恐る恐る顔を向けた。車は止まっている。こなたも子供も姿が見えない。どうした。
「バカやロー!!!」
車から罵声が聞こえた。車は何事も無かったように走り出した。車が通りすぎると歩道にこなたがうずくまっていた。車の陰に隠れていたのか。ピクリとも動いていない。まさか。
急いでこなたの元に近づいた。
みさお「こ、こなた、大丈夫か?」
動かない。何故、何故私を追い越した。私はもう諦めていたんだ。いくら俊足でも間に合うはずがない。何故……涙が溢れてきた。

こなた「うーん」
ムクリと立ち上がった。その両腕には子供がしっかりと抱きかかえられていた。こなたは子供を地面に下ろした。子供はしっかりと立った。
こなた「大丈夫、怖かったね」
子供は放心状態だった。そこに母親らしい女性が近づいてきた。
女性「何しているのですか、私の子供に勝手に触れないで」
吐き捨てるような口調だった。女性は子供の手を引きそのまま立ち去ってしまった。すると今まで野次馬で群がっていた人々は蜘蛛の子を散らしたように去っていった。
これが命を張ったこなたに対する評価なのか……

こなた「みさきち、私のダイビングキャッチ見た、凄かったでしょ……見てなかった……何その顔……もしかして泣いていたの?」
勝ち誇ったように笑顔で話すこなた。涙が止まらない。思わずこなたを抱きしめた。
こなた「ちょ、言っておくけど私はそんな趣味ないから」
関係ない。世間一般の評価なんか……最高だったぞ。こなた。

 こなたから離れて顔をみてみると額から少し血が出ているのを見つけた。私は財布から絆創膏を取り出しこなたに渡した。絆創膏は常に持ち歩いている。
しかし自分の顔に貼るのは少し難しそうだ。私が貼ってあげた。
こなた「やっぱり少し車に触れちゃってたかな……痛〜」
こなたは額を押さえていた。
みさお「しかし無茶したな、私はもう間に合わないと思って途中で止まったんだぞ」
こなたの歩みが止まった。
こなた「うそ……だって猛ダッシュしたからてっきり助けるのだと思って……だから私も負けまいと……」
みさお「あの状態でこなたを止めることなんか出来なかった、無事を天に祈ったぞ……それにしてもあの運転手と母親の態度はムカつくよな」
こなたの顔色が少し白くなってきた。よく見ると膝がガクガクと震えだしている。
みさお「こなた、おい、大丈夫かしっかりしろ」
こなたはそのまま地面にへたり込みそうになったので肩を貸してあげた。こなたはかなりの覚悟だった。
それに精神的ショックを受けたに違いない。そこまでして私に負けるのが嫌なのか。
辺りを見回したが休めそうな所は近くにはなさそうだった。さっきの喫茶店に戻るか。
喫茶店に入りこなたを席に着かせて休ませた。そして冷たい飲み物をオーダーした。

 一時間くらい経過しただろうか、顔色が良くなってきた。表情も落ち着いてきた。
こなた「ごめん、心配かけちゃって……」
みさお「気にするなって、こなたらしくもない……でも、あのダッシュ凄かったぞ、今まで私の見たアスリートの中でも一番の加速だった、認めるよこなたの才能」
こなたの顔が曇った。この話をするのはまだ早すぎたか。
こなた「みさおが駆け出した時からあまり覚えていない、あの子供の姿しか目に入らなかった、ただ……助けたかった……それだけだよ」
自ら話し出した。これなら話しても良いかな。
みさお「それで助かったから良かった、でももしかしたら二人とも事故になっていたかもしれない……こなたも子供も車に当たる所なんか見たくない」
こなた「……さっき、みさおの涙の意味、やっと分かった……ありがとう」
こなたの目から一筋の涙が出た。もう少し休んだ方が良いのかもしれない。

365 :私とこなた  11/11 [saga sage]:2011/08/12(金) 22:35:07.17 ID:2LkPp8n/0
 もう外はすっかり日が暮れた。こなたはだいぶ落ち着いてきた。もういいかな。
みさお「さて、もう帰ろう」
伝票を取ろうとするとこなたは私の腕を掴んだ。
こなた「私が払うよ、私のせいだし」
みさお「でも連続で二度も奢られる身にもなってみろよ、情けないぞ」
こなたは手を離した。
こなた「……そうだね」
私が席を立った。すると突然こなたの顔色が変わった。真っ青になった。まだ休み足りなかったのか。それとも頭でも打っていたのか。いやな予感がした。
みさお「こなた……救急車呼ぼうか?」
こなた「ない!」
みさお「ない?」
こなた「ないんだよ、私のバッグ」
バッグがない。そういえば持っていない。喫茶店を出た時は持っていたような……
みさお・こなた「あそこだ!!」
声が重なった。そう、事故になりかけたあの場所しかない。こなたが走った時に無意識にバッグを置いたに違いない。
みさお「支払いしておくから先に行って」
こなたは駆け足で喫茶店を出て行った。

 現場に着くとこなたは呆然と立っていた。バッグを見つけたようだった。
みさお「良かった、あったじゃん、中身確認しないと、盗まれていないか?」
こなた「みさお……ごめん、私の持ち物は全て在ったけど……レポートが無くなってた」
絶句した。なんてこった。私は辺りを探した。しかし街灯だけの明かりでは探しようがなかった。見つからなかった。風に飛ばされてしまったのだろうか。
こなた「……あのレポート、もう一度書けって言われても書けない、かがみに散々修正指摘されたけど……あれで精一杯だったんだよ」
あのレポート、分担を決めてそれぞれ個人で書いた。自分勝手に書いているだけ。それは共同レポートじゃない。
共同は全て箇所での二人の思考が反映されないといけない。
みさお「それじゃ明日、図書館で一緒に書こう……柊が手本にしたいと認める私とね」
こなた「ご指導お願いします」
深々と頭を下げた。
みさお「明日は早いから、もう帰ろう」
こなた「そうだね」

こうして私とこなたは友達から親友に変わった。
何か変わった。いいや何も変わらない。相変わらずふざけ合って、笑って、怒って、時には喧嘩をして……それは、あやのや柊と違いはない。それじゃ親友ってなんだ。
違っているとあえて言えば、私達はお互いにお互いの為に涙を流した。これしか思いつかない。でも……これが全て。





366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/12(金) 22:36:21.79 ID:2LkPp8n/0
以上です。

みさおメインは難しかった。みさおらしくなかったかな?

367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/15(月) 16:28:21.88 ID:W4U1rY2SO
>>349-350
おっつん
当時、vipにらき☆すたSS立ちすぎだろwwって事でこのパートスレが立ったんだよね
vipの初期の頃はどの時間も人がいて、キャラが何か言ってるのを一行でも書けば
それに便乗して書き込む人が沢山いてそのまま作品になったり、シリーズ化してたり…
vipからパー速に移動した時、「もう終わりか…」とか思ったもんだけど
それでもまだこうやってSS書いてくれる人がいるから、すごくありがたいお!

>>366
おつおつ。まさかのみさこなでキタか!
なんかこなたとみさおがお互いを本名で呼び合ってたり
みさおが全然バカっぽくなくて妙にシリアスなのが違和感もりもりだったww
原作でもメイン4人と背景コンビの絡み増やして欲しいなぁ…
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/15(月) 20:37:57.76 ID:uYqCP5Qk0
自分がこのスレに来た時が丁度第十二回のコンクール期間中だったか?
その時はRom専だった。よく二週間で作品作れるなって感心するばかりだった。


自分の作品はいわゆるらき☆すたとは違う。らき☆すたのキャラを使って自分の世界で動かしているイメージか。
そのキャラ自体も自分が勝手にイメージしたキャラ。
だからみさおにしろこなたにしろ実際のキャラとは違ってしまう。自分の中ではみさおはバカキャラじゃないんだよね。
確かにおきゃんな所もあるけど芯はしっかりしているイメージ。あやののポジションが自分なりにまだ決まっていないので
今回の作品ではあまり活躍できなかった。

長文失礼しました。

369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/15(月) 20:50:13.61 ID:uYqCP5Qk0



ここまでまとめた


忘れていた
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [saga]:2011/08/16(火) 21:28:16.07 ID:YOmrU98AO
〜夕立がひどかった〜


こう「急な夕立とはね、あ〜ひどい目にあった。ちょっとタオル持ってきて!…大丈夫?」
やまと「カバンの中身は無事みたい。予報になかったわよねコレ」
こう「そだね。にしてもよく雨ガッパなん…て…」
やまと「自転車乗ってると必須だもの。さすべぇ君は条例が………どうかしたの?」
こう「いや、今日暑くて薄着じゃん?それが濡れてて」
やまと「あぁ、透けちゃってるわね。…まさかそういう趣味じゃないでしょうね?柊先輩だけで充分なのに」
こう「いや、ノーマルだよ私も」
やまと「だったらいいんだけ…『も』?」
こう「うん、つまりさ…タオル持ってきてもらったうちの弟にとって目の毒な訳で」
やまと「¥?∞※%!!」←声にならない悲鳴
こう「うわっ落ち着いてやまと!アンタも早く向こう行って(あ〜なんかこれ、ベタなラブコメフラグっぽいなぁ…うん、頑張れ弟)」
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/08/17(水) 00:19:25.98 ID:T92WDpjSO
かがみ「わたしもノーマルだっつーに…」
こなた「え、でも今期の百合アニメに」
かがみ「しゃらっぷ」


みゆき「あれはどちらかと言うと、かがみさんと言うより八九寺さんですよね」
つかさ「え…はちく…誰さん?」
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 07:18:54.59 ID:xpOXv3xSO
\カッガミーン/

       ,r-、
       /'ニユλ、___
       〈 、}'´ ,〉 、: : : :`;:=:=‐-.、/ヽ:‐::-.、_   __
       _,ゝ ,.イ、 ,>'´;: : : : : : : : |: : : : : : : :`ヽ、|::::::::;/
        {`ー-‐' {∠:;ィ´: ::/: : :;/::/|: :: : : i:: : : :ハ::ヘ::~ユ、__
      ,j    ;{/: : ::/:.: ;//:/ |::|:: : _|__:: : : : ヘ::ハ::{:::::::\
      〈ゞ‐-‐':/: :;': ::/: : : ̄`/'´   |:|`ヽ::|ヽ::: : : : :ハ::}: ヘ:;;;/
      ∨   j: :/: ::/: ::j:.:/ ___、   |:j  ,_`__∨::: :i.: :|:j::: :λ
       ∨  |/|: :::j: : ::|:/チ弐z、  ´ ィチ弍z V::: :ト、:|'::: :i::∧       はーい♪
        〉   V:::|: :/:ハ      ,       ,'∨:.:|)ヘ: : :|:: ::ハ、
        ∨.   ヽ:|;/ゝλ"   r─-、  ",/_,ノヽ:|  ∨::!::: : :|:ヽ、  らき☆すた、はっじまっるよ〜っ♪
         ∨    ;{: : ::i:::ヽ、  V__,ノ  ,/       ∨::::: : :|: :∧
        `ヽ、:: : `ヽ、::::;;ノ`>:r- r;<ー-.、_      j^,ヘ._::: :|:: : :}
            \: :  ゛∨   {'   `}    /ヽ  〈´ゝ {`〉:.:|:: : :|
            `ヽ、:,' `ヽ、 ヽ‐‐/  /   } /`ヽ._,ィ:;)::: |::.: :l
              /    {.\丶/ /} i   |,/`ヽ、__,,/:: : j:.: :j

つかさ「お姉ちゃん……」
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [saga]:2011/08/20(土) 01:28:46.40 ID:FDmPjH+AO
そうじろう「おめでとうぅ!ハッピィバァースデェイ!
新しいかなたの誕っ生だよおぉぉぉ!!!すぅばらしぃい!!!」
こなた「…何してんの?」
そうじろう「ん、あ〜いや、最近誕生日忘れられる事が多いだろ?だからなるたけ祝おうと」
こなた「ふぅん……明日がお父さんの誕生日だって忘れないでね」

かなたさん、HappyBirthday!
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/20(土) 08:45:42.25 ID:XUQ31bZp0



ここまでまとめた


かなたの誕生日だったか。その次がそうじろう。

なかなか全てのキャラの誕生日を把握することは出来ないね。
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/20(土) 08:50:02.33 ID:MZvaYMMSO
かなた「うふふ、そう君ったら……」

かなた「でもここに来てからまったく成長しないのは何故かしら。
     こなたもこんな私に似ちゃったのね、ごめんねこなた……」シクシク

天使「いやいや天国じゃ年取らないに決まってんでしょーが」
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/20(土) 12:01:29.81 ID:XUQ31bZp0
>>375
天使の突っ込みが笑えたw


昔って感動と鬱系が同じカテゴリーだったんだね。確かに分けたのは正解だった。
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/21(日) 06:01:00.55 ID:51w88jbAO
こなた「というわけで…ハッピィバァースデェイ!!父さんの誕っ生日ぃぃぃぃ!!!」
そうじろう「いや、昨日俺がやったネタをそのままは…」
こなた「だって、私もやりたかったし」
ゆたか「はいおじさん。バースデーケーキです」
パティ「HappyBirthday!」
そうじろう「おお、ありがとう!って…チョコアイスケーキ?」
ゆたか「お姉ちゃんがたまには変えてみようって」
そうじろう「…こなた、これはあれか?チョコアイスなら食ってやるとか言うところか?」
こなた「パティが一度食べてみたいって言ってたからね」

というわけでそうじろう、ハッピィバァァァスデェイ!
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/21(日) 23:10:13.99 ID:9isI/HUF0
>>377
連日乙です。
そうじろうとかなたのエピソードは作ってみたいが
結果は決まってしまっているので難しいですね。
かなたが生きていたと仮定したものとかなら出来なくはないが……
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [saga]:2011/08/27(土) 14:14:47.26 ID:IvrTLtdAO
〜で?何歳に?…睨まんでください〜

まつり「ほ、ほら、いつまでも子供じゃないし。変な勘繰りにとられるのも、ね、かがみ」
かがみ「そうそう。いくつになったとかさすがに悪いしさ、ねつかさ」
つかさ「ごめんなさいいのりお姉ちゃん。誕生日すっかり忘れてて」
いのり「いいのよつかさ。………で?そっちの二人は何?『行き遅れかねない年になった』とかいいたいのかしら?」
かがみ「ひぃぃ」
まつり「や、やぶ蛇だったぁ!」
いのり「さぁ!懺悔の時間だよ!!」
まつり「姉さん、安達祐実は古いわよ!」


はい、また、忘れてました!柊いのりの誕生日を!
8月24日
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 18:05:18.02 ID:am8lYHpSO
つかさ「で、いのりお姉ちゃんいくつになったんだっけ?」
いのり「ごっはぁ!?」ブハッ

かがみ「つかさには弱いのよねぇ、いのり姉さん」
まつり「長女と末っ子で、つかさはあんな性格だし……相当可愛がってきたからね」
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/27(土) 18:05:51.29 ID:Gwoa5KnF0
>>379
いのりの誕生日を忘れていた。
ssを書いているとついつい忘れてしまう。
結局まつりの歳はいくつなのだろうか?


ここまでまとめた


382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/27(土) 18:09:56.95 ID:Gwoa5KnF0
>>379
名前間違えた。いのりだな
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 21:30:00.15 ID:zyCNK0fSO
いのりは黒井先生と同い年くらいだと思う
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/28(日) 18:13:37.74 ID:SrAirLj70
すると
いのり=ななこ=ゆい
でいいのかな?
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/28(日) 20:39:54.65 ID:BicGkDX8o
ななこは28か29。
三十間近なことを気にしてる描写があったはず。

ゆいはななこより年下。
ゆいがななこへ対して「わたしあなたより年下だけど独身じゃなくて既婚者です」ってニュアンスで
心のなかで謝る台詞があったはず。

いのりは大学生のまつりより当然年上なわけだけど
まつりが20だとして、まあフィクションの4姉妹の設定を作るとして
長女と次女の年齢をそんなに離すこともないだろうから、だいたい24、5才の社会人って考えていいと思う。
(かがみ・つかさの視点からすると「年の離れた姉」というキャラ造詣が出来るけど、
 10も離すよりはせいぜい5〜7年離す程度が妥当だろう)

ということで
ななこ>ゆい≧いのり
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/08/28(日) 22:33:04.60 ID:SrAirLj70
>>385
細かい考察ありがとうございます。
概ねそんな感じかな
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/08/29(月) 18:08:03.63 ID:9XnVz0Kc0
らきすた世界の中でも、特に柊家の女性陣は、見た目年齢が当てにならんからなぁ。
いのりさんが黒井先生よりも年上でも驚くには値しないかも。
まあ、24、5歳ぐらいが順当だろうけども。


そろそろ、父ただおが、婿取り圧力をやんわりとかけはじめているかもしれない。
恋愛結婚の気配はないから、見合い結婚になるかもね。
自分のとこの神社の神職か神職見習い、あるいは他の神社の家柄の次男、三男あたりが、お相手になるのかな。
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/02(金) 18:04:00.85 ID:GJN7sgSU0
ままみんは4、17歳だったか・・・
あとはかなたさんの年齢だな・・・
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/02(金) 18:06:02.58 ID:GJN7sgSU0
ままみんは4、17歳だったか・・・
あとはかなたさんの年齢だな・・・
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/02(金) 18:07:50.54 ID:GJN7sgSU0
ままみんは4、17歳だったか・・・
あとはかなたさんの年齢だな・・・
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/02(金) 20:20:32.37 ID:yUAwQEHc0
>>390
かなたさんはそうじろうと同級生じゃなかったかな
だとするとそうじろうの年齢が分かればかなたさんの年齢も分かるような気がする。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/09/02(金) 23:29:49.09 ID:l+fRG5xr0
なんだこれは?

長編投下されたらまとめが大変になっちゃうよ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/03(土) 00:33:11.24 ID:WzJxeheSO
>>390
あれサバ読んでるから実際は50超えてると思う

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/09/04(日) 15:11:53.42 ID:7DdGrtls0
ssが出来た。だけど『自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中』
が付いてしまうから消えるまで待った方がいいかな?
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/09/04(日) 23:13:19.80 ID:7DdGrtls0
一ヶ月書き込みがないとスレが落ちるそうです。
二ヶ月作品が投下されないとスレが落ちるそうです。

自分は月に約1作品のペースで作っているけど。保守が必要になるかもね
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/09/07(水) 19:14:32.20 ID:4o6VNuyW0
投下行きます。
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/09/07(水) 19:15:18.72 ID:4o6VNuyW0
祈ること

 柊家一家は、とある田舎の山奥の旅館に旅行に来ていた。
「お母さん、お外に遊びに行ってくるね」
「遠くに行っちゃダメよ」
「はーい」
 まつりは、そういうと走るように部屋を出ていった。いのりがついていく。
 かがみとつかさは、まだ幼子だ。外を走り回るにはまだ早すぎた。
 部屋の中を這い回るかがみとつかさを、みきとただおが見守っていた。


 それから二時間後。
 いのりとまつりは、ものの見事に道に迷っていた。
 いのりが制するのも聞かずに、まつりが山林の中を走り回ったため、すっかり道が分からなくなってしまったのだった。
「お姉ちゃん、暗いよう……」
 まつりがいのりの服の裾をつかんだ。
 いのりは空を見上げた。山林の中だから暗くなるのは早いが、それを差し引いても既に夜なのは間違いない。
 どうしよう……。
 冷静な大人なら一晩過ごして明るくなってから行動するところだろう。しかし、いのりとてまだ子供だ。そこまでの合理的な思考は難しかった。
 それに、妹のまつりにこの寒い夜空の下ですごさせるわけにもいかないと思った。
 ならば……。

 いのりは、両手を合わせて握りしめ、目を閉じた。

 いのり。それが自分の名前。だから、祈ることは自分にとっては特別の意味がある。
 むやみに多くの願い事をしてもかなうことはないが、本当にかなえたいことだけを選び抜いて真剣に祈ればかなうことも多い。
 死んだおばあちゃんはそう言ってたし、お母さんも同じようなことを言ってた。
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/09/07(水) 19:16:19.71 ID:4o6VNuyW0
「お姉ちゃん、お化けー!!」
 まつりがそう叫んで、いのりにしがみついた。
 いのりは目を開けた。
 目の前に、青白い鬼火が浮かんでいた。
「お化けじゃないよ」
 いのりは、そう言ってまつりをなだめた。
 この世ならざるものではあるが、化け物ではない。いのりにはそれが何なのかはすぐに分かったが、まつりに説明するようなことはしなかった。
 四歳になったばかりのまつりには理解できないだろうし、たぶん将来、このことを覚えていることもないだろうから。

 鬼火がゆっくりと動き始めた。いのりとまつりを先導するように。
 いのりは、はぐれないようにまつりの手を握り、鬼火についていった。


 三十分ほど歩いたときだった。
 鬼火の先に、光が見えた。懐中電灯だ。
 その持ち主がこちらに早足で近づいてくる。
 その姿は、まぎれもなく、母みきだった。
「お母さん!!」
 まつりが走っていってみきに抱きついた。
 みきは、まつりを抱き上げた。
「もう、どこ行ってたの?」
 まつりは、泣きじゃくって答えられない。
 いのりが代わりに答える。
「まつりが勝手に走り回ったせいで道に迷ってた」
 みきがあやしてるうちに、まつりは泣き疲れて寝てしまった。
 みきは、まつりが寝付いたのを確認すると、いのりの前に浮いている鬼火に近づいてこう語りかけた。
「すみません、お母さん。あの世からお呼びだてしてしまいまして」
 すると、鬼火──いのりの祖母──は、世間話でもするかのようにこう言った。
「あの世で寝てたらいきなり呼び出されたから、何事かと思ったけどね。しかし、いのりもたいしたもんだ。その歳でここまでできるなんてね。柊家も安泰だ」
「いのりも、おばあちゃんにお礼しなさい」
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/09/07(水) 19:17:09.74 ID:4o6VNuyW0
 いのりが祈ったのは、無事に戻れること。それをかなえるために、おばあちゃんが来てくれた(というより、無理やり引き寄せてしまった)。感謝しなければならない。
「おばあちゃん、ありがとう」
「かわいい孫のためなら、これぐらいはどうってことないさ。でも、むやみにやるもんじゃないよ」
「はーい」
 みきが鬼火に手をかざした。
「それでは、お母さん。お休みください」
 みぎが短く祝詞を唱えると、鬼火はゆっくりと蒸発するかのように消えうせた。
 あの世に帰っていったのだ。


 旅館に戻ると、まつりは起こされた。
 そして、いのりとまつりは、父ただおの前に正座させられ、がっつりと怒られた。
 まつりは、またわんわんと泣き出した。



 まつりは、この日のことを覚えてはいなかった。
 いのりははっきりと覚えている。でも、まつりに話したりはしなかった。
 それは、自分と母、そして、祖母だけの秘密だから。
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/09/07(水) 19:17:41.02 ID:4o6VNuyW0
以上です。
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/09/07(水) 21:27:47.56 ID:qcbSrsFZ0
>>400
かがみ、つかさが幼いか、まだ生まれていない頃のお話かな。
いのりとまつりだけの物語って結構珍しいね。意外な一面が見れてよかったです GJ。



それでは私も投下させて頂きます。19レスくらい使用します。
402 :忘れ去られた過去 1/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:29:56.33 ID:qcbSrsFZ0
 茹だるような暑さ、もう我慢の限界。
つかさ「ねぇ〜、エアコンつけようよ……」
かがみ「何言ってるのよ、エアコンは先週壊れて修理依頼したばかりじゃない」
そうだった。エアコンは壊れてしまっていた。そして工事も混んでいて修理がいつになるのかも分からない。
かがみ「これでも仰いで我慢しなさい」
お姉ちゃんは団扇を私に差し出した。受け取って自分を仰いだ……手が疲れてくる。そして仰いだ力が熱に変わって火照る。
つかさ「だめだ〜」
仰ぐのを止めた。
かがみ「早、てか、三分も経ってないじゃない、だらしないわね」
つかさ「そうかもしれないけど、お姉ちゃんも汗が凄いよ」
かがみ「汗の量とは関係ないのよ……暑くなんかない」
と自分に言い聞かせているような気もする。それにしても暑い……
まつり「なに我慢大会なんかしてるの、まだ家にはこれがあるじゃない」
まつりお姉ちゃんが扇風機を持ってきた。まつりお姉ちゃんは早速扇風機のスイッチを入れた。風が居間全体に行き渡る。だけど、生暖かい風がグルグル循環しているだけ。
汗は引かない。むしろ扇風機の音が暑さを増している気さえした。
まつり「……効果なしね」
いのり「締め切っているからじゃない」
いのりお姉ちゃんが窓を全開にした。外から熱風が押し寄せる。
まつり「ちょ、これじゃ逆効果じゃないの、閉めてよ」
ただお「何処か出かけて涼みに行くか?」
つかさ・かがみ・まつり・いのり「えー、暑いよ〜」
皆の声が重なった。さすがのお父さんもこれ以上何も言わなかった。
みき「しょうがないわね、何か冷たい物でも買ってくるしかないわね」
その言葉に皆の視線が私に集まった。お母さんが買い物って言った時から私が行くような気はしていた。私は快く引き受けた。お母さんからお金を受け取った。
まつり「私はね……」
つかさ「バニラアイス以外だったよね、皆の好みは分かってるから楽しみにしてて」
みき「外は暑いからきをつけるのよ」
自転車に乗って近くのスーパーまで向かった。ねっとりと絡みつくような湿気、照りつける太陽、そのまま溶けてしまいそうだ。蝉の大合唱もそれに追い討ちをかけた。

 スーパーに着いて入り口に入った時だった。冷たい風が私を包んだ。汗が見る見る引いていくのが分かる。店は冷房を効かせている。私はしばらく涼んだ。
このまま夕方まで涼んじゃおうかな。だめだめ、私の帰りを皆が待っている。早く買い物を済ませよう。アイスクリーム売り場に移動した。
さてと、皆の好きなのは……お母さんはこれがいい。お父さんは金時が好きだったよね……いのりお姉ちゃんは……
買うものを選んだ時だった。私の横を横切る人影、何気なしにその人の方に顔を向けた。
つかさ「こなちゃん!?」
それは紛れもなくこなちゃんだった。店員の制服を着ている。私の声に気付いて私の方に寄ってきた。
こなた「いらっしゃいませ……つかさ」
つかさ「こなちゃん、どうしてここに、コスプレのアルバイトはどうしたの?」
こなちゃんは少しつまらなさそうな顔をして答えた。
こなた「お店が改装になって、その間暇になっちゃったから繋ぎのバイトを探してた、そしたら近所のスーパーが臨時店員を募集しててね、採用されたわけ、まぁ、通勤が近い
    から便利にはなったんだけどね」
つかさ「そうなんだ……」
こなちゃんは私をじっと見た。
こなた「お、アイスクリームの買出しだね……さてはかがみに使いパシリにされたな……さすがかがみこれ全部食べるつもりでしょ」
つかさ「……違うよ、家族皆の分を買ってるの、これを一人で食べたらお腹壊しちゃうよ」
こなちゃんは笑った。
こなた「ふふふ、そんなに真に受けないでよ……確かに今日は暑いからね〜」
つかさ「家のエアコン壊れちゃって……」
こなた「そりゃ大変だ……」
店員「泉さん、こっちの棚の整理お願い……」
店員さんがこなちゃんに話しかけた。仕事中だったんだった。ちょっと悪い事しっちゃったかな。
こなた「はい、分かりました……ごめん、つかさまた後でね」
つかさ「うん」
こなちゃんは持ち場に戻った。忙しそうに商品を棚に並べている。以外に似合っているような気がした。
あっ、そうだった、感心してはいられない。こっちも用事を済ませないと。私は残りのアイスを買い物かごに入れた。それからお菓子売り場に行き
適当なおつまみもかごの中にいれた。


403 :忘れ去られた過去 2/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:31:52.80 ID:qcbSrsFZ0
Aレジに並んでいるとこなちゃんが隣のレジに入り準備をしだした。しばらくすると私の方を向いてウインクをした。私はそのまま隣のレジに移った。
こなちゃんは慣れた手つきで品物をレジのかごへと移していった。
こなた「お客さんは家までこのくらい掛かりますか?」
つかさ「え、えっと、15分くらい……」
するとこなちゃんはアイスボックスからドライアイスを取り出してアイスの入った袋の中に入れた。
こなた「一応30分くらいは持ちますので……」
すると私の耳元で囁いた。
こなた「本当は30分だと有料だけどサービスしておく」
お金を払い私はレジから離れた。こなちゃんを見るともう次のお客さんの相手をしていた。お礼は今度にするかな。

 そしてまた茹だるような暑さの中を自転車で帰った。あれ、おかしいな。玄関のドアに鍵がかかっている。
つかさ「ただいま」
あれ、誰も返事をしない。どうしたのかな。
つかさ「ただいま〜」
返事が無かった。それどころか人が居る気配がなかった。どこかに行ったのかな。そんな筈はない。私の買い物を皆は待っているはずなのに。とりあえず台所に
向かい冷蔵庫にアイスを入れた。皆を待つしかない。
暫くすると玄関のドアが開く音がした。やっぱりどこかに行っていたんだ。足音がこっちの方に近づいてきた。
台所に入ってきたのはお姉ちゃんだった。
つかさ「お帰り、どこに行ってたの、私はもう買い物終わったよ、ねぇ、聞いてよ、いつものスーパーにね、こなちゃんが……」
かがみ「あんた……誰よ」
つかさ「こ、こなちゃん?」
お姉ちゃんの一言、私は何を言っているのか理解できなかった。
かがみ「ちょっと、ど、どうやって、入ってきたの、ひ、人に家に勝手に入って」
お姉ちゃんは少し怯えたように私に話し出した。
つかさ「ふふ、お姉ちゃんたったら、驚かして涼しくする作戦でしょ?」
お姉ちゃんに近づこうと歩き出すとお姉ちゃんは素早く走って台所の流し台に移った。そしてまな板の上に置いてある包丁を手に取り私に向けた。
かがみ「こ、来ないで!!」
叫びにも似た声だった。これは冗談じゃない。私の中の本能のようなものが頭の中に走った。私はお姉ちゃんに近づくのを止めた。
つかさ「何、どうしたの、お姉ちゃん?」
お姉ちゃんの包丁を持つ手は震えていた。目は大きく見開いて私を瞬きもせず見ていた。まるで私が別人で不法侵入しているみたいだった。
かがみ「出て行って」
震えた声だった。私はお姉ちゃんに話しかけようとした。
かがみ「で、出て行け!!!」
包丁を大きく振りかぶって来た。本気だ。お姉ちゃんは本気だ。私は玄関に向かって走った。そして靴を履く間もなく外に飛び出した。すると直ぐにドアに鍵がかかる音がした。

 どうしたのだろう。訳がわからない。私は家を追い出された。最近お姉ちゃんと喧嘩もしたことないのに。包丁を振りかざすなんて……いままでそんなのしたこと無いのに。
合鍵を持っているから直ぐに開けられるけどあの調子じゃまた追い出される。取りあえず裸足じゃどうしようもない。そういえば裏庭にサンダルがあったはず。
そっと裏庭に移動してサンダルを取ってから家を離れた。

 どうしよう。何も思い浮かばない。お父さん、お母さんはどうしたのかな。いのりお姉ちゃんもまつりお姉ちゃんも居なかった。私が買い物に行っている間に何かあったのかな。
そうだ。こなちゃんの所に行ってみよう。今はそれしか出来ない。私はスーパーに向かった。
スーパーに付くと丁度従業員の出入り口からこなちゃんが出ていた。私服になっている。きっともう仕事は終わったに違いない。
つかさ「こなちゃ〜ん」
手を振ってこなちゃんに近づいた。こなちゃんは黙って私を見つめていた。
つかさ「こなちゃん聞いて、お姉ちゃんが、お姉ちゃんがね……」
こなた「あの〜どちら様ですか、何か私に御用ですか?」


『忘れ去られた過去』


404 :忘れ去られた過去 3/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:33:41.83 ID:qcbSrsFZ0
 他人行儀だった。私は唖然としてしまった。
こなた「人違いじゃないですか?」
続けて思いも寄らない言葉。何を言っているのか。お姉ちゃんの時と同じような空気が張り詰めた。
つかさ「こなちゃ……泉こなたさんですよね?」
私も他人行儀になっていた。
こなた「そうですけど……以前会いましたっけ?」
こなちゃんは私を知らない。そんな筈はない。
つかさ「会いましたっけって、陸桜学園を卒業したでしょ、三年間もクラス一緒だったし……」
こなちゃんは腕組みをして考え込んだ。
こなた「クラスが一緒だったのは……みゆきさんとセバスチャンくらいしか思い浮かばない……すみませんお名前は?」
名前まで知らないなんて。いったいどうなったの。
つかさ「つかさ、柊つかさだよ、思い出して……」
こなた「ひいらぎ……柊って言ったらかがみくらいしか居ないな……」
なんで、なんで、信じられない。
つかさ「このスーパーに1時間くらい前に買い物に来たんだよ、その時は私を知っていたでしょ?」
こなた「……1時間の間に沢山のお客さんが来た…それしか知らないよ」
え、あの時話した事、ドライアイスをまけてもらったのも忘れている。私はもう何も言えなかった。
こなた「すみません……私、もう帰らないと……」
こなちゃんは私に背を向けて歩き出した。でも私はこなちゃんを止めることは出来なかった。こなちゃんが見えなくなるまで見ているしか出来なかった。

 お姉ちゃんといい、こなちゃんといい、いったいどうなっちゃったのだろう。私を忘れてしまっているみたいだった。みたいと言うより完全に忘れている。
これからどうしよう。こうしても何もならない。もう一度帰るしかない。そしてちゃんと話せばきっと思い出してくれるよ。
帰り道、何か少し雰囲気が違うのに気が付いた。近所の人たちが道端に出ていた。
「不法侵入ですって……」
「物騒になりましたね……」
そんな声が私の耳に入ってきた。確かに最近になって空き巣が増えたってお母さんが言ってたっけ。
家の前に来て私はまた驚いてしまった。私の家の前に二台のパトカーが停まっていた。数人の警察官が家の廻りを調べていた。そして玄関にはお姉ちゃんがいた。
検査官みたいな人と話している。不法侵入って私の事だった……お姉ちゃんは警察に通報してしまった。
お姉ちゃんもこなちゃんも冗談であんな態度を取っていなかった。本当に私を知らない。私は忘れられてしまった。
このまま家に帰れば捕まるのは目に見えている。どうしよう。
「あの子、最近見ない子ね」
「怪しいわね……」
近所の人も私を知らない。ここに居たら危険だ。取りあえずここを離れよう。

 私は陸桜学園の近くの公園まで移動した。駅で買ったスポーツドリンクを飲みながら考えていた。
着の身着のまま出たから何も持っていない。ポケットの中を見た。財布とキーホルダーと携帯電話だけだった。携帯電話……そうだ。電話でゆきちゃんと連絡できないかな。
ゆきちゃんなら何か分かるかもしれない。携帯電話をかけてみた……おかしい、電話が繋がらない。何度も電話をかけてみた。しかし結果は同じだった。
携帯電話のアンテナは三本立っているのに。これからゆきちゃんの家に直接行くのも考えた。でも、お姉ちゃんと同じ反応されたら……怖くて出来なかった。
これだと日下部さんやあやちゃんも期待できない。なにをどうすればいいの。私がスーパーを出て家に帰るまでに何かが起きた。ほんの15分の間に。
考えれば考えるほど訳が分からない。

405 :忘れ去られた過去 4/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:35:15.89 ID:qcbSrsFZ0
 もう日が暮れて街灯が灯りだした。あれだけ煩かった蝉の合唱も止んだ。ここに来る途中で買ったおにぎりを食べた。涙が出てきた。
このまま誰にも知られないまま私は……死んじゃうのかな。
「未成年がこんな所でなにしているのかな」
聞き覚えのある声だった。私は声のする方を向いた。
つかさ「成美……さん?」
警察の征服を来た成美さんが居た。この人は私を知っているのだろうか。
ゆい「おやおや、私を知っているのなら……昔私に捕まった事でもあるのかな?」
冗談交じりのこの口調、まぎれもなく成美さん。それで私の少しばかりの期待は消えた。成美さんも私を知らない。
ゆい「そんな悲しい顔するなんて、何かあったの、親と喧嘩したとか」
なんて説明していいのか分からない。ありのままを話して信じてくれるかどうかも。
つかさ「私……分からないんです…うう」
また涙が出てきた。もう涙を止めることは出来ない。
ゆい「女の子一人でこんな所に居たら危ないよ、とりあえず一緒にいこうね」
優しい成美さんの言葉に従った。
ゆい「未成年少女一人保護、これから戻ります」
成美さんは無線で話している。私はのパトカーに乗った。

 一夜明け、私は警察署の個室のような所に入れられた。そこには数人の人が座っていた。私は中央の席に座らされた。
女性「気を楽にして」
数人のうち真ん中の女性が私に声をかけた。
女性「あなたの所持品、調べさせてもらったわ……免許証、学生証、とても精巧にできているわね……」
精巧に出来ている。精巧ってなんだろう。
女性「お名前は?」
つかさ「柊つかさ……です」
女性は少し厳しい顔をして私の目の前に免許証と学生証を出した。ビニールに包まれていた。
女性「確かにこれにはそう書いてあるわね、でもね、柊つかさは免許登録されていない、この学生証を発行した専門学校にもそんな名前の生徒はいないそうよ」
そんな。私は確かにこの前車の免許を取った。学生証だって。
女性「それに、貴女、昨日の午後2時頃、〇〇町の柊家宅に勝手に入ったわね」
つかさ「あれは……」
今度はキーホルダーを私の目の前に出した。
女性「合鍵で入ったのは分かっているわよ、この鍵は何処で手に入れたの?」
つかさ「それは家で貰った鍵だから……」
女性「柊つかさと言う名前の人はあの家には居ない、住民票、戸籍も調べたけどね……偽造はりっぱな犯罪なのよ……分かっているの?」
ますます女性の顔が厳しくなった。私は犯罪者になってしまいそうだ。
女性「もう一度聞きます、貴女の名前は?」
そう聞かれても私の名前は一つしかない。
つかさ「柊……つかさ……」
女性は溜め息を付いた。
女性「本当の事を言わないと家に帰れないわよ……」
そんな事いわれても私は柊つかさ、柊家の第四女、柊ただお、みきの娘。それ以上でもそれ以下でもない。女性は執拗に私の名前を聞いてきた。
それでも私はこう答えるしかなかった。私の名前は「柊つかさ」と

 あれから一ヶ月が経った。私は毎日のように免許証・学生証の作り方、本当の名前を何度も何度も質問された。そんな方法なんか知らない。
本当の名前も一つしか知らない。そう答える以外には無かった。その中で一つだけ分かった事があった。それは私の携帯電話が繋がらなかった理由。
それは携帯と会社で契約がされていないので繋がらなかったみたいだった。私は一体誰なんだろう。
一ヶ月経つのに誰も迎えに来てくれない。周りの人は誰一人私を知らない。そう、お姉ちゃんやこなちゃんまでも。私は一生ここから出られないのかな。
悪い事していないのに……

406 :忘れ去られた過去 5/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:36:36.71 ID:qcbSrsFZ0
 更に一ヶ月が経った。私は不起訴処分になった。その代わりに病院に送られてしまった。私の精神は病におかされていて治療が必要と判断されたらしい。
あと未成年であったのも理由らしい。病院は24時間体制で監視が付いている。とても何処か自由に行ける様な状態ではなかった。

 七年が経過した。昨日も病室で先生と分けの分からない治療をした。家にも帰れない。もう私は生きていても仕方がないと思うようになってきた。
でも、もう一度逢いたい、皆に逢いたい。そして私を思い出して欲しい。ただそれだけが私の生きる望みだった。

「こんにちは」
あれ、何処かで聞いた声。今日の先生は違う人なのかな。病室の扉が開いた。そこに居たのはゆきちゃんだった。眼鏡をかけていないけど直ぐに分かった。
つかさ「ゆきちゃん……だよね?」
ゆきちゃんは微笑んで答えた。
みゆき「……やはり私をご存知でしたか、もしかしたらと思ったのですが……興味深いです」
ゆきちゃんは私のすぐ近くまで歩くと座った。
みゆき「貴女の経歴は先生から伺っています、貴女は強度の妄想着想が見られるとカルテに書かれています、どうですか、柊さん、
    貴女の知っている過去を全て話してくれますか」
初めてだった。買い物から帰ってきて初めて私を柊と呼んでくれた。
つかさ「ゆきちゃん、お医者さんになったんだね、凄いよ……」
みゆき「いいえ、私はまだ完全に医者にはなっていません、柊さん、貴女が初めての患者です」
やっぱり私は病人なのかな。もう一生この病院から出られないのだろうか。

私が生まれから覚えている限りの出来事を話した。小学校、中学校、高校、専門学校、家族の事、こなちゃん達の事、そしてアイスクリームを買いに行った事……
ゆきちゃんは黙って私の話を聞いた。そして資料のようなファイルを見ていた。
みゆき「……柊家の人々……陸桜学園のお友達、そして私……貴女の言っている人物像が私の知人と見事に一致しています、とても出鱈目では考えられません、
    それより驚いたのは生い立ちが秩序だっています、精神疾患……妄想着想ではそのような事は出来ません……」
つかさ「それじゃ、信じてくれる?」
私は笑顔で言った。しかし、ゆきちゃんの顔は曇ったまま。
みゆき「私は貴女を知りません、今、初めて対面しています、そして貴女は戸籍がないのです、日本人であるのですら分からないのです、さらに、貴女が保護されてから
    7年強、貴女を知る人は誰一人名乗り出ていません、年頃の女の子が居なくなればご家族、知人は血眼になって捜すでしょう……信じたいのですが……」
その家族……誰も私を連れ戻しに来てくれない……でも、私もただ無駄に7年を過ごしてきた訳じゃない、本は読ませてくれた。だから私は色々な本を読んで
誰も知らない私が何故ここに居るのか。私の身に何が起きたのか、その手掛かりを探してきた。
つかさ「平行世界……って知ってる?」
みゆき「……それはまだ仮設であって証明された訳では……まさか、貴女は……」
つかさ「どうしてこうなったのは分からない、分からないけど、私は私の居ない世界に来てしまった、それしか考えられないよ」
これが私の出した結論。
みゆき「平行世界……文字通り決して交わることの無い世界、仮に貴女が別の世界から来たとしたら、柊つかささんが居ないこの世界に来たとしたら……」
ゆきちゃんはそのまま考え込んでしまった。やっぱり生兵法は怪我の基なのかな……
つかさ「ごめんね、勝手な推理しちゃって、今のは忘れて、やっぱり平行が交わるってどう考えてもおかしいよね……」
みゆき「……今、ここに貴女がいる事自体が不思議です、さきほど貴女の言っていた生い立ちで私が登場してきますがとても自然に感じます、それに、
    今、こうして話し合っている私は貴女……つかささんに強い親近感が湧いてきています……その仮説……参考にさせて下さい」
先生「高良さん、もうそろそろ時間、次のクランケに行きますよ」
病室の外から担当の先生の声が聞こえる。
みゆき「もう時間ですね、すみませんが失礼します」
ゆきちゃんは立ち上がった。
つかさ「あっ、ゆきちゃん……また会えるかな?」
みゆき「週に2回は来られると思います」
つかさ「今度はゆきちゃんの話が聞きたい、家族の……お姉ちゃんの話とか友達の話とか」
みゆき「ご家族……柊さん……かがみさんと泉さんのお話なら、ですがこの世界の私達の話をしても……」
つかさ「例え別世界でも、お姉ちゃんはお姉ちゃん、ゆきちゃんはゆきちゃんだよ」
そう、今、そこに立っているのは紛れも無くゆきちゃんそのもの、こうして話していて分かった。希望が見えてきた。

407 :忘れ去られた過去 6/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:38:09.01 ID:qcbSrsFZ0
 私とゆきちゃんは週に1、2回会うことが出来た。最初の頃は診察であまり話してくれなかったけど、一ヶ月ほど経つといろいろ話してくれた。
やっぱり私の知っている世界とは少し違っていた。その中で一番驚いたのがこなちゃんのお母さんが七年前まで生きていた事だった。
それとこなちゃんとお姉ちゃんは高校を卒業してから殆ど会っていないと言っていた。高校時代からそんなに親しくなかったって。
クラスが違うのもあったかもしれない。でもそれは私の知っている世界と同じ。私の世界では何であんなに仲が良かったのかな。
ゆきちゃんとお姉ちゃんは頻繁に会っているって言っていた。
私の家族はゆきちゃんの話を聞く限りでは私の世界と殆ど変わらない感じだった。でも、いのりお姉ちゃんは三年前、まつりお姉ちゃんは去年結婚して家を出ていた。
今は両親とお姉ちゃんで暮らしている。

 ゆきちゃんが来るようになってから三ヶ月経った。担当の先生はほとんどゆきちゃんに私を任せている。私もその方が気は楽だった。そんなある日のこと。
みゆき「つかささん、もうそろそろ束縛されてから八年が経とうとしています」
いつになく緊張した顔つきのゆきちゃんだった。
みゆき「どうでしょうか、社会に出てみたいとは思いませんか?」
確かにもうこんな所には居たくない。こなちゃんやお姉ちゃんにも会いたい。私は頷いた。
みゆき「そうですね、それには三つの条件があります、一つはつかささんには新しい更正プログラムを受けてもらいます、病気の治療として……二つは新しい戸籍を
    登録するために名前を変えて貰います……三つ目は……柊家から半径10キロメートル以内に侵入してはいけません……この三つの条件が揃えば晴れて自由の身です」
三つの条件、この条件を満たせば……納得できない。
つかさ「私……どんな苦しい治療だってする、名前だって変えても良い……だけど、なんで、何で自分の家に近づけないの、家族に会っちゃいけないの!?」
自分でも驚くような叫びにも似た声だった。感情を抑えられなかった。ゆきちゃんは黙ってしまった。
つかさ「酷いよ……私は凶悪犯人なの、自分の家に入っただけなのに……何年も何年も閉じ込めて……あんまりだよ、一方的すぎだよ……」
私は泣きそうになった。だけどもう涙が出ない。この事でもう私は泣きすぎて涙が枯れてしまった。
みゆき「一ヶ月前……私はかがみさん、つかささんに内緒でお二人のDNA分析をさせていただきました、もちろん私の独断です、その結果、お二人が姉妹、もしくは親近者の
    可能性は99.98%……と出ました……しかしこの数字は私にとっては確認の作業に過ぎません、つかささんはかがみさんの妹であり、柊家の家族です、
    そして、つかささんが過去に体験した出来事、私や、泉さんとの出会いも間違いなく現実に起きた事……そう確信しました」
淡々と話すゆきちゃんだった。
つかさ「だったら……どうしてそんな条件なんか……」
みゆき「何故ならつかささん一人しかない過去だからです、その他の人々にとってつかささんは存在すらしないのです……私はかがみさん、そのご両親に再三にわたり、
    つかささんに会って下さいとお願いしました、しかしかがみさんの受けた恐怖は消えないようで未だに会う気すらないようです、自宅に他人が無断で入る行為は
    計り知れない恐怖だったと……これがこの世界の現実なのです」
お姉ちゃんが私に包丁を向けた姿が脳裏に浮かんだ。お姉ちゃん達にとって私はただの不法侵入者にすぎないんだ。
みゆき「つかささんの居た本来の世界に戻れれば全ては解決します、しかし戻る方法は今のところ皆無です、条件を受け入れなければ一生ここから出られません
    考えて下さい……私もこんな話はしたくないのです、ですから……」
今にも泣き出しそうなゆきちゃん。考える……私は私を否定されたこの世界で生きていけないかもしれない。
みゆき「話は変わりますが……もう一人、つかささんの話を信じている人が居るのです、会ってみる気はありますか、本人は冗談半分かもしれないのですが……」
冗談半分、この言葉で直ぐに浮かんだ名前があった。
つかさ「もしかしてこなちゃん、泉さん?」
ゆきちゃんは頷いた。
つかさ「でも、家族でも親戚でもないのに会えるの?」
みゆき「それは問題ありません、つかささんが了承すれば」

 私はこなちゃんとの面会を希望した。不思議だった。家族誰一人私と会おうともしないのにゆきちゃん、こなちゃんは会ってくれる、会おうとしてくれている。
絆って一体何だろう。分からない。私は一体誰なのだろう……疑問ばかりが増えるばかりだった。

408 :忘れ去られた過去 7/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:39:35.45 ID:qcbSrsFZ0
 こなちゃんとの面会は意外と早く実現した。それは数日後だった。
こなた「貴女は……」
ゆきちゃんから紹介されるやいなやこなちゃんは私を見るなり驚いた顔をした。
こなた「この人知ってるよ、臨時のアルバイトをしていた時、帰りにいきなり私に声をかけた人だ」
あの時の私を覚えてくれていた。それはそれで嬉しいけど、もう随分昔の出来事なのに。
こなた「あの時は相手にしてあげられなくてごめんね、お母さんが危篤になったって連絡があったからから急いでいたんだよ」
この世界ではこなちゃんのお母さんはあの時生きていた。そうだったのか。
つかさ「あの時は私も動揺してて、訳が分からなくて……今も同じだけど」
こなちゃんは私に興味津々みたい、どんどん私に近づいてきた。
こなた「ねぇ、貴女の世界では私のお母さんは私が生まれて直ぐに死んじゃったんでしょ」
つかさ「え、う、うん、そうだけど……」
こなた「向こうの世界の私ってどんな人だった?」
私が話をしようとするとこなちゃん大学ノートを取り出した。私がノートに目線を向けるとこなちゃんもそれに気が付いた。
こなた「あぁ、これね、これはメモしているだけだからあまり気にしないで」
後で聞いた話だけどこなちゃんはゲームのシナリオライターで、ゲーム原案のネタの為に私の話を聞きに来たと言っていた。
つかさ「急に言われても……足が速くて、ゲームとか漫画が好きで……会っていて楽しい人だったよ」
こなた「……何だ〜それじゃ私とあまり変わらないじゃん、もう少し、母親を早く亡くして哀愁を漂わせていたとか……そんなのは無かったの?」
更に身を乗り出して聞いてきた。私に言わせればお母さんが亡くなって七年しか経っていないのに何の躊躇いも無くそんな質問をするなんて、こなちゃんだよ。
そう、そこに居るのは紛れも無くこなちゃん。生い立ちが違っていても人ってそんなに変わらないものなのかな。
こうやって物思いに耽っているとこなちゃんはノートになにやら書いていた。
つかさ「何をかいているの?」
こなちゃんはノートを開いて私に見せた。
こなた「どうかな?」
それは私の似顔絵だった。数分くらいしか経っていない、乱暴に描いてあるけど似ている、私にそっくりだった。
つかさ「す、凄い、似ているよ、そっくりだよ」
こなた「いや〜褒められたのは久しぶりだよ、高校時代は漫研入部していてね……あの時はろくな漫画もかけなかったよ、ははは、ひよりんとよく争ったもんだ……」
こなちゃんが部活に入っていたなんて。やっぱり何かが少しずつ違う。
つかさ「私の知っているこなちゃんはこんなに絵が上手くなかった、お姉ちゃんの似顔絵描いた時なんか……笑っちゃったよ」
こなた「そうそう、そうゆう話が聞きたかった、もっと詳しく教えて……ってお姉ちゃんって誰?」
つかさ「……私の、家族、柊……」
こなた「あっ!!」
みゆき「泉さん、もうこれ以上その話をするのは控えて下さい」
今まで隣の部屋に居たゆきちゃんが入ってきた。私達の話を聞いていたみたいだった。
こなた「ご、ごめん、この話はタブーだったね、ちょっと夢中になっちゃって……つ、つかささんで良いのかな、ごめんなさい」


409 :忘れ去られた過去 8/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:40:55.77 ID:qcbSrsFZ0
 ゆきちゃんは止めたけど私は別に嫌な話ではなかった。むしろもっと話したかった。話が途切れたのが原因なのか重い雰囲気が広がった。
つかさ「こなちゃん、何でお姉ちゃんともっと親しくなれなかったの、私の知っている二人はもっと仲が良かった」
こなちゃんは天井を向いて考え込んだ。ゆきちゃんも私の話を止めようとはしなかった。私自ら話しだした内容については何も言わなかった。
こなた「ん〜何でかな、高校時代からみゆきさんの友達としては知っていたけど、クラスが違うせいかあまり話す機会がなかったし……優等生で
    真面目ってイメージが強くて近寄り難かった、それは今でも同じ、彼女は弁護士の卵だしね」
つかさ「そんな事ないよ、家ではゲームだってするし、時々私の漫画も借りにきたりしたり、テレビドラマの内容の話で盛り上がったりしたり……確かに
    私より真面目かもしれないけど、時々大きな失敗したりして面白い所もあるよ、こなちゃんと気が合うと思うんだけど」
こなちゃんとゆきちゃんは顔を合わせて暫く黙ってしまった。
こなた「なんか違うな〜、そっちの世界の柊さんと違うんじゃないかな」
つかさ「少なくともゆきちゃんとこなちゃんの性格、特徴は殆ど同じだよ、細かい所は違うかもしれないけど……だからお姉ちゃんも同じ筈」
みゆき「こうやって私たちが会しているのを踏まえて考えるとそうかもしれませんね……柊さんと泉さんとは水と油のような気がして積極的に紹介はしませんでした、
    つかささんの話を聞いていると柊さんの本質はむしろ泉さんに近いのかもしれません……」
こなた「そうかな、隙が無くて、突っ込まれそうな気がするけど……そこまで言うなら今度会ってみようかな〜」
みゆき「明後日、会う約束をしているので、その時で宜しければ」
その通り、いつもこなちゃんはお姉ちゃんに突っ込まれていたよね、でも、今は言わない……あれ、そうか
お姉ちゃんとこなちゃんって自分達から積極的に友達になった訳じゃなかった。今考えると私が紹介したから二人は友達になれた。そんな気がした。でも、今は関係ない。
つかさ「ゆきちゃん、こなちゃん、なんで私なんか、犯罪者の私にこんなに良くしてくれるの?」
二人はまた顔を見合わせた。そしてこなちゃんは笑った。
こなた「犯罪者ね、確かに世間にはそう思われているし、実際にあの時成人だったら前科がついてもおかしくなかった、だけど、あの時、つかささんは何も盗んでいない、
    それどころか冷蔵庫にアイスクリームを置いて逃げた……捕まってみれば、謎の少女、素性も名前も現住所も全て不明、あるのは精巧に偽造された免許証、学生証、
    柊家の合鍵、七年経っても身内、知人が誰一人名乗り出ない、まさに忘れられた人、これはどう考えてもSF的考察をしないと解決できないよ、
    免許証も学生証も鍵も偽造じゃなくて本物だった、もちろんつかささんの居た世界ではね、でも何かが起きて私達の世界に迷い込んだ、つかささんの居ないこの世界に」
ゆきちゃんと同じような考えだったのか。初めてこなちゃんが頼もしく見えてきた。
つかさ「こなちゃん、ゆきちゃんありがとう、二人だけでも私を理解してくれる人が居るなんて」
こなた「こなちゃん……そんな風に呼ばれるのは初めて、向こうの世界ではよっぽど仲がよかったんだね、でも元の世界に帰れるなんて考えないほうがいいよ、
この世界に来てしまったのは何かの偶然に違いない、また同じ偶然が起きる確率なんてきっと天文学的数字分の1だよ、この世界で生きていく方法を見つけないとね」
確かにもう元の世界には帰れないかもしれない。それならばここで生きていく方法を見つけないといけない。家族と一緒に暮らすのは諦めるしかなさそう、うんん
今後、家族と暮らすためにもまずはこの病院から出ないといけない。

 こなちゃんと話せて楽しかった。そしてその体験はさらにこの病院から出たいと言う願望が強まった。
こなちゃんが帰り、ゆきちゃんも帰りの支度をし始めた。
つかさ「ゆきちゃん、わたし、私はこの前言った三つの条件を受ける」
みゆき「そ、そうですか……分かりました手続きをします」
ゆきちゃんは嬉しそうな、悲しいような複雑な表情をした。


410 :忘れ去られた過去 9/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:43:15.74 ID:qcbSrsFZ0
店員「あゆみさん、で来ました」
あゆみ「うん、これで良いよ、お客様に出して」
店員「はい」
店員は出来上がった料理をお客様の待っているテーブルへと運ぶ

私は夏目あゆみ、柊つかさから名前を変えて病院から出ることが出来た。本当は『つかさ』までは変えたくはなかった。だけどそれは許されなかった。
辛い治療が約一年も続いた。でも私は耐えた。
変えたのは名前だけではない。住む場所も変えた。二つも県を跨いだ遠い街。病院を出た私はゆきちゃんの援助で料理の専門学校に入り調理師の免許を取った。
この街のホテルのレストランで料理長をするにまでになった。病院を出て四年も経った。
病院を出てもゆきちゃんとこなちゃんとは頻繁に会っていた。ゆきちゃんは結婚をしたので最近は月に一回くらい、こなちゃんも彼氏が出来たみたい。
お姉ちゃんは、病院を出る時に弁護士試験を合格したのと結婚をしたと聞かされてからゆきちゃんとこなちゃんからの情報は全くない。
情報がないのは私の方から話さないようにしたのだった。話せば会いたくなるだけだら。私はお姉ちゃんや両親に何度か手紙を出した。
真相は書いてはいけないと言われたので不法侵入に対するお詫びと謝罪。でも返事は一通も来なかった。
それでも情報は嫌でも入ってくる。お姉ちゃんは敏腕弁護士、テレビや雑誌でも取り上げられているからね。


店員「お先に帰ります、あゆみさん」
あゆみ「お疲れ様……」
この名前……なんだろう、もう一人の自分、別人になってしまったような感覚。「柊つかさ」はもう死んでしまった。
そう自分に言い聞かせていた。そうなんだ。だからこうやって仕事だけに打ち込んできた。
だけど今日は早く帰らなきゃいけない。引継ぎを同僚に頼んで早く帰してもらった。ゆきちゃんと会う約束をしていたから。もちろん私がした約束だから遅れる訳にはいかない。
ゆきちゃんには働いているレストランのホテルに来てもらうようにしていた。
あゆみ「ゆきちゃん、お待たせ、ごめんね、遅れちゃって」
みゆき「いいえ、私も今来たところです」
私はホテルの喫茶店に案内した。どうも自分の職場、レストランだと話がし難かったから。
みゆき「ところでお話というのは何ですか?」
あゆみ「うん、私が病院を出てから学校を卒業するまでのお金を返そうと思って、もうお金には困らなくなったから」
みゆき「いけません、私はそんなつもりでお金を出していません」
ゆきちゃんは厳しい顔になった。その気持ちは凄く嬉しかった。
あゆみ「でもね、私もそんなつもりで借りた訳じゃないよ、こうゆうのはちゃんと清算しないとお互いにしこりが残っちゃうでしょ?」
みゆき「それはそれです、私はあゆみさんに投資をしたのです、もうその投資分はしっかり頂きました、ホテルレストランのコック長……素晴らしいです、これで充分です」
笑顔で答えた。そこまで言われると気が引けてしまう。
あゆみ「でも、私の気持ちが……」
みゆき「その気持ちだけで充分です、どうですか、ご自分に投資されてはどうでしょう、例えば、結婚資金のために……」
あゆみ「結婚……そういえば皆結婚しちゃたんだね、私だけまだだった」
みゆき「あっ、別に私はそのような差別的な意味ではなくて」
慌てて訂正するゆきちゃん、私もゆきちゃんの言葉に怒っていたわけではなかった。事実を言っただけ。
あゆみ「私はまだ結婚は考えていない、しないかもしれないし」
みゆき「何故ですか、好きな人と一緒になるのは自然の摂理です、あゆみさんの過去は関係ないです、しっかりして下さい」
好きな人は居た。過去形になっているけど専門学校時代に好きな人ができた。だけど卒業すると同時に別れた。彼が呼ぶ私の名前に違和感が最後まで消えなかったから。
そんな私を見て彼の愛は冷めてしまったに違いない。
あゆみ「そんなんじゃないよ、ただ、何となくそう思っただけ、気にしないで」
みゆき「やはりご家族と逢いたいのですね」
今の言葉は私の心を抉った。忘れていた感情が沸きあがってきた。
あゆみ「ゆきちゃんがそんなの言うなんて、いくら私でも三つの条件の意味は知ってるつもりだよ」
みゆき「約束とか契約とかは抜きにして、正直な気持ちはそうですよね、本来はご家族と逢ってあゆみさんの過去を清算しなければならかった」
あゆみ「ゆきちゃん、もう良いよ、その話はしないって約束したでしょ」
みゆき「ご両親、かがみさんは何故会おうとしないのですか、かがみさんは弁護士になったのならあゆみさんの心理は理解できるはずなのに」
ゆきちゃんの口調が荒くなってきた。こんなに感情的になるのは初めてかもしれない。
あゆみ「お姉ちゃんは家を守った、それだけだよ、居るはずのない妹が居たら誰だってそうなるよ」
みゆき「本当に、本当にそれで良いのですか、私は納得できません、例え条件を破っても会いに行くべきです、そうは思いませんかつかささん!!」
ゆきちゃんは立ち上がり両手を机に叩き付けた。周りのお客さん、店員が私たちを注目する。我に返ったゆきちゃんは慌てて座り小さくなった。
あゆみ「ゆきちゃんは二回も約束を破っちゃったね、家族の話はしない、私を昔の名前で呼ばない、そうだったよね」
みゆき「ごめんなさい、しかし、ここまで言ったのですから最後まで言わせてください」
ゆきちゃんはわざと約束を破った。そんな気がした。
411 :忘れ去られた過去 10/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:44:38.37 ID:qcbSrsFZ0
みゆき「つかささんが病院を退院する頃、私はかがみさんと約束を交わしました、それはつかささんの話をもう二度としてはならないと、分かりますか、このままでは
    つかささんとかがみさんは永遠に逢えません、私はそんな悲劇は見たくありません、柊家とつかささんが会っているのはかがみさんただ一人、
    あえて言います、柊家に向かってかがみさんを訪ねて下さい、もう一度会えば必ずかがみさんはつかささんを理解してくれるはずです、条件が気になるのでしたら
    何処か柊家から離れた場所にかがみさんを連れてきてきます」
ゆきちゃんは今でも私をつかさとして私を見てくれている。嬉しい。ゆきちゃんは私とお姉ちゃんに挟まって苦しんでいた。まったく気が付かなかった。そういえば
ゆきちゃんの結婚式の時、お姉ちゃんは来ていなかった。ゆきちゃんは私とお姉ちゃんを会わせない為に……
だめだよ、もしお姉ちゃんが私の知っているお姉ちゃんだったら。
あゆみ「お姉ちゃんとの約束を破ったら、ゆきちゃんはもうお姉ちゃんと友達でいられなくなるよ、そこまでしてお姉ちゃんと会うなんて出来ない、それにお姉ちゃんは
    私に会っても妹とは思ってくれない、お姉ちゃんってそうゆう人だよ、自分の見た物、体験した事しか信じない、だから私と会っても多分また追い出される……
    だからお姉ちゃんの方から会うって言うまで待つしかないよ」
ゆきちゃんは暫く何も言わず私を見ていた。
みゆき「やはり貴女はかがみさんの妹ですね、かがみさんの分析が的確過ぎます、私の浅墓な計画は崩れ去りました、ご家族の問題はご家族で解決する以外はないようです、
あとはあゆみさんの思うようにしてください」
あゆみ「ありがとう、今日はホテルの部屋を予約してあるから泊まっていって、お金は大事に貯めておくよ、これで良いでしょ?」
みゆき「はい、それで良いです、お言葉に甘えて泊めさせて頂きます」
ゆきちゃんは立ち上がった。
あゆみ「明日の朝食はうちのレストランに来て、私が作った料理を出してあげるから」
みゆき「ご馳走になります」
私はゆきちゃんにホテルのキーを渡した。ゆきちゃんは受け取るとロビーの方に歩いて行った。
あゆみ「ゆきちゃん待って」
止まって振り向いた。
あゆみ「こなちゃんの結婚式の会場は決まったの?」
みゆき「いいえ未だですが」
あゆみ「このホテルお奨めだよ、だけど、ここだとお姉ちゃんは来ないかな」
私は苦笑いをした。
みゆき「かがみさんは何処で式をしても来てはくれないでしょう、弁護士のお仕事が忙しいですから……私の時もそうでした」
悲しい顔だった。違う、私の知っているお姉ちゃんと違う。冠婚葬祭だったら私事よりそっちを優先するよ。この時初めてお姉ちゃんに会いたくないと思った。
みゆき「おやすみなさい」
あゆみ「……おやすみ」
ロビーに向かうゆきちゃんの姿が悲しげだった。

 ゆきちゃんは私の働いているホテルを気に入ってくれた。それでこなちゃんの結婚式そのホテルに決まった。もちろん料理は私のお店が担当。
私は直接式に参加しないからお姉ちゃんは来るものと思っていた。でも、来なかった。こなちゃんは私がお姉ちゃんを紹介してから親友になったって言っていたのに。
そんなに弁護士、仕事が大事なのかな。私には理解できなかった。

こなちゃんの結婚式が終わってからゆきちゃんもこなちゃんも自分からはお姉ちゃんの話をしなくなった。私も話をしない。それでも二人は以前と同じように
お姉ちゃんと会っているのはなんとなく分かった。こなちゃん達の友情は結婚式を欠席したくらいで終わるような柔じゃない。
話をしなくなったのは、私と柊家との関係修復はもう絶望的だって気付いたに違いない。私は何となくそう思い始めてきた。
三つの条件、受け入れなくてもきっと結果は同じだった。こうして自由にいられるだけまだましなのかな。うんん、家族に逢えないのに何が自由……戻りたい。私の居た世界に。


412 :忘れ去られた過去 11/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:46:30.04 ID:qcbSrsFZ0
 私がレストランの料理長になってから三年が過ぎた、私の周りに腕の良い職人さんが増えてきた。私の仕事もその人たちに任すことが出来るようになった。そのおかげで
随分余暇が増えるようになった。普段はできなかったお買い物とかが出来るようになった。もちろん恋愛だって少しは……
今日は午後から急に雨が降ってきた。予定していたお買い物は中止にした。特に何も用事があるわけではなかった。のんびりテレビを見て過ごしていた。
『ピンポーン』
呼び鈴が鳴った。誰だろう、彼かな……今日は仕事だって言っていた。何かの勧誘かな、断るのは嫌だな。
『ピンポーン、ピンポーン』
呼び鈴は何度も押された。私はゆっくりと玄関に近づいた。万が一って事があるから鎖を扉につけ恐る恐る開けた。こなちゃんが立っていた。
あゆみ「こなちゃん……」
私は直ぐに鎖を外してドアを全開にした。玄関の先にこなちゃんの車が止まっていた。
あゆみ「どうしたの、急に来ちゃって、今日は偶々お休みだったから良かったけど、来るなら連絡して欲しいな」
こなちゃんは何も言わず立っていた。車から直ぐ近くとはいえ傘も差さないでいるから肩が雨で濡れている。
あゆみ「とりあえず中に入って、急だからろくなおもてなしもできないけど」
こなちゃんはゆっくりと家の中に入った。だけど靴を脱ごうとはしなかった。どうしたのだろう。何かおかしい。
あゆみ「どうしたの、中に入って休んで、車の運転大変だったでしょ」
こなた「みゆきさんはダメって言った、だけど私は黙っているなんて出来ない」
重い口調だった。悪い予感が過ぎった。
あゆみ「私に何か知らせたい事があるの、それなら電話でも良かったのに」
こなた「ただおさんが危篤状態なんだ」
頭の中が真っ白になった。何時か、何時かは来るとは分かっていた。だけど早い、早過ぎる、私はまだお姉ちゃん以外の家族と顔すら見ていないのに。
あゆみ「なんで、どうして……」
こなた「半年前から病だった、もう最後の時だよ……もう時間がない、私の車で行こう、会いに行こう、家族が全員集まっているよ」
逢いに……逢いたい。逢いたいけど。
あゆみ「わ、私は、夏目あゆみ、もう柊家とは何の関係もない、だから行けない……でもお香典くらいは、こなちゃん持っていってくれるかな」
こなた「ただおさんの入院している病院は柊家から10キロメートル以上離れた場所にあるから気にしないで、私とかがみの仲だから大丈夫、私と一緒に行けば病室に入れる」
今すぐこなちゃんの車に飛び乗って行きたい。とても強い感情、だけど体が言うことを聞いてくれない。足が前に出ない。
こなた「どうしたの、早く行こう、こうしている間にも……これはチャンスだよ、つかさが家族だって証明できるチャンスだよ」
その時全てが分かった。何故私が今まで家族に会いに行かなかったのか。それは条件のせいじゃなかった。
あゆみ「行けない、やっぱり私は行けない」
こなた「もう不法侵入したなんて関係ないじゃないか、何を躊躇っているのさ、それともかがみが警察を呼んだのが憎いの、そうじゃないでしょ、私はお母さんを亡くして
    分かったんだよ、あの時こうしておけば良かったなって、もっと話しておけば良かったなって、そう思ったからみゆきさんの反対を押して来たんだよ」
幼い頃に亡くした世界のこなちゃんじゃない、とても説得力があった。ただの家出娘ならこの言葉で充分。だけど……
あゆみ「だ、だめだよ、もう聞きたくないの『貴女は誰』って、買い物から帰ってきてお姉ちゃんに会ってそう言われた、こなちゃんにも、成美さんも、近所の人からも
    私の知っている皆は私を知らない、これから病院に行ってお母さん、いのりお姉ちゃん、まつりお姉ちゃんからきっと同じように言われる、もう私はつかさじゃないよ
    ここにはつかさは居ない、居ちゃいけないんだよ……」
こなた「そうだよね、辛いよね……でも私が認めるよ、つかさ、だって私とかがみを親友にしてくれたから、かがみの妹じゃないと出来ないよ」
もう涸れて出ないと思っていた涙がでてきた。もう何をして良いのか分からない。そこにこなちゃんの携帯からバイブ音がした。
あゆみ「こなちゃん?」
こなた「みゆきさんから……遅かった、たった今……亡くなった……」
幼い頃からやさしかったお父さん、お父さんとの思い出が走馬灯のように頭に浮かんだ。行きたかった。もうお父さんと呼べない。一度でいいから呼んで欲しかった。
あゆみ「こ、こなちゃん、私……うう、こなちゃ……わぁー!!」
こなちゃんに飛び込むように抱きついた。涙が止まらない。今まで溜まっていた涙を全て出し切るまで泣いた。


413 :忘れ去られた過去 12/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:47:59.79 ID:qcbSrsFZ0
こなた「ごめん、みゆきさんの言うように話すべきじゃなかった、まだお互いに準備もできていなかったのに、一方的過ぎたよね、私の独りよがりだった、
    つかさのその涙を受け止めるに今の柊家では重過ぎるよね、悪かったよ……私も受け止めきれないよ」
こなちゃんも泣いてくれた。私を一度強く抱きしめると私の両肩に手を添ええ立たせた。もうどのくらい時間が経ったのだろう。
こなた「部屋に入っていいかな?」
泣きすぎたせいか声が出ないので頷いた。こなちゃんは台所に向かうとお湯を沸かし始めた。そしてお茶の準備をしている。これは私がしなければならないのに。
私も台所に向かった。
こなた「悪いけど使わせてもらってるよ、いいからそこに座って」
あゆみ「ここは私の家だよ、私がするから……」
突然こなちゃんがむせるように流し台でもどしてしまった。慌てて私はこなちゃんの背中を擦った。何だろうこの不思議な感覚。もしかして。
あゆみ「こなちゃん、もしかして赤ちゃんが……」
こなた「……流石女性だね……旦那なんかまだ気が付かない……」
あゆみ「そんな状態で車を長距離運転するなんて、後は私がするから、休むのはこなちゃんの方だよ、もう一人の体じゃないんだから」
私は強引にこなちゃんを椅子に座らせた。お茶を淹れるのを止めて冷蔵庫から適当な材料を取りスープを作ることにした。
あゆみ「お茶は赤ちゃんにあまり良くないって聞いたからスープを作るよ」
こなちゃんは頷いた。

こなた「優しい味だね、気持ち悪いのが消えたよ……」
こういった料理を作るのは初めてだった。美味しそうに食べるこなちゃんを見てホッとした。私も席に座りスープを食べた。
こなた「つかさを助けようと思っていろいろ考えてきたけど、もう何も出来そうにない」
呟くようにそう言った。
あゆみ「私が生まれてからの約二十年の出来事、誰も知らない、特に家族にしてみれば私は他人でしかないよね、しかも不法侵入のおまけ付き、お姉ちゃんにいたっては、何度も
    逢いたいって意志は伝えているのに何も返事が返ってこない」
こなた「……そんな事までしていたなんて知らなかった、余計な事をしちゃったね」
あゆみ「それに、もう私が居た世界と同じようになるとも思っていない、もう過去に囚われて生きていくのはもう嫌だ……でも、でもこなちゃんが私にお父さんの死を知らせて
    くれたのは間違いじゃなかったよ、心の整理がついたから……」
お母さんの死もいつか来る。それでもさっきみたいに感情を爆発させない。それは諦めの整理。私は過去を捨てた。
こなた「つか……あゆみ、になっちゃうんだね、ちょっと寂しいかも、つかさって名前がイメージ通りなんだよね……」
あゆみ「そうだよ、これから生まれる子供の為にもね」
こなた「え、もしかして妊娠、もしかして彼と……彼は知っているの?」
あゆみ「うん……婚約もしたから」
こなた「な、だめじゃないか、黙ってるなんて」
私を理解してくれた男性、過去の無い私を受け入れてくれた。だから、もう前しか見ない。
あゆみ「今日は泊まっていって、その体で長時間の運転は良くないよ」
こなた「でも、彼はいいの、お邪魔になるよ?」
あゆみ「今日は仕事で帰ってこないから、彼に涙は見せたくない、だってここでは私のお父さんじゃないもんね」
また涙が出てしまった。もうこれが最後の涙。そう自分に言い聞かせた。
こなた「……つかさ」
そしてこれがこなちゃんの最後に言ったつかさになった。

 次の日、私はこなちゃんにただおさんにお香典と手紙を託した。こなちゃんの友達、夏目あゆみとして。手紙の内容は家に勝手に入った謝罪と理由を書いた。
もちろん在りのまま、私の体験した全ての出来事を書いた。そしてこの手紙が私から出す最後の手紙と付け加えた。信じてくれるとは思わない。
だけど真実と想いだけは伝えたかった。

 結婚して子供が生まれると時間が猛スビードで過ぎ去っていく。気が付くと子供は独立し、夫は亡くなっていた。仕事も引退をして何もすることがない。この四十年が
数年に感じてしまうほどだった。また独りになってしまった。こなちゃん、ゆきちゃんは最近になって体調が優れない日が多くなってきたので頻繁に会えない。
そして自分自身もう以前のような体力はない。買い物するのも一苦労。分かる、自分にはもうそんなに残っている時間はない。それならばせめて一回で良い、
自分の生まれた街を見てみたい。そう思うようになっていた。三つの条件……そんなのはもう時間が風化させてしまっている。
もうあれから柊家とは一切の情報来ていない。ゆきちゃん、こなちゃんがそうしたからだ。きっと最後に出した手紙も読んでもらえていないに違いない。ならばあんな所に
何も未練なんかないじゃない。それでも生まれた場所には特別の想いがある。人ってそんなものなのかもしれない。


414 :忘れ去られた過去 13/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:49:18.46 ID:qcbSrsFZ0
 そんなある晴れた日の事、私はどうしても行きたい衝動に駆り立てられた。
陸桜学園。私が卒業したのは四十年以上前、校舎は新しく近代的になっているけど校庭、植え込み等はほとんどそのまま、私の知っている風景そのままだった。
この世界であるはずの無い私の記憶はここでの楽しい日々を思い出させてくれた。校庭では体育の授業が行われている。校舎を見上げるとなになら授業をしているのが分かる。
あの時と全く同じ。昼休みはお姉ちゃ……かがみさんがお弁当をもってきて皆で雑談、放課後は夕方就業時間まで喋り捲っていた。そこに黒井先生がやってきて
追い出された事もあった。
学校から駅までのバスの時間、ここでもたわいも無いお喋り、駅に着くとこなちゃんとかがみさんはゲームセンターとかによく遊びに行っていた。
私もたまには参加したけど、ゲームなんてぜんぜん出来なかった。

 そしていよいよ自分の生まれた街、小学校、中学校、と廻って……実家……何故か足が止まった。行くことが出来なかった。柊家はどうしているのか。
まだあの家に誰か住んでいるのか。まったく分からない。住んでいてもとても呼び鈴を押す勇気がなかった。

 私は神社の境内に入っていた。神社の娘、そう、そうだった。ここでよく巫女の手伝いをしていた。掃除、お守り……年末年始は忙しかった。
いのりさん、まつりさん……今頃どうしているかな。ふとお守りが欲しくなった。子供に交通安全のお守りでも買っていくかな。
お守り売り場に行くと巫女の姿をした娘が居た。
巫女「どれにしますか?」
あゆみ「えっと、交通安全のお守りを、二つ」
巫女さんの姿をじっと見た。柊家の面影が全く無かった。そうか、だれも神社を継がなかったみたい。これではあの家も他人が住んでいるに違いない。そう確信した。
もう思い残すことはない。最後に本殿で御参りをして帰ろう。

私は手を合わせて祈った。何を祈ったのだろう。分からない。ただ無心で祈った。祈りを終えて振り返ったその時、目の前に年老いた女性が立っていた。歳を取っていても
私には直ぐに誰か分かった。
あゆみ「お姉ちゃん!!」
思わず口に出てしまった。
かがみ「貴女は……」
まさか、まさかまだこの街に住んでいたなんて……私たち二人は暫くその場を動かなかった。だけどお姉ちゃんか先に行動に出た。
かがみ「最初に会った時、そう言ってたわね……で会うや否や包丁を振りかざして追い出し、警察を呼び、あまつさえ何の連絡も取ろうとしなかった私を姉と呼ぶのか……」
私を覚えていてくれた。あの時の、ほんの一分間もなかったあの時を覚えていた。私はそれで充分だった。家族に、お姉ちゃんに逢えたのだから。これ以上の接触は
お互いに不幸なだけ。私は深くお辞儀をしてその場を立ち去ろうとした。
かがみ「お待ちなさい……」
私は立ち止まった。何故だろう、そのまま振り切って帰ることもできたのに。
かがみ「私はこの子達を公園に遊びに行かせる所なの、ここでこうして会ったのも何かの縁、一緒にどうかしら」
お姉ちゃんを見ると両手に一人ずつ子供と手を繋いでいた。
あゆみ「……お孫さん?」
お姉ちゃんは頷いた。
かがみ「このくらいの歳になると家じゃ狭すぎてね」
お姉ちゃんはにっこり微笑んだ。その笑顔に吸い込まれそうになりながら私はお姉ちゃんの後を付いていった。公園に着くまでの間、私達は一言も話をしなかった。
子供達の笑い声だけが響いていた。

415 :忘れ去られた過去 14/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:50:41.13 ID:qcbSrsFZ0
 公園に着くとお姉ちゃんは両手を離した。二人の子供は走り出し砂場で早速遊び始めた。
かがみ「貴女、お孫さんは?」
あゆみ「……まだ子供が結婚していないので……」
かがみ「あら、最近の子は結婚したがらないからね、心配でしょ?」
お姉ちゃんは砂場で遊ぶ子供達を見守りながら話した。
あゆみ「子供がそう決めたのなら強制はしません、まだ真意は聞いていませんけど」
お姉ちゃんは黙ってしまった。私も暫く子供達の遊んでいる姿を見ていた。
かがみ「貴女、ホテルの料理長になって聞いたわ、その後はどうなの?」
私が話さないのに痺れを切らしたみたいだった。
あゆみ「その後は、自分の店を開きました、それも暫くして信頼できる人に譲りました。今は料理教室の先生を週に1、2回程度しています」
かがみ「そう、全くのゼロからのスタートでよくそこまで社会復帰できたわね、女性でそこまで出来る人は少ないと思うわ」
あゆみ「ありがとうございます」
かがみ「……なんか他人行儀の言葉ね、そんなに緊張しなくてもいいわよ、料理は何が得意なの?」
あゆみ「料理はみんな得意です、だけどしいて言うなら、洋菓子、特にケーキが得意です、お姉ちゃんが好きでした」
あえてお姉ちゃんって言ってみた。お姉ちゃんは黙ってしまった。今度はこっちが聞く番。
あゆみ「かがみさんのご活躍、テレビで、新聞で、雑誌で見ていました、かがみさんの担当した裁判の数々、無敗記録を更新したそうですね、素晴らしいです」
かがみ「私は勝てると思った被告しか担当しなかったからよ、あの程度の裁判なら幾らでも勝てるわよ」
言っている事は自信に満ち溢れているのに表情は冴えていなかった。
あゆみ「裁判はあまり分からないけど、勝てると思って勝てるようなものではないと聞いています、それにどの裁判も他の弁護士さんがさじを投げた難事件ばかり」
かがみ「その私がさじを投げた事件があるわ、本来なら私の最初の担当する事件の筈だった」
あゆみ「そうなんですか……」
あまり乗る気じゃないみたいだった。この話は止した方が良さそうだ。話題を変えよう。
かがみ「忘れられた少女事件、私はそう名付けた……貴女の起こした事件よ」
あゆみ「え?」
思わず私は身を乗り出した。お姉ちゃんは私を救おうとしていた。
かがみ「弁護士になっても貴女は釈放されていなかった、私は家出した娘がお金に困って犯行に及んだと見ていた……そうよね、その程度なら処分はとっくに決まっていた、
    この事件の資料をみて愕然としたわ、ありえないのよ、常識では在り得ない……私の知識も知恵も及ばなかった、だから私はこの事件の担当を断った」
あゆみ「もしかして担当を依頼した人って……」
かがみ「……みゆきよ」
お姉ちゃんは俯いてしまった。
かがみ「国家の名の下で一人の少女が弄ばれるなんて、三つの条件なんか法律的にはなんの根拠もない、貴女は身寄りがないから実験対象になったのよ、治療とは名ばかりの実験、貴女はモルモットと同じよ、何故貴女がここに居るのか、どこから来たのか、それを調べるのが彼らの目的だった、
    貴女を助けて欲しいと……そうみゆきが言っていたいわ、でも私は貴女を助ける事が出来なかった、貴女が柊家の家族であるのを証明できなかった、
みゆきの遺伝子比較の資料をもってしても無理だった……あの時、警察を呼ぶべきではなかった、それを知っていれば私は……私は……今更許して……なんて温いわよね」


416 :忘れ去られた過去 15/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:52:11.60 ID:qcbSrsFZ0
 お姉ちゃんも苦しんでいた。だから自ら難しい裁判に飛び込んでもがいていた。その姿は紛れも無くお姉ちゃんそのものだった。私の知っているお姉ちゃんならきっとそうする。
かがみ「こなたに私を紹介したのは貴女らしいわね、おかげで今でもあいつとはバカやって楽しんでいるわよ、何度か弁護を担当した事もあったわ、貴女は私に
    人生の楽しさを教えてくれた、私は貴女に何を与えた、不自由と苦しみしか与えなかった……」
お姉ちゃんの苦しむ姿を見ていられなかった。顔を背けたけど更に話し続けた。
かがみ「父が亡くなって貴女は手紙を出したわね、父は家族の中で唯一貴女に会いたいと言っていた、母は手紙を読んで泣いたわ……姉さん達もね……全ては遅かったのよ」
お母さん、私はまだお母さんの死を知らない。亡くなっているのは分かる。だけど聞かなかったし、話さなかった。
あゆみ「その話、もっと早く聞きたかった、うんん、もっと早く逢いたかった、逢えるだけで良かった、私にとってはそれだけで良かった、待っていたんだよ、ずっと、ずっと」
かがみ「待っていた、それは私も同じなのかもしれない、何度も来た手紙、みゆき、こなたの説得……私は貴女が来るのを待っていたのかもしれない」
もっと早く会えたかもしれない。過ぎ去った時間が長すぎてもう後悔する時間も欲しかった。
つかさ「……お母さんは、お母さんはいつ亡くなったの?」
かがみ「……父が亡くなって十年後だった……聞いていなかったの?」
私は頷いた。お父さんの時のように涙は出なかった。私は強くなったのかな。泣くのと精神の強弱は関係ないってゆきちゃんが言っていた。私は強くはなっていない。
あゆみ「あの、この神社は誰が管理しているの?」
かがみ「私は今でもあの家に住んでいるわよ、子供夫婦と孫と一緒にね、旦那が宮司の資格をとって父の後を継いだわ、たまに旦那の親戚が手伝ってくれるのよ、
二人の姉は嫁いで幸せに暮らしている、たまに遊びに来るわよ……」
お姉ちゃんは近況を話してくれた。もうこれ以上は話しても頭に入りきらない。もう帰らないと
あゆみ「そうなんだ、みんな幸せなんだね……最後にお姉ちゃんって呼んでいいかな?」
お姉ちゃんは首を横に振った。
あゆみ「な、なんで……」
かがみ「それが今まで会えなかった理由でもあるの、私達には貴女の記憶が無い、貴女と暮らした、遊んだ、喧嘩した、一緒に学校に行った記憶が、過去が無いのよ、
    その差はどうしたって埋められない……」

私と同じ理由だった。結局そこに辿り着く。家族のようで家族ではない。この事実は変えられない。
子供の笑い声が聞こえた。ふとお姉ちゃんの孫を見てみた。今まで砂場で遊んでいたのにいつの間にか公園の倉庫の柱で二人は背比べをしていた。
あゆみ「仲のいいお孫さんだね、背比べをしているよ、私と柊家は過去に何も無かったかもしれない、でもこれからは違うよね……こなちゃんとゆきちゃんは私と親友だよ、
    同じようになれないかな、ゼロからの付き合いでも良いよ」
かがみ「……これからね、私達にはそれほど時間は残っていないわよ」
あゆみ「充分だよ、これからでも姉妹になれるよ……また会えるかな?」
かがみ「会う時間ならいくらでもあるわよ」
あゆみ「明後日、明後日来てもいいかな?」
かがみ「良いわよ、明後日と言わず明日も来なさいよ」
過去が無くても未来は在る。会っていればいつかは分かってもらえる。私は深くお辞儀をして駅に向かった。
かがみ「待って!!!」
叫びにも似た声だった。私は立ち止まりお姉ちゃんの居る所に戻った。お姉ちゃんは背比べをしているお孫さんを見ていた。
かがみ「……背比べ……そう、私達姉妹はここで背比べをした」
お姉ちゃんは公園の倉庫に歩いて行った。なんの事だか分からない私もお姉ちゃんの後を付いていった。倉庫の柱をお姉ちゃんは見ていた。
かがみ「ここで背比べをしたわ、確かに」
お姉ちゃんの見ている所を私も見た。そこには三本の線が腰の辺りの高さに引いてあった。
あゆみ「本当だ、三本の線が引いてあるね、古そうだけど」
かがみ「一番高いのがいのり姉さん、二番目がまつり姉さん……三番目が私……」
お姉ちゃんは三番目の線を優しく撫ぜた
かがみ「よく見て、三番目の線は他の二本より少し太く引いてあるでしょ……そうなのよ、三番目の線は二回引いたら太くなった、私達にはもう一人背比べをする人が居た、
    私と同じ背の高さの子が居たの……あぁ、なんでもっと早く思い出せなかった」
お姉ちゃんは三本目の線を触りながら目を閉じて空を仰いだ。
かがみ「あの頃がはっきりと思い浮かべられる、背比べをする時、四人目の子の顔を、呼んだ名前を」
交わることのない平行世界、決して交わらないからそう呼ばれている。私はその平行世界へと迷い込んだ。
お姉ちゃんは目を開いて私と向かい合い両手で私の右手を力強く握った。
かがみ「その名は……つかさ!!!」
つかさ「お姉ちゃん!!!」
そしてまた交わった。


417 :忘れ去られた過去 16/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:53:57.91 ID:qcbSrsFZ0
 私は立っていた。ねっとりと絡みつくような湿気、照りつける太陽、そのまま溶けてしまいそうだ。蝉の大合唱もそれに追い討ちをかけた。
汗がじわじわと出てきた。ここは何処だろう。私は辺りを見回した。スーパーの駐輪場に立っていた。はっと自分の手を見た。しわやシミがない綺麗な手だった。その手で
今度は自分の顔を触った。張りのある肌だった。頭をさわるとリボンを付けていた。私は戻っている。あの時の年齢に。そうだ、私は買い物でアイスクリームを買いに来ていた。すぐ近くにあった自分の自転車の買い物かごを覗いた。レジ袋に6つのアイスクリームが在った。まだ溶けていない。溶けていないけどドライアイスが小さな塊になっていた。
こなちゃんのサービスで30分のドライアイスが入っていたはず。私は30分もここに居て夢でも見ていたのかな。このまま帰ったらアイスクリームが溶けちゃう。とりあえず
私はドライアイスをもらう為にスーパーに戻った。

こなた「あれ、まだ帰っていなかったの?」
後ろからこなちゃんの声がした。張りのある若々しい声だった。私は振り向いた。そこには若いこなちゃんが立っていた。間違いない、あの時に戻っている。
こなた「あーあ、ドライアイス無くなっちゃったじゃない、さては他の買い物をしていたな」
つかさ「う、うん、そうなんだ……だから、ドライアイスをもう一回、今度は有料でいいから」
こなた「しょうがないな〜そこで待ってて」
暫く待っているとこなちゃんが小走りで少し大きな袋を持ってきた。
こなた「今度は1時間分だから……サービスはこれで最後だからね」
こなちゃんはレジ袋にドライアイスを入れた。こなちゃんは最後まで私と家族を合わせようとしてくれた。私は思わずこなちゃんを抱きしめた。
こなた「ちょ、どうしたの」
つかさ「こなちゃん、私にとって最高の親友だよ……ありがとう」
こなた「お客さん〜大丈夫ですか〜今日は暑いから気をつけてくださいね……ってつかさ、ドライアイスくらいで大げさだよ……」
そうそう、その名前を呼んで欲しかった。私はこなちゃんを放した。
つかさ「あ、ごめん、ごめん、でもさっきの嘘じゃないから、ありがとう」
こなちゃんが照れてすこし顔が赤くなるのが分かった。ふふ、この頃は可愛いものだ。
つかさ「こなちゃん、これからへんな事して捕まってお姉ちゃんに迷惑をかけないようね」
こなた「へ、なに言ってるの???」
一応釘は刺しておかないとね。手を振ってこなちゃんと別れた。

 自転車に乗ろうとした時だった。胸ポケットから着信音が聞こえた。携帯電話を手に取るとゆきちゃんからだった。
つかさ「もしもし、ゆきちゃん?」
みゆき『こんにちは』
つかさ「何か用事でも?」
みゆき『え、え、つかささんからの着信履歴があったもので、何か用事でもあったのかと思いましてかけたのですが……』
着信履歴、私はかけていない。もしかしたら平行世界で慌ててかけたあの時の電話が今頃通じたのかな。
つかさ「ごめんね、きっと間違って送信ボタン押しちゃったんだよ」
みゆき『そうですか、それでは失礼します』
つかさ「ちょっと待って!!」
みゆき『はい?』
ゆきちゃんは誰よりも早く私を理解してくれた。その知識と洞察力、柔軟な思考。なによりその優しさが私の苦しさを癒してくれた。
つかさ「ゆきちゃん、ありがとう」
みゆき『い、いいえ、どういたしまして』
戸惑い気味に返事をした。電話では語りきれない出来事があったんだよ。
つかさ「今度また買い物しようね……また連絡するよ」
みゆき『はい、楽しみにしています』
携帯電話を切った。さて。帰るかな。


418 :忘れ去られた過去 17/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:55:34.46 ID:qcbSrsFZ0
 体が軽い、若いってこんなに元気なのか。軽快に自転車を漕いだ。漕いでも力が溢れてくるような感覚だった。
確実に近づいてくる我が家、こなちゃんはしっかりと私をつかさと呼んでくれた。ドライアイスのサービスも覚えていた。間違いない。ここは私の元いた世界。
嬉しい、また買い物から続きの人生をやり直せる……やり直す。でも……辛くて、悲しい世界だったけど、唯一幸せだと感じた時間があった。
私を愛してくれた夫はこの世界にも居るのだろうか。この世界でも私を愛してくれるのだろうか。こなちゃんのお母さんの例がある。もしこの世界に居なかったら。
私の心は嬉しさと不安で複雑に絡み合った

思ったより早く自宅に着いた。玄関の前に立った。私は大きく一回深呼吸をした。ゆっくりと扉に手を近づけたけど止まった。もし、もしもこの扉を開けて家族の誰もが
私を知らなかったら。お姉ちゃんが包丁を振りかざしてきたら……私は逃げない。そうだよ、逃げたから警察に通報された。私はもう逃げない。手をドアにかけて開いた。
つかさ「ただいま〜」
目の前にまつりお姉ちゃんが居た。目線が合った。
まつり「誰よ、あんた」
血の気が引いた、まさか、また同じ事の繰り返しなのか。
まつり「おそい、遅いぞ、つかさ、今まで何をしていた!! あまりに遅いから名前まで忘れそうになったよ」
私の持っていたレジ袋を鷲づかみで取った。
まつり「皆、アイスクリームが来た!!」
まつりお姉ちゃんはそのまま居間の方に向かって行った。ホッと胸を撫で下ろした。何十年の旅をしてきた。なんて言っても信じてもらえないよね。
居間の入り口から周りを見回した。家族全員が居間のテーブルに座っていた。まつりお姉ちゃんはレジ袋からアイスクリームを取り出すとテーブルの中央に置いた。
皆は迷うことなく、取り合いにもならずそれぞれ自分の好きなアイスを取った。そして一個余ったアイス。それは私の好きなアイスだった。
いのり「流石つかさ、私達の好みを知り尽くしてる」
みき「どうしたの、つかさ、ボーとしちゃって、早く座りなさい、一緒に食べましょう」
つかさ「う、うん」
私は席に着いた。
まつり「つかさったら玄関で白目むいて驚いちゃって、面白かった」
みき「むやみに人を驚かしたらダメでしょ」
いのり「それにしても遅かった、どこで道草していたの?」
なんて言っていいのだろう。
つかさ「スーパーにこなちゃんがアルバイトしててね……」
かがみ「あいつがそんな近くで働いているのか、面白そうね、今度からかいに行ってみるかな」
つかさ「けっこう制服が似合ってたよ、ドライアイスもサービスしてくれたし」
まつり「早く食べよう、溶けちゃうよ」
柊家一同「いただきます」
皆美味しそうにアイスクリームを食べ始めた。
一家団欒、あまり最近ではなかった。私にとっては何十年も待ち続けた光景。なんだろうアイスがしょっぱい。おかしいな。何故だろう。
まつり「つかさ、あんた泣いているじゃないの」
しまった。感情が抑えきれなかった。皆には数ヶ月ぶりの団欒かもしれないけど私にとっては……
いのり「驚かすからでしょ、まったく、まつりはいつまで経っても子供なんだから」
まつり「驚かすって、ちょっとしたユーモアでしょう」
つかさ「違うよ、そんなんじゃないよ、アイスがあまりに美味しいから……つい涙が出てきちゃった、美味しいね、うん、最高だよ」
皆は不思議そうな顔をして私を見ていた。今はそう言うしかなかった。


419 :忘れ去られた過去 18/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:56:51.60 ID:qcbSrsFZ0
 ひとつ理解できない事があった。公園で私達姉妹は背比べをした。私は全く記憶にない。でもお姉ちゃんは克明に覚えていた。それに試してみたかった。
私の体験した出来事は本物なのか、幻想なのか。
つかさ「ねぇ、神社の近くの公園でね、この前子供が背比べをして遊んでいるのを見たの、私達もやらなかった?」
皆がほとんどアイスを食べ終わった頃、私は質問してみた。皆の反応はどうだろう。皆は顔を見合わせて首を傾げた。そうなのか。やっぱりあれは全て私の幻想。
それもそうだよね。あれが現実だったら私の体は十九歳で心はお年寄り。でもあの時体験した出来事、学んだ事、習得した技術は今でも覚えている。
幻想と言うにはあまりのも生々しい。それとも背比べは向こうの世界だけの話だったのかな。
いのり「神社の近くの公園……ああ、やった、そういえばやったわ、確かお父さん、お母さんも居たよね」
いのりお姉ちゃんが思い出したみたいだった。
まつり「……あ、思い出した、理事会倉庫の柱じゃなかった?」
みき「そんな事もあったわね、つかさ良く覚えていたね、まだ幼かったのに」
つかさ「うんん、私は覚えていない、子供が楽しそうに背比べしていたから……私達はどうだったかなって思って」
ただお「懐かしいな、確かあれはかがみとつかさの五歳の誕生日だった、私は見ていただけだったがしっかり覚えているよ」
つかさ「お姉ちゃんは覚えてる?」
かがみ「……背比べ、したのかな、全く覚えていない……」
お姉ちゃんと私は覚えていない。だけど背比べは実際にあった事実。
つかさ「それなら公園に行ってみない、きっと背比べした跡があるよ」
確かめたい。私が元の世界に戻れた事実を。思い出したい。幼い日の出来事を。
まつり「えー折角アイスで涼んだのに外にでるの〜」
まつりお姉ちゃんは早速反対、でもここで諦められない。
つかさ「それじゃ日が落ちかけの夕方はどう、きっと気温も下がっているよ」
いのり「それなら良いんじゃない、私は賛成」
ただお「夕方か……皆で出かけるなら夕食は外で食べてもいいな」
みき「たまには外で食事もいいわね、食器洗う手間が省けるわ」
つかさ「まつりお姉ちゃん、お姉ちゃんも行くよね?」
まつり「まぁ、気温が下がる夕方からならね」
私はお姉ちゃんの方を向いた。
かがみ「行くわよ、皆が行くのに断る理由はない」

 夕方近くになると夕立が降った、これで気温は一気に下がった。夏ももう終わりに近づいているのを感じさせてくれた。
日がもう落ちようとしていた。私たちは公園の倉庫前に来ていた。夕方なので子供達の姿はもうない。居るのは柊家だけ。
いのり「ここ、ここ、この柱ね、私が線を引いたから覚えている」
まつり「でもおかしいな……線が三本しかないじゃない、これだと数が合わない、姉さん、こっちの方じゃないの?」
同じだ。あの時の倉庫と全く同じ線だ。何故三本だったのか私はその理由を知っている。私はその理由を話そうとした。
みき「ほら、見てごらん、一番低い線、少し太いでしょ、それはね、かがみとつかさが同じ背の高さだったのよ」
まつり「ああ、なるほどね、二人は双子だからか、今更ながら納得する」
いのり「ね、折角来たのだからもう一回、背比べしてみない?」
それは私が言おうとしたのにいのりお姉ちゃんが先に言ってしまった。
まつり「比べるまでもない、姉さんが一番高いのは今も変わらない」
いのり「そう言う意味じゃない、記念として、分かるでしょ」
いのり姉さんは地面に落ちている尖った小石を拾った。
いのり「それじゃ、まつりから……」
まつりお姉ちゃん、お姉ちゃん、私の順に柱を背にしていのりお姉ちゃんが柱に線を引いていった。いのりお姉ちゃんはお母さんが線を引いた。
思い出した。この順番は幼い時と同じ。私達は確かにここで背比べをした。はっきりと思い出せた。
ただお「こうやって比べると随分大きくなったものだ」
みき「そうね」
いのり「それはそうよ、私が小学校の頃だしね……あれ……かがみはつかさより少し低かったっけ?」
柱を良く見ると線が四本になっていた。
まつり「本当だ、双子でも成長すると変わっちゃうものなのかもね」
ただお「……さて、もう日も完全に落ちたし、食事に行くか」


420 :忘れ去られた過去 19/19  [saga sage]:2011/09/07(水) 21:58:10.32 ID:qcbSrsFZ0
 私たちは公園を出ようと歩き出した。
かがみ「つかさ、待って」
小さな声で私を呼び止めた。お父さん達は先に公園を出て行った。私達二人だけが公園に残った。
つかさ「どうしたの?」
そういえばさっきからずっと黙って何も言わなかった。なんだかお姉ちゃんの様子が変。
かがみ「私はつかさより背が低かった」
つかさ「さっきの背比べだね、でも差は1センチもない位だよ、そのくらいは日によって変わるから……」
かがみ「さっきのじゃない、幼い頃の方を言っているの」
幼い頃って、お姉ちゃんは背比べを知っていたって事なのかな。
かがみ「あれはズルをして少し背伸びをした、だからつかさと同じ背の高さになった……」
つかさ「お姉ちゃん、背比べの事覚えていたんだね、実は私もさっき思い出した所」
かがみ「私はつかさより背が低いのを知っていてズルをしたんだ、何も感じないのか」
つかさ「ズルって、背の高さなんてどっちが高くても関係ないし、それにそんな幼い頃のズルなんて可愛いものだよね、お姉ちゃん、そんなに私より低いのが嫌だったの?」
かがみ「嫌だった、あの頃はつかさには全てに負けたくなかった、でも、幼いながらも罪悪感はあった、そのせいであの背比べは忘れたくても忘れられないものになった」
そんな幼い頃の過ちをずっと責めていた。だから忘れなかった。きっと背比べが切欠で向こうの世界とこの世界が交わったのかもしれない。
つかさ「私はそのおかげで私は戻って来られた、ぜんぜん気にしてないよ」
かがみ「……それがつかさの答えなのか、許してくれるのか、これで忘れられるわ、あの忌まわしい過去を」
つかさ「うんん、忘れないと思うよ、だってさっきの背比べの跡があるからね、きっとお婆さんになるまで覚えているよ、でも忌まわしい過去ではなく懐かしい思い出としてね」
かがみ「つかさ、あんた、変わったわね……まるで何十年も生きていたような台詞だわ」
つかさ「その通りだよ、私は30分の間に何十年も生きてきたから」
かがみ「はぁ、何言っているのか分からん……それにさっきの戻って来られたって何よ?」
今は分からなくていいよ、もうあんな悲しい体験はもう嫌だ。だけどもう一度父と母の死を知らなければならない。せめてその時は傍に居たい。
そして掛け替えのない夫ともう一度逢いたい。だからお姉ちゃんと同じように話さないとね。皆に話さないと。
まつり「おーい、置いて行っちゃうぞ!!」
それを話すには時間が必要、だって何十年分の出来事を話さなきゃいけないから、もう少し整理をしたい。
つかさ・かがみ「今行くよ!!」

 こうして二つの世界は一つに交わった。うんん、これから交わる。悲しみと希望と共に。




421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/09/07(水) 21:59:16.31 ID:qcbSrsFZ0
以上です。 もうこれが最後のssになるかも。なんか同じようなssになってしまう。本当はもっとらき☆すたらしいのが作りたいのに。
ありがとうございました。
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/09/07(水) 22:24:45.25 ID:qcbSrsFZ0





ここまでまとめた。



423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 13:20:04.69 ID:YMJtwBqSO
>>402-420
           _/\―-z-――- 、
       , . : ̄く   `t^f′     \
     /: : : : :/:\  ?r‐――-< ̄
.    , ': : : : : : : : /: :\ .} |、.: : : : : : : :ヽ-、
   / : : /: : : :|: /: : :,イ:λl 、: : |: : : : : 、:\\
   /:/: : |: : : : レ': :/j /  | ヽ: ト: : : : : 丶: \
   レ´: : :|: : : : | _∠イ/   | `」_V: : : : : :\ }
  /l: : :.‖: : :Tフ  /   j  ヽ `ヽ: :| |: :l \
  / .{: : : ||: : : : |__    _    〉: | ト: |
   | /: ,」 |: : :.三三ニ    ,三三/、V: |ヽ|     /    /   /  | _|_ ― // ̄7l l _|_
   V: :ヽ :|: : : |   |    |   |ノ:/: :|    _/|  _/|    /   |  |  ― / \/    |  ―――
    |ヽ: :`ト、: :.{   |   '  |  ノ: :ハ:.|       |    |  /    |   丿 _/  /     丿
.     ヽ ハ>f= 、 j⊆ニつ_-=<: / `|
       fミミヽ;:;:;:ヽ二{i:;:;:;:;:|.リlj/
       {  \ヽ;:;:丶 };:;;;:/j//|
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 13:21:44.04 ID:YMJtwBqSO
相変わらずちょっとダークだけどいい話を書きなさる…
淡々と月日が経って行くのにかなり絶望を感じたけど、最後は戻って来られて良かった
つかさが平行世界にいる間の元の世界では「つかさが行方不明!?」とかで大騒ぎだったのかな?
なんか、過去は大切にしなさいって教えられた気がしますた(´・ω・`)

最後なんて言わず、更新頻度遅くてもいいからまた書いて下さいね。ありがとう&乙
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/09/11(日) 08:43:07.23 ID:CcT0im4J0
>>424
感想ありがとうございます。最後って書いたけどあれはタイムトラベル物は最後にしようかな思ったので
ssを書くのをやめるわけではありません。書き方が悪かった。
とは言ってもこの手の話は大好きだからまた書くかもしれません。
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/09/13(火) 20:18:30.57 ID:4iqqF4PI0
10月頃にコンクールを開催したいと思うけどこの前みたいなトラブルが無いように規約を確認・決定したいと思います。


・一人につき二作品までコンクール参加作品と出来ます。(第二十二回より)
 作者は作品を投下する時、何作目なのか宣言してから投下すること。
・参加作品を変更したい方は、取り下げる作品について申請してください。
・投下作品はタイトル、及び必要なレス数を名前欄又はメール欄に明記すること。
・過去に投稿された作品の設定の流用、またその延長である作品は投下しないこと。(自身の書いたものも含む)
・仮に上記にあてはまる作品が投下された場合、コンクール参加作品から除外する。
・書きかけのものは投下しないこと。
・正当な理由の無い分割投稿は禁止する。
・例外として携帯端末の場合のみ許可する。
・分割の際の注意事項
  分割の際は必ず前の投稿のレス番号をアンカーで明記すること。
  スレッドをまたいで投稿する場合、新しいスレッドの初投下時に前のスレッドのどの続きかを明記すること。
  時間内であれば避難所への投下も可とする。
  締め切り直前で順番待ちをしている場合には、避難所の専用スレへ投稿すること。
・時間延長は1レスでも時間内に投下されていれば許可します。
・作品の投下終了後、作者は速やかに終了宣言を行うこと。


以上の内容は変更される場合があるので必ずコンクール開催前に確認すること。(上記内容は第二十二回コンクール以降に採用する)

以上の制約に同意できる場合のみコンクールの参加を許可する。



 前回と大きく違うのは一人につき作品を2つまで投下できること。
だからその作品が何作目なのか宣言してから投下するようにしようと思います。(自己申告)


 一番もめるのが締め切り。
時間延長は時間内に1レスでも入っていればOK。延長時間はあえて設定しませんでした。
作品が完成されているのが前提なので投下時間は常識範囲内と言うことでお願いします。
これは救済ではなく、なるべく参加者を増やしたいという理念からです。


こんなところでしょうか?
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/13(火) 22:54:29.03 ID:hcHFVxYSO
こういう時はとりあえずageましょ
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/09/14(水) 08:45:54.44 ID:uWZl4S6N0
sage取るのを忘れました。
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/14(水) 18:05:04.09 ID:HHS9IbsSO
人いるのけ?
12日はみなみの誕生日だったんだぜ…
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/14(水) 21:59:44.31 ID:wolKC+M40
すっかり忘れていた。
SS書き終えると暫くボーとしてしまうので気付くと過ぎてしまいます。
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/14(水) 22:08:29.67 ID:evW4B/kSO
みゆき「私の誕生日も忘れないでくださいね……」
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/14(水) 23:27:36.16 ID:wolKC+M40
−遅れた誕生祝−


『ピンポーン』
ほのか「はーい、あら、みゆきちゃん、みなみは留守だけど……」
みゆき「あ、あの、遅ればせながら……」
みゆきは綺麗な包装紙で包まれた箱を差し出した。ほのかは暫く考えていた。
ほのか「……ここ数日元気がなかったのよ……まさかこの事で……」
みゆき「忘れていたわけではなかったのですが……タイミングが…」
みゆきは申し訳なさそうにしていた。
ほのか「いえいえ、実は私もすっかり忘れちゃってね……そのせいかと思ってたのよ、みゆきちゃんも大学大変だったでしょ、
    きっとみなみも喜ぶとおもうわ」
ほのかはちらりと玄関の置時計を見た。
ほのか「そろそろ帰ってくる時間、あがって直接渡したら?」
みゆき「……それが……」

みなみ「ただいま」
ほのか「おかえり」
みなみは着替えに自分の部屋に入った。机の上に箱が置いてあるのに気が付いた。しかしみなみはその箱を開けようとはしなかった。
着替え終わるとそのまま居間に向かった。
ほのか「みなみ、自分の机の上を見なかったの?」
みなみ「お母さん、もう私はプレゼントを貰うような歳じゃ……」
ほのかはみなみを見ながら話した。
ほのか「あの箱はみゆきちゃんからよ」
みなみは飛び出すように玄関に向かった。ほのかは何処に行くのか直ぐに分かった。
ほのか「みゆきちゃんは居ないわよ」
みなみは玄関で止まった。
ほのか「何でも急用で出かけるとか……」
みなみは散歩用の綱を取ると靴を履いた。
みなみ「チェリーと散歩に行ってくる……」

 チェリーを連れて暫く歩いていると向こう側から良く知っている見慣れた人が歩いてきた。
みゆき「みなみさん……こんにちは」
一ヶ月ぶりだろうか、みなみにとっては何年も会っていないような時間だった。
みなみ「こ、こんにちは、急用があったのでは?」
思わず口篭ってしまうみなみ。
みゆき「図書館に行ったのですが、今日は休館日でした……お恥かしながら」
笑顔で答えるみゆき、そんな姿をみてみなみはもやもやした気持ちが吹き飛んだ。チェリーがみゆきに近づき尻尾を振る。みゆきはチェリーの頭を優しく撫ぜた。
みなみ「一緒に散歩しませんか?」
みゆき「はい」
みゆきはみなみと同じ方向を向いた。チェリーはまた歩き出す。みなみとみゆきも歩き出した。
みゆきと一緒にチェリーの散歩、この前はいつだっただろうか。少なくともみゆきが高校時代には一度もなかった。こんなに近くに住んでいるのに、頻繁に会っているのに。
次第に距離が遠くなっていくのをみなみは強く感じた。

 いつもの散歩道、何故か今日はあっと言う間に終わった。チェリーも物足りないのかみゆきを見つめ尻尾を振っている。
みゆき「それでは……」
みゆきは自分の家に戻ろうとした。
みなみ「あの……」
みゆき「はい?」
みなみ「折角だからお茶でも」
みゆき「……そうですね、お邪魔いたします」
みゆきは岩崎家の門に入った。チェリーは飛び跳ねるように喜んでいる。
みなみはみゆきの目の前で箱を開けたかった。
それがみなみの精一杯のお礼だった。


433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/14(水) 23:28:29.99 ID:wolKC+M40
即興でつくってみました。
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/14(水) 23:58:24.35 ID:wolKC+M40


ここまでまとめた
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/15(木) 00:24:46.26 ID:/XilyiwAO
ありゃま。ふゆきセンセの誕生日ネタ用にみなみの誕生日スルーしてたのに…ネタ考え直しか
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/17(土) 00:26:27.57 ID:5JBDTlbAO
ふゆき「というわけで零時をまわりました。私の誕生日です」
ゆたか「えっと、どうして夜中に集まったんでしょうか」
ふゆき「時期外れですが百物語をやろうかと」
ひより「なんでですか?!」
ふゆき「私の誕生日だからです」
ひかる「諦めろ田村。去年はアニ研を交えて廃墟巡りだったんだ。マシに思え」
ひより「思い出したら寒気がぶり返したんですが…」



ふゆきセンセ、HappyBirthday
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/17(土) 01:15:58.96 ID:Cdla4eLSO
ひかる「……という訳で、今夜はいいだろ? ふゆき」ツツ…
ふゆき「ふぁ……ダ、ダメです桜庭先生、生徒が見てますから」
ひかる「こいつらはオマエの怖い話を聞いてもうダウンしてるよ。
     それと、2人きりの時は名前で呼べって言ってるじゃないか」フニフニ
ふゆき「ん……あ……ひかる、さぁん……っ//」

────────────────

ひより「……」ハァハァ
ふゆき「田村さん? 御気分が優れないんですか?」
ひかる「こういう類いは大人しい時が百物語よりよっぽど恐ろしいから触れるな」
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/17(土) 20:03:09.43 ID:3owTiZLz0



ここまでまとめた


>>436-437
ふゆきはあまり出てこないせいかいまいちキャラが掴めません。

>>435でどんなssを投下するつもりだったのか気になります
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/18(日) 13:42:01.93 ID:CDF1tgYr0
>>426の件について異論はないようなので本採用とさせて頂きます。
まとめサイトの規約を修正します。

同時にコンクールの主催者を募集します。
混乱を招いた私では力不足ですのでぜひ志願お願いします。
一週間経って居ないようでしたら私(二十回、二十一回の主催者と同じ人)になってしまいます。

以上です。
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/24(土) 09:22:51.36 ID:o9uPEosg0
>>439
誰も名乗り出ないので私が主催をさせて頂きます。
細かい日程は月曜日にでも発表したいと思います。
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/26(月) 20:16:47.78 ID:HAQI/TzY0
第二十二回コンクールの日程について。

10/1〜10/4  お題募集

10/5〜10/8  お題投票・決定

10/11〜10/25 投稿期間

10/27〜11/3  投票期間

こんな感じでよろしいですか?。

ご意見どうぞ



442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/27(火) 06:44:21.59 ID:M3W3sJIvo
通常通り第一月曜に合わせたいとこだが今からじゃもう無理だな
9/30〜10/2 お題投票
10/10〜10/16 投稿期間
10/18〜10/24 作品投票
か、これを一週間ずらすかでいいんじゃないか?
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/28(水) 00:23:35.77 ID:tLYzRN8AO
>>442その予定だと何時お題募集するんだよ…
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/28(水) 06:18:25.11 ID:x/JmTRT+o
そりゃ今からになるだろうな、まぁさすがに時間ないけど
つーか一週間ずらすかって書いてるんだがな
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/28(水) 06:58:07.11 ID:tLYzRN8AO
>>444失礼。見落としていた。すみません
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/28(水) 19:56:23.80 ID:S74mQaRG0
時間に余裕をもって

お題募集 10/2〜10/4
お題投票 10/6〜10/9
投稿期間 10/17〜10/23
作品投票 10/25〜10/31

こんな感じで?
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/30(金) 20:53:17.86 ID:FgrrS3NM0
異論がないようなので>>446で決定でいきます。
みなさん『お題』を考えておいてください。

お題投票で同数票の場合決選投票をするかもしれません。その時は日程をずらしていきます。


よろしくお願いします。
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/30(金) 21:50:29.26 ID:4tPZSukSO
最近つかさの中の人がテレビに出たり頑張ってるので「香り」
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/30(金) 21:56:11.05 ID:Amv8hEH6o
こんなご時世だからこそ「愛」
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/30(金) 22:58:16.38 ID:FgrrS3NM0
う〜ん
まだお題募集はしていませんが>>448>>449は候補に入れておきます。

慌てないで
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) :2011/09/30(金) 23:19:25.21 ID:2bXk18wm0
慌てっぷりさっそく着替えたら♪
しまらないスカートの♪
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/30(金) 23:43:39.73 ID:2R7iGIxSO
ファスナー 焦れば焦るほど 最悪ね 布が挟まった
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/10/01(土) 06:55:17.76 ID:hyDC/fgFo
まぁお題の募集は変に期間を設けず投票の前まで、でいいんじゃないかね
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/01(土) 15:59:47.49 ID:EjVoUQ+SO
今月はみゆきさんの誕生日
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/01(土) 17:27:39.51 ID:Bk1NRWDQ0
>>454
25日だったかな
コンクールの投票日の初日なので作者の方々は一段落している。
何作か期待できるかもね
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/01(土) 23:41:59.68 ID:Bk1NRWDQ0
☆第二十二回コンクール開催☆

少し早いけど第二十二回コンクールを開催します。

まずはお題募集。すでに『香り』『愛』が出ています。

10/4まで募集しています。


自分は『誤解』でいってみたいと思います。

457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/02(日) 00:10:57.05 ID:hhsdz+aSO
『駅』ってのはどうだろ
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/02(日) 00:28:33.32 ID:QeMj9FrSO
喧嘩とか欝なしの明るいお題がいいなぁ
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/02(日) 01:58:01.95 ID:B6XEPyVSO
-香り-

つかさ「最近私の中の人が大活躍してるみたいなんだよ〜」
かがみ「……嫌な予感がするわね」
つかさ「へ?」
かがみ「中の人ももう25歳でしょ? 下手こいたら脱がされる香りが」
つかさ「や、やめてよ!><;」

-愛-

こなた「母親の愛情をロクに受けなかった私」
かがみ「反応に困るからその手の話題はよしなさいよ……」ギュ
つかさ「こなちゃんこっちにおいで?」ダキ
みゆき「泉さんには私達がいます。ですので安心して下さい」ムニュ
こなた「うへへ……これが友愛か……役得役得」

-誤解-

こなた「ねえ、ちゃんとお風呂入ってる?」
つかさ「もちろん入ってるよ〜」
こなた「うわっ! つかさはまだかがみんとお風呂入ってるんだ!」
つかさ「最近お姉ちゃんの胸の下にホクロを見つけてね〜」
こなた「え?」

-駅-

みゆき「もう慣れましたが、最初は家から学校まで電車で通うのは大変でした」
かがみ「みゆきの家は東京の郊外だもんね」
つかさ「電車が大変なら、田園調布駅から春日部駅まで歩くのはどうかなぁ?」
みゆき「本気でおっしゃってるんですか?」
つかさ「健康にもいいし、定期もいらないから、おうちのお財布も軽くなるよ?」
みゆき「ふむ……一理ありますね」
つかさ「いや、むしろ春日部駅のガード下辺りに住んじゃえばいいんじゃない?」
みゆき「なるほど。つかささんの発想には度々驚かされます」
かがみ「なんだこの現実的かつ無謀で常識を超越した会話は」
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/02(日) 04:18:52.66 ID:XmTkp2wAO
お題【握手】
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/02(日) 08:04:40.75 ID:fd34pHqp0
おお 意外とお題が集まってる。ちょっと安心しました。

>>458
どのお題に決まってもギャグ、シリアス、鬱、感動、その他……どんな展開も可能だと思いますよ。
要は作り手次第です。
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/10/03(月) 13:18:33.69 ID:b+lKaXtAO
秋なので
お題【果物】
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/03(月) 13:38:24.09 ID:VIEDkL8Jo
お題【作品】
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/04(火) 00:04:29.69 ID:dZC5NFE80
>>新たに
『握手』『果物』『作品』が追加です。

最終日です日が変わったらお題募集を終了します。
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/04(火) 00:50:23.81 ID:PpiExShko
なんとなく思いついたお題「風物詩」
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/05(水) 00:04:17.83 ID:MFnnzIkC0
☆第二十二回コンクール開催☆

それではお題募集を締め切ります。

10/6より投票をします。

候補は以下の8個です。ピンと閃いたお題。書いてもらいたいお題。面白そうなお題。選んでおいてください。




『香り』『愛』『誤解』『駅』『握手』『果物』『作品』『風物詩』
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/06(木) 00:00:11.53 ID:/MExJKUu0
☆第二十二回コンクール開催☆

それではお題投票を始めます。

期限は10/9の24:00までです。

投票所↓

http://vote3.ziyu.net/html/odai2.html
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/07(金) 20:09:35.08 ID:iPHfdqWh0
ゆい姉さんの誕生日でした。
また忘却の彼方に飛んでいった。
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/08(土) 15:16:39.27 ID:an/Hc6lAO
ゆい姉さんは忘れられるのが様式美だよ
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/08(土) 18:30:24.21 ID:p0zTbyRm0
今更ですが>>423のAAを纏めました。


コンクール前に書こうとしていたssが間に合いそうにない。諦めてコンクール終了後に書くかな。
もっともお題によってはコンクールも参加できないかもしれない。
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/09(日) 05:38:36.76 ID:6x7p2jNg0
☆第二十二回コンクール開催☆

お題投票採取日です。日付が変わったら発表です。

投票がまだの方は投票を済ませてください。

472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/10(月) 00:01:21.47 ID:z0J6TYvX0
投票結果が出ました。

お題は 『駅』 です。





投稿期間 10/17〜10/23 24:00まで




それではお互いに頑張りましょう


投票結果↓
http://vote3.ziyu.net/html/odai2.html
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/10/10(月) 00:10:06.98 ID:z0J6TYvX0
かがみ「お題が決定したわね」
こなた「駅……」
かがみ「駅と言えば、出会いと別れ、人と人とが行き交う場所、切符、定期券……いろいろ連想するわね」
こなた「通勤とか通学とかもあるね……難しいね」
かがみ「まぁ、簡単なお題なんてないから」
こなた「二週間あるからゆっくり急いで書かないとね」
かがみ「そうね……さて、頑張るわよ」
こなた「もしかして、投稿する気なの?」
かがみ「わるい?」
こなた「書ければいいけどねw」
かがみ「そんな事言うならこなたも書きなさいよ」
こなた「私はパス、何も浮かばないよ」
かがみ「それでは皆さん、頑張りましょう」
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/10(月) 08:40:38.08 ID:/vpqz6OAO
ななこ「…で、成美さん?なんでうちら新幹線乗ってますの」
ゆい「いやぁ、駅にお題が決まったと聞いたらお腹すいちゃって」
ななこ「そっからもぅわからん!なんで腹ペコになんねん!」
ゆい「駅と言えば駅弁とか立ち食いそばじゃないですか〜」
ななこ「…たしかに駅弁とか立ち食いそばとかも思い付くけど…成美さん、大食いキャラでしたっけ?つかそれとこの状況の意味は?!新幹線の訳は!」
ゆい「立ち食いそばと言えば名古屋駅の立ち食いそば屋のきしめんが美味しいって聞いたんですよ。駅にパトカーで乗りつけできませんから新幹線です。ちょうど新幹線のホームらしいですし」
ななこ「パトカー私用で使おうとすな警察官!近所の駅のコロッケソバで我慢せぇ!つかそれこの前のアメトークやろ!つかうちを巻き込む理由になっとらん!」
ゆい「…誕生日忘れてたくせに」
ななこ「うっ」
ゆい「できる範囲で何でもするって言いましたよね?」
ななこ「…うちって、ホント、アホ…」
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/10(月) 10:13:33.75 ID:zqxEjn9Lo
投稿開始って一週間後なの?
二週間後じゃないのか?
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/10/10(月) 10:38:50.73 ID:z0J6TYvX0
>>475
それだと合計三週間になる。それでもいいけど
今まで一ヶ月で終了してきたから(お題選考も含めて)
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/10(月) 10:49:16.87 ID:NDPugTfSO
投稿開始が二週間後じゃなくて、投稿期間が二週間やね
今までそうだったんだけど、今回なぜか一週間

ってか前回もこんなこと言ったなあ
月跨ぎなんか誰も気にしちゃいないだろうに
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/10(月) 10:56:43.29 ID:r2d79aqpo
>>475
前からお題決まって1週間後に投稿開始だな。2週間なのは投稿期間

>>476
一応今まで、というか前までは、お題決定を前の月に終わらせて第一月曜から2週間で月内に終わり
って感じ

>>477
すまん、今回俺のせいだわ。投稿期間の日数忘れて>>442の予定出した
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/10/10(月) 11:42:50.35 ID:z0J6TYvX0
☆第二十二回コンクール開催☆


それでは投稿期間を変更いたします。


投稿期間 10/17〜10/30 24:00
作品投票 11/1〜11/7 24:00

となります。
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/10(月) 11:43:41.41 ID:z0J6TYvX0
☆第二十二回コンクール開催☆


それでは投稿期間を変更いたします。


投稿期間 10/17〜10/30 24:00
作品投票 11/1〜11/7 24:00

となります。

481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/10(月) 14:00:24.08 ID:z0J6TYvX0
コンクール主催者です。



投稿期間とか、忘れてしまうので規約の中に入れておきました。

それとメニューの「今日の人気ページ」は投稿〜投票終了まで休止します。
理由はコメントフォームを付けないのと同じ理由です(宣伝になってしまう)


コンクール規約
http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/673.html
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/16(日) 00:04:44.91 ID:JmudtU9A0
☆第二十二回コンクール開催☆

日が変わりましたら投下開始して下さい。(10月17日になったら)

エントリーナンバー1番の人以外の方は何作目の作品か宣言してくれるようお願いします。

ちなみに一般作品も随時受け付けていますので遠慮なく投下して下さい。


以上
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/16(日) 23:57:57.57 ID:JmudtU9A0
かがみ「いよいよ作品が投下されるわね」
こなた「そうだね、ところでかがみは出来たの?」
かがみ「うーん、まだ半分って所かしら」
こなた「まだ始ったばかりだから慌てないようにね」
かがみ「言われるまでも無い」
こなた「かがみがそんなに一所懸命なら私もかいてみようかな〜」
かがみ「まだ二週間あるし、いいんじゃないの?」
こなた「でも、バイトもあるし〜」
かがみ「煮え切らないな、さっさと決めちゃえな」
こなた「っと言うことなので、皆様、お願いしますね、締め切りは10/30の24:00ですよ〜」
かがみ「こら、勝手に〆るな〜!!」
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 01:02:32.06 ID:SoaXMRNA0
それでは、さっそくコンクール作品投下行きます。
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 01:03:39.92 ID:SoaXMRNA0
駅でのワンシーン×6+1


 電車の扉が開き、彼女はホームに降り立った。
 両手には、アキバで買い込んだブツが詰まった紙袋がいくつも握られていた。
 初回限定版、各店の購入特典付きということで、いつもどおり、アキバの三店舗を制覇し、閲覧用・保存用・布教用を確保したというわけだ。
 両手がふさがった状態でも器用に改札を通る。
 彼女のトレードマークでもあるアホ毛も、意気揚々とゆれていた。
 今日は三店舗ともわりかしスムーズにいった。幸先がいい。
 今日が締め切りの原稿も調子よく書けそうな予感がした。


 慣れた動きでスムーズに改札を通り駅を出た彼女は、スーツに身を包み、長い髪を後ろで一本に束ねていた。釣り目の美人な顔立ちは、すれ違う人々の目を引くには充分すぎた。
 さながらやり手の美人弁護士といったところだが、実際、彼女は弁護士だ。
 これから、依頼人ともめているある会社の顧問弁護士とサシで交渉だった。
 相手の弁護士は、この分野ではかなりのやり手。気合を入れていかねばならない。
 交渉は妥協の道を探る手順であるが、安易な妥協は依頼人の利益を損ねることになる。そのあたりを見極める眼力は、結局のところ経験をつむことによってしか得られない。
 場数をこなしてきた自負はある。
 もちろん、この仕事に対するプライドも。


 がらんとした車内に、次の停車駅を告げるアナウンスが流れた。
 驚いたように目を覚ました彼女は、慌ててあたりをキョロキョロと見回した。
 次は、降りなきゃならない駅だ。危うく乗り過ごすところだった。
 ホームに降り立った彼女は、たくさんの買い物袋を手にしていた。中には数々の食材が詰まっている。
 ちょっとした日常の料理の材料なら近所で間に合うが、本格的な食材を手に入れようとすれば、どうしても遠出しなければならない。
 今日は双子の娘の誕生会だ。夫も早く帰ってくる予定。
 彼女は、料理専門学校で鍛え上げた腕前を存分に振るうつもりだった。
 だがその前に、両手の買い物袋がつっかえて、改札を通るのに四苦八苦していた。

486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 01:05:01.47 ID:SoaXMRNA0
 早朝、始発の電車が来る前の駅は暗く閑散としていた。
 夜勤明けの彼女は、帰宅すべく駅のホームで電車を待っていた。
 小さくあくびが出た。
 今日は珍しく急患も少なく、仮眠もそれなりにとれたが、それでもやはり眠い。
 帰ったら朝食の準備をしなければならないだろう。最近いろいろなことを自分でできるようになった一人娘が用意してるかもしれないけれども。
 母は最近どうにも寝起きが悪かった。物忘れも多くなっているような気がする。もとより少々ボケたところがある人だから、医師の目をもってしても、それが認知症の進行なのかどうかは見極めが難しかった。本格的な検査を受けるようにすすめた方がいいのかどうか。
 電車がホームにすべりこんできた。
 停車し、扉が開く。
 彼女は、ゆっくりと電車に乗り込んだ。


 新幹線の発車を告げるアナウンスがホームに響き渡った。
 乗車口で一組の夫婦が短く言葉をかわし、そして軽く口付けをかわした。
 扉が閉まり、二人の間を分かつ。
 ゆっくりと動き出した車両が見えなくなるまで、彼女はずっと見送っていた。
 夫が単身赴任先に戻っていった。またしばらくは会えない。
 家には近頃はすっかり手がかからなくなった娘がいるのだが、それでも夫に会えないのは寂しい。
 そんなことをいうと、義妹でもある親友にからかわれちゃうんだけど。


 駅前、ジャージに身を包みスポーツバッグを手に持った高校生の集団があった。
 その集団の引率らしき彼女は、今日行なわれた陸上大会での成果について適当にほめたあと、気をつけて帰るように言って、解散を宣言した。
 高校生たちは、わらわらと駅に向かい、各自の家に向かうべき切符を買って、それぞれの電車に乗り込んでいった。結構いろんなところから生徒が集まっている高校なため、帰る方向はみんなバラバラだ。
 彼女は、それをすべて見届けてから、自分も切符を買い、電車に乗り込んだ。
 母校の体育教師になって、古巣の陸上部の顧問をやってる。
 そんなもんだから、生徒たちを見てるとついつい自分の高校時代のことを思い出してしまう。
 そういえば、あいつらともここしばらく会ってない。学校が夏休みの間に休暇をとって、みんなでどっかに遊びに行きたい。
 行き先は、みんなにまかせれば適当に決まるだろう。



487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 01:06:00.02 ID:SoaXMRNA0
 とある駅前。
「あっ、ゆきちゃん。こっちこっち」
 みゆきが足早にみんなのところにやって来た。
「すみません、みなさん。遅れてしまいまして」
「約束の時間の一分前だから、全然気にすることないわよ、みゆき」
「高良ちゃん。もしかして夜勤明け?」
「ええ、今日はちょっとやっかいな急患がありまして。結局残業になってしまいまして」
「ゆきちゃん。お仕事、大変なんだね」
 かがみが腕時計を確認してから、携帯電話を手にとった。慣れた手つきで電話帳から番号を呼び出す。
「ちょっと、あんた。今どこいるの!? こっち向かってる? 二十分後ね。言い訳はあとで聞くから、さっさと来なさい!」
「こなちゃん、どこいるの?」
「こっちに向かってる途中だって。みゆきが来るときぐらい、時間どおりに来いっつーの。みさおだってちゃんと来てるのに」
「柊ぃ〜、それどういう意味だよぉ〜」
 みさおがむくれ顔をする。
「まあまあ、みさちゃん」

 そして、待つことしばし。

「やふー、みなの衆」
「それが遅れてきたやつの態度か!」
「ツッコミの切れ味は鈍ってないね、かがみん」
「なんで遅れてきたのよ?」
「いやぁ、ネトゲでレアアイテムが手に入ってさ。テンションあがっちゃって、貫徹しちゃったよ。で、ちょっと寝てたら、寝過ごしちゃってね」
「ちびっ子は変わんねぇなぁ」
「ったくもう。一時間余裕見て正解だったわね」
「で、かがみん。今日はどこに行くのだね?」
「この前、メールしただろが」

 女三人寄ればかしましいのだから、六人いればその倍だ。
 みんなでわいわいがやがやと、駅に向かっていった。
 これから始まる旅行は、その六人にとって楽しいものになるに違いない。
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 01:07:08.40 ID:SoaXMRNA0
以上です。

まずは、軽めにということで。
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/17(月) 03:34:04.63 ID:4+0oStKSO
ついに始まったか!
今回も気合い入れて読むぞー
ひとまず>>488さんおつおつ
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/17(月) 05:50:17.02 ID:xsvQvu5I0
>>488 エントリーbP 『駅でのワンシーン×6+1』

エントリーしました。


まずはってことは2作目も挑戦するのかな?

自分は1作作るので精一杯です。がんばって下さい。

491 :駅構内の出会い〜WithYou〜 [sage]:2011/10/23(日) 18:18:42.23 ID:s7F/1wdAO
コンクール作品の一作品目投下いきます。


『駅構内の出会い〜WithYou〜』

今日も今日とて、八坂こうは遅刻していた。まったく…何時になったらあいつは遅刻しなくなるのだか。電車の駅構内で待ち合わせとは、今回何時間まで遅刻するつもりなのだろう。
「それにしても…」
駅のベンチに座る私の前では、鉄道好き(?)の人々が電車の写真を撮りまくっている。
「ああいうのの、どこがいいのかしらね…」
「男の人の趣味だから、女性には理解しがたいのかもね」
「は?」
「ごめんなさい、つい聞こえちゃって」
気がつかなかったけど、隣に女性が座っていた。何時の間に…。
「貴女は待ち合わせ?」
「え、ええ。友達を…」
一見して小学生だろうかと思ったが、どうにも彼女から感じる…オーラ?みたいなものが相手を年上のように思わせる。いや、実際年上なのかも。
髪の長い人だなぁ…でも白ワンピースって時季としては寒くないのだろうか?いや寒いはずよね。
「寒くないんですか?そのワンピースで」
「え?」
しまった。つい口に…。
492 :駅構内の出会い〜WithYou〜 [sage]:2011/10/23(日) 18:19:47.93 ID:s7F/1wdAO
「別に寒くはないのだけど…まぁ季節外れではあるかもね。まぁ私自体季節外れだし」
私自体が季節外れ?どういう意味だろう。
「まぁ私の格好は置いておいて。今の子なら駅で待ち合わせなんてあまりしないんじゃないの?携帯電話とかもあるのだし」
「そんなことはないですよ」
今の子…ね。やっぱり年上だったのか。
「駅で待ち合わせくらいします。それと、携帯があっても遅刻する人は遅刻しますし」
「そうね、そういうものなのかも…あら、随分撮ってる人が増えたわね」
…確かに。珍しい電車でも来たのだろうか、ドクターなんとかっていうやつみたいな?そんなのが。
「理解できませんね…あれも」
「アレもって…男の人の趣味が?」
「いや、性別は関係ない気がしますが」
同性でもレキジョは理解できないし。こうの趣味も。
「本人達は楽しいっていうのはわかります。でもどうして人に奨めたがるんですかね」
「あなたが待ってる友人の事?」
「いえ、こうの…友人の事ではなくて、別の人の話でして」
フィオリナにいる友人で。いわゆる…レキジョだ。
城がどうだの合戦がどうだの…わからないのに話してくる。時折、こうとの話題にあがるBLみたいなのが混ざっていた気もしたが(…なんでかしら?)。
「頷いてくれるだけでいい、とは言ってますけど…正直困りますよね。ただ頷いてるだけって何か悪いですけど、何が楽しいのかわからないし」
一度、こうに相談したら
「それで問題ない」
と言っていた。
『全部が全部、わかってもらえるなんて思ってないよきっと』
『ならなんで話したりするのよ?自己満足?』
『ちょ、それ言ったらオシマイだよ』

クスクス…とその人は笑いだした。
「あなたは優しいのね」
「なんでそうなるんです」
「わからないのを気にしてあげるなんて、普通しないもの。場合によっては、気味悪くて近づきたくないじゃない」
…こうの趣味みたいなものね。あれは引くことあるし。
「あら、そう君と趣味合いそうねその八坂さんは」
「そうなんですか?…誰かは知りませんけど、こうと似た趣味って…疲れませんか」
「貴女は疲れたりしないでしょ?引く事はあっても」
「それはまぁ」
…ん?何かおかしいような…
493 :駅構内の出会い〜WithYou〜 [sage]:2011/10/23(日) 18:21:54.07 ID:s7F/1wdAO
「思ってる事、口に出してたわよ」
「あ、それで。もしかして今も出てましたか?」
「ええ。…そろそろ時間だから手短にしちゃうけど、昔、私がそう君にその質問をした時の答えを教えてあげる」
似た質問をしたんですか。その人は彼氏さんか何かなんだろうか?……羨ましいけど、彼氏さんは危なそうだなぁ。色々な意味で。
「楽しんでるのをわかって欲しいから、だそうよ。スポーツをしたりするのと同じ感覚なんだって。だから…気味悪く思って欲しくない。得体の知れないものを見る目をして欲しくない」それはつまり
「そっちが何が楽しいのかわからないのと同じように、こっちには何故楽しいのがわからないのかと思っているから…と言ってませんでしたか?」
「あら、八坂さんに似た事を?」
違う。こうの言葉だけど、こんな質問はしていない。
私がこうに助けてもらった時に言っていた言葉がこれだっただけ。
「…時間ね」
どうやらお別れらしい。でも電車は来ていないのだけど…何故?別のホーム?それとも私のように待ち合わせ?…誰も来てないのに?
494 :駅構内の出会い〜WithYou〜 [sage]:2011/10/23(日) 18:26:38.15 ID:s7F/1wdAO
「そのお友達の八坂さんに興味はあるけど、それはまたどこかで会えたらにしましょう…そんな機会、ないかもしれないけど」
「どこか遠くに行くんですか?」
「…人生をレールに例えて、人を電車に例えることがあるけれど、その場合の駅は何の例えになるのかしら」
何を言い出すのだろうこの人は。
「…出会いと別れの場所?」
「かもしれないわね」
あ、名前聞いてないし、私も名乗ってない。呼び止めないと。名前、聞かなくちゃ…


…まと…やまと…やまと…。
なんだかうるさい。
「ちょっとやまと!うたた寝しないで!」
「え?こう?」
あれ?私寝てた?ベンチの上で?
「ねぇ、髪の長い背の低い女の人見なかった?」
「え?見てないよ。だいたい電車来るのまだ先だよ?」
さっきまで一緒だと思ったけど…随分寝てたのね私。
「こう、何分遅刻したの」
「う……ででも今日は二十分だけだよ」
20分?…本当だった。
「でも遅刻は遅刻よね」
「いやほら…あれですよ永森さん」
「あれってなんですか八坂さん」
…あ、あれ?私、あの時こうを『こう』と考えても『八坂』と名字で考えてたっけ?
まぁいい。機会があってまた会うことができたら聞けばいい。
そのときはこう…あなたも一緒に(With You)

END
495 :駅構内の出会い〜WithYou〜 [sage]:2011/10/23(日) 18:30:24.87 ID:s7F/1wdAO
以上です。


わかると思いますが、やまとの話相手はかなたさんです。
二作目は…間に合えば『WithMe』で作ります。今から
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/23(日) 19:26:14.96 ID:GxyIaWTn0
『駅構内の出会い〜WithYou〜』bQでエントリーしました。


さてと私もそろそろラストスパートしないと。
二作目も期待しています。
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/10/24(月) 00:03:11.88 ID:dnC9SLQP0
こなた「かがみ調子はどう、もうできた?」
かがみ「あとは読み直しチェックだけよ」
こなた「おお、もう出来るんだ」
かがみ「でも二作はできそうに無いわね、こなたは?」
こなた「私、私は……」
かがみ「何も考えていないだろ?」
こなた「てへ」
かがみ「媚びても何も出ないわよ、まだ時間はあるから」
こなた「そ、そうだね、がんばる」

まだまだ時間はありますので慌てずに行きましょう。
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/24(月) 04:32:44.69 ID:rN+0kz2SO
みんな乙
こういう長文書ける人たちって尊敬するなぁ
小説家の脳ってどういう構造してんだろ
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/24(月) 05:25:20.76 ID:fkMnJ2TNo
>>495
水を差すようで悪いんだが
二つの投稿作品でタイトルやストーリーを関連させるのってありなの?
ただの発表会としてのスレ投下なら問題ないんだけど
独立した物語を比べて何に票を入れるか、っていうコンクールな関係上、
短編連作的なものは投票比較対象として成立しなくね?
500 :駅構内の出会い〜WithYou〜 [sage]:2011/10/24(月) 06:24:28.27 ID:N0GSdWPAO
>>499それもそうですね。んじゃ別で作っときます。コンクール終わったらあっち投下します
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/10/24(月) 20:30:03.07 ID:dnC9SLQP0
>>495 >>499 >>500

コンクール主催者です。

コンクール規約を抜粋

過去に投稿された作品の設定の流用、またその延長である作品は投下しないこと。(自身の書いたものも含む)
仮に上記にあてはまる作品が投下された場合、コンクール参加作品から除外する。

と書いてあります。投下した時点で過去の作品になるので規約に引っかかりますね。
ご指摘ありがとうございました。
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2011/10/24(月) 20:33:06.04 ID:dnC9SLQP0
あげときます
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2011/10/25(火) 00:06:57.52 ID:HJFMC2az0
それではコンクール作品を投下します。一作目となります。
18レスくらい使用します。




504 :乗り過ごし  1/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:08:40.92 ID:HJFMC2az0
もう秋も深まり、朝晩は少し寒くなってきた頃だった。
つかさ「こなちゃん帰ろう」
こなた「ごめん、今日はバイトの日なんだよ」
あっ、そうだった。ゆきちゃんは学級委員会、だからお姉ちゃんも同じ。今日は私一人で帰るのか。
つかさ「それじゃ、また明日」
こなた「またね〜」
教室に私一人が残った。このままお姉ちゃん達を待っていても良いけど、一人じゃ間が持たない。やっぱり帰るかな。
こなちゃんを追いかけたけどバス停にはもう居なかった。

つかさ「ふぁ〜」
大きな欠伸が出た。咄嗟に開いた口を手で隠す。もうこれで三回目。
学校からバスで駅までの時間、一人だとなんでこんなに長く感じるのだろう。普段なら皆とお喋りをしながらあっと言う間に着いちゃうのに。
バス停から改札を超えてホームまでの道のり、電車を待つまでの時間。毎日毎日、高校の二年間をこうして帰ってきているのに。
何度も何度も腕時計を見ながら電車が来るのを待った。
『電車がまいります、危険ですので白線の後ろへ御下がりください』
待望のアナウンス、思わず電車の来る方向に顔を向ける。でもまだ電車は見えない。暫くすると米粒ほどの大きさの電車が見えてきた。どんどん大きくなってくる。
電車は風を切るようにホームに入ってきた。一両目、二両目と私を追い越して行く。どんどん速度が落ちていく。電車は止まっても直ぐには扉は開かない。
扉が開くと中から乗客が降りてきた。お客さんが降りた後、私は電車に乗り込んだ。今日は少し早い時間なのかお客さんが少ない。席も空いていた。
私は適当な席を見つけて座った。ベルが鳴り、扉が閉まった。電車はゆっくりと動き出す。
電車の適度な揺れ、窓からは暖かな日差し、頭がボーとしてきた。心地よい……次の駅に着く前に眠ってしまった。


『ガタン』
突然の揺れで私は飛び起きた。あれ、どのくらい寝たのかな……ベルが鳴っている。慌てて辺りを見渡した。電車は止まっている。扉も開いている。
まずい。私は立ち上がり走って電車を降りた。直ぐに扉は閉まり電車は動き出した。見慣れない風景。ここは何処だろう。駅の名前を見ると……降りる駅の二つ先だった。


『乗り過ごし』


505 :乗り過ごし  2/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:09:56.89 ID:HJFMC2az0
 お姉ちゃんと一緒なら起こしてくれるのに。しょうがない反対側のホームに向かおうとした時だった。
『お客様にご連絡を申し上げます、ただいま〇〇駅で人身事故が発生しました、怪我人の救助の為、上下線とも運転を見合わせます、重ねて申し上げます……』
場内アナウンスが響いた。
つかさ「えー」
一人なのに声に出てしまった。やっぱり座るべきじゃなかった。今日はついていない。よりによって人身事故とは。あっ、ダメダメ、
今、人が大変な目に遭っているのにこんな気持ちになっちゃいけないよね。取りあえず復旧を待つしかない。反対側のホームに移動して暫く待った。
10分くらい過ぎただろうか。なにやら騒がしくなっていた。そうだよね、電車が来なければ人が増える一方だから。でも何だろう。この騒がしさは何か違う。
何が違うのかな。分からないや。でもその原因は直ぐに分かった。
「ちょっと、どうしてくれるのよ!!」
響く女性の声、私はその声の方を向いた。女性……中学生、高校生……あれ、あの制服、良く見たら私と同じ、陸桜学園の生徒。駅員さんに向かってけたたましく怒っていた。
女性「いつになったら動くのよ、だからここの鉄道は嫌いなの!!!」
駅員は何事も無かったように左右を見て安全確認をしていた。謝るわけでも、反論するわけでもなかった。あそこまで怒っている人にはこの対応の方がいいのかな。
電車が来ないのは嫌だけどあそこまで怒らなくてもいいのに。周りのお客さんもきっと同じように思っているよね。見て見ぬ振りをしているから。
それにしても私と同じ高校の生徒、見たこと無い人。少なくとも私のクラスやお姉ちゃんのクラスではなさそう。一、二年生なのかな。

506 :乗り過ごし  3/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:11:03.34 ID:HJFMC2az0
 突然背筋が凍った。女生と目が合ってしまった。こっちを睨んでいる。慌てて目線を逸らした。でも女性の視線を感じる。私は少し歩いてその場から離れた。
ホームの一番端っこに着いた。ここまで来れば大丈夫かな。
女性「ちょっと、あんた」
後ろから女性の声、ど、どうしよう。見ていたから気を悪くしちゃったかな。怖くて後ろを振り向けない。
女性「なにシカトしてるのよ!」
口調が荒くなった。駅員さんみたに無視はできそうにない。恐る恐る振り向いた。そこにはさっきの女性が立っていた。駅員さんの時と同じように私を睨んでいた。
女性「さっきからジロジロ見て、見せ物じゃない……なんだ、その制服、うちの生徒じゃない、なんで学校に戻る方に居るのよ、忘れ物でもしたのか」
彼女も私が同じ高校の生徒であると気付いたみたい。目つきが少し穏やかになった。
つかさ「え、えっと……二つ前の駅で降りるつもりが……寝過しちゃって……」
女性「ぷっ、バッカじゃないの、ふふふ」
吹き出して笑い始めた。思いっきり笑われてしまった。でも何故か嫌な感じには受けなかった。
女性「何、真面目に答えてるのよ、適当に言っちゃえば良かったのに」
確かにそうかもしれない。でもそんな余裕なんてなかった。こっちも何か言わないと……初対面の人と話すのは難しい。
つかさ「あ、貴女も同じホームに居るけど……」
女性「え……私?」
彼女は黙ってしまった。もしかして私と同じ理由でこの駅を降りた。そんな彼女の姿を思い描いていた。私も吹き出しそうになった。それに彼女は気付いたみたい。
女性「な、にやけて、言っておくけど私は……」
『お客様におきましては大変ご迷惑をおかけしています、只今の情報によりますと〇〇駅での人身事故でけが人の救助に時間がかかっています、復旧の見込みは午後
 6時以降になると思われます、お急ぎの方は……』
またアナウンスが入った。復旧は午後6時、腕時計を見るとまだ午後3時を過ぎたばかりだった。彼女の目つきが元に戻ってしまった。そしてホームの中央の方を向いて
歩き始めた。きっと駅員さんを怒鳴りに行くに違いない。
つかさ「あ、あの〜」
彼女の足が止まった。まさか止まるとは思わなかった。足は止まったけど体はホームの中央に向いたままだった。
つかさ「ど、怒鳴っても何も変わらないような気がする……」
女性「……それじゃ黙っていれば変わるとでも言うの?」
うわ、お姉ちゃんみたいに直ぐに答えを返してくる。しかも逆に質問されちゃった。何も答えられない。
女性「私には時間が無いの、こんな所で足止めしてる訳にはいかないの」
足止め。そうだよ、足止めしなければ良い。
つかさ「それじゃ、歩いて……」
彼女はやっと振り向いた。
女性「歩いて何処まで行けると思っているの……」
彼女は駅の時計を見た。
女性「……歩く……歩くねぇ……悪くない……行くわよ」
つかさ「行くって?」
女性「歩くって言ったのだから責任とって案内しなさいよ」
案内って、そんなの無茶すぎる。でも断りきれそうに無い。
つかさ「何処まで行くのですか?」
女性「〇喜駅まで」
その駅は私の降りるはずだった駅の一つ先。この駅から三つ先の駅だ。
つかさ「やっぱり歩くのはちょっと……バスとかで……」
女性「取りあえずこの駅を出よう、身動きが取れなくなる」
辺りを見回すと乗客がどんどん駅のホームに流れてきている。このままだと人でいっぱいになりそう。私たちは駅の出口に向かった。
女性「そういえば名前聞いてないわね」
歩きながら彼女は話してきた。
つかさ「柊……三年B組の柊つかさ」
彼女は驚いた顔をして私を見た。
女性「三年……には見えないわね、そのリボンがあるからかな……私も三年、A組の峰さおり……」
A組……同じ三年生、隣のクラスだ。でも見たことのない人。峰さんも私を知らなかったみたいだし。これからどうなるのか心配だなぁ〜。

507 :乗り過ごし  4/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:12:52.46 ID:HJFMC2az0

 駅を出て驚いた。バス停に長蛇の列が出来ていた。考える事は皆同じなのか。時刻表を見てもこの時間は一時間に1台くらいしかない。増便があったとしても何台目か後。
バスを待っていたら復旧の6時位になりそうだった。
さおり「ま、こんな所かな、歩くしかなさそうね」
早く帰るならやっぱり歩くしかなさそう。自分で歩くって言ったから……しょうがないよね。私は次の駅を目指して歩き出した。
さおり「ちょ、ちょっと、あんた、何処に行くのよ」
慌てて私を引き止めた。
つかさ「何処って、取りあえず次の駅を目指さないと」
さおり「そっちは反対方向よ、柊さん大丈夫??」
あれ、駅のホームを行ったり来たりしていたから、方向感覚が分からなくなった。私は恥かしくなった。自分の顔が赤くなっているのが分かるくらいに。
さおり「この道を通って行くわよ」
案内するどころか案内されてしまった。私は峰さんの後を付いていった。道を進んでいくとどんどん道が狭く荒れてきていた。
つかさ「あ、あの〜」
峰さんは立ち止まった。私の言いたい事が分かったのだろうか。指を指した。その方向を見ると線路が道と平行に走っている。
さおり「道が間違っているって言いたいのかしら、方向は合っているわ、一応最短距離ね」
方向音痴の私でもこれで理解出来た。
さおり「もう少し色々な所に出歩いて方向感覚を養うのね……しかし今までよく学校に登校できたわね、不思議でしょうがないわ」
つかさ「今までお姉ちゃんに頼りすぎたかな〜」
さおり「やっぱり、兄か姉が居ると思った、典型的な甘えん坊さんだ」
私もそう思っていた。そう思っていたけどはっきり口に出して言われたのは初めてかもしれない。こなちゃんやゆきちゃんもそこまでは言わなかった。
さおり「そのお姉さんはもう大学生、社会人になったのかしら」
つかさ「上のお姉ちゃんは大学生と社会人、あと双子のお姉ちゃんが居るよ」
さおり「ちょっと待って、双子の姉……柊……」
峰さんの歩く速度が遅くなった。
さおり「もしかして柊かがみさんの妹?」
つかさ「うん、お姉ちゃんを知ってるの?」
私は頷いた。峰さんはさらに歩く速度下げて私をじっと見た。
さおり「知ってるも何も一年生の時同じクラスだった……なるほどね〜」
納得されてしまった。やっぱり私はお姉ちゃんのオマケみたいな存在なのかな。そんな考えが私の心の中で廻っていると峰さんの歩きが完全に止まってしまった。
つかさ「どしたの?」
さおり「あれ……」
峰さんの指を指す方を見ると狭い道のど真ん中に大きな犬が寝転がっていた。犬は繋がれている。その綱が長いので庭から飛び出してしまったようだ。
つかさ「犬……シベリアンハスキーだね、可愛いね」
さおり「……そ、そうかな」
峰さんは私の陰に隠れた。もしかして峰さんは犬が苦手なのかな。改めて道に寝ている犬を見てみた。シベリアンハスキー、みなみちゃんの飼っているチェリーちゃんに似ている。
チェリーちゃんより少し大きめかな。チェリーちゃんとは何度も会っているから別段怖くもない。私は犬に近づいた。
さおり「やばいよ、まずいよ、噛まれるよ」
峰さんはその場から一歩も進もうとはしなかった。
つかさ「大丈夫だよ、大型犬は大人しいから」
犬が突然起きだした。私の目の前に立ちふさがった。大欠伸をしてゆっくりと背伸びをして私を見上げた。私と目が合った。
『ウー』
あ、あれ、いきなり唸りだした。尻尾も振っていない。もしかして歓迎されていないかな。私は一歩後ろに後退した。
さおり「こ、この場合はどうするのよ」
犬は牙をむき出しにして威嚇してきた。
つかさ「え、えっとね、逃げる〜」
私は走って逃げた。後から峰さんも付いてきた。20から30メートルくらいは走っただろうか。さすがに全速力で走ると息が切れる。
さおり「大型犬は大人しいんじゃなかったの?」
つかさ「ハァ、ハァ、お、おかしいな、何故だろう、お腹でも空いていたのかな」
さおり「そんな訳ないだろう……ふふ、ふふふ……」
つかさ「えへへ……ふふ、ハハハ……
私たちは笑った。最初はどうなるかと思ったけど、峰さんは良い人だ。そんな気がしてきた。

508 :乗り過ごし  5/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:14:26.98 ID:HJFMC2az0

 犬が居るからこのままあの道は進んでいけない。峰さんは少し戻って幹線道路から行くのを薦めた。その道だと少し遠回りになると言っていた。
どちらにしたって道はよく知らないから峰さんの言う通りに行くしかなかった。犬のおかげなのかな、峰さんは駅で見たような刺々しい感じは無くなっていた。
私たちはお喋りをしながら駅に向かった。私はこなちゃん達の話をした。
さおり「泉さんに高良さんね、B組って面白そうね……でも、担任の先生って黒井先生でしょ、やっぱり窮屈そうだよね、あの先生厳しいし」
つかさ「うんん、黒井先生は一年生からずっと担任だったけど、面白い先生だよ」
さおり「本当かな〜柊さんの話を聞いていると皆良い人……に聞こえるんだけど」
つかさ「だって良い人だよ」
さおり「そうかしら、かがみさんなんか……」
つかさ「お姉ちゃんがどうかしたの?」
さおり「……何でもない……もうそろそろ駅に着く、行こう」
急に峰さんの顔が曇った。そういえば一年生の時、クラスが一緒だったって言っていた。何かあったのかな。

 1時間くらい掛かったかな。駅に着いた。駅の改札口を見てみると乗客で混んでいた。
さおり「状況は変わっていないわね、もう次の駅まで歩くしかない」
つかさ「そうだね……」

509 :乗り過ごし  6/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:15:49.89 ID:HJFMC2az0

 また私たちは線路に沿っている道を歩いて次の駅に向かった。周りを見ると歩いている人が結構いるのに気が付いた。皆も電車で移動するのを諦めたみたい。
30分くらい歩いただろうか。流石に疲れてきた。
つかさ「こんなに歩いたのは夏休みのオリエンテーリング以来なかったよ〜、少し休みませんか?」
峰さんは歩くのを止めた。
さおり「ふぅ、そうね、まだ半分はありそう、少し休もうか」
辺りを見回すと公園があった。
つかさ「公園があるよ、きっと座って休める」
公園の中に入ると思った通りベンチがあった。私達はそのベンチに腰を下ろした。私は最初の駅で買ったジュースを一口飲んだ。そういえば峰さんは会ってから一回も
飲み物を飲んでいない。きっと喉が渇いているに違いない。
つかさ「あの、飲みますか、口を付けちゃってますけど、それとも自販機で買ってきましょうか?」
峰さんは腕を伸ばしてジュースを取ろうとした。
さおり「やっぱり要らない、喉は渇いていない」
峰さんは伸ばした腕を引っ込めた。そして座ったまま峰さんは空を仰いだ。
さおり「今日はお天気で良かったわね、寒くもなく、暑くもなく、歩くには打ってつけ」
つかさ「そうだね、だから私はうとうとしちゃって……」
さおり「ふふふ、乗り過ごした、柊さん、あんたは不思議な人ね、何故私と一緒に歩こうなんて思ったのよ」
峰さんは空を見ながら話している。
つかさ「え、私が言い出した事だし……」
そういえば何故。峰さおりさん。初めて会ったのにどこかで会ったような親近感はあった。ふつうあんな態度でこられたら良い印象なんてないよね。一緒に行動しよう
なんて思わない。でも今の峰さんは違う。話しやすいし、話も結構合うし、一緒に居るだけで楽しい。
さおり「私ね、こう見えても十九歳になのよ」
十九歳、あれ、高校三年生で十九歳、計算が合わない。
さおり「柊さんより一年早く私は陸桜学園に入学した、だけどね……入学して直ぐに大病を患ってね、治療のために登校できなかった、出席日数が足りなくて留年したのよ」
つかさ「留年……ですか」
さおり「そう、だから私の同級生は皆卒業しちゃったわ」
悲しそうな顔。そうだよね。今まで同級生だった人が上級生になっちゃうのだから。
つかさ「お友達、卒業しちゃって寂しいですね」
さおり「友達、そんなの居なかった、二年になっても三年になってもね……治療であまり登校できなかったから……」
しまった。言ってはいけなかったのかもしれない。
つかさ「ごめんなさい」
さおり「いいのよ、私が一方的に話したのだから……柊さんが初めてかもしれない、こんな話をするの、きっと乗り過ごしをした理由を正直に言ったからかもしれない」
そうなのかな。そう言ってくれると嬉しい。
つかさ「それにしてもまだ電車動いていないみたい」
公園から見える線路、こうして休んでいる間に一本も電車は通過していなかった。
さおり「……そうね、さてと、そろそろ行きましょうか」
峰さんは立ち上がった。
さおり「うゎー」
歓声を上げて公園の奥を見ていた。何だろう、私も峰さんと同じ方向を見た。奥はお花畑、コスモスが沢山咲いていた。もう時期が少し過ぎてすこし萎れているのもあるけど
まだまだ鑑賞に堪えられる。そよ風にゆっくりと揺れていて可愛らしい。日も傾いてきて幻想的でもあった。
つかさ「コスモス畑……綺麗ですね」
さおり「私……コスモスが好きなの、もう暫く見ていて良いかな」
つかさ「うん」
峰さんは畑の方に近づいていった。そしてじっとして動かなかった。目に焼き付けているみたいだった。

510 :乗り過ごし  7/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:17:04.48 ID:HJFMC2az0

さおり「待たせたわね、行きましょうか」
あれ、峰さんの目が少し赤いような気がした。まさかあのコスモス畑を見て泣いていた。綺麗なお花畑だけど、泣くほどの景色かな。日が落ちてきているから赤く見えただけかも。
公園の出入り口に差し掛かった。道の端にコスモスが咲いているのを見つけた。
つかさ「こんな所に咲いていますよ」
さおり「本当だ、きっと種がこぼれたのかもね」
つかさ「ここに咲いているのなら一輪くらい持っていっても大丈夫かも」
私はコスモスに手を伸ばした。
さおり「止めて」
手が止まった。
つかさ「え、一輪持って帰って飾ればいいかなって思って……峰さんの部屋にでも」
さおり「摘んだらその花はもう終わり、持っても数日で枯れちゃうわ、そのままにすればもっと長い時間咲いていられる、花が終わっても実をつけて次の花を咲かすわ」
なんだか摘むのが可愛そうになってきてしまった。
つかさ「そ、そうだよね、このままの方が良いかも」
花をそのままにして公園を後にした。

公園を出てから峰さんはあまり話さなくなってしまった。どうしたのだろうか。
『ポー』
この音は、線路の方からだ。
『カタン、カタン』
聞こえる、線路を進む車輪の音。どんどんこっちに近づいてくるのが分かる。
つかさ「峰さん、電車動いたみたいだよ、次の駅で、○宮駅で乗れるよ」
そう言っていると。電車が私たちを追い抜いて行った。あっと言う間だった。最初の駅で待っていればあの電車に乗れていたのかもしれない。
でもあの駅で待っている時間とこうして峰さんといる時間だったら、こっちの方が楽しくていい。
つかさ「もう少しで駅に着くよ、そうしたら……」
さおり「……そうしたら、お別れだね」
峰さんは立ち止まってしまった。私も立ち止まった。
つかさ「お別れって、確かに私の家は近いけど……明日学校で会えるし」
さおり「ごめん、私、明日から会えない」
つかさ「どうして?」
さおり「私、明日から入院するの、また病気が再発しちゃってね、それでもう一度電車に乗ってみたかった」
つかさ「入院って、病院はどこですか」
さおり「〇〇病院」
つかさ「それなら、明日の放課後お見舞いに行くよ」
さおり「入院したらもう二度と出られないような、そんな気がするの、だから来てもらっても……」
つかさ「大丈夫だよ、きっと良くなるよ」
急に峰さんの目つきがきつくなった。
さおり「大丈夫……前もそう言ったわね、なによ、犬の行動もろくに分からなかったくせに、何が大丈夫よ、無責任な事言わないで!!」
同じだ、駅員に食って掛かっていた時と同じ。電車が止まっていたから駅員に怒っていた。そうだったのか。峰さんは入院する前に色々見て見たかったのか。
理由が分かればどんなに怒っていても怖くない。
つかさ「辛い気持ち分かるよ、でも二度と出られないなんて言ったらダメ、退院できるって言わないとね……良い事言うと良い事があるから」
さおり「何よ、それ」
つかさ「言霊って言うの、言葉には力があって、悪い事を言うと悪い事、良い事があると良い事が起きるの」
さおり「言霊……そんなの迷信よ」
つかさ「私の家はね、神社だから信じるも信じないもないよ、お仕事だからね、楽しいことを考えていればきっと良くなる、うんうん」
さおり「何、何よその笑顔、これから死ぬかもしれない人に向かって笑うなんて……私とこれ以上付き合っても死ぬだけ、このまま別れた方がいい」
笑っていれば死神だって逃げていくよ。峰さんはまだ死んではいけない。花一輪にあんなに優しくできるなんて凄いよ。
つかさ「出会いがあれば何時かは別れがくるよね、私の友達や家族だって……そんなの気にしていたら付き合えないよ」
さおり「ふふ、あんたは優しいわね、お姉さん、かがみさんの影響かしら?」
笑った。やっぱりこうでなくちゃね。私達は歩き始めた。そういえばさっきお姉ちゃんの名前が出た。ただの知り合いとも思えないけど……

511 :乗り過ごし  8/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:18:41.15 ID:HJFMC2az0

つかさ「駅までもうすぐだよ」
もうここまで来れば私でも道が分かる。住み慣れた町並み。私たちは歩き出した。駅に向かって。
考えたけど、やっぱり峰さんはお姉ちゃんと友達みたい。でもお姉ちゃんと峰さんが友達だったら私に紹介するはず。今まで何も私に言わなかったのはどうしてだろう。
喧嘩でもしたのかな。峰さん、結構短気みたいだし……でも今は峰さんに聞けないな。とは言っても入院したら余計聞きにくいし。帰ったらお姉ちゃんに聞こうかな。

やっと駅に着いた。もう日はすっかり落ちて暗くなっていた。
駅はまだ少し客が溢れている。私はこのまま歩いて帰れるけど。峰さんはまだもう一つ先の駅に行くって言っていた。ホームまで送ろう。
つかさ「峰さんやっと駅についたよ、ホームまで送る……あれ?」
さっきまで居たはずの峰さんが居なかった。辺りを見回したけど見つからなかった。もう駅に入ってしまったみたい。一言言ってくれれば良いのに。
あっ、携帯の電話番号聞くのを忘れていた。でもいいや、入院する病院の名前も聞いたし。明日また会えるから、私も帰ろう。
かがみ「おーい」
お姉ちゃんの声だ。駅の改札の方から聞こえてきた。
かがみ「おーい、こっち、こっち」
何処だろう。キョロキョロと首を振ってお姉ちゃんを探した。人ごみで分からない。気付くと私の直ぐ近くに居た。
かがみ「全く、どこ見てるのよ」
つかさ「お姉ちゃん」
かがみ「ん、つかさ、制服のままじゃない、やっぱり人身事故に巻き込まれたみたいね」
つかさ「お姉ちゃんも?」
かがみ「会議は終わらないし、駅に着いてみれば人が溢れてるし、もう散々だったわ、上りのみゆきはもっと大変だろうけどな」
ぐったりした仕草をした。お姉ちゃんの髪が少し乱れているような気がする。普段乗る電車で満員になる事ってそんなにある訳じゃないから想像もつかない。やっぱり
乗らなくて良かったのかもしれない。
つかさ「大変だったね」
私達は自然と家に足を向けた。
かがみ「つかさは?」
つかさ「私、私はね〜」
峰さんと歩いた光景が頭に浮かんだ。
かがみ「……何よ、何か楽しいことでもあったのか、何時になく笑顔が輝いて見える……ま、まさか、彼氏でも出来たって言うんじゃないでしょうね」
つかさ「うんん、そんなんじゃないよ、だけどね、とっても良い人に出会った」
かがみ「良い人ね〜つかさの良い人はあてにならないからな」
つかさ「えっとね、私、居眠りしちゃってね……」

512 :乗り過ごし  9/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:20:02.57 ID:HJFMC2az0

 夢中になって話をした。だけど家に帰るまでに全ての話は出来なかった。お姉ちゃんも興味があったみたい、続きを聞きたいと言ったので食事を終えたらお姉ちゃんの
部屋で話をする事になった。犬の話はお姉ちゃんも大笑いをした。最後の公園の話はしんみりとなった。
つかさ「……そしたらお姉ちゃんが来たの」
話が終わるとお姉ちゃんは腕を組んで私を見た。
かがみ「それで、その人って誰なのよ、つかさはこういった話になるといつも真っ先に名前を言うわよね、もったいぶってないで教えなさいよ」
さすがお姉ちゃん、私がわざと名前を言わないのを分かっている。もしかしたら誰だか分かるかもしれないと思った。でもお姉ちゃんは分からなかった。ちょっと寂しかった。
名前を言ったらどんな反応するのかな。期待と不安が膨らんだ。
つかさ「三年A組の峰さおりさんだよ」
お姉ちゃんは一瞬目を見開いた。そして腕組みを解いた。
つかさ「知ってるでしょ?」
私は答えを急がせた。
かがみ「知ってるわよ、一年の時同じクラスだった、よく病欠するから何度か書類を家まで持って行った事もあった、学級委員としてね……でも、留年していたなんて聞いてない、
    一年の三学期のテストで全学科満点を取ったから、まさか留年していたなんて……そんな事より」
お姉ちゃんは私をマジマジと見つめた。
かがみ「よくあんな癖のある子とそこまで話せたわね、よく周りで言い合いの喧嘩をしていたわ、頭の回転が速いから誰も勝てなかった、そのせいで話し相手も居なかったみたい」
つかさ「そんな事ないよ、お姉ちゃんみたいに怒るけど、お姉ちゃんみたいに怒る理由がはっきり分かるから全然怖くないし、お姉ちゃんみたいに優しいし、面白いし……」
かがみ「いやいや、ちょっと待て」
お姉ちゃんは腕を前に出して手を広げて私の話を止めた。
かがみ「何故何度も私みたいって付けるのよ」
つかさ「だって、お姉ちゃんと話すのと同じようにしたらどんどん話すようになったから」
かがみ「私とあいつが同じだって……」
急に悲しい顔になった。
つかさ「お姉ちゃんと峰さん、友達なの?」
かがみ「何度か言い合ったかしらね……お昼も何度か食べた程度よ、さおりは二年からは別のクラスになった、それから疎遠になったわ……」
お姉ちゃんは立ち上がり机に座った。
かがみ「悪いわね、これから宿題しないといけないから」
つかさ「明日入院するって言ったよね、お姉ちゃんは行かないの?」
かがみ「だから言ったでしょ、疎遠になったって」
お姉ちゃんは鞄からノートを取り出して開いた。教科書と辞書を取り出し勉強をしだした。もう一度聞き直そうとしたけど止めた。私はそのまま自分の部屋に戻った。

「さおり」ってお姉ちゃんは言った。お姉ちゃんが名前で呼ぶのは親しい人だけ、やっぱり峰さんはお姉ちゃんと親しかったに違いない。
クラスが違っただけで疎遠になるかな。それならこなちゃんやゆきちゃんだってクラスは違うし、理由にならないよね。やっぱり喧嘩をしている。それしか考えられない。
仲直りさせないと。でもどうやって。それにはもっと峰さんと話さないと。明日のお見舞いには何を持っていこうかな。峰さんが喜びそうな物って。
コスモスの花が好きだった。そうだ花がいい。あっ、ダメダメ、生花だと怒られるよね。どうしよう。生花がだめなら造花を送ればいいかもしれない。
作るときに祈りを込める事もできる。そうだよ。コスモスの造花を作ろう。
確か中学生の時造花を作った。その時の材料を押入れにしまってある。押入れを開けて奥から造花の材料を取り出した。これだけ有れば足りるかな。
材料を机に置いて花の形を取ろうとした。コスモスってどんな花だっけ。遠くから沢山の花が咲いているのは良く見るけど一輪を細部まで見るなんてあんまりしない。
写真があるといいけど。そんな都合よくあるはずも無い。私はパソコンを立ち上げコスモスの入力してみた。
出てきた。私はそこから一番綺麗に撮れている写真を探しそれをモデルにして造花を作った。

513 :乗り過ごし  10/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:21:16.76 ID:HJFMC2az0

『コンコン』
かがみ「いつまで寝てるのよ、起きなさい」
ノックと同時にお姉ちゃんの声だ。
つかさ「う〜ん」
椅子から起き上がり大きく背伸びをした。ドアが開きお姉ちゃんが入ってきた。
かがみ「ちょっと、いつまで寝て……つかさ、あんた、パジャマも着ないで……徹夜していたのか」
眠い目を擦りながら作った。造花を作るのは中学の時に少しかじった位だからなかなか思うようにいかなかった。作った造花をお姉ちゃんに見せてみた。
つかさ「何の花に見える?」
かがみ「コスモスじゃない、良くできているわよ」
やった、コスモスだって分かってもらえただけで大成功。本当は何本も作りたかったけど一輪しか出来なかった。
かがみ「もしかして、その造花をお見舞いに持っていくのか」
つかさ「うん、そうだよ、峰さん、生花だと喜んでくれそうにないから」
かがみ「たった一日、いや、数時間しか会っていないのに、よくやるわ」
感心しているようにも、呆れているようにも見えた。
つかさ「お姉ちゃんも一緒にお見舞いに行こうよ、暫く会っていないのなら、きっと喜ぶよ」
昨夜は言えなかったけど、もう一度誘ってみた。お姉ちゃんの雰囲気が良かったから。お姉ちゃんは造花をじっと見つめていた。
かがみ「そうね……」
小さく、呟くように頷いた。
つかさ「ありがとう、それじゃ、こなちゃんやゆきちゃんも」
かがみ「こなた達はまだ話も知らないだろう、それに大勢で押し掛けるのはマナー違反よ、今日は私達だけで」
つかさ「そうだね」
造花を包装紙に包んで鞄の中にしまった。
かがみ「それより、目元が汚れているわよ、髪もボサボサじゃない、昨夜お風呂に入っていないでしょ、沸かしてあるからさっさと入ってらっしゃい」
つかさ「はーい」

こなた「おはよー」
つかさ「おはよう」
こなた「それにしても昨日の人身事故は酷かった〜つかさはどうだった?」
つかさ「昨日はね〜」
お姉ちゃんと別れて教室に入ると珍しくこなちゃんが先に教室に居た。こなちゃんの質問になんて言おうか戸惑ってしまった。
こなた「おかげでバイトには行けないし、帰りも遅くなっちゃったし、家に帰ったらゆーちゃんの気分が悪くなって連絡が来て駅まで迎えに言ったし……」
つかさ「私は、電車の中で寝過ごしちゃってね……」
続きを言うのを躊躇った。今日は二人だけでお見舞いに行く。そうお姉ちゃんが言ったから。今、峰さんの話をして、もし、こなちゃんも行きたいって言ったら断り切れない。
つかさ「……二駅も乗り過ごしちゃった、歩いて帰るのが大変だったよ」
これ以上先はいえない。
こなた「それは大変だったね」
みゆき「おはようございます」
つかさ・こなた「おはよう」
ゆきちゃんにも同じ理由で峰さんの話が出来なかった。もしかしたらお姉ちゃんは私に話すなって言いたかったのかな。
何か煮え切らない、モヤモヤした感じが一日中続いた。

514 :乗り過ごし  11/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:22:24.90 ID:HJFMC2az0

こなた「つかさ、帰ろう」
つかさ「あ、今日はお姉ちゃんと約束があるから……」
こなた「そうなんだ、それより今日は何回先生に居眠り注意された……2…3……4回も、私でもそこまではしないよ」
指折り数えるこなちゃん、特に午後からの授業は目に鳩が何羽もとまっているくらいまぶたが重かった。
こなた「つかさでも眠れないような悩みでもあるのかい?」
つかさ「え、悩みなんかないけど……」
どうしよう、なんて言おうかな。
こなた「ん、つかさ、かがみが来たよ」
かがみ「つかさ、行くわよ」
お姉ちゃんが教室の出入り口に居た。そして教室の中に入ってきた。
かがみ「途中までだけど、一緒に帰るか?」
こなた「ん〜今日は止めておくよ、つかさは眠そうだし、かがみもなんか元気ないから」
かがみ「悪いわね、先に帰らせてもらうわよ」
こなた「謝る必要なんかないよ、またね〜」
わたし達はこなちゃんと別れた。

かがみ「おーい、起きろ〜」
お姉ちゃんの声で目が覚めた。
かがみ「もうすぐで着くわよ」
お姉ちゃんが起こさなければまた乗り過ごす所だった。眠い目を擦り、背伸びをした。
つかさ「やっぱりお姉ちゃんが居ないと私はダメだよ」
かがみ「私にもたれかかっていたわよ、でも、徹夜してるからしょうがない」
お姉ちゃんの口調が静だった。こなちゃんの言っていた元気がないってこれの事なのか。
電車を降り、改札口を出た。確か○○病院は改札口を出て右だったかな。
かがみ「ちょっと、つかさ、どこに行くのよ」
つかさ「どこって、○○病院だよ」
かがみ「そっちは反対方向じゃない、なにやってるのよ、こっちの道を真っ直ぐでしょ」
またやってしまった。私の方向音痴は重症かもしれない。
かがみ「普段から出かけて方向感覚を養いなさい」
全く同じだった。峰さんと同じセルフをお姉ちゃんから聞けるとは思わなかった。
かがみ「なによ、さっきから人の顔をジロジロと……」
つかさ「だって、峰さんと全く同じ台詞を言うから、この話はお姉ちゃんには言ってないから、シンクロ率が高いなって……てね」
かがみ「そんなに褒めても何も出ないわよ」
お姉ちゃんの顔が真っ赤になっていた。照れているのかな。でも、一つ分かった事があった。
つかさ「やっぱりお姉ちゃんは峰さんの事を尊敬してるんだね」
かがみ「なっ、何故そんなのが分かる?」
つかさ「だって、私はお姉ちゃんと峰さんが似てるね、としか言ってないから、それなのに、お姉ちゃんは褒めていると思ってる」
かがみ「こなたじゃあるまいし、そんな分析なんかするな」
お姉ちゃんの歩く速度が上がった。私も追いかけるようにお姉ちゃんの後を付いていった。

515 :乗り過ごし  12/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:24:16.85 ID:HJFMC2az0

 病院に入り受付を済ませ病室に向かった。
つかさ「803号室だったよね、個室だから周りの患者さんに気を使わなくていいよね」
かがみ「そ、そうね」
病室に近づくとお姉ちゃんの歩みがどんどん遅くなっていった。
かがみ「つかさ……」
つかさ「なあに?」
かがみ「やっぱり帰りましょ……」
もう病室は目の前だった。お姉ちゃんは病室から5歩くらい離れて止まった。入り難い様子だった。やっぱり喧嘩をしていたに違いない。こんな時って気まずいからね。
つかさ「ここまで来てそんな事言ったらダメ、入っちゃえば何とかなるよ、私が先に入るから」
ドアをノックして笑顔で病室に入った。
つかさ「峰さん、お見舞いに来たよ〜」
入ってすぐに私の知っている人が二人居た。日下部さんと峰岸さんだった。
みさお「柊の妹……じゃないか、なんで……」
驚いた様子で二人は私を見ていた。二人はずっとお姉ちゃんと同じクラスだったから一年生の時峰さんと同じクラスだった。そんなのは直ぐに分かる。
二人はなんでそんなに驚いているのな。私は二人の間を通り抜け病室の奥に向かった。
つかさ「峰さ……え?」
何か変だよ。ベッドに横たわる峰さんの横には見たことの無い機械がズラリと並んでいた。その機械からチューブがいっぱい峰さんへと向かっていった。
口には大きなチューブが深々と入っている。峰さんは目を閉じていて動く気配すらなかった。今日から入院するにしてはあまりにも重篤だった。昨日は二駅も歩いたのに。
つかさ「み、峰さん?」
私の声に全く反応はなかった。機械が正確にリズムを刻んで何かをしている音しか聞こえない。
つかさ「どうしたの、ねぇ……」
かがみ「問いかけても無駄よ」
後ろからお姉ちゃんの声、だけど振り向けなかった。私は横たわる峰さんをただ見ていた。
かがみ「彼女は、もうこうして半年も経つのよ……」
お姉ちゃんの声が震えている。
つかさ「う、嘘だよ、昨日、駅員さんに怒鳴っていたよ、私と一緒に歩いて帰った、この目で見た」
かがみ「機械を止めれば彼女は数分で……もう分かったでしょ、つかさ……」
分からない、何にも分からない。分かっているのは峰さんがベッドに寝ている姿だけだった。
つかさ「お、起きて……昨日は一緒に歩いたって言って……峰さんが居なかったら次の駅だって行けなかった……」
峰さんは何の反応も無かった。無機質な機械の音だけがしていた。
つかさ「う、うわー」
もう見ていられない。何か言いたかったけど叫び声に変わってしまった。私は病室を飛び出した。お姉ちゃん達が止めたような気がしたけど構わずそのまま走って飛び出した。
真正面しか見えない。周りの音も聞こえない。数時間だったけど私は峰さんに会った、一緒に歩いた、お喋りもした、そして友達になった。それなのに……そんなの無いよ。

516 :乗り過ごし  13/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:25:31.03 ID:HJFMC2az0

 気付くと駅の改札口の前に立っていた。病院から道一本だから私でも辿り着ける。吸い寄せられるように切符を買って駅の中に入った。帰ろう、もう峰さんの事は考えたくない。
駅のホームでベンチに座って電車を待った。だけど時間になっても電車は来なかった。
『お客様に申し上げます、只今、信号トラブルにて全線で運転を見合わせていただきます、重ねて申し上げます……』
昨日に引き続き電車は来ない。流石に今度ばかりは歩いて帰れる距離ではない。信号が直るまで待とう。
アナウンスが終わると列に並んで電車を待っている客の中から一人、また一人と駅の改札に向かう。きっとバスやタクシーに乗り換えるのかもしれない。
列から少し外れて話し合う人、携帯電話をかける人、私と同じようにベンチに座る人、新聞や本を読み始める人……同じ出来事なのに反応は皆違う、私はそんな光景を
ぼんやりと眺めていた。
「ちょっと、どうなっているのよ、昨日といい、今日といい、いい加減にしてよね!!!」
女性の甲高い声が響いた。峰さん……私は声のする方を向いた。そこにはOL風の女性が駅員さんに食って掛かっていた。
女性「いつになったら動くのよ、はっきりして」
駅員「い、今の所、調査中でして、復旧の見込みは当分さきだと……」
凄い権幕だ。峰さんと勝るとも劣らない迫力、駅員さんは必死に対応していた。その様子を遠目で客が見ている人だかりが出来ていた。
そうか、そうなのか。私はその時気が付いた。駅員さんは峰さんの怒鳴り声が聞こえていなかった。姿も見えていなかった。だから無視しているように私には見えていた。
お客さんも気付く訳はない。私の会っていた峰さんは幽霊みたいなものだったのかもしれない。
犬に吠えられたのも私に吠えたのではなく、私の陰に隠れていた峰さんを吠えていた。私の飲みかけのジュースを断ったのはジュースを持つ身体が無かったから受け取れないから。
私は幽霊さんと会っていた。全然恐くない幽霊さん。霊感も超能力も無い私がなぜ見えたのかな。もうそんなのも興味が無くなった。
私がコスモスを摘もうとしていたのを止めたのもきっと、正体を隠すために適当に言ったに違いない。徹夜までして作った造花……もう峰さんの事は考えないって決めたのに、
まだ私は考えている。もう忘れよう。たった数時間の夢だった。そうだよ、夢。これは夢なんだ。

517 :乗り過ごし  14/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:26:53.88 ID:HJFMC2az0

かがみ「やっと見つけた、いきなり飛び出してビックリしたわよ」
見上げるとお姉ちゃんが立っていた。お姉ちゃんは携帯電話を取り出してかけた。
かがみ「……もしもし、日下部か、見つけたわよ」
……
かがみ「うん、もういいわ、病院に戻ってもいいわよ、ありがとう、峰岸にもそう伝えておいて」
……
かがみ「……私はつかさと一緒に帰るわ……うん、うんん、いいの、私が居たって………」
……
携帯電話から日下部さんの声がまだ出ているのにお姉ちゃんは電話を切った。溜め息を一回ついた。そして私の直ぐ隣に座った。
かがみ「別に隠すつもりはなかった」
つかさ「いいの、帰っちゃって、峰さんの所に戻らなくて」
かがみ「……電話の話ね、良いのよ……」
それからお姉ちゃんは黙ってしまった。私も何も話すつもりはなかった。お姉ちゃんと二人でこんなに静かなのは初めてかもしれない。
かがみ「峰さおり、私が一年の時にクラスが一緒でね……」
お姉ちゃんは私を見ずに話し出した。私も駅の乗客を見ながら聞いた。
かがみ「性格は、つかさの言うように私に似ているわね、学級委員になった私の意見をいつも反対して口論ばかり、それでも何故かが気は合ってね、お昼休みや
    放課後なんかはお話をしたりして楽しんだわ、日下部と峰岸も自然に会話に入るようになった」
つかさ「でも、私は本当の峰さんを知らない……」
そんなに仲が良かったら私に紹介して欲しかった。ちょっと皮肉を込めて言った。
かがみ「……私は幽霊とか幽体離脱なんかは信じない、昨日つかさが会った人が誰かなんて興味はない、でもね、つかさの話を聞いていたらさおりを思い出してね、
    まさかとは思ったけど、名前を聞いて愕然としたわ……」
つかさ「私が会ったのは峰さんの幽霊だよ……」
かがみ「幽霊か……」
お姉ちゃんはまた黙ってしまった。
『お客様に申し上げます、信号のトラブルは依然復旧の見通しが立ちません、お急ぎの方は……』
またアナウンスが響いた。今まで並んでいた客も一斉に改札口の方に向かって行った。電車は当分来そうにない。
かがみ「つかさ、さおりはどうだった、変わりはなかった?」
今度は私の顔を見て話をしだした。
つかさ「お姉ちゃんは幽霊を信じていないよね、どうしてそんなの聞くの、それに変わっていたって聞かれても答えられない、変わる前を知らないから」
かがみ「そうよね、そうだった……さおりは一年の後半で病に倒れてね、二年になってからは殆ど登校していない、三年A組とはなっているけど形だけ……私は暫く彼女の
    声を聞いていない、二年は入退院の繰り返し、お見舞いに行ってもどんどん病状は酷くなるばかり、三年になってからは殆ど病院よ……つかさ達にも紹介したかった、
    もっと話がしたかった……つかさが羨ましい、留年していた話も、好きな花がコスモスって話も私は知らなかった、つかさより時間はたっぷりあったのに……」
何だろう、お姉ちゃんがこんなに感情を込めて話しているなんて。怒っている時以外はいつも冷静なのに。
つかさ「そんなに大切な人なら、病院に戻った方がいいよ」
私もお姉ちゃんの方を向いて話した。お姉ちゃんは俯いてしまった。そして肩が震え始めた。
かがみ「今夜、さおりの家族の立会いの下で維持装置の電源を切るそうよ」
つかさ「電源を切るって、顔色も良かったし……どうして……」
かがみ「もう充分だからって、ご家族の判断よ、電源を止めて自力で呼吸をしなければ……もう終わり、終わりなのよ、そんなの私……見ていられないよ……うう、
    つかさ、私、どうすれば良い、病院に戻っても、このまま帰っても、彼女を救うことなんか出来ない、どうすることも出来ない……」
俯いたお姉ちゃんの顔からぽたぽたと涙が零れるのが分かった。膝の上に置いた手の甲に何滴も涙が落ちた。
峰さんの言ったお別れってこの事だった。峰さんは私ではなく、お姉ちゃんにお別れを言いたかった。そんな気がした。お姉ちゃんに会いたかったけど幽霊を信じない
お姉ちゃんじゃ峰さんは見えない。だから私に会って、私を通してお姉ちゃんにお別れを言いたかった。
それならお姉ちゃんはこんな所に居ちゃいけない、もちろん私も。お別れはお婆さんになってからだよ。
峰さん、これからお姉ちゃんを連れて行くよ、お別れじゃなく、お見舞いでね。私は幽霊じゃない峰さんに会いたいから。

518 :乗り過ごし  15/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:28:18.81 ID:HJFMC2az0

つかさ「お姉ちゃん、病院に戻ろう、私も行かないといけないし」
お姉ちゃんは俯いたまま肩を震わせてまだ泣いていた。
かがみ「こ、この期に及んで、何をするの……」
つかさ「お姉ちゃん、泣くのは峰さんが亡くなってから、峰さんはまだ生きているよ、だから行って元気付けないと」
お姉ちゃんは顔を上げて私を見た。目が真っ赤で鼻も出ている。
かがみ「つかさ、見たでしょ、あの状況で何を元気付けるのよ」
つかさ「大丈夫だよ、きっと元気になるって言えば良い、あとは笑顔でいれば病気なんかどっか行っちゃうよ」
私はにっこり微笑んだ。
かがみ「大丈夫……もしかして言霊の事を言っているのか」
つかさ「そうだよ」
かがみ「ふざけるな、そんなの私は信じない……」
つかさ「信じる、信じないじゃないよ、家は神社でしょ、お仕事だから、お姉ちゃんだってお守り誰かに売ったでしょ、それと同じだと思って」
お姉ちゃんは私をじっと見ている。
つかさ「峰さんの病気は治る……はい、言って」
かがみ「さ、さおりの病気は治る」
棒読みで全然感情が籠もっていない。
つかさ「そんなんじゃダメだよ、そうだね……一年の時、峰さんと一緒で楽しかった時の事を思い出して、もう一度」
かがみ「あけみの病気は治る、そして病院を退院する。また一緒に語り合う……」
今度は違う。今度は祈るように一言、一言、に心が籠もっている。
つかさ「どう、病院に行きたくなったでしょ?」
かがみ「そうね……確かにさおりはまだ生きている」
お姉ちゃんは立ち上がった。
つかさ「あっ、その前にお手洗いに行かないと、お姉ちゃんのその顔……凄いよ」
かがみ「わ、分かってるわよ……」
私達は駅を降りて病院に向かった。

519 :乗り過ごし  16/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:29:31.26 ID:HJFMC2az0

 病室の前に私達は着いた。でもお姉ちゃんはドアを開けようとはしなかった。
かがみ「……出来ない、笑顔で入るなんて、やっぱり出来ない」
折角顔を洗ったのに目が潤み始めた。
つかさ「無理はしなくていいよ、峰さんの回復だけを祈ってて、それだけでもいいよ、私は峰さんに渡すものがあるから」
私はドアをノックして病室に入った。
日下部さんと峰岸さんが私たちを見て驚いた。
みさお「柊の妹、柊も、帰ったんじゃなかったのか?」
つかさ「そう思ったけど、私は峰さんに用事があるから」
日下部さんと峰岸さんは首を傾げた。
あやの「用事って、妹ちゃん、峰さんといつ知り合ったの?」
みさお「そうそう、どう考えたっておかしいぞ、会う機会なんてあるはずない」
つかさ「昨日会ったばかりだけどね」
みさお・あやの「えぇ??」
二人は顔を見合わせて驚いていた。二人には後でゆっくり話そう。私は峰さんの寝ているベッドへと近づいた。
つかさ「こんにちは、昨日ぶりだね、逃げちゃってごめんね、だってこんなになっているなんて思わなかったから、驚いちゃったよ、ちゃんと言ってくれれば良かったのに」
鞄の中から造花を取り出した。
つかさ「生花じゃ嫌がると思って、作った造花、峰さんの好きなコスモスだよ」
造花を峰さんの目元まで持って行った。目を閉じているから見えないのは分かっていた。だけど見て欲しかったから。
つかさ「それじゃ、病室の窓際に飾っておくから」
造花を窓際に持って行こうとした時だった。私の腕を掴んで止めた。その手は峰さんだった。峰さんを見ると目を開いて私を見ている。掴んでるけど力は弱弱しい。
口にチューブを付けているから喋られない。だけど何を言いたいのか分かった。私を掴んでいる手に造花を手渡してあげた。
造花でも重そうに手を震わせながらゆっくりと胸元まで持ってきてまた目を閉じた。お姉ちゃんが飛び込むように近づいてきた。
かがみ「さ、さおり、分かる、私が分かる、ねぇ」
峰さんは目を閉じながらゆっくりと頷いた。
かがみ・みさお「さおり……」
あやの「峰さん……」
三人はベッドを囲うようにして何度も名前を呼んでいた。三人とも目には涙がいっぱいに溜まっていた。私も貰い泣きしそうになってしまった。
同じ泣でも嬉し泣きは良いよね。今はお姉ちゃん達の再会を優先しよう。私はゆっくりベッドから離れて病室を出た。
すると数人の人が私と入れ替わるように病室に入って行った。きっと峰さんの家族に違いない。暫くすると歓喜の声がドアの隙間から聞こえた。
そのまま待合室でお姉ちゃん達を待った。
その夜、私達は最終電車で家に帰った。


520 :乗り過ごし  17/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:30:51.09 ID:HJFMC2az0

かがみ「おーい、こなた帰るわよ」
放課後、お姉ちゃんが私の教室に入ってきた。
こなた「ちょっと待って、今重要なところだから」
お姉ちゃんは周りを見回した。
かがみ「何が重要な所なのよ、全く分からん」
こなた「それで、この場面ではどうするの?」
さおり「この選択肢では『大好き』を選んだらダメだから、バットエンドになるわよ」
こなちゃんは必死にメモを取っていた。
かがみ「何を話してるの?」
質問に答えない。話に夢中になっている。私が代わりに答えるかな。
つかさ「なんでもクリアできないゲームがあって、それについて教えてもらってるみたい」
かがみ「う〜ん、まさかこなたとそこまで息が合うとは思わなかった」
するとゆきちゃんが、スーっとお姉ちゃんの間に割り込むように入ってきた。
みゆき「すみません、ここの公式のYの意味が分からないのですが……」
さおり「あ、ここね、ここはね……」
峰さんはゆきちゃんになにやら呪文のような話をしだした。ゆきちゃんは頷きながらメモを取っていた。後から聞いた話だけど大学の予習をしていて分からない所があったって。
ゆきちゃんでも分からない所があるのだと驚いたけど、峰さんがその内容を知っていて更に驚いた。病院では何もする事がないので、ゲームや読書を沢山したからって
峰さんは言っていた。だからゲームも勉強も凄く詳しくなってしまったらしい。
あの時、意識が戻ってから見る見る病気は良くなった。止まっていた治療も再開して、峰さんは一ヶ月前に退院した。病気は治った。体力はまだ回復していないので
よく保健室のお世話になっていた。退院してすぐにこなちゃんとゆきちゃんを紹介した。すぐに意気投合、仲良くなった。

完全に蚊帳の外に追いやられたお姉ちゃん。私もこなちゃんちゃゆきちゃんの話に付いていけない。
かがみ「ふぅ、私の質問なんか眼中にないのか、これならさおりを紹介するんじゃなかった」
私の座っている席の隣に座って呟いた。
つかさ「そうかな、賑やかになって楽しいよ」
私は楽しそうに話している峰さん達を見ながら答えた。
かがみ「まだつかさに聞いてなかったわね、何故、さおりの意識が戻って直ぐに病室をでたの?」
つかさ「お姉ちゃん達が嬉しそうだったから……」
かがみ「それだけで」
つかさ「うん」
お姉ちゃんは溜め息をついた。
かがみ「ばかね、ああゆう時は独占しちゃっていいのよ、もうそろそろ欲を出してもいい頃だと思う、いつまでも爪を隠してばかりで使わないと取れるわよ」
つかさ「爪?取れる……何の事?」
かがみ「能ある鷹は爪隠す、知らない?」
つかさ「知っているけど、それがどうかしたの?」
お姉ちゃんはまた溜め息をついた。
かがみ「つかさ、あんたは何をしたのか分かってるの、奇跡とまでは言わない、でも、誰もできなかった事をした、そう思わない、さおりの命を救った、言霊を心理的に
    利用してね、無意識にしたとしても正解だったわよ」
つかさ「私は何もしていない、出来たのはお姉ちゃんを病院に戻しただけだよ、峰さんの命を救ったのはコスモスの花だよ」
かがみ「コスモス、つかの作った造花ね」
つかさ「うんん、道路脇に咲いていた、私が摘もうとして峰さんが止めて助けたコスモスの花」
お姉ちゃんは微笑んだ。
かがみ「つかさらしいわね……でも、それも在りかな、私達人間に人の生死は制御できない」
お姉ちゃんの言っている意味が難しくて分からなかった。

521 :乗り過ごし  18/18 [saga sage]:2011/10/25(火) 00:32:15.20 ID:HJFMC2az0

 気付くと、いつの間にか日下部さんと峰岸さんが峰さん達の会話に加わっていた。
こなた「おまたせ、かがみ帰ろうか」
今度はこなちゃんが話題に付いていけなくなったみたい。
かがみ「今更遅いわ、つかさと色々話していたら、もう少し居たくなった」
こなた「えー、つかさはかがみと同居でしるから何時でも話せるでしょ」
かがみ「ここに、こうして居る時間は今しか無いわよ、今は話をしていたいのよ」
こなた「えー、約束の買い物は〜」
こなちゃんは口を尖らせて怒った。
かがみ「買い物こそ、何時でもできるじゃない」
こなた「限定品があるんだよ、そこには今しか買えない物もあるんだよ」
かがみ「買い物ってそっちかよ、付き合いきれんわ、どうせ私のポイントが狙いなんで……ん?」
クスクスと笑い声が聞こえた。皆はお姉ちゃんとこなちゃんを見ていた。
みさお「さおり、あれが名物の柊とちびっ子の喧嘩だ」
さおり「ふふ、聞いているのと見るのとでは違うわね……」
二人の言い合いが止まった。二人の顔が真っ赤になった。
さおり「あら、いいのよ、気にしないで続けて」
ふざけ半分でからかう峰さん。
かがみ「う、うるさい、見世物じゃない!!」
お姉ちゃんの怒号が飛び交って暫く沈黙が続いた。そして一斉に皆で爆笑をした。

かがみ「まったく、何が名物よ、日下部、部活はどうしたんだ」
まだちょっと怒り気味のお姉ちゃん。
みさお「もう部活はない、明日から自由登校だろ」
あやの「そうね、もう私達、卒業だから……」
皆の顔が急に沈んでしまった。
さおり「なに皆沈んでいるのよ、私の身にもなってよ……私はね、私はもう一度……」
え、まさか、また病院に戻るの、そんなの嫌だ。せっかく助かった命なのに……
さおり「私はもう一度、三年生をやり直すのよ、昨日先生に言われたわ、流石に日数半分以上欠席じゃしょうがない」
つかさ「よかった!!」
かがみ「バカ、何が良かったのよ、失礼よ」
お姉ちゃんが慌てるように私を叱った。私は峰さんの留年を喜んだわけじゃないのに……
さおり「ふふ、そう言わないで、そうね、そうよ、私は二年も留年するの、でもそれで良かった、だから皆とこうして出会えたのだから……そうでしょ、つかさ」
笑顔で返す峰さんだった。
つかさ「それじゃ、明日、また登校できる?」
さおり「するけど、いろいろ手続きもあるし……なんで?」
つかさ「今度二年生になる、ゆたかちゃん達を紹介しようと思って」
みゆき「そうですね、少しでもお友達は多いほうが良いです、私も明日登校しましょう、私もその中に紹介したい人がいるのです」
さおり「その人達ってどんな人?」
つかさ「みんな良い人だよ」
さおり「そう言うと思った……」
笑いながら峰さんは窓の外を見た。
こなた「さて、これから皆で買い物行こうよ〜」
かがみ「だから今日はもう行かないって言ってるだろ、行きたいなら一人でいけ」
みさお「また始まった」
……
……

 私達は話し続けた。卒業まで残り少ない日々を惜しむかのように。そこには新しい友達が一人座っている。彼女はもう2年間も病気で留年してしまった。その病気の中で私と
出会った、不思議な出来事。
居眠りで二駅乗り過ごしたのが始まりだった。峰さんの乗り過ごしは二年間。私より失った時間は大きい。でももっと大事な物を手に入れたと私は信じたい。
これからもっと大事な物をこれから手にはいるかもしれない。それは私達次第かな。私達を乗せた列車は発車したばかり、その電車の終着駅はまだ決まってない。でも走り続ける。
生きている限り。これから大きな事故や故障がありませんように……

 就業時間を知らせるチャイムが鳴っても私達は帰ろうとはしなかった。窓からに真っ赤な夕日が射して教室が真っ赤に染まる。誰も居ない校舎に私達の笑い声だけが
木霊のように響いていた。




522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/10/25(火) 00:33:33.17 ID:HJFMC2az0
以上です。

短くするつもりだったけどどんどんイメージが膨らんで長くなってしまった。
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/25(火) 00:50:15.85 ID:9n4AkYbxo
そういや今日みゆきさんの誕生日だっけ?
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/10/25(火) 00:50:15.96 ID:HJFMC2az0
『乗り過ごし』bRでエントリーしました。
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/10/25(火) 00:53:08.96 ID:HJFMC2az0
>>522

そういえばそうだった。コンクール作品で精一杯だった。
何も考えていなかった。
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/10/25(火) 00:54:19.18 ID:HJFMC2az0
>>525>>523の間違えです。失礼しました。
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) :2011/10/26(水) 04:18:39.07 ID:r1/pCoj90
皆おつ

>>518
>かがみ「あけみの病気は治る、そして病院を退院する。また一緒に語り合う……」

>あけみの病気

あけみって誰だwwww
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/26(水) 08:23:26.39 ID:TdvJHW/w0
>>518
どうやら誤字があったみたいですね。
見直しでも結構直しがあったから漏れてしまったようです。
コンクール中なので修正できませんが脳内修正お願いします。

この程度のssなのであまり気にしないで下さいww

529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/26(水) 08:42:01.26 ID:TdvJHW/w0
上に引き続き
>>528
一応 あけみ=さおりでお願いします。
この間違えは致命傷だ。別の事を考えていたようです。
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/26(水) 19:10:42.43 ID:45qLX8300
☆第二十二回コンクール開催☆

コンクール投稿期限は10/30(日)です。

よろしくお願いします。
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/10/29(土) 17:15:40.12 ID:SrsP4POd0
かがみ「こなた、あんたまだ出来ていないの、もうそろそろ時間ないわよ」」
こなた「ふ、ふ、ふ、かがみ、私も出来たよ」
かがみ「な、なんだって、それは驚いた」
こなた「それじゃ、私の作品と勝負だよ」
かがみ「望むところよ、こなたには負けないわよ」


……っと言うことでコンクール作品2作目を投下します。

5レスくらい使用します。
532 :途中下車 1/5 [saga sage]:2011/10/29(土) 17:17:26.48 ID:SrsP4POd0
 今日もいつもと同じように授業が終わり、いつものようにこなた達と雑談をしてからの下校。普段と何も変わらない。いつもの日常。みゆきは駅のホームで別れた。
いつものように途中の駅でこなたは降りていく。そしてつかさと私が残った。
つかさがこそこそと鞄を持ち上げた。
かがみ「つかさ、降りるのは次の駅じゃない、準備は速過ぎるわよ」
つかさ「私、次の駅で降りるから、お姉ちゃんは先に帰ってていいよ」
次の駅、私の知る限りつかさが次の駅で降りた事はない。何か特別な施設があるわけでもない。知り合いでもいるのか。つかさの交友関係を全て把握している訳ではないが、
少なくともその駅には知り合いは居ないはず。
かがみ「急に降りるって、何か用事でもあるの?」
つかさ「ちょっとね〜」
つかさは私から目を外して電車の窓の外を見た。目的を私に知られたくないのか。いつもならどうでもいい事まで私に話してくるのに。いったいどんな用事なのだろう。
『間もなく〇〇駅に到着します、お出口は右側です』
つかさはドアの前に移動した。気なる。なぜ降りるのか興味が湧いてきた。電車が止まりつかさは降りた。そして発車のベルが鳴った。
どうするかがみ、降りるか、このまま帰るか、妹を尾行するなんて趣味が悪いぞ。でも気になるじゃない。もう時間がない。
えーい、ままよ。
ドアが閉まると同時に飛び降りた。


『途中下車』


私は降りる選択をした。つかさの後姿が見える。もう十メートル以上は離れている。私の乗っていた電車は発車した。
もう今更後には引けない。つかさは後ろを振り向いていない。私はあの電車で帰ったと思っている。私は気を落ち着かせてつかさの後を追った。
この駅を降りるのは初めてかもしれない。正直いって利用しない。いつも通り過ぎていた駅。それはつかさだっておなじはず。ますますつかさの目的が分からない。
つかさは迷う様子もなく駅を出ても歩き続けている。前にも降りた事があるのだろうか。付かず離れず見つからないように後を付けた。

『しまった!!』
心の中で叫んだ。
信号に捕まって待った。思いのほか車の通りは激しい。信号無視はできそうにない。つかさの姿がどんどん小さくなっていく。
青になった頃にはつかさの姿は見えなくなっていた。私は走ってつかさの通った道を辿った。

 私は歩みを止めた。道は三方向に分かれていた。つかさはどの道を通ったのか。もうつかさの姿は見えない。
一つ目は緩やかな坂道で高台の公園に続く、二つ目は住宅街に続いているようだ。三つ目は商店街に向かっている。友達を訪ねるなら住宅街の道だろう。
しかし住宅街に入ったらつかさを見つけるのは困難だ。つかさの事だから買い物かもしれない。それなら商店街だろう。見つけるのもそんなに苦にはならない。
公園の道は……公園に行く理由が見つからない。公園なら家の近くにもある。私の第六感に懸ける。商店街に向かって歩き出した。

 商店街には結構人が歩いている。このような時は注意が必要。ばったり鉢合わせがあるからだ。細心の注意をしつつ、つかさの行きそうなお店を廻った。
洋服店、装飾店、お菓子屋さん……etc、つかさの姿は見えない。私の感が外れたか。何度か廻ってみたがつかさは居ない。分かれ道に戻った。
後は公園と住宅街か。どちらに行ったか。腕を組んで考えた。

533 :途中下車 2/5 [saga sage]:2011/10/29(土) 17:18:45.25 ID:SrsP4POd0
 私、何をしているのかな。残りの二つの道を見ながら自分の行動に疑問を感じた。そこまでしてつかさを探して私は何を知りたい。
買い物、友達に会いに行く。それを見て私は何を感じると言うのか。後ろめたさだけが残るだけじゃない。つかさは私と同じ高校生、私が知らない
行動をしたとしても何も不思議じゃない。いや、もう自分の行動に責任を持てる。つかさはもう私の姉としての立場なんてもう要らない。
もしかしたらつかさを見失って正解だったのかもしれない。もうつかさを追うのは止めよう。

 さて、もうここには用はない。それこそここでつかさに見つかったら言い訳がつかない。駅に向かおうとした時だった。公園の方から誰かがこっちに向かって来た。
つかさか。思わず私は商店街に向かう道に隠れた。つかさじゃなかった。良く見ると男性だった。なんだ、私は男女の区別も付かなかったのか。ほっと溜め息をついた。
男性は分かれ道を超え、駅の方に向かって……あの男性は私のクラスメイトじゃない。学生服を着ている、彼も帰宅途中だったに違いない。なぜ公園の方から歩いてきた。
まさか、つかさは公園に向かっていたのか。彼と待ち合わせをして……
帰ろうとした気持ちが何処かに消えた。彼が見えなくなるのを確認すると公園に向かった。
隣のクラスなら彼とつかさが会って、話をしたりする機会はいくらでもある。待ち合わせでもしていたのか。いや、それなら何故彼は一人だけで駅に向かう。
もしかしたらつかさとは無関係でたまたま通っただけなのかもしれない。いや、もしかしたら……私の好奇心は勝手に想像を膨らませていく。

坂を上り切ると、視界が開いて広場に出た。芝生が一面に敷き詰められている。高台で街が一望出来る。降りた駅も見えた。周りにブランコやシーソー、砂場はない。
そのせいか子供達が遊んでいる姿はなかった。広場の中央に大きな木があった。その根元に誰か立っている。遠いけど分かる、つかさだ。
周りに身を隠す物はない。これ以上近づくことは出来ない。つかさは町を眺めている。良く見ると駅の方を見ているようだ。まさか、彼を見送っているのか。
なぜ見送る必要がある。一緒に行けば良いじゃない。じれったい、直接つかさに近づいて真相を聞きたい。でも、そんな事をしたら私は軽蔑されるかもしれない。

 10分くらい経っただろうか、つかさは木から離れて歩き出した。しかし私の居る方ではない。駅の方向に向かって歩き出した。そしてつかさは止まった。
つかさは駅を見ている。私でも分かる。何故そこまでして駅を見るのか。その答えは今までの状況から察しはつく。
私は異変に気が付いた。つかさが立っている足元は切り立った崖になっている。柵はあるが腰の高さくらいしかない。つかさは身を乗り出している。
まさか。嫌な予感が過ぎった。その瞬間だった。つかさは柵を跨ごうとした。
かがみ「バカー!!!」
走った。全速力で、ばか、何があったか知らないけど自ら死を選ぶなんて許さない。つかさの首根っこ掴んで柵の中に引き戻した。つかさはキョトンとした顔で私を見た。
私はつかさを睨み返した。
かがみ「何やってるのよ、死んだらダメだ!!!」
つかさ「あ、あう、あう」
つかさは目が潤み始めて、何か言おうとしているのだろうか、言葉になっていなかった。首元を掴んでいた手を離し、今度は腕を掴んで中央の木まで引っ張り座らせた。
かがみ「少しここで頭を冷やしなさい、私も居てあげるから」
つかさは暫く動かなかった。

 つかさの目が元に戻ってきた。何時また崖から飛び降りるとも限らない、一時もつかさから目を放さなかった。でも、だいぶ落ち着いたと判断した。
かがみ「何故私に相談しなかったの、そんなになるまで思い詰めて」
つかさ「……思い詰めるって、何?」
白を切るつもりか、この期に及んで……私は溜め息を付いた。
かがみ「あんた、さっきその崖から飛び降りようとしたわよね、この目でしっかり見たわよ」
つかさ「……ち、ちがう、よ」
俯き首を振って否定した。
かがみ「柵を跨いでその後どうするつもりだったの?」
つかさ「り、リボンが落ちちゃったから……拾おうと……したの」
かがみ「リボン?」
つかさの頭を見ると確かにリボンが付いていない。
つかさ「リボンを付け直そうとしたら風が吹いて飛ばされちゃって……柵の柱に引っかかったから……跨いで取ろうと……」
つかさは飛び降りようとはしていなかったのか。そんなはずはない。
かがみ「だったら、なんで私を見て目が潤んだのよ」
つかさ「だ、だって、お姉ちゃん……顔が、恐かったから……」
かがみ「ば、ばか、妹が飛び降りようとしているのに普通で居られるか!」
またつかさの目が潤みそうになった。どうやら本当みたいだ。急に力が抜けた。私もその場に座り込んだ。
かがみ「よかった……」

534 :途中下車 3/5 [saga sage]:2011/10/29(土) 17:20:03.27 ID:SrsP4POd0
 私とつかさは町並みを座りながら眺めていた。つかさは飛び降りようとはしていなかった。だけどまだ疑問が解消したわけではない。
かがみ「こんな公園にいったい何をしに来たのよ」
つかさは木にもたれた。
つかさ「も、もしかして見ていたの?」
見ていた。見ていたってどうゆう事だ。私が来た時はただ景色を眺めていただけだった。それは私が此処に来る前の出来事を言っているのか。
かがみ「つかさはただ景色を見ていただけだった、それとは違うわよね」
つかさは口を閉じた。顔を少し赤らめて。つかさはやっぱり嘘は付けない。話したくなさそうに私から目を背けた。
かがみ「私がこの公園に向かうとき、私のクラスメイトとすれ違った」
つかさの瞬きが早くなった。やっぱり。もう答えは確定した。
かがみ「もう隠す必要はない、ここで彼から告白されたんでしょ……」
つかさの呼吸が早くなっていくのが分かる。でも否定も肯定もしない。
かがみ「……凄いじゃない、陰ながら応援するわよ……ははん、こなたにバレるのが嫌なのか、私からは話さないわよ、付き合っていれば何れは分かるけどな」
つかさは大きく深呼吸してゆっくり立ち上がった。
つかさ「私……告白されてない……告白したの」
耳を疑った。いつも受身のつかさが自ら行動したと言うのか。思わず下からつかさを見上げた。

 つかさはゆっくりと歩き出した。さっきの崖の所まで行くと柵の内側から手を伸ばしてリボンを取り付け始めた。私も立ち上がりつかさの居る所に歩いた。
つかさと並び崖の上に立つ。
つかさ「いい眺めでしょ、あの駅からこの公園が見える、入学式の時、電車の窓で見つけたんだよ、今までに二、三度来た」
それで方向音痴のつかさが一度も迷わず目指すことが出来たのか。公園へ続く道はこの公園をぐるりと一周するので知らないと少し迷うかもしれない。
つかさは振り返り中央の木を見た。
つかさ「この木、何となく気に入ったの、ここで座ってると心が落ち着みたいで……だから重要な出来事があったらここで決めようと思った」
重要な出来事……好きな人ができて、それを相手に伝える。簡単で難しい……
かがみ「それで、彼をここに呼んだのね、それで、彼は何て言ったのよ……」
その質問は野暮だった。つかさの悲しげな表情を見れば直ぐに分かったはずだった。それでもあえて聞いた。つかさもそれを感じたのか何も言わず木の天辺を見ていた。
かがみ「一言、相談してくれれば良かったのに……」
つかさ「……そうだよね、相談したらよかったかな……でも、恥かしいから、やっぱり言えなかった」
その問いも何も意味が無い、私自身異性に好きだなんて言った事はないし、言えない。助言すらできなかっただろう。
こんな時はどうすればいい……なんてつかさに言ってあげればいい。
かがみ「凄い、凄いわよ、つかさを見直した、想いを伝えるって時には心を傷つける場合だってある、自分も、相手もね、それでも決めた事を実行できるなんて、
    結果なんか関係ない、賞賛に値するわよ」
つかさ「そ、そうかな……」
少し嬉しそうに微笑んだ。
かがみ「そうそう、別に落ち込むことなんかないわよ」
もうこの話をするのは止した方がいいかもしれない。
かがみ「さてと、気晴らしに商店街に行ってみる、結構いろいろあったわよ」
つかさ「そうだね、新しいリボンも欲しいし……そうそう、あの商店街にね、とっても美味しいお菓子屋さんがあるよ」
かがみ「わーい、行ってみよう」
つかさに満面の笑みが戻った。こうでないとつかさじゃない。
つかさ「ところで……今更だけど、なんでお姉ちゃんがここに居るの?」
う、確かに今更だ。しかし私はその答えを準備していなかった。
かがみ「え、え〜つかさが心配だったから……べ、別に告白を覗こうって思った訳じゃないから……実際、見ていないし……」
つかさ「もういいよ、私を柵から引っ張り上げた時、ちょっと恐かったけど……今、思うとやっぱり危なかったね、ありがとう」
こんな時は言い訳をするべきではない。知ってはいたがやってしまった。私はつかさの性格に救われたようだ。
私達は公園を後にした。商店街で買い物とお菓子屋さんで軽食を食べてから帰った。
何時になくつかさの笑顔が綺麗に見えた。
これはつかさのようにありたい、そう願う自分自身への憧れなのだろうか。もうつかさはただ見守っているだけの妹ではなくなったのかもしれない。


535 :途中下車 4/5 [saga sage]:2011/10/29(土) 17:21:15.39 ID:SrsP4POd0
『間もなく〇宮、〇宮駅です……』
すっかり遅くなってしまった。もう日は沈み、真っ暗になっていた。メールでお母さんに連絡はしておいたが、怒られるのは間違いなさそうだ。
かがみ「ちょっと、買い物とお喋りに夢中になりすぎたみたい、怒られるのは覚悟しておきなさい」
気付くと隣につかさが居ない。後ろを振り向くと四、五メートル後にポツンと立ち止まっていた。
かがみ「どうしたのよ、大丈夫、メールで遅くなるって伝えてあるし、そんなには怒られないわよ、行こう」
しかしつかさは歩き出そうとはしなかった。乗客は全て改札口を出ている。私達だけが残ってしまった。
つかさ「さっきまであんなに楽しかったのに、断られても断然平気だったのに、どうしてかな、今頃になって……」
私は戻ってつかさに近づいた。電灯と電灯の間で少し暗くて分からなかった。つかさの目には涙が溜まっていた。
これが……失恋ってものなのか。その時初めてその重大さに気が付いた。
つかさ「これじゃ、家に帰れないよね……どうしよう、止まらないよ……」
そんな悲しい目で訴えかけられても私に何ができる。つかさの目からどんどん涙が溢れてきた。このまま立っていてもしょうがない。つかさを駅のベンチに座らせ
暫く放っておくしかなかった。これほど自分が無力だったのかと思わされた。そして自分にもこんな日がくるのであろうかと……ただ泣きじゃくるつかさを見ていた。

かがみ「もう……帰ろう」
つかさはただ首を横に振るばかりだった。もう一時間も経つがつかさの涙が止まる気配はなかった。何本もの電車が通り過ぎた
確かにこんな姿を家族が見たら、人生の先輩である二人の姉、お父さん、お母さんに、つかさに何があったか分かってしまうだろう。
誰にも見せたくないはず、本当は私にだって見せたくなかった。……だから一人であの公園に行った。遅かった。今頃分かっても。遅すぎた。
つかさはこうなるのをある程度分かっていたのかもしれない。ならなぜ……分からない。そんな質問をするだけの勇気もなかった。
かがみ「私が玄関の扉を開けたら、すぐに自分の部屋に入りなさい、後は私が対応するから、そこでなら幾らでも泣いていられるわよ」
つかさはやっと頷いた。でも立とうとしない。いや、立てないのか。私が肩を貸してあげてやっと立ち上がった。足元に力が入らないのかふらついてしまう。

 普段の二倍の時間をかけて家にたどり着いた。
かがみ「開けるわよ、つかさ、準備はいい?」
私は玄関の扉を開けた。
かがみ「ただいま〜」
つかさはゆっくりと、しかも音を立てずに自分の部屋に向かった。暫くすると。
みき「何やっていたの、何度も電話したのに出ないで……」
かがみ「ごめんなさい……」
お母さんがキョロキョロと辺りを見回した。
みき「つかさは、どうしたの?」
かがみ「気分が悪いから……部屋に……」
任せろとは言ったが、実際にやってみると誤魔化すのは難しい。お母さんはつかさの部屋に向かおうとしていた。
かがみ「待って、お母さん、今は、今はそっとしておいてあげて、お願い」
神にでも祈るように頼んだ。お母さんは私の顔を見た。そして、暫くつかさの部屋の方を見ると。
みき「そう、たまにはこんな事もあるでしょう」
そのまま居間の方に戻っていった。ほっと胸を撫で下ろした。しかしこの後、お父さんのお説教が待っていた。つかさの分まで叱られてしまった。
その後、つかさが部屋から出てくることは無かった……日が明けるまで。


536 :途中下車 5/5 [saga sage]:2011/10/29(土) 17:22:28.87 ID:SrsP4POd0
 翌朝、目覚めて顔を洗いに洗面所に向かった。するとつかさが歯を磨いていた。私より先に起きるなんて、珍しいこともあるものだ。
かがみ「おはよう、つかさ」
つかさ「も、もはもー」
歯ブラシを咥えたままの挨拶だ。鏡から見えるつかさの顔は笑顔だった。
かがみ「ばかね、歯を磨きながら話すやつがあるか」
昨日の今日、無理に作った笑顔にも見える。
かがみ「こんな日は休んでもいいのよ、無理をしない方がいい」
つかさはうがいをして口をタオルで拭いた。
つかさ「うんん、もう大丈夫だよ、お姉ちゃんがずっと泣かせてくれたから、もう涙は出なくなったよ、それに、三年連続皆勤賞がかかってるしね」
かがみ「そ、そうなの……それじゃ休めないわね」
つかさ「昨日はありがとう」
私に譲るように洗面所を出て行った。なんだ。何か違う。今までのつかさとは何かが違っていた。そういえば頭に付けていたリボンの色が少し明るい色になっていたか。

 朝食を済ませ、私達は学校へと向かった。いつもの駅でこなたと待ち合わせ。待っているとこなたとみゆきが改札口から出てきた。二人が同時くるのは初めてだ。
つかさ「こなちゃん、ゆきちゃん、おはよー」
私が言うより先に挨拶をした。
みゆき「おはようございます」
こなた「おはよー」
かがみ「おっす……こなたとみゆきが一緒とは驚いたわね」
こなた「たまたま偶然の一致だよ」
かがみ「それじゃ、バス停に行こうか」
バス停に向かった。

みゆき「つかささん、リボンを変えたのですね」
みゆきがいち早くつかさのリボンに気付いた。
つかさ「うん、昨日買ったの、どうかな」
みゆき「とってもお似合いですよ」
つかさ「ありがとう、あとね、何本か買ったのだけど、こんど見て欲しいんだ」
……
つかさとみゆきの会話、みゆきが妙に気遣っているのが分かった。もしかしたらみゆきもつかさと同じ経験をしたのかもしれない。同じ経験をした者同士にしか分からないのか。
私の背中をツンツンと突く。こなただ。
かがみ「なによ、言いたいならそんな事なんかしないで直接言いなさいよ」
こなたは私に近づき耳打ちした。
こなた「なんかさ、つかさ変わったと思わない……何だろう、何て言って良いのか表現できないけど、かがみはなんとも思わないの?」
こなたも私も分かるはずもない。
かがみ「そうね、私達がこれから十年くらいの間には分かるかもしれない」
こなた「えー私達ってお子ちゃまなの?」
子供か、その通りかもしれない。

 バスに乗るとちょうど彼もバスに乗ってきた。私は内心ハラハラした。またつかさが泣き出すかと思ったからだ。しかしつかさは何事もなかったようにみゆきと話していた。
そう、もうつかさは昨夜の涙で全てを洗い流した。もう昨日までのつかさとは違う。つかさがとっても大きい存在に感じた。
今まではつかさが私を追いかけた。今日からは私がつかさを追いかける。





537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/10/29(土) 17:24:11.67 ID:SrsP4POd0
以上です。

2作、間に合うとは思わなかった。
自分の作品と競合するのはちょっと面白いかもです。
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2011/10/29(土) 17:32:10.47 ID:SrsP4POd0
コンクール作品『
途中下車』bSでエントリーしました。
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2011/10/30(日) 04:12:57.55 ID:U17+SiQ60
☆第二十二回コンクール開催☆

コンクール投稿期限は10/30(日)24:00です。

もう時間ものこりわずか。

現在4作品がエントリーされています。

まだ間に合いますので諦めずにいきましょう。
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 08:31:23.53 ID:ZT5mEr9L0
コンクール作品2作目投下いきます。
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 08:32:08.65 ID:ZT5mEr9L0
怨霊

「……線は、○○駅において人身事故が発生したため、運転を見合わせております」
 駅舎内にアナウンスが繰り返されていた。
 こなたは、携帯電話を取り出して、かがみに連絡をとった。
「かがみ。事故で電車止まってるから、自転車で行くよ。ちょっと遅れるから」
『分かったわ。気をつけて来なさいよ』
「ほーい」


 事故の原因は、高校生の飛び込み自殺だった。
 残された遺書からいじめを苦にした自殺だと判明した。
 警察が学校関係者などに事情を聞き取り、捜査を進めてるところで、事態は思わぬ展開を見せた。
 飛び込み自殺があったのと同じ駅で、人身事故が連日三度も発生したのだ。
 特に、三度目は、死亡者が四人にのぼった。さらに、事故があった電車の運転手は「ブレーキをかけたのに全く効かなかった」と証言し、検証の結果そのとおりであることが判明した。
 この事態を重く見た国土交通省は、その路線を運行する鉄道会社に全車両の緊急点検を行なうことと、それが終わるまですべての路線の運行を停止するように命じた。
 鉄道会社はそれに従い、バスによる代替運行に切り替えた。


 その数日後……。
 柊家に来客があった。例の駅の駅長さんだった。
 ただおは社務所の奥へと案内した。応対するのは、ただお、みき、そして、いのりだ。
 なんとなく話しづらそうにしている駅長さんを見て、ただおはこう切り出した。
「例の連続人身事故の件でしょうか?」
「……はい」
「私のところにも噂は聞こえてきてます」
 地域の住民の間では、「あれは自殺した高校生の怨霊が地縛霊になって、駅に来る人を取り殺してるに違いない」という噂がささやかれていた。
 そのため、その駅に近づく者もすっかりいなくなっていたのだ。
「警察が当時現場にいた乗客からとった証言を私にも教えてくれたのですが、最初の自殺の件以外は、みんな口をそろえて、犠牲者はまるで何かに引きずり込まれたかのようにホームから転がり落ちていったと……」
 いったん沈黙したあと、こう続けた。
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 08:33:08.33 ID:ZT5mEr9L0
「あと、車両のブレーキが効かなかった件ですが、徹底的に調査しましたが車両には何の異常もなかったんです。うちの技術者も国土交通省の事故調査委員会の人も、ありえないと首をかしげるばかりで」
 確かに、ただ事ではない状況だ。
 みきが口を開いた。
「では、お祓いの御依頼ですね?」
「はい。お願いいたします。お祓い料なら、いくらでもお支払いいたしますので」
 駅長はそう言って頭を下げた。
 みきは、ただおの顔を見た。
 個人的な依頼や企業からの普通の依頼なら、容赦なく料金をいただくところだが、今回は地域全体にかかわることだ。
 駅はその地域の中心施設の一つであり、鉄道は交通のかなめである。それがこんな状態では、地域から活気が失われ、衰退していくのは確実だ。
 それに、こんなお金は会社の経費からは出ないだろう。この駅長さん一人に負担させるのも忍びない。
 みきが目で訴えたそのことは、ただおも同意見だった。
 だから、ただおは、駅長さんにこう言った。
「お祓い料はよろしいですよ。今回のことは、この地域全体にかかわることです。地域の安寧と繁栄に貢献することがうちの神社の方針ですから」
 駅長は驚いて顔をあげた。
「いえ、そんなわけには……」
「今度のお祭の御神輿かつぎを若い駅員さんに手伝っていただければ、それで結構ですよ」
 みきがそう言って笑みを向けた。
 そう言われては、駅長さんもそれ以上反論はできなかった。
「ありがとうございます。今度のお祭はうちの駅員総出でお手伝いさせていただきます」
「では、さっそく行きましょう」
 ただおとみきは神職の装束で、いのりは巫女服で、駅長さんの車に乗り、例の駅へ向かった。
 いのりも神職の装束を着る資格はあるのだが、面倒くさがって、あまり着たがらない。どちらも着る手間はそんなに変わらないはずなのだが。


「うわっ、やな感じ」
 いのりは、駅前で車を降りるなり、そうつぶやいた。
 駅長さんの顔がこわばる。
「やはり、いるんですね?」
「ええ、厄介かもしれません」
 みきは、そう答える。
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 08:34:09.08 ID:ZT5mEr9L0
 駅には最低限の駅員しかいなかった。そして、その駅員たちはみな、神社のお守りを握り締めていた。
 ただお、みき、いのりの三人だけで、駅のホームに出た。
 人身事故があった現場にゆっくりと近づいていく。

 いのりが突然叫んだ。
「お父さん、避けて!」
 ただおは、飛び上がるように一歩退いた。
 いのりは、呪符の束を取り出すと、『それ』に向けて投げつけた。
 呪符は『それ』全体を覆うように貼り付き、その輪郭を浮かび上がらせた。
 身長3メールはあろうかという人の形をした何かが、そこにあった。
 いのりがつぶやく。
「何これ? こんな大きなの見たことないわ」
「取り殺した人間の魂を取り込んで強大化してるわね。いのり、どのくらいもつかしら?」
「長くて三十分。半端な怨霊じゃないわよ、これ。反動がすごい」
 とりあえず呪符で押さえ込んだが、その反動は術者に跳ね返ってくる。
「手早く済ませちゃいましょ」
 みきは、そういうと、御幣を手にとり、祝詞を唱え始めた。
 ただおは、二人を守るように一歩前に出た。柊家に婿入りしてもう何十年もたつ。妻と娘が何をしてるかは理解している。
 いのりはたちまち苦しげな表情になり、滝のように汗を流していた。
 怨霊に貼り付いた呪符からいのりが手にしている呪符を伝って、怨霊の怨念が流れ込んでいた。かといって、怨霊を押さえ込むためには、媒介となる呪符を手放すわけにもいかない。
 ただおは、いのりがいよいよ耐え切れないとなれば身代わりになる覚悟であった。いのりが手にしている呪符を奪い取れば、怨霊の怨念は自分の方に向かってくるはずだ。

「この世の……すべてを……呪ってやる……」

 怨霊からそんな声が聞こえてきた。
 遺書に書いてあった言葉そのままだった。
 その気持ちは分からなくはない。漏れ伝わるところによれば、自殺した高校生が受けたいじめは壮絶かつ陰湿なものだったようだ。この世のすべてを呪いたいたくなるのも無理はない。
 しかし、それを許すわけにはいかない。
 この世は生きとし生ける者たちの場所であり、死者の怨念が支配するところとなってはならないのだから。
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 08:34:51.14 ID:ZT5mEr9L0
「────!!」
 みきが裂ぱくの気合をこめて祝詞の末尾を唱えた。
 すると、怨霊に貼り付いていた呪符が青白い炎を上げて燃え上がった。
「ーーーーッ!!」
 怨霊が断末魔の叫び声をあげた。

 その叫び声が収まったとき、炎は怨霊を燃やし尽くして消えていた。

「ああ、しんどかった」
 いのりは、その場にへたり込んだ。
 みきが、いのりに近づいて、その肩に右手を乗せて何かを唱えた。
「ちょっと、お母さん!」
 みきはその場にふらりと倒れ、いのりは慌てて受け止めた。
「無茶しないでよ。もう若くないんだから」
 みきは、いのりから疲労を丸ごと吸い取ったのだ。さっきのお祓いでの消耗も考慮すれば、無茶もいいところだった。
「そうだよ、みき。いのりももう子供じゃないんだから、負担は分担しないと」
 ただおは、そう言ってみきを背負った。

 みきは、駅舎の仮眠室に運ばれて、しばらく休養した。
 みきが回復したあと、駅長さん以下駅員一同に何度もお礼を言われてから、その場をあとにした。

545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 08:35:26.28 ID:ZT5mEr9L0
 自宅に戻ると、つかさが夕食の準備をして待っていた。
「お母さん、ごはん用意しておいたよぉ」
「ありがとう」
「随分遅かったけど、なんかあった?」
 まつりの疑問には、いのりが答えた。
「ちょっと急な仕事があってさ」
 詳しいことは何も言わない。父母と姉がそろって取り殺されかけたなんて、妹たちに話すことではないからだ。
 まつりもそれ以上は追及しない。
 三人がシャワーを浴びてすっきりしたあと、自室で勉強していたかがみを呼び出して、家族そろっての夕食となった。
 それは、まったくいつもと変わらない日常だった。


 それから二日後。電車の運行が再開された。
 再開直後は気味悪がってその駅で乗降する客は少なかったが、事故が起きない状況が数日続くと、それも次第に解消され、駅とその周辺は徐々に活気を取り戻していった。
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 08:36:13.91 ID:ZT5mEr9L0
以上です。
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2011/10/30(日) 09:10:02.35 ID:U17+SiQ60
コンクール作品『怨霊』
5でエントリーしました。
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2011/10/30(日) 17:58:44.18 ID:U17+SiQ60
こなた「いよいよ大詰めだね」
かがみ「そうね」
こなた「現在5作品がエントリー その内2作が2つ目の作品です……ってことは……えっと、えっと」
かがみ「3人の作者さんが居るって事でしょ、しっかりしなさいよ」
こなた「そうでした、どうでしょう、一人2作までってのはそれなりに良かった?」
かがみ「人が少なくたったからしょうがないわね」
こなた「これからの残り時間で新たな作品が出ることを祈っています」
かがみ「よろしくお願いします」



549 :旅の途中 [saga]:2011/10/30(日) 23:40:24.54 ID:dGJRxqLSO
コンクール作品の投下いきます。
一作目です。
550 :旅の途中 [saga]:2011/10/30(日) 23:41:02.35 ID:dGJRxqLSO
 カタンコトンと、レールを鳴らし列車が走る。
 自分以外には誰もいない車内で、泉こなたは目を閉じてその振動を楽しんでいた。
 ふと、目を開けて窓の外を見る。
「…おー」
 その景色に思わず感嘆の声が出た。
 目の前に広がる青い海。なんの変哲もない普通の海だというのに、こなたはなんだか子供の様な高揚感をおぼえていた。
 この辺りを歩いてみようか。
 こなたはそう思い、自分の小さな身体には少し不釣り合いな、大きめの旅行鞄を肩にかけながら席を立った。


「お嬢ちゃん、ここで降りてもなんもないよ?」
 駅から出た直後、こなたは外で植木に水をやっている駅員にそう声をかけられた。
「みたいですね…でも、そういう所を歩いてみたいんですよ」
 こなたの返事に駅員は目を丸くした。
「若いのに変わってるねえ…」
「よく、言われます」
 こなたは少し笑いながらそう言い、駅員に手を振って歩き出そうとした。
「ああ、ちょっと待って」
 そのこなたを、駅員が引き止める。
「なんですか?」
「どっちに向かうんだい?」
 こなたは顎に手を当てて少し考え、列車が走り去った方を指さした。
「とりあえず、線路沿いに一駅くらい歩こうかと」
「そうか…あー、まあ見れば分かると思うけど、次の駅は潰れちまってるからねえ、そこで列車待っちゃダメだよ」
「あ、そうなんですか…」
「それと…もうちょっと待っててくれ」
 そう言って駅員は駅舎の中に入って行った。
 こなたが首を傾げながら待っていると、駅員はアルミホイルの包みを持って戻ってきた。
「これ、持ってけ」
「…なんです、これ?」
 差し出された包みを受け取りながら、こなたがそう聞くと、駅員が歯を見せて笑った。
「おにぎりだよ。こっから先は、ほんとなんも無いからな。腹減るぞ」
「はあ、なるほど…わたし、こういうのは遠慮しない主義なんで、ありがたく貰っときますね」
 こなたの物言いに、駅員が苦笑する。
「お嬢ちゃん、ほんと変わってるねえ」
「よく、言われます」
 そう言ってこなたは駅員に、ニコッと微笑んで見せた。



― 旅の途中 ―



551 :旅の途中 [saga]:2011/10/30(日) 23:41:41.89 ID:dGJRxqLSO
 一人旅をしよう。それも、観光地でもなんでもないような場所を。
 なぜそんな事を思いついたのか、こなた自身もよくわからない。
 そういった漫画やアニメを見たわけでもなく、はまったゲームにそういう場面が出てきたわけでもない。
 ただ唐突に旅がしたいと思い、即座に実行に移したというだけだった。
 一人旅には反対するだろうと思っていた父のそうじろうは、意外にもあっさりと了承してくれた。
 大学生になったことで、ある程度は自立を認められてるという事だろうか。
 そのことをこなたは嬉しく思ったが、同時に少し寂しさらしきものも感じていた。


 線路沿いの道をのんびりと歩く。
 久しく持って無かった時間、感じて無かった空気に、こなたの顔が綻ぶ。
 こういうのも悪くない。そういう事を素直に感じられる自分に、こなたは少し気恥ずかしさを覚え、照れたように頭をかいた。
 そうこうしてる内に、こなたは自分の腹の音が鳴るのを聞いた。
 腕時計を見てみると正午を少し過ぎた時間。どこか座れそうな場所でもないかと辺りを見回したこなたは、線路の先に何か建物があるのを見つけた。
 そういえばと、こなたは先程の駅員が廃駅の事を言っていたのを思い出した。
 中には入れないだろうから、外にあるベンチででも昼食を取ろうと、こなたは少し足を早めた



552 :旅の途中 [saga]:2011/10/30(日) 23:42:18.99 ID:dGJRxqLSO
「…まさか入れるとは」
 廃駅の中。こなたはそう呟きながら、ホームにあるベンチに腰掛け、おにぎりの包みを開いた。
 一口食べたこなたは、思わず顔をしかめた。味付けは塩のみで、何も入ってないシンプルなおにぎり。その塩が効き過ぎていてかなりしょっぱい。
 しかたなく、こなたはペットボトルのお茶で少し味を薄めながら、おにぎりを食べていった。


「…これは珍しい」
 おにぎりを食べ終わり、指についた米粒を舐め取っていると、入り口の方から声が聞こえた。
 こなたがそちらの方を見ると、一人の老人がゆっくりとした足どりで近づいてきていた。
「隣、よろしいですかな?」
 そして、ベンチの近くに立ってそう聞いてきた老人に、こなたはコクコクと頷いた。
「まさか人がいるとは思いませんでした…ご旅行かなにかで?」
「ええ、まあそんな感じで…えーっと、お爺さんはこの辺りにお住まいで?」
 こなたがそう聞くと、老人はゆっくりとした動作で頷いた。
「散歩ついでにここで過ごすのが日課でしてな。駅が使われなくなった後も、こうして通り過ぎる列車を眺めているんです」
 そう言いながら、老人が目を細める。
「もう通り過ぎるだけの場所になってしまいましたが、私にとってはここは終着駅なんですよ」
「終着駅、ですか…」
「ええ。この土地で生涯を終える…人生の終着駅です」
 老人の話に、こなたは何となく居心地の悪さの様なものを感じていた。
「ああ、すいません。つまらない話でしたな…若い人と話すことなど、なかなか無いものですから」
「え、あ、いや…」
 自分の考えを見透かしたような老人の言葉に、こなたは慌てて首を横に振った。
553 :旅の途中 [saga]:2011/10/30(日) 23:43:05.86 ID:dGJRxqLSO
「え、えっと…ご家族とかは…」
 そして話題を変えようと、そんな事を口走っていた。
「妻と娘がいますよ。もっとも、娘の方はだいぶ前に他界しましたが…」
「そ、そうでしたか…」
 選択肢を間違えた。こなたの頭の中をそんな台詞が過ぎった。
「一つ、お聞きしていいですかな?」
 こなたがダラダラと脂汗を流して焦っている事に気がついていないのか、老人は変わらないのんびりとした口調でそう言った。
「は、はい、なんなりと…」
「そうじろう君は、元気で過ごしていますかな?」
「…え?」
 こなたは、老人が何を言ったのか理解出来なかった。
 確かに今、『そうじろう君』と自分の父の名を言ったのだが、なぜこんな旅先でその名が出てくるのか、わからなかった。
「ど、どちらのそうじろうさんで…?」
 きっと同名の別人に違いない。こなたはそう思い、老人にそう聞き返した。
「あなたの父親のそうじろう君ですよ…泉こなたさん」
 こなたは口をポカンと開けて絶句していた。
 今度は自分の名前までピタリといい当てられた。
 この人は一体誰なんだろう?自分が忘れているだけで、どこかで会ったことあるのだろうか。
「あ、あの…なんでわたしとお父さんの事を知って…えと、どこかで会いましたっけ…?」
「会ったことはありますが、あなたかはまだが物心もつかない赤ん坊でしたよ…けど、一目でこなたさんだとわかりました。あなたは本当に良く似ている…私の娘に」
 その言葉で、こなたはこの老人が何者なのか理解した。
「え…それって…お、おじいちゃんってこと?…わ、わたしの…」
 少し混乱したように言うこなたに、老人は目を細めて頷いた。
「そう、なりますな」
 偶然にも程がある。
 こなたには、何だかこの旅が仕組まれたものなんじゃないかとさえ思えてきた。
「娘が…かなたが死んで以来、そうじろう君はすっかりこちらに来なくなりましたから」
 そう言えば、お父さんが里帰りとかしたとこ無いな。
 こなたはそんな事を思いながら、老人の話をじっと聞いていた。
「きっとそうじろう君は、かなたの事で責任を感じでいるのでしょう。駆け落ちのように出ていって、そのままこうなってしまって…」
「…お父さん、変なところで真面目だから」
 思わず呟いてしまったこなたの言葉に、老人は目を細めた。
「昔から…子供の頃から、あの子は変わらずそうでした。かなたは、そういうところも好いていたようでしたが…」
 少し顔を上げ、懐かしそうに語る老人の横顔を、こなたはチラチラと横目で見ていた。
「…そうじろう君に伝えて貰えますかな?」
 その老人の顔が急にこちらを向き、こなたは慌てて視線をそらした。
「な、何をでしょう…」
「私たちは、何も恨んでなどいない…むしろ、貴方には感謝している、と」
 こなたは再び視線を老人に向けた。
 老人は変わらず温和な表情を浮かべている
「娘は最後の最後まで幸せだった…それは確かな事で、そして…それはそうじろう君のおかげだと、私たちは信じていますから」
 こなたは老人の…おじいちゃんの変わらぬ優しい表情を、じっと見つめていた。



 廃駅を出たこなたは、歩きながら、祖父から託された言葉をどう父に伝えようかと考えていた。
 ふと、こなたは立ち止まって、さっきの廃駅の方を振り向いた。
 ホームにあるベンチ。人生の終着駅と自ら称したその場所で、おじいちゃんはじっと空を眺めていた。
 こなたはその姿を目に焼き付けるようにじっと見つめ、大きく頷いて歩き出した。

 旅はまだ途中なんだ。
 そう、心で呟いて。



― 終 ―
554 :旅の途中 [saga]:2011/10/30(日) 23:45:27.47 ID:dGJRxqLSO
以上です。

話は早めに出来てたのに、体調崩したり色々あって、ギリギリになった上に最後の方が練り込めなかったです。
なんて言い訳してみたり。
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2011/10/31(月) 01:49:58.77 ID:mr+UQxop0
☆第二十二回コンクール開催☆


遅れましたが投稿期間を終了します。


作者のみなさまお疲れ様でした。


一日空けて投票となります。
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2011/10/31(月) 01:58:32.29 ID:mr+UQxop0
コンクール作品『旅の途中』
6のエントリーです。

これで全て作品は揃いました。
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2011/10/31(月) 02:05:25.30 ID:mr+UQxop0
>>554
体調不良は辛いですね。からだの調子が悪いと頭の回転も鈍りますからね。おだいじに
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/31(月) 02:19:29.69 ID:YxQPaVZXo
投下おつー
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2011/10/31(月) 23:54:52.43 ID:mr+UQxop0
作品はまとめサイトで読んだ方が見やすいと思います。(6作品)→ http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1754.html

携帯はこちらへ → http://mgw.hatena.ne.jp/?url=http%3a%2f%2fwww34%2eatwiki%2ejp%2fluckystar%2dss%2fm%2fpages%2f1754%2ehtml%3fguid%3don&noimage=0&split=1&extract=on



投票所および部門選考基準(参考)

『お題』 投票所→ http://vote3.ziyu.net/html/jodai22.html

お題をよく表現していると思われるものに投票して下さい。今回は『駅』です。

『ストーリ』 投票所→ http://vote3.ziyu.net/html/story22.html

これは笑った、興奮した、感動した等、物語の内容が良かったものに投票して下さい。

『文章』 投票所→ http://vote3.ziyu.net/html/bun22.html

読み易さ、表現力等、文章が良かった物に投票して下さい。


説明はあくまで参考なので投票される方はそれぞれのご判断でよろしくお願いします。

そんなに重く考えず『気楽に』お願いします。ふるってご参加下さい。
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2011/10/31(月) 23:57:44.66 ID:mr+UQxop0
☆第二十二回コンクール開催☆


それでは投票を開始します。 投票は三部門に別れます。お一人、それぞれ一票、計三票です。

締め切りは11/7 24:00時です。 11/8に結果発表します。

作品はまとめサイトで読んだ方が見やすいと思います。(6作品)→ http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1754.html



投票所および部門選考基準(参考)

『お題』 投票所→ http://vote3.ziyu.net/html/jodai22.html

お題をよく表現していると思われるものに投票して下さい。今回は『駅』です。

『ストーリ』 投票所→ http://vote3.ziyu.net/html/story22.html

これは笑った、興奮した、感動した等、物語の内容が良かったものに投票して下さい。

『文章』 投票所→ http://vote3.ziyu.net/html/bun22.html

読み易さ、表現力等、文章が良かった物に投票して下さい。


説明はあくまで参考なので投票される方はそれぞれのご判断でよろしくお願いします。
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2011/11/01(火) 00:06:10.07 ID:o3nJsUje0
投票所に不備がないかご確認お願いします(作品名等)
設定は主催者側で確認するしか方法がありませんが、お願いします。
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [saga ]:2011/11/01(火) 23:56:31.99 ID:o3nJsUje0
>>561
問題ないようです。


サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [saga ]:2011/11/03(木) 07:36:31.02 ID:9uGmJsmD0
サーバー交換して不通になっていたみたい。
564 :コンクール途中経過 [saga ]:2011/11/03(木) 18:10:14.66 ID:9uGmJsmD0
☆第二十二回コンクール開催☆


こなた「いよいよ大詰め、投票期間も中盤戦です」
かがみ「投票数としては前回を上回るペースで投票されています」
こなた「すごいね、この調子でいきたいね」
かがみ「そこで一つお願いです、投票後のコメントに是非一言お加え下さい」
こなた「よかった、GJ、等、なんでもいいです、その一言は作者にとって100票くれたのと同じくらいの喜びです」
かがみ「……それはちょっとオーバー……じゃない?」
こなた「良いんだよ、コメントは別枠でまとめサイトに貼り付けるくらいだから……分かるでしょ?」
かがみ「……何となくわかった」
こなた「沢山書きたい人はコンクール終了後、各作品に設けるコメントフォームをご活用下さい」
こなた・かがみ「よろしくお願いしま〜す!!」

運営からのお知らせでした。
565 :コンクール途中経過( [saga ]:2011/11/07(月) 00:00:37.78 ID:wQSA8afr0
☆第二十二回コンクール開催☆

日が変わると投票終了です。
>>564の案内が裏目に出たのか投票が伸び悩んでしまいました。
コメントは気にしなくていいです。良いと思った作品に投票をして下さい。

投票が未だの方は期限までに間に合うように投票をして下さい。
566 :コンクール結果 [saga ]:2011/11/08(火) 00:23:05.06 ID:n0G2TqBw0
☆第二十二回コンクール開催☆



 それでは投票結果を発表します 票は 『お題』『ストーリ』『文章』の順です



エントリーNo.01:ID:SoaXMRNA0氏:駅でのワンシーン×6+1    2+0+2=4
エントリーNo.02:ID:s7F11wdAO氏:駅構内の出会い〜WithYou〜   0+0+1=1
エントリーNo.03:ID:HJFMC2az0氏:乗り過ごし           0+2+0=2
エントリーNo.04:ID:SrsP4POd0氏:途中下車            1+2+2=5
エントリーNo.05:ID:ZT5mEr9L0氏:怨霊              0+0+0=0
エントリーNo.06:ID:dGJRxqLSO氏:旅の途中 5+4+3=12

以上になります。

大賞 エントリーNo.06:ID:dGJRxqLSO氏:旅の途中

部門賞

『お題』『ストーリ』『文章』
エントリーNo.06:ID:dGJRxqLSO氏:旅の途中


 パーフェクト賞が出ました。『旅の途中』の作者さん、おめでとうございます。
その他の作者さんもお疲れ様でした。投票された方々もおありがとうございます。
これで第二十二回コンクールを終了します。
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [saga ]:2011/11/08(火) 00:43:47.33 ID:n0G2TqBw0
コンクール主催者です。

すみません。投票結果のスクリーンショットの貼り付けをどのなたかしていただけませんか。
いつもながらすみませんです。
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [saga sage]:2011/11/08(火) 01:16:35.90 ID:n0G2TqBw0
『乗り過ごし』『途中下車』の作者です。
『旅の途中』大賞および部門賞おめでとうございます。
もはや何も言う事はございません。結果が全てを語っているでしょう。
私は主催者でもありますので投票状況を見てきました。投票開始から『旅の途中』の独占状態でした。
今後とも楽しい作品を期待しています。

569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/08(火) 03:28:18.30 ID:kb8B0wA7o
大賞の人おめでとうございます。主催、参加者みんなお疲れ様でした〜

>>567
おつおつ。スクショはやっといた
今回も三つバラバラだが、一つにまとめた方がよかったら言ってくれ
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/08(火) 03:28:46.30 ID:kb8B0wA7o
大賞の人おめでとうございます。主催、参加者みんなお疲れ様でした〜

>>567
おつおつ。スクショはやっといた
今回も三つバラバラだが、一つにまとめた方がよかったら言ってくれ
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/08(火) 03:30:07.11 ID:kb8B0wA7o
多重になっとる('A`)
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/08(火) 18:49:38.49 ID:shpkL2UI0
コンクール終わったってのにこじんまりしてるなあ
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [saga sage]:2011/11/08(火) 19:19:32.39 ID:n0G2TqBw0
>>570
このままでいいと思います。お手数かけてしまいました。

>>572
そうですね。終わるといろいろ盛り上がりました。
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/08(火) 21:42:16.21 ID:fRyxqKlSO
こなた「うわーお」
かがみ「どしたの、急に」
こなた「うわーおとしか言いようがない結果だから、うわーお」
かがみ「…まあね。まさか自信無かった作品で、大賞の上に三冠だなんてね」
こなた「世の中わからないものだねえ」
かがみ「そうね」
こなた「うわーお」
かがみ「…いや、それはもういいから」

コンクールお疲れ様でした
そして投票ありがとうございました
本気で予想外の結果でしたね
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [saga sage]:2011/11/11(金) 00:30:25.04 ID:X84YhSEP0
第二十二回コンクールの感想をかいてみました。
参考にもならないと思いますが投下します。

『駅でのワンシーン×6+1』
6人それぞれの近況、そして集まってどこかに旅行、楽しくなるなってワクワクしている間に物語は終わってしまった。
目的地に着く所までの物語があればもっと面白かったかも。

『駅構内の出会い〜WithYou〜』
やまとが主人公なのは珍しいですね。やまとは本編にも(少し出ているかな)、アニメにも出ていないので自分には未知のキャラクターです。
かなたと出会うのは斬新でした。もう少しやまとを知っていればもっと感想を書けたかもしれません。

『乗り過ごし』
自分の作品なのでどなたか感想をいただけると嬉しいです。
オリキャラを出すのは私の仕様です。

『途中下車』
自分の作品なのでどなたか感想をいただけると嬉しいです。
自分の作品、『乗り過ごし』に対抗して作ったssです。

『怨霊』
お祓いのお話ですね。なんとなく『孔雀王』を連想してしまいました。こうゆうお話は好きです。らき☆すたには全く無いシチュエーションで面白かったです。

『旅の途中』
廃駅に入るこなた、そこに思わぬ人物との出会い、そして、おじいさんの最後の言葉……幻想的で切なく感じました。


以上です。

感想になっていないかも……感想はあまり得意ではないのですみません。
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga sage]:2011/11/11(金) 19:26:27.57 ID:X84YhSEP0
こなた「今日は何の日かしってる?」
かがみ「……誰かの誕生日でもあったかしら……思い当たらん」
こなた「聞いて驚け、ポッ〇ーの日だよ」
かがみ「……ふ〜ん」
こなた「あ、あれ〜、思いも寄らない反応、ポッ〇ー好きじゃなかった?」
かがみ「好きだけど、別に特別な日にしなくともいいじゃない、普段から食べてるし」
こなた「そりゃそうだけど……」
つかさ「あれ、昨日ダンボール沢山お姉ちゃんの部屋に持って行ったけど……あれってぽっ……」
かがみ「わー、わー、つかさ、なんでもない、なんでもない、通販で買った美容器具よ、そうそう、うんうん」
こなた「なるほど、かがみにとっては特別な日だったんだね」

577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga]:2011/11/13(日) 05:51:09.09 ID:aS1Lfarw0
ここまでまとめた
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga]:2011/11/13(日) 23:57:25.46 ID:aS1Lfarw0
次回、第二十三回コンクールは2月下旬にお題募集をする予定です。

纏めサイトには載せましたけどこれでいいかな?

もっと早くして欲しい人がいるなら変更します。遅くして欲しいは無しでお願いします。

沈黙は承認したとみなします。
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/14(月) 01:38:16.49 ID:8a3Sg1y80
別に異存はないが。
それまでに人残ってりゃいいがなあww
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga]:2011/11/14(月) 18:48:46.44 ID:lxRYqE6A0
>>579
それを言ったら……
流石に一人になったらコンクールにならないかな。

らきすたはもう誰も読まないのかな。

かと言って人気に流れたくはないし。
らき☆すたの魅力はなんと言っても分り易いキャラクターかな。だからssとしては作りやすい。
他の物では作ったことはないし。作る気もないかな。それなら完全オリジナルにしちゃうかもしれない。
完全オリジナルだと恐らく誰も読んでくれないだろうから、らき☆すたのキャラにお世話になります。
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/15(火) 10:49:33.23 ID:jVcuB/RAO
読み専だけど過疎るのは やはり寂しいなぁ。
たまにくる作品が私の楽しみです。
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 18:59:44.88 ID:kG0q3qOa0
ぶっちゃけこのスレの初期からいた人とかいるんだろうか?
俺は3年前ぐらいにこのスレを知って1年くらいいて去ったけど最近また覗きに来た感じ。
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga]:2011/11/15(火) 21:21:39.62 ID:ctyjt42P0
初期の頃の作者さんはもう居ないみたい。このまとめサイトを立ち上げた人も居ないかな。
避難所を立ち上げた人はたまに覗いているそうです。
現在では自分が殆どの作品を纏めています。コンクールの主催もやっていたり、参加したりしている。
もちろん一般作品も書いています。


三年前程からこのサイトを知った。
こなかがとこっちをはしごしてROM専だった。コンクールとかは楽しみだった。よくあんな短時間で作品作れるなって感心するばかり。

読んでいるうちに自分もssを作ってみたいと思って、三ヶ月もかけて作ったのを投下した。
こなかがでも良かったけど、らき☆すたキャラ全体が好きだったからこっちを選んだ。
投下する時、どんな反応をするのかドキドキしたのをはっきり覚えている。
今でも投下する時はドキドキものだけどね。


作品を書いてみたい人がいたら躊躇せずに書いてみるといい。自分の好きなキャラを自由に動かせるから楽しい。

584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga]:2011/11/18(金) 00:07:42.79 ID:nHEVJ19n0
>>578
異論はなさそうなので予定通り進めます。

その時、お題募集で大体の参加人数が分るから、あまりに少ないようなら延期、中止も考えます……考えたくない。

585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) :2011/11/21(月) 22:03:57.13 ID:qOjBIWhZ0
>>582
俺もそんな感じだわ。四年前に見つけてから何回かss書き込んで一年半くらいで消えたなー
今日久々に見にきたよ
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga]:2011/11/22(火) 02:07:25.01 ID:DmSZcYR+0
初めて作品を投下してから二年を過ぎた。
二年も居座っているのは長い方かな。シリーズ物はやっていないけどね。
「かがみ法律事務所」とか「命の輪」の作者さんもかなり長いような気がするが。
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/22(火) 02:30:06.31 ID:Njn52OQJo
ここ来て3年半ぐらいだなー。時々投下して、しばらく主催やったりしてたが
ネタはあるのに書く気力が湧かない状態になって今に至る。なんでまだ居るのかは謎
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga sage]:2011/11/23(水) 04:58:57.33 ID:JUFhTxrH0
謎は解けた。らきすたが好きだから。それしかない
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東海) [sage]:2011/11/26(土) 09:03:23.37 ID:4SAyly8AO
こう「HappyBirthday!」
やまと「…こう、これは何?」
こう「何って誕生日プレゼントだけど」
やまと「違うわよ。この飲物の方」
こう「あー、わかる人はわかる。IAI製のドリンク。100%果肉入りだよ」
やまと「へー…人の誕生日に罰ゲーム品もってくるんだ」
こう「大丈夫。飲むのはひよりんだか…いなーい!逃げたな!」
やまと「というわけで飲みなさい、この………100%果肉入りの『タン塩』味を」
こう「あ、あはは……川上稔作品の飲食物は地獄だね」


やまと、HappyBirthday!
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga sage]:2011/11/28(月) 19:33:17.63 ID:hZbcIyQe0



ここまで纏めた。

やまとの誕生日だったとは気が付きませんでした。

591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 19:20:29.69 ID:TppEvyvB0
自分が書いたSSをwikiから消して欲しいっていう要望はやっぱ通らないかなあ
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 19:36:10.18 ID:ajx5PgG30
>>591
ここはコテハン使わないから、本人確認ができないという難点があるよね。
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 20:06:40.92 ID:TppEvyvB0
>>592
そうなんだよなあ
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga sage]:2011/12/05(月) 21:07:29.63 ID:sBTmP2Gg0
>>593
コンクールやリレーssの作品でなければなんとかなりそうだが。

本人確認はssを消して欲しい理由を書いてもらってそれが妥当と思えるなら本人とする?。その消したい理由は教えたくないものかな?

成りすましや悪戯もあるからただ消してくれだけだと消せないね。
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 22:09:26.49 ID:7YbKkggK0
>>594
コンクール作品とかリレーSSではない。
理由は教えたくないようなもんでもない。
消してほしい理由書いて妥当かってのも基準が曖昧な気がするが。
というか編集すれば自分で消せるんで、とりあえず本人だってことを証明したい……が、やっぱ手段ないかね。
作品書いた時のtxtファイルはうちのディスクにあるんだが。
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga sage]:2011/12/05(月) 22:50:51.02 ID:sBTmP2Gg0
>>595
消すときには修正報告ページに報告をお願いします。
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga sage]:2011/12/05(月) 22:59:01.46 ID:sBTmP2Gg0
>>596
追記

消すと履歴が更新されてかえってその作品を宣伝してしまうかも?
最後は作者さんのご判断です。
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 23:30:59.33 ID:7YbKkggK0
>>597
もうちょっと意見を集めたいので待ってみる。
この辺のルールも整備した方がいいかも。
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga sage]:2011/12/06(火) 00:00:33.01 ID:tuVjBADC0

実は作品を消すのは個人的にはあまり賛成しない。
発表してしまった作品を消しても読んだ人の記憶は消すことはできないからね。
消すと言うからにはそれなりの理由があるのだろうけど。

過去にも作者の都合で消された作品があったみたいだね。
避難所のどこかに載っていたかな。その作品を読んだわけじゃないから分らないけど、レスの内容からかなり惜しまれたと思う。
作品は発表した時点で作者から離れて一人歩きします。


600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/12/06(火) 12:26:07.99 ID:Cuci07TEo
報告さえちゃんとすれば、自分の作品消す分には自由だと思われ
投下したら削除は認めない、なんてルールはないし。まぁあってもおかしいが
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 18:48:07.55 ID:h3VmV3PZ0
削除して修正報告もしといた。
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [saga sage]:2011/12/06(火) 19:51:01.21 ID:tuVjBADC0
>>601
確認しました。
603 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 10:23:28.02 ID:iKx4n3LNo
削除じゃなくても、昔の作品を加筆修正したいときとか
最新履歴で目立ってしまうのが地味に困るね
604 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 20:07:57.91 ID:Wu/3SKep0
>>603
履歴に残すかは選べるはず。編集欄の下の更新情報を宣伝(Ping)っていうメニューから
605 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/08(木) 23:09:45.91 ID:YsKDD49b0
>>604
纏めている立場からすると履歴がのこるのは便利。
悪戯とかで内容が書き換えられたりしても履歴が更新しなかったら確認できない。
606 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/10(土) 13:00:00.29 ID:xVDeTfvSO
607 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/11(日) 08:49:19.01 ID:u7ErOJ4G0
こなた「ねぇ、昨日は皆既月食だったみたいだよ」
かがみ「そうだったみたいね、私は見ていないけどこなたは見たの?」
こなた「準備万端、寒さ対策もしたよ」
かがみ「それで、どうだった?」
こなた「時間までゲームで時間を潰そうと思って……夢中になっちゃって……気が付いたら朝になってた」
かがみ「……居るんだよな、準備だけは万全な奴……」

608 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/12(月) 07:15:29.53 ID:KM7M/XzY0
ところで9巻はいつ出るんだ?
609 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 18:42:44.56 ID:RmW6I8VAO
こなた「そういうことはみゆきさんに訊いてみよ〜」
かがみ「また懐かしいノリだなおい」
みゆき「はい、らき☆すた9かn」
大神ちひろ「らき☆すた9巻、12月26日発売です!!
今回の表紙絵は1巻のセルフパロディになってま〜す!!
以上、コンプエースから大神ちひろが出張宣伝致しました!
ばいにー!」
かがみ「…」
こなた「…」
みゆき「…本編はおろかあきらの王国にも出れないカスが私の出番を奪いやがって…」
610 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/12(月) 21:54:52.57 ID:MrXuCOMz0
やっと出るのか。
また高校と大学が交錯するかな。時系列がこんらんするんだよな〜
611 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/13(火) 01:39:43.45 ID:S69gd1vSO
コンプ分とコンプエース分とをちゃんと区切ってるから、混乱すること無いと思うが
612 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 18:13:27.31 ID:+Hk6zmdx0
しばらくらき☆すた離れてたから8巻も買ってないけど新キャラ増えたんだなあ
613 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 07:31:34.17 ID:R7mFJvKAO
〜やっべ、どうしよう〜


毒さん「…どーすんのさ」
山さん「やばいよね。どうしようか」
毒さん「いや、たまきがやったんじゃないアレ」
ひより「ま、まさか『忍野忍』の声優が坂本真綾さんになるとは…どーしますコンクール作品の『4×2=?』。平野綾のまま偽物語やるのかと思ってたのに」
毒さん「声ネタじゃなくなったね。まぁドラマCDでもしゃべらなかったから怪しかったけど」
山さん「とりあえず、やさこに『ホライゾン』ネタやってもらって誤魔化す?」
毒さん「…確か東だよね?東だと………アレかなやっぱ」
こう「嫌だからね!」

あー…ヤバい本当に
614 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/18(日) 23:29:08.86 ID:QqkVvJ+v0
声優ネタはいまいち分りません。
解説よろ
615 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 05:45:10.00 ID:fRU5GmGAO
>>614書いてあるけど
616 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/19(月) 06:31:31.45 ID:L4S/k0fx0
久々に来訪
ここはまだまだSSが投下されてるね
617 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/20(火) 21:45:18.79 ID:okP5QSsn0
ゆたかの誕生日だったか……
そういえばゆたかメインのSSはまだ一つも書いていないな
今書いているssが終わったら挑戦してみるかな
618 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 15:11:37.09 ID:HmPtnlFr0
9巻、フラゲした。
これから読む。
619 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/24(土) 18:24:12.08 ID:WfC77Z4SO
なんか9巻は水曜あたりから一般本屋でも普通に売ってたみたいね

とりあえず若瀬兄はヤバいな
620 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 01:26:05.27 ID:9tU4bH1Q0
9巻ネタバレ含むネタ
 
こなた「カバー表は、二年生組全員集合ー。って、ゆーちゃんとみなみちゃんが折りで隠れちゃってるけど」
ゆたか「若瀬さんがカバー表に初登場だから、私たちは隅の方によけてたんだけど……」
いずみ「そんな気を使ってもらわなくても……」
こなた「カバー下の表では、天原先生がゲーマーであることが判明したね」
ひより「意外っスね。あっ、そういえば、キングダムズでは、大原さんがゲーマーであることが判明しましたね。弟さんといっしょにゲームしてるそうで」
かがみ「カバー裏の4コマは、完全に自虐ネタだな」
こなた「まあ、ここまで来ちゃったら、かがみが50歳超えるまで続けるべきだよ。みきさんの若作り遺伝子がかがみに遺伝してるかどうか是非とも確かめたい」
かがみ「にゃもーさんがそれまで生きてられるかが問題だな」
こなた「カバー下の裏では、ゆい姉さんがなんか無茶してるし」
ゆい「こなたー。私だって、まだまだ若いんだぞ!」
こなた「まあ、P88でゆかりさんまでセーラー服着てたからね。でも、ゆかりさんやほのかさんまで着てるのに、みきさんが着てないのは納得いかない!」
かがみ「いや、さすがに50代でセーラー服はきついだろ」
みき「ただおさんが反対しなければ、着てもよかったんだけど」
かがみ「お母さん!」
 
ひより「三年生組では、毒さん先輩が最初の方でなかなかいい印象を残してましたね」
みく「そう?」
こなた「柊家ネタも結構あったし、黒井先生の出番も充分にあったし、今回はバランスいい方だよね」
ひより「そうっスね」
ゆい「私にも出番ほしいよぉ〜(><)」
こなた「ゆい姉さんは、また、見えないところで、きー兄さんといちゃついてるってことで」
 
こなた「バカにつける薬が本当にあるかと思っちゃったよ」(P29)
つかさ「ひどいよ、こなちゃーん(><)」
 
こなた「お父さんの夜食ネタは定番になってきたね」
そうじろう「嫌な定番だな」
 
621 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 01:27:42.14 ID:9tU4bH1Q0
ひより「若瀬さんのお兄さんが、リアル妹萌えであることが判明したっスよ」
こなた「若瀬さんって、オタクにとってはかなり理想的な妹だからね」
ひより「そうっスね」
こなた「そう考えると、実はひよりんのお兄さんも妹萌えだったりして」
ひより「いやいや、うちではそれはありえないっスよ」
 
こなた「ひよりん! 山辺さんの素顔を見ただとぉ!」(P44)
ひより「すごい美人だったっス」
こなた「画像、うp、うp!」
ひより「いや、さすがに写真は撮らせてもらえなかったっス」
 
こなた「若瀬さんって、すごい気にしぃさんだよね?」
ひより「そうっスね。もう少し気持ちを楽にもった方がいいと思うんスけど。隠れオタじゃ、なかなかそういうわけにもいかないっスよね」
 
こなた「ダイエットに何度も失敗するのと、ダイエットに何度も成功するのは、全く同じことを意味するという新たな真理が判明したよ!」
かがみ「そうだな……」
ひより「いや、ホント、柊家はネタの宝庫っスよね。是非とも泊り込みで取材に行きたいっス」
 
ひより「声優ネタ込みでまどマギネタを仕込むとは、泉先輩もしぶいっスね」(P55)
こなた「いやぁ、やっぱり、旬なうちにこれは是非ともやらないとね」
 
ひより「大人の悲哀を感じさせてくれる桜庭先生っス。先生もまだ若いんだから、そんな枯れた大人なのはどうかと思いますけど」
ひかる「田村も大人になれば分かるようになる」
 
ひより「後ろにロリ、って。ホントにあったら嫌っスね……」
こなた「ホント、新手のロリ発見機かと思ったよ」
 
こなた「ウソ予告、すごい気合入った出来だよね」(P71)
ひより「桜庭先生も言ってるっスけど、ホントになりそうなのがいくつもあるっス」
いずみ「やめて!!」
 
622 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 01:28:19.18 ID:9tU4bH1Q0
ひより「若瀬さんのお兄さんが、リアル妹萌えであることが判明したっスよ」
こなた「若瀬さんって、オタクにとってはかなり理想的な妹だからね」
ひより「そうっスね」
こなた「そう考えると、実はひよりんのお兄さんも妹萌えだったりして」
ひより「いやいや、うちではそれはありえないっスよ」
 
こなた「ひよりん! 山辺さんの素顔を見ただとぉ!」(P44)
ひより「すごい美人だったっス」
こなた「画像、うp、うp!」
ひより「いや、さすがに写真は撮らせてもらえなかったっス」
 
こなた「若瀬さんって、すごい気にしぃさんだよね?」
ひより「そうっスね。もう少し気持ちを楽にもった方がいいと思うんスけど。隠れオタじゃ、なかなかそういうわけにもいかないっスよね」
 
こなた「ダイエットに何度も失敗するのと、ダイエットに何度も成功するのは、全く同じことを意味するという新たな真理が判明したよ!」
かがみ「そうだな……」
ひより「いや、ホント、柊家はネタの宝庫っスよね。是非とも泊り込みで取材に行きたいっス」
 
ひより「声優ネタ込みでまどマギネタを仕込むとは、泉先輩もしぶいっスね」(P55)
こなた「いやぁ、やっぱり、旬なうちにこれは是非ともやらないとね」
 
ひより「大人の悲哀を感じさせてくれる桜庭先生っス。先生もまだ若いんだから、そんな枯れた大人なのはどうかと思いますけど」
ひかる「田村も大人になれば分かるようになる」
 
ひより「後ろにロリ、って。ホントにあったら嫌っスね……」
こなた「ホント、新手のロリ発見機かと思ったよ」
 
こなた「ウソ予告、すごい気合入った出来だよね」(P71)
ひより「桜庭先生も言ってるっスけど、ホントになりそうなのがいくつもあるっス」
いずみ「やめて!!」
 
623 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 01:29:33.00 ID:9tU4bH1Q0
こなた「物忘れがなくなる本を既に買っていたことを忘れて、何度も買っちゃうみさきちであった」
みさお「物忘れがなくなる本を忘れない本とかねぇかな?」
かがみ「そんな本があっても、おまえの場合は、その本のことも忘れるだろ」
 
こなた「ラノベはなんとか読めるようになったけど、文学はさすがにきついよ」
かがみ「頑張れ。おまえにはそうじろうさんの血が流れてるんだから、いけるはずだ」
 
こなた「ホームページの別窓開きって、親切なようでいて不親切だったりするよね」(P88)
みゆき「別窓開きにする場合は、リンクの近くにその旨を付記しておけば親切ですね」
 
こなた「確かに、エレキバンって、年寄りアイテムなイメージだよね」(P89)
かがみ「そう思うでしょ。やっぱり、お母さんとかには使ってほしくないっていうか……」
 
こなた「黒井先生は、草食系ならぬ絶食系女子だったわけですが」
ひより「桜庭先生もそんなイメージっス」
こなた「まあ、私もひよりんも、ぶっちゃけそんな感じだよね」
ひより「そうっスね。実のところ、私の知り合いの半分ぐらいはそんな感じかもしれないっスね」
 
ひより「フィギュアの同音異義語問題は、マジでびっくりしたっス」(P92)
こなた「この手は話は、他にもいろいろありそうだよね」
 
こなた「元副委員長、同窓会主催頑張ってくれたまえ!」(p105)
ひより「先輩、後で結果を教えてくださいっス。こんなネタはめったにないっスからね」
こなた「凄腕のフラグクラッシャーみゆきさんが相手だからね。見事に空振りの可能性もあるけど」
ひより「それならそれで、いいネタっスから」
こなた「ひよりん、君は結構エグいですな」
ひより「ネタのためなら、鬼にもなるっスよ」
 
こなた「キングダムズでは、中谷さんのツッコミの切れ味が日本刀なみだね。かがみのお株を奪うほどだよ」(p123左側)
あくる「そうかしら?」
あきら「中谷はホント容赦ないんですよぉ〜(><)」
こなた「それに比べて、音無さんは、鈍器で叩きのめすような感じかな」(p125右側)

以上
624 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 01:33:56.86 ID:9tU4bH1Q0
622二重投稿になってた。ごめんなさい。
625 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/29(木) 09:47:48.26 ID:R2IAmY8SO
―突っ走る人―

こなた「もしもし、かがみー?トライG買った?」
かがみ『うん。昨日、つかさと買ったわよ』
こなた「じゃ、また今度みんなで集まってやろっか」
かがみ『オッケー…っと、進めないほうがいいかしら?』
こなた「んー…まあ、流石に初期装備とかちょっとアレだし、消耗品も集めときたいし、少しはソロででもやっといていいと思うよ」
かがみ『わかったわ。じゃあ、また今度ね』
こなた「ういー。みゆきさんにも伝えとくよー」


数日後

かがみ「………」
つかさ「………」
こなた「…なぜみゆきさんはG級装備なのか」
みゆき「…すみません…!…ほんのちょっと…ほんのちょっとのつもりだったんです…!」
626 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/29(木) 23:10:08.68 ID:jMsCDCu60



ここまでまとめた



年内中にできると思ったけど間に合いそうにない。
取りあえず投下お疲れ様です。

627 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [saga sage]:2012/01/01(日) 00:23:33.37 ID:ky3RfmFc0
明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします。
またいろいろssを書いていきたいたいと思います。
相変わらずらき☆すたらしくないかもしれませんが
読んでくれれば幸いです。
628 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/01(日) 16:37:36.48 ID:gnMujoa3o
あけましておめでとう〜
629 :以下、あけまして :2012/01/03(火) 16:08:41.15 ID:o2bv1CyAO

パティ「イズミ!HappyBirthday!プレゼントですよ!!フユコミゲンセンドージンシです!!」

いずみ「嫌がらせか!」
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/08(日) 23:52:04.04 ID:ilryqbMC0
久しぶりに投下します。

これは「つかさの一人旅」http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1684.html の続編です。
知らない人はこれを読んでからにした方がいいかもしれません。
興味ない方はスルーで。
45レスほど使用させて頂きます。
631 :つかさの旅 1/45 [saga sage]:2012/01/08(日) 23:54:37.23 ID:ilryqbMC0
これは『ID:8sJ1r760氏:つかさの一人旅(ページ1)、(ページ2)』の続編です。

一部 <再会>

 かえでさんと新しい店を切り盛りする毎日。もうどのくらい経ったのかな。忙しい毎日、そこまで考える余裕がなかった。
店は温泉宿の食堂を改造した。温泉の食堂も兼ねている。店の名は『かえで』。最初は温泉の宿泊客だけだったけど最近になってはこの店だけを目的に訪れる客も増えてきた。
店の運営もひと段落ついてこの町、規模からすると村かな、この村の生活もだいぶ慣れてきた。
別に招待したわけじゃなかったけどお父さん、お母さん、いのりお姉ちゃん、まつりお姉ちゃんは直ぐに店に来てくれた。ゆたかちゃん達も来てくれた。
お姉ちゃんはこなちゃん達と一緒に来ると言ってまだ来てくれていない。
でも今は夏休み、お姉ちゃん達も大学最後の夏休み。明日、待望のお姉ちゃん達が泊りがけで遊びに来てくれる。嬉しいな。自然と仕込みに熱が入る。

かえで「いよいよ明日はかがみさん達が来るわね」
つかさ「うん、やっと来てくれる、お姉ちゃんはね……」
かえでさんは手を前に出して私が話そうとするのを止めた。
かえで「その話は何度も聞いたわ、好きなのは分かるけどお腹いっぱいだ、まだ一回も会っていないのに知り合いのように感じるわ」
そうかもしれない。かえでさんと料理の話以外はお姉ちゃん達の話しかしていないかも。でもそれじゃないと真奈美さん、まなちゃんの事を思い出しちゃう。
この村に来て一番悲しい出来事
本当はまなちゃんの話をかえでさんにもしたい。だけど話せばかえでさんはまなちゃんをきっと許さない。辻さんの自殺を止めなかった。
かえで「ご、ごめん、別に悪気はなかった、話したければ話して」
どうやら私は悲しい顔をしてしまったみたい。忘れることはできないけど、今はそれを考えている時じゃないよね。
つかさ「私ってそんなに同じ話してた?」
かえで「それすら気が付かないなんて、もうかがみさん達がどんな人なのかは分かったつもり、それより明日のメニューは決まってるの?」
お姉ちゃん達に出すメニューは私が決めることになっていた。
つかさ「もう決まってる、一応フルコースにしようと思って」
私はかえでさんにメニューを渡した。
かえで「良いわね、問題ないと思う、それで最後のデザートはつかさ、貴女が担当しなさい」
つかさ「えっ、いいの?」
耳を疑って聞き直した。かえでさんは頷いた。かえでさんはいままで私の作ったデザートをお客さんに出していなかった。
かえで「最初からつかさの腕は完成に近い状態だった、お姉さんに腕の上がった所をみせてあげなさい」
デザートでかえでさんに褒められたのは初めてだった。
つかさ「ありがとう、店長」
かえで「この時だけ店長なのね、ふふふ」
私達は笑った。

『つかさの旅』

 その日が来た。お姉ちゃん、こなちゃん、ゆきちゃんが私たちの店に来た。早速予約席に案内した。
つかさ「今日は来てくれてありがとう」
みゆき「こんにちは、お久しぶりです……」
こなた「いや〜つかさもこんなに早く店を持つなんて凄いね〜」
つかさ「私の店じゃないよ、かえでさんのお店だよ……募る話はお店が終わってからゆっくり話そう、今夜は私たちの料理を楽しんでね」
こなた・みゆき「はーい」
あれ、おかしいな。さっきからお姉ちゃんは黙って一言も話していない。私がここに住んでから初めて会うのに何も言わないなんて。私と会うのが嬉しくないのかな。
久しぶりだからしょうがないよね。私は気を取り直してかえでさんに合図をした。かえでさんの料理が始まった。
 
 何品か料理を出した時だった。
かがみ「店長、店長を呼んできて」
店内にお姉ちゃんの声が響いた。私はデザートの準備をしていたのでその場を離れる事ができなかった。かえでさんは料理の手を休めてお姉ちゃん達のテーブルに向かった。
かえで「いかがなされましたか?」
かがみ「この料理は何、よくこんな物を客に出せるわね」
お姉ちゃんはお皿をかえでさんに突き出した。
かえで「……何かお気に召さないものでも……」
かえでさんは困惑している様子だった。今までこのお店に難癖をつけてくるお客さんは何人かいた。だけどかえでさんは毅然とした態度で対応してきた。
いくらお姉ちゃんがあんなに怒っているとは言え今までに無い低姿勢、何故だろう。
かがみ「……まだ分からないの、それでよく料理長が務まるわね……」
こなた「かがみ、いきなりどうしたの?」
さすがのこなちゃんも驚きを隠せなかった。ゆきちゃんはお姉ちゃんを見たきり何も出来ない様子だった。お姉ちゃんは一度溜め息を付いた。
かがみ「つかさを貴女に預けてどれほど腕を上げたか楽しみにしていたけど、貴女がこの程度の腕ならつかさの料理も高が知れたわね」
かえで「私はベストを尽くしました、それでお気に召さないのでしたら、せめて理由をご教授お願いします」
お姉ちゃんは立ち上がった。
かがみ「教える必要はない、つかさは貴女の何処に惹かれたのかしらね、こんな寂れた店よりつかさならもっと洒落た店を任せられるわ、がっかりした、
もうこの店に用はない、先に宿に行っているわ」
お姉ちゃんは店を出てしまった。かえでさんは俯いている。両手を握り締めて震えている。
みゆき「あ、あの、すみません、普段のかがみさんは、この様な事は……私はとても美味しく……」
こなた「わ、私も美味しいよ、次の料理……未だかな…」
必死にその場を取り繕うとするこなちゃんとゆきちゃんだった。だけどそれは空しいだけだった。私はお姉ちゃんにデザートを食べてもらえなくて寂しかった。


632 :つかさの旅 2/45 [saga sage]:2012/01/08(日) 23:56:00.11 ID:ilryqbMC0
 閉店時間。店はすっかり片付いた。でもかえでさんは帰ろうとはしなかった。
つかさ「すみません、お姉ちゃんのあの態度はいくらなんでも酷い、明日会う約束しているからしっかり言っておくね」
普段なら解散の時間。かえでさんはあれから気が抜けたような感じになっていた。私にはこう言うしかなかった。
かえで「……あの方、つかさのお姉さんだったのね……かがみさだったわね、双子にしては似ていなかった、気付かなかったわ」
つかさ「え?」
お姉ちゃんを知っているような言い方だった。
かえで「ここに開店してからすぐに見えたお客様だった、つかさは引越しの準備で居なかったわね」
そういえばお姉ちゃんだけ私の引越しを手伝わないでどこかに出かけていたのを思い出した。お姉ちゃんはこの店に来たのは初めてじゃなかった。
かえで「料理を食べると私を呼び、『美味しかった』……そう一言、初めて私の目の前で褒められた……味付け、盛り付け……いろいろ具体的だった、
あの時の彼女の笑顔が今でもしっかりと思い出せる」
一回だけ来たお姉ちゃんを覚えていたなんて、よっぽど嬉しかったに違いない。
褒めていたのに手のひらを返したようにいきなりのダメ出し。しかも理由を言わないなんて。力が抜けたように椅子に座るかえでさんに私はなんて言って良いか分からなかった。
かえで「……私は開店してから調理法を変えていない、いや、改善はしている、材料も私自身が選んだ、手も抜いていない、今日の料理だって……何がいけなかった」
俯いた顔を私に向けた。
かえで「もう遅いわ、帰りなさい、明日は休みでしょ、戸締りは私がするから」
つかさ「でも……」
かえで「もう少しここに居たいから、一人にして」
つかさ「……お疲れ様」

店の外に出ると月の光が射していた。星も綺麗。ほっとする瞬間だった。今は考えてもしょうがない。明日直接お姉ちゃんに聞く。それでいい。
淳子「あら、つかさちゃん」
宿屋の女将の淳子さん、この時間に会うのは珍しい。
つかさ「こんばんは」
淳子「つかさちゃんのお友達は部屋に居るわよ、会っていくかい?」
つかさ「明日の朝、神社で会う約束をしているから」
淳子「神社……あのお稲荷さん?」
私は頷いた。
淳子「そういえば毎月つかさちゃんはお参り行っているんだってね、あの階段大変でしょ」
つかさ「もう慣れました」
淳子「明日は休みだってね、お友達と楽しんでらっしゃいな」
つかさ「ありがとうございます」
淳子「おやすみ」
つかさ「おやすみなさい」
明日は久しぶりに皆とお喋りができる。

633 :つかさの旅 3/45 [saga sage]:2012/01/08(日) 23:57:22.17 ID:ilryqbMC0
 次の日の早朝。
私は石の上に稲荷寿司とパンケーキを置いた。そして手を合わせた。後ろにこなちゃんとゆきちゃんも同じく手を合わせてくれた。しばらく静寂が続いた。
みゆき「ここが真奈美さんの……不思議な雰囲気ですね」
こなた「そうかな、私には普通の森にしか見えないけど、しかしこの階段はつかれたよ〜よく息も切らさないでつかさは登れるね」
ゆきちゃんはこなちゃんにあの出来事を話した。ここでどんな事が起きたのかこなちゃんは知っている。信じているのかいないのかは別にして。
つかさ「毎月数回は登っているからね」
こなた「普通の森だけど、この景色はいいな、町が見渡せるよ」
こなちゃんは階段から町を見下ろしていた。
みゆき「泉さんは一連の話をどう思われますか?」
おもむろに口を開いた。
こなた「俄かに信じろって言われてもね……でもつかさが嘘をつくとも思えない、幻想でも見た、それで片付けるのも納得がいかない、お稲荷様か……」
町並みを見下ろしながらこなちゃんは答えた。
こなた「でも、つかさがここに来て店を出すなんて言ったのだから、よっぽどの事が起きたのは確かだよね、つかさをそこまで決心させた何かがね」
みゆき「そうですね、でも、一番驚いたのはかがみさんではないでしょうか」
つかさ「お姉ちゃん、来てくれなかった……ゆきちゃんはお姉ちゃんにも話したの?」
ゆきちゃんは頷いた。
つかさ「やっぱりお姉ちゃんは信じてくれなかったのかな」
みゆき「かがみさんは生理痛が酷くて宿で休んでいます、無理は禁物です、おそらく元気なら来てくれたと思いますよ」
こなた「チッチ、みゆきさんはかがみを全く分かってないね……かがみはツンデレだから、ツン、が出てるんだよ」
こなちゃんは人差し指を立て、舌打ちをして私たちの方を向いた。
こなた「昨夜のかがみは本心で言ったんじゃないと思うよ」
みゆき「それでは、どうしてあのような言動を?」
こなた「それは、つかさが原因だよ」
つかさ「え、私?」
こなた「可愛い妹が見ず知らずの人に取られた、それも料理の才能を見込んで、これだけでかがみの嫉妬心に火を付けるには充分さ」
お姉ちゃんはかえでさんに焼餅を焼いていた。そうなのかな。
つかさ「でも、私は別にお嫁さんになったわけじゃないし、かえでさんは女性だよ……それだけで焼餅焼くかな?」
こなた「血縁関係、性別、年齢問わずそうゆうのはあるんだよ、高校時代かがみはいってたじゃん、つかさよりも一歩先にいきたかったって、雲泥の差があったらそんなの
    言わないよ、つかさはかがみとってライバルでもあり、可愛い妹でもあり、友達でもあったんだ、それをいきなり松本さんって人がつかさを取っちゃった、
    これはかがみにとっては言い表せないほどの喪失感があったに違いない……だよね、みゆきさん」
こなちゃんはゆきちゃんの方を向いた。ゆきちゃんは突然振られたのですこし慌てていた。
みゆき「え、ええ、そうですね、なかなか興味深い推理ですね、昨日からかがみさんの様子がおかしかったのですが、生理痛だけはなさそうですね」
こなた「その生理痛も疑わしい、きっと今頃、宿屋であんな事をして後悔しているよ」
つかさ「それなら心配はしないけど……」
そう、後悔しているなら心配はしない、かえでさんとお姉ちゃん、性格がなんとなく似ているからもしかしたらと思った。これ以上の衝突は無く友達になって欲しい。
みゆき「かがみさんが心配です、すみません、私は先に下ります、お昼にまた会いましょう」
ゆきちゃんは階段を下りていった。私達はゆきちゃんが小さくなるまで見送った。

こなた「お稲荷さんの末裔か……つかさは神社の娘……これって偶然じゃないよ、まだ何大変な事が起きるような気がするよ、真奈美って人がつかさを殺さなかったのも、
    もっと何か意味があるのかもね、フラグ立ちまくり……そうは思わない?」
つかさ「フラグ云々は別として、まなちゃんにはまた会いたい、助けてもらったお礼も言ってないしね」
ゆきちゃんが見えなくなった頃だった。こなちゃんは目を閉じてから私の方を向いた。
こなた「フラグと言えばね、もう一つ見つけた、つかさは気付いていないだろうね……」
何だろう、勿体ぶった言い方、私はその内容を聞きたくなった。
つかさ「なに、そのフラグって、私に関係するの?」
こなちゃんはニヤリと笑った。
こなた「……昨夜のお店にいた一人の男性客……それがつかさをずっと見つめていた……きっとつかさに気があるよ」
つかさ「男性客、私を見つめていたって、それだけで何故私に気があるって分かるの?」
こなちゃんは得意そうな顔になった。
こなた「バイトをしていて分かるようになった、あの目は普通じゃないよ、もっともストーカーの可能性もあるからその辺り判断できない」
つかさ「ストーカー……なんか怖い」
こなた「まぁ、気を付けることですな……さてと、私もみゆきさんじゃないけどかがみが心配、つかさも心配でしょ」
私は頷いた。
こなた「午後からこの町を探索しに行こうと思ってるんだけど、私はみゆきさんと一緒に行くから、つかさはかがみの相手をして」
つかさ「え、私は皆を町の案内する為に一日休んだし、別行動はあまり良くないよ」
こなちゃんはまた舌打ちをして人差し指を立てた。
こなた「つかさ、まだかがみを分かってないね、きっとかがみは私達と一緒に行くのを断るよ……それに募る話もあるんじゃないの、姉妹だしね」
こなちゃんはウインクをした。
こなた「まぁ、姉妹で何を話しても構わないけど私がツンデレの話をしたって話さないでね……あとで殴られるから」
つかさ「こなちゃんこそまだお姉ちゃんを分かっていないよ、私が何を話してもこなちゃんは殴られるよ」
こなた「え、なんで?」
こなちゃんはキョトンとした顔で私を見つめた。
つかさ「時間は大丈夫なの、遅刻はお姉ちゃん嫌いだから……」
こなちゃんは慌てて腕時計をみた。
こなた「うゎ、もうこんな時間、それじゃ三十分経っても携帯に電話がこなかたらかがみは宿にいるから」
つかさ「それじゃここで待っているね」
こなた「うひゃー、遅刻、遅刻」
こなちゃんは飛び出すように階段を下りていった。そのスピードはゆきちゃんの時の三倍はある感じだった。私はこなちゃんが見えなくなるまで見送った。

634 :つかさの旅 4/45 [saga sage]:2012/01/08(日) 23:58:54.09 ID:ilryqbMC0
 私はまたお供えた稲荷寿司とパンケーキの所に向かった。こなちゃんの話が気になっていた訳じゃないけど、なんとなく来てしまった。そして両手を合わせた。
まなちゃん、辻さん、皆を守ってあげて下さい。

 私は会談を下りるのに時間がかかるので十五分後には下り始めた。神社の入り口を通る頃、こなちゃんの言う三十分が経った。携帯電話のメール着信が来た。
見るとこなちゃんからだった。内容は、お姉ちゃんはやっぱり出かけないと書いてあった。こなちゃんは電話しないって言ったのに。こなちゃん、変わったかな。

 宿が見えてきた。その隣にレストラン。素通りしようとしたけど出来なかった。でも休みの時は店には入るなってかえでさんと約束をしったっけ。ちょっと覗くだけなら。
窓越しに店の中を見た。かえでさんが忙しそうに働いていた。昨夜のような脱力した感じは見受けられなかった。なんか安心した。

 お姉ちゃん達が泊まっている部屋の前に着いた。私はノックした。返事は無かったけど扉を開けた。
つかさ「お姉ちゃん、入るよ」
お姉ちゃんは椅子に座っていた。何をするわけでもなく。
つかさ「これからでもこなちゃん達と合流する、こんな所でも結構見るところいっぱいあるよ」
お姉ちゃんはムスっとした顔で窓の外を見ていた。私と目を合わせないようにしているみたいだった。
私はテーブルに置いてあったポットと急須でお姉ちゃんにお茶を入れてあげた。
つかさ「久しぶりだね、お茶なんか高校三年の時以来だね、その時はコーヒーの方が多かったかな?」
お姉ちゃんは何も言わず窓の外を見たままだった。どうしよう。こんな時はどんな話がいいのかな。昨夜の話をしたら余計に話してくれそうにない。
かといって昔話をしたって同じだよね。それなら私が知らないと思っている話をしてあげよう。
つかさ「お姉ちゃん、私が引越しの……」
かがみ「そんな事より、いつ頃帰ってくるの?」
私の話しにいきなり割り込んできた。私はお姉ちゃんが前にもレストランに来てくれた話をしようとしていた。
つかさ「今はそんな話していないよ……」
かがみ「それじゃ何の話をしているのよ」
お姉ちゃんは私を睨み付けてきた。いくら生理痛でもこんな訳の分らない事で怒ったりはしなかったのに。こうなったら直接聞くしかない。
つかさ「昨日の……レストランでお姉ちゃんのした態度……」
お姉ちゃんはお茶をすすった。
かがみ「そんな事をいちいち言わないといけないのか」
私はお姉ちゃんと話しているのかな……
つかさ「そんな事、そんな事って、かえでさんは昨夜、お姉ちゃんの言葉にどれほど苦しんだのか分かっているの」
お姉ちゃんの考えている事が分からなくなった。こなちゃんの推理通りだとしてもあまりにも酷すぎる。
お姉ちゃんはまた黙ってしまった。
つかさ「それに、ここに住んでまだ一年も経っていないよ、少なくともお店が自立できるくらいまでは居ないと、それに私はかえでさんの技術を全部学びたい」
かがみ「……さすが先に卒業して社会に出ているだけはあるわね、この町を、松本さんを選んだ理由なのか、技術ね……はっきり言って彼女から学ぶ技術はないわ」
え、なんか違う、お姉ちゃんはこんな事は言わない。お姉ちゃんと話しているのに、お姉ちゃんじゃないような変な感覚を感じた。
つかさ「私は、かえでさんを友達だと思ってるよ、かえでさんは美味しい料理の技術を持っている、この町だって、まなちゃん、真奈美さんが……」
かがみ「やめろ!!」
お姉ちゃんは怒鳴った。思わず話すのを止めた。
かがみ「そんなおとぎ話みたいなのを信じると思っているのか、バカバカしい」
お姉ちゃんらしい、うんん、これが普通の人の反応かもしれない。こなちゃんやゆきちゃんだって無理に私に合わせてくれているのかもしれない。それでも……
つかさ「それでも私は見たよ、感じた、体験した、それは否定できないよ、まなちゃんは実際に私と話して、笑って、泣いて……勇気を与えてくれた」
かがみ「あんた、その松本って人に唆されているのよ、悪い事は言わない、もう関わり合うのはやめなさい」
お姉ちゃんはかえでさんを良く思っていない。私を笑って見送ってくれたのに。真っ先に賛成してくれたのに。今頃になって……
かがみ「松本かえで……性根が腐っているわ、今からでも遅くはない、私と一緒に帰ろう」
つかさ「お姉ちゃんはかえでさんとお客様と店長の関係でしか接していないでしょ、松本かえで……本人と会って欲しいの、私と同じように、きっといい人だって分かるよ」
お姉ちゃんはしばらく考え込んだ。
かがみ「つかさの良い人はあてにならん、こなたの件もあるしね」
つかさ「でも、そのこなちゃんと一番の親友でしょ」
かがみ「……それはこなたがそう思っているだけよ」
お姉ちゃんは立ち上がった。そして身支度をし始めた。
つかさ「一緒に来てくれるの」
かがみ「なに言ってるのよ、つかさが帰らないのならもう用はないわ、帰り支度よ」
つかさ「え、もう帰るの、あと二泊の予定じゃないの?」
お姉ちゃんは支度をしながら答えた。
かがみ「実はね、つかさを連れ戻しにきたのよ」
つかさ「連れ戻すってなに、まるで私が家出でもしたみたい」
お姉ちゃんは支度の手を止めて私を見た。
かがみ「私以外に賛成した人は居たかしら」
つかさ「……こなちゃんとゆきちゃん……」
かがみ「違う、家族での話をしているの」
確かにお姉ちゃん以外賛成はしなった。でも皆店に来て料理を食べた。美味しいって笑って帰った。もう誰も反対なんかしていないよ。
つかさ「だけど、お父さん達だって店に来たし、もう半年以上生活してきたし……私はもう二十歳を過ぎた、もう子供じゃない……帰る理由なんかないよ」
かがみ「意外と強情ね……まぁいいわ、今に彼女の化けの皮が剥がれて酷い目に遭うわよ、その時になって泣いても知らないから」
お姉ちゃんはまた身支度をし始めた。私は携帯電話を取り出した。
かがみ「なによ、その携帯電話をどうするのよ」
つかさ「帰るならこなちゃんとゆきちゃんに連絡をしないと」
お姉ちゃんは帰り支度を止めた。
かがみ「チッ……宿をキャンセルするのもお金もかかるし、予定通り泊まるわよ、つかさ、その間よく考えておきなさい」
さっきの舌打ち、こなちゃんとは違う。あれは何か失敗した時に使う舌打ち。舌打ちなんかお姉ちゃんは滅多に使わない。よっぽど私を帰したいみたい。
帰らないのならこなちゃん達に連絡は要らない。そのまま携帯電話をしまった。これ以上はお店の話はしない方がいいみたい。話題を変えよう。
つかさ「お父さん達はどう、みんな元気?」
かがみ「皆いつも通りよ、とくにまつり姉さんはね……」
急にお姉ちゃんの顔が笑顔に戻った。これからは家族の話や、お姉ちゃんの大学での話しで盛り上がった。確かにこうしてお姉ちゃんと話していると家が恋しくなる。

635 :つかさの旅 5/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:00:29.90 ID:DlK6yebt0
 お姉ちゃんとお話に夢中になっているとこなちゃん達が帰ってきた。時間を見るともう午後三時を超えていた。
こなた・みゆき「ただいま」
こなちゃんは私たちを見るなりまじまじと見つめた。
こなた「やっぱり姉妹だね〜そんなかがみの嬉しそうな顔は久しぶりだよ」
冷やかされてしまった。私は何も言わず照れていた。
かがみ「……それはそうと帰りが早いじゃないの、どうしたのよ」
こなた「早く帰ってきて欲しくなったのかな〜」
かがみ「違うわよ!!」
こなちゃんは何か言い返そうとしていたけどそれよりも先にゆきちゃんが割って入った。
みゆき「最近流行のパワースポットを目指したのですが……見つかりませんでした」
ゆきちゃんは地図を持っていた。
こなた「携帯の地図でも分からないんだよ」
かがみ「地図を持っていて分からないんじゃ、私も分からないわよ、ここは二回しか来ていないからね」
こなた「え、かがみはこの町、初めてじゃなかったっけ?」
かがみ「あっ、そうそう、初めてだから分からないのよ」
こなちゃんとゆきちゃんは顔を見合わせてお互いに首を傾げた。お姉ちゃんは店に来たのを皆に言っていないみたい。秘密にしたいのかな。
つかさ「そのパワースポットってどこなの?」
ゆきちゃんは地図を広げて私に見せた。
みゆき「この辺りなのですが、よく分からないのです」
地図には印しが付いていたけど道から外れていて場所が確定出来ない。だけどこの場所は私が良く通る場所。何となくイメージが出来た。
こなた「ふふ、みゆきさん、つかさに見せても分かるわけないよ」
笑いながらのこなちゃん。昔の私ならそうかもしれない。
つかさ「この場所はね、地図じゃ分からないよ、段差があるからね、きっと段差の上にあると思うよ」
お姉ちゃん達三人は私をポカンと見ていた。
つかさ「どうしたの?」
かがみ「あんた何時から地図が読めるようになったのよ」
つかさ「お姉ちゃん、私は一人旅でこの町を探索したんだよ、確かに始めは迷ったけど、そのくらいは出来るよ、それにこの印の道は車でよく通るしね」
こなた「え、車も運転するの、事故、事故は……どこかに当ててない?」
身を乗り出して驚いているこなちゃん。引越し前、車の運転には自信なかった。それが心配だった。
つかさ「かえでさんと交代で市場に買出しに行くから使うよ、おかげさまで無事故、無違反だよ、引越しする前にね……成実さんの特訓受けから」
だから成実さんに指導してもらった。
こなた「……ゆい姉さんとはまたとんでもない人に……なぜゆい姉さんに、それでゆい姉さんは何て言ってた?」
つかさ「高校時代の夏休みに引率で連れて行ってもらった時、成実さんの運転……カッコいいなって思って……それでね、最後に成実さんは免許皆伝だって言ってたよ!!」
私は得意げに言った。でも、だれも喜んでくれなかった。何故だろう。
こなた「はは、免許皆伝……ある意味安全で恐ろしい……つかさはハンドル握ると性格変わるタイプなのか……」
つかさ「何ならこれから店の車で案内するけど……」
こなた・かがみ・みゆき「いいえ、遠慮しておきます、また今度お願いします」
思いっきり拒否された。おかしいな、かえでさんも私の運転に同乗は遠慮するし、何か悪いのかな。成実さんはあんなに褒めてくれたのに。
今度成実さんにもっとしっかり教えてもらおう。
つかさ「車がダメなら自転車借りて行こうよ、四人で一緒に、ねぇ、いいでしょ?」
もう私は今日しか皆と一緒に居られない。あとはお店が終わってからしか同行できない。
かがみ「そうね、行ってもいいわよ」
透かさずこなちゃんがニヤニヤする。
かがみ「なによ!!」
こなた「つかさの言う事は聞くんだね、さっきは調子が悪いとか言ってね〜」
こなちゃんはゆきちゃんの方を向いて同意を求めた。
みゆき「ふふふ、そうですね」
かがみ「な、何よ、みゆきまで、別につかさだからって事じゃないのよ」

 宿で自転車を借りてパワースポットがあると言う所まで案内した。途中寄り道をしたので思ったよりも時間が掛かってしまった。
こなた「ここは……最初に来たところだ……」
みゆき「段差には気が付きませんでした……」
こなた「つかさ、本当に地図が読めたんだね」
二人は感心して段差を眺めていた。
かがみ「それで、パワースポットって何なのよ、それらしい物は見当たらないわよ」
確かにそれらしいものは見当たらなかった。そういえばこの段差は道の裏側で谷になっていたような。私は段差に沿って歩いて行った。
そして丁度道の裏側に私の背と幅もと同じくらいの岩があった。上が尖っていて下にいくほど太くなってく形、自然にできた岩みたいだけど不思議な、神秘的な岩だった。
こなた「あった、あった、この岩だよ、説明文と同じ岩だし」
みゆき「そうですね、この岩に間違えなさそうです……不思議な岩ですね……心が洗われると言いましょうか……」
気が付くと皆は目を閉じ、手を合わせて祈っていた。私だけポツンと立っている感じだった。お姉ちゃんが家の神社以外の場所で手を合わせて祈っている姿をみたのは
これが初めてかもしれない。私も気を落ち着かせて手を合わせて祈った。

636 :つかさの旅 6/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:02:13.44 ID:DlK6yebt0

こなた「かがみは何を祈ったの?」
かがみ「何だって良いでしょ」
こなた「あ〜さては男関係でしょ〜」
かがみ「だからそんなんじゃないって言ってるでしょ!!」
こなた「そうやって否定する所が余計にあやしい……」
………
こなちゃんとお姉ちゃんが言い合っている。高校時代から見慣れた光景。話は言い合いから雑談に変化してお互いに笑いも混じるようになった。こうやって見ていると
仲のいいお友達。卒業してもこうやっているのだから親友って言ってもいいよね。日下部さんやあやちゃんとはまた違った関係のような気がするけど。
宿屋で言ったお姉ちゃんの言葉がいまだに引っかかる。あれは本心でそう言ったのかな。こなちゃんの前でいくらなんでも聞けるわけもない。
それにかえでさんに対する態度も理由が分からない。焼餅を焼いているにしても、私を帰したいにしてもあんな事までしなくても。
こなた「ところでこのパワースポット、どんなご利益があるの?」
かがみ「あんたは知らないでお祈りをしていたのか?」
こなちゃんは頷いた。こなちゃんは私の方を向いた。
つかさ「私も知らない、だってここにこんな岩が在るなんて初めて知ったから」
みゆき「話では万病に効くと、難病のご老人がこの岩を触ったら改善したと……先ほど携帯で調べた限りですけど、この町が出来た頃には既にあったようですね」
こなた「な〜んだ、色恋のパワースポットだと思ったのに、皆健康だからここは関係ないね」
するとお姉ちゃんは腕を伸ばして岩を触り始めた。そしてその手を反対の腕に擦り付けた。
こなた「かがみ、なんか病気持っていたっけ?……」
こなちゃんは心配そうだった。私も、ゆきちゃんもお姉ちゃんを見た。そういえば神社に来なかったのも生理痛とか言っていた。
かがみ「最近調子悪くてね、これで健康になるなら安いものでしょ、ほら、皆もやったらどうなの、健康がもっと健康になるかもよ」
ゆきちゃんも岩に触れてお姉ちゃんと同じ事をした。私とこなちゃんも後に続いた。

 旅館に戻った私達は先にこなちゃん達を部屋に案内して私は借りた自転車を返しに行った。部屋に戻るとこなちゃん以外は浴衣姿になっていた。
つかさ「今日の夕食だけど……」
かがみ「悪いけど食欲が無いの、行きたければどうぞ、その間温泉にでも入っているわ」
やっぱり、お姉ちゃんは食べる気はないみたい。そういえば何となく顔色が少し悪いような。部屋が蛍光灯だからそう見えるだけなのかな。
みゆき「大丈夫ですか」
かがみ「平気よ、ささ、行ってきなって」
お姉ちゃんはタオルを持って部屋を出て行った。温泉に向かったようだ。お姉ちゃんの足音が聞こえなくなってから暫くして。
こなた「どうしよう、またレストランでかがみが居ないんじゃ松本さん気を悪くしそうだよ……」
ゆきちゃんは俯いて黙ってしまった。私も客として行きたいところだけど流石に行く気にはなれない。
つかさ「それじゃ部屋に持ってきてもらうように女将さんに言っておくよ、お姉ちゃん、明日は来てくれるといいな……」
こなた「つかさは来ないの、折角だから泊まっていけば良いのに、いろいろ話したい事もあるし」
つかさ「ありがとう、でも明日は早いし、もう帰らないと、明日は仕事が終わって夜からなら会えるし、その時に話そう」
こなた「そうだね、おやすみ」
みゆき「おやすみなさい」
私は帰り掛けに女将さんにこなちゃん達の部屋に料理を持ってきてもらうように言った。お姉ちゃんには消化の良いものを特別に作って欲しいと言った。
かえでさんならきっと分かってくれる。本当は直接会いたかったけど休みの日はなるべく仕事の件で会うのは止めようと約束をしていたから出来なかった。

旅館を出て駐車場に停めてある車に向かった。車のドアを開けたときだった。
こなた「へぇ、それはつかさの車?」
突然後ろからこなちゃんの声が聞こえた。慌てて後ろを向いた。
つかさ「こ、こなちゃん、温泉に入らなくていいの?」
こなた「24時間入れるし別に今じゃなくていいよ……それはそうとこの車、ゆい姉さんと同じだね」
こなちゃんは車を見ながら話した。
つかさ「でも、お姉ちゃんとゆきちゃんは……」
こなた「二人は温泉に入っているよ、みゆきさんが言ったんだよ、つかさと一緒に居てくれってね……ドライブしようよ、もちろん運転はつかさでね」
こなちゃんは車に乗り込んだ。そういえばこなちゃんは浴衣に着替えていなかった。もしからしたら最初からそのつもりだったのかな。

 私は車を走らせた。
つかさ「町を一周でいいかな」
町を一周するには30分くらいはかかる。
こなた「いいよ」
暫く車を走らせた。暫くはしらせていると、こなちゃんは「ふぅ」と溜め息をついた。
こなた「……やっぱりつかさはつかさだね、ゆい姉さんの運転とは違うよ」
つかさ「それって、褒めてるの、貶してるの?」
こなた「……つかさは変わったよ、一人旅をしたからかな、私はまだ学生なのにもうつかさは働いて車も手に入れてさ」
つかさ「え、さっき、私は私だって言っていたのに、こなちゃんの言ってる事分からないよ」
こなちゃんは黙ってしまった。
つかさ「あっ、そうだ、料理を遅くしてもらわないと、誰も居ない部屋に料理が来ちゃう」
こなた「それは大丈夫、私が駐車場に来る前、松本さんに直接言ったから、料理は最後に出してくれってね」
私はホッと胸を撫で下ろした。
こなた「……昔のつかさならそんなの気にもしなかったでしょ……松本さんって人の教育のせいかな……かがみが嫉妬するはずだよ」
こなちゃんはお姉ちゃんについて話したかったのかな。わざわざ私と二人きりで。
つかさ「私ってそんなに変わった?」
こなた「……変わったと言うより大人になった、私達はまだまだ子供だよ、みゆきさんも、そしてかがみもね……」
つかさ「社会人と学生の差って言いたいの、それならこなちゃん達だって来年卒業だよ、大学院に進学するなら別だけど、もう大人だよ」
こなちゃんは何も言わずうっすらと笑みを浮かべながら車の窓の外を見ていた。変な事言ったかな?


637 :つかさの旅 7/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:03:48.24 ID:DlK6yebt0
 10分くらい車を走らせた。こなちゃんはボーっとして外を見ている。もう飽きちゃったかな。そうだよね、こんな田舎の町じゃすぐに飽きちゃうかも。
つかさ「こなちゃん、お姉ちゃんをどう思ってる?」
こなた「どうって……友達だよ……今更そんなの聞いて……」
こなちゃんは私の方を向いた。思った通りの返事が返ってきた。そうだよね。今更だよ……
こなた「もしかして昨夜のかがみを気にしているの……確かに師匠を貶されちゃ、弟子は怒るよね、何となく分かるよ」
お姉ちゃんがかえでさんを貶したとは思えない。何か深い理由があると思う、だからその話は今、しなくない。
つかさ「もし、もしだよ、もし、お姉ちゃんがこなちゃんの事を友達だと思っていなかったら……どうする?」
私の顔をじっと見つめるこなちゃん。
こなた「ふーん、かがみはそんな事言ったんだ?」
私は思わずブレーキを踏んで車を止めた。
つかさ「うんん、だ、だから言ったでしょ、もしもって……」
ま、まずい、一発で見破られてしまった。こんなの聞くんじゃなかった。おろおろしている私を見てこなちゃんは笑った。
こなた「ふふ、相変わらず嘘が下手だな、つかさは〜」
つかさ「え、えっと……」
こなた「ほらほら、車を止めたなら早くハザード点けないと」
こなちゃんに言われるままハザードボタンを押した。こなちゃんは少し考えたように腕を組んでから話し出した。
こなた「私はかがみを親友だと思っている、それは今でも変わらないよ、かがみがどう思っていてもね……私達は高校が同じと言うだけでなんの共通項もないし、
    趣味や趣向も違う……大学も違うし、これから卒業してからも違った仕事をするようになるだろうね……でもそれが良いんだよ、
    利害を共にするとね、友情なんてすぐ壊れちゃうものだよ、かがみがそう思っているなら私にとっては好都合だよ」
つかさ「そ、そうなの?」
意外な答えが返ってきた。ただ聞き返すことしか出来なかった。
こなた「異性同士の関係ならまだしも、同性だったらこんなもんだよ、つかさ……つかさは松本さんをどう思ってるの、私やみゆきさんとは違うでしょ?」
つかさ「……それは」
初めて会った時は旅館の料理人とお客、今はレストランの店長と従業員の関係……会っていて楽しいけどいつも緊張感をもって接している。
こなた「お店がうまくいかなければ松本さんの責任は重大、あっと言う間につかさは松本さんと別れると思うよ、それでも友達で居られるなら……本物だよ」
私とこなちゃん……何の利害関係もない、だからこうやって話したり、笑ったり、遊んだり出来るのかもしれない。こなちゃんの言葉が重く響いた。
それと同時にお姉ちゃんとこなちゃんはこれからも友達でいられるような安心感も湧き上がった。
つかさ「こなちゃん、今日はいろいろとありがとう、なんかもやもやしているのが晴れた感じだよ」
こなた「いろいろって、私は何もしていないよ?」
つかさ「さてと、宿屋に戻ろうね、全開でいくから」
私は車の窓を全開にした。
こなた「え、え、今までの……全開じゃなかったの?」
つかさ「うんん、成実さんが教えてくれた三割程度だよ……加速は最高で、法規は厳守……風を切るように……」
今日の風は気持ち良さそう。ギヤを入れ、アクセルを思いっきり踏んだ。
こなた「ちょ、つかさ、まだ私の心の準備が、ぎ、ギャー」

 旅館の前に着いた。私は車を止めた。
こなた「隣の席に、ゆい姉さんの姿を見た……」
つかさ「こなちゃんにそう言ってもらえると嬉しい」
こなた「言っておくけど、褒めているわけじゃ……まぁ、いいや」
私の顔を見るなり言うのを止めた。そして車の外に出た。私も車を降りようとした。
こなた「いいよ、そのままで、明日は早いんでしょ?」
つかさ「うん」
こなちゃんは運転席の方に回って来た。
こなた「いつの間にゆい姉さんと同じ走りに……信じられない、この調子で松本さんの技術も全て覚えちゃいなよ」
つかさ「うん、頑張るよ、また明日ね」
こなちゃんは手を振り宿屋へと入っていった。
私も帰ろう。


638 :つかさの旅 8/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:05:22.64 ID:DlK6yebt0
 次の日の朝一番、私は市場で食材を買出ししてから店に向かった。店に入ると厨房に明かりが灯っているに気が付いた。かえでさんが居る。
かえでさんは腕を組んでじっと下の方を見ていた。そこには料理が置かれていた。そう、あの時お姉ちゃんがかえでさんに突き出した料理と同じもの。
つかさ「おはようございます!!」
かえでさんは飛び跳ねて驚いた。そして厨房の時計を見た。
かえで「驚いた……もうそんな時間なのね」
つかさ「えっと、食材を買ったので運ぶのを手伝って欲しいのですが」
かえで「OK!!」
一緒に車に向かう。かえでさんあの様子だと徹夜で何故お姉ちゃんが料理を批判したのか考えていたみたい。食材を冷蔵庫に運びながら話をした。
つかさ「もしかして徹夜してた?」
かえで「まあね……貴女のお姉さんの宿題、難しいわね、全く分からないわ、それだけ私が傲慢だった、一つの価値観をお客様に押し付けていたのかもしれない」
つかさ「うんん、あまり気にしないで下さい、お姉ちゃん、きっと私と離れて寂しいからあんな事言ったんです」
かえでさんは笑った。
かえで「ふふ、見た目はそんな感じには見えないわよ、しっかりもののお姉さんってね、つかさの方がよっぽど子供っぽいわ」
そうだよね、見た目も実際もそうかもしれない。
かえで「それよりごめんなさいね、折角お友達とお姉さんが来ているのに休ませられなくて……もう少し軌道に乗れば休んでもらえるのだけど」
つかさ「いいえ、それは覚悟して来ましたから、それより徹夜でこれから開店して大丈夫ですか、私が代わりましょうか?」
かえで「いいえ、それは覚悟しているから……」
言い返された、二人で笑いながら食材を運んだ。この様子ならかえでさん、大丈夫かな。ちょっと安心した。暫くするとスタッフの人達も出勤してきて慌しくなった。

 お昼を過ぎて少し時間に余裕が出てきた頃だった。厨房で食器の片付けをしていた。先に食事を終えたかえでさんがやってきた。
かえで「つかさ、前々から気になる事があってね、確認しておきたい」
何だろう改まって。私は作業を止めてかえでさんの方を向いた。
かえで「いや、作業はそのまま続けて、自然にしていて、そのまま私の陰から5番テーブルのお客様を見て」
お皿を片付けながらちらりと5番テーブルを見た。そこには男性が座っていた。中肉中背、年齢は私と同じか少し年上っぽい。じっとこっちを見ているみたいだった。
かえで「半月くらい前からかしら、毎日のように来るようになったお客様よ、しかも店内に居る間はつかさの方ばかり見ているの、知り合い?」
もしかして神社でこなちゃんが言っていた男の人ってこの人なのかな。
つかさ「うんん、初めて見る人です、話もしたことないです」
かえで「毎日来てくれている常連さんだから今まで黙っていたけど、つかさの知らない人であるなら少し心配ね……ストーカーも考えられるわ」
こなちゃんと同じ事言っている。最後の食器を片付けてかえでさんの方を向いて話した。
つかさ「帰りは車だし、後を付いてくるような車とかの気配はなかったです」
かえで「それを聞いて安心したわ、お客様を疑ってはいけないわね、つかさの彼氏とも思ったほどよ、あの目つき、いやらしくはないけどね……つかさに気があるかもよ」
つかさ「え、この町に来てまだ一年経っていないです、そんなに私はもてません」
かえで「ふふ、何赤くなって、別に恋愛禁止って訳じゃないわよ、ちゃんと仕事をしてくれればね……それじゃこの話は頭の片隅にでも置いておいて忘れて……」
ちょうどその時、5番テーブルの男の人が立ち上がった。店を出るみたいだった。かえでさんはそれに反応するかのようにレジに向かった。
今まで気が付かなかった。かえでさんはお客さんもしっかりチェックを入れている。私も見てくれている。やっぱり凄いや。かえでさんは料理だけじゃない。
改めてかえでさんを尊敬してしまった。それにこなちゃんもたった一日だけであのお客さんが私に注目しているのを分かったなんて凄いな。それとも私が鈍感なだけなのか。
こんどはお客さんの様子も見ないとだめ。
それにしてもあの男性のお客さん、どうして私を見ていたのかな。ストーカーだったら怖いし。私に気があるのならどうしていいか分からない。

 ラストオーダーが終わり片付けに入った。やっぱりかえでさんを皆に会わせたい。特にお姉ちゃんに本当のかえでさんを知ってもらいたい。
結局今晩もお姉ちゃんは来てくれなかった。
つかさ「かえでさん、この後何か用事はありますか、なければ改めて皆を紹介したい……徹夜で疲れているのは知ってる、だけど明日にはみんな帰っちゃうし……」
かえで「行っても良いけど、私はお邪魔になるだけでは、特にかがみさんにはね」
やっぱりかえでさんは気にしている。
つかさ「普段着のかえでさんを皆に知ってもらいたくて」
かえで「普段着ねぇ、そんなに変わらないわよ、私はいつでも私、場所や立場が変わっても同じよ」
つかさ「それじゃ、決まりだね」
ちょっと強引だったかもしれないけど、かえでさんを連れて宿屋に向かった。


639 :つかさの旅 9/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:07:28.31 ID:DlK6yebt0
 お姉ちゃん達が泊まっている部屋の前でノックをする。
つかさ「こんばんは、入るよ」
ドアを開けると三人とも浴衣姿で楽しそうにしていた。きっとお話が盛り上がっていたに違いない。
こなた「つかさ〜待ってたよ、ここのお湯いいね、だからあと二泊することになったよ」
嬉しい。まるで地元を褒めていられるたような感覚だった。三人は私の後ろにいるかえでさんに気が付いた。
つかさ「あ、改めてご紹介します、こちらは私がお世話になっている松本かえでさんです、この宿屋の食事兼、レストランの店長です」
かえでさんを前に出した。
かえで「先日のご来店はありがとうございました、私が松本かえでです、つかさのお友達、お姉さまと伺っています、今後ともよろしくお願いします」
こなた「よろしくお願いします」
みゆき「こちらこそお願いします」
こなちゃん、ゆきちゃんは丁寧にお辞儀をした。お姉ちゃんは黙ってそっぽを向いていた。何で、いくらなんでもお姉ちゃんらしくない。
つかさ「お姉ちゃん、お世話になっている人だよ……」
かがみ「どうも、つかさがお世話になっています……」
そっぽ向いたまま何の動作もしなかった。言葉も感情がはいっていなくて棒読み。これで雰囲気が悪くなってしまった。
みゆき「ど、どうぞ中へ」
ゆきちゃんは慌てて座布団を用意し、こなちゃんはお茶を用意しだした。私たちは部屋の中に入り座布団に座った。
こなた「しかし、つかさが一人暮らしするなんて聞いてどうなるかと思ったら、ちゃんとやっているみたいだし、松本さんのご指導が良かったのですね」
みゆき「これからのご活躍を期待しております」
かえで「ま、堅苦しい挨拶はこのへんでいいでしょ、とりあえずはつかさを私に預けてくれてありがとう、お友達と離れるのは辛かったでしょ?」
こなた「いえいえ、天然のつかさを鍛えて下さい」
つかさ「こ、こなちゃん!!」
かえでさんはにやりと笑った。
かえで「天然ね〜確かにそうゆう所もあるわね、そういえばね貴女達が来る前日にね……」
つかさ「わ、わ、それ言っちゃダメ、だめだから」
かえで「そう言われると話したくなるのが人情ってものでしょ」

 かえでさんが私達の会話に溶け込むに時間は掛からなかった。暫くの間、私たちはお喋りをしながら過ごした。友達が一人増えた。そんな感じだった。
かがみ「所でつかさ、この前の答え聞いてないわ」
お喋りをし始めてから出たお姉ちゃんの一言。会話が止まってしまった。答えも何も。もう決めた事だから。
つかさ「お姉ちゃん、私はここに残るよ……だってそう決めたから、目的を果たすまでは帰らないよ」
みゆき「いったい何の話ですか?」
かがみ「こんな所にいつまでもつかさを置いておけないから連れて帰るのよ」
みゆき「……どうしたのですか、かがみさん、あの時一番、賛成していたではないですか」
こなた「そうだよ、つかさだって頑張ってるし、いまさらそんな事言って……」
こなちゃんとゆきちゃんが驚いた顔でお姉ちゃんを問い質した。そんなこなちゃん達を無視するかのように私を見ていた。
かえで「……なるほどね、可愛い妹さんが居ないと何も出来ない事に気が付いた……そんな所かしら」
お姉ちゃんはかえでさんを睨み付けた。
かがみ「なに、もう一度言ってみろ」
お姉ちゃんもかえでさんを睨み返した。
かえで「貴女の心叫びが聞こえる『寂しい、帰ってきて、寂しいよ』そうそう、そう言っているのが聞こえるわ、つかさに聞いたのと全然違うわ、ただのアマちゃんね」
かがみ「わ、私はシスコンか、バカにするな、私はつかさのためを思って……」
かえで「確かに私はつかさを誘った、でも決めたのはつかさ、ここに来たのも本人の意思、そして戻りたくないと言っている、それ以上望郷を煽って惑わすのは、やめなさい」
きつい口調で諭すようにお姉ちゃんを叱りつけた。それは店で見た時と逆の光景だった。お客さんと店長としてではない。人生の先輩として……
お姉ちゃんは半分涙目になっていた。こんなお姉ちゃんを見るのも初めてだった。
かがみ「つかさ、帰ってきて、お願い、つかさ、あんたのためな……」
お姉ちゃんはそのまま黙ってしまった。
かえで「つかさのためと言うなら、そのまま黙って見守ってあげなさい……少し居すぎたわね、帰るわ」
暫くかえでさんは黙って俯いているお姉ちゃんを見下ろしていた。でもそれは軽蔑している感じではなかった。
かえで「少し居すぎたわね、帰るわ」
かえでさんはそのまま部屋を出て行った。
つかさ「お姉ちゃん、あとで話そうね……」
私はかえでさんを追いかけた。


640 :つかさの旅 10/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:09:05.50 ID:DlK6yebt0
 かえでさんは店のの車に乗り込もうとしていた。
つかさ「まって、待ってください」
かえでさんは車に乗るのを止めて私の方を向いた。そして溜め息を一回ついた。
かえで「ごめんなさい、大人気なかったわ、彼女がムキになってくるから思わず怒鳴ってしまった……せっかく会わせてくれたのに」
つかさ「うんん、お姉ちゃんがあんな事言うから……」
かえでさんは苦笑いをした。
かえで「ふふ、彼女と言い合いしていたら……浩子の事を思い出してしまったわ」
つかさ「浩子さんって、辻さんの事?」
かえでさんは頷いた。
かえで「そういえば、浩子とあんな言い合いをしたっけ……容姿も歳も違うのに浩子と彼女が妙に重なった……言い過ぎたかもしれない……謝っておいて」
つかさ「かえでさん……」
かえでさんは車に乗り込みエンジンをかけた。そして私を見ると手を上げてから車を走らせた。私も手を振って見送った。
かえでさんは辻さんとお姉ちゃんの姿が重なったって言っていたけど、言い合いだけでそんな風になるのかな。それよりお姉ちゃんをなんとかしないと。
かえでさんの車が見えなくなると旅館に戻った。

 旅館のロビーに着くとこなちゃんとゆきちゃんが居た。私服に着替えている。私の姿を見るなり二人は近づいてきた。
つかさ「どしたの、お姉ちゃんは?」
こなた「暫く誰とも会いたくないって、部屋を追い出されちゃったよ」
みゆき「あんなかがみさん初めて見ました、いったいどうしたのでしょうか、理解できません」
どうしよう、これだと私が部屋に行っても会ってくれないかもしれない。
こなた「実は、宿泊延長はかがみが言い出したんだよ、かがみは是が非でもつかさをつれて帰りたいみたいだね」
つかさ「……何で……」
こなた「訳を聞くと黙り込んじゃってね、かがみらしくないよ、つかさなら心当たりあるんじゃいの?」
つかさ「分からない……」
こなた「あ〜あ、つかさが分からないんじゃお手上げだ」
本当に両手を上に上げた。
つかさ「部屋に入れないのなら、私の家で時間を潰すのはどうかな、車で行けば直ぐだし」
みゆき「それはいいで……」
こなた「わー、いいよ、車はもう沢山だよ」
ゆきちゃんに割り込むように身を乗り出してきた。
つかさ「それなら、お店で少し時間を潰すといいよ、お茶くらないなら出せるし」
みゆき「いいのですか、明日の準備は?」
つかさ「もう明日の朝食は仕込んであるから関係ないよ」

 私達は店に移動した。消していた電灯をつけて、お茶とお茶菓子を二人に出した。そこでの話はやっぱりお姉ちゃんの話しになった。
一時間くらいは話したけど、結局お姉ちゃんの真意は分からなかった。旅館に戻った二人、何とか部屋には戻れた。だけど私は泊まるのを諦めた。
お姉ちゃんは私が帰ると言うまで泊まり続けるつもりなのかな。一日でいいのなら帰ってもいい。そこまで言うのなら、帰って欲しいと言うのなら……


641 :つかさの旅 11/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:10:53.96 ID:DlK6yebt0
 二部 <訪問者>

 車を駐車場に止めて降りた。トランクからコンビニで買った荷物を降ろした。駐車場を出ようとした時だった。壁の陰から人影が飛び出した。そして私の行く手を阻むように
立ちはだかった。男性だった。私は立ち止まった。男性は私から二、三メートル離れて私を見ている。この男性は……店に居たお客さん、かえでさんの言ってた常連さんだ。
かえでさんは私をずっと見ていたと言っていた。も、もしかしたらストーカー……
身がすくんでしまった。で、でも、家は男性を追い越さないと帰れない。小走りに男性を追い越した。男性は邪魔するどころか何もしないで私を通した。
男性「待ってお姉ちゃん!!」
思いもしなかった言葉が後ろからした。私は立ち止まった。
男性「やっぱり、お姉ちゃんだね、探したよ」
私はゆっくり振り向いた。男性は親しいそうな笑顔で近づいてきた。
つかさ「お、お姉ちゃん?」
男性「仲間もいないから探したよ、お姉ちゃん、完全に人間になりきっているね、流石だよ、でも、僕には分かるよ、微かにお姉ちゃんの気配がする」
言っている意味が分からない、人違いに違いない。
つかさ「ひ、人違いじゃないの……私は……」
男性「僕が分からない、そうだよね、僕だって腕を上げたからね……ひろしだよ、真奈美お姉ちゃん」
真奈美……まなちゃん。もしかしてこの人はまなちゃんの弟さんなのかな。
つかさ「まなちゃん……真奈美さんは私の友達だった……」
ひろし「もうお芝居はいいよ、早く仲間の所に戻ろう、みんな神社に居ないからその訳も聞きたいしね」
男性はさらに近づいた。
つかさ「私は真奈美さんじゃないよ、柊つかさ……」
男性は私の直ぐ近くまで来るとまた立ち止まった。
ひろし「ん、おかしい、お、お前、姉さんじゃない……何故姉さんを知っている、お前、人間だよな」
男性は数歩後ろに下がった。そして目つきが鋭くなった。
つかさ「うん、真奈美さんは知り合い……友達だったよ」
ひろし「嘘だ、姉さんは人間を嫌っていた……お前、姉さんに何かしたのか」
さらに目つきが鋭くなった。
つかさ「私、真奈美さんに助けてもらったの」
男性は何も言わなくなった。この感じ……そうだ、身動きが取れなくなる術をしようとしている。二回も受けたから何となく分かった。あれは目を合わせると動けなくなる。
私は男性のすぐ横にある電柱を見て男性の目を見ないようにした。
ひろし「……こ、こいつ、何故人間が金縛りの術を知っている、お前、狐狩りか!!」
あぁ、余計に怒らせてしまった。男性は一瞬で私に近づき右手で胸倉を掴まれた。力は強く身動きが取れない。私の身体は宙に浮いた。そして左手の爪が伸び始めた。
ひろし「……弱いな、弱すぎる、これも芝居か、何を企んでいる……」
苦しくて何も出来ない。声も出ない。これじゃ金縛りを受けているのと変わらない。左手の爪が私の頬に接した。このまま切り裂かれてしまのかな。
まなちゃん、助けて……そう心で叫んだ。
男性は急に私を放した。私はその場に落ちるように座りこんでしまった。
つかさ「げほ、げほ……」
ひろし「お姉ちゃん……嘘だろ……う、うゎー」
男性は両手で頭を抱えながら走り去ってしまった。喉を少し絞められたからまだ少し苦しい。喉を押さえながら立ち上がった。買い物袋を拾って家に向かった。

 家に入ると水を一杯飲んだ。まだ少し喉が痛い。あの男の人、私をまなちゃんだと思っていた。あの男の人、まなちゃんが辻さんに化けるようになってから
まなちゃんに会っていない。だから間違えたんだ。でも、どうして私とまなちゃんを間違えたのかな。考えても分からないや。でも、また、まなちゃんに助けられちゃった。

642 :つかさの旅 12/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:12:14.35 ID:DlK6yebt0
 喉の痛みは治まったけど、お姉ちゃんの事とさっきの男性のせいで眠れない。眠れないのは、この町に引っ越してから初めてかもしれない。
こんな時は無理に寝ないで温かいココアでも飲むかな。やかんに水を入れて火を点けた。お姉ちゃんとかえでさんの言い合いを思い出す。
やっぱり明日、かえでさんに話して一日だけでも帰ろう。それでお姉ちゃんの気が済むならそれでいいし。それでダメならお姉ちゃんを叱らないといけないのかもしらない。
『ピンポーン』
呼び鈴が鳴った。置時計を見るともう日が変わろうとしている時間。こんな夜遅く誰だろう。やかんのお湯をポットに移して玄関に向かった。
ドアのノブに手をかけた。さっきの男性を思い出した。もしまたあの男性だったら。また私を……そうしたらもう自分の力ではどうすることも出来ない。開けられない。
つかさ「あ、あの、誰ですか」
ドア越しから声をかけた。
ひろし「……さっきは、ごめんなさい……ひろしです、真奈美の弟です……」
やっぱりあの男性だった。とても静かな声だった。恐い、恐いけど話さないと、またさっきみたいに怒り出すかもしれない。
つかさ「な、なんの用ですか……」
ひろし「……貴女に触れた時、見てしまった……姉と仲間の事……あれは、本当なのか……」
そういえば思い出した。まなちゃん達は触れたものの心とかが分かる能力を持っている。だから私に触れた時、あの時の状況が彼の頭の中に映ったのかな。
つかさ「……多分、見た通りだよ、私からは何も言えない、でも、私は真奈美さんに助けられた……」
ひろし「……そう、出来れば少し話したいけど……酷いことしたから……無理だよね」
……それはまなちゃんだって同じだった。最初は私を殺そうとまでしようとしていた。私は彼を信じる。ロックを解除してドアを開けた。彼は驚いた顔をして立っていた。
つかさ「とうぞ」
ひろし「ドアを開けた……なぜ、少なくとも君を傷つけようとした……」
つかさ「まなちゃん、真奈美さんもそうだったから……」
ひろしさんはそのまま家に上がった。居間に案内した。彼は椅子に座った。
つかさ「今、ちょうどココアを淹れようとしていた所だから」
私は台所に向かった。
ひろし「……いいのか、初対面の男性を家に入れて……人間の世界だといろいろ問題になるぞ」
つかさ「こんな深夜だしだれも見ていないよ、それに貴方は人間じゃないでしょ、まなちゃんが言っていた、人間とは種族が違うからそんな気持ちにはならないって」
ひろし「姉さんはそんな事まで話していたのか……」
つかさ「でも、弟さんが居るなんて一言も言ってなかった」
ココアを淹れたカップを居間に持って行った。
つかさ「どうぞ」
ひろしさんはココアを飲もうとはしなかった。私をじっと見ている。
ひろし「おかしい、どうみても普通の人間なのになぜ、姉さんを感じるのか……今も感じる」
私もそれが不思議だった。まなちゃんを感じる物って……もしかしたら。ポケットから財布を取り出し中から葉っぱを取り出した。お金だと言って渡されたものだった。
それをあきらさんに見せた。ひろしさんは笑みを浮かべた。
ひろし「……それだ、それから姉さんを感じる……はは、まだそんな幼稚な術で悪戯していたのか」
つかさ「御礼だって、渡された時は一万円札に見えた」
ひろし「これは人間を騙す初歩の術さ……」
つかさ「も、もしかして、レストランで払っているお金も……」
ひろし「ははは、まさか、この術は直ぐにバレるからな、使わないよ、人間の社会で仕事してちゃんとしたお金で払ってるよ」
笑いながら話した。そして直ぐに真面目な顔になった。
ひろし「さて、話してくれるかな、姉さんと仲間の事……」
つかさ「私も全ては知らないけど……」
私はまなちゃんとの出会いから別れまでの出来事を話した。

643 :つかさの旅 13/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:14:40.79 ID:DlK6yebt0
ひろし「……お姉ちゃん……」
つかさ「私の知ってるのはここまで」
ひろしさんはうな垂れていた。やっぱりそうとうショックだったに違いない。
ひろし「お頭と姉とはいつも意見が対立していたけど……まさか」
つかさ「お頭って、もしかして大きな狐さん?」
あきら「大きい……確かに、大きくて偉大、最長老で、最高指導者さ……」
つかさ「何故、あの時、えっと、えっと」
なんて呼ぼうかな。ひろしさんでいいのかな。
ひろし「ひろしでいいよ」
私の心を読んだように答えた。
つかさ「何故、あの時ひろしさんは居なかったの?」
ひろし「僕は人間の世界で修行中だったから、僕達は人間とは付かず離れずの関係できていた、最低限、人間の世界は理解しないと生けていけないから、狐狩りさえなければ……」
つかさ「駐車場で私を狐狩りって言ってたけど……」
ひろし「い、いや、大昔の話だよ、動物の狐ではなく、悪魔として狩られた時もあってね、この時代は僕達の存在すら忘れられているから、関係ない話、思わず言ってしまった、
    でも、この時代の人間も動物の狐は狩る……一年中人間の姿で居られる訳じゃないから狙われる場合もある」
つかさ「この町も定期的に狐狩りしているよ……」
ひろしさんは黙ってしまった。
つかさ「まなちゃん、真奈美さんは生きているかな、この葉っぱには真奈美さんの術が残ってるんでしょ、だからまだどこかに生きているような気がする」
ひろし「……分らない、君のイメージから分るのは、かなりの深傷だった、あのまま逃げてもどうなったか……」
つかさ「やっぱり……」
ひろし「君達人間も、僕達も思考や感情はそんなに違いはなかった、恨みや辛みは弱いものに当たる……お頭達は、馬鹿なことをしたものだ」
溜め息をつくひろしさんだった。その表情は怒ると言うより悲しそうだった。ひろしさんは仲間を深くは恨んでいないような気がした。
ひろしさんは置いてあったココアを一口飲んだ。
ひろし「……このココア、美味しく飲んでもらおうとして作ったのが解る……店で出しているのと同じだ、でも、君の作ったのを口にするのは始めだな」
つかさ「私は、デザート担当だから」
ひろし「そうか、だからか……」
ひろしさんはまたココアを一口飲んだ。私は彼をじっと見た。
ひろし「何か?」
つかさ「やっぱり男性は強いですね、まなちゃ……うんん、真奈美さんが亡くなったのに涙一つ見せない」
ひろしさんは一瞬微笑んだ。
ひろし「まだ死体を見たわけじゃないからね、それまでは涙もでないさ、それに、だから君もこの町に来たのでしょ……強いのは君の方だよ、あれだけの恐怖体験をしながら
この町で暮らせるなんて、僕の術を冷静に対処ところなんかは賞賛に値する、名前はなんて言ったっけ?」
これって褒められているのかな。人間じゃないけど男性に褒められたのはお父さん以外では初めてかもしれない。
つかさ「つかさ……柊つかさ」
ひろし「つかさ……覚えておこう」
あきらさんは立ち上がった。
ひろし「お邪魔した、帰ろう……」
ひろしさんは玄関の前で立ち止まった。
つかさ「どうしたの?」
ひろし「……帰る足がなかった」
もう時間が時間だし、交通機関はもう止まっている。
つかさ「車で送るけど……」
ひろし「……いや、車は苦手なんだ……あの音、振動、思い出すだけで身震いがする」
思わず吹き出しそうになった。
ひろし「な、なんだよ、誰にだって苦手なものはあるだろう」
顔が少し赤くなっているのが分った。
つかさ「そ、そうだね、ごめんなさい……自転車もあるけど……」
ひろし「それだと家に着く前に変身が解けそうなんだ、変身の解けたばかりは何も出来ない狐と同じ、野犬にも勝てない」
この状況で答えは一つしかない。
つかさ「それなら家で泊まればいいよ」
ひろし「……今は人間なんだぞ、いいのか、その気がなくともどうなるか分らんぞ……それも分らないような歳じゃないだろう」
ひろしさんの目が真剣になった。でも私は笑った。
つかさ「ふふ、その気になる前に狐になっちゃうでしょ、私はもう寝るけどお風呂が沸いているから入って、居間に布団をひいておくから」
あきらさんは黙ってお風呂場へと向かって行った。あんな事言ったけど、内心はドキドキだった。こんな事を言われるのも初めてだった。男性と一夜を明かす……考えもできない。
でもなんだか心が落ち着いた。まなちゃんは生きている。そうだよ、それもあるからこの町に戻ってきた。また逢えるかも知れない。そんな事を考えていたら眠くなってきた。
もう眠れそう。


644 :つかさの旅 14/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:20:49.49 ID:DlK6yebt0
 何だろう。ほっぺたがくすぐったい。ゆっくりと目を開けた。起き上がり背伸びをした。久々に良く眠れたみたい。気分が爽快だった。
つかさ「う〜ん」
目覚まし時計を見るとまだセットした時間より10分早かった。
「クゥ〜ン」
はっとして声のする方を見るとベッドのすぐ下に狐がお座りをしていた。私は頬を触った。少し濡れている。そうか変身の解けたひろしさんだったのか。私の頬を舐めて
起こしたみたいだった。
つかさ「おはよう」
ひろしさんは私と目が合うとクルリと一回りをして寝室を出て行った。そうか、もう帰りたいに違いない。私も寝室を出ると、あきらさんは玄関の前でお座りをしていた。
つかさ「帰りたいの?」
ひろしさんは頷く仕草をした。この狐……良く見るとまなちゃんが狐になった時と良く似ている。やっぱり姉弟。納得してしまった。玄関を開けようとしたけど開けるのを止めた。
この時間だと近所の人が犬の散歩で出ている。狐が家から飛び出して見つかったら言い訳ができない。
つかさ「他の人に見つかっちゃうかもしれないから、台所の裏窓から出てくれないかな?」
私が台所に向かうと私の後からひろしさんが付いてきた。裏窓を開けると、軽やかに飛び上がり窓から出て行った。やっぱり狐の姿だとドアも開けられないのか……
あれ、それじゃ何で寝室に入ってこられたのかな。もしかして私が眠っている時、人間のあきらさんが入ってきた……
それから……わ、私何かされたのかな。それより寝姿見られた……あまりにも自分が大胆な事をしていたのに気付いてしまった。こんなのまだ早過ぎだった。
今頃になって恥かしくなってしまった。
『お姉ちゃん』、駐車場で彼は私にそう言った。とっても親しみが籠もっていた。私も同じように言っているから直ぐに判った。急いで家に帰ろうとしていた私の足を止めた言葉。
最初は恐かったけど……話してみると優しい人だった。でも、私をまなちゃんに間違えたのならもう私と会うこともない。ちょっと残念。
問題は私のお姉ちゃん。このままにしておくのはやっぱりダメだよ。かえでさんに会ったら話してみよう。私の気持ち……

645 :つかさの旅 15/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:21:54.93 ID:DlK6yebt0
かえで「実家に帰ると言うのか……」
私は頷いた。ひろしさんに会ったからではない。まなちゃんの影響でもない。わたしの率直な気持ちだった。朝一番、かえでさんが出勤した時に話した。
つかさ「お姉ちゃん、普段はあんなんじゃないよ、いつもかえでさんに話していたよね、あんなに言うのには絶対に何か深い事情があると思うの……」
かえでさんは暫く考えていた。黙って私を見ていた。
かえで「私情を仕事に持ち込むなと言ったわよね……それを承知で言っているのか……」
私はまた頷いた。かえでさんは少し驚いた顔をした。
かえで「……成るほどね、そこまでしてお姉さんを……そんなのは私にわざわざ許可を取るまでも無いでしょ」
厳しい目つきで私を見た。やっぱりダメかな……
かえで「貴女のお姉さん……最初に会った彼女と違うのは確かに認める、何があったのかしらね……このまま中途半端な気持ちでいられても困るわ、いってらっしゃい」
つかさ「本当ですか!!」
思わず聞き返した。
かえで「ご家族とそこでしっかり話しなさい、その結果が例えこのままここに戻らなくても私は何も言わない……もともと誘ったのは私、その責任は私があるのだから」
かえでさんはにっこり微笑んだ。
つかさ「あ、ありがとうございます」
かえで「ばか、なに涙なんか流して、まだ何も解決していないわよ」
何故か涙が出ていたのに気が付いた。確かにそうだった。涙を拭った。
かえで「さて、開店準備するわよ」
つかさ「はい!!」

 それからお昼近くになった頃だった。かえでさんが厨房に入ってきた。
かえで「つかさ、デザートの注文よ」
何だろう、かえでさん自ら私に注文を言ってくるなんて。かえでさんは客席の方を向いているから私も客席を見た。
つかさ「あ、ひろしさん……」
来るはずもないと思っていた。もう私に用は無いはず。どうして店に来たのだろう。
気付くとかえでさんは細目でにやけた顔で私を見ていた。
かえで「ほ〜、会った事もないってね〜、そう言っていたわよね……それに名前まで知ってるじゃない、苗字じゃなく名前で呼ぶなんて……いつからそんな仲になったのよ」
はっとした。彼には名前しかないからそう呼ぶしかない。でもかえでさんにはそうは思ってくれない。昨夜や今朝の出来事が頭に浮かぶ。
つかさ「そ、そんなんじゃないよ、知り合ったのは最近で……お友達みたいなものだよ……」
かえで「みたい……ね……ささ、赤い顔をしないでさっさとデザートを持っていきなさい」
勘違いだよ。と言いたかったけど、否定すれば余計に突っ込まれる。私は急いでデザートを準備して客席に持っていった。
つかさ「おまたせしました」
ひろしさんの前にデザートを置いた。そして伝票を置いたついでにあきらさんの耳元に小声で話した。
つかさ「どうして来たの、もう私には用はないでしょ」
ひろし「この店の味が気に入っているから、それに君の料理はまだ食べていないからね……それは用にはならないのか?」
私は何も言えなかった。彼はちゃんとしたお客さんの一人だった。
つかさ「そ、そうだけど……」
ひろし「それより、昨夜は……」
突然背中をツンツン突かれた。振り向くとこなちゃんとゆきちゃんが立っていた。こなちゃんもかえでさんと同じように細目でにやけた顔をしていた。
こなた「お昼を食べにきたけど……お邪魔だったかな」
頭が真っ白になった。こなちゃんまで誤解している。耳元で話していたからからかな。
つかさ「あ、え、全然邪魔じゃないよ、い、いらっしゃいませ……こちらは友達のひろしさん……」
こなちゃんはひろしさんに会釈した。
みゆき「いつもつかささんがお世話になっています」
ゆきちゃんも会釈した。ひろしさんもそれに釣られるように会釈をした。私は二人を席に案内した。ひろしさんは私に何を言いたかったのか少し気になった。でも聞ける状況
ではない。二人が席に着くとメニューを渡した。二人はメニューを開いた。
こなた「なんか普通じゃないと思っていたけど、やっぱり彼氏だったんだ……すみにおけないね〜」
つかさ「そんなんじゃないから……昨夜ちょっと会っただけだから……」
こなた「え〜、一夜を共に過ごしたの……あちゃ〜、のろけられちゃったよ」
まずい、これはまずいよ、話せば話すほど誤解が深まっていく。隣でゆきちゃんもクスクスと笑っていた。
つかさ「ご、ご注文はお決まりですか?」
こなた「えっと、おすすめランチで」
みゆき「私も同じで……」
つかさ「少々お待ち下さい……」
注文を受けて厨房に戻った。
つかさ「おすすめ二つ追加……」
かえでさんはフライパンを取り出し料理に取り掛かった。手を動かしながら話す。
かえで「……今日はつかさのお友達が多いわね……それにしてもかがみさんは見えないわね……」
そういえば気が付かなかった。いつもこなちゃんと一緒にいるからと思ったけど……今日も別行動なのだろうか。


646 :つかさの旅 16/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:23:35.37 ID:DlK6yebt0
 かえでさんの作った料理を私が運んだ。
つかさ「おまたせしました、おすすめランチです」
二人の目の前に料理を置いた。
こなた「わぉ、美味しそうだね……いただきます」
みゆき「いただきます」
ふたりは料理を食べだした。
つかさ「お姉ちゃんは?」
二人の動作が止まった。
みゆき「体の調子が優れないようです……それしか言いませんでした」
こなた「私はかがみを見損なったね、まさかあんなに気が弱いなんて……もういい加減にしてほしいよ」
こなちゃんの食べ方が早い。少しやけ食いに見えた。
つかさ「私、一度帰ろうと思うの……今夜お姉ちゃんに直接話すからそれまで内緒にして……」
また二人の動作が止まった。でももうこれ以上同じお客さんに対応出来ない。他のお客さんも見たりしないといけない。
みゆき「分りました……旅館でお待ちしています」
厨房に戻るとかえでさんが心配そうに私を見ていた。もう新たなオーダーは無かったから余裕があったかもしれない。
かえで「かがみさんが来ないのは私のせいかもしれないわね、すまなかった」
つかさ「うんん、昨日、かえでさんと別れてからお姉ちゃんには会っていない、だから……お姉ちゃんの気持ちも分らない」
かえで「そうだったの……つかさ、ひろしさんがお帰りみたい、レジお願いね」
名前まで知られてしまった。こなちゃん達にも紹介してしまったし、変な誤解まで……どうしよう……ここで考え込んでも仕方が無い、レジに向かった。
ひろしさんは伝票を私に渡した。
つかさ「1500円になります……」
ポケットからピッタリ1500円を私に渡した。
ひろし「美味しかった……料理は良かったがデザートは何だ、やっつけ仕事みたいだ、迷いも感じられる……昨日のココアとは別物だな……」
私の今の心を完全に読まれている。それはまなちゃんも同じ、彼等の得意技、ごまかしは通用しない。
つかさ「すみません、デザートの御代は結構ですから……」
御代を返そうとすると……
ひろし「いや、それには及ばない、忙しそうだからな……それより店が終わったら少し話がしたい、いいかな」
話って何だろう……でも私も大事な用事があるし。
つかさ「私は用事が……」
ひろし「時間は取らせない、直ぐに終わるよ……」
つかさ「それなら……」
ひろしさんはそのまま店を出て行った。妙にこなちゃんとかえでさんの視線が気になって仕方がなかった。

 夕方になり、旅館の食事の準備もほぼ終わりかけた頃だった。
かえで「つかさ、今日はもういいわ、上がっても良いわよ、いろいろ準備があるでしょ、あとは私とあけみでやっておくわ」
あけみさんは最近になってスタッフになってくれた人。あけみさんが店に入ってからはだいぶ仕事の負担が軽減した。
つかさ「帰るって言ってもそんなにながく滞在するつもりは……」
かえで「成るほどね〜彼氏が恋しいか〜」
からかう様な口調だった。私もこれ以上どんな反応していいか戸惑ってしまう。否定すれば余計にからかわれるのは分った。でも肯定もできない。
つかさ「折角ですので甘えさせて……お先に失礼します……」
更衣室に向かおうとした時だった。
かえで「つかさ……私はかがみさんにもう一度この店に来てもらいたい……そしてもう一度私の作った料理を食べて欲しい……あの時の笑顔をもう一度見てみたい、美味しいと
    もう一度言ってもらいたい」
私は立ち止まってかえでさんを見た。さっきまでの元気が消えていた。
つかさ「私が帰ってお姉ちゃんがどうなるか、私も分らない……でもこのままで終わるのは私も嫌、やれるだけの事はするつもり……です」
かえで「ありがとう……お疲れ様……」

 お姉ちゃんはかえでさんが店を出して初めて料理を褒めてくれた人。そんな人がいきなり手のひらを返したように貶したりしたらそのショックは何倍にもなる。
さっきのかえでさんの言葉を聞いて改めてそう感じた。私が居ない間に家で何があったのかな。それならいのりお姉ちゃんやまつりお姉ちゃんから何か連絡があってもいい。
そうなるとお姉ちゃん自身の何かが変わってしまったとしか考えられない。その原因は私が家を出たから……でもそれなら……何でお姉ちゃんは大賛成したのかな。

647 :つかさの旅 17/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:24:54.65 ID:DlK6yebt0
 駐車場の前に着いた。旅館に寄ってお姉ちゃん達に会っても良かった。だけど会うのは夜だって言ったから一度家に帰ってから出直す事にした。
車に乗りエンジンをかけようとした。そうだ。そういえばひろしさんが何か用があるって言っていた。店が終わってからって言ったけど、詳しい時間とかは言っていない。
といっても連絡なんて取れないし……すると目の前にあきらさんが立っているのに気が付いた。私は一度車を降りた。
ひろし「早いお帰りだね、気が付くのが遅れたら会えなかった」
どうしよう、ここだと店から見えちゃう。あまりひろしさんと会っている所をかえでさんに見られたくない。
つかさ「え、えっと、用事は……車の中で話しませんか、家に帰る道でよければ……」
車が苦手だった。乗ってくれるか不安だった。あきらさんは一歩後ろに下がってしまった。そして車をじっと見つめた。
ひろし「……いいよ」
ひろしさんはゆっくり車に近づき車に乗り込んだ。続いて私も乗り込みゆっくり車を走らせた。緊張しているのか、恐いのか少し足が震えているように見えた。あきらさんから
話す気配は全く見受けられない。こっちから話さないとだめかな。何を話そうかな。そういえばお昼言いかけた続きが聞きたかった。
つかさ「話って何ですか、昨夜の事ですか?」
ひろし「昨夜か……さっきの店の人間の反応を見て分っただろう、こんな噂はすぐに立ってしまう、僕が人間ならどうなっていたか、もう少し考えたほうが良いぞ」
つかさ「でも、車も自転車もダメで放っておけないよ……狐に戻ったら危ないでしょ」
ひろし「……その優しさに姉さんは惹かれたのかもしれないな」
何か違う。率直に聞いたほうが良さそう。
つかさ「お昼、お店で言いかけたお話を聞きたかった」
少し間を空けてから話した。いい辛いのだろうか。
ひろし「あ、あれか……昨夜、つかさの部屋に勝手に入ってすまなかった……トイレが何処か聞きたかった……扉を開けたが既に寝ていて聞けなかった、
    探したら直ぐに見つかったから問題はない」
なんだそんな理由だったのか……あれ、私……なんでガッカリしているの。何を期待していたの。彼はお稲荷さんでしょ。だめだめ、考えちゃだめ……
体が熱くなってきた。窓を開けて風をいれた。この後の話ができなくなってしまった。

 家に近づいた。ひろしさんは徐に話し始めた。
ひろし「本題に入らせてもらう……お昼の二人組み、親しそうだったが友達なのか」
つかさ「うん、友達だよ」
ひろし「この前、もう人居たな、店長に言いがかりをつけていた、今でも印象に残っている、その人も二人組みの仲間か?」
お姉ちゃんの事を言っているみたい。
つかさ「そうだけど……」
ひろし「僕にはその人に何の義理もない、でもつかさにはある、いろいろ教えてくれた、だから教える、そいつは重い呪術にかかっている、このままだとそう長くはないだろう」
私はブレーキを踏んで車を止めた。そしてひろしさんの方を向いた。
つかさ「長くないって……呪術ってどうゆう事なの?」
ひろしさんは驚いたのか少し身を引いた。
ひろし「『服従』……って言ってね、呪術者の命令を聞かないと命を落とす術だ、僕達仲間でも禁じている呪いなんだ……」
つかさ「……そ、そんな、何とかならないの?」
ひろし「呪術者が呪いを解くか、命令を成し遂げないと消えない……」
私はすがりついた。
つかさ「ねえ、お願い、術を解いてよ……」
ひろし「僕には……無理だ、術が高度すぎる、お頭か、姉さんじゃないと解けそうにない……つかさにとってよほど親しい人みたいだな……教えるべきではなかったか」
つかさ「その人、店長に言いがかりをつけた人は私のお姉ちゃんだよ」
ひろし「な、似ていないぞ……姉妹だったのか……そういえば髪質が似ているか……」
今までお姉ちゃんの様子が変だったのはこの呪いのせいだった……どうすれば……
ひろし「……その姉さんから最近頼まれた事とか無いのか、理由もなく頼むはずだ……命令を無視、理由を話す、呪術者の話をしようとすると死ぬほどの苦痛が襲うからな」
思い当たる事が一つあった。
つかさ「私を頻りに実家に帰そうとしていた……理由なんて言わなかった」
ひろし「何だって……恐らくそれが命令だ……もし帰る意志があるなら早く伝えた方がいい……」
私が帰ると言えば呪いが解ける。一度帰ってなんて悠長な事はやっていられない。
つかさ「ひろしさん、このまま旅館に戻るよ……つかまっていて、全力でいくよ」
アクセル全開、ドリフトUターン。
ひろし「え、え、わ、わー」
ひろしさんの悲鳴のような声が聞こえたけど、それからはよく覚えていない。ただ旅館に戻るのに夢中だった。

 お姉ちゃんは誰かに呪いをかけられた。その人は私をこの町から追い出そうとしている。こんな呪いをかけられるのはまなちゃんの仲間しか考えられない。
やっぱり私はこの町に来てはいけなかったのかな。本当だったらもうこの世にはいなかったかもしれない私……来るべきじゃなかったんだ。
でも、こんな回りくどい事しないで直接言ってくれれば良いのに。お姉ちゃんを利用するなんて。呪いまでかけるなんて……

648 :つかさの旅 18/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:26:38.32 ID:DlK6yebt0

つかさ「ひろしさんは車で待っていて……」
お店の駐車場に車を止めると旅館に向かって飛び出した。そしてお姉ちゃん達が泊まっている部屋に直行する。部屋のドアをノックする。こなちゃんが出てきた。
こなた「……つかさ……」
私の顔を見て驚いた様子だった。きっと私の切羽詰った顔を見たからかもしれない。
つかさ「お姉ちゃん……お姉ちゃんはいる?」
こなた「……うん、さっきみゆきさんと温泉から戻ってきたところだよ」
部屋の中に入った。テーブルにゆきちゃんとお姉ちゃんが座っていた。お姉ちゃんは私を見るとにっこり微笑んだ。
かがみ「なに慌ててるのよ……それより仕事はもういいのか、やけに早いわね」
私はお姉ちゃんの目の前で座った。
つかさ「私……決めたよ、一度帰るよ、だから……」
私の視界からお姉ちゃんの姿が消えた。
『ドサ』
畳に何かが当たる鈍い音がした。お姉ちゃんが倒れた。苦しそうにもがいている。
つかさ「お、お姉ちゃん、どうしたの……お姉ちゃん」
何がなんだか分らない。私は……帰るって言ったのに。
側に居たゆきちゃんが慌ててお姉ちゃんに近づいた。
みゆき「かがみさん、しっかり……つかささん、何があったのですか」
こなちゃんも異変に気が付いた。すぐにお姉ちゃんに近づいた。ゆきちゃんはお姉ちゃんの浴衣を緩めて楽な姿勢に寝かせようとしていた。
お姉ちゃんの口から泡が吹き出してきた。全身が痙攣しはじめてしまった。
みゆき「私では手に負えません、救急車を……泉さん……」
こなた「わ、分った……」
こなちゃんは部屋を出ようとした。
ひろし「救急車を呼んでも無駄だよ……これは人間には治せない」
部屋の入り口にひろしさんが立っていた。こなちゃんは立ち止まった。ひろしさんはそのまま部屋に入ってきて倒れているお姉ちゃんの目の前に近づいた。
そして座るとなになら呪文のようなのを唱え始めた。ひろしさんの手が伸びてお姉ちゃんの額に触れた。
ひろし「つかさ、さっき言ったのを否定して」
なんだか頭が真っ白でひろしさんの言っている意味が分らない。
ひろし「否定するんだ、早く!!!……さっき言ってやつだ、しっかりしろ!!!」
怒鳴り声、私ははっとした。
つかさ「やっぱり私は、帰らないよ……」
お姉ちゃんの痙攣がみるみる引いていく……静かに、眠るように落ち着いていった。ゆきちゃんはタオルでおねえちゃんの口の周りを拭いた。ひろしさんは深呼吸を一回した。
ひろし「……少し休ませた方がいい……」
こなちゃんは布団を敷いた。ひろしさんは軽々とお姉ちゃんを抱きかかえるとそのまま布団に寝かせた。
ひろし「話がある、ここだと少しまずい、この人に聞かれるとね……」
つかさ「でも……お姉ちゃんが……」
ひろし「今の所は大丈夫だ……そのまま寝かせておけばいい」
話を聞く必要がありそう。
つかさ「ロビーでいいかな」
ひろし「お二人も一緒に……聞いておいた方がいい」
こなた「貴方は……誰?」
ひろしさんは何も言わない。
つかさ「まなちゃんの弟さんだよ……」
こなた「え……狐……この人が……?」
みゆき「私は残ります、かがみさんを一人にしておくのは……」
ひろしさんはお姉ちゃんを見た。
ひろし「それならここで話す……彼女の意識はないようだからな……」

 私はひろしさんとの出会いを皆に話した。こなちゃんもゆきちゃんもただ黙って聞いていた。
お姉ちゃんは静かに眠っていた。何かから開放されたように。静かに眠っている。
つかさ「もしかして呪いは解けたの?」
ひろし「さっき試みたがやっぱりだめだった、強力な呪いだよ」
つかさ「でも、こんなに安らかに眠っているから……」
ひろし「……それは、つかさがさっき帰るのを否定したからさ」
言っている意味が分らなかった。
ひろし「彼女は最初から呪術者の命令に従うつもりはなかったようだな、つかさを帰すのは命令違反だった……つまり呪術者はこの町の何処かにつかさを連れていくのを
    命令した、しかし彼女はそれに従わずつかさを逃がすようにした訳だ、恐らく彼女はつかさに帰れと言う度にさっきの様な苦痛が襲っていたはずだ……
    今は、つかさが帰るのを止めたと言ったから一時的に呪いが収まった、それだけだ」
つかさ「そんな……お姉ちゃんは何度も言ったよ……帰って来てって……でも苦しい表情なんて見せなかった……」
ひろし「……凄い精神力だな、そこまでしてつかさを、妹を助けたいのか……」
ひろしさんは立ち上がった。
ひろし「気休めにしかならんが、魔除けの石をもってきてやろう……少し待ってくれ」
ひろしさんは部屋を出て行った。

649 :つかさの旅 19/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:29:05.94 ID:DlK6yebt0
 ゆきちゃんは心配そうにお姉ちゃんを見ていた。こなちゃんは腕を組んで考え込んでいる様子だった。
こなた「……どうも引っかかる、あのひろしって人、真奈美さんの弟って言ってたよね」
つかさ「うん、そうだよ」
こなた「それだ、それが引っかかる、本来つかさは生贄となっていなきゃならない、生贄になっていれば真奈美さんは死なずに済んだ、普通考えればつかさを憎むはずだよ」
つかさ「な、何が言いたいの?」
こなちゃんは溜め息をついた。
こなた「つまりかがみに呪いをかけたのはあの人じゃないかなって、そうすると辻褄が合うんだよ、姉の真奈美さんの命を奪ったつかさに復讐するために、同じ目に遭うようにね」
つかさ「もしかして、ひろしさんを疑ってるの?」
こなた「真奈美さんの仲間は姿を現していないじゃないか、それにつかさを殺すならとっくに神社で殺しているでしょ、つかさの稲荷寿司で心が変わったならつかさに
    何かをするとも思えない……」
つかさ「わ、私は……まなちゃんと友達になった、それをまなちゃんの仲間は許さなかった……それでひろしさんは私を恨むの?」
こなた「逆恨みってやつだね、私が彼ならやり場のない怒りをつかさにぶつける……私達人間と彼が同じ思考ならだけど……さっきから黙っているけどみゆきさんも
    同感なんじゃないの、さすがの聖人君子も今回ばかりは疑うでしょ?」
いきなり振られてゆきちゃんはオドオドした。
みゆき「……お店であんな振る舞いをしたのも、店長、松本さんと言い合いをしたのも、駄々っ子みたいな言動も……全てつかささんを逃がすためだった……
    その度に襲い掛かる激痛に耐えながら……私だったら……いくら親友であるつかささんの為とは言え……出来ません……そのかがみさんを死の寸前で
    助けたのがひろしさんだと思います……それに、もしつかささんが憎いのであれば、昨夜、つかささんが熟睡している所を狙えば確実です」
淡々と話すゆきちゃんだった。
つかさ「私もそう思うよ、少なくとも呪いは別の人だと思う……」
こなた「ふぅ〜私はゲームのやりすぎかな、捻くれた考えばかりみたいだね、さっき言ったのは忘れて、ここで疑ったら何も進まない、確かに」
こなちゃんは俯いてしまった。
つかさ「私、女将さんの所にいって今晩泊めてもらうように頼んでくるよ……少しお姉ちゃんと一緒に居たいから……」
みゆき「それがいいかも知れません……いいですか皆さん、かがみさんの意識が戻っても呪いのお話は決してしないように、何が切欠で呪いが出てくるか分りませんので」
つかさ・こなた「うん」

650 :つかさの旅 20/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:30:26.70 ID:DlK6yebt0
 私はロビーで宿泊の手続きをした。と言っても旅館もお店も共同経営みたいなものなので無料で泊めてくれた。
つかさ「済みません、お手数をおかけします」
淳子「いいのよ……それより、さっきの男性は誰……つかさちゃんの彼氏かな、旅館でもこの話になってね」
うわ、ここでもこんな話になっている。皆、どうかしているよ……でもなんだか悪い感じはしなくなった。
つかさ「そこまででは……友達です」
女将さんは笑った。
淳子「ふふ……照れちゃって……まぁ、ゆっくりしていきなさい…」
女将さんはロビーの奥に戻っていった。
つかさ「ふぅ〜」
溜め息を一回。ひろしさんが人間ならこんなに悩まなくてもよかったのに……バカ、私ったら何考えているのだろう、好きになってもどうしようもないよ。人間とお稲荷さんの恋
なんて……人間の男性もまだ好きになった事ないのに、ばか、考えちゃだめ、そんなのは考えちゃいけない。
ひろし「またせたな……」
つかさ「え?」
気付くとロビー入り口にひろしさんが立っていた。
ひろし「本当に気休めにしかならないが受け取ってくれ、弱った身体には良いだろう」
ひろしさんは片手で掴めるほどの小石を私に渡した。この石の色どこかで見たことある……
つかさ「この石……パワースポットの岩の色に似ているね」
ひろし「そうさ、あの岩は僕達も調子が悪いときはよく行く、普通の病気なら治る筈だ……でも、あの呪いは別物だ……」
ひろしさんはロビーを出ようとした。
つかさ「えっ、帰っちゃうの、お茶でも飲んで帰って……」
ひろしさんは立ち止まった。
ひろし「……君の仲間、背の低い子が居たけど、あまり僕を良く思っていないみたい、行かない方がいいだろう」
つかさ「す、凄い……触れても居ないのに、分るの?」
ひろし「な、なんだ、図星か……経験でそう思っただけだ、心理学少しかじったからな……腕組みをしているのは警戒している場合が多い」
ひろしさんはまたロビーを出ようとしている。このまま帰していいのかな。もっと聞きたい事があったんじゃないの。自問自答した。
つかさ「待ってください」
ひろし「ん?」
また止まってくれた。聞いて答えてくれるかどうか分らない。だけどお姉ちゃんの命が懸かっているから……
つかさ「お姉ちゃんの呪いをかけた人……知っているの?」
ひろし「あれだけ強力な呪術……僕の知っている仲間で数人……それを聞いてどうするつもりだ」
つかさ「もし、知っているなら、その人に会って呪いを解いてもらおうと思って……」
あきらさんは呆れた顔をした。
ひろし「何処にいるのか分らない、知っているとしてつかさに説得できるのか、姉さんのように好意的じゃない、禁呪まで使ってくる奴だ……」
そうだよね。私なんかじゃ何も出来ない。
つかさ「……でも、あきらさんは何故私の味方を……」
ひろし「……味方……味方だと思っているのか、僕が君に何をした……」
つかさ「お姉ちゃんを助けてくれたから……」
ひろし「助けた……あれで助けたと言えるのか、呪いは解いていない、いや、解けない……あとはつかさの家に一晩泊めてもらっただけだ、他に何をした」
つかさ「……助けられなくても、助けようとしたから、私にはそう見えたよ、それだけで充分味方だと思う、石も貰ったし」
ひろし「僕は一度、つかさを殺そうとまでした、駐車場の出来事を忘れたわけじゃあるまい」
つかさ「その台詞……まなちゃんも同じように言っていたよ……やっぱり姉弟だね……そのまなちゃんは私を助けてくれた」
私は微笑みかけた。ひろしさんは言い返してこなかった。
ひろし「僕は昔人間に育てられた、だから人間の心は理解できる……そして僕は狐一族、彼らが人間を憎むのも理解できる……一族で唯一信頼できる姉さんは傷ついた
……姉さんは仲間に……味方も敵も分りはしない」
重い何かを感じた。
つかさ「両方の気持ちが分るなら、両方仲良くなれる方法が見つかるかも」
ひろしさんは笑った。
ひろし「僕にコウモリになれと言うのか……」
つかさ「こうもり?」
ひろし「……何でもない、ところで、君の友達と姉さんの名前をまだ聞いていない」
つかさ「えっと、お姉ちゃんは柊かがみ、背の低い子は泉こなた、眼鏡をかけた子は高良みゆき……」
ひろし「……また明日来る、かがみとは呪いの話はしないように、今言えるのはそれだけだ」
ひろしさんはロビーを出て行った。


651 :つかさの旅 21/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:33:09.71 ID:DlK6yebt0
 彼が居なくなったロビーに私一人が残った。そうだ、お姉ちゃんが心配だ。早く部屋に戻ろう。戻ろうとした方角から人影が見えた。ゆきちゃんだった。
つかさ「ゆきちゃん、どうしたの?」
みゆき「白湯をもらいにきたのですが……」
つかさ「お姉ちゃんの具合が悪いの?」
みゆき「いいえ、落ち着いています……どうしたのですが、つかささん、何かあったのですか?」
私の顔を見ると心配そうに聞いてきた。
つかさ「コウモリ……って何だろう」
みゆき「コウモリ?」
つかさ「うん、さっきひろしさんが来て、コウモリみたになるのかって言っていたから……」
みゆき「……もう少し詳しく話して頂けませんか?」
私はひろしさんとロビーで会話した内容を説明した。
みゆき「それはコウモリの昔話の事を言っているのではないでしょうか……」
つかさ「なにそれ……」
みゆき「昔、森で獣と鳥がとても仲が悪かった、そこに獣の姿でありながら翼を持っているコウモリが仲介するお話です……ひろしさんは狐の種族でありながら人間に
    近い思考をお持ちなので……その昔話と比喩しているのでしょう」
つかさ「……そうなんだ、コウモリの様に……」
みゆき「その話なのですが、獣と鳥は仲良くなれた……しかしコウモリはどちらからも憎まれる存在になった……それで闇夜にひっそり飛ぶようになったと聞いています」
別れ際のひろしさんの表情が悲しげだったけど……
つかさ「私は、そんな意味で言ったわけじゃないよ……憎むなんて……」
みゆき「この昔話はいろいろなバリエーションがありますので……所詮昔話です」
私は……本当にこの町に戻ってきて良かったのだろうか。
つかさ「……ごめんね、私のために、巻き込んじゃって……私はやっぱりこの町に来ちゃいけなかった……私がこの町に戻ってこなければ……」
みゆき「戻って来なければ、このような事にならなかったと言いたいのですか?」
ゆきちゃんに先回りされてしまった。私は頷いた。
みゆき「つかささんを憎み、かがみさんに禁じられた呪いをかけたと、それが本当なら、その人物……いえ、狐は例えつかささんがこの町に戻らなくとも同じ事をしたでしょう、
    つかささんが一人旅をしようと思ったその時からこうなるのは決まっていたのかもしれません、それでもその旅で得たものは大きいはずです、
悔やむよりもこれからの事を考えませんか?」
つかさ「……でも、お姉ちゃんが呪われて……呪いが解けなくて……どうして良いか分らないよ」
目頭が熱くなった、自分でも涙が出ているのが分った。
みゆき「……かがみさんはつかささんを何処に連れて行くように命令されていたのでしょうか……呪いの苦痛に耐え、さらに店長である松本さんとわざと言い合いをして
    つかささんを帰る気持ちにさせようとした……私達に気が付かないように……そこまでつかささん……妹の為に……死ぬ覚悟だったはずです……」
つかさ「……お姉ちゃん……」
ゆきちゃんは微笑んだ。そして私の目の前に手を差し出して招いた。
みゆき「行きましょう、つかささん、かがみさんの側に居てあげて下さい……私も微力ながらお手伝いさせて頂きます……」
つかさ「う、うん」
お湯を貰ってから私達は部屋に戻った。

652 :つかさの旅 22/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:34:24.53 ID:DlK6yebt0
 部屋に戻るとこなちゃんが首を長くして待っていた。お姉ちゃんの寝ている直ぐ近くで座っていた。お姉ちゃんを看病していたみたいだった。
こなた「つかさ〜みゆきさん〜遅い、遅いよ、いったい今までなにしていたの、泊まるって言うのにそんなに時間かからないよね」
つかさ「ごめんなさい、ひろしさんが来てこれをお姉ちゃんに渡してって」
私は石をこなちゃんに見せた。ゆきちゃんもその石を見た。
こなた「その石……どっかで見たことある……どこだっけ……」
みゆき「その石の色、艶……それはパワースポットの岩と同じものですね、削ったのでしょうか?」
つかさ「削ったかどうかは分らないけど、同じ物だって、気休めって言っていたけど……」
お姉ちゃんを見るとぐっすりと眠っていた。
こなた「つかさ達が離れている間、見ておいたよ……つかさって何度か言っていた……私はかがみに呪いをかけた人を許さない…」
こなちゃんが怒っている、あんな怒った顔を見たのは、はじめてかもしれない。
私はお姉ちゃんの鞄に付いていたお守りを外してその中に石を入れた。そのお守りを胸元にそっと置いた。
こなた「そういえば、かがみはあのパワースポットの岩で体に擦り付けていたね……気休めじゃないかも、あれでかがみはだいぶ楽になったんだよ」
みゆき「落ち着きましょう……お湯を貰ってきましたのでお茶でも入れますね……」
ゆきちゃんはお茶の準備をしだした。私が手伝おうとすると。
みゆき「私がしますので、つかささんはかがみさんの傍に居てあげてください」
言われるまま私はお姉ちゃんの傍に移動した。そしてこなちゃんと入れ替わった。こなちゃんはゆきちゃんの手伝いをした。

 お姉ちゃんは静かに眠っている。お姉ちゃんはいつ呪われちゃったのだろう……移動中はこなちゃんやゆきちゃんが居るから無理だし……。
そんなのどうでもいい。お姉ちゃんは私を守ってくれた。あんなに、倒れるまで苦しんで……昔から、幼い頃からそうだった。きっとそうだったに違いない。
私の気が付かない所で私を守ってくれていた。そして今も……やっぱりお姉ちゃんには敵わない。
でも……今度は私がお姉ちゃんを助ける番かもしれない……でも、どうやって……呪いをかけたのはお稲荷さんとまで言われた人……人じゃない。
人間に恨み、憎み、嫌っている。今まで私達人間が彼等にどんな仕打ちをしてきたのかは知らない。まなちゃんの時だって……
私があの神社に行かなければこんな事には……あっ、ゆきちゃんに言われたばかりなのに……
こなた「つかさ」
こなちゃんが私を呼んだ。一人で考えたっていい考えは浮かばない。こなちゃんの方を向いた。
つかさ「何?」
こなちゃんは申し訳ないような顔をしていた。
こなた「さっきは、ごめん……ひろしさんを疑っちゃって……かがみに呪いをかけたならわざわざパワースポットの石なんかもって来るわけない……」
つかさ「こなちゃんの仕草でひろしさんは分っちゃったみたいだよ、疑っているの」
こなた「やば……どうしよう」
つかさ「あまり気にしていないみたい、明日も来てくれるって言ってた……それに今、頼れるのはひろしさんだけ、疑ったら協力してくれないかも」
こなた「……それにしても彼はなんでこんなに協力的なのだろう……つかさが真奈美さんと友達という理由だけじゃないような……」
こなちゃんはマジマジと私を見た。
こなた「う〜ん」
何か納得したように頷いた。
つかさ「何?何なの?」
こなちゃんは不敵な笑みを浮かべた
こなた「惚れたな……」
つかさ「え?」
こなた「つかさに惚れたんだよ、それしかない……いいね〜禁じられた恋……よくあるシチュだけど」
つかさ「ちょ、からかわないで……」
こなた「いやいや、そう言うつかさはどうなの、彼を好きじゃないの?」
つかさ「それは……」
その続きは言えなかった。恥かしい……みんなから言われたから本当に好きになってしまったのかもしらない。
こなた「……まぁ、私が彼を批判した時のつかさの表情を見たらすぐに分るよ……『彼はそんな事絶対にしない』って顔してたからね……うんうん」
こなちゃんはまた何回も頷いた。
みゆき「そうですね、少なくともつかささんに特別な好意を持っているのは確か様です」
こなた「おお、今回はみゆきさんと意見が一致した」
つかさ「ゆきちゃんまで……」
私と目が合うとにっこりと微笑んだ。そしてこなちゃんとゆきちゃんは私とひろしさんの話で盛り上がっていった。
こなた「そういえば私、もうこれ以上滞在する宿代が底をついちゃってね、かがみもこんなんだし、どうしていいか迷っていたんだ……夏休みで時間はいっぱいあるけどね」
みゆき「それならばお金……お貸ししましょうか?」
つかさ「うんん、学生なんだしお金は大事にしないとね、私の家に泊まればいいよ、居間と寝室で二人ずつ寝られると思うよ、温泉はないけど……」
こなた「つかさの提案に賛成!!!」
みゆき「済みません、ありがとうございます」
こなた「ところでみゆきさん、さっきの話にもどるけどね……」
こなちゃんはまたさっきの話をし始めた。

 最初は好きでも嫌いでもない。だけど周りの人たちが勝手にこの人とこの人は好き合っているなんて言い出す。そんな雰囲気に飲み込まれて何時の日か
お互いに本当に好きになってしまう。そんな話をどこかで聞いた事がある。今回は私だけの話だけど。これだけいろいろな人から言われると本当に好きになってしまうかも。
でも、彼は人間じゃないし……それじゃ人間だったら……優しそうだよね、それに料理も美味しそうに食べてくれる。恋人にするには……あ、また変な事考えている。
もうこんな事考えるのは止めよう。
お姉ちゃんもぐっすり眠っているし。安心したのかな、少し眠くなってきた。こなちゃんとゆきちゃんの会話が子守唄に聞こえる……。


653 :つかさの旅 23/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:35:59.43 ID:DlK6yebt0
 三部 <疑惑、怨み……そして>

つかさ「う〜ん」
 ……私ったらいつの間に寝ちゃったのだろう。気付くと私に毛布がかけられていた。辺りを見回すとこなちゃんもゆきちゃんもテーブルにもたれて眠っていた。
二人にも毛布がかけられている。二人もそのまま眠ってしまったみたい。
あ、あれ。直ぐ隣で眠っていたはずのお姉ちゃんが居ない。布団が畳まれていた。着ていた浴衣も畳んである。
つかさ「こなちゃん、ゆきちゃん、起きて……お姉ちゃんが……」
私は二人を揺すって起こした。
こなた「むにゃ、むにゃ……あ、つかさ、おはよ〜」
眠気眼のこなちゃんだった。
つかさ「お姉ちゃんが居ないの……」
こなた「え、居ないって、温泉かトイレでも行ったんじゃないの……」
目を擦りながら話すこなちゃん。
つかさ「だって布団を畳んで、着替えているみたいだし……」
私が慌てているにようやくこなちゃんは気付いた。
こなた「着替えてるだって……本当だ……何で、何処にいったのかな……」
ゆきちゃんもゆっくりと起きだした。
みゆき「この毛布は……かがみさんがかけたのかもしれません」
ゆきちゃんはお姉ちゃんの畳んだ布団に近づき浴衣を手に取った。
みゆき「冷たいですね、かなり時間が経っているようです」
こなた「かがみめ、あんな身体で何処に行くって言うんだよ……まったく、もう」
こなちゃんはバックから携帯電話を取り出した。
みゆき「携帯電話をかけても意味はありません、かがみさんの携帯はここに置いてあります」
こなちゃんは携帯電話をかけるのを止めた。
こなた「これじゃ何処にいったか分らない……私達に来るな、って言いたいのか……」
みゆき「そのようですね、恐らくかがみさんは、呪いをかけた本人に会いに行ったのでしょう……」
つかさ「ごめんなさい、私、寝ちゃったから……」
みゆき「それは私も同じです、三人とも寝てしまったのも不思議ですが……そんな詮索よりもかがみさんを探さなければなりません」
探すと言っても何処に行ったのか見当も付かない。
こなた「つかさ、何処か心当りないかな、私達より土地勘あるから想像できない?」
つかさ「わからないよ、私だってこの町に来て一年経っていないから……稲荷さんの秘密の住処とか……そんなのだったら……」
みゆき「……秘密の住処……」
ゆきちゃんはブツブツと小声で言い始めた。
みゆき「かがみさんもこの土地に関しての知識は私や泉さんとさほど変わらないでしょう、私の考えが正しければかがみさんの行こうとしている場所は一つしかありません」
つかさ・こなた「それって、何処なの?」
二人同時詰め寄った。
みゆき「……神社、山の上の神社以外に考えられません」
こなた「神社か……最初に案内された所……」
みゆき「そうです、かがみさんは来ていない……もしかしたらと考えていました、呪術者の目的はつかささんをあの神社に連れて行くことなのでは」
つかさ「あの神社、私は頻繁に行っているよ、それににゆきちゃん達も案内したから……わざわざお姉ちゃんが連れてこなくても……」
みゆき「かがみさんとつかささん、二人が揃って初めて呪術者の目的が達成されるとすれば、つかささんだけがあの神社に行っても意味がありませんから……」
こなた「……他に候補がなければ行こう、ここで話していても何も進まないよ……」
つかさ「うん、車を出すから」

 結局あの神社……そういえばこの前も安否を心配してあの神社に登ったのかな。もうこんな事は無いと思っていたのに。今度はお姉ちゃんを心配して登らないといけない。
何か嫌な予感がしてどうしようもない。でも、行かないとお姉ちゃんは助けられない。
皆が車乗り込んだ。私はエンジンをかける前に話しておこうと思った。
つかさ「もし、神社で呪術者と会って、何かあったらなんだけど……」
こなた「何かって何?」
あって欲しくない、襲ってくるなんて……
つかさ「何があっても相手の目を見たらダメだから、お稲荷さんには人を金縛りしてしまう術があるから、身動きがとれなくなるよ」
こなた「相手の目を見ると心が相手に奪われる……」
つかさ「……こなちゃん知ってるの?」
意外な返答に驚いてしまった。
こなた「いやね、武道では相手の目を見て戦うのはタブーなんだ……昔、聞いたことがあるよ……」
みゆき「そういえば泉さんは武術の心得がありましたね」
こなた「……心得といってもお遊び程度だよ……実践ではやったことないし……」
私は車のエンジンをかけた。こなちゃんが頼もしくみえた。
つかさ「私はお姉ちゃんが無事ならそれで良いから……できれば争いたくない」
こなた「それは私も同じ」
みゆき「私も……」
ライトを付けて車を走らせた。

654 :つかさの旅 24/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:37:49.42 ID:DlK6yebt0
 外はまだ薄暗い早朝。神社の入り口近くに車を停めた。私達は車を降りた。
そして私達三人は階段を登った。私はもう慣れているので最初に登った時よりは速く登ることができる。こなちゃんがやや遅れて付いてくるけどゆきちゃんは
どんどん私達と距離が離れていった。私が立ち止まって待っていると、息を切らせながらゆきちゃんは話した。
みゆき「私に構わず先に言ってください……」
つかさ「ゆきちゃん、ごめん……こなちゃん、スピードを上げるよ」
私が速度を上げるとこなちゃんは黙って後を付いてきた。いくら慣れているとはいってもこれだけ速度上げると息が切れてきた。こなちゃんも必死に付いてきている。
頂上にお姉ちゃんはいるのかな。ただそれだけを祈って登った。

 頂上に着くと私は辺りを見回した。森の中は暗くて何も見えない。少し遅れてこなちゃんが着いた。
こなた「ふぅ、疲れた、流石何度も登ってるだけはあるね……つかさ」
つかさ「シー!!」
森の奥で何か気配がする。私はゆっくりと気配のする方に近づいた。こなちゃんも私の後についてくる。森の入り口で私は止まった。こなちゃんは私の耳元で囁いた。
こなた「誰か居る……」
私が稲荷ずしを置いていた辺りかな、暗くてよく見えない。話し声が聞こえる。
「何故つかさをつれてこなかった、お前、死にたいのか」
男の声だ、私の名前を言っている、声はしっかりと聞こえるけど誰だか分らない。
かがみ「つかさが此処に来たら……そんなの……出来ない」
お姉ちゃんの声だ、やっぱりこの神社に来ていた。それにしても誰と話しているのだろう、きっとお姉ちゃんに呪いをかけた本人に違いない。
「携帯で今すぐ呼べ……」
私をここに連れてくるように言っている。どうしよう。今、出て行ったらどうなるか分らない。
かがみ「そんなものは無い」
こなた「あいつが……あいつがかがみに………許せない……」
こなちゃんが私よりも一歩前に出た。これ以上近づくと気付かれちゃう。私はこなちゃんの腕を掴んだ。でもこなちゃんはまた一歩近づこうとする。
つかさ「だ、ダメだよ……」
小さい声でこなちゃんを止めた。だけど引っ張る力はどんどん強くなるばかり。
「お前には呪いがかかっているのを忘れるな」
こなた「うわー!!!」
男の声が引き金になったみたいにこなちゃんは大声を上げて私の手を振り払った。そして真っ直ぐ男の声のする方に全速力で突進していった。
こなちゃんが森の闇に消えた。それと同時に物が当たった音がした。鈍く低い音だった。こなちゃんと男の唸った声が聞こえた。
地平線から朝日の光が森の奥に射し込んだ。こなちゃんと男が倒れている姿が照らし出された。その少し奥にお姉ちゃんが呆然と立ち尽くしていた。
こなちゃんは直ぐに起き上がりお姉ちゃんの前に立った。少し遅れて男が立ち上がった。私からは後姿で誰だか分らない。
男はこなちゃんを見た。
「お、お前は……確か……泉こなた」
こなちゃんも男を見た。こなちゃんは驚いた顔をした。
こなた「……つかさ、私の勘は正しかった……こいつ……とんだ詐欺師だよ……」
「つ、つかさだと」
男は振り向いた……朝日に照らされてはっきり顔が見えた……その人はひろしさん……
こなた「かがみの呪いを解け!!」
こなちゃんはひろしさんに向かって怒鳴った。ひろしさんはこなちゃんの方を向いた。こなちゃんは素早くお姉ちゃんを庇うように構えた。
ひろし「……ほう、武術をするのか……面白い」
こなちゃんはひろしさんを見ず私の方を見ていた。
ひろし「こいつ、つかさから入れ知恵うけたか」
ひろしさんは金縛りの術をするつもりだったみたい。こなちゃんとひろしさんは睨みあいを続けた。
こなた「つかさを呼んでどうするつもりだった!!」
ひろし「姉が死んだ苦しみを味あわせる為に、俺と同じ苦しみを味わってもらう、かがみを殺せば俺の気持ちが分るだろう……つかさ……本来はお前が死ぬべきだった筈だ」

 ひろしさんがお姉ちゃんに呪いをかけた。それじゃ今までひろしさんは私を騙していた……嘘、嘘だよ、
私をまなちゃんと間違えたのも、お店に何度も来てくれたのも、一晩家に泊まったのも、お姉ちゃんを助けたのも……車に乗ってくれたのも……みんなお芝居だった。
信じていたのに……お姉ちゃんに呪いをかけた……
ひろし「そこを退け、お前には用はない」
あきらさんは両手の爪を伸ばして臨戦態勢になった。こなちゃんは退かずにお姉ちゃんを庇っている。
違う、こんなんじゃダメだよ、お姉ちゃんを殺したって何も解決しない。
つかさ「止めて!!」
私は叫んだ。あきらさんはピクリと反応して振り返った。そして私を見た。
つかさ「まなちゃんは、私の為に死んだんじゃない、そんなのも分らないの……弟さんでしょ」
ひろし「なに……」
私はあきらさんの目を見て話した。あきらさんは少し驚いた顔で私を見ている。
つかさ「まなちゃんは仲間の為に死んだ、死なせたのは皆の怨みのせい……それをまなちゃんは教えてくれた……もう止めようよ、あきらさん……」
私はあきらさんに向かって歩き出した。あきらさんは一歩退いた。
こなた「つかさ、それ以上近づいちゃだめだ」
こなちゃんの忠告……それでも私はあきらさんに近づいていった。
みゆき「こっちです、こっちで暴行している人がいます、来てください」
ゆきちゃんの声が突然した。
あきら「ちっ、人を呼んだか……」
あきらさんは森の茂みの奥に駆け込んで消えた。


655 :つかさの旅 25/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:39:27.36 ID:DlK6yebt0
 ゆきちゃんが階段を登って来た。
みゆき「物々しかったので人を呼んだふりをしました……余計な事をしてしまったのでしょうか……」
こなた「……うんん、た、助かったよ……」
こなちゃんはその場にへたり込んだ。私はこなちゃんに駆け寄って手を引いて立たせた。
つかさ「こなちゃん、凄いね、かっこよかったよ」
こなた「……あれはハッタリの構えだよ……正直あのまま襲われたらどうなってたか分らない、みゆきさんの機転の方が凄いよ……それより、つかさ、
    無防備であいつに近づくなんて……しかも目を見るなんて……殺されるところだったよ」
つかさ「あまりよく覚えていない……夢中だったから……」
こなた「あいつが好きなのは分るけど、無茶すぎだ」
私はあきらさんが好き……もう否定はしない。好きになってしまったのはどうしようもない。でもあれが全部策略だったなんて、今でも信じられない。信じたくない。
かがみ「……何も言っていないのに……よく此処がわかったわね」
お姉ちゃんはうな垂れていた。
こなた「土地勘の無いかがみが行く所なんて限られているよ……と言ってもみゆきさんの推理だったけどね……呪いか……これでかがみの不可解な行動の謎が解けた、
    つかさを守るために呪いと戦っていた」
かがみ「そんなんじゃない、あんな強制的な命令なんて誰が聞くものか……」
みゆき「ちょっと待ってください、もうこれ以上呪いの話は止めたほうが……いつ呪いがかがみさんに襲ってくるか分りません」
こなた「おっと……」
こなちゃんは両手で口を塞いだ。
かがみ「……何故かしら、身体が軽い……」
お姉ちゃんは右腕を持ち上げて見た。
かがみ「……二の腕にあった呪いの印が消えている……」
こなた「呪いが解けたって事?」
かがみ「分らない、分らないけど……解けたみたい」
つかさ「ひろしさんが解いてくれたんだ」
私は喜んだ。
みゆき「……それはどうかな、あいつ自ら呪いを解くなんて考えられない、それは単に呪いの命令が実行されたから消えただけだよ、結果的にかがみがつかさをここに
    連れてきたようなものだから」
みゆき「つかささんには悪いですけど、今回だけは泉さんの考と同じです」
ゆきちゃんまでひろしさんを……でもこの状況から考えられる結果はそうなのかもしれない。
こなた「さて、これからどうするかだ……またあいつ襲ってくるよ」
どうすると言われてもどうする事も出来ない。沈黙が続いた。
かがみ「考えたって答えは出ないわ、私が帰れば少なくとも彼の目的は達成出来ない……それでいいじゃない」
こなた「それだと今度はつかさを襲うに違いない」
かがみ「それは無い」
こなた「何で言い切れるんだよ、つかさ一人にして心配じゃないの」
かがみ「こなたなら守れると言うのか、言っておくけど私やみゆきは戦力にならないわよ、警察に話したって信じてもらえない」
こなちゃんは黙ってしまった。ゆきちゃんも成す術なしって感じだった。
かがみ「何、みんな辛気臭い顔をしてさ……まだお礼を言ってなかった、つかさ、こなた、みゆき……ありがとう、呪いが解けたのは皆のおかげね」
お姉ちゃんは背伸びをして森を出た。
かがみ「うわー、綺麗な眺めね、朝日がキラキラ反射しているわよ、皆も来てみなよ」
嬉しそうに私達を誘った。
こなた「なんだい、あの変わりよう……呪いが解けた途端に……」
みゆき「ふふ、元のかがみさんに戻った……それだけです」
ゆきちゃんはお姉ちゃんの方に向かって行った。ゆきちゃんとお姉ちゃんは楽しそうに景色を眺めていた。
こなた「元のかがみね……元には戻っていない、良い意味でね……つかさの家に泊めてもらわなくて済みそう……」
つかさ「でも……ひろしさんが……」
こなた「かがみの言うように私達じゃどうしようもないよ、また襲ってくるかもしれないし、二度と来ないかもしれない、でも、例え襲ってきたとしても
    つかさならなんとかなりそう、何とかしそう、そんな気がしたよ」
こなちゃんもお姉ちゃんの方に向かって行った。

 私に何が出来る。何もできないよ。まなちゃんと全然状況が違うし。ひろしさんは明らかに私を恨んでいる。今までのひろしさんの行動が全部嘘だとしたら……
私の気持ちはどうすればいいの。お姉ちゃんに呪いをかけたはずなのに彼を嫌いになれない。また会って真意を聞きたい。
聞いてどうするの、もし本当に私を恨んでいるって言ったらどうするの……何も答えは出てこない。
まなちゃんならどうするの……
いつまでもまなちゃんと座って語った石を見つめていた。


656 :つかさの旅 26/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:41:45.97 ID:DlK6yebt0
 神社の森を出るとお姉ちゃんはまだ外の景色を見ていた。
つかさ「こなちゃんとゆきちゃんは?」
かがみ「先に下りたわよ」
景色を見ながら答えた。
つかさ「すっかり日が昇ったね、今日も暑くなりそう……」
お姉ちゃんは私を見た。さっきまで元気だったのに少し顔が曇って見えた。
かがみ「つかさを助けたかった、その為の演技だった、皆はそう思っている、」
つかさ「私もそう思ってる、お姉ちゃんはあんな事はしない」
かがみ「呪いに反抗した、確かに反抗した、だけどね、30……うんん、80%以上は本当につかさに帰ってもらいたかった、これが私の本音よ、
    可笑しいわね、自分で真っ先に賛成したのに、心の中では離れて欲しくなかった……松本さんの言うのにシスコン丸出しだったわね」
つかさ「お姉ちゃん……」
かがみ「つかさは私の言うことに全く動じなかった……今思えば恥かしい……もっと他に方法は無かったのかしらね」
つかさ「でも、呪いを隠し続けながら今まで私を帰そうとした、どれだけ苦しかったか想像もできないよ」
お姉ちゃんはまた景色を見た。
つかさ「……ひろしって人を恨んでるの?」
聞くまでも無い事を聞いてしまった。
かがみ「こなたから聞いた、あの人ひろしって名前らしいわね……」
それ以上何も言わなかった。もしかしてこなちゃんは私がひろしさんを好きって言っちゃったのかな。私もそれ以上聞かなかった。
お姉ちゃんは私景色を見るのを止めて私を見た。
かがみ「松本さんを巻き込んだのはまずかったわ、あの時、形振りは構っていられなかった……今更許してなんて……虫がよすぎるわよね」
お姉ちゃんは呪われていたなんてかえでさんに言えない。それならば。
つかさ「かえでさん、お姉ちゃんが料理を褒めてくれたの、お店を出して初めてだったって、とっても嬉しかったって言っていたよ」
かがみ「え、まさか、以前に店に行ったのを覚えていてくれた?」
つかさ「うん、もう一度美味しいって言ってもらいたいって、もう一回笑顔が見たいって……」
かがみ「バカよ、あれは嘘だったのに……真に受けてどうするのよ……」
お姉ちゃんの目が潤み始めた。
つかさ「呪いが解けたなら……本当の事が言えるよね、私、これから出勤する、お店で待ってるから帰る前にお昼食べに来て、かえでさんには黙っているから」
かがみ「そうね、私自身で解決しないといけないわね……お腹が空いてきた、ここに来てまともに食べていないから……」
つかさ「行こう!」
私達は階段を下りた。神社の入り口の鳥居を潜り、神社を出ると私の車の横にこなちゃんとゆきちゃんが待っていた。
こなた「お二人とも、もう話は決まった?」
つかさ「私は店に行く」
かがみ「旅館に戻って帰る支度よ、お昼にお店で食べてから帰るわ」
こなちゃんとゆきちゃんな頷いた。これで良い、もう一度最初からやり直し。
つかさ「皆車に乗って、目的地は同じだよ!!」


 お店の駐車場に車を停めた。皆は車を出た。直ぐにこなちゃんが何かに気付いた。
つかさ「どうしたの?」
こなた「いや、普段よりも車の数が多いなって」
辺りを見回すと駐車場に停めてある車の数が確かに多い。まだお昼前で開店していないのに。
つかさ「なんだろう、旅館と共同駐車場だからもしかしたら宿泊客かも……でもこんなに宿泊客が来るなんて聞いてない、朝晩の料理の仕込みがあるから宿泊している人数は
    事前に教えてもらっているはずだけど……」
かがみ「つかさ、私達は旅館に戻るわ」
つかさ「それじゃお昼に……」
とりあえずお店に行こう。

 私は店の中に入った。厨房は仕込みが一段落しているみたいでみんな一休みをしていた。
つかさ「おはようございます」
皆は私を見た。特にかえでさんはかなり驚いた様子だった。私はタイムカードを押すとそのまま更衣室に入った。すぐにかえでさんも更衣室に入ってきた。
かえで「どうしたの、帰ったんじゃなかったの、お姉さんと、かがみさんと何かあったの?」
心配そうに私をみている。私は着替えながら話した。
つかさ「私は帰らなくてもよくなったから……心配かけてすみませんでした」
わたしの表情を見てすぐに笑顔に戻った。
かえで「……何があったのかは分らないけど、解決したみたいね……良かったわ……」
つかさ「ありがとう……それより駐車場の車は……」
これ以上お姉ちゃんの話をするとお昼に来るのを言ってしまいそうなので話題を変えた。
かえで「ああ、あれね……急に団体さんが泊まる事になって、地元の猟友会のメンバーね、いつもこの旅館を使用していただいているわ」
つかさ「猟友会……それって狐狩りの、で、でも狐狩りって冬にするって……」
かえで「そういえばつかさはここの狐狩りは初めてよね、いつもはそうだけど、今年は特に増えちゃったみたいで臨時に間引くようね」
この狐狩りで狐と間違えられて何人もお稲荷さんが……
つかさ「間引くって……野菜や果物じゃないよ……」
かえで「……そうね、可愛そうだけど、でも、狐狩りはこの町の伝統なの、それに増え過ぎると農作物に悪影響を与える……この店で使う野菜や果物にも影響がでるわ」
つかさ「そ、それはそうだけど……」
かえで「私も子供の頃はいろいろ疑問に思っていた、天敵の狼が居なくなったから誰かが代わりをしないとならない……悲しいけどこれが現実よ」
この町の人達はお稲荷さんを知らない、どうしよう。
かえで「つかさは優しいわね……」
かえでさんは更衣室を出て行った。

657 :つかさの旅 27/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:43:32.42 ID:DlK6yebt0
 
 開店してどのくらい経ったか、狐狩りの事で頭がいっぱいで作業が思うようにいかない。今までは仕事中は集中できたのに。チラっと客席を見る。
やっぱりひろしさんは来ていない。来て欲しかった。あれは何かの間違えって言って欲しかった。狐狩りも教えたかった。
でも、来ないって言うことは……やだ、もう考えたくない。
かえで「いらっしゃ……」
かえでさんの声が上擦った。私はかえでさんを見た。そして、かえでさんの目線の先に立っていたのはお姉ちゃんだった。お姉ちゃんはかえでさんに深々と頭を下げた。
かがみ「先日は大変失礼しました……あの時はどうかしていました、もし、許されるならば……入ってもいいでしょうか……」
かえでさんは暫く固まっていた。
つかさ「店長……」
私はそっとかえでさんを呼んだ。かえでさんははっとして我に返った。
かえで「どうぞ……」
かがみ「ありがとう……」
かえでさんは席に案内した。お姉ちゃんの後からこなちゃんとゆきちゃんも入ってきた。お姉ちゃん達はかえでさんの案内した席に座った。かえでさんがメニューを
渡そうとすると。
かがみ「この前のメニューと同じものでいいわ」
こなちゃんとゆきちゃんも頷いた。
かえで「かしこまりました」
かえでさんは厨房に来た。そして私を睨んだ。
かえで「つかさ〜、来るなら来るって言いなさい……なぜ出勤してきたのか今分ったわよ……私を驚かすつもりだったのね」
私は頷いた。かえでさんは帽子を被った。
かえで「もう不味いとは言わせない、私が鍋をふるわ……デザートはつかさ、頼むわよ」
つかさ「はい!」
いろいろ心配事はある。だけど今はデザートを作る事だけに集中しよう。

 料理が次々とお姉ちゃん達の席に運ばれる。お姉ちゃん達は楽しそうにお喋りをしながら料理を食べていた。私もお姉ちゃん達の会話にまじりたいほど楽しそう。
この前と全然雰囲気が違う。もう感想なんて聞かなくても分る。美味しければ自然に会話は弾むもの。私も自然と作業のペースが上がっていく。
そしていよいよ私のデザートを出す番が来た。
つかさ「もういいかな」
かえで「いいわ、行きなさい」
自ら作ったデザートをお姉ちゃん達の席に持っていった。後からかえでさんが付いてくる。
つかさ「どうぞ、デザートです」
それぞれの席にデザートを置いた。皆は静かにスプーンを下ろして掬って食べた。
こなた「美味しい、学生の時に作ってくれたのとは別物だよ……つかさ」
みゆき「素晴らしいです、他にはない工夫がされていますね」
お姉ちゃんはただ黙って食べていた。かえでさんは帽子を取り私の前に出た。
かえで「いかがでしたか?」
この問いはお姉ちゃんに向けて言っている。そう思った。お姉ちゃんはゆっくりスプーンを置いてかえでさんの方を向いた。
かがみ「美味しかった……前よりもね、つかさもただ甘いだけのデザートじゃない、きっと松本さんに鍛えられたのね」
お姉ちゃんはにっこりと微笑んだ。
かえで「ありがとうございます……」
一礼をするとかえでさんは更衣室の方に行ってしまった。
こなた「あらら、店長さんどうしたのかな」
みゆき「急にどうしたのでしょうか」
つかさ「きっと嬉しすぎて涙がでちゃったと思うよ」
かがみ「大袈裟ね、私は有名な批評家でもなんでもないのよ、私が美味しいって言ったって繁盛するわけじゃないし……」
こなた「そんな事言っているわりには照れているね」
かがみ「そんな事ないわよ……」
つかさ「私も褒めてくれありがとう……実は私も褒められたのは初めてで……ちょっと……私も……」
みゆき「あらあら……」
ゆきちゃんは慌ててハンカチを私に渡した。そしてそっと肩を貸してくれた。
私は分る。褒められて泣いたんじゃなくてお姉ちゃんの笑顔が嬉しかった。そうだよね。私は暫く仕事を忘れて泣いていた。周りのお客さんが不思議そうに
私を見ているけど。構わずその場で涙をながした。

 お姉ちゃん達が会計を終えて店を出て直ぐだった。
かえで「さて、つかさ、これから駅まで見送りしにいきなさい」
つかさ「でもまだ私は仕事が……」
かえで「何言っているの、今日は休みのはずだったでしょう、お姉さんと友達を送ってあげなさい、電車が出るのは当分先のはずよ……私だったらそのまま飛び出して行くわよ」
つかさ「あ、ありがとうございます」
私は更衣室に向かった。

658 :つかさの旅 28/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:45:13.77 ID:DlK6yebt0
 
 駅に着き入場券を買って駅の構内に入った。お姉ちゃん達は電車を来るのを待っていた。私は手を振った。
つかさ「おーい」
お姉ちゃん達も手を振って答えた。私は駆け寄った。
こなた「見送りなんていいのに……」
つかさ「でも……次に会えるの、いつになるか分らないし……」
かがみ「年末年始は帰ってくるでしょうね……」
つかさ「もちろんそのつもりだけど」
みゆき「長い時間ですね、名残惜しいです……」
こなた「まぁ、その前に就活があるけね〜」
かがみ「こなたかからそんな言葉が聞けるとは思わなかった」
私達は笑った。
良かった……元に戻った……私達はこうでないとね。
こなた「……それより、つかさが帰りたいって言わないのが不思議でしょうがないよ、ホームシックにはならかったの?」
つかさ「毎日が夢中でそんなの考えていられなかった……だけどお姉ちゃんが帰るように言ってから……」
こなた「あらら、かがみが望郷心煽っちゃった……」
かがみ「そうね、それは認める……でもね、呪われて居なくとも何らかのアプローチはしていたかも……私もまだまだ子供だったってことよ」
つかさ「お姉ちゃん……」
お姉ちゃんが皆の前でこんな事を話すなんて。
かがみ「つかさが居なくなって家も少し変わったわ……何かが足りないってね、帰って欲しいのは私だけじゃないわよ」
みゆき「かがみさん……もうそのくらいにしませんと、つかささんが辛くなってしまいます……いいえ、私も辛くなってしまいます」
普段ならこんな時はこなちゃんの冗談が飛び出すはずだけど、こなちゃんも俯いてしまって何も言ってこない。
かがみ「はい」
お姉ちゃんはポケットからお守りを取り出し私に差し出した。私はそれを受け取った。これはパワースポットの石が入ったお守りだった。
かがみ「もう私には必要ないもの、返しておくわ」
つかさ「返すって、この石は私が持ってきたものじゃないよ」
みゆき「それはひろしさんが持ってきた物……」
こなた「さん付けしなくていいよ、あんな奴……思い出したくもない」
急にこなちゃんが怒り出した。そういえばこなちゃんは最初からひろしさんを疑っていた。
つかさ「私達とお稲荷さん……仲良くなれないのかな」
こなた「まだそんな事いっている、かがみを呪って殺そうとまでしたんだ、つかさだっていい様に使われて下手したら殺されていた……許せないよ」
かがみ「これが一般的な反応だ、つかさ、あんたはそれでもひろしが好きなのか……」
つかさ「う、うん」
かがみ「辛いわよ……」
お姉ちゃんは鞄を取ってホームに並んだ。
つかさ「辛い……」
みゆき「人と人でも分り合うのは難しい、ましては人ではない者と……そう言いたいのではないでしょうか」
ゆきちゃんも荷物を持ってホームに並んだ。
こなた「家はここより人口が多いからあいつはそう簡単にかがみに手をだせないと思うけど、私はつかさが心配だよ、ずっと一緒には居られないし」
つかさ「私、もうとっくに死んでいたかもしれなかった、だけど生きている」
こなた「真奈美さんが居たからね、今度はつかさ一人だけだよ……いっその事一緒に帰ったら?」
つかさ「お稲荷さんは人に化けられるよ、人が多い町の方が危ないかもしれない」
こなちゃんは驚いた顔をした。
こなた「つかさらしからぬ鋭い考えだ、ごもっとも……」
こなちゃんも荷物を持ってホームに並んだ。アナウンスと共に電車がホームに入ってきた。電車は止まるとドアが開いた。発車までにはまだ少し時間がある。
お姉ちゃん達は電車に乗り込んだ。荷物を椅子の下に置くとこなちゃんがドアまで出てきた。
こなた「かがみは……柊家は私が守るから安心して」
お姉ちゃんもやってきた。
かがみ「こなた、その言い方はやめろ」
こなた「なんで、現に守れるのは私しかいないじゃん」
かがみ「それは男性が女性に言う言葉だ、それに……ひろしが去ってすぐにへたり込んだくせに」
こなた「あれは敵を油断させて……」
かがみ「敵が逃げているのに油断も隙もないだろう」
こなた「つかさ〜かがみを何とかして〜」
つかさ「ふふふ」
久しぶりに聞いた。お姉ちゃんとこなちゃんの言い合い……
こなた「それそれ、その笑顔……ここに来て一番良い笑顔だよ」
みゆき「笑顔でお別れ……また再会へのいいお土産になります……」
かがみ「そうね……」
発車のベルが鳴った。お姉ちゃんは私の手を握った。
かがみ「つかさが決めたのなら貫きなさい、これからどんな辛くて苦しい事があっても、それが正しいと信じるなら……」
つかさ「え……それって、どうゆうこと?」
ドアが閉まった。握っていた手が自然に離れた。ドア越しにお姉ちゃん達が手を振っている。私も手を振って答えた。電車はゆっくりと動き出した。
もうお姉ちゃん達の姿は見えない。だけど私は手を振った。そして電車が見えなくなっても手を振って見送った。
お姉ちゃんの最後の言葉が心に残った。


659 :つかさの旅 29/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:46:53.85 ID:DlK6yebt0
三部 <告白>


 三日後、旅館に宿泊している猟友会の人達の狐狩りの準備を終え、明日から狩が始まると聞いた。狩を止めさせたい。本当の事を言っても多分信じてもらえない。
どうすればいいのか全く分らない。
かえで「今日も来ないわね……つかさ、喧嘩でもしたの?」
あれからひろしさんは店に来ていない。喧嘩……喧嘩なら仲直りもできる。
来ない。何故……彼は、ひろしさんはお姉ちゃんに呪いをかけて私を神社に連れて来させて……
私の目の前でお姉ちゃんを……その後は私も殺すつもりだった。こなちゃんはそう言っていた。でも、お姉ちゃんは否定も肯定もしていない。ゆきちゃんはこなちゃんと同意見。
直接聞きたい。なぜ来てくれないの……狐狩りがあるからと信じたい。
かえで「……ごめん、二人の事は二人でないと分らないわね、差し出がましかった……」
はっと我に返った。
つかさ「あ、す、すみません、ぼーっとしちゃって、仕込みはもう終わりましたから……」
かえで「……私はそんな事聞いていないわ……ちょっと、大丈夫……」
つかさ「は、はい……大丈夫です」
かえで「煮え切らない返事ね……公私混同は……と言いたいが、恋愛問題ともなると、そう言ってもいられないわね……時には一生を左右する決断をしなければならい事もある」
つかさ「かえでさんはそんな決断をした事あるのですか……」
透かさず聞いたせいなのか、かえでさんは言葉に詰まってしまったよう。暫く黙っていた。
かえで「私はそこまで恋愛を真剣にしていない、例え真剣だったとしてもつかさの助言にはならいと思うわ、それぞれの立場があるしね、
それに絶対にこうしないといけないと言うセオリーも無い、正しかったのか、間違っていたのか、それすらも分らない、それ故に悩み苦しむ……そんなところかしら……
    ごめんなさい、そんなのはつかさだって分かっているわね……情けない、私って料理以外は全くダメね……恋愛すら語れないなんて」
かえでさんは苦笑いをした。
つかさ「いいえ、そんな事はないです……ありがとうございます……」
私自身で解決方法見つけないといけないって事なのかな……

 夕方の仕込みが終わり、夜の開店準備をしていた。かえでさんが旅館の方から店に入ってきた。そして私達スタッフを招集した。
かえで「集まってもらったのは明日から二日間、このレストランと旅館は臨時休業にする事をきめた……理由は旅館の温泉を汲んでいるポンプが故障したから、
    知っての通り、この旅館は温泉が目玉、その温泉が出ないのであれば、冬に備えて思い切って休む事になった、このレストランも温泉を利用している以上
    同調することになった……このレストランが開店して以来、大きな休暇は与えていなかった、たった二日とは言え、有意義な休日を過ごしてもらいたい」
降って湧いたような臨時休暇……二日間か、長いような短いような……実家に帰ってもいいかな……
かえで「何か質問は
私達を見回すかえでさん。そうだ、思い出した。旅館に泊まっている団体が居た。
つかさ「旅館に泊まっていた猟友会の人達はどうなるの?」
かえで「猟友会は明日から現地でキャンプをして狩をするそうよ、もうチェックアウトした、たまたまこの二日間の予約が少ないのも休館にした理由の一つ……他に質問は?」
皆は黙っている。心なしか皆の顔が嬉しそうに見えた。このレストラン、旅館も二日も休むのはそうは無い。
かえで「それでは開店準備……続けるわよ」
私達はそれぞれの持ち場に戻った。

 次の日……私は実家に帰るのを止めた。お姉ちゃん達とは会ったばかり、確かにお父さん達にも会いたかった。だけどなにより狐狩りが気になって仕方が無かった。
かえでさんの話では狐狩りといっても狩の対象は狐だけじゃない、猪とか鹿、熊も狩るとは言っていた。
今まで狐に間違えられて何人のお稲荷さんが死んだのかな。そう思うとこの町を出る気にはなれなかった。

 ニホンオオカミ、日本の九州、四国、本州に生息していたオオカミの一種、西暦1905年、明治38年に絶滅した……
オオカミが居なくなってしまって生態系が大きく崩れて鹿などが大繁殖、農作物を荒らして大被害を与えた。そして絶滅したオオカミに代わって人間が
定期的に狩って数を調整する必要が出た。
ニホンオオカミの絶滅の原因……狂犬病等の家畜伝染病、人的な駆除、開発による餌の減少……
百年以上前に絶滅したオオカミ……これって私達人間が原因じゃない、お稲荷さんが私達を恨むのはこれが根底にあるのかもしれない。
本を捲ると絶滅してしまった動植物の名前が次々と出てきた。その殆どは人間が原因だった。そしてその数に驚いた。


660 :つかさの旅 30/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:48:45.17 ID:DlK6yebt0
 私は町の図書館に居た。図書館……調理師の勉強をする時に利用してから全く行っていない。もちろんこの町の図書館も始めて。普段からそんなに本なんか読まない。
高校時代なんて図書室はもっぱらお喋りの場だった。高校時代か、卒業して三年も経っているなんて……ゆたかちゃん達も卒業してしまった……
もうあの学校……校舎、校庭、教室、懐かしいな……
「つかさ、つかさじゃない」
突然だった。聞き覚えのある声、その声の方を向くとかえでさんが立っていた。
つかさ「か、かえでさん、おはようございます」
かえで「おはよう、こんな所で会うなんて奇遇ね」
かえでさんは早速私の読んでいる本を覗き込んだ。
かえで「へぇ〜つかさ、自然科学に興味があるの、人の趣味って分らないものね」
つかさ「いえ、別に趣味って訳じゃ……狐狩りの事を調べていたらこれに当たっただけです……」
かえで「そういえば聞いていたわね、狐狩りか……仕事以外の事に興味を持つのは良いわよ、自然科学にしたって全く無縁じゃないわ、料理につかう食材は自然の産物よね」
つかさ「そんな大袈裟では……ただ何となく……」
私はかえでさんが大事そうに両手で抱えている本を覗き込んだ。さっきのお返し。それは料理の専門書だった。
かえで「ああ、これね、コース料理に関しての著書よ、料理の組み合わせって結構難しいの」
かえでさんは私の正面の席に腰を下ろした。そして本を読み始めた。その顔は料理を作っている時のように真剣だった。
休日の図書館でかえでさんと会う確率ってどのくらいだろう。例え私と彼女が図書館に行ったとしても時間帯が違えば出会えないし、時間が同じでも同じ席に
行かないと会えない。そんなのは当たり前だけど……もしかしたら奇跡的な状況なのかもしれない。休日に二人で会うなんて、どちらかは必ず店に出勤しないといけなかった。
でも今はどちらもお休み。こうして二人で図書館に余暇を過ごしている、それも偶然に……今なら話せるかもしれない。お稲荷さんの事。
偶然の神様がそうしろと言っているみたい。
お稲荷さん、特にまなちゃんの話をすればかえでさんは辻さんの自殺を止めなかったまなちゃんを怒ると思っていた。今でもそう思う。
だけどそれは真実。やっぱり話さないといけない。これからの自分の為にも。
つかさ「かえでさん、これから大事なお話をしたいのですが……時間はいいですか」
かえでさんは本を閉じた。
かえで「何、急に改まって、大事な話って何よ?」
つかさ「ちょっと長くなる話なので……」
かえでさんは立ち上がった。
かえで「本を借りる手続きしてくるわ、ここで長話をしたら他人に迷惑よ……エントランスに行きましょう」
かえでさんは受付に向かった。私も受付に向かった。この本を全部読みたくなったから。
エントランスにある休憩用のベンチ、そこに私達は座った。そして私は話した。一人旅で出会った真奈美さんの話、その弟のひろしさんの話を。


661 :つかさの旅 31/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:50:08.36 ID:DlK6yebt0
 始めはただ聞いていただけだった。だけど途中から目を閉じて私の話を聞いた。全て話し終わると涙を流していたような気がした。
かえで「何故もっと早く話してくれなかった……でもそれは今だから言えるのかもしれない……私が神社につかさを追った時の貴女の変わり様、
    一回り大きくなって見えた……そんな出来事があったのね……かがみさんの変わり様もつかさの話なら納得できる……」
意外だった。こんなにすんなり私の話を受け入れるなんて……
つかさ「私の話を信じてくれるの……」
かえで「この町には狐の昔話が沢山言い伝えられていてね、私も子供の頃はよくおばあちゃんから聞いたものだわ……」
一番信じてもらえないと思っていた人だったのに……嬉しい誤算だった。
かえで「それでもつかさはひろしを愛しているの?」
つかさ「あ、愛してって……それは大袈裟かな……好きかもしれないけど……」
かえで「そうでなきゃ図書館でその本を読まないでしょう、あんな目に遭っても懲りない、恋は盲目とは良く言ったものね」
かえでさんは呆れるように溜め息をついた。
つかさ「やっぱりかえでさんもこなちゃんと同じなの?」
かえで「……普通に考えればそうなるわね……でも、つかさの気持ちも分からないわけではない、なにせかがみさんは何も言っていないのか、ひろしに口止めされたか、
    真の呪術者に口止めされたか……呪いが解けても言えない何かがあるのかもね」
それが一番気になっていた。お姉ちゃんは呪いの事をほとんど話していない。
かえで「彼はつかさを殺せる機会を何度も逃している、最初につかさに声をかけた時、つかさの家に泊まった時、つかさの車に乗った時、神社で会った時……
    つかさの話を聞いただけで四回もあるわ……本当に彼がつかさを憎むならとっくにつかさはこの世に居ない」
泊まった時私は無防備だった、それはゆきちゃんが言っていた。でもそれ以外は気付かなかった。そう言われるとそうかもしれない。
かえで「彼等の思考は私達人間と違うのかもしれない……つかさにかがみさんの死を見せるのが目的だったのかしら、違う何か深い理由がありそうね……あっ、ベラベラ勝手に
    話してしまって……私の勝手な想像だから参考にしないで」
かえでさんの言う深い理由が知りたい。もしそれがあるなら。
かえで「いいえ、別にいいです……それより真奈美さんの事ですけど……」
かえで「真奈美さん……彼女が浩子の自殺を止めなかったから怒らないのかって?」
つかさ「え、あ、うん……」
私の思っているのを言い当てられてしまった。やっぱりそうだよね……普通はそうなるよね。
かえで「今更怒っても浩子は生き返らない、亡くなっている者に怒ったって空しいだけ、それに彼女はそれを後悔したのでしょ……そう思ってくれたのなら許すわよ……
    彼女は仲間の怒りを鎮める為に自ら犠牲になった……これは真似できないわね、彼女には生きていて欲しかった……」
そう言ってくれると自分の事のように嬉しかった。
つかさ「ありがとう」
かえで「つかさがお礼を言ってどうするのよ」
つかさ「まなちゃんの代わりにお礼を……」
かえで「ふふ、本当に真奈美さんを慕っているわね、ほんの数日の出会いなのに……」
つかさ「かえでさんはまなちゃんより後に出会った、まなちゃんより短い出会いだった、だけどこうして私はこの町に住んでいる」
かえで「私もつかさがこの町に来てくれるとは思わなかった……不思議ね、」
何が切欠で親しくなるのかな、親子や兄弟でも仲が悪い場合だってあるよね。少なくとも会った回数や時間では決まらない。本当に不思議。
かえで「問題は今後よね……こうやって人中に居る限りは安全だけど……」
つかさ「大丈夫です……私、ひろしさんを信じていますから」
かえで「信じる……それを愛って言うのよ」
つかさ「え……」
かえでさんは溜め息をついた。
かえで「まったく……最後に惚気られたわ……その愛が彼に届くと良いわね……」
つかさ「うん」
愛なんて大袈裟だよ……
つかさ「それより狐狩りを止めさせたいけど……どうすれば良いのか分らなくて」
かえでさんは私の持っている本を見た。
かえで「それでその本を読んでいたのか……」
かえでさんは暫く考え込んだ。
かえで「狐狩りは止められないわ、彼らは遊びやレジャーでしている訳じゃない、中には生活がかかっている人もいる、『お稲荷さん』の存在を証明して理解させることは
事は皆無に等しい……つかさの話を聞いた私だって……ひろしと言う男性は何処から見ても人間だった」
つかさ「狼がいないから狐狩りをするようになったって、でも、その狼を滅ぼしたのは人間だよ」
かえで「そうね、それはどうしようもない現実、でもそれを全てつかさに押し付ける彼らのやり方も似たり寄ったりだわ、つかさは人間70億人の中の一人に過ぎない」
話のスケールが大きくなってしまって私は何をしていいのか分らなくなってしまった。
かえで「さてと、まるっきり役に立たない私が出来ることはお昼を奢るくらいかしら、この近くに美味しいパスタ屋さんがあるけど、どう?」
つかさ「え、お昼を……」
かえでさんは立ち上がった。
かえで「他店の味を見るのも勉強よ……なんて言わない、美味しい料理で楽しい会話でもしましょう」
かえでさんはにっこり微笑んだ。
つかさ「はい」
それからのかえでさんは帰るまでお稲荷さんの話をしなかった。良い解決策が無かった。それだけではない。せめて自分と一緒にいる時くらいは人間とお稲荷さんの呪われた
関係なんか忘れていなさい。かえでさんの笑顔と楽しい会話がそう言っているような気がした。


662 :つかさの旅 32/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:52:04.90 ID:DlK6yebt0
 そんな楽しい時間は直ぐに過ぎていった。かえでさんと別れて私は一人車を運転して家に向かっていた。一人で居るとやっぱりひろしさんやお稲荷さんの事で頭が
いっぱいになってしまう。今頃山奥では狐狩りが始まっているに違いない。私じゃ何も出来ない。そんなのは分っている。分っているけど……
あっ!!
歩道を歩いている四足動物の陰、犬、猫……違う、あれは狐だ。狐はすぐに歩道から草むらの中に入っていった。隠れた場所から少し離れて私は車を止めた。
私は辺りを見回した。ここはあのパワースポットの直ぐ近く。もしかしたら……
私はパワースポットに向かった。ゆっくりと岩に近づいた。岩の直ぐ傍に狐が座っている。気が付かないようにもっと近づいた。あの狐は……
まなちゃんとそっくりのあの姿、間違いないひろしさんだ。でもどうして狐の姿で居るのだろう。彼は岩に擦り寄っていた。もっと近づこうとしたら小枝を踏んだみたいだった。
『バキ!!』
折れる音が響いた。彼は音のする私の方を振り向いた。気付かれてしまった。隠れていても意味はない。私は彼の目の前に姿を見せた。すると彼は私に後ろを向けて
立ち去ろうとした。
つかさ「待って、ひろしさん、ひろしさんでしょ?」
彼はピタリと立ち止まり私を見た。間違いない。野生の狐がこんな行動をするはずは無い。間違いなくひろしさんだ。
つかさ「どうしてあんな事を……」
何もせず私を見ているだけだった。もしかしたら彼はまだ狐狩りの事を知らないのかも。
つかさ「それより、その姿でこの町をうろつくのは止めた方がいいよ、狐狩りをやっているから」
『ウー』
彼は牙を見せて唸りだした。眉間にしわをよせて私を睨んでいる。この姿は神社で見た大狐、お頭さんと同じ表情だった。私を襲わんとばかりだった。人間に対する憎しみなのか、
私に対する憎しみなのか。
つかさ「そうだよね、怒るよね、私もどうしていいか分らないよ……でも今までお店に来てくれたよね……また来て欲しかった」
私が一歩近づくと彼は一歩後退した。
つかさ「危ないから森の近くまで送ってあげる」
あれ、彼の身体が小刻みに震えだした。そしてその場に倒れてしまった。
つかさ「ひろしさん!」
私が近づいても彼は倒れたままだった。よく見てみると右の後ろ足から血が出ていた。慌ててハンカチを出して血を拭った。傷が丸くなっていて足を貫通しているみたいだった。
これってもしかして銃で……まさか狐狩りに遭ってしまった。まだ傷口から血が出てくる。私はハンカチを破って傷口を押さえて足を縛った。彼を抱きかかえて車に戻った。
彼を隣の席に乗せると車を走らせた。ハンカチから少しずつ血がにじみ出ている。帰ったらちゃんと手当てしないと。そういえば家に救急セットがあった。

 駐車場に車を止めると私は荷物と彼を抱えて家に入った。
彼を居間のソファーにそっと寝かすと棚から救急セットを持ってきた。成実さんに教えてもらった応急処置……まだ誰にもしたことはない。しかも相手は狐……
でも躊躇している時間はない。私は教えてもらった通り応急処置を彼に施した。

 包帯を巻く数が多すぎたかな。少し足が太くなって見える。巻き方も雑だったかもしれない。でもやれるだけの事はやった。彼はまだ意識が戻らないみたい。
そういえば何でパワースポットに来たのだろう。こんな大怪我でも癒す力があるのかな。お姉ちゃんから石の欠片の入ったお守りを貰ったのを思い出した。
どこにしまったかな……部屋を探した。
あった。お守りを包帯の上に置いてテープで固定した。これだと歩き難いかもしれない。でも血が止まるまでの包帯だから我慢してもらう。

 彼の意識が戻ったのは私が夕ご飯の準備をしている時だった。彼はうつ伏せたまま頭を持ち上げてきょろきょろと周りを見ていた。ご飯の準備を止めて居間に移動した。
つかさ「気付いたみたいだね、この前来たから分るでしょ、私の家だよ……」
『ウー!!』
私を見るとまた唸りだした。
つかさ「そんなに力むと傷に障るよ」
彼は唸りを止めて自分の右足を見た。包帯でグルグル巻きになっていて重たそうだった。足を持ち上げてじっと見ていた。
つかさ「初めてだったからゴメンね、血が止まればもっと軽くできると思うよ」
私の言う事を無視するように彼は猫みたいに丸まって寝てしまった。
つかさ「今、ご飯作っているから……大好きないなり寿司だよ」
彼は全く無反応、丸まったままだった。だけど耳は私の方に向いているのが分った。私はそのまま台所に戻ってご飯の支度の続きをした。

つかさ「はい、ご飯が出来たよ」
お皿に数個のいなり寿司を彼の目の前に置いた。彼はチラっとお皿を見るとまた丸まってしまった。
つかさ「お腹が空いているでしょ……毒なんか入っていないよ」
全く食べようとしない。それならば、寿司を一個手にとって食べて見せた。
つかさ「わぁ〜美味しい〜自分でつくったのもなんだけど、今までの中で一番の出来だよ……」
『ゴク』
彼の喉から生唾を飲み込む音がした。食欲はあるみたい、ちょっと安心した。私はそのままそっと居間を出て自分の部屋に戻った。
大怪我すると人間に化けられない。まなちゃんがそうだった。あんな怪我で人間に化けていたから弱ってしまった。彼も足に大怪我しているから人間に化けられない。
あのまま放っておいたらいくらパワースポットのあの岩でも癒しきれないよ。野犬とかに襲われたらきっと死んでしまう。やっぱり連れてきて良かった。
明日も休みだから看病できるけど、明後日からどうしようかな。彼一人でお留守番になるけど、食事とおトイレだけ出来るようにすれば何とかなるかな。
今の彼は話すことは出来ないけど私の話は理解出来るみたいだから話してみよう。
30分位して居間に行ってみた。
彼はソファーに丸まって眠っていた。呼吸も落ち着いている。これは起こさない方がいいね。薄い毛布を彼にかけてあげた。気付くとお皿のいなり寿司が綺麗に無くなっていた。
お皿を手に取った。よっぽどお腹が空いていたみたい。私が見ていると食べないのかな。こなちゃんだったら「ツンデレ」って言うに違いない。
男性でもそう言うのかな……
音を立てないようにお皿を片付けた。そして台所から自分の夕食を持って部屋に戻った。


663 :つかさの旅 33/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:53:22.37 ID:DlK6yebt0
 次の日の朝、小鳥のさえずりで目覚めた。大きく背伸びをして起きた。今日はなんか清々しい。着替えて彼の様子を見に行くかな。居間の扉を開けた。
つかさ「おはよう、ひろしさん……」
彼はソファーを下りていた。下を向いている。何をしているのだろう。私は彼に近づいた。
つかさ「傷は痛まないの、まだ安静にしていないと……」
彼は床に本を広げていた。まさか読んでいたのだろうか。よく見ると昨日図書館で借りていた本だった。
つかさ「本を広げて、文字読めるの?」
『フン!!』
馬鹿にするなと言いたげな息遣いで返された。彼は前足で猫みたいに引っ掻いて頁を捲ろうとしているけどなかなかうまく捲れないみたいだった。その仕草が可愛く見えた。
私は彼のすぐ後ろに近づき本を一枚捲ってあげた。彼は食い入るように本を見ている。彼の目は文字を追っている。読んでいるみたいだった。
私も内容を読んでいると……丁度読み終えた所、オオカミが絶滅した頁だった。
つかさ「私も一緒に読んでいいかな……」
彼は少し移動してスペースを空けてくれた。私は彼の隣に座り本を読んだ。
本の内容は数々の種を絶滅に追いやった人類がいずれ同じ道をたどるだろうと警告をして終わっていた。
特に印象にのこったのは、昔、北アメリカに生息していたリョコウバト、彼らは当時数十億羽居たとされていたけど百年も経たないうちに乱獲によって絶滅してしまった。
あまりに呆気なく、弱い……生命ってこんなに脆いのかと思うほどだった。

 滅ぼす者と滅ぼされる者、一緒に同じ本を読んでお互いに何を感じているのだろう。私は少なくとも彼等、お稲荷さんを滅ぼそうなんて思っていない。猟友会の人達だって
そうだよ。でも、リョウコウバトを狩っていた人達も同じように絶滅するなんて思っていなかった。でも気付いた時にはもう遅い……
私が本と閉じると彼は床に丸まって寝てしまった。
つかさ「ひろしさん……私達はどうすればいいのかな……」
彼は耳だけ動かしていただけだった。
気付くともうお昼近くになっていた。
つかさ「本に夢中になり過ぎた、お昼作るから待ってね」
私は台所に向かった。

つかさ「今日はパスタにしてみたよ……食べられるかな……」
トマトソースのスパゲッティ、彼が狐だったのをすっかり忘れていた。麺類は食べてくれるかな……彼の目の前に料理を置いた。彼はゆっくりと起き上がると匂いを嗅いだ。
そして器用に数本咥えるとスルスルと吸い込んだ。
つかさ「ふふ、今度は直ぐに食べてくれた」
私の問い掛けに反応せず黙々と食べていた。
つかさ「昨日、かえでさんと行ったパスタ屋さんで食べた物を真似たの、味はどう……私の店のメニューに加えてもいいかな、かえでさんと比べてどう?」
彼の食べる速度はどんどん上がっている。感想は聞けないけど彼の食べている姿を見ていると不味くはないみたいだった。私も彼の隣で同じパスタを食べた。
食べ終わるとまた同じように丸くなって寝てしまった。なんか同じ反応でちょっとイライラしてきた。
つかさ「唸らなくなったけど、まだ、私が憎い?」
彼は私を睨みつけた。眉間にしわを寄せて今にも唸りそうだった。
つかさ「私が人間だから、それとも、まなちゃんが私の代わりに亡くなったから……どっちなの?」
眉間のしわがとれて睨むだけになった。
つかさ「私が人間なのはどうすることも出来ない、だけどまなちゃんが亡くなったのは私のせいじゃないよ……まなちゃんが亡くなって悲しいのは私も同じだよ、
今だって思い出すと涙が……それだけは言いたかったから……」
私はパスタのお皿を台所に持って行った。そしてそのまま片付け始めた。あんな事いうつもりはなかった。あれじゃ余計に怒ってしまうかもしれない。
なんであんな事言っちゃったのかな。ああ、もうダメかもしれない。やっぱりお稲荷さんと理解し合うなんてできないよ。お姉ちゃんが言った辛いだけってこの事なのかも。
『ガタ!!』
何かが落ちる音がした。居間の方からだった。あきらさんがソファーから落ちたのかもしれない。台所から居間を覗いた。彼は床に伏せていた。身体全体が震えている。
傷口が開いてしまったのかな……違う、足は伸ばしたままで痛そうに見えない。顔を床に押し付けて顔を隠しているみたい……まさか、泣いているのかな。
人が泣いている姿に似ている。
まなちゃんを思い出しているのかもしれない。私がまなちゃんの事言ったから、思い出しちゃったかな。
ひろしさんはやっぱりまなちゃんを慕ってる。弟さんだから……
お姉ちゃんが亡くなったら私もあんな風になるかもしれない。私の場合三人もいるけど……何だろう……まだ皆生きているのに涙が出てきた。また会いたくなってしまった。
私も身体を震わせて泣いてしまった。


664 :つかさの旅 34/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:55:01.09 ID:DlK6yebt0
かえで「……これはこの前のパスタ屋さんの……」
つかさ「そうだよ、ちょっとアレンジしてみたけど……うちの店ってまだパスタが無かったから、新メニューにと思って……」
お昼を少し過ぎた頃、賄いで作ったスパゲッティ、もちろんかえでさんには初めて食べてもらった。彼女の反応を待った。
かえで「……美味しい、確かに美味しいけど、うちの店では出せないわ」
つかさ「え、どうして、美味しいって言ったのに……」
かえで「これじゃあの店の味だって分ってしまう、はっきり言えば向こうの店の方が味は上よ」
自信はあった。だけどアレンジしたとは言っても所詮真似をしたのは変わらない。難しいな……
かえで「たった一回行っただけであの味を理解する所は流石だわ、もう少し研究が必要ね」
かえでさんは綺麗にパスタを食べた。私はその皿を持って厨房に戻った。そして、しばらくするとかえでさんが来た。
かえで「つかさ、最近積極的ね……何かいい事でもあったの?」
つかさ「べ、別にいい事なんか……」
かえで「相変わらず彼氏は来ていないみたいだけど……それとは関係なさそうね」
ひろしさんが家にいる事はかえでさんにはまだ話していない。話せば多分反対するような気がしたから。
もう怪我の彼を家に連れてきてから一週間が経った。最近になって彼はもう唸ったりはしなくなった。
包帯も素直に取り替えさせてくれるし、ご飯も美味しそうに食べるようになった。でも、相変わらずすぐ丸まって寝てしまう。
足を怪我しているのを考えればそれしかする事ないので仕方がない。足の怪我はだいぶ良くなった。でも何かおかしい、血は止まったけど傷口が全然小さくならない。
銃弾の傷だから治りが遅いのかな。人間とお稲荷さんとでは治る早さが違うのか。少し心配だな。
かえで「もう少しで狩りの期間は終わるわね、その後は注意しなさい、何なら私が家まで送っても良いわよ」
つかさ「あ、大丈夫ですよ、もう家に、あぇ、あ……なんでもないです」
かえで「なに、噛んでるのよ」
危ない、危ない、もう少しで言ってしまう所だった。
つかさ「心配しなくても大丈夫です」
かえで「……つかさが大丈夫でもね、私は家族から大事な娘、妹、を預かっている責任があるのよ」
つかさ「本当に大丈夫ですから」
かえで「どこからそんな自信がでてくるのか……意外と強情な所があるわね、かがみさんの妹ってことか……」
呆れるかえでさんだった。こうしてあっと言う間の一日が過ぎていった。

つかさ「お先に失礼します……」
スタッフ「お疲れ様」
一日の仕事を終え、更衣室で着替えている時だった。かえでさんが部屋に入ってきた。
かえで「つかさ、お昼の賄い料理……あれは他人に出すのは私達が初めてではないでしょ?」
つかさ「え、初めてじゃないって……」
かえで「料理は他人に食べてもらって味が変わっていくものよ、あのパスタの味はつかさの味付けとは違っていた」
つかさ「い、いろいろアレンジしたから……」
かえで「誰かに食べさせているでしょ……つかさは一人暮らしのはずだったわね、誰かと同居でもしているの?」
かえでさんはじっと私を見ていた。
つかさ「えっと、だ、誰も居ないよ……」
かえで「つかさ、私の目を見て答えなさい」
まさか、ひろしさんと一緒に居るのがバレてしまった。そんな筈はない。誰にも話していないし、見られてもいないのに。
何故かかえでさんの目を見て答えられなかった。
かえで「まさかとは思ったけど、同棲していたなんて」
私はかえでさんの目を見て話した。
つかさ「ど、同棲なんて、怪我をしていたから、歩けそうになかったし、彼は人間には化けられないから同棲じゃない……」
かえでさんは溜め息をついた。
かえで「ふぅ、やっぱり」
つかさ「え?」
しまった。と思った時には遅かった。いつの間にか本当の事を話してしまった。
かえで「つかさ、彼のした事を忘れた訳じゃないでしょ」
何も言えない。そんな私を諭すように話し始めた。
かえで「彼らと理解し合うなんて妄想はもう捨てなさい、コソコソ隠れて住んでいる必要があるのよ、分ってもらいたいのなら堂々と表に出て主張すればいい、
    彼等の境遇は自業自得よ、彼にいたってはかがみさんを苦しめて、つかさを殺そうとしたのよ、逆恨だわ」
つかさ「彼が狐の姿になっているなら私を殺すなんてできよ、私の方が大きいし力だって……」
かえで「もし、彼が狐と同じ力だったら、首元を牙で噛み付けばすればあっと言う間にあの世行きよ、怪我の完治をまっているだけ」
つかさ「私、信じているだけだから、かえでさんの話が本当でも私の気持ちは変わらないよ、今更彼を追い出すなんてできないよ、そんな事より傷が全然良くならない、
    追い出したらきっと直ぐに死んじゃう……野犬に襲われるかも、狐狩りにまた遭うかもしれない、そんなの……できないよ……」
自然と涙が出ていた。私の目をかえでさんはじっと見ていた。
かえで「……どうやらつかさの気持ちは本物のようね……それが知りたかっただけ、ごめんなさい、もう私は何も言わない……傷、早く治ると良いわね……お疲れ様」
かえでさんは部屋を出た。


665 :つかさの旅 35/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:56:37.37 ID:DlK6yebt0
 家に戻った私は晩御飯の支度をした。相変わらず彼は居間で丸まって寝ていた。食事の支度をほぼ終わるといつもの包帯の交換の時間。
つかさ「食事の前に包帯交換しよう」
彼は包帯の付いた足を私の前に出した。私は包帯を取る。
つかさ「ひろしさん達は何故人間と一緒に住もうとは思わないの、お稲荷様と言われた時代もあったってまなちゃんは言っていたよ、現代でもお稲荷さんの術は役に立つと
    思うけど……それに狐狩りで撃たれる事もなくなるし……良いと思わない?」
彼は寝たまま何も反応しない。だけど耳は私の方を向いている。聞いているのは分った。私はそのまま話し続けた。
つかさ「私ね、オオカミに化けてね、鹿とか、猪を狩ってみたらどうかなって思ってる、滅びたオオカミが復活すれば人間だって大事にするし、狐狩りだってわざわざしないで
    済むよね……ねぇ、聞いているんでしょ、どうかな?」
『フッフッフッ!!』
荒い息づかいと共に彼の身体が小刻みに揺れている。前足をバンバン床に何度も叩きつけていた。すぐに分った。彼は笑っている。
つかさ「あー、笑ってる……私これでも一週間ずっと考えていた事なのに……」
付け焼刃の考えじゃ笑われてもしょうがないか。ゆきちゃんならどんな考えをするかな……
『バリバリ』
包帯が傷口から剥がれる音がした。
『キャン!!』
彼が痛そうに足を引っ込めた。
つかさ「ご、ごめん、ごめん、もう痛くしないから」
足を見ると傷口から膿が出ていた。今まで膿なんか出ていなかった。包帯が傷にへばり付いていたのは膿のせいだ。脱脂綿で膿を綺麗にふき取って包帯を巻き直した。
つかさ「傷口が悪化しているよ……私は素人だからこんな事しか出来ない、獣医さんに見てもらうのはダメかな?」
彼は首を横に振った。
つかさ「それじゃ、化膿止めのお薬買ってくる」
私が立ち上がると彼は靴下を噛んで止めた。
つかさ「何で、このままだとバイ菌が入って病気になっちゃうよ」
彼は靴下を咥えたまま何度も首を横に振って断った。
つかさ「どうして、せっかく治療してもこのままだと意味がないよ、もうまなちゃんみたいに見ているだけなんて、やだ」
彼は口を放してくれた。
つかさ「ご飯は薬を買ってきてからね」

 薬も飲んだ。パワーストーンの力もある。だけど傷は膿み、腫れていく。食事はしているけどどんどん体が細くなっていった。このままだとひろしさんは死んでしまう。
きっとお稲荷さん本人なら治療法は知っている。そう思った私は彼との会話方法を考えた。
つかさ「ひろしさん、これを見てくれる?」
一枚の紙を彼の目の前に出した。そこには平仮名五十音が書いてある。真ん中には、はいといいえ、端には数字……こっくりさんをイメージして書いた。
つかさ「この紙で私の質問に答えて」
彼は暫く紙を見ると前足をゆっくりだして『はい』と書いてある文字の上に置いた。よかった、意味を理解してくれた。
つかさ「傷を治したいの、ひろしさんなら知っているよね、治療方法」
彼の前足はゆっくり『いいえ』の上に動いた。知らない……どうすればいいのか分らない。するとひろしさんは勝手に前足を動かし始めた。私は彼の足を目で追った。
『つ・か・さ・が・に・く・い・こ・ろ・し・て・や・る』
動かし終わると前足を引いてしまった。
つかさ「そんなのはもうとっくに知っているよ、それだったら何でもっと元気なときにしなかったの、いくらでもチャンスはあってでしょ、かえでさんが言っていたよ、
    その牙があれば私を噛み殺せるって、私を殺したいのならまず元気になってよ」
彼は私の顔をしばらく見てからゆっくりと前足を紙の上に動かした。
「よもぎ」「おおば」「どくだみ」「とかげのしっぽ」と動かした。
つかさ「これだけ用意すればいいの?」
彼の前足は「はい」の上だった。
つかさ「最初の三つは野草だよね……四つ目の「とかげのしっぽ」って何、トカゲならなんでもいいの?」
彼の前足は「はい」のまま動かない。
つかさ「トカゲなんて何処に居るの……気持ち悪いし……噛むでしょ……」
彼はまたうつ伏せになってしまった。自分で何とかしろと言っているみたいだった。


666 :つかさの旅 35/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:58:06.57 ID:DlK6yebt0
かえで「トカゲが何処に居るかって……なんでトカゲなんか……」
つかさ「トカゲの尻尾が欲しくて……」
目を大きくして驚くかえでさん。次の日、私は店に出勤するなり一番にかえでさんに聞いた。
かえで「トカゲの尻尾なんて何に使うのよ……」
つかさ「え、漢方で使う……」
かえでさんは察したのか尻尾の質問はしなくなった。
かえで「この店と旅館の間にある石の隙間に居たかな……掃除すると必ず数匹は出てくるわよ、すばしっこいから捕まえるのは大変よ、もっとも尻尾だけが欲しいのなら
    尻尾を掴めばしっぽが取れるから……」
つかさ「え、と、取れちゃうの」
かえで「そうよ、取れるとウネウネ動いて尻尾に気を取られた隙に本体が逃げるって訳」
つかさ「ウネウネ……」
かえで「あらあら、まだ見ても居ないのに尻込みしちゃって……」
笑いながらかえでさんは話している。
かえで「生魚やイカ、蛸だと思っていれば掴めるわよ、トカゲは歯が無いから噛まれても痛くないわ……頑張って!!」
つかさ「うん、頑張る……」
かえでさん笑っていたけど、トカゲを掴んだ事あるのかな……イカやタコが生きているものをさばいた事なんてない。

 かえでさんの言われた店と旅館の間にある石……小石、大きな石がゴロゴロと沢山あった。一体どれがトカゲの出る石なのだろう。とりあえず掃除をしよう。
ほうきで地面を掃きだした。10分くらい経っただろうか。石の陰からカサカサと何かが出てきた。四本足で身体がキラキラと光っているトカゲだ。
私と目が合うと一目散に逃げ出した。ほうきで叩けば捕まえられそうだけどトカゲが死んでしまう。やっぱり手で捕まえるしかない。私も小走りでトカゲを追いかけた。
射程距離に入った。このまま屈んで捕まえよう
つかさ「えい!!」
目を閉じ、全体重をかけてトカゲ目掛けて両手を出した。
『バン』
地面と手が当たる音がした。恐る恐る目を開けた。右手の人差し指にトカゲの尻尾が挟まっていた。トカゲは逃げようと必死に足をバタバタさせている。
トカゲが引っ張るので尻尾がピーンと張っている。そのうちポロリと音も無く尻尾が取れた。その時、尻尾が突然暴れだした。私は思わず手を引いた。
尻尾がクネクネと動いている……気持ち悪くて取る事が出来なかった。気付くとトカゲは何処かに逃げてしまった。
暫くすると尻尾は動かなくなった。ゆっくりと指でツンツンしてみた。またウネウネと動き出す……そんな事を数回繰り返した。
動かなくなった尻尾を袋に入れて店に戻った。
ヨモギ、オオバ、ドクダミは店の空き地に生えているので直ぐに手に入った。

 本当にこんな物で彼は元気になるのだろうか。でも元気になったら私は……
彼は本気で私を殺すのかな。だったら何で今まで何もしなかったのだろうか。怪我の治療をしているから。それしか考えられない。私が死んだら怪我の治療は誰も出来ないから。
私のやっている事って自殺行為なのかもしれない。はっきりと私が憎いって言われちゃったし……
今なら彼は弱っている。そのまま外に放り出してしまっても彼は抵抗できない……そうすれば私は殺されずにすむよね……
バカバカ何を考えているの。そんな事をしたら私が彼を殺してしまうようなもの。私は彼を憎んでいない。
旅館でお姉ちゃんを助けてくれた。あれは嘘や演技じゃ出来ない。そうだよ、私はそう感じた。誰がなんて言われようとそう思った。正しいと思ったから……
かえで「つかさ、もう時間よ……」
ハッと気が付き時計を見ると私の勤務時間は過ぎていた。
つかさ「あ、もうこんな時間……」
かえで「早く帰って漢方を処方するのでしょ」
つかさ「薬の作り方は全く分らない、彼が教えてくれると思う」
かえで「どうやって話すのよ、狐の姿だと喋られないって……」
つかさ「紙に文字を書いて彼が前足で指すの……こっくりさんって知ってる?」
かえで「こっくり……ああ、あれね、中学の頃やったわ……」
つかさ「それじゃお先に失礼します」
かえで「お疲れ様」
私は急いで更衣室に向かった。


667 :つかさの旅 36/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 00:59:40.42 ID:DlK6yebt0
つかさ「ただいま!!」
家に帰ると早速彼に集めた材料を見せた。彼は重たそうに身体を持ち上げると私の持ってきた材料を嗅ぎ始めた。昨日よりも辛そうだった。
確実に弱ってきている。早くこの薬を完成させないと。私はまだ嗅いでいる彼の前に紙を置いて準備をした。
つかさ「言われた物を集めたよ、次はどうするの?」
嗅ぐのを止めると彼は紙の文字を前足で指し示した。
『お・ゆ・を・わ・か・す』
つかさ「お湯を沸かす……でいいよね」
彼の前足は『はい』を指した。
薬の処方……お湯を沸かしたり、材料を刻んだり、煮たり、炒めたり……普段からしている料理とあまり変わりはなかった。私は慣れた作業を彼の紙の指示通りこなした。
一時間も掛からないうちに鍋にドロドロとした液体が完成した。湿布薬なのかな。
つかさ「出来たよ、これを布につけて患部に貼るの?」
彼は紙に前足を出した。
『つ・ち・の・な・か・に・う・め・て・ひ・や・く・ね・ん・お・く』
つかさ「……つちのなかに……ひやくねん……土の中に埋めて百年置く……」
彼の前足は『はい』を指した。
つかさ「百年……ちょっと百年って、ひろしさんの傷はそんな軽いものじゃないよ、もう今にでもちゃんとした治療しないといけないの……分っているの」
彼の前足は『はい』を指した。
つかさ「もしかして、最初から私を騙してこんな時間の掛かる薬を作らせたの……」
彼の前足は『はい』を指した。
つかさ「このままじゃひろしさん死んじゃうよ……そんなのダメだよ、どうして、どうして素直にならないの」
『お・れ・に・か・ま・う・な』
つかさ「……そんな、助かりたくないの、私、ひろしさんが元気になったら話したい事があるの、だからもっと違う方法教えて」
彼の前足が『いいえ』を指そうとした時だった。そのまま倒れこんでしまった。
つかさ「ひろしさん!!」
彼の身体を触った。
つかさ「熱い……」
燃えるような熱さだった。彼は高熱になっていた。私は冷蔵庫から氷枕を取り出して彼の頭の下に置いた。
つかさ「これじゃ……まなちゃんと同じだよ……」
彼の前足が紙の方に伸びたけど届きそうになかった。私は紙を彼の前足の届く所まで持ち上げた。
『か・え・り・た・い』
帰りたい……彼はもう死を覚悟したのかもしれない。帰る所、私には一箇所しか思い当たらなかった。
つかさ「帰りたい場所って、神社の事を言っているの」
『フゥ〜』
彼の前足は『はい』を指す元気もなく床に落ちた。私に出来る事は彼を神社に送り届ける……それしか出来ないなんて。

 私は車を運転している。目的地は、神社。家で彼の治療を続けたい。普段の私ならきっと続けている。でも私は彼を車に乗せて神社に向かっていた。
何故って……彼がそれを望んだから。それもあるけど、もしかしたら、仲間のお稲荷さんがあの神社に戻って来てくれているかもしれない。もしからしたら
助けてくれるかもしれない。それが私の最後の希望だった。

 神社の入り口近くに車を止めると彼を抱きかかえて降りた。彼は毛布に包めて頭には氷袋を付けた。まだ暑いというのに彼はブルブルと震えている。
きっと高熱のせいだ。懐中電灯を照らしながら神社の階段を登った。本当なら稲荷すしを持っていく筈だった。だけど寿司を作る時間がない。
もう何回この階段を登ったかな。殆ど一人で登った。この前のこなちゃん達と登ったのが遠い過去のように感じる。
こなちゃんやゆきちゃんは最後に彼を嫌っていたけど、お姉ちゃんは違っていたような気がする。呪われた本人なのに。理由を聞けなかった。
今、こうして彼と神社に向かっていると何となくお姉ちゃんの気持ちが分る。お姉ちゃんが彼を許した理由が。だから私は最後まで彼を信じられた。
うんん、まだ最後だって決まったわけじゃない。まだ彼は生きている。生きている限り治ると信じる。


668 :つかさの旅 37/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 01:01:04.45 ID:DlK6yebt0
 神社に着くと、いつものお供えの稲荷すしを置く石の上に彼をそっと置いた。そう、まなちゃんと一緒に座ってお話したのもこの石の上だった。そして、辻さんが
自殺したのもこの石の上……何か運命的な何かを感じる。それともただの偶然かな。
つかさ「ひろしさんの言うように神社に来たよ……」
彼の呼吸が荒くなっている。でも意識はあるみたい。耳を私の方に向けている。懐中電灯で辺りを照らした。静かだった。草も止まって見えるくらいに。
私はありったけの大声で叫んだ。
つかさ「今、ひろしさんが怪我で苦しんでいます、お稲荷さん、助けて!!」
声は闇夜に吸い込まれていく。もう一度。
つかさ「今、ひろしさんが怪我で苦しんでいます、お稲荷さん、助けて!!」
私は何度も叫んだ。お願い。声を届けて。届いて……お願い。ガサガサと木が揺れた。音のする方向に懐中電灯を向けた。バサバサと鳥が飛び出した。
私の声に鳥が目覚めてしまったのかな。お稲荷さんじゃなかった。もう声が枯れそうだ。
『ウー』
彼が短く唸った。私を呼んでいるみたいに聞こえた。叫ぶのを止めて彼の居る石に戻った。
つかさ「どうしたの、私の怒鳴り声で気分が悪くなった?」
何かを言いたそうな顔で私を見ている。紙をもってきて良かった。私は彼の目の前に紙を見せた。懐中電灯で紙を照らす。
『か・え・れ』
私は溜め息を付いた。
つかさ「憎いって言ったり、殺したいって言ったり……今度は帰れ……どうせ動けないから私の好きなようにさせて、このまま仲間のお稲荷さんが来なかったから
    朝一番で獣医さんの所に連れていくから」
私は紙をポケットにしまった。
『ウーウー』
何か言いたいみたいだったけど今紙は出さない。少なくともちゃんと回復するまでは。

 あれから何度か叫んでみたけど、全くお稲荷さん達が来る気配は無かった。狐狩りのせいでみんな何処かに逃げてしまった。それしか考えられない。
夜明けも近い、森の入り口が少し明るくなっている。
つかさ「ひろしさん、もう諦めよう、一度家に帰ろう……」
返事がない。
つかさ「ひろしさん?……」
懐中電灯をひろしさんに照らした。ぐったりしていた。
つかさ「ちょっと、冗談はやめて……」
私は彼の体を揺すった。耳がピクリと動いた。でも安心できる状態でないのは直ぐに分った。全身の力が抜け切っている。
彼はゆっくり目を開けると私を見た。もう、何をしても無駄だと言っているように感じた。私もそんな気がしてきた。まなちゃんが亡くなる直前に感じが似ていたから。
元気になったら言おうとしたけど。言うなら今しかないのかもしれない。
つかさ「ひろしさん、私は……」
「何故ここに居る、わざわざ死ぬために戻ってきたのか」
突然、後ろから聞き覚えのある声がした。振り向いて懐中電灯を向けた。そこには人の姿をしたひろしさんが立っていた。
つかさ「ひ、ひろしさん……」
なんでひろしさんがそこに立っているのか理解できない。ここに倒れているのは誰……
人の姿をしたひろしさんは狐の姿のひろしさんに気付いた。
ひろし「た、たかし……」
そう呼ぶと走って近づいた。人の姿のひろしさんは目を閉じて狐の姿のひろしさんの方を向いている。数分位その状態が続いた。
ひろし「そうか……」
『パチン』
人の姿のひろしさんが指を鳴らした。茂みの中から四匹の狐が出てきた。狐の姿だった。そして狐の姿のひろしさんを優しく咥えると、
持ち上げて茂みの中に運んで行ってしまった。
つかさ「な、何なの……」
私は呆然と立ち尽くしていた。
ひろし「もうこの神社には来るな」
つかさ「……意味が分らないよ、あのお稲荷さんは誰だったの、ひろしさんなの、それじゃ貴方は誰なの」
ひろし「知る必要はない……見逃してやると言っている、気が変わらないうちにさっさと立ち去れ」
今までひろしさんだと思っていたけど、あのお稲荷さんはひろしさんじゃなかった……私はなんとなく分ってしまった。
つかさ「たかし……あのお稲荷さんをそう呼んでいたね、私はてっきりひろしさんだと思ってた……彼も否定しなかったし、凄く私を憎んでいたら」
ひろしさんは黙ってしまった。それなら今思っている事を言ってやる。
つかさ「お姉ちゃんに呪いをかけたのは、あのお稲荷さんだったんだね」
ひろし「違う……僕だ」
つかさ「別に私は誰が呪いをかけたなんて気にしていないよ、何でひろしさんが罪をかぶる必要があるの?」
ひろし「うるさい、だったら今殺してやってもいい、僕はお前を憎んでいる」
つかさ「嘘……その言葉、もう一度私の目を見て言ってみて」
私は彼の目を見た。しかし彼は目を合わそうとはしなかった。
つかさ「どうしたの、私は金縛りの術なんて出来ないよ、目を合わせるだけだよ」
私の挑発にも乗らず彼の目は泳いだままだった。
669 :つかさの旅 38/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 01:02:10.03 ID:DlK6yebt0
つかさ「嘘や演技はもう沢山、本当の事が聞きたい……ここから追い出すのはそれからでもいいでしょ……」
彼はうな垂れてしまった。このままじゃ話してくれそうにない。
つかさ「さっき、お稲荷さんが4人も来たけど……仲間に会えてよかったね……大きい狐さんは元気なの?」
俯きながら話し始めた。
ひろし「四人……か、僕達を人と数えているのか……そんなのは僕を育ててくれた人間しか知らなかった」
つかさ「うんん、頭の中では匹だったかも……」
頭を持ち上げて私の目を見た。
ひろし「つかさ、人間の世界でよく今まで生きていけたな……そこまで正直に言うなよ……」
彼の顔が緩んだ。私も微笑み返した。
ひろし「何も知らないのか……かがみさんは話さなかったのか……」
つかさ「お姉ちゃん……」
お姉ちゃんは知っていた。何を……
彼は覚悟を決めたように一回大きく深呼吸してから話し出した。
ひろし「つかさが僕と勘違いしていた狐はかがみさんに呪いをかけ、殺そうとした張本人だよ」
つかさ「それより……そのお稲荷さんは助かるの?」
ひろし「呪いをした代償だよ、あの呪いをすると新陳代謝が著しく低下してね……ちょっとした怪我でも命取りになる……それゆえ禁呪となった……
    彼はかなり危険な状態だよ……五分五分って所だ」
つかさ「お願い、助けてあげて……」
ひろし「全力は尽くす……つかさは彼が憎くないのか、姉をあれだけ苦しめて、つかさだって殺そうとした、それは看病していても分っていた筈」
皆同じ事を言う。彼がひろしさんじゃなくても何故か憎めない。
つかさ「彼の名前、たかしさんって言ってたね……でも彼は私を殺さなかった……結局私はこうして生きているよね……
    パワースポットで初めて会った時の彼と、ここに連れてきた彼は違っているような気がする……それが何かは分らない」
ひろし「彼は七十年前の狐狩りで家族を殺されて以来、人間に化けるのをやめた、今やっている狐狩りの期間でも人間に化けようとはしなかった、猟師の的になるのを
    分っていてもね、それほど人間を憎んでいた……彼が暫くこの町を留守にしている間につかさがこの町に来てあの事件が起きた……
    彼は帰ってきて怒り狂った、僕の姉が死んだから……お頭は何度も彼に説得したけど彼の怒りは治まらなかった、彼は皆の反対を押し切って単独で復讐をした、
    つかさに三人の姉が居るのを調べ上げ、その中の双子の姉、かがみさんがこの町に一人で来た事を知った、彼女は帰りにこの神社に寄った、その時に
    彼はかがみさんに呪いをかけた……」
お姉ちゃんが一人でこの町に来たって、私が引っ越す前にかえでさんの店に行った時だ。帰りに神社に寄ってくれた……私の話なんて全く信じなかったのに……
それが裏目にでちゃった。あの時、全てのお稲荷さんが私を許したわけじゃなかった……
つかさ「それでお姉ちゃんはこなちゃんとゆきちゃんを連れてもう一回この町に来た……」
ひろしさんは頷いた。
ひろし「友人を連れて来たのは恐らく怪しまれないようにだと思う、呪われた彼女の立場はとても弱いからな、心の支えも欲しかったに違いない、僕はかがみさんに触れた時、
    呪いの内容を全て知った、つかさとかがみさんがあの神社に行けば呪いは解ける、だけど彼女はそれを拒んでいた、彼女なりにつかさを守りたかったのだろう、
    僕は彼が居ないのを見計らってつかさ達に催眠術を施した、そこでかがみの夢に語りかけて全てを話した、僕が助けるからつかさを神社に連れて来てくれてってね」
つかさ「でも、何で皆に催眠術を?」
ひろし「高良みゆきと泉こなたは呪いに関係ない、危険に曝したくなかった、だからつかさには弱めに催眠術をかけた、起こし易いように……でも彼女は単独で神社に来た、
    思えば夢で話しても信じてもらえる訳はないよな……僕の計画が甘かった……狐狩りが始まるから、またかがみさんに呪いをかけると思って柊家を張っていたが
    まさか、つかさを狙っていたとは思わなかった……銃に撃たれてまで……」
つかさ「家族を失った怒り……」
ひろし「いや、姉さんを失った怒りだよ、彼は姉と婚約をしていた……」
つかさ「え……」
ひろし「つかさに看病されて、一緒に暮らして気付いた、憎むのはつかさでもかがみさんでもなかった、でも怒りだけは消えず苦しんだ……彼がさっきそう言っていた」
まなちゃんは婚約していた。弟さんが居たのもそうだったけど。私は彼女とそこまで深く話した事なかった。お姉ちゃんにも合わせたかった。でも、そんな時間もなかった。
もっといろいろお話をしたかった。そうだったら、ひろしさんや婚約者のたかしさんの話もきっと聞けた。
ひろし「……全て話した、約束通り去ってもらおう」
私に考える余裕も与えずに冷たい一言。
つかさ「この神社はかえでさんのお友達、辻さんの眠る場所……それでも私は来ちゃいけないの、きっとこれからもこの神社に来るよ」
ひろし「……来るのは勝手だが、来ても僕達は居ない、この神社を、町を……去るのだからな」


670 :つかさの旅 39/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 01:03:56.71 ID:DlK6yebt0
 朝日が森に射してきた。もう懐中電灯の明かりは周囲の明かりに負けていると言うのに点けて彼を照らしていた。彼は私に背を向けて去ろうとした。
つかさ「待って!!」
彼の足が止まった。
つかさ「何で去る必要があるの、」
彼は止まったまま何もしなかった。
つかさ「狐狩りはずっと昔からしていたよ、何で今頃になって去るの……私達、人と仲良く暮らせないの、隠れていないで表に出て来られないの」
彼はゆっくり振り向いて私を見た。
ひろし「僕達はお稲荷さんだよって、人間達に言うのか……」
つかさ「そ、そうだよ、狐になっている間は私たちが守ってあげる、人になっている間は私たちと少しも変わらない、うんん、色々な魔法だって使えるからきっと活躍できるよ」
ひろし「……つかさはおめでたい奴だな」
懐かしい響き、前にも同じような事を言われた……まなちゃん、やっぱり彼は姉弟だった……。
ひろし「僕達の使っている術を魔法と言うのかい、つかさ達だって色々魔法じみた道具を駆使して繁栄しているじゃないか……でもね、そんなのは僕達から見れば子供だまし、
    僕達の知識の一割も使わないで人間と同じ事が出来る……表に出れば、人間達はその知識を手に入れたがる、やがて争い、滅ぶのさ、僕らの先祖、違う……
    お頭は何度もそれを見てきた、人間だけで争うのは勝手だけど、必ず僕達も巻き込まれるから……一緒には住めない」
つかさ「そ、そんな大袈裟な話じゃなくて……ひろしさんを育ててくれた人はどうするの、きっと悲しむよ……」
彼は上を向いて目を閉じた。
ひろし「……その人はもう……二百年前に亡くなったよ……」
つかさ「……二百……」
ひろし「さて、時間かな、もう会うこともないだろう……」
え、お別れ……いやだ、別れたくない。別れたくない。
つかさ「お頭さんに会えるかな、狐狩りを禁止にするから……」
ひろしさんは笑った。
ひろし「はははは、つかさにそんなのが出来るのかい、大風呂敷を広げたな……それにお頭はこの前の事件の責任を取って引退した……この事件に全く関係のない僕が
    新たなお頭になった……町を去るのは僕の決断だ」
そんな…どうしよう、どうすれば良いの、考えて……つかさ……
つかさ「私……お喋りだからお稲荷さんの話……全部喋っちゃうよ……てか、もう喋ってるし……」
彼の目つきが豹変した。鋭く睨む。
ひろし「何が言いたい……僕の言った程度なら話しても誰も信じまい」
一生に一度の勝負、私は今まで何も出来なかった。だけどどうしてもひろしさんとは別れたくない。
つかさ「うんん、少なくとも私の話した人は皆信じている、いいの、このまま私を帰して……」
ひろし「だから、何が言いたい」
お姉ちゃん、私、決めたよ……やるだけやってみる。
つかさ「真奈美さは自分が旅館に泊まった記憶を女将さんから消した……記憶を消す術ってあるんでしょ……」
ひろし「……それを聞いてどうする……」
つかさ「お稲荷さんの記憶を私から消して……」
ひろし「姉との記憶も含めてか……」
私は頷いた。彼と別れるなら辛いだけ、そんな記憶は悲しいだけ、消せるものなら消したい。もし彼が躊躇ってくれれば……
そのまま記憶を消されても私は彼を忘れられる。
ひろし「……良いだろう、後悔はしないな……する訳もなか、忘れれば全ては無に返る、後からつかさの話した友達や家族の記憶も消さないと辻褄が合わないだろう」
どうしてそんなに簡単に……でもここまでは私だって予想していた。勝負はここからだよ。
つかさ「記憶を消す前に言いたい事があるの、記憶が無くなると言えないでしょ……」
彼は何もしないで立っていた。それを待っている。誰にも言った事のない言葉……私は一回大きく深呼吸をした。
つかさ「私はひろしさんの事が好きです……愛しています……」

 言ってしまった。短い言葉だった。でも今の私にはそれが全て。私は石の上に腰を下ろした。
つかさ「……もう、思い残す事はないよ……」
私は目を閉じた。
……
……
671 :つかさの旅 40/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 01:05:15.03 ID:DlK6yebt0
ひろし「……なぜそんな事を言う……僕は人じゃない、好きも嫌いもないだろう……記憶が消えればそんな感情も無くなる……バカじゃないのか」
声から動揺しちるのが分った。私は目を閉じたまま待った。
ひろし「……同じだな、以前に出会った人間の女性と……」
女性と出会った。もしかして、もう既に好きは人が居るってこと。私は目を開けた。
つかさ「好きな人が居たの?」
彼は頷いた……この勝負完全に完敗。早い決着だった。
つかさ「……告白したらこの町に留まってくれると思ったけど……好きな人が既に居るなんて……私は……」
俯く私を見て彼は笑った。
ひろし「……その大きな瞳、背の高さ……そうやって早とちりする所なんか全く同じだよ……双子と勘違いするくらいだ……その人は百五十年前に亡くなったよ……」
つかさ「百……え?」
ひろし「僕達の寿命は千年を軽く超える……前のお頭に至っては三千年も生きている……つかさ達は長生きできて百年くらいだ……短い、短すぎる……
    僕達の寿命に比べたらつかさ達はカゲロウだよ」
つかさ「カゲロウ……」
ひろし「僕達は歳を取るにつれて人と関わらなくなる……どんなに友情が芽生えても、好きになっても、あっと言う間に亡くなってしまうからだよ……
    つかさには分るまい、この気持ち……」
もしかして、彼が私を避けようとしているのはそのせい……たけしさんの呪いも彼がした事にすれば私は彼を嫌うと思ったからあんな演技して……
つかさ「ひろしさんはまなちゃんと何年一緒に居たの、百年、二百年……私は彼女と出会って何日一緒に居たか知ってるの……」
ひろし「なに……」
つかさ「彼女と一緒に居られた時間なんて……二日……たった二日だよ……寿命なんて関係ないよ……分るもん……そんなのとっくに知ってる、悲しいのは私だって同じだよ
    なんでそれで好きになっちゃいけないの……」
彼は何も言わずただ私の話を聞いていた。
『ウォー』
茂みから狐が出てきてひろしさんに向かって吠えた。
ひろし「もう時間か……つかさは僕達の事を知りすぎた……それが今後どんな災いを招くか計り知れない、つかさの言うように記憶を消す……それが一番だよ」
つかさ「去っちゃうの?」
ひろし「僕が決めたが、一人で決めた訳じゃない、もう変更は出来ない……お別れだ……目を閉じて」
私の想いは通じなかった……私は目を閉じた。
……
……
……
そういえばまだ彼から返事を聞いていなかった。私は目を開けた。
つかさ「ひろし……さん?」
彼の姿は無かった。私は石の上に座っている……記憶……まなちゃん、ひろしさん、たけしさん……みんな覚えている……記憶……覚えている
記憶は消えていない。何で……消さなかったの……どうして。涙が出てきた……そして泣いた……泣きじゃくった。
日は昇り、森からは蝉時雨が始まった。私と一緒に泣いてくれているような気がした。

私は神社を出ると携帯電話をかえでさんにかけた。そして一日休みたいと連絡した。


672 :つかさの旅 41/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 01:06:37.77 ID:DlK6yebt0
終章 <愛>

 次の日、朝一番で店に出勤した。昨日は休んだけど結局彼の事が頭から離れられなかった。体を動かせば少しは楽になるかもしれない。
かえで「おはよう」
つかさ「お、おはようございます」
私よりも先にかえでさんは出勤していた。
つかさ「昨日は突然休んじゃってすみません……」
かえで「失恋でもしたかな……浮かない顔しちゃって」
つかさ「え……」
ドキっとした。
かえで「……どうやら図星みたいね、でも、そんな顔はつかさらしくないぞ」
つかさ「でも……」
かえで「昨日のお昼……久々に彼が見えたわよ、つかさは居ないのかってね……彼の怪我は良くなったみたいね、良かったじゃない」
つかさ「昨日、来たのですか」
かえで「お、いい顔になったじゃない、今日、一日その顔でね」
何で来たのだろう、この町を去るって言っていたのに。
かえで「つかさは休みだって言ったら、今日来るって言って帰ったわよ、つかさのデザートが食べたいって」
そういえば私のデザートを食べた彼は不満足だった。
つかさ「この前来た時、彼にダメ出しされちゃったから……」
かえで「そんな報告は受けてなかったわよ、つかさ」
声は怒っていたけど、顔は微笑んでいた。
つかさ「だって……」
かえで「そうね、これはつかさ達の問題ね……何があったか知らないけど、あまり見せ付けないように、他のお客様に不快感を与えます、私にもね」
私の肩をポンと軽く叩くとかえでさんは厨房の方に行ってしまった。
見せ付けるって、イチャイチャなんかしていないし……

 彼はお昼丁度に店に来た。彼は席に座るとデザートだけを注文した。この前のような失敗はしない。落ち着いて、慎重に、気持ちを込めて……
これが最後の来店だと思って作った。出来上がったデザートをかえでさんに渡した。
かえで「つかさが持って行きなさいよ、彼もそれを望んでいるでしょ」
彼とあまり会う気がしなかった。
つかさ「いいです」
かえでさんは私の顔を見て首を傾げた。持って行く素振りをみせなかったのでかえでさんは痺れを切らせてデザートを持っていった。
暫くするとまたかえでさんが厨房に入ってきた。
かえで「お客様がお呼びよ……」
呼ばれてしまった。またダメ出しか。体が動かない。行きたくない。
かえで「なに意地張っているのよ、早く行きなさい……」
つかさ「意地なんか……張っていません」
かえで「作っている所を見ていたわ、完璧じゃない、これで何か文句を言うようなら私が承知しないわよ……さあ」
かえでさんは両手で厨房の出口を指した。私は渋々彼の席に向かった。
つかさ「お呼びですか……」
何故か彼の顔を直視できなかった。
ひろし「……美味しかった、別れのデザート……そんな感じだった、これでこの町を去れる……」
つかさ「ありがとうございます」
私はそのまま厨房に戻ろうとした。
ひろし「まだ渡していない物があった、いつもの場所で待っているから……」
私はお礼をして戻った。
かえでさんは少し怒っていた。
かえで「つかさ、そっけない態度だったねお客様に失礼じゃない……それで、彼は何て言ったの」
つかさ「美味しかったって……」
かえで「良かったじゃない……嬉しくないの」
私の顔を見てまた首を傾げた。多分嬉しい。嬉しいけど表情に出ない。
かえで「昨日休んだのと関係ありそうね……詳細は仕事が終わってから聞くわ、とりあえずお疲れ様」
かえでさんは持ち場に戻っていった。
彼はデザートを全部食べ終えると直ぐに会計をして出て行った。

673 :つかさの旅 42/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 01:08:02.86 ID:DlK6yebt0
 夜の開店の前、更衣室に呼ばれた。更衣室にはかえでさんと私の二人だけ。用件はだいたい予想がついた。神社の出来事を知りたいに違いない。
かえでさんは思った通り私の休んだ理由を聞いてきた。私は彼女に話した。
話し終わると彼女は怒り出した。
かえで「最低ね……記憶を消して……彼を試すような事なんかして、それで彼がちゃんとした返事が出来ると思っているの……告白なんてのはね『好きです』だけでいいのよ」
そういえば彼は私に対して好きも嫌いも言っていなかった……更に彼女の話は続く。
かえで「それに、つかさは亡くなった前の恋人に焼餅を焼いている、だからお昼のような態度になるの」
つかさ「焼餅なんか焼いていません……」
かえで「そうかしら……私にはそうは見えないわよ……負け犬みたいになっちゃって……もう過ぎた事を言ってもしょうがないわね、彼等、お稲荷さんはこの町を去る
    もうどうしようもないわね」
かえでさんは呆れ顔で私を見ていた。
つかさ「彼はいつもの場所……多分神社で待ってる、そう言ってた」
かえで「ばか、なにのんきにこんな所に居るの、さっさと行ってきなさい、まだ外は明るいわよ」
つかさ「で、でもまだ仕事終わっていないし……」
かえで「昨日休んでそんな心配するな、決着をつけてらっしゃい」
つかさ「決着……?」
かえで「そうよ、一番後悔するのは告白して返事がもらえない事……ほらほら、なにいじけてるのよ、時間は待ってくれないわよ、寿命の短い人間なんでしょ」
つかさ「でも……どうして良いか分らい」
かえで「……余計な事は考えないで、つかさはつかさじゃない、そのままで充分よ」
つかさ「嫌われたら……どうしよう」
かえで「それが分ったなら、告白した甲斐があるじゃない……別れは辛いけど……このまま中途半端によりはすっきりするわよ」
中途半端は嫌だ、ちゃんと彼の気持ちを聞きたい。
つかさ「私……行ってくる、この後の仕事は……」
かえで「いいから行きなさい」
私はその場で私服に着替えた。
つかさ「行って来ます」
かえで「いってらっしゃい」

 そうだよ、私どうかしていた。あんな事しなくても良かった。どうしてもっと素直になれなかったのかな。彼の返事が恐かったから……
昨日のは告白じゃない。振られたら記憶を消してリセットしようとしていただけ。だから彼は何も言ってくれなかった。記憶は消しちゃだめ。
まなちゃんの記憶が消えたらこの町に居る意味の半分が無くなってしまう。神社に着いたら彼は私の記憶を消してしまうのかな。
謝って取り消してもらおう……許してくれるかどうかは分らない。だけど……許して欲しい。


674 :つかさの旅 43/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 01:09:18.64 ID:DlK6yebt0
 階段を登り神社に着いた。日はまだ落ちていない。夕日がまだ見えていた。彼は森の入り口で待っていた。
ひろし「昨日は休みだったね……家に行こうかと思ったが、そんな状況じゃないと思って行かなかった」
つかさ「……あの、お昼は、失礼してすみません……」
ひろし「ん、何が失礼だった……あの店長さんに怒られたのか、まぁ、厳しそうな気はする、あの人の料理に妥協は感じられなかった、それが良いのだけどな」
彼はポケットから何かを出して私に差し出した。私はそれを受け取った。
つかさ「……これは、お守り……」
ひろし「たかしの包帯に付いていたものだよ、もう必要ないから返すよ」
つかさ「助かるの……」
ひろし「……まだ何とも言えない、つかさに安否を伝えられないのが残念だよ」
安否を伝えられない……私の記憶を消すつもりなのかな。
つかさ「渡したい物って、これなの?」
ひろし「そうだ」
つかさ「この中にパワーストーンが入っているけど……」
ひろし「もともとつかさにあげた物だ、それに、このお守りからかがみさんを感じる、返した方が良いと思って」
私は胸のポケットにお守りをしまった。彼の用事は済んだ。今度は私の番……あの時、告白した時よりも緊張してしまう。
ひろし「……さて、まる一日空いたけど、記憶を消していいか……あの時は時間がなくて術をかけられなかった」
先に聞かれてしまった。時間がなかったのを感謝したい。取り返しのつかない事をするところだった。
彼は片腕を上げて私に向けた。きっと術の準備をしているに違いない。
つかさ「……まなちゃんの記憶、とても悲しかったけど、今、ここに居るのもまなちゃんと出会えたから、お稲荷さんの記憶も同じだよ……
    それにひろしさんとの記憶は……忘れたくない、いろいろ話してくれた、助けてくれた、別れたって忘れたくない……」
彼はその答えを待っていたかの様に話し出した。
ひろし「それは記憶ではない、思い出だ……思い出……一つ一つの記憶が鎖のように硬く繋がり、網のように複雑に絡み合う、その中から一つの記憶を取り出して
    消す術はない……無理にすれば思いでは崩壊し、全ての記憶が消える」
つかさ「全てが消える……どうなっちゃうの」
ひろし「思い出を消した仲間は居ない、どうなるかは分らない、赤ん坊のようになるか、死んでしまうか……最初から消すつもりなんかなかった」
つかさ「私、かえでさんに怒られた……試すような事なんかするなって」
ひろし「まてまて、あの店長にそんな事を話したのか……やめてくれ、そんなの普通他人に話すのか、恥かしくないのか……本当にお喋りだな」
彼の顔が赤くなった。そして彼は階段を下りようとした。
つかさ「どこに行くの」
ひろし「店長の記憶を消しに行く……今ならまだ記憶の状態だ……」
私は慌てて彼の腕を掴んだ。
つかさ「止めて、そんな事しても意味ないよ、かえでさんはもうひろしさんが店に来た頃から気付いているから」
ひろし「だったら尚更だ、放せ……」
力がどんどん強くなる。私も負けじと引っ張った。だけど力の差は歴然、引きずられて行く。もう限界……私は力を一気に抜いた。バランスを崩して私は彼に当たってしまった。
そしてそのまま私たちは倒れてしまった。私は直ぐに体を起こして座った姿勢になった。彼を見てみると倒れたままだった。
つかさ「だ、大丈夫?……あんなに引っ張るからだよ……」
ひろし「ふふふ……ははは」
彼は倒れたまま笑い出した。
つかさ「ふふ……」
私も釣られて笑ってしまった。私が笑っているとそれに連れて彼の笑い声は更に大きくなった。私達二人は心置きなく笑った。


675 :つかさの旅 44/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 01:10:47.16 ID:DlK6yebt0
つかさ「言っておくけど、私がひろしさんを好きなのは皆知っているからね」
ひろし「……好きな人は誰にも知られたくない……そんなものじゃないか……」
つかさ「私だって……成り行きでそうなっちゃっただけだよ……」
ひろし「成り行きか……」
笑い終わった私達はその場に座りながらお話をした。
ひろし「実は仲間には内緒で戻ってきてしまった……これがバレたら僕はお頭を降ろされてしまう」
つかさ「お守りを渡すにしては大きな代償だね」
ひろし「代償……もともとお頭なんてなりたくもなかった、このままバレてもかまわない」
つかさ「それならいっその事、ひろしさんだけでもこの町に……なんて出来ないの」
ひろし「……それは出来ない……」
つかさ「厳しいね……」
私は家を出てかえでさんの所に行った。私なら何処にでも自由に行ける。
ひろし「さてと」
ひろしさんは立ち上がった。もうお別れの時間。外は日が沈んでいる。彼は私に近づくと片手を差し伸べてきた。
つかさ「もう時間なの」
ひろし「来てくれてありがとう」
私も手を伸ばして彼の手を掴んだ。彼は私を引っ張って立ち上がらせた。力が余って私の体は彼に当たってしまった。
つかさ「ごめん……え……なに?」
急に彼は私を抱きしめてしまった。身動きが取れなかった。見上げると直ぐ近くに彼の顔があった。彼の顔が近づいてきた。
つかさ「ん〜ん〜」
気付くと彼の唇が私の唇と重なっていた。力を抜いて、目を閉じてそのまま受け入れた。
重なる唇から彼の体温を感じた。ゆっくりと彼の舌が……体が燃えるように熱くなった。何も考えられなくなる。頭の中が真っ白……身体に力が入らない、
そのまま全体重を彼に預けた。このまま時間が止まって欲しい……
……
……
……どのくらい時間が経ったのか……
彼は力を抜き私から離れた。私はゆっくりと目を開けた。彼は赤い顔をして少し離れた場所に立っていた。思わず自分の唇に手を添えてしまった。これはキス……
心の準備なんかしていなかった。どうなったか良く覚えていなかった。私は彼の目を見つめるだけだった。
ひろし「ごめん……順序が逆だった……僕はつかさ……柊つかさが好きです……」
突然の彼の告白。どうして良いか分らない。
ひろし「これが返事だよ」
彼の声にはっと我に返った。簡単だった。これだけで充分彼の気持ちは私に伝わっている。これで……
つかさ「うん、あ、ありがとう」
返事をすると涙がポロポロと出てきた。でも一昨日の涙とは違う。何かつっかえ棒が取れたようなすっきりした涙だった。
彼は私に近づき胸を貸してくれた。そこで私は思いっきり泣いた。
ひろし「一昨日のつかさの言葉に衝撃を受けた何人かの仲間が、それぞれの人間の友人に最後のお別れをしに行ったよ……お礼を言うのは僕達の方かもしれない」
泣いているせいで声が出ない。彼の胸の中でただ泣いているだけだった。

 辺りはすっかり暗くなった。蝉の鳴き声は止んだ、そして遠くから秋の虫の音が微かに聞こえてきた。
彼は私の両肩を優しく掴むとそっと離した。
ひろし「もういいかな?」
涙はもう止まった。だけど声が出し難かった。
つかさ「も、もう行っちゃうの?」
ひろし「まだつかさと一緒に居たいけどね、何かあるのか?」
まだ聞きたい事が二つあった。
つかさ「なんで……記憶を消せないのに嘘をついていたの?」
彼の顔がまた赤くなった。
ひろし「仲間の居る前で告白なんかできない……だから……」
つかさ「でも私は先にしちゃったよ……その時も仲間も聞いていたのでしょ、私から見たら狐さんだから気にしないよ……ふふ、恥かしがりやさんだ」
ひろし「笑った……やっぱり笑っているときのつかさが一番だ」
そう言われると照れてしまう……さて、これはもっと早く聞きたかった。
もう一つは聞きたい事……
つかさ「まなちゃんは、真奈美さんはどうなの、まだ生きているの?」
ひろし「たかしのあの執拗までの呪い……憎しみと怒りを見れば分ると思う……お姉ちゃんは……もう」
それは何となく分っていた。淡い希望だった……
つかさ「やっぱりこの神社はひろしさん達が居なくなっても来ないとね、辻さんと一緒に……」
ひろし「この神社はもう人間に忘れられた廃墟、僕達も、もう居ない、ここに縛られる必要はない、姉さんならつかさの財布の中にいるじゃないか」
つかさ「え?」
私は財布の入っているポケットを押さえた。
ひろしさんは階段まで移動して町を見下ろした。
ひろし「この夜景もこれで見納めかな……」
私も彼の隣に並んで夜景を見た。この町は都会と違って灯は疎ら、でも、その分星は綺麗に見える。駅は……あ、列になった灯が移動している。電車だ、その先を目で追った。
あそこにきっと駅があるに違いない。
つかさ「ねぇ、ひろしさん、ひろしさんは電車に乗った事って……」
あれ、首を彼の方にむけると、ひろしさんが居ない……そんな……
なになら足元に何かを感じた。下を向いた。いつの間にか彼は狐に戻っていた。彼は夜景を見たままだった。彼の姿……どことなく凛々しく見える。
前のお頭さんと似ていて堂々とした感じだった。
『ウォーーー』
遠吠え……犬の遠吠えとは違う。彼の遠吠えは何度も繰り返された。
……鋭く通る声、町全体に響いているみたい。堂々として誇らしげ、それでいて悲しく聞こえた。彼はこの町にお別れを言っている……別れの詩を聞いているようだった。


676 :つかさの旅 45/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 01:12:24.09 ID:DlK6yebt0
 遠吠えが終わると彼は私の正面に移動してお座りをした。いよいよ本当のお別れ……彼は本当の姿、お稲荷さんの姿でお別れをしようとしている。
私はしゃがんで彼と同じ目線になった。
つかさ「お別れだね……たかしさん、元気になったらよろしくって伝えて」
私は握手のつもりで手を前に出した。彼も前足を前に出す、これじゃ「お手」と同じ光景、思わず吹き出してしまった。
つかさ「プッ……あはは……」
しまった。直ぐに笑うのを止めた。不謹慎なことをしてしまった。いままでの雰囲気が台無しなってしまった。彼を見ると怒っている気配はなかった。私を見ている。
彼は立ち上がると私の周りをグルグルと駆け足で回り始めた。
つかさ「え、なになに、何なの?」
私は立ち上がった。すると彼の回る速度はどんどん速くなってきた。
つかさ「フフフ、まるでワンちゃんみたいだよ……」
すると彼は回るのを止めて私の正面でお座りをした。そして私の顔を見た。
つかさ「どうしたの、笑ったら止めちゃって……」
笑ったら止まった……もしかして。
つかさ「笑って見送れって言いたいの?」
彼はそれを待っていたかのように立ち上がった。
つかさ「そうだよね、分った……さようなら……ひろしさん」
私はにっこり微笑んだ。彼は私のかを目に焼き付けるように見ていた。そして私にさようならと言っているような気がした。
彼は頭を森の方角に向けた。私は手を振った
『ウォーーー』
森に向かって大きく遠吠えを一回した。そして歩き出した。私から遠ざかっていく。
つかさ「さうなら……」
彼は振り向かない。少しずつ歩きが速くなって来た。私は少し声を大きくした。
つかさ「さようなら」
彼は振り向かない。走り出した、そして風のように森の奥に消えていった。私はありったけの大声で叫んだ。
つかさ「さようならー!!」
彼はもう行ってしまった。そして二度と私に逢う事はない……だけど私は最後にこう声にした。
つかさ「さようなら、また会う日まで……」

 空はすっかり暗くなってしまった。月も出ていない。誰もこない神社に街灯はない。階段は真っ暗……そうだ、携帯電話の明りを使って下りよう。
携帯電話が入っているポケットに手を触れた時だった。私の周りが急に明るくなった。周りを見ると。蛍のような小さい無数の光が周りを照らしていた。
私の足元が光りだした。そして私の一番近い階段から順番に次々と階段が光りだした。私を出口まで案内するみたいだった。
こんな事ができるのはひろしさんくらいしか考えられない。私は携帯電話を出すのを止めて彼の用意した明りを頼りに階段を下りた。階段を一段下がると
一つ明りが消える。廻りが暗くて階段が宙を浮いているみたいに感じた。幻想的だった。お稲荷さんはこんな術だけだったら隠れていなくても済んだのかもね。
階段を踏むごとに明りは消えていく。もっとこの時を味わいたい、ゆっくりと時間を掛けて下りた。そして最後の階段を踏むと全ての明りが消えた。
悲しい別れのはずなのに涙が出なかった。
つかさ「ありがとう」

 次の日、一番に出勤……の筈だったけど既に店の扉の鍵は開けられていた。中に入ると客席に座っているかえでさんが居た。
つかさ「おはようございます!」
かえで「おはよう」
かえでさんは私の顔をじっと見た。
かえで「昨日までのいじけた顔はどこかに飛んだわね」
つかさ「ありがとうございます」
私は深々とお辞儀をした。
かえで「私は何もしていないわよ……彼を送ってあげられたみたいね」
つかさ「はい!!」
かえで「何があったのよ、話が聞きたいわ」
つかさ「うん、えっとね……」
はっとした。キスした時の状況が脳裏に浮かんだ。あの時の感触が……私は思わず手を唇に触れた。
かえで「どうしたのよ」
つかさ「え、あ……うん……」
恥かしくて話せない……
かえで「どうしたのよ、この期に及んで隠すの?」
つかさ「そうゆう事じゃななくて……」
かえでさんは私をニヤニヤしながら見ている。
かえで「分った、話せないような事をしたんでしょ……どこまでしたのよ」
かえでさんは立ち上がって身を乗り出した。
かえで「当然キスくらいはしたよね……彼は舌を入れてきた?」
頭に血が上ってくる。体が炎のように熱くなった。
つかさ「わー、そ、そんな話……朝からしないで下さい」
かえで「ふふふ、はいはい、それじゃ夜なら良いわよね、楽しみにしてるわよ」
かえでさんは笑いながら厨房に入っていった。今になってひろしさんの言う恥かしい意味が分った。当分かえでさんにいじられそう……
昨夜の出来事……さすがにお姉ちゃん達にも話すことは……
私は溜め息を付いた……でも、秘密があるのもの悪くないかも……
私も着替えないと。
さて、今日も頑張るぞ……

 ……まなちゃん……真奈美さんの出会いから始まった私の旅……いろいろな事があった……もう私はあの神社には行かない。彼の言うようにあそこにはもう何もない。
だけど忘れないよ、秘術を使っても消せない思い出として、お稲荷さん達の事、まなちゃん、たかしさん……辻さん……そして、ひろしさん……

677 :つかさの旅 46/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 01:13:48.81 ID:DlK6yebt0

エピローグ

 年末年始は実家に帰る予定だった。だけど温泉旅館は休みを利用してお客さんが普段より沢山くる。私達のレストランの評判も相まってとても休める状況ではなかった。
もっとも実家に帰っても神社の仕事で同じくらい忙しくなるから帰る時期をずらすして良かったのかもしれない。
もうお正月気分が抜け切った一月下旬、一週間の休みをもらって帰宅した。家に帰ると今までの疲れがどっと出てしまったのか、家でゴロゴロする日々が続いた。
かがみ「つかさ、お茶が入ったから居間に下りてきな」
一階からお姉ちゃんの声がした。
つかさ「はーい」
背伸びをして部屋から出た。居間に入るとお姉ちゃんはテレビを見ながらお茶菓子をつまんでいた。私は辺りを見回した。
つかさ「あれ、お母さん達は?」
かがみ「買い物よ、今日はつかさにご馳走するって、姉さん達も連れて行ったわよ」
つかさ「そうなんだ……」
私はお姉ちゃんの隣に座り、用意されていたお茶をすすった。
かがみ「ふふふ」
お姉ちゃんはテレビを見て笑っていた。せっかく一階まで下りたのだからお話したいな。
つかさ「大学院……合格したって聞いたけど……おめでとう」
かがみ「ありがとう……」
あれ……話が続かない……どうしてだろう。今までは意識なんかしなくても話ができたのに……
つかさ「そ、そういえばゆきちゃんも大学院に行くって言っていたね……もう決まったのかな?」
お姉ちゃんはテレビを見ながら答えた
かがみ「決まったみたいよ……そういやまだ何も決まっていない奴がいたな」
つかさ「……こなちゃん?」
お姉ちゃんは私を見た
かがみ「全く……つかさからも何とかいってやりなさいよ」
つかさ「そんなに急がなくても……こなちゃんにはこなちゃんの考えがあるよ」
かがみ「どうだか、あいつがそんな事考えている姿が想像できん」
腕を組み、頷きながら確信的に言うお姉ちゃん。
……お姉ちゃんに聞きたい事があった。この休みに聞きたいと思っていた。今なら聞けるかもしれない。私はお守りをお姉ちゃんに渡した。
かがみ「これは……」
つかさ「帰りの駅でお姉ちゃんから渡されたお守り」
かがみ「……これはつかさにあげたもの、もう私は要らないわよ」
つかさ「たかしさんって言って分る?お姉ちゃんは夢でひろしさんと話したから分るよね」
かがみ「……私に呪いをかけた人……それがどうかしたの」
つかさ「お姉ちゃんは呪いが解けたからひろしさんの話を信じたのでしょ、だから直ぐに帰るって言った」
かがみ「……また私に呪いをかけると思っただけよ、だから早く帰った方がいいと思っただけ、……それに、もう呪った本人にも恨みはないわ……
もう終わった話よ……それよりひろしはあれからどうなったのよ」
つかさ「みんなあの神社……町を去ったよ……」
かがみ「な、何故よ、彼はつかさを好きって言ったのよ……はっ!!」
お姉ちゃんは慌てて口を押さえたけどもう遅い。
つかさ「だから辛いだけ……なんて言ったんだ、お姉ちゃん」
お姉ちゃんは私が驚かないせいなのか、私を見て不思議そうな顔をした。
かがみ「……お互いに好きならそれは素晴らしいわよ、でも、お稲荷さんと人間の恋なんて……実るはずもない……それを言いたかっただけ、やっぱり思った通りになったわ」
でも電車の発車寸前で言ったお姉ちゃんの言葉が励みになったよ。だから彼に告白できた。
つかさ「そうでもないかも……」
私は小声で言った。お姉ちゃんは私の言った声に気付いていない。
かがみ「なんでまた、全員で去ったのよ、狐狩りだって今回が初めてじゃないでしょうに……去る前に人間の前に堂々と出てきたらどうなの」
お姉ちゃんもかえでさんと同じ事を言う。
つかさ「お稲荷さんの知識が知られると人間同士が争うから出来ないって言っていたよ……今私たちがやっている事なんか簡単に出来るって言ってた」
かがみ「どんな知識か知らないけど……今だって充分人間は争っているわ……逆に争いを止めるために使えばいいじゃない……不器用ね」
なんかお姉ちゃんは怒っているような気がする。何でだろう?
つかさ「不器用かもしれないけど、お稲荷さんが本気を出したら遠くの星まで行く事が出来るかもしれないね」
ふと神社の階段を下りる時に見た光の術を思い出した。
かがみ「つかさは夢を見るわね……それが本当ならお稲荷さんは地球の生物じゃないかもしれないわね……人に化けたり、呪ったり…」
お姉ちゃんはテレビのチャンネルを変えようとした。あれ……
つかさ「お姉ちゃんちょっと待って!!」
かがみ「なによ?」
私達はテレビを見た。
678 :つかさの旅 47/45 [saga sage]:2012/01/09(月) 01:15:14.75 ID:DlK6yebt0
『次のニュースです、〇〇県の〇〇郡の山林でニホンオオカミに似ている群れの目撃が相次ぎ話題になっています、
 ニホンオオカミは既に絶滅されているとされ、もしこれが本当なら歴史的にも、科学的にも大発見になり、各界で注目しています……
 そもそもニホンオオカミは明治38年に最後の一匹が死んでから……』
これって、私がたかしさんに言った事……そうか、そうなんだね……あんなに笑ってバカにした私の案を……笑っちゃうよ……
かがみ「つかさ、そんなに面白いニュースか、なに笑っているのよ……」
つかさ「元気になったんだね……そうだよね、これしか私が知る手段ないよね……ありがとう」
今度は涙が出てきた。
かがみ「ちょっと、つかさ……笑ったり、泣いたり……どうしたのよ」
つかさ「お稲荷さんの事をちょっと思い出しただけ……」
かがみ「このニュースと何の関係があるのよ……つかさにが好きなのに何もしないで去っていった奴らの話なんかもう聞きたくないわ…つかさは悔しくないのか」
本当に怒り出したお姉ちゃん。怒っていた訳が分った……
つかさ「……そうでもないよ……」
今度はちょっと声を大きくした。お姉ちゃんは気が付いた。
かがみ「そうでもない……どうゆう事よ?」
つかさ「ひ・み・つ」
かがみ「つかさに秘密だって……何よ、興味あるじゃない教えなさいよ」
つかさ「え、お姉ちゃん、さっきお稲荷さんの話聞きたくないって言ったよね?」
かがみ「むぅ……」
珍しくお姉ちゃんはそれ以上聞いてこなかった。こんな場合、こなちゃんの時はすぐに反撃するのに。
こなちゃんやゆきちゃんの誤解を解くまではまだ話せない。うんん、恥かしくてずっと話せない……
さてと、お稲荷さんのお話はこのくらいにしよう……
つかさ「それより、明日皆で集まって映画を観に行こうよ、お姉ちゃん明日は空いている?」
かがみ「……空いているけど……」
つかさ「それじゃ決まり、明日は早いよ」
かがみ「ちょっと待て、こなたとみゆきはどうするのよ」
つかさ「大丈夫、もう連絡してあるよ」
かがみ「いつの間に……」
こんな話していたら急にお母さん達に逢いたくなった。
つかさ「ねぇ、お母さん達を迎えに行こうよ、荷物いっぱいありそうだし」
お姉ちゃんは私をじっと見ていた。
つかさ「どうしたの?」
かがみ「……あんた、変わったわね」
つかさ「変わった、どうゆうふうに?」
かがみ「何ていうのか……積極的なったと言うのか……さっきの突っ込みもありえない、それに比べたら……私なんか……何も……」
つかさ「私は少しも変わっていないよ、それにお姉ちゃんはお姉ちゃんだから」
お姉ちゃんは照れくさそうに頭を描いた。
かがみ「つかさ、それは褒めていないぞ……それじゃ行こうか」
お姉ちゃんは携帯電話を取り出した。
つかさ「どうするの?」
かがみ「姉さんに連絡するのよ、これから行くってね」
つかさ「連絡はしないで行こうよ、皆を驚かそうよ」
お姉ちゃんの手が止まった。そのまま携帯電話をポケットにしまった。
かがみ「面白そうね……驚かそうか」
つかさ「うん」
私達は玄関を出た。寒い。吐く息が白くなるほどだった。空も曇っていて雪でも降りそうだった。
つかさ「お姉ちゃん急ごうよ」
かがみ「はいはい……」

 それから数週間経つとオオカミ騒動は野犬の群れの誤認とされて収束した。それからお稲荷さんの消息は一切分らない。でも人から付かず離れずの生活をしている
彼等の事、きっとどこかの町にいるに違いない。それは遠く離れた町、私の知らない所。
私は思った。彼等の知識を人が手にするにはまだ速過ぎるかもしれない。その一割もない知識ですら手に余している。

いつの日か人間とお稲荷さんが仲良く暮らす日がくると私は信じる。十年、百年、千年、たとえどんなに時間がかかっても……
だって、私とひろしさんは愛し合うことができたのだから。



679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/09(月) 01:16:51.22 ID:DlK6yebt0
以上です。

「つかさの一人旅」を書いている時、既にこの物語のイメージはあったけどなかなか書く気にはなれなかった。
あまり反応がなかったし、面白くないと書かれてしまったのがショックだった。
それでも読んでくれている人はいるみたいだし、気に入ってくれている人もいるので続編を書きました。
まあ、そんなのも関係なく書きたいものを書いただけかもしれない。
読んでくれれば幸いです。

分割がうまくいかなくて予定よりレス数増えました。すみませんです。
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/09(月) 02:08:57.58 ID:DlK6yebt0



ここまで纏めた


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681 :初詣 [sage]:2012/01/09(月) 20:47:39.68 ID:tr/BKQpAO
>>680まとめ乙です。


もう3ヶ日も正月も過ぎたけど初詣ネタで投下いきます。
682 :初詣 [sage]:2012/01/09(月) 20:48:18.23 ID:tr/BKQpAO
初詣の日。
私、宮河ひかげは姉や友達と神社に来た…までは良かったのだけれど。あろうことか、というかベタと言うべきか。
「皆してはぐれるなんて…全部アンタのせいだかんね!泉こなた!!」
「ひどいなぁひかげちゃん。私は悪くないよ」
「いや、アンタが悪い。こなたがトイレ割り込まなきゃ良かったんだし」
柊かがみさんが共感してくれる。まったく、こいつさえ割り込んで来なきゃ、みんなははぐれなかったのに。
「ま、まぁ…済んだ事は仕方ないとして」
『反省しろ!』
こいつの辞書に反省と節制の文字はない。冬コミだって…お姉ちゃんを刺激しまくって。
「またしばらく塩かゆ生活だってのに…水島のやつ…神にお金あげる余裕ないってのに…」
なんでゆきなはあんなのと幼なじみなんだろ。
まぁ私も人の事は言えないか。「なんで私、アンタと知り合いになっちゃったんだろ」
「…あきらめなよひかげちゃん。ひなたさんの妹なんだから」
「お姉ちゃんが悪いみたいに言わないでよ…金銭以外で」
「あれれ、ひなたさんひどい言われよう?というかかがみ、まるで私が迷惑しかかけてないみたいじゃんか」
「大学のレポートまで助けてと言い出してた奴に言われたくない。単位落としたらアンタのせいだかんな」
よくわからないが、人は簡単にはかわれないって事なのかな。
「とにかくさ、私と会ったのが不幸ってのは撤回してほしいかな。今頼んでたんだから」
頼む?そういえば、ゆきな達の特徴訊いて、さっきまで携帯いじってたみたいだったけど。
「誰かにメール?あけおめメールでも出してたの?」
「いや、こなたは基本パソコンだから。それにアタシ達には手紙で来てるし」
「んー、どうやらみんなこっちに来てたりいたりするからね。だから頼んだんだ。『助けて』って」
………こいつ馬鹿だ。
「助けてほしいのは私なんだけど」
「うん。だから『ひかげちゃんを助けて』ってみんなに言った」
683 :初詣 [sage]:2012/01/09(月) 20:49:04.79 ID:tr/BKQpAO
「…他人が泣いてるの助けてくれるわけないじゃんか」
「小学生なのに厨二入っちゃった?冬コミで色々助けてもらってたのに」
「アレは私が小学生だからじゃない。‘紳士’な人達だし」
「……間違ってないだけに否定できないな」
「かがみ、今のがわかるのの意味わかってる?まぁ、奢るからさ」
そういって泉こなたは財布を取りだし
「ジュースを飲んで、待ってなよ。おねえさん達が皆を集めてくれるから」




「いやー、どうしようかね水島」
「どうすっかな、小池」
水島と小池えりかは途方にくれていた。
内海ゆきながトイレに行こうとしたさい、くせ毛がピンと立った髪の長い上級生くらいの人物に割り込まれ、人波に流されてしまったからだ。
更にゆきなを探して宮河ひなたが人波に呑まれ、ひかげは上級生らしき人物を追って居なくなってしまった。
「宮河も宮河のお姉さんも戻ってきそうにないな。ゆきなはどこまでいったんだ?」
「わっぴーは大丈夫でしょ。何かあの上級生知り合いみたいだし」
「にしても、あんな長い髪の上級生うちの学校にいたっけ」
「さぁ…わっぴーの交友関係ってタマにわかんないからね」
当然ながら二人にはそのくせ毛の上級生らしき人物こと、泉こなたとは面識がない。
そのため、こなたとひなたが友人である事も、こなたが大学生である事も知らない。
「んじゃゆきなが心配だな。場所分かればいいんだけど…あいつ、泣いてないかな」
「うーにゃは泣かないと思うけどね。でも戻ろうとして更に道間違えるかも」
「そうなったらあいつは人に聞くだろ。今は泣き虫じゃねぇし。むしろそれ、宮河がするんじゃねぇか?」
「ひっど……ん?」
「見つかったか?」
「うんにゃ。そじゃなくて、さっきの『泣いてないか』って誰の事?うーにゃじゃなかったの」
「はぁ?!今気にすることかよ」
「いやだって『今は泣き虫じゃない』とか言っときながら『泣いてないか』とか変じゃんか。…もしかしてわっぴー?」
「ちげーよ!なんで宮河の心配なんざ」
「んじゃ誰?妹は連れてないし私はここだし」
「お前の心配は絶対しない。えーとだな………宮河の姉ちゃんだよ。ほら、今日だって泣いてたし」
本人が聞いたら「ぷんすか」という擬音とともに怒りそうな話である。最も、ひかげから姉の所業を聞いている二人にとっては怒りに納得しないだろうが。
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/01/09(月) 20:50:30.18 ID:tr/BKQpAO
「…あー、寝坊したとか言ってたし、それでわっぴーに叱られて泣いてたね」
「だろ!」
「いや、いくらひなたさんでもそこまではないかと」
『…え?お姉さん達誰?』
不意の声に、二人がそちらを見る。そこには高校生とおぼしき女性が五人いた。
「ポニーテールって事は、貴女が小池えりかちゃん?」
目を髪で覆い隠している女性ー山辺たまきが確認するように尋ねる。
「は、はい」
「んじゃ、こっちの男の子が水島くんだね。ひかげちゃんの言ってた通りっス」
髪の長い眼鏡をかけた女性ー田村ひよりが水島を見て頷く。
「宮河の、知り合いですか」
「まぁね。でも君…『絆創膏鼻につけたバカ面男子』って説明だったんだけど、仲悪いの」
「ア、アイツ…!」
くせっ毛の女性ー毒島みくの言葉に水島は唸る。それをまぁまぁと言いながら色黒の女性―八坂こうが口を開いた。
「ひかげちゃん自身がツンデレなんだから、君が素直に告白しないと伝わらないんだよ」
「ぶっ!!」
「え?アンタそうなの?!」
「チゲエョ。ソレヨリオネエサンタチダレデスカ」
「んー、ひかげちゃんの友達の後輩」
「同じく。あと姉のひなたさんがサークルの常連客」
「その友人兼先輩が私達二人」
「あ、こっちの長い髪の子が後輩ね」
「…ただの巻き込まれた人」
こう、ひより、たまき、みく、永森やまとの順に答えていく。
「やまと、巻き込まれた人って…私の親友じゃん」
「事実だもの。ひかげちゃんって子は知らないし、泉って先輩も会った事ないから」
「えっと…じゃあお姉さん達、わっぴーがどこにいるのか知ってるの?」
親友は否定しないんだなぁ、と思いつつえりかが聞く。
「うん。今から案内するよ。…ゆきなって子もひなたさんも、たぶんそこにいるから」
685 :初詣 [sage]:2012/01/09(月) 20:51:43.03 ID:tr/BKQpAO
「どこに行っちゃったのかしらゆきなちゃん」
宮河ひなたは周りを見ながら呟いた。
朝から寝坊してひかげに怒られ、情けない姿を見せてしまった事の名誉挽回に探しにきたものの、あまりの人の多さに完全に見失っていた。
「困ったわね…ひかげちゃんもこなたちゃん追いかけちゃったし」
どうしてあの子はこなたを敵視したがるのだろうと考える。ひかげの心配はしない。こなたを追ったのなら、こなたに聞けばわかるはずだし、こなたがひかげを撒いたりはしないと確信しているからだ。
「あら、パティちゃんじゃない。明けましておめでとう」
「…?Oh!ユタカ、ミナミ、イズミ!イましたよ!」
「え?」
知り合いのパトリシアに会ったので挨拶をしたら何故か人を呼ばれ、混乱するひなた。
「ひなたさん、明けましておめでとうございます。こなたお姉ちゃんが探してましたよ」
「明けましておめでとう、ゆたかちゃん。こなたちゃんが?あぁ、ひかげちゃんと一緒なのね」
どうやらひかげと合流して欲しくてこなたが探してるのだろう、とひなたは察した。
「あら、貴女は」
「初めまして。若瀬いずみと」
「コミケやお店でよく会うわよね。確かアニメイ」
「うわぁぁぁぁ!」
いずみは慌ててひなたの口を塞いだ。隠れオタクである彼女にとって、そう言った事実はあまり口に出して欲しくない。
「…委員長、宮河さんが窒息しちゃう」
「え?あ、そうね岩崎さん。…勘弁してくださいよ、どこで誰が聞いてるかわからないんですよ。『壁に耳あり障子にあの野郎許さねえ』って言うじゃないですか」
「それって『障子に目あり』なんじゃ…あの野郎許さねえって何?」
「槍を揉んだらって意味よ。それで、ひかげちゃんは?」
「今案内します」
686 :初詣 [sage]:2012/01/09(月) 20:52:51.13 ID:tr/BKQpAO
>>684にタイトルつけ忘れてました


内海ゆきなは途方にくれていた。トイレに行こうとしただけなのに、どういう訳かはぐれてしまった。
「ここ…どのあたりなんだろ。だいちゃん達どこかなぁ」
誰かに場所を聞こうか、とも考えた。
しかし、水島達がどこにいるのかもわからないから訊きようがない。それにひかげが
「気をつけた方がいい。下手な‘紳士’だったら危険なんだから」
と言っていた。…正直、意味がわからなかったが、ひかげの本気は伝わったので用心する。
実際、和服のようなものを着てカメラを持った無精髭の怪しげなおじさんがいたのが更にその言葉を信用させた。
と、視界に巫女さんが入った。神社の人、それに女性なら‘紳士’ではないだろうと声をかける。
「あ、あの」
「ん?なに、貴女迷子?」
「いえ、そうじゃなくてその」
「参ったな〜せっかく姉さんに隠れてサボってるのに…とりあえず社務所かな。うん、じゃお姉さんに」
「まつり!忙しいんだからサボってんじゃない!」
「ゲッ姉さんにつかさ…。違うわよ、迷子よ迷子」
「迷子?もしかして…内海ゆきなちゃん?」
「えっ…」
突然名前を呼ばれ、ゆきなは混乱した。この人が‘紳士’という種類の人なのだろうか。
(男だけじゃないならそう言ってよひかげちゃん!)
触られたり誘拐されたりするのか、と身構える。そんなゆきなに
「あの、大丈夫ですよ?私達は宮河ひかげさんのお姉さんのお友達ですから」
お母さんのような雰囲気を持った人が、優しく微笑んだ。

687 :初詣 [sage]:2012/01/09(月) 20:53:51.06 ID:tr/BKQpAO


「あ、だいちゃん!ひかげちゃんにえりちゃんも」
「ゆきな!ってまた増えた!」
一体これで何人になったの?
私にゆきなに水島にえりりん、お姉ちゃん。泉こなたにかがみさん、みゆきさんにつかささん。同人サークルで会った田村さんに八坂さんに永森さん、毒島さんに山辺さん。それにコミケで会ったパトリシアさんに若瀬さん。あと泉こなたの親戚の小早川さんに……誰?それに巫女さんが二人…は含めなくていいか。どっか行ったし。
「…あれ、峰岸と日部は?」
「あーやはデート中らしいからね。みさきちは…」
「さっきからずっといるぞ〜」
あ、知り合いなんだこの人も。
「あの、ひかげさん?」
「何、みゆきさん」
「私、そんなに年上に見えますか?」
「小学生から見れば立派に年上だけど…ああ。ゆきな、この人まだ大学生だからね。ママとか呼ぶと傷つくから」
はぁ…こっちは早く働きたいって言うのに。
ん?誰よつついてくるの?水島?
「わっぴーわっぴー、結局、この人達って何なの」
えりりんだった。何って…サークルの客と売り手の関係だったりライバルだったりその仲間だったり今初対面の人とかだったり…簡単に言うと
「友達…かな。こなた除いて」
「だからなんで私を除くのかな」
「小四相手に大人げない大学生は除いていいじゃん!」
「手加減すると怒るくせに」
『え゛っ、大学生?!』
あれ、言ってなかったっけ?
「とにかくさ、初詣済ませない?向こうにお好み焼きの屋台あったから寄りたいんだけど」
「山さん、空気読んで」
「けど実際、この大人数が一ヶ所に溜まってるのは迷惑なのよね。さっさと御詣りしてきなさい」
「確かに。急ぎましょうか。…はい」
「何?やまと。手なんか出して」
「またはぐれたらやっかいだからね。やさこもひよりんも、手繋いだ繋いだ。先輩方も」
「そうだね〜はい、ゆきなちゃんも水島くんも」
「あら水島くんはひかげちゃんとよね」
「…小学生に出会いで負けるとは…」
「何言ってるんだ柊?」
ホントに何の話?
688 :初詣 [sage]:2012/01/09(月) 20:55:21.27 ID:tr/BKQpAO
けど19人が手を繋ぐのっていうのも迷惑なんじゃないのかな。
「ひかげちゃん、はい。お姉ちゃんと手を繋ぎましょ」
「あのねお姉ちゃん…」
「?なに?」
大人数の手繋ぎって…ま、いいか。
「わかった」
「♪」

新年だしね。…うん。
甘えたって、いいよね。





お賽銭でいくら出すのかで揉めたのは、また別の話。

終わり


689 :初詣 :2012/01/09(月) 21:00:01.89 ID:tr/BKQpAO
投下終了です。


ぶっちゃけオールスターもどき目指してたらこんな中身に…あ、ちなみにひかげの同級生ズは「宮河家の空腹」のキャラです。
というかそれとゲーム版での設定やらオリ設定やらごちゃ混ぜ状態で書いたので…なんかカオスに。
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/01/09(月) 23:11:02.72 ID:DlK6yebt0


ここまで纏めた

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>>689
欲張りすぎた感じはあるけど面白かったです。

アゲときます。
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/12(木) 02:19:08.48 ID:aoRkR66SO
新学年が始まった春。
稜桜学園二年B組にやってきた一人の転校生。
それと同じくして広まり始めた一つの噂。

ゆたか「こなたお姉ちゃんが言ってたんだけどね…マヨナカテレビって知ってる?」


― Persona in the Lucky Star ―


雨の日の0時、一人で消えたテレビを見ていると、不思議な映像が映し出されるという。

こなた「…ねえ、昨日のあれって」
かがみ「間違いないわ…つかさよ」

次々に起こる失踪事件。

ゆたか「今度は高良先輩が…たぶんわたしの時とかと同じじゃないかって…」

奇縁な出会い。

かなた「…なんでまたこっちに来ちゃったのよ…」

繋がる絆<コミュニティー>

パティ「ハイ!これでワタシタチはフレンドでありマス!」

そして、目覚める力<ペルソナ>

こなた「やるよ!ジライヤ!」
かがみ「来なさい!トモエ!」
つかさ「え、えっと…コ、コノハナサクヤ!」
ゆたか「お、お願い!タケミカヅチ!」
みゆき「力を貸して下さい…ヒミコ!」
かなた「任せて!キントキドウジ!」
みなみ「これで…スクナヒコナ!」

仲間と共に霧をはらし、君の手で真実を掴め!

???「いけっ!イザナギ!」




こう「…なにこれ?」
ひより「いや、なんかP4のアニメ見てたらこうムラムラっと…」
こう「『???』って誰?」
ひより「そこはまあ、主人公っていうかプレイヤーなんで、好きな名前を入れて下さいって事で」
こう「ふーん…いやまあ、普通にボツだけどね」
ひより「…ですよねー…」
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/01/12(木) 20:39:04.46 ID:GFCdjWoA0


ここまで纏めた

>>691
最初何か長編の予告か何かだと思ったw
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/14(土) 02:20:57.42 ID:rDbbNtMx0
ネタが尽きたのか何も思い浮かばない。
何かお題を下さい。
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/17(火) 23:06:26.84 ID:TVKLltS50

>>693
お題は自分で考えます。

投下したい人が居たら無視してどんどん投下して下さい。
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 09:06:55.00 ID:tAFIxdOSO
お題は9巻から引っ張ってきたらどーだい?
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/21(土) 17:38:30.73 ID:C80LhZqz0
やっと9巻を買った。
別に売れ切れていたわけではないが遅くなってしまった。

そのタイトルの中から『視線』(P30を参照)をお題にしたいと思います。


特に期限は設けませんので気が向いたら考えて下さい。自分もまだ何もストーリは浮かんでいなかったりします。

それではスタート。
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/01/21(土) 17:59:53.35 ID:666TKwiAO
………え、何がスタートしたの?
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/21(土) 18:22:18.07 ID:C80LhZqz0
活気付けで
「視線」をお題にssを投下してもらいたい。
それだけです。
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/25(水) 21:24:58.93 ID:jgI+DUir0
最近纏めサイトで纏めている人です。

今日1/25にいくつかの作品を編集した人が居ます。
編集内容から作者本人と思われます。
従って前の状態には戻しませんが、今度から修正報告ページに報告お願いします。(悪戯と区別するため)

ついでに提案です。
作者別の作品リストをまとめサイトに作るのはいかがですか?
作者は今居る人しかできませんが……
自分はコンクールを含めると約20作品位。自分の作品でリストを作ってみたいと思います。(古い順で)
他に参加されたい方は居ますか?
まとめサイトの編集が苦手であればリストをこのスレに書いてくれれば代わりに作成します。

自分一人だと恥かしいので、他に参加者が居なければこの提案は破棄とします。

よろしくお願いします。

700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/27(金) 23:10:08.07 ID:T3dvDnN10
>>699

誰かを待っているようでは先に進みませんね。

私の作品一覧を作ってます。

基本的に短編以上の作品を載せます。1レス物はキリがないので割愛します。

もし、いいなと思ったら後に続いてください。
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/28(土) 12:15:20.43 ID:vxzwv4wSO
リストは自分で作れませんが、作品数がシリーズものを一つにしても70を超えるので人に頼むのもちょっと…

っつーかシリーズばらしたら100超えるっぽいけど、よく書いたなあ
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/29(日) 13:44:09.00 ID:TEzxGI9s0
>>701
一度に処理しようとすれば確かに大変だけどね
少しずつ。例えば10作品ずつでも纏めていけばさほど負担にはなりません。
良かったら纏めますよ。
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/29(日) 20:04:14.13 ID:22E8piMso
元々VIPスレだし、そういうコテハン的なのは嫌われる傾向にあるからどうだろうな

まぁこの期に及んでって話だし、やりたい人がやる分には好きにしていいんじゃないか
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/29(日) 23:20:54.22 ID:TEzxGI9s0
そうゆう趣向があったのか。
自分はまとめサイトから入った人だからスレの趣向とかあまり知らなかった。
参考にします。
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/31(火) 23:13:42.45 ID:/n2d23ov0
作者リストは避難所で参加者が増えなければ消すと書きましたがとりあえずこのまま運用します。

話は変わって、作品を投下します。

ID:bz0WGlY0の作者です

3〜4レスくらいかな?
706 :初恋  1 [saga sage]:2012/01/31(火) 23:15:37.85 ID:/n2d23ov0
 はぁ、疲れた。でも今日は大掃除しないとだめだ。そう自分に言いきかせた。
今年最後の仕事を終え、自分の部屋の大掃除を始めた。普段は使わない所を重点的に掃除しないと……
掃除をして数分だった。埃を被ったアルバムが出てきた……
これは、卒業アルバムだ。何十年ぶりだろう。そういえばあの友人はどうしているかな……彼は三年になって直ぐに意気投合した親友、
でも卒業してから彼には一度も会っていない。いや、あの時から会わなくなった。
アルバムの表紙を見ていると、あの時の出来事が思い浮かんできた……


「おまえ、好きな人はいるのか」
三年生になって暫くした頃だった。お昼休み、ベランダで数人の友人と話していた時、ふと友人の口から出た質問。無視をしても良かった。話題を変えてもよかった。
「……柊さん」
何故か答えてしまった。
「…柊って、学年トップの……無理だな、相手にもされないぞ」
自分の成績は下から数えたほうが早いかもしれない。運動も下手、彼女は恐らく彼の言う通り相手にもされないだろう、でも彼の言っている柊さんは僕の言っている人とは違う。
「いや、柊つかささんの方だよ」
友人は暫く考え込んだ。
「柊つかさ……ああ、柊の妹か……話した事ないな、どんな子だかあまり印象にない、全然目立たないし……なんで好きになったんだよ」
興味津々に聞いてきた。
どうして……


『初恋』



707 :初恋  2 [saga sage]:2012/01/31(火) 23:17:31.46 ID:/n2d23ov0
 更に一年前、二年生の時、彼女は僕と同じクラスになった。友人の言うようにあまり目立たない子だった。僕も最初は彼女を意識しなかった。
二年生最初の席替えの時、彼女は僕の隣の席になった。隣の席になっただけだった。これだけなら彼女を好きになったりはしない。

 何週間か経った頃。
「しまった!!」
二時限目の教科書を忘れていたのに気が付いた。一年の時の友人、部活の友人など別のクラスの人に借りに行ったが、その日は同じ学科の授業が無く借りられなかった。
このままだと先生に怒られてしまう。
「どうしたの?」
隣の席から声がした。僕は声のする方を向いた。柊さんだった。彼女は心配そうな顔で僕を見ていた。
「次の授業の教科書わすれてしまって……」
すると彼女は鞄から教科書を取り出し僕に差し出した。
「え、でも、柊さんの教科書はどうするの?」
「……確かお姉ちゃんも同じ授業があったから……」
彼女は僕に教科書を渡すと教室を出て行った。これが彼女との最初の会話だった。
優しい人だな……。そんな第一印象。それ以来お互いに教科書の貸し借りが続いた。二人とも忘れん棒だった。

 夏休みが終わり、二回目の席替えが行われた。前回と同じくじ引きで席が決められた。その時隣の席になったのが彼女だった。
「また隣の席になったね」
「よろしく……」
全くの偶然だった。少しだけど運命的な何かを感じた。多分これは僕だけの感情だったのかもしれない。
それでも夏休み前より彼女と話す機会は格段に増えた。その中で僕は彼女を好きになった。そして気持ちを伝えたいと思った。
でもそれは思っただけだった。とても恥かしくてそんな事が出来るわけがない。ただ時間だけが過ぎていった。

 三年生になった。自分の中では彼女と一緒のクラスになる自信があった。二度も隣の席になったのだから。でもそれは何の根拠もない自信だった。
偶然は二度起きない。彼女とは別々のクラスになった。
別のクラスになると彼女と話すことも会うこともすっかり無くなってしまった。所詮その程度の関係だった。
しかし不思議なものだ、会わなくなった今の方が二年の頃より彼女に対する気持ちは強くなっていた。


「席が隣になったからか……そんなもんだよな、切欠なんて……」
友人はさも自分がそうだったかような口調で話していた。もうこんな話は止めようと言おうとした時だった。
「それなら、告白しなよ」
友人は僕の顔を見ながらそういった。
「告白?」
僕は言い返した。
「そうだよ、彼女の気持ち聞きたいとは思わない?」
それが出来るなら二年の時にしていた。僕は首を横に振った。
「そんな中途半端な方が俺は嫌だな……」
まったくお節介な奴だな……
『キンコーン』
「あ、次は体育だったよな、やば、早く着替えようぜ……」
友人は慌てて教室に戻った。お昼休みは終わった。そしてこの話もこれで終わり。ほっと一息ついた。

 話は終わらなかった。友人は暇を見つけると柊さんの話を持ちかけてきて告白しろと僕を説得した。その度に僕は首を横に振った。友人はある意味面白半分だった
のかもしれない。告白させてその後の成り行きを見たいのだろう。
友人もそれなりの恋愛論があったらしく告白の重要性を熱く語る場面もしばしばあった。

 卒業も近づいた。この頃になると部活動も自由参加になり放課後はそのまま帰る日が多くなった。彼が面白半分でなかったに気が付いたのはその頃だった。
友人は人気の居ない所に僕を呼び出した。
「柊は友達と長話をしてから帰る、その友達と別れた時がチャンスだよ、人気の居ない道を通るから」
「チャンスってなんだよ?」
「告白だよ、もう時間がないぞ、するなら今しかないだろ」
いつの間にそんな事まで調べていたなんて。僕はとっくに諦めていた。三年になって彼女と話した事なんて一回もないのに。今更……
「それじゃ明日決行だ、逃げるなよ」
有無を言わさず友人は教室に戻って行った。友人は本気らしい。でも告白なんて……。

 次の日の放課後、帰ろうとすると友人は教室の出口で僕を待っていた。どうやら逃げられそうにない。友人は僕を柊さんのクラスに連れて行った。
教室の中で柊さんは背の小さい子とお喋りをしていた。泉さんだったかな……確か二年の時同じクラスだった子だ、そういえば二年の時も同じようによくお喋りをしていた。
時より見せる笑顔がなんとも言えない気持ちにさせた。やっぱり僕は柊さんが好きだった。
もう少し見て居たかったけど友人は僕を連れて教室を後にした。どうやら柊さんが居るのかどうかの確認だったようだ。

708 :初恋  3 [saga sage]:2012/01/31(火) 23:18:57.61 ID:/n2d23ov0

 学校裏の人気の居ない通りに友人は僕を連れてきた。
「柊は友達と別れるとこの道を通るから待っていればいいよ、俺は校舎側にいて柊来たら合図するから準備しれおけよな」
準備って何をすればいい。告白するってどうやって柊さんに話せばいい。何も分らない。聞く間もなく友人は校舎の方に走って行った。

 一人残されて誰も居ない通りに居る。緊張してきたのか心臓がドキドキしてきた。冷や汗も出てきてきた。とりあえず壁の陰に隠れた。まさか本当に僕は
告白をするのだろうか。他人事みたいだけど、そんな気分だった。柊さんになんて言うのか全く考えていなかった。このまま帰ってしまおうか。
そんな考えも過ぎった。

 暫くすると校舎側から友人が出てきて僕の居る方を向いた。そしてまた校舎の方に戻って行った。これが合図なのか……それとも柊さんは別の道を通ったのか。
そんな事を考えていると校舎側から人影が現れた。
柊さんだ……僕は唾を飲んだ。彼女はどんどん僕の方に近づいてくる。僕は隠れているので彼女から僕は見えていない。
このままやり過ごせば彼女はそのまま僕を通り過ぎて帰る……やっぱり告白なんて出来ない。
柊さんが僕の目の前を通過した。さっき教室で友達と笑顔で話している柊さんを思い出した。
「柊さん」
僕は壁の影から出て彼女を呼び止めた。彼女は立ち止まり振り返った。少し驚いた表情をしていた。それもそうだ、三年になって始めて彼女を呼んだのだから。
呼び止めたはいいが何て言えばいい。彼女は何で自分を呼び止めたのか不思議に思っているに違いない。もうここまで来て後に引けない。
「柊さんが好きです……」
頭が真っ白になった。彼女は慌てて辺りをきょろきょろと見ている。他に誰か居ないか見ているのだろうか……
「で、電話して……」
彼女はそう言ったまま立っていた。僕は恥かしくなって走って校舎の方に向かった。
校舎に着くと友人が待っていた。走ったせいで息が荒くなっていた。
「どうだった……」
「分らない……」
友人は僕の顔をみるとそれ以上聞かずに置いてあった鞄を持つと帰った。
僕は息を落ち着かせてから帰宅した。


 家に帰ると自分の部屋に直行して着替えずにヘッドホンを付けて音楽を聴いた。少し頭を冷やし買った。だけど告白した時の彼女の驚いた顔が頭から離れない。
彼女は電話してと言っていたが告白するだけで精一杯だった。これ以上なにかをする気にはなれなかった。
『コンコン』
ドアをノックする音がした。ヘッドホンを外してドアを開けた。
「柊さんって人から電話よ」
お母さんだった。音楽で電話のベルに気付かなかった。柊さんの方から電話をしてくるなんて……どうしてだろう。もしかしたら……期待が膨らんだ。

 ゆっくり受話器をとった。
「もしもし……」
『ごめんなさい、こっちから電話しちゃって……で、でもこうゆうのは早い方がいいと思って……』

1分だったか、5分だったか、どのくらい話だろうか。これから先の会話はよく覚えていない。でも断りの返事だったのは分った。話が終わるとゆっくりと受話器を置いた。

「どんな電話だったの」
お母さんが聞いてきた。それもそうだ。女性から電話なんてはじめてだったから。
「え、あ、クラス会の準備の話だよ」
それに納得したのかそれ以上お母さんは聞いてこなかった。

これが彼女との会話の最後となった。でも何かすっきりした感じだった。これで良かったのかもしれない……彼女の気持ちが分ったのだから。

進学、就職、そして仕事……目まぐるしく時は進む……それから何十年か経った。


僕は埃を掃ってアルバムを開いた。
修学旅行、体育祭、文化祭……いろいろあったな。自分のクラスの写真があった。そこにはクラスメンバー全員が写っていた。何か足りないような気がした。
何だろう……そうだった。このアルバムに一緒に写りたかった人が居た。僕はアルバムを捲り別のクラスの写真を探した。
今頃どうしているのか、きっと結婚して家庭をもっているに違いない。子供も随分大きくなっているかもしれない……
写っていた……柊つかさ……にっこりと満面の笑顔で写っていた。僕の記憶とまったく同じ姿がそこにあった。
目頭が熱くなった。手を目に当てると涙が出ていた。
電話を置いた時、すっきりした感じ……あれは嘘だった。僕はまだ彼女が好きだった。そして今も……それは今の彼女ではなくアルバムの写真に写っていた彼女……
柊つかさが好きだった。未練たっぷりだ。初恋が叶うのは希なのは知っているのに……友人と会わなくなったのも彼女を思い出したくないから。
僕は自分の中の時計を止めてしまっていた。あの時の彼女の姿のまま時間を止めていた。やっとそれに気が付いた。

アルバムを閉じて押入れの一番奥にしまった。もうアルバムは見ない。
もう一度恋がしたい。そう思った時、涙が止まった。
そして自分の中の止まっていた時計が動いたような気がした。

さてと、掃除を終わらせるか。



709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/31(火) 23:19:49.41 ID:/n2d23ov0
以上です。
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/31(火) 23:42:49.21 ID:/n2d23ov0



ここまでまとめた。

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711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:10:36.51 ID:KqzgxToe0
失敗作だったかな……

ちょっとアンケート
「つかさの旅」の続きがあるのだけど読みたい人はいるかな?
反応があるのとないとではモチベーションが違うので聞いてみる。

712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/02/03(金) 17:29:28.04 ID:dzC2fWtAO

こう「…これってやっぱり恵方を向いて食べるの?」
毒さん「違って欲しいけど、つか山さんこれどこで売ってたの」
山さん「近所のケーキ屋。バースデーケーキ代わりに買ってきたんだから食べなよやさこ」
こう「恵方巻ケーキって…」

八坂こう、HappyBirthday!
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) :2012/02/04(土) 01:47:38.94 ID:RbIlZvZp0
書き込み初です。
実は半年くらい前からSS見させていただいてます。
このスレのSSはどの作品も感慨深く何度見ても飽きが来ないので、
新たな作品が投下されるのをいつも楽しみに待ってます。
今後ともよろしくお願いします。

「つかさの旅」ですが、このスレでも特に感慨深い作品と感じます。
是非、続きを見てみたいです。
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/02/04(土) 07:26:45.54 ID:c8fi3sXw0

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ここまでまとめた

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>>712
こうの誕生日だったか……誕生日はメイン4人くらいしかチェックしていないw
恵方巻コンビニの宣伝で全国に広まったみたいだけど、
個人的にはあまり好きじゃない。かぶりつく姿が卑猥に見える(そう思っているのが卑猥なのか)。

>>713
読んでくれている人がいるのは嬉しいです。
もう出だしだけ書いています。
物語全体はまだイメージの段階……
コンクールもあるし、仕事もあるし、春を過ぎてしまうかもしれない。
気長に待っていてください。
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/02/16(木) 02:41:46.46 ID:JZXMCkyY0
コンクールを2月の下旬から始めたいと言ったが、
私事で申し訳ない。3月下旬に延期してもいいでしょうか?

主催者を誰かが代わってくれればそのままでもいいのだが……
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/02/19(日) 18:09:49.54 ID:xu4E1kMQ0
>>715です。
主催者を代わってくれそうもないので……

3月は約半月くらいネットに入れないので、まとめとかができなくなってしまう。
従って、主催の仕事ができなくなる。
これが延長の理由です。

予定通りしたい人が居ましたら2/26(日)にお題募集をして下さい。
この日を過ぎた時点でお題募集がなければ正式に延長とします。
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/02/24(金) 21:01:56.98 ID:Zip6qZui0


これからコンクールお題を募集します。

ふるってご参加ください。

お題は過去に出たお題、キャラクターは避けて下さい。

参考、過去のコンクール作品↓

http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/84.html


コンクールスケジュール

お題募集    〜2/28(火)
お題投票    2/29(水)〜3/4(日)
作品投下期間  3/12(月)〜3/25(日)
作品投票    3/27(火)〜4/4(月)
結果発表    4/5(火)

これで進めたいと思います。

それではどしどしお願いします。
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/02/25(土) 22:29:39.87 ID:haBTQKqc0
なんだろう、いつもなら宣言すると一日で結構
お題案が出るのだが……

『視線』

はどうでしょうか?
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2012/02/25(土) 22:34:05.02 ID:sFU+kR7po
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/02/26(日) 13:27:12.60 ID:2k98JdOAO
『蕎麦』
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/28(火) 09:02:57.86 ID:IzcQmUASO
ひな祭り!
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/28(火) 09:08:06.86 ID:IzcQmUASO
つかさの旅、長くて[ピーーー]るww
あとで読むます
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/02/28(火) 23:02:00.20 ID:kMuR6nue0
コンクールお題、いろいろきていますが 募集をもう一日延ばします。

これによるその後の予定は変更しません。
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/02/29(水) 21:02:22.89 ID:/n0JI4oc0
>>722
[ピーーー]が気になる
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/01(木) 00:13:42.08 ID:Rnsxic1R0
☆☆☆☆☆ 第二十三回コンクール開催 ☆☆☆☆☆

それではお題を決める投票を行います。

投票所↓

http://vote3.ziyu.net/html/odai3.html

締め切りは3/4です。
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/01(木) 00:49:15.78 ID:Rnsxic1R0
お題候補

『視線』
9巻のエピソードの題になったと思います。ジャンルを問わずいろいろ書けるかな。

『零』
数字としてのゼロ、0、の意味がありますね。零す(あやす)といって汗や血を流す意味もあるそうです。

『蕎麦』
そばですね。これに決まれば食べ物がお題になるのは初めてになります。

『ひな祭り』
女の子のすこやかな成長を祈るお祭りですね。女性キャラが豊富ならき☆すたにはうってつけでしょう。
別名、桃の節句、桃の花もイメージできそう?

727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/01(木) 08:22:52.93 ID:KW/L9B7SO
>>724
ごめんなさい、長くて死ねる(長くて読むの大変そうだ)ってかきますた
もちろん読みごたえありそうで楽しみだなって意味で
最近このスレに来てなかったので、未読がたまっちゃってる感が…
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/01(木) 23:31:11.38 ID:Rnsxic1R0
>>724
気になっただけなので謝ることはないです。
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/03(土) 23:16:10.45 ID:PZNlwKJC0
コンクール規約は前回(二十二回)と同じで行きたいと思います。
反対がなければそのまま採用といたします。

コンクール規約はこちらを参照↓
http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/72.html

コンクール開催中ですが一般作品も随時受け付けています。
どしどし投下して下さい。
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/03(土) 23:18:10.06 ID:PZNlwKJC0
>>792

間違えた コンクール規約はこっちへ↓
http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/673.html
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/03(土) 23:19:16.99 ID:PZNlwKJC0
安価間違っていた。
>>729ですね
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/05(月) 00:08:31.20 ID:k34F5FEx0
☆☆☆☆☆ 第二十三回コンクール開催 ☆☆☆☆☆

コンクールのお題は『蕎麦』に決定しました。

作品投下期間 3/12(月)〜3/25(日)となります。

それでは皆さんの参加をお待ちしています。

投票結果↓
http://vote3.ziyu.net/html/odai3.html
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/05(月) 00:18:13.32 ID:k34F5FEx0
お題は「蕎麦」か
自分的には視線だと思ったが一票差でした。

作りかけのssをお休みしてコンクールモードに入ります。
っと言っても……蕎麦かよw
全くの白紙からスタートです。かなり私にとって難題かもしれない。

とりあえずやれるだけはやるつもりです。
このスレを見て参加してみようと思われる方も気軽に参加して下さい。
このスレのお祭りみたいなものですから。盛り上げましょう

734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/11(日) 22:21:56.72 ID:+RhE5SlT0
☆☆☆☆☆ 第二十三回コンクール開催 ☆☆☆☆☆

少し速いですけど日付が変わりましたら 3/12(月)
作品投下解禁します。

期限は3/25(日)までです。
まだ二週間ありますので今から気が付いた人でも充分時間はあります。
慌てず急いで書きましょう。

今回のお題は『蕎麦』です。
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/17(土) 22:36:33.90 ID:ZU/2iOt70
☆☆☆☆☆ 第二十三回コンクール開催 ☆☆☆☆☆

〆切まで一週間余り、まだ1作品もありません。

蕎麦と言うお題が思ったより難しいと思われます。

自分も作っているけど半分くらいかな。ぎりぎり間に合うかどうか。休日を利用してなんとか完成させる予定です。

2作品も投下できそうもない。

作っている人、頑張りましょう!
736 :思い出の蕎麦がき [sage]:2012/03/23(金) 21:31:38.16 ID:kKCvadsAO
コンクール作品投下いきます。
タイトルは「思い出の蕎麦がき」


「おじさん、何してるんですか?」
「ん、あぁゆーちゃんか。いやね、晩酌のつまみ作ってたんだよ」
台所に行くと、おじさんが何か作っていたので聞いたら、そう返事が返ってきた。
でもこの匂いは…お蕎麦だよね?
「お蕎麦でお酒呑むんですか?」
「いや、これは蕎麦じゃないよ。蕎麦がきって言うんだ。蕎麦粉にお湯を混ぜて練って作る料理でね、醤油とかそばつゆをつけて食べるんだ」
そういっておじさんが見せてくれたお椀には、お蕎麦の匂いがする灰色の塊が入っている。
「へぇ〜、初めて見ました」
「蕎麦屋だと、たまにメニューにあるんだが…あまり知られてないか。かくゆう俺も、かなたに教えてもらったんだが」
「かなたさんが…」
じゃあこれって、思い出の料理とかだったりするのかな。でもかなたさん、どうしてこんな料理をおじさんに教えたんだろ…。
「まぁ、かなたに教わったきっかけってのが、ゆきの奴にあるだけど」
「お母さんに?」
どういうことなのかな。
それを聞くと、おじさんは苦笑しながら話してくれた。

737 :思い出の蕎麦がき [sage]:2012/03/23(金) 21:33:09.22 ID:kKCvadsAO
 
あれは、かなたとこの家に引っ越して本当に間もない頃だったかな。
いきなりゆきから蕎麦粉が届いたんだ。
「…なんだこりゃ?」
「蕎麦粉…ね」
「…何考えてるんだゆきは」
付いてた手紙を読んだら、新居引っ越し祝いの蕎麦だって書いてあったんだ。
うん、普通はそれで蕎麦粉を送ったりしないよ。
追伸として
「兄さん、ゆいに『頭文字D』っていう漫画勧めたの、兄さんらしいわね」
ってのがあったんだが……そうだね、ゆきがそれで怒って蕎麦粉にしたんだって、かなたにも言われたよ。

でもまぁ、せっかく貰ったんだ。一応、蕎麦を作って食べようって話にはなったんだが…

「…美味しくないわね」
「…やっぱ、素人の手打ちじゃなぁ」

予想通りにまずかった。麺は太いしつなぎなんて使わなかったからボロボロ千切れるし…。

「どうする?まだ蕎麦粉残ってるけど…パスタマシン使ってみるか?」
「あれはパスタ以外には無理だと思うわ。…そうだ。蕎麦がきにしましょう」
「蕎麦がき?」
「お椀に蕎麦粉とお湯を入れて…こう…混ぜて…」
そう言いながら、かなたがお椀の中身を箸で混ぜ始めたんだ。
その姿が愛らしかったらつい写真を撮ったんだ。これがその写真。
…うん、かなたもそんな感じの顔してたな。
「まったくそう君たら…出来たわよ。さっきのそばつゆにつけて食べてみて」
「…ん!旨い!」

738 :思い出の蕎麦がき [saga]:2012/03/23(金) 21:34:37.36 ID:kKCvadsAO
 
「…そんな感じで消費していったんだ」
「お姉ちゃんの運転って、おじさんに原因があったんだ…」
あれ、何か感想間違ってる?
「それはおいといて。どうだい一口?」
「え、遠慮しておきます。夜食べると太りそうだし…2つ食べるんですか?」
よく見たら、既に1つできていた。
「いや、これは…かなたの分だよ。供えるつもりさ」
「そうですか………じゃあ私、もぅ寝ますね」
「お休み」
………
「あれ、ゆーちゃんは何しに台所に来たんだ?」

END

以上です。もう一作品は作れたら作ります
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/23(金) 21:36:32.75 ID:6aHJnN3dP
ゆきさん・・・だと・・・?
乙でした
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/24(土) 00:22:29.62 ID:dHJNhOn80
思い出の蕎麦がき
bPでエントリーしました。
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/24(土) 15:31:44.33 ID:dHJNhOn80
さて、私もコンクール作品を投下します。
1作品目となります。

20レスくらい使用します。
742 :幻想 1/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:33:27.38 ID:dHJNhOn80
 もう二年生も終わろうとしている頃だった。放課後、私はいつものようにお姉ちゃん達とお喋りをしていた。
こなた「かがみ、これからゲーマズ寄って行こうよ」
かがみ「あんたはそれしか用がないのか……しょうがないわね……」
珍しいこともあると思った。二つ返事でお姉ちゃんはこなちゃんの誘いを受けた。
こなた「みゆきさんもどうかな?」
こなちゃんがゆきちゃんを誘うなんて。初めてかもしれない。
みゆき「私は図書室で調べ物があるので……」
お姉ちゃんは私を見た。
かがみ「つかさは、たまには寄り道もいいものよ」
こなた「そうだよ、とっても楽しいよ」
かがみ「言っておくけど、私が言ったのはたまにだからな、た・ま・に」
あれ、お姉ちゃんが私を誘うのも初めてかな、今日は珍しい事が続くな。
つかさ「別に買いたい物ないし、今日はこのまま帰るよ」
こなた「それじゃ話は決まり、行こう、かがみ」
こなちゃんは教室を飛び出した。
かがみ「全く、すこしは落ち着きってものが欲しいわね、あいつに……」
お姉ちゃんはゆっくり立ち上がった。
かがみ「それじゃ行ってくるわ」
つかさ・みゆき「いってらっしゃい」
お姉ちゃんは教室を出た。
みゆき「それでは、私も失礼いたします」
ゆきちゃんもゆっくり席を立った。
つかさ「それじゃ、また明日……」
そして、教室に私だけが残った。辺りを見回しても教室には誰も居ない。ちょっと寂しい感じ。寂しいけど、
遠くから運動部の掛け声が微かに聞こえる。校庭はきっと賑やかに違いない。何か不思議な気分……
あれ……なんで私は教室に残っているのかな……みんな行ったから私も帰らなきゃ
私は慌てて帰り支度をして教室を出た。
バス停に着いたけど、お姉ちゃん達はもう居なかった。あの時直ぐに行っていれば駅までは一緒に帰れたのに。
私って本当にダメダメだよね。自分でつくづくそう思ってしまった。


『幻想』


743 :幻想 2/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:34:40.91 ID:dHJNhOn80
つかさ「ふぅ」
ため息をついてバスを降りた。幼少の頃から、授業中も友達と遊んで居る時も何かボーとしちゃっている時がある。
でも、何も考えていないわけじゃない。遠くの音とか、いろいろな音が混ざってくるのを聴いていると、
どんどん想像がふくらんでしまう。丁度巻貝を耳に当てたような……そんな幻想的な感じ……
だからたまに、話についていけない時もある、困っちゃうな、こんなの早く直したいな……私って何かの病気なのかな。
ハっとした。辺りを見回した。私は今まで見たことも無い町並みが目に飛び込んで来た。
私は慌てて歩いてきた方向を振り返った。駅への案内表示があった。どうやら駅を通り越してしまったみたいだった。
嗚呼……とうとう根本的におかしくなっちゃったのかな。私って……もうだめかもしれない。
つかさ「ふぅ」
また、ため息。とりあえず駅に戻ろう。足を駅に向けた時だった。古ぼけた一軒屋が目に入った。
何だろう。アンティークの店、それとも歴史館……違う、のれんが架かっている。定食屋さんみたい。
今にも壊れそうなオンボロ……周りの建物と対照的で余計に目立った。足がいつの間にか止まっていた。
気になる。何故、それは私にも分からなかった。別にお腹が空いている訳でもないのに。
のれんが架かっているって事は、きっと開店中に違いない。入ってみるかな。恐る恐る店に近づいた。
店の前に立っても扉は開かない。自動ドアではなかった。引き戸の窪みに手を入れた。
『ガタガタ』
建てつけがわるいのか開かない。この店、お客さんは入っているのだろうか。本当に開店しているのかな。
そんな疑問をもちつつ、扉に力を込めた。
『ギッ、ギギー』
軋む音を立ててゆっくりと扉は開いた。どうにか私が入れるくらいの隙間が開いた。もう私の力ではこれ以上
開かない。店の中を覗いてみた。外が明るいせいなのか暗くてよく見えない。なんか気味悪くなってきた。
帰ろうかな……でもここまで開けたのだから……私は扉の隙間に体を横にして店の中に入った。
つかさ「ごめんください……」
中は静まりかえっていた。目が慣れてきた。外の佇まいとは違って中は整っていて綺麗だった。あっ、人の気配。
私は気配のする方を向いた。
台の上……誰かが椅子に乗っている。私は見上げた。天井から紐の様な物が垂れ下がっていて……先が輪になっていた。
その輪に手を掛けて……首を入れて……あれ、あれ、これって……今にも椅子から飛び降りそうな体勢に……
自殺だ!!!
心の中で確信した。
つかさ「ダメ〜!!!」
思わず叫びながら椅子に乗っている人に抱きついた。
「だ、誰だ……う、うゎ〜、は、放せ……」
放したらきっと飛び降りてしまうに違いない。私は持てる力の全てを両腕に入れた。すると私に体重が乗ってきてしまった。
重い、支えきれない……バランスを失って二人とも床に倒れてしまった。
「イテテ……」
椅子に乗っていた人は倒れてもたついていた。私は直ぐに立ち上がった。
つかさ「死んだらダメ!!!」
椅子に乗っていた人に向かって叫んだ。よく見ると歳を取った男の人が倒れていた。
お爺さんはゆっくりと立ち上がった。
老人「あんたは誰だ、いきなり掴みかかるなんて……」
つかさ「私は……このお店に入ろうとして……そしたら、首を吊ろうとしていたから……」
老人「……お客さんかい……このオンボロ店に来る客なんてよっぽど物好きか、不動産屋くらいしかいない」
お爺さんは電球を持っていた。お爺さんはまた椅子の上にゆっくりと上った。よく見ると天井から垂れ下がっていたのは
電灯だった。お爺さんは電球を取り替えた。すると店の中が明るくなった。
老人「電球が切れていてね、取り替えようとしたらあんたが飛び込んで来た……びっくりしたよ」
早とちりだった。でもそれでよかった。私はホッと胸を撫で下ろした。
老人「もっとも、こんな店の店主じゃ自殺もすると思うのも無理もない……ふふ」
笑いながら椅子を降りると、入り口の扉に向かった。半開きになった扉をお爺さんは足で蹴飛ばすとスーと音もなく
動いた。そして扉を閉めた。
老人「さて、いらっしゃい、何にする?」
つかさ「え、えっと……」
老人「なんだい、お客さんだと思ったのに、冷やかしかい」
まごまごしている私を見て怒り出した。
つかさ「ご、ごめんなさい……なんかだか分からなかったけど……気になったもので、つい入ってしまいました……」
私は深々と頭を下げた。
つかさ「失礼します」
私は扉を開けて店を出ようとした。
老人「待ちなさい……」
私は立ち止まった。
老人「学生服……高校生かい、自殺を止めようとしたのか、今時の子にしては珍しい……座りなさい」
お爺さんはカウンターの椅子を指差した。お爺さんの言われるまま、その椅子に座った。
老人「……それに、素直だな……」
お爺さんはカウンターの向こうの厨房に入った。


744 :幻想 3/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:36:13.84 ID:dHJNhOn80
 暫くすると、お爺さんはお椀をカウンターに置いた。
老人「まさかお客が来るとは思わなかったから仕込みはしていなかった、取り敢えず食べなさい」
おわんにはうどんやそばに使うだし汁で満たされていた。その中に見たことの無い塊が入っている。茶色い色、形は整われていない。ちぎっている様な断片が数個入っていた。
つかさ「これは、何ですか?」
老人「何だ、最近の子供は食べないのか、蕎麦掻きだ」
そう言われても見るのも食べるのも初めてだった。
つかさ「そばがき……」
箸で塊を摘んだ……弾力がある、水団みたい……一口食べた……
つかさ「お蕎麦……これ、お蕎麦でしょ?」
口いっぱいに蕎麦の香りが広がった。なんかモチモチしている。
老人「蕎麦だ、名前の通り」
一言そう言うと、作業をし始めた。
つかさ「美味しい、お蕎麦って麺にしてあるのしか知らなかった……どうやって作るの?」
老人「蕎麦粉をお湯で練る」
つかさ「それだけ?」
老人「それだけ」
愛想の無い受け答え。話が続かなかった。私は、蕎麦掻きを食べるのに集中した。

つかさ「ごちそうさま、美味しかった……」
お椀をカウンターに返した。お爺さんは何も言わずお椀を受け取り流し台に持っていった。私はポケットからお財布を取り出した。
老人「御代はいらん」
つかさ「え、で、でも……」
老人「要らんと言ったら、要らん……」
お金は受け取ってくれそうになかった。私は席を立った。
つかさ「……ごちそうになります……ありがとう」
扉を開けようとした。入ってきたのと同じように開かなかった。扉はガタガタと音を立てるだけだった。
老人「扉の下を蹴飛ばせ」
さっきお爺さんがしていた様に扉の下を足で蹴った。
『ガタ』
今度は力を入れなくても扉は開いた。このまま店を出るのは何となく心が引ける。店を出ず、扉を閉めて店の奥に戻った。
つかさ「あ、あの〜」
老人「……なんだ、まだ居たのか……」
少し起こり気味だった。
つかさ「ここってお蕎麦屋さんですか、外に看板とか何もなかったので……」
老人「……寿司屋に見えるのか」
つかさ「え、うんん、そうじゃなくって……お客さんに分るようにお品書きを出した方がいいかなと思って……そ、それに、扉はちゃんと直した方がいいかも……」
老人「……喧嘩売っているのか……」
お爺さんは私を睨みつけた。思った事を言っただけなのに……余計な事を言ってしまった。どうしよう。
つかさ「ご、ごめんなさい、蕎麦掻き……初めて食べたけど、とっても美味しかった……でも、これだと誰も美味しいお店だって気が付かないと思って……それに、お蕎麦屋さんなら……
    細長いお蕎麦も食べてみたい……」
老人「……お節介な子だ、名前は」
少し口調が和らいだ。
つかさ「柊つかさ……です」
老人「明日、来なさい」
つかさ「はい」
お辞儀をして店を出た。

745 :幻想 4/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:37:37.55 ID:dHJNhOn80
つかさ「ふぅ〜」
一気に緊張が解れた。職人気質の頑固なお爺さん……そんな感じだった。商売気が全くないみたい。でも……蕎麦掻きを食べた時のあの香り……あれが本当の蕎麦の味なのかも知れない。
掘り出し物を見つけたような。そんな感じになった。今度お姉ちゃん達も……ダメ……あんな頑固なお爺さんの所に皆を連れて行ってもまともに相手をしてくれないかも。
何度か通って仲良くなってからが良いかな。明日が楽しみ……どんなお蕎麦が食べられるのかな〜

 家に帰ると既にお姉ちゃんは家に居た。着替え終えると、お姉ちゃんが部屋に入ってきた。
かがみ「今までどこに行っていたのよ、用がないのならとっくに帰ってると思った」
つかさ「ん〜ちょっとね」
かがみ「何よ、隠すような所に行っていたの?」
お蕎麦屋さんに行って来た……だけどお姉ちゃんに教えるのはまだ早いって決めたから。
つかさ「まだ準備が出来ていないから……」
お姉ちゃんは腕を組み、急に細めになってニヤけた顔になった。
かがみ「ふ〜ん、彼氏の所にでも行っていたのか……何時の間に、つかさも隅に置けないわね、相手は誰なのよ」
え、何でそんな話しになるの……
つかさ「ち、違うよ、そんなんじゃないから、たいした事じゃないよ、本当に」
お姉ちゃんは腕組みを解いた。そして私をじっと見た。
かがみ「必死に否定する所が怪しいわね……ま、いいわ、準備が出来たら紹介しなさいよ」
お姉ちゃんは部屋を出て行った。
言い方がいけなかったのかもしれない。誤解のないように答えを考えておけば良かった。
でも、お姉ちゃんで良かった。こなちゃんだったらきっとちゃんと言うまで聞いてくるに違いない。

 次の日の放課後、私はお爺さんの約束の通り店に向かっていた。
『ゴリゴリ』
何だろう店から音がしている。そういえば昨日もそんな音がしていたかもしれない。だから気になって立ち止まったのか。
あれ、何だろう扉に何かある。
……お品書きが扉に貼り付けられていた。扉に手を掛けた。
力を入れなくても扉はスーと開いた……嬉しい。昨日言った事をしていてくれていた。
つかさ「こんにちは〜」
『ゴリゴリ』
店に入ると更に大きな音、何かが擦れているような音。音のする方を見た。するとお爺さんが座って何かをしていた。
つかさ「何をしているの?」
お爺さんは石臼をゆっくり回していた。石と石の隙間から白い粉が零れていく。
老人「蕎麦粉を挽いている……」
つかさ「もしかして、昨日、お蕎麦食べたいって言ったから?」
老人「蕎麦屋だから当たり前だろう」
このお爺さん、面白いかも……それなら。
つかさ「お品書きが外に出ていました、扉も直ってる、昨日、私が言った……」
老人「暇だからやっただけだ……少し黙っていてくれ、気が散る」
本当はそうじゃないのは分った。暇なら私と会う前だってそうだったはず。
私は椅子に座った。
『ゴリゴリ』
石と石が擦れる音、蕎麦の実が潰れる音……目を閉じてその音を聞き入ってしまった。


746 :幻想 5/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:38:55.58 ID:dHJNhOn80
 石臼の音が止まった。目を開けてお爺さんを見ると石臼で挽いた粉を篩いにかけていた。古いから落ちていく粉をボールに受けている。その粉を見て驚いた。
真っ白い色をしていた。私の良く見る蕎麦は茶色い。小麦粉を見ているみたいだった。
つかさ「真っ白……」
お爺さんは篩いにかけながら話した。
老人「これが本来の蕎麦だ、実の殻が黒っぽくしている……」
篩い終わるとボールの中に水を少し入れて手でかき回し始めた。水は少しずつ、すこしずつ入れていく……体全体を使って粉を押さえつけて、気合が入っている。その時のお爺さんの
顔が印象に残った。蕎麦粉が固まりだしてきた。そしてボールに一個の大きな粘土みたいな塊が出来た。その塊を台の上に置いた。手のひらで塊を押さえつけて
平らにすると、棒を取り出した。その棒で平らになった塊を伸ばし始めた。ある程度延ばすと棒に巻きつけてコロコロと転がしていった。
素早い手つきに目が追いついていかない。あっと言う間に蕎麦麺は台一杯に広がった。それを何段にも折り返して小さく畳んだ。木で出来た板で折り畳んだ蕎麦麺を挟みこみ
大きな包丁でリズムよく切っていく。
『トントントン……』
細く、同じ幅でどんどん切られていく、私の知っている蕎麦だ。
全て切り終わると、お釜いっぱいに沸騰したお湯の中に豪快に放り込んだ。お湯の中でお蕎麦が踊っている。お爺さんはそれを楽しそうに見ているみたいだった。
暫くすると、時計も何も見ていないのに、何の迷いも無く笊をお釜の中に入れて蕎麦を全て掬い上げた。
素早く隣の冷水が溜まっている桶の中に笊ごと蕎麦を沈める……蛇口を捻って水を全開に出して桶の中に入れた。手を桶の中に入れて素早くかき回す。
そして水を止めて笊を出した。手を押し付けて蕎麦の水を切った……
お爺さんは蒸篭を持ち出し、水を切った蕎麦を盛り付けた。徳利の中にそばつゆを入れて私の前に出した。お爺さんは何も言わずまず食べろと言いたげな目で私を見ている。自信満々。
蕎麦が出来る工程を全て見たのは初めてだった。盛り付けられた蕎麦を改めて見た。
つかさ「いただきます」
箸で蕎麦を一掴み、そばつゆを付けて口に入れた。
お蕎麦の香りが口いっぱいにひろがった。その香りが鼻から抜けるくらいだった。
つかさ「美味しい、美味しいよ」
山盛りに盛られたお蕎麦をあっと言う間に食べてしまった。
お爺さんはそんなのは当然のような顔をしていた。こんなに美味しいのにお客さんが来ないのかな。やっぱりお品書きがあっても値段が付いていないと怪しがって店に入ろうとしないのかも。
その時だった。扉が開いた。そこにはサラリーマン風の男性が立っていた。
つかさ・老人「いらっしゃい!!」
ほぼ同時だった。私とお爺さんは顔を見合わせた。
つかさ・老人「ふふふ、はははは」
私達は笑った。サラリーマン風の男性は不思議そうに私達を見ていた。


『キーンコーンカーン』
チャイムが校舎中に響き渡った。
放課後、私は忙しく帰りの準備をしていた。こなちゃんがじっと私を見ている。
こなた「つかさ、そんなに急いで帰って、何かしてるの、最近はかがみと一緒に帰らないし……かがみを待たないの?」
そういえばこなちゃんやゆきちゃんとも最近一緒に帰っていない。今日は学級委員会でお姉ちゃん達は会議室に行っている。
つかさ「うん、ちょっとね……」
こなちゃんは席を立ち私に近づいてきた。
こなた「……なに、なに、ちょっとって、話せない事なの?」
興味津々だった。あの時のお姉ちゃんみたい。
つかさ「アルバイトをちょっとね……」
こなた「アルバイト、アルバイトだって、つかさが?」
私は頷いた。
こなた「つかさをよく雇った人がいるもんだ、どんなバイトなの?」
つかさ「……飲食業……」
こなた「へぇ〜それならつかさらしいや……バイトなんかして、何か欲しいものでもあるの?」
つかさ「うんん、特にないよ、私もこなちゃんみたいに働いてみようかな……なんてね」
こなちゃんはちょっと照れていた。腕時計を見た。いけないバスの時間がもうすぐ。
つかさ「もう時間、それじゃ明日ね」
こなた「バイバイ」
こなちゃんは手を振って送った。

747 :幻想 6/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:40:28.30 ID:dHJNhOn80
 あれから私はあのお蕎麦屋さんでアルバイトをするようになった。少しずつだけどお客さんが増えてくるのが楽しい。あんな美味しいお蕎麦が売れないなんて絶対におかしい。
と言うより、出来れば自分でも蕎麦を打てるようになりたかった。皆に美味しいお蕎麦を食べさせたかったから……
そう思ったから、ダメ元でお爺さんに頼んでみた。意外にお爺さんは二つ返事で頷いてくれた。もうお店で働くようになって二週間が過ぎようとしていた。
でも、あの頑固なお爺さん、そう簡単に教えてくれない。今は石臼で粉を挽いているだけ……それでもあの石臼で挽く時の音がとても心が落ち着く。

 店の前に着いた。またお品書きが傾いて着いている。あのお爺さんはこうゆう所が無頓着。まるで機械のように正確に蕎麦を打つ姿からは想像も出来ない。
お品書きの傾きを直すのが私の最初の仕事。
つかさ「これでよし!」
扉を開けた。
つかさ「こんにちは〜」
老人「遅いぞ、さっさと着替えろ」
つかさ「は〜い」
遅いと言っても平日だとこの時間に来るのが精一杯だった。更衣室で着替えた。
つかさ「お待たせしました……」
老人「蕎麦粉を頼む、少し多めに挽いてくれ」
つかさ「は〜い」
このままだと一週間前の倍の量になる。お客さんの量がどんどん増えているのが分る。石臼へ蕎麦の実を運んだ。
蕎麦の実を一掴み石臼の穴の中に入れてゆっくりと臼を回す。
『ゴリゴリ』
実が潰されていく。だけどまだ粉は直ぐには出てこない。音を聞いて……小さくなってきたら。もう一掴み……何度か入れると、溢れるように石の隙間から粉が出てくる。
それの繰り返し……
そういえば……お爺さんの名前聞いていない。このまま「お爺さん」じゃいくらなんでも失礼だよね。
つかさ「あの〜お名前は何ですか、今更なんですけど、まだ聞いていないので……」
臼を回しながら話した。お爺さんは何も言わず蕎麦打ちをしていた。聞こえなかったのかな。臼を止めた。そしてもう一度同じ質問をしようとした。
老人「止めてはダメだ……」
慌ててまた回し始めた。
老人「回し方が速い……もっと優しく回しなさい……」
つかさ「は、はい……」
臼の速度を遅くした。
老人「名前は……そのままでいい」
そうポツリと言った。

 蕎麦の実を全て粉にすると小休止。お爺さん、なんで名前を教えてくれないのかな。頑固とかそうゆう感じではなかった。何か寂しさを感じた。その理由はきっと教えてくれそうにない。
このお爺さんにどんな過去があるのかな。話したくないなら話さない方がいいよね。もうこの事を考えるのは止めよう。
そんなことより、どうかな。蕎麦の打ち方教えてくれるかな。怒鳴られちゃうかもしれない。でも、もう二週間もここで働いて冗談も言ったりする程打ち解けてきた。
言っても良いかも知れない。
つかさ「あの、突然ですみません……蕎麦の作り方、教えてくれませんか?」
お爺さんの動きが止まった。
老人「やっぱり、それが目的か……おまえも技術だけを盗もうとして近づいてくる族(やから)か……誰に頼まれた」
つかさ「誰って……私は誰からも頼まれていません……私は……」
老人「黙れ!!」
お爺さんは突然立ち上がった。
老人「出て行け!!!」
怒鳴ったと同時だった。お爺さんはフラフラと体が揺れ始めた。
つかさ「お爺さん?」
『ドサッ』
そのまま床に倒れてしまった。私はお爺さんに近づいた。どうしよう。
つかさ「だ、大丈夫ですか?」
何も反応がない。頭が真っ白になった。何をして良いか分らない。あたふたするだけだった。扉が開いた。
「回覧板です……お爺さん?」
回覧板を持ったおばさんが入ってきた。近所の人だ。
つかさ「突然倒れちゃったの……どうしよう……」
おばさんは溜め息をついた。
おばさん「まったく、またかい、ちゃんと薬を飲まないからからだよ」
おばさんはお爺さんに近づき肩を持って起こした。
おばさん「部屋まで運ぶよ、手伝っておくれ」
つかさ「は、はい……」
私はお爺さんの足を持って部屋まで運んだ。部屋の中央にお爺さんを寝かすと、おばさんはまるで自分の部屋の様にタンスを開けた。そこから袋を出した。薬の袋だ。
おばさん「意識が戻ったらこの薬を飲ませて……全く、ちゃんと飲んでいないからこうなるんだよ、あんたも言ってやって」
つかさ「は、はい……」
おばさんから袋を受け取った。おばさんは回覧板をテーブルに置くと店を出て行った。
袋を見ると血圧のお薬みたいだった。きっと怒ったから頭に血がのぼって倒れたに違いない。

748 :幻想 7/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:42:02.33 ID:dHJNhOn80
 お爺さんを見た。静かに寝ている。大丈夫みたいだった。でもお店は私だけではどうにもならない。扉にかけてあったお品書きとのれんを店の中に仕舞った。
厨房では釜に火がかけたままになっている。今日はもう終わりだよね。火を止めた。そして、更衣室で学生服に着替えた。
でもまだ帰る訳にはいかない。少なくともお爺さんの意識が戻るまでは……
このままじっとしているのも気が引ける。何かお爺さんに作ってあげよう……お菓子なら作れるけど、お爺さんは何が好きなのかな……
蕎麦掻きを思い出した。そうだ。蕎麦掻きを作ろう。そばつゆはお鍋にあるし、蕎麦粉もある。
作ったことないけど。作り方はお爺さんの作っているのを見てなんとなく分る。やってみよう。
お茶碗に蕎麦粉を入れて、お湯を少しずついれて……お箸で掻き回す……掻き回す……
蕎麦粉が固まってきて、粘りが出てきて箸が重くなってきた。お爺さん随分時間を掛けて掻き回していた。こんな時間ではまだ足りない。何度も何度も掻き回した。
腕が重くなっても掻き回し続けた……

「う〜ん」
うめき声と共にお爺さんの意識が戻った。
つかさ「気が付いたね、大丈夫?」
私は水とお薬をお爺さんの目の前に差し出した。
老人「お前が、つかさがここまで運んだのか」
つかさ「うんん、近所のおばさんが来てくれて、一緒にここまで」
お爺さんは黙ってお薬と水を受け取り、薬を飲んだ。
つかさ「お爺さんが倒れたから、店を閉めました……厨房のお釜も火を止めてあります」
お爺さんは黙ったまま、また横になった。
つかさ「ごめんなさい、やっぱり私にはアルバイトは無理でした……最後に蕎麦掻き作ったので食べて下さい……」
蕎麦掻きの入ったお椀をテーブルの上に置いた。
つかさ「あ、おばさんが回覧板を置いていきましたので……さようなら……」
私は店を出ようとした。
老人「待ちなさい……」
私は立ち止まった。振り向くとお爺さんは起きてお椀を持っていた。箸で蕎麦掻きを挟んで口の中に入れた。
老人「……良く掻き回している……初めてにしては上出来だ」
つかさ「おつゆはお爺さんのです」
老人「汁なんて簡単なもんだ、見ただけでここまで出来るならもう少しここで働いてくれ」
つかさ「で、でも、私はお爺さんの技を盗もうとして……」
老人「二人で運んだ……ここまで運んだのをわざわざ正直に言う人が嘘を言うはずがない……それに蕎麦打ちなんて誰でも出来る、そんな大それた技じゃないよ」
つかさ「それじゃ、ここに居ていいの?」
お爺さんは頷いた。
つかさ「ありがとう」
私は飛び上がって喜んだ。
老人「どちらにしても今日はもう閉店だ、帰りなさい……お疲れ様」
つかさ「お疲れ様でした……」

 お爺さんが倒れたので帰宅はアルバイトをしてから一番早い時間になった。
つかさ「ただいま〜」
玄関に入るとお姉ちゃんがまるで私が帰るのを待っていたみたいに立っていた。何も言わず、私の入るのを妨げるように立ちはだかっていた。
かがみ「つかさ……私の部屋に来なさい」
重く圧し掛かるような声だった。顔も今までのお姉ちゃんとは違う、今まで見たことのないような険しい顔だった。お姉ちゃんはそのまま階段を上がって自分の部屋に入った。
何だろう、私は自分の部屋に鞄を置くと着替えるのを止めてそのままお姉ちゃんの部屋に入った。
つかさ「なあに、何かあったの?」
お姉ちゃんは玄関に立っていたときと同じ顔のままだった。
かがみ「あんた、アルバイトやっているらしいわね……」
また思い声……
つかさ「あ、こなちゃんから聞いたんだね、うん、二週間前から……」
かがみ「こなたに話して私には話さないつもりだったの」
私が話しているのに割り込んで来た。ちょっと感情的になっている。
つかさ「そ、そんなつもりはなかったよ、あの時は準備が……」
かがみ「準備って何の準備よ、アルバイトを何で私に隠さなきゃいけないのよ」
何で、何で怒っているの、分らない……
つかさ「皆を誘って食べさせたかったけど、だけど、店主のお爺さんが頑固で……もっと打ち解けてから……」
かがみ「何訳の分らない事を、もういいわ、一人で勝手にすればいい」
つかさ「お姉ちゃん、聞いて……内緒にするつもりは……」
かがみ「もういいって言ってるでしょ!!」
お姉ちゃんは部屋を出て行ってしまった。
何で、どうして、頭の中でそれだけが響いていた。まだお姉ちゃんが怒っている理由が分からない。アルバイトの事を黙っていたから。先にこなちゃんに話してしまったから。
でも、こなちゃんに先に話したって、それで怒るなんて……あ、ここはお姉ちゃんの部屋だった。いつまでも居るとまた怒られそう、とりあえず自分の部屋に戻ろう……

749 :幻想 8/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:44:12.30 ID:dHJNhOn80
『コンコン、コンコン』
お姉ちゃん、開けて……
夕食後も、居間で一緒に居る時も、お姉ちゃんは口を利いてくれなかった。そして、こうしてお姉ちゃんの部屋に入ろうとしても入れてくれない。
まつり「なにをしてるの?」
つかさ「まつりお姉ちゃん……」
まつり「そういえばさっきからかがみの様子が変だったかな……」
私がお姉ちゃんの部屋の前に居るのに気が付いたまつりお姉ちゃん、普段ならそのまま通り過ぎて自分の部屋に行ってしまう。
つかさ「突然怒り出しちゃって……」
まつり「あれれ、かがみとつかさが喧嘩……珍しい事もあるな、明日は雨か……」
大き目を更に大きくして驚いた。
つかさ「話を聞いてくれないの……」
まつりお姉ちゃんは、自分の胸をポンっと叩いた。
まつり「私に任せなさい!」
凄い自信たっぷりの顔だった。まつりお姉ちゃんはノックもせずドアを豪快に開けた。
かがみ「ちょ、なによ、いきなり、ノックもしないで」
突然の出来事に驚くお姉ちゃんだった。
まつり「なぜつかさを無視するの、部屋の外で泣きそうじゃない!」
何時に無く強い口調でお姉ちゃんに言い寄った。
かがみ「姉さんには関係ないわよ、放っておいて」
お姉ちゃんはまつりお姉ちゃんの陰に居る私に気が付いた。
かがみ「つかさ、姉さんを使うなんて卑怯な手を使うわね」
つかさ「わ、私は……」
まつり「卑怯も何もないでしょ、かがみが聞く耳を持たないからでしょ」
かがみ「嘘つきつかさなんかと話す気にもならないわ、二人とも出て行って」
嘘つき……私がいつお姉ちゃんに嘘なんかついたの……もしかして、お姉ちゃんが私に彼氏が出来たって言った事……
私はまつりお姉ちゃんの前に出た。
つかさ「あれはお姉ちゃんが勘違いしていたから、私は否定したよ……」
かがみ「勘違いさせたのはつかさでしょうに」
つかさ「だから、否定したのに……勝手にお姉ちゃんが勘違いしたから」
かがみ「勝手……勝手に、言ってくれたわね、思わせぶりな態度を取ったのは誰なのよ」
お姉ちゃんは立ち上がった。透かさずまつりお姉ちゃんが私達の間に割り込んだ。
まつり「ストップ!!!  まった、待った、二人とも落ち着きなさい……これじゃ話しにならないでしょ」
お姉ちゃんがこんなに分からず屋だったとは思わなかった。まつりお姉ちゃんとよく喧嘩していたけど。まつりお姉ちゃんの気持ちが分ったような気がした。
かがみ「勝手になんて言われて黙っていられないわ、姉さんそこを退いて」
つかさ「だって、勝手だもん」
まつり「バカ、つかさも煽るな……もう、いい加減にしなさい」
まつりお姉ちゃんは私の腕を掴んで部屋から出た。お姉ちゃんは勢いよくドアを閉めてしまった。まつりお姉ちゃんは私の手を引き、まつりお姉ちゃんの部屋まで連れて行かれた。

まつりお姉ちゃんの部屋に入ると手を放してくれた。
まつり「かがみの挑発につかさまで乗ることないでしょ、あれじゃ喧嘩になるだけだよ」
その言葉に我に返った。
つかさ「ど、どうしよう、お姉ちゃんともう話すことが出来ないかも……」
まつりお姉ちゃんは深い溜め息をついた。
まつり「ふぅ〜あんた達、喧嘩なれしていないね……と言うより、さっきの、初めてかがみとつかさの喧嘩を見た気がする、高校生になるまで喧嘩しなかっただけでも奇跡だ」
つかさ「そういえば……喧嘩なんかしたこと無い」
まつり「それより何でこうなったの?」
つかさ「えっと……」
私はアルバイトの事を話した。


750 :幻想 9/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:45:26.29 ID:dHJNhOn80
まつり「へ〜、お蕎麦屋さんね……つかさはお菓子作りが好きじゃなかった?」
つかさ「そうだけど……成り行きって言うのかな……」
お蕎麦作りに興味を持ったのは成り行きと言う他はなかった。
まつり「そのお爺さんが頑固だって言うのは分った、そんなに頑固なら友達や私達を連れてきたら追い返されるかもしれないと思ったのも何となく分る……
    つかさは小さい頃から裏表がなかった……普段から秘密なんか作らなかったから、秘密をもったつかさにかがみが動揺しちゃったのかもしれない」
つかさ「秘密……別に秘密にするつもりは……」
まつり「かがみも思い込みが激しいから、ああ成ると当分は手がつけられない。ほとぼりが冷めてから話すこと、無理に話そうとするとさっきの様になるから」
まつりお姉ちゃんは何度もお姉ちゃんと喧嘩しているから、仲直りの方法も知っている、私とお姉ちゃんを直ぐに引き離したのもその為だったのかも。
つかさ「ありがとう、そうしてみるよ、いつもお姉ちゃんと、まつりお姉ちゃんが喧嘩していたけど……その気持ちが分ったような気がした」
まつり「ふ〜ん」
まつりお姉ちゃんは私をじっと見た。
つかあ「何?」
まつり「つかさも自分を主張するようになったね、少し見直したよ、アルバイトも悪くない……それとも、頑固なお爺さんの影響かな」
まつりお姉ちゃんは笑った。その笑顔をみると私もお姉ちゃんと仲直りができそうな気がした。

 次の日、何となく気が重い。まつりお姉ちゃんと話したけれど、やっぱり朝からお姉ちゃんと会い難かった。登校は別々にする事になってしまった。
つかさ「おはよ〜」
みゆき「おはようございます……」
ゆきちゃんは教室に入ってきた私周りをきょろきょろと見回した。
つかさ「どうしたの?」
みゆき「かがみさんはどうされたのですか?」
いつもならお姉ちゃんは私と一緒にクラスに入ってゆきちゃんと少しお話してから自分のクラスに行く。
つかさ「お姉ちゃんは……」
私の顔を見てゆきちゃんは言った。
みゆき「つかささん、何かあったのですか……元気ないですね……」
つかさ「あのね、昨日なんだけど……」
私は昨日の出来事を話した。
みゆき「かがみさんと喧嘩なされたのですか……」
つかさ「うん……まつりお姉ちゃんが言うには今まで喧嘩しなかったのが奇跡だって……」
みゆき「私は一人っ子なのでその辺りはよく分りませんが……喧嘩できる兄弟、姉妹が居るというのは羨ましいです、特につかささんは三人もお姉ちゃんが居るのですから」
私は自分の席に鞄を置いた。そして席に着いた。するとこなちゃんが教室に入ってきた。とぼとぼと元気のない歩き方だった。私と目を合わせないようにしているみたいだった。
私とゆきちゃんはこなちゃんに近づいた。こんなに沈んでいるこなちゃんを見たのは初めてだった。席に座ると頭を抱ええていた。
つかさ「おはよう」
私の声にこなちゃんはゆっくりと頭を上げて私を見た。
こなた「つ、つかさ……昨日のかがみなんだけど……何かなかった?」
つかさ「昨日ね、初めてお姉ちゃんと喧嘩しちゃったよ」
こなた「やっぱり……アルバイトの話しになったら突然怒り出して……もしかしてアルバイトの話しはしちゃいけなかった?」
半分涙目になっていたこなちゃんだった。
つかさ「うんん、あんなに成るなんて思ってもいなかったから、内緒にしてって言わなかったし、しょうがないよ」
こなた「それで、仲直りはできたの?」
私は首を横に振った。
こなた「そうだよね……参ったな、私もどうすればいいか分らないよ、ごめん……」
つかさ「仲直りには時間がかかりそうだけど、アルバイトはお姉ちゃんと喧嘩するために始めたわけじゃないし、あまり気にしないで」
みゆき「そのアルバイトはどんなものなのですか?」
つかさ「お蕎麦屋さん」
こなた・みゆき「お蕎麦屋さん!?」
その時、チャイムが鳴った。それと同時に黒井先生が入ってきた。私達は慌てて席に戻った。


751 :幻想 10/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:47:12.33 ID:dHJNhOn80
 お昼休みが来た。
昼休までの何度かの休みで私はこなちゃんとゆきちゃんにお蕎麦屋さんのお爺さんのお話をした。こなちゃんはお弁当を取り出すと立ち上がった。
つかさ「どこへ行くの?」
こなた「もちろん、かがみのクラスだよ」
確かに今日、お姉ちゃんはお昼を食べに来てくれそうにない。
つかさ「でも……今日は止めておいた方がいいと思うけど」
こなた「昨日の今日だし……つかさと喧嘩するくらい機嫌が悪いのも分ってる、でも、つかさは少なくとも悪いとは思わない、だから、私から言えばかがみはきっと……」
つかさ「まつりお姉ちゃんも時間がかかるって言ってるし、ここで一緒に食べようよ」
こなちゃんは暫く考え込んだ。
こなた「やっぱり行ってくるよ」
そう言うと小走りにお姉ちゃんの教室に向かった。入れ替わるようにゆきちゃんがお手洗いから戻ってきた。
みゆき「お待たせしました……泉さんは?」
つかさ「お姉ちゃんの教室にお昼を食べに行ったよ」
ゆきちゃんは心配そうな顔になった。
みゆき「二時限目の休憩時間、トイレでかがみさんと会ったのですが、とてもお話しするような状態ではありませんでした、なんと言うのか……近寄り難いと言いましょうか」
つかさ「なんで……私は止めたのに……」
みゆき「かがみさんにつかささんのアルバイトの話をした責任を取ろうとしているのでしょう」
つかさ「そんな……その話でお姉ちゃんが怒るなんて誰も分らないよ、それなのにこなちゃんは……」
ゆきちゃんは鞄からお弁当を取り出した。
みゆき「今は待ちましょう」
ゆきちゃんは微笑んだ。その笑顔に釣られて私もお弁当を用意した。

 お弁当を食べ始めて暫く経った。こなちゃんが戻ってきた。まだお昼休みは半分も終わっていない。こなちゃん自分の席に戻ってお弁当を片付けていた。
私とゆきちゃんは顔を見合わせた。いつもなら真っ先に私達の所に来てお話しするはずなのに。私はこなちゃんの席に行った。
つかさ「どうしたの、もう帰って来ちゃって、お姉ちゃんと何かあったの?」
こなちゃんはお弁当を仕舞いながら話した。
こなた「私がかがみの所に行ったら……つかさに言われて来たのかって言われて……違うよって答えたたら……みさきち達と一緒の席で……
    でも……私がつかさの話をした途端に、帰れ……それから先は全くダメだった、話しすら聞いてくれない……諦めて帰ってきた」
つかさ「そ、そうなんだ、もういいよ、ありがとう、後は私とお姉ちゃんの問題だから」
こなた「そう言ってくれるんだ、でも、かがみは、つかさの見方なら絶交だって……」
それからこなちゃんは何も言わなくなった。
つかさ「こなちゃんは関係ないのに、なんで絶交なの、そんなのないよ」
居ても立ってもいられなくなった。私は教室を出ようとした。
みゆき「待ってください、つかささんは感情的になられています、今行かれては、きっとまた喧嘩になってしまいます、それだけは避けなければなりません」
それは分っていた。分っているけど。こなちゃんの泣きそうな顔を見ると何もしないなんて出来ない。
つかさ「こなちゃんが絶交なんて絶対におかしいよ、取り消してもらう」
ゆきちゃんの制止を振り切った。

752 :幻想 11/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:49:08.98 ID:dHJNhOn80
 お姉ちゃんの教室に入った。普通なら入り口で誰かに呼んでもらう。そんな事なんかしていられない。直接お姉ちゃんに言いたかった。
お姉ちゃんは日下部さんと峰岸さんと一緒だった。私はお姉ちゃんの目の前に立った。
かがみ「ほら、やっぱり来た、こなたを使って言い包めようなんて、なんて卑怯なの、今度はみゆきを使うつもり」
お姉ちゃんの言葉とは思えなかった。
つかさ「お姉ちゃん、それ、本気で言ってるの、こなちゃんは自分で行くって言ったんだよ、ゆきちゃんも心配してるよ」
かがみ「……な、なんでみゆきが心配しなきゃいけないのよ、関係ないでしょ」
つかさ「関係ないこなちゃんを巻き込んだのはお姉ちゃんの方だよ、何で昨日から怒っているの、分らないよ」
お姉ちゃんは立ち上がった。
お姉ちゃんは時々怒る。怒るけど、何故怒ったかは直ぐに分った。だから今まで喧嘩にならなかったのかもしれない。
今のお姉ちゃんの気持ちが分らない、理解できない。
かがみ「分らないなら分らないでいい、もう私に話しかけないで」
日下部さんと峰岸さんも立ち上がった。
みさお「お、おい、柊、もうそのくらいに……」
あやの「妹ちゃんも、放課後ゆっくり話そう……」
お姉ちゃんは私を睨み付けると教室を出て行ってしまった。
つかさ「お姉ちゃん、どうして……」
みさお「それにしても、柊と、柊の妹が喧嘩なんて、初めて見たよ」
あやの「そうね……仲がいい場面しか思い浮かばない」
つかさ「ごめんなさい……」
みさお「別に柊の妹が謝る必要なんかない、柊のやつ最近おかしかったし、いい薬だ」
つかさ「おかしかった……いつから?」
みさお「あやの、2週間くらい前だったよな?」
あやの「そうね……」
それは、私がアルバイトを始めた時と同じだった。
みさお「なんだ、柊の妹、心当たりあるのか?」
私の表情を見て日下部さんは言った。
つかさ「……お蕎麦屋さんでアルバイトする事になった時と同じ……」
みさお・あやの「お蕎麦屋さん!?」
うわ、こなちゃんとゆきちゃんと同じ反応をした。私がお蕎麦屋さんでアルバイトするのがそんなに驚くことなのかな。
つかさ「そんなに珍しい?」
みさお「珍しいと言えば、珍しいけど……なんでお蕎麦屋さんなんかに」
つかさ「そのお蕎麦屋さんの店主のお爺さんがね……」
私は夢中になってお蕎麦屋さんのお話を二人にしていた。

753 :幻想 12/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:50:17.13 ID:dHJNhOn80
みさお「お、眼鏡ちゃんがお呼びみたいだ」
教室の外の方を見てみるとゆきちゃんが心配そうに私を見ていた。時計を見るともうお昼休みが終わろうとしていた。
つかさ「あ、私ったら、夢中になっちゃって」
あやの「うんん、面白いお話だった、今度そのお蕎麦屋さんに行ってみたい」
みさお「そうだな、そういえばこんなに柊の妹と話した事なかったよな……何でだろう」
そういえばそうだった。お姉ちゃんのお友達だから遠慮していたのかな。分らない。
つかさ「それじゃ、戻るね……お姉ちゃんの事は」
みさお「任せなさい、後で言っておくから、途中から逃げるなって、やっぱりちゃんと話さないと」
つかさ「ありがとう」
私はお姉ちゃんの教室を出た。自分の教室に戻りながらゆきちゃんとお話をした。
みゆき「戻ってこなかったので、様子を見に来たのですが、大丈夫でしたか」
つかさ「お姉ちゃん、途中で席を外しちゃって……あまり話せなかった」
みゆき「そうですか、委員会でかがみさんは話しの途中で席を外した事は無かったのですが……つかささんに話せない、話したくないものがあるのでは?」
つかさ「それって何だろう」
みゆき「私にも分りません……」
自分の教室に着くとこなちゃんが駆け寄ってきた。
こなた「かがみは、どうだった?」
つかさ「お姉ちゃん、私がこなちゃんを使わせたと思ってる、私は否定したけど、余計に怒っちゃった……」
こなた「つかさがそんな事なんかしないくらいかがみなら分りそうな気がするけど、どうしちゃったの、もうかがみが分らないよ」
こなちゃんは悔しいような、悲しいような顔だった。
みゆき「放課後はお蕎麦屋さんに行くのですか?」
つかさ「そのつもりだけど」
ゆきちゃんはちょっと言い難かったのか、少し間が開いた。
みゆき「一度休んでみてはいかがですか、それでかがみさんとじっくり話されては?」
やっと蕎麦打ちを教えてもらえるまでいったのに、これで休んだりしたら……
つかさ「ちょっとそれは出来ない、あと一ヶ月くらいは休みたくない……」
こなた「そうだよ、みゆきさんの言う通りだよ、かがみがあのままでいいの」
あのままのお姉ちゃん……
『キンーンコンカーン』
昼休みの終わりを告げるチャイムが校舎に響いた。先生が廊下を渡って私達のクラスに近づいてきた。
クラスの皆は一斉に自分の席に戻った。

 話すなら放課後しかない。家だと部屋に入られちゃうと、話す機会がなくなってしまう。お蕎麦屋さんには携帯で今日は休むって言えばなんとかなるかも。
こなちゃんじゃないけど、このままお姉ちゃんと絶交にまでになったら。うんん、少なくともこなちゃんとお姉ちゃんの絶交はなんとかしないといけない。
放課後、休みの電話をかけようとした時だった。ゆきちゃんが教室に入ってきた。
みゆき「すみません、かがみさんはもう既に帰ってしまったそうです……」
携帯を操作する動作が止まった。こなちゃんも驚いていた。
みゆき「本当にすみません、もっと早くかがみさんに伝えていればこのような事にならなかったのですかが……」
お姉ちゃんは私達が放課後会おうとしているのを知っていたのかな。どっちにしても学校に居ないのなら家に帰ってから私自身でお姉ちゃんと話さないと。
つかさ「もういいよ、ありがとう、やっぱり、私がなんとかしないとダメだよね、アルバイトから帰ったらお姉ちゃんと話すよ」
こなた「アルバイトって、お蕎麦屋さんに行くつもりなの?」
つかさ「うん、もう後は時間の問題だから、アルバイトが終わってからでも……」
こなた「つかさ、かがみとアルバイト、どっちが大事なの」
こなちゃんの態度が急に変わった。怒っているのが分る。
つかさ「どっちって、比べられないよ、」
こなた「かがみが、自分のお姉さんが変わって何とも思わないの、私なんか絶交だって言われた、」
言葉に詰まった。どうして良いか分らない。そんな私を見てこなちゃんは痺れを切らせた。
こなた「これからかがみの所に行く、話してくるから、つかさはアルバイトでも何でも行ってかがみに嫌われちゃえばいい!!」
つかさ「こ、こなちゃん……」
こなちゃんは全速力で教室を飛び出して行った。
みゆき「泉さんはかがみさんに絶交と言われてよほどショックだったに違いありません」
つかさ「どうしよう……」
みゆき「泉さんはかがみさんと会うはずです、これから行っても邪魔になるだけしょう、つかささんはアルバイトに行ってその後からでも良いのではないでしょうか」
つかさ「ゆきちゃんは?」
みゆき「私は……今のかがみさんに何も出来ません、明日、学級委員会があるのでその時に話そうと思っていました……泉さんから言わせれば遅すぎるのかもしれません……」
ゆきちゃんはうな垂れてしまった。妹の私が何も出来ないのに、友人でも他人のゆきちゃん達に何かを期待するのは間違っているのかもしれない。
つかさ「とりあえず帰ったらお姉ちゃんと話してみる、また明日ね」
みゆき「また、明日……」

754 :幻想 13/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:51:21.15 ID:dHJNhOn80
『かがみとアルバイトどっちが大事』
こなちゃんの言葉が頭から離れない。お姉ちゃんは私を避けている。こなちゃんも私を嫌いになってきているみたい……こなちゃんとお姉ちゃんも……ゆきちゃんは。ゆきちゃんまでも。
やだ。そんなのいやだ。なんで。私がアルバイトしただけでこんなになっちゃうの。こなちゃんだってアルバイトをしているのに。……分らないよ。
誰も教えてくれない。やっぱり私はまだアルバイトなんかしてはいけなかった。そんな気さえしてきた。
気付くと、いつの間にかお蕎麦屋さんの前に立っていた。お品書きは相変わらず傾いて立て掛けられていた。いつものように真っ直ぐに立て掛けなおす……
今日、最後のアルバイトにしようかな。お爺さん、せっかく蕎麦打ちを教えてくれるって言ってくれたのに。まだ一ヶ月も働いていないのに……でも、もうこれ以上続けられない。

扉を開けた。
つかさ「こんにちは」
老人「遅いぞ、さっさと着替えろ」
威勢のいい声。この声を聞くのも今日が最後かもしれない。
着替え終わり、厨房に入ると今日使う蕎麦の実は全て粉にしてあった。そしてボールに蕎麦粉が入っていた。
老人「二週間も粉挽きやっていたからもう良いだろう、最初にこの蕎麦粉を固めてみなさい、方法は……」
つかさ「方法は見ていて分りました、やってみます」
お爺さんは黙るとボールを私に渡した。
お爺さんの蕎麦打ちを何度も見て何となく分る。蕎麦掻きの時と同じ。それに小麦を使った料理なら何度か作ったことがあるし、上手くできた。その要領で作れば良い。
手を軽く水に濡らして……水を少しずつボールに入れて捏ねていけばいい。私だってこのくらい出来る。蕎麦粉は水を含んで徐々に固まっていく……
……
……
……
あれ……おかしいな。蕎麦粉が全く固まらない。力が足りないのかな。力を込めて蕎麦粉を押し付けた。まるで乾いた砂のようにすぐに崩れてしまった。
水が足りないのか。そうだよ。
ボールに入れる水の量を少し増やした。今度は固まってきた。やっぱり。よ〜し。一気に練り上げるぞ。固まった蕎麦粉を掴むとボロボロとまた崩れ始めた。
つかさ「そんな〜」
思わず声が出た。お爺さんがじっと見ている。出来るって言ったからには早く固めないと……
何度やっても蕎麦粉は固まらなかった。気ばかりが焦っていく。固めたはずなのに粉は直ぐに離れてしまう。分らない。どうして。
何度も、何度も、粉を抑えても固まらない。バラバラと離れてしまう。まるで今の私とお姉ちゃんみたい。時間ばかりが過ぎていく。
……
……
ボールの中でウサギの糞くらいの塊が出来るだけだった。私は機械みたいに蕎麦粉を捏ね続けた……固まらない。言う事を聞いてくれない。額から汗が出てきた。
蕎麦掻きは見ただけで出来たのに。水の量がまだ足りないのかな。思い切って水をボールに入れた……水が粉から溢れてきてしまった。
そして泥水のようになってしまった……失敗だ。
つかさ「どうして……固まらないの……」
……なぜか目から涙が出てきた。
老人「蕎麦に嫌われたな……」
ぽつりと言うとお爺さんは、私の使っていたボールを取り泥水のようになった蕎麦粉を捨てた。
つかさ「なぜ、なぜなの」
お爺さんのやっていた通りにした。水だって最初はお爺さんと同じ量を入れた。蕎麦粉の一粒、一粒が繋がろうとしなかった。
老人「蕎麦粉に、小麦粉の扱いをしてどうする……蕎麦粉は蕎麦粉だ、蕎麦は小麦みたいに繋がり易くはない……もう分っていると思ったがな」
お爺さんはボールを洗い始めた。
私って何も分ってない。もう、ここに居ても意味はないよね……
つかさ「短い間でしたけど、お世話になりました」
お爺さんにお辞儀をした。
お爺さんは封筒をカウンターに置いた。
老人「二週間分の給料だ」
そんな物受け取れない。私は更衣室に入ろうとした。
老人「涙がでたのならもう分っている筈なのに、残念だ、また何時でも来なさい……お品書きをいつも直してくれてありがとう」


755 :幻想 14/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:52:30.96 ID:dHJNhOn80
 家に着くとお母さんが玄関に立っていた。
みき「おかえり、さっき泉さんが来ていたけど帰ったわよ、会わなかった?」
私は首を横に振った。
みき「そう……夕食でも食べて行きなさいって言ったのだけど……どうしたの、元気ないけど、気分でも悪い?」
つかさ「うんん、なんでもない……なんでもないよ」
みき「それなら良いけど……かがみと泉さんも同じようだった、喧嘩でもしているわけじゃないでしょうね」
つかさ「だから、なんでもないって!!」
私は自分の部屋に駆け込んだ。鞄を放り投げて。そのままベッドに倒れこんだ。
もうお姉ちゃんもこなちゃんも皆別れてしまう。あの蕎麦粉みたいに何度捏ねてもやってもくっつかない。何をやってもだめ……私達と同じ。
これから三年生になって。みんな別々のクラスになって……皆バラバラになって……淋しい卒業式……
そんなの嫌……
すぐ隣の部屋にいるお姉ちゃんにすら何も出来ないなんて。アルバイトなんかしなければよかった。

 遠くから子供達のはしゃぐ声が聞こえる。もう外は夕方か……学校からの帰り道かな。ときより笑い声も聞こえる。
そういえば小学校の頃だっけ、風邪をひいて休んだ時、こんな音が聞こえてきて外に出で遊びたいな、なんて思ったりした。そんな時、お姉ちゃんが来てくれて……
涙がまた出てきた。
いままで仲良く出来たのは私達が子供だったから……損得を考えたりしなくて済んだから……仲良く出来た。
もう私達は高校生……もう取り戻せない物があるから涙が出てくる。
取り戻せない……あれ……
蕎麦粉を固めているとき何で私は泣いたのかな。初めてだから失敗するのは当たり前。違う……初めてじゃない。私は一度蕎麦粉を固めている。蕎麦掻き……
そうだよ。私は蕎麦掻きを作ってお爺さんにあげた。あの時は……お湯を使った。粘りが出るまで箸で掻き回した……。
あの時、直ぐに固まると思ったから、なかなか固まらないからどんどん水を入れちゃって……水を入れるのが早かった……小麦粉じゃない。お爺さんはそう言っていた。
固まるまで待てば良かった。分った。分ったよ。お爺さんの言っている意味が。今ならきっと蕎麦粉を固められる。
私はベッドから起き上がっていた。もう一度やってみたい。そう思った。
でも……私はもうアルバイトを辞めてしまった。うんん、もう一度、もう一度お爺さんに言えば……
私は立ち上がり、涙を拭った。お蕎麦屋さんに行こう。
私は家を飛び出した。

 駅を降りて学校へ行くバス停とは反対側へ向かって……そこにお蕎麦屋さんはあった。扉が開いてお爺さんが出てきた。のれんとお品書きを仕舞おうとしている。
もう店じまいをしている。まだ閉店には時間があるのに。
つかさ「お爺さん待って!!!」
私は走りながら叫んだ。お爺さんは私に気付いた。
老人「そんなに急いで、忘れ物でもしたのか、更衣室はまだ何も手をつけていないから見てくるといい」
つかさ「違う、違うの、分ったの!!」
老人「分った、何が?」
お爺さんは目を細めて考え込んだ。
つかさ「蕎麦粉の固め方が分ったよ、もっと時間をかけて水を入れる時間を遅らせればいいんでしょ?」
老人「何だ、そんな事を言いにわざわざ来たのか……」
そうだった。嬉しくてつい……
つかさ「お爺さん、もう一度雇っていただけませんか?」
私は深々と頭を下げた。すると、お爺さんはのれんを外しだした。
老人「つかさが帰ってから団体のお客さんが来てね、今日の分の蕎麦は無くなったから、店じまいする、つかさがダメにした粉は給料から引いておくぞ……それでいいなら明日来なさい」
つかさ「やったーありがとう!!」
私は思わずお爺さんに抱きついた。
老人「ば、ばかやろう、作業の邪魔だ、放せ!!」
つかさ「ご、ごめんなさい」
私は離れた。
つかさ「あ、あの、ちょっといいですか、明日なんだけど、もしかしたら私の友達と、姉を連れてきたのですけど……いいですか、来られるかどうか分らないけど」
老人「友達だろうと家族だろうと、客は客だ、好きにするがいい」
つかさ「ありがとう、それじゃ明日、放課後来ます」
老人「待ちなさい」
私は立ち止まった。
老人「蕎麦粉を固める時泣いていたが、固まらなかっただけが原因ではあるまい……」
つかさ「うん、あの蕎麦粉みたいに私のお姉ちゃんと友達がバラバラになろうとしていたの、だから……」
老人「そうか……来てくれるといいな、この店に」
つかさ「やれるだけのことをするだけ……」
老人「いい顔だ、失敗を懼れない自身に満ちている顔だ」
私はお爺さんに一礼すると。駅に向かって歩き出した。

756 :幻想 15/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:53:37.83 ID:dHJNhOn80
つかさ「ただいま〜♪」
玄関を勢いよく開けた。
みき「つかさ、何処に行っていたの……着替えもしないで」
お母さんが居間から出てきた。少し起こり気味だった。
つかさ「うん、ちょっとアルバイトの所まで」
みき「携帯かけても出ないから夕食はすませちゃったわよ、つかさの分は台所に置いてあるから食べなさい」
つかさ「ありがとう、後でだべるよ」
最初にする事はお姉ちゃんに会うこと。お姉ちゃんの部屋に向かうために階段を上がろうとした。
まつり「つかさ、いやに張り切っているけどどうしたのさ?」
つかさ「これからお姉ちゃんの所に行くところ」
まつり「お、またこの前みたいに、言い合いの喧嘩になりゃなきゃいいけど……」
言い合いの喧嘩。私もお姉ちゃんの言葉に反応して反発していた。だから固まらない。
つかさ「もうそれはないと思うよ、もう喧嘩なんて嫌だから」
まつり「そうだ、その調子」
まつりお姉ちゃんの励ましでまた勇気が湧いてきた。まつりお姉ちゃんは自分の部屋に行った。そして私は、お姉ちゃんの部屋の前にいる。
これからどうなるかな。また喧嘩になって、本当に絶交になるかもしれない。でも、このまま放っておいても絶交になっちゃう。それならやれる事をするだけ。
少なくとも私はお姉ちゃんと絶交はしたくないから。一回深呼吸をして心を落ち着かせた。

『コンコン』
つかさ「お姉ちゃん、入るよ」
ドアをノックしてドアをゆっくり開けた。お姉ちゃんは机に向かっていた。後ろを向いているので何をしているのかは分らない。読書か勉強と言ったところかな。
部屋に入ってもお姉ちゃんは机に向かったままだった。さて、何て言おう。もうそれは決めていた。
つかさ「こなちゃんが来たって、お母さんが言ってた……お姉ちゃん、こなちゃんと絶交するの?」
お姉ちゃんは本を机に置き、座ったまま私の方を向いた。相変わらず私を睨んでいた。
かがみ「つかさが悪い、こなたの顔なんて二度と見たくない……」
私が悪い。お姉ちゃんはそう思っていた。昨日の私なら否定していた。でも、水は入れちゃいけない。
つかさ「恋人が出来た振りしてアルバイトしていた、だからお姉ちゃんは怒っていた……ごめんなさい」
私は頭を下げた。するとお姉ちゃんはいきなり立ち上がった。
かがみ「何を今更……謝って済むと思っているの、出て行きなさい」
私は水を入れて蕎麦粉を固める事は出来ない。だけど。お湯を入れて固めることは出来る。
つかさ「お姉ちゃん、私がこの部屋を出て行ったら……もう二度と会わない、お喋りもしない、学校も別々に行く……それでもいいの、あと一年もあるのに、それでもいいの、
高校を卒業したら、もう、今まで通りにならないよ、それは、こなちゃんやゆきちゃんだって同じ」
かがみ「そんなのは知っているわよ、バカじゃないの」
お姉ちゃんはそっぽを向いてしまった。お姉ちゃんの声がすこし上がっている。
つかさ「そうだよね、私ってバカだから、もうどうして良いか分らないよ、だから、明日、私の働いているお蕎麦屋さんに来て、それから絶交でも遅くないと思うけど」
かがみ「蕎麦屋に行ってどうするのよ」
つかさ「お蕎麦屋さんに行ってする事なんて一つしかないと思うけど……」
お姉ちゃんは黙ってしまった。
つかさ「はい、それじゃ決まり、明日の放課後、私の乗るバスから二本遅れで来て、待っているからね」
私は部屋を出ようとした。
かがみ「こなたに……私はこなたに、絶交って言ってしまった、もう後戻りはできない」
すがりつくような目つきだった。
つかさ「こなちゃんも絶交って言ったの?」
お姉ちゃんは首を横に振った。それなら大丈夫。
つかさ「私ね、こなちゃん、ゆきちゃんも誘おうと思ってる……日下部さんや峰岸さんも、こなちゃんだってきっと来てくれると思うよ、その時に謝っちゃえばいいよ」
お姉ちゃんは顔を隠すように俯いてしまった。
かがみ「……話しはそれだけ、もう出て行ってくれない、読書の邪魔だわ」
椅子を回転させて私に背を向けた。ここでもう少し粘りたい所だけど、しつこ過ぎても逆効果、ここは一旦引こう。まだ明日があるから。
つかさ「私、まだ晩御飯食べていないから出るね、おやすみなさい」
お姉ちゃんの後ろを向く時の表情が少し変わったような気がした。お湯を入れた効果が出てきたのかもしれない。

757 :幻想 16/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:54:49.29 ID:dHJNhOn80
 食事を終え、お風呂に入ってあとは寝るばかり。自分の部屋の目覚まし時計をいつもより30分早く鳴るようにセットした。きっとお姉ちゃんは私よりも早く登校すると思ったから。
ベッドに入って寝るまでの間、何度か部屋の入り口の扉に人の気配を感じた。多分お姉ちゃん、私の部屋に入りたいのかも。入りたければ入ればいいのに。
そんな事を思いつつ、心地よい眠気が……そのまま眠ってしまった。

 自然に目が覚めた。心地よい、よく眠れたみたい。目覚まし時計より早く目覚めるなんて、小学校の遠足の時以来かもしれない。 目覚まし時計のアラームを止めて部屋の外に出た。
ドアを開けると、丁度お姉ちゃんもドアを開けて出てきた。自然と目と目が合った。
つかさ「おはよー」
にっこり微笑んで挨拶をした。
かがみ「おは……寝癖が凄いぞ……」
私が頭を押さえると。そのまま階段を降りて洗面所に行ってしまった。その後はお姉ちゃんと競争、朝食を食べて、着替えて、髪を整えて……リボンを付けて……
遅刻をする訳でもないのに大忙しだった。やっぱり手際が良いお姉ちゃんの方が先に支度が終わった。
私の支度を待たないで。そのまま家を出てしまった。少し遅れて私も家を飛び出した
つかさ「いってきまーす」
走ってお姉ちゃんを追いかけた。お姉ちゃんの後ろ姿が見えた。
つかさ「待って〜」
呼びかけるも早足で駅に向かうだけだった。追いつくとお姉ちゃんの横に並び同じ速度で歩いた。
つかさ「なんだか、こうやって一緒に登校するのが何年ぶりにも感じるよね」
かがみ「何言ってるの、一人で登校したのは昨日だけじゃない、大袈裟なのよ」
つかさ「あ、やっと話してくれた」
お姉ちゃんは口をギュっと結ぶと歩く速度を上げた。
つかさ「昨夜、私の部屋の前に居なかった、お蕎麦屋さんに来てくれる返事だったの?」
かがみ「トイレに行っていたのよ!!」
その後は学校に着くまで何の会話もなかった。

 校舎に着くとお姉ちゃんと別れた。私は教室には行かずに校庭に向かった。まだ早いせいか生徒は殆どいない。この時間に居るのは部活をしている生徒くらい。
きっと日下部さんが居るはず
みさお「柊の妹じゃないか」
後ろから声がした。私は声のする方に振り向いた。もう部活が終わったのか、制服の姿の日下部さんが立っていた。
みさお「部活をやっていなのに早いな、誰かを探しているのか?」
つかさ「おはよー、日下部さんを探していた」
みさお「おはよう、なんだ、私か、それで私に何の用?」
つかさ「昨日、お蕎麦屋さんでアルバイトしているって言ったよね、今日の放課後、峰岸さんと一緒にどうかなって」
みさお「蕎麦か……放課後は部活もないし、たまには良いかな、あやのも誘ってみるよ……って柊は?」
私は首を横に振った。
みさお「なんだ、まだ喧嘩していたのか……」
つかさ「何度か誘ったのだけど、返事してくれなくて」
みさお「分った、柊も一緒に誘ってみるよ」
つかさ「あまりしつこく誘わないでね」
日下部さんは笑った。
みさお「柊の性格は分っているつもりだから、大丈夫、無理はしない、あいつは無理するとすぐに怒るからな、さらっと言うよ」
つかさ「ありがとう」
みさお「蕎麦か……楽しみだな」
つかさ「場所はバス乗り場から駅を通り越す古い建屋があるからすぐわかるよ、念のために携帯電話の番号教えるから」
みさお「サンキュー、ついでにあやの番号を教えてあげる、あっ、他人の番号を勝手に教えるのはまずいな、メアドも教えて、後で送る」
携帯番号をお互いに教えあった。中学生からの知り合いなのに。今になって……そう、蕎麦粉のようにくっつき難かった。時間がかかっても仲良くなれる。
私のしようとしているのが例え失敗したとしても諦めない。

758 :幻想 17/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:55:54.56 ID:dHJNhOn80
 教室に入った。一番乗り……と思ったら二人既に居た。こなちゃんとゆきちゃん。
こなちゃんは昨日お姉ちゃんに絶交って言われたから登校するのか少し心配だった。来てくれて良かった……
と思ったのは束の間だった。こなちゃんは病人のような顔色で自分の席に座っていた。それを心配そうにゆきちゃんが見ていた。
みゆき「先ほどかがみさんが通るのを見かけました、私が行ってきます」
ゆきちゃんの顔に少し怒りの表情が見えた。怒っているゆきちゃんを見るのは初めて……なんて感心していられない。怒りをぶつければ怒りでしか返って来ない。
私がお姉ちゃんの教室に行こうとしたら、そう言って止めたゆきちゃんなのに……怒るとそんな事すら忘れてしまう。
つかさ「おはよー」
少し飛び込むように教室に入った。ゆきちゃんは私の所に駆け寄ってきた。
みゆき「……つかささん、泉さんを見てください、酷すぎます、かがみさんの言動とは思いたくありません、つかささんもそうは思いませんか、これから抗議に行くところです」
朝の挨拶を忘れて声を荒げてしまっている。普段のゆきちゃんからは想像もできない。私は首を横に振った。
みゆき「何故です、つかささんも理不尽な扱いを受けたではありませんか」
つかさ「落ち着いて、お姉ちゃんがああ成ったのは、きっと私のせい、だから、私に任せて欲しい、今は何もしないで」
みゆき「しかしながら……」
つかさ「ゆきちゃん、こなちゃんも聞いて、今日の放課後、私がアルバイトをしているお蕎麦屋さんに来て欲しいの、お姉ちゃんも誘ったけど、来てくれるかどうかは分らない、
    でもね、日下部さんは来てくれるって言ってくれた、多分峰岸さんも来てくれる」
こなた「……つかさ、そこで何をするの、もうかがみは何を言ってもだめだよ」
弱弱しい声だった。
つかさ「皆を固める」
固めるためには皆を同じ場所に集めないといけない。
みゆき「かためる、固めるとはどうゆう事ですか」
つかさ「それを知りたいなら、お蕎麦屋さんに来て……お願い」
私は祈るように両手を組んでお願いした。
こなた「勿体ぶるなんてつかさらしくないや……かがみが来るなら行くよ、そこで私からお別れを言うから……」
みゆき「私には分りませんが何か考えがあるようですね、つかささんがそこまで言うのであれば……」
つかさ「ありがとう」
こなちゃんがあんな事言うなんて、自信がなくなってきた。もしかしたら私は皆を集めてお別れ会をしようとしているのかも……私のしようとしているのはただの幻想なのかな。
あの時の蕎麦粉のように固まらないかも……うんん、迷ったらダメ。

 お昼休み、日下部さんからメールが来た。峰岸さんも来てくれる。あとは……お姉ちゃん。
お姉ちゃんの態度は、はっきりしていないってメールには書いてあった。

 放課後、私は真っ直ぐお蕎麦屋さんに向かった。お品書きは真っ直ぐ立て掛けられていた。店の扉を開けた。
つかさ「こんにちは」
老人「おう、来たか、それで今日は来るのか?」
つかさ「うん……一番来て欲しい人が分らない」
老人「そうか、とりあえず何人分だ?」
つかさ「うんん、お蕎麦はいいの」
老人「おいおい、蕎麦屋で蕎麦を出さなくてどうする」
つかさ「お椀5個と、お箸、蕎麦粉、それとだし汁、それを準備できますか?」
お爺さんは私をじっと見た。
老人「……蕎麦掻きか」
つかさ「うん、私が作りたいから、お蕎麦はまだ作れないから」
老人「一人で5人分か、辛いぞ」
つかさ「一人ずつ作る」
老人「着替えな、用意しておく……」

759 :幻想 18/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:57:17.93 ID:dHJNhOn80
そろそろ約束の時間。お姉ちゃんも来てくれますように……
『ガラガラ』
店の扉が開いた。
つかさ「いらっしゃいませ!!」
みさお「お、やっぱりここだ、おーい、あやの、こっち、こっち!」
最初に来たのは日下部さんと峰岸さんだった。二人が店に入ると私はカウンターに案内した。
みさお「その服、似合ってる、けっこうはまってるかも」
あやの「粋で、かっこいいよ」
つかさ「ありがとう」
私はお茶を二人の前に置いた。日下部さんが少し暗い顔になった。
みさお「柊は……すまん、図書室で用事があるって、わざわざこんな時に用事を作らなくてもいいのに、柊は変わったな」
来ない……覚悟はしていたけど、来ないって分ると悲しみが込み上げてきた。でも折角来てくれたお客さんにそんな顔を見せられない。二人に精一杯の笑顔を見せた。
つかさ「来ないのは仕方がないよ、こなちゃん達も来るかどうか分らないから、始めるね」
みさお「始めるって……なんだ?」
そうだった。誘っただけで何も話していなかった。
つかさ「たった二週間じゃ、お蕎麦は作れないからごめんね、でもね、蕎麦掻きならなんとか出来るようになったから、みんなに食べてもらおうと思って」
みさお・あやの「そばがき?」
老人「最近の子は食べないし、作らないみたいだな……つかさの作る蕎麦掻きはうまいぞ」
つかさ「そ、そんなにおだてないで、調子が狂っちゃうから」
お爺さんは笑いながら厨房の奥に引っ込んだ。
つかさ「え、えっと、蕎麦粉をお湯で練って固めたものをだし汁で食べる料理だよ」
みさお「ふ〜ん」
興味津津で私を見る二人。ちょっと恥かしいけど……作ろう。二人の為に……
私はお椀に蕎麦粉を入れ、お湯を少しずつ入れながら箸で掻き回した。
中学生から知っているとは言え、殆ど話した事のない二人。いつもお姉ちゃんと遊んだり、勉強したりしていた。そんな姿を見かけるくらいだった。
そんな二人が私を見ている。お姉ちゃんでも、こなちゃんでも、ゆきちゃんでもない。他人に近かった二人。お姉ちゃんの友達でなかったから、
一生会うこともなかった。そんな想いを込めながら作った。
つかさ「どうぞ」
二つのお椀を二人に出した。蕎麦掻きが珍しいのか、暫くお椀を見ていた。そして。箸を持つと蕎麦掻きを挟んで口の中に入れた。
みさお「お、これ、うまい、うまいよ」
あやの「……お蕎麦ってこうゆうものなのね……」
つかさ「ありがとう」
その後は、二人は黙々と蕎麦掻きを食べていた。
『ガラガラ』
店の扉が開いた。そこに立っていたのはゆきちゃんだった。
みゆき「ごめんください」
つかさ「いらっしゃいませ!」
ゆきちゃんは店に入ろうとせずに入り口に立ち尽くしていた。
つかさ「どうしたの、入って」
それでもゆきちゃんは入ろうとしなかった。ゆきちゃん一人だけみたい……そうか、こなちゃん、来なかった……お姉ちゃんが来るのが条件だった。
みゆき「すみません、私……私は……」
今にも泣きそうな顔だった。
つかさ「もういいよ、ゆきちゃん、お姉ちゃんとこなちゃんを誘ってくれたんだね、入って、蕎麦掻きを作ってあげるから」
みさお「柊の妹もそう言ってるし、入ったらどうだい、眼鏡ちゃん、美味しいぞ……蕎麦掻」
あやの「折角来たのだし、食べて帰ったらどう?」
みゆき「え、あ、はい」
ゆきちゃんはゆっくり店の中に入った。そして峰岸さんの隣に座った。
つかさ「それじゃ作るね……」
お椀の蕎麦粉を掻き回した。腕が重くなってきた。一人分作るのに沢山掻き回さないといけない。それに掻き回していくと粘りが出てきてどんどん重くなっていく。
お爺さんの言った「辛い」の意味が分った。
760 :幻想 19/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:58:20.24 ID:dHJNhOn80
みゆき「蕎麦掻き……ですか、蕎麦を麺にして食べるようになったのはかなり最近になってからと聞いています、小麦のようにグルテンが無いので繋げるのが難しいのです」
ゆきちゃん……なんでも知っている。勉強も親身になって教えてくれるし、教え方はお姉ちゃんより上手かもしれない。学級委員長もしている。
だけどそれを自慢しない。いつも控えめ。お姉ちゃんと知り合いじゃなかったから、近寄り難くて声もかけられなかったかも。
そんな想いを込めながら掻き回した。
みゆき「……辛そうですね、無理もありませんグルテンが殆ど無いので蕎麦粉はすぐにバラバラになってしまいます、そこにお湯を入れて蕎麦粉を繋ぎ……はっ!!」
ゆきちゃんは突然立ち上がった。日下部さん達は驚いた。
みゆき「つなぎ難い、バラバラになった蕎麦粉を繋げる……もしかして、つかささん、私達を蕎麦粉に例えているのですか?」
つかさ「あたり……私ってこんな事しか出来ないから……分って貰えるかな……私、お湯になれたらなって」
ゆきちゃんは席に座った。
みゆき「もう既にお湯になっています……今朝、私を止めなければ私は怒りに任せてかがみさんを責めて喧嘩をしていました……」
つかさ「本当に、嬉しいな、ゆきちゃんに褒められるなんて」
みゆき「実際に作った事がなければ思いつかない発想です……嗚呼……もっと早く分っていれば、引きずってでも二人を連れてきていました」
つかさ「どうぞ……」
悔しがるゆきちゃんの前に蕎麦掻きを置いた。
みさお「すげえな、蕎麦粉でそんな発想できるなんて、柊の陰に隠れて目立たないと思っていたけど、柊の妹、見直した!」
ゆきちゃんは蕎麦掻きをじっと見た。
みゆき「いただきます……」

 私が思い描いた幻想。初めて他の人に理解できてもらった。幻想じゃなかった。今、私のしようとしている事が正しかったのを実感した。
あやの「高良さん……でしたね、はじめまして」
みゆき「こちらこそ、かがみさんのお友達とは存知していました、何か切欠がなければなかなか話せないものですね」
日下部さんと峰岸さんがゆきちゃんとお話をし始めた。
この場にお姉ちゃんとこなちゃんが居てくれれば……
扉を見た。
何だろう……人影かな。扉に人影が何度も横切っている。もしかして、お姉ちゃん?
私は扉に向かい、扉を開けた。
こなた「つ、つかさ……」
つかさ「こなちゃん、来てくれて嬉しい、入って……」
こなちゃんを招きいれようと店の外に一歩踏み出した。壁の陰にお姉ちゃんが立っていた。
つかさ「お姉ちゃん、お姉ちゃんも来てくれた……良かった、待っていたよ、入って」
こなちゃんは店の中に入った。だけど、お姉ちゃんは入ろうとしなかった。
こなた「絶交するならつかさの前で……そうかがみに言ったら、ここに来る事になった……」
私はお姉ちゃんの手を掴んで引っ張った。
つかさ「席に座っているだけでいいから、ね?」
お姉ちゃんの足が動いた。
私はお姉ちゃんとこなちゃんを隣の席に座らせた。

761 :幻想 20/20 [saga sage]:2012/03/24(土) 15:59:14.76 ID:dHJNhOn80
 本当は私とお姉ちゃんの喧嘩だったのに……いつの間にかお姉ちゃんとこなちゃんも絶交の危機に曝されている。
お姉ちゃんとこなちゃんは俯いて座って何も話そうとしない。
みゆき「泉さん、かがみさん、つかささんは、蕎麦の……」
つかさ「ゆきちゃん」
私はゆきちゃんに首を横に振った。言葉では分ってくれない。そう思ったから皆をここに呼んだ。
こなた「かがみ、つかさと私に言いたい事があるんでしょ、早く話してよ」
まるで挑発するかのような口調だった。その声にお爺さんは様子を見に来るくらいだった。
つかさ「こなちゃん、お姉ちゃん、ここに来たから、まずは、私の作る蕎麦掻きを食べて、何か言いたいのならそれからにして」
私は二人を見据えて落ち着かせるように話した。
かがみ・こなた「蕎麦掻き……」
お椀に蕎麦粉を入れて……お湯をいれて……箸で掻き回す……四回目の蕎麦掻き、腕が痛い。だけど休めない。
こなちゃん……目的が何にしてもお姉ちゃんを連れてきてくれた。それが何より嬉しい。
私と友達になって直ぐにお姉ちゃんとも友達になった。最近になっては私よりお姉ちゃんの方と会う機会が多いかもしれない。
でもそれを寂しいと思ったことはなかった。ゆきちゃんとは違った面白いお話をいろいろ聞かせてくれる。漫画も貸してくれる。
私と似たような所もあるし、気の合う一番の友達……そんな想いを込めながら……
二人は呆然と私がお椀を掻き回している姿に見入っていた。
こなた「なんでそんな必死になって掻き回さなきゃいけないの?」
つかさ「蕎麦粉はとっても頑固なの、こうしないと固まってくれないからだよ、蕎麦打ちを教えてもらったけど少しも固まってくれなかった」
みゆき「どこか、誰かに似ているとは思いませんか」
ゆきちゃんが合いの手を入れてくれた。私から言う言葉はもうない。掻き回すお椀に全てを集中した。
固まった蕎麦掻きにだし汁を入れて……
つかさ「どうぞ」
こなちゃんの目の前に蕎麦掻きを置いた。でも、こなちゃんは食べようとはしなかった。
つかさ「冷めないうちに食べてね」
腕が鉛のように重い。だけど。最後にもう一人分作らないと。
つかさ「それじゃお姉ちゃんの分」
お椀を持ち上げた。手の力が抜けて落としてしまった。蕎麦粉が床に散らばった。
つかさ「ごめんなさい……私ってダメだね」
苦笑いをした。お爺さんが直ぐに代わりの蕎麦粉の入ったお椀を持ってきてくれた。
老人「片付けておくから、続けなさい」
つかさ「うん、ありがとう」
お椀をお爺さんから受け取った。一回深呼吸した。お湯を少し入れて……掻き回して……
つかさ「お姉ちゃん、私と双子のお姉ちゃん、私が物心ついた頃から一緒に居た、いつも一緒だった、ご飯を食べるのも、遊ぶのも、お昼寝するのも……
    それから高校まで同じ学校……一番身近だった人……分っていると思っていた、怒っている時だって何で怒っているのか分った、悲しんでいるときも、笑っているときも、
    でも、そう思っていただけ、本当は一番分らなかった、分った気になっていた、だから喧嘩しちゃった」
私はお本当のお姉ちゃんを知らなかった。今までのお姉ちゃんは私が思い描いた幻想、蕎麦粉を小麦粉と同じと思ったのと同じ……
つかさ「どうぞ」
お姉ちゃんの目の前に蕎麦掻きを置いた……でもお姉ちゃんも食べようとはしなかった。
つかさ「どうしたの、二人とも、食べて」
こなた「う、うん」
こなちゃんはお椀を持ってチラっとお姉ちゃんを見た。
こなた「かがみ?」
こなちゃんはお姉ちゃんを見たままになっていた。私もお姉ちゃんを見た。お姉ちゃんはお椀を見ながら涙を流していた。
そして……
かがみ「……う、う、わー!!」
号泣。お姉ちゃんはお椀を見ながら大声で泣き出した。これは……固まらない蕎麦粉を見て泣いた私と重なった。お姉ちゃんも私の事が分らなくなっていた。
そうだったんだね。お互い様だね。お姉ちゃん。
『ガラガラ』
お客さんが入ってきた。
老人「すまないね、今日は貸し切りだ、明日、また来てくれ」
お爺さんは店の外に出るとのれんとお品書きを仕舞った。

泣くといいよ、涙が涸れるまで……
泣き終わったら仲直りしようね。



 卒業式の日、私はもう一度、周一さん店に皆を呼んだ。周一(しゅういち)さん?
お蕎麦屋さんのお爺さんの名前、あの日、教えてくれた。
アルバイトの最終日、皆に私の打った蕎麦を振舞った。
蕎麦打ちは何とか一通り出来るようになった。でも、周一さんに言わせればまだまだ合格点はつけられないって。
これから私は専門学校生、もうお蕎麦屋さんで働くことが出来なくなった。アルバイトも卒業。いつかお爺さんに、周一さんに合格って言ってもらうために、蕎麦打ちの道具を買った。
お姉ちゃん達は大学生。もう同じ学校に行く事もない。皆別々の道を歩み始めた。でも、寂しくはない。
一度固まった蕎麦粉はもう二度と離れることはないから。




762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/03/24(土) 16:00:33.90 ID:dHJNhOn80
以上です。

イメージが湧かなくて書き始めるのが遅かったせいか時間がかかってしまった。
2作目ちょっと無理かな

763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/03/24(土) 18:05:57.41 ID:dHJNhOn80
幻想
bQでエントリーしました。
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/24(土) 22:43:23.95 ID:dHJNhOn80
☆☆☆☆☆ 第二十三回コンクール開催 ☆☆☆☆☆

いよいよ投稿期限が近づいてきました。
残すところあと1日余り。

現在2作品エントリーしています。
最終日ラッシュに期待したいと思います。

ラストスパートです。

え?、2作目はどうするって?

ぼんやりイメージはあるのだが、イメージがはっきりしたら時間がきそうなので止めておきます。
765 :ID:kKCvadsAO [sage]:2012/03/25(日) 22:54:47.28 ID:+ksuBndAO
ID:kKCvadsAOです。
コンクール作品二作目を投下します。
タイトルは『蕎麦の謎解き』



お姉ちゃんの家に遊びに行った時、柊つかさ先輩から突然批評を依頼されてしまった。
「…どういう意味ですか?批評って何を批評するんです?」
「うん、お蕎麦なんだ。ゆきちゃんに聞いたんだけど、みなみちゃんお蕎麦好きなんでしょ?」
確かにお蕎麦は好きだけど、通という訳じゃない。
批評なんてできるほどの舌を持ってないし、人によっては『下品』なカケの類も平気な人間だ。
「実はね、専門学校でお蕎麦作ったんだけど」
「…料理の専門学校って、お蕎麦も作るんですか?」
「正確には課題は『麺類』だったんだけど…グループでやる課題だから、同じグループの子が『目立つように』ってお蕎麦にしちゃって」
しかもわざわざ手打ち蕎麦にしたとか。さすがにつなぎを使った二八蕎麦らしいが、講師は食べる前に
「作り直し」
と宣告した。
食べもしないで、とグループの人達は抗議の声を上げたらしいが、逆に講師は溜め息をついたとかなんとか。そして
「…違う麺類にして作る事。それと、なんでこれが駄目なのかの理由をレポートで提出しなさい。コレが駄目な理由がわからないようなら、問題ありだからね」
と言ったらしい。
…問題ありとは随分な話だなぁと思う。
「…それで私に?」
「うん、ゆきちゃんにも訊いたんだけど」
「料理については私よりつかささんや泉さんの方が詳しいですから、つかささんがわからない事に気づける自信がないんです。それでみなみちゃんがお蕎麦が好きだと伝えたんです。好きな人なら何かわかるのではないかと」
「お蕎麦は好きだけど、わかるかどうかはちょっと」
「なんでも良いの。お願い、手伝ってくれないかな」
…そこまで言われたら仕方がない。協力するしかないかな。
「わかりました。…その、お蕎麦って今ありますか?」
「ありがとう!ゆきちゃんに試食してもらうために持ってきてあるから、今から作るね。お台所借りていい?」
「どうぞ。勝手はわかりますか?」
「大丈夫だよ」

…でも見ただけでわかる食べない理由、何だろう?
掛け蕎麦で『下品』と思ったから?…いや、さすがに料理学校の講師がそれはないと思う。たぶんだけど。
手打ち蕎麦がボロボロだったとか…はない。二八と言ってたし、そもそもそれならつかささん達にもわかる。
となると、やっぱりアレかな。
766 :ID:kKCvadsAO [sage]:2012/03/25(日) 22:56:36.47 ID:+ksuBndAO
 

『蕎麦の香りが死んでいた』


蕎麦を選んで食べる理由の一つは、蕎麦の香りを楽しむためだ。
その香りがしないものを出されて、しかも理由がわからないと言われたのなら、講師の溜め息も納得がいく。
…でも食べないでわかるだろうか………いや、わかる。見るだけで香りが死んでいるとわかる方法がある。
好きなだけの私が知っているのだから、講師なら尚更だ。
あれ、でも手打ち蕎麦って言っていたけど…うん…あり得るけど…。


「出来たよ、これがその時の盛り蕎麦と花巻蕎麦だよ」
………うわぁ………予想した通りだった。これは講師さんの反応も納得だ。
「みなみさん?もしかしてわかったんですか?」
「…うん。つかさ先輩、確認したいのですが、お蕎麦の色はあの時もこの色だったんですね?」
「う、うん。こういう色だったけど…え、色のせいだったの?」
「違います。色でわかったんです、このお蕎麦は香りが死んでいると」
「ちょっと一口もらいます。…確かに、お蕎麦の香りがしませんね」
「ホントだ。私てっきりダシ汁に問題があるのかと思ってたのに」
「味見しなかったんですか?」
「おつゆしかしてなかったんだ、手打ちって言ってたから…」
「手打ちなのは本当だと思います。けど…出来立てじゃなくて、何日か経っている、もしくはそば粉が古いんです」
だから変色していた。下手に『手打ち』を売りにしているまずいお蕎麦屋にありがちな色になっている。
どんなに保存に気を使っていようと、劣化は避けられない。
蕎麦も『鮮度が命』なんだ。
それがわからずに抗議されては、講師の人も呆れただろう。
『手打ちだから』無条件に美味しいわけじゃない。こんな蕎麦なんかより、機械打ちを出された方がまだ評価するだろう。
「そういえば、市河米庵という蕎麦通の江戸時代の書家が言ってましたね。蕎麦のうまさは鮮度にある、と」
「そうなの?」
「その人の事は知りませんが…こういう色のお蕎麦を何度か食べたことがあるんです。それがどうにも気になって、別の美味しいお店の人に訊いたんです。ああいう色の蕎麦はどうして不味いのでしょう?って」
「お店の人が教えて下さったんですか?」
「うぅん。近くで聞いていた他のお客さんが教えてくれた」
親切な人だった。お礼にその人のお金は払うと申し出たのだが、さすがに年下の女性に奢ってもらうわけにはいかないと断られた。
767 :ID:kKCvadsAO [sage]:2012/03/25(日) 22:59:49.24 ID:+ksuBndAO
 
「親切な方もいるんですね」
「うん…」
「ならその内容をレポートに書いて提出するよ。ありがとう二人とも、お礼に今度何か作って持ってくるね。何がいい?」
…何か、か。
…ならやっぱりここは。
「…お蕎麦でお願いします」

END


「…ところでこのお蕎麦はどうします?」
「…えーと、一応食べない?」
「でもなんで花巻蕎麦なんです?」
「えっと、海苔が好きな子がいるから」


今度こそEND


終わりです。ギリギリ間に合った。
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/25(日) 23:19:34.43 ID:KY0U7uKl0
蕎麦の謎解き
bRでエントリーしました。
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/25(日) 23:21:39.70 ID:KY0U7uKl0
☆☆☆☆☆ 第二十三回コンクール開催 ☆☆☆☆☆

あと〆切まで30分余り、ラストスパートです。
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/26(月) 00:01:25.33 ID:TctDuuz90
☆☆☆☆☆ 第二十三回コンクール開催 ☆☆☆☆☆


これで投稿作品を締め切ります。

今後『蕎麦』のお題の作品を投下しましても一般作品扱いになります。
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/26(月) 00:11:04.56 ID:TctDuuz90
>>770

今回は3作品がエントリーしました。
今までのコンクールの中では一番少ない作品数となりました。



投票は一日空けて3/27(火)〜4/4(月)
となります。
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/26(月) 23:54:43.14 ID:TctDuuz90
☆☆☆☆☆ 第二十三回コンクール開催 ☆☆☆☆☆

それでは投票を開始します。
いつものように「お題」「ストーリ」「文章」
の3部門にそれぞれ1票ずつお願いします。

締め切りは4/4(月)です。


お題部門投票所   → http://vote3.ziyu.net/html/soba.html
ストーリ部門投票所 → http://vote3.ziyu.net/html/sobaodai.html
文章部門投票所   → http://vote3.ziyu.net/html/sobab.html

773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/27(火) 20:15:13.07 ID:76vfzPjA0
コンクール主催者です。

>>772
月曜日だと4/2だった。4/4は水曜日ですね。
一週間を超えてしまっている。ミスです。
しかし、宣言してしまったのでこのままの投票期間で進めさせて頂きます。
どうもすみませんでした。
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2012/04/02(月) 02:21:10.22 ID:OK/yj+HGo
過疎ってる・・・
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/04/02(月) 23:03:23.25 ID:lurcg8As0
>>774
うむ
今回のコンクールも全部で3作品。
作者は2名となっています。
このままだとコンクールの定期開催は事実上困難かな。
もっと参加し易くしたのだが、良い案があれば教えて下さい。

今回のコンクールの投票者数も大変少なくなっています(まだの人はお早めに)

まとめサイトを見るとそれなりに見ている人は居るみたいだけど。如何せん作者が激減してしまった。
作品を投下しても反応がとても少なくなったのも原因の一つかな。投下しても霞を掴んだような手ごたえ……みたいな。
確かに素人の書いたss(特に自分の作品)だから感想もないのもしょうがないかな。
もっと面白いのを作れればいいのだけど……

このスレに投下された作品だけでなく、まとめサイトに載っている過去の作品の感想でも良いと思う。
どんどん書き込んでくれれば他の作者も何かのヒントになるかな。
「お題」や「こんな作品が読みたい」でも、らき☆すたの話題でもなんでも……
とりあえず活性化をするならこんな所でしょうか?



776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/03(火) 17:53:11.89 ID:ykW32Wl+P
でも妄想書き綴っただけじゃ評価されないし・・・
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/04/03(火) 20:59:47.31 ID:kA2FCFay0
結構その妄想から物語は生まれると思う。
起承転結さえあれば案外纏まっちゃうもの。
自分は叙述トリックとか、その他の文章テクニックは全くありません。
小説も殆ど読まない。読むのは漫画で、映画はよく観るかな。そんな程度。

物語を作るにあたっては心の変化をどうやって表現するかを重点にしています。
好きだったものが嫌いになったりその逆もあるけど。ただ嫌いになった、好きになっただけでは読み手は物語に入っていけないと思うから。
もし、その変化が上手く表現できれば感動してくれるかもしれない。


このスレに初めてssを投下した時はどんな事かかれるのか
ドキドキした。今でもするけど……
そこでたまたまコメントをもらえた。
そのコメントがなかったら20作品以上も投下していなかったと思う。
これだけが自分が続けている理由。そして、コメントを書いて欲しいと思う理由。
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/04/05(木) 00:11:04.32 ID:DLb6RMX20
☆☆☆☆☆ 第二十三回コンクール開催 ☆☆☆☆☆


それでは投票結果を発表します。

大賞

『幻想』

部門賞

お題部門   『蕎麦の謎解き』

文章部門   『幻想』

ストーリ部門 『幻想』

となりました。

作者さん、投票してくれた方、ありがとうございました。

次回は夏を予定していますが、過疎が進んでいるのでどうなるかわかりません。

結果
お題部門   → http://vote3.ziyu.net/html/soba.html
ストーリ部門 → http://vote3.ziyu.net/html/sobaodai.html
文章部門   → http://vote3.ziyu.net/html/sobab.html

また投票結果をまとめサイトに貼り付けをお願いできるでしょうか。いつもすみません。

779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/04/05(木) 00:15:09.60 ID:Jztho9Mr0
ものすごい過疎ってるね。
自分はもう何年も前にこのまとめサイトに来て、
ふと気になったから久しぶりに覗いてみたんだけど、この過疎っぷりはちょっと寂しいかな。
昔書いた作品とか読み返すと恥ずかしくなるけど、なんか懐かしくなって、
時間があったらまた何か書きたいなって思った。
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/04/05(木) 01:18:45.52 ID:DLb6RMX20
『幻想』の作者です。
この作品は考えながら書いていたので、完成できるかどうか分らない状態でした。
いつもなら大まかなストーリは出来上がった状態で書いているけど、今回は時間も無くとりあえず書きながらストーリを進めました。
まとまりがなく、焦点がぼんやりしてしまったかもしれない。(だからタイトルを幻想にした)
投票者が多かったら大賞なんて取れなかった。
他の2作は同じ作者さんでしたね。あのお題で2つも書いたのはすごいと思います。




大賞を取ったものの素直に喜べない。この過疎ぶりは……

781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/04/05(木) 19:53:49.87 ID:DLb6RMX20
>>778
投票結果の貼り付けやってみました。
出来ましたのでもう大丈夫です。お手数をおかけしました。
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2012/04/06(金) 11:32:35.77 ID:ly4lJmato
そろそろらき☆すた知らない人にも読んでもらわないと
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/04/06(金) 19:38:40.14 ID:h46b6+w70
まとめサイトで「恋愛もの」を分けて欲しいとの依頼があったのだが。

らき☆すたの恋愛ものは少ないから分けるのは簡単だと思うけど。なぜ分けなければならないのか理解できない。

784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/04/07(土) 17:50:58.12 ID:ELvv5mCK0
昨日の纏めサイトのアクセス数がすごいことになってる。
>>782が知らない人に教えた?
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/04/08(日) 08:30:43.13 ID:wO0sWwwx0
ss作りに入るので暫く来ません。
過疎が進行していないのを祈っています。
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2012/04/11(水) 02:05:19.70 ID:FulzGAiAo
妄想か・・・
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/04/17(火) 10:53:44.86 ID:BhRZ9N8SO
今さらだけど「幻想」読みました
>>758のつかさの「皆を固める」がかっこよすぎて痺れた
周一とつかさのコンビもなんかいい、感動した!
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/04/21(土) 00:16:05.93 ID:+P6g5bma0
>>787
感想ありがとう。

今更なんてとんでもない。
一年前とかの過去作品の感想がぽろっと出たりするとかなり嬉しい。
このスレには合わない作者別の項目をわざわざ増やしたのは読まれる機会を少しでも増やしたいからです。
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/29(日) 03:27:19.33 ID:wa0DI1CSO
個人的な事情で恐らくもうSSが書けないと思うので、自分が書いたのを晒しておきます。
出来るようならまとめてやってください。
心残りは未完のがあるってことだなあ。


・長編
感動系統

雨宿り
残影
この花をあなたに
その日娘は

鬱・悲劇系統

メッセージ

お笑い・ネタ・ほのぼの系統

かなた いん ざ ふぉとぐらふぃ
資料室は閉まらない
ぬくもり
とある聖夜の一幕
お母さんが来た日
かなた あうと ざ ふぉとぐらふぃ てぃーたいむ
チョココロネは食べられない
彼女の日記
ハッピーバレンタイン
スイートホワイトデー
とあるお見舞い
なんだかおかしな日
悪い子
こなたんじょうび
私の理由
わたしの理由
桃太郎・改
こなたと父の日
たまにはこんな心模様
わすれもの
しゃっくり
腕輪
ツンデレラ
良き日
あの日あのとき
この日このとき
とある日のまつり姉さん
迷子!
小さなお話
つかさのだいえっと

その他系統


二人の喧嘩
白雪は染まらない
母と娘と
あのころ
かがみ小話
告白の木
幸運の星

未完成の作品

わいるど☆あーむずLS
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/29(日) 03:28:40.81 ID:wa0DI1CSO
・短編

小さなかなた
物思い
ファーストクリスマス
じゃのめ
かくれんぼ
かなた あうと ざ ふぉとぐらふぃ
ぐだぐだ
うだうだ
きー兄さん
たゆたう
暑い日
待ち人来たらず
お正月のひとコマ
もしも
飲まれ酒
隣星
失敗の日
双子の誕生日
二人のツンデレ

・シリーズ物

命の輪

・コンクール作品

空蝉
Desire
名前
信じる心と優しさを
姉と妹
一番星
伝えたいこと
水たまり
二人の手
玉兎
ともだち記念日
あの夏を越えて
旅の途中


以上です。
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/04/29(日) 03:47:51.97 ID:6TGVMrtSO
懐かしいのがちらほら
乙やでぇ
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/04/29(日) 21:50:14.56 ID:aRIvSSxt0
>>789-788

時間がかかるかもしれませんがまとめておきます。

名前は「雨宿り」のIDを使用させていただきますね。

私よりも先にデビューしているようですね。よく見るとコンクール大賞作品が数作ありますね。
それに欝からお笑いまで幅が広いですね。
私のようにほぼ同じ系統しか書けない者から見れば羨ましいかぎりです。
とりあえず お疲れ様でした。

また書けるようになったら戻ってきて下さい。
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2012/04/30(月) 00:22:19.97 ID:x/t7mH320
>>798-790

まとめサイトに作品集を作りました。確認して下さい。

できれば前の作品集に倣って、作品集の最後に簡単なコメントを付けてくれると助かります。
出来なければこのスレに書き込んでください。転記します。


コンクールではいきなり最初の作品で大賞。命の輪シリーズ、そしてこの豊富な作品数……
このスレの中でもかなりの売れっ子だと思われます。
そういえば命の輪シリーズが終わった途端に過疎化が進んだような気がしてならない。

個人的には「まつり姉さん」のリメイクを作ってくれたのが一番印象に残っています。

……と惜しみつつ、作品を作らなくても覗きにきて下さい。

以上

あげときます。
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/01(火) 15:36:59.87 ID:EY5peAp60
http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1776.html

作者別まとめが増えていた&人気ページにたまたま自作品が上がっていたので自分もまとめてみた。
コンクールレビュー作品も入れておいたが問題あるかいな?
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2012/05/01(火) 19:31:05.83 ID:KPyuDLpQ0
>>794
作者別ページの立案者です。
リストはコンクールレビューでも構わないと思います。

ルールは暫定なのでその都度変えて生きます。
1レス物以外の作品を対象にしたいと思います。
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/02(水) 09:16:47.21 ID:MQ9TyiASO
2期きたらvipに戻れるのかなぁ
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/05/03(木) 23:32:06.17 ID:UXHnOkf50
二期に期待していてもしょうがない。
原作者も消極的だってどこかで聞いたことがある(二期について)

私がこのスレに来てから(2009年)まとめサイトのおすすめリストの更新が一度も成されていない。
3年以上経っているのでここらでおすすめリストに作品を加えたいと思います。
加えたい作品がありましたら、おすすめポイントも含めて投下して下さい。(リストに書くので簡潔に)
おすすめポイントの無い作品は無効とします。

新たに10作品くらい加えたいと思います。
対象カテゴリーは短編(2〜3レス)、長編、コンクール作品とします。
コンクールの賞に関係なく選んで下さい。


期限は特に決めませんが、だらだらするのも嫌なので、次のコンクール予定(8月くらい?)まで。


私がおすすめする作品

長編ほのぼの「祈」

おすすめポイント つかさが迷い込んだ世界、その先で出会った意外な人物につかさは……。
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 04:26:12.00 ID:qT8M4uDSO
>>793
「この花をあなたに」が二つあって、「白雪は染まらない」が抜けてますね
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/05/12(土) 19:33:49.08 ID:dfA0vlof0
>>798
修正と追加をしました。
自分のリストも間違えるくらいなので……すみませんでした。
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/05/13(日) 18:51:28.92 ID:ymRl1B/AO
保守小ネタ

みく「境界線上のホライゾン二期キャスト追加発表おめでとう」
こう「いや、毒さん。私の声優さんは一期の頃からいるよ。『東』役で」
みく「というわけで『東』のあの台詞お願いします」
こう「やめて勘弁してお願い。アレさ、二期のキャラ紹介で書いてあってドン引きしたんだから」
みく「言え」
こう「…『落ち着いてセックスしよう!余が見ていてあげるから!』」
みく「この台詞ホントに言えるの?」
こう「言えなくていいよ…」
みく「焼肉の時のアレもよ?魔女に向かって皆の前で」
こう「…『セックスについてもっと教えてほしい』でしょ?言えなくていいよ…」
みく「楽しみだねホライゾン二期」



いや本当に原作にあるですよこの台詞。
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2012/05/14(月) 00:46:02.27 ID:hIeEoqd90
ここまでまとめた

久々の書き込み乙です。
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2012/05/15(火) 20:10:37.49 ID:+JNqoxSF0
長編書いて疲れたので一休み……

ごそごそ、ごそごそ
かがみ「こなた、なにやってるのよ」
こなた「ふ、ふ、ふ、何だとおもう?」
かがみ「もったいぶらないで、さっさと教えなさい」
こなた「は〜あ、かがみは夢がないね〜デリカシーと言うものが欲しいね」
かがみ「……デリカシーが無くて悪かったな、さっさと言いなさい!」
こなた「ふ〜う、はいはい、分ったよ、それじゃ、これを見て、見て〜じゃ〜ん」
かがみ「……なによ、その仮装につかうような眼鏡は……」
こなた「聞いて驚け、太陽観測用専用眼鏡なのだ!!」
かがみ「……太陽……観測……あ、分った、金環日食でしょ……」
こなた「あ・た・り」
かがみ「へぇ、珍しい事もあるものね、こなたが天体観測をするなんて」
こなた「皆既月食の時は寝坊して見れなかったから、今度こそ見てやる!」
かがみ「5月21日はあまり天気よくないみたいよ」
こなた「かがみ〜だからデリカシーがないって言われちゃうんだよ」
かがみ「……ごめん、それじゃ当日、私の家に来なさいよ、神社からなら見えるわよ」
こなた「そうするよ」


当日……
こなた「……」
かがみ「……」
はたして、こなたとかがみは日食をみられたのでしょうか。
続きは5月21日ですよ
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/05/18(金) 13:13:58.83 ID:IPqhgFSp0
あんまり書いてないけど、自分が書いたのも晒してみます。

・短編
黙っと休み時間

・長編
Goodbye with our BEST SMILE
時をかける青い髪の少女
カチューシャと八重歯
それぞれのMerry Christmas
泉こなたの消失(未完)

・シリーズ物
らき☆すた ことわざ辞典

・コンクール作品
アラシノヨルニ(第7回)
鬼の目にも涙、そして…(第7回)
贈る言葉(第10回)
THE MANZAI(第12回)

…少ない(笑)
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2012/05/18(金) 20:32:03.33 ID:z9/aD7eM0
>>803

リスト作成しました。確認して下さい。


作者別でコンクール一桁の作者は初めてですね。初期の方ですね。
未完成作品もあるのでこれを期に完成させちゃって下さい。

作品数の多い少ないはあまり関係ないと思います。
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/05/19(土) 00:08:40.62 ID:xfveegdO0
作者別リストの参加者が増えてきて嬉しいです。
この調子で絵描き職人さんや新人さんも来てくれれば嬉しいのですが……

ロム専の人もどんどん書き込んで下さい。何か新しい事が起きるかもしれませんよ?
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/19(土) 00:49:12.34 ID:1PCni9SDO
>>804

なにぶん、最後に書いたのがたぶん4年前になるんでね…。
あの頃に比べたら表現も豊かになっただろうけど、当時の自分がどんなストーリーを浮かべていたかさっぱりで(笑)
とりあえず、ぼちぼち書いてみたいと思います。
気晴らしに他の作品を書くかもしれませんが(笑)
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/05/21(月) 22:06:09.27 ID:H6PciPkL0
>>802

こなた「雨だ……」
かがみ「雨よね……」
………
………
こなた「あ〜あ、もう太陽が欠け始めている頃なのに〜」
かがみ「普段の行いね、らしくもない事するからよ、諦めて帰りましょ」
こなた「……かがみは雨女だから、だから雨が降ったんだ」
かがみ「何言ってるのよ、来たのはこなたの方かない、それを言うならこなたが雨女だ」
こなた「かがみだってこの神社に来たじゃないか、神社に住んでいる訳じゃないでしょ」
かがみ「はいはい分りました、そう言うのを屁理屈って言うのよ」
こなた「この前会った時も雨だったよね、あれはかがみが主催だったよね」
かがみ「ちょっと、いい加減にしなさいよ、天気なんて自然の気まぐれ、悔しいのは分るけど八つ当たりはやめろ」
つかさ「何してるの、神社で大声だしちゃって……」
かがみ「もう付き合ってられないわ、雨が降っているのを私のせいにしようとしている」
つかさ「雨……そうだよね、お掃除する時に雨降ると困っちゃうよね……雨に濡れて葉っぱが取り難いって……時間ばかり掛かっちゃうから、
    雨だけ止んで欲しいな、お天気雨だなんて……」
こなた「お天気雨……あ、あ〜見える、見える、見えるよ……太陽が見える……凄い、凄いよつかさ……晴女だ」
かがみ「やれやれ、調子の良いやつだ……」


皆さんは見れましたか?
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/05/28(月) 21:12:43.12 ID:8nPWm95w0
遅れたプレゼント

つかさ「う〜ん」
かがみ「何を考え込んでいるのよ」
つかさ「え、えっと、こなちゃんの誕生日プレゼント何が良いかなって……前のと同じだとだめじゃない?」
かがみ「そうよね……って、もうそうゆうのは止めようって決めたじゃない、私達の誕生日はなしにしたでしょ」
つかさ「あ、そっか、そうだったよね……でも、なにか寂しいような……」
みゆき「誕生日を祝うのは、一年健康で生きてきたお祝いです……一年一年健康で生きてきて……これから一年も健康で元気で居られますようにと……」
つかさ「そう考えると何もしないのも……」
みゆき「それでは外食でおもてなしはいかがでしょうか」
つかさ「それ、良いね」
かがみ「私達の時は全くそういうのは無かったのにか……ブツブツ」(聞こえないくらいの小声で)
こなた「やふ〜みんな、何してるの?」
つかさ「あ、こなちゃん、ちょうどいい、誕生日のお祝いにお食事でもどうかなって」
こなた「ありがと〜」
みゆき「それではお店は私に任せていただきませんか?」
つかさ「うん、お願い」

こなた「悪いね〜かがみ」
かがみ「私が決めた訳じゃないわよ、ほらほら、つかさ達が行っちゃったじゃない、追いかけるわよ」
こなた「それじゃ、はい、これ……」
かがみ「何よそれは?」
こなた「かがみとつかさの誕生プレゼント……」
かがみ「はぁ、何を今頃……だからそうゆうのは止めにしようって……」
こなた「それじゃ店に行かないで帰る」
かがみ「バカ、折角の好意を無駄に……」
こなた「しないよね?」
かがみ「……分ったわよ、つかさの分は受け取らないわよ」
こなた「それで良いよ、後で渡すから」
かがみ「誕生日おめでとう……って何で、私がプレゼント貰うのか……逆だろう」
こなた「たまには良いんじゃない?」
かがみ「いいのか……何か納得できない……」
こなた「それじゃ、かがみ達の誕生日、期待してるよ」
かがみ「何かそれも納得できない……」

809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/05/28(月) 21:31:09.31 ID:8nPWm95w0
1レス物って得意じゃない。
もっと面白いものをお願いします。
810 :男子保健委員の憂鬱 1/7 [sage]:2012/05/30(水) 14:16:19.88 ID:Mnl0XChwo
 涼風が、すっかり夏をぬぐい去った10月の上旬。秋の季節。緑に移ろう赤の季節。
 「ここテストに出すかもな」。教壇から聞こえる先生の言葉に、物思う自分の意識を現実に戻した。
 退屈な授業の空気。テストの話題に、ちょっとだけみんな、真面目になる。
 そんな雰囲気の変化をちらっと見渡すそのなかで、斜め前の席の小早川さんの横顔は平静のまま。
 最初っから真面目に授業を聞いていた様子に、さすが、と思った。

 次のテストいつだっけ。テストだけじゃなくて、校内持久走大会の日も近いよな。
 心のなかでひとりごちながら板書を写していると、離れた席で「先生」と声があがる。
 だれの声なのか、迷うことなくそこに目を向ける。
 もう何度も見慣れた光景。岩崎みなみの、控えめな挙手。
「小早川さんの具合が悪そうなので、保健室に付き添います」
 教室中の視線が集まるなかで、うちのクラスの女子保健委員は淡々と先生に要件を告げた。
 あらためて、小早川さんのほうに目を戻す。ほのかに朱の差す頬。真面目に授業を聞いていたのではなく、授業よりも自身の不調を気にし続けていたからこそ、テストの話題にも不動でいたのだと知る。
 

 教室の入り口をくぐるふたつの後ろ姿を、扉が遮る。
 教室の空気が授業へと向き戻って、息をついた。
 微妙な気持ち。ほっとするような、うしろめたいような。
 ほっとしたのは、小早川さんの容態に岩崎がすぐに対処したこと。
 うしろめたいのは、自分が小早川さんの不調を察知できず、何もせずに見送ったこと。
 四月からこのクラスになって、もう2学期の半ばのいまごろ。

 男子保健委員である自分は、未だ、小早川ゆたかに関わったことはなかった。
811 :男子保健委員の憂鬱 2/7 [sage]:2012/05/30(水) 14:16:44.67 ID:Mnl0XChwo
 女子のことは女子に任せるのが当然なのだから、べつに小早川さんをかまいたいということはない。
 だからこの懸念は、どちらかというと小早川さんにではなく、自分自身に、対してのもの。
 岩崎さんよりも、自分のほうが、小早川さんに近い席にいる。
 小早川が体調を崩したとき、いつか、岩崎さんではなく、自分が彼女に接しなければいけない場面が、きっとくるのだと思う。

 そんなことを意識し始めたことに、特にきっかけがあったわけではない。
 小早川さんのことを好きになったとかいう感情ではなくて。ほんとうに、ただのうしろめたさだ。
 自分の行動が、無理解が、小早川さんの不利になっているなんて事実はないけれど。
 ただ、そんな仮定を勝手に想像して、自分が勝手に怖がっているだけ。
 理由といえば、それが理由で。
 仮定に仮定を重ねた勝手な想像が、やめられないだけ。
 ――自分でも、ばかみたいだ、とは思うのだけれど。


 
 ぜぇぜぇと息を吐きながら、地べたに座り込みながら、最下位集団のゴールを眺める。
 併走する岩崎さんに励まされながら、走りを止めない小さい影。
「お、小早川さん」
 周りのクラスメイトも、声を上げる。
 岩崎さんの胸にある、上位入賞の胸賞バラには、おもに運動部に所属してる連中が反応する。
 これだから運動神経のある帰宅部は。
 上位に入るハイペースで走って、なお余分に走ろう、なんて。
 運動部で毎日身体を鍛えてる身だとしても、そうやろうとしない。
 だけれど、彼女が、今回のそれをやろうと思える動機は。
 体力とか、運動の才能とかの問題ではないことも、みんなは、知っている。
812 :男子保健委員の憂鬱 3/7 [sage]:2012/05/30(水) 14:17:43.56 ID:Mnl0XChwo
 無事にゴールして、小早川さんは派手にへたり込む。
 大きく大きく息をついて、田村さんと岩崎さんと笑みを交わし合う。
 全力を出し切って、満ち足りた表情。

 その光景を見て、まず思ったのは、途中で歩くような真似をせず完走してよかった、ということだった。
 もし、怠けてゴールしたとしたら、そうした自分自身をみっともなく思うこと。そんなものを、強いられていただろうから。
「……おれ、まじめに走っておいてよかったわ」
 そんなつぶやきを聞いて、吹き出してしまった。
 自分とおんなじことを考えているやつが、きっと、何人もいる。 



 持久走を越えて、テストも越えて。学校中が一息をついている印象。
 そんなある日の朝、靴を履き替える小早川を目にする。

 「おはよう」とどちらからともなく声をかけて、どちらからともなく歩き始める。
 向かう先はおんなじ教室で、さりとて会話を弾ませるほど仲がいいわけでもなくて。
 だから、あたりさわりなく。てきとうな話題。
「小早川さんって、いつもこの時間だっけ?」
 遅刻ギリギリ、なんてことはないけれど、それでもけっこう遅いほうである自分よりは先に、いつも彼女は教室にいる。 
「うん、今日は、ちょっとね、遅れちゃったんだ」
 苦笑する彼女の顔色が、すこし悪いような気がして、
「あのさ」
 ぐあい、悪いんじゃない?
 口に出そうとして、やめた。
 あれから、小早川さんの体調不良の機会はそう多くはなく。
 もしそれが起こっても、あたりまえに、岩崎さんか田村さんがちょっとだけフォローして、簡単に済む。
「なに?」
「なにが?」
「なにか、言いかけてたよね」
 ずっとそうであったから、今回も、いらぬ心配であろうと思う。
 きっと、気のせいだろう、と、ここでは触れなかった。
 だから。

「なんでもない」
813 :男子保健委員の憂鬱 4/7 [sage]:2012/05/30(水) 14:18:26.61 ID:Mnl0XChwo
 教室に入って、それぞれの席へ。それぞれの友人と、挨拶を交わし合う。
 今日は遅かったね。うしろで、小早川さんたちの会話が聞こえる。
 すこしだけ、いつもと様子のちがう彼女に、だれか、気づいただろうか。

 気のせいで済めば、よかったのだけれど。
 やっぱり、少し顔色が悪いな。
 斜め前に座る、小早川さんの横顔を見ながらそう思う。
 自分が先に気づいたときに限って、周りはまだ、小早川の様子に気がつかない。
 岩崎さんも、黒板を向いたままで。
 まあ、自分のほうが小早川さんに近い席なんだから、こっちが先に気づくのがあたりまえなのだろう。
 ……いままでは、そのあたりまえ、すら、できていなかっただけで。

 だから、声を上げた。「先生」と。教室中の視線が、自分に向く、イヤな感覚。
「小早川さんの具合が悪そうなので、保健室に付き添います」
 たったこれだけの台詞で、口の中は、ひどく渇いた。
 授業の流れを止めた、白い雰囲気と、小早川さんを心配する雰囲気と。
 そして、男子の自分が手を挙げたことをいぶかしむ、妙な均衡。

 止まった空気を、椅子を思いっきり引いて動かした。
 手をさしのべて、言う。
「行こう」
 小早川さんは、きょとんとした視線を返して。一瞬口を動かしかけて、やめた。


 廊下に出たところで、尋ねる。
「歩ける? いまどんな感じ?」
「いまは、めまいがするだけ」
 きっと、そのめまいに吐き気が加わるのも時間の問題で。
「じゃあ、おぶる」
 そのことばに、小早川さんは、いちどためらう様子を見せて、
「うん、よろしくお願いします」
 とちょっとだけ、頭を下げた。
814 :男子保健委員の憂鬱 5/7 [sage]:2012/05/30(水) 14:21:11.62 ID:Mnl0XChwo
 「ごめんね」と彼女は言った。
「……こっちこそ、なんかごめん」
 そんなふうな返事をされて、いぶかしむ様子が背中に伝わる。
 特に仲のいいわけでもない男子が女子をおぶる、なんて状況の居心地の悪さをつくったことが、うしろめたくて、そんな返事に。
「いや、ほら。へんな雰囲気つくっちゃって、さ」
「……ごめんね、いやな思いさせちゃったね」
 いやいやいや、そうじゃなくて、と。謝罪を重ねる彼女に、強く否定する。言葉の選び方を、間違った。
 恥ずかしさとか、正しいことをやりきった感情とか、でもやっぱりやんなきゃよかったという微妙な感じとか、いろいろあって。
 いろいろ、あるけれど。
「なんか、いろいろある、けど。そうやって謝ってほしいことじゃないのは、たしか、かも」
 すこしの沈黙のあと、こっちの言わんとしてることが、伝わったようで。「……ああ」と納得のつぶやき。

「ありがとうね」

 いろいろことばにするのが難しいから、たったのひとこと。

「うん」

 それだけで通じることが、気もちいい。
815 :男子保健委員の憂鬱 6/7 [sage]:2012/05/30(水) 14:24:18.71 ID:Mnl0XChwo
 ベッドに寝かせて、ひととおりの手当。保健の先生が、小早川さんにやわらかく語りかける。
「ちょっとした、疲労ですね。休めば、だいじょうぶですよ」
「はい……」
「とりもなおさず、まず睡眠。遠慮なく眠ってください」
 そういって、微笑する。

 ベッドを遮るカーテンを引いて、先生が戻ってくる。
 もう、自分の用事は済んだはずなのに、なぜか、立ち上がる気にはならなくて。
 椅子に座ったまま、手持ちぶざたに保健室の中を見渡している自分に、先生が声をかける。
「お茶、飲んでいきませんか?」


「……小早川さんのクラスの、保健委員の方でしたよね、男子の」
 天原ふゆき先生から差し出されたカップを、受け取りながら、うなずいた。
 初回の委員会か何か、顧問として教師も顔を出す機会がいちどだけあって、そこで顔を合わせたことがあるような、気がする。
「よく覚えてますね」
 だから、そんなことに、ちょっと驚いた。
「小早川さんのクラスのことですから」
 そう、微笑する。

「……なんていうか、そんなふうに注目されるほど、悪いんですか、小早川さんは」
「いいえ、そんな、要注意っていうようなマイナスなものはありませんよ」
 自分の、大げさな言い分を苦笑しながら否定して。
「単純に、がんばりやさんな小早川さんや、彼女の友人たちを気にかけているだけです」
「……ああ、岩崎さんとか」
「そうそう」
 それで。と彼女はこっちに視線をおいて。
「男子のあなたが連れてくるのは珍しいことですけれど、なにか変わったことがあったんですか?」
 そんなことを、わざわざ、尋ねてくる。

「……いや、まあ、とくに、そういうことはないんですけれど」
 なんでもないことなので、なんでもないとしかこっちも答えられない。
「けれど?」
「……岩崎さんにばっかやらせてるのもあれだな、ってずっと気になってて」
「なるほど」
 これだけの説明で、すっぱりと、先生はうなずいた。
「すこし、楽になった?」
 いたずらっぽく、彼女は笑う。
「……ええ、まあ」
 あいまいに、自分は答えた。
 この気もちが、認めてしまっていいものなのか、判別がつかない。
816 :男子保健委員の憂鬱 7/7 [sage]:2012/05/30(水) 14:30:00.24 ID:Mnl0XChwo
 チャイムが、なる。いつのまにか、授業時間は終わっていたらしい。
 きっとすぐに、岩崎さんたちがやってくるだろう。
 席を辞そうと、椅子から立ち上がりかける自分に、先生は言う。
「そういうふうに、他人を気にかける気もちを、恥ずかしがることはありません」

「やさしさとか、愛とかは、そういうちいさいところに宿るものですから」

 だいじな、気もちです。と彼女は笑った。

「そう、いうものですか」
 そういう気もちを肯定されたことは、すなおにありがたいのだけれど。でも。
「いやでも、やっぱ恥ずかしいですよ。憂鬱なくらい」
 恥ずかしいものは、恥ずかしい。
「いつか、わかります」
 否定を返されても、先生は動じず。微笑を絶やすことは、なかった。

「いつか、憂鬱じゃ、なくなります」



 教室への道中、岩崎さんと田村さんと鉢合わせる。
 小早川さんの様子を問うふたりに、軽い疲労で眠ってる、と答えた。
「眠ってるんじゃ、行ってもお邪魔かなあ……」
 田村さんが困り顔を浮かべて、じゃあどうしよっか、と岩崎さんに視線を向ける。
「眠ってるなら、あとで行くしかないだろうから、いっかい戻ろう……」
「そうだね、しょうがない」
 そこで、ふたりしてきびすを返してくれれば良かったのだけれど、ふたりとも、こっちをむいたままで。
「今回は、ありがとう、ゆたかのこと」
 岩崎さんのまっすぐなお礼が、恥ずかしい。
「いや、べつに」
 短い、返事。声に出してしまってから、ぶっきらぼうな、悪い印象を与えてしまったかと一瞬焦って。

「照れること、ないのに」

 だけれど、微笑む岩崎さんと、なんか、にやりと口端をゆがめる田村さんの表情に、そんな気遣いは消え去った。

 そんな反応に反発がわいて。
 なにかを言おうとして、照れを否定しようとして。

「……いや、でもさあ、こういうときって、こういう気分にならね?」

 でも、出てきた言葉はそんな言葉で。
 一瞬ぽかん、とした表情を浮かべた二人は、朗らかに笑う。
「わかる、わかるよ」


 他人を思うまっすぐさと、ちょっとの憂鬱が入り交じったつぶやきが。
 歩く廊下で三つ重なって、宙に溶けた。


 なんか、そうなるよね。


 END.
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/05/30(水) 20:18:11.11 ID:cS/ZH9I/0

ここまで纏めた。

>>816は急いで纏めたので内容を詳しく吟味していません。
長編その他 のカテゴリーに分類しました。ご指摘があれば変更します。


818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/22(金) 12:46:29.21 ID:bonzmUVSO
あげ
819 :疲れた [saga saga]:2012/06/23(土) 18:14:14.67 ID:DVHKE1mf0
過疎っている……

今、八割くらいの出来でss作成中
来月頭くらいには発表できるかな?
宣言しないと終わりそうにないのでw
間に合わなくてもいつかは発表します。

>>678の続きを書いています。
あまり読まれていないssかもしれないけど個人的には気に入っているので
書かせてもらいます。
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) :2012/06/23(土) 22:02:28.01 ID:C+0FmNEf0
陵桜学園.入学試験 面接にて
面接官「じゃあ次の人入って下さい...ちっちゃいねご飯ちゃんと食べてる?」
ゆたか「ちゃんと食べてます!」
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/28(木) 23:18:45.10 ID:gJO+aLoSO
みゆき「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!…なんちゃって」
かがみ「…」
みゆき「…あ」
かがみ「…まあピンクではあるわね」
みゆき「えっと…いや、あの…これは…」
かがみ「…」スタスタ
みゆき「ああっ!?待って!待ってください、かがみさーん!」
822 :少し待ちます [saga sage]:2012/07/01(日) 18:22:31.85 ID:O1mi2Otc0
ss完成しましたが計算すると83レスを消費することが分りました。
このままなら1000レスを超えることはないようだから全部投下したいと思います。
23時頃から投下開始する予定です。(日が変わっても終わりそうにない)

宣言として書き込みましたので、日を分けてしてくれ、とかのご要望があればどうぞ


823 :少し待ちます [saga]:2012/07/01(日) 18:23:38.45 ID:O1mi2Otc0
あげとけきます
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/07/01(日) 20:11:30.89 ID:O1mi2Otc0
23時頃と言いましたが投下にかなり時間がかかってしまうので 
投下を始めます。もしかしたら中盤少しの休み時間を入れるかもしれません。

>>678の「つかさの旅」の続編です。これで完結です。

宣言通り、83レスを使う予定です。
825 :つかさの旅の終わり 1/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:13:42.70 ID:O1mi2Otc0
この物語は「ID:ilryqbMC0氏:つかさの旅」の続編です。

 あれから二年が過ぎた。この町に来ていろいろあったけど、ゆっくり考えている暇はなかった。レストランはどんどん有名になっていき来客もうなぎ登り、
テレビや雑誌からの取材申し入れが幾度となく来るほどだった。でも、かえでさんはその度に断っていた。只でさえ忙しいのに雑誌とかで紹介されたら
店に入れないお客さんも出てくるし、ちゃんとした料理を出せなくなってしまう。直接かえでさんに聞いた訳じゃないけど、多分そうじゃないかなって思っている。

 お姉ちゃん、ゆきちゃんは大学院で猛勉強をしているみたい、あまり来てくれないし、こっちからも来て欲しいなんて言えない。
そして……もう一人、進路が全く決まっていなかったこなちゃん。冗談半分でうちの店で働いてみないなんて誘ったら、本当に来てくれた。正直驚いた。
もう一人、あやちゃんも誘ったのだけど断られてしまった。家庭をもつとやっぱりダメなんだよね……もっと早く誘えばよかったかな。

 こなちゃんは店にくるとホール担当になった。コスプレ喫茶で働いているだけであって直ぐに店の決まりごとやかえでさんの厳しい注文に対応した。
そしてあっと言う間にこなちゃんはホール長になってしまった。
この頃になるとスタッフも増えて役割分担がはっきりとした。休日も定期的取れるようになった。私は相変わらずのスィーツの担当。かえでさんは店長兼、メイン料理……
私だって負けていられない。賄い料理を出しては新しいメニューを提案した。もう何品かは採用されている。
なんだかんだで、充実した生活を送っているのかもしれない。

こなた「明日は久々に二人とも休みだけど、どこか行く?」
朝食の準備をしながらこなちゃんが言った。そう、私達は同じ部屋に住んでいる。いわゆる共同生活って言うのかな。ここなら家賃は安いからこなちゃん一人でも
借りられた。私の借りた部屋が少し大きすぎたのもあった。急にこなちゃんが来る事になった。最初はそんな理由だった。職場が同じだった。
なにより一人暮らしの寂しさから共同生活は続いた。もっとも休みが重なるのは月に1、2日くらいなのと、個室があったので、
それぞれのプライベートな時間は保たれていたのかもしれない。
つかさ「別に予定はないけど……」
こなた「それじゃお昼、松本さんが教えてくれたパスタ屋さんに連れて行ってよ」
つかさ「……別に良いけど、まだ朝ごはんも食べていないのにお昼の話なの?」
こなた「……お腹が減った時についでに話しただけ……」
私達は笑った。


『つかさの旅の終わり』


826 :つかさの旅の終わり 2/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:15:16.92 ID:O1mi2Otc0
 お昼の時間、私の運転する車は店に着いた。結局こなちゃんとパスタのお店に行く事になった。
つかさ「こなちゃん、どうしてこの町に来てくれたの、おじさんとか、ゆたかちゃん、寂しがらなかったの?」
オーダを頼むと私はこなちゃんに質問をした。まだちゃんと話を聞いていなかった。こなちゃんは今更なんでこんな話をするみたいな顔をしいた。
こなた「ゆーちゃんは喜んで送ってくれた、お父さんは……」
こなちゃんの話が途切れてしまった。おじさんと別れるのが辛かったのかもしれない。思い出させてしまったかな。
つかさ「あ、ごめんなさい、話したくなければいいよ」
こなた「……いや、誘ってくれて嬉しかった」
沈んだ顔が急に明るくなった。
つかさ「誘ったって、店で働くこと?」
こなちゃんは頷いた。
こなた「あのままだったら完全にニートだった、お父さんもあまり厳しく言わなかったし……良い機会だったのかもしれない」
つかさ「でも、この町は不便じゃない?」
こなた「いいや、ネットが繋げれば問題ないよ、コンビニもあるし……ゲームも出来るし……」
この町もやっとインターネットが出来るようになった。こなちゃんが来る条件でもあった。
つかさ「でも、お店に直接行けないのが寂しい?」
こなた「そうそう、陳列されているのを見て、選ぶ楽しみって言うのが……あ、つかさ、誘導したでしょ?」
つかさ「ふふ、そう思った?」
「お待たせしました……」
話の区切りが着いて二人で笑って居ると、飲み物を持った店員が来た。そして飲み物をテーブルに置くと厨房に戻って行った。するとこなちゃんは胸のポケットから
手帳を出して書き出した。
つかさ「どうしたの、何を書いているの?」
こなた「さっきの店員、私達がお喋りをして一段落したのを待っていた、これはうちの店でも採用できると思って……」
つかさ「……私、全く気付かなかった……流石ホール長だね……」
こなた「いやいや、褒めるな、褒めるな……」
こなちゃんは飲み物を少し飲んだ。少し顔を赤くして照れている。
私は全く気付かなかった。確かに店員は自然に、会話を中断せずに飲み物を置いて行った。それを見逃さなかったこなちゃん。
私には無いものをこなちゃんは持っている。そんな気がした。それは高校時代では分らなかったもの。私が知らなかっただけなのか。卒業してからのものなのか。
こなた「飲み物ならいいけど、温かい料理だと、熱いうちに出したいよね、その辺りの駆け引きが難しそうだよ」
駆け引き……こなちゃんはゲーム感覚なんだ。こなちゃんは楽しんで仕事している。私も料理は好きだけど。店と家で作っているのは別物だと思っていた。
別にする必要なんかなかった。もっと楽しく……そうだよね。
つかさ「今日はこなちゃんと食事をして良かったよ、何か教わった気がした」
こなた「なに、私、何もしていないよ……変なつかさ……あ、料理が来たみたいだよ……」
食事の後は、待ちに出てお買い物をした。
そして、楽しい休日はあっと言う間に終わってしまった。


827 :つかさの旅の終わり 3/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:17:46.51 ID:O1mi2Otc0
かえで「ちょっと、何回言ったら分るの」
休日が終わって直ぐだった。
感情的に怒るかえでさん。仕事でこんなに感情的になるのは珍しい。開店前、新人スタッフに怒鳴っていた。
こなた「……店長どうしたのかな、意味もなく怒る人じゃないのに……あの日かな」
私の耳元で囁くこなちゃん。
つかさ「……分らない、分らないけど何かありそう、そういえば一週間くらい前から落ち着きが無くて、セカセカしていたよね」
私もこなちゃんの耳元で囁いた。
かえで「皆、何ボヤっとしているの、もうそろそろ開店よ、しっかりして!!」
更に声を張り上げるかえでさんだった。それは私達に言うよりは自分自身に言っているような気がした。
かえでさんの不機嫌とも思える行動は閉店まで続いた。

「お疲れ様」
店の片付けが終わり、皆が帰っていく。
今日は私が鍵当番、最後の戸締りをする仕事が残っていた。チェック表を見ながら電気の消し忘れをチェック、ガスの元栓の閉め忘れを確認しないとね。
つかさ「全部チェックヨシ!!」
チェック表に全て記入して更衣室に入った。今日はこなちゃんが先に帰って夕食を作っているはず。早く帰ろう。
着替えていると床に何かが落ちているのに気が付いた。何だろう。着替え終わってから落ちているものに近づいた。それは名刺だった。
拾い上げると『ワールドホテル』と会社名が書いてあった。ホテル……ワールドドホテルって言ったら全世界に店舗をもっている高級ホテル……
『バン!!』
突然ドアが開いた。私はビックリしてドアの方を向いた。そこには息を切らせたかえでさんが立っていた。ノックをするのも忘れているくらい慌てているみたいだった。
つかさ「ど、どうしたのですか……びっくりした……」
かえでさんは私が居るのさえ気が付かない。床にコンタクトレンズを落としたみたいに何かを必死に探していた。
つかさ「かえでさん?」
いきなり飛び上がって驚くかえでさん。
かえで「うぁ!!  つ、つかさじゃない、黙って入るなんて、居るなら居るって言いなさいよ」
つかさ「さっきからここに居ましたけど……」
かえで「そ、そうだったの……それより、こんな遅い時間に何をしていたのよ」
つかさ「今日は鍵当番だから……」
かえで「……そ、そうだったわね、お疲れ様……」
また床を探し始めた。おかしい、話が微妙に噛みあわない。
つかさ「あ、あの、探し物ってこれですか?」
持っていた名刺をかえでさんに見せた。かえでさんは名刺を見ると、まるでひったくるようにして私から名刺を取り上げた。
かえで「あった……」
かえでさんは溜め息をつくとそのまま部屋を出ようとした。
つかさ「待って下さい……ワールドホテルって何ですか?」
かえでさんは立ち止まった。
かえで「……つかさには関係ない事よ……忘れなさい……」
そう言われると余計関係あるように思えてくる。
つかさ「今日は朝から変だった、あんな怒り方したら新人さん辞めちゃうかもしれない、何か悩み事でもあるのですか?」
かえで「……そうね、朝の態度は悪かったわ……明日、謝っておくわよ……私が帰らないと鍵が閉められないわね、帰るわよ……おやすみなさい」
つかさ「おやすみなさい……」
かえでさんはそのまま店を出て行った。
何も話してくれなかった。何だろう……

828 :つかさの旅の終わり 4/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:19:09.23 ID:O1mi2Otc0
つかさ「ただいま〜」
こなた「おかえり〜」
おかえりか……確かに一人暮らしだとこんな返事はないよね。
こなた「鍵当番だけどちょっと遅かったね……なんかあったの?」
テーブルには既に料理が並べられていた。少し冷めている感じだった。私はかえでさんの事を話した。こなちゃんは腕組みをして考え込んだ。
こなた「やっぱり、店長……松本さんは何か隠しているね……かがみに似ている所があるからなんとなく分るよ」
つかさ「お姉ちゃんに、似ている?」
こなた「そうだよ、この前、初めてここに来た時、かがみと言い合いの喧嘩をしたでしょ、それで分ったよ、二人は似たもの同士のツンデレだって、
    だからかがみと同じように接するとうまくいく、実証済みだよ」
得意そうに話すこなちゃん。こなちゃんはかえでさんをお姉ちゃんに置き換えていた……私も今までホームシックにならなかったのもこなちゃんと同じように
かえでさんをお姉ちゃんに見立てていたからかもしれない。
こなた「とにかく、夕ご飯食べよう、話はそれからだよ」
つかさ「そうだね、私もお腹減った……」
私達は食事をしながら話した。

 食事も半ばくらいした頃だった。
こなた「一ヶ月くらい前の休日なんだけど、買い物の帰りに偶然松本さんを見かけてね、挨拶しようとしたんだけど……隠れて後を付けちゃった、
    そうしたら、例の神社に入っていくのを見たんだ」
私は食事をするのを止めた。かえでさんが神社に行った……こなちゃんは更に話を続けた。
こなた「私はそれ以上後を付けなかったけど……つかさ、似ていると思わない、呪われた時のかがみに」
つかさ「え……」
まさか、そんな筈はない。お稲荷さんは皆この町を去った。
つかさ「呪いなんて考えられないよ」
こなちゃんも食べるのを止めて私を見た。
こなた「だったらなんで神社なんかに行くのさ……そういえばつかさは私がここに来てから神社に行くのを一回も見ていないし、ひろしって奴も一度も
    見かけていない……何があったの……」
お稲荷さんの話は二年前に帰ってお姉ちゃんと話してから誰とも話していない。懐かしさが少し込み上げた。でもまだ懐かしいなんて言うほど時間は経っていないのも確か。
つかさ「……今は言えないけど……呪いは考えられない、だけど、かえでさんが神社に行く理由なら心当たりあるよ」
こなた「……心当たり、教えて」
こなちゃんはまたご飯を食べだした。顔が少し曇っている。お稲荷さんの話をしないから納得いかないみたい。
つかさ「辻さんはあの神社で自殺したから、多分お祈りに行ったと思うよ」
こなた「辻……辻浩子さんだね、松本さんが以前一緒にレストランを開店しようとした人だったね、何で今頃になって、辻さんってどんな人なの」
つかさ「私もそのくらいしか教えてもらっていないよ、かえでさんから彼女をする事なんてないし……」
まさか、かえでさんはまだ辻さんが自殺をしたのを自分のせいにしているのかな。でもそれは本人に聞かないと分らない。私も残りのご飯を食べ始めた。
つかさ「そういえば……帰りに更衣室で名刺を見つけた、そうしたらいきなりかえでさんが入ってきて、慌てて名刺を取り上げたよ」
こなちゃんはお茶碗のご飯を全て食べてから話した。
こなた「名刺……誰の名刺なの?」
つかさ「名前まで見られなかったけど……ワールドホテルって書いてあったかな」
こなた「ワールドホテル……」
こなちゃんは食器を片付け始めた。
こなた「つかさ、もしかして松本さんはワールドホテルからスカウトされたんじゃないの」
つかさ「どうゆうことなの?」
こなちゃんの言っている意味が分らなかった。
こなた「うちのレストランの評判はつかさだって分っているよね、ネットの中じゃ人気トップクラスだよ、テレビや雑誌で紹介されないのは松本さんの方針、
    それは私も賛成する、でもね、有名ホテルならこういったレストランの有能者をヘッドハンティングしちゃえばレベルを上げるのが手っ取り早いからね……」
ヘッドハンティング……そんなかえでさんは他のレストランに行っちゃうってことだよね。
つかさ「かえでさんが居なくなったら……このレストランはどうなっちゃうの、ここまで来るのに皆苦労したのに、これからなのに……」
こなちゃんは私の食べ終えた空の食器も片付け始めた。
こなた「そうだよね、つかさは私がここに来る前からかえでさんと一緒に頑張ってきたから……つかさと松本さんの絆が試される時だよ」
つかさ「絆……」
こなちゃんは急に笑い出した。
こなた「ふふ、つかさはいつも真に受けるんだね、松本さんの態度と名刺から私が勝手に想像した事だよ」
つかさ「……で、でも……」
さらにこなちゃんは笑った。
こなた「何があったか知らないけど、呪いの方は解決したみたいだね、私にはそっちの方で安心したよ、つかさもかがみも解放されたんだね」
つかさ「うん……」
あれで本当に解決したのかな。まだあの時の唇の感触が……何も解決していないような気がする。
こなた「どうしたの、急にボーとしちゃって?」
私はハッと我に返った。
つかさ「うんん、なんでもない、なんでもないから」
こなちゃんは不思議そうに私を見ていた。そして気付くと、食器をいつのまにか全部洗い終わっていた。
こなた「これから私の部屋でゲームしない?」
つかさ「え、でも、私じゃ相手にならないよ」

829 :つかさの旅の終わり 5/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:20:25.90 ID:O1mi2Otc0
 この後、こなちゃんの部屋でゲームをしたけどコテンパンに負けたのは言うまでもなかった。
こなちゃんの言うことが本当なら、かえでさんはどう思っているのかな。かえでさんは元々この町で生まれ育った。わざわざ生まれ故郷でこのレストランを始めたのだから
どんなにお金を積まれたって店を手放すはずなんかない。そう思いたいし、そう信じたい。

 次の日私とこなちゃんは一緒に出勤した。
こなた「この車は……松本さんのだ、凄いな、今度こそ一番だと思ったのに」
つかさ「何かあると必ずかえでさんは早く出勤するよ」
店の駐車場に車を止めた。かえでさんの車が既に止めてあった。
こなた「成るほどね……名刺の事、聞けるじゃん」
私は頷いた。

つかさ・こなた「おはようございます!!」
声を張り上げて挨拶。客席に座っていたかえでさんは飛び跳ねて驚いた。
かえで「うぁ、つかさ、こなたじゃない……朝から驚かさないでよ……」
私とこなちゃんはお互いに目を合わせて相槌をついた。そして私はかえでさんの目の前に立った。
かえで「ちょ、ちょっと何なのよ、」
私達の気迫にかえでさんは立ち上がってしまった。
つかさ「一昨日の名刺の事を聞きたい、あれはいったいなんですか?」
かえで「……名詞の事ね……」
かえでさんはバックから財布を取り出し中から名刺を取り出した。そしてそれを私に見せた。一昨日見た名刺と同じもの。
つかさ「ワールドホテル」
かえで「そうよ、ワールドホテルの会長の名刺よ」
そこには「柊けいこ」と書いてあった。
つかさ「会長さん……女性なんですか?」
かえでさんは頷いた。
かえで「名刺を持ってきたのは秘書の方だったわ……是非話がしたい……そう言ってこの名刺を置いていった」
こなた「話ってどんな話なのかな?」
かえで「そこまでは言わなかった、ただね、相手は世界的大企業の会長よ、世間話するためにわざわざ呼ぶようなことなんか考えられない」
こなた「ヘッドハンティングじゃないのかな……」
かえでさんは笑い始めた。
かえで「ふふふ、レストランごときに会長が出るわけ無いでしょ、それが本当だとしても私はお断りするわ」
つかさ「本当ですか」
かえで「決まっているでしょ、どんな条件出されても、この店を手放すもんですか」
つかさ・こなた「良かった!!」
私達は両手を繋いで喜んだ。
かえで「それで、会長と会うのは五日後、つかさも同行してもらいたい」
つかさ「わ、私も?」
かえでさんの顔が真面目になった。
かえで「はっきり言って、つかさが居なければここまでのレストランにならなかった、私の支えにもなってくれた」
つかさ「うんん、私は……かえでさんに助けてもらってばかりで……この前の、ひろしさんの……」
かえで「ゴホン、ゴホン」
こなた「ん、ひろし……なんかあったの?」
つかさ「うんん、なんでもないよ」
かえでさんの咳払いで話が止まった。危なかった。こなちゃんに分ってしまうところだった。私がひろしさんの話を秘密にしているのをかえでさんは知っている。
かえで「そうゆう事だからよろしく、一応スーツを用意しておきなさい、当日は出勤扱いで良いわ、場所は東京だから帰りに実家に寄っていくわよね、次の日は休みだから」
つかさ「はい、分りました……そのつもりです」
かえでさんは事務室に入って行った。
こなた「よかったね、かがみ達にも会えるじゃん、それに「日下部あやの」さんにも会ってきなよ、結婚式出られなかったんでしょ」
みんな元気かな、あやちゃんにも会いたいな。
つかさ「こなちゃんも逢いたいんじゃ?」
こなた「まぁね、でも、つかさに比べればましだよ、私は先月帰ったし、大丈夫だよ」
つかさ「そうだったね」
こなた「それより、つかさ……」
こなちゃんは私をじっと見た。
つかさ「なあに?」
こなた「いや、ホテルの会長の名前……柊」
つかさ「私も少し驚いたけど、柊なんて姓は珍しくないし、もし近縁だったら知っているはずだよね、少なくとも私達、家族の親戚じゃないよ」
こなた「そうだよね、そうだよ……それにしても会うまで目的を言わないなんて……怪しいな」
つかさ「詮索しても何も分らないよ、着替えに行こうよ、その時になれば分ることだし」
こなた「そうだね」
私達は更衣室に向かった。今日の仕事の始まり。

830 :つかさの旅の終わり 6/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:21:53.67 ID:O1mi2Otc0
 慣れないスーツを着て一番電車に乗っていた。今日はワールドホテルの会長に会う日。隣に同じくスーツを着たかえでさんが私の隣の席に座っている。
かえでさんも落ち着きがなく、あちらこちらをキョロキョロとしていた。
かえで「なんか息苦しいわ、つかさは少し大きすぎじゃないの?」
つかさ「うーん、引越しする時に買ったスーツなんだけど……少し痩せたのかな……」
かえでさんは窓の景色を見始めた。まだ目的の駅までは暫くかかる。
かえで「東京か……専門学校時代と数年働いてから直ぐに帰郷したのよね……久しぶりだわ」
つかさ「私も、専門学校の時、こなちゃんと秋葉原行ったのが最後かな」
かえで「そういえば泉さんは高校時代からの親友だったわね……彼女は面白い、思いもしなかった事をやらかす、良い意味でも、悪い意味でも」
つかさ「でも、こなちゃんはどっちかと言うと、お姉ちゃんと一緒にいた時の方が楽しそうに見える……」
かえでさんは窓の外を見るのを止めて私を見た。
かえで「そうかしら、それなら何故彼女はつかさの誘いに乗って私達の店に来た、就職先が無かったから……それだけの理由じゃない、
    現に彼女は短期間でホール長になった、つかさに誘われて嬉しかったのよ」
つかさ「う〜ん、分らない」
かえでさんは微笑みながらまた窓の外を眺めた。
かえでさんの親友、辻浩子さん……彼女はかえでさんと志を共にしていたって言っていた。だけどそれしか聞いていない。もう亡くなってしまった人の話をするのは
辛いのかもしれない。だけど、私は聞いてみたい。私は思い切って聞いた。
つかさ「……かえでさん、辻さん……辻浩子さんってどんな人だったの?」
かえで「……彼女は自殺した……ばかな奴よ、思い出したくもない」
相変わらず外の景色を見たままだった。
つかさ「思い出したくない……そんなかえでさんが何故辻さんの亡くなった神社に行ったりするの、一番、彼女を感じる場所じゃないの?」
かえで「……知っていたんだ……」
つかさ「こなちゃんが見かけたって」
かえでさんの目から涙が流れたような気がした。
かえで「つかさがあの神社に行かなくなって、今度は私が行くようになった……好きな人が……狐と言った方がいいかしら……そんな人が二人も居たあの神社に
    つかさは何の未練も感じないの……」
まなちゃんとひろしさん……未練が無いと言ったら嘘になる。でも、あの神社に行っても会えるわけじゃないから。
つかさ「ひろしさんはまだ生きているから、もしかしたらまた会えるかもしれない、まなちゃんは……もう居ないけど、財布の中に生きているから……」
かえでさんは私を見ながら話し出した。
かえで「葉っぱの事を言っているのか……浩子は私の幼馴染よ、一人っ子の私には姉妹のような、妹みたいな存在だった、喧嘩もよくしたけど、それ以上によく遊んだわ、
    小学校、高校、そして専門学校まで同じ学校に通った」
つかさ「……すごい、お姉ちゃんとは高校まで一緒だったけど、そこまで一緒だったなんて」
かえで「一緒にパテシエなろうなんて約束した……それが夢だった……彼女の料理の腕は私をはるかに超えていた、特にお菓子に関してはね……」
つかさ「そうだったのですか、私も会ってみたかった……」
かえで「つかさはその彼女の腕を更に超えているわよ」
私は耳を疑った。私はそんな腕なんかない。
つかさ「そんな……お客様に褒められた事はそんなにないし……作るのに時間もかかっちゃうし……」
かえで「つかさが居なければ今のレストランはなかった……旅館だけだったあの頃は料理より温泉が有名だった、私は料理長だった、それが何を意味しているのか分るでしょ」
かえでさんらしくない。卑下するなんて。
つかさ「旅館の時、出していた料理と今の料理じゃ種類が違うよ、洋風と和風だし、かえでさんの得意は洋風だから……」
かえで「……あんたは優しい、優しすぎるのよ、たまには人を傷つけるような事をしてみなさいよ」
かえでさんは少し興奮気味だった。やっぱりこれから行こうとしている所には何かがある。かえでさんを見ていると、そんな気がしてならない。
かえでさんは会長さんがどんな用事があるのか知らないって言っているけど。概略くらいは伝えているのが普通だよ。でもこんな状態じゃ聞いても答えてくれそうにない。
それに時期にそれも本人から聞ける。

831 :つかさの旅の終わり 7/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:23:37.26 ID:O1mi2Otc0
 私達は思わず見上げた。ワールドホテル本社ビル。周りの建物と比べると豪華さと気品で圧倒していた。入り口には沢山の人々が行き交っている。
つかさ「なんか凄すぎて入り難いね……」
かえで「…噂には聞いていたけど……そこいらのリゾートホテルとは違うわね、各国の要人も泊まるのが頷けるわ」
かえでさんはホテルのホールへと入ってく。私もその後に付いて行った。するとホテルのテナントレストラン街を通った。
かえで「三ツ星級のレストランが軒を連ねているわよ……私に対する当て付けにしか感じないわ」
更に奥に進むと受付の前にかえでさんは止まった。そして例の名刺を受付に見せた。
かえで「「レストランかえで」の店長、松本かえでですが……」
受付「……お待ちしておりました、そちらのエレベータで35階へどうぞ」
エレベータを降りると目の前が会長室だった。かえでさんは扉をノックした。扉が開いた。
「どうぞ」
優しく気品のある声だった。私達はその声に導かれるように向かった。
「よく来てくれました……どうぞ、お座り下さい」
会長……この人が会長。その人は椅子に座っていた。髪は短く全て白髪……銀髪に見える。かなり歳をとっているように見えるけど背は真っ直ぐに伸びているから
歳を感じさせない。服も若い人が着ているようなピッタリとしたスーツを着ていた。
かえでさんの顔を見ると微笑んだ。私達は椅子に座った。すると奥の方から秘書らしい女性が飲み物を持ってきた。テーブルに飲み物を置くと軽く会釈をして奥に戻って行った。
会長さんは私に気付いた。私の方を向いた。
けいこ「そちらは?」
かえで「……副店長の柊つかさです」
え、今何て言ったの。副店長って……そんなの初めて聞いた。何時からそんなのになったのかな……
けいこ「はじめまして、私は柊けいこ……このホテルの会長を勤めさせていただいているわ」
かえでさんは私の脇腹を肘で軽く突いた。
つかさ「あ、わ、私は柊つかさです、よ、よろしくお願いします」
会長さんは微笑んだ。何だろうこの人前に会った事があるような……素敵な笑顔……
会長さんはかえでさんの方を向くと表情が厳しくなった。
けいこ「早速でもうしわけないですが、ご返事を聞きたいわ」
返事……会長さんはいきなり回答を求めてきた。やっぱりかえでさんは呼ばれた理由を知っていたんだ。
かえで「……お断り致します、とても承服できる内容ではありません」
会長さんは微笑むとゆっくりと立ち上がった。そしてテーブルに置いてあった飲み物を取った。
けいこ「……そうですか、悪い条件とは思いませんが、それに……断ったのはあの町で貴女だけになりました、それでも?」
……条件とか町ってどう言う意味だろう。かえでさんをスカウトしているにしてはちょっと意味が分らない。
かえで「それでもです」
けいこ「……最初から同意できるとは思っていません、今後も会いたいのですが、どうです」
かえで「会うのは構わない……でも、結果は同じと思います」
いったい何を話しているのだろう。やっぱりかえでさんをスカウトしているのかな。話に入れない。そんな私と会長さんの眼が合った。
『パチン』
会長さんの指が鳴った。奥からさっきの女性が出てきた。テーブルの上の飲み物を片付けると会長さんに紙を渡した。
けいこ「柊さん、貴女は松本さんから話を聞いていないようですね……松本さん、それでも店長なのですか」
かえで「むぅ……」
とてもソフトな口調だけど言っている事は厳しい。かえでさんが反論できない。それにしてもさっきの指の鳴らし方……気になる。何だろう思い出せない。
会長さんはさっき渡された紙をテーブルいっぱいに広げた。それは地図だった。その地図は私達が住んでいる町の地図だった。
けいこ「この地図は見て分るように、貴女達の住んでいる町……この辺り一帯を再開発するプロジェクトがあります、もちろんあなた達のレストラン、旅館もそのエリアに
    入っています、是非あなた達の店を売ってもらいたいのです」
地図を良く見ると色が塗られている。これが開発する地区なのかな、町の殆どが対象みたい。だけど私達のレストランだけが色が塗られていなかった。
けいこ「もちろんお金を渡されただけでは仕事は出来ないでしょう、数百ある私の世界中のホテル、施設、何処でも良いわ、五年間無償でテナントを貸しましょう、その後、
    留まるのも、他に移るのも自由、移ると決まった場合でも無利子で資金を提供いたしましょう」
なんて至れり尽くせりの待遇……悪くない。もっと良い調理器具とか欲しいし、広い厨房、間取りも変えてみたい。
けいこ「どうですか、柊さん?」
832 :つかさの旅の終わり 8/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:25:05.03 ID:O1mi2Otc0
つかさ「いい……」
かえで「私の店は三ツ星が付く様な洒落た料理は出せませんし、出す気もありません、貴女のご希望に添えるとは思いませんが」
私が言うより早くかえでさんが話した。かえでさんはあの条件でも不服なのか……住み慣れた町を離れるのだから、その気持ちは分る。
会長さんは笑った。
けいこ「私のテナントの店は最初から三ツ星だった訳ではないわ、テナントに来てからそうなったのよ、もちろんそうならない店もあるわ、それでも
    彼らは誇りをもって仕事をしているわ、それに私はテナントの経営には一切口出しはせません、それは約束します」
会長さんの言う事が本当なら凄く魅力的に感じる。私だったら直ぐにでも会長さんに店を売ってしまうかもしれない。
かえで「話はそれだけですか、他に用がなければ帰らせて頂きます……」
かえでさんは席を立った。
けいこ「道中、さぞ疲れでしょう、食事でもご一緒できれば……」
かえで「結構です」
けいこ「……そうですか、残念です、今度、来週の日曜日、時間はとれますか」
かえでさんは、しばらく考えた。
かえで「来るだけは来ます」
会長さんは微笑んだ。
けいこ「ありがとう……」
……この笑顔。思い出した。この人会った事がある。こなちゃんが来る少し前、店に来たお客様……あの時はまだ持ち回りでホールをやっていたから……会計の時
料理を褒めてくれたから覚えている。この人……ただ土地が欲しいだけじゃない。私はこの会長さんに魅かれているのを感じた。
かえで「つかさ、行くわよ!」
つかさ「は、はい」
私は席を立った。
けいこ「お待ち下さい……柊つかささん、少しお話があります、よろしいですか」
つかさ「え、私に……話ですか……」
思わずかえでさんを見た。かえでさんは少し不機嫌そうな顔になった。
かえで「好きになさい、つかさはこれから実家に帰るのでしょ、丁度いいわ、ここで解散」
かえでさんは部屋を出て行った。

 広い会長室に私と会長さんだけになった。どうして私を呼び止めたのだろう。かえでさんはなんか怒ってしまったみたいだし……休みが明けに会うのが嫌だな……
もうこうなったら、会長さんの事をもっと調べておこう。かえでさんに話して参考にしてもらおう。
つかさ「あ、あの、会長さんは以前、私達のレストランに来られましたよね?」
会長さんは微笑んだ。
けいこ「けいこで良いわ……そうです、覚えていてくれたのですね、光栄ですわ」
つかさ「い、いえ、料理を褒めてくれるお客様なら覚えますよ……光栄なのはこっちの方です……」
けいこ「美味しいから、美味しいと言っただけ……あれは松本店長の料理でした、料理と同じようにやはり妥協はしませんでしたね……ますます彼女を気に入りました」
あんな断り方をしたのに、けいこさんはかえでさんをよっぽど気にいったに違いない。
つかさ「えっと、ご用件はなんでしょうか……」
けいこさんは目を静かに閉じた。
けいこ「……一人、二人……三人」
いきなり数えだして何を……私は首を傾げてしまった。
けいこ「最初は憎しみから始まった、そして……それは愛情に変わって行く……懐かしい……仲間の香りがする」
つかさ「え?」
けいこさんが目を開けた瞬間私は、無意識に目線をけいこさんから外した。この感じは紛れもなく……お稲荷さん……
けいこさんはクスクスと笑った。
けいこ「……金縛りの回避ですね、それは教えられたものではない、自分の体験で覚えたもの、試してすみませんでした、最初からそんな技をする気などありません」
ほっとして目線をけいこさんに戻した。
けいこ「これほど強く感じるほど貴女は仲間に関わっていたのですね……そんな人間は近代になってからは殆どいません……」
確かに関わっていた。最後には好きになったりもした。もう関わらないと思っていた。でも運命の悪戯なのか。今、目の前にお稲荷さんが立っている。この人、うんん、
このお稲荷さん……今まで会ってきたお稲荷さんとは感じが随分違う。人間として生活している。と言うより企業の会長にまでなるなんて……え、どうゆう事なの?
つかさ「ど、どうして今までバレなかったの、人間になっていられる時間って決まっているのでしょ、狐に戻った時どうしていたの?」
けいこ「驚いた……そんな極秘にしている事も知っているなんて、貴女はよっぽど信頼されていたみだいですね……それを話す前に、手を貸していただけますか、
    恐らく話したくない事もお在りでしょう、貴女の記憶に直接語りかけます、よろしいですか?」
何だろう、この人には全てを話しても良いような気がしてきた。けいこさんに両手を差し出した。けいこさんは私の片手を両手で握った。そして目を閉じた。
私も目を閉じて、まなちゃんの出会いからひろしさんの別れまでを思い出していった。

833 :つかさの旅の終わり 9/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:26:45.15 ID:O1mi2Otc0
けいこ「……ありがとう、すまないと思いました、貴女の生い立ちも見させてもらったわ……四姉妹の末っ子……神社の娘、優しい家族、双子の姉を一番慕っているわね」
数分後、けいこさんは両手を離した。
けいこ「まさか真奈美が亡くなってしまったなんて……しかも私達の過ちで……」
つかさ「まなちゃんを知っているの?」
けいこさんは頷いた。
けいこ「真奈美、ひろし、たかし……そして五郎、みんな知っているわよ」
つかさ「五郎……さん?」
けいこ「貴女の記憶の中では「大きなきつねさん」と言っていたわね、先代のお頭よ、あの未熟者も引退する時が来たようね……」
ここまで具体的に私の記憶を覗いていたなんて……私を見ただけでまなちゃん達と出会ったのを見抜いた、ひろしさんでさえ私をまなちゃんと間違えたのに。
それに先代のお頭さんを未熟者呼ばわりするなんて……このお稲荷さんはいったい……
つかさ「お稲荷さんは人と付かず離れず……そうやって暮らしてきたって聞いていました、でも、けいこさんは……」
けいこ「お稲荷さん、そう呼ばれるのは数百年ぶり……そうね、私は仲間から離れた……私は人間の社会の中で生きていく道を選びました、そこで恋をし、
    生涯を共に生きようと誓った人ができました」
けいこさんは自分の席に向かって歩き始めた。そして机に置いてあった写真を手に取った。男性の写真……老人の写真。
けいこ「三年前に亡くなった、私は彼の意志を継いで会長になった」
けいこさんは人を好きになった。人間と一緒に……
つかさ「結婚したの、そんな事が出来るの、カゲロウみたいな寿命の人間と一緒にいて幸せになれるの?」
けいこさんは写真を見ながら答えた。
けいこ「なれないわね、お稲荷さんで居る限りは……五十年前、私は人間になった、長寿と引き換えにね、元の狐の姿に戻ることはもうないわ、それでも彼の方が先に亡くなった」
好きな人の為に長寿を捨てたなんて……ひろしさんは……比べちゃいけないけど……出来る訳ないよね、そんな事……それにそんな事なんてさせたくない。
つかさ「わ、私達は……」
けいこさんは写真を元の机に置いた。
けいこ「愛と言うのはね、はっきり形が決まっているものではないわ、私はそうしただけ……お互いが納得できればそれで良い、私はそう思います」
私の聞こうとしていた質問を話すまえに、答えを先に言われてしまった。でも……私は納得したのかな。
けいこ「十年、五年……もっと短いかもしれない、私に残された時間は短い、私の出来る事は彼の夢を実現させる事、その為なら私の持てる能力、知識を全て使うつもりよ」
つかさ「それが町の再開発なの?」
けいこさんは頷いた。けいこさんの決意の固さこれで納得した。

テーブルの上に置いてある地図を改めて見た。「レストランかえで」
このレストランがあの町に居なければならない理由は私には思い浮かばない。どこに移ったっていいと思う……ん?
これは……どう言う事なの。
つかさ「けいこさん、これは、どうして再開発するの?」
私は色の塗ってある区域に指を指した。それは、町唯一の神社……お稲荷さんのすみかだったはず。
けいこ「あの小山は景観を損ねます、山を削り更地にして公園にするつもりです」
分った、かえでさんが何故、けいこさんの話しに乗らない理由が。
つかさ「あの神社がどんな所か、けいこさんなら分るはず」
けいこ「私は古巣には興味ありません、つかささん、貴女もあの神社には執着していない筈です、それに私の調べた限りではあの神社を信仰する人間は居ません」
つかさ「そんなんじゃなくて、辻さんが眠っているから……かえでさんの親友の辻浩子さんが……」
けいこ「辻……浩子……」
けいこさんは目を閉じた。
けいこ「……それは調べました、自殺した人のようですね、ご遺体はもう既に荼毘に付されて彼女の墓地に埋葬されたと、なんの問題もありません……」
つかさ「かえでさんが反対の理由、私の記憶を見たのなら分るはずです……」
けいこさんは目を開いた。
けいこ「あぁ、そうだったのですか、彼女の私に対する態度の理由が分りました、時間が掛かりそうですね」
つかさ「時間がかかる……計画を変更する気はないの?」
けいこ「ありません、もう計画は動いています……しかし満場一致が私の信念、松本さんが賛成してくれるまでは止めるつもりです」
けいこさんの意志は固い。でもかえでさんも考えを変える気はなさそう。いったいどうすれば……
けいこ「貴女はさきほど初めて副店長といわれましたね」
私は頷いた。
けいこ「貴女は私の計画に賛成と感じましたが相違ないですね」
つかさ「う、うん……でも」
けいこ「咄嗟であれ、貴女を副店長といったのならばそれなりに貴女は信頼されています、どうです……説得してもらえますか」
つかさ「やってはみるけど……それにはけいこさんがお稲荷さんだったって言わないといけないかも……かえでさん、あまりお稲荷さんは好きじゃないみたいだし……」
けいこ「私の正体は話しても構いません、それが解決の糸口となるならば……松本さんにとっても、あのままではいい仕事は出来ないと思います」
つかさ「今日はありがとうございました、久しぶりにお稲荷さんに会えたし……」
私はお辞儀をした。
けいこ「いいえ、貴女が来てくれて良かった、懐かしいさが込み上げてきました、来週の日曜日、是非松本さんとご一緒に来てください」
つかさ「はい」
握手をして私は会長室を出た。



834 :つかさの旅の終わり 10/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:28:15.89 ID:O1mi2Otc0
 うわ〜、出来そうもない約束してしまった。かえでさん、私が残ろうとした時怒っていたし……まともに話を聞いてくれるかどうか。でもこの問題は
私やかえでさんだけで決められる事じゃない。レストランで働いている人皆に関わる問題。まずは皆に話さないと、考えるのはそれからだよ。
それより、けいこさんが人間なった経緯をもっと聞きたかった……
さて、今くよくよ考えたってしょうがない、実家に帰ろう。皆どういているかな。

ホテルの飲食店街を通りかかった。けいこさんはテナント経営に口を出さないって言っていた。ホテルの店に急に興味を持った。帰るにはまだ少し早い。
店の様子でも見てみようかな。辺りを見回し適当な軽食店に入った。
「いらっしゃいま……ひいちゃん?」
つかさ「あ、あやちゃん……」
全くの偶然だった。目に入った最初のお店、そこに彼女は居た。私達は両手を握り合って再会を喜んだ。
あやの「どうしたの、こんな所に来て……」
つかさ「いろいろあってね……それより、結婚おめでとう、私達の中で一番乗りだね」
あやちゃんは高校時代から付き合っていた日下部さんのお兄さんと結婚をした。こなちゃんが店に来る少し前だった。
あやの「ありがとう……いろいろ話したいけど、仕事中だから……取り敢えず席へどうぞ」
つかさ「うん」
あやちゃんに案内された席に座った。私は辺りを見回した。旅館の食堂を改装した私の働くお店とは違う。装飾、電灯、テーブル、椅子……全てが……
奥の厨房は広くて動き易そうだった。そこで働いている従業員はみんな活き活きとしている。あやちゃんがメニューと水もって来た。
あやの「店長に許可をとったから少し話せるよ、スーツなんか着込んじゃってどうしたの?」
つかさ「う、うん……ここのホテルの会長さんに呼ばれて……私達の店を移転して欲しいって……」
あやちゃんは喜んだ。
あやの「凄い、チャンスだよ、このホテルに入れるだけでも大変なの、テナントに空きが出ると何件ものお店が候補する、でもね、最後は会長が決める……
    会長に認められただけでも相当な宣伝になるよ……そうか〜つかさの店がホテルの店舗にはいるのか、ここはとってもいい所、
お店同士はライバルになるけど、一緒に頑張ろうね」
ちょっと興奮気味に話すあやちゃん、その話しぶりから環境がいいのは直ぐに分った。
つかさ「ちょっと気が早いよ、まだ決まったわけじゃないし……」
あやの「そうなの……」
あやちゃんの顔が曇った。
つかさ「それより、結婚してどうなの、旦那さんとは……日下部さんとはうまく言ってるの?」
あやの「もちろん……」
またあやちゃんの顔が明るくなった。私にはそれだけで彼女が幸せなのは充分分った。
5分位かな、彼女とお話をした。彼女は嬉しそうに旦那さんのお話をした。
「日下部さんちょっと……」
ホール長らしい人があやちゃんを呼んだ。
あやの「あ、もう時間だね、今度またゆっくりお話しましょ」
つかさ「うん」
あやちゃんは仕事に戻った。

 あやちゃんのお店で私はコーヒーを頼んだ。そのコーヒーを飲んで驚いた。香りがうちの店とはぜんぜん違っていた。きっとコーヒーを淹れる専門の人がいるに違いない。
軽食店だと思って侮っていたらとんでもなかった。このホテルのテナントに入ればこんな店と張り合わないといけない。
だけど楽しそうに働くあやちゃん見て思った。こんな店で働いてみたい。コーヒーを飲み終わりお会計をしにレジに向かった。
あやの「ありがとうございました」
つかさ「いつからここで働いているの?」
あやの「半年くらい前かな……泉ちゃんがひいちゃんの所に行った後だから、知らないかもしれない」
つかさ「もし、もしも、もっと早く誘っていたら来てくれた?」
あやちゃんは暫く考え込んだ。
あやの「結婚……こうなる事は分っていたから……」
答えはなんとなく分っていたけど……聞くんじゃなかった。
つかさ「それじゃ、ごちそうさま」
あやの「移転……決まると良いね、待ってるよ」
つかさ「ありがとう」
私は店を後にした。

835 :つかさの旅の終わり 11/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:29:59.57 ID:O1mi2Otc0
 空はすっかり夕方になっている。私は実家に向かっていた。家に連絡はしていなかった。皆を驚かせる為。長期休暇を取らないで帰るのは初めてかもしれない。
見慣れた町並み……もう直ぐ家に着く……柊家が見えてきた。みんなどんな顔するかな……ちょっとドキドキしてきた。
玄関が見える所に差し掛かると、ドアが開いた。お姉ちゃんが出てきた。私は歩くのを止めて電信柱に隠れた。お姉ちゃんの後からもう一人出てきた。
男性……見たことも会った事もない人だった。お姉ちゃんと同じくらいの歳に見える。二人は楽しげに会話をして……急に男性がお姉ちゃんに近づいて……
あ……キスを……お姉ちゃんは拒むことなく受け入れていた。初めてのキスじゃない。もう何度も……そんな感じに見えた。男性が離れるとお姉ちゃんの顔が少し赤くなって
見えた。男性が玄関を出るとお姉ちゃんは手を振って見送った。男性は私の隠れている電信柱を過ぎて駅の方に向かって行った。男性が見えなくなると
お姉ちゃんは家の中に戻って行った。

 お姉ちゃんに恋人が……私が居ない間に……こなちゃんも何も言っていかった。どしよう。何て言って家に入ろう。知らない振りも出来そうにない。
自分の家なのに玄関の前に立って何も出来ない。でも……恋人ができるのは良い事だよ。別に私が恥かしがる事じゃないよね。
『ピンポーン』
合鍵を持っているのに何故か呼び鈴を押していた。
ドアが開くとお姉ちゃんが驚いた顔で出てきた。
かがみ「つ、つかさ、なんで……く、来るなら連絡くらいしなさいよ……」
私は笑った。笑ったけどなんか自然に笑えなかった。
つかさ「へへ、皆を驚かそうと思って……ただいま」
かがみ「お、おかえりなさい」
つかさ「疲れた……少し部屋で休みたい」
私は家の中に入ろうとした。別に疲れてはいなかったけど……
かがみ「ちょ、ちょっと待って、5分……10分待って」
急にお姉ちゃんは慌てだした。
つかさ「なんで?」
入れたくない理由は何となく分る。でも聞いた。
かがみ「急につかさが来るから……片付けしないと」
つかさ「お母さん達は」
居ないのは知っている。そうでなければ男の人を家に入れたりはしない。
かがみ「……今日は皆出かけて私しか居ないから」
つかさ「分った、10分したら戻ってくる」
私は駅の方に戻った。5分くらい経った頃、私の携帯電話が鳴った。お姉ちゃんからだった。もう片付いたと連絡が来たので私は家に戻った。

 家に入るとほんのりと香水のような香りがしていた。
かがみ「ビックリしたわ、突然来るから……どうしたの、スーツなんか着て、何か大事な会議でもあったの」
つかさ「……そんな所かな……」
お姉ちゃんは黙っているつもりなのかな。私もひろしさんの事は黙っていたから人の事は言えないのかもしれない。だけど……
かがみ「居間で休んでいて、お茶を淹れてくるから」
お姉ちゃんは台所に行こうとした。
つかさ「さっき家を出て行った男の人……誰なの?」
お姉ちゃんは止まった。
かがみ「わっ、わっ、見みたの……」
つかさ「……キス……してたよね……」
お姉ちゃんは振り返った。顔が真っ赤になっていた。
かがみ「突然だったから、不可抗力なのよ……だから彼は……なんて言うのか……私はっ…えっと、えっと」
何を言っているのか分らない。両手をバタバタさせて今まで見たこと無い慌てっぷりだった。お姉ちゃんらしくなかった。
つかさ「ぷっ……ふふふ、はははは」
何とも言えない。滑稽だった。思わず吹いてしまった。
つかさ「恋人なんてしょ?」
その声にお姉ちゃんは一回深呼吸して冷静さを取り戻した。
かがみ「そ、そうよ……笑ったわね、そんなに似合わないのか」
つかさ「うんん、そんな事ないよ、誰も居ない家、二人で愛し合っていたの?」
かがみ「ば、ばかな事いわない!!」
お姉ちゃんは台所へ小走りに行った。



836 :つかさの旅の終わり 12/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:31:30.66 ID:O1mi2Otc0
 居間で休んでいるとお姉ちゃんがお茶を持って来た。
かがみ「久しぶりね、帰ってこないから私達の事なんか忘れちゃったと思ったわよ」
私の前にお茶を置いた。
つかさ「やっとお店も一段落したから……」
かがみ「……そう、それならいいわ……お帰り……まだ言っていなかったわね」
つかさ「ただいま……私もまだ言っていなかった……」
お姉ちゃんは私に微笑みかけた。
かがみ「……さっきの人は大学院のOBで先輩……大学院になって直ぐに知り合った」
あんなに恥かしがっていたのに。今度は普通に話している。
つかさ「それじゃ、もう一年以上のお付き合いだね」
かがみ「……そうね」
つかさ「どうして急に話したの?」
お姉ちゃんはお茶を一口飲んだ。
かがみ「さっきは気が動転しちゃって、やっぱりこうゆうのは話さないといけない、将来つかさの兄になるかもしれない人だから……」
つかさ「そこまで……考えていたんだ、本気なんだね……」
かがみ「私は本気……彼は、まだ聞いていない、法律事務所を一緒に経営しようなんて、冗談で話した程度よ」
つかさ「だめだよ、ちゃんと聞かないと!!!」
私は思わず身を乗り出して叫んだ。お姉ちゃんは驚いて身を引いた。
かがみ「つかさ、ど、どうしたのよ、急に、お茶が零れちゃうわよ」
お姉ちゃんは私に話してくれた、それならば私も話さないといけない。
つかさ「私ね、ひろしさんに告白した……」
かがみ「ひろし……えっ、告白したの、別れたって言ったじゃない、彼が一方的に別れたと思っていた、つかさが好きと言ったなら別れる理由なんかなかったでしょ」
つかさ「でも、別れちゃった……ひろしさんはお姉ちゃんには言ったんだよね、私が好きだって」
かがみ「……夢の中の話よ、思えば私に信頼してもらいたかったからそんな事まで言ったのね、でも、それがどうしたのよ?」
つかさ「告白していなかったら……別れた後、お姉ちゃんのその話を聞いて私はきっと後悔したと思う」
かがみ「後悔……」
つかさ「そうだよ、あの時言っておけば良かったって……好き合っていても……別れる場合だってあるから、お姉ちゃんにはそんな思いさせたくない、」
お姉ちゃんは私を見て呆然としていた。
かがみ「……凄いわね……経験者が言うと説得力があるわね、身につまされるわ……でもね、私はつかさほど強くない……」
つかさ「私に告白させたのはお姉ちゃんだよ、駅で別れた時に言った言葉……電車が出る直前に言ったでしょ?」
お姉ちゃんは苦笑いをした。
かがみ「……自分の信じるように……ふふ、確かに言ったわね、人には言えても、自分の事になると意気消沈するのよね……」
元気がなくなってしまった。無理に押し付けても逆効果なのかもしれない。
つかさ「……私、お姉ちゃん達がうまくいくように祈ってあげる……ずっと一緒になれると良いね」
かがみ「ありがとう……」
「ただいま〜」
懐かしい声が玄関の方から聞こえてきた。まつりおねえちゃんだ。
つかさ「おかえり〜」
まつり「その声は……」
まつりお姉ちゃんは居間に来た。
まつり「つかさ、つかさじゃない、今まで帰らないで、もう私達の事なんか忘れたと思ったよ」
駆け寄って私の肩を叩いた。お姉ちゃんと同じ台詞を言うなんて……私は微笑んだ。
まつり「田舎暮らしがよっぽど気に入ったのかと思った……ん……何、この香り……香水?」
まつりお姉ちゃんは辺りを見回し始めた。お姉ちゃんは俯いて小さくなっている。お姉ちゃんは恋人が家に入ったのを隠そうとしていた。そんな気がした。
つかさ「気が付いた、新しいのを付けて来た……今日は大事な会議があったから」
まつり「会議……だからスーツを着ていたのか……何の香水使ってるいの、今度教えてよ」
つかさ「うん、後でね」
まつり「もうすぐお父さん達も帰ってくる、つかさ、着替えちゃいなさいよ、着替え持ってきたんでしょ?」
つかさ「うん」
暫くするとお父さん、お母さん、いのりお姉ちゃんが帰ってきた。久しぶりに一家団欒で楽しい会話が弾んだ。



837 :つかさの旅の終わり 13/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:33:00.40 ID:O1mi2Otc0
 夕食を食べ、お風呂に入り、また家族と団欒……そして私は自分の部屋で寝ようとしていた。自分の部屋で寝るのは久しぶりだった。お母さんがいつでも帰ってきても
大丈夫なようにしていてくれた。今までの私なら直ぐに眠ってしまう。だけど何故か眠れなかった。けいこさんのお話し、かえでさんの事、お姉ちゃんの事、あやちゃんの事、
みんな頭から離れない。これからどうなるのかな……期待と不安が行ったり来たりする。
『コンコン』
ドアがノックされた
つかさ「開いてるよ」
ドアがゆっくりと開いた。お姉ちゃんが入ってきた。
かがみ「起きているの……少し良い?」
つかさ「うん」
部屋に入るとドアを閉め、私のベッドに腰を下ろした。
かがみ「まつり姉さんが帰って来て香水の香りに気付いた時、つかさが使った事にしてくれてありがとう……姉さんに言われたらこの香水を渡すといいわ」
お姉ちゃんは香水の瓶を私に渡した。
つかさ「うんん、彼の事、まだ知られたくないと思って……でも、いつまでも隠せないよ」
かがみ「そうね……彼の本心を聞いてから、それから話そうと思っている」
つかさ「告白する気になったの?」
お姉ちゃんは少し顔を赤くした。
かがみ「……つかさが、あんなに力説するから……でも、もし彼が、ただの遊びだったら……そう思うと恐くなってしまって……眠れない」
つかさ「でもお姉ちゃんは本気だから、それで良いよ、彼がもしそんな気持ちだったとしても、それはそれで、すっきり出来るよ」
かがみ「そんな簡単に割り切れるのか……」
つかさ「割り切るしかないよ、これは自分の力じゃどうしようもない事だから……」
お姉ちゃんは目を閉じて考え込んでしまった。そうだよ、割り切るしかないよ。
つかさ「でも、よくこなちゃんにバレなかったね……大学院になって直ぐに出会ったのなら、こなちゃんもまだ居たのに」
お姉ちゃんは目を開けた。
かがみ「高校時代のように毎日会っている訳じゃないからな……それよりこなたは上手くやっているのか?」
つかさ「うん、この前、ホール長になったよ、少し驚いちゃった……」
かがみ「ふふ、やっぱり……あいつはやる時はやるからな……皆凄いな……私からどんどん離れて行く様な気がするわ、置いてけぼりにされそう」
嬉しそうに微笑んでいる。それに、やっぱり……お姉ちゃんはそういった。もしかしたら。
つかさ「こなちゃんを誘ったのは私だけど、後押ししてくれたのはお姉ちゃん?」
かがみ「こなたが相談してきた、私に相談してきてどうするのよ、まったく……妹の誘いなら迷うことなんかないって言ってやった、それだけよ」
以前、お姉ちゃんはこなちゃんの事を親友じゃないなんて言っていたけど、やっぱりお姉ちゃんはこなちゃんの親友だよ。
あの時は呪われていたから素直になれなかっただけなのかもしれない。
お姉ちゃんは両手を上げて背伸びしながらあくびをした。
かがみ「ふぁ〜 つかさと久しぶりに話して落ち着いた、今夜はよく眠れそう……それに勇気も湧いてきた、後悔なんかしたくない……つかさ、私、やってみる」
つかさ「うん、その調子」
お姉ちゃんは立ち上がった。
かがみ「おやすみ、つかさ」
つかさ「おやすみなさい」
お姉ちゃんは私の部屋を出て行った。
お姉ちゃんならきっとうまくいくよ。私と違って相手は人間だし、もう既に愛し合っている。それに、あんなキスを見せ付けられたら……。
見ているこっちが熱くなっちゃうよ。
あっ……相手の名前を聞いていないや。うんん、慌てない、お姉ちゃん達の愛が本物なら何れ分る。私のお兄ちゃんになるかもしれない人……か。
「ふぁ〜」
あくびが出た。私も眠くなった。寝よう……良い夢が見られそう。


838 :つかさの旅の終わり 14/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:34:46.42 ID:O1mi2Otc0
 明くる日、実家を後にして帰宅した。お姉ちゃんに店の移転の相談をしたかったけど止めた。お姉ちゃんに頼ってばかりはいられない。私だけで……違う、
かえでさんやこなちゃんだって居る。店の皆も……やっぱり店の問題は店の関係者で解決しないといけない。
つかさ「ただいま〜」
返事がない。おかしいな。玄関にこなちゃんの靴が置いてあった。こなちゃんは居るはずだけど……部屋の奥に入っていった。居間にこなちゃんはいた。
テーブルにノートパソコンを広げて夢中になっていた。
つかさ「ただいま〜」
さっきよりも少し大きな声を出した。
こなた「おかえり〜」
こなちゃんはパソコンの画面を見たまま返事をした。またゲームをしているのかな。こんな時のこなちゃんは何を言っても上の空。
つかさ「お姉ちゃんがよろしく言っていたよ……」
こなた「柊けいこ……」
突然会長さんの名前を言った。
こなた「ワールドホテルの会長にして、幾多の企業を経営している……倒産寸前の会社を買い取りことごとく復活させて利益をあげている、しかも、経営が軌道にのると
    すぐに独立させて経営には二度と口を出さない……カリスマ的経営者……」
つかさ「こなちゃん?」
ノートパソコンを閉じると私の方を向いた。
こなた「ちょっと調べてみたんだ……凄い経歴の人だよ……得に外食産業に関してはこの人の右に出る人は居ないようだよ」
そんな人だったとは……でも確かに今までに無い魅力を感じる人だった。
こなた「でもね……ちょっと怪しい所もあるんだ……五十年前、前会長の柊竜太って人と結婚しているんだけど……結婚以前の経歴が全く無い……
    これだけの人なのに、何処で生まれて育ったのさえ全く分らない……おかしいよね?」
五十年前……けいこさんが人間になったって言った時期と一致する。お稲荷さんだったけいこさんの履歴なんて分るはずもない。
こなた「前会長、竜太ならネットでも簡単に調べられたよ、この町で生まれ育ったらしいね、この町の有力者の息子だったってさ、父親村長で猟友会の会長だったって」
つかさ「えっ!!!」
私の声にこなちゃんは驚いた。
こなた「ど、どうしたの?」
つかさ「な、なんでもない……」
どうゆう事なの、猟友会の会長の子供の竜太さんとけいこさんは結婚した……信じられない、まなちゃん、ひろしさん、たかしさん、私の会ったお稲荷さんは狩りをする人間を
憎んでいた……けいこさんと竜太さんに何があったと言うの……
こなた「大学を卒業した竜太はワールドホテルに入社した、そこで出世街道まっしぐら、ホテルはみるみる大きくなり、世界的なホテルとなった、
    でも、経営的な決定権はけいこが握っていたみたいだね……何者なんだろう……」
つかさ「なんでけいこさんを調べているの?」
こなた「昨日、松本店長が店を休んだよ、連絡がつかない……」
つかさ「休んだ?」
かえでさんが店を休むのは珍しい事じゃない。でも、無断で休む事なんか一回もなかった
こなた「そうだよ、昨日はかえでさんしか作れない料理は品切れって事で開店した、料理に欠かせないスープも無くなりそうになってね、かえでさんが明日も休めば
    開店できないよ、つかさ、あの会長は松本さんに何を言ったの、何をしようとしているの」
私が言っていいのだろうか、本当は店長であるかえでさんから話す方がいいに決まっている。こなちゃんだってホール長、話を聞く権利はある。うんん、
お店の皆が聞かないといけない。
つかさ「けいこさんは、この町を再開発するつもり、エリアの中にいる人達はほぼけいこさんに賛成しているみたい、残るは私達のお店だけ」
こなた「何だって、そんな話し聞いていない、開発ならもっと大々的に宣伝するでしょ?」
私も昨日初めて聞いた。どんな開発なのか。けいこさんは何をしようとしているのか、詳細は聞いていない。
つかさ「移転するにあたって、けいこさんはホテルのテナントを無償で五年間貸すって言っていた、それだけじゃない、いろいろ良い条件を出してくれている」
こなた「良い条件って、つかさ、もしかして、会長の計画に賛成なの?」
こなちゃんは私に近づき詰め寄った。
つかさ「ホテルのテナントのお店に入った、最新の設備、インテリア、調理器具……凄いよ、あそこならもっと美味しい料理ができそう」
こなた「なるほどね、つかさが賛成で、松本さんは反対なのか」
つかさ「こなちゃんはどうなの?」
逆に私がこなちゃんに詰め寄った。
こなた「私は、まだここに来て半年を過ぎたばかり、やっとこの町にも慣れてきた、でも、この町に何か特別な想いはない、皆が賛成すれば良いよ、調べた限りでは
    悪い所はなさそうだしね……怪しい所はあるけど……」
怪しい所、もし、もしも移転がきまればけいこさんと会う機会は増える、こなちゃんやかえでさんだって増える。けいこさんの正体を言うべきなのだろうか。
こなた「ん、なんかあるの、私をじっと見て?」
つかさ「え、うんん、なんでもないよ、それより、かえでさんが心配……けいこさんに説得するように頼まれたのだけど、なんか自信ないな……」
やっぱり言えない。
こなた「ん、つかさ、もう会長とそんなに親しくなっての、なんか凄いな、つかさって社交性がそんなにあるとは思わなかったよ、そういえばお稲荷さんとすぐ仲良く
    なるよね……しかも相手は憎しみたっぷりだったのに」
その会長さんもお稲荷さんだったりする。
つかさ「そんな事ないよ、私なんて……」
こなた「なんだかんだ言ってレストランの皆と一番うまくやっていると思うよ、喧嘩もしないし、それはある意味能力だよ」
つかさ「こなちゃんだってすぐにホール長になったし」
こなた「アルバイトの経験がうまく活かせただけよ……そういえば、覚えているかな、初めて会った時の事、高校二年だったよね……」
こなちゃんは昔の話をしだした。覚えている。確か外人さんに尋ねられて……
つかさ「うん」
こなた「その時さ、思ったんだけど、つかさは助けてあげたくなるような素質があるんだよ」
つかさ「それって素質って言うの、助けてもらう素質って頼りなさそうだよ」
こなた「あ、そうかもしれない」
私達は笑った。
こなた「まぁ、松本さんの説得は私も協力させてもらうよ」
つかさ「ありがとう」


839 :つかさの旅の終わり 15/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:36:24.03 ID:O1mi2Otc0
 次の日、私は遅番だったけどこなちゃんと一緒に一番に出勤した。
店に着くと案の定、かえでさんは出勤していなかった。皆は厨房で立ち尽くしていた。料理の基本、スープが底を突いていた。このままでは一品も
料理を作ることができない。開店も侭ならなくなった。
「どうしよう、このままじゃ休業だ、今日の予約、キャンセルしてもらうしかない」
スッタッフの一人が呟いた。
こなた「スープなんて肉と野菜を入れて煮込むだけでしょ……なんとかなるよ」
つかさ「簡単だから難しいの、人によって味が変わっちゃうから、かえでさんが作らないと店の味が出ない」
こなた「つかさなら作れるんじゃないの、松本さんと一番付き合い長いし」
こなちゃんの言葉を皮切りに皆の目線が一斉に私に集まった。かえでさんがスープを仕込んでいる所は何度も見たことあるし、手伝ったりもした。
だけど肝心な所は全てかえでさんがしていた。
つかさ「ごめんなさい、私もできな……」
その時だった。急に頭の中に閃いたものを感じた。冷凍庫、そう、あそこに確かかえでさんが作り置きしていたいろいろな食材を冷凍してあったのを思い出した。
私は冷凍庫を開けた。中を隈なく探した。ラップに包んだ氷の塊……私はそれを取り出した。
こなた「なにそれ?」
つかさ「寸胴鍋にお湯を沸かして」
こなちゃんが鍋を用意した。スタッフもその後から動いた。お湯が沸くとラップを剥がして凍った塊を鍋の中に入れた。塊は溶け出して鍋いっぱいに広がってきた。
鍋からスープの香りが立ち込めてきた。塊が全て溶けたら、火を弱火にした。料理担当のスタッフが小さじで掬い取って口の中に入れた。
「……店長の味だ……」
皆の歓声が広がった。
こなた「すごい、どんな魔法を使ったの」
つかさ「魔法じゃないよ、スープを煮詰めて濃縮したのを凍らせただけだよ、かえでさんが昔、スープを作るのを失敗した事があって……この方法をしてスープを作ったのを
    思い出した、余ったスープを煮詰めたのを貯めて置いて凍らすの、そうするとこういった緊急の時の即席スープができる」
こなちゃんは感心したように頷いていた。
こなた「皆、予定通りの時間で開店だよ」
皆は一斉に持ち場に戻って行った。私もデザートの準備をしようとした。
こなた「さすがつかさ、うんん、つかさ副店長!」
かえでさんじゃないのに副店長だなんて。
つかさ「そんな……私はかえでさんの真似をしただけで……」
こなた「私も含めてその真似が出来ないんだよ、兎に角危機を脱したのは確かだよ」
つかさ「スープの元も後数日分しかないよ、かえでさんに作ってもらわないと」
こなた「でも、連絡がつかないし……」
つかさ「それなら、今日、帰りにかえでさんの家に行ってみる」
こなた「それがいいよ、つかさの言う事なら何故か聞くからね、そうゆう所がかがみに似ているよ」
そう言うと掃除道具を持って店の外に出て行った。


840 :つかさの旅の終わり 16/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:43:31.88 ID:O1mi2Otc0
 私は早めに店を出た。そしてかえでさんの家に……向かっていなかった。もう一箇所、かえでさんが行きそうな場所に向かっていた。それは……神社だった。
ひろしさんと別れてから一回も行っていない。忘れられた神社。その神社に今度はかえでさんが頻繁に行っている。不思議なものを感じてならない。
まなちゃんと初めて会った場所、別れた場所でもあった。短い間だったけど私にも一生忘れられない思い出があそこにはある。
そして、お稲荷さんが住んでいたあの場所を、お稲荷さん自身が壊そうとしている。それについてはちょっと違和感があった。今度の日曜日に真意を聞いてみたい。
神社の入り口、私は階段を登った。
かえで「つかさ……」
かえでさんが階段から降りてきた。
つかさ「かえでさん……やっぱりここだったんだね」
頂上と神社入り口の丁度中間くらいで彼女と会った。
私達はゆっくり降りながら話をした。
かえで「お店をほったらかしにして、さぞみんな怒っているでしょうね……」
つかさ「お店はなんとかしています、スープが無くなったから……冷凍してあったのを使いました」
かえで「あれを使ったのか……失敗した時の為に取って置いたものよ、でもね、煮詰めてあるから普通に作ったのよりコクが出るの、よく分ったわね、冷凍庫の奥だったのに」
つかさ「お店を休みにはできないから」
かえで「そうね……つかさはもう一人でも立派にやっていけるわね、それに引き換え私なんて……情にながされて皆に迷惑をかけた」
つかさ「そんな、私だって何度お店を休んでここに来たか、その度にかえでさんに励まされて、教えられて……」
かえでさんは黙ってしまった。話がそれたかな、こうなったら直接聞くしかない。
つかさ「けいこさんの話しの答えを考えて、それで此処に来ていたの?」
かえで「答えは出ている……多分つかさと同じ答えよ、飲食業を営む者にとってあのホテルで店を出す……それが目標みたいなもの」
つかさ「そうなの、でも、あの時けいこさんに取った態度って……」
かえでさんは立ち止まった。
かえで「この話し、店の皆には話したの?」
つかさ「こなちゃんにだけ話した、皆にはかえでさんから話すのが良いかなと思って……」
かえで「それで、泉さんは何て言ったの?」
つかさ「賛成してくれたよ……」
かえで「そうよ、そうなのよ、頭では私だってそう思ってる!!」
私に向かって叫ぶような声だった。私は驚いて階段を一段降りた。
かえで「思っているけど、素直になれない……」
今度はか細く弱弱しい声になった。
つかさ「その原因はこの神社の開発なの?」
かえでさんはまたゆっくりと階段を降り始めた。
かえで「この神社の話しは知っているのか、一昨日、私と別れてから会長さんと何を話した……」
やっぱり聞いてきた。こなちゃんには話せなかった。だけど、かえでさんはひろしさんと私の関係を知っている。けいこさんも話して良いと言っていた。
つかさ「けいこさんは……お稲荷さんだよ、うんん、お稲荷さんだった、五十年前、人を愛して、長寿を捨てて人間になった……」
かえで「な、なんだって」
かえでさんはまた立ち止まった。
かえで「あんたはよっぽど狐に縁があるみたいね、良くも悪くもね、別れては出会って……ふふ、ははは、お稲荷さんかよ、よりによって、今度は何を企む……何の復讐だ」
今度は笑い始めた。
つかさ「開発の理由は詳しく聞かなかったけど、復讐とか恨みとかじゃないみたい、ただ、亡くなった旦那さんの夢だったって……そう言っていた」
かえで「夢……何が夢よ、金にものを言わせて立ち退かせるだけじゃない、それに、この神社は彼等の住処じゃなかったのか、それを「夢」の一言で壊せるのか」
かえでさんの表情を見て分った。かえでさんはまだ辻さんの事を……
つかさ「かえでさんはまだ辻さんが自殺した責任を負うとしているの、もうとっくに解決したと思った、私が初めて稲荷ずしをこの神社に持って行った時に……」
私は階段を降りる速度を上げた。かえでさんは私の後から速度を上げて離れないように付いてきた。
かえで「私がこの神社にこだわるのは、浩子が亡くなったからじゃない……浩子が生きていても、私はこの神社を壊すのは反対する、おそらく浩子も反対すると思う」
つかさ「どうゆうこと?」
かえでさんは急に微笑みながら話した。
かえで「私達は幼少からこの神社でよく遊んだ、ふふ、狐とは一回も遇わなかったけどね、階段を登ったり、降りたり、当時はそれだけで楽しかった、
    一人っ子の私からみたら、同じ歳の彼女は妹のように見えた……頂上から見える景色は……特に夕日は……今でも忘れられない、景観が悪いだって、
    とんでもない、あそこは私にとっては唯一無二の絶景なの……分るかしら、つかさにここの素晴らしさが」
思い出した。初めてこの神社に来た時の事を。小さな森、木漏れ日……とても幻想的だった。あの時、時間を忘れてぼんやり眺めていた。
つかさ「夕日じゃないけど、木漏れ日に凄く魅かれる物を感じた……」
かえで「それなら、私の気持ちも分るでしょ……」
もうそろそろ階段が終わろうとしていた。入り口の鳥居が見えてきた。
つかさ「神社の件は話せばきっと分ってくれる、けいこさんは皆が賛成しないと実行しないって言っていたから……だからかえでさんは移転の事だけ考えて」
かえでさんは立ち止まった。
かえで「移転ね……あのホテルに立ち並ぶ歴々のレストラン、どう考えてもあのホテルの店と張り合える訳がない」
つかさ「けいこさんは一度店に来てる、あの時かえでさんは厨房にいたから知らないと思うけど、会計の時、美味しかったって……あの時の笑顔で思い出した、
    かえでさんには一応報告したけど……けいこさん、店の実力を知った上でテナントを貸してくれるって言ったと思う」
かえで「もし、移転が決まれば、今のようにゆったり構えたりなんか出来ない、覚悟は出来てるでしょうね、廻りの店と争うのよ」
つかさ「私は出来る事しか出来ない、でも、料理は優劣だけじゃ決まらないから……分らないよ」
かえで「優劣だけじゃない……つかさらしからぬ意味深長ね」
かえでさんは興味ありげに私に近づいてきた。
つかさ「以前、家族で外食した時なんだけど、まつりお姉ちゃんは美味しくないって、いのりお姉ちゃんは美味しいって言って言い合いになった事があって、同じ料理でも
    これだけ評価が違って不思議に思った、食材の好き嫌いも料理では大きいよね、味付けも、酸っぱいもの、辛いものも好き嫌いははっきりするよね、
    見た目も関係するかも……結局答えはでなかったけど……」
841 :つかさの旅の終わり 17/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:50:25.29 ID:O1mi2Otc0
かえで「万人に好まれる料理なんかないわ……感覚……味覚を満足させるのが料理なら、聴覚なら音楽、視覚なら絵画……芸術に近いものがあるかもね、
    芸術は人によって千差万別、好みも人それぞれ、キリがないわ……」
つかさ「今まで通りでいいよ、変に構えるときっとつまずくと思う」
かえで「今まで通りか……今までの私達がどこまで行けるか、それも良いかも」
つかさ「それじゃ……」
かえで「明日は臨時休業、皆を集めてどうするか決めましょう」
かえでさんの顔が明るくなった。こうでなくちゃダメだよね。

 次の日、「レストランかえで」のスタッフ全員が集まり、けいこさんの計画の話をかえでさんがした。みんな活発な意見が交換された。
そして……夕方頃に皆の意見が一致した。一つの答えが出た。

 日曜日、その日が来た。
私とかえでさんは会長室に居る。
けいこ「どうですか、答えは決まりましたか」
その言葉に一拍置いて答えようとした時だった。
かえで「答えは決まっています、しかし、私は貴女に聞かなければならない事があります」
かえでさんが話し始めた。事前の打ち合わせではお稲荷さんと何度も話していて、慣れている私が先に話す事になっていた。
けいこ「何でしょうか、疑問点はこの際、ここで全て明らかにしましょう」
かえでさんはどうするつもりか分らない。私はただ黙って様子を見るしかなかった。
かえで「町の神社……なぜあの神社を壊さなければならない、あそこはわたしの幼少から思い出のある場所、それに少なからずとも森林が生い茂り、
    緑豊か、四季折々の綺麗な花々を咲かせてくれる、公園にする必要性が私には理解できない」
この内容は私が話すはずだった。でも話を聞いてみると、感情がこもっている。本人が言った方が説得力あるよね。
けいこ「……貴女は幼少からあの神社で遊んでいたのですか……幼馴染の辻浩子さんの面影を消したくないのではありませんか、そうつかささんから伺いましたが」
かえで「浩子は確かにあの神社で自殺した、それはもう私の中では解決した……それより柊さん、貴女は解決したのか、狐の頃の思い出は、住処に未練はないと言うのか、
    そこまでして、あの神社を壊す理由は何だ」
けいこさんは一瞬目を閉じた。そして私の方を見た。私がけいこさんの正体を言って怒った……違う、彼女の顔は怒ってはいなかった。
けいこ「良い目をしている、何かを守ろうとしている良い目です、この前に会った時とは比べ物になりませんね……」
かえで「私の質問に答えて!」
かえでさんは声を張り上げた。けいこさんはかえでさんが落ち着くのを待ってから話し始めた。
けいこ「……つかささんから聞いたのですね、私は、貴女達がしっている狐と同じ一族でした……人間になったとは言え、その事実は変わりありません……
    私達の思考は人間のそれと大差ありません、笑い、怒り、悲しむ……いいえ、感情の起伏は人間よりも激しいかもしれません、つかささんなら分りますよね、
    何の関係もない人を恨むことさえある……そんな私達ですが住処について私達は執着などありません……しかし、松本さん、貴女の目を見て分りました、
    あの神社は、あの山は貴女にとって信仰の対象であると……いいでしょう、神社はそのままに致しましょう」
あっさりだった、かえでさんが少し感情的になっただけなのに、こうも簡単に開発を撤回してしまうなんて。それにけいこさんは他のお稲荷さんと違って
感情を表に出してこない。と言うよりまったく動じていなかった。かえでさんは何も言わずけいこさんをただ見ていた。
つかさ「あ、あの〜神社を壊して公園にして、私達の住んでいた町をどうするつもりなの?」
『パチン』
けいこさんは指を鳴らした。この前の時と同じ様に女性が飲み物を持ってきて私達の前に置いた。この指の音……そうだ、あの時と同じ、瀕死のたかしさんを見たひろしさんが
仲間を呼ぶ時に鳴らした音とそっくり。私は飲み物を持ってきた女性を見た。多分この人もお稲荷さんなのかもしれない。
けいこさんは飲み物を取り一口飲むと、私とかえでさんをゆっくりと見ながら話した。
けいこ「貴女達なら話しても良いでしょう、私の悲願……いいえ、私と竜太の夢……」
つかさ・かえで「夢……」
けいこさんは頷いた。
けいこ「私達の一族と人間の共存……それが私達の夢、あの神社に仲間を呼び戻し、町の一部に住んでもらうつもりです……そして近いうちに私達の存在を
    公表し、人と同等の権利を主張する……」
かえで「ば、ばかな……おとぎ話のような狐を人間が受け入れると本気でおもっているのか……百年前ならいざ知らず、このご時勢に……病院送りにされるのが落ちだわ」
かえでさんは半分呆れ顔だった。
けいこ「……私も只では受け入れてもらえるとは思っていません、見返りに私達の知識を全て公開します」
かえでさんは笑った。
かえで「ふふ、どんな知識か知らないけど、有史以前の知識なんてたかが知れている、私達の人間の暮らしぶりを見て分らないかしら」
けいこさんは目を閉じた。
けいこ「私はホテル以外にも製造業も経営しています、そこで得た特許数は軽く千を超えています……それはその知識のほんの一部です、石器時代の人々に私達の知識を
    教えても魔法としか思わないでしょうね」
かえでさんは黙ってしまった。
つかさ「で、でも、ひろしさんが言ってた、知識を教えると争ってしまうって……」
けいこ「そうですね、何度もそんな事がありました……私達の知識は人が生きている限り、遅かれ早かれ人も研究して見つけるでしょう、教えた知識を使い滅びるようなら、
人間はそれまでの種族です、同じ事です」
スケールが大きすぎてイメージできない。私はレストランが移動するだけの簡単な事だと思っていた。でも、人間とお稲荷さんが仲良くなれるならそれも良いかも。
842 :つかさの旅の終わり 18/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:52:07.60 ID:O1mi2Otc0
けいこ「松本さん、つかささん、私の夢の計画に協力してくれませんか?」
かえで「私は貴女の計画に興味ありません、ただ悪いことではないのは分ります、あの神社を壊さないのであれば私の店のメンバーで反対する人は一人もいません」
店の皆は移転に全員賛成した。かえでさんだけが反対だった。今はもうかえでさんが反対する理由は一つも無くなった。
けいこ「ありがとう……感謝します、まずは移転先を決めてもらいます」
また奥から女性が地図を持って来た。飲み物を片付けるとテーブルにその地図を広げた。
けいこ「私のホテルから選んで下さい……」
かえで「それは少し時間をくれませんか、場所についてはまだ意見が分かれています」
けいこ「いけない、私としたことが……先走りすぎました、それでは同意書にサインを……」
女性は地図を片付け奥の部屋に入っていった。けいこさんは逸る気持ちが抑えられないみたいだった。
つかさ「けいこさんはどうして人間になったの、旦那さんの為?」
けいこ「……それもあります、でも人間になったのはそれだけではなかった、私達に無くて人間にあるもの……私達がいくら知識を積んでも得られなかった……芸術……
    古今東西、私が見聞きした物……絵画、彫刻、音楽……そして貴方達の専門である料理……それが理由です」
でも……人間にならなくても……寿命が短くなったら芸術もあまり鑑賞できない気がする……
奥の部屋から女性が書類を持ってきてかえでさんの前に置いた。かえでさんは書類を手に取り黙読しはじめた。
けいこさんは私の方を見た。
けいこ「つかささん、私の仲間を説得するのを手伝ってくれませんか」
つかさ「え……」
突然だった。急に言われて最初はなんだか分らなかった。
けいこさんの仲間……お稲荷さん……ひろしさんにまた逢えるかも知れない……
つかさ「わ、私は……」
けいこ「生贄にされて、姉が呪われた、それでも貴女は生きている、少なくとも貴女は仲間の心の中から人間に対する憎しみを取ったのは確かです……」
つかさ「でも……」
私はチラっとかえでさんを見た。かえでさんは書類に目を通したまま動かなかった。
けいこ「百年近く会っていない私よりも貴女の方が適役かもしれません」
何だろう、この胸の高鳴りは。「はい」と言いたい。だけど「いいえ」とも言わないといけないような。分らない。どうしよう。頭がグルグル回ってどうしていいか分らない。
かえで「これでいいですか?」
かえでさんは書類にサインをした。けいこさんは書類を見た。
けいこ「ありがとう、どうです、契約成立を祝ってこれから食事でもいかがですか」
かえでさんは立ち上がった。
かえで「いいえ、まだ完全に決まっていません、これから移転場所をきめなければならないので、そのご好意はそれからで……」
けいこ「そうですね」
けいこさんは微笑んだ。かえでさんは会長室を出て行った。私も立ち上がった。
けいこ「つかささん、先ほどの話し、考えておいて下さい」
私は軽く会釈だけしてかえでさんの後を追った。


843 :つかさの旅の終わり 19/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:53:43.13 ID:O1mi2Otc0
 かえでさんはエレベータを乗ってから一言も話していない。やっぱりけいこさんの誘いが影響しているのかな。
つかさ「かえでさん……えっと……」
かえで「お腹が空いたわね……この店、良さそうね……はいりましょう」
私と話すのを避けるように店の中に入っていった……その店はあやちゃんの働く店だった。私はかえでさんの後を追った。
店に入るとかえでさんは既に席に座りメニューを見ていた。私もかえでさんと同じテーブルの席に着いた。私はかえでさんをじっと見ていた。なんとなく話し難い。
かえでさんはメニューを置いた。
かえで「この店のインテリア……センス良いわね、移転先のインテリアもこんな感じがいいかしら」
つかさ「そ、そうですね……」
「お決まりですか?」
聞き覚えのある声、あやちゃんが私達の目の前に立っていた。
かえで「トーストとコーヒー」
あやちゃんは私の方を見た。
つかさ「え、えっと……」
あやの「メロンソーダですね」
つかさ「あ、は、はい、それで」
あやちゃんは私に微笑みかけると厨房の方に向かって行った。
かえで「さっきの子……つかさの知り合いなの?」
かえでさんは透かさず厨房の方を見ながら聞いてきた。
つかさ「はい……高校時代の友人です、日下部あやのさんと言って……」
かえで「こんな所にもつかさの知り合い……凄いわね、まるでつかさが中心に世界が動いているよう……」
私の話しに急に割り込んできた。私は話すのを止めた。
かえで「柊けいこさんの言う事が真実なら、これから私達の暮らし……うんん、世界観が一変するわよ、なにしろ私達が数百……数千年経たないと得られない
知識が手に入るのだから、そんな仕事が出来たなら、人類史に残る偉業かもしれないわよ」
私は何て言って良いのだろう。かえでさんはそんな私を笑いながら話した。
かえで「そんなのはどうでも良いわね……つかさ……ひろしさんに逢いたいんでしょ?」
つかさ「……別れたのは運命だと思ってた、でも、逢えるなら……逢いたい、でも……私は」
目頭が熱くなってきた。
かえで「ば、ばか、こんな所で泣くやつがあるか、少しは場所を気にしなさい……」
かえでさんは辺りを慌てて辺りを気にしだした。でも涙は急に止まりそうになかった。
かえで「無理も無いわね、好き合った者同士が分れ離れなんて……よく今まで笑顔でやってこられたわね、それだけでも立派よ」


844 :つかさの旅の終わり 20/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:55:15.23 ID:O1mi2Otc0
 涙が止まった頃、あやちゃんは私達が注文をした品を持って来た。かえでさんはコーヒーを口に含んだ。
かえで「今時珍しい機械を使わないで淹れているわね……こんな香りはうちの店ではだせないわね……」
つかさ「……ごめんなさい、泣いたりしちゃって」
かえで「気にしなくていいわよ、私も少し取り乱したわ」
私はメロンジュースを飲んだ。
かえで「けいこさんの誘いの返事しはなかったわね、それは私が居たから出来なかったのかしら、会長室で何度も私を見ていたわね」
つかさ「それは……私は副店長になったし、そんな簡単に別の仕事なんて」
この前の臨時会合の時、かえでさんの提案で副店長を選ぶ選挙も行われた、こなちゃんとかえでさんが私を推薦した。それで皆が賛成して私は正式に副店長になった。
かえで「これから私はつかさスープの作り方、私の持てる技術の全てを教えるつもりでいた、でもね、副店長はつかさの人生まで縛るもじゃないわ、
    つかさが本当にしたい事なら、私も皆も喜んで送るわ……お稲荷さんと人間の橋渡しはつかさが適任ね、友人や恋人まで作るのだから……」
つかさ「私……はっきり言うと、ひろしさんに逢いたい、ただそれだけ、だから知識が云々とかそうゆう難しいことなんか全く分らない、
    きっと足手まといになるだけ……それより、かえでさんは私が本当に店を離れていいと思ってるの……そうだよね、失敗もいっぱいしてるし……」
かえで「い、いや、離れて欲しくない、だから副店長にまでになったじゃない……あの会長のしようとしている事はスケールが大きすぎる、つかさはもうその
    計画の中に足を突っ込んでいる、つかさがそれを望むと望まないは関係ない……それにね、会長の計画を手伝えるのは、
    人間ではつかさしか居ない……ふふ、会長のけいこさんは最初からつかさが目当てだったのかもしれないわね、そんな気がしたわ」
本当は店でずっと働いてって言って欲しかった。そうすれば私は悩まなくて済んだのに。
つかさ「私……ひろしさんやお姉ちゃんの言うほど強くない……どっちか選べって言われても……そんなの決められないよ……」
かえで「そうね……難しい選択ね、会長さんの計画は全て聞いた訳じゃないけど、きっと一年、二年で出来るようなものじゃないと思う、考える時間はまだあるわよ」
かえでさんは財布からお金を出した。
かえで「これで払っておいて、今日は私の奢りよ、今日も帰りは実家に戻るのでしょ?」
私は頷いた。
つかさ「……ごちそうさま」
かえで「さてと、私は帰って仕込みがあるから、先に帰るわよ」
かえでさんは店を出た。
暫くするとあやちゃんが心配そうな顔でこっちに来た。
あやの「かなり深刻そうな話をしていたみたいだけど……あの方は誰なの?」
つかさ「私の上司、松本かえでさん……」
あやちゃんは思い出したようにビックリした。
あやの「もしかして「レストランかえで」の店長さん?」
つかさ「そうだけど……」
あやの「……松本かえでって言ったら最近雑誌とかで話題になっている……取材拒否する頑固者でも有名……そんな人と……大丈夫、厳しくないの?」
更に心配そうな顔をしている。
つかさ「厳しいと言えば厳しいけど……優しい所もあるし、お姉ちゃんみたいだと思ってる……」
笑顔で話すとあやちゃんはホッとして笑顔に戻った。
あやの「最近このホテルの何処かに新しいレストランが移転するって噂があったけど、まさかひいちゃんのレストランだとは思わなかった……どんな仕事してるの?」
つかさ「デザート担当……この前副店長になっちゃった、こなちゃんもホール長になった」
あやの「わぁ〜すごい、すごい、二人とも大出世じゃない、今度お祝いしなきゃ」
自分の事の様に喜んでくれている。だけど、今はそんなに嬉しくなかった。
つかさ「ありがとう……お会計……ここで済ませちゃっていいかな?」
あやの「はい、かしこまりました」
私はあやちゃんにお金を渡した。

845 :つかさの旅の終わり 21/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:56:39.28 ID:O1mi2Otc0
 あやちゃんのお店を出た私は実家に向かった。今度は私が家に帰るのは皆知っている。と言うより、お姉ちゃんの方から来るように言われた。
きっとお姉ちゃんの恋人についての話があるに違いない。わざわざ家に呼ぶのだから、もしかしたら結婚まで考えているのかも。そこまでじゃなくても、家族に紹介くらいは
するよね。お姉ちゃんが結婚するならあやちゃんの次になる。そういえばまつりお姉ちゃんも恋人が出来たって言っていた……どうなったのかな。いのりお姉ちゃんは
そんな話は全く聞かない。もうそろそろ考えないといけないよね……なんて人の事考えてもしょうがない。私の恋人は……今度会ったら、もう別れるなんて言わない。言わせない。ダメダメ!……もう考えないって決めたのに……どうして……けいこさんのせいで……わぁ、私ったら、思い出したのを人のせいにしちゃってる。
どうしたらこの気持ちを抑えられるのか分らない。

 悶々を堂々巡りの想い……気が付くと実家の玄関前に立っていた。ドアを開けると居間から笑い声が聞こえてきた。みんな居るみたい。
つかさ「ただいま〜」
さらに笑い声が強まってきた。話しに夢中で私に気が付かないみたいだった。私はそのまま居間に向かった。居間のドアを開けると笑い声が止まり皆私を注目した。
つかさ「ただいま……」
かがみ「おかえり、遅かったわね……先に始めちゃったわよ……」
お姉ちゃんの隣に男の人が座っていた。この前見た男の人……お姉ちゃんの恋人。目が合った。私は会釈すると彼も会釈した。
かがみ「紹介するわ、彼女が私の妹、つかさ……彼は、私の先輩で、小林ひとしさん」
まつり「まったくいつの間にこんな人を見つけるなんて、つかさ、小林さんは司法試験合格したって、かがみは何時になるのやら」
小林さんって言うのか……さっきの笑いは小林さんと話していた時の笑い声だった。もう家族と打ち解けているみたい。
つかさ「はじめまして、つかさです……」
ひとし「はじめまして……」
まつり「つかさ、突っ立っていないでこっちに来て座りなさいよ」
私はまつりお姉ちゃんの隣に座った。すると皆はお姉ちゃんと小林さんに顔を向けた。私もそれに釣られるように二人を見た。急に二人の顔が赤くなっていくのが分る。
いのり「どうしたの、さっきの様に言いなさいよ」
いのりお姉ちゃんはにやけながら話した。
二人はチラチラと目線を合わせながら、タイミングをうかがっているみたいだった。お父さんとお母さんは笑いをこらえている。そして……
かがみ「わ、私達……け、結婚することにした……から……」
呂律が回っていない。こんなお姉ちゃんを見るのは初めてだった。でも言っている意味は、はっきりと分った。今までもやもやしていた心に光が射してきた様な感じになった。
つかさ「おめでとう」
お姉ちゃんはそのまま感極まったのか、涙をこぼして泣き始めた。私がひろしさんから告白を受けた時を思い出した。あの時の私と同じ心境なのかもしれない。
みき「どうしたの、さっきはそんなにならなかったじゃない?」
かがみ「だ、だって……」
更に泣き方が激しくなった。小林さんがお姉ちゃんの肩を抱き寄せて慰めた……同じだ……あの時と……
いのり「それで、式はいつにするの」
お姉ちゃんは話せそうにない。
ひとし「かがみさんが卒業してからと考えています。」
しっかりとした口調ではっきりとそういった。
ただお「それが良いかもしれない……」 


846 :つかさの旅の終わり 22/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 20:58:39.67 ID:O1mi2Otc0
 小林さんは優しくてユーモアがあって知的で……お姉ちゃんにぴったりの人かもしれない。もう皆も家族の一員みたいに話している。私も兄として見る事ができそう。
短い時間だったけどお姉ちゃんの恋人……婚約者の人柄が分った。小林さんは法律事務所に入り何れは独立すると言っていた。お姉ちゃんも卒業すれば同じ事務所で
働く事になる。私とかえでさんみたいに上司と部下の関係、私とかえでさんは友達として、お姉ちゃん達は夫婦として……
小林さんと私達家族の会合は和やかのうちに、あっと言う間に終わってしまった。

夕方、小林さんを送ると、お姉ちゃんは私も送ってくれた。小林さんは先発の電車で帰って行った。ホームで私達は電車を待っていた。
かがみ「泊まっていけばよかったのに……」
つかさ「明日も仕事あるし」
かがみ「残念ね……」
短い会話で途切れてしまった。私は時刻表を見て次に来る電車の時刻を確認した。まだ電車がくるには時間はある。
かがみ「さっきはごめん……」
ぼそっとした声だった。
つかさ「ごめんって、何か謝る様な事したっけ?」
かがみ「泣いてしまったでしょ、私ったら、どうしようもないわね」
つかさ「自然に出てきたのでしょ、分るよその気持ち……」
かがみ「分るって……分るのか?」
少し驚いた感じで聞き返してきた。
つかさ「ひろしさんが告白した時の私と同じように見えたから……」
かがみ「お互いに愛し合っているのに別れるのは悲劇以外なにものでもないわ、私なら一緒になる方法を探すわよ、つかさはこのままでいいの、彼だってあと何十年、
    いや、何千年先、後悔をするかもしれない、私は例え狐でも、お稲荷さんでもお互いが愛し合っていれば一緒になるのは構わないと思っているわよ」
つかさ「その方法、あるかもしれない……」
かがみ「あるかもしれないなら試しなさいよ」
即答だった。お姉ちゃんは真剣な眼差しで私を見ていた。私は何も言えなかった。
かがみ「話を聞きたいわ、駅を降りて少し散歩でもどう、次の電車でも間に合うわよね?」
恋愛の話しは全くしなかったのに。今までのお姉ちゃんとは違う。恋をすると、愛するとこんなに変わっちゃうのかな。

 駅を降りるとお姉ちゃんは神社の方に向かって歩き出した。私はその後を付いて行った。そこでお姉ちゃんは隠している事はないのかと問い質してきた。
その熱意に負けて私は話した。店の移転の事、柊けいこさんの事……
かがみ「柊けいこ……知っているわよ、私の大学のスポンサー、何度か大学に来て特別講義を受けたことがあるわ……あの人が、お稲荷さんだって……
    確かにそう言われてみれば、講義の時、なんとも言えない、引き込まれるような魅力があった」
私は頷いた。お姉ちゃんは空を仰いだ。
かがみ「つかさは本当にお稲荷さんに縁があるわね……そもそも神社の娘に生まれてきたのも何かの運命かもしれないわね……」
つかさ「かえでさんも似たような事言ってた、そう言うお姉ちゃんだって、関係しているかも」
かがみ「私は呪われただけよ、私達家族も一つ間違えればお父さんやお母さん、姉さん達だって危なかった」
つかさ「そうだったね……」
お姉ちゃんは天を仰いだまま暫くゆっくり歩いた。
かがみ「つかさは松本さんに義理を感じている、違う?」
義理、私はかえでさんに誘われてあの町に移り住んだ。そこでいろいろ教わった。誘われる前で働いていた所では得られない物がたくさんある。
つかさ「かえでさんには教えてもらってばかりで、ドジばっかりして……これからかえでさんに恩返ししないといけない」
かがみ「それが義理って言うのよ……松本さんも内心は柊けいこの手伝いにつかさを行かせたくないはずよ、副店長ですって、凄いわよ、そこまでの人を簡単に手放したくない」
神社に行く途中にある公園を横切ろうとしていた。お姉ちゃんは公園の中に入りベンチに腰を下ろした。私も隣に座った。
かがみ「でもね、私がつかさなら……柊けいこさんの方に行っていたかも」
つかさ「ほ、本当に?」
私は身を乗り出して聞き返した。お姉ちゃんは驚いて腰を引き私から離れた。
かがみ「いや、つかさの今の仕事が下って言っている訳じゃないぞ、少なくとも美味しい料理を作るなんて私にはできないのだから……現に料理でつかさは何人も幸せにしている」
つかさ「いいから、理由を聞かせて……」
私は更に詰め寄った。聞いてみたかった。お姉ちゃんの考えを。
かがみ「二つの仕事なんか比べちゃダメよ、私なら好きな人に逢いたいと思うだけ、目的が果たせたら元に戻ればいいでしょ」
つかさ「元に戻れるかな……一度出ちゃったら、かえでさん怒っちゃって戻れないかも」
かがみ「それはつかさと松本さんの問題ね、私はどうすることも出来ないわ……ゴメン、何の助言にもなっていなかった……」
つかさ「うんん、やっぱり最後は私が決めなきゃいけない事だし……」
847 :つかさの旅の終わり 23/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:00:22.73 ID:O1mi2Otc0
お姉ちゃんは立ち上がった。
かがみ「私もね、つかさが家を出る時、笑って見送ったけど、時間が経つに連れて松本さんに恨みを持つようになった、それが呪われる隙を作ったのかもしれない、
    人の心って変わっちゃうもの、松本さんが柊けいこさんの誘いに賛成したとしても、それはその時の考えに過ぎないわ、時間が経つと柊けいこさんを恨んでしまうかも、
    もしかしたら、つかさ自身も恨まれるかもしれない、特に、つかさが大活躍なんかしたらね……」
つかさ「それって、焼餅を焼くって意味?」
かがみ「そうね、嫉妬かもしれない……こうしてみると、私達もお稲荷さんとさほど変わらないわね……ふぅ」
お姉ちゃんは深く溜め息をついた。
かがみ「とりあえず「ガンバレ」としか言えないわ……」
つかさ「うん、ありがとう」
私も立ち上がった。そろそろ駅に戻らないといけない。
かがみ「お礼を言うのは私の方よ……相手に自分の意志を伝える……こんなに重要だとは思わなかった、彼と婚約できたのはつかさのおかげ……ありがとう」
つかさ「告白……したんだ」
お姉ちゃんは頷いた。そして、顔が赤くなった。
かがみ「そして……新たに生まれる命の為に……」
お姉ちゃんはお片手をお腹に当てた。
つかさ「え……もしかして、赤ちゃん?」
かがみ「……そう、これは私とひとしとお母さんしか知らない……さすがにお母さんにはバレたわ……隠すつもりはなかったけど、やっぱり話すのは恥かしいわね」
お姉ちゃんの泣いた本当の意味が今、分ったような気がした。
つかさ「予定日はいつなの?」
かがみ「……卒業してからになるわ……」
つかさ「それじゃここで別れようよ、体に障るよ」
かがみ「大丈夫よ、駅まで送るわよ」
つかさ「それと……こなちゃんにはどこまで話していい?」
お姉ちゃんは駅に向かって歩き始めた。私も並んで歩いた。お姉ちゃんは少し考えていた。
かがみ「全て話して良いわよ、中途半端に話しても面倒なだけだわ」
つかさ「こなちゃんの驚く顔が目に浮かんじゃった」
かがみ「ふふ……その他は私から話すわ、明日は日下部と会うし」
つかさ「どっちの日下部さん?」
かがみ「……あ、そうだった、みさおの方よ……まったく、紛らわしいったらありゃしないわ」
私達は笑った……

 駅に着くと丁度電車が来た、そして電車のドアが閉まる直前にお姉ちゃんに言った。
つかさ「おめでとう」
妊娠はまだ祝っていなかったから。お姉ちゃんはにっこりと微笑んで手を振った。ドアが閉まる。そして電車は駅を離れた。お姉ちゃんは直ぐに見えなくなった。
この電車だと町に着くのは最終電車の深夜になる。


848 :つかさの旅の終わり 24/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:02:17.69 ID:O1mi2Otc0
 目的の駅に着くまで私は考えていた。このままの仕事を続けるか、けいこさんの仕事を手伝うのか……
こなちゃんのよくやるシュミレーションゲームみたいなものかもしれない。
このままだと私はかえでさんから料理の技術を教えてもらって……いつになるかは分らないけど……かえでさんと同じ料理を作ることができるようになる。そうなれば
店長になれるかもしれない……でも、今の仕事でいっぱい、いっぱい、とても他の仕事まで手が回らない、大きなミスをしてしまうかも……
けいこさんの仕事……人間とお稲荷さんと共に暮らすためのお手伝い……何をすれば良いのだろう……全く想像すら出来ない。料理ならなんとか今まで働けたけど……
ひろしさんと二年も会っていない。もしかしたら私の事なんか好きじゃなくなっているかもしれない。今更会って……一緒に暮らそうなんて言ったってダメだよね、
そんな事が出来るならあの時出来ているよね……やっぱりどう考えてもこのままかえでさんと仕事をした方が良いに決まっている。
私の中では結論が出てしまった。

つかさ「ただいま〜」
返事がない。もう寝ちゃったかな。でも居間の方から明りが漏れている。私は居間に入った。するとこなちゃんが椅子に座っていた。
こなた「おかえり〜」
つかさ「まだ起きていたの、寝ちゃって良かったのに……」
こなちゃんはテレビの電源を消した。
こなた「遅くなるのは知っていた、でもそれは契約のためじゃないでしょ、私が店を出るとき松本さんが店に来たからね、つかさ、家に寄っていたでしょ?」
こなちゃんは人差し指を立てながら話した。私が驚く顔をすると透かさず。
こなた「かがみが婚約したとか?」
私は更に驚いた。
つかさ「え、ど、どうしてそれを知っているの……」
既にこなちゃんはお姉ちゃんと話していたのかな。
こなた「図星だったみたいだね、そんな感じはしていたんだ、大学を卒業した辺りからかがみの様子が少し違っていたのに気が付いていたからね……かがみも結婚しちゃうのか」
少し悲しい顔をしたような気がした。確かに結婚すれば今まで通りの付き合いは出来ないかもしれない。でもそれは私も同じ……
つかさ「そんなに悲しい顔をしないで、おめでたい事なんだから……」
こなた「そうだね、ところでみゆきさんは知っているの?」
つかさ「分らない、だけどお姉ちゃんから直接話すと思う」
こなた「それが良いかも」
こなちゃんは台所に向かうとやかんに水を入れてお湯を沸かし始めた。
こなちゃんはお姉ちゃんの婚約を薄々感じていた。やっぱりけいこさんの正体を隠し切れないかも。このままだと私、うっかり話しちゃうかもしれない。
それなら今のうちに打ち明けた方が良いのかもしらない。だけどこなちゃんはお稲荷さんをあまり良く思っていないみたいだし、話したら、店の移転に反対しちゃうかも……
私って……
かも、かも、でも、かも……私って悪い方、悪い方、に考えちゃう。私はこなちゃんにまなちゃんやひろしさんの話をした。けいこさんの事だけ内緒にしたって意味はないよね。
反対されてもそれはそれ、移転しから分ったらそれこそ「なんで黙っていたの」って怒られる。それなら今話してすっきりした方がスッキリするよ。


849 :つかさの旅の終わり 25/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:04:12.88 ID:O1mi2Otc0
『ピー』
私が決断をした時、丁度やかんのお湯が沸いた。こなちゃんはお湯をポットに入れていた。
つかさ「こなちゃん、私……お店の移転でまだ話していない事があるの」
こなちゃんは紅茶を淹れながら話した。
こなた「なに、改まっちゃって?」
つかさ「えっと、会長さん、柊けいこさんの事なんだけど……」
こなた「……柊けいこ、会長さん、実はお稲荷さんって言うんじゃない?」
つかさ「あ……」
私は固まった。何もその先から話せなくなった。こなちゃんは紅茶の入ったカップを私の目の前に置いた。
こなた「やっぱり、この前の休日ね、みゆきさんと会ってもっと詳しく調べさせてもらったよ」
こなちゃんはノートパソコンを取り出し開いた。
こなた「凄すぎるんだよ、会社を幾つも経営していて、特許取得が千以上、しかも前会長が亡くなってからだよ、とても人間技じゃないよ、その特許と言うのが
    どれもオリジナルらしいんだ、なんかピンと来たよ」
こなちゃんはパソコンを見ながら話した。私は深呼吸をして落ち着いてから話した。
つかさ「こなちゃんは、お稲荷さんが嫌いだと思ったから……」
こなちゃんはノートパソコンを閉じて私を見た。
こなた「かがみとつかさを殺そうとした連中だよ、嫌いにもなるよ……でもね……」
つかさ「でもね?」
私は聞き返した。
こなた「この会長は別かな、収益を慈善団体に寄付していて、美術館、学校、病院、にも寄付している、かがみとみゆきさんの大学にもね、特に芸術関係には熱心みたいだね、
    少なくとも私達、人間には敵対していない……」
つかさ「敵対なんかしていないよ、けいこさんは、人間になったから、だから人間と結婚をして……」
こなた「ど、どういう事なの?」
こなちゃんは身を乗り出した。私は知っている事全てをこなちゃんに話した。

こなた「長寿と引き換えに人間に……」
つかさ「うん……」
こなた「ふ〜ん」
こなちゃんは感心したようにうなずいていた。
こなた「それで、つかさは会長さんの企画に参加するの?」
その答えをまだ決めていなかった。私は何も言えずにいた。こなちゃんはお茶を一口含んでから話した。
こなた「お稲荷さんの知識が云々なんか抜きにして、つかさはひろしってお稲荷さんが好きなんでしょ、そしてそのひろしって人もつかさが好き……片思いなら諦めもつくけど、
    悩むことなんかないじゃん、私がつかさなら即断だね」
つかさ「でも……」
こなちゃんは私の話しに割り込んだ。
こなた「でもって何、何を悩むの、今の仕事を辞めるのが惜しいの、つかさの今やってる事はいつでも出来るよ、でもね、会長さんのやろうとしている事は今しかできない
    つかさだって会いたいでしょ、それだけで充分だよ」
つかさ「今しか……出来ない……」
こなちゃんはお茶を飲み終わるとノートパソコンを持って立ち上がった。
こなた「私、明日は早番だから、もう寝るね、つかさは遅番だからゆっくりして」
私は飲みかけのお茶を一口飲んだ。もうすっかり冷えてしまっていた。こなちゃんは居間を出ようとすると立ち止まった。
こなた「つかさは凄いよ、一度でもつかさを憎んでいた人を好きになれるなんて、だから相手も好きになれたんだよ」
つかさ「でも、それはまなちゃんが」
こなた「……そうだね、真奈美さんがつかさを殺していたら今はなかったよね、その真奈美さんの為にも会長さんと一緒に行動した方がいいと思うよ……」
つかさ「そうかな?」
こなちゃんは大あくびをした。
こなた「そうだよ、つかさは高校時代とは比較にならないくらいに成長したよ、こんな話をつかさとするなんて……おやすみ」
つかさ「おやすみ……」
こなた「あ、そうそう、店の移転先の候補が幾つか上がっているよ、つかさの部屋に置いておいたから目を通しておいて」
つかさ「うん」
こなちゃんは居間を出て行った。

850 :つかさの旅の終わり 26/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:06:03.94 ID:O1mi2Otc0
 お稲荷さんと人間がもっと仲良くできれば私とひろしさんが別れている理由はなくなる。そうなればまた会えたり、デートしたり、食事をしたり……結婚だって……
そんな事、出来るのかな。じゃなくてしたい。うんん、しなきゃダメだよ。こなちゃんの言うようにまなちゃんの為にも。
確かに今じゃないと出来ない事かもしれない。料理はこれからいくらでも……かえでさんも私がけいこさんの手伝いをしても良いって言ってくれたし。お姉ちゃんも。
なんか方向性が見えてきたかも……
時計を見ると日が変わっていた。いくら遅番といっても、もう休んだ方が良いね。自分の部屋に着替えに行った。

 机の上に紙が置いてあった。こなちゃんの言っていた店の移転先候補かな。紙を取って見た。そこにはいくつかの候補地が書いてあった。
みんなここから遠くの場所ばかり……東京の本店は候補になっていなかった。
都会のゴミゴミしている所よりもこの町みたいな所の方が働き易いのかな……それも良いね。あやちゃんには悪いけど本店は私も候補地から外すね。
大きな欠伸が出た。
さて……お風呂入って寝よう……

 二週間後、私は一人で電車に乗っていた。けいこさんの計画の返事をしに行くのと、候補地が決まったのでそれもついでに……
かえでさんは旅館の女将さんと移転について話すので出席しない。もともと旅館は温泉が出るから始めたって女将さんが言っていた。旅館は移転には参加しないみたい。
そして旅館は日帰り温泉になる。そして女将さんは温泉の番頭さんに。ちょっと寂しくなるかな……
多分かえでさんは女将さんに一緒に来てもらうように説得するために残った。そんな気がした。
さて、私もけいこさんとの交渉……頑張らなくちゃ!

 これで会長室に入るのは三度目になる。いつものようにノックをして会長室に入った。
ドアを開けると突然ピアノの音が耳に飛び込んできた。音のする方を見るとピアノにけいこさんが座り、静かにピアノを弾いていた。音がしないようにゆっくりとドアをしめた。
そしてゆっくりとピアノの前に移動した。けいこさんは目を閉じて弾いている。とても声を掛けられるような状態じゃない。それより……弾いている曲を聴こう。
曲名は分らない。ゆったりとしたリズム、静かに弾いている……何だろう、とても悲しい感じがする。悲しい……だけどとても優しくも感じる……
幻想的な曲だった。最初のフレーズが繰り返されると、終盤はちょっと激しく鍵盤を叩きつけて……まるで何かを断ち切ろうとしているみたいだった。


851 :つかさの旅の終わり 27/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:07:39.25 ID:O1mi2Otc0
けいこ「ふぅ〜」
溜め息のような、深呼吸のような感じだった。恵子さんはゆっくりと目を開けると私を見て驚いた顔をした。
けいこ「あら、いつの間に……ごめんなさい、もう来ていらしたとは」
つかさ「ノックしたけど演奏が始まっていたので……」
けいこ「立たせたままでしたね……さあ、こちらへ」
けいこさんは立ち上がりピアノから離れた。そしてテーブルの席へと向かった。
つかさ「とても良い曲ですね、聴き入ってしまいました、何て言う曲?」
私はけいこさんに案内された席に座った。そしてけいこさんも席に座った。
けいこ「亡き皇女のためのパヴァーヌ」
つかさ「曲の名前ですか、亡き……皇女……とても悲しげな曲でした」
けいこ「ラヴェルの作品……彼が、夫が私に教えてくれた最初の曲……もう逢えない、だけど諦めきれない、切ないわね」
感情が籠もっていた。けいこさんは皇女を亡くなった旦那さんに置き換えて演奏していたのかもしれない。
つかさ「旦那さんもピアノが弾けたのですか」
けいこさんは首を横に振った。
けいこ「ラジオで聴かせてくれた……思い出すわね……」
懐かしむようにピアノの方を見ていた。やっぱり聞いてみたい。けいこさんの過去を。
つかさ「あ、あの〜どうやって旦那さんと出会ったの、確か旦那さんの実家は猟友会だったって……憎くなかったの?」
すこし小声で話すとけいこさんは私に目線を移した。
けいこ「猟友会……調べたのね、そうね、何度も裏切られ、追放されてきた、狐だった頃の私は人間を憎んでいた、それを変えたのが彼、竜太よ」
つかさ「どうやって変えたの?」
けいこ「そうね、貴女になら話してもいいでしょう、その前に、遠路疲れたでしょう、軽食を用意しました」
すると部屋の奥から秘書のような女性が食器を持って来た。この人はここに来てからずっとけいこさん側に居る。
つかさ「秘書さんですか、もしかしてこの人もお稲荷さん?」
女性は私の目の前に食器を置いた。サンドイッチと紅茶だった。
女性「始めまして、自己紹介していませんでしたね、私は、会長の秘書で、めぐみと言います、お見知りおきを」
名前しか言わない。やっぱりこの人も……
けいこ「お察しの通りです、彼女は私の親友でもあります、よくここまでついてきてくれました……感謝しています」
めぐみさんは私に一礼すると、また部屋の奥に戻って行った。
けいこ「人間の社会には彼女の方が長く居るので何かと助かっています」
私はサンドイッチを一口食べた。
つかさ「美味しいです、もしかしてけいこさんが?」
けいこさんは頷いた。そして話しだした。
852 :つかさの旅の終わり 28/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:09:18.25 ID:O1mi2Otc0
けいこ「あれは……私がまだ狐だった頃、貴女の住んでいる神社をねぐらにしていた頃……仲間とはぐれてしまってね、狐狩りの標的にされてしまった、
    必死に逃げた、でも、銃弾が足に当たってしまった、その時、崖から落ちてしまった、地面が枯葉の層だったおかげで助かった、それに狩人もそれ以上追ってこなかった、
    貴女も知っているわね、大怪我をすると変身が出来なくなるのを」
私は頷いた。
けいこ「また狩人に遭遇してしまうかもしれない、私は怪我した足を引き摺った、血が垂れてしまって跡が残ってしまう、激痛と出血で気が動転してしまってね、
    私はその場に倒れて気絶してしまった……気が付くと私は別の場所に居ました、人間の家の中です、私は布団の上に寝かされ、足の治療が成されていました、
    そのままでしたら私は、野犬や、熊の餌になっていたでしょう、」
それは、私がたかしさんを助けたのとよく似ていた。私はけいこさんの話しを食い入るように聞いていた。
けいこ「部屋に人間が入ってきた、そこには若かりし竜太、しかし私は彼に感謝するどころか憎しみの感情しか湧いてこなかった、隙さえあれば彼の喉元を喰いちぎってやろうと
    思っていた……足の怪我のせいでそれは出来なかった、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼は献身的に私の治療をしてくれた……」
つかさ「それ……私と同じです、たかしさんを私はひろしさんと間違えて……」
けいこ「人間から見た目は同じ狐……無理もありません、その時のたかしの気持ちは手に取るように分ります……」
けいこさんは一回間を置いてから話しを続けた。
けいこ「足の傷がほぼ癒えた頃でした、彼が部屋でくつろいでいいました、全くの無防備、今なら確実に仕留められる、そう思い彼に近づいた……牙を彼の首元に照準を
合わせた……でも、出来なかった……仲間の復讐、それしか彼を殺す理由がなかった、私の個人的な感情と葛藤している時でした、ラジオからピアノの音色が
聞こえました、ノイズが酷かった音でした……それでも私の耳から心に直接響きました、人間の作った音に意味があるのを初めて気付いた時でした……
『君は音楽がわかるのかい?』……耳をラジオに向けている私に彼はそう聞いてきました……これが彼と私の初めての会話となりました」
つかさ「会話って、けいこさん、狐の姿で言葉を出せたの?」
けいこさんは笑って首を横に振った。
けいこ「ふふ、意思の疎通が初めてできたと言う意味です……それから彼は私に、絵画、彫刻、の写真を見せてくれました、これまで私は人間というのは破壊と消費しかしない
    者かと思っていました、それを全て覆すものでした……数日後、彼は私を人気のいない森に連れて行きました、彼は私を森に帰すつもりなのは直ぐに分りました、
    私を地面に置くと『もう撃たれるなよ、さぁ、もう行きなさい』」……彼の別れの言葉、別れたくなかった、私は彼の目の前で自分のもう一つの姿を見せた」
つかさ「それって、人間に化けたって事、でも、そんな事をしちゃったら、恐がって逃げてしまうかもしれないし……」
けいこさんは立ち上がった。
けいこ「これは懸けでした、そのまま狐のままでも別れるだけ、もし、この姿を見て彼が何かを思ってくれるならば……」
つかさ「その懸け、上手くいったんだね……」
けいこさんは頷いた。
けいこ「……さて、そろそろ貴女のお話をしなければなりませんね」
もうそんな時間なのかな。本当はけいこさんが人間なった経緯も聞きたかった。でも……この話だけでも充分分る。けいこさんが竜太さんを愛したのが。それに芸術が好きな訳も。
つかさ「えっと、移転先の件ですけど、候補地が決まりましたのでこれで……」
私は封筒とけいこさんに差し出した。けいこさんは封筒の中身を見た。
けいこ「……ここで良いのですね」
つかさ「はい、満場一致です!」
けいこさんは微笑んだ。
けいこ「それならば直ぐに手配しましょう」
奥からめぐみさんが来てけいこさんから封筒を受け取った。
けいこ「直ぐに手配を」
めぐみ「はい」


853 :つかさの旅の終わり 29/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:12:30.52 ID:O1mi2Otc0
めぐみさんはそのまま会長室を出て行った。そしてけいこさんはテーブル席にまた座った。そしてさっきまで笑顔だったのに真面目な顔に豹変した。
けいこ「もう一つ、私は依頼をしましが考えてくれましたか?」
つかさ「はい、私なんかで良ければ……何もお役にたてないかもしれませんけど……」
即答だった。お手伝いはしようとは思っていた。直ぐには答えるつもりは無かった。だけどさっきの話しを聞いたら決心がついた。けいこさんの顔に笑顔が戻った。
もどったけど少し表情が暗かった。
けいこ「一週間前……私は彼らにコンタクトを試みました、しかし、いい返事は来ませんでした、どうすれば良いのか考えあぐねているところです」
つかさ「彼等って、ひろしさんは、ひろしさんは元気でした?」
けいこさんは頷いた。
つかさ「私、私がけいこさんのサポートをしますって言いました?」
けいこさんは首を振った。
けいこ「つかささん、貴女はまだ私を手伝うとは言っていませんでしたので言っていません、これからは堂々と言えます」
つかさ「効果があるかどうかは分りませんけど、私の名前を使っても良いです、逢いたい、それだけでも良いので」
けいこ「そうですね、使わせてもらいます、これで、彼をここに連れて来られるかもしれません」
此処、ここって、東京のど真ん中……
つかさ「あの、最初のコンタクトの時もここに呼んだのですか」
けいこ「そうですけど、何か……」
けいこさんはキョトンとした顔で私を見ていた。
つかさ「私が最初、此処に来た時、けいこさんが恐かった、何か交渉する時は相手の安心できる場所でお話した方が良いと思うけど……
けいこさんは元お稲荷さんだから警戒しているのかも」
けいこ「相手の安心できる場所……」
つかさ「うん、それは向こう側に決めてもらえば……あの神社はもう出て行っちゃったし、私も分らないから」
けいこさんは微笑んだ。
けいこ「素晴らしいですね、早速助言をいただきました、その調子でお願いします」
つかさ「え……」
私は思った事を言っただけなのに……
けいこ「次は必ず交渉の席に来てくれるようにします、その時は同席をお願いします、そのためにも、つかささんの休日を教えていただけませんか?」
つかさ「交代制なので定期じゃないけど、週に二日取れるようになったので……」
私はけいこさんとこれからの事を色々話した。もし、ひろしさん達が本格的に交渉するようになれば週に二日の休みでは足りなくなるとけいこさんは言った。そうなれば
お店のお仕事は出来なくなる。休職するか、一回退職するしかない。報酬の話しもしたけど、今はちゃんと、かえでさんから貰っているから交通費以外は要らない。
そんな細かい話までした。

けいこ「今日は良い話ができました、それでは移転の事は私に任せて下さい」
つかさ「はい、お願いします……あ、あの〜」
けいこさんは不思議そうに私を見た。
つかさ「もう一度聴きたいのですが……亡き皇女のための……なんでしたっけ?」
けいこさんは微笑むとピアノの方に向かい座った。そして目を閉じて弾き始めた。

854 :つかさの旅の終わり 30/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:14:06.71 ID:O1mi2Otc0
つかさ「ただいま〜」
こなた「お疲れ様〜」
家に着いたのは日が変わろうとしていた時刻だった。こなちゃんはもう既に帰ってきていた。
こなた「交渉はどうだった?」
私はにっこり微笑んだ。
こなた「ふ〜ん、どうやら上手くいったみたいだね、お茶を淹れるね」
つかさ「もう寝しなだよ、眠れなくなっちゃう」
こなた「それじゃ、ココアを淹れるね」
ココア……そういえばひろしさんに最初に出したのもココアだっけ……思い出しちゃった。
着替えて居間に戻るとこなちゃんが私の買ってきた物をじっと見ていた。
こなた「珍しい物買したね……クラッシック?」
帰りに音楽ショップで思わず買ってしまった。ラヴェルのピアノ曲集。
つかさ「会長……けいこさんが弾いていたから、とっても綺麗な曲、また聴きたくて買っちゃった」
こなた「つかさは影響されやすいね」
つかさ「今度聴かせてあげるよ」
こなた「今度ね……」
こなちゃんはココアを私の目の前に置いた。しばらく沈黙が続く。そう、私はこなちゃんに話さなければならない。
つかさ「あのね……こなちゃん、私……決めたの、けいこさんの仕事、企画を手伝うって……ごめんね」
こなちゃんは黙ったままココアをすすった。何も言わない。どうして……
こなた「……なんで、謝るの……」
ぼっそとした声だった。
つかさ「え、だって、こなちゃんをこの町に呼んでおいて私だけ別の所に行く事になるから……」
こなた「呼んでおいて……違うよ、私はつかさに呼ばれたんじゃない、私の意思で来た、勘違いしないで、」
少し怒り気味の声だった。私は言葉に詰まった。
つかさ「私はあの時、こなちゃんが何も就職が決まっていなかったからただ声を掛けただけだよ……勘違いとかそんな事言わないで」
こなちゃんは更に怒った。
こなた「一人旅なんか行ったからこうなったんだ、あんな狐なんかと会わなければ、私達は地元でもっと楽しく皆で過ごせたんだ!」
つかさ「こなちゃん……」
この時、こなちゃんの思っていた事が初めて分った。こなちゃんは俯いて両手を握って震えていた。
つかさ「ゆきちゃんが言ってた、私が一人で旅をするのは運命だったって、現にお姉ちゃんも家族もこなちゃんだって止めなかった、私自身もこんな出来事に巻き込まれるなんて
    思いもしなかった、でもね、そのおかげでかえでさんに会えた、一度も会っていないけど辻さんも、お稲荷さんの人達も、何より……こなちゃんとこうして
    一緒に働けるなんて……夢みたいだよ」
こなちゃんはまたぼそっとした声で話し始めた。
こなた「……私とひよりんで、無断でかがみ達を主人公にした漫画を描いた時の事覚えているかな、ちょうどつかさが一人旅から帰ってきた時の話しだよ」
つかさ「うん、お姉ちゃん、カンカンに怒っていたね」
こなた「うんん、みゆきさんもかなり怒っていた、みなみちゃんも、ゆーちゃんも、みさきちまで……なんでつかさだけ私を庇ってくれたの、あの漫画はつかさも主人公だった
    って、つかさは知っているでしょ?」
つかさ「私達姉妹が主人公のおふざけの漫画だったね、面白かったよ……なんてね、もし、旅をしていかったらこなちゃんを怒っていたかも……まなちゃんの悪戯好きと
    こなちゃんが重なって、憎むに憎めなかった、それだけだよ……」
こなちゃんは顔を上げて苦笑いをした。
こなた「結局……私は真奈美さんに助けられたって……ふふ、確かにみゆきさんの言うようにこれは運命だったのか……つかさがどんどん遠くに行ってしまうみたいに感じるよ」
つかさ「うんん、私は遠くになんか行かない、皆がいるから」
こなちゃんは笑った。
こなた「お稲荷さんの事、悪く言ってごめん……つかさを見ていたら、うだうだしているのは自分だったのに気が付いた、つかさならお稲荷さんと人間と仲良くできるよ」
つかさ「ありがとう」
こなちゃんのお稲荷さんに対する態度が変わった、なんだから少し希望が出てきた。
こなた「あとはみゆきさんだね」
つかさ「ゆきちゃん?」
こなた「かがみはいいとして……みゆきさんはお稲荷さんをかなり嫌っていると思うよ」
つかさ「そんな風には見えないけど……」
こなた「普段、陰口とか言わない人ほど根っこでは恨みを溜め込むもんだよ、みゆきさん、お稲荷さんの話しになると口数が減るからね……」
そういえば……そう言われるとそんな感じに思ってしまう。
つかさ「私……実はゆきちゃんにこれからいろいろと相談にのってもらうつもりでいたのだけど……」
こなちゃんは溜め息をついた。
こなた「流石のみゆきさんも今度ばかりはどうかな……断るかもしれないよ」
つかさ「お稲荷さん達と会う前にゆきちゃんとお話がしたい」
こなちゃんは大きく欠伸をした。
こなた「ふゎ〜 それなら早い方がいいね、明日は店長に報告するんでしょ……明後日、会ってみたら」
つかさ「それだと、お店を休まないと……」
こなた「休んじゃえ……有給たまっているんでしょ」


855 :つかさの旅の終わり 31/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:15:30.11 ID:O1mi2Otc0
 こなちゃんの後押しもあってゆきちゃんと会うのは三日後になった。ゆきちゃんは行き付けの店に私を招待してくれた。
みゆき「まずはおめでとうと言わせてもらいます」
つかさ「へ?」
ゆきちゃんは私に会うなり思いもしていなかった言葉を言った。
みゆき「かがみさんのご結婚です、挙式は何時になるのですか」
つかさ「……あ、ありがとう……お姉ちゃんから聞いたんだね……ごめん、まだ聞いていない」
みゆき「そうですか、楽しみにしています……そういえば、つかささんと二人だけで会うのは高校時代以来ですね……」
ゆきちゃんとはいつも皆と一緒の時が多かった。こんなにゆっくりお話するのもほんとうに久しぶりかもしれない。ゆきちゃんの行き付けのお店だけあって、お洒落で落ち着いて、
ゆっくりとお話ができそう。どうやって切り出そうかな……
つかさ「柊けいこさんって知ってる?」
私の質問にゆきちゃんは暫く考え込んでいた。
みゆき「私の大学で特別教授をなされています、とても知的で尊敬する一人です」
つかさ「そして、大企業の会長、ホテルのオーナー、いろいろな顔をもっている人だよ」
みゆき「そうですが……それがどうかいたしましたか?」
ゆきちゃんは首を傾げた。
つかさ「私の住んでいる町を再開発するから移転して欲しいって言われた」
みゆき「……それは泉さんから伺っています……良い条件を出してくれたそうですね、私の思った通り誠実な方ですね、それに柊けいこさんの経営するホテルに出店ともなれば
    ステータスも付きます、素晴らしいと思います」
ゆきちゃんもけいこさんを尊敬している。さて、これからが本番だよ。
つかさ「私……けいこさんから個人的に依頼を受けたの、それでゆきちゃんに相談に乗って欲しくて」
みゆき「相談……ですか、私に出来る事なら良いのですが……どのような依頼なのですか?」
つかさ「お稲荷さんと人間が共存できるように……手伝って欲しいって……」
何度か私の話しを聞きながらお茶を飲んでいたゆきちゃんの動きが止まった。
みゆき「ど、どう言う事ですか、なぜ、お稲荷さんの存在を知っているのですか……」
少し声が上擦っている。
つかさ「柊けいこさん……彼女はお稲荷さん……お稲荷さんだった人だよ、旦那さんと知り合って……長寿と引き換えに人間になった……」
ゆきちゃんは私の目を見たまま瞬きもしない。更に話し続けた。
つかさ「けいこさんはね、人間とお稲荷さん仲良くさせたいって、仲良くできから、代わりにお稲荷さんの知識を私達に教えるって言ってた、でも、それはひろしさん達も
けいこさんの計画に賛成してくれないといけないから……」
ゆきちゃんは手に持っていたティーカップを置いた。
みゆき「泉さんの予想が当たってしまいましたか……まさかとは思っていましたが、柊けいこさんがお稲荷さんだった………」
私は頷いた。
つかさ「うん、これから色々な事が起きると思うから、ゆきちゃんの力を借りたくて……」
みゆき「……私の助言は一つしかありません、私は柊けいこさんの計画に反対します、したがって、つかささんの手伝いも出来ません……」
強い口調だった。それに、答えを用意していたみたいに即答だった。
つかさ「反対……するの、お姉ちゃんもこなちゃんもかえでさんも賛成してくれたのに……」
みゆき「柊けいこさんの経営、会社運用、特許……これらの知識はおそらくお稲荷さんの知識を使ったか応用したものでしょう、よく考えて下さい、今までお稲荷さんが私達に
    してきた事を、呪いや、金縛り、催眠術や夢の中にまでも入ってしまいます、そんな事が人間に知れたらどんな事が起きるのか……」
つかさ「それはお稲荷さんだから出来る事だよ、私達人間は魔法なんか使えないから大丈夫だよ」
ゆきちゃんは首を振った。
みゆき「私は彼等が特別な存在だとは思っていません、それらは私達の知らない知識や技術があるのかもしれません、変身するのも同じです、ですから方法さえ分ってしまえば
    私達にも出来ると言う事です、そんな技術や知識を私達が知ってしまったら……考えただけで恐ろしくなります」
ゆきちゃんはお姉ちゃんが呪いで苦しんでいる姿を見た。催眠術で寝てしまっているし。爪を伸ばしてこなちゃんに襲い掛かろうとしている姿も見ている。
だからゆきちゃんは……
856 :つかさの旅の終わり 32/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:17:03.56 ID:O1mi2Otc0
つかさ「かえでさんは言った、お稲荷さんの知識を手に入れたら、私達の生活が変わるって……私はひろしさんと別れた直後にとっても綺麗な幻想を見たよ、そのおかげで
    暗闇の階段を一回も踏み外さないで下りる事ができた……多分お稲荷さんの力だと思うよ……私にはその理屈なんて分らない……
    もし、お稲荷さんが特別な存在じゃなかったら、お稲荷さんの知識は教えてもらわなくても何時か、誰かが手に入れてしまう……ゆきちゃん、そう思わない、
    だったら、教えてもらえるなら、教えてもらおうよ」
みゆき「いつか、誰か……」
一言そう言うとゆきちゃんは黙ってしまった。
つかさ「ゆきちゃん、お稲荷さんの事、嫌いなの?」
みゆき「それは……」
急にソワソワしだした。私の目を合わせなくなった。
つかさ「私はたとえ「嫌い」って言ってもゆきちゃんを嫌いになったりしないから、ちゃんと言って……私は、お稲荷さんの知識なんてまったく興味がないの、
    本当はひろしさんに逢いたい、それだけ……私は、只、けいこさんの計画を利用しているだけかもしれない」
ゆきちゃんは暫く考え込んでいた。
みゆき「……真奈美さんは命を懸けてまでつかささんを守りました、その一方、かがみさんを呪い、つかささんまで殺めようとしたたかしさん、とても好き嫌いでは
    表しきれません……本当に同じお稲荷さんなのでしょうか」
そんな風に聞かれるとこっちも困ってしまう。
つかさ「同じお稲荷さんだよ、だけど違う、私とゆきちゃんが違うように……怒ったり、笑ったり、恋をしたり、私達とまったく同じだと思うよ」
ゆきちゃんは微笑んだ。今日会ってはじめてゆきちゃんは笑った。
みゆき「お稲荷さんは私達と同じ、そう考えると整理がつきますね……つかささんは最初からそうだったのですね」
つかさ「そうだったのかな、意識していなかった……」
ゆきちゃんはティーカップを持った。
みゆき「微力ながらお手伝いさせて頂きます」
つかさ「あ、ありがとう、でも、良いの、ゆきちゃんはお稲荷さんの知識は良くないって……」
みゆき「知識や技術に良いも悪いもありません、要は使う人次第です……それにつかささんに言うように、早いか遅いかの違いだけかもしれません、どんなに難しい知識も
    何れは詳らかになるものです……私がどうかしていました、お稲荷さんの会合の時は是非、私も同行させて下さい」
ゆきちゃんが私と一緒に……こんな心強い事なんかない。
つかさ「私、一人でどうやって良いか分らなかった……だからこうしてゆきちゃんに……ありがとう、ありがとう」
わたしはゆきちゃんの手を取って何度もお礼を言った。
みゆき「まだお礼を言うのは速過ぎます、もう少しお話がしたいです、柊けいこさんの事を、彼女は何故人間になったのですか?」
そうだった。まだ何も始まってはいなかった。
つかさ「旦那さんの竜太さんの出会いが何かの切欠になったのはなんとなく分る……そして、彼からいろいろな芸術を観たり聴いたりするうちに
人間への憎しみが消えていったみたいだよ」
みゆき「芸術ですか……そういえば彼女の支援はほんど芸術関係が占めているようですね」
つかさ「あ、そうそう、けいこさんはねピアノも上手なんだよ、ラヴェルの亡き皇女のための……あ、あれ……」
せっかく覚えたのに言葉が出てこない。
みゆき「亡き皇女のためのパヴァーヌ、ですね」
つかさ「さすがゆきちゃん……」
みゆき「この曲のテンポはゆっくりですがかなり難易度が高いようです、みなみさんも最近になってやっと弾けるようになったので……」
つかさ「そうなんだ……そんなの感じさせない演奏だった……とっても綺麗な曲だったよ」
みゆき「そして、哀しげで、優しい響きです……」
ゆきちゃんと音楽のお話をした。今までそんなお話なんかした事なかった。みなみちゃんの演奏も聴いてみたい。そういえばゆたかちゃんやひよりちゃんも最近は
会っていないな。
みゆき「どうしたのですか?」
上の空だったかもしれない。ゆきちゃんの話しを殆ど聞いていなかった。
つかさ「えっ、あ、みなみちゃんの話がでたから、ゆたかちゃんやひよりちゃんにも会いたくなっちゃった」
みゆき「彼女たちも、もう大学生です……」
つかさ「時の流れって早いね……こなちゃんとひよりちゃんの事件が昨日の事みたい」
ゆきちゃんはクスリと笑った。
みゆき「そうですね、近頃、また二人で何か作品を作っているそうですよ」
つかさ「え、そんな風には見えない、こなちゃん、頻繁に実家に帰っていないし……」
みゆき「直接会わなくても、インターネットがありますから」
こなちゃんがいつもノートパソコンを見ているのを思い出した。
つかさ「またお姉ちゃんに怒られなきゃいいけど……」
ゆきちゃんはまた笑った。
みゆき「お二人ともあの件で懲りていると思います」
つかさ「それだと良いのだけれど……」
みゆき「私は嫌いではなかったですよ、現実離れしたコメディ……かがみさん達の性格をよく反映した漫画だったと思います、しかし、いささか表現が過激でした、
    せめて一言、断っていただければ……」
つかさ「うんん、そんな事言ったら、お姉ちゃん、作りかけの漫画を破いちゃったかもしれないよ」
ゆきちゃんは私の目を見ると、小さく頷いて納得したような表情を見せた。
つかさ・みゆき「ふふふ……」
私達は笑った……ゆきちゃんと楽しい会話が続いた。


857 :つかさの旅の終わり 33/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:18:32.84 ID:O1mi2Otc0
 帰りの電車の中で……私は考えていた。
私が一人旅に出なければ地元で楽しく過ごせた……こなちゃんはそんな事を言っていた。ゆきちゃんとの会話で、こなちゃんと同じ気持ちが今頃になって込み上げてきた。
それじゃ……
私が旅に出なかったから……私の代わりに誰かがお稲荷さんの生贄になっていた、それでお稲荷さんの恨みが消えたかな……消えない、狐狩りは今でも行われている。
もっと人間とお稲荷さんの溝が深まってしまったかも……うんん、今でもそんなに状況は変わっていない。だからけいこさんが計画をした。
結局私は何もしていないのと同じ……人間とお稲荷さんの橋渡しなんて……出来ないよ……
大きな溜め息をついた。
気分晴らしに電車の窓から外の景色を見た。もうそろそろ目的の駅に着きそうだった。
私、ひろしさんと別れるとき、何でもっと強く引き止められなかったのかな。今度会って私は彼に何を言うのかな……「こんにちは」「元気だった?」「逢いたかったよ」……
そんなのは普通すぎるよね、「たかしさんが元気?」久しぶりに会うのにいきなり他人の話からなんて失礼だよ……いっその事……
「人間になって私と一緒になって……」、そんな事、言えるわけがないよね……何千年も生きられるのに……そういえば前にも同じような事を考えていた。
やっぱりダメだ。私は何も変わっていない。これじゃけいこさんの役に立てない。
出てくるのは不安な気持ちばかり。それにひろしさんの事ばかり。

 電車から降りて駅を出るといつの間にか神社の入り口の方に足を向けていた。そして神社の入り口で立ち止まった。外はまだ明るい。往復する時間は充分にある。
入り口から階段を見上げた。もう自分からは行かないって決めたのに……しかし足は既に階段を登っていた。
お店が移転してしまえば私達もこの町を離れる。よっぽどの事が無い限りこの神社に来る事はない。それにこの土地はけいこさんの物になる。神社はそのまま残してくれるって
言ったけど。どうなるのかな。この町にお稲荷さんが戻ってくればやっぱりこの神社が拠点になるのかな……
考えても分らないような事ばかりが頭に浮かんでは消えていく。

 気が付くともう頂上に着いていた。頂上から町を見下ろした。あの時と全く変わらない風景が広がっている。日も傾いてきた。日が傾いて西日が射し込んで来た。
暗くならないうちにまなちゃんに挨拶して帰ろう……
町の風景を背にして森の中に入っていった。いつもお供えをしていた石の前で止まった。そう、まなちゃんが初めて私の作った稲荷ずしを食べてくれた場所。
そして……もうその先を思い出したくない。
つかさ「まなちゃん……生きていたらどうするの、やっぱりけいこさんの手伝いをする?」
私の声は森の中に吸い込まれて静まり返る。
つかさ「私……まなちゃんに会わなかった方が良かったかのかもしれないね」
『ガサガサ』
後ろから枯葉を踏みつける音……
つかさ「だ、誰?」
後ろを振り返った。
かえで「つかさ……つかさじゃない、何でこんな所に……」
つかさ「か、かえでさん……」
その先の言葉が出なかった。かえでさんは私の言葉を待っていた様に見えたけど、そのまま凍ったように私は動けなかった。
暫くするとかえでさんは私の前に移動した、袋からパンケーキを出すと石の上に置いた。そして腰を下ろすとゆっくり手を合わせて祈り始めた。


858 :つかさの旅の終わり 34/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:19:56.87 ID:O1mi2Otc0
 どの位経ったか、かえでさんは手を下ろすと腰を下ろしたまま話し始めた。
かえで「こうして浩子の為に祈ってやれるのもあと何日になるかしらね……うんん、つかさと出会ってなければ私はこの神社の入り口にすら近寄らなかった……」
かえでさんは目を開けて供えたパンケーキを見た。
かえで「浩子と夢見たレストラン……夢で終わるかと思っていた、それを現実にしたのはつかさ、貴女よ」
つかさ「私は……おっちょこちょいで、失敗ばかり……そんな事言われても……」
かえで「どうした、いつものつかさらしさがないわよ」
つかさ「私らしいって……いつも目立たなくて、内気で……」
かえでさんは立ち上がった。
かえで「どうゆう心境の変化かしら、初めて会った時のつかさに戻っている」
戻った……始めから私は変わっていない。
つかさ「けいこさんの旦那さん……芸術が好きだった、それをけいこさんに教えた……それで旦那さんを好きになったって……彼女のピアノを聴いていると旦那さんとの
    絆の強さが伝わってくる……私なんて、芸術も教えていないし、何も残せなかった、だから別れちゃったのかもしれない」
かえでさんは呆れた顔をした。
かえで「やれやれ、つかさ、貴女のしている仕事はなんだ」
つかさ「仕事……レストランでスィーツを……」
かえで「言っておくけど、料理もりっぱな『芸術』……私はしっかりと覚えている、つかさが休暇を取った日、ひろしが来て、つかさの作った料理を食べたかったって言った、
    それが何を意味するか分るでしょ」
つかさ「え?」
かえで「妬けるわね……」
つかさ「焼ける、焼けるって何が?」
かえでさんは溜め息をついた。
かえで「鈍いわね、鈍すぎるわよ、まだ分らないの……もういいわ、恥かしくて私からは言えないわ、自分で考えなさい……」
かえでさんは何を言いたかったのかな……
かえで「もう日が暮れるわ、そろそろ帰りましょう」
つかさ「う、うん」
かえでさんは少し怒り気味だった。私はかえでさんの後に付いて歩き始めた。
かえで「……誰!!」
突然立ち止まって森の出口の方に向かって怒鳴った。すると木の陰から男の人が出てきて慌てるようにして階段を降りて行った。
かえで「怪しいわね……」
つかさ「怪しいかな、観光客だったかも、カメラ持っていたみたいだし……」
かえで「どうかしら、スーツを着ていたのが不自然だわ、この神社は観光としてはマイナーすぎる……それに慌てて逃げるなんて」
つかさ「かえでさんが怒鳴ったからだよ、あんなに大きな声だしたら誰だって驚くと思うけど……」
かえで「……そんなに大声は出していないわよ、つかさ時々キツイ事言うわね……」
かえでさんと私はまた歩き出した。そして階段を半分くらい降りたくらいだった。
かえで「柊けいこさんから電話が着たわよ、きっと携帯のメールにも着信していると思うけど一応伝えておくわ……来週の月曜日、本社の会長室に来て欲しいそうよ、
    相手と連絡がついたってね……つかさ、メソメソなんかしていられないわよ」
気合の入った声だった。
つかさ「私……どうして良いか分らない」
かえで「何を今更……って、情けない顔しちゃって……私から言えることは何も無いわ、あえて一言、そんな顔じゃ何をしても失敗するわね、
    ほらはら、ひろしに逢えるわよ、待ち遠しいでしょ?」
つかさ「え、あ……うん」
かえで「そうそう、その顔よ、その顔で当日行きなさい、後は良い事だけを考えなさい、以上」
良い事だけを考える……心の中で何回も繰り返した。
かえでさんは速度を上げて階段を降りていった。

 神社の入り口を通ると、こなちゃんの車が停まっていた。車のドアが開いた。
こなた「迎えに来たよ、二人とも乗って」
かえでさんは私の耳元で囁いた。
かえで「私は泉さんに言われて神社に来たのよ……移転とか浩子の事で私もどうして良いのか分らなくてね……」
かえでさんは私の肩をポンと軽く叩いた。そして私にウインクをした。
かえで「泉さん悪いわね、一度店に戻ってくれないかしら」
かえでさんはこなちゃんの車に向かった。
こなた「オーケー、分ったよ、つかさは何もなければ一緒に帰ろう?」
にっこり微笑むこなちゃん。かえでさんのさっきのお話し……今まで悩んでいた事がスーと消えていった。
つかさ「何も無いよ、一緒に帰ろう!」
私も笑顔で返した。
そうだよね……もう悩むのは止めた。


859 :つかさの旅の終わり 35/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:21:39.76 ID:O1mi2Otc0
 そして……その日は来た。
月曜日、それは私の休日。けいこさんはちゃんと私の休日に合わせてくれた。なんとしてもけいこさんの想いをお稲荷さん……ひろしさんに伝えたい。
私にそれが出来るか分らない。だけどやれる事だけはやってみる。
みゆき「こんにちは」
ゆきちゃんも来てくれた。東京駅で待ち合わせをしていた。
つかさ「こんにちは、平日なのに大丈夫なの、大学院の研究って大変なんでしょ?」
ゆきちゃんは大学院で忙しいのに来てくれた。
みゆき「大学院での研究よりこちらの方に興味があります、お稲荷さんの知識……その入り口に居るのですから」
つかさ「まだ教えてくれるって決まったわけじゃないよ……」
ゆきちゃんの目がキラキラと光っている。ゆきちゃんの目的はお稲荷さんの知識だったのか。ゆきちゃんらしい。
みゆき「そうですね……お互い、頑張りましょう!」
つかさ「うん」
私達はホテルに向かって歩き出した。

 ホテルに着き、私達はめぐみさんに会長室へ案内された。
めぐみ「どうぞ……」
会長室に入るとけいこさんが部屋の中央に立っていた。
けいこ「お待ちしていました」
けいこさんはゆきちゃんの方を見た。そうだった。初対面だった。けいこさんには事前に連絡しておいた。けいこさんは二つ返事で同行を許可してくれた。
つかさ「あ、こちらが私の親友で高良みゆきさんです……」
みゆき「はじめまして……大学の特別講義、いつも興味深く拝聴させていただきました、よろしくお願いします」
ゆきちゃんは深くお辞儀をした。
けいこ「貴女は……高良さんとは貴女の事でしたか、学長から伺っていますよ、成績優秀……それだけではないものをお持ちだと……」
みゆき「いいえ、私はそのような特別な事などは……」
けいこ「つかささん、貴女は良い友人に恵まれていますね……」
お稲荷さんはここに来るのかな。周りには私達だけしかいないし……私は部屋の周りを見回した。それにけいこさんが気付いた。
けいこ「それではこれから会場に向かいましょう」
つかさ「会場はここじゃないの?」
けいこ「彼らは佐渡島を会場として指定してきました」
みゆき「あの、日本海にある佐渡島ですか?」
けいこさんは頷いた。私とゆきちゃんは顔を見合わせた。
けいこ「佐渡島に私の経営するヘリポートがあります、これから屋上からヘリコプターに乗って向かいます、もちろん帰りも送りますので時間は気にしないで結構です」
改めてけいこさんのスケールの大きさに驚かされた。
つかさ「ひろしさん達、そんな遠い所に引っ越したの……」
けいこ「恐らくそこには住んでいないでしょう、彼らも別の所から来るに違いありません、住処は簡単には明かしてくれません」
めぐみさんが入り口のドアを開けた。そして私達は会長室を出た。

860 :つかさの旅の終わり 36/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:23:12.95 ID:O1mi2Otc0
つかさ「あの、パイロットはめぐみさん?」
めぐみ「何か不都合でもありますか?」
めぐみさんが操縦席の方に向かっているので思わず言ってしまった。
つかさ「え、不都合とかじゃなくて、操縦している時に変身が解けたら……」
めぐみさんは笑った。
めぐみ「ふふ、その位の時間管理はしています、ご心配なく」
けいこ「私も免許を持っていますので、いざとなれば代わります」
凄い……これがお稲荷さんの本気なのかな。ピアノも上手だし、ヘリコプターも操縦できるなんて……
めぐみ「皆さん、乗ってください」
皆乗り込むとみぐさんはヘッドホンを付けてどこかに無線で連絡した。暫くするとプロペラが回りだしゆっくりと離陸した。ビルの屋上からどんどん離れていく。
けいこ「約2時間で到着します、それまでくつろいでいて下さい」
みゆき「すみません、少し……お話いいでしょうか?」
けいこ「なんでしょうか?」
みゆき「知識を私達に教えてくださるのは大変あり難いです……しかしながら、それを何時、何処で、誰に、が重要になってきます、それを誤れば過去に起きた迫害……
    いいえ、もっと凄惨な出来事が起きてしまうと思います……それに私達、人間側の準備も必要かと思います、知識の独占、濫用がおこれば、
誰のための知識なのか分らなくなってしまいます、柊けいこさんはどのようにお考えですか」
けいこさんは暫く目を閉じていた。
けいこ「そうですね、もう過去の過ちは繰り返したくありません……」
うわー、ゆきちゃんとけいこさんでなんか難しい話しを始めてしまった。話しに付いていけないし、入れない。こなちゃんも連れてくればよかったかな……
ゆきちゃんとけいこさんは真剣な顔で話している。ピクニックや観光に行く訳じゃないよね……自重しなきゃ……
窓の外を見た。今日は快晴、遠くの景色まで良く見える……あれ……あれは東武線……線路を辿っていくと……あの辺りが陸桜学園かも……その先は……実家かな、
胡麻より小さく見える町並み。そのどれかが私の住んでいた実家……小さいな。幼い頃は実家が全ての世界だと思っていたのに。成長していくにつれてどんどん
世界も広がっていく。小学校、中学校、高校……大学……私は専門学校だった……そして社会人。世界が大きくなると私はどんどん小さくなっていく。
空から見える大都会。見え切れないほど大きな世界。そこに居る小さな私。何処に居るのか。居たのかも分らない位……小さいよね。
ひろしさんは私達をカゲロウみたいだって言っていた。何千年も生きるお稲荷さんから見ればそうかもしれない。小さくて、あっと言う間に消えてなくなる……私達。

景色は風のように流れていく……もう私の知らない町並みが見えてきた。こうやって景色を見ているのも落ち着いて良いかも。

 ヘリポートに着陸すると私達は車に乗り換えた。もちろん運転はめぐみさん。車は郊外を抜けて人里離れた所へと向かってくそして、寂れた小屋の前で車は停まった。


861 :つかさの旅の終わり 37/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:25:25.91 ID:O1mi2Otc0
めぐみ「到着しました……」
ゆきちゃんとけいこさんは話しに夢中になっているみたい。ヘリポートを降りても二人の会話は終わらなかった。とりあえず私は車を降りた。そして背伸びをした。
つかさ「う〜ん」
めぐみ「お二人はもう少し時間が掛かりそうですね、どうですか、先にあの小屋に向かわれては、気配を感じます……もう来ています」
暇を持て余していてもしょうがない。
つかさ「そうですね」
小屋に向かう。そしてドアの前で止まった。このドアの向こうにひろしさんが……ノブを回してゆっくり開けた。男性が一人後ろを向いて立っていた。
小屋の窓を見ているみたいだった。私の気配に気付いたみたい、振り返った。
「柊……つかさ、なぜ、ここに居る……」
驚きの顔で私を見ていた。違う……ひろしさんではない。それじゃこの男性は誰なの。お稲荷さんみたいだけど……それに私の名前を知っていた。
この男性の雰囲気……もしかしてこの人……そうだ、試してみよう。
つかさ「……トカゲの尻尾のお薬、あれから地面に埋めたよ、完成にあと98年もかかっちゃうけどね……」
男性は苦笑いをした。
「……埋めたのか、それならもう完成しているはずだ、埋めるのは2年で良い」
やっぱり……たかしさんだ。
つかさ「ダメだよ、2年でも間に合わなかったよ……あの時、死ぬ気だったの……ダメだよ、そんなの」
涙が出てきた。あの時の情景が思い出されてくる。
たかし「そうだったのかもしれない、あの時の俺は……逆恨みと言うものなのか、君の献身的な介護……ふふ、さすが真奈美が選んだ人だけの事は在る……
    君の姉には本当に申し訳のない事をした、本来なら直接謝罪すべきだった……許してくれとは言えないな……唯一、出来たことは、君の言っていた
    狼に化けるのを実行する事で君に健在を知らせるだけだった」
つかさ「分っている、狼の件はニュースになったから直ぐにわかったよ……もう過ぎたことだよ、お姉ちゃんも恨んでないって言っているし、もう忘れて、
    それより人間に化けているね、もう人間を許してくれたの?」
たかし「……全てを許しているわけじゃない、だが、少なくとも全ての人間を恨む必要もない、そう思っただけだ……もういい加減に涙を流すのは止めろ、
    涙は、愛する人の為に取っておけ」
愛する人……あ、私は涙を拭って辺りを見回した。
たかし「……ひろしか、ひろしは居ない……俺が代理で来た、人間も来る様な事を言っていたが、まさか君だったとは」
つかさ「ひろしさんは、どうして来ないの……私が来るのを知っているのに……」
たかし「さあね、そこまでは知らん、あいつは少し変わった、良くも悪くもな、君のせいかもしれないな……それより、君はけいこの補佐として来たのか」
たかしさんの目つきが変わった。
つかさ「そのつもりだけど……」
たかし「あいつは裏切り者だ、今日の会合もそれをはっきりさせる為に来たのだからな」
そんな、裏切り者なんて、あんなに良い人なのに。
つかさ「裏切りって何、人間と結婚したから、人間になったから?」
たかし「過去に何度もそんな事はあった、それは個人の自由だ」
つかさ「だったら何で……」
たかしさんはドアの方を見た。
たかし「さて、その本人がお出ましだ」


862 :つかさの旅の終わり 38/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:27:45.32 ID:O1mi2Otc0
 ドアが開くとめぐみさんを先頭に、けいこさんとゆきちゃんが入ってきた。
けいこ「おや、もう始まってしまっていますね……私達がモタモタしていたのも確かですが……さあ、席に着きましょう、まずはそれからです」
私とたかしさんは一度離れて席に着いた。たかしさんを対面に私達が横に並ぶ形になっていた。
けいこ「たかし、人間に化けるのをあれほど拒んでいたのに、どうゆう心境の変化ですか」
たかし「さてね、お前に教える義理はない」
優しい言葉のけいこさんに対して、吐き捨てるような口調のたかしさんだった。けいこさんはたかしさんに微笑みかけた。
けいこ「……それも良いでしょう、ところでひろしはどうしました、お頭であるひろしが居なければ話は進みません」
たかし「今日は来られない、俺はその代理で来た……元々俺がお頭の一番候補だった、文句はあるまい」
けいこ「大事な会議よりも優先されるとはひろしは何を考えているのやら……委任状はありますか」
たかし「それは人間の風習だ、我々にはそんなものが無いのは知っているだろう」
けいこ「確かに、しかしこれからはその人間と交渉をしなければなりません、あなた達も少しは慣れた方がいいですよ」
たかし「裏切り者から教わる気はない」
たかしさんの反抗的な態度に対してけいこさんは至って冷静だった。たかしさんの怒りをスポンジみたいに吸収しているみたい。そのせいかもしれないけど、たかしさんは
私と初めて会った時みたいに敵対心むきだしではなかった。
つかさ「あ、あの〜さっきから裏切り者って呼んでいるけど、けいこさんは何をしたの?」
ちょっとした間が空いたからさっきから疑問に思っていた事を聞いた。たかしさんはけいこさんを指差してから話しだした。
たかし「こいつは、人間にもう既に我々の知識を教えているではないか、こんな会議など茶番だ、即刻中止を要求する!!」
めぐみ「たかし、それは……」
めぐみさんは立ち上がった。
たかし「めぐみ、おまえも同じだ」
めぐみ「違う、違うの」
たかし「何が違う、こいつは私利私欲の為に……」
けいこ「お止めなさい、私から説明します」
けいこさんは初めて大きな声を出した。たかしさんとめぐみさんは黙ってしまった。その声は威厳があった。恵子さんは自分の席に座った。
けいこ「禁呪を平然と使ったお人とは思えない発言ですね、私の使用している知識や技術は封印されたものではありません」
たかし「う……そ、それは……」
けいこさんは私の記憶を見ているからたかしさんが何をしたのか分っている。
けいこ「貴方がお頭になれなかったのはそのためですね、ひろしは人選を誤りました、確かにこの会議は茶番です、ひろしの出席を強く求めます」
みゆき「柊つかさ、かがみの親友の高良みゆきと申します、私怨なのかもしれませんが、私もたかしさんがお稲荷さんの代表と言うのはいささか抵抗があります」
ゆきちゃんもたかしさんをまだ恨んでいる。このままだと会合自体がダメになっちゃう。何とかしないと。
たかし「……その点に関して言えば何も言えん、次回はお頭に来るように伝えよう」
たかしさんは席を立った。そして小屋の出入り口に歩き出した。このまま退出しちゃうのかもしれない。
つかさ「待ってください」
たかしさんは立ち止まった。
つかさ「あの呪い、もう二度と使わないよね」
たかし「何故禁じられていたのか、それが分った、しかし使ってしまったのは取り返しがつかない」
つかさ「そうだよね、取り返しがつかないよね、それが分っているなら、呪いの恐ろしさを知っているから絶対に使わない……私も小さいとき、危ないから行くなって
    言われた小川があって、それでも興味があるから小川によく遊びに行ったの、そこで足を滑らせて溺れかけちゃった、たまたま通りかかった人に助けてもらったの
    だけど……それ以来、あの小川に行かなくなったから、それと同じだよ、私はたかしさんが代表でもいいと思う」
けいこ「貴女は姉が亡くなっていたとしても同じ事が言えるのですか?」
お姉ちゃんが死んでいたら……心の中で何度も呟いた。
つかさ「分らない、分らないけど、溺れて死んでいたら、私はここに居なかった、でも、私はここに居る、お姉ちゃんも生きている、それ以外考えられない」
けいこ「生きているのが重要と言うことですか……それも良いでしょう、たかし、席に着きなさい、話しの続きをしましょう」
たかしさんは席に戻った。そして、けいこさんとたかしさんの会議が始まった。


863 :つかさの旅の終わり 39/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:28:54.03 ID:O1mi2Otc0
 けいこさんとたかしさんの会議は平行線を辿った。たかしさんは終始けいこさんの提案を断った。
けいこ「今日はここまでにしましょう、次回に期待します」
たかし「何度話しても無駄のようなきがするがな」
たかしさんは席を立った。
けいこ「私も今日の会議で何かが決まるとは思っていません、たかしさん、仲間に会ったら伝えて下さい、貴方方には三つしか選択肢はないと
    このままの状況を続けるか、人間と共存するか、人間との関係を完全に断ち切るか……人間との関係を断ち切れば貴方方は確実に滅びます、
    このままの状況を続けても結果は同じです、分って頂けますか」
たかしさんはドアに歩きだした。
たかし「話だけは聞いた……そろそろ帰らせてもらうぞ」
つかさ「待ってください」
たかし「まだ何かあるのか、柊つかさ」
私は鞄からCDを取り出したかしさんに渡した。
つかさ「これを、ひろしさんに……」
たかし「音楽か、あいつはそんな物聴かないぞ」
つかさ「それでもいいの、私、ピアノ弾けないし……今の私の心境を音にするとこうなるって」
たかし「ピアノ曲なのか……分った、渡しておこう……」
たかしさんはCDをバックに入れると小屋を出て行った。
けいこ「私達も帰りましょう」
けいこさんとめぐみさんも小屋を出て行った。私も鞄を整理して外に出ようとした。
みゆき「つかささん……」
後ろからゆきちゃんの声、振り向くと俯いて寂しげな姿だった。
みゆき「ごめんなさい……私、つかささんをアドバイスするどころか、乱してしまいました……」
つかさ「何のこと?」
みゆき「たかしさんが帰ろうとした時の話です、私は怒りでいっぱいになって……たかしさんを追い帰そうとしてしましました、かがみさんはもう……
たかしさんを恨んでいないのですね」
つかさ「私に謝らなくていいよ、一番苦しんでいるのは、たかしさんなのかもしれないのだから」
みゆき「私も先ほどそう感じました……」
ゆきちゃんはまた寂しげな姿になった。
つかさ「行こう、けいこさん達が待っているよ」
みゆき「はい……」


864 :つかさの旅の終わり 40/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:30:43.94 ID:O1mi2Otc0
 帰りのヘリコプターの中、私はけいこさんに聞きたい事があった。
つかさ「あ、あの〜けいこさん、今日の会合、私が来るってひろしさんに伝えたのですか?」
けいこ「伝えました」
ひろしさんは私が来るのを知っていた。でも、来なかった。私と会うのより大事な用事があったのかな。そんな大事な事って何だろう。
それとも私の事、嫌いになっちゃったのかな、それとも、忘れちゃったのかな……
みゆき「私の考えなのですが、つかささんが来ると分ったからこそ、ひろしさんはたかしさんを代理にしたのではないでしょうか、次回は来ると思います」
けいこ「次の会合は来週の水曜日です、つかささん、高良さん、大丈夫ですか」
来週の水曜日私は休み。
つかさ「大丈夫です」
みゆき「大丈夫です、しかし、私が参加してよろしいのでしょうか」
けいこ「問題ありません、是非来てください、貴女の論法はとても素晴らしい、参考になります」
みゆき「ありがとうございます」
ゆきちゃんが言っていたのが本当なのかな。信じたい……信じるしかない。そうであって欲しい
けいこ「本社に戻りましたらお食事でもいかがですか」
つかさ「私は明日早番だから、帰らないと……」
けいこ「そうですか……残念です、高良さんはどうですか、もう少し話しをしたいのですが」
みゆき「そうさせて頂きます」

 こうして一回目の会合は終わった。けいこさんの一方的な話しで終わった感じがした。たかしさんは終始否定的だった。これはお稲荷さん全員の意見として
考えていいのかな。お稲荷さん達はこのままで良いのかな。それとも完全に私達の前から姿を消しちゃうのかな。もしそうなったら、そうなる前に逢いたい……もう一度……

つかさ「ふぅ〜」
かえで「どうした、溜め息なんかついちゃって」
私ははっとした、いつの間にか明日の会合の事を考えていた。仕事中は考えないようにしていたのに。週一回のペースで会合はしている。もう三回目になるのに
ひろしさんは一回も出席していない。全てたかしさんが来ていた。
かえでさんは辺りを見回した。更衣室には私達二人だけ。
かえで「先週の会合はどうだった、彼とは逢えた……わけじゃなさそうね、その顔を見て分ったわ」
つかさ「うん……」
かえで「明日も行くのでしょ、ガンバレ としか言えないけど ガンバレ」
つかさ「ありがとう……」
かえで「この店の移転準備も着々と進んでいる、調理器具は全部新調、食器は全て持って行く事になったわ、つかさも持って行きたい物があったら今のうちに言いなさい」
つかさ「うん……」
かえで「ほらほら、また顔が暗くなったぞ、明後日も休みでしょ、こんな時は実家に帰ってみたらどうなの」
つかさ「そのつもりですけど……」
かえで「余計なお世話だったわね、今日一日頼むわよ」
つかさ「は、はい!」
私は気合を振り絞って入れた。
調理器具は新調か。使い慣れた道具は持っていった方が良いかな……
『バタン!!』
勢い良く扉が開いた。
かえで「コラコラ、ノックぐらいしなさい、って、泉さん、何をそんなに慌てて」
こなちゃんは私に走り寄った。息が荒い、走ってきたみたいだった。
こなた「何度も携帯に連絡したのに……どうして出ないの」
私はロッカーを開けて携帯電話を見た。電源が切れていた。昨日充電して電源を切っていたのを忘れていた。
つかさ「ごめん、電源切れてた」
こなた「かがみが大変なんだ」
つかさ「大変って……何?」
こなた「今朝、倒れて病院に搬送されたって、まつりさんから電話があった」
倒れた……お姉ちゃんは妊娠していた……だけどまだお腹も大きくなっていないのに……どうして。
かえで「それは大変ね、つかさ、行ってあげてなさい、今日は休みで良いわよ」
つかさ「あ、ありがとうございます……」
急いで服を着替えた。
こなた「まさか、まさかとは思うけど、呪いって事はないよね?」
つかさ「それは絶対にないよ、私が保証する」
着替えながら私は答えた。
かえで「泉さんも行ってあげなさい、心配でしょう、今日は私がホール長になるわ」
こなた「ありがとう……車で直接行こう、高速使えば電車より早いよ、車で待ってるから」
こなちゃんは飛び出すように更衣室を出た。私も着替えてすぐ後を追った。


865 :つかさの旅の終わり 41/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:32:09.18 ID:O1mi2Otc0
 こなちゃんの車に乗るとすぐに携帯電話でまつりお姉ちゃんに連絡した。話しによると大学への通学中に突然倒れたそうだった。救急車で病院に運ばれ、今は意識も
戻っていて普通に会話が出来るまでになっていると言っていた。その先は電話では話せないと言う。やっぱり病院に行かないといけない。電話では話せない事、何だろう、
すごく嫌な予感がした。電話を切ると丁度家の近くを通りかかった。こなちゃんは高速道路を使うつもりらしい。家の近く……
つかさ「こなちゃん、ちょっと家に寄ってくれないかな」
こなた「良いよ、それより電話の内容を知りたいな……」
つかさ「家から戻ったら話す……」
こなちゃんは家の前で車を停めた。

 家に着くと中には入らずに庭に向かった。そして、スコップを持って地面を掘った。確かこの辺りに埋めたはず……
しばらく掘るとスコップに手ごたえを感じた。あった。手で余計な土を取り除いた。そして壷を土の中から持ち上げた。そう、これはあの時作ったトカゲの尻尾のお薬。
たかしさんはもう薬は完成しているって言っていた。蝋で固めた蓋をゆっくり開けた。壷の中から発酵した漬物のような匂いが立ち込めてきた。そんなに嫌な匂いじゃない。
壷を覗くと。墨の様に真っ黒な液体が溜まっていた。そのまま家の中に入って洗面所で適当な小瓶を探した。そしてその小瓶に壷の液体を入れた。シロップみたいに少し
粘り気があった。小瓶を鞄の中に入れ、壷を片付けると車に戻った。
この薬、たかしさんの怪我のために作ったもの。お姉ちゃんに効くかどうかなんて分らない。だけど、何も無いよりはましだよね。

 車が高速に乗り、こなちゃんがスピードを出してきた頃。私はこなちゃんに話した。
つかさ「お姉ちゃん、妊娠しているの……」
こなた「……妊娠……そ、それでどの位経っているの?」
こなちゃんの声が上擦っていた。
つかさ「話しを聞いたのは一ヶ月前だから……それ以上は経っていると思うよ」
こなた「はは、かがみはもっと慎重派だと思ったけど、結婚前に妊娠だって……ははは」
笑っているけどそれは感情が入っていないのは直ぐに分った。
つかさ「まつりお姉ちゃんが言うには、電話では話せない事がお姉ちゃんに起きたみたい……何だろう」
車のスピードが速くなった。制限速度を少し上回っている。普段の私なら注意するけど私も逸る気持ち抑えられなかった。
こなた「少し急ぐよ……」
ゆきちゃんに連絡をしようと携帯電話を取ったけど、その後の動作が出来なかった……そして、病院まで私達は一言も話さなかった。

 病院の待合室に家族皆が居た。誰一人として笑顔で私達を迎えてくれなかった。
つかさ「お、お姉ちゃんは……」
誰もお姉ちゃんの話しをしない、黙っているだけだった。それだけで事の重大さが分った。こなちゃんもいつもの元気がない。冗談を言えない状況だった。
いのり「……脳腫瘍……それも悪性……明日の精密検査をしないと分らないけど……あと三ヶ月らしい」
つかさ「うそ、嘘でしょ……どうして、婚約したばっかりなのに」
私はお母さんの方を向いた。お母さんは首を横に振った。
みき「小林さんは、気丈に振舞っていたけど……さっき帰ったわ……」
つかさ「あ、赤ちゃんは、赤ちゃんは無事なの?」
いのり・まつり「赤ちゃん、何のこと?」
二人は顔を見合わせて首を傾げた。
みき「……ごめんなさい、かがみが生理不順だったから……私が間違えたのよ、調べてもらったら妊娠はしていないのが分ったわ」
これは喜べば良いのか、悲しめばいいのか分らない。兎に角お姉ちゃんに会いたい。
つかさ「お姉ちゃんの部屋は?」
まつり「355室……」
つかさ「こなちゃん、行こう!」
私はこなちゃんの手を掴んで行こうとした。
みき「つかさ、かがみには病気の事は……」
つかさ「うん、分ってる、言わないよ」
みき「泉さん……」
こなた「はい……」
小さい声でつぶやいた。
私達は待合室を出た。


866 :つかさの旅の終わり 42/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:33:44.58 ID:O1mi2Otc0
こなた「ちょっと……待ってくれ……かな」
待合室を出て直ぐだった。こなちゃんは私の手を振り払ってその場に立ち止まった。
つかさ「どうしたの」
こなた「ちょっと……まだ心の準備が、出来ていないよ、つかさは……良いの?」
つかさ「私は……早くお姉ちゃんに会いたい」
こなた「会ってどうすれば、何て声をかける……分らないよ」
つかさ「どうするって……普段通りにしないと、お姉ちゃんにバレちゃうよ……」
こなた「普段通りって、どうするのさ」
つかさ「いつもやっている事……こなちゃんがボケて……」
こなた「そんなの……出来ない」
気付くとこなちゃんの目には涙が溜まっていた。
つかさ「こなちゃん……」
こなた「こんな姿しかかがみには見せられない……黙って……これじゃ黙っていてもバレちゃうよ……」
まなちゃんは突然亡くなった、辻さん、こなちゃんのお母さん、かなたさんも既に亡くなっている。死の予感……今まで私が見てきた死とは全く違う。
恐怖、悲しさ、切なさ……悔しさ……そんな感情が複雑に絡まって湧いてくるのが私にも分る。だけど……
つかさ「でも、ここで私達が行かなかったら……お姉ちゃんはもっと苦しまないといけなくなっちゃうよ」
こなた「つかさは強いな……私は、待合室に居た方がいいみたい」
こなちゃんは私に後ろを向けて戻ろうとした。
強い……以前、ひろしさんにもそう言われた。強くなんかない……
つかさ「私、一人じゃ行けない……だけど、こなちゃんとなら行けるような気がする、仕事を休んでまで来てくれた、きっと、お姉ちゃん喜ぶよ……
    こなちゃんがホール長になった話しをしたら、当然のように誇らしく喜んでいたよ、だから……ね」
こなた「……分った……」
こなちゃんは涙を拭った。


867 :つかさの旅の終わり 43/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:34:54.53 ID:O1mi2Otc0
 病室355号室の前に来た。私はノックをして部屋に入った。お姉ちゃんはベッドに座り本を読んでいた。私に気付くとにっこり微笑んだ。
かがみ「つかさじゃない、仕事はどうしたの……」
つかさ「倒れたって聞いたから、休んで来たよ」
かがみ「バカね、どうせまつり姉さん辺りが二倍も三倍も大袈裟に話したからでしょ、まったく、もう」
お姉ちゃんは元気だった。今すぐにでも家に帰れるような感じだった。
こなた「そんな元気なら来るんじゃなかったかな」
扉の陰に隠れていたこなちゃんが入ってきた。
かがみ「……こなたまで、どうゆう事よ」
お姉ちゃんの表情が変わった。まずい、気付かれちゃう……どうしよう。
こなた「鬼の霍乱を見物にきたよ」
かがみ「なんだと!」
こなた「きゃー、恐い、鬼が怒った……」
こなちゃんは私の後ろに隠れた。
こなた「……なんだ、元気じゃないか、折角きたのだから、もっと病人らしくしないと」
かがみ「何が病人よ、ちょっとした貧血た、明日退院よ、念のため精密検査はするけどね」
明日、退院するのか……それならお姉ちゃんの病気は内緒に出来るのかもしれない。
かがみ「折角来てくれた事だし、中に入りなさいよ、何もおもてなしは出来ないけどね」
私とこなちゃんはお姉ちゃんのベッドの横に椅子を置いて座った。
つかさ「こっちも慌てて来たから、何も持ってきていない……あ、あるある」
私は鞄から小瓶を取り出した。
かがみ「何よ、その黒いのは……」
つかさ「お稲荷さん特製の元気エキスだよ」
かがみ「……まさか、それを私に飲ませようって訳じゃないでしょうね……何か不気味だわ」
私は瓶の蓋を開けてお姉ちゃんに渡した。お姉ちゃんは瓶を受け取った。するとお姉ちゃんは急に私を見て真剣な顔になった。
かがみ「つかさ、私……つかさに言わなければならない事があるの」
ま、まさか、お姉ちゃんは病気の事を既に知ってしまっていた。私は唾を飲んだ。
かがみ「……この前、つかさに妊娠したって言ったけど、あれは間違えだった……ゴメン、お母さんの早合点だったのよ」
つかさ「あ、ああ、あれね……そ、それは残念だったね、お祝いを用意しようかなって思ってて……」
かがみ「……それはそれで良かったのかも、子供はやっぱり大学院を卒業してからでないと……」
こなた「ふ〜ん、でも、間違えてしまうような事したのは事実なんだよね……か・が・み」
お姉ちゃんの顔が急に真っ赤になった。
かがみ「ちょ、それは……な、何よ、べ、別に良いじゃない、子供じゃないのよ」
こなた「そうだよね、子供じゃないよね」
こなちゃんはお姉ちゃんの近くに寄った。
こなた「それで……イカガデシタカナ、彼とのお戯れは……是非とも参考にお聞かせ願いたい……」
つかさ「あ、私も聞きたいかも……」
真っ赤なお姉ちゃんの顔がさらに赤くなったような気がした。お姉ちゃんは気を紛らわせる為なのか、手に持っていた小瓶を口に付け、一気に流し込んだ。
かがみ「うげ〜何よこのドリンク……何が入っているのよ……苦いと言うか、渋いと言うか」
言えるはずもない。中にトカゲの尻尾が入っていて、二年間も熟成させたなんて……まさか本当に飲むとは思わなかった……
つかさ「景気付けだと思ってくれれば良いよ」
かがみ「水が欲しいわ……」
こなちゃんはコップに入った水を渡した。
こなた「いくらつかさの渡した物とはいっても、得体の知れないものを口にするなんて、さすが悪食だね」
かがみ「こ、こなたが悪いのよ!」
こなた「ふふふ、一気に飲み干してそれはないよ〜」
怒鳴るお姉ちゃん。笑うこなちゃん……これは……普段通りのお姉ちゃんとこなちゃん。ごく自然だった。こなちゃんの態度に何ら動揺を感じない。
さっきまであんなに落ち込んでいたのに……
そんなこなちゃんを見ていたら、目頭が熱くなってきた。まずい、まずいよ、私がここで泣いちゃったらこなちゃんの演技が無駄になっちゃう。しっかり……つかさ。
かがみ「どうしたのよ、つかさ、さっきから黙っちゃって……」
どうしよう。今話せば声が震えてしまいそう。でも黙っていても怪しまれちゃう……
こなた「つかさは運転して来たから疲れたんだよ……そうでしょ、一回も休まないで来たし……ね、つかさ」
つかさ「う、うん」
短く返事をした。これが精一杯だった。もちろん運転はこなちゃんがした。もう、こなちゃんに合わせるしかない。
かがみ「ありがとう、疲れたでしょ、でも休まないのは不味いわよ、事故でも起こされたら大変じゃない」
だめ、もうお姉ちゃんの顔を見られない。自分でも涙が零れそうなのが分る。
かがみ「ふぁ〜なんだか私も眠くなったわ……」
こなた「今朝倒れたんだから、無理しないで寝なきゃダメだよ」
かがみ「そうね……悪いわね……そうさせてもらうわ」
お姉ちゃんはそのままベッドに横になった。
かがみ「おやすみ、つかさ、こなた」
こなた「おやすみ〜」
こなちゃんは私の腕を掴み引っ張るようにして部屋を出た。


868 :つかさの旅の終わり 44/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:36:10.42 ID:O1mi2Otc0
 待合室の入り口でこなちゃんは腕を放した。
こなた「ここまで来ればかがみに気付かれない……」
つかさ「ご、ごめんなさい……」
こなちゃんは私を見ている。そうだよね。怒っているのかな。もう少しでバレてしまう所だった。
こなた「普段通り……そう言われたからやった、つかさ、ダメじゃないか、言い出しっぺなんだからさ……」
つかさ「私……こなちゃんの演技を見ていたら、もう……普段通りの事が出来なくなるかなって思っていたら……涙が……」
こなた「演技……私は女優じゃないよ、あれは演技なんかじゃない、私は普段通りのかがみと話しをしたかった……だから……」
私達の会話に気付いたのか、お母さんが待合室から出てきた。
みき「早かったわね……」
こなた「かがみのやつ、眠いって言うから……」
お母さんは首を横に振った。
みき「……先生が言われていた……症状が進むと良く眠るようになるって……うう、もうそんなに……」
こなた「つかさ……私はかがみの前で泣かなかったから……今度は私が先だからね……うう、うゎ〜」
こなちゃんはお母さんに抱きつき泣いた。
お母さんはまるで自分の娘みたいにこなちゃんをそっと抱きしめた……
この時、初めて分った。こなちゃんはお母さんに自分のお母さんを重ねていたって。そして、お母さんもそれを知っていたのかもしれない。
いのりお姉ちゃん、まつりお姉ちゃんも部屋から出てきてお母さんに駆け寄った。悲しいのは私だけじゃなかった……
それにさっきのこなちゃんとお姉ちゃんの会話、お姉ちゃん、凄く楽しそうだった。
決めた。私は泣かない。最後の時まで。お姉ちゃんには普段通りに接する。それがお姉ちゃんのためになるのなら……

 私とこなちゃんは一足先に病院を出た。
こなた「つかさ……会長さんに、お稲荷さんにかがみの病気を治してもらえないかな……」
それは私も考えていた。だからトカゲの尻尾のお薬を試してみた。効果はなかった……
こなた「お稲荷さんの秘伝の知識とやらが役に立つときだと思わない、もし、かがみの病気が治せないような知識なんかだったら、この先の会合なんかやっても無意味だよ」
つかさ「それは、明日の会合で頼むつもりだよ……でも、今、それを私達に教えるかどうかの話しをしているから……教えてもらえるかどうか……」
こなた「別に教えてもらわなくて良い、治してもらえればね、もし、そうしてくれれば私もお稲荷さんの共存に協力してもいいよ、まずは相手の本当の力を知りたい、
    そして、本当に私達と共存して欲しいのなら断らない筈だよ」
こなちゃんは病気を治す方法をお稲荷さん達が知っていると思っている。私もそう思いたい
つかさ「やってみるよ」
こなた「お願い……」
この願いは私も同じだよ……
私達は車に乗り込んだ。
こなた「さて、どこに送ろうか、明日は東京の本社に行くんでしょ、つかさの実家なら近いけど」
つかさ「うん、それでお願い、それでこなちゃんも実家に来ない、一日泊まっていきなよ」
こなた「でも、かがみが入院しているし……迷惑じゃないの?」
つかさ「こんな時だから……こなちゃんに来て欲しい、それに明日は精密検査の結果がどんなでも退院するから、お姉ちゃんの相手になってもらいたい」
こなた「うん……」
こなちゃんは車を走らせた。

 次の日、お姉ちゃんの容態が心配……だけど、そう言っていられない。私は約束の時間に本社ビルに向かった。お稲荷さんは毎回場所を変えてきている。
今回は本社ビルの会長室で会合をする事になった。移動する必要がないのでお稲荷さんの代表が来るのを待つことになる。今度こそひろしさんが来ますように……
みゆき「どうしたのですか、元気がないですね、お体の調子が悪いのですか」
こんな時、いつもならゆきちゃんと楽しいお喋りをする。今はお姉ちゃんの事が気がかりでそんな気になれない。それにゆきちゃんにお姉ちゃんの病気の話しをどうやって
するか悩んでいた。
つかさ「実は……」
そうだ。会合でも話さなければならなかった。同じ話しを二回もしたくない。
みゆき「実は……なんですか?」
つかさ「うんん、何でもない……うんん、大事な話しがあるの、だけど今は話せない、会合が始まったら話すから……」
みゆき「大事な、話しですか」
ゆきちゃんはそれ以上聞いてこなかった。会長室にけいこさんが入ってきた。
けいこ「さて、代表者が来ました、席に着いて下さい……つかささん、残念ながら今回も代理のたかしです……そろそろ代表者本人と話したいものです……」
めぐみさんが部屋に入ってくると、その後からたかしさんが入ってきた。めぐみさんとたかしさんはそれぞれの席に着いた。


869 :つかさの旅の終わり 45/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:37:24.37 ID:O1mi2Otc0
 けいこさんが会合を始めようと席を立った。私はそれに合わせて手を上げた。
けいこ「つかささんどうぞ」
私は席を立った。
つかさ「あ、あの、開始早々申し訳ないのですが……とっても個人的な話しなので……でも、どうしても助けて欲しくて、手をあげました……」
けいこ「個人的な話しであれば会議の後、私が聞きましょう」
つかさ「いいえ、是非ともお稲荷さんにも聞いてもらいたくて……」
けいこ「そうですか、たかしさん良いですね?」
たかしさんは頷いてくれた。
つかさ「あ、ありがとう……実は、私のお姉ちゃ……姉の柊かがみが倒れてしまいました、病名は悪性脳腫瘍……あと三ヶ月の命だそうです……」
みゆき「な、なんですか……そ、そんな話は初めて聞きました……なぜ、もっと早く教えてくれなかったのです」
いつも冷静なゆきちゃんが割り込むように話しに入ってきた。
つかさ「私も昨日分ったの……ごめんなさい……」
けいこ「高良さん静粛に……つかささん、続けて下さい」
つかさ「は、はい……お稲荷さんのお力で治してくれませんか、治してくれれば良いです、そうすれば私の友人がお稲荷さんに協力しても良いって言っています……
    い、いいえ、私からもお願いします、助けて、お姉ちゃんを助けてください……」
思わず感情が入ってしまった。私はそのまま席に着いた。たかしさんは目を閉じて聞いていた。
けいこ「……個人的な話ですね、しかし人の生命がかかっているのは確かです、どうですか、たかし」
たかし「ふっ……柊つかさの友人は我々を試そうと言うのか……悪性脳腫瘍か……確かに今の人間には治せないな」
たかしさんは怒ってしまったのかな。やっぱり調子が良すぎたのかもしれない……。
けいこ「つかささん、私達は今、まさにその話しをしているのです、分っていますよね、軽々しく使うような事は……」
たかし「残念だな、そう言う事だ、諦めてもらおうか……」
みゆき「わ、私からもお願いします、何とかならないのですか」
たかしさんは一瞬私に微笑みかけたような気がした。
たかし「俺は治すことはできないが、柊つかさ、君はもうその方法を手に入れている」
つかさ「え?」
言っている意味が分らない。何で私がそんなのを持っているのかな。
たかし「……俺の教えた薬を使うがいい、一口ほど飲ませてやれば効く筈だ」
つかさ「薬って……トカゲの尻尾の……あれは、昨日飲ませました……だけど効いたようには見えなかった……でもあれって怪我のお薬じゃないの?」
たかしさんは笑った……
たかし「飲ませたのか……ははは……さすが柊つかさ、勘が良いな、あの薬を飲むと強力な催眠作用が出るはずだ、それが出でたなら君の姉は助かる」
そういえばお姉ちゃんはあれを飲んだあと直ぐに寝てしまった。それは病気のせいじゃなかったの……
たかしさんの言葉を素直に受け取られなかった。たかしさんの顔を見ると自信に満ちている……分らない。どっちが本当なの……
突然胸のポケットから振動を感じた。携帯電話が振動している。思わず私は胸に手を当てた。
たかし「……電話が来たようだな、確かめてみるがいい……」
私はけいこさんの顔を見た。
けいこ「電話は部屋の外で受けてください、それだけです……」
つかさ「あ、ありがとう」
私は部屋の外に出た。


870 :つかさの旅の終わり 46/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:38:40.77 ID:O1mi2Otc0
 部屋の外に出ると直ぐに携帯を取り出した。電話にはこなちゃんの名前が表示してあった。
つかさ「もしもし、こなちゃん?」
こなた『つかさ〜!!!』
音が割れんばかりの大きな音が入ってきた。思わず携帯を耳から遠ざけた。その音は悲しさよりも歓喜の叫びに聞こえた。
つかさ「ちょっと、こなちゃん落ち着いて……」
こなた『が落ち着いていられてないよ、かがみがね、かがみが……』
つかさ「病気が治ったんでしょ……」
こなた『ちぇっ、分っちゃったか、つまんないな……』
もっとも、お姉ちゃんに何か悪い事が起きればこなちゃんじゃなくて家族の誰かが電話するはず。いくら私でもそのくらいは分るよ……
つかさ「お姉ちゃんに代われるかな……」
こなた『かがみは退院の手続きをしている所だよ……病院では誤診って事になっているけどさ、私は分るよ、昨日つかさがかがみに飲ませた怪しい薬、あれのせいでしょ』
つかさ「ふふ、分る?」
こなた『凄いよ、お稲荷さん、凄いよ、もう何て言って良いか分らない……お礼のしようがないよ、ありがとう、ありがとう……ううう』
つかさ「ちょっと、泣いているのか笑っているのか分らないよ……」
その薬を作ったのは私、教わったのがお姉ちゃんを呪ったたかしさん……お姉ちゃんは呪うほど恨まれたのに同じ人から命を救われるなんて……運命って分らないね。
こなた『あ、大事な会議だったよね、今日はお祝いだよ……休暇も取ったし、つかさも家に寄ってね、帰りは一緒に帰ろう』
つかさ「うん、そうするよ、それじゃ、またね……」
電話を切った。
……これがお稲荷さんの本気……ありきたりの物を使って、ちょっとした料理の技術だけで不治の病を治すお薬を作ってしまった。
お稲荷さんの知識と言っても、知っているのは金縛りや呪い、ひろしさんと別れた時に見た光の幻影くらいだった。疑っていたわけじゃないけど、
人間離れした魔法、どうせ教えてもらっても人間には使えないと思っていた。
……お姉ちゃんの病気を一夜で完治してしまう薬。これだけでも本物だよ。お稲荷さんと言われた意味が今になってやっと分った。
このお薬が世の中に出回ればどれだけの人が助かるのかな。お稲荷さんと一緒になればそれが出来る。やっぱりなんとしても成功させたい。


871 :つかさの旅の終わり 47/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:40:13.63 ID:O1mi2Otc0
 会長室の扉。そういえば私、殆ど会合で発言していなかった。けいこさんは何も言っていないけど……
つかさ「よし!」
『ピシャ!』
両手で顔を叩いた。そして、扉をノックして部屋の中に入った。ゆきちゃんがものすごく心配そうに私を見た。私はゆきちゃんに微笑んで小さくVサインを送った。
それをたかしさんは見ていた。
たかし「答えは聞くまでもないな……」
つかさ「ありがとうございます、お姉ちゃん、姉は助かりました……」
私は深くお礼をして席に着いた。
たかし「俺は何もしていない、薬を作ったのは君だ」
つかさ「そうかもしれませんけど、お稲荷さんの知識の凄さを見せ付けられて……奇跡みたいです……それがあんなに簡単に作れるなんて……」
けいこ「たかしの教えたのは知識ではなく作り方……技術です、私達の教えるのは知識です、その知識は恐らく貴方達人間にはその知識を利用する事は出来ないでしょう、
    楽譜を読めても技術や楽器が無ければ音楽を奏でることは出来ないのと同じです」
難しいけど……音楽に例えると何となくイメージは分る。もっとも私は楽譜すら読めないけどね……
たかし「その知識を教える度に、俺たちは何度も命を狙われた……今までは逃げてこられたが、もう逃げる所はない、この星の何処に行っても人ばかりだからな……
    ふふ、南極大陸があるか……あそこは我々でも住むには過酷過ぎる……」
つかさ「今のままでも「狐狩り」で命を狙われちゃう、人間になっている時は良いけど、変身が解けたばかりの時ってとっても弱いって聞いたよ、けいこさんが前に住んでいた
    神社の周りの土地を買ったって言ったよね、そのせいであの町の狐狩りが禁止になったんだよ、だから、知識を教えるとかはもっと後でいいから、取り敢えず、
    神社に戻って安心して住もうよ」
たかしさんは腕を組んで考え込んだ。
ひろしさん達が戻っても私は遠くに行ってしまうのだけど……住んでいる所が分れば会うことができる。
つかさ「あと、聞きたい事があるの、お稲荷さんって全員で何人居るの?」
たかし「……二十人……」
つかさ「その人達全員がたかしさんと同じ意見なの、めぐみさんは私達と一緒に暮らしているでしょ」
たかし「……全てが同じではない……別行動している者もいる」
つかさ「それなら、たかしさんだけじゃなくて、全員呼んで意見を聞かないと、二十人位なら問題ないでしょ」
私はけいこさんを見た。
けいこ「問題ないですね」
つかさ「それじゃ決まり、今度の会合はお稲荷さん全員連れてきて」
たかし「……一度に全員が人間に変身するのは危険だ……それは避けたい」
つかさ「それなら半数が狐の姿でもいいよ、私も、ゆきちゃんも、お稲荷さんの正体は知っているから大丈夫、狐の姿でも私達の言葉は分るよね?」
たかしさんににっこり微笑んだ。
たかし「……考えておこう」
置時計のチャイムが鳴った。丁度三時になった。
けいこ「少し休みますか」
ゆきちゃんは携帯電話を取り出すと直ぐに部屋を出て行った。きっとお姉ちゃんやこなちゃんに電話をしに行ったに違いない。
けいこさんとめぐみさんは部屋の奥に行ってしまった。きっと知識の話しなのかもしれない。たかしさんは窓の外をぼんやりと眺めていた。
私はたかしさんに近寄った。


872 :つかさの旅の終わり 48/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:41:59.43 ID:O1mi2Otc0
つかさ「ちょっとお話しいいですか?」
たかし「なんだ」
たかしさんは窓の外を見たまま答えた。
つかさ「ひろしさんは何故来てくれないの」
たかしさんは私の方を向いた。
たかし「……全員を呼ぶのはひろしと会いたいからか……」
つかさ「バレちゃった」
苦笑いをした。たかしさんは溜め息をついた。
たかし「これを預かっていた、返すそうだ」
たかしさんは鞄からCDを取り出すと私に渡した。そのCDはこの前私があげたCDだった。
つかさ「これが……ひろしさんの返事……なの」
たかし「そんな悲しい顔をするな、中身は全て携帯プレーヤーに入れたみたいだ、良く見ろ」
良く見るとCDジャケットのフイルムが剥がしてあった。
たかし「ひろしには、女性の誘いを断るのは最低だぞ……そう言ってやった、何も言わなかった……奴の真意は分らんが、今は会いたくないようだな……素直になれば
    俺は君に会わなくて済むのだがな」
つかさ「私が嫌いなの……」
たかし「いいや、そう言う訳じゃない、君を見ていると真奈美の面影が見え隠れする、何故だろうな……」
まさか。私は財布から葉っぱを取り出してたかしさんに見せた。
たかし「それは……」
つかさ「私を騙すためにまなちゃんが私にくれた物だよ……形見だと思ってずっと持っていた、だけど、やっぱりフィアンセだったたかしさんが持っていた方がいいかもしれない」
私は葉っぱをたかしさんに差し出した。たかしさんは腕を伸ばして葉っぱを取ろうとした。
たかし「いや、やめておこう、それは真奈美が君に渡した物だ、大事にしてくれ……それに、彼女を直接思い出すような物は持たないようにしている、思い出だけでいい」
つかさ「だから、神社に戻りたくないの?」
たかし「いいや……あの神社は俺の生まれた故郷でもある……複雑な気持ちだ、土地に執着はしないはずの我々……人間に化けるようになってから少し変わったか」
これ以上まなちゃんの話しをするのはたかしさんには辛いだけかもしれない。
つかさ「私の店が移転するって知っているかな、神社に戻っても、私の店、住む所が遠くになっちゃう」
たかし「すれ違いか……」
つかさ「だから、今度の会合で逢いたい……」
たかしさんは私をニヤニヤした顔で見た。私を冷やかす時のかえでさんやこなちゃんと同じ。
たかし「ふぅ、昔の自分を思い出すな……ひろしが羨ましい」
恥かしい。恥かしいけど、逢いたい気持ちの方が大きかった。
たかし「俺が結婚していればひろしは弟になるはずだったからな……他人事とは思えない、ひろしを連れてくるように説得してみよう」
つかさ「ありがとう……」
私は葉っぱとCDを仕舞った。
たかし「そのCDには何が記録されている」
つかさ「ラヴェルのピアノ曲集だよ」
たかしさんは部屋の中央に置いてあるピアノをじっとみていた。
同じCDを私は持っている。たかしさんにこのCDを渡そうとした時、けいこさん、めぐみさん、ゆきちゃんが戻ってきた。私とたかしさんも席に戻った。

けいこ「それでは続きを始め……」
たかし「今日はここまでにしてもらおう、俺の変身が解ける時間を考慮に入れるともうそろそろ限界だ」
けいこさんに割り込むようにたかしさんが話しだした。
けいこ「回復するまでこの部屋で休むがいいでしょう、ここは私達以外の人間は入れさせません、ご安心を」
たかし「いや、会議はここまでだ、柊つかさが言うように仲間を全員連れて皆の意見を聞くことにする、場所は俺の方から知らせる、それでいいか?」
けいこさんとゆきちゃんが私の方を向いてきた。私は頷いた。
けいこ「良いでしょう、皆さんそれぞれ自分の自由意志で決めていただきましょう」
たかしさんは頷くと席を立った。
つかさ「あの、良かったから持って行って下さい」
たかしさんにCDを見せた。
たかし「いいのか、君は聴かないのか」
つかさ「同じ物をもっているので」
たかし「それじゃ貰おう、返さないぞ」
つかさ「うん」
たかしさんはCDを受け取ると部屋を出て行った。
めぐみ「信じられない、たかしが人間の物に興味を持つなんて……人間になるだけでも奇跡的なのに」
めぐみさんはたかしさんの出て行った扉を見ながら驚いていた。けいこさんはそんなめぐみさんを見て微笑んでいる。
けいこ「つかささん、高良さん、予定の時間よりだいぶ早く終わりましたが、この後の予定がなければ軽食などを食べながら雑談でもいかがですか」
ゆきちゃんはソワソワしている。きっとお姉ちゃんに会いたいに違いない。
つかさ「嬉しいですけど……これからお姉ちゃんの退院祝いをするので」
けいこ「そうですか、足止めするのは酷と言うものですね、それではまた次の会合まで……」
つかさ・みゆき「さようなら」
めぐみさんが扉を開いてくれた。お辞儀をして部屋を出た。


873 :つかさの旅の終わり 49/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:43:37.31 ID:O1mi2Otc0
 私達はゆきちゃんご指定の店に向かっていた。私とたかしさんが話している間にゆきちゃんが予約してくれていた。そして一足先にお姉ちゃんとこなちゃんが向かって
いるとゆきちゃんは言った。私もお姉ちゃんに早く会いたい。自然と歩く速度が上がっていった。
みゆき「つかささん、今回の会合は素晴らしかったです……それに引き換え私は足を引っ張ってばかりです、本来ならけいこさんと会食するのが最善だったと思います、
    私の為に断って頂いたのではありませんか……お恥ずかしながら、私はお稲荷さんの会合に参加すべきではありませんでした」
電車に乗って落ち着くと元気のない声で話し始めた。
つかさ「うんん、お姉ちゃんに早く会いたいのは私も同じだよ、それにね、ゆきちゃんが居なかったらとっくに諦めていたよ、ありがとう」
みゆき「そう言って頂けると嬉しいです……」
つかさ「それより、お稲荷さんの知識は凄いよ、私達の治せない病気を一晩で……」
みゆき「医学を志す者にとりましては、彼等の知識の深さに敬服するしかありません、私は彼等の全ての楽譜を読んでみたい……」
つかさ「ゆきちゃんなら出来そうだね、私なんか興味ないし、分らないよ」
『間もなく〇〇駅、〇〇駅です』
つかさ「降りるのはこの駅だったよね」
みゆき「はい」
 駅を降り、店に向かう途中お姉ちゃん達と合流した。私がお姉ちゃんを見つけ声を掛けようとした時だった。
私を横切りお姉ちゃんに駆け寄るゆきちゃん。お姉ちゃんの手を両手で握った。
みゆき「かがみさん、私は……私は……」
お姉ちゃんはゆきちゃんの突然の行動にただ驚いていた。本当は私が先にそうしたかったのに……
かがみ「ちょ、たった一日の検査入院よ、何そんなに……大袈裟ね……泣くなんて」
お姉ちゃんは周りの人達の目線を気にしながら恥かしそうにゆきちゃんを諭していた。
つかさ「こなちゃん、お姉ちゃんに病気の事言わなかったの?」
少し離れて見ていたこなちゃんは私に近づいた。
こなた「かがみは病気の事は知らない、家族にも言わないように頼んだよ」
つかさ「本当の事、言わなくていいかな……」
こなた「止めておこうよ、少なくとも店が移転して落ち着くまでは……今言っても混乱するだけだよ、かがみは現実主義だから……それにしても、つかさに貰った薬を飲んで、
みゆきさんのあの表情で自分がどうなっていたのか分らないかな……そう言う所がつかさに似て鈍いよ」
つかさ「そうだね……って、酷いこと言っている」
こなた「いいや、褒めているのさ、気の会う双子の姉妹ってね」
こなちゃんはお姉ちゃん達に向かった。
こなた「さてさて、もうすぐ先がみゆきさんご推薦のお店だよ、久しぶりに四人集まったのだから続きは店のなかでしようよ」
みゆき「す、すみませんでした、取り乱してしまいました……」
ゆきちゃんはお姉ちゃんを掴んでいた手を放した。
つかさ「四人集まったの、二年前の夏以来じゃない?」
こなた「そうだよ、その間私は昇進したのだよ」
かがみ「つかさから聞いたわよ、やるじゃない」
こなた「店に入ろう、続きは店の中で」
かがみ「そうね」
こなちゃんは私に小さく手で合図するとお姉ちゃんを店に連れて行った。ゆきちゃんは眼鏡を外してハンカチで目を拭っている。そうだね、ゆきちゃんにも言わないと。
つかさ「ゆきちゃん、お姉ちゃんは自分が病気だったって知らないの、だから当分そのままにしてくれないかな」
みゆき「……はい、それが良いのかもしれません、私自身、未だに信じられないくらいです」
つかさ「もう涙、止まったみたいだね、これから暫くお稲荷さんの事忘れて、四人で楽しくお喋りだよ」
みゆき「はい」
私達も遅れて店に入った。

こなた「楽しかったね、久しぶりにかがみをからかって遊べたよ」
つかさ「こなちゃん、小林さんの事ばかり聞いていたね、お姉ちゃん真っ赤になってたね……」
お店で楽しく食事をした後、私とこなちゃんは車で家路を向かっていた。最初は二人で店での会話の内容を振り返っては笑っていた。
高速道路に入ると話しはお稲荷さんの話へと自然と移っていった。
こなた「ふ〜ん、お稲荷さんが全員集まって決めるのか……いよいよ大詰めだね」
つかさ「うん……でも……」
こなた「ひろしが来なかった、次も来るかどうか分らない……でしょ、私、ひろしの気持ちが分るような気がする」
つかさ「え、分るの、お、教えて!」
思わず身を乗り出した。
こなた「うわ〜凄い食い付き……本当に好きなんだね……」
つかさ「いじわる……知っているくせに……もう聞かない」
そうやってお姉ちゃんと同じように弄って遊ぶこなちゃん。本当は怒ってなんかいなかったけど窓の景色を見て怒っている振りをした。
こなた「……これは私の勝手な考えだからそれだけは言っておくよ、つかさとひろしが別れたのはひろしの一方的だった、ひろしとしては二度と会うつもりはなかったと思う、
    別れのキスなんかするくらいだからね……私としては最後まで……まぁそれはいいや……ところが会長さんがつかさを特使として選んだから突然会う機会ができた、
    ひろしは気が引けていると思う、自分から別れた手前、後ろめたいんだよ」
つかさ「後ろめたい……そんな、私、怒ってなんかいない……会いたくないなら最初からけいこさんの企画に参加していない」
こなちゃんは少しアクセルを踏んだ。
こなた「それが分らない人とも思えないんだけどね……でも、CDを返す所を見ると全く脈がないわけでもなさそう」
つかさ「脈があるの、私、どうすれば良いかな?」
こなた「さぁ……たかしに期待するかないかな……」
つかさ「え〜結局分らないの、聞くんじゃなかった、それより、なんで私とひろしさんのキスの事を知っているの?」
今度は本当に怒った。こなちゃんにそっぽを向くように窓の景色を見た。こなちゃんもそれに気が付いたみたいで、それ以上話しかけてこなかった。
もう過ぎたことかもしれないけど、かえでさん、後でみっちり叱らないと。


874 :つかさの旅の終わり 50/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:45:05.60 ID:O1mi2Otc0
 こなちゃんの車が駐車場に止まった。
こなた「着いたよ……さっきはゴメン……半分はふざけていた、だけどもう半分はつかさを少しでも元気付けようと思って、本当だよ」
私は車を降りた。
つかさ「うんん、私も怒っちゃって……次の会合になれば分ることだから」
こなた「それじゃ、行こう」
次の会合の日はいつになるのかな。その日が来るのが恐い。
私は出来る限りの事をした。その日がどんな形に終わっても悔いはない……かな。

875 :つかさの旅の終わり 51/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:46:09.13 ID:O1mi2Otc0
つかさ「おはよ〜」
スタッフ一同「おはようございます」
一週間後、もうとっくに知らせが来てもいいのにけいこさんからの連絡が来ない。もっともお稲荷さんを全員集めるのだから場所の確保とかが大変なのも分らなくもなかった。
兎に角今日も元気にしなきゃ。私は更衣室に入った。着替えていると外がざわついているのに気が付いた。こなちゃんの声も聞こえる。おかしい、今日のこなちゃんは遅番のはず。
着替え終わって更衣室を出た。
こなた「あ、つかさ!」
私を見つけると駆け足で私に近づいてきた。
つかさ「こなちゃん、店内で走っちゃだめでしょ」
注意をするもこなちゃんは慌てて足をバタバタさせている。なんだろ。この慌て様は……
こなた「た、大変だよ……」
つかさ「大変じゃ分らないよ」
こなちゃんは手に持っていたスマートフォンを私の目の前に出した。
『ワールドホテルの会長の柊けいこが今朝、特捜部により脱税で検挙されました……』
な、何、何のこと……
つかさ「これは?」
こなた「シー、黙って聞いて」
こなちゃんは更にスマートフォンを私に近づけた。スタッフもこなちゃんの周りに集まった。
『脱税は史上最高額になると見られ、余罪があるとして追求をしています、また、柊けいこの秘書、木村めぐみに業務上横領の容疑があり、
全国に指名手配をされました』
画面にはめぐみさんの写真がでかでかと写し出されていた。そして、本社ビルに捜査官が入っていく映像が流れている。
つかさ「な、なんで、何故なの……またこなちゃんの悪戯でしょ……ふふ、こなちゃんったら、もうそんな悪戯……」
こなちゃんは今にも泣きそうな顔になっていた。違う、これは悪戯じゃない……
こなた「これが悪戯だったら、どんなに良かったか……」
つかさ「ね、ねぇ、これからどうなるの、どうなっちゃうの?」
こなた「分らない……」
かえで「おはよう……ど、どうかしたの、皆集まっちゃって……」
かえでさんが出勤してきた。私達の物々しい表情に戸惑っている。
こなちゃんがかえでさんの所に向かおうとした時だった。
『ピンポーン』
従業員出入り口玄関の呼び鈴が鳴った。もちろんまだ開店の時間じゃない。一番近くに居たかえでさんがドアを開けた。
「レストランかえでの店主はご在宅か」
スーツ姿の男性が3人、厳しい表情でかえでさんを見ている。
かえで「私ですけど何か?」
「松本かえでさんですね、ワールドホテルでの契約についてニ、三、伺いたいことがあります、任意同行ねがいますか」
男性は警察手帳を見せた。
こなた「店長、任意だから行く事ない!」
激しい口調で警察手帳を持っていた男性に向かって怒鳴った。
かえでさんはゆっくりこっちの方を向いた。
かえで「任意でも行かない訳にはいかないでしょ……さすがに今日の開店は無理ね、臨時休業とします、店を片付けて各自自宅で待機するように」
こなちゃんを嗜める様に静かで冷静だった。
かえで「分りました」
かえでさんは男性と共に店を出た。私はすぐに窓に移動した。かえでさんは男性達と車に乗ると、車はゆっくりと動き出し走り去った。
こなた「私達、何も悪い事なんかしていない……」
こなちゃんはうな垂れていた。
つかさ「と、とにかくかえでさんの言うように今日はお休みです、生ものは冷蔵庫に、仕込んでしまったものは……勿体無いけどゴミ箱にお願い、用事の済んだ人から帰宅して」
私は更衣室に入った。その後からすぐにこなちゃんが入ってきた。
こなた「嘘だ、これは絶対に何か裏がある、そうだ、そう違いないよ……」
つかさ「こなちゃんは遅番だから店に用はないよね、先に帰っていて良いよ……」
こなた「ちょっと、つかさ聞いてるの、私の言いたいのはね……」
こなちゃんは詰め寄ってきた。
つかさ「こなちゃんの話しを聞いたらかえでさんが戻ってくるの、けいこさんが釈放されるの……」
出そうな涙をこらえながら言った。
こなた「……つ、つかさ……」
つかさ「もう少しだったのに、もう少しで会合の答えが出そうだったのに……脱税って罪は重いのかな……払い直せばいいんだよね、計算間違えだったら許してもらえるよね」
やっぱり我慢できなかった。涙が零れているのが自分でも分った。
こなた「ご、ごめん……ジタバタしてもしょうがないよね、先に帰っているよ、お昼の買い物はしておくから、直接帰ってきて」
つかさ「うん、お疲れ様……」
私服に着替えた私は、事務室に移り、こなちゃんと同じ遅番の人、休暇を取っている人、シフトで休んでいる人に電話をかけて事情を説明した。
電話を全てかけ終えた後、支度中の看板の代わりに『臨時休業』と書いた看板をお客様で入り口に立て掛けた。
あけみ「お先に帰ります……あの、移転はどうなってしまうのでしょうか……」
つかさ「お疲れ様、分らない、まさかこんな事になるなんて……」
あけみ「何かの間違えなら良いのですが……」
最後に残ったスタッフのあけみさんが帰った。静まり返った店内は淋しい。さて、私も帰ろう。駐車場に向かった。


876 :つかさの旅の終わり 52/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:47:21.37 ID:O1mi2Otc0
つかさ「ただいま」
家に帰ると居間でこなちゃんが熱心にノートパソコンを見ていた。
こなた「おかえり」
パソコンの画面を見ながら返事をした。
つかさ「臨時休業の看板を出しておいたよ、戸締りもOK」
こなた「お疲れ様……的確な判断だったと思うよ」
カタカタとこなちゃんのキーボードを叩く音が響いている。
つかさ「何してるの?」
パソコンをいじっているこなちゃんには普段ならあまり興味はなかったけど、何気なく聞いた。
こなた「ちょっとかがみに今回の事件の事を聞いていた、携帯にメールした」
そういえばお姉ちゃんは弁護士を目指しているのを忘れていた。
つかさ「それで、返事は来たの?」
私は台所でお茶の準備しながら話した。キーボードを叩く音が止まりこなちゃんは私を見た。
こなた「けいこ会長の脱税容疑は捕まえ易いから……いつもこの手でもっと重い罪を暴くのが彼等のやり方だって」
つかさ「もっと重い罪って……けいこさんがそんな事をするはずないよ」
こなた「そう、あの人はそんな事をするように見えない、むしろ……秘書の木村めぐみって人が怪しいな、秘書だから会長の名前を使っていくらでも悪事ができる、
    現に秘書は逃走しているしね……そのおかげで証拠隠滅の可能性があるからけいこ会長の保釈は認められないだろうって……そうかがみから返信がきた」
めぐみさん……あの人もそんな事をするようには見えない。うんん、彼女はけいこさんの親友。
つかさ「その秘書だけどね、彼女もお稲荷さんだよ……けいこさんを裏切るような事はしないと思うのだけど……」
こなた「何だって……それじゃ何で逃げる必要があるのかな……」
つかさ「私はめぐみさんを信じる」
こなちゃんは腕を組んで考え込んでしまった。自分の分とこなちゃんのお茶を持って居間に移動した。テレビのリモコンでテレビをつけた。どのチャンネルも
ワールドホテル会長のスキャンダルの話題で持ち切りだった。こなちゃんもテレビを見ていた。
こなた「そうだろうね、清廉潔白で優良大企業の会長が裏で悪事をしていた……なんて言うのは格好の餌食だ、なんか会長が可愛そうになってきた……
    これじゃ……深夜アニメも中止かもね……」
こなちゃんは溜め息をつくとノートパソコンを閉じ、私の淹れたお茶を一口飲んだ。そしてテレビをつまらなそうに見ていた。
そういえば……二回目の会合の時、めぐみさんから携帯電話に連絡が来たのを思い出した。自分の携帯を取り出し、着信履歴を見てみた……これだ。この番号は……
携帯電話の番号。この番号にかければめぐみさんに通じるかもしれない。話せば何かが分る。
こなた「ん、どうしたの」
つかさ「う、うん、めぐみさんに連絡をとろうかなと思って……」
こなた「バカー!!!」
凄い怒鳴り声。こなちゃんは私の携帯を取り上げると素早く電池を抜いた。何がなんだか分らない。
こなた「盗聴されるよ、つかさの携帯電話もマークされちゃうかもしれない、だめ、そんな事をしたら」
つかさ「ま、まだかけていないよ……」
ほっとした表情すると携帯電話を返してくれた。
こなた「まだ真相が分らないからむやみに会長やその秘書にも連絡を取ろうなんて思っちゃだめだよ、もし会長達が無罪だったらなおさらだよ、会長達に罪を着せようとする
    者達がいるかもしれないから……」
つかさ「……凄いね、こなちゃん、スパイ映画みたい」
こなた「私じゃない、かがみが用心しろってメールで送ってきた、だからつかさが携帯を取り出したから、もしやと思って聞いてみたんだよ……良かった、間に合って」
お姉ちゃん。やっぱり凄い。そんな事ななんて少しも考えていなかった。
つかさ「これから私達の店はどうなるのかな……」
こなた「かがみが言うには、契約は交わしているから会社がつぶれない限り有効だって言ってたけど……あの会長さん以外の下で働きたくないな……それより、
    その秘書と前に何を携帯で話していたの、場合によっては松本さんみたいに任意同行なんてありえるかもよ」
つかさ「お昼はなにが良いかの相談だったような……ってそんな昔の事まで調べられちゃうの?」
こなた「するかどうかは分らないけど、大抵の事ならできるよ……」
つかさ「こなちゃん、詳しいね」
こなた「ちょっと調べれば分るよ……さっきネットで調べたばかりだよ……」
こなちゃんはまたノートパソコンを開いた。テレビはけいこさんの報道ばかりしているのでうんざりみたい。私はテレビを消した。
つかさ「これから町の図書館にいかない?」
こなた「図書館?」
つかさ「うん、私もいろいろ調べたくて」
こなた「メンドクサイ〜、つかさだってパソコン持っているでしょ、それで調べればいいじゃん」
つかさ「私はキーボードが苦手だから」
こなた「それなら一人で行けばいいじゃん」
つかさ「一人だと淋しいから、ね、お昼奢るから」
こなちゃんは溜め息をついた。
こなた「それなら行く、車はつかさが出してね」
つかさ「うん」
図書館に行ってもお喋りができるわけでもない。だけど、家に居てテレビを見てもけいこさんの報道ばかり、パソコンにしてもこなちゃん程集中できないし、興味もない。
気を紛らわしたいだけ。


877 :つかさの旅の終わり 53/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:49:51.04 ID:O1mi2Otc0
 図書館で時間を潰し、昼食を食べ終えた頃、かえでさんから連絡が来た。事情聴取は終わったとの事だった。
話しに寄れば契約の確認とお金の流の確認だった。特に不備はなかったみたいなので直ぐに終わったみたい。とりあえずホッと一息。安心するばかり。
次の日から通常通りにお店を開く事ができた。でも……移転先の準備が滞ってしまい、それにも増して移転準備金を振り込んでもらうはずだったのにそれなかった。
準備資金はけいこさん、会長の個人的なお金だったみたい。資産凍結されてしまいお金も私達が工面しなければならなくなった。
そんんな、まだけいこさん逮捕の混乱が収まらない三日後……
こなた「松本店長、お客様です」
かえで「予約なら泉さん、貴女の仕事のはずよ」
こなた「いえ……店長に直に話したいと……」
かえで「分ったわ、事務所に通してあげて」
こなた「はい……」
こなちゃんは外に出て行った。かえでさんが事務所に入って行って暫くするとこなちゃんが私の所にやってきた。
こなた「つかさ、さっきのお客さん見た?」
小声で話しかけてきた。
つかさ「うんん、見ていない、どうしたの」
こなた「お客さんにしては不自然、スーツ姿にアタッシュケース……どうみても営業マンだよ」
つかさ「ホテルの人が来たんじゃないの、移転の話じゃ?」
こなた「うんん、いつも来ている人じゃない……」
スーツ姿……なんだろう、どこかで見たような気がする……思い出せない。
つかさ「こっちの仕込みも終わったから私も行ってみるよ」
事務室に向かうと自然とこなちゃんも私の後を付いてきた。事務所の扉をノックしようとした時だった。
『バン!!!』
もの凄い勢いで扉が開いた。中からかえでさんが飛び出してきた。私に当たりそうになった。
かえで「塩、塩を持ってきなさい!!!」
私がビックリしている間にこなちゃんは厨房に塩を取りに行きかえでさんに渡した。塩を受け取るとかえでさんは事務室側の出入り口に塩を振りまいた。
かえで「今分ったわ、こんなの絶対に許せない!!」
凄い権幕だった。私達以外にこれほど怒るかえでさんは初めて見た。
こなた「落ち着いて、お客様は居ないけど……落ち着きましょう」
感情的になっているかえでさんと冷静なこなちゃんの表情が対照的だった。そんなこなちゃんのおかげなのか、かえでさんの表情は直ぐに元に戻った。
かえで「仕事が終わったら時間は空いているかしら、つかさ、泉さん」
私とこなちゃんは顔を見合わせた。
つかさ「時間はありますけど……なんでしょうか」
かえで「二人に話があるわ、なるべく三人だけで話せる場所はない、私の家が良いかしら」
内緒のお話なのかな。さっき来たお客さんと関係があるのかな。
こなた「それなら家に来て下さいよ、ね、つかさ」
つかさ「え、あ、うん、そうだね、それが良いかも」
先にこなちゃんに言われてしまった。
かえで「それじゃ、帰りに貴女達の家に寄らせてもらうわ」
かえでさんは事務所に戻って行った。


878 :つかさの旅の終わり 54/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:51:00.45 ID:O1mi2Otc0
 先に仕事が終わった私は家で来客の準備をしていた。かえでさんの話しって何だろう。こなちゃんも呼ばれるなんて……かえでさんは凄く怒っていた。
それに私達だけに話って……移転の話しなら店のスタッフ全員に話さないといけないし……
あれこれ考えているうちに時間は来た。かえでさんはこなちゃんと一緒に来た。二人は家に入ると、もう既に何をするのか決まっているかの様だった。
こなちゃんは自分の部屋からノートパソコンを持ってきて電源を入れた。かえでさんは私に一枚の名刺を手渡した。
つかさ「これは……貿易株式会社……え?」
かえで「お昼過ぎにやって来た連中の名刺よ」
つかさ「何で貿易会社の人が私達の店に?」
かえで「……ワールドホテルの株を全て引き取って、全ての事業を引き継いだそうよ……」
つかさ「引き継いだって……ちょっと待って、この町の土地を買ったのはお稲荷さんの為に買ったって……この人達は……」
かえで「そうよね、柊けいこさんの計画なんか知るはずもないわね……ここは工業団地になる」
つかさ「え、そ、そんな……そんなのって……」
追い討ちをかけるようにかえでさんの話しは続いた。
かえで「あの神社は……神社は壊してしまう、テーマパークにする……そして、そこに建設するホテルのレストランに私達の店を誘致したいと……」
つかさ「ちょっと待って、契約と内容が全然違うよ、そんなのが許されるの……だめ、そんなの」
かえで「契約と違う……うんん、違わない、契約はワールドホテル配下の任意のテナントとなっている……これでも……問題ない……それが向こうの言い分だ」
つかさ「違う……全部違うよ……神社を壊すなんて……」
かえで「『出直して来い』……そう言って追い払ってやった……つかさ、神社に居たスーツ姿の男を覚えているか、あいつら、下見を既にしていたんだ、
    しかも、けいこさんの逮捕前からね……」
つかさ「それって、どう言う事なの……分らない」
こなた「つまり、けいこ会長の会社は乗っ取られた……そう言うことだよ、つかさ」
パソコンの画面を見ながらこなちゃんはそう答えた。
こなた「けいこ会長は夫の竜太さんと知り合う前の経歴がまったく不明……そこを突かれたね、今調べたところだと、けいこさんの罪状はいつのまにか不法入国と贈収賄に
    変わっているよ、罪名なんてなんでも良かった……みごとに嵌められたね」
つかさ「なんでそんな事をするの……」
こなちゃんのキーボードを叩く音が早くなる。
こなた「なるほどね〜彼等の製造している製品の中にけいこ会長の持っている特許が数多く必要みたいだね……乗っ取ってしまえばそれらは使いたい放題だね」
『バン!!』
強くテーブルを叩く音が部屋中に響いた。かえでさんだった。
かえで「バカか、そんなチンケな特許なんか比べ物にならない程の知識がこれから手にはいると言うのに……バカとしか言い様がないじゃないか……何故そっとしてくらなかった、
    これほど人間を愚かに思った事はない」
くやしそうなかえでさんだった。そしてかえでさんが私達だけに話したい事の意味が分った。
こなた「乗っ取りなんて普通にあるから〜彼等からしてみれば企業活動の一環なんだろうね、私達は裏の事情を知っているから過ちが分る、知っている者と、知らざる者の差かな、
    無知ゆえの過ち……私達ってこうゆう過ちで何度も損をしてきたんだね……」
淡々と話すこなちゃん。感情が入っていない分余計に重く響いた。
こなた「さて、詮索はこれまでとして、これからどうするか……このまま貿易会社の言い成りに言う事を聞くのか、反旗を翻して対抗するか……でも……
    彼等の力は大企業をも陥れることが出来る、なめてかかると大怪我するね」
かえで「泉さん、あんたパソコンを持っていると変わるわね……と言っても泉さんの言うように、私達に抵抗する力はないわね……それに私達以外のスタッフに
    どうやって説明する」
こなちゃんはノートパソコンを閉じた。
こなた「お稲荷さんの話し以外は全て話して良いんじゃないの、その上で今後の方針を決めれば、今までやってきたように……従うにしても、反抗するにしてもね」
かえで「それで、泉こなたの意見はどうなんだ?」
こなた「う〜ん、このまま屈服するのは私もいかがなものかとは思うけど……けいこ会長程の人でも太刀打ちできないと思うと従うしかないのかな」
かえでさんは私を見た。
かえで「柊つかさはどう?」
つかさ「私は……」
どうしよう、何て言えばいいのか全く言葉が出てこない。
こなた「つかさに答えを求めちゃ悪いよ、お稲荷さんの立場もあるんだし」
かえで「そうだったわね、悪かったわ」
つかさ「うんん、いいの、私も何か言わないと……私はお店があれば、料理ができれば何も要らない……」
かえで「二人の意見は聞いたわ、私としては、当初の予定通りの移転を要求するつもり、神社の件も同じ……やれるだけの事はするわ、最終的には私も店の存続を最優先
    にするつもり、二人とも意見をありがとう」
かえでさんは帰る支度をし始めた。
つかさ「お茶でも飲んで行ってください」
かえで「今日はもう遅いしいいわ、ありがとう」
かえでさんは玄関で靴を履いた。そして私の方を向いた。
かえで「お稲荷さん達が人間を信用しない理由が分ったわ……一番良い時代だと思っていたこの世界でも人は同じ事をするみたいね……今後の会合がどうなるか
    私には分らないけど……頑張って」
つかさ「うん」
恵子さんは玄関を出て行った。


879 :つかさの旅の終わり 55/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:52:57.84 ID:O1mi2Otc0
こなた「さて、私はもう寝るかな……」
こなちゃんはノートパソコンを持って自分の部屋に移動しようとしていた。
つかさ「こなちゃんさっきの凄かったよ、詩人みたいだった」
こなた「へ、何のこと……あ、ああ、あれね、あれはみゆきさんのメールを引用しただけだよ……」
つかさ「パソコンで調べていたって、もしかしてゆきちゃんと話していたの?」
こなちゃんは苦笑いをしていた。こなちゃんはゆきちゃんに調べてもらっていたみたい。でも、それで私からゆきちゃんに説明する必要がなくなった。
つかさ「それでも凄いよ、私じゃ何をして良いのかも分らなかった」
こなた「そんな事ないよ、店の存続がやっぱり一番だよ、つかさの考えは正しい」
つかさ「ありがとう」
こなた「おやすみ……」
つかさ「おやすみ……」
『ドンドン、ドンドン』
玄関のドアから音がした。
こなた「ノックかな、おかしいな、なぜ呼び鈴鳴らさないのかな、それにこんな夜遅く……」
つかさ「きっとかえでさんだよ、忘れ物でもしたのかもしれない」
私は駆け足で玄関に向かった。
こなた「一応、誰か確認してから開けて」
私は覗き穴からドアの外を見た。誰も居ない。
『ドンドン、ドンドン』
ノックの音がまたした。誰も居ないのにノックの音……急に恐くなってしまった。心配になったのかこなちゃんが来てくれた。
こなた「どうしたの?」
つかさ「誰も居ないのに……ノックが……」
こなちゃんは笑った。
こなた「そんなはずないじゃないか、どれどれ」
こなちゃんも覗き穴を覗いた。
こなた「……あれ、本当だ……」
『ドンドン』
しかしドアの音は確かにノックの音。ドアから聞こえる。
つかさ「こ、恐いよ……」
こなた「物事には全て原因がある……みゆきさんはそう言っていた……ドアを開ければそれが分る」
私はこなちゃんの後ろに隠れた。こなちゃんはゆっくりとドアを開けた。
こなた「い、犬?」
違う、狐だ。ドアの正面に狐が立っていた。背が低いから覗き穴から見えなかった。
つかさ「狐だよ、こなちゃん」
こなた「狐って、狐がドアをノックするの……」
私はこなちゃんの前に出た。
つかさ「どうしたの?」
狐に話しかけると、狐は私の顔を見た。
『グルグル』
唸り声を上げるとその場に崩れるように倒れた。
こなた「この狐……傷だらけ……」
こなちゃんの言う通り、毛から血があちらこちらから出ていた。狐が私の家に……もしかしたら……
つかさ「こなちゃん、救急箱の用意をして」
こなた「え?」
私は倒れている狐をそっと抱きかかえた。すごい熱……あの時のたかしと同じだ。私は抱きかかえたまま居間に移動し、ソファーにそっと寝かせた。
こなた「救急箱もってきたよ」
つかさ「ありがとう、そこに置いて」
傷は深いのから浅いのまでまちまちだった。たかしさんみたいな銃の後みたいのはない。背中の擦り傷が一番酷い、皮ごと少し剥がれている……車にでも触れたのかな。
つかさ「濡れたタオルで優しく拭いておいて……お薬持ってくるから」
私は洗面所に向かった。まだ残っていたはず。洗面所にしまってあった壷を取り出し居間に戻った。こなちゃんは狐を濡れたタオルで血をふき取っていた。
こなた「何、その壷……」
つかさ「お稲荷さん特製のお薬だよ」
こなた「特製って……かがみの病気を治したやつ?」
私は頷いた。
つかさ「こなちゃんは口の方を押さえていて、暴れるといけないから」
こなた「う、うん」
救急箱からガーゼを取り出し、壷の中に入れた。漬したガーゼを傷口に置いた。そしてその上から包帯を巻いて固定した。
880 :つかさの旅の終わり 56/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:54:25.66 ID:O1mi2Otc0
こなた「……手つきが慣れているよ、包帯なんか巻いたことあるの?」
つかさ「私、狐になったお稲荷さんの看病をしたことがあるの、お姉ちゃんを呪ったたかしさん、この薬もたかしさんから教わった」
こなた「……何だって、つかさ、まさか、この狐もお稲荷さんって言いたいの?」
つかさ「私の家を訪ねて来るなんて、それしか考えられないよ……さてと、これでよし、最後に薬を飲ませなきゃ……」
こなた「あれ……つかさ、この狐何か咥えているよ……」
こなちゃんは狐の咥えている物を掴んで引っ張った。
こなた「凄い力、取れない……」
噛んだままだと薬が飲ませられない。私の家を知っている狐はたかしさん、ひろしさんくらい……だけどこの狐は雌みたいだから違う……
つかさ「私がやってみる、代わって」
こなちゃんは狐から離れた。
つかさ「私の声が聞こえる、つかさ、柊つかさだよ、もう大丈夫だから、薬を飲ませたいの……めぐみさん」
さっきまで身体全体が強張っていたけど、みるみる力が抜けていった。咥えていた物がポロリと落ちた。私はスプーンで薬を掬って狐の口に流し込んだ。
こなた「つかさ、さっき、めぐみって呼んでいなかった、まさか、この狐は」
つかさ「たぶん、めぐみさんだと思う……」
こなた「どうやってここまで……まさか、狐のままで……」
つかさ「人間の姿だと、捕まっちゃうでしょ、だから狐の姿のままで来たのかも知れない、その途中で車にでも当たってしまったんじゃないかな」
薬を飲ませると熱が引いたような気がした。表情も穏やかになった。
つかさ「このまま寝かせてあげよう、私はここで寝るから」
こなた「看病するの……明日の仕事はどうするの……」
つかさ「この様子だと大丈夫そう、途中で看病することは無いと思うから、万一の為にここで寝るだけ」
こなちゃんは狐が咥えていた物を拾った。
こなた「……これは……USBメモリーだ……狐がこんなのを持っているはずないよね……つかさの推理で正解かも……」
こなちゃんは私にUSBメモリーを渡した。
こなた「中身を見てみたいけど……さすがに今は見る気がしないや、それに、勝手に見るのも気が引けるし……つかさが持っていて」
つかさ「うん」
こなた「私はもう寝るけど……何かあったら起こして」
つかさ「ありがとう」
こなた「私達……何か大きな出来事に……運命に巻き込まれようとしているような気がしてきた……」
つかさ「もうとっくに、巻き込まれているよ……」
こなた「少しワクワクしてきた、こんなのゲームの世界でしか味わえないと思っていたけど……楽しい冒険が出来そう……指名手配の人物を匿うなんて、そう出来る事じゃない」
こなちゃんはそのまま自分の部屋に入って行った。
ワクワクする……か。こなちゃんらしいや。
冒険か……私の一人旅から始まって、何時しかこの町を巻き込んで……うんん、全人類を巻き込む……それは大袈裟かな。お稲荷さんにとっては存亡に関わる一大事。
旅や冒険なんて表現したらお稲荷さんに怒られてしまうよね。もうここまでくると私の意思がどうのこうのは関係ない。大河の流れの中に居る私……その流に抗えない。
ひろしさんにはもう会えないと思っていた。会えるかもしれない……そう思えただけも幸せだよね。
安らかに眠っているめぐみさん……他のお稲荷さんかもしれない、ただの狐さんかもしれない。もし、めぐみさんだったら、私は指名手配を匿って罪に問われるのかな。
めぐみさんは人間じゃない……だから、関係ないよ……




881 :つかさの旅の終わり 57/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:55:27.46 ID:O1mi2Otc0
 何だろう、プニプニした感触が頬に……
『チュン、チュン』
小鳥のさえずり……あれ。
寝てしまったみたい。ソファーに寄りかかっていた。起き上がるとソファーにお座りをしている狐さんがいた。さっきの感触は前足の肉球の感触かな。
つかさ「おはよー、起こしてくれたの?」
私には頷いているように見えた。良く見ると足の包帯が少し取れていた。その隙間にはあるはずの傷がすっかり消えていた。
つかさ「もうすっかり治っているみたい、包帯、邪魔だよね、取ってあげる」
近づいても逃げようとはしない。それどころか包帯を取り易いように体勢を変えてくれた。
つかさ「もしかして……めぐみさん?」
狐さんは何の反応もしない。
つかさ「大丈夫だよ、警察に連絡したりなんかしないから……ごめんなさい、何もしてあげられなくて……」
狐さんは私の手に前足をそっと乗せた。そして首を横に振った。
つかさ「やっぱり、めぐみさんだね、よかった無事で……お話したいけど、まだ人間になれないの?」
めぐみさんは頷いた。ふと時計を見ると……出勤の準備をしないと……
つかさ「ご、ごめんなさい、出勤しないといけないから、この家を自由に使って、それにね、こなちゃん……泉こなたって同居人がいるけど、安心して、私の親友でお稲荷さんの
    事は全て知っているから、きっと協力してくれるよ」
こなた「つかさ〜さっきから独り言を言っているの……起きちゃったよ」
自分の部屋からこなちゃんが眠い目を擦りながら出てきた。
こなた「え……ミイラみたいに包帯だらけだったのに……伊達にかがみの病気を治した薬じゃないね」
こなちゃんの姿を見てめぐみさんが身を低くして構えた。
つかさ「あ、警戒しないで、紹介するよ、私の親友の泉こなたさん……それから、こなちゃん、こちらがお稲荷さんのめぐみさん……」
こなた「つかさの勘が当たったみたいだね……泉こなたです」
こなちゃんはめぐみさんにお辞儀をした。めぐみさんは構えを解いた。
つかさ「傷は癒えたけど、まだ本調子じゃないみたい……私、これから出勤しないといけないから、こなちゃんは遅番でしょ、めぐみさんの相手をして」
私は洗面所に向かった。
こなた「ちょっと、いきなりそんな事言われても、どうすればいいの?」
つかさ「こっくりさんって、覚えているかな、紙にはい、いいえ、五十音と数字を書いて……それでお話できるから……」
こなた「覚えているけど……」
こなちゃんとめぐみさんの目が合った。めぐみさんはじっとこなちゃんを見て待っている感じだった。
こなた「わかった、わかったからそんな目でみないでよ」
こなちゃんは自分の部屋に戻って行った。きっと紙を用意しているに違いない。さて、私も準備しないと、お風呂入っていない、時間がないからシャワーで済まそう。


882 :つかさの旅の終わり 58/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:56:51.35 ID:O1mi2Otc0
 お昼を過ぎた頃だった。もうとっくにこなちゃんは出勤していなければならないのに、まだ来ていない。高校時代はよく遅刻をしていたけど。この店で働くようになってから
は遅刻は一度もしたことは無かった。どうしたのかな。めぐみさんに何かあったのだろうか。それなら連絡がくるはず。
かえで「つかさ、泉さんから電話があって、今日一日休むって言ってきたわよ……気分でも悪いの?」
つかさ「え、あ、は、はい、なんか風邪気味みたいで……」
かえで「昨夜はそんな感じにはみえなかったけど……つかさも気をつけなさいよ」
つかさ「はい」
こなちゃん得意の仮病……めぐみさんに何かあったに違いない。でも私を直接呼ばなかったのは何故だろう。こなちゃんに連絡を取りたいけど、かえでさんに怪しまれちゃう。
帰りの時間が来るまで気が気ではない。だけど……かえでさんはめぐみさんと何度も会っているし、内緒にしていたら逆に怒られそう……

 就業時間が近づいてきた。事務所のドアをノックする。
つかさ「かえでさん、今夜時間空いていますか?」
かえでさんはパソコンに向かって作業をしていた。そういえば抗議文を書くとか言っていた。
かえで「何かしら、手短に用件だけを言って」
つかさ「昨夜の話しの続きをしたいと思います……」
かえでさんは作業を止めて私を見た。
かえで「泉さんは風邪でしょ、お邪魔にならないかしら……」
しまった……あの時は咄嗟に誤魔化してしまったのを忘れていた。どうしよう。ここでまた誤魔化してもしょうがない。
つかさ「こなちゃんは風邪をひいていません、ここでは言えませんけど、家に来て欲しい」
かえで「彼女、学生時代はズル休みを何度かしたそうね、今までの勤務態度からは想像もつかないわ、今日の休みも有給休暇だし何も問題はない、いったい何を隠している……」
かえでさんの目が少し厳しくなった。
つかさ「家に来てくれれば分ります……」
かえでさんは溜め息をついた。
かえで「ふぅ〜つかさがそこまで隠すのならよっぽどの事ね、家に行けば分るのか、それなら今聞くこともないか、準備する、駐車場で待っていて」
かえでさんはパソコンをシャットダウンした。
つかさ「ありがとう……」

 かえでさんを乗せ、私の運転する車は家の駐車場に着いた。来客用の駐車スペースに車が停まっていた。どこかで見たことがある車だった。運転席側のドアが開いた。
この車も駐車場に入ったばかりみたい。
「あら、つかささん……」
つかさ「ゆ、ゆきちゃん……」
思い出した。この車はゆきちゃんの車。
つかさ「どうしたの、連絡もしないで……」
みゆき「泉さんに呼ばれまして……」
かえで「高良さん、お久しぶり」
みゆき「ご無沙汰しています……」
ゆきちゃんの車の助手席側が開いた。中から出てきたのはお姉ちゃんだった。
かがみ「つかさ……あ、松本さん、つかさがお世話になっています……」
かえで「いいえ、つかさにはこちらがお世話になっているわ……」
お姉ちゃんとかえでさんは会釈をした。
つかさ「二人ともどうしたの?」
かがみ「どうしたも、こうしたも無いわよ、こなたが重要な話があるからって言うから来たのよ」
みゆき「内容は来れば分ると……」
こなちゃんと私は別に打ち合わせをしていた訳じゃなかった。こなちゃんも私と同じような事を考えていた。お姉ちゃんとゆきちゃんが来てくれたのは嬉しいし、心強い。


883 :つかさの旅の終わり 59/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:58:03.13 ID:O1mi2Otc0
 家に入るとこなちゃんは皆を居間に案内した。そして、そこに居たのは人間の姿になっためぐみさんだった。かえでさんとゆきちゃんは、硬直して動かなかった。
おねえちゃんはめぐみさんを見ると会釈をした。
お姉ちゃんはめぐみさんとは初対面、いくら指名手配で有名になったとは言っても分るはずもない。
かがみ「お客さんかしら……柊かがみです……ちょ、みゆき、知っている人なら紹介しなさいよ」
お姉ちゃんの言葉になんの反応も示さない。ゆきちゃんは呆然とめぐみさんを見ているだけだった。
かえで「柊けいこの秘書、木村めぐみ……と言えば分るかしら」
かがみ「めぐみ……まさか、ワールドホテル事件の……」
お姉ちゃんも言葉を失った。
『パン、パン、パン!!』
こなちゃんは手を叩いた。
こなた「ほらほら、皆、突っ立てないでこっちに来て座って、変身していられる時間は短いらしいから急いで」
私もめぐみさんの回復の早さに少し驚いた。私が席に着くと遅れて他の皆も席に着いた。
つかさ「怪我は大丈夫ですか?」
めぐみ「はい、ありがとうございます、おかげさまで」
かがみ「怪我……どこも傷なんかない……」
みゆき「それは……」
こなた「ゴメン、めぐみさんに時間がないから早速だけど本題に入らせて、こっくりさんなんかで話していたら日が暮れちゃうよ」
ゆきちゃんが言いかけたのを阻止するようにこなちゃんが割り込んだ。ゆきちゃんはそれ以上何も言わなかった。
かえで「本題の前に、何故こうなったのか説明してもらえないかしら、それに何故逃亡なんかしたのか」
めぐみ「私……いいえ、私達は企業経営に関して言えば細心の注意をして運営をしてきたつもりです……人間の法律や、慣習について私は古くから観察、研究をしてきました、
    しかし……彼らは自らその約束事を破り、その罪を全て私達に擦り付けたのです……会長が逮捕される時、私は丁度狐の姿でした、どうする事もできません、
    幸い、私が木村めぐみだとは誰も思わなかった、ビルを抜け出し、隠れながらここを目指しました、その途中、車と接触してしまい、昨夜の有様に……」
かえで「言わせて貰うわ、何故お稲荷さんの知識を使った、使えばライバル会社から注目される……教える前から使ってしまったらこうなる事は分って
    分っていたろう、それが人間の歴史ってものじゃないの」
正直かえでさんには驚いた。本当ならゆきちゃんがこんな質問をすると思っていた。私みたいに料理だけじゃない。幅広い知識をかえでさんは持っている。
そういえばよく図書館に行くって言っていた。それにかえでさんにお稲荷さんの話しをしたのも図書館だった。めぐみさんは目を閉じてかえでさんの話しを聞いていた。
めぐみ「泉さんは私達の知識がどれ程のものか試そうとしましたね、私達……いいえ、私もそれと同じように、人間を試したのです、特許は今の人間のレベルになるべく
近いものを選びました……その結果がこれです、私達の知識を人間に教える事は出来ません……」
つかさ「で、でも、それじゃ、これからどうするの、二十人もお稲荷さんが居るのに……狐狩りが無くても生活するのは大変だよ」
めぐみ「この星は人間の住む星……私達の居場所はありません、私達は本来居るべき場所に帰ります、その目処が付きました」
めぐみさんは部屋の天井を見上げた。
つかさ「帰る……何処に?」
みゆき「やはり貴女方は異星から来たのでしたか……どうして地球に来たのですか、そして、もっと早く帰ることは出来なかったのですか」
884 :つかさの旅の終わり 60/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 21:59:39.07 ID:O1mi2Otc0
めぐみ「私達の先祖は約三万年前、この太陽系を調査する為に来た、木星の衛星、ガニメデに基地を置き、調査団を地球に向かわせた、その時の人員が百名だったと聞いています、
    しかし、不慮の事故で宇宙船が故障、地球に不時着する以外なかった……宇宙船は航行不能、修理も未開の惑星では術はありません、それに地球の環境は私達には
    厳しすぎました、救援が来るまでの間地球の環境に身体を合わせなければなりませんでした、宇宙船の装置が稼動できる時間も僅かしかなかったそうです、
    近くに居た四足動物のサンプルを利用して私達の身体を地球の環境に合わせました……」
みゆき「まさか、その四足動物は……狐……ですか」
めぐみさんは頷いた。
めぐみ「狐になり、救助を待ちましたが……来なかった……通信手段も無く、私達は見捨てられた……途中で発見した人類を私達の身体の基本とするはずでしたが装置の
    修理が不完全で……代々中途半端な身体を余儀無くされたのです」
みゆき「それで、どうして今になって帰る目処がついたのですか?」
めぐみ「私は一年前、ガニメデの基地に通信をすることに成功しました、もちろん既に基地は無人でした、遠隔操作で基地の記録を調べて分ったのです、
    当時、私達の母星に何か大きな災いが起き、調査団は私達の救助を打ち切り帰ったのです」
めぐみ「そんな遠くにどうやって通信を……そんな大掛かりな施設は日本には……」
めぐみ「NASA(ナサ)のコンピューターをハッキングして、電波望遠鏡を操作し、制御信号を送った……簡単な事です、遠隔操作で基地から母星に救助信号を送った、
    母星は無事に危機を脱したのが分り、救援が来ることになった……それが二週間後」
みゆき「ちょっと待ってください、一番近い恒星でも数光年かかります、どうやってそんな短時間で通信して、援助まで来ることが出来るのですか……」
つかさ「あの〜途中から言っている意味が分らなくなっちゃった……」
でも……最後の意味は分る、二週間後、お稲荷さんは故郷に帰るって……
みゆき「光より速く移動できる物はないはずです……」
めぐみ「……それが分れば我々の知識など必要は無い……今まで帰れなかったのは木星の距離まで制御信号を送る技術がなかったからです」
みゆき「知りたい……調べても分らない事……木村さん、フェアではありません、事情を知っていれば彼らも乗っ取りなどしなかった筈です」
珍しくゆきちゃんが怒っている。
めぐみ「フェア……ですか、私達はこれらの知識を得るためにどれ程の時間を費やしたか、時には命の犠牲を払い、我々自身の滅亡の危機まであったのです、
    この程度の試しをフェアでは無いと言われるのは心外です」
ゆきちゃんは何も言わなくなった。
めぐみ「救助の話しは仲間も会長も知りません、私が個人的に行った事です、今度の会合の時、第四の選択として提案するつもりでした……故郷と言っても
    私達は地球になん世代も住んでいます、中には残りたい者も居るでしょうから……仲間と連絡を取る事はできます、しかし……
    会長に意思の確認を取りたいのです……ある程度の距離なら意思の疎通もできますが、施設の外からでは無理です」
かがみ「面会をしたい訳ね、それは無理よ、共犯とされている貴女が逃げている限りね」
今まで黙っていたお姉ちゃんが小さな声で話した。
めぐみ「どう言う事です?」
かがみ「本来なら裁判が終わるまで保釈が認められるはずよ、でも貴女が逃げているからそれが出来ない、証拠隠滅のおそれがある……それが理由よ」
かえで「かがみさん、よくそんな事情を知っているわね」
かがみ「私の彼の所属する法律事務所がけいこさんの弁護をする事になったから分るわ……」
めぐみ「そうですか、捕まるのはやぶさかではありません、しかし、救援に来る者に救援者の報告をしなければなりません……それさえ伝えれば、例え牢獄の中からでも
    特定の人物を収容出来ます……」
こなた「報告はどうやって?」
めぐみ「私の持って来たUSBメモリーの中にあるプログラムを起動して……」
こなた「要はパソコンがあればNASAの施設をハッキング出来るって分けでしょ、方法を教えてくれれば私が代わってやっても良いよ」
こなちゃんはノートパソコンを得意げに持ち上げた。
かがみ「バカ、ゲームをするのとは違うわよ、こなたに出来るわけがないだろう」
めぐみさんはこなちゃんを見ながら考えていた。
めぐみ「いいえ、操作そのものはゲーム程度の操作で出来ます……」
こなた「それじゃ決まりだね、あとはけいこ会長に面会をして帰るか残るか聞かないと……」
皆の視線が私に集まった。
つかさ「わ、私……む、無理だよ〜ゆきちゃんの方が適任だよ」
みゆき「いいえ、その役はつかささん以外に考えられません」
こなた「決まりだね……頼むよ、つかさ」
つかさ「え、う、うん……」
みゆき「けいこさんとの面会の前に、お稲荷さん達の同意を得ないとなりません、提案者が捕まってはどうにもなりません」
めぐみ「仲間との連絡も……私がしなければなりませんね……明後日……場所は……」
めぐみさんの様子がおかしい、辛そうだ。
かえで「場所は一つしかない、神社、夜なら貿易会社の連中も来ないわ」
めぐみ「……それで……手配します」
めぐみさんはそのまま倒れこんでしまった。そそて、みるみる小さくなって狐の姿になってしまった。
かえで「……驚いた……彼女の話しはSFみたいだけど、狐になるのを見せ付けられちゃ……信じるしかない」
つかさ「めぐみさんを休ませてくるね」
私は狐になっためぐみさんをそっと抱きかかえて私の部屋に移動した。




885 :つかさの旅の終わり 61/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:00:57.76 ID:O1mi2Otc0
 部屋の座布団の上にめぐみさんを寝かせた。人間に化けているのがよっぽど辛かったのみたい、ぐったりと死んだように眠っている……
お稲荷さんが故郷に帰る。木星よりもずっとずっと遠い星に……
どの位遠いのかは何となく分るよ。私達人間は月にさえ何人も行っていないのだから……
二十人の中で何人のお稲荷さんが帰ってしまうのかな。その中にひろしさんや、たかしさんも入るのかな。けいこさんはどうするの……
残って欲しい……そんな事言えないよね……この期に及んで……私達が悪い……
めぐみさんに毛布をかけてから部屋を出た。

 居間に戻るとかえでさんの姿が見えない。
つかさ「かえでさんは?」
こなた「帰るって……知恵熱が出たから休むってさ」
つかさ「お姉ちゃんとゆきちゃんはどうする、さすがにこの家に四人は泊まれないよ」
こなた「大丈夫、温泉宿を予約しておいたよ……」
みゆき「すみません、お手数をおかけします」
つかさ「お姉ちゃん?」
お姉ちゃんはさっきからもそうだったけど、いつもの元気がない。席に座ったまま俯いていた。
かがみ「こなた、あんた最初から木村さんと打ち合わせしていたわね……」
こなた「へへへ〜ばれちゃったか……実はもう少し操作方法を教えてもらっていたりして……そう言う事だから、つかさ、USBメモリー貸して」
つかさ「うん……」
かがみ「そんなのはどうでも良い、木村さんが言っていたな、こなたはお稲荷さんを試そうとしていたって……詳しく聞きたい、何を試そうとしていた」
それは内緒だよ。言えないよ。
こなた「え、そ、それは〜お稲荷さんの力でお母さんを生き返らせてって……はは、ははは」
かがみ「木村さんはここに逃げてくる途中、車に接触したと言っていた、傷が一つも無いのはどう言うこと」
こなた「さ、さぁ、お稲荷さんの不思議な力で治したんだよ……ねぇ、みゆきさん」
みゆき「そうです、そうに違いありません」
お姉ちゃんは立ち上がった。
かがみ「もういい、私が入院した時、つかさが飲ませた怪しい飲み物……あれで私の病気が治った……違うか」
つかさ・こなた・みゆき「うぐ……」
その先は何も言えなかった。
かがみ「図星のようね……その表情から察するに、私はよっぽど重い病気だったみたいね……分るわよそのくらい、自分の体の事くらい……死を覚悟したのだから……
    フェアか……私の方がよっぽどアンフェア、あるはずの無い薬を手にいれたのだから」
お姉ちゃんはあの時すでに自分の病気を知っていた……あの時、こなちゃんと楽しく話していたのは演技だったって……
こなた「まったく、かがみも生真面目すぎるよ、もう少し楽に考えなきゃダメだよ」
かがみ「生真面目で悪かったな、どうすれば楽に考えられる、是非ともご教授願いたいわね」
こなた「そうだね……宝くじにでも当たったと思えば、つかさが呼び込んだ不幸と幸福……そんな感じ、それにかがみは呪いで苦しんだのだから差し引きゼロだよ」
お姉ちゃんは笑った。
かがみ「宝くじかよ……」
みゆき「それより……つかささんは良いのですか、ひろしさんと本当のお別れになってしまうのでは、未だに再会すら果たせていないと言うのに……」
つかさ「そうだね……今度の会合が最後のチャンスかもしれない……こなちゃんがさっき言った、私も宝くじが当たったと思うよ、その通りだよ、
    一人旅で私が偶然降りた駅、偶然寄った神社、そこで偶然出会った人達、お稲荷さん、奇跡だよ……とっても楽しかった……そして、お別れも……
    こなちゃん達でさえいつかは別れなければならいから……私はそれを受け止めるだけ……」
かがみ「つかさ……」
こなた「……受け止めるのは良いけど、やれるだけの事はやっておかないとね……ひろしの前で泣いて引き止める位の事はして欲しいね」
つかさ「もちろん……するよ」
こなちゃんに微笑んだ。
こなた「それ、それ、やっぱりつかさは笑っているのが一番」
みゆき「同感です」
こなちゃんは立ち上がった。
こなた「さてと、行こうかみゆきさん」
みゆき「はい」
ゆきちゃんも立ち上がった。
かがみ「何処に行くのよ」
こなた「旅館だよ」
つかさ「旅館って、ここはこなちゃんの家だよ」
こなた「姉妹水入らずってやつだよ、かがみが結婚したらもう出来ないよ、まして、卒業したらすぐに子供も出来そうだしね……ね、スケベかがみ」
かがみ「なんだと!」
こなた「恐い、恐い、ささ、みゆきさん逃げよう」
みゆき「はい」
こなちゃんとゆきちゃんは家を出て行った。


886 :つかさの旅の終わり 62/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:02:06.00 ID:O1mi2Otc0
かがみ「何が姉妹水入らず……もうそんな歳じゃないわ、みゆきまで……」
玄関に向かってお姉ちゃんはそう呟いた。
つかさ「そうでも、ないかも」
お姉ちゃんは私を見ると溜め息をついた。
かがみ「しかし、あんたもややこしい人を好きになったものだ、お稲荷さんなんて」
つかさ「違うよ、お稲荷さんを好きになった訳じゃなくて、好きになった人がお稲荷さんだっただけ」
かがみ「はぁ、どっちも同じじゃない……」
つかさ「うんん、違う……だって私達と同じだよ……怒ったり、笑ったり、恨んだり……好きになったり」
それに音楽だって理解できる。
かがみ「同じか……こなたが言った宝くじが当たったって比喩もあながち間違っていないわね……お稲荷さんか……彼等、彼らの先祖は他の星から来た
    調査団だった……事故でこの地球に取り残された人達だった、当時100人、今は20人って言っていたわね、増えるどころか減ってしまっている所をみると
    彼等にとって地球が住み難い所であるのは確かね……三万年前か……人類はまだ農耕もしていなかった時代よ」
つかさ「そういえばゆきちゃんがコウソクがどうのこうの言っていたけど……分らない」
かがみ「あれは光速、光の速さの事、私達の知識では光の速さより速いものはないとされていてね……」
私の顔をみてお姉ちゃんはそれ以上言うのを止めて溜め息をついた。
かがみ「ふぅ〜それ以上言っても分らないみたいね、物理の勉強を少ししなさい……よくそんなんでお稲荷さんの知識を教えてもらう交渉が今まで出来たわね、不思議だ」
つかさ「理屈は分らないけど、大変な事なのは分るよ、遠い星からくるなんて私達には出来ないから」
かがみ「そうね、せめて理屈くらいは知りたいものね、みゆきはそれでつかさを手伝っているのだから」
つかさ「楽譜が読めても、演奏する技術と楽器がなければ音楽を奏でることはできない……」
かがみ「はぁ、何を言っている」
つかさ「けいこさんが言っていた、知識を楽譜に例えてそう言っていたけど……」
かがみ「……なるほどね、結局、今の私達には高値の花って訳ね……」
お姉ちゃんはすぐに納得しちゃったけど、あれで分るのかな……凄いな……。
つかさ「ねぇ、お稲荷さん達の故郷ってどの星かな、夜空に見えるかな……」
かがみ「さて、どうかしらね……もっと遠いかもよ」
つかさ「子供の頃、よく夜空を見上げたよね、織姫と彦星……私達七夕生まれだから、知っているよ、ベガとアルタイル……」
かがみ「よく見たわね……懐かしいわ」
つかさ「外に出てみない、実家より田舎だからきっと星が綺麗だよ」
かがみ「そうね……」
外に出て空一杯に散りばめられた星達……私達は語ることもなく夜空を見上げていた。昔の幼い時と同じ様に。
こなちゃんとゆきちゃんが旅館に行って私達だけにしてくれた訳が今分った。もうこんな事は二度と出来ないかもしれない……
流れ星が一筋……
『逢いたい』
その“あ”の字も言えないほど短い時間で消えてしまった。それでも頭の中で何度も願い事を唱えた。
かがみ「つかさ、見えた……流れ星」
つかさ「うん」
私は空を見ながら答えた。
かがみ「願い事をしてしまったわ……バカだな……」
つかさ「私もしたよ、お姉ちゃんはどんな願い事したの?」
かがみ「つかさが彼氏と再会できますように……」
つかさ「お姉ちゃん……」
かがみ「神社が壊されないように……レストランかえでが無事移転できますように……こなたがヘマしませんように……それからね……」
つかさ「え、え……ちょっと欲張りすぎだよ……」
かがみ「このくらいの願いなんて、全宇宙に比べれば小さいものよ、まだ足りないくらいだわ……それにね、救われた命、せめて祈りで……祈らせて」
つかさ「あれは、たかしさんの教えてくれた薬だよ、お礼を言うならたかしさんに……」
かがみ「たかしには呪われて、殺されかけて……命を救われた……」
つかさ「そうだったね……」
かがみ「今まで人間がしてきた仕打ちを思うと、お互い様と言わざるを得ないわね……それでも、帰ってしまうのも何か寂しいわね」
つかさ「それ、たかしさんが聞いたらきっと喜ぶと思うよ」
お姉ちゃんは微笑みながらまた夜空を見上げた。
かがみ「さて、もう目に焼き付けたわ、つかさは?」
つかさ「うん」
かがみ「帰ろうか」
つかさ「うん」
この星空……一生忘れない。


887 :つかさの旅の終わり 63/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:03:19.61 ID:O1mi2Otc0
 時は流れ、会合の日が来た。かえでさんは抗議文ができたので、貿易会社に向かうと言っていた。こなちゃん、ゆきちゃん、めぐみさん、私は神社へ、お姉ちゃんは、
私とけいこさんの面会手続きに奔走してくれている。もちろんめぐみさんは人間になるのは神社に着いてから。めぐみさんは指名手配中だからね。他人に見られたら大変。
めぐみさんは犬を運ぶときに使うキャリーバックの中に入ってもらって移動した。
神社に着いても、私、こなちゃん、ゆきちゃんで神社の周りに人が居ないか調べた。
こなた「こっちは居なかった」
つかさ「私も」
みゆき「居ませんでした……」
こなちゃんがめぐみさんに合図をする。めぐみさんはお座りの姿勢になった。全身が淡い光に包まれて……どんどん大きく……人間の姿に変わっていく。
人間から狐になる様子は何度か見たことはある。その逆は初めてだった。私とゆきちゃんはまじまじとその様子を見ていた。こなちゃんはいつもの様子でノートパソコンを
立ち上げていた。
こなた「そうなんだ、私も不思議に思っていたんだ、毛皮が服に変わっていたって分った……もっとエロっぽいのを連想していたんだけど……まぁそんなもんだね」
つかさ「こなちゃん、そうじゃなくて、普通に驚くところだよ……」
みゆき「狐になるときも驚きましたけど……」
めぐみ「連続で人間になれるのは長くて一週間です……あの時は傷が癒えたばかりなので短かったのです、この会合が終わり、けいこさんに面会が終わったら
    救助船に連絡をして下さい、そうすれば救助船は私達を回収します……」
みゆき「期限は一週間ですか、そうしないと木村さんの変身が解けて大変な事になってしまいますね」
めぐみ「おそらく人間は狐になった私をめぐみとは思わないでしょう、脱走したと思うはずです……あまり時間は気にせず確実に作業をお願いします、泉さん」
こなた「お〜け〜まっかせなさい!!」
胸を叩いて自信ありげだった。
つかさ「そろそろ時間だよ……」
茂みの陰から人が出てきた……たかしさんだった。その後から何人もの人が出てきた。皆初めてみる人ばかりだった。狐も出てきた。数を数えると十八人……
つかさ「二人足りない……」
めぐみ「けいこ会長も数に入っているので、足りないのは一人ですね……」
たかし「ひろしは遅れてくる、先に始めてくれ……それより……めぐみ、いったい何を仕出かした、人間が血眼になって探しているぞ、けいこは捕まってしまっているじゃないか」
めぐみ「それは今回の会合と関係ありません……」
たかし「それなら良いが、もし、けいこに何かあれば人間は只では済まさんぞ……人間になったとは言え、中身は我々と同じ血が流れているのだからな、その気になれば
    町の一つや二つ消し去る力はまだ残っている」
たかしさん、すごく感情的になっていた。また禁呪をしてしまうような勢いだった。
お稲荷さんの仲間に対する絆は私達人間以上に強い。そんな気がした。だからこそ、逆にまなちゃんが仲間に攻撃されてしまったのかもしれない。
めぐみ「我々はもう人間と争う必要はなくなりました、もちろん知識を教える必要もありません……故郷に帰れるのです、一週間後、救助船がこの地球に到着します」
たかしさんは黙った。そして、他のお稲荷さん達はざわめき始めた。
めぐみ「私の独断で母星に連絡を取っていました……その成果が今、実ったのです……ですが、私達がこの地球に取り残されて約三万年……故郷を知る者は居ないでしょう、
    人間との生活を望む者も居ると思います、そこでこの会合を開きました、各々、母星に帰るか、この地球に残るか……決めて下さい」
たかし「今、ここで決めろと言うのか……」
めぐみ「そうです、母星の判断によればこの地球の人間は未開の種族なので一刻も早く私達を救助したいそうです、救助が終わった後、ガニメデの基地は撤収します」
こなた「跡形も残さないって訳だね……私達は随分嫌われたね……」
こなちゃんは私に小声で耳打ちした。
めぐみ「時間は夕方まででお願いします」
お稲荷さん達は私達から少し離れて幾つかの集団に分かれて話し始めた。2〜3人グループに分かれている。家族同士なのか、恋人同士なのか、
その半数近くが狐の姿のままだった。
つかさ「狐の姿だと話せないのに大丈夫なの?」
めぐみ「私達とだったら問題ありません……」
みゆき「それより、木村さんはどちらに決めたのですか、仲間と一緒に相談しなくてもよろしいのですか」
めぐみ「私はもう既に帰ると決めています……私は人類を調べる任務を持っていました、その報告をしなければなりません」
こなた「あれ……おかしいな、人類を見つけたのは遭難した後からだったよね……」
めぐみ「遭難しても暫く調査船は機能していましたから基地や母星と連絡はできました……」
みゆき「かなり細かい事までご存知なのですね……ご先祖さんから聞いたのですか」
めぐみ「……いいえ、私とけいこは遭難した時から居ました……」
こなた「え、すると……少なくとも三万歳以上ってこと?」
めぐみさんは頷いた。
めぐみ「母星の復興の為、また戻らねばなりません」
みゆき「復興……ですか、確か、母星の危機があったのは三万年前だったと聞きました、そんな長い間、危機が続いたのですか、
どんな危機かは知りませんが貴女方の知識と技術があるのなら回避なり克服出来るのではないですか」
めぐみ「……私達は人間よりは進んでいるかもしれません、それでも全ての理を理解している訳ではない……自然は私達でも未だに神秘に満ちている」
みゆき「……そ、そうですか……」
ゆきちゃんはぐみさんと難しそうな話しに夢中になっていた。こなちゃんはパソコンのキーボードを叩いていた。


888 :つかさの旅の終わり 64/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:04:36.19 ID:O1mi2Otc0
 ふと周りを見ると、狐が一匹だけで猫みたいに丸まって寝ていた……他の狐より一回り大きい。すぐに誰だか分った。私はその狐に近づいた。
つかさ「こんにちは」
耳を私に向けると頭を持ち上げて私を見た。とても悲しい目をしていた。
つかさ「もしかして、五郎さん、久しぶりだね」
狐さんは立ち上がった。私に牙を向いて唸っていた狐と同じとは思えない。小さく身をかがめて私から立ち去ろうとした。
つかさ「待って、お話したい、お姉ちゃんのお礼を……」
五郎さんは立ち止まって首を横に振った。話したくないのかな……
つかさ「たかしさんの呪いを止めようとしてくれたよね、ありがとう……もう会えないかもしれないし、それだけ、言いたくて」
五郎さんはそのまま私から離れようとした。
たかし「おい、あまりに失礼じゃないか、お礼を言っているのに無視はあんまりだぞ」
私の直ぐ後ろからたかしさんが五郎さんに向かって怒鳴った。
五郎さんは立ち止まったけど、また直ぐに歩き出した。
たかし「真奈美はつかさにそそのかされた、そう思った、それが許せなかった……つかさを憎んだ」
五郎さんはまた立ち止まった。
たかし「つかさ憎さから、真奈美まで憎んでしまった、しかし、実態は違った、真奈美とつかさは親友として当たり前の事をしていただけだった……それに気付いた時は既に
    遅かった……違うか」
五郎さんは振り向いてたかしさんを見た。
たかし「俺を止めようとしたのは、俺がその時の五郎と同じだったからだろ……もっとも俺は聞く耳はもたなかったがな……つかさに看病されて気付いた、
    こいつは俺をひろしだと思っていた……そして、つかさは親友を超えた感情だった……五郎、もういい、真奈美を亡くしたのはお前のせいじゃない、あれは事故だった、
    あの時、俺が居たら同じ事をしていた……自分の愛する者を殺すところだった……」
たかしさんは私の手と五郎さんの前足をを握った。
たかし「ありがとう、つかさ、五郎」
つかさ「わ、私はまなちゃんを助けられなかったし、お礼を言われる事なんかしていない」
たかしさんは手を放した。
たかし「最後に人間を憎まないで行けそうだ」
つかさ「え、たかしさんは帰っちゃうの……」
たかし「ああ、この星で生まれはしたが、この星の生き物ではない、取り残されたのだから一度帰って出直すのが筋だ」
私はごろうさんの方を見た。悲しい目のままだった。
つかさ「五郎さんも帰ってしまうの?」
五郎さんはなんの動作もしなかった。
たかし「彼も帰ると言っている……」
つかさ「出直すって、いつ頃来られるの?」
たかし「帰ったら復興の手伝いをしなければなるまい、おそらくつかさが生きている内には行けないだろう」
ひろしさんは、やっぱりひろしさんも帰ってしまうのかな。この前みたいな別れはもう嫌だ。でも、それじゃただのわがままだよね……


889 :つかさの旅の終わり 65/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:05:55.36 ID:O1mi2Otc0
こなた「これでいいかな?」
こなちゃんはパソコンの画面をめぐみさんに見せた。
めぐみ「……良いでしょう、完璧です、もう私の教える事はありません」
こなた「ありがとう、とりあえず、帰る人が十五人、残る人は三人……分らない人は、けいこさんとひろしの二人だけだね」
めぐみさんは頷いた。そして皆に向かって話した。
めぐみ「一週間後、けいこ会長のデータを入れて、救助船に送信すれば何処に居ても転送されるでしょう……今日の会合はここまでです、各自自由解散」
人間になっているお稲荷さんは階段から下りて行った、狐の姿のお稲荷さんは森の中に消えて行った。
こなた「あの〜ひろしのデータはどうしよう?」
めぐみ「……来ませんね、気配も感じられない……困りました、強制収容だけは避けたいのですが」
帰りの準備をしていたたかしさんが立ち上がった。
たかし「噂をすれば……来ている」
私はたかしさんの目線を追った……その先に……ひろしさんの姿があった。
名前を叫んで飛び込んで行きたかった。だけど体が言う事を聞かない。ひろしさんも私を見ているみたいだったけど、ただ、立っているだけだった。
たかし「やれやれ、恥かしがりやのお二人さんだ、俺たちは邪魔だってよ」
めぐみ「……それでは結果は泉さんにお願いします」
めぐみさんとたかしさんは階段を下りて行った。
みゆき「泉さん……行きますよ」
ゆきちゃんは強い口調でこなちゃんを呼んだ。こなちゃんはじっと私達を見ている。
こなた「えー、これから良いところなのに……お邪魔はしないから……」
みゆき「泉さん!!」
何時に無くきつい口調になった。さすがのこなちゃんもこれには驚いて、ゆきちゃんの後を追って階段を下りて行った。そして、居るのは私とひろしさんだけになった。
ひろし「いったい何があった……」
何か違う雰囲気にひろしさんは気付いた。取り敢えず私は自分を落ち着かせた。言いたい事はいっぱいあるけど、今はめぐみさんの話しを優先しないと。
私はひろしさんに今までの経緯を話した。ひろしさんは黙って聞いていた。

つかさ「……それで、ここに残るか、故郷の星に帰るか選んで……残るお稲荷さんは今のところ三人……後は、全員帰るみたい、決まっていないのはけいこさんとひろしさんだよ」
ひろしさんは森の外から町を見下ろして眺めていた。そういえば、あの時も、別れる直前もそうしていた。答えを聞きたくない。あの時と同じ答えが来る様な気がしてならない。
つかさ「なんで、会合に参加してくれなかったの」
答えを聞きたくない。もっとお話がしたい。今の私の頭の中はそれで一杯だった。
ひろし「なんでけいこの企画の手伝いに参加した」
私の質問に質問で返してきた。
つかさ「けいこさんの企画は難しすぎてよく分らない、ひろしさんに会えるから、50%……うんん、90%以上それしかなかったよ」
ひろし「ばかな……あの時、別れたはずだろ、未練がましい……」
その通りかもしれない。でも今度は宇宙の彼方に……そうなればもう二度と逢うことはできない。
つかさ「でも、こうしてまた逢えた」
ひろしさんの考えている事が何となく分る。それでもこなちゃんの言ったように、無駄な抵抗をするまで。
つかさ「一つ提案なんだけど、私と一緒に暮らすのはどうかな……お稲荷さんの様に頭は良くないかもしれないけど……料理なら得意だよ」
ひろし「それは人間になって結婚してくれと言っているのか」
つかさ「え……えっと、そんな大袈裟な事じゃなくて……え……う、うん……」
そんなつもりじゃなかった……でも、私の言っている事はそれと同じ事だった……。
ひろし「そんな事が出来ると思うのか……」
つかさ「出来るよ、けいこさんと竜太さんがそうだった様に」
ひろし「そして……彼女は牢獄の中……僕らと一緒になった人はみんな不幸になる、そんな辛い目につかさを遭わせたくない」
つかさ「私は……ひろしさんと一緒に居られればいいよ、けいこさんみたいな壮大な思想なんかないから……逮捕されるなんてないと思う」
ひろし「……そうだな、母星とはい言っても何処に、どんな環境かも分らない……住みなれた地球の方が良いのかもしれない……つかさとなら……」
その後のひろしさんは何も言わず景色を見ながら考え込んでいた。もうこれ以上言っても混乱するだけかもしれない。私も景色を見ながら彼の答えを待った。


890 :つかさの旅の終わり 66/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:07:13.88 ID:O1mi2Otc0
 神社を下りると、皆が神社の入り口で待っていた。
みゆき「い、いかがでしたか……」
心配そうな顔だった。
こなた「みゆきさん、つかさのあんな喜んでいる顔を見たら聞くまでもないよ」
私の顔を見ながら、ニヤニヤした顔だった。
みゆき「そ、そうですね……これで安心して帰ることが出来ます」
みゆきさんは私にキャリーバックを私に渡した。狐になっためぐみさんが入っている。
私は辺りを見回した。
つかさ「たかしさんは……どうしたの」
こなた「途中で帰ったよ、そういや、ひろしはどうしたの、一緒じゃないの?」
つかさ「用事があるって、神社で別れた」
こなた「そうなんだ……さて、何時までも喜んでいられない、これからが本番だよ、つかさ……」
つかさ「分っているよ」
こなた「それじゃ、帰ろうか……」
私は皆を車に乗せた。
みゆきさんを駅で降ろし、買い物をしてから家に帰った。

 こなた・つかさ「ただいま〜」
玄関に入ると私はキャリーバックを開けた。中からめぐみさんが飛び出して居間に走って行った。こなちゃんも居間に向かった。私はキャリーバックを片付けてから
居間に向かった。
居間に入るとこなちゃんは早速ノートパソコンを開き充電を始めた。めぐみさんは狐の姿のままテーブルの上に乗り、その上に置いてあったこっくりさんの紙の上を
前足で叩いた。叩いた文字を頭の中で並べた。
『お・つ・か・れ・さ・ま』
つかさ「お疲れ様、こなちゃん、めぐみさん」
こなた「はいはい、おつかれさん……早速だけどこれからの計画を話しておくよ、明日、めぐみさんは人間になって、警察に出頭する……そこからかがみの活躍に期待だけど、
    けいこさんの保釈手続きをする、その時多分面会も許されるから、つかさはけいこさんに帰るのか、残るのかを聞く……ここまでは合っているかな?」
つかさ「うん」
めぐみさんは紙を叩いた。
『はい』
こなた「OK……それから、私にその結果を報告、私は今日のデータとけいこさんのデータを合わせて、救助船に送信する……それでお稲荷さん達を収容……だよね」
つかさ「うん」
めぐみさんは紙を叩いた。
『はい』
こなた「よしよし、完璧だね……」
こなちゃんはノートパソコンを閉じようとした。
つかさ「ちょっと待って、まだデータ入れていないよ」
こなた「へ、もう全て入れたよ、めぐみさんも確認したよね?」
めぐみさんは紙を叩いた。
『はい』
つかさ「データを入れて、ひろしさんは帰るって……」
こなた「へ、何言って、こんな時に冗談は止めて……って、つかさ……」
つかさ「冗談じゃないよ……ひろしさんから直接聞いたから」
こなた「神社から出て来たときの笑顔は……あれは」
つかさ「ああしないと、ゆきちゃん、安心して帰ってくれないと思ったから……」
こなた「どうして……涙の一つも見せれば大抵の男は……」
つかさ「うんん、何故か彼の前では泣けなかったから……」
こなた「諦めちゃうの、良いの、それで良いの、本当に良いの」
ノートパソコンをテーブルに置くとこなちゃんは私に詰め寄った。
こなた「まだ間に合うよ、めぐみさんに呼んでもらおうよ、ね、出来るでしょ、めぐみさん」
めぐみさんは紙を叩いた。
『はい』
つかさ「ありがとう、こなちゃん、めぐみさん……もういいの」
こなた「もういいって……つかさ、私が今まで何も知らないと思っているでしょ、寝言で何度もひろしの名前を言っている所を聞いている、何度も泣いている所見ている」
つかさ「さすがこなちゃん、同居しているだけあって……隠しきれない……」
こなた「だったら、どうして別れるなんて……」
つかさ「再会したから、出来たから今はそれが嬉しい……それにね、救助船に乗る前にもう一度会う約束をしたから、その時に……最後のお願いをするつもり……
    私だって好きになったからには、そう簡単には諦めない」
こなちゃんは私の目を暫く見て、私の決意を感じてくれたのか、ノートパソコンを取ってキーボードを叩き始めた。
こなた「分ったよ……データを入れる……」
その時、急に目頭が熱くなった。涙が出てきた……今頃になって……こんなに簡単に出るならひろしさんの居る時に出てくれれば良かったのに……


891 :つかさの旅の終わり 67/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:08:30.12 ID:O1mi2Otc0
 次の日、私は出勤する途中、警察署の近くに車を止めた。そして人気の居ない場所を探してキャリーバックを開けた。狐姿のめぐみさんが出てきた。
めぐみさんは辺りをキョロキョロと見回すと、私の目の前で人間に変身した。
つかさ「本当に出頭しちゃうの……」
めぐみ「これしか彼女から意思を聞くことは出来ない」
つかさ「めぐみさんなら、けいこさんがどっちを選ぶか分ると思うけど……」
めぐみ「聞く必要はないと言うのですか、それならば、貴女ならどっちを選ぶと思いますか」
そう言われると……
つかさ「きっと残ると思う、竜太さんの居た地球を離れるなんて」
めぐみさんは微笑んだ。
めぐみ「私と意見が分かれましたね、だから私は出頭しなければならない、憶測で判断すると後悔します、本人から直接意思を聞くしかない……」
って言う事は、めぐみさんは帰ると思っているって……直接聞くしかないみたい。
つかさ「うん……」
めぐみ「短い間でしたが、貴女と会えて良かった、おそらくこれが貴女と会える最後の機会となるでしょう」
つかさ「こ、こちらこそ、何も出来ませんでした」
私とめぐみさんは握手をした。
めぐみ「最後にはなりますが、私個人の意見を言わせて貰えば、ひろしは地球に残るべきだと思う……成功を祈っています」
つかさ「ありがとう……」
めぐみ「私が出頭して、暫くしてから車を出すのが良いでしょう」
つかさ「うん、そうします」
めぐみさんは警察署の方を向くと一直線に警察署に歩き出した。私は彼女が警察著の入り口に入るまで見送った。
いくらこの後、救助されるとは言っても自ら捕まりに行くなんて……そういえばけいこさんんはめぐみさんを親友って言っていた。私はこなちゃんやゆきちゃんに
めぐみさんと同じ事が出来るのかな……三万年も生きてこられたのだから二人の絆は私の考える以上に深いのかもしれない。
めぐみさんの言う通り、暫くしてから車を走らせてお店に向かった。


892 :つかさの旅の終わり 68/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:10:13.86 ID:O1mi2Otc0
 出勤すると私はかえでさんに事務室へ来るように言われた。
つかさ「失礼します」
事務室に入るとかえでさんが腕を組んで難しそうな顔をしていた。かえでさんの隣にはこなちゃんが居た。相変わらず自分のノートパソコンをいじっていた。
こなちゃんの職業が何だか分らなくなってしまうくらいだった。
かえで「早速だけど本題にはいらせてもらうわ、私達の一致した意見よ、我々、レストランかえではワールドホテルと契約したのであって貿易会社と契約した訳ではない、
    従って、店の明け渡しには応じられない……契約は破棄するものとする」
かえでさんは溜め息を付いた。
かえで「交渉は決裂、神社の抗議も聞き入れてもらえなかった、それでもこの店以外の土地はみんな買収済み、何れはどこかに移転しなかればならない……」
つかさ「移転は良いとして……神社の件は何とかならないの?」
かえでさんとこなちゃんは首を横に振った。
かえで「反対署名……と言いたい所だけど、既に神社はワールドホテルが買ってしまっていて、それを今の会社が引き継いでしまっている……もうどうする事も出来ない」
こなた「法律的にはどうする事も出来ないね、あ、これはかがみの意見だから……」
かえで「残る道は神社を貿易会社から買うしかないけど……一個人の資産でどうこうできるレベルではないわ……」
こなちゃんはノートパソコンを閉じた。
こなた「こう考えるとけいこさんがどれほど私達に譲歩してきたか分るね……ほんと残念だね、カリスマ会長と言われただけの事はある」
淡々と話すこなちゃん。その淡々さが感情を込めるよりも残念さを感じてしまうのは不思議なもの。
かえで「だめなものはだめ、そう割り切るしかない、へたに反抗すればけいこさんの様になってしまいそうだわ……」
私も何を言って良いのか分らない。
こなた「お金で解決できるのなら、方法が無い訳でもないけど……」
つかさ「どうするの?」
こなた「うんん、何でもない、聞き流して……」
珍しくこなちゃんが動揺している。何だろう……
かえで「仮定で言っても始まらないわ、現実的に今は、新たな移転先を探さないといけない」
つかさ「私、お稲荷さんの事で頭がいっぱい……あと一週間で全てが終わる……それから考えても良いかな?」
かえでさんは私の顔を見ると思い出した様に驚いた。
かえで「あっ、そうだったわね、つかさは個人的にも、公でも大きな問題を抱えているわね……私も狐が人間になる姿を見て初めてこの問題の大きさが分った……」
更に思い出したみたい、かえでさんは驚いた。
かえで「そ、そういえば今日は木村さんが出頭する日じゃないの、こんな所に居て大丈夫なのか」
こなた「めぐみさんの目的はつかさとけいこさんとを会わす事、後はかがみ達に任せるしかないよ、連絡待ちの状態」
かえで「法律の事になると任せるしかないみたいね……分ったわ、移転は私達に任せて、つかさと泉さんは悔いの残らないように最善を尽くしなさい」
つかさ・こなた「はい」
かえで「話しは終わりよ、今日も仕事お願いね」
つかさ・こなた「はい」
こなちゃんは事務室を出て行った。私もその後に続いた。
かえで「つかさ、ちょっと待って」
つかさ「何ですか?」
かえでさんは妙に改まっていた。
かえで「つかさもあの神社にはいろいろ想う所があるわよね」
ある。いっぱいある。まなちゃん、ひろしさん、たかしさん……神社から見える景色……皆と登った事もある。
かえで「もし、あの神社が壊されたらどうする」
つかさ「どうするって言われても……成る様にしかならないから……」
かえで「私は悔しい、神社の一つも守れないなんて、私にもお稲荷さんのような力と知恵があれば」
両手を強く握って拳を今にも机に叩きそうな状態になった。
つかさ「力を使ってどうするの、憎んだり、憎まれたり、その繰り返し、もう沢山……それで結局一番大事なものを失くしちゃうのだから」
かえでさんは両手を広げて力を抜いた。
かえで「……今の、一介のパテシエの言葉にしてはあまりに重い言葉ね……私一人には勿体無いないわ……私は軽率だった……取り消す」
かでさんは言葉に詰まったように途切れ途切れに話した。
つかさ「……お稲荷さんが帰る日、私は彼と逢う約束をしました……その時、私は彼を引き止めるつもり……その場所があの神社……」
かえで「そう……彼がどちらを選んでも、つかさにとって、忘れられない場所になりそうね」
つかさ「今でも私にとって忘れられない場所、あの神社、かえでさんと同じです……」
かえで「ごめん……引き止めてしまったわね、今日もお願いします」
つかさ「失礼します……」
私は事務室を出た。こなちゃんはテーブルを拭いていたけど私の表情を見ると寄ってきた。
こなた「どうしたの、かえでさんに怒られた?」
つかさ「分らないけど、怒ったのは私の方だったかも……後で謝らなくちゃ」
こなた「へ…?」
こなちゃんは腕を組んで考え込んでしまった。
つかさ「さて、仕事、仕事」


893 :つかさの旅の終わり 69/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:11:29.76 ID:O1mi2Otc0
 夕方頃、めぐみさんの出頭の報道は全国に流された。めぐみさんは容疑の全てを認めて、けいこさんの容疑まで自分がしたと自供した。それに、逃げたのは証拠隠滅
をする為だったと……後で分った事だったけど、私達とお稲荷さん達の会合の議事録をめぐみさんは記録していた。それを逃げる時に持ち去ったみたい。
こなちゃんに渡したUSBメモリにその議事録が入っていた
警察はそれを犯行の証拠だと思ったに違いない。
お姉ちゃんとみぐみさんは事前に出頭したら何をするのかを打ち合わせをしていたけど、そこまで罪を被る話はしていなかったとお姉ちゃんは言っていた。
きっとめぐみさんは、私とけいこさんを会わせようと全ての罪を被るつもりだったかもしれない。
お姉ちゃん達は、直ぐにけいこさんの保釈手続きに入った。それと同時に私をけいこさんの親戚として面会も申請した。私の親と竜太さんが遠い親戚だと分ったので
それを利用したみたい。“柊”がこんな所で役に立つとは思わなかった。
けいこさんの機転とお姉ちゃんの努力の甲斐あって、面会は三日後に実現した。



894 :つかさの旅の終わり 70/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:12:42.70 ID:O1mi2Otc0
かがみ「つかさ、面会室の会話は記録されているかもしれないから軽率な言動は慎むこと」
つかさ「う、うん……でも、私の目的は……」
かがみ「そうね、その辺りはけいこさんが考えそうだから、つかさはけいこさんの指示に従って話して」
何時に無くお姉ちゃんは私に言い聞かすように熱心に話している。その向こうで拘置所の係りの人と小林さんが話していた。
つかさ「小林さんはお稲荷さんの事知っているの?」
かがみ「知らないわ、彼は私と似て現実しか認めないタイプよ」
つかさ「そうなんだ……」
かがみ「まぁ、何時かは話さねばならない時がくるかも、特に、ひろしが残ると決まったらね、そうなればひろしは義理の弟になるのだからね」
つかさ「お、お姉ちゃん!」
私を見るとお姉ちゃんは微笑んだ。
かがみ「ふふ、まだそれを考えるのは早いかしら……あ、準備が出来たみたいよ」
お姉ちゃんは小林さんの所に行って何かを話した。暫くするとお姉ちゃんは私の方を向き私を呼んだ。
かがみ「面会時間は一時間よ、それまでに用事を済ませなさい」
つかさ「はい」
私は係りの人に案内されて個室の中に入った。よくドラマとかに出てくる面会室と同じような部屋、ガラスかな、アクリルかな、透明な壁で仕切られている。
その壁の前に椅子が置いてあった。私はその椅子に座った。しばらくすると仕切られた部屋の扉が開いてけいこさんが入ってきた。扉に警備員みたいな人が立って
けいこさんを監視しているみたいだった。とっても話し難い。どうやってめぐみさんの話しを伝えよう……
『つかささん、聞こえますか』
突然頭の中にけいこさんの声が飛び込んできた。私はけいこさんを見た。
『聞こえたのなら、久しぶりですけいこさん、と答えて下さい』
また頭の中に声が聞こえる。けいこさんの唇は動いていない。もしかして私の頭に直接話しかけてきているのかもしれない。
つかさ「久しぶりですけいこさん」
『つかささん、貴女は私が逮捕された事を怒っているとします、この後、私が言葉で話した事について、一切反応しないで俯いていて下さい』
けいこ「こんな事になって……さぞかし皆に嫌われたでしょうね」
私は頭の中の声の言う通り俯いた。
『かがみさんから事情は殆ど聞いています、、めぐみは母星と交信を試みていた、そのせいで人間の行動の把握を怠ってしまったのですね、一年前からこうなる動きは
 知っていました……まさかこのようなタイミングで実行されるとは思いませんでした……』
私はどうやって話せばいいのかな。
『それで良いです、その様に考えていれば私が、貴女の心を読み取ります』
けいこ「どうしたのですか、何故黙っているの、ただおが何か言ったのですか」
私は思った。けいこさんは救助船で帰るのですか、それとも残るのですか。
『私の取る行動は只一つ、救助船に乗って帰ります』
え、そ、そんな……めぐみさんの方が正しかった……
『帰る、帰っちゃうの、どうして……竜太さんの事はどうするの』
『私は竜太と約束をした……私達と共に生きると、柊けいことして彼との約束を果たすことは出来なくなった、母星に帰り、人類が私達と対等なレベルになるまで
 待つことにしました……それに、私の体は人間……それを待つにはあまりにも時間が少なすぎる、帰れば元の体に戻ることができます』
けいこ「つかさ、何か言いなさい、せっかく来てくれて黙っていては分りません」
約束、けいこさんは約束を守る為に帰っちゃうの……けいこさんは人間になってまで竜太さんと一緒になった。そこまで愛していたのに……元の体に戻って
地球に残る事だって出来るでしょ。
『一緒に居ることだけが愛ではないと私は思っています』
そんな事言わないで……それを言ったら、私はひろしさんをどうやって止めるの。引き止める方法が無くなっちゃう……
『つかささんが私と同じにする必要はありません、二人で決めれば良いではありませんか』
それじゃ、教えて、どうすればひろしさんを帰さなくて済むの。
『それは……』
頭の中から声は聞こえない。
どうしたの。教えて。聞こえているよね……ずるいよ……お稲荷さんでしょ、何でも知っているよね……
けいこ「ごめんなさい……」
けいこさんは口から私に言葉をかけた。これは周りを誤魔化す為の言葉じゃない。私にかけた言葉……
そんな方法は無いって事だよね。
けいこさんは頷いた。
つかさ「私も……ごめんなさい……」
『私の計画に参加してもらい、私達の失敗から貴方達に多大な損害を与えたのは償いのしようがありません……しかし、貴女に参加してもらったのは間違えではありませんでした、
 ありがとう、それと、私を引き止めてくれて嬉しかった』
私は立ち上がった。
つかさ「ここに居ても辛いだけだら……帰りますね」
けいこ「さようなら……お元気で」
けいこさんが立ち上がると監視員が扉を開けた。けいこさんは暗い扉の外に出て行った。


895 :つかさの旅の終わり 71/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:14:12.51 ID:O1mi2Otc0
 けいこさんの最後の言葉に返事ができなかった「さようなら」が言えなかった。
面会室を出るとお姉ちゃんが待っていた。小林さんはそこには居なかった。
かがみ「どうだった、けいこさんのテレパシー、私も最初は驚いたわよ……なんでも数メートルしか届かないって……ん、つかさ?」
つかさ「私って……最低かも……お姉ちゃん……」
かがみ「あんたが一人旅からかえって来た時、泣いたわね、その時とまったく同じように見えるわよ……今になってその涙の意味が分ったわ……なんてスケールなの、
    もう私なんか及びもつかないほど成長したわね、でも、まだ泣くのは早いわ……私に飛びついて泣こうとしたでしょ?」
お姉ちゃんは笑った。
つかさ「早い?」
かがみ「実はね、けいこさんにはつかさのしようとしていた託は私が殆ど話してしまったわ……返事も聞いて既にこなたに伝えてある……それでも彼女はつかさに会いたいと
    言ってね、今回の面会が実現したのよ……」
私は自分の事ばかり言って、けいこさんの話しを全く聞かなかった。そればかりかお別れの挨拶もしていない。
かがみ「つかさが出逢った真奈美さんから始まったつかさの旅……いろいろな事があったわ、私達も巻き込まれた、つかさの旅はまだ終わっていないわよ
    お稲荷さん達……お稲荷さんは私達が名付けた名前、本当の名は知らないけど、彼女達が帰るまでつかさの旅は終わらない、まだこれから大事な仕事が残っているでしょ、
    こなた一人に任せるのは荷が重過ぎるわよ」
つかさ「……そ、そうだね、泣いていられないね……けいこさんを見送らないと」
かがみ「そうそう、そうでなくちゃ……私の出来る事はここまで、あとは任せたわよ」
つかさ「うん、ありがとう……」

つかさ「ただいま〜」
あれ、おかしい、部屋の中が真っ暗。もうこなちゃんも帰ってきていい時間なのに。私は電灯のスイッチを入れた。
つかさ「うゎ〜!!」
居間の中央にこなちゃんが座っていた。
つかさ「こ、こなちゃん、居るなら電気くらいつけようよ」
こなた「あ、つかさ、おかえり……」
私が部屋に入ってきたのに気付いていなかった様子だった。それに顔色がすこし悪い。
つかさ「ど、どうしたの、パソコンに夢中になるのは良いけど、少し体の事も考えないと病気になっちゃうよ」
こなた「べ、別に何でもないよ、ちょっと仮眠していただけだから」
こなちゃんは立ち上がってテーブルの上に置いてあったノートパソコンを取った。
こなた「かがみから聞いたと思うけど、もうけいこさんのデータは入れてあるから」
こなちゃんは居間を出ようとした。
つかさ「あ、こなちゃん、調子悪いならお稲荷さんのお薬飲んでみる、まだ少し残っているけど」
こなた「難病も治す薬なんて大袈裟さよ、なんでもないよ、少し寝ればよくなるから……おやすみ」
つかさ「おやすみなさい」
こなちゃんは立ち止まった。
こなた「そうだった、かがみからちょっと前に連絡があったよ、けいこさんの保釈は一週間後だって……」
欠伸をしながらこなちゃんは居間を出た。
救助される日は四日後。間に合わない。
その時、気が付いた。
けいこさんはもう知っていた。だからけいこさんは別れの言葉を……それに引き換え私はただ感情をぶつけただけ……焦っている。
未練がましい……彼はそう言ったっけ、その通りかもしれない。あと四日……この四日が凄く永く感じてしまいそう……


896 :つかさの旅の終わり 72/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:15:31.13 ID:O1mi2Otc0
かえで「泉さん、どう言う事なの、貴女らしくもない……」
珍しくこなちゃんを叱っているかえでさんだった。ワインを出すタイミングが遅すぎたらしく、お客様を怒られてしまった。
こなちゃんは言い訳をせず俯いていた。普段のこなちゃんなら冗談を言って誤魔化すのに。それで余計に叱られる。どうしたのかな……
かえでさんのお説教が終わると私はこなちゃんに寄った。
つかさ「どうしたの、お客さんの駆け引きをまちがえちゃった?」
こなた「はは、今日は調子悪いね……どうしたのかな……」
苦笑いをいていた。
つかさ「そういえば昨日もお客さんから怒られていたよね……それでかえでさんは怒ったと思うよ、今までこんな事なかったのに……何か悩みでもあるの?」
こなた「何でもないって……さて、今度こそ」
こなちゃんは私にガッツポーズをすると小走りにカウンターに向かった。なんかおかしい。いつものこなちゃんじゃない。
明日はお稲荷さんが帰る日。そして私がひろしさんに会う日……逢える最後の日になるのか、それとも……だめだめ、今はそんな事考えちゃ。
こなちゃんはお姉ちゃんやゆきちゃんよりも私とひろしさんの事を心配してくれている感じがする。それは嬉しいけど、そのために仕事に支障が出たとしたら……
泣いても笑っても明日、全てが終わる。私の旅が終わる。

 私の就業時間が終わりそうになった頃だった。片付けをしているとかえでさんが近づいてきた。
かえで「つかさも気付いていると思うけど、泉さん、彼女、何か隠しているわね」
私は作業しながら話した。
つかさ「隠しているかどうかは分らないけど、様子がおかしいのは分ります」
かえで「この前、移転の話しをしている時、泉さんは何かを言いかけて止めたのを覚えている?」
つかさ「言いかけて……お金で解決できるなら……って?」
『パチン』
かえでさんは指を弾いた。
かえで「それよ、それ、まさか何か無茶な事をしようとしようとして……」
私は濡れた手をタオルで拭いてかえでさんの方を向いた。
つかさ「こなちゃんは悪戯好きで、いろいろするけど……お金儲けには関心ないし、得意じゃないから……」
かえで「それなら良いけどね、らしくない失敗を続けてしているし、思い詰めている感じも見受けられる……どっちが今生の別れの瀬戸際か分らなくなる程よ」
つかさ「私は……」
私の顔を見たかえでさんは自分の口を手で塞いだ。
かえで「ご、ゴメン、比喩の対象を間違えたわ、思い出させてしまった」
つかさ「うんん、その日は明日だから……それより明日、休暇を……」
かえで「休暇はもう前から申請しているじゃない、気にするな、それより悔いの残らないように、出来れば彼のハートを奪いなさいよ……いや、もうとっくに奪っているわよね、
    やだやだ、見ていて歯がゆくて仕方がないわ……結果は明後日……楽しみにしているわよ」
かえでさんは私の両肩を力強く叩いて、事務所に入って行った。
お姉ちゃんと小林さんは婚約するに至っているのに、私とひろしさんは……お互いに告白しただけ。歯がゆいよね、
そういえばお稲荷さんは三人残るって言っていたっけ、あの時、その人達に会っておけば良かった。何故残るって決めたのか知りたい。
誰か好きな人が居るのかな。やり残した事があるのかな。それとも、この地球が気に入ったのかな……
ふふ、私って、だから鈍いって言われちゃうのかもしれない。思い付くのも、行動も遅すぎるよね……
もう過ぎた事を言っても始まらない。
さて、もう片付けも終わったし、買い物して帰ろう、明日は彼に五目稲荷寿司を食べさせる。最後になるかもしれない。この前のデザートよりも心を込めて作る。
残りたいと心変わりするくらいのを作ってあげる。私の持てる技術と心を全て注ぎ込む。それでも帰るって言ったならら諦めるよ。


897 :つかさの旅の終わり 73/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:17:19.69 ID:O1mi2Otc0
 帰ってから直ぐに稲荷寿司を作り始めた。
作るのに夢中になっていて気が付かなかった。こなちゃんは早番だからとっくに帰ってきている。いつもなら、出来上がった料理をつまみ食いしにやってくるのに
自分の部屋に入ったきり出てこない。かえでさんの言葉が気なった。
『コンコン』
私はこなちゃんの部屋のドアをノックした。返事が聞こえない。私はドアを開けた。
つかさ「こなちゃん……五目稲荷作ったのだけど食べる?」
こなちゃんは自分の机の上にノートパソコンを広げて操作していた。こなちゃんの動作が止まった。
こなた「……稲荷寿司……もしかして、明日の準備をしているの」
つかさ「そうだよ、最後になるかもしれないから、ありったけの愛情をね」
こなちゃんは私から稲荷寿司を受け取ると口の中に放り込んだ。
こなた「……こりゃ、美味しい……もっと食べたいな」
つかさ「いいよ、沢山作ったから、少し持ってくるね」
良かった。ただパソコンに夢中になっていただけだったみたい。私はこなちゃんの部屋を出ようとした。
こなた「待って!!」
叫びににも似た声だった。私は部屋を出るのを止めて振り返った。こなちゃんは今にも泣きそうな顔をしていた。
つかさ「どうしたの、急に大声なんか出して」
こなた「……何度やってもダメだった、何とかしないといけない、それは分ってる、分っているけど……つかさ、どうにもならない事ってあるよね」
つかさ「何を言っているの?」
こなた「私……頑張ったよ、昨日は徹夜でやってみた、でもね……ダメだった」
つかさ「ダメだったって、何、何度もって……こなちゃん、ちゃんと言わないと分らないよ」
こなちゃんは両手を握って悔しそうに答えた。
こなた「……救助船にデータを送ることが出来ない……」
つかさ「出来ないって、どうしたの、操作を忘れちゃったの、めぐみさんから完璧だって言われたんでしょ?」
こなた「……忘れていないよ……」
つかさ「パソコンが壊れたとか、ケーブルが繋がっていないとか……そんなんじゃないの」
こなた「壊れてもいないし、接続も正常……」
つかさ「こ、こなちゃん、めぐみさんに会うなんて当分出来そうにないよ」
こなた「そうだよ、だからダメなんだよ」
つかさ「それなら、お姉ちゃんに言って、会わせてもらおう、救助船には少し待ってもらう事になるけど」
私は携帯電話を取り出した。
こなた「……それじゃ間に合わないんだよ、」
つかさ「めぐみさんは、あわてないでゆっくりすれば良いって言っていたよ」
こなた「めぐみさんが出頭する日、救助船から連絡がってね、なんでも、母星の復興が思うようにいかないみたいで、滞在時間は明日の昼まで……になった」
つかさ「え……」
898 :つかさの旅の終わり 74/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:18:18.28 ID:O1mi2Otc0
携帯電話をかけるのを止めた。
こなた「ふふ、なんてグットタイミング、NASAがコンピュータのアルゴリズムを変更した……さすがだね、彼らはハッキングされているのに気が付いたみたい、
    めぐみさんもそれは予想して、プログラムを10段階も用意してくれた……だけどね、さっき、最後のプログラムを試したけど……ダメだったよ」
言っている意味はよく分らないけど、深刻な事態なのは理解できた。
つかさ「そ、そうだ、ひろしさん、ひろしさんに解決してもらおう、明日の朝一番には会えるから、なんとかしてもらえるよ」
こなた「……それもダメ、コンピュータの世界は人間が作ったルールで動いているから……人間をずっと調べていためぐみさんだから出来た事なんだよ……
    いくらひろしさんでも、めぐみさん程人間と接していないから、セキュリティを破るのはそんな短時間じゃ無理だよ……」
つかさ「やってみないと分らないよ……」
こなちゃんはゆっくり立ち上がった。
こなた「つかさ、これで良いよ、ひろしは帰らなくて済むじゃん、つかさが望んだ通りになった、一件落着だよ」
違う、何の解決にもならない。それは私でも分る。
つかさ「けいこさんとめぐみさん……有罪になれば、お稲荷さん達はどんな事をしても助けようとするよ、私達の知らない禁呪だって使うかもしれない、そうなったら、
    誰も止められない、お稲荷さんと人間の争いが始まるよ……まなちゃんみたいな犠牲者が沢山出る……もうそんなのは嫌だよ……」
こなた「そんな……大袈裟な……」
つかさ「うんん、私には分る、お稲荷さん達の絆の深さ、最後の会合の時のたかしさんを見たでしょ……」
こなちゃんは後ずさりし始めた。
こなた「ごめん……つかさ、ごめんよ、私はあの時、断るべきだった、中途半端な知識で知ったかぶりをして……お気楽だったよ、事の重大さを全く理解していよね、
    その挙句に……はは、ははは、学生時代のノリで今までやってきたけど、流石にもう通用しない、十七人のお稲荷さんを帰すことが出来ないは私のせい……
    お稲荷さんに殺されちゃうかな……木村さんにも申し訳できないよ……」
こなちゃんは私の目の前でしゃがみ込んでしまった。床に雫が幾つか落ちた。顔は見えないけど……肩を震わせている。泣いているのが分った。
こんなこなちゃんを見たのは初めてだった。失敗してもはぐらかしていたもんね。
こなちゃんは気楽にこの仕事を請けない。そんな気持ちだったら涙なんか出さない。
つかさ「あの時、めぐみさんの代わりになれたのはこなちゃんしか居ないよ、こなちゃんがダメならゆきちゃんだって、お姉ちゃんだって……他のお稲荷さんだって
    ダメだったよ……私なんか簡単なインターネット検索とカロリー計算しか出来ないから……」
こなた「そんな気休め止めて……もうおしまいだよ……」
こなちゃんは両手で頭を押さえて首を横に何度も振っている。
つかさ「こなちゃんは凄いと思うよ、だって、ホール長になったでしょ、かえでさんが認めたのだから自身もって良いよ、それに、こなちゃんはお客さんとゲームをしている
    みたいにして対応していたよね、それも凄いよ、私なんか真似できない」
こなた「……つかさに褒められも……何も変わらないよ」
そうだよね、私に褒められてもしょうがなよね。でもね、今のは褒めたわけじゃない。思った通りに言っただけだから。
つかさ「こなちゃん、まだゲームオーバーになっていないよ、ゲームだって人間の作ったルールで動いているでしょ、同じだよ……いつものこなちゃんなら、
    あっと言う間にクリアしちゃうでしょ……私も手伝うから……もう一度最初からやってみようよ、何か手違いがあるかもしれないよ」
こなた「ゲーム……」
つかさ「うん……」
こなちゃんは立ち上がった。そして、ノートパソコンを立ち上げて、USBメモリーを差し込んだ。
こなた「……やってみる、ゲームオーバーはまだ早いよね……つかさ、ケーブルを取り替えてくれるかな、最初から、1段階目からもう一度やってみよう」
つかさ「うん……手順を紙に書いておこうよ、そうすれば間違えないよ」
こなた「そうだね」
私はケーブルとか電源周りを確認した。こなちゃんは最初から順番にデータを送る準備をした。


899 :つかさの旅の終わり 75/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:19:24.58 ID:O1mi2Otc0
こなた「……だめだ、やっぱりダメだよ、ハッキング出来ない……」
最初から10段階まで通して試しても成功しなかった。こなちゃんは手順を変更してみた。手順以外の方法もいろいろ試してみたけど手ごたえはなかった。
こなた「もうそろそろ明るくなってくる……つかさ、ゲームオーバーだよ、私には無理ゲーだったみたい……」
気付くともう午前三時……もうそろそろ明るくなってしまう。
つかさ「まだお昼まで時間はあるよ!!」
私は立ち上がり部屋を出た。
こなた「ちょ、何処行くの」
こなちゃんは私に付いてきた。私は台所から非常用の懐中電灯を取り出した。
つかさ「もともとハッキングなんて良くない事だかから失敗するの」
こなた「……それはそうだけど……それをどうするのさ?」
つかさ「外に出て直接救助船に合図を送ってみる、救助船は日本の上空に居るって言っていたよね」
こなた「……う、うん、確かにそう言った、つかさ、悪いけどそんな事しても、NASAの電波望遠鏡の電波を使ってやっと送信出来る、そんな小さな光じゃ……」
つかさ「やってみなきゃ分らないよ」
私は家を飛び出した。そして、玄関を少し出た所で懐中電灯をつけて真上の空に光を向けて円を描くように回した。
つかさ「気付いて……お願い……データはここにあるから……お願い……」
お姉ちゃんと見た時と同じ。澄み切った夜空……空は懐中電灯の光を飲み込んでしまっているみたいに少しも変わらない。
あの時見た流れ星の願いを変える。救助船が気付きますように……
懐中電灯を持っている手をこなちゃんは掴んで下ろした。こなちゃんは首を横に振った。
こなた「分ったよ……もうそんな無駄な事やめて、もう一度やるから……いくら近いって言ってもそんな光が直接届く訳がない……え……」
こなちゃんの動きが止まった。
つかさ「こなちゃん?」
こなた「直接……近い……そ、そうか、この手があった……」
つかさ「え、な、何?」
こなちゃんは手を離した。
こなた「やってみるしかない、つかさ、もう一度やってみる、でも、今までは違う方法で」
つかさ「うん?」
私達は家に入りこなちゃんの部屋に戻った。こなちゃんはノートパソコンの前に座った。さっきまでのこなちゃんと表情がちがって目が輝いている。
こなた「つかさ、聞いて、NASAの施設を使ったのは、木星のガニメデの基地まで信号を送るため……わざわざそんな事をしていたのはね、あの基地に超光速通信が出来る
    装置があるから、だから短時間で何光年、何百光年も離れた母星や救助船と連絡が出来た……でもね、今、救助船はこの地球のすぐ近く、この日本の真上にある。
    それならガニメデの基地の施設なんか使わなくて良い、NASAの施設も要らない……人工衛星と通信する日本の施設を利用すれば……
    直接救助船と連絡できるかもしれない……」
え、え、言っている事がよく分らない……こなちゃんがゆきちゃんに見えてきた。
こなた「つかさが教えてくれたヒントだよ、もうこれに懸けるしかない……つかさ、私のディスクトップパソコンを立ち上げて、日本の……日本じゃなくても良いよ、
    人工衛星と通信する施設を検索して……私はちょっとプログラムを手直しするから」
意味は分らないけど……ディスクトップパソコンを立ち上げて施設を検索してみた。
つかさ「……えっと、気象庁のアンテナ……それから……種子島にもあるみたいだけど……」
こなた「う〜ん、気象庁の施設にしよう……」
こなちゃんの言われた通りに調べてこなちゃんに教えた。それをこなちゃんがノートパソコンに入力していった。

 朝日が窓から射し込んできた頃……
こなた「つかさ、やってみるよ」
私は頷いた。
こなちゃんはキーボードを叩いた。こなちゃんはディスプレーをじっと見ていた。私はそのこなちゃんをじっと見て祈った……成功しますように……
『ピピ…ピー』
ノートパソコンが鳴り出した。
こなた「や、やった、成功した、1段階でハッキング成功した」
つかさ「やったー、良かったね、こなちゃん」
こなた「まだまだ、これからアンテナを救助船に向けないといけないから……もう少し、もう少し調べてもらってもいい」
つかさ「うん、良いよ」
太陽は待ってくれない……もう約束の時間は過ぎていた……だけど、これで失敗したらなにもかも水の泡……私はこなちゃんの手伝いに集中した。


900 :つかさの旅の終わり 76/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:20:45.90 ID:O1mi2Otc0
こなた「つかさ、このエンターキーを押せばデータを救助船に送ることが出来る……つかさ、押すよ、良いね?」
つかさ「うん……」
こなた「それじゃ、急いで神社に行って……もう私一人で大丈夫だから……ひろしに、彼に逢って来なよ……ギリギリまで待ってあげるから」
時計を見るともうお昼まで30分を切っていた。
つかさ「車を使って、神社の階段を登って……もう、間に合わないよ……」
こなた「早く、まだゲームオーバーにしたくないから、つかさが神社に行けば私のゲームはクリアする、間に合わなくても行ってよ……さぁ、早く!!」
つかさ「分った、ありがとう、こなちゃん、行って来る」

こなちゃんに押されるように私は家を飛び出し車に乗った。
稲荷寿司を積むのを忘れた……だけど、もう戻っている時間はない。エンジンをかけて車を走らせた。
神社に着いてもひろしさんと話せる時間は何分もないかもしれない。
まなちゃんの時もそうだった。たかしさんの時も……そしてさっきのこなちゃんの時も……私は何も出来なかった。ちょっと手伝いが出来ただけ。
手伝いも出来たかどうかも分らない。けいこさんにだってちゃんとしたお話ができなかった。
お稲荷さんが帰っても私達には解決しなければ問題がある。私にはどうする事も出来ない。
だから、せめて……せめて、最後のお別れだけは言わせて……

階段を上がる度に身体が重くなる。ひろしさんと別れてから殆ど登っていないせいかもしれない。息が切れる。いつもならとっくに頂上に着いているいるのに。
気ばかりが焦って身体が付いていかない。
階段を八割ほど登った時だった。神社真上に浮かんでいる雲が虹色に光り始めた……それと同時に町内のチャイムが鳴るのが聞こえた。
腕時計を見た。正午をさしている。もう時間……急がないと。
そう思っているのもつかの間、虹色の雲から光が頂上に差し込んでいる。まさか、あの光の下にひろしさんが……帰っちゃう。だめだよ。まだ、何も言っていないのに。
もう少し、もう少し待って……

頂上に着いた瞬間だった。光は雲に吸い込まれるように引いていく……そして、虹色に光っていた雲は普通の雲にもどってしまった。
頂上には……誰も居なかった。辺りは静まり返っている。私の荒い呼吸だけが響いていいた。
つかさ「はぁ、はぁ、はぁ……う、嘘でしょ……帰っちゃったの……ど、どうして……」
引き止めることも、お別れを言う事も、稲荷寿司を食べさす事も出来なかった……
私は空を見上げた。さっきま虹色に光っていた雲は形を変えて小さくなっている。救助船からここが見えているかもしれない。私は無意識に手を振っていた。
見えていないかもしれないけど……私が『さようなら』と叫ぼうとした時だった。
森の奥から人影が現れた。
「つかささん、何故……来なかったのですか」
声のする方を向くとゆきちゃんだった。悲しい目で私を見ていた。手には携帯電話を強く握り締めていた。
みゆき「連絡を取ろうとしても、ひろしさんは止めるように何度も嗜まれました、何か事情があるに違いないって……つかささん、その事情はなんですか、
    最後の別れに遅れまでしなければならい事情なんてあるのですか……」
私は首を横に振った。
みゆき「それでしたら、何故ですか!!」
珍しくゆきちゃんが怒鳴った。
こなちゃんを手伝って遅れた……そんなの言ったって理由にならない。あるのは遅れたと言う事実だけ……
また森の奥から人影が現れた……そこには小林さんの姿があった。どうしてここに小林さんが……ま、まさか小林さんは……
みゆき「この神社には母星に帰る殆どの人が来ました……小林さんは見送りに来ました……小林さんは呪いの解けたばかりのかがみさんを護衛するために
    ひろしさんに頼まれてかがみさんの側に居るようになって……好きになったそうです」
小林さんは地球に残る三人の内の一人だった……お姉ちゃんはそれを知らない。
私にはややこしい人を好きになったとか言っていたくせに……
さすがお姉ちゃん、私とは違うよ。小林さんの心をしっかり掴んでいるね。
つかさ「……ありがとう小林さん、お姉ちゃんの為に残ってくれて……」
小林さんは何も言わず階段を下りていった。私はまた空を見上げた。
つかさ「ゆきちゃん、私が間に合ったら、ひろしさんは残ってくれたと思う?」
みゆき「それは……分りません……」
つかさ「私は分るよ、来ても結果は同じだった、でもそう思ったから遅れた訳じゃないよ……私達はもう既に別れているから……私がちょっと未練を出しちゃっただけ……」
ちょっとどころじゃなかった。舞い上がっていただけ。けいこさんから話しを聞いた時、夢を見てしまった。それだけの事。
みゆき「……先ほどはすみませんでした、怒鳴ってしまって……」
つかさ「うんん」
私は空を見上げたまま答えた。ゆきちゃんは私を見守るようにずっと私を見ていた。


901 :つかさの旅の終わり 77/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:22:47.46 ID:O1mi2Otc0
 どの位時間が経ったか……
みゆき「……今頃、けいこさんと木村さんが消えて大騒動になっているでしょう、私は後始末をしなければなりません……面会をしたつかささんにも
    何らかの調査が来るかもしれません、小林さんもそれを心配して先に帰りました」
つかさ「大丈夫だよ、私とけいこさんは親戚って事になっているから、実際も遠い親戚みたいだしね」
みゆき「そうでしたね……遺産相続の権限もありませんし、執拗な調査はしないでしょう……」
ゆきちゃんは後始末をするって言ったのに一向に私から離れようとはしなかった。私は空を見るのを止めてゆきちゃんを見た。
つかさ「どうしたの?」
みゆき「あ、あの、大丈夫ですか、お一人になられますが……」
つかさ「まさか、ゆきちゃん、私が自殺するとでも思っているの」
みゆき「え、い、いえ、そのような事は……」
ゆきちゃんは慌てて否定した。その慌てようからすると図星だったみたい。
つかさ「そんな事をしたらかえでさんに怒られちゃうよ、この神社は壊されちゃうでしょ……もう少しこの景色を焼き付けておきたいから……」
みゆき「そうですか、私はそのまま帰ります」
ゆきちゃんはお辞儀をした。
つかさ「またね……」
ゆきちゃんは何度も振り返りながら階段を下りていった。

 また私一人になった。さっきまであんなに静かだったのに蝉が鳴き始めた。でも真夏のような勢いはない。もう空は見上げても意味はないよね。
さて、ゆきちゃんに言った通りに、この景色を目に焼き付けるかな。私は階段の所から町並みを眺めた。

思えばこの神社に最初に来たのも一人だった。最後も一人……そんなものなのかもしれない。
私の旅は終わったけど、お稲荷さんの旅は大変だよね、故郷の星を復興させないといけないのだから、辛くて厳しいに違いない。
三万年も続く災い……私には想像もつかない事だけど、お稲荷さんならきっと克服するよね……
お姉ちゃん、もう泣いても大丈夫だよね……もう、私の旅は終わったよね……

でも、何故か涙が出なかった。
そうそう、まだこれから解決しないといけない事があるから。
私の住んでいる町、お店、そして、この神社……なんとかしなきゃ……泣いてなんか居られない。私も少しは強くならないと。




902 :つかさの旅の終わり 78/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:23:56.60 ID:O1mi2Otc0
 日が沈み、街灯がちらほらつきはじめた。
もう私の記憶にしっかりとこの風景は焼き付けた。この神社がなくなっても私の心にこの神社はある。辻さん……この神社がなくなっても私達を見守ってください。
もうこれ以上居ると暗くなってしまう。帰ってこなちゃんに報告しよう。
階段を下りようとした。
辺りが急に明るくなった。振り向くと森の中が明るくなっている。この光は見覚えがある。ひろしさんが最後に私を送ってくれいるのかもしれない。
この光を頼りに階段を下りるかな……
あれ、何か違う。階段を踏んでも階段が光らない…………これはひろしさんの術じゃない……
私は振り返って再び森の中を見た。森の中の光は次第に弱くなっていく私は何歩か森の中に足を運んだ。森の奥から人影が見える。
それは紛れもなく……ひろしさん。私ったら、また夢を見ている。そう思った。その人はどんどん私に近づいてきた。そして、私の目の前で止まった。
ひろし「何故、来なかった……来たら何の躊躇もなく帰れたものを……」
この声は、ひろしさん……何て言ったら良いのか分らない。あれ……おかしいな、出ないはずの涙が……。
ひろし「データ送信のルートが大幅に変更されていた……めぐみがそう言っていた……遅れたのはそれが原因なのか……」
声が出ない……
つかさ「デ、データ……送らないと……帰れないでしょ……だから」
ひろし「めぐみはそこまで教えていないと言った、もちろん僕もそんな方法は知らない……つかさ達だけでやってのけたのか」
つかさ「うんん、こなちゃんが全部……」
ひろしさんは笑った。
ひろし「相変わらず控えめだな……そこが好きなんだけどな……どうだ、つかさ、僕と一緒に来ないか、確かに故郷は復興の途中だが、この地球よりいくらかはましだと思う、
    それに、僕達の知りうる知識、技術……それに、人間とは比較にならないほどの時間が得られる」
私は首を横に振った。
ひろし「……即答だな……つかさにはそんなものには興味ないか、それなら僕も即答しなければならない」
ひろしさんは片手を空に向けた。
『パチン』
指を鳴らした……
つかさ「な……なに?」
ひろし「船は帰した……僕はここ、地球に残る……人間のルールはそんなに知らないから迷惑をかけるかもしれい……それでも良いか?」
つかさ「人間の私もそんなに知らないから大丈夫……」
ひろし「一緒になる……こんなに簡単……だったのか……僕は二年間、何をしていたのか分らない……すまない……」
ひろしさんは頭を下げた。
つかさ「そうだよ、簡単だよ、難しい理論も知識も要らない、二年前も別れる必要なんかなかった、他のお稲荷さんだって……私がどれほど……どれほど……うぁ〜」
私は彼の胸に飛び込んで泣いた……それは別れの涙ではなく、再会の涙……
旅の終わり、お姉ちゃんの前で泣くはずだった。それが彼の前で泣いていた」
ひろしさんは私の肩を掴むと力を入れて私を離した。そして、指を空に向けた。虹色に輝く星があった。
ひろし「宇宙船が帰る、見送ってくれないか……」
つかさ「そ、そうだね、三万年間、地球に居たのだから……それに、けいこさんにさよならを言わないと」
私は虹色に輝く星に向かって両手をいっぱいに振った。
つかさ「さようなら〜元気でね〜けいこさん……たかしさん……めぐみさん……五郎さん……皆……さようなら〜」
虹色の星は私の声に答えるかの様に円を描いて回りだした。そして、さらに強く光ると地平線の彼方へ消えて行った。
つかさ「……また、会う日まで……」
ひろし「また、会う日まで……なんだそれは?」
つかさ「おまじない、これを言ったから、ひろしさんにまた会えた」
ひろし「おまじない……それが本当ならたいしたものだ」
私達は暫く夜空を眺めていた。


903 :つかさの旅の終わり 79/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:24:56.93 ID:O1mi2Otc0
つかさ「あ、そうそう、家に五目稲荷寿司があるから、食べていって」
ひろし「……それは美味そうだな」
つかさ「それじゃ、階段を下りて……あぁ、もう、暗くて道が見えない」
日はもうとっくに暮れていた。
ひろし「それなら……」
ひろしさんは両手で水を掬うような動作をした。すると手の平から光の玉が出てきた。懐中電灯くらいの明るさがありそう。
ひろし「これで下りよう」
つかさ「……私やこなちゃん達の前ならいいけど、他の人の前でそんな事したらダメだから……」
ひろし「そんなのは分っているよ、つかさしか居ないからやっただけ」
つかさ「本当?」
ひろし「本当だって、これでも人間として生活していた、そのくらいの常識は心得ている」
ひろしさんは片手を出した。
つかさ「それじゃ、信じる」
私も片手を出した。彼は私の手を握って先に歩き出した。私は引かれるように彼の後を付いていった。階段の近くに差し掛かった時だった。
私は足を何かに躓いて転びそうになった。彼は腕に力を入れて私を抱き寄せた。
ひろし「大丈夫?」
つかさ「う、うん……」
彼の顔が直ぐ近くに……あれ……この感じ……これって……き……す
キスだよね……この前は突然だったけど……今なら分る……こうゆう時って、彼に任せちゃった方が良いのか……な
考えている間もなく彼の顔がどんどん近づいてきた。恥かしい……私は目を閉じた……
あ、あれ……まだ来ない……
来るなら早く来て……


904 :つかさの旅の終わり 80/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:26:17.74 ID:O1mi2Otc0
ひろし「誰だ!!!」
突然怒鳴った。私は驚いて目を開けると、ひろしさんは私に背を向けて手の平の明りを茂みの方に向けた。その方向には木がある。以前かえでさんは、その木の裏に人が
居るのを見つけた。もしかして……貿易会社の人なのかな……
つかさ「こ、恐い……」
私は彼の背中にぴったり張り付いた。
ひろし「そこに居るのは分っている……隠れていないで出てこい」
今度は低い声で木に向かって話した……暫くすると人影が出てきた。ひろしさんは身を低くして構えた。そして人影に明りを向けた。
つかさ「こ、こなちゃん!」
そこに立っていたのは紛れも無くこなちゃんだった。私は彼から離れて前に出た。
こなた「へへへ、ばれちゃった……もう少しでラブシーンを見られたのに、木の枝を踏んじゃったよ……」
苦笑いをしていた。
ひろし「……泉こなたか……お前はいつも邪魔をする……」
少し怒り気味のひろしさん。でも、構えを解いてほっとしている様子だった。
つかさ「ど、どうして来たの……」
こなた「みゆきさんが心配だから様子を見て欲しいって言うから……夕方からずっと間違えがないように見守っていたんだよ、つかさが暗くなるまで下りないから私も
    出るタイミングをなくしちゃった……でも、その様子なら心配いらないようだね……お二人さん」
つかさ「え、う、うん……」
そう言われると恥かしい……あ、そうだ。こなちゃんに言っておかないと。
つかさ「あ、えっとね、今夜だけどね、ひろしさんを家に……」
こなちゃんは腕を私の前に出して手を広げて私の話しを止めた。
こなた「はいはい、分っております、私はお邪魔なんでしょ……」
こなちゃんはもう片方を出て携帯電話を取り出した。
こなた「今夜は、松本さんと温泉旅館で今後の対策を協議するから、お二人は……朝までしっぽり濡れて下さいな」
自分で顔が赤くなったのが分るくらい熱くなった。
つかさ「ちょ、ちょっと、こなちゃん、そんな事言ってないでしょ!!」
こなた「あら、それじゃ、家に居てもいいの?」
つかさ「え……それは……」
こなた「無理をしない……やっと一緒になれたのだし……ね」
こなちゃんは電話で話し始めた。本当にかえでさんと話している。
こなちゃんを見ながら思った。こなちゃんの失敗がなければ……約束通りの時間に神社に来ていれば私は彼と永遠の別れをしたかもしれない。
遅れたから彼は帰るのを思い止まってくれた。何が切欠になるか分らないものだね……こなちゃん、ありがとう……
私は彼の方を向いた。彼も少し顔を赤くしている。彼と目が合った。
ひろし「あ……ぼ、僕は別にそんな事を……」
少し動揺していた。
つかさ「うんん、こなちゃんの話しは置いておいて……これからどうするか二人で話さないといけないでしょ、良い機会だと思わない」
彼は私の顔を驚いた顔で見た。
ひろし「……二年前と感じが少し変わったな……」
つかさ「ふふ、ひろしさん、人間は寿命が短いから成長も早いから、のんびりしているとすぐにお婆ちゃんになっちゃうよ」
ひろし「……つかさ……」
少し涙目になっているような気がした。私に出会って殆どの仲間と別れたひろしさん……ぎりぎりまで迷っていたに違いない。
少なくともここに残ったのを後悔させないようにしてあげたい。
こなた「コホン、コホン」
こなちゃんの咳払いで我に帰った。
つかさ「こ、こなちゃん!」
つかさ「見つめ合っていて悪いけど……松本さんと話しはついたから降りようよ……私、明りないから降りられない」
つかさ「あ、そうだったね……ひろしさん、お願い」
ひろしさんはまた明りを点けた、そして、階段を降り始めた。私とこなちゃんもその後を付いていった。
こなた「松本さんから伝言……明日、遅刻したら良からぬ噂が店じゅうに広がるから注意しなさいって……」
私の耳元で囁くこなちゃん。
つかさ「……それ、どう言う事なの……」
こなた「なんだろうね……」
ニヤニヤしながら話すこなちゃんだった……
神社を降りると、こなちゃんは車に乗って店に向かった。私達は家へ向かった。

私達は話し合った。そこで一つの結論を出した。
その後の出来事は恥かしくて……話せない。

 翌朝、私は遅刻をしてしまった。その時、かえでさんの伝言の意味を痛感するのだった……

そして時は流れた……
 



905 :つかさの旅の終わり 81/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:27:49.07 ID:O1mi2Otc0
 私は彼を待っていた。今日は大事な日になると言うのに……
シートを敷いてお弁当の準備も出来ていると言うのに。
ひろし「おーい」
ひろしさんの姿が見えた。彼は手を振って走って来た。
つかさ「約束の時間を1時間もオーバーしたよ」
私は少し怒った。だけど大声は出せない。
ひろし「ごめん、ごめん……でも、遅れたのはお互い様だろ」
つかさ「あ、五年も前の事を今更……あの時はね」
ひろし「そう、あの時の事は知っている……つかさは人類を救ったのだからな……」
ひろしさんは私の横に座った。私はお茶と、サンドイッチを彼の前に出した。
つかさ「ねぇ、今だから聞くけど……もし、あの時データを送ることが出来なかったら……皆はどうしていた?」
ひろしさんはサンドイッチを取ると一口食べた。
ひろし「そうだな……少なくともたかしは感情に任せて二人を救いに行ったろうな、たかしはお頭代理だったから賛同する者も居るだろう……」
つかさ「……禁呪も使っていた?」
ひろし「さぁ……そこまでは分らんが、したかもしれないな……そう言う意味では我々は人類と大差はないって事だよ……人類より少し早く生まれた、その時間分だけの知識と
    技術を持っていたに過ぎない……ふふ、知識を教えるとか言って先輩ぶって……今頃けいこも反省しているだろう」
お腹が空いていたのか、ひろしさんはサンドイッチをもう一つ取った。
つかさ「……それから、ひろしさんは何で戻ってこられたの、母星が一大事だったって言っていたけど……」
これは今まで聞けなかった……今だから聞けるのかもしれない。
ひろし「確かに、僕、個人の希望だけでは戻れなかった……けいこが、忘れ物を取りに戻りたいと言って……」
つかさ「忘れ物……何だろう?」
ひろし「何でも働いていたビルに置いてきたと言っていたが……僕が船を降りてから取りに行ったから分らない」
働いていたビル……ワールドホテルの本社ビル……そこの会長室にある物……一つだけ心当たりがあった。この地球にしかない物。それを取りに来た。
つかさ「それはきっとピアノだよ」
ひろし「ピアノ……楽器のピアノか……そんな物を取りに来たと言うのか……」
つかさ「そうだよ、楽器がないと奏でられないでしょ……きっと向こうで、災害で苦しんでいる人達の心を癒していると思うよ」
ひろし「音楽か……確かにそれは向こうには無いな……そういえばつかさからCDを貰ったのを思い出したよ……」
ひろしさんはお茶を飲んだ。私は別のお弁当からおにぎりを出して食べた。
ひろし「さて、今度は僕からの質問だ、何でこの神社は壊されなくて済んだ……」

 そう、この神社は三年前に壊されてテーマパークになる予定だった。今、シートを敷いて座っているこの場所がその神社……あの時のままの姿を留めている。何をしたのかって?
それは、けいこさん達が帰った日までに遡る……
こなちゃんは私のした事に対して当然、報酬を払うべきだって言った……誰が支払うって、それは全人類から……そんなの出来るわけない。私はそう言った。
私達の社会で使っている通貨……それは全てコンピュータで管理されている。物を買う時、売る時、それは全世界で行われている。
そのの取引で一円以下の小数点の値は全て切り捨てているらしい。そこでこなちゃんは、その小数点以下の値を切り捨てないで全てスイス銀行の口座に
振り込ませるようにした。
どうやって……全く分らないけど、めぐみさんから教わったハッキングの応用らしい……
一円以下の雀の涙よりも少ないお金……全世界で使われているお金の量……塵も積もれば……わずか一年でとんでもない金額になってしまった。この神社の土地を買うのに
充分なお金が貯まった。
こなちゃんはこれを『元気玉作戦』なんて名付けたけど……
そのお金で神社の土地を買い戻して、匿名で町に寄贈した……寄贈の条件として、土地は一切の手を加えない事。それだけで充分。
そして目的を達成したから『元気玉作戦』を止めてもらった。こなちゃんは残念がっていたけど、必殺技は一度きり。これがこなちゃんとの約束だった。


906 :つかさの旅の終わり 82/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:29:17.16 ID:O1mi2Otc0
  レストランかえでは買い戻せられずに予定通りに工場団地になってしまった。それでも神社の影響もあって当初よりも工場の規模は縮小された。
そのおかげで温泉はそのまま営業出来るようになった。
私達のお店は結局移転したけど、貿易会社のお世話にはならない。
土地を探して新しい店を建てた……そこは偶然にも実家のすぐ近く。その隣に独立して洋菓子店つかさを開店した。私はかえでさんから独立した。独立したと言っても
店は隣だから毎日のように皆と会える。
私が居なくなったレストランにはあやちゃんが代わりに働くようになった。元々けいこさんの人望で集まったテナント、だからけいこさんが居なくなれば
自然に店は貿易会社から撤退していく。そこに目をつけたこなちゃんがあやちゃんをスカウトした。

 変わったと言えばゆきちゃん……五年前、お稲荷さんのお薬をゆきちゃんに渡した。ゆきちゃんは作り方を知りたがってしたけど、私の覚えているのは材料だけ、
作り方は殆ど忘れてしまった。それでもゆきちゃんは残った薬のサンプルと私の記憶の断片を頼りに薬の再現の研究に没頭している。
私はひろしさんやひとしさんから教えてもらったらって言ったけど、あの薬はたかしさんしか作れないって……それならレシピをメモに残しておけばよかった。
でもね、あの時、そんな余裕なんかなかった。ごめんね……ゆきちゃんならきっと成功するよ……

 お姉ちゃんはひとしさんと結婚。小林かがみになった。けいこさんとめぐみさんが謎の消失事件。その担当弁護をしたひとしさんの事務所は当時、彼女達を逃がしたのでは
ないかと、疑いをかけられた。それでもひとしさんは誠実に行動してみごと信頼を回復。今では弁護の依頼が殺到してお姉ちゃんも大忙し。
私も会える機会が少なくなってしまった。折角実家の近くに移ったのに……全てがうまく行くなんてないからこれは諦めるしかないよね。


907 :つかさの旅の終わり 83/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:30:44.74 ID:O1mi2Otc0
つかさ「……って訳」
私はひろしさんに説明をした。
ひろし「そんな事をしたのか……まさに裏技ってやつか……その気になれば億万長者になれたものを……」
ひろしさんは感心するような、飽きられたような顔をした。
つかさ「そのこなちゃんのおかげで今の私達があるから、文句は言わないの」
そして……私とひろしさんも結婚をした……ひろしさんは人間の名前がないから……私の姓を取って柊ひろしになった……戸籍や住民票は……こなちゃんお得意のハッキングを
使わせてもらった。
洋菓子店は私とひろしさんで切り盛りしている。ひろしさんの男の人の力があると仕込みとかがとっても楽で助かっている。
ひろし「所で何故、店を臨時休業してまでこんな所に来た……もうここは壊される事は無いって言っていたじゃないか」
私は立ち上がり、森の中に入った。彼も私の後を付いてきた。
つかさ「ここだよ……ここでまなちゃんと初めて出逢った場所……稲荷寿司を置いた石……」
石の前で私は立ち止まった。
ひろし「おねえちゃ……いや、姉が亡くなった場所……」
そう、ここでいろいろな事があった……
私は稲荷寿司とパンケーキを石の上に置いた。そして腰を下ろして手を合わせてお祈りをした。それを見たひろしさんも腰を下ろし私と同じように手を合わせて祈った。
つかさ「私ね……もう一度ここに来るって決めていたの……彼女に報告するから」
ひろし「報告……報告って何だ、何か約束でもしたのか」
つかさ「うんん、私が勝手に決めたから……新しい命が宿ったら教えに来るって決めていたの」
私は自分のお腹を擦った。
ひろし「……え……もしかして……できたのか?」
私は頷いた。
ひろし「やったじゃないか、つかさ」
ひろしさんは立ち上がり私の両脇に腕を入れると軽々と持ち上げて喜んだ。でも、私の顔を見る私をとゆっくりと下ろした。
ひろし「どうした、嬉しくないのか……何か心配するような事でもあったのか?」
ひろしさんは手を私の頬にそっと添えた。私は彼の手に自分の手を重ねた。
つかさ「本当にこれで良いの……あなたは人間に……もう何千年も生きられないでしょ……私の為に……」
ひろしさんは親指で私の涙の溜まった目を拭った。
ひろし「それはここに残る時に決めた事だよ、つかさが悲しむ必要なんかない」
つかさ「でも……」
ひろし「そんなに心配すると、お腹の子供に良くない……戻ろう」
ひろしさんは森を出てシートの所まで私を引いて行った。。そして私を座らせた。
ひろし「こんな所まで来て、階段だってあると言うのに、報告なら生まれてからでも遅くないだろう」
つかさ「大丈夫だよ、今の所つわりもないし……それに私の決めた事だから」
ひろしさんもこれ以上何も言わずにシートに座り、お弁当を食べ始めた。
つかさ「ふふ、これで結婚していないのは、かえでさん、こなちゃん、ゆきちゃんになったかな……」
でもね、私は知っている。かえでさん、ゆきちゃんには好きな人が出来たって……まったくその気がなさそうなのがこなちゃん。それとも私が知らないだけなのかな……
いのりお姉ちゃんもまつりお姉ちゃんも四年前に結婚したし……
あれ……四年前……これって、お姉ちゃんも結婚した年……どう言うことなの、私は三年前だったし……
なんで私達姉妹が立て続けに結婚を……今までスルーしてきたけど、今考えてみると不思議……
確か……残ったお稲荷さんも四人……これって偶然なの……
ひろし「どうした、つかさ……気分でも悪くなったのか」
これは聞くしかない。
つかさ「えっと……地球に残ったお稲荷さん……あと二人って何処で何をしているのかな」
ひろし「さぁな、人間になると勘が鈍くなる……仲間の消息までは分らんよ」
この言い回し、ひろしさんは何か隠している。そういえばこの前こなちゃんにもはぐらかされた。こなちゃんはデータを作っているから誰が残ったか知っているはずだったのに。
つかさ「あなた、知っているでしょ……」
私は彼の目を見た。しかし彼は目を合わそうとはしなかった。
つかさ「ひ・ろ・し」
私は低い声で彼に迫った。
ひろし「……隠すつもりはなかった……残った二人は……つかさのお察しの通りだ……姉さん達の夫になった……」
つかさ「お姉ちゃん達はそれを知っているの……」
ひろし「まつりさんは多分知らない、いのりさんには全て話してあると聞いている……かがみさんは、ひとしから話したそうだ……」
まつりお姉ちゃんに教えるのはまだ少し早そう……
ひろし「……これは、それぞれの子供が物心のつく頃になったらご両親も含めて話そうと……かがみさんはそう言ったから……黙っていた」
私達姉妹って、ややこしい人が好きなのかな……
つかさ「ふふ……ふふふ、はははは〜」
ひろし「な、何が可笑しい?」
これが笑わずにはいられない。
つかさ「ふふ、何でもないよ、それより、あなた、お寿司食べる……お酒も少しあるよ」
ひろし「おお、美味そうな五目稲荷……二人で祝おうか」
つかさ「うん」
私はジュース、ひろしさんにはお酒を注いだ。
つかさ・ひろし「新しく生まれる命に、乾杯!」
ひろしさんは一気にお酒を飲み干すと、美味しそうに稲荷ずしをほおばった。
ひろし「美味しい」
満面の笑みを浮かべながら食べている。
この光景……あの時と同じだよ……
まなちゃん……
そうか、分ったよ、まなちゃんが私の稲荷寿司を食べようとした直前に笑った訳が……
けいこさん、地球人は私達家族だけ、一足先にお稲荷さんと仲良くなっているよ。
静かな神社に私達の笑い声と話し声が響いていた。

 そして、赤ちゃんが生まれた……可愛い女の子……その子の名前を私は真奈美と名付けた。

908 :つかさの旅の終わり 84/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:32:02.77 ID:O1mi2Otc0


エピローグ
 
みなみ「それでは全部通して演奏してみましょうか」
つかさ「うん……みなみちゃん、あ、ちゃん付けは失礼かな、もうそんな歳じゃないよね」
みなみ「……いいえ、それはそれで構いません……」
つかさ「年甲斐もなくピアノを習おうだなんて……ごめんね、付き合わせちゃって」
みなみ「いいえ……歳など関係ありません……どうぞ」
私はピアノの前に座り、鍵盤を見て呼吸を整えた。

 子供を、真奈美を生んで間もなく、私は時間を見つけてはみなみちゃんの家でピアノのレッスンをするようになった。みなみちゃんはピアノの教室を開いたので、
その生徒第一号に。一曲だけ、どうしても弾いてみたい。そんな衝動に駆り立てられたから。基礎から練習するのが普通だけど、いきなりその曲の練習から始めた。
難易度が高い。ゆきちゃんはそう言っていた。その通りだった。みななちゃんももっと簡単な曲から始めるのを薦めたけど無理を言ってしまった。
それでもみなみちゃんは丁寧に教えてくれた。もう二年も経ってしまった。
そして今日、みなみちゃんに通しで聴いてもらう。そのうちに皆にも聴いてもらうつもり。だから気を引き締めないと。

 私は鍵盤に手を添えるとゆっくりと弾き始めた。
ラヴェル作曲「亡き王女のためのパヴァーヌ」
けいこさんが弾いた曲。教えてもらった曲。
曲の名の通り、亡き王女を偲ぶ、ちょっと切なく響く曲……
今度けいこさんがこの地球に来る時、きっと私はもうこの世にはいない。
その時、けいこさんはきっとこの曲を私達に奏でる。
それは調査の為ではない。知識を教える必要も無い。私達を友として招くために。
そんな遠い日を想いながら私はピアノを弾いた。






909 :つかさの旅の終わり 84/83 [saga sage]:2012/07/01(日) 22:33:15.75 ID:O1mi2Otc0
以上です。
これでつかさの〜旅は終わりです。
二十三回コンクール前から書き始めていたけど三ヶ月もかかってしまった。
無駄に長いだけかもしれませんが読んでくれれば幸いです。
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/07/02(月) 00:15:03.87 ID:1/9nIPwJ0




ここまで纏めた。

やっとこのスレも100を切りました。

911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/04(水) 00:20:45.10 ID:GDB0UOrSO
>>825-908
うおおおおおおおおおおおおおおおおおやっと読み終えたああああああ
大作完結おつおつ

途中ダレるかなぁと思ったけど見事に話に起伏があって最後までハラハラしたり熱くなったりできた
シリアスな展開の中にあるつかさのおとぼけやこなたのオタクっぷりも重い話を緩和させるいい薬になってた
柊姉妹好きだから双子をちゃんと仲良く描かれててほっこりしたし、皆が皆幸せな感じで終わってよかった

しかし4姉妹の結婚相手を見ると、ただおかみきも御稲荷さんなんじゃないかという気がしてくるww
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/07/04(水) 20:44:29.85 ID:EuQUfldm0
>>911
感想ありがとうございます。久しぶりに具体的な感想が得られて嬉しいです。

>>713の書き込みがなかったら書いていなかったかもしれません。
重ねて御礼を言わせてもらいます。
ありがとう。

913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/07/08(日) 14:43:06.89 ID:jVqkTczr0
一日遅れのかがみとつかさの誕生日
とりあえずおめでとう。

そして短編ssを投下します。
914 :双子の誕生日 1/2 [saga sage]:2012/07/08(日) 14:45:19.68 ID:jVqkTczr0
こなた「つかさが風邪をひいた?」
思わず復唱した。かがみは頷く。
こなた「つかさが休むなんて、初めてじゃないの」
かがみ「そうね、私も知る限り風邪なんかひいた所なんてみたこと無いわ」
こなた「う〜ん」
私は腕を組んで考え込んでしまった。
かがみ「なに考え込んでいるのよ、つかさだって風邪くらいひくわよ」
つかさが風邪をひいたのは不思議でもない。もともと今までが元気すぎただけ。
こなた「いや、明後日の誕生日のプレゼントの希望を聞けなくて……かがみはさっき聞いたけど」
かがみ「ああ、それならば、私だけ貰う訳にもいかないから今回はプレゼントなしで良いわよ、それに誕生日を祝ってもらってもそれほど嬉しいとは思わない歳になったしね」
こなた「いやいや、そう言う訳にはいかいのだよ、みゆきさんや後輩達からカンパしたからね」
かがみは溜め息をついた。
かがみ「ふぅ〜あんたが柄にもない事をするからよ……好意はありがたいけどね……」
こなた「それなら今日、つかさに直接聞きに行くよ」
かがみ「それもどうかしらね、風邪が移るとか言って部屋に入れさせてくれないのよ……食事も直接受け取らないで部屋の前に置かせるくらい」
こなた「ふぇ……たかが風邪で……隔離病棟じゃあるまいし……何を考えてるの、つかさは?」
かがみは何も言わずお手上げのポーズをした。

 かがみは来ても無駄だとは言った。だけど何もしないものカンパした本人としても心苦しい。私はつかさの部屋の前に居る。
かがみ「つかさ、開けなさい、こなたが見舞いにきたわよ」
つかさ「だ、だめだよ、風邪が移っちゃうよ……」
みごとな嗄れた声、つかさとは思えない声だった。
かがみ「……この調子なのよ」
確かにこのままでは入れてくれそうにない。
こなた「つかさ、かがみが風邪をひいた時を思い出して、私もみゆきさんもお見舞いに来たけど風邪は移らなかったでしょ、大丈夫だって、開けて」
何の返事も返ってこなかった。どうやら今日は諦めるしかない。
こなた「しょうがないね……」
私達が離れようとした時だった。
『ガチ』
鍵の開く音がした。
つかさ「こなちゃんだけ、どうぞ」
かがみ「ちょ、どうしてこなただけ……」
私はかがみに「まぁまぁ落ち着きましょう」の意味を込めて両手をかがみの前に出して手の平を見せて振った。かがみは納得のいかない様子だったけど取り敢えず落ち着いた。
扉を開けてつかさの部屋に入った。
こなた「ヤッフー、つかさ」
返事はしないで笑顔で返すつかさ……
パジャマ姿で椅子に座っていた。
こなた「もう随分良くなったみたいだね」
つかさ「今朝、やっと熱が引いてね、落ち着いたところ」
薬を飲んでいるのか少し眠そう……それに枯れた声はハスキーボイス……なんか今までのつかさとは違う……細めた目が妖艶な雰囲気を……まだ少し熱があったのかな、顔が少し赤い……
わ、なんだ。私は何を……病み上がりのつかさに何を感じている。私は顔を振って邪念を振り払った。
こなた「明後日の誕生日の事なんだけね……」
用件を早く済ませちゃおう。

915 :双子の誕生日 2/2 [saga sage]:2012/07/08(日) 14:47:44.85 ID:jVqkTczr0
つかさ「プレゼント?」
こなた「そうそう、事前に聞いておくのも良いかなっと思ってね、今回は資金も沢山あるから、すごく高価なものじゃなければいけると思うよ」
つかさ「……ゆきちゃん、ゆたかちゃん……」
急につかさの目が潤み始めた。あらら……病気になると涙もろくなるって聞いたことあるけど、いくらなんでも大袈裟すぎる。
こなた「つかさくらいだよ、誕生日のプレゼントくらいでそんなに喜んでくれるのは……」
つかさ「ありがとう……でも、プレゼントは要らない」
こなた「あら……」
意外な返答になんて言って良いか分らなくなった。
こなた「どうして、かがみも要らないなんて言っていたけど……もうそんな歳じゃないからって?」
つかさ「うんん、そんなんじゃないけどね……」
こなた「じゃないけど?」
その続きが聞きたくなった。
つかさ「私の誕生日って七夕でしょ……お祭りみたいな日だから、もう沢山の人から祝ってもらったような気分になちゃって、もうお腹一杯だよ」
こなた「それは、別につかさを祝っているわけじゃないから……」
つかさ「そうだよね、織姫と彦星が年に一回逢える日だから……明後日、晴れると良いね」
つかさはカーテンを開けて窓を開け曇った空を祈るように見上げた
窓からねっとりと絡みつく湿った空気が入ってきた。
こなた「外の空気は身体に毒だよ……プレゼントは私が勝手に決めるから」
つかさは窓を閉めた。
つかさ「ありがとう……」
つかさは急によろめいた。私はつかさの腕を握って支えた。
こなた「やっぱりまだダメだね、寝てないと」
つかさ「そうだね……」
私はつかさをベッドまで支えると寝かせた。するとつかさはあっと言う間に眠ってしまった。まだ風邪は完全に治っていないみたいだった。

 つかさの部屋を出るとかがみが少し不機嫌な顔で待っていた。
かがみ「それで、プレゼントは決まったの」
ぶっきらぼうな態度だった。よっぽど部屋にいれてくれなかったのが気に入らなかったみたい。でもそれは、風邪を移したくないつかさの優しさから出た行為。
こなた「まったく、かがみには過ぎた妹だよ」
かがみは一瞬凍りついたように動かなくなった。
かがみ「な、中で何を話したのよ」
こなた「別に……」
そのまま私は玄関に向かった。
かがみ「別にって……何よ、気になるじゃない、教えなさいよ」
かがみはすがり付くように玄関まで付いてきた。なんだかんだで、かがみが一番つかさを心配しているみたい……部屋に入りたいのなら鍵は閉まっていない今がチャンスなのに
つかさの言葉を律儀に守るなんて……これが双子なのかな……
こなた「別に何も無いよ……元気なったらつかさに聞いて」
心配そうにつかさの部屋の方を見るかがみ。二人が羨ましくなった。ちょっとだけ意地悪をして教えない。
つかさ「お邪魔しました」
私は玄関を出た。

916 :双子の誕生日 3/2 [saga sage]:2012/07/08(日) 14:48:45.78 ID:jVqkTczr0


 私はつかさにかがみと同じプレゼントを買って帰った。
こなた「ただいま〜」
ゆたか「おかえり〜」
台所からゆーちゃんの声がした。私は台所に向かいゆーちゃんにつかさとかがみの話しをした。

ゆたか「へぇ〜誕生日が同じだけじゃないんだね、双子って……でもね、双子でも誕生日が一日違いの子がいるから……かがみ先輩とつかさ先輩は運がいいね」
忙しそうに夕食の準備をするゆーちゃん。
ゆたか「それで、お誕生日のプレゼントは決まったの?」
こなた「いろいろ考えたけど……かがみと同じ物を買ったよ」
ゆたか「それが一番いいかも……」
作業を止めて私ににっこり微笑んだ。私はお鍋に水を入れて火にかけた。
ゆたか「あれ、今日は私が夕食当番だよ……」
こなた「今日は手伝ってあげるよ」
ゆたか「ありがとう」

七月七日……
私は自分の部屋で寝ていた。前日から酷い悪寒と頭痛と高熱……そしてくしゃみ……つかさと同じ症状……どうやら風邪が移ってしまったみたいだった。
つかさの言う通りにつかさの部屋には入らない方がよかったのかもしれない。今となっては後の祭り……
プレゼントはゆーちゃんに預けて持って行ってもらった……今頃皆で……楽しくパーティをしているに違いない。
『コンコン』
ドアをノックする音……お父さんかな。
こなた「あ、入らないほうが良いよ、風邪が移っちゃうから……」
酷い嗄れ声……
そんな私の制止の言葉も空しくドアは開いた。そこに居たのはかがみとつかさだった。
かがみ「まったく、主催者がいなくてどうするつもりだったのよ……」
つかさ「こなちゃん……大丈夫?」
かがみは呆れ顔、つかさは心配そうに私を見ている。双子なのにこんなに表情が違うものなのか。
こなた「……見事に移されちゃよ……」
苦笑いで話すしかなかった。
かがみ「……凄い声だな……確かにつかさと同じ症状だ、これ以上近づかない方が良いわね……取り敢えず、プレゼントありがとう、それだけ、言いに来たわよ」
つかさは私の部屋に入ってきた。
こなた「え……」
つかさ「私はもうその風邪治ったから大丈夫だよ……一昨日はありがとう、何か食べたいものはない?」
こなた「ない……よ」
つかさ「それじゃ、ちゃんと寝てないと治らないから、ゲームとかしたらダメだよ」
こなた「……うん……」
かがみ「珍しいな、そんなに素直なこなたは……」
つかさ「辛そうだから部屋を出るね……お大事に」
つかさは部屋を出た。二人は私に手を振るとドアを閉めた。
なんだよ、どっちの誕生祝かわからないじゃないか……
気付くと目から涙が零れていた。
これは病気で気が弱くなったから出た涙……
そう自分に言い聞かせた。


917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/07/08(日) 14:50:55.15 ID:jVqkTczr0
以上3レスでした。 2レスで済むと思ったらまちがえでした。

誰も誕生日ssを投下しなかったので急いで書きました。
だから内容は勘弁して下さい。
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/07/08(日) 15:01:33.54 ID:jVqkTczr0


ここまでまとめた
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/07/08(日) 23:23:29.82 ID:jVqkTczr0
>>914-916
しまった。同じタイトルで先に投下されているssがあった。
あまりに急いでいたのでそこまで調べなかった。もちろん別作者です。

ちなみに前に投下された「双子の誕生日」を意識して作った訳ではく、ストーリも全く違うものです。
たまたま同じタイトルになっただけです。

920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/07/09(月) 23:14:46.11 ID:bt8AaZLI0
コンクールを夏に予定している。
多分8月。
しかし、前回みたいに参加者2人、投票者数名じゃ盛り上がりに欠ける。

殆ど書き込みがない現状だと開催しても前回の二の舞になるのは目に見えている。
何か良い考えはありませんか?
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/10(火) 11:55:34.30 ID:1uec7uZSO
・このスレを宣伝する
・諦める
・2期開始→vipにSSスレ復活
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/07/10(火) 19:51:15.57 ID:zCj7gaBp0
諦めるは除外
二期開始はいつになるか分らんし、無いかもしれない。

あとは宣伝するしか残らない。

どうやって宣伝するか?
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/07/10(火) 22:19:17.08 ID:zCj7gaBp0
1レス物で遊んでみた。



こなた「何を話しているの?」
みゆき「最近話題になっているヒッグス粒子について話しています」
こなた「へ、ヒ……ヒッグ」
かがみ「シャックリじゃあるまいし、ヒッグスよ、ヒッグス」
こなた「何それ?」
みゆき「万物に質量を与えたとされている素粒子ですね……理論的にはあるとされているのですが、未だに実証されていません、
ヨーロッパにある加速器実験で証明されるのではないかと期待されています」
こなた「……良くわからないけど……その粒子が無いとどうなるの?」
みゆき「全ての物質が光速で運動してしまって原型を留められなくなります」
こなた「ふーん」
かがみ「こなた、あんたちゃんと分ってるの?」
こなた「分ってる、分ってるって」
つかさ「おはよー、皆で何を話しているの?」
こなた「ふふふ、今話題のヒックス粒子について話しているのだよ、つかさ」
つかさ「へ、ヒ……ヒッグ」
かがみ「……こなたと同じ反応するなよ……」
つかさ「……そ、それで、その何とか粒子って何?」
かがみ「こなた、説明してあげなさい」
こなた「私?」
かがみ「他に誰が居るのよ」
こなた「え、えっと、重くなる粒子だって」
つかさ「重くなるの、それじゃこの鞄が重いのもその粒子のせいなの」
こなた「そうそう、鉄球が重いのも、かがみの体重が重くなっていくのもね」
つかさ「それは大変、早くその粒子をお姉ちゃんから取らないと大変な事になっちゃうよ」
かがみ「おいおい、話が変わっていないか……」

924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/07/12(木) 20:39:49.90 ID:9AZ4cjk10
つかさの旅シリーズ。
終わったのだが。いのり編を実は番外編で考えています。いのりはもちろん柊家の長女。
これは主人公はひよりまでは決まっている(まだ企画段階です)。
つかさ編では書けなかった物語、断片的にはあるけど、纏められるか微妙です。

企画倒れに終わるかもしれない。
だけど、読みたい人が居れば書くかもしれません。

宣伝みたいな物なので興味の無い方は無視して下さい。
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) :2012/07/13(金) 19:50:36.70 ID:Lm9bG6Jo0
いのり編 すごく、、、読みたいです
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/07/22(日) 20:25:10.10 ID:3lBNUxz+0
そろそろコンクールの準備でもするかと思ったけど……

この状態だと23回と同じになってしまいそうです。

23回が最後のコンクールになってしまうのだろうか……



コンクールは残念ながら延期とします(私の主催としては)

年末くらいにもう一度企画してみたいと思います。

尚、他の方で企画するのであれば喜んで参加させて頂きます。

927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/07/28(土) 20:58:52.38 ID:EoyC7Qs80
報告が遅れましたが、纏めサイトの「作者別作品」の利用ルールを正式にしたいと思います。

現在4名登録中。

興味のある方は覗いてみて下さい。

リストに載せたい作者がいましたら登録するのもよいかもしれません。

よろしくお願いします。
928 :いない :2012/08/14(火) 19:52:35.33 ID:lav6L8JR0
う〜ん
過疎と言うよりゴーストタウンみたいになってしまった。

929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/08/17(金) 20:36:59.14 ID:Uh4YM3XS0
まとめサイトのトップページを更新しました。

興味のある方は見てください。

http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/08/18(土) 17:58:38.34 ID:vE0w9+qr0
コンクールは部門ごとの投票を止めて、一人一票に。

そして賞は、大賞と副賞とする。

17回コンクール以前に戻すはどうでしょうか。
931 :保守 [saga]:2012/09/16(日) 17:47:20.36 ID:fS+vRXpb0
保守

こなた「ふぁ〜」
かがみ「すごい欠伸だな、口を隠すくらいの恥じらいは見せなさいよ」
こなた「え、だって、隠す恥じらいを見せるような人が居ないじゃん」
かがみ「それは私に喧嘩を売っているのか」
みゆき「それは言い様によっては気兼ねなく欠伸ができるくらい親しい人とも取れますが」
こなた「そうそう、そうゆう事だから、安心しなさい」
かがみ「う〜ん、何か違うような気がするが……」

932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/09/17(月) 00:07:45.75 ID:uFjPXjD10



ここまで纏めた

933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/10/02(火) 16:37:26.86 ID:pZFaIs/B0
避難所にも書いたけどここにも書いておきます。

まとめサイトのトップページのトータルアクセスカウント数が
リセットされて0になってしまった。(メニューの あなたは〇〇人目のたっきーすたーです の部分) 
何かの不具合なのだろうか。

問い合わせたので何か分りましたら連絡します。


 話しは変わります。
このスレを読んでくれている人は居るのだろうか?
作品を投下する予定の人はいるのかな?

現在自分は長編を書いています(つかさの旅シリーズ)。いつ完成するかは宣言できないけど、
完成次第投下する予定です。
もっと面白い作品が出せれば良いのですが……素人の趣味程度のレベルなので期待しないで気長に待って下さい。


最近1レス物も投下されていないので少し心配です。


あと、何でも感じた事を書いてくれると嬉しいです。


934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/10/02(火) 23:25:43.41 ID:pZFaIs/B0
>>933

アクセス数は@wik側の不具合だったそうです。

今年の9/26のデータで復帰してもらいました。少し昔に戻っています。

以上


935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(和歌山県) :2012/10/05(金) 02:46:24.32 ID:2ZJ41Q5r0
コンクール作品のレビューが全部見てみたいな
途中までしかないし…
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/10/05(金) 19:00:53.13 ID:oly9NJoR0
>>935
確かに17回以降のレビューは無いですね。実際に17回以降のレビューは書かれていませんでした。

コンクールのレビューはその時、その時の有志者が書いてくれていたので特に担当者が居た訳ではなかったですね。
だいたいコンクールの参加者の誰かが書いていたようです(レビューに自分の作品の評価は出来ないと言う表現が多数ある)

書き手にとってもレビューはとても気になる存在でもあり、励みにもなりました。
今からでも良いので書いてくれると大変在り難いです。
できればコンクールに参加していない第三者的なものが良いですね。
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/06(土) 01:29:19.04 ID:zHvmkUGg0
>>934
atwikiの不具合だったのですね。
別のらき☆すたSSまとめサイトで保管作業をしたすぐ後、カウント0に戻っていたので
作業の際に何かミスをしたんじゃないかと不安になってました。
情報ありがとうございます。
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/06(土) 10:39:30.68 ID:OsjTrd7SO
おん☆すてネタがない…だと…?
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/10/06(土) 12:05:31.49 ID:FvrwUVJJ0
>>937
纏めるほどの作品があって羨ましい
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/07(日) 00:35:44.73 ID:Nyqob5p60
>>939
それが…こちらの本スレはもう二ヶ月以上落ちたまま、
規制で私が次スレを立てるのも不可能という状態です。
まとめサイトも事実上投稿者が各自保管する形になっていて、
スレが落ちる前に途中まで投稿していた自作を最近になって保管しただけのこと。
避難所も現存していないらしく、正直途方に暮れています…。
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/10/08(月) 00:52:42.07 ID:v1TDOtP90
23回のコンクールを見ても分るように、参加者2名の作品3つと、過去最低人数及び作品数となって、
夏予定されていた24回コンクールも延期となった。こっちも似たり寄ったりかな。

>>933で呼びかけて反応が無いから今の所、SSを投下する予定の人は1名となっています。

2期でもあればまた変わるのだろうけど。それは期待薄だね。
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/10/27(土) 18:25:59.27 ID:If/ONVku0
ネタもないので報告します

まとめサイトのつかさの旅シリーズの3作をシリーズに加えました。

続きはありませんが番外編を書いていますので、それでシリーズにしました。

興味のある方はまとめサイトを覗いてください。
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga ]:2012/11/26(月) 19:51:00.50 ID:aBUndmEM0
一ヶ月近く書き込みのないのも初めてかもしれない。



>>942です。
番外編、思いのほか完成に苦戦しています。
多分長さは『つかさの旅の終わり』と同じか超えるくらい。
残りのレスでは書ききれないかもしれません。
出来ればこのスレを埋めて新スレを立ち上げたい。
ご協力お願いします。


こなた「っと言うことなのでよろしく!」
かがみ「てか短編くらいは投稿しなさいよ!」
こなた「いや、今の製作中の作品で一杯一杯で余裕がないらしいよ」
かがみ「しょうがないわね、皆さん1レス物でも何でも良いので書き込みをしてね」
こなた・かがみ「よろしくお願いします!!」

終わり
944 :流行りのアレで一発 [saga]:2012/12/13(木) 21:36:17.43 ID:kJhbQakv0

粕日部に激震が走る。


願いを叶えた少女達は、過酷な運命を背負わされる。

つかさ「何のとりえもないけど……私でも戦えるのかな?」

かがみ「つかさに戦わせる位なら、私も契約させてよ!!」

みゆき「臆病な私を……許して下さい」

傍観する契約執行人は何を思うか。

QB「……どれほど足掻こうが、所詮君達の命は僕の手の平の上でしかないんだよ?」



こなた「……呪われた運命なんか、この手でブッ飛ばしてやる!!
    私達の意地を思い知れ!!」

魔法少女達は、戦うしか道は無い。


劇場版 魔法少女こなた☆マギカ

ComingSoon


こなた「……って内容だと、ウケそうじゃない?」

かがみ「やめんかい!!」

945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/15(土) 08:07:21.76 ID:lxPGpkgi0
>>944
久々の投下乙です。
まとめは嘘予告に入ると思うけど。同じ作者なのでしょうか?
返事がなければ「ID:WvIVAVXcO氏:嘘予告」
に加えます。
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/15(土) 09:03:01.48 ID:ewl39bgJ0
>>945

別作者ですが、問題ないです。お願いします。
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/15(土) 14:55:56.46 ID:lxPGpkgi0


 ここまでまとめた


別作者でしたか。

嘘予告シリーズはそのまま物語できそうなのがいくつかあるので面白い。
948 :「偽予告」から発想…原作4巻より ひより視点 [saga]:2012/12/16(日) 00:53:52.30 ID:SS54d+3l0
あ、小早川さんと岩崎さんがいる。
何してるのかな。

…近付いてみて、ぎょっとした。
二人は睨み合っていた。

小早川さんは今にも泣きそうなふくれ顔で岩崎さんを睨んでいた。
一方、岩崎さんは表情は比較的落ち着いてたけど、小早川さんに向けられた視線は…
直接向けられてない私ですら心臓が一瞬止まるほど冷たかった。

ケンカ?あの二人が?まさか…。
でも、目の前の光景は真実だ。
何があったのかは分からないけど、止めなきゃ!

ひより「小早川さん、岩崎さん、ど、どうしたの?ケンカ?」
ひより「と、とりあえずさ、二人とも少し落ち着こうよ…」

ゆたか「え?」
みなみ「ん?」

…あれ?
二人は何事もなかったように表情を和らげた。
どういうこと?
今の二人には怒りのかけらすら全然なくて、私の前だから抑えたって風にも見えなかった。

みなみ「もしかして…今の見て、私たちがケンカしてると思った?」
ひより「う、うん」

二人は、ばつが悪そうに微笑んだ。

みなみ「ごめん…びっくりさせて」
ゆたか「どっちが怖い顔できるか競争してたんだよ」
ひより「え」

なーんだ…。

ゆたか「田村さん、見てみてどっちが怖かった?」
ひより「うーん…岩崎さんかな」
ひより「小早川さんのはまだかわいい感じだったけど、岩崎さんのはちょっと本気で怖かったよ…」
ゆたか「やっぱり…。実は私も怖くてちょっと涙出そうになっちゃった…」
みなみ「そ、そうかな。あまり表情変えられてなかったと思うけど…小さい頃からにらめっことかも苦手だし…」
ゆたか「ううん、視線だけですごい効果出してた。迫力が違うよ。男の子でも敵わないと思う。さすがみなみちゃん」
みなみ「…それって、喜ぶことなのかな…」
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/16(日) 18:47:17.87 ID:fhqdy6rL0


ここまでまとめた。

本当にssを作るとは思わなかったw
乙です
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/16(日) 18:50:38.35 ID:fhqdy6rL0
避難所の書き込みができなくなった。
取り敢えずこのままでいくしかないのかな?
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/23(日) 22:22:47.55 ID:3D+v3ZTAO
〜真面目かは知らんが〜

みく「え〜世間様ではノロウィルスが流行っています」
たまき「フ…某TV局が『病院行くな』とか言ってたね。ノロウィルスは特に特効薬がある訳じゃないから感染を拡げるだけだって。どーやって病院行かずにノロとわかれってんだろ」
みく「生兵法は事故の元。医師ならそっちの方が恐いはずなのにねぇ…診断してくれなきゃわからないから医者に行きましょうね」
たまき「もやしもんみたく菌が見えたらねぇ」
みく「実際もやしもんに出たよノロウィルス…主人公が生が駄目な理由コレだって言ってたじゃん」
たまき「だっけ?」
みく「食材についてる可能性もあるからね。火を通せば死ぬけど…あと絶対に下痢止めは飲まない事。菌が腸内で暴れて辛いわけだから、さっさと出しちゃうのが一番」
たまき「毒さん、下品だよ」
みく「仕方ないでしょ、事実なんだから」
たまき「あと、女の子が生は駄目とかエロいよ」
みく「え?……そういう意味じゃない!!」


952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 17:28:00.69 ID:3NENHPE70

ここまでまとめた。

ノロウィルス。
名前はトロイ感じだけど恐いウィルスです。なめると命を落とします。
ご注意を。

953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 00:04:31.32 ID:EB7nnTYo0
年末コンクールの予定でしたが私事が忙しくて
できそうにありません。ごめんなさい

他の方が主催するなら始めてもらっても構いません。
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/02(水) 00:09:27.05 ID:O3+BHn+C0
こなた「あけおめ、ことよろ」
かがみ「その略し方……あまり感心しないわね」
こなた「そうかな……」
かがみ「あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願い致します」
こんた「……長いよ」
かがみ「ながいじゃない、今年一年の挨拶を略すなってことよ、そもそも挨拶というのはね……ああたらこうたら」
こなた「はいはい、分かりました」
かがみ「はい、は一回で良い!」
こなた「はいはい」
かがみ「一度殴らないと分からないようね」
こなた「はい! 分かりました」
こなた・かがみ「今年もらき☆すたSSスレ よろしくお願いします」


あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

今年も作品を投下していきたいと思います。
かなり苦戦している続き物がようやく完成八割くらいになった。このお正月休みで一気に書き上げて校正できればいいかなって思っています。

過疎化していますがごひいきの程をよろしくです。
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2013/01/29(火) 01:23:52.36 ID:4y70UwTc0
ぬぅ
過疎と言うよりゴーストタウンだ。
何とか対策を考えねば
956 :単発ネタ :2013/01/31(木) 01:06:09.67 ID:sad9GQsn0
-夜中 みなみの部屋-
ゆたか「みなみちゃん…起きて…」
みなみ「ん…?え…ゆたか?どうしてここに…」
みなみ「…!」
みなみ「ゆたか、どうしたの!?その背中の羽根…それに頭の輪っか…まるで天使…」
ゆたか「私ね…さっき病気の発作で死んじゃったんだ。本当の天使になったんだよ」
みなみ「!?」
ゆたか「最後にどうしてもみなみちゃんに会いたいって言ったら神様が許してくれたから…お別れにきたの」
ゆたか「今までありがとう。幸せだったよ。さよなら、みなみちゃん。天国でも忘れないよ」
みなみ「そんな!待って!ゆたか!行かないで!行っちゃやだぁぁぁ!!」

-早朝 ゆたかの部屋-
ゆたか「ふわあぁぁぁ…みなみちゃん?なに?」
みなみ「ごめん、こんな朝早く電話して…。あの、ゆたか…元気?」
ゆたか「んー、元気だよ。眠いけど…」
みなみ「よかった……ぐすっ……」
ゆたか「みなみちゃん…泣いてるの?どうしたの?」
みなみ「あ…ううん、何でもない。学校で会おうね…」

-朝 学校-
みなみ「おはよう…」
ひより「ど、どうしたのみなみちゃん?目、真っ赤だけど…」
みなみ「ん…大丈夫」
みなみ「すごくリアルな悲しい夢見ちゃって、明け方までずっと泣いてて…」
みなみ「朝になって、正夢とかそんなのじゃないただの夢だって分かって、嬉しくてまた泣いちゃっただけだから…」
ひより「みなみちゃんがそんなに泣くなんて…どんな夢だったの?」
みなみ「ごめん…言いたくない。思い出したくもない…」
ゆたか「おはよう…」
ひより「うわ、こっちはどうしたの?ものすごい眠そうだけど…」
ゆたか「んん〜、昨日は夜更かししちゃって…2時間も寝てないかも…」
みなみ「そ、そうだったんだ…ごめん、それなのに朝早く電話して…」
ゆたか「ううん、いいの…元は私のせいだし…」
みなみ「え?」
ゆたか「何でもない…とにかくみなみちゃんは悪くな……ふわあぁぁぁ…ふう…」
ひより「二人とも、お大事に…」

-夕方 こなたの家-
ゆたか「というわけで…」
ゆたか「『夜中に天使のコスプレでみなみちゃんをびっくりさせる大作戦』は大成功だったよ」
ゆたか「おじさん、夜中にみなみちゃんの家まで運転してくれてありがとう♪」
そうじろう「みなみちゃんがかわいそうな気がするけど…」
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2013/01/31(木) 21:11:48.52 ID:TkDA57k50


ここまでまとめた


久々の投下おつです。

958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2013/02/08(金) 19:58:01.87 ID:hiNhG42B0
予告


予てから作っていたつかさの旅シリーズの長編が完成に近づきました。

正月に出来るはずだったけど苦戦してしまった。

まだ微修正が残っているので今月中には投下できると思います。

使用レス数が100を超えるのでこのスレは埋まります。

従って投下時、このレスがまだ埋まっていなら新レスを立ち上げてから投下します。

何かご要望がありましたらコメントを入れてください。

よろしくお願いします。

ちなみに避難所は入れなくなったのでこのスレを使って下さい。



959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2013/02/11(月) 19:10:09.01 ID:W145K4B60
新スレッドを立ち上げました。

埋まったらこちらへ移動して下さい。

↓新スレッド らき☆すたSSスレ 〜そろそろ二期の噂はでないのかね〜


http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1360577276/

よろしくです。
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2013/02/11(月) 19:16:45.15 ID:W145K4B60
さて次スレも立ち上げたので 投下します。
つかさの旅シリーズです。112レスを使用予定です。

このスレが埋まったらそのまま次スレに移行します。よろしくです。

961 :ひよりの旅 1/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:19:28.05 ID:W145K4B60
注意点
・この物語は「つかさの一人旅」の続編にあたります。
・つかさの旅、つかさの旅の終わりの内容が含まれて居ますのでそちらを先に読んだ方がいいかもしれません。



ゆたか「田村さん、物語ってどうやって作るの」
ひより「へ、どうやって言われても……」
突然だった。昼休みの時間、昼食を食べ終えて少したった頃だった。突然降って湧いたように聞かれた質問。私は漫画を描いていてネタに困ったりしたりしているけど。
こう率直に聞かれると返答に困る。
ゆたか「起承転結……登場人物、物語の進めかた……難しいよね」
ひより「ん〜その言い方、もしかして、小早川さんも何か物語を考えているの?」
ゆたか「出来たらいいな〜なんてね」
はにかみながら笑う小早川さん。そういえば何度か同じような質問をされた事を思い出した。まともな答えをしていなかったっけ。
とは言え、どうやって答えるかな……
ひより「起承転結とか、構成なんか考えると余計難しくなるから……私なんかはキャラからイメージを考える」
ゆたか「キャラクター?」
私は頷いた。私は目を閉じながら話した。
ひより「少女を思い浮かべよう、背は小さいけど運動は得意……その割にはインドア派、いつも冗談や悪戯ばかりして周りを怒らせたり、楽しませたり……
でも、どこが物悲しげな雰囲気が微かに漂う青い髪の女性」
ゆたか「あ、それは……こなたお姉ちゃん……みたい」
ひより「当たり……キャラクターを決めちゃえば勝手に頭の中で動いてくれるよ」
ゆたか「そんな物なのかな……」
考え込んでいる小早川さんだった。
ひより「料理が大好き、いつも笑顔で……」
ゆたか「いつも笑顔で周りを和やかにしてくれる……つかさ先輩?」
私は頷いた。
ひより「彼女はとっても良いネタ……は!!」
ゆたか「ねた?」
ひより「い、いや、なんでもない、なんでもない」
まずい、まずい、皆をネタになんて……泉先輩と描いている漫画の事がバレでもしたら。
ひより「と、兎に角、これはほんの一例だから、キャラから入っていくのもアリって事」
ゆたか「ありがとう……ところでその、つかさ先輩なんだけど、専門学校を卒業して、就職したって聞いた?」
話題が変わった……あり難い。
ひより「うん、何でも近くのレストランに決まったって……」
ゆたか「専門学校だと目的がはっきりしているから……いいな〜」
ひより「その私達も……大学生だよ」
ゆたか「そうだね」
ひより「それより岩崎さんは……」
教室の周りを見渡しても居なかった。
ゆたか「みなみちゃんは音楽室に行っているよ……」

 泉先輩達がこの陸桜学園を卒業して二年、私達も卒業間近となった。皆が卒業しても頻繁に会っているので在学中とそんなに変わらない日々が続いた。
つかさ先輩が就職すれば今まで通りに会うことは出来なくなりそう。でもそれは直ぐに現実になってしまった。
私達が卒業してから、つかさ先輩だけ、極端に合う機会が減ってしまった。個人的にはいろいろネタ的なものを提供してくれてはいたので残念と言うしかない。
962 :ひよりの旅 2/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:20:55.77 ID:W145K4B60
こなた「つかさねぇ……先週会ったよ」
ひより「ほんとっスか?」
こなた「嘘付いてもしょうがないじゃん」
ひより「そ、それはそうですけど……それで、どんな感じっスか?」
私は泉先輩の家に居た。卒業前からの極秘ミッションを完成させる為に。
こなた「どんな感じって言われてもね、普段通りのつかさだよ」
ひより「そうですか……」
こなた「あ、そういえばね」
何かを思い出したように左手を握り左手を広げてポンと叩いた。
こなた「何でも二十歳になったから一人旅をしたいなんて言っていたね、まぁ、地図すら読めないつかさの事だから、迷子になって泣いちゃうのが落ちだろうけどね……」
ひより「一人旅……っスか……」
つかさ先輩が背伸びをするなんて……職場で何かあったのだろうか。
こなた「それは、それとして……ひよりん、ミッションの方はどうなっているの」
ひより「……完成しました」
こなた「ほんとに、見せて、見せて」
身を乗り出して私に迫ってきた。そんな先輩を尻目にゆっくりと鞄を開けて焦らせた。
ひより「構想から二年……永かったっスね……」
鞄から本を取り出すと先輩はひったくる様に本を私の手から奪った。そして本を開いて見た。
こなた「……お、お、これは……さすがひよりん、やっぱり凄いや」
ページを捲るたびに目を輝かせていた。
ひより「でも、これで本当いいのかな……」
小さく呟いたつもりだった。先輩の動きが止まった。聞こえてしまった。
こなた「ひよりん、もうミッションは動いているのだよ……今更止める訳にはいかないよ」
ひより「い、いえ、反対しているのではなくて……これを極秘にしている……気が引けるっス、せめて……私達以外の誰かに見せてからでも……」
そう、この本は私と先輩で描いた漫画……登場人物が私や先輩の友人をパロディにしたもの。
見る人が見れば誰だか特定できそうな内容だった。面白半分にミッションに乗ったものの、現実に完成してみると何かしてはいけない事をしてしまったような罪悪感が
芽生え始めていた。最終的には夏コミに出すとか出さないとか……困ったな……
こなた「見せる……見せるねぇ〜誰に見せる、かがみがいいかな」
ひより「げっ!! そ、それだけはご勘弁を……」
こなた「ゆーちゃん?」
ひより「これを見せるにはまだ早いかと……」
こなた「みなみちゃん?」
ひより「……きっと人格を否定される……」
先輩は溜め息をついた。
こなた「だから極秘にしてきたのでしょ、あともう少しでミッションは終わるだから、迷いは禁物!!」
それは先輩自信が自分に言い聞かせているようにも見えた。
ひより「は、はい……」
私は頷いた。
こなた「それで、ひよりんのサークルは参加出来るの?」
ひより「当選したっス」
こなた「よしよし……それで、この本を何冊刷るかなんだけどね」
嗚呼……話がどんどん具体的になってきた。
ひより「まったくオリジナルなのでどの位売れるかは未知数ですね……100……50冊でも多いかも……」
と言いつつ、私も話しに乗ってしまうのだった。


963 :ひよりの旅 3/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:22:19.98 ID:W145K4B60
 夏コミ三日前だった。突然私は泉先輩に呼び出された。それは泉先輩の家ではなく柊家だった。理由を聞いても先輩は答えてくれない。
何かとっても悪い予感がした。だけど断ることは出来なさそうだ。
私は柊家の玄関の前に立っていた。呼び鈴を押す手が重い。
『ピンポーン』
ドアが開くとかがみ先輩が出てきた。
かがみ「居間に行ってくれる」
冷たい声だった。いつもなら笑顔で迎えてくれるはず。それなのに……
後ろから刺すようなかがみ先輩の視線を感じながら居間に向かった。居間の入り口の扉を開くと……
つかさ先輩、高良先輩、日下部先輩、峰岸先輩が奥の方に並んで座っていた。そして、その対面に、みなみちゃん、ゆーちゃんが並んでいる。
二つの列に挟まれるように泉先輩が座っていた。なにかに怯えるように肩を竦めていた。
ひより「こ、こんにちは〜」
みさお「おっス、こりゃ驚いた、久しぶりじゃないか、全員集合なんて」
日下部せんぱいはいつも通り……ここに呼ばれた理由を聞いていないみたい。私は泉先輩の隣に座った。
少し遅れてかがみ先輩が入ってきて居間の上座に座った……
みさお「ところで柊、なんで呼び出したんだ?」
かがみ先輩は手に持っていた本を人数分皆に渡した。
かがみ「これと同じ物が30冊……こなたの部屋から発見された」
皆は本を手に取り開き始めた。あの本は……ま、まさか……
発見した……誰が?
その時、鋭い視線を感じた。恐る恐るその方見ると……ゆーちゃん……私と泉先輩を軽蔑する様な眼で私を睨んでいた。本を手に取っていない。
まさかゆーちゃんは既に見ているのか……本を発見したって……ゆーちゃんが……
私の顔が青ざめていくのが分った。やはり、印刷は私がすべきだった……
顔が赤くなったつかさ先輩、目つきが恐くなった日下部先輩……無表情な高良先輩とみなみちゃん、峰岸さん……
みさお「……これって、私達だよな……こんな事をするような奴は……」
日下部先輩が私達に向くと皆が一斉に私達の方を向いた。
かがみ「これから泉こなたの弾劾裁判を施行する!」
さながら裁判官か検事の風貌を漂わせたかがみ先輩。
こなた「あの、ひよりんは……」
かがみ「被告人は黙っていなさい」
かがみ先輩の目つきが豹変した。
こなた「ひ、ひぃ……」
かがみ「この本を見てもらって分るように罪状は明らかよ、これは悪戯の域を超えたもの、ここまで私達を侮辱されたのは始めてだ」
日下部先輩とゆーちゃんは頷いた。
かがみ「同じ物を30冊も、どうするつもりだった」
かがみ先輩は泉先輩を睨んだ。泉先輩は方をつぼめたまま話そうとはしない。
かがみ「この期に及んで黙秘権か……見損なったわよ、田村さん、答えてくれるわね……」
かがみ先輩の目が和らいだ、私はその目に吸い込まれそうになった。
ひより「あ、あの……夏コミ……コミックマーケットに出品を……」
こなた「ば、バカ、そんな事を言ったら……」
『バン!!!』
かがみ先輩は手に持っていた本を泉先輩に向かって叩き付けた。本は泉先輩の顔に当たった。いすみ先輩の鼻から血が少し出てきた。
かがみ「いい加減にしろ、まだ隠そうとするのか、バカ!!」
この時分った、かがみ先輩は本気で怒っている。皆もそれを見て少し怯んだように見えた。かがみ先輩は泉先輩に近づいて腕を上げた。殴るつもりだ……
私は目を閉じて顔を背けた……あれ、叩いた音がしない。私はゆっくり目を開けた。かがみ先輩は腕を上げたままだった。泉先輩の前につかさ先輩が立っていた。
かがみ「つかさ、何のつもり、そこをどきなさい」
つかさ先輩は首を横に振った。
かがみ「奴を庇うつもり、何故よ、つかさも本を見たでしょ、こなたには鉄槌が必要だ!!!」
つかさ「殴っても何も変わらないよ……見てよ、こなちゃん怪我しちゃったよ」
かがみ先輩はつかさ先輩を睨んだ。つかさ先輩はそんなかがみ先輩を尻目にポケットからハンカチを出すとかがみ先輩を背にして泉先輩の鼻血を拭い始めた。
つかさ「大丈夫、痛かった?」
964 :ひよりの旅 4/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:24:01.74 ID:W145K4B60
 優しい声だった……何だろう、今までのつかさ先輩と違う……かがみ先輩が怒っている時、私の知っているつかさ先輩はおどおどしているだけだったのに。
かがみ先輩の怒りに動じていない。それどころか泉先輩を気遣っているなんて……
かがみ「あんたはこなたが憎くないの、つかさがこの本でどう扱われているのか分って言っているのか」
つかさ「お姉ちゃんがこなちゃんを殴ったら、もう二度とこなちゃんはお姉ちゃんと会えなくなるよ……それでもいいの」
かがみ「別に殺すわけじゃない……」
つかさ「お姉ちゃんは友達としてもう会えなくなるよって意味だよ……」
こなた「……ゴメン……なさい」
泉先輩はつかさ先輩のハンカチを取るとそのまま目に当てた……泣いている?
こなた「皆……ごめんなさい」
声が少しかすれている。泉先輩は泣いている。
かがみ「あ、謝って済むと思っているの……」
珍しくかがみ先輩が動揺している。
つかさ「私は……許すよ、もうあの本は出さないよね」
こなた「う、うん……」
泉先輩が謝った……それも驚いたけど、もっと驚いたのはつかさ先輩の言動だった。何かを守ろうとしている。それが伝わってきた。
泉先輩が泣いたのもそれが分ったからじゃないかな。私も何か心が動かされた。
ひより「済みませんでした……最初に原案を提案したのは私です……私も同罪」
かがみ「た、田村さん……」
かがみ先輩が一歩下がった。
みさお「……私も許す……ちびっ子、つかさに感謝するんだな」
みゆき「もう充分だと思います、弾劾は終わりました……」
ゆたか「……も、もう、良いよ、お姉ちゃん、田村さん……」
かがみ「……みんな甘い、甘すぎるわ……」
かがみ先輩の上げていた腕は下ろされた……その時のつかさ先輩の笑顔が印象に残った。
それから私と泉先輩だけ残り皆は帰った。その後、かがみ先輩の部屋に移り、私達二人はみっちりお説教を受けたのだった。
30冊の本は柊家の中庭にてかがみ先輩の立会いの下で燃やされた。
 
 私が柊家の玄関を出るとゆーちゃんが立っていた。
ゆたか「あの本……燃やしたの、庭から煙が見えたから……」
私は頷いた。
ゆたか「私……そこまでするつもりは……」
ひより「うんん、自業自得だったよ……」
私達は並んで歩き始めた。
ゆたか「それにしても……つかさ先輩、かっこ良かった……憧れちゃうかも」
ひより「専門学校を卒業してから会っていなかったけど……一回り大きく見えた」
ゆたか「つかさ先輩、かがみ先輩の目を見ながら必死にお姉ちゃんを庇っていた、多分、叩かれるのも覚悟の上だったかもしれないね」
ひより「……社会人になるとこうも違うのかな……凄いね」
ゆたか「う〜ん」
ゆーちゃんは立ち止まった。
ひより「どうしたの?」
ゆたか「社会人になるのとはあまり関係かないかも、ゆいお姉ちゃんは学生時代とあまり変わらなかったような……」
ひより「……成実さんは変わらないと言うよりは……最初から変わっているよ……い、いや、良い意味で言っているから」
ゆたか「ふふ、別にそのくらいじゃ怒らないから大丈夫だよ……」
よかった。笑ってくれた……
ひより「みなみちゃん、何も言っていなかったけど……もしかして、私、嫌われちゃったかな……」
ゆたか「うんん、それは大丈夫だよ、怒るよりも本の出来が良かったって感心していた」
ひより「かがみ先輩と随分違う反応だな……むしろ軽蔑されるかと思ったけど」
ゆたか「そうだね……やっぱりこうゆう物を作る時は、手順を踏まないと理解してもらえないよ」
それはかがみ先輩が何度も言っていた。秘密にするのが一番いけない事……そうだね。
私達は駅に向かった。

965 :ひよりの旅 5/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:25:11.49 ID:W145K4B60
『キキー!!!』
大通りに出る少し前だった。凄いブレーキ音、それ共に猛スピードでトラックが近づいてきた。私達の少し前で止まると、エンジンを空吹かしして走り去った。
ひより「乱暴な運転だね〜」
ゆたか「ふぅ〜少し驚いちゃった……」
少し歩くと道端に丸い茶色の塊が見えた。ゆーちゃんは直ぐにそれが何か分ったみたいだった。その丸い物に走り寄ってしゃがんだ。私も直ぐ後を追いかけた。
ひより「何、何なの?」
ゆたか「犬だよ……酷い……さっきのトラックの急ブレーキはこの犬が来たから……」
これは犬だろうか。確かに柴犬みたいな毛、大きさもそのくらいだけど……首輪をしていない……
ひより「柴犬ってもっとコロコロしていない?」
ゆたか「うんん、それは冬の毛、今は夏毛だから細く見えるって」
ゆーちゃんは優しく犬の背中を擦った。ピクリともしなかった。
ひより「もしかして……死んでいる?」
ゆたか「うんん、背中から鼓動が伝わってくるよ……」
ゆーちゃんは犬の身体を細かく見だした。
ゆたか「怪我はしていないみたい……」
しかし、犬は動かないままだった。
「どうかしましたか?」
後ろから声がした。私達は声のする方を向いた。
「あら……小早川さん……えっと、田村さんでしたっけ?」
私達を知っている。でも私は知らない……あれ、会ったことあるかな……思い出せない。
ひより「あ、あの〜どちら様で?」
ゆたか「田村さん、知らないの、何度も会っているでしょ、柊いのりさん……」
そう言われてみると目がかがみ先輩に似ているような気がする……巫女姿……もっと直ぐに思い出すべきだった。
いのり「かがみ……つかさ、どちらの友達だったかしら……」
ゆたか「どちらの友達でもありますけど……」
いのり「今後とも二人をよろしく……っと、挨拶は置いておいて……こんな道端でどうしたの?」
ゆたか「実は……犬が車に……」
私達は倒れている犬の方向いた。いのりさんも私達と同じ方を向いた。いのりさんはそっと犬を抱きかかえた。
いのり「大丈夫かな……」
いのりさんの顔が緩んでいる。犬が好きなのは直ぐに分った。
いのり「……この子、犬じゃないね……狐じゃない?」
ひより・ゆたか「きつね、野生の?」
いのりさんは頷いた。
ひより「い、いくらなんでもこの街に狐だなんて……狸なら居るかもしれないけど……ねぇ」
私はゆーちゃんに同意を求めた。
ゆたか「狐にしろ、犬にしろ、このままじゃ可愛そうだよ……」
ゆーちゃんの顔が悲しげになってきた。
ひより「う〜ん、家はもう犬を飼っているから引き取れない、ゆーちゃんだって居候の身だから同じでしょ」
ゆたか「そ、そうだけど……実家も犬を飼っているし……」
いのり「家も両親、四姉妹の大所帯だから……」
重い空気が立ち込めてきた……八方塞って所か。
沈黙が暫く続いた。
いのり「神社の境内にある掃除用具倉庫……そこがいいかな」
いのりさんが呟くように話しだした。いのりさんは犬……じゃなかった、狐をゆーちゃんに手渡した。
いのり「神社の入り口で待っていてくれる、いろいろ持ってくるから」
ひより・ゆたか「は、はい」
私達は来た道を戻り神社に向かった。

966 :ひよりの旅 6/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:26:51.13 ID:W145K4B60
 狐はゆーちゃんの腕の中で静かに眠っている。神社に着いて10分くらいした頃、いのりさんがダンボールを抱えて走ってやってきた。服は着替えていない。巫女服のままだった。
いのり「ごめん、待たせてしまった」
私はダンボールを受け取り、ゆーちゃんは狐をいのりさんに渡した。
いのり「付いて来て」
いのりさんに言われるまま、私達は神社の奥へと進んでいった。
いのり「家に行ったら、泉さんが居てね……話が弾んでいたみたいだから何も言わないで来てしまった」
私とゆーちゃんは顔を見合わせた。
ゆたか「ふふ、仲直りしたみたいだね」
ひより「そうだね」
いのり「仲直り……なにかあったの?」
私達は今までの経緯を話した。

 神社の奥にある倉庫。その裏にいのりさんは私達を案内した。倉庫の裏にダンボールを置き、タオルを敷いて狐をそっと寝かせた。
いのり「そんな事があったの……つかさがね……確かに今までつかさじゃそんな事はしない……きっと一人旅をしたせいかしら」
ゆたか「つかさ先輩、一人旅をしたのですか……どうだったのかな」
いのり「……かがみには話したみたいだけどね、私やまつりにはさっぱり……でも、悪い体験じゃなさそうだから私も敢て聞こうとは思わない」
寝ている狐を優しい目で見ているいのりさん。そんな目で妹達を見ていたと思う。今までそんなに話した事なかったけど、やっぱり長女だなと思った。
ゆたか「ところで、いのりさんのその巫女服はどうしたの?」
いのり「あ、ああ、これね、これは近所の地鎮祭の帰りだったから……着替えるの忘れていた……」
私達は笑った。
『ガサ・ガサ』
ダンボールの方から音がした。狐の意識が戻ったみたいだった。狐は私達をじっと見ている。
ゆたか「あ、気が付いた、大丈夫、狐さん」
ゆーちゃんが狐に手を伸ばそうとした時だった。
いのり「止めなさい、野生の動物だから危険、触ったら噛まれるかもしれない」
ゆーちゃんは直ぐに手を引っ込めた。
狐は私達を恐れるわけでもなく、甘えるわけでもなく、じっと観察しているみたいに見えた。
ゆたか「気が付いて良かった……でも、これからどうしよう……」
いのり「ここなら雨風は防げるし、野犬の心配もない、あとは元気になるまでの食料をどうするか」
ゆたか「私とひよりちゃんは夏休みだから交代で餌をあげられます、ねぇ、そうだよね、ひよりちゃん」
ひより「え、ええ、そうだね、出来る……でも、コミケが終わってからでないと……」
いのり「それなら、当分行事がないから私も手伝うよ」
ゆたか「ありがとう、いのりさんが手伝ってくれるなら百人力です」
な、なんだ……私は自分の目を疑った。いのりさんとゆーちゃんは気が付かないみたいだけど。私ははっきりと見た。この狐は何かおかしい。
ゆーちゃんといのりさんの会話を聞いている。ゆーちゃんが話して、いのりさんが話し出す前に顔をいのりさんに向けている……これは会話を理解していないと出来ない。
そもそも野生の狐がここに居る事自体がおかしい……何だろう、この違和感は……
私は狐をじっと見た。狐はそれに気付き目線を逸らした……そんな……ますます怪しい……そんな仕草は家の犬もチェリーちゃんでさえしない。
ゆたか「田村さん、田村さん、どうしたの?」
私はハッと我に返った。こんなのは確証も何も無いし、話したってバカにされるだけ。それに私の病気、妄想が出てきただけかもしれない。忘れよう。
ひより「え、あ、いや、何だろうね」
ゆたか・いのり「何だろうね?」
ひより「あ、ああ、そうでなくて、えっと、そうだ、狐さんも気が付いた事だし、何か餌をあげないと……」
いのり「餌ね……そこまで頭が回らなかった……あ、そういえば地鎮祭で頂いた稲荷ずしがあった」
いのりさんは袖の下から袋を取り出した。狐は起き上がり前足をダンボールの淵に乗せた。
いのり「あらあら、食べたいの、稲荷ずしだけど食べるかしら……」
狐の口からポタポタと唾液が落ち始めた……まさかとは思うけど……中身が稲荷ずしって分っている……訳ない……う〜ん。
いのりさんが袋から稲荷ずしを取り出すとゆっくり狐の口元に差し出した。狐は稲荷ずしをパクっと食べ始めた。
ゆたか「美味しそうに食べているね……狐って昔話みたいにやっぱり油揚げの料理が好きみたいだね」
いやいや……それは違う、普通の狐はネズミや小動物が餌のはず……それに人間から餌を貰うなんて……
いのり「人間にも馴れているみたいだし、きっとどこかで飼われていたのかもしれない」
ひより「それだ!!」
思わず叫んだ。二人はポカンと私を見ていた。
ひより「ですよね〜そうですよ、狐がこんな所に居るはずない、きっと誰かが飼っていたにちがいないですよ、珍しいから飼い主も見つかるかもしれない」
なんだ、そうだよ。それしか考えられない、私ったら……なにボケているのだろう。
いのり「明日は私が来るから、元気になるまでここに居て良いからね」
狐はいのりさんをじっと見つめていた。
ひより「それよりこのままだと逃げ出したりしないかな……繋げないと……」
ゆたか「あ、今、狐さん嫌がったみたい、大丈夫だよこのまま大人しく元気になるまで居てくれるよ……」
狐はダンボールの中で丸くなった……いのりさんはホッとした表情を見せた。
いのり「それじゃ、帰ろうか」
ひより・ゆたか「はい」

967 :ひよりの旅 7/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:28:33.80 ID:W145K4B60
 やっぱりおかしい……二人はスルーしたけど、私が狐を繋ぐ話しをしたら嫌なポーズをした……それはゆーちゃんもそう言ったから間違えない。
人間の言葉を理解出来る動物……それは躾や、訓練のレベルじゃないような気がする。私はあの狐に妙な興味を抱くようになった。
でも、目前にコミケが……コミケが無ければ……私の痛い性がこれ以上の詮索を許さなかった。
コミケが終わり、私の餌当番が来た時には狐は居なかった。いろいろ試してみたい事があったと言うのに。いったいあの狐は何だったのだろうか?
もう一つ不思議なことがあった。ダンボールとタオルが綺麗なままだった。どうやって?
今となってはどうする事も出来ない。

 つかさ先輩にお礼を言いたい。そう思っていた。しかし程なく彼女は一人で遠地に引っ越す事になった。なんでも一人旅で出会った人に
スカウトされてそこの店で働く事になったらしい。つかさ先輩の料理の腕は高校時代だからは知っていたけど、スカウトされる程だったとは思わなかった。
そこで私はお礼と、新天地での就職の祝いを兼ねてゆーちゃんとみなみちゃんを誘ってつかさ先輩の働く店を訪ねる事になった。

ゆたか「……レストランかえで……そう言っていたよね?」
みなみ「神社がある……少し行き過ぎたみたい」
地図を持っているみなみちゃんは反対方向を指差した。
ひより「それじゃ戻るかな……しかし、まだ泉先輩達が店に行っていない……私達の方が早いなんて、ちょっと順番が逆のような気がするね」
ゆたか「そうだね、なかなか時間が合わないみたい」
みなみ「私達が行けばきっと喜んでくれそう……」
新しい店なので地図には載っていない。温泉宿を目標に私達は歩いた。

ひより「レストランかえで……これだ!!」
新しい店……そう聞いていた。だけど古い温泉宿の一部を改装したようだ。目新しさはまったく感じられなかった。
ひより「う〜ん、これってどうなんだろう、見た目はたいした事ないような……」
ゆたか「田村さん、失礼だよ、何をしに来たのか分っているの!!」
ひより「あ、失礼、失言でした……」
ゆーちゃんが怒るのも無理はない。私はお礼と祝いに来たのだった。インネンを付けにきたのではない。
みなみちゃんが店の扉に近づいた。みなみちゃんがドアに触れる前にドアは開いた。
「いらっしゃいませ」
店内から女性が出てきた。どうやら店員らしい……だけどなんとなく堂々として威厳があるような……
みなみ「予約しました田村ひより他2名ですけど」
「……伺っております……貴方達が高校時代の後輩のお客様ね、私は店長の松本かえでです」
みなみ「私は、つかささんの後輩、岩崎みなみです……」
ゆたか「私は、小早川ゆたか……」
ひより「田村ひよりっス……」
かえで「遠路はるばるお疲れ様でした、お待ちしておりました、どうぞ……」
松本さんは手を広げてお辞儀をして店内に招いた。松本さんに案内された席に着いた。
かえで「少々お待ち下さい」
すると松本さんは私達の席の近くに寄り、小声で話した。
かえで「つかさは何度も貴方達の話しをするのよ……よっぽど嬉しいみたい……今日は楽しんで行ってね」
松本さんはウィンクをすると厨房に向かって行った。
みなみ「松本さん……厳しい人だと聞いていた」
ゆたか「うん、そう聞いていたけど……仕事以外の話しをするのは、それだけつかさ先輩が信頼している証拠だと思うよ」
店内を見回した。概観とは打って変わってなんとも落ち着いた佇まい。椅子、テーブル、窓、カーテン、電灯……店長、松本さんのセンスなのだろうか。
この雰囲気……デッサンしたくなる。ゆーちゃんとみなみちゃんが楽しそうに話している。
さすがにこの状況でスケッチブックは出し難いね……
つかさ「いらっしゃいませ」
声の方を向いた……あれ……これがつかさ先輩……学生服と私服した見たこと無かった。白い調理用の制服……短い髪が清潔感をかもし出している。
大人っぽい……これが社会人ってやつなのか……かがみ先輩や高良先輩とは違った魅力を感じる。
ゆたか「うわ〜かっこいいですね、すっごく似合っています」
少し照れて顔を赤くする所はまだ高校時代のままだ。だけど高校時代にそんな色っぽくはなかった。この表情もスケッチして取っておきたい……
みなみ「今まで来られなくてすみませんでした……」
つかさ「うんん、まだまだひよっ子だから……出来ればもう少し落ちてから来てもらいたかった……でも、ありがとう、今日の献立は私に任せて」
ゆたか・みなみ「はい、お任せします」
ゆたか「ひよりちゃん……ひよりちゃん」
ひより「……良い……」
ゆたか「いい、いいって何?」
私は我に帰った。
ひより「え、あ、な、何でもない」
相変わらず妄想が激しいな……自重しないと……
ゆたか「料理は任せてって」
ひより「うん」

968 :ひよりの旅 8/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:29:54.28 ID:W145K4B60
 前菜から始まり、スープ、肉料理、サラダ、そしてデザート……フルコースだった。
田舎で素材が良いのもあるのかもしれない。だけど、松本さんの作る料理は確かに違う……ゆーちゃんもみなみちゃんも会話を忘れて食べるのに夢中になっている。
確かつかさ先輩と同じ専門学校だって言っていたっけ。旅で出会った。こんな人と出会えるなんて。つかさ先輩もなかなかの強運なのかもしれない。
つかさ「いかがでしたか?」
厨房からつかささんが来た。
ゆたか「とっても美味しかった……全部食べたの、はじめてかも」
確かに、食の細いゆーちゃんがあんなに食べるのを見るのは初めてだ。
みなみ「言葉には表せません……」
つかさ「ありがとう……えっと、最後のデザートなんだけど、私が作ったのだけど……どうだった?」
私達は空になった器をつかさ先輩に見せた。つかさ先輩は満面の笑みを見せた。
つかさ「ありがとう」
そのまま松本さんの居るホールに駆け寄って何か話している。松本さんも私達の方を向いて喜んでいる……何だろう。二人が姉妹みたいに見えてきた。
……なるほどね、つかさ先輩にとって、松本さんはかがみ先輩の代わりなのかもしれない。この店は繁盛する。そう確信した。
暫くするとつかさ先輩がまたこっちの方に来た。
つかさ「今夜はここの温泉宿に泊まるって聞いたけど?」
私達は頷いた。
つかさ「仕事が終わったらお邪魔しても良いかな……」
私達は顔を見合わせた。
ゆたか「ぜんぜん、構わないです」
つかさ「それじゃ、温泉でも入って待ってて、ここの温泉はとっても良いからね」
つかさ先輩は厨房に向かって行った。
みなみ「……つかさ先輩、はつらつとしていて良かった」
ゆたか「元気いっぱいって感じ、それに料理も……高校時代に食べたクッキーなんか比べ物にならない」
ひより「そんな時代と比べたら可愛そうだよ」
私達は笑った。
969 :ひよりの旅 9/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:31:09.94 ID:W145K4B60
ひより「ふぁ〜」
欠伸が出た。私とゆーちゃんは一足先に温泉に入ってきた。つかさ先輩が言うようにとてもいい湯だった。移動してきた疲れも取れた。
ゆたか「とっても良い湯だからみなみちゃんもどうぞ」
 みなみちゃんは準備をし始めた。
みなみ「つかさ先輩……遅い、もうお店も終わる時間だと言うのに……」
ひより「これが社会人ってもの、後片付けや、明日の準備、打ち合わせなんかすればあっという間に時間は過ぎる」
ゆたか「大変なんだね……私……自信なくしちゃうな……身体も弱いし……」
ひより「高校を卒業してから随分元気になったと思うよ、ね」
私はみなみちゃんの方を向いた。
みなみ「熱が出なくなった、乗り物酔いも無くなった……」
ひより「ほらほら、元保健委員のみなみちゃんが言ってるのだから」
みなみちゃんは立ち上がり部屋を出ようとした。
『コンコン』
ドアがノックされた。ドアに一番近いみなみちゃんがドアを開けた。
つかさ「遅くなってごめ〜ん」
直ぐ隣の建屋からの移動、ぎりぎりまで店で仕事をしていたに違いない。みなみちゃんは温泉に行くのを止めて部屋の中央に戻った
ゆたか「お疲れ様でした」
つかさ「明日の準備に手間取っちゃった……かえでさん、連れて来ようとしたけど……今日は無理だって」
なるほどね、つかさ先輩は松本さんを下の名前で呼んでいる。でもまぁ、今更驚くことじゃないか。お昼の二人を見れば分る。
松本かえで……もう少しどんな人か知りたかったな。残念。
ゆたか「松本さんってどんな人なの」
ゆーちゃんはお茶の準備をしながら質問をした。
つかさ「怒ると恐いけど……とっても優しくて、いろいろ教えてくれる人……」
ゆたか「恐くて優しい……なんか複雑で難しい表現ですね」
ひより「そうでもない、身近な人で似ている人が居るよ」
つかさ・ゆたか・みなみ「誰?」
うわ、つかさ先輩まで聞いてくるとは思わなかった。これは本来つかさ先輩が言うべき事なんだろうけど、つかさ先輩のこう言うキャラがいい味をだすのよね。お昼の時とは違う、私の知っているつかさ先輩。でも、しったかぶらない所は見習わないといけないのかもしらない。
ひより「それは、かがみ先輩」
ゆたか「あ……そう言われてみると……」
みなみちゃんも納得した表情をした。つかさ先輩は少し考え込んだ……納得していないようだった。かがみ先輩はつかさ先輩から見ると「恐い」が抜けて見えてしまっているから
松本さんを似ていると認識出来ない。そう私は理解した。もっともかがみ先輩がつかさ先輩を直接怒った所は一度も見たことはないけどね。
みなみ「お仕事、大変層ですね……」
みなみちゃんが話題を変えた。
つかさ「そうだね、まだ店が独立したからそんなに経っていないから、落ち着くまでは忙しいってかえでさんが言っていた」
みなみ「すみません、そんな状態でお邪魔してしまって」
つかさ「うんん、来てくれて嬉しかった……あぁ、そうそう、みなみちゃん達、未成年でしょ、お姉ちゃんから連絡があって、私が引率しなさいって言うから、
    泊まらせてもらうね、私、お邪魔しちゃって良い?」
かがみ先輩……硬いことを……
みなみ「重ね重ね、すみません……」
かがみ先輩のおかげなのだろうか。専門学校を卒業してから殆ど話す機会のなかったつかさ先輩と話す時間が出来た。私達は時間を忘れてお喋りを楽しんだ。

ゆたか「あの、つかさ先輩は何故、松本さんの誘いを受けたのですか……」
その時、つかさ先輩は私には一度も見せなかった悲しい顔になった。何故だろう。ゆーちゃんもつかささんの表情に気が付いたみたいだった。
ゆたか「あっ、ごめんなさい、言い難い事でしたら結構です……」
つかさ先輩は直ぐに笑顔になった。
つかさ「うんん、話しても良いけど……信じてくれるかな」
ゆたか「どう言う事ですか……?」
信じてくれるかどうか。この言葉にものすごく興味を抱いた。どんな話しなのか、つかさ先輩に何があったのか。何故一人でこんな田舎に引っ越したのか。
何か衝撃的な何かなければ無ければこんな事はしない。これは聞かないわけにはいかない。
ひより「是非、聞かせてください」
ゆたか・みなみ「おねがいします」
つかさ先輩は静かに目を閉じた。話すのを躊躇っている……違う、どう話すのか自分の頭の中を整理している様に見えた。
つかさ先輩はポケットから財布を出すと中から一万円札を出した。
つかさ「これ、何に見える?」
ゆたか「いち……一万円札にしか見えませんが……」
私とみなみちゃんも頷いた。
つかさ「これね……触れてから半日経つと、葉っぱに見える……うんん、元の葉っぱに戻るだけなんだどね……」
私達は顔を見合わせた。
ゆたか「言っている意味が分らないのですが……」
つかさ先輩は一万円札を財布にしまった。
つかさ「話すよ、私が何故、ここに移り住んだ訳を……」
つかさ先輩は静かに話しだした。



『ひよりの旅』



970 :ひよりの旅 10/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:32:34.10 ID:W145K4B60
 つかさ先輩が話しを終えると辺りは静まり返った。
いつもポーカーフェイスのみなみちゃんがハンカチで目を押さえていた。こんな姿を見たのは、はじめてだった。
つかさ「ご、ごめんなさい……私そんなつもりで話した訳じゃないけど……」
つかさ先輩も目が潤んでいた。思い出してしまったに違いない。
つかさ「わ、私、温泉に入ってくるね、まだ入っていない人、一緒にどうぞ……」
慌てて準備をして部屋を出て行くつかさ先輩。後を追うようにみなみちゃんも部屋を出て行った。

 つかさ先輩の一人旅……真奈美さん、松本さんとの出会い。松本さんの友人の辻さん……
とても感慨深い話だった。このまま私が漫画のネタにしてしまいたいくらいだった。
つかさ先輩が泉先輩を庇った理由もこれで納得がいく。それに、つかさ先輩が妙に大人っぽく見えたのもこれが原因だった。
私もその場で涙を流してしまいそうだった。でも涙はでなかった。涙を出すのを止めてしまった出来事を思い出してしまったから。
それは、つかさ先輩の出会った真奈美さん。お稲荷さんと言っていた……そのお稲荷さんとゆーちゃんの見付けた狐が私の頭の中で一致してしまったからだ。
あの狐はどう考えても野生の動物ではない。私はゆーちゃんの方を見た。ゆーちゃんは乾かしていたタオルを取り、温泉に行こうと部屋を出ようとしていた。
ひより「ゆーちゃん?」
私は呼び止めた。ゆーちゃんは立ち止まり私の方を向いた。ゆーちゃんも目が潤んでいる。
ゆたか「私……もう一度温泉に入ってくるね」
そう言うとドアに手を掛けた。
ひより「つかさ先輩の言っていたお稲荷さんなんだけどね、あれってこの前、車に轢かれそうになった狐と同じだとは思わない?」
ゆーちゃんの動きが止まった。
ひより「やっぱり、ゆーちゃんもそう思うよね」
ゆたか「あの子は狐じゃなかった、いのりさんが調べてくれた、柴犬の雑種だったみたいだよ、だから狐に見えたって……」
ひより「い、いや、そうじゃなくて、私は見たよ、あの行動は犬や狐じゃ説明できるものじゃ……」
ゆたか「私……行ってくる……」
ゆーちゃんの目から涙が零れているのが見えた。ゆーちゃんはそのまま部屋を出て行った。
あの時私の見たのは何だったのだろう。狐でなく犬だったとしても……
静まり返った部屋に私一人……その時私は気が付いた。
ひより「ふぅ」
溜め息を一回。
空気が読めないって私の事だった。今はつかさ先輩の話しで皆は頭がいっぱいだった。
それに、もう何処に行ったか分らない犬の話しをしても意味はない。それより素直につかさ先輩の話しに浸った方が良い。
私も温泉に行く準備をして部屋を出た。

 一番髪の長いせいなのか、更衣室に私一人、ドライヤーで髪を乾かしていた。皆はもう部屋に戻ったみたいだった。
温泉での話しで妙に私だけが浮いているのが分った。
涙を流さなかったのは私一人、狐の一件が無ければ……本当にそうなのかな。私はつかさ先輩の話しをネタの一つにしか思っていなかった。だから心から感動しなかった。
いつも第三者的な目の私……何時からこんなになったのだろう。
ふと鏡を見てみた。そこには髪をドライヤーで乾かしている私が映っていた。
ひより「ふふ」
笑うと鏡に映っている私も笑う……
何時からって、それは私が生まれた時から……私は私。
髪は乾いたみたい。ドライヤーを止めて席を立った。さて、部屋に戻ろう。

971 :ひよりの旅 11/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:33:50.24 ID:W145K4B60
 更衣室を出ようとした。椅子にゆーちゃんが座っていた。どうしたのだろう。私を待っていてくれたのだろうか。ゆーちゃんに声をかけようとした。けど、止めた。
ゆーちゃんは目を閉じて静かに座っている。何だろう。瞑想でもしているかのような雰囲気だった。全身の力をぬいて一定の間隔で呼吸をしている。
ゆたか「ふぅ〜」
最後に大きく息を吐くとゆっくり目を開けた。そして私の方を向いた。
ゆたか「あ、あれ、ひよりちゃん……」
私が居たのを今、気付いたみたいだった。
ひより「……何をしていたの……神秘的な感じだった」
ゆたか「えっと、健康呼吸法って言ってね、先生に教えてもらったのをしていたのだけど……」
ひより「先生?」
ゆたか「うん、高校を卒業するくらいの頃ね、近所に整体がオープンしたから、そこで教えてもらった」
ひより「整体……」
私の頭の中にいけない何かを思い浮かべようとしている。
ゆたか「どうしたの?」
ひより「え、何でもない……ゆーちゃんが最近元気なのも、そのおかげかもしれないね」
ゆたか「大学になってから一度も休まなくなったから……そのおかげかな……」
ゆーちゃんは席を立った。
ひより「部屋に戻ろう」
私は更衣室を出ようとした。
ゆたか「ちょっと待って……」
ひより「何?」
私を呼び止めた。振り向くとゆーちゃんは何か言いたげな感じだった。ためらっているのか、少し話しだすのに時間がかかった。
ゆたか「……さっきの話しなんだけど……ひよりちゃんもあの犬をお稲荷さんだと思うの?」
「も」……ゆーちゃんはそう言った。やっぱりつかさ先輩の話しを聞いてゆーちゃんも私と同じ事を考えていた。
ひより「そうだけど、もうそれを確かめる事も出来ないし……私の話しは忘れて」
ゆたか「……うんん、確かめられるよ……あの子ね、まだ神社から出ていないから……」
ひより「出ていないって、どう言う事なの?」
ゆーちゃんはまた暫く話そうとはしなかった。
ゆたか「……週に二回、いのりさんの稲荷寿司を食べに神社に来るようになった、私と交代で世話をしているの……」
ひより「ちょっと待って、あれから二ヶ月も経っているよ……私もあの時一緒に居たのに、」
ゆたか「……ごめんなさい……いのりさんが秘密にしようって言うから……言いそびれちゃった」
ゆーちゃんは申し訳なさそうに肩を落としていた。今まで黙っていたのはいのりさんと約束のせいだったのか。
ひより「それで、何で今、話す気になったの?」
ゆたか「私もあの犬はちょっと不思議な感じがするなって思っていた、それに、さっきのつかささんの話しを聞いて、それからひよりちゃんがさっき言うものだから……
秘密に出来なかった……本当に、ごめんなさい」
深々と頭を下げるゆーちゃん。
ひより「このままずっとって訳にはいかないと思うよ、犬の放し飼いは違法だし、下手すると保健所に捕まって……処分室に……」
ゆーちゃんは両手で耳を押さえた。
ゆたか「止めて、その話は……分っている、分っているけど……どうにもならない」
話しは思った以上に深刻だった……
ひより「柊家では飼えないの?」
ゆたか「いのりさんは家族に言ったみたいだけど……かがみ先輩は反対、まつりさんは猫の方が良いって、ご両親は皆がよければって……」
するとかがみ先輩とまつりさん次第って訳か。
ひより「私も協力したいけど良いかな?」
ゆたか「本当に……ありがとう」
ゆーちゃんは私の手を両手で握って喜んだ。
ひより「私も当事者みたいなものだしね……」
それもあるけど、なにより犬の正体を確かめたい。その好奇心の方が強かった。
ゆたか「早速だけど、明後日の夕方、私の当番なんだけど一緒に来てくれないかな?」
ひより「うん」
つかさ「大丈夫?」
ひより・ゆたか「うわー!!」
突然つかさ先輩が入ってきた。話しに夢中で近づいてくるのが分らなかった。
ゆたか「だ、大丈夫です」
つかさ「のぼせたのかと思って心配しちゃった、部屋に戻ったらお話ししようね」
ひより・ゆたか「はい」
つかさ先輩は部屋に戻って行った。
ゆたか「ひよりちゃん……この話しは皆に……」
ひより「分っている、内緒でしょ……みなみちゃんにも内緒にするの?」
ゆーちゃんは頷いた。まさかみなみちゃんにも内緒にしているとは思わなかった。もっともみなみちゃんも犬を飼っているから話し難いのは分るような気がする。
あの時、現場に居合わせた偶然に感謝するばかり。
ゆたか「部屋に戻ろう」
ひより「うん」
部屋に戻って私達は夜遅くまでお喋りをして過ごした。
話しは私達が陸桜を卒業するまでの話しや、大学の話が主になった。つかさ先輩も松本さんや、店の話しをしてくれてとても楽しかった。
次の日、つかさ先輩との別れは卒業の日よりも悲しく思えたのが印象的だった。

972 :ひよりの旅 12/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:34:54.68 ID:W145K4B60
 神社の入り口の前で私はゆーちゃんを待っていた。
ゆたか「ごめーん、待った?」
駆け足で来たゆーちゃん。息が切れていた。
ひより「うんん、時間通りだし」
ゆーちゃんは鞄から袋を出し私に渡した。
ひより「これは?」
ゆたか「今日、あの子にあげる餌、稲荷寿司」
私は袋を受け取った。
ひより「あの子って、名前、付けていないの?」
ゆたか「う、うん、飼い主が居るかもしれないから、また付けていない……いのりさんを呼んで来るから先に行ってて」
ゆーちゃんはまた走り出して柊家の方に向かった。
稲荷寿司か……私は袋をじっと見た。毎週のように稲荷寿司を食べに来る犬って、そんなに寿司が好きなのか。それとも他に目的があるのだろうか。
ここで考えていても分らないか。とりあえず向かうか。
神社の境内。狭いとばかり思っていたが、思いのほか広かった。二ヶ月ぶりの場所、しかも一回しか行った事がなかったので迷ってしまった。
確か掃除倉庫って言っていた。
迷った挙げ句に倉庫に着いた。既にゆーちゃんといのりさんは到着していた。例の犬も姿を見せていた。
ゆたか「ひよりちゃん、どうしたの?」
ひより「いやいや、迷ってしまって……」
ゆーちゃんといのりさんは顔を見合わせると笑った。
いのり「ふふ、協力してくれるって聞いた、ありがとう」
ひより「微力ながら……反対されている様ですが……」
いのりさんは溜め息を付いた。
いのり「つかさが居なくなったから良い機会だとは思ったのが間違えね、まつりは猫だったら良いって言い出すし、かがみは話しにならい……困ったもの」
ゆたか「それより、ひよりちゃん、餌をあげて」
気付くと犬はじっと私の持っている袋を見ていた。
ひより「あ、ごめん、ごめん」
袋から稲荷寿司を出すといのりさんは小皿を取り出した。私は不思議に思い動作を止めた。
いのり「地面に置くと食べないから、お皿に置いて」
私はいのりさんの持っている小皿に稲荷寿司を置いた。そして、犬の目の前に小皿を置いた。犬はいのりさんの目をじっとみている。
いのり「おあがり」
その言葉を聞くと同時に犬は稲荷寿司を食べ始めた。
ひより「お預けをするなんて、よく躾けましたね」
ゆたか「うんん、躾けてなんかいないよ、自然にできたよ」
やはり、この犬は捨て犬じゃない。どこかで飼われていた犬だ。
いのり「さて、これからどうしよう、里親を探すしかないかしら」
ゆーちゃんはすごく悲しそうな顔をした。
ひより「どうでしょう、かがみ先輩とまつりさんに来てもらってこの犬を見てもらうのは、実際に見ると可愛くて気にってくれるかもしれませんよ、
    この子は人見知りもしないみたいですし」
いのり「……それは良いかもしれない」
いのりさんは携帯電話を取り出し電話をかけ始めた。
ゆたか「すごい、今まで考えもしなかったのに、ありがとう」
そういわれると照れてしまう。その時だった、犬は稲荷寿司を食べ終わり私達から離れようとしていた。
ゆたか「待って!」
その言葉に犬は立ち止まった。
ゆたか「合わせたい人が居るからもう少し居て、いのりさん達に飼われてみたくない?」
暫くそのまま動かなかったが、私達の所に戻ってきた。
ひより「まるで言葉が分っているみたい……って言うより理解しているよ、これは……」
ゆたか「う、うん、実はね、私もそう思う事が何度かあって……まさか今回も戻って来てくれるとは思わなかった……でも、「待って」って言う声に反応しただけかもしれないし」
私達二人は犬をじっと見た。するといのりさんの陰に隠れるように移動した。
いのりさんは携帯電話をしまった。
いのり「かがみは今来る……まつりがまだ帰ってきていない、直接聞いてみたら明後日なら都合がいいみたい」
ゆーちゃんは喜んだ。いのりさんは犬を抱き上げた。
いのり「さて、どうなるかしらね、あとは君しだいだいだから、しっかりね」
犬はいのりさんを見ている。ゆーちゃんの言うようにこれだけではあの犬がお稲荷さんとは言えない。
もっといろいろ試してみたかったけど、
かがみ先輩とまつりさんが来るとなると直接試せない。かがみ先輩が来て犬がどんな反応をするのか、それで見極めるしかない。

973 :ひよりの旅 13/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:36:22.86 ID:W145K4B60
 暫くするとかがみ先輩が来た。
かがみ「貴女達は……小早川さん、田村さんまで……何故こんな所に……」
驚きの眼だった。私達は笑顔で答える。
ゆたか「一人……一匹の命が懸かっています、どうか助けてください」
かがみ先輩はいのりさんの方を見た。
かがみ「成るほどね……そう言うこと、いのり姉さんも考えたものね、感情に訴えて私を落とすつもりね……」
いのり「そんなつもりは……」
犬はかがみさんの近くに歩いて行った。そして尾っぽを振っている。かがみ先輩と犬の目が合った。
かがみ「……ちょっと、これ……本当に犬なの……これはどうみても……きつ……」
ゆーちゃんは慌ててかがみ先輩の口に割り込みを入れた。
ゆたか「犬、ですよね」
ゆーちゃんはいのりさんを見た。
いのり「犬でしょ」
ゆーちゃんといのりさんは私を見た。
ひより「お、尾っぽを振っていますね……犬以外考えられません……」
かがみ先輩は腰を下ろした。
かがみ「お手……」
かがみ先輩が手を出すと前足をかがみ先輩の手の上に乗せた。
かがみ「伏せ……」
何度かかがみ先輩の言う命令を難なくこなしていく犬だった。
驚いた。初めて会う人間にこれだけ忠実に命令を聞くなんて……私の心の中では既にこの犬の正体はお稲荷さんだと確信付けている。
かがみ先輩は犬の頭を優しく撫ぜた。
かがみ「……大人しくて、賢い犬ね……何か特殊な訓練でもしているのかしら……」
かがみ先輩は立ち上がった。
かがみ「……家でも吠えるような事も無さそうだし……私が反対する理由は無い……」
いのり「これで決まりね……」
私とゆーちゃんもほっと一息する間もなく、かがみ先輩は話しだした。
かがみ「……いや、まだよ、飼うには二つの条件があるわ、一つはまつり姉さんをどうにかする事、もう一つは、これだけ賢い犬をおいそれと捨てる飼い主は居ないはずよ、
    探しているかもしれないわ、飼い主が居ないのを確認できれば文句は言わない」
いのり「……かがみらしい条件ね……わかった、まつりは明後日決着が付く、飼い主の件は……」
いのりさんは考え込んでしまった。
ゆたか「写真を撮って、町中に貼ればいいと思います……」
いのり「それは良い考え、町内の掲示板に貼り付ける、貼り付けの期限が丁度一週間だから、それまでに飼い主が名乗りでなければ……良いわね」
かがみ先輩は頷いた。私は携帯電話を取り出しレンズを犬に向けた。犬は私の方を向いて……ポーズを取っている様に見える……
『パシャ』
かがみ「それじゃ私は帰るわ……田村さん、小早川さん、姉さんをよろしく」
かがみ先輩は帰って行った。

974 :ひよりの旅 14/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:38:25.40 ID:W145K4B60
いのり「ふぅ、厄介な注文をつけるな、かがみは……」
溜め息をつくいのりさん。
ひより「はたしてそうでしょうか、かがみ先輩は言いました、この犬をおいそれと捨てる人は居ないって、逆に言えばこの犬は最初から飼い主が居ない確率の方が高いかも
    しれません……条件の一つはほぼ成立したと同じじゃないでしょうか、かがみ先輩もこの犬を飼いたくなったのでは、私はそう思いますけど」
いのり「……始め反対したからすぐには態度を翻せないって訳ね、素直じゃないね……」
そう、それがかがみ先輩。犬を見た時のかがみ先輩の目はもう「飼いたい」って訴えたように見えた。
ゆたか「飼い主探しのチラシ……私が作っても良いかな?」
ボソっと小さな声だった。
いのり「作ってくれるなら嬉しい」
ひより「撮った写真はゆーちゃんのメールに送っておくよ」
ゆたか「ありがとう」
いのり「ところで、明後日なんだけど……まつりはある意味かがみよりも厄介な相手、気まぐれで私にもどうなるか読めないところがある」
ゆたか「及ばずながら、立ち合わせて頂きます」
ひより「同じく」
いのり「二人が居てくれれば心強いな、成功したら何か御礼をしないとね」
ゆたか「あ、犬の名前決めておかないと、いつまでも犬じゃ可愛そう」
犬はお座りをしながら首を後ろ足で掻いていた。この辺りは犬そのものに見える。
ひより「……ポチ、チビ、が一般的なのかな……」
『フン!!』
犬が咳払いのような声を出した。
ゆたか「……そんな名前じゃ嫌みたい……」
いのり「名前は飼い主が現れなかったからでもいいじゃない、それからでも遅くない」
う〜ん、この犬がお稲荷さんだとすと、必ず人間に化ける時が来るはず、そこを押さえれば正体を明かす事ができそうだ。
ゆたか「あと一週間、こんな状態が続く、また交通事故に遭うかもしれないし……」
いのり「……君、あと一週間、この倉庫を寝床にしてくれないかな、ここなら安全だよ」
いのりさんが犬に語りかけた。これは決定的な瞬間を見られるかもしれない。私は息を呑んで犬の次の行動を観察した。
犬は立ち上がると草むらの中に走って消えてしまった。これは……私が正体を暴こうとしているのを察知したのか。それとも今までが偶然だったのか……
ゆたか「行っちゃった……明後日、来てくれるかな……」
いのり「……さぁ、でも、今日来てくれたのだから、きっと来てくれるでしょ、でなきゃまつりの約束は無意味、飼う事も出来なくなる……」

 いのりさんと別れて私達は駅に向かって歩いていた。
ゆたか「ひよりちゃん、どうだった、あの犬、お稲荷さんだと思う?」
ひより「……五分五分ってところかな……妙な所で犬みたいな行動するし……つかさ先輩が言うみたいに人間になる所を見ないとね……」
ゆたか「……私……あまり詮索しない方がいいと思うのだけど……」
ひより「どうして、分かったって何が変わる訳でもないよ」
ゆーちゃんは立ち止まった。
ゆたか「お稲荷さんは人間に正体を知られないようにしている、だから今まで表に出てこないと私は思うの、正体を知ったら……私達、消されちゃうかもしれない、
    つかさ先輩も殺されかけたでしょ……中途半端な好奇心は危ないよ」
心配そうに私を見るゆーちゃん。
ひより「あの犬……狐が私達を殺すような仕草をしたかな」
ゆーちゃんは首を横に振った。
ひより「私は結構意識してあの犬を見て、うんん、観察しているから向こうもそれに気付いているはず、でも、全く向こうは私に敵対してこない……そればかりか
    正体を明かすヒントを出しているようにも見える、だから少なくともあの犬は私達を敵とは思っていない、これが私の見解」
ゆたか「で、でも……」
ひより「もう今更止められないよ、それに、あれの犬は本当に「ただの犬」かもしれないしね」
ゆーちゃんはゆっくり歩き始めた。
ゆたか「敵対していないのは分るとして、何で毎週のように神社に来て餌を食べにくるのかな……」
ひより「もしかしたら、ゆーちゃんかいのりさんを好きになっちゃたりして……」
ゆたか「えっ!?」
ゆーちゃんの顔が急に赤くなった。冗談で言ったつもりなのに。
ゆたか「そんなのは無いよ……」
ゆーちゃんの歩く速度が速くなった。私はニヤニヤしながら後を追った。


975 :ひよりの旅 15/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:40:06.04 ID:W145K4B60
 お稲荷さんと人間。確かにつかさ先輩の話しからすると何か良くない因縁を感じる。彼らもそう簡単には正体を見せてくれない。
いっその事直接聞いてみるのも良いかもしれない。その時、本性をあらわにして私の命を狙ってくるかも……好奇心は猫をも殺すって諺があるけど……
うんん、そんなの恐れていては何もできない。これはきっと良いネタになるに違いない。
それにしてもゆーちゃんは何故あの犬にこれほどまでに親身になっているのだろう。それともいのりさんの為なのだろうか……
いのりさんもあの犬には特別の想いでもあるのだろうか。私がコミケに参加していた間に何かがあったのかな……
今日はもういのりさん、ゆーちゃんと別れてしまったから聞けない。分らないから想像する。だから楽しい。
それぞれの思惑が交錯して新たな物語が生まれる……これは面白くなってきた。

 そして、三日後……
少し早かったか。一本早い電車で来てしまった。神社で少し待つようになるけど……まぁそれはそれで良いか。
神社への道を歩いていた……何だろう、何か騒がしい。子供が騒いでいるみたいだ。もう夕方に近いからか。歩いていくと子供達の声が次第に大きく聞こえてきた。
近づいている。ふと声のする方を見てみた。数人の小学生くらいの子供達が集まって何かをしている。このご時勢に外で遊ぶ子供もいるな…んて……あれ?
子供の足の間から茶色い物が見えた。私は立ち止まって良く見てみた。犬、あの犬だ。子供に追い詰められてうずくまっている。
子供達は犬を囲うようにして棒で突いていた。俗に言ういじめってやつか……
私が注意してはたして止めてくれるだろうか。子供と言っても数人ともなれば女の力で抑え付けられるかな……あまり自信はない。
棒で犬を突く。もう犬は怯えきって壁を背に丸まってしまった。子供は笑いながら更に棒で犬を突いていた。どんどんエスカレートしていく。見るに耐えない。
一人の子供がバットを持ち出して来た。これはまずい。私は子供達の所に駆け寄ろうとした時だった。
「こら、やめなさい!!」
私の後ろから怒鳴り声が聞こえた。子供達は私の方を向いた。私は後ろを振り向いた。女性だった。あれ……この女性は……見た事ある……思い出せない。
「そんな事をして楽しいの、放してあげなさい」
子供はその場を動こうとしなかった。女性は子供達の所に歩いて向かった。私を通り越し、子供の直ぐ近くに近寄った。子供達は黙って女性を見ていた。
女性は子供達を睨むと子供から棒を取り上げた。
「なにするんだよ!!」
子供が女性につかみかかろうとした。
『バシ!!』
女性は激しく奪った棒で地面を叩いた。鋭い眼光で子供達を睨んだ。その音で子供達は驚いて怯んだ。
「犬と同じ目に遭いたい子は出てきなさい」
一人の子供が逃げるように駆け出した。その子供を追うように他の子供達も走り出して逃げて行った。
「まったく最近の子供は……」
女性は棒を捨てるとうずくまっている犬に近づきそっと抱き上げた。犬はブルブルと震えていた。
「恐かったね、もう大丈夫だから」

976 :ひよりの旅 16/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:41:07.59 ID:W145K4B60
 優しい声……目も優しくなった。この目、誰かに似ている……つかさ先輩にそっくりだ。
あ、思い出した。この女性はまつりさんだ。やっと思い出した。
私は彼女に近づいた。
ひより「あ、あの〜」
まつりさんは私の方を向いた。
まつり「あら……えっと、確か、かがみかつかさの友達だったね、どっちだっけ?」
……いのりさんと同じ質問をしてくるなんて。やっぱり姉妹なんだな……。
ひより「二人とも友達ですけど……田村ひよりです」
まつり「田村さん……なんか凄い所を見せてしまったかな」
まつりさんは苦笑いをした。
ひより「子供とはいえ……なかなか出来る事ではないと思います」
まつり「ちょっとムキになり過ぎたか……」
まつりさんは犬を抱いたまま立ち上がった。
まつり「かがみは家には居ないけど何か用事でも?」
ひより「いえ、かがみ先輩ではなく、いのりさんに用事がありまして……」
まつり「姉さんに?」
まつりさんは首を傾げた。
ひより「まつりさんもいのりさんと約束していませんか?」
まつり「そうだった、これから神社に行って姉さんと会う約束をしていたっけ……それで何故田村さん姉さんに用事って」
ひより「犬をまつりさんに飼ってもらいたくて……」
まつり「かがみが急に犬を飼いたいなんて言い出すから、びっくりしたよ、つかさが居なくなってやっぱり寂しいのかね」
そう言うまつりさんも顔が寂しそうに見えた。
ひより「この前、つかさ先輩の働くお店に行きました」
まつり「え、本当に、で、どうだった、ちゃんとやってる?」
私に向かって身を乗り出してきた。なんだかんだ言ってまつりさんもつかさ先輩が心配なのか。
ひより「え、ええ、店長とも馬が合っているみたいで、楽しそうでした」
まつりさんは嬉しそうにも、悲しそうにも見える表情をした。そして抱いている犬を撫でながら話した。
まつり「姉妹の中でかがみが最初に家を出ると思っていたのに、つかさが出るとは思わなかった、つかさが居なくなって家が変わった、何かが物足りない、何が足りない、
    分らない、つかさは家に居ても特に何をするって訳じゃなかったけど……」
甘えてくる妹が居なくなったからから。かがみ先輩は甘えるって柄じゃないよね。だから猫の方を飼いたいなんて言っているのかもしれない。
まつりさん。いつもかがみ先輩と喧嘩ばかりしているイメージだったけど、こうして会って話しをするとまた違った側面が見えてくる。
まつり「そろそろ行かないと待ち合わせの時間ね」
ひより「はい」
まつりさんは抱いていた犬をそっと地面に下ろした。
まつり「さぁ、行きなさい、今度は捕まるなよ」
犬はまつりさんを見上げたまま動こうとはしなかった。
まつり「どうした、早く行きなさい……」
犬はまつりさんの足元にぴったりと付いて離れなかった。まつりさんは溜め息をついた。
まつり「さて、どうしたものか」
ひより「あの、その犬が飼ってもらいたい犬です……」
まつり「え?」
まつりさんは驚いて私を見た。
ひより「その犬も待ち合わせの場所に行こうとしていたのかもしれません」
まつりさんは犬を暫く見るとまた抱き上げた。
まつり「しょうがない、連れて行こう」
ひより「はい」
私は神社の待ち合わせの場所に行くまでにこの犬と出会ってからの経緯をまつりさんに説明した。まつりさんは熱心に私の話しを聞いていた。
もちろんお稲荷さんの話しは話さない。ゆーちゃんと約束したから。

977 :ひよりの旅 17/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:42:41.70 ID:W145K4B60
 待ち合わせ場所に着くと既にゆーちゃんといのりさんが居た。あ、あれ、もう一人居る。男性だ。見たことも会ったこともない人だ。誰だろう。歳は三十くらいだろうか?
まつり「おまたせ〜」
私とまつりさんは男性を見た。男性は軽く会釈をした。それに合わせて私達も会釈をした。
まつり「だれ?」
ゆたか「こちらは、私がお世話になっている整体の先生で佐々木すすむさんと言います、そしてこちらが柊まつりさん、私の友達の田村ひよりさんです」
ゆーちゃんが通っている整体の先生だって。通りで知らないはず。でも何故そんな先生がこんな所に来るのか。私はゆーちゃんの顔をじっと見た。
ゆたか「迷子の犬のポスターを貼ってもらおうと先生にお願いにしましたら、先生がその犬の飼い主だと分りましたので……引取りに来ました」
すすむ「うちの子が迷惑をかけてすみませんでした……」
佐々木さんは深々と頭を下げた。ゆーちゃんはまつりさんの抱いている犬に気が付いた。
ゆたか「コンちゃん……まつりさんが何故抱いているの」
まつりさんの抱いている犬を見てそう言った。
コン……コンってこの犬の名前だろうか。コン。この名前はどうしたって狐を連想させる。
いのり「狐によく似ているからそう名付けたそうよ、出来れば私達で飼いたかったけど、飼い主が現れたとなれば返すしかない……で、何故まつりがその犬を?」
まつり「近所の子供達にいじめられているのを田村さんと助けた」
私と助けたって、そんな事はない……私は何もしていない。まつりさんが居なかったらはたして私はコンを助けていただろうか。
すすむ「重ね重ねすみませんでした」
まつり「どうして犬を放すような事をしたの、可愛そうに、さっきまで恐怖で震えていたよ」
まつりさんは佐々木さんを見て少し怒り気味だった。その気持ちは私も分る。佐々木さんはただ頭を下げるだけだった。
いのり「散歩中に雷雨があって、その雷鳴に驚いて逃げ出してしまった、もうその位にしなさい、まつり」
まつり「だって、姉さん……」
まつりさんのトーンが下がった。そして少し悲しい顔になった。
いのり「今度はしっかり放さないようにしてください……さぁ、まつり、コンを……」
まつりさんはコンをギュっと力強く抱きしめたように見えた。そうか、怒ったのは佐々木さんがコンを放したからじゃない。飼い主が現れて、コンを飼えなくなったから。
そんな風に理解した。
まつりさんはためらう様にコンを地面に置いた。
まつり「飼い主の所に行きなさい……」
コンはまつりさんをじっと見ていた。佐々木さんは散歩用のリードを取り出した。首輪に付けるタイプじゃないのか。前足を襷の様に固定するタイプ。犬の首に負担がかからない
から最近ではこれが主流。佐々木さんはコンに近づいた。コンもそれに気が付いた。コンは素早くまつりさんの後ろに廻り込んでしまった。
すすむ「どうしたかな、このリードを見るといつも喜んでいたのに……コン、帰るぞ、さあ、おいで……」
佐々木さんの声にコンは何の反応も示さなかった。おかしいな。あんなに賢い犬なのにどうして……あれじゃ佐々木さんが飼い主じゃないみたい……まさか
ひより「もしかして、この前の車に轢かれそうになった時のショックで記憶喪失になったかもしれない……」
皆は私に注目した。
ひより「こんなに賢い犬なら、一度はぐれても家に戻ると思います、現にこの倉庫に何度も来ていますし、それに飼い主を見ても喜ばない犬なんて聞いたことないです」
いのり「そうね、かがみも何故帰らないのを不思議がっていた、田村さんの推理も結構合っているかもしれない」
まつり「この犬、本当にコンなの、間違えじゃないでしょうね」
いやいや、それはない。こんなに特徴のある犬を見間違いするはずもない。
すすむ「間違えはないです、間違いなくコン」
私は聞き逃さなかった。佐々木さんがその直後「まなぶ」とコンを見ながら小声で言った。私はピンと感じた。この犬の名前はコンではない。
「まなぶ」と言うのが本当の名前。佐々木さんはコンが飼い犬であるかのような振る舞いをしている。すると自ずと結果は導き出される。
コンはつかさ先輩が出会った真奈美さんと同じお稲荷さん。そして、佐々木さんはコンがお稲荷さんだと知っている人……いや、まて、
佐々木さんもお稲荷さんって可能性もある。ゆーちゃんを呼吸法だけで元気にした人。いくら整体の先生でもそんな方法を知っているなんて考えられない。
考えれば考えるほど怪しい……

978 :ひよりの旅 18/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:43:49.63 ID:W145K4B60
ゆたか「ひよりちゃん」
絶対に真実を突き止めてみせる。
ゆたか「ひよちちゃん、聞いている?」
ゆーちゃんの声に私は我に返った。
ひより「はぃ、何でしょうか?」
ゆーちゃんは頬を膨らませて怒り気味だった。
ゆたか「これからどうしようって話しをしているのに、真面目に聞いて」
皆を見ると腕組みをして考え込んでいた。
ひより「す、済みません、何も聞いていませんでした」
いのり「コンが佐々木さんの言う事を聞いてくれない、無理に連れて行くのもどうかと思う、でも、このままだとまた子供達に悪戯されるか、
交通事故に遭ってしまう事だって考えられる、」
私が妄想に耽っている間に話しは進んでしまったみたい。
ゆたか「私は連れて帰ってもらいたい、住んでいる家、町並みを見ればきっと記憶が戻ると思う」
強行するは無理があるかもしれない。
ひより「記憶が戻らなかったら、またこの倉庫に戻って来ちゃうかも?」
ゆーちゃんは溜め息をついて肩を落とした。
まつり「それなら、私がコンを記憶が戻るまで預かります、それなら悪戯や事故は回避できるでしょ、それに、佐々木さんも私の家にくればコンと何時でも
    会えるから安心できる……どう、この考、姉さん」
いのり「えっ、あ、わ、私は別に構わないけど、佐々木さんはどうです?」
あれ、いのりさんが動揺しているように見える。どうしたのだろう。
佐々木さんは暫く考え込んでいた。
すすむ「ご迷惑ではないですか、コンはこう見えてもわがままで……贅沢をさせてしまったせいかもしれませんが」
いのり「コンの好物は知っています、わがままなのは一人家にも居ますから問題ないと思います」
まつり「ちょっと、姉さん……その一人って誰よ」
佐々木さんは笑った。そしてリードをいのりさんに渡した。
すすむ「それではお言葉に甘えさせて頂きます、コンをよろしくお願いします」
佐々木さんは深々と頭を下げた。まつりさんはコンを抱き上げた。
まつり「さて、これからよろしくね、コン」
まつりさんとコンは見つめ合っている。なるほどね。条件があるけど。これでコンを柊家で飼えるのか……
いのりさんの方を見てみると……
いのり「あの……覚えていますか、地鎮祭の時、私居たのですが……」
すすむ「地鎮祭……はて、確かにそれはしましたが……あ、その時来ていた巫女様が……」
いのりさんは頷いた。
すすむ「いやいや、服が違うと全然分らないですね……」
照れ笑いする佐々木さん。この二人、会うのは初めてじゃないのか。それにしても良い雰囲気。歳もそんなに離れていないみたいだし……

後ろからツンツンと背中を突かれた。振り向くとゆーちゃんだった。
ひより「なに、どうしたの」
ゆたか「もう私達の役目は終わったね、帰ろう」
ひより「役目って……ゆーちゃん、まだコンの記憶が戻っていないし、正体だって」
ゆーちゃんは首を横に振った。
ゆたか「まだそんな事言って……どう見てもコンは犬、間違えようがないよ」
ひより「い、いや、私の推理だとコンは……」
ゆーちゃんは私を振り切るように話しだした。
ゆたか「私達は帰ります、コンちゃんの記憶が戻ると良いですね」
いのり「ありがとう、小早川さん、田村さん」
まつり「後は私に任せておいて、しっかりやっておくから」
佐々木さんは私達に頭を下げた。ゆーちゃんは会釈すると神社の出口に向かって歩き出した。私はここに居る理由が無くなってしまった。
私も会釈するとゆーちゃんの後を追った。

979 :ひよりの旅 19/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:45:19.01 ID:W145K4B60
 神社を出て駅に続く道に差し掛かった頃だった。私はゆーちゃんに声をかけた。
ひより「ゆーちゃん、私はただ真実が知りたいだけだったのに……あんな別れ方したら……」
ゆたか「真実を知ってどうするの、仮に、コンちゃんがお稲荷さんだったとしたら、ひよりちゃん、どうするの」
ひより「どうするって……そう言われると……」
ゆーちゃんは立ち止まった。私もその場に止まった。
ゆたか「コンちゃんが何かしたの、誰にも迷惑かけていないのに……そっとしてあげようよ……」
ゆーちゃんの目が潤み始めた……私のしている事はそんなに酷いことなのかな。
ひより「お稲荷さんの全てが悪いなんて言っていない、真奈美さんは違ったでしょ、だから……」
ゆたか「ひよりちゃんの分からず屋!」
甲高い声で怒鳴った。ゆーちゃんが怒る姿を見たのは……二度目かな。でも直接怒らせたのは初めてか……
ゆーちゃんはそのまま駅の方に走り去って行った。
このまま歩いても駅でゆーちゃんに会ってしまう。電車を一本遅らせるかな……

 家に戻り自分の部屋に着いた。携帯電話を充電しようとしたら。メールの着信があるのに気が付いた。ゆーちゃんからだった。
『さっきはごめんさい』
メールにはそう一言書いてあった。ゴメン、ゆーちゃん。
一度点いた好奇心の火はそう簡単に消えない。許して……


 佐々木整体院……ここだ。
私は佐々木さんの経営している整体院の目の前にいた。見た所ごく普通の整体院……
休院日は毎週土日……今日は日曜日だからお休み。それをわざわざ選んで来た。ゆーちゃんの言うように私達が陸桜を卒業した頃から創業をしている。
評判は上々。遠くからも客が見えるほどの繁盛ぶり。きっとゆーちゃんもそんな好評からこの整体に通うようになったに違いない。
もっとも泉家からさほど離れていない所もゆーちゃんの条件に合ったのかも知れない。
もちろん佐々木すすむさんについても調べてみた。
柔道、空手、合気道……一通りの武道の有段者、私の見た限りではそんな武道をやっているような筋肉質な体には見えなかった。
月に数度、近所の道場で指導をしているらしい。しかし、そこまでの人なのに一度も大会に出場していない。出場していなから記録も残っていない。
私の調べられる所はそこまで。出身地、卒業した学校などは分らなかった。
もし私の推理が正しければ佐々木さんもお稲荷さん。何か証拠があれば。そんな期待をしながらここにやってきた。
こうして整体院の前に突っ立っているだけじゃ何も分らない。私は性退院の周りをゆっくりと一周してみた。別段変わった様子はない。
それは当たり前。どうやって調べよう。まさか黙って入る訳にもいかない。
呼び鈴を押して取材だって言えば入れてくれるかな。全く知らない人じゃないし。よし、この作戦で行こう。
整体院のすぐ隣に佐々木家の玄関があった。私は呼び鈴を押そうとした時だった。何かが私の横を横切った様な気配を感じた。呼び鈴を押すのを止めて
気配のする方に歩いて行った。整体院の裏の方に気配は動いていったような気がした。ゆっくりと近づく。そこに居たのは狐だった。
コンなのかな、いや、コンより少し大きいようなきがする。狐は辺りをキョロキョロと警戒している。私は息を潜めた。安心したのか、狐は警戒を解いたみたい。
そのまま動かなくなった。そして、次の瞬間。狐の体の周りから淡い光が出たかと思うと見る見る大きくなって……人の形に……そして……佐々木さんになった。
やっぱり私の勘は正しかった。佐々木さんはお稲荷さんだった。もう用は済んだ。帰ろう……ゆっくりと後ろを振り向いた。
私の目の前に佐々木さんが立っていた。そんな筈はない。さっきまで整体院の裏にいたのに。
すすむ「見てしまったね」
静かな口調だったけどとても重みを感じる。私は言い訳を考えていた。とりあえず何か言わないと……あ、あれ……声が、出ない。そして、身動きも取れなかった。
私は佐々木さんの目を見ていただけだった。まさか、これがつかさ先輩の言っていた金縛りの術ってやつなのか。今更気が付いても遅い……
すすむ「見てしまったのなら仕方が無い、可愛そうだが……口封じをさせてもらうよ」
佐々木さんの手の爪が伸びていく。私はこのままあの爪で切り裂かれるのか。好奇心は死を招くって……恐い、怖いよ……助けて、ゆーちゃん、みなみちゃん……つかさ先輩。
すすむ「大丈夫、急所を一突きだから、一瞬だよ」
声が出ない。呼吸がヒューヒューとするだけだった。目も閉じられない。佐々木さんの目を見ているだけだった。彼の手が高く上がった。そして振り下ろされた。
『ギャー』


980 :ひよりの旅 20/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:46:35.14 ID:W145K4B60
ひより「はぁ、はぁ、はぁ」
ここは私の部屋……そしてベッド……冷や汗でパジャマがグッショリ濡れていた。夢だった……
もうこの夢は三回目だった。見る度に恐怖が私を襲う。時計を見ると午前5時……起きるには早いけど、寝るものも中途半端な時間。いや、もう眠ることなんか出来ない。
シャワーでも浴びよう……
佐々木さんの家に取材に行こう。そう決めた前日からこの夢を見るようになった。とてもリアリティがある夢で私が殺されかけようとする所で目が覚める。
この夢は私の好奇心への警告なのか。それともただの悪夢なのなか。ゆーちゃんの言うように私は触れてはいけない物を調べているのかな。
「知ってどうするの」
ゆーちゃんはそう言った。漫画のネタにするには重過ぎるし、私の趣味にも合わない。
好奇心。言ってみればそれだけ。動機がない……命を懸けてまで調べるものではないのかも。好奇心が薄らいでいく自分を感じていた。

この夢を見てから私は神社にも柊家にも行っていない。コンの状態はゆーちゃんから聞くしかなかった。
話では二ヶ月ほどしたら散歩用のリードを見て記憶が戻ったらしく佐々木さんが引き取りに来たって言っていた。佐々木さんを見るなり喜んで飛びついたそうな。
コンとの別れの時、まつりさんの悲しみ方はゆーちゃんにも伝わってくる程だったらしい。それから先の話しはしていない。いや、しなくなった。
時が経つに連れて悪夢も見なくなっていった。
これで狐の一件は全て終わった……



981 :ひよりの旅 21/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:47:27.07 ID:W145K4B60
ひより「泉先輩がつかさ先輩に誘われた?」
頷くゆーちゃん。
今日は久しぶりに三人が集まり、食事をしながら近況の話しをしていた。
みなみ「泉先輩の卒業後の就職先は?」
ゆたか「決まっていない……と言うか、全く就職活動してなかった、おじさんも心配になって居た所に……つかさ先輩からの誘いが来た」
ひより「それで泉先輩は返事したの?」
ゆたか「明日返事をするって言っていたけど……」
ゆーちゃんはその先を言わなかった。
みなみ「就職先がないのなら断る理由はないと思う、お店の経営も順調と聞いている、泉先輩も飲食店で働いた経験があるから問題ないと思う」
飲食店ね……少し違うけど、経験があるのは確か。どうもゆーちゃんは浮かない顔をしている。
ひより「どうしたの、さっきから元気ないよ」
ゆたか「う、うん……」
俯いてしまった。
ひより「もしかして、泉先輩と別れるのが嫌なの?」
ゆたか「えっ、そ、そんなんじゃないよ……」
みなみ「行く、行かないは泉先輩が決めること、雑音を出すと泉先輩が迷ってしまう」
ゆたか「そうだね……」
泉先輩とは陸桜を卒業してからも交流してきた。その友達である、柊姉妹、高良先輩、日下部……あやの先輩は結婚したのだった。
それにしても泉先輩が誘われているなんて初めて聞いた。ほんの数日前にも会ったばかりなのに教えてくれないなんて。
泉先輩とつかさ先輩が同じ職場で働くなんて想像もしていない。まだ決まっていない話しだけど、むしろ泉先輩はかがみ先輩の方が親しいと思っていたけど
意外だったな……
もっとも仕事とプライベートは違う、親しすぎるとかえって仕事がうまく行かないって聞いたことがある。
ひより「そういえば高良先輩も大学院に進学って聞いたけど」
みなみちゃんは頷いた。
ひより「私達も二年後には卒業だよ」
みなみ「ひよりは漫画家になるって言っていた」
ひより「ははは、それは夢であって現実的にそれで食べていけるとは思っていないよ」
みなみ「夢は出来ないと思った時点で覚めてしまう物、漫画なら別の仕事をしていても描ける、腕さえ使えれば歳をとっても描ける」
何時になく真面目な顔で答えるみなみちゃんだった。これでは私もふざけた対応はできなくなってしまった。
ひより「そう言ってくれるのは嬉しいけど……才能がね……」
みなみ「かがみ先輩に焼かれた本……私達が題材になっていた、だから皆が怒った、それを除けばとても良い作品だった、続きが見たい」
ゆたか「私……そこまで詳しく内容までは見ていなかった……」
みなみちゃんが私を褒めるなんて初めてだ。それはそれで嬉しいけど……もうあの漫画は無い。
それに、ゆーちゃんもあまりこの件に関しては話したくなさそうだし、話しを元に戻そう。
ひより「ところで泉先輩がつかさ先輩の所に行くとなると見送りをしないとね」
ゆたか「まだ決まっていないよ」
なるほどね、ゆーちゃんは泉先輩が家を出て行くのが寂しいのか。寂しげな答え方がそれを物語っている。いや、決まっていないなんて言い方は家を出るのを反対しているのでは。
確かめても良いけど、みなみちゃんの前では素直に答えてくれそうもない。
ひより「そうだね、私も泉先輩が居なくなるのは寂しいな」
ゆーちゃんはその後、何も言わなくなってしまった。
私とみなみちゃんで楽しい話題してみたが効果はなかった。

 それから一週間もしないうちに泉先輩はつかさ先輩の所へ引っ越すことになった。

982 :ひよりの旅 22/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:49:08.94 ID:W145K4B60
 引越しの当日、皆が見送りに来る前の早朝に泉家を訪れた。泉先輩に呼ばれたからだ。
ひより「しかし、おじさんもよく承知しましたね、反対しなかったっスか、大事な一人娘を結婚もしないうちに外に出すなんて」
こなた「ん〜確かにね、ゆーちゃんとゆい姉さんが居なかったら実現しなかったかもね」
あれ、一週間前とは様子が違う。ゆーちゃんは反対しなかった。それとも何か心境の変化でもあったのだろうか。
こなた「実ね、これはつかさには内緒なんだけど、峰岸さんからも誘いが来ていたのだよ」
ひより「先輩、あやの先輩は結婚したっス」
こなた「あっと、そうだった、そうだった」
笑ってはぐらかす泉先輩。
あやの先輩は日下部先輩のお兄さんと大学を卒業すると同時に結婚をした。泉先輩も式に出席したはずなのに。
そういえばあやの先輩はホテルの喫茶店に就職したって聞いたけど。
ひより「それで、何故つかさ先輩の所に、あやの先輩の店なら実家から通勤も可能だったのでは?」
泉先輩は立ち上がり部屋の窓を開けて外の景色を見だした。
こなた「つかさは変わったよ、これも一人旅をしたせいかな、ふふ、帰って来てかがみに抱きついて大泣きしたってさ、私の思った通りにはなったけど、
    でもそれはもっと違った意味の涙だった……ところでひよりん、つかさからお稲荷さんの話しは聞いているかい?」
私は頷いた。
こなた「つかさはお喋りだから話すとは思った、それなら話しは早い、私もつかさの旅に同行したいと思った……それが理由だよ」
ひより「確かにコミケ事件ではつかさ先輩に助けられたっス、卒業して一番変わったのがつかさ先輩かも」
泉先輩は笑った。
こなた「ふふ、相変わらず天然は治っていないけどね」
つかさ先輩の旅と同行か、私もそんな旅をしてみたいものだ。
ひより「ところで先輩、私を朝早くから呼んだのは何故ですか」
泉先輩は窓を閉めて私の目の前に座った。
こなた「呼んだのはね、ひよりんにミッションを頼もうと思ってね」
ミッション、懐かしい響きだ。高校を卒業してから先輩からその言葉を聞くのは初めてかもしれない。コミケ事件でかがみ先輩からこってり扱かれてからは私も
先輩も取材をしなくなった。
ひより「ミッションっスか、して、何を?」
こなた「かがみを少し見張っていて欲しくてね」
ひより「かがみ先輩をですか、でも、泉先輩と言うジャンクションがあったからかがみ先輩と会えましたけど、それが無くなると、なかなか機会がないっス」
こなた「最近のかがみは少し変わった、呪いのせいかもしれない」
ひより「のろい?」
泉先輩は激しく動揺しているように見えた。
こなた「い、いや、こっちの話し」
私は腕を組んで考えた。かがみ先輩とどうやって会うのかを。
こなた「そんなに考え込む必要はないよ、普段通り玄関のベルを鳴らして会えばいいじゃん、かがみもお喋りは嫌いじゃないから付き合ってくれるって」
ひより「まぁ、やってみます、それにしても何故かがみ先輩を、先ほどの呪いがどうの言っていましたけど」
こなた「二年前、レストランかえでに三人で行った時に真奈美の弟が現れてね……ひと悶着あったのさ、よりによってつかさがその人を好きになっちゃってね……」
泉線はその後の話しにブレーキをかけるようにして止めた。
ひより「真奈美ってお稲荷さんの事ですよね、面白そうな話っス」
こなた「い、いや、ごめんこれ以上は話せない」
私は何度か泉先輩の話しを引き出そうと促したが効果はなかった。ここまで頑なに話そうとしない泉先輩は初めてだった。
つかさ先輩の話しはあれで終わりじゃないみたい。それは泉先輩を見て解った。
『ピンポーン』
こなた「あ、もうこんな時間じゃないか、かがみ達が来ちゃったよ、とりあえずミッションの件はよろしくね」
泉先輩は呼び鈴を聞くと慌しく部屋を出て行った。私もその後を一呼吸置いて追った。

983 :ひよりの旅 23/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:50:06.95 ID:W145K4B60
 部屋を出た頃、泉先輩は既に玄関を出ていた。廊下を歩いて玄関に向かうと丁度ゆーちゃんも玄関に向かっていて鉢合わせになった。
ゆたか「お姉ちゃんと話しは終わったみたいだね」
声は寂しげだった。だけど表情は何か吹っ切れたような爽やかさを感じる。一週間前とは大違いだ。
ひより「うん」
私が頷くとゆーちゃんは靴を履きドアを握った。
ゆたか「行こう、送ってあげないと」
ひより「うん」
それでもやっぱりゆーちゃんは悲しそうな顔だった。辛いのを必死に堪えているようだった。

 玄関を出ると目に前に車が停まっていた。新車だ。運転席側のドアに泉先輩がいる。どうやら泉先輩の車のようだ。その泉先輩を囲んで成実さん、かがみ先輩、高良先輩、
みさお先輩が居る。辺りを見回すとおじさんの姿が見えなかった。そういえば家の中にも居なかったような気がする。それにあやの先輩の姿も見えない。
ひより「おじさんは?」
ゆたか「昨日、お別れをしたから良いって……」
そう言うとゆーちゃんは泉先輩の元に駆け寄って行った。何となく昨日の風景が想像できた。泣きじゃくる姿は他人には見せたくないのかな……
ゆたか「こなたお姉ちゃん、いってらっしゃい!!」
力の籠もった元気な声だった。今までのゆーちゃんの表情を知っている私から見れば余計に悲しく見えてしまう。そんなゆーちゃんの心境を知ってか知らずか、
泉先輩は皆に愛嬌をふりまいていた。
みさお「これはちびっ子の車のなのか」
頷く泉先輩。
こなた「そうだよ、餞にお父さんが買ってくれたんだ、田舎だと車が足になるからね」
みさお「まぁ、頑張ってこい、つかさによろしくな、たまには帰ってこいって」
高良先輩が包装された箱を泉先輩に渡した。きっと餞別だろう。
みゆき「暫く合えませんね、頑張ってきて下さい」
泉先輩は物欲しそうにかがみ先輩の顔を見た。
かがみ「何もないわよ、こうして来ただけでもあり難く思いなさい」
冷たくあしらうかがみ先輩。
こなた「これから妹の所に手伝いに行くというのに、なんて態度なのかな〜」
かがみ「そのつかさと同居するのでしょ、引越しの荷物はもう送ったのか」
首を横に振る泉先輩。
こなた「車に積んであるよ、ディスクトップパソコン、ノートパソコン、ゲーム機一式に着替え一式……以上」
かがみ「おいおい、それだけなのか、つかさの物を使う気満々だな、パラサイトかよ、」
こなた「食器や照明はあるって言っていたしお風呂は天然温泉……制服は支給、それに家賃、光熱費、食費はちゃんと半分払うことになっているから大丈夫だよ」
かがみ「何を得意げに言っているのよ、それは最低限の事でしょうが!!」
相変わらずの二人の受け答え。当分これが見られなくなるのも少し寂しい。
かがみ先輩は変わったって泉先輩が言っていたけど、こうして見ていると何も変わった様子はない。いったい泉先輩はかがみ先輩の何が変わったと思っているのだろうか。
私が知らない間に泉先輩達はレストランに行ったみたいだけど。その時に起きた出来事と関係しているのだろうか。泉先輩は途中で話すのを止めてしまった。
ミッションを頼むならもっとちゃんと話して欲しかった。
ん、まてよ、かがみ先輩や高良先輩に聞くのも良いかもしれない。もっとも泉先輩が話すのを止めるくらいだから聞き出すのは至難の業かもしれない。

 あれこれ考えているうちに泉先輩は車に乗り込み出発体勢になった。エンジンをかけるとウィンドーを開けて皆に笑顔を振り撒く泉先輩だった。
ゆーちゃんは目に涙を一杯溜めていた。やはり別れって辛いものかな。
ゆたか「お姉ちゃん」
ゆい「こなた……」
ゆーちゃんと成実さんが窓に、泉先輩の近くに駆け寄る。
こなた「それじゃ、行って来るよ」
二人とは対照的に無表情な泉先輩。泉先輩は寂しくないのかなと思った時だった。ウィンドーを閉める瞬間、泉先輩の目にも光るものを見たような気がした。
車はゆっくりと動き出し徐々に速度を増しながら私達から離れていった。そして、車は私達の視界から見えなくなった。

984 :ひよりの旅 24/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:51:18.64 ID:W145K4B60
かがみ「こなたの奴、どうなるか心配だわ」
溜め息をするかがみ先輩。
みさお「つかさがやってこられたのだから大丈夫じゃないの」
かがみ「つかさは好きな仕事をしているのだから問題ない、こなたはつかさに誘われて行った、だから心配なのよ、あの松本店長との相性もあるしね」
松本さんとの相性は問題ないと私は思った。
みゆき「それは大丈夫だと思います、かがみさんが一番分っていると思いましたが」
かがみ先輩は何も言わず目を閉じてしまった。松本さんとかがみ先輩に何かあったのだろうか。
みゆき「今は見守るだけですね……私はこれで失礼します」
会釈をすると高良先輩は駅の方に向かって歩き出した。そして、みさお先輩も後を追うように帰って行った。
ゆーちゃんがうな垂れて肩を震わせていた。耐え切れなくて泣いてしまったのだろうか。成実さんが側に居て慰めている。私も何か言ってあげようと二人の所に向かおうとした。
後ろから肩を軽く叩かれた。振り向くとかがみ先輩だった。かがみ先輩は首を横に振った。
かがみ「そっとして置きましょう」
ゆーちゃん達に聞こえないようにしたのだろうか、小声だった。
ひより「は、はい」
私もそれに合わせように小声で答えた。かがみ先輩は駅の方向を指差した。私達は二人に気が付かれない様に駅の方に歩き出した。

 かがみ先輩と二人きりで帰るなんて高校時代でもなかった。必ず泉先輩かつかさ先輩もしくは高良先輩が一緒に居た。こんな時どんな事を話せばいいだろう。
ひより「あ、あの、松本さんと何かあったのですか」
駅まで中ほどまで歩いた頃、私はかがみ先輩に質問をした。かがみ先輩は立ち止まった。やばい、気分を損ねてしまったかも。もっと気の利いた話をすればよかった。
かがみ「さっきみゆきが言っていた事を聞いているの?」
ひより「はい」
意外だった。かがみ先輩はその場で話し始めた。
かがみ「ふふ、私は彼女に喧嘩を売ったのよ、二年くらい前になるかしら」
ひより「喧嘩を……ですか、どうしてです、松本さんと馬が合わなかったとか……」
かがみ「つかさを守るため、そう、それが大義名分だわ、でもね、それはあくまで表向き、本当は悔しかった……つかさとあれほどうまくやって行けるなんて、
    つかさを知っているのは私意外に居ないと思っていた、思い上がりだったわね……これが嫉妬ってやつだった、
その想いを思いっきり彼女にぶつけた、でもね、彼女は冷静だった、逆にコテンパンにされたわ……
私より二枚も三枚も上手だわ、くやしいけどこなたの言動には手を焼いていた事もあった、松本さんならそんなこなたをうまく指導してくれるかもしれない」
あれ、かがみ先輩って自分の弱みとか失敗なんかを人には話さないって誰かに聞いたな。見栄っ張りだって。それは高校時代から分かっていた。
泉先輩に突っ込むのも、つかさ先輩の世話を焼くのも、失敗すると必至に弁解するのもそれがあったからだと思っていた。
でも、今そこにいるかがみ先輩は違う、なんの躊躇いもなくそれを私に話している。昔のかがみ先輩ならこんな話は自分からしない。確かに泉先輩の言うようにかがみ先輩は
変わった。
かがみ「変な話をしたかしら」
ひより「い、いえ、そんな事はないっス」
人が大きく変わる時ってどんな時だろう、死ぬような思いをした時、感動した時……恋をした時……まさか。でもそれは有り得る。
かがみ先輩ともう少し話をしたい。どうやって。考えろ、田村ひより!!
ひより「か、かがみ先輩」
かがみ「何かしら?」
私が妙に改まってしまったのでかがみ先輩はすこし身構えたように見えた。
ひより「えっと、コンを預かってから佐々木さんの所へ戻るまでの経緯を聞きたいのですが」
しまった。私は何を聞いている。もう少しマシな話は無かったのか。
かがみ「コン、佐々木さん……あぁ、記憶喪失だった犬の話ね……コンはまつり姉さんが餌から散歩まで殆ど世話をしていたから、詳細は分からないわ……
    何故今頃になってそんな話を?」
ひより「今度描く漫画の題材にしようかと……」
漫画の題材。そんな漫画なんか描いていない。咄嗟に出た嘘だった。
かがみ「……面白そうね、こなたが介入しないなら協力するわよ」
かがみ先輩が引っ掛かってくれた。もうこのまま流れで行くしかない。
ひより「泉先輩は先ほど引っ越してしまいました」
かがみ先輩は笑った。
かがみ「それもそうだ、取材なら家に来てまつり姉さんと話すと良いわ、私が取り合うから田村さんの都合のよい日時を教えて……」
トントン拍子に話は進んで行った。これで私は柊家に行く正当な理由が出来た。まつりさんに会うと言う事は必然的にかがみ先輩にも会える。
ミッションもその時に履行すれば良い。

985 :ひよりの旅 25/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:52:32.26 ID:W145K4B60
 駅の改札でかがみ先輩と別れる事になった。
かがみ「それじゃ取り敢えずまつり姉さんに伝えておくわ、連絡がなければ予定通りでね」
ひより「はい」
私は会釈をしてホームに向かおうとした。
かがみ「ちょっと待って」
私は立ち止まりかがみ先輩の方に向いた。
かがみ「余計なことかもしれないけど、みなみちゃんが見えなかったけど何かあったの?」
そういえば気が付かなかった。
かがみ「今のゆたかちゃんに一番必要な人物だと思ったけど、喧嘩でもしていないわよね」
ひより「それは無いと思います」
かがみ「そうよね、そうだったらみゆきが何かしているわよね、やっぱり余計な事だった」
かがみ先輩は手を振ると私とは別のホームに向かって行った。
みなみちゃんが来なかったのはゆーちゃんと何かがあったから?
そんなはずはない。この前だって普通に接していたし。それでは何故来なかったのか。
みなみちゃんと泉先輩は高校時代からそんなに親しくなかったかな……
高良先輩がもし泉先輩と同じように引っ越したら、私は見送りに行かないかもしれない。そんな感じかな……
さて、そんなのはどうでもいいや。忙しくなる。帰ったら取材の準備だ。

 家に帰ると直ぐに自分の部屋に入った。そして押入れの奥から鞄を引っ張り出した。
コミケ事件から封印した取材用の鞄。取材用といってもノートと筆記用具くらいしか入っていない。昔はよく持ち歩いてネタが閃いたら即この鞄からノートを出して
メモをしたものだ。ちょっと懐かしいな。鞄を開けて中身を取り出そうとした。
『ゴトン!!』
何かが鞄から落ちた。足元に小さな黒い塊……よく見るとボイスレコーダーだった。私はそれを拾い上げた。何故こんなものが中に。誰のだろう。
泉先輩……いや、泉先輩はこんな物は使わない。こうちゃん先輩……借りた覚えはない。こんなに時間が経っているのだから『返せ』って言われているはず。
まったく分からない。
『カチ』
あ、ボタンを押してしまった。
『○○年○月、ついに私はレコーダーを買った、これでノートを開く間にネタを忘れてしまう事は無くなるだろう、レコーダーの性能に期待する』
この声は……私。
再生ボタンを押したみたいだった。
私はレコーダーを買った。いくら安くなったとは言っても学生である私が忘れるような値段じゃない。それに言っていた年は二年前……
私は二年前にボイスレコーダーを買った……まったく覚えていない……
『○○年○月○日正午、私は佐々木整体医院の目の前に立っている、見たところどこにでもありそうな整体医院、調べた所によると今日は休院日、調査には絶好の日だ』
再生は続いていた……佐々木整体医院……ま、まさか、そんなはずはない……夢の中の出来事だったはず。
『もう少し調べたい、家の裏に廻ろう……ガサ・ガサ……』
何か音がしている。何だろう。私は息を呑んで次の音を待った。
『見てしまったね……』
思わずレコーダーのスイッチを切った。
これは夢で見た出来事じゃないか……い、いや、あれは夢ではなかった。最後の声は佐々木さんの声だった。間違いない。
私は二年前、夢と同じように佐々木さんの家に行って調べていた……
でも夢とは違うところが一つだけある。私は生きている……
何故……

986 :ひよりの旅 26/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:53:38.11 ID:W145K4B60
 ボイスレコーダーが意味するもの。佐々木さんの正体はお稲荷さん。おそらくコンもお稲荷さんに違いない。秘密を知ってしまった者は消されてしまう。
それは昔話からでも想像できる。でも私はこうして生きている。それも記憶を消されて。そして夢は警告なのか。
今度また調べるような事をすれば夢のようになるぞ……
いや待て、それならば記憶を消す必要はない。夢で脅せばそれで済むのでは……
まつりさんの所に取材に行く前に確かめなければならい。そうでないと私がコンの事を調べていると知られたらまつりさんも大変な事になってしまう。
私の心の中に再び湧き出した好奇心。それは恐怖では消えない。何故なら目的が出来たから。

 次の日、大学の帰りに佐々木整体院に寄った。時間は診療時間が終わる時間。時計を見て確認した。
佐々木整体院。夢で見た建物と全く同じ造り。私の推理が正しいのを裏付けている。整体院の玄関から最後の客が出て行く。もう、後戻りは出来ない。
私は大きく深呼吸した。そして整体院の玄関ではなく、住居側の玄関の前に立った。
もうコソコソはしない。正々堂々とする。隠れる必要なんかない。
呼び鈴を押した。
『ピンポーン』
家の中にチャイム音が響いた。暫くすると扉が開いた。
すすむ「すみませんね、もう診療時間は……」
佐々木さんは私の顔を見るなり固まってしまった。そして数秒間私をじっと見ていた。
すすむ「……来てしまったか、このまま帰りなさい、それが貴女の為だ」
私はその場を離れる気は無い。首を横に振った。
佐々木さんは玄関を出て扉を全開にした。
すすむ「入りなさい……」
私は家の中に入った。
987 :ひよりの旅 27/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:54:45.49 ID:W145K4B60
 私は居間に案内され待つように言われた。適当な椅子を見つけてそこに座った。辺りを見回した。特に変わった所は見受けられない。
何処にでもあるような家具が並んでいる。テレビやオーディオなんかも置いてある。照明器具も……
奥から佐々木さんが入ってきた。そして私の目の前にお茶を置くと佐々木さんは私の正面の椅子に座った。
すすむ「ここに来ないようにしたつもりだったが、君には通じなかったようだね」
私は鞄からボイスレコーダーを取り出し、机の上に置いた。
ひより「私は何も知りません、だから来ました、佐々木さんはお稲荷さんなのですか」
佐々木さんはボイスレコーダーを見て苦笑いをした。
すすむ「ふっ……そんな物を持っていたのか、そこまでは気が付かなかったよ……」
佐々木さんは少し下を向いて何か躊躇っているような気がした。
すすむ「単刀直入な質問だな……君達の言うお稲荷さんと違うが、かつてそう呼ばれた事がある……」
ひより「それではつかさ先輩と出会った真奈美ってお稲荷さんと同じですか」
佐々木さんは頷いた。
やっぱり、私の思った通りだった。もやもやしていた物が一気に晴れたような気がした。
すすむ「今度は私からの質問だ、何故ここに来た、君には「恐怖」を植込んだはずだ、普通の人間なら来られるはずはない」
ひより「どうしても知りたいから……」
すすむ「知りたい、好奇心だけでここに来たと言うのか、死は恐くないのか」
佐々木さんは驚いた様子で私を見ていた。
ひより「死は恐いです、でも、もし佐々木さんが私を殺す気なら二年前、とっくに殺していると思いまして……最初から殺す気なんか無かったのではないかと」
すすむ「……鋭い推理だな……その推理の裏付けが恐怖を克服したか……」
ひより「そ、そんな大袈裟な事ではないです……」
まさか褒められるとは思わなかった。でも、良かった私を殺す気は無かった。もし佐々木さんがそのつもりなら私はこの場で死んでいた……
私は出されたお茶を手に取り飲んだ。
すすむ「出された物を口にすると言うのは、相手を信頼した、そう思っていいのだな」
微笑みながらそう言った。私はティーカップをテーブルに置いた。
ひより「私は何故記憶を消されたのですか、真実を言ってくだされば他言は致しません、それに、つかさ先輩は記憶を消されていませんでした」
すすむ「柊つかさからどこまで私達の話しを聞いていたか知らないが、私達は狐に戻った時が一番弱い、それを悟られない為に昔は見てしまった人間の記憶を奪っていた、
    その癖がまだなおっていなかった……すまない、奪った記憶を元に戻すことは出来ない」
佐々木さんは頭を深々と下げた。
ひより「もう過ぎてしまった事を言ってもしょうがないです、ただ、佐々木さんの方から言って欲しかった、私が来なければずっと黙っているつもりでしたか?」
すすむ「そ、そんな事はない……時がくれば話すつもりだった」
何だろう、玄関を開けた時とは少し雰囲気が違う。だけど嘘をついている様にも見えない……疑っても意味が無い、その言葉を信じるしかなさそうだ。
ひより「あの、聞いても良いですか、貴方達はいったい何者なのですか、狐に化けたり、記憶を消したり、人間業とは思えませんが」
話してくれるとは思わなかった。しかし今度は躊躇う様子も見せずに話し始めた。
すすむ「未だ、君達人類が文明すら無かった遥か昔、私達はこの太陽系の調査のために来た調査隊やその末裔……」
ひより「それって、いわゆる宇宙人って事で?」
佐々木さんは頷いた。
すすむ「……この地球を調査しようとした時、宇宙船にトラブルが発生してしまって不時着をした……乗組員は全員無事だったが宇宙船は修理不能までに壊れてしまって
    助けも呼べずこの地球に取り残されてしまった」
凄く悔しそうに話す佐々木さんだった。テーブルの上に乗せていた両手を力強く握り締めているのが分る。
ひより「救助は来なかったのですか?」
すすむ「木星の衛星に中継基地を作ってそこに待機しているメンバーも居たはずなのに……帰ってしまった……未だそれが分らない」
ひより「宇宙戦争でも起きたのではないでしょうか?」
すすむさんは笑った。
すすむ「ふっ、君は想像力が逞しいな、しかしそれは無い」
ひより「何故です、何処かに凶暴な帝国を築いた星があっても不思議じゃないですよ」
すすむ「そんな星があっても星間航行を可能にするレベル達する前に自滅してしまう、そういう星を何度も見てきた」
ひより「たまたまバッタリ出会って戦争なんて事も考えられますよ」
すすむ「そんな奇跡が起きたならむしろお互いに歓喜するだろう、宇宙は君達が想像するよりも過酷で厳しい所、戦争なんかする余裕すら無い、
    資源はこの宇宙に幾らでもある、わざわざ文明のある星に出向く必要はない、それに文明を持つ星はこの地球のように大きく重力も強い、
    争って奪うより月、火星、木星や土星の衛星で開発した方が良いのだよ」
ひより「なんか説得力がありますね……映画や漫画のような世界は在り得ないみたい、でも、貴方達はつかさ先輩を殺そうとしましたね」
すすむ「……この地球に降りてから私達は二つに別れた、一方は人類の中で生きるもの、一方は外で生きるもの、どちらもこの地球で生きる為に
    取った行動だ、どちらも辛く、苦しいのは変わらない、我々も文明と取ってしまえば地球の生命とさほど変わらない、感情や生理現象も然り」
ひより「それじゃ私達も、佐々木さん達と同じようにいつかはこの宇宙を行き来出来るようになるわけですね」
すすむ「それは君達次第だ」

988 :ひよりの旅 28/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:55:45.87 ID:W145K4B60
 なんかスケールが大きい話しになってしまった。これはネタには使えそうにないかな……
私の趣味にも合わないし……
佐々木さんは立ち上がった。
すすむ「その人から離れて生きている方から一人の若者が来て同居するようになった」
ひより「それって、もしかしてコンの事ですか?」
佐々木さんは驚いた顔で私を見下ろした。
すすむ「コンが私達と同じと気付いたのは何時からだ」
ひより「……ゆーちゃんが見つけた時からかな……私達の会話を追って行くのが解りました、これは普通の犬じゃないって、名前はまなぶって言うのでは?」
すすむ「ど、どうして分った?」
動揺しているのが分る、佐々木さんはまた椅子に座った。
ひより「コンを引き取りに来た時ですよ、佐々木さんの唇が動くのを見てそう思いました」
すすむ「大した洞察力だな」
ひより「腐っても漫画家志望なので昔から人の表情とかを観察したりしていましたから……そのコンちゃんは何処にいるのですか?」
すすむ「最近やっと人間になるのを覚えて街に出かけている……まだ早いと言ったのだがな」
佐々木さんは溜め息を付いた。
私は笑った。そんな私を佐々木さんはじっと見ていた。
すすむ「田村さん、どうだろうか、コン……まなぶの教育係になってくれないか」
ひより「へ?」
寝耳に水だった。
ひより「私がですが?」
佐々木さんは頷いた。
ひより「教育って何を教えるのですか、私なんか何も教えるような物はないですよ、佐々木さんの方が私よりもずっと生きているのですから……」
すすむ「私はこうして仕事を持っている、彼に付き合う時間がない、それに何年生きようと所詮人間の真似事にすぎない、やはり人間の事は人間に学ぶのが一番だよ」
ひより「う〜ん〜」
すすむ「それに私達の正体を知っても動じないその精神も高く買っている、どうだろう」
ここまで見込まれては断るわけにもいかない。でも、その前に私も言わなければならない事がある。
ひより「私は友人からかがみ先輩を調べるように頼まれました、その際、コンについても調べる事になっています、今後どうなるか分りませんが、佐々木さんについても
    調べるかもしれません、そしてこの一連の出来事を記録しても良いですか」
すすむ「ノンフィクションとして残すと言うのか」
佐々木さんの声が少し低くなった。
ひより「はい、でも、私なりに少しは着色しますけど」
すすむ「記録するなり、発表するなり好きにするが良い」
即答だった。おかしい、それなら私の記憶を消す必要なんか最初から無かったのでは……
私はそんな疑問を持ちつつ机の上のボイスレコーダーを鞄にしまった。
ひより「何か?」
佐々木さんの視線を感じた。
すすむ「い、いや、それでまなぶの件についての返事を聞いていないのだが」
ひより「良いですよ、まなぶさんが良ければ」
すすむ「ありがとう、まなぶに聞いてから返事をしよう」
私は佐々木さんに携帯電話の番号を教えた。

 佐々木さんの家を出ると外はすっかり暗くなっていた。思わず空を見上げた。満天に星がいっぱい瞬いている。その中のどれかがお稲荷さんの故郷があるのだろうか。
佐々木さんとの会話で心に残った……宇宙戦争はない、出来ないって言っていた。宇宙は過酷で厳しい……か、意味深長な言葉。
私達はお稲荷さんのように宇宙を旅することが出来るのかな……
『ゴン!!』
ひより「フンギュ!!」
顎に激痛が走った。電信柱に当たってしまった。歩きながら空を見上げるのは無理があったか……幸い眼鏡に傷はない。
普段考えもしないことをするとヘマをする……
ネタ帳に書いておこう……
顎を擦りながら私は帰宅した。

989 :ひよりの旅 29/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:57:05.27 ID:W145K4B60
 かがみ先輩と約束の日が来た。
約束の時間に柊家を訪れるとかがみ先輩は居間に通してくれた。
かがみ「少し待っていてくれる、まつり姉さん呼んでくるから」
ひより「はい」
暫くするとまつりさんが居間に入ってきた。
ひより「こんにちは、お久しぶりっス」
まつり「ほんと、久しぶりね」
まつりさんは私の正面に座った。
まつり「さて、なにから話せばいいかな?」
まつりさんから先に質問をされてしまった。どうしよう。いったい何から聞けばいいのだろう。
ひより「最近、コンとは会っているのですか?」
昔の話しより最近の方が思い出し易いはず。
まつり「姉さんが整体に良く行くようになったから、便乗してちょくちょく行っている」
ひより「いのりさんっスか?」
確認の為に聞き直した。まつりさんは頷いた。そしてにやけた顔になった。
まつり「姉さんは整体が目的じゃない、あれば絶対に佐々木さんが目当てだね、姉さんは隠しているみたいだけど、私には解る」
あぁ、そういえばコンを飼うと決まった時、いのりさんと佐々木さんが親しげに話していたのを思い出した……あれから二年、二人の仲が進展したのかな?
おっと、今はコンの話しをしている。その話にも興味はあるけど今は止めておこう。
ひより「コンの世話を殆どしていたと伺っていますが」
まつりさんはいのりさんと佐々木さんの話しを続けたがっていたようにも見えたが、思い出すように少し考え込んだ。
まつり「……何でだろう、そう聞かれると……なんて言うのかな、放って置けないって言うのか……そうそう、コンってね、結構ドジでね、散歩中に溝に落ちるし、
    四足なのに岩に躓いて転んだり、川に飛び込んで溺れたり……」
な、何だ、お稲荷さんの神々しいイメージとはちがってダメダメ犬だ、演技なのか、素なのか……記憶が無いのなら普段の力を発揮出来ないって事も考えられる。
それに、まつりさんは話しをしている間微笑んでいた。ドジっ子が好きなのかな……
まつり「それに、コンは私の言っている事を解っているような気がする、かがみが言うように利口な面もあって、世話をしていても飽きなかった」
気がするじゃなくて本当に解っている。犬として見ればこれほど面白い犬は居ないかもしれない。
かがみ「失礼します」
かがみさんが飲み物を乗せたお盆を持って入ってきた。そして私達の目の前にグラスを置いた。
ひより「お構いなく」
まつり「それでね、コンって恥かしがりやでね、」
かがみ先輩が居るのが気付かないのか夢中で話している。
まつり「自分からは絶対に舐めてこない、だから私からたまに抱きしめてね」
ひより「えー!!!? だ、抱きしめるっスか!!」
まつり「ん?」
思わず身を乗り出してしまった。なんて大胆な……あ、そうだった、コンはまつりさんから見れば犬。そのくらいは普通。私もチェリーちゃんや家の犬でもよくやる光景。
人間に化けられるお稲荷さんと分ると、その行為は少し意味合いが違ってくる。もっともまつりさんはそれを意識していないし、コンの正体も知らない。
ひより「い、いえ、何でもありません、失礼しました……」
まつり「かがみ、いつから居る、盗み聞きは良くないよ」
まつりさんはかがみ先輩に気が付いた。
かがみ「いつからって、さっきからよ、堂々と入って来ているのに盗み聞きも何もないわよ、ねぇ、田村さん」
ひより「は、はい……」
ここはかがみ先輩に合わすべきか。まつりさんは少しきつい目でかがみ先輩を見ていた。
かがみ「そんな事より、コンの記憶が戻ったのをどうやって知ったのよ、私はそれが不思議だった、佐々木さんから預かったリードが切欠としか聞いていない」
この質問は私が一番したかった。先にかがみ先輩がするとは思わなかった。でも、これで回り道をしなくて済みそうだ。

990 :ひよりの旅 30/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:58:28.72 ID:W145K4B60
まつり「そう、あれは朝の散歩の用意をしている時だった、いつも仕舞っているはずの場所にリードが置いてなかった、探しているとね、
    玄関の前にコンがリードを咥えて座っていた、私を見るとね、私の足元にリードを置いた……そして玄関の扉を前足で押した、もちろん開けあれるはずもない、
    これで分った、佐々木さんの家に帰りたがっているのをね、それで直ぐに佐々木さんに連絡をして……」
まつりさんの目がどんどん潤んでくるのが分った。かがみ先輩は黙って静かに居間を出て行った。
ひより「……今日はここまでにしましょうか」
まつり「え、あ、ご、ごめん、私ったら……このままコンが記憶喪失のままだったらずっと飼っていられた、なんてね……わぁ、もうこんな時間だ
    丁度良い時間ね、私もこの後出かけないといけないから」
ひより「ありがとうございました」
まつりさんは慌てて居間を出て行った。さてと、私も帰って話しを纏めないと。身の周りを整理して居間を出た。
かがみ「田村さん」
かがみ先輩が玄関に立っていた。
ひより「今日は有難うございました」
かがみ「少し、時間あるかしら」
ひより「今日は特に用事もありませんし、何でしょうか」
かがみ先輩は階段の方に歩き出した。何だろう。かがみ先輩の後に付いて行った。かがみ先輩は自分の部屋に入った。私も部屋に入ると扉を閉めた。
ひより「あの、御用はなんでしょうか」
かがみ「悪いわね、まつり姉さんがまだ家にいるから」
まつりさんに聞かれては困る事なのか。かがみ先輩はしばらく扉の向こうに聞き耳を立てている。そしてまつりさんが出掛けたのを確認したてから話しだした。
かがみ「もう良いわね……話しは他でもないコンの事、田村さんはもう気が付いているでしょ?」
かがみさんは私に何を話してもらいたいのだろう。なんとなく察しがつくけど安易にお稲荷さんの話しはしない方がいいのかもしれない。
ひより「まつりさん、コンとの別れの時、寂しかったみたいですね」
かがみ先輩は首を横に振った。
かがみ「犬はね、どんなに訓練しても喜怒哀楽は伝えられても自分の意思を伝えるなんて出来ない、そんな事ができるのは人間以外では類人猿や鯨だけよ、でもコンはそれをした」
流石かがみ先輩、コンの正体を解ってしまったのかもしれない。それなら無理に隠しても意味はない。
ひより「はい、かがみ先輩のお察しの通りです、コンはお稲荷さんです」
かがみ「やっぱり……」
かがみ先輩は腕を組み納得するように頷いた。
ひより「ちなみに……佐々木さんも……」
かがみ「なっ?!」
かがみ先輩は驚いたが私が想像していたよりも冷静だった。もしかしたらそっちもかがみさんの推測の範囲の中だったのかもしれない。侮れない……かがみ先輩。
かがみ「田村さんはこの話しに詳しそうね、良かったら話してくれないかしら」
かがみ先輩もお稲荷さんに興味があるのか。いや、私とは違ってつかさ先輩も関係しているし私より事情は深刻かも。
ひより「わかりました」
私は今までの経緯を話した。

991 :ひよりの旅 31/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 19:59:45.60 ID:W145K4B60
かがみ「他の星から来た……不慮の事故で置いてけぼりにされて、そして二つのグループに別れた」
私は頷いた。
かがみ「するとつかさの出会った真奈美というのは人から離れているグループだった訳ね、よくそんな人と仲良くなれたものだ」
ひより「つかさ先輩は癖がありませんからね、少し天然も入っていますし、それが幸いしたのでは?」
かがみ「それだけならまだ良かったわよ……つかさは……」
ひより「はい?」
かがみ「い、いや、何でもない、気にしないで、それより私が心配しているのはコンと佐々木さん、彼等の意図が分らない、田村さんの記憶を消されたのよ、何を企んでいる?」
さっきは何を言おうとしたのだろう。慌てて話題を変えた。私の言った事に対して何か反論しようとしていた。
聞き返しても教えてくれそうにないから詮索するのは止めよう。
ひより「真意は分りませんが、私が佐々木さんと話した限りでは敵対はしていないみたいです、むしろ好意的に感じました」
かがみ「そうね、そっちのお稲荷さんは人間の社会に溶け込んでいる感じがする、人間の法に触れるような事はしそうに無いわね……でもね」
かがみ先輩の顔が曇った。
ひより「何かあるのですか?」
かがみ「二年前くらいかな、私ね、殺されそうになったのよ、そのお稲荷さんに」
その時私は泉さんとの会話を思い出した。
ひより「もしかして、真奈美の弟がどうのこうのって話ですか?」
かがみ先輩は驚いた。
かがみ「……何故それを知っているの」
ビンゴ、当たった、だけどその内容まではしらない。
ひより「いいえ、知りません、泉先輩が言いかけて止めてしまったものですから」
かがみ「まったく、あいつは中途半端なんだから」
少し頬を膨らませて怒った。
ひより「その弟に殺されかけたのですか」
かがみ先輩は首を横に振った。
かがみ「違ったみたいね、別のお稲荷さんみたい、それはつかさが言ったけどそれ以上詳しく教えてくれなくてね、それでも分ったことは、少なくともそっちのお稲荷さんの人間に対する憎しみは相当なもの、つかさと真奈美が仲良くなったくらいで解決できるレベルではないわ」
ひより「その弟さんをつかさ先輩が好きになったって聞きましたけど」
かがみ「二人は別れたわよ……」
ひより「そ、そうですか……」
この先の話しを聞きたいけど、かがみ先輩の悲しそうな顔を見ると聞くに忍びない。
別れたって、すると二人は好き合っていた時期が合ったって意味と解釈するのが普通、片思いなら別れるなんて表現は使わない
……お稲荷さんと愛し合うことなんか出来るのかな……私の腐った感情では計り知れない。
かがみ「田村さん」
ひより「はい?!」
かがみ先輩は急に改まった。
かがみ「コンの教育係を本当にするつもりなの?」
ひより「一応約束したっス……」
かがみ先輩は溜め息をついた。
かがみ「そこまで言うなら反対はしない、忠告だけする、相手は人ではない、まずそれを念頭に入れないとダメよ、常識は通用しないわよ、それから相手にはちゃんと
    言葉で真意を伝えないとだめ、好きなら好きですってね」
ひより「ほえ?」
あ、あれ……好きですって……ち、違う、かがみ先輩は何を勘違いしていらっしゃるのか……
ひより「あ、あの、私は……」
かがみ「つかさの二の舞は勘弁してよね、成功を祈っているわ」
な、私の話しを聞こうとしていない。私はコンが好きなんて一言も言っていない。こんな時にボケなさるとは。
ひより「ちょっと待ってください……そうではなくて……」
かがみ「大丈夫、田村さんなら出来るわよ」
私の手を両手で握るかがみ先輩。完全にその気になっている。否定すればするほど逆効果なのかもしれない。
ひより「頑張り……ます」
かがみ先輩はにっこり微笑んだ。それはよくつかさ先輩に対して見せた笑顔だった。見事な勘違いだ。この辺りはつかさ先輩と同じ、双子の血は争えない。
今ならミッションを履行できかも、こっちも仕掛けてみるか。
ひより「かがみ先輩も誰か好きな人は居るのですか?」
握っていた手をいきなり離した。そして、顔が見る見る赤くなっていくのが分る。
かがみ「た、田村さんには関係ないでしょ」
泉先輩の言うようにかがみ先輩は恥かしがりや、この反応を見れば大体検討が付く、これ以上聞く必要はない。ある意味泉先輩のミッションの半分以上が達成された。
ひより「済みません、愚問でした、」
かがみ先輩は私があっさり引いてしまったのを意外に思ったのか、突っ込んで欲しかったのだろうか、少し寂しそうな顔になった。
泉先輩なら畳み掛けるように突っ込むだろうな……
流石に先輩に対してそこまでは出来ない。
かがみ「それじゃ今日はここまでね、まだ聞き足りないでしょ、続きはまた連絡するわ」
ひより「はい、よろしくっス」
こうして初回のコンの取材は終わった。
今度はコンの側から見た取材も出来る。彼はどんな話しをしてくれるのか。これは面白くなってきた。

992 :ひよりの旅 32/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:00:55.32 ID:W145K4B60
 家に帰って今日の纏めをする為にパソコンを立ち上げた。泉先輩からメール着信が来ていた。内容は……
ミッションの経過報告を催促するものだった。意外と泉先輩はセッカチだな。なんて思ったりもしてみた。今日は色々な事がありすぎて頭が一杯だ。
纏めるのは後日でいいや、ボイスレコーダーにも録音してあるしね。
とりあえず「順調に進んでいます」とだけ返信しよう。

 それから一週間もしない休日の日、私は駅の改札口で待ち合わせをしていた。相手はゆーちゃんやみなみちゃんではない。コン改め、まばぶを待っていた。
まさかこんなに早く実現するとは思わなかった。彼に何を教えるのか、それは彼がどの程度人間を理解しているかが解らないと出来ない。
そんな事を言って、私自身、どれほど人間を理解しているのか甚だ疑問ではある。ふと足元を見てみた。いつもの運動靴。普段着……
ひより「もう少しましな服を着てくれば良かったかな……」
独り呟く……
コンの人間の姿はどんなだろう。イケメン、ブサ……はっ!!
何を考えているのだろう。デートじゃあるまいし。デート。いや、そんなのを意識してはダメ……
かがみ先輩が変な事を言ったからから、会う前からドキドキしてしまう。
そういえば……
考えてみたら男性と二人きりで会うなんて初めてかもしれない。やばい。脂汗が出てきた。平常心、平常心……
私は何度もその言葉を頭の中で唱えた。
「お待たせ、すみません」
後ろから男性の声がした。私はゆっくり後ろを向いた。
身長は私より少し高いくらい。年齢は私と同じ位に見える。顔は……可もなく不可もなくって所だろうか。
「田村ひよりさんですよね?」
ひより「はい、そうですけど」
まなぶ「私はまなぶです、今日一日お願いします」
彼は深々と頭を下げた。こんな丁寧なお辞儀をされるは初めてだった。
ひより「い、いいえ、こちらこそお願いします」
私も彼に釣られて深々と頭を下げた。
まなぶ「まさか貴女が先生だったとは思いませんでした、すすむは名前を教えてくれませんでしたから」
ひより「私じゃダメでしょうか?」
すこし謙った言い方をした。
まなぶ「いいえ、私を助けてくれた人の一人ですよね……すみません、あの時の状況はあまり覚えていません」
ひより「助けたと言うより、見つけたって言った方が良いかも」
まなぶ「これからどうしましょうか?」
ひより「取り敢えず喫茶店で話しましょうか」
自然に会話が成り立つ。初めて会うのに初めてとは思わない、不思議な感がする。コンとして何度か会っているせいかもしれない。

993 :ひよりの旅 33/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:02:05.00 ID:W145K4B60
 近くの喫茶店に私達は入った。飲み物はまなぶさんが持ってきてくれた。私の正面にすわるまなぶさん。どう見ても普通の人間。
少なくとも容姿ではお稲荷さんとは誰も見破る人は居ない。レジで頼んでから席までの動作を見ても不自然な所は無かった。私が教える所なんて無い様に思える。
ひより「人間になれるようになってから日が浅いと聞きましたが?」
まなぶ「つい一ヶ月くらい前からですよ、どうです、私の変身は?」
ひより「私には見分けが付かないです」
まなぶ「それは良かった、でもこの位は普通じゃないと人間の社会じゃ生きていけない」
私は頷いた。本人もそれを自覚している。私の出番は本当にないかもしれない。いや、まて、まだ一つあるかもしれない。
ひより「まなぶさん……呼び難いな、上の名前は無いの?」
下の名前で呼ぶには少し抵抗があった。
まなぶ「苗字は未だ無い、私達にはそう言うものはない、人間の社会で生きていくと決めたときに付ける、その時には戸籍とかに細工をしないといけない、
    最近はパソコンを利用しているみたい」
ひより「他のお稲荷さんにしてもらうのか……」
まなぶさんは頷いた。
ひより「名前が無いのならしょうがないね……これだけ聞いておきたかった、人間についてどう思うのか、率直に答えてえると嬉しい」
まなぶさんは目を閉じて少し考えていた。
まなぶ「とても寿命が短いと思う、それが第一印象、私はたかだか50年位しか生きていないから解らないけど、私達が人間の社会で生きていく時は、
    百年に一度、名前と容姿を変えるって言っていた、そうしないと私達の正体がバレてしまうって」
それはそうなると私も思った。百年でも遅いくらいかもしれない。
ひより「憎いとか、恨みとかはないの?」
まなぶ「私の両親は人間に殺された、そして、私はその人間に助けられた、正直一言では表現出来ない、少なくとも田村さん、小早川さんと柊家には感謝している」
ひより「人間は個人差があるからかもしれないね……」
あれ、さっき小早川って言っていた。ゆーちゃんの事を言っていると思うけど……私を良く覚えていないのになぜゆーちゃんの名前はすぐ出てくるのだろう。
「済みません、御代を頂きたいのですが……」
喫茶店の店員が私達の席にやってきた。
まなぶ「すまない、忘れていた」
そう言うとまなぶさんはポケットから財布を取り出した。財布を開けた時だった。私は目を疑った。お札入れの部分から緑色の物がはみ出していた。こ、これは、葉っぱ?
ま、まさか、葉っぱをお札にして渡す気じゃないだろうか。
ひより「あ、はい、私が払います」
私は慌てて鞄から財布を取り出して御代を店員に渡した。まなぶさんはキョトンとした顔で私を見ていた。店員が去ると私は彼を睨みつけた。
まなぶ「な、何か悪い事でもしたかな?」
ひより「その財布に入っているの、葉っぱでしょ、それをお札に変えようとしたよね?」
まなぶさんは財布をポケットにしまうと頷いた。
まなぶ「小さい頃、真奈美さんから教えてもらった技だよ」
得意げに話すまなぶさん。
ひより「それはね、すぐに技が解けて葉っぱに戻っちゃうから後で大変になるよ、お金は本物を使うように……まさか今までもその葉っぱのお金を使っていたんじゃ?」
まなぶ「うんん、それはない、人間と一緒に行動するから試してみたかった、それだけ……そうか、使っちゃいけないのか」
まなぶさんは胸のポケットから手帳を取り出しメモを書き始めた……そうか、これが佐々木さんの言う教育ってやつのかもしれない。もう少し様子を見る必要がありそう。
それにしてもつかさ先輩の話がこんな所で役に立つとは思わなかった……

994 :ひよりの旅 34/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:03:35.92 ID:W145K4B60
 喫茶店を出て電車に乗り、テーマパークに行く予定を立てた。しかし……まなぶさんときたら……

ひより「ダメ〜!! 何故赤で信号わたるの!!」
まなぶ「えっ? だって、狐の時子供達が信号は赤渡るのが良いって言っていたから」

ひより「ちょ、何で隣の駅なのに最長距離の切符買っているの!!」
まなぶ「え、だって、みんな同じじゃないの?」

ひより「早く来て、間に合わないよ」
まなぶ「こ、この動く階段が……恐くて降りられない」

ひより「はぁ、はぁ、はぁ」
隣の駅に移動するのになんでこんなに体力を使わなければならないのか。このお稲荷さんはダメダメかもしれない。基本から教えないといけない。
まなぶさんは相変わらず私の言う事を黙々とメモしていた。
こんなのはメモするまでも無いのに……佐々木さんや真奈美さんとは大違いだ。交通事故に遭ったりする訳だ。
それにまつりさんがいろいろ手を焼いていたのも納得する。狐も人間も中身が同じなら行動も同じ。
ひより「次の駅を降りたら私に付いて来て、先に行かないように、分った?」
まなぶ「はい、分っています」
う〜ん、本当に分っているのかな、この空返事が怪しいな。先が思いやられる。50年も生きているのにまるで子供の様だ。
でも、お稲荷さんの寿命を考えるとこの程度の年月は短すぎるのかもしれない。私達人間はその50年で人生の半分以上を使ってしまう……
仮に私が彼と親しくなったとしても……確実に私の方が先に亡くなるのか……
生きている時間の幅が違うだけで一緒に居られないなんて、同じ種で寿命が殆ど同じなのはそう言う意味もあるのかもしれない。

 テーマパークに着くとまなぶはまるで子供の様に大はしゃぎだった。これはこれで来た甲斐があった。
昼食が済むと彼は次第に私から注意を受けなくなってきた。それどころか外国人に道を聞かれて対応してくれる場面があった。彼に言わせると殆どの言語を理解出来ると
言っていた。この辺りはお稲荷さんと言わざるを得ない。帰りは地元の近くで食事をした。
まなぶ「顔に何か付いています?」
ひより「い、いや、付いていない……今朝と随分変わったと思って」
まなぶ「変わった、私は別にいつもと同じですが、田村さんがそう言うのであればそうかもしれません、今日はいろいろと勉強になりました」
まなぶは黙々と食事をした。私も食事をして暫く静かな時間が続いた。
まなぶ「あの〜」
控えめな小さな声だった。私は食事を止めて彼の方を向いた。
ひより「はい?」
まなぶ「まつりさんにお礼が言いたいのですが……」
ひより「何故私にそんな事を、お礼なら自分で……あっ!」
まさか……
ひより「お礼って、コンの時に世話になったお礼?」
まなぶは頷いた。
ひより「それは出来ないし、止めた方が良いですよ、まつりさんは多分お稲荷さんの存廃を知らないし、説明しても理解出来るかどうか」
まなぶ「田村さんや小早川さんは理解していますけど」
ひより「私は普通とは少し違うから」
ん……またゆーちゃんの名前が出た。しかも理解しているって。するとゆーちゃんはまなぶや佐々木さんの正体を知っていると言うのだろうか。
そんな思いも束の間、まなぶは悲しい顔になって俯いてしまった。
ひより「もしかして、まつりさんが好きなの?」
まなぶ「それは……」
適当に鎌を掛けてみた。彼の顔が少し赤くなり俯いた。この態度から察するに図星に違いない。
ひより「あれだけ世話になったのだからお礼くらいはしたいですよね……」
二人を会わす。どうやって。まつりさんとコンなら佐々木さんの家に行けば良いし、最近も会っているみたいだから私が何かする必要はない。
人間として会わすなら……どうすれば良いかな……
『ピン!!』
頭の中の電球が点いた。
ある。あるぞ。閃いちゃった。
ひより「私はコンの取材って理由で柊家に行く予定になっているから、私の漫画の弟子って事にして同行すれば会える、話題がコンだから話し易いかも」
まなぶ「ほ、本当ですか、あり難いです、ありがとうございます、先生」
し、先生だって、高校時代の部活でも言われていないのに。合わせてくれているのは解るけど、なんか嬉しい。
ひより「取り敢えず日時が分ったら佐々木さんに連絡するから、それで良いよね?」
まなぶ「はい、お願いします」
嬉しそうな顔。恋のキューピット役もたまには良いかな。

995 :ひよりの旅 35/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:05:15.63 ID:W145K4B60
『ピンポーン』
私は佐々木さんの玄関の呼び鈴を押した。
すすむ「はい」
扉が開き、佐々木さんが出てくると私を見て驚いた顔をした。
ひより「帰り道でいきなり狐に戻ってしまいまして……その場で倒れたので連れてきました」
私の腕の中にコンは静かに寝ていた。
すすむ「変身が未熟なので時間をコントロールが出来ないですよ、戻るとき、周りに人は居ませんでした?」
ひより「いえ、公園の茂みに隠れたので大丈夫だと思います」
私はそっと佐々木さんにコンを手渡しした。
すすむ「済みませんね、こんな大役を任せてしまって、疲れたでしょう、上がってお茶でもどうですか?」
ひより「いいえお構いなく、私もなんかいろいろ教えられたような気がします」
すすむ「ありがとう、ところでまなぶはどうでした」
ひより「また会う約束をしました、今度は柊家を訪ねる予定です」
すすむ「やはり、まなぶはまつりさんに会いたいのですか」
私は頷いた。佐々木さんは溜め息をついた。
すすむ「今日はもう遅い、車で家まで送ろう、まなぶを寝かしてから車を出すから少し待ってくれるか?」
ひより「ありがとうございます」
佐々木さんは家の中に入っていった。

 すすむさんはガレージから車を出してくれた。
すすむ「まなぶが狐になったのを見てどうだった?」
すすむさんの車が走り出すと同時に話しだした。
ひより「体全体が淡く光ったと思うと見る見る小さくなって……」
すすむ「いや、質問が悪かった、どう思ったのか、感じたのかと聞いたのだが」
ひより「どう思った……っスか?」
私は思わず聞き返してしまった。佐々木さんの質問の意図が全く分らなかった。
すすむ「大概、変身の姿の見た人間は失神するか、逃げるか、半狂乱になるのが普通だ、それなのに君はまなぶを抱いて家まで運んでくれた」
ひより「う〜ん、見た時は確かに驚きましたけど、つかさ先輩の話がクッションになってくれたのかな、それとも悪夢を見たのが幸いしたのか、そんなには成らなかったっス」
佐々木さんは溜め息を付いてから話しだした。
すすむ「半狂乱になるくらいならまだ良い方だ、人間は自分の理解出来ないものを排除する傾向があるみたいでね、攻撃をしてくる者もいたのだよ、まなぶを見て分るように
    我々は狐に戻った瞬間が一番弱い、攻撃されれば終わりだ、それ故に最高機密としていた、君のように冷静でいられる人間は希なのか」
佐々木さんの質問の意図が分った。これはお稲荷さんの存亡に関わる内容なのかもしれない。
ひより「難しいっスね、私の様な人が私以外に居ないのでなんとも言えない……でも、見たものをそのまま現実として受け入れられるかどうかが鍵になると思います、
    私は、趣味のせいで見たものをそのまま模写する癖がありまして、そのせいかも知れません」
もっとも今では模写どころかだいぶ歪曲してしまっている。
すすむ「そうか……その君から我々はどう見える」
ひより「狐に変身出来るのを除けば私達とそんなに変わらないような気がしますけど……」
すすむ「変わらない……か」
佐々木さんの顔が曇った。
ひより「も、もしかして気に障りましたか、すみませんっス……」
今のはまずかったか。星間旅行が出来るまで発展した文明の星から来た人に対して言う言葉では無かった。
すすむ「ふ、ふふふ、その通りだ、変わらない……どうやら私は心の奥底では君達を未開の種族と見下していたのかもしれないな」
笑いながら話す佐々木さんだった。
すすむ「田村さん、君とはもっと早く出会いたかった」
これって私を褒めているのかな。あまり良い回答とは思わないけど……
私の家の前に車は止まった。私が降りるとウィンドーが下がった。
すすむ「この調子でまなぶの教育を続けて欲しい」
ひより「このままで良いのなら、てか、他にしようが無いっス」
佐々木さんは笑った。
すすむ「おやすみ」
ひより「ありがとうございました」
佐々木さんの車は走り去った。

996 :ひよりの旅 35/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:06:31.94 ID:W145K4B60
 私は部屋の中で今日の出来事を振り返っていた。やはり何と言ってもまなぶが狐の姿になる場面が何度も鮮明に頭の中に蘇ってくる。
駅に着いたら直ぐに無言で公園に向かった。苦しそうだったし無言だったらトイレかと思っていたら予想を遥かに上回る出来事が起きた。
彼の体が淡く白い光に包まれたと思うとどんどん小さくなっていって、犬のような姿になってから狐になった。漫画やアニメで見たような……
正直いって佐々木さんの言うようにその場から逃げたい気持ちになったのは確かだった。
狐に戻ったまなぶはその場に倒れて動かなかった。公園の裏とは言え人の出入りはゼロではない。見つかればあの時と同じようにいじめられるかもしれない。
放っておけない。そっちの気持ちの方が大きかった。
この気持ちはまつりさんがコンの世話をしていた時と同じ気持ちなのだろうか……
さてと。
『カチ』
ボイスレコーダーの再生スイッチを押した。寝る前に、この前のまつりさんの録音を再生して纏めるつもりだった。
『見てしまったね……』
佐々木さんの声……あ、あれ?
これはこの前再生したものではないか。
ボイスレコーダーを手に取り表示を見てみた。なんてことだ、メモリが一杯になっていた。このレコーダーを買った記憶は私には無い。
そのせいかもしれないけどどうも操作が慣れない。この前のまつりさんとの会話は思い出しながら纏めるか……
『ガサ・ガサ』
再生停止をしようとした時だった。物音が録音されている。
そうか。私はあの時録音ボタンを押したままレコーダーを仕舞ってしまったみたい。それでメモリが一杯になっていたのか。買ったばかりで不慣れだったみたい。
この音は……私を佐々木さんが運ぶ音だろうか。私は音からどんな状況なのか想像しながら聞いていた。
『ピッ、ピッ、ピッ』
電子音が響いた。他の音は聞こえなくなった。きっと佐々木さん家の中なのかもれない。
『……私だ、君の言うように来てしまった……そうか来るのか……待っている』
あの電子音は電話のボタンを押す音だった。佐々木さんの声、誰かと話している。君の言うように……これって、私が佐々木さんの家に来たのを予想した人が居るってこと?
いったい誰だろう。
あの会話だと佐々木さんの家に来るみたいだ。もしかしたらその人と佐々木さんの会話も録音されているかもしれない。早送りボタンを押して時間を進めた。
『ピンポーン』
呼び鈴の音がしたので早送りを止めた。
『大丈夫、眠っているだけだ、安心しなさい……』
佐々木さんの声、眠っているのは私に違いない。
『本当に記憶を消していいのか、私は勧めない、万が一それが発覚したら責任は君に降りかかる、その覚悟があるのか』
音がしない。沈黙が続く、迷っているのか来訪者は黙っていた。
『はい、構いません、お願いします』
その声は私が良く知っている声だった……ゆーちゃん……

997 :ひよりの旅 36/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:07:54.98 ID:W145K4B60
 佐々木さんと話していてどうも違和感があったけどこれで理解できた。佐々木さんはバレないようにゆーちゃんを庇ったから話しに違和感があったと私は思った。
それに佐々木さんはこのレコーダーを気にしていた。さっきの会話を聞かれたかどうか心配だったのか。最後まで聞くべきだった。
佐々木さんは私の記憶を消すつもりは無かった。記憶を消したのはゆーちゃん……
ゆーちゃんが私の記憶を消したのは何故だろう。
あの話しぶりだと既にゆーちゃんは佐々木さんがお稲荷さんだと知っている。おそらくコンの正体も知っている。
それは理解できるけど何故……
そういえばゆーちゃんは以前、私がコンの話しをしたら『そっとしておこうよ』って怒った事があった。
私はゆーちゃんにとって邪魔だったから……
何の邪魔だったのかな……知りたい……それはゆーちゃんにとって知られてはいけないものなのか。
私の知っているゆーちゃんとはこんな事はしないし、出来ないはず。お稲荷さんに強制された訳じゃない。その逆、ゆーちゃん自ら私の記憶を消すように頼んでいた。
……考えても先に進まない。これは直接聞くしかない。
しかし、私の記憶を消すくらいだから、そう簡単には教えてくれないだろう。どうする……
時計を見るともう日が変わっていた。
あっ、もうこんな時間か……一度寝て少し落ち着こうか。

 次の日、
大学の講義が終わり私は寄り道もせず泉家に向かった。アポは取っていない。その方が聞きやすいと思ったから。ゆーちゃんに弁解の機会を与えないで
真実のみを話してもらう。これがアポなし訪問の理由。もっとも居なければ出直すしかない。
さて……居ますように。
呼び鈴を押すとおじさんが出てきた。
そうじろう「おや、田村さんだったね、ゆーちゃんなら今帰ってきた所だ」
これは幸運だ。心の中でガッツポーズをした。
扉を全開にして私を通してくれた。
そうじろう「ゆーちゃん、お客さんだぞ」
ゆーちゃんの部屋に向かって大声で呼んだ。
暫くすると部屋からゆーちゃんが玄関にやってきた。
ゆたか「ひ、ひよりちゃん、どうしたの……急に……」
驚くゆーちゃん。この驚きは何を意味するのだろうか。
ひより「ちょっと取材でこの近くに寄ったものだから、居なければ帰るつもりだった」
ゆたか「そうなんだ、それじゃ私の部屋に来て」
ひより「お邪魔します」
靴を脱ぎゆーちゃんの後に付いていった。
そうじろう「後でお茶でも持って行こう」
ひより「有難うございます」
ゆたか「あっ、私がしますから」
そうじろう「それじゃ、そうしてくれ」
おじさんは自分の部屋に戻っていった。

 部屋に入るとゆーちゃんは部屋を出て行った。しばらくするとお茶とお茶菓子を持って帰ってきた。
ゆたか「取材の帰りって言っていたね、もしかして漫画を再開したの?」
そうだった。コミケ事件から描いていなかった。でも、話としては入りやすい。まさかゆーちゃんからこの話を振ってくるとは思わなかった。
ひより「うん」
ゆたか「そうだよね、やっぱり好きな事をするのって一番楽しいから、それでなんの取材をしていたの」
ひより「コンの記憶が戻る過程の取材」
ここは嘘を付いても意味が無い。それにゆーちゃんの反応も見てみたい。
ゆたか「えっ、そ、それって、柊家の取材でしょ、だ、ダメだよ、また知り合いをネタにしたら、あの時どうなったか分かっているでしょ?」
動揺するゆーちゃん、一見私を心配しているようだけど、裏を知ってしまうとまた違って見えてしまう。
ひより「ふふ、その点は大丈夫、かがみ先輩のお墨付き、泉先輩が介入しないなら良いって言ってくれた」
ゆーちゃんは黙ってしまった。嘘を言っていないから私的に気は楽だけどゆーちゃんから見れば気が気じゃないよね。
これで大体分かったけど核心に触れなければ私の気が治まらない。鞄からボイスレコーダーを取り出した。
ゆたか「なに?」
首を傾げるゆーちゃん、私は再生ボタンを押してゆーちゃんの目の前に置いた。
『○月○○日、晴れ、町を歩いているとたい焼き屋さんを発見した、どうやら新規オープンしたようだ、手持ちは……準備していなかった、
 一個分のお金しか持って来ていない、さて、たい焼きの中身を何にするか……』
あ、な、なんだ、ち、違う。
ゆたか「……そうだよね、そうゆう時って悩むよね……私だったら……」
ひより「ちょ、ちょっと待って、今のは違うから」
ボイスレコーダーを取り再生トラックを変えた。ゆーちゃんが慌てている私を見て笑っている。しくじった。
『○○年○月○日正午、私は佐々木整体医院の目の前に立っている、見たところどこにでもありそうな整体医院、調べた所によると今日は休院日、調査には絶好の日だ』
ゆーちゃんの顔が厳しく豹変した。顔色が見る見る青くなっていく。ボイスレコーダーは最後にゆーちゃんの声を再生した。
『はい、構いません、お願いします』
再生が終わると私はボイスレコーダーを鞄に仕舞った。

998 :ひよりの旅 37/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:09:01.60 ID:W145K4B60
 ゆーちゃんは俯いたまま何も話さない。あまりに決定的な証拠を突きつけられて何も言えなくなってしまったのだろうか。
私はゆーちゃんの言葉を待った。だけどその言葉はこのままでは聞けそうにない。ちょっとダイレクト過ぎたかも。
ひより「私ね、この録音を途中までしか聞いてなかった、だから私は佐々木さんに会いに行ってきた、そこで佐々木さんは紳士的に対応してくれた、
    もちろん自分の正体も教えてくれたし、コンの話もしてくれた、残りの録音の昨日聞いた……それで佐々木さんはゆーちゃんを庇っていたのに
    気が付いた、だからこうして私はここに来た、私の記憶を消したのはゆーちゃんだよね……どうして?」
口を噛んでいるように硬く閉じて開こうとしない。そんなに私に知られたくない内容なのだろうか。私は怒っていない。それは私の表情からも分かるはず。
あまりこんな事はしたくないけど。ゆーちゃんのかたくな態度を見るとせざるを得ない。
ひより「これがもしみなみちゃんだったら、同じ事をしていた?」
ゆたか「そ、それは……」
話そうとしたのも束の間、口が開いたがまた閉じてしまった。私は暫く真面目な顔でゆーちゃんを見ていた。
ひより「ふふふ、その姿、泉先輩と同じだね」
私は笑った
そう、これはコミケ事件の場面でかがみ先輩が私を尋問する時に使った手法だ。厳しい態度を見せておいてから一転して砕けた笑顔。
かがみ先輩がそれを意識していたかどうかは分らない。こんなのは大学でも教えていないだろうし、そもそもそんな手法があるのかどうかさえ知らない。
だけど少なくとも私には効果があった。それをそのままゆーちゃんに試したのだった。それに私はかがみ先輩の様な笑顔はつくれない。上手くいくだろうか。
ゆたか「お、お姉ちゃんと……同じ?」
驚きながらも意味が分らないのか首を傾げて聞き返してきた。私は頷いた。
ひより「今、ゆーちゃんのしている事は、あの時の泉先輩と同じ、私はそう思う」
ゆたか「あ、う……」
よっぽど話したくないのか、目が潤んできてしまった。肩が震えているのが分る。
私もこれ以上責めるつもりは無い。それに付け焼刃の試みも失敗に終わった。
ひより「分った、ゆーちゃんが話してくれないのなら、もう聞かない、私は私のしたい様にするから、ゆーちゃんもしたい様にすればいいよ」
私は立ち上がり部屋を出ようとした。私は怒っていない。むしろゆーちゃんが隠し事をしているのが新鮮でとても興味があった。高校時代ではまず在り得なかった。

ゆたか「私……お稲荷さんを知っていた……」
ボソボソと話しだすゆーちゃん。私は立ち止まった。短いけどこれだけ話してくれただけでも嬉しい。私は振り返ってゆーちゃんの前に座った。
ゆたか「ごめんなさい……私、取り返しのつかない事をしちゃった……」
ひより「そうだね、そのおかげで私はボイスレコーダーを買った事実さえ忘れてしまった、何が録音されているかもね、それに、未だに操作が覚束ないよ、このレコーダーが
私の物って実感がない、だからゆーちゃんの所に来た」
ゆーちゃんは何か吹っ切れたように話しだした。
ゆたか「佐々木さんが言っていた、一つの記憶だけをピンポイントで消せないって……関連している記憶も消えてしまう可能性があるって……私、もしかしたら、
    ひよりちゃんにとってもっと大切な記憶を奪ったかもしれない……」
ひより「ふふ、今度消されたらゆーちゃんやつかさ先輩の記憶まで消えちゃうね」
ゆたか「も、もう、そんな事しないよ……出来ないよ……」
私が笑うとゆーちゃんの目から大粒の涙が零れだした。そんなにしてまで私から何を隠そうとしていたのだろう。今ならそれも問い詰められそうだけど、
泣いている姿を見ているとやり難い。それに、あのかがみ先輩ですら泉先輩をあれ以上問い詰めなかったのだから。

999 :ひよりの旅 38/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:10:30.05 ID:W145K4B60
ひより「佐々木さんの正体、何時知ったの?」
ゆーちゃんは少し落ち着きを取り戻した頃話し始めた。
ゆたか「整体院に通うようになって直ぐ……私がその日の最後の患者の時だった、治療が終わって外に出たら次回の予約を取っていないのに気が付いて、急いで戻ったて
    診療室のドアを開けたら……佐々木さんの姿が……狐の姿に……なっていくのを見てしまった」
まだ少し泣き声が混ざりながらだった。
通うようになって直ぐ……私達がレストランかえでに行く前じゃないか。ゆーちゃんはつかさ先輩からお稲荷さんの話しを聞く前に既に知っていたのか。
ひより「それで……逃げたの?」
ゆーちゃんは首を横に振った。
この時のゆーちゃんの行動にすごく興味を引かれた。
ゆたか「恐かった……恐かったけど、逃げさすほど恐くなかった、多分佐々木さんの方がもっと驚いたのかもしれない、私を見るなり机の下に隠れてしまって……」
私の見ていた夢が消えた記憶の断片なら私はあの時逃げようとしていた。条件は同じなのに。
ゆたか「私は佐々木さんに向かって、「ごめんなさい、突然開けてしまって」……そう言ったら、机の下からゆっくり出てきてくれた、
    狐の姿だと言葉が喋られないみたいで……何を私に言いたいのか理解できなかった、だから、私は明日来ても良いですかって言ったら頷いてくれた」
ひより「す、凄いね、狐になった佐々木さんに声を掛けられるなんて、よっぽど勇気がないとそんな事できないよ……ゆーちゃんを見直しちゃったよ」
これは素直に感心するしかなかった。ゆーちゃんは照れ気味なのか顔が少し赤くなったように見えた。
ゆたか「次の日、佐々木さんは全てを話してくれた、佐々木さん達は遠い星から来た人だって、それも数万年も前、事故が原因で帰れなくなったって言っていた」
ひより「数万年前、そんなに昔……そこまで私は聞いていなかった、凄い昔、確か調査で来たって言っていたけど……調査に来るって事は、やっぱり地球は珍しい星だったね」
ゆたか「うんん、地球みたいな星は結構いっぱい在るって言っていた、ここに来る前にも100個くらい調査したって言っていたよ」
ひより「百個……」
この星もそんな有り触れた星に過ぎないのだろうか……
ゆたか「あっ、でも、文明をもつ星は珍しいって、少なくとも調べた星では一個も無かったって」
ひより「い、いや、数万年前じゃ、私達も文明なんてレベルじゃ無かったよ」
ゆたか「そうだよね、人間をもっと早く知っていれば狐にならなくて済んだって言っていた」
ん、ちょっと待て、ゆーちゃんの話しは具体的でなんか実際に見てきた様な言い方だよね。まさか……
ひより「佐々木さんって何歳なの、その話しを聞いていると当時から居るような気がしてならないよ」
ゆたか「うん……当時からずっと生きているのは佐々木さんを含めて三人だけになったって……凄いよね……私達から見ればやっぱりお稲荷様だよ」
ひより「それじゃ、コンがお稲荷さんって言うのも知っていたの?」
ゆたか「……うんん、始めは気が付かなかった……佐々木さんの整体院で一回もコンちゃんには会っていなかったから……佐々木さんに話してどうやってコンちゃんを引き取ろうか
いろいろ話し合って……でも皆には秘密にしたいから……」
秘密にしたいからコンの迷子のポスターを作るなんて言ってしまった。でも私はどんどん調べていくから記憶を奪おうなんて考えた。
私の頭の中の整理が付いた。


 ゆーちゃんの話しは興味をそそるものだった。SFに興味ない私が聞き入ってしまうくらい。
お稲荷さんは仲間に連絡を取るために人間に知識を教えた事もあった。だけどその知識の為に人間同士争いってしまい文明が滅びてしまった。
それの繰り返し、それで人間から疎まれはじめて、追われて、逃げて……千年くらい前に日本に住むようになったそうだ。
お稲荷さんは約二十名が生き残って細々と暮らしている。殆どはつかさ先輩の居る町の神社に住んでいると。
佐々木さんの様に人間と一緒に生きているのは極少数、お稲荷さんをやめて人間になってしまった人も居ると言っていた。
それだったら最初から人間になっちゃえば良い。なんて思ったりもするけど、物事はそんなに単純じゃない。
何千年、何万年も生きられる事で私達には分らない良い何かがあるに違いない……
もっとも、たかだか二十年そこそこしか生きていない私が考えた所で分るはずも無い。

1000 :ひよりの旅 39/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:13:10.65 ID:W145K4B60
39レス目は次スレで



らき☆すたSSスレ 〜そろそろ二期の噂はでないのかね〜
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1360577276/
1001 :1001 :Over 1000 Thread
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   ::  !ヽ  :
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   :   / ´`)'´    _      !、
            lヽ /   ノ    , `     `!:
       lヽ、  /  Y    ,! ヽ-‐‐/          l
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      ,ノ      ヽ =@           _,イ:
    '.o  r┐   *   ヽ、 ヽ、_     ,..-=ニ_
    =@   ノ       ノヽ、,  !..□ /     ヽ
     ヽ        .ィ'.  ,!    ハ/    、   `!、    七夕に…
      `ー-、_    く´ =@    /     ヽ  
         ,!     `!  l              ヽ、__ノ    このスレッドは1000を超えました。もう書き込みできません。
         l     `! `! !              l
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らき☆すたSSスレ 〜そろそろ二期の噂はでないのかね〜 @ 2013/02/11(月) 19:07:56.21 ID:W145K4B60
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【神コンマ?】京太郎「俺が活躍する!?その5」【SOA】 @ 2013/02/11(月) 18:31:31.67 ID:NJLRIh4Mo
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びんたんに詳しいやつちょっとこい @ 2013/02/11(月) 18:09:16.35
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Viagra @ 2013/02/11(月) 17:30:20.29 ID:yrWv7gT30
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糸色望「たまには仮病でもしてみますか」 @ 2013/02/11(月) 17:20:48.30 ID:X+CqeKag0
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