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上条「学園都市? なんで俺がそんなところに?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/16(木) 18:29:23.71 ID:3M0E3iz30
禁書SS総合スレに投下したものを長編化してみました

もし上条さんが『必要悪の教会』所属だったら?
というIFストーリーにするつもりが、気がつけば、
科学オンチな上条をサポートする一方通行&御坂美琴奮闘記になりました

所謂『再編物』に分類される話だと思いますが、所変われば品変わる、
『とある魔術の禁書目録』ではなく『とある魔術の幻想殺し』です。
話が進むまでインデックスさん出てこないしね!
パラレルワールドで展開される、みんな仲良しなゆるいお話です

後、スレ立て自体生まれて初めてなので色々と不備があると思います。
さらに外国なんか行ったことない上に、宗教知識も幼稚園児レベルですが、
「こまけぇこたぁいいんだよ!」の精神で乗り切っていこうと考えています。
……それではいきます。


魔術の世界で育った少年が、科学の世界で育った者たちと交差する時、物語は始まる――!

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(安価&コンマ)鉄血に狼の男が(機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ) part2 @ 2025/06/22(日) 22:47:53.63 ID:xiq+pvxz0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1750600073/

■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:08:31.92 ID:A9RjOWcxo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421311/

■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:07:56.06 ID:9l741hD4o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421275/

■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:07:18.78 ID:XCIH42NJo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421238/

■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:06:42.32 ID:sMr/Yf+to
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421202/

■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:06:05.72 ID:A9RjOWcxo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421165/

■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:05:29.13 ID:9l741hD4o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421128/

■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:04:47.30 ID:XCIH42NJo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421087/

2 :序章『とある魔術の幻想殺し』 1/9 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:30:40.70 ID:3M0E3iz30

 イギリス首都・ロンドン。
 時刻は午後六時過ぎ。
 霧雨にけぶる街、その片隅に建つ、とある小さな教会に、場違いな日本語が響いた。
3 :序章『とある魔術の幻想殺し』 2/9 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:31:33.60 ID:3M0E3iz30


「学園都市? なんで俺がそんなところに?」

4 :序章『とある魔術の幻想殺し』 3/9 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:32:43.41 ID:3M0E3iz30

 声の主は、ツンツンと立った髪以外、特に取り立てて特徴のない少年だった。
 特徴を上げるとすれば、日本人でありながら、ロンドンの空気にしっくりとなじんでいるところだろうか。

 少年の名前は上条当麻。

 幼い頃、とある事件がきっかけで親元を離れ、以後十年近い間ロンドンのこの教会で生活を送っている。
 彼は、数少ない日本人のイギリス清教徒であり――『必要悪の教会』の一員だ。

 しかし彼は魔術を扱うことはできない。それどころか、魔術的知識をほとんど持っていない。
 一応持っているには持っているが、実戦の中で得てきた断片的なものだ。
 そこいらに転がっているオカルトマニアに負ける程度の知識しかない。

 それでも彼は、『必要悪の教会』の一員で、切り札の一つだった。

5 :序章『とある魔術の幻想殺し』 4/9 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:33:50.78 ID:3M0E3iz30


 幻想殺し――その右手で触れたものは、魔術だろうが霊装だろうがなんだろうが、『異能の力』であればなんでも消滅させる力。
 そんな力を持つ上条は、『必要悪の教会』のとっておきのジョーカーなのだ。
6 :序章『とある魔術の幻想殺し』 5/9 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:35:35.36 ID:3M0E3iz30

 その上条に、超能力開発をカリキュラムとして組み込む学園都市にある、とある高校に入学しろという命令が下された。
 伝令のために数カ月ぶりに姿を現した幼馴染――土御門元春はやれやれと言いたげに首を振った。

「そんなところとはひどい言い草だにゃー。『そんなところ』にオレは三年も暮らして、能力開発まで受けてるんだぜい?」
「無能力者だけどな」
「開発に関しては、中学生ともなったらジジィ扱いだからにゃー……」

 土御門が、ややオーバーな仕草で肩を落とす。
 上条はそんな様子を無視して、土御門が学園都市に旅立つ際に調べた知識を頭の中で掘り起こす。

「あそこの能力開発って中学生までなんだろ? 高校からいきなり入ったら目立たないか?」
「一応、高校から入学でも能力開発はされるらしい。
 それにオレたちが入学する高校は無能力者や低能力者ばかりの高校だから、特に目立たないだろ」
「オレたち……ってことは、お前も入学するのか」
「カミやんにとっては、もはや日本の方が外国だろ?
 しかも学園都市はこっちとは色々と違うんだ。
 サポートできる人員が近くにいた方がいいと思って、上の方にお願いしたしだいですたい」

「土御門……お前、」
 土御門の殊勝な言葉に、上条はちょっぴり感動したが、
 
「いざというときのスケープゴートも必要だしにゃー」

「最低だな!」
 とりあえず一発殴ろうとしてひょいっとかわされ、代わりにベンチを殴ってしまった。
 微妙に痛む拳をさすりながら、上条は呟く。

「でも、俺に直接命令が来るなんて珍しいな。
 いつもだったら気がついたらなぜか魔術的な事件に巻き込まれて、なぜかそれが『必要悪の教会』につながってるって感じなのにさ」

7 :序章『とある魔術の幻想殺し』 6/9 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:37:16.51 ID:3M0E3iz30
 
 上条当麻は、困っている人がいれば、迷わず手を差し伸べる。
 例え、どれほどの怪我を負おうとも、それによって感謝されることがないとしても。

 救いを与えたいとか、そんな信念があるわけではない。

 ただ、目の前で困っている人をなんとかしてあげたい。
 それだけの理由で、幼い上条は戦っていた。

 そんな上条の姿勢に驚いたのは、『必要悪の教会』の方だった。
 こっそり始末しようとした事件に、ただのイギリス清教徒であるはずの彼が何度も何度も絡んでくる。
 魔術結社の方が、彼が『必要悪の教会』の人間だと勘違いして襲撃した事件がきっかけで、彼は『必要悪の教会』の一員となったほどだ。

 と言っても、それ以前から、『必要悪の教会』一員である土御門元春やステイル=マグヌス――そして神裂火織らと『幼馴染』と呼んでも差し支えない関係を築いていた上条は、あまり違いを感じることはなかったが。

「今回は特例だな。困った人を放っておけないカミやんだからこそ選ばれたって感じだにゃー。
 カミやんなら、インデックスを見つけ出せるかもしれない……と言うのが上の考えだ」
 土御門が上条にさしだした写真には、一人の少女が映っていた。銀髪碧眼に、白い修道服をまとった可憐な少女だ。

「インデックス……?」

 首をかしげる上条に、土御門は簡単に説明する。
 禁書目録の少女。一〇万三〇〇〇冊もの邪本悪書を記憶する、『必要悪の教会』の切り札の一つだ、と。
8 :序章『とある魔術の幻想殺し』 7/9 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:39:09.54 ID:3M0E3iz30

「まあ、端的に言うとカミやんの真逆にいる存在ですたい」

 上条は、魔術師の天敵だ。
 ぶっちゃけた話、上条は困っている人を助けるという過程で、『必要悪の教会』にケンカを売ったこともある。
 今でこそ『必要悪の教会』に所属しているものの、それは単に、上条を狙う魔術結社から、彼の周囲の人間を守るのに都合がいいからだ。
 いつ裏切るか分からない――しかし、人を助けることにつながるのならば喜んで力を貸す上条に、『必要悪の教会』上層部が下した結論は、『彼に魔術的知識を与えない』というものだった。
 下手に知識を与えれば、敵に回った時にとてつもない脅威となる。
 戦闘の都度、助言と言う形で断片的に与えられるものの、断片は断片、全体を掴むには到底及ばない。
 例えば『理派四陣』という探索魔術の存在や効果は知っていても、それがどういったプロセスで発動するかはまったく分からないのだ。

「見つけ出せるかもしれない……って、どういうことだ。
 俺は学園都市に引っ越すんだろ? 話が繋がんねーよ」
 
「今現在、彼女は逃走中だ」

 一瞬で土御門の声音が真剣なものになる。身近な幼馴染から、プロの魔術師に一転して、土御門は続ける。
9 :序章『とある魔術の幻想殺し』 8/9 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:40:38.59 ID:3M0E3iz30
「このインデックスという少女は、完全記憶能力を持っていてな。
 一年に一度、記憶の消去を行わなければ、その記憶したものに脳を圧迫されて死んでしまうんだ。
 普段だったら記憶を削除した後に仲間だと説得するんだが、今年はそれに失敗したらしくて、日本中を逃げ回っている。
 今までの逃走ルートから考えて、どこかのタイミングで学園都市に潜入するんじゃないかって結論が出されたわけだ」
「で、俺の出番ってことか……」

 上条当麻は魔術師ではない。だから、能力開発を受けたところで特に問題はない。
 また、学園都市に対しては、『イギリス清教から仏教に改宗し直しました』という言い訳ができる。

 第二の故郷であるロンドンをこんな形で去るのは名残惜しいが、それで『困っている少女』を助けられるのなら、構わないと上条は考え始めていた。
 
10 :序章『とある魔術の幻想殺し』 9/9 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:41:48.91 ID:3M0E3iz30
 
 考えを前向きにするために、上条は明るい声で土御門に問いかける。
「出発はいつだ? たしか、日本だと入学式は四月頭だよな」
「入学式なら明日だぜい」
「あーそうか明日か。明日……あした?」
「正確に言うなら今日だな。あっちとこっちじゃ時差が九時間あるから、向こうは丑三つ時くらいかにゃー」

 のんびりと、土御門は告げる。

 丑三つ時と言えば丑の刻参りだけどカミやん知ってる?と話題を振ってきた土御門を無視して、上条は叫んだ。
「……直行便でも半日かかるんだぞ!?
 上条さんの空っぽに近い知識参照で申し訳ありませんが、イギリス清教にゃ、こっちとあっちをつなぐ便利魔術なんてないだろ!」
「ああ、それなら大丈夫だぜい。
 丁度学園都市製の超音速旅客機がロンドンに賓客を運んだ直後だから、今から空港に行けば復路に便乗できる。
 大体一時間くらいで向こうにつくから、身なりを整える時間を考えても十分余裕ってわけだ」
「なにドヤ顔きめてんだよ! 今から空港経由で学園都市直行ってどういうことでせうか!?
 上条さんのごちゃごちゃになった部屋はお掃除するのに丸三日はかかりますことよ!
 今までお世話になった人たちとの涙のお別れも許されないのか!? 40秒で支度しろってかァ!?」
「落ち着けカミやん。口調が変になってるしなんか別の人が混ざってるにゃー。
 さらに言うなら支度に40秒もさけないにゃー。
 ぶっちゃけこうして話してる時間すら惜しいんだにゃー。
 本当は今すぐ空港に行かなくちゃいけないんだにゃー」
「にゃーにゃーにゃーにゃーうるせぇ!! てかなんだ!?
 入学手続き完了済みとかどう少なく見積もっても一週間以上前から確定してたことだろ。
 なんで当の俺に話が伝わってないんだ!?」
「いやーこっちもドタバタしててな。ま、あれだ。こっちのミスだ。悪い悪い」

 どう聞いても誠意の感じられない土御門の言葉に、上条の肩ががくりと落ちる。
 数秒後、夜に片足を突っ込んだロンドンの片隅に、少年の日本語の絶叫が響いた。


「不幸だーーーー!!」

11 :第一章『交差する若者達』1-1/2 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:43:35.63 ID:3M0E3iz30


 四月一〇日。
 三月末から始まった『新入生』の迎え入れが、ようやく落ち着き始めた頃。
 今日は、学園都市中の学校で入学式が執り行われる。

 緊張の面持ちで新しい制服に袖を通す者。
 頭の中で学校までのルートを再確認する者。
 今年はどんな新入生がやってくるのか待ちわびる者達。
 街中に、『あたらしいこと』に対する期待が溢れていた。

 ――が。
12 :第一章『交差する若者達』1-2/2 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:45:10.85 ID:3M0E3iz30
 とある地下街にある、とある携帯電話のサービス店。
 普段なら十時くらいに開く店なのだが、新規登録ラッシュのこの時期は、朝八時くらいから開いている。
 その新規登録も、さすがに入学式当日の朝にはほとんどない。
 どこか気の抜けたような店内の一角に、不穏な呟きが響く。
 
「科学は嫌い……科学は憎い……ていうかいやだなにあれ死ぬかと思ったていうか絶対一度死んだどっかで一回死んだ」

 どんよりと暗いオーラをまとった少年の名前は上条当麻。
 ほんの数時間前までロンドンの片隅にいた彼が、今に至るまでには語りつくせぬ紆余曲折があった。
 とりあえず、常人ならしばらくは科学恐怖症になっても仕方ないあれこれがありました。

「早く機嫌直せよ、カミやん。さっさと携帯決めないと、始業式に遅刻なんて非常識なことになるぜい?」
「いや、別に新しいのいらないだろ。携帯電話くらい持ってるっつの」
 そう言って、上条は鞄から携帯電話を取り出す。

 もう三年くらい使っている、自慢の相棒だ。

「カミやーん、ちょっとそれ貸してくれ」
 イギリス産の武骨な、バカでかい割に機能は電話とメールくらいの、現代日本レベルで考えても遅れている携帯電話を、上条は差し出す。

 繰り返すが、それでもこの携帯電話は上条の自慢の相棒である。
 巨大魔術結社に襲われて煙に巻かれても、海に転落しても故障しなかった、苦楽を共にした大切な仲間だ。

「大事に扱えよ、そいつは唯一無二の――」
「てい♪」
 気軽な様子で携帯電話を真っ二つに折られて、上条の体がくずおれた。
「俺のケイタイーー!!」
 急に絶叫した上条に、店員達は怪しいものでも見るように視線を向ける。
 笑顔第一のサービス店の店員が、凍りついた笑顔で固まってしまっている。
 だが、土御門は気にしない。

「コンセントの形が違うんだから、どうせ充電できなくなって終わりだぜい。
 それに今日からカミやんは学園都市の人間なんだから、イギリス時代のしがらみは忘れることだ」

13 :第一章『交差する若者達』2‐1/6 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:47:50.43 ID:3M0E3iz30


 半ば無理矢理契約させられた携帯電話は、上条の掌にすっぽりと収まるサイズで、そのくせ『カメラ』とか『お財布機能』とか『GPS』とか『テレビ』とか、様々な機能がぎっしり詰まっている。
 正直言って、使いこなせる自信はない。
 とりあえず、自分の体以外でイギリスからかろうじて持ってきた(というか首から下げてた)十字架をストラップ代わりに装着する。
『イギリス清教』自体に未練はないが、住んでいた街には未練がある。携帯電話という身近アイテムにあえてその未練を結び付けることで、土御門に対する無言のプレッシャーを与えようと思ったのだが……土御門は近くにいない。
『か』行でも最初の方の上条と、『た』行でも終わりの方に来る土御門では、席がかなり離れているのだ。わざわざ行くのも面倒くさいし、そもそも『幼馴染って公言するのは避けようぜい』と言われている。
 窓から一列目一番後ろの上条が、四列目一番頭の土御門のところへ行くのは思い切り不自然だろう。
 と、なると、話しかけても不自然ではないのは前か横の席の人間だが、前の席はまだ誰も来ていない。
 ――というか、たぶん、上条の横の席の人間が怖くて逃げだしたんだろうな、とぼんやり結論付けた。

 横の席をちらっと見る。
 
14 :第一章『交差する若者達』2‐2/6 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:49:06.18 ID:3M0E3iz30



 そこには、真っ白な髪に真っ赤な瞳の、学ランがこれでもかと言わんばかりに似合わない少年が座っていた。


15 :第一章『交差する若者達』2‐3/6 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:50:39.56 ID:3M0E3iz30

 両足をどっかりと机の上に載せている様は、『話しかけたらブチ殺すぞコラ』という雰囲気を醸し出している。
 黒板に張り出された座席表が正しければ、名前は『鈴科優生緒(スズシナユキオ)』。
 
(どこが優しく生きるだ殺し屋の顔だぞあれは!? さっそく行きます、不幸だー!)

 視線だけで人を殺せそうな魔術師たちと何回も相対してきた上条だが、横の彼は無理だ。
 なんというか、種類が違う。
 わりと人懐っこい性格の上条は、『気まずい雰囲気』に対する耐性がない。

 もてあましている時間をどうしようかと考えるが、答えは出ない。
 携帯電話のスペックチェックをするべきなのだろうが、上条はカタカナが苦手なのだ。
 英語なら英語で書いてくれよ、と思うが、説明書は無情にもカタカナ英語ばかりでどうにも読みづらい。

 入学式は十一時から始まる(同日に二年生・三年生の始業式をしてから入学式という流れらしい)。現在時刻は十時十分。
 入場は十時四十分かららしいので、少なくともあと三十分はこの状況に耐えなくてはいけない。

(ああ……やっぱり緯度が低いと太陽もなんだか近いなー)

 と意識を遠くにやり始めた上条だが、不意に教室のざわめきが大きくなったことに気がつき、視線を窓から黒板の方へと移す。

16 :第一章『交差する若者達』2‐4/6 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:52:08.85 ID:3M0E3iz30


 そこにいたのは、どこからどうみても小学生の少女だった。
 
「はいはーい、みなさんはじめましてー。このクラスの担任の月詠小萌です。
 これから一年間――人によっては二年間、三年間よろしくおねがいします」
 
 信じられないことに、その少女がこのクラスの担任らしい。
 
 上条当麻にとって、実年齢と外見年齢がそぐわない人間などあまり珍しくない。
 イギリス清教の最大主教であるローラ=スチュアートは少なく見積もっても六十を過ぎているらしいのにどこからどう見ても一八歳前後の少女だし、
 親友の一人である神裂火織は、最後に会った時十六歳だったが、どこからどう見ても二十歳すぎの大人の女性に見えた。
 そんな上条からしても、自称クラス担任は、なんというか、すごい。

「えーと、そうですねー。まずはお手軽にフィーリングチェックといきましょう。
 今から二人以上の組を作ってくださーい! ついでに自己紹介もしておいてください!」

 ロリ教師がそう言った瞬間、ざっと教室が真っ二つに分かれた。
 真っ二つ……というか、上条&鈴科と、それ以外だ。
 頼りの土御門は、ちゃっかり、謎の青髪ピアス野郎と仲よさげに話をしている。
 あいつは頼りにならないな、と上条は結論付ける。なにやら義妹について盛りあがってるみたいだし、あの状態の土御門に声をかけるのは危険だ。

17 :第一章『交差する若者達』2‐5/6 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:53:38.26 ID:3M0E3iz30

 上条は意を決して隣の席の鈴科くんに声をかける。
「え、あ、鈴科――でいいのか」

「そっちは偽名だ。普段は一方通行(アクセラレータ)って呼ばれてる。超能力者(レベル5)の第一位だ」

 面倒くさそうにそれだけ言うと、携帯電話に何か打ち込み始めた。メールをしているらしい。

「…………えーと」

 どう反応すれば分からず、上条は固まった。というか彼の名前は『鈴科優生緒』くんであって、『アクセラレータ』くんではないはずだが。 

 今まで得てきた情報と統合しながら、一つずつ紐解くように、上条はゆっくり考える。
 学園都市は180万人近い学生――能力者を抱える一大研究機関だ。
 その能力にはランクがあり、ほぼ能力が使えない無能力者(レベル0)から、一人で軍隊と戦える超能力者(レベル5)の六段階に分かれている。
 上位の能力者には、それぞれ、その能力を象徴する通り名がある。鈴科くん(仮)の名乗る『一方通行』とは、たぶんそれのことだろう。
 そして、学園都市において、超能力者は僅かに七人だけ。
 鈴科くん(仮)は、その中でもトップの存在らしい。

「え、すげぇじゃん!」

 そんな言葉が、思わず口をついてでた。
「超能力者の中でも一位ってことはあれか、この街で一番強い能力者ってことなのか?」
 純粋に目を輝かせる上条を見て、今度は鈴科くん(仮)が固まった。
「……まァなァ」
「すげー! 学園都市に来て一日目でそんなすげぇやつに会えるなんて、ラッキーすぎてなんか怖いな。でもま、いっか。よろしくな、鈴科!」
「――さっきも言っただろォが。鈴科は偽名だ。普段は一方通行って呼ばれてる」
「そんなもんなのか? じゃ、こんどこそ。よろしくな、アクセラレータ!」

 上条は、なにやら呆然としている鈴科くん(仮)改め一方通行の左手を、右手で思い切り握りしめ、ぶんぶん振り回した。

18 :第一章『交差する若者達』2‐6/6 [sage saga]:2011/06/16(木) 18:54:54.44 ID:3M0E3iz30

 
「はァ……? ちょっと待てオマエ何やってンだ」


「あれ、日本人的には握手もアウトだっけ?」
「そォじゃねェ」

 とん、と。一方通行の指が上条の肩に触れる。

 その瞬間、轟!! と音を立てて、上条の体が後方――黒板の方へと吹き飛んだ。
 ノーバウンドで黒板に叩きつけられた上条は「ぐ、がああぁぁぁ!」という悲鳴を上げた。

 一方通行はなにか諦めたような表情で上条に近づくと、一言だけぽつりとつぶやいた。 
「なんだ、その………………悪ィ」


「ちくしょう、やっぱりあれだ、不幸だー!」

19 : [sage saga]:2011/06/16(木) 18:57:59.50 ID:3M0E3iz30

とりあえず今回はここまで。
書き溜めながら進めているので、これ以上出すとストックがゼロになる。

次回で美琴を出します
第一章分も終わらせるつもりです

次まで2〜3日くらいかかるかと。

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/16(木) 18:59:02.08 ID:k4nsekxbo
楽しみにしてる
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/16(木) 19:03:14.21 ID:TtUof4/10

楽しみに待ってる
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2011/06/16(木) 19:52:43.90 ID:ZnJoP1zeo
一方さんがどことなく可愛いな
もっとましな偽名はなかったのかよwwww
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/16(木) 20:08:15.77 ID:5QPuxDmu0

ブクマ行き確定した
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/16(木) 20:52:52.15 ID:PLHeMQMDO
これは中々・・・
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/16(木) 21:29:09.47 ID:9Zb4k3hz0
一方さんが天然かわいい
上条さんが純粋かわいい
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/06/16(木) 21:56:21.10 ID:yTHjA7rAO
乙!!楽しみな作品がまた増えた!!
その一方で魔術勢との幼馴染み的な絡みもいずれ見てみたかったり
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/16(木) 22:40:05.40 ID:Vu+PDK3DO
プロット版から期待してた
あとコンセントは学園都市じゃなくてもちょっと探せば電圧やらなんやらを調整して普通に使えるようにできる機器あるよね。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/16(木) 23:55:32.77 ID:PN1AIynyo
おおスレ立てされてたのか
プロットから期待してた。勿論ブクマしたぜ
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/17(金) 01:25:02.00 ID:Y5oPiQnKo
しかもこの上条さん、バイリンガルなんだぜ。
モテるに決まっている……
30 :第一章『交差する若者達』3-1/6 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:23:58.44 ID:cu4HEccu0


 とりあえず、昼食をおごってもらうことになった。
 まだざわざわと込み合う十三時過ぎのファミリーレストランに、上条と一方通行はいた。

 ちなみに、土御門は青髪ピアス野郎とどこかへ消えてしまった。
「男には、負けると分かっていても戦わなくちゃいけない時があるんだぜい」という言葉を残して。
 どうせロクでもない戦いだろうから、上条は『昼食代と病院代を出す』という一方通行の言葉に乗ることにした。
 上条としては、土御門の勝敗よりも、
「病院はいいよ、でもお勧めのファミレスとかあるなら連れてってくれ」
 と言った時に浮かべられた、一方通行の驚いたような顔の方が気になる。

 なれなれしすぎたのだろうか、という反省も忘却の彼方。

 混んだファミレスのざわめきにまぎれる程度の声で、上条は一方通行に質問をぶつけていく。

「俺に触れただけでなんか俺吹っ飛んだけど、あれがお前の力なのか? 一体どんな力なんだ? こうぎゅーんって後ろに引っ張られる感じだったんだけど、一体何したんだ?」

 上条と一方通行が座っているのは、店の奥にある、四人がけの席だ。
 なんでも一方通行の知り合い二人が来るらしく、上条と一方通行は肩を並べる形でオレンジジュースとコーヒーを飲んでいた。

「つゥかよォ」
「あーもしかして守秘義務とかあるのか、やっぱり。学園都市最強だし」
「どォいう思考回路したら、自分を吹っ飛ばした奴と仲良くお話しよォって気分になるんだよ……」

 呆れたような呟きに、上条は逆にきょとんとした表情を浮かべる。

「だって別に、アクセラレータはあそこまでするつもりはなかったんだろ?」

 強い力を持つ者が、その能力を持て余してしまう――それは当たり前のことだ。
 かつて神裂に腕相撲を挑んで右腕を折られたことがある。
 二年前の彼女との別れの日、感極まった彼女のハグを受け、肋骨四本と両腕の骨が折れたこともある。
 また、幼い頃に『先生』と呼んでいた人には、ノーバウンドで五十メートルばかり吹き飛ばされたことがある。あの時は本当に死ぬかと思った。
 その時に比べれば、さっきのことなど、たいしたことではない。
 それに、殺意満載な魔術師たちの攻撃に比べれば、かわいいものだ(痛いのは嫌だけど)。
 
 上条の答えに、一方通行は再び呆れたようなため息をつく。
 口の中だけでもごもごと「これだからこの手の馬鹿は始末に負えねェ……」と呟く一方通行は、その台詞の割に、上条から見てもまんざらでもなさそうだった。
 なんとなく空気が和んだその時だった。

「わーいなに飲んでるのってミサカはミサカはあなたに思いっきりダイブしてみるー!」

 平坦なのにどこか起伏のある少女の声とともに、一方通行の体が横に倒れる。
 十歳前後の少女だが、結構な勢いがついていたので、ひょろっこい一方通行の体は簡単に倒される。
 その際、一方通行は真横にいた上条にコーヒーカップの中身をぶちまけ、ついでに上条は自分の持っていたオレンジジュースをテーブルの上にぶちまけてしまった。

「コーヒー熱っ! あと俺のオレンジジュース! というか俺叫んでばっかだな!!」

「クソガキィ……! いきなり何しやがる!?」
 一方通行は、自身の腰に抱きついてくる少女を睨みつけるが、少女はまったくへこたれない。
「え? この子が待ち合わせの相手?」
 上条が素直に浮かべた疑問に、少女はピッと背筋を正した。

31 :第一章『交差する若者達』3-2/6 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:26:26.37 ID:cu4HEccu0

「黄泉川美紗花(よみかわみさか)ですってミサカはミサカは偽名を名乗ってみる。
 正しくは『妹達(シスターズ)』シリアルナンバー二〇〇〇一号、打ち止め(ラストオーダー)だよって、ミサカはミサカは自己紹介してみたり。
 さらに言えばそこの白い人の所有物ですってミサカはミサカは頬を染めつつ爆弾発言をしてみる!」
 頬を染め、「きゃ、言っちゃったってミサカはミサカは照れてみたり!」ともじもじする。
 上条は上条で、そもそも『妹達』ってなに? 日本のアイドルかなんか? と混乱する。

 ちなみに、先ほど打ち止めが飛び込んできた際、彼女の体が反射されなかったり、一方通行にぶつかられた上条が吹っ飛ばなかったのにはちゃんと理由がある。
 一方通行は打ち止めがダイブしてきた時や漏電した時に打ち止めを傷つけないように、
『ミサカDNAが体に直接触れるときは反射しない&電気は周囲に拡散させる』という地味に高度なテクを使っているのだ。
 それと同じようなことを上条でも設定していたので、コーヒーぶっかけ&オレンジジュースぶちまけという悲劇だけですんだわけだが、それでも悲劇は悲劇だ。

「愉快で素敵な誤解招く言い方するんじゃねェよクソガキ。……おいコラ御坂ァ! このガキの面倒見ろって言っといただろォがよォ!」
『上条の服についたコーヒーを弾き飛ばしてカップの中に戻す(もちろん後で捨てます)』という地味にすごい作業中の一方通行は、いつのまにかテーブルの側まで来ていた少女に向かって叫んだ。

「ちゃんと言いつけどおりこの店まで連れて来たわよ親御さん。わざわざストーカーふりきってまでね!
 ていうか、この子の面倒見るのはアンタの役目でしょ?」

 そこにいたのは、打ち止めによく似た、茶色い髪の少女だった。美少女と呼んでも差し支えないだろう。
 上条達の高校と同じセーラー服姿だが、襟の白い上条達の高校と違い、彼女のセーラー服の襟は紺色だ。
 身長はそれなりにあるが、なんというか、体格が幼い。
 まだ中学生くらいだろう。
 少女が上条に対して口を開く。

「どうも初めまして。区立柵川中学校二年生、御坂美琴です。
 アンタが一方通行の『お友達』になったって言う変人・上条当麻?」

 丁寧なんだか反抗期真っ盛りだか分からない発言だった。

32 :第一章『交差する若者達』3-3/6 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:29:40.74 ID:cu4HEccu0

「あのその、御坂ちゃんと美琴ちゃん、どっちがいい?
 そこにいる美紗花ちゃんと区別付けるなら美琴ちゃんだけど……」
 とりあえず、一方通行の前を横切って、席を立って二人の少女に挨拶する上条。
「美紗花はミサカの偽名であって、ミサカの通称は打ち止めだよってミサカはミサカは説明してみる」
「えーとじゃあ……美琴ちゃんとラストオーダーちゃんでいいかな?」
 どこかなれなれしい上条に対し、美琴は自分のことを棚上げて怒りをあらわにする。

「――美琴ちゃん言うな!」

 美琴の前髪のあたりが、バチリという音ともに、青白く発光した。
「うわ!?」
 そのまま繰り出されるのは雷撃の槍――ただし、美琴としてはあてるつもりのない一撃だ。
 適当に真横にでもぶつけて驚かせようとしたその一撃は、しかし、不発に終わった。

「――え?」

 驚きの声を上げたのは、美琴の方だった。
 まるで、避雷針にするように、上条の右手が美琴の方へと伸びている。
 何が起こったか分からない美琴は、上条本人に雷撃の槍を放つ。
 こんどはやや弱めに。体にあたってもたいして痛くない程度に。
 しかし、その雷撃の槍は、上条の右手へと吸い込まれ、消滅してしまう。
 
「ちょ、ちょっと、なにが起こってんの?」
「それはこっちのセリフなのでせうが」

 困惑する上条と美琴。
 打ち止めは上条の困惑を払拭するために、腰に手をあてて自慢げに説明をする。
 
「『超電磁砲(レールガン)』――。超能力者、第三位。
 学園都市に数多く存在する電気使い(エレクトロマスター)、その最高峰。
 その気にならずともいつでもどこでもカミナリを落とせる電撃娘!
 それがミサカのお姉様(オリジナル)、御坂美琴なんだよってミサカはミサカは説明してみたり!」

「カミナリってことは――雷? すっげぇっ!」
 思わず上条は美琴の両手を掴んでいた。その眼に浮かんでいるのは興奮だ。

33 :第一章『交差する若者達』3-4/6 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:31:31.35 ID:cu4HEccu0

 十字教において、雷とは、主が天罰を下す際にふるう力とされている。
 世界各地のローカル宗教……例えばインドのヒンドゥー教やギリシャ神話、北欧神話などを見れば分かる通り、多神教の世界においても、雷を操るのは主神であることが多い。
 また、『神鳴り』という日本での別称から分かる通り、古代日本においても神が起こすものだと考えられていた。
 世界の各地で、雷は神そのものか、神のみが操る力だと考えられて来たのだ。
 魔術師の中にも雷を操る魔術はあるが(有名なところでブリューナクとかミョルニルの鉄槌とか)、どれもこれも相応の準備を要する大魔術だ。
 目の前の少女は、特に道具も何も使わずにその場で雷を落とせるのだという。
 なんとなく、ローマ正教が科学都市を毛嫌いしているか分かった気がした。

 かつての主の力が、今となっては科学の僕。

 ここは、それをまざまざと痛感させる街なのだ。
 しかし十年近く教会で生活しておきながら宗教観念の薄い上条は、ただ単純に尊敬するばかりだった。

「すっげぇ! 科学は怖いもんだと思ったけど、すっげぇっ!!」
「な、ちょ、手、離してよ、ちょとー! なんで電気が効かないの!?」
「おお、お姉様のビリビリが全く効いていない! とミサカはミサカは驚きを露わにしてみたり」
「オマエじゃ無理だ。ソイツは俺の反射の膜も突き破ったからな。
 おいクソ野郎、いい加減、席に戻れ。店員がそろそろこっちに来る」
 はしゃぐ上条におしぼりをぶん投げて、一方通行はとりあえず頭を冷やさせる。

「悪い悪い。ちょっと興奮しちまった。
 ……あれ、でも学園都市はレベルの高い人間はレベルの高い学校に行くって聞いてたんだけど。
 なんでアクセラレータも美琴も公立に通ってるんだ?」

 上条の質問に、一方通行と美琴、それに打ち止めの表情すら曇った。

「いやあ、名門は……ちょっとね。『七人戦争』でいろいろやらかしちゃったから、名門私立より無名公立の方が都合いいのよ」

34 :第一章『交差する若者達』3-5/6 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:32:57.48 ID:cu4HEccu0

『七人戦争』? と上条がたずねる前に、

「とりあえずそんなことはおいといてお子様ランチが食べたいってミサカはミサカは主張してみる!」
「あァ? どうせやっぱり足りないっつってパフェ食うつもりなンだろ? パフェは禁止だ」
「そんな! ヨミカワやヨシカワが食べさせてくれないから、あなたならって思ったのにってミサカはミサカは裏切られたことにショックを受けてみる。
 お子様ランチだけじゃ足りない、でも大人向けだと多すぎるんだよってミサカはミサカはパフェの重要性を訴えてみたり!」
「俺がフライドチキン&ポテト盛りとピザ頼むから、余ったピザでもかじってろ」
「じゃあ一方通行がフライドチキン&ポテト盛りとピッツァマルガリータ一枚、
打ち止めがお子様ランチ、私がスモークサーモンのクラブハウスサンドね。アンタは何にする?」

 シリアスな空気が一変、ほのぼのホームコメディーと化してしまった。
『七人戦争』なるものの概要が気になったが、話を蒸し返したらなんだかアウトな気がする。
 なんというか、それだけで一本の長編ができそうなストーリーが、その単語には込められている。

「じゃ、じゃあ俺はとんかつ定食ライス大盛りで。
 ……日本のコメを日本で食べるのなんて十年ぶりだし」

 そんなこんなで、十数分後にはテーブルは食事でいっぱいになった。

35 :第一章『交差する若者達』3-6/6 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:34:34.04 ID:cu4HEccu0

 約十年ぶりとなる日本でのコメに感動する上条に、先ほどとは逆に、一方通行が質問をぶつける。

「オマエ、学園都市に来てまだ一日くらいしか経ってねェのか?」
「え、なんでそのことを」
「『学園都市に来て一日目で』とか言ってただろうがよォ」
「そうそう。それに明らかにかじり聞きの知識披露してますって感じがびしばしするのよねー」
「そんなこと言ったっけ?」
「俺たちの記憶力を疑ってンのか?
 つか、それ以前についさっき『日本のコメを日本で食べるのなんて十年ぶり』とか言ってたな……外国にでも住ンでたのか?」

 内緒にするつもりがあっさり看破された上条当麻。
 というか先ほどまでの発言で気付かれないと本気で考えていたのだろうか。
 とことんスパイに向かない男である。

「あーうん、まあ。ロンドンに十年くらい」

 仕方ないので、逆に開き直ることにした。
 このご時世、帰国子女など対して珍しいものではない……はずだ。
 そもそも学園都市は世界的に有名で、外国人自体珍しくないから、よく考えれば隠すことではない、と上条は完全に開き直った。
「ふーん。すごいじゃない。あ、イギリスのご飯って死ぬほど不味いってホント? どんな感じ?」
 意外とミーハーなのか、クラブハウスサンドを手に持ったまま美琴が問いかける。

「ってもなぁ。俺が普段生活してたのは日本人街だし、通ってたのもその中の日本人学校だし。
 住んでた教会の神父さんなんか、『もったいない』が口癖で、ことあるごとに爽やか笑顔で
『トウマ、大切に使われてきた道具は付喪神になるんだよ』って言う人だったから、あんま日本と変わらねーんじゃないかな」

 言いながら、上条が先ほどティーパックから淹れた紅茶を一口含む。
 その途端、彼の顔が嫌悪感丸出しに歪んだ。

「……………………なにこれ」
「紅茶でしょ。…………あ、」

 国民の八割が紅茶をたしなむ国、イギリス――。
 どうやら、上条はその八割の方だったらしい。

36 :第一章『交差する若者達』4-1/3 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:37:10.41 ID:cu4HEccu0

「上条さん的にはトワイニングのセイロンオレンジペコかレディグレイがビンゴなのですが売ってるかな売ってたー! あれ、プリンス・オブ・ウェールズ? なにこれこんなの初めて見たけどなんか美味しそう! つーかスコーンはどこ? 紅茶だけ売ってスコーンなしとかそんなことあるの!? ねえねえ店員さーん!!」

 海外から輸入した食料品――コーヒー豆だのパスタだのドリンクだのお菓子だのが所狭しと並べられた店に、そんな英国語の絶叫が響き渡った。

 クイーンズと称される英国語は、所謂『美しい』英語だ。ハリウッド映画などで、日本人にも聞き取りやすい英語を使うのは、イギリス人役者であることが多い(と言っても、英国語にもアイルランド訛りとかいろいろな訛りが存在するので、一概には言いきれないのが難しいところであるが)。
 だが、訛りこそないもののスラング全開な上条の英国語は、日本人からすると非常に聞き取りづらい。

 輸入品店とは言え、店員さんは普通の日本人だ。

 がちがちに固まった店員さんを前に疑問符を浮かべた上条の尻を、一方通行が軽く蹴った。
「痛っー! なにすんだよ、アクセラレータ」
 言語が日本語に戻り、ようやく店員さんが安心したような表情になった。
 睨んでくる上条を無視して、とりあえず先ほど上条が叫んだ紅茶三種をカゴに入れる。
「つゥかキャラ変わりすぎだろうがよォ……」
「紅茶は体液の一部です! 次は水だな水! 水が紅茶の味を決めるんだよ!」

 出会って数時間だが、この上条と言う少年、時折やたらめったにテンションが高くなる。
 実は、土御門に麻酔撃たれて抵抗できなくなった状態で国際空港まで連行された揚句、
 超音速旅客機で生まれて初めて重力の恐怖を味わい、
 その後超高速バイクのサイドカーに乗っけられて「制限速度? 何それ」と言わんばかりのスピードで寮まで案内された。
 ……という一連のトラウマを忘れるために、あえて度々ハイになっているのだが、
 今日上条に会ったばかりの一方通行や美琴にしたら、いきなり超ハイテンションになる躁鬱病患者を相手にしているような気分になる。

37 :第一章『交差する若者達』4-2/3 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:39:42.12 ID:cu4HEccu0


 まあそんなこんなで二時間後。

 上条当麻は、両手に大量の袋を提げていた。
 デパートや地下街でスコーンを売っている店を片っ端からあたり、二個ずつ購入したためだ。
 どうやらこの上条当麻と言う少年、それなりに金を持っているらしい。
「確か俺の部屋の冷蔵庫、冷凍機能もあったはずだし、『でんしれんじ』を使えば解凍できる……はず!」
「もしかして上条のお兄ちゃんって電化製品使えないのってミサカはミサカは問いかけてみる」
「はっはーラストオーダーちゃん。この街は二、三十年進んだ科学の街なんだから、ロンドンの片隅で生きてきた上条さんに使いこなせるはずがなけりよ」
「ロンドンにも普通に電子レンジくらいあるだろうがよォ……」

 聞いたところ寮の部屋が隣らしいので、色々と面倒を見る羽目になるンだろうなァ、と、一方通行は今から憂鬱だった。
 最初は一般人を装った『暗部』の人間かと思ったが、それにしては陰がない。わざと隠しているようにも見えない。
 あれで意外と勘のするどい打ち止めが無邪気になついているところを見る限り、正真正銘、ただの帰国子女だ。

『七人戦争』以来、彼の周囲にはこの手の馬鹿ばかり増える。
 だが、悪い気はしない。
 クソッタレとしか表現できない人生を歩んできた彼が、平穏な街並みを、こんなにも平和に歩けることが、単純に嬉しい。

「ったく……めんどくせェ」
「そう言う割に表情緩んでるわよ、一方通行」
「うるせェよ」
 とりあえず生意気な妹分にでこピン一発(一応ベクトル変換なし)をくらわせようと手を上げた瞬間、

 ドガッ!!!! という爆音とともに、すぐそばの銀行のシャッターが爆発した。

38 :第一章『交差する若者達』4-2/3 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:41:09.64 ID:cu4HEccu0


 平穏な街並みが一転して、周囲に悲鳴が響き渡る。
 銃を構えたスキルアウトたちが銀行から飛び出していく。
 それを見て気分を害された一方通行は、大きな大きなため息をついた。

「クソガキ、御坂から離れるなよ。
 ……御坂、避難誘導はオマエにまかせた、民間人一人でも怪我させたら後でブチ殺す」
「はいはい。無茶言うわねー、ホント。……ほら、これ!
 どうせ寮に置きっぱなしでしょ? 予備の貸してあげるわよ」

 美琴が鞄から放り投げた何かを、一方通行は受け取る。

『それ』を右腕に取り付けると、一方通行は走り出した。
 中学生くらいの少女に銃を突きつける、高校生くらいのスキルアウトをけり飛ばす。
 蹴り飛ばした先にいるのは、やはり銃を持ったスキルアウトだ。
 スキルアウトたちがもつれ合いながら、地面に倒れる。
 こんな状況になりながらもスキルアウトの銃による怪我人がいないのは、一方通行の力によるものなのだが、当然スキルアウトたちは知る由もない。

 ごり、と、一方通行がスキルアウトの頭を踏みつけた。
 右腕につけた腕章を見せながら、一方通行は、一方的に告げる。

「『風紀委員(ジャッジメント)』だ、クソッタレ」


39 :第一章『交差する若者達』5−1/5 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:42:45.41 ID:cu4HEccu0


 四月二日に、『風紀委員』に新しい人員が二人増えた。
 それ自体は、別に珍しいことでも何でもない。
『風紀委員』はその職務上、人員が入れ替わることは珍しくもなんともないからだ。
 だが、その二人が問題だった。
 学園都市第三位の『超電磁砲』に、学園都市第一位の『一方通行』。
 
 今暴れているスキルアウトたちは、なるべく彼らに遭遇しないよう『慎重』に暴れようとしたのだが、
 ――その場面にその二人がいたのではまるきり意味がない。
 結果的に、十二人のスキルアウトたちは、三分どころか一分も持たずに壊滅した。

「さーてと。どうやって縛ろうか。一方通行ー、ベクトル操作でそこら辺の街路樹から樹皮削りだしてよ」
「俺の能力はそんな風には使えねェよ」
「なによ、第一位のクセに使えないわねー。じゃあ、そこらのコンビニで調達――」
 ゾクリ、と。美琴の背中が泡立った。
 振り返った先にいたのは――

40 :第一章『交差する若者達』5−2/5 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:44:34.98 ID:cu4HEccu0

「初春から連絡を受けてきてみれば……うへへへへぇぇぇっっ!! おっ姉っ様ぁっ! ちっちゃなお姉さまぁ! それにお兄様ぁっ!!」
「ちょ、黒子!? しまった、こういう時まっさき来るのはコイツだったぁっ!」

『風紀委員』の先輩、白井黒子だった。
 この白井、四月三日に起きた事件をきっかけに美琴に心酔するようになったのだが、この一週間で美琴はありとあらゆるストーカー行為を受けた。
 ベッドに先回りされていたり、風呂に先回りされていたり、トイレに先回りされていたり。
 誰だ、こんな変態に『空間移動』能力を与えたのは。
 今日はふりきれてラッキー!とか思ってた自分が間違いだった。
 こんなのが今年の期待のルーキーとは、超名門常盤台の未来は暗いだろう。
 昨年の秋まで通っていたお嬢様学校の行く先を憂える美琴であった。

 抱きついてくる年下の先輩を振り払おうと奮闘する美琴と、
 巻き込まれないように遠巻きに見ている一方通行と打ち止め(美琴ほどではないが、彼らもまた黒子のストーカー対象である)。
 先ほどまでの殺伐とした空間が嘘みたいに元の日常に戻ったが、周囲を見渡していた打ち止めの顔が青ざめる。

「上条のお兄ちゃんがどこにもいないってミサカはミサカは報告してみる……」

「な……」
 美琴が襲撃現場へと視線を向ける。
 先ほど上条が持っていた荷物の数々が、路地に向かうように転々と落ちていた。

「黒子、スキルアウトの捕縛、頼んだわよ!」
「……! クソガキ、変な奴にはついていくなよ!」

 後始末を、なんだかんだで『風紀委員』として優秀な白井黒子に託し、一方通行と美琴は、路地裏を走る。
 その奥の少し開けた場所に、上条当麻はいた。
 状況は最悪で、三人のスキルアウトに囲まれていた。
 しかも、三人とも武器を持っている。警棒に、スタンガンに、ナイフだ。
「クソ……、」

 一方通行がどんな攻撃をしても、上条を無傷で助けるのは無理だ。
 また、今の上条に美琴の雷を右手で受ける余裕があるとは思えなかった。
 なにせ、上条はイギリスの教会で十年近く生きてきた少年なのだ。
 ケンカ慣れなんて、しているわけが――。

41 :第一章『交差する若者達』5−3/5 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:45:35.09 ID:cu4HEccu0



「上条ォォ!!」




42 :第一章『交差する若者達』5−4/5 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:47:02.31 ID:cu4HEccu0


 一方通行のその叫びに、優位に立っているはずなのに焦ったのか、
 スキルアウトの一人が上条へと警棒を振りかぶった。
 その瞬間。
 上条のバッシュのかかとが、警棒のスキルアウトの親指のあたりをふみつける。
 警棒のスキルアウトはスニーカーを履いていたため、鍛えようのない場所に不意打ちを食らい、
「――!?」
 顔がゆがみ、その体が右にかしぐ。
 そのスキルアウトの右脇に上条の左ひざが、左脇に上条の右ひじが食い込んだ。
 ミシ、と。スキルアウトの体が妙な音を立てる。
 
「が、ぐあああぁ……っ!?」
「わ、やべ、やりすぎた!」

 バックステップを踏んで、上条が焦りながらスキルアウトから離れた。
「テメエ!」
「浜面に何しやがった!」
 スタンガンのスキルアウトと、ナイフのスキルアウトが同時に動く。

 だが、上条当麻は動じない。

「ほいっと」
 スタンガンを握る手を左足でけり上げつつ、ナイフのスキルアウトの特攻を交わす。
 上条は戻した左足をもう一度引き上げ、とり落としたスタンガンを拾うために身をかがめたスキルアウトの頸椎にかかとを落とす。
「ひっ……!?」
 ずるりと地面に伏した元スタンガンのスキルアウトを見て、ナイフのスキルアウトが、怯えたような表情を浮かべる。
 それでも、上条が自分に背中を見せた状態であることに気がつき、ナイフを振りかぶった。
「死ねやぁっ!!?」

 それでも、上条当麻は動じない。

 上条左手の裏手が、軽くナイフのスキルアウトの鼻面を叩く。それを起点とするように、上条の体がくるりと翻った。
 その勢いを載せた右拳が、スキルアウトのみぞおちへと突き刺さる。
 とどめと言わんばかりに、上条の左ひじがスキルアウトのこめかみを強打した。
 人体の急所に連撃をくらい、声もなくスキルアウトは膝から地面に倒れる。

43 :第一章『交差する若者達』5−5/5 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:50:08.67 ID:cu4HEccu0


 十秒にも満たない間の出来事だった。
 あまりにも鮮やかな一連の流れに、一方通行と美琴は呆然とする。

「胸骨、頸椎、みぞおち、こめかみ。どれもこれも反則技じゃねェか」
 ルール無用な路地裏喧嘩とはいえ、いくらなんでもこれはない。
「いや、これでも手加減したのですよー? 普段だったら肘で横から胸骨破壊してこめかみキックとか、掌底で顎押してみたりとか、みぞおちひざ蹴りの後にすかさず――」
「それ以上言うな。オマエに対するイメージが崩れそうだ」
「心配して損したわ……アンタふつーにめちゃくちゃ強いじゃない。一体どこで鍛えたのよ」

「ここ最近はね……魔術結社の方たちもフツーにナイフとか銃とか装備してたからね……」

『必要悪の教会』には、どんな魔術も瞬時に打ち消す魔術師がいる――。
 そんな噂ばかり広がり、ここ数年は武装魔術師が一結社に何人もいる、という状況になってしまった。
 そのせいで、切り札である上条には武装魔術師と相対するだけのスキルが求められるようになり……
 その結果体得したのが、先ほど披露した『殺人技』の数々である。
 殺人技と言っても、『死ぬほど痛いダメージを負わせる』だけで済ませてきたのだが。

「魔術結社ァ?」
「いや、なんでもありませんのことよー?
 イギリスは治安が悪いから、神父さんの薦めで護身術をちょっとやってただけですたい。
 もともと『先生』に喧嘩方法を教わってたから、ちょっと反則技の連続になっちゃうだけで!」
「どんな『先生』よ……」

 呆れたような美琴の呟きに、上条は苦笑を浮かべる。

 とことん強かった『先生』は、三年前からプツリと姿を見せなくなった。
『先生』の友人を名乗る男曰く、死んだわけではなく、どこかへ旅立ったらしい。
 まあそうだろうな、と上条は思った。『先生』が誰かに殺されるわけがない。
 苦い思い出を振り切るように、上条はポケットから携帯電話をとりだした。

「さて、やりすぎちまったし、早く救急車呼ばないとな! えーと日本だと救急って199だっけ?」
「119だ、クソッタレ」
「……まずは学園都市での常識ね」



44 :第一章『交差する若者達』6 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:51:34.57 ID:cu4HEccu0



 そんなこんなで、物語は始まりを告げる。
 
 魔術の世界で育った『幻想殺し』は、
 科学の世界で育った『一方通行』と『超電磁砲』と出会い、
 やがて全てを失い、科学の世界へと移ろう。
 
 しかしこれはまだほんの序章。
『幻想殺し』が『禁書目録』と出会う時に、初めて真の物語が始まるのだから。
 
 ――これは、とある魔術の幻想殺しが、とある科学の幻想殺しになるまでのお話。


45 :行間一 [sage saga]:2011/06/18(土) 09:55:13.36 ID:cu4HEccu0



 絶対能力進化(レベル6シフト)計画――。
 二万人の御坂美琴のクローンを『使って』行われる実験。

 そのことを御坂美琴に教えようと思ったのは、ほんの戯れだ。

 幼い頃から「絶対いつかアンタを超えてやるんだから!」と度々噛みついてきた少女。
 暗部を転々とする一方通行をなぜか簡単に発見して、
「レベルが上がった」だの「能力の使用幅が増えた」だの、一方通行にしたら、くだらない自慢をしてきた少女。

 一方通行は、先ほど、その少女のクローンを一人殺した。殺させられた。

 御坂美琴を夜の公園に呼び出し、実験について教えたのは、彼女に、
『一方通行と御坂美琴は全く別の世界の住人だ』ということを教えて、絶望させるためだった。

 もう、自分を追いかけてこないように。
 もう、自分を見つけさせないために。

 しかし、一方通行の耳に届いた御坂美琴の声は、その意図をめちゃくちゃにぶち壊した。

「……アンタ、人殺しになりたいの!?」

 何を今さら、と一方通行は思った。
 これまでだって、『実験』と称して何人もの人間を殺してきた。
『一方通行』という能力を再現するために、何人もの子どもたちが犠牲になった。
 名前すら失った少年が歩んできた道は、血と、肉と、脂肪と、臓物と、脳漿によって彩られてきたのだ。

 それでも、御坂美琴は叫び続ける。

「アンタが人を殺してきたってのは、軽蔑する。それでも、だけど!」

 御坂美琴は泣いていた。
 目からボロボロと涙を流しながら、それでも叫び続ける。

「今までは強制されてきたって言い訳が立つけど、これから先は違う!
 アンタは自分から望んで人を殺していくことになる!
 ――それで、いいの!?」

 甘い言葉だった。世界のことを何も分かっていない、ふざけた言葉だった。
 だからこそ、その言葉はまっすぐで、真っ白で、希望にあふれていた。

「アンタからしたら甘く見えるかもしれない。甘く聞こえるかもしれない。
 だって、私はこの街の闇も暗部も何も知らないもの。けど、だからこそ聞きたいの!
 ――本当に、アンタはそれで本当に何も後悔しないの!?
 答えなさい、一方通行!!」

「……くかっ」
『最強』は笑った。
 きっと答えなど、最初から出ていたのだ。
 御坂美琴をこの場に呼んだ、その瞬間に。

「おい御坂。俺はこれから『学園都市』に喧嘩を売る。
 増援もねェ、支援もねェ、それどころか味方すらいねェ。
 ……それでもいいなら、ついてこい」

『一方通行』の問いに、『超電磁砲』は大胆不敵な笑みを浮かべる。

「上等よ、アンタって味方がいるんだからね」



 それが、幕開けだった。
 学園都市に存在する七人の超能力者達がそれぞれの信念と思惑を抱えぶつかり合った『七人戦争』の、幕開けだった――。



46 : [sage saga]:2011/06/18(土) 10:01:44.92 ID:cu4HEccu0


『もし上条さんが「必要悪の教会」の人間だったら』なIFストーリーと最初にきっぱり書いたが、スマン、ありゃウソだった。
 正しくは、

『もし上条と土御門とステイルと神裂が幼馴染で、かつ上条とアックアが知り合いだったら』、
『もし一方通行と御坂美琴が幼馴染だったら』
二つのIFストーリーが交差する時、物語は始まる――!

ですねー。

 というわけで第一章&行間一終了です。
 ヒロイン・インデックスさんの登場は第三章から。

 第二章は三日後かそれくらいになります。
 いろいろとコメントありがとうございます、それだけでやる気がみなぎります。

 べ、別に外国のコンセントの調節とかができるってこと、知らなかったわけじゃないんだからね教えてくれてありがとうございます。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/18(土) 11:41:25.67 ID:7YPi4JoIO
神父姿のウィリアムさん想像して吹いた。
とても期待

あと、台詞の間に一行間を開けてくれると、とても読みやすくて助かる。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/18(土) 13:01:55.26 ID:j8ON8Bhqo
幻想殺し+体術とか洒落にならない
っつーかこの調子だと戦力過多になりそうだww
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/18(土) 14:47:01.08 ID:IWjYlz+DO
あれ、これインさん要らなくね?
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/18(土) 16:27:28.79 ID:jw6VJ6o+o
乙なんだよ!
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/18(土) 16:53:58.38 ID:l7k/dQ6l0
この上条さんだったら一方と闘っても無傷で勝ちそうだな
てかレベル5全員が相手でも勝てるだろ
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/18(土) 19:46:02.93 ID:Zoh0Dtw9o

楽しみに待ってるぞ
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/18(土) 23:12:33.77 ID:SX4dhmR+o
七人戦争について詳しく……
あれ。てことはレベル5が下手すると全員知り合い同士?
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/19(日) 00:27:51.76 ID:LfWnqwjao
>>53
そういやそうなるな
第六位とも知り合いなのか……
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2011/06/19(日) 01:33:44.30 ID:iUN4JahP0
>>51いや、奇跡が起きて木原クンが..



流石に無理あるか?
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/19(日) 02:12:02.56 ID:0PKRRG7IO
これ一方さんのヒロインが打ち止めと御坂どっちになるんだ?それとも両方?
まさかこの流れで上琴にならんよな?
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/19(日) 03:02:00.06 ID:WtfDpn5so
上琴派なので、それはそれでありだが、
基本設定好きなのでなんでもいいな!

頑張って!
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/06/19(日) 11:39:42.72 ID:d5v1/bQAO

だから上条さん日本語ちょいちょいおかしかったんだな、端々に例のヤツらの影響が…
更なる科学オンチっぷりの発揮に期待
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/19(日) 13:16:09.27 ID:WsivLzOE0
上琴ではないだろう
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/19(日) 23:14:59.19 ID:tjWdZ50DO
上条さんとステイルが幼なじみの場合ステイルの上条さんへの態度がどんな風に変わるのか気になるな
しかしこの上条さんつっちー並の必殺体術を身につけてるってことでいいのか?
61 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 1 [sage saga]:2011/06/20(月) 11:31:13.26 ID:Eolkh2L30


 通知表の数字は散々だったが、能力開発以外の補習は何とか免れた。

 それもこれも、学園都市トップの頭脳を持つ友人のおかげである。


「いやーありがとうな、一方通行。お礼にフライドチキン&ポテトメガ盛りおごっちゃうぅっ!」

「ついでにミサカにパフェおごってくれたら嬉しいなってミサカはミサカはどさくさにまぎれて催促してみる!」

「いいぜぇ打ち止め! チョコパフェだろうが抹茶パフェだろうがジャンボパフェだろうがどんと来いだ!」

「ちょっとー……打ち止めが虫歯になったらどうしてくれんのよ」


 入学式の日以来、すっかり定位置となった席で、

 歓喜の叫びを上げる上条と、

 それに便乗する打ち止めと、

 それを呆れたように見ている美琴。


「つゥかよォ……なンでイギリス育ちのオマエのライティングの成績が三なンだ?
 おかしいだろォが。なんで現代国語と同じ数値なンだよ」

 が、当の一方通行はどこか不満げだった。

 自分が懇切丁寧に勉強を教えてやったのに、五段階評価で五の教科が体育と美術だけだったのが、納得いかないらしい。

62 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 1 [sage saga]:2011/06/20(月) 11:32:54.69 ID:Eolkh2L30


「甘いなぁ、一方通行。受験英語とネイティブタンは全く違いけるのよ」


「にしても以外ねー。アンタが美術で五なんて。そういう美的センスとは無縁に見えるんだけど」

「うぅ、御坂さん、地味にひどいこと言いけるのね貴女。
 美術は知り合いにプロがいるんだよ。美術のプロ。
 その人につきあわされてブリティッシュミュージアム巡りさせられたことがある上条さんの目は、意外と肥えておるのよー?」

 ちなみにその『美術のプロ』さんはゴーレム使いな魔術師で、拳で語り合ったこともあるのだが、そこは黙っておく。

「どォでもいいからその奇抜な日本語は止めろ。なンかいらつく」

「え? 土御門の奴に『こういう使い方もあるんだにゃー』って教わったんだけどな……」


 内緒にしておくはずだった上条と土御門の関係だが、初日で上条がロンドンから来たのがばれてしまったので、土御門はこのままだとあっという間にばれてしまうと判断。

 開き直って、『三年前別れた幼馴染と学園都市で運命の再開!』というチープな三文劇をやる羽目になった。


「土御門にはめられてンだよオマエ」

「アンタだまされやすそうだもんね」

「もーなんだよお前ら、まるで俺を馬鹿みたいにー」

 あきらかに馬鹿にされているのに、上条はとくにめげていない。

 たぶん、冗談か何かだと思っているのだろう。


「上条のお兄ちゃんには皮肉が通じないのねってミサカはミサカはがっくり肩を落としてみる……」


 テーブルに両肘をつきながら、打ち止めはストローをすする。

「……おい、クソガキ。両肘付きながらジュース飲むな」

「あなたって本当にミサカのお母さんみたいねって、ミサカはミサカは嘆きながらも所有者であるあなたの命令に従ってみたり」

 言いながらテーブルから両手を下ろした打ち止めを、一方通行は軽くにらむ。

「だから、その誤解招きそォな言い方はやめろ」


「えーでもミサカがあなたのペットだっていうのは本当のことじゃない、
 ってミサカはミサカは呆然としてる上条のお兄ちゃんを無視しながらジュースを飲み続ける」


 ませた言い草に、一方通行は育て方を間違えたかとため息をつく。

「御坂、オマエの妹だろ、何とかしろ」

「その子のしつけはアンタの役目でしょ?」

「えーと、上条さんは先ほどから微妙についていけていないのですが」


 そんな、いつも通りのほのぼの(?)した光景をぶち壊すかのように、低い男の声が響いた。


63 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 1 [sage saga]:2011/06/20(月) 11:34:52.03 ID:Eolkh2L30


「アクセラレーヤン……」


 鈴科か一方通行と呼ばれる彼を、こんな独特すぎる呼び方をするのはただ一人。


 いつのまに横に立っていたのか、

「こんの、裏切り者ー!」

 青髪ピアスの渾身の一撃が、一方通行の脳天へと突き刺さる。

「ぐはァっ!?」

※鈴科くンはクラスメイトがぶつかってきたときに相手や周囲の人間に怪我をさせないよう、

『クラスメイトの体は反射しない』という地味に高度なテクを使っています。

 青髪ピアスはその『弱点』をついた、というわけです。わかりましたかー?


 頭頂部を抑えて悶絶している一方通行を無視して、青髪ピアスは叫んだ。


「信じとった……信じとったんやで! アクセラレーヤンは純粋無垢な男装少女だと!
 そう思ってまうほどに見るからにストイックなアクセラレーヤンが、
 幼女を囲った挙句に姉妹丼を目論んでるなんて、
 ぼかぁ……ぼかぁ、どないすればいいねん!!」

64 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 1 [sage saga]:2011/06/20(月) 11:36:32.06 ID:Eolkh2L30

「姉妹丼ってなにってミサカはミサ――」

「ダメよ、まだアンタには早すぎるわっ!」

 そんな『姉妹』のやり取りの横で、ようやく一方通行が復活する。

「オマエ……反射が有効だったら今ので手の骨砕けてたぞ」

「え〜友達に優しいアクセラレーヤンに限って、そんなことしないやろー?」

「だからその呼び方止めろオマエ、ダレがダレのお友達だァ?」

 ひゅん、と一方通行が青髪ピアスへとおしぼりを投げる。

「はっはーそないな攻げ……むが、むがが〜!?」

 どういうベクトル操作を行ったのか、空中で広がったおしぼりはそのまま青髪ピアスの顔面に張り付く。

「むぐむっむ(ギブアップ)! むぐむっぐむ(ギブアップや)!!」


「ぎゃは! ……悪ィなァ。なンて言ってンのか、さっぱり分かンねェ!」


 ドスの効いた低い声で、一方通行が笑う。

 青髪ピアスと一緒にファミレスに来たらしい土御門が、憐れむような視線を青髪ピアスに向けた。

「スズやんまじドS。……で、結局どうなんだにゃー」

 土御門の『スズやん』呼び自体はもう諦めているらしく、一方通行は呆れたように言葉をもらす。

「御坂は俺の妹みてェなもンだ。そんな感情なンてあるわけねェだろ」

「スズやーん、それだと打ち止めの方にはそんな感情があるように聞こえるんだけどにゃー」

「…………いや、クソガキも妹分だと思ってるに決まってンだろ。年齢考えろ」

「スズやーん、それだと打ち止めの年齢が一定に達したら――ってうおっ!?
 つまようじ怖っ!! ただのつまようじがなんでコンクリートの壁に突き刺さんの!?」

65 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 1 [sage saga]:2011/06/20(月) 11:38:36.54 ID:Eolkh2L30


 ちなみに、なぜ土御門が打ち止めのことを知っているかと聞かれたら理由は単純。

 打ち止めは普段、一方通行の部屋で生活しているからだ。

 とある学生男子寮の七階の奥側三部屋は、一番奥の方から

 一方通行と打ち止め
 上条当麻
 土御門元春(場合によっては義妹の舞夏も)

 ……と言う濃いメンバーによって埋められている。

「どォしてお前ら二人がここにいる」

「す、すみません……上条さんが調子に乗って呼んでしまいました……」

 ぺこりと頭を下げる上条を見て、一方通行は舌打ちした。
 下手に出られたのでは、高圧的な態度はやりにくい。

 だが、そんな上条を見て、美琴が少しだけ慌てたような声を上げる。

「え、ちょっと。私も友達呼んじゃったんだけど」

 それに合わせるかのように、
 あ、いたいた、御坂さんだ。という少女たちの声が聞こえてきた。
 視線の先には三人の少女。
 とてとてとやってきたのは、かわいらしい少女たちだった。

「初めまして。柵川中学校一年、『風紀委員』の初春飾利です」
 と、頭に大量の花飾りを付けた少女が頭を下げる。

「どーも、同じく柵川中学校一年、初春の友人の佐天涙子です」
 と、セミロングの黒髪の少女がやはり頭を下げる。

66 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 1 [sage saga]:2011/06/20(月) 11:39:51.77 ID:Eolkh2L30



「そしてわたくしが! 常盤台中学校一年生、『風紀委員』にしてお姉様達の下僕!!
 白井黒子ですのぉー!!」
 と、茶色い髪をツインテールにした歪みねェ変態少女が叫んだ。


67 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 1 [sage saga]:2011/06/20(月) 11:41:29.20 ID:Eolkh2L30

「あんたは呼んでない!」

 叫んだ瞬間、美琴に叩き倒される。
 その一連の流れを、一方通行は冷たい視線で見守っていた。

「うふ、ふふふぅ……お姉様の愛のムチ。この白井黒子、ばっちりうけとめましたわーっ!
 そしてお兄様のその蔑んだ目が、わたくしを成長させるのです! さあ、もっと!!」

 それでもめげずに叫ぶ白井に、さすがの土御門もやや引き気味。
 青髪ピアスが「ボクはレズもいけるんやでー!」と叫びかけたが、
 これは発言前に土御門の肘打ちで強制的に遮断された。

68 : [sage saga]:2011/06/20(月) 11:43:02.26 ID:Eolkh2L30

 色々と考えているようで実はまったく何も考えていない1です。

 短いですが今回はここまで。
『見づらい』というご指摘があったので、調整してみました。
 今回分が短いのは、その実験も兼ねているからです。
 ……でもやっぱりまだ見辛いですね。

 文章一つ一つが長くなってしまうのは、もうクセです。
 とりあえず、読みやすそうな形式を模索していきます。

 上条と土御門が戦ったら、土御門の圧勝です。
 原作上条さん以上に生きるか死ぬかな戦いに投じられた回数が多いので、
 なんというか、『場慣れ』しているだけです。
 肘とか膝に頼ってる分、一方通行と戦うとしたら逆に苦戦するんじゃないでしょうか。

 カップリング(?)は上インと通行止めです。
 一方通行と美琴は悪友みたいな感じで、原作と同じく美琴→上条。

69 : [sage saga]:2011/06/20(月) 11:47:09.45 ID:Eolkh2L30

『七人戦争』は一本のお話としては書きません。無理です。構想の時点で諦めた。
 なので行間で埋めることにしました。

 簡単に言うと一方&美琴&削板VS垣根&麦野(withアイテム)&食蜂(with常盤台生徒)による、
『☆の使いやあらへんで!! チキチキ! 第一回学園都市最強決定戦!!』です。

 美琴サイドは、『妹達』と削板で挑む、最後に愛と勇気が勝つ能力者バトル、
 一方サイドは、『妹達』と暗部を相手に繰り広げられる、どうあがいても絶望なワンサイドゲーム。

『七人戦争』とか言っておきながら、六位は本格参戦してません。
 美琴と戦う麦野をサポートしたり、垣根と戦う美琴と削板を助けたり、そんな感じのふらふらした人。
 このスレだと、『肉体変化』能力者です。ネウロのXとかそんなイメージ。

 次もやっぱり2〜3日後になります。
 上条と美琴を普通に友達にしてしまったので、
 どうやったら停電に持ち込めるか考えてる最中です。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/20(月) 18:39:39.35 ID:foyOV/1Y0
黒子はともかく他の2人は何で出した?意味が分からん
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/20(月) 21:10:55.94 ID:BSroR07Vo
その設定だと、七人戦争のときに黒子が常盤台の一人として食蜂陣営に落ちてないか?
72 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 2 [sage saga]:2011/06/23(木) 10:05:12.03 ID:Rklymd+p0

 二円。
 それが今の上条当麻の財布の中身だ。

 調子に乗って一方通行達や土御門&青髪ピアス、さらには初めて会った女子中学生コンビにまでおごったのだから仕方ない。
 ぎりぎり足りたから、今日はまだついている方だ。

 特売で賑わうスーパーを横目に、上条はATMを探す。

「スーパーだったら、ATMくらい用意しておいてくれよ……」

 呟いたところで、ATMが出現するわけではない。
 最寄りのATMはどこかしらーと、携帯電話のGPS機能を起動させた。

「えっと、あれ? あー……とと、ん?」

 道に迷った人が地図をそうするように、上条は手の中の携帯を横にしたり、逆さにする。

「この前はちゃんと使えたんだけどなー。ま、適当にぶらつきゃ見つかるか」

 購入して三カ月ちょい。土御門の薦めで購入した多機能携帯は、未だにその機能の半分も活かされていない。
 GPS機能を駆使して目的場所までたどりつける成功率は、いまのところ50%くらい。
 最初の一カ月は10%だったから、これでもまだましになった。

 つでに別のスーパー探してみるか、とのんびり歩き始めた上条の背中に、

「見つけたぜ、クソ野郎!」

 という不穏な声がかけられた。
 振り返った先にいたのは――

「えーと……馬面、だったっけ?」

「浜面だ! ハマヅラ、HAMADURA!!」

 この一学期の間だけで五回も上条によって病院送りにされた少年――浜面仕上が吠える。
 突っ込まれる前に言っておく。ごめんね! 原作のパワーバランスガン無視で!

73 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 2 [sage saga]:2011/06/23(木) 10:07:31.04 ID:Rklymd+p0


「で、浜面。俺に何か用か?」

「ちょっと話があんだよ……ついてこい」

 上条はため息をついた。
 どうせまた、荒事になるのだろう。それなら、こんな人の視線が集まりそうな場所は避けたい。

 割と素直に上条は浜面の後ろをついていく。

 歩きながら、上条は浜面を観察する。

(腰のあたりになんか武器仕込んでるなー。また警棒かな?)

 たどり着いたのは、何の変哲もない路地裏だった。
 周囲をコンクリートにかこまれた、この街に無数にある路地裏。

 上条と浜面意外に、人はいない。

 てっきり仲間を何人か呼んでフクロにするつもりなのかなと思っていた上条は、ちょっと拍子抜けした。

「俺は、もう何回もお前に負けた」

 不意に、浜面が口を開いた。

「だが今日こそ決着を付ける! 今日、」
「じゃあ遠慮なく」
「俺はって、ちょ、おま――!?」

 何やら叫ぶ浜面を無視して、その顎にアッパーをくらわせ、ついでこめかみを叩きつけるように殴る。
 そのまま肝臓のあたりを、つぶさない程度の勢いで蹴りあげた。
 躊躇い一切なしの不意打ちに、そのまま浜面は気絶する。


 上条当麻。とことん武士道精神に欠ける男である。


 浜面は、どうやら今回は銃を武器にしようとしていたらしい。
 消音器(学園都市のことだから、もう完全に音を消せるレベルだろう)がついた銃が転がり落ちる。

 今まで銃を使われたことはないので、完全になりふり構っていられなくなったのだろうか。
 味方の魔術師からの支援なく、銃を装備した魔術師に勝負を挑んだ事はないので、ちょっとほっとする。

 とりあえず、転がった銃から弾を抜き、側のゴミ箱へ放りいれた。

 その時。ざりっという音が、上条の耳へと届いた。

 路地の入口から、だれか入ってきたのだろうか。
 顔を上げると、そこには大柄な男がいた。

 駒場利徳。

 この一帯のスキルアウトをまとめる男だが、上条にとっては初めて見る顔だった。
 ふっと。彼の体が動く。


 みぞおちを殴られたと気付いたのは、その場に膝をついてからだった。


「が、あぁ!?」

 痛みに、呼吸機能が数秒麻痺した。思わず咳き込む。吐瀉物をぶちまけなかったのは幸いだろう。
 にじんだ視界を、それでも上へと向ける。駒場の表情は平静だった。

 その平静さが、彼の強さを示している。

「……さすがに……これくらいで……沈む人間ではないか」
「……これでも、打たれ慣れてるんでね」

 上条は、自分の力量を理解した上で戦っている。
 だからこそ、今の一撃で分かった。

 ――上条では駒場に勝てない。

74 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 2 [sage saga]:2011/06/23(木) 10:10:20.07 ID:Rklymd+p0


 普段はスキルアウトたちを圧倒している上条だが、実際は、わずかに発生する隙をついているだけ。

 幼い頃から鍛えてきた、動体視力と危機判断能力と度胸――それらを活かして、その場の流れをとらえるのが得意なだけだ。
 その流れを先に捕えられては、手も足も出ない。


 対能力者用に鍛えているスキルアウトたちだが、素人は素人。

 武装を固めたところで、関節の隙間など、『ガチガチに固められない』場所は発生する。
 警棒には振りかぶる、スタンガンやナイフには突き刺すための動作が必要となる。

 その隙をつきつつ戦う上条は、単純かつ圧倒的な腕力を前にすれば、打つ手がない。


 駒場は、上条が一番苦手とするタイプの人間だ。


 上条が普段相手取っているのは、数か武器を頼りにしたチンピラ。

 数を頼りにしている相手なら、追手をまきながら、単騎撃破していけばいい。
 武器を頼りにしている相手なら、その武器が使い辛い場所まで誘導すればいい。。

 ロンドンで戦ってきたのも、武器は装備しつつも、『魔力』の生成に体力を持っていかれた魔術師ばかり。

 こういった、『自分自身の腕力のみ』で戦う人間とは、相性が悪い。


 だが。


(『先生』に比べれば拳は軽いし動きは遅い。勝つのは無理だが逃げるのは可能だ)


 上条の頭は冷静だった。

 どんなピンチな状態でも、平常心を保て。そうすれば最善の手が打てる。
 幼い頃、護身のために戦うことを選んだ上条に、土御門が告げた言葉だ。

 この場面における最善の手を、上条は考える。

 しかし、その間に、もう一度殴られた。
 今度はコンクリートの壁に叩きつけられた。背中全体が痛む。
 頭も少し打ったらしく、視界がくらくらする。

「く……ぅ」

 それでも、今ので分かった。駒場は拳を振りかぶる時に、わずかな『隙』ができる。

 その『隙』をついて、逃げる。
 その後は、人ごみにまぎれて、デパートを適当に回ったり、なるべく人の多い地下鉄をランダムに乗り継げば、簡単にまけるはずだと上条は結論付けた。


 しかし続いて発せられた駒場の言葉が、その可能性を殺す。


「……残念だが、君の素性はきちんと調べてある。上条当麻。
 ……君が逃げると言うのなら……被害に遭うのは誰だろうな……」


 動きかけた上条の足が止まる。
 一方通行や土御門はともかく、他のクラスメイト達がスキルアウトの襲撃を受けたら、どうにもできないだろう。

 上条が逃げれば、クラスメイト達に害が及ぶ。最悪、美琴や、今日出会った少女たちも巻き込まれる可能性がある。

「……こちらとしても……無関係の者は……巻き込みたくない。
 単に……けじめをつけてほしいだけだ。
 仲間を病院送りにした回数分だけ……君を殴る……。それが済めば……君を解放する……」


75 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 2 [sage saga]:2011/06/23(木) 10:12:59.61 ID:Rklymd+p0


 承服したくない。
 だが、皮肉なことに、『無関係な者を巻き込みたくない』という考えだけは一致する。


「――何回、俺は殴られるんだ?」


 意を決して、上条は訊ねる。

 どうせ、五回か六回くらいだろう。それくらい、耐えきってみせる。

 駒場がゆっくりと口を開く。
 そして、コピー用紙が吐き出されるよ陰鬱な口調で、『ペナルティ』の回数を告げた。


「……二十五回だ……」


「この拳をあと二十三回受けろと!? 無理です、上条さん死んじゃいます!
 ていうかこの三カ月ちょっとで何回スキルアウトと喧嘩してるんだよ俺! 不幸だー!」

「殺しは……しない……」

「いやそれでも夏休み期間中ずっと絶対、絶対安静になっちゃう!
 勘弁してください、せめて一日一回とかでー!」

「そんな暇など……ない!」


 駒場が拳を振り上げる。
 上条は衝撃に耐えるため足を踏ん張ったが、衝撃は二秒たってもやってこなかった。


 駒場を攻撃を止めたのではない。
 止められたのだ。

 気がつけば駒場は、地面を背中に、空を見上げていた。

「あらあら。そこのあなた、立派に暴行罪の現行犯でしてよ」
「ったくよォ。元はと言えばお前らが弱っちィガキとか女を襲ってたせェじゃねェか」

 路地裏に、少女の声と少年の声が響く。

 いつの間に現れたのか、駒場のすぐ横に、白井黒子と一方通行が立っていた。

 一方通行の足が駒場の腹を踏みつける。それだけなのに、駒場は自分の体を動かせなくなった。
 途方もない重みが、体全体に降りかかる感覚に、駒場の顔がゆがむ。


「『風紀委員』だ。……カタギに手を出すたァ、こりゃまた、とンでもない三下だな」


 唯一動く場所――口を動かして、駒場はわずかな抵抗を見せる。

「ケジメを付けてほしいだけだ……お前らに咎められる云われは……ない……」
「あァ? ケジメっつゥのは、オマエらみたいなクソッタレ連中の間だけでつけるモンだ。
 そこのバカとオマエらを一緒にすンな」

 一方通行の言葉に、駒場が黙る。
 それで決着がついたと判断したのか、白井がポケットから手錠を三つ取り出した。

「さて。あなたと……そこに転がっている金髪の殿方と、上条さん?
 少々お時間いただきますわ。先ほどの暴行罪と、その余罪について。
 ……二五回でしたわね。お話を聞かせて頂きます」

「え?」

 思わぬ展開に、上条は固まる。

 そんな上条の両手に、白井は無情にも手錠をかけた。


76 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 3 [sage saga]:2011/06/23(木) 10:16:15.27 ID:Rklymd+p0


 指名手配されていた浜面と駒場を警備員(アンチスキル)に託して、
 上条が連れて行かれたのは、美琴の通う柵川中学校内の『風紀委員』の支部だった。

 唯一の幸いは、美琴が居なかったことだろか。
 ……というより、美琴も一方通行も、『風紀委員』としてはあまり真面目ではなく、
 学園都市の治安向上のために名前を貸していると言った方が近く、
 かなり気まぐれに行動しているそうだ。

 その証拠に一方通行は、白井と初春に上条を引き渡すと、どこかに消えてしまった。

 かくして上条は、先ほどお昼ごはんをおごったばかりの少女に尋問される、
 というファインプレーを繰り広げる羽目になった。

 ただ、これはかなり特別な対応らしい。

 本来なら、スキルアウトコンビ共々警備員に引き渡されて、
 最悪少年院送りになっていたかも、というのが白井の談で、
 そうならなかったのはお兄様(一方通行)の後ろ盾のおかげだとか何とか。

 解放されたのは、完全下校時間が過ぎてからだった。
 といっても、夏休み前日の今日は、普段と比べ街中がそれなりに賑わっている。

 夕飯を作る気もしないし、補習と宿題が待ち構えているとはいえ、明日から夏休みだ。
 金を下ろし(時間外だから手数料として二一〇円分とられた。地味に不幸だ)、
 普段とは違うファミレスによってみた。

 そこで上条は、なにやら中学生くらいの少女にちょっかいを出している不良を見かけたので、助けることにした。
 が、実はその不良、仲間がほぼ全員仲良くトイレに行っていたらしく。
 ――結果、上条は十人を軽く超える不良に追われることになった。


 上条は、夜の街をひた走る。
 追いつかれない程度の、しかし、バイクや車などに乗り換えられない程度の間隔を空けて、必死に走る。


 いくらなんでも多勢に無勢すぎるし、
 単個撃破していくのも難しそうだし、
 お昼過ぎに捕まったばっかりなので、これ以上ケンカは避けたい。
 今までのあれこれを全部『正当防衛』として処理してもらったばかりなのだ。
 それにそもそも、上条の目的は彼らとケンカすることではない。


 状況と目的を見誤るな――『先生』の友人が言っていた言葉だ。


 ロンドン時代に鍛えた持久力はまだ健在だったようで、学区外れの鉄橋につくころには、
不良たちの怒号は聞こえなくなっていた。

 ようやく一息ついた上条の耳に、三人分の足音と、三人分の声が届く。

「まったく、余計なことしてくれちゃって。ヒーロー気取りなのかしら?」

「はン、『正義感』逞しい上条くンのこった。不良を御坂の電撃から守ろォとかそンなンだろ」

「ごめんね上条のお兄ちゃん、今回はフォローできないのって、ミサカはミサカは事前に謝っておく」

 すでに分かっているだろうが――
 上条が助けようとしたのは少女の方ではない。

 不良たちの方だ。

77 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 3 [sage saga]:2011/06/23(木) 10:18:52.97 ID:Rklymd+p0

 不良が話しかけていたのは、御坂美琴。
 しかも、少し離れた席には、一方通行と打ち止めがいた。

『風紀委員』の名の下に発生するであろう惨劇を回避するために、上条は不良たちに追われてやったのだが、
 どうやら、完全に無駄骨だったらしい。

 さらに口ぶりからして、『風紀委員』の活動の一環だったようだ。
 不機嫌そうな美琴の前髪が、彼女自身が発する電気でバチリと揺れる。


「公務執行妨害で、連行させてもらうわよ」


 そんな美琴の横で、一方通行が軽いため息をつく。

「おいクソガキ。一応俺から離れるなよ」

「何を言っているのミサカはもうあなたのものよってミサカはミサカはあなたの腰にぎゅっと抱きついてみる」

「やっぱり離れろ暑苦しい」

「だったら反射すればいいじゃないって、ミサカはミサカはなんだかんだ言いつつ、
 抱きしめられたまま抵抗しないあなたを可愛く思ってみた――」

 打ち止めの発言を強制終了させるかのように、轟音とともに上条と鉄橋に向けて雷撃が放たれた。

「お、おい。どうしたんだよ、美琴」

 自分に向けられたものはともかく、鉄橋に向けられたものはどうしようもない。
 ごーんと揺れた足元を何とか立てなおした上条は、思わず口に出していた。

78 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 3 [sage saga]:2011/06/23(木) 10:20:37.05 ID:Rklymd+p0


 いつも以上にいら立っている美琴の返答は、


「ムシャクシャするのよ! アンタに分かる!?

 自分の小さい頃と同じ顔の女の子が、私自身は恋愛感情を持ってない男といちゃついてるとこを見せられる苦痛が!

 年齢差以外は特に問題ないから、別れろとも言えないこのもどかしさが!

 こんなことなら、『七人戦争』終わった後に私が打ち止めを引き取っておくべきだったって言う後悔が!!

 自分と同じ顔の女の子が、ロリコン野郎の毒牙にかかるのを黙って見ているしかないって、なによこれ、拷問!?」


 悲痛なのにあまり同情できないシャウトだった。

79 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 3 [sage saga]:2011/06/23(木) 10:22:58.43 ID:Rklymd+p0


「いや別にいちゃついてねェし、そもそも恋愛感情すらねェよ。
 それ以前に、オマエ俺のことロリコンだとか思ってたのかよクソヤロウ」

「アンタが『七人戦争』が終わった直後、『最終信号は俺が引き取る』って言ったあたりからねぇ!
 ……もしかしてアンタ、私に惚れてた? まさかの光源氏計画!?」

「ミサカは例えあなたがロリコンだろうがなんだろうが気にしないわって、
 ミサカはミサカはお姉様の魂の叫びを無視して抱きしめ続けてみたり!
 というかこの人が自分の方から離れるなって言ってくれるのは実はこれが初めてだから、
 ミサカはミサカはこの隙に乗じてあなたのお腹にぐりぐりと頭を埋めてみる!」


「……あの、上条さんはどうすればいいのでしょうか」

 完全においてけぼりをくらった上条は、逃げるのも忘れて呆然とする。


「とりあえずまずアンタに焼きを入れる。それからそこのロリコンと決着を付ける。
 ――女にはねぇ、負けると分かってても戦わなくちゃいけない時があんのよ!!」


 バチィ! という激しい音が響き渡る。

 今の発言は、風紀を守る『風紀委員』としてどうなのと思いつつ、上条は大きなため息をついた。


「不幸っつーかなんつーか。……ついてねーよなあ」


 その呟きは、美琴に向けられたのか、一方通行に向けられたのか、
 ――上条自身に向けられたのか。


「お前、ホントついてねーよ」





80 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 4 [sage saga]:2011/06/23(木) 10:25:34.78 ID:Rklymd+p0



 ――今の自分を見たら、彼は何と言うだろうか。


 夜空に溶けゆく紫煙を見つめながら、思い出すのはロンドンの片隅。


 幼い頃、まだタバコを吸い始める前の話だ。

 近所の悪ガキ達に暴力を振るわれ、逃げる間に、路地裏へと追い詰められてしまった。

 彼と自分を守るために、自分は覚えたての魔術を使おうと思った。
 鞄につめた、ルーン文字が刻まれた紙を使えば、魔術を使える状態だったからだ。
 魔術といっても、ほんの小さな炎を起こすだけのもの。でも、それで驚かせることはできる。

 だが、彼はそれを止めた。

 魔術師でも何でもない人に、魔術を使ってはいけない。


 そんなことをしたら、『必要悪の教会』に追われるような、『悪い魔術師』になってしまう、と。


 二人で拳で挑んでみたものの、多勢に無勢。

 結局二人ともボロボロになって、自分の方は土御門の回復魔術で治してもらえたが、
 どんな異能も打ち消してしまう彼は、簡単な手当てを受けただけで、ボロボロなままだった。


 でも、それでも彼は笑っていた。

 お前が元気になってよかったと、彼は笑った。

 そう言って右手を差し伸べられた時。
 今となっては本当に不遜なことだとは思うが――『神の子』に救われた人達の気持が、理解できた気がした。

81 :第二章『夏休み前日、あるいは最期の日常』 4 [sage saga]:2011/06/23(木) 10:28:23.87 ID:Rklymd+p0



 ――今の自分を見たら、彼は何と言うだろうか。


「……ステイル」

 闇を裂くように、女の声が聞こえた。

「久しぶりだね。余計な仕事は全部終わらせてきたかい?」

「ええ。でも今の我々には、それでも足りないかもしれません。――急ぎましょう」


 タバコを放り投げる。
 放物線を描きながら、それは、灰すら残さず焼滅した。

「あと一週間か。絶対に捕まえるぞ、神裂」


 分かっている。いや、今なら分かる。
 上条当麻は、甘いのだ。


『必要悪の教会』の人間でありながら、その切り札とされながら、彼は『必要悪の教会』の本当の意味を理解していない。


 彼は、『必要悪の教会』の暗部を何一つとして知らない。
 ローラ=スチュワートが、そうなるように仕向けたから。


 今でも、『必要悪の教会』を、正義の組織か何かだと勘違いしているのではないだろうか。

 今でも、あのローラ=スチュワートという女狐を、善人だと思い込んでいるのではないだろうか。

 今でも、ステイル=マグヌスと神裂火織を、正義のヒーローだと信じているのではないだろうか。


 そうであってほしいとステイルは思う。

 自分でも驚くほど、ステイルは変わった。
 神裂との関係も、土御門との関係も大きく変わった。

 だからこそ、彼との関係が変わらないことを、彼は願う。

 ――今はこの街に住む彼と、出会わないことを祈る。


「『あれ』は現在、第七学区を逃走中。……発見次第、襲撃するぞ」





82 :行間二 [sage saga]:2011/06/23(木) 10:31:01.58 ID:Rklymd+p0


 なにやら、大変なことになっているらしい。
 学園都市の第一位と第三位が反旗を翻して、とある『実験』をやめさせようとしているらしい。
 そして自分には、第三位を半殺しにするか、他の超能力者の手伝いをしろという命令が下されているらしい。

 らしい、というのは削板自身が、この騒動にそこまで興味を抱いていないからだ。

 聞けば、第三位はまだ中学生の少女とのこと。
 そんな子を半殺しにしろなど、どう考えても根性が足りない。

 不良少女ならば、ちょっと拳の語りあいをすれば目を覚ますだろうし、
 真面目少女なら、ちょっと話し合いをすれば分かりあえるだろう。

 写真はもらったが、もらった瞬間握りつぶして見てすらいない。


 そんな彼が自殺寸前の少女をみつけたら、根性が足りん! と憤ってしまうのは当然である。
 とりあえず拳で語り合ってみたところ、少女は目を覚ましてくれた。

 大怪我を負ったまま、それでもどこかに向かおうとする彼女を支え、
 ――ついた先では、上位能力者同士による戦闘が繰り広げられていた。


 ホストみたいな風貌のくせに、なぜか背中から真っ白な翼を生やした男と、

「おお! 双子か!?」

 横の少女のそっくりさんが、相対していた。
 ……といっても、そっくりさんは息も絶え絶え。どう見ても劣勢だった。

「いえ、このミサカは『妹達』シリアルナンバー一五〇四〇号であり、
 あちらはミサカ達の『お姉様』である御坂美琴です、とミサカは公開できる範囲の情報で懇切丁寧に説明します」

「つまり、双子か?」

「いえ、ですから、そうではありません、と、ミサカは表面上は丁寧に装っておきながら、
 どうやったらわかってもらえるんだよチクショウと内心で毒づきます」

 よろめきながらもそっくりさん――御坂美琴に駆け寄ろうとする、自称一五〇四〇号を引きとめて、告げる。

「よく分からんが、お前とそっくりな奴が襲われているのはなぜか納得できん。
 ――分からんが、まあ、根性で何とかなるだろう!」


 どりゃーと割り行ってみれば、割と単純明快な答えが待っていた。

 青年の方は、『手伝いをしろ』という命令が下されている学園都市第二位。
 少女の方は、『半殺しにしろ』という命令が下されている学園都市第三位。


 しかし、どうみても根性が足りないのは第二位の方だ。
 女の子をなぶり殺しにしようとするなんて、根性のある男のすることではない。

 それに比べて、第三位は実に根性にあふれている。
 どうみても劣勢なこの状況で、それでもその眼には闘志が宿っていた。


 削板としては、もちろん、根性がある方につくだけである。



 そんなこんなで、気がつけば削板は『七人戦争』に参戦していた。




83 : [sage saga]:2011/06/23(木) 10:48:51.94 ID:Rklymd+p0
短いですが、二章はここまで。

最後の方と行間はほとんど書き終わっているので、
未だ七割も書きあがってない三章分と四章分が出来次第また投下します。
やっぱり3日後かそれくらいになります。


>>70
なんとなくです。原作イラストにモブとして登場してるので、名前有りモブとして出しました。
おそらく最初で最後のスレ立てなので、出せるチャンスのあるキャラは出したかっただけです。

>>71
食蜂は、『七人戦争』で美琴に倒されました。というか電撃付きパンチくらいました。
そのため、常盤台入学式前に美琴と仲良くなっていた黒子の洗脳はしていません
(ばれたら再び美琴に殴られる&今度は一方通行の男女平等パンチつきになるので)。
84 : [sage saga]:2011/06/23(木) 10:52:31.44 ID:Rklymd+p0

>>70さんへの返答の書き方間違えた。
上で書いた理由は佐天についてです。
初春の方は上条さん不幸の前フリです。

あと、黒子の変態性を際立たせるために普通の子を出しました。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2011/06/23(木) 12:27:59.12 ID:vqYfcvYmo
乙。おっもしろいなー!
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/23(木) 19:00:14.95 ID:ny8H08im0

最初で最後のスレ立てなんてもったいないな
そしてこの後の展開に期待しているよ!
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/23(木) 19:55:23.71 ID:W54HlSeD0
かわいそうに一方と御坂は上条にやられたか……
88 :第三章『一方通行な再会』 1 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:21:16.11 ID:IMaNIvVg0


 夏休み初日。
 上条当麻の目覚めは、最悪だった。

 クーラーが使えないせいで、室温は『外の方がいっそましなんじゃね?』というレベルだ。
 実際ましかもしれない。木陰とかの方が涼しいだろう。


「あちぃ……」


 ベッドの上で、上条がもぞりと身を起こした。
 その顔は、覚醒直後とは思えないほど疲労感にあふれている。

 理由は色々とある。

 暑くてよく眠れなかったこと、
 眠りについたのは日付が変わってからだということ、
 そして、眠りにつくちょっと前までとある騒動に巻き込まれていたこと。

 最後の理由が一番大きいだろう。

 結局あの後、まさかの学園都市第一位VS学園都市第三位が繰り広げられ、
 上条は、それを止めるために一方通行と美琴の二人を相手にする羽目になった。
 何とかけが人なしで治めることに成功したが、最後にぶち切れた美琴の雷が、学園都市の一部に停電をもたらした。

 その停電に、ばっちり巻き込まれた上条である。

 上条が停電の憂き目にあったということは、つまり隣人の一方通行も停電に巻き込まれたというわけで、
 なんだかんだで昨日の勝負は美琴の勝ちかもしれない。
 ちなみに上条の公務執行妨害はやはりなんだかんだでお流れになった。


89 :第三章『一方通行な再会』 1 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:22:48.95 ID:IMaNIvVg0


「腹減ったー」

 と、冷蔵庫の扉を空けたところで後悔した。

 電源の切れた冷蔵庫は、その保温性能のせいで逆にサウナと化す。
 冷凍食品や生肉・魚はもちろん、野菜たちも全滅していた。

「昨日……じゃねーや、今日帰ってきたときに、外に出しときゃよかった……」

 せめて野菜だけでも出しておけばよかった。
 変な水分がにじみ出ているニンジンやキャベツたちを見て、上条はがくりと肩を落とす。


 主よ申し訳ありません、もったいないことに、せっかくの糧がパーです。


 普段は段ボールで保存しているジャガイモも、昨日の朝に切らしたきり、買い忘れていた。
 スコーンやマフィン用の小麦粉はあるが、電子レンジ(のオーブン機能)は使えない。

 つまり、朝ごはんになるようなものがない。

 とどめと言わんばかりに、担任教師・月詠小萌からの電話が上条の携帯電話を震わせる。
 内容はやっぱり予想通りというべきか、「上条ちゃーん、バカだから補習でーす」というラブコール。

 久しぶりに日本で迎える長期休暇のスタートとしては、最悪なんじゃないだろうか。

 不幸だぐぎゃあ! と声にならない奇声を上げるが、すぐに気を取り直す。

 この程度の『不幸』でへこたれていては、上条当麻は生きていけない。

 そうだ、思い出せ、昨夜のことを。
 奇怪な笑い声を上げた一方通行にプラズマで焼き殺されかけたじゃないか。
 御坂美琴の超電磁砲でバラバラにされかけたじゃないか。

 それに比べれば、まだハッピーだ。たぶんだけど。比較対象が悪すぎるけど。


(開発の補習ってことは、薬飲むんだろうなー。だったらなんかパンでも買っていくか)


 ぐぎゅー、という間の抜けた音が、上条の腹から発生する。
 昨日の昼ご飯以降は、あの初春という風紀委員の少女に貰ったシュークリームを一つ食べただけだ。

 空腹を訴える腹をなだめすかしながら、手早く着替え、汗でしっとりとなった布団を抱える。

「天気もいいし、布団干してくか。……いやまてよ、ユーダチとか降らないよな?」

 両手が不自由になったので、足でベランダへの戸を開いて、さあ布団を干そうと思ったのに。

 手すりには、すでに、布団が引っかかっていた。

 だが、上条の部屋には、布団なんて一つしかない。
 そしてその布団は、今、上条の腕の中にある。

 じゃあ、あの『布団』は何なんだろうか。

90 :第三章『一方通行な再会』 1 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:25:10.55 ID:IMaNIvVg0


 もぞ、と。『布団』が動いた。いや、『布団』は布団ではなかった。


 真っ白い服を着た、少女だった。
 白いフードに頭を覆われた、銀髪碧眼の少女だった。

「はい?」

 思わず、上条は素っ頓狂な声を上げていた。その顔に、見覚えがあったからだ。

 上条当麻は、現状、『学園都市』の人間だ。
 しかし、それ以前はイギリス清教――そしてその内部組織であり統括組織である『必要悪の教会』に所属していた。
 ……というより、気分的には今も所属している。

 上条が今、学園都市にいるのは、『必要悪の教会』の上層部から、
『ちょっとイギリス清教から仏教に改宗し直して、学園都市に行ってこい。
 んで、現在諸事情から逃走中の重要人物・インデックスを見つけてこい。
 まだインデックスは学園都市にいないけど、今までのルートから推測して学園都市に来ると思うから、それまで待機な』
 的な命令を下されたからだ。

 かなりアバウトなのは、詳しい説明をなされたのが超音速旅客機内だったからよく憶えていないせいだが、内容は間違っていないはず。


 その『インデックスさん』という人の写真は見せてもらっている。

 上条が脳内で敬称を付けているのは、魔術業界では外見年齢=実年齢という常識が通用しないことと、
『「必要悪の教会」の切り札』という扱いの上条を、わざわざ科学サイドの総本山に叩きこんでまでも捜索させたい人物だからだ。

 土御門は一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶した魔道書図書館、と言っていた。
 上条は魔道書を直接見たことはなかったが、『原典』を読んでぶっ壊れた人間は何人か見ている。
 単純計算で、その一〇万三〇〇〇倍のことをして平気な人間というのは、それだけで尊敬に値するのではないだろうか。


 その『インデックスさん』が、目の前にいた。


「――お」

 相手はどこからどう見ても、外国人だ。というよりイギリス人だろう。
 頭を英国語モードに切り替えて身構えた上条の耳に届いたのは、

「onakahetta」

 という、生まれて初めて聞く単語だった。

(……Oh! Nut hate?)

 分解してみても、さっぱり意味の分からない文章。
 それが日本語だと認識できたのは、

「おなかへった」

 と、『インデックスさん』がもう一度繰り返してからだった。

 ずるりと上条の腕から布団が落ちた。
 そんな様子も気にせず、『インデックスさん』はにっこり笑ってこう告げた。


「おなかいっぱいごはんを食べさせてもらえたら、嬉しいな」



91 :第三章『一方通行な再会』 2 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:27:48.08 ID:IMaNIvVg0


 電気とガスが別々なことに喜びを感じたのは、初めてかもしれない。

 とりあえず小麦粉を適当に水で練って、フライパンで蒸し焼きにする。
 これに塩やしょう油か砂糖で味付けすれば、なにか一品できるだろう。

 朝ごはんがない不幸だと思ったが、ちょっと工夫すれば、朝ごはんはちゃんとあったのだ。
 心の中でこっそり主(と『神の子』と『聖母』)に感謝しつつ、フライ返しでナンもどきをひっくり返す。

「……で、なんで俺の部屋のベランダに引っかかってたわけ?」

 ぎらぎらと目を光らせて「ごはん! ごはん!」と叫ぶインデックスは、そこまですごい人には見えない。
 というわけで、上条のインデックスに対する態度は、かなりフランクなものだった。

「うん。この建物から別の建物に飛び移ろうとした時に、追われてた魔術師に背中から撃たれちゃって。
 私の着ているこの修道服――『歩く教会』っていうんだけどね、これは法王級の防御結界なの。
 これのおかげでなんとか死なずに済んだんだよ」

 まともな感性を持った学園都市の人間なら、迷わずこの少女を精神的な病院へと連れて行っただろう。
 だが、上条はこの街においては『まとも』ではない。

 上条は知っている。科学的には説明できない、魔術的な技術のことを。

『歩く教会』というのは、おそらく霊装で、
 縫い目の一つ一つが魔術的な意味を持つとか、生地そのものが魔術で生成されているのだろう。

「魔術師に攻撃された? ……『必要悪の教会』の奴らはなにしてるんだ」

 一枚目のナンもどきが焼き上がり、皿へと移す。
 二枚目の生地をベチャリと広げながら、上条は首をかしげた。

 その横で、インデックスが慌てたような表情になる。

「ど、どうして『必要悪の教会』を知ってるの!?」

 そこにわずかな敵意を見つけて、上条は苦笑する。

 土御門の話が本当だとすれば、この少女は一年近く逃亡生活を送っているはずだ。
 本来は人懐っこい性格をしているのだろうが、疑心暗鬼な部分があっても仕方ない。

 上条はインデックスを安心させるように微笑むと、ポケットから携帯を取り出す。
 ストラップとして揺れているのは、銀製の、ごくごくシンプルな十字架だ。
 特徴と言えば、それぞれの辺の真ん中に、赤いラインが走っているところか。
 そして、今の上条にとって、その特徴こそが一番大事なところだった。

「ほら、これ。……俺、イギリス清教徒――つーか、『必要悪の教会』の人間なんだよ。
 君の探索のためにこの学園都市に来たから、辞表叩きつけた扱いになってるけど」

 日本でも『聖ジョージの十字架』と同じデザインの十字架は出回っているが、上条の十字架はそれとは微妙に雰囲気が違う。
 怖々とインデックスが上条の十字架に触れた。

 十年以上上条と一緒のこの十字架は、あちこちが欠け、赤いラインも少し薄れている。

「わたしのために……わざわざ能力者になったの? 魔術師の、君が?」

「俺は、元々から魔術師じゃないよ。
 それに、いつか日本には戻ってこようと思ってたしさ。意外と踏ん切りついたかも」

 言いながら、二枚目のナンもどきをひっくり返す。


92 :第三章『一方通行な再会』 2 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:30:52.94 ID:IMaNIvVg0

「たぶん、ベランダに引っかかった後に追撃が来なかったのは、『必要悪の教会』の奴らが追いついたからだよ。
 自分達と君が元仲間って説明するのに失敗した連中だから、ちょっと不安だけど」

 説明に失敗した彼らは、インデックスには敵と認識されているはずだ。
 姿を現さないのは、その誤解を上条に解かせるためだろうか。

 やっかいごとおしつけられたなぁと心の中で嘆息した上条に、インデックスは疑問符を浮かべた。

「説明?」

「え?」

「わたし……気がついたら、路地裏にいたの。だから、そんなのしらない」

 土御門の説明と合わない。
 前年度のパートナーが説明に失敗して、彼女は逃げ出したのではなかったか?

「まあ、とりあえずこの部屋は安全だと思うぞ。
 たぶん今も、『必要悪の教会』の人間の監視が入ってるんじゃないかな」

『必要悪の教会』の人間で、インデックス保護の命令を受けているのなら、彼らはそれに素直に従うはずだ。
 現に、インデックスを襲った魔術師を倒したみたいだし。
 上条に連絡が来ないのは、下手に混乱させないためだろう。

 ほっとしたようなインデックスをみて、上条も安心する。
 どこかピリピリした空気が消えて、代わりにお腹すいたオーラが膨れ上がった。

 丁度二人分のナンもどきが出来上がり、皿にのっけてテーブルへと移す。
 よほど空腹だったのか、食前の朝の挨拶すらせずに、インデックスがナンもどきを掴んだ。


「いただきますそしてごちそうさま」


 ほとんど一息でのみ込んだインデックスみて思わず表情がひきつった上条だが、
 インデックスがきらきらした顔でこちらを見ているところから自分の分も狙われていると気付いた。
 朝食前のお祈りを省略して、左手で十字を切る。

 本来は右手で切る十字を左手で切った上条だが、べつに背信者というわけではない。

 ただ、神様の奇跡すらぶち壊してしまう右手で十字を切るのは、正しいこととは思えないだけだ。

 だから、あえて、左手で十字を切る。

 こう書くと上条が敬虔な十字教徒のように見えるが、実際はそんな重たいものではない。
 日本人の『もったいない』という感情や、先祖を大事にしようと思う心は、神道や仏教が元になっている。
 上条の十字教に対する信仰心も、似たようなものだ。

 日常に溶け込んだ、些細な儀式、些細な感情。
『信仰している』という意識すら抱かないレベルの信仰。

 十字教が『宗教』としてそこまで浸透していない日本では目立つというだけで、敬虔からは程遠い。

93 :第三章『一方通行な再会』 2 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:33:12.14 ID:IMaNIvVg0

「左手で十字を切るなんて、意外とパンクなんだね」

「信じてもらえるかは分からないけど、俺の右手には『幻想殺し』って力が宿ってる。
 俺自身にかけられた防御魔術や回復魔術すら打ち消すから、たぶん、主のご加護をも殺しちまってるんだよ」

「ふうん?」

 が、彼女の興味は上条の朝ごはんの方にあるらしい。

「ちょ……上条さんの分は譲れませんからね!?」

「でもちょっと足りないかも」

「俺にとってこれは、半日以上ぶりの食事だ」

「わたしにとっては二日ぶりくらいかも」

「…………」

「…………」

「わかったよ、半分やればいいんだろ」

 根負けした上条は、黙って半分を差し出す。パンでも買っていこうと考えていたので、そこで挽回すればいい。

「で、これからどうするつもりなの?」

 上条から分けてもらった分をやはりほとんど一口でのみこんで、インデックスが上条へ話題を向ける。
 これから――というのは、インデックスをどうするか、だ。

 ぱっと思いつくのは土御門だ。
 というより、上条にインデックスの探索命令を伝えたのは土御門なので、彼に連絡するのが一番手っ取り早いだろう。

 が、ナンもどきの準備の片手間に携帯電話をかけてみたが、繋がらなかった。
 インデックスが学園都市に侵入した、という情報が上条まで伝わってこなかったところを見ると、土御門は土御門なりに忙しいのかもしれない。
 ……ただ単に、夏休み初日で義妹と一緒にはしゃぎまわっているだけ、という可能性も捨てきれないが。

「詳しくは言えないけど、学園都市とイギリス清教の両方にパイプを持ってるやつがいるから、そいつに連絡してみるつもりだ。
 まだ連絡が取れないから、少し待ってほしい」

「何時間くらいかかるのかな」

「最低でも半日、かな」

「じゃあそれまで街の中をぶらぶらしてくるね。
『敵』の魔術師も、人が多いところでいきなり襲うなんてリスクが高いことはしないだろうし」

 言いながら、インデックスが立ち上がった。
 だが、このまま彼女を一人にしていいのだろうか。

「いや、たぶんこの部屋の方が安心だから――」

 上条は、去ろうとするインデックスの腕を、修道服ごと、『右手』で掴んだ。

「あ」
「あ」

 一つだけ言い訳させてほしい。
 純然たる事故だった、と。

94 :第三章『一方通行な再会』 2 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:36:11.12 ID:IMaNIvVg0


 数秒後、『それ自体が魔術的な意味を持つ』という縫い目が全てほどけ、
 インデックスの修道服『歩く教会』はただの布地に戻り、
 彼女の足元へ力なくすとーんと落ちた。

 完全無欠に素っ裸な少女が一人、誕生した。

 きゃーー!? いやーー!! と悲鳴を上げて、ベッドの上のシーツをひきよせた後、
 インデックスは上条の頭にガブリとかじりついた。
 
 痛みの中、上条は必死に弁解する。

「いやでも信じてくれ俺は味方だ魔法名だってfelix1ゼ――!?」

 魔法名を最後まで名乗ることはできなかった。
 隣の部屋、一方通行側の壁が一瞬で吹き飛び、

「『風紀委員』だァァァァッ!! オマエ一体何しやがった、女にもてないのが悔しくて性犯罪に走りましたってかァ!?
 いいねェいいねェ最っ低だ。言い訳なら聞いてやる、三秒ですましやがれ!!」

 という咆哮が響き渡る。

 夏休み初日の朝だというのにバッチリ制服姿で、右腕の腕章を見せつけるようなポーズの一方通行は、かなりシュールだった。
 あと、この崩れた壁はどうするんだろうか。彼がベクトル操作でせっせと直すつもりなんだろうか。やっぱりシュールだ。
 しかしそれを笑う余裕は今の上条にはない。

 裸にシーツ一枚で悲鳴を上げる少女と、その少女に頭を丸かじりされている男子高校生。
 普通に考えれば、導き出される結論は明白だ。

 はたして、本当のことを言って信じてもらえるだろうか。いろんな意味で無理だろう。

「上条のお兄ちゃんのこと、信じてたのにって、ミサカはミサカは涙目になってみる……」
 という打ち止めの声を合図にするように、一方通行のアッパーカットが上条を天井へと叩きつけた。




95 :第三章『一方通行な再会』 3 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:40:42.14 ID:IMaNIvVg0



「この白いガキはオマエのロンドン時代のダチで、着ていた修道服の糸が不幸にも一度に全部ほどけた……か」

 我ながら苦しい言い訳だなぁ……と、上条は頭を掻く。

 何か言いたげなインデックスに『ここは俺に話を合せて!』ということを、
 早口の英国語で伝えたが、彼女はどこまで黙ってくれるだろう。

「ンで、この白いガキは昨日の停電の隙をついて侵入してきただけだから、警備員には通報するなってかァ?」
 インデックスと一方通行では彼の方が白いのだが、一方通行の中ではインデックスは『白いガキ』という扱いになるらしい。

 学園都市は外からの訪問者にかなり厳しい制限を設けているので、『正式に招いた』という嘘をついてもすぐにばれる。
 なので、そこだけは本当のことを伝えた。しかし、最初の方は完全に嘘だ。
 一方通行は赤い眼を上条に向け、冷たい声を放つ。


「信じると思うか?」
「……信じてほしいです」


 テーブルの上に正座させられた状態の上条がうなだれる。

 ちなみにその背後では、インデックスと打ち止めが安全ピンでせっせと修道服の修繕をしている。

「一応、この子の保護者の連絡先は知ってるんだけど、なんか連絡とれないんだよ。
 だから夕方くらいまで待って、もう一度連絡したいんだ……それまで、見逃してもらえないかな?」

 一方通行と打ち止めがすぐ側にいるこの状況で、土御門元春の名を出すのはよろしくないだろう。
 これだけの騒ぎになっても土御門がやってこないところをみると、彼は自室にいないようだし、時間が経つのを待つしかない。

 頼む、と両手を合わせた上条を見て、一方通行が舌打ちした。

「風紀委員ってなァ、学校内のもめ事を治めるコトが存在理由だ。
 さァて、上条くン。ここで問題だ。これは学校内のもめ事か? 違うよなァ。
 つゥわけで、これは俺の管轄外だ。かと言って、警備員のヤツらに連絡するのもめんどくせェ」

「一方通行……」

「それよりも、そろそろ出ねェと間にあわねェぞ。……月詠が、オマエの面倒をちゃんと見ろってうるせェンだよ」

 興味が失せた、と言わんばかりに、一方通行が自室の方へと戻る。

 ありがとな、と短く口の中で呟いてから、背後のインデックスへと声をかけた。

96 :第三章『一方通行な再会』 3 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:42:33.93 ID:IMaNIvVg0


「とりあえず、帰ってきたらもう一度イギリス側と連絡をとってみるよ。それまで、留守番頼めるかな」

 彼女の絶対的な防御を誇った『歩く教会』は壊れてしまった。
 襲われた時、どうしようもできないだろう。

「……分かった、待ってる」

 インデックスが素直にうなずいたのを確認してから、インデックスの横で作業を手伝う打ち止めに声をかける。

「打ち止め、もしかしたら俺、かなり遅い時間まで残されるかもしれない。
 昼すぎても帰ってこなかったら、昼食を分けてやってくれないか」

 一方通行の様子を見る限り、ぶっ壊した壁は後回しにするつもりらしい。
 とりあえず、半日はインデックスと打ち止めは同室になる。
 監視と言うと言い方が悪いが、学園都市について無知なインデックスを一人にするのは心もとない。
 へたにうろちょろさせるより、この部屋に置いておいた方が安心だ。

 本当なら土御門と連絡がつくまで、インデックスと一緒に居てやりたかったが、
 一方通行に彼女の存在がばれてしまった以上、補習をサボれば怪しまれる。
 ここは素直に学校に行くしかない。

「了解!って、ミサカはミサカは元気に返答してみる」

「あ、あの。ちょっといいかな?」

 ちょいちょいとインデックスが上条を手招きする。
 そして、耳元でそっと囁かれた。

 傍らの打ち止めに勘づかれないためか、それとも言いやすさを重視したのか、それは流暢な英国語だった。


「信じて、良いんだよね?」
「信じてくれ、としか言えない」


 上条も、英国語で短く応える。
 それから、日本語に切り替え直して、冗談混じりで告げた。

「なんだったら、俺もイギリスまでついていこうか?
 君をちゃんとしたところに送り返すまで、どこにでもついていく気ですよー、上条さんは!」



「……、じゃあ。わたしと一緒に地獄の底までついてきてくれる?」



 返された言葉は、意外なものだった。
 なぜかその言葉は、今までとは違い隔意が感じられた。

97 :第三章『一方通行な再会』 3 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:44:23.98 ID:IMaNIvVg0


「え……?」

 意外すぎて固まった上条に、インデックスは微笑みを向ける。

「冗談だよ。……いってらっしゃい、待ってるから」

 ひらりと手を振られ、上条はそれ以上何も言えない。
 上条、と一方通行に呼ばれ、ようやく我に帰る。

 学生鞄を持ちながら、もう一度インデックスに言う。

「いいか。ちゃんと、待ってるんだぞ!」

 扉を開けながら、上条の頭の中には嫌な想像が巡っていた。


『必要悪の教会』は多くの裏の顔を持っている。


 直接見たことはない。触れたこともない。
 だが、噂ならたくさん聞いている。

 一度、真実を知るために、最大教主に直接問うたことがある。
 あなたが知る必要はなけりよ、と、ローラ=スチュワートは笑った。

 インデックスの保護。一見すると真っ当に見えるこの任務の裏には、もしかして、
 ――なにか重大な意味があるのではないか?
 そしてそれは、裏の顔へとつながっているのではないか?

 処刑(ロンドン)搭で行われる、尋問という名の拷問。
 政治的な駆け引きのために、駒のように人が死ぬ世界。

 それらがぐるぐると脳内を巡るが、上条は頭を振ってその考えを追い出す。
 考えても仕方がない。

 土御門か、あるいは『必要悪の教会』の魔術師と直談判して、確認するしかない。
 嘘を吐かれても見抜けるかどうかの自信なんかない。
 それでも、何とかするしかない。

 だが、今は普通に振る舞わなければならない。
 上条は部屋の鍵を閉めると、エレベーターホールで律儀にエレベーターを待っている一方通行と肩を並べた。

 身長は同じだが、能力の影響で外部刺激が少ない一方通行は男性にしては細い。というか、本当に『男』かどうかも分からないくらいだ。
 その左頬がわずかに腫れているのを見て、上条は軽い仕草で頭を下げた。

「あー、悪いな、昨日は思い切りぶん殴っちまって」

「御坂は殺す。オマエも潰す」

「本人を前にして虐殺宣言!?」

「殺さねェよ。潰すだけだ。上条当子ちゃンにしてやる」

「上条さんのどこを潰す気なのかしらー!?」

「すでにノリノリじゃねェか。嬉しいねェ、リクエストに応えたくなっちまう」

「望んでません、そんなリクエストしてません!!」


 かつては『日常』だった魔術の世界は、気がつけば『非日常』の世界になっていた。
『日常』のやりとりを繰り広げながら、それでも上条の心は『非日常』に在った。

 大事にならなければいい。
 そんな上条の願いは、半日も経たずに打ち砕かれることになる。


 彼の幼馴染――ステイル=マグヌスとの再会によって。
98 :第三章『一方通行な再会』 4 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:47:15.69 ID:IMaNIvVg0


 風紀委員の活動の一環で、わざわざ夏休みに学校に来たのかと思いきや、
 一方通行も『能力開発』の補習を受けるらしい。

 学園都市最強の超能力者、一方通行が。


「『鈴科ちゃーん、頭良すぎるから補習でーす』……こンな馬鹿みてェな理由で呼びだされたンだよ」


「(……口では悪態つきつつも、律儀に補習に来るんだな……)」

「(これはアレやで、いわゆるツンデレってやつですなー)」

 なんだかんだ言いながらも、ちゃんと机の上にテキストと筆箱を並べている一方通行を見て、
 上条と青髪ピアスは小さな声で囁き合う。

「おいこらオマエらなにこそこそ話し合ってんだよ。そォだ美術の課題でなンか一個作品つくってこい、つゥのがあったな。
 オマエらちょっとその材料になれ。ギネスに載っちまうくれェの愉快なオブジェにしてやるよ」

 一方通行の手の中のシャープペンが、一瞬にして、くの字に折れた。
 ぐんにゃり曲がったシャープペンに自分達の未来を重ねて、上条と青髪ピアスはがたがた震える。

「そんなことされたら俺達が作品つくれなっちゃう!? 上条さんはせめて美術の成績は維持したいのです!」

「いやカミやん、ボクらも作品提出者として扱われてまう可能性も無きにしも非ずやでぇ!?」

 一見すると惨劇一歩手前だが、このクラスでは『よくあること』だ。

 クラスの三バカデルタフォースこと、上条・土御門・青髪ピアスの三人が、
 うっかり一方通行の地雷を踏みぬいて起こる騒動は、週にニ回の頻度で発生する。

 そのため、補習のために集ったクラスメイト達は、

「(上条がなんだかんだで鈴科を治めるのに昼食一回)」

「(いや、鈴科の言うとおり、おもしろいことになるのに賭けるな、俺は)」

「(それだったら私は、先生がやってきて強制中断に)」

 と、一体どんなオチがつくのか賭けあっている。
 普段は連帯感も何もないクラスのクセに、こんなときだけは一致する。

 一方通行は楽しげに、狂気に染まった笑顔で上条と青髪ピアスの肩に手を置いた。

99 :第三章『一方通行な再会』 4 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:49:24.38 ID:IMaNIvVg0


「普段は三人もバカがいるから手間がかかるが、今日は土御門がいねェから楽だな。
 さァて、まずは背骨を引っこ抜くか……!」

「つ、土御門! 土御門ー! くそうやっぱりアイツ義妹祭りか!?」

「やめておくんなはれ、脊椎動物としては最後まで背骨を死守したいんや!」

 口ではすさまじいことを言っているが、一方通行が実際に上条達を傷つけることはほとんどない。
 今回も、脅すだけ脅すと満足したらしく、興味なさげに二人から手を離した。

「(くそう、モーションを移す前に飽きたか。天井に持ち上げるくらいはするかと思ったのに)」

「(で、結局賭けはどうなっちゃうの?)」

「(確か、『先生が来る前に飽きる』というのに賭けたやつはいないはずだ)」

 せっかくの『賭け』が消化不良で終わってぶーたれるクラスメイト達を、一方通行は視線だけで黙らせた。
 教室がしん……と静まり返った瞬間、担任教師・月詠小萌の元気いっぱいの声が響いた。

「はいはーい。みなさんおはようございます。早速ですが、補習を始めますよー。
 今日の小テストで成績が悪かった人は『すけすけ見る見る』なので、頑張っちゃってください!
 あ、そうそう。うるさい人は『コロンブスの卵』を頑張ってもらうことになりますよ」

 先ほどの騒動は廊下まで届いていたのだろう。
 てきぱきとレジュメを配り始める担任教師をちらりと見た後、一方通行が再び上条の肩をつかんだ。


「じゃあ、さっきの続きを始めるとすっかァ!」


「え、なんで? ……は、そうか! お前は『すけすけ見る見る』より『コロンブスの卵』の方が得意だもんなぁ!
 ちくしょう、お前の能力卑怯すぎるだろ!」

「は、学園都市第一位の力なめンなよ、三下ァ!」

「いやその力をもっと有効に活用した方がいいと、上条さんは思うわけですけどねー!?」

 補習中にも関わらずぎゃーぎゃー騒ぐ生徒二人に、担任教師はにっこり笑顔で告げる。

「どっちにしろ、上条ちゃんと鈴科ちゃんはすけすけ見る見るですよー?
 あ、鈴科ちゃん。この前やった、『ベクトル操作をエコー状に利用して一枚一枚記憶する』のは今回は禁止です。
 あと、その前にやった『空気の流れからカードの形を判別する』のも禁止です」

「はァ? 能力を正当に使ってちゃンとやったじゃねェか。今から透視能力に目覚めろってかァ!?」

「それはインスピレーションで何とかしてください。
 鈴科ちゃんは学園都市第一位さんなんですから、それくらい努力で頑張ってくださいねー」

100 :第三章『一方通行な再会』 5 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:51:50.74 ID:IMaNIvVg0


 結局、二人仲良く最終下校時刻まで残された。


「五連勝まで、五連勝までは行けたんだ……!」
「能力使わずに『目隠しポーカー』しろって、どンな無茶ぶりだよォ……」

 疲れ切った表情で、ようやく夕暮れに染まりつつある街の中を歩いて、二人がたどり着いたのは学区内でも一番大きなデパートの前だった。

 インデックス――女の子の喜びそうなデザートを用意するために、御坂美琴と待ち合わせをしていたのだ。
 まさかこれほど遅くまで残されるとは思っていなかったので、美琴は少し不機嫌そうな表情だった。

「それにしても遅かったわねー。アンタはともかく、なんで一方通行まで残されてんのよ?」

「それは聞くな。俺にも分かンねえよ。月詠のヤツが、
『能力なしでも頑張れるようになりましょう!』なんて無茶言ってきやがるンだよ」

「でも、能力がなければあなたは貧弱モヤシだからねって、ミサカはミサカは端的に事実を――って痛い!
 頭をぐりぐりするのは禁止って、ミサカはミサカは文句を言ってみたり!」

「あれ……打ち止め、インデックスは?」

「ミサカは止めたんだけど出て言っちゃったって、
 ミサカはミサカは夜になったら戻ってくるねというインデックスお姉ちゃんの伝言を伝えてみたり」

 おそらく、万が一にでも打ち止めが巻き込まれるのを避けたのだろう。

 インデックスに会ってみたい、という美琴の意見を聞き入れ、デパートで手早く買い物を済ませた上条達は、のんびりと徒歩で帰路につく。

 最終下校時刻はとっくに過ぎているので、車道にバスの姿はないし、高架のモノレールは駅で止まったままだ。
 大学ではまだ夏休みは始まっていないようで、車道はしんと静まり返っていた。
 その代わり、歩道は夏休み初日ではしゃぐ学生達で埋められている。

 夕暮れ時にも関わらず、いまだに熱の残るアスファルトの歩道を踏みしめて、一時間くらいかけて、ようやく生活を送る学生寮が見えてきた。


 上条は、自分の持つ荷物にちらりと視線を落とす。

 奮発して買った、一切れ七〇〇円のケーキと、ちょっとお高めのローストビーフ。
 それに、タラとジャガイモを買ったから、フィッシュ&チップスが用意できる。
 インデックスは、喜んでくれるだろうか。

101 :第三章『一方通行な再会』 5 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:54:02.43 ID:IMaNIvVg0


 学生寮の入口まで、あと数歩というところで、

「……!」

 一方通行が急に立ち止った。すぐさまポケットから携帯電話を押すと、どこかにコールをかける。
 電話越しに、機械的なアナウンスが聞こえてくる。ボタンを操作しながら、一方通行は横の打ち止めに声をかけた。

「今日は黄泉川ンところに行け」

「え? どうしてってミサカはミサ――」

「理由は聞くな! 今タクシー呼んだから、それで黄泉川ン家に行け」

 困惑する打ち止めのポーチに何枚か紙幣を押し込むと、その背中を押して、

「大通りまで出ろ、いつも使ってる会社のタクシーだ。
 御坂、タクシーが来るまでコイツを見とけ。来たらこっちまで戻ってこい」
 と告げる。

 打ち止めと美琴は少し迷ってから、素直にそれに従った。

「おい、どうしたんだよ、一方通行」

 上条の問いに、一方通行は獰猛な笑みを浮かべる。

「俺はあらゆるベクトルを操作する能力を持っている。だから、感覚器官が普通の奴に比べて敏感なンだよ」

「何が言いた――」

 言いかけた上条の口が止まる。

 非常口――普段は物置と化しているそこの天井に、見慣れたものを見つけたからだ。
 ただし、見慣れていたのはこの街ではない。

 ロンドンで、だ。

 べたべたと張り付けられた白い紙。
 それらには、ルーンと思しき模様が描かれていた。


「血の匂いがすンだよ、オマエの部屋のあたりからなァ」


 最後通牒のような、一方通行の声が聞こえた。



102 :第三章『一方通行な再会』 6 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:56:18.26 ID:IMaNIvVg0


 エレベーターを使う暇すら惜しい上条と一方通行の二人は、一方通行の力を利用して、一瞬で七階まで飛び上がった。

 完全に能力によって守られた一方通行と違い、その保護を打ち消してしまう上条は、手すりに軽く体をうちつけながらも何とか廊下に身を落とす。

 そこで見たものは、


『何か』を必死になってこそぎ落とそうとしている三体の清掃ロボットと、
 血まみれになって床に伏せる、インデックスだった。


 インデックスから溢れる血を、『ゴミ』と判断しているのだろう。
 彼女にぶつかっていく清掃ロボット達を、一方通行の力を借りて向こうに追いやってから、
 上条はインデックスの状況を確認する。

 背中のあたりで真一文字に切られ、傷口を覗きこめば、白い背骨が血に染まっているのが見えた。

 一体、誰にやられた?
『必要悪の教会』の追手は、一体何をしていた?

 上条は思わず叫んでいた。

「何だよ、一体何なんだよこれは!?
 ふざけやがって、一体どこのどいつにやられたんだ、お前!!」


「うん? 僕達魔術師だけど?」


 声がして、振り返る。
 非常階段の方からゆっくりとやってきたのは、一人の男だった。


103 :第三章『一方通行な再会』 6 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:57:31.33 ID:IMaNIvVg0


 身長は二メートル前後。

 赤い長髪に、黒い服。

 目の下にはバーコード模様のタトゥー。全部の指にシルバーのリングをつけ、
 香水と煙草の匂いがぷんぷんと漂ってくる。

(あの服……イギリス清教の神父?)

 しかし、それ以上に何かが上条の中でひっかかっていた。
 身長に騙されそうになるが、顔の作り自体はまだ幼い。上条より一つか二つ程度下だろう。

 しかし、そこでもない。
 一番の問題は、その顔に見覚えがあることだった。


「すている……?」


「久しぶりだね、トウマ。そして初めまして、裏切り者野郎」

 吐き出された言葉は、心が壊れそうになるほど辛辣だった。

104 :第三章『一方通行な再会』 6 [sage saga]:2011/06/26(日) 15:59:13.90 ID:IMaNIvVg0


 上条はステイル=マグヌスという少年のことを思い返す。

 おとなしい少年だった。

 泣き虫で、いつも上条の後ろをついてきて、転んでは泣いて。
 土御門にからかわれて、それで泣いて神裂に慰められて、それを上条にからかわれてまた泣いて。
 そのクセ煙草が好きで、神裂に煙草を没収されては泣いていた。

 ただ、とても頭が良かった。

 上条の教える日本語をすぐに体得したり、上条にはさっぱり理解できないルーン文字を解読したり。

 自慢の弟分だった。かわいい弟分だった。

 二年と少し前、ステイルは『必要悪の教会』の重要任務につくため、神裂とともに上条の前から去っていった。
 その時もステイルは泣いて、神裂も泣いて、上条も泣いた。


 しかし、今のステイルはどうだろう。
 何のためらいもなく上条に殺気を向けてくるステイルは、一体何を思っているのだろう。

 この二年間に、一体何があったのだろう。


「確か、日本では戦う前に名乗りを上げるんだったね?
 僕はイギリス清教、『必要悪の教会』の魔術師ステイル=マグヌス」


 分からない。何も分からなかった。


「魔法名はFortis931――我が名が最強である理由をここに証明する」

 歌うように、ステイルの口から言葉がこぼれる。

「さあ名乗れ、上条当麻。それが僕のできる唯一の妥協だ」


 魔法名。
 元々は真名を伏せるのが目的であったそれは、転じて、魔術師としての自分の信念を指すものとなった。
 その魔法名を戦闘時に名乗る――その行為の意味はただ一つ。

 自分の覚悟を相手に見せつけることで、これが決闘であると相手に知らせること。

 本気で殺し合え、と。
 彼はそう言っているのだ。

105 :第三章『一方通行な再会』 6 [sage saga]:2011/06/26(日) 16:01:12.81 ID:IMaNIvVg0



「いや……だ」


 しかし、上条の口から出たのは否定だった。

「どうしてお前と戦わなくちゃいけないんだ!?」

 ステイルに駆け寄るために走り出した足は、数歩で揺らいだ。

 炎の鞭というべきか。足元のコンクリートを砕く、鋭い一撃だった。
 屈まなければ届かない場所――足元に向けて的確に繰り出された攻撃に、上条の体が揺らぐ。

 ステイルは知っている。幻想殺しの弱点を。
 どんな異能も打ち消すその力は、右手で触れなければ発動されないことを。

「君が『歩く教会』を破壊しなければ――こんなことにはならなかったんだ!
 そうでなければ、神裂の刃はこの子には届かなかったのに!!」

 ステイルが叫んだ。
 それが理由だと言わんばかりに。

「ちょっと待てよ、インデックスをこんなことにしたのは……神裂なのか!?」

 頭が、ついていかない。
 上条の処理能力を超えた出来事が、矢継ぎ早に起きる。

 それを無視して、ステイルが詠唱を始める。

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ。
 それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。
 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。
 その名は炎、その役は剣。――顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ」

 詠唱に合せるようにして生まれたのは、
 どろりとしたコールタールが寄せ集まったような、それでいて、絶えず燃え続ける、ひどく歪な人形。
 数メートル離れた上条からも分かるくらいの熱を持った、魔術によって生み出されたステイルの僕。

「『魔女狩りの王(イノケンティウス)』……その意味は、必ず殺す。
 君を殺して、その子を回収する」

 ゆらりと『魔女狩りの王』の腕が動き、上条の足元を殴りつける。

「――!」

 寸前、何とかバックステップで避けたが、余波でバッシュとズボンのすそが焦げた。
 飛んできたコンクリートの破片が脛や腹に当たり、上条の息がつまる。

 思わずその場に屈みこんだ上条を見ても、ステイルは顔色一つ変えなかった。


106 :第三章『一方通行な再会』 6 [sage saga]:2011/06/26(日) 16:04:02.30 ID:IMaNIvVg0


「安心すると良い。三〇〇〇℃の炎に焼かれたら、骨すら残さずに死ねるからね。
 ……一瞬も、苦しむ必要はない」


 再び、『魔女狩りの王』が拳を上げる。右手で受けとめようとするが、それを避けるように『魔女狩りの王』の腕は形を変えた。
 途方もない熱波が上条を襲い――そして、後ろへと引っ張られる感覚とともに、熱が消える。

 気がつけば、上条はインデックスのすぐ側まで吹き飛ばされ、
 代わりに、一方通行が『魔女狩りの王』の拳を受け止めていた。

 反射しているはずなのに、反射されずにぎりぎりと拮抗し合う状態に、一方通行は楽しそうに笑った。


「反射が効かねェ、か。――面白ェ……。


 なンなンだよ、オマエはさァ!」


 通常の一方通行であれば、『魔女狩りの王』をふっ切って、ステイルに直接攻撃を与えていただろう。
 だが、状況があまりにも悪い。

 学生寮の狭い廊下で、背後には大怪我を負ったインデックスと、保護するために振るった力すら無効化する上条。

 一方通行は、『魔女狩りの王』が二人を襲わないよう戦うしかない。
 結果的に、ステイルの盾となった『魔女狩りの王』と拮抗するしかない。

『魔女狩りの王』は、一方通行に殴って吹き飛ばされては再生し、また殴り飛ばされる。
 そのたびに、ステイルが一歩ずつ下がっていく。
 少しずつ階を移動しても、ステイルは最終的には完全に追い詰められるだろう。

 一見すると一方通行が有利に見えるが、一方通行の勝利条件は、ステイルを倒すことではなく、
 上条とインデックスを速やかに安全な場所へと移すことだ。

 インデックスの傷は、どうみても早く処置をとらなければ死んでしまうレベルの傷だ。


107 :第三章『一方通行な再会』 6 [sage saga]:2011/06/26(日) 16:05:32.72 ID:IMaNIvVg0


「……くそ、早くルーンをつぶさないと!」

 ルーン文字について、上条はよく知らない。
 上条が触ったら壊れてしまうので、あまり近づかないでほしいとまで言われていた。

 だから、知っていることはただ一つ。


 ルーンを使った魔術の威力は、その刻んだ規模――紙に刻んだ場合は枚数に依存すること。


『魔女狩りの王』とやらは、どう見ても大規模な魔術だ。
 非常口で見かけた大量のルーン――たぶん、あれが媒体となっているはずで、あれをつぶせば良い。

 だが、一枚二枚つぶしたところでどうしようもない。

 確認しなかっただけで、この寮のあちらこちらに貼られているのだろう。
 一階からつぶしていったところで、すぐさま補充されるに決まっている。

 あの大量のルーンをどうするか。

 頭を抱えた上条に、

「ルーンについて、詳しく知りたい事はありますか?」

 静かな女性の声が、浴びせかけられた。

 最初、それが誰のものか上条は分からなかった。
 だが、この場において、こんな声を出せる人間は一人しかいない。

 上条は、傍らの少女に視線を落とした。

「お前、インデックスか……?」


「はい。私はイギリス清教内、第零聖堂区『必要悪の教会』所属の魔道書図書館です。
 正式名称はIndex-Librorum-Prohibitorumですが、呼び名は略称の禁書目録(インデックス)で結構です」


 人間らしさを徹底的に排除した、感情のまったく存在しない声だった。

 背中をばっさりと切られて、痛くないはずがない。
 仮に痛覚が麻痺しているのだとしても、ここまで冷静になれるだろうか。
 自分の死を間近に感じながら、ここまで淡々と言葉を紡げるだろうか。


108 :第三章『一方通行な再会』 6 [sage saga]:2011/06/26(日) 16:07:43.38 ID:IMaNIvVg0


 魔道書図書館――。
 上条はただ単に、大量の魔術知識を貯蔵している人間を揶揄して、そう呼んでいるのだと思っていた。

 だが、違う。

 彼女は人間ではない。彼女は、生きた図書館なのだ。
 背筋がぞくりとする。

 上条は、幼い頃から、魔術的な修羅場をいくつもくぐりぬけてきた。
『悪い魔術師』によって非人道的な扱いを受けた人間を見た回数など、数えるのが馬鹿らしいくらいだ。

 そんな上条ですら、怖気の走る存在。

 非人道的な扱いを受ける人間は、『人間』扱いされているからこそ、非人道的な扱いを受ける。
 だが、彼女は違う。『人間』で在ること自体を否定されているのだ。

 上条の無言を肯定と受け取ったのか、インデックスがルーンの説明を始める。
 しかし、上条の耳には届いていなかった。


 何を信じればいいのか、分からない。


 ステイルがインデックスを回収しようとしているのは、上条と同じ、保護の命令を受けているからだろう。
 だとすれば、状況はひどくシンプルだ。
 上条は今すぐステイルとの戦闘を止め、インデックスをステイルに託すべきなのだ。

 しかし、その後、インデックスはどうなる?

 なんの躊躇いもなく上条に攻撃をしてきたステイルは、かつての優しい少年ではないだろう。
 もしステイルが、インデックスの人としてすら扱われない状況を了解したうえで、回収しようとしているのなら、
 一体、自分は何を信じればいい?

 上条は、インデックスという少女のことを、ほんの数十分の会話分くらいしか知らない。
 そんな上条でも分かるくらい、インデックスは普通の少女だ。

 インデックスは、普通にお腹をすかせて、普通に笑って、普通に怯える、普通の女の子だ。

 そんな女の子を道具にする――『必要悪の教会』は、上条が思っていた以上に深い闇を抱えていた。


109 :第三章『一方通行な再会』 6 [sage saga]:2011/06/26(日) 16:09:32.14 ID:IMaNIvVg0


 これまでは、『悪い魔術師』を倒すという大義名分の下に信じてこれた。
 だが、これからは?
 インデックスという少女との出会いによって、上条の価値観は半日足らずで大きく変貌を遂げてしまった。


『必要悪の教会』は、普通の少女を道具として利用する、『悪い魔術師』達の巣窟だった。


 上条が今まで信じてきたものは、一体なんだったんだろうか。

 上条は、のろのろとした動きで携帯電話を取り出した。
 ストラップ代わりに揺れる『聖ジョージの十字架』を虚ろな目で見つめながら、自分でも何を考えているか分からないまま、
 ――御坂美琴に電話をかけていた。

 電話はすぐにつながった。

「美琴、もし帰ってきてるんなら、寮のスプリンクラーを作動させてくれ。……早く」

 上条は、やはり自分でも何を考えているか分からないまま、適当に思いついたアイディアを口に出す。

 そうでもしなければ、自分を保てそうになかった。

 数秒後、ざぁ、という音ともに、スプリンクラーが作動し始める。

 この程度の水で、『魔女狩りの王』なんて大仰な名前のついた炎の塊を打ち消せるとは思わない。
 だが、ちらりと見えたルーンの紙は、防水加工も何もされていない、ただのコピー用紙に見えた。

 上条の読みは当たったのか、『魔女狩りの王』はもがき苦しむように縮んでいく。

「イノケンティウス!?」

 ステイルが何か叫んでいる。
 上条は、つまらないテレビ番組を見ているような気分だった。

「いのけん、てぃうす……?」

 なにやら驚いている幼馴染が、初めて会う人間のように見えた。
 まるでモニター越しに見ているようで、現実感が消失する。

110 :第三章『一方通行な再会』 6 [sage saga]:2011/06/26(日) 16:11:07.29 ID:IMaNIvVg0


『魔女狩りの王』という盾が消失したため、ステイルは無防備になる。
 それまで『魔女狩りの王』と力比べをしていた一方通行が、にやりと笑った。

「魔術師だか手品師だかしらねェけどよォ……まァ、あれだ。泥でもすすってろ、モヤシ野郎ォ!!」

 手すりに飛び乗った一方通行の右手が、ステイルの頭を掴むと、その体を持ち上げた。

 そして、ベクトル操作で強化された膂力を持って、そのままステイルの体を振り回す。
 ブン、とステイルの体が一方通行を起点とするように一回転して、壁へと打ちつけられた。
 一連の流れで発生したエネルギーのベクトルを操作して、一方通行はその全てをステイルの体へと叩きこむ。

「が、ぐがあぁ!!」

 どこかの骨が折れたのか、ステイルの体からごきりという嫌な音がした。
 床に這いつくばったステイルを、一方通行は何も言わずに蹴る。
 再び壁に打ちつけられたステイルは、悲鳴を上げる余裕すらないのか、ただ呻くだけだった。

 これだけのことをされても気絶しないのは、ステイルが頑強だからではない。
 一方通行が、わざと加減をしているからだ。

 のろのろと上げられたステイルの頭を、一方通行は踏みつけた。

「状況はよく分かンねェが、お前は俺達を殺そうとした『悪人』なんだよなァ?
 なンだよ、もっと抵抗してみろよ。……聞いてんのか、あァ!?」

 言いながら、腹や腿や顔に蹴りを入れる。そのたびにステイルの顔が苦痛を浮かべる。
 それとは真逆に、一方通行の表情が段々と愉悦に変わっていく。

「止め……ろ」

 スプリンクラーの雨の中、かろうじてインデックスの傷口をかばう上条には、小さく呟くことしかできなかった。
 しかし、その声は一方通行に届いたようだ。

 ステイルへの暴力を止めた一方通行は、不快そうに上条を見た。

「あァ? コイツは俺達を殺そうとした。その白いガキも、コイツのせいなんだろ?」

 そんなクソヤロウに対して何を遠慮することがあるのか、と。一方通行が言外に問いかけてくる。

「止めてくれ……そいつだって、きっと何か理由があるんだよ」

 もしかして、ステイルも自分と同じかもしれない。
 何も知らされないまま、騙されているだけかもしれない。


「オマエは理由があったら人を殺すのか。
 だとしたらオマエは、俺と同じくらい救いようのねェクズヤロウだ」


 上条のささやかな希望は、一方通行の言葉で簡単にぶち殺された。
 うなだれる上条の耳に、消防車のサイレンの音が届く。

 早くこの場から離れなければならないのは分かっているのに、上条は立ち上がることができなかった。


111 :行間三 [sage saga]:2011/06/26(日) 16:12:36.33 ID:IMaNIvVg0


 もう、何人殺したか分からない。
 足元に転がった死体たちを見る。
 顔はマスクやゴーグルで覆われているが、外せば、見慣れた少女の顔が出てくるのだろう。

(これも実験の一環だったりしてなァ)

 殺したくなかった。
 だから、抗った。
 だが、現実はそこまで優しくなかった。

 元々一方通行に対する強制力などなかったはずの『実験』は、
 一方通行が拒んだことによって、逆に強制力を持ってしまった。

 とりあえず、五〇〇人くらいまではどうやって殺したか覚えている。
 それ以降は憶えていない。
 殺しているのが暗部の人間なのか、『妹達』かすら分からない。
 だが、そのほとんどは『妹達』だろう。

 彼女たちを殺したくなくて始めた戦いなのに、気がつけば、彼女達の死体が山を築いている。

 唯一の救いは、御坂美琴が生きていることだろう。
 無謀にも第二位に戦いを挑んだ彼女は、かろうじて生き残り、今は病院のベッドに縫いとめられている。

 ここ半月以上、まともに食事をとっていない。
 ここ半月以上、まともに睡眠をとっていない。
 すでに狂った心と体は、それでも『敵』を殺し続ける。

 どれだけ移動しても移動しても、呆気なく見つかり、襲撃を受ける。

 そんな中でようやく掴んだ情報を、一方通行は頭の中で反芻する

『最終信号(ラストオーダー)』と呼ばれる、上位個体がいること。
 その上位個体が、定期的に、かつランダムに下位個体に『自壊プログラム』を送ること。
『自壊プログラム』を受け取った個体は、一方通行に挑んで負けるか、一時間以内に彼を見つけられなければ、自殺すること。

 つまり、『自壊プログラム』を受信した時点で、その個体は死亡確定というわけだ。
 そして、上位個体は『一体』だけ。
 一度『壊して』しまえば、『造り直す』のにしばらく時間がかかるだろう。

 だったら。

「ラストオーダーを殺せば、とりあえずは終わるってことかァ?」

 死体の山の頂で、少年は笑う。
 死ねないまま壊れてしまった少年は、狂った声で、笑い続ける。


112 : [sage saga]:2011/06/26(日) 16:14:15.92 ID:IMaNIvVg0

 ステイル戦より日常パートの方が長い?
 しょうがないよ、上条くんも鈴科くンもチートキャラだもん。
『吸血殺しの紅十字』をだせなかったのが残念です。

 戦闘パートはサクサク進むよー。というか書けないよー。
 長い話になると読みづらい文体になるという悪癖が出てきてるよとうまー。
 無事に最後まで終わらせられるか心配になってきたよとうまー。
 戦闘がイージーモードだから精神面をハードモードにしたらまったくほのぼのストーリーじゃなくなっちゃったよとうまー。

 次もやっぱり三日後かそれくらいです。

113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/27(月) 00:58:23.22 ID:b3bYwZ9K0
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/27(月) 10:57:48.79 ID:fYaga5RIo

続き楽しみに待ってるぞ
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/06/27(月) 21:06:08.24 ID:nGTM/rOFo

ステイルは強いんだけどなぁ……再構成とかだともうかませ臭しかしないのが悲しいね
仕方無いね
116 :第四章『名が示す理由』 1 [sage saga]:2011/06/29(水) 13:59:01.35 ID:Ef54cJmD0


 上条当麻がまだ八歳の頃の話だ。

 屋根から降りられなくなった猫を助けようとしただけだっったのに、
 なぜか、巨大な魔術結社一つを敵に回す羽目になってしまったことがある。

 孤立無援。

 どれだけあがいたところで八歳の少年では、魔術だよりの貧弱魔術師一人倒すことすらできない。
 すぐさま追い詰められ、上条は数十人の魔術師に囲まれた。

 その時、『必要悪の教会』は別の魔術結社との戦いに集中していて、上条を助けるだけの余裕がなかったのだ。

 幼い上条は、本気で死を覚悟した。
 だから、今まで生きてこれたのが幸せだと思うことにした。
 屋根から降りられなくなった猫を助けられたから、それで満足していた。
 そんな幻想を抱くことで、幼い上条は笑いながら殺されることを選んだ。

 ――しかし、一人の男が、そんな幻想をぶち殺した。

 結局、最後まで名前を知ることはなかった。
 分かっていることは、聖人にして傭兵であり、傭兵にして聖人であること。

 魔術も何もなく、その振るうメイスだけで魔術師たちをなぎ払った男は、上条に優しく微笑みかけた。
 上条が負ったわずかな傷すら心配しておきながら、彼自身は謝礼すら求めない。

 こんな人になりたい、と思った。

 気がつけば騒乱の真ん中においておかれることの多い上条は、その事件を境に、度々男に会うようになった。
 上条が彼のことを『先生』と呼ぶようになるのに、そこまで時間はかからなかった。

「私は何一つとして立派なことを教えることはできない」

「私は君が思うような高潔な人間ではない。『傭兵の流儀(ハンドイズダーティ)』を振るう、ただの野蛮な傭兵である」

「君は面白い右手を持っている。だが、それだけだけである。
 武器や単純な腕力で追ってくる人間には手の足も出ないだろう」

『先生』と言っても、彼が言葉で教えたのは、武骨な『傭兵の流儀』の一端だけだ。
 その戦い方すら、真似できない領域に生きる男なのだ。
 ただ、その存在が、様々なことを教えてくれた。

 何も言わずに消えた今でも、忘れられない。
 どうして助けてくれたのかと尋ねた時に、いつの間にか泣きじゃくっていた上条を慰めてくれた彼の言葉が。

「我が魔法名は――『その涙の理由を変える者』であるからな」

 そんな人になりたいと思った。
 今まで漠然と『困っているから助ける』ということを繰り返していただけの上条は、
 悲しいことや辛いことや苦しいことを、嬉しいことに変えられる人になりたいと願った。

 そして感謝した。
『先生』に巡り合わせてくれた幸運に。
 たとえその幸運が、不幸の果てに待っていたものだとしても、彼はその『幸運』に感謝した。

 だからこそ、上条が己が魂に刻みつけた魔法名は――


117 :第四章『名が示す理由』 2 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:00:35.91 ID:Ef54cJmD0


 消防車が寮に到達する前になんとか抜け出し(ステイルは神裂が回収するだろう)、
 上条と一方通行と、血まみれのインデックスと、状況が良く分かっていない美琴の四人は、薄暗い路地裏にいた。

 梅雨はすでに明けているとはいえ、夏の夕暮れ時はじっとりとからみついてくるように暑い。

 両サイドのビルの庇が幾重にも重なり合うせいでまともに空の見えない狭いこの路地は、
 逆を言えば、監視衛星から逃れられる、数少ない場所だ。

 血の匂いが不思議となじむ地面にインデックスを横たわらせるのには抵抗があったが、
 背負ったままでは応急処置すらままならない。
 ゴミ箱に捨てられていたブルーシートの表面を丹念に払うと、上条はインデックスをその上に寝かせた。

 血と肉どころか、黄色い脂肪や血染めの骨まで見える状態に、さすがの美琴も顔を歪めた。

「ちょっと、救急車呼ばなくて、大丈夫なの?」

 美琴は、インデックスが不法侵入者だと知っている。
 それでも、このまま死なせるよりは、捕まって治療される方がいいと思ったのだろう。

「今から呼び出して何分かかる? その前に死ぬのがオチだ」

 一方通行はそんな美琴を無視して、インデックスの傷に触れる。

「う……!」

 インデックスが短い悲鳴を上げた。

「インデックス!」

 上条は、インデックスの手を思わず握りしめていた。
 もう力などないはずなのに、インデックスは強い力で握り返してくる。
 それが、彼女の痛みを如実に表している。

 思わず睨みつけた上条を見て、一方通行は苦笑した。
 それと同時に、インデックスの手の力が和らいだ。

 浅く早かった呼吸が少しだがましになり、傷口からはもう新しい血は湧いてこない。

「血管の破れた箇所に、疑似的なバイパスを作った。それに、生体電気をいじって自然治癒力を少しだけ上げた。
 ……それだけだ、早く病院に連れていかねェと死ぬぞ」

「じゃあ、救急車を呼べばいいじゃない!」

「この路地からだと、冥土返しが詰めてる病院には搬送されねェンだよ。
 それ以前に、侵入者として外部の病院まで送られちまう可能性が高ェ。
 ……衝撃を加えねェように走ったら、なンとかできるだろ」

 一方通行は、うつぶせのままのインデックスを抱えた。

 確かに一方通行なら、車よりも速くこの少女を病院へと送ることができるだろう。
 だが、それは非常に目立つのではないだろうか。

 意を決したように、美琴は言う。


「魔術……だっけ? それは無理なの?」


118 :第四章『名が示す理由』 2 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:02:27.63 ID:Ef54cJmD0


 この路地に飛び込むまでに、一方通行と美琴には魔術師と魔術の存在、
 ――そしてインデックスが魔道書図書館と呼ばれ、魔術師から狙われていることを説明した。

 学生寮の入口から見えた『魔女狩りの王』とそのルーン。
 そして、ルーンとともに消失した『魔女狩りの王』を見ていた美琴は、
『科学的に説明できないオカルト』の力の存在は信じたらしく、すがるように上条とインデックスを見た。

 一方通行に抱えられたままのインデックスはゆっくりと首を横に振った。

「無理……だよ。ここまで……体力が……減ったら、魔術は、使えない。
 それに、元々、私は……魔力を生成……できないし……」

「そうじゃなくて、私達には使えないの?」

「それは……」

 荒い呼吸をつきながら、それでも言葉を紡ごうとするインデックスを止め、上条は彼女の言葉を引き継ぐ。

「能力者に魔術は使えない。そんなことしたら、体が内側から爆発して、最悪死んじまう」

「『最悪』死ぬンだろ? だったら面白ェロシアン・ルーレットじゃねェか」

「だめだ!」

 上条は思わず叫んでいた。
 能力者となった土御門が魔術を使うたびに、途方もない激痛に襲われていることを、上条は知っている。

 そんな魔術サイドの『痛み』を、科学サイドの彼らには味あわせたくない。

「それに……」

 上条は言い澱む。少し迷ってから、意を決したように口を開いた。

「お前らは頭がいいから、たぶん、魔術を使ったらそれを理解しちまう。それじゃ駄目なんだ。
 科学サイドの最高傑作であるお前らに、魔術サイドの知識が流れたら、十中八九、どこからかいちゃもんをつけられる。
 そうなったら、魔術サイドと科学サイドで戦争が起こる可能性があるんだ。
 それだと意味がねーんだよ。インデックスを助けられても、戦争になったら意味がないんだ!」

 たぶん、一方通行と美琴には、上条の言っていることの意味は分からない。
 それを承知で、上条は叫んだ。

 魔術サイドと科学サイド戦争が始まれば、『魔道書図書館』である彼女はそれこそ兵器のように扱われるのだろう。
 最悪、一方通行と美琴が科学サイドの『兵器』として投入されるかもしれない。
 そうなったとき、心に深い傷を負うのは、インデックスや、一方通行たちだ。

 しかし、一方通行達はそんな上条の事情など知らない。
 一方通行と美琴には、上条が『ともだち』を見捨てようとしている冷たい人間に見えるだろう。

「科学サイドだか魔術サイドだか……そンなンはわかんねェが、
 つまり、オマエはこの白いガキを見捨てるンだな?」

 吐き捨てるような言葉には、今までにはなかった悪意が感じられた。
 先ほどステイルと再会した時の感覚を思い出し、上条は思わず言葉を詰まらせる。


119 :第四章『名が示す理由』 2 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:04:57.02 ID:Ef54cJmD0


「オマエは、どっちの人間だ?」
「俺……は」

 上条当麻は『学園都市』の人間であり、『必要悪の教会』の人間だ。

 なぜなら、その両方に、大切な人たちがいるから。

『学園都市』には、一方通行や青髪ピアス、吹寄というクラスメイト達や、何かにつけて世話を焼いてくれる担任に、
 御坂美琴や打ち止め、あるいは白井黒子と言った知り合いがいる。

『必要悪の教会』には、ステイル=マグヌスや神裂火織という幼馴染達、
 かつて戦ったこともあるシェリー=クロムウェルやオリアナ=トムソンと言った友人達がいる。

 そのどちらかを切り捨てることなどできない。

 上条のはっきりしない態度に焦れたのか、一方通行が路地の入口へと歩き出した。

「……いつもの病院だ。来るなら来い」

 そう言った瞬間、彼の体がふっと消えた。ビルの屋上の方へと飛び上がったのだろう。
 何かを踏みしめるようなガン、ダン、という音が聞こえ、やがて遠くなっていく。

 選択を、迫られているのかもしれない。
『学園都市』の無能力者として生きるか、『必要悪の教会』の魔術師として生きるか。

 こんな時、同じ状態にある土御門なら、どんな答えを出すだろう。
 考えようとしたが、その答えは一瞬で出た。
 義妹である舞夏が一番安全に生きれる方を選ぶ。
 それが土御門の生き方だ。

「開き直れたら、少しはましだったのかもな」

 だが、上条には無理だ。
 そこまでして、どうしても『一番守りたいもの』などない。
 全て等しく、『一番守りたいもの』なのだから。

 正しいと思える方を選ぼうにも、
『学園都市』が大きな闇を抱えていることを知っているし、
『必要悪の教会』が大きな闇を抱えていることも知っている。

 どちらも選ばないのではなく、選べない、宙ぶらりんな中途半端な存在。
 今の上条は、能力者でも、魔術師でもない。
 ただの、きれいごとばかり並べる『偽善使い(フォックスワード)』だ。

 上条は、口の中だけで小さく名乗る。
 自分の魔法名――魂に刻んだ名前を。
 今の自分は、それを大声で名乗るに足る人間だろうか。

「ちくしょう……」

 傍らに立つ美琴の存在を忘れて、上条は慟哭する。

「――ちくしょう!」


120 :第四章『名が示す理由』 3 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:07:05.09 ID:Ef54cJmD0


 見慣れぬ天井――というのは、ここ数年、一所に留まることの少なかったステイルにとって特に珍しいことではない。
 だが、ステイルはいつもの修道服ではなく、簡素な白い服を着せられていた。
 それが病院の入院服だと理解した途端、自分を散々いたぶった白い少年の姿を思い出し、

「くそ……」

 全身をくまなく包む痛みに顔をしかめながら、ステイルは両手をついてゆっくりとベッドから起き上がる。
 それとほとんど同時に、一人の少年が入ってきた。

 金色の髪をツンツンと立て、青いサングラスをかけた、アロハシャツ姿の見るからに軽薄そうな少年。
 初めて見るはずなのに、なぜか見覚えがある気がして、ステイルはぼんやりとした意識のまま呼びかけていた。


「……モトハル?」
「よう、ステイル。久しぶりだにゃー。オレよりでっかくなりやがって」


 土御門元春。上条当麻ほどではないが、それなりに長い付き合いの幼馴染の一人だ。
 電話越しでは何度も話をしているが、こうして直接会うのは、三年振りだろうか。
 再会の余韻を楽しむこともせず、ステイルは短く訊ねる。

「ここはどこだ?」

 ステイルのそんな態度を最初から予期していたらしく、土御門は軽く肩をすくめた。

「学園都市内の病院だ。本当は、もっと腕のたつ医者のいる病院まで連れて行きたかったんだが、
 そっちはインデックスたちに先をこされた。と、いうわけで普通の病院で我慢してくれ」

 普通の病院、といっても、学園都市の病院だ。
 街の外の病院に比べれば、格段に施設は整っているだろう。

「インデックスの状態は?」

「まあ、そこは問題ない。学園都市でもトップの腕の医者が執刀したんだからにゃー。
 それよりも、ついてたと思うぜい? あの一方通行に本気で牙をむいて、無事生き残れたんだ」

121 :第四章『名が示す理由』 3 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:08:49.12 ID:Ef54cJmD0

 一方通行というのは、ステイルを打ちのめしたあの白い少年のことだろう。

 ただの一学生にあそこまでの力があるとは思っていなかった。

 ステイルの切り札とも言うべき『魔女狩りの王』を受け止め、愉しそうに笑っていた姿を思い出す。
 まさか、学園都市にはあれだけの能力者――化物がごろごろといるのだろうか。


「ああ、安心しろ。あれはここでも格別のイレギュラーだ」


 ステイルの心を読んだかのように、土御門は告げる。

「年長者――というか、キャリアが長い人間の話をちゃんと聞くのが生き残る秘訣だぜい。
 ……学園都市第一位と第三位がトウマの側にいると伝えたつもりだったんだがな。忘れたのか?
 お前が相対したのは学園都市第一位、『一方通行』。学園都市最強の超能力者だ」

「学園都市をよく知らない僕に、第一位とか言われても困るよ。
……まさか、『魔女狩りの王』がまったく効かないとはね」

「一方通行は、核爆弾の直撃を受けても傷一つ負わない、ってのが売り文句だからにゃー。
 いくら魔術の炎とはいえ、たかだか三〇〇〇℃の炎で死ぬほどやわじゃない。
 正直、トウマが止めなかったらお前は殺されてるか、一生再起不能にされてたよ」

「なぜそんな凶暴な人間が、トウマみたいな普通の人間の声を聞く?」

 上条には幻想殺しという力が宿っている。その力を使えば、一方通行を倒すこともできるだろう。
 だが、薄れゆく意識のなかで見た限り、上条は暴力で一方通行を従わせているようではなかった。

 土御門は再び肩をすくめると、楽しそうに言う。

「一方通行はとんでもなく不安定な存在なんだよ。
 詳しい説明をしてもわからんだろうから省くが、今の一方通行は、
 保護対象・後見人・クラスメイトという三つの柱をもって、表側の世界にしがみついているような状態でな。
 そのうちの一つの核が『壊され』かけたんだ。ぶち切れてお前を殺そうとしてもおかしくない。
『保護対象』が傍にいなくて幸いだったな。もしいたらお前は今頃ミンチだ」

「まったく……相変わらずというかなんというか、厄介な人間を味方につけるのが得意のようだ」

 ステイルは思わずため息をついていた。そのため息は、上条へと向けられている。

 上条は、昔からそうだ。
 周囲から恐れられている人間にも、困っているのなら、笑顔で手を差し伸べる。
 独善的で、そのくせ無償な彼の行動は、どこまでも先が読めない。

122 :第四章『名が示す理由』 3 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:10:59.79 ID:Ef54cJmD0

「モトハル。……まさか、一方通行を味方側に引き入れるために、トウマと彼を同じクラスにしたのか?」

「学園都市側から一方通行の監視をしろって言われてるんだよ。
 トウマのサポートもしようと思ったら、オレとトウマと一方通行が同じ学校の方が色々都合よかったんだ。
 トウマと一方通行が『おともだち』になったのは少し意外だったが、トウマの性格を考えたら当たり前かもにゃー」

 飄々とした態度で言ってのける土御門は、一体今どんな思いでここにいるのだろうか。

 土御門にとっては、上条もステイルも等しく『幼馴染』だ。
 上条を助けるためにステイルを攻撃することはないだろうが、上条を倒すための援護に加わるとは思えない。

 ステイルは軽く病室を見渡してから、サイドボードの上の書き置きに気付いた。
『ゆっくり養生してください』と、達筆な日本語で書かれている。

「カオリは、どこにいるんだ」

「監視だ。もし警備員にインデックスが連行されたりしたら、それを横からかっさらうのが目的だろうな。
 カオリの性格を考えたら病院を直接襲撃しようなんて考えもしないだろうし。
 ただ、インデックスの担当医を知ってる俺から言わせてもらえば、彼がインデックスを治安組織に連行するとは考えられない。
 動きがあるまでは、膠着状態になるだろうさ。そうだな、一週間以上はこのままだろう」


「なら、一週間後に病院に乗り込めば、全て解決するってことかな?」


 頷きながら、土御門がサングラスを軽く押し上げた。

「そういうことだ。それまではひたすらに監視だな。楽と言えば楽じゃないかにゃー。
 ……で、ステイル。なんでお前はそんなボロボロの状態で立ち上がろうとしてるんだ?」

 あちこちに包帯をまいた姿のまま、ステイルは窓際にかけられた修道服に手を伸ばす。


「決着をつける」


 ステイルの言葉を、土御門は一笑にふす。

「それは無理だ。上条当麻という盾があったから、一方通行はお前を殺さなかった。
 その盾がなくなれば、一方通行は悦んで殺しにかかるぞ?」

 そんな土御門を見て、ステイルが皮肉気に口角を上げた。

「勘違いするなよ、モトハル。僕が決着をつけなければいけないのは、トウマの方だ」

「ほうほう。で、土御門さんが手伝えることはなにかあるかにゃー?」

「まずはルーンの防水加工だが……どうした急に協力的になって。正直キモチワルイぞ」

 インデックス回収関連はともかく、完全に個人的な戦い――しかも上条との戦いに
 協力などしてもらえるとは思っていなったステイルは、毒気を抜かれて思わず呟く。

「兄弟同士の殴り合いも、一生に一度は必要だしにゃー」

「殴り合いで済ませる気はない」

 軽い調子の土御門を見て、ステイルは本気で是正を求める。
 修道服の内ポケットに入れていたルーンの紙を土御門に投げつけながら、ステイルは問いかけた。


「それともう一つ。君には、僕とトウマが兄弟に見えるのかい」


123 :第四章『名が示す理由』 4 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:12:11.60 ID:Ef54cJmD0


「ごめんね。わたしが、勝手に外に出ちゃったから……」
 というのが、目覚めたインデックスの第一声だった。

 被害者のはずなのに、まるで加害者のように悲しげな表情を浮かべたインデックスに、上条はゆっくりと応える。

「気にすんな。部屋の外に出ても出なくても、たぶんお前は襲撃を受けてた」

「どういうこと?」

 まだ麻酔が残っているのだろう。ぼんやりとした口調で、それでもインデックスの顔は不安そうに揺らぐ。

「あいつらは、『必要悪の教会』の教会の人間だ。
 お前を切りつけたのは、『歩く教会』が有効だと信じてたからで――
 だから、お前がこんな風になっちまったのは、全部俺のせいだ」

 上条は素直に告白する。
 ステイルと神裂の二人を悪者にしたまま、自分のしたことを棚上げにしたくなかった。

「ええと……」

 インデックスが、何か言い淀む。それから、意を決したように口を開いた。


「……まだ、あなたの名前を聞いてなかったね」


 意表を突かれて、それから上条は苦笑いを浮かべる。

「当麻だ。上条、当麻」

124 :第四章『名が示す理由』 4 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:13:50.27 ID:Ef54cJmD0


「きにしなくていいんだよ、とうま」

 インデックスはにっこりと微笑んだ。

「意識がとびとびだからよく分からないけど……とうまは、あの人たちと敵対したんだよね?
 とうまは『必要悪の教会』の人間で、あの人たちも『必要悪の教会』の人間なのに」

 息継ぎをするように一瞬黙った後、インデックスはゆくりと上条へと手を伸ばした。
 上条は、その伸ばされた手を受け止めた。軽く握ると、強い力で握り返された。

「だから、ごめんね、とうま」

 上条は少し迷った後、インデックスの額を軽く叩いた。

「い、いきなりなにするの!?」

 不満そうな表情のインデックスに上条は答える

「勘違いすんな、謝られるためにあいつらと敵対したんじゃない。
 お前をモノ扱いするあいつらにむかついたから、戦おうと思っただけだ。
 それに、実際に戦ったのは俺じゃなくて一方通行だしな。
 ……そもそも、こんな場面だったら、『ごめん』よりピッタリな言葉があるんじゃないか?」

 ちょっと迷ってから、インデックスは短く呟いた。


「――ありがとう、とうま」

125 :第四章『名が示す理由』 5 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:16:02.04 ID:Ef54cJmD0


 七月二四日。


 インデックスが目を覚ましてから、三日経った。
 それまでインデックスにつきっきりで看病をしていた上条は、久しぶりに街に出ていた。

 彼女の下着や、退院後のパジャマなどを買うためだ。

 本来は美琴に買ってもらうのが一番だと思うが、なにか用事があるらしく、連絡がつかないまま夕方を過ぎてしまった。
 彼女には彼女なりの事情があるのだろう。
 インデックス以外にもなにか事件を抱えた彼女を、これ以上巻き込むわけにはいかない。

 上条は人が少なくなる時間を見計らって、衣料量販店で彼女のサイズに合いそう衣類やら下着やらを適当に購入した。
 本音を言えば、年頃の男子高校生としては恥ずかしかったが、今のインデックスには外に出て買い物をする余裕などない。
 白地に大きな赤い文字でブランド名の書かれたビニール袋をぶらぶらと揺らしながら、上条は病院に帰るため夜の街を歩く。

 インデックスの担当の医者は、上条が病院の世話になる度に見てくれるいつもの医者だった。
 わりと融通のきく人で、インデックスが学園都市のゲストではないと知った上で、受け入れてくれた。

「たとえどんな事情を抱えていようと、それが患者なら診るのがぼくの仕事でね?」

 と、カエルによく似た顔の、威厳に欠けた医者は、それでもそう断言してくれた。

 そして、学園都市の知人が上条だけだと教えると、すんなり仮眠室を貸してくれた。

 能力開発をカリキュラムとして組む学園都市では、DNAマップが流出する可能性を考え、
 余命いくばくもないという状態になっても、学生たちは外の街で最期を迎えることはできない。
 上条が今借りている仮眠室は、本来なら、自分の子どもの最期をみとるために親が利用する場所だ。

 上条以外に利用者がいないのは、幸いかもしれない。
 とはいえ、上条の今の心理は、子どもを失いかけた親のそれに近い。

(一年に一度の記憶消去、か……)

 この三日、インデックスの余裕がある時は、いつも会話を重ねている。
 その中で分かったのだが、彼女の記憶の始まりは約一年前――より正確に言うなら、三六二日前から始まっているらしい。

『必要悪の教会』から上条に与えられている情報が正しいとすれば、彼女の脳はそろそろ限界のはずだろう。

 土御門とは、わざと連絡をとっていない。

 学園都市の能力者に記憶を削ってもらうことも考えたが、
 彼女の脳内に収められた一〇万三〇〇〇冊の魔道書のことを考えると、能力者に頼るのは危険だ。

 ガチガチの宗教防護を重ねた魔術師であっても、一冊読んだだけで発狂しかねない魔道書。
 日本人は元々宗教観念が薄いうえに、ここは学園都市だ。
 八百万の神々すら欠片も信じていないだろう人間に、耐えられるとは思えない。

126 :第四章『名が示す理由』 5 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:19:07.31 ID:Ef54cJmD0


(どうする……やっぱりステイルや神裂にまかせるべきか?)

 ステイルが、インデックスが傷ついたことに激昂していたところを見ると、
 少なくともステイルはインデックスを人として大切にしていたようだ。

『説明に失敗した前年度のパートナー』がステイルだとすれば、ステイルとインデックスは一年間、一緒だったのだろう。

 インデックスは、『魔道書図書館』だ。そして、一年に一度記憶を消去しなければ死んでしまう。
 最初にインデックスを『魔道書図書館』にして、記憶消去を行わなければ死ぬような状態に追いやったのは『必要悪の教会』だが、
 逆を言えば、『必要悪の教会』による記憶消去がなければ、インデックスは死んでしまう。

 人として扱われないインデックスの状態を肯定しなければ、彼女は死ぬのだ。

(どうすりゃいいんだよ……)

 あと三日以内に答えを出さなくてはいけない。
 退院後のインデックスのパジャマを購入した上条だが、使われることなく終わるかもしれない。

 うつむいて歩いていた自分に気がつき、顔を上げた上条は、
 ――そこでようやく異変に気がついた。


 人が、いない。


 先ほどまで周囲には何人も人がいたはずなのに、ぱたりといなくなっている。
 片道三車線の道路は、これから飛行機でも走らせるのかと聞きたくなるくらい、がらがらだった。

 街をこんな状態にさせる力を、上条は知っている。

「まさ、か」

『必要悪の教会』と魔術結社とぶつかり合う時、よほど辺鄙な場所でなければまず最初に使われていた魔術。

「人払い?」

 ステイルも神裂も、それぞれ理屈は違うが、人払いの魔術を使うことができる。
 上条は街路樹の土を掴むと、周囲に振りまいた。土はとくに何かに引っかかることなく、パラパラと舞い落ちる。

(カオリの結界陣じゃない……ってことは――!)

 不意に、地面がめくれ上がった。
 三〇〇〇℃の炎によって切り裂かれた持ち上げられたアスファルトはマグマ状に溶け、上条に降りかかろうとする。

 あんなものに飲まれたら、確実に死ぬ。

 避けるように、上条は車のない道路へと飛び出した。

「!?」

 地面のアスファルト全体が、ぐにゃぐにゃと歪んでいる。

(炎剣を地面に埋め込んだのか!?)

 これでは、どこから炎が来るか分からない。
 なるべく広い場所に出るため、上条は道路の真ん中まで駆け抜けた。

 それから周囲を見回すと、ステイルはすぐに見つかった。
 いつの間にそこまで移動したのか、街路樹の煉瓦塀に腰掛けて、タバコをゆっくりとすっていた。

「あまり……大技は使えないからね。……小細工を弄させてもらうよ」

 声は、どこか弱々しい。
 一方通行との戦いで、骨も何本か折れているし、体全体にダメージを与えられているはずだ。
 おそらく今、ステイルは体力――というよりも生命力の全てを使いきる覚悟で、魔術を使っているのだろう。

「バカヤロウ、早くやめろ!」

「やめてほしければ、さっさと死ぬことだ、トウマ」


127 :第四章『名が示す理由』 5 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:22:27.91 ID:Ef54cJmD0

 ゴバ!! と。少し離れた場所から炎が飛び出た。

「くっ!」

 炎を避けるように、上条は一歩飛び退る。それを見越していたように、再び少し離れた場所から炎が飛び出る。

 それを何度か繰り返すうちに、周囲は炎に包まれていた。

 熱波が上条から水分をじりじりと奪っていく。
 さらに、繰り出される炎剣が間近で炸裂し、その度に爆ぜたコンクリートが上条を襲う。

 炎剣は上条の右手が届かないような場所で振るわれる。
 その影響で発生した熱や衝撃は、幻想殺しでは殺すことができない。

 上条は辛うじてよけるのが精いっぱいで、ステイルに近づくことすらできずにいた。


 本来、ステイルはこういった開けた場所での魔術は得意ではない。
 ステイルは、戦場が固定されている状態でこそ真価を発揮するタイプの魔術師だ。
 だが今は、『ここで決着をつけなければステイルが死ぬ』という精神的な枷を上条にはめることで、
 屋外にも関わらず、拠点を作り上げることに成功しているのだ。


 しかし、右手が触れられる範囲外かつ、上条にダメージを与えられる場所は意外と少ない。
 あまり遠すぎれば上条には何の影響もないし、近すぎればダメージを与える前に幻想殺しで殺される。

 ステイルへと間合いを詰めながら、上条は攻撃地点を予測し、必死に避け続ける。

 じりじりと歩を進めて、ステイルまであと一メートルというところで、すぐ左側で爆発が起きた。
 右側へと吹き飛ばされながら、それでも上条はなんとか拳を振りかぶる。

「……!」

 そして、右の拳をステイルの頬へと叩き込もうとして――
 右の拳の先には、何もなかった。

(まさか、蜃気楼の応用……!?)

「灰は灰に、塵は塵に」

 意表を突かれた上条の耳に、ステイルの声が届く。

「――吸血殺しの紅十字」

 顔を向けた先には、ステイルが立っていた。
 わずか三メートルほどの場所だ。

 とっさにステイルへ拳を振り上げた上条をはさみこむように、二本の炎剣が発生する。
 まるで、鋏のように上条を焼き切ろうとする炎剣。

 上条は右手で左側の炎剣を殴りつけ、消滅させる。
 無理矢理右手を左へと伸ばしたせいで、上条の体勢が崩れる。
 それを無視して、上条は右手を元の位置へと戻そうとする。

 だが、裏拳で消そうとしたもう一本の炎剣は、それを見越していたように上条の足元へと振り下ろされた。

(間に、合え――!)

 左手を思い切り振って、前へと倒れかけた体を無理矢理後ろへと倒し、その勢いで足元へと手を伸ばす。
 なんとか、右足は切り裂かれずに済んだ。

 だが、そこまでだった。

 先ほどからの無茶な制動がたたって、上条の足がよろめく。
 そんな状態で、左横に炎剣が突き刺さり、爆裂すれば、対処の取りようがない。

 細かいコンクリートの破片がいくつも体の左側に突き刺さり、ノーバウンドで一〇メートルほど吹き飛ばされた。


「ご……がぁぁああっ!」


 右腕から落着し、上条はうつ伏せに地面にこすりつけられる。
 それでもまだ、上条の意識は保たれていた。
 鼓膜が破れたのか、左耳が激痛を訴える。
 表皮を削り取られた右ほおや右腕は、空気に触れる度にじくじくとした痛みが走る。

 それらを無視して、上条はステイルを睨みつけた。

128 :第四章『名が示す理由』 5 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:24:31.09 ID:Ef54cJmD0

 体力が残り少ないのはお互い様だ。
 早目に決着を付けなければ、両方とも死ぬなんて言う事態もあり得る。

 ここは、ステイルをぶん殴ってでも決着を付けなくてはいけないのだ。

 残りの力を振り絞って、上条は立ち上がる。
 しかし、そこにはもう先ほどまでの力はない。
 あと数メートル分走り、ステイルを殴るくらいの力しか残っていない。

 だと言うのに。
 無情にも、ステイルの炎剣が右真横に発生した。

「ぎ、ぃ!?」

 表皮を失い、無防備となった右腕をあぶられ、上条は思わず悲鳴を上げた。
 それでも一秒後に訪れるであろう爆発を避けるために、上条は横へと飛び退る。

 だが、これでも足りないはずだ。
 えぐられたコンクリート片が体中に突き刺さる痛みを想像し――
 わずかな熱風が、シャツの袖を揺らしただけだった。

「……え?」

 上条がゆっくりとステイルへ視線を向けた。
 彼は、最後の最後に、幼馴染に手加減を加えたのではない。

 ここにきて、ステイルの生命力が限界を迎えたのだ。

 口から血を流しながら、ステイルが地面へと倒れる。


「ステイル!」


 そして、
 思わず伸ばした右手が、
 痛みを無視して走り始めた左足が、唐突に引き裂かれた。

 右手からの鮮血が、上条の頬とかかる。


「――七閃」


 悲鳴を上げることすら忘れた上条の鼓膜を、涼やかな女の声が叩く。
 ぎりぎりと、まるで油の切れたロボットのように、上条の頭が声の方を向く。

 そこには、神裂火織が立っていた。


129 :第四章『名が示す理由』 5 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:26:43.47 ID:Ef54cJmD0


 思わず上条は叫んでいた。

「なにが……したいんだよ、お前らは!」

「あの子の保護がしたいだけです」

 返された言葉は、とても短かった。

「保護……? なんの変哲もない女の子を追い詰めるだけ追い詰めて、
 人間としての最低的な人権も与えられない状態を、お前らは保護って呼ぶのか!?」

「あれでもまだ、人として扱われているんですよ。
 人間として笑って、人間として泣くことができる程度には」

 たしかに、『魔道書図書館』として扱うなら、人間らしい感情は全て壊してしまえばいい。
 それなのにあえて人間らしい感情があるのは、『必要悪の教会』の最後の慈悲か。

 頭では理解できるが、納得できるかと言えば別だ。

 それに、上条が一番いら立っているのはそこではない。

「それを知ってて、お前らは一年近くあいつのことを追い続けてたのか!?
 どうして自分達が味方だって説明しなかった!?
 あいつは俺が『必要悪の教会』ってすんなり信じてくれた。
 それと同じように、ちゃんと説明すればよかったじゃねーか!! どうして説明を放棄したんだ!?」

 上条では神裂に勝てない。
 勝負を最初から放棄している上条は、残りの体力を全て、言葉に費やす。

「それ……は」

 そんな上条に気押されたのか、神裂がゆらぐ。
 唇をかみしめ黙り込んだ神裂を見て、上条の頭に一つの答えがともる。


「一年に一度の記憶消去……まさか、また忘れられるのが、怖かったのか?」


 はっと神裂が息をのんだ。

「だとしたら――お前は間違ってるよ、神裂」

 上条は、そんな神裂にきっぱりと言い放つ。

「一年に一度記憶が消されるんなら、また最初っからやりなおせば良いだけだろう!
 一度『ともだち』になれたんなら、何度でも『ともだち』に戻れるはずだ!
 そして探せば良い、あいつが記憶を消さなくても、笑って生きられるような道を!!
 何年かかってもいい、自己満足でもいい、記憶を消されるたびに泣いてもいい。
 それでも、ハッピーエンドを模索すればいいだけの話じゃねーか!
 お前の魔法名はなんだ? 全てを救うんだろう? 神様にも見放された人も、救いたいんだろう!?
 聖人としてのお前に聞いてるんじゃない、『必要悪の教会』の魔術師としてのお前に聞いてるんじゃない。
 一人の幼馴染として、お前に聞きたいんだ。――なあ、答えろよ、カオリ!!」

 叫び終わった瞬間、意識が遠のきかけた。

130 :第四章『名が示す理由』 5 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:29:08.99 ID:Ef54cJmD0

 ステイルとの戦いでほとんどの体力を使っていた上条には、もう叫ぶだけの余裕はない。
 よろめき、それでもなんとか体勢を立て直した上条への返答は、


「――うるっせえんだよ、ド素人が!!」
 激しい語調の罵声と、暴力だった。


「ご……っ!?」

 細いワイヤーに全身を切り刻まれ、かと言ってその場に倒れ伏せば首が落ちる。
 半ば意識を失いつつ、それでもなんとか踏ん張る上条を、神裂は容赦なく地面に引き倒した。


「あの子とあなたは同じ、『必要悪の教会』の、対魔術の切り札です!
 でもその役割は全く違う! 自由な人間であることが前提であるあなたと違って、
 あの子は縛り付けられるのが、狙われるのが前提なんです!!
 そんなあの子が自由に笑ってられる――それが幸せだって、思い込むしかないじゃないですか!?」


 一言一言叫ぶたびに、上条は殴られる。

 神裂は、もう自分でも何をしているのかよく分かっていないのだろう。
 暴走した感情のはけ口を、眼前にいる上条にぶつけているだけだ。


「分かってる、分かってるんです! あの子だって、本当は救われるべきだって!
 でも、仕方ないじゃないですか! 私もステイルも、あなたみたいな心は持っていないんです!
 耐えれそうにないんですよ、何度も、何度も繰り返すことに!

 ねえトウマ、あなたは知ってますか、記憶を壊す直前、あの子が泣いていたことを!
 あの子と私とステイルで、一晩中泣きじゃくって、それでも足りなくて!

『忘れたくない』ってあの子は言ったんです! でもあの子を助けるためには忘れさせるしかなくて、
 どうしようもなく無力な自分をまざまざと見せつけられた時の気持ちが、あなたに分かるんですか!?」


 聖人として、常人とはかけ離れた体力を持つはずの神裂が、荒い息をつく。
 言葉と暴力に打ちのめされているはずの上条は、しかし、目から光を失っていなかった。


「それでも……それがインデックスを追いまわす理由にはならないだろ」

「――!!」


 再び、神裂が刀を振り上げる。
 上条は、殴られながらも、それでも神裂から視線はそらさなかった。


131 :第四章『名が示す理由』 6 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:31:27.11 ID:Ef54cJmD0



 夜の街を、一方通行と、美琴と、打ち止めの三人はのんびり歩いていた。


 インデックスにつきっきりだった上条は知らなかったが、昼過ぎに一騒動あったのだ。

 その渦中に、美琴はいた。

 能力を駆使してその騒動を治めた美琴は、数時間経つ今も、みるからに疲れている。
 美琴自体はほとんど怪我がなかったものの、完全に充電切れを起こしてぶっ倒れた名残だろう。

 病院に搬送されかかった美琴を保護し、部屋で一休みさせて、
 それからファミレスでたらふく甘いものを食わせた帰りだった。

 巨大な十字路にさしかかり、このまま直進すれば美琴の寮はもうまもなくだ。
 明日になったらインデックスに病院支給じゃない下着でも買ってあげるかと美琴が提案した時だった。

「きゃう」
「きゃっ」

 美琴と打ち止めが、小さい悲鳴を上げた。
 非常に珍しい――というか、出会ってから初めて、一方通行と美琴の力がそろって暴走した。

 美琴の額からは彼女が意図しなかったらしい電撃が発生して、
 一方通行の方は、普段は無効にしている『妹達』の接触に対する反射が、なぜか一瞬だけ有効になった。

「なんなのよー。やっぱり疲れてるのかしら?」
「『反射』されるときって意外と衝撃来るのねって、ミサカはミサカは呟いてみたり……」

 暴走といっても、誰ひとり傷がつかないような、平和なものだ。
 うっかり気が抜けたのだろう、と結論付けて、美琴と打ち止めが『右折』した。

132 :第四章『名が示す理由』 6 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:33:27.59 ID:Ef54cJmD0


「まてオマエら。なンで遠回りしようとしてンだ?」

「え?」

「なんとなく、そっちの道じゃなくてこっちの道の気分だからって、ミサカはミサカは答えてみる」

 その言葉を聞いて、一方通行は嫌な予感がした。
 科学的根拠などない。動物の勘に近い予感。

 一方通行は、今現在上条が抱えている問題を思い出す。
 科学的に説明できない、オカルトの力――魔術師とやらが『魔女狩りの王』と呼んでいた存在。

「……御坂。このガキつれて先に戻れ」

 打ち止めを美琴に託すと、一方通行は走り出した。
 この道を通らなくても、別に支障はない、と、頭に直接語りかけられているような感覚。
 直進などしなくてもゴールは同じだと、なにかが訴えてくるのを振り切ってたどり着いた先では、


 上条当麻が、血まみれになっていた。


 遠目から見ても分かるくらい、ひどい状態だった。
 ワイシャツが鮮血に染まり、右腕など、表皮が削れた挙句に火傷を負っている。あのままでは、感染症にかかる恐れがある。
 そんなぼろぼろの状態にも関わらず、上条は一人の女と相対していた――というよりも、
 地面に押し倒され、一方的に暴力を振るわれていた。

 奇抜な格好をした女だった。ワイシャツを腰のあたりで結び、ジーパンはなぜか片方が足の付け根くらいまでカットされている。
 手にはやたら長い棒のようなものを持ち、それで上条をうちすえていた。

 あの女も、魔術師とか言う怪しげな存在なのだろうか。

 だが、一方通行にはそんなどうでもいいことは関係ない。
 魔術師だか何だか知らないが、あの女を蹴散らして、上条を冥土返しの元まで連れて行く。
 そのために一歩走り出した一方通行に、上条は叫ぶ。


「――来るな!」


 その強い語調に、一方通行の足が止まる。

「来ないでくれ。……頼む」

 叫ぶことで力の全てを使いきったのか、上条の手や頭がゆっくりと地面に落ちた。

 女は少し逡巡してから、優しく上条を掬い、抱き上げた。
 そして、ゆっくりと一方通行の方へと歩いてくる。

133 :第四章『名が示す理由』 6 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:35:18.85 ID:Ef54cJmD0

 殺意どころか悪意や敵意すら感じられず、一方通行は戸惑う。

「敵……じゃねェのか、オマエら」

 女は、なぜか苦笑した。


「この子は、私の同僚にして――大切な親友、なんですよ」


 呆気にとられた一方通行に上条を託して、女は優しく微笑んだ。

「あなたが、この子のこの街での『友達』ですね?」

「否定してェが、周りのヤツらはそうだと勘違いしてやがる」

 吐き捨てるような一方通行の言葉を聞いても、女は顔色一つ変えなかった。
 代わりに、一方通行へ軽く頭を下げる。

「この子をよろしくお願いします。
 ロンドンを離れたと聞いた時から心配していましたが、
 ……あなたのような友人ができたというのなら、もう必要ないですね」


 出来の悪い弟を慮るような、優しい、慈愛に満ち溢れた声だった。
 一方通行ですらも安らぎを感じてしまうほどの、温かい声だった。


 こんな女がなぜ、上条に暴力をふるっていたか気になるが、たぶん触れてはいけないのだろう。

「三日後です。……その日の深夜に『儀式』を行うと、この子に伝えておいてください」

 再び女が口を開いたが、声音はがらりと変わっていた。
 親しい友人から、業務的な連絡をするような声になっている。

「『儀式』ィ? なンだ、そりゃァ」

「あなたが知らなくていいことです。そう言えば、この子も分かるでしょう」

 女は上条の前髪を優しく撫でると、それから意を決したように、厳しい表情になった。


「この子が起きたら、一つだけ、聞いてください。

 ……あの子に残酷な日々を与えて、あなたは幸せですか、と」



134 :行間四 [sage saga]:2011/06/29(水) 14:37:44.59 ID:Ef54cJmD0



 このクソったれな戦いを終わらせるための『最後の希望』は、幼い少女の姿をしていた。

 体中に電極を刺されて、怪しげな点滴を打たれて、見たこともない機械につながれて。
 姉達に『死ね』という命令を送るための機材となり果てながらも、少女は笑った。

「やっと来てくれたって、ミサカはミサカは喜んでみる」

 あまりの邪気のなさに、呆気にとられたのは一方通行の方だ。
 完全に洗脳され切っているか、はたまたぶっ壊れた性格をしているか。
 そのどちらかだと思っていたため、その無邪気な笑顔と言葉は『異様』に見えた。

「オマエが……最終信号か?」
「うん、そうだよ。だから、このミサカを殺してほしいのってミサカはミサカはお願いしてみたり。
 ……もう、『自壊プログラム』なんて送りたくない。あんなに痛いのは、もう嫌だって、ミサカはミサカは訴えてみる」
「どォ言うことだ?」

 一方通行の問いに、最終信号はぽつぽつと答える。

『自壊プログラム』。
 それを受信した個体は、途方もない痛みと、『一方通行を殺さなくてはいけない』という感情に囚われる。
 一時間というのは、明確なタイムリミットではなかった。あまりの痛みに、一時間と耐えられず、自ら命を絶つというだけの話。
 マスクを付けていたのは、その無様な顔を見られないための、彼女たちなりの最期にして唯一のプライドだったらしい。

「だから、ミサカを殺してくれてありがとうって、ミサカはミサカは代表してお礼を言ってみる」

 最終信号の手が、ゆっくりと一方通行へと伸びる。一方通行は、その手を『反射』しなかった。
 触れても反射されなかったことに意外そうな表情を浮かべた後、最終信号は一方通行の手を握りしめた。
 とても、弱々しい力だった。そのくせ、妙に熱かった。
 一方通行には人間の体温などよく分からないが、けして正常な状態ではないのだろう。
 最終信号の呼気が荒いのは、『自壊プログラム』の痛みを感じているからなのか、
 それとも彼女という個体自体に限界が来ているのか、専門家でない一方通行には図りかねる。

「もう、ミサカはミサカを殺したくない。そのためなら、このミサカが死んでも構わないって、ミサカはミサカは考えてる」

 一方通行と最終信号は、方法こそ違えど、数千もの人間を殺戮した。
 直接手にかけて、殺してきた一方通行。
 間接的に自殺させ、殺してきた最終信号。
 殺してきた当人の意思など関係ない。
 殺してきた、という事実は、何一つ変わらない。

 一方通行は、一人の人間として、自分自身のことを許すことはできない。
 こんなクソヤロウは、きっとまともに死ぬことすら許されない。

「ミサカは今のままだと数日くらいしか生きられない。だからこそ、ミサカはミサカは早く殺してほしいって嘆願してみる。
 このミサカが今死ねば、残された『妹達』の感じる痛みは軽減できるはずだからって、ミサカはミサカは説明してみたり」

 それと同じように――
 一方通行は、一人の人間として、最終信号のことを許すことはできない。

「お前は死なさねェよ」

 だが、その理由を作ったのは誰だろうか。
 一方通行が素直に『妹達』を殺す道を選んでいれば、最終信号は、姉達を自殺させることはなかったのではないだろうか。

「知ってるか。宗教によっては、自殺者は地獄に落ちるらしいぜ? 『妹達』を何十人、何百人……いや、何千人かァ?
 そんだけの『人間』を地獄送りにしたオマエを、そう簡単に死なせるかよ。
 ――このクソったれな世界で生き続けろ。ただのガキとしてな」

 一人の人間として、最終信号は許せない。
 だが、『最終信号に人を殺させた』加害者としての一方通行は、最終信号を許したいと思っていた。
 いや、許したい、ではない。許さなくてはいけないのだ。

「どうしてって、ミサカはミサカは――」
「黙れ」

 事前に芳川という研究者から入手した、彼女の人格の初期データ。
 使いどころなどないと思っていたが、思わぬところで役に立ちそうだ。

 この半月以上、ずっとずっと、朝も昼も夜もなく人を殺し続けてきた。
 だからこそ、自分の力の使い方が見えてきた。レベルは変わらぬまま、能力の幅は増えた。

(もしかしたら、これが統括理事長の思惑だったのかも知れねェな)

 それでもいい。
 それでも、自分のせいで罪を背負った少女を救いたい。

「全部、忘れさせてやる。――全部、背負ってやるよ」
135 : [sage saga]:2011/06/29(水) 14:38:56.34 ID:Ef54cJmD0

 ペンデックスさんと小萌先生の出番をマモレナカッタ。

 幼馴染カルテットは原作ではステイル以外は名字とかなので、名前呼びだと違和感すごいですね。
 普段は名字呼びだけど、気が抜けると名前呼びになるという設定なんですが、説明いれられなかった……。

 ステイル再戦をいれてみました。
 ステイルのかませ臭がちょっとはましになりますように。いやでもこれだと上条さんがかませっぽいか?
 炎使いって、なぜか主人公以外だとかませキャラ化しやすいよね。

 ……ほのぼのストーリーから遠ざかっていることを自覚しつつ、ラスト一回ですと業務報告。
 おまけやサイドストーリーで挽回してやるさ!

136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/29(水) 14:44:50.37 ID:9+uTeio8o

上条さんはかませ入ってても最後の最後でやってくれるイメージだからこんなもんでいいんです
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) :2011/06/29(水) 18:16:15.14 ID:iDitgttB0
次はいつ?
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/29(水) 20:55:14.39 ID:iPDK/oLSO
この投稿のやり方、どこかで・・・
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/29(水) 20:56:46.28 ID:iPDK/oLSO
>>138
ごめん、間違えた
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [sage]:2011/06/29(水) 21:57:45.62 ID:GRMXKde30
てか上条さんいくらなんでも弱すぎじゃないか?
なんか上条さんの勝ちが見えなくなってきた
ペンデックスと戦う時も一方や御坂まで入れたら上条さん目立たなくなるぞ
俺的には上条無双ほどじゃなくてもいいから上条さんを活躍させてほしいな……
最後にはかっこよくやってくれる上条さんに期待してる
141 :第五章『その右手の役割は』 1 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:10:01.25 ID:dlIh0rVc0



 彼の息子は、不幸としか言いようがないほど、神様の奇跡からは遠いところにいた。
『不幸にも』、『不幸にも』、『不幸にも』。
 もううんざりだと彼は思っていた。

 どれほど彼の息子が頑張ったところで、
 他人のために行動したところで、
 何もしなかったところで、
 すべてが『不幸にも』の一言でなかったことにされてしまう。

 海外旅行のために乗った飛行機は、『不幸にも』エンジンが壊れ、あわや落着の惨事になるところだった。
 それでも海外旅行を楽しもうと訪れた教会では、『不幸にも』テロリストの襲撃に遭遇した。
『不幸にも』彼の息子は人質にとられ、刃をつきけられた。

 そして、『不幸にも』その凶刃が彼の息子を貫こうとしたその時――


「面白い童ね」


 その声はとても美しかった。
 その声はとても軽やかだった。
 それでいて、強い力を持っていた。

 彼が声の主を認識しようとした瞬間。
 バキン!! と。なにかが砕けるような音がした。

「!?」

 音が発生したのは天井の方からだった。

 簡素なシャンデリアをつなぎとめる鎖が、『奇跡』的なタイミングで砕けた音だと認識できたのは、
 そのシャンデリアが『奇跡』的にテロリストだけを押しつぶしてからだった。


「まさかこちら側の探索魔術を打ち消すなんて。わざわざ出てきて正解だったわ。……幻想殺し、というところかしら」


 声の主は、ベージュ色の修道服を着た、長い金髪を持つ一人の少女だった。
 少女が何を言っているか、彼には分からなかった。

 分かるのはただ一つ。

 この瞬間に発生した二つの『奇跡』を目の当たりにしながら、当たり前のように、少女が笑っているということ。

 もしかして。
 こんな『奇跡』が極々当たり前に起こる世界でなら。
 彼の息子は救われるかもしれない。

 彼はそう信じた。すがるように祈るように託すように。


 彼の名は上条刀夜。
 彼の息子の名は上条当麻。

 その後、上条当麻は幼くして一人、イギリスに残った。
 イギリス清教の信徒として。上条刀夜が知らぬところでは、『必要悪の教会』の一員として。


 そして、十年近い時が流れ――



142 :第五章『その右手の役割は』 2 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:11:30.68 ID:dlIh0rVc0



 七月も終わりに近いが、さすがに夜の八時にもなれば、夜の帳が下りている。

 向こうの棟から届く光を頼りにレポートを読んでいた芳川桔梗は、さすがに暗さの限界を感じ、部屋に灯りをともした。
 あまり激しい光が好きではない彼女の嗜好に合せるように、蛍光灯はわずかにオレンジがかった柔らかい色合いだ。

 もはや自室と化した病院内の研究室で、彼女はゆっくりとコーヒーを飲む。

「一〇〇三二号、一五〇四〇号、あなたたちも飲む?」

 研究のサポートしてくれている『妹達』――御坂美琴の体細胞クローンの二人に、芳川は気さくに声をかける。
 山と積み上げられたレポート群の整理をしていた二人は、手を止めずに答える。

「いいえ、万が一コーヒーをこぼした際恐ろしいことになりますからと、ミサカは過去の経験を反面教師に断ります」

「本当を言えば飲みたいのですが、仕事後の一杯こそが至福ではないか、と、
 ミサカは根性を据えてこの仕事を早目に終えてあの人のところに帰るんだとここに宣言します」

 先に口を開いたのは一〇〇三二号、次に口を開いたのが一五〇四〇号。

 まったく同じDNAを持ち、『製造当初』は細かいスペックまで一緒だった二人は、
 半年以上別々の生活を送っているためか、微妙に差異が出始めている。

 例えば、一〇〇三二号はうっかり屋さんなところがあるし、一五〇四〇号は根性論者だ。

 この病院にいる他の『妹達』にも、色々な違いがある。

 特に顕著なのは服装だ。
 一〇〇三二号は常盤台中学校の夏制服だが、一五〇四〇号は日章旗みたいなプリントがされた白いシャツに白いデニムのスカートを着ている。
 さすがの芳川も後者のセンスはどうかと思うが、「これじゃないとダメなんですとミサカは根性で抵抗します!」と言われれば、
 単なる『雇い主』である芳川にはそれ以上何も言えない。

 今の芳川は、彼女達を、彼女達の『所有者』から時給何円かで『借りている』状態だ。

「そう? せっかく美味しいコーヒー豆が入ったから、一緒に楽しもうと思ったのだけれど」

 まあ、無理強いはよくないだろう。
 実際、あのレポート群にコーヒーをぶちまけられては、せっかくのここ二、三日の仕事が全て無駄になってしまう。

 中学生くらいの姿の少女二人をあまり長い間残業させるのも酷だし、
 一段落したら今日はお開きにしようかしら、と芳川が結論付けた時だった。

143 :第五章『その右手の役割は』 2 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:13:12.21 ID:dlIh0rVc0


 不意に、『妹達』二人の手がぴたりと止まり、

「いったいどういう状況なのですか、とミサカ一〇〇三二号は問いかけます」

「入口にいるのですね、とミサカ一五〇四〇号は確認をとります」

「一体それはどういった意味ですかとミサカ一〇〇三二号は詳しい状況報告を求めます」

「少し落ち着いてくださいとミサカ一五〇四〇号は最終信号に伝えます」

 代わりに、早口でどこかとの『交信』を始めた。

「どうかしたの?」

 芳川は少し慌てる。
 二人の様子は、なにやら尋常ではない。

 ミサカネットワークを介した通信をしているのはわかるが、普段の雑談とは雰囲気が全く異なる。

「第一位が――」

 一〇〇三二号が芳川の方へと意識を向けた瞬間、

「芳川! 『冥土帰し』はまだいるか!?」

 ドアをぶち壊さんばかりの勢いで、一方通行が芳川の研究室へと飛び込んできた。
 あまりの勢いに、部屋中のレポートがばらばらと舞う。

「ああ、せっかくきれいにまとめた書類が、と、ミサカは非常時にも関わらず慌てます」

「それはこの非常事態を打開してからにしましょう、とミサカは根性を込めて告げます」

 芳川は呆気にとられたが、一方通行が血まみれの少年を背負っていることに気がつき、質問に答える。

「まだいるというか、病院に住んでいるようなものだけど。
 おそらく今は少し遅めの夜ごはんでもとっているんじゃないかしら。
 ……ところで、その子は一体どうしたの?」

 一方通行が仕出かしたとか、道端で見かけた少年を保護したにしては、一方通行が慌てすぎている。

「『魔術師』とか名乗る、バカでかい赤毛モヤシ野郎と、気が狂ったような格好したバカ女にやられた」

「魔術師……?」

 ファンタジー映画などで聞いたことはあるが、実生活とはあまりにも縁遠すぎる言葉に、芳川は頭に疑問符を浮かべる。
 そんな通称の能力あったかしら、と思考の沼にはまりかけた芳川を止めるように、二人の『妹達』が一方通行に近寄った。

「現状、そんなことよりも冥土帰しのところに連れていくのが先決では、とミサカは提案します」

「今の第一位では冥土帰しに八つ当たりにしかねないので、ミサカ達が連れて行きます、と、ミサカは付け加えます」

 自分より背の高い気絶した人間を、二人は効率よく抱え上げた。

「第一位はヨシカワへの説明をしてください、とミサカは嘆願します」

「できたら、後で最終信号にちゃんと説明してくださいねとミサカはお節介を焼きます、根性で」

 少年を抱えて、少女達は足早に走り去っていく。
 冥土帰しのサポートをしている『妹達』もいるので、冥土帰しがどこにいるか把握していのだろう。

 ミサカネットワークを利用して、あの少年の状態を冥土帰しに伝えているのか、
 走り去りながらも二人は何かぶつぶつと呟いている。

144 :第五章『その右手の役割は』 2 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:14:34.64 ID:dlIh0rVc0


 一方通行が突っ込んできたために、せっかく整理整頓中だったレポートはむちゃくちゃになってしまった。
 また明日からやり直しね、と、芳川は短くため息をつく。

 それから、入口で立ちつくしたままの一方通行に適当な椅子に座るよう指示してから、淹れたばかりのコーヒーを渡した。
 一方通行は座らないまま、それでもコーヒーは素直に受け取った。

「君があそこまで慌てるということは――もしかして、クラスのお友達かしら?」

 芳川は思わず微笑んでいた。ほんの半年ほど前までは、彼はこんなにも素直に受け取ることはなかった。
 皮肉気に笑って、「あいにくだが俺には毒は効かねェぞ?」くらい言っていただろう。

 一方通行は変わった。もちろん、良い意味で。

「『友達』ってところは否定してェが、同じクラスの人間だ」

 冷たい声音だったが、そこにはどこか照れくさそうな響きがあった。
 赤の他人のために、あそこまで慌てた自分を恥じているのだろうか。

「なにがあったか分からないけれど、安心なさい。
 冥土帰しなら、あれくらいの傷、すぐさま治すでしょう」

 カエルみたいな顔で、いまいち威厳に欠けるあの医者は、それでも学園都市――どころか、世界でもトップクラスの医者だ。
『命さえ残っていれば、必ず治す』というのが信条のあの医者ならば、安心して託せる。
 それに、ほんの少し見ただけだが、一方通行のクラスメイトの少年は、傷こそひどかったが致命傷はなかったように見える。

 一方通行は、人が当たり前に死んでいく世界で育った人間だ。
 だから、少し冷静な頭になれば、あの程度の傷で人は死なないのは分かるだろうに。

「ねえ、一方通行」

 ゆっくりとコーヒーを一口飲んで、芳川は問いかける。

「――この三カ月は、楽しかった?」

 答えは期待していなかった。
 それでも、一方通行は小さな声で答えてくれた。


「前までのクソッタレな生活と比べるようなもンじゃねェよ」



145 :第五章『その右手の役割は』 3 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:16:19.38 ID:dlIh0rVc0



 いつも思うのだが、あのカエル顔の医者は、一体何者なのだろうか。


 病院の中庭――特殊な建築方法を導入しているらしく、夏の熱波が届かないその場所のベンチに腰掛けて、
 上条は自分の右腕をまじまじと見つめていた。

 今の上条の右腕と右頬には、彼の開発したという特殊なガーゼが貼られている。
 なんでも二層に分かれていて、下の層がそのまま表皮の代替になるとか何とか。
 科学的な説明を受けたが、正直上条にはチンプンカンプンだ。

 分かるのは、昨晩ステイルと神裂によってあれだけボロボロにされながら、
 今はもう点滴を打ちながらなら出歩くのが許されていることくらいだ。

 上条は大きくため息をついた。

 いくら熱波が届かないとはいえ、屋外で、しかも今は丁度昼すぎで一番気温が高い時間帯だ。
 喫煙も携帯電話も禁止されているこのスペースに、他の人影はない。
 なので、完全に気を抜いていた上条の首筋に、いきなり冷たいものが押し当てられた。

「ぎゃっ!?」

 いつのまにここまで来たのか、不機嫌そうな表情の美琴が、上条にサイダー缶を放り投げた。

「なにしてるのよ、インデックスの傍にいてあげなくていいの?」

「……あいつのことだから、自分のせいで俺が怪我したとか思って落ち込むだろ」

 見せつけるように、上条は右腕を美琴の方へとつきだした。
 白い包帯に覆われた腕は、傷口が見えなくともなんとなく痛々しい雰囲気を持っている。

「自転車に轢かれたとでも言えばいいじゃない。
 嘘も方便って言うでしょ。そんなつまらないこと置いといて、あんたはあの子の傍にいるべきよ。
 ……あの子ね、目が覚めて真っ先に、『とうまはどこ?』って聞いてきたの。
 私も、打ち止めも、一方通行もすぐ横にいたのに、悲しそうな顔で、そう言ったのよ」

 気を紛らわすように、美琴がサイダー缶をあおった。
 ほとんど一息でサイダー缶を空にすると、上条を睨んだ。

「なのに、あんたはどう?」

「……何が言いたいんだよ」

 美琴の手の中にあるサイダー缶が、くしゃっと潰れた。

「らしくないって言ってるの。いつものあんたなら、違うでしょ?
 何があっても自分が一番正しいんだって顔して、そのクセ他人のことばかり考えて――
 それがなに、あの魔術師とかってやつに襲われてからのあんたはなんなの!?

 うじうじとなんかに悩み続けて。いつものあんただったら、しがらみなんて全部無視してあいつらぶん殴ってるところでしょ!?
 自分が傷だらけになっても、それでも自分の信念を貫き通すのが、『上条当麻』って人間でしょ!?」

146 :第五章『その右手の役割は』 3 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:17:47.84 ID:dlIh0rVc0


 上条がこの一週間抱え続けていた鬱屈した感情は、美琴のその言葉によって爆発した。


「――なにが、分かるんだよ」


 何の罪もないのに苦しめられている女の子がいて、でもその女の子を苦しめているのは、彼女を大切に思っている人たちだった。
 そして、彼女を大切に思いながらも苦しめている人たちは、自分のかけがえのない幼馴染たちだった。

 何をどうしてもインデックスは救えない。
 例え彼女が救われる道があったとしても、救われるのは今ではない。
 何年後か分からない未来だ。

 皆が皆、苦しんでいる。
 ステイルも、神裂も、インデックスも。

 ステイルとは、ロンドンに移り住んですぐに出会った。
 家族と離れて暮らしてきた上条にとっては、弟も同然の存在だ。

 神裂とは、六年前に出会った。
 聖人にふさわしい、強くて優しい人だと知っている。

 インデックスとは、ほんの一週間前に出会った。
 その存在だけで、なぜか無性に守りたくなる、温かい少女だ。

 一緒にいた時間の長さは関係ない。
『悪い魔術師』かどうかなんか関係ない。
 抱えた背景など、知ったことではない。

 ただ、彼らを助けたい。
 その涙を、悲しい顔を、苦しそうな表情を、笑顔に変えてあげたい。

「わかんのかよ!? 弟とか姉さんみたいに思ってた大事な幼馴染が、
 一年間ずっと、そいつら自身が大切に思ってる女の子を苦しめ続けてたって知った時の俺の気持ちが!
 どうすりゃいいか分かんなくなって当然だろ!? お前に理解できるのかよ、御坂美琴!!」


 なのに、何もできないもどかしさに、上条は叫ぶ。
 これが美琴に対する八つ当たりだと気がついていたが、それでも上条は叫ばずには居られなかった。


「――分かるわよ!」


 美琴の答えは、どこまでも単純明快だった。
 一瞬苦しそうに息を止めた美琴は、わずかな逡巡の後、それでも叫んだ。


「ただ単純に、同じ能力者として憧れて、背中を追い続けてたやつが、
 その裏では『実験』と称してたくさんの人間を殺してた。そして、挙句に私のクローンも殺された!
 一人や二人じゃない、何千人という私のクローンが、私のせいで生まれて、そいつのせいで殺された!

 私も一方通行も打ち止めも、たくさんの人間の死体の上に乗っかって今の日常にしがみついてんのよ!
 何か背負ってんのが自分ひとりだと勘違いするな、このクソ野郎ォ!!」



147 :第五章『その右手の役割は』 4 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:19:31.43 ID:dlIh0rVc0



「……ったく、御坂の野郎。機密事項漏洩しまくりじゃねェか」

 一方通行の視線の先では、上条と美琴が何かを叫び合っている。
 叫んでいる当人ですら、自分が今何を言っているかよく分かってないのではないだろうか。

 美琴の発言には、この街の『機密事項』がふんだんにも盛り込まれているし、
 上条の発言も、魔術師がどうだとか『ネセサリウス』がどうとか、おそらく機密であろう単語が端々に含まれている。

 中高生くらいの二人が、暴力はないとはいえ激しい言葉をぶつけあっているにもかかわらず、
 看護師の一人も来ないのは、一方通行が音のベクトルを操作して、あの空間から音が漏れないようにしているからだ。


「止めなくていいのですかとミサカは傍観しているあなたに問いかけます」

「ですが今のお姉様と上条当麻には、何かしらの感情のはけ口が必要なのではと
 ミサカは根性に満ち溢れたあの二人を温かく見守りたいとも思っています」

「止めてほしいと思いつつも、傍観していてほしいというジレンマに、ミサカは答えを出そうとしますが結局出せません」

 まるでコントのように交互にしゃべる二人だが、本人達は至って真面目だ。
 最初期に比べれば大分人間らしくなった彼女たちだが、やはり時たま、『人間』離れした所をみせる。

 ミサカネットワークによってほぼ常時接続されている彼女達は、当人同士の間であれば、会話によるコミュニケーションを必要としない。


 だが、上条は普通の人間だ。
 それも、人と人とのつながりを愛する、健全な善人だ。
 言葉によるコミュニケーションを絶やせば、待っているのは彼自身の崩壊だろう。

 それは、一方通行としてはあまり嬉しいことではない。


148 :第五章『その右手の役割は』 4 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:22:43.47 ID:dlIh0rVc0


 一方通行は、ぼんやりと『一学期』を思い出す。
 ちょっとした事件が大事になるような、普通の日々だった。


 朝は打ち止めか上条に叩き起こされて、朝食と昼食の準備をして、
 それからバカみたいな授業を受けるために学校に行く。

 学校に行けば、上条と土御門と青髪ピアスの三バカにからかわれて、
 なぜか吹寄の制裁に巻き込まれて、月詠に叱られて。

 気が向けば『風紀委員』として活動したり、上条達や打ち止めや御坂美琴と買い物に出かけて。

 家に帰れば打ち止めと一緒に夕飯を食べて、
 馬鹿みたいに騒いで二人して疲れて眠って、また似たような明日を迎える。

 そして、週末には黄泉川の家に泊まりに行く。


 そんな一週間を繰り返して、一学期はあっという間に終わった。

 そんな、平凡そのものな学校生活。
 平和すぎて居心地が悪い、けれどずっと浸っていたくなる学校生活。

 その全ての始まりは、上条当麻に在ったと、一方通行は思っている。
 入学初日、許可したモノ以外全てを跳ね返してきた『反射』の膜などズカズカと突き破って、
 上条は人間として当たり前のコミュニケーションを求めた。


 単純に、それが嬉しかった。


「ま、アイツらならアレで大丈夫だろ」

「お姉様と上条当麻のことを信頼しているようですね、とミサカは友情というものがどんなものかよく分からないまま聞いてみます」

 一〇〇三二号の質問に、一方通行は呆れたようなため息を落とす。

「……昨日から同じコトを何回も聞かれるンだが、どう穿ってみたら俺と上条が『ともだち』に見えンだよ。
 ただ単に、担任から命令されてちょっとばかり面倒見てやってるだけだ」

 そんな一方通行を見て、一〇〇三二号と一五〇四〇号は顔を見合わせ、
 おそらく気のせいだが――にやりと笑って、こう言った。

「それを、友達と呼ぶのでは? と、ミサカは幼稚園児でも分かるような結論を述べます」



 ――二〇分後、病院の中庭には、言いたいことを全て言いつくし、ぜえぜえと荒い息をつく上条と美琴が、
 少し離れた場所には、樹皮から削りだされた縄で両手足を縛られた二人の『妹達』がいた。


149 :第五章『その右手の役割は』 5 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:24:40.16 ID:dlIh0rVc0



 上条は、一方通行達に、『インデックスの記憶を消すこと』は教えなかった。

 教えれば、彼らはきっと苦しむ。

 三日後になったら魔術側の人間が迎えに来る、とだけ伝えた。

 打ち止めは泣いて、美琴は悲しそうな顔をして、一方通行は何も言わずに舌打ちした。
 そして、インデックスは、ゆっくりと微笑んだ。

 彼らの眼には、上条はどう映っただろうか。


 神裂のいう『残酷な日々』は、あっさりと流れていった。
 これほどまでに、一日一日が、短く感じられた日々はないだろう。


 気がつけば、刻限の三日後は、たやすく訪れていた。
 その三日目も、あと数時間で終わる。


「もうちょっとしたら、お別れだね」

 泣き疲れて、ベッドに突っ伏して眠る打ち止めの頭を優しく撫でながら、インデックスは笑った。

「とうまや、あくせられーたや、みことや、らすとおーだーのおかげで、とっても楽しかったよ。
 こんなに楽しかったのは、たぶん生まれて初めてだと思う」

 あと数時間もすれば、魔術師に引き渡される少女は、それでも穏やかに微笑んでいた。
 そして、ベッドに半身を起したまま、ぺこりと頭を下げる。

 
「ありがとう。みんなのおかげで、なにがあってももう、大丈夫だよ」


 その想いを、この記憶を、数時間後に消されることも知らずに、少女はどこまでも幸せそうだった。
 上条は、思わずインデックスの両手を強く握っていた。

「……俺、強くなるから。強くなって、絶対にお前を助けだしてやる。何年後になるか分からない。
 それでも、俺が絶対に、お前をまたここに連れ戻す。
 ……俺の大切な人達が、笑っていられる世界に」

 偽善的で独善的だと自分でも思う。


150 :第五章『その右手の役割は』 5 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:26:27.59 ID:dlIh0rVc0

 だが、それでも構わない。

 笑顔でこの少女を送りだすと決めたから。


「そして、いろんな記憶を、みんなで一緒に作ろう」

「そう……だね。……みんなで、いっしょに」


 ふらりとインデックスの体が揺れた。
 体の力が抜けていくのが、彼女の手を掴む上条にはよく分かる。


 ――もう、限界なのだろう。


 眠りにつくように、インデックスは眼を閉じた。

「ね、ねえ、大丈夫なの?」

 尋常ではないインデックスの様子を見て、美琴が慌てる。
 インデックスの髪をくしゃりと撫でて、完全に意識を失っていることを確認してから、上条は告げた。


「ごめん。今まで黙ってて。
 ……インデックスは、頭の中に一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶してるって言ったよな?
 そのせいで、こいつの頭は圧迫されて、一年に一度記憶を消さなかったら死んじまうんだ。
 完全記憶能力をもってるインデックスの頭は、一年間生活するのが精一杯なんだよ」


「あァ? 何言ってんだ、オマエ」

 一方通行と美琴が、驚いたような表情を浮かべた。
 その姿を見て、上条は思わず苦笑する。 

「信じられないのは分かる。だけど、本当なんだ」

「ちょっと待ちなさいよ。なんか勘違いしてない?」

 なぜか怒ったような表情で、美琴はきっぱりと宣言した。


「完全記憶能力で人は死なないわよ」


「いや、だって、コイツは一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶して――」

151 :第五章『その右手の役割は』 5 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:28:43.97 ID:dlIh0rVc0


「……月詠のヤロウがオマエの面倒をちゃんと見ろって口うるせェ理由がやっと分かったよ。

 バカなオマエにも簡単に分かるように説明すっと、記憶つゥのは一口に言っても色々とあンだよ。
 二〇秒憶えていられるかどうかの短期記憶と、二〇秒を超えて憶えていられる長期記憶。

 長期記憶にはさらに種類がある。
 手足を動かすとか自転車に乗るとか言った、所謂『体で覚える』手続き記憶。
 個人的な体験や出来事を記録する、『一度だけ』を覚えるエピソード記憶。
 そして、発生した時間・場所関係なく『知識』だけを記録する意味記憶。

 容器は同じ脳だが、場所が違う。……分かりやすく言えば、仕切られた小物入れってとこか。

 その一〇万三〇〇〇冊の魔道書とやらは意味記憶に保管されてるンだろうが、
 オマエがの口ぶりだと、消そうとしているのはエピソード記憶の方だ。まるで意味がねェ。
 第一、完全記憶能力で人が死ぬンなら、俺も死んでるぜ?」

 一方通行の説明につけたすように、美琴も口を開く。

「エピソード記憶を消したところで、意味記憶の領域が広くなるわけじゃない。
 逆を言えば、意味記憶の領域がいっぱいになったところで、エピソード記憶が圧迫されることもないの。

 そもそも、よほど脳に障害を抱えていない限りは、二〇秒以上憶えているものは全部、長期記憶として脳に保管される。

 完全記憶能力者ってのは、簡単に言えば短期記憶が強制的に長期記憶になって、
 その長期記憶を完全なものとして引き出せる人間ってところかしら。

 それ以前に、一四〇年分の記憶できると言われてる人間の脳が、
 たかだか一〇万三〇〇〇冊分の本を読んだだけで満杯になるわけないでしょう?」


 魔道書。

 それ一冊が巨大な魔法陣と呼べる凶悪な存在だが――本は本だ。
 彼女が魔道書を読んでも平気な理由は分からないが、彼女は魔道書の内容を、
『知識』として記憶している。

 そして、その『知識』を記憶する部分と、思い出を記憶する場所は別だという。
 それならば、一年に一度というリミットは何なのだろうか。

 上条の心中を読んだように、一方通行がにやりと笑った。

「オカルトの世界になら、俺達科学の人間にはできないこともできるンじゃねェのか?
 お前が散々ぶちのめされた、魔術とかよォ」

152 :第五章『その右手の役割は』 5 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:31:19.31 ID:dlIh0rVc0


 そう。
 インデックスは、どこかに魔術をかけられている。

 たぶん『禁書目録』を制御するための魔術だろう。
 そして、体のどこかに、何かしらの陣などが刻まれているはずだ。

 だが、美琴がいない時などの看病で、上条はインデックスに何度か触れている。
 触れていれば、『幻想殺し』で殺しているだろう。


 まだ、触っていない場所?


「…………………………………………っは! 違う、そんな場所にあるわけない!!」

 一瞬あらぬ方向に意識がぶっ飛んだが、上条は急いで方向修正する。

「オマエ今なに考えた?」

「サイテー」

 一方通行と美琴に、これでもかと言わんばかりに冷ややかな目を向けられ、上条は今の状態も忘れて思わず叫ぶ。

「いや、止めて! 兄妹そろってそんな冷たい目で見ないで!!」

「でも、今までの流れが正しければ、この子は頭をいじくられているのよね。
 だったら、その魔術とかも、頭にかけられてるんじゃない?」

「頭……でも頭蓋骨に直接、とかか? でもさっき髪を撫でた時は何ともなかったな……じゃあ内側か?」

「そんなことして脳が平気なほど、オカルト側の科学技術は進んでるのか?」

「――頭に近くて、でも、魔術の陣が刻める場所」

 なんとなく思いついて、上条はぐったりとしたインデックスの口を開いた。
 往診に来た時に医者が忘れていった、診察用のペンライトで、口の中を照らす。


「………………これ、か?」


 咽喉の奥に、奇妙な文字が刻まれていた。
 もしかして、これを『殺せば』、インデックスを助けることができるのだろうか。

 上条が思わず唾を飲み込んだ瞬間、


「少し早目に来て、正解だったね」


 まだどこか弱々しいステイルの声が聞こえた。
 振り返った先には、何時の間に扉を開いたのか、ステイルと神裂の姿があった。

「白いガキに気ィとられすぎだ、バカが」と、一方通行が短く舌打ちする。

 それを無視して、神裂が静かな声で上条に問いかける。

「もしそれが、その子が魔道書に侵されないための処理だったら?」

 その質問に、上条は皮肉気な笑みを浮かべた。

 
「ルーン一文字で、魔道書の毒を抑えて、その上簡単に従えることのできる魔術があったら――
 あの最大主教なら、ためらわずに部下の強化に勤しむだろうさ」


 ステイルと神裂が、わずかに驚いたような表情を見せる。

153 :第五章『その右手の役割は』 5 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:32:40.45 ID:dlIh0rVc0


「分かってる。知っている。『必要悪の教会』は正義の組織じゃないし、お前らも正義のヒーローじゃない。
 ……いや、ヒーローじゃなかった。だったら、これから頑張ればい」


 気がつけば、上条は口に出していた。
 この三日間で引き出した、自分なりの答えを。


「『学園都市』の人間として生きるか、『必要悪の教会』の人間として生きるか、か……。
 なんでこんなくだらないことでくよくよ悩んでたんだろうな。
 例え何があっても、お前らが俺の大切な幼馴染であることには変わらないし、
 この街でつくった『ともだち』が俺の大切な人たちであることは変わらない。

 どっちで生きるかなんて、そんなこと、本当にどうでもよかったんだ。

 俺はインデックスを助けたい。そこに理由なんてない。
 あるとしても、インデックスの笑ってるところが見たいからとか、そんなバカみたいな理由だ。
 でも、『学園都市』にはそんな俺を支えてくれる人たちがいる。

 そして、お前らもインデックスを助けたいんだろ?
 苦しんでる友達を助けたいって、この一年間ずっと願いながら、それでもどうしようもなくなって、
 ――ずっとずっと、苦しんでたんだろ?

 一年間インデックスを追いまわして、挙句に俺とも戦って。
 だとしたら、お前達も救われるべきなんだ。

 友達想いの優しいお前達が苦しむ理由なんて、どこにもない。

 だったら、魔術も科学も関係ない。そんなどうでもいい壁、今すぐ取っ払っちまえばいいんだ。


『悪い魔術師』を倒す、正義のヒーローになりたかったんだろ?
 神様にさえ見捨てられた人を、救い出せる人になりたいんだろ?

 だったら……いい加減始めようぜ、魔術師!!」


154 :第五章『その右手の役割は』 6 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:34:09.54 ID:dlIh0rVc0


 インデックスにかけられた魔術を破壊するのは後回しにして、上条達は病院の入院患者を避難させた。

 なにが起きるか分からないからだ。

 もしかしたら、破壊した瞬間、周囲を巻き込んで大爆発を起こす魔術かもしれない。
 もしかしたら、『歩く教会』を効率的に維持させるための魔術かもしれない。
 そもそも、これで彼女が救われるという確証はない。
 もしもトラップだったら、解いた側が死ぬかもしれない。

 それでも、インデックスの病室には、
 上条と、ステイルと、神裂と――一方通行と、美琴の姿があった。

「本当にいいのか?」

 一方通行と美琴は、魔術的には無関係な人たちだ。
 一方通行でも魔術は反射できないようだし、美琴も何かあった時に盾をつくるのが精いっぱいだろう。

「あんたには、私が友達を見捨てる馬鹿に見えるの?」

「は。ここまで来て、一番おいしいところだけ見逃すなンて、大馬鹿のやることだ」

 普段と変わらない様子の二人を見て、上条は思わず微笑む。
 そして、ゆっくりと右手に巻いた包帯をほどいた。

 神裂のワイヤーで切り裂かれた痕はまだ残っているが――魔術一つ殺すくらいなら、余裕だろう。

「それじゃあ、いくぞ」

 インデックスの口を開き、刻まれた文字へと指を伸ばす。
 ぬめるような不快な感触に上条の顔が歪み――
 バギン! と。上条の右手が勢いよく後ろへと吹き飛ばされた。

「……がっ!?」

 すんでのところで一方通行と神裂が背中を支えてくれなかったら、そのまま尻餅をついていたかもしれない。


「――警告、第三章第二節」


 そして。
 声が、聞こえた。

155 :第五章『その右手の役割は』 6 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:35:58.48 ID:dlIh0rVc0


「Index-Librorum-Prohibitorum――禁書目録の『首輪』、第一から第三まで全結界の貫通を確認。再生準備……失敗」


 淡々と、インデックスの口から言葉が紡がれる。
 その口調は、普段の彼女のものからは程遠い。

 目に直接刻まれた真紅の魔法陣が、彼女の瞳を赤く染めていた。


「――現状、一〇万三〇〇〇冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」

 殺意すら感じることができないのは、そんなものを超越しているからだろうか。
 ゆらりと起き上がりながら、インデックスの口からは無機質な言葉が紡がれ続ける。
 やがて、瞳の魔法陣が、彼女の盾になるように展開された。

「――侵入者個人に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました。
 これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」


 その瞬間、この場にいるインデックス以外の人間が感じたのは、恐怖だった。
 魔術側の人間だろうが、科学側の人間だろうが、そんなどうでもいい壁は関係ない。

 人間として――生き物としての、根源的な恐怖。

 ギチリ、と。何かが『空間』を割り破ろうとする。
 その場の空間が無理矢理引き裂かれた――としか、表現ができない。
 引き裂かれた空間の奥から、何かがこちらを覗きこんでいるような悪寒。

 今まで数多くの魔術師と相対してきた上条ですら、一人の魔術でここまで強力なモノは初めて見た。


 どうやっても科学的に説明することができない現象を前に、一方通行と美琴の思考は止まる。

「どォなってやがる……!」
「なによ……これ……?」


 それ以上に、魔術的に説明できてしまうステイルと神裂の方が、心理的にダメージを負っていた。

「……魔術……だって!?」
「そんな、あの子は魔術が使えないはず――!」


 そんな中で、上条は、笑っていた。


「そういやぁ、一つだけ聞いてなかったっけか。
 超能力者でもないテメェが、一体どうして魔力がないのかって理由」


 ふたを開けてみれば、答えは簡単だった。
 インデックスは今、途方もない大魔術を使っている。
 それに使われる魔力もまた、途方もないものだろう。

 それこそ、人一人の一生分の。

『禁書目録』という『魔道書図書館』が、敵の手に渡らないための措置。
 なるほど、上手い手だ。
 こうすることで、インデックスが魔術結社に利用されることや、
 彼女のパートナーになった人々に恨まれることや、裏切りの可能性をつぶしていたのだろう。


「――上等だ、クソったれ」


 上条が呟いた瞬間。
 轟!! と、魔法陣から光が放たれた。

156 :第五章『その右手の役割は』 6 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:37:58.91 ID:dlIh0rVc0


「!!」

 慌てて右手で受け止めるが、何かがおかしい。
 光は、消えるどころか、さらに勢いを増して、上条を『喰い殺そう』とする

「『竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)』!?」

 神裂の焦ったような声に応える暇すらない。
 左手を添えて支えようとするが、あまりの勢いに、体ごと吹き飛ぶ。

 足が床から離れた瞬間、

「危ない!」

 美琴の叫びとともに、一条の光が、背後から放たれた。

 超電磁砲――音速の三倍で射出されたコインは、オレンジ色の残光を残しながら、
 ベッドを粉々に砕き、リノリウム材の床、そして鉄筋コンクリートの建材すら貫通した。

 ぐらりと揺れたインデックスの体が一瞬後ろへ反れ、天井へと顔を向ける。
 が、インデックスはすぐに体勢を立て直し、上条達の方へと顔を戻す。

 一秒か、二秒。その間だけ自由になっていた右手を構え直し、上条は再び『竜王の殺息』を受け止める。

「ぐ、が、あ……っ!」

 放たれる『竜王の殺息』は、ぎちぎちと右手に食い込んでくるような錯覚さえする。
 右手全体が鮮血に包まれる。

 おそらく、一分と持たないだろう。


「――『魔女狩りの王』!!」


 ざあ、と、ステイルの修道服を破るように飛び出した大量のルーンが壁や天井に張り付く。
 上条の盾となるように『魔女狩りの王』が立ちふさがるが、
 ほんの三日前に生命力のほとんどを使い果たしたステイルの体調は、とてもではないが十全とは程遠い。

 結果的に生成できた魔力は足りず、『竜王の殺息』の全てを受け止めることはできない。
 上条はこぼれた『竜王の殺息』を受け止めるが、徐々にその質量は増していく。


 このハードルさえ乗り越えれば、きっと皆が笑えるハッピーエンドを迎えられるのに。
 ほんの数メートルの距離が、越えられない。


 二条に分かれた『竜王の殺息』の負担を少しでも軽減させるため、神裂が七閃を振るうが、舞い散ったコンクリートは一瞬すら盾とならずに消滅する。

 インデックスは『魔女狩りの王』の解析を始めているようだし、そもそもステイルの体力が持たないだろう。

 七閃のワイヤーや、切り裂かれたコンクリート片は、『竜王の殺息』を受け、
 その一枚一枚が人を深く傷つける、『光の羽根』に変貌していく。

 こちらに降りかかろうとする『光の羽根』は――本能的に恐怖を覚えたのか――美琴が張り巡らせた電撃で弾いているが、
 それも、いつまでもつか分からない。そもそも、意味があるのかすら分からない。


「あ、あ、あぁぁぁっ!!」


 それでも、やるしかないのだ。
 無様に咆哮しながら、血まみれになりながら、策が見つからなくとも。
 目の前の少女を救うために。
 背後に立つ友人たちを守るために。


157 :第五章『その右手の役割は』 6 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:39:22.85 ID:dlIh0rVc0


「なァ、上条。あの白いガキを何とかしたら、このバカげたお祭り騒ぎは終わるんだよなァ?」

 と、不意にそれまで傍観者だった一方通行が口を開いた。
 気がつけば、真横に一方通行が立っていた。
 その表情を見ることはできない。そんな余裕などない。


 だが、上条当麻は知っている。

 一方通行という少年は。
 大切な人間を守るためならば、
 大切な人間を傷つけることも厭わない。

「やめ……ろ!」

 思わず発した言葉を、隣の一方通行に向けたのか、眼前のインデックスに向けたのかすら、判断がつかない。
 極限状態の上条を見て、一方通行は『自嘲』した。

「蔑めよ、上条当麻」

 その言葉とともに。
 一方通行が、上条当麻の前へと立った。

「ぐ、う、おおおォォォ!」

 反射が効かない。肌が焼ける。熱いどころの話ではない。
 その苦痛を無視して、一方通行は咆哮する。

 その脚は、前へとは進まない。

 上条と美琴――そしてステイルや神裂を守るように、彼らの前へと立ちふさがる。


 一方通行は大切な人間を守るためなら、大切な人間を傷つけることを厭わない。
 だが、それ以上に――大切な人間を守るためなら、自分が傷つくことを厭わない。


「おい、上条ォ! オマエの賭けに乗ってやるよ!
 この一方通行がベットすンだぜ、負けるのなンてぜってェ許さねェからな!!」


 一方通行は叫ぶ。
 このバッドエンドへひた走るバカげたストーリーを、ハッピーエンドで終わらせろ、と。


158 :第五章『その右手の役割は』 6 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:40:53.85 ID:dlIh0rVc0


 なぜか上条は、今まで起きたこと、全てを思い出していた。
 まるで走馬灯のような、一瞬にして、鮮烈な記憶たち。
 一瞬で通り過ぎて行った記憶の中で、唯一脳裏に残ったのは、彼女の声。


「――なあ、インデックス」


『……、じゃあ。わたしと一緒に地獄の底までついてきてくれる?』


 地獄――そこは、主から、『神の子』から、そして『聖母』からすらも見捨てれた罪人たちが落とされる場所。
 彼女は、自分がそんな場所にいるのだと告げた。

 十字教徒である上条にとって、『地獄』という単語がどれほどの重さを持っているか理解した上で――
 彼女は自分が『地獄』にいると告げたのだ。


「お前が自分のことを救われないなんて幻想に囚われてるって言うのなら。

 いいぜ。まずは――そのふざけた幻想をぶち殺す!!」


 そして。
 魔術を使えない魔術師は、
 不幸で幸福な偽善使いは、
 ハッピーエンドを目指す。


 宣誓するように上条当麻は叫んだ。
 幼い頃、自らの魂に刻みつけた名前を。
 自分なりの信念と、ありったけの想いを込めた魔法名を。



「felix102。――歪んだ幻想を殺せる幸福なる者!!」


159 :第五章『その右手の役割は』 6 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:41:42.11 ID:dlIh0rVc0


 上条は一方通行の背中に飛び乗るようにジャンプする。
 反射された力を逆に利用して、上条は天井すれすれまで高く飛び上がった。

「う、おおおぉぉぉおおっ!!!」

 インデックスの顔が、飛び上がった上条の方へ向くまでに発生するタイムラグ。
 時間にして一秒か二秒程度のそれが、全てに決着を付けた。


 インデックスが顔を上げたその瞬間にはもう、上条の右の掌が彼女の顔を覆っていた。


 インデックスを壊れた床に押し付けるように、上条の体が倒れる。



160 :第五章『その右手の役割は』 6 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:42:32.09 ID:dlIh0rVc0



「修復……不能……」
 機械的な声が、少女の口から流れる。



「トウマ!」
「上条ォ!!」
 どこまでも必死な声が、少年達の口から飛び出る。


 
「――そん、な」
「……………………え」
 呆然とした声にもならない声が、少女達の口からこぼれる。



 しかし、そのうちの一つとして、上条の耳には届いていなかった。


 なぜなら。
 上条の右の掌がこの悲しい幻想を終わらせたその瞬間。


『上条当麻の全て』もまた、終わっていたのだから――。

161 :第五章『その右手の役割は』 6 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:43:09.31 ID:dlIh0rVc0



 ひらりと舞う光の羽はこの世のものとは思えぬほど美しく。


 一人の少年に、この世で考えられる最も残酷な死を与える。





162 :行間五 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:43:52.08 ID:dlIh0rVc0


「全部憶えてるよって、ミサカはミサカはあなたに真実をうちあけてみたり」

 調整が済み、普通の病院のベッドに移された『最終信号』は、一方通行を見るなりそう告げた。

 なんとなく、予想はついていた。
 ミサカネットワーク――感情すらやり取りできるそのネットワークの司令塔である彼女が、
 ネットワーク上に記憶のバックアップを取っていることを、生き残った別の『妹達』から聞いていた。

 だから、一方通行は驚かなかった。
 その代わりに、現在進行形で進めなければいけない話をする。

「生き残った『妹達』は、俺と御坂美琴が『購入』した」

 嫌な言い方だと思った。だが、彼女たちはペットと同じだ。
 どれほど感情移入しても、結局は人として扱われない。

 その現実を受け止めた上で、『最終信号』はほほ笑んだ。

「だったら、ミサカはあなたの方がいいなって、ミサカはミサカは打ち明けてみたり……」

「あァ。……今日からお前は、俺のモンだ」

 一方通行は手を伸ばす。
 そして、『最終信号』の髪をゆっくり撫でた。

「ゆっくり、二人で贖罪していこうって、ミサカはミサカは提案してみる」

 泣きそうな顔で、『最終信号』はそう言った。

163 :行間五 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:44:55.98 ID:dlIh0rVc0


 たくさんの『妹達』が死んだ。
 一方通行に殺されたのか、それとも自殺したのかは分からない。


「よし! あと五キロだ! 根性で走れ、一五〇四〇号!!」
「はい、グンハさん、とミサカは荒れてきた息を根性で整えながらうなずきます」


 九五二七人の『妹達』と、数すらわからない暗部の人間達。
 彼らが死んでも、『学園都市』という世界は何も変わらなかった。


「うふふ。それにしても、おもしろいものを見せてもらったわ。
 これだから、『陰から支援ごっこ』はやめられへんなー」


 だが、本当に、何も変わっていないのだろか。


「常盤台の皆を使ったのは悪いと思ってるけどぉ。
 結局、私の改竄力でどうにもなっちゃうのよねぇ」


 少なくとも、『一方通行』や『御坂美琴』を取り巻く世界は、大きな変貌を遂げた。


「ったく! フレンダの野郎、退院までにどれくらいかかってんのよ。お仕置き確定ね」
「そんな超でかい花束持ったまま言っても、超説得力ありませんよ」
「大丈夫だよ、むぎの。私はそんな素直になれないむぎのを応援してる」


 その変貌を遂げた世界は、きっと、『学園都市』という世界に影響を与えるはずだ。


「結局、私と削板さんを助けてくれた人って誰だったのかしら。
 ……あれ。どんな顔だったっけ?」


 大きな力を持つ者は、周囲の世界に大きな影響を与える。
 そして、第一位と第三位という、大きな力を持つ者の世界が大きく変わったのだ。


「まさか、俺以上に常識が通用しない奴がいるとはな」
「まあ、結局勝ったんだからいいでしょ。……第六位のせいで殺し損ねたけど」



 何年後になるかは分からない。
 でも、確実に、『学園都市』という世界は変わる。

 ――変えて見せる。

164 :行間五 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:46:22.22 ID:dlIh0rVc0



 そして、数か月後が経ち――季節は、春へと移り変わる。


 一方通行が入学することにしたのは、平凡な、どこにでもありそうな高校だ。

『七人戦争』の時以来世話になっている、黄泉川愛穂が教師を務める高校。
 一方通行は、そのつてを使って、この高校に入学することにした。

 一方通行が望むのなら、どんな学校にも進学できる。
 だが、彼が望んだのは、人が死ぬような『実験』を推奨しない、平和な学校だった。

 戸惑ったのは、学校の方だ。
 無能力者か低能力者ばかりの高校には、超能力者の彼を受け止めるだけのノウハウがない。

 そのため少々異例なことに、彼は入学前に、自分の担任と顔を合わせることとなった。
 なんでも、その生徒個人に合せたカリキュラムを組み立てるのが上手な教師だという。
 外見年齢は、どこからどう見ても小学生くらいの女性だが、これでなかなか優秀らしい。

 だから、てっきり、一方通行を研究するという方向で決まったのかと思った。

「それでは、高校三年間を使って、鈴科ちゃんの力の平和利用を考えていきましょう。
 第一目標は、風紀委員の活動で、犯人さんを無傷で捕まえることですねー」

 だというのに、担任教師の口から出たのは、一方通行からすれば意外な言葉だった。

「……俺の能力の研究でもすれば、こンな普通の高校でも、それなり潤うンじゃねェのか。
 こンな、なンかぶっ壊すくらいにしか使えねェ力の平和利用?
 この力で救えたのは、今のところガキ一人だけだ。そのガキも完全には救えなかった」

 吐き捨てた一方通行の言葉に、担任教師は悲しげな表情を浮かべて、それからすぐに笑顔になった。

「どうして、そんな寂しいことをいうんですか?
 鈴科ちゃんは、とってもっとってもすごい力を持っています。
 だったら、今から努力すればいいのです。
 だって、完全ではないとはいえ、一人助けられたんでしょう?
 まだまだ鈴科ちゃんは子どもです。まだまだ、これからです。
 そもそも小萌先生には、自分の生徒をモルモットみたいに扱う趣味はないのですよー」


 また、増えた。
 こんな、どうしようもない馬鹿が。

 だが、一番の馬鹿は自分自身だ。
 幼い頃からずっと『実験』と称して人を殺し続けて。
 それから抜け出すための『七人戦争』でも人を殺して。
 守りたかったはずの『妹達』まで殺して。
 真っ当な道など歩けるはずもないのに、それでも真っ当な道を歩きたいと願ってしまう大馬鹿だ。

 一方通行の世界には、こんな大馬鹿を許容してくれる馬鹿ばかりが増えていく。

 もっと増えればいい。

 そんな馬鹿が集えば、『学園都市』という世界は変わるのではないか、と、一方通行はなんとなく考えた。


165 :終章『とある科学の幻想殺し』 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:47:57.16 ID:dlIh0rVc0


 ステイル=マグヌスと神裂火織――二人の魔術師から、ことのあらましは聞いた。

 自分が一年に一度、記憶を消去されていたこと。
 ステイルと神裂は昨年のパートナーであり、インデックスの記憶を消した張本人だったこと。
 上条当麻が、記憶消去を阻止するために、インデックス自身も気づいていなかった魔術を殺したこと。
 ――そして、それと引き換えに、上条当麻が記憶を失ったこと。


 どれもこれもピンとこなかった。

 自分が記憶を消されてきたということも、
 自分を一年間追ってきた魔術師が、実は昔の友達だったということも、
 自分のせいで、上条が記憶を失ったということも。


 頭が痛くて痛くてどうしようもなくて、ふっと楽になってみればつきつけられた数々の事実達。


 いつも通り病室まで往診に来た、カエルによく似た顔の医者は、「明日には退院できるね?」と言った。

 それじゃあ、とうまは? と訊ねたインデックスに、

「体の傷は、僕が全部治したよ? でも、記憶の方が理由がさっぱり分からなくてね?
 あれは、『記憶喪失』というよりも『記憶破壊』だね?」

 と、彼は答えた。なぜか、とても悔しそうに。


 記憶破壊――科学的な医療単語は訳が分からないが、つまり、
 インデックスが一年と少し前に目覚めた時と同じ状態になってしまったのだろう。

 ぶるりと身を震わせる。
 あの時の恐怖を思い出す。

 なにより、それと同じ恐怖を彼に与える原因を作ったのは、インデックス自身だ。

166 :終章『とある科学の幻想殺し』 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:49:11.02 ID:dlIh0rVc0


 それでも、上条に謝るために、インデックスは歩を進める。

 教えられた上条の病室の前には、三人の人間がいた。
 より正確には、一方通行と御坂美琴と打ち止めだ。

 御坂美琴は、ドアとは反対側の壁に背中を付けて、ぼんやりと天井のあたりを見ていた。

 打ち止めは、ドアの脇で、一方通行の腰に抱きつきつつ、涙をぼろぼろとこぼしていた。

 一方通行は、顔に貼られた大きなガーゼのせいで、いつも以上に感情が読めない。
 腕や体を包帯でぐるぐる巻きにされて、右腕からは点滴につながるチューブが伸びている。
 彼も十分重傷人であって、ベッドで寝ているべきなのだ。
 それでも、この部屋の患者に用があって、わざわざ起きてきたのだろう。


「とうまは?」

「ついさっき起きたばかりで、看護師に簡単な説明を受けたばかりだ」

「あくせられーたたちは?」

 問いかけたインデックスに、

「行け」

 一方通行が、短く告げた。

「オマエにはその義務がある」

 そう。権利ではなく、義務なのだ。
 意を決したインデックスは、胸の前で十字を切る。

 いつの間にか手は汗でぐっしょりとしていたが、それでも構わず病室の引き戸を開いた。

 数歩進む。

 その先に、上条当麻はいた。
 ベッドの上で上半身を起こしていた彼は、きょとんとした表情を浮かべてから、ちょっとだけ微笑む。


「あの――病室を、間違えていませんか?」

167 :終章『とある科学の幻想殺し』 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:50:38.00 ID:dlIh0rVc0


 分かっていても、告げられた言葉は、何よりも痛かった。
 泣いちゃだめだと思いながらも、目には涙が溜まっていく。

 その様を見て、上条が慌てたような声を出す。

「もしかして、俺達……友達、だったのかな。だったら、ごめんね」

 記憶破壊なんてされながら、それでも『友達』を気遣う上条を見て、インデックスは思わず上条の名前を呼んでいた。

「とう、ま……」

「とうま? それが、俺の名前なのかな? 名字は教えてもらったんだけど、
 名前まではまだ教えてもらってなかったんだ。ありがとう」

 上条の優しい声――それが逆に、インデックスの心を突き刺す。

「そうだよ……。とうまはね、あくせられーたと、みことと、らすとおーだーの、大切な、『ともだち』」

「あくせら……れーた? みこと……らすとおーだー……?」

 何かを確認するように、上条が黙る。
 それから、インデックスへと顔を向けて、優しく微笑んだ。

「君は――?」

「とうま、憶えてない?」


 限界だった。
 大粒の涙が、頬を流れていく。


「インデックスは、とうまのことが、大好きだったんだよ?」


 そして。


168 :終章『とある科学の幻想殺し』 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:52:02.95 ID:dlIh0rVc0



「――ごめん。俺はもう、君との記憶を思い出せない」


 つきつけられたのは、どこまでも悲しい現実だった。

 今すぐここから走り去りたい。
 十字架の前で、何百回贖罪の祈りをしても、けして許されぬだろう。
 きっと今の自分は、『聖母』にすら許されない。

「でも」

 その場から立ち去ることもできずにボロボロと泣きだしたインデックスを見て、
 上条は、笑った。

「君がとても苦しんでたってことは、知識として覚えてる。
 一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶していることと、一年に一度記憶を消されていたこと。
 それだけだけど――俺は、君を憶えている」

 ゆっくりと上条が、インデックスに手を伸ばした。

「教えてほしいんだ。俺が一体、どんな人間だったのか。
 ……別に、前の俺にとって代わろうってつもりじゃない。
 でも、知りたいんだ。俺がどんな人間だったのかって」

 あまりの優しさに、インデックスは思わず叫んでいた。

「とうまは、とうまは、わたしのせいで記憶をなくしちゃったんだよ!?
 そんなわたしが、とうまのことを語る権利なんて、どこにもない!」

 だが、上条は微笑みを浮かべたままだった。

「断言できる。俺は、君のことを、欠片も恨んでいない。
 むしろ、嬉しいんだ。君がこうしてここにいることが」

 差し伸べられた手を、思わずインデックスは握りしめていた。


 今握りしめている右手が、途方もなく尊いものに思えた。


「でも。……もし君が、そんな幻想を抱えているのだとしたら」

 なぜか、インデックスは思い出していた。

 ステイルから教えてもらった、彼の魔法名を。
 上条当麻が、その魂に刻んだ名前を。

 felix102。歪んだ幻想を殺せる幸福なる者。

 felix――その意味は、幸福。


「そんな幻想は――俺が、全部ぶち殺してやる」


 すべて受け入れて笑える彼は、幸福なのだろうか。
 溢れる涙を拭わずに、インデックスは思う。


 そうであってほしいな、と。

169 :終章『とある科学の幻想殺し』 [sage saga]:2011/06/30(木) 23:53:41.23 ID:dlIh0rVc0






 実のところ、病室での会話は廊下まで完全に筒抜けだった。

 何やら入りづらい空気に、カエル顔の医者は若干困惑している。
 その空気すら楽しむかのように、御坂美琴は微笑んだ。

「案外、アイツはまだ憶えてるのかもしれないわね」

 美琴の呟きに同調するように、一方通行と打ち止めの表情が緩む。
 驚いたような表情を浮かべたのは、カエル顔の医者だ。
 
「彼の『思い出』は、脳細胞ごと『死んで』いるはずなんだけどね?
 脳に情報がなければ、どこに情報があるというんだい?」

 くだらない質問だ、と思った。
 それでも、彼は言葉にせずにはいられない。

『上条当麻』の友でありながら、その『死』を受け入れている彼らなら。
 その『死』を受け入れながら、新しく前に進もうとしている彼らなら。
 この疑問に、応えてくれる気がしたから。


「どこにって……そりゃァ、決まってンだろ」


 照れくさそうに、楽しそうに、嬉しそうに。
 かつての彼であれ、今の彼であれ、『上条当麻』ならこう答えるという確信を持って、一方通行は答える。



「――心に、じゃねェのか」






170 : [sage saga]:2011/06/30(木) 23:56:52.72 ID:dlIh0rVc0



とあるシリーズの真骨頂は上条さんの説教だと思うんです。
途中の上条さん豆腐メンタルは完全に個人的趣味です。どうしてもキャラクターを精神的に追いこみたくなる。

あと一方通行を勝手に完全記憶能力者にしちゃったけど、後悔はしてない。
というか削板以外の超能力者って記憶力半端ないっぽいし別にいいよね!

ぎりぎり六月中に本編完結できました。
電撃文庫のフォーマットで行くと、240P分くらい?
改行多いからよくわからない。
とりあえず、鎌池先生ほんとすごい。

蛇足ですが、それぞれの章タイトルは、

 序章 とある魔術の幻想殺し Mission_Start!
第一章 交差する若者達 See_VisionS
第二章 夏休み前日、あるいは最期の日常 Memories_Last
第三章 一方通行な再会 PSI_Missing
第四章 名が示す意味 No_Buts
第五章 その右手の役割は Judge_Right
 終章 とある科学の幻想殺し Mission_Complete?

……こんな感じです。

長編はもう無理なので(一応三巻と五巻の構想はありますが、色々限界)、
サイドストーリーやメタネタ全開の台本形式のお話で1000まで頑張ろうと思います。
しばらくは1〜2日に一投下くらいが目標。





 ほんとうに、ほんとうにありがとうございました。

171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/07/01(金) 00:00:18.78 ID:bhPAllKko
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/01(金) 00:07:43.89 ID:fDA0j5rRo
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/07/01(金) 00:21:31.83 ID:cr1H8Jtjo
乙乙
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/01(金) 00:27:42.80 ID:fFy8KoR5o
超乙
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/01(金) 01:10:02.26 ID:G2B+as0b0
乙!
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/01(金) 01:13:26.70 ID:F7pxS5zv0
おもしろかったー乙!
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/01(金) 02:17:29.85 ID:DNdflfBbo
いいまとめ方だったなー。上条さんにも感情移入した
面白かった!
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/01(金) 16:42:48.17 ID:CugdyKpJ0

御坂と上条じゃ全然立場が違うどう見ても上条のほうが辛いだろ
御坂のほうは殺されたのはクローンだし
ただ単純に憧れてただけだろそいつが自分のクローンを殺してただけだろたったそれだけで
分かるとかほざいてる御坂はなんにも分かってない八つ当たりがしたいあまちゃんだな
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/01(金) 17:15:44.30 ID:CugdyKpJ0
すまんやっぱなかったことにしてくれ
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/01(金) 22:08:02.33 ID:CugdyKpJ0
どうかしてたイライラしてただけなんだ
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/01(金) 22:20:56.15 ID:sAHDVn1so
賢者になったのは分かったからもちつけ
182 :真あとがき:とある二人の楽屋ネタ(ぶたいうら) [sage saga]:2011/07/02(土) 12:23:11.21 ID:pinku1Be0











一方「こっから先は楽屋ネタだ。
   嫌いなやつは尻尾ォ巻きつつ泣いて無様に元の居場所に引き返しやが――
   いや違う、これは台本読まされてるだけだ!
   なにバチバチ言ってンだよ! あとでパフェ食わせてやるからとりあえず落ち着け!
   特選都路里パフェが食べたい? 京都まで連れて行けってかァ!?」



※というわけで、ここから先は楽屋ネタのオンパレードです。
 時雨沢先生みたいな『あとがき』用意したかったけど、無理だったんだ。


183 :真あとがき:とある二人の楽屋ネタ(ぶたいうら) [sage saga]:2011/07/02(土) 12:24:46.32 ID:pinku1Be0


一方「あとがきだ、クソ野郎」

美琴「というわけであとがきです。最初にも書いてるけど、楽屋ネタとか苦手な人は早目に退避してください」

一方「本当は、本編終わってすぐさまこのあとがきを投下しようと思ったらしい。
   今後のこのスレは、地の文形式のサイドストーリーか、台本形式のアホ話の両極端に走ることを伝えるために」

美琴「さすがに、一方通行が『――心に、じゃねェのか』とドヤ顔を決めた直後に、
   こんな楽屋ネタというかメタネタ全力全開なのを投下するのは余韻ぶち壊しだと気付いてやめたんだけどね」

一方「おい御坂、これ終わったら屋上に集合な。
   ……さて、本編は無事終わった。なんとか終わった。
   最初の予定よりちょっと長くなったが無事終わった」

美琴「やたら終わったこと強調するわね」

一方「>>1は小説書き始めて十数年経つんだが、ここまで長い話を書ききったのは初めてなンだよ。
   ぶっちゃけ、本編完結を一番喜んでいるのは>>1だ」

美琴「よくもまあそんなんでスレ立てしようとおもったわね……」

一方「まァ、あれだ。若さゆえのテンションだ」

美琴「内容もわりとその場その場のテンションで書いたから、初期構想とまったく違う感じになってるしね。
   例えば、第二章の終りと、第四章と第五章の最初は、行間にする予定だったし」

一方「『七人戦争』は名前だけ出して、俺とあのガキとオマエとの会話シーンでほのめかす程度の予定だった」

美琴「そもそも私とあんたが幼馴染で、あんたが準主役になったのも、、
   長編化する際に、『そういや土御門、インデックス騒動に関わらせれないじゃん』とい理由で生まれた設定だもん」

一方「考えられているようで、ホント、なンも考えられてねェな……」

美琴「最初から考えてたのは、『上条がインデックスに記憶喪失をばらす』だけだからね……。
   それ以外はその場のノリ&テンション」

一方「『原作の名台詞を言わせたかっただけ』なシーンも多いしな」
184 :真あとがき:とある二人の楽屋ネタ(ぶたいうら) [sage saga]:2011/07/02(土) 12:27:26.26 ID:pinku1Be0


美琴「今後のこのスレは、>>178とかさっき一方通行が言っていたみたいに、
   ・一学期の話や夏休みの話、あるいはそれぞれの子ども時代のサイドストーリー(地の文形式)
   ・時間軸とかガン無視な楽屋ネタ全開な痛々しいおまけ(台本形式)
   の両方で1000までやっていこうと思います」

一方「原作再編についてなんだが、2巻や4巻みてェな魔術サイドの話は細かいところが変わるだけで、
   原作と大きく変わることはねェ。
   精々、ステイルや土御門が、上条を魔術的事件に巻き込むのをためらう程度か。
   むしろ、大きく変わるのは3巻と5巻だな」

美琴「私とあんたが普通に顔見知りだしねー。しかも一応は『実験』が強制終了させられてるし」

一方「構想としては、3巻は『打ち止めを人質にされていやいやながら一〇〇三二号をぼこる俺を止めに来る上条』、
   5巻は上条サイドはあまり大きくは変わらず、俺の方が『天井に誘拐された打ち止めを助けに行く俺』
   ……というイメージらしい」

美琴「思ったんだけどさ……このスレ、『上条さん「必要悪の教会」所属IF』というか、
  『上条さんと一方さんクラスメイトIF』の方が近くない?」

一方「だから言ってるじゃねェか。何も考えてねェ。
   それと、>>178は気にすンな。上条と御坂の口論シーンは、
  『一見すると話が繋がっているけど、実際は両方とも自分が言いたいことを言っているだけ』
   なンで、『八つ当たりじゃねーか』という意見は間違っちゃいねェ」

美琴「それじゃあ『あとがき』はとりあえずここまで。
   なんかリクエストあったらお願いします。台本形式はやめろとか」

一方「そンじゃまァ、終了だ」

美琴「インデックスの出番を増やしたいと思いながら終了!」





――――――――――

一方「ったく。やっと終わったか……ン? なンだクソガキ。
   はァ? 特選都路里パフェより『如月』が食べてみたい?
   京都伊勢丹店限定メニュー? 知るか。
   ――って待て、待ちやがれ、どこに行く気だクソガキ、おいこら、打ち止めァァ!」


185 : [sage saga]:2011/07/02(土) 12:29:23.08 ID:pinku1Be0
>>178さんごめんなさい、>>184一回目の>>178になってる場所は、
ただしくは>>170です
186 :以下、名無しに変わりましてゴミがお送りします [sage]:2011/07/02(土) 16:34:16.11 ID:OX9QtfPK0
>>1>>181
なんかいろいろすまんホントにどうかしてたんだ
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/02(土) 17:43:18.64 ID:OX9QtfPK0
オワタ
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/02(土) 17:54:50.10 ID:pinku1Be0
>>187
つ魔法の言葉『若気の至り』
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/02(土) 18:42:09.12 ID:JLDE5cIAO

記憶喪失を切り抜ける方法が思い付かないからどうしようもないけど、欲をいえばもし記憶もったままだったら魔術サイド事件とどう関わったかが気になったかな

>>187
そんな日もあるさ
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/02(土) 19:33:58.12 ID:OX9QtfPK0
ありがとう……みんな……
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/02(土) 20:08:01.78 ID:EXICPcXco
アックアさん……
192 :サイドストーリー:上条さんが退院しました [sage saga]:2011/07/03(日) 17:39:54.23 ID:7IIxlSqL0


 八月某日。

 七月の終わりのとある事件で入院していた上条当麻がようやく退院した。
 退院したが、問題は山盛り山積み豪華特典付きだ。


 上条は、そのとある事件を解決させることと引き換えに、記憶喪失になった。

 今まで生きてきた十五年と少し分の『思い出』を、彼は全て失ってしまったのだ。

 日常生活に欠かせない基本的な事柄は『知識』として覚えているものの、
『知識』として記憶されていなかったこと――例えば自分がどういうふうに育ってきたのか、
 あるいは、どんな友人がいてどんなふうに接してきたとかの『エピソード』は憶えていない。

『知識』と『エピソード』の境界はわりと曖昧で、
 インデックスの顔や性格、そしてどうして出会ったのかという『エピソード』は憶えていないが、
 『一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶している』ということは『知識』として覚えている。
 他にも、一方通行の『一方通行』という能力は覚えているのに、一方通行本人のことは忘れ去っていたり、いろいろと複雑だ。

 周囲をあまり心配させたくないという上条の意見を尊重したため、
 この事実を知っているのは、事件にかかわった人間と、上条を担当した医者達と、
 彼の担任教師と、クラス委員二人と、幼馴染の土御門だけだ。

 上条の両親や、一〇年近く世話になったという神父には伝えていない。
 ……というより、上条(とインデックス)の世話を半ば強制的に押し付けられた形の一方通行には、
 上条の両親や、世話になったというロンドン時代の知り合いとは連絡が取りようがない。

 土御門もあてにはならないし(というより『七人戦争』で散々胡散臭いところを見ているので、
 上条の幼馴染なのは理解しつつも、あまり頼りたくないのが本音だ)、
 結局、上条の記憶喪失を知っている人間は十人かそこらだ。

193 :サイドストーリー:上条さんが退院しました [sage saga]:2011/07/03(日) 17:42:13.94 ID:7IIxlSqL0

 ともかく、上条は無事に退院できた。

 日常生活に関するサポートは寮の隣人である一方通行と土御門が、
 インデックスに関するサポートは美琴と打ち止めがすることとなった。

 ちなみに、インデックスは上条の部屋に住むことで決定した。

 美琴は最後まで「男子高校生の部屋に女の子を住まわせるなんて――!」と抵抗したが、
 そのインデックス本人に「とうまの記憶喪失はわたしの責任なんだもん!」と反論され、
 それ以上強く突っ込むと泥沼になると判断して、しぶしぶ諦めた。

 代わりに「なんかあったらこれ押しなさい私と一方通行がなんとかするから」とインデックスに警報ブザーを渡していたが、
 機械オンチな白いガキが警報ブザーなんぞ活用できるのか、というのが、
 病院の仮眠室で何日か一緒に生活していた一方通行の感想だ。

 しかし、考えていても仕方がない。
 どれほど考えたところで、それを実行に移さなければ意味がないのだから。


「とりあえず、夕飯はクソガキとオマエとそこの白いガキと御坂と、
 あとは月詠と土御門と青髪ピアス野郎と吹寄でどっか食いに行くとして、
 問題は、明日からのメシだな」

 上条を寮の部屋に案内して開口一番、一方通行は告げる。

「……あくせられーたには、『白い』とか言われたくないかも」

 ジト目でこっちを見てくるインデックスを、一方通行は無視する。
『能力』の副作用でアルビノ状態だが、真っ白い修道服を着たガキに「白い」とは言われたくない一方通行だった。

「頭ン中にレシピがある料理言ってみろ」


「ないよ!」

「えっと、オーブン料理ならマフィンとスコーンとケークサレにパウンドケーキやクッキー、
 コンロ使う料理なら基本的な炒め物・煮物・スープ類・パスタ他麺類アレンジ、
 あとサラダとか、冷ややっことかインスタントとか、シンプルな料理くらいかな?」


 もちろん、単純明快に答えたのがインデックス、つらつらと並べたのが上条だ。

 あまりの落差だが、最初から予想していた。
 予想はしていたが、インデックスの頭の中の一〇万三〇〇〇冊の魔道書とやらに、
 一冊くらいは『食』に関する本があるのではないか、という淡い期待も持っていた一方通行は軽く打ちのめされる。

 魔術とやらはよく分からないが、文化というのはある程度『食』に依存する部分があるのではないだろうか。

 十字教の知識などほとんどもっていない一方通行だが、
 パンと赤ワインが『儀式』で食されることくらいは知っている。

 パンの焼き方くらいは、せめて知っておいてほしかった。

194 :サイドストーリー:上条さんが退院しました [sage saga]:2011/07/03(日) 17:44:12.68 ID:7IIxlSqL0


「どうかしたの、あくせられーた。
 気分が悪いんだったら、はやく休んだほうがいいかも」

 自分でも気がつかないうちに額に手をやっていたらしく、インデックスが心配そうに顔を覗き込んできた。
 そんなインデックスを視界から追い出し、一方通行は呟く。

「……想定の範囲内だ」

「想定してても、実際に現実としてつきつけられるとショックだねって、
 ミサカはミサカは素直になれないあなたの心中を代弁してみたり」

 ようやくクーラーが効いてきて涼しくなり始めた部屋だが、
 子ども体温の打ち止めに横からむぎゅりと抱きしめられては暑苦しい。

 万が一誘拐された時にすぐさま気付けるように、彼女の温度は反射しないようにしているが、
 夏はやめておいた方がいいかもしれない。

 打ち止めを引っぺがしたあと、打ち止めと、台所で冷蔵庫の中身を捨てている美琴に声をかける。

「……クソガキと御坂は、この白いガキに電気ケトルの使い方教えとけ。
 俺は上条の料理に関する記憶が、どこまで『知識』として身についてるか確認する」

 正直、一方通行には上条がどういった状態なのか想像しづらい。

 だが、学園都市製の、外の世界とは数世代の違いがある電子レンジの機能の全てを、
 ロンドン育ちの上条が『知識』として理解していたとは思えない。

 忘れたのは『思い出』だけで『知識』は憶えている上条だが、
 一回二回使った程度の機能は、『思い出』扱いで忘れている可能性もある。

 また、インデックスは頭の中を覗き込みたくなるレベルの機械オンチだ。
 一方通行は、自動販売機を使えない人間なんて生まれて初めて見た。
 電気ケトルならコンセントを刺して、スイッチを押すだけなので、それくらいならできると信じたい。

「はいはーい。打ち止め、インデックス、こっちおいで」

 ちょいちょいと美琴に手招きされて、インデックスと打ち止めが無邪気に美琴の方へと駆け寄る。

(……そういや、アイツら精神年齢はほとんど同じか)

 一方通行はそんなことを考えながら、それよりさらに精神年齢の幼い上条へと視線を向けた。
『知識』は十五年ちょっと分あるが、『思い出』に関しては生後数日の子どもだ。

「さて……」

 非常にお節介で理不尽で、そのくせ優しい『大人』達のことを思い出す。
 彼女達だったら、こんな場面を迎えたらどうするだろうか。


「まずは、炊飯器でも買いに行くか」

「あのーアクセラレータ? 炊飯器は一家に一台で十分だと上条さんは思うのですが」

195 : [sage saga]:2011/07/03(日) 17:58:21.54 ID:7IIxlSqL0


こんな感じのゆるい話とかぐだぐだやってくつもりです。
1000まで行くのに何年かかるだろうね?

正直2巻分〜4巻分は飛ばすかダイジェストにして、
5巻分は一方通行サイドだけ書こうかなとか思ってます。

>>189
ステイル・神裂・一方通行・美琴がそろってるし、回避ルートにしてもよかったかもしれませんね


>>191
それでもアックアさんなら、アックアさんなら任務完遂しようとしてくれる。
16巻は神裂VSアックア戦の前に、
神裂「そのメイス……まさかトウマの『先生』!?」
アックア「――だとして、戦況が変わるのであるか?」
的な会話シーンが挟まれる以外はたぶん変わらない。

196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/03(日) 20:40:39.97 ID:uw7aZGwAO
乙来てたー!!

せっかく珍しい関係性の設定から始まって、そこがまたこのSSの魅力でもあったんだし、回避ルートでも見たかったなー
でも読んだ感じだと、原作での魔術サイド事件幾つか解決してるっぽいな
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/04(月) 21:20:35.31 ID:LE1d1Soc0

このまま続けてくれ

(……そういや、アイツら精神年齢はほとんど同じか)
たしかに御坂と打ち止めとインデックスは同じくらいだしな
198 :サイドストーリー:お父さんもお年頃 [sage saga]:2011/07/05(火) 14:07:57.67 ID:sxyunxcH0


(……疲れた)

 というのが、今日一日振り返っての一方通行の感想だ。

 本日退院した上条に、『思い出』扱いで忘れ去られていた寮生活のあれこれを教えた後、
 近所のカラオケでクラス担任の月詠と、クラス委員の青髪ピアスと吹寄、それに幼馴染兼隣人の土御門と顔合わせをさせ、
 その帰り道に、インデックスのパジャマや下着を購入した。

 と、文章に起こせば非常に簡潔なのだが、まあいろいろとあった。

 そもそも、担任との初顔合わせがカラオケという時点で異常だ。
 ここらへんの手はずは土御門に任せたのだが、正直失策だった。

 しかもクラス委員二人には、
『小学生男児の情操教育に良さそうなアニメ映画の映像媒体持って集合』という訳の分からない条件が付けられていて、
 さらには土御門と青髪ピアスと吹寄の三人が『自分の持ってきた映画が一番面白い』と譲らず、
 上条には『三作品見て一番面白かったやつの感想を言え』という追加宿題が出された。

 後半はほとんどオタクが暴走トークしているだけなグダグダ顔合わせも終わり、
 インデックスのパジャマやらを購入することになったのだが、そこでもひと悶着あった。

 買いに出かけたデパートに爆破テロの声明が出されて実際に爆発が起きたりとか、
 上条がその爆破テロの犯人と拳で語り合ったとか、
 それを解決したと思ったら上条がうっかりインデックスの着替えシーン見て頭から噛まれたりとか。

 色々とあったが、シャワーを浴び終わった今、一方通行に待っているイベントは『寝る』だけだ。

「……その前に、今のうちに洗濯物用意しとくか」

 私立の良いところの高校の寮であれば、クリーニングサービスもあるだろうが、
 こんな平凡を絵に描いたような学校の寮に、そんな高級なサービスは存在しない。

 徒歩三分のところにあるコインランドリーでざぶざぶと洗うか、
 徒歩八分のところにあるクリーニング屋で洗ってもらうかだ。

 一方通行は大抵の衣類はクリーニング屋に預けるが、さすがに下着はコインランドリーで洗っている。
 まとめ買いしておいて、一度使うたびに捨てる方が楽なのだが、保護者である黄泉川に
『そんな不経済なことはやめろ』的なことを言われているので、最近では真面目に洗っている。

199 :サイドストーリー:お父さんもお年頃 [sage saga]:2011/07/05(火) 14:08:53.22 ID:sxyunxcH0


 ここ数日は、上条の面倒をみるインデックスの面倒をみるために、
 病院内の仮眠室で生活を送っていたため、洗濯物はそこまで多くない。

 洗いそびれていたワイシャツと、その下に来ていた黒一色のシャツに、下着くらいか。

 面倒くさいが、サボればさらに面倒くさいことになる。
 一方通行はベッドでごろごろと転がっている打ち止めに声をかけた。

 上条が入院していた間は、黄泉川の家に預けていたため、

「わーい久々の我が家のベットだって、ミサカはミサカは喜びのあまり訳の分からない行動に走ってみたりー」

 と、訳の分からないハイテンションになっていた少女は、

「おいクソガキ、今日来てた服と下着こっちによこせ」

 一方通行のその一言でぴたりと動きを止め、
 一瞬の間の後、打ち止めはベッド下にまとめて重ねられていたワンピースと夏用ボレロと下着類を大切そうに抱きしめた。

「いやいや、ミサカのものはミサカが洗うって、ミサカはミサカは自立の第一歩を踏み出してみたりー!?」

「自立してェンなら、まずはそのバカみたいな口調をやめろ」

 ためいきをつきつつ、一方通行は打ち止めの手の中から洗濯物を取り出そうとする。
 ここで生活を初めてから四カ月の間中ずっと、洗濯を一方通行に押し付けておいて何が自立だ。

「バカみたいな口調ってなにって、ミサカはミサカはわりと五十歩百歩なあなたに――!?」

 ぱさ、と。なにか白いものが暴れる打ち止めの腕から落ちた。

 肌着のタンクトップかと思ったが、違う。それにしては丈が短い。
 胸の下以降がばっさりと切りとられて、代わりにゴムのバンドがつけられている。

『それ』がなんなのか、一方通行には正確に認識できない。
 だが、似たような形のものは見たことがある。

 女性用上衣下着――ブラジャーだ。

「……いつの間にこンなン買った?」

「よ、ヨミカワとヨシカワが、そろそろ必要でしょって――」

 顔を真っ赤にして反論しようとする打ち止めを見て、

「いやまだ必要ねェだろ、マセガキ」

 一方通行は無遠慮に打ち止めの胸に右手をあてた。

「――はァ?」

 肋骨の硬い感触を返すだけだろう――そう考えていたのに、そんな幻想はみじんに打ち砕かれた。
 柔らかいふくらみがあるわけではない。
 だが、なんというか。

 肋骨以外の何かが、ある。

 女の二次性徴期は男より早いという知識が脳内をかすめる前に、打ち止めの絶叫が炸裂した。


「――い、やぁぁぁぁああっ!?」

200 :サイドストーリー:お父さんもお年頃 [sage saga]:2011/07/05(火) 14:10:29.64 ID:sxyunxcH0


 そんなこんなで、お隣さん――上条さん宅唯一のベッドを占拠して、打ち止めはべそべそと泣いていた。

 タオルケットを頭からすっぽり被って、壁に向かって体育座り。
 幼い少女なりに、『男』は近寄んなというオーラを出している。

 上条からはその表情を見ることはできない。時折肩のあたりが震え、すぐに収まる。
 慰めるようにタオルケット越しに打ち止めの頭を撫でているインデックスの顔は、まるで聖母のように温かい。

「……三年以内に訪れるであろうセカンドインパクトが来たときのあの人を想像したら、ミサカはミサカは今から恥ずかしさで悶死しそう。
 あの人のことだからもち米から小豆まで吟味しそうでほんと怖いってミサカはミサカは普通の対応を求めてみたり……」

「セカンドインパクト? なんだそりゃぐぎゃあ!?」

 上条の言葉の最後あたりが奇声なのは、インデックスに頭を丸かじりにされたせいだ。

 頭にけがを負って一週間くらい入院した人間の頭に、一日に二度も噛みつくとはどういう神経だ。
 というかそもそも人間の頭とは、誰かに噛まれるためのものではないのだが。

 一分ぐらい噛まれ続け、ようやく解放された上条は、そんな感情を込めてインデックスを睨むが、
 インデックスはすさまじい敵意のこもった視線を上条へと向けてきた。

「とうま、今のとうまは、とーっても最低かも」

「はあ? なんで俺のせいにって待て待てインデックスさんどうか落ち着いてください、
 お医者さんにしばらくは頭に大きな衝撃を与えないようにって――だからといって利き手は止めて!」

 右腕を丸かじりにされて、上条は悲鳴を上げる。
 幻想殺しなんて大層な力が宿ったこの右腕は、こういった物理攻撃にはなんの効果もない。

「ちくしょー退院初日から不幸だー!?」

 と叫びながら、上条は思わず部屋を飛び出していた。

 その背中を見ながら、インデックスは苦笑を浮かべる。

 正直、彼には悪いことをしたとは思う。
 が、心にダメージを負った女の子にさらなる追撃をぶちかましたのはやりすぎだ。

 上条の背中が完全に消えてから、インデックスは打ち止めの頭を再び優しく撫でた。

「大丈夫なんだよ、らすとおーだー。その時は、わたしとみことが何とかしてあげるからね」


201 :サイドストーリー:お父さんもお年頃 [sage saga]:2011/07/05(火) 14:12:43.55 ID:sxyunxcH0


 学生寮での生活初日にも関わらず、部屋から追い出された上条は、一方通行の部屋の床に転がっていた。

 最悪野宿か、と考えていたので、これはまだハッピーな方だ。

 そもそもの原因をつくった一方通行の方がベッドで、巻き込まれた自分の方が床というのはなんだか釈然としないが、
 こんな真夏のコンクリードジャングルで、準備なしに野宿などすれば、人間の丸焼きが一人分完成するだろう。

 ここはたぶん、学園都市第一位の人間らしい温情に感謝するシーンだ。

 常夜灯も消され、真っ暗となった部屋で、上条は何とか自室から持ち出した枕に頭をのっけた。
 この枕を使っていたという記憶はないのだが、体の方は覚えていてくれたらしく、なんとなく落ち着く。

「そォいや」

 うとうととまどろみ始めた上条の意識をぶち破るように、一方通行が声をかけてきた。

「オマエ、寝袋まだ買ってねェだろ。この騒ぎがなかったら、どうする気だったンだ?」

「どうする……って」

 上条の部屋は、学生寮としては平均的な1Kだ。
 当然、ベッドは一つしかない。

「は! ……しまった、考えていなかった! 寝袋とか一つ何万円するんだ!?
 でも学園都市のことだから、もしかして最新鋭寝袋が一個千円とかで売ってたり!?
 ってちょっとまて、この部屋もベッド一つだけだろどうしてるんだよ、アクセラレータ」

「一緒に寝てる。クソ、これから微妙に寝づれェな」

「ちょ、おまえ、何をさらっと――!?
 見つけたぞ、オマエが土御門達にロリコン扱いされてた理由を――」


 真っ暗な部屋に、ダン! という音が響き渡った。


 一方通行が、室内の風のベクトルを操り、上条を壁に叩きつけた音だ。
 室内の全ての風などたかが知れているが、それでも一度に全部をぶつければそれなりの力になる。

「……だから……頭はほんとにやめろ……」

 頭を打ち付けて気絶寸前の上条には、

「なンでこの年で、二次性徴期の娘もった親父の気持ちを体験しなくちゃいけねェンだよォ……!」

 という一方通行の呟きは聞こえなかった。

202 : [sage saga]:2011/07/05(火) 14:16:18.99 ID:sxyunxcH0

原作打ち止めより一歳くらい年上という説明も兼ねて上条さん退院話後半。

どうでもいいですが、北海道他一部地方では、赤飯には小豆ではなく甘納豆が使われます。
あと、赤というかピンクです。そして甘いです。

次回は終章前後のステイル&土御門かステイル&一方さんの予定。華が足りない。

ちなみに上条が見ることになった映画は、
『ブタのヒヅメ大作戦』『ミュウツーの逆襲』『かえってきたドラえもん』
の三作品です。どれもお勧め。

203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/07/05(火) 14:22:53.53 ID:daDDIH6Ro
ミュウツー一択
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/05(火) 16:54:23.43 ID:ZOMOyIeAO

初めてアニメというか物語で泣いたのがミュウツーだった

早い子だと小学校3年生位でブラデビューする子もいるからな、一方さんドンマイ!
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/05(火) 21:47:47.11 ID:gUnRGlnW0
てか一番大変なのは一方じゃなくて上条さんじゃねえか
なんかもうかわいそすぎる上条さん
206 :サイドストーリー:二人の『最強』 [sage saga]:2011/07/07(木) 18:14:43.33 ID:uYkhSCct0


 学生の街である学園都市だが、病院の喫煙スペースはそれなりに広い。

 研究者たちや、そこそこ人数のいる成人済みの大学生、それと、
 重態の子どもを見舞うために訪れた親が使うためなのだが、今のステイルにはそこらへんの事情はどうでもいい。

 深夜の喫煙スペースには、ステイル一人だけだった。

 それとは裏腹に、外――廊下は騒がしいことになっている。
 警備員(アンチスキル)と称される、武装した教師たちが走り回っているせいだ。

 現在病院にいるのは、先ほどの『テロ行為』の犯人を捜すべく病院内をかけずり回る警備員達と、
 喫煙スペースでゆったりとタバコを吸うステイルくらいなものだろう。

 だが、ステイルは警備員の仲間ではなく、見つかればテロリストとして逮捕される可能性がある。

 そうならないのは、人払い――至極単純な魔術の力によって、この喫煙スペース周辺に人が近づかないようにしているからだ。

 ほとんどの魔術師が似たような術を使える。それほどポピュラーな魔術だ。
 少しでも魔術をかじった人間ならば、ルーンによる人払いなど、初歩すぎて陽動と考える場合もある。

 しかし、すべてが科学でガチガチに武装されたこの街では、効きすぎるほど有効だ。

 とはいえ、中には例外もいるらしい。


「おいおい。たしかイギリスでも、喫煙は一六歳になってからじゃなかったかァ?」


 気がつけば、白い髪に赤い瞳の少年が、皮肉気な笑みをステイルに投げかけていた。

 顔には大きなガーゼが貼られ、半袖のシャツからのぞく腕や首筋には白い包帯がぐるぐるに巻かれている。
 感染症を防ぐためか、それとも単純に水分を補給するためか、右腕からは点滴につながるチューブが伸びていた。

 しかし、『弱っている』という印象は微塵も感じさせない。

 手負いの猛獣が秘める凶暴性を赤い瞳に宿した少年は、それだけで人を殺せそうな視線をステイルへと向けてくる。
 もちろんそれくらいで死ぬステイルではない。

「こんな素晴らしいものを法で規制するなんて、おかしな話だとは思わないかい?」

 わざとらしく明後日の方向へと煙を吐き出す。

 土御門に聞いた話だと、自分へ向けられる全ての攻撃を反射するとのことなので、
 煙を吹きかけたところで、嫌がらせにすらならないだろう。

 それよりも、別の病院でケガの処置を受けていたはずの彼が、わざわざこちらまで顔を見せたことの方が気になる。

「一応釘を刺しておくが、学園都市最高と謳われる君の頭脳をもってしても、
 あの痕跡から魔術について調べることは不可能だ。なにせ、徹底的に破壊されているからね」

「ンなことは分かってる」

「それで? 僕を拷問して魔術についての知識を得よう……という腹かな?」

「逆に聞くが、そう見えるか?」

「見えないね」


207 :サイドストーリー:二人の『最強』 [sage saga]:2011/07/07(木) 18:16:21.41 ID:uYkhSCct0

 短く返した後、ステイルはもう一度煙を吐き出す。

 それから、この少年が警備員の監視網をすりぬけてまでわざわざステイルの元へと訪れた理由を考える。
 考えて、導き出された答えは、至極単純だった。

 わざわざこの少年がそんなお節介を焼くのだろうか……と少し訝しみながらも、ステイルは素直に問いかける。

「上条当麻はどうしている?」

「冥土帰し――あの白いガキの手術をした医者が診ている。
 とりあえず外傷を簡単に処置して、CTで脳の断面写真を撮るところだ」

 あっさり返されて、ステイルはやや面食らった。

 なにせ彼との初対面は、狂気的な笑顔を浮かべた彼に蹴られまくったというとんでもないものだったので、
 正直、こんな『人間らしい』――というか優しい一面があるとはにわかには信じられなかった。

 しかし、すぐに気がつく。

 彼は――学園都市『最強』の超能力者である一方通行は、逃げてきたのだ。
『最強』と呼ばれる力を持ちながら、上条当麻を守れなかったという現実を受け止めるために。

「『我が名が最強である理由をここに証明する』、か」

 上条と対峙する時に一度名乗っただけの名を、一方通行は覚えていたらしい。
 口の中で弄ぶように呼ばれて、ステイルは顔を歪めた。

「あまり、気軽に呼んでほしい名前ではないね。仮にも魔法名だ」

「魔法名つゥのはよくわかンねェが、自分の信念みたいなもンか。
 ……たしかにそれなら、他人に易々と呼んでほしくねェな」

 言っていること自体は優しいが、その声音にはこれでもかと皮肉が練り込められている。

「先に言っておくが、僕の欲している『最強』は、あの子を――インデックスを守るための『最強』だ」

「そのインデックスの大切な『ともだち』を守れなかったのは、どこの誰だ?」

「言うなよ、学園都市『最強』。すぐ傍にいながら守れなかったのはお互い様だ」

 ステイルが再び煙を吐き出す。

 天井のシーリングファンに煙がかき回されるのを見つめるステイルと、
 ぽたぽたと落ちる点滴を眺める一方通行の間には、微妙に気まずい沈黙が舞い降りていた。

208 :サイドストーリー:それぞれの『少女』の現実 [sage saga]:2011/07/07(木) 18:18:31.41 ID:uYkhSCct0


 ようやく朝日が昇ってきた学園都市の、とある病院は、朝からバタバタと騒々しかった。
 なにせ、それまで別の病院に入院していた患者達を受け止めなくてはいけないのだ。

 昨夜までは『病院車』という巨大救急車で寝かせられていた患者たちを移送する作業に、
 病院側は悲鳴を上げかけているが、中にはしっかり受け止めないと死ぬ恐れのある患者もいる。

 昨夜、第七学区の緊急病院に指定されている病院でテロとみられる爆発が発生し、
 その病院の関係者や、警備員達はその後始末に追われている。

 しかし、移された患者たちはすぐに元の病院に戻れるだろう。

 確かに爆発は発生したが、理由は『魔術』と呼ばれる怪しげな力と、美琴自身が放った『超電磁砲』だ。

(いろいろ迷惑かけちゃったなぁ……)

 騒動の原因でありながら、美琴と、その『魔術』を使った少女――インデックスは、静かな個室にいた。

 なんだかんだで一晩中寝られなかった美琴と違い、インデックスは幸せそうにすやすやと寝ている。

 ベッドで穏やかに眠っているインデックスを見ていると、
 先ほどまでの『非日常』が嘘だったのではないかと美琴は思えてくる。

 しかし、現実に上条当麻と一方通行は大怪我を負った。

 上条の方は数時間経つ今も完全に意識不明で、美琴が今まで診てきた中でもっとも優秀な医者である、
 ゲコ太によく似た顔の医者も、原因がまるで分からないと頭をかしげている。

 一方通行の方は処置をうけると、どこかにふらりと消えてしまった。

「――失礼します」

 軽いノックの音ともに病室に入ってきたのは、背の高い女だった。

 整った顔立ちに、黒い髪は長く、ポニーテールにしても腰に届くほど長い。
 腰のあたりで縛った白いシャツに、片方が足の付け根くらいまでバッサリ切り取られたジーンズ。

 かなり目立つ格好をしているが、二メートル程度の棒状の物体が、全てのインパクトをさらっていく。

 たしか、上条は『カンザキ』と呼んでいたはずだが……。
 美琴は共闘したのに、彼女の名前すら知らなかったことに気がついた。

209 :サイドストーリー:それぞれの『少女』の現実 [sage saga]:2011/07/07(木) 18:19:42.63 ID:uYkhSCct0


「神裂火織です」

 そんな美琴の心を読んだように、神裂はゆっくりと自己紹介する。

「えと……御坂美琴です」

 なんとなく手を差し伸べると、神裂はちょっと驚いたような顔を浮かべてから、握手を交わしてくれた。

 最初、美琴は神裂はずっと年の離れた大人だと思っていたが、
 よく見てみればまだ高校生か、大学一年生くらいだ。想像していたより年齢差はないらしい。

「この子は、大丈夫のようですね」

 すやすや眠るインデックスを見て、神裂が安心したような声とともに、優しく頬を撫でた。

「えっと、もしかして。インデックスの友達だったのかしら?」

「この子は、忘れてしまっていますが」

 インデックスが一年に一度記憶を消されていた――と上条は言っていた。
 それに抗うために戦い、一応は勝利を収めたのだが、まだ『勝ち』は確定していない。

「ねえ、もしアイツが――上条当麻があなたのことを忘れてたら、やっぱり寂しい?」

 ゲコ太顔の医者は、なんらかの記憶障害を起こす可能性がある、と言っていた。

 記憶障害――その幅は非常に広い。

 体を動かすと言った知識を失えば起き上がることすらできなくなるし、
 言語について障害が出れば、まともに言葉を理解できなくなるかもしれない。

 そして――美琴や一方通行達と言った学園都市の知り合いや、
 あるいはそれ以前にいたロンドン時代の知り合いの顔や名前を全て忘れるかもしれない。

「ええ。もちろん。『この子』という前例がいるので、
 どのような気持ちになってしまうか分かってしまうんですよ」

 苦笑を浮かべる神裂に少し視線をやってから、

「インデックスの友達だったのには変わりないんでしょ?
 私、ちょっと仮眠取ってくるから……その間、この子を見てて」

 かつて親友同士だった二人を置いて、美琴は病室から出た。
 その歩き始めた足が向かうのは、仮眠室や廊下のソファではなく――CTルームだ。


「忘れてたって、構わない。きっとあいつなら、また一から『ともだち』になってくれる」


 心にチクリと痛みを感じながら、それでも美琴は歩き続ける。


210 : [sage saga]:2011/07/07(木) 18:21:57.64 ID:uYkhSCct0
サイドストーリーというかショートストーリーと言った方が正しいかも。

最初は『上条さんが学園都市に来た本当の理由』を説明するために、ステイル&土御門を書いてたんですが、
政治的なお話は難しくて無理だった。というか基本的に魔術サイドは外国のお話なので書きにくい。
頭使って書くお話はしばらく無理です。

とりあえず今後のショートストーリーは、
上条退院後&一学期(&過去話)→二巻以降の変更点をぽつぽつと→五巻
を予定しているので、『上条さん「必要悪の教会」IF』のわりに、しばらくは魔術サイドの出番があまりないです

ちなみに、イギリスでは2007年くらいから喫煙可能年齢は一八歳です
基本的にこのスレだと時間軸は2005年前後のイメージ。

211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 09:21:27.94 ID:eK2JLu3Y0
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 17:20:13.46 ID:wGTnBVmB0

最初に記憶を覚えてるか覚えてないのか確認するのは常識で考えればステイルか神裂だよな
213 :サイドストーリー:上条さんちの食事事情? [sage saga]:2011/07/09(土) 21:37:26.50 ID:ZTua6DkG0

 その日、上条当麻は自分の部屋の台所で、電子レンジとにらめっこしていた。

「石窯スチーム? 加熱水蒸気? ……なんだこりゃ」

 電子レンジ……というが、実際にはそれ以外の様々な機能が付帯している。
 オーブンにトースターにグリルに、これ一台で様々な料理が作れる優れ物だ。

 この電子レンジが元から部屋に備え付けられていたものなのか、
 それとも自分が購入したものなのか、上条には分からない。
 が、もし後者ならば簡単な物を選べばよかったのに、と思ってしまう。


 上条には、七月二八日以前の記憶がない。


 正確には、それ以前のエピソード記憶――いわゆる思い出を、全て失っている。
 が、それ以外の記憶はそのままだ。

 そのため、普通にしゃべることも歩くこともできるし、『以前』の自分が得た知識も残っている。

 しかし、知識をひっくり返しても、石窯スチームや加熱水蒸気の使い方はどこにもない。
 説明書をちらっと見た時点で諦めたのだろう。あるいは、最初から存在を知らなかったのかもしれない。

 なんでも、自分は高校に入るまでは、ロンドンで生活していたらしい。
 たしかに、なぜかロンドンの日本人街についてやら、イギリス料理やらの知識がある。

 また、自分でもあまり賢いとは思えないのに、英国語は普通にしゃべれる。
 イタリア語やフランス語やロシア語などの外国語も、簡単な会話と読み書きくらいはできる。

 ひっくり返した知識が面白いくらいに漫画・アニメだよりか魔術関連ばかりなのだが、
 以前の自分は一体どんな人間だったのだろうか。

 お人よしで面倒見のいい割に、なんだかんだで他人に面倒を見てもらっている人間……というのが、
 インデックスという少女や、一方通行という少年(?)から聞いた以前の自分のイメージだ。

 現在、インデックスは美琴や打ち止めという少女とともに、買い物に出かけている。
 美琴は「今日こそインデックスに普通の服を!」と張り切っていたが、どうなるのだろうか。

(今はそれよりも、こっちだよなぁ……)

 ここ学園都市は、外の世界より二〜三〇年は科学技術が進歩しているらしい。
 おそらく、ロンドンでは、まだ石窯スチームやら加熱水蒸気は一般的ではなかったのだろう。

 とはいえ、なにやら興味引かれる名前である。

 説明書を見る限り、なんと、電子レンジで揚げ物ができるらしい。
 ノンフライというのは、それだけでなんとなくありがたい。

 なにせ、上条と事実上同棲しているシスターさんは、途方もない暴食野郎なのだ。
 清貧はどこに行ったと思うが、「おなかすいた」と言われたら放っておけない。

 電気ケトルを故障させるくらいの科学オンチであるインデックスに、
 この電化製品の山を乗り越えて料理が作れるとは思えないので、結局上条が頑張るしかない。

「こういう時は、やっぱりあいつだよな」

 うん、と頷いて、上条は自分の部屋を出た。
 代わりに、右隣の部屋の前に立つ。

「おーい、アクセラレータ? 鈴科? ユッキー? ユッキーナ?」

 とんとんとお隣さんの扉を叩くが、返事はない。なんだいないのかと諦めて振り返ろうとしたところで、


「――ブチ、殺す」


 そんな不穏な声とともに、いきなり頭をわしづかみにされた。
 上条が必死に眼を動かすと、凄絶かつ獰猛な笑みを浮かべた一方通行が立っていた。

「ひいぃ!? 上条さんの先ほどの発言のどこに、あなたの琴線をそこまでわし掴みにする要素があったのでせうかー!?」

「最後二つに決まってンだろがァ! なんだユッキーナって、オマエ頭ン中もう一度冥土帰しに診てもらえ!」

「だからって脳ミソシェイクしようとしないで! 知識まで失ったら生きていけない!?」


 ぎゃあぎゃあとさわぐ少年二人。
 なんだかんだで、学園都市は今日も平和である。
214 :おまけ:一巻分終了時点における原作との相違というかなんというか [sage saga]:2011/07/09(土) 21:39:26.78 ID:ZTua6DkG0

上条:十年くらいロンドンの日本人街にあるイギリス清教の教会で生活していたが、インデックス捜索のために学園都市に。
   実は学園都市に来るまでには裏側で色々あったけど上条自体はまったく知らない。

   インデックスほどではないが、携帯電話や電子レンジを使いこなせない程度には機械オンチ。
   本人には自覚はないが、十字教――特に『聖母』信仰の影響を受けている。

   日本語&英語ペラペラのバイリンガル。
   英語の成績が五段階評価で三なのは、スラングとか口語文体で回答してしまうため。
   魔術の知識も科学の知識も微妙……という原作以上に使えない人材。
   でもイタリア語・フランス語・ロシア語くらいなら簡単な会話&読み書きはできるのでそこら辺はましか。

   記憶喪失は『インデックス事件』に関わった人間と、一部周囲の人間にはカミングアウト済み。



インデックス:上条の記憶喪失を知り、彼の面倒をみることを決意。
       ステイルと神裂が自分の昔の親友だと知っている以外、他に違うところはないです。



美琴:『七人戦争』を契機に常盤台中学校を辞め、柵川中学校に通っている。
   ほとんど名前を貸しているだけだけど、一応『風紀委員』。
   一方通行とは幼い頃からの知り合いで、腐れ縁。
  『妹達』を本当の妹のように思っていて、何かにつけて面倒を見ている。
   一番幼い姿の打ち止めを特にかわいがっている。



一方通行:偽名は鈴科優生緒(ゆきお)。
     上条のクラスメイト兼学生寮のお隣さんで『風紀委員』。一応このスレでは性別は『男』。
     美琴とは幼馴染に近い間柄。

     保護対象(打ち止め&『妹達』)・後見人(芳川&黄泉川)・クラスメイト(上条他青ピ吹寄達)を三つの柱に、
    『表側』の世界にしがみついているような状態なので、そのどれか一つでも壊されかけたらブチ切れる。

     打ち止めと一緒に生活しているが、これは打ち止めを監視する意味合いが強く、別に他意はない。
     でも美琴やクラスメイト達からはロリコン扱いされまくってるせいで、少しでもロリコン扱いされたら切れる。

     最初は偽名『鈴科百合子』でセーラー服姿の性別不詳にしようかと思ったけど、岡本さん的な意味で止めた。
     けど世の中には置鮎龍太郎ボイスの『性別なし』キャラとかいるし別に百合子でもよかったかもしれない。



打ち止め:偽名は黄泉川美紗花。
     一方通行と一緒に生活している幼女。同じベッドで寝てます。別に他意はない。
    『七人戦争』の時に、『妹達』に自壊プログラムを送り続けたことを今でも後悔している。

     一方通行と生活しているのは、法的には彼の所有物であることと、いざという時に殺してもらうため。
     原作と違って髪は長い。あと七月・八月だと原作のワンピースの上に半袖ボレロ羽織ってます。

215 :おまけ:一巻分終了時点における原作との相違というかなんというか [sage saga]:2011/07/09(土) 21:42:12.75 ID:ZTua6DkG0


土御門:上条の幼馴染。
    アレイスターの要望を受けて上条を学園都市に誘ったのだが、果たしてこのサイドストーリーをかける日は来るのか。


ステイル:上条の幼馴染。幼い頃は彼を兄のように慕っていた。
     土御門とも幼馴染だが、色々胡散臭い奴だと思っていたので上条ほどは慕っていない。


神裂:上条の幼馴染。
   上条との別れの日に土御門にそそのかされてメイドコスしたのは未だに一生の不覚。


削板:美琴の友人。『七人戦争』では、垣根に殺されかけた美琴と、『自壊プログラム』で自殺寸前の一五〇四〇号を助けた。
  『七人戦争』後は、なんだかんだでちゃっかり一五〇四〇号と一緒に住んでる。


『妹達』:打ち止め含め、一〇四七三人生存。世界中に散らばっている。
     シリアルナンバーはバラバラ。〇〇〇〇一号は生き残っているけど一〇〇〇〇号は死んでたり。
     ほとんどの『妹達』は、偽名として自分が世話になっている街にゆかりのある名字を名乗っている。
     学園都市に残った『妹達』は、芳川や削板など、世話になっている人の名字を借りている。


一〇〇三二号:偽名芳川深砂海。芳川のサポートをしている。法的な所持者は美琴。ややうっかりさんな皮肉屋。


一五〇四〇号:偽名削板美早勝。芳川のサポートを(略)。法的な所持者は削板という『妹達』唯一のイレギュラー。口癖は根性。


第六位:このスレだと『肉体変化』能力者。ネウロのX的な人。
    わりとのらりくらりとしていて、ついてて一番楽しそうな陣営につく。
    現在は一番楽しそうな人たちである、上条や一方通行の近くにいる。

216 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(前) [sage saga]:2011/07/09(土) 21:44:04.26 ID:ZTua6DkG0



六月二一日、京都駅中央コンコース。


打ち止め(以下打ち)「というわけで京都だよ! ってミサカはミサカは生まれて初めての新幹線の余韻に浸ってみたり!」

一方通行(以下一方)「どンなわけだよ……」

インデックス(以下禁書)「茶寮都路里のパフェを制覇するためだよ!」

上条「ちなみに、調べてみたら東京にも二店舗くらいありました。
   関西住まいの人は京都店、関東住まいの片は東京店をどうぞ」

美琴「あとがきネタをまさか本当にするとはね……。
   というか時間軸いつよこれ、なんで六月なのにインデックスまでそろってるのよ」

禁書「あくまでおまけだから、そこは気にしたら負けなんだよ。
   基本的に本編は二〇〇五年で、おまけはそんなのガン無視だよ!
   あ、最初に言っておくと、パクリとリスペクトはまったくべつものなんだよ! いろんな意味で!」

一方「……にしても、意外と人が少ないな。テレビで見た時はもっと人が多いイメージだったんだけどよォ」

??「暑いのもあるし、東日本大震災の影響で観光客が激減しているというのもありますね、
   とミサカは現地人でないにもかかわらず現地人みたいな説明をします」

打ち「あ、一四八〇〇号だ! ってミサカはミサカは挨拶してみる」

??「どうも初めまして、一四八〇〇号こと、偽名石山実砂果(イシヤマ ミサカ)ですとミサカは自己紹介をします。
   いろんな意味で長いので、石山と呼んでくださいとミサカは事前に言っておきます」

一方「石山? ……確か、学園都市外の『妹達』は世話になってる土地から名字を借りてるンだよな。
   京都にそんな地名あったかァ?」

石山「ミサカたち五人が世話になっているのは、滋賀県の湖東方面の某市にある研究所ですと、ミサカは微妙にリアリティのある発言をします。

   というわけで、ミサカたちは滋賀県内の『東海道本線の新快速が止まる駅』の名字を名乗っているのです、
   と、ミサカは地元民か鉄道オタクにしか理解できないような発言で学園都市からのお客さんを惑わします。
   ちなみに残りの四人は草津・守山・野洲・能登川ですと、ミサカはとりあえず補足をいれておきます」


217 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(前) [sage saga]:2011/07/09(土) 21:45:36.84 ID:ZTua6DkG0


ステイル(以下ステ)「それにしてもここが京都か。……『外国人』というだけでジロジロとみられないのはいいね」

神裂「寺と神社が何十か所とある、元天草式十字凄教の人間としては興味深い場所ですね」

一方「なンでオマエらまでここにいンだよ」

神裂「たまたまこちらでの任務があったんですよ。
   後は特急はるかに乗って、関西空港まで行くだけだったのですが、あなた達が来ると聞いて……」

ステ「上条当麻がインデックスに食べ物をおごりきれずに頭を噛まれそうになって、怯える様でも楽しもうと思ってね」

上条「一緒にお金払ってくれるのか? ありがとうな、ステイル」

ステ「か、勘違いするなよ、上条当麻。あくまでも、インデックスのためだ。別に君のことなんか心配していない」

一方「男のツンデレほど見苦しいものはないって本当だな」

打ち「あなたにだけは言われたくないだろうなってミサカはミサカは小さな声で呟いてみたり……」

石山「とりあえず、時刻はまだ十時。パフェを食べる前に、手近な観光スポットへ案内しましょう。
   まずはそうですねー、東寺に行きましょうとミサカは手招きします」

禁書「パフェは!? この目の前のビルの中にお店があるのは知ってるんだよ!」

打ち「ミサカも早く食べたい、このために京都に来た様なものなんだよって、ミサカはミサカは訴えてみる!」

石山「いざとなったら東京で食べればいいじゃないですか、
   と、ミサカは何やら騒がしいシスターと上位個体を無視します。
   それに、今日の東寺であれば、そこそこ美味しい屋台が集まっていますよ、と、
   食欲魔人一歩手前な二人を説得してみます」

美琴「東寺って……五重の塔のあるお寺だったっけ?」

石山「はい、そうですとミサカは頷きます。
   徒歩でもいけるのですが、今日は暑いから近鉄を使いましょうとミサカは楽な方へと流れていきます」

上条「たしかに、めちゃくちゃ暑いなー。……それとも日本の六月ってこんなもんなの?」

神裂「昔、この時期の京都に来たことがありますが、ここまでは暑くなかったと記憶しています。
   最近の日本は熱帯化していると聞いていましたが、まさかここまでとは……」

石山「まあそんなこととかは置いといてさっさと東寺へ行きましょう、
   と、ミサカはこのままでは話が進まないことを懸念してさっさと話を進めます。

   ちなみに>>1からの伝言ですが、
  『何年も前から好きな漫画とゲームでそれぞれ新展開があったからヤッホーが止まらない。
   パッションが納まったら真面目なお話を書く』とのことです、とミサカは業務連絡をします」



ぐだぐだのまま、中編へ続く!
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/10(日) 01:29:13.27 ID:USX44WqAO


なんと近畿住みの俺得なおまけ
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage_saga]:2011/07/10(日) 15:30:44.54 ID:jIltHl7s0

ステイルと神裂上条に対する態度原作と全く変わってなくね?
あと上条の戦闘力は土御門の体術+拳銃を使い慣れてる+いままでの戦闘経験+師匠に鍛えられた異様なタフさ+右手の幻想殺し
なのに少し上条弱すぎじゃないか?…いまごろだが…
220 :サイドストーリー:銃と疑似餌と少年たちと [sage saga]:2011/07/14(木) 13:37:58.68 ID:30o69RJj0


 日本人街の外れにある教会に、一人のイギリス人の少年がいた。
 利発そうな顔をした、一〇歳前後の少年だ。

 名前はステイル=マグヌス。

 この歳で、すでに将来を期待された天才魔術師だ。
 分厚い本を読みながら、横に置いた紙になにか記号をすらすらと写していく。
 ルーン文字。それ自体が力を持つという、基本的な魔術だ。

「魔道書の写本か」

 いきなり声をかけられたが、ステイルは気にしなかった。
 教会の入り口には人払いをかけている。
 その人払いを破れるということは、相手は同じ魔術師だ。

 それよりなにより、声には聞き覚えがある。

「原典なんて読んだら、脳が破裂するよ。
 知識を得るだけだったら、写本でも十分だしね」

 振り返った先には、一人の少年がいた。

 十二歳前後の日本人。
 短く切りそろえられた黒髪とは裏腹に、どこか不真面目そうな印象を与える少年だった。
 ステイルの幼馴染の一人、土御門元春。

 ステイルが天才なら、土御門は鬼才だ。
 今のステイルと同じくらいの年齢で、すでに陰陽博士と呼ばれるだけの力を持っていた。

 しかし、その力もあと一月もすれば消える――というか使えなくなる。

 ちゃっかり横の席に陣取った土御門を軽くにらみながら、ステイルは訊ねる。

「トウマは? ここ数日、帰ってこないと神父さんが嘆いているよ」

「現在は帰国早々シェリー=クロムウェルと大英博物館巡り一週間コースだ。
 いやーアメリカに出発する前に、シェリーと大英博物館に遊びに行く約束をしてるって、
 教えてくれればよかったんだけどにゃー」

「君のことだから、ちょっと出かけるだけとか言って連れだしたんだろう」

 説明するまで気付かなかったに違いない。
 気がついたらアメリカに……という可能性も、上条と土御門の二人ならあり得る。

「いや、ちょっとまて。なにがあってアメリカまで行った?
 そんな大きな騒ぎなら、僕の耳に入ってるはずだ」

「ちょっと銃の練習に。法律的に、イギリス国内で銃を振り回すのは難しいからにゃー。
 カミやんについてはついでだな。
 ここ最近、銃を装備した魔術師が増えてきているから、性能を知っておくのは大切なことだろ?
 そして、オレは一ヶ月後には学園都市の人間になるんだぜい。
 レベルの高い能力者になれるなら幸いだが、その可能性はまずないだろう」

「そのための銃か」

 能力者は魔術を使えない。
 使えば体中の血管が破裂して、死に至る。

 絶対的なルールだ。

 土御門は魔術師と思えぬほど優れた体術を持つが、接近戦に持ち込まねば意味がない。
 つまり、ある程度遠距離から攻撃する術が必要となってくる。
 今までは魔術を使えば済んだ場面も、能力者となったらそうもいかないだろう。

221 :サイドストーリー:銃と疑似餌と少年たちと [sage saga]:2011/07/14(木) 13:39:32.18 ID:30o69RJj0

「だけど、学園都市は技術的に二〜三十年も進んでいるんだろう。
 僕には兵器の話はさっぱりだけど、少し歴史の勉強をすれば分かる。
 技術力が二十年も違えば、同じ兵器でもほとんど別物なんじゃないのか?」

「その学園都市の協力機関の力を借りた」

 学園都市は『科学』の総本山ともいえる場所だが、
 イギリス清教の最大教主であるローラ=スチュワートは事あるごとに接触を図っている。

 イギリス清教は十字教三大宗派の一つではあるが、イギリス自体はただの島国に過ぎない。
 ローマ正教との関係が徹底的に険悪になれば、フランスを介し、物資的な圧迫をくらう恐れがある。

 学園都市との協力は、そうなったときの保険だ。

 元々、日本はローマ正教の影響が薄い。
 アメリカの属国と揶揄されることも多い日本だが、宗教自体は独自の体系を築いている。

 一般的に信仰されている仏教と神道に、風水などの陰陽道、文化に根強く残る儒教の考えなど、
 ローマ正教ですら易々と教えを広めることができないほどの基盤が出来上がっている。

 学園都市が、十字教の影響を受けていない日本国内にあるのを利用して、協力関係を築こうとしている。

 名目上は、『同じ島国同士仲良くしよう』というものだが、
 ちょっとでも事情を知っている人間ならば、思わず苦笑してしまう建前だ。

 この春から土御門が学園都市に移り住むことになったのは、
 それぞれの上層部の、複雑なやり取りの結果らしい。

 どういった条件で土御門が学園都市に行くことになったのかステイルは知らないが、
 こいつなら複雑な暗部の中でも飄々と生き延びれるだろうという確信はあった。

 信用や信頼といったプラスな理由ではなく、
 いろいろ騙されてきたという実体験から来るマイナスな理由からだが。

「それで、どうだった?」

 土御門のことを胡散臭いと思っているのは事実だが、ステイルにとっては一応大切な幼馴染だ。
 そう簡単に死なれては困る。

「ほら、これが結果。……オレとカミやんはそこそこ才能がある方らしい」

 土御門から鞄の中から取り出したのは、四枚の紙切れだ。
 それを二枚ずつに分けてから、適当にテーブルの上に並べた。

 正直、見せられてもピンとこない。
 銃に触れたことすらないので、スコアだけ見せられても何が何だか分からない。

 分かるのは、右側が高得点、左側が低得点ということだけだ。

「一応言っとくと、右がオレ、左がカミやんだ」

「どこがそこそこだ?」

 上条のスコアが『年齢の割に高い』のだとしたら、土御門は天才どころの騒ぎではない。
 それほどまでに両者のスコアには差があった。

「二枚目」

 訝しみながらも、ステイルは下の紙を引っ張りだす。
 一枚目と同じ、得点用紙だ。しかし、その内容は大きく変わっている。

 正しく言えば、大きく変わっているのは、左側――上条の方だけだ。
 一枚目とは比べ物にならないほど、得点が上がっている。


222 :サイドストーリー:銃と疑似餌と少年たちと [sage saga]:2011/07/14(木) 13:41:08.28 ID:30o69RJj0

「一枚目が実弾、二枚目がゴム弾。
 確かに実弾とゴム弾では、反動やそもそもの銃の重さがガラリと変わってくる。
 けど、この結果はいくらなんでも極端すぎる」

「……よく分からないけど、撃つのは紙や木でできたマン・ターゲットなんだろう?
 どうしてここまで差が生まれる?」

 ステイルの質問に対する答えは、非常に簡潔だった。

「そのマン・ターゲットすら、実弾では撃てないんだよ」

「…………甘すぎる」

 別に、上条当麻は非暴力主義者ではない。
 相手が『悪人』であれば、拳による暴力も辞さない人間だ。

 しかし、人を傷つけることと、人を殺すことはまったく別物だ。

 人を殺すことのできる人間は人を傷つけることができるが、
 人を傷つけることのできる人間が、人を殺せるとは限らない。

 また、人を傷つけることのできる人間も、種類としては大きく分かれる。
 自らの快楽のために暴力をふるう人間もいれば、何かを守るためにしか拳を振るえない人間もいる。


「あいつは、殺せない。なにがあっても」


 楽しそうに土御門は呟いた。
 満足だと言わんばかりの声で、土御門は笑った。

「そう言うやつだよ、トウマは」

 ステイルは四枚のスコアを見つめながらぼんやり考える。

 土御門が上条のことを『カミやん』ではなく『トウマ』と呼ぶのは、
 彼が天才魔術師ではなく、一人の少年として笑っている時だけだ。

 そのことに、土御門は気付いているのだろうか。

 ステイルの手の中で、くしゃりと紙が歪む。
 上条と自分たちは、別の世界の人間であることを見せつけられた気がした。

 実弾をためらいなくマン・ターゲットにぶちこめる土御門や、
 炎の剣を人間相手に振るえるステイルとは、全く別の世界の住人だ。

 上条は平和主義ではない。しかし人は殺せない。
 そんな平凡な善人。

 平和な世界ならばそれで結構だが、ステイル達の世界では生き残ることはできない。
 平凡な善人が平気で死んでいくのが、ステイル達のいる世界だ。

 そして、上条はその『不幸』でそんな世界に巻き込まれている。

「……となると、後は格闘技か」

「といっても、それにも限界がある。
 生き延びる以上の力を与えないというのが最大主教の考えだ。
 襲いかかる『不幸』から生還するための力――それだけしか与えてはいけない。
 強くなりすぎれば、『必要悪の教会』を必要としなくなるからにゃー」

「『疑似餌』……か」

 思わず呟いてから、ステイルは吐き気がした。


223 :サイドストーリー:銃と疑似餌と少年たちと [sage saga]:2011/07/14(木) 13:42:43.44 ID:30o69RJj0

 上条は、ランベス区にある『必要悪の教会』の寮と同じだ。

 獲物を釣り上げるための疑似餌。

 食われないための耐久力は必要だが、獲物を殺しては意味がない。

 今、上条は大英博物館に遊びに行っているらしいが、
 そこでもなにか想像に巻き込まれるのではないだろうか。

 シェリー=クロムウェルはどちらかといえば味方だが、
 なにか事件が起きれば上条のことなど無視してゴーレムを呼び出す恐れがある。

 あの不幸体質――というより、神の加護すら打ち消す右手はどうにかならないだろうか。
 アレさえなくなれば、上条は平凡な善人ばかりの世界に戻れるはずなのに。


「覚悟を決めておけよ、ステイル」


 土御門の言葉にステイルは年齢にそぐわない皮肉な笑みを浮かべた。

「この世界では簡単に人が死ぬ。僕もトウマもその覚悟くらいはできてるよ」

「そういう意味じゃない。もしもトウマが完全に『必要悪の教会』を裏切れば、
 差し向けられる刺客はオレとオマエだろう。
 確かにアイツの幻想殺しは脅威だし、体術もそこそこだが、オレたちを殺すことはできない」

「…………っ」

「今まで見えていなかったわけじゃないだろう?
 オレたちがいつも一緒にいる、その理由が」

 ステイルは答えに詰まる。
 考えたことがなかったわけではないが、上条が敵に回る未来なんて想像もしたくない。

 不意に、ステイルの携帯電話のストラップであるドクロが、ぶるぶると震えた。

 遠距離会話用の魔術ではない。
 スケジュールを告げるための魔術だ。

「――もうこんな時間か」

 紙とペンと写本を鞄の中に突っ込むと、ステイルは立ち上がった。

「どこに行く?」

「聖ジョージ大聖堂だ。なんでも、僕と神裂に会わせたい人間がいるらしい。
 ……人間と呼んでいいのなら、だけどね」

 ステイルの皮肉な口調に、土御門は短く応える。

「禁書目録か」

「魔道書を読んでも平気な化け物だ。
 どうせ、まともな人間じゃない」


 一〇万冊を超える魔道書を知識する人間ならば、
 上条のあの右手をなんとかできるだろうか。


 そんなことを考えながら、ステイルは『禁書目録』に出会うために歩き出した。


224 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(中) [sage saga]:2011/07/14(木) 13:45:01.88 ID:30o69RJj0


近鉄東寺駅――そこから少し行った通りにて。

上条「暑いな……」

禁書「暑いね……」

美琴「暑いわ……」

神裂「コンクリートの照り返しが途方もないですね……」

ステ「これが日本の夏か……」

打ち「うう、この人ったら紫外線を反射しちゃうから、いつも横にいるミサカはどうなっちゃうんだろうって、
   ミサカはミサカは今から将来のお肌の心配をしてみたり……」

一方「……能力がないやつは大変だな」

美琴「けろっとしやがって! 同じ超能力者なのにこの差は何なのよクソ野郎!?」

一方「ほらあれだ、視力検査だと2・0までしか測れないだろ。
   俺は10.0とかあるがオマエは2.0とかそンなンだ」

美琴「そのおざなりな説明がむかつく」

神裂「10・0もあるんですか! 聖人の私ですら6・0程度だと言われているのに……やはり世界は広いですね」

上条「神裂、今のは例え話だ」

禁書「それよりも、ここからでもいいにおいがするのがわかるかも!」

石山「いえそれは駅前のKFCです、とミサカは眼をぎらつかせるシスターにビビりながら突っ込みを入れます」

美琴「ていうか、これから行く東寺の弘法市って、ちょっと調べてみたら、毎月やってるんでしょ……?
   なんでよりによって私たち、この猛暑の中お出かけしてるの?」

石山「>>1が取材……というか遊びに行った最新のが今年の六月だったんですよとミサカはぶっちゃけてみます」

打ち「最初は家族で行く予定だったのに、ドタキャンで一人ぼっちだったんだよって、ミサカはミサカは追加してみる。
   ここでネタにしているのは、その時のさびしい心を紛らわすためなんだって、
   ミサカはミサカはこれでもかと楽屋ネタをかぶせてみたり」

上条「一人ぼっちは……寂しいもんな」

ステ「グダグダしゃべっている間に見えてきたぞ。
   国宝『五重塔』だったか。ここからは上から三段くらいしか見えないが」

神裂「幼い頃に一度見たことがあるのですが……やはり大きいですね」

禁書「でんしゃの窓の外から見えたやつだね。
   仏教は、十字教以上の歴史と、派生宗派が多いことで有名なんだよ。
   東寺は空海を祖とする東寺真言宗の総本山で――」

上条「はいストップ。こんな暑い中で歴史講座はいらない」

禁書「むが。……仏教は修行の果てに仏、つまり神に近い存在になるのが目的であり、
   十字教的に言えばグノーシズムに近く、魔術も肉体強化系が多く――」

上条「だからそれはいい! 六月のクセにほぼ真夏な空の下で、そんな暑苦しい講義は聞きたくない!」

225 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(中) [sage saga]:2011/07/14(木) 13:46:50.35 ID:30o69RJj0


石山「歴史的なあれこれはパフェ食べてる時に聞いてあげますから、
   と、ミサカは話を早く進めるために南大門へと皆さんを案内します」

打ち「お寺に入るまでも色々とお店があるのねって、ミサカはミサカはかわいい籐のかごに眼を奪われてみたり」

一方「買わねェからな」

打ち「この間、お気に入りのポーチが壊れちゃったんだよねって、
   ミサカはミサカは業務報告してみたり」

一方「……そこらへンの安いやつなら買ってやってもいい」

打ち「わーい、じゃあミサカはこの金魚さん柄の小さいのが良いって、
   ミサカはミサカは打ち明けてみたり」

美琴「ほんと、あんたって打ち止めには弱いわよね。
   あら、なにかしらこれ、キレイ。……ローマングラス?」

一方「あァ、それは――」

禁書「土に埋まったことで変質した、紀元前に造られたガラスのことだよ。
   古代ローマ帝国で造られていたことが、その名称の由来。
   元々人の手で製造されたものでありながら、地脈の影響を強く受けた物体だから、
   パワーストーンを用いた魔術においては、近年よく使用されているの」

一方「……正確にはは、銀化した古代ガラスだな。
   銀化つゥのは、ガラスが土ン中に数百年埋まって初めて発生する、
   ガラスと土の成分が同化する現象のことだ」

美琴「パワーストーンって……『この石持ってたら幸せになれますよ』とかっていう、胡散臭いアレ?」

禁書「魔術的に鉱物っていうのは、簡単に言えば、
   地脈――大地の力が結晶化したようなものなんだよ。
   だから、石によってはそれだけでちょっとした力を持ってるの」

美琴「科学的に言えば、ガイア論みたいなもんかしら」

禁書「ガイア論?」

美琴「『地球自体が一つの生命体だ』って言う考えのこと。
   科学かって聞かれたらちょっとあやしいけど」

禁書「たしかに科学っていうか、こっち(オカルト)よりだね。
   でも、星座を使った魔術もそうなんだけど、
   パワーストーンを使った魔術は、科学と密接な関係を持ってるんだよ」

上条「どういうことだ?」

禁書「時代によって移り変わる……っていうべきなのかな。
   例えば――ほらこれ、『レムリアンシード』」

打ち「なんだか表面に斜めな模様が入ってるねって、
   ミサカはミサカは手のひらサイズなのに一万越えの水晶におっかなびっくりさわってみたり……」

226 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(中) [sage saga]:2011/07/14(木) 13:48:22.41 ID:30o69RJj0


禁書「これは、一〇年くらい前に初めて発見された水晶で、
   古代人――『レムリア人の魂』と呼ばれてて、レムリアの言い伝えを利用した魔術で使用されるの。

   ただでさえ鉱物の中では魔術的に最高峰の力を持つ水晶が、
   古代人の手によって魔術的に加工された後、再び地中に埋められたから、
   普通の水晶よりずっと強い力を持ってるんだよ」

一方「『表面にバーコード状の加工がされた水晶』がその姿のままで発見されっから、
   学者どもがオーバーテクノロジーだとか言って騒いだって話なら知ってるな」

禁書「うん。魔術的には古代魔術、科学的には……地学と古代史かな?
   そこらへんと密接にかかわってくるの。
   二十世紀最高の三大ヒーリングストーンと言われている石も、
   元々は『科学的な採掘』の結果発見されたものだしね」

ステ「まあ、パワーストーンと呼ばれる鉱物を利用した魔術は、
   十字教みたいな宗教や神話を利用した魔術に比べて荒削りな物が多い。
   石の純度にも左右されるし、解釈がいくらでもできるからね」

神裂「石の純度が高くても、術者との相性が悪ければ意味がありませんし、石同士の相性もあります。
   例えば、ローマンガラスとレムリアンシードは、
  『人間によって手を加えられた後に地脈の影響を受けた』という共通点があるので、
   上手く組み合わせればそれなりの魔術を使えます。

   ですが、いくつものパワーストーンを組み合わせても、
   どこか一つに相殺し合う組み合わせがあれば、その時点で術式は意味をなしません」

美琴「よく分かんないけど、石自体が力を持ってるってこと?」

禁書「数千年、あるいは数万年分の地脈の力を溜めこんである入れ物だから、
   魔術を使えない人間でも、持っているだけである程度は恩恵を受けられるかも。
   あ、とうまはさわっちゃだめだよ。
   壊れはしないけど、せっかく溜めた力がなくなっちゃうと思う」

神裂「とは言っても、『持ってるだけで引き出せる力』は極々わずかですけどね。
   澱んだ気分をわずかに和らげたり、発想力を普段より豊かにしたり――その程度です」

禁書「レムリアンシードと三大ヒーリングストーンであるスギライト・ラリマー・チャロアイトとか、
   その他ポピュラーなパワーストーンの説明もしたいんだけど、
   それをするとかなりの時間がかかるから、もう割愛するね!

   気になったらネットで調べてみたらいいかも。
   水晶とラピスラズリとラブラドライトは普通にアクセサリーとしても綺麗だからお薦めだよ」

227 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(中) [sage saga]:2011/07/14(木) 13:50:34.41 ID:30o69RJj0


石山「>>1の超絶趣味タイムは終わりましたか、
   と、ミサカはまったく興味ない話題に巻き込まれたことにため息をもらします」

禁書「あ、あれなんだろう、東寺おかきだって食べたい」

上条「いきなりそれか。せめて打ち止めみたいにかわいらしくねだってみろ」

美琴「こんな暑いのに、けっこう人多いのね」

石山「いえ、これでも少ない方だと思います。
   このミサカも初めて来たのですが、やはり夏は人が少ないですね、と、
   ミサカは目片さんから聞いていた情報とはまったく違うことに肩を下ろします」

上条「誰だよ目片さん」

打ち「滋賀県某市にある研究所の研究員で、ミサカたちの面倒を見てくれてる人だよって、
   ミサカはミサカはとりあえず紹介してみる」

石山「滋賀……というか大津方面ではわりとポピュラーな名字なんですよと、
   ミサカは小学校時代一クラスに二人は目片がいたという、目片さんのエピソードを披露します」

美琴「えーと、ちょっとケータイで調べてみたんだけど、
   十二月の『終い弘法』が一番お店も人も多いんだって。
   たぶんその目片さん行ったのはその『終い弘法』ね」

上条「どうせならその終い弘法に来たかったな……」

禁書「でも、とうまは不幸だから、お財布すられたりとか、
   転んで貴重な陶器を粉々にしたりしちゃったりするかもぐもぐ」

一方「……否定できねェな」

上条「こらインデックス、たこ焼きを一気に六つも口にいれるんじゃありません。
   女の子なんだから、周囲の目をちゃんと気にしろ」

禁書「一気に食べたほうが修道服が汚れないんだよ!」

ステ「それにしても、色々な種類の店があるな。
   骨董品屋に、干し物屋に、玩具屋に……」

神裂「日本の祭りらしいと言えばらしいですね」

禁書「このわたがし、ふわふわしてておいしい」

上条「インデックス、それはその大きなのを一口で食べるんじゃないぞ!?
   ちょっとずつ一口分をちぎってだな」

禁書「あ、あれなんだろう美味しそう! たべたいかも!」

228 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(中) [sage saga]:2011/07/14(木) 13:52:14.48 ID:30o69RJj0


上条「ちょっと待ちなさい、綿あめの棒を持ったまま走るんじゃないインデックス!
   ……ってステイル!? なんで首根っこ掴むんだよ、今一瞬首しまったぞ!」

ステ「こんな人の多いところで転んだらどうするんだ、上条当麻。
   行っておくが、相手を怪我させても『必要悪の教会』はなにもサポートしないぞ」

神裂「素直に『転んでほしくない』と言えばいいじゃないですか」

ステ「………………僕は別にインデックスの心配をしているだけだ」

上条「言ってる間にインデックスがどこかへとー!?」

ステ「安心しろ、あの子に害なすものは僕が燃やしつくす」

上条「その危険思想をどうにかしろ!」

神裂「ま、まあ、ここは一応、東寺真言宗の総本山ですから。
   ここで無茶をしようとする魔術師はいないと思いますよ。
   ……て、ああもう! ステイル! トウマ!
   ケンカはダメですよ、それよりもあの子の方が先決でしょう!」

美琴「にしても……こんな暑いのに結構人がいるわね」

石山「一応、京都でもそこそこ有名な市ですからね、とミサカは告げます」

一方「スロヴェニア料理店が出張してンぞ」

上条「やっと……インデックスゲットだぜ……。
   へえ、そば粉のラスクかー。なんかおいしそうだな」

禁書「この小さなタルトもケーキも美味しそうかも」

上条「こらインデックス、その眼は止めなさい、店長さんが怖がってる」

打ち「さすがのミサカたちもスロヴェニアはいないから、
   スロヴェニア料理はこのミサカが一番乗りだーってミサカはミサカは宣誓してみたり」

石山「はは、甘いですよ上位個体! 初めてはこのミサカが頂くと――う!?」

打ち「はっはーそっちこそ甘いぜ下位個体!
   何のために司令塔であるこのミサカが存在するのか考えてみろって、
   ミサカはミサカは勝利の余韻に――って痛ぁ!?
   まさかあなたにドメスティック・バイオレンスされるなんて思いもしなかったって、
   ミサカはミサカは嘘泣きしてみたり!」

一方「とりあえず、そういう非人道的な行為は禁止だクソ野郎」

打ち「不意打ちチョップは非人道的な行為じゃないの!?
   ってミサカはミサカは驚愕を露わにしてみたり」

石山「……目片さんお勧めの金つばやさんが来ていませんね、とミサカはがっくりと肩を落とします」

229 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(中) [sage saga]:2011/07/14(木) 13:55:03.77 ID:30o69RJj0


神裂「ところで、五重塔と金堂の拝観はしないんですか?
   あちらに拝観受付がありますが……」

一方「こン中で仏像みて喜ぶのはオマエくらいだろ」

神裂「なっ……」

打ち「あ、でもおみくじはやってみたいって、ミサカはミサカは何種類もあるおみくじに興味を抱いてみたり」

美琴「たしかにやたら種類多いわね……。えーと、普通のが二種類、おまけつきが三種類」

禁書「おみくじというのは元々は神の声を聞くためのものであり、
   これは日本という国が古来より十字教以上に神を近いものとして感じていた証拠であり――」

上条「だからいい。それはいい」

禁書「む。たぶんわたしだったら、とうまより上手に京都をガイドできるよ?
   仏教と神道と陰陽道が絡み合った日本の魔術は結構複雑だから、それに関する魔道書は何冊か読んでるし」

上条「本編ならそれでいいかもしれないけど、これはおまけだから!
   好きな人だけ調べればいいんだよ!」

一方「にしても五種類もあンのかよ。多すぎンだろ」

石山「京都のお寺はデフォルトでおみくじが三つくらいそろってますからね、と、
   ミサカは寺の規模のわりにおみくじの種類が少ないことに逆に驚きを示します」

美琴「これで少ないの?」

石山「よほど小さな寺でもない限り、普通のおみくじ、恋愛みくじ、勉学みくじ、外国人用おみくじがそろってます、
   と、ミサカは京都初体験なお姉様に補足説明をします。
   お寺によっては、『その寺固有のおみくじ』がありますからね、とミサカは呟きます」

打ち「お花おみくじとか、七福神みくじとか、鳩みくじとか、仁王おみくじとか色々あるんだよって、
   ミサカはミサカはさらに補足してみる
   この『仁王様の言葉くじ』がかわいいからひいてみたいって、ミサカはミサカは眼を輝かせてみたり」

美琴「……ゴツイ名前のわりにずいぶんかわいらしい袋に入ってるわね」

神裂「着物の端切れで小さな巾着をつくり、その中に言葉を封じ込める――なかなか考えられていますね」

上条「いや、たぶんそこまで深くは考えてないぞ……。たぶん普通に女の子向けのおみくじだ」

一方「運だめしにひいてみンのは面白そうだな。……全部ひいてみっか?」

ステ「元々は占い、というか神託みたいなものなんだろう?
   どれか一つに絞った方がいいんじゃないか」

神裂「では、一番シンプルな普通のおみくじにしましょう」

打ち「うう、未練はあるけど皆にそろえるって、ミサカはミサカは大人なところを見せてみたり」

上条「それじゃひくぞ。木の棒をひいて、その番号を伝えて紙をもらうタイプの、ベーシックなおみくじだ」

230 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(中) [sage saga]:2011/07/14(木) 13:57:43.87 ID:30o69RJj0


…………………………


上条「うん、皆の予想通り大凶だ。十三番という時点で嫌な予感はしてたんだ」

禁書「大吉だよ! パフェ食べ放題だね!」

美琴「吉。……普通ね」

打ち「ミサカは中吉だったよって、ミサカはミサカは報告してみる」

一方「……凶か。これで大凶だったらネタにできたンだろうがよォ……」

ステ「末吉だ。微妙なラインだな」

神裂「大吉でした。というより、今まで大吉以外ひいたことないんですよね。
   みなさんが少しうらやましいです」

石山「このミサカは吉でした、と淡々と報告します」

上条「というかこういうお祭りの時は大凶は除くんじゃないか?」

石山「>>1は初詣で、横に並んでいた赤の他人と仲良く一緒に大凶をとったことのある人間ですよ、
   とミサカは大吉の回数より大凶の回数が多い>>1の過去を暴露してみます」

打ち「おみくじって結ぶんだっけって、ミサカはミサカは初体験に困惑してみたり」

禁書「一応、今は『良い結果の場合は自分で持っておく』ってことになってるよ」

一方「……結んどくか」

上条「そうだな……。というかこの後にインデックスパフェ祭りが待ってるんだから、大凶は確定してるんだよな……。
   今月の生活費持つかな」

神裂「大丈夫ですよ、私とステイルも一緒にお金を出しますから」

ステ「さっきから何度も言っているが、勘違いするなよ。
   君のためではなく、インデックスのためだ」

石山「はいはい、ステイルさんじゅうよんさいがツンデレなのは分かったので、さっさと次に行きましょう、
   と、ミサカは次の舞台に皆さんを促します。
   ちなみに次回はKYOTOモールかヨドバシカメラにするつもりです、と、
   ミサカは>>1からの伝言を伝えます」



やっぱりグダグダなまま、次回へ続く!


231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/07/14(木) 20:12:42.23 ID:RKeK3okV0

新快速は南草津に止まる改訂前なんだな
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 18:42:08.48 ID:jGqeWIdSO
233 : [sage saga]:2011/07/15(金) 23:22:04.78 ID:86PfxYlg0
>>231
一応本編自体は2005年設定なんで、
今年の春に改定されたばっかりの南草津はいれませんでした。
234 :サイドストーリー:思い出の置き場所 [sage saga]:2011/07/16(土) 01:52:15.29 ID:IJL1OLTs0



 インデックスと上条当麻が入院していた頃の話だ。



「あくせられーた、みこととらすとおーだが、『かめらー』でわたしの魂を吸い取ろうとするの!」

 病室を訪れて開口一番、インデックスはそう叫んだ。

「……いつの時代の人間よ。これで死ぬんなら、学園都市の人間全滅してるって。
 いっとくけど、あんたこれよりもっとすごい写真撮られてるわよ」

 美琴の呟きに、インデックスの肩がビックゥッ! と跳ね上がる。
 気になる、けど聞いたら後にはひけない、という恐怖を瞳に宿しつつ、インデックスが首をかしげる。

「も、もっとすごい写真?」

「レントゲン写真」

「あ、頭に何か冠してる! なにがすごいの?」

「骨とか内臓が透けて見える写真」

「内臓に直にダメージ!? わたしが知らない間に、ひどい、みこと!」

「撮ったのはあんたの主治医よ、主治医」

 美琴はどこからどう見ても適当に返しながら、インデックスを容赦なくカメラにおさめていく。
 そのたびにインデックスが短い悲鳴を上げ、懸命に避けようとするが、結局は撮られてしまう。

「ほらー。もう何十回も撮ってんのに、別に死なないでしょ? 平気平気。
 ……完全記憶能力もってるあんたにはピンとこないかもしれないけど、
 現代の人間ってのは、こうやって記憶を残さないと不安になっちゃうのよ。
 もし忘れた時、ちゃんとその時のこと思い出せますようにって」

 インデックスを映している美琴だが、美琴が見ているのは別の人間だろう。


 上条当麻。
 思い出を全て失った少年。
 自分の名前も、親や友達の顔を忘れ、これまで自分がどんな人生をおくってきたかを知らない少年。


 名前を覚えていないというところだけは一方通行と共通するが、
 本来の戸籍を抹消された一方通行と違い、上条当麻はちゃんとした戸籍を持っている。

 だが、戸籍になんの意味があるだろうか。
 教えてくれるのは、自分や家族の名前だけ。本籍地を移していたら、どこで生まれたかも分からない。

 四ヶ月間クラスメイトとして、寮の隣人として、認めたくないが友人として一緒にいたくせに、
 一方通行は上条当麻のことをなにも知らなかった。



235 :サイドストーリー:思い出の置き場所 [sage saga]:2011/07/16(土) 01:54:17.25 ID:IJL1OLTs0


 人間は何かしら、他の人間に離せないことを抱えていると言うが、
 上条当麻は、あの無邪気な態度にまぎれて様々なことを抱えていたと思う。

 例えば、魔術師。

 上条に合せる顔がないと言って、早々に退散した二人の顔を思い浮かべた。
 幼馴染である彼らと上条がどんな時間を過ごしていたか、一方通行も美琴も打ち止めも知らない。

 そして、幻想殺し。
 一方通行ですら理論が分からない力で、学園都市においてもまったくイレギュラーな力だが、
 上条はその正体を察していた節がある。


 ドラゴン――だったか。


 一度だけ、そんなことを呟いていた。
 くだらないファンタジーの話だと、その時は流したのだが、ちゃんと聞いていればよかった。

 今の上条は自分の力のことをよく知らないらしい。


(『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』……か。
 ドラゴンってなァ、十字教じゃよく使う単語なのか?)


 一通りの知識を身につけている一方通行だが、十字教そのものに関しては明るくない。
 歴史的な扱いは学んでいるが、『実践的』な内容は知らない。

 そもそも、魔術など、ほんの一週間くらい前までは信じてすらいなかった世界だ。
 上条やステイル、神裂などから透かして見る限り、学園都市クラスの闇を抱えた世界だろう。

 そんな世界で、上条は一体どんな役割を果たしていたのだろうか?

 きゃあきゃあ騒ぐ三人の少女の平和っぷりとは裏腹に、一方通行の頭の中は暗い考えがぐるぐると渦巻いていた。
 ふいに、インデックスの盾となっていた打ち止めが美琴へと手を伸ばした。

「お姉様、ミサカも写真撮りたいって、ミサカはミサカは主張してみる!」

「はいはい。使い方、分かる?」

「このボタンを押すだけでしょって、ミサカはミサカは確認をとってみたり」

「らすとおーだーが裏切ったぁ!」

「それ、ぱしゃぱしゃ連写だってミサカはミサカはひたすら連打してみる!」

 病室の中をどたばたと走り回る少女二人。
 片方はつい先日までは重傷人で、現在も入院中のはずだが、すっかり復活している。

 インデックスなら分かるだろうか。
 上条が呟いた単語、ドラゴン。その意味を。

(……聞きだすにしても、あの白いガキと上条が完全に回復してからだな)

 笑顔で振る舞っているが、インデックスも打ち止めもそれに美琴も、心理的には万全に程遠い。

 人が『死ぬ』とは、そういうことだ。


236 :サイドストーリー:思い出の置き場所 [sage saga]:2011/07/16(土) 01:56:41.89 ID:IJL1OLTs0

「私もあんたも記憶力いいから思いつかなかったけど、写真、色々撮っとけばよかったわね」

 一方通行の心を読んだように、美琴は苦笑した。
 一方通行は片方を歪め、あからさまに不快そうな表情を浮かべる。

「――別に、俺たちはそンな仲良しこよしな関係じゃねェだろ」

「あはは、そうかも。……でも、ちょっと考えれば、へんてこな関係よね。
 私は打ち止めを監視するために。
 打ち止めはあんたに殺してもらうために。
 あんたはあいつの弱点を暴くために。
 そして、あいつは、ただ単に友達と遊ぶために、一緒に行動してた」

「見事に歪んだ四角関係だな」

 生産性も何もない。

 一歩間違えれば悲劇へと変わる、一方通行と美琴と打ち止めの危うい関係は、
 上条という存在があって、ようやくまともな学生生活に結びついていた。

 友情や信頼と言えば聞こえはいいが、互いに依存して利用していただけだった。


「……やりなおさない?」


 だから、美琴のそんな呟きは、意外なものだった。

「インデックスもいれて、五人でのんびりやっていきましょうよ。
 クソったれな暗部がちょっかいをいれてくるかもしれないけど、
 それでも、周りの頼れる大人たちの力を借りたりしてさ」

 甘い言葉だ。

『七人戦争』で学園都市の暗部に放り込まれておきながら、
 それでも大人たちに対する幻想を捨てきれていない。

 より多くの闇を啜った先輩として、一方通行は肩をすくめてみせた。
 打ち止めやインデックスには聞こえない程度の声で言う。

「はン。この半年以上、ほっとかれてンのが異常な状況なんだぜ?
 なにか少しでもきっかけがあれば、あのクソ暗部は俺を連れ戻す。
 それこそ、今この時に何か仕掛けてきても俺は驚かねェよ」

 一方通行のその言葉に対する美琴の返答は、あきれたような笑いだった。

「ほんっと、難儀な性格してるわよね、あんた」

「あァ?」

 睨みつけるが、慣れっこな美琴はまったく動じない。

「打ち止めのことはいざって時に殺すため、
 黄泉川さんや芳川さんのことは名義的な保護者が必要だから、
 あいつのことは『幻想殺しのシステムを暴いて強くなるため』っていう言い訳つけなかったら、
 まともに人間関係構築できないんだから」

 初めて出会ってから数年間、一方通行のことを客観的に見てきた美琴だから言えた言葉だろう。
 人生経験は一方通行の方が勝るが、『まともな』人生経験に関しては美琴に負ける。

 なんだかんだでいつも自分を言い負かす善良な大人たちの顔が頭をよぎり、
「…………クソったれ」
 敗北宣言するのはしゃくなので、一方通行は短く吐き捨てた。


237 :サイドストーリー:思い出の置き場所 [sage saga]:2011/07/16(土) 01:59:01.33 ID:IJL1OLTs0

 一方通行は自分の髪の毛をかきまわしてから、打ち止めの手の中からカメラを没収した。

「一応この白いガキは入院患者だ。あまりはしゃがせンな」

「別にいいよ、あくせられーた。害がないのは分かったんだし」

 しかし、インデックスはわりと息が荒くなっている。
 冥土帰しの腕が確かなのは知ってるが、患者がちゃんと養生しなければ、その腕も意味がない。

「そう言う言葉は、ちゃんと退院してからはけ」

 肩を軽くつついて強制的にベッドに移動させると、インデックスは驚いた表情を浮かべた。

「い、今なにをしたの? こう、後ろにぎゅーんって引っ張られる感じがしたんだよ!」

「ベクトル操作、っても科学に無知なオマエには理解できないだろ」

 四か月ほどまでに、別の人間と同じような会話をしたことを思い出し、一瞬だけ焦燥感のようなものが胸をよぎった。

「ねえ、お願いだからカメラ返してって、ミサカはミサカは身長差を利用するあなたに訴えてみたり!」

「さっきこの白いガキ何枚も撮ってただろ。
 ……あんだけやって、まだ満足できねェのかよ、おい?」

 ぴょんぴょんと跳ねてカメラを取り戻そうとする打ち止めを、一方通行は揶揄するように嘲笑う。

「うう、インデックスのお姉ちゃんだけじゃなくて、
 あなたやお姉様のことも撮ってみたいって、ミサカはミサカは答えてみたり。
 あとその言い方なんかモゾモゾするからやめてって、ミサカはミサカはお願いしてみる」

「ネットワーク上に記憶をアップロードできンだろ?
 わざわざカメラ使って写真残す必要なンてねェだろ。

 例えば俺がまたオマエの記憶をリセットしても、
 ネットワーク上から簡単に取り出せちまうンだから便利なもンだな。
 本質的な忘却がないってのは、うらやましい話だ」

 言い放ってから、非常に珍しいことだが、一方通行は少しだけ後悔した。
 きつく言いすぎたかもしれない。


238 :サイドストーリー:思い出の置き場所 [sage saga]:2011/07/16(土) 02:00:18.91 ID:IJL1OLTs0

 しかし、打ち止めの返答は、少しもへこたれていなかった。

「あなたがそこまで言うなら、今日のことはネットワーク上に残さないって、
 ミサカはミサカはここに宣言してみる」


 まっすぐな視線を向けられて、思わず一方通行は打ち止めから視線を外していた。


「口では立派なことはいくらでも言えるたァ、ホントだな。
 頭でも打って忘れたら思い出せねェンだぞ。それでもいいのか?」

「残さないったら残さない! この記憶はこのミサカだけのものだって、ミサカはミサカは決意してみたり!」

 地団太を踏む打ち止めの手を、インデックスが優しく握った。

「ちがうよ、らすとおーだー。わたしたちだけの記憶だよ」

「おおそうだったぜって、ミサカはミサカは思わぬミスに肩を落としてみたりー」

 一回盛大に肩を落としてから、宣誓するように打ち止めは一方通行に向かって叫ぶ。


「今日のことは絶対忘れてやるもんかって、ミサカはミサカは叫んでみる!!」





239 :サイドストーリー:思い出の置き場所 [sage saga]:2011/07/16(土) 02:01:44.29 ID:IJL1OLTs0






 どうして、あの日の出来事を今こうして思い出しているのだろう。
 一方通行は自嘲せずにはいられない。

(悪ィな、クソガキ)

 全てを0に戻された彼女が、記憶をネットワークから拾い上げたところで、あの日の記憶は欠けている。

 だが、それが何になるのだろう?
 たかだか一日分の記憶が消えただけで、彼女の人格が変わるわけではない。

 なのに、なぜ、この場面でそれを思い出しているのだろう。


(まさか――寂しいとか思ってンのか?)


 思ったところで、どうしようもない。
 打ち止めの記憶はこの瞬間も0に戻されていく。

 感傷など全て振り切って、一方通行は演算能力の全てを打ち止めへと向けた。



240 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(下) [sage saga]:2011/07/16(土) 02:03:24.34 ID:IJL1OLTs0



京都市下京区、東本願寺。


石山「……というわけで東本願寺です、とミサカは現在地を報告します」

上条「ヨドバシカメラかKYOTOモールにするんじゃなかったっけ?」

打ち「それだと、どこか一か所で休んでぐだぐだ会話っていう流れになるから、
   オチはパフェ屋でしめたい>>1としてはそれだとやりづらいんだよって、
   ミサカはミサカは書き手側のエゴをおしつけてみたり」

美琴「まあ、京都駅すぐ前だし、地下道を使えばほとんど日にあたらずに来られるからね」

神裂「ここも歴史的に見れば面白いお寺なのですが、どうせお寺に行くのなら、
   三十三間堂か清水寺が良かったですね。特に清水寺」

一方「……清水寺には縁結びの滝があるからか?」

神裂「い、いいえ! そんなことあるわけないでしょう!?
   ただ上条当麻やステイルに清水の舞台を見せてあげたいと思っただけです!」

石山「バスで茶碗坂まで行って、そこから清水寺に上がり、そのまま二年坂を抜けて八坂神社まで下り、
   道なりに三条河原町や京極・寺町通りをぶらつく――と言うのが初心者向けルートなんですが、
   さすがに昼すぎからそれをするのは難しいですね、とミサカはため息をつきます。

   本来なら錦市場などもお見せしたかったんですが、とミサカは『一日』というリミットに限界を感じます」

美琴「ドラマだと、嵐山から清水寺に、さらにそこから金閣寺に移動してたりするけど?」

打ち「できなくはないけど、かなりの強行軍だよって、
   ミサカはミサカは京都に関してはほとんど無知なお姉様に突っ込みを入れてみる。

   ちゃんと時刻表を確認しないと、嵐山に行くのすら大変なんだよって、
   ミサカはミサカは嵯峨野山陰線の電車の本数の少なさを憂えてみたり」

禁書「これなんだろう。鳩豆? ひよこ豆みたいなものかな?」

神裂「一袋一〇〇円ですか? では、五袋いただくので、五百円玉でもいいですか?
   はい、こちらこそ。ありがとうございます。いえ、この格好は別にコスプレでは――
   照れてるわけじゃありません。本当なんです。
   これには一応理由があって、好きでしているわけではないんです」


241 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(下) [sage saga]:2011/07/16(土) 02:05:02.54 ID:IJL1OLTs0

ステ「……日本人が日本で目立ってどうする?」

神裂「好きで目立ったわけではありません……。
   どうぞ、みなさん。鳩豆です」

美琴「あ、わざわざありがとう。
   五袋ってことは――
  ・インデックス
  ・一方通行&打ち止め
  ・神裂さんとステイル君
  ・私と石山
   ……で、あんたってところかしら」

上条「どうしてそうかたくなに俺の名前を呼びたがらないんだよ。
   これが思春期少女の反抗期ってやつか?
   あ、インデックス、それはハトの食べるもの――ってこら、口にいれるんじゃない、人間やめる気か!?」

禁書「とってもゴリゴリかたゴリゴリいけど美味しいよ?」

ステ「ハトが大量に集まってきているな……燃やすか?」

禁書「ハトの丸焼き!」

上条「眼を輝かすな! 仮にもヒロインだろ!? ステイルもこんな人眼のあるところで魔術を使うな!」

神裂「そうですよ、ステイル。ここは仏教真宗大谷派の総本山なんですから、
   イギリス清教の私たちが魔術なんて使ったら、問題があります」

上条「そういう問題じゃ――って、しまった、気を抜いた隙に肩や足に何羽もハトが!」

打ち「わー上条のお兄ちゃんがハトまみれだって、ミサカはミサカはやたら凶暴なハト達にびびってみたり」

一方「……魔術サイドにまともな人間はいねェのか?」

美琴「たぶん、あんたにだけは言われたくないと思う」

石山「この寺のハトたちは数が多い上に人慣れしてるので、
   うかつに鳩豆を持つと危険なんですよね、とミサカは今さらな忠告をします」

美琴「ほんとに今さらだわ」


242 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(下) [sage saga]:2011/07/16(土) 02:07:37.44 ID:IJL1OLTs0


京都駅・室町小路広場(通称:大階段広場)

石山「さてそろそろ頃合いですので場所を移して大階段広場です、
   とミサカは皆さんと一緒に階段をてくてく登りながら今日何度目かの業務報告をします」

禁書「すごい長い階段だね。なにか魔術的な意味があるのかな。
   ……ふむふむ、段数は一七一段。
   ところどころに陰陽道の匂いを感じるんだよ」

ステ「こういうのは土御門の領分だな。しかし、こんなビルに魔術的意味を持たせるか?」

神裂「京都の街自体が一つの結界ですからね。
   意識しなくとも、魔術的な意味を持ってしまうのかもしれません。
   陰陽道の本場ですし、何があっても驚きませんよ」

上条「そういや、なんで土御門は来なかったんだ?
   あいつって陰陽博士とか呼ばれてたんだろ。だったら京都とか好きそうだけど……」

石山「ああ、それは字数の問題です……と、
   ミサカは土御にすべきかいっそ元春にすべきか悩んだ挙句登場なしにしたという楽屋ネタを披露します」

上条「そういえば主人公の名字が土御門で、名前に春がついて、
   ヒロインの名前に夏が入るラノベがあるんだけど、あいつに教えたら喜ぶかな」

美琴「そういうネタは禁止。せめて同じレーベルにしなさい。あるいはガンガン」

上条「科学サイド好きならフルメタル・パニック、魔術サイド好きならブラック・ブラッド・ブラザーズがお勧め!」

一方「一体どこからどんな電波受信してンだよ、オマエ……」

美琴「それにしても、どうしてまたこんな暑い日に、よりにもよって外階段なのよ。
   確か目的のパフェ屋は結構上の方よね?」

石山「エレベーターはいつも満員状態ですから、八人も乗れませんよ、
   とミサカは満員電車状態のエレベーターを思い出します。
   エスカレーターもあるのですが、正直そこの白いシスターが乗れるとは思いませし、と、
   ミサカは布地がエスカレーターに巻き込まれる瞬間を想像して身震いします」

一方「描写は省いたが、ここに来るまで結構な距離歩いたよな?
   それだったら大人しくエレベーターを使った方が早かったんじゃねェか?」

打ち「ここの階段を使ってレースも開催されるんだって、
   ミサカはミサカはネットワーク内にあるデータを持ち出してみたり」

石山「ああ、目片さんが参加したので、そこから得た情報ですね、と、
   ミサカはネットワークに接続できない皆さんに説明します」

一方「無視すンな」

打ち「……この外階段出したかっただけだよって、ミサカはミサカは打ち明けてみる」

禁書「そんなことよりも速くパフェが食べたい!」

上条「インデックス、あんまり走ると転ぶぞー」

石山「それではパフェ屋に行きましょうか、とミサカは誘導します」

美琴「ぐっだぐだね……」

神裂「まあ、いいじゃありませんか。こうして羽根を伸ばすのも、時には必要ですよ」

ステ「それにしてもパフェ屋か。僕とは縁遠い店だ」

打ち「普通のほうじ茶も置いてるから、甘いのが苦手な男性でも安心だよって、
   ミサカはミサカは報告してみる!」

ステ「……わざわざありがとう」

243 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(下) [sage saga]:2011/07/16(土) 02:10:14.73 ID:IJL1OLTs0

禁書「えっと、さっきみた地図が正しかったらこっちだね! この入口から入ると近いみたい」

上条「おお、やっぱり店の中に入ると涼しいな」

美琴「一応これでも節電モードらしいけどね」

一方「オマエが一人いたらこの店の電力くらい賄えるんじゃねェのか?」

美琴「理論的には可能かもしれないけど、私の電気を電源に変えるための変換器が必要ね。
   でもそんな変換器なんて、学園都市外で使えるわけないし、そもそも能力使用自体禁止でしょ
   アンタの使ってる無意識の反射は仕方ないとしてね」

一方「冗談のつもりだったンだけどよォ……」

神裂「ああ、見えてきましたね。あそこが今回の目的地・茶寮都路里です」

上条「結構人並んでるな」

美琴「そうね。でもちょっと待てばすぐでしょ。この時間なら回転率も高いだろうし」


…………十数分後


ハチメイサマデスネ コチラノセキニドウゾー ゴチュウモンハオキマリデショウカ

禁書「全部! とりあえずメニューに乗ってるの全部!」

上条「インデックス。はしたないからやめなさい」

美琴「まあ、待ってる間にメニュー見てたから大体決まってるんだけどね」

一方「おいクソガキ、ちゃんと自分で食べれそうなやつだけ頼めよ」

神裂「それにしても、今回で最終回ですか……。
   本編では私の出番は当分ないので、寂しくなりますね」

ステ「僕は『吸血殺し』編プレビューで出番があるそうだ」

美琴「逆に、『吸血殺し』編だと私たちの出番がないけどね」

一方「まァ、その分『妹達』編で出番が多いけどな」

上条「結局、『吸血殺し』編、『妹達』編、『御使堕し』編がプレビューつーか、
   原作からの変更点をざっとなぞるだけで、原作五巻を少しだけ再編するんだっけか?」

一方「一応はな。ただ、オマエの方は変えようがねェンだよな」

上条「宿題が終わってる以外変わりようがないしな」

一方「俺のほうは、クソガキが天井に誘拐されて、俺と御坂が奔走するってシナリオになるみてェだな。
   今回のサイドストーリーは、その終盤に持ってこようと考えてるエピソードらしい」

美琴「ってなわけで、私が海原対処のためあんたとデ……一緒に行動しながら、
   一方通行と協力して打ち止め捜索するってむちゃくちゃなスケジュールになるのよ」

上条「まあ、『吸血殺し』編が始まるのももうちょっと後だし、のんびりやってこうぜ」

一方「あと何回かは一学期と終章前後のエピソードか」

禁書「わたしの出番がほとんどないのはせつないかも」

上条「とりあえず、今回の京都編はそこらへんを労うってことで……
   ほら、パフェがくるぞー」


ほぼ一同「いただきます!」



244 :おまけ:そうだ、京都に行こう編(下) [sage saga]:2011/07/16(土) 02:11:56.89 ID:IJL1OLTs0





打ち「せっかくの最終回なのに、ずいぶんと終わり方が地味だったねって、
   ミサカはミサカは呟いてみたり」

石山「ふふ、まだだ、まだ終わらんよ、とミサカは次回こそが真の最終回であることをつげつつパフェ美味え」


一方「つゥか、このおまけって需要あンのか……?」


 次回、『そうだ、京都に行こう』編フィナーレ!
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 01:57:16.72 ID:De9dC3YI0
なに、このメタ発言のオンパレードwwww
とりあえず、楽しみに待ってる
246 :サイドストーリー:入学二日目 [sage saga]:2011/07/20(水) 14:29:09.52 ID:NAHKtTig0


 本来なら一学期二日目の今日は、簡単な能力開発の後に測定をするだけなのだが、
 とある超能力者が一暴れしたせいで、とある高校の職員室はどたばたと騒がしい。

 一暴れと言っても、


「本人いわく、『とことん手を抜いた状態で風のベクトルを操っただけ』だそうです」


 学園都市最強と謳われる一方通行――この学校では鈴科優生緒と名乗っているが――の能力特定の際、悲劇は起きた。

「『これくらいで機材が壊れるってどォいうことだよ』って本人の方が驚いてました」

 彼が今まで使っていた測定用機材は、レベル5である彼に合せてチューンアップされていた。
 その機材すら破壊してきたという一方通行は、無能力者か低能力者ばかりのこの高校では、あまりにも規格違いだった。

「それでF4クラスの竜巻って、学園都市中の空力使いが落ち込みそうじゃんね……。
 たしか、常盤台最強の空力使いでも瞬間的にF4クラスが精々じゃん?」

 この学校で唯一の高レベル測定用機械をぶっ壊した揚句、
 発生させた竜巻でグラウンドの土をごっそり削り取り、体育館の屋根を吹き飛ばした一方通行は、
 事後処理に勤しむ大人たちの影の努力もつゆ知らず、普通の放課後を楽しんでいるらしい。
 といっても打ち止め視線なので細かいところはあてにならないが。

 一方通行のクラス担任である月詠と、後見人である黄泉川は、本来ならこんなのんびりとしているヒマはないのだが、
 ちょっとタバコを吸うくらい許されるだろう。

「運動部の子たちには悪いことしちゃったじゃんねー」

 一応、削り取られたグラウンドは一方通行が直したのだが、細かい砂利が散乱している恐れがある。
 一方通行は「そンな心配なンざいらねェよ」と言っていたが、学校側としては、万が一は避けたいのが本音だ。

 よって、グラウンドはしばらく使用中止。
 体育館も壊れたので、体育系の部活の子たちはしばらく校内で練習を行わなくてはならない。

 ふいーと妙におっさんくさい動作でタバコの煙を吐き出してから、月詠は楽しそうに肩をすくめた。

「けど、手を抜きすぎたら正確な判断はできませんからねー。
 とりあえず、今度鈴科ちゃんと一緒に長点上機学園まで行って、機材を借りようと思います。
 ……この学校における鈴科ちゃんの目標は『能力の平和使用』ですから。
 F6クラスの竜巻をおこすことができたとしても、それで怪我人が出るなら意味がないんです」

「私たちにできるのは、『何かを破壊することしかできない』と思い込んでいる一方通行の現状打破。
 それと、コミュニケーション能力の向上くらいじゃん」

「ああ、そっちの方は大丈夫ですよー。お隣の席の上条ちゃんとなんだか仲良くなったみたいです」

「一応、あの子と打ち止めから報告は聞いてるじゃーん。上条って子はどんな能力者なのかな?」

 それまではなんだかんだで笑顔だった子萌が、困ったような表情を浮かべた。

「それが、上条ちゃんは……その、まったく測定できなかったんです。
 普通だったらほとんど能力がない子でも、何かしらの方向性があるんですが、上条ちゃんはそれもないんです。
 どの資質も完全にゼロで、一体どこを伸ばせばいいのか……」

 腕を組んで、小萌が首をかしげる。
 月詠小萌は外見こそ小学生の少女にしか見えないが、教師としては、黄泉川の何倍も優秀な女性だ。

「能力開発自体が初めてだったらしいので、今日の結果だけではなんとも言えないんですけどねー」

「能力開発を受けてない?」

 口からタバコを離して、黄泉川は小萌に聞こえない程度の小さな声で呟いた。

「……それなのに、一方通行の反射の膜をすり抜けたって――どういうことじゃん?」

247 :サイドストーリー:入学二日目 [sage saga]:2011/07/20(水) 14:30:32.55 ID:NAHKtTig0


 それとまったく同じ疑問を、一方通行も抱いていた。

「……能力開発を受けてない?」

 昨日と同じファミレスで、昨日と同じメンバーに、上条の幼馴染だという土御門を追加して、
 能力測定について話をしている時に明らかになった事実に、一方通行は驚きを声に出していた。

 美琴や打ち止めの顔を見る限り、彼女たちも言葉には出さないまま、似た疑問を抱いているようだ。

「あれ、言ってなかったっけ?」

 さらりと爆弾発言を投下した上条は、逆に困惑した表情を浮かべた。

「それじゃあ、昨日のあれはなに? 私や一方通行の力が効かなかったのは何で?」

 美琴の質問に、上条は腕を組むとうんうん唸りながら天井に視線をやった。

「いや、そこらへんは上条さんにもさっぱりで……。
 とりあえず便宜的に『幻想殺し』って呼んできたけど、理由を述べろと言われると難しいというか」

 てっきり、ロンドンに来てからの数日で開発を受けたのかと思ったが、どうやら違うらしい。
 いや、それ以前の問題だ。

「……超能力者(レベル5)の俺達の力を打ち消しておきながら、無能力者(レベル0)?
 どうなってんだよ、おい」

 上条の身体検査(システムスキャン)の結果は、どの能力も最低ランクだった。

 確かに上条の年齢を考えれば、能力開発を行ったところで、結果は出ないかもしれない。
 能力が発言できるぎりぎりのラインなので、高校から受けた程度では、結果が出ないのは珍しいことではない。

 だが、それでは昨日の出来事は説明できない。

 一方通行の反射の膜をすり抜け、御坂美琴の電撃を消滅させたくせに、上条は無能力者。

「……おい、土御門。少し顔貸せ」

 土御門の襟を引っ張ると、土御門はすんなり後をついてきた。
 店内を進み、乱雑に男子トイレの扉を開けた。

「いやーん、トイレに一緒に行くのは女子の専売特許だぜい」

 軽い調子の土御門を壁に叩きつけると、さすがに土御門は真剣な表情に変わった。

「カミやんは『異能の力』なら何でも打ち消せる。
 学園都市最強の超能力だろうが、神様の加護であろうと、『異能』であればなんでもだ」

 質問する前にあっさりと答えられ、一方通行は言葉につまった。
 しかし、つまったのは一瞬だけ。すぐに頭を切り替えると、短く問いかける。

「どうしてそンな断言ができンだ?」

 異能の力――超能力は、学園都市の専売特許だ。
 天然物の超能力者の存在は否定しないが、その数はそこまで多くはないはずだ。
 それこそ、生きている間に一人か二人に出会えればいいレベルだろう。

 なのになぜ、上条は自分が『異能の力を殺せる』と明言できる?
 なぜ自分自身の力に、『幻想殺し』なんていう名前を与えている?

 最強の能力『一方通行』を打ち消しておいて、上条は特に驚きを見せずに当たり前のことのように受け入れていた。
 慣れているとしか思えない。

「イギリスに学園都市レベルの超能力者生産技術があるとは考えられねェ。
 それともあれか? 天然産の能力者限定のコミュニティでもあンのか?」

「世界には様々な法則がある。カミやんが生きていた世界は、学園都市とは縁遠い法則で動いていただけの話だ」

「…………?」

 意味が分からず顔をしかめた一方通行を見て、土御門は笑った。


「いずれ分かるさ、一方通行。いつの日か、それを目の当たりにする時が来る」


248 :そうだ、京都に行こう編(終) [sage saga]:2011/07/20(水) 14:31:55.29 ID:NAHKtTig0



滋賀県、石山駅。


石山「ここが、このミサカの通称の元となった石山駅ですとミサカは説明します」

上条「……なんでわざわざここまで」

一方「京都駅と比べるとなンにもねェな……。小せェビルとマンションしか見えねェ」

禁書「あ! あそこに美味しそうな焼き肉屋さんがある!
   食べたいよー、とうまー、ステイルー、かおりー」

ステ「さあ、さっさと行くぞ上条当麻。金なら僕が出す」

神裂「夕ご飯には少々早いですが、あの手の店は早目に行かないと席が一杯になる恐れがありますからね」

上条「ダメです。というかインデックス……パフェマラソン二回した直後だろ?」

禁書「わたしがさっき食べたのはパフェだよ。これから食べたいのはお肉かも」

上条「それがシスターの言うことか!?」

美琴「それにしても……なんというか田舎ね」

石山「というより、滋賀県は全体的にこんな感じで、これでもまだ都会ですとミサカは釘を刺しておきます。
   出身有名人もレボレボの西川さんとUVERくらいですしと、
   ミサカは世界のナベアツとテツトモの青い方の顔を思い浮かべながら答えます」

一方「微妙なセレクションだな、おい」

石山「UVERの方はあなたとそこまで縁遠い存在じゃありませんけどね、と、
   ミサカは次の声優アワードで主演男優賞をゲットできたらいいですねと応援しておきます」

打ち「どうせなら『とある』で取りたいんじゃない? って、
   ミサカはミサカは岡本さんのミサカ大好きっぷりにややどん引きしてみたり」

一方「……なに言ってンのかさっぱり分かンねェ。だれだよ、岡本って」

石山「わかっていませんね、そこは『中の人などいない』と答えるところですよ、とミサカは淡々と答えます」

249 :そうだ、京都に行こう編(終) [sage saga]:2011/07/20(水) 14:33:45.63 ID:NAHKtTig0


上条「それより観光だ、観光! 京都から二三〇円も払ってここまで来たんだから、楽しまなかったら損だぞ」

禁書「離してよとうま! わたしはあそこの焼肉屋さんに行くんだもん!」

神裂「お、おちついてください。とりあえずここは話を進めましょう」

ステ「あとでいくらでも食べさせるよ。上条当麻が」

上条「さっきと言ってることが変わってるぞ、おい。
   領収書は『必要悪の教会』あてでよろしいでしょうか!?」

ステ「君は、『インデックスと一緒に生活できる幸福』を甘受すべきだ」

上条「そんな堂々と返されるとこっちがリアクションに困るんだけど……」

神裂「どうせならそのポジションを変わってほしいですね」

ステ「どっちのポジションだ? 上条当麻か? それともインデックスか?」

神裂「どうしてそんな質問をするかさっぱり分からないのですが、どうやら私はあなたの教育を間違えたようですね」

禁書「焼肉ー!!」

上条「俺だって肉食べたいけどさ、どうせお前に全部持ってかれるってオチが確定してるんだから行くわけないだろ!」

ステ「聞いてるのか、トウマ! ……じゃない、上条当麻!」

石山「……とりあえず、魔術サイドの方々は無視して話を進めましょうか、とミサカは観光案内板にお姉様達を案内します」

美琴「ふーん、石山寺っていうお寺があるんだ。
   あ、このお寺にある天然記念物の巨大な岩山が、石山って地名の語源なんだって」

一方「紫式部が源氏物語を書いたところとして、古文や日本史に出てくるンだが……正直マイナーな寺だな」

※ちなみにまったくの偶然なのですが、
 東寺を総本山とする東寺真言宗の大本山が石山寺です。
 あと毎月一八日に市を開いています。東寺のに比べると大分規模小さいけど。

美琴「後は、松尾芭蕉が終の住みかにしたと言われてる幻住庵くらいかしら?
   それと、そのすぐ側の聖徳太子堂ってところね」

石山「だいたいそんな感じです、とミサカは細かすぎて伝わらない小ネタを呟いてみます。
   ……ちなみに、某夢の国にケンカ売ってぼこられた小学校の最寄り駅でもあるんですよと、
   ミサカは卒業記念のプールサイドの絵くらい許してくれよと嘆息します」

美琴「>>1の友達がその小学校の出身だったらしいんだけどさ……。
  『なんでこの小学校のプールサイドは灰色に塗りつぶされてるんだろう?』とか思ってたらしいわよ。
   事実を知った時とんでもないショックだったとか。
   >>1の友達が通ってる頃は、『何をやるにしても版権が関わる場合は即刻アウト』
   なんて暗黙の了解が残っていたらしいわ」



250 :そうだ、京都に行こう編(終) [sage saga]:2011/07/20(水) 14:35:18.93 ID:NAHKtTig0


上条「著作権って……怖いな」

一方「いつの間にここまで来たンだよ、オマエ。あの白いガキと赤モヤシと刀女はどうした?」

上条「インデックスはステイルと神裂に託しました……」

美琴「えーと、石山寺へのアクセスは、京阪電車かバスを使えばいいみたいね」

一方「……京阪石山寺駅ってところでおりたらいいのか?
   俺達が今いるのが京阪石山駅だから……二駅か」

石山「ああそれは京阪電車の罠です。石山寺駅と言いながら、石山寺まで八〇〇メートルありますと、
   ミサカはそれなら目の前まで運んでくれるバスの方が確実ですと説明しておきます」

打ち「初めての観光客がほぼ確実に引っかかるトラップだから気をつけてねって、
   ミサカはミサカは>>1の友達のセリフをここで引用してみる。
   紅葉がきれいな秋はともかく、それ以外の季節は地獄なんだよって、
   ミサカはミサカは知ったかぶりの知識を披露してみたり」

上条「それじゃあバスか。乗り場は、下の方でいいんだよな?」

※石山駅・京阪石山駅ともに、改札はフロア的には二階にあります。

石山「いえ、石山寺観光はしませんよ、と、ミサカはさっさと京都まで戻ろうと誘ってみます。
   というかこの時間では、すでに閉山してる恐れもありますし、とミサカは諦めるように諭します。
   そもそもが石山はベッドタウンで、観光できる場所はバスじゃないといけませんからね、
   とミサカは石山周辺の観光事情を説明します。
   そうですねー徒歩で行けるのは上記の小学校と幻住庵くらいでしょうかとミサカはマップを参照して説明します」

打ち「一応、石山寺や、アクアびわとか、南郷水産センターにも徒歩で行けなくはないけど、
   正直歩くのが好きって人じゃないときついかもってミサカはミサカは補足説明してみたり」


一方「……だったらなンでここで降ろしたァ!?」


石山「はっはーそれはもちろんこのミサカの名前の元ネタを紹介するためですよと、
   ミサカは軽やかにこの番外編を締めくくります」





禁書「ちなみに次は、わたしとあくせられーたの『パワーストーン講座』だよ!」
一方「はァッ!?」

251 : [sage saga]:2011/07/20(水) 14:37:34.73 ID:NAHKtTig0


風邪が長引いてなかなか治らないのと、
このスレ以外のお話が書きたいので
一週間ほどお休みします

次回のサイドストーリーは一学期の話になると思います

252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/22(金) 11:13:15.04 ID:As9Oge2AO

著作権こええ
てか某夢の国がこええ
253 :サイドストーリーというなのおまけ:青ピって結局関西人なの? [sage saga]:2011/07/27(水) 12:19:45.88 ID:9AQmZLmu0


 上条達のクラスは、一年生の中でもとりわけゆるい雰囲気のクラスだ。

 校則違反常習者たちが溢れかえってはいるが、『不良』がいるわけでもない。
 生徒たちはクラス担任のことをなんだかんだ言いながら信頼しているため学級崩壊は起こしていないし、
 連帯感はたいしてないがここぞという時には持ち前のノリのよさで結束を強める。

 大人になってふっと振り返ってみた時に、「高校の時のクラスはとてもよかった」と思えるくらいには恵まれているクラスだ。

 ……といっても、現在進行形で高校生な彼らがそんなことを想像することはないので、
 今抱いている感想は、「騒がしいけど楽しいクラス」程度だろう。

 そんなクラスは――というか学校そのものが――いつも通りのお昼休みを迎えていた。

 昼休み中の教室は、半分が学食組、半分が自前の弁当か購買のパン組に分かれるため、授業中に比べると人数は足りない。
 が、残ったメンバーがかなりの大声ではしゃぐので、授業中に比べるとはるかに騒がしい。
 六月になり、梅雨に入ったため、いきなりの雨を恐れて中庭等で食べる生徒が少ないのも影響しているのだろう。

 上条達――上条当麻と土御門元春と青髪ピアスに一方通行の四人、吹寄命名『デルタフォース・エコー』は、
 なんだかんだ言いながら机を四つくっつけて、傍目には仲良くお弁当を並べていた。

 実際には土御門には一方通行と上条の監視、一方通行には上条の能力をあばくため、といった裏側が存在するのだが、
 事情を知らない人間から見れば、男子高校生四人が青春を満喫しているようにしか見えないだろう。

 ちなみに、上条はミートパイ&お手製マフィン+紅茶、土御門は義妹の舞夏作の和風弁当、
 青髪ピアスは下宿先からもらったパン、一方通行は冷凍食品全開の彩りの薄い三段弁当と、それぞれの個性がそれなりに出ている。

254 :サイドストーリーというなのおまけ:青ピって結局関西人なの? [sage saga]:2011/07/27(水) 12:20:47.53 ID:9AQmZLmu0


 ミートパイを食べ終わり、マフィンに口をつけた上条は、
 なにか思いついたように手を止め、青髪ピアスの方へ顔を向けた。

「なーなー青ピ。俺、小さい頃にロンドンに移り住んだから関西とかいったことないんだけど、どんなところなんだ?」

「はっはー。ボクが住んでたんは子どもの頃の話やでぇ?
 憶えとるわけあらへんやろー」

「お前小学校からこの街に来たのか? その割には関西弁なんだなー」

「小さい頃に住んどった場所の方言はそう簡単には消えへんよ。
 カミやんかて、小さい頃からロンドンに住んどったけど、日本語はペッラペラやんか」

「いや、これは日本人街に住んでたからなんだけど――そうかー、よく知らないのか」

 ふむ、と納得して再びマフィンを食べ始めた上条にちらっと視線をやってから、
 土御門は机の中からノートを取り出して、なにかさらさらと書きつけた。

「お二人さん。……これ、なんて読むかにゃー?」

 ノートに書かれていた文字は、漢字八文字。
『関西電気保安協会』。


「かんさいでんき、ほあん……きょうかい?」

 たどたどしく読んだ上条と、

「かんさいでんきほあんきょうかい、やろ? いややなーボクはそこまでバカとちゃうで?」

 軽い調子で読んだ青髪ピアス。
 そんな二人を見て、土御門はにやりと笑った。

「ひっかかったな青髪ピアス! 一度でも関西に住んだ人間なら、嫌でも
『かんさいーでんきほーあんきょーかい♪』とリズムを付けて呼んじまう、魔の名なんだぜい、これは!」

「な、なんやってー。いやでもボクの家はそこまでテレビをつけてへんかったから、
 ボクが知らんでも何もおかしゅうところあらへんのとちゃう?」

 いつも以上におかしな関西弁の青髪ピアスにとどめを刺すように、
 それまで黙々と弁当を食していた一方通行が口を開いた。

「……いつも思ってたンだがよォ、オマエ、大阪弁と京都弁とそれ以外がごっちゃになってねェか?」


「い、いや、ボクは、ボクは関西人やー!」
「本家が京都にある土御門さん的にはその微妙な関西弁がいらつくんだぜい!」
「俺をだましたのか、青ピー!」


 そうして始まったのは、いつも通りのデルタフォースの暴走と、

「とりあえず黙れオマエら」

 それに巻き込まれた一方通行のツッコミという名の暴力と、

「だから貴様ら教室内で暴れるな!」

 という吹寄の制裁になのだが、結局これも日常として溶け込んでしまう、上条達のクラスだった。
 とりあえず、今日も学園都市の表舞台は平和です。

255 :1 [sage saga]:2011/07/27(水) 12:26:13.80 ID:9AQmZLmu0

ここ数日パソコンの挙動がおかしくて長時間稼働できないんで、
『パワーストーン講座』は次回にあとまわしです。

SS総合スレに投下しようと思ってるSSがまだ三分の一くらいしかできてないのに……。
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/07/27(水) 15:12:07.04 ID:PuC4R+hv0
カンサイーデンキホーアンキョーカイ♪
あれをさくっと普通に読める関西人は関西人に非ず
確かにいい証明方法だ
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄) [sage]:2011/07/27(水) 15:22:21.55 ID:C57q/OLAO
うちの地方には
オキナワデーンキホアーンキョウカイ♪
っていうCMがあったが同じようなものなんだろか?
みんな仲良しでいいな。乙!
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 06:43:16.28 ID:33uSl0hSO
俺のところは
アイチーコガタエレベーター
だったわ
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/30(土) 02:57:03.96 ID:Wm3KlkCw0
追いついた
sage進行だったから全く存在に気づかんかったわ
さあ1時には寝ようと思ってた俺の時間を返してwww

上条さんとステイル、神裂、インデックスの話は正直幾度か涙腺がヤバかった
上条さんそこまで暴れられなかったけど、ステイルが上条さんのことよく知ってるししょうがないよね

結局、何が言いたいかというと>>1ありがとうって訳よ!!
260 :1 [sage saga]:2011/08/08(月) 13:29:36.85 ID:gLwN3hyc0
いろいろとコメントありがとうございますなのですが、
キーボードが熱すぎて長文打てないのですこしの間お休みします
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/08/18(木) 10:53:46.30 ID:RGZD0ZHj0
いつまでも待ているよ!
美琴が魔術の話を知っているだけで話の幅が広がる気がする
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/19(金) 16:59:37.30 ID:GhbHQZsz0
263 :序章 見えざる発端 :2011/08/24(水) 00:29:37.06 ID:Y4xvM15x0


 
 ステイルは、とある窓のないビルの一室に立っていた。

 学園都市には、数多くの『窓のないビル』が存在する。
 そのほとんど全ては、農業用ビルか工業用ビルだ。
 内部で野菜や果物、家畜を飼育するために、
 あるいは最先端技術の工場として稼働する、閉じられた空間。

 しかし、ステイルが今立っている場所は、唯一の例外だろう。

 農業用でも、工業用でもない。
 学園都市でも極々限られた一部の人間しか知らない、学園都市統括理事長の住まうビルだ。

 いや、『住まう』という表現は正しくないだろう。
 このビルそのものが、学園都市統括理事長といえるのだから。

 魔術側の人間であるステイルには理屈がさっぱりわからないが、このビルのありとあらゆる機構が、
 学園都市統括理事長を生かしている。
 逆に言えば、学園都市統括理事長という人間を生かすことによって、このビルは存在意義を得ている。

 ステイルの前には、一人の人間がいる。
 透明な赤い液体で満たされた巨大なビーカー、その中で逆さまになって浮かんでいる、銀髪の人間。
 年齢はおろか、性別すら判別できない。

 男性にも女性にも、老人にも子供にも、あるいは聖人にも囚人にも見える人間。
 二三〇万人の能力者を抱える一大能力開発期間『学園都市』統括理事長、アレイスター=クロウリー。

『科学』の総本山である学園都市のトップである人間が、
『魔術』の世界において最も有名な魔術師と同じ名前とは、奇縁か、皮肉か。

 魔術側の人間であるステイルが、科学側の人間であるアレイスターの元へと赴いたのは、
 ある問題を解決するための作戦会議を開くためだ。


264 :序章 見えざる発端 [sage saga]:2011/08/24(水) 00:30:54.63 ID:Y4xvM15x0


 学園都市内部に魔術師が侵入し、三沢塾という巨大塾を乗っ取った。
 その魔術師は、『吸血殺し(ディープブラッド)』と呼ばれる、特異な能力者を確保としている。
 その能力者は、魔術側ですら存在を確認できていないとある生き物を殺す力を持っているという。

 普段であれば、『必要悪の教会』やローマ正教の魔術師集団で叩けばすむ話なのだが、
 いかんせんその問題が起こった場所が悪すぎた。

 学園都市――科学サイドの総本山に、大量の魔術師を招き入れることはできない。
 逆に、魔術師と能力者の共闘も、『互いの知識が流出する可能性』があるため、暗黙の了解で禁止されている。

「つまり、そちら側の増援は期待できない、ということですね」

 質問ではなく、確認のために発したステイルの言葉への返答は、ただ一言だった。

「上条当麻」

 アレイスターが短く呟いた瞬間、ステイルは凍りついた。
 それでも平静を取り繕うとするステイルの表情を見て、アレイスターは楽しそうにほほ笑んだ。

「色々と検討してみたが、こちらから送れる増員は、残念ながら彼一人だ。
 先日の騒動の際に大怪我を負い、数日前に退院したばかりだが、彼の主治医についてはよく知っている。
 問題なく日常生活を過ごせるレベルまで回復しているだろう。
 幻想殺しの右手を持つ彼なら、君の助けになると思うが」

「しかし、彼は今は学園都市側の人間です」

「彼がロンドンに住んでいる時は親交が深かったと聞くが」

「……彼の住んでいた教会の神父が、私の洗礼親だったので、よく顔を合せていただけです」

「日本では、それを幼馴染と呼ぶのだがな。
 そんな君なら分かるだろう? 上条当麻には魔術を理解するだけの知能はない。
 それと同じように、こちらの技術がそちらへと流れる可能性は極めて低い」

「それでは……私と彼の二人で、三沢塾を攻略しろと?」

「早々に解決してもらえたら嬉しい。
 この街に、カインの末裔が訪れる前に」

 ふっとアレイスターが目を閉じた。
 その瞬間、ステイルの傍らに、音もなく一人の少女が現れた。
 少女と言っても、ステイルより二つか三つほど年上だ。

 アレイスターとの会見の度に、ステイルをこの場所へ空間移動させる、案内人。

 彼女が現れたということは、この話は終わりということだろう。

「失礼しました」

 ステイルが短く頭を下げた瞬間、ひゅっと眼の前の光景が変化した。
 巨大なビーカーを彩るように数万もの電灯が煌めく空間から、何の変哲もないビルの一室へ。

 まるで、先ほどまでの出来事が嘘のようだが、懐に抱えた資料が、現実であったと知らせてくる。

(トウマを戦場に連れて行け? 彼はまだ退院したばかりだぞ)

 思わず奥歯を噛みしめるが、上条の力があれば心強いのは確かだ。
 それに、「幻想殺しを使え」と言われたのだから、彼を連れていかねば逆に問題となるだろう。

 ――狐は人を化かすだけだが、狸は人を化かし殺す。

 いつだったか、土御門が言っていた言葉だ。

「狸だな」

 一人納得するステイルを見て、案内役の少女がいぶかしげな表情を浮かべた。


265 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 1 [sage saga]:2011/08/24(水) 00:32:11.55 ID:Y4xvM15x0


 八月八日。
 太陽光がぎらぎらとコンクリートを焼く街並みに、上条当麻は立っていた。

「うん、いや、不幸だよなー。一万円札が風で飛ばされるなんてさ。
 しかもその一万円札以外に持ってたのが小銭数百円分とか、どう考えても三人分の交通費にならないよな。
 やっぱりアクセラレータや美琴の言ってた通り、お財布ケータイにしとけばよかったよ。
 ほらでもあともう少し歩いたら、この残りの小銭で二人分の交通費は賄えるから、頑張ろうぜ」

 上条の前には、二人の少女がいる。
 十四歳前後の白い修道服を着た少女と、十一歳前後の空色のワンピースの上に半袖ボレロを羽織った少女。

 インデックスと打ち止め(ラストオーダー)という、どう考えても偽名少女二人に、上条当麻は冷ややかな視線を送られていた。

「とうま。とうまが不幸なのはよーく分かってるけど、らすとおーだーを巻き込むのはひどいかも。
 わたしは別にいいんだよ? これも主が与えたもうた試練なんだから、ぜんぜん怒ってないよ。
 別にとうまの不幸は、不幸というか単なるドジじゃないかなって思ったりしてないからね?」

「ATMからお金を引き出す時に一部両替にすればいいのにって、
 ミサカはミサカは自分の不幸を自覚しておきながら何の対抗策もとらない上条のお兄ちゃんに文句を言ってみたり。
 あるいは、どうしてビル風が強い通りの自動販売機に一万円札を入れようとするのか理解できないって、
 ミサカはミサカは頭の上に疑問符を浮かべてみる」

 冷ややかな視線同様、その言葉もずいぶんと冷たいものだった。


266 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 1 [sage saga]:2011/08/24(水) 00:33:31.60 ID:Y4xvM15x0


「ほ、ほら! 地図を見る限り、あと二キロくらい歩いたら、インデックスもラストオーダーも電車に乗って帰れるみたいだしさ!
 もうちょっとだけ頑張ろう!
 もしくは、インデックスをこども料金にしたら、すぐそこの駅からでも帰れるけど嫌ですよね、やっぱり」

 へこたれない上条に、インデックスの殺気のこもった視線を向ける。
 どうやら、お子様料金は彼女のプライドが許さないらしい。

 インデックスは目元を和らげらると、疲れたように呟いた。

「そんなことよりノドが渇いたかも」

「ミサカもノドがからからで熱中症で倒れそうって、ミサカはミサカは訴えてみたり」

「でも今飲み物買ったら、三人仲良く徒歩帰宅コースだぞ」

 上条とインデックスと打ち止めが、一斉に大きなため息をつく。

 微妙な空気の中、打ち止めは囁くような声とともに上条とインデックスに頭を下げた。

「ホントはミサカが悪いって分かってるんだよって、ミサカはミサカは謝ってみたり。
 部屋に携帯電話を忘れなければ、あの人やお姉様と連絡がついたのにって、ミサカはミサカは後悔してみる」

 インデックスはそんな打ち止めの頭を優しく撫でると、励ますように言った。

「それを言ったら、わたしが一番悪いかも。
 わたしが学園都市を見てみたいってわがままを言わなければ、街中で遭難なんてしなかったし」

 なんとなく停滞した雰囲気を払拭するように、上条は口を開いた。

「いや、一番悪いのはやっぱ俺だよ。おれがうっかり一万円札を飛ばさなければ――」

 その瞬間、それまでしおらしい表情でうつむいていた少女二人が明るい表情で顔を上げた。


「じゃあ、一番悪いのはとうまだね!」

「上条のお兄ちゃんが一番悪いってことでいいんだよねって、ミサカはミサカは納得してみたり!」


「いつの時代のコントだよ! というか俺一人が悪者なのか!?」


 その後、三人でじっくり話し合って、近くのファーストフード店で涼をとり、
 夕方涼しくなってから歩いて帰宅する……ということになった。

267 : [sage saga]:2011/08/24(水) 00:34:54.14 ID:Y4xvM15x0


いきなりですが第二巻再構成です。
原作再現は(長さ的な意味で)難しいので、アニメ版基準で再構成していきます。
再構成と言っても、大きくチェンジしたシーンの抜粋という感じなので、お手元に原作二巻推奨。
というか二巻再構成が少なすぎて、『どこまでカットして許されるか』のラインが分からないので、
さくさくまとめたアニメ版基準となります。漫画版はオールカットだし……。

しばらくの間は投下ペースが超スローになると思います。

とりあえず今プレイしているTOGfクリアしたらマリーのアトリエやってくる

268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 03:57:37.48 ID:CWdi5TFq0

いよいよ新編に突入ですね。今回も楽しみにしています
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 08:36:07.08 ID:qVYNyKh30
乙!
今になって全部読んだが面白かったです
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/08/25(木) 15:46:59.24 ID:xlt9W2sR0
乙津!
271 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 1 [saga]:2011/08/29(月) 20:33:52.78 ID:aur2BoTy0


 ようやく見つけたファーストフード店の中は、クーラーが効いてひんやり涼しかった。
 外の温度と比べ、寒すぎるくらいだ。

 打ち止めの手を借りながら、携帯電話のインターネット機能を使い、クーポンを有効活用することで、
 残り持ち金で三人分の飲み物と、軽食を確保することができた。

 一階はカウンター席まで一杯だったので、お盆を両手に上条はインデックスと打ち止めと一緒に階段を上る。
 踊り場にかけられた時計にちらりと目をやってから、上条は軽いため息をつく。

「それにしても……まだ三時くらいか。日本のこの時期だと、六時くらいから涼しくなるんだっけ?」

 そんな時間から帰ったら、家につく頃には夜になっているだろう。

 ネットクーポンの割引価格で手に入れたポークバーガー×3とポテトM、
 たまたま財布に入っていた無料券でゲットしたハンバーガー×2をキラキラした目で見つめるインデックスを見ていると、
 今この時間から絶望的な気持ちになってくる。

 果たして、そんな時間までインデックスの腹が持つだろうか?

 それに、問題はそれだけではない。
 上条の面倒を見る、という名目で一緒に暮らしているインデックスはともかく、
 打ち止めは一方通行と生活している少女だ。

 遅くなれば、一方通行――それに、打ち止めの『姉』である美琴は心配するだろう。

 実を言えば、打ち止めが一方通行や美琴とどういった関係なのか知らない上条だが、
 三人とも、上条の大切な『友人』であることには変わりない。

「ごめんな、ラストオーダー。あんまり遅くなったら、アクセラレータが心配するだろ?」

 時計から打ち止めへと視線を移し、上条は軽く謝罪する。
 打ち止めは首を横に降ると、笑顔で応えた。

「遠隔的にあの人やお姉様と連絡を取る方法ならあるのって、ミサカはミサカは呟いてみたり。
 その方法はあまり使いたくないし、あの人からも『極力使うな』って釘を刺されてるけど、
 ミサカはミサカはとりあえず最終手段を提示してみる」

「まあ、アクセラレータも美琴も昨日から忙しそうだし、あの二人の協力は最終手段だな。
 それに俺も、いつまでもあいつらを頼りにするわけにもいかないしさ」

「おお、男の意地ってやつだねって、ミサカはミサカは驚嘆してみたり」

「むしろ、思春期の独り立ち願望かも」

「いや、どれも違うって……って、うわ」

 階段を上りきり、二階を軽く見渡して、上条は再び軽い絶望感に襲われた。
 どこも席が埋まっている。

272 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 2 [saga]:2011/08/29(月) 20:35:44.32 ID:aur2BoTy0


「こうなったら三人バラバラになって相席か?
 最悪でも、インデックスとラストオーダーは一緒の席にさせたいんだけどなー」

 タイミング良く店員さんが目の前を通りがかったので、上条は店員さんを呼び止めると、座れそうな席がないか訊ねてみた。
 もしかして、影になって見えない席がある可能性もあるからだ。

「それでしたら、あちらのお客様に相席をお願いしましょうか?」

 店員さんがにこやかな笑顔で指示した先には――


「うっ」


 上条は思わずひきつった声を出した。

 どうやら、先ほど見渡した時、本能が『見なかったこと』にしたらしい。

 窓際は四人がけのボックス席がいくつも連なっているのだが、一か所だけ、一人だけが座っている空間があった。
 上条達は三人だし、インデックスも打ち止めも小柄な少女だ。頑張ってつめれば、片側に三人座れるかもしれない。

 しかし、上条は認識したことを後悔した。


 ボックス席に一人だけ座っている――というよりもつっぷしているのは、巫装束を着た、長い黒髪の人間だった。


 緋袴をはいているところを見ると女性だろう。男性なら、浅黄色の袴だろうし。
 そして彼女は、なんというべきか、近寄りがたい負のオーラを発している。

「あのう……あそこ以外には?」

「申し訳ありません、ただいま満席です」

 満面のジャパニーズ・スマイルで、店員さんは淡々とマニュアルを読みあげる。

 上条は、なんかもう、いろいろと諦めた。

「もう腹を決めるしかないんじゃないのかなって、ミサカはミサカはパンパンになった足を軽くさすってみる」

「とうま! ここは舐められないように、男のとうまがいくべきかも」

 と、左右の少女二人に訴えられては逆らえない。


 このまま再びコンクリートジャングルの熱波に包まれるのも嫌なので、上条は恐る恐る巫女さんに近づいた。

「あのーすいません、相席いいですか?」

 ロンドン時代、ステイルに『女王すら陥落させる』と言わしめた(もちろん上条は憶えていない)明るい声で、
 上条は巫女さんに話しかけた。

 上条の声に、ピクリと巫女さんの肩が動く。それからのそっと顔を上げた。

 想像していたより、ずっと可憐な少女だった。
 整ったパーツと、儚げな雰囲気がまざりあって、日本人形のような印象を与える。

「く、――――」

 顔を上げた巫女さんが、ゆっくりと口を開く。
 なんだか嫌な予感がする上条の耳に届いたのは、当然ながら日本語。


273 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 2 [saga sage]:2011/08/29(月) 20:36:57.52 ID:aur2BoTy0




「――食い倒れた」




274 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 2 [saga sage]:2011/08/29(月) 20:38:56.34 ID:aur2BoTy0


 単純明快な、六文字の言葉だった。
 上条が大阪のお笑い芸人であれば、オーバーリアクションですっ転んでいただろう。

 ファーストフード店で食い倒れる巫女さん。

 シュルレアリスムここに極まれりな案件だ。

 しかし、この案件を解決せねば、『ファーストフード店でまったり』は実行できない。

「く……食い倒れたって、なんで、また」

 背後からのインデックスと打ち止めの視線を一身に受け、上条は必死に会話の糸口をつかもうと試みる。

「一個五八円のハンバーガー。お徳用の無料券がたくさんあったから」

「うん」

 上条が持っていたのと同じやつだろう。
 ハンバーガーの味は憶えていないが、財布の中にわりと真新しい感じの無料券が入っていたところをみると、かつての自分が結構食べていたようだ。

「とりあえず三〇個ほど頼んでみたり」

 サイズを見る限り、食欲盛りの男子高校生でも、一度に三〇個はきつい。
 ましてや、目の前にいるのは細っこい少女だ。

 つまり結論は、
「お徳すぎだ馬鹿」

 思わず口をついてでたその言葉に、巫女さんのまとう負のオーラは五割増しになった。

「た、たぶん上条のお兄ちゃんは、『どうしてまた年若い女の子がそんな馬鹿な真似を』って意味で聞いたんだと思うよって、
 ミサカはミサカはとりあえず援護射撃してみたり」

 打ち止めの補足に、巫女さんのオーラは少しましになり、再び口を開いてくれた。

「交通費。四〇〇円」

「うん、それで?」

「所持金。三〇〇円。一〇〇円足りない」

「も、もしかしてそれでやけ食いしたのって、ミサカはミサカは訊ねてみたり……」

「それくらいだったら歩けばいいだろ。この街の交通費を考えたら、一〇〇円分くらいならすぐ賄えないか?
 それ以前に、一〇〇円くらいだったら誰かに借りれないか?」

「それは、いい案」

 言いながら、巫女さんは上条へと手を伸ばした。

「もしかして俺に請求してるのか? それだったら無理だぞ、そんな金はない」

「ケチ」

「ケチじゃない! 一万円札を風に飛ばされた上、キャッシュカードを家に忘れただけだ!」

「でも。百円持っていない」

「その場合は、ケチじゃなくて一文無しっていうんだよ」

「じゃあ。一文無し」

「たしかにそうだけど他人に言われるとなんかむかつく」

 額に青筋を浮かべはじめた上条を見て、インデックスは上条と巫女さんの間に割って入った。
 それから、巫女さんの格好を一瞥して、短く訊ねる。

「その緋袴を見る限り卜部流の巫女みたいだけど、最近の卜部流はそんなに貧乏なの?」

「私。巫女じゃない」

 巫女さんはゆっくりと首を振ると、それからおごそかに答えた。



「私。魔法使い」


275 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 2 [saga sage]:2011/08/29(月) 20:40:36.91 ID:aur2BoTy0


「……………………………………」

 四者とも、思わず黙り込んでいた。
 どよーんとした空気を打ち破るように、上条が口を開く。

「えーと。魔術師じゃなくて?」

「そこなのって、ミサカはミサカは天然な上条のお兄ちゃんに突っ込みを入れてみたり。
 この街で魔法使いとか魔術師はいくらなんでもないよね、インデックスのお姉ちゃんってミサカはミサカは――」

 水を向けた打ち止めを無視して、インデックスがテーブルをバン! と叩いた。
 そして叫ぶ。


「魔法使いって何! カバラ!? エノク!?ヘルメス学とかメルクリウスのヴィジョンとか近代占星術とかっ!
『魔法使い』なんて曖昧な事言ってないで専門と学派と魔法名と結社(オーダー)名を名乗るんだよオバカぁ!」


「うわーお、この場面における常識人はミサカ一人かよってミサカはミサカはとりあえず現状を嘆いてみたり。
 あと一五〇四〇号、ミサカはこれくらいじゃめげないから根性根性うるさいってミサカはミサカは訴えてみる」

「???」

 首をかしげた巫女さん(もとい、魔法使いさん)を見て、インデックスは不機嫌そうに眉をひそめた。

「この程度の言葉も分からず魔術師を名乗っちゃダメ!
 大体あなた卜部の巫女なんだからせめて陰陽道の東洋占星術師ぐらいのホラ吹かなきゃダメなんだよ!」

「うん。じゃあそれ」

「じゃあ!? あなた今じゃあって言った!?」

 どうやら、なにかがインデックスの逆鱗に触れたらしい。
 ヒートアップし始めたインデックスを止めようとした上条は、

「インデックス。周りの人の迷惑になるから――」

 不意に違和感のようなものを感じ、インデックスたちから通路の方へと視線を向けた。
 そして、ある事実に気づく。


「――っ!」


 いつのまにか、十人近い人間が、上条達の席を囲んでいた。

 夏休みのこの時間に、スーツ姿の大人の男たちがこんなに集まっているというのに。
 上条以外の誰も、彼らの存在に気付いていない。

 それほどまでに、徹底的に気配を消している。
 まるで、殺し屋のようだ。

 クーラーの効いた店内だと言うのに、上条の背中を嫌な汗が流れた。
 ほとんど無意識のうちに、インデックスと打ち止めをかばうように体の向きを変える。

 そんな上条を見て、自称魔法使いが立ちあがった。
 男の一人に近づくと、短く呟く。

「一〇〇円」

 男がスーツのポケットから小銭を取り出すと、魔法使いへと手渡す。
 そして、彼女は上条達の方へと振り返ると、告げる。

「塾の先生。迎えにきたみたいだから。帰る」

「帰るって……」

「ハンバーガー。残った分は。食べていいよ」

 それだけ言うと、魔法使いは歩き去っていく。
 まるでそれに従うように、男たちもついていく。

 普通、塾の先生が生徒を迎えに来るものだろうか?
 そもそも、塾の先生とは、あんな殺し屋みたいな挙動ができるものなのだろうか?

「とうま、氷とけちゃうよ?」

 インデックスがそう声をかけてくるまで、上条は階段の方を見つめ続けていた。
276 :おまけ:夏の土下座祭り [saga sage]:2011/08/29(月) 20:42:12.86 ID:aur2BoTy0


上条「当麻とー」

石山「石山のー」


上石「夏の土下座祭りー」


上条「……ノリで言ったけど、なんだこれ」

石山「『そうだ、京都に行こう』編の土下座祭りです、とミサカは説明します」

上条「土下座祭りって、なにか土下座することあったか?」

石山「まず一つ。『そうだ、京都に行こう』編の元ネタは、元国鉄のわりと有名なキャッチフレーズのつもりだったんですが」

上条「ですが?」

石山「正しくは『そうだ京都、行こう』でした、とミサカは深々と頭を下げます」

上条「地味な間違いだな……」

石山「地味ですが大きな間違いです、とミサカはやや語調を強めて主張します」

上条「まずってことは、まだあるのか?」

石山「最終回にて、インデックスが『あそこに焼肉屋がある』的な発言をしていましたね、
   とミサカは確認をとってみます」

上条「そう言えばそんなこと言ってたな」

石山「まず前提条件として、大津市には二つの有名な食事所があります、とミサカは説明します。
   膳所の美富士食堂と、石山の焼肉麗門です、と、ミサカは時折全国区のテレビで紹介される二店の名を上げます」

上条「インデックスが行こうとしたのは、その焼肉麗門の方か」

石山「そうです、とミサカはあなたの言葉を肯定します。
   そして、問題はここからなのですが、石山駅からは、焼肉麗門もその案内看板も見えないんですよ、とミサカは呟きます。
   >>1が実際に石山駅に行って確かめたので、これは確かな情報ですとミサカは付け加えます」

277 :おまけ:夏の土下座祭り [saga sage]:2011/08/29(月) 20:44:21.25 ID:aur2BoTy0


上条「わざわざ石山駅まで行って来たのかよ!」

石山「というわけで、匂いの元は焼肉麗門、インデックスが見たのは松喜屋の看板ということにしておいてください、とミサカは訂正を求めます」

上条「松喜屋……?」

石山「石山駅から徒歩十数分の場所にある、近江牛専門の高級レストランです、とミサカは説明します。
   ここなら改札すぐの地図にも名前が載っていたはずだと、ミサカは戦々恐々しながら呟きます。
   京都市営地下鉄にも広告が載っていたり、四条にも店舗があるので、京都の人でも知ってる人はいると思います、とミサカは続けます」

上条「大津市と京都市に住んでる人以外はおいてけぼりな土下座だな……」

石山「上記十行程の内容が正しく理解できるのは、全国でも十万人程度だととミサカは推察します。

   そして、次の土下座なのですが、こちらは『そうだ、京都に行こう』編ではなく、>>215です、
   と、ミサカはシリアルナンバーに大きな間違いがあることを謝罪訂正します。
   〇〇〇〇一号は『七人戦争』の前に死んでます、『〇〇〇〇二号は生き残っている〜』にしておいてくださいと、
   ミサカはとりあえず頭を下げます。

   そして、最後の土下座なのですが――」

上条「まだあるのかよ!?」

石山「『散々二巻〜四巻はサイドストーリーで補完する、と言っておきながら二巻再構成とか迷走してゴメンナサイ』、
   という>>1からの伝言をミサカは淡々と伝えます。

   他には誤字脱字、上条の口調がなんか違う、一方通行の『ん』が『ン』になっていないシーンがある、
   おまけの次回予告詐欺、ミサカたちの語尾が適当と言った、
   様々な謝罪があります、とミサカはもうどんな語尾になればいいのかなと投げやりな気持ちになります」

上条「これで土下座祭りは終わりか?
   ……えっとじゃあ、最後に>>1から。

  『月並みですがいつも乙コールしてくれる人たちホントありがとう。
   次回本編更新は、調子良ければ明日、調子悪ければ一週間以上後なんていうむちゃくちゃスケジュールにつきあっていただければ幸いです』、だとさ」


石山「いつも思うんですが、メタネタ嫌いな人いたらどうするんですかねーとミサカは適当に呟きます」
上条「スルーしてくれるのを願うしかないな……」
石山「まあ嫌いな人はたぶんそっとこのスレから離れるだけでしょうね、
   とミサカは無情な現実を呟いておきます。それではまた」

278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/08/29(月) 21:13:19.83 ID:yoXZbOk0o

でも看板が見えるか見えないかなんて地元民でもあんまり気にしない気がするんだよ!
とりあえず京都、行きたい
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/29(月) 21:46:36.49 ID:e3xeFAiSO
乙!以前はsageだったけど、ageにしたのか
更新わかりやすくて嬉しい
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 05:59:41.65 ID:WlbxqTdio
あんまり面白くて徹夜しちゃったよー
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/09/03(土) 17:14:03.25 ID:GCQOQx1AO
神裂だけ記憶喪失を教えないという設定で上条×神裂を書いて欲しいという至極勝手な意見を述べてみる。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
282 :1 [sage]:2011/09/05(月) 14:37:17.14 ID:2GIj4KoH0

何も考えずに進めたせいで、こっからどうやってステイル登場につなげばいいか迷走中なんだよ!
一章終了まで書いたらまとめて投下に来ます。

>>278
もし京都に来るのなら、注意点が1つ。
バスは渋滞に巻き込まれやすい上に、時間によっては満車で乗れないこともあるから、
バスをメインの足に使うなら、ゆとりをもってスケジュールを組んだ方がいい。
行きたい場所があるなら、まずは電車+徒歩で行けるかどうか調べてみたらいいかも。

>>281
そういえばステイル&神裂が上条の記憶喪失知ってるかどうか決めてませんでした。
上条×神裂ってほどじゃありませんが、四巻再構成はこの二人メインでやる予定なので、
それまで待ってもらえればうれしいです
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 20:33:29.01 ID:EyHAKJZ+0
来てくれ……
284 :1 [sage]:2011/09/28(水) 18:59:52.37 ID:uGzL49RE0
もうちょっとだけ待ってくれ

俺は、かまちーにはなれない……

285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/09/30(金) 23:33:43.76 ID:u/3NiOk8o
待ってるんだよ!
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/01(土) 02:32:47.04 ID:oNTcxP0Wo
さっき全部読んだ
面白い
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/01(土) 18:48:00.97 ID:she+NzUAO
お前が、かまちーだ…

まさかこんな良スレを見落としていたとは
のんびり更新してくれるの待ってるんだぜ
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 17:49:32.83 ID:Vy7uETgO0
待ってる
289 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 3 [sage saga]:2011/10/06(木) 20:49:53.17 ID:Jcsfh3HO0


 真夏の金色の太陽が、茜色に変わり始めた頃。
 上条達三人は、このままもう少し涼しくなってから帰るか、それとも今から強行軍でもいいから帰宅するか悩んでいた。

 理由は、のどの渇き。

 時間を潰すのは容易だが、クーラーの効いた店内で会話をしていれば、嫌でものどが渇いてくる。
 しかし、残金は上条や打ち止めのポケットの中に残っていた小銭が数十円分。一番小さなサイズのドリンクすら買えない。
 男のプライドを捨てて携帯電話を取り出せば、不幸にも充電切れ。

 最終下校時間が近づいているせいか、店内はどこかあわただしい雰囲気に包まれている。
 この雰囲気にのまれて家に帰るか、もう少し粘って帰るか。

 タイミングを間違えれば、途中で熱中症で倒れてもおかしくない。
 真っ白い修道服(夏冬兼用)をまとったインデックスや、まだ幼い打ち止めにとっては死活問題だ。
 上条自身も、大怪我から退院してまだ間もない。
 記憶喪失なので自分の万全なコンディションは知らないが、少し慎重に行動するべきだろう。

「とうまー……お腹すいてきたかもー……」

 ハンバーガーの包み紙を恨めしげに睨みながら、インデックスがぐったりと呟く。
 華奢な外見のわりに燃費の悪い彼女からすれば、こんな小さなハンバーガーなど、ほんのおやつにしかならないのだろう。

 成長期真っ盛りな上条にとっても、それは同じだ。

「ミサカはそれよりノドが渇いてきたかもって、ミサカはミサカは空っぽな紙コップをつんつんと突いてみたり」

 早く帰りたい。しかしうかつに出れば倒れるかもしれない。
 傍から見れば間抜けな状況だが、上条達からすれば命がかかっている、と言っても過言ではない状況だった。

290 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 3 [sage saga]:2011/10/06(木) 20:51:09.63 ID:Jcsfh3HO0


 そんな状況を打ち破るように、少女の大きなため息が聞こえた。


「まったく。『大金を下ろす時は細かくしろ』って助言、ちゃんと聞いてたのかしら?」


 その言葉とほとんど同時に、テーブルの上に、ドリンクとハンバーガーが載ったトレイが置かれた。

「みこと!」
「お姉様!」

 インデックスと打ち止めが嬉しそうに顔を上げ、上条も追従するように頭をそちらの方へと向ける。
 呆れかえった表情の美琴が、そこに立っていた。

 制服姿のところを見ると、風紀委員の活動をしていたのだろう。
 美琴は打ち止めの横に座ると、面倒くさそうにトレイを指さした。

「はやく飲み食いしちゃいなさい。さっさと帰るわよ」

「やった! いっただきまーす!」

「ふーノドの渇きが癒されるぜって、ミサカはミサカはおっさんっぽく呟いてみたり」

「ありがとな、美琴」

 どうして美琴がここに来たのか、なぜ状況を把握しているかといった疑問は無視して、
 上条はまずオレンジジュースを一口飲んでから、ハンバーガーにかぶりつく。

 胃に収めて一息つくと、ホットコーヒーに息を吹きかけている美琴に話しかけた。

「どうしてこの場所が分かったんだ?」

 上条のその質問に、美琴は一瞬だけ困ったような表情を浮かべ、それからすぐにいつもの得意満面な表情に変わった。

「えーっとね……ああ、そう、打ち止めのいつも着ている服には、学園都市製の最新鋭GPSがしこまれているのよ。
 繊維に織り込むっていう、街の外ではまず実用化不可能なレベルの代物で、
 打ち止めの携帯電話と連動しててね。打ち止めが長時間携帯電話に触れなかったら、
『誘拐の疑いあり』として、打ち止めの保護者の芳川さんや黄泉川さんに位置情報のメールが行くことになっているの」

「? ごめん、もう少し分かりやすく」

 べらっと説明されても、学園都市レベルの科学技術はよく分からない。
 台詞の端々から単語の意味を読みとるのが精いっぱいだった。

「これでも分かりやすく説明したわよー」

「棒読みなのは俺の気のせいか?」

291 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 3 [sage saga]:2011/10/06(木) 20:52:17.83 ID:Jcsfh3HO0

「気のせい気のせい。あ、こらインデックス。口の端にケチャップついたままじゃない」

 美琴ははぐらかすように顔をそらすと、紙ナプキンをインデックスの口元まで運んだ。

「ありがとう、みこと」

 トレイに載っていたハンガーガー四個中三個をほぼ一瞬で腹の中に収めたインデックスは、満面の笑顔を美琴に向けた。

「それじゃあ、私がコーヒー飲み終わったら帰りましょう。もうちょっとしたらタクシー呼ぶから」

「タクシーって、……結構高くないか?」

 上条の預金口座の中には、なぜか七ケタくらいのお金が入っている。
 が、ここ数日のインデックスの食事量を考えると、なるべく節約したいのが本音だ。

 それ以前に、預金通帳の四月初めの数字と七月終わりの数字では悪い意味で結構な差があるので、
 お金は考えて使わないと、まだ見ぬ両親に泣きつく羽目になるだろう。

 しかし、美琴はのんびりとコーヒーをすすると、鷹揚な態度でやはりのんびり答えた。

「私がこれ飲み終わる頃には電車泊まるわよー。
 心配しなくても帰りのタクシー代くらいおごってあげるって。超能力者(レベル5)の財力なめないでよ?」

 軽い調子には見栄も驕りもなく、内容のわりに嫌味さは感じない。

 学園都市の常識に疎い上条だが、超能力者――学園都市のトップ7に入る美琴が、
 それだけで生活を送れるだけの奨学金をもらっていることくらい分かる。

 なのだが――やはり、上条にも男の意地くらい存在する。

「悪い。……俺、歩いて帰るよ」

「はあ?」

 美琴がすこし不快そうに眉をひそめたが、上条は構わず続ける。

「元々そのつもりだったしさ。インデックスのこと、送ってやってくれ」


292 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 3 [sage saga]:2011/10/06(木) 20:53:36.75 ID:Jcsfh3HO0


 友達なのをいいことに、年下の女の子に甘えるのは、なにか違う気がする。


 その友情が、『いつのまにか築かれていたもの』なら、なおさら。


「……まあ、あんたらしいっちゃあんたらしいけど」

 美琴は一応は納得したのか、それでも眉はそのままに、再びコーヒーに口をつけた。
 そのまま紙カップをあおると、残りのコーヒーを全て飲み干す。

 空になったカップを握りつぶすと、美琴は上条に人差し指をつきつけた。

「でも、迷子になられたらもっと面倒なことになるから、私もついていく。いいでしょ?」

 語尾こそ疑問形だが、断ったなら店内で電撃が飛びそうな雰囲気だった。

「分かったよ。それじゃ、二人で歩いて帰るか。道案内頼むよ」

 そこが美琴の妥協点なのだろう、と、上条は頷く。
 が、その瞬間、美琴はなぜか顔を真っ赤にした。

「え? ふ、二人!? いやでもそれだと逆に面倒なことになるんじゃない!?」

「? あー確かにお前、顔はいいから不良とかに絡まれたりな。
 まあそん時は二人で逃げようぜ」

 コーヒー一気飲みして体温が急に上がったのかなぁとのんびり考えつつ答えると、美琴はさらに顔を赤くして、頭を抱え込んだ。

「か、顔! てか、二人で……逃げる!?」

 なぜかうろたえている美琴を見て、上条は冷や汗をかく。

「まさか、美琴、お前。不良を焼きたいとかそんなことを――」

「考えてないわよ、このバカ! ばっかじゃない、バカ!」

 心配になって美琴の顔を覗き込んだ瞬間、電撃が飛んできた。
 口元を隠すために、顔のすぐ側に右手をやっていたのが幸いして、幻想殺しがその電撃を打ち消す。


 ラッキーだが、なんか不幸だ。


「三回もバカって言わなくていいだろ!?」

「あんたがバカなのが悪いんでしょ!」

 ぎゃーぎゃーと口論を交わす上条と美琴を見て、打ち止めが呆れたように肩をすくめた。

「うーん、やっぱり上条のお兄ちゃんは乙女心が理解できてないのねって、
 ミサカはミサカはあきれたため息をもらしてみる。
 お姉様、ミサカも一緒に帰っていいかなって、ミサカはミサカは答えが分かりきった質問をしてみたり」

「え? べつに、打ち止めが疲れないんなら、一緒でもいいけど……」

 そのやりとりを見て、やや蚊帳の外に置かれていたインデックスが、少しだけ不機嫌そうに唇を尖らせた。

「……三人が歩くなら、わたしも歩く」



293 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 4 [sage saga]:2011/10/06(木) 20:54:44.44 ID:Jcsfh3HO0



 歩いて帰ろうとしていた道だが、美琴のおごってくれた飲み物がなければ、その気力が途中で萎えていたかもしれない。

 いつか機会を見て恩返しをするべきだろうかと上条はそんなことを考えるが、上条にとって、美琴は出会って十日程度の知人だ。

 一体何をすれば恩返しになるのか、よく分からない。

 とりあえず今するべきなのは、美琴や一方通行の負担を減らすために、すこしでも早くこの生活に順応することだろう。
 周囲の景色を覚えられるように、きょろきょろと見渡す上条に、

「ねえ上条のお兄ちゃんって、ミサカはミサカは呼びかけてみる」

 非常に特徴的な語尾とともに、打ち止めが声をかけた。

「んー? どうした、ラストオーダー」

「このあたりって『知識』として残ってるって、ミサカはミサカは上条のお兄ちゃんに訊ねてみたり」

「デパート街なのは分かるけど、どの店によく行ってたとかまでは憶えてないな」

 せめてレシートでも残っていれば、どの店の常連かくらいは分かったのだろうが、
 現状、どういった食べ物が好物だったかは、その食べ物に関する知識量と、周囲に人間の発言に頼るしかない。

「じゃあ明日はインデックスのお姉ちゃんと三人でデパート巡りしようかって、ミサカはミサカはお誘いしてみるっ」

「らしいけど、インデックス、行くか?」

 水を向けると、インデックスは表情をぱあっと明るくした。

「デパートって、色々なものが売ってるんだよね。実際に行ったことないから楽しみかも。
 案内おねがいね、らすとおーだー!」

「例えば、あのデパートの五階には、美味しいケーキと、上条のお兄ちゃんお墨付きの美味しい紅茶が出てくる喫茶店があるんだよって、
 ミサカはミサカはよだれをたらさんばかりのインデックスのお姉ちゃんにややどんびきしながら答えてみたり」

「ねえ、らすとおーだー! おいしいご飯の出るレストランは――あ」

294 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 4 [sage saga]:2011/10/06(木) 20:55:15.35 ID:Jcsfh3HO0


 眼をキラキラと輝かせていたインデックスが、不意に立ち止った。
 インデックスの視線の先には、段ボール箱があった。
 より正確に言うなら、中に仔猫を入れた、背の低い段ボール箱だ。

 もちろんこの場合、インデックスのお目当ては仔猫だろう。
 もちろんこの場合、食べたいという意味ではなく。

 段ボール箱に入っているは、生後二カ月前後の仔猫だ。
 今時珍しい、まるで漫画にでも出てきそうな見事な三毛猫だった。

 思わず上条と美琴と打ち止めも立ち止まる。

295 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 4 [sage saga]:2011/10/06(木) 20:55:49.90 ID:Jcsfh3HO0

 そして、数秒の静止の後、インデックスが、上条のシャツの裾を軽く引っ張った。

「ねえね、とうま」

「ダメだ」

「まだなんにも言ってないかも」

「どうせ、『この子を飼いたい』だろ」

「拾いたいだよ」

「……いや同じだろ」

「ニュアンスが違うもん」

「お前に猫を飼うための知識があるのか?」

「ないけど、本を読めば覚えられるもん」

「説明書読んだ上で電気ケトル壊すお前が言ってもなぁ……」


296 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 4 [sage saga]:2011/10/06(木) 20:56:39.71 ID:Jcsfh3HO0


 盛大にため息をついた上条を、インデックスは冷たい眼で睨みつけた。

「とうまは、スフィンクスを見捨てるの!?」

「スフィンクス!? もう名前付けてんのかよ!
 というかどっからどうみても日本産の三毛猫にスフィンクスはないだろ!
 ジャパニーズ・ボブテイルにスフィンクスってお前……。
 エジプシャンマウにネコマタって名付けるようなもんだぞ!」

「な。スフィンクスは古代エジプト時代から存在する神的存在であり――じゃない、今はそんなこと置いといて。
 猫の名前はスフィンクスだって、私の知識が言ってるんだよ!」

「どんな知識だ、捨ててしまえ、そんな知識。
 名前なんてつけたら、愛着がわいて捨てられなくなるだろ!?」

「私のご飯を分けてあげるから大丈夫だよ!」

「人間のメシに含まれる塩分は猫には濃すぎるだろ!」

「むー、とうま、男のクセに嫌味なお母さんみたい!
 ね、スフィンクスもって……あれ?」

297 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 4 [sage saga]:2011/10/06(木) 20:58:31.01 ID:Jcsfh3HO0


 件の仔猫は、いつの間にか段ボール箱から姿を消していた。
 議論というか口論の理由が消え、すこし呆然としている上条とインデックスに、美琴と打ち止めが心底呆れかえった口調で呟く。

「ぎゃーぎゃー騒わいだせいで、仔猫が驚いたじゃない」
「猫の聴覚は犬の二倍もあるんだよって、ミサカはミサカは豆知識を披露してみたり」

 インデックスは悔しそうに唇を震わせた。

「ぜんぶ、とうまのせいかも」

「お前なあ……」

 仔猫が消えたであろう路地の入口に顔を向けたインデックスは、
「――え」
 何かに驚いたように、碧の瞳を見開いた。

「……属性は土、色彩は緑。この式は……地を媒介に魔力を通し、意識の介入によって……」

『科学の街』学園都市にふさわしくない独り言をぽつぽつ呟くと、

「――ルーン?」
 その双眸をぎらりと尖らせ、路地へと走り出した。

「インデックス……!」
 上条は思わず手を伸ばしたが、するりとかわされてしまう。

「とうま、みこと、らすとおーだー、先に帰ってて!」

「あ、待って! インデックスのお姉ちゃんって、
 ミサカはミサカは呼びかけたのに無視されたショックにまかせてインデックスのお姉ちゃんの後を追ってみたり」

 仔猫を追いかけに行ったと勘違いしたのか、打ち止めも走って路地の方へと消えてしまった。
 二人の元へと急ごうとした上条だったが、美琴に腕を強く掴まれ、止められてしまう。

「なにするんだよ、美琴!」

 上条は思わず怒鳴りつけたが、美琴は平然とした表情で、上条の腕を下へと引っ張る。

「ここで待ってて。スキルアウトに襲われた時、あんたがいたら私の力は制限される。
 それに病み上がりなんだから、しばらくはケンカから離れなさい。
 あんたが迷子になっても、探す方法はないんだから」

「いやでも……インデックスがルーンじゃないかって言ってただろ。
 そうだったら、俺の幻想殺しがあった方が――」


 美琴は短くため息をつくと、上条の額にデコピンをくらわせた。


「安心しなさい。万が一魔術師だったとしても、あんたの敵になるようだったら、私が焼いとくわ」

 それじゃすぐ帰ってくるわ、とだけ言い残して、美琴も路地へと走って言ってしまった。
 額を軽くさすると、上条は長く息をはいた。


298 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 4 [sage saga]:2011/10/06(木) 20:59:29.00 ID:Jcsfh3HO0


 すっかり子ども扱いされている。

 失ったのは『思い出』だけであり、知識はちゃんと残っているというのに。
 年齢相応の知識はちゃんと持っているのだから、子ども扱いされるのは少し違う気がするが……
 まさか、元々こんな扱いだったのだろうか。

 美琴の言い分にも一理あるのは分かる。
 単純に考えて、学園都市で三番目の実力を持つ彼女より強い人間など、そう存在しない。
 彼女が最大限の力を発揮する際、敵味方関係なく異能の力を無効化する幻想殺しの存在は、邪魔になるだけだ。

(せめて……逆の入口を探すか)

 そう結論付けた上条の耳に、

「――久しぶりだね、上条当麻」

 そんな挨拶が届いた。

「――!?」

 振り返った先にいたのは、身長は二メートルはある、長身の少年だった。

 黒い修道服に身を包んでいるくせに、髪は真っ赤に染め、
 右目の下にバーコードの刺青を入れ、全ての指に指輪をはめ、
 あげくに十メートル以上離れているにもかかわらず香水の匂いが漂ってくる、破戒僧と呼ぶにふさわしい少年だった。

 もちろん、『見覚えのない』少年だ。

(…………?)

 そこまで考えて、上条は自身の思考に疑問を抱いた。

 どうして、目の前にいる人間を、
 身長は二メートルちかくもある、破戒僧という単語がしっくりくる人間を、

 なぜ、頭の中で少年と断言できた?

299 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 4 [sage saga]:2011/10/06(木) 21:00:08.31 ID:Jcsfh3HO0


「挨拶もなしか。僕が『おはよう』と言い忘れた時は一時間近く説教をかましたくせに」

 口ぶりからすると、知人――しかも、友達クラスの知り合いだったのだろうが、もちろん上条には覚えがない。

「誰、だ……?」

 疑問が思わず口から出た途端、少年は眼に殺気すら込めて、不機嫌そうに髪の毛をかき乱し、

「なるほどあのキツネ野郎。何が『問題ない』だ猟犬に追い立てられて死んでしまえ」

 普通の日本人なら聞き取れないほど高速の英国語で、さらりと恐ろしいことを言ってのけた。

 それから、気を取り直したように、コートからタバコを一本引き出し、口にくわえた。

「ステイル=マグヌス。『必要悪の教会』の魔術師と言えば、君は理解できるかな?」

 なんの予備動作もなく、タバコの先端に炎がともる。
 タバコをくわえたまま、少年は皮肉気に唇を歪めた。


「権謀術策がうずまく『魔術』という暗部を、君は知識として覚えているはずだ。
 さて、ここで一つ取引をしようじゃないか。
 君が記憶を失ってまで救ったインデックスを、その暗部に引きずり込まないために、君の右手を貸してほしい」


300 : :2011/10/06(木) 21:02:58.71 ID:Jcsfh3HO0
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
『俺は久しぶりにSSの続きを投下しようと思ったら、いつの間にか一月以上経っていた』。
な…何を言っているのかわかると思うが、俺は何が起きているかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

お久しぶりです。
今日は時間ないので途中です。三日以内に一章終わらせる予定です。
有言不実行申し訳ない。

301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/10/06(木) 22:33:42.29 ID:nuwvYAYAO
>>1おかえりいいいいい!!!!


次回も楽しみにしてるぞ!
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/08(土) 08:53:44.73 ID:AeI+4Lqg0
>>1再開乙そして久しぶり

待っている。

303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/08(土) 19:02:48.53 ID:I8jvOI/80
来た!これで勝つる
304 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 5 [sage]:2011/10/09(日) 12:41:12.46 ID:CvkdTUvH0


 インデックスの目当てのものは、路地の奥に放置されていた。

 ビルの壁に、数十枚の紙が張り付けられている。
 その紙には、ラテン語の『o』を象形化したルーン文字――オシラが書かれている。

「『人払い』をほどこしたい区域の、東西南北の端にルーンを刻む。
 一番基本的な方式の『人払い』だけど、基本的すぎて派閥はしぼれないかも」

 まるで、教本からそのまま持ってきたかのような、テンプレートな人払いだ。
 だが、たまたま写本を手に入れたこの街の人間が、好奇心に駆られて試した――にしては、あまりにも精度が高すぎた。
 確かな腕の魔術師が、わざと単純な『人払い』をしかけたと考えた方が妥当だろう。

 自分がどこに所属する魔術師か分からなくさせるための処置か。
 だとすれば、その魔術師は『禁書目録』という存在をよく分かっている。

「でも……とっても不用心。
 ルーンはルーンでも、ただの紙に描いただけ。しかもトラップは仕掛けられてない。
 確かに撤収する時に楽だけど、これだったら、魔翌力を何も持ってない人間でも壊せるかも」

 それ以前に、この状態では気まぐれに雨が降れば効果は消えてしまう。

 日本のこの時期――夕立が降りやすい真夏に仕掛けるのは、無謀としか言いようがない。
 屋外に紙に描いたルーンを配置するなら、水を象徴する『l(ラグズ)』で加護するのが、魔術世界では一般的だ。

 用意周到なくせに、途方もなく間が抜けている。
 わざとだとすれば、インデックスをここまでおびき寄せるための罠ということになるが、

 このルーンの傍には、他の魔術は仕組まれていない。
 そうなると、『敵』の狙いは――。

「まさか……とうま?」

 それはそれで納得がいかない。
 上条は、ありとあらゆる異能を打ち消す。

 彼のあの右手をかいくぐれるのは、高位の魔術師くらいなものだろう。
 学園都市で展開するには、リスクが大きすぎる。

305 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 5 [sage saga]:2011/10/09(日) 12:43:09.74 ID:CvkdTUvH0

 思考の泥沼にはまったインデックスの腕を、不意に打ち止めが掴んだ。

「インデックスのお姉ちゃん、あそこにスフィンクスがいるよって、
 ミサカはミサカは訳の分からないことを呟いているインデックスのお姉ちゃんの服を引っ張ってみたり」

「え?」

 そう言って、打ち止めは今まで走ってきた路地とは真逆の出口を指さした。

 その先にいたのは、ピンク色のジャージを着た、黒髪の少女だ。
 上条と同い年か、少し上くらいだろう。

 胸のあたりに件の仔猫を抱いたまま、ぼんやりと中空を見つめている。

「本当だ。……あなたがこの猫の飼い主?
 もしそうだったら、なんで段ボール箱に入れてたか、聞かせてほしいかも」

 インデックスが声をかけると、少女はゆっくりとインデックスと打ち止めの方へ顔を向けた。
 眠たそうな顔で、それでも視線はインデックスたちにしっかりと向けて、少女が呟く。

「あなたたちが来た方から、走ってきたの。
 はまづらが来てくれるまで、何もすることがないから、この子と遊んでた」

「あのね、あなたがその子を飼うつもりじゃないなら、わたしが拾おうかなって思ってるんだけど」

「飼う……のは無理。むぎのの鮭を盗って怒られそうだから。
 だから、はい。あなたにあげる」

 そう言うと、少女は胸に抱いた仔猫をインデックスの方へと差し出した。
 そして、眠たそうな眼を意外そうに見開いて、ことっと首をかしげた。

「……あなたからは電波が来ない?」

「で……でんぱ?」

 一度見聞きしたことは絶対に忘れない。
 それがインデックスの特技だ。
 なので、『電波』という単語は一応知っている。

 その意味は皆目見当がつかないし、理解できないが、
 人間から発せられるものではないことくらい知っている。

306 :第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 5 [sage saga]:2011/10/09(日) 12:46:19.18 ID:CvkdTUvH0

「わ、わたしは人間だもん……。『でんぱー』なんて出ないよ」

 とりあえず仔猫を受け取りながら、インデックスは答える。
 しかし、少女は気分を害した様子もなく、淡々と続けた。

「でも、この街の人は、ほとんどみんな電波が出てる。
 例えばそこの小さな女の子は、電波がすごく大きい」

「確かにミサカは強能力者程度の発電能力を持ってるし、
 ミサカネットワークの司令塔として、それぞれの思考を束ねるポジションにいるけど、
 そんなビビビーってでる電波じゃないのになぜ!? と、
 ミサカはミサカは情報漏洩に気がつきつつも絶叫してみたりー」

「それよりらすとおーだー、ここに魔術師が来るかも! はやく逃げなきゃ!」

「あ、あったかい電波が近づいてきてる。はまづらのかな」

「違うって一〇〇三二号、今のは情報漏洩じゃなくてひとりごとだよってミサカはミサカは――
 一五〇四〇号、根性根性うるさいってミサカはミサカは反抗期の子どものごとくぶーたれてみる」

「あなたも早く逃げた方がいいかも。魔術師が来たら、殺されちゃう!」

 思い思いに呟いたり叫んだりする三人。
 ここに、まともな突っ込み役がいたらこう叫んでいただろう。

 全員、電波じゃねーか。

 そんな中、路地裏に少年の声が響いた。

「滝壺! 車が確保できた、はやく行くぞ!」

 沈むかけた太陽が逆光になって、インデックスと打ち止めにはその顔が見えなかった。
 分かるのは、上条や一方通行より背の高い少年、ということくらいだ。

「やっぱりはまづらだった。
 はまづらが呼んでるから、行くね。それじゃあ、ばいばい」

 少女はひらひらと手を振ると、何事もなかったかのように少年の方へと歩み去ってしまった。

 少女が完全に消えてから、インデックスはもう一度『人払い』のルーンへと視線をやった。

「……魔術師は来ないし、とうまが狙いとも思えない。どうなってるかわからないかも」
「滝壺って……どこかで聞いた覚えがあるかもって、ミサカはミサカは首をかしげてみたり」

 後に残されたインデックスと打ち止め、そして仔猫は、結局美琴が到着するまで、
 その路地裏で立ち尽くすことになった。

307 :行間一 [sage saga]:2011/10/09(日) 12:47:56.64 ID:CvkdTUvH0


 ロンドンの片隅には、規模こそ小さいが、日本人街が存在する。
 その外れ――通常のロンドンの街並みに、和の雰囲気が混ざり合った場所に、小さな教会が立っている。
 ステイルはその教会の入り口で大きくため息をついた。
 石造りの階段の脇に、大量の笹が飾られている。
 そして、その笹たちは例外なく、紙製の飾りや、願い事が書かれた短冊をぶら下げていた。

 七夕の笹である。

 宗教的に考えれば、十字教の教会の入り口に飾るものではない。
 とはいえ、この教会の神父様は、ニュー・イヤーには門松を、
 八月半ばにはナスやキュウリで作った小物を用意するような人だから、これくらいは、かわいいものかもしれない。

 重い扉を開き、いつも通り人のいない教会の中を見渡してから、ステイルはもう一度ため息をついた。
 通路のどまんなかに座る上条に近づいて、わざとらしく首をかしげる。
「いったいどうしたの、トウマ?」
「どうしたのって、猫拾った」
 そう言って、上条は膝の上に載せていた仔猫を指さした。
「……そこじゃないよ」

 左の頬と耳は大きなガーゼが、左目には眼帯があてられている。
 それに、この時期に長袖長ズボン姿なところを見ると、手足にもケガを負っているのだろう。下手したら胴体にも。

「えっと……樹の上から降りられなくなったコイツを助けようとしたら、うっかり落ちて、
 んで、落着した先がなんかそこそこ大きな魔術結社の本部だったらしくて、
 襲撃者と勘違いされて、襲われたところを謎のおじさんに助けられた」
「謎のおじさん?」
「すっごい強い人で、なんかすっげーでかい棍棒みたいなやつで、魔術師十何人をぶっ飛ばしてた」
「まさか、聖人じゃないよね……」

 上条当麻とは、なんか見覚えのあるオバさんと遊んでるなと思ったら、そのオバさんが英国女王だったりする少年だ。
 その助けてくれた謎のおじさんが、聖人でもなんらおかしくない。

 上条がなにかしらのトラブルに巻き込まれるのはいつものことだ。
 ステイルも幼いなりに、上条の事情は理解している。

「それで、その猫、どうする気なの。飼い主を捜すんだったら、一応手伝うけど」
 日本人街にある家は、ほとんど飲食店だ。
 日本には『招き猫』という風習があるらしいが、衛生的に難しいだろう。
「俺が育てようかなって。……神父(とう)さんにも、一応許可貰ったし」
「トウマが?」
「名前も決めたんだ。スフィンクスって言うんだぞ。な、スフィンクス」
「スフィンクスって……」
 ステイルは仔猫に視線をやった。
 体毛や眼の色からして、ロシアンブルーの仔猫だ。
 仔猫は状況が理解できないようで、きょとんとしている。
「あー、そっか。ロシアンってくらいだし、英語は通じないか……。
 なあステイル、こんにちはって、ロシア語だとなんて言うんだ?」
「知らないよ。それに、ロシアンブルーはイギリスの猫だからね?」
 ステイルの呆れかえった声にへこたれることなく、上条はスフィンクスを高々と抱き上げた。

308 : [saga]:2011/10/09(日) 12:48:59.10 ID:CvkdTUvH0


浜面がなんでこの時期に『アイテム』の下っ端やってるかはどこかで書く予定。
一方通行と駒場の出会う時期や立場が原作とまったく違うので、
駒場や浜面たちスキルアウト、あとフレメアに関するあれこれを変更してます。

『人払い』云々のシーンは、場のノリで読んでください。
読みは後期ゲルマンルーンを採用してます。


次は二週間以内に仕上げられますように!

309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/10/09(日) 13:46:26.45 ID:ok2ybwZd0
乙!
310 : [saga sage]:2011/10/23(日) 11:52:26.26 ID:gVRJu0X70
なんというか、あれだ。
まったく書けない \(^o^)/オワタ

とりあえず半月ちょいじっくり頭冷やす。
それでも無理だったらpixivに移動してさらにマターリ書きます。
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 18:54:52.85 ID:ZGI9+H1I0
いつから自分が書いていないと錯覚していた?
312 : [saga sage]:2011/11/02(水) 18:43:03.91 ID:YI1TIaqj0
半月経ってないけど決めました。
pixivに移動します。

たぶんタグは『とある魔術(科学)の幻想殺し』とかになると思います。

いままで乙コールくれた人たちに感謝です。

三日くらいしたら、html化依頼をだしに行きます。さようなら。
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 21:25:09.66 ID:6Q8Ub04DO
>>1
今まで乙!

pixiv?
追いかけてやるぜい
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 23:03:08.57 ID:ATkxB3/co
依頼出して落とされる前に、>>1の支部のIDかハンネを教えてもらいたい
315 : [saga sage]:2011/11/03(木) 10:39:36.30 ID:i/3rL85g0
>>314
大切なの忘れてた
192706

他の作品とかも更新してるから、別IDの方が分かりやすかったら言ってくれ
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 13:10:42.11 ID:iZmRyE6eo
IDthx
支部のお気に入りに入れてきた
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