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僕はいつだって卑劣だ -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/11(月) 11:04:46.93 ID:pw75EXkAO
オリジナル
よくあるバトルもののラノベみたいな感じ
兵器もの主体で異能力ものを少し混ぜた感じ
厨二街道まっしぐら
人によっては胸糞悪いかも
奇を衒い過ぎて逆に王道になる可能性大
不定期行進、スーパー冨樫
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
[
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]: ID:???
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冒険者育成学校 @ 2025/07/18(金) 01:36:01.28 ID:PkrtUMnv0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752770160/
たてづらい部!! @ 2025/07/17(木) 23:24:46.15 ID:o3A0TqwG0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752762285/
ゼンレスゾーン淫夢要素ゼロ @ 2025/07/16(水) 18:57:50.86 ID:RQSyJ1Qxo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752659870/
【ギルデッドエネミー】ウルフ「まるでじゃんけんだ」 @ 2025/07/16(水) 01:49:20.03 ID:ryYxoR/vO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752598160/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/07/15(火) 00:40:24.35 ID:LBAUOkqwo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752507623/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/07/15(火) 00:39:16.20 ID:qbAcbrETo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752507555/
猫饅頭 @ 2025/07/14(月) 19:14:21.34 ID:1knELuPaO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752488061/
(安価&コンマ)コードギアス・・・ @ 2025/07/13(日) 22:27:49.60 ID:9f2ER2kw0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752413269/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/11(月) 11:05:51.90 ID:pw75EXkAO
名残を惜しまれながら散っていった桜が春の終わりを告げようとしている五月。
多々良 鋼介(タタラ コウスケ)は苛立ちを露にしながら並木道を歩いていた。
彼の身に何かがあったわけではない。厳密に言えばあったのかもしれないがそれは昨日の晩に爪を切っていて深爪をしたとか、今朝作ったハムエッグが少し焦げていたとか、何ということもない些事でしかないだろう。
「ああ苛つく、苛々する……」
幼い頃から鋼介はこうだった。
頭で考えるよりも手が先に出てしまう。
この世の全てを恨んでいるかのような斜に構えて腐りきった根性。
そんな本質を抱えたまま彼は十五歳になった。
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/11(月) 11:06:37.48 ID:pw75EXkAO
小柄な体躯、ホックまできっちりと締めた学ラン。更に短めの黒髪と銀縁眼鏡が相俟って彼を外見から判断する者は皆口を揃えてこう言う。
凛々しい、誠実だ、真面目だ、勤勉だ、優秀だ。
そのどれもを下らない、と彼は一蹴する。
ふしだらで、卑劣で、不真面目で、怠惰で、欠陥で在り続ける彼だからこそ多々良 鋼介は捻くれた子供のように周りの評価と正反対で在り続けた。
狂気を演じる奇術師や狂言回しなどではない。
これは反抗期という言葉の権化のような少年の、細やかな社会への反抗の物語。
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/11(月) 11:12:03.73 ID:pw75EXkAO
1・アドレナリン
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/11(月) 11:32:31.18 ID:pw75EXkAO
十年前。人類は大きな発展を遂げた。
コアと呼ばれる内蔵機関の回転するエネルギーを利用して様々な形状、機能を顕現させる汎用兵器の開発。
積み上げられた地球規模の懸案事項の大半がこれによって解消された。
神の叡智と比類するこの人類の力は人類の薬、『ドラッグ』という名を冠した。
様々な分野においてその力を大いに発揮するドラッグ。そしてそれを操る『オペレーター』が羨望の視線を浴びる事になったのは言うまでもないだろう。
今やエリートの規準は医者、弁護士、外資系サラリーマンなどは二の次、このドラッグを操れるオペレーターこそが世間一般で言うエリートとなっていた。
そして多々良 鋼介が通う此所、私立永和学園はそのエリートを養成する全国最高峰の高校だ。
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/11(月) 11:51:48.12 ID:pw75EXkAO
私立高校で、教育方針は自由な校風。
学生服を人間らしい着こなしをしていれば後は法、倫理に触れない限り何をしても許される。
そんな環境に置かれた生徒達の中には奇抜な髪型などで自己を主張する者も居る。
だが平均倍率五十倍の熾烈な受験戦争を勝ち抜いた彼等の意識は総じて高く、創立八年という短い期間ではあるものの、この学校は多くの優秀な人材を輩出している。
「優秀な人材、ねぇ……」
真っ赤に染め上げた長髪を後頭部で一つに結わえた少年が皮肉に呟いた。
分厚い資料を閉じて机にしまうと、彼は後ろの席でいそいそとペンを走らせる少年に声をかける。
「お前はここ卒業したらどうすんの? やっぱドラッグ扱う大学に進学?」
「……何だってお前は僕が忙しい時に限ってそうやって絡んでくるんだ。ぶん殴られたくなかったら女のケツでも追いかけてろ」
「おーこわ、鋼介くんは今日もご立腹ですねぇ」
同時に軽快に紙の上を走っていたシャーペンの芯が折れた。
それは鋼介の血をたぎらせるには十分過ぎた。
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/11(月) 12:09:15.29 ID:pw75EXkAO
「この野郎ぶっ殺してやる!」
「うわっ!? 課題やってこねーお前が悪いんだろ! そんなに苛つくんなら前の日にちゃんとやっとけっつーの!」
鋼介はいきり立って立ち上がり、赤髪の胸倉を掴む。
だが振り上げた拳が赤髪の頬を打つ直前、その声は聞こえた。
「見ろよ、リンゴちゃんまたやってるよ」
「あそこまでいったらもう病気だよなぁ」
嘲笑が入り交じったギャラリーの呟きは更に鋼介を憤らせた。
「お、おい……。落ち着けって」
赤髪は眼前で静止した鋼介の拳を両手で掴み、腫れ物を障るように怖々と鋼介を宥める。
「安心しろ唐木(カラキ)。僕はいつだって冷静だ。賢そうな眼鏡かけてるだろ?」
「いやぁ……。眼鏡イコール賢いってのもどうかなぁ、なんて。最近じゃアイウェアなんて言葉も──」
唐木と呼ばれた赤髪が言い終えるよりも早く、鋼介は空いた拳を机に叩き付けていた。
「今僕の事をリンゴちゃんって言った奴は誰だ! 出て来ないとこいつの顔面をふやけたアンパンマンみたいにするぞ!!」
「俺かよ!?」
唐木の顔面が瞬く間に青褪めてゆく。
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/11(月) 12:22:56.32 ID:pw75EXkAO
数十秒過ぎた後、窓際の席の男子生徒が立ち上がった。
縋るような表情を浮かべる唐木を見て良心の叱咤に耐え兼ねたのだろう。
両手を合わせて無言で唐木に頭を下げている。
「お前か、良い度胸だな。まさか意味を知らずに僕をリンゴちゃんと呼んだわけじゃないだろ?」
「…………」
唐木から手を離して悠然と歩み寄ってくる鋼介に対し、男子生徒は俯いて押し黙った。
「あの糞ったれ売女も酷い事言うもんだ。何が腐った林檎は同じ籠の林檎も腐らせる、だ。教師が未来ある生徒を林檎に揶揄するなんて、ナンセンスだと思わないか?」
「あはは……。そうですね」
「喋るな!!」
愛想笑いを浮かべた男子生徒を鋼介は一寸の躊躇いもなく殴った。
その場に居た生徒達の理不尽だ! と叫ぶ心の声は見事に合致する。
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/11(月) 12:37:39.73 ID:pw75EXkAO
「ちっ……。登校拒否したくなるまで殴ってやりたいけどまだ課題が終わってないからな、今日のところはこれで勘弁してやる」
男子生徒の返答を待つ前に鋼介は自分の席に着いた。
ほぼ同時に殴られて大量の鼻血を零す男子生徒に人が群がる。
「お前なぁ……。こんな事してっといつか退学になるぞ」
「陰口吐いたのは向こうだ。僕は悪くないぞ」
陰口の原因を改善しようとは思わないのか、唐木は口にしかけた言葉を噛み殺し、代わりに一冊のノートを鋼介に渡した。
「……なんだこれ?」
「今日の課題だよ。それと向こう一週間で課題になりそうなとこは全部やってある。一限始まる前にさっさと写しちまえよ」
呆れたように溜め息を吐き、唐木は鋼介に背を向けた。
「……ふん、昼飯くらいなら奢ってやるぞ?」
「いらねーよ。またコーラ入りラーメンなんか食わされた日にゃ気が狂っちまいそうだ」
それから授業が始まるまで、二人の間に会話は一切無かった。
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/11(月) 12:38:23.12 ID:pw75EXkAO
ひとまず終わり
こんな感じでやっていく
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/07/11(月) 19:56:48.86 ID:iLC4RetAO
次回作に期待!!
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/12(火) 20:16:04.27 ID:DTvpc6uDO
>>1
先生の次回作にご期待ください!!
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/12(火) 20:17:51.10 ID:DTvpc6uDO
>>1
先生の次回作にご期待ください!!
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/14(木) 13:42:40.58 ID:4zewQppr0
え?終わりじゃないだろ?
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/15(金) 12:46:17.41 ID:yxq4fw1AO
難解、複雑な科目を扱う授業は自然と重苦しい空気になる。
それに教師の厳格さ、課題の量、その他諸々の要素が加われば相乗してその空気は濃密になってゆく。
その空気が心地良いと思える人間も中にはいるだろう。そして重圧に押し潰されまいと自身を鼓舞する者も。
だがその時間は劣等生にとってはただの退屈な時間でしかない。
持て余した時間をどう過ごそうか。多々良 鋼介の頭の中にある懸念事項はそれだけであり、授業についていこうといった素振りは全く見せていない。
頬杖をついて欠伸をすると鋼介は睡魔に誘われるままに机に突っ伏した。
「いっ──!?」
直後、頬に走る激痛に睡魔は打ち破られた。
「お前放課後教員棟で居残りな」
底意地の悪そうな笑みを浮かべて教師は鋼介の頬を掴む指に力を込める。
鋼介は口の端から涎が垂れそうになるのと痛みを堪えるのに必死だ。
「いひゃい! いひゃいいひゃい──!」
じたばた手足を動かす鋼介を咀嚼するように眺めると、教師は満足げに教卓へと戻る。
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/15(金) 13:05:23.39 ID:yxq4fw1AO
「お前らもリンゴちゃんみたいになりたくなかったら私の授業で寝ようなんざ考えるんじゃねーぞぉ」
間延びした声の後に控え目な含み笑いがあちらこちらから聞こえてきた。
鋼介は軽く舌打ちをすると行き場の無い怒りを込めて教師を睨み付ける。
一瞬だけ目があったが、教師はそんな事は歯牙にもかけず、再び小難しい話を始めた。
「……死ね」
あの傲慢高飛車な女が泣き叫ぶまで犯せたらどれだけ楽しいだろうか、鋼介の今日の授業の学習内容は性犯罪のイメージトレーニングに変わった。
腐った林檎は同じ籠の林檎も腐らせる。
彼女こそが鋼介をそう揶揄し、不名誉な渾名を付けた張本人だ。 名は天野 志誠(アマノ シセイ)。暴力こそ我が教鞭、PTAなど何処吹く風。
俗な言い方をするならば、今時珍しい暴力教師だ。
しかし教師としてのスキルはずば抜けて高く、授業外での気さくな態度や授業、解説の解り易さ。
そして抜群のプロポーションと艶めいた長い黒髪が醸し出す妖艶な雰囲気は主に男子生徒から人気がある。
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/15(金) 13:24:21.43 ID:yxq4fw1AO
鋼介はそんな彼女が嫌いでたまらなかった。
どれだけ取り繕って生徒にちやほやされようが教師は教師。
反骨精神の塊である鋼介にとってその怒りを向ける対象が華やかであるほど、怒りはどす黒い怨恨染みたものになるのだ。
「…………」
鋼介は前の席の唐木の首筋目掛けてシャーペンを刺した。
やや猫背になっていた唐木は軍隊顔負けの着席の姿勢を取る。
「いってええええっ!?」
がたん、と机を蹴る音。直後に唐木は振り返り、恨めしそうな視線を送った。
だが鋼介は何も答えない。代わりに唐木の肩を二、三度叩き、教卓の方を指差す。
「え?」
咄嗟に前を向き直って唐木は後悔した。
安易に叫びなど上げずに、シャーペンを手の甲に刺してでも堪えるべきだったのだ。
教卓に佇む絶世の美女は据わった目で唐木を見つめている。
「……おい優等生。さっきの今で授業中に奇声上げるたぁ良い根性してんじゃねーか」
「あ、はははっ……。ちょっと腹下しちゃったもんで。トイレ行ってきて良いですか?」
天野教師はそれを聞いて腕を組み、百万ドルを出しても惜しくない、良い笑顔を浮かべて言った。
「逃がしゃしねーよ」
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/07/15(金) 15:18:18.82 ID:zHY1Qcvk0
僕はいつだって卑猥だ
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[sage]:2011/07/17(日) 23:30:20.16 ID:uNSIidvAO
期待してる
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
:2011/07/18(月) 20:44:12.24 ID:o1c+jIrAO
期待してる
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/19(火) 11:54:30.11 ID:voLLPpMAO
天野教師の教鞭という名の折檻の影響で、唐木と鋼介は真面な状態で午前の授業を受けられなかった。
執拗にヒールで蹴られた太股は赤く腫れ上がり、頭頂部には控え目に瘤が出来ている。
「あの糞ったれ娼婦め……。卒業したら絶対お礼参りに行ってやる……」
「お前はそれよりも進級出来るように頑張れよ」
場所は変わって永和学園第一フードコート。
全部で三ヶ所あるフードコートの中で此所は五百席の規模を誇る最大級の飲食施設であり、和、洋、中、その他諸々のあらゆる料理が提供されている。
「ふんっ、金が無けりゃ文房具も買えん。でも成績が悪い生徒にはバイトの許可が降りない。この堂々巡りの中でどうやって成績伸ばすんだよ」
「文房具及び学業に必要不可欠なものは申請書を出せば無料支給される。生徒手帳にも書いてあんぞ?」
「僕は支給品のぼろっちいペンよりも文具店の一本五百円のペンが良いんだよ」
鋼介は一杯百円の掛け蕎麦をずるずると音を立てて啜る。
一方唐木は分厚くカットされたサーロインステーキを優雅に口に運び、楽しむように咀嚼していた。
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/19(火) 12:09:08.07 ID:voLLPpMAO
「……劣等生の俺は毎日百円の掛け蕎麦。優等生のお前は毎日三食ステーキか。何だって同じ生徒なのにこうも格差が生まれるんだ……」
「失礼だな。これは俺が働いて稼いだ金で買った肉だっての」
下卑た笑みを浮かべて見下ろしてくる唐木に対し、鋼介は露骨に舌打ちをする。
「一日二時間日当八千円で苦労しましたなんてほざいてみろ。世の貧乏人に代わって僕がお前に鉄拳を食らわすぞ」
少なくなった麺をつゆごと飲み干し、背もたれに身を預ける。
しきりに指の骨を鳴らしているのはいつでも殴れるぞ、というアピールなのだろうか。
「ついでにこのままの姿勢で聞いとこうか。僕が頼んだ『学校側の監査が入らない店のアルバイト』はちゃんと探してくれたんだろうな?」
「ああ……。あれね、まぁなんというかぶへらっ──!?」
鋼介の拳が唐木の鼻に突き刺さった。
周りに居た女子生徒達の甲高い悲鳴が聞こえたが、殴った人間と殴られた人間を確認すると周囲の人間の表情も呆れたものへと変わる。
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/19(火) 12:24:47.06 ID:voLLPpMAO
「いってー……。何でこうも手が早いかねぇ鋼ちゃんは……」
「僕をその名で呼んだ奴は皆酷い目に会うらしいが、訂正しなくても良いか?」
唐木は両手を上げて大仰にお辞儀をし、鋼介くんと訂正する。
そして赤髪を掻きながらテーブルに頬杖をつくと大きく溜め息を吐いた。
「俺だってけっこー必死で探してんだぜ? だけどそんなバイトあるかどうかさえ怪しい眉唾物の情報だしなぁ」
「……結局『この島』の中じゃあ僕達は籠の中の鳥ってわけか」
「承知の上で此所に来たんだろ? だったら今更グダグダ言うなよ」
珍しくどこか憂いを帯びた表情を浮かべる鋼介を見て唐木はぎょっとした。
この天上天下唯我独尊男の多々良 鋼介がこんな表情を浮かべるとは思わなかったから。
「それに関して難癖を付ける気は無いさ。でも一つの学校を作る為に人工島を造ろうなんて、偉い人も酔狂な事を考えるもんだな」
言い終えると鋼介は唐木の反応を待つ前に立ち上がり、食器を置いたまま去って行こうとする。
「どこ行くんだよ」
「気持ちがシケた。ちょっと散歩してくる」
ぶっきらぼうに呟いて、鋼介は二度と振り返らなかった。
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/19(火) 12:39:04.92 ID:voLLPpMAO
曲りくねった路地を鋼介はひたすら歩く。
その先に何があるのかなんて事は彼にとってはほんの些事でしかないし詮索する事もない。
溜め込んだ毒の捌け口も解らぬままに歩く、歩く、歩く。
言わば肉に飢えた猛獣。そんな彼が彼等と出会うのは必然であり、当然であったのだろう。
「うおっ!? マジビビったわー……」
「んだよ、一年坊かよ」
真昼にもかかわらず日の光さえ届かない仄暗い路地裏。
彼等は三人で虫のように固まって紫煙を撒き散らしていた。
「…………」
鋼介は口を閉ざしたまま三人の顔を一瞥する。
頭に剃り込みを入れた厳つい男。生え際が真っ黒な長い金髪を伸ばしっ放しにした男。カマキリの眼のようなサングラスで表情を隠した男。
三人が咥えた煙草の煙と彼等の一挙一動は全て、鋼介の神経を逆撫でる。
「一年があんまこんなとこチョロチョロすんなよ。此所は俺らの喫煙所なんだからよ」
過酷ながらも脱退者を出さないこの学校のシステムの中でか細い笊の穴から零れ落ちた者。
ある者は彼等を畏怖し、ある者は彼等を軽蔑する。
俗に言うのならば不良というやつだ。
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/19(火) 12:39:40.13 ID:voLLPpMAO
曲りくねった路地を鋼介はひたすら歩く。
その先に何があるのかなんて事は彼にとってはほんの些事でしかないし詮索する事もない。
溜め込んだ毒の捌け口も解らぬままに歩く、歩く、歩く。
言わば肉に飢えた猛獣。そんな彼が彼等と出会うのは必然であり、当然であったのだろう。
「うおっ!? マジビビったわー……」
「んだよ、一年坊かよ」
真昼にもかかわらず日の光さえ届かない仄暗い路地裏。
彼等は三人で虫のように固まって紫煙を撒き散らしていた。
「…………」
鋼介は口を閉ざしたまま三人の顔を一瞥する。
頭に剃り込みを入れた厳つい男。生え際が真っ黒な長い金髪を伸ばしっ放しにした男。カマキリの眼のようなサングラスで表情を隠した男。
三人が咥えた煙草の煙と彼等の一挙一動は全て、鋼介の神経を逆撫でる。
「一年があんまこんなとこチョロチョロすんなよ。此所は俺らの喫煙所なんだからよ」
過酷ながらも脱退者を出さないこの学校のシステムの中でか細い笊の穴から零れ落ちた者。
ある者は彼等を畏怖し、ある者は彼等を軽蔑する。
俗に言うのならば不良というやつだ。
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/19(火) 12:56:21.35 ID:voLLPpMAO
「……その煙草はどうやって手に入れた?」
「は?」
鋼介の問いに対し、恐らくリーダー格であろう剃り込みの男が訝しげに首を捻った。
「バイトは成績上位の生徒しか出来ないし煙草を売る店なんてこの島には無い筈だ。嗜好品を買うなんて色んな面から見ても無理な筈だろ?」
まくし立てる鋼介が言いたい事を把握するのに男は数秒を要した。
そして彼なりの解釈をするとにんまりと笑う。
「ははははっ! お前もこっち組かよ! まぁ肩身の狭い喫煙者同士仲良くやろうや!」
煙草を一本鋼介に差し出し、奥へと誘う。
鋼介も成されるがまま煙草を受け取り、男達の後へと着いてゆく。
「おい、僕はどうやってコイツを手に入れたのかを聞いてるんだ。金を稼ぐ方法があるなら教えてくれ」
「俺らみたいな弾かれもんがバイトなんか出来るわけねーだろ。コイツは教員用の売店からギってきたんだよ。ぎゃっはははっ!」
「しっかしお前ちんまいくせに根性入ってんな。一年坊で俺らにタメ口きけるなんてよ」
「けど俺らはヤンキーは大歓迎さ。年は俺らの方が上だけどあんま気にすんなよ、仲良くやろうぜ」
剃り込み、金髪、グラサン(鋼介命名)の順に彼等は気さくに話しかけてくる。
27 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/19(火) 13:14:14.34 ID:voLLPpMAO
「…………」
鋼介は足を止めた。
三人はそれに気付かずに数歩ほど歩んだが直ぐに止まる。
「どした? 犬のウンコでもあったか?」
刹那、振り返ろうとしたサングラスの男の頬に拳が突き刺さる。
意識の外から襲ってきた暴力は死神の鎌の如く確実に、そして理不尽に男の意識を奪った。
「なっ!? ター坊!?」
次いで死神に目を付けられたのは金髪の男。
鋼介は目にも止まらぬ速さで金髪の懐に潜り込み、その鳩尾に肘を捩じ込んだ。
「かはっ──!?」
「高校デビューの不良もどきが僕と同列? 笑わせるな、お前らはクズにもエリートにもなれやしない半端者だよ」
自身の足を相手の足に絡ませ、大外刈りの要領で金髪を地面に叩き付ける。
コンクリートとの激突で悶絶する男の顔面に蹴りを入れた。
ここまで時間にして凡そ十秒弱。圧倒的な暴力で圧倒的に蹂躙する。
鋼介の悪魔染みた所業に剃り込みの男は恐れを成した。
「学校の監査が入らないバイトがあるのかと思いきや盗んできただと? 僕をなめるのもいい加減にしろ!」
「意味分かんねーよ! 何でお前の逆ギレで俺の友達がやられなきゃなんねーんだよ!?」
28 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/19(火) 13:29:43.42 ID:voLLPpMAO
ごきり──。
ばきり──。
ぽきん──。
ぼこっ──。
どれだっただろうか、とにかく似たよう音で、決して人間の身体から発せられてはならない音が響いた。
「あ……。あ……。ああ……」
剃り込みの男は倒れ、痛みを忘れてひたすらおののく。
真直ぐに生えていた筈の腕が真っ二つに折れており、浅黒く焼けた肌からは白い骨が突き出ていた。
「開放骨折だな。暫くは満足にイチモツも扱けないだろ」
「ひぎゃあああああああ──っ!!」
まるで断末魔、地獄の底から鳴るような悲鳴が響く。
「くくっ、誰も悪くない。お前はそこのお友達とここでプロレスごっこをしていたら運悪く骨を折った。そうだろ?」
仰向けに倒れる剃り込みに跨がり、鋼介は無事な左腕を掴んで卑しく微笑んだ。
剃り込みは目を見開いて忠実な犬のように何度も頷く。
「はははっ、情けない面だなヤンキーくん。だけどそんな奴に限って直ぐに約束を破るんだよな。喉元を過ぎればなんとやらだ」
「ひっ──。ひぃっ!」
男の学生服の胸ポケットを物色し、何かを掴んだ手応えを感じると鋼介は更に卑しく頬を歪めた。
29 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/19(火) 13:40:31.12 ID:voLLPpMAO
ポケットから出てきたのは一本のオイルライター。
小気味の良い金属音と同時に小さな日が赤々と点る。
「躾がなってない動物には痛みを以て教えてやらないとな」
鋼介が何をやろうとしているのか悟った剃り込みはじたばた暴れ出した。
だが折れた右腕の痛みが邪魔をして、鋼介を押し返すには至らない。
炎が男の耳元に近付き、そして……。
「……っ! ……っ!!」
叫びを上げる前に口を手で塞がれる。
小さな日は男の耳を容赦無く炙り、焦がしていった。
「あっははははは!! はははっ! ははははははっ!」
ステレオタイプのように鋼介は笑う。絶え間なく、抑揚をつけず、そこに意志すら無いかのように。
唐木やクラスメイトに対する理不尽な暴力など、今の鋼介の所業と較べれば霞んでしまうだろう。
常人より沸点が低い鋼介には更に上にもう一つの沸点が有った。
そこは何人足りとも触れてはいけない領域であり、何人足りとも見てはいけない領域だったのだ。
30 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/19(火) 14:00:03.19 ID:voLLPpMAO
「へぇ、君結構強いんだね」
甘ったるい声が鋼介の背後で響いた。
鋼介は笑うのを止め、既に意識を手放した剃り込みの男を開放して立ち上がる。
「……三秒以内に失せろ。ハイになった僕は女子供でも容赦しないぞ?」
「あはっ、良いねそれ。私より強い人に目茶苦茶にされるなんて、考えただけで疼いちゃうっ」
とんだ淫乱だ。鋼介は心中で呟く。
顔を拝んでやろうと振り返り、そして鋼介は息を飲んだ。
「私の事目茶苦茶にシてくれるんなら、君にトッテオキノバイト紹介しちゃおっかなぁ」
全てが可憐だった。唇も鼻も漆黒の長髪も、手も足も眼球も毛根も心臓も。
何故か今の鋼介には全てが美しく思えた。
「五臓六腑を愛でてグチャグチャにしてやるよ。そして死ぬまで飼い慣らしてやる」
「最っ高! ちゃあんと死ぬまで付き合ってよね?」
少女は両腕で肩を抱き、恍惚とした表情を浮かべて身震いする。
全てを飲み込んでしまいそうな漆黒の髪を揺らし、光を宿さない黒曜石のような眼を鋼介に向けた。
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/19(火) 14:00:40.29 ID:voLLPpMAO
一話終わりん
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/19(火) 14:14:09.30 ID:FMfSezIIO
>>1
乙
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/07/20(水) 01:07:49.61 ID:cUQedIeDO
わざわざ冨樫なのるとか……
不定期更新でいいだろJK
やる気のなさ伝えてどうすんだよ……
あと正直、内容は中2とかも要らないと思う
書いてる自分は中2じゃないですとか言いたいのしぬのばかなの?
そういうのを叩かれる覚悟もなくて先に言うって正直どうよ
あと奇をてらい云々なんだけど、正直それは王道じゃなくね?
だったら初めから王道なのれよカスとか思うわ
そんで途中の支援レスも九州すぎて自演くさすぎんわ。自演だったとしてもそうじゃないにしても少し考えて書き込めば?
あと最後にオリジナルは稀少だからageてやれよ
なんにせよ読んでくる。
頑張れ
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[sage]:2011/07/20(水) 01:29:11.79 ID:oQq6cI3AO
趣旨やらなんやら伝えとかないと時間の無駄だった! なんて人が出るだろうと思ったからであって俺なりの配慮のつもりだったんだけどな。まあ捉え方は人それぞれか
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/07/20(水) 01:31:11.81 ID:cUQedIeDO
凄く誠実さが見えないです……
あとライトノベル形式なのるならな、方向性固めような?
正直、王道系SF名乗りたいのかラブコメ風SF名乗りたいのかわかんねぇよ
王道系なら女キャラ登場させすぎのズームもっていきすぎだし
ラブコメ風なら文章固すぎワロタだし
あくまで本人の爆発なんだろうけどやっぱこんな書き方じゃすぐに書き疲れ展開起こすし
まだ色々あるけど
日本語云々より完結目指せ、稀少種、応援する
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/07/20(水) 01:37:59.79 ID:cUQedIeDO
>>34
んなもん作者様(笑)くらいの態度で丁度いいんだよ
むしろ変に前書きがありすぎると読むのだれんだよ
むしろ最初の1レスで頭を書き込んだ方が能書きよりも百万倍マシなわけだ
……チラ裏とか言わねえけど設定はあるんですか
教えろください
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[sage]:2011/07/20(水) 02:01:01.50 ID:oQq6cI3AO
>>36
設定を全部語り出したらレス数がやばい事になる
なんていうか頭の中に一つの完結があってそれに向かって辻褄が合わなくならないように派生して完結に収束する全部で三十二個のルートっつーか話がある
そのそれぞれで設定が異なるから説明はし辛い
ごめん俺頭悪いから何言ってるかよく分からんよね
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/07/20(水) 02:13:22.72 ID:cUQedIeDO
>>37
設定があるんだったら
「何が出来ない」ってのをきちんと文章化してチラ裏などに保存した方がいいんだからねっ!
出来ることを考えてると矛盾が生まれやすいけど出来ないことを考えてると矛盾が発生しにくい
まぁ、理由こそのべすもがなキャラクターの動きが制限されるからとかとか
39 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
:2011/07/20(水) 06:31:57.13 ID:CqvVnDDAO
期待してる
40 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
:2011/07/20(水) 08:12:37.58 ID:CqvVnDDAO
期待してる
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/21(木) 12:32:57.51 ID:sjCLmELAO
喧嘩なんてものは所詮意地の張り合いだ。鋼介はそう考える。
どれだけ鍛練を積んだ屈強なスポーツマンであろうと、そこらのゴロツキに負ける事はごまんとある。
何処までも賢しく、意地汚く、狡猾な者が勝てる世界なのだ。
「殺してやる。殺して殺して殺した挙げ句、ぶっ殺してやる」
そういう意味では多々良 鋼介は喧嘩の申し子と言っても過言ではないだろう。
人を傷付ける事に躊躇などしないし、勝てない相手に武器を使う事、闇討ちを仕掛ける事も厭わない。
「激しい男の子は好きだけど……。あんまり必死だとおねーさんひいちゃうなぁ、なんて」
少女はつかつかと歩み寄ってくる鋼介を流し目で見据え、紺色のブレザーを腰に巻き付けた。
「……泣かす!」
学ランを乱暴に脱ぎ、それを鞭のようにしならせて少女の顔面に振るう。銀色の釦が飛散し、始まりを告げる音を立てた。
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/21(木) 12:48:22.98 ID:sjCLmELAO
少女は学ランの鞭を片手で受け止めた。
だがその時点で既に、彼女は選択を誤っていたのだ。
「いっ──!?」
腹部に突き刺さる鈍痛。鋼介の華奢な足は少女の鳩尾を的確に打ち抜いていた。
「言っただろ? 僕は女子供でも容赦しない」
体勢を崩した少女の胸倉を掴み引き寄せ、右手の親指を人指し指と中指で強く挟む。
「あっれぇ? 女の子相手にそこまでやっちゃう?」
振り翳した拳は確実に相手を傷付ける為の握りだ。下劣な暴力を振るう鋼介には微塵の躊躇いも無い。
「……お望み通り目茶苦茶にしてやるよ」
少女は笑った。鋼介は笑わなかった。
拳は少女の頬骨を打つ。
全体重を乗せて振り抜いた一撃は彼女の身体を数メートルほど吹き飛ばす。
固いブロック塀で背中を打ち、少女はそのままへたりこんだ。
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/21(木) 12:50:43.67 ID:sjCLmELAO
2・love vampire
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/21(木) 13:07:42.56 ID:sjCLmELAO
「威勢良く喧嘩売ってきたわりにはあっけなかったな」
勝ち誇ったような笑みを浮かべて言いながらも、鋼介はほんの少し苛ついていた。
少女の頬を打った際に当て損なったのか、右手がやけに痛む。
自分らしくない失態に鋼介は舌打ちをした。
「おい? まさか落ちてるんじゃないだろうな。お前まで僕を失望させるのか?」
少女の長い前髪を掴み、無理矢理立ち上がらせて頬をはたく。
「ん……」
一瞬だけ眉を顰めて目を開けると、少女は鋼介の首に腕を回した。
「……強いね、ていうかエゲツないねぇ。で、これから何してくれるのぉ?」
少女の吐息は生温い熱を帯びていた。
柑橘系の香水の爽やかな香りと少女の妖艶な吐息は混ざり合い、鋼介の視界を茹だらせる。
「急かすなよ」
鋼介の眼鏡の奥の瞳が爛々と輝く。
溢れ出る破壊衝動を抑えようともせず、鋼介は全力のアッパーカットを少女の顎に向けて繰り出した。
45 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/21(木) 13:21:03.55 ID:sjCLmELAO
頭上に唾を吐くような、そんなあからさまなしっぺ返しだった。
「つっ……!」
鋼介の拳は確かに少女の顎を打った。その筈だった。
鋼介の頭の中ではこの少女が自分に蹂躙される事が既に規定事項だった筈。
だが粛清を受けたのは鋼介の方だ。
「……お前、一体僕に何をした……?」
「私はなーんにもしてないよ。君が勝手に殴ってきて勝手に痛がってるだけだもん」
少女の顎を打った時の感覚は人間の顎を打った時のそれとは大きく異なっていた。たとえるならそう、鋼、鋼鉄だ。
「いってぇ……」
患部を恨めしげに見つめる。熱を持って腫れ上がった指は運が悪ければ骨折に至っているだろう。無論鋼介が不良生徒に負わせた怪我と比べれば掠り傷のようなものだが。
「ねぇねぇ。君に聞きたい事があるんだけど」
痛みを堪える鋼介の顎を細い指で持ち上げ、少女はあどけない表情で言った。
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/21(木) 13:44:57.46 ID:sjCLmELAO
「痛いって、どんな感じ?」
光の無い真っ暗な瞳が鋼介を飲み込まんとする。
「お前……。一体何者だ……?」
「灰宮 友里(ハイミヤ ユウリ)。二年生の君と同じドロップアウト組だよ」
ドロップアウト。何故か鋼介にはその言葉が重く聞こえた。
劣等生に劣等感を抱くなど、鋼介にとっては初めての体験だったからだ。
「自己紹介はこのぐらいで良いでしょ? 早く目茶苦茶にしてよ。泣くまで痛め付けて、捩じ伏せてさ。じゃないと……」
少女、灰宮 友里は鋼介の首に細い指を這わせた。
鋼介はひたすらに思考する。無痛症、否、それでは顔に傷一つついていない理由にはならない。となれば考えられるのは一つだけだった。
「ドラッグを使ったのか……?」
友里は笑みを浮かべたまま小さく頷く。
「正気か!? 無許可でのドラッグの運用は校則どころじゃない! 法に触れるぞ!」
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/21(木) 14:11:12.01 ID:sjCLmELAO
友里は鋼介が叫ぶ様を酷く冷めた目で見つめていた。
「校則? 法? なにそれつまんない」
直後に嫌な音が鋼介の頭に響く。
徐々に視界の端が赤く染まっていき、首筋が強烈な痛みを訴えている。
「かは……っ。やり……。やがった……」
呼吸すらままならない。
闇雲に腕を振るい友里の肩を掴もうとするも、彼女は既に一歩身を引いて鋼介から視線を外していた。
「ころ──。ひゅっ──。ころし──っ。やる──っ!」
自分はもう駄目だ。そんな予感はしていたが今の鋼介は殺意を尖らせなければ自我すら保てない。
「もう良いよ。私、君みたいな口だけの子って大嫌いなんだ」
突き放された。突き落とされた。突き飛ばされた。突き出された。
敗北感ではない。心の何処かがすっぽりと抜け出したような喪失感。
鋼介は突拍子も無い自分の気持ちに気付いた。
「フラれた……か」
ほんの数分の僅かな邂逅の中で、多々良 鋼介は灰宮 友里に惚れてしまっていたのだ。
自分の愚かさに気付くと同時に鋼介は意識を手放した。
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
:2011/07/21(木) 14:16:32.36 ID:sjCLmELAO
おわりー
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/22(金) 10:53:51.72 ID:1qaq8ACAO
鋼介が目を覚ますと、そこは消毒液の匂いが漂う真っ白な医務室の中だった。
「ん……」
混濁する記憶、意識の糸を手繰り寄せてゆっくり上体だけ起こすと、首筋がじくりと痛む。
「スイートルームのベッドの寝心地はどうだい?」
「……悪くない。ルームサービスでモーニングステーキでも持ってきてくれれば百点満点だな」
ベッドの隣で天野がパイプ椅子にどっかりと腰掛けて、何やら小難しそうな分厚い本と睨めっこをしていた。
普段はかけていないシャープなデザインの赤縁眼鏡が奇妙な存在感を放っている。
「七時か……。そう言えば放課後はアンタのせっか、じゃなくて補習だったな」
「いんや、それはもう良いよ。怪我が治ってからにするから」
鋼介が折檻と言いかけたのが気に入らなかったのか、天野は細長い指で鋼介の首を包帯越しにつついた。
「それよりもお前何してたんだよ。一緒に倒れてた三人はプロレスごっこしてたって言い張るしよ、隠れて決闘でもしてたのか?」
「いや…………」
一瞬言葉が詰まった。
突如現れて煙のように姿を消した灰宮 友里。この怪我の原因が彼女であると今ここで喋るのは、何故か憚られたからだ。
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/22(金) 11:09:17.93 ID:1qaq8ACAO
「頭の中がごちゃごちゃしてて……。よく思い出せない」
鋼介は大仰に頭を抱えて悩むふりをした。
「ふーん、まぁ言い辛いなら聞かねーけどさ」
付け焼き刃の縁起が天野に通じる筈もなく、逆に見透かされたような擦れた視線を浴びる羽目になってしまう。
「取り敢えず目も覚めたし後は検査を受けて退院だ。帰りに飯でも奢ってやっから早く終わらせちまうぞ」
「高くつくぞ?」
「良いよそれぐらい。唐木に聞いたけどお前ここ最近掛け蕎麦しか食ってねーんだろ?」
哀れむような微笑みが鋼介には気恥ずかしかった。
だが久し振りにまともな食事が出来ると思うと、普段塗り固めた傲慢の壁も少しは崩れる。
「……取り次いでくれ」
鋼介が控え目に言うが、既に天野は備え付けの電話で医者に連絡していた。
灰宮 友里。ドラッグ。無認可使用。
考えると気分が悪くなってきたので、鋼介は大きく伸びをして再びベッドに横たわった。
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/22(金) 11:22:17.29 ID:1qaq8ACAO
────。
検査自体は簡単に終わった。手足が正常に動くか、声を出すのに不自由はないか。それだけ確認すると医者は小さな豆粒状の鉄の玉が入った筒状のケースを鋼介に手渡す。
「一日に二回、これを開けて患部に添えて下さい。六時間間隔を空けてくれればいつでも構いませんので」
「はい」
医者の話によると鋼介の首には治療の際にドラッグが埋め込まれたようだ。
だが鋼介はそれを聞いても気味が悪いとは思わず、むしろ便利なものだと感心すらしていた。
人間の脳波、或いはそれに似せて作られた擬似電波に呼応してコアと呼ばれる部分が回転し、更にそのコアの回転数を読み取って液状の金属があらゆる形状に変化する。
なるほど便利なものだ、と鋼介は心中で呟いた。
蛇足ではあるがここで使われているドラッグは皮膚の形を取って鋼介の患部に張り付いている。
コアの部分は病院側で厳重に保管、操作されており、ドラッグを通して逐一患者の状態を把握し、皮膚の回復に合わせて形状を変えるという代物だ。
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/22(金) 11:41:52.50 ID:1qaq8ACAO
「すみません、お世話になりました」
「いえいえ、私らはこれが仕事ですから」
天野は深々と医者に頭を下げていた。
普段は横暴な態度の彼女が遜る姿は、鋼介を複雑な気持ちにさせる。
「うっし、行こうか」
踵を返すと天野は普段のフランクな振る舞いに戻った。
立ち上がる鋼介の肩に手を添えて、同じ歩幅で歩きながらその場を去る。
「なぁに難しそうな顔してんだよ」
病院の玄関を前にして天野が鋼介に問い質した。
「……大人ってのも大変だな」
「おいおい、普段の威勢はどうしたんだよ。すっかり借りてきた猫みたいになっちまいやがって」
「うるさい」
がしがしと頭を掻き撫でられ、鋼介は天野の脇腹を肘でつつく。
やはり子供扱いされるのは気に食わないらしく、徐々に緩んできた仏頂面も元に戻っていた。
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/22(金) 12:05:47.77 ID:1qaq8ACAO
「何食べたい?」
「肉だ、言っとくが僕は外国産の肉は食わないからな」
車に乗り込むと同時に酷く偉そうに吐き捨てる。
天野がそれを嘲るように鼻で笑ったのが気に食わなかったようで、擦れた目で窓の外を見つめた。
「じゃあ五番区の『あかや』だな。お前ん家は十番区だったよな?」
「五番区って……。あそこは一人前で諭吉が飛ぶような店ばかりじゃないか」
がたりと助手席が揺れた。
天野は何も無かったかのように細巻きの煙草を取り出し、窓を開けて火を点す。
「なんなら六番区のファミレスでも良いんだぞ? アンタ生徒の前だからって見栄張り過ぎじゃないか?」
「あそこはこの時間混んでるから駄目だ。出来るだけ人が少ないとこの方が良い」
やけに険しい顔をして煙を吐き出す天野を見て、鋼介は咄嗟に身を退いた。
「馬鹿そんなんじゃないって。色々と大事な話があるんだよ」
「大事な話?」
靡く前髪を横に流しながら、鋼介は訝しげに首を捻る。
それを脇目で一瞥すると天野は一呼吸置いて言った。
「その傷つけたのってあの三人組じゃないんだろ?」
「…………」
鋼介にとって後ろめたい事など何も無い。
ただ面倒な事になりそうだと、鋼介はこの時どこかで予感していた。
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/22(金) 13:38:48.75 ID:1qaq8ACAO
高級ステーキハウス『あかや』。
店内は洒落たアンティーク調の置物や龍の刻印があしらわれた大きい皿、粋な色合いの暖簾などただかさ張るだけのものがあちらこちらに置かれており、統一性など欠片も無いごてごてとした空間だった。
「やっぱり高級店は店の雰囲気も良い。特にこの簾なんかが良いね」
「そうかぁ? 私にゃ見境なく溜め込んだゴミ屋敷にしか見えねーけどな」
グラスに注がれた水を一気に飲み干すと、天野は分厚い肉にナイフを入れた。
鋼介もそれに倣ってたどたどしくナイフとフォークを扱う。
「美味いな。噛まなくても勝手に口の中で溶けてくるよ」
一口頬張ると一瞬で口内を唾液が満たす。芳醇な肉の香りが鼻孔を突き抜け、とろけた肉の旨味が溢れ出て来た。
「はっ、今日は珍しく饒舌じゃねーか。そんなに此所が気に入ったか? それとも……」
紙ナプキンで口を拭い、天野は猫撫で声で言う。
「話を逸らしたくなるほど嫌なコトでもあったのかい?」
「…………」
鋼介の手の動きが止まった。
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/22(金) 13:54:07.43 ID:1qaq8ACAO
「……やっぱりアンタ食えない奴だよ。折角の飯が不味くなる」
「言うね、なんなら私の会計だけ済ませて此所にほっぽり出しても良いんだぜ?」
かちゃりとナイフが音を立てた。
鋼介は深く息を吐いて腕組みをする。
高い夕食に釣られたとなってはいつまでも黙っているわけにはいかないだろう。
「二年生の灰宮 友里。僕をやった女だ」
「──っ!?」
灰宮という名前を聞いた瞬間、天野の顔がみるみるうちに青褪めていった。
眉間を指で抑え、何かを考え込むように唸る。
「灰宮……。あの髪の長い女の子だよな?」
「ああ」
天野は鋼介の返事を聞くと崩れるように机に突っ伏した。
「マジかよ……。よりによってあの超問題児かぁ……」
あの天野をこうも苦い顔にさせる灰宮 友里とは一体何者なのだろうか。鋼介は控え目に尋ねてみた。
「まぁ手に負えない不良生徒ってやつだよ。馬鹿と天才は紙一重って言うだろ? 私はあの子はその紙一重の位置に居る人間だと思うね」
天野はむくりと顔を上げる。
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/22(金) 15:53:12.20 ID:1qaq8ACAO
天野はつらつらと灰宮 友里について語り始めた。
鋼介は一教師がここまで生徒の事を大っぴらに話していいものかと思ったが、自分に害があるわけではないので放っておいた。
一年の時は成績優秀だったとか。とにかく甘いものに目がないとか。身体が丈夫じゃないので保健室に行く事が多かったとか。
取るに足らない情報が垂れ流されてゆく途中で天野は苦虫を噛み潰したような顔をして言った。
「とにかく、あんまりあの子に関わるのは止めてくれ。お前にとってもあの子に取っても良くない」
鋼介は何となくこう言われる事を予想していた。
ステーキの最後の一切れを口にして、用意していた返事をする。
「断る。僕は自慢じゃないが今まで喧嘩で負けた事が無かったんだ。それをあんな糞ったれ売女に破られて、はいそうですかと引き下がれるか」
他の教師が聞けば顔を真っ赤にするであろう発言だが天野は違った。
「……分かったよ。私も教師だからこんな事言いたかねーけどさ、せめてこれだけ聞いてから考えてくれ」
鋼介が天野の言葉を予想していたように、天野も鋼介の言葉を予想していたのだろう。
やっぱりか、と言わんばかりに大きな溜め息を吐く。
「多分、灰宮 友里は人を殺した事がある」
鋼介は何も答えなかった。いや、何も答えられなかった。
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/22(金) 15:56:12.73 ID:1qaq8ACAO
おわりー
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/22(金) 17:30:14.55 ID:Us6x1xuIO
乙
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/25(月) 12:16:29.02 ID:n06O5JwAO
時計の針は一時を回っていた。
学生が活動するには些か遅過ぎる時間、しかし此所は喧騒に満ち溢れている。
「毎週毎週よく皆飽きないよね」
「週に一回しかないからこそ皆盛り上がるんだろうよ。毎日毎日勉強漬けじゃあ気が狂っちまうからさ」
洒落たバーのようなカウンターに腰掛けるのは黒のワンピースを纏った灰宮 友里。
カウンター越しで友里と共に室内の喧騒を見守るのは無精髭を生やし、ツイストパーマをかけた厳つい男。
ミラーボール、スポットライトの光が栄え、狂乱する叫び声や大音量のテクノが響く中で二人の平静さはある意味異質だった。
「でも最近は勝つ人も大体決まってるしなんかマンネリ気味だよ」
憂いを帯びたまなざしは喧騒の中央に向けられる。
数十人程度の人混みが円を作り、その円の中心には坊主頭の屈強な男と華奢な体付きで金髪の男が居た。
金髪の男の髪は汗で額に張り付き、表情を覆い隠している。
半裸になって肩で息するその姿は生まれたての小鹿のようだ。
「光(ヒカル)の野郎えらいバテてんな。こりゃもしかしたらもしかするかもしんねーぞ?」
「光クンに勝てるのは私だけだよ。それよりりっくん、バニラコーラちょうだい。キンキンに冷えたやつ」
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/25(月) 12:30:26.72 ID:n06O5JwAO
厳つい男が小型の冷蔵庫から瓶のコーラを取り出す。
仄かに瓶の中から香る甘い匂いは友里の興味を独り占めにした。
「じゃあ賭けでもしようか。光が勝ったらこのコーラは俺の奢りだ」
「もし負けたら?」
片目を覆い隠す長い前髪を払い、友里は男を見上げた。
「今夜はサプライズで灰宮ちゃんのストリップショーだ」
男は下卑た笑みを返す。
友里もつられて笑った。
「……良いよ。絶対光クンが勝つから」
瓶のコーラを片手に友里はカウンターを立つ。
漆黒を纏った彼女が一瞥すると喧騒を生み出す人混みは一斉に道を空けた。
「ひゅー……。まるで女王様だねぇ」
厳つい男は腕組みをしたまま笑顔を引きつらせた。
灰宮 友里の後ろ姿がどのように映ったのかは彼にしか分からない。
だがそれが途方もなく悍ましく、恐ろしいものである事は彼の表情から察するに容易い。
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/25(月) 12:49:49.61 ID:n06O5JwAO
友里が喧騒の中心に辿り着くと、そこには金髪の男が大の字に倒れている姿があった。
対立する坊主頭の男は涼しい顔をして鈍色に輝く鉄鎚を携えている。
状況から何が起きたのかは考えるまでもない。
「ひーかるクン」
金髪の男は自分を呼ぶ甘ったるい声を聞き、眉を顰める。
「ひゃはっ、パンツ見えてんぞ友里ぃ」
「そーゆーのいいから」
友里は咄嗟にワンピースの裾を掴み、まだ大量に余っていたコーラを金髪にかけた。
「うおっ、つめて──っ!?」
恐らく満身創痍であろう身体もこれには反応を示す。
数回転げた後に立ち上がると金髪は友里をきつく睨み付けた。
「ちょっとは目も覚めたでしょ?」
友里はからからと笑った。
それとは対照的に笑みを引きつらせた金髪はつかつかと友里に歩み寄り、彼女の顎を持ち上げる。
「この月原 光(ツキハラ ヒカル)にコーラぶっかけられんのは何処探してもお前だけだろーな。お陰様ですっきりばっちしお目覚めだぜ」
親指の腹で友里の下唇をなぞる。
友里は無抵抗で、むしろ心地良さそうだった。
62 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/25(月) 13:10:23.21 ID:n06O5JwAO
「来週はお前も参加すんだろ? ぐっちゃぐちゃにぶっ壊してやっから楽しみにしてろよ、ひゃっはははっ!」
汚い笑みにがなるような口調。それでも友里は薄く微笑んだまま表情を崩さない。
「掠り傷でも付けられたらちゅーぐらいならしてあげるよ。そっちこそ怪我して泣かないようにね?」
月原が何か言い返そうとしたその時、彼の頬を鉄鎚が打ち抜いた。
「ヒヨってんじゃねーぞ。敵から目ぇ逸らして女のケツ追いかけるぐらいならさっさとお家に帰ってパパのアレでもしゃぶってろ」
喧騒が一瞬にして静まる。
人間が真面に受けていい衝撃ではない。誰もがその事を理解していたのだ。
だがこの場でたった一人、楽観して事を見守る者が居た。
「何か言ってるよ光クン。やり返さなくていいの?」
灰宮 友里は月原が無事であると確信していた。
彼女が呼び掛けると同時に月原の腕が静かに動く。
自身の頬を捉えている鉄鎚に手を添え、何事も無かったかのようにそれを押し返す。
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/25(月) 13:35:33.61 ID:n06O5JwAO
「……お前ん家の性癖を人に押しつけてんじゃねーよ。てめーこそ家帰ってパパとママのアレでも眺めてマス掻いてろ」
それは一瞬の事だった。
宙が煌めくと同時に無数の刃が坊主頭を取り囲むように降り注ぐ。
「なっ──!?」
男は動揺ゆえに致命的な隙を生んでしまった。
数秒とない僅かな時間。だが月原 光にはそれだけあれば充分だった。
「はっ! ジャックポットってやつだ」
振り返ると同時に月原は右手を振り翳す。
煌めきと共に彼の手の中に生み出されるのは鈍色の拳銃。
打ち出された弾丸は銀色の軌跡を描き、男の額を捉えた。
硝子が割れるような音と共に男が持っていた鉄鎚は銀色の液体と化し、床にぶち撒けられる。
「まだやるかい? ドラッグの壁が無けりゃ今度は手前の血をぶち撒ける事になんぜ?」
「や、やらねーよ……。アンタの勝ちだ」
男の表情が青褪める。
返答を間違えれば本当に撃ってきそうな月原の気迫に彼は気圧されていた。
「ね? 光クンは強いんだよ」
脇で見ていた友里がか細く呟く。
同時に勝者を称える歓声が地鳴りの如く鳴り響いた。
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/25(月) 13:36:23.61 ID:n06O5JwAO
おわりー
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[sage]:2011/07/25(月) 16:25:43.31 ID:LLc/nW/AO
期待してる
読んでないけど
66 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/26(火) 11:15:47.87 ID:vkp2y89AO
六畳一間の部屋にカーテンの隙間から日の光が差し込む。
空調設備は押し入れにしまってある扇風機一台のみという環境の中ではこの時期の季節外れの暑さは過酷だった。
「暑い……」
目が覚めて一言目に多々良 鋼介は呟く。
露骨に舌打ちをするもそれを聞いて怯える者は居ない。
汗ばんだシャツを脱ぎ捨てると鋼介は遅れて鳴り出した目覚まし時計を引っ掴み、そのまま床に叩き付けた。
けたたましいベルの音は静止し、時計はネジやバネを撒き散らす。
「…………」
今年に入って何台目だろうか。
無駄にかさむ出費に憤る事はあれど出費の原因を作った自分の行動を省みる事はしない。
壊れた時計を軽く蹴飛ばすと鋼介は身の丈ほどの小さな水屋から買い溜めした乾麺を取り出し、朝食作りに取り掛かった。
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/26(火) 11:39:54.00 ID:vkp2y89AO
味気無い食事がもたらしてくれるのは満腹感だけだった。
鋼介はそれで良いと思っていたしその事に慣れてしまっていたのだが、昨晩の豪勢な食事を思い出すと久しく沸かなかった物足りないという感情が芽生えてくる。
「また奢ってくれないかな……」
今まで相手が教師という肩書きを持っているだけで条件反射的に敵意を剥き出しにしてきた反抗の権化のような鋼介だが、生まれてきて十五年と数ヶ月、天野にだけは僅かに心を許しかけていた。
「……っと」
未だに残る最高級のステーキの味の余韻に浸っていた鋼介だが、昨晩医者から聞かされた指示を思い出し、鞄から銀色の粒が入ったカプセルを取り出す。
蓋を開け、包帯越しに首筋の患部に押し当てるとかさぶたが剥がれてゆくような心地良い感覚が首をくすぐる。
十秒ほど続けてカプセルに蓋をして天井に翳してみると、鋼介はそれが心なしか大きくなっているように見えた。
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/26(火) 12:16:31.33 ID:vkp2y89AO
歯を磨きながら瞬く間に着替えを済ませ、寝癖で跳ねた髪も御座なりに、鋼介は施錠もしないまま部屋を出る。
真新しい寮の敷地を跨ぎ通学路に出ると、彼にとって懐かしい人物に出会った。
「おっ」
「あっ」
伸びきった半端なパーマをかけた茶髪。生やしっ放しの不精髭はあまりに学生服が似合っていなかった。
彼は巨大な体躯を揺らしながら鋼介に歩み寄る。
「お前……。鋼介か?」
「おっ、お久し振りです。羽野先輩……」
何処にいても仏頂面の鋼介は珍しく動揺していた。
それもその筈だ。
この男、羽野 睦也(ハノ リクヤ)は鋼介がこの世界で一番尊敬するオジー・オズボーンの次に敬意を抱く男なのだから。
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/26(火) 12:58:21.64 ID:vkp2y89AO
鋼介は一瞬にして感傷に浸り始めた。
だが懐かしい先輩との再開をぶち壊しにする甘ったるい声が鋼介の背後で響く。
「おーい、りっくーん」
振り返ると鋼介の視界を華奢な二本の足が覆った。
「ふみゅっ」
間抜けな擬音染みた声を漏らしながら鋼介は踏み倒される。
視界の端で揺れる黒髪のお陰で自分を踏んだのが誰なのかは直ぐに解った。
「灰宮ちゃん、ドラッグ使って飛び回るのは夜中だけにしとけって……」
「バレなきゃだいじょーぶだよ!」
踏み付けた鋼介を余所に勝ち誇った笑顔を浮かべる友里。
「鼻……。折れっ、折れた……」
四つん這いになって友里から離れる鋼介に更なる悲劇が待ち受けていた。
「退けゴルアァァァァァッ!!」
鋼介の目が捉えたのは金髪の目付きが悪い男が銀色のロケットらしきものに乗ってこちらに向かってくる姿だった。
「ひいいいいいいっ!?」
鋼介の人生で一番惨めな姿だっただろう。
両手で頭を抱える彼の頭上すれすれを熱波が駆け抜ける。
「あっははは! 君面白いねー」
差し出された白く小さな手は何故か鋼介には絹のように淡く見えた。
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/07/26(火) 13:12:15.75 ID:vkp2y89AO
二話おわりー
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/02(火) 11:12:47.15 ID:Al6AjFUAO
羽野 睦也。灰宮 友里。多々良 鋼介。
三人が並んで歩く姿は歴史の教科書なんかに載っている人類の進化の過程と似通っていた。
それに気付いているのはこの中では鋼介だけで、女の友里よりも自分の方が小さいという事実が気に入らないのか、ちらちら友里の方を見ている。
「ん、さっきから灰宮ちゃんの事見過ぎだろお前。つーか成り行きで見過ごしてたけどお前ら知り合いか?」
気怠そうに、だがそれでいて抜け目無く訝るのは羽野。
見た目とは裏腹に人の間に入る事が多い彼の一挙一動はだらけて見えるがその殆どには何かしらの意味がある。
「んーん知らない子。私はりっくんの知り合いかと思って何も言わなかったけど」
「なにぃっ!?」
対して友里と鋼介は条件反射で会話をする類の人間だ。
そこに他者を慮るという概念は存在せず、そういった人間が二人以上同じ場所に居るという事から考えられる事態は。
「羽野先輩……。僕はここまでコケにされたのは初めてですよ。今直ぐこの女をそこの路地裏に連れてって犯っちまいましょう」
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[sage]:2011/08/02(火) 11:28:13.00 ID:YhJcQoFAO
sageろ
需要ねぇよ
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/02(火) 11:28:37.54 ID:Al6AjFUAO
鋼介の場合はこんな発言も本気か嘘かが解らない。
羽野は苦笑いでこの場をやり過ごそうとしたが友里にはそんな器用なスキルは無かった。
「なんか子供が背伸びしてるみたいだよね見た目的にも。『私、君みたいな口だけの子って大嫌いなんだ』」
「やっぱ覚えてんじゃねーか!」
ギロチンのように鋭い下段回し蹴りが友里の足を打つ。
だが鉄板を殴ったような鈍い音と共に痛みを伴ったのは鋼介の方だった。
「〜〜〜〜っ!?」
「学習しないよねぇ。考えてミスを繰り返さないのが人間だと思うんだけど、君は猿なのかな? かな?」
友里は悶絶して蹲る鋼介に身を寄せ、耳元で冷ややかに囁く。
二人に軽い拳骨が振り降ろされたのはそれとほぼ同時だった。
「お前らは紐にでも繋いどかねーとろくな事にならないな。……ったく」
この時羽野が感じた、気苦労が増えそうだという予感は奇しくも的中する事になる。
条件反射で話す人間には緩和材が必要なのだ。
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/02(火) 11:30:37.70 ID:Al6AjFUAO
3・BLACK
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/02(火) 11:53:08.25 ID:Al6AjFUAO
「鋼介、お前は前からそうだったが少しは程度ってモンを知れ。誰彼構わず噛み付いてるからそんな怪我する事になんだよ」
「でも僕はちゃんと警告──」
「返事は?」
「……はい」
十番区を抜けて一番区に出る境。学校まで後丁度半分に差し掛かったところから羽野の説教が始まった。
鋼介が首の怪我の理由を話している最中、友里はまるで無関係と言わんばかりに宙を泳ぐ蝶をぼんやりと目で追っていた。
「おい灰宮ちゃん、お前もだぞ。穏便に済ませる気が無いなら──」
「あーあー聞こえなーい」
羽野の説教の矛先が自分に向いた途端友里は耳を塞いで子供の様にごね始めた。
「羽野先輩になんつー態度取ってんだコラ!」
「だから止めろって鋼介!」
憤り、友里に殴りかかる鋼介とそれを制する羽野。
友里は短いスカートをはためかせながら小走りで二人から距離を置くと、振り返り、酷くつまらなそうな視線を投げ掛けた。
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/02(火) 12:18:30.05 ID:Al6AjFUAO
「りっくん」
甘ったるい声色の中にどこか冷たい色が混じる。
一筋の風が友里の髪を靡かせ、隠れた片目が露になった。
「お説教するんなら、せめて何か一つでも私に勝ってみなよ」
羽野も鋼介も息を飲んだ。
見下された事に対して憤る余裕など無い。
それ程に、友里の瞳は冷たかった。
「なーんちゃって。お先にぃ」
ぱっと張り詰めた空気がほぐれてゆくのが解る。
目を線にし、歯を出して笑うと友里は二、三歩地面を蹴り、空高く舞い上がった。
彼女が駆る軌跡を銀色の飛礫が鮮やかに彩る。
「……あいつ、時々ああなるんだよな」
「…………」
遠い目をして友里が辿った軌跡を眺める羽野。
鋼介は何か考え込むように腕を組み、立ち尽くしていた。
「だんまりして何考えてんだ?」
「いや、見えそうで見えなかったのが悔しくて……」
相変わらずだ、と羽野は笑った。鋼介は真顔だった。
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/02(火) 12:19:22.61 ID:Al6AjFUAO
おわりー
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/02(火) 21:08:44.98 ID:FQ05aeuDO
乙 見てるぞ
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/03(水) 11:32:53.23 ID:LBoq68mAO
永和学園の他の学校には無い特色を挙げれば枚挙に遑がない。
離島の閉鎖された環境。成績によって変動する待遇から生まれる生徒間のヒエラルキー。一都市と言っても過言ではない規模を誇る島ゆえに生徒達に与えられる選択肢の多さ。
だがそれらよりもはっきりと他の学校とこの学校を区別するものは、高校の段階では珍しくドラッグの研究、開発、運用に精力的な事だ。
数十種類あるドラッグに関する講座の中から自分の進路に合わせて必要な講座を選び、単位として修得する。
その講座の中の一つがドラッグ構造の研究。鋼介が今受けている講座だ。
「おい、これどうやるんだ」
「……たまには一回の説明で理解出来るように努力しようぜ」
難しい顔をしてパソコンのディスプレイを睨み付ける鋼介。
理解は追いついてはいないものの普通科目の時の授業態度と比べれば非常に精力的である。
だがそれは隣の席で授業を受ける唐木も同様で、普段から真面目な授業態度もドラッグ科目の時は更に栄える。
目で追い切れない速さでキーボードを叩きながら、片手間で鋼介の席のキーボードを数回叩く。
するとディスプレイの画面が切り替わり、帯状のゲージに色が満ちていった。
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/03(水) 11:59:56.93 ID:LBoq68mAO
「おい、今これどうやったんだ」
「わりぃ、この講座だけは集中させてくれ」
嫌味な態度を取る事すら億劫なのだろう。唐木はぶっきらぼうに告げると作業に戻った。
ディスプレイの端に表示されたゲージはタイピングのリズムと共にみるみるうちに満たされてゆき、画面が切り替わった。
全ての情報処理が先読みしたかのように素早く、的確にこなされている
「先生、チェックお願いします」
生徒達がデータ処理に追われて四苦八苦している中で一人、唐木が最初に立ち上がった。
「……もう終わったのかい? どれどれ」
白髪交じりの髪をきっちりと固めた教師は重い腰を上げて唐木の席に歩み寄る。
「なるほど、このやり方でやったのか。一年生が取れる講座の中にこれを教えるものは無かった筈だが……」
「教わってません。自分で考えました」
唐木の即答に教師は目を丸くした。そしてその直後に数度強く頷く。
「ふむ……。流石だね、従来のやり方よりも効率化されている。プログラムに綻びも無い、百点満点だよ」
「っし! ありがとうございまっす!」
唐木が小さくガッツポーズをすると同時に教室がざわついた。
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/03(水) 12:26:24.21 ID:LBoq68mAO
「ははっ、唐木君はとても速い方だからね。皆も自分のペースで頑張りなさい」
温厚な笑顔を浮かべて教師が言うと生徒達は再び作業に没頭してゆく。
その中で唐木を除いてただ一人、鋼介だけが腕を組んだまま黙り込んでいる。
「多々良君、手が止まってるみたいだが……」
「うるせーあっち行ってろ」
嫌味な態度を取ったわけでもないのに鋼介は教師を一蹴する。
だが教師は目くじらを立てることもなく、苦笑いを浮かべるだけだった。
「多々良君、三分考えて解らない時は素直に人に聞きなさい。次同じところを間違えなければそれで良いんだよ」
教師が鋼介のキーボードに手を掛けようとしたが、鋼介はその手を軽くはたく。
「いい、自分でやる」
教師はやれやれと肩を竦め、教卓へと戻る。それ以上何も言わなかった。
「おい、こことここどうなってるんだ」
「……お前多分ろくな大人になんねーわ。つうか何でこの学校受かったんだよ」
二人のやり取りを聞いて唐木の隣の席の女子が噴き出した。
だが鋼介も唐木も何一つとして反応を示さない
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/03(水) 13:01:13.48 ID:LBoq68mAO
それから十分ほど経って、ちらほら手を挙げる生徒もいたが唐木ほどの評価を得られる者は居なかった。
データが書き込まれた従来のチップにゲル状のコーティングをするのではなく、液体金属のチップに直接データを書き込む。
勿論それに必要なスキルは易々と修得出来るものではない。
今の段階では間違いを指摘され続ける方が当たり前なのだ。
「あちぃなこの部屋……」
着崩した制服の襟で首元を仰ぎながら唐木は授業では扱う事の無い分厚い専門書を眺めている。
自身の座学の才に驕らず、ひたむきに知識を貪るその姿はまさに学生の鑑だ。
「おっ、やった出来た」
決して唐木に感化されているわけではないが、鋼介もドラッグ科目においては僅かながらも進歩している。
「…………」
劣等生の小さな前進。仏頂面が僅かに綻ぶのを脇目で捉える唐木の瞳がとても黒く、冷たかったのは誰にも解らなかった。
83 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/03(水) 15:01:24.55 ID:LBoq68mAO
結局鋼介は授業終了間際に規定のプログラムを組み終えた。
中には時間内に終わらなかった生徒も居るので結果としては十全だろう。
「次は運用の実習か、お前は?」
「俺は構造の理論講座。俺が居なくて寂しくないかーい?」
話を振っておきながら気色悪いと一蹴する鋼介。
「あっ、唐木君。ちょっと良いかい?」
二人揃って退出しようとしたその時、白髪交じりの教師が唐木を引き止めた。
「どうしました?」
「いやぁ、さっき見せて貰ったプログラムの組み方だけどとても良く出来ていたものだからね。差し支え無ければどんな勉強をしてるのか教えてくれないかな?」
漆塗りで仕上げられた扇子を取り出し、教師はずいっと歩み寄ってきた。
「はあ、一応大学入ってからも視野に入れてるんで基本教科書じゃなくて専門の本で自習してますけど……。こんなのとか」
外から見ても重たそうなバッグを漁り、分厚い本を二冊取り出す。
教師はそれを手に取ってまじまじと見つめると、時折感心したような声を漏らした。
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/03(水) 15:16:35.98 ID:LBoq68mAO
「へぇ、今時の若者って感じだけど真面目なんだねぇ。将来はどんな職に就こうと思ってるの?」
「ドラッグの開発が出来たら良いなと思ってます。出来たら兵器の」
「兵器? この御時世に兵器開発とは珍しいね。君なら医療系ドラッグの開発なんかで大成功出来ると思うんだが……」
隣で鋼介が不機嫌そうに貧乏揺すりを始めたのを見て、唐木の表情が引きつる。
「ドラッグの起源は汎用兵器ですから。技術も最先端だし俺は本来のドラッグの開発に携わりたいんですよ」
高校生にしてしっかりとした目標を持っている唐木に教師は感心させられっぱなしだった。
少し考え込むように腕を組み、教師は唐木の肩を叩いて言った。
「よし、じゃあ暇な時に僕のところに来なさい。良いものをあげよう」
「はあ、じゃあ今日の放課後にでも。俺達授業あるんで行きますね」
「はい頑張って。多々良君も時間取らせて悪かったね」
教師がフォローするも鋼介は待ち合わせに一時間遅れてきた者を見るような目で睨みつけた。
「……べつに」
踵を返すと同時に唐木の脇を肘で突っ突くと僅かに呻き声が漏れる。
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/03(水) 15:36:18.65 ID:LBoq68mAO
「さてと……」
唐木と別れ、ドラッグ運用の実習室に向かおうとしていた鋼介だが彼の足取りは重い。
まざまざと身近な者の功績を見せつけられ、やる気が著しく殺がれていた。
こういう時に意志が弱い者はやたらと周りに注意を向ける。
そして何かに託けて嫌な事から逃げる要因を探すのだ。
そしてそんな時に限って要因はあっさりと見つかる。
「灰宮友里……?」
鋼介が今居る場所は校舎の二階。
窓から真下を見下ろすと見覚えのある黒髪の少女が中庭のベンチで寝そべっていた。
三、四冊程度の教科書しか入っていない鞄を落ちないように脇で抱え、鋼介は窓の縁に足を掛ける。
「今度はちゃんと出れば良い。今はやる気が起きない」
わざとらしく片言で呟き、鋼介は二階から飛び降りた。
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
:2011/08/03(水) 15:36:49.21 ID:LBoq68mAO
おわりー
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/04(木) 13:43:58.01 ID:aSt57/JAO
渇いてもいないし湿ってもいない、真下から上へと吹き抜ける風が鋼介にとっては心地良かった。
落下地点はベンチで転た寝する灰宮友里の頭の数センチ真横。
衝撃を殺そうともせず、踏み付けるように着地する。
「ひゃっ──!?」
ベンチが跳ね上がった。
鋼介の目に映るのは友里の驚愕の表情。スローで動く世界で考える。
我ながら気色悪い。昨日会ったばかりの女にここまで固執するなんてまるでストーカーじゃないか。
艶めいた黒髪。アーモンドの形をした大きな瞳。絹のように白く淡い肌。
綺麗な彼女にとって何でもない僕に何が出来る? 何がしたい? 何をする?
考えるのも億劫になってきたから僕は灰宮友里の頭を掴んで、薄汚い地面に叩き付ける事にする。そうしよう。
と、動き始めてから一秒。必然、頭を叩き付けられそうになった友里は珍しく、本当に珍しく悲鳴を上げた。
「止めてっ!!」
友里が言って鼻先が地面に掠る。彼女に痛みは無かった。
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/04(木) 13:56:10.63 ID:aSt57/JAO
「その声が聞きたかったんだよ僕は」
「……性格悪過ぎ」
「知ってるよ」
珍しく鋼介は笑った。笑った顔が子供のようだと、友里は思った。
どっと出た冷や汗を拭うと友里は鋼介をきつく睨み付ける。
当然だ。出会い頭に一生ものの傷を負わされかけたのだから。
「しかし痛みを知らないみたいだから教えてやろうと思ったのに随分な言われようだな。教えて欲しくなかったのか? 目茶苦茶にシて欲しいんじゃなかったのか?」
「もしかして自分が悪い事してないと思ってる?」
お互い様さと更に口角を歪める鋼介。
昨日のとち狂ったような怒り。今朝の斜に構えたような仏頂面。そして今の、たとえるならヘドロが溜まった排水溝のように醜く粘っこい態度。
友里はそれらを統計として鋼介という人間について考える。
「あー……。分かった、私何となく分かっちゃったよこれ」
「は?」
「君変態さんでしょ?」
時が止まった。鋼介には言い返す事が出来る要素が何一つ無いから。
89 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/04(木) 14:10:07.32 ID:aSt57/JAO
やたらと饒舌だったのにいきなり黙り込んだ鋼介を見て友里は眉間を抑え、深く溜め息を吐いて……。
「あのさ、ちょっかい出したのはホントに悪いと思ってるんだよね。だから付き纏ったりするのは止めてね?」
「やだね」
「あーもう言うと思ったよ! 仮にも先輩なんだからそんなに馴々しくされても根本的に反応に困っちゃうんだよ!」
ここまでまくし立てたのはいつ振りだろうか。
懐かしい感覚と同時に湧き上がって来る記憶を感じると、友里は不意に息を飲む。
「……ふぅ。って言ってもどうせ着いて来るんだよね。授業は行かなくて良いの? 一年生は今日一日ずっとドラッグ科目でしょ?」
「僕はアンタと同じドロップアウト組だ。授業よりやりたい事があったらそっちを優先するよ」
切り口を変えてやんわりと鋼介を切り離そうとしたのだがそれは裏目に出た。
そうだった。同じ臭いがしたから絡んだんだった。
思い返して友里は後悔するも現状打つ手は武力行使しかない事を認める。
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/04(木) 14:22:20.21 ID:aSt57/JAO
「……ちなみにしたい事ってなに? それともシたい事だったり……」
「いやそんなサラッと変態発言されても困りますし……」
お得意の下世話なジョークも真に受けられた。
もう何なんだコイツ、いっそ殺したい。
「それと経験も無いのに無理に下ネタに走る女は傍から見てて滑稽だから止めた方が良いぞ」
前言撤回。直ぐ殺す。今殺す。右ストレートでぶっ飛ばす。
友里が男らしくも固く握った拳を鋼介の頬に捩じ込もうとしたその時、彼女にとって嫌なものが見えた。
「……痛かった?」
「痛かったさ。死ぬかと思った。でもアンタならまあ良いか、なんて思ったな」
「そんな変態発言されても困りますし……」
あらら、と鋼介は首に巻いた包帯を触った。
泣かせてやりたいとも思うがあまりにも心地良過ぎて、本来の自分は何処に行ってのか解らなくて。
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/04(木) 14:37:05.19 ID:aSt57/JAO
「ふん、まぁ良いさ」
何がどう良いのか友里にはさっぱり解らなかったが何かがまぁ良かったのだろう。
誰が見ても癪に障る小生意気なドヤ顔を浮かべ、鋼介はベンチから飛び降りて中庭の芝生に躍り出た。
「クソムカつくけど暇そうなアンタに頼みがある。授業に出たくない僕の暇潰しに付き合ってくれ」
頭おかしいんじゃないの? とか──。
気持ち悪いから帰って。とか──。
返って来るであろう色んな言葉を鋼介は考えたのだが……。
「……お昼までね。流石にお昼ご飯の時間までは一緒に居たくないよ」
「……お、おぉ」
「何なのその反応。すっごいムカつく」
「いや……なんとなく」
なんとなく、だそうで若干眉を引きつらせた鋼介は学ランで軽く手を拭き、友里に差し出した。
「楽しいトコ連れてってね」
友里は差し出された手を取った。
二人は誰かに見られているだとか、教師にバレるだとか、そんな事は何も考えていなかった。
そして案の定、見られていた。
92 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/04(木) 14:53:16.96 ID:aSt57/JAO
「おい光。下見てみろ」
「お前そろそろ俺に対する口の聞き方考え直した方が良いんじゃねーの? 一応俺三年だし……。ってなんだありゃ!?」
白に近い金髪とごてごてに左耳を飾る銀色のピアスが揺れる。
「お前はホントにリアクションに関しては裏切らないな……」
「いやいやいやいや。ありゃねーわ。何で友里があんな小僧といちゃこらしてんだ」
ひたすら呆れていた男だが鋼介をあんな小僧と呼んだ事に対しては反応する。
「あれは俺の後輩だ。あんな小僧呼ばわりは実際に会ってみてからにしな」
縮れた髪の毛をがしがしと掻いて羽野は口元を歪める。
「後輩? そんなにスゲー奴なのか?」
「凄いさ。それに多分俺の知り合いの中で一番あいつと気が合うのはお前だと思うぞ?」
「へぇ……。っとやべぇ! 遅刻する!」
名残惜しむように月原光は踵を返し、駆けてゆく。ピアスがぶつかりあう金属音がやけに五月蠅かった。
「なかなかどうして面白い事になりそうだな鋼介よ。だがその女は一筋縄じゃいかねーぞ?」
生暖かい視線を鋼介に送る。
久し振りの感覚。そしてこれから派手な事が起こるであろう予感は羽野を身震いさせた。
93 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[saga]:2011/08/04(木) 14:55:21.71 ID:aSt57/JAO
おわりー
94 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)
[sage]:2011/08/08(月) 18:05:57.09 ID:UpvGHBFAO
今北
見てるから続き書いてくれよ
95 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[sage]:2011/08/10(水) 16:59:02.03 ID:S8PXAOCAO
いやもう書くなよ
書くならsageろ
96 :
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(九州)
:2011/10/13(木) 19:46:12.39 ID:EtGGXNHAO
まだかよ
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