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とある仮面の一方通行 そのに -
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1 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 08:40:25.03 ID:kQbivQgpo
文字通りその二です。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1305990472/
前スレ
http://ncode.syosetu.com/n4477t/
にじファン
まあどちらも同じ内容だけど、にじファンはある程度まとまってます。ある程度(何と言う宣伝)
あらすじ
ワ や
レ ん
? の
か
// ,,--〃"```ヽ、
/.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:∧.:.:.\ お
⌒) . /.:.:.:.:.:.:/イ/ ノ .l.:.:.:.:.:.ヽ __ ?
.( /.:/.:/.:/" ヽ、\__ヽ.:.:.:.:.ヽ ,〃" ``ヽ、
.人__ ノ.:/.:/..:.:./ 从 .`o ヽ.:.:.:.:.Y / / /ミミミ\.\
_,,〃".:/.:.:.:..:/  ̄ ヽ、ゝ-}.:リ // ./ /i / ミヽ ヽ
.:.:.:.:.:イ.:.:.:.:.:.:.イ 入.`o /リ/ | / /// ノ ミ| ヽ \\
.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/ 〉 ----、 . ̄/.// | /| /,〃 ̄__,,イ´l ヾ⌒ ヽ .\\
.:.:.:.:.:. イ_ ノ \ `丶ヽ /.:/. | .|ゝ-イ::::::::::ヽ`´.ノ )ヘ
.:.:r". ̄ヽ ヽ. >、_ __./.:/ |ヘ ヘ,,<ィ´):::::::::::::::. r ' ヘ
/ ヽ 丶 <,.:.:.:.: ̄.:.:.:.:.:.:.:..'| リ 〉ゝ-〃::::::::::: ノ ヘ
.ヽ ヽ / ./\.:.:.:.:.:.:.:.:.:人_) ヽ l /_フ / |\|\|ヽゝ
} }// . 〉.:.:.:.:.:.:.:.ハ-' | .ゝ、____,, ..イァヽ_|
| |/ |.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ ノ ヘ ヘ ハ /`.r.<´ノ ヽ
┌^┐ 〉.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:) ∨∨∨ /\| || ヽ
《ヾ'll 〉.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ノ / ヾ.‖┌┐ ヽ
`´ |.:.:.:.:.:.:.:.:./ ヽ 〉 ヾ ∨ ヽ
|.:.:.:.:.:.:.:.( .) | ヽ
学園都市の超能力者、その第3位と第4位がひょんなことから(←状況を説明するのに便利な言葉)
自身の誇りをかけて全力で戦う事となった。
果たして、軍配はどちらに上がるのか―――
今現在『知略』対決にて『将棋』の真っ最中。『チェス』ではむぎのんに軍配が上がったが、こちらではどうだろうか。
乞うご期待!
って言うのはまるっきり嘘で、本当は一方通行が主人公でペルソナとか出てきます。
最近なんだかP3メンバーが出てます。
よかったら読んでやってください。と、私は平伏します。
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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(安価&コンマ)鉄血に狼の男が(機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ) part2 @ 2025/06/22(日) 22:47:53.63 ID:xiq+pvxz0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1750600073/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:08:31.92 ID:A9RjOWcxo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421311/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:07:56.06 ID:9l741hD4o
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421275/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:07:18.78 ID:XCIH42NJo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421238/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:06:42.32 ID:sMr/Yf+to
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421202/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:06:05.72 ID:A9RjOWcxo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421165/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:05:29.13 ID:9l741hD4o
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421128/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:04:47.30 ID:XCIH42NJo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421087/
2 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 08:43:04.19 ID:kQbivQgpo
一方通行は、全てを聞いた。赤裸々に、何もかも。
実験事故の原因と、幾月修司と言う男がそれを引き継いだという事。
それを阻止すべく動いたのが、一方通行の目の前に居る彼ら。
しかし、『それ』は一度起りかけた。
いや、起こったと言っても差し支えが無いだろう。
何せ、一人の男がいなければ、『それ』は実現したのだから。
『それ』とはすなわち、『滅び』。
『滅び』と聞いて、随分とまあ大言壮語なことだと思ったが、
先に女店主からある程度の話を伺っていたので、やはり嘘では無いのだろう。
それはさておき、『滅び』で終わったはずの世界が、終わっていない。
胡蝶の夢だとか、今見ているのは走馬灯だ、等と下らない問答をするつもりはない。
実際には、『滅び』は防がれたのだ。
――― 一人の男によって。
3 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 08:43:43.90 ID:kQbivQgpo
・・・
「……随分と、波乱万丈な1年を送られたよォで」
作り話だったら、純粋に面白い話だった。で終わっただろう。
しかし、これは実際に起きた事だ。
それが起きてからまだ1年も経っていないと言うのだから、ただただ驚くばかりである。
故に、少し砕けた口調での返答しか出来なかった。
無敵だの最強だのと息巻いていた自分が恥ずかしい。
無敵なら、最強なら『滅び』などちょちょいのちょいだろう。
しかし、その『滅び』を止めた男は、自身の命を楔にして『滅びをもたらす者』を封印したと言う。
『滅びをもたらす者』―――『ニュクス』は、それ自体に害意はない。
無意識的だろうと意識的だろうと、心のどこかで『滅び』を望む人間達が、『ニュクス』を呼び寄せるのだそうだ。
成程、確かにそう言われれば自身が滅びに、死に触れてみたいかと聞かれれば、完全には否定できない。
1度しかない『死』だ。1度しかない故に希少であり、おいそれと触れていいものではない。
分かりやすく例えるならば、高いブランド品を欲しがるようなもので、希少な宝石を欲しがるようなもので。
「1度しかない」と言う希少性が、人々に触れてみたいという思いを助長させるのだろう。
(やっぱ、上には上がいるもンだなァ……)
本当に、世界は広い。
井の中の蛙ならぬ学園の中の番長ってとこかァ?などと下らない思考が頭を巡る。
4 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 08:44:18.90 ID:kQbivQgpo
(……やっぱ、その男を助ける訳にはいかねェンだよなァ……)
少し、話がしてみたかった。
純粋に興味が出たのだ、その男に。
だがしかし、それは許されない。
何故なら封印を解けば、人々の想いはすぐにでも『ニュクス』に触れるだろう。
そうなったら、文字通り『滅ぶ』。
(まァ、俺みたいな部外者が助ける助けないなんて口出しすべきじゃねェな)
無粋で不躾で、何より無様だろう。
兎にも角にも、今重要なのはその男についてでは無い。
「お前らは、召喚器があればペルソナが出せるンだよな」
一方通行の問いに、桐条美鶴が肯定の意を答える。
「成程なァ。で、それは「適正」がねェと無理って事か」
まるで超能力みたいだな、と思う。
才能が無ければ使えない超能力。
適正が無ければ使えない召喚器。
と、ここで、不意に違和感が脳裏をよぎる。
5 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 08:45:07.94 ID:kQbivQgpo
(そォいや、いつかインデックスが言ってたっけか。「魔術は、非才の者が才ある者に対抗する手段だ」ってよォ)
いつだったか、たまたま街中で散歩しているインデックスを見かけるたびにいつものファミレスで飯を奢って魔術に関して色々と話を聞いていた。
その時、才ある者とは誰かとインデックスに尋ねたのだが、
世界には『原石』なる天然能力者が存在するらしい。
学園都市第七位もそれだと言う噂を聞いた記憶があるが、
果たして『才ある者』とはそれだけを指すのだろうか。
原石の正確な数は分からないが、現在判明している限りでは50余名だそうだ。
とはいえ、これから判明される原石がいるとしても、何百何千も居るとは思えない。
そもそも、そんなに居たらもっと目立つはずだ。
それに対して、魔術師の数を比較すると分かる事だが、余りに差が開きすぎている気がする。
非才が才に勝つには数で対抗するしかないのだろうが、それにしても差が開きすぎだろう。
原石が滅ぼされつつあるのか、それとも。
―――原石とは別の『才』があるのか。
桐条美鶴曰く「ペルソナを出すには『適正』が要る」そうだ。
すなわち、『適正』があればペルソナは出せる。
それを『才』と呼ばずして何と呼ぶのか。
6 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 08:46:05.16 ID:kQbivQgpo
(……考え過ぎかァ?)
余りに突拍子もない事を考えてしまった。
こうして『適正者』が簡単に一同に介している状況が、微妙に説得力を持たせているのが笑えない。
『才ある者』の行方も考察したいところだが、もう一つ気になる事がある。
「さっき説明した『マヨナカテレビ』についてなンだが……」
一呼吸ついて、続ける。
「お前らの言う『ストレガ』って連中みたいに、ペルソナを植え付けられた奴が居る」
布束砥信。無理矢理ペルソナを植え付けられた少女。
その言葉を聞いて、一同は驚愕する。
何せ非人道的な実験を以ってペルソナを植え付けてきたのだ。
今もなお、それが行われていると聞いて黙っていられようか。
「だが、今はあいつも召喚器無しにペルソナが出せる」
そして。
「もう一人、その召喚器を引き継いで『マヨナカテレビ』でペルソナが出せる奴が居る」
―――上条当麻。
自身の影と分離されてもなお、その影に飲まれる事無く生き続ける少年。
「ふむ……確かに、それだけ聞けば私達も『マヨナカテレビ』でペルソナを使えそうなものだが……」
チラリと一方通行の表情を見ながら、桐条美鶴は思考を続ける。
7 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 08:46:51.11 ID:kQbivQgpo
「……恐らく、無理だろォな」
「へ?なんで?」
召喚器使って出せる奴が居るなら、出せるんじゃないの?と、伊織順平は尋ねる。
「話でしかそいつらの事を聞いてないから分からないが、『特殊』な環境がそうさせたと考えるべきか?」
美鶴や一方通行もまた、真田明彦と同じ考えだったらしく頷いて同意した。
「鈴科がこちらでは使えないんだ。ならば私達も条件を満たさねば使えないのだろうな」
「そォだな。『マヨナカテレビ』の中で、自分の影と相対しなくちゃならねェが……
なンつゥか、お前らなら大丈夫そうな気もするが、そこまでしてもらうつもりはねェ」
ここまで聞かせておいて手伝わせる気が無いのか、と一同は突っ込みを入れたくなるが。
「あァ、勘違いすンなよ。現状ではお前らに出来る事は殆どねェンだ、実際。
こっちも分かってる事が少なすぎてなァ……だが、一つだけ分かった事がある」
―――タルタロス、と言う名の実験名ないしは計画名が、学園都市の中で見つかった。
「「!!」」
タルタロス。
忘れもしない、影時間にのみ存在した『滅びの塔』。
シャドウについて調べる過程で見つかったのだから、どう考えてもシャドウ関連だった。
8 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 08:47:21.54 ID:kQbivQgpo
「はっきり言って概要も内容も何もかも分かってねェ。所謂手づまりって状態だ。
だが、この『タルタロス』がお前らの言う『タルタロス』と同一のものだとしたら」
「……その時に、僕達の力が必要になる、って事ですね」
「そォだ。よくできたなァ、100点やろォか」
「……要りませんよ、そんな形の無いもの」
「まァ、このガキの言う通り、学園都市のどっかの学校を舞台とした『タルタロス』が出来るかもしンねェ。
そン時に備えて体でも鍛えとけ、ってとこかァ?まァ、桐条にはそれとなく学園都市の動きを見ていてもらいてェがな。
勿論会社側が損害を被らない程度で」
「あぁ、その位なら当然、やるつもりさ」
「頼むぜ、俺には『能力』って力があっても『権力』って力はねェからなァ」
「そうだよ、お前みたいなすげえ能力者が居ても、勝てない相手なのか?」
と、伊織はパッと思いついた質問をする。
それは割と核心をついた質問で、中々良い直感をしていると一方通行は内心褒めつつも返答をした。
「そォだな。だが、こうも考えられるぜ?「そう言った能力者共を抑えつけてるのが、一部の大人」だってなァ」
良くも悪くも優秀なのだ、学園都市の大人達は。
その言葉に息を呑む一同。能力無しに能力者と渡り合う科学力と言う者はすさまじいものがある。
とはいえ、能力者を生んだのが科学なのだから、当然と言えば当然なのだが。
「まァ、そう言う訳であンなクソ共の相手をお前らがする必要はねェよ」
「「……」」
学園都市の闇の一端、それの概要を教わった彼らは、それぞれが色々と考えこんでいるようだった。
9 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 08:49:20.52 ID:kQbivQgpo
・・・
「あ!そうだ!」
重苦しくなった空気を壊すかのように、岳羽ゆかりは一つ提案する。
「あなたって多分ペルソナの適正あるだろうし、召喚器使えばここでも出せるんじゃないの?ペルソナ!」
「「あ」」
そういえば、試していない。
確かに、召喚器があれば出せそうな気がする。
「……ふむ、ならばこれを使うと良い」
美鶴は自身の机の引き出しから、拳銃を取り出した。
その拳銃には、銃口がなかった。
「これは……」
「召喚器だ。別に私専用と言う訳ではないからな、それを頭にかざして引き鉄を引けば良い」
「ふゥン、それだけなら簡単だよなァ」
死の恐怖を一身に受け止め、それを乗り越える事で初めてペルソナが召喚できるものであり、
銃口を頭につきつける事ですら常人には躊躇われるし、引き鉄を引くとなると死を覚悟せねばならないと言うのに。
召喚器を受け取った一方通行は、ノータイムで引き鉄を引いた。
『ペルソナ』が出てくるよりも、その行動の速さの方に、一同は驚かされる。
「おォ出た」
一方通行の相棒たるシナツヒコ。
何となくだせるンだろォなと思っていたのだが、出せなかったら恥ずかしいので何も言わなかったが、内心出せて安心する。
現実世界でも出せる事に感動を覚えつつ、召喚器を返した。
10 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 08:50:33.12 ID:kQbivQgpo
「……私なんか、引き鉄引くのに相当時間かかったのに」
「あァ?お前が提案したってのに、なンでお前が不満そォな顔してンだよ?」
「う、ううるさい!!」
「……わけわかんねェな」
とにかく、これで用事は終わった。
後はもう帰るだけなのだが……
「おいオルソラァ」
「zzz」
立ったまま寝ていた。
しばらく口を開いていないと思ったら、いや口は開いていたがそこから漏れるのは寝息だった。
「……わりィな、うちのお嬢様がオネムだから帰るわ」
「「……」」
ポカンとした一同を尻目に、一方通行はオルソラ=アクィナスを小脇にかかえてそそくさと帰っていく。
そうして、残された面々は我に帰るまでポカンとしていた。
11 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 08:51:42.39 ID:kQbivQgpo
・・・
「何か……色々凄い人でしたね」
天田乾は最初に思った感想をそのまま口にする。
コロマルはそんな天田に寄り添い、不安げに鳴いた。
「……結局、俺達はどうしたらいいんだ?」
伊織順平はこれからについて考えを巡らせるが、分からない。
それもそのはず、まだ何も分かってないのだから、動き方が分かるはずも無い。
「それに関しては、桐条グループが色々調べてみよう。それよりも、私達自身はそうだな……」
桐条美鶴もまた、自分自身のこれからについて考える。
とはいえ戦いから長らく離れていた為、勘も取り戻せていないだろう。
ペルソナが使えないにせよ、体を鍛えるくらいはした方がいいはずだ。
「俺はいつもと変わらずトレーニングだな。だが、お前らは受験勉強もしっかりしろよ?」
既に大学生である真田明彦には関係の無い事だが、この中に3名程受験生が居る。
「うわ、先輩嫌な事思いださせないでくださいよ……」
せっかく頭の隅っこに追いやってたのに、と岳羽ゆかり。
最近は勉強ばかりだったが、久々に弓を持って来なければならないだろう。
睡眠時間、減るなあとしみじみ呟いた。
「私はその……頑張ります!」
能力の特性上、ペルソナを出さねば意味が無い山岸風香は、
とりあえず頑張る宣言をしてみたものの、何をがんばればよいのか。
「なら私も、しばらくラボにこもりましょうか」
最後に、アイギスは体内の武器を調整するべく、ラボにこもる事にした。
「あ!なら私もアイギスのお手伝いします!」
それなら出来る、出来ますやらせてくださいと、山岸はすごい勢いでアイギスに迫る。
アイギスは諸手を挙げ、それを歓迎することで、今後について考えさせられたこの一件は収束を迎えた。
12 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 08:52:20.92 ID:kQbivQgpo
・・・
桐条美鶴を残して、他の一同は家へと帰って行った。
何だかんだで長時間話し込んでいたので、かなり遅くなってしまった。
このような不測の事態とはいえ、皆と会って話せると言うのは非常にありがたい。
何よりストレス発散になった。
やはり美鶴という若き器には、まだまだ桐条グループの重圧は重すぎたと言う事だろうか。
何にせよ精進をせねばな、と美鶴はクスリと笑った。
すると、自身の机の上に一枚の紙が置かれていた。
それを拾い上げると、そこには。
『学園都市で『大覇星祭』ってのがあって、その時は外部から堂々と学園都市に入れる。
侵入が容易ではない学園都市で、警備を甘くせざるを得ない数少ない機会だ。
その時までに、召喚器を5丁用意を頼むわ。ついでに学園都市の能力者共を見てくのには丁度いい機会だろ』
一方通行からの手紙があった。
その内容は召喚器5丁の作成と、それの受け渡しの機会が書かれていて、
何とも周到な奴だと思うがそれと同時に召喚器を要求するとは図々しい奴だとも思う。
だが協力すると言ったのはこちらなので、すぐさま製作するよう指示を出した。
「全く、彼のおかげで随分と忙しい生活になりそうだ」
それを一方通行の前で言うと、「元々忙しいだろォ、社長さン?」などと返されそうだな。
と美鶴は一人、部屋の中で笑った。
13 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/29(金) 08:53:58.64 ID:kQbivQgpo
尾張です。
何か色々と自己解釈をしてペルソナと禁書の設定を合体させてるけどどうだろう。駄目?
駄目なら膝をついてやり過ごすしかあるまい
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/29(金) 09:15:48.58 ID:kQbivQgpo
あ、召喚器六丁に脳内訂正頼む
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/29(金) 09:33:45.66 ID:5S9kiZwRo
乙
外でペルソナ使うフラグが立った気がするぜ
>「そォだな。『マヨナカテレビ』の中で、自分の影と相対しなくちゃならねェが……
>なンつゥか、お前らなら大丈夫そうな気もするが、そこまでしてもらうつもりはねェ」
携帯アプリにペルソナ3エムという物があってだな
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/07/29(金) 10:01:58.56 ID:CMjl9T0AO
乙!
>>15
あれだよ、たしか記憶が残ってない設定だからノーカウントだよ
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鳥取県)
[sage]:2011/07/29(金) 11:43:07.27 ID:en1PNRE3o
ペルソナ適性≒魔術における「才能」みたいな一方通行の考察が少し気になった
ニャル様やフィレモン、イゴールとか需要な存在が比較的新しい神話(小説)や心理学からきてるからペルソナ使いの歴史って浅くて禁書の魔術の歴史と比べられるのかなと思った
でも決して駄目とは思ってるわけじゃなくてペルソナと禁書の設定を合わせてこれからどうなるんだろうと凄くwwktkしてる
長文失礼しました
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[sage]:2011/07/29(金) 16:50:28.82 ID:Cwb8rTcF0
言ってる意味がよくわからない
作中世界で実在しているニャルとかフィレモンのご年齢が、現実世界における元ネタの製作時期と関係あんの?
俺が馬鹿だから理解できないのか、ペルソナ作中にそういう設定があったのか
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鳥取県)
[sage]:2011/07/29(金) 17:52:10.12 ID:en1PNRE3o
>>18
今自分のレス読み返したら酷すぎた
すいません
>>1
、
>>17
無視してくれ
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/29(金) 17:57:07.44 ID:5S9kiZwRo
前スレ埋まったな
リクが通って俺歓喜
インデックスェ……そしてあの状況でハブられる上条さんェ……いやいるけど描写されてないだけかもしれないけどさ
>>16
あれやって「再構成書くならこっから召喚器なしにできるよなー」と思っただけで深い意味はないんだ
21 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/29(金) 18:15:51.25 ID:kQbivQgpo
才能=適性はこのSSスレを立てるにあたって考えてました。
まあこまけーことは後々後付けのごとく言い訳のごとく書くと思います。
禁書とペルソナの設定にそぐわない事もあるかもですが、生温かい目で見ていただけるとありがてーです
ちなみに、前スレの一番最後に書いたあれに、上条さんは呼ばれてません。
いつものウニ頭の彼が居ないと思い、その事を一方通行さんに尋ねたのですが、
「働かざる者食うべからず。だァ」
と言われました。
何の事かよくわかりませんでしたが、皆さんは何かをして、ウニさんは何もしなかったという事でしょうか。
よくわかりませんでしたけど、わかりました!
私はその後、お疲れ様です、とシフォンケーキ(砂糖少なめ)をサービスで持っていったのですが、喜んでいただけたでしょうか。
続かない。
書き溜めてきます
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/07/29(金) 20:11:51.18 ID:2VeI9hys0
>>1
スレ立て乙
>>21
渋柿飴持て行ったほうが…
23 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 22:54:34.71 ID:kQbivQgpo
透過すっかァ
24 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 22:56:38.11 ID:kQbivQgpo
現在地、見知らぬ、キャンプ場。
オルソラ=アクィナスを発見したものの、天草式の妨害により捕捉に失敗。
今はオルソラを追い掛けながらも、天草式の追跡を妨害したり逆に妨害されたりを繰り返していた。
とはいえ、いつまでもそんな事を続ける訳にもいかず、暗黙の了解的に夜には休戦状態へと入っていた為、
250人と言う大御所帯を抱えるアニェーゼ=サンクティスはたまたま見つけたキャンプ場に人払いをかけそこを拠点とする事にしたのだった。
だが、それはあくまでつかの間の休息で、互いに準備が整えばすぐにでも戦闘になる事だろう。
さて、その際にオルソラが追われる理由である『法の書』の解読の意味と意義について、
インデックスに話を聞かされたのだが、それが終わるのと同時に斥候から連絡が入る。
第一にオルソラの行方と、第二に天草式の潜伏先。
「学園都市?」
上条当麻は疑問と驚きを混ぜたような口調で聞き返した。
オルソラは『学園都市』に、天草式はその近くにある『パラレルスウィーツパーク』と言う、
お菓子専門のテーマパークに居ると言う。
前者は聞き覚えがあるのだが、上条の知る学園都市では無いと言った口ぶりで、
後者はそもそも聞き覚えが無い。
25 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 22:57:43.76 ID:kQbivQgpo
「うん?君も学園都市の人間のくせに、もう一つの学園都市の事を知らないのかい?」
遊園地はまだしも、学園都市は僕ですら知っているというのに、
とやや馬鹿にした口調で上条の質問に答えるステイル=マグヌス。
記憶喪失の上条にそれを求めるのはどうかと思うが、そもそもその事実を知らないのだから仕方が無い。
上条はステイルの口調にムッとするが、そこで反応しても話は進まないと気を静め、言葉を紡ぐ。
「オルソラってのと、その白髪はもう一つの学園都市に居るってことだな?」
「ああ、その通りだよ。……ある意味、君達の学園都市より手出しが難しい場所さ」
「何でだ?こっちほど警備が厳しいとこは無いだろ」
上条の住まう科学の街程、閉鎖的な場所は無い。
閉鎖的と言う事はそれだけ外部からの侵入には気を使っていると言う事だ。
「そうだね、君達の街は侵入は難しいし、対してあちらの学園都市……ややこしいな、『桐条グループ』と呼ぶ事にしようか。
学園都市そのものよりも、この桐条グループが厄介なのだから。
確かに、その桐条グループの方は、君が言う通り学園都市と比べて侵入自体は容易だよ」
ならどうして、と言う上条の声を聞くまでも無く、ステイルは続ける。
「学園都市は何だかんだ言って軍事力・科学力共に世界一と言って良いだろう。
だが、その軍事力は殆ど学園都市内に集中している。
逆に桐条グループの方は、宗家である南条グループと共に世界中に展開している巨大企業だ。
これに手を出す、と言う事は世界中に点在している桐条・南条を敵に回すと言う事なんだ。
さて、桐条グループと一言に言っても、それが着手している分野は数える事が億劫になる程の分野にわたって企業を展開している。
……ここまで言えば分かるだろう?」
「つまり、手出しをしたら物資の供給だとか、資金の供給だとか、
そう言った面で多大な被害を出す恐れがあるって事か?」
「まあ、そんな感じだね。ついでに言えば南条・桐条のいずれかもしくは双方に世話になっている組織すら敵に回すと言う事だ。
数の暴力は1の才能よりも恐ろしいよ」
本当に厄介な場所に潜り込んでくれたものだ、と吐き捨てるように呟くステイル。
しかし、上条の思考はそんなところには無かった。
26 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 22:59:16.73 ID:kQbivQgpo
(桐条……)
少し前に一方通行に連絡を取った時、そんな事を言っていた気がする。
話を聞けば聞く程、「白髪の男」が一方通行に思えてならない。
どうするべきか。
この事をステイルやアニェーゼに伝えるべきなのだろうか。
しかし、天草式の動向も気になる。
何せローマ正教を出し抜いてオルソラを襲撃したらしいのだ。
らしい、と言うのはローマ正教の斥候は天草式に襲われたらしく、その事実を確認した者が居ないのだが、
バス停に開いた正三角形の穴とそれに続く下水路と残された天草の術式が、
オルソラを襲撃したのだろうと言う事が容易に想像できた。
にも拘らず、そのオルソラは今桐条グループの学園都市に居ると言う。
白髪の男と共にいると言う事はその男が何とかしたのだろうか。
だとすると、やはり白髪の男とは……。
「……おい、おい!」
すると、その思考を遮るようにステイルが声をかけてきた。
「な、何だよ?」
「いや、君が急に黙り込むからどうしたのかと思ってね。君に頭脳労働は似合わないよ。
馬車馬のごとく働く方がらしい。余計な事を考えずにね」
「うるせえよ、余計なお世話って奴だ」
そうかい、とステイルは興味なさげにタバコと共に吐き捨て、
スタスタと何処かへ歩いて行った。どうやら何かを手伝いに行くらしい。
今現在、上条はテントの一つの中でポツンと座り込んでいた。
本来この時間は天草式に対抗するための準備期間と言うか、
それぞれがそれぞれの武器だの術式だのを整えたりしていたのだが、上条は魔術など使えない。
故に適当にフラフラと外を歩いていては、一言で言うと邪魔なのだ。
一人。
誰も居ない。
今なら一方通行に連絡を取っても良いだろう。
そう考えた上条は、携帯を手に取り通話ボタンを押した。
27 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 23:00:32.84 ID:kQbivQgpo
『……どォした?』
一方通行の声を聞き、少し安心する。
先程ステイルに言われた通り、頭を使う作業は苦手なのだ。
故に判断に困る状況は、一方通行や御坂美琴等に任せたりしていたきらいがある。
兎にも角にも、上条の取り巻く状況と、一方通行の状況を照らし合わせるべく話を始めた。
28 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 23:01:36.32 ID:kQbivQgpo
・・・
『……成程なァ』
上条当麻が話を終えると、一方通行は一言呟くように発して黙りこむ。
何か考えているのだろうか。上条は一方通行の次なる言葉を待った。
『結論から言うと、オルソラは俺ンとこに居る』
『!』
その言葉にやはりとも思うが、ある程度の驚きもあった。
こう言った厄介事に巻き込まれるのは上条の専売特許と思っていたのだが、
どう考えても一方通行の方が渦の中心にいるだろう。
『だが上条、俺がオルソラを匿ってンのは、誰にも教えないで欲しい』
いや、インデックスがそこに居るのなら、インデックスにも伝えておけ。と一方通行は付け加えた。
『何でだ?』
純粋に疑問に思う。
ローマ正教にオルソラを保護させて、それで終わりでは無いのだろうか。
『まず一つ、科学の街の人間、それも頂点に位置するこの俺が、魔術師を匿うとなると色々問題がある』
成程。言われてみればそうだ。
上条とインデックスは、イギリス清教と色々な取り決めの元、一緒に住んではいるが。
今回一方通行とオルソラにはそれがない。
すなわち、今回の件で一方通行の存在がばれると一方通行だけではなく、
オルソラにも害が及ぶかもしれない。と言うのが一方通行の見解だ。
『成程……だけどさ、こっちじゃ「白髪の男」がオルソラを匿ってるって事になってるんだけど……』
『……一応、一般人の振りをしている』
その言葉の後、一方通行の後ろで誰かの噴き出したような声が聞こえた気がするが、何だろうか。
29 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 23:02:19.90 ID:kQbivQgpo
『ふうん、魔術師の事を知らず、たまたま桐条グループの学園都市まで案内したって事にするってことか?』
『あァ、そォいう事だ。後はバレないうちに学園都市にもどりゃそれで終わりだ』
『そっか。じゃあ俺とインデックスは、一方通行を見ても知らないふりしとけばいいってことだな?』
『それで良い』
『おっけー。それだけ分かれば十分だ……気をつけろよ?』
『俺を誰だと思ってンだよ』
その自信ありげな言葉に満足したのか、上条は電話を切ろうとするが、それを一方通行に止められた。
『どうした?』
『その「ローマ正教」とやらは、本当に味方なのかァ?』
『はい?』
それはどういう……と言ったところで、一方通行が「いや、なンでもねェ」と言うので、
そのまま電話を切ったのだった。
30 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 23:03:45.87 ID:kQbivQgpo
・・・
『ローマ正教とやらは、本当に味方なのかァ?』
一方通行はホテルのベッドに寝転びながら尋ねる。
上条当麻は意味がわからないと言った具合に疑問の声を上げたので、
すぐにそれを否定して通話を終えた。
何せ実際に会ったわけでもないので、信用が置けない。ローマ正教とやらも、天草式も。
何より、『敵意』ある視線と『そうでない』視線。
常識的に考えると、『敵意』ある視線が天草式となるのだが。
(それに、オルソラが何も言わねェのが気になる)
オルソラ=アクィナスは、ローマ正教の人間……らしい。上条が言うには、だが。
ならば何故、オルソラは『ローマ正教が来ているというのに、一方通行にそこへ連れて行ってもらうように頼まないのか』。
それは短い時間とは言え、オルソラと共に行動し、
更にはローマ正教を知らないが故に出来る客観的な見地であり。
何より、『知らない魔術師』が基本的には信用できないと言う経験則であった。
(言いがかり甚だしいけどなァ)
もしも本当に味方だったら謝らなければならない。
しかし、敵だったら?
『法の書』と言う魔術サイドにとって、かなり重要なファクターを担う存在を解読したと言うオルソラが、
どういう目にあう事になるのかは、明白だった。
この一件に、どう落ちをつければいいのか、一方通行ですら判断しあぐねるものだった。
(まァ、とりあえずは桐条グループだなァ)
どのようにして桐条グループに近づくか。
まどろむ思考の中、一方通行は明日考えればいいやと眠気に身を委ねるのだった。
31 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 23:04:38.89 ID:kQbivQgpo
・・・
上条当麻は慣れない頭脳労働に従事している。
先程電話で言われた『ローマ正教が味方か否か』と言う事について。
現状ではどう見ても味方であるのだが。
確かに、人には誰だって「裏側」が存在する。
それはテレビの中で何度も体験したではないか。
とはいえそれとこれとは話が別なのだが、何年来の友人とか言う訳でもないのに、
何となく「立場的にはローマ正教が正義で天草式が悪」だと勝手に思っていた。
事はそう単純ではないのに。
テレビのニュースを見て事件の全容を理解したと勘違いする視聴者の様に。
何処か他人事のように思っていなかっただろうか?
(あーもう、ホントに馬鹿だな!!)
渦中の人物は一方通行で、自分は脇役。
そんな下らない事を考えて思考を放棄するとは何事か。
考えるのが苦手と言うのは免罪符では無い。
苦手なりにも考える事を諦めるな。
分からないなら教えを請えばいい。
勿論、信用のおける人物に。
信用のおける人物は、この目で判断すればいい。
上条は、考え過ぎて痛くなった頭を冷やすべく、そのまま仮眠につくのだった。
風呂を覗いたり、幼女が布団にもぐりこんで来る等と言った事件も無いままに。
32 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 23:06:11.56 ID:kQbivQgpo
・・・
「で、俺の目的はあっという間に達成されちまった訳だが」
ホテルの一室、眞宵堂で「買い物をした」と言う名目を作る為、
何となく買った十字架のアクセサリーをゆらゆらと揺らしながら、
お前はこれからどォする?と言う視線をオルソラ=アクィナスに送る。
テレビの中に誰かが放り込まれる事態があれば、すぐにでも戻らねばならないのだが、
幸い今のところそのような事は起きていない。
そんな訳で、1週間と言う期間の内まだ2日しか経っていない状況をどうしたものかと考えているわけだが。
「……その十字架」
不意に、オルソラが呟く。
「あン?欲しいのかァ?あの女店主が言うには二束三文にもならねェもンだろォ?」
まァ欲しいってンなら、やる。と、一方通行は十字架を握り手渡そうとするのだが。
「……あの、出来ればそれを、貴方様が私に掛けて頂きたいのでございますが」
「ハァ?」
何故そんな事が必要なのか。
よくわからないが、よくわからない発言をするのは今に始まった事では無い。
とはいえ今のオルソラには、それを為す事が重要であると言った、何か意志めいたものが感じ取れた。
別に減るもンでもねェし。いや、減る減らないの問題でもねェか。とか思いながらも、了承した。
一方通行は溜息をつくと、オルソラの真正面に回り、抱き寄せるように手をオルソラの首周りに回す。
そしてカチリと言う音が鳴ったところで、一方通行は手を離した。
「……よくわかンねェが、これでいいのかァ?」
「はい、ありがとうございます」
オルソラはニコニコと微笑みを浮かべながら、十字架を撫でる。
(別に正面から回る必要無かったな)
正面から掛けろと、変な電波を受信したらしい。
終わった事はもういいや、と言わんばかりに一方通行は思考を打ち切る。
33 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 23:07:02.85 ID:kQbivQgpo
「で、だ。ストレートに聞くが……『敵』は、ローマ正教でいいのかァ?」
核心をついた質問。
女店主の様な人間を相手にするなら、このような聞き方はしないのだが。
相手はオルソラで、余計な問答は無駄だろう。
自分の体が震えるのを止めようとして、
それが失敗したかのように小さく肩を揺らした。
それだけで、答えは分かる。
(厄介な事が増えるなァ)
とはいえ、オルソラにも『預けた』のだ。
自身の抱える『モノ』を。
見捨てる、と言う選択肢は初めから無かった。
34 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 23:09:15.33 ID:kQbivQgpo
・・・
午後11時。
元々人が多く住まう地域では無かったのか、辺りは暗闇と静寂に包まれていた。
「さて、準備は出来ましたか?」
アニェーゼ=サンクティスはローマ正教のシスター達に尋ねる。
答えは、聞くまでも無かった。
「恐らく、天草式の『渦』の性質上、敵もうかうかしてらんねーはずです。
つまり、敵方の作戦としては少数精鋭により、『渦』の発動直前にオルソラ=アクィナスを奪取、すぐさま逃走と言ったところでしょうか。
こちらからオルソラを保護に向かおうとしても、天草式の邪魔が入っちまいますので……
私達の作戦としては、オルソラを奪取した事で有る程度動きが制限される奴らを強襲する形になります。
こちらの勝利条件は、『渦』から奴らを逃がさねー事です」
『渦』とは、天草式の特殊な術式で、簡単に言えば『劣化版どこでもドア』だ。
何処でも行ける訳ではないが、『渦』が設置されているポイントへならどこの『渦』からでも移動できるというもので、天草式にしか使えない。
すなわち、『渦』から逃げられれば『隠匿』に長けた天草式の面々を、捕捉する事は不可能になる。
そもそも、天草式にオルソラを奪取させない事が一番好ましいのだが、
天草式なら少数で桐条グループにもばれずオルソラを誘拐するくらいは出来るだろうが、
ローマ正教は統制された数を以って殲滅する事を得意としている為、どうしても桐条グループの目についてしまうだろう。
そうなった場合、互いに不利益になるだろう。
別に桐条グループと敵対したい訳ではないのだから、
ならば一時の危険位はオルソラに請け負ってもらう必要があった。
作戦の概要と、戦力の配置をアニェーゼが振り分けて行く。
そして作戦会議が終わり、その場には上条とステイル=マグヌスだけが残ったが、ステイルの表情は険しかった。
「どうした、ステイル?」
上条には、ステイルが少し、いやかなりイラついているように見える。
苦虫を噛み潰したような表情をするステイルは、
「なんだい?僕は今とてもイライラしているんだ。話はこの戦闘が終わってからにしてほしいね。
まあ、終わった後に君が生きていれば、の話だけど」
上条の心配を不要と切って捨てた。
しかし、本当にイライラしていたのか、独り言を吐くように上条に愚痴り始めた。
35 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 23:10:55.20 ID:kQbivQgpo
「『法の書』がどうというんだ。第一こちらにはそんなものよりもずっと重要な『禁書目録』が居ると言うのに。
どうして『法の書』ごときの為に、天草式の『渦』の設置地点の特定の為に、インデックスが前線に赴かねばならない?」
危機管理能力が欠乏しているとしか思えないね。
と忌々しげに言い放ち、更に愚痴り続ける。
「大体、「この決定はローマ正教従20億人の総意だと思え」なんて言われたら断れないに決まってるじゃないか!
その上僕が護衛をしようとしたら、「私らは統制された動きに重きを置いているので、部外者は下がっててください」だと!?
だったら最初から僕なんか要らないじゃないか!!
ふざけやがって、インデックスに何か有ってみろ!あいつらオルソラごと燃やしつくしてやるからな!!」
英国紳士には似つかわしくない暴言の数々で、ローマ正教の部隊の指導者であるアニェーゼを罵倒する。
その必死さから、インデックスを思いやる余りに、と言う気持ちがにじみ出ていた。
ちなみに、ステイルと上条の主だった任務は「もし仮に『聖人』が武力介入してきた時、それを撃退」と言うもので、
本当に来るかも分からない『聖人』を後方で待ってろ、と言うのだ。
すなわち、それは遠まわしに戦力外通告をしているようなものだった。
「なあステイル、お前さ」
「なんだい、さっきも言ったけど今僕は虫の居所が―――」
「インデックスの事好きだろ?」
「ぶはっ!!!?」
「おお、図星か」
「なな……君は何を……」
「つーかさ、「後方待機」とか言うけどよ、ステイル。お前待機する気ないだろ?」
「……当然だ。例えそれが命令された事だとしても、命令違反でローマ正教やイギリス清教と敵対する事になっても、
僕は彼女を守ると決めたんだ。だから誰だって殺すし、誰だって燃やす。
僕が今こうしてあいつらの命令を聞いているふりをしているのも、それが彼女の為になるからだ。
『禁書目録』の有用性が示せなければ、インデックスは今すぐにでもイギリスに強制送還だろう。
それはインデックスの望む事では無い。だから僕は奴らの作戦に乗る」
まあ、インデックスに危険が及ぶようなら、命令は無視させて貰うが。
と、散々愚痴って落ち着きを取り戻したステイルは、タバコをふかしながら投げやりに語る。
「誓ったんだ。例え彼女が全てを忘れても、僕は何一つ忘れずに彼女の為に生きて死ぬ、と」
その思いは、恋にしては重すぎて。
その思いは、愛にしては一方的で。
その思いは、どこまでも狂信的で。
その思いは、どこまでも人間味を帯びたものだった。
36 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 23:12:40.76 ID:kQbivQgpo
・・・
午後11時。
天草式教皇代理の建宮斎字は、天草式十字凄教所属の47名と共に、
お菓子テーマパーク『パラレルスウィーツパーク』に潜伏していた。
何故なら、この場に天草式の特殊移動法『縮図巡礼』の移動ポイントである『渦』が存在している為、
潜伏するのに『渦』の近くに居た方が便利だからである。
このパラレルスウィーツパークなのだが、地元では非常に人気のある場所で、
日中人がひっきりなしに行き来している。
何故そのような目立つ場所を、潜伏先に選んだのか?
まず一つ目に、目立つと言うのは敵も同じ事なので、
日中人の目がある時は、互いに手出しが出来ない、中立地点となりうるからだ。
次に、天草式という『隠匿性』に優れた魔術の方式によるものである。
天草の歴史は、日本が昔、鎖国をしていた頃迄遡る。
所謂『踏み絵』等が有名な例だろうか、鎖国をするにあたっての宗教弾圧は。
それから逃れるために、天草式と言うものは自身の所属を秘匿する技術に長けている。
例えばあからさまに術式や魔法陣を展開するのではなく、日常の作法、食べ物の食べ方、歩く距離、男女の配置など、
動きのいたるところにさりげなく魔術的な意味を持たせる事で、術式を展開して行くのだ。
故にこのように人が多い場所でそれを行っても、魔術の準備をしている等とは誰にもわからない為、
この拠点が桐条グループの学園都市郊外に有った、と言うのは僥倖であろう。
37 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 23:13:46.06 ID:kQbivQgpo
と言っても、この『渦』の設置は日本で最初の『日本地図』を作成したと言う伊能忠敬が行ったと言われている。
『渦』が設置されている地点は固定されている為、時が過ぎるとその周辺もまた変化して行く。
『渦』の上にセキュリティの厳しい建物――例えば銀行等が建てられてしまうと、
それだけでその『渦』は使い物にならなくなる。
この『パラレルスウィーツパーク』にある『渦』は、まだ運が良い方だろう。
兎にも角にも、作戦は制限時間がある。
作戦内容としては『白髪の男からオルソラを奪取して、
『渦』を以って別の場に逃げる』、であるが、『渦』が展開できる時間は午前0時から5分間。
すなわち、オルソラを奪取できなければそもそも話しにならないし、
奪取したところでその5分を逃せばローマ正教に負けるだろう。
今までローマ正教と渡り合っていたのは、『隠匿性』を用いた奇襲や不意打ちによるもので、
正面から堂々と相対せば普通に負けるのだから。
「さあ、我々の力をローマ正教に、何より女教皇様に示すのよな」
武器は持ったし、術式は備えた。
そして意気は昂揚している。
オルソラ達が泊っているホテルに侵入するのに10分、奪取に5分、渦まで戻るのに15分。
作戦決行は、午後11時30分。
後は、作戦決行の時が来るのを待つだけだ。
しかし、その作戦は唐突に中止を迎える。
―――貴殿らを見極めに参った。
少し前に聞いた、武人の言葉によって。
38 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/29(金) 23:16:14.07 ID:kQbivQgpo
尾張です。
時系列的には一方通行とオルソラが桐条グループの学園都市へ向かっている間らへんから始まってます
多分次回でこの話は終わるかな。
大体シェリー編の再構成っぽいのでもそうだけど、
一巻分まるまる再構成なんて無理だから色んな人の思惑とか動きとかバッサリカットせざるを得ないよねー
39 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/29(金) 23:20:27.59 ID:5S9kiZwRo
乙
>一方通行は溜息をつくと、オルソラの真正面に回り、抱き寄せるように手をオルソラの首周りに回す。
誰かに目撃されてるとしか思えない
>バッサリカット
まぁカットされた辺りは原作で補間すればいいな
原作と違う所を書いてもらえればおk
40 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/30(土) 00:34:06.91 ID:lqjAqMbuo
>>34
の1行目を、これに脳内変換してけれ
翌日、午後11時。日中は不気味なほど何も起きなかった。曰く、「桐条の総本山に、オルソラと白髪の男が向かった」らしい。
白髪の男に対する警戒が急上昇するまま、夜になっていた。
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/07/30(土) 04:05:09.75 ID:ofkcQLSE0
>>40
了解
三重点が、これほど面白いとは。
空想具現化してくれる
>>1
に心から感謝
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/07/30(土) 07:19:45.04 ID:7uRv9/Iy0
話には関係ないけどステイルがかっこいい
43 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/30(土) 14:08:32.18 ID:lqjAqMbuo
勇者ヨシヒコと魔王の城が面白過ぎて鼻水噴いた。
どうしてあんな面白いのをここまで見逃していたのか。
書き溜めてくるます。
44 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:23:32.95 ID:lqjAqMbuo
投下するわ。
次の投下で終わるとか言って、終わらないからキリの良いとこまで投下して、その次こそ終わらせるよう頑張るわー
45 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:25:06.40 ID:lqjAqMbuo
「あっはっはっは!!本当、お前は何者なのよな!?」
それを聞いた時、天草式教皇代理・建宮斎字は笑った。
普段から軽薄そうな口調で笑みを絶やさない男であったが、心の底から笑ったのは久しぶりである。
どうしてこのような『悪だくみ』が出来るのか。どう考えてもこの男、一般人では無い。
とはいえ、『ただの門下生である』と言われれば、追及する気にはならない。
遠まわしに「追求するな」と言っているのだろうから。
どうやら、オルソラから追われている原因を聞いたらしく、その内容は理解できないものだったが、
ローマ正教よりかは天草式の方がまだ信用できそうなので、
天草式に捕まったふりをしてローマ正教の出方を見ると言うのだ。
渡りに船とはこの事である。
こちらもローマ正教の『やり方』を知っている為、奴らの鼻を明かす事が出来るこの作戦に、
乗らないと言う事はありえなかった。
それに、この男の後ろにオルソラ=アクィナスも伴っているのだが、監視の目があったはずだ。
監視の目を単純な力を以って『消す』のではなく、どうやったかは知らないが『欺いて』ここまで来たのだ。
それも誰にも察知させず。
その背景には暗闇に乗じて光学迷彩を施した二人が、
堂々と『渦』という拠点に向かっていると思われる天草式について行ったというものがあるのだが、それは教えていない。
故に建宮はこの白髪の男の力は本物だと思う。
オルソラと共に行動しても、2人ともバレないようにここまで来られたのだが。
とはいえ前述した通り、『超能力』の恩恵があったのだが、どうやらバレていないらしく、一方通行もその事に対しては安堵する。
「……そォだな、お前も俺らの事を信用してはくれるみてェだから、俺も信用の証としてもう演技止めるわ」
やはりというか何と言うか、先程までのは自身の立ち場(その詳細は流石に教えられないそうだ)を隠す為の演技だと言う。
驚愕の真実とはこの事か。あまりにも唐突の事に、一同はピシリと固まり、オルソラの噴き出した声だけが鳴り響いた。
46 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:26:20.25 ID:lqjAqMbuo
・・・
「はっきり言って、俺はローマ正教が信用できねぇ」
誰も居なくなったテントの中、作戦開始まで15分と言ったところだろうか、
上条当麻はステイル=マグヌスに口を開く。
「……君のその発言、『20億人の信教徒を抱えるローマ正教』を敵に回す発言だよ」
ステイルの言葉は、諌めるような内容であるが、その口調は非常に楽しげで、
どこか同意しているように感じられた。
「ステイル、お前だって自分で言ったじゃんか。
『たった1冊の魔道書の為に、10万3千冊の魔道書を頭に納めたインデックスを危険にさらすのはおかしい』ってさ」
それはすなわち、『法の書』に10万3千冊の魔道書よりも価値があると言っているようなものだ。
とはいえ、そんな事はありえない。
もしそうならば、インデックスの存在に価値は無いからだ。
上条の「インデックスに価値は無い」という言葉にステイルはピクリと反応を示すが、
上条がそれを本気で思っている訳ではないと言う事は分かるので、上条の言葉を頭で噛み砕きながら、次の言葉を待つ。
「だけどさ、実際にはインデックスは最前線にかりだされてる。
別に『渦』とか言うのの特定と指示なら、後ろでもできるのに」
―――なら、何で俺やステイルを後方に追いやって、インデックスは最前線に居る?
そこまで聞けばステイルも理解出来る。
「……本当に君は上条当麻かい?君にそんな客観的な目線で物事を考えられるとは思えないんだが」
「失礼な、実際にこうやって考えてるじゃん。
……と言いたいとこだけど、実際には知恵袋が居る」
『白髪の男』、あれ俺の友達なんだ。
47 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:27:07.17 ID:lqjAqMbuo
「……はっ!!それじゃあ何か?これから始まるだろう茶番劇は、全てその男の仕組んだ事なのかい?」
ステイルは、先程までは『ローマ正教』を親の敵のように、
その言葉を口にするたびに憎々しげな表情を浮かべていたのだが、今はその『ローマ正教』に同情した。
数の暴力は1の才能よりも恐ろしい、とステイルは言ったが、一部訂正。
数の暴力は1の才能よりも恐ろしいが、そこに『知略』が介入したら話は別だ。
「まあ、そう言う訳でインデックスの安全は、俺達が上手く立ち回れば保障されるが……」
「……こんな話聞かされて、どうしてこの僕が黙って見ていられると思うんだい?
むしろ、どうしてこんな事僕に話そうと思ったね。裏切りは頭に無かったのかい?」
「そうだな、お前も俺の事認めた訳じゃないだろうし、俺もお前の事認めた訳じゃない。
だけどお前の『インデックスに対する思い』を信用……いや、信頼したからこそ、ここまで話せたんだ」
あれを味方につけて、得はあれど損はありえねえぜ?
と、上条は自身の友人を得意気に自慢した。
48 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:28:06.48 ID:lqjAqMbuo
・・・
この茶番劇の裏側を一方通行から教えられたのは、およそ1時間前。
ローマ正教らが作戦内容を煮詰めている頃に連絡が来たのだ。
『やっぱローマ正教は駄目だ。下手したらお前やインデックスも消す気でいやがるぜェ?』
信じたかったのだが、会って間もないローマ正教よりも、一方通行の方が信頼できる。
更に、その言葉は頭ごなしにローマ正教を否定するのではなく、具体的な根拠もあったし、
実際にオルソラ=アクィナスとも電話越しながら話して確信を持った。
オルソラは、ただ魔道書を何とかしたかっただけなのだ。
人々を不幸にしかしない魔道書を。
ただそれだけの事なのに、ローマ正教は一人の人間に力を持つ事を恐れたのか、
オルソラを異端として消すつもりらしい。
あわよくば、『禁書目録』というローマ正教の手中に無い重要な存在すらも。
ところで、上条当麻がここに居る訳は、インデックスにある。
彼女を守るために、ここまでやって来た。
それに害を為そうと言うのならば、ローマ正教がどういう思惑で、
各個人がどういう心持ちで動いていようが知らない。
天草式がどういう思惑で、何を思ってオルソラを助けようと動いていようが知らない。
絶対的な正義なんて無い。
絶対的な悪なんて無い。
ローマ正教から悪と罵られようとも、天草式が正義を唱えていようとも、そんな事は知らない。
自分達が絶対に正しいと思うなら。
―――まずはそのふざけた幻想をぶち殺す。
一方通行との通話を終えると、上条当麻は激情を抑えるかのように、
そのまま圧し折るかのような勢いで、携帯電話を握った。
上条には既に、「誰もが笑って終われるハッピーエンド」という幻想は霧散して、その考えは心に無い。
自身の影と相対した時に。
自身の影の苦しみを見た時に。
今回も、インデックスが優先順位の最上位に来ていたと言うだけだ。
とはいえ、ローマ正教の位置に誰か別の―――例えば土御門元春等が居たら、どちらも守る為に必死で走りまわっただろう。
今回は、インデックスや一方通行に味方する天草式と、たまたま利害が一致しただけだ。
兎にも角にも巡り合わせが違えば、ローマ正教の思惑に乗って天草式と敵対してしまっていたかもしれない。
何せ自分達を騙す為か知らないが、日中手持無沙汰だった時、色々とご高説垂れていたのだから。
今となってはあのような滑稽な演技など馬耳東風と言った具合に気にしないだろうが、
一方通行がいなければ間違いなく騙されていただろう。
(まあ、そんな仮定に意味が無いのは、よく知ってるけどな)
落ちつきを取り戻した上条は、誰も居ないテントの天井を眺め、今後の動き方に関して思いを馳せた。
49 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:28:49.70 ID:lqjAqMbuo
・・・
そして、各人の思惑が交錯し、舞台は整った。
50 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:30:43.77 ID:lqjAqMbuo
・・・
演目『茶番』
主演『ローマ正教、天草式十字凄教』
助演『オルソラ=アクィナス、一方通行』
演出『一方通行』
こんなものだろうか、今回の茶番劇のキャスティングは。
『パラレルスウィーツパーク』に、ローマ正教・アニェーゼ=サンクティスの率いる部隊のおよそ8割が集結し、息を潜めている。
残りの2割は桐条グループの学園都市に、オルソラを捕らえに行ったであろう天草式を追わせていた。
だがしかし、天草式十字凄教所属『47名』は『堂々と』一同の目の前に現れた。
「くっく、いかんよなあ。何やっとんのよローマ正教諸君。
君達がのんびり天幕で紅茶すすっとる間に、仕込みは全て終わってるぞ?」
建宮斎字は2階建の建物の屋上で、自身の武器、フランベルジェを部隊を率いるアニェーゼに向けて、笑う。
その後ろには両手を縄で繋がれたオルソラが居た。
その事実に驚きを隠せない、と言った具合に表情をゆがめたアニェーゼは、
動揺を隠すかのように建宮を睨みつける。
「それで?わざわざ私らのとこに現れてどうしてーんですか?
ひょっとしてオルソラは返すから天草式は許してください、とか甘ったれた事でも?
そうですねえ、土下座してこの卑しい犬共をお許しください、位言えないと駄目ですが」
「いやあ?『負け犬』どもの面を拝みに来たのよなあ、いやあ愉快愉快!
負け犬も数そろえりゃそれなりに威圧感出るもんだなあ!」
ローマ正教の一同から、「ブチブチッ」と何かが千切れた音が聞こえた。
おお怖い怖い!とか言いながら踵を返す建宮。
戦闘前の舌戦の軍配は、建宮に上がった。
「追え!!今すぐに!!あのクワガタをここまで引っ張って持って来い!!
あのふざけた髪形丸刈りにしてやります!!」
アニェーゼの悲鳴のような叫び声を皮切りに、シスター達は動き出した。
それとは別に、別動隊として『渦』を探すシスターの部隊も、
インデックスに引き連れられて行動を開始する。
そんな一同の背を見つめながら、上条当麻とステイル=マグヌスはその場に立ちすくんでいた。
監視の為か知らないが、幾人かのシスターと共に。
「さて、来るかもわからない『聖人』を待つのもつまらないし」
ステイルは気だるげに上条に話しかける。
「そうだな、とりあえず俺らは交代しながら休むか」
「あ、あのあの、そんな気を抜いていては……」
気弱そうなシスターが、そんな2人を諌めようとするが、
2人は聞く耳を持たず近くにあるベンチに腰をかけるべく向かって行ったのだった。
51 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:31:26.57 ID:lqjAqMbuo
・・・
戦況は一方的だった。
圧倒的に、天草式が押されていた。
それもそのはず、『隠密性』に長けた天草式が、最前線に出てローマ正教と相対せばどうなるか。
そんな事は火を見るよりも明らかで。
みるみるうちにその数を減らしていった。
ローマ正教は、そんな彼らを一人残らず捕えるべく、
散り散りになった天草式の面々を、1人に対してフォーマンセルで追う。
そんな戦況を、パラレルスウィーツパークの中でも一番高いと思われる建物の屋上で悠々と眺める影が一つ。
その影は、ある一点―――アニェーゼ=サンクティスの前にひっ立てられた建宮斎字と、
シスターに引っ張られるオルソラ=アクィナスを見つけると、その屋上から飛び降りて行った。
52 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:32:19.51 ID:lqjAqMbuo
・・・
「それで、なんか申し開きはありますか?」
アニェーゼ=サンクティスは勝ち誇った表情で、グルグルと縄に縛られた建宮斎字を見下す。
「申し開き、とは?」
何のことやら、と言った表情でとぼける建宮を、
近くに居たシスターが思い切り蹴り飛ばした。
「黙りなさい、神の敵。あなたは馬鹿みたいに質問に答えていれば良いのです」
背の高いシスターは、汚らわしい物を見るかのような目で建宮を見て、
蹴り飛ばした足を見て、勝手に頭に血を登らせていく。
「ああ、やってしまいました。蹴りやすい高さにあったとはいえ、このような汚らわしいものに靴越しながら触れてしまうなど最悪です。
この靴はもう使えませんね、シスター・アニェーゼ。後で新しいものの用意をさせてもらってよろしいでしょうか」
「構いませんよ。それより……」
縄に縛られた状態で蹴られた為、崩れた体制を元に戻せない建宮の頭を思い切り踏み抜き、踏みにじる。
建宮のうめき声だけが、そこに響き渡った。
「『白髪の男』、あれはどうしちまったのですか?」
ひょっとしたらあの桐条と繋がっているかもしれない、そんな奴に手を出したりはしていないだろうか。
そんな不安が頭をよぎるが、とにかくこの男から情報を引きださねば。
アニェーゼはイライラとしながら、建宮を蹴る。蹴る。蹴る。
「ガフッ……出してねえよ、あいつはぐっすりオネムなんじゃねえのよな?
うちの睡眠薬は中々即効性と持続性に長けているからな……」
それだけ言うと、建宮は力尽きたように倒れる。
天草式の面々は、部隊に追われているため、建宮の救出は望めないだろう。
アニェーゼはそのように考え、建宮を捨て置き、オルソラを連れて何処かへと向かって行った。
53 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:32:51.35 ID:lqjAqMbuo
・・・
「よォ、随分と手ひどくやられたなァ」
「はっ、こんなもん……我らが女教皇様の受けた『痛み』に比べりゃ……大した事ないのよな」
「なンだァ?女教皇様とやらは大けがでもしてンのか?そりゃ御愁傷様」
「あの御方が、御怪我などするはず無いだろう……
我々が弱いせいで、あの御方はいつも心を痛めておられたよ」
「はン、心の痛みに比べりゃ肉体の痛みなど、ってかァ?オルソラみてェな事言いやがって。
魔術師ってのはどいつもこいつもドMの集まりですかァ?」
「うるせーのよな……」
「で、あいつらの行く場所、大体分かってンだろォ?」
「そうだな……確か……この近くに……オルソラの功績を形にする為に……
『オルソラ教会』ってのが……建設中なのよな」
「あァ?あいつそンな偉いのかよ、俺不敬罪とかでしょっ引かれねェだろォな?」
「そう思うなら、さっさとこの茶番に幕を降ろすのよな。
土下座してこの卑しい犬をお許し下さい、とでも言えば許してもらえるんじゃないか?」
「バカ野郎、男が土下座するのは脱童貞をお願いする時だけだってンだ」
「……お前さんには誇りが無いのか?」
「冗談だ」
「知ってるのよな」
「張り倒す」
「その怒りをローマ正教にぶつけたらいいのよな」
「分かったのよなァ」
「……語尾を真似するンじゃねェのよな」
「お前こそ」
建宮斎字がまだ元気で動ける事を確認すると、一方通行はニヤリと笑う。
縄を解き、白髪はふらつくクワガタ頭の体を支えながら、2人は宵闇に消えて行った。
54 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:34:25.41 ID:lqjAqMbuo
・・・
「あぐっ!」
オルソラ=アクィナスは、建設中の自身の名を冠する教会まで連れて来られ、その床に転がされた。
どう見ても、どう考えても、およそ仲間に対する扱いでは無い。
アニェーゼ=サンクティスは、冷たい目でそのオルソラを眺めつつも、
連れてきた10人の部下達に結界を張るように準備をさせる。
他の部下達がここに戻ってきた時に結界を完成させ、誰にも入れなくする為に。
「……ったく、手間ばーっか掛けさせやがって。私やシスター・ルチアが汚らわしい罪人に靴越しですが触れちまったんですよ?
どうしてくれるんですか?つーかこっちもあんたの遊びにつき合ってる暇はねーんですよ?」
縄に捕らえられたオルソラを、ボールを蹴るかのような気軽さで、思い切り蹴る。
先程の建宮斎字を相手にした時のように、何度も。
ボールならポーンと飛んで行く事だろうが、相手は人間。
鈍い音が鳴り、オルソラのくぐもった声が、建設中で色付けのされていない教会内に響く。
「死の淵に追い詰められて、最後にすがったのが小汚い島国のちっせえ組織の東洋人とはね!
あんなポークビッツよりも汚くてちっせえもんに自分を売るなんて、とんだ売女ですねえ!!
駄目ですよ、仮にもローマ正教徒のあなたがあんな獣に命を預けるなんて!!」
心底馬鹿にした口調で、オルソラをなじる。
しかし、オルソラの表情は変わらず微笑みを浮かべるばかりだった。
そんなオルソラを見て、アニェーゼの表情は歪む。
「……なに、笑ってんですか?今の状況わからないほど、あんたは馬鹿になっちまったんですか?」
「いえ……あまりにも滑稽だったものでございましたから……」
女性の力とは言え、全体重を乗せての蹴りを何度か受けたオルソラに、そんな台詞を吐く余裕があるとは思えない。
なら、何故そんな台詞を実際に吐いているのか―――。
「そこまでにしてもらおうか」
振り返ると、そこにはステイル=マグヌスと上条当麻が居た。
55 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:35:26.73 ID:lqjAqMbuo
「なんであんたらがそこに居やがるんですか!?」
監視のシスターはどうした、と声を荒げる。
しかしステイルは事もなげに、
「うん?彼女らには寝てもらってるよ?心配しなくていい、こう見えて紳士だから怪我などはしていないよ」
と言い放った。
あり得ない。イギリス清教の人間が言っていい台詞では、ましてややっていい行為ではない。
明らかな越権行為。内政干渉と見られる行為を、現在進行形で行っているステイルに、アニェーゼは笑う。
「は、はは。あはは!あんた何してくれやがってんですか!?
分かってますか、その意味が!私らローマ正教に立てついたという意味が!!」
「君こそ、分かってるんだろうね?『我らがイギリス清教の庇護を得た』オルソラに、手を出すという意味が」
あらかじめ用意された答えを、あらかじめ予測されたタイミングで言い放つように、ステイルは即答した。
「なっ……!」
何を、と言う前に、オルソラが胸元のアクセサリーを示しながら、口を開いた。
「こ、れ……イギリス清教の、十字架なのでございますよ……
貴方様の言う『白髪の男』に掛けて頂きました……」
震える手で、愛おしそうに十字架を見せるオルソラに引き続き、ステイルが煙を吐きながら言葉を続ける。
「そう言う事だ。何処の誰だかは知らないが、ご丁寧にイギリス清教の庇護下に入るような事をしてくれるとはね。
ひょっとしてこれは、天の思し召しと言うやつでは無いのかな?オルソラ=アクィナスはイギリス清教の下に来る、と言うね。
ああ、そこの素人にも同じような十字架を持たせているから、インデックスと上条当麻、オルソラ=アクィナスに手を出すと言う行為が、
イギリス清教に喧嘩を売っていると言う事になると、理解できたかい?」
56 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:36:02.28 ID:lqjAqMbuo
それこそが、オルソラがあの時一方通行に十字架をかけてもらった理由。
たまたまあの十字架がイギリス製のものだったから出来た、突拍子もない作戦。
いや、作戦と言うよりは、詭弁だとか、言い訳だと言った方が正しいだろう。
しかし、それだけで十分だ。
オルソラ=アクィナスの立ち位置は、ローマ正教から逃亡した時点で、
非常にあやふやな立場であった。
そんなオルソラが、簡易的とはいえイギリス清教の洗礼を受けたのだ。
それも魔術サイドの人間ではなく、逃亡先でたまたま出会った、立場も地位も不明の一般人に。
いくらローマ正教とはいえイギリス清教の判断無しに、
ローマ正教の判断だけで彼女に手を出すなど、ましてや異端審問にかけようなど出来るはずがない。
「オルソラが、どこの所属の人間なのか、『時間をかけて』審議をすべきではないのかい?」
それに、と付け加えステイルの表情は一変する。
先程までの楽しげにアニェーゼを追い詰めていた物とは違い、怒りに身を委ねたかのような表情に。
「よくもまあ、あの子に手を出そうとしてくれたものだ」
そう言うと、教会の入り口から、白い修道服のシスターが現れる。
「びっくりしたかも。まさかどさくさにまぎれて私を亡き者にしようなんて」
まあ、今までもこれからも、そういう人生を送る事になるんだろうけど。
と、ステイルをジトっとした目で見つめる。
ステイルはそっぽ向いて煙を吐いた。
57 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:36:50.60 ID:lqjAqMbuo
「まあ、そう言う事だから、今日のところは諦めて帰ってくれないか?」
オルソラに手を出した君達に、彼女を預けるなんてできないし、無駄な戦闘は君達も嫌だろう?
と、つまらなそうに言う。
「は、はは」
アニェーゼは壊れたラジオのように、笑い「音」をあげる。
「あは、あははは!!馬鹿じゃねーですか!?こっちは部隊を動かしてるとは言え、戦闘員が10人に、
今は桐条グループに向かっていた部隊が40人もこっちに向かってんですよ!?
あんたらをここで亡き者にしたらそれで終わりです!!」
数の利は、確かにローマ正教にあった。
しかし、それがどうしたと言わんばかりにステイルは答える。
「全く、250人も居た部隊が、『戦いもせず』ここまで削られている事に、どうして不思議に思わないんだい?」
ステイルのその言葉に、心臓を鷲掴みにされた気分になった。
天草式にしてもそうだ。戦闘らしい戦闘もせず逃走を続けているらしい。
成程、『隠密性』に長けた連中の事だ。
「逃げ」に集中すれば4人1組で向かったところで捕まえられないだろう。
アニェーゼは、その事実を「ローマ正教に恐れを為して逃げた」等と軽い気持ちで考えていた。
しかし、それが仕組まれたものだったら?
天草式十字凄教の47名を4人1組で追うのに、188名。
インデックスと共に『渦』を探し、あわよくばインデックスを消すのに、4名。
ステイルと上条の監視に、8名。
アニェーゼと共に動くのに、10名。
そして、オルソラ=アクィナスと白髪の男が潜伏していると言う(実際にはどちらも居ないから無駄なのだが)学園都市に向かうのに、40名。
ローマ正教は、図らずも戦力を分散させられてしまったのだ。
「どう、いう……」
「この馬鹿みたいな茶番劇は、初めから仕組まれたようなものなんだよ」
今まで口を閉ざしていた上条は、簡潔に結論を述べた。
58 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/30(土) 17:37:47.17 ID:lqjAqMbuo
一端尾張。
ご都合主義だったりいつにもまして厨二感満点で、後で読んだらもだえる事請け合いですが、とりあえず一端尾張です
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
:2011/07/30(土) 19:37:29.24 ID:ofkcQLSE0
>>58
乙 読んでるよ
十字架にそんな意味が…流石暗号解読者
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/07/30(土) 19:39:30.38 ID:fxB3RZJVo
wwktkしてきた
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/07/30(土) 19:39:56.01 ID:ofkcQLSE0
申し訳ないageてしまった。
62 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/31(日) 15:03:47.24 ID:KC1gFRQvo
アンケート
エリザベスさんを出すか否か
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/07/31(日) 15:14:43.79 ID:WMOFNGH/o
いにゃにゃい
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(島根県)
[sage]:2011/07/31(日) 15:41:44.62 ID:yIDR+6NZo
べス様はキタローを助けに行ってるからなぁ…
65 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/31(日) 16:02:02.88 ID:KC1gFRQvo
じゃあ出さない方向で書くか。
とりあえず、今は今やってる話を書き貯めて来るわ
一応、滅びを防いだというキタローの力にレベル6へ至る道を見た研究者がうんぬんかんぬんで、
文字通り身を呈して滅びを防いだキタローの力を悪用しようとしてる事を知ったエリザベスがうんぬんかんぬんとか考えてたけどこっちは気が向いたら書く(保険)
66 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/31(日) 21:12:53.71 ID:KC1gFRQvo
投下する。
全く原作絡めると長くなっちまうぜ。
何が日常編やねん、こんなんが日常であってたまるか!!!!俺は部屋に戻る!それが一番安全なんだ!!
今回も一方通行武人化あり
67 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/31(日) 21:13:52.90 ID:KC1gFRQvo
「貴殿らを見極めに参った」
一方通行は、いつでも戦闘できる!と言った状態の天草式の面々の下へと向かっていた。オルソラ=アクィナスを伴って。
「「な!?」」
天草式の面々は驚きを隠せない。
なにせ最優先である目的たるオルソラがそこに居るのだから。
「……見極めに来た、とはどういう事なのよな?」
天草式十字凄教教皇代理・建宮斎字はフランベルジェを、
真意を測るかのように一方通行へ向けながら尋ねる。
「オルソラ殿から事情は伺った。羅馬(ローマ)正教とやらが、オルソラ殿に偽の罪をなすりつけ、
あまつさえ本来同門の者を殺生する事は許されない教会内で、
異端審問にかける事でそれを為そうとしていたところを、貴殿らが救ったとな」
事情を知らなかったとはいえ、誠に申し訳なかったァ!!と、一方通行は頭がめり込むのでは、と言う程の土下座した。
あまりに見事な謝罪体勢に感銘を覚えた建宮だが、すぐに気を取り直して口を開く。
「い、いや、とにかく分かってもらえたらそれでいいのよな……
それで、見極めに来たってのは……?」
とはいえ、動揺を隠せはしなかったのだが。
「貴殿らの本心を知りたい。『法の書』とやらには興味はなく、とにかくオルソラ殿を助けたい一心か否か」
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/07/31(日) 21:14:09.73 ID:kYbcpc1Fo
柳生一方さん再登場かwktk
69 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/31(日) 21:16:12.32 ID:KC1gFRQvo
真っすぐな視線が建宮を射抜く。
嘘は許さないと言ったその視線に圧され、建宮は言葉を紡ぐ。
「助けたいと思うのに、法の書だとかなんだとか、理由がいると思うのか?」
それが、天草式の意志。
救われぬ者に救いの手を。
その意志は、今も昔も―――これからも変わらない。
「……そうか」
幼少時から悪意に晒されてきた一方通行が、建宮の言葉からは悪意を感じられないと思うのだから、それに間違いは無いのだろう。
一方通行は納得したように呟いた。
「なら、作戦がある。乗るか乗らないかは貴殿ら次第だ」
一方通行は有無を言わさず、語り始めた。
ローマ正教を分散させる事。
戦力を散らしたところでオルソラを連れた建宮が捕まる事。
恐らく、弱小勢力の頭領の首などどうでもいいだろう。
何より戦力が散っている今、時間の無駄は避けたいところだ。
故に建宮は放置され、オルソラはローマ正教に捕まるはずだ。
運が悪ければ建宮は始末されるかもしれないが。
そして本当にオルソラを助けたいだけなら、それで終わりだろう。
とはいえ、恐らくそうはならないと思われる為、
オルソラの首には『イギリス清教の庇護を得られるような』、簡易的な洗礼を行ったと言う事。
すなわち、ローマ正教がオルソラに手を出した時点でイギリス清教が動く、
と言う事実をローマ正教に思い知らせる事。
しかし250人と言う数を以ってすればそんな意見、丸ごと押し潰して隠蔽できるだろう。
故に分散させる。
天草式の、地の利を以って。学園都市に、オルソラがいると思わせて。
その数を減らして、「対等な」対話に持っていく為に。
後はその事実を隠す為に、ローマ正教に挑発して頭に血を昇らせる程度に思考力を奪えば良い。
「一ついいか?」
そこまで聞いたところで、建宮は一方通行に尋ねた。
「なンだ?」
「『イギリス清教』を使うのはどういう訳だ?」
「今英吉利清教なる教会の人間が一人か二人、あちら側についてる。信用できる者達だ」
「……それを信じろと?」
「故に乗るか乗らんかは貴殿ら次第だ」
どうしてイギリス清教の人間とつながりがあるのか。
気になる事は山ほどある。もちろん白髪の男の正体も。
だがしかし、この男の力は本物だとも思っている。
建宮はこんな『悪だくみ』を考える一方通行に、笑った。
70 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/31(日) 21:18:28.06 ID:KC1gFRQvo
・・・
「それは……どーいう……」
アニェーゼ=サンクティスは作戦の全貌を明らかにされ、恐怖した。
数の利、力の差、統率力……地の利はあちらにあるとは言え、その他は全てこちらが勝っていると言える。
その慢心をつかれたのだ。それも互いに顔も合わせた事も無い相手に。
まず、統率力。
これがある、と言う事は優秀な上官がいると言う事だろう。
しかし、裏を返せば、その上官の判断を仰がねば動けない。分断され、自身の判断のみで動かねばならない状況に、慣れていなかったのだろう。
何せ、「上官に命令された」という名目さえあれば、何も考えずに動けるからだ。
責任など何もない。
個など存在しない。
そんなローマ正教の特性を、逆手に取られた。
恐らく、天草式を追っている部隊はこう考えているだろう。
「戻るべきか、追うべきか」と。
その逡巡が、天草式達に逃げる隙を与え、ローマ正教が天草式を捕らえられないという悪循環へと導かれる。
そして、学園都市郊外へと向かった部隊40名。
こちらは天草式だけではなくオルソラと白髪の男の姿が確認できなかった為、指示を仰ぐべくすぐにアニェーゼの下へ戻っていた。
その報告を受けていたからこそ、アニェーゼは気を確かに保っていられた。
250とは行かなくても、50も居れば倒せると。口さえ防げば全ておじゃんだ、と。
だがしかし、その40人を率いてやってきたのは、2人の男女。
「―――君達、ここが『桐条建設』の傘下にある建設会社が建設している建築物だと言う事を理解しているのか?」
「あー、無駄な抵抗はやめるのよなー」
71 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/31(日) 21:19:39.11 ID:KC1gFRQvo
・・・
神裂火織はビルの屋上に佇んでいる。
辺りは暗闇に包まれ、人の気配を感じさせない程静寂であった。
目線の先、そこには建設段階のオルソラ教会があるのだが、
その教会も例外ではなく、無音。
優しく吹き抜ける風だけが、ビルの周りを彩る。
常人なら、風の音だけを耳に捉えていただろう。
しかし、『聖人』たる神裂の聴力は、かなりの距離を保ったオルソラ教会の中から発せられる声を聞き漏らさず、
神裂はただただ会話に耳を傾けていた。
天草式がオルソラ=アクィナスを誘拐したと言われるこの事件。
神裂火織は天草式を擁護する為でも、それに敵対するローマ正教を斬る為でも無い。
ただ、全ての結末を見届けたかっただけだった。
天草式が『変わってしまった』のだとしても、ローマ正教の『裏のやり方』に嵌められただけだとしても、手出しをするつもりはない。
彼女は、既に『元』女教皇であり、イギリス清教所属の人間なのだから。
だが、その心は天草式に、「今も昔も変わらずにいて欲しかった」と言うもので会ったのだが。
それ故に神裂は、心底安堵した。
天草式は、今も変わらず理不尽な暴力を受ける人間に、手を差し伸べるべく動いていたのだから。
ただ、ローマ正教の『裏のやり方』で虐げられそうになったオルソラに、手を差し伸べただけなのだから。
その真意を確認して、神裂は昔を懐かしむように、眼を細める。
72 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/31(日) 21:22:06.33 ID:KC1gFRQvo
最早戻れない場所。
戻れないとはいえ、変わらずそこに在るだけで、安心できる場所。
触れられないとはいえ、いつまでも大切にしたい美術品のように、
どこまでいっても変わらず在ってほしいと思っていた場所。
その場所は、神裂の望み通り、変わらずそこに在った。
ローマ正教を相手にして、無傷で相手を完封している様子を見て、無事に終わりそうで良かったと思う。
すると、そんな神裂の背後から隠そうともしない足音が一つ。
「いやー、ねーちん感極まるってとこですかい?
天草式がねーちんの意思の下、オルソラを守る為に動いてただけってことがわかって」
「……土御門ですか、結局そちらの首尾はどうなんですか?
『法の書』を横から掠め取る、と色々画策していたようですが」
神裂は、そんな土御門元春に一目も置かないで、引き続きオルソラ教会に目を向けている。
土御門もまた、静まり返ったオルソラ教会に目をやり、話を続けた。
「上々……なわけないですたい。何せ『法の書』はバチカンの奥の奥に安置してあるんだろうしな。
こっちにあるとか言う『法の書』はダミー。天草式に罪をなすりつける為だけに存在する偽書ってとこだろうにゃー」
ま、ローマ正教だしそんなとこだろうと思ってたけど。と興味なさげに土御門は言う。
この土御門と言う男、イマイチ言う事が嘘か本当か分からない。
ひょっとしたら先程の言葉が嘘で、実際には『法の書』を手にしているのかもしれないし、本当に偽書なのかもしれない。
ようするに土御門は嘘つきなので、いちいち真に受けていたらキリが無いと言う事だ。
そんなわけで神裂は、土御門の報告を話半分に聞き、やはり引き続きオルソラ教会を見つめている。
73 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/31(日) 21:24:08.61 ID:KC1gFRQvo
「それで、満足かい?」
「ええ。十分……いえ、二十分にも三十分にも満足ですね。
彼らは今も昔も変わっていませんでした」
「ん、そりゃよかったですたい。でもまあ、カミやんだけじゃなく、もう一人恩を作っちまったみたいだけど」
土御門は『法の書』よりもそちらの方に興味が行っているようで、
先程の業務連絡よりも楽しげな表情を浮かべていた。
「彼は……一体何者ですか?」
「あれがシェリーの暴走を止めてくれた奴ぜよ」
シェリー=クロムウェル。
下手したらイギリス清教と学園都市の全面戦争になりかねない程学園都市で暴れた女。
彼女を止めた超能力者が、ここまで戦局を裏で操作したと言う。
「しかし、下手したら超能力者と魔術師が手を組んだと、双方から糾弾されかねないところでした」
そうなった場合、天草式だのローマ正教だの言っている場合ではなくなる。
それこそ『法の書』を学園都市が奪っただの、『超能力者』をローマ正教が奪っただの、
その間に板挟みされた2人がどのような扱いになるか、想像するに難くない。
「だからこそ、上手く立ち回って(?)裏方っていう難しい役柄をこなした一方通行には、
感謝してもしきれないんじゃないんかい?」
裏方って本当報われないからにゃー。と、裏方の厳しさを知っている土御門はさめざめと泣く。
とはいえ本気でそう思っている訳ではない、と言う事は神裂もよくわかるのだが。
「そそ、そ、それは……そうですが」
真に受けていた。
上条当麻に関しても、『御使堕し』やインデックスの事に関しても礼を言っていない。その上今回も巻き込んでしまった。
それだけでも借金は山ほどあると言うのに、更に別の人間も巻き込んでしまった。
それもローマ正教、天草式共にほぼ無傷で終わらせるという結果をもたらすと言う、
『聖人』たる神裂ですら出来ない戦果……いや、殆ど戦っていないから、結果だ。
むしろ、どうやったらあのように戦わずして場を納められるのか、教えてもらいたい程である。
「まあ奴も、ここまで綺麗に事が運ぶとは思っていなかっただろうにゃー。
例えば、もう少しローマ正教の面々が『個』を持っていれば、天草式など放っておいてオルソラに集中しただろうし。
例えば、オルソラの立ち位置を保障してくれるステイルやインデックスが裏切れば、この作戦はご破算だし。
そして何より―――」
オルソラ教会をチラリと一瞥する。
そこには変わらず建設中の教会が見えるだけで、何も変わらない。
「―――『桐条美鶴』の協力が得られなければ、50人のシスター達と戦闘になっていただろうしにゃー」
74 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/31(日) 21:25:11.02 ID:KC1gFRQvo
・・・
「まず、ここがどこだか分かっているのか?」
桐条美鶴は、敵も味方も関係無しに、武装している面々に注意をする。
「ここは日本だ。彼女らもそうだし、君達の国ではどうだか知らないが、郷に入っては郷に従え。
銃刀法違反で取り締まる権限は私には無いが、注意くらいはさせてもらうぞ」
「あ、そりゃすまんかったのよな。てっきり何も言わないから持ってていいのかと」
美鶴に言われるがまま、建宮はフランベルジェを放り投げた。
「あ、あんたは誰なんですか!?」
突然自分の部隊を引き連れ現れた女に、言われるがまま武器を捨てる建宮に、アニェーゼ=サンクティスは叫び声をあげた。
自分の部隊が、何でも従順に命令に聞く部隊が、一人の女につき従っている。
あり得ない光景が、そこにはあった。
「ああ、済まない。自己紹介がまだだったね」
チラリと上条当麻やステイル=マグヌスを見やりながら、続ける。
「桐条美鶴、桐条グループ現総帥だ。話は大体聞かせてもらっている。
問題は『オルソラ=アクィナス』の現在の立ち位置と言う事だそうだが……
イギリス清教とローマ正教が協議を終えるまで、僭越ながらこの私が彼女の身元保証人となろう。
つまり、今から彼女に手を出すと言う事は、桐条グループを敵に回すと言う事だ。
何、君達の協議が終わり次第彼女はどちらかへと返還しよう。なんなら、この場で誓約書でも書こうか?」
そう、ローマ正教の部隊が彼女に手を出せなかった理由。
桐条美鶴が、桐条グループの総帥を『名乗っていた』からだ。それも高級リムジンの後部座席から降りて来て。
確かに、これが嘘なら『桐条グループを騙った』として、消しても波風はたたないだろう。
ただ、本物なら?
洒落にならない結果になるだろう。
故に判断を仰がなければならない、『上官』に。
自分で判断する事に慣れていないから。
いや、慣れていたとしてもこれを判断する事は難しいだろう。
桐条美鶴から発せられる威圧感が、総帥としての芽が芽吹いている。
学園都市の郊外とはいえ、桐条グループのお膝元で騒げばこのような事態になってもおかしくは無い。
美鶴の言葉に、アニェーゼの部隊は従わざるを得なかった。
この時点で、誰が一番上に居るのかは、明白。
「さて、今日のところは双方ともに引き下がってはくれないか?
ここの状況は、いつでも君達の本部に伝える事が出来るのだから」
権力って怖い。
上条当麻は、美鶴の言葉に従って武器を捨てる面々を見て、そう思った。
75 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/31(日) 21:26:58.02 ID:KC1gFRQvo
・・・
後日談と言うか、今回のオチ。
オルソラ=アクィナスが解読したと言う『法の書』。
10万3千冊の魔導書を持つインデックスに、オルソラが導き出した解読法を伝えたところ、
『その解読法は間違いで、それは第3章4節にある序文をリードミスしてるかも』との事。
結局、オルソラの思いは空回りで、おそらくローマ正教は、
オルソラを生贄だったり、見せしめにでもしたかったのだろう。『ルールを破った人間の末路』として。
とはいえ、そのような非人道的な事を為そうとしました。などと馬鹿正直に声明を発表できるはず無く
、ローマ正教の言い分では「オルソラ=アクィナスに手を出すつもりはなく、アニェーゼが率いる部隊の独走」らしい。
部下の暴走を止められない上司とは如何なものかとは思うが、天草式もローマ正教も怪我をしたのは互いに一人ずつ。
そしてオルソラ=アクィナスは今回の件でイギリス清教の洗礼を受けたとして、その下に帰順。
天草式の面々もイギリス清教の傘下に加わるそうだ。
と言うのも、彼らは天草式十字凄教・元女教皇神裂火織が属するイギリス清教に参入したかったらしく、
彼らが背負う象徴(シンボル)には、イギリス清教の十字架を織り交ぜてあるようだ。
「結局、彼女らは上の指示に従った結果、その責任を負わされる形になったわけだ」
バサリ、と届けられた書類を自身の机に放り投げ、ジトっとした目で目の前の男を見やる。
「全く、君が来て以来忙しさに拍車をかけているぞ」
桐条美鶴は、余計に仕事が増えたと愚痴るものの、
「そォいうな。上条と顔合わせも出来たし、今後について軽く話し合えただけでも良しとしよォじゃねェか」
一方通行は悪びれもせず言い放った。
戦後の処理は非常にスムーズで、夜が開ける頃にはこの報告書が届けられたのだから驚きである。
どうやらイギリス清教もローマ正教も、ある程度は「勝った場合」や「負けた場合」の結果を予測していたらしい。
今回はイギリス清教が勝ち、ローマ正教が負けたというパターンだが。
「それで、君はいつまでここに滞在する気だ?」
仕事手伝ってもらえるのは非常にありがたいから、いつまでも無償奉仕してくれ。
と言う意志を込め一方通行に尋ねる。
「あァ?今回の借りを返したら帰るっつゥの」
今回、桐条美鶴を動かした一言。
「仕事手伝ってやる」
一方通行に、試しとして桐条エレクトロニクスの予算案を見せた所、
美鶴と同じ意見を上げただけでなく美鶴すら気付かなかった改善点を上げて見せた。
これにより、あの晩桐条美鶴は桐条グループの当主として事態の収束に動いたのだ。
とはいえ人の生き死にに関わるとだけ言えば損得関係なく動いたかもしれないが、
一方通行がそれを許さなかった。
何にせよ全てが終わった後、オルソラ=アクィナスはステイル=マグヌスと共にイギリスへと向かい、上条当麻はインデックスと共に帰り、そして一方通行は桐条美鶴の仕事を手伝う。
それだけの事だった。
「ンな事より、『召喚器』の件。頼むぜマジで」
「ああ、分かっているさ」
2人の会話はそこで途絶え、黙々と新たな書類と睨めっこを再開するのだった。
その『召喚器』の件が、後々重大な結果をもたらす事になるとは、両者ともに分かるはずも無く。
76 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/07/31(日) 21:28:54.93 ID:KC1gFRQvo
山も落ちも意味も無く、あっさり事件は収束しました。
オルソラも原作通りイギリスに行ったし、アニェーゼ部隊も原作通り責任をなすりつけられました。
シェリー編も同様に駆け足気味だったけど、終わりです。次回から大覇星祭行くわ
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/31(日) 21:39:18.07 ID:KC1gFRQvo
>>68
ほんのちょっぴりしか出なくてごめんな
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/31(日) 21:44:25.24 ID:kYbcpc1Fo
乙
>>68
で割り込んですまん
事件は無事解決
……うん、解決したな、極々平和的に
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/07/31(日) 21:45:11.59 ID:orABPWGH0
>>76
乙と感謝
俺は楽しみに読んでる。
学園一の頭脳が飾りではないのが、最高
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/31(日) 21:46:51.87 ID:KC1gFRQvo
アニェーゼ部隊に囲まれるなか上条さんがペルソナ出す展開とか考えたんだけどさ、
召喚器持ってきてる描写なんて一個も無かったからさ
ノー戦闘ルートしか書けなかったわ!
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/31(日) 21:52:45.22 ID:KC1gFRQvo
つーか描写不足だな、神裂さんが「彼は何者」って言ったのは建宮さんを支えて桐条さんのとこまで向かったとこを見たって事で。
別に桐条さんがいるなら建宮さん要らなくねとも思うけど、あの場で誰が一番上か知らしめるために教皇代理の立ち場である彼も桐条さんと合流したって感じ。
とどのつまり、権力がチート。
82 :
おまけ
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/31(日) 22:21:00.43 ID:KC1gFRQvo
美琴の場合
マヨナカテレビ「ゲコ太!ゲコ太!ゲコ太!ゲコ太ぁぁぅぅうううわぁああああああ ああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!! ゲコ太ゲコ太ゲコ太ぁぁあぅううぁわぁああああ!!!
あぁ!クンカクンカ! スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ラヴリーミトン製ゲコたんの緑色の肌をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!肌肌ツルツル!お髭モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
電撃大王のゲコ太たんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ3期決まって良かったねゲコ太たん!あぁあああああ!かわいい!ゲコ太たん!かわいい!あっああぁああ!
コミックも発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…フィギュアもアニメもよく考えたら…
ゲ コ 太 ち ゃ ん は 現 実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!学園都市ぃぃぁああああ!!
この!ちきしょ !やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?携帯ストラップのゲコ太ちゃんが私を見てる?
アニメのゲコ太ちゃんが私に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!私にはゲコ太ちゃんがいる!!やったよケロヨン!!ひとりでできるもん!!!
あ、携帯契約特典のゲコ太ちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあピョン子様ぁあ!!チェ、チェイサー(自販機からジュース)!!ゲブ太ぁああああああ!!!ぁあああ!!
ケロヨンんんううっうぅうう!!私の想いよゲコ太へ届け!!ラヴリーミトン社のゲコ太へ届け!」
美琴「」
黒子「お姉さま……ストレスがたまっていらっしゃるのであれば……私が……その……」
83 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/31(日) 22:26:23.45 ID:KC1gFRQvo
黒子の場合
マヨナカテレビ「自主規制」
美琴「」
黒子「」
84 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/31(日) 22:35:51.02 ID:KC1gFRQvo
寮監の場合
マヨナカテレビ「はあ?ちょ、ドタキャンとかマジ萎えるしー!もういい、あんたもう電話かけてくんな!どうせキープの一人だしさー!」
マヨナカテレビ「ったくマジ萎えるし……ケンの馬鹿……」
マヨナカテレビ「はあ、どっかに白馬の王子様落ちてないかなあ……」
マヨナカテレビ「誰か……助けてよ……」
寮監「」
美琴「あの……私男友達とかあんまり居ないけど……出来るだけ紹介とか……」
黒子「ですがお姉さま、年代が違」
ゴキバキャゴキャゴキャ!!!!
美琴、黒子「「」」
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/31(日) 22:36:08.82 ID:kYbcpc1Fo
自wwwwww主wwwwww規wwwwww制wwwwww
つまり黒子(影)は黒子が否定したくなる程の変態……っ!
86 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/31(日) 22:37:16.55 ID:KC1gFRQvo
抑圧された思いが爆発した結果です。
ストレスは適度に発散しましょう。
87 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/31(日) 22:55:11.29 ID:KC1gFRQvo
駒場の場合
マヨナカテレビ「えー本日は幼女の集いにお集まり頂き、誠にありがとうございます。
都条例的に色々と不味い事が起きそうなので、ここに集まられた真なる紳士諸君は、
イエスロリータノータッチを原則として、幼女を悲しませないようにこれからも遠目に愛でて行きましょう。
それでは、挨拶もこの辺にして……今日は飲みましょう、歌いましょう!無礼講です!乾杯!!」
〜中略〜
マヨナカテレビ「ロリコンに向かって走るー♪あの幼女について行こう〜♪はだかのままで飛び出して〜♪あの幼女について行こう〜♪
見えない都知事が怖くて〜♪見れないパンツを夢見る〜♪本当のパンツ見させておくれよ〜♪
ロリーロリー♪イエスロリコン♪ロリーロリー♪ノータッチ♪ロリーロリー♪イエスロリコン♪ロリーロリー♪ノータッチ♪」
わああああああ!!
駒場「」
半蔵、浜面「「……!!」」←笑いすぎて声が出ない
88 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/31(日) 23:17:47.18 ID:KC1gFRQvo
上条の場合
彼は歩く、桜が散り始めた並木通りを。
出会いと別れの季節。それもそろそろ終わりを迎える。
もうそろそろGWの予定を考えてもいい頃だ。
彼は、いつもの待ち合わせ場所に、いつものように歩いて行く。
そんな当たり前の毎日に感謝して。そんな当たり前の幸福を与えてくれたあの人に感謝して。
「よお、今度のGWさ、何処行く?○○―――」
一方通行「全米が泣いた」
土御門「カミやん、どんだけ「不幸な事が起きない」日常に餓えてんだ……?」
青ピ「ていうかあんなにモテてんのに彼女の1人も居ないカミやんが、こんな望みを持つのはおかしいと思うんやけど?」ピキピキ
美琴「それより、待ち合わせの相手って誰よ!?」
上条「いや、あれテレビだから!!フィクションだから!!ああもう、不幸だー!!」
89 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/07/31(日) 23:20:28.84 ID:KC1gFRQvo
駄目だマヨナカテレビネタ思いつかへんて。
何だかんだでマヨナカテレビで抑圧された人の思いが映像化した事無いのもそういう理由からなのです。
おやすみなさい
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/01(月) 00:49:28.86 ID:sLyTghDeo
ワロタwwwwww
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/01(月) 01:37:52.84 ID:cs9PUVZyo
一方通行がマヨナカテレビに移ったら
スーパーマン・バットマン・仮面ライダー・ウルトラマン
さぁ、どれだ
92 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[sage]:2011/08/01(月) 01:54:01.66 ID:Zs/aOARAO
一方さんならヒーローへの憧れがマヨナカテレビに現れるのか
93 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/01(月) 09:49:04.00 ID:p9T1kmL6o
一方通行の場合
マヨナカテレビ「鈴科洪隆「出おったな、怪人ドメスティックバイオレンズゥ!!」」
マヨナカテレビ「怪人「ぐーふーふふー遅かったな、アクセライダーマン!!」
マヨナカテレビ「鈴科洪隆「貴殿らの所業……許し難し!!覚悟はできておられるか!?私は常にできているゥ!!アクセル……全開!!!変・身!!」」
マヨナカテレビ「アクセライダーマン「貴殿らが好き勝手出来るのも……今宵が最後であるゥ!!!」」
マヨナカテレビ「怪人「ぬかせえええええ!!」」
マヨナカテレビ「アクセ・怪人「「おおおおおおおおおおおお!!!!」」」
どごおおおおん
一方通行「」
9982号「アクセライダーってホリケンのパラグライダーみたいに言わないでくださいよ。と、ミサカは噴くのをこらえます」
オルソラ「……!!」←笑いすぎて声が出ない
美琴「(悔しいけど…かっこいい……)」
上条「あー、ヒーローものへの憧れって子供の頃あったよなー」←居たたまれなくなってのフォロー
インデックス「それって遠まわしにあくせられーたを子供って言ってるかも」
上条「あ」
一方通行「」
一方通行「」 黒 翼 発 動
どごおおおおおおおん
94 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/01(月) 09:50:07.23 ID:p9T1kmL6o
ちょっと今日は投下できるか分からぬゥ!!申し訳無い!!
ご容赦頂きたくおまけを書かせて頂いた次第であるゥゥ!!!
95 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/01(月) 20:49:26.41 ID:DAf9CQzi0
>>80
謙遜することは無いのである。
戦わずに勝つは、孫子の兵法でいう最良の策
96 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/02(火) 04:05:18.07 ID:5bPZYY3Ko
投下するわ。
こんな時間から透過するわ。
97 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/02(火) 04:06:39.55 ID:5bPZYY3Ko
「もう!!なんで1週間もどっか行ってるのよ!?」
御坂美琴は激怒した。必ず、かの安如泰山(あんにょたいざん)とした女を除かなければならぬと決意した。
御坂には芳川桔梗がわからぬ。御坂は、学園都市の学生である。電気を出し、皆と遊んで暮して来た。
けれども怠慢に対しては、人一倍に敏感であった。
先日未明御坂は学園都市を出発し、テレビに入り、1里はなれたかの布束の屋敷にやって来た。
「ねえ、聞いてよ一方通行。御坂さんったら私に働けって言うのよ?
私は相手の弱点を探る弱点探知機なのに」
そう。
一方通行がいない間、他の面々は修行の為にテレビの中に入ったと言うのに、
芳川はそれに着いてきて何をしていたかと言うと、ほぼ何もしてなかった。
「この!いけしゃあしゃあと!危なそうな攻撃が自分に来たら上手く避けたり、
上手く受け流して他のシャドウに攻撃したり!」
絶対強いのに、何で自分から動かないのよ!と、御坂は激怒した。
「落ちついて下さいよ、お姉さま。芳川が働いている姿を私は想像することができません。
と、ミサカは遠まわしに芳川を馬鹿にします」
いつものファミレス。
9982号は慣れた手つきでドリンクバーで作ったミックスジュースを飲みながら、やや疲れた表情を浮かべる一方通行に近況報告をする。
と言っても、誰かがテレビに放り込まれた、なんてことは無かったのだが、
修行と言う事で布束砥信の忍術屋敷に向かったところ、本来の家主である布束を差し置いて、その屋敷を占拠したシャドウがいたのだ。
屋敷内番長的存在のそのシャドウは中々に強力で、この場に居ない上条当麻も含めて苦戦を強いられた。
しかしそんな中でも、芳川と言う名のニートは、一つも動く事は無かった。
本当に何しに来たんだ。
そんなことを一同は思ったのだが芳川曰く、
「大人が私しかいないからね。保護者よ、保護者」
いけしゃあしゃあと言い放った。
98 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/02(火) 04:07:52.77 ID:5bPZYY3Ko
「まァいい。それでちったァ成長できたのかァ?」
芳川は相変わらずだな。一方通行はコーヒーを一口飲むと、ジロリと御坂姉妹を見やる。
ちなみに、打ち止めはフレメア=セイヴェルンの下に遊びに行っている。
「当然!」
御坂はふんすと胸を張る。何か掴んで来たのだろう、次回以降の戦闘に期待しよう。
「それよりも、1週間もバカンスにでて、何も掴んでないなんて言わないでしょうね?」
一方通行の試すような視線を見て、逆に9982号は同様の視線を一方通行に向けた。
「あァ、十二分になァ」
桐条グループと、その研究の結果。
桐条美鶴と、それを取り巻く環境。
そして、その下に集った「適合者」。
一方通行は先日起こった出来事をかいつまんで話した。
オルソラ=アクィナスと愉快なシスター達に関しては何も話していない。
話すべき事でも無いし、何よりこの場に魔術は関係ないからだ。
それはさておき、外でペルソナを出せる可能性と、学園都市が何かをしようとしている可能性を一方通行は語る。
そして明日からの大覇星祭で、外でペルソナを出せる可能性を持って、桐条美鶴達が来るそうだ。
その話を聞いて、ゆったりとケーキを食べていた芳川の表情も一変した。
研究者の顔、と言うべきだろうか。学園都市の裏を知る顔に変貌を遂げる。
「成程……流石に十数年前の事は知らないけれど……
学園都市の事だからきっと良からぬ事を企てているのは間違いないわね……」
そんな真剣な顔出来るなら、テレビの中でも真剣になってほしい。
芳川を除く3人は同様の内容を三様に考えた。
「そして……」
一方通行は言葉を続ける。
99 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/02(火) 04:08:56.30 ID:5bPZYY3Ko
まだ何かあるのか、そう思って女性陣は再び口を閉じた。
すると一方通行は席を立ち、ドリンクバーへと向かう。
なんだじらしやがってとか9982号は思うが、一方通行のコーヒーカップには、まだコーヒーが残っていた。
どういう事かと考える間もなく一方通行は3杯のコーヒーを持って来る。
「……なんですか、これは」
3人を代表して9982号は尋ねた。
「飲んでみろ」
それが桐条グループの学園都市に行って、一番の戦利品だァ。と一方通行は言う。
このコーヒーがどうしたと言うのだ、と言った疑問を浮かべつつも、
一同はその言葉に従ってそれを口に含んだ。
「「……コーヒーね(ですね)」」
まごうことなくコーヒー。それだけだった。
ていうか苦い。3人はサラサラと砂糖を入れた。
「お前らァァアァ!!!そのコーヒーがどンだけ貴重なもンかわかってンのかァアァ!!?」
ネットでも販売されねェから現地でしか買えねえンだぞォ!!と熱弁する一方通行。
3人は引いている。
わざわざドリンクバーの中身を挿げ替えて(許可済み)だなァ云々。
3人は引いている。
そのコーヒーはなァ、『フェロモン珈琲』って言ってだなァ云々。
3人は引いていたが、その説明を聞いてコーヒーを一気飲みした。
「「熱!!熱い!!」」
「俺の熱意が伝わったよォだなァ……
何、コーヒーはまだある。とはいえドリンクバーのコーヒーが無くなれば終わりだけどなァ」
一方通行は自身の熱弁の甲斐があったと喜んではいたが、
女性陣の気を引いたのは、味ではなく『魅力が上がる』という点だ。
その日、他の客が『フェロモン珈琲』を口にする事は無かった。
「げふっ……飲みすぎました……と、ミサカは……」
「と、トイレ……」
「……流石に……飲みすぎたわね……」
女の魅力は、1日にして成らず。
お腹をぷっくりと膨らませた3人は、満足そうな顔をする一方通行と共にファミレスをでるのだった。
100 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/02(火) 04:10:06.94 ID:5bPZYY3Ko
・・・
その日、『ラボ』が何者かに襲撃を受けた。
一方通行が帰ってから次の日、それが起きたのだ。
桐条グループが持つ研究所が何者かに襲撃され、
研究資料及び完成間際の『召喚器』を奪われたのだ。
その報を受けた桐条美鶴はすぐに『ラボ』に直行。
やはりというか、報告通りであった。
『実験事故』に関する資料及び『黄昏の羽』を編み込んだ製作途中の『召喚器』6丁。
これらが盗まれたものの、被害は1名。研究者達は眠らされたようだった。その1名は行方をくらませている。
ひょっとしたらその襲撃を行った相手に誘拐された恐れもあった。
「くそっ……一体誰が……」
美鶴は荒された様子も無く、手際良く目的の物だけ盗まれた、と言った状態のラボを見て1人毒づく。
とはいえ、行動は早かった。
すぐに情報封鎖をおこない、侵入者の足跡が残っていないか、調査を始める。
美鶴はその調査の結果をまとめるべく、次々と挙げられる報告を自身の執務室で吟味していた。
そんな時だ、再び男が来訪して来たのは。
「どーもー、いやあ此度は御愁傷様でしたねえ」
「……何の話かな?田木原さん」
金髪を逆立てた短髪の男、田木原一。
学園都市からやってきて、『実験事故』に関する資料を求めていた研究者。
一見して研究者には見えない容姿をしているのだが、それはさておき。
「御愁傷様」と言うのは奪われた研究資料の事だろうが、
情報封鎖を施したはずだと言うのに、何故知っているのだろうか。
「何か、『どっか』の『誰か』が『ラボ』に侵入したらしいじゃないですかー。
駄目ですよお、本当に大事な物なら、大切に大切に、懐の奥の奥にしまわなきゃ」
田木原はニコニコと笑みを浮かべているが、その笑みからは不快感しか感じられない。
むしろ、ニヤニヤと笑みを浮かべる、と表現した方が正しいだろう。
101 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/02(火) 04:10:53.56 ID:5bPZYY3Ko
「ッ……。何で知っているのかな?そのようなことを」
「いやはや、私も驚きましたけどねー。何度も通ってお世話になったラボが襲撃されるなんて。
こう見えてラボの方には足繁く通わせて貰っていたのでね。お陰で研究の参考になったのですが……
とにかく、誰も怪我をしていないようで、安心しましたよお」
「私は、何故そのような事を知っている、と聞いているんだ」
ギン、と田木原を睨みつける。
疑いの目を向けられた田木原は、飄々とした態度で言葉を続ける。
「はあ、そう言われましても……『足繁く』通ったおかげで、研究員の方と『仲良く』なったからですかねえ。
情報封鎖されているとはいえ、人の口に戸は立てられない、と言うじゃないですかあ」
ニコニコと、がニヤニヤに変わった瞬間である。
それまで不快感を煽っていた笑みは、一層嫌悪感を煽る物に変貌を遂げた。
しかし、それが本来の表情であると感じ取れる程の自然な笑みで。
まるで勝ち誇るかのような笑みを見た美鶴は、確信を持ち、核心に迫る。
「……貴様か」
「はい?」
「貴様がやった、と言う事か?」
美鶴の言葉を受け、田木原の笑みはなりを潜め、再び胡散臭いものに戻る。
「いやだなあ、それは冤罪と言うやつですよお。僕はやってませんよ?
それにしても残念ですね、私が資料をもらい受ける前に奪われるとは……
と言う事はすなわち、私がここに来るのも最期と言う訳ですね」
「別に来てほしい等と思ってはいない」
「くくっ……手厳しいですねえ」
「それで、何の用だ?ここにはお前が欲しいものなど残ってはいないはずだ」
「いえ……『居なくなった』研究者の代わり、うちから派遣してもいいですよ?
それだけ尋ねようと思いまして」
「要らん。と言うより貴様の所から人材を借りるよりも、学園都市にこちらの人員を送った方が後々利益になる」
「そうですかあ……そりゃ残念。あ、もし人材をこちらに派遣したいのであればいつでもご連絡下さいな」
別に本気で研究者を派遣したい訳では無いらしく、田木原はすぐに身を引いた。
言いたい事は挨拶のみだったらしく、踵を返し、執務室を後にしようとするが。
「そうそう、桐条さんのとこのような大企業には、『スパイ』ってのはよくある話ですからねえ。
何て言うんでしたっけ、産業スパイって言うのかな?まあ何にせよ、気をつけて下さいね」
意味深な一言を言い放つ。
それでは、縁があればそのうち。と、田木原は立ち去った。
102 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/02(火) 04:11:27.92 ID:5bPZYY3Ko
・・・
田木原一が立ち去り、しばらくの間桐条美鶴は思考に耽っていた。
会話の間に織り込まれた気になる単語をまとめる。
『『足繁く』通ったおかげで、研究員の方と『仲良く』なった』
『僕『は』やってませんよ』
『居なくなった研究者』
そして。
『産業スパイって言うのかな?』
スパイ。
「やはりというかなんというか……」
恐らく、田木原が裏で糸を引いていたのだろう。
だが、それをわざわざ言いに来た理由が分からない。
「だが、何にせよ舐められっぱなしは趣味じゃない」
忌々しげに何処か虚空を見つめると、携帯電話を手に取る。
「学園都市……鬼が出るか蛇が出るか」
罠かもしれない。
とはいえ、動かずに泣き寝入り等できるはずもない。
美鶴は、学園都市に派遣する人材を数人集めるべく、通話を開始したのだった。
103 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/02(火) 04:12:45.61 ID:5bPZYY3Ko
・・・
夜。
学園都市。
その路地裏。
人通りの少ないそこに置かれた『廃棄物処理場』。
そこの焼却炉では文字通り「廃棄されるモノ」を処理している。
生ゴミから人様には言えないナニかまで。
そこで焼かれる人間大の大きさの黒いゴミ袋を眺めながら、
その男はニヤニヤと笑っていた。
中身は、言わずもがな。
「はっ、馬鹿だねえ。金と地位につられて裏切るような奴、信用できるわけねーじゃねえか」
燃え盛る炎に焼かれつつある物体を嘲ると、その男は満足げに笑った。
目的は、上々。
『実験事故』の詳細。これは正直のところ要らなかった(桐条の下へ行く理由づけの為だけに必要だった)のだが、
あって損する訳でも無いので、色々と参考にしようと考えている。
重要なのは、『黄昏の羽』の方だった。
何せ急ごしらえで『適合者』を『造った』せいで、召喚器が足りなくなっているのだ。
実験では召喚器を使い回せばよかったが、これでは実戦が出来ない。
その際だ。今は亡きスパイから連絡が入ったのは。
「桐条が召喚器の製作に取り掛かった」と。
とはいえ、召喚器の製作は何重にも様々な研究所を通して、それも1丁ずつバラバラに造られているらしく、
スパイ程度では『黄昏の羽』の出どころを掴む事が出来なかった為、
完成間近で召喚器が一つにまとまったところで奪う事にした。
幸い、そこのラボには彼自身本当に足繁く通っていた為セキュリティの程度も把握出来ていたし、
それを無効化する位、学園都市の技術力なら容易だった。
104 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/02(火) 04:13:27.16 ID:5bPZYY3Ko
「おっと、もうこれも要らねえよなあ」
何かを思い出したかのように、左頬を掻く。
するとペリペリと人工の皮膚が剥がれ落ち、そこには刺青が刻まれていた。
木原数多。
猟犬部隊を動かしてラボを襲撃させた張本人である。
「桐条のお嬢様は多分この挑発に乗って来るだろうなあ」
良くも悪くも、まだ若い。
若いと言う事はしばらくの間後継ぎの問題はないが、それだけ経験も浅い。
相手が桐条美鶴の父である桐条武治だったり、
更にその父である桐条鴻悦だったりしたらこうはいかなかっただろう。
その若さに付け入る隙があるのだが、逆に言えば成長の余地がある、と言う事だ。
ならば自身の懐に彼女の懐刀を潜り込ませ、
桐条の動きをある程度予測できるようにしておいた方が良いだろう。
何せ、これから始まる実験で、木原数多はしばらく学園都市外に出られなくなるのだから。
「ったく、研究者ってのも忙しくていけねぇや」
木原は愚痴を一つつくと、剥がした人工皮膚を焼却炉の中に放り込んだのだった。
105 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/02(火) 04:14:09.35 ID:5bPZYY3Ko
尾張。
オルソラ編とこれから始まる気がする大覇星祭編の幕間って感じの話。
田木原って木原くンだったンだァ。へェ〜(棒)
106 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/02(火) 04:31:57.56 ID:5bPZYY3Ko
そう言えば、前スレの気まぐれアンケートで風斬さんマヨナカテレビ招待ってのがあったんですけど、
あれはこれからの話の展開上出来ないです、マジごめん。
その理由はそのうち出てくると思うンで、マジごめんとだけ業務連絡。
マジごめん。スキルアウトの日常はそのうち再び彼らも出てくると思うます
107 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/02(火) 04:55:01.04 ID:3zfx1A3O0
>>1
乙
クロスの醍醐味やね。
>>106
レス感謝
伏せカ−ドは楽しみにして待つ。
108 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/08/02(火) 05:17:50.59 ID:vlpiEsumo
クマ元気かな・・・
109 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/03(水) 12:33:11.04 ID:7f7kD3/0o
よし、書くぞー。
>>108
大覇星祭に乗じてクマも外出て来るんで。そっこー出て来るんで!
110 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/03(水) 12:33:50.54 ID:7f7kD3/0o
ごめん俺の「書くぞー」は「書きためるぞー」なんでまだ1文字もかけてないです!!待っててくれ!!!
111 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/03(水) 16:40:18.22 ID:7f7kD3/0o
透過するかァ
112 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/03(水) 16:41:49.39 ID:7f7kD3/0o
大覇星祭。
9月19日から1週間にわたって行われる、いわゆる体育祭。
それも1つの学校だけで行われるものではなく、合同体育祭。
それも複数の学校だけで行われるものではなく、全ての学校と合同体育祭。
能力をフルに活用して行われる、万国びっくりショーもびっくりな体育祭であり、
この大覇星祭は閉鎖的な学園都市には数少ない外部からの見学OKな貴重な機会である。
故にまだ開催日の早朝だというのに、ここぞとばかりに父兄達は学園都市内に集結していて、
人口密度は優に普段の二倍以上に達していた。
それもそのはずで、学園都市が超能力を開発している、というのは外部でも有名な話である。
といっても、どのような実験をしているのかまでは知る由もないのだがそれはさておき、
人が手から火を出したり50m先まで一瞬で移動したり、超電磁砲を放ったり風を起こしたり、という光景は非常に珍しいのだ。
それこそテレビ中継で全国ネットに瞬く間に拡散され、ツイッターでは「学園都市なう」が蔓延るほどには。
そんな中上条当麻や御坂美琴もまた、競技に参加するのを義務付けられており、それぞれが自身のクラスメイトの下に居る。
そちらはそちらでひと波乱あるのだが、それはまあ原作を読んでもらえばおおむねわかると思う(メタ)。
さて、学生でない一方通行たちがなにをしているかというと、特に何もしていない。
何せ9982号や打ち止めは外に出たがっているのだが、一方通行はめんどくせェとか言って動く気配を見せないのだ。
なるほど、前述したとおり人がごった返した街中を歩きたくない、という気持ちは分からないでもない。
とはいえ、遊びたい盛りな9982号や打ち止め(実年齢は気にしない)をして外に出ないという選択肢はありえないのだろう。
113 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/03(水) 16:43:01.74 ID:7f7kD3/0o
「やだやだやだー!!だいはせーさい見に行きたい!ってミサカはミサカは駄々こねてみたりー!!」
テンプレな「寝ころんでじたばた」を用いて外に出たいアピールをする打ち止め。
しかし一方通行はげんなりとした様子でそれを眺めるだけで、心ここにあらずといった様子だ。
というのも、桐条美鶴から「学園都市の手のものに召喚器を奪われた」と連絡が来たのだ。
事情を聞く限りでは『黄昏の羽』の出どころは学園都市にはばれてはいないようだが、
それはすなわち、召喚器を作らなければ襲撃に遭うことはなかったということだろう。
これは明らかな一方通行の失策である。
学園都市の人間が桐条の下に資料を求めに動いていたのだから、
もっとそちらにも警戒を向けるべきだったのだ。
そんなわけで一方通行の頭の中は「なァにィ〜〜!?やっちまったなァ!!」というワードがぐるぐると渦を作っていた。
「一方通行?何を考えてるのか知りませんが……外に出て気晴らしでもしてはどうですか?
と、ミサカは上位個体とはうってかわって大人の対応をとります」
「そーよー、子供は風の子元気の子、ってね。3人で外出てきたらどう?」
芳川桔梗もまた外に出たくない派なのだが、これは一方通行とは違い純粋に動きたくない盛りなのだろう。
床に座り込んではいる物の、いつでも立ち上がれそうな一方通行とは違い、
ソファーに寝転んで完全なスリープモードでテレビを眺めていた。
と言ってもどのチャンネルを回しても学園都市一色で、見飽きた風景が映ったりしている為、
どちらかと言えばBGM代わりにテレビをつけているだけ、と言った様子か。
何にせよ動かざる事山の如しな芳川は、確実にお留守番担当員筆頭だろう。
一方通行は一方通行で、いつまでも失敗の反省をするつもりはなかったのか、
というより芳川と同列に扱われたくなかったのか、おもむろに立ち上がる。
どうやらようやく踏ん切りがついたらしく、気晴らしに外に出て、上条達の冷やかしに行くのも良いかなとか考え出したらしい。
「外行くぞォ」
と、首をバキバキと鳴らしながら言い放つ。
9982号と打ち止めは嬉しそうな顔をして、一方通行に着いていった。
114 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/03(水) 16:44:10.19 ID:7f7kD3/0o
・・・
さて、外に出たは良いが、まだ競技は一つも始まっていない。
とはいえこの圧倒的人だかりは、アンチスキル・ジャッジメントを全て投入してようやく整理出来る、と言ったところだろうか。
移動用の公共機構は自動運転のバスと地下鉄が主で、一般車両の外部から学園都市への侵入は禁止としていたのだが、
これでもしそれが許可されていたら、お前らの渋滞で学園都市がヤバい、と言った状況に陥る事請け合いだ。
それはさておき、9982号と打ち止めにはいつものファミレスで時間を潰してもらっておいて、
一方通行はテレビの中侵入用の為だけに借りたボロアパートへと赴いた。
クマが外に出られるらしいので、ちょっとそれを確かめようと思ったのだ。
そんな訳で、ガチャガチャと建てつけの悪い戸を開くとそこには。
「お前誰だ」
布束砥信がお茶を飲みながらテレビを見ていた。それはまあいい。
だがしかし、窓を開けて外を眺めている金髪は誰だ。
「お!一方通行ン!やっと来たクマか!?待ちくたびれたクマよー!」
「はァ?クマァ?」
語尾にクマ。
特徴的すぎるその語尾を扱う奴を、一方通行はただ一人しか知らないのだが。
「あっ、そーかそーか、クマが着ぐるみパージした姿をしらないクマね!そう言えば!」
「あァ?どォいう事だァ?」
説明を要求する、と言った目線を布束に送ると、どうやらペルソナが覚醒した後、
不意に着ぐるみを脱ぐとその『中身』が有ったらしい。
原因は不明だが、ペルソナが関係しているのだろうか。
「そんな訳で、今日からお祭りらしいクマね!クマも行くクマよ!!」
「待て、別にかまわねェが、その着ぐるみは止めろ。目立ちすぎる」
「ガーン!そんなせっしょーな!これはクマの半身タイガースで……」
「止めろ」
「……はいクマ」
クマは一方通行の言う事に従い、別れを惜しむようにテレビの中に着ぐるみをグイグイと押し込んで行った。
とてもじゃないが、自分の半身の扱い方とは思えない。
「well、久々の外だし羽伸ばしましょうか」
どうやら布束も付いてくる気らしく、軽くストレッチをして体をほぐしている。
色々と訳有りな布束ではあるが、人を隠すなら森の中。
この人ごみにまぎれれば研究者達にバレる心配も無いだろう。
「……はァ。あンま目立つ事すンなよォ」
外に出る事に関しては何ら異論の無い一方通行であるが、色々と不安であるのは事実。
打ち止めの子守もそうだが、面倒くさい事にならなければ良いのだが、と嘆息を吐く一方通行だった。
115 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/03(水) 16:45:40.84 ID:7f7kD3/0o
・・・
召喚器が奪われた、とはいえ学園都市の技術力の高さを一度は見ておきたい桐条美鶴達は、
どうやら3日目以降にこの学園都市に来るらしい。
そんな訳で初日と2日目は本当に何もすることが無い。
一方通行はいつものファミレスでコーヒーをすすりながら、今後の予定について考えを巡らせる。
目の前では、打ち止めと意気投合するクマ。
一方通行の隣では布束砥信と共に新たなミックスジュースの作成を試みる9982号。
なんだか、ファミレスの外では大覇星祭だと言うのに、こちらではいつもの光景が広がっていた。
「また新しいお客様が増えていらっしゃいますね」
そう声をかけてきたのは、いつも、いつものファミレスで働いているいつもの店員だった。
茶色のショートヘアにクリっとした目。身長は御坂美琴や9982号よりも一回り小さく、
下手すると小学生にも見間違われそうと言った外見を持つ彼女であるが、
本当にいつもファミレスでバイトしているので、ひょっとしたらもう高校すら卒業しているのかもしれない。
「あァ、明後日あたりまた新しいの連れて来るかもなァ」
「……ここ最近、急速にお客様の新たなお友達が増えてきてますね……」
こちらとしては非常に売り上げに貢献して下さってるので、有りがたいのですが。と店員。
確かに、何だかここ一月かそこらで急激に人と関わりを持っている。
とてもじゃないが、今までの学園都市第一位の姿とは思えない。
「なンでだろォな」
一方通行自身も、何故かはわからなかった。
そんなことより、と一方通行はジロリと店員を見やる。
店員はどこからか椅子を引っ張ってきて、その椅子にちょこんと座ってソーダをすすっていた。
明らかに客側として馴染んでいる。とはいえ恰好はウエイトレスなので、サボっているようにしか見えない。
確かに、まだ朝と言う事もあり、客の姿もまばら……というか一方通行達しかいない。
外では父兄達がパンフレットを広げながら、我が子の雄姿をどこでなら最も間近で見られるのか、と右往左往しているというのに。
116 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/03(水) 16:46:23.22 ID:7f7kD3/0o
「……つゥか、仕事しなくていいのかよ」
「良いんですよ、この後ランチタイムに突入したらこんなことしてる暇もなくなっちゃいますし……
今の内に休んでおくんです」
まだ競技も始まっていない朝。
父兄達は我が子の応援をする準備は万端、と言った様子で応援席を陣取っているのだが、
恐らく昼休みの時間になれば一気に近場のレストラン等になだれ込む事だろう。
そうなった時、真の地獄が始まる。
ならば今の内に英気を養っておくべきではないか?というのが店員の弁であるが。
「休むなら裏で休めよな……」
休んでる様を客に見せるとは何事か。
一方通行はそんな接客業の基本を怠っている店員を軽く叱咤する。
「むう、バックグラウンドじゃまだ誰も来てなくて暇なんですよー」
深夜組はもう帰ったらしく、朝組の店員はいつもの店員だけでしばらくしないと誰も来ないらしい。
大覇星祭当日で忙しくなると予想されるのに、イマイチ緊張感に欠けるホールと厨房だった。
「お前しか居ねェなら、なおさら仕事しろよなァ」
「仕込みは既に深夜組の方が終わらせてくれてます。後はお客様が来るのを待つだけなんです」
実は意外とやる気はあるらしく、店員はいずれ埋まるだろう客席を夢想して奮起している。
となると、インデックスと言う食物吸引機を連れて来ると、まだ見ぬ客の分まで食べ物を喰らってしまうだろう。
売上的には同じかもしれないが、どうせならいろんなお客さんに味わってもらいたいと考えているようだ。
このファミレス、チェーン店の冷凍食品とは違って手作りを心がけているようで、意外と好評なのだが、
如何せん不定期に訪れるインデックスによって唐突に本日の営業は終了しましたのお知らせをせざるをえなくなるのだ。
故に大覇星祭がおこなわれる間は、インデックスを連れてこないようにしとこう、と一方通行は思う。
117 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/03(水) 16:48:10.07 ID:7f7kD3/0o
「まァなンだ。ランチタイムの時は邪魔しねェよォにするわ」
「あ、それなら……もしお暇だったらここのお手伝いとかしてみませんか?」
「えっ」
「最近バイトが少なくて困ってるんですよ。普段なら満員御礼!なんてことはありませんが……
今日から1週間は否応なしにそんな状況になると思いますし……」
「だからってなンで俺なンだよ」
「だって、業務に関しては大体把握なさってるでしょう?
見えない厨房は別として、ホールでの接客なら」
確かに、毎日のように店員の仕事っぷりを見てきた一方通行だし、
恐らくやれと言われれば出来るだろう。
「めんどくせェよ、ンなこと」
「あはは、ですよね。まあいきなりこれから始まるラッシュアワー的な中に放り込むと言うのもあれですし、
気が向いたら大覇星祭後でもいつでも声掛けて下さい。お客様方なら店長もよろこんで採用すると思いますよ」
そして店員はグイッとソーダを飲み干すと、持ってきた椅子と共に業務に戻ると告げ、
厨房の中へと吸い込まれて行った。
「暇だったらミサカも参加しますよ?」
「indeed、ここを隠れ蓑にするのも良いかもしれないわ」
「どのジュースの組み合わせが一番おいしいか」という題目を、真面目に検討を重ねていた9982号と布束は店員の後姿を眺めながら、アルバイトも悪くない、と言う。
布束はどうだろうか、表向きでは既に研究職も除籍と言う事になっているだろうから、ここで働いても問題は無いのだろうか。
「そォだな。まァ、これからの事を考えるとバイトしてみるってのもアリかもなァ」
妹達の生存権。
はっきり言えば、それは学園都市がまだ握っているだろう。
とはいえいずれはそれを奪い返すのだが、それを行った後、妹達はどうするのか。
ここで社会見学、と言う訳ではないが働いてみるのも一興だろう。
じゃれ合っているクマと打ち止めの精神年齢について考察をしながら、
一方通行は近い未来に関して思いを馳せるのであった。
118 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/03(水) 16:50:35.83 ID:7f7kD3/0o
・・・
「むう……打ち止めと、大体一緒に居たい!にゃあ」
フレメア=セイヴェルンは頬を膨らましながら駒場利徳を見上げた。
大覇星祭初日。フレメアは自身の通う小学校もあるので、
競技に参加しなければならないのだが、そんなのよりも打ち止めと一緒に遊びたいらしい。
とはいえそんなフレメアの我儘で他のクラスメイトに迷惑をかけられるはずもない。
「……ならば、打ち止め達をこの場に呼ぶ。それでは駄目か……?」
駒場は譲歩案を出し、フレメアに納得してもらうよう説得を試みる。
と言っても、フレメア自身も別に競技に参加したくない訳ではなく、
打ち止めと共に行動したいだけなのでその言葉に異論は無かった。
「良かったねえ駒場のリーダー。せっかく用意したフレメアの雄姿撮影セットが無駄にならなくて!
ついでに周囲の子供達の撮影も……とか考えたら駄目だぜ?」
茶化すような口調で語る半蔵。
実際、今朝方に駒場と合流した時、浜面仕上と共に爆笑したものだった。
一言で言えば『運動会前のお父さん』。
喉が渇いていいようにスポーツドリンクを入れた1,5Lの水筒に、
汗をかいていいように数枚のタオルをカバンの中に常備させ、
更には思い出を刻むべく用意されたデジタルカメラに極めつけは駒場特製弁当だ。
リンゴはうさぎさんで、ウインナーはたこさん。
どう見てもフレメアが喜びそうなラインナップを重箱に入れて現れた時は、
ひょっとして狙ってやっているのかと疑ってしまう程に爆笑させられた。
「いや実際、駒場さんはいい『お父さん』になれると思うぜ!
弁当とか滅茶苦茶美味そうだったしな。あの中身見て食べさせてもらえないのは非常に悔しい!
だけど『初めて』はフレメアに……だよなぁ!」
駒場のフル装備を見て爆笑して、そして駒場に粛清された訳だが、
駒場の隠された意外なる特技・料理を見た浜面は意外と感心したように語る。
でもやっぱり語る内容は駒場を茶化しているもので、
結局浜面は半蔵と共に本日二度目の粛清を受けた。
「「この程度の……暴力に屈して……たまるか……!」」は
成程、言葉だけ見れば非常に勇ましく格好いいものなのだが、
TPOを弁えねば非常に不格好な物になる、という良い例だろう。
フラフラと立ちあがりながらも、決意に満ちた目を駒場に向ける浜面と半蔵。
ただ、先程までの掛け合いを見ていた周りの人間からすれば、非常に滑稽なものに映っただろう。
「……とにかく、一方通行に聞いてみるとするか……」
浜面と半蔵に軽く溜息をつきつつも、駒場は一方通行に連絡を取るべく、携帯電話を開く。
大覇星祭開催まで、後1時間を切っていた。
119 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/03(水) 16:51:07.87 ID:7f7kD3/0o
どや?セイヴェルンって言えてたか?(ドヤァ……
りせちーもそのうち出てきます尾張です
120 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/03(水) 17:07:29.12 ID:7f7kD3/0o
「「この程度の……暴力に屈して……たまるか……!」」は←は、は別に要らない
121 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/03(水) 20:40:24.42 ID:PtfR0C/k0
>>1
乙
失敗を如何にrecoveryするかが大人の世界。
この失敗を餌にして、罠にかけるのが孔明
122 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/04(木) 20:24:28.24 ID:r56TljZ8o
「一日アンチスキル部隊長……ねぇ……」
「よ、よろしくおねがいします……」
黄泉川愛穂は目の前の少女を見て、改めて嘆息した。
外部からアイドルを招き入れて何をさせるかと言うと、一日警察署長の様な事。
事前にこの事は知らされてはいたのだが、
実際に目の前の少女を見ると非常に面倒な事になりそうだと思う。
はっきり言って、大覇星祭でのアンチスキルの業務は普段の20割増しくらいに激務である。
何故かと言うと、いくら頑張ろうとも外部からの侵入が容易になってしまうからだ。
従って、毎年大覇星祭の裏側では何かしらの事件が起こっている。
去年は某研究所への諜報活動。
一昨年は某病院へのテロ活動。
これらだけではなく、もっと小さな事件や事故も多発していたのだが、
それらは全て秘密裏に処理されてきた。
外部に「この街は危険だ」と悟らせてはいけないから。
それを悟らせては、外部からの学園都市への編入が減ってしまうだろう。
だからこそ、久慈川りせのアンチスキル業務の参加も許可されたのだ。
「アイドルが警察の真似事出来る程度の安全度は有る」と思わせる為に。
「『りせちー』って言ったら、もっと元気な感じじゃなかったじゃん?
テレビあんまり見ないからよく知らないけど」
123 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/04(木) 20:25:56.26 ID:r56TljZ8o
黄泉川はこれからの予定を頭の中で組み立てながら、目の前の少女に声をかける。
赤みがかった茶髪のツーサイドアップ。両サイドで結われた髪の毛は、彼女が動くたびにサラサラと揺られる。
小さな体躯に似合わずスレンダーな体型で、パッチリとした二重の瞼。
成程、これがアイドルだ!って感じの見た目じゃん。
とか黄泉川は思うものの、目の前の少女からはイマイチ元気が感じられない。
以前テレビで見た時は、もっとはっちゃけた感じだったと記憶していたのだが。
「え、えっと……緊張しちゃって……」
久慈川は曖昧な笑みを浮かべて黄泉川の質問に答える。
その表情には若干の陰りが見え隠れしていたが、本当に緊張してるのだなと黄泉川は納得した。
「まあいいじゃんよ、これから「一日アンチスキル部隊長」って名目でうちの部隊を指揮してもらうけど、何か質問あるじゃん?」
「あ、いえ……分からない事があったらその都度聞いて行けばいいんですよね……?」
「ん、それでいいじゃんよ……てか、そんなんで大丈夫じゃん?
ちゃんと朝飯は食ってきたかー?」
元気があれば何でもできるじゃん!と黄泉川は快活に笑う。
そんな黄泉川を見て、久慈川もまたクスリと笑った。
「大丈夫です、仕事に入る時はスイッチ切り替えますから」
「お?公私使い分けてるのか?そりゃ凄いけど駄目駄目じゃんよ、子供はもっと好きなように生きるべきじゃん!」
こんな子供が公と私を使い分けている、と言う現実に黄泉川は少々驚いている。
公私混同というか、常に素で動いている黄泉川には考えられないだろう。
「あはは……いちおう、仕事ですので」
「そうかい、ならまあ……あんまり息苦しくならない程度にするじゃんよ」
「……そうですね」
黄泉川の言葉に、久慈川は再び少しばかり表情を暗くしたのだが、すぐに元に戻して同意の言葉を言った。
今度は先ほどとは違い、その陰りを黄泉川はしっかりと捉えていた。
124 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/04(木) 20:27:11.63 ID:r56TljZ8o
・・・
「いえーい!皆見てるー!?今日はぁ、学園都市にやってきちゃいましたぁー!
よくわかんないけどぉ、警察みたいなことをやってぇ、学園都市を守っちゃいたいと思いまーす!」
久慈川りせは、テレビカメラが向いた瞬間豹変した。
まさに公と私が切り替わった瞬間だ。
お茶の間の一同は久慈川の『公』しか知らない為、
「その姿」が当たり前のものだと思っているのだろう。
黄泉川愛穂は目の前で可愛らしい動きと口調を続ける少女を見て、
『私』を見せられるような、信用できる相手は居るのだろうかと場違いな考えが頭を廻った。
初めて会った時の、あの少し控えめな態度。
黄泉川の予想ではあるが、久慈川は緊張から来るとは言っていたが、
あれが本来の久慈川の性格なのだろう。
だとしたら、こうしてハイテンションを保つと言うのは非常につらい作業になっていると思う。
それを裏付けるかのような、先程見せた表情の一瞬の曇り。
一期一会、今日だけの出会いだろうけど、逆に今日しか会わないからこそ話せない事もある。
(それなら……)
等と黄泉川があれこれと考えていると。
「ちょーのーりょくとかよくわかんないけどぉ、
悪い人がいたら私がみぃーんなやっつけてあげるからねー!」
すると中継は一端終わりらしく、テレビカメラが回り終えると久慈川は髪の毛をかき上げ少し溜息をついた。
125 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/04(木) 20:28:02.57 ID:r56TljZ8o
「黄泉川さん……」
少し不安げに久慈川は黄泉川を見上げる。
その表情を見た黄泉川は真剣なまなざしで久慈川を見た。
「どうしたじゃん?」
「超能力って……本当は私が思ってるよりすごいんですねよね?大丈夫かな……」
「……ぷっ、大丈夫じゃんよ。あんたは部隊長なんだから、
後ろでふんぞり返ってりゃそれらしくなるさ」
「むっ、黄泉川さん?子供だからって馬鹿にしてるでしょ?」
「違うじゃん、「年相応」に扱ってるだけじゃんよ」
「もう!ひっどーい!」
少しだけ心を開いてくれたのか、久慈川は最初の頃とは違いかなりフランクに話してくれるようになった。
これが『公』に引っ張られたものなのか、はたまた本来の『私』なのか黄泉川にはわからないが、
せめてこの場にいる間だけでも本音で話してくれたらうれしいと黄泉川は思う。
『今日しか会う事がない』からこそ話せる事もあるだろうから。
126 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/04(木) 20:29:44.64 ID:r56TljZ8o
・・・
「ンだこりゃァ……」
「「ぎゃはははは流石ロリコン皇太子!!」」
「ミサカはそれ食べたいってミサカはミサカは」
「well、中々良いポジションを取ったものね」
「……ふごおおおおお!!!」
「お?このアイスキャンデーを食べたいクマか?3本か?甘いの3本欲しいクマか?
いやしんぼクマね!お腹壊すクマよ!」
「そうですね。とはいえジャリガキの低レベルな争いしか見られないのがたまに傷ですが」
「うぎゃあああああ!!!」
「じゃあミサカのと交換しよ!ってミサカはミサカはオレンジシャーベットを差し出してみたり!」
「indeed、自分だけの現実があまり定まっていない子供達の能力ですが、
発想が私たちより柔軟だからね。自分の能力をどう使うか楽しみってところよね」
「うわああああ!?浜面ァァァ!!!」
「お、ありがとクマ!ならクマはこのグレープ味を差し出すクマよ!」
「……貴様もだ。半蔵」
「成程、確かにミサカは能力の運用法がインプットされていますが、
それ以外の使い道もあるかもわかりませんね」
「うぐああああああああああ!!」
カオスだった。
スキルアウト一行と合流して、フレメア=セイヴェルンの応援に回ったのは構わないのだが、訳がわからないよ。
フレメアは既に競技に参加してるので、この場には居ない。
いや、居ない方が良いだろう。
既に場が出来上がってしまっている。酒は入ってないはずなのだが。
127 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/04(木) 20:30:49.69 ID:r56TljZ8o
眼のやり場に困って、ふと校庭の外を見ると黄泉川愛穂がいた。
恐らくアンチスキルの業務を行っているのだろう。
お疲れ様だなァとか思いながらその動向に注目していたら、
知らない少女がアンチスキルを率いていた。
「なンだありゃ」
テレビだのアイドルだのに興味のない一方通行。
黄泉川よりも一回り若そうなのにアンチスキル率いていると言う事は、
それだけ有能なのだろう。と見当違いの予想をしていた。
「ここではぁ、子供達が頑張ってるみたいだよー!
それじゃあ、頑張ってる子供達にインタビューしたいと思いまぁす!」
と思ってたら、何やらその少女が周囲に居る小学生達にインタビューを始めた。
「……本当になンだありゃ」
どうやらアンチスキルの隊長だとかそういうあれでは無いらしい。
だが、一方通行には久慈川りせに関する知識は無い。
近くに黄泉川がいるので、少し話を聞いてみようか。
と言うより、この宴会のような騒ぎの渦中に居たくないのが本音だ。
そんなわけで、そろそろとその場を離れて、黄泉川のいる方へと向かう。
「よォ、なンだありゃ?」
「お、一方通行じゃん?こんなとこで何してるじゃんよ」
「いや、あれなンだが……」
128 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/04(木) 20:31:46.51 ID:r56TljZ8o
黄泉川の問いに、一方通行はげんなりとした様子で指をさす。
そこには花見でもしているのか、と言う程に馬鹿騒ぎをしている一団がいた。
「……成程、あのノリに着いて行けなくなったとこに、私らが来たってとこじゃん?」
「そのとォりだァ。で、ありゃなンだ?」
「お前『りせちー』って知らないじゃん?今をときめく有名アイドルだってのに……
いくらなんでも俗世から離れすぎじゃんか」
「興味ねェもン知ってどォすンだよ」
チラリとインタビューを続けている久慈川りせを見やると、
一方通行は興味を無くしたかのように視線をそらした。
本当に興味が無いらしい。
枯れていると言うか何と言うか……。そんな呆れた様子で黄泉川は一方通行を見る。
すると再び中継を終えた久慈川が黄泉川達へと向かって歩いてきた。
「あれぇ?その人だぁれ?」
どうやら周りに人目が有る時はキャラを崩さないよう心掛けているらしく、
先程と同じテンションで話しかけてきた。
「なンだコイツうっとォしいぞ」
そんな久慈川の仕事魂を真っ向から否定する台詞を、一方通行は堂々と吐いた。
流石のりせちーも、その全否定っぷりに驚きを隠せないようだった。
129 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/04(木) 20:32:59.88 ID:r56TljZ8o
「んな!?あんただって残暑厳しいこの時期に真っ白なくせに!!もっと外出なさいよ!!」
「あァ!?俺だって好きで真っ白でいる訳じゃねェンだよ!!
せめて服だけでも黒くしてェってこの気持ち分かンねェかなァ!?」
「分かんないわよ!そんなウルトラマンみたいな服装から、
そんな事情をどうやって導き出せっていうの!?」
「ンだとォ!?」
「なによ!」
「あっはっは、初対面とは思えない程息が有ってるじゃんよ」
「「誰がだ(よ)!?」」
やっぱコンビネーション抜群じゃん!と黄泉川が爆笑する中、
番組のプロデューサーらしき人がそんな3人に近づいてきた。
「あのー、そちらの白髪の方は一体……」
「ん?ああ、こいつ学園都市でも有数の超能力者じゃん。
けして怪しい者とかじゃないから心配しなくていいじゃんよ」
「なに?超能力者だって?……それはいい!
もしよろしければしばらくの間久慈川と行動してもらいたいのですが、どうでしょうか?」
どうやら黄泉川が一方通行の保護者と思ったのか(実際その通りだが)、
一方通行の同行の許可を黄泉川に求めるプロデューサー。
一方通行がそのような事を許可するはずもないのに。
「あァ?なンだってそンな面倒くせェ事を……」
「ふん、超能力者とか言って訳のわからない私服着てる時点で学生では無いんでしょ?
怪しいに決まってるわ!」
「あァン!?誰の服が怪しいってェ!?」
「落ちつくじゃん、一方通行。私の眼から見てもその服は怪しい」
「なン……だと……!?」
ほら見た事か、と言ったドヤ顔を一方通行に向ける久慈川。
一方通行のボルテージはマックスだ!
130 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/04(木) 20:33:56.81 ID:r56TljZ8o
「あの……それで御同行の方は……」
プロデューサーは恐る恐る黄泉川に尋ねる。
まだ高レベルの超能力者を目の当たりにしていないからか、不安そうな様子である。
「ん?ああ、どーせこいつ暇だし構わないじゃん。なんかあの子と息あってるし」
「それで、彼はどのような超能力を……?」
一番気になる所。
より凄い能力である程、画も映える。黄泉川の言が本物ならば撮影しがいもあると言うもの。
これが逆に地味なものだったら、放送事故につながりかねないから慎重にもなる。
「んー、説明しにくいなあ。実際に見てもらった方がいいかもしれないじゃん」
黄泉川はしばらく考え込むが、本当に説明し辛い。
「火を出せます」とか「電気出せます」とかならまだしも、
「ベクトルを操作できます」と言われても分かり辛いだろう。
「ハァ?なンだって俺が全国のお茶の間に超能力をお届けしなきゃならないンですかァ?」
「あれ、怖いの?ホントは超能力なんて使えないんでしょ?
カメラも回ってないし、謝るなら今がチャンスじゃない?」
「……やってやろォじゃねェか。後になって後悔してもしらねェぞ」
「ふん、精々放送事故にならないよう気をつけることね!」
何より、当の一方通行があの様子だ。はっきり言って頼りない。
強いて言うなら姿形は目立つから、超能力者ですと紹介してもそれっぽいだろう。
「それでは、あなたのお名前をお伺いしてよろしいですか?」
何にせよ、一度能力を行使している所を見てから決めたらいい。
プロデューサーはそう思いなおし、一方通行に名前を尋ねた。
「あァ?……鈴科だ」
少しイライラとした面持ちで、一方通行は偽名を名乗った。
・・・
「あれ?そんな名字だったじゃん?」
「いや、偽名だから」
「……本当の名前は一体どこに行ったじゃんよ……」
「……家出して帰ってこねェンだ。俺の名前」
「……」
「……」
131 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/04(木) 20:34:56.30 ID:r56TljZ8o
尾張です。
りせちーをどう絡めようかと思ったけど、無理矢理絡めました。
この頃から既に自分の在り方とりせちーという人物像に悩まされているってことで。
132 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/04(木) 20:43:51.37 ID:r56TljZ8o
>>125
「超能力って……本当は私が思ってるよりすごいんですねよね?大丈夫かな……」×
「超能力って……本当は私が思ってるよりすごいんですよね?大丈夫かな……」○
133 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/04(木) 21:13:12.00 ID:JLM7QEcVo
>>1
乙
一方さんやり過ぎないでー
134 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/08/04(木) 21:31:06.28 ID:2VBlPQOQo
いやレベル5の能力なんてそうポンポン見せちゃダメだろ
135 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長崎県)
[sage]:2011/08/04(木) 21:38:29.93 ID:UHIlVPJ+0
これは続きが気になるww
136 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/04(木) 22:10:45.54 ID:34bs52XI0
>>1
乙
光子ベクトル操作の千里眼、
音波ベクトル操作の順風耳、
分子ベクトル操作でアイスキャンデ−
色々あるな。
137 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/05(金) 00:30:22.05 ID:h9I6bBhSO
乙ー
あれ? このりせちー普通に釘宮っぽいな
まぁ初対面の台詞があれじゃツンになるのはしょうがないとしてデレはくるのだろうか?
138 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)
[sage]:2011/08/05(金) 08:21:18.70 ID:7/NGlrMoo
一方さんが超能力を見せる・・・
反射は攻撃されないとよくわからないだろうから地面割ったり暴風か?どっちにしろ大惨事だな
139 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/05(金) 08:43:19.15 ID:4IO9WEvBo
番長に対しては初めからデレというくぎゅキャラには珍しいパターンだけど、
別に仲良くもない相手ならつっけんどんな態度をとってもおかしくないと思うんだ。くぎゅだし
でも元々内向的な性格だからちょっと違和感あるかな
透過する
140 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/05(金) 08:44:46.24 ID:4IO9WEvBo
「勢いとは言え、やっちまった……」
またやらかした。桐条グループの時と言い、なンだか墓穴掘る事が多い。と一方通行は思う。
学園都市第一位が誰の許可も無しにテレビの前に出るとは、色々と問題が出そうな気がする。
いや、まだ自分が第一位だとは名乗っていない。
諦めるにはまだ早い、諦めたらそこで試合終了なのだから。
「能力を見せる」とは言ったが、余り手の内を晒す事はしない方が良いだろう。
何せ誰が見ているかわからないのだ。
(となると……)
この間桐条御一行に見せた光学迷彩、あれでいいだろう。
あれなら「the 超能力」と言っても差支えないはずだ。
何より桐条達にはそれで通していたのだから、
もし間違って別の能力を使っているところを見られたら何を言われるか分からない。
とはいえ、一方通行の目の前にいるツーサイドアップは、
「えーマジ光学迷彩?キモーい光学迷彩が許されるのは小学生まで」とか言って難癖付けてきそうな気がする。
弱った。
今現在、一方通行の頭の中には、適当にお茶を濁して立ち去ると言う選択肢は無かった。
何だか久慈川りせに負けた気になってしまうから。
今までも魔術師相手やシャドウ相手に色々と立ち回ってきたが、ようは負けず嫌いなのである。
例えどんな分野だろうと。
そんな訳で、適当に能力を見せた後に、一方通行が選んだ道がこれだ。
141 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/05(金) 08:45:56.26 ID:4IO9WEvBo
「今日はぁ、ちょーのーりょくについて教えてくれる野良のーりょくしゃの方に来てもらっちゃっいましたぁ!」
「どォもー、鈴科でェす。光学迷彩で姿消せまァす」
「それじゃあ早速ですがぁ、ちょーのーりょく見せてほしいなあ!」
「そォですね、俺が能力使ったらこンなンなりますゥ」
「あれれー?鈴科さんがいないよぉー?」
「……とまァ、こンな感じに姿を消せるンだよなァ。
原理とか語ると時間の無駄なので実際に見てもらいましたァ」
「それは凄いですねぇ!覗きとかいっぱいなさってたんですかぁ?」
「いや、そォいうの防ぐために『アンチスキル』が居るンですがァ」
「分かりましたぁ!それでは一日部隊長として、あなたを逮捕します!」
「まて、落ちつけ。これは罠だ、俺は覗きなンざしてねェからな?」
「本当ですかぁ?嘘だったらすぐに取り押さえますんで覚悟しといて下さぁい!」
久慈川は間延びする口調だが、何処か棘があるように思えるのは気のせいか。
そんな感じで一方通行の紹介が終わった。
そう、一方通行の選んだ道は。
―――所謂解説ポジション。
142 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/05(金) 08:47:04.51 ID:4IO9WEvBo
何やら久慈川りせ率いるアンチスキルの部隊は学園都市各地を回り、
色んな能力者を見て行こう!みたいな事をしているらしい。
と言うのも、アンチスキル本来の任務は基本交通整理であるから(秘密裏に色々と処理はしているが)、
アイドルの交通整理映像など誰得だと言う事で見回りがてら色んな能力者を見てみようと言うのが目的なのである。
そんな中、「あれ?何この能力」となった時に「ああ、それは定温保存だね。有り体に言えば魔法瓶みたいなあれさHAHAHA」
「すっごーい博識なんだね☆」「いやあHAHAHA、それほどでも」と、素早く解説してくれる人間がいると非常にありがたい。
学園都市第一位の一方通行なら、それは天職と言っても過言では無かった。
何せ一目見て観測すれば、大体の事はすぐに把握できるのだから。
とはいえ、これは全国の男どもから怨念の念が飛んで来るだろう。
何故なら皆のアイドル・りせちーと共に行動出来ると言う特典付き。
一方通行にその自覚は無いが、ファンなら金をいくらでも積んでいるところだ。
この映像を見た事で、学園都市行きを決めた思春期の少年が数多くいたとかいないとか、というのは余談である。
「それじゃあ、次の勤務地行ってみよー!」
久慈川は笑顔全開で拳を突き上げている。
そしてチラリと一方通行の方を向くと、その視線に「お前もやれよ」と言う物を乗せてきた。
「……おォー」
本当、何やってンだ、俺。
勢いだけで行動すると馬鹿を見る、それをまざまざと教えられた一方通行は、
若干気だるげに拳を天に向けたのだった。
143 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/05(金) 08:49:02.43 ID:4IO9WEvBo
・・・
「諸君。聞いているか?
今日は、良い天気だ。今日は、非常に恵まれた天候だ。
諸君。聞いているか?
今日は、適度に暑い。今日は、非常に恵まれた気温だ」
男は語る。
その語りを聞く者たちは一言も声を発さず、
身動き一つもせずに男の声を聞いていた。
「風が気持ちいい。日差しが気持ちいい。頬を伝う汗が気持ちいい」
男は語る。
空を仰ぎ、日差しをまぶしそうに捉えながら、
軽く汗をぬぐった。
「……そしてなにより、戦う前のこのピリピリとした空気がたまらなく気持ちいい」
男は語る。
荘厳な雰囲気を漂わせるその空間は男と兵(つわもの)達だけの空間で、
何人たりともよせつけないものであった。
「諸君、今日は戦うには非常に良い日だ。
諸君、今日は死ぬには非常に良い日だ。
諸君らには今日、死地へと赴いてもらう。私もまた然り、だ。
もちろんただで死ねとは言わない。
奴らの喉笛に噛みつき、奴らの阿鼻叫喚を鎮魂歌とし、
何も語らず、何も残さず、一片の肉片と化すまで一気呵成に修羅と成って果てろ!!」
そして男が一呼吸つくと、最期の口上を一気に述べ上げた。
それに呼応するように、兵達の意気は立ちどころに上昇する。
「「「うおおおおおお!!!!」」」
午前十時。上条当麻達の最初の競技は『棒倒し』。
上条の厨二病も真っ青な口上で、彼の所属するクラスのボルテージは最高潮。
妙な威圧感を放っている割には、上条の号令に反応を示しただけで後はシンと黙りこんでいる。
いつ練習したんだと聞きたい程に彼らの息はぴったりと合い、彼らの意気はすさまじかった。
144 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/05(金) 08:50:08.96 ID:4IO9WEvBo
先頭に上条を据え、彼が仁王立ちするとその背後に横一列。
グラウンドには、ザザッ!と足並みをそろえる音が鳴り響いた。
まるでこれから国賓を相手にするかのような、丁寧で威厳を持たせた軍隊の様である。
もしくは、戦国時代で言う合戦が始まる一歩手前の兵団の様でもある。
兎にも角にも、彼らが持つ緊張感は、テレビカメラが彼らに向いている事から来るものではない。
彼らは一様に「敵軍」……否、「的群」だけを見据えていた。
ただひたすらに、それらを倒すと言う意志が、彼らの目から見てとれた。
その様子だけを伺うと、これから始まる戦いは戦いではなく、
虐殺なのではないかと錯覚させられるほどだ。
そんな彼らの数は優に3ケタに達する。
それもそのはずで、学校単位で行われる大覇星祭は、
基本的に一つの種目に一学年分の学生を投入して行われる。
すなわち、上条はこの一学年分の生徒たちをまとめ上げたと言うのだ。
何故このような事になっているのか。
一言で言えば、対戦相手の担任が、うちの小萌先生を悲しませた。
これに尽きる。
145 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/05(金) 08:50:53.31 ID:4IO9WEvBo
自分達を馬鹿にするのは構わない。
負け犬根性、と言う訳ではないが無能力者が多く集まり、
高位能力者の少ない上条達の学校は、その地位自体があまり高くない。
それゆえに能力に関してあまり頓着を持っていないのだが、
その事に関して敵方の大将(担任)は上条達の大将(担任)を裏で馬鹿にしていたのだ。
その言葉に小萌先生は大層悲しんだ。
これを許してしまっていいのか?
能力を持つ事にこだわりは持たない事が負け犬根性に近いと述べたが、
実際には負け犬等では無い。
これを許してしまった時点で、上条達は負け犬へと成り下がるのだ。
それだけは受け入れられない。
例え無能力者の烙印を押されようとも。
例え低能力者だと陰口を叩かれようとも。
例え落第者だと馬鹿にされようとも。
大好きな恩師を馬鹿にする事だけは許されない。
その一部始終を見たのは上条とその周りに居たクラスメイトだけなのだが、
この話はあっという間に棒倒しに参加する味方達へと伝わり、
上条が無駄に発揮したカリスマで彼らの怒りをまとめ上げたのだ。
そんな光景を見ていた観客一同は上条達に息を飲み、上条達の雰囲気に呑まれた。
死地へ赴く兵士達を見送るように、いつまでも彼らの姿を見ていたいと思ってしまう。
だが、それは許されない。戦地へ向かう彼らに、心残りを残してはならないから。
そして、そんな奇妙な一体感を持った彼らと別れを惜しむ観客を引き裂くように、
棒倒し開始のアナウンスが鳴り響いた。
146 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/05(金) 08:51:43.75 ID:4IO9WEvBo
棒倒し、と言う事ですべき任務は二つ。
殲滅と、敵方の棒を倒す事。
……ではなく棒を倒す側と棒を倒させない側の二種類。
『能力』の有無でハンデを背負っている彼らは、防御に回っている余裕はない。
故に最初からクライマックス、攻撃が最大の攻撃と言わんばかりの戦力の大半を攻撃につぎ込む突撃。
これが本当に戦争だったら愚の骨頂とも言うべき選択肢だろう。
しかし、それしか選択肢が無かった。例え他の作戦が有っても、これしか選ぶつもりが無かった。
無能力者の底力を見せつける。
彼らの頭の中は、それだけで埋め尽くされていた。
「「「おおおおおおお!!!!」」」
兵達は自然と声を張り上げていた。
先程からそうなのだが、たかだか体育祭の棒倒しごときに一体何をそんなに、と思うだろう。
しかしここは学園都市。
ただもみくちゃと押して押されを繰り返して棒を倒す、等と甘い事は言っていられない。
上から下から右から左から、能力の数々が人の代わりに押し寄せてくるのだ。
気合い入れて声を張り上げないと、不意に一撃を喰らった時に立ちあがれなくなる。
147 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/05(金) 08:52:52.92 ID:4IO9WEvBo
炎、氷、雷、水、風、土、その他諸々、あらゆる物体・物質が兵達を飲み込んで行く。
そんな学園都市内でも滅多に見られない、多数の能力のぶつかり合いに観客は沸いた。
しかし、戦禍の渦中にいる上条達は笑い事ではない。
何せこの能力の嵐の中だ。少しでも気を抜いたら、それだけで意識を刈り落とされるはずだ。
テレビの中で数々のシャドウと渡り合って勘を磨いてきた上条だからこそ、
この嵐を潜り抜けてこられたのだろう。
一方で避けきれずに次々と兵達は地に伏して行く。
しかし、その程度で彼らの足を止める事は叶わなかった。
まだ無事な兵はなるべく頭を低くした前傾姿勢を取る事で、攻撃を喰らう無駄を極力減らし、
攻撃を喰らってしまった兵は、地に伏しながらもジリジリと敵本陣へと這っていた。
この死兵のようで、それでいてまだまだ闘志を目に宿した兵達を相手に、敵軍は震えあがった。
やはり能力者として鍛えられたとはいえ、
本物の『闘志』を目の当たりにするのは初めてだったのだろう。
だがしかし、その怯みこそが、彼らにとって最大のチャンスだ。
地に伏していた兵は立ちあがり、一気に駆け上がる。
敵陣に向かっていた兵は、更にその足を速める。
能力などそっちのけで行われた100人の突撃は、それだけで相手の出鼻を挫くのに丁度良かった。
戦争なら愚の骨頂と評したが、この場ではこの作戦こそが最上だった。
148 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/05(金) 08:53:39.33 ID:4IO9WEvBo
・・・
「……」
(なにやってンだよ、上条の野郎は……)
いや、それを言うなら自分もだが。と一方通行は自分で自分に突っ込みを入れた。
りせちーの一日部隊長計画。
彼女が小学生にインタビューした次に向かった先は、高校生達が争う種目。
この年齢になると能力の質も上がっているだろうと向かったところ、
妙な現場に遭遇してしまったのだ。
面白そう!と言う事でそのまま種目を終えるまで見学する事にしたのだが、
余りの景色に当の久慈川りせも、まさに開いた口がふさがらない様子で口をポカンとさせていた。
これではテレビ番組にならないと一方通行は思い、軽く解説をしてみる。
「あァー、やっぱ能力者数そろえるとその辺の見せもンよかずっと面白ェ事になるなァ。
見た感じだと、強い能力者をそろえた学校と能力開発にそこまで力を入れてない学校との対戦ってとこかァ?
押してるのはどっちかって言うと後者の方だから、まァ能力が全てじゃねェって事の証明には成るだろォな」
誰に向けての言葉かは知らないが、見た感じの状況をそのまま実況した。
一方通行の声に我に返ったのか、久慈川も気を取り直して目の前に広がる光景にリアクションを取る。
「ちょーのーりょくってすごいですねぇ!
私びっくりしてどう反応して良いのかわからなくなっちゃったぁ!」
普段のハイテンションを2割増しくらいに興奮させ、りせちーは目の前の光景に目を輝かせた。
カメラの外では、プロデューサーが少しほっとした様子で2人のやり取りを眺めている。
やはり一方通行の気遣いはファインプレーだったのだろう。
149 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/05(金) 08:54:31.66 ID:4IO9WEvBo
「あのレベルで能力の撃ちあいをするのは滅多にねェからなァ。俺でも割と驚いてる。
普段、無能力者があそこまで能力者に真っ向から向かって行く事ってあまり見ねェからなァ。
何が有ったかはしらねェが」
本当に何が有ったのか。後で上条に聞きに行こうと思う一方通行。
そんな一方通行の思考を知ってか知らずか、久慈川は言う。
「なんだかすごいですねぇ!ちょーのーりょくある方がやっぱり有利だと思うんですけどぉ、
それでもそのハンデを乗り越える彼らに拍手を送りたいと思います!
それで、あそこ走ってるツンツンとげとげ頭の人があっちのチームのリーダーっぽいからぁ、
後でインタビューしてみようと思いまーす!」
はい、カット!それではCMはいりまーす!と言う声で、一端カメラが打ち切られた。
その声と同時に一方通行はだらんとその場にしゃがみこんだ。
「ハァ、テレビに映るってのは慣れねェもンだなァ」
「お疲れじゃん、初めてのテレビ中継のくせによくやってると思うじゃんよ」
力を抜き気だるげにガシガシと頭を掻く一方通行だが、その姿からは緊張のきの字も見られない。
黄泉川愛穂が手放しの称賛をする一方で、久慈川は本当に素人さんですか?と言いたい程に手なれた解説をした一方通行に、
称号として解説王ヤムチャを与えたいとか思う。もちろん悪意100%だ。
「……よく言うよね、カメラ回ってても回ってなくても表情一つ変わらない癖に」
ジトっとした目で一方通行を見やる久慈川だが、
当の一方通行は全く気にした様子もなく、黄泉川が持ってきた飲み物を口にしている。
150 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/05(金) 08:55:28.50 ID:4IO9WEvBo
「まあ、こいつに緊張しろって言う方が無理があるじゃん」
「いや、お前が変わりすぎなンだろォが。なンだあのぶりっこはよォ?
つゥか黄泉川、お前は余計な口出しすンじゃねェ」
「……わたしだって、好きであんなのしてるわけじゃないんだもん」
一方通行の歯に衣着せぬ物言いに、久慈川はむくれて言い返す。
そんな久慈川を見た黄泉川は、やっぱり色々抱え込んでるんだろうなーとか思ったりするが、
一方通行がそれを受け止めてくれないかなとか、そんな場違いな期待を一方通行に抱いていた。
「……嫌なら止めりゃ良いんじゃねェのかァ?」
「……それが出来たら、どんなに良い事か」
「……違いねェな」
嫌なら止めたらいい。それが出来ればどんなに良い事か。
一方通行も久慈川の言う事は良くわかる。
内容は違うが、嫌な事を止められなかった人間だから。嫌な事をそれでもやり続けた人間だから。
自分の為だけに行動しきれなかった人間の末路。それが一方通行だ。
久慈川もまた、同じなのだろう。
周りの期待に、押されて、推されて、圧されて。
きっと圧し潰されているのだろう。
だからこそ苦しむ。
理想の自分と、現実の自分との差を見て。
理想の自分を演じ続ける道化。それが久慈川りせの今の姿だった。
151 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/05(金) 08:55:59.22 ID:4IO9WEvBo
「まァなンだ、これでも飲んで気分落ちつけろよ」
掛ける言葉が思いつかなかった一方通行は、
話題を変えるかのように手に持っていたスポーツ飲料を差し出した。
「ん、ありがと……」
久慈川は何も考えずにそれを受け取り、口にしたところで、気付いた。
「あ、あんたこれさっきあんたが飲んだ奴じゃないの!?」
「あァ?間接キスってかァ?ンな事気にしてンじゃねェよ、思春期かお前は」
「まさに思春期真っただ中の年齢なのよ!私は!!少しは気にしてよ!」
「そりゃ悪かった、じゃあ返せそれ。オークションで売るから」
「何よそれ嫌がらせ!?」
「おォ」
「「おォ」じゃないよ、あなた馬鹿じゃない!?」
「あ、そォだサインくれよ、サイン。そのペットボトルに」
「更に価値を高めようとしてるの!?」
「ハッ、ンだよ元気じゃねェか。ガキはそォやって何も考えずにはしゃいでりゃ良いンだよ」
「……うるさい」
一方通行に、良いように感情を引きだされた久慈川は、悔し半分にそのスポーツ飲料を飲みほす。
そこに先程までの恥ずかしさは見られず、飲み干した後ペットボトルを一方通行に投げつける程度には元気を取り戻していた。
ペットボトルは、ゴミ箱に捨てた。
152 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/05(金) 08:58:27.54 ID:4IO9WEvBo
尾張です。どーしてこォなった。
お茶の間にレベル5の力を見せつけると後後何かありそうなので、ちょっと前に美鶴さんらに見せた能力で帳尻合わせです。
これで万に一つ美鶴さん達がテレビ見てしまっても驚きはありません。いや、テレビに出てる時点で驚きだけど
今日は死ぬには良い日だって、本当はそんな日など無いって意味で使われてた気がするけど、ここでは字面通りに使ってます。
上条さんが変な事になったけど何だこれ。
153 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)
[sage]:2011/08/05(金) 12:30:45.30 ID:fMy9OmqAO
乙
ミサカ達はどうした一方さんww
154 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/05(金) 20:54:26.34 ID:0LI69xJG0
>>1
乙
>>151
確かにサイン入りなら青ピ−に高く売れる。
>>152
一方さん自分制御できてないのでは。
155 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/06(土) 11:59:07.68 ID:BcQXRQlDO
一瞬オルソラさんがヒロインかと思ったがそんなことなかったぜ!
今のところのヒロイン候補
9982号のみ
156 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/06(土) 13:00:48.14 ID:aZSRjLkro
オルソラさんあっさり退場なさったから……
甲子園は初っ端から飛ばしてますね
投下は夜に出来たら。
157 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/06(土) 13:52:12.75 ID:hZCfsFGwo
楽しみにしてるー
158 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/06(土) 22:47:15.40 ID:aZSRjLkro
透過するわ
159 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 22:48:00.52 ID:aZSRjLkro
「何やってるのよあいつら……」
御坂美琴は呆れた目をして2人を見やる。
かたやヘルシングにでも出てきそうな演説。
かたやテレビ出演でアイドルと共演。
御坂は現状を理解できなかった。
確かに、上条当麻とは赤組と白組に分かれて事で敵対していたし、
負けた方が罰ゲームみたいなことをすると話してはいた。
その結果が、あれだ。
基本的に、学園都市では優劣が能力の程度で決まる。
故に上条の所属する学校では、対戦相手にはほぼ勝てないと言うのが普通なのだが、
どうしてあそこまで味方を奮起させられたのだろうか。
更に言えば、現状では上条達が押している。
と言うよりこのままいけば、勝って番狂わせが起きそうだ。
「あいつどんだけ私に罰ゲームさせたいのよ……?て言うか私に何をさせたいの?」
ドン引きだった。
まさかあそこまで学生達をまとめ上げて一致団結して勝ちに行くとは思ってもいない。
そして、一方通行は何をどうしたらりせちーと共演出来るのか。
学校行ってない一方通行は、こう言った催し物の時何してるのかなーとか思ったりしていたのだが、
まさかテレビに出てるとは思いもよらない。
変だ変だと思っていたが本当に変な奴らだった。
160 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 22:49:40.76 ID:aZSRjLkro
(そしてこいつも……)
チラリと横を見る。
そこには、うつ伏せに寝そべっている白いシスターが居た。
「うう……お腹すいたかも……」
空の弁当箱と割り箸を手に、力なく倒れ伏している。
はっきり言って、説得力の欠片も見られない。
「いや、さっき食べてたじゃない。
私なんて今日と言う日になってまだおにぎり1個しか食べてないのに……」
「私と短髪とじゃ胃袋の出来が違うかも」
「そんなデカい胃袋要らないから。後短髪じゃなくて御坂さんと呼びなさい」
インデックス。
御坂から見た印象としては大喰らいの少女としか覚えていない。
あの時、外部からの侵入者と対峙していた時点でただ者ではないと思っているのだが、
お腹すいたお腹すいたと手足をじたばたさせてカロリーを無駄に消費している姿を見ると、
とてもじゃないがただ者にしか見えなかった。
そんなただ者・インデックスは割り箸(先程まで弁当を食べるのに使用していた)を握りしめ、
空腹を訴え続けている。
「うう……あれじゃあ足りないかも……」
「ってもここには食べ物なんか無いわよ……」
そういえば、一方通行がいつもインデックスにご飯を奢っていた気がする。
その時に食べていた量を考えると、
弁当1食分はインデックスにとっては0,1食分にも満たないのかもしれない。
とはいえ食べる物など存在せず、御坂の手元にスポーツ飲料があるだけなので、
強いて言うなら水分でごまかしてもらうしかないのだが……
「空腹を飲み物でごまかすなんてできないかも」
「ですよね」
言わずもがな。
インデックスがぐったりしているのはひょっとして熱中症のせいなのでは、
と万が一に賭けて御坂はそのスポーツ飲料を提供したのだが、無駄だったようだ。
161 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 22:50:31.02 ID:aZSRjLkro
「ところで、短髪はこんな所で何してるの?」
「だから御坂さんと呼びなさい……まあ、敵情視察ってとこねー。勝負するって言ったし。
てか、あいつはいつからあんな調子だったの?」
形はどうあれ、勝負すると決めたのだ。敵の戦力を把握するのも悪くない。
とか思ってたらあれだ。何故あのようなノリになったのか小一時間問い詰めたいところなのだ。
「うーん……とーまはいつも通りだったよ?」
いつもって、いつも一緒にいるのかと突っ込みを入れたくなった。
そういえばこの白シスターも、どう見ても学園都市の住人とは思えない。
今までその辺の事情を聴く機会が無かったから(有るには有ったが、何だか有耶無耶になってた)、
この場で聞いてみても良いかもしれない。
「あー!あくせられーただー!」
とか何とか御坂が思っていたところ、インデックスが今更一方通行の存在に気付いたらしく、急激に元気を取り戻した。
と言うか、インデックスは上条の応援に来たのではないのかと聞いてやりたい。
とはいえ、インデックスは一方通行に会った時は高確率でご飯を奢ってもらっていたので、
パブロフの犬のごとく一方通行を見るとよだれが出てくるのだ。
これを抑えるには空腹を何とかしなければならない。
「ちょ!?待ちなさいよ!」
「お腹すいたお腹すいたお腹すいた」
御坂の制止も虚しく、インデックスはゆらりと幽鬼のように立ちあがると、上条達の様な突撃を一方通行へと向け、
無意識のうちに空腹の訴えを呪詛の様に唱え続けるのだった。
「……私も次の競技に向かいますか」
あれは見なかった事にしよう。そのように御坂は考えた。
インデックスの後姿を見送った後、御坂は何事も無かったかのように自分の競技が行われる会場へと歩いて行くのだった。
162 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 22:51:43.69 ID:aZSRjLkro
・・・
「さぁ!そろそろ勝負が決まりそうだけど……なんと押してるのはぁ、ツンツン頭君のチームでーす!」
「最初の勢いそのままに押しこンだ、ってとこだなァ。
もォ少し作戦を立てておけば、奴さンも健闘出来ただろォが……
まァ、上条達の事を侮った結果ってとこだなァ」
「上条達?……あれぇ、鈴科さん知ってる人があの中にいるの?」
「あァ、例のツンツン頭がそれだなァ」
「へー!それならそうと早く言ってくれればぁ……」
パッと見同年代の男女が雑談しているようにしか見えなかった。
しかし、かたやアドリブかたや演技と言う、いつ事故ってもおかしくない2人だが、
それをおくびにも出さないと言うのは流石と言わざるを得ない。
とはいえ、恐らくは画面の向こうでは、りせちーファンが血の涙を流しているに違いない。
芸能人ならまだしも、普通の素人さんなのだから。
だが、白髪にアルビノと、見ようによってはロックバンドにでもいそうな見た目な一方通行とりせちーのコンビは無駄に絵になっていた。
そんな2人の語らいを遮るように、一人の少女が割り込んできた。
「あくせられーた、こんなところで何してるのかな?」
ひょこひょこと歩いて一方通行の下へと向かう。
一方通行は反応に困ったような顔をしながら、突っ込みを入れた。
「……そりゃこっちのセリフだ」
「ええっと、その子は……?」
突然会話を中断されたせいで戸惑う久慈川りせ。
一方通行の様子を見る限りでは知り合いなのだろうが、今は撮影中だ。
更に言えば生放送なので、編集してカット、等は出来ない。
ならばこの状況を何とか利用するしかないのだが、どうすべきか思いつかない。
番組のプロデューサーは頭を抱えるが、そんなプロデューサーをよそに放送は続く。
163 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 22:52:37.60 ID:aZSRjLkro
「私はね、インデックスって言うんだよ」
「呑気に自己紹介してンなよ……」
「外国の人かなぁ?私海外って言った事無いから、色々と話聞きたいなぁ」
「あのね、私は記憶s「こいつは日本育ちでなァ。ほら、日本語流暢だろォ?見ての通り俺の従兄妹だ。真っ白同士で似てるだろォ?」」
「真っ白って見た目は確かに真っ白だけどぉ……」
「こいつの家庭環境よりも……見ろ、上条達が勝ったみたいだぜェ?」
「あ!本当だ!それじゃあ今からインタビューに行ってきまーす!」
「それよりあくせられーた!私はお腹がすいてるんだよ?」
視聴者からしたらネタなのか、はたまたガチで事故なのかわからないやり取り。て言うかアクセラレータって何?
しかし上条達が勝負を終わらせた事で、りせちーの興味は上条へと向かう。
それに伴いカメラもそちらへと向かうので、そのままこの事実をうやむやにする事が出来そうだ。
プロデューサーは心底安心した。
そしてカメラの外。一方通行とインデックスがマイペースに話をしていた。
先程インデックスの言葉を遮るように一方通行が発言をしていたが、
恐らくインデックスが生放送中に爆弾を放り込もうとしたのを阻止してくれたのだろう。
確かにこのインデックスと言う少女、天然なのか知らないが悪びれもせず火に油を注ぎそうな、
危なっかしい雰囲気の持ち主であった。
164 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 22:54:20.59 ID:aZSRjLkro
「いや、助かったよ鈴科君……」
生放送とはトラブルが絶えないものだが、今まで行ってきた生放送の中でもかなり疲れた。
そして、プロデューサーは一方通行に感謝の念を抱く。
例え一方通行がインデックスの知り合いだったせいで、この事態が起きてしまったのだとしても。
「気にすンな、ありゃ俺の責任だ……」
何せ能力の解説役は一方通行が申し出たのだ。結果的に、そのせいで放送事故になってしまったら申し訳なさすぎる。
和やかな雰囲気で話をしている中、突如謎のシスターが現れた上に「私記憶喪失なんです」等と爆弾が投下された日には、放送局に苦情が殺到するに違いない。
一方通行は何とかその爆弾の除去は出来たはずだと思うが、お茶の間の一同は困惑している事だろう。
何にせよ、次からこのような事が無いようにインデックスの空腹を何とかしなければならない。
苦情とか来なければ良いのだが、と言った具合に一方通行は素直に謝罪した。
「で、これは一体どうするじゃんよ」
ひょい、と言った具合に軽々とインデックスを持ちあげた黄泉川愛穂は、
これからどうするのかと、一方通行とプロデューサーの話し合いの合間に入って2人に尋ねる。
「お腹すいたお腹すいた」
そんな中、いつまでも空腹を訴え続けるインデックス。
「弱ったなァ、俺はあの小娘に敗北を認めさせなきゃならねェ(←?)」
「でもでも、それじゃあ私の空腹はどうしたらいいの?」
インデックスへの餌付けの結果がこれだとしたら、一方通行はインデックスの育て方(?)を誤ったと言う事だ。
あの大食い少女を貧乏学生・上条が養っているという状況を憐れんだ事がきっかけなのだが、
インデックスはイマイチ一方通行への感謝が少ない気がする。
別に感謝されたい訳ではないのだが、このままでは養ってもらうのが当たり前だと思う駄目人間になってしまうだろう。
故に一方通行は突き放す。我が子を谷底に落とす獅子の様に。
165 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 22:55:02.83 ID:aZSRjLkro
「そンなもンお前……その辺に出店があるじゃねェか」
「お金は無いかも」
「お前上条の奴から食費もらってねェのかァ?」
そんな金有るわけないと思いながらも一方通行は尋ねる。
「ちょっとしたお弁当はもらったけど、もう食べちゃったかも」
やはりと言えばやはりなのだが、上条からもらった食料も既に消費済みらしい。
この返答を受けた一方通行は、少し考えるそぶりをしてから口を開いた。
「そりゃかもじゃなくて喰っちまったンだろォが……仕方ねェな」
財布から一枚の紙幣を取り出す。
―――野口さんだ。
インデックス矯正計画のその一歩目が、今踏みだされた。
「これで食えるだけ食って、それでも足りねェってなら草でも食ってろ」
紙幣の価値を食べ物の満腹具合で理解させた方が良いと考えた一方通行は、
インデックスに1000円だけ渡す。
どう考えても満腹には程遠いだろう。
しかし、インデックスがこうなった理由の一端を一方通行が担っているのだ。
上条家の家計のやりくりの大変さを理解させるために、敢えてあまり高くない額の金を渡した。
166 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 22:56:00.68 ID:aZSRjLkro
「む、私はそこまで意地汚くないかも!」
「最早意地汚ねェとかそォいうレベルじゃねェから……」
食い意地張っているとか意地汚いのではなく、喰い意地汚い。
それこそ、いずれは飼い猫・スフィンクスと上条を比較してどちらから食べるか検討しだすのではとか勘繰ってしまう程に。
「それじゃあ、これで私がお腹いっぱいになれるかどうか、勝負だね!」
「……はァ?」
「負けたら罰ゲームだからね!」
「いや、何言ってンだよお前。そンなモン俺の勝ちに決まってるじゃねェか。
どォせちょっと目を離したら、お腹すいたお腹すいた言ってンだろォ?」
突然勝負を申し出た理由は分からないが、
野口さん1人で抑えられるような胃袋では無い事を一方通行はよく理解している。
上手に野口を使って空腹を満たすには……バイキングが手っ取り早いだろうか。
1000円で食べ放題と言う店なら、いくらでもあるはずだ。
しかしインデックスは、バイキングでは粗方出禁になっていたはずだと記憶している。
いや、実際には出禁になったのは1店舗だけなのだが、
インデックスの噂が一気に広がった事による店側の措置だった。
それに伴って一方通行もまた然りだ。全然食べてないのに、おかしな話である。
「とにかく、私がお腹いっぱいになった時点でお金あったら私の勝ちだからね!」
インデックスはそれだけ伝えると、足早に立ち去って行った。
空腹か否かを判断するのはインデックスなのだから、どうとでも言えるだろ。
と一方通行が突っ込みを入れる前に、インデックスはどこかへと行ってしまう。
「……まァいいか」
どォせ忘れるだろ。と一方通行は思考を切り替え、インタビューを受けている上条の方を見やる。
何やら久慈川りせがインタビューをしているが、その周りにいるいつか見た青髪と金髪が怨嗟の念を上げていた。
確かに久慈川はアイドルの有名人だ。
それからインタビューを受けている上条を妬むのは当然と言えば当然か。
(……だとしたら、インタビューどころか共に行動している俺は一体なンだ?)
要らぬ恨みを買ってねェだろォな、と今更になって現状に頭を抱えた。
167 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 22:57:03.80 ID:aZSRjLkro
・・・
りせちーのインタビューを受けた上条当麻は、少しだけご機嫌だった。
近日のアイドル事情は詳しくないのだが、
あのような可愛い子にべた褒めされて喜ばない男は居るまいて。
青髪ピアスの守備範囲の広さは心得ていた為、りせちーの事が大ファンなんやでとか青髪が言っていても余り興味は持てず、
テレビも余り見ないのでりせちーを見る事は無かったのだが、実際に目の当たりにしたらファンにならざるを得ない。
何やらそれに伴い、青髪をはじめとするクラスメイトの恨み数値が跳ね上がった気がするが、気のせいだと思いたい。
そんな訳で、クラスメイト達をガン無視してインデックスを探す事にした。
あの場にいたら多分フルボッコにされるだろうから。
インデックスを待たせっぱなしにしていたから、多分どっか行ってしまっていると思う。
どうやって探そうかなーとか思っていたら、
先程のりせちーと、黄泉川愛穂や一方通行が共に居るのを見つけてしまった。
その三人のいるテントの周りでは野次馬がりせちーりせちー言っていたが、
アンチスキルが警備をしているのでそれ以上は近づけないらしい。
「なんで一方通行?」
インタビューを受けた時、一日アンチスキル部隊長がどうたら言っていたので、黄泉川が居るのは分かる。
だがしかし、一方通行がそこにいる理由が結び付かなかった。
とはいえ一方通行ならインデックスの行方を知っているかもしれないので尋ねる事にしようと思い、一方通行達の下へと歩いて行った。
168 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 22:58:00.04 ID:aZSRjLkro
・・・
「どォだった?上条の奴は」
簡易テントの下、パイプ椅子の背もたれにだらんと寄りかかりながら、
一方通行は久慈川りせに尋ねた。
その一方でプロデューサーは、黄泉川愛穂と共に次に向かう場所を話し合っている。
学園都市は閉鎖的な場所である、と言うのは周知の事実なのだが、だからと言って完全に鎖国状態と言う訳でも無い。
何故なら得体のしれない科学技術を秘密裏に開発してます、等と言われてどうして信用できるだろうか。
そんなわけで大覇星祭を含めて、一般開放する機会が年に何回かあるのだが、
能力開発等に関する機密事項に一般人が触れないように、研究所の警備はより厳重になる。
だが、警備が厳重な事すら悟られないようにしなければならない。
その様を見られたら、「人様には見せられない事をしている」等と勘違いされる可能性だってあるのだから。
それ故に、黄泉川とプロデューサーの話し合いも慎重になる。
黄泉川はそれとなく研究所などから逸れる様に意見を出し、
プロデューサーは視聴率が上がりそうな、面白そうな場所に行くように意見を出す。
その過程でどうしても黄泉川と言うか、学園都市が許容できない場所をプロデューサーは挙げるし、
プロデューサーが見てて楽しくないと思えるような場所を黄泉川は挙げてしまう。
この話し合いは少しだけ長引きそうだった。
そんな事情も相まって、まったり話をする事にした一方通行。
久慈川もまた、暇が出来そうだった所での一方通行の質問だったので、
少しだけ考えるとすぐに口を開いた。
「んー、イイ人だと思ったかな?あなたとは違って」
「そォだな、俺なンかと比べていい奴じゃねェよな」
軽くからかうような久慈川の口調だったが、一方通行は全く気にした様子もなく受け流す。
そんな一方通行をつまらなそうに見ると、久慈川は視線をそらした。
「つまんない人ね……ってあれ上条さんじゃない?」
「あァ?……ホントだなァ、何やってンだ?」
アンチスキルの包囲網の外で自己アピールする上条。
明らかに怪しい動きをしていた為アンチスキルに捕らえられて、黄泉川の下へと連れられていた。
169 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 22:58:45.12 ID:aZSRjLkro
「ぷっ……あの人何してるのかな」
「俺らの事に気付いたけど近づけねェから、敢えて捕まったンじゃねェの?
あいつ黄泉川とも知り合いだし」
すると一方通行の言葉通り、黄泉川の前にひっ立てられた上条は少し黄泉川と言葉を交えると、すぐに解放されて一方通行達の下へと歩いてきた。
「よぉ」
上条は何事も無かったかのように手を振ってあいさつしてきた。
久慈川はもちろん、流石の一方通行も呆れた表情を浮かべる。
「よォじゃねェよ何やってンだお前……」
「いや、インデックス見なかったかって尋ねようと思ったんだけどな」
「インデックスってさっきの子?」
何の用かと思ったら、インデックスを探しているらしい。
久慈川の質問に首を縦に振りながら、一方通行は続いて上条へと突っ込みを入れる。
「そンなモンお前、携帯で聞くなり探すなりしたら良いだろォが」
「携帯はガッコーの教室の中。人づてに探していくしかないんですよ、上条さんは」
「はン、昔の人間は文明の利器なンぞ持ってなかったからなァ……
進み過ぎた技術に頼ってきた弊害だな……携帯を使える事を当たり前だと思っちまう。
今みてェにそれに頼れない状況が有るってのに、その可能性に目を向けずに生きてきた結果がこれだ」
「そう言われたらそうだよね……私も携帯の無い生活なんて考えられないし……
なら昔の人ってどうやって連絡してたのかな、狼煙?」
「狼煙もそォだなァ。ただ短い時間で連絡するってのはどォしても無理だから、早馬飛ばして手紙って手段くらいしかねェだろォな。
だがそれもできるのも一部の上流階級だけだろォから、昔の一般人は遠くの人と話すって考え自体無かったはずだ。
日々の生活で手いっぱいだろォし」
「そう考えると、私達って恵まれてるんだね……てゆーか、何の話だっけ?」
「なンだったか、『身分の差による生活水準の差』だったか」
「……たかだか人探しでそこまで深く考えさせられるとは、
流石の上条さんも思いもよらないですことよ……」
ボケなのかマジなのかわからない会話に、上条はリアクションに困りながらも突っ込みを入れる。
そして意外と息の合っている一方通行と久慈川に少しばかり驚きを示すが、
一方通行の次なる言葉に更に驚いた。
170 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 23:01:36.86 ID:aZSRjLkro
「ついでに言うと、インデックスはさっきまでここにいたぞ」
「うえっ、マジ?何処行ったかわかるか?」
「腹減った腹減ったってうるせェから、金のありがたみを理解させるために、
1000円だけ渡してどれだけ腹いっぱいになれるか体験させてやる事にした」
「成程……それは意外と良い作戦かも……悪いな、いつも」
「はン、お前の貧乏っぷりはよォく見せられたからなァ。気にすンな、こっちにも責任はある。
これで少しは学ンで、あわよくば自らバイトする位言ってくれりゃ恩の字なンだがなァ」
「そうしたら上条さんちの家計は大いにたすかります事よ……」
一方通行に激しく同意しながら軽くうなだれる上条。
今までの家計の圧迫具合を考えると、それは当然の事だろう。
しかし、蚊帳の外だった久慈川が思ったことをそのまま上条に尋ねた。
「……話を聞く限りじゃ、あのインデックスって女の子、上条さんと同棲してるの?」
「あっ、え、ええっと……」
年頃の男女が同棲。
久慈川もまた女の子だからそう言った話には興味津々である。
先程言っていた一方通行とインデックスの関係など、とうに何処かへと消えていた。
と言うより元から信じていなかったのかもしれない。
171 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 23:02:22.14 ID:aZSRjLkro
「いや、大丈夫だよ大丈夫。別に誰かに言いふらすなんてしないし!
ただ、男と女が一つ屋根の下なんて……」
「はン、ガキがいっちょ前にませた事考えやがって……」
「なによ!」
「なンだよ」
上条は返答に窮していたのを見て、一方通行は久慈川の関心を逸らす。
内心多大な感謝を一方通行に示すものの、それをこの場で言う事は叶わなかった。
「見つけた!!私の勝利条件!!」
「「!?」」
それはあまりに突然の事で、アンチスキルすら反応を出来なかった。
彼らの包囲網を針の糸を通すようにすり抜け、上条をかっさらって行く。
一方通行もまた反応できなかったが、追う事は出来るだろう。
しかし、敢えてそれを追う事はしなかった。
「ああれええええええ!!?」
上条の叫びはむなしく響き渡り、
御坂美琴は彼の首の後ろを掴んだまま目的地へと駆けあがるのだった。
「……あれは何だったの?」
「……多分、借り物競走かなンかの条件に合うやつが、上条だったンだろォよ。
まァ一応、上条連れてった奴も知り合いだから安心しろォ」
久慈川は高速で小さくなる御坂と上条の後姿をポカンと眺めながら一方通行に聞き、
一方通行は事もなげに「私の勝利条件」という言葉だけから状況を推測した。
それが正解かどうか確かめる術を今は持たないが、
上条を連れて行った人間が知り合いと言う事を聞いて久慈川は安心したのだった。
172 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/06(土) 23:03:00.98 ID:aZSRjLkro
・・・
「じゃあ、この通りをこのようなルートで行くのはどうですか!?」
「んー……駄目じゃん!」
「あれも駄目これも駄目って!じゃあ逆に何処だったらいいんですか?!」
「もう!なんであんたはそうやって正確に来てほしくないとこ指定するじゃん!?
なんかもう才能あるじゃんよ!」
「何の才能ですか!?面白くなりそうなとこ選んでるだけですよ!
それを才能と呼ぶならうれしいですね!ありがとう!」
「ええい駄目駄目じゃん!!こっちだって一般公開はするものの、
見られたくない秘密の技術だってあるじゃんよ!!」
「それってつまり、私が指定した場所であなたが否定した場所に何かあるって言ってるようなものじゃん!?」
「あ!今の言葉忘れるじゃん!誰かに言ったら逮捕するじゃん!!」
「なんですかそれ脅しですか?!マスメディアは権力に屈しないじゃん!」
「語尾真似すんなじゃん!」
「あなたがじゃんじゃん言うもんだから語尾が移ったじゃん!!」
「じゃんじゃん!!」
「じゃんじゃんじゃん!!」
黄泉川愛穂とプロデューサーの話し合いは、長引きそうだった。
173 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/06(土) 23:04:13.55 ID:aZSRjLkro
尾張です。
甲子園、初日から面白かったですね。
インデックスが勝負を申し込んだのはあれです、何か美琴が勝負うんたら言ってたからです。
これを機にお金の大切さを知ってもらいたいですね
174 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/06(土) 23:32:32.30 ID:6b5e6jP+o
乙
インデックスが1000円で満腹になる方法……「食べ切れたら賞金orタダ」の大食いメニューしか思い浮かばないww
175 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/08/06(土) 23:54:25.85 ID:i3vAabVAO
乙!
>>174
それ、実質的に一銭もいらねぇなww
176 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/07(日) 00:01:29.38 ID:0SFtI2/lo
うちの近所のスーパーで1000円で腹が膨れそうなのは
リンゴ10~15個
バナナ40本
うどん(麺だけ)30人前
もやし50袋前後ってとこか
177 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/07(日) 00:20:41.16 ID:DRm4AhGxo
そのスーパー教えてくれよww
178 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/07(日) 11:58:07.41 ID:NBbWZqmqo
全部買ったら4000円やな
179 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/07(日) 18:43:18.18 ID:uP+tmdn/o
今日はちょっと投下出来ないかもしれん!
180 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/07(日) 20:53:31.07 ID:B4pAMhrX0
>>174
ご飯のお代わり自由はアル。xxらx産
181 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/08(月) 20:14:45.02 ID:yeZMCTBro
今日も無理だわ……3000字位は書けてるけど、この後書き溜め出来そうにないです……
ていうかいちいち報告って要る?誰得?
何日か休まざるを得ない時だけ報告って方が良いかな
182 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/08(月) 20:56:50.72 ID:SaIT54Woo
俺得
183 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/09(火) 05:10:58.64 ID:wCXd1NCbo
>>182
全俺が泣いた
とりあえず5000字だけどキリが良いから投下する
184 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/09(火) 05:12:07.77 ID:wCXd1NCbo
野口さんを1人受け取ったインデックスは、
宣言通りお腹いっぱいになるにはどうしたらいいか考えながら、街を歩いていた。
気を抜くと、ソースやら何かを焼いている匂いやらが漂う屋台ゾーンに足を向けようとしてしまうインデックスだが、何と我慢している。
自身の食欲を封じてまで何をしているのかと言うと、記憶を遡っていた。
過去に見た学園都市の光景を全て、一切合切を脳裏に巡らせ、思いだしていく。
実を言うと、インデックスは完全記憶能力者である。
超記憶症候群だとかサヴァン症候群だとか言われる事もあるが、
兎にも角にも一度見た物は忘れないと言う能力の持ち主だ。
それが意味する事は、一つ。
(街中で見かけた食べ物の金額は把握してるかも)
自然と食べ物の匂いがする方向に目の行くインデックスは、
それらの値段を十全に覚えているのだった。
しかし、1000円と言う値段。
普通の食事処に行っていては満腹になれるはずが無い。
だからと言ってスーパーに行ってもやし三昧は何だか違う気がする。
と言うか、インデックスの家事スキルは0なので、安い材料を買い込むと言う手段はありえない。
(あれ!?美味しくお腹いっぱいになれそうな値段の食べ物がないかも!?)
残念な事に完全記憶を使ったところで、それを応用する事の出来ないインデックスである。
何も考えず勢いで勝負を挑んだインデックスだったが、
1000円と言う値段がこの程度の物だったと考えが回っていなかったようだ。
完全記憶能力も全くの無駄だった。
(こうなったら、自分の足でまだ見ぬ楽園(お腹いっぱいご飯食べられる場所)を探すしかないかも!!)
決意に満ち満ちた表情を浮かべるインデックスは、
一般客がごった返す屋台ゾーンの中へと吸い込まれるように消えて行った。
185 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/09(火) 05:13:13.01 ID:wCXd1NCbo
・・・
あれから30分程経過した。
若きプロデューサーの真っすぐな思いと、学園都市の思惑がぶつかり合った結果、
プロデューサーが折れる形で落ち着いた。
やっぱり権力って怖い。
それでも黄泉川愛穂が気を利かせた為、
なるべくプロデューサーの意向には従う形でこれからの予定を立てる、と言った形でプロデューサーを納得させた。
そんな訳で研究所などの要所要所は、さりげなく避ける形で学園都市内を行脚していた。
だが、特に面白いものがあるわけでもないので、バスで移動中だ。
次の目的地は父兄参加型の競技で、
許可は得ているのでそれに混ぜてもらえば番組的にも面白いだろう。
「見回りも、何も見つからなかったら暇ですね」
「基本的には大覇星祭じゃ交通整理が主な任務じゃん。そっちが良いってなら……」
「い、いえ止めておきます……」
久慈川りせはロケバスの窓から辺りを見回しながら、黄泉川愛穂に向かって口を開いた。
科学技術が進んでいると言うから、久慈川は少し近未来的な都市を想像していたのだが、
近未来的なものはそこまで見られなかった。
区画された道路に、建ち並ぶビルや店舗。日本では普通にみられるオフィス街と言った外観だろう。
とはいえ、自動清掃ロボや無人のロケバス等は初めての体験だったのだが。
「アイドルが交通整理って新しいンじゃねェの?」
久慈川が交通整理をする姿を想像したのか、
一方通行はニヤニヤしながら冗談交じりにアンチスキル本来の任務を勧める。
186 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/09(火) 05:13:40.87 ID:wCXd1NCbo
「数時間微動だにせずに手を振るだけの仕事を見せられてうれしいのは、
心底心酔してるファンだけじゃん?」
「それだけで喜ばれるのは、何だか複雑な気分ね……」
「まァ、大半からは苦情が殺到するだろォがなァ」
「その時はあなたも一蓮托生だから。1人だけ途中棄権なんてさせる訳ないでしょ」
「あァ?この俺が交通整理なンざする訳ねェだろォが。そンな事になったら帰るっつゥの」
「何言ってるじゃん、ここまで来たんだから最期まで付き合うじゃんよ」
「……なンか「さいご」のニュアンスが違う気がするンだが」
「死ぬまでこき使ってやるって意味じゃない?
よかったね!うちの会社大きいから、安定した収入が期待できるよ!」
「うちの部隊は無償奉仕だけど、教師になれば収入に期待できるじゃん!」
「あァ?いらねェ、いらねェなァ。金なンざ掃いて捨てる程あるっつゥの」
「「ゴチになります(じゃん)」」
「……アイドルと手に職のある大人が、一般人のガキにたかるなってンだ」
187 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/09(火) 05:14:40.23 ID:wCXd1NCbo
一方通行が突っ込みを入れた所でバスが止まり、自動扉が開いた。
ようやく着いたか、と3人は思って席を立とうとしたところ、スタッフがその扉から入って来る。
「あ、そろそろニュース終わって中継入りまーす」
瞬間、変貌した。
「わっかりましたー!それじゃあ、がんばっていこー!」
「「……」」
やはりこの豹変っぷりはすごい。
人の目を気にする術に長けていると言うか、人目が無いと判断した時はがっつり素を出すし、
人目が有る時にはすぐさま切り替える。
これは一朝一夕で得られる技術ではないだろう、と一方通行はそのように評価を下した。
別にそんな技術欲しくは無いのだが。
「行くとするかァ……」
「あ、次は父兄参加型競技なんだけど、それに2人は参加してもらうから」
黄泉川は思い出したかのように一方通行と久慈川に言う。
前もって言うと久慈川はまだしも、一方通行は間違いなく嫌がると考えられた事による処置であった。
一応、父兄参加型なので能力の使用は無しだ。
「はーい!」
「えェー……」
嫌そうな顔をしながらも、ここで嫌がったところで時間の無駄だと判断した一方通行は、
渋々と言った形で承諾するのであった。
とはいえ、能力無しでの運動には少しばかり不安を覚えているようだが。
「ちなみに、競技名は「ピンチを乗り越えろ!」で内容は二人三脚大玉ころがししながらの障害物競走じゃん。
障害物競走のコースはくじ引きでランダムに選ばれるじゃんよ」
「なンでもかンでも混ぜりゃ面白いとか思ってンじゃねェぞ!!」
188 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/09(火) 05:15:32.24 ID:wCXd1NCbo
・・・
インデックスは屋台ゾーンを抜けると、カイジが騙された時ばりに背景をぐにゃ〜〜っとさせた。
たこ焼き(6個)、300円。
イカ焼き、200円。
焼きそば(大盛り)、500円。
お好み焼き、500円。
わたあめ、300円。
りんごあめ、200円。
串焼き(3本)300円。
・
・
・
所持金、プライスレス。
上記のうち上から3行目までを購入した時点で、所持金は消滅していた。
だがしかし、腹は未だに膨れぬ。
腹は膨れぬが、辺りには屋台が良き香りを放ち、インデックスの嗅覚を刺激する。
その刺激が脳内を駆け巡り、すぐに空腹を訴える信号を全身に掛け巡らせた。
インデックスは、一瞬にして空腹になった。
けれども、金は無し。
インデックスは、逃げるように屋台ゾーンから駆けた。
189 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/09(火) 05:16:44.85 ID:wCXd1NCbo
・・・
その一団は依然としてグラウンドの一角を占拠して、のんびりと時間を過ごしていた。
そして、競技を終えたフレメア=セイヴェルンを交えて昼食タイムを迎える。
「いやあ、ホント駒場のリーダーの意外すぎるスキル発揮してんなあ」
「たこさんウインナーが大体美味しいよ!」
「ミサカはこのきんぴらがお気に入りです。
と、ミサカはフェイントを入れつつ本命のから揚げを取ります」
「な!?……ぬかった……surely、こんな所でそんなフェイントを織り交ぜてくるなんて思わなかったわ……」
「残念だったな、布束サン?食う事は生きる事。生きる事とはすなわち……戦いなんだぜ?
ってああ!?それは浜面さんが取っておいたダシ巻き卵!?」
「へっへーん!気を抜いて背を見せた事がハマヅラの敗因クマ!!」
「わーいクマありがとー!ってミサカはミサカはディフェンスが強くて取れなかったダシ巻き卵を前に歓喜してみたり!」
「……ここまで喜ばれるとは、思っていなかった」
いつの間にか一方通行が居なくなっていたので、
一時は「あれ?一方通行何処だ?」とか言いながら辺りを見回したものだが(←動いてまで探す気が無い)、
一方通行の事だから何かに首突っ込んでるんだろと言う意見で満場一致した為、
落ちついて弁当を食べる事にしたのだった。
駒場印の弁当は、このように大人数になることを想定していた為……
と言うかインデックスと共に昼を過ごす事を考えていた為に、割と大量にある。
それも駒場の予想よりも今この場に居る人数が多いのだが、
インデックスは居ない為余裕で全員が満腹になれる事だろう。
しかし、インデックスがこの場に居ない、と言う事は何処かの誰かがインデックスにたかられているのだろうか。
9982号は今日になってまだ見てないインデックスの胃袋の被害に遭っている人が居ることを前提に、空に向かって黙祷をささげた。
何となく空を仰ぐと、そこには飛行船に搭載された巨大モニター。
普段だとその日の天気やらニュースやらが放送されているが、
今は学園都市内の大覇星祭模様が流されているようだ。
そのモニターには。
190 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/09(火) 05:17:47.36 ID:wCXd1NCbo
「きゃああああ!」
「障害物っておかしいだろォこれェェエエェ!!?」
「ひゃああああああ!!」
「クソ!こいつ動きやがるぞォ!?」
「いやあああああ!!」
「うわァァアァァ!!なンだコレヌメヌメしてやがるゥゥ!!!?」
「ほぎゃああああああ!!」
「大玉が落とし穴にィィィ!!?」
「なに……これ……?」
「うそ……だろォ……?」
「「うぎゃあああああああああ!!!」」
「……一方通行は、一体何をしてるんでしょう」
少し目を離したらテレビ出演とは、流石学園都市第一位と言う事だろうか。
だがしかし、見ている限りでは能力を使用していない。ならば学園都市第一位という肩書は要らない。
「何でテレビ出演?と、ミサカは首をかしげます」
9982号は少し考え込むが、すぐに興味を失ったのか、再び駒場の弁当争奪戦争に戻るのであった。
191 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/09(火) 05:18:42.36 ID:wCXd1NCbo
・・・
「ハァハァ……」
「……はあぁ……はあ……」
一方通行と久慈川りせは、テレビカメラが回っていようと関係無しにその場に四つん這いになり息を整えていた。
まさか障害物競争のルートが最難易度・修羅のコースを引き当てるとは思いもよらない。
この最難易度のコースは100枚有るくじ引きの中でも1枚しかない為(クジは毎回元に戻して引く)、
このコースは引き当てる人が居ない割に鬼畜すぎるコースで、
次引いた時の評判次第では修羅コースは封印する事になっていた。
使われないコースを毎年用意するのは面倒だし。
そんな背景がある中で、二人三脚でりせちーに急接近した一方通行への苦情が上がると思われたが、
どちらかと言うと、アイドル・りせちーのあんな姿やこんな姿を見られた事で評判が急上昇した。
これを受けた大覇星祭実行委員は味をしめて、来年もこの修羅コースを織り交ぜることを決定したのだが、
翌年の修羅コースの評価は最悪(何せ父兄がそのコースを行くのだから)。
結局修羅コースは翌年に封印する事を決定したのだが、これは完全なる余談である。
「ちょマジ待って……マジで休憩させて」
どうやら次の目的地も決まっているらしく、近場で歩いて行ける距離なのでそのまま歩いて行くみたいなのだが、一方通行は本気で休憩を求めた。
それほど厳しい道のりだったのだ、修羅の道は。
192 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/09(火) 05:19:20.83 ID:wCXd1NCbo
そんな一方通行を見て、
久慈川は息切れさせ乳酸を貯め込んだ足を震わせながら嘲笑する。
「その程度で……へこたれるなんてね……私はまだ体力の半分を残してるわ……」
「ハッ……俺ァまだ6割を残してるぜェ……」
「さっきのは嘘で……はぁ……余裕で100%元気よ……」
「深呼吸してンのバレバレだぜェ……まァ、俺は隠し玉で120%の力を発揮できるンだが……?」
「ふん、さっき「ちょマジ待って」とか言ってた癖に……」
「ありゃ演技だァ……中々の演技派だろォ?」
「そうね、『本当に演技』だったらね……」
何て言うか、不毛な争い。
確かに、あのコースは中々にハードだったが、
あれで息切れするとは鍛えが足らないと言う事。
黄泉川愛穂は、一方通行に更なる鍛錬を課すことをを心に決め、
この無駄な争いに終止符を打つ事にした。
「……ガキみたいな意地の張り合いしてるんじゃないじゃんよ」
「「誰が!!」」
(本当に仲が良いんだか悪いんだか)
少なくとも相性は悪くないじゃん。だとか黄泉川は思いながら、
息の合った2人を見て苦笑するのであった。
193 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/09(火) 05:20:02.61 ID:wCXd1NCbo
・・・
科学の街・学園都市で生き倒れ。それは滅多にない状況と言える。
とはいえ、「滅多にない」と言う事は「たまにある」と言う事なのだが。
その「たまに」に該当する人間……シスターが1人。
「お腹……減った……かも」
インデックス。一方通行に対して一方通行な挑戦状を叩きつけ、
野口さんを相棒にどれだけ空腹を満たせるか、と言う意味のわからない勝負の真っ最中なイギリス清教所属のシスターである。
そんな彼女だが、今現在徹底された資本主義社会に絶望していた。
何をするにも、金。
何処に行くにも、金。
そして何より。
―――何を食べるのにも、金が要る。
しかし、金はただでは無い。
当然だ。
一定の価値を与えてあるものが金なのだから。
そして、それを引き換えにしてようやく食を得られる。
だがしかし、金が無い。
金を得るには?
働くしかない。
だがしかし。
「お腹が減って力が出ないかも……」
腹が減っては戦は出来ぬ。
しかし、食べ物を買う金が無い。
しかし、金を稼ぐだけの体力(満腹度:0)が無い。
「今までよく考えてなかったけど……お金って大事なんだね……」
何せこんなにお腹が減っているのは、お金が無いから。
今までだって上条家に居た時、そのような状態に何度か陥っていたではないか。
その時は一方通行や月詠小萌の家に駆け込んだりしていた為、事無きを得ていたのだが。
「お腹減った……」
一方通行との勝負は既に決していた。
194 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/09(火) 05:21:48.44 ID:wCXd1NCbo
尾張。
インデックスさんがお金の大事さ、自身の食費の高さに気付き始めました。
て言うか今まで気付かなかった方がおかしーし。それ程に一方通行は圧倒的財力の持ち主だったのだ……
次回はちょっと上条サイドで原作通りに話進めたいと思う。
一方通行はチョイ役で絡む形になりそうかな。
195 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/09(火) 06:18:34.50 ID:SJ1BigkVo
乙
196 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/09(火) 06:46:23.14 ID:YT4AsaQNo
インさんは二次創作のせいで、原作以上の食欲イメージになって悲しいかも
お腹が空きやすいだけでバイキング食べ尽くすとかあるわけないんだよ
作中ではとうまの入院費で家計が圧迫されてるって説明もあるのに酷いかも
197 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/09(火) 06:48:46.17 ID:OUW8lFNX0
>>1
乙
原作通り部分は、原作読むからほどほどに。
198 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/09(火) 07:01:24.33 ID:wCXd1NCbo
インデックスの大食いのイメージを増長させる描写になっちまいましたな
でもインデックスの事は俺も好きなんです。好きだからこそこうして試練を与えちまうのです
可愛い子には旅をさせろと昔からよく言うのです。でもインデックスキーな人々に陳謝します
後、上条さんメインの話は前のエンゼルフォールで反省してるので長々と書く気はないです
199 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/09(火) 20:52:43.13 ID:OUW8lFNX0
>>198
レス感謝
だとすれば、目次さんも、
このSSでは大化けるするんでしょうか。
期待。
200 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:23:54.03 ID:ZVqRrhcAo
透過する
201 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:24:37.20 ID:ZVqRrhcAo
今の時間帯としては3時のおやつくらいの時間で、大覇星祭開始から数時間たっている為、
開始当初の盛り上がりは落ちつきを見せ、競技に参加する選手以外は大体日陰で涼んでいるようだ。
さて、学園都市も一通り回ったところでテレビ中継が一端打ち切られた。
次にカメラを回すのはナイトパレードだそうで、
一方通行や久慈川りせは中々に疲れた表情で設営のテントで休息を取っていた。
一方通行が急遽生放送に参加し、
二人三脚に参加など追加の予定が加わった事で仕事量が増えたようだ。
スタッフ達も一様にぐったりしていたが、その顔は何か達成感に満ちたものであった。
「正直あれでよかったのか不安なンだが」
「カメラの前なのに、普通に喋れてて良かったと思うよ。
あそこまで自然体なのも珍しいけど」
久慈川は素直な評価をそのまま口にした。
その評価を受けて、一方通行は心底意外そうな顔をする。
「俺はてっきり、難癖つけてくると思ったンだが……」
「む、こう見えて公私はわける主義なの!
評価すべきなのは評価するし、駄目なのは駄目っていうし」
公に私を持ってこない、と言うのは非常に良い事だ。
態度はあれだが、評価されたという点のみを見れば素直に喜んでも良いのだろうか。
とはいえ、私の方はあまり快く思われていない気がする。
「公は良くても私は駄目ってことかァ」
「その通り!」
「……いや、まァ別にどォ評価されてても興味はねェンだけどなァ」
(……そこまで悪くは思ってないんだけどなぁ)
ぷい、とそっぽ向く一方通行を見ながら、久慈川は思った。
出会い方が悪すぎた、と言う事だろう。
互いに互いを否定した事が始まりなのだから、どちらも良い思いを持つ訳が無い。
とはいえ本当に嫌いなら、こうやっていつまでも一緒に話しているなどありえないだろう。
最初に取った態度を軟化させるタイミングがつかめない、と言ったところか。
今日限りの付き合いの割には、久慈川は黄泉川愛穂の事もそうだし、一方通行の事もそれなりに信頼していた。
202 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:26:38.16 ID:ZVqRrhcAo
・・・
ナイトパレードまで後3時間と言ったところだろうか。
休憩を始めて早30分。会話も途絶え、2人は何やらボーっとしていた。
とどのつまり、暇だった。
特にすることも無いから学園都市を案内しろ、と久慈川りせが言うので、
一方通行は面倒くさそうにしながらも腰を上げた。
一方通行自身、この何もすることのない時間にすぐ飽きたのだろう。
ナイトパレードに向けて打ち合わせをするプロデューサーと黄泉川愛穂に許可を取り、テントを後にした。
「有名人が帽子とサングラスでゴマかそォとするって、本当なンだなァ」
一方通行は自身の隣を歩く帽子+サングラスを装備&ツーサイドアップ→ポニーにジョブチェンジした久慈川を見て、しみじみと呟いた。
それが独り言なのかはたまた久慈川に話しかけたのかは分からないが、
久慈川自身一方通行に言いたい事があるので、一方通行の言葉に返答する形で口を開いた。
「そりゃ、さっきまで生放送してたんだからちょっとは気を遣うに決まってるじゃない……」
「ふゥン」
「ふぅんじゃなくてさ、あなただってさっきまでそこらにある大きなモニターにしっかり映ってたんだからね?」
ただでさえ目立つ容姿してるのに、そんな堂々と歩いていては久慈川が変装した意味がなくなりそうである。
しかし、そんな細かいことを気にしないのが一方通行。
何やら近づきがたいオーラの様な威圧感を放つ事で、
「あれ?テレビに出てた人?」と思われたところで、
話をかける勇気を持った人間が居ない限りは問題ない、と言う訳だ。
「まァ、話しかけられなきゃどうという事はねェよ」
「そ、そうだけど……」
余りに自信満々に言い放つものだから、何となく言い返す事が出来なかった。
とはいえ、実際に話しかけてくる人間が居ないのも事実。
道行く人がちらちらとこちらをうかがっているのは感じられるものの、
実際に話をかけて来る様子は無い。
何やら自身の三白眼を以って、ギラギラと獲物を狙うかのような眼力を発揮していて、
それに恐怖したのか誰も近づけていないようだった。
203 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:27:20.09 ID:ZVqRrhcAo
「まァ、万が一なンかありゃアンチスキルがすっ飛ンで来るから安心しろ」
「あれ、あなたは守ってくれないの?ちょーのーりょくで」
「言っただろォが、『万が一』って」
どこまでも自身を信じている。
だがしかし、それを過信だとも思えず、
純然たる事実なのだと久慈川は何となく思った。
それは自分には無いもので、少しだけ―――
すると、不意に一方通行が足を止め、後ろを振り向いた。
久慈川もその動きを見て足を止める。
「どうしたの?ってあれ……?」
久慈川は一方通行に尋ねながらも、後ろを振り向くとそこには。
「あぐぜられーだああああ!!」
ぐすぐすと泣きじゃくりながら、一方通行にしがみつくインデックスが居た。
どうやら一方通行を見つけられた事で安堵して、そのまま涙が出てきたようだ。
「……その様子だと、あれだろ、あっという間に金使いきっただろォ?」
「……」
インデックスは何も答えない。ぐしぐしと涙をぬぐい、一方通行の言葉を待っていた。
一方通行はそのまま言葉を続ける。
「知ってっか?1000円ってのはなァ、人がおよそ1時間働いて初めてもらえる額なンだぜェ?
……別に働いて金稼げなンて言うつもりはねェが、
あのお人よしは、空っぽの頭をフルに使って家計をやりくりしてるって事ぐれェは念頭に入れとけ」
「……うん」
言いたい事は言ったし、伝わった。
一方通行はそのように判断を下すと、歩く先を方向転換する。
「……それじゃ、屋台行くぞォ」
「うん!」
訳がわからん、と言った顔をする久慈川を差し置いて話が完結していた。
何だか、すごくいい話っぽくなってるし。
「お前も、あンま食ってねェだろォ?行くぞ」
「え?う、うん……」
久慈川を置いてきぼりにしたまま2人は屋台に向かうので、
何も言い返す暇も無いまま久慈川もそれに追従して行く。
しかし、元気を取り戻したインデックスが突然足を止めた。
「……魔術の気配かも。これは回復術式かな?」
「何ィ?」
「え?ま、じゅ……?」
一方通行が怪訝な表情を浮かべ、久慈川はポカンとする。
そんな2人をそのままに、インデックスは一目散に駆けて行った。
「おい、インデックス!……あァもォ、緊急事態だ!久慈川お前テントに戻れェ!!」
そのように一気にまくしたてると、一方通行もインデックスの行く方向に向かって走り出した。
そして訳もわからず行き先を屋台に変更されたと思ったら、
訳もわからず行き先を元のテントに戻るように言われた久慈川。
しばらくの間、小さくなりつつある二つの背中を眺めた後、
「ああもう!何よ私だけ除け者にしてー!誰が帰るかってのー!!」
ぷりぷりと怒りながら、2つの背中が向かう先へと走りだした。
204 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:28:27.96 ID:ZVqRrhcAo
・・・
時は遡り、上条当麻が御坂美琴の借り物競走に借り出された後の事である。
何か無理矢理御坂に引っ張られたと思ったら、借り物の条件は「棒倒しに参加した生徒」だそうだ。
そんなんいくらでもいるやん?って思ったけど俺が知り合いだから丁度良かったのかと、上条は納得した。
今度こそインデックスを探すかと思い、地に降ろした腰を上げる。
すると人ごみの中に見た顔が2人いた。
―――土御門元春とステイル=マグヌス。
一見して和やかな雰囲気で会話をしているように見えるので、
ステイルもインデックスを見に来たのかなーとか思うが、
土御門とステイルと言う組み合わせと言うだけで嫌な予感がする。
離れようかと思ったが嫌な予感が本物だった時、恐らく後悔するだろう。そのように考えた。
逆に、普通にインデックスに会いに来ただけだとしたら、
インデックスの事を預かっててもらいたいところだ。
上条自身競技に参加していると、どうしてもインデックスの事を構ってやれない。
それなら、魔術サイドの事情を知っている人間が近くに居てくれた方が色々助かる。
そのような打算的な考えも相まって、何気なく2人に近づいたのだが。
「―――だから……そう言う事情があるから……」
近づくたびに声が聞こえてくる。
「そりゃそうだ―――連中にとっては……チャンスなのだろうな」
笑顔で会話していると言うのに、イマイチその口調からは良い予感が感じられない。
とはいえ、ここで引く気は無い。この嫌な予感が本物だとしたら、なおさら。
そうして、上条の嫌な予感を裏付けするように、ステイルは口を開いた。
「―――この街に侵入した魔術師を何とかしなければならないわけだ」
上条の日常はそこで崩れ去り、今日もまた非日常が幕を開けることとなる。
205 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:29:18.13 ID:ZVqRrhcAo
・・・
魔術師が侵入している。
と言ったところで、大覇星祭をほっぽり出してそれを探す訳にはいかない。
周りにその事を悟らせてはならないのだから。
故に上条当麻と土御門元春は何事もなかったかのように、次なる競技に向かった。
競技は『男女混合大玉ころがし』。父兄参加型のとは違い、純粋に大玉を転がす競技である。
と言っても、能力使用は有りなのでその危険度は何倍にも跳ね上がるのだが。
競技が行われる喧騒に紛れ、上条と土御門は今後の方針について話し合っていた。
本来、『幻想殺し』を失った上条が魔術サイドのいざこざに関わらない方が身のためだ。
だがしかし、上条当麻の下にインデックスが居られるのは、
「上条当麻が幻想殺しを持ち、インデックスの保護者たりえる」からだ。
とはいえ、必ずしも幻想殺しを持っている必要はない。
インデックスの保護者足り得る実力さえ持っていればいいのだから。
故に上条は示さなければならないのだ、「力」を。
だが、上条にそのような思惑は無いだろう。
この街に住む友人に、インデックスに害が及ぶかもしれない。
動く理由はそれだけで十分だった。
「……そう言う訳だから、携帯を持っておいてほしいぜい」
「分かった……つか、インデックスは放っておいて良いのか?」
「ああ、それはな……「ぐああああ!?」」
上条の質問に土御門が答えようとするが、その瞬間唐突に上条の背後から衝撃が走った。
衝撃の正体は。
「コラ上条!ぼさっとしてるんじゃない!」
「最近はそうでも無かったけど。上条君。やっぱり君には女難の相が出ている」
後ろから追い上げてきた女子勢の大玉。
上条のクラスメイト達が、前を走っていた上条ごと巻き込んでそのまま先へと行ってしまった。
倒れ伏す上条に、同情を禁じ得ない。
「ふ、不幸だ……」
「……カミやんからそのセリフ、久々に聞いた気がするにゃー」
206 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:30:03.46 ID:ZVqRrhcAo
・・・
なんやかんやで傷つきながら息絶え絶えに競技を終わらせた上条当麻は、
ふらつきながらも携帯電話を取りに教室へと戻っていた。
「イテッ……畜生、思い切り轢かれたなあおい……」
ぶつくさと文句を垂れながらも、自身のカバンをあさり、携帯を取り出そうとする。
すると携帯電話の前に、あるものを見つけた。
「召喚器……」
召喚器。以前学園都市外部でごたごたした際、桐条美鶴と言う女性に言われて試したところ、
この(現実)世界でも召喚が可能だと言う事がわかった。
上条には力が足らない。確かに、鍛えてはいるのでその辺の人よりかは動けるだろう。
とはいえ、魔術と言う異能に対しては非常に弱いと言える。
それではインデックスを守る力が無いと思われてしまう。
そうなってはインデックスがイギリス清教へと戻されてしまう。
インデックスがそれを望むのならば構わない。
ただ、それを言葉にしないうちにインデックスを帰らせるなど、認めない。
上条は、召喚器を腰に差し、ハーフパンツのひもをギュッと締めると、
続いて携帯電話をポケットの中に滑り込ませた。
願わくば、引き鉄を引く事の無き様に。
上条は人に心の仮面を見られる事よりも、その力をこの世界で振るう事にためらいを覚える。
207 :
>>206最後の行の最後、「覚えていた」で
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:31:55.04 ID:ZVqRrhcAo
・・・
敵の名前は、リドヴィア=ロレンツェッティとオリアナ=トムソン。
前者はローマ正教。後者は運び屋。
ローマ正教、と聞いて上条当麻はまたかよ、と気だるげに愚痴った。
端的に言えば、ローマ正教が運び屋を雇い、何かを誰かに運ばせているというものだ。
その何かの名称は、『刺突抗剣(スタブソード)』。
―――あらゆる『聖人』を、一撃で即死させる霊装。
すなわち、それを使用された場合、あの強力な力を持った神裂火織は何もできずに死ぬと言う。
故に今回、運び屋のオリアナを捕まえる事が主な目的なのだが、神裂は参戦できない。
それを使われてはたまったものではないからだ。
また、他の魔術師を集め人海戦術をさせてはと上条は土御門元春に聞いたが、それも出来ないそうだ。
今回、ステイル=マグヌスと言う魔術師が学園都市に来られた理由は、
「知り合いを見に来た」という大義名分がある事に起因する。
すなわち、その大義名分を持たないイギリス清教の人間を呼び寄せては、
他の組織が黙ってはいないだろう。
「お前達が学園都市に入れるなら私達も」等と言って、
堂々と学園都市に侵入する機会を与えてしまう事は防ぎたいのだ。
そんな訳で今回の任務は、上条と土御門、そしてステイルの3人で行わなければならない。
インデックスと言う魔術の専門家が居れば良いのではとも思うが、
今現在のインデックスの立ち位置は非常に繊細なもので、
本来学園都市の外に出てアニェーゼ部隊と相対したり、シェリー=クロムウェルと相対したりなどしていたら、
いつか敵対勢力に学園都市入りさせるきっかけを与えてしまう恐れがあるのだ。
故に今回は意図的にインデックスをこの件には絡ませない。と言うかこれからもそうすべきなのだ。
そういう事情も相まって、今回の上条の主な任務としては「インデックスをさりげなくこの件から遠ざけつつも、オリアナを捕捉する事」だ。
流石に捕まえるのは無理としても、見つけてそれを知らせる事は出来る。
上条はまずインデックスを見つけようとしたのだが、何処に行ったのやら全く見つからなかった。
結局、インデックスより先にオリアナが見つかった為、そちらを追う事を優先させたのだが。
―――それは大きな失敗だった。
208 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:33:13.01 ID:ZVqRrhcAo
・・・
目的の人物は割とすぐに見つかった。
しかし、彼女は『運び屋』で、『逃げる』事に特化した魔術を身につけているようで、
彼女との追いかけっこは結構な時間をかけて行われていた。
運び屋・オリアナ=トムソンの得意とする魔術は、
『速記原典(ショートハンド)』という魔道書の持つ魔法陣としての側面に特化したものである。
土御門元春が言うには、その魔術が近くの競技場に罠として仕掛けられているらしい。
何故『ただの運び屋』であるオリアナが、競技場と言う一般人も居るような場所にそのようなものを設置したのは謎だが、
一般人が傷つく恐れがあると言う時点でそれを無視する事は出来ない。
恐らくそれに時間をかけさせる事で、オリアナが逃げる時間稼ぎをするつもりだったのだろう。
思惑に乗るのは癪だが、そんなことを言っている暇はなかった。
競技場、と言う事でステイル=マグヌスは入れない。
故に上条当麻と土御門が選手の振りして校庭に入ることにしたのだが。
上条は競技場を前に、躊躇いの表情を浮かべている。
「中学生に混じるって抵抗あるなあ……」
その競技場では、中学生が学校単位で玉入れをするそうだ。
それに混じって術式探しとは弱ったものだと思う。
万が一高校生だとばれれば変態扱いされるではないか。
「これが小学生とかだったら色々詰みだったぜい?生徒に混ざる訳にもいかないしにゃー」
土御門は冗談交じりに笑う。
その笑みに幾ばくかの苦悶が浮かんでいるのは、
この競技場に仕掛けられている術式を探知するのに魔術をつかったからだ。
とはいえここは学園都市。変な輩を侵入させないようにチェックは万全である。
と言う訳で、まずは全身を泥だらけにして「体操服がどの学校かわからない」ようにします。
続いて、着替えが無い振りをして警備を言いくるめます。
最後に、泥だらけの手でIDカードを調べる機械を狂わせます。
そして状況があやふやなまま、着替えを取りに行くふりをしながら競技場へ向かいます。
「以上!楽に侵入出来る方法大全その11だぜいっと」
土御門は手馴れた様子で警備員を騙すと、上条を引っ張って保健室へと向かって行った。
209 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:33:50.41 ID:ZVqRrhcAo
「体操服の予備ってのは保健室にあるのが相場で決まってるもんだにゃー!」
競技開始まで、残り僅か。
2人は保健室につくと、着替えを二着頂いて、競技場へと赴いた。
そこには実行委員が玉入れの準備として大量の玉をばらまく姿と、
そのもう少し後ろで、常盤台中学のお嬢様方が優雅に競技前のティータイムをしている。
「な!おい土御門、敵は常盤台だぞ!?気を抜いたらオリアナどころじゃなくなる!」
「分かってる!気張っていくぞ、カミやん!術式もそうだが、流れ超能力にやられないようにな!」
相手は常盤台中学。
見た目はお嬢様と言う事で、観客席から向けられたカメラも多い。
それは単純に華があるということだろうが、学園都市を知る者にとってはそうではない。
何せ最低でも強能力者(レベル3)、最高は超能力者(レベル5)を有する学校だ。
それを相手にするという事で、上条達が居る側の学生達はその数2000に及ぶと言うのに、
何処か負け戦に赴くかのような、悲壮な死相に満ちた顔をしていた。
常盤台中学側から見ても、彼らからどんよりした雰囲気が感じられる。
今回も大丈夫そうですわね、と言うのが彼女らの総意だ。
そんな中、彼女達の中でも最も強いとされる能力者だけが、動揺を隠せない顔をしていた。
(な、何で高校生のあいつが中学生に混ざって私達の敵にまわってんのよー!!?)
御坂美琴は困惑した。
どれだけ負けにさせたいのか、理解が追いつかなかった。
だがしかし、これだけは分かる。
(敵に回るなら、倒すまで!!)
ギンッと強い意志を持った目で上条を見据えると、その視線に気付いた上条は気まずそうな顔をする。
「うげっ御坂かよ……」
「いや、あれも常盤台なんだから、居るのは当然だぜい?覚悟した方がいいんじゃねーのか?
ありゃどう見てもカミやんだけを狙ってる目だ」
「うぐう……や、やってやります事よ!」
上条はヤケクソ気味に叫ぶ。それに押され周りの生徒達も戦意を上昇させた。
何だか上条に共感の念を抱いたらしい。無駄なカリスマの発揮である。
そうして、高校生2人を交えた玉入れは開幕する。
210 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:35:02.51 ID:ZVqRrhcAo
・・・
「恐らく、『速記原典』は籠のどっかに仕掛けられてるっぽいぜい。
玉は今ばらまいてるけど、それならさっきまでは玉は倉庫にあったはず。
ならさっき探知術式を行った時に、倉庫に探知が向かないとおかしいんだにゃー。
だけど、探知は『競技場内』に向いた。て事はこの場に固定されてる籠が怪しいってことだ。
それに、籠の方は随分前から設置されてたらしいからにゃー」
赤組と白組、それぞれ2000人ずつがこの競技に参加するのだ。
それに伴い籠の大きさは半端ない。
故に当日に籠を設置するのは手間なので、
あらかじめ籠だけは設置して置いてあると言う訳である。
「でもさ、どうやって?外の警備見る限りじゃ、わざわざそれを突破するのって無駄じゃないか?」
「多分、籠が外部からの備品だったんだろうさ。
それなら、警備の薄い外であらかじめ設置しとけばいいはずだ。
おそらく、『速記原典』の発動のタイミングはオリアナの方で決められるんじゃないか?
そうすりゃどっかでこの場の事は放送されるだろうから、モニターから見れば発動するタイミングは決められる。
それに、あっちだって取引は円滑に行いたいはずだぜい?
なら、騒ぎを無駄に起こすような愚行はしないと思うぞ」
土御門元春は、軽くストレッチをしながら笑った。
「なるほどなー」
兎にも角にも、籠を調べて怪しい何かが無いかを調べればいい。
とはいえ上条には幻想殺しは無いので、何か見つけたら土御門をすぐに呼ぶ事。
上条は自身のすべきことを確認すると、両手で頬を叩き、気合いを入れた。
それに合わせるかのように、玉入れ開始のアナウンスが鳴り響いた。
「「おおおお!!!」」
一同は叫び声を上げながら、玉を拾うべく駆ける。
2000人の塊が二組。赤と白に分かれて走るものだから、土煙が一気に立ちこめた。
何だかノリの軽いBGMを背景に、その内容は苛烈だった。
何せ学園都市が誇る、常盤台中学の生徒達による一斉掃射だ。
211 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:36:38.71 ID:ZVqRrhcAo
「うわああああ!カミやん、右から来るぞ、気をつけろぉぉ!!?」
「うぎゃああああ!!!」
上条に引っ張られる形で、絶望していた生徒達が気合いを入れて常盤台に立ち向かうが、その能力差は圧倒的だった。
2000人も居るので大抵の能力は使えるのだが、敵方に常盤台が居るせいで、
大抵はその上位互換の能力をぶつけられる形になる。
純粋に力の押しあいでは勝てない、と言う事だ。
とはいえ、上条と土御門は何も助っ人として勝ちに来た訳ではない。
何とかして籠の傍へと寄る事。それが重要であった。
とはいえ、土御門は既に魔術の行使で体が傷ついている。
ちょっとした攻撃で、土御門の傷口が開いてしまうかもしれない。
目の前に広がる、自分達が体験した棒倒し以上の能力の応戦に、上条と土御門は顔を見合わせた。
「……」
「……」
最早玉入れではなかった。
しかし、そうして顔を見合わせている間にも、次々と能力は飛来して来る。
「行くぞ、カミやん」
「……おう」
2人は心を決めると、一気に駆けだした。
目の前では次々と人が、玉が吹き飛んで行くが、それに目もくれず真っすぐに籠へと向かう。
「よし、とりあえず俺はこの籠から調べてくけど、カミやんも何か怪しそうなの見つけたら教えてくれ。
後はこっちで何とかする。あ、間違っても何か見つけたとしてそれに『触れる』なよ?
恐らく、発動のキーは『触れる』事だと思うからな。声とか音だと俺達に狙いを定められないはず。
つーかこの喧騒の中発動してないのが何よりの証拠かにゃー?」
「分かった!……ってあれ?そういやその術式を見つけてからどうするつもりなんだ?」
「もちろん、土御門印の陰陽術で封印するぜい?
何、陰陽術ってのは元々防御や探知、封印に長けた術だからな。
粗雑に造られた原典の封印など容易いさ」
「……そうか」
止めたい。しかしそれを為すだけの『力』が無かった。
悔しそうに歯?みする上条を見て、土御門は嬉しそうに笑う。
「そんな顔するなよ、カミやん。出来れば超電磁砲とかで術式ごと籠を消し飛ばすのが楽だし、
上手く行けば誰も怪我しない方法だろうけど、あれを巻き込みたくはないだろう?」
「まあ、そうだけど……」
そうして、上条と対話を交わしながらも1本目の籠のチェックが終わったらしく、次の籠へと走って行った。
「クソッ……ホントに無力だな、俺……」
上条の呟きは、玉入れの喧騒の中に消えて行った。
212 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:38:50.67 ID:ZVqRrhcAo
・・・
「……何も、不自然なとこは無い、よな?」
魔術の知識など皆無な上条が、籠を調べたところで何か分かる訳がなかった。
これなら、この場は土御門に任せてオリアナを追う方が効率が良いのではと後悔した。
「いや、土御門は怪我を負ってるんだから、それの盾位にはならなきゃな!」
考えを改め、とりあえず籠のチェックよりも土御門の護衛に回る事にした上条は、
土御門の方へ走ろうとしたのだが。
そんな上条の真横を一閃、よぎった。
「こ、このビリビリっとした感じ……」
「あ、ん、た、は……何やってんのよ〜!!!」
「げぇっ、御坂!?」
御坂美琴は全身からビリビリと放電させながら、手にはコイン。
この大覇星祭ではレベル5としての力は制限されている(圧倒的力量差を埋める為)が、
それでも十分強力な武器を携えている彼女は、目の前に居るツンツン頭に一言物申す為に立ちふさがった。
「何であんたはこんなとこに居るのかな?かな?」
「え、ええっと……それはのっぴきならねえ事情って奴がございましてね……へへっ」
ぺこぺこと縮こまって言い訳をする上条。
しかし、そんな姿すら御坂の怒りの炎に油を注ぐ結果にしかならない。
「のっぴきならねえって……私に罰ゲームをそんなにさせたいのかしら……?」
「いや!そういうことじゃない!みての通り玉を入れる気0だから!な!?」
「じゃあ何でここに居るのよ……」
御坂は怒るのも馬鹿らしくなったのか、疲れた表情で籠のポールに寄りかかろうとする。
そのポールには1枚の紙が。
『速記原典』、一度オリアナ=トムソンと相対した時には単語帳の様なものを使っていた。
ならばここに刻まれている魔術だって、紙が使われているかもしれない。
213 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:40:33.60 ID:ZVqRrhcAo
「あ!御坂ストップ!」
「え?何?」
「……そのポールにくっついてる紙、何か書かれてるか?」
質問の意図が分からず、はい?と言った表情を浮かべる御坂。
とはいえ、真剣な顔をする上条からは、悪ふざけではないと言う意図が十分伝わったので、
御坂は素直に答える事にした。
「……野木中学校備品、って書かれてるわね、それがどうしたの?また何か厄介事?」
御坂は、意味のわからない質問や言動をする上条から、
何か事情を抱えている事が見て取れた。
何で手伝ってほしいだとか、助けを求めないんだこいつはいつもいつも、
と言った具合に愚痴が脳裏を駆け廻るものの、
それどころでは無いので御坂は上条に対して文句は言わない。
「……まあ、ちょっとな」
上条がそんな御坂の言葉に返答しあぐねていると、
「そこで何をしている。上条当麻」
聞き覚えのある、クラスメイトの声がした。
「その声は……」
恐る恐る、上条は声の聞こえた方向を向く。
「そこで何をしている、と私は聞いたんだけど?」
上条のクラスメイトで大覇星祭実行委員でもある吹寄制理が、
怪訝そうな表情を浮かべながら、体を支えるように籠のポールを掴み佇んでいた。
「全く、何でこんな所に居るのかは知らないけれど、ここは中学生同士が戦う場よ。
高校生であるあたしやあなたは場違いな存在なの。
こんな能力のぶつけ合いのなかここまで来たあたしを褒めて欲しい位ね。
何にせよ、さっさとここから離れるわよ。言い訳は後にしなさい」
体操服の上に薄いパーカーを羽織るが、
そのパーカーはこの立ちこめる土煙や、飛び散る泥のせいか、少し汚れが目立っている。
どうやらこの競技の参加者では無い上条の姿を確認して、
実行委員としてそれを止めに来たらしいのだが、上条の視線は吹寄には無かった。
彼女の掴む手とポールの間に挟まれた、1枚の紙に目が釘付けになっていた。
それが先程の様に、何処かの備品であると示す言葉が記載されていれば幸いなのだが。
そんな上条の思いを嘲笑うかのように、『英語の筆記体』の様なものが青字で書かれていたように見えた。
瞬間。
「吹寄ぇえぇぇえぇぇ!!!!」
214 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:41:26.43 ID:ZVqRrhcAo
バギン!と言う鈍い音が響き渡り、吹寄の体はぐらりと斜めに揺らぐ。
その倒れ方は明らかに異常で、上条は思わず叫び、吹寄の体を支えるべく駆けよった。
その声を聞き駆けつけた土御門が、すぐに『速記原典』を止める術式を構築しにかかる。
辺りは相変わらず能力がひっきりなしに行ったり来たりしているので、
土御門が何をやっていても目立つ事は無いだろう。
しかし、間に合わない。
『術式を止めるだけ』では間に合わないのだ。
とはいえ、止めなければもっとひどい事になる。
土御門は体に鞭打ち、『速記原典』を止めるべく術を発動させた。
その反動で更に体に傷を作る事になったが、今はそれどころではない。
「……カミやん!吹寄の様子は!?」
ゲホゲホと、血を吐きながら吹寄の様子を問うが、明らかに土御門も重傷であった。
訳のわからない、と言った顔をする御坂を完全に無視して、上条は吹寄の様子をうかがっているが、
動悸が激しく、ダラダラと汗を流していると言うのに体はひんやりと冷たい。
明らかに異常だった。
しかし、それを何とかする術が上条にはない。
苦しそうに息を吐く吹寄に、何もしてやれない。
何とかしたい。
でも力が無い。
吹寄の体を蝕む『異常』を何とかしたい。
そんな都合の良い力が、今すぐ欲しい。
215 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:43:43.70 ID:ZVqRrhcAo
すると、不意に何かが頭をよぎった。
その直感は腰に差してある召喚器に起因しているのか知らないが、真っ先に上条は召喚器を手にした。
辺りには御坂と土御門、それに吹寄しかおらず、他の一同は互いに飛んでくる能力に集中しているようで、
更には誰かの能力か知らないが突風が吹き、土煙が更に巻き上げられた。
それを上条は好都合と見る。
カチリと召喚器をこめかみにつきつけると、
上条は引き鉄を引いた。
「……オケアノス、アムリタ!!」
御坂と土御門が驚愕の表情を浮かべているが、それを無視して叫ぶ。
吹寄を助ける『力』を、『心』から求めた結果が、これだった。
アムリタ。死亡・ダウン以外の状態異常を回復させる。
『心』はそれに応えたようで、オケアノスが吹寄に手をかざすと、
何か白く柔らかい光が吹寄を照らした。
オケアノスが消えると、吹寄は先程までの苦悶に満ちた表情は落ちつきを取り戻し、
安定した寝息を吐いているようだった。
「……カミやん、今のは」
土御門が上条に尋ねる。
土御門も何となく予測はついている、と言うか『それ』しかあり得ないと思っているが、
先程までの光景が何となく嘘か夢かに思えて仕方がなかった。
「……とにかく、一旦この場を離れよう。
御坂、お前には後で事情は話すから、この場では何も聞かないでくれ」
「え、えっと……うん……」
上条は吹寄をおぶさり、土御門の体を支えると、
辺りを見回して最短距離でこの戦場から離脱するルートを探し始めた。
「カミやん、お前は吹寄を頼むぜい。俺は大丈夫だから」
「……本当か?」
「本当本当」
「……分かった」
渋々、と言った様子で上条は土御門から手を離した。
(……あれが、『ペルソナ』か……)
土御門は、上条が召喚したオケアノスを思い出し、考える。
(アレイスターが、いや、『暗部』がこの力で何かしようとしてるのもうなずけるな)
これほどの力。研究者達の唱える『レベル6』に至る道も見えるかもしれない。
ならば研究しないわけにはいかないと言う事だろう。
オリアナに関してもそうだが、この件が終わったら色々と調べなければならないな、
と土御門は休みの日が欲しいと、内心愚痴りながらも重たい体を引きずって、競技場を後にした。
216 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/10(水) 08:45:56.63 ID:ZVqRrhcAo
尾張です。外でペルソナ出しました。
大覇星祭で幻想殺しの無い上条さんを、どうやって魔術サイドに絡ますんだと考えてたけど、無理矢理絡めました。
幻想殺しないことを隠す為には力を示さなければならない。でも魔術サイドに絡む事で幻想殺しが失ってる事がばれるかもしれないって言う二律背反ががが
217 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/10(水) 08:57:09.95 ID:TK/Nj7/bo
毎回濃厚で面白いなー乙!
218 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/10(水) 10:02:44.94 ID:lQc0ZvtIO
朝から乙なんだよ
インさんが少し素直になって嬉しいかも
219 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/10(水) 11:33:48.81 ID:11Gcxz7Yo
乙ww
220 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/10(水) 20:02:29.14 ID:ZVqRrhcAo
明日は多分投下できません。
こー見えて大学生なので前期最後のテストがあるのです。勉強するのれす
221 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/10(水) 20:45:42.24 ID:gwe5I+Ja0
>>220
レス感謝
学生の本分なのである。
>>216
上条さん、木原君の
実験動物になるかwktk
222 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/10(水) 22:24:49.05 ID:YjS8K2lSO
インさん一方さんの妹か娘みたいだww
この一方さんの装備ペルソナはよつばとのとーちゃんっすね
少しずつ打ち解けてデレの片鱗を見せるりせちーかわええなあ
ツンデレりせちーもありやね
223 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/12(金) 20:42:00.93 ID:xHOLPZ7Co
俺は……自由だっ……!!
書き溜め最中だから出来たら投下する。
今日中は無理かもわからんけど出来るだけ早めにする。
224 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/12(金) 20:50:09.64 ID:Nq1TJfSN0
>>223
レス乙
了解した。
アホな一方さんもよいが、切れも見せないと
デルタフォ−スの仲間入りかも。
225 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:40:16.93 ID:Sa0tuZ+9o
透過するけど!
226 :
今回一方さんでない
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:41:18.99 ID:Sa0tuZ+9o
朦朧とする意識の中、吹寄制理は見た。
とある少年の顔を。
最初は、ふらつく身体を日射病か何かのせいかと思っていた。
しかし、自身の体調管理は普段から厳密に行っている。
特に、大覇星祭実行委員として働いている今は、殊更に。
だが、彼女の身体は重く、
日の下に居るとは言えそこまで言う程動いていないと言うのに、汗でべた付いている。
別の要因があるとするなら、心的疲労だろうか?
実行委員として大覇星祭を成功させねばと、一人肩肘張った結果、
知らない間にストレスを貯め込んでいたとか?
確かに、吹寄はこの大覇星祭を成功させるべく、色々と働いた。
慣れない力仕事や、審判の手順を暗記等、円滑に大覇星祭を進めるべく。
だがしかし、そんなことを上条当麻が知るはずはない。
なら、どうして?
(―――どうして目の前の男は、こんなにも悲痛な顔をしているの?)
別に上条の事は何とも思ってはいない。
はっきり言えば赤の他人だ。
そんな上条が、何故そのような顔をして吹寄の名前を叫ぶのか。
それが理解できない。
いや、確かに上条からは吹寄を心配する気持ちは伝わってくるのだが、
それ以上に別の何かを見ているように感じた。
まるで予定外の出来事が起きてしまった、と言う焦り。
それが見え隠れしていた気がする。
何か、大覇星祭の裏で予定外の出来事が起きている?
だとしたら、凄く嫌だ。
実行委員の皆で、この大覇星祭を成功させると誓った。
そして、学生も一般の人も皆に笑ってもらおうと、
頑張って準備してきて今日と言う日を迎えたのだ。
だから、目の前の上条にも、大覇星祭を楽しく過ごして欲しいと思ったのに。
そんな悲しそうで、悔しそうな顔はしないで欲しいと思う。
そして、吹寄は。
―――拳銃をこめかみにつきつける少年を視界に捉えた後に、意識を閉ざした。
その後すぐに、玉入れは一時中断を迎えた。
何でも能力のぶつけ合いをしすぎたせいで、
籠がバッサバッサとなぎ倒された為に玉入れどころではなくなったからだそうだ。
そんな訳で籠を直す作業のどさくさにまぎれて、
上条当麻は吹寄制理を担架で病院に運んでもらうよう頼み、その場を後にした。
その時吹寄を受け取った救急隊員は、「鬼の形相をした少年を見た」と供述している。
227 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:42:34.39 ID:Sa0tuZ+9o
・・・
「何かごちゃごちゃと込み入った事情があるのは分かった」
上条当麻は、土御門元春とステイル=マグヌスの電話越しでの会話をまとめた。
だがしかし、そんな事情は魔術師同士で頑張ってくれと言いたい。
ただ一つなのだ、上条が望む事は。
―――オリアナ=トムソンをとっ捕まえて、張り倒す。
真っすぐ行ってぶっ飛ばす。右ストレートでぶっ飛ばす。
と、頭の中でリフレインさせながらも、今もなお続く土御門とステイルの会話に耳を傾ける。
電話越しなので、ステイルの言葉は余り聞き取れないが土御門の言葉から察するに、
何やらステイルが今からオリアナ=トムソンを探知する為の術式を起動させるらしい。
つまり、その術式が発動したらオリアナの位置を特定出来るのだが。
一度オリアナと邂逅した時に、ステイルに向かってオリアナが発動させた魔術があった。
その魔術は、それを受けた術師が魔術を発動する事をキーとして動く自動迎撃式の魔術だ。
術師は魔術を発動させる事は出来るのだが、この自動迎撃の魔術によって術師の魔力精製を空回りさせられる。
魔力とは生命力と言い換える事が出来、それを空回りさせられると人体に変調がきたされるのだ。
すなわち、そんなものを受けたステイルがいつまでも戦線に居られる訳が無いので、
その術式を展開している場所を特定及び破壊を行うべく、先程は玉入れ合戦の中に入り込んだのだ。
さて、先程土御門が体をボロボロにさせながらも術式を封印・破棄したわけだが、ここで疑問が一つ浮かぶ。
何故一般人たる吹寄に術式が反応したのか。
それは術式が反応する条件に起因する。
条件としては、「オリアナの魔術を受けた術師が、「魔術」を発動させる事で魔力精製を空転させる」と言う代物なのだが、『速記原典』の性質上かなりアバウトな仕上がりになっている。
すなわち、その術式の中で意図するしないに関わらず、『魔術的な意味を持つ行為』を行う事でも迎撃術式が発動されてしまうのだ。
これがもっと練り込まれて造られた魔法陣であれば、そのような事態を避けるように陣を展開しているのだろうが、それはさておき。
とどのつまり、『魔術的な意味を持つ行為』とは『手で触れる』と言う行為であり、
それを行えば最後、魔術を使えなくとも生きとし生ける者なら、自身が持つ生命力を乱されてしまう為、
魔術に耐性の無い一般人がこの術式を受けてしまえばどうなるのかは考えるに難くない。
と言うより、実物を見せられてしまった。
ギリ、と上条が歯を食いしばったところで、土御門から声がかかる。
228 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:43:35.34 ID:Sa0tuZ+9o
「カミやん、もうすぐオリアナの場所が特定出来るぜい」
「そうか……ステイルは魔術を使ってももう大丈夫なのか?
さっきその術式を壊したけど、それだけで本当に大丈夫なのかはわかんないだろ?
いや、魔術の事なんてわかんねーから、それもよくわからないけどさ」
「ああ、電話で聞く限りなら大丈夫そうだったぜい。
心配ならステイルの声でも聞いとくかにゃー?
どうせオリアナを捕捉したらまた電話かかって来るし」
土御門は上条の質問に軽い口調で答えた。
鬼気迫ると言った様子の上条の雰囲気を和らげようとしたからなのか、
はたまたただ単にからかっているだけなのかは知らないが、そんな土御門に上条は少しだけ表情を柔らかくした。
「いや、別に良いよ。あいつと俺は仲良しこよしなんて関係じゃないだろ?」
上条も先程までは頭に血がのぼっていたが、腰に感じるひんやりとした召喚器の感触を確かめると、
心を落ちつけたのか冗談交じりに土御門へと返答する。
「よーしカミやん、吹寄の仇討ちに息巻くのは構わんが、そうやって落ちついてねーと上手く行くもんも行かなくなるぜい?」
「そうだな、悪かったよ……もう、頭に血は上らせねえ」
先程と同様に表情を硬くするものの、その表情は先程のように怒りから来る表情ではなく、
非常に真剣なもので落ちつきを持った顔だった。
それを確認した土御門は最後にもう一つ笑って、
そして2人はオリアナを探しだすべく動き出す。
・・・
「間違えちゃった、てへ。じゃ済まされないわね……」
行きかう人だかりの中でただ一人、誰も目に向けない電光掲示板に掲載されたニュースを眺めて、金髪の美女は呟いた。
内容としては「玉入れ中断の際中に、女生徒が倒れた」と言うもので、
ニュースとしては話題性に乏しく、よく見る日射病には気をつけましょうという呼びかけの為の内容だろう。
それだけの内容だと言うのに、
この女性は予想外の内容に衝撃を受けたと言った表情を浮かべている。
「謝って済まされる訳が無いのは当然だけど」
自分には為すべき事がある。
と、オリアナは脇に抱えた看板の様なものに、強く指を喰い込ませた。
229 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:44:46.41 ID:Sa0tuZ+9o
・・・
上条当麻と土御門元春は走っている。
しかし、人ごみの中押しのけるように走っているので周囲の人たちは迷惑そうな顔をしていたが、
それを気にしている暇もましてや謝っている暇もない。
先程ステイル=マグヌスと会話した時はスピーカーがオフになっていたので、
上条は2人の会話が分からなかったが、今はオンになっているので会話を聞きとる事が出来ている。
そうして上条と土御門は、2人同時にステイルのナビを受けつつ走り続けていた。
『オリアナ=トムソンの位置を特定出来た。第七学区の地下鉄、二日駅周辺だ。
もう少し探知を続ければ正確に特定できる』
「な!?そこならさっき通り過ぎちまった!」
上条は慌ててブレーキを踏み、身を翻して今まで通った道を引き返す。
途中路地裏に入り込み、駅へのショートカットを図った。
先程までは土御門が先導していたのだが、やはり傷が響いているのだろう。
今では上条が先行して土御門を先導していた。
『北上しているみたいだね……道が3本に枝分かれしていて、
どの道に行っているかは不明だが、すぐに特定させる……とにかく北方向だ』
上条と土御門はその声を聞きながらも走り続けていた。
路地裏を抜けると、歩道の隅に寄り添う形で地下鉄への入り口があり、2人はそのまま北へと進む。
『3本の道のうち……一番右だ、たった今その道を抜けた』
「……いた!」
上条は、ステイルのナビゲートの声とほぼ同時にオリアナの後姿を見つけ、移動の速度を緩めた。
ようやく見つけたオリアナに思わず声をあげてしまうが、それでもオリアナにはバレないよう、
小さく声を上げたのでオリアナの方からは見つかっていないようだ。
だがしかし、相手もプロ。
すぐさま上条達の視線を察したのか、後ろを振り返って来た。
上条と土御門が迫ってきているのを確認すると、慌てて脇道の中へと吸い込まれて行く。
230 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:47:07.78 ID:Sa0tuZ+9o
「〜〜クソッ!!」
上条は苛立ちを声に表し、土御門と共に脇道へと入って行く。
しかし脇道はすぐに終わりを迎え、その先にあったのは寂れた商店街だった。
寂れた、と表現したのは本来営業しているべき時間帯だというのに、
どの店も歓迎する様子はなく、シャッターが閉まってばかりだったからだ。
と言うのも、この商店街の位置が悪かったらしく、
客を入れようとしても無駄だと経営側が理解しているのだろう。
普段はそれなりに客入りが良いのかは知らないが、
割と綺麗な店舗と広い道路で商店街は構成されていたのだが。
恐らく、店の人間はどこかもっと人の多い競技場周辺に仮設の店舗でも建てて、
今日も元気に商売に従事しているに違いない。
それはさておき、この商店街の道は真っすぐと伸びており、
オリアナはその通りの左側を走っていた。
上条達もそれに伴い左側へ行こうとするのだが、その前に自律式のバスが横切ったので、
それが通りすぎた後に左側の歩道へと入る。
そうして、バスの行き先を目で追っていたのだが。
「まずっ……アイツ、バスで逃げ……!」
上条達の視線の先、そこにはバス停の中、
自律式のバスを止める為のボタンを押しているオリアナの姿があった。
バスはボタンを押された事で、
プログラムされた事を当たり前にこなすべく、バスを止めオリアナを乗せる。
そしてプシュー、と音を立てながらバスの扉を閉めると、
上条達がバスを止めようとボタンを押す前に走り出してしまった。
こればっかりはプログラムされている事なので、
バスを止めて開けてもらう等と言う融通は利かせられない。
「くっそ誰も見てねえだろうな……!」
上条はキョロキョロとあたりを見回すと、召喚器を取りだした。
231 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:48:58.01 ID:Sa0tuZ+9o
「カミやん、『それ』を使う事で何か不具合は起きたりしないのか?」
吹寄制理を救う為に使われた『力』。
魔術とは違い、かなり簡単な手順(出来ない人間には出来ないが)で力の行使を行ったように見えるが、
そのような力を何の制約も無しに行う事が出来るとは思えない。
呪詛返し、という言葉があるように失敗したらその失敗が全て術者に帰って来るような事だってあるのだから、
未知の力を前にそのように心配するのも無理はなかった。
だがしかし、上条は何も気にした様子もなく引き鉄を引きつつ、行為でそれに答えた。
「オケアノス!マハブフ!!」
上条の背後から現れたそれは、バスのタイヤを一瞬にして凍らせた。
その凍り方は地面にまで至っており、
身動きの取れなくなったバスが緊急信号を飛ばしながらも扉を開いて、
乗客を降ろすべくプログラムを作動させた。
「……大丈夫だ、『飲まれない』のなら、制限付きだけどこの『力』は行使できる」
「そうか、なら良いんだが……」
どういう原理でその力を発しているのかは分からないが、
土御門は何となく超能力寄りの異能であるように感じられた。
術を行う下準備を行い、言葉や行動によってそれを発動させる魔術。
自分だけの現実を観測し、ミクロな世界を操るべく頭の中で演算させる超能力。
使えない人間からしたらどちらも異能には変わりないのだが、見た目は大きく違う。
魔術は「魔術っぽい準備」が見て取れるが、一方で超能力は、
一見して何も無い所から異能を発生させているように見える。
実際には複雑な演算を行っているのだがそれはさておき、
「銃を突きつけ引き鉄を引くだけ」で人を治したりバスを凍らせたりするあの力は、魔術っぽく無い。と、何となく思った。
とはいえ、見た目で分からないだけで何かを犠牲にしたり、
何か条件付であの力を使っているのかもしれないが、
土御門は研究者では無いのでそこまでのメカニズムは分からなかった。
そう言った意味で魔術か超能力かどちらかと問われれば超能力っぽいと直感したのだが、
今はそんなことよりもオリアナをとっ捕まえねばと考え、先程までの思考は霧散して行った。
「つーかカミやん、その力ホイホイと見せていいのかにゃー?」
「問題ねえ……と思う。さっきちらっと見ただけだけど、オリアナしか乗客は居なかったし。
お前はペルソナの事知ってるし」
「そうか。ならいいんだが」
オリアナに見られても良いのかと言う意味で聞いたのだが、
上条の回答から察するに別に気にしてないと言う事なのだろう。
232 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:50:32.98 ID:Sa0tuZ+9o
「俺としてはどちらかと言うと、監視カメラとかが気になるかな……
何も考えずにバス止めたけど、これって色々とマズいよな?」
駅のホームで飛び降り自殺をしたら、運行ダイヤが乱れるせいでかなりの損害を被るので、
遺族に莫大な請求が行くとかなんとか、聞いたことがある。
ただの噂なので事実はどうなのかは知らない。
何にせよ、バスを無理矢理止める事で、それを確認する為の人件費やら、
本来バスに乗っていただろう乗客(大覇星祭時は特別運行なので運賃は無料だが)やら、
このバスが止まった事での損害がいくらかでるだろう。
そうなった時その損害を何処に請求するかと言えば、勿論加害者。
もし上条がバスを止めたと言う事がばれたら、
アンチスキルのお世話になる以上に「無能力者が強力な能力を使った」と言う事実が広まってしまう。
それは上条としてはものすごーく避けたい事象だった。
そんな上条の心配を察したのか、土御門は笑いながら言う。
「大丈夫だぜい?証拠隠滅は俺の得意分野だ。なんてったってスパイだからにゃー。
今日カミやんが暴れた事は全力でなかった事にする。
っても人の目だけはごまかせないから、隠したいなら人のいない所で力を使ってくれな」
「そうだな。例えばこの商店街みたいなとこだな」
土御門の返答に対し、上条はニヤリと笑いながらバスに近づいて行く。
そのバスの中からは、ゆったりと看板の様なものを抱えた女が出てきた。
どうやら逃げるのではなく、迎え撃つつもりらしい。
妖艶な雰囲気を纏いながら話しかけて来る。
「ふふ、それが超能力って奴かしら?さっき会った時は使わなかったけど」
「さあ、どうだったかな」
オリアナの質問に対してしらばっくれて返答する上条。
そんな上条を見てクスクスと笑いながら、ゆったりと単語帳を手にした。
「どちらにせよ、あんな冷たい氷使われちゃあお姉さんの熱も冷めちゃうわ。
もっとも、いきなりあんな力を見せられちゃって、ちょっと滾っちゃったけど。
見てみる?下はもう濡れ濡れよ?」
分かっているはずだ。自分が何をしたのかを。誰に手を出してしまったのかを。
故意か事故かと問われれば、恐らく事故だったのだろう。
しかし、それでも「魔術と何のかかわりもない人間に手を出した」と言う事実は変わらない。
だと言うのに、悪びれもせず出てきた言葉は冗談だった。
その事実に、上条は少しだけ眉をひそめた。
233 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:51:18.10 ID:Sa0tuZ+9o
「……お前が施した術式で、一般人が倒れたぞ。覚えてるか?お前と出くわした時に一緒にいた女だ。
あれが魔術関係者に見えたか?見えたんだったら眼科に行くことを勧めるぜ。
それでも駄目なら目の移植でもした方が良い。腕の良い医者を知ってるから、紹介するけど?」
少しでもこの怒りを、苛立ちを抑えるべくオリアナに向かって皮肉を言い放つ。
その言葉を受けて、上条と土御門に気付かれない程度にピクリと反応を示すが、
見た目には動揺したようには見えず、相変わらず軽く笑みを浮かべていた。
「この世に関係の無い人間なんていないわ。その気になればどんな人間とも関係を作れるもの」
「……そうか。そんな冗談を言えると言う事は、理解してるってことだな。
理解した上で、そんな態度なんだな?」
上条の口調からは、明らかな侮蔑が込められていた。
「今更どうこう言うつもりはないけれど、
お姉さんだって一般人を傷つけるつもりなんてなかったわよ?
……こういうのとは違って」
言った後、オリアナは単語帳の1ページを口で破いた。
カキン、とグラス同士で乾杯した時の様な、甲高い澄んだ音が鳴り響く。
瞬間。
「ぐっ……があ……!!」
うめき声を上げ、土御門は膝から崩れ落ちた。
脇腹を押え、ガチガチと震えながらも土御門はオリアナを睨みつける。
「土御門!!」
やはり今までの負荷が一気に来たのか。思わず上条は土御門へと駆けよった。
傷口は開いた様子は無いが、土御門は痛みに耐えるように歯ぎしりをしている。
「あら?てっきり怪我を負ってるのはあなたの方だと思ってたんだけど。
使い道を間違えちゃったかしら」
言っている間にも、土御門の両手足からは力が抜けて行く。
何とか立ち上がろうとするものの、その力すらなくなった所で、そのまま動かなくなった。
上条は慌てて土御門の呼吸を確認したところ、気絶をしただけらしく少しだけ安心する。
その様子をニコニコと眺めるオリアナを見て、
先程の単語帳を千切る作業によって、何かをしたのだと理解した。
234 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:54:23.70 ID:Sa0tuZ+9o
「お前、土御門に、何をした?」
「再生と回復の象徴である火属性を、青で消しただけ。
さっきの鈴の音を発動のキーとして動かしたんだけど、
簡単に言えば「一定以上の傷を受けている者を昏倒させる術式」よ。
……あなたはそこまで傷を受けていないようね」
幻想殺しが無い今、オリアナの魔術を打ち消す術は無い。
オリアナの言葉が事実なら、これ以上の傷を負えばいずれ昏倒させられる、と言う事だろう。
(って事は、土御門の傷が治るか、術式を何とかしないといけないと言う事か……)
とはいえ、術式―オリアナが握る単語帳の1ページを何とかしたところで、
昏倒させられた土御門を治す事は出来ないかもしれない。
だがしかし、昏倒させられ続ける効果だけはなんとか出来そうなので、
どうにかして単語帳の破壊を目指すべく、オリアナの隙を窺う。
そんな上条の視線を感じて、オリアナは楽しそうな笑みを浮かべ、
自身の正面へと風が吹いているのを見て問題の術式が刻まれている紙を放り投げた。
紙は風に乗ってひらひらと飛んで行く。
「てめえええええ!!!」
上条は激昂して叫ぶが、頭の中は冷静に思考を続けていた。
(あれの手から離れたのなら、紙が見つからなくなる前に……斬るっ!!)
召喚器を頭につきつけ、すぐさま引き鉄を引く。
オリアナはその様子を観察するかのように眺め、動く気配を見せない。
そうして現れたオケアノスへ発した指示は、単語帳を切り裂く事。
オケアノスの持つ大剣には似合わない程の小さな目標に対して、オケアノスは鋭く重い剣を一直線に投げつけた。
それによりあっけなく真っ二つに紙が斬り裂かれる事で術式が破壊されたのか、
苦悶の表情を浮かべていた土御門の顔が穏やかなものへと戻る。
しかし、目を覚ます気配が無いので上条は少し考えた後、納得したように呟いた。
235 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:56:07.06 ID:Sa0tuZ+9o
「やっぱり一度気絶したなら目を覚ますまでは気絶しっぱなしか……」
「へえ、やっぱり魔術では無いみたいね。
超能力に関しては分からないけど……
お姉さん興奮してきちゃったなあ」
「うるせえよ、こっちはとっくに怒髪天を衝いてんだ。冗談なんて言ってんじゃねーよ!
……『刺突抗剣』とやらがどんなもんかしらねーけどさ。
それがどんなにすげーもんか、価値の欠片も理解できてねえけどさ」
上条は、ツンツンした髪の毛を怒りの度合いだと言い張りながら、続ける。
「こんなクソつまんねー結果しか生まねえような、ちっぽけなもんだって事だけは分かってんだよ!!
だから、その道具をさっさとこっちによこしやがれ。そしたら拳骨一発で許してやるよ!」
「あらあら、そんなこと言われたって、はいそうですかってなる訳ないじゃない。
その程度の説教で諦めるような、詰まらない内容の仕事なんて請け負わないわ。お姉さんはね」
「一応の確認だよ。こちとらそう答えて来るのを待ってたっての。心おきなくボコしてやる。
つーか別に説教したいわけじゃねーよ。お前にだって何かしらの考えがあるんだろうし。
それを否定するつもりはないんだけどさ……何つーか、プロが素人さんに手を出したって事実が信じらんねーだけだ。
そしてそれが偶然にも俺の知り合いだった。んな事されて黙ってられる程、俺はお人よしじゃない。
更に言えば、そんな奴を放っておいて他の奴にまで手出しするかもしれないって考えたら、な……
だからお前を殴る。全力でだ!!」
正義も悪もない。善も悪もない。
ただ気にくわないから殴る。知り合いに手を出したから殴る。
そのような本能的な怒りを、当たり前のように出す上条の事を、
心底楽しそうにオリアナは眺めていた。
「ふふ、強気なのね。お姉さん、そういう子を腰砕けにするのが好きなのよねー」
「言ってろ!!」
上条は走り込む。明確な意思を以って、敵の前に。
そんな上条をオリアナは、楽しそうに見つめていた。
236 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:58:26.10 ID:Sa0tuZ+9o
・・・
両者の距離はおよそ10メートル。
上条当麻はオリアナ=トムソンへと走り込んだ。
策も無く、考えも無く。
ただただ殴り倒す為だけに。
そんな相手の迎撃は、オリアナにとって容易いものであった。
オリアナは1枚、単語帳を破るという動作のみで魔術を発動させた。
上条がオリアナとの距離を5メートル程縮めたところだろうか、氷の塊が上条の目と鼻の先に現れ、
厚さ50センチ・高さ3メートルに至るそれは、道路全体を覆って上条とオリアナを遮る壁となる形でその場に鎮座していた。
その氷壁を境に、オリアナと上条は視線を交わす。
思わぬ壁が現れて、足を止めた上条はオケアノスを出現させた。
勿論、壁を取り除く為である。
「剛殺斬!!」
叫ぶと、上条の望みをかなえるべくオケアノスが氷壁を切り裂いた。
それによって人が2人か3人か通れる程の空間が出来たのだが、その先にオリアナは居なかった。
(まずっ……氷は、光の屈折……!?)
そのような思考が頭を巡った刹那、上条の全身に衝撃が襲う。
それと同時に激しい風切り音が鳴り響き、風の刃がオケアノスへと向かったようだった。
これを受けたオケアノスへのダメージが、上条へと伝わる。
更に、オケアノスが受け切れ無かった風が上条に直撃した事で幾ばくかの切り傷が生じ、顔を歪めた。
その様子を見たオリアナは、うんうんと頷きながら上条へと話しかける。
「へえ。あなたの使うそれ伝いに、あなたにもダメージが行くのね。
何処から、ましてや何から造り出したのかは分からないけど、
それであなたにダメージが通らないようじゃお姉さん焦っちゃうとこだったわあ」
オリアナは終始楽しげに笑っているが、
上条はオリアナの話を全くと言って良い程聞いていなかった。
「一定以上の傷を負った相手を昏倒させる術式」。
これに該当する傷を受けてしまったのではないかと、考えていた。
上条の傷口は、見てわかる程ぱっくりと開いていて、血がダラダラと流れている。
「んふふ、あなたのその能力もそうだけど、学園都市ってずいぶん珍しい子を集めているのね」
そんなことを言いながら、オリアナは単語帳を破る。
上条はオリアナが単語帳を口にした瞬間、反射的に耳を塞いだ。
しかし、次なる魔術は予想していたそれではなかった。
237 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 01:59:47.87 ID:Sa0tuZ+9o
「お次は影の剣。飽きさせないわよ?」
オリアナが手を振るうと、それと同時に振るった手から真っ黒な剣が出現した。
その剣はその長さを伸縮自在に伸ばすと、上条の影に突き刺さる。その瞬間、
ゴッ!!と地雷を踏みつけたかのように上条の体が宙を舞った。
そのまま地面に叩きつけられる所を、何とか受け身を取った上条は、
黄泉川愛穂に鍛えられてて良かったと初めて思った。
「何故さっき使った昏倒術式を使わないのかって顔をしてるわね。
でもお姉さん、一度使った術式を何度も使う趣味は無いのよ」
オリアナは絶対的な余裕を持った顔をして、自身の術式に関して説明をする。
魔術を知らない上条にその内容はほとんど分からないので、
それを無視してオケアノスを出そうとするが。
「あら?駄目よ、おいたしちゃあ」
それよりも早く、オリアナが単語帳の1枚を千切った。
上条の地面の周りが隆起し、地面がアッパーのごとく上条の腹に直撃して再び宙へと舞う。
「ぐっ!!」
一瞬息が止まったが、それどころでは無い。
再び受け身を取った上条は、一旦オリアナと距離を取った。
「どうしたの?逃げたいなら逃げてもいいわよ、男の子でも怖いものは怖いのよね。
そしたら、お姉さんもお仕事に戻るから。それが一番互いの為になると思わない?」
「げほっ……バカ野郎、距離とればこれが出せるだろ?」
上条はボロボロの体でゆったりと召喚器をつきつけ、オケアノスを顕現させる。
そして放つスキルは、ブフーラ。
オリアナが先程出したような巨大な氷が、2人を遮った。
更にその氷壁の上を越えて、一つ一つは小さいものの、
大量のツララがオリアナへと向かって行く。
しかし、人体程度なら簡単に貫くような鋭利さを持ったそのツララを前にしても、オリアナは笑っていた。
238 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 02:02:12.15 ID:Sa0tuZ+9o
「言ったでしょう?こんな冷たい温度じゃ、お姉さんアツくなれるわけが無いって」
そんな余裕を持った言葉を発しながら、ブフーラを止めるべく魔術を展開させた。
これによってブフーラによるツララで、
オリアナに直撃しそうなものは全て撃ち落とされた上、氷壁もバラバラに砕かれる。
しかし、その先にはオケアノスしかおらず、上条の姿はどこにも見当たらなかった。
「言っただろ?『お前を殴る』って」
「な!!?」
このまま遠距離で魔術とスキルの撃ち合いにすると見せかけて、上条は急接近していた。
先程オリアナが光の屈折を利用したように、その壁の向こうに上条が居ると見せかけて。
オリアナが一度使った作戦なのだから、彼女自身も光の屈折の事は念頭に置いていた。
しかしオリアナの視線の先、氷壁の頂上からオケアノスの頭が見えていて、
その下氷壁越しに上条の姿を確認していた為、そこに上条が居ると勘違いしてしまったのだ。
何せ、先程まではオケアノスは常に上条の傍にいたのだから。
風に飛ばされ距離のあった昏倒術式を刻んだ単語帳を切り裂く時でさえ、
命中するか分からないと言うのに剣を投げつける程で、
常に近くにいなければならないと勘違いさせられた、と言う訳だ。
「おっらああああああああああ!!!!」
「ッ!!!」
上条が気合いを入れて叫びながら、渾身を込めた一撃を、全身を乗せた一撃を。
男も女も、老いも若きも関係無しに、目の前の女の顔に、叩きこんだ。
この瞬間だけを黄泉川に見せたら、
「女を殴る為に教えた訳じゃ無いじゃん!!」と言って地獄の特訓を課しそうな程の一撃だった。
これによって、オリアナは脇に抱えた荷物を落とし、そのままゴロゴロと地面を転がる。
目の前に落ちている看板の様なものを見て、上条は呟いた。
「これをどうにかしたら、良いんだよな……?」
上条は少し後ずさりしながら、足の先でちょんちょんとその板に触れる。
下手に触って何かが起きたら、嫌だ。そんな気持ちがにじみ出ているのが見て取れた。
そんな上条をみながら、クスクスと笑う声が、一つ。
その声に対する心当たりも、一つ。
239 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 02:03:26.30 ID:Sa0tuZ+9o
「ふふっ……そんなに恐がらなくても大丈夫よ。
お姉さんがあんなに動いたって何にも起きないんだから」
全力で殴ったはずだ。それこそ男女平等と言わんばかりに全力で。
男としてそれはどうなんだと自問する程に全力で殴ったはずなのに、
オリアナは絶えず笑みを浮かべていた。
痛みに耐えての強がりには見えない。
「何で、って顔してるわね。そうね……確かにあなたのパンチ、か・な・り利いたわ〜。
惚れ惚れする位のパンチだったけど……何て言えばいいのかしら……
有り体に言えば、こちらもプロなのよね。こうやって攻撃される事なんてザラにあるし、
一撃で倒れているようじゃ『運び屋』は名乗れないわよね」
単に、このような攻撃に慣れていた。
それだけの事だった。
それはすなわち、経験値の差。
インパクトの際、無意識的に体を後ろに逃がし、拳に合わせて首を回すことで衝撃を殺すなど、
訓練を積むか、実戦で恒久的に殴り合いでもしてないと出来ない芸当だ。
それをオリアナは当然のごとく行ったと言う。
上条の驚愕した顔を見て満足げにうなずくと、オリアナは再び1枚の単語帳を口へと持って行く。
それを見て上条はすぐさま召喚器を構えようとするが、
全身に出来た傷が上条を蝕み、瞬間的に体が硬直した。
それを好機と言わんばかりに、オリアナは単語帳を千切って魔術を行使する。
だがしかし、攻撃はいつまでたってもやってこない。
その代わりと言わんばかりに上条の目の前では竜巻の様な風がオリアナを包むと、
オリアナの体を雑居ビルの屋上へと持って行った。
「それがあなたの所にあるのにどうしてって思ってる?」
その通りだった。
オリアナにとって重要なファクターであるはずの、
『刺突抗剣』が上条の下にあると言うのに、どうしてそれを放っておくのか。
「それじゃあ、お姉さんからの宿題ね。お姉さんの真の目的、分かったら褒めてあげるわ」
言いたいだけ言うと、オリアナは身を翻した。
建物の屋上に居るのですぐにその姿は見えなくなったので、上条はその場に座り込む。
「……何なんだよ、あいつ」
一発殴ったは殴った。
しかし、まだ何かすると言った様子なので止めなければと思う。
(……その前に)
逃げよう。
オリアナの残した看板的なものを抱えながら気絶した土御門元春をおぶさると、
人が来る前にこの場を離れることにした。
その際、近くにあった監視カメラはオリアナによって破壊されていたと言うのは余談である。
240 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 02:05:24.20 ID:Sa0tuZ+9o
尾張です。
そういえば、原作じゃあオリアナさん、上条さん(幻想殺し持ち)に握手される事で人払いの亜種みたいな術式を解かれるんだったか。
でもこっちじゃ……
……オリアナさんはそげな術式使っとらんけん!
241 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/08/13(土) 03:09:58.37 ID:M3k3As0P0
こまけえこたあ(ry
242 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/13(土) 03:56:46.82 ID:mNpr7FJ80
>>240
乙
上条さんらしい行動、
竹を割ったような無策
で、りせち組はいかに
243 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/13(土) 10:48:42.25 ID:jIceZsZIO
乙
右ストレートでぶっ飛ばすって何のネタだっけ?ジョジョ?
244 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/13(土) 10:49:45.47 ID:U0BDf6mCo
>>243
幽白
心を読む相手(名前忘れた)に対してそれだけ考えてぶっ飛ばした
245 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/13(土) 21:47:21.23 ID:Sa0tuZ+9o
ちょっと霧の良いとこまで透過するわ
246 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/13(土) 21:49:06.56 ID:Sa0tuZ+9o
「私だって何かするんだから……!」
少女は何か決意に満ちた表情を浮かべ、人ごみを縫うように走る。
全身を、安全ピンで取り繕っただけの白い修道服で覆い、
必死に走るその様はどこかドラマのワンシーンのようにも見えるだろう。
インデックス。
10万3千冊の魔道書を持つ少女は、その知識を以って感知した魔術の元へとたどり着く為に、
犬のごとく駆けまわっているのだった。
そしてそれを追う影が1つ。
一方通行は周りの一般客によって思うようにインデックスに近づけていなかった。
能力を使っても良いのだが、如何せん人目があり過ぎる。
何とか人が少なくなったところで一気に距離を詰めたいと思いながらも、
やはりまだまだ鍛え方が足らないなと考えていた。
すると、一方通行の携帯に着信が入る。
『なンだ、上条?』
『ああ、インデックス何処に居るか知らねぇか?』
『丁度イイ。なンか魔術がどうたら言って走り出したからよ、
俺もインデックスについてってるンだが。
場所は沖合通りの服屋・シャングリラの―――』
『なっ!?事情は後で話すから、インデックスを止めてくれ!!』
『あ?そりゃ構わねェが……なン』
一方通行の返答を待たずして電話を切ったようで、
携帯は通話を終えた事を示す音しか発さなくなった。
「……わけわかンねェな」
良くわからないが、止めろと言うなら事情があるのだろう。
丁度人通りも少ない場所に来たので、一気にインデックスに接近すべく能力を使用し、
路地裏に入って行ったインデックスに迫る。
その際、一方通行よりも先にインデックスを追い掛けるようにしてピンク髪の少女が路地裏に吸い込まれるのを見た。
誰だ?とか思う一方通行なのだが、インデックスを追う事に集中し過ぎていた為に、気付かない。
インデックスを追う一方通行を、更に追い掛けている人物が居たことを。
247 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/13(土) 21:50:09.38 ID:Sa0tuZ+9o
・・・
(なんだこれは)
ステイル=マグヌスは公園のベンチに座り携帯電話に耳を傾け、苦い顔をしていた。
ベンチの隣には人はおらず、その代わりにコンビニで買ったサンドイッチとペットボトルの紅茶が置いてある。
流石紅茶大国・イギリスの国民であるからかは知らないが、
紅茶は一口飲んだだけで、それ以降口にする事は無かった。
どうやら工場で大量に生産されたそれは、風味も風情も無いように感じられたようだ。
それも苦い顔をしている原因の1つなのだが、他にも原因はある。
携帯電話の向こうから響き渡る、賑やかな声。
『別に「使徒十字(クローチエデイピエトロ)」を調べるのは構わねえんだけどよ。
そもそもそれって、ローマ正教が表に公開するのをかたくなに拒んできた奴でしょう?
だとしたら、今出回っている情報が本物かどうかなんてわかんねえじゃねーか。
つーか、「刺突抗剣」の方はどうなったんだ?』
『事情が変わったんだよ。現場の判断って奴さ』
男言葉と女言葉が同居しているような口調をした声の主の名は、シェリー=クロムウェル。
同じイギリス清教の所属だと言うのに、インデックスに牙をむいたり、
かといって今のようにイギリス全体の問題が起きるとなると迷わず協力すると言う、
非常に複雑な立ち位置に居る女性だ。
戦闘員でありながらも暗号解読専門官でもある彼女は、
今現在謹慎的な意味合いを込めて書類整理をしていたので、
こうしてステイルはシェリーに『使徒十字』に関する資料を求めている。
内心、ステイルは腸が煮えくりかえっていた。
仕事とはいえ何故インデックスを手にかけようとした奴と話さねばならないのか、と。
だがしかし、未遂は未遂なのでステイルも一発シェリーに炎剣をぶち込めさえすれば満足である為、
シェリーの声を聞いて苛立ちながらも円滑に話を進めるべく、冷静を装った声で話を続けていた。
『ふぅん。まぁいいさ、こまけぇ話はそのうちで。
時間もねえだろうし、とりあえず電話代わるわ』
『ああ、そうだね。『そのうちゆっくり』話したいところだ』
ステイルの意図が伝わったのか伝わらなかったのか、
シェリーはそれ以上何もいう事無く電話を代わる。
そして次に出てきた声は。
248 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/13(土) 21:51:15.85 ID:Sa0tuZ+9o
『もしもし、もしもーし?あ、もう話せるのでございますか?わかりました、ありがとうございます。
ええっと、もしもし、もしもし?応答を願うのでございますよー』
『……もう話して構わないよ、シェリー=クロムウェルもご立腹の様だしね』
『はぁ、そうなのでございますね。ご指摘ありがとうございます。
……「使徒十字」。何分ローマ正教に所属していた私でさえ、実際に拝見した事はございません。
それだけの隠し玉、と言う事なのでございましょうね。
これの弱点を見つけるのには、かなり苦労しそうでございますよ』
シェリーの代わりにのほほんとした口調で語るは、オルソラ=アクィナス。
こちらもシェリーと同様に暗号解析を得意とし、
魔道書『法の書』の騒動によってイギリス清教に改宗する事になったシスターである。
現在、ステイルは大英博物館から分離独立している英国図書館に眠る膨大な記録をあたる事で(実際に探すのはシェリーとオルソラだが)、
『使徒十字』の使用条件を調べる事にしたのだ。
そんな訳で電話の向こうでは、バサバサと書類か本か知らないが、
紙をめくっている音と何か口論(シェリーが一方的に言っているだけ)が繰り広げられている。
『もふもふ。シェリーさん、シェリーさん。
鈴科さんが学園都市に連れて行ってくれるのでございますよ?』
『あぁ!?テメェ何度言えば分かんだよ、
図書館内でマフィンを食うなって言ってるだろ!?
ていうか鈴科って誰だ!?』
『まぁ。それでは、この辺で軽いお食事など如何でしょうか?
天草式の皆様が作ってくださった、体力補給に治癒促進の為の、
食の儀式を盛り込んだ特製マフィンでございますよ』
『要らねえよ!!要らねえって言うかここでは食えないわよ!!
ああもう、だからマフィンを頬張るなと言ってるだろーが!
アンタそのぽろぽろと口から零してんのも、天草式的に意味のある行為なんだろうな!?』
ステイルはシェリーとオルソラの小芝居を電話越しに聞かされて、溜息をつく。
話をまとめるに、まだ資料に関しては探し始めだから後で掛け直した方がいいと言う事だろう。
電話を切ろうと思った瞬間、あちらの電話が先に切れた。
どうやら何かの拍子に電話が切れてしまったらしい。
意図せず電話が切れるとは、どれだけバタバタしていたのか。
(……どうでもいいか)
ステイルは思考をすぐさま切り替え、先程の事は忘れることにした。
とりあえず土御門元春が学園都市内のセキュリティをあたるとの事なので、
自分はどうしたものか、と思考する片手間にタバコに火を付け、深く煙を虚空へと吐き出した。
「……?」
すると、何やら視線を感じる。
煙を吐き出すのに真上を向いていたのだが、
その視線を真っすぐに戻すと、ピンク髪をした合法ロリ先生が居た。
249 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/13(土) 21:52:37.07 ID:Sa0tuZ+9o
・・・
午後二時二十分。お昼休みの終わりである。
上条当麻は、大覇星祭の応援に駆け付けた上条夫妻や、
御坂親子(姉妹と思っていたので事実を聞いた時は驚いた)と共に昼食を食べたのだった。
結局インデックスは見つからないし、そんな中1人自分だけ飯を食うのはあれだなーと思い、
ボケーッと目の前に広げられた弁当を見ていたら、何を勘違いしたのか御坂が色々と突っかかって来た。
そういえば玉入れの時に事情は後で話すとか言ってたしなー、
と上条はのんびりと思うものの、こんな場所で話す内容でも無い。
例えば馬鹿正直に魔術師が侵入したんですだとか、
そんなこと言えるはずが無いので、と言うよりお前何言ってんだみたいな顔をされるだろう。
そんな訳でインデックスが見つからんから自分だけ飯は食えんと、
断片的な事実だけを教える事にした。
一同のリアクションを見る限りでは、魔術師が裏であれこれしてると言う事は悟られていないようだ。
御坂だけは訝しがっていたが、ここで言える話では無い事は何となくわかっているようで、それ以上の追及はしてこなかった。
上条は思う。
彼らはそのまま、何も知らず大覇星祭を楽しんでもらいたい、と。
吹寄制理が望んだ事は、恐らくそれだ。
だからこそ、オリアナ=トムソンと顔も知らないリドヴィア=ロレンツェッティを止めなくてはならない。
大覇星祭を成功で終わらせる。
その目的の為に、魔術などそこに必要ないのだから。
等と1人気合いを入れ直していたのだが、周りはそれを競技に対する気合いと勘違いしたのか、
「やっぱ食っとけ、力出るから」と言う事で弁当を完食した上に、何個かおにぎりも押しつけられた。
このような思いやりは息子冥利に尽きると言うものだが、どうしたものか。
まさかこんなものを持って戦う訳にもいかない。
「まあ、インデックスを見つけて食べさせるか、見つかんなかったら自分で食えば良いか」
とりあえず父と母の無事を確認し、自身も別に何もやましい事はしてませんよというアピールも終わったので、
上条夫妻と御坂親子と別れた上条は、最後にもらったおにぎりの入った袋をぶらぶらと揺らしながら街を歩いて行った。
250 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/13(土) 21:54:05.53 ID:Sa0tuZ+9o
……午後三時三十分。
結局、インデックスもオリアナ=トムソンも見つからないまま1時間以上が経過していた。
オリアナに関しては土御門が動いているようなので、
インデックスを見つけらないようでは上条は用無しである。
と言うのも、先述した『使徒十字』についてなのだが、
最初オリアナは『刺突抗剣』を取引先に持って行く『運び屋』のように考えていた。
だが、それは誤りで、と言うか敵の罠で、本当は学園都市に『使徒十字』を設置するのに囮になる事がオリアナの仕事だった。
ならば、今はオリアナを全力で追うよりも、『使徒十字』の使用条件について考えた方が良い。
土御門もオリアナを探しはするものの、その片手間に『使徒十字』について考察を重ねている。
相手の目的がその術式の発動なら、自分達はそれを阻止したら良いのだから。
そして、気になる『使徒十字』の効力とは。
『使徒十字を発動させた場所は、全てローマ正教の傘下に入る』と言うもの。
成程、それはあかん。と上条は思った。
他にも幸せがどうとか不幸せがどうとか言っていたが、一言で言うとそう言う事だそうだ。
上条はローマ正教に良い印象を持っていない。
故に、上の人(国会議員とかそういうの)に興味が無い典型的な若者である上条ですら、
ローマ正教が自身の上に来る事に難色を示した。
そう言う訳でその魔術の発動を阻止すべく動くのだが、
上条には『使徒十字』を破壊する力も、発動条件を考える魔術的知識も、何も無い。
そのために、上条の任務はインデックスをこの件に関わらせない、位しか出来る事が無いのだ。
だと言うのに、インデックスは一向に見つからない。
屋台に行っても居ないし、フードコートやらレストランやらと、食べ物関連の建物を探して行ったが、見つからない。
運悪くすれ違っているのだろう、念の為インデックスに持たせていた携帯にも電話するのだが、出ない。
機械音痴のインデックスの事だから仕方が無いとは言え、出来れば出て欲しかったと心の中で叫ぶ。
続いて一方通行。
事情も話せる上にインデックスも知っている貴重な相手なので電話しない手は無い。
251 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/13(土) 21:55:36.49 ID:Sa0tuZ+9o
『なンだ、上条?』
『ああ、インデックス何処に居るか知らねぇか?』
『丁度イイ。なンか魔術がどうたら言って走り出したからよ、
俺もインデックスについてってるンだが。
場所は沖合通りの服屋・シャングリラの―――』
詳しい事は分かっていないが、魔術師が居る事は分かったらしい。
兎にも角にも時間が無い。一方通行にインデックスを止めるよう頼むしかないと判断した。
『なっ!?事情は後で話すから、インデックスを止めてくれ!!』
『あ?そりゃ構わねェが……なン』
そして上条は、一方通行の言葉を待たずに電話を切りながら、駆ける。
場所は沖合通り。やはりといえばやはりだが、第七学区には居たらしい。
こういう時に不運を発揮するなよ、と愚痴りながら上条は走り続けた。
・・・
オリアナ=トムソンは、人通りの少ない路地裏に潜み、息を整えながら体を休めている。
いくらオリアナが実力者とはいえ、魔術師2人+謎の能力者を相手に休憩なしで戦い続けていた為に、割と体はボロボロだった。
とはいえ、彼女を追うべく構成された探知術式『理派四陣』。
これを破壊出来た上に魔術師のうちの1人―土御門と呼ばれていた男も再起不能に出来たのは僥倖である。
だがしかし、それの代償も深かった。
―――『聖人』、神裂火織の介入の恐れがある。
来るか来ないかは関係ない。「来るかもしれない」と言うだけで普通の魔術師なら聖人に目をつけられるのを避けるため、行動に支障をきたす。
オリアナもそんな1人だ。
いくらこの作戦を成功させねばならないとはいえ、
聖人が介入するとなれば全力でかかったとしても、時間稼ぎ程度で精一杯だ。
故に、おとりとしては危険な行為だが、敢えて足を止め魔術を用いて体を休める事にした。
もし仮に、神裂が介入してきても良いように。
来ないなら来ないで構わない。
どちらにせよ何処かで一度休まねばならないと思っていた所だし。
そんな訳で生命力の象徴である火、すなわち赤の文字で書かれた単語帳を千切って回復術式を展開し、じわじわと傷を防いでいた。
一気に治すような魔術も使えなくはないのだが、如何せんそちらはどうしても派手になるのでゆっくりと回復するしかない。
回復力で言えば土御門のもつ『肉体再生』のレベル1か2程度のものだが、それでも長時間使用すれば十分に回復が期待できる。
と言っても、この術式はもって30〜40分程度しか展開出来ないので完全に回復する、と言う訳にもいかなかったが。
(まあ、贅沢は言ってらんないわよね)
ふう、と仕事を増やしてくれる若者達(オリアナ自身も若いが)に溜息をつきつつも、やはり楽しそうな表情を浮かべていた。
だがしかし、そんな表情もすぐ歪む事になる。
「見つけた!」
1人のシスターの声によって。
252 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/13(土) 21:56:03.97 ID:Sa0tuZ+9o
・・・
インデックスは見つけた。見つけてしまった。
ステイル=マグヌスとは違い、外部から侵入してきた魔術師の姿を。
これにより、上条当麻や土御門元春、ステイルの三人の思惑を見事にブチ壊してくれた。
とはいえ、そんなことをインデックスは知る由も無いのだが。
インデックスはただ単に、学園都市に侵入する魔術師は大抵良からぬ事を考えているので、何がしたいのか知りたかっただけだ。
先程働かざる者食うべからずの精神を身を持って体験したこともあり、自分も何かしなければと考えての事かもしれない。
はたまた何も考えず、誰かが傷つくのを嫌がったからこそ魔術師がどんな人物か知りたいと思ったのかもしれない。
何にせよ、魔術師・オリアナ=トムソンとインデックスは、邂逅してしまった。
しかし、そんなことはインデックスもオリアナも知った事では無い。
インデックスは目の前の魔術師が何者か。
対するオリアナは目の前のシスターが何者か。
ただそれだけを考えていた。
(この修道服……イギリス清教のっ……!!)
どう見ても『必要悪の教会』の人間だった。
今、自分を追ってきているのも、イギリス清教。
思わず迎撃する為に単語帳をくわえ、一気に千切った。
オリアナの魔術は、『速記原典』と呼ばれるだけあって、速かった。
それも、インデックスが『強制詠唱』をする間も無い程に。
不安定な魔道書のままに、一気に魔翌力が練り込まれ、それを解放する。
ドッ!!と言う鈍い炸裂音が路地裏に響き渡った。
253 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/13(土) 21:57:17.22 ID:Sa0tuZ+9o
一端尾張。
やっべ何だかんだで長くなってやがる。
続き書いてるんでなるだけ早めに続きを透過する
254 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/13(土) 23:04:58.83 ID:hyKZgEYDO
乙!
255 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/14(日) 01:28:03.58 ID:xlKYvBbQo
寝て……た……!?
ちょっと何とかしてこの話終わらせたいのでながらでばばーっと行きます
256 :
透過遅いので下げで
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 01:30:10.90 ID:xlKYvBbQo
・・・
月詠小萌は憤怒した。
いくら言っても目の前に居る神父さんはタバコを吸う事を止めてくれないからだ。
確かに、見た目2メートルを越える身長を持つ彼は、20歳以上に見られてもおかしくは無い。
だがしかし、小萌先生の長年培った目はごまかせないのだ。
大人びた顔に見え隠れする幼さは、明らかに天然物であり、
その大人びた顔は仮の姿で、本来は14歳かそこらなのだと一瞬にして見抜いた。
そんな訳で子供の成長を妨げるタバコを、目の前の赤毛神父が吸う事を許さない。
だから必死になってタバコを止めるように諌めた。
その甲斐あって、日本では中々見られない銘柄のタバコを何箱もゲッt……
もとい没収する事に成功した。
そしてタバコを回収するどさくさにまぎれて、その赤毛の神父に逃げられてしまったのが心残りなので、
神父を探しだすべく街中を歩いたり、走ったりしてまわっている。
……のだが、なかなか見つからない。
「はふう、タバコは……いけませんね……体力が……あうう……」
体力の限界だった。
運動不足、と言うのもあるだろうが一番の原因はタバコだろう。
重度のヘビースモーカー(←言葉が重複する程に重度)な小萌先生の肺は、ズタボロですぐに息切れする。
ちょっと休憩……と思って近くのガードレールを背もたれにしようとしたところ、目の前を通り過ぎる白い影。
「あれは……シスターちゃん?」
何故こんな所にいるのだろうか。
何だか誰かを探しているようにも見えたので一度声をかけようと思ったのだが、
インデックスの方が体力が上らしく、中々追いつけない。
ちょっと禁煙しようかなとか思うが、何処から持ってきたのかコンビニの袋に先程の赤毛神父から徴収したタバコを大事に入れている時点で、
禁煙もすぐに終わりを迎えるに違いない。
とはいえ、インデックスはシスター。
ならば先程の神父に関しても何か知ってるかも、
とも思ったので諦めず追い掛けていたら、インデックスが路地裏に入って行った。
こんな所に何の用なのだろう、と首をかしげながらも、
ピンク髪の先生もまた路地裏に吸い込まれて行った。
257 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/14(日) 01:30:47.49 ID:Z0UwQWiDO
乙!!
大丈夫か?
無理せずに休める時に休んでから書いても全然大丈夫だぞ!!
ありがとうな
>>1
258 :
心配するでない!休息は出来ている!
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 01:39:41.59 ID:xlKYvBbQo
・・・
インデックスが路地裏に曲がった。
何やらそれについて行っているピンク髪も居たが、この際どうだっていい。
足に力を入れ、高々と跳躍し、距離を縮める。
そして路地裏の入り口に差しかかった瞬間、インデックスの声が響き渡った。
その手前に先程のピンク髪の少女が居たのだが、気にしない。
「見つけた」、と言う事は、およそ50m先で対峙している金髪の女が、『魔術師』なのだろう。
それは別に構わない。
ただ、どうして。
―――どうしてその魔術師は、真剣な表情を浮かべて、行動を起こしたのか。
考えずともわかる。
敵を排除するための行動、魔術を発動させたと言う事だ。
一方通行は反射的に地面を踏み抜いた。
良くわからないが、敵対行動をしたと言う事は、インデックスの敵なのだろう。
一瞬にしてオリアナ=トムソンとインデックスの間に滑り込んだ。
滑り込んだはいいが、もう目の前には斬撃が。
何故斬撃だとかわかるのか。
既に魔術を受け止めてしまっている。
ゆっくりだが、体に傷が出来ているのを感じられた。
反射は出来そうにない。シェリーの時も、初めはそうだった。
しかし、演算の為時間も足りない。
この魔術を逸らす事ならできるだろう。
ただ、何処に逸らすかは選べないが。
しかし後ろにはインデックスや、更に距離を取った所には知らないピンク髪が居る。
逸らして流れ弾がその2人に行ってしまった時、どうなるのか。
走馬灯のようにそれらの思考が瞬間的に脳内を流れて行った。
(甘くなっちまった結果が、これかァ……)
ドッ!!という鈍い音が鳴り響くのと同時に、一方通行は地に崩れ落ちた。
259 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 01:52:50.23 ID:xlKYvBbQo
・・・
「なんなのよ、もう……」
久慈川りせは一方通行に追いかけている。
帽子をかぶり、ポニーテールをはためかせ走るその様はトレーニング中の女性のようであった。
とはいえ、こちらも人ごみに捕まって、思うように一方通行達に追いつけなかったが、
後姿が見えなくなる程では無いのでその距離を保ち続けている。
そして10分程走っただろうか、一方通行が突如として大きく跳躍して100m先まで一瞬で進んでしまった。
「はぁ!?なにあれ、あんな事も超能力ってできるの!?」
ていうか、能力は一人につき一つとか言っていなかったか?
一方通行は自身の能力を光学迷彩で光を歪めるとか何とか言っていた気がする。
その能力であんな跳躍、ありえない。
(と言う事は、何か嘘をついていた?)
何のために?
一方通行が入った路地裏を確認しながらも、思考を続け、駆け続ける。
しかし思考の先に答えを見出す事は叶わず、
その前に路地裏に差しかかったので、直接一方通行に聞けばいい、と思考を打ち切った。
そうして見つけた一方通行は。
―――血まみれで金髪の女に立ちふさがっていた。
260 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 01:56:28.91 ID:xlKYvBbQo
・・・
血が流れ落ちる。
それを見たインデックスと月詠小萌は顔を真っ青にさせ、
オリアナ=トムソンは怪訝そうな表情を浮かべていた。
(もしこの白髪の子が魔術師なら、何かしらの対処をするはずだけど……)
明らかに、インデックスの味方をする少年はオリアナの攻撃を受け止めた結果、血を流している。
と言う事は、インデックスが知り合ったこの街の住人……なのだろうか?
(でも一瞬にして私とあの子の間に入り込んだ……)
魔術は関係ないが、この街の能力者と言う事なのだろう。
ならば警戒するに越した事はない。
とはいえ、魔術に関係の無い人間をまた傷つけてしまった後ろめたさか、
目の前の少年には退いてもらいたいとも思っているが。
(それに、本当に関係なさそうな子も混ざっちゃってるしね……)
これ以上、一般人には手を出すまいと誓いながら、チラリとインデックスのさらに奥に居る2人を見やる。
2人は状況が飲み込めず、ただただ一方通行の怪我を見て顔を真っ青にさせていた。
「……で、お前はなンだ?」
一方通行は、自身の胸のあたりを触り傷の様子を確認すると、能力を発動させる。
久々に使った血流操作が、自分を守る為とは皮肉だなァ、と自嘲しながら。
261 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 02:15:21.84 ID:xlKYvBbQo
質問しながらも、血を正しい流れに操作しているため、
ぽたぽたと流れ落ちる血はみるみるうちに無くなっていった。
その光景にこの場に居る全ての人間が驚愕を露わにする。
何せ明らかに致命傷の傷を負いながら、血が止まっているのだから。
別に完治した訳ではない。
今すぐにでも治療しなければ、細菌でも入り込んで更に症状が悪化する恐れもある。
しかし、一方通行はオリアナの前に立ちふさがった。
そんな一方通行を見て、オリアナは喜一色、と言った表情を浮かべる。
「すごいわね、流石のお姉さんも、何の準備も無しに血を止めるなんてできないわ。
それがあなたの力かしら」
「そォだな。力の一部ってとこだ。
……質問に答えてやったンだから、今度は俺の質問に答えろ。
お前は、何しにこンなとこに居やがる?」
「うっ、素直に答えると思ったらそう言う事……まあいいわ、教えてあげる。
んー……怪我した体を癒す為、ここに居ましたってとこかな」
「もっと広義的な意味で聞いてたンだが?どうして学園都市に来たって感じの」
「そんな指定は受けてないから、さっきの答えでおあいこよね?
坊やだって全部を答えてる訳じゃないみたいだし」
「……チッ、まァその通りだなァ……」
随分と落ちついた会話だ。
とてもじゃないが攻撃した側とされた側の会話とは思えない。
久慈川は勿論、小萌先生やインデックスもポカンとしていた。
どうしてあのような怪我を負わされて、何事も無かったかのような顔をしているのか。
262 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 02:26:54.63 ID:xlKYvBbQo
「……まァイイや。帰れ帰れ。こっちは胸?っ捌かれて痛ェンだよ……
こいつが狙いで、こいつに攻撃を仕掛けようってンなら話は別だが」
一方通行はそのすぐ後ろに居るインデックスに親指をさしながら問う。
本来の目的は、インデックスか否か。
あんな怪我をさせた上に見逃してくれるとは申し訳ないところだが、
オリアナにとってそれを受けない手は無かった。
「……見逃してくれるの?」
「こっちも良くわかンねェけど、上条が居るしな。何とかなるだろ」
インデックスを止めろとは言われたが、協力しろとまでは言われていない。
何より、血を止める為の演算を行っている為、ここで戦闘になれば他の3人を守り切る自信が無かった。
久慈川はなンで来たンだ、とか思うが、来てしまったものはどうしようもなく。
オリアナの攻撃に巻き込まれないようにするしかないのだ。
「へぇ、やっぱりあの子とも知り合いなのね……にしても、随分信頼してるみたいね」
「当たり前だろォ?あいつは強いしなァ。
ま、精々ボコにされねェよォに注意しとけよォ……」
「ふふ、もう既にお手つきなのよね。
お姉さん、びっくりしちゃったわあ。あんなに激しいなんて思わなかったから」
「うるせェよ、エロいフリしてどォせ未経験なンだろォ?」
「なっ!」
一方通行の指摘にうろたえたのか、顔を真っ赤にしてワナワナと震えている。
冗談のつもりで言い返したが、まさか事実とは思わず指摘した一方通行もまたうろたえた。
どうやら図星だったらしいが、あからさまなセクハラに他の女性陣はドン引き。
263 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 02:29:56.30 ID:xlKYvBbQo
構図としては、一方通行vsこの場に居る女性陣。
先程まではオリアナの四面楚歌(と言っても戦力は一方通行しかいないが)だったと言うのに、
いつの間にか一方通行の背後からも敵意ある視線が飛ばされている。
何と言うか、先程までの殺伐とした空気が、馬鹿みたいな空気に成り下がっていた。
そんな弛緩した空気の中、オリアナは耐えきれなかった、と言った具合に噴き出す。
「……ふふっ、本当に見逃してくれるみたいだし、ここは退いておこうかしらね。
怪我させちゃったのは謝るわ……今は言葉でしか謝れないけど、そのうち何かお礼してあ・げ・る」
「うるせェよ不法侵入者、とっとと失せろ。
こっちは傷口が自己主張して血ィ吐きだそォとしてンだよ」
「へぇ……なら、やっぱり今戦っておけば……」
「戦うのはやぶさかじゃねェが……上条達、すぐにでも来ると思うぜェ?」
考えなしにこンなとこに来るかよ、と一方通行。
「成程ねぇ……それじゃあやっぱり、ここは退くわね」
もう一度、ごめんなさいね、勘違いで手を出しちゃって。とオリアナ。
反省してねェだろこいつ、と一方通行はちょっと思うが、
オリアナがこの場を去って行ったのを確認すると、崩れるように座りこんだ。
「「大丈夫なの(です)!?」」
三者三様の声が響き渡り、三人は一方通行に駆け寄った。
「ハァ……久々にデケェ傷作っちまったなァ……」
誰かを守りながら戦う事の難しさを認識した一方通行は、これからの事を考えて嘆息した。
何せ相手は学園都市暗部。先程のオリアナのように話をして去ってくれる程甘くは無いはず。
その時、自分は護り切る事が出来るのか?
チリチリと、焼けるように痛む傷を指でなぞりながら、表情を歪めた。
264 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 02:39:49.76 ID:xlKYvBbQo
・・・
「……すまん、一方通行」
上条当麻は一方通行の情報を受け、ステイル=マグヌスと共に事が起きた路地裏まで急行した。
その中に土御門元春が居ないのは、まだ動ける程に回復していないからだろうか。
何故小萌先生やらりせちーが居るのかは分からないが、
恐らく3人を守るために傷を受けざるを得なかった、と言う事だろう。
これも全てオリアナ=トムソンを取り逃した自分の責任だ、と上条は自身を責めた。
「うっせェよ、こりゃこっちの不手際だ。謝られる程じゃねェ」
未だに手で傷口を覆いながら、一方通行は事もなげに答える。
血流操作をして一応の応急処置をしているとはいえ、傷口が痛むのだろう。
額からは汗が流れ落ちている。
「……すまなかったね、本来僕達が君らを守るべきだと言うのに」
ステイルも苦々しげに、噛みしめるように一方通行に謝る。
以前のアニェーゼ部隊の時もそうだったが、迷惑をかけっぱなしだと考えていた。
ちなみに、アニェーゼとのいざこざが終わった後軽く顔合わせをしているので、
ステイルと一方通行の面識は一応ある。
そしてこの場で場違いな人、2人。
「で、上条ちゃんやこの神父さんや、シスターちゃん。白髪ちゃんにポニーちゃん。
これは一体どういうことなんです?」
「ポニーって私の事……?あ、そっか今ポニーか……
っていうか私も事情を説明してほしいんですけど!」
月詠小萌と、久慈川りせ。
明らかな一般人である彼女らは、ここいらが境界線だろう。
魔術師の顔を見てしまったからと言って、消さなければならないと言う訳ではない。
それ以上追及しなければ良いのだ。
しかし、彼女らはその境界線を越えようとしている。
「鈴科さんは良くわかんないけど凄い能力使うし!
血がいっぱい出てるのに相変わらずの態度だし!!
心配してるこっちの身にもなってよ!!」
「そうですよ!私だって白髪ちゃんの事は知らないですけど、し、心配したんですからね!!」
「いや、なンかもう大丈夫ですよみたいな雰囲気だしてるとこ悪ィが、早めに治療しねェとマズいから。
破傷風にでもなっちまったら大事だから」
「「うええ!!?」」
265 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 02:50:19.19 ID:xlKYvBbQo
どうにも気の抜けた会話を交わす一方通行達に、上条もステイルも拍子抜けさせられた。
そんな中、インデックスだけがうつむいてプルプルと震えている。
一方通行は平気そうな顔をしているが、実際は重傷で、
無駄に動く事が危険だと言う事を理解した上で戦闘を避けるべくオリアナと会話を交わしたのだ。
狙いは一方通行ではなく、インデックスだったから。
その事実を理解しているインデックスだからこそ、何も話せない。
何て一方通行に声をかければいいのか分からなかった。
自分の独断専行のせいで、このような事態に陥っているのだから。
そんな風に、色々と考えてズブズブとネガティブの泥沼に飲み込まれて行くインデックス。
それに見かねたのか、一方通行はインデックスに声をかけた。
「悪ィな。病院いかねェとなンねェから、屋台はまた今度だァ」
「……ごめん、なさい……」
「気にすンな。ありゃ俺のミスだ」
「……うん」
ポンポン、と一方通行はインデックスの頭を軽く叩くと、ステイルと上条の方へと向く。
「とりあえず、ちょっと話した感じだと、如何にも時間稼ぎてェって感じだったなァ。
ひょっとすると、あの女自身が捕まっても問題ねェのかもしれねェ」
インデックスを確実に倒さねばならない、と言うのならあのような掛け合いをするはずが無い。
問答無用で攻撃を仕掛けるはずだ。
ならばインデックスに攻撃した理由は、
所属がイギリス清教だった、だとか明らかに魔術サイドの人間だった、といったところだろう。
とどのつまり、個人ではなく所属の問題、と言う事だ。
「そうだね、僕達も奴らの狙いは分かっている。『使徒十字』だ」
最早インデックスもこの事件に関わってしまった。ならば自分のしなければならない事は、
この件を早急に片付けた後に、波風を立たせないように動き回る事だ。
ならばインデックスの知識を借りた方が良い。毒を喰らわば皿まで、だ。
毒を食うのがインデックス、と言うのは非常に気にくわないが、即死するような毒では無い。
インデックスの無事の為なら、インデックスに有事も辞さない。
そんな矛盾を全て飲み込み、受け入れる。
例えそれによってインデックスに恨まれようと構わない。
ステイルの確固たる意志を知ってか知らずか、インデックスは少しだけ眉をひそめながら答える。
266 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 03:03:17.62 ID:xlKYvBbQo
「一言で言えば、『星座』を利用した術式かな。効力は知ってると思うけど、対象地の『支配』。
とはいえそんな大それた術式を、ちょっと陣を築いたり、ちょっと絵を描いてみたりと、
そんな簡単な条件でこなせるわけがないよね」
インデックスの言葉にステイルは頷く。
魔術をある程度知った一方通行や上条も、何となく理解しているようで、
各々が独自に噛み砕きながらインデックスの言葉を待っていた。
相変わらず、久慈川と小萌先生は頭にはてなを浮かべていたが、
口をはさむ場面では無いと思っているのだろう。黙って話を聞いていた。
「重要なのは、『時間』と『場所』。
『使徒十字』の十字架は夜空の光を魔法陣という一点に集める為の装置……
ええっと、科学風にいうんだったら……」
「パラボラアンテナ、ってとこかァ?」
「そう、それかも!で、その光を一点に集めることで星座から莫大な力を借りることが出来るの。
それによって、その十字架を中心に術式が展開されて行くんだよ」
「成程、どのくらいすげえ力かわからねーけど、
それだけの力があれば『使徒十字』による魔術は完成するってことだな?」
「その通りかも。でも、正しく必要なだけの光を集める為には、周りに陰りが無いような……
そうだね、開けた平地とか、高い丘の上とかが有効だと思う」
「つまり、学園都市内でそう言った場所をあたっていけば……」
「何処かにさっきの魔術師が居るはずかも」
インデックスの簡潔な説明に光明を見出したのか、
上条は物凄くうれしそうに、ステイルは少しだけ口角を上げ喜んだ。
今までは追う側で常に後手後手に回っていたから、鬱憤もたまっていたのだろう。
何にせよ、それだけ分かれば、術式発動の阻止も可能のはずだ。
2人はすぐさま行動を起こすべく、動き出した。
しかし、それを大きな傷を抱えた一方通行が止める。
267 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 03:08:15.31 ID:xlKYvBbQo
「どうした、一方通行?ひょっとして着いてくるとか言うんじゃねえだろうな」
「違ェよ、気になった事があるンだ」
気になったこと?と上条は首をかしげる。
ステイルもどういう事だと言わんばかりの顔をしていたが、あの一方通行の考える事だ。
重要な事に違いない、と動きだした足を止めた。
「その『使徒十字』ってのはよォ、発動範囲とか指定できるのかァ?
例えば、学園都市の隅っこの方に条件を満たす場所があったとして、
その『使徒十字』ってのを使ったとするだろォ?
そォした時、学園都市どころか学園都市外まで支配下に置いちまう、なンて事になるのかァ?」
「その通りかも。一応、『使徒十字』によって支配下における範囲って言うのは最大で四万七千平方メートルってところかな?
つまり、学園都市外ごと学園都市を支配下に置こうって考えたなら、わざわざ学園都市に侵入する必要はないかも!
だってそれでも十分学園都市を覆える広さのはずだよ!」
その言葉を聞いて、上条とステイルはあっけにとられた表情をして、一方通行だけは納得した顔をしていた。
「はン、やっぱさっきの金髪女、完ッ全に囮じゃねェか。
最後の最期までお前らを学園都市に縛りつける為の」
クックッ、と楽しそうに笑う一方通行を横目に、上条は焦った様子で声を上げた。
268 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 03:17:11.64 ID:xlKYvBbQo
「ちょ、ちょっと待てよ、ローマ正教は学園都市以外の事も全く考えてねえってことか!?」
「おいおい、上条よォ。お前この間シスター集団と相対したこともォ忘れたのかよ?
ああ言う、自分達がする事が絶対的に正しいンです、って思ってる奴らがする事だぜェ?
あいつらにとっちゃ日本全てを支配下においても、正しい事をしてるンですとかのたまうに違いねェよ」
「クク、確かにその通りだな。ローマ正教の事だし、その程度の罠は打って来る、と言う事か。
何せ囮はオリアナ=トムソンだし、例えこの件で死んだとしても、ただの捨て駒として処理されると言う事だろうな」
一方通行の言葉に納得したステイルも楽しそうに笑うが、
目は全く笑っておらず、インデックスにまたもや害を為そうとするローマ正教に怒りを示した。
「まァなンだ。『学園都市外』の事はお前ら『外』の人間で処理しろよなァ。
一応、俺の深読みってこともあるから学園都市内のめぼしいとこも探して欲しいところだが」
「ああ、任せてくれたまえ。『外』の事なら心おきなく人間を動かせるからね。
今すぐ上の奴に人員を動かさせるように指示を仰ぐよ」
ステイルはそれだけ言うと、この場を足早に去っていった。
どうやら事のついでに、インデックスがこの件に関わってしまった事による弊害の処理もする算段なのだろう。
非常にあくどい顔つきをしていて、その顔を見た一方通行はニヤリと笑った。
「さァて、俺はいい加減病院行きてェから移動するが……上条、お前はどォする?」
はっきり言えば、ほぼ詰みの状態だろう。
何せ相手の『使徒十字』は何処でも発動できる代物ではなく、
開けた場所で待機しなければならない為罠だって限られた物しか配置できないはずだ。
と言うか遠距離で攻撃してしまえば済む話である。
むしろ学園都市内で事を起こされる方が面倒なレベルだ。
なので上条も万が一を想定して、学園都市内でオリアナを探すようだった。
その言葉を聞いて、一方通行は上条に言う。
269 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 03:20:36.94 ID:xlKYvBbQo
「なァ、あの金髪に会ったら一つ伝言頼むわ」
「あぁ、いいぜ。何伝えりゃいいんだ?」
「『お前の作戦崩した事で満足なので、お礼は要りませェン』って」
「プッ、なんだそりゃ。まあいいや、承ったぜ」
そう言って上条も立ち去ろうとするのだが、インデックスがそれを引きとめた。
「とーま……」
「……インデックス、隠してた事は悪かった。だけどな、もう一度あいつに会わなくちゃならねえ。
何だってこんな下らねえ事に加担したのか、納得のいく回答を聞けなきゃ、
もう一発殴る事だって辞さねえつもりだ」
グッ、と拳を握りしめ、決意表明をする上条。
しかし女性を殴る決意をするとは、最低だと思うがそれはさておき。
やはり単身魔術師の元に向かわせる事が躊躇われるのだろう。
しかし、自分がついて行く選択肢を取る事も、躊躇われた。
何せ目の前には自分のせいで傷ついた一方通行がいるのだから。
「……はァ、着いて行きてェンなら、行ってこいよ。俺は動けるからよォ」
「でも……」
「上条なら守ってくれンだろォ?今までだってそうして来たはずだァ。
だったら、安心して守られてろよ。そンでオリアナの出す魔術に関して、
アドバイスの一つでも出来れば上等だな。飯1食分くれェには値するぜ」
「……うん、わかった!とーま、私も着いて行くからね!!」
一方通行とインデックスのやり取りを見ながら、上条は溜息をついた。
既にインデックスを巻き込んでしまっているが、
これ以上巻き込んで外の連中が余計に騒がないか、それが気がかりらしい。
「……まぁ、その辺は何とかするか、ステイルが」
上条は考えた末に、ステイルに丸投げする。
行くぞ、インデックス。という言葉を聞いて、インデックスは嬉しそうに上条と共に駆けだしたのだった。
「やっと行きやがったか優柔不断コンビが……」
軽く嘆息をつきながらその場に座り込む一方通行。
しかし、まだすべきことは残っていた。
「……それで、私達はいつまで蚊帳の外なの?」
「そうですよ、先生、まだお話は始まってすら居なかったのに皆居なくなっちゃいました……」
「一生……蚊帳の外に居ろォ」
フラリ、と一方通行は立ちあがると、病院に向かう為かゆったりと歩きだした。
あの3人の前では気丈に振舞っていたが、相当に限界が来ていたのだろう。
おぼつかない足取りに、久慈川と小萌先生は慌てて一方通行を支えるのだった。
270 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 03:30:50.08 ID:xlKYvBbQo
・・・
『ハァ!?何を言ってるのですか最大主教(アークビショップ)!?』
『だから、リドヴィア=ロレンツェッティを追う為の部隊は出したるけれど、
禁書目録を狙いたる『外』に居る不逞の輩は放っておいて良い、と言いたりけるのよ』
『それが意味がわかりませんって言ってるんですこの馬鹿口調女!!』
『なっ!それは飽くまでも日本語を話したる時だけで、
今は母国語(英語)で話したりけるに、変な口調でありけるなどありえぬのよ!?』
一応、英語での会話をしているはずなのだが、
ステイル=マグヌスの指摘によって普段よりも口調が更に荒くなっている。
そんな変な口調の持ち主であるローラ=スチュアートだが、
彼女は一応イギリス清教で一番偉い人、と言う立ち位置で、ステイルにあれこれ指示を出していた。
今回の件も、ローラの指示によって学園都市入りを果たしたステイルだったが、
流石にこの指示は承服しかねる物だった。
何せ、今にでも事後承諾で学園都市入りを果たしそうな魔術師どもを、放っておけと言うのだから。
ただ単に教えを広めたいと言う人間も居るだろう。
しかし、学園都市と敵対している勢力だって実際には居るのだ。
それを放っておいたらどうなるか、考えるまでも無い。
『大丈夫、大丈夫なのよ、ステイル=マグヌス。
そちらに関しては、学園都市側が秘密裏に処理をすると、連絡が入りたりけるから』
『……その学園都市側の人間が、へまをやらかしたらどうするのですか』
『そこは問題無きと思いたるわ。何せ学園都市に『強行突破』も掛けられない強硬派など、おそるるに足らず。
学園都市の治安部隊でも十分制圧できるはずよ』
『もし、万が一があれば……』
楽観的な答えを放つローラだが、ステイルとしてはインデックスの事が心配なので、
完全に学園都市に頼るのも気が引ける。
何せ学園都市の人間と共闘はするものの、学園都市そのものを信用している訳ではないのだから。
『ああもう、ステイルは心配性なりけるのね!!
それならば、適当に両者の戦いを眺めたりければ良いのよ!!』
いい加減しつこいステイルにわずらわしくなったのか、適当な指示を出すローラ。
その言葉を待っていたと言わんばかりに承服した、と伝え電話を切るステイル。
微妙な上下関係が、そこにはあった。
271 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 03:32:49.03 ID:xlKYvBbQo
・・・
「あなたの交友関係って謎が多すぎるよね」
久慈川りせと月詠小萌は、一方通行を近くの病院まで連れて行くと、
小萌先生は実は先生らしいので、他の生徒達も見なければならない、と言ってこの場を久慈川に任せて立ち去った。
実は教師、と言う事実に驚きを隠せない一方通行と久慈川だが、兎にも角にもさっさと治療を受けなければ、
と言う事で妹達の件で世話になっているカエル顔をした医者があっという間に一方通行の傷を治療していった。
そして1時間もしないうちに治療を終え、
病室へと押しこまれた一方通行の元に、久慈川がやって来ている。
久慈川はパタパタと手で自分を仰ぎながら、一方通行の謎すぎる顔の広さについて問うた。
この大覇星祭と言う名の体育祭は、全校生徒が参加しなければならない。
例外として実行委員やジャッジメントは除外されるが、一方通行はそれには属していないと言う。
ならば学生では無いと言うのに能力者で、
かつアンチスキルやら学生やら見知らぬシスターやら神父やらと知り合っているのだから謎すぎる。
「あァ?……そォ言われりゃ俺でも理解出来ねェな……」
久慈川の言葉に同意しつつ、一方通行は首をかしげた。
自分でも知らないうちに色んな人と仲良くなる。
それは久慈川に無いもので。
喉から手が出る程に、とてもとてもうらやましいものだった。
「私ね、本当はただ友達が欲しくて、情けない自分を変えたくて、この仕事はじめたんだ」
ポツリと語りだす。
一方通行が押しこまれた病室は個室だった為、久慈川の声は一方通行にしか届かない。
「それでがむしゃらにここまでやって来たけど、結局何も変わってないの」
何故このような事を一方通行に話すのか。
彼自身には分からないが、久慈川も何か思う事があったのだろう。
一方通行はただ耳を傾けていた。
「皆が見てるのは、底抜けに明るくて前向きな『りせちー』だけ。
私の事なんて誰も見てくれない……」
どうせ明日以降会う事は無いのだから、愚痴るだけ愚痴ってしまえ。
そのような事を久慈川は考えているのだろうか、ただただ思いの丈を吐きだす。
「結局、本当の自分なんて何処にも居ないんだなあって思うと、
こうやってテレビ出てるのも馬鹿らしくなってきちゃって……」
一息ついて、続ける。
「どうしたらいいのか、分かんないの」
「……そォだな、『りせちー』って人間すら、自分自身だって思いこンじまえば良いンじゃねェのか?」
「えっ?」
思わぬ返答だった。
『りせちー』は自分ではない、と言っているのにそれを自分だと思う。
とてもじゃないが久慈川が一人で考え続けても思いつくものではなかった。
それだけに興味深い意見で、久慈川は一方通行の言葉を待つ。
272 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 03:34:33.78 ID:xlKYvBbQo
「まァ、なンつーか……本当の自分だか自分探しだか知らねェが……行き遅れたOLかっつゥの。
お前はまだ中学生だろォが、若ェンだから、余計なこと考えずに走り続けて見りゃいいンじゃねェの?」
お前は生き急ぎ過ぎなンだよ、とあっけらかんと言い放つ一方通行に、
久慈川は一瞬あっけにとられて、その後大きく笑った。※病院内ではお静かに。
「ふ、ふふ……ふふふ!何よそれ、今まで私が悩み続けてたのが馬鹿みたい!
でも……何だか楽になれた気がする。そうだね、とにかく頑張ってみたらいいのかな?
……さっきまでの出来事がひっじょーに気になる所なんだけど、誰だって知られたくない事もあるよね」
「お、おォ……」
急に物分かりがよくなったように感じられて、一方通行は思わずたじろいだ。
そんな姿を見て更にひとしきり笑ったところで、久慈川は病室を後にしようとする。
「それじゃあ、私いかなくちゃ。もうすぐナイトパレード始まるし、インタビューの続きもしなくちゃね」
「そォいやそンなのもあったなァ。いやァ良かった良かった。堂々とあの場から離れられて」
「む、そんなこと言って良いのかな?
後でテレビ付けた時、私が他の人とイチャイチャしてるの見てやきもちやいても知らないんだから!」
「はン、あンなぶりっ子キャラ売れるかってェの」
「売れたからあの場に居るのよ!!」
「そォなンだ、じゃあ私入院するね」
「興味無し!?」
「なンだよ、実は初めて見た時から……興奮してました。とか言われてェのかァ?」
「何でそこで雰囲気ブチ壊すの!?そこは初めて見た時から好きでしたとかそんなんじゃないの!?
流石にぶっちゃけすぎじゃないかな!?」
「よォし、その調子でナイトパレードも頑張ってこいよ。
まァ、気が向いたらテレビも見てやる」
「……分かった、それじゃあね」
「おォー」
バタン、と病室の扉を閉めた所で、久慈川は小さく微笑んだ。
(素直じゃないんだから……)
来年もまた、大覇星祭に来られたら良いな。
久慈川は決意を新たに、自分の仕事場へと向かうのだった。
273 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 03:35:38.59 ID:xlKYvBbQo
・・・
「あ、うわぁああぁぁ!!化物ォォォ!!」
とある山岳地帯。
人気の無いそこは学園都市に最も近いとされる山で、
潜伏するにはもってこいの場所だった。
しかし、そんな山の中に潜入した魔術師たちは、ことごとく殲滅させられて行く。
恐らく証拠どころか、肉片すら残されない程に、全てを隠匿し、隠滅されるだろう。
学園都市が秘密裏に動かした『猟犬部隊』は、それを容易に行う事が出来るのだから。
しかし、メインで動いて戦闘を行っているのは、どう見ても『猟犬部隊』の人間には見えなかった。
「よぉし、全員殺ったかぁ?あぁ、違うな、何人か残して後は殺ったかー?」
「「……はい」」
「OKOK、初の実戦にしちゃあ上等だぁ……にしても、『魔術』なんて非科学、初めて見たぜ。
ワクワクするねぇ、今までの常識ぜーんぶひっくり返してくれんだからよお。
危うく命令(オーダー)通り殲滅しちまうとこだったわ。こんなサンプル、使わねえ手はねえもんな?
お前もそう思うだろ?」
木原数多は心底うれしそうに、楽しそうに笑っている。
そして同意を求めたその相手は。
「……はい」
子供。
小学校高学年から中学1年生程度の年齢だろうか、
明らかに場違いな少年は、手に拳銃を持ち、木原の言葉に同意した。
「よーしお前ら屑どもは捕獲した奴らをつれてけー。
そんで、てめーら6人はこの後研究所で実験なー。」
「「……はい」」
薄暗い山の中、木原の言葉に答えたのは。
―――6人の子供達だった。
274 :
◆DAbxBtgEsc
[saga sage]:2011/08/14(日) 03:36:57.32 ID:xlKYvBbQo
おっしゃー終わった!
オルソラさん達の努力は全くの無駄になるけどあれだ、オルソラさんをだしたかったんですう!
一方さんが傷を受けちゃうってどうなの?って思うかも知れんが、守る対象が近くに居る時の戦闘の難しさを勉強したって事で勘弁してくれ!
275 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/14(日) 03:43:04.46 ID:xlKYvBbQo
あと16日から19日位の間実家に寄生ではなく帰省するので、その間の投下は難しくなると思うます。
書き溜めは出来ないことも無いけど、ネットの環境があれしてるので。
そんな訳で大覇星祭編をなんとか帰省する前に終わらせたいです。という業務連絡。
終わらなかったらごーめんね
276 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/14(日) 05:43:47.34 ID:DtMglt7O0
>>274
この流れだと、行き詰ったときオルソラ再登場可能かも。
>>275
連絡ご苦労である。
夏休み楽しんで来るのである。
277 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)
[sage]:2011/08/14(日) 11:39:45.97 ID:I/VLuz9AO
>オルソラさん達の努力
オルソラ……?
まさかオリアナと間違えていたりなんて事はいやいやまさか
278 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/14(日) 16:15:59.41 ID:KCgUAiZao
乙なんだよ
279 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[sage]:2011/08/14(日) 18:04:57.98 ID:H9R+aL8AO
>>277
使徒十字の起動条件探しにチョイ役で出てたじゃまいか
いや、オリアナの努力も全くの無駄だけど
280 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/15(月) 08:59:41.21 ID:BjnNGAqgo
透過するかァ
>>277
執筆中に何度もオリアナとオルソラを間違えそうになってたけど、あとがきのオルソラはオルソラのつもりで書きました!プンスコ
281 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/15(月) 09:00:48.87 ID:BjnNGAqgo
「おいお前ら」
病院の一室。
一方通行は窓から吹き抜ける風を受け、髪の毛がサラサラと揺れている。
ベッドの傍ら、そこには果物詰め合わせだの花だのと見舞いの品々が敷き詰められており、
一方通行が入院したと聞きつけた人々がお見舞いに来たと言う事は想像するに易い。
しかし、そんな一方通行は苦々しげな表情をうかべ、見舞いに来た人々へと声をかけた。
「「「んん?」」」
「……ンン?じゃねェよ、いつまで居座る気だァ?!ここは避暑地じゃねェンだよ!!」
そこには仮称特別捜索隊+幼女+白シスターにスキルアウト+幼女が見舞いの果物をガンガン消費していた。
いや、別に果物を食うのは構わないが、いつまでも居座ってワイワイされると、
静かにしてくれと怒られるのは一方通行なのだ。
学校に通ってない奴らはずっと居座るし、選手な上条当麻に御坂美琴、
フレメア=セイヴェルンは競技が終わる度に病室に足を運んでいる。
フレメアに関してはスキルアウトの面子がいるから分かるが、上条と御坂は何故いちいちここに来るのか。
大覇星祭初日に入院を始め、今日は大覇星祭三日目。
一方通行は能力を行使して傷の治癒力を促進させていた。
とはいえ、傷は大きく早くても2週間、すなわち大覇星祭など余裕で終わっている頃までは入院を余儀なくされた。
常人で学園都市外の病院なら普通に2カ月は入院させられるレベルであるが、
学園都市の医療技術に一方通行の能力によって入院期間をここまで縮めたのである。
出来れば静かに過ごしたいとか思っていたと言うのに、周りはそうは問屋が卸さないと病室に居座る。
一方通行はいやがらせか?とか思うのだが、実際は皆一方通行の事が心配なのだ。
とはいえ見た目はただ涼みに来てるようにしか感じられないから、
一方通行がそのように考えるのも仕方が無い。
すると、外から今後の競技予定のアナウンスが入った。
「お、もうそろそろ俺の出番か」
「そうなの?それじゃあ私も着いて行く!」
「おォ、行ってこい行ってこい。そして帰って来るな」
「負けろー」
上条はアナウンスを確認するように窓の外を眺めると、座っていた椅子から立ち上がる。
続いてインデックスが果物を何個か抱え、上条について行った。
一方通行はシッシと手を振り、御坂は上条の負けを祈願している。
そんな2人に苦笑しながら、上条とインデックスは病室を出て行くのであった。
282 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/15(月) 09:03:29.39 ID:BjnNGAqgo
上条が病室を出ると、真っすぐ伸びる通路の一番奥にある階段から、女性が1人昇って来た。
「あれは……」
女性は少し回りを見まわすと、
上条の視線に気付いたのかこちらを向き手を振って来たので上条もそれに応えた。
インデックスはそれを見てジトっとした目で上条を見るが、
別に上条にやましい事はないので堂々としている。
そしてその女性はこちらに向かってきたので、上条もその女性の前へと歩みを進める。
「やあ、君がここに居ると言う事は彼の病室はこの先かな?」
「そうっすね、何か人いっぱい居ますけど……まあ気にしないでください。
それじゃ、俺これから競技があるんで」
「む。それは引きとめてしまって済まなかったな。
健闘を祈る……と、そこのお嬢さんは上条君の彼女か何かか?」
「へ?いやいやいや、そんなことはありませんことよ!?」
「むう!そんな頭ごなしに否定されると頭に来るかも!」
インデックスは上条の否定っぷりに頭に来たのかキラリと白い歯を見せつけ、
噛みつきの体勢に入るが、ここは病院な為にあんまり騒がないよう注意されてしまったのでインデックスはシュンと小さくなった。
「ふふ、やはり君達は面白いな。その仲の良さ、大事にすると良い」
「あはは……ありがとうございます。それじゃあ失礼します、桐条さん」
「うむ、それでは頑張ってくれ。上条君」
桐条美鶴。
他の面々を連れて学園都市入りを果たしたのは良いが、
一方通行が入院したと聞きいち早く病院に向かっていた。
残りの一同はゆっくりと学園都市を見物してから来るそうだ。
というのも、山岸風香やアイギスと言った科学馬k……
ではなく技術に興味のある面々が学園都市に見え隠れする技術力の高さに目を輝かせていた為である。
ある意味今回の目的である『学園都市を知ること』という目的に近いものがあるので、
彼らにはそのまま学園都市観光をしてもらうことにして、
美鶴だけが見舞いがてらここ最近で集まった情報を一方通行に知らせるべく病院にやって来た、というわけだ。
283 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:05:01.96 ID:BjnNGAqgo
そんな訳で、美鶴は一方通行の病室の前、何やらワイワイと声が聞こえてくるが気にせずノックすると、
息の合った声で「「どうぞ」」とドア越しに響いてきたので、それに従って入室した。
「やあ、意外と元気そうで安心した。
あのように立ち回る君が入院などありえないと思っていたのだがね。
いや、完璧な人間など居ないと言う事を改めて教えられた気分だ」
美鶴は少しだけ口角を上げて微笑みながら、見舞いの品を適当な場所に置きながら捲し立てた。
彼女の事を知っている人間は、この場では一方通行と上条しかいないため、一同はポカンとしている。
何せスタイル抜群でクールな印象を受ける彼女は、
『知的美人』とか『仕事出来る美人』とかそんな感じの評価を得られたからだ。
そんな彼女を見た一方通行以外の面子は、ただただ状況を飲み込めずにいた。
「ふむ……どうやら私以外に先客が居たようだな……」
一方通行はジッと美鶴を見つめ、その視線を察した美鶴は、
「ここは彼らの団欒の邪魔をしないようにしておこうか。
どうせもうしばらく入院するのだろう?『2人きりで』色々話をしたかったのだが……
大覇星祭が終わるまでは滞在する心算だから、そのうちまた来るよ」
「そォだな。来るならこいつらがいねェ時に頼むわ、『2人きりで』なァ」
2人のやり取りを見た一同は、ポカンとしていた表情から驚愕の色に変貌を遂げた。
何?そういう関係なの?2人きりってそう言う事ですか!?みたいな思考が一同の中に渦巻き、
自分達は空気の読めない一団なのではと勘違いしてしまう。
「「自分達これで退散します!!」」
駒場利徳がフレメアを、浜面仕上が打ち止めを抱えて病室を出る。
9982号に御坂は勿論、クマや布束砥信は2人の関係に興味津々だったのだが、
半蔵に無理やり引っ張られて部屋を出た。
そんな彼らが出て行った後の病室の扉を見て、美鶴はクスリと笑う。
「随分と面白そうな奴らだったな」
「そォだな、病室を避暑地として使う位には愉快な連中だな……」
一方通行は疲れた表情を浮かべながら、紙とペンを取りだした。
それを見た美鶴は、チラリと扉を見た後、頷きそれらを受け取る。
284 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:05:32.47 ID:BjnNGAqgo
「しかし入院したとは聞いたが、何をしてそんなことになったんだ?」
口では一方通行に入院した背景を尋ねるような内容だが、
『学園都市内に桐条のラボの研究者を送った。
やはりペルソナを扱える人間を人工的に開発しているようだ』
と、一方通行から受け取った紙に美鶴は書き込んだ。
一方通行はピクリと小さく眉を動かすが、動揺を見せず口を開く。
「いや、なンか通り魔的な事故に巻き込まれてよォ……」
「君ならばその程度の輩は返り討ちなのでは?
私は、それ程の実力を持った通り魔など聞いたことが無い」
『十中八九情報は正しいものだと思われる。
とはいえ、このように簡単に情報を察知できるのには裏があるとしか思えない』
一方通行は同意をするかのように首を縦に振り、
「学園都市ってのは色々と裏があるからなァ……力を持った野郎も中には居るってことだ」
紙に書かれたことへの返答なのか、言葉への返答なのか。
おそらく、両方なのだろう。美鶴は軽く息を呑みながらも口を開いた。
「それは私が知るべきことでは無い、そうだな?」
『やはり、与えて良い情報だけ与えて、我々の動きをみる、と言ったところだろうか?』
「そォいう事だな。それでだなァ……」
筆談が無ければ、ただの雑談にしか聞こえないだろう。
現に、外で聞き耳を立てている連中にはそのようにしか聞こえなかったはずだ。
285 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:06:31.18 ID:BjnNGAqgo
(何か……恋人!って感じの会話には聞こえないんだけど……)
聞き耳を立てながらヒソヒソと話しているのは、御坂。
同じく扉に耳をくっつけるクマ、9982号、布束の3人。と言うか上条を除く捜索隊のメンバーだ。
駒場達はそんな4人を呆れた目で見ながら(ただ単に人数の都合上聞き耳を立てるスペースが無かったのかもしれないが)、
上条の応援に行くことにしたのか病院を後にしていた。
(but、一方通行の事だからこうやって聞き耳を立ててるのがばれてるのかもしれないわ)
(ぐぬぬ……ミサカと言うものがありながら……
と、ミサカはところてん方式で出番を奪われつつある現実を憤ります)
(僕達どんどん影薄くなってるクマよねー)
((それは言ってはいけない))
286 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:07:09.51 ID:BjnNGAqgo
「では、私は皆と合流しなくてはならないから、そろそろ帰らせて貰うよ」
「そォか、岳羽達にもよろしく言っといてくれ」
「わかった……と言うか他の皆も連れてまた来るよ」
「はン、次くる頃にはもォ退院してるかもなァ」
「ふっ、休める時に休まねば、後で困った事になるかもしれないぞ?
先輩からの助言だ、しっかり受け取っておけ」
「はいはい、アドバイス感謝しますゥ」
では。と美鶴が言うと、足音が病室の扉へと近づいてきた。
どうやら今日はもう帰るらしい。
この場に居ては聞き耳を立てていた事がばれてしまう、と4人は焦った顔を浮かべる。
(やばいクマ!あの美人さん帰るっぽいクマ!エマージェンシークマ!)
(ちょ、どーすんのよ!?隠れる場所がない!)
(anyhow、それでも適当な場所に隠れましょう!)
(こっちです!と、ミサカはこの病院の中を熟知している者として先導します!)
287 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:08:10.36 ID:BjnNGAqgo
ガチャ、と美鶴が扉を開くと、そこには誰も居なかった。
とはいえ聞き耳を立てていたのは承知していたので、慌てて逃げたのだろうな、
とその様を想像して美鶴は微笑む。
チラリと下から布片が見える長椅子を見やると、何事も無かったかのようにその場を後にした。
そして、美鶴が階段から降りて行ったのを確認すると、4人は長椅子の下かニュッと出てきた。
「ふぅ〜、ギリギリチョップだったクマねぇ」
「何がギリギリよ!あれ、どうみてもバレたわよね……」
「well、熟知してるとか言って結局隠れた場所は誰でもわかる長椅子の下だしね」
「仕方ないじゃないですか!熟知してるからこそ隠れる場所がないと瞬時に判断したんです!」
「なァにが隠れる、だよアホ共が……」
「「!!?」」
「病院内では静かにしろって何度言えば分かるンだァ……?」
突如現れた一方通行は、4人に病室に入るように促し、先にベッドへと戻っていく。
4人は顔を見合わせると、一方通行と同様に再び病室の中に入っていった。
「芳川も居れば結構話も進められそォなンだが……」
居ないものは仕方が無い。
研究者の観点も欲しかったのだが、とりあえず今いる面子でこれからについて話し合うしかないだろう。
そのように考え、先程美鶴から受け取った情報と美鶴達について話を始めた。
288 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:09:47.49 ID:BjnNGAqgo
・・・
「あの人が桐条さんだったのね……一方通行恋の季節と思ったのに」
「何か、変な想像をしてたミサカ達が馬鹿みたいですね。
と、ミサカは信じてたぜ一方通行とサムズアップします」
「てっきり、一方通行ンの彼女参加と思ったのに、残念クマー」
「but、聞き耳立ててたの完全にバレてたのが恥ずかしいわ。
人目もはばからずにしてたのに」
「……人目はもォ少しはばかれよ」
やはりというか、やはり勘違いをしていたようだ。
御坂美琴と9982号に関しては桐条美鶴の事は話していたはずなのだが。
「いや、あんな美人なんて聞いてないわよ」
「むしろあんな美人と一方通行がフォーリンラブ何てあり得ませんよね。
と、ミサカは冷静に考えればそうだと納得します」
「ハァ……」
何のために『全員』を病室から追いだしたのか、その意味を深く考えなかったようだ。
いや、深く考えなかったというより勘違いをしてしまったと言った方が正しいだろうか。
一方通行は軽く溜息をつくと、本題に入る事にした。
もちろん学園都市が行っている実験と、その内容についてだ。
人工的にペルソナを扱えるようにする実験。
以前布束砥信が受けていた実験で、他にもそれを受けている人間が居るそうだ。
「人工のペルソナ使いが他に居る……
therefore、その人ないしは人達が私達の前に立ちはだかるかもしれないって事ね」
事情を理解した布束は少し考えるしぐさをしながら口を開いた。
その言葉を聞いて、一方通行や9982号は布束に同意するように頷くが、御坂は納得できないような顔をする。
クマは良くわかってないようだ。
289 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:11:14.51 ID:BjnNGAqgo
「なんで私達と敵対するの?だってそんな実験を施した相手の言う事なんて……」
「実験者共が言う事を聞かせる為に、心を壊すだとか、そいつが取り巻く状況を利用して脅したりだとか……
まァ、従わせる方法なンざいくらでもあらァな」
「そんな……」
暗部の非道さ、強かさをよく理解しているからこそ言える台詞で、
それは御坂には理解が出来ないものだった。
ある程度暗部を垣間見た御坂でも、やはり理解したくないという気持ちがにじみ出ている。
いや、むしろこのまま理解も納得もしないでいて欲しい、とも思う。
「だからまァ、さっさと退院して情報を集めようと思うンだが……」
「そうですね、ミサカ達だけでは手に余ると言うものです」
「well、調べるってもどうやって調べるの?ハッキングは危険だと思うんだけど。
ダミー掴まされた挙句こちらの動きがバレたりとか」
「クマはよう分からんクマ、話が終わったら教えてほしいクマ」
「うぐっ」
一方通行の言葉に9982号や布束はこれからどうすべきか考えているようだったが、
クマは仕方ないとして御坂は何も言ってないのに勝手に図星みたいな顔をしている。
それを見た一方通行が御坂に突っ込みを入れた。
「……御坂ァ……お前まさか「研究所を片っ端から襲撃しよう」とか思ってねェだろォな」
「え、ええっと……」
本当に図星だった。
しかし無謀も良い所で、そんなことをされて本格的に暗部に動かれたらたまったものではない。
「アホかお前」
「well、愚かとしか言いようが無いわ」
「流石のミサカも擁護出来ないです、お姉さま」
「うぐう」
とここで、攻め立てられている御坂を救済するかのように、競技のアナウンスが。
それを聞いた御坂は、好機と言わんばかりにそそくさと病室から退場しようとする。
290 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:11:52.91 ID:BjnNGAqgo
「お姉さまの出番ですか。ミサカ達も応援するので着いて行きますよ。
と、ミサカは話はまだ終わってねえとほくそ笑みます」
「indeed、御坂さんの無謀っぷりを矯正する為なら仕方ないわ……」
「お?美琴ちゃんの出番クマか?クマも着いてクマー」
「おォ、行ってこい行ってこい。ついでに御坂に現実を教えてやってくれ」
9982号と布束はラジャーと返答し、御坂を引っ張って病室を後にし、クマもそれについて行く。
そこでようやく一方通行の静寂は取り戻されたのだった。
「やっと誰も居なくなったか……」
あっという間に静かになった病室の中、1人嘆息する一方通行。
やはり後になって看護婦さんにどやされるのがいやだったらしい。
昨日も久慈川りせが学園都市を発つ前にお見舞いに来たのだが、
その時にも彼らが騒ぎ立てた為にこっぴどく叱られたのだ。
何せ被害者は一方通行なのに、非は完全にこちらにあり何も言えないのだから辛いところだった。
今日も結局騒いでいたが、昨日よりかはマシだったはずなので怒られはしないはずだとか一方通行は思う。
「……まずはその外傷をぶち治すってかァ?」
心地よい風を受け、ひと眠りする事にした一方通行は毛布をかぶり、目を閉じるのであった。
291 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:13:04.52 ID:BjnNGAqgo
・・・
時は大覇星祭初日にまでさかのぼる。
ステイル=マグヌスは『使徒十字』とそれを取り巻く魔術師達を何とかすべく、学園都市を動き回っていた。
上条当麻やインデックスの協力もあり、『運び屋』オリアナ=トムソンの捕獲に成功する。
しかし、もう1人この事件の首謀者であるリドヴィア=ロレンツェッティは逃がしてしまったが、
あの最大主教(バカ)の事だから何か対策は講じているのだろう。
ステイルは早々に追撃を切り上げると、学園都市の周りで潜入しようとする魔術師達を撃退すると言う部隊を見学しに行くことにした。
その部隊の手に余るようなら力を添えようと考えながら現場へと向かうのだが。
「あぁ?なんだテメェ、誰だ?」
そこには部隊とそれを率いる代表者らしき男が居た。
随分と人相の悪い男だ、とステイルは内心毒づくが恐らく話は通っているはずだと考えイギリス清教を名乗る。
「お?てことはあんたらの代表がうちらにこの戦場を用意してくれたって事になるなぁ。
そうだ、俺は木原数多ってんだ。会う事はもうねぇだろうが、ヨロシク」
「そう言う事になるね……というか、この様子だと戦闘はもう終わったのかい?」
ステイルの心配は杞憂だったらしく、魔術師達は既に始末していたようだ。
ある程度有能な連中を使った、と言う事かと1人納得するステイルを値踏みするように木原数多は赤毛の神父を見ている。
そんな木原の視線を受け、ステイルはピクリと反応を示すが表情には表わさず、
タバコを吸いながら木原の返答を待った。
「あぁ。大した事の無い奴らだったぜ。死体は適当に処分するが構わねぇか?」
「問題無いと思うよ。死体の処分に関しては何も言われなかったからね。
そちらで何とかしてくれると言うのならお言葉に甘えさせてもらおうか」
「そーかそーか、それなら任されよーじゃねぇの。
ま、そぉいう訳でこっちも仕事が山盛りなんでね。ここいらでお暇させてもらうぜー」
ヒラヒラと軽く手を振って早々に立ち去っていく木原を見て、
何となくステイルは違和感を覚えたが何も言わない事にする。
ステイルの見た木原の率いる部隊には、大人しかいなかった。
292 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:13:59.36 ID:BjnNGAqgo
「いやあ、まさか依頼主から直々に人をよこすとは思わなかったぜ。
ま、それだけ信用されてねえって事だろうが」
木原はステイルに嘘をついていた。
魔術師達を全て始末したと言ったが、そうではない。
実験に使う為何人か生かしておいたのだが、
それがバレたらややこしい事になりそうだと判断した為に、あのような嘘をついたのだ。
「あの赤毛は俺らの事は信用してなかったみたいだが、任務さえこなしてくれりゃ文句は無かったらしいな。
死体の確認もせず引き下がるなんざ、依頼主がわざわざこの場に人をよこして確認させに来た意味がねえ。
ってことはあいつは依頼主に頼まれて来たんじゃなくて、個人的に確認したいから来たってことだ。
それなら俺らの姿を確認するだけでもできるしなあ。
って事はだ……学園都市に奴らが侵入されて困る事でもあったってことか?」
先程のやりとりで、木原は自身の情報を名前しか明かすことなく、
ステイルから彼個人の事情を推測する事に成功していた。
使う事は無いかもしれないが、あって損は無い。そう考えてステイルの動向を軽く探ったのだ。
とはいえ、インデックスと言う存在も、それを取り巻く環境の事も知らない木原に、
ステイルの抱える事情を知る事は叶わなかったが。
「それに、あのガキ共だけは見られたくなかったしなぁ」
チラリと背後を向くと、そこには先程は居なかった子供が6人居た。
どうやらステイルがこちらに来ることをあらかじめ察知していたらしく、
6人の存在を隠す為に猟犬部隊から離れさせたようだ。
「ま、今はあの赤毛よりも実験だな、実験」
切るぞ〜刻むぞ〜、と物騒な内容の鼻歌を歌いながら、木原は学園都市へと帰還する。
293 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:15:00.19 ID:BjnNGAqgo
「全く、何なんだあの男は……」
ステイルは不快そうな顔を浮かべ、口から煙を吐いた。タバコの味も二割減だな、と煙と同時に愚痴も吐く。
あの値踏みするような視線に、悪意と狂気を滅茶苦茶にかき混ぜたかのような目。
有能でも信用出来る人間とは思えなかった。
「まぁ、任務さえこなしてくれればこちらとしても文句は無いのだが……」
何かを隠している。
いや、むしろあのような人間が上の言う事を素直に聞いて行動するとは思えない。
飽くまでも自分本位で自分の為だけに部隊を動かす、そんな人間であると、そう考えた。
何より「この戦場を用意してくれた」という発言。
皮肉のようにも取れるが……と言うより最初は皮肉かとステイルは思ったのだが、
これが皮肉ではなく額面通りの意味だと捉えると、
戦場を用意してくれた事に感謝していると考えてもいいだろう。
何故戦場等に感謝をするのか?
戦闘中毒かと問われれば、違う気がする。
なら、何故か。
ステイルは知らない。木原が研究者であることを。
故に気付けない。これも実験の過程に過ぎないと言う事を。
ステイルは1人、思考の渦に呑まれながらも『使徒十字』騒動の事後処理に関して思いを馳せたのだった。
294 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:17:18.59 ID:BjnNGAqgo
尾張です。
P3メンバーも交えてワイワイしようと思ったけど、俺の手に余るものだったので止めた。
そんで、原作11巻の女王艦隊の話って要るのかな?
要るよねどうしようかな。
295 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 09:32:54.39 ID:BjnNGAqgo
>>288
彼女参加ってなんだ。彼女さんかな
296 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 11:30:14.87 ID:M4kaIjXDO
いや、一方通行の彼女が参加するってことだろ?意味はわかるぜ☆
あと筆談でデスノート思い出した
297 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 11:32:49.19 ID:M4kaIjXDO
すまん!
>>1
だったか!
フォロー入れた的なあれで頼みます
298 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 12:22:06.31 ID:ItMmcDuDO
九時川さんはもう終わり?
299 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 12:33:49.56 ID:0AhPZ5580
>>294
ヴェントさん登場ですね、判ります。
300 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/15(月) 13:35:27.54 ID:BjnNGAqgo
>>297
気にするな、問題無い。紛らわしい俺が悪いねんて
久慈川さんの出番は終わりですね。何かあっけなくフェードアウトするけど、元々メイン張らせるつもりはなかったので。
ヴェントさん出す為にもやらないといけないかなあと思うんだけど、
キンクリで上条さんも入院って流れでもいいかなあとか思ったりもしてる。
ちなみに、11巻再構成するなら一方さんは出ません。出るようにする方法が思いつかぬので。
11巻やるやらない、どっちがいいですか?と、
>>1
は実家帰ってからの間に次の話の構成を練ろうと思うので参考にアンケートします
301 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 15:51:58.65 ID:0AhPZ5580
不要なのである。
302 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)
[sage]:2011/08/15(月) 16:45:35.22 ID:S+4A1uGAO
原作と変わるようなら読みたいな
303 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/08/15(月) 19:29:08.05 ID:+MaZA/RAO
別にいらないんじゃない?
304 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 19:31:08.21 ID:NNXBME/lo
流れ的に別にいらないんじゃないか
305 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/15(月) 19:59:48.29 ID:XXFeEgQn0
ペルソナを得た上条さんがどう動くかを読みたい気もするけど
306 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 01:33:02.52 ID:tB9Dfv1DO
パス
307 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/16(火) 01:58:31.21 ID:9TmIZQtZo
想像以上に不評だな……いやまあ、俺も禁書11巻を手に取るまでここの話すっかり忘れてたし
はしょって序盤に11巻部分はあらすじだけちょろっと語る感じで行こうかな。
木原君とのいざこざの部分を書きたいが為にこのスレ立てたようなもんなので頑張って書きます。
今日の朝に触りの部分だけ投下出来たら透過するます
てか意外と見てる人多くてビビった。と、
>>1
は読者に感謝します
308 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 04:28:47.75 ID:wCQJgrZTo
誰か庇って体ボロボロになると上条さんに見えてくる不思議
309 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:22:29.69 ID:9TmIZQtZo
1試合目見終わったら実家に帰る。
つまりその前に透過するというわけだ
310 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:24:00.83 ID:9TmIZQtZo
朝である。
御坂美琴はカーテンの間から照らされる木漏れ日の様な朝日を受けて目を覚ました。
未だ眠気を訴える瞼をこすり、頭の覚醒を促すと、伸びを1つ入れて気合いを入れる。
時間にして、5時20分。
常盤台の朝は早いとは言え、その起床は些か早すぎるのではと思う。
流石に、鶏が鳴く頃より早く、おじいさんが起きるより早く起きる御坂の真意は読めない。
御坂はとりあえず顔を洗おうと洗面台に向かうのだが、
鏡で自身の顔を確認して驚愕を浮かべる。
「うわっ、眼の下の隈ヤバッ……」
普段の早起きをふた回りほど上回る早起きの訳。
それは遠足前の小学生的なあれだった。
本日九月三十日は、全学園都市的に授業は午前中に終わる。
と言うのも、学園都市の住人230万人のうち8割が学生と言う大御所帯が衣替えしようものなら、
それはもう大変な事になる。
そうは言っても採寸や注文自体はあらかじめ終えているので、
後はそれぞれの学校が生徒達の制服を受け取るだけだ。
確かに、去年から今年にかけて体の成長が見られなかった場合、
新たに制服を発注する必要はないのだが、学生と言う事で成長期の人間の方がマジョリティである。
それ故に学生の大半が新たに制服を注文するのだが、それだけでもう服飾関連の店はデスマーチ確定だと言うのに、
それの受け取り時期を各学校で決めてしまっては店も今日はこの中学校明日はあの高校と、振り分けに余計な時間を割く事になる。
311 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:25:21.70 ID:9TmIZQtZo
そんな事情も相まって制服の受け取る日は本日九月三十日で固定しているのだ。
それでも服飾の店はデスマーチ確定なのだが、
何にせよ今日の学園都市は午前授業確定なのである。
ちなみに、御坂は去年と比べ特に大きくなった所はない(誠に遺憾ながら)ので、
彼女にとっては今日と言う日はただの短縮授業だ。
と言う訳で、御坂は今日と言う日を上条当麻に対する『罰ゲーム』の日として定めることにした。
大覇星祭における御坂と上条の争いの軍配は、御坂に上がったのだ。
順当と言えば順当なのだが、御坂は罰ゲームを何にするか全く考えてなく、
『何でも言う事を聞かせる』とは斯くも魅力的で、
斯くもあそこまで人間性を露わにするとは御坂も思っていなかった。
大覇星祭での勝負がつき、ドヤ顔で上条の前に立った時、
上条が土下座しながら『何でも命令するがよい』と言われ、
何でもってことはあんなこともこんなことも、と脳内を一気にめぐって御坂は顔を真っ赤にさせて逃げ帰ってしまった。
御坂は純朴なのであんなことやこんなこと、と言うのは「手をつないだりとか一緒に買い物行ったり」とかそういうあれなので、
不純な想像をした輩は心が穢れているので煩悩を払いに寺に行くことを勧める。
兎にも角にも、結局罰ゲームをこなす前に上条が北イタリアなどに旅行へ行ってしまった為、
罰ゲームを行う日がこのような月末まで伸びてしまった。
「何してもらおっかなー……ふふ」
御坂が今日の予定に1人思いを馳せていると、隣のベッドがガタリと揺れた。
(あんの類人猿ンンン!!!お姉さまを毒牙にかけおってからにぃぃ!!!)
白井黒子。
彼女は昨晩御坂があーでもないこーでもないと今日の予定を考え続けているのを見せられ続けていた為、
彼女もまた寝不足でパンダの様な隈が出来てしまっている。
まさに白黒。とか言うとテレポーターの本領発揮されそうなので何も言わない事にする。
そんな訳で化粧台の前で身もだえする御坂と、ベッドの中で身もだえする白井。
今日もまた長い一日が、幕を開ける。
312 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:26:27.81 ID:9TmIZQtZo
・・・
上条当麻は上の空で授業を受けていた。
原因は、北イタリア5泊7日の旅にある。
普段不幸な上条とは思えないほどのクジ運を発揮して、
『大覇星祭来場者数ナンバーズ』で一等賞を当て、上記の旅行券(2人分)を得ることに成功した。
上条自身この結果が信じられないもので、何か裏があるのではと勘繰った程だが、
周りの人間の「たまにはそんなこともある」と言われ素直にインデックスと共に旅行に行ったのだが、
そこでも魔術師の抗争に巻き込まれたのだ。
その際、ビアージオ=ブゾーニとか言うローマ正教の司教と対峙し、
オケアノスを使わざるを得ない所まで追い込まれてしまう。
結局、天草式やらオルソラ=アクィナスの協力もあったし、
『海の神』を冠したオケアノスのフィールド上である海と氷の艦隊では、
敵地とは言えビアージオが叶う相手では無かったのだろうか、辛くもその司教を撃退する事に成功した。
しかしこの時、この力を最も見られたくない相手に見られてしまった。
インデックスに、この力の存在を知られてしまった。
オリアナ=トムソンと対峙した時だって、インデックスのナビのお陰であの力を見せる事は無かったのに。
―――彼女の知っている上条にはあのような力は存在しない。
故にその事について問いただされ、この力と引き換えに幻想殺しが無くなった……と言う事にしたのだが、
そのような端的な言い訳でインデックスが納得するはずがなく、いつから無くなったのかだとか、
幻想殺しと言う異能に対するジョーカーが無いのに魔術師に立ち向かったのかだとか色々言われてしまい、何となく気まずい感じになってしまった。
実際には上条も無事は無事なので、インデックスは思いの丈を全部ぶつけた事ですっきりしたのだが、
上条が勝手に気まずい感じになっている為に、腹を割って話し合う機会が得られないまま月末を迎えたのだった。
313 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:28:15.05 ID:9TmIZQtZo
(どうしたもんかなー……無いものは無いんだもんなー)
インデックスが怒った理由が幻想殺し消失にあると勘違いしている上条は、
早く影に帰ってきてほしいと思う。
と言ってもインデックス激怒の訳はそんなことではなく、
上条が危険な事に首を突っ込みすぎていい加減堪忍袋の緒が切れたという状態であった。
とはいえ先述したとおり腹を割って話す機会を得られないまま、
今日と言う日を迎えているので上条の悩みはある意味無駄なものとなっている。
なんやかんやで上の空で授業を受けようと受けまいと、本日は短縮授業。
上条もまた入学時春先に買った冬服でサイズはピッタリなので、
衣替えのドタバタに巻き込まれる事無く、単純に短縮授業の恩恵にあずかっていた。
結局終始上の空で授業を終え、次の授業までの10分休憩になると、
土御門元春や青髪ピアスが「ガッコー終わったらゲーセン行こうぜ」と誘ってきたのだが、
上条には予定があるので上の空のままそれを断る。
「すまん。今日上条さんは先約があるのでまた今度でお願いしたいのです」
「先約ってまさか……女!?」
土御門が大仰なリアクションを取りながら、教室中に聞こえるように叫んだ。
すると教室の空気が一瞬で凍りつき、男子はまたかこいつと言う目を向け、
女子は先を越された!と言う顔をする。
「な!?」
ぼんやりしていた上条は一気に覚醒し、普段の調子に戻る。
それを見ていた青髪ピアスが追撃の突っ込みを入れた。
「カミやん?そのリアクションにさっきまでのぼんやりと何か考えていた顔……
それらが意味する事は……1つやで……!」
314 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:29:43.61 ID:9TmIZQtZo
青ピは「犯人はお前だ」と言う探偵のように上条を指差しつつ、語った。
そんな青ピを見て周囲の生徒達は息を呑む。
上条は何故こんなに追いこまれているのか理解できない、
と言った顔で青ピの次なる言葉を待っていた。
「デートのプランを立てていた!……そうなんとちゃうん?」
「「な、なんだってー!!?」」
「違ぇよ馬鹿!!いや、確かにこの後会う子は女の子ではあるが決してそのような関係では……」
告げた瞬間。上から下から右から左から、衝撃が走る。
全方位から均等に衝撃を与えられた為、慣性の法則に従って吹っ飛ぶ訳にもいかず、
万力で全身を押し潰されたかのような感覚が襲った。
何をされた?それを考えるより早く上条は彼らを視界に入れる。
土御門、青ピをはじめとするクラスメート達。
彼らはそれぞれ拳を握りしめ、中には血の涙を流す漢(おとこ)も居た。
「ら、らにするのれすかー!!?」
ぐらぐらと揺れる意識と頭を定め、彼らに対して声高々に文句を叫ぶのだが、
それに対して土御門がギラリとサングラスを輝かせると、
「……にゃー。言い訳など聞きたくないんだぜい?
『女の子と今日出かける』。それが全てだろう、違うか?」
「カミやんがフラグを乱立する事は百も……いや千も万も承知の上やったんやけど……
それでも、カミやんと仲間(とも)……いや、戦友(とも)でいられたんは、
カミやんが『フラグを回収する事が無かった』からやでえ……?それを、それをカミやんはぁあぁぁ!!!」
相変わらず意味のわからないことを言う彼らだが、そんなクラスメート達に悪気はない。
一種の愛情表現の様なもので、
何だかんだ言っても上条は慕われていると言えるのだが、それでも許せないものは許せない。
上条の断末魔と共に、本日のお勤め(学校)は終わりを告げた。
315 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:30:26.23 ID:9TmIZQtZo
・・・
一方通行は荷物をまとめ、病室を後にしようとしている。
以前にオリアナ=トムソンの魔術によって入院を余儀なくされた一方通行は、
本来全治2カ月はあったところをたったの11日で退院することになった。
その背景には能力使用やら学園都市の医学力は世界一など、色々あったのだが、
兎にも角にも退院を許可されたのだ。
とはいえ、主治医のカエル顔をした医師からしたら後もう1週間は入院してほしかったのだが、
一方通行の強い希望によって渋々ながらも退院を許可された。
そんな訳で退院の準備をしているのだが、実際は完全に治った訳ではなく、
強い衝撃を与えられたりしたら傷口が開くから注意するように言われている。
それでも傷が開くことよりも、ここ最近不気味にテレビの中に放り込まれる人が居ない事や、
学園都市で行われている実験が気になって仕方が無い。
退院したらまずはテレビの中の様子を見に行くかァ、
だとか後の予定を組みたてながらスポーツバッグをかつごうとするのだが。
グイッと引っ張られる感覚を受け、一方通行は首をかしげた。
(そンな重てェモン入れてねェンだが)
そんなことを思いながら、一方通行はバッグを見やる。するとそこには、
「何やってンだお前」
「んー?」
「ンーじゃねェよ、降りろクソガキ」
316 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:30:58.23 ID:9TmIZQtZo
「やだー!降りないもん!ってミサカはミサカは拒絶してみたり!
このバッグの上はミサカに残された最後の領地だ!ってミサカはミサカは断固拒否!!」
「お前なァ……俺が病み上がりだって事理解した上でこンなくだらねェ事やってンのかァ?
つゥか降りろクソガキ、重てェ」
「な!?うら若き乙女に「重たい」はちょっとひどいんじゃないかな!?
ってミサカはミサカは猛抗議してみたり!!」
「そォか、そりゃあ悪かったなァ……あー軽い軽い、羽のよォに軽いぜェー」
「じゃあこのままでいいよね!ってミサカはミサカは誘導尋問してみたり!!」
「やっぱ降りろお前!!」
別に能力があるので打ち止めがスポーツバッグの上に腰をかけようと問題は無いのだが、
何と言うかつまり、邪魔なのだ。
歩こうとすると肩に下げたバッグが揺れ、それに伴い打ち止めも揺れる。
その度に打ち止めの頭が一方通行の腕にあたるのだが、
一方通行は打ち止めを気遣い念の為反射を発動させていないので、
その腕に当たるのが非常にわずらわしい。
なら反射してバッグから弾けばいいのではと思うが、そうしないところが一方通行の小さな配慮だった。
結局、打ち止めを降ろすことなく一方通行は病院の出口までたどり着いた。
それとほぼ同時に出入口の自動ドアが開き、白衣を着た女性が入って来る。
317 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:32:08.84 ID:9TmIZQtZo
「全く、退院当日まで病院内で騒いで、他の人たちに迷惑をかけたら駄目でしょう」
「はーい、ってミサカはミサカはボリュームを下げてみたり」
「うるせェ、俺が騒がしいンじゃなくて俺の周りで騒ぐ奴が悪い」
黄泉川愛穂は今現在学校に居るので、
代わりに2人を迎えに来た芳川桔梗が呆れた表情を浮かべて諌める。
打ち止めは素直に言う事を聞くが、一方通行は悪びれた様子も無い。
そんな2人を生温かい目で眺める芳川だが、
実を言うと一方通行入院の凶報を聞いてもお見舞いに来る事は1度たりとも無かった。
理由は恐らく「面倒だから」とかそんな感じで、
芳川の代わりに黄泉川を見舞いに行かせる位なので徹底している。
そんな訳で黄泉川邸に引っ越してから芳川はパソコンのモニターと睨めっこし続けるだけで、
下手するとろくに飯も食べないと言う凄惨たる状況だった為、
黄泉川が「一方通行を迎えに行かないとパソコンをとりあげるじゃん」とか言うので、
渋々病院まで足を運んだと言う訳だ。
兎にも角にも、こうして迎えにやって来た訳なので、芳川のパソコンの平穏は無事守られた。
「はいはい、ここは出入口なんだから、いつまでも遊んでると出入りする人たちの邪魔になるわ。
そういうのは荷物を片してからにしましょう」
「むっ、ミサカは遊んでなんかいないもん!
ってミサカはミサカはブランコの要領で前後に揺られてみたり!!」
「お前どォ見ても遊ンでるだろォが!!
人のバッグをちょっとした遊具代わりにしてンじゃねェよ!!」
打ち止めの言動と行動が見事に正反対さに思わずカッとなって反射を起動させる一方通行。
一方通行はバッグから打ち止めが落ちる様を想像したのだが、そうはならなかった。
「おー!これは新しい遊び方かもしれない!
ってミサカはミサカは激しく揺れるバッグにしがみついてみたり!」
318 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:33:06.87 ID:9TmIZQtZo
打ち止めはスポーツバッグに腰を降ろし、その肩ひもに手を付けまるでブランコに乗っているような格好なのだが、
反射を行った事により一方通行の右肩に下げているスポーツバッグが反射されて、
アメリカンクラッカーの片方だけの動きを取って来たかのようにスポーツバッグと打ち止めが跳ね続けていた。
思わぬ遊び方を体験したことで打ち止めの喜びは最高潮に達し、
一方通行の苛立ちも最高潮に達したところでスポーツバッグが床に降ろされた。
「あー!折角楽しくなったのにってミサカはミサカは―――」
「うるせェ!俺はレジャー施設じゃねェンだよ、遊びたいなら他当たれ」
「むうう!」
「ほら、いつまでもそんなところに居ないで、移動するわよ」
打ち止めの不満をそのままに、芳川はタクシーを呼びとめそれに乗り込むように2人を促す。
それを聞いた一方通行は再びバッグを肩に下げ、打ち止めはそれに乗りかかろうとするが、
「うわあ離して!ってミサカはミサカはアホ毛を掴んだその手を離すようにお願いしてみたり!!」
一方通行はそれを阻止した上に、打ち止めのアホ毛を掴みそのまま宙にぶら下げた。
「もォしませんって誓うなら無事に降ろしてやっても良いが、まだやるってンなら……」
「やるなら……?」
「このままアホ毛を引きちぎる」
「鬼!悪魔!!真っ白!!」
「お前、今の立ち場分かってねェよォだなァ……
まず、アホ毛だけで全身を支えられている今の状況、
これはすなわち俺が能力を使ってやってるから、全体重を支えられてンだよ。
つまり、お前のアホ毛の命運は俺の気分次第ってことだァ……」
「わ!わ!ごめんなさい!もうしないからってミサカはミサカはアホ毛を守るために謝ってみたり!」
自身の置かれている状況をようやく理解したのか、打ち止めは両手足をじたばたさせながら謝った。
ここまで脅しを利かせればもう大丈夫だろう。
一方通行は打ち止めのアホ毛を掴んだままタクシーへと乗り込もうとする。
319 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:33:40.38 ID:9TmIZQtZo
「わ!離してくれないの!?うそつき!!ってミサカはミサカは一方通行を糾弾してみたり!!」
「バカ野郎、お前は前科一犯だからなァ。再犯防止策だよ」
一方通行は一言告げるとアホ毛から手を離す。
先程まで一方通行に掴まれていた事でピンと上を向いていたアホ毛は、
打ち止めの元気メーターを示しているかのように萎びて行った。
芳川はそんな2人のやり取りを見ながら、クスリと微笑む。
出来れば、こんな日常が末永く続いてほしい。
しかし、それが叶わない事は芳川自身よく理解している。
それでも、1秒でも長く。
そう思う芳川は、ペルソナとマヨナカテレビ、それに学園都市の関わりについて思いを馳せたのだった。
320 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:34:42.64 ID:9TmIZQtZo
・・・
上条当麻が『アドリア海の女王』にてビアージオ=ブゾーニを撃破してから、1日程経過した頃の事である。
バチカン、聖ピエトロ大聖堂。
ローマ正教の総本山と言えるその場所は、ローマ正教徒にとっては何に置いても神聖で不可侵。
そんな見る者全てを圧倒するような芸術性すら帯び静寂に包まれていた大聖堂を、不躾に歩く音で満たしていく。
「あーやだやだ!ブゾーニの野郎がヘマやらかしたせいで私の思惑何て全部ぶち壊しじゃない!!
しかもミスった張本人は行方不明とか舐めてるでしょ?」
闇に包まれた大聖堂を歩くは、2人の男女。
外から優しく注がれる月明かりでは、その闇を照らすには値せず、彼らの細部までは分からない。
1人は腰の曲がった、老人らしきシルエットで。
もう1人は、若い女性のような、メリハリのあるシャープな体型をしたシルエットだった。
「しかしなあ、いくらお前と言ってもあれは性急過ぎるぞ。
……と言うより、いずれにせよビショップ・ビアージオでは成功出来なかったはずだ。
あれに、想定外の出来事に対処できる程の能力を期待する方が間違っている」
「はっ、誰にモノ言ってんのよ?私がヤレっつったらヤル。
それが世界の法則で、あんたらはそれにはいかイエスで返答したらいいんだっつーの」
「……貴様こそ、誰に向かってその口を開いているか、分かっているのか?」
老人の言葉に対して、女性の様な声が嘲るように返答すると、老人の威圧感が一気に増す。
その威圧感はまさに『頂点に立つ者』と言って差し支えないもので、
それを受けた相手は自分が是だろうと非だろうと、有無を言わさず頭を下げざるを得ない程、
場の空気はピンと張りつめた。
321 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:35:34.55 ID:9TmIZQtZo
それでも、女性のシルエットは動きを見せず、
「『ローマ教皇』。それがどうしたの?」
ローマ教皇、すなわち20億の信奉者を抱える宗派の中でも、その頂点に立つ人間。
その頂点に対して、女性の声は対等な口調、
いや女性の方が上位に当たるかのような口調で話を続けた。
先程までのローマ教皇によって支配されていた空気が一気に弛緩する。
それほどまでに軽い口調だった。
「ま、何でもいいわ。アンタが『名目上』てっぺんに位置しているのは事実だし。
そう言う訳でこれにサインして頂戴な」
「……全く、この私に命令形か」
明らかな不遜。
不敬で首を飛ばされてもおかしくは無い態度で女性は1枚の書類を取りだした。
そんな女性の態度に教皇はピクリと反応を示すが、これの態度は今に始まった事では無い。
ポツリと愚痴をこぼした後、書類に目を通す。
「……!待て、これは」
「何よ、アンタだって2年か3年か、そのうちしたらこの書類を用意するつもりだったんでしょ?
いずれやるなら遅かれ早かれ関係ない。それなら今やればいい、違う?」
「しかし……魔術に深く関わる者ならともかく、彼のもの達は主とするものを知らぬだけ。
それなら彼らに示してやればいい。真に従うべき主を」
「『ローマ正教に盾突いた』、それだけで十分罪深いことよ。
『アドリア海の女王』と『法の書』での騒動……表立って動いた馬鹿と裏で動いた阿呆。
目立とうが目立つまいが、罪は罪。それを裁くか裁かないかは私次第」
「確かに、異教は罪だが、知らぬだけならまだ救いの道はある。
それを見せないうちにここまでするとなると、私も否定的な意見を出さざるを得ない」
「この私に否定形は無い」
教皇の意見を、一言で断ち切る。
322 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:37:00.32 ID:9TmIZQtZo
「受動、連用、連体、命令、未然、已然、終止、仮定……後何だっけ?まあこんなもんか。
兎に角、私は否定だけは認めない。私がやれっていったらやる。
それはそこらを歩いてるガキだろうと、ローマ教皇だろうと『神の子』だろうと等しく同じ。
だからアンタはこの書類にサインをするの。分かった?」
教皇は僅かながら苦々しげな表情を浮かべながらも、首を縦に振った。
女性はそれを見て満足そうにうなずく。
「よろしい」
それだけ言うと、女性の影は闇に消えた。
本当に姿を消したのか、はたまたそのように見せかけたのかはわからない。
というより教皇はそんなことを考えはしなかった。その代わりに、書類へと目を落とす。
やはりといえばやはりだが、その内容は最初に読んだ通りのものだった。
(……あやつは性急すぎるきらいがある)
老人は忌々しげな表情を浮かべると、書類にサインをすべく自身の居室に戻ることにする。
この場にペンは無い。そして、書類にはこのように記載されていた。
それを日本語に訳すると、
『上条当麻及び学園都市第一位『一方通行』。
上記の者達を速やかに調査し、主の敵と認められし時は確実に殺害せよ』
というもの。
前者はローマ正教の司教を撃破し、後者は『法の書』の騒動において裏で糸を引いていたと思われる人間と似た容姿をしている。
後者に関しては正しい情報かはわからないが、所詮は科学の徒でローマ正教の敵。
いつ処分に動いても同じなのだから、今処分してしまえという考えだろうか。
なんにせよ、実質的にはローマ正教が総力を挙げ、
たとえ『神の右席』を使おうとも、確実に暗殺するようにするための申請書だった。
これが意味する事は、1つ。
『神の右席』が1人、『前方のヴェント』……先の女性が動く、と言う事だ。
その書類を読み終える頃には自身の居室までたどり着いており、
ローマ教皇はキリキリと痛む胃を抑えるように腹を抱えながら、
書類にサインするべくペンを走らせるのだった。
323 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:41:17.49 ID:9TmIZQtZo
・・・
木原数多は研究者だ。
暗部として『猟犬部隊』を動かし、人様には言えないような事も行ってはいるが、
基本的には様々な研究を行っている。
といってもその研究も主に人様に言えないものなので根っからの暗部気質というか、
つまりはそう言う人間なのだが。
そう言う訳で、彼が研究所に出入りすると言う事は当たり前の事で、
今日もいつものようにとある研究所に顔を出していた。
目的は、ある人物の顔を見る為。
その人物は女性で、ひょっとして……
とか思うかもしれないが、別にそういった関係ではなく、飽くまでも研究を行う為の『協力者』だ。
とはいえ、木原数多が行う研究は非道を極める者なので、
それに加担するものは木原と同様狂っているか、それか木原に「脅されて」いるかのいずれかに当たる。
「おーっす木山ちゃん。元気にしてっかー?」
木山春生。
木原は彼女の顔を拝みにやってきていたのだが、彼女は勿論後者の人間である。
木山は、木原の顔を見るなり仇敵を見るかのように恨みを込めた視線を飛ばすが、
当の木原は何も感じてはいないようで、
「その様子なら元気そぉだな。安心安心。飯はちゃんと食えよ?
『人質』ってのは無事だからその価値を発揮するもんでね」
木原は愉快そうに語るが、木山にはそれらは一つも聞こえておらず、ただただ木原を睨みつける。
「……あの子らは本当に無事なんだろうな……?」
木山はギリッと歯ぎしりをさせ、爪が自身の手に食い込み、そこから血がにじむ程思い切り握りしめた。
その様子を見て更に楽しそうに笑った木原は、
「あーんしんしろって。あのガキ共の中から『適正』の高い奴6人選んでんだから、一番安全だろうよ。
あいつらも必死こいて働いてるぜ?あんたと、残ったガキ共の日常を守る為になあ。
いや、ホントに泣ける話だわ」
324 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:42:13.50 ID:9TmIZQtZo
ニヤニヤと笑いながらも、涙をすするかのような動きを見せ、木山を煽る。
その動きを見てキッと木原を睨みつけるが、
やはり無駄なあがきにしか見えていないようで、木原はただただ嘲るような表情を浮かべていた。
「ま、少なくともあんたはここで余計な事せずコーヒーでもすすってくれりゃいいんだよ。
そしたら最低限研究に関わってねえ6人以外のガキ共は何も考えず、
何も知らずにいつも通り学校言っていつも通りダチと遊んでって言う日常を謳歌できるだろうぜ?」
「貴様は!!どうしてそんな風に子供達を研究材料に出来る!?」
「……はっ!それをお前が言うかよ!
『樹形図の設計者』の代わりにこの街のガキ共1万程使って実験してた癖によォ!!」
「ッ……!それは……子供達の為に……」
「ガキ共の為なら1万人を使っても良いってかあ!?
いや、大は小を兼ねるって言うけどよ、小が大を越えるってのは初めて聞くぜ実際!
助けられたガキ共も重すぎるだろ、「1万人と引き換えに助けられました」ってよお!」
ある意味、その方法で助けられなくて良かっただろ!
と呵々大笑する木原に、木山は何も言い返せなかった。
そうして、ひとしきり笑ったところで、木原は木山に言う。
「ま、さっきも言ったけどよ。俺ァお前に何もしないと言う事をしていてもらいてえんだわ。
刑事ドラマとかでよく見るだろ?『余計な事をしたら殺す』って。
とどのつまり、そーいうことだから。じゃあなー」
ひらひらと手を振りながら研究所の一室から去る木原に対して、
木山はただその後ろ姿を眺めるだけで何もできなかった。
9月のある日、ある時の出来事だった。
325 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/16(火) 09:43:06.06 ID:9TmIZQtZo
終わり。これ書いた後に思ったんだけど、木山先生の教え子って何人だ?十数人くらいいるだろって予想の元書いたんだけど、まあ十数人いるって事で頼む。
326 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/16(火) 19:45:39.23 ID:DLpgQQj+0
>>325
乙
木山先生=並列処理なのである。
327 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 23:52:20.07 ID:0q3QD68h0
少しの間楽しみが無くなってしまうな…
328 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/17(水) 23:59:39.12 ID:0TtEKXEHo
毎回毎回面白いな
乙っす!
329 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[sage]:2011/08/18(木) 12:56:45.34 ID:LpUIpxOAO
大覇星祭が終わったのに。私が。居ない。どこにも。
330 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2011/08/19(金) 15:52:02.44 ID:DMaW8cVV0
アニメじゃ10人だったな
331 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/20(土) 13:52:22.77 ID:R04OIQTAO
独り暮らしに戻る最中です。
休みの間に今後の展開を妄想してましたが、一文字たりとも文字に起こしておりませんので今日の投下はあやしーさーです。
でもあしたから通常運行で頑張るわ
332 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/20(土) 17:31:10.57 ID:nETX0zVf0
超ガンバレールガン
333 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/20(土) 18:05:34.28 ID:6lzq9Y7IO
せっかくの夏休みのんびりするといいさ
待ってるよ
334 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/08/21(日) 15:54:45.87 ID:rbAnt/qb0
>>329
…?
いないとおかしい人なんていたっけ?
335 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/21(日) 16:19:43.06 ID:SBeSs2W4o
どうもです今から透過です。ちょっと久しぶりなのであらすじをば。
直進するっ…!!
聞こえるか……!?GPSにっ……何も映らねぇ……!!
クソッ……なんも聞こえねぇ……!!危機っ……圧倒的危機……!
GPSが無いと……俺は運転も出来ねぇのかよっ……!
帰ってこれるのかこれでっ……!?
中村、焦燥!!GPSの機械トラブルに、疲労がたまりつつある足に!!中村、冷静さを失う!!(ナレーション:立木)
対岸は見える……!だがこれじゃだめなんだろ……!?
へへっ……!悪いな……ヘボパイロットで……!!
だがっ……!エンジンだけは一流のところ、見せてやるぜ……!!
フルパワーだぜ……!信じらんねえ……!!
俺の人生は晴れときどき大荒れ……!いいっ……イイ人生だっ……!
風をっ…風を拾うんだ…!!押されてる……わかってるけど……!!
その時、中村の体に異変が生じる!!
左足がっ……攣ってる……!!?うぅぅ……ああ……あああああ……あああああ……!!!!!ボ゙ロ…ボロ…
があぁ……!左足……!!俺の左足がっ……!!
限界!!片足だけで廻すのは、最早限界だった!!
中村の右も、限界が近いっ!
ああっ……痛いっ……!!ぅああ……あああ……!!!
東北大学だろ……ウインドノーツだろっ……!!!!
回れっ……!!回らんかっ……!!!!!
動けっ……!動けっ……!
叫ぶ、中村!魂の叫び!!
桂っ……!!今、何キロっ……!?ドボォ…ドボォ…
336 :
ごめンなンでもない
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/21(日) 16:21:28.61 ID:SBeSs2W4o
最近春上さんの様子がおかしい。
初春飾利が最近付き合いの悪いルームメイト兼クラスメイトな春上衿衣に対して、
小さな違和感を覚えたのは始業式を終えた後、アメリカへ社会見学から帰ってきてすぐの事である。
放課後になるとたまにどこかへと直行しているようなので、
その事について何となく聞いたら、研究所に用事があると言われた。
一緒に着いて行っても良いか春上に尋ねたところ、「『実験』に直接関した関係者以外は駄目なの」と言われ、
「あの実験の後遺症か何か調べるのかな」と納得したので、
その時は素直に引きさがったのだが、それにしても研究所へ行く頻度が高い。
更に言えば最近春上の表情が浮かないもので、日を追うごとに疲れが蓄積されているように感じられた上、
ジャッジメントで部屋に帰るのが遅くなることがしばしばある初春よりも、春上の帰宅が遅くなる日もあった。
極めつけは、先日行われた大覇星祭だ。
初春自身はジャッジメントの仕事に駆り出されていたのだが、
その際競技場で会った友人の佐天涙子によると、顔を見せはしたが途中から抜け出しているらしい。
しかしそれは春上の独断によるものではなく、
きちんと手続きを踏み許可を得ての事だそうで、周りの生徒達も特に不振がる事も無く。
結局、初春は大覇星祭における警備で第177支部に缶詰状態だった為、
ろくに春上、佐天や他のクラスメイトと会う事が出来なかった為に、
春上に対する違和感やら不信感を抱く事になったのが一般客も減りにあわせて少し仕事が減った大覇星祭最終日の事だった。
初春は春上に対して不安を抱くが、
彼女が時たま見せる憂いを帯びた顔、どこか諦めにも似た何かを押し込めたかのような表情に言葉を失う。
とはいえ、それを感じたのは四六時中春上の事を観察してようやく感じた違和感で、
他の人間にそれを感じさせない事が初春にとっての違和感を増したのだが。
更に言えば、部屋で顔を合わせても普段通りなのなの言って気丈に振舞っているように感じられた為に、
その現状を崩すことを、彼女の表情を更に悪くする事を躊躇われ、何も聞くことが出来ずにいた、と言う訳である。
337 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/21(日) 16:22:30.24 ID:SBeSs2W4o
そして本日、九月三十日。
(春上さんは今日も早々に帰ってしまいました……)
初春飾利は決めた。
(木山さんに、直接話を聞きに行きます!)
―――直接、『幻想御手』及び『暴走能力の法則解析用誘爆実験』に関わっていた木山春生に、直接話を聞きに行く。
……そのように決意を固めたのに。
「うーいーはーるぅー!!」
「にゃああああ!!?」
出鼻をスカートめくりにて挫かれた。
男子の目もあるこの学内にて堂々とジャッジメントたる初春のスカートをめくると言う行為。
明らかなセクハラで、ジャッジメントとして動いてもおかしくは無いのだが。
「何するんですか佐天さん!!?」
「いやあ、初春がずーっと考え事ばっかしてて構ってくれないからさあ……
それにしても、今日は水色のストライプかあ」
スカートめくりをした張本人、それはクラスメイトの佐天涙子。
彼女は初春の友人であり、女子でもある為セクハラとして捕まえる訳にもいかない。
とはいえ、衆目を集めるような雄叫びと同時にスカートめくり。
初春は佐天への抗議をしながら、めくられたスカートを元に戻す。
周りの生徒達も最早見慣れた光景らしく、
女子は初春と佐天の2人をチラッと見て、男子は初春の下半身を凝視し、視線を逸らして行った。
いつもの学校での、いつもの日常。
その中に、初春の友達が1人、足りない。
この事実が初春の心を締め付け、決意をさらに固めることとなる。
「佐天さん、話があります」
「何々?どーしたのそんな改まって?」
初春の表情が急激に真剣なものに変化し、それを察した佐天も軽い口調ではあるが表情を硬くした。
そして、初春は語る。ここ最近感じていた違和感について。
338 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/21(日) 16:23:38.82 ID:SBeSs2W4o
・・・
「……あァ?そりゃ別に構わねェが……」
「じゃ、そう言う事だから、行くわよ打ち止め。
後でパフェでも食べに行きましょう」
「え?いいの!?わーい!行く行く!
ってミサカはミサカはホイホイと着いて行ってみたり!」
一方通行は芳川桔梗の提案に訝しげにしながらもそれを受け入れた。
何やら打ち止めをしばし借りたいらしいのだが、
確かにその提案は一方通行にとってもありがたいものである。
何せこの後テレビを置いているボロアパートに行きたかったのだが、
打ち止めをどのようにして離れさせるか考えていたのだから。
今月に入ってから余りテレビの中には行っていなかったのだが、これからはその問題も付きまとうだろう。
その問題とは、テレビに入る際、打ち止めに悟られないようにすること。
黄泉川愛穂は教師やアンチスキルとしての業務もあるので余り気にしなくていいが、
打ち止めはそう言う訳にはいかない。
何せテレビの中に行っている間に打ち止めに何かあっては困るのだから、
事情を知っている人間がそれと無く一緒に居なければならない。
今日は芳川に任せれば良いが、これからはその事に関しても考える事にしよう。
一方通行はぼんやりとそんなことを思いながら、2人と別れ、テレビを安置しているボロアパートへと向かった。
……はずだったのだが。
339 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/21(日) 16:24:27.05 ID:SBeSs2W4o
「すみません、先生の部屋少しだけ汚れちゃってて……
適当に空いてるとこに座ってください、お茶入れますから!」
「……」
「お茶っぱお茶っぱ……お菓子お菓子……ってひゃああああ!!
ご、ごきごごごきbひゃああああ!!」
「……」
「親子連れですー!!?おかえりくださーい!!」
「……」
「はぁ、はぁ……すみません、お菓子はなさそうなのでお茶しか出せません……」
「……イエ、オキヅカイナク」
一体何が起きたのか?
それはテレビを置いているボロアパートに起因する。
340 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/21(日) 16:25:53.18 ID:SBeSs2W4o
時は少し遡り、目的のアパートに辿り着いた頃まで戻る。
「あ!あの時の白髪ちゃん!」
「あァ?」
一方通行の借りた部屋は二階にあるので、階段を上らねばならない。
と言う事で一方通行がアパートの二階へと向かうべく、
階段に足を乗せた所で背後から声がかかった。
「まさかわざわざ先生の居場所調べてまでお礼に来てくれたのです!?」
「……はァ?」
何やらいつぞやのピンク髪の自称教師が目を潤ませながら声をかけてきた。
どうやら、自室が一方通行の借りたアパートにあるらしい。
確かに、一方通行目の前で感極まっているピンク髪は、何度かお見舞いに顔を見せに来ては居たが、
結局互いに知っている事は自称教師であることと、一方通行の名乗った偽名位だろうか。
互いに細かなプロフィールを知らないまま退院を迎えた為、
もう会う事は無いだろうと思っていた矢先にこれだ。
彼女の勘違いも仕方が無い……だろうか?
とはいえ一方通行からしたら別にそんなつもりも無いので思わず尋ね返すのだが、
ピンク髪の自称教師こと月詠小萌は何も語る必要はないと言わんばかりに掌を前につきだして、
「大丈夫です!みなまで言わずとも、わかります!」
「……どォでもいいけど、自称教師がこンなとこで油売ってンなよ」
「違います!今日は短縮授業なので、だから普段のこの時間は授業中ですよ!」
「……ふゥン」
「……その目は信じていない目ですね!?
この後もお仕事はあるんですが、
お弁当を部屋に置きっぱなしだったからこうして取りに帰って来たのです!」
「そォか、お勤め御苦労さン」
341 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/21(日) 16:27:19.41 ID:SBeSs2W4o
じゃ、これで。と言った感じで一方通行はその場を後にしようとするのだが、
「ではでは、汚いところですが少しだけくつろいでってください」
「えっ」
いや、そんなつもりでここにいるわけじゃないのですが。
一方通行はどこまでもすれ違う思惑に頭を抱えつつ、
なし崩し的に部屋へと案内された、と言う訳だ。
ちなみに、一方通行の借りた部屋とお隣さんだったのは余談である。
そして時は現在。
「……どうですか?」
小萌先生はちらちらと差しだした湯呑とそれに手をつける一方通行を見やっていた。
それに構わず一方通行はグイッと緑茶をあおると、
「……まァ、うめェよ」
それを聞いた小萌先生の表情は花を咲かせるように明るくなり、
気を良くしたのか更にお茶を淹れようとした。
一方通行は天井のシミをボケーッと眺めつつ、どうしてこうなったか反芻している。
すると、小萌先生が急須を持ちあげた所でガチャリと玄関が開いた。
「あ!結標ちゃん、おかえりなさい!」
「あら?どうしてこんな時間に……ってあなたっ……!!」
当たり前のように入って来た、と言う事は小萌先生と同居している事だろう。
一方通行は結標ちゃん、と呼ばれた女性を見やりながらどうでもよさげに考えた。
対して、その女性の顔は驚愕の一色に染められている。
恐らく、『一方通行』というネームバリューを知っている者、と言う事だ。
それは総じて暗部に通じている、と言っても差し支えない。
とはいえここは月詠小萌の部屋である。
別に事を起こすつもりはないし、させるつもりもない。
そんな視線を結標に送ると、それを察したのか口をつぐんだ。
342 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/21(日) 16:29:04.50 ID:SBeSs2W4o
結標淡希。
冬服のミニスカートに金属製のベルトを付け、
桃色の布で胸を隠しただけの上半身にブレザーを引っかけている。
見た所霧ヶ丘女学院の制服だ。
確かにそのレベルの学校ならば暗部に関わる生徒も居て然るべきだろう。
余りに斬新過ぎる着こなしをする彼女に対して、一方通行は不信感を露わにするものの。
どういう経緯でこの場に居るのかは知らないが、不干渉を貫く。
互いに視線を交わらせながら同様の内容を頭に思い浮かべた。
「あれ?結標ちゃんは白髪ちゃんと知り合いなのですか?」
そう言えば、基本的に『○○ちゃん』は名字が来るのだが、一方通行の時だけ『白髪ちゃん』と呼ぶ。
名前の知らない相手ならまだしも、一応「鈴科」と名乗ったのだが、
彼女から『鈴科ちゃん』と呼ばれた事は一度も無い。
(まァ、どォでもいいことだが)
一方通行は思考を切り替えつつも、
結標が帰って来た事は丁度良い区切りになると判断し、腰を上げた。
「あれ?もう帰っちゃうのですか?」
「あァ、この後用事があるンでなァ。茶ァごっそさン」
「そうですか……よかったらいつでも来るのですよ!先生次は茶菓子も用意してますから!」
「……そォかい、楽しみに待ってる」
ポツリと小さく、呟く。
「はい!」
小萌先生はそれに笑顔で応え、それと同時にスタスタと玄関へと向かって行く。
その際最後に結標に対して少しだけ視線を這わすと、すぐに前を振り向きそのまま出て行った。
直後、隣の住人(小萌先生は勿論結標も見た事が無い)が帰って来たのか、ガチャリと扉が開かれる音がした。
343 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/21(日) 16:30:43.61 ID:SBeSs2W4o
「丁度隣の人も帰って来たみたいです。
白髪ちゃんに今度会った時、お隣さんがどんな人なのか教えてもらわないといけませんねー」
「……まだお隣さんのこと、諦めてなかったのね」
そう。「お隣さん」と言う事でたまに訪問するのだが、いつも居ないのだ。
明らかに今は居る。
ならば今から尋ねればいいはずなのだが、
こういったケースで訪問しても居留守をしているのか知らないが、居ない。
居留守をしているんじゃないかと、結標の能力である『座標移動(ムーブポイント)』にて小萌先生特製の肉じゃがを鍋ごと(手紙付きで)送ってみた。
一応部屋の内装は小萌先生の部屋と左右対称なので、
玄関から1m先の5cm程宙に浮かせる形で送ったので何かに埋め込まれる、と言う事は無い。
一応、明らかに玄関からは人の気配が無い時にそれを行ったので、
誰かの体に肉じゃがが……と言う事もない……はず。
次の日に玄関の前に空の鍋があったのでやはり住人は居るのだろうが、どうにも会いたがらない。
何か事情があるのだろうとは思うものの、ここまで徹底されると非常に気になるが、
やはり事情を抱えた人間に無理矢理それを聞くと言うのは良くない。
そんな考えも相まって結局お隣さんの事は放置すると言う方向で考えがまとまったのだが、
あのタイミングなら確実に一方通行はお隣さんの顔を見たはずだ。
こうなると気になると言う気持ちが再燃して来る。
「どんな人なんですかねー。今度は鯖の煮付けでも作りましょうか」
「……今度はあんな博打みたいな真似したくないからね」
「分かってます!今度は堂々と、玄関からですねー」
のほほんと話す小萌先生を見やりながら、結標は考える。
何故、一方通行がここに。
と言うかさっきの扉の音、下手したら一方通行自身の可能性だってある。
(まあ、こんなセキュリティもへったくれも無い場所に隠れ家なんてありえないだろうけど)
馬鹿みたい、と斬って捨てた考えが正解だとは結標も思わなかっただろう。
小萌先生に学校はどうしたと突っ込みを入れながら、
一方通行との邂逅を記憶の奥底に封印するのだった。
344 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/21(日) 16:31:43.40 ID:SBeSs2W4o
・・・
部屋選びに失敗した、と後悔を露わにしながら部屋の中に入った。
するとそこには呑気にも見舞いの品で食べきれなかったもの、
生ものは優先的に消化していたのでお菓子等、を黙々と食べる布束砥信とクマ、それに9982号の姿が。
確かに壁が薄いので大声で話すと会話が筒抜けになる。
とはいえ無言になるほど意識する必要もないというのに。
「……辛気くせェ顔して何してンだよ」
狭い部屋の中、3人の男女が言葉も無くただただマドレーヌを食べ続ける。
何と言うか、シュールを通りすぎて軽くホラーだ。思わず突っ込みを入れさせられる程度には。
「いやさ、お見舞いの品をもらいうけたは良いのですが……多すぎです。
と、ミサカは辟易した表情を浮かべながら部屋に詰まれた日本各地の銘菓を眺めます」
見舞いの品。
食べきれなかった分、とあたかも余り物のように表現したが、食べきれなかった分の方が多いのだ。
量にして食べた分:食べきれなかった分=1:9。
単純に9倍の量が残されている、というわけだ。
何故そんな量の物が残されたのか?
その原因は、久慈川りせと桐条美鶴。
345 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/21(日) 16:35:03.06 ID:SBeSs2W4o
彼女らは嫌がらせのごとく―前者は本当に嫌がらせ、
後者は天然の好意による行為だろうと一方通行は予測している―見舞いの品々を送りつけてきたのだ。
久慈川にしても美鶴にしても、病院に直接来た時は軽く果物一式を持ってきた程度だった。
後日郵送で大量に送ってきて、誰に文句を言えばいいのか分からなくなった一方通行なのだが、
わざわざ返送する訳にも行かずそのまま受け取ったわけだが、当然ながら食べきれない。
誰かにあげれば良いのでは、と思うだろうが、
まずクマは論外として、布束は足がつくようなまねはできないし、9982号もそこまで人脈は広くない。
駒場利徳や上条当麻、御坂美琴に黄泉川愛穂らにもあげて行ったのだが、それでも余りまくっている。
ここで最終兵器・インデックスの名が挙げられるだろうが、
驚いた事に、何か心境の変化があったのだろう。
他の面々がもらった量と同じ分しか受け取らなかった。
ところで、そのインデックスなのだが、驚くべき事に今現在バイトをしている。
家事スキルと同時にお金も稼げる、と言う事で勤務地はいつものファミレスだ。
そこで店員とインデックスが繰り広げるどたばたファミレスコメディがおよそ30万字にわたって書きあげたのだが、この話は別の機会にするとしよう(虚言)。
兎にも角にも、余った見舞い品はこのボロアパートに集結したのだった。
「well、捨てると言う選択肢もなんだかもったいないし……」
「捨てる位なら胃袋に納めてやるクマよ!!もったいないおばけが出るクマ!」
「……そォだ、良い事思いついた。お前お隣さんと関わりとか持ってるかァ?」
「肉じゃがもらったクマよ。とっても美味しかったクマ!でも顔は見てないけどクマ……
お礼をしたいところだけど、変に動いてめーわくはかけたくないクマ……」
「そォだな、顔をあわせねェのなら、変に首を突っ込まれる事もねェだろ」
チラリと箱の山を見ながら一方通行はクマの言葉に返答した。
それを聞いたところで、9982号と布束も理解する。
「それはまた……anyhow、ある意味恩をあだで返すような……」
「大丈夫です、飽くまで『善意』ですから。
と、ミサカは黙々と未開封の菓子を段ボールに詰めて行きます」
翌日、月詠小萌宅には明らかに食べきれないだろう量の銘菓が敷き詰められた段ボールが3箱程詰まれていた。
346 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/21(日) 16:37:15.71 ID:SBeSs2W4o
疲れたー。
日常ってあんまり人出し過ぎると訳わかんなくなるから困る。
いや、戦闘でも同じだけど。
いつになったら戦闘になる事やら。徐々に非日常パートに移行して行くと思う
347 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/21(日) 16:39:50.87 ID:8Mwe8CPG0
>>1
乙
インデックスいい子すぎて泣いた
348 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/21(日) 16:45:20.06 ID:8Mwe8CPG0
インデックスがいい子すぎて泣いた
家事ができるようになって上条さんと一緒に料理を作っているのを想像して2828した
349 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/21(日) 16:52:40.72 ID:YyXWp4LGo
インデックスinファミレス@バイトではいったいどんなドタバタコメディがあったんだww
上条さんが泣いて喜ぶ姿が目に浮かぶぜぇ……
しかし菓子をダンボール3箱は嫌がらせだ絶対ww
まぁ学校に持ってけば消費早くなる……か?
350 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/21(日) 18:11:26.95 ID:MnIb8FQb0
>>346
乙
日常パ−ト好物。
インデックスとセロリがバイトすれば
ダブルホワイトだな。
351 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:37:16.44 ID:s41Jc9Bko
※一方さんも上条さんも出ません
352 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:38:20.87 ID:s41Jc9Bko
学園都市。
東京西部の山岳地帯を切り開いて作られた街で、
面積は東京都のおよそ1/3にあたる広さを持ち、その周囲は高い外壁で覆われている。
人口は230万人でそのうちの約8割が学生と言う、
学園都市の名に恥じない人口比率である。
あらゆる分野で科学技術を応用した研究を続け、
世界の中でも1位2位を争う程学問に力を入れているのだが、
この街にはもう一つの側面がある。
それは超能力育成機関であり、
この学園都市にある学校に入学したいと言う子供達にとっては
そちらの方面の方が有名だろう。
そうして学生を対象にして超能力を開発していくのだが、
その価値や強度、応用性や商業性によって6段階、レベル0〜レベル5に分類されて行き、
そのレベルが高くなる程に希少性も高くなり、レベル5とまでなるとこの学園都市には現在7人しかいない。
人工230万人のうち8割が学生でそのうちの7人なのだから、希少性も一目瞭然だろう。
そんな中で、浜面仕上は無能力者(レベル0)である。
厳密に言えば『目に見えないレベルで何らかの変化をもたらしている状態』にあるのだが、
目に見えないのなら意味が無い。
浜面自身、学校などとうの昔に止めてしまっているので『○○系能力者』と書類に書いてあった気がする、
と言う程度のものでどんな能力者なのか忘れたまま今日までを過ごしてきた。
353 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:39:18.29 ID:s41Jc9Bko
学生のうち6割がこれにあたるので、別に恥じるような事でも無いのだが、
やはり明確な『差』があるためか、時には無能力者の人間は落ちこぼれと揶揄されることもある。
酷い時には生徒を導くべき教師にすら馬鹿にされるようなこともあり、
そのような環境にいつまでも身を置いておけるような人間は少ないだろう。
そうして能力開発に絶望して学校を止めて行った者達の集団の事を『スキルアウト』と呼び、
先述した通り基本的にはグレて学校を止めて行っているなので、中々の荒くれ者の集団である。
浜面もまたスキルアウトの1人で、駒場利徳をリーダーとしているグループに属している。
駒場自身は女子供などの弱きものを虐げることを嫌っているからか、
このスキルアウトのグループは比較的優しい部類にあたるだろう。
それでもATM荒し等の窃盗行為でお縄にかかることもしばしばあるのだが。
そんな駒場の思想を受けて、浜面自身も弱い者いじめ等をする事は無い。
かといって上条当麻のように不良に絡まれているのを片っ端から助けるような熱血漢でもないのだが、
ある日、状況が違う現場に遭遇してしまった。
目の前にはお姉さん系からロリ系まで網羅した4人組がナンパされているのだが、
非常に嫌そうな顔をしており、ナンパをする側は明らかに不良っぽい感じの2人組で、しぶとく喰い下がっている。
人数としては4対2なのだが、女の子達が無能力者ならはっきり言って危ない。
普段ならスルーするところなのだが、相手は2人で何とかなりそうだし、
何だかボーっとしているジャージの娘など浜面的にはかなりストライクであった為に、
助太刀として助けようと動いたのだが。
354 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:40:40.49 ID:s41Jc9Bko
時は九月三十日。
「はぁまづらぁあぁぁぁ!!!!テメェドリンクバーごときに時間かけ過ぎだろーがああ!!」
ファミレスに響き渡る少女の声に、浜面は複数のグラスを持ったままビクッ!と肩を震わせ、
またある所ではそれに吃驚した店員と思しき長い銀髪の少女は片付けられる皿を床にぶちまけた。
(畜生ォォォ!!どうしてこうなった!?どうしてこうなった!?)
邪な心を持って人助けに及んだ結果が、これだ。
情けは人の為ならず、という言葉がある。
この言葉の意味は
「情けをかけ、恩を売っておけばいつか巡り巡って自分に帰って来るから人には親切にしておけ」
と言うものだが、まさに真逆の結果になってしまっている。
更に、そのナンパをしていた不良、確か横須賀とか言う男なのだが、
街中で会うたびにやたらと絡まれるようになってしまい、まさに泣きっ面に蜂状態。
この事から情けなどかけぬと心に誓った浜面なのだが、
助けた女の子4人組は高レベルの能力者だったらしく、
浜面の打算が入り混じった親切心は無駄も無駄だった。
華麗に助けに入って白馬の王子様計画は根本的に誤りで、女の子達は待っているだけのお姫様等ではなく。
普段の2割増し程イラついた口調なのは、
このファミレスに立ち寄る前に買おうとしていたシャケ弁が売り切れだったからだろうか、
今現在怒声を上げながらドリンクを催促した少女の名は、麦野静利。
とある暗部組織のリーダーを務めており、それに伴って実力も折り紙つき(レベル5)なものである。
浜面はそんな超能力者の前にのこのこと現れ、
眼に付けられてしまった為に暇さえあればこうしてパシリとして駆り出されているのだ。
そして、そのテーブルには他にも少女が3人。
355 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:42:22.32 ID:s41Jc9Bko
1人は絹旗最愛と言う名で、
座席の上で体育座りをしながら映画のパンフレットを流し読みしている。
その内容はB級もB級で、物凄い残念そうな顔をしているが
それはB級な事で残念な顔をしているのではなく、
更にその下があるにも関わらずB級と言う中途半端な出来に残念がっていて、
絹旗の本来の趣味はC級映画なのである。
続いてその隣でサバ缶をつついているのがフレンダ=セイヴェルン。
浜面とフレンダが自己紹介した際フレンダはファミリーネームは名乗らなかったのだが、
「なんかフレメアに似てんな」と言う発言に過剰反応した結果、実は姉妹である事が発覚。
後に感動(?)の再開を果たしたのだが、それはさておき。
最後に何処か虚空を見つめ、何を考えているのかはたまた何も考えていないのか、
表情から読み取れないその可愛い少女は滝壺理后。
どこか一点をジッと見つめ、その目に揺らぎは全く見られない。
何秒その状態が続くのか数えてみたいところだが、
こちらが根負けしそうな程にボーっとしていた。
「結局、浜面ごときに何か期待する事自体無駄ってわけよ。
見てよ麦野、このぬるっぬるのジュース。罰ゲームを提案したくなる位ぬるぬるだよ」
「そうね、ホントに使えないわね浜面は。満足にジュースの一つも入れられねえのかっての。
これなら初めてのおつかいに出たガキの方がまだいい仕事してんぞ」
「確かに、ミジンコ以下の仕事量しか出来ない超浜面です。
ですが私らの為に超奉仕活動をさせて下さいって言ってきてるのですから、
シェンムーの続編程度には期待してもいいんじゃないですか?」
356 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:45:35.39 ID:s41Jc9Bko
フルボッコだった。
余りの言われよう(と言うかパシリは浜面の願望ではなく、強制されたもの)に浜面は何も言えなくなった。
何となく目のやり場に困って、唯一何も言ってこない優しき少女の方を見やる。
「あーあ、優しいのは滝壺だけかあ。
文句あるなら自分で取ってきてくれよな、つーか何で俺ここに居るの?」
味方がいない、まさに四面楚歌の中で見た希望の星、何も文句を言わない優しい滝壺。
そんな滝壺に助け船を求めるべくパシリにされていることへの嘆きを呟くのだが、
「……ぐー、ぐー……」
「寝てる!?と言う事は俺の味方確定ではないのか!?」
味方か敵かと問われたら、中立だった。
浜面のぬるジュースを見ていない為どのようなリアクションを取るのかは、不明。
すなわち滝壺が起きるまでは、敵しかいない状況で、とどのつまり圧倒的危機だった。
「きっと滝壺さんも目を覚ましたらこのぬるい飲み物達を見て、
「流石の私も超応援できない」って言うに違いないです」
「いいやそんなことはない!!滝壺だけは俺の味方で居てくれるはず!
じゃないと不公平だ!ただでさえ男1人で肩身狭いというのに!」
絹旗が浜面を絶望の淵に追いやるべく悪魔の囁き攻撃をするが、
浜面はそれに負けじと反論する。と言うかただの希望的観測だった。
「逆だと思う。結局、中途半端に浜面の味方なんてしたら、
勘違いして付け上がるに違いない訳よ!」
「その幻想は初対面の時にぶち殺されてるので是非とも安心してほしいものだぜ」
「いや、ジュースもまともに運べねえ浜面だ。
きっと学習能力ゼロで滝壺と2人きりになったら、
滝壺がどんな目に会うか分かったもんじゃないって」
357 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:47:13.13 ID:s41Jc9Bko
フレンダはサバ缶を食べ終わると、手持無沙汰になったのか何とは無しにメニューを広げていた。
するとメニューの最初に、
「本日九月三十日から1週間は、魚フェアー!」
と言う見出しと共に様々な魚をメインにした品ぞろえが描かれている。
それを見たフレンダはいじける浜面をいじることを止め麦野にそれを見せながら、
「麦野!これ見てよ!鮭のムニエルが美味しそうって訳よ!」
それを見た麦野は先程までの鬼がマジギレ5秒前の様な表情から、
一気に可愛らしい少女が可愛い人形でも見つけたかのような表情に変貌を遂げた。
麦野は何も言わずフレンダに対しサムズアップしながら、
もう片方の手で店員呼び出しボタンを押す。
すると、先程麦野の叫びに吃驚した店員がムスッとしながらやって来た。
「……やっとドリンクバー以外に注文する気になったのかな?」
店員の文句は最もなもので、
彼女らはドリンクバーだけでワイワイと騒ぎながら持ちこんだ食べ物を食べていたのだ。
ドリンクバーのみ、と言う注文は良くあるのだが、更に食べ物を持ち込む人間はそうはいない。
更には先程の麦野の声のせいで皿を割ってしまったのだから、
彼女達に良い思いを抱くと言うのは無理だろう。
とはいえ、それをあからさまに不機嫌な口調で客に対して表すと言うのは、店員としてどうなのか。
「あー、ごめんなインデックス。こいつらホントに我が強い奴らでさ、俺じゃあ止める事はできねーらしい」
「大丈夫だよ、しあげ。私も最初から期待していなかったから」
358 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:48:44.33 ID:s41Jc9Bko
バッサリと斬られた浜面はその場に崩れ落ちた。
それを見た麦野は笑いながら鮭のムニエルを注文して、告げる。
「私らよりも付き合いの長いインデックスにすら見捨てられたら、終わりね」
実を言うと最近アイテムの面々+浜面は、
インデックスの働くいつものレストランに足繁く通っていた。
何故か一方通行達とは出くわす事が無かったのだが、ただの偶然だろう。
それはさておき、この店に来る度に基本的にはドリンクバーしか頼まずに過ごしていた為、
インデックスの事を顔見知りな浜面を通じてそれなりに仲良くなっていたのだ。
その為にあのような口調で文句を言っても、
客である麦野達は顔色を変えることなく話を続けられるので、
インデックスの接客が常にあのような辛辣なものと言う事では無いと追記しておく。
鮭のムニエルに、ライスのBセット(オニオンスープとサラダ)を注文したことで
インデックスはウキウキと伝票を刻む。
浜面はまだ立ち直れずorzの体勢を保っていたのだが、ふとその状態で顔をあげると。
視線の斜め左。
超ミニニットのワンピースを身にまといつつ体育座りをする絹旗の両足と、
太ももを覆うワンピースの先端部分が目についた。
359 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:49:34.11 ID:s41Jc9Bko
浜面は驚きのあまり、飛び上がる。
しかし浜面が崩れ落ちていた地点は、テーブルの端。
彼の頭の射線上にはテーブルがギリギリあった為に、
それに従って思い切りテーブルを下から突き上げる。
と言っても、ぬるぬるのドリンクは嫌々ながらも大体消化し終えていたので、
主な被害は無造作に置かれていた水の方にあった。
見事にグラスが飛び上がるものの何とか着地を決めたり、
中身の無いグラスが倒れるだけで事は終わるかと思われたのだが。
1つだけ、水の入ったグラスが目を開けて寝ていた滝壺に。
結果として、滝壺は水を思い切り浴びる羽目になった。
そして滝壺は、開いていた目の焦点を浜面の方へとゆっくり合わせて、
「……はまづら……どうしたの……?」
「……原因は確かに俺だけど、ろくに情報を集めもせずに、犯人を俺と断ずる。
成程、四面楚歌に変化はなし、か……」
よよよ、と再び崩れ落ちそうになる浜面を、麦野は煩わしそうな顔をして止める。
その手には、何やら長い文章が表示されている携帯電話が握られていた。
「浜面、アンタはもう帰れ。会計は私がしておくから」
「へ?」
浜面の言葉を待たずして、麦野は続ける。
「仕事が入った。こっからはR指定よ」
ぼんやりと浜面は、俺がアウトなら絹旗とかもアウトじゃないのか?とか場違いな事を思った。
360 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:50:30.92 ID:s41Jc9Bko
・・・
垣根提督は第三学区にある高級ホテルの一室で嘆息した。
この学区では外交等、外部からの客を多く招く。
その為警備員関係の施設や、ホテルのランクは学園都市の中でも最高で、
学園都市の最先端技術を紹介する国際展示場が数多く並んでいる。
外部からお偉いさんを呼び寄せたり研究の成果を示す展示会を行ったりする為に、
自然とセキュリティも学園都市内でもトップクラスの物であり、
垣根が所属する暗部組織『スクール』でも隠れ家を1つ置いていた。
その隠れ家とは、今現在垣根がこもっているホテルの一室の事なのだが、
彼はそこにあるキングサイズのベッドに寝転びながら携帯電話をいじっている。
同室に居たスクールの所属と思われるドレスの少女は、
何度も何度も携帯を見返す垣根に対して訝しげな表情を浮かべ、
「どうしたの?携帯ばっかりいじって溜息なんてついちゃって。恋煩い?」
「ちげえよ、馬鹿かお前」
「じゃあ何よ。さっきから何度も携帯見たり見なかったり。
好きな子からのメールを待ってる思春期の中高生にしか見えないんだけど」
「はっ。そんな楽しい青春を送って来たとでも思ってんのか?
めでたい頭してんなあ、おい」
361 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:52:06.97 ID:s41Jc9Bko
ドレスの少女の冗談を鼻で笑い受け流す垣根だが、
相変わらずカチカチと携帯をいじっている。
「それじゃあ何してるの?出会い系サイトで私の真似事とか?」
「金なんざ掃いて捨てる程あるっての。
お前みたいな意味不明なバイトはしねえよ。
探し物だよ、探し物。見つけにくいもんでな、
カバンの中も机の中も探したけど見つかんねー」
「へえ。
あなたが見つけられない程度のセキュリティに守られてるってことはよっぽどの物なのね」
意味不明、と言われて少しムッとするものの、
実際中々にずるい商売をしている為に、何も言い返さない。
しかし、探し物と聞いてドレスの少女の興味はそちらへと向かって行く。
「そうだな。昨日行われた展示会にも出てなかったからな。
やっぱ本当に重要な技術はコソコソと秘匿しやがる」
それでも、技術を十全に示さなくとも、
各国のそれより一回り二回りも上回っているそれに対して、垣根は忌々しげに吐き捨てた。
「『あの意味分かんねえ物体』はまだしも、
『ピンセット』の方は公開されてると踏んだんだけどな。
やっぱ本物はどっか別の場所に隠してるらしい」
二つのキーワードを受け取ったドレスの少女はピクリと眉を動かす。
「『未元物質(ダークマター)』を扱うあなたが「意味分かんねえ」って、よっぽどなのね」
「まあ、そうだな。つってもそんなもんがこの世に本当に存在するのか怪しいけどな。
だが、実際に存在しちまってるんだから仕方ねえ。『黄昏の羽』は、実際に存在しちまってるんだよ」
「黄昏の羽?」
362 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:53:20.68 ID:s41Jc9Bko
事もなげに言い放つ垣根に対して、ドレスの少女は首をかしげた。
「ああ、『黄昏の羽』だ。知ってるか?『絶対能力進化実験』って奴」
垣根はけらけらと無邪気な笑みを見せながら、
暗部の人間なら誰だって知っているだろう言葉について尋ねる。
それに対し、ドレスの少女は何を当たり前のことを聞いているのか、
と言った顔をするが垣根はそれを無視して言葉を続ける。
「あれ、一時凍結……つか事実上中止になってるってのがもっぱらの噂だけどよ。
……まだ終わってないっつったらどうする?」
「……それはまた随分な話ね。第一候補(メインプラン)がまた動き出したっていうの?」
ドレスの少女のきょとんとした顔に、
垣根は悪戯が成功した子供のように笑う。
どうやらそう言う訳ではないらしい。
「絶対能力者への道は、人の『心』にあるらしいぜ?
非科学も良いとこだよな、人類は心が何なのかすら理解できてねえってのによ」
「ふうん。よくわからないけど、それなら精神感応系の私もレベル6になれるのかしら?
心を操るってそう言う事じゃない?」
クスクスと笑いながら冗談を告げるドレスの少女に、垣根は更に笑った。
363 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:54:20.47 ID:s41Jc9Bko
「はっは、そりゃ傑作だな!レベル5の俺や『一方通行』を差し置いてお前が飛び級で昇進か!
んな事になったら脳みそ切り開いたり人体いじくったりして、
レベル5の研究を続けた科学者どもが馬鹿みてーだなオイ!!」
「……そこまで笑う事無いじゃない」
「ははっ、そりゃ悪かったな!何故かツボにハマっちまってよ。お前もあるだろ?
別に面白くないのにどうしてかわからねーが、笑っちまう事ってよ」
「何だか釈然としないけど、まあ良いわ……
それで、その『黄昏の羽』っていうのがレベル6に至る為のキーになるって事よね?」
ふてくされた顔をするものの、気を取り直したかのように話を本筋に戻した。
垣根はドレスの少女に対して首を縦に振りながら返答する。
「その辺はよくわかってねえけどな。
とりあえず何かしら関わってる事だけは分かってる」
「なーんだ。その程度しかわかってないってことは、
本当に実験が行われているかもわかってないんじゃないの?」
散々偉そうに話してた癖に、詳しい事はまだまったく分かっていないらしい。
ドレスの少女はつまらなそうな顔をして垣根に話を聞くが、やはりその通りらしい。
「……まぁ、そうだけどよ。それを調べる為に色々調べてんの!
携帯をいじくってんのはそう言う訳だ」
「だったら最初からそう言えば良いじゃない」
「うるせえ、そうやって人話して金取んのがお前の仕事だろうが。俺の話も聞け」
ドレスの少女のバイト、それは援助交際……もどき。
364 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:55:24.96 ID:s41Jc9Bko
実際に性行為を行う訳ではないのだが、
出会った男性と話をするだけでお金をもらう、実にボロい商売である。
仕事ばかりで人間関係を築けない、そんな悲しき男達の自尊心を満たす為の仕事で、
ドレスの少女の能力『心理定規』に恥じない、人の心を手玉に取るバイトをしていた。
「じゃあ、あなたからもお金取っていいの?」
「……リーダー権限で、無しだ」
そんな訳なので、ドレスの少女と話したと言う事でバイト代を請求するのだが、職権乱用攻撃をした。
大人げない垣根に対し、ドレスの少女はクスリと微笑みながら冗談交じりに皮肉を言う。
「お金は掃いて捨てる程ある、が聞いてあきれるわね」
「金は無駄に使わねえに限る。必要な時に必要なだけ使うもんだ」
「それを世間一般ではケチって言うのよ。
あなたがお金くれたら私だってバイトなんてしないのに」
「……何で俺がお前を養わなきゃならねえんだ」
「今ならもれなく私の手料理も付いてくるけど」
「んなもんあれだ、普通にそこらの飯屋で事足りる。
お前に金払う位ならレストランに払うわ」
「ゴチになりまーす」
「誰が奢るっつったよ」
「やっぱりケチじゃない。たまにはいいでしょ?」
「……仕方ねえな。だが場所は俺が決めるぞ」
垣根は少し不機嫌そうに腰を上げ、
それと同時にドレスの少女は少し嬉しそうな表情を浮かべ腰を上げる。
しかし、その瞬間。
垣根の携帯が鳴り響いた。
「……仕事だ。いつもの隠れ家に行くぞ」
垣根は普段は仕事が入ると不機嫌な顔になるのだが、
この時だけは少し嬉しそうな顔をし、それと同時にドレスの少女は少し不機嫌そうな顔になった。
365 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/22(月) 18:56:11.73 ID:s41Jc9Bko
尾張。
何か登場人物増えてきたなー(他人事)
366 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/22(月) 21:47:40.46 ID:YdpxPbfCo
はまづらさんはいつもどおりのポジションに落ち着きつつ
ていとくんカッケー。何となく爆発しろ。乙!
367 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/23(火) 02:16:01.21 ID:jSwqvqCK0
>>1
乙
インデックスが働いてるファミレスがあるなら毎日行くな
368 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/23(火) 21:25:14.11 ID:q4Ps9bP80
お、俺も行く。
369 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/24(水) 17:10:11.17 ID:VIc86ugYo
透過するわァ
370 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/24(水) 17:12:14.50 ID:VIc86ugYo
よくよく考えたら、木山春生の入院先は知っているが、
退院した後の居場所までは知らない。
初春飾利は佐天涙子と共に木山の元に行こうとしたのだが、
居場所が分からないのなら意味が無い。
またしても出鼻を挫かれた初春は、今日は白井黒子に仕事を押し付けていたのだが
結局その仕事を消化しながら色々調べようと決め、第177支部へと向かった。
「何にせよ情報を集めないといけません!」
1人息巻く初春に対して、佐天はイマイチ乗り気ではない。
「ねーういはるー、本当にその話は本当なの?」
初春や佐天が通っている柵川中学の中に第177支部があるので移動は非常に楽だ。
最新鋭のセキュリティによる声紋、指紋、指先の静脈と振動のパターンのチェックによって
本人確認が行われている中で、佐天は気だるげな表情で初春に尋ねた。
たまにあるのだ。
初春が勘違いで暴走した揚句周りを巻き込んで何かをやらかす、と言う事が。
もちろん勘違い率100%と言う訳ではないのだが、
それでも結構な確率で勘違いしているので、
佐天の目の前で爛々と決意の目を輝かせている初春の事を疑うのは自明の事である。
しかし、突き詰めるとそれは初春の正義感やら善意やらで行われている為に、誰も文句は言えない。
そんな訳でセキュリティに認証された事で、
扉を開ける事が出来るようになった為、それを開けながら初春は言う。
「『今回』は、間違いありません!!」
(だからそれ前にも聞いたから、今改めて聞いてるんだけどなー)
フン、と胸を張る初春。
その奥で書類の山を死んだ眼で消化する白井。
白井の隣では悠々と武蔵野牛乳を飲んでいる皆の巨乳先輩。
何だかいつもの光景だなーと、佐天は初春の話を気楽に受け止めていた。
371 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/24(水) 17:18:47.42 ID:VIc86ugYo
・・・
何と言うか、普通にデートだった。
学友達の追撃から辛くも逃げ切った上条は、
予定通り待ち合わせの場所へとたどり着き、
罰ゲームを甘受するつもりだったのだが。
まずは何やらいちゃつ
くカップルの多いカフェで昼食をとり、
続いて御坂美琴が機種変をしたいと言
うのでそれに着いて行ったらゲコ太が何
とかと言いながら2ショットの写真を撮って
みたり、それが終わったらラウンドファイナ
ルにてパンチングマシーンの記録をそげぶ
で更新したところ、前最高記録は御坂が樹
立したものらしく、それを越えるまでマシン
を殴り続けたり、UFOキャッチャーにてゲコ
太再びでもの欲しそうに見ているのに上条
が気付いたのでそれを取ろうとしたところ、
何と一発でゲットすると言う快挙を成し遂げ
それを御坂にプレゼント。御坂はあわあわ言
いながら顔を真っ赤にさせてそれを受け取り
最後にプリクラをまたもや2ショットで撮って
(何やら笑顔を強要する機械だった)ラウン
ドファイナルを後にした。そうして向かった
先はカラオケで、ここ最近トレーニングや
ら魔術師やらマヨナカテレビやらでろくに
遊べなかったのだろう、思いの丈をぶち
まけるべく上条はシャウトし、それに負
けじと御坂も高らかに歌った。最終的
に採点で得点の高い方が罰ゲーム
と言う、何だか当初の目的を逸脱
しているのではないかと言う遊
びに発展し、それが終わると
次は歌う前にあらかじめ自
分が予想した得点と歌っ
た後の採点を一致させ
ると言う遊び(勿論負
けた方は罰ゲーム)
に昇華していった。
何と言うか、リア充はしねば良いと思う。
ちなみに上の文は読まなくていいです。
372 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/24(水) 17:19:42.85 ID:VIc86ugYo
そして時は現在。
「なあ……ちょっといいか?」
「ん?何?」
声が枯れそうになる程歌ったので、
2人は休憩がてら個室のソファーに座りこんでいる。
2人はテーブルをまたいで向かい合うように座っており、
何やら上条が黙りこんでいるので御坂も話題は無いものかとあれこれ考えながら口をつぐんでいた。
そんな中、上条は真剣な顔つきで意を決したように口を開くので
御坂はちょっとだけドキドキしながら上条の言葉を待つ。
「実は……」
「じ、じつは……?」
溜める。
「実はだな……」
「実は……?」
溜める。
「……御坂!」
「ひゃ、ひゃい!!」
「……実はインデックスに、ペルソナの事がバレた」
373 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/24(水) 17:21:29.18 ID:VIc86ugYo
「な、なによ期待させちゃって……ってバレた!?」
思っていた内容と違う言葉が飛んで来たのだが、
その言葉は御坂を驚愕させるに値する内容だった。
一体何があったのか、話を聞くべくソファーへと再び座る。
BGMは御坂が話題が思い浮かばずに、何となく送信した曲の「私京都さ行ぐだ(銅剣ver.)」。
これは大阪にある芸能人プロダクション「歳本興業」所属の芸人達が、
カラオケの映像をプロデュースしようというもので、としもと芸人である銅剣
(紙芝居をネタにしている芸人)がカラオケの映像を紙芝居にしていると話題になっていた為に、
御坂も普段歌うはずの無い歌を何となく機械に送信してしまった。
それ故に、上条が真剣に事情を話す(魔術の事は避けて)中、
その背景でガイドだけあってハイレベルなガイドボーカルがかなり珍妙なテンションで歌いあげている。
その内容としては歴史大好きな女の子が田舎のくせに
歴史を感じさせない地元に絶望し、独り立ちして京都に行き寺巡りをするんだ、
と言うものでオチとしてはでもやっぱり地元が良いというちょっとネタに走った臭い歌詞を感じさせるものだった。
普通にBGMだけで良いのに何故ガイドボーカル付きを選んだのか。
ガイドボーカルなので歌い手の邪魔をしない程度の音声なのだが、
誰も歌ってないので囁くように耳に入って来る。お陰で上条の話をろく聞けなかった。
「……ってな感じなんだけどさ、御坂。お前どう思う?」
全く聴いていなかった、とは言えない。
こんな真剣な顔をしている人間の話を一言たりとも聞いていない。
そんな不真面目な人間だと思われるのは嫌だ。
御坂はレベル5としての学園都市最高峰に位置する頭脳を駆使した結果、
「まぁ……あんた馬鹿なんだから、突っ走るしかないんじゃないの?
今までだってそうして来たじゃない」
良くわからない事を言って有耶無耶にする道を選んだ。
しかし、上条は真面目な顔をして御坂の言葉にうんうんと唸っていた。
御坂はヤバい、間違えたか!?とか思うものの、上条は何やら感じ入っている様子だ。
「そっか……やっぱ考え過ぎても駄目か……そうだよな、ありがとな!御坂!!」
御坂は思わずずっこけた。
そう言えばそう言う奴だった、といちいち怒ることも億劫になる程に、思わせぶりな男。
「へ?」
「何か人に相談したらすっきりしたな!それじゃ、上条さんはまた歌うとしますか!!
って何だこれ?私京都行く?わはは、私京都さ行くだー!!」
「……」
何と言うか、結果オーライだった。
374 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/24(水) 17:23:29.72 ID:VIc86ugYo
・・・
無造作にダンボールの中にお菓子を詰め込む作業を終えた一方通行達は、
とりあえずテレビの中に入って話をする事にした。
とはいえ、ここ最近はテレビに放り込まれる人間が居ないので、情報は集まらない。
天井亜雄の影も、いつか行ったホテルへと赴いたのだが、文字通り影も形も無く。
代わりと言わんばかりにいつの間にか直っていたエレベーターから、
全身墨汁で塗りたくったように真っ黒な身体で
頭に青い花を咲かせた巨大な赤ん坊のようなシャドウが出てきた。
しかし、一方通行はまだ病み上がりで下手に動くと
傷口が開く恐れがあるので遠距離からの支援にあたる。
そうして一方通行の傷を悪化させること無く撃退する事に成功したのだが、
その巨体から繰り出される「暴れまくり」や「デスバウンド」はかなり強力な物理攻撃で苦戦を強いられた。
ちなみにこのシャドウは『刹那の児』と言って氷が弱点だったのだが、
上条当麻がこの場に居なかったのであそこまで苦労したと言うのは何とも運の無い話である。
結局、いつも通りテレビの中でペルソナを鍛えるだけに終わった一同は、
今日のところは解散しようと言う結論に落ち着き、一方通行と9982号はボロアパートを後にしたのだった。
辺りはもう夕方で、私服姿の学生達も最終下校時間を過ぎるなあと言った感じで家に帰り始めている。
そんな中で一方通行と9982号は、
「外食にする?コンビニ弁当にする?それともミサカにする?」
「全部却下だ、打ち止めと芳川を回収しに行くぞォ」
ろくな選択肢が無い。
などと言ったら9982号は怒るだろうか、
一方通行は軽く9982号の言葉をスルーして歩きだした。
「まさか……!」
しかし、9982号は何かイケナイことを知ってしまったかのような顔をしている。
思わず一方通行は立ち止り、
「なンだよ」
「いえ、大丈夫です。動揺は少ないです。
一方通行のストライクゾーンは変則ストライクゾーンだったのですね?
と、ミサカは今までミサカに迫って来なかった事に対しての理解が及んだことを一方通行に伝えます」
375 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/24(水) 17:24:30.31 ID:VIc86ugYo
「……はァ?」
「だってそうでしょう、年頃の乙女がこんなに近くに居ると言うのに、
一方通行はミサカを無視して幼女と年増の元に行くと言うのですから」
「……」
「何も言わない、と言う事は図星なんですね?
ストライクゾーンは真ん中ではなく、本来はボールのはずの所を
ドーナツ状に囲んだところがストライクなんですよね?
と、ミサカは一方通行がどんな趣味をしていても大丈夫ですと女神の様な微笑みを浮かべます」
「……」
一方通行は何も言わない。と言うか、9982号の背後を見ていた。
そこには、
「年増、年増年増、とりま年増……」
何やら負のオーラを発散させながらブツブツと念仏を唱えるかのように年増と連呼している芳川桔梗が。
その後ろでは状況を飲み込めずポカンとしている打ち止めがいるが、
9982号にとって今はそちらはどうでもいい。
「あ、あの……芳川、さん?」
思わずさん付けで9982号は尋ねるが、芳川の耳には入っていないようだった。
「成程……成程ね……命を散らす場所はここで良い、と言うことね?
大丈夫、毎年この日この場所に花束を添えてあげるから」
「ちょっと待っ―――」
9982号の弁明を待たずして、芳川は動き出した。
研究者のくせにいつそんなに鍛えたのかと言う程の俊敏な動きで9982号へと急襲し、
9982号は意識的ではなく反射的にバックステップをして何とか避ける事が出来た。
しかしあの場に居たらもれなく潰されていたに違いない。
それを感じさせるほどの威圧を芳川は放っており、思わず冷や汗が頬を伝う。
そして、9982号の汗が、顎から地面に零れ落ちた瞬間。
「ッ〜〜!!」
2人は声も無く駆けだした。
しかし、駆ける方向は、2人とも同じ方向。
それはすなわち、9982号の逃走と、芳川の追跡の開始だった。
そうして取り残された打ち止めと一方通行は、
「ねえねえ、お腹すいた!ってミサカはミサカは甘えてみたり!」
「……そォだな、ファミレスでも行くかァ」
何事も無かったかのように晩御飯を食べる事に決める。
空を彩っていた夕焼けは、徐々に雲による陰りを増し、
地上を染めていたオレンジは徐々に灰色と化して来ていた。
雨が、降りそうだ。
376 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/24(水) 17:26:20.72 ID:VIc86ugYo
・・・
夕陽を雨雲が覆ったまま、太陽は沈んで行ったのだろう。
雨がポツポツと降る中で、辺り一面は暗闇に染まっていた。
とはいえ、ここは科学の街。
道を照らす為の街灯を設置するなど当たり前の事で、学園都市の中は人工の光で満ちていた。
ただ、基本的には学生しかおらず、夜になって出歩く人間は
そのまま夜遊びするんだぜと言ったごくごく少数派の人々しかいない為、
道がわかる程度の照明しか学園都市には設置されていない。
更には最終下校時間を過ぎると最後、バスや電車などの公共の乗り物は完全にストップする為、
それを過ぎて帰れなくなると言うのは下校時間を過ぎた一種の罰と言って差し支えないと言えよう。
そんな中を、一方通行と打ち止めは歩いて帰っている。
芳川桔梗と9982号に関しては、知らない。
そのうち帰って来るだろと言う事で放っておくことにした。
晩御飯をいつものファミレスで食べインデックスの働きぶりを見た後に、
丁度上がりの時間だったインデックスを家まで送り届けた帰りが今現在の一方通行達の状態である。
しかしまだ上条当麻は家に帰っていないらしく、
インデックスはプリプリと怒りながら帰る道中で買った食材を持って部屋へと帰って行った。
流石完全記憶能力の持ち主だけあって、教わった事は確実に覚えるようで
ダイソンの掃除機のごとく店員達から教わったことを吸引していった。
しかしそれはあくまでも記憶の話で、家事スキル自体は実践して身につけるしかないので
こうして部屋でも料理の練習をしていると言う訳だ。
そう言う訳なので少し部屋に上がって料理の味見をしていかないかとインデックスに誘われたのだが、
さっき飯食ったばっかだし雨が強まっても面倒だと言う事で断った。
しかし誘ってもらった手前それではインデックスがかわいそうなので、
今度味見しに来ると約束をしてから帰ったのだが。
377 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/24(水) 17:27:40.89 ID:VIc86ugYo
「あの子の料理って上手になったのかな?ってミサカはミサカはあの時の事を思い出しながら尋ねてみたり!」
あの時の事。それは一方通行が入院を始めて1週間程度した時の事だろうか。
いつものファミレスでバイトを始めたインデックスが、
初めての料理そのいち「お粥」を一方通行の元へと持って来たのだ。
それは病院食のように単純に水で煮込んだもので、
それだけでは味気ないので塩と梅干で味付けをされたものなのだが、
煮詰める時間が短かったのだろうか、米は中まで水がしみ切っておらず、
だというのに米の外側は焦げており、さらにはもってきた塩は砂糖と間違えるベタなミスを犯して、
結局美味しかったのは市販されていたと思われる梅干だけ、と言う惨状を三乗した状態だった。
その時の事を考えれば打ち止めの疑問も頷けるものだろう。
「まァ……それなりに必死こいて働いてたみてェだし、大丈夫じゃねェの?」
よっぽどでない限りは、普通に食べられるものが作れるはずだ。
別に凄腕料理人と呼ばれるようなレベルの料理は求めていないのだから。
「じゃあ今度皆でカレーパーティとかしたいね!
ってミサカはミサカはチキンカレーを所望してみたり!」
「なンでカレーなンだよ、そォいうのって鍋とかじゃねェのか?」
「んー、それじゃあ余りに普通すぎるかなって思って!
ってミサカはミサカは実はただカレーが食べたいと言うだけの事をそれっぽくごまかしてみたり!」
「……お前のその本心駄々漏れな語尾は何とかならねェのかよ」
「でもこれがないとキャラが……」
「ガキがキャラとか気にしてンじゃねェよ!
何処ぞのアイドルみてェなこと言ってンなよ!!」
思わず盛大に突っ込みを入れてしまうが、打ち止めは楽しそうに笑うと駆けだした。
しかしそれも束の間で、地面には何も無いのに足を捻って思い切り転んでしまう。
雨はそこまで強くないものの、降り始めから時間がたっていた為に
かなり湿っていたので打ち止めもそれに伴いすりむいた膝周辺に泥が付いて汚れてしまった。
しかし、打ち止めは服に付いた汚れ以上に出来た傷口を見て痛そうな顔をしてしゃがみ込む。
「……馬鹿が馬鹿みてェに走るからそォなるンだよ」
「うう……痛いってミサカはミサカは出血多量で危険が危ない……」
「……チッ、お前そこのバス停でおとなしく待ってろォ」
一方通行はそれだけ告げると、打ち止めの言葉を待たずして足早に少し先に見える薬局へと目指して行った。
378 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/24(水) 17:28:59.06 ID:VIc86ugYo
・・・
絆創膏を買った。
足を捻っていたので念のために湿布も買った。
ついでにこれからそんなことがあっても良いように絆創膏は多めに買った。
一言で言えば、過保護だった。
それらを入れた袋をぶら下げて、
一方通行は打ち止めを待たせているバス停まで戻っていく。
打ち止めを連れて行っても良かったのだが、
足が痛くて動けないとかのたまうに違いないと判断し、さっさと応急処置をして帰る道を選んだのだ。
バス停まではおよそ200m。殆ど目と鼻の先と言っても良いだろう。
しかし、雨脚が強くなり始めた上に、夜の暗闇に余り多くない街灯。
これらが相まって打ち止めの姿までは確認できなかった。
ここまで雨が強くなると、打ち止めを抱えて飛んで行った方が良いと判断した一方通行は、
バス停まで能力で移動しようとしたのだが、瞬間。
「ッ」
ドガッ!!と、何かがひしゃげた音が背後から聞こえた。
何だと思って振り返るとそこには、「元」を付けた方が良い位グシャグシャになった黒塗りのワンボックスカーが
電柱にぶつかったかのように潰れて止まっている。
一方通行の歩いていた場所は、歩道と車道をガードレールで仕切られた、歩道側の道。
車道には誰も居ないのに、吸い込まれるように一方通行へと突っ込んできたのだ。
更にはこの暗闇の中、ライトも付けずに走ってきていた。
まるで誰にも見られたくないと言わんばかりに。
一目見てわかった。
379 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/24(水) 17:30:03.85 ID:VIc86ugYo
「狙いは俺か……面倒くせェな」
個人的に恨みがあるのかはたまた組織として恨みがあるのか、或いは。
「まァ、知ってる事聞けばそれでイイか」
面倒くさそうに溜息をつくと、一方通行は自身の反射によって潰れたボンネットの上に乗ると、
そのままヒビの入っているフロントガラスに右腕を突き入れ、剥がした。
そこには黒づくめのまるで特殊部隊の一員とも見受けられる男が武装して呻いていた。
どうみても事故で突っ込んできたとは言い難い。
「とりあえず、何も知らねェクソからの指令か、何か知ってるクソからの指令か。
『じっくりと』話を聞かせてもらうぜェ?鍛えられたクソか貧弱なクソか、
どっちでもいいが、早めに吐いた方が楽になれるとだけ言っておく」
一方通行はニヤリと笑った。
運転席に座る男からしたら、それは死刑宣告をしに来た死神にでも見えた事だろう。
ここ最近、と言うかペルソナと言うものを入手してからそうなのだが、
余り人間に対して能力を振るう事は無かった。
それが一種の成長なのかそれとも衰退なのか、
一方通行には分からなかったが、とにかくこうして人間に「直接」能力を使うのは久しぶりだ。
「なァ?誰に言われてここに来たンだ?今ならもれなく1/3殺しで許してやる。
病院で適切な治療を受けりゃあ後遺症も残らねェだろォよ。お買い得だけど、どォする?」
バキリ、と一方通行はあっけなくその男の右腕をへし折る。
自分の腕がポッキリとあり得ない方向に曲がったのを見て、
そしてその瞬間全身を駆け巡った痛みに対して、男は悲鳴を上げる。
しかし、一方通行はただただそれを煩わしそうに見つめると、再び能力を行使した。
すると男が感じていた痛みが一瞬にしてシャットアウトされ、
訳のわからないと言った顔をする男に対して、一方通行は告げる。
380 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/24(水) 17:31:26.06 ID:VIc86ugYo
「安心しろよ、痛覚は完全に遮断してやってるから。
だから爪とか剥いでも問題ねェよなァ?」
1つ間を置いて、一方通行はつまらなそうに吐き捨てた。
「『俺が能力を使ってる間は』痛くねェもンな?」
能力を使っている間、と言う事は傷つけられた分だけ、
後からそれの痛みが一緒くたに襲ってくる。
それを想像しただけで男の顔からは生気がみるみると失われて行った。
「あのさァ、さっさと吐けって言ってるのがわかんねェ?」
一本目に一方通行の手が伸びた所で、男が許しを乞い始めた。
勢いそのままにある事無い事しゃべるだろうと思っていたのだが、
それよりも早く一方通行達の周囲を似たような黒塗りのワンボックスカーが3台ほどで囲んだ。
「ったく、わざわざご苦労なこったな」
一方通行は愚痴をつくと、3台の車の動向を探るべく、ジッとそれらを見つめる。
すると中からヒトではなく、長い銃口だけが顔を出し、一方通行を狙っていた。
それを見た一方通行は男の首根っこを掴むと同時に自身が乗っているボンネットを踏み抜き宙へと舞う。
一方通行が足で思い切り踏みつけた事をきっかけに、
最早限界に達していたのだろう、ワンボックスカーは爆発してその役目を閉じた。
「思わず助けちまったが……こンなクソったれ助けるとかヤキが回っちまったかァ?」
地に降りたった一方通行は、男の首を掴んだまま、
それを未だ銃口しか見せてないワンボックスカーの元まで転がす。
すると続々と3台の車の中から兵隊達が現れその部隊のリーダーと思しき男が、
地面で呻く男の前まで歩いて行くと、止めを刺した。
「だーから言ったじゃねえかよお」
事もなげに人間を撃ち殺した刺青を入れた研究者風の男は、
ゆったりと一方通行の方へと振り向いた。
381 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/24(水) 17:32:19.23 ID:VIc86ugYo
「あのガキ潰すのに車1台なんて甘っちょろいことしてんじゃねえよ。
だから言っただろ?俺が出るってよぉ」
「ンだよ、木原くンかよ。思わせぶりな登場しておいて、今更何の用だァ?
つゥかそこに転がってるクソ共だって限りあるだろーって思って助けてやったのによォ。
俺の善意を踏みにじりやがって、返せよ俺の善意」
木原数多。
かつて一方通行の能力開発にも携わった事のある研究者で、
今は『猟犬部隊』を率いている部隊長でもある。
そんな男が、こんな所で、そして自分に何の用なのか。
木原は手に付けたグローブをいじりながら、一方通行の発言に対して笑った。
「ハッ!使えねえ奴が残ってる方がこっちとしては迷惑なんだよ。
いわばゴミ処理みてえなもんだなぁ。ま、お前もその中の1人なんだと。
だから悪ぃーんだけど、ここで潰されてくんねーか?」
「あァ?何言ってンだお前?俺の能力研究に匙投げてどっか行った人間とは思えねェ発言だなァ?
どっちが上でどっちが下か、そこンとこわかってますゥ?
まずは上下関係はっきりさせるべくゆっくり話し合うべきだと思いませンかァ?」
「あっはっは、イイ提案だなそりゃ。あんまり素晴らしい提案なんかしてくれんなよなあ?
思わず、殺したくなっちまうから。昔からお前はむかつくガキだったよなぁ?
いやあ失敗失敗。あの時さっさと処分しちまえば、
こんな憎たらしいガキが世間様にご迷惑をかける事も無かったのになぁ」
木原は、両手を広げまるで恋人に向かって抱擁をしに行くような体勢で、無謀にも悠然と近づいてくる。
そして一方通行の元まで残り5m程になったところで、笑みを消して言い放った。
「……つーわけで、[
ピーーー
]わクソガキ」
382 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/24(水) 17:33:43.19 ID:VIc86ugYo
瞬間、5mと言う距離を0に縮め、まるで上条当麻のように愚直な真っすぐを放ってきた。
先程も述べたが、木原数多は研究者だ。
それもただの研究者ではなく、超が付く程優秀で、
それこそ一方通行の能力開発を担当する程に。
木原もまた他の研究者と同様に、開発に携わったのは短い期間で、
その時色々あったのだがそれはさておき。
一方通行は瞬間的に考えた。
自身の能力を深く知っているであろう研究者が、何故ここまで無策なのか。
いや、それはあくまで一方通行から見て無策に見えただけであって。
―――木原数多は策があるからこそ、向かってきたに違いない。
そう判断してからの行動は早かった。
回避する事もできただろうが、相手の策を見る為に、直接攻撃を受ける。
そんな訳で一方通行は両手を十字に交差させると、木原の右ストレートを受け止めた。
その衝撃によって少し仰け反ってしまったのだが、やはり正解(ビンゴ)のようだ。
一方通行に考える暇を与えさせないかのように、木原は更に拳を振るう。
対して、一方通行は混乱する思考を一端打ち消し、その全てを受け流す事に集中した。
とはいえ、黄泉川愛穂にも「まだまだトレーニング不足」と言われるだけあり、
肉弾戦を得意とする人間相手に格闘で挑む気にはならない。
数合ほど打ち合ったところで隙を見つけ大きく後ろへとジャンプした。
木原は口笛を吹いて一方通行の判断をほめたたえるが、一方通行の耳には入っていないようだ。
何故、反射を貫いたのか。
思考はそれだけに集中していた。
383 :
saga忘れとか不覚過ぎワロタ
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/24(水) 17:36:22.46 ID:VIc86ugYo
「へぇ……あの時の馬鹿っぷりからちったぁ成長したみてぇだなぁ。
てっきり能力に頼ってノーガードで鼻血ぶちまけるかと思ったんだけどよォ」
一方通行の腕を捉えた右手をプラプラさせながら、
木原は見下したような声で言い放つ。
対して、一方通行はその言葉を無視して、考えていた。
(反射を貫くのは構わねェ。魔術だってあるンだ、『こっち側』にだってそンな奴が居ても不思議じゃねェ)
例えば、『幻想殺し』。
例えば、風斬氷華。
そういえば風斬とはあれから会わないなとか、戦闘中にもかかわらず木原の攻撃についてから、
思考が徐々にズレて行く中で、木原は子供の成長を喜ぶ親のように、楽しそうに歪んだ笑みを作る。
「まぁ、なんだ。お前の成長を見てる暇はこっちにはねぇんだわ。
『アレ』はこっちで回収しとくから、テメェはここで潰れて掃除ロボにでも回収されてくれや」
アレ、と聞いた瞬間、一方通行の思考は熱を帯びた。
この場で言うアレとは、ほぼ間違いなく、
しかし、木原は再び動き出し、一方通行の思考時間を奪いにかかる。
そんな木原の攻撃を再び後ろに跳ぶ事で避けると、一方通行は両手を空へと掲げた。
「ハッ!お前のボクシングごっこにつき合うつもりは毛頭ねェンだよォ!!」
ズタズタになれ、と一方通行は笑い飛ばすと、風も飛ばした。
彼の能力、ベクトル操作を以ってすれば大気の制御、
すなわち局地的な暴風を巻き起こす事すら可能。
風速120mにも及ぶ暴風は、最早自動車や家屋の屋根を吹き飛ばすほどの威力で、
木原率いる猟犬部隊へと向かって行った。
しかし、その風が木原達を吹き飛ばす事は、無い。
一方通行は、暴風を放った瞬間に、何かピーッ、と甲高い音を聞いた。
その音が鳴り響いた途端に、集められた風が霧散して行ったのだ。
成程、策は反射以外の分も用意しているのか。
一方通行は制御の離れた風を仰ぐと、先程爆発した車の破片を無造作に投げ飛ばした。
勿論狙いは木原なのだが、唐突に横やりから風が吹きつけ、破片はあらぬ方向へと飛んで行く。
どうやら、あちらも何かしら機材を使って風を操っているらしい。
と言ってもその破片は木原に当たらなくとも後ろに控えている車に命中し、中で誰かが呻く声も聞こえたのだが。
384 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/24(水) 17:37:42.64 ID:VIc86ugYo
「なンつーか、俺ごときを潰す為にわざわざごくろーさまな事で」
「お、分かってくれんのかよ!!嬉しいねえ、前言撤回だ。ムカつくクソガキからクソガキに昇進だな!
つか、クソガキの癖に妙に謙虚じゃねぇか!本当にお前はあの一方通行なのかよ!?」
後ろで破片による一撃を受けた部下がいると言うのに、
相変わらず馬鹿みたいに高笑いをしている。
別に一方通行自身、あの場で武装している男達は何かやらかして
暗部に堕ちてきているのだから、それを殺める事自体はどうも思わない。
とりあえず、不快だった。
何となくあの姿が昔の自分のように思えて。
人を殺すことを、何とも思わない自分だった頃に思えて。
しかし、その考えはすぐに消え去る。
何せそれが事実なのだから。自分はただの人殺しなのだから。
木原と同類と言われて当然だろう。
ならこの不快感は、同族嫌悪とかそのように表現すべきだ。
なんて、またしてもどうでもいい事に思考を重ねているうちに、再び木原が接近してきた。
385 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/24(水) 17:39:00.13 ID:VIc86ugYo
「なぁ?俺がどのくらいテメェの反射を貫けると思う?」
言った直後、手からパチンコ玉のような球体を投げ飛ばした。
それを見た一方通行は、木原の拳のように受け止めるのではなく、
完全に回避する形でしゃがみこむ。
木原は避けることを念頭に置いていたらしく、更に接近して前蹴りを放った。
高さにして丁度一方通行の顔に当たる高さで、
喰らったらマズいと一方通行も両手で頭をガードする。
しかし、衝撃自体は守れないのでそれを受け止めるとゴロゴロと地を転がった。
「おいおい、そんな必死こいて避けなくてもよ、別に身体に害のあるもんじゃねえよ?
つか、お前の場合そんな物質は勝手に反射してくれんだろぉが」
一方通行は地面を転がりながらもすぐさま体勢を立て直すが、
木原はその隙を突いて更に先程と同様のパチンコ玉の様なものを
今度は避けきれない程の数投げ込んできた。
今度は避けられないと判断して、能力によってその全てを破壊する。
しかし、その玉は。
「!?ンだ、こりゃ……!」
所謂、煙幕。
しかし先述した通り、その煙幕に毒を仕込んでいたとしても
反射をすりぬける事は出来ないので、純粋に煙幕だ。
とはいえ、一方通行の思考は数瞬の間、止まる。
それが大きな隙だと、一方通行自身も理解できる程に。
386 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/24(水) 17:39:55.49 ID:VIc86ugYo
「ガッ!!」
やはりその隙を突かない馬鹿は居ないと言う事だろう。
ようやく木原は一方通行に対してクリーンヒットを入れられたようで、
満足そうに両手の指をバキバキと鳴らした。
「たくよぉ、まさかこんな小道具まで使わされるとはなあ……
嬉しいねえ、やっぱクソガキは学園都市一位だけあってそこそこ強えクソガキだわ」
心底嬉しそうに、楽しそうにする木原だが、
一方通行は殴られた後地面に伏したまま、立ちあがる気配を見せない。
普段黄泉川によって鍛えられているのだから、
1発2発良いのをもらったところで気絶等ありえないのだが。
しかし、それは『本調子』の時だけの話で。
「ォ……ァ……」
倒れ伏した一方通行の周りには、濁々と血が流れていた。
雨によって薄らいでいくはずなのに、その血はますます濃さを増しているように感じられる。
開いた傷口は、大きかった。
「おいおい、俺のパンチは人を切り裂いちまうのかぁ?
いやあ怖い怖い、ボクサー目指すとこだったけどやっぱ無理だな、
このままじゃ人殺しになっちまうわ」
一方通行が入院していて、何処に傷を受けたのか分かっていたのだろう。
木原は寒がるように両肩を抱き、わざとらしく言い放った。
しかし一方通行からしたらそれどころでは無い。
すぐさま止血を施したが、これによってかた手がふさがれてしまっている。
387 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/24(水) 17:41:16.43 ID:VIc86ugYo
原理はわからないが、反射を貫く攻撃。
これを何とかしなければこの場を乗り切る事は出来ないだろう。
あの金髪巨乳魔術師は言葉だけで退いてくれたが、こちらはそうもいかない。
何せ金髪と違い、木原の狙いは打ち止めにあるのだから。
一方通行の考えを裏付けるかのように、一同からおよそ100m程離れたところから、
武装した男2人が1人の少女を連れて現れた。
どうやら気絶させられているようで、
2人が両肘を握ってやらなければその場に崩れ落ちてしまっているだろう。
思わず一方通行は、倒れ伏したまま叫ぶ。
「打ち止めァァァァァ!!!」
「いちいちうるせーぞクソガキ、ご近所さんの迷惑を考えやがれ」
そんな一方通行をあざ笑うかのように、木原は軽く一方通行を蹴り飛ばした。
それだけで一方通行の軽い身体は地面を転がり、再び地面に這いつくばらせる。
木原はそんな一方通行に興味を失ったのか打ち止めの方を見やると、
部下の報告を受け、一方通行に向けたのか、はたまた打ち止めを連れてきた部下に向けたのか。
ともかく勝ち誇ったように言う。
「回収完了ってとこだな。本命は生け捕りって話だが、アレは大丈夫なのかよ?
あぁ?気絶させただけってお前どんだけ痛めつけりゃあんな生傷できんだよ。
まあ生きてるってんならなんでもいいや、とにかく始末書は御免だからな?アレが死んだらお前も死ねよ?」
(……ふざけンじゃねェぞ)
小さく、呟いた。
388 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/24(水) 17:42:28.04 ID:VIc86ugYo
恐らくは生きているだろう。あの口ぶりからして、
一方通行を絶望に追いやる為の嫌がらせだけに打ち止めを殺すとは思えない。
しかし、利用する事は火を見るより明らかで。
そうしている間にも打ち止めは一方通行達の元へと近づいてくる。
と言っても近づいているのはワンボックスカーに向かってなのだが。
このまま連れ去られたら、文字通り終わりだ。
打ち止めはクソ共に散々使われた揚句、ボロ雑巾のように捨てられるだろうし、
一方通行はそもそもこの場で朽ち果てるだろう。
(やら、せる、か)
まずは隙を作りだす。
「打ち止めァアァァアァァ!!!」
ピクリと、少女は小さく肩を揺らした。
一方通行は思い切り両手を叩きつけると、辺り一面にアスファルトの欠片が舞い上がる。
それを受け木原もわずらわしそうに後ろへと下がった。
時間にしてわずか1秒足らずだろう。
一方通行の『風の制御』は非常に繊細だ。その繊細さを木原は狙ってきたはずだ。
ならば木原がその隙を突く前に、打ち止めだけでも助ける―――!
その意志を形に表すように、一瞬で制御した風は確かな力を以って、打ち止めのみを吹き飛ばした。
しかし、それは破壊する為の物ではなく、優しく包み込むような風で、
地上10mはあるだろうビルを何棟も飛び越え、打ち止めは夜の闇の中へと消え去っていく。
それをぼんやりと眺めると、木原はのんびりとした口調で告げる。
389 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/24(水) 17:43:54.21 ID:VIc86ugYo
「あーあーあー、面倒くせえことしやがって。
ドヤ顔してる暇あったらさっさとクソガキすり潰しとけばよかったわぁ。
つぅか誰が回収すると思ってんだよテメェはよ、俺はしねぇけど」
「どうしますか」
そんな中、部下の1人が木原の耳元で指示を仰ぐべく小さく話す。
木原が指示を出そうとした瞬間、再びアスファルトが舞い上がった。
「だぁー……ホントしつけークソガキだな。
んだよあのしぶとさゴキブリか?それとも油汚れかぁ?
ホウ酸団子かジョイ君もってこねーとな」
冗談を軽く呟くと、ボリボリと頭を掻きながら今度は部下への指示を出す。
「班を三つに分けろ。本命追うのと俺とここに残るの、後処理するの三つだ。
異論反論ある奴は後で聞く。殺すけど」
それだけ聞くと、部下達は迅速に動き出した。
随分と統率されている動きだが、これは単に木原に対する恐怖から来ている。
それはさておき、数人の部下を残した木原は無駄なあがきを続ける一方通行へと向く。
「木原くンよォ……ちっとばっか早漏すぎねェ?まだ終わっちゃいねェぞコラァ!!」
「ハッ!!テメェが1人でイッちまったからどうしようか悩んでたとこだっつーの!!
グダグダ言ってねぇでとっととかかってこいやぁ!!」
鬼の様な形相で、2人は肉薄する。
一方通行は左手で止血を施しているので、思い切り右手でストレートを放つ。
とにかく、木原が動く事がマズい。
なるべく時間を稼ぐ為に、木原をこの場に縛りつける為に、得意でない肉弾戦をする。
そんな意志が見え隠れする中で、木原は一方通行の思惑に乗ったのか、
笑いながらこちらも左腕を振りかぶった。
そして、交差する拳。
片方が、大きく仰け反った。
390 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/24(水) 17:45:02.26 ID:VIc86ugYo
尾張。
>>381
「……つーわけで、殺すわクソガキ」
色々と台無しすぎるわ
391 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/24(水) 18:01:24.35 ID:mFOIVl2p0
>>1
乙
原作と違って黄泉川に鍛えられてるし
仲間もいるからすごい安心する
392 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/24(水) 20:56:54.46 ID:mOcB8TBV0
>>390
乙
それでも、自分の力を過信しているせろりですか…
393 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)
[sage]:2011/08/24(水) 21:09:10.03 ID:uMT+SkAAO
凹されないと黒翼出ないしなぁ
……出ないって可能性もあるか
394 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:43:19.51 ID:ygwqLV1Vo
透過するわァ
395 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:44:32.03 ID:ygwqLV1Vo
辺りは暗くなってしまっていた。
はっきり言えば、御坂美琴の門限が迫っている。
カラオケの個室にこもると時間間隔がくるってしまうから困る。
あっはっは、と快活に笑う上条当麻とは違い、御坂は顔を真っ青にさせていた。
今からダッシュで帰れば、ギリギリで間に合いそうな時間だ。
ヤバいヤバいと言いつつも、
運動前のストレッチをのんびりとしているとイマイチ危機感が伝わってこない。
「まぁ、ちゃんと謝れば許……」
「されないからこうして焦ってるのよ!」
「いや、そんなゆっくりじっくり丁寧にストレッチしているのを見てると
とてもじゃないけど急いでいるようには見えないのですが」
「柔軟馬鹿にすんな!怪我する奴に限って柔軟怠ってるのよ!!」
「だぁー!そうですね!!ベストコンディションには欠かせませんよね!!」
ちなみに、場所はカラオケ店の受付の隅っこの方。
邪魔とは言わないが、そんな姿を見せられては仲睦ましいカップルの姿を妬む男もいるだろう。
だがそんなことはお構いなしの掛け合いだった。
「よし!終わった!」
「いや、むしろ今からが本番だろ。頑張れよー」
「な!女の子が1人で帰るってのに送ろうとかそんな心遣いは無いの?!」
「今からダッシュで帰るって宣言してる奴について行こうとは思わねーよ!」
「トレーニングと思いなさいよ!今日してないでしょ!!」
「うぐっ、そう言われると上条さんも言い返せません事よ……」
396 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:45:16.93 ID:ygwqLV1Vo
結局、御坂と共にランニングをする事にした上条は、
カラオケ店の外へと足を踏み出した。
すると、雨。思わず上条は顔をしかめながら、
「うげっ、雨かよ……ちゃんと天気予報見とけばよかったわ」
上条は外に出てすぐさま空を仰いだために気付かなかったが、
続いて御坂が外に出て周りを見渡した時に、異変に気付いた。
「何、あれ……?」
何やらアンチスキルの数が多い。
何処かで事件でも起きたのだろうかと思ったのだが、
その瞬間、目の前を走っていたアンチスキルが突如として糸の切れた操り人形のように、プツリと倒れ伏した。
本当に、何の前触れもなく。
意味も無く水溜りの中に突っ込む人間がいるだろうか。
いや、居た所で上条の目の前でそんな事をする意味がわからない。
防水機能の自慢でもしたいのですか?
とか馬鹿みたいな事を考えつつ近づいてみると、
「この人……意識が……?」
御坂が上条の代弁をするように、呟いた。
防護服に身を包んだアンチスキルは、ピクリとも反応を示さない。
明らかに異常事態で、すぐさま他のアンチスキルを目で探す。
アンチスキルはすぐに見つかった。
「「ッ!!?」」
上条達の目の前にいるアンチスキルと同様に、いや、『一斉』に倒れた。
意味がわからない。音も無くアンチスキルだけを狙って意識を飛ばすなど、あり得ない。
麻酔ガスか何かかと思ったが、それなら自分や御坂が無事なのもおかしい。
とりあえず防護服で身を固めたアンチスキルのヘルメットの様なパーツを剥がすと、
とりあえず顔からは生気が感じられ、口からは確かに呼吸を感じられた。
何処か怪我をしているようにも見えないし、純粋に意識が無いだけに見える。
とはいえ、その現象そのものがあやしいのだが。
397 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/08/25(木) 00:45:19.87 ID:kNshSbADO
予想外のリアルタイム遭遇来たー
398 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:47:30.54 ID:ygwqLV1Vo
「……とりあえず救急車だな」
「……うん」
頭の理解が追いつかないが、
ここまで落ち着いていられるのも互いに互いがいたからだろう。
もし仮に1人でこの状況に陥って居たら混乱は必至だったはずだ。
携帯電話でお決まりの番号を押してコールセンターへと接続した。
こういった通報は初めてという訳でも無いので落ちついて状況と場所を説明し、電話を切る。
一先ずはこれで大丈夫だろう。
だが、この現象の原因が未だに不明。
ならばそれをなんとかせねば、
目の前で倒れているアンチスキル達の様な人間が続々と増えるに違いない。
これからどうしようか、考えるところで地面に転がっている
無線機からノイズ交じりの声が聞こえてきた。
『ザッ……聞こえるか……ザザざザざざ……侵入sザザ……繰り返す、
侵入者!ゲートの破壊を確認!誰か聞いていないか!!?こちらの部隊も侵入者n』
無線機からの声は、最後まで言い切ることなくブツリと通信が途絶えた。
その先の声の主がどうなったかは、分からない。
何にせよアンチスキルが持っていた物なのなら、相手もアンチスキルなのだろう。
そう考えると、侵入者がアンチスキルをこのような姿へと変えたと見て間違いないはずだ。
399 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:48:25.44 ID:ygwqLV1Vo
(インデックス、大丈夫か……?)
侵入者と聞くと、魔術師しか思い浮かばないのは今までの生活が生活だったからだろうか。
何にせよ、魔術師だとしてもインデックスが狙いとは限らない。
とはいえやはり彼女の事が真っ先に心配になる。
安全確認を兼ね、インデックスと合流したい。しかし、御坂の事もある。
帰宅は一端諦め、一緒に行動しないかと提案しようとしたところ、
「?」
その前に上条の背後から衝撃が走った。
衝撃を受けた位置は上条の腰辺りで、そちらへと振り向くとそこには、
「「打ち止め?」」
打ち止めが居た。
こんな時間に一方通行や、他の奴らも伴わずにどうしたと聞きたいが、
打ち止めは上条にぶつかったと言うより、しがみついたと言った方が正しいだろう。
その身体は雨の冷たさからかガクガクと震え、
濡れた髪の毛がぺたりと打ち止めの神に張り付いて、その表情は読めない。
しかし、切羽詰まっている事は分かった。
「ねえ、一体どうしたの?」
茫然と2人を見ていた御坂は気を取り直して打ち止めに尋ねる。
打ち止めが顔を上げると、その瞳は真っ赤に充血し、
頬を伝う水滴は雨だけでは無いと言う事が容易に見てとれた。
そして、打ち止めは息絶え絶えに叫ぶ。
「あの人を助けてほしいのっ……!ってミサカはミサカは頼んで……みたり……!!」
その願いを、聞き入れない理由は存在しなかった。
400 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:50:01.31 ID:ygwqLV1Vo
・・・
拳が交錯する。
男は、大きく仰け反ったが、拳による痛みよりも、
殴られたと言う事実に驚愕していた。
「テメェ……!!」
木原数多は、一方通行によって殴られた。
木原数多は、一方通行を殴る事が出来なかった。
木原は先程の出来事を頭の中で反芻する。一体何が起きたのか。
まず、互いが互いに急接近する中で、一方通行は自身の傷口から手を離した。
そうして、木原の攻撃を真っすぐ伸ばした右腕で払って受け流し、
血まみれの左手で攻撃を放ったのだ。
しかしそれでは傷口から血液の流れを操作する事が出来ない。にも関わらず、血は流れ落ちなかった。
恐らく、演算を手で触れることを介して行うのではなく、直接血管から行ったのだろう。
しかし人間の体を十全に理解して、血管の強度や位置を把握していなければ出来ない行為だ。
それを為せるだけの演算力と知識があったと言う事なのだが、
それでも脳内の演算区域はかなり切迫するはず。
そこで気がついた。
(一方通行が『気付かないうちに』反射を切ってやがったってことか……!!)
木原が一方通行を殴る事が出来た理由。
それは反射の直前に手を引く事で、
一方通行自身がその木原方向に向かう運動ベクトルを一方通行へと反射させてしまっているのだ。
言ってしまえばそれだけの事なのだが、それを為す事の難易度は非常に高い。
何せ無駄な紫外線すらカットしている一方通行の反射の、わずかな隙をついての攻撃。
一方通行の動きや思考、能力の使用状況までも完璧に読みきる頭脳。
それが狙い通りとはいえ、『引き戻す』という本来の動作とは
真逆に動かされているのに問題無く動き続ける筋肉や関節。
そしてその理論に寸分の疑いも持たず、迷いなく実践する胆力。
はっきり言えば、ほぼ不可能な事を可能にしてしまっているのだ、木原数多と言う男は。
しかし、その自身の理論に対する疑いが無さ過ぎた。
確かに、一方通行が反射を切ると言う可能性も頭に入っていたのだ。
しかし、こうして一方通行自身が「反射をさせていたつもりだった」時は、木原の理論が足元から崩れさる。
とはいえそのような偶然、二度は無いのだが、それでも。
401 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:51:16.77 ID:ygwqLV1Vo
「成程なァ……」
それでも、一方通行が木原の攻撃法に気付くのには、十分だった。
「今、明らかに俺は殴られなかったが……
成程、反射を貫いていたのは、拳を反射する瞬間に引き戻してたからかァ……
普通、考えついてもそンな事するかァ?
失敗したら拳ぐちゃぐちゃになるじゃねェか、狂ってンなァオイ!」
攻撃方法がバレた。しかし、それがどうした?
意図的に反射を切ろうとも、
一方通行の思考パターンなら完璧に読み取る自信はある。
先程の偶然程度では木原の理論は揺るがない。
一方通行は口から血の混じった唾を吐きだしながらも、
ニヤニヤと木原に向かって笑いかけるが、木原もまたニヤリと笑った。
「ギャハハ!たった一度の偶然程度に喜んでんじゃねえよ!!
そっこーでひねり潰してすり潰して肉団子にして好色家にでも売り飛ばしてやるよ!!
つぅかあのガキ放っておいたらうちのクソ共がさっさと捕獲しちまうぜ?
追わなくていいのか?まぁ邪魔するけどよ」
「ハッ!!だったらこっちはお前の四肢を千切り飛ばして達磨さんにして
石膏で固めた後石像にして東京湾の海の底に沈めてやンよ!!!
てか、お前の事そっこーでブッつぶせばそれで万事オーケーだろォが!!!」
「言ってろクソガキ!!」
「吠えてろオッサン!!」
「「ぶち殺すぞクソ野郎ォオォォオオォォォ!!!」」
舌戦は再び殴り合いへと発展。
二つの影は一つになり拳が交錯を始めた。
402 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:52:38.16 ID:ygwqLV1Vo
・・・
次々と人間が倒れて行く。
冷たい雨が降りつける中で、
抵抗も無く、無造作に、悲鳴も無く、無意識に、鮮血も無く、平等に。
人々は倒れ伏して行った。
彼らは一様に装甲服だとか防護服だとか呼ばれる耐ショック機構を備えた物を着こんだ大人ばかりだ。
学園都市の守護を司る、アンチスキル達。
倒れた彼らは、冷たい雨に晒されて居ながらも、指一つ動かさない。
ドサリ、と音を立て倒れて行くアンチスキル達とは別に、
カツンコツンと細々とした足音が辺りを響かせる。
そのシルエットは女性の物で、その女は傘もささず、
雨をふる街を、倒れるアンチスキルの隙間を縫うように歩いていた。
まるで気軽に散歩でもするかのような足取りで。
そうして歩いた先、そこにはアンチスキルが無線機を用いて何かを発信していた。
「ふうん」
女は武装した男相手に、何の用意も無しに堂々と近づいて行く。
そして後ろからトントン、と肩を叩くとアンチスキルの男の顔は驚愕に染まり、
続いて意識を失ったのか、力なく崩れ落ちた。
女の方はそんなアンチスキルに目もくれず、男と共に地面に落ちた無線機を拾い上げる。
地面に落ちた事で泥にまみれている事に対して、眉をひそめながら。
そうして、女は無線機に向かって声を放った。
403 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:53:52.04 ID:ygwqLV1Vo
『はぁーい、アレイスター元気ぃ〜?』
ザザ、とノイズが混じった後に困惑する
アンチスキルの声が聞こえてくるが、それに構わず女は続けた。
『どうせあんたはこういう回線とかも傍受してんでしょ?
せっかくだから相手してくれるとうれしーなー』
すると無線機のチャンネルが切り替わったのか
アンチスキルの声が聞こえなくなり、代わりに別の声が聞こえてきた。
先ほどとは違いこの場に居るのではと言う程の、明らかにクリアな声で。
『何の用だ』
『聞く気があるなら、話してやってもいいかな、って感じなんだけど』
『私がその挑発に乗ると思っているのか?』
『そっ。統括理事会の頭を何個か潰してきたけど、これくらいじゃあ揺るがないのね』
『当然だ、その程度の替え等いくらでも利くし、例え「全滅」させられたとしても、
反対意見はねじ伏せて替えを据える事は容易いさ』
『それって独裁宣言?
おー怖、ニンゲン身の丈にあった力を持たないと性格歪んじゃうってことね』
『……それは自分(貴様)に言っているのか?』
『そうね、自分(アンタ)に言ってるのよ』
『何やら見解の相違がありそうだが、まあいい。
それで、もう一度聞くが一体何の用だ?』
『んー、とりあえず私の名前わかる?』
『さてな。賊は取調室で調べるので』
『神の右席』
404 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:54:46.87 ID:ygwqLV1Vo
あっさりと、自身の立ち場をばらした。
それはローマ正教でも最も重要で秘匿すべき組織の名前。
知っている人間が居たとしても、それを『知るに値する』者で無いと判断された場合、
秘密裏に「処理」される程秘匿されるべき組織で。
そんな組織名をあっけらかんと女は言い放った。
『ふむ、テロ行為指定グループにそのような名前はあったかな』
しかし、その名を聞いてもアレイスターの口調に変化はない。
『6割、7割か。この街の掌握された人員は』
『へぇ、被害状況の把握は出来てるんだ。
でもまあ、それの対応も出来ないようじゃ司令官としては置物レベルね。
アンチスキルだかジャッジメントだか知らないけど、脆弱すぎてあくびが出るわ』
『クク、この街を甘く見てはいかんよ』
『ふふ、負け惜しみとして受け取っておくわ。いずれ10割にするから覚悟しといてね』
『「その程度」で、学園都市の防衛網を砕けたと思うのなら、本当におめでたいな。
この街の形をまるで理解していないと見える』
『へぇ……』
『隠し玉は、君だけの専売特許ではないと言う事だ。
この場でいつまでも暴れると言うのであれば、見せてあげよう。
最も、そこまで学園都市で立って居られるかは君次第だがな』
『何であれ、私は敵対する全てを叩いてつぶす。それは生まれた時からの決定事項』
歌うように、女は無線機に口元を近づける。
『私は、『前方のヴェント』。20億が誇る最終兵器』
一息ついて、最後に告げる。
『全部壊してあげるわ。
あんたの思惑も、禁書目録も、幻想殺しも、超能力者も。
そしてこの街も、文字通り『全部』。この一晩の間にね』
アレイスターの言葉を待たずして、ヴェントは無線機を握りつぶし、2人の通信は終わりを迎えた。
405 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:55:45.75 ID:ygwqLV1Vo
・・・
<???>
アレイスター=クロウリーは、相も変わらず窓の無いビルの中で、
フラスコのような円筒器の中に揺られていた。
自身の生命維持を全て科学技術に任せて、
そして彼もしくは彼女は思考のみに全てを捧げている為、
今もなお目の前に広がる異常を知らせるモニターの数々を見て、笑みを浮かべた。
普段そのモニターには異常など感知されるはずもないのだが。
それは大覇星祭の『使徒十字』でも同様だったのだが。
たった1人の魔術師によってここまで場を乱されてしまったのだ。
ヴェントが侵入してからわずか1時間足らずで、ここまでの人員が犠牲になった。
アンチスキル・ジャッジメントの7割弱が、ヴェントの手にかかったのだ。
調べる限りでは犠牲者は居ない、と言うか恐らくそう言う『術式』なのだろう。
とはいえ、いつまでもこの状態が続けば立て直しは図れないだろう。
この街は、既に死に体だった。
しかし、その街の長は、笑みを崩す事は無く。
『人間』は喜怒哀楽の全てを同時に表し、
それでいて全てを否定するかのような笑みを浮かべていた。
そうして呟いた言葉。
「面白い」
「これだから人生は止められない。
人生にイレギュラーは付き物だが、ここまでの物は久方ぶりだな。
しかし、これは丁度良い。飛んで火に居る夏の虫、とはこの事を指すのだろうな」
予想より早いが、『実験』にはうってつけの環境を奴は作ってくれた。
アレイスターはヴェントに対して感謝の意を示すと、無線装置の一つを使い、
とある暗部組織の部隊長に連絡を飛ばす。
「猟犬部隊――木原数多」
相手の返答を受け、アレイスターは短く指令を出した。
「虚数学区・五行機関……AIM拡散力場だ。少し早いが、
ヒューズ=カザキリを起動させ『選別』のついでに奴らを潰すぞ。
現在逃走中の検体番号20001号を捕獲後、指定のポイントへと運んでくれ。
早急かつ丁寧にな」
無線を切ると、彼は言った。
「Project. Tartaros、まずは『適正者』を選び出すとしようか」
406 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:57:39.24 ID:ygwqLV1Vo
尾張です
ヴェントとアレイ☆とのやりとりはほぼ原作まんまで言い回しとか変えてるだけなので早々に透過しました。
ペルソナと学園都市のクロス設定をようやくあれこれ出せそうです。
でも俺の妄想なのでこれ矛盾してね?とかあったとしても、まああれだ、ねぼし的なあれで許してやろうじゃねえか、寛容な心でよ……!
407 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/25(木) 00:58:41.53 ID:ygwqLV1Vo
>>397
安定して夕方に透過すると見せかけてのまさかの深夜。これをフェイントと言うのさ
ノブナガみて寝るわおやすみ
408 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/25(木) 01:07:42.66 ID:kNshSbADO
乙です
409 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/25(木) 01:51:51.34 ID:jX0faPRc0
>>1
乙
なんとなくだけど一方さんとタナトスって合いそうだな
410 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/25(木) 04:05:43.83 ID:+XmHfT7m0
>>406
乙
オルソラがいたときの一方さんと、
別人のような脆さ。
オルソラがいれば、変心する?
ならば楽しみが増える。
411 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/25(木) 04:43:36.93 ID:qtcUNifoo
一方さんと木原くンの罵り合い良いわぁ…
乙!
412 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/26(金) 18:23:35.55 ID:H1OTAetGo
一方さンと木原くンはやっぱり相性抜群だな
413 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/26(金) 20:57:25.35 ID:D7otpaqro
ここ二日何してたってパチンコしかしてませんでした
エバみながら書くけど投下は無理っすわ!何て野郎だ!
414 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/08/27(土) 01:27:22.42 ID:bRSxKiupo
PCぶち壊れてる間に一杯進んでて嬉しい。
けど一つ気になったことが。
>>354
の中程の紹介文において
「麦野静利」ってあるんだけど・・・?
誰も突っ込みいれてない気がしたので。
415 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/27(土) 06:47:44.65 ID:4kvOZNWAO
さらりと読んでたから気づかなかった
416 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:47:23.72 ID:xDGXGo14o
透過するわァ
沈利は次から気をつけるわァ(悠然)
417 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:48:02.28 ID:xDGXGo14o
月の淡い光と人工の光が学園都市を彩る。
雲の隙間から見る限りでは、今宵は満月のようであり、
普段の一回りほど強い光が街を照らしていた。
辺りは静寂に包まれ、雨が降る音だけが響き渡る。
そんな中で。
「ぎゃはっ!!テメェクソガキの癖に中々根性見せるじゃねえか!
まあこのままならうちのクソ共があのガキ捕まえてゲームオーバーだけどなぁ!!」
「そンならお前ぶち殺してその首振り回しながらクソ共あぶり出してやるよ!!!」
「それが出来てねぇからこその現状だろーが!!やせ我慢してんなよ!!」
「ハァ〜?そっちこそもう歳なンじゃねェの!?動きが鈍くなってンぞオッサン!!」
「ぶち殺すぞクソガキィィィ!!!」
「二度と朝日拝めなくすンぞクソ野郎ォォォ!!!」
一方通行と木原数多は互いに決め手を得られないまま殴り合いを続けていた。
と言うよりは、木原の攻撃を一方通行がひたすら受け流している、と言うのが現状だ。
反射を捨て止血することに全てを捧げている為、木原は一方通行に触れる事が出来る。
しかし、それだけでは肉弾戦では木原には及ばない事がよく分かった。分からされてしまった。
木原の反射を貫く戦い方、それは常人にはできるはずもなく、
理論を立てそれを実行するだけの格闘センスの持ち主である木原数多に、
ちょっと鍛えただけでは勝てるはずもなかった。
とはいえ、能力を使用した戦い方をしていては木原の理論通りになってしまう。
現状が最善の戦い方なのだが、それでも木原には及ばない。
何か綻びが無いか、それを探すものの見つからない。
一方で、木原も現状に歯?みしていた。
こんな所でいつまでも子守をしている時間は無い、と言うのが正直な気持ちだ。
418 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:49:10.97 ID:xDGXGo14o
(……わざわざこいつに付き合ってやる必要もねぇか)
先程まで一方通行が何をして来るのか楽しみで仕方なかったのか
木原は獰猛な笑みを浮かべていたのだが、どうやらここまでのようだと表情を消した。
何か考えつくまでの時間稼ぎ、と言った様子の一方通行に終わりを告げるべく、一端距離を取る。
その為の準備も完了している。
「もーいいや。オッサンだからもう疲れた」
突然やる気なさげにヒラヒラと手を振る木原に、一方通行は怪訝な表情を浮かべる。
その表情からは疑いの色しか見えない。
胸元に手を当てて止血をしていると言う事は、
そちらの方が演算しやすいのだろう、恐らく反射も戻っているはずだ。
しかし木原は、一方通行がそのまま疑心暗鬼で居れば良い、と思う。
「もうさー、じゃれつくガキをあやすのも飽きたしさー、とっとと死んでくんね?」
「ハァ?何を……」
瞬間、一方通行の側頭部に何かが直撃した。
「ッ……!?」
「ギャハハ!!よかったなあ俺が離れたからってとりあえず反射を起動させてて!
俺だけを見てたら間違いなく昇天してたな!!」
一方通行は木原の言葉を無視して弾丸の軌道上へと振り向くが、
少なくとも1キロは離れているだろう。狙撃手の姿形までは見えなかった。
そんな一方通行の姿を見て木原は更に高笑いをする。
419 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:49:40.99 ID:xDGXGo14o
「ギャーッハッハ!!!俺と戦うなら反射もつかわねーと
その真っ白な頭を真っ赤に染める事になるぜ!?」
そして木原は一方通行の言葉を待たずして駆けだした。
一方通行は、それを今まで通り待ち構えたいが、狙撃手の存在もある。
時間が足らない。
かといって逃げると言う選択肢もあり得ない。
木原が居る限り、猟犬部隊は打ち止めを追い続けるだろう。
何故なら木原の命令が絶対だから。
言われた事を必ずこなさねば殺されるから。
故に猟犬部隊は木原の命令に忠実に従う。
ならば木原を生かしておくわけにはいかない。
だが、一方通行だけの力では及ばない。
それでも、一方通行は抗う。
護れなければ、一方通行が今存在する理由が無くなってしまうから。
そんな大義名分以上に、打ち止めを、妹達を護りたいから。
迫る木原。
いつ来るかわからない弾丸。
双方に対抗するには少なくとも反射が必要。
かといって反射をさせると片手を止血にあてがわなくてはならない。
そんな状態で勝てるかと問われれば、否。
ならば、どうする?
420 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:50:20.90 ID:xDGXGo14o
瞬間。
一方通行の両手が木原へと伸びていった。
(このガキッ……!)
それを見た木原は足を止め勢いが前に前に向かおうとする身体を無理矢理後ろに持って行った。
何とか体勢を整えてバックステップをする。
そうして一息ついた所で一方通行を睨みつけた。
「テメェ、正気か?」
「ハッ、何言ってンだこれくらい屁でもねェよ」
一言で言えば、「止血」を止めた。
更に言えば、足で地面を踏み抜き身体を固定した。殴られても、その場から動かないように。
そうして一方通行は木原を抱擁するように迎え入れようとしたのだ、確実に仕留める為に。
そんな一方通行は濁々と血を流し、服の白地の部分を赤に染めていた。
雨が血を薄めるように降り注ぐが、赤々とした血を洗い流す事は叶わない。
そのままではすぐに血が足らなくなるので一方通行はすぐさま傷口に触れ、血の流れを整える。
とはいえそのような戦い方を続けていればいずれ失血死もありえるだろう。
捨て身の策を捨て身でぶつけてきた一方通行に、木原は楽しげに笑った。
421 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:51:36.29 ID:xDGXGo14o
「クソガキにしちゃあ、まぁまぁの作戦考えたじゃねえか!
お前は弱いんだからその位しねぇと俺には及ばねえんだよ!やっと気付いたか!!」
「ハァ……御託並べてねェでとっとと来いよ、お望み通りさっさと終わらせてやるからよォ……」
「まあ、その策は悪手だけどなぁ……
だったら、こっちから動かなきゃいいじゃねぇか。
オラまだ動けるだろーが、かかってこいよ!
こねーなら俺はあのガキ捕まえるまで仮眠でもとるかぁ!!?」
とは言え、この策は完全に受け身。
木原がそれに付き合う理由など存在しない。
ならば一方通行の策など、無視すれば良い。
捨て身の策は、決死の策は、一瞬にして瓦解してしまった。
そして、一方通行は。
「クソッ……たれがァァァ!!!!」
「そーだぜ一方通行!!
亀が甲羅にこもってるだけじゃあ勝てるもんも勝てねーってもんだ!!
まあ、どっちにしても勝たすつもりなんざねーけどなぁ!!!」
このまま戦うのなら、最早詰みだった。
とはいえ、逃げると言う選択肢は頭になく。
しかし、そんな一方通行を動かす出来事が起きた。
「そこで、何をしているの?」
思わぬ方向から声がかかり、木原も一方通行もそちらを振り向いた。
距離はおよそ20m程だろうか、木原と一方通行が相対している大通りの脇道から
不意に出てきたその少女は、とても長い銀髪で修道服を身に包んでいる。
一方通行ともなじみのあるその少女の名は。
422 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:52:35.42 ID:xDGXGo14o
「インデックス!?お前こンなとこで何してやがる!!?」
血を大量に流しながらも、未だギラギラと生きた目を輝かせる一方通行だが、流石にこれには狼狽した。
猟犬部隊は、元々非公式の工作部隊で一般人が知っていいものではない。
ならばそれを見たインデックスがどうなるかなど明らかで、普通に逃げた所で3日ともたないだろう。
ここにきて、暗部から護らねばならない対象が増えてしまった。
打ち止めとインデックス、どちらかを選ぶなど、どちらかを見捨てるなど、一方通行には出来ない。
故に、一方通行は、すぐさま逃げる事を選択した。
打ち止めへの手がかりが木原しかなくとも、
打ち止めを見つける為に自分しか動けなくとも。
木原より、猟犬部隊より先に打ち止めを見つけてみせる。
その決意を抱いてからの行動は早かった。
先程地面を踏み抜いた時とは反対に、自身が高速で動く為に地面を蹴り抜き、
まるでロケット砲の様な加速でインデックスの元まで移動し、そのままビルの屋上まで飛び上がる。
そんな一方通行を茫然と見届けた木原は。
「ギャハハ!!第一ラウンドは引き分けって事でいいかぁ!?
第二ラウンドは鬼ごっこってとこか!?先にあのガキ捕まえた方の勝ちな!!
その為のヒントくれてやる、『マヨナカテレビ』だ!!
真夜中のテレビは部屋を明るくして離れて見ろよぉ!!」
インデックスを抱えて逃げる一方通行の背を、
まるで遊ぶ約束をした子供のように笑いながら木原は見送った。
その言葉を、一方通行の耳は捉えていたのだろうか。
とはいえ、タダで見送る程木原は甘くない。
「まぁ、あの白いガキにはくたばってもらうけどなー」
気の抜けた声で超長距離対物ライフルを構える。
一方通行達は空中に舞い上がり真っすぐに飛んで行く。成程、的としては丁度良いだろう。
そうして後1mm、引き鉄を手前に引いたら弾丸が飛び出すその瞬間、一瞬だが標準に黄色い影が見えた。
更に不幸な事に、その影に遮られた間に一方通行は一端地面に降りたらしく、標準から見えなくなっている。
423 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:53:54.06 ID:xDGXGo14o
「?」
木原はそれが何なのか確認するためスコープから目を離すと、女が地面に着地していた。
何やら顔面にピアスの数々を付けバランスの悪い顔つきになっている。
服装は学園都市に似つかわしくない
中世ヨーロッパのようなものの色違いの様なものとなっており、
黄色一色に染められたそれは見ていて目が痛い。
とはいえ、そんな事はどうでもいい。
今重要なのは、目の前の女のせいで標準を見失った事だ。
せっかく白いガキの血を以って楽しい楽しい幕間を迎えられそうだったのに、それを邪魔された。
木原の表情は一瞬にして消え失せ、迷わず女に対して引き鉄を引く。
しかし、何処からか風が吹き荒れ、木原や猟犬部隊達の視界をふさぐ。
そして風が消えると、女は変わらずそこに居た。
「良い街ね」
明らかに生きている。
弾丸を喰らった形跡も無い。
そんな中黄色い服の女は事もなげに呟いた。
まるで木原達等眼中にないと言わんばかりに。
「学生と教師ばかりの街ってのも考えものね。お陰で『侵食』が進むのが遅れたわ。
まあ、それだけの話なんだけど」
そしてようやく、木原達の存在を認めたのかそちらの方を向きながら、
424 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:54:26.88 ID:xDGXGo14o
「最も、あんたらは真っ黒みたいだけどね。
どんないい場所にも黒い部分はあるってことかな」
「何者だ」
「商売敵ってとこ?まあ別にあんたらがあいつらを殺っても良いんだけど、
ターゲットを横から取られるのは気に食わないの」
「……殺せ」
木原は黄色い女と問答をするつもりはなかったらしく、迷わず部下達に女の処分を命じる。
それと同時に部下達は行動を開始するが、
「やめとくコトね……ってもう手遅れか」
部下達が構えた銃から、銃弾が放たれる事は無かった。
引き鉄を引く寸前に、バタバタと部下達がうめき声を上げながら倒れて行く。
それが当たり前のように、一切の抵抗なく。
木原はそれを見て眉をひそめる。
「なんだそりゃ」
「見て分かんない?」
「分かんねーから聞いてんだよ。馬鹿かテメェは」
「分からないとすぐ答えを求める、ひょっとしてゆとりなの?」
「ブチ殺すぞ」
「おー怖。にしても、殺意があっても敵意は無しと来たか。
殺す事が当たり前で、その辺の雑草を摘む程度にしか思っていない。
少なくとも、私程度には腐ってるわけね」
木原は、そんな女の言葉を無視しながら、
まだ意識のある部下達に億劫そうに指示を出す。
425 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:55:16.26 ID:xDGXGo14o
「あー、班を二つに分けろ。使えねー奴を下から10人そこの黄色いのに当てがえ。
残りは俺と本部に戻る。異論反論は殺す」
余りにもざっくりとした命令だが、木原の思い通りに動けねば殺される。
更に言えば、木原数多に一方通行、そして黄色い女。
先程までの一方通行と木原の戦いぶりを見る限りでは、
そこの黄色いのを相手にした方が幾分かましな気がする。
素早く囮を残して当の木原は黒のワンボックスカーへと乗り込む。
そんな木原の背中に、女は声をかけた。
「アンタには敵意が無いのね」
「向けて欲しけりゃ、もうちょい有能になるこった」
それだけ言い残し、運転手の頭をはたいて発進を促した。
そうして残ったのは女と囮。
「……全く、私の術式はこういう情報収集には向いてないってのに……
あいつらが何者か知りたいけど、手加減も出来ないし……倒し過ぎってのも考えものね」
囮の方を見向きもせずに、女は小さくなっていくワンボックスカーを見やりながら溜息をつき、
「さてさて。随分と舐めてくれたみたいだけど、アンタらは私の役に立てるのかしら?」
ジャラリ、と鎖を舌から垂らしながら、ニコリと笑った。
426 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:56:34.30 ID:xDGXGo14o
・・・
上条当麻と御坂美琴、そして打ち止めは雨の中立ちつくしていた。
そこには濛々と燃え盛るワンボックスカーと、
先程見たアンチスキル達のように身動き一つしない黒づくめの武装をした男達。
しかし、その男達は何となく正規の部隊には見えなかった。
別に武器に関して詳しい訳でも無いので、アンチスキルの武装と男達の武装の違いが
分からないのは事実なのだが、あくまでも何となくだ。
目の前で意識を失い倒れ伏す男達が何者なのか考えていると、打ち止めが口を開く。
「あの人たちに襲われたの。ってミサカはミサカは黒づくめの事を思い出して話してみたり」
打ち止めが嘘をつく理由は無い。ならば本当なのだろう。
たとしたら、目の前の男達は一体何だ?何故、打ち止めを襲うのだろう。
そして、
「一方通行はここで戦ったってことだよな」
「そうだよ、ってミサカはミサカは答えてみたり」
「ってことは、一方通行がこれを……?」
「そこまでは分からないかなってミサカはミサカは……」
「あっ、ご、ごめんね打ち止め。あなたは一方通行のことを途中までしか見れなかったんだよね」
そこで3人は口を閉ざした。
状況を何とか理解しようと試みるものの、分からない。
当の一方通行が居ないのだから仕方ない。
とりあえず無事か確認すべく連絡をしようかと思い携帯を開いたのだが、電話がつながらなかった。
「出ないじゃなくて、繋がらない……?」
それは上条達の不安を煽るものだが、一方通行の事だ。何か行動を起こしているに違いない。
一旦一方通行の事を頭から外して、目の前の状況について考える。
427 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:57:27.41 ID:xDGXGo14o
(まず、こんなひでぇ状況なのに、誰も居ない、来てないってのはおかしい)
どうやら御坂も同じようなことを考えていたらしく、
辺りを見渡しながら呟くように語りかけてきた。
「ねえ、何で『倒れている人』しか居ないのかな……?」
「ああ、こんな異常な状況だ、誰かしら通報してもおかしくないのに」
現状の異様さに息をのむ2人だったが、
そんな中で打ち止めだけは1人黒づくめの男達の1人の懐をあさっていた。
何をしているのだろう、と上条達はぼんやりと思うが、
打ち止めは突如として何かに気付いたように顔を上げ、こちらへと駆けこんできた。
「奴らが来た!ってミサカはミサカは2人を物陰に引っ張ってみたり!」
奴らとは?と2人は思うが、十中八九『仲間達』の事だろう。
武器の事には詳しくないが、あのように完全武装する連中だ。
スキルアウトの様な素人ではなく、訓練されたプロなのだろう。
そんな奴らに追われた時、逃げ切れるかと問われれば無理と言わざるを得ない。
足元は水たまりが池のように溜まっており、
靴の中どころかくるぶし辺りまで水につかってしまうが、この際気にしていられない。
何故なら3人が車の影に隠れ、その視線の先にはヘッドライトも付けずに、
まるで人目を避けるように走って来た奇妙な黒いワンボックスカーから黒づくめの男達が現れたからだ。
数にして10人程。素手で戦えば勝てないし、ペルソナを使ったところで狙撃される方が早いだろう。
男達は全員肩にサブマシンガンを下げ、他にも腰に手榴弾や拳銃で武装している。
どう見てもアンチスキルがして良い武装では無い。
そんな中、御坂美琴だけはその男達を強い意志を以って見据えていた。
思わず上条は御坂に尋ねる。
428 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:58:21.75 ID:xDGXGo14o
「……おい、何するつもりだ?」
「私が奴らを相手するから、その隙に逃げて」
「……そんなことできる訳ねぇだろうが。奴らだってあれで戦力のすべてとは限らないんだ、
お前がレベル5の超能力者だからって長距離から狙撃されてそれを回避できるのか?」
確かに、いつまでもここに隠れてやり過ごせるかと言ったらどう考えても無理だろう。
何せ、相手はプロなのだから。
何か指紋や血痕を調べているのか、薬品の様なものをばらまいている。
そこまでする相手だ。こんなに近くに潜んでいる事自体が奇跡だ。
そんな相手が真正面から戦ってくれるのか?
そんな訳が無いだろう。
「分かってるわよ、だけどね」
雨は私の領域だから、あんたらが居ると邪魔なの。
御坂は突き放すように告げると、車から顔を出し、そのまま男達へと近づいて行く。
まるでアンチスキルに助けを求める少女のように。瞬間、
紫電が辺りを駆け巡った。
ここまでされて、最早この場に居る訳にはいかなかった。
429 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:58:53.72 ID:xDGXGo14o
「くそ!行くぞ打ち止め!」
打ち止めの返答を待たずして、上条は打ち止めを抱えるようにして駆けだした。
しかし猟犬部隊の面々は御坂の攻撃によって気付かない。
(無事でいろよ!御坂!!)
路地裏に駆け込んだ上条は、どこか隠れられる場所が無いか模索を始めた。
御坂美琴はレベル5の電撃使い(エレクトロマスター)だ。
その能力は『超電磁砲』と言う異名が出来る程の強度を持っている。
しかし、彼女の力の真髄は、超電磁砲では無い。
(あいつはああ言ったけど)
上条の心配をよそに、御坂はのんびりと佇んでいた。
何せ彼女の力は、電磁波を自在に扱う事が出来る。
それはすなわち。
「近代兵器で私を打倒できると思ったら、大間違いよ」
―――彼女は電磁波や地の文など関係無しの、超電磁砲を放った。
一応、電磁波でレーダーの真似事だとか、機械の制御を奪ったりだとか出来、
多岐にわたった攻撃法を持っているとだけ追記しておく。
430 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/27(土) 21:59:28.78 ID:xDGXGo14o
終わりです。無理矢理ペルソナ要素ぶち込んで行きますので!
431 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/27(土) 22:01:28.04 ID:Qv+pjfR1o
>地の文など関係無し
吹いたwwwwww
432 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/08/27(土) 23:33:53.30 ID:6FUfpwVk0
>>422
の最後の辺り、「照準」が「標準」になってるぞー
まあとにかく乙!
433 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/27(土) 23:57:06.63 ID:k93F8wBz0
>>1
乙
原作と話がどう変わっていくのか楽しみだ
434 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/28(日) 04:31:46.91 ID:gh631/Ku0
>>1
乙
魔法、ペルソナ、超能力そろいましたね。
展開が楽しみ。
>>429
なんと、美琴が考えて行動している。
435 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:01:03.79 ID:oqJcByqvo
透過するゥ
436 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:01:48.32 ID:oqJcByqvo
>>432
間違えた!人間、誰にだって間違いはあるよね!(テヘペロ
437 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:03:11.14 ID:oqJcByqvo
一方通行はインデックスを抱えて重力を逆らって空を舞っている。
何処に向かっているのか知らないが、
とりあえずインデックスは一方通行の身体が血に染まっている事を見てギョッとした。
「あくせられーた!病院行かなくちゃ!!どうしてそんな……」
「うるせェそりゃこっちのセリフだっつゥの!
なンでまたあンなとこに……!」
「……とうまが帰ってこないから探してたんだけど、物音が聞こえたから……」
どうやら帰宅しない上条当麻を探すべく外に出てきたらしい。
しかし、インデックスと言うイレギュラーが無ければ
一方通行は自ら退くことをしなかっただろう。
それを感謝すべきか否かと問われると、
どちらを選ぶと言うのは出来そうもない。
何故なら、インデックスが暗部を見てしまったから。
ほぼ確実にインデックスも狙われる事になるだろう。
ならば自分がしなければならない事、
それは猟犬部隊ごと木原数多をこの世から消し去る。
とはいえ、その間インデックスを安全地帯に置いておきたいのだが、心当たりが一つしかない。
最悪マヨナカテレビに放り込んでしまおうとか考えたのだが、
木原数多はマヨナカテレビと関わりがありそうだ。
とてもじゃないがそんな事は出来ない。
魔術側の人間を、これ以上科学の闇に引きずり込む訳にはいかない。
従ってその心当たりに頼ろうと携帯を取り出そうとするが、
電波を傍受される可能性を考え何処か適当な公衆電話に行こうと決めた。
その前に、目的地の近くに辿り着いたので地面に降り立つ。
どうせ雨が降っているのであまり意味は無いのだが、
なるべく水溜りの少ないところを選び、水が跳ねないようにゆっくりと。
438 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:03:55.82 ID:oqJcByqvo
「こっから歩いて5分か10分した所に、俺が入院してた病院がある。お前もわかるだろォ?」
「うん、今からそこに行くんだよね?」
その言葉に、一方通行は首を横に振りながら、
「あァ、行くのはお前だけだけどなァ」
「何で!?治療が必要なのはあくせられーたのほうで……!」
「まァ待て、何もこの状態で行動しよォって訳じゃねェ。
ただ、じっくり腰を据えて治療って訳にもいかねェから、応急処置だけしてェンだ。
だからこっから病院まで行って来てくれねェか?
俺の傷の具合を把握してるのは冥土返し……
あのカエル顔の医者しか居ねェから、あいつに会って話を聞けばわかる」
「……わかった!」
インデックスは一方通行の言葉に訝しげにしていたが、
一方通行の様子を見る限りでは相当に切羽詰まっているのだろう。
了承の意を示すと同時に病院へと駆けだした。
一方通行はその背が曲がり角を行くのを見送ったと同時に
近くの公園に公衆電話があったはずだ、と再び宙へと舞い上がった。
439 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:05:03.69 ID:oqJcByqvo
・・・
木原数多は一方通行が逃走を図った後、
数人の部下を伴って本部へと戻っている。
しかし、その前に気になる事があるので
運転手の後頭部をはたき、自身の研究所で道草を食う事にした。
(あの女……)
黄色い女。
あれに銃を向けた奴全員が突然糸が切れたように倒れていった。
全くをもって不可解。
あの場はすぐに離脱した為倒れた部下達を連れ帰り検分する事は出来なかったが、
あのような理解不明な出来事に少しだけ興味があった。
―――魔術。
大覇星祭の時に外部の人間が侵入しようとしているのでそれを殲滅、という指令が下ったのだが、
その際に魔術と言う物と出会う事となったのだ。
超能力とはまた違ったプロセスで発動させる異能に木原は大いに喜び、
命令を無視して何人かの魔術師を生きたまま連れ帰った。
その後その魔術師達がどのような目にあったのかは、不明。
440 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:06:58.09 ID:oqJcByqvo
しかし、こうして木原が研究所に赴いて話を聞きに行くと言う事は
まだ生きている者も居ると言う事だろう。
そうして自身の研究所に辿り着いた木原は、
真っ先に一番奥にある地下へと向かう階段へと進んだ。
そこには全身に電極を刺されている男に、
培養液に全身を浸からせている女や、
とりあえず健康そうな人間は木原を除いて誰1人として居なかった。
先に挙げた男女はまだマシな方で、元々なのかあるいはこの場で持っていかれたのか、
四肢や身体の一部が欠損していたり、腹部を切り開かれてそこから何本もチューブが通され
何か薬品の様なものを注入されている者も居た。
そんな中で、電極を刺されている男の耳元で、木原は囁くように質問をする。
「ある特定の相手の意識を問答無用で飛ばす魔術ってのはあるのか?」
「……」
男は何も答えない。
しかし、そんな男を見ても木原は眉一つ動かさない。
その代わりに男の隣に設置されているモニターに顔を移す。
そこには一般人が見てもわからないような大量の数字と、
脳波を示すグラフか何かだろうか、波線が絶え間なく変動していた。
今この男の状態としては、意識はあるが身体を動かす事が出来ない、という状態である。
更には薬品と電極からの信号によって
常に大脳上皮を麻痺させられながらも無理矢理正常な状態を保たせている為、
本人が望む望まないに限らず質問した事には必ず自身が知っている情報を以って返答をする。
それはモニターに示されている大量の数字で判断出来るのだが、
それをできるのはこの場では木原しかいない。
441 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:08:29.66 ID:oqJcByqvo
そんな木原はじーっとモニターを眺めた後に、キーボードを叩き始める。
しばらくの間、何かをモニターに打ちこんだ後に
エンターキーを押すと男の身体がビクンと震えた。
続いて、再び木原が男に質問をする。
「あー、魔術に関して詳しい人間ってのは居るのか?」
もしあれが魔術師だとしたら、
今までも似たような感じで魔術師が侵入してきた事があるのだろうか。
だとしたら色々と調べないといけない事が出来る。
はっきり言って木原もあまりこの実験体からの情報に期待はしていなかったのだが、
とりあえず何も知らない木原からしたら無いよりマシ、と言う程度で質問をしていたのだろう。
しかし、その思いとは裏腹に、実験体は予想以上の答えを返答してきた。
「お、あ……Ind…ex…あ、Libr、、oruう、m…Prohib、itorum……」
無理矢理口と声帯を動かされているからだろうか、
母国語で語っているというのに何処か慣れない異国の地の言葉を
使っているかのような片言で、魔術に関するヒントを提示した。
聞き取りにくい口調だったが、このようなやりとりは今までに「何度も」してきたので、もう慣れた。
「Index-Librorum-Prohibitorum……?姿形は分かるか?」
「イギリス……清教…う、ぎ、…シスター…ぐ、修道服…」
イギリス清教と言うと、この実験体を回収するきっかけを作ってくれた組織の名前ではなかったか。
どうやらそこに所属する人間らしいが、『インデックス』という単語。
「……あのクソガキが何か言ってたよなぁ……?」
まさかとは思うが、一方通行は既に魔術と関わっていたのだろうか?
木原の思考は呻く男の声すらも聞こえない程に深くへ潜り込んで行った。
442 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:09:25.50 ID:oqJcByqvo
・・・
インデックスと別れた一方通行は、公園の公衆電話にて通話を開始した。
とりあえず、打ち止めに対して電話をかける。
しかし、相手からの返答は無い。
電話が壊れたか、落としたか、電波が届かない所に居るか、或いは。
そこまで考えて思考を打ち切った。
そもそも逃げている最中で、声を出せない状況かもしれないし、
何にせよ打ち止めの安否を考えるより、打ち止めの安否を信じた方がまだマシだろう。
兎にも角にも、こうしている間にも状況は変動して行くのだから。
一方通行は続いて別の番号へと電話をかける。
何度かコール音が鳴り響くと、女性看護師と思われる声の主が応対をした。
一方通行はカエル顔の医者に取り次ぐように命令すると、すぐに医者に代わった。
『こんな時間にどんな用件かな?』
『デケェトラブルが起きた』
『一応、『彼女達』の電気的ネットワークを介して情報はある程度集まっているけど?』
『成程なァ、そォいやそんなのもあったな。だったら話は早ェ。
あのガキは今どォなってる?』
『今は猟犬部隊の別働隊に追われていたらしいけど、上条君と御坂さんに保護されたらしいね?
ただ、御坂さんが囮になったから今は上条君と2人で逃げているようだが……』
それを聞いて思わず舌打ちをする。
まさか上条達がこんな所で暗部に目をつけられる可能性を持ってくるとは思わなかったからだ。
そして何より、自分の抱えた闇を、上条達に尻拭いさせてしまっている自分自身に腹が立つ。
443 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:10:39.88 ID:oqJcByqvo
『場所は?』
『どこか路地裏を走っているようだが……場所までは分かっていないようだね?』
それだけの情報では何も分からなかった。
とにかくこの電話を終えた後、上条にも連絡を飛ばさねばと思う。
このような闇の世界に上条達の様な人間に足を踏み入れて欲しくないと思うが、
今の自分では、自分だけではその闇には及ばない。
ならば、頼るしかないじゃないか。惨めだろうと、情けなくとも、弱弱しくとも。
だけど、それでも、結果だけは出して見せる。
何せこちらには『冥土返し』が居る。
怪我前提と言うのもどうかと思うし、
勿論無傷で全員が帰ってこられるのに越した事は無い。
それでも、可能性として十分あり得る事なのだ。
一方通行は、ギュッと受話器を握りしめると口を開いた。
『そっちに白シスターは来てるな?』
『今対応に困っていたところだよ。それはそうと君、また無茶なことしたみたいだね?
この件が終わったらまた戻ってきてもらうけど構わないかな?』
『問題ねェよ』
『それは入院など要らないという意思表示なのか、
僕の言葉に同意したのか、どっちなんだい』
『ンなこたァどォだってイイ。そのガキ保護してくれ。猟犬部隊のクソ共に目をつけられた。
少なくとも24時間程度は命を狙われるかもしれねェ』
『……やれやれ、ネットワークを介して話を聞いたけど、
こうやって当事者と話をすると、ますます危機感が募って来るよ』
『わかってンなら丁度イイ。難しいだろォが、
非戦闘員……特に重病者や妊婦とか、退避させられるか?
急患の対応もそォだが……出来るか?』
はっきり言って無茶苦茶を要求しているのは一方通行自身良くわかる。
しかし、事は急を要するのだ。それだけ切羽詰まっているのだろう。
444 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:11:40.75 ID:oqJcByqvo
そんな一方通行に対して、冥土返しはきっぱりと告げる。
『やろう』
そして一方通行の言葉を待たずに、冥土返しは続ける。
『発煙筒か何かで火事が起きたと言って、そこからテロにでも結び付ければ大義名分も立つ。
動かすのも危険な患者もいるが、そう言った者達を救うのが僕の仕事だ。やってやるよ』
『……悪ィな。最悪あと数人急患を送りつける事になるかもしれねェ。
勿論、俺も含めてなァ』
『おや、意外だね。僕はてっきりこの件に関わった者
全てを救ってみせる位言ってくると思ったんだけど?』
少し申し訳なさそうに感謝の意を示す一方通行だが、
冥土返しはそれ以上に一方通行の言葉に対して意外そうな口調で返答した。
『ハッ、夢は寝て見るもンだぜェ?まァ、それが出来るのに越した事はねェンだけどな。
なるだけ無傷で助けてみせる。だが、最低限『助ける』しか出来ねェ場合もある。
……ムカつくけどな、形振り構ってらンねェンだ。だからその後は任せる……俺達を、助けてくれ』
『……当然だ、僕を誰だと思っているんだい?……『冥土返し』、だ。
それが出来なくてその名を名乗るなんておこがましいとは思わないかい?』
その力強い返答が、どれだけ心強いものだったろう。
一方通行は感謝の意をもう一度示すと、続いて病院の退避先を聞いてから受話器を降ろす。
―――その目には、今まで以上に炎のようなギラついた何かが滾っていた。
445 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:13:14.41 ID:oqJcByqvo
・・・
ビリビリッ!と電撃が水たまりや宙を駆け廻りあたりを照らした。
そうしてその電撃が止んだ時、その周辺には黒づくめの男達が倒れ伏し、
電撃が放たれたと思われる中心点には、茶髪の女子中学生。
彼女の名は御坂美琴。
ここ学園都市が誇るレベル5の序列第三位『超電磁砲』その人だ。
彼女は今現在手ぶら状態で、学生鞄とゲコ太ストラップの入った
携帯電話の紙袋は近くのコインロッカーに放り込んでいた。
というのも、上条当麻と罰ゲームと言う名のデートを敢行するにあたって
その日の日程や天候は既に把握していた為、
上条の学生鞄も共にそのロッカーにしまっておいたのだ。
しかし、カラオケ店に入るまでは雨が降らなかったので結局雨の事を忘れていた為に、
鞄に入れた折り畳み傘を取り出す事は無かったせいで、
今現在彼女は水もしたたるイイ女状態になっている。
自分は濡れ濡れだが、主にゲコ太ストラップをあらかじめ
コインロッカーに置いといて本当に良かったと思う。
そんな中で、ポケットに入れた携帯電話が鳴り響いた。
彼女の携帯は見た目ゲコ太だが中々に実用性が高く、
勿論防水機能もありありなので雨の中でも気にせず携帯を開く。
表示は白井黒子、彼女の後輩だ。
『おっねえさまーん』
『何よ黒子』
『あのですね、ジャッジメントの職務の為寮に帰れないので、
あの口うるさい寮監に一言連絡してほしいのですの。
ほら、もう門限も過ぎてますでしょう?』
446 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:14:59.74 ID:oqJcByqvo
そこで御坂も思い出した。
自分は門限ギリギリだったという事実を。
そしてそれは既に過ぎてしまっているという事実を。
冷汗を雨で洗い流しながらも、それでもなお流れ落ちる水滴は、
やはり雨だと思いたい御坂は震える声で話す。
『あの、ごめん、私も今外』
『何……だと……?』
思わず白井も淑女らしくない返答をよこした。
そんな中で、白井の少し後方から、別の声がスピーカーに届く。
『あれー?白井さん、御坂さんに連絡付かなかったんですか?
よかったですね、これで寮監さんからの懲罰確定で――』
『うおっとしいですの!!』
何やら騒がしいが、この声は恐らく初春飾利のものだろう。
となると、彼女らは今現在支部でお勤めの真っ最中という事か。
『しかし、これはまずいですの。
2人して外に出ているという事は門限超過に関する書類を提出できませんし。
と言う事は2人してあの寮監に……』
『あれ?そういえば白井さんは良いとして、御坂さんはどうしてこんな時間に外に?』
『ッッ!!?』
白井と初春の声をぼんやりと聞いていた御坂だったが、
ここで通話の音声に雑音がすこし混じり、ミシミシッと何か圧のかかったような音が響いた。
恐らく、白井が力の限り携帯を握りしめているのだろう。
『お、お姉さま?まさかとは思いますが、あの類人猿と今一緒に……?
己れあのクソッタレめ!!雨の夜景を楽しむとはなんて渋いチョイスを……だが、良いセンスだ!』
『……良かったわね、私は1人よ(今は)』
447 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:16:14.12 ID:oqJcByqvo
白井の憎々しげだが何処かライバルの力を誇るような声に、御坂は少しだけ間をおいて返答する。
この冷静さは実際にデートっぽい事をできた事による余裕だろうか、
何にせよ落ちついた口調で返答して来るので白井は安心したように少しだけ溜息をついた。
『良かったですの……てっきり黒子は、お姉さまの貞操の危機かと思い、
今すぐにでも逆探知をかけお姉さまの元へと誰よりも早く向かおうとしてしまいましたわ』
本当にやりかねないから怖い。
御坂はそんなことをぼんやりと思いながら突っ込みを入れようとするものの、初春によって遮られた。
『駄目ですよー、白井さん。
今晩はこのアルプス山脈の様な書類達を更地に変えるって誓ったじゃないですかー。
ほらほら手が動いてないですよ、電話しながらでも書類は減らして行って下さーい。
ここで遅れた分だけ私の仕事もしてもらいますよ?
とにかく、今日は徹夜です。デスマーチです。お弁当はありますし部屋から出る必要もありませんね、
お風呂も駄目ですトイレは書類を片しながらなら許可します』
『……にゃあああああああああああああああああ!!!!』
『!?白井さん?白井さーん!!』
電話の向こうで何やらドタバタと物音が聞こえる。
携帯電話を離しながら、もう片方の手でうるさそうに耳をふさぐと、御坂は呆れたように口を開いた。
『もう切っていい?』
白井はどうやら錯乱しているらしく、代わりに初春が答える。
『はい、もう大丈夫です。白井さんは馬車馬のごとく働いてもらうので、
あの、邪魔は入りませんので!』
『だから違う!(今は)』
割と事実なので、あまり言い返せない御坂であった。
448 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:16:46.87 ID:oqJcByqvo
・・・
上条当麻は打ち止めを抱えて走る。
前にも後ろにも『立っている』人は居ない。
その代わり、地面に倒れ伏した人、人、人。
ここでもアンチスキルの部隊が1つ撃破されたらしい。
(マジで何が起こってんだ……!?この街で!!)
焦る思考の割に冷静にあたりを見渡せているのは、
御坂美琴が囮になって猟犬部隊を引きつけてくれたからだろう。
追手は今のところ来ていないようで、
緊張感はもっているがそこまで張りつめたものではなかった。
それでも不安なのだろう、
打ち止めは心細そうに上条のシャツをギュッと掴んでいる。
そうして、バシャバシャと水たまりに足を取られながらも大通りへと躍り出た。
そろそろ追手にも気を張るべきか、そう考えた所で100m先だろうか、ある異変を見つける。
そこには、1人の女が悠然と佇んでいた。
そこには、多数のアンチスキルと思われる人員が倒れ伏していた。
―――そして、その女は、こちらを振り向いた。
思わず身を翻して曲がり角に隠れる。
449 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 01:18:08.32 ID:oqJcByqvo
「ハッハァーイ♪びっくりしちゃったカナ?怖がらないで出ておいでー?」
聞こえてきた女の声は、想像以上に自己主張の激しいものだった。
遠目に見る限りでも黄色を基調とした服で、
どう見ても御坂が相手をしている黒づくめとは違う人種だ。
そして、倒れ伏す人々の中で、あのように笑う人種とは。
(魔術師……か……?)
だとしたら、マズい。
何がマズいってどう見ても打ち止めより上条の方が狙われているだろう。
別にそれは構わない。
しかし、そうなった時打ち止めだけでも逃がしたとして、打ち止めが1人になってしまう。
とは2人で言え逃げ切れるかどうか、相手の力も出方も不明なのだから、分からない。
ならば、囮になるしかない。
「打ち止め、お前携帯は?」
「えっと……あれ?落としちゃったかもってミサカは―――」
「なら、これ持ってけ。とりあえず逃げろ。
一息ついたら一方通行でも誰でも連絡を飛ばしてくれ。
多分、あれの狙いは俺だ」
「でも、」
「打ち止めには辛いかもしれねぇけど、頼む」
「……分かったよってミサカはミサカは静かに駆けだしてみる」
そうして打ち止めが先程来た道を引き返すと同時に、上条は再び大通りへと歩いて行った。
そこには、変わらず女が雨に打たれていた。
ただし、その距離をゆっくりと縮めながら。
ターゲット
「さてさて、ようやく見つけた最初の被害者。
他にも居たけど、普通にこっちに気付かずに逃げられちゃったしねー」
じゃらじゃらと音を立てながら、その女は笑った。
あまりに女性に似つかわしくない醜い笑いに、
上条は少しだけ動揺しながらも口を開く。
戦わなくとも、とにかく打ち止めがここから離れるだけの時間稼ぎをする。
それだけで頭はいっぱいだった。
「お前、は……?」
「『神の右席』、前方のヴェント」
ヴェントは手にしていたハンマーを肩に担ぐように振り上げながら、続ける。
「とりあえず、まあ、ぶっ殺されてくれない?」
舌から垂らされた十字架付きの鎖から、唾液か雨水かが滴り落ちた。
450 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/29(月) 01:20:51.65 ID:oqJcByqvo
尾張ますん
誤字脱字はホラ、俺の十八番みたいなとこあるから、ね?(迫真)
451 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/29(月) 01:26:57.58 ID:oqJcByqvo
ちなみに木原くンのシーンはハンターのポックルを科学的にしたイメージですというどうでもいい補足
452 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/29(月) 02:48:52.33 ID:bJdY8ot30
>>1
乙
誤字脱字は脳内変換してるから大丈夫だよがんばってね
あと冥土帰しだよ
453 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/29(月) 02:50:51.30 ID:E2CM1aELo
上条さん大丈夫か…幻想殺し無しはかなりやばいぜ
乙
454 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/29(月) 04:41:28.60 ID:uuvxmArs0
>>1
乙
三重点いいね、最高だね。
455 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/29(月) 12:02:53.58 ID:oqJcByqvo
うわあああ冥土帰しィィィ!!
>>449
の とは2人で言え とかも意味不明だしよォォォ!!
夜に等価出来たらします
456 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/29(月) 18:56:11.58 ID:uuvxmArs0
>>455
了解
待っている。
457 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/29(月) 23:10:37.31 ID:bJdY8ot30
待っている あと冥土帰しィィィ!じゃなくて冥土帰しァァァ!だよ
458 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:12:17.11 ID:oqJcByqvo
うるさい!横文字が多すぎるんだよ!!
透過する
459 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:13:15.38 ID:oqJcByqvo
暗闇の中、とある大通りでは張りつめたような緊張感で覆われていた。
ドクドクと脈打つ心臓が持つ熱を、降り注ぐ雨が幾度となく冷まして行く。
それでも、上条当麻の極度の緊張感から来る熱を冷ます事は叶わない。
「緊張なんてしなくても大丈夫ダヨ?痛みなんて感じるヒマも無いんだし」
彼の目の前にはヴェントと名乗った女が、
薔薇の茎のような有刺鉄線を巻きつけたハンマーを持って、
鼻歌交じりに野球選手の様な素振りをしていた。
何だかそれだけを見てると悪そうな人には見えないが、
倒れ伏すアンチスキル達の中、平気な顔して素振りをしているのでその評価は一気に覆るというものだ。
何にせよ、呑気に素振りしてるしそろそろお暇をば……
と言った感じでそそくさとその場を去ろうとする上条に、ヴェントは声をかける。
「私をムシして何処行こうっての?」
「え、ええっと……その、あっちの方に」
「ふうん、成程ね」
しどろもどろに返答する上条だったが、何やらヴェントは納得したように頷いた。
え?どゆこと?と疑問符を浮かべる上条をガン無視しつつも、ヴェントは笑う。
460 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:14:04.74 ID:oqJcByqvo
「他の人間に被害が及ばないように場所を変えようってことね?
OKOK、そう言う事ならいくらでも付き合ってあげるヨン。
私もアンタを抹殺する為にやってきてるんだし、
周りの事気にしなくてもイイかなーとか思ったりしてたけど、
死者への手向けってのも乙なモンだしね、その望み叶えてあげよう!」
「は?イヤ、そげなことなかですたい!?」
「またまたそんなこと言ってー」
もう、イヤン♪と言った突っ込みのテンションでヴェントがハンマーを振るった。
両者の距離はおよそ10m。
突如として上条の体に、横殴りに衝撃が走りそれに従って
車道の端にあるガードレールまで紙切れのように吹き飛ばされる。
そんな上条を見てヴェントは少しだけバツが悪そうに呟いた。
「あ、いっけね。術式発動したまんまだった。ごっめーん」
ガードレールにぶつかったことでその勢いを止めた上条、はすぐに直感した。
―――あれと敵対してはならない、と。
461 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:15:43.14 ID:oqJcByqvo
・・・
「さァて……」
まずは上条当麻と御坂美琴の安否が知りたい。
とりあえず上条の電話にかけたが、誰も出なかった。
それだけで不安を煽るものであるが、
とりあえず御坂にも電話をするべく硬貨を入れる。
すると今度は繋がった。
一先ず御坂は無事そうだ、と言う事実に安堵しながら口を開く。
『御坂、無事か?』
『その声、一方通行?……その口ぶりだと、あんたも無事そうね』
実際は胸がぱっくりと開いていてそれを無理矢理閉じているという状態なのだが、
気を抜くとすぐに傷口から血も抜ける。
しかし、そんな重症な状態だと微塵も感じさせない一方通行の口調に、
御坂は安心したように溜息をついた。
『ただ、上条と連絡がつかねェ。何処行ったかわかンねェか?』
『ごめん、途中まで打ち止めと一緒だったんだけど……』
『そりゃ仕方ねェってもンだ。誰が悪いってあのクソ共が悪ィ。
とりあえず、インデックスの奴も暗部に目をつけられたかもしれねェから、
あいつはあのカエル顔の医者に匿ってもらってるンだが、戦力に不安がある。
だからお前にそこでの防衛を頼みてェンだが……』
『あら?てっきり俺1人でやる位言ってくると思ったのに……』
『……そォしてェのは山々なンだがな。ちっとばっか俺の手に余る問題なンだよ。
とにかく、頼めるかァ?』
『了解〜、頼まれちゃあ行くしかないわね。』
『何でちょっと嬉しそうなンだよ』
『いや、こうやって一方通行から頼みごとされるのって初めてだから……
何でもかんでも1人でこなしたりこなそうとしたりするし』
『……うるせェさっさとしろォ』
『はいはい、それじゃあね』
何だか楽しそうな雰囲気を醸し出しながら、御坂は電話を切った。
そうして取り残された一方通行は、舌打ちをしながら硬貨を入れる。
続いて芳川桔梗にも連絡を入れるためだ。
恐らく鬼ごっこを終えて9982号も近くに居るはずだと考えながら、電話に出るのを待つ。
しかし出なかった!
チッ、と舌打ちをしながら受話器を置き、
返却された硬貨をもう一度入れ、今度は9982号の電話番号を押す。
しかし出なかった!
一方通行は叩きつけるように受話器を置いて、硬貨をポケットに突っ込み公衆電話を後にした。
(なンであいつらは電話に出ねェンだよ!!)
ひょっとしたらあいつらにも何かあったのだろうか。
そんな嫌な予感が脳裏によぎりながらも、
とりあえずテレビの中に言って何か異常が無いか調べに行く事にした。
462 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:16:49.17 ID:oqJcByqvo
・・・
一方その頃。
「はぁ、はぁ……!!」
少女は雨の降る街を駆ける。
その表情は焦燥に満ちており、
明らかに異常事態であると主張しているようにも見える。
しかし、そんな少女に助けは来ない。
その代わり、背後からは追手がやってきている。
彼女が前進しながらも背後にチラリと視線を送ると。
「悪ぃ子はいねぇか〜?人を年増呼ばわりする悪ぃ子はぁ〜いねぇが〜!!?」
「ひぃぃいい!!!こいつしつけえ!と、ミサカは芳川に戦慄します!!」
修羅の国を生き抜いてきたような威圧感……いや、最早存在感と言っても良いだろう。
圧倒的な恐怖を携えて、鬼が少女に迫っていた。
成程、未だに追いかけっこをしていたようで、
一方通行の電話に出る余裕などなかったのだろう。
あまりに呑気な2人は、家に帰る事も忘れて走り続けていた。
「一発!一発ぶん殴らせて!全力で!!」
「だが断る!と、ミサカは逃走を続けます!!」
「先っぽ!先っぽだけでいいから!!」
「何処の部位を指して言ってるんですかそれは!!?」
未だに2人は街の異常に気付いていなかった。
463 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:17:51.15 ID:oqJcByqvo
・・・
風が、吹き荒れていた。
それは一方通行や布束砥信のペルソナに
勝るとも劣らないレベルの風だと、上条当麻は感じている。
その風は辺りに溜まっている雨水や地面へと落ちようとしている
雨粒すら吹き飛ばし、局地的に雨が降って来ない空間を生み出していた。
そして吹き飛ばされた雨は、何処かの店の看板やら駐車されていた車両やらと共に上条に襲いかかる。
そんな中で上条は回避できないと反射的に判断して、
オケアノスのブフーラによる人工の氷壁を作りだし防御に回った。
何とか逃げ切ろうとか思っていたのに、力を使わざるを得ない。
(どうする!?逃げる!?いや、既に逃げ切れてねぇし!!
かといって、あんな風を使われたら、成す術なく吹き飛ばされるんじゃんかよ!?)
そして何より、『頭に召喚器を突きつける』という過程が圧倒的なまでに隙を作ってしまう。
テレビの中では仲間達も居たからその隙を無くす事も出来たし、
オリアナ=トムソンの時は事前にある程度の情報―オリアナの魔術について
知っていたからこそ、ペルソナを使って戦う事も出来た。
しかし、今相手の力は未知数なのである。
例えば今使っている風も、全力ではないかもしれないし、
それ以上の魔術を行使して来る可能性もある。
そして何より、アンチスキルが事ごとく意識を奪われたという現実。
どう見ても隠し玉があると言っているようなものだ。
少なくとも、打ち止めが遠くに移動するまでは相対して戦う気にはならない。
464 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:19:05.95 ID:oqJcByqvo
(クソ、打ち止めの安否が気になって仕方ねぇ……
一方通行も何処居るかわかんねーし、ああああ御坂も大丈夫なのか?!
久々葉とか芳川さんとか、気になりだしたら止まんねーぞ!!?)
上条が極限まで思考をフル回転させて現状を打破する策を考えていると見せかけて
思考が脱線している一方で、風を生み出した本人はぼんやりと上条が使用した力について反芻していた。
(どう見ても幻想殺しではなく、別の力を行使している)
(ひょっとすると、幻想殺しは、使わないじゃなく使えない?)
(でも、時折織り交ぜている『本命』には引っかからない)
(それはただ単に戦意が無いから?
てっきり幻想殺しに阻まれているだけかと思ったんだけど、
『幻想殺し消失』の噂は本当なのか、確かめる必要があるわね)
まあ、そんな反則は消失してくれてた方が楽なんだけど、
とヴェントは声にならない程小さく呟いた。
「てゆーかさ、アンタと一緒に居たちっさいの、どっかに逃がしたみたいだけどイイの?」
「……何がだよ?」
「こんな暗闇にあんな幼子を1人放り込んで、嗚呼可愛そうに。
今も雨の寒さに、暗闇の深さに震えてるかもネ。
それだったらこの場で苦しみも無く死んだ方が楽じゃない?」
「……大丈夫だよ、携帯持たせてるし、すぐに誰か助けを呼ぶだろうさ。
それに、俺も居る。すぐに打ち止めの元まで向かうさ」
ヴェントは上条のリアクションを見て、やはりヴェントと敵対する気はない……
と言うかそもそも別の事に気を取られていると考えた。
それはやはり、上条が逃がした子供の事だろう。
465 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:19:58.38 ID:oqJcByqvo
(全く、心ここにあらずなら、そりゃ私の術式も反応しないわ)
だったら、こっちに意識を向けさせなきゃね。
ヴェントはジャラリと舌から垂らした鎖を揺らしながら、口を開く。
「とりあえず、あなたの背後に居る『ソレ』、一体何?」
「お前は、自分の魔術についてペラペラ人に話すのか?
つまりはそう言う事だよ、手の内は晒さないに限るよな」
「え?同業者には結構話してるけど」
「えっ」
「私のチカラは、分かってて避けられるモノでも無いし。
それこそ、『幻想殺し』でも引っ張って来ないと。
……どんな力か、知りたい?」
ニタァ、と言う効果音がふさわしいだろうか、
おぞましい笑みを浮かべたヴェントに対して、上条は焦りながら召喚器を頭に突きつける。
「……ケッコーです!」
上条はオケアノスを召喚し、マハブフを唱えた。
すると降り注ぐ雨粒が氷のつぶてとなって無差別に降り注いで来る。
それを目くらましに上条は逃走を図ろうとしたのだが。
すると氷のつぶての中心点、前方のヴェントはその氷を全く気にする事無く、
少し風を操るだけでその氷を退けつつ、笑った。
466 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:21:05.19 ID:oqJcByqvo
「アンタが相手してくれないなら、あっちで寝転がってる奴らを玩具にして遊ぼっカナー?
だってそっちが約束反故にして逃げようとしてるんだモン。仕方ないよね」
基本的に軽いノリでどんな事でも大したことない、
と言った口調をするヴェントだが、彼女は一度口にした事は何があってもやり遂げる、
上条は、ヴェントがそんな人間に違いないと、彼女と相対している間に理解させられた。
その彼女が、『意識の無い一般人に手を出す』と言ったのだから、
それは確実に行われてしまうだろう。
上条当麻が前方のヴェントから逃げ続ける限りは。
その言葉を受けて思わずカッとなった上条は、
逃げる足を止め召喚器をこめかみに突きつけた。
―――明確な『敵意』を持って。
それを感じとったヴェントはニヤリとほくそ笑む。
トリガーは上条の手によって引かれた。
そして、魔術と言う名の弾丸は上条当麻の喉笛を食い破る。
「ガッ……!!?」
条件は、魔術を発動させる条件は完全に出揃い、
上条当麻もまたヴェントの『チカラ』に呑まれてしまった。
突然息が出来なくなった上条は召喚器を地面に落とし、喉に手をやる。
しかし、彼を蝕む魔術を解除する事は叶わずに、彼は水たまりの中に音を立てて崩れ落ちた。
そして薄れる意識の中、ヴェントの笑い声と。
―――いけ好かない自分の片割れの溜息が聞こえた気がした。
467 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:22:08.11 ID:oqJcByqvo
・・・
一方通行はテレビの中へ入った。
何か情報が無いか、何でもいいからという藁をもつかむ思いで。
するとそこには何か焦った表情を浮かべるクマと、狼狽する布束砥信が居た。
何かあったな、と一方通行は考えながら地面に降り立つと2人に声をかける。
「オイ、なンかあったのかァ?」
「well、クマが何か嗅ぎ取ったらしくて……ってむしろあなたの方が何かあったの?!」
白と黒のストライプの変則形みたいな服を着ている一方通行だが、
その服の白地部分は真っ赤に染まった上、全身ずぶ濡れ状態である。
布束の突っ込みは当然のモノなのだが、詳しく説明する暇も無いので
「暗部が動き出した」とだけ言うと、布束も何となく理解したようだ。
「それで、クマどォしたってンだ?」
「クマ。最近放り込む人の匂いを感じなかったけど、ここにきて強烈に嗅ぎとれるんだクマ!
これは1人じゃなくて、いっぱい居るクマよ!!」
クマの言葉と、木原数多の言葉を合わせると、これは罠なのではと考えた。
とはいえ放り込まれた人間が関係の無い一般人だとしたら、
ただ巻き込まれただけの存在だとしたら、助けねばならないとも考える。
「……案内しろ、行くぞォ」
「indeed、事は急を要するみたいだけど、他の人を待つ時間も無い程切羽詰まってるの?」
「それは移動しながら説明する。とっとと行くぞォ、こォしてる間にも事態が悪くなる」
先導するクマを抱え、布束の首根っこを掴むとクマのナビを受けて
足を踏み抜きジェットコースターのごとく一気に駆け出した。
悲鳴を上げる布束に、悲鳴のようなナビをするクマ。
そんな中で、ふんふんとクマのナビを聞きながらも、2人に状況説明をする一方通行。
いちいち2人のリアクションを気にする暇などなかった。
468 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:22:54.68 ID:oqJcByqvo
・・・
<天上楽土F1>
「すごくきれーな場所クマね……」
「but、暗部の人間でこんな場所を作りだせる人が居るとは思えないんだけど……」
「……確かになァ……」
そこは天国、と言う物を具現化したような場所だった。
豪奢な装飾の施された石造りの柱や壁、石畳などに木々が絡まっており、
ところどころ浮き島のような構造をしていて、一面が静かだった。
何処か中世ヨーロッパに建てられた城の園庭の様な外観をするその場所は、
純粋な「白」に覆われた世界で、人の心から生まれるこの地において、
ここまで真っ白でまっさらで、ここまで純粋で綺麗な場所を作りだせると言うのは、
とても素晴らしい事だと思う反面で、そんな人間がこの場に放り込まれたという事実にただただ驚愕させられる。
そして何より、今まで不気味なまでに放り込まれる人間が居なかったというのに、
動き出した暗部と木原の言った言葉、そしてこの状況。
どう見てもこの現状には木原数多が関わっている。
だとしたら、この場を作った人間もしくは人間達は木原の味方か、敵か。
何にせよ一度顔を合わせねばならない。
そう考えた所で入口に足を踏み入れた一方通行だが、不意に『声』が聞こえてきた。
それは初めてこの地に降り立ち、御坂美琴や9982号を伴って研究所に行った時に聞いたような、
ラジオか何かで放送しているような音声で、思わず一同はその声に聞き入った。
469 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:23:24.87 ID:oqJcByqvo
・・・
《《―――木山先生っ!》》
470 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:24:43.87 ID:oqJcByqvo
・・・
《いよう木山先生?元気してるー?》
《誰だ、貴様は》
《俺?俺ぁ木原ってんだ。しがない研究者だよ、
今日はお前んとこのガキ共を……5人かな、回収にあがったわけだ》
《なっ!?貴様どういうつもりだ!!?》
《どーもこーもねーよ、つべこべ抜かしたら殺す。
そーだな、医療ミスにでも見せかけて殺すか?
そしたらここの医者もおしまいだな、お前ここの奴に世話になってたんだろ?
恩を仇で返す気かぁ?》
《ふざけた事を……!!》
《しーんぱいすんなって、そもそもこっちもこんな事するつもりなかったっつーの》
《どの口が抜かすんだ……!?》
《だーかーらぁ、飽くまでも一時の間……そーだな長くて3カ月、
早くて1カ月ガキ共のうち何人か借りるだけだって。
色々しなきゃならねぇ事があってな。それが終わったら解放するっての》
《そんなふざけた話、信じられると思うのか?》
《いや、信じる信じないの問題じゃねーよ。既に規定事項だし、そいじゃおやすみー》
《なっ!?ふざけ……る、な……》
471 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:25:50.41 ID:oqJcByqvo
・・・
《とりあえず、おめーらには普通に学校に行ってはもらうが、
放課後たまに呼び出しすっから、その時は必ず来いよ?
でねーとお前らの大好きなセンセーはサヨナラする事になるからなぁ!
ん、そーいやお前は木山春生とは関わり無かったんだっけか。
まーいいやお前の場合、そっちのデコっぱちの危険が危ないってなぁ!!》
《《……》》
《俺の命令に対しては、はいかわかりました、もしくはイエッサーと返答しろよ?
あんまり我儘なクソガキは殺したくなる程大嫌いだから。
まぁ、言う事を聞く限りはそんなひっでーことにはならねーから安心しな……
例えば、何年も意識不明になったりなぁ!ギャハハッ!!》
《《……はい》》
《よーしそれでイイ。そんじゃ一人ずつ身体検査してくから……
右から順にあっちの部屋に行ってこい》
《《……はい》》
・・・
《よーしガキ共、朗報だぜー。
今回の任務が終わればお前らも木山センセーもお役御免で開放してやるよー。
何せ『適合者』があつまりゃお前ら『人工』のはいらねーかんな。
実際人工のはお前らと言う成功例もあるし、いつでも造り出せるしよぉ》
《《……はいっ……!》》
《それでだな、最後の任務地は―――》
472 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:26:21.85 ID:oqJcByqvo
・・・
《《―――木山先生!》》
・・・
《……バァーカ、解放するって意味を履き違えてんなよ》
473 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:27:07.28 ID:oqJcByqvo
・・・
一方通行はあふれんばかりの激情を抑えきれずにいた。
布束砥信は血が出る程に唇を噛みしめていた。
クマは状況が分からないものの、放り込まれた人たちは被害者なのだと理解した。
今、この場に居ると思われる人間達は、『暴走能力の法則解析用誘爆実験』の被験者達の一部。
そして響き渡る音声を聞いた限りでは、本来『暴走能力の法則解析用誘爆実験』は
『AIM拡散力場制御実験』を隠れ蓑として行われた実験だったのだが、
実はそれすらフェイクに過ぎず、この実験での目的は『人工』のペルソナ使いを作りだす事にあったのだ。
結局その被験者達が昏睡状態に陥った為、見た目上は中止になった。
しかし木山春生や御坂美琴達がその被験者を見事に救ったので、
『色々』とデータを収集する為に再び被験者達を集めたようだ。
そして今、用無しになったからか、適当な事を言ってテレビの中に放り込んだのだ。
事もあろうに、一方通行達の足止めをするついでに。
「あンのクソ野郎ォ……何処までも馬鹿にしやがってェ……!!」
ギリギリと歯ぎしりをする一方通行だが、
そんな中で布束砥信は神妙な顔つきで一方通行に語りかけた。
「well、この世界は、「木山先生と共に日常に戻れる」という安心感から出来たものかもしれないわね……
それはさておき、一方通行。あなた外に戻った方がいいわ。ここは私とクマが何とかするから」
「ハァ?何を……」
「私とクマは、ココでしか動けない。でも、あなたは違う。そうでしょう?
therefore、適材適所って奴」
「……」
確かに、そうだ。
あの音声を聞く限りでは、木原はここには居ない。
だったらいつまでもこんな所に居る暇は無い。
かといって騙された子供達を放っておく訳にもいかない。
ならばクマと布束がこちらで動けばいい。
そして一方通行はあちらで木原を叩けばいい。
474 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:28:14.22 ID:oqJcByqvo
「それじゃークマと一方通行ンは一旦戻るクマ?」
「イヤ、ここであっちに戻る」
「「えっ」」
「考えても見ろ、あいつらが何処から入って来たのか」
「……高確率で奴らの研究所がありそうね」
「恐らく、罠なンだろォな。
だが、あいつは、あいつらは骨の髄まで消し飛ばしてやらなくちゃー気が済まねェ」
「……分かったクマ、それじゃあここで出口を出すけど、気をつけるクマよ?
敵は人を人とも思わない外道クマ!!」
「分かってる。餅は餅屋、蛇の道は蛇……ってなァ。
あァいうクソ共の相手は俺がすべきなンだよ」
落ちついた口調に聞こえるが、その表情を見ると今にも爆発しそうな時限爆弾、と表現したらいいだろうか、
これを敵に回した奴らの方に同情したくなる程に、一方通行はキレている。
布束とクマは南無南無と心の中で念じながら、
一方通行がクマの出したテレビの中に吸い込まれて行くのを見送ったのだった。
475 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/29(月) 23:28:56.78 ID:oqJcByqvo
尾張です。
幻想殺し無いのにヴェントに勝てるわけねーじゃん!!チートじゃんアイツ!!
今日もまた詰まらぬ誤字脱字を見逃した……
476 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/29(月) 23:35:30.27 ID:oqJcByqvo
て言うか天上楽土を出したくてこのSS書き始めたと行っても過言ではない。
我が生涯に一片の悔い無し、おやすみなさい
477 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/29(月) 23:41:08.59 ID:oqJcByqvo
>>457
あの、うるさい!って言ったけど、そんなに怒ってないからね、怒らないでね!(挙動不審)
478 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/08/29(月) 23:53:40.77 ID:F31P4I2AO
あらやだこの
>>1
かわいい
ヴェントさんの無理ゲーっぷりが原作以上だな、☆の計画含めて果たしてどんな展開になるのか…
乙です
479 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/30(火) 00:19:52.07 ID:f4zs0Gtn0
>>1
乙
>>457
だけど気にしてないよ
それより
>>1
が可愛いそして悲鳴を上げる布束さんが可愛い
480 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/30(火) 05:35:38.35 ID:CqQN2YY10
>>1
乙
>>476
このSSだと天上楽土の裏がこわいな。
481 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)
[sage]:2011/08/31(水) 01:26:15.95 ID:k+XIXNCJo
そういや布束が怪我した一方さんにディア掛けたら治ったりするんだろうか
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
482 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/31(水) 02:27:23.06 ID:Av3vpw7Go
回復するよ!
でも外で怪我する→ペルソナで治す
とかすると周りに怪しまれるからしないよ!
ただでさえヘブンキャンセラー(←端から横文字)に怪我の悪化がばれてるしね!
治したけど血が足りてないみたいな展開も考えてたけど……
あと、明日と言うか今日の夜くらいに投下しようと思いますんと言う名の業務連絡。
ちなみに、天上楽土はただ出したかっただけなので特に深い意味は無いです。
ただのダンジョンなので別にオリジナルの物でも話の展開に違いは無いのです
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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483 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/31(水) 03:14:25.98 ID:SLQmvyeB0
>>482
分かった 待ってるよ頑張ってね
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484 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:28:38.52 ID:Av3vpw7Go
ハンターハンターが日曜の朝11時からか……胸が熱くなるな
子供達「わーい新しいアニメだー」
ピトー「系統の判別方法は?」
ポックル「あっあっ」
子供達「」
透過する
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485 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:30:02.45 ID:Av3vpw7Go
「ホントに第一位は来るのか?」
黒づくめの1人は第五学区に点在する研究所のうちの一つの中で待機しながらも、
本当に来るかもわからない敵に対して溜息をついた。
ここ第五学区は大学や短大などが多く、
数多くのビルが建ち並ぶ学区で、それに伴い大学の付属研究所なども多い。
そんな学区にある『野村産業技術総合研究所』の
敷地内で『猟犬部隊』の1班は待ち伏せをしている。
待ち伏せをするにあたって武装している事を怪しまれないように、
テロリストが潜伏している可能性ありと言う名目の元、
アンチスキルに扮した状態で目的のポイントに部隊を並べた訳だが、
こんな場所で戦闘行為をしても良いのかという疑問が一同の頭の中にあった。
この研究施設はそこらにある研究所とは一線を画しており、
環境を利用したエネルギー運用や、ナノテクノロジーを駆使した材料の製造、
個人の身体に合わせた健康維持や増進、回復を支援する技術の開発など、
とにかく名前の中に『総合』とあるだけあって多くの研究が為されており、
分野ごとの研究所が野村産業技術総合研究所の敷地内に、所狭しと立ち並んでいる。
この「野村産業技術総合研究所(通称ノムケン。その名を呼ぶ者は少ないが)」
と言う名はその地を呼ぶ為の便宜上の物に過ぎず、その実態は大量の研究所を
ショッピングモールの様に一つにまとめている場所だった。
その広さは約9平方キロメートル。およそ3キロ四方にわたって展開されるこの場所では、
一流と呼べる優秀な研究者達が集まっている為、研究者にとっては一つのパーソナリティと言うか、
ここに配属される事を目標にしている者も少なくない。
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486 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:31:40.35 ID:Av3vpw7Go
木を隠すには森の中、と言う事で人の為に尽力している研究者が居る傍らで、
人に言えないような実験を行う研究者も中には存在している。
ここ野村産業技術総合研究所には木原の研究所もあり、
その研究所から置き去りの子供達はテレビの中に放り込まれた。
そして、木原数多には放り込む事は出来てもそこから戻す術を知らない。
だが、そこから戻る力は一方通行達には存在する。
その事実を知っている木原は、一方通行は間違いなくこの研究所にやって来るはずだと考えている。
そんな訳でこの班に対する指令の内容は、一言で言うなら「時間稼ぎ」。
この研究所に20時までに一方通行がやって来た場合、
最低でも30分足止めを、可能であれば一方通行及び
一方通行に加担する者を撃破しろ、と言うものであった。
ペルソナに関する実験は猟犬部隊の面々は知らない所で行われている為、
木原の指示に頭をかしげたいところだが、命令は絶対なので
こうして待ち伏せをしつつも、影で疑問を露わにする黒づくめだった。
「さぁ、とりあえずあの人の言う事は絶対だから、来るんじゃない?」
「全く、とんでもねぇ上司が居る所に配属されたものだな、ナンシー」
黒づくめのため息に対して、どうでもよさげに返答した、女の声。
同僚の「ナンシー」という言葉に、言われた本人は思わず笑って
誰がナンシーかと呟いてしまうのだが、そう言うコードネームで行動しているのだから仕方が無い。
ナンシーは普通に普通で黄色人種のジャパニーズだ。
勿論黒髪黒眼で日本人ぽくない部位は存在しない。
本人も別にその事にコンプレックスは抱いていないのだが、
どうせなら普通に漢字のコードを付けて欲しかったものだ。
この名付け親である木原数多はきっとネットなどでは派手なハンドルネームを使っているに違いない。
(例えばなんだろう、アクセラキラーとか?)
ナンシーは自分で考えた事に自分で噴き出した。
本人は面白いのだろうが、もし仮に周りの人間達と仲が良ければ、
突然噴き出してどうしたという和やかな雰囲気に包まれるかもしれない。
しかし、このメンツではそんなことはありえない。
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487 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:32:34.81 ID:Av3vpw7Go
ナンシーは勿論そうだし、ここ『猟犬部隊』に配属される人間は
男女問わずとにかくクズばかりを集めた組織なので、
とりあえず仲良しこ良しなんて雰囲気が出来るわけがない。
例えばアンチスキルとして犯罪者を嬲る様に追い詰める快感に酔いしれた奴や、
身体に傷を残さない拷問方法を提唱・実行に移した奴。
兎にも角にも、自分も含めて周りの人間は全て軽蔑されるべきクソ野郎なのだから。
彼女は周囲の重苦しい雰囲気などガン無視し、
未だにくつくつと笑いながら手の中の先程まで使っていた器具をゆっくりと揺らしていた。
一見玩具の拳銃に見えるのだが、それは実は嗅覚センサーという、対象の匂いを追い続ける道具だ。
途中までそれを使って一方通行を追っていたのだが、突然対象の匂いが『消えた』。
このセンサーは例え雨によって匂いが混ざろうとも、正確に対象のみを追う。
だと言うのに文字通りセンサーから消えたのだ、当然ナンシーは驚きを隠せなかった。
と思ったらこの研究所で待ち伏せしてろと言う木原数多の指示。
更には命令の中から分かる通り、一方通行に加担する者が居るかもしれない、と言う事実。
自分の知らない裏側に、一体何があるのだろうか。
気にはなるが、追及する気にはならない。好奇心は猫を殺す、つまりはそう言う事だ。
ただでさえこんな肥溜めにいるのだから、これ以上余計なことして命すら散らすのは勘弁したい。
しかし、これだけは気になる。
「あの人は自分の研究所で戦闘されても気にしないのかしら?」
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488 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:33:22.07 ID:Av3vpw7Go
「気にしないからこうやって班を動かしたんだろ」
別に誰に向けて言った言葉でも無いのだが、
ナンシーの隣に立った黒づくめの男が返答をした。
無駄口であるが、確かにその通りである。
木原の研究所は300m四方程度の敷地で、研究所としてはかなりの広さを誇る。
野村産業技術総合研究所の中では裏の研究も為されていると先述したが、
木原数多は『木原一族』のブランドも相まってかなり有名である為、
「この」研究所ではあまり裏側の研究は為されておらず、
基本的には表向きの立ち位置を固定する為の研究しか木原はしていない。
つまり、そんな研究所にて一方通行を待ち伏せする意味がわからない。
「まあ、何か俺達の知らない裏があるんだろ」
「そーね」
またしても聞いてないのに返答をする同僚に対して、ナンシーは気の無い返事を送った。
それと同時に、嗅覚センサーに反応が示された。音も気配も無く。
「……来たわね」
そして猟犬部隊は動き出す。音も気配も無く。
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489 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:34:29.58 ID:Av3vpw7Go
・・・
学園都市は東京西部の山岳部を切り開いて作られた街だ。
自然破壊だ何だと騒ぐ団体もあるが、
利益とそれに代わる植栽の技術を提供したら全員が黙った。
兎にも角にも紆余曲折を経て造られた学園都市だが、
山岳部にある為にその周りには村すら存在せず、
学園都市から一度外に出ると人と出くわすのにかなりの時間を要する。
そんな中で山道を通る豪奢で面長な車体が1つ。
所謂リムジンと呼ばれるそれはもっと走るにふさわしい道路があるだろうと突っ込みを受けそうだが、
突っ込みを入れる人間がその周囲には居ない為に、リムジンは丁寧な運転で音も無く快適に目的地へと向かっていた。
その車内には、運転手のほかに7人の男女と犬が1匹。
明らかにリムジンに似合う面子ではないと突っ込みを受けそうだが、
やっぱりそもそも周りに突っ込みを入れる人間が居ないので、何事も無かったかのようにリムジンは進む。
「ところで、学園都市に入る時どうするんですか?」
まるで戦闘前の張りつめた空気が漂う中で、
少しでもそれを和らげようとする為か、ふかふかリッチな座席に縮こまりながら岳羽ゆかりは口を開いた。
「そうっすよ、だってこないだの大覇星祭に行った時もかなり厳重な感じだったじゃないっすか」
やはり緊張感はある程度持った方が良いのだろうが、こういった重苦しい雰囲気は苦手なのだろう。
岳羽の質問に同調して伊織順平も桐条美鶴に対して質問をした。
2人の質問は他の面々も気になっていたらしく、美鶴が口を開くのを一同は待つ。
「……いつだったか、夜の学校に侵入したのは。
懐かしいな、私は今あの時の事を思い出しているところだ」
「……いや、流石に学園都市へ侵入するのと夜の学校に侵入するのを同列に考えるのはどうかと思うぞ」
思わずずっこけそうになった真田明彦だが、
体勢を立て直すとかなりズレたことを口走る美鶴に対して突っ込みを入れた。
しかし、流石にそんな無計画なはずもなく、美鶴は口角を上げながら答える。
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490 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:35:18.11 ID:Av3vpw7Go
「ふふ、冗談だ。一応先方には話を通してある。
学園都市に送った研究者達の様子を見る為にそちらに向かう、とな」
「「何だよかった……」」「わん!」
「……」
「どうしたの?アイギス」
美鶴の言葉に安堵する一同とコロマル。
しかし、そんな中で1人アイギスだけが思案顔をしていたので、
山岸風香がアイギスの顔を見やる。
「いえ、先程の美鶴さんの言葉だと……
桐条グループの長として学園都市に行くのですよね?
なら私達は一体どんな立ち場として学園都市に入れるのかなーって思いまして」
「「あっ」」「わふ……」
そこのとこどうなのだ、と言う視線が美鶴に集まった。
すると先程と同様に口角を上げながらなのだが、
若干の動揺が見え隠れしつつ言い放つ。
「……ぶ、部下と言う事にしよう」
「それ、かなり苦しいと思うんですけど……」
パッと思いつきましたみたいな事を言う美鶴に対して苦言を呈したのは、天田乾。
しかし、彼の言い分は最もだ。
何せ桐条グループの人間とは思えないような普通の私服でリムジンの車内に居るのだから。
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491 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:36:11.29 ID:Av3vpw7Go
「ぐぬぬ……」
「?どうしたのアイギス」
するとまたしてもアイギスが思案顔をしながら呻くので、
山岸は再びアイギスに声をかけた。
「いえ、強行突破も已む無しという事で、
弾薬が早くも減りそうだと思うとちょっと今後が不安になりますね」
「「止めて!」」「わふ!」
それだけはあかん。学園都市を敵に回すのはあかん。
美鶴に対して総突っ込みを入れていた面々が一気にアイギスに対して総突っ込みを入れた。
え?駄目なの?と言った感じでキョトンとするアイギスだったが、
「……冗談ですよ」
「いや、今の絶対マジだったでしょ!?」
岳羽が代表してもう一度突っ込んだ。
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492 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:37:09.22 ID:Av3vpw7Go
・・・
木山春生の本職は研究職である。
色々あって今は木原数多と言う男が所有する研究所に
半ば監禁状態で押し込まれているが、厳重に拘束されたり監視されたりはしておらず、
所内ならば自由に動いていいと言うのでそれに従って彼女も自由に動いている。
一応この研究所にはシャワールームも仮眠室も、
更には娯楽室としてビリヤードやら卓球やらゲームやらが出来ると言う
何だか研究所と言うよりは娯楽施設だなと間違えそうな程過ごしやすい空間であった。
そんな中何か木原の弱みでも握れまいかと、自分の得意分野とする大脳生理学の研究をする傍らで
度々木原の研究室を漁るという暴挙に出ているが、今のところ何も見つかっていない。
と言うよりは、この場では木原にとっても木山にとっても
本当にどうでもいい(表側)の研究しかしていないらしく、
火の無い所に煙は立たないと言うか、本当にこの研究所にはやましい部分が無いらしい。
それ故に木原も木山に対して別に好きに動けばいいと言ったのだろう。
唯一気になる点が今日の夕方頃に、監視の目を付けた上で部屋から出ないように命令された事だ。
確実に裏があると思いながらもそれを調べる事は不可能な状況で、
結局日が落ちた所でようやく解放された為、今日もまた所内をうろうろと徘徊している。
すると、ある異変を察知した。
(今日は誰も居残ってないな……)
ここ木原研究所では「アフターファイブは残らない」をモットーにしているのだが、
それは木原数多のみで他の研究所員は律義に仕事をこなしてから帰る為、
かなりの確率で誰かしら残っている。
しかし、今日に限っては人っ子一人いない。
仮眠室やらシャワールームも行ってみたのだが、誰もいないのだ。
確かに、居残りメンバーが少ない日は存在する。しかし、0と言う日は今まで一度も無かった。
そして今日の監視も相まって、それが酷く不自然なものに感じられる。
(一体何が……)
木山の疑問に答える者は誰もおらず、彼女は1人所内を彷徨う。
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493 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:38:36.73 ID:Av3vpw7Go
・・・
意識が暗転する。
目を開いているのか、はたまた閉じているのか。
落ちているのか飛んでいるのか。
倒れているのか立っているのか。
何も分からない。
しかし、深い暗闇だけが視界を捉えている事と、
ぼんやりと自分が上条当麻であると言う事だけは分かった。
すると徐々に先程まで感じていた息苦しさは無くなり、
何だか天に召される時はこんな感じなのかとぼんやり思っていた。
(いやいや、天に召される時はこんな感じって……)
それってまさに今なのではとか自分で突っ込みを入れられる辺り、
本当に自分は死ぬ直前なのか?とか考えてしまうものの、
やはり先程受けた謎の攻撃で息が出来なくなったと言う記憶がある所を見ると―――
そこまで考えた所で暗闇が一気に晴れる。
「ふっふ。ようこそ、ベルベットルームへ。お久しぶりでございますなあ」
するとそこはいつか見た車の中で、
目の前にはいつか見た鼻の長いおじいさんと、いつかみた幸薄そうな金髪美人。
そして、
「おーっす」
「何でテメーがここにいるんだよ?」
「まあ、ちょっとな」
上条当麻の影が、金髪美人・マーガレットの隣で紅茶をすすっていた。
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494 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:40:27.77 ID:Av3vpw7Go
以前も意識を飛ばされた時にここに来た事があったが、
あれ以降この場に来る事は無かった。
いや、そもそも意識を飛ばされるような事態に陥る事が無かったからなのか、
はたまた何か別の事情でもあるのか。
何にせよ「客人」でない上条が、またしてもこの場に呼ばれた。
それにはきっと何か意味があるのだろう。
本能的に何かあると察知した上条は、改めてイゴールの方を向く。
「いやはや、本来は『今』お呼びする事は無かったはずだったのですが、
こちらの方がどうしてもとの事ですので、こうして再びお呼び立てた次第でございます」
「ま、そーいうこと。で、どうだった?今回の敵は強かったか?」
「強いも何も……」
何もさせてもらえなかった。
訳もわからずここに来た。
そうとしか言えない。
ポツポツと語り出す上条を、影は楽しそうに眺める。
「まあ何て言うか……完敗?」
「なっさけねーなー。少し位どんな力か見定めてからこっち来いよなー」
「うるせえよ!」
何だか双子の兄弟のやり取りの様だ。
そんな2人のやり取りを、イゴールもまた楽しそうに眺めていた。
マーガレットは上条の影が飲み干した紅茶に注ぎ足して、
更に別のカップに紅茶を入れて上条に勧める。
「あ、ども」
上条はそれを受け取るとゆっくりと紅茶を口にした。
「まあ良いや。何にせよ、おめーがあいつに勝つには、『コレ』が無いと駄目だろ?」
上条の影は左手でカップを掴みながらも空いた右手をプラプラと揺らす。
「そりゃあ異能に対しては『ソレ』が合った方がありがたいけど……」
「オッケーオッケー。本当はそこのおっさん風に言えば
『命のこたえ』を見つけたらってつもりだったけどあれだ、緊急事態って奴だな」
「は?」
どういう事だ、と上条が尋ねる前に、上条の影は紅茶を一気に飲み干して続ける。
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495 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:41:27.14 ID:Av3vpw7Go
「俺を屈服させろって言ってんだよ、その為の場を借りる為にこいつらの所に来た」
「ふっふ、私どもからは特に用があった訳ではございませんが、
思う存分動ける場所をお貸ししろとの事でしたので……こちらのマーガレットが御用意致します」
「そう言う訳だから、着いてきて頂戴」
今まで紅茶を淹れる以外には置物の様に口を閉ざしていたマーガレットだが、
ポツリとつぶやくように口を開くと、腰を上げ車の扉を開いて外へと出て行った。
それに追従して上条の影も出て行く。
訳もわからないうちに話が進んで行く為、
首をかしげながら上条もまた流されるようにして車内から出て行った。
そして一人、残されたイゴールはどこから取り出したのか、1枚のタロットカードを眺めている。
以前一方通行に占った時の様に、1枚のカードを選び出したのだ。
その対象は、今回は上条当麻である。
イゴールの手に握られたカード。
そこには左手に天秤を、右手に剣を持った女神が描かれていた。
「正義の正位置……相反する二つの力の調和……
ふっふ……彼はお客人ではあられませんが、やはり面白い……
いずれ、彼もまた『命のこたえ』に辿り着けるやもしれませんな」
「しかし、それと同時に一歩間違えるとその均衡は一気に崩れさる……
さて、彼らは無事均衡を保つ事は出来るのでしょうか」
イゴールの独り言は、彼以外に誰もいない車内に響き渡るだけだった。
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496 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/08/31(水) 18:42:09.36 ID:Av3vpw7Go
・・・
一方通行は暗闇の中に突如として現れた。
先程まで割と明るい場所に居た為に、目が慣れない。
ゆっくりと目を慣らしながら、辺りを見やるとどうやら何処かの研究所内の様だ。
何か機材のようなものがずらりと並んでおり、自身の背後には巨大なモニター。
恐らくここから置き去りの子供達は放り込まれたのだろう。
更に、この場は無菌室の様に厳重に閉め切られた空間のように見受けられた。
(木原の野郎が居ないにせよ……猟犬部隊のクソ共が居る可能性は高い)
ならば、何かしら対策を講じてくるはずだ。
何せこちらは腐っても超能力者で、相手はプロといえども無能力者の大人。
普通の武器を普通に扱っても勝てるはずが無い。
(キャパシティダウンやらAIMジャマーは当然として、他に何かあンのかァ?)
能力者の力を削る物としてはそれらが有効だろうが、
そのどちらもあらかじめ存在を予測しておけば対策するのは易いものだ。
とはいえ、そんなことを思えるのは学園都市第一位としての力があるからなのだが。
(とりあえず、ココが何処なのか、それからだなァ)
動かない事には始まらない。
一方通行は暗い室内から出るべく、目を凝らして出口を探すのだった。
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497 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/08/31(水) 18:43:09.85 ID:Av3vpw7Go
尾あっ張ですあっあっ
そろそろあっ暗部あっあっメンバーもあっでるあっあっ
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498 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/31(水) 20:35:49.68 ID:9KA4WUr80
>>1
乙
いいね、いいね、先が見えないのが最高だね。
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499 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/08/31(水) 22:48:30.79 ID:KAm/ai9B0
P4vitaでテンションあがりまくりですぜ
乙
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500 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/01(木) 02:27:34.03 ID:Kba6pksP0
>>1
乙
一方さんだけじゃなくて上条さんも命のこたえに辿り着けるのか
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501 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/09/01(木) 21:36:28.57 ID:weMyKDDvo
今日明日の投下は怪しいですう
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502 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/02(金) 05:07:04.52 ID:nFKI6pYg0
>>501
了解した。
週末を待つ。
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503 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/09/03(土) 20:00:47.91 ID:rG01YgxGo
すまん、正直行き詰まってる。
話の展開は前から妄想してたからあれだけど、そこに至るまでの流れがあれしてる
後風邪引いたし。寝ながら色々妄想しても目覚めたら全部忘れるという悪循環
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504 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/09/03(土) 20:13:28.65 ID:rG01YgxGo
鼻もつまってるってやかましいわ!(ドッ
……おとなしく寝ます
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505 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/09/03(土) 20:17:04.08 ID:KVy53mSwo
台風に気をつけてナー
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506 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/03(土) 21:04:10.06 ID:Jljjs2kV0
>>1
回復を祈っている。
オルソラに看病してもらえばなおるかも?
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507 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/05(月) 02:24:06.97 ID:GQuHMGOqo
透過するわ
げっほげぇっほ!!!!(過度なリアクション)
508 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/05(月) 02:24:33.26 ID:GQuHMGOqo
暗闇の中。
一方通行は室内から廊下へと出た。
廊下を照らす淡い蛍光灯が一方通行の視界を明るくするが、
急激に明るくなった事で目がはっきりするのに少しだけ時間がかかる。
ようやくはっきりとし始めた目を良く凝らしながら前を見ると、壁。
両サイドに道が広がっており、奥まで歩くのにはかなりの距離があるようで、
相当にデカい研究所だと言う事が見て取れる。
まるで研究所と言うよりどこかの企業のビルの中、
と言った内装をしているその場から、一方通行は足を踏みだした。
(とりあえず、近くに誰かが居る感じはねェな……)
きょろきょろとあたりを見回しながら、右か左か、どちらから行ってみるか考える。
(まァ、ンなもンどっちでもイイか、どォせここが何処かすらわかンねェンだし)
とりあえず右で。と、アバウトに決めた一方通行は、再び歩き始めた。
509 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/05(月) 02:25:36.55 ID:GQuHMGOqo
・・・
「どういう事だ?」
猟犬部隊の1人がナンシーの提案した作戦に首をかしげる。
と言うのも、今現在猟犬部隊はアンチスキルの格好をしているのだが、
名目上は研究所に潜伏していると思われるテロリストの捜索と言う事なので、
なるべく戦闘は避け目標を捕捉する事だけに集中するべき、と提案したからだ。
ナンシーはだらんとしてやる気なさげに自身が潜伏している待合室のソファーに座りこみ、
とてもじゃないがこれから任務を行う姿には見えない。
ナンシーの同僚は、彼女の考えが読めずに首をかしげている。
ここで、一方通行がこうして猟犬部隊に狙われているのは、彼が打ち止めを保護しているからだ。
その為、打ち止めを捕獲するにあたってその障害になり得る一方通行は
出来れば排除したいところ、と言うのがお上の決定である。
とはいえ、最低限時間稼ぎが出来ればそれで良い為、必ずしも排除をする必要はない。
本気で一方通行を殺害するなら、このように大々的に部隊を動かすよりも、
普段の日常の中で一方通行が本領を発揮する前に暗殺する、
と言った方法を取った方が人材的にも金銭的のも楽なものである。
そう言った事情もある為、木原数多は猟犬部隊に対して
「時間稼ぎ30分もしくは撃破」と言う条件で任務を与えたのだ。
確かに、今後も障害になり得る一方通行は、今撃破した方がいいのだろう。しかし、
「手負いとはいえ、反射を稼働させた状態の一方通行を打倒できる人間は限られているわ」
例えば、木原数多。
例えば……ここでもうナンシーが挙げられる人物は居なくなった。
ナンシーは嗅覚センサーをゆらゆらと揺らしながら、事もなげに続ける。
「あの人は私らに何も期待していない」
木原は、猟犬部隊に何も期待していない。
失敗したら殺すし、成功したら引き続き使い潰す。
それが当たり前で、従前から十全に当然のことで。
510 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/05(月) 02:26:31.29 ID:GQuHMGOqo
「そんなこたぁここに居る全員が知ってるっての」
何を急に、と言った表情でナンシーの同僚は
拳銃に弾を込めながら呆れた様子で突っ込みを入れた。
「ま、有り体に言えばどうせ死ぬなら、なるべく楽な道を進みたいわよねって話よ。
何が楽しくて超能力者何かと戦わなきゃならんのさ」
ナンシーに宿っている感情、それは諦念。
自分がクズである事はとうの昔に知っているし、
自分が無様に死ぬと言うのも暗部に落ちた瞬間に理解している。
木原数多と言う男の下についた時点で、明日死ぬかもしれないし
今すぐ死ぬかもしれないし、何にせよ長生き等望めるはずもない。
とはいえ自殺しようと言う気にもならないナンシーは、
どうせ死ぬなら困難はなるべく避けたい、そのように考えて今までの任務も気を抜いて行ってきていた。
今回も、例え相手が学園都市最強といえどもその精神は変わらない。
いつも通り楽な道を選び、任務に失敗したらあっけなく死んでしまおう。
そして「時間稼ぎか撃破のどちらか」と言うのなら、迷わず時間稼ぎを選ぼう。
と言っても、何も無い状態で時間稼ぎと撃破を比較したら、
そんなん無能力者のナンシーからしたら五十歩百歩で縊り殺されるのがオチだろう。
しかし、今回は違う。
作戦の為の装備と場所は、既にそこにあるのだから。
「ここが『表』の研究しかしてないってのと、木原の名前に宿ったブランド。
そして私らの格好を考えたら、わざわざ反射を貫く方法考える必要も無いって事よ」
嗅覚センサーは、相手の大まかな位置を知らせる事は出来るものの、
はっきりと何処に居るのかまでは分からない。
何せ匂いを追う為だけの機械なのだから、そこに地図などはインプットされていないのだから。
そんな訳で、この研究所内に一方通行が居る事は分かっている為、一先ず嗅覚センサーは用無しである。
ナンシーはスッと立ち上がると嗅覚センサーを腰に差し、
軽くストレッチをしながら床に放置していた装備品を拾い上げた。
「どっからどうやってこの場にやって来たかは知らないけど……」
彼女はニヤリと意地悪な笑みを浮かべながら、呟く。
「何にも情報すら得られないまま時間つぶしてしまえば良いのよ、主に私の為に」
511 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/05(月) 02:27:31.68 ID:GQuHMGOqo
・・・
テレビの中から直接木原が居たと思われる
拠点を叩くべくクマの力を借り、何処かの研究所へと降りたった。
まず一方通行は自身が何処に居るのか調べる為に所内を動き回る事にしたのだが……。
(うげっ、蜘蛛の巣張ってやがる……反射出来ねェのがなァ……)
今現在の一方通行の所在地。
それは通風口の中。
研究所の中でもかなりの広さを誇るこの研究所は通風口も
人が通れるくらいの大きさで、隠れるには持って来いだろう。
いや、そんな話はさておき、何故隠れざるを得ないのか。
(なンだってアンチスキルがここに居るンだよ……!)
アンチスキル(ホントは猟犬部隊)が所内を探索して回っているのだ。
こちらには気付いていなさそうだったが、
一方通行が先にその姿を発見できたのは不幸中の幸いだと言えよう。
しかし、彼らの武装はアンチスキルに模しているだけであり、本物ではない。
それ故に黄泉川愛穂などの本職ならば遠目に見ても気付けただろうし、
一方通行も間近でよく見れば分かったはずだ。
―――それがアンチスキルの真似事をしているナニかだ、と言う事が。
しかし、ここは敵の懐で、そんな場所にアンチスキルの姿を見れば
まずは身を隠すことを考えてしまうのも無理は無い。
そう言う意味ではやはり一方通行は不幸だったと言う事だろうか。
(本物かどォかはわからねェが……偽物と見極められるまでは手を出せそォにねェな……)
一方通行は肘を立てながらほふく前進で進んでいる為、
胸の傷に触れて血流操作を行う事が出来ない。
その為、今は反射を切って通風口の中を這って進んでいる。
一定の距離を行くたびに通風口の出入口が見える為、そこから辺りを見渡して。
何度かそれを繰り返したところで、一方通行は異変に気付いた。
(アンチスキルしか居ねェ……)
今現在、この建物で見つけた人間はアンチスキルしか居なかった。
はっきり言って、何かあったとしか思えない。
(待て待て、ここは木原の手が加わってる可能性大な場所だ、
アンチスキルが踏み込んでくるようなヘマをあのクソ野郎がするかァ?)
先程まで頭に血がのぼっていたのか、考えが巡ってなかったがようやく落ち着いてきた。
まず、何故アンチスキルがこの場に居るのか。
アンチスキルの任務、それは街の治安維持。
512 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/05(月) 02:28:22.52 ID:GQuHMGOqo
(ってこたァ犯罪者がこの中に居るってことだァ)
犯罪者。
(一番怪しいのって、俺だよなァ)
不法侵入の一方通行。
ならば彼らの任務は、研究所に侵入した一方通行を逮捕する事だろうか。
何故既にいるのかと言うのは、あらかじめアンチスキルを動かすように手配をしていた等が考えられる。
一方通行は、過程は違うが結果として正しい結論を導き出した。
そして一方通行の思考は続く。
(だとしたら、木原の目的は俺を潰すンじゃなく、
時間稼ぎでこの場に縛りつけるってことかァ……?)
頭に血がのぼっていた時は、立ちはだかるモノ全てを
撃破して進む位のつもりだったが、こうして冷静になってみると馬鹿みたいである。
一方通行も、妹達も、打ち止めもここで終わりではない。
これからも学園都市で生きて行くと言うのに、この程度の事で学園都市と敵対してどうするのだろうか。
そこまで考えると猟犬部隊も潰す必要はないのではと思う。
どうせ替えの人材(クズ)はいくらでもいるはずで、あれらを消したところで何の意味も無い。
それどころか無駄に戦力を削いで、「じゃあ削いだ戦力の分働け」等と言われたらたまったものではない。
まず第一に何としても打ち止めの命を救う事。
そして余裕があるのなら、木原数多を殺す。
(まァ、あのクソッタレも有能だ。消して困るのはやっぱ学園都市じゃねェか……)
とはいえ、飽くまでも所詮は1人。
その程度なら膨大な要求をしてこられるはずもない。
(ハッ、結局助ける過程でアイツは殺す事になりそうだけどなァ……)
一先ずこの場を相手に見つからずに抜け出すとしよう。
結局何一つ得られてねェじゃねェか、と自嘲しながら一方通行は蜘蛛の巣を払ってほふく前進を続けた。
513 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/05(月) 02:29:15.01 ID:GQuHMGOqo
・・・
『こちらクリス、監視カメラからターゲットは発見できない。
恐らく予定通り通風口を移動中と見られる、オーバー』
『りょーかーい。それじゃクリスは引き続きカメラから所内を探索、
私を含めたその他は予定通りのポイントで待機。
今回の作戦はターゲットをこの場に釘付けにする事だから、
適当にアンチスキルのフリをして時間稼いで頂戴な、おーばー』
『『了解』』
必要な事だけ伝えると、ナンシーは無線を切った。
状況を開始してから10分が経過して、交戦は0。依然どちらも被害は無し。
この時点で一方通行がアンチスキルと言うか、
表側の人間に手出しはしない人種であると言う事は確実となった。
流石にこちらが偽物だとバレれば命も無いだろうが、その前に先手は打てる。
アンチスキルとして動く理由を先に一方通行に教えるのだ。
それと同時に、この場所がどういった場所なのか、知らしめる。
木原数多は裏の世界の人間であるが、何も普段からずっと裏側に居る訳ではない。
表としての立ち位置もあり、それを作っているのがこの場所である。
すなわちこんな所で殺し等働けば、表側の人間を表立って敵に回す事になるのだ。
こうなってしまえば一方通行の逃げ場がなくなってしまうだろう。
(ま、後20分、適度に時間つぶしてから外に出してあげればいっか)
等とナンシーはぼんやりと気楽に思っていた。
しかし、そこに小さなイレギュラーが介入する。
『こちらクリス。監視カメラに人影、恐らく木山春生と思われる。オーバー』
『うげ、そう言えば木原さん、科学者1人ここに軟禁してるみたいな事言ってたよねー……。
その地点から一番近いのは誰?そいつに木山と接触させるから』
『ナンシーだな』
『げっ面倒くさ……了解、変に動かれて邪魔されても困るから、
部屋に戻ってもらう事にするわ、おーばー』
『了解』
ブツリ、と無線が切れる音と同時に、
ナンシーは通風口の見える潜伏ポイントから移動を始めた。
514 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/05(月) 02:31:08.05 ID:GQuHMGOqo
・・・
「あ、それポン」
「オイオイ、またかよ畜生。どんだけポンすんだよ、ポンポンとポンすんなよ」
垣根提督は対面の少年―360度にプラグが挿してあり無数のケーブルを腰の機械に繋げている、
土星の輪のように頭全体を覆うゴーグルが特徴である少年に対して苦言を呈した。
「速攻で上がるのが僕のやり口だよ。何事も早い方が良い」
「その理論だとベッドの上じゃ1人先にイクんだろうな?」
「……一応、女子が居る中でその発言はどうかと思うぞ」
ゴーグルの少年の早上がり安上がりのお陰で何度も良い手が潰されて、
鬱憤がたまったのだろう、垣根は冗談交じりに下ネタを吐くのだが、
下家に座る傭兵の様な装備を舌単発の男、砂皿緻密はそんな垣根を諌める。
「こいつを女の子扱いしてくれる奴がまだいたとは……お兄さん嬉しい」
「……黙って聞いてれば、言ってくれるじゃない。
あんまりふざけた事言ってると、ムキムキのそっち系な男の人との『距離』を『ゼロ』にするわよ?」
「「すみませんでした」」
そして上家に座る少女は、舐めた扱いをしてくれた
一同に対して(主に垣根のせいだが)ギロリと人睨みすると、3人は平伏した。
515 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/05(月) 02:32:21.87 ID:GQuHMGOqo
何せ彼女の能力は心の距離を操るもの。
その気になればノンケをガチにすることも、逆にする事も出来るのだから。
とはいえ、彼女よりも上位のレベルの垣根に効くかは怪しいものだが、そこはノリと言うものだ。
彼らは『スクール』と言う名の暗部組織に所属しており、今日は任務のはずだったのだが。
「……しかし、学園都市に呼ばれて何をするかと思えば、麻雀とは……
俺の値段はそんなに安いものだったか?」
「いやいや、紹介料だけで70万ってとんでもねえ額だっての。
俺だってお前の初仕事をこんなんになっちまうとは思ってなかったわ。
まぁ、こーして麻雀牌いじってるだけで金もらえるなんて、
なんて楽なお仕事でしょ、って気楽に受け止めてくれや」
垣根はヘラヘラと笑いながら、不要牌を不用心に切った。
それを見たゴーグルの少年は自身の疑問を吐露するついでに、上がる。
「……ていうかさ、『隠れ家』で待機っていつも通りじゃん。どゆこと?あ、それロン。白のみ」
「げっ……まあ大した手も入ってなかったから良いけどよ……」
やってらんねー、と自身の牌を閉じた垣根に続いて、
何事も無かったかのように砂皿も牌を裏返した。
そんな中でプルプルと震え、何度もゴーグルの少年に上がりを
阻止された事に怒り心頭したのか、ドレスの少女は頬を膨らませながら文句を言う。
「私トイトイと三色同刻だったんだけど!?」
「……上がれなければどうという事はない」
彼女の文句を一刀両断する、砂皿。
しかし彼自身今日に入ってまだ一度も上がってない。
だと言うのに何も気にした様子も無く牌の山を崩して行く。
516 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/05(月) 02:34:11.84 ID:GQuHMGOqo
「とか言う砂皿さんよぉ、アンタ今日一回もあがってねーじゃん。
その代わり放銃もしてないけどさ」
「……む」
「とか言う垣根さんは僕から何回上がられたのさ?
大物狙いか何か知らないけど、狙い撃ちさ、そんなのは(←?)」
「……良いぜゴーグル野郎、てめーが何度も
俺から上がれるってんなら、まずはそのふざけた常識ぶち壊す」
そう。
「隠れ家で待機してろ」と言われて、こうしてダラダラと待機しているのだ。
ついでに『アイテム』によって潰されたスナイパーの代わりとの顔合わせも行った。
しかし、顔合わせに何時間もかかる訳も無く、
上からの指示が来るまでどうしようか話し合う事にした。
そうして始まったのが、麻雀。
隠れ家の中でじゃらじゃらと麻雀牌がぶつかり合う音が響き渡る。
ここは雀荘では無いので、自動の麻雀卓は置いてない。
少し早目のこたつに麻雀用のゴムマットを乗っけただけの簡易的なものだ。
ドレスの少女はすっかり白熱した様子で、
メラメラとゴーグルの少年に対して対抗意識を燃やしていた。
「見てなさいよね……その早上がりが、巨大な「ツキ」の偏りを生むみたいな事を
燃牌って漫画が言ってたんだから……!」
「あ、それ読んだ読んだ。4巻だか5巻だっけ?面白かったよねー。
でも実際にそんな事が起きてないから今の状況じゃない?」
て言うか、あの漫画のは自動卓だしね。とゴーグルの少年。
「ぐぬぬ……」
そんな突っ込みに対して、ドレスの少女は何も言い返せずに呻いた。
しかし、垣根がドレスの少女をたしなめながら、
「まあまあ、落ちつけよ。あのゴーグルに俺達の点棒
剣山のように突き刺してやろうぜ、勿論麻雀でな」
「え?それって僕に点棒献上してくれるってこと?しまったなー、お金かければよかったよ」
「……言ったなクソったれ、金賭けるぞデカピンくれー行っとくか?」
「乗ったわ!」
「僕は構わないよ」
「……問題ない」
一応、この場に待機しておくと言うのも任務の一つなのだが、
そんな事は頭の隅っこに追いやって、全力で麻雀を始めるスクールのメンバーだった。
517 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/05(月) 02:35:06.53 ID:GQuHMGOqo
・・・
「ヘイヘイヘイテメェそれでも心にソウル刻んだブラザーなのかよ!?」
「抜かせ短足!!お前程度の炎じゃちっともたぎらねぇんだよ!!」
「だったら……燃やしてやるよ!!テメェのソウルをよ!!」
「御託は良いからかかってきな!!」
「「うおおお!!!」」
アフロの男とロン毛の男が荒野で向かい合って、決闘をしている。
互いが互いに違った信念を持ち、それがぶつかり合ったからだ。
最早この戦いを止められるものは、ただ1人。
「もう止めて!!」
「「その声は、キャサリン!!」」
「もう、戦わなくても良いのよ!?どうして血を流すことでしか語りあえないの……?」
「そんなもん、決まってらあ……」
「そうさ、最早生まれる前からの運命ってとこだな……」
「「俺の中の魂が、信念を貫けと叫んでいるんだ」」
「トム……ダニー……なら私はもう何も言わないわ。でも、これだけは言わせて。
……2人とも、無事で戻ってきて頂戴」
「「当然さ!!」」
518 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/05(月) 02:35:38.08 ID:GQuHMGOqo
「……絹旗ァ、いつまで続くの?この茶番」
絹旗最愛が借りてきた映画の数々を見せられて、辟易した表情で絹旗に尋ねるは麦野沈利
。
アイテムに課せられた任務、それは「隠れ家にて待機する事」。
最初それを言われた時、意味が分からずに電話の主と口論をしたものだったが、
電話の主はこいつときたらこいつときたらと捲し立てて一方的に電話を切った。
結局良くわからないが、隠れ家で待機する事にしたアイテムだったのだが、
絹旗がウキウキと映画を用意していたので待機で暇な麦野やフレンダ=セイヴェルン、滝壺理后もそれに便乗する事にした。
しかし、
「ちょっと今いいところなので、少し超静かにしてもらっていいですか?」
「……分かったよ」
はっきり言って、詰まらない。
何が面白いのかさっぱりなのだが、麦野はそれでも根気よく映画を見続けた。
そんな中で、フレンダと滝壺は。
「「zzz」」
寝ていた。
それはもう気持ちよさそうに。
(私も寝たいんだけど……)
この待機と言う任務。
任務と言うからには何か裏があるのだろう。
いざ何かあった時、動けないのはマズいはずだ。
「行くぜ!!燃えるソウルハンド!!」
「させるか!!凍てつくコールドソウル!!!」
最初はカウボーイとか、西部劇的な感じだったのに、
いつの間にか超能力バトルみたいな特撮物に変貌を遂げていた。
全く理解できない。
(……暇つぶせるモン、そのうち買ってこよう)
映画に釘付けになる絹旗に、肩を寄せ合って眠っているフレンダと滝壺。
そんな3人に囲まれた麦野は、とりあえず4人だし麻雀か?とかそんなことを考えていた。
519 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/09/05(月) 02:37:32.95 ID:GQuHMGOqo
尾張です。吃驚するほど話が進んでねえ
1人暮らしで風邪引くと絶望的なまでに辛いよね。
何にもする気にならないし。
520 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/09/05(月) 02:43:35.79 ID:GQuHMGOqo
そういやP4vitaは俺も見て狂喜乱舞したものだ。
こうしちゃいられねえPSPとはお別れDA。
オルソラさんの胸に包まれて窒息死か圧殺されたい。
おやすみなさい
521 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/05(月) 04:18:04.92 ID:rqsFCG/x0
>>1
乙そして無理するなよ
522 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/09/05(月) 17:20:07.25 ID:LxYBf9W1o
>>45
>>47
「…最低でも1年は待機しなければ渡れない」
【FNを腰に収めながら相手の言葉を冷静に訂正する】
【】
「…目的があって回っているのではない」
【だがそれ以上は何も言わない。理由は単純明快】
【PTSDを悪化させる単語だから】
【この言葉を発した当たりから再び震えと汗が始まる】
【左眼で見れば明らかに男の変化がわかるだろう】
523 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/09/05(月) 17:20:42.41 ID:LxYBf9W1o
果てしなく誤爆!
524 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/05(月) 17:32:59.94 ID:2RLINadMo
どこからの誤爆だよ
525 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/09/08(木) 21:19:25.42 ID:I+nKuk2eo
あうあう、お久しぶりです。
何してたってバイト探してました。お金が無ければ食って行く事すら出来ねえのでなァ……
バイトが見つかった代償が、書き溜め1500字しか出来てねェと言う事だ。
故に書き溜めてきます。続きはアシタカ明後日に。
526 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/09/08(木) 21:20:00.08 ID:I+nKuk2eo
アシタカっておま……明日か、ね
527 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/08(木) 22:29:54.77 ID:OuD4RaQ/o
社畜乙であります
528 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:29:18.11 ID:5XMi+z0uo
拙者働きたくないでござる。しかしお金が無いと死んでしまうでござる故、渋々働くのでござる
俺の突拍子の無さはブリーチに通じるものがある。なんて思う今日この頃。
多分前に「あれはこうならない」とか言っておきながら妖怪掌返しが俺の掌を返して行くに違いない。
透過する
529 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:29:55.15 ID:5XMi+z0uo
「さて、こちらの扉へどうぞ」
本来は、私が闘う為の場所なんだけど。
と、マーガレットは面倒くさそうに2人に部屋へ入るよう促した。
「ここは……」
そこは無数の扉が宇宙の中を漂っている、と表現したら良いのだろうか。
上を見ても下を見ても、左を見ても右を見ても。
そこはキラキラと星が3人を照らしていた。
上条当麻はそんな幻想的な風景に見入るが、
そう言えば地面はどうなっているんだと思い、ぺたぺたと地面を触る。
下も星空だったが、しっかりと足を踏みしめる事が出来ていた。
透明な何かが辺りを覆っているのか、それとも周りの星は作りものなのか。
そんな疑問を浮かべるが、今そんな話はどうでもよかった。
「ガッ!?」
唐突に、後頭部から衝撃を受けたからだ。
「おいおいどーしたァ!?この俺をどうにかしてお前ん中にもどせねーと、
あっちにゃ帰れねーし何にも助けらんねーよ!!」
それの正体は、上条の影。
思い切り蹴り上げた足をそのままに、戦闘は既に始まっていると、笑った。
「ちっくしょ……!オケアノス、ブフーラァ!!」
上条はちょっと涙目で頭をさすりながら召喚器を取り出すと、オケアノスを顕現させる。
それを見た上条の影は大仰に両手を広げながら、上条の攻撃を迎え入れるべく攻撃を受け入れた。
530 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:30:53.93 ID:5XMi+z0uo
「ハッハァ!!良いぞ、かかってこいやぁ!!
今後良い関係を築く為にも、殴り合いで語りあいってのも悪くねぇだろ!!?
時間はたっぷりあんだからよ!!心配すんな、こっちとあっちじゃ時間の流れが違うから、
あっちじゃまだ1秒もたってねーだろうよ!!」
それをあっさりと影が持つ幻想殺しで打ち消すと、真っすぐ上条へと向かって行く。
「そんなもん俺ん中帰ってきたらいくらでも出来るだろ!?」
影は右のハイキック。上条はそれをしゃがんで避けると、
影の軸足である左足を屈んだ状態で蹴り払い、体勢を崩しにかかる。
しかし、影は余裕の笑みを浮かべながら蹴りの勢いで
横に回転しながらその場で軽くジャンプし上条の足を避けた。
「たしかにそれもそう……おっと、そう言う誘導尋問的なもんはお断りってなあ!!」
そして空中で1回転すると、影はその勢いを利用し宙に浮いた状態で回し蹴りを放つ。
しゃがんだ状態で避ける事の出来そうにないと、
上条は両腕でガードしたものの、回し蹴りの威力によって思い切り地を転がった。
「オケアノス!ブフーラだ!!」
しかし、タダでやられる上条ではなく、影の追撃をかわす為に
転がりながらも器用に召喚器を使い、オケアノスに攻撃させる。
面ではなく、点での攻撃。それも右手だけでは止めきれない程の量を伴って。
531 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:31:30.70 ID:5XMi+z0uo
大量のツララが、影を襲う。
明らかに一つ一つが必殺になりうる威力を持っている。
しかし、これは上条に殺意があった訳ではなく、
その位しないと自身の影には勝てないと判断したからだ。
そしてその考えは正しかったらしい。
「……イヤイヤ、ありえねーだろ、右手だけでそんなとめられるわけねーだろ!?
これでも、かなりの量を飛ばしたつもりだったんだけど……」
体勢を崩しながらの攻撃だった為、影が何をしたかは
分からなかったが、確かに上条は影に向かって攻撃を放っていたはずだ。
それも大量のツララで、それこそ広い壁でも生み出さねば止めきれないだろうと、上条が考える程の。
しかし、何かを使って攻撃を止めたと言う痕跡は残されておらず、
影の射線上だけぽっかりと空き、その周りの地面にツララが突き刺さっていた。
と言っても、下は星空にしか見えないので、ツララも宙に浮いているように見えるのだが。
・・・
「へえ、中々の威力を持ったブフーラね」
マーガレットは感心したように上条と影の戦いを眺めていた。
やはり、力を司る者としては強い力には興味が沸くのだろう。
影と初めて対面した時も軽く手合わせしたのだが、
どう考えてもこの影は上条が勝てる相手では無い。
それ程に強敵だった、とマーガレットは思う。
(それでもここで勝たねば、これから一生勝つ事は無くなるわね)
有り体に言えば、自分に勝てない者が一体何に勝てようか、と言う事だろうか。
マーガレットは最初3人がこの場に入って来た扉に
もたれかかりながら腕を組み、2人の戦いをゆったりと観戦し続ける。
532 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:32:41.62 ID:5XMi+z0uo
・・・
「あっはっは、あぶねーだろこのやろー」
間延びした間抜けな声で、影は上条に対して文句を言う。
確かにあんな攻撃を受ければ誰だって文句は言いたくなるだろう。
「何言ってんだよ、この攻撃すらノーダメージの癖によく言うぜ……」
「いやいや、まあまあ焦ったぜ?流石に『右手だけじゃ』止めらんねえよ」
「……そりゃどういう事だ?」
「前も言ったけどわかんねーだろうな、幻想殺しの本質は、今のお前じゃわかんねーよ。
よしんば俺がお前の中にもどっても。まーそのうち理解出来るようになるって」
やはり、何の事かわからない。
上条は影の言葉に首をかしげるが、それを待つ程影も甘くない。
「真っすぐ行ってぶっ飛ばす、右ストレートでぶっ飛ばす!!」
真っすぐと上条の元へ向かった影は、渾身の右ストレートを放った。
影の放つ何の変哲もない右ストレートを上条は左腕で止めたのだが、
かなりの威力でビリビリと痺れさせられた。
それにより上条は少し表情を歪めるが、余った右手で影の右手を掴むと、
「……オケアノス、剛殺斬」
「おろ?」
ポカンとする影に対して何のためらいも無く、
自身が持つ最大の物理攻撃を上条の影へと放った。
しかし、影は表情を切り替え、再び笑みを浮かべる。
その口から、何か短い単語が吐かれた瞬間に、オケアノスの剣が振り下ろされた。
533 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:34:22.39 ID:5XMi+z0uo
・・・
木山春生は不気味に静まり返った研究所内を彷徨っていた。
人の気配を感じないこの異様な雰囲気に呑まれまいと、
ギュッと手を握りしめ、辺りをきょろきょろと見渡す。
……人は居ないはずだ。気配を感じない、だというのに。
嫌な予感がする。
木山の素人ながらに研ぎ澄まされた神経は、その予感だけを感じ取った。
気配は感じないが、誰かいるのではないか?という確信めいた予兆。
そして、それはすぐさま現実として現れる。
木山が居る地点の10mほど先に見える曲がり角から、
1人の女が出てきてその場から木山に語りかけてきた。
「止まってくださーい、アンチスキルです。
只今この研究所はテロリストが潜伏している恐れがあるので、この場に居ては危険です。
あなたここの研究者さんですよね?」
「あ、ああそうだが……」
一応木山は表向きはこの研究所で働いているという設定である。
そんな訳で女のアンチスキルに対して曖昧に頷いたのだが、少しおかしい。
確かに、アンチスキルはかなりの手練も中にはいるはずだ。
しかし、ここまで鮮やかに気配を感じさせない人間が、アンチスキルに何人いるだろうか。
戦闘に関しては門外漢な木山ではあるが、この研究所に軟禁されている間は人目を避けて
木原数多に関する情報を集めていたのだから、ある程度は人の気配を感じ取る事は出来るようになってきた。
とはいえ、意図的に気配を消している人間相手に、それを読みとることなどは出来ないのだが。
そんな木山だからこそ感じた違和感。
(目の前に居る人間は、本当にアンチスキルなのか?)
そこまで瞬間的に考えた木山は、とりあえずカマをかけてみる事にする。
534 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:35:13.38 ID:5XMi+z0uo
「……私はこう見えて昔はやんちゃしててな」
「はい?」
「アンチスキルには結構世話になってるんだが、君は何処の支部の人間なんだ?
ひょっとしたら私の知っている人も近くに所属しているかもしれん」
木山はジッと女を見つめる。しかし、女には動揺は見られない。
女は自分にしか分からない程度に目を見開くと、続いて口も開いた。
「私はこの通り、第八十三支部でしがない下っ端をやらせていただいてますよ」
女は懐をごそごそとまさぐった後、警察手帳の様なアンチスキルとしての証明証を取りだした。
これは研究員達をこの場から離れさせる為にも使った
偽造手帳なのだが、一般人に対してならほぼ確実に騙せるほどの精度である。
それを見た木山は納得したように一つ頷きながら、続ける。
「ほほう、これはすごい偶然だな。数多くあるアンチスキルの支部で、私が知ってる支部と一致するとは……
そこの部隊長に『黄泉川愛穂』って女性が居るんじゃないか?彼女には随分と世話になってね」
黄泉川愛穂とは、『幻想御手』の際に顔を合わせていたのだが、彼女は第七十三支部の所属だ。
これにどう反応するか、木山は表情一つ変えずに女の様子をうかがう。
「え?違いますよ、うちの隊長は『山笠』さんですけど、
どっか別の支部と勘違いしたんじゃないですか?」
当たり前のように返答する女からは、動揺の一つも見られない。
535 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:36:48.69 ID:5XMi+z0uo
「そうか、そういえばそうだったな。黄泉川さんは第七十三支部だったか」
「そうですよ、そんな人聞いたことも無いです」
少し首をかしげながら言い放つ木山に対して、女は笑いかけながら答えた。
そして木山も、そんな女と同様に笑いながら答える。
「……おや、おかしいな?彼女は第七十三支部の部隊長なんだが、
やる事為す事物凄く派手でな。部隊長全員を把握する事は出来なくとも、
彼女の名くらいは知っていないとおかしいぞ?」
両者の距離は、変わらず10m。
木山はジリジリと後ずさりしながらその距離を伸ばしつつ、女に対して質問する。
「そして何より、その装備、一見してアンチスキルに模してあるが、アンチスキルのそれでは無いな。
非殺傷を目的として改造された装備ではなく、本来の殺傷を目的とした非改造のライフルなのではないか?」
木山はもう一度、笑った。
「アンチスキルには、ずいぶんと世話になっていてな。装備の違いがわかる程度には」
「あーらら、バレちゃ仕方がねぇ。
とりあえず動かないでくださいね、ケツに挿れられる穴を増やしたくないでしょう?」
「……残念ながら、そのような関係を持った事など一度も無いよ。
研究者とは孤独なものだ」
「……そいつは失礼しました」
瞬間、2人は動き出す。
木山は後ずさりそのままにバック走で勢いを付け身を翻し、
女―ナンシーは笑みを浮かべながらライフルを構えつつ駆けだした。
536 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:38:18.12 ID:5XMi+z0uo
・・・
「嘘、だろ……?」
剣を振り下ろしたはずだ。
自分の半身だとかそんな事情抜きに手加減なしで渾身の一撃を入れたはずなのに。
影が持つ幻想殺しも自身の右腕で動かせないように止めたはずなのに。
確実に、攻撃を当てることが出来る状況だったはずなのに。
故に上条当麻は驚愕を隠せずにいた。
この攻撃すら、止められたと言う事実に。
そして何より。
「何だってお前が……『ペルソナ』を出してんだよ……!?」
「あ?そりゃ防御するためだろ」
上条の知りたい内容はそんなことではない。それは影も分かっててとぼけたのだろう。
オケアノスの剣を、影の背後から現れた天秤を持つ『女神』が止めたと言う事実について知りたかった。
「ユースティティア、ってんだ。法を司る女神様ってとこか?
そしてお前のそれは、本来ミカエルが持つべき断罪の剣なんだけどな……」
何処を間違えてオケアノスが持ってんだか、と影は笑うが、何の事かさっぱり分からない。
何にせよ、幻想殺しを持つ影が、上条と同じくペルソナを扱っている。
力量差は、はっきりしていると言えよう。
「何かよくわかんねーが、やる事は変わんねえよな……
お前を俺ん中に戻して、そんであっちに戻るだけだ!!
オケアノス、ブフーラァ!!」
「だったら、力と覚悟をこの場で示してみろ!!ユースティティア、ジオンガ!!」
ペルソナは、すなわち心の力。
覚悟と、折れない心を持つ事が、自身のペルソナをより強くする。
オケアノスは、上条の強い思いに呼応するように力を発揮し、
それを見た影はニヤリと笑いながらユースティティアに攻撃の指示を出した。
537 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:40:29.20 ID:5XMi+z0uo
・・・
木山春生は逃げる。
この研究所内は隅々まで歩きまわったので監視カメラの死角を縫って行くのは容易い。
ナンシーの追走を振り切ると、監視カメラにも気を回して見つからないように隠れる事にした。
とはいえ、逆に死角を縫って捜索されればすぐに見つかるだろう。
どう考えても、敵は単独では無く複数で行動しているはずだ。
そして何より、木山自身が戦闘を得意としない。
何度も言うようだが、彼女は素人なのだ。
確かに戦闘は経験した事はあるものの、訓練していた訳でも無い。
(それでも上手く撒けたのは、見逃してもらったと言う事だろうか……?)
そんな事があるのだろうか。
木山は監視カメラに気を使いながらも、思考の渦に呑まれていく。
一方で、ナンシーは動くのが面倒なのか、本来のポイントに戻っていた。
『あー、こちらナンシー。目標喪失。多分監視カメラにも映ってないから
所内の見取図と比較してカメラの死角を挙げてってー。多分そこに隠れてるから』
『了解……ナンシー、お前のやる気の無さは前から知ってたが……
もう少し本気出さないか?俺はまだ死にたくねーんだけど』
『はいはい、それじゃ私の分まで頑張って頂戴』
ナンシーの面倒くさそうな声に、監視カメラを監視しているクリスが苦言を漏らした。
適当な返事をして無線を切ると、ナンシーはそんなクリスの言葉に嘲るように笑う。
「なーに言ってんのよ、私らみたいなクズが生きたいなんて望み叶えられる訳ないでしょー。
それを叶えるには、クズなりに有能になって周りの人間出し抜く位出来ないとねー」
こんな肥溜めで燻ってる時点で、たかが知れてるっつーの。
ナンシーの独白……もとい毒吐くは小さく所内に響き渡った。
538 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:41:43.51 ID:5XMi+z0uo
・・・
「……それで、こんな狭い所で何をしようって言うのだ?」
「……とりあえず、お前の知ってる事を話せ。
俺ァお前の教え子の居場所を知ってる。それと引き換えだァ」
その言葉に木山春生は息を呑んだ。
一先ず敵ではなさそうだ、と考え木山も自身の事情を話す事にする。
2人は、通風口の中でうつぶせになって向き合っていた。
と言うのも、木山の姿を一方通行が通風口から発見し、
話を聞く為に通風口にぶら下がりながらUFOキャッチャーのように
木山を捕まえて通風口に引きずり込んだからだ。
何だかシュールな光景ではあるが、2人は真面目も大真面目で話をしている。
一方通行は木山がここに居る理由や、ここが何処なのか等の情報を仕入れると、溜息をついた。
「すると何か?あのアンチスキルは偽物っつゥ事は……」
十中八九猟犬部隊の連中だ。
それを知った一方通行は更に深く溜息をつく。
「時間稼ぎ確定だなァ……そして何故時間を稼ぐ必要があるのかってのを考えっと……」
木原数多が打ち止めを必要とする理由が思い浮かばない。
一方通行の心をへし折り、そして殺すつもりなのであれば、
さっさと打ち止めを物言わぬ肉塊に変えて一方通行の下へ送りつければ良いはずだ。
それをしない理由は、目的はそんなことではないから。
539 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:42:37.70 ID:5XMi+z0uo
(なら、目的はなンだ?)
こう考える事も出来る。
木原は自発的に行動をしているのではなく、誰かからの指示を受け、こうして動いている。
木原数多と言う男を動かせる存在となると、学園都市内に何人もいるとは思えない。
(こりゃ下手すると……統括理事会……いや学園都市そのものが、
打ち止めを使って何かしようとしてるのかァ……?)
ギリッと歯ぎしりをすると、一方通行は口を開いた。
「まず、こっから先は常識が通じねェ事だけを理解してくれ」
「……?良くわからないが、とにかく君を信じれば良いのだな?」
「まァ、そォだな。それにお前が居ればあいつらも止める事が出来るだろォし」
「それはどういう……」
木山の言葉を待たずして、一方通行は通風口を降りた。
そして木山にも降りるように促す。
続いて、降りてきた木山を抱えると、一気に駆け出した。
目的地は、モニターのあった研究室。
最早人目は気にしなくて良い。
何せ相手はアンチスキルでは無いのだから、こちらを捕まえる権限など無く。
そしてこちらが相手に手出しをしなければ、表側の人間が動く事は無い。
途中何人か猟犬部隊と思われる人間と遭遇したが、これを一切無視して突き進み、
木山の言葉も無視して有無を言わさずモニターの中へと駆けこんだのだった。
540 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:44:17.70 ID:5XMi+z0uo
・・・
『ハァ?一方通行が消えただぁ?』
木原数多は猟犬部隊からの報告を受け、もう一度確認を取る。
『ええ、文字通り消えました。場所は第三実験室です。後木山春生も同様です』
『くは!オーケーオーケー、取り逃がしたかと思って危うくおめーらに
処分の命令を出すとこだったじゃねえか!!
そこで消えたんなら問題ねえ、てこたあアイツはケツまくってテレビん中に逃げたって訳だ!
殺しに日和って逃げだすたぁ情けねぇなあオイ!!』
木原は1人納得していたが、報告をしたナンシーは良くわかっていなかった。
何せ失敗したと思い、今日が命日だなー、と気楽に考えていたのに、
何故か任務成功だと言われたのだから。
『よし、今そこの実験室に居るな?』
『はい』
『その室内の中央に、デケェモニターがあるだろ?それ粉々にぶっ壊してくれや』
『了解です』
ナンシーは終始木原の考えが読めなかったが、その疑問を質問にする事は無い。
余計な口をはさむ事自体が無駄な事であると理解しているからだ。
とりあえずモニター壊せば良いんだな、とライフルを構えながら無線を切った。
そして通信を終えた木原は、用済みの無線をその辺に放り、笑う。
「ったく馬鹿だねぇ、こっちはとっくに目的を捕まえてんのに、まだ必死こいて動きまわってやがる」
笑う木原の視線の先、そこには頭に何か機器を取りつけられた打ち止めの姿があった。
意識は無く、ピクリとも動かさない打ち止めだが、
死んでいると言う訳では無く、確かに呼吸も心臓も働いている。
「ったく、こんな時間なんだからガキはオネムの時間だってのに、
一方通行の野郎添い寝の一つもしてやれねえたぁ保護者失格だなオイ」
木原は1人自分の冗談に笑うと、キーボードを叩きパソコンの液晶を眺め始めた。
541 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:46:15.39 ID:5XMi+z0uo
「虚数学区……AIM拡散力場……そして……ペルソナ」
ブツブツと呟きながらも思考を回転させる。
いや、むしろこの呟きは無意識的なもので、思考に全てを注いでいる状態だろう。
それでもキーボードを叩く指の動きは止まらない。
もはや身体に染みついた動きで慣れたものである、と言ったところか。
(『心』と言う自分だけの現実と演算によって事象を歪める超能力。
対して、『心』によって直接現実を歪めるペルソナ……。
そして、現実の理に沿って現実を歪める魔術……)
(魔術と超能力は対を為す存在であるってのは分かったが、
ペルソナと言う存在の立ち位置は……どちらかと言えば超能力寄りだよなぁ……)
(いやむしろ、超能力をもっと広義的なものにしたのがペルソナと言えるか……?
だとすると、学園都市の超能力開発の目的は……イヤ、そりゃいくらなんでも突拍子なさすぎるな)
(……『召喚器』が無い場合、マヨナカテレビの中でしかペルソナを出せない。
マヨナカテレビとこちらの世界、その差はなんだ?)
そこまで思考を続けた所で、ふう、と息をついた。
知らない間に呼吸をしろと言う命令すら脳が行えない程に思考が集中していたのだろうか。
身体が限界に達し、酸素を求める事で思考を一旦中断した。
「マヨナカテレビに虚数学区。ヒューズ=カザキリだったか、それにAIM拡散力場とペルソナ。
この辺の関連性をはっきりさせりゃ、色んな疑問が解決出来そうだよなぁ」
やはり人生はこうでなくてはならない。
分からない事を理解出来るようになる、それが気持ち良くて、研究職についた。
子供の時からそうだった。
どうして車は動くのか。
どうして物は下へ下へと落ちるのか。
どうして生物は息をするのか。
日常の中で『どうして』と言う疑問はいくらでも浮かび上がっていた。
そしてそれを一つ一つ調べ上げ、理解する。
そんなことを繰り返しているうちにいつしか人の身体をもいじくるようになっていた。
少し前までは何故こうなるんだ、と言う事を考える事自体が少なくなっていたが、最近は違う。
魔術に超能力、そしてペルソナと、自身の理解を越えた何かがそこにはある。
木原はそれを確信したものの、理解には程遠いと痛感したが、そこには喜びしかなかった。
(アレイスターの野郎は、どんだけ俺より先に行ってんだぁ!?)
ワクワクが止まらない。と、木原は高らかに笑ってキーボードを叩き続けた。
542 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/09(金) 14:47:53.17 ID:5XMi+z0uo
上条さんの影はP3的にいえばメティスみたいな感じでしょうか。
突拍子の無さに定評のある(当社比二倍)俺でしたとさ。
続きはそのうち。
543 :
なすーん
[なすーん]:なすーん
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`ヽ `ヽ、-v‐'`ヾミ| |/三ミヽ `iーr=< ─フ
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`ヽ、__// / |/| ヽ __\ \ヽ |く ___彡'′
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なすーん
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545 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 15:51:41.16 ID:5XMi+z0uo
ナス板
546 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/09(金) 19:33:15.67 ID:7dIoX9Ofo
なすーんってどういうことなの・・
547 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/09(金) 19:33:51.46 ID:7dIoX9Ofo
なすーんってどういうことなの・・
548 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/09(金) 20:46:30.70 ID:du5eDevV0
>>542
乙
読み応えあるSSに感謝。
頭脳戦になってきた。楽しみ。
549 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 22:56:23.03 ID:2TmuMpPOo
熱いねぇ。複雑になってきたような気がするがついていくぜ
おつー
550 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 04:25:33.63 ID:e6J5i5Neo
このスレでP4買った面白
ここのお話をもっと楽しめそうだ
551 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:19:43.97 ID:7T4Cw5wio
最近はP3色が強いから、そっちもオヌヌメしてみる(あからさまなせんでんこうい
透過するよん
552 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:20:55.93 ID:7T4Cw5wio
最初は、上条当麻と影は基本的に殴り合いの肉弾戦を行っていた。
たまに上条が隙をついてオケアノスによる攻撃も放ってはいたが。
つまり、影は上条ともう一つ、オケアノスによる攻撃も視野に入れて立ち回らねばならない。
そんな中で上条は影に大きな隙を作り、オケアノスによる強力な一撃を入れたかに見えた。
しかし、それは影に更なる本気を出させる為の布石に過ぎなかったのだ。
「うらあああああああああ!!!!」
影は咆哮と同時に上条へと向かって駆けあがる。
その背後には天秤を左手に持った『女神』が全身から雷を纏って、
まるで御坂美琴が能力を放つ3秒前のような状態を見ているような佇まいをしていた。
それを見た上条はオケアノスを顕現させ、
まず先にブフーラにてユースティティアに対する迎撃を行う。
しかし、オケアノスを出す為に使う召喚器。これが隙となるのだ。
上条は基本的に召喚器を持って戦っている。
ちなみに召喚器はかなり丈夫なので乱暴に扱っても問題は無い。
と言うのもいちいち召喚器を取り出す暇も無いからなのだが、
それでも召喚する瞬間はどうしても隙が出来てしまう。
上条と影による攻防は目まぐるしく何度も入れ替わっていたが、
やはり上条がペルソナを召喚するのと影がペルソナを
召喚するのではワンテンポ差がついてしまっていた。
その隙を突く事は簡単だが、上条にその隙を埋める方法を考えつかれてはたまったものではない。
隙を突く時は、そこで上条に大ダメージを与える。
そしてその隙を突く瞬間は、今。
553 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:22:32.96 ID:7T4Cw5wio
影は笑いながら、上条が右のこめかみに召喚器を
突きつけているのに対して、左のこめかみに向かってハイキックを放つ。
対する上条は思わずそれを回避するために
首を下に曲げることで、辛くも影の足を避ける事に成功した。
しかし、
「あっ!?」
上条の頭上を通過した影の足は、上条の右手に持ったままの召喚器を弾き飛ばしていた。
からからと音を立てて弾かれた召喚器は、上条から10mは離れてしまっただろうか。
取りに行くには隙が大きすぎる。
しかし、その一瞬の逡巡すら、大きな隙となっていて。
「あぐっ!!?」
召喚器の方を見やった上条の腹に、思い切り前蹴りを放つ影。
痛みによる叫び、と言うより思わず肺から息が漏れてしまったような
音を出しながら、上条もまたゴロゴロと地に倒れ伏した。
「さぁて、いつまでもあんなオモチャに頼ってんじゃ……ねぇよ!!」
倒れ伏した上条に対して、影は。
―――ボキリ。
554 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:23:54.37 ID:7T4Cw5wio
「〜〜〜ッ!!!」
鈍い音が鳴ると同時に、上条は自身の右腕を抱えて声にならないままに叫んだ。
それを見た影は、盛大に笑って嘲る。
「おいおい、まだ右腕がやられただけだろ?足は動くし左も動く。
もうギブアップ何て言うんじゃねえだろうな?」
影は、いともたやすく上条の右腕を圧し折った。
普段から怪我の絶えない上条ではあったが、
こうして骨がポッキリしてしまう事など初めての体験である。
いや、確かに三沢塾に行った際にポッキリどころかバッサリと斬り落とされた事はあったが、
何かあそこまで行くと色々と吹っ切れてしまいアドレナリン全開だった為に痛みはあまり覚えていなかった。
しかし、今回はあまりにあっけなく、あまりに当たり前のように折られた為に、
すぐに現実を受け入れてしまい、それによって右腕から常に電気を流されているかのようなビリビリとした痛みが全身を駆け廻る。
「ぐっ、うぅ……!」
その痛みに耐えようと、残った左腕で自身の肩を抱き、
歯を食いしばる上条だが、チラリと右腕を見やるとあらぬ方向に腕が曲がっており、
新たに追加された関節部は真っ赤に腫れあがっていた。
追撃を入れないのは、影の余裕だろうか。
何にせよ、上条はまだ戦いを止めるつもりはない。
前方のヴェント。
彼女の目的が分からない以上、インデックスどころか学園都市の住人全員が危険の可能性もある。
いや、既にアンチスキルは全滅してしまっているだろうか。
早く戦わねば、早く戻らねばと思い、何とか立ち上がろうとするものの、
少し右腕が動くたびに鋭い痛みが上条を襲う。
555 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:26:34.96 ID:7T4Cw5wio
(痛え……くっそ、動くたびにズキズキしやがる……)
しかし、ここで違和感が上条の脳裏をよぎった。
(何で、痛いんだ?)
(いや、腕折られりゃそりゃ痛ぇに決まってる)
(だが、それは現実の世界での話だ)
現実での世界。
上条は確かにヴェントによって意識を刈り取られた。
そして、イゴールの下へとやって来たはずだ。
ならばその世界が現実のはずは無い。
ここは夢の狭間。
(そんな場所なら……!!)
ここは心の世界。
(ペルソナくらい、召喚器に頼らなくても、出せてもいいだろ!?)
ここは信じる心が力となる世界。
とはいえ、それは『この世界』だけの話ではないのだが、
上条はまだそこまでは気付かなかった。
だが、それでも十分だ。
それを見た影は、待ちくたびれたように呟く。
556 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:27:22.94 ID:7T4Cw5wio
「やっと気付いたか……この場での戦い方ってのによ」
あっちでもそれが出来れば上等なのだが、
凝り固まった常識と言う物は中々覆す事は出来ない。
それは異世界だろうと変わらない。
目の前の現実を受け入れたつもりでも、心のどこかで信じきれない事もあるのだ。
しかし、上条はここだけとはいえ、受け入れた。
そして心のままに、その言葉を口にする。
「ペ、ル、ソ、ナ……!!」
痛む腕に耐えながらの発声だった為にとぎれとぎれになったものの、
その合言葉を口にする事によって発現する。
「オケアノス!!」
召喚器があらぬ所に転がったままに。
上条は何もこめかみにつきつける事無しに。
自発的に『死』を受け入れ、『恐怖する心』を受け入れた。
それにオケアノスも上条の望んだ力を以って応える。
「オケアノス、アムリタ」
上条が唱えると、以前吹寄制理に降り注いだ淡い光が、上条の右腕にも照らされる。
すると真っ赤に腫れあがりあり得ない方向に曲がっていた右腕は、
いつもの真っすぐな状態へと戻った。
それを確認した上条は手を何度か握ると、影を見やる。
557 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:27:58.96 ID:7T4Cw5wio
「わざわざ待っててくれるとか、ありがとな」
「悪役は正義の味方の準備が整うのを待つもんだろ?」
「それってお前負けフラグだろ……」
「バカか、そんなテレビみたいな事が現実にあってたまるか。
いつだって生き残るのは生きる意志の強え奴だ。そこに悪も糞もあるかよ」
「そうだな……はっ!つまりやっぱり俺が勝つってことじゃねえか!!」
「バーカ、言ってろ三下!!」
「へっ、そっちこそいつまでもえらそーにしてんなよ!!」
「ブン殴んぞテメェ!!!」
「そりゃこっちのセリフだ!!人の腕へし折りやがってええええ!!」
第二ラウンドの、ゴングが心の中で鳴り響いた。
「オケアノス、ブフーラ!!」
「ユースティティア、ジオンガ!!」
558 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:28:28.18 ID:7T4Cw5wio
再び、異能と異能がぶつかり合う。
今度は互いに隙は無い。
しかし、ペルソナ同士の戦いではある意味決着がつく事は無いだろう。
何故なら、本質的には上条と影は同一人物なのだから。
それでも、今まで影が上条を上回り続けたのは、
『心』に対する理解の深さの差から来るものだろう。
だがそのアドバンテージは、この場においてのみ、無に帰すこととなった。
上条もまた、本能的にそれへの理解を深めた為だ。
「駄目だな、やっぱ男なら夕陽を背後に殴り合いだわ」
「確かにこんな宇宙みたいな場所で殴り合うのは何か違うよなー」
「いや、俺ぁそう言うつもりで言ったんじゃねーっての!!」
影は相殺されたジオンガを見ると同時に上条の下へと駆ける。
しかし、上条も同じことを考えていたらしく、上条もまた影の下へと駆けて行った。
559 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:30:12.38 ID:7T4Cw5wio
・・・
紫電と氷塊がぶつかり合い、氷塊に遮られた電は四方八方へ霧散していき、
電撃を受けた氷塊は粉々に砕け散っていく。
紫電が辺りを駆け巡り、氷がつぶてとなって降り注いでいる中で、
上条当麻と影はその中を無傷で潜り抜け、互いに肉薄する。
高ぶる心と研ぎ澄まされた神経が瞬間的に身体を動かしたのだろうか、
上条と影は舞うように拳を突き合わせていた。
それを何度繰り返しただろうか。
互いが互いの拳を受け止め、まるで鍔迫り合いの様な状況になる中で、上条は影に笑いかける。
「なぁ……俺は今記憶をなくしちまってるけどさ……」
「あん?」
言葉を紡ぎながらも、上条は掴んだ影の手を離すと同時に影に掴まれた手も振り払うと、
少しだけ後ろに下がり影の顎を蹴りあげる為か思い切り右足を振り上げる。
何だか不意討ちっぽいが、戦いの最中に動きを止める事は致命的になるかもしれない事は
影もわかっているので、上条の言葉に返答しながらも軽く仰け反ってその足を回避した。
「ごめんな、お前の味わった苦しみも、わからなく……てっ!!」
とか言いつつ上げた右足を踵落としする。
謝る気があるのかと問いただしたいが、その言葉からは真摯な思いが込められていた。
それを聞いた影は少しだけ口角を上げるが、軽く踵落としをいなしつつ口を開く。
「はっ、別に謝罪が欲しくて『外』に出てきたわけじゃねえっての!」
「……それ、どーいう……」
右足をいなされた事で若干体勢を崩しながらも地面に踵を叩きつける。
しかし崩れた身体を立て直す隙を、影は逃さず突きながら意地悪そうな笑みを浮かべた。
560 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:31:13.22 ID:7T4Cw5wio
「おしえ……ねぇっ!!」
「うおっ!?……だけどさ、『死』と向き合って、『死』を体感して、分かったんだ」
影の放った右ストレート、それをスウェーバックで衝撃を和らげると、
顔を回した方向に身体も回すことで勢いを付け、後ろ回し蹴りを影の側頭部目掛けて放った。
「何を分かったって!?」
上条の足は影に届いたかに見えた。
しかし、足の動きに合わせて影も側転した為に、上条の後ろ回し蹴りは空振りする。
そして影は一端距離を取ると、攻撃の手を止めた。
続いて、それを見た上条もファイティングポーズを構えつつも警戒を解く。
「俺が、お前に『死』への恐怖を押しつけていたって事だよ」
上条当麻が記憶を失って、そして上条の影と別れるまでに、
命を賭して戦った事は吸血殺し騒動の時しかなかったはずだ。
しかし、頭で覚えていなくても、心が覚えていた。
『死』の恐怖を影に押しつけながらも、それを見て見ぬふりをしていた自分が居たと言う事を。
そして、それに気付いたのが、召喚器に組み込まれた『黄昏の羽根』を通して『死』と向き合った時。
「人を助けて、怪我して。
俺が怪我するだけで事が済むならそれでいいと思ってたんだけどな……
それじゃ駄目だって事だよな……「誰もが笑って終われるハッピーエンド」、
そんな事考えてたけどさ、俺自身もそこに含まれているつもりになってただけだった。
だからこうして俺とお前が対峙する事になってんだ」
まあ、自業自得っつったらそれまでなんだけど、と上条は自嘲気味に笑った。
上条の謝罪に対して、影もまた笑った。上条の笑みとは違って、楽しげな笑みである。
「……その謝罪、記憶がある時に言えりゃあ説得力もアップするもんだがな」
「そりゃ悪かったな、記憶戻ったら改めて謝るわ。許してくれるかしらねーけど」
「まぁ、その時の態度によるなぁ。なんつーかこう、金一封でも持ってよ」
「……お前って意外と俗物なのな」
「……まぁ、『お前の分身』みてーなもんだしな」
影はそう言ってバツの悪そうな顔をする。
561 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:32:40.22 ID:7T4Cw5wio
その言葉を聞いた上条は鬼の首を取ったかのような顔をすると、
「今、認めたな?お前=俺だって認めたな?」
「あっ」
「だったら話は早いじゃん!戻ってこいよ!!
つーかさっさとあっち戻りたいんだっての!!」
大体、屈服させろってなんだよ!厨二病かよ!
と大笑いする上条だったが、影は自分の失言にプルプルと震えている。
しかしすぐに落ちつきを取り戻すと、軽く溜息をついて背後にいるユースティティアを消した。
「……ハァ。おーけーおーけー、何か疲れた。このまま戦っても埒が明かねえしな。
とりあえず、戻っても良い」
影の言葉を受けて、「ホントか?!」と上条は聞き返そうとするが、それより早く影の言葉が遮る。
「ただし、だ。飽くまでも緊急事態による措置みてーなモンだからな。
色々と事が落ちついたら俺は帰るぞ、第一完全には認めてねえから」
「よし!話が決まれば善は急げだ!!あっちに帰る!!あ、でもどうやって!?」
そしてそんなやり取りを、マーガレットは楽しそうに眺めていた。
「ふふ……戦わずとも、影の心を変える。か……私には出来ないわね。
力が全てじゃないってことかしら」
「……2人が本当の意味で1人になった時、手合わせを願いたいわね」
私より強い奴に会いに行くと言わんばかりの力に対するこだわりは、
やはり力を司る者にふさわしいものであった。
「心配しなくても、すぐ帰れるわ」
そして、マーガレットが上条と影を元の場所へ帰す為に案内をするのだった。
562 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:33:23.12 ID:7T4Cw5wio
・・・
窓の無いビル。
その中でただ1人の住人である彼、もしくは彼女は、実に人間らしい笑みを浮かべながら、誰に向かって言う訳でも無く呟いた。
「予定の時間より早いが、それによる予想との差異を調べるのも悪くない」
くつくつと笑い、それに合わせてアレイスターを包んでいる液体から、ゴポゴポと空気の泡が浮かんで行く。
―――その時、『学園都市』と言う場は、世界から切り離された。
563 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:34:18.85 ID:7T4Cw5wio
・・・
場はオーラス。
手牌は最悪。
垣根提督は今現在、残り17600点。
対して、ゴーグルの少年は30000点。
1位のゴーグルに追い付くには跳ね満以上をツモで上がるか、満貫以上を直撃するしかない。
しかし、ドラは東。
せめて南がドラならまだ何とかなりそうなものだったが。
(金はある、金はあるんだが……こいつにやるのだけは許せねぇ)
チラリと対面に居るゴーグルの少年を見やる。
何を考えているかわからない眼が、ニヤリと歪むのを見て、垣根は軽くプチッと来た。
(ぜってぇ上がる……いや、まずこの場は何とかテンパイして流すしかないか……?)
とはいえ、親は砂皿緻密であり、彼がノーテンだった瞬間終わってしまう。
下家の砂皿を見るが、相変わらず何を考えているのかわからない。
場にはまだ役牌が白と發が1つずつしか出ていない上に、
ゴーグルの少年の手の動きを見る限りでは手が良く進んでいる事がわかる。
(やっぱ早上がり濃厚くせえ……)
切る牌に迷いが無い。真っすぐ最短ルートを目指していると考えて差支えないだろう。
ゴーグルを上がらせず、かつ砂皿に差しこむ。
(いや待てよ、砂皿の捨て牌を見る限りじゃチャンタ濃厚じゃね?)
564 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:35:29.36 ID:7T4Cw5wio
ヤオ九牌を一つも捨ててない。
何を考えているかは分からないものの、鳴いてすらいない為、
字牌どころかドラの東を抱え込んでいる可能性もある。
そうなると差しこんで泣きを見るのは垣根だ。
だがしかし、ゴーグルの少年が東を捨て、続いてドレスの少女も東を捨てた。
(まず親の砂皿は東のみで上がる事は無くなった、か……)
順子でも明刻でも構わない。とにかく鳴いてくれれば
何考えてるかわからん砂皿の動きもわかると言うもの。
淡い期待を抱きながら萬子の1を捨てようとした瞬間。
垣根の目の前のゴーグルの少年と、右に見える砂皿が。
「何だこりゃ」
「何よ、これ……?」
思わず呟いたのだが、ドレスの少女も同じような事を呟く。
考えた事は同じだったらしい。
「敵襲?にしちゃ随分突拍子どころか殺気もないな。
つーか何の気配もねーし」
敵襲だとして何故自分達だけが無事なのか。
そして2人が棺桶の様な姿になったのは一体何なのか。
565 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:36:07.78 ID:7T4Cw5wio
「とりあえず外出てみるか?」
「え、ええ、そうね」
狼狽するドレスの少女を率いて垣根は外がどうなっているのか確認を取る事にした。
「あ、その前に」
垣根はドレスの少女の後ろを通り、ゴーグルの少年が居た所まで移動すると、
「やっぱ中握ってやがったか……つーかもうテンパイだし」
犯罪は見つからなければ犯罪ではないし、
イカサマも見つからなければ……いや、例え見つかっても黙認されればイカサマではない。
サムズアップするドレスの少女を見るのと同時に、
垣根は中で出来た暗刻を王牌の3つと入れ替えた上に、
ゴーグルの少年の捨て牌と手牌をぐちゃぐちゃに入れ替えると言う鬼畜も真っ青な所業を為した。
「よし、これでこいつがこっからテンパイすることもねーだろ」
「そうね、後は私達がノーテンで終われば、
砂皿さんがテンパイしようとするまいとこの局は千点以上の被害はない、と言うことね」
利害が一致した、と言う事だろう。
2位のドレスの少女と3位の垣根。彼らはこの場においてのみ同盟を結んだ。
「ああ、だがこの後からは敵通しだと言う事を理解しておけよな」
「ええ、分かってるわよ」
こんな異常な状態の中、いつまでも冷静な垣根を見て、ドレスの少女も落ちつきを取り戻したのだろう。
先程の狼狽はどこへやら、隠れ家の出入口へと向かう垣根にドレスの少女も迷わず追従して行った。
566 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:37:15.45 ID:7T4Cw5wio
・・・
「生まれてから死ぬまで、いつだって俺は俺だけの味方だよ」
成程、台詞はカッコイイのだが、半裸でブーメランパンツのみと言う装備で言われても説得力に欠ける。
麦野沈利は辟易した表情で映画を見続けていた。
相変わらず絹旗最愛はワクワクした面持ちで映画を眺めている。
「生きるも死ぬも自由だ。立ち向かう事も逃げる事も出来る」
「だが、お前が例え死んでも何も変わらない。世界は変わらず回ってるだろうさ」
「だが、お前が生きているのであれば、きっと何かを変えられるはずだぜ」
やはりカッコイイ事を言っているのだが、彼は半裸なのだ。
これを作った脚本家と監督に今すぐ物申したい。「真面目に作ったの?」と。
だがしかし、役者の演技力自体はかなり高いもので、
金ばかりかけてイケメンタレントを映画に出演させるよりも、
この役者を安く使った方が儲けも出るのではと思うほどだ。
(私が生きても、何も変わらなかったっつーの)
あれは映画、あれはフィクション。
それは分かっているものの、その台詞に何か思う事があったのだろう。
脳内で毒を吐きつつも映画を見続けていたのだが。
唐突に、ブツリとテレビが切れた。
そして全身にザワザワとした違和感が走り、思わず辺りを見渡すと。
「滝壺!フレンダ!?」
先程まで寄り添って寝ていたはずの滝壺理后と
フレンダ=セイヴェルンの居た場所には二つの棺桶があった。
そしてその場に残ったのは、麦野と絹旗。
「これは……超敵襲ですか?にしても物音どころか殺気の一つも感じませんが……」
「分からない。分からないけど……とりあえず、外に出てみる?」
コンコンと棺桶を叩き、丈夫な何かで出来ているらしいと言う事だけを確認すると、麦野は外に出て行く為か上着を着込んでいた。
それを見た絹旗もポップコーンに洗濯バサミで封をしてテーブルの上に置く。
「まずはこの超異常現象の中、私達みたく無事な人を超探してみるって事ですよね」
「そゆこと。何となく、これが私達を狙った事って訳じゃなさそうな気がするしねー」
修羅場には慣れている。
麦野と絹旗は散歩に出るかのような気軽さで外へと向かって行った。
567 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/13(火) 19:38:58.75 ID:7T4Cw5wio
尾張です。
散々強そうアピールをした影を今の上条さんが倒すって無理だよなって思ったので妥協案。
長々となりそうだったので戦闘描写はぶつ切りに。
所謂影時間って奴ですね、棺桶になっちゃったのとならなかったのの違いはまあ、そのうち適当に。
568 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/13(火) 20:54:31.91 ID:FwcSFFdB0
>>1
乙
ペルソナタ−ンなるほど、心象世界か。
569 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/09/14(水) 02:53:26.56 ID:oHyxDJ3j0
ていとくん最低だなwwww
乙
570 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:21:57.97 ID:61qfjt2Qo
ご都合主義デスと言う保険
透過する
571 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:22:58.59 ID:61qfjt2Qo
桐条御一行が誰もいないゲートを潜り抜け、
学園都市入りを果たしてからしばらくの事である。
懐かしいあの感覚が一同の身体を駆け廻った。
「これは……!」
誰とは無しに辺りを見渡す。
まだ零時では無いと言うのに、表の時間はなりを潜め、裏の時間が影を出した。
「待て待て!まだ影時間には早すぎじゃねーのかよ!?」
伊織順平が、皆が同時に抱いた疑問を叫ぶ。
しかし、それに答えてくれるものなどおらず、
結局は自分達のすべきことをするだけであるという結論に達した。
すべき事、それは影時間に誘われた者の救助。
はっきり言って、この現象自体を止める事は不可能だった。
何より情報が足らず、今日と言う日に影時間が来る、と言う事しか分からなかったのだ。
とはいえそれだけ分かったのも僥倖で、後は何も知らない人間を助けることと、この事態に一方通行も動いているはずなので、
彼と合流し今後の方策を考えることの二つを同時に行おうと言うのが一同の考えである。
とはいえこの学園都市はかなり広い上に連絡を取ろうにも影時間では普通の機械は動かせないし、
事実岳羽が懐から出した携帯も動かなかった。
やはり、『黄昏の羽根』を組み込んだ無線機しか使えそうにないらしい。
572 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:23:32.23 ID:61qfjt2Qo
「さて、とりあえず4人二組に分かれるか……」
ここでどう分かれるかはかなり重要になって来るため、
桐条美鶴は慎重にそのメンバーを選び出す。
「山岸程ではないが私にも索敵能力はある。
それ故に山岸と私は分かれて行動しようと思うんだが、どう思う?」
「そうですね、私もそれが良いと思いますよ。
それなら戦闘面も考慮して、私は風香さんの方に行きましょうか」
「それじゃ、男女のバランスも考えて僕とコロマルもお2人の方に混ざりますね」
「何だか適当な感じはするが……まあ確かにバランスは取れているか……?」
「まあ何とかなるでしょ!天田君はしっかりしてるし、アイギスの手綱を握ってくれるはず!」
真田明彦が思案顔をするが、岳羽のそんな言葉にすんなりと納得し引き下がった。
何だか後半は割と適当だったが、そんなやり取りをして
4人ずつのパーティを二組作って行動を開始した一同であった。
573 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/16(金) 11:23:39.32 ID:WJOQN2reo
リアルタイム遭遇ktkr
574 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:24:51.83 ID:61qfjt2Qo
・・・
時は少しだけ遡り、学園都市に影の時間がやって来る前の事。
土御門元春は学園都市の外でただ一人、剣山のように大量の杭が刺さっている中で、
杭の一つにもたれかかり気だるげな表情を浮かべていた。
何故学園都市の外に居るのかと言うと、勿論魔術師関連である。
ローマ正教が誇る『神の右席』が1人、前方のヴェントが学園都市に侵入した。
それが学園都市における現状ではあるが、
いくら戦力に自信があろうとも本当に彼女だけが単騎で攻め込むだろうか?
結論から言えば、それはあり得ない。
まず間違いなく学園都市の外で他の魔術師が待機し、制圧する準備でもしているだろう。
学園都市を本気で制圧するなら数で押すなりなんなり出来ると言うのに、
それをしないのはヴェントと言う人間の力がそれほどまでに圧倒的なのだろう。
すなわち、学園都市の周囲にはヴェントが先攻した「後始末」をするだけの人員しか配備されていないのかもしれない。
兎にも角にも、ヴェントの扱う術式が一体どんなものなのかすら、土御門は分かっていなかった。
そして今、土御門は学園都市の外にてとある術式の破壊に成功した。
恐らく、学園都市内部で動けなくなった人間達を、
目の前に広がっている杭のにて串刺しにしていくつもりだったのだろう。
しかし、それは阻止した。
後はヴェントを何とかしなければならないのだが。
(カミやんは無事なんだろうな……?)
まず第一に上条当麻、インデックス等が狙われると考えて間違いないだろう。
ある意味、学園都市制圧は事のついでと見ても良いはず。
575 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:26:46.21 ID:61qfjt2Qo
それでも学園都市の中には、舞夏が居る。
彼にとって、彼女の無事を確保する事が最優先事項であった為にこうして術式の破壊を行った。
しかし、それを行う為に何度か魔術を使ってしまった為に、既に身体はボロボロだった。
土御門は血の塊を吐きだすと、自身が出てきた第三ゲートから再び学園都市に戻ろうと身を翻す。
しばらく重たい身体を引きずるように走っていくと、
視線の先から車のヘッドライトが見えたので、
思わず木の影に隠れその車がなんなのか確かめる。
そこには山道に似合わないような面長な車体をしたリムジンが目の前を過ぎ去っていった。
遠目に見る限りでは黒塗りの窓である為に、運転手が乗っていると言う事しか分からない。
(リムジン……?)
どこのどいつだ、と土御門は思うがどうやら土御門を探している訳でも無く、
学園都市に行くのが目的であるらしい事から何処かのお偉いさんが
ノコノコやって来たという事だろうか。
魔術師、と言う可能性も考えたが、あのような目立つ車に
乗って来るだろうかと思ったら、それは無いと考えた。
(敵なら排除すればいい、か)
どの道ここからならあのリムジンに追いつくことなど出来ないのだから。
隠れていた木の陰から身体を出して、再びゲートへと向かう。
しばらく歩を進めると、先程のリムジンも第三ゲートを目指していたのだろう。
リムジンがゲートの前に止まっていた。
どうやら中に乗っていた人間は既に学園都市入りを果たしたらしく、
そこには運転手しか居ないようだ。
(さて、接触すべきか否……ッ!?)
瞬間、全身を衝撃が駆け抜けた。
突然受けた謎の攻撃に、土御門はゴポッ、と音を立てながら血を吐きだす。
576 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:30:05.26 ID:61qfjt2Qo
一体何が、と考える前に背後から爆発音。
恐らく先程まで居た木の杭が破壊されたのだろう。
敵の魔術師による攻撃にしては随分となおざりな攻撃だった。
リムジンの運転手も物音であたりを見回していた。
みたところ執事の様な姿をしていることから、
何処かのご令嬢でも学園都市に連れて来たのだろうか。
それでもここにとどまっている、と言う事は
そのご令嬢も用事を済ませばすぐに帰るつもりだったはずだ。
兎にも角にも、その執事の様な人間は無事だった。
(となると……?!)
思考を進める前に、学園都市に起きた異変に気付く。
(アレイスターの野郎……使いやがったな……!?)
はるか遠くに見える、学園都市内部に展開されている光の翼。
開かれたゲートのほぼ真下に居る為、そのゲートから無数のそれを見る事が出来た。
それだけで、思わず呼吸が止まる。
人工の天使。
魔術師の排除。
しかし、魔術の排除は、飽くまでも副次的なものに過ぎない。
あれの本質は、AIM拡散力場の集合体。
言うなれば、心の欠片を無理矢理一つにまとめ上げた『人工のペルソナ』。
更には虚数学区・五行機関。
学園都市を中心に収束し、世界中にばらまかれた妹達によって
拡散されたAIM拡散力場を制御する事で生み出される『人工の界』。
あの光の翼を纏ったペルソナは、言うなれば『妹達のペルソナ』と言う事だろうか。
しかし、恐らくそれは飽くまで便宜上の話で、あらかじめプログラムされた機械か何かで
その制御を奪われていると考えて良いだろう。
577 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:32:17.28 ID:61qfjt2Qo
更に言えばあの『界』は、まだ完成していないはずである。
『界』の完成とは、あの世界がAIM拡散力場と言う心の集合体によって造られた世界であり、
その世界では現実の理が歪められオカルトは悉く消滅するはずで、
しかし現に土御門と言う魔術師はまだ生きている。
とはいえ、学園都市の外に居る土御門ですらダメージを受けたのだから、
学園都市内に居るヴェントがどうなるかなど考えるまでも無い。
そして何より、あの世界では、『適合者』でなくてはまともに動けない。
そういう風に造られているはずだ。
(と言っても、完成された『界』では無い所を見ると、いくらかのイレギュラーはありそうだがな……)
未だにうろたえているリムジンの運転手の前に土御門は姿を現す。
暗がりから見える血まみれの土御門は最早ホラーの域に達しているだろうが、
狼狽するリムジンの運転手をなだめつつゲートへと向かった。
しかし、ゲートは開かれていると言うのに、
見えない壁がその場を区切っている、と言えば良いのだろうか。
全く先に進めそうにない。
無駄だと分かりつつも、身体を蝕む魔術を行使し、ゲートの上へと向かってみる。
しかし、ゲートの上もドーム状に学園都市を覆っているのか、透明な何かがそこを遮っていた。
(クソ、何も出来そうに無いってのか!?)
ガリガリと苛立ちを抑えるように頭を掻くと、再び地面へと降りたつ。
すると先程のリムジンの運転手がこちらへと話をかけてきた。
578 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:33:18.29 ID:61qfjt2Qo
「恐らく、『影時間』の最中なのでしょう。
本来私どもはそれを感知することすらできないのですが……
学園都市はどうやったか知りませんが、学園都市にのみ影時間を迎えさせると言う事をやってのけたのだと考えられます」
「……待て、影時間、だと?」
「その通りです、先程は初めての事にうろたえましたが、美鶴様の言う通りの事が起きたようですね」
「美鶴……成程、桐条か……」
「おや、よくご存じで」
「職業柄、お偉いさん方の名前と顔位は一致させてるさ」
どうやら、ここでリタイアらしい。
ストン、と土御門はその場に座り込んだ。
(後は任せるしかない、か……)
土御門はこれ以上介入できそうも無いと言う事実を確認すると、
恐らく学園都市入りをしたであろう桐条美鶴に後を託すのであった。
579 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:34:14.42 ID:61qfjt2Qo
・・・
ヴェントは倒れ伏した上条当麻に一瞥もくれず、その場を去ろうとしていた。
しかし、しばらく歩いたところで背後から気配を感じる。
誰だ、と思うよりも早く、条件反射的に後ろを振り向いたところ、
そこには驚愕すべき光景が広がっていた。
「アンタ……不死身か何か?学園都市の実験で生み出されたバケモノ的なサムシングなの?」
「いや、残念ながらふつーの高校生ですが何か?」
そこには、先程自身の術式を受け倒れた上条の姿があった。
ヴェントは少しうろたえるものの、それをおくびにも出さずに上条へと問いかける。
「ふつーの高校生が、私の術式喰らってヘーゼンとしてて良いはずが無いっての!」
ヴェントが上条の身に起きた事を確認すべく、ハンマーを振るい風の塊を上条へと飛ばす。
今までは頭に拳銃を突きつけ背後から異形を出し、
その異形の力によって攻撃を回避していたと言うのに。
今の上条は右手をかざすだけで攻撃を受け止めた。
つまりは。
「何?ご都合主義的な漫画によくある力の復活とかそんな感じ?」
「まあそういう解釈でもかまわねーよ!」
上条は念の為左手にて召喚器を扱う。
そして背後から、出てきた異形は。
580 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:35:33.30 ID:61qfjt2Qo
「アンタ、さっきの剣持ったデカブツはどーしたっての?」
「あ?……あれ」
上条の背後に居たペルソナ。
それは今まで暴走時に上条の身体を乗っ取っていた存在の、クロノスと呼ばれるペルソナで。
今は上条の指示を待っているかのように静かに佇んでいた。
「んん……?オケアノス!」
何か怖い。チェンジ。
そんなことを思いながらオケアノスの名を叫ぶ。
すると今までお世話になった、剣を持ったペルソナが現れた。
「おー、これこれ……」
とここで、上条の動きが止まる。
ヴェントは一体何なんだ、と言った様子でジッと上条の事を眺めていた。
そして、当の上条は心の中に響き渡る声を聞いていた。
それは先程まで殴り合っていた自身の片割れの声。
と言ってもそれはヴェントが知る由も無い事なので、
ヴェントからしたら何も無いのにしきりにうんうんと頷く上条の姿しかなく、何だか気味が悪い。
そうしてようやく上条は動き出す。
「よし、それなら行くか!ユースティティア!ジオンガ!」
「なっ!?」
すると今度もまた別の異形が現れ、紫電がヴェントへと向かって解き放たれる。
ヴェントは瞬間的に風を操り雨水をも操ることで上条の電撃を雨水で受け止め、
電流の流れる方向を逸らすことで攻撃を受け止めたのだが、
ヴェントの表情は驚愕に染められていた。
581 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:37:07.41 ID:61qfjt2Qo
『幻想殺し』は、復活した。
それも何か別の異能を携えた状態で、だ。
幻想殺しはその性質上能力も魔術も使えない。
だと言うのに、今現在上条は異能をも操っている。
右手にしか宿らない幻想殺しの倒し方などいくらでも考えつくが、
それだけでは無く何か別の力も操るのでは、彼を倒すのは一筋縄ではいかないだろう。
元々確定事項だった事だが、ヴェントの決意は更に固まる事となる。
(こいつは、ここで確実に殺す!!)
それを決め、いざ攻撃に移ろうとしたところで、学園都市に異変が生じた。
「ゴハッ!?」
辺りに倒れ伏していたアンチスキル達は1人残らず棺桶の姿へと変貌し、
更にはヴェントが突如として苦しみながら血を吐きだし始めた。
そして上条の視線の先には、無数の光の翼が空へと向かっていた。
あの光の翼を見て、上条は反射的に思った。
(シャドウ……!?いや、ペルソナか……?)
なんにせよ、すんごく強そう。
それよりも、目の前の魔術師。
死人に鞭打つ、とはこのことか。
明らかに苦しんでいる人間を殴るのは心苦しいが、意識を失う前に放った言葉は、
間違いなく事実でヴェントは遊び半分に人の命を奪う事すら出来る人間に違いない。
そう考えるとここでヴェントを倒さねばと思う。
何より、右手の力と共に影がいつ出て行くかもわからないのだから。
(事が落ちついたらってーと、こいつ倒したらって事でいいんかな……?)
そんなことは後で考えるか、と思考を切り替え、一気にヴェントの下へと駆けあがる。
「ぐっ、がぁああぁぁぁ!!!!」
しかしそんな上条への牽制の為か、ヴェントはハンマーを
二度、三度と振りまわし、辺りに風をばらまいた。
それを防いでいる間にヴェントは路地裏の中へと駆けこんで行き、
上条がその路地裏へと入った頃には既にその姿は分からなくなっていた。
「……何なんだ……?」
その呟きは、様々な疑問が一緒くたになって現れた結果だろう。
本当に、何なんだ一体。
582 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:38:53.14 ID:61qfjt2Qo
・・・
第七学区のとある立体駐車場に、10台ほどの巨大な病院車が鎮座していた。
その車体は観光バス程の大きさなのだが、窓が無く、
1台につき10人の人間を収容できる生命維持装置付きのベッドが完備されている他、
簡易ながらも手術をする為のスペースも各車両に搭載されており、
これをフルに使えば単純に100人の患者をこの場に置いておく事が出来る。
そんな車両の陰に、3人の小さな影があった。
妹達だ。
少女達は常盤台の制服には似合わないアサルトライフルやら対戦車ライフルやらを武装しており、
彼女らは今現在、木原数多なる人物が放った猟犬部隊と言う暗部組織の警戒をしている。
そんな中で、ある2人の少女の声が響き渡る。
「放してほしいかも、短髪!街の様子は何だかおかしいし、
あくせられーたも何処かに行ったみたいだし、私はここで何が起きてるのか調べないといけないかも!」
「だーかーら、それが危ないって言ってんの!
あんたはここでおとなしくしてなさいよ!私だって動きたいのに!」
インデックスと御坂美琴だ。
一方通行の治療を行う為の道具をもらおうとしたインデックスをなし崩し的に保護した訳だが、
その後すぐに御坂という護衛と合流したのち、この場までたどり着いたのだ。
今のところ敵襲が無い所を見ると安心して良いのかもしれないが、
敵が敵なので警戒は固めるに越した事は無い。
しかし、2人はまだ気付かない。
象徴化した医者と患者達と、妹達の異変。そして無数の光の翼に。
583 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:39:42.30 ID:61qfjt2Qo
少女達が口論する中で、妹達はそれを止められそうにないと判断した。
まともに首すら回すことが出来ない程に、身体が何かに縛られたかのごとく動かない。
最終信号からの緊急コードだ。
この命令には下位個体である妹達は抗う事が出来ない。
一瞬にして脳の稼働領域を奪われた彼女達は、
ただ呼吸をおこなうだけの生物と化し、各々がその場に固まっていた。
どうする、それは妹達全員が同時に思ったことだ。
例えば奪われた演算領域を取り戻す為の抵抗を止めるとしよう。
そこから出来る1人1人の演算区域はさほど広いものではないが、
それを1万人分集めるとなると話は違う。
1人分の演算能力を補助する程度には脳の稼働を取り戻す事は可能である。
しかし、誰の演算能力を取り戻す?
そんな中、1人の声が、ミサカネットワーク上を巡った。
『ミサカに、皆さんの演算領域を貸しては頂けませんか?と、ミサカ9982号は提案します』
別にそれは構わないのだが、何故?と言う疑問が浮かび上がる。
だがしかし、それに答えている暇も無く、9982号の提案を断る理由も存在しないので妹達は一瞬にして一致団結した。
『―――ありがとうございます』
薄れゆく意識の中、9982号の声を聞いた。
そして妹達の1人である10032号は、確信を持つ。
(やはり、9982号や一方通行の抱える事情と関わりがある、と言う事ですね……)
色々と調べてはみたが、ろくに調べは進む事が無かった。
やっぱり直接問いただした方が早い気がする。
(あの似非忍者は無事なのでしょうか……)
もはや深く何かを考え込む程の演算領域は残っていない。
最後に残った意識の残滓は、自身の我儘に嫌々ながらも付き合ってくれていたお人よしの忍者を想っていた。
584 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/16(金) 11:42:43.02 ID:61qfjt2Qo
尾張です。
上条さんはワイルドする気ないよ(キリッ
っていつか言った気がするけど気のせいだぜ
基本的に出たとこ勝負なところがあるので以前質問に答えた事とは正反対の事を書いたりすることがあります。
そして風斬ちゃんが自意識のあるペルソナって言うのはどういうこっちゃって感じだろうけど、
クマみたいな事もあるんだし、逆に自我のあるペルソナもアリかなって思ったの!
585 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/16(金) 14:03:07.52 ID:8InJx+KDO
乙
もう上条さんが主人公でいいんじゃ(ry
一方さんは戦闘パートより日常やギャグパートで輝きすぎた
586 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/16(金) 22:15:25.87 ID:z/3looqf0
>>1
乙
>>584
jokerはまだ切られていないてかァ…
587 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/09/17(土) 09:18:21.88 ID:4NaCof0AO
やった夜勤が終わったので今日もしくは明日に投下ができたら嬉しいぞう
588 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:37:28.96 ID:lqTf1nfxo
ギリギリ今日だろ?駄目?
589 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:38:32.97 ID:lqTf1nfxo
「ふう……ようやく動けるようになりました。と、ミサカは現状を確認します」
妹達の1人である9982号はミサカネットワークの力を借りて、
上位個体から送られてきた命令(便宜上これをウィルスと定義した)によって演算領域のほとんどを奪われていたのだが、
その残った演算力を全て9982号に回すことで動けるようになったのだ。
なんにせよ、この分だと上位個体は敵の手に落ちたのだろう。
とはいえ、この上位個体の命令文こそが
彼女の生きている証となっているのは何とも皮肉な話である。
そして、今。
9982号は未だに雨にぬれたコンクリートの上に横たわっていた。
先程のウィルスコードのせいで少しの間とはいえ「立て」という命令を
脳から送る事が出来ない程にまで演算力を奪われてしまったからだ。
突然の出来事だったので、芳川桔梗から逃走を図っている最中だったと言うのにそれはもう無様に、盛大にこけた。すりむいた傷が痛い。
とりあえず、元々雨に打たれてずぶ濡れだったので
今更水たまりの上を這おうとも何とも思わない。
しかし、しかしだ。
9982号はうつ伏せに倒れたままじろりと背後を見やる。
590 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:39:22.73 ID:lqTf1nfxo
「……いつまでも勝ち誇ってないでそこからどいてもらえませんか?重た「何か言った?」……いえなんでもないですと、ミサカは慌てて訂正します」
「あら、せっかく勝利の余韻に浸っていたのに。仕方ないわね」
そこにはドヤ顔しながら足を組んで9982号を椅子にしている芳川の姿があった。
芳川は、先程まで見事なダッシュをしていた9982号が突如として転倒するので少し疑問に思ったのだが、
とりあえず疲れたので9982号を椅子にする事にしたのだ。ミサカネットワークで会話している間もずっと。
「とりあえず、緊急事態みたいね」
「あ、分かった上でその態度なんですね。
と、ミサカはいつまでもどかない芳川を振り落とすべく身体を揺すります」
「わわっ……もう、そんなに焦っても事態は好転しないわよ?」
9982号が懸命の抵抗をするので、芳川は渋々ながら立ち上がると、
誰もいない大通りを見回して怪訝そうな表情を浮かべた。
「この感じ……」
「どうしたんですか?と、ミサカは芳川に尋ねてみます」
「それがね、私が初めてマヨナカテレビに行った時と同じ感じがするのよ……」
少し考え込む芳川だったが、すぐに納得した表情に切り替わり、9982号へ向けて口を開く。
591 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:40:43.83 ID:lqTf1nfxo
「そう、シャドウの力を感じた時みたいな……」
「……え」
嘘だ、そんな短い単語が口から飛び出すよりも早く、
芳川の言葉の証明になる出来事が起きた。
対面して話をしている9982号の視線の先、
すなわち芳川の背後およそ30m程先だろうか。
そこには明らかに人間じゃないだろうお前、と言った姿をした異形の姿があり。
それはマヨナカテレビで色々とお世話になったにっくきシャドウの姿であった。
「ッ!!ペルソナァ!!」
それを見た9982号は条件反射的に自身のペルソナであるワカヒルメを召喚しようとするのだが。
「……」
何も出てこなかった。
592 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:41:30.94 ID:lqTf1nfxo
「……ブフッ、「ペルソナァ!」ですって」
それを見た芳川は思わず噴き出す。
あたかも結果が分かっていた上で、
9982号の言葉を止めることが無かったかのように。
芳川の笑いを見た9982号は、羞恥に顔を赤らめながらも芳川に対して文句を言った。
「どーいうことですか!!説明を要求します!と、ミサカは芳川に苦言を呈します!!」
「この感覚はね、私がペルソナを使えるようになる前に感じた感覚なの。
あれを使えるようになってからはもう少し鋭敏な感じになったわ。
でなきゃここまでシャドウの接近を許すはずが無いじゃない」
9982号にもわかるように、簡単に説明する芳川。
しかし、芳川の言葉通りにシャドウは着実にこちらへと這い寄ってきていた。
「な、成程ですね……ってことはミサカの能力だよりって事ですか?!」
「そう言う事。まあ、レベル2とか3で何処までいけるか……試してみる?」
「いえ、逃げます」
「その言葉が聞きたかった」
同時に、2人は同じ方向に走り出す。
今度は2人とも逃走する為に。
593 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:42:53.72 ID:lqTf1nfxo
・・・
「全く、何だこりゃひょっとして夢でも見てんじゃねーのか?」
「夢か現か調べてあげるわ、えいっ」
パシン、と頬を叩く音が響き渡るが、
その音は2人が歩く事によって起きる水たまりを踏む音と混じり合い溶けて行った。
しかし、ドレスの少女の痛烈な平手を受けた垣根提督からすると
文字通り肌で体感した訳で、突然の痛みにそれを行った本人をギロリと睨む。
「痛ぇじゃねぇか、殺すぞ」
「良かったわね、これが夢じゃないって分かって」
少し不機嫌そうな顔をする垣根ではあったが、
あまりに飄々とした態度をするドレスの少女を見て、げんなりとした表情を浮かべた。
「畜生……未だに人も居ねえしあるのは棺桶だけだし、
アレイスターの野郎またろくでもねぇこと始めやがったな?」
「あなたって任務の時もそうだけど、
身の危険が及ぶたびにアレイスターのせいにしてるわよね」
「バカ野郎、俺に降りかかる不幸は全部アレイスターのせいだろうが。
そうだと思わなきゃやってらんねーよ」
盛大な舌打ちをしながら、垣根は雨の中を歩く。勿論傘はさしている。
割と歩いてみたのだが、日が落ちたとはいえまだ21時を回ったところだろうか。
全く人の気配を感じさせない。
それどころかこの時間ならまだ空いているであろうコンビニなどにも明かりはともっておらず、
そんな中で街灯だけが不気味に街を照らしていた。
594 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:43:43.87 ID:lqTf1nfxo
「にしても、ここまで何も無いとホラー感じるわよね。
学校の怪談とかだと町に出たら全員のっぺらぼうだったとか」
「あー、鏡の世界だったか……
そんな映画もあったっけなあ。人面犬とかかなり強烈だったわ」
「あれって結構シリーズ続いてた気がするけど、どの辺まで行ったっけ?」
「4だったか?俺は3までしか見た記憶ねーけど。3がのっぺらぼうの奴だよな?」
「あー、それなら多分私も3までしか見てないわね。私も3つしか見た記憶ないわ」
「何かなついな。久々に見たくなった」
「でも科学に染まった今、それを見てもあんまり怖く感じない気がするんだけど」
「ハッ、そんなもんその場のノリだろ?」
「ウギャー!とか間抜けな悲鳴を上げるのなら一緒に見てあげても良いけど?」
「……俺の役者魂に火を付けたぞ、その発言」
DVDボックスが確かあったはずだ、と自身の記憶を探る垣根を見て、どんだけ詳しいんだとドレスの少女は微笑んだ。
非常で異常な事態の中で、何処までもマイペースに街を歩く。
しかし、そんな中でその和やかなムードを引き裂く『ナニか』が現れた。
595 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:45:11.08 ID:lqTf1nfxo
「なんだあれ……」
ぼんやりと遠くから何かが見える。垣根もまたぼんやりと呟いた。
ガシャガシャと鎧がぶつかり合うような音が、
こちらに近づくにつれて大きくなっていく。
それは騎士だった。
いつか一方通行がテレビの中で相対した漆黒の騎士を、
真逆の真っ白にしたかのような姿をしたそれは、『征服の騎士』と言う名のシャドウであった。
しかし、そんなことを垣根やドレスの少女が知る由も無く。
「俺に武器を向けてるっつーことは、戦るって事だな?」
純白の羽をはためかせながら、垣根は獰猛に笑った。
その羽を見たからかは知らないが、
鉄の塊のような馬にまたがる騎士は、2人に向かう速度を上げてきた。
しかし、いざ戦らん!と言った状態まで気力を高めた垣根に対して、ドレスの少女が取った行動は。
「ストップ!駄目〜!!」
「ぐふっ!?」
垣根の背後からのフライングヘッドバッドだった。
それにより盛大に転倒する垣根だったが、
彼らの頭上を突進して騎士は通りすぎると、その身体を急停止させている。
そんな中で、尤もな文句を垣根はドレスの少女に対して言った。
596 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:46:34.40 ID:lqTf1nfxo
「何しやがる!?」
「駄目……あれは違う……人間じゃない……」
「あ?」
自身の背中でプルプルと震えているドレスの少女を一瞥すると、
彼女を背中からどかした後に騎士の方を見やる。
何か能力でも使って馬に模した鉄の塊にでもまたがっているのかと思っていたのだが、
近くでよく見るとそうでは無く、鉄の塊そのもののように見えた。
しかし、それならば鉄の塊を遠隔操作でもしていると考えるのが一般的な見解だろうに、
彼の目の前で震える少女は、明らかにあれが「人間ではない何かである」と断言した。
しかもそれはただの無機物に向けるべき感情ではない、『恐怖』をその何かへと向けている。
「どういう事だ?」
再び騎士がランスを構える中で、垣根は冷静に尋ねた。
「ただの無機物なら、私の『心理定規』は作動しない。
更に言えば普通の動物……犬とか猫とかでも一応私の能力って適応されるんだけど……」
心理定規と言う、対象の心の距離を測ったり操作したり等するこの能力。
それは動物等にも適用される。
例えば飼い犬と飼い主同士の心の距離を図ることだってできるし、
野良犬を飼い犬のごとく従順にさせることや逆に飼い犬を野良犬のごとく警戒心丸出しにする事も出来る。
そんな能力を持ったドレスの少女は、
敵対するにあたってとりあえず自分との心の距離を測ってみる。
赤の他人に対して意味があるのかと問いかけたいが、
よっぽど鍛えられた相手ではない限りは殺意の度合いから、
金を積めば退いてくれるのかやら逆に確実に仕留めないといけないやら、
そう言った情報を引き出すことが出来るのだ。
そしてその能力を、『征服の騎士』にも使った結果。
597 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:50:42.55 ID:lqTf1nfxo
「あれには確かに心がある……いえ、その表現は正しくないわね……
言うならば、『心そのもの』だと思う」
「ハァ?」
どういう事だ、と尋ねる間にも、騎士はこちらめがけて再び突進してきている。
垣根は舌打ちをしながら、彼女の話を聞く為に一旦空へと回避しようと
再び翼を展開してドレスの少女を小脇にかかえて飛び立った。
「……もうちょっとイイ感じの抱え方は無かったの?」
意外と力持ちだな、とドレスの少女は思う。
と言っても自分はそこまで重くは無いはずだと脳内で訂正を入れる。
それに続いて、お腹を抱えられ、両手両足をだらんと地面の方に向けながら
不平を洩らすドレスの少女だったが、垣根は完全にその言葉を無視して続けた。
「で、どういうことだ?」
「……何て言うか、人間って複雑な感情が一緒くたに混ぜられてるから、
一度測ってみるだけでも色々と距離がわかるのよね。
それで、例えただの動物を相手にしても人間程じゃないけど、
対象にした者に対する心の距離をそれなりに見ることが出来るの。
でもね、あれは違った。あれには一つしかなかった。
どんなに心を殺した人間にも、あそこまで洗練できるはずが無い。
ましてやただの無機物から観測出来て良いはずが無いのよ」
「……1つってーと?」
「……食、欲」
「……うげぇ」
どう表現したらいいのか分からなかったのか、
ドレスの少女は言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いたが、垣根はその言葉にドン引きした。
598 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:51:36.51 ID:lqTf1nfxo
「……いや、食欲が一番近いと思ったけど、
何て言うか食事したいって意味じゃないのよね……」
「ホントにどういうことだよ?」
「私にだってわからないわよ……
ううん、存在その物が欲しいって感じかしら……」
だらしなくぶら下げられた両手のうち右手を顎に置いて考え込むドレスの少女。
彼女の言葉を反芻させながら、今までに起きた現象について垣根も考察する。
「……わかんねぇな。あの変な騎士に、俺ら以外の棺桶姿。それにあの光の……翼?」
「まず、私達以外にも無事な人はいるはずだと思うから、
その人達を探した方がいいと思うわ」
「まぁそれが懸命だろうな。あれに話が通じるとは思えねーし」
ドレスの少女の提案には文句も無かったので、
そのまま翼をはためかせて雨空の中宙を舞い始めた。
傘は、2人ともとっさの事に捨ててしまっていた為に、前方からの雨が冷たい。
「ところで、この抱え方って何とかならなかいの?」
「お姫様だっことこれ、どっちがいい?」
「……お姫ひゃわあああああ!!」
彼女の言葉は、飛行速度を上げた垣根によって遮られてしまうのだった。
599 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:52:31.80 ID:lqTf1nfxo
・・・
「なンですかこれ!この超B級感漂うモンスターはなンですか!?
もっと手作り感の沸く超C級モンスターは居ねェンですか?!
いつまで出てくるンですかこれ!?」
「うるせーよ絹旗ァ!!こっちが聞きたいってのそんなことは!!」
「麦野も実はC級映画が超好――」
「私が言ってんのはそういう話じゃねー!!」
悲鳴のような叫び声を上げながら、
麦野沈利は自身の能力である『原子崩し』を放つ。
その対象は突如として現れた異形。
1体1体はそこまで強くないのだが、
こうしてワラワラと出てこられては非常に面倒だ。
一方の絹旗最愛も、そこらの街灯を引っこ抜いて無双をしていたが、
そろそろ電柱の方が限界に達しそうであった。
「あー、そろそろ限界ですねこれ!
次はガードレールでも使ってあのクソ共ぶつ切りに……!」
手に持った街灯を思い切り投合する。
その射線上に居たシャドウを3、4体程巻き込んだところで街灯は動きを止めた。
そうして空いた両手で近くにあった5m程のガードレールを引きぬくと、
まずはくっついてきたコンクリートでシャドウを叩き潰し、
ブチュリと言う嫌な音と共にコンクリートを砕いて行く。
続いてガードレールの平べったい部分を使って
再びシャドウをその重さを以って叩き潰していく。
まるで北斗神拳でも喰らったかのように異形達は次々と潰されて行く中で、麦野はもっと派手に敵を殲滅していた。
600 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:54:38.31 ID:lqTf1nfxo
「麦野のそれは、相変わらず凶悪ですね!!」
「あんなグロテスクに叩き潰してるお前の力もどうかと思うけどな!!」
その点一瞬で蒸発させる私の方が良心的だろう、
と、麦野はシューティングゲームのように指をかざしながら次々とシャドウを消し飛ばしていった。
「つゥか、本当になンなンでしょうねこれ!?」
「だから、私に聞くな!!」
身長差があるものの、互いが互いに背合わせになるような体勢を取りながら、息を整える。
最初は2、3体程のシャドウが襲ってきたので、
突然の事にうろたえながらもサクッと対処した。
しかし、それで騒いだのがいけなかったのだろうか、
はたまたそう言う場所だったのか、何にせよ次々とシャドウが群がって来たのだ。
「いつまでも戦っていても、超埒があきやがりませンけど、どォしますかァ?!」
「アァ!?向かってくる奴は全部つぶして行くっつーの!!」
絹旗の言葉に、麦野は後ろを振り向きながらも手を前に突き出して『原子崩し』を放った。
照準も何もない。
割とうじゃうじゃと居たのでとりあえず放つだけで敵に当たった音がする。
そんな中で、絹旗もまた麦野の方を振り向くと同時に、ガードレールも横に振りまわした。
これによって麦野の死角から急接近していたシャドウが真っ二つに切り裂かれる。
「戦闘中によそ見なンてするから、接近に超許しちまうンですよ!」
「ハッ!そりゃてめーにブーメランだっつーの!!」
続いて、そのガードレールを思い切りしゃがんで避ける麦野もまた足を大きく広げている絹旗の股下から光の塊を放つと、
今まさに炎を放とうとしていたシャドウに直撃した。
601 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:56:30.84 ID:lqTf1nfxo
「……やはり、こンな意味不明な空間での生存者を探す方が重要なンじゃねェですか?
何かしら知っているかもしれませンし」
「……それもそうだな、こんな訳わかんねぇのに殺されるってのも癪だし」
冷静になったのか、絹旗の言葉にうなづいた麦野は、
そのまま前方に向けて今までで一番特大な一撃を放った。
それによって車が通れる程度の道がシャドウ達の真ん中に出来た為、2人は一気に駆け出す。
「逃げんのは良いけど、アンタのそのガードレール、私も巻き込まないでよ!?」
「大丈夫です、麦野なら避けるって超信じています!」
「言ってくれるじゃないの畜生!」
シャドウ達を横切る瞬間、麦野は左に居るシャドウに向かって、
絹旗は右に居るシャドウに向かって迎撃を行った。
息の合う攻撃を放った2人は、その隙をついて更に駆けるペースを上げる。
元々足は速くなかったのだろう。
シャドウ達が追いかけてくる音は、程なくして消え失せる。
動かす足を止め息を整えることに専念する2人は、程なくして口を開いた。
「……追って来る感じはしないわね」
「……これが、ただ単に雨音で近づくのが分かんないってだけだったら超ホラーですね」
「そーゆーの止めろって、イヤマジで」
「あれ?麦野って怖いの超苦手でしたっけ?」
ニヤリと鬼の首を取ったかのような顔をする絹旗である。
恐らくその頭の中は今度借りて来るDVDはホラーで決まりだ、
とか考えているのだろうが、麦野の言葉は予想の斜め上を行っていた。
「いや、いちいちビビられるとイライラするんだよね。
軽く消し飛ばしたくなる程に」
「……そうですか」
ホラー祭り中止。
602 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/18(日) 23:57:43.51 ID:lqTf1nfxo
尾張です
まだ日が変わってねーからセーフだろ?
603 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/09/18(日) 23:58:13.71 ID:BKEVa21bo
セーフだよ。乙なんだよ
604 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/09/19(月) 00:00:23.71 ID:OBPDVGA3o
セフセフ
おっつん
605 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/19(月) 01:12:36.13 ID:rxQ87EP9o
乙なのです佳境に入ってきたのかな
p4面白いわー
606 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/19(月) 05:52:23.71 ID:l3xD5wfc0
>>1
乙
このクロス読ませるなあ…
607 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/09/22(木) 04:54:02.75 ID:XtBr106Ko
ホンットすまん、次投下行けそうなの日曜ですわ・・・
608 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/22(木) 23:11:41.30 ID:Tn4yuJUE0
報告乙
気にしなくていいよ〜
日曜日まで待ってるよ!がんばってね
609 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/25(日) 07:24:53.72 ID:H2krb3OFo
短いです
1週間あったと言うのに短いです
遺憾の意をここに示します
610 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/25(日) 07:26:22.37 ID:H2krb3OFo
「は、はは……ははははは!!!!」
木原数多は笑った。
喜怒哀楽のうち、「喜」だけを前面に押し出したような表情を浮かべる木原は、
自身が潜伏しているビルの窓から見える景色を見やる。
「あーっはっはっはっは!!!なんだよありゃ!?畜生アレイスターの野郎、どんだけ先に行ってやがんだ!?
悔しいなあ理論の理の字もわかんねーぞ!?科学者のくせに科学を否定するたぁ、何たる科学者だよオイ!!」
視覚では人工の天使から発せられる光の翼を捕らえ、
感覚ではこの場が学園都市出会って学園都市にあらずと本能的に察せられ。
アレイスター=クロウリーの言う『適合者』を探すという行為がどういうものかすぐに理解した。
「つまり、虚数学区ってのは、『あのテレビそのもの』ってことか!?
そして学園都市と言う箱庭を舞台に、虚数学区……いや、テレビの中を再現してみせたっつーのかぁ!?」
興奮のあまり思考がそのまま言葉になっているが、それを聞く者はこの場におらず。
「成程なぁ!だからこそ、『適合者』の選別ってことか!」
木原はチラリと背後を見る。そこには猟犬部隊だった人間達の棺桶が並んでいた。
この場で棺桶となっている者は、もちろんペルソナなど使えない。
その為にこのような棺桶姿となって影時間に気付かずにいるのだが、
それと似たようなものでテレビの中に入るにも、ペルソナを使えるかもしくはペルソナを使える者と共に行かなければテレビの中には入れない。
「つぅか、AIM拡散力場の塊に指向性を持たせるだけであんなことが出来んのかぁ!?
あぁ畜生ォ!!任務なんぞほったらかしてあの天使がなんなのか調べてぇなあ!!
間違いなくアレイスターの野郎が見てる景色に一歩以上近づけるはずなのになぁ!!」
木原は嬉しそうにキレると言う器用な真似をしながら、ガリガリと頭を掻くと同時に頭を抱える。
しかしここで文句を垂れていても仕方が無い事は木原自身良く分かっている為、
ひとしきり叫び声を上げ頭を冷やすと再びパソコンのモニターに眼をやった。
「……つか、『黄昏の羽根』がなきゃろくに機械もうごかせねーのな」
木原の居る部屋の温度を調整していた空調の音が消えていた。
更にはポツポツと光がともっていたビルの窓からは、全ての光が消え去っていた。
そんな中で、動かせている機械は、木原が扱うパソコンと。
「……」
こんこんと眠る打ち止めの頭に取り付けられた学習装置だけだった。
611 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/25(日) 07:26:57.54 ID:H2krb3OFo
・・・
「……なんだここは」
「だから言ったろォが、常識は通用しねェって」
木山春生は、一方通行に連れられてテレビの中へとやって来た。
そこには少し前に一方通行が来た時と変わらず天国の様な光景が広がっており、
それは木山を驚愕させるに値するもので、一方通行もその事は分かっているのか
興味なさげに木山の呟きに返答した。
「確かに……ここまでとは思わなかった、が……」
最早幻想的とも表現できるそれは、夢では無く現実。
この世界が何なのか、と言う事は木山も気にはなるところだが、
一方通行も木山も今はそれどころでは無く。
「それで、あの子達は何処に居るんだ?」
「ここに居ることは分かってる。後はアイツらが連絡に応じてくれりゃ問題ねェ」
何処から取り出したのか、一方通行は無線機を用いて布束砥信とクマに連絡をする。
戦闘中などでない限りは無線に出ることが出来るはずだ、と考えて。
(無事でいろよ……)
一方通行は2人の安否を気遣いながら無線機を耳に近づける。
するとそこから聞こえてきたのは。
『おいーっすひょっとして一方通行ン?こっちは無事クマよー』
想像以上に間の抜けた、かつ気の抜けた声で無線に応じたクマだった。
『……なンだその気の抜けっぷりはよォ』
こっちの心配した気持ちを返せと言ってやりたかった。
そしてクマの背後から聞こえてくる子供達の声。
612 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/25(日) 07:27:49.29 ID:H2krb3OFo
『子供達は無事クマよー』
『戦闘は無かったのかァ?』
『この場に行くまでは戦闘が何度かあったクマ。
でも子供達の目的はクマ達の足止めだったクマよ』
足止めが目的。
つまり2人は戦わずともその場に残ると言う意思表示でも示したのだろう。
それにより子供達は無傷で、布束とクマはシャドウと戦闘した事によって少し傷ついただけのようだった。
『とりあえず、そのガキ共の保護者を連れてきた。
一旦あのボロアパートまで戻るから、そのガキ共連れてこい』
『え?でもこの子らは時間稼ぎしないと、木山センセーが危ないって言ってるクマよ?』
『だから、その木山センセーを連れてきたっつってンだ』
『マジで!?』
『マジだ』
『わかったクマ!すぐに戻るから待ってるクマよ!!』
ブツリ、と無線を切る音が響き渡る。
この場は周りにシャドウの気配も無く静寂を保っていた為、
クマとの会話の間に子供達の声が聞こえたからか、木山も安心したような表情を浮かべていた。
613 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/25(日) 07:28:34.26 ID:H2krb3OFo
しかし、一方通行の心配事はそれだけでは無かった。
(……布束の場合、ペルソナを酷使する事で暴走し、
自身の影を生み出す結果になっていた)
となると、2人と一緒に居る子供らは戦ってすらいない為、暴走の心配は無いだろう。
チラリと木山の方を見る。安堵の表情を浮かべて、
天国への門を見ながら彼らの帰還を今か今かと待ち続けていた。
(だが……)
しかし、木山春生の場合はどうだろうか。
彼女は別にペルソナを扱う為の開発は行われていないらしい。
(なら、高確率で木山の影が出てくるはずだ)
だとすると、なるべく早くテレビの外に出たい。
こちらから迎えに行っても良いのだが、如何せん何処に居るかわからない上に土地勘も無い。
土地勘は仕方ないとして何処に居るかわからないと言うのが問題だった。
互いにすれ違ってしまう事を避けるために、ここからは動けない。
「チッ……」
結果として一方通行の苛立ちは、小さな舌打ちへと収束されるのだった。
614 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/25(日) 07:29:15.98 ID:H2krb3OFo
・・・
「あれはAIM拡散力場の塊……」
ポツリと木原数多は呟く。
紫電を撒き散らしながら雷光のように天空へと伸びている光の翼が、
異変の塊となった学園都市を照らしている中で、
その光を背景にしながら木原はデスクの上にだらしなく足をのせながら、パソコンの液晶を眺めていた。
「そういえば……」
木原は何か思いだしたかのように足をデスクから降ろすと、キーボードをたたき始める。
しばらくして、木原の望む情報が載っているページまでアクセスできたのだろう。
木原は再び足を組むとそのページをスクロールして行った。
「『幻想御手』の主演女優は木山ちゃんだったな、そーいや」
どうでもいい事を思い出したかのように吐き捨てながらも、
木原はそのページを下へ下へと移動させていく。
木原がアクセスした場所、それは学園都市にはびこる「裏」の実験の一部始終を収めたデータベースであり、
それを見ることが出来るのはほんの一握りの科学者と統括理事会しか居ない。
そんな中で、木原は当たり前のようにそのページへと行っている辺り、
かなり優秀な科学者である事が見て取れる。
「つか、こうしてアクセス出来るってこたぁ、この回線も『黄昏の羽根仕様』って事か?」
だとすると、この異世界の様な場と異様な天使を降臨させた計画に、統括理事会も一枚噛んでいるのだろう。
615 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/25(日) 07:30:17.73 ID:H2krb3OFo
「ま、そんなこたぁどーだって良いんだけどな……」
自分は任された任務をさっさと終わらせて研究を続行するだけだ。
そう考えた木原は任務を放って調べ物を進めて行く。
考えとしては一方通行が邪魔しない限りはこうして最終信号を手元に置いておくだけで任務は終わる、と考えているのだろう。
「木山春生から現出した『幻想猛獣』……これは明らかに不完全なものだが……」
チラリと背後の光の翼を見やる。
「恐らく、木山の場合ネットワーク自体に無理があったんだろーな。
だがしかし、こっちのミサカネットワークは全てのネットワークをつなぐ個体が同一のクローン体だったからこそ、
こうして完全に近い状態を作り出すことが出来たってことか……?」
とここで、木原は今まで考えていた仮定のうちの一つを頭の中に浮かべた。
「……もし俺の考えが正しいのであれば……」
―――木山春生もまた、ペルソナを扱う事が出来るのではないか?
「ま、あいつらが無事テレビの中から帰ってこれたからっつってこの仮定の証明にはならねぇけどな……」
木山春生をあの研究所に置いておくんじゃなかった、と木原は少しだけ残念がりながら開いていたページを閉じたのだった。
そういえば、と木原数多はふと思い出す。
「しまった、魔術師(モルモット)共に取り付けた機材も全部止まってんじゃねーか?」
だがしかし、このイレギュラーな世界では魔術師もまた棺桶になっているのだろうか?だとしたら何も問題は無いのだが。
まあ、どっちでもいいやと木原はキーボードを叩き続ける事にするのであった。
616 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/25(日) 07:32:33.54 ID:H2krb3OFo
ごめんなさい、短いです。
天上楽土で戦闘しようかとも思ったけど、止めました。
子供たちは6人も居ると言うのに、そんなごちゃごちゃした中で戦闘なんてとてもとても・・・
次回はまたていとくんとかむぎのんたちとか、なんかその辺のターンになる・・・かな・・・・?
617 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/09/25(日) 08:48:05.54 ID:WKOcq56Lo
おつん
618 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/25(日) 12:21:11.61 ID:PhhJu0RW0
>>616
乙そして久しぶり
風斬をどの様に出すか楽しみ…wktk
619 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/09/28(水) 07:37:53.75 ID:/6iHKUtlo
今日明日休みの金曜出勤して土日も休み!
今日は投下は無理っぽいので明日と土日に進める!
とりあえず
>>1
でもまとめきれないから現状をまとめてみた↓
マヨナカテレビ
一方通行→布束、クマ待ち
木山春生→同上
クマ、布束砥信、子供達→ゾロゾロ
学園都市(影時間)
暗部組
スクール:垣根提督、ドレスの少女→上空ふわふわ
アイテム:麦野沈利、絹旗最愛→真・能力無双
猟犬部隊:木原数多→窓の外見てパソコンの液晶見てニヤニヤ
仮称特別捜索隊
9982号、芳川桔梗→逃走中
御坂美琴→某所にてゲコ太先生の患者達の護衛
上条当麻→ヴェント逃走後、光の翼を見てとりあえずそっちの方に行ってみる
魔術師
土御門元春→学園都市内に入れそうにないので入る方法を模索してはいるものの状況は中の人に丸投げ。
インデックス→御坂美琴と口論中
前方のヴェント→光の翼をモロに受け逃走。
特別課外活動部
山岸風香、アイギス、天田乾、コロマル→シャドウを片っ端から殲滅しながら無事な人探し
桐条美鶴、真田明彦、岳羽ゆかり、伊織順平→同上
窓の無いビル
アレイスター=クロウリー→ニヤニヤ
吃驚するほど登場人物多い…
なによりP3サイドの人達があんまり描けてないから頑張りたい
魔術師が影時間で無事なのはご都合主義です!
620 :
◆DAbxBtgEsc
:2011/09/29(木) 12:58:23.00 ID:ILBBzcqxo
透過するゥ
621 :
◆DAbxBtgEsc
:2011/09/29(木) 12:58:51.59 ID:ILBBzcqxo
小雨、と表現する程度には雨脚が弱くなっていた。
それでも実際に雨は降っている為に、
じめじめとした感触がより一層この場の雰囲気を重くしている。
そんな中で、ある場所ではそのじめじめした雨を吹き飛ばす程の風が吹き荒れていた。
それは能力者による攻撃では無く、単なる余波。
そしてそのような強い余波を生み出すような戦闘を行っている面々は。
「アイギスさん!前方にいっぱい居る敵は貫通攻撃に弱いので一気にやっちゃってください!
天田君は右に見える大きいのに光属性、コロマルはあっちの敵に火炎属性の攻撃をお願い!」
「了解です!」
「ペルソナ、ハマオン!!」
「わうわう!」
622 :
◆DAbxBtgEsc
:2011/09/29(木) 12:59:58.44 ID:ILBBzcqxo
山岸風香は周囲を見渡して瞬時に最適な攻撃方法の指示を出した。
それに対して一同は指示された攻撃を以って返答とする。
本来山岸は学園都市の外の安全地帯にてシャドウの感知を行うべきだったのだが、
彼女の護衛に裂く人員すら作れなかった、と言うべきか。
アイギス、天田乾、コロマルが山岸を囲うようにして陣を取りシャドウを迎え入れていた。
とはいえ、山岸が危険な戦場のど真ん中に立つ事と引き換えに、
『感知する事』に秀でた彼女のペルソナ『ユノ』はその本領を発揮していた。
タルタロス内では距離の離れた場所から敵の弱点などを探っていたのだが、
こうして近距離で相手の力を調べるのは前者のそれよりもはるかに楽なものである。
そんな彼女の懸念、と言うよりは特別課外活動部の面々も「それ」に対して不安を覚えているのだが。
(あの光の翼は……)
紫電を撒き散らしながら天へと登っているような、はたまた天から落ちる雷のようなその翼は。
―――明らかに自分達の扱うペルソナと同列の力を感じる。
(それも、かなり強い……ううん、私達1人1人の力よりも……)
何度も何度も注ぎ足して圧縮して、そうして無理矢理枠に収めたかのような人工的な力。
しかしその力の大きさ、と言うより密度と言った方が良いだろうか。
兎にも角にも視界の端に捉えている光の翼は、
見た目だけでなく実際に強い力を有していると言う事が山岸には感じられたのだった。
そうしているうちに、アイギス達が戦闘を終えたらしく、近くにシャドウの気配は感じられなくなっていた。
623 :
◆DAbxBtgEsc
:2011/09/29(木) 13:00:44.55 ID:ILBBzcqxo
「皆さん、お疲れ様です!この調子で頑張りましょう!」
山岸のその言葉と同時に、一同の周囲が淡い光に包まれる。
癒しの波動、という彼女の持つ力の一部で対象の力を少し回復させるといったものだ。
優しく包み込むような光を受けたアイギス達は、すっきりした面持ちで山岸の方を振り返った。
「久々の戦闘でしたが十分動けましたね。とはいえまだ敵自体が強かった訳ではありませんが」
アイギスの言葉に一同は同意を示す。
タルタロスを踏破した特別課外活動部のメンバーからしたら、
今の敵は『奇顔の庭アルカ』に出てくる程度のものだったろう。
山岸のアシストも相まって更に楽にシャドウを倒す事が出来た。
「それで、とりあえずあの光の翼を目指すって事で良いんでしょうか?」
先のシャドウの事などすぐに忘れ、
次にすべきことを考えていると言う子供の癖に少し大人びた少年。
天田乾は天に昇る光を指差しながら尋ねてきた。
「そうですね、それが賢明でしょう。
何の手がかりも無い今、あからさまな異変はあの光からしか見てとれませんし」
アイギスが同意すると、山岸やコロマルもそれに同意するように頷いた。
それと同時に、無線に連絡が入る。
桐条美鶴からだ。
624 :
◆DAbxBtgEsc
:2011/09/29(木) 13:01:39.67 ID:ILBBzcqxo
『山岸か、そっちは大丈夫か?』
『はい、今のところ問題はありません。
とりあえずあの光の翼を目指して移動しようかと思います』
『成程、君が直接あの光の翼を見た方がよさそうだな……
それならこちらは鈴科や他に無事な人が居ないか探す事にしよう』
『わかりました、気をつけて下さいね』
『ああ、ありがとう。そちらもな』
無線が切れる。
山岸は無線をしまうと、恐らく美鶴の声が聞こえていたのだろう。
アイギス達も光の翼へと向かうべくそちらの方を向いていた。
「それではあっちは無事みたいですし、私達も頑張って行きましょう!」
「「はい!」」「わう!」
そして3人+1匹という表現するにあたって少しばかり変わっているパーティは、
光の翼を目指すべく水たまりを蹴って駆けだしたのだった。
625 :
◆DAbxBtgEsc
:2011/09/29(木) 13:02:48.20 ID:ILBBzcqxo
・・・
一方、特別課外活動部のもう半分はと言うと。
「ふむ……シャドウ自体はあまり強力なものではない、か……」
「しかしこんなイレギュラーの中だ。たまたま弱い奴に当たっただけかもしれん」
「まー楽な分には良いっすけどね、でも何か拍子抜けっつーか」
「じゅんぺーはそーやって気を抜くから足元すくわれるのよ」
丁度戦闘を終えたようだが、気合い入れた割にはシャドウ自体は強くなかった。
この位の敵なら4人がそれぞれ単独行動しても問題無い考えてしまう程に。
しかし、どんな不足な事態があるかわからないからこそ4人1組のパーティを組んだのだ。
一先ず山岸風香達の状況を聞いてから方針を考えることにしたのか、
桐条美鶴は無線を取り出して連絡を飛ばしてみる事にする。
『山岸か、そっちは大丈夫か?』
『はい、今のところ問題はありません。
とりあえずあの光の翼を目指して移動しようかと思います』
どうやら無事のようだ。
今のところは問題無いようで(この状況が既に問題なのだが)、安心したように軽く息を吐いた。
『成程、君が直接あの光の翼を見た方がよさそうだな……
それならこちらは鈴科や他に無事な人が居ないか探す事にしよう』
『わかりました、気をつけて下さいね』
『ああ、ありがとう。そちらもな』
無線を切る。
それと同時に3人の方を向き再び口を開いた。
「山岸達はあの翼を目指すらしいから、
我々は鈴科や他に無事な人間が居ないか探そうと思うんだが…」
「それが良いだろうな」「ですね」「ですな」
その言葉に3人は同意する。
折角別れたのに同じ場所を目指しても仕方あるまいだろう。
どうやら3人も同じことを考えたらしく、光の翼に関しては一先ず山岸達に任せることにし、
自分達はこのまま探索を続ける事にしたのだった。
626 :
◆DAbxBtgEsc
:2011/09/29(木) 13:04:34.73 ID:ILBBzcqxo
・・・
そうしてかれこれ20分位。
あれからシャドウの気配は感じられず、
ただたまに見かける棺桶を見て少しだけ安心するだけだった。
棺桶を見て安心、と言うのもおかしな話だが、この場ではそれが当たり前となっている。
影時間においては、本来死を意味する棺桶は自身の身を守る盾となる。
死を司る空間で生きる為には、生を司る空間での死に包まれる必要があるからこその棺桶なのだろうか。
だとしたら随分な皮肉だ、と桐条美鶴はぼんやりと思う。
すると、唐突にシャドウの力を感じた。
とはいえ美鶴の探索能力は山岸風香のそれと比べると少し劣る。
その為はっきりあそこにいるだとかこちらにいるだとかまでは分からない。
「……どうやら、先のシャドウよりも数段強い敵のお出ましのようだ」
「「!」」
その言葉を聞いた3人は気を引き締め、警戒のレベルを一つ上げた。
中でも真田明彦の、張り巡らしかつ研ぎ澄まされた神経はすぐさまその力の出どころを発見し、
それと同時に3人に知らせるべく声を上げる。
「お前ら、上だ!」
彼の言葉を聞いたと同時に、トマトか何かが潰れたような、
聞いて少し気持ち悪いと思う音が上空から発せられた。
そしてその音の正体は。
627 :
◆DAbxBtgEsc
:2011/09/29(木) 13:05:09.23 ID:ILBBzcqxo
「……オラァアァ!!!」
誰かの叫び声と同時に、鳥の様なシャドウ―ブラックレイヴンが
数匹まとめて地面にたたきつけられ、その中身を辺りに巻き散らす。
その上にはブラックレイヴン達を踏みつけるように地面へと叩き落とした張本人が居たのだが。
「うげっ、汚ぇ!ふざけんなこの靴たけーんだぞ!?」
「それを言うなら私だってそうよ、ホラドレスのすそに何か付いちゃったじゃない!」
「そんなもんお前おっさんから買ってもらえよ!!貢いでもらえよ!!」
「あなただって新しく買えばいいじゃない!金持ちの癖に!!」
女の子を抱えてその子と口論をしている。
シャドウを撃破したと言うのにイマイチ緊張感に欠ける2人を見て、美鶴達は軽くずっこけそうになった。
「うるせぇ!最近買った靴をまた買いに行くって恥ずかしいだろうが!何か別の奴買うか畜生!」
「じゃあ私のドレスも見繕ってよ!よっ、日本一の優男!」
「けなしてんだろ、それ」
「むしろあなたからしたらご褒美でしょ?」
「いつ俺はドM認定されたんだよ!?」
「ていうか何であの鳥をあんな倒し方したのよ?もっと楽な方法があったんじゃ……」
ドレスの少女がそこまで口を開いたところで周りの状況に気がついた。
2人の口論をポカンと眺める4人組が居る。
628 :
◆DAbxBtgEsc
:2011/09/29(木) 13:06:17.63 ID:ILBBzcqxo
「よーやくこの場で無事な人間を発見したんだ、さっさと会いに行きたいって思うのは当然だろ?」
その代償が靴なら、安いもんだ。とちょっと格好よさげに髪をかきあげるは、垣根提督。
どうやら戦闘中で上空に居たにも関わらず4人をいち早く発見し、
シャドウを倒すついでに自分も地面へと降りようと考えたようだ。
女の子を1人抱えながらというハンデをものともしない戦闘を目の当たりにした美鶴達は、
何が何だか分からないと言う表情をしていた。
そして何より特筆すべきは。
「あー、君達取り込み中のとこ悪いのだが……その背中の翼は……」
代表して美鶴が垣根に尋ねた。
「あ?ここが学園都市って事考えりゃわかるだろ」
ポイッとドレスの少女を地面に捨てた垣根が翼を消しながらも美鶴の質問にさらっと答える。
その際ドレスの少女が何か文句を言っていたのだが、
垣根がそれを無視するので美鶴もそっとしておこうと思い、思考を切り替える。
確かに、学園都市は「超能力者を育成する機関」である事は知っているのだが、こんな力は初めて見た。
何より垣根の発する威圧感が、「この翼はただの翼ではない」と言う事をひしひしと感じさせる。
そんな人間が突然現れたのだ。
いくら無事な人間を探すと言うことを条件に入れていたとしても警戒は解けない。
629 :
◆DAbxBtgEsc
:2011/09/29(木) 13:07:45.14 ID:ILBBzcqxo
「成程、超能力か……それで、君達は私達に何の用かな?
おっと、自己紹介がまだだったな。私は桐条美鶴と言う者だ」
警戒は解けないが、敵と確定した訳でも無い。
なるべく敵対はしたくない為まずは対話から入る事にする。
そんな美鶴を見た垣根は感心したようにほうと息を吐いた。
「へぇ……この潰れた何かを見ても動揺はない、か……
てこたあこいつが何か、俺よりも知ってるってことだな。
そんでご丁寧にアリガトウ。俺の名は垣根提督だ」
一発目でジャックポットだ。それを感じた垣根はニヤリと笑う。
その意味深な笑みは4人の警戒を引き上げるに十分なもので、
いつでも動けるように各々が召喚器をギュッと握りしめていた。
一見拳銃にしか見えないそれをしっかり握っている4人を見た垣根は、
拳銃など効かないのにとか思いながらも情報を引き出すべく口を開く。
「あー、待て待て別に敵対するつもりはねぇよ。
俺らだって訳もわからずこの何か良くわからんのに襲われたんだからよ。
とりあえず、情報が欲しい。俺がお前らにやれる情報はないかもしれねぇけどよ」
威圧を解くように両手を上げて攻撃意志の否定をする。
それにより少しだけ警戒心を解いた美鶴が再び口を開いた。
「成程な……まず、君が今倒したのは『シャドウ』と呼ばれるモノだ。
そしてそのシャドウが現れる時間の事を『影時間』と呼び、
普通の人間にはその時間を感知する事は出来ない。
それを証明するのが、棺桶なのだが……」
「棺桶……納得。だからあいつらは棺桶になってんのか。
その口ぶりだとむしろ棺桶の奴らの方が安全ってことだよな?」
「ひょっとして君達の知り合いも棺桶になったのか?
だとしたら安心して欲しい、その通りだからだ。
しかし、私達はこうして動くことが出来るんだが……」
「棺桶になってる奴とお前らに、何か違いと言うか明確な差があるってことだな?」
「そうだ。理解が早くて助かる」
630 :
◆DAbxBtgEsc
:2011/09/29(木) 13:09:11.67 ID:ILBBzcqxo
美鶴の言葉にうんうんと頷きながらとめどなく質疑応答を続ける。
どうやら美鶴の目の前に居る金髪の少年は、
かなり頭が良いらしくすんなりと現状を受け入れて行った。
「それで、その差ってのはなんだ?」
「ああ、この力の事だ」
カチャリ。
別にそんな音が鳴った訳ではないのだが、
何となく垣根の脳内に響き渡った。
「おいおい、自殺でもする気か?」
「ふふ、まあ見ててくれ」
美鶴が召喚器……垣根からしたら拳銃なのだが、それをこめかみに突きつけているのだ。
窮地に追いやられて頭に拳銃突きつけて自[
ピーーー
]る、
何て光景など何回か見た事があるので別に驚くような事でも無いのだが、
唐突にそんな行動をされると突っ込みを入れざるを得ない。
そう言う訳で垣根が怪訝な表情を浮かべながら美鶴に尋ねたのだが、どうやら違うらしい。
ふうん、と相槌を打ちながら美鶴の動向に注目する事にした。
「これが……ペルソナ、だ!」
突きつけた召喚器の引き鉄を引く。
すると美鶴の背後からペルソナ『アルテミシア』が出現した。
突如現れた異形に垣根とドレスの少女は今日一番の驚きを示したのだが、
すぐに落ちつきを取り戻して美鶴に質問をする。
631 :
saga忘れェ……自殺する、な
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/29(木) 13:10:30.03 ID:ILBBzcqxo
「で、そのペルソナってのを使えるか使えないかで棺桶行きか否かが決まる訳だ」
「そうだな。一応一般人でもこの場に来てしまうと言うイレギュラーもあるのだが……」
美鶴は言葉を区切り、垣根とドレスの少女、
そして潰れて消滅したシャドウの跡を見やる。
「まあ、十中八九君達は『こちら側』だろうな」
「そうか、俺にもペルソナってのが使えるのか……」
顎に手をやりながら少し思案顔を浮かべる垣根を見て、
美鶴は軽く提案をしてみることにした。
「どうだ、この召喚器をこめかみにつきつけ引き鉄を引けたらペルソナがだせるんだが……」
ただでさえ能力者として強者である、と言う事が分かっているのだ。
それにペルソナの能力を加えれば確実に戦力になる為、
彼の協力を得られればと思い美鶴は提案したのだが。
「いや、俺は止めとくわ」
垣根は考える間もなくその提案を断った。
「む、何故だ?よかったら理由も聞かせて欲しいのだが」
「単なる我儘さ。ガキみてえな、な……」
「ほう、物分かりの良い君が子供、か……」
「そうさ、こう見えて俺はこの力に愛着があるんだよ。
どうも他の力に頼る気にはならねぇんだ」
「・・…そうか、なら仕方ないな」
632 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/29(木) 13:11:32.69 ID:ILBBzcqxo
おどけながら口を開く垣根に対し、
美鶴は軽く笑みを浮かべながら身を引いた。
どちらにせよ今すぐ召喚器を準備できる訳でもないのだから。
「所で、お前達2人はこの後どうするんだ?」
ここで、美鶴と垣根のやり取りを見ていた真田が垣根とドレスの少女に尋ねた。
情報が欲しいからここに来た、と言うのは分かるが
その後どうするかを決めるのは垣根達自身なのだから。
「そういや現状を把握する事しか頭に無かったからな……どうしたものか」
その発想は無かった、と言った表情を浮かべる垣根は本気で考え込み始める。
「だったらさ、私達と一緒に行動しない?戦力は多いに越したこと無いと思うけど!」
「そうだぜ、お前らみたいに無事な奴がまだいるかもしれねえから、
それ探すの手伝って欲しいんだ!」
「あ?あーそれが一番かもなあ……
お前もそれが良いだろ?空中で抱えられるよりかは」
「そうね、私も別に文句は無いわ」
そんな垣根を見た岳羽や伊織が垣根とドレスの少女の勧誘を始めた。
確かに戦力は多いに越したことはないのだが。
(戦場……死が付きまとうこの場に置いて、平常心どころかおどける余裕すらあるこの2人……
警戒に値すると言って差し支えないだろう)
美鶴は内心警戒していた。
以前に一方通行と邂逅した時も垣根に抱いた警戒心を一方通行にも抱いたものだったが、
あの時は一方通行も自身の状況を包み隠さず全て教えた為に美鶴もその警戒心を解いたのだが。
(……彼はまだ何か隠している)
隠している、と言うよりはこちらが聞かないから答えていない、と言ったものだろうか。
しかしそれが何なのかは美鶴には分からずに、ただただ警戒心が募るばかりだった。
633 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/29(木) 13:13:17.38 ID:ILBBzcqxo
(……上手いことこいつらの中に混ざれたな)
一方で垣根は岳羽や伊織の相手を適当にこなしつつ、
頭では別の事を考えていた。
(ペルソナ……明らかに学園都市の中で見られる異能とはまた一線を画した代物に見える)
(表も裏もそれなりに見てきた俺ですら、
「頭に拳銃突きつけて異形を召喚する」なんて超能力は初めて見たしな……)
垣根が求める『黄昏の羽根』が美鶴達の手にした召喚器の中に内蔵されている、と言う事を彼は知らない。
故にこのペルソナと言う力が『絶対能力進化実験』の要である、と言う事にも気付けず。
兎にも角にも今の垣根には、あらゆる点で情報が足りてなかった。
ペルソナにシャドウに影時間。
いくら思考を巡らせようとも知らない事は分からないのだ。
(だったらこいつらに着いてった方が色々と分かることもあるかもしれないな)
そんな垣根なのだが、一つだけ仮定を頭の中に浮かべることが出来ていた。
(……棺桶になる奴とならない奴の条件……)
先程、美鶴は『ペルソナ』を使えるか否かと言ってはいたのだが。
確かにそれも正解なのだろう。
しかしここは学園都市、超能力者の住む街だ。
それを知る垣根は、別の正解を頭に思い浮かべていた。
(それの証明には他に無事な奴を探す必要があるな……)
だとすると、美鶴達と共に行動し人を探すと言うのはやはり有効だろう。
そんな訳で岳羽や伊織の提案を受け入れ、しばらく一緒に行動する事にしたのだった。
634 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/29(木) 13:14:45.07 ID:ILBBzcqxo
・・・
とある大通り。
シャドウが円を作るように並び、誰かを囲うように蠢いていた。
その中心には、黄色い女。
彼女は呪詛のように学園都市に、
アレイスター=クロウリーに怨み言を呟いていた。
「クソ、クソが、舐めやがって、殺す、幻想殺しだの超能力者だの後回しだ……殺してやる!
そうか、これが虚数学区・五行機関の全貌……!
いや、まだ一部かもしれないけどそんなことどうだってイイ!!
舐めやがって、そこまでして、私達を貶めたいかアアアアァアァアァァアァ!!!」
ヴェントは八つ当たりをするようにハンマーを振りまわす。
すると彼女の周りに居たシャドウ達が突如として現れた風に吹き飛ばされ、
互いの身体が凶器となり互いにぶつかって消滅させられてゆく。
「ゴハッ……!!」
しかし、ヴェントの身体は魔術と引き換えに蝕まれて行く。
と言うよりは『そう言う空間』と化している為に、
魔術を使う事自体が毒になってしまっているのだがそんなことお構いなしの一撃だった。
「ハァ……ハァ……一先ず、あのクソッタレの似非天使をブッつぶす……
アレイスター……アンタも絶対殺してやる……」
ハンマーを杖のように扱い、フラフラとおぼつかない足取りのままにヴェントは光の翼の下へと向かう。
ただ一つ、心に科学への憎しみを抱いて。
635 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/09/29(木) 13:15:17.56 ID:ILBBzcqxo
尾張です
ていとくんがペルソナの存在を知りました
636 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/29(木) 20:13:18.40 ID:vr7ejV5W0
>>1
乙そして久しぶり
う−ん、ペルソナ関係者は木原くんに比べると単細胞…
637 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 06:57:18.17 ID:CDROJ70Ho
透過する
特別課外活動部の面々はシャドウには強いが暗部とかそう言うのには無縁なので仕方ないのです
美鶴さん位です、腹芸に秀でているのは
638 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 06:58:06.38 ID:CDROJ70Ho
「クソ!何だよこれ!?」
ここは学園都市のはずだ。
なのに目の前にはヒトでは無くシャドウ。
上条当麻は学園都市に何が起きたかわからないまま、
目の前で蠢いているシャドウを殲滅していく。
そしてその視線の先には。
「あの光……」
あれが間違いなく何らかの形で関わっている。
直感以前の問題だった。他の面子もあの光を見て動いているに違いない、
と上条は考えとりあえず光の翼の下へと向かおうとしていたのだが。
「ああ畜生!オケアノス、マハブフーラだ!!」
いい加減煩わしい。
そう感じた上条は氷の壁を作り、無理矢理シャドウの居ない道を作りだした。
そしてその道を一気に駆け抜けると、氷の道の終点にシャドウの姿を発見する。
「またかよ畜生!!」
人工の道は人が1人通れる程度にしか開いておらず、
シャドウが入って来ることは叶わないようだが、はっきりと待ち伏せしていると言う事が見て取れる。
しかし氷の壁によって何体のシャドウが居るかまでは分からない。
瞬時に戦闘は避けると判断した上条は、再び銃口をこめかみに突きつけると、
「オケアノス、ブフーラ!」
自身の望みをかなえるべく、オケアノスに攻撃の指示を出した。
背後の氷の壁を無理矢理突き破りながらも、オケアノスは前方に氷の塊を作りだす。
一見自分自身で行き止まりを作ったかにみえるがそうではない。
上条は目の前の壁に臆することなく賭ける速度を上昇させた。
639 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 06:58:36.51 ID:CDROJ70Ho
「……よっ、と!」
それは壁では無く、氷壁の上へとよじ登る為の足場。
勢いをつけた上条は一足飛びに氷の頂点へとたどり着いた。
「うげ、いっぱい居るんですけど……」
氷壁の下ではラッシュアワーを見ているかのように
シャドウ達がうじゃうじゃといた。流石に気持ち悪い。
氷の壁は高さにして5m程しかないので、シャドウ達の攻撃も普通に届く。
このまま氷の壁を階段のように造り出してビルの上にでも向かおうか、とも思ったが。
「それならこいつら倒した方が良いよな」
その音で誰かがこっちに来るかもしれないし。
淡い期待を抱きながら、上条はペルソナを召喚する。
「……クロノス、マハジオンガ」
あの光の翼に負けない程の紫電が、その場を支配しシャドウ達を屠って行く。
誰か気付いてくれ、という自己主張を発しながら。
640 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 06:59:09.88 ID:CDROJ70Ho
・・・
「あーもう!雑魚は引っ込んでやがれ!!!」
罵倒の言葉と同時に射出されるは、『原子崩し』と言う名の破壊の光。
一閃、シャドウ達の合間を通過するとその射線上に居た全てのシャドウを貫いて行く。
一体何度繰り返した事だろうか。
確かに弱いので倒すのに苦労は無いが、
こうもたくさん群がって来られると非常にわずらわしい。
そしてその怒涛とも呼べる攻撃を運良くすりぬけて接近してきたシャドウが1体。
麦野は右手でシャドウの頭を掴むとそのまま原子崩しを発射した。
その光景を見て麦野と共闘する少女はげっそりとした顔を浮かべる。
「逃げても逃げてもこいつらが超居ますね!
他の場所でも超こンなンだとしたら、生存者は滅多にいねェンじゃないですか!?」
ブン、グシャ、ブン、グシャ。
絹旗最愛の攻撃を擬音で表現するならこのようになるだろう。
単純な力押し。物量・重量にモノを言わせた連打。
おそらく次の日に車の持ち主がそれを見たら「ローン何年残ってたっけ」と絶望する事請け合いである。
絹旗は、ステーションワゴンを振りまわしていた。
明らかに体格と不釣り合いなそれを軽々と振りまわすその様は、
最早見る者にトラウマを植え付けるレベルなのではと錯覚を覚えてしまう程である。
その光景を捉えた麦野もまた軽くげっそりとした表情をしていた。
641 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 07:00:12.45 ID:CDROJ70Ho
「つーかさ絹旗、その車の持ち主の事考えてる?」
「ていうか麦野、周りの建物の事超考えてます?」
「「……」」
「「仕方ない仕方ない」」
2人が生み出した破壊の爪痕、
それを互いに見やると2人は何も言わず戦闘を続けることにした。
「これはこの車の超持ち主の分!これも超持ち主の分!これも!これも!」
と、絹旗は原形をとどめていない車の持ち主の分まで
シャドウを倒すと誓いながら鉄の塊を振りまわしている。
「これはあのビルの分!これはあの銀行の分!これはあの郵便局の分!!」
一方で麦野も周りの建物の分まであの異形共を
倒すと誓いながら原子崩しをあちこちに飛ばしている。
この場における破壊の主だった理由は麦野と絹旗だった。
しかし、その一方的な蹂躙も終わりを迎えようとしている。
「超さらばです!レガシィィィィ!!!」
車種名を叫びながら絹旗は車を真っすぐに放り投げた。
その投擲によってグシャグシャとシャドウが巻き込まれて行くのだが、
突如として車が真っ二つになり爆発した。
642 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 07:01:05.15 ID:CDROJ70Ho
「レガシィィイイィィィイィイ!!?」
思わず絹旗も声を上げた。心からの悲しみを表現するかのように。
何せ短い間とはいえ戦闘を共にした相棒(戦友)をこうもあっさり真っ二つにされてしまったのだから。
そしてその怒りは絹旗の視線の先に居るシャドウへと向かう。
「超良い度胸ですね、私の大事な超戦友をぶっ壊してくれるなンて」
いや、あれはお前のじゃない。
そんな突っ込みが何処からともなく聞こえてきそうなものだったが、
それはともかく絹旗の目の前にはマドハンドに大剣を持たせたような異形が3体居た。
その名を『判決の剣』。恐らく3体のうちどれかの剣によってレガシィは分割されてしまったのだろう。
絹旗は、必ず仇は取ると心に誓ってガードレールを手に取ったのだった。
「何やってんだアイツは……」
小さく溜息をつきながら次々とシャドウを倒して行く麦野。
如何に効率よく、如何に早く、如何に多く倒すかだけを頭に入れて、
ひたすらシューティングゲーム感覚でシャドウを消し飛ばしていたのだが、突如としてシャドウの動きが止まる。
「……?」
今までは有無を言わさず襲って来たというのに、
今更どうしたのだと言った怪訝そうな表情を浮かべる麦野だったが、
シャドウ達の動きが止まった原因がすぐに分かった。
「「……」」
それは3体の巨人。
明らかにそこらのシャドウとは別格の力を持ったそれは、
周りのシャドウをおびえさせるに十分な威圧感を放っている。
その名は『平衡の巨人』。全身が城壁で造られたかのようで、
その手には判決の剣程ではないがかなりの業物が握られていた。
643 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 07:02:33.66 ID:CDROJ70Ho
それを見た麦野は、先程までつまらなそうにしていたのだが
ようやく楽しそうで、それでいて獰猛な笑みを浮かべる。
「はっ!さっきまでイージーモードでクソつまんねぇって思ってたが、
ようやくまともそうなのが現れたじゃねぇか!!」
その言葉と同時に平衡の巨人の一体が剣を振るった。
それによりその周辺にいたシャドウ達が一気に殲滅される。
「……何だ?仲間割れかぁ!?
それとも私なんぞの攻撃よりも自分の方が沢山潰せるってアピールかぁ!!?
だったら見せてやるよ!!私の超能力をよォ!!」
真実は定かではないが、巨人による一撃を自分へ向けた挑発だと判断した麦野は、
懐から三角形のパネルが組み合わさったカードの形状をした何かを取りだした。
そのパネルをトランプ投げの要領で巨人たちに向けて放ると、
続いてそのパネルめがけて原子崩しを放つ。
するとパネルに直撃した電子線と言う名の破壊が辺り一面に拡散され、
一瞬にして大量のシャドウが消滅した。
そして土煙が立ち込めるが雨のお陰ですぐに収まる。
「……!」
しかし、そんな中で平衡の巨人3体だけは無傷。
それを見た麦野は一瞬驚きを示すがすぐに表情を変えた。
「はははははは!!!イイね、やっぱただやられるだけの的を相手にしてもつまんねぇもんなぁ!!」
高らかに笑う麦野は、更に戦果の渦へと自ら呑まれて行くのだった。
644 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 07:04:12.94 ID:CDROJ70Ho
・・・
「……!」
「どうしたんですか、風香さん?」
光の翼に向かって移動中の時の事。
突如として山岸風香が立ち止まると、虚空を見上げた。
その行動に合わせるように、ある二つの地点から紫電と光線が空へと向かって舞う。
それを見た山岸やアイギス、天田乾やコロマルは顔を見合わせた。
「あれは……!」
あちこちで戦闘の気配を感じていた山岸であったが、
ここ一番の力を感じた為に思わず立ち止まってしまったのだ。
紫電が巡った方向では戦闘が終わったように感じられたが、
一方で光線の方はそれが交戦の合図のように感じられ、
実際に力を持ったシャドウがその方向から居ると山岸は判断した。
「強いシャドウです!先の光線が見えた方向に居ます!
恐らく……誰か戦っています!」
「「!」」
それはすなわち、自分達以外にも生存者がいると言う事だ。
だとしたら早く救出に向かわなければならない。
しかし、シャドウの気配が無いとは言え紫電が舞った方角にも誰かが居る可能性が高かった。
645 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 07:04:49.30 ID:CDROJ70Ho
「二手に分かれますか?今のところそこまで強力なシャドウは出ていませんし」
天田が山岸とアイギスに尋ねる。
しかし、今までで一番強い気配を今まさに感じているのだから
二手に分かれるのは得策でないように思える。
紫電が見えた方向も光線が見えた方向も、
どちらも自分達よりも光の翼に近い位置にあったのだが、
紫電と光線自体に距離があったのが問題であった。
とここで、二兎を追う者なんとやらと言う言葉が山岸の頭をよぎる。
どちらかに集中すべきか、分散すべきか。
「……まず戦闘をしている方へ行ってみましょう。
もう片方の戦闘は終わっているみたいですし、
そちらへ向かっても誰も居ない可能性が大きいです」
考えをまとめあぐねている山岸の代わりに、アイギスが結論を出す。
ただでさえ一刻を争う時に戦力を削るのはまずいと判断したのだろう。
「そうですね、僕もそれが良いと思います。もう片方も気になりますけど……」「わうわう」
「では……行きましょうか」
「「はい!」」「わふ!」
そうして再び3人と1匹は駆けだすのだった。
646 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 07:05:41.87 ID:CDROJ70Ho
・・・
「ここまできたら大丈夫でしょう。と、ミサカは大丈夫じゃないフラグを立ててみます」
「そう言うの止めて」
9982号と芳川桔梗は命からがらシャドウ達の追撃を逃れていた。
それまでは考える余裕など皆無だったが、
ようやく落ち着いたのでこの現象について考える事にする。
「何でここにシャドウが居るんでしょうね。と、ミサカは息を整えながら芳川に尋ねてみます」
「分からないわ……何にせよ連絡取らなくちゃ……ってあれ?」
明らかに緊急事態だ。
一方通行だけでなく他の皆も何かしら動いているに違いない。
そう考えて携帯電話を開いたのだが、電源が入らない。
「充電切れ……はあり得ないわね、毎日充電してるし」
「とりあえず、そこに見える棺桶も気になりますね。
と、ミサカは今までどうして気付かなかったのかと反省します」
9982号が指差す方向には棺桶が何体か鎮座していた。
「ところで、棺桶の単位って何て言えばいいのかしら。箱?ケース?」
「少なくともその二つは違う気がします。個で良いんじゃないですか?
と、ミサカは適当に返答します」
「……」
「……」
「「はぁ……」」
647 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 07:06:29.87 ID:CDROJ70Ho
どうしたものか。
全く方針が思い浮かばない。
歩きまわっても泥沼に沈んで行く気がするし、
かといって動かなくてもシャドウに気付かれればアウトだ。
更に致命的なのは、シャドウが居るのにこっちはペルソナを使えないと言う事実。
やはり『召喚器』が関係している、と言う事なのだろう。
「全く、ハードモードすぎじゃね?と、ミサカは愚痴ってみます」
「ちょっとしたバイオハザードね」
「他人事みたいに言わないでくださいよ、あなたも当事者なんですし」
「て言ってもねぇ……ペルソナ使えないなら出番は無いかなって……」
「そんなんミサカも同じですよ……」
「「……はぁ」」
とりあえず誰か居ないか探すしかないだろう。
そのような事を芳川が提案しようとした瞬間、それは起きた。
立ち上る、二つの光。
一つは雷光、一つは光線。
曲がりくねって拡散する紫電と、真っすぐに拡散する光線。
とりあえず眼に見えた二つの地点には何かがある、と言う事だろう。
「これは……」
「行くしかありませんね。と、ミサカは芳川の言葉を引き継ぎます」
その言葉に、否定する理由が無かった。
648 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 07:07:16.93 ID:CDROJ70Ho
・・・
「あれは……」
一方で、桐条美鶴らも先程山岸風香達や9982号達が見た光景を目の当たりにしていた。
それはすなわち、生存者の可能性を示す指標であったのだが。
「遠すぎるな……」
垣根提督が呟いた。
確かに、誰かが居る可能性はある。しかしここから向かおうと思うと
結構な距離があり、行ったところで既に誰も居ないかもしれない。
「だがまあ、このまま闇雲に動き回っていても埒が明かないだろう。
だったらとりあえずどちらかに向かってみるのも悪くない」
真田明彦の言う通り、情報も無い今やみくもに走り回るよりかは良いだろう。
伊織順平や岳羽ゆかりもまた同意見のようだ。
「そうッスね!誰か戦ってるんだとしたらなおさら行かないと!」
「誰か居るとして、無事だったら良いんだけど……」
そして4人は紫電が見えた方向へと駆けだす。
続いて、垣根やドレスの少女も特に文句は無いらしくとりあえず前を走る4人について行った。
649 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 07:07:59.62 ID:CDROJ70Ho
・・・
「あーもう!何やってるのよ、インデックスの奴!!」
光の翼だけでなく、御坂美琴が扱う電撃の様な紫電と、
電撃使いである御坂だからこそわかった事だが
もう一つの光線もまた電子を扱ったものである攻撃であり、
それら二つをみて驚きを示している瞬間に自身の制止を振り切ってインデックスが外へと行ってしまった。
追おうにもここには護るべき患者が大勢いる。
どちらかを選べ、などと言うのは御坂には少し酷だろう。
一先ず判断に迷ったので他の妹達やゲコ太先生に相談しようと思って妹達の下へ向かったのだが。
「どうしたの!?」
そこには無造作に倒れ伏している10032号、10039号、13577号の姿があった。
すぐさま3人に駆け寄る御坂だったが、呼吸はしっかりしている為、
何らかの原因で身体が動かせなくなっている事が見て取れた。
(とにかくゲコ太先生を……)
あの医者なら何か分かるかも、そう考えて病院車の中に駆け込んだのだが。
「!?」
そこには異様な棺桶しか存在しなかった。
「なに……これ……?」
敵襲?ありえない。
気配も影も形もなにも感じられなかった。
確かに、インデックスと口論している最中に何か違和感を覚えたのだが、
インデックスを引きとめることで頭がいっぱいだった為にそちらに関して頭が回っていなかった。
恐らく、その違和感がこの現象の正体で。
モゾリ、と何かが蠢く音が病院車の外で聞こえた。
650 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 07:08:29.87 ID:CDROJ70Ho
「……」
御坂は何も言わず病院車の外に出る。
恐らく、イヤ確実に。
「……やっぱり、アンタら……」
シャドウの仕業。
「インデックスの事も気になるけど……」
ピンッ、と1枚のメダルを宙へ弾く。
「まずは自分の妹を護らなきゃね!!」
そして放つは自身の十八番。
それによってあっけなくシャドウを殲滅出来たのだが。
「そういえば、調子自体は本調子ね……」
十全に能力を発揮していた。
その事に違和感を感じ、ペルソナを召喚しようとしたのだが。
「……成程、ペルソナは出せないのね」
1人納得する御坂だったが、だとすると非常にまずい。
この場で戦力になるのは自分と一方通行、
それに召喚器を持つ上条しか居ないのではないか?
9982号は武装していれば問題無いのだろうが、果たしてどうだろう。
考える事柄が多すぎる為、とりあえず妹達の様子を診ることにした。
651 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 07:09:13.13 ID:CDROJ70Ho
「……」
この異常事態、恐らくミサカネットワークが関わっているのだろう。
そう考えた御坂は、問題のミサカネットワークへの侵入を試みる。
何せ彼女の能力は『電撃使い(エレクトロマスター)』。
自身のクローンである妹達の脳波リンクに干渉する事も理論上は可能なのだが。
「……!?」
しかしそれは叶わなかった。
(……何かプロテクトが掛けられていた、って印象ね……
それを為すには打ち止めと言う上位個体の存在が不可欠。
だとすると、打ち止めは……)
確かに、この試みは初めての事で成功するかは軽く賭けのようなものだった。
失敗すると自身の脳が焼き切れてしまう程度には。
それを迷わず実行するあたり妹達の大切さが眼に見える事であるが、
このような形で防がれるとは思わなかった。
「成程ね、敵は一筋縄じゃいかないってことか……」
ギリッと歯ぎしりをする御坂であるが、この場を離れるわけにはいかない。
どうにもできないジレンマが、御坂を襲っていた。
652 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/01(土) 07:09:39.23 ID:CDROJ70Ho
尾張です、グッダグダやぞ!グッダグダ!
653 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/10/01(土) 08:12:11.01 ID:EIBCJmpAO
乙やでしかし
654 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/01(土) 13:16:31.27 ID:4TPXk84s0
>>652
乙 そしてご謙遜を。
楽しく読んでるよ。縦糸がしっかりしていれば大丈夫だから。
655 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)
[sage]:2011/10/02(日) 16:08:42.12 ID:wohE05YA0
このSSを読んでペルソナ4買って
この前真ENDまで終わった…
このSSもそこまでいってほしいな…
656 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/03(月) 07:48:34.18 ID:avVsFyI5o
このスレ見てP4買ったって言うあれ、超うれしいです
これでアトラス株もストップ高ですな
この話を木原編とすると、無能力者狩り編(SS1巻)から始まる暗部大戦争編(原作15巻)に第3次世界大戦編へと続いて行きます。そして真エンドのラスボス的ポジのあれへと到達するのです(虚言)
正直このスレ立てた時は木原編で終わるつもりだったんだけど、どうしようかな。
とりあえず透過します
657 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/03(月) 07:50:09.17 ID:avVsFyI5o
<天上楽土F1>
「……」
「……」
無言。
一方通行は近くの柱に寄りかかり、木山春生は花壇の縁を椅子にしていた。
結構な時間を待機に……と言ってもまだ30分も経っていないだろうか、
兎に角待機に費やしているが、未だに帰ってきていない。
本来ここまでする義理は無かったのだが、
どちらにせよクマが居ないと帰れないのだから仕方ない。
そんな中で、一方通行は物憂げにする木山の顔を見ながら、一つ疑問を浮かべた。
(……やっぱ影が出てくる気配がねェな)
今までマヨナカテレビに入った中で自身の影と遭遇していないのは一方通行のみで、
他の面々は自身の恐怖やトラウマを乗り越えてきた。
クマに関してはある意味例外であるが、
他の面々はマヨナカテレビに入ったその日に自身の影と遭遇している。
このまま影が出てこないのであれば、それはすなわち
ペルソナを扱う事が出来ると言う事実を示しているのではないか?
以前桐条美鶴らと初めて対面した際、美鶴達もまた『影』と相対せねば
マヨナカテレビではペルソナを扱えない、と一方通行は言ったが恐らくそうではない。
美鶴達は問題無くペルソナを扱う事が出来るだろう。
布束砥信のように暴走さえしなければ。
そして話を聞く限りでは美鶴達はペルソナの制御を出来ているらしいので
とどのつまり問題など無いと言う訳だ。
ただ、それを証明する術は実際に美鶴達のうち誰かが
マヨナカテレビに入る必要がある為真実は不明であるが。
あの時の一方通行の言葉はただ単に、彼女らを
マヨナカテレビにまで付き合わせる必要が無いと判断した為の発言である。
それはさておき、未だに木山に異変が見られない、と言うのは偶然かはたまた必然か……
「ン……?」
すると、門の奥から人影が見えてきた。
どうやらようやく到着したらしい。
658 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/03(月) 07:51:54.81 ID:avVsFyI5o
・・・
(『幻想猛獣』の上位互換……いや、正しい形がヒューズ=カザキリ……
しかしその根本、『AIM拡散力場の塊』つまりは『自分だけの現実』を
元にして造られていると言うことには変わりない……)
木原数多の思考は未だに続いていた。
打ち止めは相も変わらず頭に機材を付けた状態で眠り続け、
木原の背後にある窓からは光の翼が学園都市の明かりとして機能している。
(自分だけの現実とはすなわち、心の形……)
心の形は千差万別。
それと同時に、ペルソナの形も。
(はん、personalrealityたぁよく言ったもんだな……)
自分だけの現実(personalreality)というネーミングは、
ペルソナから取って来たものなのではないか?
などと考えた時期もあったが、そんな駄洒落みたいなネーミングを
誰がするかいとか思いなおした訳で、まさかそれが当たりだとは思わなかった。
と言うよりは、自分で勝手にその可能性を否定していたと言った方が正しいだろう。
やはり、魔術の時もそうだったが自分自身で築き上げてきた
研究を、常識を崩すと言う事は簡単な事では無い。
しかし、そうでなくては見る事は出来ない。
アレイスター=クロウリーの見ている景色はこんなものではない。
(待ってろよ……いや、どこまでも進めよアレイスター。
じゃねぇと追いこしちまって培養液からポイだわな)
木原数多は、着実にアレイスターの持つ知識へと近づいていた。
659 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/03(月) 07:52:58.37 ID:avVsFyI5o
・・・
<天上楽土F1>
「よォやく来たか……」
先導するクマと布束砥信の後ろから、恐る恐る歩みを進める6人。
そのうち5人は木山春生の教え子で、残りの1人は教え子の1人の友人。
「おーっす一方通行ン!待った〜?」
「あァ、あくびが出る程になァ」
ようやく動ける。
そう感じた一方通行は一同が無事な事に少しだけ安堵しながら口を開いた。
「well、木山春生も居るわ。皆行かないの?」
いつの間に仲良くなったのか、布束が子供達の先導をしていた。
一方通行は、顔に似合わず布束は保母さんとか似合うんじゃねェ?
とか思ったりしていたのだが、どうにもその子供達が動く気配が無い。
「お、お前達……どうしたんだ……?」
思わず木山が尋ねる。
すると子供達はビクンと肩を震わせた。
まるで悪さがばれてしまった時のように。
「あの……私達……先生とは一緒に行けません」
「な!?……どうして……?」
枝先絆理が木山に対して放ったのは、拒絶の言葉。
木山は驚きのあまり声を荒げるが、
ぶんぶんと顔を振り落ちつけると続いて優しく尋ねた。
660 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/03(月) 07:54:48.71 ID:avVsFyI5o
「「……」」
しかし、子供達は口を開かず、ただただ俯いている。
そんな中、教え子たちの代わりに意を決したように春上衿衣が口を開いた。
「……私達は、人を、殺した、の」
恐る恐る言ったせいか、言葉が区切り区切りになっていたが意味は伝わった。
人を、殺した。
その言葉に他の子供達は更に肩を震わせる。
その反応から察するに、春上は嘘や冗談を言っている訳ではないということがよく分かった。
そしてその告白を皮切りに、子供達が口を開く。
「僕達は、人を殺しました。命令されるがままに、何人も、殺しました」
「実験の一環と言って、魔術師と呼ばれた人々を、殺しました」
「だから、ここに来たのは木山先生にお別れを言う為です」
「本当は他の皆にも言いたかったけど、木山先生から伝えておいてほしいんです」
「俺達はもう、皆と一緒に居られません。ですが」
―――どうか、嫌いにならないでください。
661 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/03(月) 07:55:56.64 ID:avVsFyI5o
5人が一斉に頭を下げる。
木山を見上げるその瞳からは、悲しみしか見てとれなかった。
その事実を初めて知った木山だけでは無く、布束やクマも驚愕の表情を浮かべている。
そんな中でただ一人、事の顛末を一方通行はただただ眺めていた。
「……」
対して、木山は言葉を選ぶ為か何も言葉にせずただただその場に立ちつくしていた。
その様子を柱に寄りかかったまま眺めている一方通行は、ただ一言。
「……先に生きる者と書いて先生と読むンだ、お前がそンなンでいいのかよ?」
「……!」
そうだ、自分のすべきこと等何も変わらない。
自分は子供達を護り、導くだけだ。
人を殺した?それがどうしたと言うのだ。
確かに殺された側は気の毒ではあるが、
自分は正義を名乗るつもりなど皆無だ。
故に殺された側に立って糾弾するつもりなど無い。
悪と罵られようとも構わない。
ただただ、子供達の為だけに動く。
子供達が後悔していると言うのなら、その罪を一緒に背負ってやる。
子供達が罪滅ぼしをしたいと言うのなら、一緒に動いてやる。
だから、だから……
「そんな、悲しい事を、言わないでくれ」
662 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/03(月) 07:57:02.18 ID:avVsFyI5o
ちゃんと意図は、意志は伝わっただろうか。
口が震えて上手くしゃべれなかった。
駄目だ、目頭が何だか熱くて前が見えない。
気付いたら腰に何かぶつかったような感触を受けた。子供達だ。
自分はこれからも先生として皆と一緒に居ても良いのだろうか。
兎に角皆の顔が見たい。
木山春生は袖で顔を拭うと、5人を抱きとめるのだった。
そんな中、木山達をぼんやりと見守る影が一つ。
それに対して一方通行は声をかけた。
「……お前は行かなくていいのかァ?」
「私は……あの人の教え子じゃないの」
「そォか」
「……私は悪い人なの。あなた達はどうして何も言わないの?」
「逆に悪い奴が居たらいちいち説教して回る人間が居ると思ってンのかァ?」
「それは……そう、なの」
「それにお前にだって説教してくれるダチの1人や2人居るだろ?
悪ィと思うンならそいつに懺悔でもしてきたらどォだ?ちったァ気が楽になるだろォぜ。
……俺が言うのもなンだが人間と言わず生きてる奴は、
大なり小なり何かしら誰かしらを殺して生きて来てンだ。
そう深く考え過ぎる事もねェと思うがな」
本当にどの口が言うんだ、と一方通行は内心自嘲しながら春上に対して事もなげに言う。
それをどう受け止めるかは春上自身の問題だ、と割と無責任な事も同時に考えながら。
663 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/03(月) 07:58:26.63 ID:avVsFyI5o
・・・
(さて、テレスティーナの馬鹿はいつまでも能力体結晶にしがみついて悪あがきをしてたが……)
存外に良い仕事をする、と木原数多はほくそ笑んだ。
何せ自分だけの現実やAIM拡散力場と、ペルソナとの相互関係を導き出せた要因に
テレスティーナ=木原=ライフラインの行っていた実験が挙げられるからだ。
(ポルターガイスト事件……あれの真相はあのガキ……
春上衿衣の精神感応が枝先絆理の思考と共鳴した事に起因する)
元々レベル2程度の『精神感応(テレパシー)』である春上だが、
場合によってはレベル4相当まで強度が跳ね上がる事が分かっている。
それは言うなれば、布束砥信の実験の際に見られた暴走に近い。
自分だけの現実が乱される事による暴走と、ペルソナを制御できずに起こる暴走。
これはどちらも『心』のリミッターが外れる、とでも表現したらよいだろうか。
(つまり、あの悪あがきは存外的外れなもんでもねぇってことか)
そう思って木山春生の教え子を使うついでに春上も連れて来たのだが。
(ま、あのガキじゃ元々のレベルが低すぎたって事だな。だが、新たな可能性は示せた)
ミサカネットワークによって発現したヒューズ=カザキリもまた、ある種の精神感応による共鳴である。
何もかも同一であるクローン体による、
力の重ね掛けとでも表現すれば良いだろうか。
その結果が、窓の外に見える力の片鱗だ。
「楽しみだなぁ、おい」
快活に笑う木原。
底なしの知識欲は、まだまだ新たなる発見を求めていた。
664 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/03(月) 07:59:28.27 ID:avVsFyI5o
・・・
「……ま、期待なんてしてなかったけどな!してなかったけどな!」
誰か来ないかな、そう思ってしばらく待っていたが。
この異常な状況の中でホイホイと危険そうな場所に来るはずもないか。
もしくは戦闘中で手が離せない、と言う可能性もあるし。
上条当麻は再び動き出すべく腰を上げた。
「どうしよう……アパートの方行ってみるか?誰かいれば良いんだけど……」
布束砥信やクマが居ればいいんだけど。と、上条は独りごちて駆けだした。
……それが、桐条美鶴らがこの場に来るほんの10分程前の事である。
「これは……」
上条が戦闘した跡へやって来た桐条達は、まず氷の壁による道に驚きを示す。
この場では雷撃も放たれていた事を見ると複数人この場に居たのではと勘違いしてしまったようで、
「この氷壁を作った奴と雷を放った奴の最低2人居るって事になるよな」
そして垣根提督も例外ではない。
なにせ『多重能力(デュアルスキル)』など机上の空論で
実現不可だと言う事は過去の実験で明らかになっているのだから。
「能力者か、ペルソナによるものか、
はたまたシャドウによるものか……結局何も分からず仕舞いか……」
真田明彦が少し残念そうに呟く。
誰か居たら良かったのだが、既に移動した後かそれとも最初から人間など居なかったのか。
こう言っては何だが、死体すら残っていない為何も分からない。
しかし、この場に来たのも悪くは無いと思える事が1つ起きた。
665 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/03(月) 08:00:26.74 ID:avVsFyI5o
「あ、何してるんですかあなた。と、ミサカはいつか見た知的美人を指差します」
その言葉に一同は一斉に振り返った。
そこには9982号と芳川桔梗が。
特別課外活動部と顔合わせする機会が無かったのか、
芳川桔梗は目の前に居る面々を誰も知らないし、9982号も美鶴の顔しか知らない。
何にせよ美鶴達に敵意はなさそうなので2人はホイホイと近づいて行った訳である。
「あなた達もあの雷を見て来たの?」
「ええ、そう言う感じ。御坂さんかと思ったけどどうやら違うようね」
岳羽ゆかりの質問に芳川がのんびりとした口調で答える。
「そっちの子は桐条先輩の事知ってたみたいだけど、どういう関係?」
「あ、病院の見舞いで見たんですけどね。と、ミサカは簡単に答えてみます」
一方で伊織順平の質問に9982号もまたのんびりとした感じで答える。
そんなのんびりした雰囲気の中、垣根提督は1人思考を回転させていた。
(あれは……第三位のクローン……か?
第三位が変な語尾付けるなんて聞いたことねぇし、多分そうなんだろうな。
で、あっちは研究者風だが……てこたあ、俺の予想は外れか?)
垣根提督の予想。
それはこの場で棺桶化しない人間の条件が、
『ペルソナを扱える事』もしくは『能力者としてのレベルが一定以上である』と言う事である。
(『未元物質』はレベル5で、『心理定規』はレベル4。そんでゴーグルはレベル3だし砂皿はレベル0だ。
レベル4とレベル3がその境目だと思ったんだが……まあ、直感だしそんなもんか)
そして垣根は自身の考えを1人取り消す訳だったのだが、
その予想が正しかったと言う事に気付くのはまだ先の話である。
「でさ、あなた達が敵じゃないってのは分かるんだけどこの後どうするの?
雪だるま式に無事な人見つけてっても結局この空間?を何とかしないといけないじゃない」
ドレスの少女が口を開いた。
その言葉は誰もが思った事だったので一同はそれについて考える事にする。
続いて9982号が真っ暗な画面の携帯を閉じながら美鶴に尋ねる。
「とりあえず、一方通行と連絡が取りたいですね。
と、ミサカは使えない携帯をポケットにしまいつつ他に連絡方法が無いか尋ねます」
「そうだな、この場では普通の機器は使えない。その為この無線機を使っているんだが……
あちらがこれを持っていないことにはどうしようもない」
うーん。と、一同が唸る中で芳川が小さく挙手しながら口を開いた。
「それじゃあ一度あのボロアパート行かない?
軽く拠点みたいになってるとこあるし、一方通行や他の面子も居るかもしれないわ」
「ふむ、そんな場所があるのか……ならば案内してもらってよろしいでしょうか?」
「任せて頂戴。ここからならそんなに遠くないし」
その意見に対して特に異論も無いようで、一同が小さくうなずくと
芳川と9982号はアパートへ向けて移動を始めるのだった。
666 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/03(月) 08:01:45.40 ID:avVsFyI5o
ヴぁああ尾張でござるぅぅ(身悶えさせながら)
667 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/10/03(月) 08:58:10.71 ID:UFOQb4fUo
おつなんだよ
668 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/03(月) 09:08:40.76 ID:avVsFyI5o
あ、そーだ勝手にドレスの少女とかゴーグルのレベル決めましたと注意書き
669 :
VIPに変わりましてNIPPERがお送りします
:2011/10/03(月) 12:06:16.64 ID:I6gwMKxAO
>>1
乙
670 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北陸地方)
[sage]:2011/10/03(月) 15:36:45.15 ID:eZx48ymAO
乙
滝壺もLevel4なのに棺桶状態なのは……?
671 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/03(月) 16:28:24.22 ID:avVsFyI5o
厳密にはレベル4の中に境目があります
って言う設定です。そのうちその辺も描写するかもしれないけどしないかもしれないので今言っておきます
まあスクールとアイテムで2人ずつ出したかっただけなんですけどね
672 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/03(月) 21:00:16.53 ID:vZfO7pzs0
>>1
乙
クロスの醍醐味を描く
>>1
に感謝
673 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/03(月) 21:07:37.88 ID:avVsFyI5o
あ、そーか
>>665
はまぎらわしいな
その予想が限りなく正解に近かったと言う事に気付くのはまだ先の話である
で脳内変換おねがいしまう!
674 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/05(水) 09:11:19.89 ID:+71UYdlfo
3000字だけど投下しとくかァ
675 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/05(水) 09:11:56.09 ID:+71UYdlfo
「さあて……ヤルかぁ……?」
ゴキリ、と指を鳴らしながら『平衡の巨人』を見やる。
その言葉を聞いたからかは分からないが、
3体の巨人たちは剣を携え麦野沈利へと向かって行った。
「ははは!!考えるオツムもありませんってかァ!?
真っすぐ向かってくるだけの案山子で私を倒せると思ってんじゃねぇよォ!!!」
腕を横に一閃。
それと同時に光線が地面を抉る。
チェスの駒のような体躯をした『平衡の巨人』。
平べったい足元は麦野の作った溝に引っ掛かり3体は同時に前方へこけた。
「ひゃはははは!!!やっぱ頭わりー!」
ゲラゲラと下品に笑う麦野はお嬢様のような綺麗な容姿に反して醜い。
あまりのギャップにトラウマを植え付けられた暗部の人間も少なくは無いそうだがそれはさておき。
「ま、絹旗の奴があっちの片付けるまで、遊んでやるよ」
チョイチョイと指で挑発する。
先程原子崩しの直撃を受けたにもかかわらず、
傷一つなく佇んでいた異形に対して麦野は少しだけ感謝を示していた。
―――イイ実験台になる。
先程の嘲笑うかのような笑みから一変、
獣が獲物を狙うかのような獰猛な笑みへと表情が変貌を遂げた。
この笑みにもトラウマを植え付けられた人間は少なくない。
676 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/05(水) 09:13:26.15 ID:+71UYdlfo
・・・
瞬間、地響きとともに轟音が辺り一面に響き渡った。
『判決の剣』、剣の側面部分をガードレールにて叩いて
攻撃を逸らしたことでその剣が地面にたたきつけられたからだ。
絹旗最愛はその剣が生み出した惨状を目の当たりにして冷汗をかく。
(やっべーやっべーですね、この威力となると流石に
あれを『窒素装甲』で防ぐのは超辛いかもしれねーです)
しかしその思考とは裏腹に表情は非常に軽い。
同時に、両サイドから2体の『判決の剣』によって剣が横薙ぎに振るわれるのだが。
「当たらなければ超どうという事は無い、って奴です!」
バク転によって、2本の剣をギリギリ回避し白銀の剣に絹旗のドヤ顔が映る。
無駄にスタイリッシュな回避を見せた絹旗はガードレールを用いて『判決の剣』の手首を狙った。
「折れろ!超折れろ!」
マドハンドのような見た目をしたシャドウであるために、攻撃できる部分も限られてくる。
明らかな武器である剣をその手から離れさせられれば無力化は易いはず。
絹旗はそう考えて岩のような手に攻撃しているのだが、
「超かってークソったれだなァオイ!!」
思わず言葉も汚くなる。
絹旗の力はとある実験にて一方通行の思考パターンを植え付けられている為、
能力を発揮した時一方通行のような口調になってしまうのだ。
677 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/05(水) 09:14:11.83 ID:+71UYdlfo
「!」
すると絹旗は自身の背後に向けてガードレールを振るう。
ガキィッ!!と金属がぶつかり合った
甲高い音が鳴り響き、『判決の剣』と鍔迫り合いになった。
暗部で鍛えられた戦闘技術や不意打ちに対応する直感。
それが3体の異形を前にしても一歩も引かずに絹旗に戦闘を続けさせた。
「ハッ!!そうですよ、そうやって無ェ頭……
って言うか手?を超ひねってかかってこねェと、私は殺せませンよ!?」
しかし、その瞬間に全身に電撃が走ったかのような痺れが絹旗を襲った。
「ガァッ?!」
その正体は『判決の剣』によるジオダイン。
剣に帯電させることで剣を直撃させずともダメージを与えたのだ。
実際にガードレールを握っている訳でもないのに絹旗にもダメージが及ぶ程の威力。
絹旗は身体を後逸させ鍔迫り合いから逃れると、
更にガードレールを一本引き抜き二刀流のような体勢になった。
「チッ……超めンどくせェですね」
手を何度か握り、しっかり動く事を確認すると射殺さんとばかりに『判決の剣』を睨みつける。
「さァ、行きますよ」
地面を思い切り踏み抜くと、莫大な推進力を体に持たせ1体の『判決の剣』を狙う。
狙われた『判決の剣』もそれを迎え撃つように上から下へと剣を叩きつけた。
678 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/05(水) 09:14:55.09 ID:+71UYdlfo
「アアァァアァァァア!!!」
絹旗は体を無理矢理ストップさせただけでなく先程のように
バク転して後ろに少し下がりその剣を回避する。
それだけでなく、宙に浮いたまま2本のガードレールをクロスさせ地面に突き刺すと、
地面に叩きつけられた『判決の剣』をそのまま固定した。
勿論、剣を持ち上げるのでなく普通に引き抜けば問題無いのだが、それをさせる絹旗ではない。
「→殺してでも 超うばいとる」
『判決の剣』が握っているその手を無理矢理開くと剣を奪う。
そして奪い取った剣を残された手に全身全霊を
以って叩きつけると、簡単に真っ二つに裂けるのだった。
それと同時に残された剣も消滅した。
どうやら『判決の剣』の剣と手は一心同体らしい。
「ふン、超他愛もねェですね」
すると後ろから2体の剣が迫っている気配を感じる。
それに対して2本のガードレールを再び握り締め、迎撃の体勢を取った。
「戦闘ってのは手だけで出来ると思ったら超大間違いです!」
まず1本目。
ガードレールの側面を滑らせるようにして剣を受け流し地面に叩き付けさせる。
続いて2本目。
こちらは横薙ぎに払ってきたのでガードレールを地面に立たせ棒高跳びのように飛び上がると、
今度は剣の側面を思い切り殴りつけることでその剣もまた地面へと叩きつけられた。
これにより1本目の剣が2本目の剣に邪魔される形で動きを阻害される。
「最初は超グー!じゃンけン、超・グー!!」
2体の『判決の剣』のうち1体を、全霊を込めた右ストレートでその手を砕く。
679 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/05(水) 09:15:40.79 ID:+71UYdlfo
「ちょっと借りますよっと!」
砕かれた事により剣を地面に落とした。
『判決の剣』は既に消滅しそうな状態である為、剣自体もすぐに消える事だろう。
そうなる前に、もう1体に対して一撃入れるのに使う。
「超とどめです!!」
野球のバッターのように剣を一閃させた。
『窒素装甲』の馬鹿力は剣速を限りなく最速へと近づく。
その速度は『判決の剣』と言う名を冠した剣その物と言って良いシャドウのそれを圧倒する。
「おらああああああああああ!!!」
斬。
まさに一刀両断を地で行った絹旗は、
最後の『判決の剣』を一刀の下に斬り伏せた。
そしてあっけなく剣は手と共に消滅する。
「ふぅ……おっと麦野の方は大丈夫でしょうか?ひょっとしてやられ」
その刹那、ジュッと頬を何か光線のようなものが通りすぎていった。
「……るわけないですね、分かります」
「当たり前よ、私を誰だと思ってんだ」
絹旗は小さく裂かれた頬をなぞりながら背後を振り向くと、そこには麦野沈利の姿があった。
どうやら麦野の方も戦闘を終えたらしく、まだまだ余力を残している所を見ると、
そこらのシャドウよりかは強力だったのかもしれないが、
それでも麦野には及ばなかったということだろう。
実際、『平衡の巨人』は基本的に物理攻撃しか扱えず、
一方で麦野は原子崩しによる遠距離攻撃が可能。
とどのつまりフルボッコだった。
例えば麦野が愛用している三角形のパネル。
これを『拡散支援半導体(シリコンバーン)』と呼ぶのだが、
これは簡単に言うと電子を拡散するパネルであり、
レーザーのような1点集中型の原子崩しを拡散するにはもってこいの道具である。
しかし拡散する事により威力が下がる為に、
先程拡散支援半導体を用いた原子崩しを直撃しても『平衡の巨人』は無傷だったのだ。
なら話は簡単で、原子崩しを普通に放てば良い。
それで足りないのなら更に出力を上げれば良い。
『平衡の巨人』は、その防御力の高さが仇となり
麦野の能力の練習台と成り下がってしまったのだった。
「さーて、さっさとあの翼のとこに……って」
またしても何かの気配を感じる。
背後を振り向くと、50m先から人影が徐々に近づいていた。
680 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/05(水) 09:16:06.63 ID:+71UYdlfo
尾張ですぅ
尾張ですぅ
681 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/10/06(木) 00:53:33.32 ID:+A+geAlto
おつんですう
682 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2011/10/06(木) 05:28:51.26 ID:P6xoNC5l0
乙
そういやこの設定だと名前だけ出てきたテレスティーナさんもペルソナ使えるんじゃなかろうか?
683 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/09(日) 07:57:35.70 ID:HWCbnwquo
木山先生のとこの律っちゃんって春上ちゃんの事何て呼んでたっけ
684 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/09(日) 19:30:23.99 ID:+XLWM2rXo
分からんww
685 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/09(日) 21:39:44.29 ID:/7Ca3E5AO
律っちゃんが春上ちゃんのことなんて呼ぶかわかんないから適当に衿衣ちゃんとかでいいかないいよね
686 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/09(日) 23:05:49.30 ID:+XLWM2rXo
いいと思うよwwww
687 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/10(月) 01:30:39.97 ID:dERa79flo
知らんから適当で桶
688 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/10/10(月) 04:50:15.34 ID:aCXk14zzo
アニメ見直すのもしんどいしいんじゃない?
689 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/10(月) 23:20:09.89 ID:V8BXLksVo
明日の朝もしくは夕方に透過するよ!
690 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:30:09.23 ID:4b9YOKk+o
「うおっ、ホントにテレビから出てきた」
一方通行がテレビから戻って来た時に聞いた第一声がこれだ。
そしてその声に聞き覚えがあるなと思ったら伊織順平だった。
どうやら桐条美鶴と愉快な仲間達の一部もこの場に来ているようだ。
はっきり言って狭い。この後クマや布束砥信、木山春生だけでなくその教え子らも出てくる予定なのに既にこの人口密度。
辺りを見渡すと右から岳羽ゆかり、真田明彦に伊織、美鶴に9982号、芳川桔梗に上条当麻。
そして……第二位とドレスを着た女。
こんなボロに何の用だろうか。全くをもって意味がわからない。
何やらやけに敵愾心向きだしな第二位の視線を無視しつつ
一方通行はこの状況について尋ねる事にした。
「で、なンだこの状況はよォ」
「いや、お前の方がどうしたんだよ!?大丈夫か!?」
上条当麻が思わず突っ込みを入れた。
平然としている一方通行に対し垣根やドレスの少女を除いた他の一同の顔は青い。
何せ一方通行の胸元からは大きく血の跡が出来ているからだ。
明らかに傷は深い。だと言うのにその声は落ちついている。
そのギャップが更に不安を煽る要因になっているようだったが、
一方通行がとりあえず無事であると言う事を説明したことでようやく落ち着きを取り戻した。
そして一方通行の質問に対して美鶴が現状をまとめる。
「学園都市に起きている状況をどうすべきか話し合う場を設けた、とでも言おうか」
「何?」
学園都市に影時間が訪れたのは一方通行がテレビの中に入った後の為に、
今現在学園都市を取り巻く環境について何も知らない。
故にそれについて尋ねようとするのだが。
691 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:31:52.45 ID:4b9YOKk+o
「……この感じは……」
どこかテレビの中の世界と似た感覚を覚えた。
それはすなわちペルソナやシャドウに関係する。
そして桐条達と来たら……分からないはずが無い。
「影時間、か……」
一方通行が1人納得する中、その背後から続々とにゅるにゅるとテレビからの帰還者達が現れていた。
「well、いつの間にこのボロアパートは集会場になったのかしらね」
「暗黙の了解って奴クマね!難しい言葉知ってるクマはひょっとして物知りクマ?」
まず布束とクマがテレビから這い出てきた。
一同がクマの姿を見てリアクションを取る前に木山や子供達もニュッと出てきたのでその場は更に混沌と化す。
人口密度は最高潮に達し何が何だか分からない状態の中、
玄関の方からドンドンと扉を叩く音が聞こえてきたので
ワイワイと騒ぐ一同の中一方通行はその輪から抜け出して扉を開けた。
するとそこには。
「いっだいな”んな”のよ”ぉぉぉおお!!!」
扉の前でグスグスと泣きじゃくるのは、結標淡希。
背後では人々が敷き詰まり、前方では結標が泣きじゃくり。
本当に何なんだ。一方通行は夏休み明けの学生のように気だるく溜息をついた。
「……そりゃこっちのセリフだァ……」
「だって!いきなり暗くなったと思ったら小萌が棺桶になるし、
光の翼みたいなのが出てるし、外に出ても棺桶しかないし!」
「お、おォ……」
怖かったんだから!!と涙を流しながら物凄い形相で睨みつける結標に少しだけ気おされる一方通行だった。
とりあえず無事な人々も居ると言う事を確認できた結標はようやく落ち着きを取り戻したのか
ぐしぐしと目元をぬぐうと一方通行の横をすり抜け部屋の中に入ろうとする。
692 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:32:26.70 ID:4b9YOKk+o
「何してンだお前」
「え?」
「え、じゃねェよお前の部屋は隣だ、そっちに帰れ」
「良いじゃないこんなに人が居るんだから今更1人や2人くらい!!
あなたこんなか弱い女の子が1人棺桶しかない部屋に取り残されてる姿を想像してみてよ!!」
とどのつまり、誰でも良いから人が居る場所に居たいらしい。
ぎゅうぎゅうに詰め込んだこの部屋に更に人が増えると言うのは少し嫌だ。
とはいえそんな事を言えばまた先程のような癇癪を起こしかねないと判断し、一方通行はそれ以上何も言う事は無かった。
「まァいい。それで、お前らはどォすンだ?俺は別件で動いてっからあンま協力出来ねェぞ」
「む、そうなのか?一先ず光の翼……まぁ後で外を見たらわかるだろうが、
それに原因の一端があるかもしれないからここに居ない山岸達がそれを調べに行くはずだ。
だから私達も無事な人を探しつつそちらへ向かおうと考えている」
「そォか。はっきり言ってこっちもいっぱいいっぱいでなァ。とりあえず光の翼とやらは任せるぜェ。
そこの上条も持ってってくれて構わねェ」
「あぁ、任せてくれ」
「一方通行はどうすんだよ、そんな傷で」
淡々と話を進める様子を見る限りでは大丈夫そうに見えるが、
あのような大きな傷を作って大丈夫なはずがない。
上条は自分の事を棚に上げ一方通行が無茶をする一方通行を咎めようとするが、一方通行は意に介さない。
693 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:33:17.13 ID:4b9YOKk+o
「とりあえず9982号、お前はミサカネットワークから打ち止めの場所を割り出すとか出来ねェのか?」
「残念ながら無理ですね、上位個体からの命令文が何処から送られているのか分からないようにプロテクトをかけてあります」
「そォか……」
9982号から打ち止めの位置を逆探知出来るならその方が良かった。
それが叶わないとなれば手段は一つしかない。
「この件、恐らく学園都市上層部……統括理事会も一枚噛んでるはずだ。
そォいう訳だから、俺はそっちを洗ってくる」
美鶴の話を聞く限りではこの場では通常の機器は使えないと言う。
だがしかし、統括理事会もこの件に関わっているのであればそれの対策が為されている可能性も高い。
もちろん統括理事会に歯向かうと言う行為の意味がわからない一方通行では無いが、
そこら辺に関してはどうなんだ、と言う疑問を学園都市組は考えたのだが。
「大丈夫だ、誤魔化す。もみ消す。犯罪はバレなけりゃ犯罪じゃねェ」
ニヤリと笑みを浮かべる。
この一方通行に狙われた統括理事会の人間の方に同情したい。一同は本気でそう思った。
「あー、その前にちょーっと試したい事があるんだけど、良い?」
その声の元に視線が集中する。
発言者は芳川。一同がその発言に対して口を開く前に芳川は続ける。
「ミサカネットワークを『解析』したら打ち止めの居場所を突き止められるかもしれないわ」
成程、と一方通行は思う。
決してそんな設定あったなとかそういうあれはない。決して。
「そう言う訳だから誰か召喚器貸してくれない?」
その言葉に一番近くに居た春上衿衣が反射的に召喚器を差し出した。
694 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:34:41.16 ID:4b9YOKk+o
「それはあげるの」
「あら、良いのお嬢ちゃん?」
「それはもう要らないから大丈夫なの」
「そう。それならありがたく受け取るけど……」
チラリと一方通行を見やる。
影時間が今回だけで終わればいいのだが、これからもこうならないとは限らない。
そうなった時自衛の手段がないのは危険なのではないだろうか。
その考えを知ってか知らずか一方通行は美鶴に対して口を開いた。
「なァ桐条。一つ頼まれてほしい事があるンだが」
「何だ?」
「木山春生とその教え子共、桐条グループの学園都市で引きとっちゃくンねーか」
「な!?そんなことできるはずがないだろう!?何の犠牲も無しにここから離れることなど……!」
その言葉に美鶴よりも早く木山が反応を示した。
しかし木山の言葉に対して一方通行は何の動揺も見せない。
「問題ねェよ、俺に考えがある。もうお前らが学園都市に居る理由もねェンだろ?こンな危ねェ目にあってまでよォ。
つゥかお前らの為じゃなく、俺の為にこの提案をしてンだ。変に義理立てする必要もねェよ」
「し、しかしだな……」
「こちらとしては特に問題は無いぞ、鈴科が上手くやってくれるならな」
「はン、誰にモノ言ってンだ」
「そう言って2週間近く入院したのはだれだったかな?確か通り魔(笑)に襲われたとか何とか……」
「グッ……」
一方通行と美鶴のやり取りを見て決心したのだろう。
この2人なら頼りにしても大丈夫だと、自分達を利用するような人間では無いと。
木山は意を決したのか、一方通行へ返答をする。
695 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/11(火) 09:35:36.99 ID:4b9YOKk+o
「すまないがよろしく……頼む。この場には居ないが後5人程居るんだが構わないか?」
「問題ねェよ。後は……」
一方通行は春上を見やる。
彼女は木山の教え子では無いが既にペルソナに関する出来事に巻きこまれてしまっている。
しかし学園都市から出ていくかどうかは彼女次第な為に、一方通行は春上の返答を待った。
「私は……ここに残るの」
「衿衣ちゃん!?どうして!?」
それに対して声を荒げるのは、枝先絆理。
当然だ。自分を含めた置き去りの子達はこの学園都市で幾度となく実験材料にされてきた。
そこから抜け出せる機会を、『普通の日常』に帰るチャンスを、
自ら捨てると言うのだから異論を唱えざるを得ない。
しかし春上の表情から察するに、その決意は固い。
「知りたい事があるからなの」
「知りたい事って!?」
「絆理ちゃん達が受けた実験の裏側を知りたいの。
このペルソナの力と、何か関係がある気がしてならないの」
何故木原数多と言う男は枝先達置き去りの子達がペルソナの適性があると考えたのだろうか。
それは適正があると言う予想ではなく、適正があると言う事実に基づいて自分達を使ったのではないのか。
枝先達5人は既に適性があったにも関わらず、自分だけはペルソナの力を人工的に植え付けられた。
5人と自分の違い。それは暴走能力の法則解析用誘爆実験を受けたか否かではないだろうか。
そして自分が連れてこられたのは、枝先と自分が『精神感応』で繋がっていると言う事実があったからではないか。
木原の主導の元行われた実験の数々をこなしながら春上は以上の事ばかり考え続けていた。
ペルソナと言う力。そして暴走能力の法則解析用誘爆実験。
学園都市は一体何を考えているのか、何を求めているのか。
その牙は、枝先だけでなく初春飾利らにも及ぶのか。
そう考えただけで身震いしてしまう。
696 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:36:52.46 ID:4b9YOKk+o
「そんなこと知らなくたってもう良いじゃん!!」
そんな春上の思いとは裏腹に、枝先は依然として納得をしていない。
「それに……木山先生との時間、大事にした方が良いの。
私と絆理ちゃんは『精神感応』で繋がってるから、離れたってずっと友達なの」
「そんなの当たり前だよ!それより、一緒に行こうよ!
衿衣ちゃんまでこれ以上危険な目に合う必要なんて無いじゃん!!」
「それでも、私は知りたいの。本当の事を。
学園都市が裏側で何をして来たのかを……」
春上の目からは意志が感じ取られた。
テコでも動かない程に固く強い意志、それは親友たる枝先ですら動かせそうにない。
数瞬目線を交えると、枝先は諦めたように溜息をついた。
「……分かったよ、それだったらこれ使って」
ゴソゴソと懐から取り出したのは、召喚器。
「私はもう使わないし、これを私だと思ってくれたら嬉しいかな」
それを受け取ると、春上は強く頷き、手を差し伸べる。
「握手なの」
「……うん、それじゃあ約束だよ。次会う時まで無事でいる事」
「大丈夫なの、この人たちも居るから」
続いてチラリと一方通行を見やる。
どうやら一方通行達の力を当てにしているようだ。
697 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:37:42.83 ID:4b9YOKk+o
「あァ?なンでそォなるンだよ」
「皆さんが関わっている事と私達の関わっている事は多分同じ道だと思うの。
だから私は皆さんに勝手について行く事にするの!」
確かに、春上は既にペルソナと関わりを持ってしまっている。
そうである以上ペルソナの制御法も知っておかなければならない。
一方通行は布束と上条にアイコンタクトを取ると溜息をついた。
「分かった。ただしお前は自分の意志でこっちの領域に踏み込ンだって事を忘れるなよォ。
必ずしも助けが入るとは限らねェ。そうなって来ると頼れるのは自分の力だけだ」
「大丈夫なの、でも代わりに鍛えて欲しいの!」
「まァ、その辺は当てがあるから任せとけェ……ってチョット待て。
木山ンとこの教え子、これだけじゃねェンだろ?残りの奴らは無事なのか?
ペルソナの適性はあるのか、ないのか?」
ペルソナの適性があるなら影時間にも気付けるし存在できる。だとすると危険だろう。
春上は自身の予想が概ね正しいと確信していたので首を縦に振って一方通行の質問に肯定する。
「……そうなの、他の子達も少なくともペルソナを使う事は出来ると思うの。
だとしたら危ないかもしれないの、早く助けないと」
「成程なァ。桐条、悪ィが光の翼よりも木山の教え子の保護を優先に頼むわ。
どォせこの場に居ない山岸達が光の翼の方に向かってンだろ?」
一方通行の言う通り、2つのグループに分かれて行動していた為
山岸達はこの場には居らず、既に光の翼の方に向かっている。
美鶴は一方通行の提案に特に異論は無かったようで小さく頷いた。
「そうだな、ならば私たちはその子供達を保護した後に木山さん達を連れて一旦学園都市の外へ出てみようか。
出られるかは分からないが……」
「その辺の判断は任せる。そンで、上条達で光の翼の方に向かってくれ」
「分かった。その山岸って人たちも味方で良いんだよな?」
実は上条は美鶴の事しか知らなく、今日他の面子と初対面したのだ。
故に山岸達の事は話にしか聞いたことが無い為、一応の確認をする。
698 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:39:15.43 ID:4b9YOKk+o
「そォいやお前らまともに顔合わせしてなかったンだよなァ。
丁度良い機会だから自己紹介でもしてこいよ」
一方通行のあまりに軽い言葉に一同は脱力する。
だがしかし、変に気張るよりかは良いだろう。誰とは無しに噴き出した。
そんな中で話についていけない結標はボケーッとし、
ドレスの少女は垣根の様子を見てクスクスと笑い、当の垣根の表情は暗い。
方針は決まった。後は動くだけだ。
決意を新たにした美鶴は立ち上がり、動き出すべく口を開いた。
「では、時間も押してる事だろうし急ごうか。
木山さん、他の教え子の現在地は把握しておられますか?」
「住所は分かっている。一先ずその場所まで向かおう」
「分かりました、それでは先導をお願いします。子供達とあなたの警護は任せてください」
「俺たちなら対シャドウとしての戦力なら申し分ないはずだ」
「まっかせといて下さいよ!このじゅんぺーさんに!」
「じゅんぺーは頼りにならないけど真田先輩と美鶴先輩は頼りになるから安心してください!」
美鶴に引き続き三者三様に心の準備が整っている事を示した。
それによって美鶴達と子供達は木山が先導するままに部屋を出ていく。
その前に木山は最後に一方通行の方を振り向くと、
「一方通行……すまないな、迷惑をかける」
「さっきも言ったが、気にすンな。精々自由な時間を謳歌すると良い」
「……そうだな、そうさせてもらうよ。少しだけ……疲れたからな」
そして木山は簡単な別れの言葉を述べた後、部屋を出て行った。
これにより部屋の人口密度は大幅に小さくなる。
とりあえず芳川は打ち止めの位置に関してミサカネットワークを『解析』する事で逆算出来ないか実験を始めていた。
そんな中で垣根はこの部屋に一方通行が現れてから初めて口を開いた。
699 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:41:07.96 ID:4b9YOKk+o
「なぁ、第一位さんよ」
「あ?なンだよ第二位さン?」
「お前さ、今更人助け何かして英雄(ヒーロー)気取りか?
それとも良いことした分だけ今までの分は帳消しになるとでも思ってんのか?」
詰み上げてきた罪。
それは清算するにはあまりに重すぎる。
1人や2人の命を救ったところで、殺した命は戻って来ない。
垣根の言葉に一方通行は口を開かない。
そして垣根の言葉は続いた。
「そりゃ無理ってもんだろ?今更正義を語ったところで騙ってるだけにしか見えねぇよ。
俺達はクソだ。クソったれの悪党だ。そんな奴が今更良い事したからって何になるんだよ?
お前が殺した連中に「僕はこんなに良い事したから許して下さい」とでもいうつもりか?
そりゃ甘すぎんぞ実際。マックスコーヒーより甘過ぎて反吐が出る」
贖罪、すなわち罪を贖う事。
しかし根本的に罪を帳消しにする事など不可能だろう。
いくら償っても、いくら取り繕っても、過去に行った事実を変えることなど出来ないのだから。
自分と同じ悪党が、暗闇から抜け出そうともがいている。
垣根にはそのように感じられて、心底腹が立った。
だったら最初からするな。最初から罪を犯すな。
堕ちるのが嫌なら、その場から動かなければよかっただろうが。
だと言うのに、一方通行は今誰がどう見ても善行を行っている。
まるで贖罪を求めているかのように。
それが垣根には我慢ならない。
ギロリと睨みつける垣根の目を、一方通行はつまらなそうな表情で見つめ返した。
それはまるで、話が噛み合ってない人間に対してどう理解させようか悩んでいるようにも見える。
700 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:43:07.21 ID:4b9YOKk+o
「お前よォ、なンか勘違いしてねェ?」
「あ?」
「俺ァクソったれの悪党だ。ンなもン言われなくても分かってるっつゥの。
つゥか人助け?木山の話か?ありゃ飽くまでも俺の為だ。事のついでに助かる道を提示しただけだ。
別に罪を清算してェとかそォいう考えがあった訳でもねェ。
打ち止めの事だってそォだ。別に償いとか正義とか悪とかそンな事考えてやってる訳じゃねェよ」
一息に垣根の言葉を否定すると、一旦呼吸を整える。少し溜めた後に再び口を開いた。
「……助けてェから助けるンだ。木原はぶちのめしてェからぶちのめす
それだけの事にいちいち漫画みてェな善悪論持ってこられてもどう返答しろっつゥンだよ」
その言葉に拍子抜けしたかのような表情を浮かべる垣根。
しばらく放心したように考え込むと、ばつの悪い表情へと切り替わった。
「……悪かったな、見誤っていたよ。勝手に勘違いしちまってたらしい。
テメェは相も変わらず俺と同じクソったれだ。さっきの言葉は訂正させて貰うわ」
それだけ言うとドレスの少女を促し共に部屋を出ようと腰を上げた。
「ちょっと気になる事があるんでな、俺らはここで帰らせてもらうぜ」
「別に期待してねェから気にすンな。帰れ帰れ」
「はん、大したムカつきっぷりだぜ、第一位」
「お前ほどじゃねェよ、第二位」
「ま、そのうち相対する事もあるだろうから、その時地面に這いつくばらせてやるよ」
「そりゃこっちのセリフだ。そンときゃパシリにでも使ってやるから安心しろ、命までは取らねェよ」
「言ってろクソ野郎。じゃあな」
「おォ」
ひらひらと手を振りながら玄関から出て行く2人。
そうして残ったのはいつものメンバー(御坂美琴不在)と春上に隣人A。
701 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:43:46.35 ID:4b9YOKk+o
一方通行は明らかに場違いな少女に対して苦言を呈する。
「少し待ってもらったらこの騒ぎも終わるンで、隣の部屋に帰ってもらえませン?」
「イヤよ」
「でも僕達これからそと行くクマよ?結局君は取り残されるクマ」
「イヤよ」
「諦めろよ」
「イヤよ」
「諦めるなよ」
「イ……勿論よ」
「……足引っ張ったら容赦なく置いてって構わねェ。上条、そいつも連れてけ」
その言葉に若干の驚きを示しつつも上条は了承した。
流石にこの場に1人放置するのも可哀そうに思ったのだろうか。
「あら?こう見えてレベル4だから足手まといにはならないと思うわよ」
「だったら1人で頑張れよ」
「イヤよ」
「……」
結局、春上だけでなく結標とも一緒に行動する事にした一同だった。
702 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:44:55.03 ID:4b9YOKk+o
・・・
その時、打ち止めの脳波に一瞬だけだが異常が見られた。
これを発見できたのは本当にたまたまだ。
先程までAIM拡散力場についての考察を深めていた所で、
ようやく1段落ついたのか何とは無しに脳波を検出するモニターを眺めていたのだが、
その際に瞬きする程度の時間だけだが脳波が乱れ、再び安定した状態に戻ったのだ。
(これは……?)
本来ならあり得ない事象。
例えば下位個体は上位個体に逆らえないように作られているし、
上位個体を使うにあたって強固なプロテクトをかけたはずだ。
(いや、待てよ……そのプロテクトを突かれたってことか?)
ネットワーク上でただ1点だけ強固な壁で覆われた場所がある。
それこそが打ち止めの居場所であり、木原の潜伏場所でもある。
(だが、下位個体からはどうにも出来ないよう命令文を送っている。だとすれば……)
ペルソナしかないだろう。第3位ですら介入出来ないプロテクトを打ち崩せる存在は。
だとすると、もうじき奴が来る。そう思うと笑いが止まらない。
「ははははは!!来いよ一方通行!軽く遊んでやるぜぇ!!」
木原の笑い声は、止まらない。
703 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/11(火) 09:46:16.06 ID:4b9YOKk+o
尾張でぇす
木山さん達は桐条グループに保護されます。どうやってって言うのは後述する予定でぇす
沢山のキャラが同じ場所に居る時どうしても空気になっちまう奴らもいるけど、仕方ないよね
704 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/10/11(火) 11:37:48.19 ID:PxRv6K9e0
乙でぇす
最初期ヒロイン扱いだった筈の9982号が最近専らモbいやなんでもない
705 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)
[sage]:2011/10/11(火) 16:52:17.96 ID:lj0yGnv60
乙でぇす
何回読んでも飽きないわ
706 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/10/11(火) 17:55:49.69 ID:+vdb8VL5o
乙なんだよ。
707 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/11(火) 23:06:30.35 ID:RHQVCU/jo
このアルビノめ、あたらしいフラグをたてやがって
708 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/12(水) 08:31:45.31 ID:8gHPn17co
乙かも
709 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/13(木) 11:29:32.68 ID:Ef6cE3vHo
一乙
710 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/13(木) 23:47:43.54 ID:CIoTymloo
ラオウ「う〜ぬは誰とキスをする〜♪
わ〜れそれともあ〜やつ〜♪
う〜ぬは誰とキスをする〜♪
ほく〜とめ〜ぐるよ剛掌〜♪」
n番煎じ乙
透過する
711 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/13(木) 23:48:26.92 ID:CIoTymloo
「意外とわかるものね、ここからそこまで遠くはないわ。
場所は第十九学区の……ああ、地図無いの?地図!」
電気機器は使えない為、地図もアナログの物が必要になる。
とはいえそんなものはここには無い。
これが進み過ぎた技術の弊害か、と一方通行はどうでもよさげにぼんやり考えるものの、
第十九学区に向かうついでに適当なコンビニから拝借しようと決めた。
「俺と芳川、9982号は打ち止めンとこに向かうから、
お前らはあの光の翼の所に向かえ。なンかあるだろ多分」
「おっけークマ!」
「おう、任せとけ。一方通行もあんま無茶すんなよ、怪我してんだから」
「well、影時間ってシャドウが出るのよね?私も召喚器もらっとけばよかったわ」
「一応『鋼鉄破り』ならここにありますがちょっと扱いが難しいですしね。
と、ミサカはこっちのハンドガンを自衛用に渡しておきます」
芳川桔梗のペルソナ『カシキヤヒメ』の両手に頭を包まれている9982号は
今の今まで部屋に置いてある装備を整備していたらしく、装備のうちの一つを布束砥信に手渡した。
その黒い塊を受け取った布束は一言呟く。
「indeed、これである程度は何とかなりそうだけど、
何だか召喚器と同じ要領で頭に突きつけちゃいそうね」
「やめて!」
思わず9982号が突っ込みを入れる。
712 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/13(木) 23:49:17.84 ID:CIoTymloo
そんな中、結標淡希は芳川のペルソナ『カシキヤヒメ』を凝視していた。
召喚器やペルソナ、シャドウだの聞いた事のない単語ばかり出てきた為
話について行けて居なかったのだが、ようやくペルソナの存在を知ることが出来たのだ。
話半分に聞いていたのだが実際に見せられた事でようやく現状を把握したようである。
「ここに居る皆はあそこにいるのみたいなのを出してシャドウってのと戦うって事?」
「そうなの。召喚器が無くて出せない人も居るけど、それはその時になって考えたらイイと思うの」
「さっきまで居た子達の分もらっておけばよかったのに」
「確かにアイツらにゃもォペルソナに関わらせるつもりはねェが、
こっから脱出するのにある程度力が要るからなァ。
最後にちっとだけシャドウどもの相手してもらわなくちゃならねェ。
そン時に戦力にならねェ奴を1人でも減らす必要があンだよ」
2人の会話に一方通行が混ざって結標の疑問に答えた。
とは言えそれはこちら側でも言える事なのだが、
平均年齢を考えたらこちらが譲るべきだろう。
更に言えばシャドウ相手の経験値もこちらの方が高い。
それに春上衿衣と芳川の持つ召喚器は無いと困るのでそのまま頂戴したわけだが、
元はと言えばあの召喚器は桐条グループで作られたものだ。出来るだけ美鶴に返しておきたい。
「まァ、元々俺らによこすはずのもンだったンだがなァ。とりあえず返しといた」
「ふーん、まあ良くわからないけど光の翼って言うのをなんとかしたらいいのよね?」
「……まァ、それを何とかしたところでどうなるかはわからねェンだけどな。
情報が足りねェンだ」
713 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/13(木) 23:50:16.39 ID:CIoTymloo
光の翼。
今現在一方通行達が居る部屋からはそれを見ることが出来ない。
外に出ればわかるのだが、そちらは上条達に何とかしてもらうしかないだろう。
だがしかし、当の上条の表情が固い。
まるで別の悩み事を抱えているかのように。
「どォした、上条」
そんな上条に対して、一方通行は小さく尋ねた。
上条は少しだけ考える素振りをすると、
意を決したのか周りに聞こえないよう小さく返答する。
「……魔術師が学園都市に侵入してるみたいなんだ」
「何?」
「俺も一旦やられちまったんだけど、色々あって今だけ右手も使える」
「……マジかよ」
半信半疑な一方通行は上条が反応するよりも早く上条の右手を手に取った。
「……!!」
思わずその手を離す。
何故なら本当に『幻想殺し』は機能していて、止血が出来なくなってしまったからだ。
包帯の一つでも買っておけばよかったと後悔する一方通行の胸元の赤色が少しだけ広がった。
そんな一方通行の様子を見て呆れた表情を浮かべる上条は。
「……お前何やってんだよ」
「……うるせェ、その魔術師はどォすンだ?居場所もわかンねェンだろ」
憮然とした態度で返答する一方通行は、続いて魔術師について尋ねる。
714 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/13(木) 23:51:02.28 ID:CIoTymloo
「いや、最後に見た時は光の翼目指して移動を始めたみたいだけど、
何か魔術の反動か何かで体引きずるような感じになってたから、
そこまで早く翼のとこまで行けるとは思えないんだ」
「まァ、敵対するようであれば臨機応変に対応してくれ」
この場において本当にヤバいのは魔術師なんかより学園都市の上層部である。
そのように考えている一方通行は事もなげに上条に言うのだが、
あの魔術師と実際に戦った上条からしたらやはり気が重くなる。
あんなのと他の仲間たちを関わらせたくない、絶対に。
「他の奴らには関わらせたくは無いんだけどな……」
「同じ場所を目指すとは言え、実際に出くわすかもわかンねェ奴の事考えても仕方ねェだろ」
「まぁそうなんだけど……」
もし仮に魔術師と出くわしても互いにそれどころじゃないはずだ、
と一方通行は楽観的な発言をするのだが、やっぱり上条の気は重たい。
「それじゃ、そろそろ出発しますか?と、ミサカは一方通行に尋ねます」
「そォだな、とっととこの馬鹿騒ぎも終いにしよォぜ」
9982号の言葉と共にスッと玄関の方へと歩き始める。
ここからはもう戦場だ。危険しかないこの場で誰もが無事に帰れるという考えは捨てろ。
一方通行は自身の手を握り締めると外へと出る。
どこか絵画のような光景が目の前に広がっていた。
何故だろう。何故だかわからないが一方通行はある1人の人物を思い浮かべる。
(風斬……?)
そして何故だかわからないがあの光の翼は風斬氷華が生み出した……いや、風斬氷華そのものだと直感した。
すると背後から芳川が声をかけてきたので後ろを振り向くと何かチップのような物を投げ渡された。
715 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/13(木) 23:51:58.91 ID:CIoTymloo
「なンだこりゃ」
「打ち止めの人格データよ。今日取ったデータだから一番最新の」
「そンなもンいつの間に……」
最後まで言い切る前に思いだした。
そういえば芳川は昼間に打ち止めを連れて何処かに行っていたではないか。
それはこの人格データを保存する為だったと言う事か。
「いやね、気になる事があったから調べ物のついでにチョチョイとね。
まさかこんな形で使う事になるとは思わなかったけど」
「どォいう事だ?」
「さっき『解析』した結果なんだけど、恐らくあの光の翼はミサカネットワークが生み出した物で、
打ち止めがそれを統括してる状態にあるのよね。
勿論、打ち止めの意志ではなく『学習装置』によってだと思うけど」
つまり、と言葉を区切って一方通行が手にしている打ち止めの人格データを収めたICチップを指差しながら続ける。
「『学習装置』によって書き換えられた打ち止めの脳内を、
それで元に戻せば全て丸く収まると言うことね」
「成程なァ……だが通常の機器は使えな……
イヤ、特殊なもンなら使えるからこそのこの状況か……
だがこのチップ自体が使えるかは賭けになるなァ」
「学習装置さえ動かせたら問題無いはずよ。万が一駄目だとしても……これがあるしね」
芳川は手の中で召喚器を弄びながら一方通行の言葉に返答する。
とりあえず打ち止めについては何とかなりそうだ。
木原数多さえどうにかしたら、の話だが。
(まァ、あのクソ野郎に関してはコレでどうにでもなるか)
兎にも角にも、さっさとこの一件にケリをつけてしまおう。
一方通行は9982号と芳川を伴ってアパートを発つのだった。
716 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/13(木) 23:52:35.10 ID:CIoTymloo
続いてそれを見送った上条達も光の翼の元へ行くべく行動を始める。
「うっし、俺たちも行くか」
「行クマよー!!」
「私も頑張りますなの!」
「incidentally、あなたレベル4って言ってたけどどんな能力なの?」
「ん、『座標移動(ムーブポイント)』って奴ね。
あんまり使いたくないけど早く終わらせたいし、実際にやってみせるわ」
瞬間、上条を残して4人が消えた。
「……あっれえええええ!?」
その場に取り残された上条の悲鳴が虚しく響き渡るのだった。
717 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/13(木) 23:53:42.96 ID:CIoTymloo
・・・
「ふうん、あんたらが使うそれがペルソナで、さっきまで私らと戦ってたのがシャドウで……」
「このシャドウとか言うのが超発生する時間を影時間と呼ぶんですね」
「そう言う事です。でも本当はこんなことあり得ないはずなのに何故か発生してて、
それを調べる為に……と言うか何とか影時間を終わらせたいと思っています」
麦野沈利と絹旗最愛がまとめた山岸風香らの説明を、アイギスが肯定した。
麦野と絹旗が戦闘を終えると同時に山岸達がその場に到着したので、
互いに情報を交換する事にしたのだ。
「ところでここに来る前に凄い光が空に向かってたんですけど、
あれってあなた達の超能力って奴ですか?」
天田乾が最初に見た光線について尋ねると、麦野は肯定する。
「ん、そうだよん」
それの証明の為か空に向けて『原子崩し』を放つ。
空へと昇る光線は麦野の力の証明であり、
シャドウと敵対しても問題無く無事で居られると言う証明でもあった。
その光景を見た一同は改めて超能力のすさまじさを理解する。
「やはり学園都市は凄まじいですね。
超能力者を生み出すと言う技術、明らかに周りと比べても先を行っています」
アイギスが空を仰ぎながら技術力の高さに舌を巻いていたのだが、
その発言を聞いて麦野は顔をしかめる。
「あれ?あんたら外から来たの?
だとしたら何でこんな訳のわからない事態になる事を知ってたのかにゃーん?」
718 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/13(木) 23:56:20.51 ID:CIoTymloo
情報。これは何に置いてもかけがえのない物である。
暗部に棲む麦野もそれは重々承知しているらしく、
不信感を抱かれないように笑顔で尋ねた。
ところで、下品な言葉づかいをする麦野ではあるがああ見えてかなりの美人である。
その美人が笑顔をするとなれば男だろうと女だろうと不信に思う人間は居ない。
「ええと、何て言えば良いのかな……
色々あって学園都市に研究者を派遣するついでにスパイもしてもらってて、
この事に関する情報を集めてもらってた、って言う感じかな?」
山岸は美鶴の名前を出さずに今回情報を集める事が出来た概要を説明する。
しかしそんなことを知りたいのではなくてその背後に居る人間、
すなわちスパイを送り込んだ人間について知りたかったのだが。
麦野の方もその話を聞いてやはり初対面の人間を全面的に信用は出来ないか、
と内心舌打ちしつつもその言葉に頷いた。
「成程ねぇー。それで、この意味のわからない状態を終わらせる方法はあるの?」
「残念ながらそこまでは分かってないんです……」
ホントに使えねぇ。
麦野の心の中で表現するのが億劫になる程の罵倒の言葉が渦巻いていた。
しかしそれを表情に出す事は無い。
いちいち争っている暇も無いし、
少なくとも棺桶姿になってしまったフレンダと滝壺理后は無事であると言う事は分かったのだからそれでよしとしよう。
しかしそこで疑問が1つ浮かび上がる。
「何で私らは棺桶にならなかったのかしら?連れが2人今棺桶なんだけど」
「それはこのペルソナの力に対して適性があるか否かなんだけど……」
「てことは私達も使えるって事?」
「そうですね……でも、ちょっと怖いですよ?」
719 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/13(木) 23:58:00.47 ID:CIoTymloo
ものすっごい目をキラッキラさせる麦野を見て山岸は少し意地悪げに微笑む。
軽く挑発ともとれる笑みを受け麦野はその挑戦を受けて立つ事にしたのか、
「へぇ……じゃあちょっと貸してほしいなー?」
目の光をキラキラからギラッとしたものに変貌させると、
山岸は苦笑しながらも召喚器を差し出した。
先程山岸達のペルソナやシャドウに関する説明の過程で、
3人+1匹の持つペルソナを見せられている為か絹旗もその光景に目を輝かせながら眺めている。
そしてその召喚器を受け取った瞬間。
「ッ……!!?」
暗部の任務でも味わったことのない濃厚な『死』の気配を感じ取る。
レベル5と言う学園都市が誇る最強の一角。
麦野沈利は今まで圧倒的な力を以って敵を制圧してきた。
その麦野が今、ただの拳銃……それも銃口を樹脂か何かで閉ざされたただの模型に恐れを為している。
普通に召喚していたものだから当たり前のように出来る物と思っていたのに、
手に取るだけで全身に『死』がまとわりついてくる。
しかし、麦野は恐怖以上に『死』を恐れている自分自身に激怒した。
720 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/13(木) 23:59:45.76 ID:CIoTymloo
(今更死ぬのが怖いって!?馬鹿じゃねぇのか、私は!!)
自分で自分を叱咤する。
(私が今まで何人殺してきたと思ってんだ!!
なのに自分は死にたくない、だなんて馬鹿げてる!!)
そんな都合のいい話があってたまるか、と。
(死を恐れると言う事は、死にたくないと心のどっかで思ってるって事だ!!)
いつどんな死に方をしてもおかしくないと思っていた。覚悟していたつもりだった。
(ってことは詰まる所殺してきた事を心のどっかで後悔してるって事だ!!)
死にたくない、殺されたくないと思う気持ちは今まで誰かを殺してきた事への否定、後悔につながる。
こんなことなら、殺すんじゃなかった、と。
(それだけは許さねぇぞ、麦野沈利!!私はいつどこで野垂れ死んでもおかしくない存在だ!!)
とは言え、潔く死んでやるつもりなど欠片も無いのだが、それでも。
(だったらそいつらの味わってきた『死』の恐怖位受け入れてやるのが礼儀だ!!)
殺されて行った人間達の最期に味わった恐怖。
それを一つに凝縮したのが自分の手の中にある召喚器だと言うのならば。
召喚器を手にした瞬間に目から光が消えそうになったのだが、すぐに光が再び灯る。
ギラリと召喚器を睨みつけるとこめかみに突きつけ、引き鉄を、『死』の手綱を引いた。
実際には鳴らないのが、パンッと乾いた音が麦野の耳に響き渡った。
721 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/14(金) 00:01:18.18 ID:rI90NY8zo
・・・
「ねぇ、ねぇってば」
「あぁ?」
「気になる事って何なの?一方通行達と別れた時に言ってたけど」
「あぁ、あれね……」
垣根提督は自身の手牌を凝視しながらどうでもよさげな口調で言葉を選ぼうとする。
垣根とドレスの少女は隠れ家へと戻っていた。
いずれ元に戻ると言うのなら、その場に居なければ2人に怪しまれてしまうからだ。
何せ勝負はまだついていないのだから。ゴーグルの奴にぎゃふんと言わせねばならないのだから。
「まー何だ、ここじゃケータイも弄れないみてーだから今は何も調べられねーんだけどな。
その分こーやって考える事が出来る」
「考えるってのは今後の役の選び方って事?
ゴーグルより先に三元牌手にするのも悪くないわね」
「そうじゃねーよ、あのペルソナとか言う力の事だよ」
「あら?あなたあの力は要らないって言ったじゃない」
「まあ、要らねぇと言えば要らねぇんだけどな。あって損するもんでもねーだろ」
桐条美鶴の勧めをきっぱりと断っていた所を見ると、
その力に興味がないのだとドレスの少女は勝手に思っていた。
しかしどうやらそれは違うらしい。
垣根はただ単に赤の他人から召喚器と言う得体のしれない物を受け取る気にならなかっただけのようだ。
「それに、影時間……この時間に普通で居られる奴らの違いについてなんだが、
俺はペルソナへの適性だけではなく能力者としてのレベルも関係あるんだと予想してた」
「でも普通に研究者とか居たじゃない」
「そうだ。だから一旦はその仮定を否定したんだけどな、やっぱり合ってる気がしてならねえんだ。
ただの直感だがな、こういう何の情報も無い時の直感って結構重要だったりするんだぜ?
だから影時間とやらが終わった後、『黄昏の羽根』と並行してペルソナとシャドウについても調べる。
何より一方通行の野郎がテレビから出てくるって言うマジシャンも吃驚な光景についても気になるしな」
これから忙しくなりそうだ、と仕事を嫌がるサラリーマンのような表情を浮かべる垣根だが、
その口調は何処か楽しそうなもので、ドレスの少女はそのギャップにクスリと笑う。
「それなら一方通行達の事手伝ってきたらいいのに」
「あいつらなら何とかなるだろ。俺らはここでダラダラ過ごしてりゃ良いんだよ。
「一応」あいつは、「今は」第一位だからな」
一応と今は、という部分を強調させながらも一方通行の持つ能力と実力は素直に認めている。
果報は寝て待て、と垣根は少し早いこたつに対して
少し早いみかんを手に取ってゴロリと寝転がるのだった。
722 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/14(金) 00:02:44.68 ID:rI90NY8zo
尾張ンゴリラッパラソルです
全体的に色んなキャラの性格が丸いです
723 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/10/14(金) 00:04:37.99 ID:eRG58LM4o
乙!
むぎのんかっけー
724 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/14(金) 00:07:41.19 ID:rI90NY8zo
>>720
の最後、実際ならないのだが、だわすまぬ
725 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/14(金) 00:54:48.84 ID:UMOIib68o
むぎのんもていとくんも良いな
格好いいキャラがたくさんで楽しいぜ。乙!
726 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/10/14(金) 12:42:32.78 ID:5vUu/RKWo
おつん
あわきん自分を移動させてしまうほどこの状況で心をやられていたのか
可愛いじゃないか。
727 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/14(金) 14:31:20.43 ID:uANvr6+AO
こうして見るとやっぱ禁書て女キャラ多いな
728 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/10/14(金) 18:20:50.78 ID:ej+KKrCho
そりゃ1冊に付き最低1人上条さんがフラグたてる相手が用意されているからなぁ
729 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/16(日) 03:25:15.76 ID:PLhBtZ2+o
ニコニコ配信でp4アニメ見たけど、原作への愛が溢れてたね
カレンダーとカットインがゲームのまま、何より原作BGM
このスレからペルソナにハマった自分はここももっと盛り上がって欲しい
730 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/16(日) 06:14:29.44 ID:odk59waAO
ニコニコでペルソナ見れるのか!
最近テレビつけてなくて気づいたらペルソナもハンタも見逃して何も見る気無くなってたからありがてぇ……
ぴーえすびたとペルソナ4ゴールデンかなんかも欲しいしほむほむがペルソナだすSS始まってるしあれだな、始まったな
なんか頑張るわ
731 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/16(日) 13:23:13.75 ID:PLhBtZ2+o
ハンタは公式配信やってないんだなそれが
p4の配信は一週間だからお早めに
3dsで涙目になった自分は、びた様子見だ
732 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/18(火) 02:19:10.73 ID:W+lugpeco
ハンタはようつべでOP見たけどなんだ、うん。
透過してもいいかな、いいよね
733 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/18(火) 02:21:06.19 ID:W+lugpeco
「はぁ、はぁ……ちょっと休憩……」
結標淡希は息を整えるように手を胸に当て深呼吸をする。
額からは汗がダラダラと流れ落ち、見るからに体調が芳しくないと言う事がわかった。
「ちょ、大丈夫?」
あまりの変貌っぷりに能力について尋ねた布束砥信も語頭に接続詞をつけ忘れてしまう程に結標の様子がおかしい。
当の結標は頬を伝う汗を一拭いするとげっそりした表情で答える。
「私の能力……昔の実験の心的外傷(トラウマ)が原因で
自分自身を転移させるとこうなるのよね……」
昔話をする時間も無いので結標は端的に現状を説明した。
自身を転移させる恐怖。それを乗り越えない限りこの状態は続くそうだ。
一応暗部で仕事をするという条件の元、そのトラウマを克服するための研究が為されてはいるものの、
現状では低周波振動治療器と言う特殊な装置を使用する事で結標の能力使用によるストレスを軽減させる程度にしか研究が進んでおらず、
とどのつまりトラウマ自体は自分の力で乗り越えるしかないらしい。
「それでもちょっと前と比べたら幾分かマシになったんだけどね……」
例えば壁越しに見えない場所への転移だと10m先でも辛かったのだが今ではその程度の距離なら何とかなるし、
更に言えば開けた場所……例えば空の中で転移すると言うのならばかなりの距離を一気に進める。
つまり結標は最初の転移で上空へ移動すると後は真っすぐ一気に突き進んだ、と言う訳だ。
とは言え流石に何度も繰り返すと精神的な余裕も無くなるのだろうか、一旦地上に降りたのだが。
734 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/18(火) 02:23:05.46 ID:W+lugpeco
「無茶はアカンクマよー、こっからは歩いて進むクマ!もうあの光の翼まで目の前だし」
「そう言ってもらえるとありがたいわね……」
クマって語尾は一体何なんだ、と最初にあった頃から突っ込みを入れたかったのだが、今はそれをする余裕すら無い。
結標は何とか笑みを作って一同に感謝を示した。
一方で、春上衿衣は辺りをキョロキョロ見回している。
そんな春上の姿を見て布束も辺りに意識を向けた事で初めて異変に気がついた。
「incidentally、上条君が居ないわね」
「え、嘘……?」
息を切らした結標もまた辺りを見回す。
布束とクマは一応『幻想殺し』について話を聞いてはいる……
聞いてはいるものの力が復活したと言う事は聞いていない為、『幻想殺し』の事は頭から消え去っていた。
となるとこの場で残された可能性は……。
「「……」」
「え、ええっと……」
じーっと一同は結標を見た。当の結標は少し涙目である。
体力を限界まで振り絞った結標に対して、一同はこれ以上何かを言う事など出来なかった。
「……well、とりあえず光の翼のとこまで行きましょうか。上条君はほら、1人でも十分強いし」
「そうクマね!そうときまったら出発クマよ!」
「はいなの」
その優しさが、結標には辛い。
とは言えこの場に責任を持つべき人間は居ないのだが、
強いて言うのなら幻想殺しについて布束とクマに伝えなかった上条当麻が悪い。
そんな事知る由も無い結標からしたら責任感と罪悪感で押し潰されそうなのであるが。
多分目に溜まっているのは精神的疲労から来た汗だ、そうに違いない。
結標は目元を拭うと先を歩く3人について行くのだった。
735 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/18(火) 02:28:21.18 ID:W+lugpeco
・・・
「すごいです……」
圧倒的なまでにシャドウ達を蹂躙する光景。
確かに、およそ1年戦い続けた特別課外活動部の面々が集まればある程度のシャドウなら余裕で倒せるだろう。
しかし、それを為しているのはシャドウと言う存在を今日知ったばかりの2人の女性だった。
そのあり得ない光景に驚愕を露わにしつつもシャドウを殲滅していくアイギスと天田乾にコロマルなのだが、
この様子だと2人は山岸達の補助がなくとも問題無いのだろう。
そして、注目の的となっている2人は。
「絹旗ー、そっちに2匹行ったわー」
「はいよー」
麦野沈利は両手からズバズバと『原子崩し』を放つ。
それによってシャドウの大半は近づけずに消滅するのだが、その合間を縫って近接してきたシャドウを絹旗最愛が相手をする。
そのコンビネーションは、元々は戦闘用に造られたアイギスをして認めるほどであり、
対シャドウ戦においては山岸風香らに軍配が上がるだろうが、しかしシャドウと言う存在を知った今。
「は!雑魚は雑魚でもわんさかいりゃ邪魔になるわなぁ!!
いい加減うっぜーんだよチンカス共がぁ!!」
「まァ、所詮は、超、雑魚、です!!」
如何に速く動き、如何に敵を多く倒し、如何に手数を少なく戦闘を終えるか。
言うなれば戦闘の効率化においては暗部で長く生きてきた2人に軍配が上がる。
そして、その暗部で培ってきた戦闘技能は対シャドウ戦でも健在していた。
「ラストォ!!」
絹旗の叫びとは裏腹に残りのシャドウは10体程居る為、明らかにラストであるとは言えない。
一体どうするのだ、とアイギスは弾薬を補充しながら足を止めた。
すると絹旗は最も手近に居た『失言のアブルリー』を鷲掴みにしたと思うと、
思い切り中に放り投げつつも麦野から三角形のパネルを受け取った。
―――拡散支援半導体(シリコンバーン)だ。
山岸達はそのパネルの存在を知らない為一体どうするのだと言わんばかりにそのパネルに注目する。
736 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/18(火) 02:29:48.49 ID:W+lugpeco
「こいつで超ド派手な花火をブチ撒けやがれってなァ!!」
宙へと舞い上がった失言のアブルリーに対して拡散支援半導体を投げつけると、高速で回転するそれは容易に目標の体を貫いた。
しかし完璧に力加減された拡散支援半導体はそのまま体内に残る。
何故わざわざそのような真似をしたのか?
答えは単純明快。
「JACKPOT、ってね」
最後くらい、派手に行きましょ。
そんな思考が見え隠れする程に派手な一撃だった。
失言のアブルリーを原子崩しが貫いた瞬間、その体内から光線が四方へと降り注ぐ。
それによって残されたシャドウ達はまとめて原子崩しに貫かれ、消滅の一途をたどった。
「超汚ェ花火です」
何処かで聞いたような台詞を以って、戦闘は終わりを告げるのだった。
「さーて、次行きましょ次……ってどしたのあんたら?」
「「……」」
戦闘時と普段のギャップがすごい。
2人の変貌っぷりに軽く引いた一同は何も見なかった事にして再び光の翼の元へと向かう事にした。
737 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/18(火) 02:31:39.58 ID:W+lugpeco
・・・
「なんつーか、あれだな。不幸だーってか?困った困った」
『幻想殺し』が戻った途端にこれだ。これには流石の上条当麻も苦笑い。
力と共に不幸っぷりも復活したと言う事だろう。
取り残された上条だがその表情には戸惑いは無い。
それもそのはず。
命の危険等、シャドウと関わりを持つ事を決めた時から幾度となく晒されて来たのだ、今更この程度で焦る上条では無い。
「だけどあいつらの方が間違いなく先に着くよなあ……」
わざわざ戻って来る等考えられない。
よしんば戻ってきたところで自分は天に出来ないのだから。
ここからは単独行動になると判断しすぐに駆けだしはしたのだが、一つだけ不安がある。
「あいつらとヴェントが鉢合わせたらヤバい。何がヤバいってあいつらが危ない」
そもそも何をされたかすらわからなかった。
反撃しよう、そう考えた瞬間にはイゴールの元に居た。
何を言ってるかわからないと思うが俺も何をされたかわからなかった。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃ断じてない。
そんな事はさておき。
「とりあえずあいつは間違いなくあの光の翼に向かっている。
ならあの魔術がどういうものか理解できねーとあいつらが危ない……」
とはいえ、魔術に関する知識は深くない。
そして魔術の知識と言えばインデックスが挙げられるが。
「あいつも何処に居るかもわからねぇ……畜生、やっぱ不幸は駄目だな、マジで」
しかしここは『影時間』。
生と死が逆転するこの場に於いて不幸と幸運も逆転したのだろうか、
ご都合主義のような奇跡が今ここに起きたと記そう。(上条当麻日記、9がつ30にちから抜粋)
「とーま?とーま!!」
歩く魔術百科事典ことインデックス。
上条と彼女は今、奇跡的な邂逅を果たしたのだった。
738 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/18(火) 02:33:17.05 ID:W+lugpeco
・・・
「クソが……何なんだ、一体さっきからわらわらとよォ……!!」
血の塊を吐きだす。全身が痛みを訴えてくるがそんなものは知ったこっちゃない。
前方のヴェントは重たい腕を振るいながら魔術を発動させる。
しかし、その魔術を発動させるたびにヴェントの身体は死へと近づいて行く。
とはいえ何もしなければ待っているのは死だけだ。
そんな理不尽な状況下でもヴェントは手にしたハンマーを片時も離さない。
しかしいい加減体力も尽きて来たのだろうか、
ようやく周囲から気配が消えた事で腰を落ち着けた。
そうして呼吸を整えながら頭に上った血を冷やしつつ現状について思考を始める。
(明らかに科学とは思えない、魔術ですらない……)
一体何の力で魔術を否定し、一体何の力で目の前のバケモノ共は蠢いているのか。
(そう言えば、フィアンマの野郎が何か言ってたな……)
魔術が現れた理由。
それは『才』ある者に対抗するための知恵と力だ、と。
その時ヴェントは何を当たり前の事を、と思いながらもふと疑問に思う。
当たり前すぎて疑問に思う事すらなかったのだが、
フィアンマと言う人間の言葉によって初めて疑問に思う機会が得られたと言うべきだろうか。
『才』とは一体何なのか?
(超能力者では無い。あれはここ50年で台頭してきた人工的なモンだ)
その『才』に関する事柄は完全に秘匿されてきた。
と言うより忘れ去られた存在だと言っても良いだろう。
あの『禁書目録』ですら知らない力の存在。
いや、禁書目録は『魔術』に関する知識しかないのだから知らないのは当然だろう。
739 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/18(火) 02:35:22.98 ID:W+lugpeco
(……『悪魔憑き』、フィアンマはそんな風に呼んでたっけか)
しかしそれは『才』無き者達が嫉妬し、
排斥する為に名付けた名称だとフィアンマは言っていた。
その時当のヴェントはと言うと、本当に興味なかったのだろう。
話半分に聞き流していた為にその内容はよく覚えていないし、
何でそんな話になったのかも覚えていない。
フィアンマの方も世間話のつもりで詳しい事は言っていなかった気がする為に大した事は思い出せなかった。
(だけど、『悪魔』という表現はあながち間違いじゃないとか何とか……)
眉間にしわを寄せ、額に指を当てながら記憶を探っていく。
『才』への嫉妬もさながら、力に呑まれ暴走した姿が
悪魔と形容するにふさわしいものだった為にそのような呼称が生み出され、
『才』ある者は迫害されて行ったのだと言う。
(その『才』が暴走した姿が、あのバケモノ共だってんなら辻褄は合う気がするケド……)
何故学園都市に?
アレイスター=クロウリーは何を考えている?
(……ハッ、そんなもんどーだってイイか。まずあの光をブッ潰す。
そんで幻想殺しも禁書目録も、超能力者も何もかもまとめて潰せばイイ)
思考の果ての、思考停止。
はっきり言って、バケモノの正体等どうだって良かった。
結局のところ、『科学』の総本山である学園都市を潰せたら何だって良かった。
自身のハンマーを杖に立ち上がるとギラついた目線を光の翼へと送り、その下へと突き進むのだった。
740 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/18(火) 02:40:23.84 ID:W+lugpeco
尾張です、展開が遅いって?
全力で走っても遅い子だって居るんですよ!全くもう!!プンプン
PSVITAは何だかよさげな雰囲気を醸し出してる気がしないでも無いです。
でも欲しい欲しい言いながら結局買わないのが俺。ゲーム自体最近めっきりしてないからなあ……結局周りの評判を聞いてから考えそう。
キャサリンも最初は買う買う言ってて結局買わなかったし。まああれはPS3本体も買う買わないで悩んでたってのもあるけど
741 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/18(火) 03:04:39.73 ID:W+lugpeco
>>737
の真ん中らへんに「天に」ってあるけど転移な、転移
742 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/18(火) 03:15:00.13 ID:W+lugpeco
>>735
の下の方に思い切り中にってあるけど思い切り宙にだわ
うぎぎ……
743 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/10/18(火) 03:26:21.32 ID:R+pTsI1ko
乙なんだよ
744 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/10/18(火) 09:16:04.84 ID:YsSPJmdQ0
vitaはすぐ別色が出そうなんだよなあ
745 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/19(水) 20:44:33.19 ID:RF9ZxTn3o
等価する!!
746 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/19(水) 20:46:35.95 ID:RF9ZxTn3o
「見つけた。第十九学区……丸藤ビルの8階。
確かこのビルもう閉鎖されていたはずだからすぐ見つかるはずよ」
木原数多の下へ向かっていた一方通行達はその道中に地図を入手し、
打ち止めと木原の位置を特定していた。
地図上を指差す芳川桔梗は召喚器をしまうとペルソナ『カシキヤヒメ』も消える。
一方通行はその位置を確認すると9982号と芳川を見て口を開いた。
「丸藤ビル……よォし、分かった。
そンじゃこっからは別行動だ。お前ら2人御坂ンとこ行って来てもらいてェンだが」
恐らく何も事情が伝わっていない為に訳もわからずシャドウと戦っているに違いない。
またミサカネットワークを使っている、と言う事は他の妹達も棺桶にならずに済んでいるはずだ。
ならば御坂美琴は妹達の元から動けずにいるに違いない。
「ですが、一方通行は1人で大丈夫なのですか?と、ミサカは尋ねます」
「問題ねェよ。策って程のもンじゃねェがあのクソ野郎を潰す手段はある」
一方通行は応急処置された胸元を確かめるように指でなぞると、第19学区の方向に目をやる。
「……わかりました、気をつけて下さい。と、ミサカは一方通行の必勝を祈願します」
「はン、言われるまでもねェよ」
一体どうするのだろう、とは思うものの御坂や妹達の事も気になるらしく、
9982号はそれ以上何も尋ねる事はなく行動を始める。
一方通行もそんな2人を一瞥するとすぐに第19学区へ向け飛び立つのだった。
高速で飛翔する一方通行はその場からあっという間に見えなくなってしまう。
妹達や御坂の事も気になるが、やはり大怪我を負ったままの
一方通行も気になるのだろう、9982号の表情は暗い。
そんな9982号の様子を見ている芳川は一つ疑問に思っていた事を9982号に尋ねた。
「ところでさっきミサカネットワークを『解析』した感じだと、
9982号が行動できてるのって皆の演算能力を9982号に集めてるからって事でいいのよね?」
「そうですね、芳川の言う通りです。と、ミサカは質問に答えながらも急にどうしたと疑問に思います」
9982号の肯定を受けて芳川は少し考える素振りをすると、9982号にある提案をした。
747 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/19(水) 20:47:17.07 ID:RF9ZxTn3o
・・・
「インデックス!良かった無事だったのか!」
「とーま!とーま!それよりも……!」
上条当麻はインデックスの無事に心底安心する。
しかし、当のインデックスは心ここにあらず……
と言うよりかは光の翼にしか意識が言っていないようだった。
「分かってる、あの光の事だろ?今なら『幻想殺し』も使えるし、何とか……」
焦燥した表情を浮かべるインデックスを落ちつかせるべく、
一時とは言え『幻想殺し』が戻った事を教えたのだが、その言葉にインデックスは驚愕する。
「だめだよとーま!ひょうかを殺さないで!!」
「待て、ひょうかだって?」
ひょうか、ひょうか。上条は自身の記憶を探る。
学園都市におけるインデックスの知り合いは多くない。
故に風斬氷華と言う名を思い出すのに時間はかからなかった。
748 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/19(水) 20:48:21.50 ID:RF9ZxTn3o
「……ひょうかって、風斬の事か!?何でまた……」
風斬氷華といえば、あの控えめな感じの女の子だったはずだ。
それがまたどうしてどこかの電撃娘のような自己主張の激しい紫電を放っているのか。
「そんなのはこっちが聞きたいかも!
どういう理屈かは知らないけど、あの『天使』はきっとひょうかなんだよ。
絶対に止めなくちゃいけない現象なんだけど、
とうまのその右手は善悪関係なく消しちゃうから、とうまはひょうかのとこに行かないで!!」
恐らく、インデックスの言っている事は本当の事なのだろう。
ならばインデックスの言う通り、自分は風斬の所には行かない方が良いはずだ。
芳川桔梗が言うには、風斬の異変にはミサカネットワークが関わっているらしい。
つまり、風斬に関しては別行動をしている一方通行に一任するしかないだろう。
更に言えば万が一風斬が暴走でもしてしまっているのであれば、
布束砥信やクマ達がどうにかしてくれるはずだ。
今、上条の『幻想殺し』は風斬には必要が無かった。
だからといって自分は何もしなくていい、なんてことは無い。
まだもう1人、学園都市内に危険な人物が居るのだから。
インデックスの言葉に頷きながら上条は言葉を紡ぐ。
749 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/19(水) 20:49:18.03 ID:RF9ZxTn3o
「分かった、風斬は他の奴らに任せる。
一方通行達もこの件で動いてるから、風斬の事は心配すんな」
「私も手伝う!!」
一方通行も動いている、という言葉に少し安心感を覚えるインデックスだが、
自分も何かしなければならないと言う使命感に駆られているのか、
はたまた友達の危機に居ても立ってもいられないのか、身を乗り出して上条に迫っている。
「風斬が心配なのもわかるんだが、実は問題はそれだけじゃねえんだ……」
「……どういう事かな?」
「魔術師が1人、学園都市内に侵入してる。
恐らくその魔術師も風斬のとこに向かってるから、俺達はそれを止めなきゃならねえ」
「ッ!?どんな魔術を使うのかな!?絶対止めなくちゃ!!」
魔術師が風斬の下に向かっている。その言葉だけでインデックスは奮起した。
時間がない為移動しながらヴェントについて、
上条が持ちうる情報をすべてインデックスに伝える。
「ひょうか以外にも別の魔力を感じていたのはそう言う訳だったんだね……
でも、それだけじゃないかも。棺桶とか、変なのとか……」
棺桶、と聞いて上条は思い切りビクンと肩を揺らした。
今まで隠してきた事に対する核心に迫ってきているインデックスに、何と説明したら良いのか。
幸いインデックスは考え込んでいたからか、上条の動揺には気付かなかったが。
とはいえ、インデックスも既に影時間と関わりを持ってしまっている。
やはり事情は知っておくべきだろう。
750 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/19(水) 20:50:16.29 ID:RF9ZxTn3o
「棺桶とか、変なの……多分シャドウの事を言ってるんだろうけど、それはあれだ。
俺のこの力が関わってる」
神妙な表情を浮かべながら上条は召喚器を取りだした。
それは以前アドリア海にてビアージオ=ブゾーニと敵対した際、
上条がペルソナを出すのに使った拳銃の模型で。
今までひた隠しにしてきた『幻想殺し』消失に関する重要なファクターでもあった。
「詳しい事は後で話す。とりあえず今すべきことは魔術師を……ヴェントの奴を止める事だ」
その言葉に対して、インデックスは上条の目をジッと見つめる。
真っすぐな視線を送ったインデックスに対し、上条も同じく真っすぐに返した。
それを見たインデックスはどうやらその場しのぎと言う訳でも無い、と判断して軽く溜息をつく。
「……絶対だからね」
「おう、絶対だ」
「それなら、それは良いとして……そのヴェントって人の魔術は、『天罰』だと思うんだよ」
「天罰?」
「ある感情を始動キーとしてるの。その感情を抱いた者は距離なんて関係無しに叩き潰す!
だから神様の『天罰』って言うネーミングって事かな!」
インデックスは続けて上条に対して尋ねる。
「とうま、その魔術師と戦った時そう言う素振りを見せたりしなかった?
相手にある特定の感情を抱かせるように誘導する、みたいな感じの!」
尋ねられた事で上条は自身の記憶を隅々まで探っていく。
例えば、必要以上の挑発や嘲笑。例えば、不意討ちなどで反抗心を抱かせるような攻撃。
そして、何より。
初めてまともに反撃しよう、と思った瞬間に意識が飛んだ。
751 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/19(水) 20:51:23.01 ID:RF9ZxTn3o
「……敵意とか……悪意、か?うん、そう言われたらそう表現するのが一番近いな。
多分攻撃しようって言う意志だったり、ヴェントの奴に不快な気分を抱いたり、それが『天罰』の始動キーだと思う!
でももし仮にそうだとして、魔術ってのはそんな事まで出来ちまうのか!?」
「普通は出来ないよ、そんな術!私の頭にある魔道書にだってそんな記述はないかも!
でも、そうとしか言いようが無いんだよ。
本来、『天罰』は文字通り天からの罰であって、人間が扱える代物であるはずが無いかも!
でも、もし仮に……そうだとしたら、私も危ないかも。
今はそのヴェントって人の事は全然知らないけど、実際に会ってみたらどうなるかは分からないもん!」
今、インデックスは『歩く教会』の恩恵を受けていない状態にある。
つまり事前に魔術に関しての予備知識があったとしても、
心のどこかで不快に思ったり敵意を抱いたりすることもあるかもしれない。
だとするとインデックスですらヴェントの魔術の餌食になってしまう恐れがある。
「てことは、ヴェントは俺が何とかするしかないか……」
「ごめんね、とうま……」
申し訳なさそうにするインデックスだが、
インデックスは悪くないし悪いのはヴェントなので気にするなと上条は小さく笑った。
それよりも一つ気になる事がある。上条はそれについて尋ねる事にした。
「気にすんなって、『天罰』って言う魔術について知れただけでも十分だし。
……ところでさっき「ひょうか以外にも魔力を感じる」みたいなこと言ってたけどさ、
逆に風斬も魔術に関わってんのか?」
ミサカネットワークがうんたらと言う時点で科学側に敵が居るのかと思っていたのだが。
しかし、インデックスの方もそれに関してはよくわかっていないらしい。
インデックスは首をかしげながらも自身が感じていた疑問を口にした。
752 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/19(水) 20:52:14.02 ID:RF9ZxTn3o
「私の頭の中にある魔道書と、外観や仕組みはよく似てるんだけど……
そこに使われているパーツは全く見た事が無いの。
絵画か何かで見た感じからしてることは何となくわかるんだけど、
その裏側……文化性や精神性っていう『奥』の所まで踏み込めないかも!」
恐らくは、科学と魔術が複合したような状態にあるのだろう。
故にインデックスは魔術部分が分かっても、
科学部分の知識が無い為にこうして頭を抱えている。
「つまり、科学側の知識に明るい奴が居れば良いってことか……」
上条自身とてもじゃないが成績が優秀とは言えない為、そこで自分がとは言えなかった。
しかし、一方通行が持つ打ち止めの人格データさえ使えれば問題は……。
「あ」
そこで気付く。
もしその人格データが使えなければ?
何せ事は魔術も絡んでいる。科学側の知識だけでは解決できない可能性も高い。
そして、『打ち止め』だ。
「もしかするけどさ、あの『天使』を為す核みたいなもんが、別の場所にあったりする?」
その言葉を聞いて、インデックスは驚いた表情を浮かべる。何故分かったのか、と。
「多分、核になってんのは……いや、させられてんのは、打ち止めだ。
そんで今、打ち止めのとこに一方通行達が向かってる。
何とかしてくれると思ってたんだけど、そこに『魔術』が関わるなら話は別だ」
そこまで聞いて、インデックスも上条が言いたい事は分かった。
753 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/19(水) 20:53:28.96 ID:RF9ZxTn3o
「つまり今からあくせられーたや、らすとおーだーのとこに行ってこいってことかな?」
「そう言う事なんだけど……場所もわかんねーし、シャドウも……
っていうかインデックス、お前どうやってここまで無事にたどり着けたんだ?
シャドウっていう変なのが居たはずなんだけど」
「色んなとこで魔力の流れが乱れてたから、
そこに行ってみたら変なの……とうまの言うしゃどうって奴の事かな。
そのしゃどうから嫌な感じがしてきたから、
同じような魔力の乱れを避けてたからしゃどうには出くわさなかったのかも!」
「……てことはシャドウは大丈夫だけど……打ち止めの場所がなあ……」
「そっちも大丈夫だよ?ひょうかから発せられる魔力と
『天使』を為している核は繋がってるから、それを辿ればらすとおーだーのとこにもたどり着けるかも!」
「何……だと……?」
それなら早速行ってもらわねばなるまい。
ご飯1週間分位には値する仕事をしたのではないか。
冗談交じりに上条が言うと、
「こんなの朝飯前かも!」
随分と頼もしい台詞が返って来たのだった。
754 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/19(水) 20:53:54.80 ID:RF9ZxTn3o
・・・
「ここか……あのクソ野郎が居るって噂のビルはよォ……!」
ギリ、と憎々しげにビルを睨みつけた。
そのビルは少し前に取り潰される事が決定していた為、
周りには工事を行う為の仕切りのようなもので覆われていた。
しかしそんなものは関係ない。一息に八階まで飛び上がれば良いのだから。
「さァて、後はどの部屋に居るかだが……」
気配を殺しながらビルに近づき、その外壁に手を触れる。
後は全力で能力を行使するだけだ。
意識を8階に集中させ、振動からどのあたりに人の動きが見られるか当たりをつける。
しばらくそれを続けたところで、一方通行の口元が大きく歪んだ。
「オッケェクソ野郎ォ……見つけたぜェ……!」
そして軽く足に力を込め、音も無く飛び上がる。
打ち止めが窓際に居なければそのまま窓ガラスをぶちまけてやろう。
どうせこのビルは取り壊されるのだから。
そうして8階に辿り着くと、打ち止めは部屋の奥に居る事が見て取れた。
そして木原は部屋の真ん中で椅子に座って本か何かを読んでいる。
そんな訳で。
755 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/19(水) 20:55:02.97 ID:RF9ZxTn3o
「木ィィ原くゥゥゥンよォォォ!!!」
窓ガラスに蹴りの一つを入れてやると、
容易に砕け散り部屋一面に散らばった。
そして当の木原数多はゆったりと首を回し一方通行の姿を確認すると、
つまらなそうな表情が一変して非常に楽しそうなものへと変貌を遂げた。
「ははは!!やっと来たか一方通行ちゃんよぉ!!ちっとばっか遅ぇんじゃねーのか!?
ガキは見ての通りオネムの時間だぜ!?駄目じゃねえか大声出したら!!」
「そりゃてめーもだろォが!!」
「俺は良いんだよ、悪人だから!そんでテメェは一体何なんだぁ!?
正義の味方気取りでガキ一匹救いに来たんじゃねぇのかよ!!?
全く今更1万人殺した罪を洗い流したいなんて笑わせてくれるよなァ!!?
俺なんかまだ可愛いもんだぜ?ガキ一人昏睡状態にしただけで殺してすらいねぇんだからよ!」
言葉で一方通行の心を折りに来たのか、木原は笑いながら一方通行の過去を抉る。
確かに、後ろめたい気持ちも一方通行にはあるだろう。
しかし、その言葉は、その非難は既に聞いた。
「ンだよ、テメェも第二位の野郎みたいなこと言うのかよ……
悪党ってのはどいつもこいつも漫画の読み過ぎで頭がパーになっちまってンのかァ?」
「あぁ?」
何か思ってたのとリアクションが違う。
木原は訝しげに一方通行を見ると一方通行は非常に冷めた表情を浮かべており、
同じような説教を日に何度も受けたような子供みたいにつまらなそうにしていた。
「特撮のヒーロー物でもあるまいし、
どっちが正義でどっちが悪だとか言い合うのは不毛ってもンだろォが。
打ち止めは助けてェから助けるし、テメェはぶちのめしてェからぶちのめすンだ。
それを正義か悪か、いちいち議論する程俺は暇じゃねェンだ」
だから、と変わらず冷たい瞳を携えたままに一方通行は木原を見据える。
「ここで死ね」
腰に隠していた拳銃を取り出すと迷わず引き鉄を引く。
近くに居たら思わず耳を防ぐほどに大きな銃声と、
程なくして硝煙の臭いが部屋を包み込んだ。
756 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/19(水) 20:56:46.15 ID:RF9ZxTn3o
尾張です。
次回か次々回予告
一方通行「や……やったか……?」
???「ククク……」
一方通行「何…だと…?」
757 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/19(水) 21:05:09.78 ID:wkZvYeOjo
一方さんフラグ建ててんじゃねーよww
758 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/10/19(水) 21:45:16.01 ID:3JZOqLGso
フラグ乙www
759 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/20(木) 05:01:10.86 ID:bt6gcCFK0
>>756
乙
まさかの、死亡フラグwwww
760 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/20(木) 12:20:44.77 ID:ACPUETOvo
さすがは第一位、フラグの立て方も一流だぜ!
761 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/21(金) 10:32:15.60 ID:tacHhgQAO
このSS書き始めて早5ヶ月……SS内では一月半しかたってないのだけれどどゆことー!?
もう少し簡潔にまとめられるよう精進しますのでこれからも生暖かい目で応援してやってくださいと
>>1
は平伏します
762 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/21(金) 13:50:07.97 ID:alNqOJiEo
>>1
応援してるよ
763 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/10/21(金) 15:44:05.17 ID:PgOM3rF3o
ドラゴンボールとかだと一時間ほどの描写に1年くらい余裕だから大丈夫。
スポーツ系の一試合の長さとか・・・ね。
要するに応援してる
764 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/21(金) 19:19:19.81 ID:SDZMjP8IO
五ヶ月も話しが読めた。嬉しい。
まだまだ読める。素晴らしい。
765 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/22(土) 23:35:43.56 ID:tsO+wDcjo
,.'7'::::::::::::::::!:::::`ヽ.
/::::!:::::::::::::::::::!:::::::::::::i
,.!:::::i:::::::o:::::::_」:::_;;:::: ) ( 、
./`.7-i-r‐ r‐ 'i_! !ハ ⌒ ヽ.
i !/!,_,ハ_ハ,.-' -‐'‐ i__! i. ',
! i !.´ __、 ',.-- 、 i i i ! 何か重たいのでテスト
`'7ヽ!.'´ ` "ノ / i イ 等価出来そうならもう少し書いてから透過する
!. ハ" '___ くン 、/'´
ヽ,ヘ.>.. ヾ ..ノ ,.イ/
.`>, -=´_,.!-、
r-、 _,く`' ーrr-'":::::〈ヽ、.__
,,..-ヽ;:`ヽ. ,.イ´::::::>-‐-<-‐'":::::::/ `ヽ.
-‐::::::i::::::::i / !;:::::::! i´ ̄`i i::::::::::::;::! i
_ / ____!___ヽヽ| ヽヽ ── .____|___
`X ____|____ .├--  ̄ ̄i. /| `ヽ |
/ \. | | __ノ / 」 ___ノ でございます
766 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:06:14.50 ID:Z+vgETdzo
軽くなるまで遊んでたらこんな時間だよ!
透過するから!
767 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:07:30.71 ID:Z+vgETdzo
とある第七学区の一角では、オフィス街のように有名企業のビルやらグレードの高いデパートやレストランが立ち並んでいる。
一方通行達が良く利用するファミレスもその中の一つであり、
料理の値段はその周辺の店より安く、かといって味もその分落ちると言う訳ではない為に
給料の良い有名企業の社員であろうとも好んで利用される傾向がある。
学園都市が誇るお嬢様学校・常盤台中学校の『学舎の園』のような高級感を持つエリアもあれば
上条の住む学生寮のような庶民的な雰囲気を持つエリアも存在する第七学区で、この地は前者のエリアであると断言できるだろう。
事実、このエリアでは日中常盤台中学やら霧ヶ丘女学院やらの制服を着た少女達が沢山歩いていたはずだった。
そう、はずだった、のだ。
何故過去形なのか?
言葉にするだけなら簡単だ。
一言で言い表すなら、廃墟。
768 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:08:09.93 ID:Z+vgETdzo
便宜上、事の中心を「爆心地」と表現するなら、
その爆心地から半径100メートル前後の建物が残さず破壊されていた。
破壊されていた、と言ってもその全てを徹底的に叩き潰した訳では無く、
巨人が無造作に腕を振るった後とでも言えば良いだろうか。
中途半端に傾いている建物があれば、5階から上が見当たらないデパートもあるし、
ドミノのように倒れた何棟かのビルも見られる。
被害の度合いで言えば爆心地に近い所から遠く離れる程、
幾分かマシになって行くというもので、半径100メートルと
表現はしたもののそこまではなれると飛ばされてきた破片による被害の方が大きいだろう。
と言ってもそんなものはただの気休めに過ぎない。
確か、影時間では、人々は『棺桶』になっているはずだ。
この光景を見た布束砥信はまずその事を思い返した。
しかし、それが何だと言うのか。
例え今は無事でもいずれ影時間は終わりを迎える。
そうなった時、棺桶と言うシェルターもまた消え去るはずだ。
一体何人の人間を助けられるのか。
桐条美鶴らが言うにはこの状態になったのは午後八時半から午後九時の間らしい。
不幸中の幸いと言うか、ここはオフィス街でその時間だと残っている人間は殆ど居ないだろう。
769 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:08:59.57 ID:Z+vgETdzo
だが、少ないながらも確実に人間は存在していた。
この惨状の中でその数少ない人間の内、何人助けられるのか。
巻き込まれた人間からしたら、
「残業をしていると思ったら建物が倒壊していた。催眠術とか超スピード云々」と言う感じだろうか。
いや、そんな何処か余裕の感じられる思考すらさせてもらえなかったに違いない。
布束は魔術師と言う存在も、それによって学園都市の住人の大半が昏倒させられていると言う事実も知らない。
その為救助は更に遅れる、と言う最悪の事態を想定出来なかったが既に状況は最悪だった。
自身が持つ拳銃等でどうこうできる訳が無い。
(actually、私も召喚器欲しかったわ)
美鶴らは木原数多と関わりを持っていない為に
ペルソナは使えるだろうが召喚器を持たない子供達を助けに行っている。
そちらを優先させるあまりにこちらの戦力が疎かになってしまった。
確かに遠目にしか見えなかった為に力量差は分からなかったが、
ここまで差があるとは思わない。
芳川桔梗の言葉通りなら、
一方通行がどうにかするまでの時間稼ぎが出来れば良いと言うつもりだったのだが。
「well、結標さんは瓦礫の中に棺桶が埋まってないか探してもらえない?
大変な作業になると思うけど、一般人が巻き込まれるのは流石に心苦しいから」
「……了解、確かにこれじゃあ棺桶から抜け出した時どうなるかわかったもんじゃないし……」
770 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:09:36.40 ID:Z+vgETdzo
布束の頼みを聞いて、結標は手近の崩れた建物へと向かって行く。
この広さを1人で探せと言うのは焼け石に水だが、ないよりかはマシだろう。
それに、もし戦闘になるのだとしたらペルソナ使いでは無い結標を巻きことなど出来ない。
戦力半減だがそうも言ってられないだろう。
「砥信ちゃん、砥信ちゃん、ちょっと良いクマ?」
「ん?」
こっちが覚悟決めてる時になんですか。
ジロリと視線をクマへと運ぶと、呑気にこう言い放った。
「本当にアレが悪いか様子見しないクマ?」
「anyhow、状況証拠は十二分に揃ってると思うんだけど?」
「いや、でも今は力出せないしショージキ怖いクマ」
「やっぱそれか!私も怖いわそんなもん!」
クマに盛大な突っ込みを入れると、続いて布束は春上の方を見やる。
突然振り向かれた為春上もビクリと肩を揺らした。
771 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:10:04.32 ID:Z+vgETdzo
「but、あなた一人に戦わせる訳にはいかないから、召喚器頂戴な」
「え、でも……」
「あなたの事は、ちゃんと護ってくれるわ。そうでしょ?」
「も、もしかして……ク、クマがですかクマ……?」
「身を呈して護ってくれるでしょ?」
イエスかはいか、首を縦に振る事でしかこの威圧感から逃れられまい。
そう感じたクマはぶんぶんと首を縦に振りながら、
「はいクマ!」
高らかに良い返事を返した。
必死に首を振るクマを見た布束は満足そうに頷きつつ、
クマと春上に結標の下へ行くよう指示をだすのだった。
その言葉に従ってクマ達は結標の向かった方向へと駆けだす。
それを見送った布束は光の翼の下の……『天使』を見据え、自身も足をそちらへと運び始めた。
「well、全く勝てる気しないけど何とか頑張らないとね」
『天使』は後ろを向いたままこちらには気付かずに居る。
後ろから不意をついても良いのだが、どうしようか。
今まで使っていた拳銃を腰に差すと、春上に受け取った召喚器を指で
クルクルと回しながら散歩するような気軽さで『天使』の下へと歩いて行くのだった。
772 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:11:07.46 ID:Z+vgETdzo
・・・
「何だあれ、アヘ顔晒して恥ずかしい奴だなぁオイ」
麦野沈利は目の前に見える「それ」に対して突っ込みを入れた。
あまりにあんまりな表現に女性陣はげんなりとした表情を浮かべ、
コロマルや天田乾は意味が分かってないようで困惑したまま『天使』の表情を見る。
頭を垂れ、だらしなく開かれた口からは舌と唾液がポタポタと落ち、
更には雨によって涎と混じり合った液体が胸元をぬらす。
普通の人間だったなら、無造作に涎を垂れ流す事など寝てる時位にしかしないし、
雨に濡られたら顔を拭く位はするだろう。
しかし、そんな気配を見せない……と言うよりは、「無駄な動きをしない」と言った方が正しいだろうか。
頭の上で浮いている天使の輪のようなものはガチャガチャとせわしなく動き続け、
その輪の動きで『天使』が動いているようにも見えた。
(あの天使……のような人?は、多分……)
『感知』に特化した山岸風香がこうして間近で見たからこそわかった事。
まず一つ、その力は本物であると言う事。
次に、頭の上の輪に力が収束し、続いて下の女性の姿をした者に
その力を送りこむことで無理矢理操っている、と言う事。
危険だ、と山岸は直感的に察する。
そしてその虚ろな瞳が、山岸達を見据えると、ギチギチと嫌な音を立てながら右腕を向けて来た。
773 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:12:06.06 ID:Z+vgETdzo
「お?ヤンのかコラ」
何処のヤンキーだ、と言った態度で麦野は
『天使』の行動に対する威圧をするのだが、そんなもの効くはずが無い。
普段の風斬氷華だったならまだしも。
お返しだ、と言わんばかりにかざした掌から強烈な紫電が放たれた。
「まずはお手並み拝見ってかぁ!!?」
紫電に対して、『原子崩し』にて対抗する。
その力は拮抗しており、しばらくの間鍔迫り合いのようにぶつかり合うと、
パァン!と甲高い音を立てながらはじけあった。
それを見た麦野は楽しそうに笑う。
「ハッハァ!!イイね、アンタも中々どうして強いらしい!!」
しかし、当の天使の様子が何かおかしい。
無理矢理挙げた腕を降ろそうとしているように見えるが、それを輪がさせまいとグルグル回る。
そしてその力の矛先は、自身の関節部の悲鳴に現れた。
バキィ!!と音を立てて肘が圧し折れたのだ。しかし、それでも天使は腕を降ろそうとする。
「あァ?何だよ、アイツ……?」
その様子に拍子抜けになる麦野だが、山岸はその光景に驚愕した。
774 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:13:10.43 ID:Z+vgETdzo
(やっぱり……下の子は無理矢理操られてる……!!原因は頭の輪……
でも、どうすれば……!)
風斬はAIM拡散力場の塊である。
言うなれば力の塊を頭の輪が制御している状態なのだが、それを壊せば一体どうなるのか。
単純に拘束から解放されるとは思えないのだが、そんな事は山岸は存ぜぬ事である。
無理矢理動かされている風斬は、やはり無理矢理力を発せられた。
しかし今度の紫電を防いだのは麦野の原子崩しでは無く。
「incidentally、あなた達は味方でいいのよね?て言うかアイテム居るし何の集まり?」
布束のアトロポスが生み出した風が瓦礫を飛ばし、それを壁としたのだ。
山岸達は桐条美鶴から連絡を受けていた為、
自分達以外にペルソナを使える人間に対する驚きは少ない。
ただ、布束1人しか居ない事に違和感を覚えたのだが。
「そうですね、あなたは1人でここまで……?」
「今は1人だけどね。but、他に3人瓦礫に誰か居ないか探してもらってるわ」
well、焼け石に水かもしれないけど。
と、特徴的な語頭を扱う少女は周囲の荒れ果てた光景を見て自嘲するように笑った。
それを見た麦野はキョロキョロと周りを見渡した後に山岸らを見ると、
「アンタらもこの惨状に巻き込まれたかもしれねぇ奴らを探してこいよ」
「しかし……」
確かにそれもしたいが、そもそもここで天使の暴走を止められねば何にもならない。
そんな考えも相まって動けなかったのだが、麦野はそんなもん放っておけばイイと言う。
どういう事だとアイギスは首を傾げるものの、事もなげに言い放った。
775 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:14:13.02 ID:Z+vgETdzo
「だってあれ、無理矢理動かされてんじゃん。それを寄ってたかってってイジメですか?
イジメ、ダメ、ゼッタイって標語しらないの?」
確かに、抵抗している。
こうして話が出来ているのも風斬が動くまいと抵抗しているからなのか、
全身から聞いていて嫌な音が鳴り続けていた。
だがその抵抗もいつまで持つかわからない為、決断を迫られる。
「あー、何だ。私に構わず行け!とかカッケー事言われんの期待してるならそんな期待はドブに捨てちまえよ。
私は操られてるとは言え私の力ぶつけても原型とどめられる奴を相手に出来るのがありがたいだけだし。
むしろアンタらはここに居られると邪魔なのよ。あ、絹旗もだからな。馬鹿力を瓦礫撤去で発揮しろよ」
適材適所だ。そう言い残した麦野はこれ以上話す事は無いと言わんばかりに天使を見据えた。
短い付き合いだが、麦野沈利という人物は自分の我儘は絶対通す、
と言ったお嬢様気質だと理解していた為、山岸達は溜息をつきながらその場を離れて行く。
「……無理そうだったらさっさと助けを超呼ぶ事ですね。文字通り超すっ飛んできますから」
「誰にモノ言ってんのよ。私は第四位だぞ」
「そーでしたね。流石ですぅ」
その口調にイラッとした麦野は絹旗最愛を原子崩しで追い払うと、ようやく布束の方を振り向いた。
776 :
>>774の一番最後の部分の主語は麦のんです
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:16:16.88 ID:Z+vgETdzo
「久しぶりね。まさか生きてるとは思わなかったけど」
「indeed、まさかこうやって外を駆けまわれるとは思わなかったけど、お陰さまで」
アイテムと布束砥信は少なからず因縁がある。
かつて絶対能力進化実験にてそれの妨害及び崩壊を狙って
画策していた布束を抑えたのがアイテムの面子なのだが、布束のその後を麦野は知らない。
それ故に2人きりになって話を聞きたくなった。
何故、ペルソナを扱えるのか。
別の場で会っていたのなら、「あー生きてたんだ」で済んでいたのだが。
「well、聞きたい事もあるかもしれないけど、とりあえずこれを何とかしましょうか」
「そうだな……って対策があんの?」
「対策というか……第一位が動いてるわ」
「な〜る。そりゃ安泰だ」
操られようと操られまいと、向かってくるのだから迎撃するのは仕方ない。
のんびりした会話を交わしながら、風斬の抵抗とは裏腹に放たれる攻撃をのんびりとかわす。
戦意を見られない攻撃を回避する事など容易い。
さっさと時間稼いで終わりだ。
そんな矛盾をはらんだ思考と共に、2人は操り人形に立ち向かうのだった。
777 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:16:55.47 ID:Z+vgETdzo
・・・
「オイ、何だよそれはよォ」
「あん?テメェこの『影時間』で行動出来る条件分かってねぇのか?」
一方通行は焦った様子も無く木原数多に問う。
恐らく最早通じないであろう拳銃を腰に戻しながら。
対して木原は一方通行の問いに対して嘲るように聞き返した。
影時間で行動出来る条件。
そして目の前の光景。
「お前も、ペルソナ使えンのかよ……」
「むしろ使えねえっていつ言ったよ?」
確かに言われてないけど。
何か納得いかない。そんな不満げな目で木原を睨みつけるが、全く気にした様子では無い。
「まー色々あってよぉ。使えねーよか使える方が実験もはかどるし便利っちゃ便利だぜ?
つーかその可能性を考慮しなかったお前が悪ィよ、ここは」
「違いねェな」
怪我は無いかと言えばウソである。
木原はこめかみあたりから血を流しているが、致命傷とは行かないだろう。
確かに一方通行は木原の額めがけて銃弾を放った。
銃の扱いは慣れていないが、その辺は能力で補正をした。
しかしその補正は飽くまでも狙いを定める為だけにしか使っていなかった。
故にペルソナでガードされたのだろう。
しかしペルソナのダメージは使い手に還るからこその怪我。
778 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:17:30.23 ID:Z+vgETdzo
死ぬよりかはよっぽどマシではある。
「安心したぜ、一方通行よぉ!うちのクソ共を殺さなかったりそこのクソガキ助けるっつったり、
てっきりどっかの抜刀斎みてぇに不殺を貫くとかしだすと勘違いしちまったじゃねぇの」
「馬ァ鹿。こっちは効率重視だっつゥの。あそこで殺して何になるンだってンだ。
まあお前はどォなるかわかンねェけどな」
「言ってろよ。テメェはボコッてそこの窓からポイだから」
「遺言はそれだけですかァ?」
「そりゃこっちのセリフだっつーの!!ペルソナァ!!」
木原はこめかみに召喚器を突きつけ、再びペルソナを召喚する。
しかしペルソナ使いの弱点と言うか、隙が出来るタイミングを一方通行は熟知している。
その隙はペルソナを召喚したまさにその瞬間なのだが。
「馬鹿なのかよテメェは!?」
そんな事は木原も分かっているらしい。
まるで図ったかのようなタイミングでカウンターが返って来た。
それをマトリックスのように仰け反って回避するとそのままバク転の要領でサマーソルト。
しかしその足の矛先は。
バックステップでその足を避けると、木原の顔には少しばかり冷汗が浮かんでいた。
ベクトル操作が出来る一方通行の渾身の蹴りだ。まともに股間で受ければただでは済むまい。
779 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:18:10.95 ID:Z+vgETdzo
「うお!?テメェ下の木原さん狙うとか流石にふざけんなよ!?」
「どォせ研究ばっかで使う機会ねェンだろォが!!」
「馬鹿野郎テメェこそ実験付けで学園都市第一位のチェリーだろうが!!
こちとらまだまだ現役だっつーの!!」
「ボク大事な人にささげるって決めてるンですゥ。あなたとは違うンですゥ」
「キメェキメェキモすぎるぜ第一位さんよぉ!!
生存本能として女とヤらねェのは男として間違ってる!!」
「……なンつゥか、止めよォぜ」
「……そうだな」
中年と青年の男が閉所で幼女が眠る中下ネタの応酬。
不毛を通りすぎて不気味だった。
殺気ぶつかり合う闘争の場が一転して、変な空気に。
そんな緩んだ空気の中、木原は話を変える為か一つ気になる事を尋ねる。
「つーか一方通行よォ、さっき会った時『インデックス』っつってなかったか?」
「あぁ?ニーソックスと聞き違えたンじゃねェの?」
「……せっかく人が話題変えよーってんのに何考えてんだテメェはよ」
「うるせェ、こっちにも事情があるンだよ」
「おーけーおーけー。それだけで十分だ」
780 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:19:06.09 ID:Z+vgETdzo
一方通行は魔術と関わりを持っている。
それもイギリス清教が誇る一〇三〇〇〇冊の魔道書を頭に収めた、
対魔術の鬼札とも呼べる存在と。
その一〇三〇〇〇冊の中身も非常に気になる所だが、
それ以上に『一方通行の能力と魔術の相性』が非常に気になる。
何せペルソナやシャドウの攻撃にも対応してきているのだから。
魔術の成り立ちは超能力とはまた違った過程(プロセス)を描く。
故に『燃焼』と言う現象一つとっても普通に反射しようとすると、
見えない力とでも言えば良いのだろうか、反射を貫いてダメージを与えるはずだ。
そのダメージこそが通常の現象とは違う部分。
その差異を調べてみたいとは思うものの、如何せん魔術師(モルモット)が居ない。
前から思っていた事なのだが、一方通行の能力は本当に『ベクトル操作』なのか。
傍目から見る限りではそのように表現して差し支えないものとなって入るのだが。
実験をしているとたまに見つけるイレギュラー。
飽くまでも誤差の範囲内でごくごく僅かの数量なのだが、
科学では説明できないそれが一体何なのか考え続けていた。
ここ最近それに大きく近づけるヒントをいくつか得られた。
『ペルソナ』と『シャドウ』、それに『魔術』だ。
はっきり言って、こんな所で眠りこけてるクソガキと起きて騒いでるクソガキの相手をする暇など無い。
「ガキの世話は保育士にでも任せとけってんだ」
「あァ?何言ってンですかァ?」
どうやら愚痴での呟きらしかったのだが、如何せん場は静まり返っていたせいで聞かれたらしい。
「うるせぇ、こっちの話だよクソガキィ!!」
話の内容に関わらず独り言を聞かれた時の恥ずかしさは異常。
木原は照れ隠しするかのように一方通行に殴りかかるのだった。
781 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:21:08.07 ID:Z+vgETdzo
・・・
「成程ね……影時間とシャドウ……そりゃ大変だわ。
まあ何にせよ私はここで妹達を護れば良いって事よね?」
「その通りです。と、ミサカは肯定します」
事情をようやく把握する事が出来た御坂美琴は、情報を整理すべく頭を抱えた。
やはり想像をはるかに超える事態だったのだろう。
とはいえ相手は学園都市で、いずれはこんな事になるはずだと頭を落ちつけた。
そして御坂を中心にしてその周辺は何か焦げたような跡……
電熱によるものだろうか、それでも御坂の背後にある病院車と妹達は傷つけまいとする意志が見え隠れする戦闘跡が見られた。
「おっけーおっけー。
言われなくてもそうするつもりだったけど、現状把握出来て正直助かったわ」
「お姉さま、大丈夫ですか?と、ミサカは確認を取ります」
「ん?何が?」
「いえ、正直ミサカでは足手まといにしかならないと思うのですが……」
「大丈夫よ、あんたらは私が護る。
超能力者なんて言って、その力をろくに振るう機会も無かったけど、
こうして皆を護る為に使えるなら血反吐を吐いて超能力者になった甲斐があるってもんよ。
まあ、それで妹達の半分を殺しちゃったんだから良かったのかどうか微妙だけど……」
正直、憎んでるでしょ?
そんな意図が見え隠れするような自嘲気味の笑みを浮かべる御坂。
そんな訳ない。
本当に憎んでいるなら、妹達がこうしてただ倒れ伏しているだけのはずが無い。
結果的には何かを為す力が足りなかった結果なのだが、
それでも御坂を信頼し、頼ったからこそこうして思考放棄して倒れ伏していたのだから。
「そんな事はありません!ミサカ達はお姉さまに感謝こそすれ憎む何て……」
「あはは、そうやって言葉にしてくれるとやっぱり嬉しいわね!」
カラカラと快活に笑うと、御坂は自身の背後に現れたシャドウに向けて強烈な電撃を放った。
「それじゃお姉さんとして、良いとこみせないとね!!」
元気百倍。
精神論など信じていない御坂であるが、今の精神を表現するならこれが一番近いだろう。
世界で一番妹の多い姉として、御坂は電撃を放ち続けるのだった。
782 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/23(日) 04:22:10.51 ID:Z+vgETdzo
尾張です。木原くン、ペルソナ使えるってよ!まるでペルソナ使いのバーゲンセールだな!
そんな事より、木原くンのペルソナの名前まだ考えてないです。何か無い?
783 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/23(日) 06:17:34.79 ID:Z+vgETdzo
NGシーン
「well、全く勝てる気しないけど何とか頑張らないとね」
『天使』は後ろを向いたままこちらには気付かずに居る。
後ろから不意をついても良いのだが、どうしようか。
春上に受け取った召喚器を拳銃のつもりで腰に差すと、
実弾入りの拳銃を召喚器のつもりでクルクルと回しながら、
散歩するような気軽さで『天使』の下へと歩いて行くのだった。
・・・
「あれ?なんだか攻撃しようとしてるわね」
雨と紫電の翼によって天使から先が見えない。
しかし天使の右腕に紫電が収束し、放たれようとしている。
と言う事はその先に誰かいるのだろう。
「well、とりあえず邪魔しておきましょうか」
先程まで手で弄んでいた拳銃を頭に突きつけると。
「アトロポス」
パァン!と甲高い音が鳴り響き、布束砥信の意識はそこで途絶えた。
正直すまんかった……失敗した失敗した失敗した
784 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/23(日) 06:33:57.06 ID:MRlFZezG0
>>1
乙
ヤタカラス? 火やプラズマに強すぎか…
785 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/23(日) 09:46:58.45 ID:1o+bKIpDO
乙!
俺も最後の布束さん考えてたからNGシーンってきたときまさかと思ったらそのまさかだったwwwww
786 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/24(月) 01:05:30.30 ID:3FQc/2N60
>>1
乙
木原くンのペルソナか……悪魔っぽいな
ベルフェゴール(発明と発見をもたらす、人間嫌い)とか
コロンゾン(邪悪な意識の集合体)とか?
787 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:01:46.53 ID:6/gzPk47o
今日で終わると思ったけど、終わらなかった。
でもほぼ尾張まで持って行ったのでちょっとだけ長いです透過します
788 :
後ペルソナ名の案出してくれてありがとな!ベルフェゴール辺り使うかもわからん
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:02:56.26 ID:6/gzPk47o
科学が、憎い。
弟を守れなかった、弟を殺した、科学が。
自分だけを助けた、自分だけを生かした、科学が。
殺しても、殺しても、まだ足りない程に、憎い。
とはいえ、科学による恩恵は計り知れないものがある。
事実自分もその技術に頼る事がしばしばあった。
頭では理解出来る。
科学も完璧では無い、と。
しかし、心では理解できなかった。
それも当然だろう。
何せ弟が『事故』で亡くなった時、ヴェントも弟もまだ子供だったのだから。
そんな簡単に受け入れられるものではない。
子供の頃に受けたトラウマとは、そういうものだ。
血にまみれて弱弱しく手を握る男の子と、それを握り返す女の子。
―――おねえちゃんを、たすけてください。
弱弱しく握られたその手からは、確かな力を感じられ。
弱弱しく微笑んだその顔からは、確かな意思が感じられた。
多分、自分何かよりもずっと強い子に育ったはずだ。
私が死んでいれば。私が弟の代わりに生きなければ。
科学は憎い。
弟を救えなかったから。
神様は憎い。
弟を救わなかったから。
そして何より。
弟も救えない無力な自分が、憎い。
789 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:03:22.81 ID:6/gzPk47o
・・・
「……?」
目を覚ますと、目の前にはアスファルト。
嫌な事を夢見ていた。
と言うか知らない間に気絶していたらしい。
こうして再び目を覚ませたのは奇跡だろうか。
何にせよ、状況は全く変わっていない。
棺桶がいっぱいあるし、体もどこか重圧をかけられているように重い。
そして。
「まだ居んのかよ……もうあのクソ似非天使も目前だってのによぉ……」
何分意識を失っていただろうか。
しかしその甲斐あって少しだけ動ける程度の体力が戻って来た。
それで十二分だ。
邪魔する者は、異形だろうと潰す。
前方のヴェントに後退の二文字は無い。
「ま、もう目と鼻の先だ。とっとと潰して、潰しつくしてやる」
すると目と鼻の先にあった光の翼が激しく揺らいだ。
どうやら何か動きがあったらしい。
誰かが対峙しているのか、はたまた別の攻撃でも来るのか。
目の前のシャドウと、その後方に見える光の翼。
正直前者は無視しても問題無い気はするが。
790 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:04:01.42 ID:6/gzPk47o
「やっぱ逃げるのはムカつく」
魔術使うと体力削られるからあまり使いたくは無いが、生来の負けず嫌いが災いした。
こればっかりはどうしようもないのだが、ヴェントがハンマーを振るうまさにその瞬間。
「オケアノス、マハブフーラだ!!」
背後から聞こえた、聞き覚えのある声が、目の前の異形共を駆逐した。
思わず振り返ると、やっぱり気にくわないツンツン頭の少年が拳銃を頭に突きつけていた。
「何?アンタ私を助けて恩でも売るつもり?」
「違うっつうの。お前風斬の下に行く気だろ?悪いが、邪魔させて貰うぜ」
「風斬?……ああ、あの似非天使か」
何の事だと一瞬思ったが、会話の内容と状況からして十中八九人工天使のことなのだろう。
その天使はビルをはさんだ先に翼だけ見えている。
本来そこは回り道をしなければ天使の居る通りにはでられないのだが、
ヴェントは文字通り真っすぐ進めば良いと考えているので、
天使までもう目と鼻の先と言っても差支えないだろう。
ここで上条の言う事など無視してさっさと向かっても良いのだが。
「ま、誘われてそれを断る程朴念仁でも無いけどネ」
シャドウに向けようとしていたハンマーを方向転換。
上条へと矛先を変え、ニヤリと笑う。
その笑みは上条に対して軽くトラウマを植え付けたものだが、上条はもう恐れない。
791 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:05:25.66 ID:6/gzPk47o
「いっくぜえええええ!!」
駆ける上条。
それを迎撃すべくヴェントは苦々しい表情を浮かべながらハンマーを振るう。
上条はそれを右手で防ぎながらも左手では召喚器をこめかみに突きつけている。
少し前に上条と対峙していたヴェントはそれを見て直感的に回避行動に移った。
「クロノスッ!!」
「チッ!!」
クロノスによる強烈な一撃をヴェントは何とか回避すると、
体勢を崩した状態で再びハンマーを振るう。
上条のオケアノスによるブフーラ。ヴェントの魔術による暴風。
それらを互いに回避し、打ち消し、はじき返して。
しばらくの間はRPGのように攻守を交代させながら目まぐるしく攻撃の撃ち合いをしていた。
一見、拮抗しているように見える。
しかしどういった理由かは分からないがこの場では魔術を使う事で
体が蝕まれて行く為に、戦況は徐々に上条が圧して行くこととなった。
そんな中、上条の動きを止める為かヴェントは足を止めハンマーを降ろす。
それを見た上条は怪訝そうな表情を浮かべながらも召喚器を降ろすと、
背後のオケアノスは姿を消した。
「どうしたってんだよ?」
話し合いで解決できるなどと最初から思っていなかった上条は
心の底から意外そうな顔をするので、ヴェントはちょっとだけイラッとしながら口を開く。
「アンタのその力、一体なんなワケ?
魔術なはず無いし、かといって科学による産物とも思えないんだけど?
どちらかと言えば最近そこらでよく見るバケモノと似たようなモノを感じるし。
学園都市は、一体何を考えてる?」
一度聞いてはいたもののその時はフィアンマとの会話をすっかり忘れていた為に、上条の反応など覚えていなかった。
故にもう一度問うてみる。
792 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:06:05.44 ID:6/gzPk47o
上条以外にもその力を振るう存在が居るのならば、少し面倒だ。
未知の力はそれだけで武器になる。
分からない、知らないという恐怖はどんな人間にも存在するからだ。
それ故に知る必要がある。
とは言え素直に答えてもらえる、などと言う甘い考えは存在しない。
ヴェントは上条の答えよりも上条の反応に注視していた。
恐らく、上条はバケモノについて知っている。
故にこの問いかけならば何らかの反応を返すはずだ。
そうして返って来た上条の答えは。
「答えて学園都市から出てくってなら教えてもいーけど?
教えるのは学園都市のゲートでな」
少し考え込む素振りを見せた後に、ものっそい嫌な笑顔で答えた。
イライラッ。
帰ってから調べよう。
そう決心したヴェントは無言でハンマーを振るった。
793 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:07:07.82 ID:6/gzPk47o
・・・
「ハハハァ!!どーしたよ一方通行ァ!!!
まさか初撃の不意打ちでカタがつくとでも思ってたってのかァ!?
だとしたら甘甘だぜぇ!?」
戦況は木原数多が良いように操作していた。
召喚器をこめかみに突きつけたからと言って必ずしもペルソナを召喚する訳ではない。
そうしたフェイントを混ぜるだけで一方通行の動きを容易に予測できる状態にもちこんだのだ。
ただでさえペルソナを使われなくても木原には良いようにやられていた一方通行。
そこでイレギュラーとして普通の拳銃を用いたわけだが、
それは飽くまでも木原が一方通行は武器を使わない、
という前提で行動している場合のみに効果が表れるものであって。
初撃で決まらなかった今、
木原は一方通行が拳銃を使うと言うパターンも頭に入れているはずだ。
故に木原もペルソナを使うことで一方通行の動きを抑制した。
これによって一方通行の攻撃パターンをより予測しやすい状況にもって行ったのだ。
しかし、ここはビルの8階。
一方通行がその気になればこのビルを畳むことだって出来るし、
そうなった場合一番危険なのは木原自身である。
だからこそ。
「チッ……そこを……!どきやがれェエェエェェ!!!」
「だぁれがどくかこの真っ白ヤロォォォ!!!」
木原は背後に居る最終信号を奪取されることを阻止し続けるのだ。
いつまで最終信号を使ってこの空間を作り出すのかは知らないが、
任務が終わりを迎えれば最終信号を返すのもやぶさかではないし、
一方通行の相手など適当に部下に任せて(何秒もつか分かったものではないが)切り上げても良い。
794 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:08:41.95 ID:6/gzPk47o
逆に一方通行だけなら潰したって一向に構わないのだが、
色々と興味が湧いてきている今、一方通行(モルモット)を捨てるなどと言う選択肢はありえない。
とりあえず、これからもマヨナカテレビの中を好きに探索でも何でもしていれば良いとも思っている。
そんな中で一方通行は現状を打破すべくあれこれと考えながら動いていたのだが、
やはり木原を突破して打ち止めを保護するしかなさそうだ、という結論に達していた。
(学習装置は思いっきり簡略化されたヤツを使ってるみてェだから、
打ち止めを動かすことには問題はねェはずだ)
しかし、部品を最小限に抑えた簡単な学習装置となると、その性能も最小限に過ぎないだろう。
問題は、奪取した後の人格の入力(インストール)に関してだ。
この簡略化された装置を使っても大丈夫なのか。
かといって専門の機器はこの空間内では使えない。
ならばすぐに治療が出来る場所で人格データを使い影時間を終わらせ、そして治療に取り掛かる。
恐らく、それが最善だと思われるのだが。
「テメェは何処まで行っても俺の邪魔するンだよなァ……木原くンよォ……
ストーカーか何かですかァ?」
「ハッ!そりゃテメーの方だろうが!!
そんなにこのガキが大事なら誰にも入れないよう大事に大事に幽閉でもしたらどうだ?」
「ハァ?逆だろそれは!テメェら暗部のクソ共は暗部らしく暗い路地裏ン中だけで縮こまって生きてろっつゥの!!
わざわざ表に出てきて無関係のガキ攫ってンじゃねェよ!!!」
一方通行が許せないのはまさにこれに尽きる。
何故わざわざ無関係の人間を巻き込むのか。
別に悪事が許せないだとかそんな話では無い。
795 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:09:57.92 ID:6/gzPk47o
ただただ、気に喰わない。
だからこそ、木原の思惑は全部ぶち壊しにしてやりたい。
しかし、それを為す力がなかった。
(―――力ってなンだ?)
(今までちっとばっかし鍛えてきたこの拳か?)
ア ク セ ラ レータ
(それとも、自分の身を守るしか能のねェ役立たずの盾か?)
(もしくは、『才』を望んだ非才の人間が生み出したとっつゥ、魔術か?)
(それか、心の中を心のままに発揮する、ペルソナの事か……?)
(イヤ、違ェ。それだけじゃ足りねェ……)
こうして考えている間にも木原から拳が飛んでくるのだが、
それをかろうじて避けながらも思考を続けた。
(……風斬)
チラリ、と自身の背後に見える力の奔流……風斬氷華と思しき紫電の翼を見やる。
戦闘中だと言うのに呑気にも「ゆらゆら揺れてて綺麗だなァ」とかなんとか思ってしまい、
それが決定的な隙となり、一方通行は木原に殴り飛ばされてしまった。
ゴロゴロと床を転がり、窓の手前でその動きを止める。
それと同時に、応急処置を施した胸元からは血があふれだす。
やはり応急処置は応急処置に過ぎず、
ちゃんとした治療もせずに動きまわればそうなるのは必然だろう。
しかし殴られた事など、胸元から血が噴き出すなど、
そんな事は些事だと言わんばかりに一方通行はユラリと立ち上がった。
「……お前……殴られといて何だよ、その面はよォ……!」
一方通行のその動きを見て、何かに気圧されたかのように木原は一歩後ろに下がる。
その間にも一方通行は思考を加速させることで、何かを得ようとしていた。
796 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:11:10.85 ID:6/gzPk47o
(AIM拡散力場……魔術……そ、して……ペ、、ル、ソ、、、ナ、…、…)
―――カチリ。
何かを理解した。
全ての歯車が、噛み合った。
それと同時に、何かがキレた。
「き、は、、らァ……」
絶え絶えに、敵の名前を、目標の名前を、告げる。
「木ィィィ原ァァァァァァァァ!!!」
瞬間、背中から黒い翼が吹き荒れた。
生えている、と言うより絶え間なく噴き出している。
全てを塗りつぶし、覆い尽くすような黒い翼。
見た者全てが『死』を連想してしまうような、そんな暗闇を翼で表現したかのような。
それを目の当たりにした木原すら、一瞬で絶望に追いやられてしまう程の『力』。
しかし、一方通行に動きは見られない。
797 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:12:20.62 ID:6/gzPk47o
あまりに大きすぎる『力』だからだろうか。
それを振るう事で打ち止めに害が行く可能性があるからか、
未だにそれを木原に向けて振るう事が無い。
その隙を利用して木原は目の前の現象に関して考察する。
(一方通行の野郎……『自分だけの現実』に何の数値を入力しやがった……!?
……って、あるじゃねぇか!『新たな力』として、おあつらえ向きの奴が!!)
ヒューズ=カザキリ。
既存の法則に加え、魔術の要素をも兼ね備えたそれはまさにうってつけの『参考書』と言ったところか。
と言っても飽くまでそれは木原の予想に過ぎないのだが、状況証拠が揃いすぎている。
『一方通行(アクセラレータ)』と言う力は魔術にすら対応出来る、つまりはそう言う事なのだろう。
しかし、未だに攻撃する気配を見せないと言う事は。
「んだよそりゃあ!!?
力持て余してガキごと潰すのが怖ェからって使わなきゃ宝の持ち腐れってモンだろが!!!」
「く、そ、が……!」
ほんの少し残された理性。
それが翼を振るう事を留めていた。
これで木原と一方通行の立ち位置が逆であれば喜んでその力を解放した事だろう。
しかしそんな仮定は無意味であり、そんな仮定は無駄であった。
て言うか立ち位置逆なら打ち止め奪還してビル叩き潰してただろうし。
とは言え今の一方通行に突っ込む程木原も命知らずでは無い。
普通に攻撃してしまえばカタはつくだろうが、問題は黒い翼だ。
暴発でもしたら間違いなくとんでも無い事になるだろう。
さてどうしたものか。
キリが無いと言えばキリが無いが、
何か変化が欲しいところだ、と木原は呑気に考えるのであった。
798 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:13:43.64 ID:6/gzPk47o
・・・
「わぁお、見て見て!こいつ多分瓦礫に埋もれてる連中も守ろうとしてる!」
麦野沈利は天使の行動を楽しそうに眺めている。紫電が麦野を襲ってるのに。
しかしそれは布束砥信のペルソナ『アトロポス』に防がれた。
と言うか、麦野は攻撃ばかり放って防御は全て布束に任せている。
(indeed、効率は良いかもしれないけれど……)
いくらなんでも酷使しすぎである。
いっそのこと麦野を守るのを止めてしまおうかと思うが、
それをやって間違って麦野が生き残れば間違いなく自分の命は無い。
いや、その可能性は高いはずだ。
何せ麦野と布束だけでなく、辺り一面に光の粉がばら撒かれているからだ。
良くわからないが、これは目の前の天使の庇護とでもいいのだろうか。
この光の粉は、自分達を護ってくれている。
事実体が軽い。気がする。
恐らく、命令に逆らっての行動なのだろう。
天使の輪はグルグルと回り続け風斬氷華の動きを抑制しているように見えるが、それに何とか耐えているのだろう。
体が悲鳴を上げようとも、何かを強制されようとも。
人間を護る事を止めない。
それでも周囲にばら撒かれる紫電は麦野が相殺させ、
それでも麦野に向かってくる攻撃は布束が防ぐ。
それが駄目でも風斬が生み出した光輝く鱗粉は人間を護り続ける。
後は打ち止めを救出するだけだ。それで全て終わる。
出来レースのような戦闘は、佳境を迎えていた。
799 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:14:35.44 ID:6/gzPk47o
・・・
「ここの8階ですよね?と、ミサカは再度確認します」
「その通りよ。と、芳川は縄を固定しながら長さを調節します」
「オイコラ真似すんなや」
「ハイハイそーですね」
グイグイと縄を手摺に縛り縄がしっかりと縛られている事を確認すると、芳川桔梗は9982号に縄を投げ渡した。
「それじゃ、行ってきま〜。と、ミサカは飛び降ります」
9982号はターザンジャンプのようにあ〜ああ〜と雄叫びを上げながらビルの頂上から飛び降りるのだった。
800 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:15:22.04 ID:6/gzPk47o
・・・
「……オイ、何だこの状況は?」
木原数多は目の前の間抜けな状況にすっかり毒気を抜かれてしまった。
「お見苦しい所を見せました。と、ミサカは一方通行の頭をはたきながら覚醒を促します」
「あ、あァ……?」
一体何が起きたのか?
時は数十秒戻る。
木原と一方通行の睨みあいが続く中、
突如一方通行の背後から9982号が飛び込んできたのだ。
本来一方通行に飛びこむなどしたら反射されて8階から落ちるだけだろう。
しかし、止血に演算領域を割いていたのかは不明だが、
反射は効かず一方通行をうつ伏せに押し倒す形になったのだ。
これによって一方通行の意識は完全に遮断され、同時に黒い翼も消え去った。
9982号はその翼を一瞬しか見ていない為、
「ん?何か一方通行の背中おかしくなかった?」程度にしか思っていないだろう。
何にせよ、一瞬も気を抜けない状況が、気を抜くしかない状況へと成り下がったのだった。
そしてしばらくして縄から降りて来る芳川桔梗。
素直にビルの通路を使えば良いのに、罠を恐れたと言うところだろうか。
確かにあってもおかしくは無いが、ペルソナがあるのだから普通に回避できそうなものだが。
「月並みな言葉ですが、動いたらそのドタマカチ割り氷ですよ。
と、ミサカは鋼鉄破りを構えます」
それに続いて芳川も無言で召喚器の銃口をこめかみにトントンと当てる。
2人の動作を見た木原はと言うと。
801 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:16:29.08 ID:6/gzPk47o
「あ〜。詰んだわ、コレ」
対一方通行の能力は群を抜いているし、それによって体術もかなり優れた物を持っている木原であるが、
このような閉所でペルソナを扱える人間と銃器を扱える人間を相手にするのは厳しいものがある。
そして極めつけはもうそろそろ目を覚ますであろう一方通行だ。
(昔はコミュ障だったくせによくもまァこんなにお仲間を集めたもんだぜ……)
内心愚痴りながらも割と素直にハンズアップしながら召喚器を床に投げ捨てる。
そして、その直後に一方通行は目覚めた。
「アァ……?」
「お、ようやく起きましたか。ねぼすけさんですね。
と、ミサカは一方通行の背から退きながら軽く鼻で笑います」
何があった?一方通行は体を起こしながらあたりを見回す。
両手を上げて戦意を否定する木原に、鋼鉄破りを構える9982号と召喚器を構える芳川。
あり得ない光景に一方通行は盛大に突っ込みを入れた。
「お前ら御坂ンとこ行けっつったろォが!!?」
「何言ってんですか、そうやって1人で背伸びした結果がこれでしょうが。
と、ミサカは未だに上位個体を保護できてない事実を突きつけます」
こんな状況になっている3割位は9982号の責任なのだが、
勢いで全部一方通行のせいにしている。
一方通行もその事実には反論できない為黙りこむが、まだ質問に答えてもらっていない。
802 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:17:15.68 ID:6/gzPk47o
「いえ、お姉さまのとこには向かいましたが?」
「イヤ、時間的に早すぎるだろォが!?テレポートでも身に付けたってのかァ!?」
「何言ってんですか。と、ミサカは一方通行は私の……
いえ、妹達の能力を忘れたのですかと尋ねます」
「……!」
その言葉で気が付いた。妹達の能力と言えば一つしかない。
―――ミサカネットワーク。
とは言え、他の妹達は昏倒状態にあると言うのに、どうやって?
その問いに対しても9982号は淡々と答えた。
「私1人が動ける演算力を再び分け合えさせれば、
他の個体とネットワークを介して話す程度お茶の子さいさいです。
と、ミサカは簡単に説明します」
「こんな状況だしね、遅かれ早かれペルソナについて教えるはずだったろうし、
巻き込まれた妹達にも事情を知らせないといけない今こそそのタイミングかなと思ってね」
「だったら俺と別れる前にそれやっとけば良かったじゃねェか」
「どうせ何だかんだ理由つけて1人で行くつもりだったでしょ。
と、ミサカはジト目で一方通行を非難します」
確かに、全部1人で解決するつもりだった。
木原などと言うクソ以下のクソは同じくクソな自分が相手取るべきだと。
「甘甘だぜ、一方通行。上から目線で守ってやる、なんてそんなもん必要ありませんよ。
……仲間なんですから。と、ミサカは当然の様に言い放ちます」
「ッ……!」
それを言われたら、妹達の1人にそれを言われたら自分は何も言い返せないではないか。
803 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:18:21.35 ID:6/gzPk47o
「……悪ィな、世話かけさせた」
「最初からそう言ってれば良いんですよ。と、ミサカはドヤ顔します」
「……調子に乗ンな」
何かイラッと来たのでデコピンを一発。
9982号は額を抑えながらも鋼鉄破りは構えたままだった。
そんな光景を木原はただニヤニヤとしながら眺めている。
「はん、テメェを悪党だクソ野郎だって自虐しながらこんな時だけお仲間ごっこたぁ良い御身分だな」
嘲る木原に対して、一方通行は憮然とした態度で言い返す。
「……何とでも言え。こいつらを護る為なら何だってしてやる。
矛盾してっけど、こいつらを護る為なら、こいつらにだって頼ってやるよ」
「そぉかい。そんで小悪党からお姫様を無事救出出来たわけだけど?
これからどーするってのよ?」
何故か素直に道を開ける木原。
そのまま壁際に寄りかかると、もうどうでもいいですと言わんばかりにタバコに火をつけた。
「どォしたよ、木原くゥン?
ちょっと脅かされたからっつって任務放棄たァ良い御身分だぜ」
そんな一方通行の問いに対し、木原はポケットに手を突っ込むと一昔前に見たポケベルのような小さな機器を取り出して笑った。
「いいや、逆だぜ一方通行。「任務完了」のお知らせだ」
どうやらその機器は任務終了を知らせる為のもので、
それが振動した為に最終個体の身柄はどうでもよくなったらしい。
何を以って任務終了とするのかは、木原は終ぞ知る事は無かったが。
804 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:19:29.72 ID:6/gzPk47o
「チッ……」
試合に勝って、勝負に負けた。
そんな気分だろうか。いや、試合の方も9982号と芳川が居なければ負けていた。
(……やっぱ、力が足ンねェな)
先程9982号になんでもかんでも1人でしょいこむな的な事は言われたものの、1人で解決できるに越した事は無い。
やはり、力はいくらでも欲しいものだ。
「ねぇ一方通行。人格データのあれ頂戴。一先ず打ち止めを何とかするから」
と、ここで芳川から人格データを渡すよう頼まれた為、
ポケットに突っこんでいたICチップを投げ渡そうとするも。
「ッ……!!?」
ものの見事に割れていた。
それもそのはずで、あんなに激しく運動したりゴロゴロと地面を転がったりすれば運が良ければ壊れないだろうが、壊れる時は壊れるだろう。
一方通行の驚愕した表情は、芳川や9982号の表情に曇りを、木原の表情に笑みを与えた。
「ギャハハハハ!!マジで!?最終個体助けに来て助ける為のキーを自分で壊すってマジかよ!?
チョーウケるんだけど!!後で「一方通行ヘマやらかしなう」って呟いとかなきゃなあオイ!!」
「ウルセェウルセェ!!テメェだって影時間から抜け出せねェンだぞ!!ちょっとは何とかしよォって思わねェのかァ?!」
「へえ〜。ここって影時間っつぅのな。豆知識ありがとよ」
呑気にタバコの煙で遊んでいる木原に対して、
あの黒い翼をぶつけてやろうと思ったが、何故か出来なかった。
あまりはっきりと覚えていないのだが、先程のあれは一体何だったのだろうか。
一方通行が頭を抱える中で、救世主……いや、女神(メシア)とも呼べる少女が現れた。
805 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:20:20.60 ID:6/gzPk47o
「やっと見つけた!」
そう、インデックスだ。
その姿を見つけた一方通行達は、一体何しに来たんだと言う驚きに包まれ、
対する木原はこれから何をしてくれるのかと言う期待感に包まれた。
この後に一方通行らが科学的知識をインデックスに与えながら、
インデックスの歌によって打ち止めの容体は回復するのだが。
一連の騒動において一番の勝者はやはり木原数多なのだろう。
ペルソナやシャドウに関する考えを深めた上に、
インデックスと言う少女に関する十万三千冊の知識の一端を垣間見る事も出来たし、
『一方通行』と言う力の片鱗を目の当たりに出来た。
そして何より。
―――アレイスター=クロウリーの予測が……いや、予定が外された。
とは言え、ある意味では不幸なのかもしれない。
アレイスターはイレギュラーが大好きであるが、
大好きであるが故にイレギュラーに構いたくなるという性質を持っているのだから。
本来ならば、力の片鱗を見せた一方通行に木原は殺される予定だったのだ。
しかし、その運命(よてい)から難を逃れた木原数多と言う研究者。
これは木原だけに起きたイレギュラーなのか。はたまた全体が歪んでしまっているのか。
それは、人間にはわからない。
806 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:20:59.55 ID:6/gzPk47o
・・・
「ハァ、ハァ……疲れた」
決着はついた。
勿論、上条当麻の勝利だ。
とは言え、魔術を使うたびに体を蝕まれると言う事実さえなければ
地に伏していたのは上条の方だったかもしれない。
しかしそれは仮定の話であり、結果としては上条が勝ったのだからそれでよしだろう。
「他の奴らは無事か……?」
気になるが、やっぱ疲れた。
影時間もまだ終わっていないが、
後は一方通行達やインデックスに任せるしかないだろう。
そのように考えてから数分後に、影時間は終わりを告げた。
不気味な空はいつもの夜空(雨雲)に戻り、
空を彩っていた紫電はなりを潜め学園都市を包むのは淡い街灯のみとなった。
「ダーッ、流石に疲れたぞチクショーッ」
既に濡れ濡れのびしょ濡れだった為上条は無造作に倒れ込んだ。
普段ならジトジトして気持ち悪い濡れた服も、今は火照った体を冷ますのに丁度イイ。
しかし、ふと倒れ込んだヴェントの方を見やるとそこにヴェントの姿は無かった。
「ッ〜〜!?」
代わりに居たのは、ヴェントを抱えた大男。
慌てて飛び起き戦闘態勢に入ろうとするのだが、どうやら戦意自体は無いらしい。
誰だ、と叫ぶ前に大男から声が発せられた。
随分と流暢な、日本語。
807 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:22:05.13 ID:6/gzPk47o
「失礼、この子に用があったのでな。
目眩ましを、とも思ったが君はゆっくり休んでいるようだったから静かにしようと思ったのだが」
「……誰だ、お前は」
「『後方』のアックア。ヴェントと同じく『神の右席』である」
その言葉を瞬間、体が強張った。
アックアと名乗った男の言う事が事実ならば、
ヴェントと同じ実力を持っていると考えた方が良い。
下手すると、それ以上の実力かもしれない。
はっきり言って、疲労困憊だ。
そんな中で目の前の大男の相手など出来るだろうか?
危険だ。頭ではそう叫んでいる。
上条の影も、あれは強いと察しているらしい。
危機感が募る一方であるが、当のアックアは小さく笑った。
まるで子供をあやすような、強面の男には似合わない表情だ。
「心配するな。今日の所は引き返すつもりだ。
ヴェントを苦しめていた魔術を潰す効果も既に潰えているようであるが。
こちらにも事情があるのでな」
一気にまくしたてると、早々に立ち去ろうとするアックアを前に、上条は指一本動かせなかった。
そんな上条に対してアックアは思い出したかのように口を開く。
「ああ、そうだったな。学園都市の負傷者を治す方法を教えていなかったであるか」
その言葉と共に、上条に向かって指で何かを弾き飛ばしてきた。
それを慌てて受け取った上条は怪訝そうな表情を浮かべる。
「……十字架?」
「既に貴様の右腕で破壊されては居るのだがな。
故に『天罰』は使えないし、学園都市の住民も時期に回復する事であろう」
「オイ待ッ……!」
「ではな」
上条の言葉など聞く必要も無い。そう言わんばかりに跳躍し立ち去った。
いや、跳躍したのかも駆けて行ったのかもわからない。一体どれほどの速度だったのか。
と言うより人間が出せて良い速度では無い。だとすると、先程の男は。
「……聖人……?」
何なんだ、次から次へと。と、上条は独りごちる。
止みそうだった雨が、再び降り始めた。
黒い雲から覗いている月が、今日だけは何処か不気味に思えた。
808 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 00:23:06.35 ID:6/gzPk47o
尾張です。
あとちょこっとエピローグ的なものを書いたら木原編尾張です。
木原くン生きルートです。とはいえ改心なんてしませんけどね
809 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/25(火) 01:38:23.84 ID:TKHEfPiIO
終わりとか紛らわしい事言うな!
べ、別にあんたのお話しが楽しみで終わりのが悲しいとかじゃ無いんだからね!
810 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 02:14:10.68 ID:6/gzPk47o
・・・
「インデックスと打ち止めの事、頼む」
「あ、ちょっと……!」
一方通行は一同の制止を振り切って窓から飛び出した。
まるで何処かに急ぎの用事でもあるかのように。
「オイオーイ、テメェらこいつらに手ェ出すなよー。出したら殺すからなー」
棺桶状態から元に戻った猟犬部隊が一斉に銃を突きつけるのだが、それを木原数多は止めた。
「ま、お前らにゃ一応助けられたっつー形にはなるしな。そこのガキ持ってさっさと消えろ」
シッシと手を振る木原に鉛玉をぶち込んでやりたい衝動にかられる9982号だが、
それをやったら昇天END確定なのでその言葉に甘えそそくさと帰る事にした。
結局ビルの通路を使うのだから最初からそうしたらよかったのに。
そうして女子供の背中を見送った木原は、
召喚器を拾い上げると無造作に部下に投げ渡した。
……良く見ると、実弾入りの拳銃だ。
部下はそれを腰に差すと木原の指示を待ちただ立ちつくす。
「結局あいつらは手札晒すだけ晒して行ったって事だな」
ざまぁ見ろ、と高らかに笑うのだった。
811 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 02:14:55.34 ID:6/gzPk47o
・・・
「どうして、こんな事になってるんですか……?」
風斬氷華は動かない。いや、動けない。
操られていたとはいえ、自身が生み出した惨状を目の当たりにして。
そしてそれを糾弾する人間も居ないのなら、自分で自分を責めるしかないではないか。
「well、何と言うか……ドンマイ?」
そんな風斬に対して布束砥信は何と言葉をかければ良いかわからなかった。
いや、分かるはずもないだろう。
「操られて半径100メートル程を滅茶苦茶にしてしまった」人の気持ちなど。
自身にそんな力は存在しないし、ペルソナが暴走すればあるいはと言ったところか。
故に布束の慰めも随分アバウトな仕上がりになっていた。
そして麦野沈利は。
「あーダル。おーい絹旗ァ。帰っぞー」
携帯にて絹旗最愛を呼び出して帰るつもりらしい。
この場は全て布束に任せたとサムズアップしながら。
「ま、慰め頑張ってね。布束ちゃん☆」
(殺したい)
それをする実力は無いけれど。殺意を抱く位は許されていいだろう。
布束の事情も粗方聞けたから、
もう用事は無いし後は救助隊にでも丸投げしたらいい、と言うのが麦野の考えだ。
そしてその考えに従って麦野は早々にアジトへと帰って行った。
「何て奴だ……」
麦野に対する怨み言を呟いている間にも、
目の前の眼鏡の女の子は自己嫌悪に押し潰されそうになっている。
812 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 02:16:22.28 ID:6/gzPk47o
(救世主!救世主来い!!)
「……風斬」
白い救世主が来た。
自分はシリアス組ではない感じなのでそそくさと布束は退場し、
救助に当たっている面々の下へ向かうのだった。
そして、まるで布束は元から居なかったかのように風斬と一方通行の対話が始まる。
「一方通行さん……私……」
ズズ、と鼻をすすると、風斬は涙ながらに訴える。
「もう、消えたいです!!
あの子に「友達」って言ってもらえたのに、一方通行さんに人間だって肯定してもらったのに!!
それでちょっとは人間らしくなれたかなって思えたのに……!!
あんな翼はやして、こんな街を滅茶苦茶にして!!
これじゃあやっぱりただの化け物じゃないですか!!
もう嫌なんです……消えてしまいたい……殺されてしまいたいです……」
一方通行はただ黙って風斬の独白を聞く。
するとおもむろに地面に手を触れると、
しばらくして周囲のいたるところで瓦礫の崩れる音が響き渡った。
「……!」
風斬が驚くのも無理は無い。
それは埋もれた一般人を正確に掘り返したもので、
他の面々が行っていた救助作業を一瞬にして終わらせたのだから。
「……生きてるじゃねェか。あンな瓦礫に埋もれてても、しっかり生きてたじゃねェか」
確かにこうして影時間が終わった今、
瓦礫に埋もれていても無事だったのは風斬の功績だろう。
しかし、それの原因である風斬に、その事実を誇る事など出来なかった。
「そんなの……ただの詭弁じゃないですか……
一度は危険に晒したと言う事実は残ります……!」
「だったら、そんな強い力を持ってるってンなら……
その力を上手く操れるよォになれば良いじゃねェか。
そォすりゃこンな事にもならねェし、インデックスの奴だって守ってやれる。
だからよォ……」
813 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 02:17:30.17 ID:6/gzPk47o
「……力から、逃げンな」
ある意味では、風斬を突き放す言葉。
しかし、下手な激励よりもよっぽど力になる言葉だった。
風斬は涙を拭うと、未だにあふれ出す涙は結局無視して口を開く。
「随分と……無茶を要求してくれますね……」
「第一位だからなァ」
「どういう理屈ですか……」
涙も鼻水も止まらないが、何処かすっきりしたように微笑む風斬。
「まァなンだ。一先ずボロアパートに戻るから、お前も来るかァ?
ちったァ事情も把握出来るだろォぜ。
まだ野暮用が残っててなァ。
後はあいつらに任せる事になるが、構わねェか?」
クイ、と親指で背後を指差すと、上条当麻やクマ、
それに布束に春上衿衣、ムスッとした表情を浮かべる結標淡希や山岸風花らが居た。
そんな個性的な一同に対して、風斬はもじもじしながら尋ねる。
「あの……皆さんが良いのであれば……ついて行っても良いですか?」
答えは一つだった。
814 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 02:18:18.60 ID:6/gzPk47o
・・・
木原数多は事後処理に追われていた。
と言っても事の顛末を適当にまとめて報告するだけと言う簡単なものだが。
高々報告書の作成にわざわざ移動するのも面倒なので、
戦闘後のその場で報告書を作る事にした為、部屋は荒れ放題のままである。
そんな部屋を目の当たりして部下達は困惑していたが、
気にすんなの一睨みで黙りこんだのだった。
しばらく沈黙が続いた後、木原の下に『猟犬部隊』とはまた別の部隊が現れる。
その部隊長と思しき人物は物腰柔らかに木原に向かって話をかけてきた。
「無事終わったようですが、御怪我の方はありませんか?」
「あぁ、お陰さまでなぁ。つーかアンタがわざわざ出向くんなら報告書なんて要らなくねーか?
いや、むしろ報告書を書く俺がまだ生きてるたぁ思わなかったってか?」
「いえいえ、とんでもない。
最終信号の容体を確認しに来たのですが、もうここには居ないようですね」
「ケッ、良く言うぜ。下の階でも上の階でも待機してた癖によ」
腹の探り合いなのか、これが普段の会話なのか。
その場に居たら口を開いても無いのに胃に穴があきそうな異様な雰囲気。
そんなストレスがマッハな場の中に、1人の超能力者が現れた。
「よォ、まだいらっしゃるよォで何よりだぜェ?」
一方通行だ。
木原は何の用だと訝しげにするが、
もう1人の男は笑みを浮かべながら一方通行の方を振り向いた。
815 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 02:20:56.27 ID:6/gzPk47o
「おやおや、こんな所に一体何の用でしょうか?」
「逆だろォが。どォせ俺に用があるだろォからこっちから出向いてやったンだ。
感謝しやがれってンだ」
「確かに、今回の件に関して色々と請求したい所ではありますが、
生憎と貴方は必要最小限に抑えてしまってますからねえ……」
8兆円何て大金請求しようもありませんよ、と意味深な発言をする男。
対して一方通行はそれを鼻で笑いながら返答する。
「はン、そりゃそォだろォな。
そンな事態を避けるためにこォしてあくせく動き回ってたンだからよォ。
そォだな、他の奴らが無駄に壊した事による事後処理含めて後一押しってとこか……」
少し溜めた後、その一押しを自ら挙げた。
「木山春生とその教え子共、勝手にだが学園都市から解放したからよォ、
その後処理諸々も合わせて『暗部』に落ちてやっても構わねェぜ?」
その言葉に意外そうな表情を浮かべる男だったが、すぐに柔らかな笑みに切り替える。
「おや?それでも貴方が『落ちて来る』には少し弱い気がしますが?」
「だからまァ、『アルバイト』ってとこだな。
こっちも暗部のクソ共と遊ンでる暇はねェンだ。
気が向いたら手伝ってやるが、こっちの事情を優先してもらう」
「くく……それが今回の落とし所、ですかね」
話がついたところで、男は終始柔らかな笑みを浮かべたままその場を去って行った。
やはり戦闘による爪痕は大きく、それの処理や色々と隠滅しなければならない事もあるらしい。
残された一方通行は窓からの去り際に木原へ向かってニヤリと笑った。
「そンな訳でよろしく頼むぜェ?木原センパイ?」
「殊勝な心がけじゃねぇか……とりあえず、焼きそばパン買って来いや」
「死ね木原くン」
「お前こそ死ねよ」
昨日の敵は、今日の友。
……と言う訳でもないらしい。
816 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 02:22:34.26 ID:6/gzPk47o
・・・
「それでは、私達はこれで」
山岸風香やアイギス、天田乾にコロマルは件のボロアパートに到着すると、
そこで測ったかのようなタイミングで到着したリムジンへと乗る。
やはりゴタゴタしているうちにさっさとこの場を離れておきたいのだろう。
なにせ学園都市に入った際、門(ゲート)では
警備員が気絶していた為に普通に不法侵入したのだから。
何て命知らずな、とは思うが影時間に自ら突入しようと言うのだからやっぱり命知らずなのだろう。
「バイバイクマー」
「however、またそのうちねー」
「バイバイなのーみんなによろしくなのー」
「じゃあなー」
「お疲れ様」
「あ、ありがとうございました……」
上からクマ、布束砥信、春上衿衣、上条当麻、結標淡希、そして風斬氷華の6人である。
何となく結標淡希も仲間の輪に加わってはいたものの、
異常事態は終わりを告げたのでそのまま部屋へと帰って行った。
そうして残った5人。
「ってもなー話す事ってもなー」
「とりあえず皆の帰りを待つクマ?」
「それが良いと思うの」
「indeed、今はただ疲れたわ」
「……」
一同が思い思いに話す中で風斬は何やらもじもじしている。
「どうしましたなの?」
春上が口を開けずにいる風斬に対して話を振った。
風斬はビクゥ!と肩を揺らしながらも恐る恐る言葉を紡ぐ。
「あ、あの……皆さん本当にご迷惑をおかけしました!」
思い切りのいい一礼である。
上条は謝罪の内容よりもブルンと揺れた胸の方が気になるらしく、布束に足を踏まれた。
流石に空気読もうな?
無言の圧力はそれだけで恐怖を与え、上条は顔を青くしながら風斬の言葉に耳を傾ける。
「私……こんな化け物じみた力を持ってたりしますけど……
頑張って制御できるようになります!
なので、よろしくおねがいします!」
何がよろしくなのだろうか、良くわからないけど。
「「よろしくな(マ)!」」
一同は暖かく受け入れるだけだった。
817 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 02:24:41.94 ID:6/gzPk47o
木原編エピローグ尾張です。
多分続きます
シェリー=クロムウェル編では上条さん仲間外れだったけど、今回は御坂さんが結構仲間外れだった感が強いですね。
>>809
べ、別にそンな事言われても嬉しくなンかねェし!
……そンな言うなら、また書いてやるよォ
818 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 02:25:31.31 ID:6/gzPk47o
おまけ
今まで影時間の中では常に気持ち悪い感覚が垣根提督やドレスの少女に付きまとっていたのだが、
ようやく終わりを迎えたらしく目の前にはゴーグルの少年や砂皿緻密が自分の手牌を眺めていた。
するとみるみるうちにゴーグルの顔が青くなって行く。
捨て牌と手牌を見比べ、「ありえない!!!イヤマジで!!」とか思っているに違いない、
と感じた垣根やドレスの少女は笑いをこらえるのに精いっぱいである。
(ザマァ見やがれ!!調子こいて早上がりばっかしてっからそんな目に遭うんだよ!!)
内心笑いが止まらない垣根であるが、
それをやったのはお前だと何処からか突っ込みが入りそうだ。
しかし、イカサマはバレねばイカサマでは無い。
ゴーグルの少年も何が起きたのかさっぱりなので、
絶望感に塗れた顔で真ん丸が二個刻まれた牌を半ば自棄気味に捨てた。
その顔を見て垣根は更に笑う。
(人の不幸の味は蜜の味ってな!ハッハァ!)
ドレスの少女と垣根は互いに顔を見合わせると、この局を流すべく『降り』を選択した。
ゴーグルの少年に続いてドレスの少女も同じくピンズの2を捨て、そして垣根は。
(『東』とか……)
場に2枚捨てられている東を使うなど、そうそう無いだろう。
そもそもテンパイしているかすら怪しい。
(ま、ここまでうまくいってんだ。コレ捨ててもいいだろ)
そうして切った東。
不用意に切った東。
影時間が終わったことで気が抜けていたからだろうか。
普段なら感じ取れていたはずの「殺気」をここで感じ取ることが出来なかった。
いや、感じ取れたのだが、それは牌を捨てた後である。
819 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 02:25:57.65 ID:6/gzPk47o
「ッ……!?」
感じるのだ。
濃厚な「死」の気配を……!
その正体は……
「すまないな、垣根。ロンだ……」
「「「!!?」」」
ここまで一度も上がっていなかった砂皿の上がり。
果たしてどのような役なのか。
(まてまてまて!地獄待ちだと!?だとするとチャンタドラ2で……!)
しかし、砂皿から開かれた手牌は想像をはるかに超える内容だった。
ラ イ ジ ン グ・サ ン
「「「ら、国士無双十三面!!?」」」
「何をしたかは知らんが……私も甘く見られたものだ」
「ッ……!!」
ぬかった。
砂皿とて死線を潜り抜けてきた傭兵である。
いや、飽くまで戦場の話だけど。
ともかく砂皿を侮った結果がこれだ。
その報い、甘んじて受けねばなるまい。
「48000……トビで終了だな」
しかし、それで垣根が納得するはずが無い。
他の面々も以下同文。
「待て……夜はまだ始まったばかりだぜ……!?」
『スクール』の夜は、始まったばかりであった。
820 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/10/25(火) 02:28:06.42 ID:6/gzPk47o
ていとくんがドレスの少女側を通ってゴーグルの手牌を滅茶苦茶にしたと言う描写は、すべて砂皿印のライジング・サンの為でしたと言う落ち。
今回で1万5千字位一気に進めたわけだけど、それでも描写不足と言うか、何だろ。なんか物足りない感がします。
総じて俺の描写力不足なので精進しようと思いますです。
応援ありがとうですこれからもがんばるよていです
821 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/25(火) 03:04:28.61 ID:6/gzPk47o
勝手にリスペクトした某スレ風次回予告(と言うより今後の方針)
「……無能力者狩りだァ?暇人も居たもンだなァオイ」
学園都市序列第一位『一方通行』――――――― 一方通行
「確かに能力者からしたら俺達は底辺かもしれねえけどさ、
いつまでも弱肉強食の弱者で居続けなければならない理由なんてねぇだろ!!?」
スキルアウト所属のレベル0――――――― 浜面仕上
「何するか知らねえけどさ、それじゃあ結局無能力者狩りをしてる能力者達と同じじゃねえのか!?」
『幻想殺し』を持つ少年――――――― 上条当麻
「……反撃、開始だ」
スキルアウトを束ねるリーダー――――――― 駒場利徳
「ふざけんなよ……!だったら最初から俺だけを狙えよ!!
何だって周りの関係ねえ奴まで……!!」
スキルアウト所属のレベル0――――――― 半蔵
能力者達による『無能力者狩り』。
やはりやられっぱなしは趣味では無いのだろう、スキルアウト達はそれの報復に赴く。
リーダーの駒場利徳は一方通行の様に理解ある能力者だって居る事を知っている為あまり気乗りはしないのだが、
それで仲間がやられるのを防げると言うのなら、と立ち上がった。
暗部からの要請。
それを無視して無能力者側に立つ一方通行。
そしてその抗争を下にして始まる暗部組織のうねり。
「今までずっとおかしいと思ってたんだ、
俺の能力ながら『未元物質』なんつー矛盾しか感じらんねえ名前をよぉ」
学園都市序列第二位『未元物質』――――――― 垣根提督
「イイ加減いつまでもお上の連中に媚びうるのも飽きてきたしさあ、そろそろ噛みついてみるかにゃーん?」
学園都市序列第四位『原子崩し』――――――― 麦野沈利
「へぇー。ソレが『元・レベル6』の拠り所になるカラダっつーわけ?」
猟犬部隊隊長兼研究者――――――― 木原数多
「エルゴ研の遺した研究結果さ。それにちょっと改良を加えたのだが……お気に召されましたかな?」
マッドな研究者―――――――???
「……どうでもいい」
無気力そうな表情の少年―――――――???
「あの人の眠りを無理矢理妨げるなら……まずはそのふざけた幻想に……メギドラオンでございます」
エレベーターガールの女性―――――――???
「『宇宙(ユニバース)』、か……」
人間―――――――アレイスター=クロウリー
……ゴメン勢いで書いたから嘘予告だと思って下さい。
はっきり言ってこうやって予告出来るのってやっぱ書き溜めあってこそだもんね。
ボク今書きため0だしさっきまで透過してたのだってさっきまでシコシコと書きつづったモンだし。
こうやって次回予告するのが僕の夢でした。
余は満足じゃ……
満足じゃ……
とりあえず時系列的にはSS1巻なのでそこから始まると思います。
とはいえ何にも考えてないので次の投下もそのうち始まると思います。息抜きにちょっとした日常とか挟みたい(白目)
822 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/25(火) 03:29:17.65 ID:iMndyCP8o
ミスドコーヒーでラノベを二冊半、計三時間以上粘って眠れない夜に長文投下ありがとう。8杯は飲んだかな。
長文お疲れさまです。予告はJAROに通報しておきますね。
823 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/25(火) 04:27:04.00 ID:yvmiujsH0
キタロー来るー?
824 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/25(火) 05:06:37.38 ID:W5f2t42a0
>>1
数多編了乙そして感謝
>>829
ん? 9981号事件は何も解決していないのでは?
825 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)
[sage]:2011/10/25(火) 06:39:02.56 ID:9kI3g6Z+o
おつなんだよ
826 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/26(水) 16:12:05.12 ID:nZ6CwX1AO
みさきちとか根性の人は影時間で何をしてたのだろうか
827 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/27(木) 01:32:46.96 ID:oSfoet1/o
みさきち「ほらほら、これが欲しいんでしょ?
だったらそれなりの態度ってもんがあるんじゃないの?」
取り巻き「あっ……!お、お願いします!お願いします〜!!」
みさきち「ふふ……可愛い子ね……」
〜影時間到来〜
棺桶「」
みさきち「……!?」
みさきち「……」ゲシゲシ
棺桶「」
みさきち「……??」
みさきち「……とりあえず、デザインが悪いわね……」
〜5分後〜
┌─┐
│ | /\
│ | ┌┐┌┐ \ \
│ | └┘└┘ \/ _
| \ ┌────┐ ./ /
| \ .┌┐ .└────┘ / /
| |\ \ ┌─┘└─ / /
| | \/ │┌── ノ /\ / /
| | └┘ ノ ノ \ \_ / /
└─┘ ノ ノ \___ノ
 ̄
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\ \ 丶 / / /
\ \ 丶 i | ./ / /
ヽ \ \ 丶 i | / / / /
ヽ \ \ 丶 i. | ./ / / /
ヽ \ \ ヽ i. .| / / / /
ヽ \ \ ヽ i | / / / /
ヽ \ /
\
-----‐‐‐‐‐
ー―――――――― 花花花花 ハナヤカー
____________ ..花棺桶花 -----------
二二二 花花花花 === 二二二
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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828 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/10/27(木) 04:10:23.88 ID:oSfoet1/o
みさきち「なんということでしょう」
みさきち「必要最低限のデザインだった棺桶がこんなにも美しく生まれ変わりました」
みさきち「見た目地味で暗かった棺桶の色は真っ赤に染まり、周囲のバラと見事に調和しています」
みさきち「美しい花にはとげがある、まさに私にふさわしい見た目に生まれ変わりました」
花花花花
花棺桶花 ハナヤカー
花花花花
みさきち「……」
花花花花
花棺桶花 ハナヤカー
花花花花
みさきち「……精神感応系の最高峰とまで言われたこの私に、幻覚を見せるなんてどういうことぉ?」ゲシッ
みさきち「痛ッ……小指棺桶に打ったマジ痛いんですけどぉ……ってこれ現実!?」
みさきち「携帯は……使えないみたいだし……」
みさきち「……」
影時間に誘われた超能力者!
事情を知らぬ彼女に待ち受ける物は一体!?
食蜂操祈の運命や如何に!?
(続かない)
829 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/27(木) 09:45:25.84 ID:5ck3wsHAO
何してはるんですか
830 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2011/10/27(木) 09:55:03.55 ID:pTuMcUif0
木原くン・・・改心はしなくても、味方にもならない、とは書いてないよね
一方通行との共闘がみたい・・・
そしてみさきちワロタ、かわいいなww
831 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/10/30(日) 16:36:10.66 ID:kHlzeSs40
>>828
乙と言って良いのか…
次章はアリスかな?
832 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/31(月) 03:29:56.66 ID:NNOvcQMDO
次章が気になって夜も眠れない・・・
833 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/11/01(火) 16:53:48.49 ID:7XGk9NhVo
短いっす。ほんっとすんまっせん
今までコーヒーは急須に入れて飲んでたけど今さっきやっすいコーヒーのドリッパー買ってきてテンションだけは高いです。
とりあえず自称次章の序章を透過します
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834 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/11/01(火) 16:54:18.28 ID:7XGk9NhVo
「……」
吹き抜ける風が少し肌寒い。
と言っても一方通行は反射があるので精神的に、だ。
時は既に10月。
そろそろ朝や夜に半袖で過ごすのが辛くなる季節である。
そんな中で、一方通行はぼんやりと窓から見える木々を眺めていた。真っ白な布団に包まれて。
「うーん、うーん、もう食べられないかもってミサカはミサカは……」
もう片方のベッドでは打ち止めが絶賛昼寝中である。
そう、一方通行は案の定入院していた。後打ち止めも。
木原数多や風斬氷華の件から1日しか経っていないのだから当然だろう。
本来一方通行はあのような大立ち回りを出来る体では無いのに、
それを無理矢理酷使したために傷が開いてしまったのだ。
冥土返しはやっぱりね、と呆れた表情を浮かべていたが
今度は傷が治るまで入院すると一方通行が宣言したのでご機嫌である。
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835 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/11/01(火) 16:55:01.16 ID:7XGk9NhVo
「……チッ」
何となく舌打ちした一方通行。
手元には暗部組織『グループ』の資料がおさめられていた。
3人の少年少女の写真とプロフィール。
内2人は見たことのある風貌をしていた為、
世の中どんだけ狭いンだ、と思わず突っ込みを入れてしまった。
先日の戦闘終了の際自ら暗部に堕ちる事を宣言した訳だが、
蛇の道は蛇、と言う事で色々と情報を集めたいが故である。
元々自分はグレーゾーンの人間。やっていた実験は既に暗部に等しい。
だったら暗部に居ようと居るまいと構わないだろう。
「ふン」
大体知ってる奴ならいちいちプロフィールなど確認する必要も無い。
それよりも、と言わんばかりにテレビをつけ、何度かチャンネルを変更するとニュース番組で手を止めた。
「学園都市はこの襲撃の犯人を『魔術集団』という、
学園都市とはまた別の超能力開発機構によるものだと発表しています」
「……」
なーにが魔術しゅーだンだ。適当な事を言いやがって、と一方通行は内心毒づいた。
しかし、上条当麻の言う通り、あの戦闘時に参入した魔術師はとんでもなくヤバい奴だったと言う事を知り、
上条には無茶を頼んでしまったと後悔している。
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836 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/11/01(火) 16:56:23.20 ID:7XGk9NhVo
魔術の事を思い出すと、何故かあの時に造り出した『黒い翼』について思い出される。
あれは一体何なのか。無意識のうちに発生させた為か、今はどんなに原因を探ろうとも思い出せない。
それもそのはず、あの力の塊は何から生成されたのか、今でも理解できていないのだから。
兎に角必死で、兎に角木原数多を潰したかった。
気が付いたら背中から羽根生やして意識も軽く飛んでいた。
あの騒動で、自分は何を得たのか。
(まずは、妹達の生存権を獲る)
その為には暗部を叩き潰す位しなければ無理だろう。
臥薪嘗胆、と言う訳ではないが、ひたすら暗部に潜る。
マヨナカテレビや影時間は、学園都市の暗部につながっている。それは確定したと言っていいだろう。
しかし、差し迫っている問題はそれだけではない。
(……神の右席)
上条はそのように言っていた。
そしてその集団の中には『聖人』とか言う身体能力がずば抜けて高い……
それこそ、自身の身体能力だけで超能力者を圧倒出来るような人間が魔術を扱ってくると言う。
(……俺ァマヨナカテレビと妹達の関連を調べてェだけなンだがな……)
上層部は間違いなく魔術と言う物を認知している。
でなければ「魔術集団という名の超能力開発機構」などと嘘をつけるはずがない。
そして魔術師側も自分の信じる神を真っ向から否定され、
「その力は科学的なものだ」と言われたとなれば黙っているはずが無い。
(どォ考えたって世界中の魔術師に挑発してるとしか思えねェ)
戦争でもしたいのか?そんな事を考える一方通行。
そちらに関しても、色々と調べる必要があるだろう。
何せ世界中の科学的機関で、妹達が預けられているのだから。
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837 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/11/01(火) 16:57:11.20 ID:7XGk9NhVo
・・・
「木原さん、何か魔術集団とかいう組織が学園都市を襲撃したって発表がありましたよ。
実際に魔術って訳じゃなくてそういう名前の超能力開発の組織らしいですけど」
ナンシーは木原数多に先日行われた戦闘後の学園都市における変化に関して報告を上げている。
しかし、当の木原は深くソファーに座りこみテレビのニュースでその事についてボケーッと眺めていた。
「あー?丁度そのニュースみてるとこだよ」
一応ナンシーを含む猟犬部隊の面々は少し前に魔術師なるものを捕獲しに学園都市外へ赴いた事がある。
しかし、あれを超能力と呼ぶには些か下準備が多すぎじゃないかと疑問に思っていた。
肝心の木原からはただ捕まえろとしか言われなかったし、素直にそうしたのだが。
「木原さん、ぶっちゃけ聞きますけど、学園都市の発表丸々嘘だって事ありますか?」
ナンシーの言葉に木原はニヤリと笑う。
一方のナンシーは気が気でなかった。
ひょっとして地雷を踏んだか?とも思うが殺される気配が無いのでセーフと言う事だろう。
「こないだ捕まえた奴らの攻撃方法を見て、あれが超能力だと思えたか?」
「……いいえ」
「じゃーそう言う事だよ。異能ってもんが超能力に限ると思いこんでたら世界を狭めるぜ?」
「はぁ……そーなんですか」
「そーなんだよ」
そんな事を言われても、そこまで言う程興味は無いんだけど。
ナンシーは自身の気の無い返答に対する木原の気の無い返答を受けた後、報告を続ける。
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838 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/11/01(火) 16:57:49.46 ID:7XGk9NhVo
「一方通行はどうやら『グループ』とか言う組織に配属されたらしいです。
と言っても幽霊部員みたいなもので、任務に参加するしないは一方通行の意志で決められるそうです」
「はっ、そりゃまた随分と贅沢な事で」
「全くですね」
木原は一方通行と言う言葉に少し眉を動かしたが、
それ以上追及する事も無くナンシーの報告に耳を傾ける。
「そして、最後にオーダーが1つ。
その『グループ』と協力してスキルアウトの掃討を行え、と。
具体的な内容はこちらに」
説明するよりも資料を見てもらった方が早いだろう。
ナンシーはそのように考え自身の資料をそのまま木原に渡した。
受け取った木原は凄い嫌そうな顔をしていたが。
「あ?何だそりゃ、めんどくせえ。お前らで勝手にやってろよ」
「そういうオーダーですので、諦めて下さい」
「はいはいやりゃーいいんでしょやりゃーよー。
ホンットめんどくせーなーオイ死ねよ一方通行」
一方通行と同じ権限を俺にも。
木原は本気でそう思った。
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839 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/11/01(火) 16:58:15.37 ID:7XGk9NhVo
「スキルアウトを掃討する、と言っても殺す必要は無いらしいです。
それは飽くまで名目上の話で、本命はある無能力者の暗殺だとか」
「あ?めんどくせえな、クズは全員殺せばいいだろ?」
どんだけめんどくさがってんだうちの上司は、
とナンシーは内心毒づくがそんな自分もめんどくさいと思っているので人の事は言えなかった。
「まあその通りですが、一応その詳細もこっちに書いてるんで読んでください。
私では何の事を書いてるのか理解できなかったので」
どうやらナンシーの知らない事が任務の資料には書かれているらしい。
うちの屑どもが知らないと言えばペルソナやら「本物の魔術師」やら位か。
気は進まない。
気は進まないが喰いっぱぐれる事は避けたいので渋々仕事はする事にした木原だった。
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840 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/11/01(火) 16:58:49.18 ID:7XGk9NhVo
・・・
九月三十日。
スキルアウト達が集まる集会場は浮足立っていた。
それもそのはず。
学園都市のあちこちで能力者による『無能力者狩り』が頻発に行われており、
主にスキルアウトの面々がそれに狙われているからだ。
「駒場さん!第7学区でまたやられちまった!!」
「こっちは5人!」
「俺んとこは3人だ!!畜生あいつら、能力にモノ言わせてこっちの武装を解除した上でよってたかって……!」
「……」
駒場利徳はどう動くべきかまとめあぐねていた。
スキルアウトがこれ以上無能力者狩りに遭うのを黙って見ている訳にもいかない。
かと言ってそれを止めようにも結局後々報復に来るに違いない。
「……『無能力者狩り』を行った者の特定は……?」
「そんなもん、それっぽい奴を片っ端からボコってけばいいでしょ!?」
「能力者共に遠慮は要らねえでしょ、駒場さん!!」
「「そうッスよ!!」」
マズイ。
一言で言えばそうとしか言いようが無い。
能力者は個人的にも好きではないが、無関係の人間を巻き込むのは不本意だ。
更に言えば、話のわかる能力者……と言うか、
そう言う能力の有無や過多で人を見ない人間等いくらでもいる事を駒場は知っている。
しかし、目の前の仲間達は、その事を知らない。
教師に蔑まされ、今まで友人だと思っていた相手からも馬鹿にされ。そしてここまで堕ちてきた。
そんな奴らが今更能力者にもイイ奴はいる、で納得するはずが無い。
そんな言葉で納得できるようなら、こんな所には居ない。
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841 :
◆DAbxBtgEsc
[saga]:2011/11/01(火) 16:59:15.32 ID:7XGk9NhVo
「……」
駒場は、スキルアウトの面々だって大事だし、
一方通行達だって能力者だとかそんな事関係無しにこれからも付き合って行きたいと思っている。
故に悩む。
正当防衛ならまだしも、周りの仲間達は無差別に能力者たちへの報復をと考えているのだ。
それをしてしまえば最後、自分は一方通行達とは一緒に居られなくなるだろう。
そんな時、駒場の後ろから声がかかった。
「何悩んでんだよ、駒場さん」
浜面仕上。
駒場が自分の身に何かあった時の次期リーダーをしてもらうつもりである男。
その男は既に腹をくくっているらしく、眉間にしわを寄せながら険しい表情を浮かべている。
「やられたら、やり返す。二度とやられないように、簡単な事じゃねえか」
「……だが」
「だがもかかしもねえよ!仲間があんな目にあって黙ってられるか!!
……つっても、駒場さんの気持ちもわからねえでもねえ……。
だったら簡単で、『能力者狩り』だけを狩れば済む話だ」
それが出来れば話は簡単だ。
しかし事はそう単純ではない。
『能力者狩り』の連中は足がつかないように行動を取っている。
書庫(バンク)に侵入出来れば特定は出来るだろうが……。
学園都市のセキュリティを突破するには
守護神(ゴールキーパー)の包囲網を突破しなければならず、はっきり言って不可能に近い。
「……いや、待てよ……」
駒場は考える。守護神とて人間だ。
噂によると第七学区の風紀委員の一員だとか聞いた事はあるが、それはさておき。
「……原始的な方法になりそうだな」
どうやら浜面も駒場と同じ事を考えていたらしく、その言葉に頷く。
「だけど、最も効果的に俺達の『本気』を見てもらえると思うぜ?」
しかし、その為には人員がいくらあっても足りないだろう。
これ以上被害を増やさない為にも時間もおしている。
「……反撃、開始だ」
何処までも重たく、低い声。
その重圧に周りのスキルアウトは冷汗を流す。
しかし、それこそが、荒くれ者の集団をまとめ上げるにふさわしい。
「「応!!」」
決行は、10月3日。
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842 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/11/01(火) 17:00:48.25 ID:7XGk9NhVo
尾張です
ほんっとすいまっせん、何て言うか書いててペルソナ要素が介入する部分が無くてどうしようとか考えてたら続きを書く手が止まってました
サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:
http://vs302.vip2ch.com/
843 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(神奈川県)
[sage]:2011/11/01(火) 19:27:39.81 ID:5q1bV8gg0
>>842
乙
困ったときに、りせち-
サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:
http://vs302.vip2ch.com/
844 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(神奈川県)
[sage]:2011/11/08(火) 11:46:42.00 ID:ctNDJUMYo
乙
845 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[sage]:2011/11/09(水) 18:07:06.85 ID:K+TXLUo9o
煮詰まってるのかねぇ
846 :
◆DAbxBtgEsc
[sage]:2011/11/16(水) 22:07:30.12 ID:rioHsjaGo
とりあえず、時間をください。
何と言うか、久々にこのSSを初めから読んで見て「ああすればよかった」「こうすればよかった」とか、
それだけじゃなく誤字脱字がいたるところに見られて頭を抱える日々。
それはまあ自分の技量不足なので仕方ないと言えば仕方ないので割り切ってはいますが、問題はこれから先の展開。
ある程度の指針は決まっていて、問題はそれの肉付けなのですがその肉が全く思いつきません。
と言うか当初の予定では木原くン編で俺達の戦いはこれからだENDで締めくくるつもりだったのですが、
書いてるうちにマルマルモリモリ設定が増えてってそんな終わり方個人的にNOって感じになってしまいました。
そんな訳で続きを考え始めたのは良いのですが、何か駆け足とは言え木原編を終えて燃え尽きた感があるというか、燃え尽きたというか。イマイチモチベーションがあがらないのです。
いつ投下すんのかわからん状態をいつまでも続けるのも仕方ないので一旦打ち切りと言う形にしたいと思います。
戻ってくンの?と問われたらただただ全力を尽くしますとしか言えないです。
たかだか一SSの作者ごときがわざわざ長々と何をと感じられる方も居られるとは思いますが、
態々このようなSSに目を通して頂いた方々へのけじめと言う事で報告と同時に謝罪とさせていただきたいと思います。
しばらくしたらhtmlのいらいも出して来ようと思います。
再び投下する事が出来るのであればひょっとしたら色々と改訂して初めから透過する感じになるかもしれないです。
中途半端な終わり方でほんっとに申し訳ない、いつかリベンジする。
847 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
[sage]:2011/11/17(木) 01:25:30.31 ID:NpwpMZ5Vo
ネットで肩肘張ることないのですよ
そのうちリベンジしておくれ
あなたの話の続きが読みたい
あ、もし再うpするならタイトルに「ペルソナ」の一言あってもいいかもと思ったり
848 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(三重県)
[sage]:2011/11/17(木) 05:48:31.32 ID:qlV4sd7Fo
おつんつん
849 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
[sage]:2011/11/17(木) 13:05:24.75 ID:pQzegb8+o
あらあら、ここで終わりか……残念だ
とにかく乙、しばらく休むといい
850 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
[sage]:2011/11/17(木) 13:09:56.52 ID:DywGpEvDO
ペルソナ知らなかったのに面白くて一気に読んだスレだった
ありがとう
復活したらまた読ませてもらいます
851 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(神奈川県)
[sage]:2011/11/18(金) 14:06:51.21 ID:qf76PZB6o
>>1
乙、再開するのを待ってます
852 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
[sage]:2011/11/18(金) 20:41:01.86 ID:wLeXyd9IO
お疲れ
再会してね
853 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(東京都)
[sage]:2011/11/19(土) 23:38:43.84 ID:w3mOEV1X0
一方通行並に肉がつかないんじゃ仕方ない。リベンジ待ってるぜー
854 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(福島県)
[sage]:2011/11/20(日) 00:07:22.98 ID:iQfhOiYlo
ペルソナ知らないけど楽しんで読んでた
リベンジ待ってるよ
855 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/11/20(日) 14:02:18.69 ID:jZCUdv8no
このSS読んで面白かったからP4買ったよ
今3週目ですごい楽しい
これ見なかったら興味持たなかったと思う、
>>1
ありがとう
復活楽しみにしてます
840.44 KB
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