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撫子「これも、また、戯言なんだよね」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/16(日) 23:51:11.54 ID:mPaCYJJro
このssは世界を面白くする組織、一群《クラスタ》の提供でお送りいたします。
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【ダンガンロンパ】終里「あ?終里赤音最強伝説?」【あんこ】 @ 2019/09/19(木) 22:03:49.02 ID:n+wePPrNo
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グレみんシコシコ2019発ぶっ放し絶倫スレッドHeySay! @ 2019/09/19(木) 20:32:53.63 ID:s7TyDUVp0
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【イナズマイレブンGO】天馬「ええっ!?お、俺達にですか!?」【安価】 @ 2019/09/19(木) 17:29:16.08 ID:pXnGy0tf0
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いつまで旅にでんちゅう? @ 2019/09/19(木) 09:04:08.47 ID:mT+QuOjqO
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先輩「もしもし」 後輩『しもしもー先輩?』 @ 2019/09/18(水) 23:08:40.86 ID:4/BGdP0W0
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【うちの娘。】ラティナ「ルディ、ラティナの縦笛で何やってるの?」 @ 2019/09/18(水) 21:36:16.69 ID:Cezk8JZZ0
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vipクラシック村おこし計画 2019「SEO検索ワード編」 @ 2019/09/18(水) 17:24:45.73
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小日向美穂「観光案内Masque:Rade」 @ 2019/09/18(水) 16:43:58.47 ID:bY3revutO
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:07:39.07 ID:ebFiQ8E3o
戯言シリーズと物語シリーズをクロスさせるssです。
よかったら見ていってください。

本当は昨日までに終わらせたかったのだけれどだいぶ時間がかかってしまいました。

戯言でのここ最近のあれこれ

十月十日 月曜日 退院。小唄さんに零崎人識の捜索を依頼する。友に防御を依頼する。
   十一日火曜日 絵本園樹が裏切る。奇野頼知が死んだことを知る。
   十二日水曜日 古槍頭巾と会う。無銘を返すことを約束。
   十五日土曜日 右下るれろとの面会。狐さんが「いーちゃん」から手を引くことを宣言する。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2011/10/17(月) 00:09:36.59 ID:TgVU+p3bo
きたかっ時間無くて前の奴読んでなかった
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:10:23.52 ID:ebFiQ8E3o
戯言シリーズと物語シリーズをクロスさせるssです。
よかったら見ていってください。

本当は昨日までに終わらせたかったのだけれどだいぶ時間がかかってしまいました。

戯言でのここ最近のあれこれ

十月十日 月曜日 退院。小唄さんに零崎人識の捜索を依頼する。友に防御を依頼する。
   十一日火曜日 絵本園樹が裏切る。奇野頼知が死んだことを知る。
   十二日水曜日 古槍頭巾と会う。無銘を返すことを約束。
   十五日土曜日 右下るれろとの面会。狐さんが「いーちゃん」から手を引くことを宣言する。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:10:59.91 ID:ebFiQ8E3o
戯言シリーズと物語シリーズをクロスさせるssです。
よかったら見ていってください。

本当は昨日までに終わらせたかったのだけれどだいぶ時間がかかってしまいました。

戯言でのここ最近のあれこれ

十月十日 月曜日 退院。小唄さんに零崎人識の捜索を依頼する。友に防御を依頼する。
   十一日火曜日 絵本園樹が裏切る。奇野頼知が死んだことを知る。
   十二日水曜日 古槍頭巾と会う。無銘を返すことを約束。
   十五日土曜日 右下るれろとの面会。狐さんが「いーちゃん」から手を引くことを宣言する。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:12:36.44 ID:ebFiQ8E3o
今日のJaneは調子が悪い。七分前から、一昨日になってるしorz

戯言×化物語 アダシノプロフェッショナル


        
なでこスネーク か弱き被害者の戯言
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:16:14.10 ID:ebFiQ8E3o

  登場人物紹介


戦場ヶ原ひたぎ (せんじょうがはら・ひたぎ)――――――――――蟹。
八九寺真宵 (はちくじ・まよい)―――――――――――――――蝸牛。
神原駿河 (かんばる・するが)―――――――――――――――――猿。
千石撫子 (せんごく・なでこ)―――――――――――――――――蛇。
羽川翼 (はねかわ・つばさ)―――――――――――――――????
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード ―――????
(きすしょっと・あせろらおりおん・はーとあんだーぶれーど)
阿良々木火憐 (あららぎ・かれん)――――――――――――????
阿良々木月火 (あららぎ・つきひ)――――――――――――????


ドラマツルギー (どらまつるぎー)――――――――――――????
エピソード (えぴそーど)――――――――――――――――????
ギロチンカッター (ぎろちんかったー)―――――――――――????

忍野メメ (おしの・めめ)――――――――――――――――――平等。
忍野忍 (おしの・しのぶ)―――――――――――――――なれの果て。
忍野扇 (おしの・おうぎ)――――――――――――――――????
貝木泥舟 (かいき・でいしゅう)――――――――――――――????
影縫余弦 (かげぬい・よづる)――――――――――――――????
斧乃木余接 (おののき・よつぎ)―――――――――――――????
臥煙伊豆湖 (がえん・いずこ)――――――――――――――????

               ――――――――――――――――????
沼地蝋花 (ぬまち・ろうか)―――――――――――――――????


              ――――――――――――――――????
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:20:33.89 ID:ebFiQ8E3o
怨望を抱く者どもは、世間の幸福を破壊するだけで、世の中に何の寄与もなしえない。――福沢諭吉
9 :>>7>>8の間に挟んでください。連投怖がったらこれだよもう :2011/10/17(月) 00:25:50.82 ID:ebFiQ8E3o
井伊遥菜 (いい・はるかな)―――――――――――――――????
玖渚友 (くなぎさ・とも)――――――――――――――――????
想影真心 (おもかげ・まごころ)―――――――――――――????
西東天 (さいとう・たかし)―――――――――――――――????
哀川潤 (あいかわ・じゅん)―――――――――――――――????


零崎人識 (ぜろざき・ひとしき)―――――――――――――????

阿良々木伊荷親 (あららぎ・いにちか)――――――――――戯言遣い。
10 :>>7>>8の間に挟んでください。連投怖がったらこれだよもう :2011/10/17(月) 00:26:17.23 ID:ebFiQ8E3o
井伊遥菜 (いい・はるかな)―――――――――――――――????
玖渚友 (くなぎさ・とも)――――――――――――――――????
想影真心 (おもかげ・まごころ)―――――――――――――????
西東天 (さいとう・たかし)―――――――――――――――????
哀川潤 (あいかわ・じゅん)―――――――――――――――????


零崎人識 (ぜろざき・ひとしき)―――――――――――――????

阿良々木伊荷親 (あららぎ・いにちか)――――――――――戯言遣い。
11 :もうやだ……数時間くらいおいておこうかな :2011/10/17(月) 00:26:58.89 ID:ebFiQ8E3o
井伊遥菜 (いい・はるかな)―――――――――――――――????
玖渚友 (くなぎさ・とも)――――――――――――――――????
想影真心 (おもかげ・まごころ)―――――――――――――????
西東天 (さいとう・たかし)―――――――――――――――????
哀川潤 (あいかわ・じゅん)―――――――――――――――????


零崎人識 (ぜろざき・ひとしき)―――――――――――――????

阿良々木伊荷親 (あららぎ・いにちか)――――――――――戯言遣い。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 00:29:53.19 ID:ebFiQ8E3o
てすと
13 :なんだったんだろう、あの重さは :2011/10/17(月) 00:30:32.86 ID:ebFiQ8E3o
「撫子ちゃんはさあ、月火ちゃんの同級生だったんだよね?」

「うん、そうだよ。ららちゃんはいつも大勢の友達に囲まれていたというか、大勢の友達を

逃がさなかったというか……まあ、そんな感じの子でね、撫子とも仲良くしてくれたんだよ」

「それだけ聞くと、なんか一国の支配者のようにも聞こえるんだけれど……」

 月火ちゃんおそるべし。

 ……あれ?そんなキャラだったっけ?

「いや、でも、ららちゃんは……何というか……リーダーの素質を持っていたというか……

とんでもないカリスマ性を持っていて、それでいて、悪意って言うのかな、そんなものを

持っていなかったんだよ。だからみんな、月火ちゃんに引っ張られちゃったんだ」

「なるほどね、持つべきものを持っていて、余計なものは持っていなかったってことか」

 持つべきでない物しか持っていない、僕とは正反対だ。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:31:01.31 ID:ebFiQ8E3o
「それで、どうしてあいつと知り合ったの?あいつ、妹を露骨に避けてたようにも見えた

けど……」

「そんなことないよ。暦お兄ちゃんと、ららちゃん、いつも二人仲良くしてたよ」

 うーん……月火ちゃんもそんなこと言ってたし、あいつが一方的に避けてるってことな

のかな?

 妹から嫌われてるとか言ってたけど、単なる被害妄想だったのか。

「暦お兄ちゃんはやさしいんだよ、本来撫子達とは関係のないはずなのに、しっかりみん

な楽しませてくれるの」

「まあ、あいつはいるだけでなかなか楽しいだよね」

 本当に……面白い奴だった。

 面白い奴だったのに。

「撫子の自転車のチェーンが外れちゃったときも直してくれたし、それに、とってもかっ

こいいんだよ。ららちゃんがピンチになったときとかね、すぐに駆けつけて――」

「撫子ちゃん、撫子ちゃんさあ、ぶっちゃけあいつのこと好きだよね」

「な、な、な、何を言っているのかな?な、撫子にはさっぱり、いー兄ちゃんの言ってい

ることがわからないよょ」

 ……ああ、もう、可愛いよな。

「まあ、いいや、好きじゃないということで」

「べ、べつに好きじゃないというわけじゃないよ!」

「好きなんだね?」

「うぅ、うん」

 こくん、と頷く撫子ちゃん。

 仕草がいちいち可愛らしい。

 恥ずかしさからだろうか。顔はもう、鮮やかな赤色だった。

「ううぅ、もう、いー兄ちゃんったら意地悪だよ」

 撫子ちゃんは可愛く言った。

 そう、これは彼女、千石撫子の物語。

 蛇に捕まり、蛇に憑かれた、僕の周りには珍しい、ただの被害者の物語だ。

 こんな戯言遣いの語り口では、彼女の可愛さを表現しきれないかもしれないのだけれど、

 まあ、そのときはご愛嬌ということで。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 00:31:28.87 ID:ebFiQ8E3o
000

 狂うためにはまず普通でなければいけないのですが、あなたはどうです?
 
 自分が狂えるとお思いで?
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:32:30.96 ID:ebFiQ8E3o
001

 千石撫子は彼の妹の、月火ちゃんの友達だった。小学生の頃の彼は、今現在と違い、そ

れなりに普通の友達のいる子供だったそうなのだ。どうしてこっち側に来てしまったのか。

僕にはまるでわからない。あいつの話はいずれ語るとして、今は千石撫子――撫子ちゃん

の話をしよう。彼の妹、火憐ちゃんと月火ちゃんはいつもいつでもいついつでもそばにい

る、とても仲のいい姉妹なのだが、小学生の頃は別々に行動することも多かったらしく、

アウトドア派の火憐ちゃんと、インドア派の月火ちゃんと分かれていて、三日に一日は、

月火ちゃんは家に学校の友達を連れてきていたそうだ。彼は僕同様インドア派、悪く言え

ば学校以外では引き篭もり(ちなみにこれは僕と彼の数少ない共通点だ。)だったので、月

火ちゃんは家にいるあいつを交えて友達と遊んでいたそうなのだ。そして、撫子ちゃんは、

月火ちゃんが連れてくる、大勢の友達の中の一人だったそうだ。それだけの縁。たったそ

れだけの縁。あいつとも繋がっているとは言えないくらいの縁の少女だったのだが、彼女

が蛇に絡まれたことで、彼女と僕の縁は、決定的に繋がってしまったのである。そう、ま

るで、まとわりついてくる蛇のように、絡んで、もつれて、離れられないものに。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 00:32:56.78 ID:ebFiQ8E3o
002

「阿良々木先輩、待たせてしまって申し訳ない」

 六月十一日、日曜日。

 さすがは体育会系だと言うべきだろう。午前十時五十五分、待ち合わせ時間のきっちり

五分前に、僕の一つ下の後輩、バスケットボール部のエース、神原駿河は勢いよくかけて

きて、勢い余ってジャンプ一番、僕の頭の上を軽く飛び越してから、着地し、右手を胸の

前に、爽やかな笑顔を共にそう言った。……僕も、高校三年生としては、そりゃそんなに

背の高い方ではないと自覚しているのだけれど、それにしたって、自分よりもちっちゃい

女の子に正面飛びで飛び越えられるような身長ではないはずだと思っていたのだが、その

認識はどうやらここで改めなければならないようだ。……真心くらいにしかできないと思っ

ていたのだけれど、この子、本当に普通の人間なのか?
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:33:25.92 ID:ebFiQ8E3o
「いや、僕も今来たとこだよ。別に待ってない」

「なんと……私の精神に余計な負荷をかけまいと、そんなみえみえの気遣いをされるとは、

やはり阿良々木先輩は気立てのよい方だな。生まれ持った度量が違う。三歩下がって見上

げない限り、私ごときには阿良々木先輩のその全貌がつかめそうもない。会って数秒でこ

うも私の心を打つとは、阿良々木先輩の器の大きさには本当に驚かされるばかりだ。一生

分の尊敬を、私は阿良々木先輩のためだけに、どうやら費やさねばならないようだな。な

んてことだろう、全く、お恨み申し上げるぞ」

「いや、恨むのはやめて欲しい。筋違いってもんだ」

 この子に恨まれると恐いからな……うん。

 ていうかみえみえの気遣いって言うなよ。

「今来たところだって言うのは本当だよ。それに、たとえそうでなかったとしても、きみ

もまた待ち合わせの時間よりも先に来たんだから、僕に謝る必要なんかないさ」

 そう、僕が謝られるなんて、そんなこと、筋違いってもんだ。

 僕の方こそ、いろんな人に謝って回らなければいけないのに……。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 00:33:57.60 ID:ebFiQ8E3o
「いや、それは聞けんな。阿良々木先輩がなんと言おうと、阿良々木先輩よりも先にこの

場にいられなかったというだけで、私が謝る理由としては十分だ。目上の人物の時間を無

駄にするというのは、許されない罪悪だと私は思っている」

「別に目上じゃないだろ」

「年上の先輩なのだから目上であっている」

「あってるけどさ……」

 歳の問題だけなんだよなあ。

 あるいは身長か(物理的に目上)。

 でも、それも軽く飛び越えられるくらいのものだし。

 神原駿河――直江津高校三年生。

 バスケットボール部のエースとして、学校一の有名人、学校一のスターとして名を馳せ

ている人物である。私立進学校の弱小運動部を入部一年目で全国区にまで導いたとあって

は、否応なしに、そうならざるを得ないだろう。中途半端な落ちこぼれ三年生であるこの

僕など、本来ならば口も利けない、どころか、それこそまさに影も踏めないような存在だっ

た、恐るべき下級生だ。ついこの間、左腕に怪我をしたのだが、それも無事完治し、次の

大会に向けて練習中なのだそうだ。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 00:34:58.82 ID:ebFiQ8E3o
「いや、私はもう、バスケットボール部はやめたぞ?」

「………………は?」

「阿良々木先輩らしくもない、阿良々木先輩にはもう言ったではないか。私は戦場ヶ原先

輩に嫌われたショックを、バスケットボールに押し付けていただけで、戦場ヶ原先輩と仲

直りできた今では、むしろ邪魔になってきたものなのだ」

「…………………………………」

 ぐわっ!恥ずかしい!!

 なんだよ、全て知っているみたいな感じで近況報告っぽいことしちゃったよ!

「戦場ヶ原先輩と仲良くするだけなら、それほど差し障りはないのだがな。しかし、阿良

々木先輩とも仲良くしたいのだから、これは仕方がないというものだ」

「さりげなく僕の所為みたいに言わないでくれよ……」

 ああ、嘘だろ……本当にやめちゃったのかよ……。

 僕の所為みたいに言わないでとか言ったけど、もしかして、これ、僕の所為なんじゃな

いのか?そもそも左腕の事件も僕とこの子が揉めてしまったからだし……。

 そうだとしたら、やっぱり、謝らなければいけないのは、僕の方だ。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 00:36:00.55 ID:ebFiQ8E3o
「まあ、とりあえず行くとしようではないか」

「ん……ああ、そうだね」

 そうだ、そんな戯言みたいな感傷に浸っている場合じゃない。

 今日は、仕事で待ち合わせたのだ。

 気を取り直して、僕が案内しようと一歩前に出たのだが、神原駿河は、なぜか僕の左側

に回り込み、そしてまたなぜか僕の開いていた左手に、自分の右手を繋いだ。『手を繋い

だ』というよりは、『指を絡めた』という感じ。五指がそれぞれに、もつれあって、そし

てそのまま、僕の腕に自分の身体をぎゅっと、まるで抱きつくかのように、隙間なく密着

させてくる。身長差の問題で、ちょうど僕の肘辺りに、神経が集中したその敏感な部位に

胸が来て、マッシュポテトのような感触を伝わせてくる。

「いや、阿良々木先輩。それを言うなら、マシュマロのような感触だろう」

「え!?僕、今の馬鹿みたいな、っていうか、馬鹿丸出しなモノローグ、声に出してたの?」

「ああ、そうじゃないそうじゃない。安心してくれ、テレパシーで伝わってきただけだ」

「そっちの方がより問題じゃないのか?」

この辺りのご近所さん、全員に聞こえているってことになる。

「ふふふ。まあ見せつけてやればいいではないか。私も最早、スキャンダルを気にする身

ではなくなったわけだしな」

「……まあ、いいか。きみがそれでいいんなら」

 他人の評価なんて、僕は気にしない。

 他人に何を言われようとも、全く気にならない。

 自分で一番嫌っているのだから。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:36:36.88 ID:ebFiQ8E3o
「それでいいというか、そういうものなのだろう?デートのときは手を繋ぐものだと、本

には書いてあったぞ」

「デート!?一回でも、僕、そんなこと言った!?」

「む?」

 とても意外そうに首を傾げる神原駿河。

 ちょっと、いや、とても可愛い。

「そう言えば、言ってなかったかな。阿良々木先輩から誘いがあったというだけで舞い上

がってしまい、よく話を聞いていなかったのだが」

「そう言えば、言ってたっけかな。僕の記憶力の悪さには定評があるし」

 そうだとしたら、またこの子に悪いことをしてしまった。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:37:07.79 ID:ebFiQ8E3o
 ふと、格好を見る。

 ジーンズにTシャツ、長袖のアウター。高級そうなスニーカー。日差しが強くなってき

たということもあってか、頭には野球帽をかぶっていて、それがこのスポーツ少女にはや

けに似合う。

「長袖長ズボンで来いって言ったのは、一応、守っているみたいだけれど……」

 しかし。

 そのジーンズはお洒落にもあちこちが破れているものだったし、Tシャツは丈が短くて、

くびれたウエストが惜しげもなく晒されている。過激というか、なんというか……無論、

日曜日にどんな格好をしようとも、それは個人個人の自由なのだけれど……。

「山中で虫やら蚊やらに対する用心だって、ちゃんと説明したはずなんだけれど……」

「山中?山に行くのか。虫や蚊など問題ではない。阿良々木先輩がどこに行こうと、私は

どこまでもついていくだけだ。阿良々木先輩についてくるなと言われようともな」

「ストーカーじゃねえか」

「元々私のキャラはその位置付けであろう」

 ……そうだっただろうか。ストーカーになんて、一度も遭っていなかったはずだけれど。

 また忘れてしまったのだろうか。だとしたら、昨日の電話の内容などもこの子の方がよ

り正確なのかもしれない。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:37:51.73 ID:ebFiQ8E3o
「まあ、なんか手違いがあったみたいで悪いんだけれど……とにかく、これはデートじゃ

ないんだ」

「そうか、デートではないのか……私はてっきりそうだと思って、気合を入れてきたのだ

が」

「気合?」

「うん。なんと言っても生まれて始めての、異性とのデートだからな」

「そう。初めてのデートだったんだ」

 『異性との』はスルー。

 百合な話は、個人的にはとても興味があるのだけれど、今は重大な仕事中なのだ。

「どのくらい気合を入れてきたかと言えば、これまでの人生十七年間、主義として決して

持たないと固く誓っていた携帯電話を、今日のために購入したほどだ」

「…………」

 ……重っ!
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:38:22.49 ID:ebFiQ8E3o
「万一、阿良々木先輩とはぐれてしまい、連絡が取れなくなっては最悪だからな。公衆電

話の数もすっかり減ってしまったこの世の中、携帯電話はデートに必携のツールだろう」

「ま、まあ……そうだけれど、でもさ、この辺りは田舎だし、公衆電話も結構生き残って

るよ……」

「更に言うと、四時起きでお弁当を作ってきた。阿良々木先輩の分と私の分、両方だ。待

ち合わせが十一時だから、阿良々木先輩とお昼をご一緒することになるだろうと踏んだの

だ」

 ……うん、最初から気付いてはいたんだけれど、その縦に長い直方体の形は、明らかに

重箱かなんかなんだよな……。

 更に重っ……。

 重箱だけに、重ねて重っ……!
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:39:04.74 ID:ebFiQ8E3o
 昼時になることくらいは僕もわかっていたから、用事を済ませたら、先輩としてファー

ストフードくらいご馳走してあげようとは思っていたのだけれど、この後輩はそんな生易

しい次元では物事を考えていなかった。

 手作り弁当か……。

 予想外の行動だ。

「敬愛する阿良々木先輩とデートということだったから、楽しみで楽しみで、あまり眠れ
                        テスサ
なかった上に早く目が覚めてしまったからな、いい手遊びになったものだが」

「はあ……手遊びねえ。でも、それ、全部弁当なの?結構な量だけれど、僕、その半分も

食べられないと思うよ」

「何、阿良々木先輩が食べられない分は私が食べればいい話だ。私は食べ物を粗末にする

行為が嫌いだからな、その辺りはちゃんと計算して作ってある」

「…………」

 食べ物を食べるときはその容器もちゃんと捨てて欲しいものだが……と、僕はこの後輩

の惨憺たる部屋の状況を思い出しながら思った(予期せず頭痛が痛いみたいな表現になって

しまった。いや、そんなことはないのだけれど)。この後輩、片付けと言う言葉を知らない

のかどうかを僕は知らないが、神原駿河の部屋の中は、ちょっとしたごみ屋敷と化してい

るのだ。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:39:39.42 ID:ebFiQ8E3o
「はあ」

 と、そこで神原駿河は、大仰にため息をついた。

「でも、それもこれも、全部無駄だったのだな……なんだ、デートではなかったのか。と

ても楽しみにしていたのに。一人ではしゃいでしまって、まるで馬鹿みたいだ。赤っ恥と

はこのことだ。身に余る夢を見てしまった。高貴な阿良々木先輩が愚かなる私ごときとデ

ートしてくれるはずがないことくらい、考えたらわかりそうなものなのに、思い上がりも

甚だしい……。私の勝手な勘違いで迷惑をかけてしまって、申し訳なかった。じゃあ、携

帯電話と重箱は、荷物になるから、その辺に捨てていこう。阿良々木先輩、ちょっと待っ

ててくれ、すぐにジャージに着替えてくるから」

「デートでした!」

 僕は折れた。そりゃ、もう、ぽっきりと。

「今日はきみとデートでした!今思い出したよ、うん、僕もまた、とてもとても楽しみし

ていたんだ!だから携帯と重箱はそのまま持って、ジャージに着替えなくてもいいから、

その今にも泣きそうな顔をやめてくれ!」

「本当か?」

 ぱあっと、今までの態度が嘘だったかのように表情を輝かせる神原駿河だった。

 しかし、僕と違ってこの子は素直なので、この屈託なき純粋なとてつもなく可愛い笑顔

が嘘ではないことが僕にはわかる。

 あの青色のように純粋な、『本物』の笑顔。

「嬉しいぞ。阿良々木先輩はとても優しいな」

「ああ、きみのそんな笑顔が見れて、僕も嬉しいよ」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:40:34.08 ID:ebFiQ8E3o
 ちなみに、そんな話をしている間も、手は繋ぎっぱなし、指は絡まりっぱなしだ。マッ

シュポテト……じゃなくて、マシュマロのような感覚も僕の肘は感じつづけている。……

いや、僕も振りほどこうとはしたんだけれど、なかなかとれなくって仕方なく。そう、本

当に仕方なく。断じてこのままでいたいからというわけではない。

「でもさ、一応、そのアウターの前は閉じておこうよ。山に入るのにへそ出しっぱなしっ

ていうのもいかさままずいだろ?クラッシュジーンズは――まあ、気をつければ大丈夫な

レベルか」

「ふむ。では仰せの通りに」

 と言って、言われるがままに、神原駿河は上着のボタンを閉じ始めた。くびれたウエス

トが見えなくなる。しかし、そんなことは全くと言っていいほど気にならない。僕は紳士

の極みと言ってもいいほどの男なのだ。可愛い小学五年生に「人畜さん」という、名誉あ

る称号をもらったこともあるほどなのである。だから、いくら可愛い後輩だからといって、

そういった邪な感情を僕は持ち合わせない。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:41:23.71 ID:ebFiQ8E3o
「じゃあ、行こうか」

「阿良々木先輩、そう言えば今日は徒歩なのか?」

「ああ。向かう場所が山だからね。駐輪場がどこにあるかもわからないし、盗られたり壊

したりなんかしたら、後で怒られそうだしさ。それに、そんな遠出ってほどでもないし、

ほら、あの山だよ」

 と言いながら、僕はふと、思い出す。先週、神原駿河は、警戒心からか僕の自転車の後

部座席に乗ることを辞して、自転車の横を伴走するという、やられた側は結構傷つく選択

をされたこともあったのだが……そんな彼女は、今、僕と手を繋いで、指を絡めて、胸を

ぐいぐい押し付けてきている……。

「ふふふ」

 無邪気ににこにことはにかんで、スキップするような足取りだった。

「阿良々木先輩、阿良々木先輩、阿良々木先輩、阿良々木先輩、阿良々木先輩〜〜〜」

「…………」

 鼻歌交じりだった……。

 なつかれたもんだなあ……うん、とっても可愛い。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:42:03.23 ID:ebFiQ8E3o
 まあ、でも、こういうことはちゃんとしておかないと。

「ところでさ、前から言おうと思っていたんだけれど、その、阿良々木先輩って言うのや

めない?」

「え?」

 想定外のことを言われた感じに、きょとんとする神原駿河だった。

「どうしてだ?阿良々木先輩は阿良々木先輩だろう。阿良々木先輩を阿良々木先輩以外の

呼称で呼ぶことなど、考えられない」

「いや、それ以外にも色々あるだろ」

「気仙沼先輩とかか?」

「名前の方を変えるな」

 誰だよ、気仙沼。

「じゃあ、沼つながりで沼地で」

「今、確実に何も考えずに発言をしただろう!」

 だから誰なんだよ。その謎の苗字たちは。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:42:41.06 ID:ebFiQ8E3o
「僕が言ってるのは、『先輩』って呼称の方だよ。なんだか畏まっている感じがする」

「そう言ってくれるな。事実、畏まっているのだ」

「うーん。そりゃ、まあ、確かに僕はきみの先輩だけれどさ。でも、なんだか生真面目す

ぎるきらいがあるからさ」

「しかしだな、阿良々木先輩、そんなことを言ったら、私の方が、現状に不満があるのだ

が……」

「え?何が?どう見ても全ヒロイン中最高に優遇されているはずの神原駿河さんが、この

戯言遣いめにどういった不満があると?」

「そう、まさにそれなのだ。阿良々木先輩は今までずっと私を、名前に『ちゃん』て付け

て呼んでいない!」

 …………ばれてしまったか。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:43:27.01 ID:ebFiQ8E3o
「それどころか、今初めて阿良々木先輩の口から、私の名前を聞いた気がするぞ!二人称

では『きみ』、三人称では『この子』『彼女』としか呼んでくれないではないか!」

「ま、まあまあ、落ち着いて」

「す、少し熱くなってしまったかな……すまない。けれど、阿良々木先輩。阿良々木先輩

が『先輩』を付けずに呼んでほしいというのならば、私の名前をちゃんと呼んで欲しい。

阿良々木先輩は呼びづらいかも知れぬが、しかし、私だって、阿良々木先輩以外では呼び

づらいのだから、おあいこって奴だろう」

 うーん……そうか……そういうものなのか。

「よし、わかった。じゃあ、何て呼ぼうか。神原ちゃんでも駿河ちゃんでもしっくり来な

い気がするんだよね。きみはどう呼ばれたい?」

「じゃあ、『駿河』で」

「…………」

「私も『阿良々木先輩』でなくて、『伊荷親』って呼ぶから」

「いやいやいやいや待て待て待て待て」

 なんかこう、色々と一線踏み越えてないか?
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:44:40.64 ID:ebFiQ8E3o
「何を言うか。私たち二人、死線を越えた仲ではないか」

「僕を殺そうとしたのは駿河だけどね」

 うん、やっぱしっくり来ない。

「い、いやいやそんなことはないぞ!むしろこの呼び方しかないような気もする!」

「そうかな。やっぱりなんか変だよ駿河って呼ぶのは。きみだって慣れてないじゃないか。

照れなのか恥ずかしさなのかはわからないけれど、さっきから顔が真っ赤だよ」

「も、元々こういう顔なのだ!それよりも駿河と!もっと駿河と呼んでくれ!」

「……駿河」

「うう」

 駿河が身震いをする。やっぱり慣れていないみたいだ。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 00:45:30.65 ID:ebFiQ8E3o
「名前の案はやっぱやめにしようよ。なんか色々ともたなくなってきた」

「そ……そうか?私的にはこのままこの時間が永遠に続けばいいと思う程の感動を覚えた

のだが」

「……駿河って呼んでるだけじゃん」

「ひあうん」

「はい、変な声を上げない」

「うーん……どうしても阿良々木先輩が私を名前で呼びたくないというのなら、それもい

た仕方のないことだ。ならば、ニックネームというのはどうだろう」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:46:20.62 ID:ebFiQ8E3o
「ニックネームか……」

 この子のセンスは、どっかずれているからな……。

 ずれているというか外れているというか。

 まあ、とんでもなく嵌ったニックネームも一個だけあったことだし、ものは試しという

ことで、僕は「じゃあ、何か考えてみてくれよ」と言った。

「うん」

 彼女は少し目を閉じ、思案する素振りを見せる。そして数秒、ぱっと顔をあげ、

「思いついたぞ」

 と言った。

「おお。なかなかに早いね。ちょっと言ってみてよ」

 と、僕は促した。

 促してしまった。

 最早、定番の流れだというのに。

 全く僕の学習能力のなさは計り知れない

 神原駿河は口にしてしまった。



「いーちゃん」



「却下だ」

 即座に切り捨てた。そう、その名だけはダメだ。ダメなんだ。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:46:53.52 ID:ebFiQ8E3o
「むう、頑張って考えたのだがな。阿良々木先輩のお気には召すまいか」

 と、神原駿河は不満そうに言った。

「もう、阿良々木先輩でいいよ。それ以外の選択肢はなさそうな気がする……」

「そうか、ならば、今までどおり、『阿良々木先輩』と呼ばせてもらうことにしよう」

「ああ、だったら、僕は――」

「『駿河』って呼ぶということで」

「どうしてそうなる!」

 楽しい会話だった。

 ちょっと楽しすぎるくらいに。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 00:47:33.89 ID:ebFiQ8E3o
 しかし、それでも、阿良々木先輩は避けたいな。

 『阿良々木先輩』も『駿河』も何故かギャグで済ませてくれないし。

 『駿河』は頑なに変えてさせてくれないので、(何故かちゃん付けも駄目だった)できる

ところから変えさせていただこう。

 どう考えても、駿河の方が目上の人だし。

 僕はもう、人じゃないし。

 まあ、そんな僕個人の戯言はともかく、この後輩の中で過度によくなってしまっている

僕のイメージを、ある程度調整しておく必要はあるかもしれない。イメージを崩しておく

というのか……、あんまりいい印象を持たれ過ぎていると、いざ何かあったとき、必要以

上に失望させちゃうことになるし。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:48:29.38 ID:ebFiQ8E3o
 というわけで、イメージ悪化計画を発動させてもらおう。

 その一。

 金にだらしのない男。

「あのさ、駿河、財布を忘れてしまったのだけれど、すぐに返すから、お金を貸してくれ

ない?」

「わかった。三万円くらいでいいか?」

 お金持ちだった……そうだよな、歴史ある日本家屋みたいな家に住んでいるんだよな……。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:48:58.44 ID:ebFiQ8E3o
 うーん、時間にだらしのない男……は、待ち合わせに僕が先んじてきていた以上説得力

がないだろうから……。

 よし、イメージ悪化計画その二。

 やたらとエロい男。

「駿河、僕は今、女性の下着に興味があるんだ」

「ほう、奇遇だな、私もだ。女性の下着は芸術品だと、私は思っている。なんだ、話が合

うではないか、阿良々木先輩」

 く、くうう……話が合うとは……しかし、彼女はいたって真面目、本当に芸術品か何か

と間違っているに違いない。これ以上のものを持ってくれば、僕にもまだ勝ち目がある!

「特に興味があるのは小学生の下着なんだ!特に五年生くらいになるとそりゃあもう、最

高だ!」

「益々話が合うな!さすがは阿良々木先輩!世間の荒波何するものぞ、素晴らしい生き様

だ!」

 ………………評価が上がってしまった。

 なんでだよ。真面目で博識ってキャラはどこへ行ったんだ。

40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:50:25.57 ID:ebFiQ8E3o
 えーっと、じゃあ、イメージ悪化計画その三(もう既に面白くなってきたので当初の目

的は見失っている)

 誇大妄想的な夢を語る男。

「駿河、僕は将来ビッグになる男だぜ!」

「いわれなくとも知っている。というより、既に阿良々木先輩は途方もなくビッグではな

いか。それ以上大きくなられては、そばでお仕えするのも一苦労だな」

「くっ…………!」

 いや、この程度は予想範囲内!

 まだだ、まだ終わらんよ。

「僕はミュージシャンになるんだ!」

「そうか。ならば私は楽器になろう。」

「意味はわからないけど格好いい!」

 僕の中での駿河の評価が上がった。

 いや、だからなんでだよ。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:51:03.30 ID:ebFiQ8E3o
「阿良々木先輩、さっきから何を言っているのだ?わざわざそんな風に言い聞かせてくれ

ずとも、私は阿良々木先輩のことを既にこれ以上なく敬愛しているぞ?」

「ああ、どうやらきみには何を言っても無駄なようだね」

 僕がどんな人間であってもとにかく敬愛するつもりらしい。

「しかしわからないな。どうしてきみはそこまで僕のことを過大評価するんだい?」

「『駿河』」

「?」

「『きみ』じゃなくて、『駿河』だぞ、阿良々木先輩」

「…………駿河はどうして僕を過大評価するんだ?」

「何を言うかと思えば」

 と、彼女は笑う。

「これまで私は、愚問とは『グッドモーニング』の略かと思っていたが、どうやらそうい

う質問のことを言うらしいな」

「………………………」

 一瞬格好いい台詞だと思ったのだけれど、よく聞いてみるとその台詞、ただの馬鹿じゃ

ないか?
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:52:17.69 ID:ebFiQ8E3o
「私はこの生涯を、阿良々木先輩に捧げると誓ったのだ。戦場ヶ原先輩との仲を取り持っ

てくれたからというのではない。阿良々木先輩がそうするに値する人だと思うから、そう

誓ったのだ」

「誓った、ねえ…………」

「ああ。常に人々を照らし、恵みを与えつづけるあの太陽に誓おうと思ったが、そう思っ

たのが夜だったので、とりあえずその辺の街灯に誓っておいた」

 適当極まりない!

「街灯だって人々を照らし、恵みを与えつづけているではないか。街灯がなかったら大変

だぞ」

「そりゃ、そうかもしれないけれど…………」

 街灯か……もう、こんな身体になっちゃったから、そういうの全然必要じゃなくなっちゃっ

たんだよな……。

「まあ、生涯を阿良々木先輩に捧げるなどと大それたこと、私には約不足かもしれんがな」

「その言葉の誤用は今となっては指摘する方が照れてしまう類のものなのだけれど、しか

し漢字まで間違っているというケースには初めてお目にかかるな……」

 うまい距離が見当たらない。どうやら、イメージ悪化計画はここらで一度中止せざるを

えないようだ。(諦めはしない)
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:52:52.67 ID:ebFiQ8E3o
「……ふむ」

「ん?どうした?阿良々木先輩」

「え……いや、別に」

「そんな暗い顔をしていては、せっかくのデートが台無しだぞ」

「普通にしてたんだけれど……まあ、いいか」

「死んだ人間のような目をしていたぞ」

「だから、それがデフォルトなんだって」

 ていうか、死んだ人間のような、って比喩としておかしくないか?僕は死んでもいない

し、人でもないというのに。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:53:42.50 ID:ebFiQ8E3o
「ところで、阿良々木先輩。さっきは聞きそびれてしまったのだが、山に行って、それか

らどうするのだ?行為に及ぶのか?」

「行為って、僕ら二人で何ができるんだ?まあ、確かに、ちょっと儀式的な雰囲気のこと

をやるのだけれどさ」

「新しい生命をこの身体に宿す儀式か?」

「そんな大それたものじゃないよ、ちょっと、妖怪大戦争を防ぐだけだ」

「いや……それも十分大それたことだと思うのだが、そして私の思想はそんなに大それた

ものではないので、そこまで巧みにかわされてしまうと、とても恥ずかしいのだが……」

「?」

 かわす……ってどういうことだろう。なにかされたのだろうか。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 00:54:09.25 ID:ebFiQ8E3o
「まあ、そういう意味ではデートなんて言ってられないかもしれないけれどね。ほら、忍

野からの仕事なんだよ」

「忍野?ああ、忍野さんか」

 そう聞くと、彼女は複雑な顔をした。この後輩にしては珍しい反応だが、まあ、さもあ

りなんという感じだ。

 忍野メメ。

 僕の周りの、怪異という異形なものに出遭ってしまった者は全員、その男に助けられた。

いや、助けられたなんて言い方を、忍野は許さないだろう。一人で勝手に助かったと、そ

れはあくまでも、そう言うしかないのだ。

 怪異の専門家にして根無し草の放浪者。

 趣味の悪いアロハに軽薄な性格。

 大人としては決して尊敬のできる相手ではないのだけれど、それでも、僕らがあの人に

世話になったことは、揺るぎのない事実だ。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 00:54:37.90 ID:ebFiQ8E3o
「あの山の中に、今はもう使われていない小さな神社があるそうなんだけれど、そこの本
    フダ
殿に、お札を一枚、貼ってきてくれ――っていう、そういう仕事」

「……なんだそれは」

 と、彼女は不思議そうに聞き返してくる。

「お札というのも不可解だが、しかし、そんなの、忍野さんが自分でやればいいのではな

いのか?あの人は基本的に暇なのだろう?」

「僕もそう思うけれど、まあ、『仕事』だよ。僕はあの人に世話になったとき、洒落にな

らないような多額の借金をしちゃったんだ。……きみだって、駿河だってそうなんだよ?」

「え?」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:56:41.19 ID:ebFiQ8E3o
ルビがずれていることに今気づいた……もう嫌

手遊び(てすさ)
お札(ふだ)
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 00:57:08.01 ID:ebFiQ8E3o
「なんだか有耶無耶になっちゃってるけれど、あの人はあれでもれっきとした専門家なん

だから。ロハで力を貸してくれるほど甘くはないさ。世話になった分は、働いて返さなきゃ」

「ああ、そういうことになっているのだったな……全く忍野さんは本当になんでもお見通

しというかなんというか」

「?」

「いや、なんでもない、こっちの事情だ」

 なんだろう、実は、もう、この子に忍野は料金について話していたのかな?でも、昨日

忍野はこのことを彼女は知らないって……うーん、なんだかこんがらがってきた。

 まあ、いい。今はともかく説明だ。

「まあ、なんというか、それで僕はきみを呼び出したってわけ。昨日、忍ちゃんに血を飲

ませに行ったときに頼まれたんだ。きみも一緒に連れて行くようにってさ」

「わかった。そういうことならば是非もない」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:57:57.03 ID:ebFiQ8E3o

 そう言うと、この後輩はぎゅうっと、より強く、僕の腕に抱きついてきた。その行為の

意味は複雑そうで推し量ることはできないが、どうやら、何かを決意したらしい。まあ、

そういう意味では、貸し借りとかに関しては、とても義理堅い性格をしている、神原駿河。

気合を入れ直したとも言えるのかもしれない。この子は基本的に体育会系なのだ。

「しかし、――そういう言なら、戦場ヶ原先輩もまた、今日は一緒に来なければならなかっ

たのではないのか?阿良々木先輩。戦場ヶ原先輩も確か、忍野さんの世話に――」

「ああ、あの子はね……僕にもよくわからないのだけれど、何故か払わないことになった

んだよ……」

 本当に……なんでだろう?
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:58:23.16 ID:ebFiQ8E3o
 そんなことを話しているうちに、目的地に到着した。

 道路沿いにある山。

 山の名前は知らない。

 忍野も知らないとのことだった。

 山の間を縫うように道路が作られていると見るべきなのだろうが、歩道の脇から、山の

頂上へ向かって、階段がある。が、しかし、それはあるだけのようで、草木はぼうぼう、

あらかじめ言われていなければ、これが階段であるとは、とても気付けそうもない。

 獣道。

 ん?いや――よく見れば、草が踏み潰されているような跡がある。足跡だ。なるほど、

この階段、全く誰も使っていないというわけではないのか。だけど、だとしたらこれは、

どんな人間の足跡なのだろう?確か忍野は、その神社には近付いてもいないと言っていた

から、この足跡は忍野のものじゃないはずだ。神社は既に廃れているそうだから、そこの

関係者ということでもないだろう……。

51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 00:59:19.50 ID:ebFiQ8E3o
「まあ、とにかく行こうか。なんか山に上る前から色々あったけれど」

「うむ」

「一応、足の方、気をつけといて。虫刺されの方はともかくとして、この山、やたら蛇が

出るらしいから」

「蛇か」

「ああ、でも、この辺りは、無毒の奴ばかりらしいのだけれどね」

 それについては事前に翼ちゃんに聞いているので問題ない。

「それでも、蛇の牙は長いからさ、気をつけるに越したことはない。こんなところでその

綺麗な脚を傷つけるっていうのも、嫌な話だろう?」

「……阿良々木先輩は首筋だったな」

「蛇じゃなくて鬼だけれどね」

 山中の階段を昇りながら、そんな話をする。さっきまでと座標がそこまで極端に変わっ

たわけでもないのに、山に入るや否や、温度が一気に上昇したらしく、酷く蒸し暑い。忍

野の話だと、この階段が直接、その神社に繋がっているはずなのだけれど、神社のその高

度までは聞いていない。さすがに頂上ってことはないと思うが……まあ、それでもいいだ

ろう。どうせ、そんな高い山でもない。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 00:59:50.99 ID:ebFiQ8E3o
「私の左腕は」

 神原駿河は言った。

「私の左腕のものは、もうとれてしまったのだが……阿良々木先輩は――どうなのだ?」

「え?僕?」

「阿良々木先輩は―― 一生、吸血鬼なのか?」

「……僕は」

 一生。

 一生――吸血鬼。

 人間もどき。

 人間以外。

「それでもいいと、思ってるよ。大体――きみの……駿河の左腕とは違って、それほど不
                    ニンニク
自由しないしね。太陽も十字架も大蒜も、全然、平気だし。怪我してもすぐに治っちゃう

から、むしろ得なくらいなんじゃないかな」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:00:18.78 ID:ebFiQ8E3o
「私は強がりが聞きたいのではない。阿良々木先輩。忍野さんから聞いた話では――忍と

いうあの少女を助けるために、阿良々木先輩は吸血鬼に甘んじているとのことだったが」

 忍ちゃん。

 僕を襲った吸血鬼。

 金髪の吸血鬼。

 彼女は今――忍野と共に、学習塾跡の廃墟にいる。

「…………」

 でも、実際、吸血鬼でなかったら、今いるいろんな人達と関わりあうことなんてなかっ

ただろうし、今まで生きて来れたとも思えない。それに――そうやって、人外だから――

と、言い訳をしておかないと、戻りたくなってしまう。帰りたくなってしまう。また、あ

の、青色を壊し直してしまう。多分、今度こそ、徹底的に。

 だから――
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:01:05.41 ID:ebFiQ8E3o
                       ・ ・ ・
「そんなことはないよ。これはただの後遺症だ。忍ちゃんは――まあ、責任だ。助けるな

んてそんなだいそれたもんじゃない。これでも、折り合いをつけて、ちゃんとやってるん

だ。大丈夫。僕のこと、心配してくれてありがとう」

「…………」

 そう言って、僕はこの話を打ち切った。神原駿河はまだ何か言いたそうだったけれど、

それはいうべきことではないと思ったのだろう、そのまま、黙った。いうべきことははっ

きりと言うが――言いたいだけのことは、律する。全く、僕には勿体無いくらいに、でき

た後輩だ。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:01:26.90 ID:ebFiQ8E3o
「あ」

「ん」

 と、会話が途切れた、そのちょうどいいタイミングで、階段の上から、人が降りてきた。

小走りで危なっかしく、この頼りない階段を駆け下りてくる。

 中学生くらいの女の子だった。

 長袖長ズボンの完全装備。

 腰にウエストポーチをつけていて。

 頭には帽子を深くかぶっている。

 前が見えているのかいないのか非常に不確かで、しかも、見えていたとしても足元だけ

を見て駆け下りてきている感じだったので、下手をすれば僕達と正面衝突していただろう。

たまたま会話が途切れたタイミングだったのが本当によかった、僕と神原駿河は、彼女に、

通常よりも早いタイミングに気付き、それぞれ、階段の脇によって避けることができた。

 すれ違う瞬間。

 彼女は僕らを見て――そこで初めて僕らに気付いたようで、ぎょっとした顔をして、し

たかと思うと、それから更にペースを上げて、階段を降りていった。あっという間に、そ

の背中が見えなくなってしまう。道路に出るまでに絶対に二回は転ぶと思わせるほどの、

それはペースアップだった。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 01:01:52.80 ID:ebFiQ8E3o
「こんな山道で人間とすれ違うとは、意外だったな。阿良々木先輩の手前口には出せなかっ

たが、私はてっきりこの階段、死道だと思っていたぞ。それに、随分と可愛い女の子だった。

もう使われていない神社といっていたが、案外、使っている人はまだ使っているのではな

いのか?」

「あんな女の子が?」

「信仰に年齢は関係あるまい」

「そりゃそうだけどさ」

「恋愛に年齢が関係ないように」

「やべえ、格好いい」

 阿呆な掛け合いだった。

 「ま、登ろう」と、僕は仕切り直すように言う。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 01:02:27.35 ID:ebFiQ8E3o
「上から人が来たってことは、とりあえず上に何かがあるってのは確かってことだよ。ひょっ

としたら忍野が僕に嫌がらせをしているんじゃないかとも疑っていたのだけれど、どうや

らその線もなさそうだ」

「うむ。阿良々木先輩が私を騙しているという線も、これで薄くなった」

「そんな線があったのかよ……」

 しかもなくならないし。

「笑顔で許すぞ」

「…………ごめんな」

 何に謝罪しているのかは、僕にもよくわからなかった。

 でも、「笑顔で許す」か……。

 恐らく、あいつもきっと、笑って全てを許してくれてしまうのだろう。

 そんなことをされたら、きっと僕は耐えられない。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 01:03:02.10 ID:ebFiQ8E3o
 全ての思考を振り切るように、僕は階段を登った。

 勿論、振り切るのは思考だけだ。紳士中の紳士であるこの僕は駿河の手は離さない。

 むしろ、知らない山中で不安もあるだろうから、それを紛らわすためにもよりいっそう

密着してあげることにする。

 入り口のところで気付いた、草を踏み潰した足跡は、あの子のものだったのだろうか、

などと考えながら、神社に着いたのは五分後だった……それもまた、階段同様、事前に神

社だと聞いていなければ神社だとは思えないような、荒れ果てた様相を呈している。かろ

うじて、鳥居があるから神社跡だとわかるだけで、建物の方は、どれが神殿なのだか判然

としない。位置関係から判断するしかなさそうだ。

 さっきの女の子も、ここにきたのだろうか。

 しかし、何のために?

 明らかにこの神社に、神様はいない。

 神様だって逃げ出すはずだ。

 忍野風に言うのならば、神様はどこにでもいる――んだろうけれど、それでも、やっぱ

りここにはいないような気がする。

 まあいいか。……とりあえず、仕事を済ませるとしよう。

 正確には、済ませてもらうのだけれど。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:03:41.97 ID:ebFiQ8E3o
 僕はポケットから、忍野に渡された厳重に封のされている封筒を取り出した。(また期

せずして違和感を感じるのような表現になってしまった。今日はなんとなく調子が悪い)

それを我が愛しき後輩に渡す。

「?阿良々木先輩、何だこれは?私に何かくれるのか?」

「それはまたいつかの機会にとっておくよ。今回は、そう、仕事の依頼って奴だ。これが、

今回きみが呼ばれた理由なんだよ」

「呼ばれた理由?」

 そう言って、封筒の中身を取り出す。中には墨でなにやら色々と書かれているお札が入っ

ていた。事前に聞かされてはいたが、実際に見たのはこれが初めてだ。文字のような絵の

ようなものが書いてある。

「ちょっとわけがあってね。ここはなんというか……よくないものが集まり始めているん

だってさ。丁度、エアポケットというか、吹き溜まりになったみたいでさ――そういう意

味では、今、この神社は、町の中心になっているんだって。で、これがそれらを吸収する

ための、お札ってわけ」

 そう、今ここには、色々な、悪いものが集まってきている。

 鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダ

ーブレードが来訪してしまったことによって。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:04:15.65 ID:ebFiQ8E3o
「なるほど。だから――」

「そう、僕には素手で触れない。そもそもそういうよくないもの自身である僕が直に触っ

たら、大変なことになるらしい」

 封筒の上からでもちょっと効果があったのか、やたらと心臓が高鳴っていた。血が滾る

とでも言うのだろうか。冷静になって考えてみると、この後輩や、すれ違ったあの子も、

釣橋効果というやつでより可愛く見えたのかもしれない。

「これを、忍野の代わりに、そして僕の替わりに貼ってもらいたいんだ」

「うむ。了承した」

 僕らは、草を踏み分けるようにして建物の方に向かう。

「忍野には本殿に貼るように言われているんだけれどね……どこに貼ればいいのか、ちょっ

とわからないな……」

「うーむ……そもそも中に入るのが難しいほどに朽ちているし……そうだな。戸にでも貼っ

ておけばいいのではないか?」

 僕は数秒ほど考えて、「そうしようか」と、賛成した。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:05:26.12 ID:ebFiQ8E3o
「では、阿良々木先輩、封筒からお札を、私が取れる程度に出してくれ」

「…………」

 あれ、この状況、なんかおかしくないか?

「あのさ……さすがにこういう作業のときくらいは手を離したほうがいいんじゃないかな?」

 慣れてきてしまったので、そのまま流してしまいそうになってしまったが、腕がこのま

まじゃ、貼ることはできないんじゃないか?

「いや、だから、私が中から取り出しやすいように、まず封筒を開けて欲しいのだが……」

「いや、だから、きみが中から取り出すためには、まず絡まっている腕を解かなくてはな

らないのだが……」

「さっきも忘れてしまったのだが、『きみ』じゃなくて『駿河』だぞ」

「……………………駿河、まず手を解かないか?」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 ああ、もう、全くこの後輩は……。

 僕は封を開け、両サイドを持ち、ひしゃげさせることで、手が入る分くらいの空間を作

る。……何でこんなまどろっこしいことをしなければならないんだ。

「夫婦二人、初めての共同作業だな」

「今なんか言った!?」

「なんでもない」と、神原駿河は明らかな嘘を吐き、封筒の中のお札をその綺麗な左手に

取り、戸に貼った。

 …………阿良々木『先輩』ではなかったのだろうか。

 この子のキャラもまた、この神社とまではいかないが、崩れかけてきている。

 真面目で素直、清楚な百合スポーツ少女だったはずなのに、この一週間で早くも清楚と

百合以外の全てが塗り替えられてしまった。

 僕の所為だろうか?だとしたら、やはり謝罪するのは僕の方だ。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 01:06:36.59 ID:ebFiQ8E3o
「さて、と。これでいいのだろうか?」

「ああ。なんだか拍子抜けって感じもするけどね」

 忍野からの頼みの割には、かなりの楽勝感だ。

「阿良々木先輩、食事にしないか?一応はここも山だ。場所によっては、見晴らしもいい

に違いない」

「そうだね、そうしようか」

 僕達は食事の場所を探すことにした。「よくないもの」とかいうのも、きっと大丈夫だ

ろう。いざとなったら退治すればいいだけだし。と、僕は完全に油断しきっていた。

 そこで、仕事が終わり、不覚にも気を緩めてしまった、そんな状況下で、そう広くない

境内を歩いていた僕と神原駿河は衝撃的なものを見ることとなった。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 二人とも、驚きからか、それとも、理解が追いつかなかったのか、または、惹かれてい

たのだろう。声は出なかった。

63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 01:10:53.96 ID:ebFiQ8E3o
 境内から少し外れた山林。その中の一本の太い木。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 その木の根元に――切り刻まれた蛇がいた。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 ぐねぐねと長い、にょろりとしたその身体の節々を――刃物で五等分されて殺された、
 ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・
一匹の蛇の死体があった。

 五等分。

 殺されている。

 しかし、その頭部はまだ生きているかのように。

 舌をちろちろと震わせ、口を大きく開けて。

 苦しそうにうめいている。

 ように――見える。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 01:11:19.67 ID:ebFiQ8E3o
「……えーっと……なんだろうね。これ……」

 神原駿河からの返答はない。気持ち悪そうに、その左手で頭を抱えている。

「とりあえず……ここから離れようか」

 僕はそのまま、動けないでいる駿河を引きずるように神社の本殿にまで戻ったのだが、

そこまで戻ったところで結果は同じだった。本殿の近くの木の根元にも、同じような蛇の

死体がごろごろ転がっていたのだ。そう、まるで、新しい単語を知った後に、新聞を読む

と、前からあった単語なのに、それだけが目に付くような、そんな感じ。下手な例えで何

が言いたいのかわからないかもしれないが、つまり、今まで気付かなかっただけで、ここ

に、それはもうあったのだ。

「見えなかったものが見えるようになっただけ。視点が変わっただけ」

こんな現象が起きているということは、つまりそれは、また忍野に力を借りるしかないと

いうことで――
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:11:45.48 ID:ebFiQ8E3o
003

「これと――これかな。あ、その本はあんまりためにならないかも。書いてくださってい

る先生には申し訳ないんだけれども、結局、暗記を進めているだけになってるから。効率

を求めるなら、そっちの本がいいと思う」

 翼ちゃんは――そう言って、次々と、本棚から参考書を引き出し、僕に手渡して行く。

一冊、二冊、三冊、四冊、これで五冊。

 六月十二日、月曜日。

 その放課後。

 いよいよ今週末の金曜土曜にと迫った文化祭の打ち合わせと準備を終えた、クラス委員

長の翼ちゃんと、副委員長の僕は、その帰り道、一緒に本屋さんに寄った。というか、僕

が翼ちゃんに頼んで、一緒に来てもらった格好だ。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:12:11.25 ID:ebFiQ8E3o
 翼ちゃん――羽川翼。

 二つの三つ編み、眼鏡。

 委員長の中の委員長。

 究極の優等生で、それゆえにゴールデンウィークに猫に魅せられてしまった。

「ごめん、翼ちゃん……もうそろそろ予算というものが……」

「あー。参考書って割と高いからね。内容を鑑みれば、しょうがないことではあるけれど。

どれくらいなの?予算」

「一万円。家に帰れば、もうちょっとあるんだけれど、財布の中にはそれだけなんだ」

 本当は、靴の中にも仕込んでいるのだけれど、それは非常用。なくてはならないものな

のだ。

「じゃ、参考書の良し悪しのほかに費用対効果も考えようか。この本は返却して、こっちを、と」

「きみは全ての参考書を持っているのかよ」

 と、僕はグッドモーニングなつっこみを入れてしまった。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 01:13:54.72 ID:ebFiQ8E3o
「でも」

 と、翼ちゃんは、何が「でも」なのかはよくわからない、何の脈絡もなく、何の前触れ

もなく、何の前置きもなく、唐突に言った。

「私は、少し、嬉しいな」

「……何が?」

「阿良々木くんが参考書選びを手伝って欲しいとかさ、そんなこと、言い出すなんて。阿

良々木くんが真面目に勉強する気になったんだとすれば、私の努力も無駄じゃなかったん

だなあって」

「うーん。……真面目に勉強とか、そういうんじゃなくてさ……僕もそろそろ進路のこと

を視野に入れようかと思って」
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 01:14:20.70 ID:ebFiQ8E3o
「進路?」

「というか、進学と言うか……別に具体的な目標がどうこうってわけでもないんだけれど

さ、この間の実力テスト、僕、思ったよりも点数取れてたから、卒業だけじゃなくって、

その先、大学もってさ……って、つ、翼ちゃん!どうしたの!」

 翼ちゃんはまたもや、何の脈絡もなく、何の前触れもなく、何の前置きもなく、とても

悲壮感溢れる表情をした。その顔は、迷いながら、澱みながら、躊躇して、遠慮して、そ

れらを一切合財隠そうとして、それでも隠し切れないような、深い、深い悲しみで彩られ

ている。

「何でも……そう、何でもないよ……そっか大学を目指すんだね」

 声は明るく勤めているが、しかし、その顔は先刻から変わらない。

 悲しみ。

 それしか見えてこない。

 けれど、彼女が何でもないというのなら、僕には引くしかすることはない。

 僕は、「そう」とだけ言った。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:14:59.16 ID:ebFiQ8E3o
 ぽん、と一冊、参考書を、さらに僕に手渡す翼ちゃん。

「はい。これでぴったり、一万円」

「……え、嘘。値段をうまく丁度に揃えたの?え、そ、そんな器用なことできるの?」

「ただの足し算でしょ、こんなの」

「…………」

 確かに、ただの足し算といえばただの足し算だけれど……基本四桁で、暗算で、話しな

がらでこんなことできる奴なんて、そんなの、あの青色か――橙色か――あいつくらいの

もので――

 …………なんというか、ちょっとやる気なくすというか、単純に凹むよな。

 思い切り出鼻をくじかれた感じ。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:15:25.04 ID:ebFiQ8E3o
「ところで、阿良々木くん」

「なに?若干忍野みたいに切り出してきて」

「さっき聞いた話の続きなんだけれど。そのすさんだ神社跡で、五等分にされた蛇の死体

を見つけて――それから、どうしたの?」

「え……ああ、その話か」

 あれ?翼ちゃんにその話、したっけかな?

 したような気もするし、していないような気もする。

 でも、いくらなんでも知っているからといって、話していないことまで知っているなん

てことはないだろうから、きっと僕が話したことを忘れているだけなのだろう。

「えっと……そう、あの後すぐ山を降りたんだ。あれからあの子、具合悪くなっちゃって

さ。気持ち悪そうにしてたよ。まあ、それでもあの子、弁当食べたんだけれど」

 とんでもない精神力だ。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:15:51.56 ID:ebFiQ8E3o
「弁当?」

「うん、作ってきてくれたんだ。山で食べようと思っていたんだけどさ。あんな有様だっ

たから、山を降りた後、近くの公園で、二人で食べたんだ。とてもおいしくてびっくりし

たよ。あそこまで運動能力高くて、その上料理も得意だなんて、神様もひどいことするも

んだと思ったよ」

「確かに、ちょっと憧れちゃうかも。でも、本当に惜しいよね、神原さん。腕の怪我さえ

なければ、今ごろは大会の真っ最中なのに。包帯は取れても完治には時間がかかるって聞

いたよ」

「…………」

 そのあたりのことは意図的に伏せているのだけれど……。

 言わない方がいいんだろうなあ。もう、あの子がバスケットやる気ないこと。

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:16:43.91 ID:ebFiQ8E3o
「まあ……大変だったね、阿良々木くん。少なくとも、傑作とは言えない状況だよ」

「ああ。蛇をあんなふうに[ピーーー]なんて、どっか儀式めいててさ、考えさせられたよ。ぞっ

とするというか、ぞっとしないっていうか。場所が神社跡だっていうのもなんだかな。あ、

ひょっとして翼ちゃん、あそこに神社があったの、知ってた?」

「うん」

 あっさり頷く。

 当然のように。
キタシラヘビ
「北白蛇 神社よね」

「……蛇、か。てことは」

「そ、蛇神信仰って感じなのかな。私もそこまで詳しいわけじゃないんだけれど。地元だ

からこそたまたま知ってるってだけで」

「そういうのって普通さ、地元の方が知らないんじゃない?」

 ヒューストンは例外とし……なくてもいいか、兵庫の方の神社とかも、もう何一つ思い

出せない。ただ僕が今までそういうものに興味がなかっただけなのかもしれないけれど。

 ていうか、翼ちゃん十分詳しいと思う。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 01:17:58.00 ID:ebFiQ8E3o
「でも、そうか……蛇神信仰をしてた場所で、蛇殺しか……やっぱり、儀式めいてるよね。

一応、忍野に報告しておいた方が……いいのかな」

 翼ちゃんの前だから、「一応」何て言葉を使用させてもらったが、多分、正しくは、

「絶対」に、だ。

 怪異。

 おそらく、絡んでいる。

 それこそ、蛇のように。

「……………………」

 ……しかし、この話の流れはまずいな。

 翼ちゃんは、怪異と関わった記憶をなくしている。忍野に世話になったことくらいは憶
                             ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
えているだろうけれど、自分が猫に魅せられ、何がどうなったのか――それを、忘れてし

まっている。あれは、忘れられるのなら忘れっぱなしの方がよく、関わる必要のなければ

関わらない方がいい――これまでも、これからも。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:19:17.65 ID:ebFiQ8E3o
>>72
「まあ……大変だったね、阿良々木くん。少なくとも、傑作とは言えない状況だよ」

「ああ。蛇をあんなふうに殺すなんて、どっか儀式めいててさ、考えさせられたよ。ぞっ

とするというか、ぞっとしないっていうか。場所が神社跡だっていうのもなんだかな。あ、

ひょっとして翼ちゃん、あそこに神社があったの、知ってた?」

「うん」

 あっさり頷く。

 当然のように。
 キタシラヘビ
「 北白蛇 神社よね」

「……蛇、か。てことは」

「そ、蛇神信仰って感じなのかな。私もそこまで詳しいわけじゃないんだけれど。地元だ

からこそたまたま知ってるってだけで」

「そういうのって普通さ、地元の方が知らないんじゃない?」

 ヒューストンは例外とし……なくてもいいか、兵庫の方の神社とかも、もう何一つ思い

出せない。ただ僕が今までそういうものに興味がなかっただけなのかもしれないけれど。

 ていうか、翼ちゃん十分詳しいと思う。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:21:35.50 ID:ebFiQ8E3o
「そう言えば、翼ちゃんはどこに進学するの?東京のほうに行くの?それとも、海外の大

学とかに行くの」

 僕は話題を無理矢理に切り替えた。しかし、この話題は、考えうる限り、最悪の選択肢

だった。
    ルール
「私は神理楽にでも就職しようかと思っている」
 ルール
 神理楽……だって?

「……就職……ね……やめたほうがいいよ」

「え?」

「あんなところにいったら、幸せになれない」

「……阿良々木くんにとって、私の幸せって、何?そんなの、阿良々木くんが決めること

じゃないでしょう」

「そんなの百も承知だ。けれどさ、きっとそこに、きみの望むものはない。きみが得られ

るものはない」

「じゃあ、私の幸せとやらはどこなら見つかるというの?」

「…………」

「私に、幸せになれるような場が、状況が、あるというの?」

「…………」

「それとも、阿良々木くんが私を一生幸せにしてくれるとでも言うの?」

「…………」
                 ルール
「なんて、ね。冗談よ冗談。神理楽は危険なのね。わかった。ちょっと調べてみることに

するわ」

「……ごめんね」

「いいっていいって。私のこと、心配してくれていたんでしょう?でないと、阿良々木く
            かお
ん、あんなにこわい表情、しないものね」

 ……そんなにこわい表情をしていたのだろうか……たまに翼ちゃん、すぐ僕のこと、こ

わいこわいって言うんだよな……。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:23:22.68 ID:ebFiQ8E3o
「あはは。ごめんごめん。ちょっとね、色々とあるのよ……阿良々木くん、私、あなたに、
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
あなたに会う前に、鬼に遭ったことがあるって話、してないよね?」

「うん、そんな突拍子もない話、初めて聞いたよ」

 きみからは、ね。

「その人は、阿良々木くんに……なんというか、雰囲気?ってものが……似ていてさ。だ

から、阿良々木くんを見ているとね、すこし、その人のことを、その鬼のことを思い出し

ちゃうんだ。つい、その人と阿良々木くんを重ねちゃうの。だから、阿良々木くんを恐れ

ているんじゃなくて、たぶん、私は、その鬼のことを畏れているんだと思う」

「…………」

「何を言っているのかわからないとは思うけれど、自分でも何が言いたいのかよくわから

ないのだけれど、とにかく、私は阿良々木くんのことをこわがっているわけじゃないよ。

むしろ、好きなくらいだよ」

「そう、ありがとう」

 僕に似ている……か。どちらに似ているんだろう。

 ぼくの方か。それとも――
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:24:09.36 ID:ebFiQ8E3o
「まあ、でも、最近阿良々木くんとその人、あんまり似ているって思わなくなったな……」

「……え?」

 何だ?似てるって言ったり似てないって言ったり……。

「だって、阿良々木くん、最近『戯言』をあまり使わないでしょう?」

 ……?そうだろうか。ぼくには自覚がないのだけれど……。

「私はいい傾向だと思っているよ。阿良々木くんは変わってきている」

「変わって……きている」

「そう、神原さんや、戦場ヶ原さんよりも、きっと、大きな変化だよ」

 そうか……僕、変わってきているのか……だとしたら、たぶんそれは、忍ちゃんと、翼

ちゃんのおかげだろう。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:24:51.54 ID:ebFiQ8E3o
「……、痛っ」

 と。

 そこで唐突に、翼ちゃんは右手を、今度は自分の頭部に添えた。

 支えるように。

「?どうしたの?」

「いや、ちょっと――頭痛が」

「頭痛?」

「ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと前から、たまにあるんだ。急に頭が痛むの」

「……それを人は大丈夫とは呼ばないんだよ」

「うーん。でも、すぐ治っちゃうし。原因はわからないんだけど……最近、文化祭の準備

にかまけて、勉強サボっているからかな」

 ……勉強をサボると頭が痛くなるって、そんな体質、本当にあるのか?

 人体にそんな機能があったら、世の中の九割方の人間が、今ごろ病院送りだろう。

 まあ、あいつらなら、アメリカテキサス州ヒューストンのとある地域で働いている人々

には、全員その機能がついているように思えるけれど……。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:25:17.93 ID:ebFiQ8E3o
「なんなら家まで送ろうか?」

「いや、いい、家は――」

「ああ……そうだったね」

 失態。

 またも、余計なことを言ってしまった。

「ちょっとごめん。先に帰るね。阿良々木くんは、もう少し、参考書、選んどきなよ。私

のお勧めはその辺だけど、結局はそういうのって個々人の好みがあるからさ」

「ああ。じゃあ――」

「うん」

 そう言って。

 翼ちゃんは、逃げるように、本屋から出て行った。

 それでも、その辺までは見送っていくべきだったのかもしれないけれど――翼ちゃんも、

結構意固地というか、他人に弱いところを見せるのをよしとはしないところがあるからな。

本人が大丈夫といっている内は、あまり構うべきではないだろう。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:25:44.02 ID:ebFiQ8E3o
「…………」

 翼ちゃんには――ひたぎちゃんの蟹のことも、真宵ちゃんの蝸牛のことも、駿河の猿の

ことも、そして、翼ちゃん自身の猫のことだって、教えていない。知らないのだけれど――

 でも、僕の鬼のことは、知っている。

 だからどうというわけでもない。

 けれど、僕にとって翼ちゃんが恩人であるという事実は揺らがない。揺らぎようもない。

それは単純に、怪異のことだけじゃない――あの子の言葉で、いちいち僕がどれだけ救わ

れていることか。

 今日だってそうだ。

 だから、何とかあの子の力になりたいと、僕は願っているのだけれど……。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:26:11.66 ID:ebFiQ8E3o
「……一応、他のコーナーも見ておくか」

 翼ちゃんの忠告に従って、僕は参考書のチェックを続けたが、やはり慣れないことは慣

れないこと、どの参考書も同じようにしか見えず、とりあえずは翼ちゃんに言われたもの

だけを買うことにし(結局、最終的には六冊になった。一応僕も計算してみたのだが、本

当にぴったり一万円だった。すごい)、僕は参考書コーナーを離れる。予算きっちりなの

でこれ以上何を買うこともできないが、まあ、本は眺めるだけなら無料なのがいいところ

だ。多量の参考書を抱えたまま漫画の新刊をチェックするというのも馬鹿みたいだが、し

かし、参考書を抱えているとそれだけで頭が良くなった気がするので、そういう時間を過

ごすのも悪くない……まあ、この思考が既に馬鹿な気もするけれど……。

「……ん?」
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:26:45.32 ID:ebFiQ8E3o
 とりあえず、移動しかけて――僕はそこで硬直してしまった。ありえないものを目にし

て、思わず、硬直してしまった。危うく、抱えていた参考書を取り落としてしまうところ

だった。

 いや。

 ありえないというほどじゃない。

 同じ町内に住んでいる人間同士が、その町で一番大きな本屋で遭遇する可能性は、決し

て低くはないだろう――少なくとも、一見ではそこに道があることもわからないような、

寂れた神社に続く階段で、たまたますれ違う可能性や、十年以上、妹がいることを知らさ

れずに、また、その子を妹とは知らずに交際してしまって、知った直後に飛行機事故でそ

の子が亡くなってしまう可能性よりは、ずっと高いはずである。

「……あの子は」

 参考書コーナーのすぐそばの、呪術・オカルトコーナーで、分厚い本を立ち読みしてい

たのは――昨日、すれ違ったあの女の子だった。

83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:27:16.96 ID:ebFiQ8E3o
 垢抜けないセンスの、長袖長ズボン。深い帽子に、ウエストポーチ。

 そう、まるで、これから山に入るかのようなそんな格好だ。

 一心不乱に本を読んでいるようで――向こうは僕には気付いていない。さすがに正面に

は回れないので、僕の方からも、横顔が窺える程度なのだが……それでも、便利な吸血鬼

体質。それだけで本人の特定は十分だ。

 しかし、どうしよう。ここで声を掛けるのも変な話かもしれない。思春期入りたての女

の子の防衛本能って、割と怖いし。

84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:28:02.47 ID:ebFiQ8E3o
 考えている内に、その子は、読んでいた本を本棚に戻し、その場から動き始めた。僕は

見つからないように、咄嗟に身を隠す。別に隠れる理由もないのに、ここで反射的に隠れ

てしまったことにより、僕は声を掛けるタイミングを完全に逸してしまった。本棚を壁に、

迂回するように僕は歩き、その子の姿が見えなくなったのを確認してから、先程まで彼女

がいた場所へと移動する。

 何の本を読んでいたのか、気になったのだ。

 僕の読みが正しければ、この本は十中八九――

「やはり……そうか」

 その本は―― 一万二千円の、ハードカバーだった。

 中学生には買える本ではない。高校三年生の僕だって、今の手持ちじゃ無理だ。参考書

が買えなくなってしまう。

 だから、立ち読みで済ませていたのだろう。

 だが――そんなことよりも。

 問題は、そのタイトルの方だ。

 僕はその奥まったコーナーから出、店内にその子の姿を探したが、すでに彼女は見当た

らなかった。もう店から出て行ったと見るほうが正しそうだ。そう、あの服装からすると。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:28:48.69 ID:ebFiQ8E3o
「はあ……また戯言の予感がするな……」と、僕は最近口にしていなかったらしい単語と

ともに溜息を吐いた。

 とりあえず、参考書を買うためにレジへと向かう。レジには結構買い物客が並んでいた

が、根気よく待った。慌てて急いてもろくなことにならない。まずは冷静になるべきだ。

どうするべきか考えながら、トレイに一万円を置く。レジの店員さんが、会計がぴったり

一万円になったことに驚いていたが、それは僕の功績でもないので、どうでもいい。

 ううん。

 多分、一人では無理だろうな……。

 一人でできることには限界がある。
                                アオ
 となると、ここは行きがかり上……あの子に協力を仰ぐしかなさそうだ。こういう案件
   コト ホカ
には殊の外強そうだし。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:29:30.42 ID:ebFiQ8E3o
 手提げ袋に入れてもらった参考書を左手に、僕は店を出てから携帯電話を取り出し、昨

日、あれから教えてもらった携帯電話の電話番号へと、発信した。一昨日、その子の自宅

に電話したときもそうだったのだけれど、初めての番号に電話をかけるというのは、やは

り緊張する。

 呼び出し音が五回くらい。

「神原駿河だ」

 ……繋がったと思ったら、いきなりフルネームで名乗られた。なんだか珍しいケースだっ

たので、ちょっと驚く。

「神原駿河。得意技は二段ジャンプだ」

「前々からつくづく思っていたのだけれど、きみは本当に人間なのか!?」

 真心じゃないんだからさ……。

 あるいは猫の状態の翼ちゃん。

 あ、でも忍野にもできるかもしれない。

「ん。その声と突っ込みは阿良々木先輩だな」

「……いや、そうだけどさ」

 声と突っ込みで判断って。

 昨日、こっちも番号教えたじゃん。僕の電話番号をアドレス帳に登録してないのか?そ

れは寂しい……ああ、いや、まだ携帯電話という機器を使いこなせていないだけか……機械、

苦手そうだもんなあ。

 人のことは言えないが。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:30:12.58 ID:ebFiQ8E3o
「暇だったらさ、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけれど……今、何してた?」

「ふふ」

 なんだか不敵に笑う神原駿河。

「暇であろうとなかろうと、阿良々木先輩に望まれたとあっては、たとえそこがどこであっ

ても私は出向く所存だぞ。理由など聞くまでもない、場所さえ教えてもらえれば私はすぐ

さまそこへ行く」

「いや、そういうのはいいから……別に暇じゃないんだったら、無理してくれなくっても

いいんだよ。昨日も昨日で引っ張り出したばっかりで、こっちもかなり心苦しいんだしさ。

き……えーっと……駿河は、今どこで何をしているの?」

「えっと……何をしていたかと言えば……」

「いや、本当に暇じゃないんならいいんだ。悪かったね」

「いや、その……ひ、暇。暇なんだ」

「そんな無理に取り繕わなくてもいいって。本当に」

「いいや、今私は暇なのだ。もう、退屈で死にそうなくらいに暇だったのだ」

「……そ、そう?ならいいんだけれど」

 明らかに何かを隠しているような気がする。

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:30:45.69 ID:ebFiQ8E3o
 まあ、言いたくないというならば是非もない。詳しくは訊かないようにしよう。

「昨日言った神社。そこの階段に入る前の歩道で、待ち合わせよう。えっと、位置的には

――きみの方が近いだろうけど、僕は自転車だから、多分先に着いて待っている」

「困るなあ、阿良々木先輩。この私が二日連続で阿良々木先輩を待たせるとでも思ってい

るのか?だとすれば私の信用も地に落ちたものだな。私にも意地がある、そこまで言われ

ては黙っていられない、この機会に汚名を晴らし、名誉は回復させてもらう。絶対に私の

方が先に着く」

「変な意地を張られても、僕が困るんだけれど……長袖長ズボン、忘れないでね」

 僕は学校帰りで、制服のまま、衣替えがあったばかりでカッターシャツが半袖だけど、

これはもう致し方ない。下半身がスラックスなだけよしとしよう。大体、僕の場合、多少

虫に刺されようが蛇に咬まれようが、大事ないし。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:31:12.36 ID:ebFiQ8E3o
「わかった。阿良々木先輩の仰せの通りに」

「じゃ、よろしく」

 そう言って僕は電話を切り、本屋の裏手、駐輪場に行って、自転車の錠を外す。あの子

が店を出てから、十分ほど。昨日、階段の入り口に自転車は停められていなかったことか

ら、おそらく徒歩だろうが……まあ、いずれにせよ、あの神社が目的地ならば、距離的に

はもう追いつけない。

 そう言えば、あの後輩、本当に、呼び出された理由を聞かなかったな……。

 恐ろしい忠誠心だ。

 勿論、あの子にとっては、ひたぎちゃんの方が命令系統としては上位なのだろうが、あ

んなステータスの高い人間がこうも甲斐甲斐しく自分に尽くしてくれるというのは、正直、

嬉しいというよりはちょっと怖い……。

 でも、イメージを崩すのは無理みたいだし、あの子のためには、理想の先輩を演じた方

がいいのだろうか?

90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:31:47.80 ID:ebFiQ8E3o
「ひたぎちゃんは、どうだったんだろうな」

 ひたぎちゃん――戦場ヶ原ひたぎ。

 僕の同級生で、神原駿河の先輩。

 蟹に出遭って、全てを失い、

 今は、全てを取り戻そうとしている。

 中学時代、神原駿河と二人でつるみ、ヴァルハラコンビという名で呼ばれていたそうだ

が……その頃の二人は、一体どんな感じだったのだろう。

 そんなことを思っている内に、目的地に到着した。

 名も知らぬ山の、神社への入り口。

 さすがに自転車、速い。

 と思ったのだが、我が後輩、神原駿河はもうそこにいた。

「…………」
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:32:23.54 ID:ebFiQ8E3o
 この子の脚には車輪でもついているのだろうか。

 俊足駿足にも程がある……しかも、ちゃんと言われた通りに、長袖長ズボン(しかも昨

日から学習しての、破れていないズボンに、へその見えないシャツ)に着替えてるし……。

「いやいや阿良々木先輩、着替えにそんなに手間はかからなかったのだ。私は夏場、家で

はいつも下着姿だからな」

 ふむ。ここ最近暑くなってきたしな。この子のような代謝のよい(だろう)子にはきつ

いのだろう。それも仕方のないことだ。

 とりあえず、自転車を止める僕。

 まあ、違法駐車にはかなりの罪悪感があるが(お父さん、お母さんには本当に申し訳な

いと思う)、少しの間だけだから勘弁してもらおう。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:32:56.44 ID:ebFiQ8E3o
「で、阿良々木先輩。私は何をすればいい?」

「ああ、そうだ。今回は楽しい雑談に興じている場合じゃない」

「脱げばいいのか?」

 僕は数秒考えてから、「ああ、そうだ」と答えた。

 ただ、あの事件の後遺症とか、そういうのがないか気になっただけだ。

 別に他意はない。いや、本当に、まったくと言っていいほど。

「了解した」と、神原駿河は応え、上着を脱ぎだした。

 …………うおう。これはなかなか……じゃなくて、うん、傷が残らなくてよかった。

あの後僕の血を塗ってあげたのがよかったのかもしれない。

「下も脱ぐべきかな?」

「ああ。ぜひそうしてくれ」

 別に他意はない。ないったらない。

 ズボンも脱ぎ、恐らくさっき部屋にいた状況と同じ、下着だけの姿になってもらった。

ふむふむ。問題はなさそうだ。いや、しかし、これだけでは、これだけでは判断はできない。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:33:35.91 ID:ebFiQ8E3o
「触ってみてもいいかな?」

「勿論だ。阿良々木先輩ならば私の身体の全てを預けてもいい」

 「それでは遠慮なく」と、僕は言い、まずは両手で肩のあたりに触れる。

 瞬間、愛すべき僕の後輩は、ビクっと震えたが、すぐに通常の状態に戻る。

 きめ細かくて、綺麗な肌だ――ただ純粋に美しい。可愛いだけの子ではない。美しさも

兼ね備えている。

 滑らすように僕は左手を背中に回し、右手は腹へと向かわす。左手でその美しい背筋を、

右手では腹筋の感触を確かめる。まるで、芸術品のようだ。僕の中で今、新しい萌え領域

が広がろうとしていた。

 筋肉萌え。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:34:01.97 ID:ebFiQ8E3o
「……なあ、駿河」

「なんだ、阿良々木先輩」

「こんなことをしている場合じゃなかったことに気付いてしまったんだが、ここでやめて

もいいかい?」

「嫌だと言ったら……嫌だと言ったら最後まで阿良々木先輩は私についてきてくれるのか?」

「…………」

「冗談だ。ここで大事な用事があるのだろう?こんなことしている暇はない」

 そう言って、神原駿河は僕から一歩離れ、服を着始めた。

 しかし、冷静になって考えてみると、僕は後輩になんてことをさせているんだ……翼ちゃ

んはいい傾向だといっていたけれど、どう考えても僕は、まずい方向に傾いている。

 戯言で済ませていいのかどうかわからないけれど、ひとまずはおいといて。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:34:36.01 ID:ebFiQ8E3o
 神原駿河が服を着終わった段階で、説明に入る。

「僕の推測が正しければ、多分この上に」

 僕は階段を指差す。

「昨日、この階段を登る途中ですれ違った女の子がいるはずなんだ」

「ああ、あの子か。ちっちゃくて可愛らしい」

「そう、あのちっちゃくて可愛らしい女の子。その子をさっき本屋で見かけたんだけれど、

その子の読んでいた本が問題だったんだ」

「読んでいた本……?」

「うん。まあ、それは後で話すよ。ともかく、頼みって言うのは――その、声を掛けづら

いんだ。僕はその子に力を貸したいと思っているんだけれど。変なナンパみたいになっちゃ

いそうだし――思春期入りたての女の子の防衛本能って、割と怖いし」

「経験がありそうな物言いだな」

「まあ、なくはない」

 正確には、僕じゃなくて、あいつが痛い目を見ているのを見ていたんだけれど……。

 そう言えば、僕もあいつもあの女の子くらいの年齢で、プログラムに参加したんだっけか。

96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:36:13.81 ID:ebFiQ8E3o
「阿良々木先輩がそういう以上、勿論手伝うにやぶさかではないが――」

 神原駿河は真剣な口調になって言う。
                ・ ・ ・ ・ ・
「阿良々木先輩は、当然、昨日のあれを、含んでいるのだろう?」

「まあ――そうだね」
        ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「じゃあ――そういうことなんだな」

「……うん」

「やれやれ」

「阿良々木先輩は誰にでも優しい――と、戦場ヶ原先輩は言っていた」

「…………そんなことはないよ」

「恩を感じるのがむなしくなる――とも言っていたぞ」

「…………」

「いや、いいのだ。独り言、いやさ、失言だった。では行こう、阿良々木先輩。早くしな

いと、彼女が用事を済ませてしまうかもしれない」

「ああ……そうだね」

 僕らは、昨日も昇ったその階段に、並んで一歩を踏み出した。

 今日は――手を繋いでは来なかった。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:36:44.45 ID:ebFiQ8E3o
 一度通って、知っている道だったからだろう。昨日よりも早く階段を昇りきり、神社へ

と辿り着いた。

 当たり前だけれど、昨日のまま、荒れ果てた神社だ。

 遠めに――本殿に貼られたお札が見える。土曜日に忍ちゃんに血を飲ませたところだか

ら、視力が上昇しているので、墨で書かれたお札の文字まで、はっきりと見える。

 あれだけが、昨日との違い。

「…………」

 境内を見回す。どこだ?どこにいる?いないならばそれで御の字なのだが……

「…………いたっ!」

 僕は境内の隅の方に、長袖長ズボン、深い帽子にウエストポーチの、大きな石の前でか

がみこんでいるその子の姿を見つけるや否や――思わず、駆け出してしまった。これでは

駿河に来てもらった意味がない。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:37:33.12 ID:ebFiQ8E3o
 しかし、駆けずにはいられなかった。

 女の子の左手には、頭をつままれた蛇、

 女の子の右手には、彫刻刀。

 石に押しつけられるようにして――

 蛇はまだ生きている。

 けれど――今にも殺されそうだった。

 殺しはいけない。殺してはいけない。

「やめろっ!やめるんだっ!」

 僕は夢中になって叫び、女の子に駆け寄る。

「う……あ……うう、ご、ごめんなさいっ!!」

 と、女の子は混乱し、パニックになったのか、彫刻刀を振りかぶった。

 僕に――ならばそれはよかったのだが、彼女はとんでもない選択肢を選んだ。

 彼女は自分の手首に向けて振りかぶっていた。
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:38:19.41 ID:ebFiQ8E3o
「!!!」

 「だめじゃないか!そんな、自分を傷つけちゃあ!もっと自分に誇りを持てよ!」確か、

これは彼の台詞だったか、僕は何故か、それを唐突に思い出した。

 自分が嫌いで嫌いで仕方なく、自分から、結果によっては死ぬかもしれないような実験

に参加していた僕に彼が言った言葉だ。今でも、僕はその誇りとやらを持ててはいないけ

れど、でも、今回、僕は彼に誇れるようなことをした。

 いや、やっぱり彼は怒るかもしれない。僕は傷ついてしまったのだから。

 僕は、その女の子の彫刻刀の軌跡の間に自分の右手を入れた。

 目を瞑ってしまったのか、彼女はそれに気付かず、容赦なく僕の手を彫刻刀で貫く。

「ああっ!ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 変な手ごたえを感じてしまったのだろう。彼女は彫刻刀から手を離し、僕に向かって謝っ

た。僕の腕は彫刻刀を引き抜いてすぐに治癒し、もう、一滴も血を流していないのだが、

何度も。何度も。壊れたオルゴールのように、その謝罪は止まらない。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:40:04.00 ID:ebFiQ8E3o
 「大丈夫。もう、謝らなくてもいい。僕は怪我には慣れてるんだ」と、僕は勤めて冷静

に言ったが、「ごめんなさい」という、聞き続けると嫌になってくる単語は止まらない。

 ……どうしようか。と、僕が状況についていけなくなると、神原駿河が追いついてきた。

「阿良々木先輩、大丈夫か!」

 その言葉に、女の子はようやく反応してくれた。なんとできた後輩だろう、駿河の言葉

はこの女の子のキーワードを的確に突いたらしい。やはり、連れてきてよかった。僕に

は勿体無いくらいの後輩。

「あ……阿良々木!?も、もしかして、こ、暦お兄ちゃん!!」

 女の子から出た名前を聞いて、数ヶ月ぶりに聞くその名前を聞いて、僕はこっちにきて

初めて、同士に会えたような気がした。
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:41:43.46 ID:ebFiQ8E3o
004
 ジャギリナワ
「 蛇切縄 」

 忍野は――しばらく思案した末、やけに重苦しい口調で、なんだかとても嫌そうに、そ

う切り出した。軽い、ともすれば皮肉げとも取れる言葉遣いで話すことの多い忍野からす

れば、それはあまりない口調ではあった。

「それなら蛇切縄で間違いないだろう、阿良々木くん。断言できるよ、それ以外にはない。

蛇切、蛇縄、蛇きり縄、へびきり縄、へびなわ、そのものそのまんま、くちなわって言わ

れることもあるけれど――」

「くちなわ――つまり、蛇ですか」

「そう」

 忍野は繰り返す。

「蛇だよ」

 蛇。
 ハチュウコウユウリンモクヘビアモク
  爬虫綱有鱗目蛇亜目 の爬虫類の総称。

 円筒形の細長い身体と体を覆う鱗が特徴。

 脊椎骨が数百あり、身体を自由にうねらせる。

 と、こんな感じだっただろうか。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:42:12.05 ID:ebFiQ8E3o
 蛇、蛇か。

 鬼は例外だとしても――蛇と言うのは、あまり印象がよくないな。いかにも不吉の象徴

という感じがある。おどろおどろしさが、猫や蟹や蝸牛や猿の比ではない。

 はっはー、と忍野は、そこでそれまでの重い口調を半ば強引に切り替えるように、いつ

ものように、エセ爽やかに笑って見せた。

「いや――その印象は間違ってないよ。蛇は昔から、そういうものとして見做されること

が多い。蛇関係の怪異はやたらと多いしねえ。まあ、あいつら肉食だしな、『寸にして人

を呑む』とも言われている。その上、致死性の毒持ちがいるから……、仕方のないことで

はあるんだろうけれど。毒蛇、日本じゃあ、マムシとかヤマカガシとかハブとかだな。う

ん。もっとも、逆向きに、蛇を聖なるものと見做す、蛇神信仰ってのも少なからずあるわ

けで――それは世界中のほとんどの地域で共通している。つまり、蛇ってのは聖と邪を併

せ持つ象徴なのさ」
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:42:43.50 ID:ebFiQ8E3o
「あの神社も――蛇神信仰だったんですよね」

「うん?確か秘密にしといたんだけどなあ?あれ?話したっけ?ああ、なるほど、わかっ

たわかった、どうせ阿良々木くんのことだからあれだろう、委員長ちゃんに聞いたんだろ

う?」

「……よくわかりましたね」

「阿良々木くんの周りでそれを知ってそうなのは委員長ちゃんくらいのものだし、阿良々

木くんがそういうのに詳しいっていうのもなさそうだしね――はっはー、こんなことなら

お札の仕事も委員長ちゃんに頼んだ方がよかったな。まったく、阿良々木くんは歩けば厄

介事を引っ張って来るんだもんなあ。困っちゃうよ、本当。そこへ行くと委員長ちゃんは

しっかりしてるよね。阿良々木くんも少しは見習いなさいな」

 どうしてこんなにも僕ばかりいじめられるのだろう。

 仕事と言ったところで、何故か料金を請求されているのは僕とあの後輩だけだし……。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:43:18.15 ID:ebFiQ8E3o
「そうは言っても、僕なんかには、蛇っつったら邪悪なイメージしかありませんがね。蛇

神信仰と言われても、いまいちぴんと来ない。邪悪じゃないイメージは、ツチノコくらい

のものですよ」

「ツチノコか。懐かしいなあ。ちょっと頼まれて、頑張ってあいつを探したことがあるん

だよ。まさかあんなところに隠れているとは」

「見つけたんですか!?」

 もう、こいつ、何でもありだな。

「ああ。って言っても、依頼主の方がいなくなっちゃったからな。結局その依頼は失敗に

終わった」

「へえ」

 本当、想像もつかないような人生を送っているよなあ。

 そんな――そんなちょっと昔を思い出す忍野の表情は、楽しげで、でも、どこか、悲し

げな、人間の感情全てをぶち込んだら、こんな顔になるんじゃないかと思わせる表情だった。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:43:46.91 ID:ebFiQ8E3o
 学習塾跡の廃ビル。

 その四階。

 僕は火のついていない煙草をくわえた変人、もとい恩人、軽薄なアロハ野郎、忍野メメ

と――向かい合っていた。

 一人、である。

 神原駿河と、あの女の子、千石撫子には、待機してもらっている。どこで待機してもらっ

ているかと言えば――阿良々木家の、僕の部屋でだ。両親はともかくとして、彼の二人の妹

も、勝手に部屋に這入ってくることはないだろう。鍵も掛けるように言ったし。本当は、あ

あいう性格で、しかも百合でもある神原駿河を、撫子ちゃんや妹達と同じ屋根の下に、監視

なしで放置することについて、若干の危機感を覚えないでもないのだけれど(恐らくだが、

妹に何かあったら、あいつなら生霊にでもなって襲ってくる気がする)、でも、僕の後輩に

は清楚要素もあったはずなので、それを信じて置いてきた所存である。

 それに。

 何より僕には、二人を――ここに連れてきたくない理由があった。ここに連れてきて、

忍野に会わせたくない理由が――
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:44:46.93 ID:ebFiQ8E3o
 あれから。

 僕と駿河で撫子ちゃんを連れて――僕の家に向かった。自転車の後部座席には撫子ちゃ

んを乗せて(あいつの話ですっかり意気投合した)。駿河は、まるで平然と、伴走だった。

 幸い、家は無人だった。
                                               アザム
 妹達は二人とも、お出かけらしい(帰宅した形跡はあった)。あの二人の眼を 欺 くの

が家に這入るに当たって一番の厄介ごとだったにもかかわらず全くの無為無策、行き当た

りばったりの帰宅だったので、素直に助かった。特に、撫子ちゃんと同じクラスだったと

いう月火ちゃんがいなかったのは幸いだ。

 そのまま、僕の部屋に這入る。

「どう?懐かしい?」と、撫子ちゃんに聞いてみた。

「ううん。この部屋には、今まで入ったことない。多分、隣の部屋だと思う」

「そっか。えーっと……月火ちゃん、しばらくしたら帰ってくると思うけれど、会ってい

く?」

 ううん、と力なく首を振る撫子ちゃん。

 声も小さいし――リアクションも小さい。

 撫子ちゃんは、とにかく、物静かだ。

 無口で、恥ずかしそうに、あまり喋らない。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:47:13.96 ID:ebFiQ8E3o
 ここのところ、僕の周りはみな、とにかく立て板に水の雄弁多弁な人ばっかりだった

(忍ちゃんも吸血鬼だった頃は喋りに喋っていた)から、この無口なキャラクターは、新

鮮だった。

 そんな中、

「ふむ。ここが阿良々木先輩の部屋か」

 と、会話の尖兵部隊、神原駿河がその張りのある声で、部屋をぐるりと見渡した。

「思ったよりも整頓されているのだな」

「きみの部屋……駿河の部屋と比べたら、どの高校生の部屋もきれいに見えるだろうよ……」

「ふふふ。男の子の部屋に這入るのは初めてだ」

 そう言えば、僕も這入ったことないな。異性の部屋。妹は論外として。友の部屋もパソ

コン室みたいなものだし。真心は僕と同じ部屋。ひたぎちゃんの家は、僕の部屋並に殺風

景だ。翼ちゃんの部屋はなかったし、駿河の部屋はただのごみ屋敷だった。

 まともな、異性の部屋にいつか這入れることを信じたい。
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:47:42.58 ID:ebFiQ8E3o
 まあ、そんな戯言は置いておいて、何故この部屋に三人で集まったのかということにつ

いて説明しておくと、あの神社で、撫子ちゃんが言ったのだ。

 小さな声で。

『理由を言うから――どこか、人目につかない屋内に連れて行って欲しい』、と。

 理由。

 蛇を――殺した理由。

 切り刻んだ、理由。

 まず最初に思い浮かんだのは神原駿河の家だったのだけれど、駿河自身がそれを言い出

す前に、その案は僕が心の中で勝手に却下した。何故なら、先述の通り、この後輩の部屋

は、無法地帯、いやさ戦闘地域といっていいほどの散らかり具合だからである。あんな部

屋を、純真無垢でいたいけな中学生に見せるわけにはいかない。あの学習塾跡に連れて行

くというのも考えたのだが、駿河の部屋より散らかってはいないが、しかし、それは散ら

かっていないというだけで、なにぶんただの廃墟だ。中学生を後輩の家に連れ込むのと、

中学生を廃墟に連れ込むのでは、まるで意味が変わってしまう。確かに後者の方が僕的に

は嬉しいのだけれど、今この状況、僕が楽しむことよりも、撫子ちゃんが安心して話がで

きる環境を作る方が好ましい。ということで、必然的に、僕の家を選択するしかなかった。

僕の家なら、撫子ちゃんも何度となく遊びにきた場所だし、安心だろう。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:48:21.89 ID:ebFiQ8E3o
「さて、それではエロ本でも探すか」

 と、神原駿河は部屋を探り始めた。

「おい待て駿河。ここには女子中学生がいるんだ。女子中学生がいるんだぞ?女子中学生

の前でそんなことをするんじゃない」

「まあ、確かに、あんなものを中学生のときに見せられたら、その後の人格形成に大いに

影響するだろうな」

「そうだろう。だから――」

「しかしだな、阿良々木先輩。敢えてここで見せることで撫子ちゃんをいいようにすると

いう選択肢もあるのではないか?ゆっくりゆっくり、時間を掛けて阿良々木先輩の趣味に

対しての情熱を教え込むのだ。想像してみてくれ。二人で共通の趣味を持ち合わせ、二人

でそれを楽しむ姿を」

「…………」

 う……そう考えると……。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:49:17.26 ID:ebFiQ8E3o
「メイド服を着た千石ちゃん、上半身裸でジーンズを履いている千石ちゃん、図書館の司

書さんみたいに白衣を着ていてめがねをかけている千石ちゃん、茶髪でジャージのヤンキ

ー風の千石ちゃん」

 ……おお、意外と似合うか?なかなかにくるものが……。

「って、ちょっと待て。何故きみ……駿河が僕の好みの、しかもマニアックな方のものを

知っているんだ!」

 翼ちゃんだってそんなものは知らない……はずである。

「いやだなあ、阿良々木先輩。私は阿良々木先輩をストーキングしていたこともあったの

だぞ?これくらいはちゃんと抑えている」

「…………………………」

 い……いつの間にストーキングされていたんだ?そんなことは初耳だ。

 そんな感じで、神原駿河の清楚もどうやら壊れてしまったようだ。

 この後輩には、もう百合しか残ってない。

 とりあえず撫子ちゃんの方を見る。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:49:59.78 ID:ebFiQ8E3o
 撫子ちゃんは――何故かベッドの下などを探っていた。

「なにをやっているんだきみは!!!」

「え……そういうノリじゃないの?伊荷親さん」

「断じて違う。これは悪ノリという奴で――」

「だから、そういうノリでしょう?」

「…………」

 うん。悪ノリというノリだった……。日本語って難しい。

 別に英語やロシア語、中国語ができていたわけでもないけれど……。

 なんであんなもんが必須なんだよ。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:50:32.99 ID:ebFiQ8E3o
「ところで、撫子ちゃん。その伊荷親さんっていうのやめて欲しいんだけれど……」

「えっ、なんで?」

「あんまりその名前で呼ばれることないからさ……なんだか歯痒くて」

 別に変換がしづらかったとかいうことではない。

「わかった……じゃあ、



いー兄ちゃん



で、いいかな」

 …………うーん…………。

 どうだろう。直接言ってないからいいのかな?自分で言っておきながら判断に困る……。

僕は数十秒考えて「それでいいよ。ありがとう」と答えた。

 大丈夫。大丈夫なはずだ。

 翼ちゃんが言うには、僕も変わってきているらしいし。

 あの子の言うことは、いつでも正しいのだから。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:51:03.80 ID:ebFiQ8E3o
「えーっと、いー兄ちゃん……それに、神原さん」

 やがて、撫子ちゃんは言った。

 あくまでも物静かに。

「少し……後ろを向いていてもらえますか」

「…………」

 黙って、言われた通りにする。

 撫子ちゃんに背を向け、壁に向かう。

「阿良々木先輩」

 と、僕と同じように壁を向いていた神原駿河が、潜めた声で、僕に向かって話しかけて

きた。声を潜めているのは撫子ちゃんに聞こえないようにという配慮だろうから、僕も同

じくらいのトーンで、

「何?」

 と応じる。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:51:31.25 ID:ebFiQ8E3o
「阿良々木先輩にとってはあまり歓迎できることではないかもしれないが、ここから私は、

テンションを上げていこうと思う」

「えっ?何で?」

「阿良々木先輩の巧みな話術で、多少やわらいではいるのだが――あの子、千石ちゃんは、

かなり――精神的に不安定になっているようだ。さっきのような自傷行為を見る限り、か

なり追い詰められている」

 彫刻刀。

 なんだかんだで取り上げられなかった。

「阿良々木先輩は心優しい人だから、落ち込んでいる人間を前にはしゃぐなんて真似はと

てもできないかもしれないが、相手と一緒になって落ち込んであげることは、この場合は

逆効果だ。マクスウェルの悪魔の話ではないが、こちらができるだけ明るく振舞って、千

石ちゃんの気持ちを引き上げてやる必要がある」

「……ふうん」
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:52:05.92 ID:ebFiQ8E3o
 なるほど、さっきのエロ本関連の話も、その流れの一環だったのか。

 僕の性癖を暴露したかったわけじゃなかったらしい。

 うむ、どうやら僕はこの後輩を過小評価していたようだ。神原駿河、思いの外色々と考

えている。清楚属性も復活か?

「わかった。そういうことなら、存分にやってくれ。僕も付き合おう」

「うん。テンションが上がり過ぎて阿良々木先輩に襲い掛かってしまう可能性もあるが、

それもご寛恕願いたい」

「ご寛恕の意味を忘れてしまったから、この突っ込みで正しいのかわからないのだけれど

やはりきみには清楚属性はなかったな!」

 なんとなく、裏切られた気分だ。裏返せば、それだけ、この後輩を信用していた、いや、

信用しているということなのだけれど。

 変わってきた、か。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:52:34.24 ID:ebFiQ8E3o
「もういいです。こっちを向いてください」

 と、撫子ちゃんは言った。

 僕たちが振り向くと、そこには全裸になった千石撫子が――ベッドの上で、恥ずかしそ

うに俯いて、直立していた。

 いや――全裸ではない。

 帽子は勿論、靴下まで脱いでいるが、下半身にはブルマーを穿いている。それ以外は――

一糸も纏っていない。その両手のひらで、控えめな胸を隠すようにはしているが。

「……ってブルマー?」

「ジーンズの方がよかったか?阿良々木先輩」

「いや、そのネタは引っ張るな」

 そうじゃなくて。

「ブルマーなんて、まだ残っていたのか?てっきり絶滅してしまったものだと思っていた

のだけれど。まだあれを導入している中学があったとは」

 今度見学させてもらいたい。いや、ほら、友が制服を欲しがるかもしれないし。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 01:53:30.02 ID:ebFiQ8E3o
「ああ。阿良々木先輩、あれは『たまたま』私が持っていたものを貸したのだ」

「ほう。神原後輩、あれを『たまたま』所持していることがあるのか」

「こんなこともあろうかと準備しておいたのだ」

「実に用意がいいな。褒めて遣わそう」

 改めて、撫子ちゃんをの状況を確認する。

 帽子で隠れていた前髪は思いの外長く、目元を覆うようになっている。いや、恥じらい

から、わざとそうしているのかもしれない。キューティクルの光る、艶のある黒髪。脱い

だ服は布団の下に隠したらしい。

 駿河の指示どおりにブルマーを穿いていることといい、ブラジャーまで外していること

といい、どうやらこの旧知の少女、肌を見られるよりも下着を見られる方が恥ずかしいと

判断したようだ。ブルマー一丁のその姿は、どう考えても、明らかに本人が考えている以

上に扇情的になってしまっていると思うのだが、女子中学生の感覚はわからない……。

 が。

 残念ながら――というのだろうか。

 これは、そんな色気とは無縁の状況だった。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 01:56:30.01 ID:ebFiQ8E3o
「何……これ」

 遅ればせながら、僕は、千石撫子のその肌に――驚きの声を漏らした。
 ・ ・ ・ ・    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 その肌に――鱗の跡が刻まれていた。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 両足の爪先から、鎖骨の辺りに至るまで。
 ・ ・ ・ ・ ・   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 びっちりと――くっきりと、鱗の痕跡が。

 一瞬、身体に直接鱗が生えているのかと思ったが、よく見れば、そうではない。鱗を、

版画のように押し付けられて――皮膚に型になって残っているという感じだ。

「緊縛の痕に似ているな」

 駿河が言った。

さすが、我が後輩、翼ちゃんほどではないが、なかなかに博識だ。

 確かに、ところどころ内出血すらしているらしい、その痛々しい痕跡は、縄で縛られた

痕であるかのようだった。
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:58:58.87 ID:ebFiQ8E3o
 いや――緊縛痕というか……。

 実際、爪先から、脚を辿って胴体へ――
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 何かが巻きついているかのようだった。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 見えない何かが。

 全身に隈なく、鱗の痕。

 巻きついて。

 巻き――憑いているかのようだった。

 鱗の痕跡がないのは、精々両腕と、首から上の部位だけだ。ブルマーに隠された腰部下

腹部も、わざわざ見せてもらうまでもないだろう。

 鱗。

 鱗といえば――魚か?

 いや、この場合、魚じゃなくて、爬虫類――

 蛇。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 01:59:37.08 ID:ebFiQ8E3o
 蛇……くちなわ、だ。

「いーにいちゃん」

 撫子ちゃんは、相変わらずの、消え入るような声で、がたがたと震える声で言った。

「いー兄ちゃんはもう大人だから……、撫子の裸を見て、いやらしい気持ちになったりは、

しないんだよね?」

「え?ああ、いや」

 どうだろう……どう答えるべきなのか?ここは嘘でも……。

「いや、僕も男だし、とってもいやらしい気持ちになったりもする」

「…………」(撫子ちゃん)

「…………」(駿河)

「…………」(僕)

「…………」(撫子ちゃん)

「…………」(駿河)

「…………」(僕)

 長い沈黙の後、「……う」と、撫子ちゃんは、声を押し殺すように、肩を揺らし。

「う、うううう……ううう」

 涙をぼろぼろと流し――泣き始めてしまった。

 …………やれやれ、またやってしまったようだ。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:00:10.81 ID:ebFiQ8E3o
「何がやれやれなのだ。阿良々木先輩、狙ってやったのだろう?」

 駿河は呆れ顔で言った。

 その通りなので、僕はぐうの音もでない。

「撫子」

 撫子ちゃんは、ぺたりと、ベッドの上にしゃがみ込んで――がくりと俯いて、呟くよう

に、聞こえるか聞こえないかというくらいの声で――

 しかし、それでも。

 はっきりと、言った。

「撫子、こんな身体――嫌だ」

「……撫子ちゃん」

「嫌だよ……助けてよ、いー兄ちゃん」

 涙混じりの声で――そう言った。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:00:45.81 ID:ebFiQ8E3o
005

 そして――

 それから、一時間後。僕は、忍野と忍ちゃんが住処としている、学習塾後の廃ビルを、

土曜日に訪れたときから一日しか間を空けずに、訪れたと言うわけだ。

「遅かったね。待ちかねたよ」

 と、忍野は見透かしたような言葉で、僕を迎えた。

 忍野メメ。

 怪異関係のエキスパート。

 専門家、オーソリティ。

 春休み、時代遅れにも吸血鬼に襲われ、吸血鬼になってしまった僕を、その夜の帳から

引き上げてくれた――僕の恩人。

 年齢不詳のアロハ服のおっさん。

 定住地を持たない、旅から旅への駄目大人。

 翼ちゃんも、ひたぎちゃんも、真宵ちゃんも、駿河も、みんな、みんな忍野から力添え

をもらった。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:01:27.55 ID:ebFiQ8E3o
 その恩は、返しても返しきれないだろうが、しかし――はっきり言って、恩人でもなけ

れば、あんまり親交を深めたいタイプの人間では、忍野は、ない。ありえない。

 性格は悪い。間違っても、善意の人間ではない。気まぐれの権化のような男である。春

休みからの長い付き合いになるが、未だにそのパーソナリティには、理解不能なエリアが

多い。

 かつてはここで勉学に励んでいた子供達が使用していたであろう机を、ビニール紐で縛

り合わせて作った簡易ベッドの上に胡坐をかいて、僕の話をそこまで聞き終えたところで、

忍野は、重苦しい声で、嫌そうに――

「蛇切縄」

 と言ったのだった。

124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:01:59.44 ID:ebFiQ8E3o
「蛇切縄……ですか……聞いたことのない怪異ですね」

「割と有名だよ。蛇神遣いの一種だったかな」

「蛇神遣い……?」

 それも聞いたことないな……。

「まあ、その話は後にして」

 と忍野は言う。

「色々あったみたいだけど、仕事は滞りなく済ませることができたわけだ。お疲れさま、

阿良々木くん」

「え、ああ……いや」

 まさか忍野からねぎらわれることがあるとは思わなかったので、面食らってしまい、な

んだか変な応対になってしまった。
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:02:32.84 ID:ebFiQ8E3o
「あれは、とてもじゃないけど、僕にはできないことだったからね。あのお嬢ちゃんにも

お礼を言っておいてよ。これであの子とも、貸し借りなしだ」

「貸し借り――ですか」

「そう、貸し借りなし」

「……ちなみに僕の借金は?」

「残り四百九十九万九千九百九十九円」

「…………………………………………」

「冗談だよ冗談。そうだね、三百万くらいかな」

 まだ三百万も残っているのか……まだまだ先は長いな……。

「そういえば、どうして、忍野さんにはできないことだったんですか?」

 まさか、僕や駿河の貸し借りをなくすために仕事を無理矢理捻出したなんてことはない

だろう。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:03:18.40 ID:ebFiQ8E3o
「ああ、ほら、僕は専門家であるがゆえに――強いものであるがゆえに――よくないもの

を刺激してしまうんだ。だから、もう、普通の人間に近い阿良々木くんと、もう普通の人

間のあの子……えっーと……えろっこちゃんに手伝ってもらうしかなかったんだ」

「今なんか僕の可愛い後輩をすごいひどい呼び方しませんでしたか!?」

 別に駿河はエロいわけじゃないと思うんだけど……。

「いや、阿良々木くんはあの時いなかったし……まあ、いいや、そうだねスポーツ少女ちゃ

んってところか」

 と、忍野は訂正した。なんか気になるな……その言い方。まあ藪をつついて蛇を出しても

いけないし。深くは突っ込まないようにする。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:05:19.70 ID:ebFiQ8E3o
「そう、そんなことよりもあの蛇ですよ。一体あれはどうすればいいんですか?」

「ああ、そうだね。だいぶやばい状況だったな。うん。確か、その痕、もう肩にまで来て

いるんだろ?無事なのは、両腕と、首から上だけだってね。蛇切縄はね、蛇切縄は顔まで
              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
きたら、もうそれまで。人を殺してしまう怪異なんだ。はっきり言って今すぐどうにかし

ないとまずいぜ」

「……………」

 そうだろうとは――思っていた。あの鱗の跡から、そんな禍々しい気配は、感じていた。

が、専門家の忍野の口から改めてそれを聞くと、重みがまるで違う。

 死ぬ怪異でなく――

 [ピーーー]怪異――

「蛇毒は人を[ピーーー]――というけどね。神経毒、出血毒、溶血毒、なんでもござれだ。ちゃ

んと血清を持って対処しないと、こっちだって巻き込まれちまう。蛇は――難しいんだ。

まあ、食材としては、存外、毒のある方がうまいというけどね」
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:06:19.35 ID:ebFiQ8E3o
>>127
「そう、そんなことよりもあの蛇ですよ。一体あれはどうすればいいんですか?」

「ああ、そうだね。だいぶやばい状況だったな。うん。確か、その痕、もう肩にまで来て

いるんだろ?無事なのは、両腕と、首から上だけだってね。蛇切縄はね、蛇切縄は顔まで
              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
きたら、もうそれまで。人を殺してしまう怪異なんだ。はっきり言って今すぐどうにかし

ないとまずいぜ」

「……………」

 そうだろうとは――思っていた。あの鱗の跡から、そんな禍々しい気配は、感じていた。

が、専門家の忍野の口から改めてそれを聞くと、重みがまるで違う。

 死ぬ怪異でなく――

 殺す怪異――

「蛇毒は人を殺す――というけどね。神経毒、出血毒、溶血毒、なんでもござれだ。ちゃ

んと血清を持って対処しないと、こっちだって巻き込まれちまう。蛇は――難しいんだ。

まあ、食材としては、存外、毒のある方がうまいというけどね」


129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:07:23.65 ID:ebFiQ8E3o
「忍野さん……蛇切縄って、どんな怪異なんですか?」

「その前に、阿良々木くんが本屋さんで見たっていう、そのお嬢ちゃんが立ち読みしてい

た本のタイトルを教えてよ。あとでって言って、阿良々木くん、結局スポーツ少女ちゃん

にまだ教えてあげていないでしょ?何を読んでいたんだい、その子。それを見て、阿良々
       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
木くんは、その子に何かがあるって確信したようだけれど」

「ああ……いや、まあ、そのまんまなんで拍子抜けしちゃうかもしれないんですけれどね。

『蛇の呪い全集』って、一万二千円のハードカバーでしたよ」

「……タイトルからすると、最近の本だね。戦前とか江戸とかって感じではないな」

「まあ。表紙も真新しかったし、多分そうでしょう」
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:07:50.03 ID:ebFiQ8E3o
「その本がどういう本なのか、僕は過分にして知らないけれど……でもまあ、きっとその

本に、蛇切縄のことは載っているんだろうね。蛇神遣いは『蛇の呪い』としちゃあ、代表

例みたいなものらしいし」

「蛇神遣いって、犬神遣いみたいなもんなんですか?」

「ああ、そうだよ。自然発生的な怪異じゃなくて――明白な、あるいは明確な、人の悪意

によって遣わされた怪異ってわけだ。……まあ、悪意とは限らないんだけど。でも、蛇切

縄を遣わすなんて、こりゃ悪意しかないだろうな」

「それについては僕が聞いておきましたよ」

「うん?そうなの?」

「はい。クラスメイトから、だそうです。まあ、中学生のお呪いみたいなもので――どう

やら、そういうのが流行っているみたいなんです。身近な人間を呪うなんて僕にはちょっ

と理解できませんがね……」

「ふうん。オカルト関係の、ちょっと深いところに入ったお呪いってところか。お呪いで、

呪い、か。」

 忍野は考え深そうに言った。
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:09:39.51 ID:ebFiQ8E3o
「しかし阿良々木くん、その話じゃ、仕掛けた方は素人も素人、ど素人の中学生ってこと

だろ……蛇切縄は素人に扱えるような怪異じゃないはずなんだけれど」

「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるってことなんじゃないですか?この地域ではかなり流行っ

ているみたいですよ」

 そう、町中の中学生が知っているほどに大規模だと、撫子ちゃんは言っていた。

「そんなことになっていたら、僕は気付かないはずはないんだけどな……うーん、もしか

したら、意図的に僕のところに来ないようになっているのかもしれない」

「『蛇の呪い全集』を読んでいたのは、呪いを解く方法を調べていたそうです。今日初め

てその本を読んだんじゃなく、ずっと前から、何度も何度も、毎日のように読んで、読み

続けて、確認しながら――怪獣の儀式というのかお祓いというのか、憑き物落としという

のか、そういうのを、一人で、行っていたのだ。と」

 それが。

 それがあの、蛇のぶつ切り――だという。

 儀式めいた――どころか、儀式そのものだったわけだ。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:10:11.27 ID:ebFiQ8E3o
「蛇を殺せば蛇の呪いが解ける――なんてのも、嘘臭い話ですけれどね。実際、そうやっ

て蛇殺しを始めてから、むしろ状況は悪化したって言ってましたし――」

「阿良々木くん。蛇のぶつ切りは、蛇切縄の撃退法としちゃ、間違っていないよ。という

か、正法だ。多分、その『蛇の呪い全集』とやらに、蛇切縄とセットで載ってたんじゃな

いかな。……しかし、一人で蛇を捕まえて殺すなんて、なかなか度胸のあるお嬢ちゃんじゃ

ないか」

「そうですか?僕はそういう訓練を受けてきましたけれど……」

「その子がそういう訓練を受けてきていると思うかい?それなら、受けてきているのなら

ば、そりゃあ何でもないことだとは思うけれどね」

「…………」

「まあ、この場合、それくらいまでに呪い――蛇切縄に追い詰められていたのだと、そう

いう風に見るのが正しいかな」

 泣いていた――度胸があるなんて――とんでもない。

 撫子ちゃんはむしろ、デリケートだ。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:12:08.42 ID:ebFiQ8E3o
「蛇を殺せば蛇の呪いが解けるという解釈じゃないよ、この場合、蛇は縄のメタファーだ。

蛇切縄――縄だよ。どれほど強く緊縛されていても、その縄自体を切ってしまえば、解放さ

れる」

「緊縛――」

 蛇によって縛られている――緊縛痕。
               お
「蛇に噛まれて朽ち縄に怖ずという言葉があるけれど、この場合、蛇と縄はイコール。蛇、

切る、縄、で、蛇切縄だ。縄は切れるからこそ、縄だ」

「……でも忍野さん。じゃあ、おかしいじゃないですか。撫子ちゃんはもう、十匹以上、

あの神社で蛇を殺してるって言ってましたよ。それなのに、呪いが解けるどころか――状

況は悪化しています」
                                       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 殺せば[ピーーー]ほど、蛇の鱗は、つま先から上に、速度をあげて、巻き上がってくるかのよ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
うに登ってきたと――そう言っていた。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:13:38.38 ID:ebFiQ8E3o
>>133
「蛇を殺せば蛇の呪いが解けるという解釈じゃないよ、この場合、蛇は縄のメタファーだ。

蛇切縄――縄だよ。どれほど強く緊縛されていても、その縄自体を切ってしまえば、解放さ

れる」

「緊縛――」

 蛇によって縛られている――緊縛痕。
               お
「蛇に噛まれて朽ち縄に怖ずという言葉があるけれど、この場合、蛇と縄はイコール。蛇、

切る、縄、で、蛇切縄だ。縄は切れるからこそ、縄だ」

「……でも忍野さん。じゃあ、おかしいじゃないですか。撫子ちゃんはもう、十匹以上、

あの神社で蛇を殺してるって言ってましたよ。それなのに、呪いが解けるどころか――状

況は悪化しています」
                                        ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 殺せば殺すほど、蛇の鱗は、つま先から上に、速度をあげて、巻き上がってくるかのよ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
うに登ってきたと――そう言っていた。

135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:14:09.02 ID:ebFiQ8E3o
「だから、僕はいつもいつも言ってるじゃん。手順が必要なんだよ――そういうことには。

そのお嬢ちゃんもまた、素人も素人のど素人――なんでしょ?基本的には、呪いを解くの

は呪いを掛けるより難しいんだから、生半可な知識でやったら、状況が悪化するのは当然

さ。蛇に憑かれているときに蛇を殺したら、そりゃ蛇だって怒っちまうさ。それは阿良々

木くんの言う通りだ」

「…………」

「でも、話している内に、同じくど素人の女子中学生が掛けたはずの呪いが上首尾に終わっ

てる理由はわかった」

「えっ!一体なんなんですか!」

136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:16:11.41 ID:ebFiQ8E3o
「多分、そのお嬢ちゃんは、呪いが発動するよりも先に、呪いを掛けられた事実を、知っ

ちゃったんだろうね。犯人がはっきりしているところから予測するに、本人から直接、そ

の事実を聞かされたんだろうな。『あんたに呪いを掛けてやったわ』とか、なんとかさ。

それで動揺しちゃって、本屋さんでお祓いの方法を調べて、蛇をぶつ切りにするために――

蛇が多く生息していると言われる山に入った。神社は偶然見つけたって感じかな……まあ、
                                     イソ
あらかじめ知ってたのかもしれないけれど。で、お嬢ちゃんはせっせと、蛇殺しに勤しん

だわけだ。はっ、泣かせるねえ」

「全部、自業自得って言いたいんですか?」

 蛇を殺したのが悪かったって、そう言いたいのか?

「いや、まあ、自業自得って言葉で片付けるにはお嬢ちゃんは運が悪すぎたな」

「……運」
                                         ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「そう、運。あの場所が、あの神社が悪かったんだ。あの神社には、よくないものが集まっ
・ ・ ・
ていた」

「あ!」

「そう、そうだよ。あの場所でなければ、きっと発動さえしなかっただろう……だから、

そのお嬢ちゃんも悪かったといえば悪かったのだけれど、これは、そう、忍ちゃんが引き

起こしたものと言ってもいいかな」

「…………」

「そんなきみが責任を背負うようなことでもないよ。きみはいつもよくやっているさ。そ

んな感傷はそこらへんに捨てておけ」

 気遣っていってくれたのだろうか。

 こんなことを言う忍野も珍しい。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:19:17.21 ID:ebFiQ8E3o
「江戸時代中期に纏められた本に、『蛇呪集』ってのがあってね――蛇についての怪異だ

けを集めた、異本なんだけれど。蛇切縄は、書物においてはそこで初めて、登場する。絵

つきでね」

「絵?どんな絵ですか?」
                             ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「一人の男が大蛇に巻きつかれている絵だよ。尻尾の方は荒縄のデザインになっていて、
・ ・ ・ ・    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
蛇の頭は――男の口の中に這入っている。男の顎は、限界まで開かれちゃって、まるで

蛇――って感じの絵。蛇は鶏くらい、丸呑みにしちゃうからねえ」

「巻きつかれて――」

「巻き憑かれて」

「…………」
                                     ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・
「つまりだよ、阿良々木くん。そのお嬢ちゃんの身体には――今現在もなお、そんな大蛇
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
が巻きついているということなんだよ。巻き憑いて、お嬢ちゃんを締め上げているんだ。

きつく――容赦なくね」
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:19:52.38 ID:ebFiQ8E3o
「いや……痛みはないって言ってましたけれど……」

「そんなの、嘘に決まっているだろう。我慢しているんだよ。信頼が大事だって、僕がい

つも言っていることだろう?無口な子を相手にするときは、こっちが心を読んでやらない

と駄目じゃないか。相手の目を見て――さ」

「眼を――見て」

 あの前髪は……そういう意味だったのか。

 いつでも嘘が吐けるように。

 いつでも人が騙せるように。

「戯言だ」

 そんな人間、僕以外にいてたまるか。

 いや、その僕もいまや――人外だったか。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:20:33.54 ID:ebFiQ8E3o
「蛇は獲物を食べる際、まず相手にぐるぐるに巻きついて、獲物の骨を粉砕し、食べやす

くしてから飲み込む習性があるからね。巻きついたら、そう簡単には離れないよ」

「そうでしたね……怪異だから服とかは無視できる」

 肌にだけ痕跡があり、ブルマーはともかく、服の脱ぎ着は自由にできるようだったから、

自然、怪異が今も撫子ちゃんの身体に巻きついているという発想は持たなかったけれど、
            ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そうか、それは――見えなかっただけか。

「縄――緊縛――でしたね。じゃあ、身体中にあるあの鱗の痕は、痕と言うよりは――姿

の見えない蛇が、今まさに食い込んでいる証明ってことですか」

「それでも、半人半妖の阿良々木くんや、つい最近まで怪異と化していたスポーツ少女ちゃ

んだったからこそ、その痕だって見えるんだと思うよ。巻きつかれている本人である、お

嬢ちゃんもまたしかりだ。恐らくきみ達三人以外の人間には――たとえば、記憶を押し付

けていたツンデレちゃんや、記憶をなくしている委員長ちゃんなんかには、その痕さえも

見えないはずだ。スポーツ少女ちゃんだって、そのうち見えなくなってしまうかもしれな

い。長ズボンで隠す必要なんかないんだ。その身体を恥じることもない」
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 02:21:26.81 ID:ebFiQ8E3o
「それは――そうかもしれませんが、でも、そんな問題じゃないと思います。本人にそう
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
見えているというだけで、案件としては十分すぎるほど十分でしょう?」

「かもね。うん、そうかもしれない」

「あっさり認めますね」

「基本僕は素直だよ。阿良々木くんみたいに、ひねくれていないからね」

 ……確かに僕は忍野以上にひねくれているかもしれないけれど、でも、だからと言って

こいつが素直だとは言えない。

「見る方法はないんですか?たとえば、忍野さんになら、その蛇切縄本体を見ることは――」

「無理だよ、僕は人間だもん」

「あっさり認めますね」

「僕に限らず、今回のようなケースでは、憑かれている本人に見えないものを他の人が見

ようっていうのは、基本的に難しいと思うけどなあ。もし見ることができるとしたら、そ

れは、憑かれている本人じゃなく、その蛇を遣わした方だろうね……それも、今回は偶発

的なケースだから、きっと、遣わした方にさえも、見えないだろう。ああ、でも――そう

だ、阿良々木くんなら、見るのは無理でも、触ることはできるかもしれないね。ほら、い

つかの蟹みたいに」
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:22:18.05 ID:ebFiQ8E3o
「……………………そう、ですか」

「触ることができたら、引き剥がすこともできるだろうけど……それはやめておいた方が

いいか。蛇は気性の荒い動物だからね。そんなことをしたら、間違いなく、蛇切縄は阿良

々木くんに襲い掛かってくるだろう。それを何とか回避したところで、今度は呪いを掛け

た、そのクラスメイトのところに帰っちまう」

「呪い返し――ってことか」

「人を呪わば穴二つ――だよ。まあ、別にその子も、本気でお嬢ちゃんを殺そうと思った

わけじゃないはずだし、呪い自体、全然信じちゃいなかったんだろう。ただの嫌がらせの

つもりだったんだろうなあ。そんな軽い気持ちで、仕事を増やして欲しくないんだけれど……」

「今の時代、仕事なんてあるだけマシですよ」

「そうだけど……僕にはまだ、三百万円ほどの貯金があるし」

 と言って、僕のほうを見てくる忍野。

「はあ、まあ……いいか。頼まれてんだから、断る道理もない」

 忍野はそう言って、簡易ベッドから降りた。そして、てくてくと歩いて、この教室から

出て行こうとする。僕は慌てて、そんな忍野の後ろ姿に「ちょっ、ちょっと、どこに行く

んですか!?」と声を掛けた。

「んー。ちょっと待ってて」

 それだけ言って、本当に教室から出て行った。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:23:28.21 ID:ebFiQ8E3o
「…………」

 そう言えば、忍ちゃんがいないな。今のうちに探しておこうかとも思っていたのだが、

教室を出てから一分もしないうちに、「お待たせ」と、忍野は戻ってきた。

「いやに速いですね」

「こういう状況を想定していろいろと渡されて……じゃなくて、作っていたからね。はい、

これ」

 忍野はそう言って、ドア口からダイレクトに、僕に向かって、右手に持っていた何かを
          トウテキ
投げた。突然の投擲に、僕はちょっとあたふたしながら、しかし、何とか取りこぼすこと

なく、それをキャッチする。

「なんですか――これ」

 それは、お守りだった。

 一般的な形の――しかし、無地のお守り。

 交通安全とも子宝祈願とも、書かれていない。

 無地。

「それで祓えるよ。蛇切縄」

「…………」
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:24:45.59 ID:ebFiQ8E3o
「中にお札が入っていてね。護符って奴だ。昨日きみ達に張ってきてもらった奴とは、別

の、もっと強力なお札だ……その袋に、意味はない。それは鞘だよ。ちょっと強力なお札

なもんでね、安全装置が必要なんだ。安全装置というか、リミッターかな。それに、そう

でもしないと、きみが持てないからね」

 確かに、なんだか、それらしいものを感じる。身体が――血が、熱い。

 融けてしまいそうだ。

「その袋から、お札を絶対に取り出しちゃ駄目だよ。安全装置、リミッター。何が起こる

かはわからない。正式な手順はこれから説明するから、頑張って憶えて帰ってくれ。僕が

直接出向いてもいいけれど、この廃墟から出ない方が、この町に出る影響が少ないんだ。

妖怪大戦争、引き起こしたくないだろう?」

「…………」

「阿良々木くんの記憶力じゃあ、ちょっと心配なんだけれど、まあ、何とかなるだろう。

信頼してるよ、阿良々木くん」

 信頼……か。以前の僕なら、そんな言葉、空概だとか、妄言だとか思っていたところだ

けれど。でも、

 でも、その言葉を、今の僕は、信用できるようになっていた。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:25:16.86 ID:ebFiQ8E3o
006


 場所は、例の神社跡だった。

 山の上の、廃れた神社。

 時間は、準備している内に、真夜中になってしまった。

 翌日に回すことも考えたが、後一日もすれば鱗の痕――蛇切縄の巻き憑きは首にまで達

する恐れがあったため、夜中であろうと、実施することに決めた。例え、見えなかったと

しても四六時中首を絞められているのだ。ことは一刻を争う。僕の家は僕に関してはなる

べく関わらずにいてくれるし、神原駿河もまた言うに及ばずだったが、撫子ちゃんは現役

中学生ということで、門限に関して若干の問題が生じたが、学校の友達にアリバイ作りを

依頼し(お泊り会があるとか、なんとか)その点は回避した。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 02:26:07.15 ID:ebFiQ8E3o
 友達が多いのは結構なことだ。

 僕も人のことは言えないのだが、彼の友達は見ている方が泣きそうになってくるほどに

少なかった。まあ、そのぶんもてていたので、誰も泣きはしなかったが。

 そもそもことの原因となった神社跡でことを行うということについて、僕は最初、少な

からず不安を覚えたものだったが、忍野は「それは大丈夫だよ」と太鼓判を押した。もう

お札を貼ったから大丈夫らしい。

 僕はその後学習塾跡を出て、少なくとも、僕の往路復路には、いなかった忍ちゃんが気

になっていたのだが、結局僕は一切寄り道をせずに、自宅へと帰った。果たして、我が愛

すべき後輩は、ずっと同じ部屋にいた撫子ちゃんにも、帰ってきていた二人の妹達にも、

手を出してはいなかった。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:27:05.49 ID:ebFiQ8E3o
「よく頑張ったな、駿河!よくぞ我慢した!すこし、いや、かなり見直したぞ!」

「うん……阿良々木先輩のその真剣な褒め言葉を聞いて、初めて、私は今まで、ちょっと

阿良々木先輩の前でふざけすぎていたのかもしれないと、後悔しているぞ……」

「えっ、何で?こんな可愛い子の前で自制心を働かすなんて、僕はすごいと思っているよ。

僕だったら我慢できないかもしれないし」

「……………………」

 まあ、そんな感じで、僕が妹二人と話している隙に、二人には家を抜け出してもらい、

その後、僕は堂々と、外に出た。何故か今日に限って月火ちゃんが僕を離さなかったのだ

が(さすがは彼の妹だ。いい勘をしている)、僕は何とか振り切って、打ち合わせた位置

で、合流。遅くまでやっている雑貨屋(コンビニではない)で、必要器具を購入し(何分

突然の流れで、二人ともお金をあまり持っていなかったので、全額、僕が支払った……僕、

借金まみれなんだけれどなあ)それから、例の山へと向かった。全員徒歩だ。

147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:28:05.53 ID:ebFiQ8E3o
「撫子ちゃん」

「何?いー兄ちゃん」

「本当は、その痕――痛いんだって聞いたんだけど……大丈夫?」

「あ……」

 撫子ちゃんの顔がさっと真っ青になった。

「そ、その……怒らないで、いー兄ちゃん」

「あ……いや、責めているわけじゃないんだよ」

 嘘を吐いたことを叱られるとでも思ったのだろうか。

「別に嘘を吐いたことについてはなんとも思っていないよ。だって、ほら、僕の方がよっ

ぽど嘘吐きだし、ただ、本当に大丈夫なのか、確認したくってさ」
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 02:29:47.44 ID:ebFiQ8E3o
「そ、その」

 撫子ちゃんはぎゅっと、帽子を深く被り直しながら言う。

 顔を隠すように。

 目を見られたくないかのように。

「締め付けられるようで痛いけど……我慢できないほどじゃないよ」

 骨を砕いて――食べやすくする。

 蛇の習性。

「……我慢するっていうのが、そもそもおかしいんだ。痛いときは痛いって――ちゃんと

言った方がいい」

 僕が偉そうに言えたことではない。

 でも、言わずにはいられない。

「その通りだぞ」

 駿河も横から口を挟む。

「縛られるだけならまだしも、縛られっぱなしというのは、存外、肉体的にはきついもの

だ。蛇だろうが縄だろうがな」

「…………経験したことあるの?」

 やっぱり、一流のスタープレイヤーとかにもなると、苛められてしまうのだろうか?
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:30:15.01 ID:ebFiQ8E3o
 山に入る前に、雑貨屋で買ってきた虫除けスプレーを、お互いの身体に掛け合う。時間

は真夜中、目下の敵は、怪異よりも先に、まずは虫だった。一応、全員、長袖長ズボンの

完全防備なのだが、僕と駿河は念のため、撫子ちゃんは後々のため、だ。

 作業を終えて、山に入る。

 当たり前だが、真っ暗だ。

 三人三様に、同じく雑貨屋で購入した懐中電灯で前を照らしながら、階段を昇った。野

生の動物や虫の声がやけにうるさい。昼間はそんなことなかったのに、ちょっとした探検

冒険気分だ。

 撫子ちゃんとは、また、あいつの話をした。
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:30:54.48 ID:ebFiQ8E3o
「そう言えば、撫子ちゃん、撫子ちゃんはどうして、僕のことやあいつのことを『お兄ちゃ

ん』なんて呼ぶんだい?」

「撫子、一人っ子だから、お兄ちゃんって――羨ましいんだ」

「そっか……そう言えば、駿河も兄弟はいなかったんだっけ」

「え?ああ、うん、いないぞ。私も一人っ子だ」

「そっか」

「阿良々木先輩はどうなのだ?やっぱり一人っ子だったのか?」

「いや、姉がいる――妹もいた」

「そうか」

 駿河は深くは聞いてこなかった。よっぽど、僕が聞かれたくないような顔をしていたの

だろう。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:31:51.16 ID:ebFiQ8E3o
「さてと――着いたよ」

 一番前を歩いていた僕が、当然、一番乗りだった。

 神社跡。

 荒れ果てた、うらぶれた風景。

 お札は変わらず――貼られたままだ。

「じゃ、さっさと……ちゃっちゃと準備をしようか」

「阿良々木先輩、今の、どうして言い直した?」

 適当な場所……つまり、草木がそこまで傍若無人に茂っていない場所を探し、その四方

に、それのもっていた三つと、鞄に入れていたもう一つの懐中電灯を設置する。スクエア

の、中心を照らすような配置だ。

 地面は土。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:32:46.09 ID:ebFiQ8E3o
 その土に、その辺りの木の棒を使って線を引き、懐中電灯同士を繋いで、本当にスクエ

アを形成する――いわゆる結界という奴だ。相当に簡易式だけれど、それで構わないと、

忍野も言っていたので、大丈夫だろう。結界はとりあえずは区切られていることだけが重

要――だそうだ。

 そして、そのスクエアの内部に――撫子ちゃんが這入る。

 一人で。

 スクール水着姿で。

「って、スクール水着?」

「ああ。阿良々木先輩、あれは『たまたま』私が持っていたものを貸したのだ」

「ほう。神原後輩、あれを『たまたま』所持していることがあるのか」

「こんなこともあろうかと準備しておいたのだ」

「実に用意がいいな。褒めて遣わそう」

 まあ、でも今回は本当に用意がいい。

 くそっ、携帯のカメラ機能、壊すんじゃなかった。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:33:26.12 ID:ebFiQ8E3o
 まあ、この意匠には、意味があるんだけれど。

 蛇祓いの経過を見るために、長袖長ズボンのままではまずいということで、術式の最中

には肌の鱗跡が見えるようにしておくこと、との忍野のお達しだったのだが、さすがに屋

外で、ブルマー一丁というわけにはいかない。それはもう、嘘や偽り、そう言った言葉の

示す意味が皆目見当つかないほどの誠実な正直者の僕でさえ忍野に隠し通したことではあ

るが、僕の部屋で撫子ちゃんから蛇切縄の痕跡を見せてもらったとき、うっかり彼女が胸

から両手を外してしまうというハプニングがあったりしたのだから、尚更だ(一旦泣きや

んだ撫子ちゃんが「暦お兄ちゃんのお嫁にいけない」と、もう一度泣いた)。

 というわけで、スクール水着だった。

 というわけで、スクール水着だった。

 というわけで、スクール水着だった。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:34:13.58 ID:ebFiQ8E3o
 神社で着替えたわけではなく、小学生みたいに、家から、長袖長ズボンの下に着てきた

のだった。スクール水着では、足の鱗痕は見えても、体感部分はほとんど隠れてしまうか

ら、被害の具合は分かり辛いが、ただ――気の持ちようなのか、鱗の痕が、首の辺りにま

で掛かっているように、僕には見えた。夕方に見たときよりも――巻き憑きが、進行して

いる……のだろうか?

 ならば、急いだ方がいい。

 見えないだけで。

 撫子ちゃんの身体には――今も大蛇が、巻き憑いている。

 僕は忍野から渡されたお守りを、撫子ちゃんに手渡した。

「で、真ん中に座って……そう、シートの上に。そのお守りを力一杯握って、目を閉じて、

呼吸を整えて――祈れば、いいんだってさ」

「祈るって……何に?」

「何かに」

 この場合は――どうだろう。

 やはり、蛇神。
 
 くちなわに――だろうか。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:34:52.54 ID:ebFiQ8E3o
「わかった……頑張る」

「うん」

「いー兄ちゃん……ちゃんと見ててね」

「任せて」

「撫子のこと……ちゃんと見ててね」

「……うん、任せて」

 そうだ、ここまでが僕の仕事、僕には見るくらいしかできない。

 人は一人で勝手に助かるだけ――か。

 僕は蚊取り線香の設置を終えた駿河と並んで、少し離れた位置から回り込むように、撫

子ちゃんの正面――神社の入り口、鳥居側に――移動する。

「じゃ……」

 と。

 撫子ちゃんは目を閉じていた。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:36:01.19 ID:ebFiQ8E3o
 両手をぎゅっと――胸の前で握り締めている。

 儀式は、既に、始まっていた。

 撫子ちゃんに見ているように言われたのに、何をやっているんだろう、僕は。今までの

分も挽回するために、より集中して見守る。

 懐中電灯の光が。

 四方から、静かに――彼女を照らす。

「なあ――阿良々木先輩」

「何だ?駿河。僕は今非常に集中している最中なんだが」

「いや、それが……わかった。これ以上何も言わない」

「そうか。わかったならいい」

 まだ十分も経たないうちに、一心不乱に何かに祈る、撫子ちゃんの身体から、スクール

水着に覆われていない部分から覗く鱗の痕跡が――びっちりと、くっきりと刻まれていた

痕が、徐々に――薄らいでいた。

 なるほど――強力だ。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:38:29.43 ID:ebFiQ8E3o
「滞りなく――進みそうだな」

「ああ、だがしかし、まだまだ油断はできない」

「だからと言って、そんなに血走った目で見なくてもいいんじゃないか?阿良々木先輩」

「いや!見ろ!」

 僕は駿河に怒鳴る。

 千石撫子が――地面に敷いたビニールシートの上に仰向けに倒れた。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・
 びくんびくんと、変な、しかし激しい、痙攣をしている。

 口が。

 大きく、開いている。

 顎骨が限界まで開いている。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・    ・ ・ ・ ・ ・
 卵を飲み込む――蛇のごとく。
 ・ ・ ・ ・ ・    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 蛇の頭でも――咥えているがごとく。

158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:44:10.06 ID:ebFiQ8E3o
「くっ……」

 撫子ちゃんの身体から――鱗の痕は消えている。
 ・ ・ ・ ・ ・
 半分くらい、消えている。
       ・ ・ ・
 だが――半分は残っている。

 消えずに、残っている。

 そして。

 先刻までなかったはずの、撫子ちゃんの首にさえ、くっきりと、鱗の痕があった。蛇が

――蛇切縄が、巻き憑いている。

 これは……これはどういうことだ?

 半分まで消えて。

 半分。

「っ!そうか!」

 そう、僕らはとんでもない勘違いをしていた。
 ・ ・ ・ ・     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・
「蛇切縄は―― 一匹じゃなかったんだ。二匹、二匹いたんだ」

 気付くヒントはあったのに……。
                 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 両腕と、首から上以外に、びっちりとまんべんなく、鱗痕はあったのだ。爪先から、む
                                           ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
こうずねから、ふくらはぎまで――脚は二本ある。一匹の蛇が、両足にまんべんなく巻き
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・                                         ・ ・ ・
つくなんてこと――構造的に、不可能に決まっている。たとえば、蛇が一匹なら、内腿に
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
鱗痕が残るわけがない。
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:44:36.53 ID:ebFiQ8E3o
 それぞれの脚の爪先から。一匹ずつ――蛇切縄は巻き憑いていたのだ。

 撫子ちゃんの身体を締め上げるように。

 二匹。

「……畜生!」

 一匹は、忍野のお守りの力で――解けた。

 だけど、お守りの効力は、そこで終わったんだ。

 僕が、僕が気付いていれば――忍野も、二匹分の対策を――

「駿河っ!そこにいてくれ!」

「忍野さんに連絡した方が――」

「あいつ、携帯持ってねえんだよ!」

 こうなったら、強硬手段だ。

 僕は駆け込んで、簡易式の結界、懐中電灯に照らされたスクエアの中へ――侵入した。

がしっと、撫子ちゃんの身体を抱え起こす――身体が熱い。相当な熱を持っている。彼女

を触る僕の手が、火傷をしてしまうんじゃないかと思うほどに――

 首元の鱗痕。
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:45:52.41 ID:ebFiQ8E3o
 いまや痕というのもおこがましいほど、食い込んでいる。骨を砕き――そのまま細い肉

体を千切られてしまいそうなほど、食い込んでいる。

 ぶつ切りにされてしまいそうなほどに――食い込んでいる。

「撫子ちゃん!」

 白目を剥いて――最早意識はない。

 完全に――呑まれてしまっている。

「く……っ!」

 僕は、抱え上げた撫子ちゃんを―― 一旦ビニールシートの上に、再度、横たえる。そ

して、撫子ちゃんの体に向けて、ゆっくりと、両手を伸ばした。

 いや、撫子ちゃんの身体に向けてじゃない。

 蛇切縄に向けてだ。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「見えなくても――触れるはずなんだ」

 そうだ、あのときと違って、今は見えないけれど。

 あのときのように、引き剥がさなければ。
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:47:53.96 ID:ebFiQ8E3o
「う……うぐっ!」

 ぬめり、と。

 いやな感触が――両手のひらにあった。

 粘液の中に手を突っ込んだような感覚。

 鱗がざくざくと、手に刺さる感覚。

 素直に気持ち悪い。
               ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 でも、やらなきゃ、もう、誰一人、死なせないって決めたんだから。

 ぬめりを逆に利用して、スライドさせるようにして、自分の手の位置を、調整する。筋

肉自慢の男の大腿部くらいありそうな蛇の円筒形の体幹を、左右から挟みこむようにして、

そして――力任せに、引っ張る。

 体力までが吸血鬼なわけじゃない。

 それに――滑る。

 鱗の並びの方向と、引っ張る方向が一致しているから、力がうまく作用しないのだ。僕

は考えを変えて、大蛇の身体に爪を食い込ませる風にして(蛇の身体は柔らかく、その身

体に指が沈み込むかのようだった)、もう一度、引っ張る――
 ・ ・ ・ ・ ・
 引き剥がす――!
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:48:50.51 ID:ebFiQ8E3o
「ぐ……うああああああああっ!」

 とんでもない激痛が――右腕に走った。

 痛みのあった箇所を見れば、血が――噴き出している。手首と肘との間くらいが。圧搾
              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
機に挟まれたがごとくひしゃげていて、ひしゃげたその部分に、深い深い穴が穿たれてい

た。

 既に――撫子ちゃんの口からは、蛇の頭は、抜け出していた――僕が体幹に指を食い込

ませたことを、攻撃を受けたと判断したのだろう、蛇切縄は撫子ちゃんの体内を出、僕に

対して反撃に転じてきたのだ。見えないから咬まれるまで気付かなかった――

「い……ってええええええええ!」

 あまりの痛みに、僕はわけもわからず、その場からごろごろと、転がるように飛びのい

た――身体中に巻き憑いていた蛇切縄が解けていく過程だろう、撫子ちゃんの身体が、ス

クエア内のビニールシートの上で、ばたばたと不規則に跳ねる。見えないからおおよそを

推測するしかないのだが、この状況、恐らくそうだろう。

 ということは――今度は僕に巻き憑いてくる!
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:50:29.28 ID:ebFiQ8E3o
 僕はひしゃげた右腕の部位を、地面に叩きつけようとして――やめる。そう、そうだ、

今ここでこいつを僕から剥がしてはいけない。相手は見えないのだし。最悪、呪いを掛け

た子の所に行ってしまう。一人で二回かけたのか、二人が撫子ちゃんにかけたのか、僕に

はわからない。だけど、僕は、僕は、

「誰も、死なさないって、決めたんだ」

 誰も。

 蛇が僕の全身に巻き付く。

 首が絞まり、顎が限界を超えて広げられる。痛い、痛いなあ……。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:52:29.53 ID:ebFiQ8E3o
 人間、死にかけると、妙に頭が冴えるという、普段人間が使っているのは脳の三十パー

セントくらいで、残りの七十パーセントは、非常時にしか使わないのだとか。

 こんな緊迫した状況下で何を言いたいのかというと。

「本当、世の中ご都合主義だよね」

 生きてるって素晴らしい。

 僕はまっすぐに歩く。

 痛いのを我慢して。

 死ぬのを我慢して。

 死ぬ気で我慢して。

 まっすぐまっすぐ歩く。
                ・ ・ ・ ・ ・
 そう、僕の正面には――神社の本殿。
              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 そして、その戸には、よくないものを吸収するお札が貼ってある。

 僕が、伝説の吸血鬼の元眷属であった僕が、触ったら、大変なことになるような代物。

 別に、それが、一人から、一人と一匹に変わったところで、効力も変わらないだろう。

 もしかして、この状況すらも、忍野は見透かしていたのだろうか。だとしたら、

 だとしたら。

「本当、あの人には敵わないよなあ」

 僕は今にも倒れそうな自分の身体を、倒れさせた。

 今にも崩れそうな神社の戸に、身体を預けた。

165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:54:21.33 ID:ebFiQ8E3o
007

 後日談というか、今回のオチ。

 翌日、いつものように彼の二人の妹、火憐ちゃんと月火ちゃんに優雅に起こされ、僕は

そのまま、学校へ行く準備をする。六月十三日、火曜日、平日。あれから、僕は気絶して

しまい、情けなくも駿河と撫子ちゃんに、例の学習塾跡に運んでもらったみたいだ。気が

付いたときには、机で作成された簡易ベッドで僕は横たわっており、心配そうに僕の顔を

覗き込む、可愛い二つの顔があった。僕は基本的に、自分の寝顔を見られるのが嫌なのだ

が、何故か今回は、悪い気はしなかった。寝ている間に忍ちゃんが血を吸ってくれたらし

く(いきなり現れた後、血を吸ってどこか別の教室に行ってしまったらしい、僕を思って

来てくれたのだろうか。意外だ)、その時点で、右腕も、すっかり回復していた。一応は

筋ということで、ことのなりゆきを、簡単に忍野に報告しておいたが、忍野は、多くは語

らなかった。どう、思ったのかは僕にはわからないが、わからないままでもいいと思う。
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 02:54:52.72 ID:ebFiQ8E3o
 その後、学習塾跡の一室で、みんなで夜を明かした。撫子ちゃんは御両親に、友達の家

でお泊まり会だと嘘を吐いていたので、彼女はどこかで夜を明かさねばならなかったのだ。

他に適当な場所がなかったので、そのまま学習塾後で眠ったというわけだ。最初は修学旅

行の夜みたいなノリになったのだけれど、やはり全員疲れていたのだろう、すぐに、眠っ

てしまった。

 冬が来れば春が来て。

 夜が来れば朝が来る。

 駿河と二人で撫子ちゃんを家まで送って、再会を約束し、別れた。しばらく、駿河と話

していたのだが、この後輩、なんと、ひたぎちゃんの誕生日パーティーとやらに、僕を呼

ぶつもりらしい。希望を与えてしまうのもなんだか悪い気がするので、断ろうとしたのだ

が、結局、熱意に押されてしまい、行く羽目になってしまった。「七月七日は空けておい

てくれ」という言われたのを最後に、駿河とは、交差点で別れてしまった。そしてやっと

家に帰り、ベッドでの二度寝を目論んだところに、彼の二人の妹、火憐ちゃんと月火ちゃ

んが来てしまったというわけだ。それとなく、僕は月火ちゃんに「千石撫子ちゃんって知っ

てる?」と訊いた。

167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/17(月) 02:56:06.59 ID:ebFiQ8E3o
「知ってるよ。私同級生だったんだ」

「へえ」

 月火ちゃんは憶えていた。だとしたら、あいつも憶えているのだろうか。

「ところで、どうして、せんちゃんのことをお兄さんが知ってるの?」

「ちょっと最近知り合ってね」

「ふうん。何でもいいけどさ。せんちゃんのこと好きになっちゃダメだよ」

「ん?何それ?どういう意味?」

「あの子は、お兄ちゃんのものだからさ」

「ああ、それは大丈夫。分かっているよ」

 そう、これは本来、あいつが絡む話――千石撫子ちゃんの話なのだ。

 僕が絡んではいけない話。

 このときの僕の軽率な行動が、あの大惨事を招くのだが、しかし、このときの僕はまだ、

それに気付いていない。

 僕は何も考えずに、制服に着替えて登校した。


《Jyagirinawa》 is HAPPY END.
《Nadeko Snake》 is HAPPY END.
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 03:02:35.95 ID:ebFiQ8E3o
はい。そんなわけで、蛇の生殺しのような終わり方、なでこスネークでした。
剣呑剣呑っていーちゃんに言わせたかったんだけれど、何故か一度も言わないまんまこんな所まで来てしまいました。
念仏の鉄も言わせたかったなあ。
と言うわけで無理矢理言わせてみました。

はあ、まったくもって平和だなあ……剣呑剣呑。

ひたぎちゃんって念仏の鉄みたいだよねえ。

うん。この世界のいーちゃんじゃあ、言うわけないですね。
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 03:12:41.38 ID:sbfN1CTmo
おつ
暦もいる設定だったのね
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 09:28:20.56 ID:FsQvb5Ql0
今回早かったな
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/17(月) 09:54:44.54 ID:SSyltn4AO
待ってたよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 15:36:37.12 ID:up5gH9XDO
乙!
いーたん姉がいたのかー
……姉!?

毎回メ欄に sage saga って書いておいた方がよさそう
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) :2011/10/17(月) 20:42:16.46 ID:CX0N2Vdb0

なんつーかいろいろ気になる終わり方だなあ
次回も期待しております
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) :2011/10/17(月) 20:42:50.22 ID:CX0N2Vdb0

なんつーかいろいろ気になる終わり方だなあ
次回も期待しております
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 22:45:51.21 ID:ebFiQ8E3o
>>172
つサイコロジカル下

祖父母との記憶もあるらしいですよ(生死は不明)
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/10/20(木) 23:38:05.60 ID:3WSX26jD0
>>1
原作より若干ハッピーエンドになっているのなら
撫子を可愛いままで…ラスボス化は止めて…
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/21(金) 05:23:33.98 ID:d3MirkcIO
そういえばいまの名前はこのSS内では本名だっけ?
本名なら全員に死亡フラグ立ってね?
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/21(金) 11:48:29.16 ID:cZb3LJgIo
>>177
偽名っす

でも「い」がつくあだ名で呼んじゃうと…………
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 18:23:47.06 ID:2ka7sjmAo
次ってあんの?
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:03:18.10 ID:uFOG1DQZo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1322064170/
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