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一方通行「青紫色の携帯電話」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:03:29.94 ID:facbNr1eo
垣根と一方通行が幼馴染
芳川が好きだから芳川×一方を書きたくなった

まだ書き溜め途中だからどっちになるかわからんけどバッドとハッピーと終わり方だけは両方考えてあるから完結はさせます

ssに対する暴言は全て愛あるアドバイスだと思いレベルアップの糧にするのでじゃんじゃんけなしてくれwww
ドクロちゃんききつつ愛なら仕方ないと思いながら書いてく
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忌村「不思議な薬が出来たわ…」【安価】 @ 2025/07/12(土) 00:02:05.36 ID:BD6esqAF0
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どうなるのかな? @ 2025/07/11(金) 22:45:01.94 ID:GJ4hg/bKo
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空の雫 @ 2025/07/11(金) 21:39:32.38 ID:UbINMeJK0
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ベルトルト「クリスタだ」 @ 2025/07/10(木) 00:09:53.46 ID:H3mTkX5wO
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てす @ 2025/07/08(火) 22:20:03.31 ID:xzv/7nI6o
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男「友達一人もいないけど漫画とアニメがあるから毎日充実している」 @ 2025/07/08(火) 00:27:51.33 ID:PBp8RzMcO
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【安価】タイトルからあらすじを想像して架空の1クールアニメを作る 2025夏 @ 2025/07/07(月) 02:09:39.53 ID:pv74dAvR0
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【安価コンマ】好きと嫌いと異世界と 2 @ 2025/07/06(日) 22:07:29.64 ID:yYA4flIp0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1751807249/

2 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:06:27.79 ID:facbNr1eo

〜〜〜

「断る」

狭い部屋にはテーブルが一つ。
その横には四つの椅子が備えてあり、現在は二つが使用中である。
テーブルの上にはまだ温かみを失っていないコーヒーがゆらゆらと湯気を出している。
カップの傍らには未使用のスティックシュガーとミルクがある事からコーヒーを出された少年はブラックを好んで飲むことがわかる。

「……最強から抜け出し、無敵になりたいと常日頃から言っていたのは嘘か?それとも自信がないのか?」

二人のうちの一人、白衣を着た研究員が挑発するように言った。

が、少年は無視。
ため息をひとつつくとコーヒーカップに手を延ばした。

挑発的な笑みを浮かべている研究員はそんな少年の行動ひとつひとつに酷く怯えているようにも見える。

少年がコーヒーを一口飲むのを待って研究員は再度口を開く。

「なぁ、一方通行。何も難しいことを言ってるわけじゃないだろう?」

少年は無視。
その態度に腹が立ったのか、研究員は机を思い切り叩き、立ち上がりながら怒鳴る。

「ッ……何が不満なんだ?!たかが二万体のクローン人形をぶっ殺すだけの事じゃねぇか!お前なら立ってたって終わるような実験だ!……何がなんでも協力してもらうぞ一方通行、お前にはその義務がある」

「……義務?笑わせンな」

少年、一方通行がやっと口を開いた。
その声は冷たく、なんの感情もこもってはいない。
そして研究員の目からはかりそめの威圧感は完全に消え去りもはや恐怖しか残ってはいない。

「お前はなンで俺が拒否してると思う?」

対する一方通行は先ほどと変わらぬ様子で問いかける。

「……実験期間が長いのは目をつむってくれこれが精一杯なんだ」

研究員は一方通行が拒否する理由は約二年にも渡る実験期間の長さが理由だと思い、答える。

「だからお前はクズなンだ……そんなもンは気にしちゃいねェよバカが」

「だったら何が問題なんだ?出来る事なら全て改善する、だから首を縦に振れ」

「お前はなンもわかっちゃいねェ……それ以上不愉快な言葉撒き散らしたらぶっ殺す」
3 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:08:47.21 ID:facbNr1eo
初めて一方通行の感情に変化が見られた。
無関心から悲しみそして激しい怒りへと変わる。
真っ赤な目、それ以外は真っ白な少年から発せられるのは殺気。

研究員は第一位、核爆弾でさえ殺せない最強であり最恐の化け物の怒りに息をするのも忘れるほどに恐怖した。

「う、ああ……」

言葉にならないうめき声が喉から漏れる。

少年はそんな醜い研究員に目もくれず椅子から立ち上がる。

−−誰もわかっちゃくれねェ。

そして誰にも届くことのない独り言を残しドアを開けた。

ドアを開ける瞬間の一方通行が全てを諦めたような悲しい表情をしていた事を知る人も、一人もいない。
4 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:14:59.45 ID:facbNr1eo

〜〜〜

「悪いが、お断りだ」

髪は茶色、服装はファッション雑誌にそのまま載っていそうなものをちゃんとに着こなしている。
整った顔立ちに浮かぶ色は苛立ち。

「なぁ、なんで俺にこの実験持ってきた?」

髪の毛をいじりながら問う。

「それは……お前は口癖のように一番になりたいと言っていただろう?

それを叶えてやろうと思っての事だ。

拒否するなら第一位にこの話は持っていくつもりだ」

もちろん嘘である。
ただ、第一位に断られたからと言うのは少年の逆鱗に触れることとなるのは分かり切ったことだ。

そして、今のを聞いて笑った少年をみて研究員はうまくごまかせた、上出来だと思った。
しかし少年はそんな簡単な人物ではない。

「ははっ……最高だよ、お前。最高に−−ムカついた」

少年の顔から笑みが消え部屋全体の空気が禍々しいものに変わった。

「俺は嘘吐きが嫌いだ。
一方通行に断られたから俺のとこに来たんだろ?……あまり俺を馬鹿にするんじゃねぇよ」

研究員はカタカタと歯を鳴らす。
一方通行程ではないがこいつも化け物だという事を思い出したらしい。
少年はそんな研究員には構わずしゃべり続ける。

「お前らクソッタレの反吐が出るような実験なんかやんなくたって俺は実力で第一位を倒してみせる、俺を舐めるな……あと、優しい俺からアドバイス。

お前らは俺たちの事を何も、何ひとつわかっちゃいねぇ。

そんなんだから俺にも一方通行にも断られちまうんだよ。

まぁ、あれだ、次からはよく考えてもってこいよ」

立ち上がり部屋の外へと続くドアへ足を進める。

−−まぁ、こいつらが狂ってるのも元々は俺らのせいか。

ドアを開ける少年の表情は何かを無理矢理期待しているような、苦しそうなものだったことを誰も知らない。
5 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:16:28.85 ID:facbNr1eo
〜〜〜

「ふ、不幸だァアアアア」

黒髪をウニのようにツンツンと逆立てた少年、上条当麻は夜の学園都市を全力疾走していた。
住民の八割が学生という街柄二十時をすぎると街中に人の影は少なくなる。
そんな薄暗い街中を電撃がパリパリと照らす。

「待ってって言ってんでしょーが!」

電撃を放つ少女、御坂美琴は殺さんばかりの勢いで上条当麻を追いかける。

「待てと言われて待つ奴はいねーよ!」

致死レベルの電圧を持った電撃を勘だけを頼りに右手で打ち消す。

「ほんっとうに鬱陶しい右手ね……」

右手によって、自身の攻撃が打ち消されるたび少女のストレスは溜まる。

「お前の攻撃は俺には効かねーんだよ!

いい加減俺に絡むのはやめてくれ!」

「やめろと言われて、やめるやつがいるかぁあああ!」

走りながらポケットからコインを取り出し、電撃を上条当麻の前方に落とす。

上条が一瞬立ち止まったのを確認すると自身の呼び名にもなっている『超電磁砲』を放った。

「……お、お前なぁ」

御坂と上条を繋ぐ道路はえぐれ、破壊された。
砂埃の中では上条が右手を突き出し、御坂を睨みつけている。

上条がなにやら文句を言おうとすると、ピーピーと機会音が鳴り響き、二人のみている風景は乱れた映像のように不安定な物になった。

そして街がいきなり消え、あたりは真っ白な空間に変わる。
6 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:18:56.48 ID:facbNr1eo
システムエラー。

そして眼前に文字が現れ、現実世界へと強制的に引き戻された。

そう、何も二人−−実際暴れていたのは御坂一人だが−−は現実世界で暴れていたのではなく、新開発されたゲームの仮想世界の中で暴れていたのだ。

このゲームは様々な世界に行き、ゲームのキャラになり、自身でクリアするという超未来的シミュレーションゲームである。

プレイヤーは多いなゆりかごのようなマシンに乗り込み頭にヘルメットをかぶるとそれで仮想空間に飛ばされる。

二人は今回『夜の学園都市』を選んだ。

本来は夜出歩けない中高生のカップルに夜デートを体験させるという目的で作られたステージだ。

そこを御坂は上条との勝負の場に選んだ。

「仮想世界だからって全力で必殺技撃ってんじゃねーよ!

ここで死んでも現実で死ぬわけじゃないけどショックで気を失うくらいはするって説明を忘れたのか!!

だいたいなんでゲームの中でも勝負なんだよ!

普通に遊べないのかお前は!!」

ゆりかごのような筐体が開き叫びながら上条当麻は起き上がった。

「……えへっ」

御坂はごまかすように笑う。

システムエラーの原因は興奮しすぎた御坂の漏電であった。
7 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:21:24.97 ID:facbNr1eo
「しかしそういう事だったのか」

脳波、心電図など、異常がないか簡単な検査を受けたあと二人は缶のジュースを飲みながら世間話に花を咲かせていた。

「『そういう事だったのか』ってどういうことよ?」

「ん、お前がこの実験?というかテストプレイヤーに選ばれたわけだよ」

「……あー、そういう事ね。

私の能力防げれば電気系の能力者は全部OKってことになるからねぇ」

この開発協力の要請が来た際

『御坂さんの心を最も揺さぶれる人と同伴してください。

……あ、好きな人とかいたらその人がいいわ』

と言われたことを御坂は上条には話していない。

だから、ここの開発者達が微笑ましい視線で二人をみている意味を上条は知らない。

御坂はそんな視線に気づくたびに顔を赤らめているのだが……。

「でもすげぇよなぁ……自分の能力ごと中にはいれるとかどうなってるのか上条さんにはわかりませんことよ」

「あー、それは多分あれよ、脳から直接読み取ってるんじゃないかしら」

「それがバカの上条さんには意味わかんねーんだよ!」

「んー、記憶とかそういうのも電気信号だからね、その辺をこうササッと?」

「つまり、御坂もよくわかってないって事か……」

大きくため息をつきながら偉そうな事いってても上条さんと同レベルなんですね。
と毒づく。

しかし相手は中学生、自分は高校生。

それで同レベルといってしまうのは自分で自分をバカにしている事になると上条は気づかない。

「……言ってなさいよ」

御坂は気づいたが、なにやら本当に哀れに思い突っ込むのをやめた。

「というか、これはどんな研究の一環なんだ?」

「『自分だけの現実』の核を見つけようって感じの研究らしいわよ」

自分だけの現実。
簡単に言ってしまえば思い込み。
それは強い記憶の電気信号となりゲーム内にも反映される。

そこで読み取った信号を同系列の能力者でまとめ、全く同じところがあったらそれがその能力の核となるものなのではないか?

それがわかってしまえば多重能力者を生み出す事も可能なのではないか?

という研究である。

「よくわかんねーけどいいや、最新ゲーム一番に体験できたわけだしな」

上条当麻、どこまでものんきな男である。

二人はそのあと学校のことやクラスメイトの事でポツポツ話をしていると二人の向かい斜め右の部屋のドアが開いた。

出て来たのは茶髪の少年。

二人には気づかずそのまま携帯電話を取り出し、一瞬何かをためらうように顔をしかめ、電話をかけはじめた。
8 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:22:57.52 ID:facbNr1eo

〜〜〜

胸糞悪りぃ。

奴らが俺達が平気な顔で人を[ピーーー]と思っている事がムカつく。

人を人と思わねぇその態度がムカつく。

名を名乗ればビクつくのがムカつく。

他の子ども達と同じに扱われないのがムカつく。

俺を邪魔者だと切り捨てた一方通行がムカつく。

−−そんな一方通行から連絡を待ち続け、かなり凹んだからって初めて買ってもらった携帯電話をずっと眺めている自分に一番ムカつく。
9 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:23:55.08 ID:facbNr1eo
〜〜〜

胸糞悪りィ。

人を快楽殺人者と思ってるのがイラつく。

エジプトのミイラやルーヴル美術館に展示されてる美術品のように扱われるのがイラつく。

怯えながら話しかけてくる態度にイラつく。

いちいち特別扱いされンのがイラつく。

唯一の親友を俺から奪ったことにイラつく。

−−まァ、一番イラつくのはビビってその親友に電話の一本も出来ねェ自分の弱さにだけどなァ。

10 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:27:08.76 ID:facbNr1eo
〜〜〜

「久しぶりだな、*****。

俺の事を覚えているか?」

垣根は意を決して『*****』の番号へ発信した。

なんで電話なんかしようと思ったのかは本人にもわからない。

多分タイミングというものなのだろう。

『覚えてる。

な、なンか……その……用か?』

「はっ、用がなけりゃ雑魚は一位様に電話もしちゃいけねぇってか?」

『ンなこと言ってねェだろ!

十年ぶりに喧嘩でもしてェのか?あ?』

「カルシウム足りてねぇんじゃねぇの?

少しおちょくったくらいで切れんなよ」

『……』

「まぁ、いい。話は【妹達】【実験】【虐殺】こんだけ言えば伝わるか?」

そうか、と垣根は納得した。

多分自分は一方通行と連絡をとるきっかけ、自分と一方通行が繋がる共通のものを探していたのだ。

そして、それが見つかった。

だから電話をかける事が出来たのだと。

『オーケィオーケィ、つまりは死にてェンだな?

お前まだ研究所だろォ?

今すぐ跳ンでくから出来るだけ遠くに逃げろよ』

「は?いやちょっとまてよ!……って切れてる」

垣根はどうやって実験を完全に凍結させるかの相談をしようと思っていた。

思っていたのだが……。

「ウソでしょお?

……え?

あいつ人の話もっと聞く子だったよね?」

誰も信じられないという環境下での十年間という余りにも長い月日は

素直な少年をどこまでも疑り深く

最悪の結果しか考えようとしない青年へと育てていた。
11 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:29:08.73 ID:facbNr1eo
〜〜〜

十年前に初めて買ってもらった携帯電話は一度も使われる事は無かった。

登録件数は二件。

メンバー分けなどする必要はないのにその登録者の内の一人は『親友』と分類されていた。

一方通行は何かを考える時、ひどく気分がざらつく時、心が乱された時、精神状態が安定しない時は必ずその携帯電話のディスプレイを眺めている。

漢字なんてその時は簡単なものしか習っていなかったから『読めるように』と表示される名前は『かき根ていとく』となっている。

一度『垣根帝督』と直した事があったが思い出を壊してしまった気がしたので元に戻した。

今回もいつも通りベッドに腰掛けディスプレイを眺めながら考え事をしていた。

レベル6。

妹達。

二万体。

虐殺。

クローン。

オリジナル。

実験。

どうすれば実験を止める事が出来るのか。

どうすれば妹達は救われるのか。

答えの出ない自問を繰り返す。

正確に時を刻む時計の音だけが部屋に鳴り響く。

その一定のリズムを十年間鳴る事のなかった着信音が崩した。

表示されている名前は『かき根ていとく』

恐る恐る通話ボタンをプッシュすると、ずいぶんと低くなったでもどこか懐かしい声が聞こえた。

同時に嫌な予感が襲って来る。

そして予感は垣根の発した【妹達】【実験】【虐殺】という単語により現実へとなる。

「クソッタレが……」

電話を一方的に切り、携帯電話を壁に叩きつけようとしたが、そのままベッドの上の枕に放り投げる。

玄関に進み、ドアを蹴りあけそのまま研究所の方へと

−−跳んだ。
12 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:30:57.96 ID:facbNr1eo
〜〜〜

「あ、あのう〜どうかしたんでせうか?」

垣根はこの時初めてここが表向きは普通の研究をやっている機関なのだと知る。

「あ、あぁ……いやなんでも……いやいや違う。

とりあえずなにも聞かずに外に出ろ。

そして全力で逃げてくれ」

「は?」

いきなり逃げろと言われ困惑するのは上条。

「理由を言いなさいよ」

反発するのは『第三位・常盤台の超電磁砲』御坂美琴。

「お前……御坂美琴か?」

「そうよ、何か問題ある?」

大有りだよ馬鹿野郎、いや実際これはかなりやばい。

と、垣根は冷や汗を垂らす。

多分今の頭に血の昇った一方通行は

御坂美琴-オリジナル-をクローンの妹達の一人だと思うだろう。

そしたら無傷で誤解を解くのはまず不可能になる。

「まじやべぇ、とりあえずお前らはどっかの部屋はいって身を隠してろ!

マジで俺が殺されちまう!」

考えを整理し分析すると相当やばい事になっているという非情な現実が垣根を襲う。

何ひとつ悪い事などしてはいないのに……。

「だぁからその理由を話せって言ってんのよ!

なんかトラブルなら私が協力するわよ?」

垣根は完全に御坂を無視。

第一位を倒す算段は一応はついている。

しかし心の準備もなし、あらゆる用意もなしで勝てるような相手ではない。

それに、戦う前から焦っているようではその時点で負けているようなものだ。
13 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:36:29.34 ID:facbNr1eo
「はァーい、かーきねくゥうううン。
久しぶりだなァ?オイ!
まさか人殺し実験に嬉々として参加するゴミクズに成り下がってるとは思わなかったぜェ?」

「あ、終わった」

一方通行の到着は予想よりもずっと早かった。
垣根がどうしようかとオロオロしているうちにいつの間にか現れていた。

「チッ……こうなりゃ覚悟を決めるか」

大丈夫、自分を信じろ。
俺は学園都市第二位《未元物質》の−−垣根帝督だッ!

目標は誤解を解く事。
それが不可能と判断したら直ちに逃げ切る事。
戦えば90%の確率で俺は死ぬ。
だが一方通行を三ヶ月入院させる程度の負傷は負わせる自信くらいはある。
でも今負傷させる意味はねぇ。
戦っても得な事はひとつもねぇ。よって無理だと判断したら直ちに逃げる。

「ははっ、落ち着けよ***。
まずは再会を祝って飯でもどうだ?奢るぞ?」

とにかく時間を稼げ、一方通行が頭を冷やす時間を稼げ。
自分と会話するレベルまで落ち着いてくれたらなんとかなる。

「おちょくってンのか?」

「んなわけねぇだろ。
俺とお前の仲だ、話せば分かる誤解もとける」

幸運な事に一方通行は今垣根しか目に入ってはいない。
今のうちに御坂と上条、特に御坂が垣根の願い通り何処かの部屋に隠れてくれれば丸く収まる。

「……」

よし、このままいければ。
垣根のそんな期待を裏切ったのは常盤台の超電磁砲、御坂美琴であった。

「ちょろ〜っといい?私を無視しないでくれるかしら?」

「……おまえ、空気ってもんが読めないのか?」

何かが切れる音がした。
やばい、と思った瞬間、垣根の体はガラスを突き破り外へ放り出された。

「……ッ!」

背中を思い切り打ち付け息が止まる。
回避をと思った時には顔面に蹴りが迫っていた。
が、ギリギリで能力を展開し、直撃は避ける事に成功。

「てっめ、いきなり何しやがんだ……」

「人殺しには……罪には罰が必要だろォ?」

……やめだ。

得な事がないから逃げるなんて言い訳するみたいなカッコ悪いことはやめだ。
90%負けるなんて諦めもやめだ。

ぜってぇ勝ってやる。

理由?
そんなもの

ムカついた。

これだけでいい。
ボコって埋めてやる。

「……あぁ、そうだな。

人の話を最後まで聞かない困った***ちゃんにはゲンコツだよなァアアアア」

「その名前で呼ぶンじゃねェエエエエエエ!」

ぶっ殺す。

二人が再開して初めて合致した気持ちは殺意であった。
14 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:38:27.06 ID:facbNr1eo

〜〜〜

まず最初に仕掛けたの一方通行。
近くにあった車を次々と蹴り飛ばす。

垣根は十分避けれるそれらを避けずに全て展開した翼で受け止める。

そして空中へと飛び上がると翼を大きく広げた。

「お前随分真っ白だな、不健康だから日焼けしてけよ」

言った瞬間、翼を通った太陽光は殺人光線へと変質。

一方通行の肌を少し傷つけた。

「ンだとォ!

……クソったれのハエがァ!

てめェ何しやがったァアア?!」

「教えるわけねーだろ、ただひとついうならそいつはお前の知る太陽光じゃあない。

ただの殺人光線だ」

あらゆるもの全てを反射するという自身の絶対の能力をすり抜けた垣根の攻撃に一方通行は驚く。

「しかしやってみりゃあ第一位もたいしたことないな

……能力に絶対の自信を持ちすぎて研究を怠ったのがお前の敗因だァ!

一方通行ァアアアア!」

そのまま急降下し、翼を叩き込む。

が、それは反射されダメージを与える事は無かった。
15 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:40:27.32 ID:facbNr1eo
「チッ、まだ足りねぇのか」

それは垣根の油断であった。

勝ちが見えた瞬間気がほんの少し緩み自身の目論見の破片を口走ってしまった。

「足りない?」

一方通行がその隙を聞き逃す訳もなく

地面を踏みしめ垣根に攻撃すると

距離を取り学園都市No.1の頭脳をもってして『今起きたあり得ない現象』についての考察をはじめた。

垣根は攻撃をよけると再び上昇し、殺人光線を浴びせながら、調整をする。

どちらの思考がより速いか、先に答えをだした方がこの勝負の勝者である。

「これで終いだ」

「ハッ!なァンだ、なンて事はねェただの手品だなァ」

互いに同時に答えを見つけた。

垣根は再度急降下し、先ほどと同じように翼を叩き込む。

対する一方通行も迫り来る翼に拳を叩き込む。

答え合わせの時間だ。

が、そこに割って入った青年が一人。

二人の間に右手を突っ込むとパキィンと何かが壊れる音がした。

飛んでいた垣根は墜落し、無理な姿勢をベクトル操作で無理やり保っていた一方通行もそれを失いすっころぶ。
16 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:42:07.85 ID:facbNr1eo
「お前らいい加減にしろよ!
こんな街中で高レベルの能力者が能力全開で戦ってんじゃねぇよ!」

「いっててて」

「……てめェ何しやがった?」

「んなこたぁいまはどうだっていいだろうが!
周りをよくみろ!特に白いの!
茶髪の方が車受け止めたりしてたから全壊にはならなかったがメチャクチャじゃねぇか!
茶髪もなーにが殺人光線だ!
地面溶けてんじゃねぇか!」

ぐしゃぐしゃの地面、半壊した研究所の入口、全損した自動販売機、傷ついた何本もの街路樹。

一方通行が吹っ飛ばした車の先は研究員の宿舎があった。
その前にはコインを用意した御坂美琴が立っている。

それらをみて二人は言葉を失った。

こんなんじゃ化け物扱いされても仕方がない。

次に合致した二人の気持ちは自身への戒めである。

「……悪りィ」

「……いや、俺もやりすぎた」

反省した二人をみて上条は表情を崩す。

「よく知らんが二人は親友なんだろ?
喧嘩する前に話し合えよ、そんで壊したものは謝って弁償しろ。
高位の能力者だし金はあんだろ?」

最後のセリフは二人にはやけに恨みがましく聞こえた。
17 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/11/30(水) 02:45:02.14 ID:facbNr1eo
くそう
全部で100レス分は書いたから20レス分くらいずつ投下しようと思ってたのに思いのほか書き溜め少なかった
明日からは書き溜めしつつ書いてあるの投下するから少し量すくなくなります

一人でもみてくれる人がいたら嬉しいな
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/30(水) 02:46:00.94 ID:JB+nXp4Zo
見てるぜ。頑張ってな
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 02:46:15.60 ID:ACwNOTPfo
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 04:32:12.49 ID:Rj2TxKUi0
一方通行めっちゃ理不尽
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 05:12:11.76 ID:tis3IruDO
まだなんとも言えないところだけど、芳川好きとしてこれは期待
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/30(水) 07:09:03.67 ID:D2svRf2ao
見てるよ期待してる
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 07:33:34.82 ID:ivITOXNIO
相変わらず上条さんはウザいなぁ
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 08:56:24.76 ID:wcMem+pDO
期待、ただバットエンドはあまり好きじゃないからハッピーエンドがいいかな。芳川×一方ってあまり見た記憶ないし…
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) [sage]:2011/11/30(水) 11:21:26.90 ID:xsb7nqjN0
いきなりこの四人が出会うのもいいな。
期待
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/30(水) 11:53:29.49 ID:+VTFUnSAO

 や
  く
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 16:29:35.51 ID:aLd209y60
乙ー
大量に書いたぜと思って投下したら予想より短いとかありすぎて困る。


面白いけど、小説形式で会話文を改行するとガタガタになって凄く読みにくい。
他にもせっかく丁寧に書いてるのに、無闇に空行をいれちゃうとすっかすかに見えちゃう。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 16:31:56.01 ID:+yC/1bY/o
乙、期待してる
29 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:34:28.81 ID:facbNr1eo
皆様見てくださってありがとうございます
一方通行の理不尽はこれからも続くと思う
上条さんは準・主役の時はうざいくらいがちょうどいいと思わなイカ?

少しだけ時間ができたので投下します

30 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:36:08.07 ID:facbNr1eo
>>27
アドバイスありがとうございます

最初会話は改行しないほうがいいかと思ったんだが長くなって見にくいかと思って

今回は改行なしでやってみるんでまたアドバイスよろしくお願いしまー!

31 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 16:38:47.68 ID:facbNr1eo
〜〜〜

研究員たちに謝罪を済ました二人は御坂、上条と共にファミレスへと来ていた。
店にはいると、最初はきまずそうにしていた二人だが、垣根の「俺も断ったよ」という関係者にしか分からないであろう一言で一応の和解は済んだ。
残る壁は十年前、別れの時の事だけである。

「なぁ、**……じゃねぇや、一方通行、お前にとって俺は足でまといの邪魔者だったのか?」

上条が御坂を連れ、ドリンクバーへ立った時を見計らい垣根が切り出した。

余談だが、周囲の女の子の好意に気づかず周りの男共を苛立たせる上条であるが、彼は『恋愛事』だけに鈍感なのであり、本来は人の気持ちをいち早く汲み取り、気を利かせる男である。
何故恋愛事に鈍感なのかというと、それは幼少の頃の暗い記憶。
不幸体質から疫病神と呼ばれ、それならばと自分を襲う《不幸》から人を救う強さを身につけたが、その努力も『自演』『マッチポンプ』と非難され刺されたこともあった。
そのトラウマが原因なのである。
その心的外傷は『自分なんかが人に愛されるわけがない』という強い感情を幼い上条の心に刻み込むには十分すぎる威力を持っていた。
そしてそれは《自己》というものを形成途中の心の一番大きな要因になってしまう。

上条当麻という人間を形成する大きな根っこに『自分が愛されるわけがない』と染み付いているのだ。

「御坂、のんびりいこう、時間をゆっくりかけてもどろう」

「ん?なんでよ?」

「いいんだよ、俺らは今必要ないんだから」

「わ、わかったわよ……いきなり笑わないでよ、ドキッとしちゃうでしょう」

最後のほうはボソボソと上条には聞こえにくいものだった。

「ん?なんか言ったか?」

「なんでもなぁああい!」

上条はどうしてこんなにも優しく微笑む事が出来るのだろう。
そして、その笑顔の裏にはどんな苦しみを抱えているのだろうか。

その苦しみを取り除いてくれる者はいるのだろうか……。
32 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:40:38.68 ID:facbNr1eo
〜〜〜

「俺はお前に、親友だと思ってた奴に切り捨てられたのが悔しくて……憎くて、お前を[ピーーー]ためだけに能力を磨いていった。だけど無理だ、こうやって会っちまうとお前を[ピーーー]なんて無理だ……さっきも[ピーーー]といいながら俺はどこか手を抜いていた。じゃなきゃ太陽光戦でさっさとお前を殺していたはずだ……なぁ?俺はお前の横に立つには、親友になるには力がなさすぎるのか?」

目に涙をため、一歩間違えれば愛の告白である。
それほど、垣根は一方通行を大切なものとしていた。
一方通行を[ピーーー]ために人の百倍薬漬けになって、電極を脳にぶっさした。

それは本当は[ピーーー]ためではなく認められるため、そして一方通行が自分を否定する訳がないと何処かで信じていたかったからである。

「まてまてまて、俺の能力が化け物地味てておっかねェから一緒にいたくねェって言ってお前が俺を追い出したンだろ?あそこはもともとお前の開発に力入れてたじゃねェか」

「……は?」

「大体俺がなンでお前を足で纏だと思うンだよ?あの時俺らまだ6歳だぞ?二人でなにしたって遊ンでただけじゃねェか、遊びに足で纏いもクソもあるかよ」

「じゃ、じゃあ……」

「そういうこったな……」

二人は全てを理解する。

つまりはこれも研究のひとつなのである。
本音としては牽制、最悪の事態への対処という面があったかもしれない。
学園都市第一位候補と第二位候補、その二人が余りにも近くになりすぎたため、どちらかが反抗した時に抑止力となるものが必要であった。しかし科学者には反逆した超能力者を止めるなんて事は不可能。だったら垣根には一方通行を、一方通行には垣根を止めてもらおうという具合である。
しかし今のままの垣根では一方通行には到底かなわない、だから一方通行を憎ませて彼を[ピーーー]事だけを考えさせた。

そして研究のひとつという建前としては《大切なものを失った喪失感によるストレスへの耐性》となっている。

研究員達の唯一の誤算は二人が家族を超えた堅い絆で結ばれていた事と、二人に携帯電話を買い与えた一人の甘すぎるアルバイトの存在である。
33 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 16:41:35.76 ID:facbNr1eo
〜〜〜

「そう、二人は無事仲直り出来たのね……十年間か……長かったわね」

部下からの嬉しい報告を聞くと、芳川桔梗は大きく息を吐き、冷めたコーヒーを一気に飲み干した。

「当時まだ高校生だった私がもう三十路手前のおばさんなんだもんね……本当長いわね」

芳川桔梗は知人のツテを使い、当時まだ高校生ながら一方通行達のいた研究所へ「助手」として出入りしていた。
そしてコーヒーを淹れさせたり、研究所では教えてくれない一般常識というものを教えたり、など二人にとっては姉的存在であった。

二人もよく懐き、「よしかわーよしかわー」と後をついて歩いていた。

そんなある日、芳川は二人を仲違いさせ、大きな力をひとつの勢力にしないようにしようと計画している事を偶然聞いてしまう。
34 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:44:57.15 ID:facbNr1eo
“二人を助けたい”

これは決して優しさなんてものではない、いうなれば甘さだ。
研究員になりたいわけではないが、今はその研究チームの一員だ。
それならば方針には従わなくてはならない。
だが芳川には二人を引き離し、一人ぼっちにさせるなんて事はしたくはなかった。
所長に掛け合ってみたりもしたが

「高校生のバイト風情が意見するな」

と切り捨てられてしまった。

ただのエゴ、研究成果より自分の感情を優先させた研究者としては失格な行為。


何かいい案はないかと思った時、ここの研究所は「バイト風情」に莫大なバイト料をくれている事を思い出す。

すぐさま、貯金を確認すると自分でも驚くほど、到底高校生がもっている額でない金額がそこには表示されていた。

“こんだけのお金があれば……”

すぐさま携帯電話を三台契約し、青紫色のものは自分が持ち、白いのは垣根へ、黒いのは一方通行へと渡した。

「いい?携帯買ってあげたことは誰にも内緒よ?三人だけの秘密。壊さない限りなんとか私が携帯代払ってあげるからあまり無駄遣いしないでね?あなた達二人の番号と私の番号は登録してあるから……これからきっと、とても辛い事が起きるわ、だけど何を信じるかは自分で決めなさい。明けない夜はないのと同じで終わりのないトンネルなんてものもないのよ、決して諦めず自分の正義と気持ちに正直に生きなさい」

二人はちゃんとに理解できていたかは怪しい。
だが、真剣な芳川の目を見て、力強く「うん」と頷いた。

それだけで芳川は大丈夫だと確信する。

言葉の意味などあとから理解すればいいのだ。
35 :区切るとこ間違えちゃった ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:46:34.34 ID:facbNr1eo
数週間後、芳川は高校退学処分、学園都市からも追い出されそうになるが、優秀さを買われ遺伝子研究を専門にしている研究所に拾われた。

次の年には大検を取り、大学へも進学している。

そして、今は−−。

「さて、この子達どうしましょう?」
36 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:48:30.26 ID:facbNr1eo

〜〜〜

「さぁって、そろそろ解散しますか?御坂は門限そろそろだろ?」

「……アンタ、ナッイスー!完っ全に忘れてたわ、今ならまだ余裕ある……」

良かったぁ、と安堵のため息をつくと伝票をみながら自身の分のお金を出そうとする。

「ここは俺が奢る。迷惑かけちまったしな」

すぐさま垣根が伝票を奪い取り、上条にも同様に財布をしまうように言った。
二人は素直にお礼をいう事にする。

「一方通行さんと垣根さんは私に言えない話があるんでしょ?」

ファミレスを出ると不意に御坂が言った。

「あ、別に聞き出そうとかそういうつもりはないわよ?どちらかというと心配してくれてるみたいだしアンタ達の事もまぁ、信用してあげる……だけど整理がついたら話してね?」

にっこりと微笑むと、四人をバスが追い越し、それに気づくと御坂はバス停まで全力で走り出した。
37 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:49:51.34 ID:facbNr1eo
〜〜〜

「俺は力になれないか?」

御坂を見送った−−置いていかれたという方が正しい−−三人はトボトボと歩いている。
そんな中、唐突に上条が二人に切り出した。

「は?」

「なンの事だ?」

二人は上条を巻き込むまい、俺たちと親密な関係にさせるまいととぼける。

「いいよ、隠さなくたってなんかやばい事に巻き込まれてんだろ?押し売るつもりはねぇけどなんか手伝える事あれば言ってくれよ?俺たちもう友達なんだし」

それだけいうとスッキリしたのか足取り軽く驚く二人を置いてサッサと歩いていってしまう。

「……なんなんだ?あいつは?」

「……知るか、とてつもねェバカなンだろ」

二人は今の上条の言葉を素直には喜べない。

なぜならば、

『どうせこいつもすぐ裏切る』

どうしてもそういう風に考えが傾いてしまうからだ。
38 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:51:35.36 ID:facbNr1eo

〜〜〜

「なぁ、芳川に連絡とってみねぇか?」

再会から三日後、二人は先日来たファミレスで『実験を中止させる』話し合いをしていた。
いい案が浮かばない中、垣根が突然そういいだした。
一方通行は『大人』というものに例外なく不信感を持っているのですぐに賛成という事が出来なかった。

「却下だ。芳川もどうせ腐った大人になっちまってる。大好きな姉貴分だからこそ腐った姿をみたくねェ」

「姉貴分……ねぇ……?」

「あ?ンだよ?」

間違いなくお前は芳川に恋してたよ。お前の初恋は変人科学者もどき(当時)だよ。とは思っても口にはださない。

「イヤイヤなんでもないぜ?だが俺は芳川がそんな腐った奴になってるとは思わねぇ、十年間この携帯は一度も不通になる事はなかった……まぁ使ってないから不通っちゃ不通なんだがな」

「ハッ、愉快すぎンぜ。十年間約束を守ってくれたから信じられるってか?俺は無理だ。大人は敵だ」

「じゃあ俺が大人と呼べる年齢になったら俺はお前の敵になんのか?お前自身もお前の敵になる?」
39 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 16:54:24.57 ID:facbNr1eo
「俺は道を誤らねェよ、それはお前も同じだ」

「俺たちは大丈夫だけど他の奴はダメなのか?」

「俺は本当に地獄を経験したンだ。同じような境遇のガキを見捨てたり作ったりはしねェよ」

「それは芳川も同じなんじゃないか?彼女は俺たちを大切にしてくれた。すでに強大な力が発現していた俺らをただの子供として扱ってくれた唯一の人だ。そんな彼女が俺らの十年をまったくしらねぇとは思えねぇ、そんで絶対悲しんでいてくれる」

「そんな確証がどこにあンだよ?あ?」

「俺らが道を誤らない確証もないだろう?それに俺らは十年間地獄のような真っ暗闇にいた。俺ですら『そこにいる能力者と闘って殺せ』なんてクソッタレな実験を何度もやらされそうになった。でも全部拒否って凍結させて、俺もお前も人殺しにはならなかっただろ?それは芳川が最後に言った『諦めずに自分の正義と気持ちに正直に生きろ』って言葉の結果だろ?少なくとも俺はそうだ」

垣根も一方通行も人を殺す事に一番嫌悪感を抱いている。
実験途中に死んで行った奴らを何回もみて来た。そいつらを舌打ちしながら「片付けろ」という科学者の表情も何度もみた。
自分はああはなりたくない、それが自分の正義であり心からの本音だ。
親友を失ってドン底にいる時にその正義を守れたのは芳川の言葉があったからだ。

お互いがお互いに絶望しながらもどこかで信じていたい、と思えていたのも芳川のおかげだ。
二人は芳川の言葉を自身の成長と共に育て、正しく理解していた。

芳川桔梗。

彼女がいなければこの二人はさらに辛く冷たい暗闇の中に落ちていただろう。

「……チッ、勝手にしやがれ」

垣根は言われたとおり、勝手にする事にした。

垣根が操作するのは何世代も前の型の真っ白い携帯電話だ。
40 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:55:37.40 ID:facbNr1eo
〜〜〜

「あ、もしもし?芳川?久しぶり!俺だよ、俺」

『……オレオレ詐欺は間に合っているのごめんなさいね』

切られた。

「……バカじゃねーの?」

ニヤニヤしながら一方通行は自身の真っ黒の携帯電話を取り出し芳川に電話をかける。

あんな嫌がってたのにノリノリじゃねーか。と垣根は心の中で悪態をつく。

「お、芳川か?俺だ、一方通行だ。久しぶりだな」

『……私には能力名を一方通行っていう弟分はいるけど名前が一方通行なんて知り合いはいないわ』

切られた。

「バーーーッカ!バーッカ!」

大笑いしながら机を叩く。

「今似合わねぇほど爽やかな声だしてたな、マジウケるわ」

「……くかきけこかか−−−そォンなに死にてェか?てーいとくゥン?」

一方通行が骨ばった手で垣根の頭をつかもうとした瞬間、垣根の携帯電話が着信を告げた。

「ナイスタイミング!」

垣根が魔の手から逃れるように大急ぎで電話をとると一方通行はふてくされたようにそっぽを向きコーヒーをちびちび飲み始める。

「いやぁ、ナイスタイミングだぜ、芳川。改めて久しぶりだな」

『ふふっ、久しぶりね、帝督』
41 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 17:05:22.19 ID:facbNr1eo
本日分終わり

書き溜が少なくなってきたwwww

夜にもう一回2〜3レスだけど投下するかも

あとセリフどう?
こっちの方が見やすい?
セリフ長くなりがちだから長いセリフの上手な見せ方とかアドバイスください

あと毎日2〜3レスでも投下したほうがいいか、2〜3日に一度10レスほどの投下がいいかも教えてください
どっちでもよければその時々で変えて行きます

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 18:16:51.74 ID:aLd209y60
おつつ、かなり見やすくなって素敵。

細かいけど、漢数字の一と混ざるって理由で線引きで使う横棒は――(ダッシュ)*2ね。
ただSSは横書きだから一の前につけると――一方通行(ノバシマシータ)になっちゃうけど。

長い台詞は>>33みたいに会話を区切って背景とか人物の仕草を描写する手法が素敵だと思う。

毎日投下は予想より早く貯金が減るから、減って焦る性格なら定期的に適量の方が気は楽だよ。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/30(水) 18:30:05.87 ID:D2svRf2ao
乙!
俺はもうちょい改行してほしい専ブラでIDふむと
えらいことになるし
44 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 18:46:11.35 ID:facbNr1eo
「それは芳川も同じなんじゃないか?
彼女は俺たちを大切にしてくれた。すでに強大な力が発現していた俺らをただの子供として扱ってくれた唯一の人だ。
そんな彼女が俺らの十年をまったくしらねぇとは思えねぇ、そんで絶対悲しんでいてくれる」

例えばこんな感じでどうかな?
ガタガタになっちゃってる?

あとダッシュって―― でできてる?
iPhoneでダッシュっぽいやつ−−になっちゃうからさっき教えてもらったのコピペしたんだけど大丈夫かな?
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/30(水) 21:24:17.34 ID:expZ4NbMo
>>1

俺は>>44の方が見やすいな
でも気になるほどではないし>>1のやりやすい方でいいよ
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 22:30:34.43 ID:aLd209y60
小説形式だと他の文章と混ざったり誰が喋っているのか分からないこともあるんだ。
だからと言って改行多くするとスカスカになるジレンマ。
地の文でテンポとかキャラ付けが綺麗に表現できてるから、改行がなくても十分に見やすいと思う。
でもルールはないから最終的に決めるのは作者自身。

―はそれで大丈夫だよ。
47 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 00:04:41.42 ID:/QGrE+6vo
あまりにも長すぎるのは少しだけ改行しようかな
あと皆さんアドバイスありがとう

少しだけど投下しまーす!
48 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:05:48.92 ID:/QGrE+6vo
〜〜〜

「明日お前ヒマだろ?」

電話を終えた垣根は楽しそうにウキウキとしていた。
一方通行はそれが何故か、面白くない。
理由は分からない。

「……ん?どした?なんか予定あんのか?」

相変わらず不貞腐れてたようにそっぽを向く。

「……悪かったよ」

垣根は本人よりも速く不機嫌の理由を理解した。

「……なンの事だ?」

「なんかわけもわからず俺に腹立ってんだろ?俺もわかんねーけどとにかく機嫌直せよ」

嘘だ。垣根は全てをわかっている。
少なくとも『そうであろう』という予測は立っている。
だが、それは一方通行本人が気づかなくてはいけないことなのだ。

「……なンかダメだ……お前と芳川が話してるの見たらめちゃくちゃ腹立った……悪りィ……」

この男は知らないのだろう。
人を愛するという事を。

「余りにも俺がかっこよすぎて嫉妬でもしたか?」

垣根はそれが愛だと教えてやるつもりはなかった。
第一人に言われて納得できる感情ではないのだ。
自分で気づかない限りそれを理解する事はできない。

「ホスト崩れが何言ってやがンだ」

垣根の冗談にやっと一方通行は余裕を取り戻し、少しだけ笑った。
49 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:07:35.78 ID:/QGrE+6vo
〜〜〜

翌日、午前七時半。

「あら、二人ともずいぶんいい男になったじゃない」

三人は芳川の個人的な研究所で再会を果たした。
この時間帯は芳川が指定してきた。

十年ぶりに見た芳川はやつれ、疲れきった笑顔で二人をむかえた。

「そっちはずいぶんお疲れのようだな……昔のが魅力的だったぜ?」

「……今はなンの研究してンだ?」

その姿を一人は驚き、もう一人は怪しんだ。

「ふふ、さては帝督の初恋は私ね?それと***、安心して、私は闇の実験に手を貸しちゃいないわ……成果を利用された事はあるけれどね」

「バーカ、俺はお前に異性を感じた事なんか一度もねぇよ。あんたはいい姉貴分だった、それだけさ」

「俺はなンの研究をしてンだ?と聞いたンだが……」

それだけで人を殺せそうな目付きで睨みつける。
少なくとも十年ぶりに再会する『恩人の姉貴分』に向ける目ではない。
50 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 00:10:14.93 ID:/QGrE+6vo
「……オイやめろよ、折角再会したんだぜ?」

「黙れ。利用されただァ?素直にハイソウデスカと信じられる訳ねェだろ。
答えろ、表に出せねェような実験の8割は俺ンとこに来るからなァ。どれかひとつにでも関係してたらすぐ思い当たる……ひとつでも関わりを見つけたら……ぶち殺してやンよォ」

「ぶち[ピーーー]」その言葉を口にした時の睨みつけるその目には殺意より多くの戸惑い。

大人は信じられない。
大人は敵。
大人は―― 自分の事をわかってくれない。

他人は自身を傷つけるだけの生き物。

一方通行の中に、彼の中で絶対的に真実である言葉が渦巻く。

「そうね、私は今遺伝子の研究を第七学区の研究所でしているわ。というかそれを知って会おうとしてくれたんじゃないの?」

「遺伝子……だとォ?」

51 :やり直し、saga必要な時に限って忘れてしまう…… ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:11:11.91 ID:/QGrE+6vo
「……オイやめろよ、折角再会したんだぜ?」

「黙れ。利用されただァ?素直にハイソウデスカと信じられる訳ねェだろ。答えろ、表に出せねェような実験の8割は俺ンとこに来るからなァ。どれかひとつにでも関係してたらすぐ思い当たる……ひとつでも関わりを見つけたら……ぶち殺してやンよォ」

「ぶち殺す」その言葉を口にした時の睨みつけるその目には殺意より多くの戸惑い。

大人は信じられない。
大人は敵。
大人は―― 自分の事をわかってくれない。

他人は自身を傷つけるだけの生き物。

一方通行の中に、彼の中で絶対的に真実である言葉が渦巻く。

「そうね、私は今遺伝子の研究を第七学区の研究所でしているわ。というかそれを知って会おうとしてくれたんじゃないの?」

「遺伝子……だとォ?」
52 :やり直し、saga必要な時に限って忘れてしまう…… ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 00:12:55.84 ID:/QGrE+6vo
クローンに直結する遺伝子という分野は一番聞きたくない答えであった。
学園都市で遺伝子研究をしている研究所は四つ。

他にもあるにはあるがAIM拡散力場の研究や各能力ごとの研究をメインにしており遺伝子研究はおまけみたいなものだ。
おおよその研究テーマ、理論を構築し、実験や証明、さらにそこからの発展はメインにやっている四つの研究所全てが揃う第七学区に持ち込まれ、そこの研究員の力を借り続ける。
全てを第七学区の研究所に投げてしまうこともあるレベルのごく小さな施設しか揃えられてはいないところもある。

今回のクローン技術は第七学区の遺伝子研究所が四つに分裂した最大の理由だ。

まだ一方通行と垣根が同じ研究所にいた頃は遺伝子研究をメインにやっている研究所はひとつであった。

そしてそこには人間のクローン技術の考えに大きく四つの派閥が存在していた。

ひとつはクローン技術なんて神への冒涜だ。
と考える学園都市にあまりにもふさわしくない宗教派。

ひとつは世に出せぬ物はやる意味がない、それをやる時間を遺伝子から全ての病を検出、治療する方法を探すべきだ。
と考える医療派。

ひとつは成功したとしても世には出せないから無意味、そんなことをする前にクローンを認めさせる世の中を作るべきだ。
と考える行政派。

そして、ひとつはそういう可能性があるならば研究するのが科学者だ。
と考える純粋派。

この四つの派閥で一番先にクローン人間を生み出したのは宗教派であった。
そして人間のクローニングを禁止する国際法律をつくり、開発陣自らその技術を禁止することにより、他の三派がその技術を使うこと、研究する意欲を衰退させてしまった。
53 :やり直し、saga必要な時に限って忘れてしまう…… ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:15:43.94 ID:/QGrE+6vo
「そうね、私はクローンについてはそんなに興味がなかったわ。どの派閥にもいなかった。そして、自分でいうのもあれだけど私は優秀だった、それがまずかったのよね」

「どォいうことだ?」

「私は四つ全ての派閥の研究成果を閲覧することが出来たのよ、普通各派閥ごとここまでしか他の研究所の人には見せてはいけないって決まってるよの。それを私は優秀さを評価され大抵の閲覧許可がおりちゃったのよ」

芳川は冗談っぽく笑う。
クローニングが禁止されたとはいえ、それぞれの研究所はそれぞれの目的の為にクローン研究を辞めることはなかったのだ。

「……単刀直入に言え、お前は今回の実験に関わってンのか?」

まっすぐ芳川の目を見つめた。
芳川は一度目を閉じ、ゆっくり開くと大きく息を吐いた。

「そうね、答えはイエスよ」

言い終わると同時に一方通行の右手が芳川の首に伸びた。
ギリギリと締め上げ怒りのこもった真っ赤な目で掴み上げたものを睨みつける。

「ほらなァ、ていとくーン?やっぱこいつもクズになっちまったンだよォ」

じわじわと力を込めていく。
その顔は悲痛に歪み泣きそうなとても醜く痛々しいものだった。
54 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 00:16:37.27 ID:/QGrE+6vo
「ぐっ……」

芳川も顔を歪め、目には涙をためていた。

「おい、まて落ち着けよ、人の話は最後まで聞くもんだとつい最近思い知ったばかりだろう?」

「……チッ」

垣根の言葉に一方通行は素直に手を離した。
ゴホゴホと咳き込む芳川は垣根に微笑み、話を続けた。

「結論を言ってしまうと、私は新しいクローニングの方法を発見してしまったのよ、実験は怖かったからしなかったけど理論は完璧だった。それを……取られたのよ」

「取られただァ?誰に?」

「学園都市統括理事会理事長アレイスター・クロウリーによ」

「あ?……つまり、この実験は理事長自ら認めたもンだとでもいうのか?」

「この街で行われるすべての実験をアレイスターは知っているわ、そしてそれらが自身の実験の邪魔にならないようなら容認している。この街は***がいうように、腐っているのよ」
55 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:18:40.83 ID:/QGrE+6vo
「じゃあ、俺たちが断り続けても……」

「おそらく本当にアレイスターにとって必要な実験なら無理矢理実験は開始されるでしょうね」

「実験の大前提は?」

じっと黙り二人のやり取りを聞いていた垣根が口を開いた。

「知らないわよ、そんなこと、私はクローンを作るとこまでしか詳しくは教えられてないもの、実験自体の事は知らないわ」

「一方通行は?」

「俺がこの街で桁外れの力を持っている事だと聞いた」

「つまり……誰にも負けないって事かしら?」

「だったら前提を崩そうぜ」

「どうやって?悪りィが俺は誰にも負ける気がしねェぞ」

垣根は何かいたずらを思いついたように笑った。
そして、そのいたずらを口にする寸前、

「あー、その前にひとついいかしら?」

垣根を遮るように芳川が言う。

「私、いま妹達を保護してるんだけどこの子達の世話というか保護というかしてもらえないかしら?」

「……ごめん、芳川、俺耳悪くなったみたいだ。もう一度いってくんね?」

「研究ノート取られたときにこの理論を使ってクローンを作るなら管理は私にやらせてくれるように交渉しておいたのよ、そしてわざと失敗を続けてたのよ。
でもいつの間にか私の知らない所で成功個体が二体作られてた。それを奪って逃走中なのよ、私」
56 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:22:53.19 ID:/QGrE+6vo
「っはァああああ?なンで?」

驚く二人とは対照的に芳川はけろりとしている。
そして、少しだけ照れたような顔をしながら言った。

「実験の被験者は*****だと聞いたからよ……私は貴方に人なんか殺して欲しくなかった」

「俺が実験を……受けると思ったのか?」

「違うわ、私は貴方も帝督も人を殺すような実験は絶対に受けないと信じてた」

伏せてた顔をあげ、まっすぐ二人を見つめる。

「でもこの実験は『無理矢理でも開始されてしまう』そうしたら優しい貴方達は自分が傷つく道を選んで心を閉ざしてしまう!……この実験は開始準備が整ったらそこで負けなのよ」

悔しそうな顔で吐き捨てるように言った。

芳川はこの十年の間誰よりも二人の事を考えていた。
実験の邪魔をするなど科学者としての死を意味する行為をしてまで、二人になるべく辛い思いをさせまいとしていた。

「なンで……?なンで俺達なンかの為に……?」

「そんなの、あなた達が好きだからに決まってるじゃない」

優しく微笑む。
先ほど自分を殺そうとした一方通行を一切の恐怖も怯えも感じずに、隣で照れ臭そうに笑う垣根と共に優しく包み込むように抱きしめた。
57 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:29:06.23 ID:/QGrE+6vo
「ごめんね、二人とも……十年間ながったよね……辛かったよね……助けられなくてごめんね」

十年ぶりに再会した一方通行にどんな冷たい目を向けられても、殺されそうになっても、決してこぼすことのなかった物を、芳川はこぼした。

「ははっ、泣いてんのか?芳川……」

「……そォいうテメェこそ、目鼻からなンか垂れてンぞ」

三人なのだ。

一方通行と垣根は数日前、再会し、その喜びを分かち合った。
だが、何かが足りなかった。

嬉しさの中に、空っ風が吹き込み、どこかまだ寒かった。

それぞれの心には親友と大好きな姉の部屋が存在していたのだから。

親友の部屋に十年ぶりに明かりが灯っても姉の部屋は暗いままでは、心の底から、涙が出るほど嬉しいと感じることはできないのだ。

ただし、神様はこの二人に長い幸福は与えてはくれない。

幻想ではない絶望に打ち勝つ事は果たして二人に出来るのだろうか………。
58 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 00:36:08.64 ID:/QGrE+6vo
今日はここで打ち止めです。

矛盾とかおかしいとことかあるかもしれないけれど、それは俺のミスですので見逃してくれたら嬉しいです
でも指摘はしてください
これ終わって次なんか書く時に指摘されたこと思い出して書くのでwwww

あと1レスの文量ってのはどの位が普通なんでしょうね?
今回は少し自分で少ない気がしたけれど問題ないですかね?
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/01(木) 00:45:30.48 ID:bh1GoMqDO
乙乙
是非ともハッピーエンドでお願いします

文量は携帯だからよくわからんが少なくはないんじゃないかな
60 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 00:50:21.71 ID:/QGrE+6vo
おいiPhoneバグったwwww
メモ帳消えるとかなんで?
復元→復活→続き書いてる途中になんか強制終了→あれれー?

今まで投下した1/3は書いた書き溜めがぁああああああああっしゃぉああああああ

あ、また読んでください
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/01(木) 01:18:03.09 ID:hiNDjNXIO
楽しみに待ってる
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/01(木) 01:45:26.53 ID:FuYk3tcwo
1レスの量は問題ないんじゃないかな

iPhone詳しくないけどiPhone用専ブラとかないのかね?
あったら入れとくとsaga忘れを避けられると思う

さておき乙。
成功した個体とやらはやっぱり打ち止めと御坂妹なのかな?
どういう関係になることやら……
63 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 05:52:38.60 ID:/QGrE+6vo
おはようございます
64 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 05:54:12.95 ID:/QGrE+6vo
〜〜〜

満天の星空を眺めながら垣根は黄昏ていた。
断崖絶壁―― その辺で一番高いビルの屋上―― に立つように、夜空を見上げる。

そして、吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な澄んだ空に声にならない叫びをぶつける。

―― 俺は何故生まれてきた!

―― 俺には何故でかすぎる能力が備わっている?

―― 俺は愛される資格があるのか?!

手が届きそうな月に手を延ばしてみる。
当然つかめない。

さみしさを象徴するかのような夜風が垣根の身体を冷やす。

死んでしまおう。

ふいにそう思い、虚空へと倒れこむ。

そして気づくと自身の真っ白な翼に包まれ地面に横たわっていた。

ため息をつくと再度屋上に飛び立つ。

立ち並ぶ数々の超高層ビル。
その中に存在するちっぽけな自分。

大小様々な虚像がのしかかってくる街の中で垣根は一人心を何かに奪われるような錯覚に陥っていた。

日々をまるで野良犬のように愛を求め、心の水分を奪われ、カラカラになりながらふらつき回っている生活に嫌気が差していた。

真っ白な携帯電話を懐から取り出す。

その色は頭の先からつま先まで真っ白な[ピーーー]べき相手を思い出させた。

本当に心から思っているならば、それをみた瞬間、垣根の心はドス黒い感情に支配されるはずだ。

だが、垣根帝督の心はその携帯電話を眺めている時だけ、暖かな潤いと優しさで満たされる。

―― なぁ、*****。

俺はどうしたいんだと思う?――

憎むべき相手に問いかけて見る。

そいつを[ピーーー]ためだけに能力を研究し尽くし、磨いていった。

これは垣根の防衛本能だ。

心の根っこでは『信じたい』と思っているし、信じてもいる。
しかし、もし、万が一、再会した時『お前なンかいらない』と言われたら、そこで垣根の心は粉々に壊れてしまう。

そうならないために、垣根は思い込む。

こいつは殺さなきゃ行けない相手なんだ。
こいつに嫌われたって痛くも痒くもないんだ。

と。
65 :またまたsaga忘れ ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 05:56:32.43 ID:/QGrE+6vo
〜〜〜

満天の星空を眺めながら垣根は黄昏ていた。
断崖絶壁―― その辺で一番高いビルの屋上―― に立つように、夜空を見上げる。

そして、吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な澄んだ空に声にならない叫びをぶつける。

―― 俺は何故生まれてきた!

―― 俺には何故でかすぎる能力が備わっている?

―― 俺は愛される資格があるのか?!

手が届きそうな月に手を延ばしてみる。
当然つかめない。

さみしさを象徴するかのような夜風が垣根の身体を冷やす。

死んでしまおう。

ふいにそう思い、虚空へと倒れこむ。

そして気づくと自身の真っ白な翼に包まれ地面に横たわっていた。

ため息をつくと再度屋上に飛び立つ。

立ち並ぶ数々の超高層ビル。
その中に存在するちっぽけな自分。

大小様々な虚像がのしかかってくる街の中で垣根は一人心を何かに奪われるような錯覚に陥っていた。

日々をまるで野良犬のように愛を求め、心の水分を奪われ、カラカラになりながらふらつき回っている生活に嫌気が差していた。

真っ白な携帯電話を懐から取り出す。

その色は頭の先からつま先まで真っ白な殺すべき相手を思い出させた。

本当に心から思っているならば、それをみた瞬間、垣根の心はドス黒い感情に支配されるはずだ。

だが、垣根帝督の心はその携帯電話を眺めている時だけ、暖かな潤いと優しさで満たされる。

―― なぁ、*****。

俺はどうしたいんだと思う?――

憎むべき相手に問いかけて見る。

そいつを殺すためだけに能力を研究し尽くし、磨いていった。

これは垣根の防衛本能だ。

心の根っこでは『信じたい』と思っているし、信じてもいる。
しかし、もし、万が一、再会した時『お前なンかいらない』と言われたら、そこで垣根の心は粉々に壊れてしまう。

そうならないために、垣根は思い込む。

こいつは殺さなきゃ行けない相手なんだ。
こいつに嫌われたって痛くも痒くもないんだ。

と。
66 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 05:59:33.50 ID:/QGrE+6vo

〜〜〜

風に吹かれていた。

街角には人影もなく、なくした『何か』を探し求め、他の何かを失った。

そんな一方通行に温もりなんて物はなく、心は冷め切ってしまっていた。

―― 死にてェ。

毎日毎日そんな事ばかり考え、風以外にはなにもない街をふらつく。

心を閉ざし、その風に包まれる。

そして、何処かに向かって叫ぶ。

―― 俺はここにいるンだ。と。

見えない涙は何処に零していいのかわからない。

あれからどうしているのだろう。

真っ黒な携帯電話をポケットから取り出す。

その色は黒い服を好んで着ていた自身を化け物と恐怖した親友を思い出させる。

―― あいつは今何をしてンだろうか。
今電話をかけたら、あいつを怖がらせるだけだろうか?――

一方通行には何もわからない。

―― あの女は元気だろうか?
あいつは俺の元から親友と共に消えた。
そういえば、あいつはこれをくれてからぱったりと研究所にこなくなったな……そンでその数週間後垣根も俺の元から消えた――

何かが不自然だ。
子供ながら一方通行はそう思っていた。

芳川はこの状況を見据えたようなことを言っていたし、仕組まれたものにしか見えない。

垣根が自分を怖がるなんて事もあり得ないと思った。

だが、もし今ある現実が真実ならば自分は心を保てないとわかっている。

だから確認できなかった。

今のままならまだ垣根も芳川も心の中にカケラが残っている。

そのカケラは太陽の破片のようにキラキラとしている。

それを失ってはいけない。

それを失ったら本当に心は凍りつき、本物のバケモノになってしまう。

だから、考える。

虚像の二人を決して失わない方法を。

―― 最悪の結末だけを考えよう。
期待するのはやめよう。
初めから期待なンてしなけりゃ傷つくこともねェンだから。
そして、名前を捨てよう。
学園都市は俺を人間だと思っちゃいねェ『能力』だけを見ている。
だったら名前なンていらねェ、名前を呼んでくれる人はもういねェンだから――

能力名の申請をした。
個人情報から出来るだけ本名を消した。

―― 俺はたった今から、学園都市最強の能力者『一方通行』だ――

67 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:00:43.27 ID:/QGrE+6vo

〜〜〜

二人の所在がわからない。

電話はかけるのが怖かった。

二人を引き裂く何かを私は止めれなかったから。

恨まれていると思った。

だから、二人の噂だけを集めた。

むごい実験の話を聞くと心配になった。

二人が受けるとは思えないがそれでも傷つくだろう。

と。

−−いつか必ず私が二人に温かな心を蘇らせる。
それが私が二人に教えてられる最後のこと−−

二人の淹れてくれたものより数倍不味いコーヒーを飲みながら論文を読み漁る。
68 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:02:16.67 ID:/QGrE+6vo

〜〜〜

「んんん、よし!もう大丈夫だ。ひっさしぶりに泣いちまったよ」

両手で顔を隠しながら垣根は照れたように言った。
今の垣根は年相応、いや少しだけ幼くみえる。

「私も、十年ぶりね……あなたたちの方が辛い思いをしてると考えたら泣いてなんていられなかったわ」

こちらも照れたように笑う。

「俺は……一人になっちまった時は泣いてばっかだった……でもそんなンじゃ芳川と垣根に笑われると思って強くなろうとした」

ふてくされたように一方通行は言う。
感情というもののだし方が分からないのだ。

だが、信頼できる人の前では泣くなどという安心感は正しく得られた。
今はそれだけでもいいのだ。

「よし、早速だが妹達のところへ行こうぜ!」

なんとなくしんみりしてしまった空気を垣根が打破する。

「そうね、地下に降るわよ」

楽しそうに垣根の笑顔を見つめる。

「……」

どこか面白くない一方通行。
ブスッとしたままそっぽを向いている。

そんな一方通行ををみると芳川はくすぐったい気分になった。
―― 可愛い。
本当に弟ができたみたいだと嬉しく思った。

「ふふっ、ほら*****もいくわよ?」

芳川は未だに一方通行を*****と呼ぶ。
一方通行はそう呼ばれるたびに心に何かを背負わされているように感じていた。

「よ、芳川ァ……その……」

一方通行は子供が何かをねだるような顔をしていた。

芳川はん?と首を傾げ、一方通行の言葉を待つ。

「あの……よォ……その、名前……今は一方通行が名前だから……*****とは呼ばねェでくれねェか?」

怒られる事を怯える幼稚園児のように一方通行は言う。

芳川は少しだけ悲しそうな顔をした後、何かを納得したように頷くとわかったわ、とだけ言った。
69 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:04:35.60 ID:/QGrE+6vo

〜〜〜

「ほう、クローンだけあってそっくりだな」

垣根の妹達をみた感想はそれだけであった。

今、二人の妹達は調整槽呼ばれる装置の中に一糸纏わぬ姿で入っている。
胸と下半身は見えぬように目隠しがされてるとは言え、少し配慮が足りなかったかなと芳川は後悔した。

「こいつらはいつ目を覚ますの?というかいつからいるの?」

「そうね、あと三十分もしたら調整も終わるし、それと同時に目を覚ますはずよ……一昨日からよ」

「なァ、なンで常盤台の制服があるンだ?」

「……御坂美琴さんが常盤台のお嬢さんだから、同じ服きてたら姉妹っぽくて可愛いじゃない?」

「……お前なンかズレてるよなァ」

一方通行は鼻で笑い、垣根は聞こえなかったふりをした。

「つーかよ、御坂美琴とこいつらは姉妹っぽいじゃなくて姉妹だろ……というか御坂美琴にはなンて説明したらいいンだ?」

先日『整理がついたら説明しろ』と言い残した御坂美琴の事を思い出す。

同じレベル5なのに、まっすぐ育った羨ましいやつ。
これが御坂美琴に対する一方通行の第一印象である。

人を愛する事も愛される事も体感できてる羨ましいやつ。
これが御坂美琴に対する垣根帝督の第一印象である。

おそらく彼女は実験過程で子供が血を吐き、もがき、苦しむような姿を見ていないのだろう。
人をゴミのように扱う研究員を見ていないのだろう。
だからあんなにピカピカと輝く事が出来るのだ。

「ん?あぁ、それならほっとけ」

垣根は何か考えがあるのか、能天気にそう言うと、勝手にコーヒーを淹れ出した。

「……懐かしいな、昔芳川にうまいって言われてからそれが嬉しくて、よくコーヒー淹れたよな」

「ン?あァ、ンなこともあったな」

「確かにあなた達が淹れてくれたコーヒーは美味しかったけど、あれぶっちゃけ自分でやるのめんどくさかったからなのよね」

芳川は垣根の淹れたコーヒーを自然に横取りするとしれっとそんなことを言った。
そして一口のみ、でもやっぱ美味しいわ、ととても幸せそうに笑った。

「芳川博士、調整が終わりましたとミサカは報告します」

垣根が自分の分と一方通行の分をちょうど淹れ終えると、調整槽の脇に設置してあるスピーカーから声が響いてきた。

「あら、なんだか速かったわね……っと、そうね二人とも一旦この部屋から出て行ってくれる?」

そのままいつものように調整槽を開けようとパソコンに向かうが、ここには男の子が二人いる事を思い出し、外に出るように指示した。

二人はおとなしく指示に従うと、コーヒーを淹れたマグカップを持ったまま部屋の外へ出た。
70 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:06:51.06 ID:/QGrE+6vo
〜〜〜

「妹達本当にそっくりなんだな」

「そォだな」

「妹達がこっちにいるって事はとりあえず今すぐ実験が始まる事はないのかな?」

「それは正直分からねェな、クローンがどんくらいで今のあいつらと同じ姿になるのか知らねェし」

「そっか……」

「……あァ」

二人は静かにコーヒーを飲みながらこの先の事を思う。

そして、行き着く答えは同じであった。

この先は人を殺す覚悟が必要になるかもしれない。

二人はお互い同じ考えに達した事を相手の目を見る事で確認した。
そして、頷き合う。

どちらかが、外道・畜生の道へ落ちたら、お互いを頃し合おう。

二人の顔には第一位としての責任、第二位としてのプライドが浮かんでいた。
71 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:08:18.12 ID:/QGrE+6vo
〜〜〜

「よし、と。二人ともはいってきていいわよー」

返事をし、ドアを開け中にはいるとそこには先日初対面を果たした御坂美琴が二人いた。

「常盤台の制服きてるとまじでお姉さまそのままだな」

垣根が感心したようにこぼす。

「お姉さま?とミサカは聞き返します」

「ん?あぁ、御坂美琴はお前らのお姉さまみたいなもんだろ?」

当然の事のように言うと、妹達二人は少しだけ顔を赤らめた。

「お姉さま……ですか」

「んで、さっきも話した通り二人の世話をして欲しいのだけれどいいかしら?妹達もこんな地下室にいるだけより少しは外に出たいでしょう?」

「まてまてまて、ばったり御坂美琴と出会っちまったらどォすンだ?外に出ンならまずは御坂美琴に説明のが先だろ?」

「あー、その事なんだが俺が作戦考えてみた。一方通行はだいぶ悪者になっちまうが……いいよな?」

「……お前ら以外からなんと思われ様が知ったこっちゃねェよ」

今はそれでもいい、だけれどいつまでも心に二人しかいないというのは悲しすぎる。
芳川は少しだけ顔をしかめた。

「……まぁ、最後誤解は解いてやるから安心しろ。そんでその作戦なんだが……」

垣根の作戦はあくまで実験を延期させようという完全に頓挫させる事のできるようなものではなかったが、現時点では効果は期待できるものであった。

早速芳川は下準備を始め、残りの四人はお互いの役割を確認しあった。
72 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga sage ]:2011/12/01(木) 06:10:09.79 ID:/QGrE+6vo
〜〜〜

「お姉様、何か機密と書かれた書類が届いてますわよ」

御坂美琴のルームメイト、白井黒子は風紀委員の仕事から帰って来ると、玄関で寮監に渡された封筒を御坂に差し出した。
本日は午後からは非番だ。

「機密ー?最近そんな大層な実験に協力なんてしてないわよ?」

「報告ではなく、要請ではありませんの?」

それもないと切り捨てる。
もしそうなら、直接研究所の職員が訪ねてくるはずである。

「差出人……というかこれ切手すらついてないわよ?誰が持ってきたのか寮監から聞いた?」

「いえ、伺っておりませんわ。……少し気が利きませんでしたね、すみません」

差出人の名前や切手が貼っていない事を全く気に留めなかったのが風紀委員として、なんだか恥ずかしく、萎れる。

「いやいやそんな落ち込まないでよ、別にあんたがわるいわけじゃないんだし……届けてくれてありがと、黒子」

「お、お姉様……」

その後行きすぎたスキンシップに軽くお仕置きをすると、御坂は封筒を開けた。

そして愕然とする。

「ウソでしょ……コイツなんで……?」

クローン。虐殺。そして最近知り合った真っ白な青年、一方通行の名前。

そこには信じられない、とても認められてはいけないような実験の内容と、自身のクローンの写真が載せてあった。
73 :区切る場所間違えた短くなっちった ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:11:15.27 ID:/QGrE+6vo
お仕置きから復活した白井は何やら様子のおかしい御坂に気づき、声をかけた。

「あの……?お姉さま?」

「……なんでも……ないわ」

明らかに嘘だ。
顔は青ざめてるのに目は怒りに満ちている。
非常に奇妙な顔をしている。

「ごめん、黒子少し出かけてくる。
あ、ちゃんと寮監に許可とって来るから大丈夫よ……少し学校も休むかもしれないけど心配しないで、私は必ずここに、パートナーがいるこの部屋に帰って来るから」

学校を休むというセリフに心配で泣きそうになった黒子に笑顔で大丈夫という御坂の目は熱く燃えていた。
74 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:13:25.09 ID:/QGrE+6vo
〜〜〜

「すみません、少しいいですか?」

「……なんだ?」

数分後、早速御坂は寮監室へ《報告》にきていた。

「えっと、しばらく外泊と学校も欠席します……あ、理由は言えません」

「……訳も言わずそんな事が許されると思っているのか?」

「……勘違いしないでください、私は許可を貰いに来たんじゃありません。ただ、報告に来ただけなんです」

ピリッとした空気を纏う。

「ほう……いい度胸だな」

「お願いします、止めないでください」

寮監は御坂の雰囲気にただならぬものを感じ、戸惑うた。

「……反省文200枚、プール掃除、寮の玄関・食堂・倉庫の清掃。帰ってきたら一人で全部やれ」

まさか、寮監がこのようなめちゃくちゃな事を許してくれるとは思っていなかったので、御坂は驚き目を瞬かせる。

「あ、ありがとうございます」

―― よかった。寮監に能力使うような事態にならなくて。

そういい、少量の着替えの入ったバッグを担ぎ寮を出ようと歩き出す。

「御坂……必ず帰って来いよ」

「……えぇ、必ず、仕事がたんまりありますから」

振り返らず、御坂は言った。

御坂美琴の闘いがはじまる。
75 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 06:16:53.69 ID:/QGrE+6vo
朝はここまでー!

また夜とか来ます

BB2Cつかってるんだけどsagaが消えない方法しってたら誰か教えてください

あと妹達は普通に00001号ちゃんと00002号ちゃんですね
文量もこれくらいでいいみたいなんでこの調子でいけるとこまで行きます

あ、あと書き溜め救出できました!

じゃあまたよんでください

76 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 23:19:57.20 ID:/QGrE+6vo
少しだけれど投下します
77 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 23:22:29.38 ID:/QGrE+6vo
〜〜〜

「なぁー、うまくいくと思うか?」

「あー、どォだろうなーまぁ、なンとかなんじゃね?」

二人はマッサージチェアに身体をほぐされながら、緊張感なく作戦の心配をしている。

「あんた達少しは若者らしくしなさいよ」

二人の横では芳川がスポーツドリンクを飲みながら足つぼマッサージを受けている。

昼に常盤台の寮に届け物をしたあと、一方通行行きつけのイタリアンレストランの個室で妹達も連れ食事をした。
その後三人は車で学園都市内をふらふらと回り、最終的に発達した地下都市、第二十二学区の銭湯に来ていた。

ミサカ達は未だ作戦の準備に奮闘中だ。
すべて終わったら存分に贅沢させてやろうと垣根は考えていた。

「風呂とか久しぶりにはいったわァーベクトル操作で汚れなんかほほいのほいだからなァ」

「いつも完全無菌なのか、お前。というか便利だなベクトル操作」

「あー、気持ち、一日能力使わないの意識して過ごすとマッサージ気持ちいいなー。そういや垣根はどうやって能力名決めたんだ?」
78 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 23:24:18.88 ID:/QGrE+6vo
「貧弱だなぁ、一日っていっても昼食ってから今までの三時間程度だろ?……研究員が勝手に決めただけだよ。……お前は?」

聞くべきではないかな?とも思ったが変に遠慮のもおかしな話だと考え、良しとする。

「ン、あー俺から振っといて悪りィが……言わなきゃダメか?」

「まぁ、言いたくないなら別にいいけどさ、名前捨てたのはなんでなんだ?」

芳川は必死に平静を保っていた。
再会してから一番聞きたかったが、聞けなかったことを垣根が話題にだしたからだ。

なぜ聞けなかったのか。
それは、自分が言ったら、責めている様に受け取ってしまうのではないかという心配からだ。

今の芳川は、自分だけは二人の事をわかってあげなくてはいけない。
時間はかかっても理解し、受け止めてあげなければならない。という過保護な親のような心境である。

「……その辺の話はまた今度話すわ、今日はしんみりしたくねェ」

「……りょーかい、でも別に無理に話さなくてもいいぜ?お前が*****だろうが一方通行だろうがお前はお前だしな、なぁ?芳川」

「へっ?えぇ、うん、そうね」

急に話を振られ、慌てて返事をする。

何気なく二人のほうに顔を向けると、垣根が「大丈夫さ」というように、ウィンクして見せた。

―― 垣根は気配り屋ね……。
私が聞こうにも聞けない事を代わりに聞いてくれたのね……まったく……本当に優しい子ね。

芳川は静かに微笑む。
79 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 23:27:11.47 ID:/QGrE+6vo
〜〜〜

マッサージにも飽き、三人は第七学区へ戻ってきていた。
そろそろ妹達を呼び戻し晩ご飯でも、と三人が考えていると、激しい電撃の槍が一方通行を襲った。

「見つけたわよ、学園都市第一位・一方通行ぁあああ!」

「あれ?作戦狂ったんじゃね?」

小さく呟くのは垣根。
そして、学園都市のトップ2は思考をフル回転させる。
ここから新しいシナリオを作れ。と。

「心当たりはあるわね?……垣根さんも関わってるの?」

一方通行を睨みつけていた目は隣に立つ垣根に向けられる。

「もし、関係者なら……アンタ達を―― 殺してでも止めて見せる」

御坂美琴の言う「殺す」はくだらないスキルアウトが威嚇や脅しのために使う「殺す」と同じものではない。

その言葉には、人を殺すという外道畜生な行為への嫌悪感、またその罪を背負う覚悟ができていた。

それを見て、二人は間違いに気づく。

――腐ってもこいつもレベル5、汚ねェ実験を見てねェ訳がねェ。

――こいつ本当にすごい強いやつなんだな。

御坂美琴は精神力だけならば、二人をすでに凌駕していた。
80 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 23:29:57.83 ID:/QGrE+6vo
「……ハァ、めんどくせェ。俺とお前が本気で戦ったら128手でお前は死ぬって結果が出てンだけどよォ?それでもやるか?」

一方通行の中で、新しいシナリオが完成したようだ。
垣根はこれに話を合わせればいい。

「今、一瞬退いたな?それがお前の覚悟の強度だ。そンなチャチな覚悟で俺様に歯向かうんじゃねェよ」

精神力が強かろうが、あくまでまだ子供。
死を目前に考えるとやはり、ビビってしまう。
そして、どう見ても一方通行は悪役であった。
わかりやすすぎるほどの、事情を知らぬ者が見たら劇の練習でもしているかのような、完璧に作り上げられた悪党。

だが、災厄の中心にいる当人相手ならむしろこれくらいがちょうどいい。

「あァ、垣根くンとそこの女は無関係だからよォ……やンなら俺だけを狙えよォ?まァ垣根がお前如きに負けるとは思えねェけどなァ……アハッハハギャハハハハハッ!」

――なるほど、俺は何も知らないただの友達って事でいいのか。だったら……。

「オイオイ、こんな街中で電撃ぶっ放すほど御坂美琴ちゃんってのは常識知らずなのか?何日か前に初めて会ったはずのお前らに俺の知らないとこで何があったか知らねぇが今日は引いてくんねぇか?一方通行もそれでいいだろ?」

何も知らないのならばとりあえず場を収めようとするのが無難だ。
と考え、両者を宥める。

「……何も、何も知らないくせに……こっちはこっちは……妹の命がかかってんのよ」

それだけで人を殺せそうな目つきで垣根と一方通行を睨みつける。

「くそっ……」

あの一方通行と対等に渡りあっていた垣根も一方通行側にいることは御坂の思考を冷静にさせるのには丁度良かった。

御坂は捨て台詞と共に三人の前を去った。
81 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 23:31:25.28 ID:/QGrE+6vo
〜〜〜

――勝ち目のない戦いをふっかけるのは勇気ではなく無謀。

――逃げるのは恥じゃない。

――本当に恥ずかしいことは退くべき時に退けず無駄死にする事だッ!

――人の命を奪って得られる強さなんて私の正義に反する。

――やってやるわよ。

――会ったことがなくたって、産まれ方が普通と違ったって……私のDNAから産まれ、同じ血をその体に流すのならば、それは私の妹だッ!
82 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 23:33:26.91 ID:/QGrE+6vo
たったこんだけで申し訳ない

正直御坂美琴の精神力うんぬんはいらないな
書き溜めの時はなくて即興で書き足したけど微妙だなぁ

また読んでください
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/01(木) 23:35:12.98 ID:bh1GoMqDO
投下中に失礼
SS投下の時はsage外してもらえるとわかりやすくてありがたいです
84 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/01(木) 23:53:14.76 ID:/QGrE+6vo
>>83
了解です

明日はちょっと投下できそうにないから夜中2:00〜3:00の間にもう一度これたら来ます
今みたら書き溜めそんなもうないから次回投下時に全部投下します

書き溜めあるとペースが落ちますね
安心しちゃって
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/01(木) 23:53:48.58 ID:FuYk3tcwo

なんか美琴の思考がジョジョみたいに……ww


確かに特に理由がないならsageは外して投下したほうがいい
最初の一回だけでもいいけど、そうしないと投下あったことに気付かない人もいるからね
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 00:20:06.43 ID:Msj8BaEiP

確かに覚悟云々言ってからだから尚更ジョジョっぽい
87 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 01:38:29.09 ID:yiEeaZqso
よし、投下します

美琴がジョジョっぽいのは俺のなかで一番かっこいい女主人公は徐倫だから影響受けまくりなんだと思いますwwww

最後の
来い!プッチ神父!
のシーンはジョジョでもトップを争うかっこいいシーンだと思ってます

俺の能力では他の作品の雰囲気持ち出してもしょぼく見えるだけになる気がするのでこれからはなるべくださない様に気をつけます
88 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 01:39:09.03 ID:yiEeaZqso
〜〜〜

「すみません、お姉さまとは結局接触はできませんでした。とミサカは頭を下げます」

御坂美琴が去ったあと、芳川運転の車で妹達を拾うと、五人は垣根帝督の家に来た。

台所で芳川と料理を覚えたいらしいミサカ00001号が晩御飯を作っている。

残りの三人は報告と、今後の身の振りをどうするかを、小さなガラステーブルを囲みながら会議中だ。
それぞれの前にはブラックコーヒー、カフェオレ、コーヒー牛乳がおかれている。

「ですが、謎の力を持っているという上条当麻とは接触に成功しましたとミサカは無い胸を張ります」

「お前のお姉さまとは俺らが遭遇したよ、なんというかいい奴だよな。会った事もねぇお前達をあいつはちゃんとに『妹』って呼んだぞ……まぁ、少しばかり考え無しで暴力的な所があるけどな」

「違いねェな……」

笑いながら一方通行も同意する。
その笑いには馬鹿にしたような要素は一切なく、むしろ喜んでいるように見えた。
89 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 01:40:57.93 ID:yiEeaZqso
同じレベル5として、御坂美琴の行動は素直に尊敬できるものであった。
能力を磨き上げ、230万人の頂点に立つ者からこそはっきりと実感できる実力差。

御坂はそれを恐れずに立ち向かってきた。
そして、無謀だと思ったらプライドも何もかも捨て、みっともなく勝つ可能性を模索するために逃げた。

御坂美琴という女の子は若干十三歳にして、それ程までに人の命というものの重さを理解している子だった。

「それは……嬉しいですね、素直に。とミサカはまだ見ぬお姉さまを尊敬します」

ミサカは小さく笑う。
それを見て二人も自然と微笑む。

「さて、ほんわかしたところで話を戻そう。上条当麻はなんなんだ?」

「はい、上条当麻は無能力者です。とミサカは驚きの真実を発表します」

コーヒーを飲む一方通行の手がとまる。

「はァ?ンなわけあるか、あいつは右手一本で俺と垣根の喧嘩を怪我一つせずに止めたんだぞ?」

「一方通行に同意だ。無能力者をバカにするつもりはねぇが、あれが無能力者だなんてことは信じられねぇ」

「そうですね、ミサカも同意です。彼の右手には『異能の力ならばなんでも消せる』という特殊能力が備わっているのですから、とミサカはそれが便利なのか不便なのかよくわからないなと感想をこぼします」
90 :訂正 ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/02(金) 01:42:58.94 ID:yiEeaZqso
同じレベル5として、御坂美琴の行動は素直に尊敬できるものであった。
能力を磨き上げ、230万人の頂点に立つ者からこそはっきりと実感できる実力差。

御坂はそれを恐れずに立ち向かってきた。
そして、無謀だと思ったらプライドも何もかも捨て、みっともなく勝つ可能性を模索するために逃げた。

御坂美琴という女の子は若干十三歳にして、それ程までに人の命というものの重さを理解している子だった。

「それは……嬉しいですね、素直に。とミサカはまだ見ぬお姉さまを尊敬します」

ミサカは小さく笑う。
それを見て二人も自然と微笑む。

「さて、ほんわかしたところで話を戻そう。上条当麻はなんなんだ?」

「はい、上条当麻は無能力者です。とミサカは驚きの真実を発表します」

コーヒーを飲む一方通行の手がとまる。

「はァ?ンなわけあるか、あいつは右手一本で俺と垣根の喧嘩を怪我一つせずに止めたンだぞ?」

「一方通行に同意だ。無能力者をバカにするつもりはねぇが、あれが無能力者だなんてことは信じられねぇ」

「そうですね、ミサカも同意です。彼の右手には『異能の力ならばなんでも消せる』という特殊能力が備わっているのですから、とミサカはそれが便利なのか不便なのかよくわからないなと感想をこぼします」
91 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/02(金) 01:44:04.55 ID:yiEeaZqso
だが、超能力者二人は未だ納得がいかないらしい。

「いや、でもそれ第七位みたいなよくわからン原石って事だろ?しかも十分レベル5並の力持ってる。それが無能力者扱いってのはどうなンだ?ありえるのか?」

「それが、よくわかりませんが身体検査でも感知されないらしいんですよ、とミサカは補足説明をします」

「でも、まぁ……一度体験しちゃってるからなぁ」

垣根は首をかしげながらそう言う。

「んんんー、よし!その能力、信じよう!」

胡座をかいた体勢から床に頭がつきそうなくらいかしげた首をまっすぐに戻しながら垣根は判断する。

「まァ、その方が都合いいしなァ……」

一方通行もそういうものなのだと理解することにしたらしい。

「というか、私のない胸という渾身のボケはスルーなんですね、とミサカは悲しみに打ちひしがれます」

大げさに膝と両手を床につけ、落ち込む。
哀れになったのか、垣根が肩をポンと叩きながら言う。

「……次はちゃんとツッコミ役やるからさ」

いいながらカフェオレを口に含んだ。
92 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/02(金) 01:44:52.49 ID:yiEeaZqso
「つ、突っ込むだなんて……とミサカは垣根帝督の下ネタに頬を赤く染めます」

「っぶは……お前一回シメテいい?」

ミサカの下品すぎるジョークに口に含んだ液体を吹き出してしまった。

垣根とミサカがはしゃぐ様子を、一方通行は呆れつつも笑いながら眺めていた。

「ったく、オラ明日から作戦立てっぞ」

手に負えないと言った様子で、垣根は無理矢理話を正常な方向へ持ってきた。

「……まァそンなの話し合う必要もねェだろ?俺は御坂美琴とばったりエンカウントしねェようにお前らの準備が整うまで引きこもっとく」

それだけ言うと、コーヒーに手を付けた。

「んー、まぁお前はそれでいいな。問題はお前らなんだよなぁ……」

頭をぽりぽり掻きながら眉をしかめる。
93 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 01:48:34.25 ID:yiEeaZqso
「なにか今日の私達に問題がありましたか?とミサカは恐る恐る尋ねます」

「んー、余りにも今日のキャラを崩すと不審に思われ……あ、そうだ」

垣根はミサカが上条とは笑顔を交えつつ、会話したと聞き困っていたが、何かを思いついたようだ。

「よし、お前明日から二人の前では『私は殺されるために生まれてきたのですから』ってな感じの無表情なキャラになれ!」

「それの意味は?とミサカは再度尋ねます」

ニヤリと、笑うと垣根は自信満々にその意味を説明しはじめた。

「お前でも料理中のほうのミサカちゃんでもいいけど、次に上条に会ったら『実験をよりスムーズに行う為に一切の感情を消去されました』的なことを言え」

ふむふむ、とミサカは頷く。

「そんで、上条の事だ、いやあいつの事よく知らんけどね?すごくお人好しそうなやつだったから多分それを見たら美琴ちゃんに連絡いれると思う。出来れば美琴ちゃんと上条と二人が一緒にいる時を狙って遭遇できたら一発で済んで楽なんだけねぇ」

「何故ですか?」

「そんなミサカちゃんをみたら美琴ちゃんはブチ切れると思うし、そんな美琴ちゃんをみたら上条もブチ切れる100%本気で俺らに……ってか一方通行にかかってくるだろ?」

「ほうほう!なるほど!とミサカは感心します」
94 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 01:51:06.49 ID:yiEeaZqso
「あと、御坂美琴が巻き込みやすいように上条に会ったら実験の事洗いざらい話しちまえ」

黙ってコーヒーをのんでいた一方通行からも、提案がはいる。

「わかりました。今日はほのめかす程度でしたからね」

ミサカは上条に自身は美琴の妹の様なもの、実験の為にここにいる。
程度の事しか情報を与えてはいない。
これがクローンでその実験が死ぬ為のものとわかったら、あの人の良さそうな上条はとてつもなく怒るだろう。

三人は顔を見合わせ怪しく笑う。

「あ、一方通行は上手な殴られ方の練習しとけよ」

垣根が気づいたように言った。

「は?なンで?」

「上条は右手で触れた異能を無効化してんだから、当然とどめはグーパンだろ?」

「……あ」

「何はともあれこれでミサカちゃん達の命は救われたようなものだ!」

「はい!とミサカは二人と芳川博士に感謝してもしきれません」

心から笑う二人に対して一方通行は一抹、二抹、三抹の不安が残り、その笑顔はひどく引きつったものとなった。
95 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 01:52:13.84 ID:yiEeaZqso
〜〜〜

芳川とミサカ00001号からお呼びがかかり、一同は一番大きな部屋へ集まった。

普段使われる事のない大きなテーブルがまだ温かなままの料理で埋め尽くされていた。

「そんなに手の混んだものはできなかったけれど……多分美味しいと思うわ」

芳川は謙遜の割には顔は自信で満ち溢れていた。
対する00001号は本格的に料理をしたのは初めてで、しかもそれを人に振舞う事に不安を感じているのかおどおどしている。

「おー、うまそうだな!あ、肉じゃがあるじゃん!俺これ大好きなんだよなぁ」

垣根は久しぶりの手料理に感激していた。

「こちらの野菜炒めは00001号が作ったものですね?とミサカは推測します」

普段から―― といってもたった二日間だが―― 芳川の手料理を食べているミサカ00002はそこまで感激もしていなかったが、作ってくれた芳川に対する感謝の気持ちと双子の姉である00001号の頑張りを嬉しく思う気持ちは感じられた。

「…………」

一方通行は大好きな人―― 本人は気づいておらぬが―― の手料理に言葉を失うほど感激していた。
96 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 01:53:24.06 ID:yiEeaZqso
「ほらほら、三人とも冷めないうちに食べちゃって!」

芳川が本当のお姉さんの様に声をかけると三人は一斉に席につき、大きな声で元気良くいただきますをいった。

「お、野菜炒め美味しいじゃないですか、とミサカは00001号を褒め称えます」

まず最初にミサカ00002号は00001号の作った野菜炒めを口にした。

「ほ、本当ですか?とミサカはホッと胸を撫で下ろします……ささ、一方通行も垣根帝督も食べてみてください!」

双子の妹の美味しいという台詞に安心したのか二人にも勧める。

「おう、もちろん頂くぜ!……ミサカちゃん二人にいえるけどさ、その垣根帝督って呼び方はどうにかならんか?」

「じゃ、じゃあ……垣根さん?」

ミサカ達は顔を見合わせながら、同時に言う。

「んー、まぁそのほうがましだな!」

垣根はずいぶんと簡単に心を打ち解ける術を一方通行との再会から身につけていた。
もともとの人懐こい性格もあるだろうが、一方通行が自分と同じ気持ちだったこと、認めてくれた事が垣根を半分だけでも開放させたのかもしれない。

一方通行が人を愛する事を渇望したのならば、垣根帝督は人から愛される事を渇望していた。
97 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 01:54:27.80 ID:yiEeaZqso
「うめェ……」

垣根と妹達がやいやいやっている間に一方通行は野菜炒めを一口、口に運んだ。
そして、まっすぐ00001号のほうを向き言う。

「すンげェうめェよ。本当に初めてか?」

「は、あの……はい!芳川博士と博士の研究所へ逃げ込んでからの一昨日と昨日は芳川博士のお手伝いはしましたが、自分で作るのは初めてでしゅ、とミサカは噛んだ事をごまかし……ます」

ミサカは顔を真っ赤にし、手をパタパタ振りながら答えた。

「ちょっとちょっと、私の料理も食べなさいよ」

拗ねたように笑いながら芳川が言う。

「勿論だ」

言いながら肉じゃがに箸をのばし、そのまま口へ運ぶ。

「ン、うめェ……最ッ高に美味いぜ、芳川」

目をキラキラさせながら、嘘偽りない感想を述べた。
98 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 01:55:16.40 ID:yiEeaZqso
「ふふ、ありがとう。帝督も、たくさん食べなさいよ」

食ってまーす。という垣根の返事に笑顔をこぼし、そういえば一方通行は十年前はこんな顔をしていたな。と記憶が呼び起こされる。

夕飯は完食され、洗い物は垣根・一方通行・ミサカ00002号が引き受けた。

「いやぁ、まじで美味かったな!俺こんなに美味い晩飯とか十年ぶりだ!」

意外にも手際良く皿を洗いながら垣根はウキウキと話す。

「全くだな、俺も十年ぶりだ」

垣根が洗った皿を受け取ると、皿に残った水滴をベクトル操作で弾き飛ばす。

その皿を受け取り、食器棚に収納しながらミサカも同意する。

「私達は生まれてまだ一ヶ月という所ですけれど、一昨日、昨日、そして今日食べたご飯が一番美味しかったです、とミサカは幸せいっぱいだとアピールします」

「そォか……幸せか、なら良かった」

「だな」

三人は顔を見合わせ笑った。

そんな三人の様子を00001号は自分も混ざりたいといった視線で見つめ、芳川は微笑ましく見守るように見つめた。
99 :LDKが全部一個になってる間取りの部屋もあるよね? ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 01:56:45.44 ID:yiEeaZqso
〜〜〜

「あー、食ったあと皿洗いして少し間をあけたからちょうどいい感じだ、風呂は入ってきたし寝るだけだぁ……」

ソファにだらしなく脱力する。

垣根の部屋は一人暮らしには大きすぎる4LDKである。
リビング兼ダイニング兼キッチンの一番大きな部屋。
それの他に玄関を入ってすぐ右手に和室が一つ。
その隣にはフローリングの部屋が一つある。
それらの向かいには二つ扉があり、一つはトイレ、一つは洗面所・風呂へとつながっている。

玄関からLDKを正面に抜けると、二番目に広いフローリングの部屋。
ここは客間として使っていた。
訪れる客は大抵が協力要請にやってくる研究員だ。
先ほど三人で話していたのもここである。

そしてLDKの右手には垣根の寝室がある。

今垣根は先ほど三人でいた客室に一方通行と二人でだらだらとしている。

「あいつらはなにやってンだ」

「あー、なんか風呂とかその他の部屋とか覗いてるみたい」
100 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 01:59:18.85 ID:yiEeaZqso
「そォか……あー、本当にいい気分だな、今日泊めてくれよォ」

垣根の隣で同じ姿勢でだらける一方通行。

「あー?元々そのつもりっつーかテレビとかソファとか一番でけぇ部屋に移せば俺の寝室、和室、洋室二個になるしみんなでここに住まね?家賃俺払いでいいし」

「あー、いいかもなァそれ毎日美味いもン食えるしなァ。そうなったら半分は払う」

「じゃあ、あいつら来たら提案してみっかー」

「あァ」

子供のような顔をしながら二人はそんな夢の様な暮らしを話、そのうちウトウトとしはじめた。
101 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 02:04:04.67 ID:yiEeaZqso
>>100いったところで終わりです
まだ話全体の1/5も進んでないかな?
1/5はいいすぎかもしれないけどまだ序盤のほうだとおもいます

2:00〜とかいっといて〜2:00になってしまいましたね

明日は来れるかわかりませんが、また読んでください
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 11:54:32.05 ID:7eLbez+DO
乙乙
楽しみにしてます
103 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 16:28:50.47 ID:ffsGP3FIO
読んでくれてる人、ありがとうございます

書き溜めはそんなに出来ませんでしたが時間が取れそうなので投下の予告をさせてください

21:00頃来ます

読んでくれると嬉しいです

104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 16:52:46.37 ID:9RRrNQJDo
良スレ期待
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 16:57:10.46 ID:Msj8BaEiP
安定して面白いな
演技云々は正直普通に説明した方が早いような気がするけど
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 17:04:06.97 ID:O9TfpmdMo
いやっふう
107 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:46:07.08 ID:ffsGP3FIO
投下はじめます。

108 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:47:18.40 ID:ffsGP3FIO

〜〜〜

「寝てると可愛いですね。とミサカは二人に同意を求めます」

「そうね、寝てる時はちゃんとに子供してるわ」

「しかし、ここが新しい家ですか……ミサカは和室が気に入りました。と畳の良さを知った事に感激します」

三人はあらかた部屋の物色を終え、二人がいる部屋に戻ってきていた。

「んー、私はそろそろ帰るけどあなた達二人で大丈夫よね?なにかあったらそこで寝てるの叩き起こしなさい」

車のキーをくるくる回しながら、芳川は帰り仕度をはじめた。

「あ、あの、芳川博士。とミサカは呼び止めます」

「ん?なーに?」

「あ、あのお二人を起こして……別れの挨拶した方が喜ぶと……思います!とミサカは自信はありませんけど……提案……します」

芳川は少し驚き、考えてからそれもそうだな、と思い直し二人を優しく揺り起こす。

「帝督、一方通行。私もう帰るから二人をよろしくね」

「ン……ン、よしかわァ……?かえっちまうのー?……とまってけよー」

「あー、そうだそうしろよー……べつに……あしたがっこう……やすみ……だろー?」
109 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:50:03.01 ID:ffsGP3FIO
「……学校っていつの話よ……懐かしいわね、そういえば十年前はよく三人で寝たかしらね……」

二人の頭を撫でながら微笑む。
二人に触れると、十年の月日はより克明に実感として伝わってくる。

――あんなに小さくて、可愛いかった子達がこんなにかっこよくなっちゃって……。

「二人とも、赤ちゃんみたいですね。とミサカは微笑ましく思います」

00001号はニマニマしながら二人と、その二人を見つめる一人の女性を見つめる。

「というか、芳川博士、三人で寝たってかなりきわどい発言だよね。とミサカはのほほんとした雰囲気をぶち壊します」

「貴女達がちゃんとに実験を嫌がってくれるように本来なら消される感情を消さないようにと努力した結果がこれか……あんた強い子に育つわよ」

そう、本来ならば妹達はこの二人の様に感情豊かなものではない。
学習装置により、完全に脳構造を整頓し、全くの同じ個体になるはずであった。

芳川は最初失敗に失敗を続け、それで実験自体を中止させようとしていた。
だが同僚のある男が、芳川の失敗は故意によるものと判断し、本来のクローン生成は全て芳川に任せるという規約を反故。
芳川には秘密で勝手に二体生成した。

生まれたクローンが実験を拒否しない様、学習装置では感情消去プラグラムというものがまずクローンにインストールされる。

そうなってしまったら、妹達個々に感情を芽生えさせるのは至難の技だ。

だから、芳川は感情消去などいつでもできるのだからまずは調整をしつつ、自然体でのクローンを観察するべきだと申し出た。

そして研究所の職員を何人かに金を渡し、その申し出を無理矢理通す。

そのまま約一ヶ月粘り、そして、二人を連れて逃げ出した。
110 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:51:45.29 ID:ffsGP3FIO
〜〜〜

「ン、あー……寝ちまってたか?……オイ、垣根起きろ」

時間はまだ午後十時をまわったばかり。
芳川はすでに帰宅した。

「んあ?……あー、寝てたか……なんか懐かしい夢見た気がする」

目をこすりながら垣根はボソボソと話す。

「あー、俺もなンか夢見た」

あくびをしながら、一方通行は便所ォと言い残し部屋を出た。

LDKを抜け、廊下に出る。
そして、二つの扉の前に立った。

「あれ?右が風呂で左がトイレだっけ?」

よく聞いていなかったのか、迷う。

−−まァ、左で合ってるだろ。

根拠のない自信でその扉を開くとそこには生まれたままの姿の妹達がいた。
片方は顔を真っ赤にし、驚きで声がでないのか口をパクパクさせている。
もう片方は全く気にせず口を開く。

「一方通行、トイレなら隣ですよ。とミサカは優しく教えてあげます」

「あァ間違えた、悪りィ悪りィ」

一方通行も全く気にせず、扉を閉め隣の扉へと手を伸ばす。

用を足し客間に戻ろうとすると、突然風呂場から悲鳴が聞こえた。
どうやら、数分固まっていたままだったようだ。
111 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:53:12.73 ID:ffsGP3FIO
「ァア?……おーいどォした?ゴキブリでも出たか?」

一方通行は、まさか原因が自分にあるとも知らずに声をかける。

悲鳴を聞きつけた垣根も大慌てで飛んで来た。

「なんだ、おい、何が起きた?」

首を傾げながら、しらね、と短くこたえる。

中からの話し声がやむと扉が勢いよく開き、可愛らしいピンク色のパジャマに身を包んだミサカ00001号が飛び出して来た。

「あ、一方通行……」

扉の前にいる一方通行をみると顔を真っ赤にし、そのまま逃げる様に向かいの和室へと駆け込んだ。

「まったく、そこまで気にする事ですかね?とミサカは疑問に思います」

やれやれ、と出て来たのはブルーの00001号とは色違いのパジャマに身を包んだ00002号だ。
112 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:54:12.58 ID:ffsGP3FIO
「え?何が起きたの?」

「あ?何も起きてねェよ、俺が風呂とトイレ間違えて扉開けたらちょうど風呂から出たこいつらがいただけだァ」

何か問題があるか?と偉そうにしている。

「おっま、問題しかねぇだろ!とりあえず謝って……いや、もうこの事には触れるな、いいな?」

少し怒気を含んだ声色で垣根が叱る。

「そんな怒る事ですか?とミサカは再度疑問に思います」

「お前も、少しは恥じらいというものを持て!」

「お前だって芳川の研究所で裸同然のこいつら見たじゃねェかよ」

「ありゃ大事な所は隠れてただろうが、それに医療行為の一環だ。それと覗きまがいを一緒にするなバカ」

軽く一方通行の頭を殴る。
垣根の中にははっきりとした線引きがある様だ。

「とりあえず、ミサカちゃんは髪ちゃんと乾かしてこい。夏とはいえ風邪ひくぞ……一方通行は……まぁ勝手にしてろ」

そう言い残すと、和室の扉をあけ、中に入っていった。
113 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:55:17.58 ID:ffsGP3FIO
〜〜〜

「おう、あんま気にすんな。一方通行はお子様だし、別に下心があったわけでもねぇし許してやってくれよ」

ミサカは顔を真っ赤にし、いつのまにか敷いた布団の上で丸くなっていた。

「ううう……別に怒ってるわけではなくて、みられた事がその、恥ずかしくって……とミサカは足をバタバタさせます」

下品なネタを恥ずかし気もなく言う00002号とは正反対で、00001号はとても恥ずかしがり屋のようである。

思い返せば、昼ごはんを食べている時も、夜ご飯を食べている時も自分と一方通行が話しかけるとそわそわと落ち着かない様子であったと垣根は思い出す。

「あー、そりゃまぁそうか。でもミサカちゃんがなんかミスって恥かいた訳じゃねぇし、悪気はないとはいえ、悪いのはあいつだしミサカちゃんがそんな真っ赤になる必要はねぇんじゃね?むしろもっと怒っていいんじゃないか?そんで、もしあれなら一方通行に一発ビンタでもしてやれ、そんで忘れちまおうぜ」

「……わかりました。とミサカは垣根さんの提案を採用します、でもビンタはいいですもうすぐ忘れたい……」
114 :また区切るところ間違えちまったよ ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:55:55.28 ID:ffsGP3FIO
「おう、そうしろ!ミサカちゃんも髪の毛しっかり乾かしておいで」

「はい、ありがとうございます。とミサカはお礼を述べます」
115 :また区切るところ間違えちまったよ ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 20:56:41.96 ID:ffsGP3FIO
〜〜〜

ミサカが出てった部屋で、崩れた布団を軽く直し、窓を開け扇風機を押入れから取り出し電源をつないだ。

「垣根くーン」

和室を出ると、一方通行が呼んでいるのが聞こえる。

「あー?どうした?なんでも適当にやってくれて構わんぞ」

「とりあえず湯を沸かしてコーヒー飲もうとしてンだけどこの家コーヒーねェのか?」

一方通行はマグカップを手にしながら、うろうろとキッチンを歩き回っている。

「いや、確かドリップ式のが……」

食器棚のしたの扉をあけごそごそと、探る。
116 :また区切るところ間違えちまったよ ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/02(金) 20:57:57.54 ID:ffsGP3FIO
「ほれ、あった!」

「おォ、サンキュー」

小さい缶に十袋ほど、入ってるものをみつけ、一袋一方通行に手渡す。

「とりあえず明日から俺は引きこもるからよォ、買い物行ったら缶コーヒー買い占めて来てくンねェか?」

「……はいよ」

そんな会話をしていると、丁度湯が沸き、ヤカンがピーピー音を立てた。

「お、一方通行は徹夜で何か作業でもあるんですか?」

髪を乾かし終えたミサカがこんな時間にコーヒーを飲もうとしてる一方通行に問いかける。

「いやァ……飲ンだら寝るぜェ?」

「コ、コーヒーとは覚醒作用があるから……夜飲むのは控えた方がいいんじゃ……ない……ですか?」

途切れ途切れ、もう一人のミサカが言う。
顔が赤いのはまだ恥ずかしいからだろうか。
117 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 20:59:26.37 ID:ffsGP3FIO
――いや、このミサカは何も起きてなくとも顔を赤らめそうだな……。

垣根の目には、一生懸命『なかった事にしよう』としているミサカ00001号がとても愛らしくうつった。

「ミサカちゃん達はなんか飲みたいものあるか?牛乳と水しかないからなんか飲みたきゃ適当に買いに行ってくるけど」

苦笑を漏らしつつ、尋ねる。

「じゃあミサカは炭酸飲料が飲みたーい!」

00002号が手を上げながら言う。

「み、ミサカは……」

遠慮しているのか、もじもじとしながら00001号は俯いてしまう。

――なんか、マジ可愛いな。

「……遠慮なんかしなくていいぜ?」

頭に横切った感情を振り払う。

――俺に……そんな資格はねぇだろうが。

垣根は無理矢理笑う。

「じゃ、じゃあ……フルーツ牛乳が飲んでみたいです。とミサカは希望を述べます」

ちろちろとこちらを伺う、ミサカ00001号はまるで子犬のようだった。

「オッケ、んじゃいってくるわ」

「はい、ありがとうございます!お気をつけて」

00001号は頬をピンク色に染め、微笑みながら垣根を見送った。
118 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 21:01:08.43 ID:ffsGP3FIO
〜〜〜

上条当麻は考えていた。

「……やっぱ御坂に聞いてみようかな」

ベッドに腰掛け一人つぶやく。

上条が何を思い悩んでいるのかといえば、昼間であった御坂の妹を名乗る人物の事である。

――もしや、貴方が上条当麻ですか?とミサカは自動販売機にうなだれよりかかる青年に声をかけます。

自らを『御坂』と呼称し、顔は御坂美琴そっくり。

――お金を飲まれたのですか?そうですか、二千円も……なら……。

姉の御坂美琴と同じ様に自動販売機に能力を使い、ジュースを吐き出させた。

――これで二千円分はあるでしょう、とミサカは十六本の様々なジュースを手渡します。

百二十円の缶ジュースが十本。
百五十円のペットボトルが四本。
百円の水が二本。

手渡されたジュースはピッタリ二千円分であった。

しかし、外部刺激を受けた自動販売機が警報を鳴らし、たまたま近くにいた警備員が駆けつけて来た。

その時すでに御坂妹の姿はなく、上条は一生懸命身の潔白を証明した。

自動販売機の中身を開け、上条のいう事が正しいとわかると、警備員は次からは飲まれたらすぐ管理者に連絡する事、と厳しくいいつけ上条は開放された。
119 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/02(金) 21:04:36.70 ID:ffsGP3FIO
上条はただ平謝りをし続け、警備員が去ると、突然己の不幸さが嫌になり無力感にさいなまされベンチに腰を落とす。
ぼんやり公園を行き交う人々を眺めているといつの間にか御坂妹が隣に座っていた。

機密レベルの高い実験に内密に参加している為警備員に捕まるとお姉さまに迷惑がかかる、と言い上条を置いて逃げた事を謝った。

御坂妹は表情がコロコロ変わるやつで話していて飽きなかった。

妹の携帯電話がなるまで他愛ないお喋りを続けた。
別れ際にまたな、と声をかけると御坂妹はさようなら、とだけ言って去って行った。

その姿にひどく違和感を覚え、奇妙さを感じた。

そして一人一つずつ開けたジュースを除いた十四本のジュースを抱え寮に帰ってくると、今まで上条は携帯電話とずっとにらめっこを続けていた。

「なんだよ、出ねぇじゃん」

心を決め、にらめっこを終わらせ、御坂美琴の電話番号にカーソルを合わせた。
発信ボタンをプッシュしたが御坂が電話に出ることはなかった。

携帯電話を枕元に放り、自身もそのまま横になる。
120 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 21:05:33.76 ID:ffsGP3FIO
首を横に向け、目に入った時計の針はすでに午後九時半を差している。

「あ、風呂と飯まだだ……課題もだ……ふ、不こ……いやこれはただの不注意か……」

ため息を吐きつつ起き上がると浴室に向かう。
浴槽の栓を抜き、水が抜ける様をぼんやり眺めながら今日はシャワーでいいやと思い直し、晩御飯を作るため浴室を後にした。

――御坂妹、また……会えるよな?

上条の夜は更けていく。
121 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 21:09:46.83 ID:ffsGP3FIO
とりあえず終わり!

また21:00からとか言っといて21:10までには投下し終えてるね

ポンポン投下しないで1レス1レス少し時間開けた方がいいのかな?

今日もう一度来るかもです。
目処がたったらまた予告します。

読んでくれてありがとうございます!
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/12/02(金) 21:14:12.61 ID:6Ru4I0XQo
乙!
書きためてるなら投下スピードは速いほうがいいよ
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/12/02(金) 21:24:49.88 ID:1z8tV69do
期待してる












更新はよ
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 21:44:56.39 ID:O9TfpmdMo
おい、この一方通行さンかっこいいじャねェか
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/02(金) 22:02:18.62 ID:UhjloFwlo

書き溜めのストックがゴリゴリ削れてそうで心配になるほどの更新速度の速さ…
楽しく見てるよ
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage ]:2011/12/02(金) 22:55:16.27 ID:RfRmElyTo
乙!!
上条さんがただの道化になるのか…
127 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 23:44:25.81 ID:yiEeaZqso
ストックはガリガリゴリゴリ削れていますよwwww

さて、ギリギリ今日中に投下報告に来れました

今書いてるシーンが書き終わり次第少しだけ投下します
128 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/03(土) 00:05:37.60 ID:mAbJ85Uao
〜〜〜

人通りが全くない街中を垣根は一人歩いていた。

両手には大量の缶コーヒーとドクターペッパー、ルートビア、コーラ、サイダーといった様々な炭酸飲料と目に付くままカゴに放り込んだこれまた大量のフルーツ系の飲み物が入った袋を吊るしている。

――とりあえず、ミサカちゃんにはまずドクターペッパー飲まそう、そしてその後ルートビア飲まそう。

涙目でまずいですと言うであろうミサカの顔を想像し、一人笑う。

――ミサカちゃんはご所望のフルーツ牛乳のほかに色んなフルーツジュース買ったけど喜んでくれっかなぁ……。

今度は顔を赤らめ大げさに喜び、こんなにいいんでしょうか?と慌てるミサカの顔を思い浮かべ微笑む。
129 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/03(土) 00:08:02.06 ID:mAbJ85Uao
垣根は妹達を00001号、00002号と呼ぶのにかなりの抵抗があった。
それは同じものを表面上分けるだけの呼び名に聞こえたからだ。

名前を捨てた一方通行、名前が初めから無い妹達。

ただのガキと女の子をそんな状況にぶち込む学園都市が許せない。
名前とは本来、生まれて一番最初にもらうプレゼントだ。
それを捨てざるを得ない、貰えない。
これはどれほど悲しい事なのだろうか垣根には想像もできなかった。

出来る事なら統括理事長アレイスター・クロウリーをぶち殺したいと願う。

どんな悪人でも人は人。
殺したら自分は人以下の“物”になる。
自分の正義は憎しみや怒りによって人を[ピーーー]事を場合によっては良しとする様な薄いものではない。

垣根は内に矛盾した願望――人を殺したいという願望と、人以下の物に成り下がりたくはないという願望――をもつ自分はとてつもなく醜く、汚いものだと結論づけた。
130 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/03(土) 00:09:19.70 ID:mAbJ85Uao
――こんな汚い人間が綺麗な女の子に愛される訳がないし、そんな資格もない。

街の何処かで誰かの声にならない悲鳴が泣くように鳴り響く。
その泣き声は現実が理想という名の壁に反射され、心に突き刺さってくるようだ。

垣根は一人静寂と黒が支配した街中を歩く。

その背中に背負う感情を何処にぶつけていいのかわからぬまま……。
131 :またsaga忘れた脳内補完よろしくおねがいします ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 00:11:40.70 ID:mAbJ85Uao
〜〜〜

第七学区に宿泊施設はそんなに多くはない。
そのうちの一つのスイートルームで御坂美琴はベッドに仰向けになりながら、天井を睨みつける。
その目は悲しみと、後悔に染まっている。
だがそこに絶望は見て取れない。

――大丈夫、アンタ達だけがあの世に送られるなんて事は絶対に阻止するから。

目は輝きを失ってはいない。

御坂は静かに目を閉じた。

精神を集中するかの様に、心を落ち着けるかの様に……。

――私の作戦は今すぐにでも出来る。でも我慢するんだ。叶うならば、一緒に……。

一定の間隔で呼吸を繰り返し、自己のリズムを築き上げる。
132 :またsaga忘れた脳内補完よろしくおねがいします ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 00:13:03.01 ID:mAbJ85Uao
そのリズムが安心感と共に御坂の身体に溶け込もうとした時、携帯電話が鳴り響いた。
作ったリズムは崩壊し、御坂は多少のイラつきを感じながら電話相手を確かめる。

――上条当麻ッ……。

それは御坂美琴の思い人からであった。

新作ゲームのテストプレイヤーの実験の話が舞い込んで来た時、御坂は勇気を出して、予定を立てる為と最もらしい可愛い理由を持ち出し上条と連絡先を交換した。

それから御坂からメールすれば返信は来るが、彼から連絡を取ろうとしてくる事は一度もなかった。

その彼から電話が来たのだ。

本来ならば嬉しいはずなのに、御坂は悲しそうな顔で、ディスプレイを眺める。

――ダメ……。私だけが報われようとしたらダメだ。

携帯電話を枕の下に潜り込ませ、着信の音とバイブレーションの震える音をかき消す。

――死ぬ前に、最高の思い出をありがとう……。

ただ電話が来ただけ、それを最高の思い出だと感じ、死ぬ覚悟をより一層強固なものとする。

余りにも悲しすぎる道。
彼女は初恋を宙に浮かせたまま終わらせようとしていた。

しかし、そんな運命は三人の心優しい少年達によって打ち砕かれる事を御坂はまだ知らない。
133 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 00:14:14.76 ID:mAbJ85Uao
〜〜〜

「たーだいま!」

垣根提督が帰ってきた。

そして、ただいまの挨拶を聞くとドタドタと走ってくる足音が一つ聞こえてくる。

「かっきねさーん!待ってましたよぉ〜とミサカは初の炭酸にワクワクを隠せません」

「ったく、おかえりなさいくらい言いやがれってんだ」

いいながら垣根はドクターペッパーを手渡す。

「ありがとうございます!あとおかえりなさい!とミサカは遅くなりましたが家主を出迎えます」

再度ただいま、といいながらミサカの頭をぽんぽんと叩く。

その場で開けようとしたミサカを、お行儀が悪い、と叱りつけ残り二人が待つ部屋へ行くまで待つように言う。

ミサカは素直に謝り、垣根の両手にあるうち、一つの袋を自然に手に取ると客室にむかう。

――なんか、少し良い子な所見せられると急に罪悪感でるよな……別に普段悪い子と言うわけではないがなんとなくね……。
134 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 00:15:53.38 ID:mAbJ85Uao
垣根の手に残った袋は缶コーヒーが入った方の袋であった。
それから一本を残し残りを冷蔵庫にしまう。

「ほれ、新製品出てたからそれ買ってきた。不味くても全部消化しろよ?」

客室に入りつつ一方通行に投げ渡す。

「おかえりィ。気が利くじゃねェか垣根、アリガトウよ」

一方通行は新製品に楽しみを募らせ、機嫌良さげだ。

「おかえりなさい、垣根さん……あ、あのっあの!こんなにたくさんのフルーツジュースいいんでしょうかっ?」

嬉しそうに顔を緩ませ小さくぴょこぴょこ跳ねながらミサカ00001号は垣根の予想通りの反応をした。

垣根はその笑顔をみて、胸に二種類の痛みが走るのを感じる。
そして、それを必死に隠す。

「ただいま、ミサカちゃん。もちろんだ、フルーツサイダーとか炭酸系もあるから二人で分け合って飲みな」

髪を混ぜるように頭をくしゃくしゃと撫でる。

「わ、わわわ!ありがとうございます!とミサカは嬉しさでいっぱいな気持ちを表します!」

「喜んでくれたら何よりだ。今回俺は一方通行とミサカちゃん達に任せきりだからな」

垣根は胸に走る痛みを隠す、薄っぺらい笑顔を浮かべる。
135 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 00:17:22.37 ID:mAbJ85Uao
〜〜〜

ドクターペッパーを飲んだミサカがなにやら微妙な顔をしながらカタカタ震えるのを横目にミサカ00001号はフルーツ牛乳をちびちびと飲んでいた。

ミサカ00002号を見て笑う垣根帝督、新製品の缶コーヒーを気に入ったのか成分などが書いてある箇所を真剣に眺める一方通行。

三人を眺めながら自分は幸せだと実感する。

00001号は最初は芳川を恨んでいた。
どうせ殺されるのにクローンを観察したいからと感情を消さず、毎日研究員から『お前は殺される為だけに生まれて来た』と言われる恐怖は凄まじいものだった。

だから、三日前芳川が『行くわよ』といい、二人を連れて車に乗り込んだ時は――あぁ、実験が始まったのか、これから自分は恐怖を感じながら死ぬのか――と絶望した。

向かった先は廃れた廃屋の様な研究所跡だった。

ここが今から自分が虐殺される実験場かと恐怖に震えそうになる身体を必死に隠し、中にはいった。
136 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 00:20:01.05 ID:mAbJ85Uao
汚い廊下を進み、一番奥の部屋のドアを芳川に開けなさいと言われた。

指示通り扉を開くと、廃屋の様な外観、廃墟の様な廊下からは想像もつかない明るく小綺麗な部屋がそこにはあった。

どういう事かと思い、00001号は咄嗟に00002号の顔を見る。
00002号は嬉しそうに笑いながら、言った。

「ミサカ達は生きられるのですよ、とミサカは絶望に囚われるミサカ00001号に希望を与えます」

00002号は殺される為に生まれて来たと言われても、明るく元気な子だった。
それは自身の運命に立ち向かい、自分の命を諦めたくないという気持ちの現れだったという事を00001号は後から知る。
00002号は芳川のパソコンをハッキング、芳川がどちらかが死なない為に動き出した時にと用意した暗号化された文書を発見した。

暗号解読の鍵は芳川が毎日必ず二人にかける言葉の中にあった。

それを見抜き、解読。
そして*****・垣根帝督両名の実験拒否を確認次第の脱出計画を知る事となる。

そしてそれは00002号が暗号を解読した二週間後に実行された。

芳川は普段研究所では見せない様な優しい顔で貴女はもっと我儘になっていいと言った。

生まれてからここまでの出来事を振り返り、もう一度、三人の顔を見渡し00001号は思う。

――本当にミサカは幸せだ。

と。

――ミサカは殺されるのが怖かった。痛いのが怖かった。だからこの人たちも痛い思いや苦しい思いはして欲しくないです。とミサカは幸せを噛み締めます。
137 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/03(土) 00:24:51.63 ID:mAbJ85Uao
1レスの量が減って来ていると思う今日この頃。
ない
はい、本日分終わりです!

やっと書き溜めの方は話が動いてきました。
あと投下3〜4回後には多分そこまで行ける

どうさ読んでやっください。

138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(空) [sage]:2011/12/03(土) 00:28:54.48 ID:mH/gpHOU0
ひゃっほーい! 楽しくなってきた
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 00:32:15.50 ID:YHH1I6UDO
乙乙
垣根くゥンがかっこよすぎて生きるのが辛い
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 00:38:12.05 ID:f/oI2Zjko
メインキャラみんないい奴過ぎて泣ける
幸せになってくれ・・・
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:36:14.87 ID:Cln5MpuZo
これ全部iPhoneで書いてるんだったら凄いよな
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 10:59:38.96 ID:e3Pf7WJNo
あくせられェたァァァァん…
思いっきり殴られろよォォォォ
143 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/03(土) 14:39:23.29 ID:mAbJ85Uao
話が動きはじめたけど亀のごときスピードで書いててイライラするwwwwww
はやく書きたいシーンがあるというのに

書きたいといえばシーンじゃないがちゃんと完結させてあとがきというのが書いてみたいwwww


16:00〜18:00の間に投下しますんでよろしくお願いします

144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/12/03(土) 14:58:23.09 ID:sUQ59EIFo
待ってます
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 16:01:36.96 ID:Cln5MpuZo
16
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 17:21:27.38 ID:Cln5MpuZo
17
147 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:29:29.43 ID:mAbJ85Uao


投下はじめます


148 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:30:05.19 ID:mAbJ85Uao
〜〜〜

「あ、あの……」

ドクターペッパーがお気に召さなかった00002号に垣根がルートビアを勧めていると、00001号が小さく手を挙げ三人に語りかける。

「ん?どうしたミサカちゃん」

「お前もドクペ飲みてェのか?」

「ドクターペッパーは一度は飲んでおいた方がいいですよ、とミサカはアドバイスします」

三人ともすぐにミサカ00001号に意識を向け、話を聞く態勢をとる。

「いえ、そ、そのぉ……作戦に……疑問があるので……」

しっかり注目してくれた三人に嬉しく思う反面緊張もしてしまい、声はだんだん小さくなる。
149 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:30:56.47 ID:mAbJ85Uao
「疑問?なになに?言ってごらん」

「俺ァは自分だけ殴られるのが疑問だァ……あ、垣根くゥン……一発でいいから殴らせろよォ」

垣根は興味津々に聞き返し、一方通行が、冗談を言う。
00002号は心配そうに00001号を見つめる。

――メンタル弱い子ですからね、一方通行の口の悪さにビビってしまわないようにフォローするから意見はちゃんと言うんですよ、とミサカは心の中でエールを贈ります。

そして、ミサカ00001号は一方通行の冗談に、それです!と反応をした。

「あ?……俺が殴られるって……ことか?」

00001号は頷く。

「え、演技なんてしないでちゃんとに説明すればそれで解決するんじゃないですか?とミサカは一方通行だけが痛い思いをするのは心苦しいと主張します」

「……気持ちはありがてェが、それは無理だ」

決して本人にはその気はない、そして垣根・00002号もその様な事は気にしない性格である。
だが、恥ずかしがり屋で臆病な00001は、それが突き放した怒ってる様に見えてしまう。
150 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:32:29.85 ID:mAbJ85Uao
「あぅう……すみません……出しゃばっちゃって……とミサカは反省します……」

しょんぼりと小さくなる。

「ちょっと、一方通――」

「ミサカちゃん、言いたい事は全部いいなよ?」

00002号が、言葉と目つきがキツイ!と文句を言おうと口を開くが、それを遮る様に垣根が00001号にアドバイスを与える。

「……ン」

一方通行も聞く準備は万端だ、と頷く。

「で、では……いわせてもらいますよ?……あの、ミサ、カは……00002号みたいに、強くありません……そして、お二人みたいに自分の中に絶対的に信じる正義を持ってるわけでも、ありません」

顔をやや下に向け、三人の顔を目だけでちらちら見ながら話す。

「芳川博士みたいに、小さな子供を立派は青年に導く言葉をもってるわけでもありません。そんなミサカが何かを守れるわけもありません、自分の命すらあなた方四人に任せきりです」

段々と言葉に力がついてくる。
それはミサカの本心からの言葉だからだと、三人は理解する。
151 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:36:09.28 ID:mAbJ85Uao
「こんな状態で言うのは無責任だと思いますが、ミサカは誰にも傷ついて欲しくないのです。ミサカも傷つく誰かを守れるくらい強くなって見せます」

最初下を向いて話していたが、今はゆっくりと、三人の顔を順にみながら、自分の気持ちを必死に話している。

「だけど今はまだ、頼む事しか出来ません。だけど、どうかお願いします!一方通行だけ傷つくなんてそんな作戦は考え直してもらえませんか?」

心の内、全てを吐き出したからか、ミサカの顔はスッキリと清々しいものだった。

「ありがとうよ、だが心配するな。俺も垣根も芳川も、お前らの命を救う為ならどンな痛い事も笑って我慢できる。だから、気にすンな。大切な人の為の苦労は嬉しいンだよ」

言葉をやや選びながら一方通行は言う。

「そンで、これは『俺が完璧に負ける』事が何よりも大切な事なンだ。だから、出来レースみたいな負けた演技じゃだめなンだ。あと、俺は殴られたって傷つかねェよ。そンな事にビビってお前らを見捨てた方が傷つくンだ」

垣根が00001号の頭を撫でる。

「それに傷つくとしても一方通行だけじゃない、現にミサカちゃんも『一方通行が傷ついたら嫌だ』って心を痛めてるだろ?友達ってそういうもんなんじゃないかな?」

そして、最後によく全部言い切ったな、頑張った。と頭を二回、たたいた。

――ミサカが心配する事なんてないね……そりゃそうか、ミサカのお姉ちゃん……だもんね!

ミサカ00002号は頭を撫でられる00001号を見て、一人微笑む。
152 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:38:47.39 ID:mAbJ85Uao
〜〜〜〜

廃墟の様な外観の建物に、芳川は一人いた。

しかし、廃墟の様に見えるのは外だけで部屋の中はほどほどの研究設備が整っている。

子供たち四人が楽しく過ごしている間も、芳川は自身のやるべき事を進めていた。

「打ち止めをあの男が完成してしまったら、実験を止めても悲劇が起きる……悲劇のヒロインが私なら大歓迎だけれど、あの子達がヒーローやヒロインになってしまったら……」

153 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:40:17.13 ID:mAbJ85Uao
妹達は発電能力者という点と学習装置により整頓された脳構造という点を生かし、ミサカネットワークというものを形成するはずであった。

そのネットワークは簡単に言えば、妹達限定のテレパシーである。
言葉だけではなく、視覚聴覚などあらゆる情報を送受信、共有、また各個人の記憶のバックアップも取れる。

そして、そのネットワークを制御するためだけに生み出そうとされている個体がいる。

それが最終信号である。

――あの二人が私抜きで造られたという事はあいつはもうクローンを自力で作れるということ。

芳川はキーボードをカタカタと叩きながら最悪のケースを考える。
154 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:42:01.26 ID:mAbJ85Uao
――つまり一ヶ月後には百人単位の妹達が私たちを襲いはじめてもおかしくはないって事ね。

――そして、慎重なあの男なら打ち止めの管理能力を駆使せずそれを行う事はない。

昼間垣根が入れた冷め切ったコーヒーをマグカップに注ぐ。

――そうなったら、打ち止めの直接命令を解除するウィルスがいるわね、まずそれを作りましょう。

冷めたコーヒーを一口飲む、それは冷めて時間が経っているにも関わらず温かな旨味があった。

――心配なのはお姉さんのほうのミサカちゃんね。個性が弱すぎる、あれだと最悪直接命令を受けてしまう可能性がある……。

「まぁ、何がなんでも救ってみせる」

その目には決意と科学者としてのプライドが燃えている。
155 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/03(土) 17:46:44.72 ID:mAbJ85Uao
投下おわり!
少なくってごめんね!でも書き溜めつきちゃったんだよ!

さぁ、打ち止めの名前が出て来ましたね
今はまだ名前だけですけどね

書き溜めて進んだらまた日付変わる頃にくるかもしれません
読んでくれて、レスくれてありがとうございます
嬉しいです
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 18:23:33.48 ID:Cln5MpuZo
一話毎に区切りをつけて投下したらいいと思います、
と提案して見ます
157 :じゃあ妹達達との遭遇一日目まで投下しておく ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/03(土) 18:59:56.61 ID:mAbJ85Uao
〜〜〜

「なァ、夏休みって学生にとっちゃビッグイベントだよな?」

四人がそれぞれ胸の内に潜む熱い思いを吐き出し、受け止めた余韻に浸っていると一方通行が突然口を開いた。

「遊びたい盛りの中学生だし、そりゃあビッグイベントだろ」

学校に通ったことのない妹達は答えられる訳もない。
垣根もおおよそ普通とは言い難い学生生活を送っているのであくまで一般論を述べる。

「夏休みまであと一週間ちょいだよなァ?」

「そうだな、でもそれがどうかしたのか?」

「いや、だったら一週間以内にケリつけてやりたくねェか?」

似合わない事は承知なのだろうか、少しだけ照れている様にも見える。

「なんかお前この頃というか今日だけで一気に優しいやつになったな」

茶化すわけでもなく、垣根が素直な感想をこぼす。

「でも、優しいのは良いと思います。一方通行はお姉さまに気兼ねなく夏休みを全部きっちり満喫して欲しいんですよね?とミサカは推測します」

「うんうん!ミサカも賛成だな、その為に明日はミサカが上条当麻と絶対接触してくるよ」

妹達に褒められ、一方通行は頬をほんのり赤らめる。
肌が白いのでよく目立つ。
158 :じゃあ妹達達との遭遇一日目まで投下しておく ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/03(土) 19:04:08.01 ID:mAbJ85Uao
「あ、そうだ。ミサカちゃん達さえよければこれからみんなでここに住まない?」

数時間前に一方通行と話していた事を思い出し、垣根は脈絡なく切り出す。

「え?初めからそのつもりですよ?芳川博士はミサカ達の警護、世話は二人に一任すると言っていましたし、ね?00001号?」

「は、はい!とミサカは00002号に同調します」

「なんだ、ならいいや。じゃあそういう事で」

あっさり、みんなが一緒に住むことが決まった。

「芳川にはいつ話すンだ?」

「明日また来るだろ?そん時で」

二人が家具とかキチンとした部屋割りとかは全て終わったあと考えようと話し合っていると、ミサカ00001号が小さく手を上げた。

「……別に手を挙げなくたって勝手に話していいンだぜ?」

「あ、はい……いやくせの様なもので……とミサカは……あぅうう」

「いやいや、手を挙げたっていいんだぜ?むしろ立派だ!では、ミサカちゃん」

垣根が学校の先生を演じるかの様に芝居がかった口調でミサカを指名する。

「は、はいッ!えっと、家賃とか食費とかその、お金は……とミサカは社会の中で暮らすのに一番の懸案事項を尋ねます」

「俺と一方通行の折半でいいよ、な?」

「おゥ」

「で、ですが――」

「その代わり!」

遮る様に垣根が口挟む。

「うまい飯を毎日作ってくれ!」

ミサカ00001号は、笑顔で元気よく頷いた。

「……ミサカそんなこと考えもしなかった……図々しい子でごめんね」

ミサカ00002号は世話になるのが当たり前と思っていた節があり、00001号がしっかり考えている事を全く気にも止めなかったことを恥じていた。

「ははは、お前は掃除洗濯してくれればいいよ。料理もミサカちゃんに習って二人で協力してやればそれでいいさ」

「あァ、どっちかが出来ねェ事を片方がやって支えあってけばいいンだよ」

笑いながら二人は言う。

ミサカ00002号も、パァと笑顔になり、わかった!と元気よく頷いた。

その後、二人は和室へ、一人は寝室へ、一人は和室の隣の部屋でそれぞれ眠りに落ちた。
159 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/03(土) 19:18:01.61 ID:mAbJ85Uao
二日目書き終わったら投下にきます!
多分明日の昼間か月曜日の夜

月曜日は昼間ネット環境なくなるので書き溜めしておきます
そこで一気に一方通行VS幻想殺し
まで書けたらいいのう

では、また読んでください
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/12/03(土) 20:24:29.22 ID:ZCHLwEcbo
乙!待ってる
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/12/03(土) 20:48:27.81 ID:oqzHjTPYo
楽しみにしてる
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 21:12:37.92 ID:YHH1I6UDO
乙乙
ミサカちゃんかわええのう
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長崎県) [sage]:2011/12/04(日) 03:50:33.11 ID:Mr/vwNa80
乙!
やべぇこれ面白い!
164 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/04(日) 07:07:40.37 ID:ex9AI0hxo
芳川×一方通行といいつつ芳川はほぼ空気。
一方通行よりも垣根のが主人公っぽい。

垣根「奪われても、与えることから」

のがスレタイあってる気がするんだぜい

眠れなくて二日目書いてたら書き終わっちゃったwwwwww
垣根の主人公化が止まらない二日目を食らえっ!
165 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/04(日) 07:08:52.73 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

次の日、垣根と一方通行は目を覚まし感激する。
まず目を覚まし二人を襲った違和感はいい匂い。
ここ十年起きて不快な思いをした事は何度もあったがこんなに幸せな香りを感じたことはなかった。

LDKへ飛び込むと、そこにはエプロン姿の妹達がいた。

「お、おおおお!」

垣根は思わず感嘆の声を上げる。

一方通行はフライパンをそっと覗き込みながら冷蔵庫を開け缶コーヒーを取り出す。

「あ、おはようございます。とミサカは挨拶します」

「おっはよー、二人とも!目玉焼きとウィンナー焼いてるからちゃんと食べてね。とミサカは初めての料理だけど自信満々!」

「おう、悪りぃ少しテンション上げすぎた、おはよう。早速ありがとうな」

「おはよーさン」

男二人も食器を並べるのを手伝い、すべて用意するとミサカ00002号の号令に続きそれぞれいただきますをした。
166 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/04(日) 07:09:57.44 ID:ex9AI0hxo
朝食は大満足の出来であった。
皿洗いはまた垣根と一方通行で行い、それが終わると00001号が紅茶を淹れてくれた。

四人で談笑しつつのんびり飲むと、ミサカ00002号は上条と接触する為外出。
00001号も芳川の研究所で手伝いをする為、垣根は芳川へ同居の話を持ちかけるため外へ出た。
167 :この辺高くないクオリティがさらに低くなってる気がする ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/04(日) 07:11:58.43 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

朝早く朝食を摂ったためティータイムを挟んでも学生の投稿時間には十分間に合った。

ミサカ00002号は先日上条当麻と出会った公園当たりをうろついている。

しばらくうろついていると、学生の姿がそんなに街中に見えなくなった。

朝の遭遇は失敗と諦めかけた時、聞き覚えのある声が耳に届いた。

「ふ、不幸だぁああああああ!なんで目覚ましの電池がセットした時間の二分前に止まってんだよぉおお!おかしいだろ!」

叫びながら走るのは探し求めた上条当麻である。

叫びながら走るという、効率的にも、見た目的にもかなり酷い姿をさらしている。

遅刻しそうだし、声をかけるのはやめようかなと思い、身を隠そうとした瞬間、上条の方がミサカに気がついた。

「ん?あれ、おーい!御坂妹ー!思ったより早く再会出来たな、上条さんは嬉しいですよ!」

この瞬間、ミサカ00002号のミッションが始まった。

「……おはようございます。とミサカは挨拶します」

「……あれ?まぁ、おはよう」

上条は早くも違和感を覚えたようだ。
168 :この辺高くないクオリティがさらに低くなってる気がする ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:13:27.04 ID:ex9AI0hxo
「遅刻しますよ?とミサカは立ち止まったあなたに走るべきだと忠告します」

「あー、学校はいいや。サボる、それよりお前のお姉さまに連絡つかないんだけどなんか知ってるか?」

「しりません。とミサカは即答します」

「……お前、昨日会った御坂美琴の妹だよな?」

「……そうですが?とミサカは肯定します」

「……体調でも悪いのか?」

心配した様な目でミサカ00002号の顔をまじまじと見つめる。

「いえ、体調は良好です、とミサカはあなたの推測は間違っていると答えます」

「そうか?なら……いいけど……なんかあった?」

「実験のため感情を消去されました。とミサカは事実を簡潔に述べます」

「感情を……消す?」

「はい。とミサカは即答します」
169 :この辺高くないクオリティがさらに低くなってる気がする ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:15:13.88 ID:ex9AI0hxo
「……なんの、実験なんだ?」

「第一位、一方通行をレベル6にする為、私達ミサカ妹達が二万体殺される実験です」

「二……万……?殺す?……何を言ってんだよ……おい!」

上条は明らかに怒っている。
ミサカの言ったことが事実ならばその実験に、嘘ならば質の悪い嘘をつくミサカに。

「大声を出さないでください、事実を言ったまでです。とミサカは暗にうるさいと伝えます」

「そんな実験があっていいと思ってるのか?」

「あなたが何に疑問を感じているのかわかりません。とミサカは即答します」

上条は無言で電話を取り出し、ミサカに背を向けると、とある番号をプッシュする。

コール音が二〜三度なると、そのまま留守番サービスへ繋がった。

「くっそ……御坂はこんな時にどうしちまったんだよ、電話……でろよ」

イライラした様子で携帯電話を操作し、もう一度掛ける。
が、御坂美琴が出ることはなく、また留守番サービスの音声が流れて来た。

「……チッ、俺だ上条当麻だ。これ聞いたら折り返しかけてきてくれ……妹と実験のことで話がある」

上条は仕方なく留守電を残す。

そしてミサカから詳しく聞こうと振り返るが、そこにはもうミサカの姿はなかった。

「なんだってんだよ……クソッ!」

上条の咆哮は虚しく響く。
170 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:16:30.96 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

「おはよう」

「おはようございます、芳川博士。とミサカは挨拶します」

垣根とミサカ00001号は芳川の研究所へ来ていた。

「おはよう、二人とも」

徹夜で作業していたのか芳川の目の下にはクマが浮かんでいた。

「一人で徹夜で何やってたんだよ、まだやることあるなら俺らにちゃんと話せ」

疲れを隠しながら笑う芳川を見て、垣根は寂しそうに言う。

「俺も一方通行もお前と近い位置から物事が見える様になった、少なくとも十年前よりは……だから、俺達を頼ってくれよ」
171 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:17:16.56 ID:ex9AI0hxo
垣根は悔しかったのだ。
昨日自分達が笑いながら過ごしている間、芳川だけが一人画面に向かって頭を悩ませていたと言うことが。

「……そうね、ごめんなさい。でもこれは私の頭の中にしかないものだから、手伝ってもらうことは出来ないわ」

芳川は嬉しそうだ。
そして、反省もした。
自分が十年でした以上の成長を彼らはしたのだと思い知った。

――高校生からの十年と小学生からの十年は全く違うものなのね。

「……コーヒー淹れるよ、飯もなんか適当に作るぜ?」

垣根はそう言うと湯を沸かしはじめる。

「ふふ、ありがとう。帝督の淹れたコーヒーは美味しいから……嬉しいわ」

「うん……」
172 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:18:27.78 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

芳川と垣根が話をしている間、ミサカ00001号は脳構造を計測する機械へと自身をつなぐ。

計測が終わるとその結果と生まれたばかりの妹達のそれと比べる。

――やはり、ミサカの脳構造は綺麗すぎますね……。

その結果を芳川に渡すと、芳川も少し顔をしかめた。

「散歩して来てもいいですか?とミサカはお二人に尋ねます」

丁度垣根がコーヒーを淹れ終え、簡単な朝食を作り終えた所であった。

そう、垣根は料理が出来るのだ。
腕もミサカより断然良い。

それでも、ミサカの料理を喜んだのは、やはり誰かが自分のために作ってくれた料理というのは格別だという事だ。

「そんなら俺も行く、ふらふら散歩して買い物して帰ってこようぜ」

時刻は午前八時半。
散歩するには十分すぎる時間があった。
173 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:21:35.10 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

一方通行は一人残された部屋で考える。
右手には缶コーヒーが握られている。

――なンで俺は簡単に妹達を受け入れ信頼することが出来たンだ?

それは、昨晩垣根に言われた『優しくなった』という言葉。

一方通行は元々かなり優しい子だ。
性格的にはミサカ00001号と同質のものであった。
だが、度重なる裏切りや人間の汚い部分だけを十年間見続けた一方通行は一部の人にしか優しくしない子になった。

――わっかんねェなァ

答えの出ない問題にイラつき、コーヒーを一気に飲み干す。

答えが出ないのはミサカ達がした行為は一方通行にとって初めての体験だったから。

それは純粋すぎるくらいの無警戒に他者から信頼を寄せられること。

妹達は一方通行と垣根に一つもの警戒をしていない。
その無条件の信頼が、一方通行にすんなりと妹達を受け入れされた。

一方通行の反射〈拒絶〉は、自身を傷つけるものだけに適用されるのだ。
174 :この辺の時間は気をつけて書きましたが何かおかしなところ気づいたら教えてください。伏線とかではなくただのミスですw ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:23:04.54 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

「ふぅ、っと。ミサカはなんとか気づかれずに逃げ切ったことに安堵します」

垣根の予想通りの行動を起こした上条を思い出し、ニヤリと笑う。

「ミサカ女優にでもなろうかな……」

自身の演技の出来を自画自賛しつつ、第七学区のとある宿泊施設に向かう。

――もしミサカがお姉さまならこの学区の一番綺麗なホテルに拠点を置く、だから絶対……いや、きっと……うんまぁ、多分。お姉さまはここにいる……といいなぁ。

そうして十数分歩きたどり着いたのは見事、御坂美琴が利用しているホテルであった。

――あとはお姉さまが出てくるの待つだけだね。

時刻は午前九時十分。
175 :この辺の時間は気をつけて書きましたが何かおかしなところ気づいたら教えてください。伏線とかではなくただのミスですw ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:25:29.66 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

着信を告げる音楽で御坂美琴は目を覚ます。

そして、直感的に相手が誰だか分かり、泣きたい様な苦しそうな顔をした。

着信が切れ、少しホッとする。
が、それもつかの間、またすぐになり出した。

――なんなのよ、アンタは……。どうして普通とは違う道を選んだ途端構ってくれるの?

また、切れた。
三度目がかかってくることはなかった。

携帯電話は着信があったことを告げるランプをチカチカと点灯させる。

着信履歴を消そうと携帯電話を手に取り、ひらく。

そこには、着信一件と留守番一件を知らせるメッセージが表示されていた。

――最後に、声くらい聞いてもいいよね?

留守番を再生する。

そして、御坂はその選択で最も知られたくない事を最も知られたくない人に知られてしまったことを知る。
176 :この辺の時間は気をつけて書きましたが何かおかしなところ気づいたら教えてください。伏線とかではなくただのミスですw ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:28:14.10 ID:ex9AI0hxo
『妹と実験の事で話がある』

――あいつがこの事を……なんで知っているのッ?

咄嗟に思うことは、巻き込んではいけないということ。
そして、上条に捕まるのもダメだということ。
捕まったらきっと甘えちゃう。
そうでなくても絶対に首を突っ込んで来て大怪我する。
美琴は上条にそんな目にあっては欲しくなかった。

――早めに妹達を捕まえて、次の実験の日時を聞かなきゃ。

そうと決まればと、御坂は服を脱ぎ捨て、変わりにタオルと新しい下着を手に取り、シャワー室へ入る。
そして、思い出した様に洗面所に備え付けられている電話を手にするとフロントに三十分後にサンドウィッチをもってくる様にオーダーする。

時刻は八時五十分。
177 :この辺の時間は気をつけて書きましたが何かおかしなところ気づいたら教えてください。伏線とかではなくただのミスですw ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:29:01.13 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

上条はぼんやりしていた。
ミサカに逃げられ御坂からも、折り返しの電話はない。

これからどうしようと、考え込む。

――もう一度、妹と……いや、その前に御坂に会っときたい……。

「よし、寮に行ってみるか……」

両手で頬を軽く叩くと上条は立ち上がり、歩き出す。

上条は何としても首を突っ込んでやると誓った。
178 :この辺の時間は気をつけて書きましたが何かおかしなところ気づいたら教えてください。伏線とかではなくただのミスですw ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:29:54.33 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

御坂、上条と遭遇したら面倒だと、垣根とミサカは第七学区を避け、第十五学区を散歩していた。

「あー、それにしてもあっついなー」

垣根は胸元をぱたぱたと煽る。

ミサカは顔を真っ赤にしながらそんな垣根のあとを子犬の様について歩く。

「ん?どうした顔真っ赤にして」

「いや、あの、お、お姫様抱っこで飛ばれたものですから……その、恥ずかしかったです。とミサカは垣根さんの常識を疑います」

垣根の顔を見るのが恥ずかしいのか、目を合わせようとはしない。

「悪かったよ、そんなに……嫌だったのか」

素直に詫び、少しだけ落ち込む。
179 :この辺の時間は気をつけて書きましたが何かおかしなところ気づいたら教えてください。伏線とかではなくただのミスですw ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:31:02.58 ID:ex9AI0hxo
「い、いえ!全然嫌ではありませんでした。とミサカは勘違いを正します」

身を乗り出し、垣根の目をまっすぐ見ながらいう。

「お、おう……なら、よかった。……あの、近いんだけど?」

ミサカが身を乗り出したので、二人の距離は十センチくらいである。
二人がちょっとずつ前に出れば口付けを交わすことが出来るほどの近い距離。

「はぅううあっ!とミサカは、ミサカは……あぅうう」

慌てて体を引き離す。

「おう、まぁ落ち着け」

「ご、ごごめんない。とミサカは赤面します」

大袈裟にミサカは頭を下げる。

「いや、別に嫌じゃなかったし、なんかいい匂いしたし気にしてないよ」

垣根のその言葉にミサカはさらに顔を赤らめる。

「まぁ、水に流そうぜ。なんか飲むか?」

「はい。あ、ちょっと待ってください……00002号が水を欲してる気がします。とミサカは垣根さんに報告します」

「お、なんだ?双子パワーか?まぁ、俺らが家出て、二時間近くたつか?あいつに金渡すの忘れたし買ってってやるか!」

ミサカの突然の発言に面白そうだ。とウキウキしながらコンビニへ入る。
そして親ガモを追う子ガモの様にミサカはついていく。
180 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:33:00.30 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

「で、ミサカちゃんはどこにいんの?」

買い物を済ませ、コンビニを出た二人。
二人の手にはアイスがひとつずつ。

垣根の持つ袋にはアイスとスポーツドリンク、そしてそれらが温まってしまわぬ様にと大量の氷が入っている。

「えぇっと、第七学区のホテル?だと思います。なんか可愛い綺麗な感じのところです。とミサカはこたえます」

ミサカが答えたことに垣根はギョッとした。

「ふ、双子パワーすごいな」

「あ、ただそんな気がするだけなので……とミサカは自信はない事を強調します」

「おう、わかってるぜー。しかしあのホテルか……」

記憶を頼りに、ミサカのいうホテルにあたりをつける。
今いる場所からは遠くもないが近くもない。

「……また、飛んで行ってもいいか?」

垣根は先ほどの事もあり、遠慮がちにいう。

「ま、またお姫様抱っこですか?と嬉しい様な恥ずかしい様な……」

「……だよなぁ、電車でいくか」

少しでも嫌ならばやめようと、垣根は電車で行くことを提案する。

「あ、あの!でもアイス溶けてしまったら勿体無いので……とミサカは暗に飛んで……行きましょうと提案……します」

顔を真っ赤にしながら、垣根のシャツの端を掴んだ。

「お、おう。んじゃアイス食っちまったらいくか」

垣根は話しながらすでに完食しており、ミサカはまだ半分ほど残っている。

「は、はい!とミサカは元気良く返事します」
181 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:33:59.42 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

「暑い、まじで死んじゃう……お姉さまなんで出てこないの?」

ミサカは暑さでクタクタになりながらもはや『いるかもしれない』ではなく、完全にそこにいると決めつけている。

「……なんか今ミサカ00001号が美味しいもの食べてる気がする」

ホテル前のベンチに座りながら、独り言をこぼす。

明日からは水筒を借りて冷たい飲み物を持ち歩こう。とミサカは決心しながら、御坂美琴が出てくるのを一人、ずっと待つ。
182 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:35:15.36 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

サンドウィッチを食べ終えた御坂はパソコンに向かっていた。
絶対能力者進化計画の機密情報をハッキングで強奪。
妹達がどこで管理されているか、調べるためだ。

もちろんそれも芳川が用意したダミー情報なのだが……。

御坂はその情報をじっくり読み込み、妹達がこの時間は第七学区内を研修の為散策していることという情報を得る。

外に行こうと、バスローブを脱ぎ、常盤台中学校の制服に着替える。

時計をみると一時間半ほど経っており、時刻は午前十時四十分。

――とりあえず、上条当麻にこれ以上接触しない事と、次の実験の日時を聞き出さすことね……。

ポケットにゲーセンのコインを詰め込み、最後にスカートの下に短パンを履いた。

「よし、いくわよ」

御坂美琴は決意を新たに外へ出る。
183 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:36:28.92 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

「そろそろ着くぜ……っとあそこにいるのミサカちゃんじゃね?」

垣根に抱かれるミサカは顔を真っ赤にし、反応しない。
垣根が空からミサカの姿を発見し、本当に言われた場所にいた事に驚きつつ、ミサカ00002号の後ろに舞い降りた。

「……あつい」

ミサカ00002号は気づいておらずじっとホテルの入り口を睨みつけている。

ミサカ00001号も未だフリーズしたままだ。

どうしようかな、と人差し指で頬をかく。
そんな垣根に名案、妙案が浮かんだ。
ニヤリと、いたずらっぽく笑うと袋からよく冷えたスポーツドリンクを取り出す。

そーっと近づき、それをミサカの頬に当てる。
184 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:36:56.71 ID:ex9AI0hxo
「はーい、ご苦労様ミサカちゃん」

「はうわぁー、っとミサカはミサカはミサ……び、びっくりしたぁ……」

ミサカは肩をビクッとさせ、とびあがった。

「あっははは!悪りぃ悪りぃ。ほれ、アイスとジュース。気がつかんくて悪かったな、この暑さじゃ下手したら死ぬのに……」

申し訳ない、と軽く謝りながら袋を差し出す。

ミサカがお礼をいい、受け取ると、時計を確認し固まったままのミサカ00001号を00002号に任せ垣根は昼ごはんの買い物に行った。
185 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:39:24.78 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

「で?空のデートはどうでした?」

ミサカ00002号はアイスを美味しそうに食べている。

「な、何故知っているんですか。とミサカは驚きを隠せません」

ミサカ00001号は、慌てた様子でミサカ00002号の顔を見る。

「そんな慌てなくていいですよ。ミサカ00001号にはいろんな事を体験させるために作戦実行はミサカが買って出たのですから」

「うう、なんかすみません。ミサカばっかりいい思いをしてるみたいです。とミサカは引け目をかんじます」

「いいんですよ、ミサカ達は姉妹ですから、それにミサカ00001号には万が一があるだけミサカの方が運がいいです。……変わってあげれたらどんなにいいかと」

ミカサ00002号はしおらしい甘える様な声をあげた。

「いいんですよ、ミサカ00002には毎日楽しませてもらってますし、昨日だって臆病で恥ずかしがり屋の私のために一方通行に注意しようとしてくれたではないですか。とミサカは妹を抱きしめます」

二人は同時に生まれミサカ00001号はただ名前の番号が一つ若いだけだ。
それだけだが、ミサカ00001号はちゃんとに姉をやっていた。

「……絶対に負けないでね……お姉ちゃん」

片方は甘える様に、片方は包み込む様に、仲の良い姉妹は抱き合う。
186 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:40:24.54 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

「だっかっらっ!俺は怪しい者じゃありませんよ!御坂美琴の友達です。あいつ最近様子が変だったから様子を見に来てるだけですよ」

上条当麻は常盤台中学寮、寮監に捕まっていた。

だが、道場の余地はない。
昼間に女子校、それも中学校の寮の周りを思いつめた顔でうろついていれば捕まっても文句は言えまい。
187 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:41:22.38 ID:ex9AI0hxo
「まぁ、不審者だったことは認めますよ。高校生が昼間にうろついてるんですもんね……でも、本当に心配で……」

すがる様な目つきで寮監を見る。

「……はぁ。ったく、御坂のヤツはどれだけ迷惑かければ気が済むんだ……」

髪を掻き上げ、心底鬱陶しそうに疎ましそうに吐き捨てる。
それは本気で御坂を心配し、その身を案じている様に上条の目にうつった。

「……寮監さんも心配ですよね」

上条がぽろっとこぼすと寮監は眼鏡を外し、レンズを拭きながらいった。

「……御坂はしばらく寮に帰らないと言って出て行った。でも“仕事”がたんまりあるから必ず帰ってくると私に誓って行ったぞ。だから、あいつは無事帰ってくるさ」

――御坂は今まで私との個人的な約束は破ったことがないからな。

そう言い残し、寮の中へ姿を消した。

「……寮に帰らねぇって事はホテル暮らしでもしてんのか?」

上条は、御坂の好きそうな宿泊施設にあたりをつけ、走り出した。
188 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:43:36.19 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

昼ごはんは何がいいか垣根は悩んでいた。

一方通行に電話したところ肉、と一言言われ切られた。
芳川に電話したら麺類が食べたいとの事だ。

「麺類ってのは決定だが……なににしようかな俺は今パスタな気分だがそれだと肉が少なくなりそう何だよなぁ……この季節に肉うどんは……ないしなぁ」

あれこれつぶやきながらスーパーへの道のりを歩く。

考えながら歩いていると、角のところで人とぶつかった。

「ぬお、すまんっ!考え事しながら歩いてたわ……って上条か」

「こちらこそ急いでたもんで……って垣根か」

見知った顔で、お互い少しホッとする。

転んだ上条に右手を差し伸べ、彼の右手をつかむ。

――ちょうど良かった。自然に右手に触れることも出来たしな。

演技用の仮面を被り、笑いかける。

「まぁ、立てよ。改めて済まんかったな」

「いえいえこちらこそ……ってそうだ!垣根は一方通行と仲いいんだよな?」

礼をいいつつ、垣根が振るまえに実験の話を降ってきた。
189 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:45:21.51 ID:ex9AI0hxo
――こいつはいい道化っぷりだ。俺の手のひらで面白いくらい思惑通り踊ってくれてるな。

「そうだな。一方通行が正しい事をしていれば例え世界中を敵に回しても、俺は一方通行側につく。
逆に世界中が一方通行の味方でも、それが俺と一方通行の正義に反する事だったら、どんな感情をこの身に宿していても俺は一方通行をぶん殴る……」

垣根のこれは演技ではない。
言葉は多少大袈裟でも本心だ。

「一方通行の為なら俺は死ねるし、俺の為ならアイツは死んでくれる。そんな関係だ」

その台詞を聞き、上条の目に怒りが芽生える。

「その、一方通行が今、どんな実験をしているか知ってるのか?」

「あぁ、もちろんさ」

「それはお前らの正義に反しない真っ当な実験なのか?」

上条は拳を硬く握る。

「……あぁ、もちろんさ」

「嘘だな」

垣根は、そのまま殴られるのを覚悟していた。
しかし上条から拳は飛んでこなかった。
190 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:46:32.62 ID:ex9AI0hxo
「ははっ、何言ってんのお前?俺のなにを知っていて、何をもって嘘だと判断してやがるんだ?」

「お前はさっきから何かを隠している、いや何かもっと違うな……そうだ、舞台に立ってる様に見えるんだよ」

焦る。
ここで見破られたら計画はご破算だ。

「普段の俺をしらねぇ野郎が何言ってやがる……付き合ってらんねーな」

「逃げるのか?一方通行の親友だ、お前もレベル5なんだろ?そんな230万人の頂点が、最下層の俺から逃げるのか?」

「議論ってのは同じレベルのやつじゃないと成り立たねぇんだよ。レベルが違うとお話にならねーんだ」

「いつまでそうやって自分を誤魔化すつもりだ!嘘を吐き続けるつもりだ!そんなんで本当にいいのかよ!」

上条の目は真剣だ。
たった一回、会っただけの垣根にこんなにまで真剣だ。

――なんなんだよこいつはマジで。

垣根は混乱していた。

――だっておかしいだろ?別に友達ってわけじゃ……あ。

『俺たちもう友達なんだし』

「なんとかいったらどうなんだ」

――そうか、こいつはいつでも本気なのか。だから、信用に足る人物と分かれば一瞬で気を許すのか。だからあった瞬間友達だと言いやがったのか。
191 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:47:56.90 ID:ex9AI0hxo
「ハッ!馬鹿らしいな」

――俺はそんなの認めねぇ。俺は無条件に人に好かれて良い人間じゃねぇんだ。そんな人間を無条件で友達と呼ぶやつを信用したりしねぇ……。

「上条、最終忠告だ。このまま俺の前から消えろ、そして二度とツラ見せんな」

「……そうやってまた嘘つきやがって……いいぜ、お前がそれで心から笑える日がくるってんなら、そんな薄っぺらい仮面で俺を騙せると思ってんなら――まずはそのふざけた幻想をぶち殺すッ!!」

ついに上条は殴った。
垣根は避けようともしない。
上条の拳はまっすぐ垣根の左頬に吸い込まれていった。
垣根がよろける。

「……借りは作らねぇ主義なんでな」

態勢を立て直し、上条の腹へ能力を使わず一発叩き込む。

「そっちはだいぶ手を抜いた様だが悪りぃが俺は手加減しなかった。じゃあな、地べたに這いつくばってろ」

そう言い残し、垣根は歩き出した。

「くっそ……まち、やがれ……」

上条はうずくまり、遠ざかる垣根の背中を見つめる事しかできなかった。
192 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:49:04.79 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

「あ、でてきた」

ミサカ00001号との抱擁を解き、照れ隠しにスポーツドリンクを飲んでいると待ち続けた人がホテルから出てきた。

「さて、00001号はどうしますか?とミサカは一緒にくるかここで待ってるか選択肢を与えます」

ミサカ00002号は作戦用へギアを変える。

「ミサカが一緒にいてもヘマをやらかすだけなのでお任せします、とミサカは自分の不甲斐なさが嫌になります」

嫌なことから目を背ける様に目を伏せる。

「気にしないでください。とミサカはミサカの女優振りを見守って欲しいと伝えます……では」

そう言い残すとミサカ00002号は御坂の元へ歩み寄る。

「ごきげんよう、お姉さま。偶然ですね。とミサカは死ぬ前にお姉さまに会えた幸運に感謝します」

急に声をかけられ、しかもそれが自分が探そうとしていた人物だから驚いたのか御坂は咄嗟に反応することができなかった。

「……無視、ですか?とミサカはお姉さまに反応を求めます」

「あ、あぁ……ごめん。貴女が私の……クローン?」

「ええ、そうです。第一位・一方通行に殺されるためだけに生み出されたクローンです」

無表情のままミサカは言い放つ。
193 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:52:32.23 ID:ex9AI0hxo
「そう、あんたはそれに何も疑問を感じないの?反抗しないの?生きたいと思わないの?」

「一方通行に殺される、それがミサカの生きがいですから。とミサカは疑問も反抗も生きたいとも思わないと即答します」

「……感情ってもんが……本当にない……の?」

御坂は涙をこぼした。

殺される為だけに生み出され、楽しいとも嬉しいとも思う事が出来ず、ただただ死んでいく自分の妹を心から不憫に思った。

「はい、ありません。とミサカは肯定します」

視線を逸らし、御坂の涙を視界に入れぬ様にしながらミサカはいった。

「そう、そっか」

御坂は至近距離まで近づきく。

「これが、温かい……って……事よ」

優しくミサカを抱きしめ、人の温かさを伝えようとした。

「覚えておいて、あなたは死なない。私が実験を止める、だからあなたの姉を、常盤台の超電磁砲・第三位の御坂美琴の事を……私の熱を忘れないで……姉らしい事なにも出来ないままでごめんね」

御坂の計画は『1手目で死ぬ事』であった。
128手目で死ぬはずの御坂が1手目で死んだら研究員はどう思うだろう?
『《樹形図の設計者》はまちがえたのではないだろ?御坂美琴に価値はないんじゃないか?それのクローンを二万体殺しても絶対能力者には届かないのではないか?』と思うことだろう。
それが狙いであった。

それゆえ、御坂は実験中に一方通行に戦いを挑もうとしていた。
そして、その時の被験体となった妹には申し訳ないが一緒に死んでもらおうと思っていた。

仮に御坂が1手目で死んだとしても、その実験までは続けられるだろう。
と思っていた。

だから、一緒に逝こうとしていた。

だが、今、妹達の一人と数回のやり取りをしてその意志は変わった。

――もうこれ以上一人も殺させてたまるか。

――第三位の誇りにかけて、超電磁砲の名にかけて、なにより……この子達の姉として……。

「そうだ、これあげる……」

ミサカの体を離すと御坂はカエルのキャラクターが描かれたバッヂをミサカにつけた。

「ふふ、大事にしなさいよ!あ、妹達ってあと何人いるの?」

涙を拭き取りながら、今度は笑顔を振りまく。

「今のところ培養器から出されているのはこのミサカともう一人だけです。とミサカは正直に答えます」

「そっか、じゃあこれはその子にあげて!」

そういうともう一つバッヂを取り出しミサカに握らせた。

「じゃあ、私はやる事が出来たから行くわ、本当は遊びたいけど……ごめんね」

別れ際、御坂はまた泣きそうな顔をしたがなんとか堪えた。

そして一度も振り返らずミサカの前から姿を消した。
194 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:54:18.78 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

「あー、いってぇーあのウニ野郎思い切り殴りやがって……」

「だ、大丈夫ですか?とミサカは垣根さんの心配をします」

午前中、それぞれの仕事を終えた五人は再び家へ集まっていた。

買い物を終えた垣根はミサカ二人を、一人は抱え、一人は背中に乗せ芳川の研究所まで飛び帰った。

そこから芳川の運転する車でここまで一方通行のまつマンションへと帰宅した。

「昼は俺が作ろうと思ってたんだけどなぁ……」

上条に殴られたところが時間が経つに連れ腫れ上がっていき、とても料理などできる状態でなくなった。

「オラ、出来たぞ。席につけェ」

そんな垣根の代わりに料理を昼ごはんを作ったのは00002号と一方通行だ。

00001号が作ろうと、台所に向かうと00002号に止められた。

――ミサカと一方通行でやるから00001号は垣根さん看ててよ

そういう00002号の服にはバッヂがついている。

――わかりました。とミサカはお礼を言います、けどそんなんじゃないですからね?

そう答える00001号の服にも、同じようなキャラクターのバッヂがついていた。

「一方通行料理出来んじゃん!」

ミサカ00002号が喚きながら五人分の肉のたっぷり入った焼きそばを運ぶ。

「あ?ンなもンレシピみてその通りやりゃあ完成はするに決まってンだろ、作り方書いてあンだからよォ」

面倒くさそうに手を払う。

「決まってないよ、ミサカ出来ないもん」

「それが普通だ、俺は料理は出来てもレシピ通りの味気ないもンしか出来ねェ……お前らみたいに人を喜ばすもンは作れねェよ」
195 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:55:13.63 ID:ex9AI0hxo
その言葉にミサカ両名と芳川は嬉しそうに笑う。

「ふふ、ありがとう。晩御飯はまた私につくらせてね」

一方通行の頭を撫でる。

一方通行はやめろと言いつつまんざらでもなさそうだ。

みんな揃っていただきますとごちそうさまをする。

皿洗いは腫れは引かないが、痛みは落ち着いて来た垣根と芳川、ミサカ00001号が自主的に申し出た。

「あ、そうだ」

何かを思い出した様に垣根が手を止める。

「どうしたの?」

ミサカの拭いた皿を受け取りながら芳川が聞き返す。
196 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/04(日) 07:57:37.42 ID:ex9AI0hxo

「芳川、お前もここに一緒に住めよ」

「んー、嬉しい申し出だけど今は遠慮するわ」

当然二つ返事で了承すると思っていた垣根と、二人の会話を盗み聞く様に聞いていた一方通行は過剰な驚きをみせた。

「な、なんでだよお前今あの研究所に住んでんだろ?あそこよりマシじゃねぇか?」

「あ、あァそォだよ。仕事の心配なら俺垣根と同じ部屋でいいしお前に二部屋やるから一個仕事部屋にすればいいだろ?」

芳川に関する事になると、二人は子供の様なわがままを言ってしまう。
それほどまで二人は理由は違えど芳川と一緒にいたいのだ。

「今は、って言ったでしょ?全部解決したらお邪魔するわ……全く子供みたいなわがまま言わない!」

ピシャリと言いつける。

二人は嬉しそうにごめん、とだけいい片方は作業もう片方は休憩へ戻った。
197 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:59:00.83 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

皿を洗い終え一方通行とミサカ00002号のいる部屋へ三人が戻ると、炎天下の中にずっといたミサカは疲れたのか眠りこけていた。

「ミサカちゃん、タオルでも――」

言われる前にミサカはタオルケットを用意しており、垣根にわかっていますよという様に笑いかける。

「……姉妹、だもんな」

垣根も笑った。

一方通行は缶コーヒーを飲みながら芳川と話をしている。

「……今は何をやってンだ?」

「そうね、まぁ、万が一への対策?」

「想定し得る最悪の万が一ってのはなンだ?」

疲れているのが見てわかる芳川を一方通行は一方通行なりに心配しているのだ。
198 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:59:54.91 ID:ex9AI0hxo
「上条君との戦闘の時にその万が一が頭によぎると動きが鈍るから教えてあげない」

意地悪く笑う。

「チッ……あまり一人で抱え込むなよ」

だが、一方通行は知っている。
芳川がどれほど優しいかを。
この意地悪にも自分を気遣ったただの意地悪ではないことを。

「ありがとう」

はにかみながら芳川は一方通行の不器用な優しさに嬉しさと照れ臭さを交えた感謝をする。

そんな二人をみて、垣根は満足そうに笑う。

――芳川、どうかそのバカに『愛さなければ愛されない』って事を教えてやってくれ。そんなバカでも俺が唯一本気で喧嘩できる友達なんだ。
199 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:01:04.76 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

ミサカ00001号が目を覚ますと外はもうすでに赤かった。

「あ、あれ?ミサカ寝ちゃってたのか….…みんなは?というか一方通行は?」

客間には誰もいない。
一日家にいることになっている一方通行もいない。

「……どっかいったのかな?書き置きとか……ないか」

いつも食事をするテーブルの上に何かメッセージが無いかと思いみてみるがテーブルの上には埃ひとつ乗っかっていなかった。

「みんな、ミサカ置いてどっかいっちゃったの……?」

急に心細くなり、御坂美琴にもらったバッヂを握りしめる。

そのまま、ぼんやり立っていると左手のドアが突然開き、体を強張らせる。

「お、起きたか。ミサカちゃんなら芳川と研究所行ったぜ」

出て来たのはその部屋の主である垣根。
それに続き一方通行も出てくる。

「……怖い夢でもみたのかァ?」

涙目になっているミサカにすぐさま気づき、起こってる様な口調を投げかけてくる。

「べ、別に泣いてないですよ!なんでもないったらない!」

プイと顔を背ける。
200 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:02:27.38 ID:ex9AI0hxo
「よし、じゃあオヤツ食おうぜ!さっき買ってきたんだ」

「こいつ湿布買いに行ってケーキ買ってきやがったンだぜ、信じらンねェよな」

垣根も一方通行も深く追求してくることはなく、それぞれ冷蔵庫と食器棚に向かう。

「……ミ、ミサカもなんか手伝う」

垣根のわかりやすい優しさと一方通行のわかりにくい優しさ。
ミサカ00002号はその二つを大事に胸にしまう。

「じゃあコーヒー、缶だけだと飽きると思ってちゃんと豆から揃えて買ってきたから淹れてみてくれ!」

「ちょ、いきなりハードル高すぎない?」

「冗談だよ、そこに使い切りのあるだろ?それ三つ作って、お湯いれるだけだから」

「わかった」

三人で準備し、三人同時に椅子につく。

椅子についた瞬間ミサカが思い出した様に声をあげた。

「芳川博士と00001号には?」

「差し入れて来たからあんしんしろ」

それを聞いてホッとしたようだ。

ご飯を食べる時と同じ様に同時にいただきますをして、スイーツに舌鼓を打った。
201 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:04:16.22 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

夜。三人でデザートを食べた後、今日の目標を二つとも午前のうちに達成してしまったミサカは一方通行と垣根と共に家で過ごした。

芳川と00001号を交えて晩御飯を食べると、風呂に入ってそのままソファで眠ってしまった。

「布団敷いてくるわ」

「いや、俺がやるからお前はそろそろミサカ迎え行ってやれ」

電話がもうくるぞ、と予言する様に一方通行は和室に向かう。

そして一方通行が部屋から出た瞬間、真っ白の携帯電話が着信を告げた。

電話を取り、了解とだけ言って切る。

和室で布団を敷く一方通行にいってくるわ、と挨拶し、ミサカ00001号の待つ研究所へと飛び立った。
202 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:04:59.68 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

「ギリギリって所かしらね、正直不安要素しかないわ」

芳川は困った様に言う。

「そう、ですか。とミサカは芳川博士に迷惑をかけていることを心苦しく思います」

ミサカも同様に困った様に言った。

「バカね、迷惑なんてかけられちゃいないわよ。まぁ、今あなたは帝督と仲良いみたいだし、これからが勝負よ。いろんな意味でね?」

芳川が冗談っぽく笑うと、ミサカは顔を赤くし芳川に反論した。

「だから、別にそういうあれじゃありませんっ。とミサカは断固主張します」

「はいはい、分かったわ。……ほら、お迎え来たわよ」
203 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:06:19.76 ID:ex9AI0hxo
二人が話していると、なんの話してるんだ?と垣根が部屋に入って来た。

「ただの女同士の内緒話よ」

芳川はミサカを見てニヤニヤとしている。
ミサカは聞かれてはいないかとヒヤヒヤしていた。

「まぁ、いいや。あ、これ夜食だから良かったら食ってくれ」

垣根はあまり興味がないのかあっさり引いた。

「あら、ありがとう。帝督が作ったの?」

「ん?あぁ、おにぎり握ったのは一方通行で味噌汁作って魔法瓶に詰めたのは俺」

「ありがたくいただくわ」

芳川は心から嬉しそうにそう言った。
204 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:07:13.87 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

ミサカを抱え三度目の飛行。
ミサカは相変わらず大人しくしている。

――女の子って柔らかくて華奢だな

落とさない様にしっかり抱きしめ垣根は空を飛ぶ。

ミサカの温かさが心地よく、すぐ帰るはもったいなく感じ、すこし寄り道したくなった。

「ちょいと寄り道していいか?見せたいものがあるんだ」

「はい、構いませんよ。とミサカは即答します」

「サンキュー」

言いながら方向転換する。
205 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:08:27.14 ID:ex9AI0hxo
降り立った場所は小高い丘の様なところ。

そこは街の光もそんななく、星が綺麗に見える場所であった。

「綺麗だろ?ミサカちゃんに見せたくなったんだ……」

「すっごいですね。とミサカは声を失います」

垣根はミサカを降ろそうとせず、ミサカも降りようとしなかった。

二人は無言で空を見つめる。

垣根は今の幸せの終わりを疑いはじめる。
一方通行がいて、芳川がいて、ミサカがいて……そんな幸せの中に自分がいていいのか?
愛される資格などない自分がいていいのか?
大事なものが増えるたびに、垣根の『愛される資格はあるか?』という問いは『愛される資格などない』と言う決めつけに変わっていく。

まるで一人暗い中に取り残されている様に感じていた。
206 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:09:47.31 ID:ex9AI0hxo
「垣根さん、ありがとうございます。とミサカはお礼を言います」

無言を打ち破る様にミサカが口を開く。

「ミサカはあなたにとても感謝しています。もちろん一方通行や芳川博士にもですが……ミサカ達が今生きてられるのはあなた達が本当の強さを持っていたからです」

ミサカは垣根の腕から降りると、垣根と向き合う。

「自ら迎え役を買って出てくれて、嫌な顔一つせずにミサカを抱えて飛んでくれる。そしてこんな景色をも見せてくれる。ミサカはとても幸せです。と今の気持ちを吐露します」

垣根は考えるのをやめた。

――今夜くらい、この綺麗な星空に夢を描いてもいいよな……。

そして、笑った。
ミサカもつられて笑う。

二人は夜空に夢を描き、その夢に繋がる扉を開く鍵をこれから探しにいくのだ。

「ミサカちゃん、こちらこそありがとうな」

言いながら垣根は飛び立つ。

その胸にしっかりとミサカを抱きしめて……。
207 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:10:51.59 ID:ex9AI0hxo
〜〜〜

夜風に吹かれながら一方通行はウイスキーを一杯煽る。

――最近はわからねェ事ばかりだ。

一方通行は垣根が味噌汁を作りはじめた時何事かと思った。

理由を聞くと『ミサカちゃん迎えにいくついでに芳川に夜食持っててやるんだ』と答えた。

――なンで俺はそれにたいしてこう……なンつーかざらついた気持ちを感じてンだ?

もう一杯、ウイスキーを飲み干す。

――なンだ?なンだよ?なンなンですかァ?このイライラする様なさみしい様な気分はよォ……。
208 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:11:24.93 ID:ex9AI0hxo
「おう、風呂あいたぜ」

顔に新しい湿布を貼った垣根がベランダのドアを開け、出てきた。

「お疲れさン。お前も飲むか?」

もともとグラスは二つ用意していた。

「おう、いただくぜ」

なみなみ注ぐと、一気に半分くらい飲み干す。

「お前酒強いのか?」

「いや、そうでもない。多分これあと四回繰り返したら死ぬ」

「……そォか」

「お前は?」

「身体ン中にあるものなら大抵なンでも分解出来っからな」

垣根は相変わらず便利な能力だなと笑い飛ばす。

二人は無言で風の音を聞いている。
気まずさなど感じずむしろ心地よさを感じる無言。
209 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:15:23.93 ID:ex9AI0hxo
その静寂を一方通行が崩す。

「その頬、俺のためだろ?」

その目は全てわかっていると思わせる色があった。

「……お前だけ殴られて、それをみてるだけなんてムカつくからな」

垣根も否定したりはしない。

垣根は能力が無くとも強い。
命のやり取りを問われる実験の中で、一人も殺すことなく生き残ったのだ。
喧嘩慣れしているレベルの上条の拳などあくびをしながらでも避けられる。
垣根が殴られた理由、それは子供っぽい意地を張った結果だ。

「なァににムカつくンだよ」

「上条にだよ……この世でお前をぶん殴れるやつは俺だけでいたいんだよ」

垣根は残ったウイスキーを一気に飲み込む。

「殴られるわけじゃねェよ、殴らせてやるだけだ」

「……おう」

垣根はこの世で一方通行が唯一強いと認める男は垣根帝督だけでありたかった。
そして、自分が唯一勝てるかわからない男は一方通行だけであって欲しかった。

二人はどちらからともなく部屋に帰り、眠りについた。

一人は星の海に描いた夢を見るために。

もう一人は考えるのを一時辞めるために。

静かな夜が五人の上を通り過ぎて行く。
210 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/04(日) 08:19:44.72 ID:ex9AI0hxo
二日目終了
読んでくれてありがとう

投下予告とは何だったのか……
すみません、書いたらすぐ投下したくなっちゃうんです

二日目は夜通し書いたので眠かったり深夜の変なテンションだったりと、ガタガタな気がしなくもありませんので、酷かったら酷いと言ってくださいwwww
早寝早起きの戒めにしますwwwwww

そして、垣根は何なんでしょうね?
本当は主人公なんですかね?

よかったら次も読んでください、レスもくれると嬉しいです
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/12/04(日) 09:06:57.06 ID:8BnHJRaZ0
乙なんだよ!!

頑張って書ききってちょ
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 11:31:13.60 ID:+XrRdUdDP

すげぇハイペースとハイクオリティだな
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/12/04(日) 14:10:19.55 ID:OqpYS4teo
次の投下は夜?
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/04(日) 16:21:12.54 ID:19pVlTIGo
マジひっでぇぜ




おもしろすぎて次が気になりすぎるくせに投下スピードが早いなんて
次の展開へのwwktk感が酷い
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 18:31:00.55 ID:ZWoFk4uTo
乙!
ハイペースなのにクオリティが落ちないのが凄いな

このまま実験当日までは比較的平和なのかな?
美琴と当麻が二人の目論見以上に動き回ちゃって自体が急変―――みたいなのを少し期待してしまうww
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 19:47:33.97 ID:z9VlOmSbo
垣根がイケメン過ぎて辛い
217 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/04(日) 21:46:02.32 ID:ex9AI0hxo
文字数カウントするサイトで今まで投下した分数えてみたら五万五千文字くらいだった
原稿用紙140枚分とも出てた

正直クソワロタwwww
読んでくれる人がいるからですね
ありがとう

三日目はすこし短めだな日付変わる頃には投下します
218 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/05(月) 00:06:28.04 ID:8La7/OCFo
では投下はじめます

なんか三日目は書かなくて良かった気がするwwww

ではみっともない三日目を食らえっ!
219 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/05(月) 00:07:14.41 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

「おはよーう」

二日酔いでガンガン痛む頭を抑えながら垣根は三人に挨拶をする。

「おはようございます。とミサカは挨拶します」

「おっはよー、ってミサカも挨拶するよ」

「……ノーメイクでホラー映画出れそうだな」

三者三様の返事が返ってくる。

「ノーメイクでホラーって……そんな腫れてるか?怖くてまだ鏡みてねーんだが」

「そうですね、あり得ないくらい腫れてますよ。とミサカは心配します」

「ベクトル操作でなんとか何ないの?みてて痛々しいから治してあげたら?」

「いや、それには及ばなねぇよ。近いうちに一方通行にもこうなってもらうからな」

笑いながら垣根は言う。
220 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/05(月) 00:08:15.52 ID:8La7/OCFo
「今日はミサカは上条さんとお姉さまと同時にエンカウントしなきゃいけないのか」

自信なさげなミサカ00002号を、00001号が励ます。

「今日は私もそっちに回りますから、二人で手分けしてそれぞれ遭遇したあと何処かで落ち合いましょう。強く念じれば多分落ち合う場所は確認出来ます。とミサカは根拠はないがそんな気がすることを伝えます」

二人は喋りながらも手を止めない。
昨晩垣根の作った味噌汁がまだ余っているため、本日の朝食は和風だ。

ご飯の用意が整うと四人揃っていただきます。を言う。

食事中は一番食べるのが遅いミサカ00001号にあわせたペースで食べる。

そして四人揃ってごちそうさま。をしたら垣根と一方通行は食器の片付けを行う。

まだ二日目だというのに何年もそうして来た様に、四人の生活の歯車は噛み合っていた。

「今日は俺らはやることないな」

ミサカ達が出てった後、垣根と一方通行は洗濯物を片付けのんびりと過ごしていた。

「いやぁ、でもお前と再会して五日?六日か?まぁ、約一週間でよくここまで状況が変わったよな」

たかだか一週間だが、この一週間は濃かった。
一人ぼっちの十年間を取り戻す様に二人は様々な動きを見せた。
221 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/05(月) 00:09:13.92 ID:8La7/OCFo
「そォだな……あンがとよ」

一方通行は唐突に垣根に礼を言った。

「おいおい、何だよ突然」

自然と笑顔がこぼれる。

「お前が電話して来てくンなきゃ俺はまだ一人ぼっちだった。お前が芳川と連絡取ろうと提案しなきゃ俺は……こんなに楽しい時間を過ごすことは一生なかったと思う」

「よせよ、そんなの俺だって同じだ。お前が実験即決する様なやつだったらずっと一人だったろうし、俺も道を踏み外していたと思うぜ」

「俺らが今笑えンのはやっぱ芳川のおかけだな」

芳川、とその名前を口にする時の一方通行はとても優しい顔をする。

「ここ数日は心が蘇って行くようだったな。お前と再会して心を覆ってた氷が溶けた」

「芳川と再会して、あったかさが戻ったな」

「だな、ミサカちゃんと出会って」

――優しさを思い出した。

二人はまるで遠い昔の事を話す様にここ一週間の出来事を話した。
222 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:11:07.48 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

「そういえばさ、双子ちゃんパワー知ってるか?」

一週間の事を大抵話し尽くすと垣根が思い出した様に言った。

「双子パワー?」

「なーんかよくわかんねーけどあいつらテレパシーみたいの使えるみたいなんだ」

一方通行は疑る目つきで垣根を見る。

「マジだって!」

一方通行と垣根はミサカネットワークという計画があったのをまだ知らない。
だから垣根は双子の不思議パワー、一方通行は垣根の大げさに盛った話だとその時は思っていた。

「双子パワーは置いてといてよ……上条と戦う時って全治2〜3週間程度の怪我負わしていいのか?」

「いや、流石に可哀想だろ……せめて一日入院する程度に全力で上条の前後、左右に攻撃する感じにしてやれよ」

「……了解だ」

それでも十分死ねるだろ。
一方通行は心の中で垣根の判断基準に疑問を投げかける。
223 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:11:56.68 ID:8La7/OCFo
話しながら飲んだ何本目かのコーヒーを一気に飲み干すとそのまま立ち上がった。

「芳川ンとこ行ってくる」

芳川のところへ行く旨を伝えると、昼ご飯の買い物をついでにしてこいと言われる。

「ンじゃ、行ってくらァ」

玄関を出ると、そのまま大きなジャンプを繰り返し、芳川の研究所まで跳んでいった。
224 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:12:36.58 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

御坂美琴は困っていた。
一方通行に決闘を申し込み、計画通り自分が死ねばきっと妹達は救える。
そう信じ、昨日00002号と別れたあと一方通行の情報を集めていたのだが、所在がわからない。

書庫をハッキングして得た一方通行の住所には誰もおらず、目立つ外見を当てに目撃情報などを集めてみても学園都市の様々なコンビニでコーヒーを買い占めているというものしか出てこなかった。

――どうしよう、どうしよう……はやくしないと……。

気持ちばかりが焦る。

そこで御坂は気づく。

「あれ?妹達は今二人しかいないって言ってたわよね……?」

――これならいける……!

御坂は部屋を飛び出した。
225 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:13:09.31 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

「おや、今日もサボりですか?とミサカは不良学生に声をかけます」

上条当麻は初めてミサカと出会った自販機近くのベンチに座っていた。

「……正直わけわかんねーんだよ」

ミサカの質問を完全に無視して、語り出す。

「垣根は実験の事を全部知ってるみたいだった。その上でなにか嘘をついている」

上条は手を組み考えこむように地面の一点を見つめる。

「一方通行や垣根と初めて会った日さ、あいつら大喧嘩してさ……過去に何かあったみたいなんだ」

二人の苦しそうな表情と、その後のスッキリした表情を思い出す様に上条は言う。

「俺さ、昨日垣根と話した後考えたんだ。あの二人はなんで喧嘩したのかってさ……そんで二人は今回の実験のことで喧嘩したんじゃないか?って思ったんだ」

――大当たりだよ。多分それ、二人の過去は何となくしか知らないけどさ……。
226 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:14:00.15 ID:8La7/OCFo
「あの時、一方通行は本気で失望してたし、本気で怒ってた。垣根は人の話は最後まで聞けって怒鳴ってた。多分、なにか勘違いがあったんだ」

――なるほど、垣根さんが実験を受けたと思った一方通行が激怒……こんなところかな?

「今回の実験のことについてじゃないかもしれない、でも一方通行は決して自分の為に怒ってる様には見えなかった」

ミサカは上条の推測を聞きながら、心の中に温かいものが溢れてくるのを感じていた。

――あの二人は、ミサカと出会う前からこんなにミサカ達の事を大切にしてくれていたんだ……。

「俺には……人の為に研究所ぶっ壊す勢いで怒れる奴が、こんな……こんな酷い実験承諾するとはどうしても思えないんだ……」

「ですが、一方通行は実験に積極的ですよ?とミサカは口を挟みます」

「お前ら、何か大掛かりな舞台を演じてないか?」

「いません。とミサカは即答します」

上条はどうしても腑に落ちなかった。
あの二人が人を殺す事を良しとするような人間には見えなかったのだ。
227 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:15:09.63 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

「芳川……って寝てンのか……」

芳川はデスクに上半身を預け、居眠りしていた。

「何をやってるか知らねェし、オマエが俺に話していいと判断してくれるまで探ることもしねェがよ、体壊すような無理だけはしねェでくれよ?」

近くにあったタオルケットを肩にかけてやり、冷房の温度を少しあげる。

掃除上手の芳川には珍しく、部屋全体がごちゃごちゃしている。

それらをなるべく音をたてない様に簡単に片付ける。

「あ、懐かしいな」

本棚の中の一冊の本を手に取る。

「確か、俺と垣根で小遣いだしあって芳川の誕生日に作ったんだったな……」
228 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:15:40.24 ID:8La7/OCFo
二人が芳川と一緒にいた期間はそれほど長くない。
一方通行と垣根は二歳の時に同じ研究所に放り込まれ、七歳までの五年間同じところにいた。
二人が五歳になったばかりの時、芳川は彼らの研究室に来た。
だから、一緒に過ごしたのは二年ぽっちだ。

二人は芳川とすぐに仲良くなったわけではない。
半年ほどは芳川とどの様に接していいのかわからず、おどおどとしていた。

それでも、優しく笑いかけて来てくれる芳川と、二人は仲良くなりたいと心から思った。

それで渡したのが、この本だ。

内容は二人の少年が、初めて優しくしてくれた女の人と仲良くなるために奔走するという、ものだ。

これを渡した次の日、芳川は嬉しそうに研究所へくると二人を抱きしめた。

――懐かしいな……。

今でも覚えている、芳川の温かさと匂いを。

「ん……んう….…あれ?何してんの?」

思い出に浸っていると、芳川が目を覚ました。

「ン、なンでもねェよ……コーヒー淹れてやる」

本をそっと戻し、コーヒーを淹れはじめる。
229 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:16:12.04 ID:8La7/OCFo
「昼ごはンの買い物」

「え?」

丁寧にコーヒーを淹れながら一方通行はつぶやく様に言う。

「だから、昼ご飯の買い物」

「……一緒に行こうってこと?」

小さく頷く。

「当たり前じゃない……どうしちゃったの子供みたいよ?」

芳川は笑う。

一方通行は不安になったのだ。
芳川の温かさ、優しさ、それがまた失われる事を、自分から離れて行ってしまう事を……。
子供の様に甘えてしまうのは、子供だったら芳川はそばにいてくれると、無意識に思っているからである。

青年は少年へと変わり、守りたいと思ったものに守られている。

それがまた、一方通行の心を締めつける。
230 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:17:29.15 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

ミサカ00002号は上条との会話を垣根に報告し終えると、冷蔵庫から炭酸ジュースを取り出した。

「あれ?お金渡したよな?途中でなんも飲まなかったの?」

「節約だよ節約、レベル5は金銭感覚おかしいらしいからさ。我慢出来るレベルだったしね」

「……そりゃご立派な事で……でも夏は我慢せず水分とれ、倒れたら大変だ」

垣根はミサカに嫌味を言われ様ともミサカの身体の事を考えていてくれる。
上条の話の中で感じた暖かい気持ちがまた溢れ出す。

「……ありがと」

それが嬉しくてミサカは小さな声で、感謝の意を表す。

「当たり前の事だ……ところでミサカちゃんは今どの辺にいるんだ?」

垣根はどんな小さな声でもミサカ達の声はすべて拾う。
それがまたミサカを喜ばせた。

「朝家を出てそのまま別れたからわかんない」

「そうか、そろそろ昼ご飯の材料買った一方通行と芳川ももどっくるし呼び戻すか」

垣根は携帯電話を取り出しミサカ00001号へ発信した。
231 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:17:55.28 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

芳川が一方通行と買い物を終え垣根達の家にくると、なにやら慌ただしい雰囲気であった。

「やってくれるじゃねぇか御坂美琴」

御坂美琴という名前に一方通行が反応し、スーパーの袋を芳川に預けると垣根の元へ歩み寄る。
一方通行が口を開こうとするとそれを手で静止し、電話をスピーカーモードへ切り替える。

『なんで、垣根さんからこの子へ電話がかかってくるのかはわからないけど、丁度いいわ……一方通行を出しなさい』

「それは出来ねぇ相談だな……俺はミサカちゃんに用事があるんだ、そっちこそミサカちゃんを出せよ」

『この子は私が守る。昨日の子も、妹達は全員私が救う……アンタ達の好きにはさせないッ!』

「いい事を教えてやるよ美琴ちゃ――」

『お前が呼んでいいほど私の名前は軽くないッ!』

突き刺す様に怒鳴る。
232 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:19:46.72 ID:8La7/OCFo
「チッ……生意気な……いい事を教えてやるよ『第三位』ミサカちゃんは定期的に調整をしないと生きられない身体だ。つべこべ言わずに返せ」

『そんなの学園都市中の医者に頭下げて自分で解決するわよ』

「あー、そうしてくれその方がミサカちゃんを回収しやすいしな」

それは御坂にとっても非常に避けたい事態だ。

『くっ……一方通行に伝えて、明日、午後六時、第十六学区の操車場で待つ。……来たらちゃんとにそっちに返すわ』

一方的にそういい、電話を切った。
233 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:22:31.44 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

「お姉さま、これはどういう状況でしょうか?とミサカは説明を求めます」

ミサカ00001号は頑張っていた。
半強制的に御坂の利用するホテルのツインルームの一室に連れ込まれたかと思えば、ドアの前に仁王立ち。
そしてミサカの質問は無視して一言。

「バッヂ気に入ってくれた?ちょろっとここで大人しくしててね」

臆病な00001号だ。
いくら大好きなお姉さまとはいえ、泣いていてもおかしくはない。

だが、必死に冷静を装い『感情のないミサカ』を演じた。

ミサカ00002号や垣根や一方通行、芳川の頑張りを無駄にしない様に。
234 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:23:14.52 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

「まぁ、ミサカちゃんは平気だろ、美琴ちゃんはお前らを大切に思っているし」

垣根は電話を机の上に起きながらケロリと言った。

「……まァ、そうだな。問題はミサカの方だろ、パニクって泣いてンじゃねェか?」

「ちょっと、そんなミサカ00001号が悪い言い方やめてよ。あのミサカは強い子だよ」

「そうね、とりあえずご飯食べてから考えない?御坂さんがミサカちゃん達に危害を加えるなんてありえないし、ミサカちゃんが泣いちゃってって感情消されたとか嘘でしたーって知られた時の振る舞いを決めましょ」

四人は全く慌ててはいなかった。
00001号は少し怖い思いをしているだろうが、そんなの不安は御坂がすぐに取除くだろうと確信があった。

芳川はエプロンを身につけ、垣根に手伝いを頼んだ。
235 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:24:05.70 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

「一番の問題はこのままだと上条抜きで御坂VS俺になるってところだな」

残された二人は狂った計画をどうするか考えている。

「そうですねぇ……上条当麻は昨日垣根さんと話をした事によってミサカたちに疑惑を持ちはじめてます。一旦その冷静さをぶち壊して一方通行への怒りを爆発させるのはどうでしょうか?」

昨日今日と、実際に上条と話して思った事から提案をする。

「冷静さを壊す……かァ」

「例えば実際実験やってるとこに迷わせるとかどう?」

「……なァるほど、お前意外と性格悪りィな」

一方通行は心底楽しそうに笑った。
236 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:25:19.86 ID:8La7/OCFo
〜〜〜
夕方、ミサカは上条を発見し、声をかける。

「おや、今日はよく会いますね。とミサカは上条当麻に声をかけます」

上条は街中をフラフラ歩き回っていた。

「ん、あぁ、なんか……な」

「……すみません、ミサカから声をかけて置いてなんですが。用事が出来ました」

ミサカはくるりと向きを変えて路地裏の方へ歩いて行く。

「あ、おい、あんまそっち行くとあぶねーぞ」

上条もついてくる。

――計画通りです。

できるだけ複雑な道順を通り途中一旦上条を撒く。

そして、目的地においてある麻袋を担ぐ。

「ったく、待てっていって……ん……だろ?」

まず感じたのは異様さ。
そして不快な臭い。

「な、なんだここ……」

そして上条はあるものを発見する。

「そ、その靴……お前らと同じ……まさかっ!」

「はい、ここは本日の実験現場です。とミサカはここに死体回収に来た事を暴露します」

よく見ると周りの壁には血痕。
地面にも大きな血の跡があるのを見つける。

上条は死を間近に感じ、恐怖する。

体の震えが止まらず、膝をつく。

そんな上条を笑うかの様に、一人の男が現れる。

「おいおい、一般人をこんなところまで連れて来るンじゃあねェよ」

横の道から現れた男はミサカを睨みつける。

「な、なんで……こんな……」

「理由?ンなもン暇だからに決まってンだろォが……てめェもプチっとぶち殺してやろうかァ?ヒャハハハ――――」

人を殺す事をただの娯楽と笑う。

「……ふン、俺は先に帰る、てめェはさっさとそのゴミ処理してこい」

上条が反応をしないと分かると、つまらなそうにミサカに指示して去って行った。

その一方通行を見つめる目つきは激しい怒りで満ちている。
237 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:25:56.21 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

「あの、これはどういう状況でしょう?とミサカは無駄だとわかりつつ訪ねてみます」

御坂は電話を終えると、ミサカになにを食べたいか聞いて来た。

何でもいいと答えるとパスタがしばらくして、運ばれてきた。

それを二人で食べて、午後は御坂が喋り、ミサカがそれに対し適当に相槌、反応をしめしていた。

そろそろ暗くなるという時間になると御坂は一緒にお風呂に入ろうと提案した。

そして、二人は今仲良くバスタブに浸かっている。

「何って『姉妹仲良くお風呂に入る』の図よ。私妹出来たら一緒にお風呂はいって洗いっことかしたかったのよ」

気持ち良さげに顔を緩めている。
その頬をつつくとくすぐったそうに微笑む。
238 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:26:31.59 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

「なんかミサカ上条当麻が可哀想になってきたよ……」

芳川の車の中で一方通行とミサカが先ほどの件の出来について言葉を交わす。

「まァ、大成功だな」

二人は昼食を食べながら垣根と芳川にこの作戦を話した。
二人とも一言『鬼かお前らは』と言った。

その内容とは、実験が終わった現場を作り出し、そこにミサカ位の大きさの物が入った麻袋をミサカが担ぐ。
そこで、死体処理と言えば、相手は勝手に袋の中を死体だと勘違いしてくれる。

そこにその死体を作った本人一方通行を登場させることにより、上条が一方通行をはっきり敵と認識させるというものであった。

二人の作戦は成功、あとは明日御坂に呼び出された場所にどうやって上条も呼び寄せるかという事である。
239 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:27:01.97 ID:8La7/OCFo
〜〜〜

「これはいったいどういう状況ですか?とミサカは三度訪ねます」

二人は風呂を出るとバスローブを着た。
そしてミサカがベッドに入るとそのまま御坂もそのベッドに潜り込んで来たのだ。

「お願い。これが最初で最後でいいから今日は一緒に寝よ……」

御坂は風呂の時の様にふざけてではなく、思い詰める様に喉から声を絞り出す。

そして、ぎゅっと強くミサカの腕にしがみつく。

ミサカも優しく抱きしめ返し、二人は抱き合いながら眠った。

つかの間の姉妹の時間を体に刻み込む様に御坂は強く抱きしめる。

――私は明日、死ぬんだ。

死をゆっくり受け入れる、大丈夫、怖くないと言い聞かせる。

御坂は隣に感じる温かさに安らぎを感じ、眠りに落ちた。

240 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/05(月) 00:30:06.43 ID:8La7/OCFo
二日目の半分くらいか

三日目終わりです。
正直話に動きを与えようとして失敗した感じが否めせん

明日は一日投下休ませてもらうかもしれません


では読んでやってください、レスもくれると嬉しいです
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/12/05(月) 00:38:21.37 ID:rteor0AAO
気付いたら200ちょいまで伸びてた
嵐でも沸いたかと思ったわwwwwwwwwwwwwおつおつ

ワクテカが隠しきれない+(oO・∀・)+
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 01:08:20.16 ID:+M4UVYp/0
今更ながら期待支援
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 06:23:57.17 ID:ofeNP8qt0
わざと悪役に回るとか本当優しすぎるよなあ
244 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 09:03:27.47 ID:4DgKUCeIO
書き溜めしてるとiPhoneの電池がゴリゴリ削られるww
家に帰ってから書き溜めするので今日は昨日いったとおりできないかも
出来そうなら予告します!

一方通行vs幻想殺しは戦闘シーン自体は多くするつもりありませんが、上手な戦闘描写を書ける様になりたいのでその辺注目して読んだらアドバイスくれるとうれしい


245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 11:30:35.90 ID:UYQALq8Xo
乙!
妹達を救うためとはいえ二人の良心をもてあそぶようなことをしないといけないのが心苦しいな

ところで、作中では5人ともあまりその点に後ろめたさとか感じてないみたいだな
美琴が苦悩してる最中も和気藹々と飯食ったり空中デート楽しんだり……と
読んでて美琴への気配りはまったくしてないんだなと感じた(上条のほうも>>236ほどのことやってようやく00002号が少し気にしてる程度だし・・・・・・)

原作よりはるかに感情豊かなんだしせめて妹達だけでももっと姉への気配りや心配する場面が欲しかったかな
殴られる予定の一方通行のことは普通に心配してるせいで姉へ対応の差が余計に目立ってしまう
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) [sage]:2011/12/05(月) 12:10:00.84 ID:PFc5H7Ye0
それが今の「クローンの限界」じゃないの?
その場にいない第三者に共感できるほどの社会経験は積んでないと言う。
五人が五人とも、芳川ですらそれなりに社会不適応者であるということを示しているのかと思ってた。
それが裏の五人と、一般人?上条、良くも悪くも広告塔の御坂との差異かと。
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/12/05(月) 12:39:38.44 ID:T9T9mmZAO
そういうのはもっと上段階の心の余裕がないと出来ないと思う
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/12/05(月) 15:53:16.86 ID:dRhqfidoo
なんだかんだでガキか
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/12/05(月) 16:26:33.39 ID:8xRqw2pVo
原作がアレなんだから、深い意味は無いんじゃね?
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/12/05(月) 18:32:20.79 ID:auXrIyiwo
そもそも姉より一方たちと過ごした期間の方が長いからなー、
251 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/05(月) 20:25:57.66 ID:3u0jdhWIO
>>246-248
いつ俺のiPhoneみたんだよwwww
ってくらいそのままの流れでワロタwwwwww
やはりここの心情というか五人の感覚の説明は、四日目ではなく御坂美琴と妹達が出会った次の日の三日目に回せば良かったぜい

なんかこれ投下するの恥ずかしくなってきたwwwwww

また日付変わるくらいにきます
252 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/05(月) 22:33:13.81 ID:SgPc2EzIO
やっぱ日付変わる頃は無理そうです
1:00〜2:00頃になりそうです
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/12/05(月) 22:59:02.50 ID:riZGhMwGo
よしこい
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 01:10:15.60 ID:aP7n48dyo
追いついた
久々に読み応えあるモノ読めて満足
引き続き頑張ってください
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 01:28:15.87 ID:i8YWMl9IO
そろそろか?
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 06:59:46.85 ID:FroL5tato
新しい朝が来た
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 08:02:12.32 ID:Z3ILvu2Yo
午後つけわすれたのか
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 19:39:08.03 ID:Z3ILvu2Yo
おいまどか
259 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/07(水) 00:04:14.17 ID:Sklfe6xNo
なんか読み直して違和感というか納得いかないところがあって、書き直してたらなんか投下時間過ぎちゃっててうあーもうやめりゅー!ってなってなんかもうごめんなさい。
よけい自分でわけわからんくなったけど深く考えずに「単純娯楽」として読んでいただければ幸いです。

では一日遅れになりましたが読んでください
260 :この辺のこいつらの会話まじで自分でも変じゃね?と思う ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:04:59.49 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

「で、どォすンだよ」

四人は食卓に座りながら、上条を御坂との約束の場所へどうやって連れてくるかを考えていた。

「んー、美琴ちゃんはまだあそこのホテルにいんだよな?だったら……」

「だったら?」

「いや、スマンなんも思いつかねぇ」

垣根は頭をテーブルにつける。

「適当な事言わないでよ」

唇を尖らせミサカが垣根を軽く睨む。

「ミサカちゃんのファインプレーに期待してみない?」

焦る三人とは裏腹に落ち着いていた。
261 :この辺のこいつらの会話まじで自分でも変じゃね?と思う ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:05:49.42 ID:Sklfe6xNo
「ミサカちゃんだってなんとかしようとするはずでしょ?元々の作戦だって知ってるわけだし、今こうやって話し合ってるのを見越してどうにかしてもらおうなんて、丸投げしてくる子じゃないでしょ?」

コーヒーを一口飲む。

「それにミサカちゃんは今御坂美琴さんと一緒にいるのよ?情報はミサカちゃんが一番持ってる」

「ハッ、確かにそうだなァ……ンじゃあ俺らは俺らなりに上条に小技かけとくか……」

一方通行は席を立つ。

「だな!大技はミサカちゃんに決めてもらおう」

垣根も席を立った。

「じゃあミサカは早速上条当麻に接触してくるよ」

ミサカも元気良く立ち上がる。

「私も研究に戻るわ、偉そうな事言っといてあなた達に丸投げしてしまう形で申し訳ないけど……」

心苦しそうにうつむく。
そんな芳川の肩に一方通行は優しく手を置く。
262 :この辺のこいつらの会話まじで自分でも変じゃね?と思う ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:06:59.51 ID:Sklfe6xNo
「万が一への対策はお前に丸投げ状態なンだから気にすンな……お前の出来ねェ事は俺がやる、俺の出来ねェ事はお前がやってくれ」

「『俺』じゃなくて――」

「――『俺ら』でしょ!」

一方通行の言葉に垣根とミサカが不満そうに手をあげながら言った。

芳川は笑顔になる。
その視線の先にいるのは、二人にぶつくさ文句を言われながらからかわれている真っ白な少年だ。

「ふふっ、みんなありがとう……絶対にこの実験凍結させるわよ!」

三人は力強く頷く。
五人はやっと、凍結への大きな一歩を踏み出した。
263 :正直、このシーン入れればそれで満足だった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:08:46.40 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

「オリジナルと00001号が一緒にいるだとぉ?」

芳川がかつていた研究所。
その研究所の地下で妹達は生まれた。
そして今も、約三百人の妹達が生まれようとしている。

単価十八万円。
たった一月で十四歳相当の肉体レベルまで成長する造られた人間。

「なんでオリジナルが実験の事を知って……芳川か?……チッ実験は必ずどんな手を使っても始めてやる……」

紙コップに入ったコーヒーを飲み干すとそのまま潰して放り投げる。

「くっく……こいつがいれば00001号も00002号も言うことを聞かざるをえなくなるからなぁあ……」

下卑た笑みを浮かべた。
研究員が見つめる調整槽には『最終信号』と書かれている……。
264 :正直、このシーン入れればそれで満足だった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:09:35.70 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

「お姉さま、起きてください。とミサカは抱きつくお姉さまを起こします」

「う……にゃ……まだねるー」

御坂の表情は安心し切ったもので子供らしさで満ちている。
その身に宿る能力とは越えられない壁が存在する絶大な力を持った第一位との戦いも、そしてそのわかり切った、そして最も望ましい結果もその表情からみてはとれない。

「お姉さま、暑いですって。とミサカはお姉さまを引き剥がします」

「ぅうー……」

「まったく、子供ですか。とミサカはお姉さまの体温の高さに驚きます」

――最初は怖かったですが……お姉さまがミサカにひどいことするわけありませんね。さて、これからどうしましょうか。とミサカは考え込みます。

「あったかぁい……」

「……だから抱きつかないでください。あったかいというか暑いです。季節を考えてくださいとミサカは甘えん坊のお姉さまの頭を撫でます」
265 :コピーしきれてなかった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:10:15.10 ID:Sklfe6xNo
――とりあえず、上条当麻に連絡取らせますか。それが手っ取り早いですよねとミサカは垣根さん達が懸念してるであろう事項を解消させてみると意気込みます。……ミサカだって臆病だけど、やればできるんです。
266 :ここもなんかなぁ ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:11:11.04 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

「ミサカ何すればいいんだろ?小技って言っても……ねぇ…?」

勢いよく家を飛び出したのはいいが、何をするか全く考えていなかった。
当てもなく優しい陽射しの下を歩き回る。

――上条当麻はお姉さまに恋してるのかな?なんかやけに『美琴に連絡がつかない』って必死だったけど……。

二人が一緒にいるところをみれば、それが逆だと気づくだろう。

――もしそうならお姉さまも上条当麻を好きだといいな……。上条当麻は頭悪そうだけどお姉さま大事にしてくれそうだ。

木漏れ日の中をてくてくと歩く。
その身に降りかかるぬくもりは二人の少年を思い出させる。
一人はぶっきらぼうで言葉もキツイが、ふと気づくと優しい瞳で異世界のものを見守る様にみんな見ている。
もう一人は明るく元気だ、でもたまに一瞬傷ついた様な悲しい色を瞳に浮かべ、自分に言い聞かせる様に視線を下に落とす。

――あの二人も恋をしてるのかな?もしそうならミサカは嬉しいな、二人が恋してる人が、悲しいことや辛いことを一つでも多くあの人達から取り除いてくらたら……嬉しいな。

太陽が笑うように、あの人達に笑って欲しいと願った。
あの人達の笑顔は月の様に静かだ。
誰かが笑っていないと笑えない。
自分のために笑うことはない。
267 :ここもなんかなぁ ◆hZ/DqVYZ7nkr [sag]:2011/12/07(水) 00:11:56.63 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

「お姉さまさぁ起きろ、やれ起きろ」

「ごはんー?」

御坂はまだ寝ぼけているようだ。
目をこすりながらベッドの上に座っている。

「はい、これで目を覚ましてください。とミサカは備え付けのキッチンで作ったお味噌汁を差し出します」

うけとり、一口飲む。

「……美味しい。私より……料理うまいんじゃない?」

「やっと目が覚めた様ですね。とミサカはお姉さまの寝坊助っぷりに呆れます」

「う……しょうがないじゃない、アンタがあったかくて柔らかいから」

拗ねるようにミサカから視線をそらす。

「可愛いですねお姉さまは……。なんだか00002号の気持ちがわかりました」

00001号は御坂に聞こえぬようつぶやく。
268 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:12:49.70 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

それは二日目の夜、ミサカが芳川の研究所がら帰ってきた時のこと。
00001号が垣根と家に帰ってきた時、すでに寝息をたてていたミサカ00002号だが00001号が部屋へはいると目を覚ました。

――あ、おかえり、先、寝させてもらってるよ……。

――ええ、構いませんよ。今日はお疲れ様でした。とミサカはミサカ00002号を労います。

ミサカ00002号はまくらをだくようにうつ伏せになり、顔をあげた。

――うん、ありがと。……なんかお姉さまに会って初めて思ったんだけどさ、ミサカ達かなりお姉さまにひどいことしてるよね……。

――そう……なのでしょうか?とミサカはよくわかりません。

妹達はまだ生まれて一ヶ月である。
そして彼女たちを人間として、扱ったのは御坂を除けば芳川、一方通行、垣根だ。
その三人もそれぞれ到底普通とは言えない過去を背負い、人間付き合いなど皆無だ。

そんな彼らとしか接していないミサカ達にとって敬愛してるとは言え、まだその存在を直に感じた事のない人への配慮をしろと言うのも無理な話である。
さらに、失敗は死を意味している。
もし、例えばこれが命に関わらず、失敗したとしても笑い話にできるような案件であれば本来優しい二人である、心に余裕も生まれ御坂美琴・上条当麻という人間を想像し自分の中にイメージを作り、虚像ではあるがそれに対して優しさを見せただろう。

だが、ミサカらいや、五人とも今をなんとか生きる事で精一杯なのだ。
269 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:13:35.04 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

芳川は自室でパソコンの画面を見つめながら思う。

――どうして私は御坂美琴さんや上条当麻くんの事を『どうでもいい』としか思えないのかしら。

一方通行と垣根の話を聞く限り、上条当麻は二人の親友となってくれ得る人物だと芳川は思っていた。

――上条くんは二人を高位の能力者と知っていながら『普通』に接したらしいし、そんな帝督を第二位と予測した上で殴りかかった。

上条の行動は異常だった。
二人の喧嘩を見ればいくら能力を消せる右手があろうと嬲り殺されるのはわかるであろう。

だが、上条は退かなかった、垣根帝督から、絶対的な能力を持つ第二位から……。

――私は喜ばなくちゃいけないはずなのに、彼らの理解者が増えるかもしれない事を……なのに、どうして、私は……。

彼女もまたこの街に人生を狂わされている。
270 :このスレの芳川はかなりの天才設定です ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:14:51.60 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

芳川は一方通行、垣根と同じだ。
外の世界で余りに優秀すぎるため周囲の嫉妬により辛い思いをして来た。

芳川が二人を恐れず微笑みを向ける事が出来たのもそのためだ。

二人の子供は自分を対等に扱ってくれた。

初めて研究所に来た時、二人は覚えてなどいないだろうが芳川は二人にジュースをぶっかけられている。
二人は互いにお前が悪いんだろ、と言い合いながら大丈夫?ごめんね、とまるで同年代の子に接するかのような態度を示した。

芳川はそれが嬉しかった。

だから、二人を守ろうと思った。
芳川の中でのファーストプライオリティに二人がきた。

そして次第に懐いてくる二人に母性本能をくすぐられた。
二人の成長を見守りたいと思った。

つまり、芳川の一方通行と垣根に注がれる愛情は感謝からくるものが原点なのだ。

芳川にとって自分、一方通行、垣根の三人以外の将来はどうでも良かった。

いまはそこに二人が守ると決めたミサカも入っている。

何も失くさぬようにと頑張り続けた結果、芳川は自分の知らない自分をみる事になる。

社会から疎外された存在は社会の意とそぐわぬまっすぐさを持ってして育ち、やがて社会を疎外する。
それはその社会に適合させてもらえなかった負け組のレッテルを貼られる事と同意だ。
そして、芳川はそれすら受け入れている。
だからこそ一方通行と垣根には社会的に相応しく、まともなアドバイスを授ける事ができるのだ。

――そっか……。

芳川は理解した。

――今の一方通行達にとって御坂美琴と上条当麻は悩ませるだけの存在だから……あの二人と深く関わると一方通行達は傷つくから……だから、私は彼らを邪魔者だと判断してしまっているのね……。

「……まったく、自己分析も落ち着かないと出来ないなんて……余裕ないわね、本当に……」

言いながらパソコンの電源を落とした。
271 :唯一ぶれないはずのキャラがぶれるともうわけわからんくなる ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:16:05.25 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

二人は一日ずっと話をして過ごした。
そして約束の時間が近づいてきた頃、ミサカは切り出す。

「お姉さまは恋というものをしていますか?とミサカは尋ねます」

ミサカの質問に、一瞬目を細めた。

「さ、さぁねどうかしら……今思えば恋というより憧れだったのかな……?」

一人の男を思い浮かべながら答える。

「第三位であるお姉さまが、憧れ?」

「えぇ、私の電撃効かないのよ、そいつには」

自分の事のように嬉しそうに話す。

「……それはもしや上条当麻ですか?とミサカは勘ぐります」

「……そうよ」

少しだけさみしそうな顔をする。

「彼はお姉さまを心配していましたよ、電話をかけてあげるべきです。とミサカは余計なおせっかいをしてみます」

「……いいのよ、もう」

諦めるようにこぼす。

「……お姉さまのためではありません、上条当麻のために、です」

「アイツの……ため?」

「はい。とミサカは肯定します」

ゆっくり頷く。

「いいの、かな?」

もう一度頷く。

「でも……」

「でももヘチマもありません。人に心配をかけたら謝るものだと、智識として教えられましたが?とミサカは自身の知識をひけらかします」

上条のため。
そう言い聞かせ、御坂は携帯を手にとった。
妹のくれたきっかけが、『上条に何か言われたら決心が鈍るかもしれない』という弱い心を打ち砕いた。

そして、電話をかける。

コール音が数回すると、上条の声が聞こえた。

「ひ、久しぶり」
272 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:16:43.30 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

「おっす」

御坂は上条と約一週間ぶりに会った。

「お前、いままでなにし――」

「大丈夫」

上条の言葉を遮るように言う。

「大丈夫、心配してくれてありがとう。それをいまから止めに行くの」

「……どうやって?」

「心配しなくていいわよ、一方通行の弱点を見つけたから……最強の座から引き摺り下ろすのよ」

「それは、本当か?」

上条は御坂の言葉を信じちゃいなかった。
勝負をしようと言う人間がこんなに穏やかな顔を出来るわけがないと、そう思っていた。

「うん、本当。――賭けてもいいわよ」

御坂はただ笑った。
笑顔以外の表情がすべて消えた、純粋な笑顔を浮かべた。

それをみて上条は悟る。

――こいつ、死ぬつもりだ。

「じゃあ行くね」

御坂は上条に背を向け歩き出す。

「ま、まてよ!」

上条は御坂の肩をつかんだ。
細く、少し力をいれたら砕けてしまうのではないかと思うほど小さかった。
その小さな肩に一体どれほどの覚悟を背負っているか誰にも想像すら出来ない。

「ま、てよ」

「私、予定があるから……」

「一方通行に用があるんだ……今から会いに行くんだろ?俺も、連れてけ」

御坂は無言で上条の手を肩から振り落とす。
そしてそのまま全速力で走り出した。

「待ってくれ!」

上条は追いかけようとすると、それを止めるかのように行く手を遮られた。
273 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:17:14.84 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

「人の事呼び出しといて遅刻とか舐めてンのかァ?」

「……アンタを……殺す」

パチッパチッと御坂の周りで電気が弾ける。

一方通行はコンテナに預けていた重さを自身に戻すとコンテナを思い切り後ろに殴り飛ばす。

その轟音を合図に第一位VS第三位の戦いの火蓋が切って落とされた。

何かを考えるように御坂は目を閉じながらコインを構えると、一方通行は余裕を表情に浮かべながら両手を広げた。

そして、御坂がゆっくりと目を開けながら、自身最大の破壊力を持つ、二つ名にもなっている超電磁砲を全力で放とうとコインを上へ、弾き飛ばす。

しかし、その戦いに水を指すように、一方通行を銃弾が襲った。

銃弾は一方通行に届く事なく、真っ直ぐ撃った者の元へと反射される。

狙撃者はそれを予測していたように、横へ転がりながら避けた。

「一方通行、お姉さまとの戦闘は実験プランに影響が出ます。今すぐ中止してください。とミサカは報告します」

ごついゴーグルをかけた妹達の一人がそこにいた。
服には昨日ミサカが渡したバッヂ。

「はァ……引っ込ンでろ」

大げさにため息をつきながらその赤眼で睨みつける。

「引っ込んでなさい、大丈夫、私が助けてあげるから……それからもう一人の妹も自由の身だから安心して」

御坂は笑っていた。
安心しろ心配はないと、言うように。

ミサカは二人の言葉を無視し、銃を一方通行に向けたまま黙る。

「……オイオイオイィ、そりゃァ、ついでに実験も進めちまって良いってアピールかァ?」

ニヤニヤしながら一方通行は言う。

そして、一方通行は動いた。
御坂が、止めようとした時にはもう遅かった。

一瞬でミサカの所までたどり着き、ミサカの頭を掴むとそのままの速度でコンテナに突っ込む。
御坂が何が起きたのか理解する前に、そこからゆったりと一人で歩いて出てきた。

「さァ、仕切り直そうぜェ?」

まるで何事もなかったかのように御坂の前に立つ。

「う、そ……でしょ?だって、私が……守る……って」

御坂の目に様々な色が渦巻く。
やがて、それは一つに混ざり合う。
その目に浮かぶのは怒り。

「一方……通行ァアアアア!」

咆哮と共に、コインを弾き全力で超電磁砲を放った。
音速の三倍の速度で打ち出されたコインはまっすぐ一方通行に向かって行く。
二人の距離は三十メートルほど、コインが溶け切るまえに一方通行へ御坂美琴の必殺技は届く。
が、当然のように反射され、御坂の必殺技は御坂自身を必殺する脅威となった。

青白く光る閃光を見ながら御坂は潰されたコンテナに向かって微笑んだ。

そして、その光の矢が御坂に届こうとした直前。

「間、に合えぇえええええ」

おたけびと共に、英雄が文字通り飛んできた。
274 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:18:05.65 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

「超電磁砲はこれから一方通行とだーいじなお話があんだよ、邪魔すんな」

上条の行く手を阻んだのは真っ白い翼。

「垣根……邪魔だぁ!」

右手で翼に触れ、消すのと同時に走り出した。
が、直ぐに追いぬかれ、今度は垣根自身が演算をやめ立ちふさがった。

「いっても絶望するだけだぜ?俺は見たくもねぇツラに態々忠告してやってんだよ」

「そりゃどうも、お前の薄っぺらい仮面から出る言葉なんか信じない。俺を行かせたくないならお前の言葉で話せよ」

スピードを落とさずに垣根に向かって走る。

垣根はため息をつくと演算を開始、翼を展開させ上条を襲う。

それをなんとか避け、避けきれないものは右手で消す。

「チッ……クソ、その翼似合ってねーぞ!」

避けても消してもしつこくまとわりつく翼にイラつきながら、悪態をつく。

「ははっ!安心しろ、自覚はある」

対する垣根は楽しそうだ。

二人の距離が縮んだら上条はスピードをあげる、そしてジャンプし垣根の頭に右手を押し付ける。

翼が全て消え、垣根は頭を押された勢いでこける。
それを尻目に一気に走り抜ける。
今度は垣根が追ってくる様子はない。
そのまま全速力で御坂の向かったおおよその方向へむかう。
275 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:18:31.10 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

走っていると何かを殴りつけたような轟音がした。
御坂達だ、と判断し、音のした方へ進路を変える。

しばらく走ると、操車場へたどり着く。
そして、二人の姿を確認すると、右から白い翼が上条へ迫る。

咄嗟に右手を突き出し事なきを得る。

「……超電磁砲の無残な姿をみないようにあっちが終わる前に殺してやるよ」

垣根は二人と上条の間に割り込みながらあっちと、潰されたコンテナが二台ある方を指差した。

「クッソ……邪魔すんじゃねぇえええ!」

繰り出される翼を打ち消しつつ、垣根に向って走る。

「鬱陶しい右手だな」

言葉とは反対に垣根は楽しそうだった。

走りながら上条は垣根の後ろにコインを打ち上げた御坂とそれを静観している一方通行を確認する。

何かがヤバイと感じた。
上条は一方通行の能力がどのようなものか知らないが、このままでは御坂が死ぬと直感的に感じ取る。

――やべぇこのままじゃ間に合わねぇ……。

上条はスピードをさらにあげた。
体が悲鳴をあげる。
息が苦しいが、気にしない。

そして垣根の攻撃を左手で掴んだ。
垣根は上条を振り落とそうと翼を大きく前から後ろへ振り抜く、その衝撃を利用して、上条は御坂の元へと、飛んだ。
276 :一方通行の能力でこれはできねぇだろみたいのは見逃してくれると嬉しいです ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:19:35.50 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

右手を突き出しながら飛んだ上条はギリギリ超電磁砲を打ち消す事に成功する。

吹っ飛ばされた勢いで地面を転がるが、軽い擦り傷程度で済んだ。

すぐさま立ち上がり、一方通行を睨みつける。

「……お前をぶん殴りにきたぞ、一方通行!」

御坂は突然の乱入者に混乱、その背中をただ呆然と見つめるだけしか出来なかった。

「くくくか……くかきけこかかきくけききこくけきこきかかかーーー」

一方通行は奇妙な笑い声をあげると、腕を降り、風を上条にぶつける。

腕で顔をかばいながらなんとか踏ん張る。

「お前、最ッ高だよ!最ッ高にオモシレェなァ……ガタガタ震えてた野郎が俺をォ!この学園都市第一位を!一方通行様を殴るだとォオオ」

両手を広げ、大笑いする。

「やってみろよ三下がァアアア!」

そして、叫びながらレールを思い切り踏みしめる。
レールは生き物の様に、うねり上条を襲う。

「……ぶっねー」

それを右前方へ転がる事で回避する。

―― くそッ、どうやって近づきゃ良いんだよ。
277 :一方通行の能力でこれはできねぇだろみたいのは見逃してくれると嬉しいです ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:20:02.98 ID:Sklfe6xNo
上条が考えている間も、一方通行は様々な攻撃を仕掛ける。

地面を踏むだけで隆起させ、石を軽く蹴るだけで、コンテナに穴をあける。

上条はそれらを走り回りながらよけ続ける。

「なンだ!なンだよ!なンなンですかァ?その様はァァ?そンなンじゃ百年たっても俺を殴る事なンか出来ねェぞォォオ」

言いながら、先ほどよりも強い風をぶつける。

走っている上条に横から殴るように迫る突風は簡単に上条の体制を崩し、転けさせる。

そして、転けたところの地面を、一方通行は思い切り持ち上げた。

不安定な姿勢の上条はなす術もなく、吹っ飛ばされ、コンテナに激突する。

「あっ、ぐぅ……」

呻きながら、そのままコンテナにもたれかかった。

「もォ降参ですかァ?」

余裕しかない一方通行は一歩一歩上条に近づく。

そしてその首を、足とコンテナの側面で挟むように締める。

「チッ……うっぜェなァもう。弱いくせに楯突いてくるンじゃねェよ」

見下しながら、吐き捨てる。

上条は無反応だ。

つまらなそうにため息をひとつつくと、首から足を下ろした。
278 :一方通行の能力でこれはできねぇだろみたいのは見逃してくれると嬉しいです ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:20:56.19 ID:Sklfe6xNo
その瞬間、上条は目を開け、一方通行の足を右手でつかみ、力任せに横に振り抜く。

上条の右手により、能力を失った一方通行は無様に仰け反るが、直ぐに上条が手を離したため、なんとかバランスを保ち倒れこむのは回避する。
が、体制を立て直すよりはやく上条は拳を握りしめ、一方通行の顔面に叩き込んだ。

鼻血を吹き出しながら、一方通行は三メートルほど吹き飛ぶ。

「はぁ、はぁ、はぁ、どうだ……ちったぁ目が覚めたかよ最強」

肩で息をしながら変わらぬ眼光で一方通行を睨みつける。

「……あァ、悪夢から目が覚めたように清々しい気分だ……もう手加減はしねェ、お前を……殺す」

平坦な声で、最後の台詞は少し言うのを躊躇ったようだった。

再び、左足で足元にあるレールを思い切り踏みつける、上条はそれを待っていたようにレールに向かって走り出す。

――やっぱり……レールは一方通行の足元から波が伝わるように動いてる!

まだ上条の手前五メートルの位置に変化はない、そこが動き出す直前に上条はそのレールに足をかける。

そして、体のバランスを安定させるかのようにしゃがみ込むと、レールが波打った反動を利用し――先ほど垣根の攻撃を利用し飛んだように――一方通行へ飛びかかる。

「無駄だァ!」

右足で地面を掘るように蹴り飛ばす。
小石が散弾銃のように上条を襲った。
上条は一方通行の目の前に倒れこんだ。
279 :一方通行の能力でこれはできねぇだろみたいのは見逃してくれると嬉しいです ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:22:15.90 ID:Sklfe6xNo
「あと一歩だったなァ……上条ォクゥン?お前は本気で俺を殴れると、そこまで近づけると思ってたのかァ?」

一方通行は上条に近づき、その頭を掴む。

「……うるっせぇんだよ」

「ア?」

「うるせぇんだよ三下。自、分が傷つくのが怖くって、自分に嘘をついて……お前は、強いと思い込んでる、だけだ……」

右手で自分の頭をつかむその手を払う。

「そんな弱虫に、俺が負けるわけ、ねぇだろうがぁあああ!」

そして、そのまま一方通行の左頬へと渾身の一撃を叩き込んだ。

のけぞる一方通行へ、追撃の拳を腹へ一発、顔面へ二発繰り出す。

「お前がそんな見せかけの強さを本当に最強だと思ってんなら、そんな間違った強さを振りかざして人を傷つけていいと思ってんなら……そのふざけた幻想は俺がぶち殺してやる!……俺の最弱はちぃとばかし効くぜ、最強さんよォオオオ」

叫びながら、とどめの一撃を鼻っ柱にぶち込んだ。
280 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:22:50.32 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

一方通行の奇妙な笑い声で、御坂は思考を取り戻す。

「ちょ、ア――」

いい終わる前に垣根によって、物理的に口を塞がれた。

「よぉし、良い子だ。舞台をスムーズに進行させるためにお前はちと黙ってろ」

後ろから抱きつくように御坂の口を手で塞ぐと、耳元へ囁くように言う。

そのまま首へ腕を回し、引きずるように一方通行・上条から距離を取った。

「は、なっ、せぇえ!」

「無駄無駄、俺にもお前の技は効かねぇよ」

暴れる御坂を気にせずどんどん二人から離れて行く。

「一方通行は本当に強いのですね」

「そうだね、というか一方通行のは演技なの?普通に怖くない?」

ほら、到着。と垣根が言い、ついた場所には色違いのバッヂをし、仲良く談笑する妹達の姿があった。

「……え?」

御坂は間抜けな声を出す。

二人は垣根と御坂に気がつくと、歩み寄り、御坂に頭を下げる。

「お姉さま騙したりしてすみませんでした。一方通行も垣根さんも今回の実験を中止させるためにうごいていたのです、決して敵ではありません!」

ミサカ達は頭を上げない。

パチパチと御坂から漏電している音が聞こえる。

「……はぁ……とりあえず、頭あげて、わけわかんないからどういう事か説明しなさい」

二人の肩を叩き、垣根を睨む。

「ん?あぁ、実はな――」

垣根は今回の計画の事を事細かに説明した。

「……なんか私バカみたい。というか最初から言ってくれれば協力したのに」

「協力関係のある中での負けじゃダメなんだ。あくまで本気で戦った上での負けが必要だったんだよ。美……第三位がこれ知ってたら今みたいな必死さが消えちまうだろ?そうなったらお前と仲のいい上条に一方通行が負けても『猿芝居』って判断されちまうって思ったからさ」

垣根は戦う二人をみながら言う。

「でも、今考えりゃ本当に辛い目に合わせたな……呑気に笑いながら飯食ってた自分が恥ずかしいよ、すまねぇな第三位」

そして、御坂へ頭を下げた。

「……美琴ちゃん、でいいわよ。垣根さん」

二人の間を穏やかな風が通り抜けた。
281 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:23:47.49 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

操車場での戦いから二日後。
それまで一方通行の積極的な戦闘をみた事のあるものは一人もいなかった。
どんな戦闘実験も彼は立ってるだけで、攻撃はすべて受け流すだけであったからだ。

そして、衛星から撮られた一方通行初の『本気の戦闘』は無能力者に無様に負けるというものであった。

幻想殺しを知らない絶対能力者進化実験の研究チームは、一方通行が自ら攻撃をしようとした際、防御を忘れる傾向にあると判断。
そして、『樹形図の設計者』による再演算、つまり実験プランの見直しが決定した。

そんな内容の報告書を眺めながら芳川はとりあえずの安心を感じた。

――さて、みんなに知らせにいかなきゃね。

一方通行は鼻骨を骨折、そのまま入院中である。

垣根は勝負に決着がつくと、二人の元へと行き、上条に今回の事を説明し、謝罪した。

御坂はその日は妹を二人とも連れ、ホテルへ泊まった。
その次の日、寮に帰ると寮監に無言で突き出された原稿用紙二百枚を必死に埋めている。

ミサカ00001号は上条へ電話させるよう仕向けた事をみんなから褒められ嬉しそうだった。個性も少しだけ強くなった。

ミサカ00002号は今日も変わらず元気である。ここ数日の一方通行、垣根帝督と過ごす生活の中でかなり個性は強くなった。

――さて、これで少なくとも一年は実験が再開される事はない。でも……あの男がそれを納得するかしら?00001号が少し心配ね……。
282 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:24:16.06 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

「俺、骨折ったの初めてだ」

カエル顏の医者がいうには今日一日安静にしていれば、痛みはしばらく取れないが、退院はしてもいいそうだ。

「どんなとこから落ちたりしても壊れるのは落ちた先だもんな」

一方通行はベッドの上で寝転がり、垣根は備え付けの椅子に腰掛けている。

「そォいや上条のワイシャツとかダメにしちまったから新しいの買ってやンなきゃなァ……」

「あ、上条なら隣の病室で寝てるぞ」

思い出したように垣根は言う。

「あ?なンで?」

上体をおこしながら尋ねる。

「かすり傷と打撲が多かったからな、それの治療してる内に寝ちまったから医者に頼んでベッド借りた」

「即死につながるような攻撃はしなかったとは言え結構派手にやっちまったからなァ……なンか俺ら上条にとンでもなくひでェ事してねェか?」

落ち着いて振り返ってみると、上条は『一方通行に勝てそうな右手』があるという理由だけで巻き込んだ形だ。

「……言われりゃそうだな」

心に余裕もなく、妹達を助ける事だけを考えてしまい、他者への配慮をしていなかった事に今更ながら気づく。

「詫びいれいくか」

一方通行がベッドからおり、服を着替えはじめる。

「まだまだ俺らも一個の事しか見えなくなるガキって事かねぇ」

垣根も立ち上がった。
283 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:25:21.88 ID:Sklfe6xNo
〜〜〜

「俺達だ。入るぞ?」

返事を待たず扉を開ける。

「どうぞー……って返事する前に開けるなよ」

上条は帰り支度をはじめていた。

「もォいいのか?」

「もともと疲れて寝ちまっただけだからな。あ、わざわざベッド用意してくれてありがとな」

なんの屈託もなく、一寸の負の感情なく上条は笑う。

「いや、え?お、おう。……じゃなくて、悪かったな、巻き込んじまって」

「そンでお前のおかげで一応は救えた、ありがとう」

二人は頭を下げる。

「頭あげろって、とりあえず俺はお前らが本当は優しいやつだって確認出来たから良かったよ。妹達もこれで助かるんだろ?これしか方法はなかったんだろ?じゃあいいさ」

当たり前の事のように言った。

「それに人を助けるのに使えるなら俺なんかでよけりゃいくらでも使ってくれよ……」

まるで罪を告白するかのように短く、そして小さくつぶやく。
その表情を見て、垣根は上条を信用しても大丈夫なのかもしれない。と思いはじめた。

「それよりも、明日から夏休みですよ!補習と課題まみれなので第一位の頭脳をお借りしたいんですが……」

苦笑いながら一方通行のほうをみる。

「第二位の頭脳もセットで貸してやるよ」

垣根は上条に興味が出ていた。
人を助けずにはいられないその性格、頭は悪いが人間の本質を見失わない鋭さ。
そして、明るい瞳の中に時折垣間見得る罪を後悔するかのような色。

――こいつは俺らと同じなのかもしれない。

垣根の中で上条は評価だけならかなり高かった。

「あー、やっぱ垣根は第二位なのか。上条さんは第一位から第三位までとお友達になれて嬉しいですよ」

上条はさらっと告白された垣根が第二位だという真実を驚きもせずに受け止めた。

「それに、学園都市のトップの三人が心優しい奴らだって知れて本当に良かった」

自分を利用した者を上条はまだ優しいと呼んだ。

三人は携帯番号を交換し、上条は病院を去った。

「あいつはなんなんだ?」

「……さァな、ただひとつ言えるのは、とンでもねーバカだっつー事だ」

二人は心に何か引っ掛かりを感じつつも、上条なら自分たちといつまでも対等な関係でいてくれるかもしれないと感じていた。

強い日差しの中、これから迫る夏本番の匂いと、穏やかになるであろう未来を想い描き二人は病室へ入った。

だが、彼らはヒーローと認められてしまった。

そして、ヒーローに休息は訪れない。

三人はすぐ目前に新たなる脅威が迫ってきているのを、まだ知らない。

第一章 誕生 完
284 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:30:23.26 ID:Sklfe6xNo
あばばばばばばばば

大まかな流れを決めて、ラストを決めて、キャラの心情を書き始めてから決めるからこういうよくわかんない奴らになっちまうんだよ
本当に低クオリティな駄文で申し訳ない

完結したら第一章だけ書き直そうかなぁ……

あと第一章とか言ってるけど最初は一方通行vs幻想殺しで終わる予定でした

あと二日くらい引っ張って芳川と一方通行くっつけて、打ち止めだして、終わる予定でした

あーなんかもう!って感じ

ほんとすみません
読んで笑ってやってください、そんでレスくれると嬉しいです
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 00:32:50.67 ID:EXPngorvo
>>1
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/12/07(水) 00:34:02.54 ID:8jjx9WBIo

トップ3と幻想殺しが絡むって、なんつーチームだこれw
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/12/07(水) 00:39:44.39 ID:tkTaF4iP0
第一位〜第三位が和解した
あれ?レベル5って単身で軍隊とタメ張るレベルでしょ?そんなのの筆頭3人が集まったらあbbbbbbbbb
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(三重県) [sage]:2011/12/07(水) 00:42:23.56 ID:2OgwHNim0
乙!

上条さん、何を隠してるんだ?
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 00:46:14.01 ID:mSxE7k0uo
なんか残念
290 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/07(水) 01:11:50.31 ID:Sklfe6xNo
>>289
ですよねー

四日目書き直すのってありかな?
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 01:16:54.47 ID:+XSmzKhEo


う〜ん・・・・・・正直に言ってしまうと今回の読んで少し残念に感じた
せめて『近しい人以外への配慮の欠落』を実験を中止させる計画を考える段階くらいで入れて欲しかったな
ちょっと強引に後付けされたような感じがしてしまった
特にミサカ00001号は美琴と一晩一緒にいたわりに、その間まったく美琴の心情は気にした描写がないってのがな・・・・・・
計画のことでいっぱいでしたって言われても四六時中計画のことだけしか考えてないって解釈もちょっと無理あるし(特に就寝前とか)

もし気分悪くしてしまったら申し訳ない、素直に謝る
でもこれが素直な感想なんだ・・・・・・今までが良かった分どうしても残念に思えてしまった
292 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/07(水) 01:39:46.31 ID:Sklfe6xNo
>>291
いや、ありがとう
嬉しいです
次書く時はキャラの心情の移り変わりをまず考える様にします
こちらこそ素直に謝る、なんか残念な感じになっちまって申し訳ない

第二章いるかな?
今回ので見切りつけた人結構多いんじゃね?
一度落として第一章書き直してまた立てたりしても板のルール的には全然問題ないですよね?
もし問題ないならそうしたいんだがどうでしょうかね?

293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 02:28:31.08 ID:WVl3o8cDO
とりあえず乙

まだスレ残ってるからそのまま使ってももいいと思うし、続き見たい

あと、超電磁砲より普通に雷落としたりする方が威力高いとかいうツッコミは野暮ですかね
294 :ちょっと今回は意見もらったら全レスしてみる ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/07(水) 02:38:27.90 ID:Sklfe6xNo
>>293
ありがとう
もう少し他の人の反応もみて決めます

……死ぬのが目的だったわけですから逝くならば自分を象徴する技で……って後付けをいましたからそれで勘弁してくれwwww
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/12/07(水) 04:20:04.75 ID:MHQoILiuo
まあ細かい設定とかはしょうがないんじゃね?
あんまり無理に後付けする必要もないきがする
296 :ちょっと今回は意見もらったら全レスしてみる ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/07(水) 05:04:14.18 ID:Sklfe6xNo
>>295
そう言ってもらえるのも嬉しいです

一応気に入らないところ削って書き足してみた

それでこのスレは一回書き切る事にしましたのでこれからも色々突っ込んで下さい
そのアドバイス受けて加筆修正行っていきたいと思います

全部終わったらスレ立て直して加筆修正したのをまた投下したりしてもいいのかなぁ?
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/12/07(水) 05:33:03.91 ID:QPk1URfAO
無粋な突っ込みだとしか……

つか1、2、3位と幻想殺しって敵さん逃げてーな状況だなww
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(京都府) [sage]:2011/12/07(水) 06:18:23.23 ID:/cWbH41zo
人の意見なんて書き終えてから聞きゃいいんだよ。

批判を次に繋げる姿勢は大事だけど、途中で人の意見に誘導されたってろくなことになんないよ。
無理に筋書き弄くってエピソード増やして、結局展開が不自然になってちゃ本末転倒でしょ。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 08:30:08.99 ID:RIDtbHZ9P

個人的にちょっと詰め込みすぎかなってぐらいで別に理不尽さを感じるレベルじゃないな
普通の人なら二回か三回に分ける内容を圧縮して一気にやった感じ
このスレでこのまま続き読みたいな
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/07(水) 09:00:29.44 ID:WeOzI3/Ko
100人が100人全員満足させるような文章を書くのは相当難しいと思うからそう気にするなよ。
丁寧に書くっていうのと展開をスピーディーに書くっていうのはなかなかどうして難しいよね。
どうしても丁寧な部分は速度がなくなってしまうし逆も然り。
読者と作者だと視点も違うし、その難しさもわかりにくいから指摘は簡単でも修正は難しいってこともザラだと思う
言われたところを若干でも意識して不自然でない程度に修正を加えて出しただけで十分だと思う
それよりも俺は>>1の書きたい文章が読みたいんだ。
人の意見に左右されずやりたいようにやってくれ。
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/07(水) 09:43:32.18 ID:xj0I6yMAO
いじわるな言い方かもだけど、ちょっと肩すかし気味だった。
誰も敵じゃないからカタルシスがないし、根底が予定調和だから拭いがたい茶番感がある。

正直絶対どんでん返しが来るんだろうと思ってたが、なんかそのまま終わってしまった感じ

…と、見せかけてこのモヤモヤが伏線なのはわかってるんだぜ! 次話に大期待
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) [sage]:2011/12/07(水) 09:49:40.05 ID:lU1IDLvO0
え、これって、メンバー集結までのプロローグだろ?
本編はここからだよな。
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 09:59:29.34 ID:dnFAhKb0o
スレを潰すのにも手前かかるんだから、
やりなおすならこのスレ内でやれよ
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 12:03:17.79 ID:xZIccKfIO
俺もプロローグかと思ってたぞー
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/12/07(水) 12:11:15.50 ID:tylB3zLyo
やり直しよりは次回作に経験を活かす方がいいんじゃない?
このスレで続編かきながら更に経験値稼いでもいいし。
あっさり風味だったが何か惹かれるものはあるので期待してるよー
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/07(水) 12:31:36.18 ID:TbgVOopZ0
まあ一方垣根の時点でちーと入るのは仕方なくね?
個人的には上条さんらとくっついてほしくなかったが
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 12:54:54.97 ID:MY9m4U0/o
これから芳川を絡めた独自ストーリーが始まるんだろ?
これで終わりならちょいと寂しいね
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/12/07(水) 13:09:56.85 ID:aeln/HKao
芳川×一方だろ?まだフラグしか立ってねえぞ?
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 13:10:41.54 ID:+XSmzKhEo
>>291です

あんなこと書いといてなんだが・・・・・・
自分も続きが読みたいので続けて欲しいと思っている
>>1の書きたいように書けばいいと思うし、自分も>>1が書き終わるまでもう突っ込んだりしないようにする

自分のせいでこんな状況になってしまったようで本当にすまなんかった
310 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/07(水) 13:31:28.99 ID:Sklfe6xNo
>>297
ありがとう

>>298
わかりました!
とりあえず最後まで行きたいと思います!

>>299-301
ありがとう
この後は敵ってわけじゃないけどまぁ色々出てくる

>>302>>304
第一章はメインと準メインの顔合わせみたいな感じですかね

>>303
そうですよね、了解です

>>305
そん感じでいきたいと思うのでこれからもよろしくおねがいしま

>>306-308
まだ続きます

>>309
いや、自分でも思ってた事なんでまじで気にしないでください
問題点指摘されるためにここでやらせてもらってるわけですし
とりあえずこのssは経験値稼ぎと思って進めてくのでこれからもアドバイスよろしくおねがいしま


投下はまだ未定で、今週中に来ます
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 20:02:26.27 ID:4fncE5UBo
ハイペースなのはいいんだけど、やっぱりじっくり推敲したらいいと思いました
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) [sage]:2011/12/07(水) 22:02:02.67 ID:p1e8WJJ3o
いいと思うよ!二次創作なんだし>>1の思うように書けば良いさ!
周りに流されんな、作品がおもしろけりゃおのずと読者もついてくるっしょ!
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/12/07(水) 22:41:27.88 ID:Yt9mJ1UWo
乙!!

前の人達も言ってたけど、とりあえず>>1の思うままに進めればいいと思う
反省は次に生かせばいいと思うし
少なくとも俺は十分面白いと思ったよ
314 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/09(金) 00:55:17.42 ID:f8WANjCdo
>>311
ちょうどこれからは少しペース落としてじっくり書いて行こうと思ってるのでそこそこマシな文章載せれると思います
期待はされても答えらんねーかもしれないけどこれからも応援よろしく!

>>312-313
ありがとう!
自分のペース、自分の思った通りに進めてみるよ
これからも読んでくれるとうれしいなって

金曜の夜中か土曜の午後に投下きます
第二章は上条メインかな?

315 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 14:15:58.37 ID:4hRAsnNbP
肝心の芳川×一方がほとんど無いとはこれ如何に
316 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/09(金) 16:05:35.00 ID:ts7foc2IO
今日日付が変わる頃にきます

あと今回一応外すけど次から投下予告の時もsage外した方がいいですかね?

芳川×一方通行は……まぁ、のんびり見守ってくださいよ
317 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 16:40:44.43 ID:IZCm7uqv0
>>316
予告のときは好きにしていいんじゃね?
318 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 19:11:18.45 ID:DEvCmbWAO
自分の書きたいように書けばいいさー。右見て左見て自分が最初に見てたもんが見えなくなるよりガンガン言って欲しいよ。
319 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/09(金) 23:58:52.47 ID:f8WANjCdo
では、はじめます。
320 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/10(土) 00:01:29.35 ID:b8ngr59Jo
夏休みがはじまった。

決して忘れる事のない、長い長い夏休み。
321 :いきなりコピペミスった ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:03:15.12 ID:b8ngr59Jo
「あっれー、珍しい」

とある喫茶店。
夏休みだからだろうか、店自体の雰囲気もウキウキしているように感じられる。
一方通行はそこで一人コーヒーを飲んでいた。
一方通行が座る席は四人がけのテーブルに挟まれた二人がけのテーブルだ。

「ン?あァ、お前か……一人か?」

「友達と待ち合わせよ、そっちは?妹か垣根さんか……芳川さんだっけ?誰もいないの?」

御坂は芳川とは一度しか会ったことがない。
そのため、彼女の名前はそんなに印象に残っていないのだろう。

「あァ……芳川がすまねェと伝えておいてくれって言ってた」

「妹達の調整とかしてくれてる人でしょ?……今度お礼しにいくわ」

一方通行の向かいの席につきながら言う。

「……なンでそこ座ンだよ」

「別にいいじゃない友達くるまでよ」

御坂はメニューを開く。
何を食べようか迷っているのか、なかなか閉じない。

「飯食ってねェのか?」

時間は午後一時を回ろうとしている。

「うん、プール掃除してた」

「……チッ、何でも好きなもン頼めよ、奢ってやる」

「へ?……あぁ、別にそんなつもりで言ったんじゃないわよ?」

一方通行が何を思っているのか御坂にはすぐに分かった。
随分と引け目を感じているようだ。
322 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/10(土) 00:04:51.03 ID:b8ngr59Jo
「いいンだよ、ガキは素直に奢られとけ」

「ガキ扱いすんな!」

メニューから顔をあげ軽く電撃を飛ばすが、もとより当てるつもりはなかったのかそれは一方通行へ届く前に雲散する。

「ふん、じゃあこのホットケーキとチョコレートケーキにしよっかな」

「昼飯だろォ?そンな甘ェもンじゃなくてちゃんとしたもン食えよ」

「偏食なあんたには言われたくないわね、妹が『一方通行は肉と野菜のバランスが偏り過ぎです』って言ってたわよ」

御坂は呆れたように言った。
一方通行は舌打ちをすると、店員を呼んだ。
ホットケーキとチョコレートケーキ、コーヒーを注文し、御坂に尋ねる。

「……お前飲み物は?」

「あ、じゃあレモンティーで」

店員に目を向け頷く。

店員はにっこり笑い、かしこまりました。と言った。

「そういえばアンタ鼻折ったんでしょ?大丈夫?」

「……まだ痛てェけど、お前らにしたこと考えりゃ当然の報いだ」

「……なんつーかアンタ暗い、もう気にしてないからむしろ感謝してるからもうそれやめなさいよ」

御坂はため息をつく。
323 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:05:46.73 ID:b8ngr59Jo
「妹を助けようとしてくれたんでしょ?私は……あの子達に、あの子達を大切に思ってくれる人が私以外にもいてくれて嬉しいわよ」

自分よりも、妹を思った言葉。

「俺達とお前らは何が違うんだろォな」

御坂に聞こえぬように、つぶやく。
324 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:06:27.58 ID:b8ngr59Jo
〜〜〜

御坂がホットケーキを食べ終え、チョコレートケーキに手を出そうとした時、二人の女の子が現れた。

「あっれー?御坂さんデート?」

「さ、佐天さん!失礼ですよ」

佐天と呼ばれた黒髪の少女は明るすぎるくらいの笑顔で声をかけ、それを咎めた頭に花をのせた少女は御坂に小さく謝りながら佐天の腕を引っ張る。

「ほら、佐天さん!約束した時間まではあと一時間くらいあるんですから、あと一時間はお二人の時間ですよ!」

「あ?何を勘違いしてやがンだおめェらは?」

一方通行は軽く二人を睨みつける。

「ほ、ほら、彼氏さんが怒ってるじゃないですか!……すみません、お邪魔しちゃって、でも一時間後は御坂さんは私たちと遊ぶ約束してるんでその時は貸してくださいね?」

愛想笑いを浮かべながら言う。
325 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:07:41.23 ID:b8ngr59Jo
「ちょ、二人とも違うから!ただの友達よ!友達!」

立ち上がりながら、御坂は声を張る。
二人の少女はニヤニヤしながら通路を挟んで向かいの席に座った。

「……チッ、うぜェ」

一方通行はそこから自分達の様子をちらちら伺う二人にイライラしていた。

「……あー、鬱陶しい!オイ、てめェらもこっちこい」

一方的に観察されると言うのは予想以上にストレスがたまる。
一方通行は二人を呼び寄せ自分たちも隣の四人席へ移るとメニューを突き出した。

「オラ、とっとと注文しやがれ、とォくべつに奢ってやンよォ」

その代わりそのふざけた思い込みをさっさと捨てろと、真っ赤に染まった瞳は脅すように光っている。

「は、はい」

二人は素直に頷き、佐天は一方通行の隣へ、もう一人の少女は御坂の隣へ腰をおろす。

「ちょっと、やり過ぎでしょ。二人とも怯えてるじゃない」

「あ?俺は悪くねェだろォが、大体お前が勝手に人の席座るからこうなったンだろォが」

御坂を睨みつける。

「はいはい、二人ともこいつ怖い顔してるけど悪いやつじゃないからそんなビビらなくて平気よ」

一方通行の文句を受け流し、二人に笑いかける。
326 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:08:33.84 ID:b8ngr59Jo
〜〜〜

「と、とりあえず自己紹介しときますね?……私は佐天涙子、無能力者です」

注文を終えると、気まずそうに一方通行の方をみながらぎこちなく笑う。

「あ、私は初春飾利です。風紀委員やってます」

初春と名乗った少女はすでに場の空気に慣れたようだ。
どうやら彼女は肝が据わった性格らしい。

「……一方通行だ」

一方通行はそれだけいうとコーヒーを一口飲む。

「えぇっと……能力名ですか?」

佐天はまだ、少しだけ怯えている。

「名前はない」

「あなたニャンコなんですか?」

「花ァ引っこ抜くぞクソガキ」

「冗談通じない人ですね」

初春の言動には佐天の方がオロオロとしていた。
本人は呑気にお冷やを飲んでいる。
御坂は我関せずとケーキを食べている。
327 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:09:36.27 ID:b8ngr59Jo
「あ、あははは。髪とか白いのは能力のせいなんですかね?意外と似合ってますよ」

「……紫外線とかそォいうもンを反射してるからな、色素が必要ない、だから退化してって全体的に白くなったんだ」

一方通行は丁寧とは言えない説明をする。

「反射、ですか……じゃあ」

そういいながら佐天は一方通行の髪へ手を伸ばす。
弾かれると、思っていたが、その手はすんなりと一方通行の真っ白な髪へと届いた。

「あれ?」

「……こォいう場所では人間は反射対象の設定から外してんだよ」

顔を振るようにして、佐天の手から離れた。

「へぇ、知らなかった。というかあんたの能力はよくわからないことがおおすぎるのよ」

芳川が嘘レポートに書いたため、一方通行の能力がベクトル操作だと御坂は知っている。
上条は未だに理解出来てはいないだろう。

「珍しい能力なんですね。もしかして第一位だったりして……なんてそんなことありませんよね」

奥から店員が自分たちの飲み物を持ってきたのを見つけると、そちらに目を向けながら初春は笑いながら言った。
328 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:11:54.89 ID:b8ngr59Jo
「そんなことあるわよ、そいつ第一位よ」

御坂はティーカップに残った紅茶を飲み干す。

「へ?」

「え?」

二人は御坂と一方通行の顔を交互にみて、驚きの声をあげた。

「ぇええええええ!」

「うるっせェぞ!クソガキ」

鬱陶しそうに二人を睨みつける。

「え?だって、え?第一位?」

佐天が一方通行を指差しながら言う。

「……だったらなンだ」

少しだけ傷つく事を案じる。

「すっごいですね!うわー……すごいなぁ!」

「……佐天さん、語彙がたりてませんよ」

佐天は驚き凄い凄いと喜び、初春は一方通行をまじまじと見つめながらすごいとしか言わない佐天に突っ込む。

「ンあ?」

その反応は初めての物だった。

大抵の者は第一位の名を聞くと驚き、例えばそれが今の二人みたいに無礼な行為をした後出会ったら死に物狂いで謝られるのが常であった。

どう対応していいのか分からず御坂に助けを求める。
御坂は笑いながらその様子を見ながら、小さくつぶやく。

「ちゃんとに分かってくれる子もいるってことよ」

「でも、今ここに学園都市のトップと第三位がいるってなんだか私達すごく安全な位置でお茶してますよね」

初春は運ばれてきた紅茶に手を伸ばす。
329 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:13:31.32 ID:b8ngr59Jo
「本当に、ここにあと第二位が来たら……安心して世界も敵にまわせますね……」

佐天は冗談っぽく笑いながら紅茶に砂糖とミルクをいれをかき回す。

そして、そんな四人の元へ歩み寄る茶髪の男が一人。

「俺を呼んだか?お嬢ちゃん」

佐天の冗談が現実となってしまった。

「……」

一方通行が垣根に何か言おうとするが、垣根があとにしろ、と目で語る。

「一方通行が可愛い女の子に囲まれてるから何事かと思ってな、思わず立ち寄っちまったよ」

笑いながら、三人に言う。

「んで?この子らは美琴ちゃんのお友達かい?」

御坂の方に視線を移し、尋ねる。

「そう、髪が長いのが佐天さん、こっちが初春さん」

二人を順番に指差しながら紹介する。
二人は御坂に苗字を言われるとそれぞれ自分で名前まで名乗る。

「涙子ちゃんに飾利ちゃんね……第二位の垣根帝督です」

「本当にトップスリーが揃っちゃいましたね、佐天さん」

「凄いね、この学園都市で一番頑張った三人って事だもんね」

佐天は少しだけ嫉妬のような色を表情に浮かべた。

が、すぐに笑顔になり隣のテーブルへ垣根に座るように勧める。
330 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:15:41.68 ID:b8ngr59Jo
一方通行はその席から伝票を取ると、自らも元々座っていた位置へと移動する。

店員が垣根にお冷やを持ってくると、垣根はメロンソーダ、一方通行はコーヒー、御坂はアイスティーを注文した。

五人が和やかに談笑していると、また一人少女が文字通り突然現れた。

「すみません、少し風紀委員の仕事が長引いてしまって」

少女は遅れた――といっても五分程度だが――非礼を詫び、先ほどまで一方通行が座っていた佐天の横に腰を落とす。
アイスティーを注文すると三人に改めて詫びる。
二人は気にしてない事を伝え、佐天は隣にいるのが第一位と第二位だと少し興奮気味に伝えた。

「まぁ、第一位様と第二位様でしたの。お会い出来て光栄ですわ。私、常盤台中学一年の白井黒子と申しますの。風紀委員に所属していまして初春と同じ部署なんですのよ、何かお困りのことがあったら一七七支部までお越しくださいませ」

頭を下げながら自己紹介する。

「俺らが困る事態を風紀委員が解決できるとは思えねェけどな……一方通行だ」

「そういうことじゃなくて超能力者でもあくまで一般人、何かあったらとりあえず風紀委員呼べってことだろうよ。な、美琴ちゃん?」

ニヤニヤしながら御坂に話を振る。
御坂はアイスティーを吹き出しそうになりながら目を逸らす。
それをみて、満足気に頷くと顔を白井にむける。

「第二位の垣根帝督だ」

「垣根さんは物分りがよろしい方で助かりますの」

じっとりと御坂を見ながら白井はいう。
331 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:17:37.64 ID:b8ngr59Jo
「……これからはギリギリまであんたの到着待つわよ」

「……お姉さまなんかまるくなったというか、余裕があるというか、どうしたんですの?」

白井の言葉に意味ありげに超能力者三人は顔を見合わせた。

「……ま、御坂さんは私たちより一つですけどお姉さんですからね。それにいいことじゃないですか」

佐天が空気を読み、その話題を打ち切る。

「……さて、お前らはなんか予定あって集まったんだろ?邪魔したな……行こうぜ、一方通行」

メロンソーダを一気に飲み干すと、御坂達の座る席の伝票――御坂の追加注文と白井の注文――を垣根が手に取る。
白井と御坂が何かをいう前に、垣根は手で制しながら言う。

「邪魔したお詫びだ。あと久しぶりに普通の学生と話せて楽しかったからそのお礼ってところだ」

人差し指と中指で掴み、ひらひらさせる。
それを一方通行がひったくる。

「ここ出すから今日晩飯、お前が買いもン行け」

「人がカッコつけてるとこを……」

仲良く話しながら会計を済ませ、店を出て行った。
332 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:19:13.05 ID:b8ngr59Jo
「なんというかもっと第一位、第二位って怖い人達だと思ってました」

佐天は二人の消えた扉を見つめながら言う。

「でも、あの殿方達は私達を信用はしていませんでしたの、お姉さまを辛うじて信用しているレベルに思えましたわ」

「なんというか、絶大な力を持つ超能力者にはその力ゆえの超能力者なりの苦労があるんでしょうね」

御坂は恵まれたレベル5である。
初めから力を持っていたわけではないので、幼い頃をある程度まともに過ごせた。
だが、それゆえの辛さを経験した。
勉強もスポーツも出来て、さらにはレベル5。
その肩書きは後輩、同輩、そして先輩までもから羨望を向けられる対象となり、気軽に話を出来る友達がいなくなってしまった。

昔は普通に友達がいたからこそ、その状況は辛かった。

しかし、白井が現れ、上条が現れ、佐天、初春と言った『自分を対等に扱ってくれる』人達が今はいる。

一人ぼっちの間に歪んでしまわなかったのは、御坂自身の強さだが、今、彼女が真っ直ぐでいられるのは友達の存在が大きいのは間違いないだろう。

「ありがとね、三人とも」

口の中だけで、つぶやいた。
その顔にはあらゆる温かさのある感情が同居していた。
333 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:21:15.86 ID:b8ngr59Jo
〜〜〜

「今日からミサカ達は一週間かけて精密検査と調整だろ?」

「あぁ、芳川がついてるから問題ないだろ。あとカエル医者の病院で、その後はそこで交代でカエルの手伝いと芳川の手伝いしながら少しは自分で稼ぐって言ってたぜ」

垣根は二人を病院へ送った帰りであった。

「ンな事気にしなくたっていいのになァ……」

「まぁ、ミサカちゃん達も服買ったりとかそういう自由に使えるお金欲しいんだろ」

「ンなのいくらでも小遣いやるってンだよ」

少しだけ寂しそうに一方通行はうつむく。

ミサカ達は二人に出来るだけ甘えたくなかった。
それは対等な関係で居続けるため、二人の足枷にならないためである。

もし二人に頼らなければ生活出来ないとなったら、優しい二人の事だ、自分のしたい事や愛する人を見つけた時そのしたい事、愛する人を簡単に捨てミサカ達を助けてくれようとするだろう。

しかし、それは誰も幸せにはしない。

生まれてから深く関わったのが一方通行、垣根、芳川だけの妹達はその三人の事だけはよくわかり、考えることが出来た。

「じゃあ今日は家にいンのは俺ら二人だけなのか?」

「あー、そうなるな。いや、芳川は来ると思う……まぁ、とりあえず一回帰るか?」

「そォだな、聞かなきゃいけねェ事もある」

二人は家へと向かい、足を進めた。
334 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:21:53.75 ID:b8ngr59Jo
「そォいやなンか昨日から大気の流れがおかしい所があンだけど心当たりあるか?」

「おかしいって、どうおかしいんだよ」

「いや、なンか変なベクトルがたまに入り込む感じだな」

説明が難しいのか、要領を得ない答えになる。

「変なベクトル?」

垣根は顔をしかめる。

「大気に触れて風の流れを観測すンのが俺は好きなンだけどよ……たまによくわかンねェ変な流れが混じる事があンだよ」

「わからねぇことばっかだな……まぁ一応気に留めとくわ」

二人は開放感に浮かれる学生が笑顔を振りまく街中を歩いている。
335 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:23:22.58 ID:b8ngr59Jo
〜〜〜

「お久しぶりですね、先生」

「十年ぶり、だね?」

芳川は昔の自分を思い出し苦笑する。

「あの時は……若かった。そして研究だけが生きがいでした」

「ふむ、僕が乗り気じゃなかった理由がこの十年でよくわかったね?」

「……嫌というほどに」

「君があの場所へアルバイトに行くのを渋々だが認めてしまった事を僕はずっと後悔していてね、だが先日、あの子達を見て私は初めて十年前の過ちが過ちじゃなかったと気がついたよ。今、あの子達が笑っていられるのは君の存在があってこそだ」

「そんな、私は……何も出来なかった」

声が少し大きくなる。

「そんな事はない。第一位と第二位は心に闇を抱える事になったね?でも、彼らは闇に落ちる事が無かったね?」

「私、は……正しい事を……することが、出来たん、でしょうか?」

途切れ途切れ、戸惑うように声を絞り出す。

「うん、君がいなきゃ一方通行くんと垣根くんは救われる事のない道を歩んでいたはずだよ?」

芳川は黙って頷くのが精一杯であった。
336 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:25:42.95 ID:b8ngr59Jo
〜〜〜

「んで?魔術がなんだって?」

出会い頭にお腹が減ったと言われ、適当に作ってやったご飯を食べ終えたのを確認すると、上条は尋ねた。

「……馬鹿にしてるよね?」

上条当麻は朝布団を干そうとするとベランダに引っかかっているものを見つけた。
そして今、自室で白い修道服を着た銀髪碧眼の少女と向かい合っていた。

「いや、だってお前ここがどんなとこか知ってるか?超科学都市だぞ?」

呆れるようにため息をつくと大げさにありえないというように首を横に振る。

「超能力は信じるのに魔術は信じないなんておかしいかも!」

「じゃあ、見せてみろよ」

「……私には魔翌力が無いから魔術は使えないんだよ」

ばつが悪そうに目を逸らす。

「まぁ、いいや。とりあえずベランダに干されてたのは事実だしな、その魔術結社?とかの真偽はよくわからんが追われてるのは本当なんだろ?」

「……うん」

「じゃあ、お前ここにいろよ。俺は少し補習行ってくるから家空けるけど」

そういいながら上条はカバンを手に取りそこから家の鍵をとりだすと、それを少女に渡す。

「え?な、なんで?私達名前すらまだお互い名乗ってないんだよ?」

少女は驚き上条に迫る。

「いや、困ってんだろ?だったら俺はお前を助けずにはいられない……」

まるで自分が悪いかのような、申し訳なさそうな顔をした。
337 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:26:57.40 ID:b8ngr59Jo
「き、君の方が助けて貰いたそうな顔してるんだよ」

少女は心配そうに上条の頬に手を伸ばす。

「困ってるけど今までなんとかなってたから大丈夫、少なくとも君みたいな苦しそうな顔した人間に、私の事を背負ってくれなんて言えないんだよ」

少女は笑った。

「別に、苦しくなんかないっ!ただ、俺は、困ってる人を……不幸な人を、俺が、助けなきゃいけないんだ」

自分を追い込むように上条は言う。

「俺が、悪いんだから、俺が、解決するんだ」

「な、何を言ってるのかな?君はなんにも悪くないんだよ?ちょっと落ち着いて欲しいかも」

必死に少女は上条を落ち着かせようとその頭を撫でる。

「君が何に罪を感じているのかわからないけど、少なくとも私にとって君は恩人なんだよ。見知らぬ私に事情も名前すら聞かずにご飯をくれたんだよ」

少女は修道女らしく教えを与えるように言う。

「君は『人に手を差し伸べる』という人間として一番たいせつな心は持ってるんだよ、だから君は絶対救われる。その行動理由がなんであろうとね」

聖女のように笑うと、少女は立ち上がる。

「じゃあ、ご飯ありがとう。私はもういくね」

鍵を机の上に置くと、少女はそう言い残し家を出て行った。
338 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:27:48.06 ID:b8ngr59Jo
〜〜〜

自分と関わった人間の不幸は全て自分のせい。
自分は疫病神だから。
だから、目に困る人が映ったら自分はその人を助けなければいけない。
上条はそう思い込んでいる。
そして、そうしていれば許されると思っていた。

幼い頃からずっと許される事を願っていた。

脆く簡単に崩れてしまいそうな暮らし。
涙の染み付いたコンクリート。
大勢の笑い声に取り残された公園。

一人ぼっちの中で、上条は細かく千切り捨てられた夢を必死に拾い集めていた。

そこでは全ての事が上条へと繋がれた。
全ての悪い事が……。

そのうち、暖かな陽射しが差し込む窓辺から上条は外を見るだけでいることが多くなった。
そこに夢を見ていた。

そして上条は祈る、己の全てが許される事を……。


何も罪など犯していないのにもかかわらず今日も上条は祈る。
339 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:29:31.51 ID:b8ngr59Jo
〜〜〜

「ンで?樹形図の設計者の破壊方法は見つかったのかよ?」

家につき、一息つくと早速一方通行は切り出す。

「まさか、あンだけ俺を待たせといてなンも収穫なしとは言わねェよなァ?」

垣根はミサカ達を病院へ送ったあと、一方通行との待ち合わせをすっぽかし、行政機関が集中する第一学区、航空・宇宙開発分野が発展した第二十三区へ一人で調査に出ていた。

「ありゃ、ばれてたか……驚かそうと思ったんだがな」

「俺が今一番考えるべき事は実験の完全凍結だからなァ、すぐ気づいたぜェ?……まァ、幸い約一年猶予があるけどな」

芳川の調べで次に絶対能力者化実験の研究チームが樹形図の設計者の使用許可が得るのは少なくとも十ヶ月後になるだろうと予測が出ている。

一方通行、御坂美琴の両名の価値に疑問が生じ、二人の能力値の再検査、また性格やクセなどの再調査が必要と研究チームの上層部が判断。
直ぐに一方通行、御坂美琴へ身体検査の要請が来たが、二人はこれを拒否。
御坂は三ヶ月後、夏休み明けの中間試験の際にどうせ受ける、と言って拒否、一方通行はその要請を完全無視した形だ。
340 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:31:45.49 ID:b8ngr59Jo
だが学園都市の生徒は一年に一回、ゴールデンウィークに行われる身体検査は必ず受けなくてはいけない決まりになっている。

それゆえ、来年の五月まで一方通行が再検査される事はない。ゆえに、今から十ヶ月間は再開される事はないという事だ。

「おりひめ一号の中にあるんだとよ」

「衛星ン中に隠してたのか……」

「壊そうとしても場所が場所だからなぁ……それに樹形図の設計者だぜ?学園都市上層部が何をしても邪魔してくるだろ」

「……偶然の事態装って一気にぶっ壊さなきゃダメってことかァ……どォすっか」

窓から空を見上げてつぶやく。

「……芳川とミサカちゃんつれて学園都市から逃げちまうか?」

消え入りそうな声で言う。

「ミサカの調整はどォする?それにンな事したら毎日のように襲撃されっと思うけど三人を絶対守り切れると言えンのか?俺らはどんなやつに襲われても死なねェさ、けどあいつらは銃弾一発を防ぐ術もねェンだぞ」

諦めるように一方通行は言葉を吐き出す。

「……そうだな、俺らはこの街でしか……生きられない、んだよな……」

窓を開き、今日も変わらず輝く太陽の眩しさに目を細めた。
341 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:33:51.76 ID:b8ngr59Jo
〜〜〜

「上条ちゃーん?」

成人とはとても思えぬ容姿をした女性が目に涙を浮かべながら上条の顔を覗き込む。

「…………」

完全に自分の世界に入り込んだ上条はその声に気づかない。

――俺の罪……いるだけで不幸を呼び寄せて、関係ないはずの人まで巻き込むのは俺の罪だろ?俺がいなきゃ怖い目に遭わなくて済んだ奴が何人いる?

「か、上条ちゃーん?」

ついに上条の担任、月詠小萌はぐずぐずと泣き出した。

「はぁ、ったく……おい、カミやん!いい加減にするぜよ」

後ろの席に座る金髪にグラサンの男が上条の頭を思い切り殴った。

「……ん?なんだよ、土御門」

上条は軽く頭をさすりながら振り返る。

「……こりゃダメだにゃー」

立ち上がり、上条の鞄に机の上に広げられただけの勉強道具を突っ込む。
そして、それを上条の顔面に叩きつけるようにして渡す。

「真面目に補習受けてる俺らの邪魔ぜよ、今日はもう、帰るんだにゃー」

「いや、でも進級出来なく――」

「いいから帰れ。はっきり言って今のカミやんは見てらんないにゃー。何を一人で悩んでるか知らないけど、そんなんじゃ小萌先生にも俺らにも迷惑なだけなんだにゃー」

サングラスでその表情はわからない。
楽しんでるようにも怒っているようにも見えた。

「小萌センセ、今日の分のカミやんの補習これで良しって事にしてやって欲しいんだがにゃー」

顔の前で両手を併せ小萌に甘えた声でねだる。

「うう、しょうがないのです。あとでプリント課題作るので土御門ちゃんは帰りに職員室寄ってください……あ、上条ちゃんに届けるようですよ?」

「感謝するにゃー」

ニコニコしながら小萌に頭を下げると上条の方へ向き直る。
その胸倉を掴み立ち上がらせ教室のドアまで引きずって行く。
そして上条だけに聞こえるように小さな声でつぶやいた。

「不幸不幸言ってるカミやんのが俺はまだ好感が持てるぜ」

上条を教室から突き出すとそのまま扉を閉めた。

上条はしばらく立ち尽くすが、やがて歩き出す。
342 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:35:13.24 ID:b8ngr59Jo
〜〜〜

学校を出て、とぼとぼと家路を歩く。

「……はぁ」

口から出るのはため息のみだ。
その足取りも重い。
亀の如きスピードで歩いているといきなり後ろから肩を叩かれる。

「上条君……よね?」

「……そうですが?どちら様でしたっけ?」

「芳川よ、貴方にはまだ……御坂さんにもだけどお詫びをちゃんと言ってなかったからね……利用してしまったみたいな形になってしまってごめんなさいね。許してくれとは言わないけれど」

「……別に気にしてないですよ、もしかしたらあなた達の“不幸”も俺のせいかも知れませんしね」

そう、言うとさっさと足を動かし始める。
芳川もそれを呼び止めるような事は無く、黙って見送る。

普通の大人ならば、こういう時引き止めたりするのだろうか?とその背中を見ながら芳川は考える。

――今のあの子は二人を悩ます種にはならなそうね……あの子も何か背負ってるのかしら?

勘違いして一方通行と垣根に喰いかかる上条は二人にとって理想の存在だ。
もし、普通の子供のように育ったらあんな子に二人はなりたかったと思う。
間違ってることに全力で反発し、裏切られても信じる事から、奪われても与える事からはじめる様なそんな本物の主人公のようなまっすぐな心を持った人に。

実験に納得ができないからと第一位と第二位に立ち向かい、嘘の言葉で裏切られても二人を信じ、無くしてしまったはずの道を新たに与えようと第一位をぶん殴った。

そんな上条がそばにいると一方通行、垣根帝督は自分と比べただ傷つくだけだと芳川は思っていた。
343 :ここの二人の会話は俺の脳内設定です ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:36:41.91 ID:b8ngr59Jo
〜〜〜

「お邪魔するわよ」

上条と別れたあと、芳川は垣根達の家に向かった。

「おう、ミサカ達はどうだ?」

一方通行はコーヒーを飲みながら尋ねる。

「今は先生が見てくれているわ。お姉さんの方が少し問題ありね」

冷蔵庫から適当にジュースを取り出し、それをグラスに注ぐ。

「命に関わるのか?」

「かもしれないってところね。前に話した万が一の事態が起きたら何が起きるかわからないわね」

「その万が一ってのはまだ教えてくれねェのか?」

缶を机に置いた。
コツンと小さな音がやけに大きく聞こえた。

「……それを今日は話そうと思っていたのよ」

芳川はグラスに注いだジュースを一気に飲み干すと、二杯目を注いだ。

「妹達は生まれて約二週間で肉体年齢を最高25歳位まで上げられるのよ」

グラスを手に取るが、飲もうとはしない。

「そして、ミサカちゃん達は少しゆっくり目のスピードで二週間かけて14歳ほどの肉体にしたわ。ここで問題が起きるのだけれどわかるかしら?」

グラスを口に近づけるが、口はつけずにもどす。

「肉体は14歳レベルでも精神はそうはいかねェ……でっかい赤ちゃンの出来上がりって事だな」

先ほど机の上に置いた空の缶を手の中でもてあそびながら一方通行は言った。
344 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:38:46.43 ID:b8ngr59Jo
「えぇ、そしてそこでそれを解決するのが学習装置よ」

「なァるほどなァ……一度感情も他の知識と同じように与えて、自分で考え、行動出来るようにしてからそこにまた感情だけを消すように上書きっつー感じか」

「そうね、そして学習装置で大量の知識を与えると言うのは全く同じ脳を作るって事と同意なのよ」

芳川は二杯目をまた、一気に飲む。

「ミサカちゃん達は全く同じものになるはずだったのよ」

「でも、それをお前が回避した」

一方通行は芳川の目をじっと見つめる。

「確かにお前が新しいクローニング技術を開発しなけりゃ妹達は生まれちゃいねェ、でも俺も垣根も死ぬまで笑う事はなかっただろォな。ミサカ達にも会えなかった、その技術がどォいうものであれ悪いのは使い方を誤る人間だ」

「……別に、なによ急に……」

目を逸らし、俯く。

「話はだいたい読めた。殺されるためだけに妹達が生みだされたンなら戦闘技術のみ叩き込めばいいのにあらゆる常識、知識を同じ形で植え付けたってのは脳を完全に同じにする必要があった訳だろ?」

頷く。

「多分それが垣根の言ってた双子パワーとその他のまだ俺が知らねェ能力に理由があンだろ?」

また、頷く。

「恐らくそれは――」

「命令コードを受け付けるようにするため」

一方通行の言葉を遮るように芳川が言う。
345 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:39:52.74 ID:b8ngr59Jo
「ミサカちゃん達はミサカネットワークを完全に構築出来ていないわ」

言いながら冷蔵庫へ向かう。
その中から缶コーヒーを二つ取り出し一つを一方通行に投げ渡す。

「だから曖昧な感じにしか分からねェのか」

「そうね、彼女達は別々の人間なのだも。でもそれは片方が強い個性を築き上げてるだけに過ぎないのよ」

「なるほどな、ミサカ姉の方は……」

受け取った缶コーヒーを開け、口に含む。

「そう、彼女は個性を築き上げることがまだ出来ていない」

「命令ってのは誰が出すンだ?」

「上位固体。打ち止め。最終信号。どれも同じ一人のミサカ、その子を通してよ。妹達にとっては構成するネットワークを支配する上位固体。そのミサカを妹達の一人、一人の人間として呼ぶなら打ち止め。強制命令を出すという能力だけを見た科学者の視点からは最終信号。となるわ」

芳川も同じように缶を開け、一口飲む。

「打ち止めはもう、生まれてンのか?」

「恐らくまだ、もし強制命令が使えるならばミサカちゃんだけでも取り返そうとするはずよ」

「樹形図の設計者をさっさと壊して実験を完全に凍結させる理由がまた増えたな」

軽く笑う。

「命令を打ち消すソフトは一応作ったけれど、それがどこまでカバー出来るかわからないわ。だから――頼むわよ」

何も出来ない自分に歯痒さを感じるように芳川は言った。
346 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/10(土) 00:41:38.50 ID:b8ngr59Jo
今日は終わり

上条さんメンヘラになっちまった
芳川はやっと出番増えてきたかな?

次回も読んでやってください

347 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 00:58:36.10 ID:s0RtnhcAO
乙なのぜ
348 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/10(土) 02:52:53.63 ID:ySfs0gaZo
349 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 04:33:53.33 ID:lTZBa0PSo
鬱条さん…
   ○○○
  ○ ・ω・ ○ がおー
   ○○○
  .c(,_uuノ

              ○。  ○
    ミハックシュ   ○    o   ○
    ミ `д´∵° 。 o ○
  .c(,_uuノ  ○ ○   ○


           >>1  ○○○○
                 ○
    ∧∧         ○
    ( ・ω・)       ○    ○
  .c(,_uuノ      ○○○○○
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/10(土) 12:41:06.63 ID:u7nywdTQo
351 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 17:40:00.95 ID:MCdl8ob/o
あんな境遇で育てばどっか壊れるわなw
352 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/10(土) 21:33:54.87 ID:b8ngr59Jo
明日。お昼頃。これたら。くる。
353 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 22:00:28.25 ID:aUptKEoZo
■■さんなにしてはるんですか
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/11(日) 00:18:45.64 ID:Non/KG7ho
上条さん突然どうしたww
一方垣根、このふたりで無双にせずに書くのは大変そうだな、がんばれー
355 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/11(日) 06:57:44.02 ID:xFAkB/Ybo
bb2cの背景変えたら超テンション上がった

どうやってもインデックスさんと上条さんが再会してくれないので昼は少し無理そう
笑点始まるころまでにはきます
356 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:46:15.36 ID:JvXcZAm0o
本当に申し訳ない

上条さんを変なキャラにしたせいでどうやっても

それはねーよ

って展開になっちまった
それを書き直しに書き直してたら笑点どころか朝のニュース始まるような時間になっちまった

申し訳ない

こんな時間に見てる人いないと思うけど投下しま
357 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:47:22.41 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

芳川と一方通行が話をしている間、垣根帝督は夕飯の買い物に出ていた。

――今夜は何にしようかな……ミサカちゃんの飯が食いたいな。

スーパー内をぶらぶらと歩く。
適当に野菜、肉などをカゴに放り込んでいると見覚えのあるツンツン頭を発見した。

「よう、上条」

「……垣、根か……なにしてんだ?」

「……元気ねぇな?失恋でもしたか?」

明るく、励ますように垣根は笑った。

「……失恋の方がましかな」

垣根から目を逸らし、小さな声で吐き捨てる。

「あ……と、なんだ、その……め、飯」

「……飯?」

「晩飯の買い物だろ?今日ミサカ達いなくて芳川も……飯は食いにくる……のか?来ると思う……まぁ、なんでもいいやお前も食いに来いよ」

何も入っていないカゴをひったくり、それを近くのカゴ置き場に投げ入れる。

「ついでに泊まって行ってもいいぜ?」

カラッと笑う。

「……うん、けど、今日は夕飯いただいたら帰るよ」

まだ迷うように、上条は頷いた。

「よし、何が食いたい?肉か?魚か?」

「……じゃあ、肉で」

垣根はよし、と頷くと肉売り場へと向かう。

「いや、お前そのカゴの中の肉だけで十分だろ」

肉、野菜、魚など様々な物が入ったカゴを指差す。

「ん?そうか?友達が家に来るなんてはじめてだからな……柄にもなく張り切ってんのかな?」

恥ずかしそうに笑い、レジへ向かった。

「……一方通行や芳川さんは友達だろ?」

「あれは家族だ」

即答。

「……そっか」

三人はお互いがお互いを大事にしあっているんだと上条は知った。
358 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:49:54.10 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

「そう言えば帝督は?」

話が一段落すると、芳川は一方通行の隣に座る。

「……晩飯の買い物のはずだが……ちと遅ェな」

携帯電話を開き、時間を確かめる。
垣根がでてからすでに一時間が経過していた。

「……まぁ、心配はねェだろ」

携帯電話を閉じ机の上に置くと、欠伸がでた。

「……あら、眠いの?」

「……お前が側に来るとなンか眠くなンだよなァ」

目をこすりながら、言う。

「なによそれ」

芳川はクスクスと笑いながら一方通行の横髪を手の甲で撫でる。
一方通行もそれを拒否せず、むしろ受け入れ、頭を芳川の方へと少しだけ傾ける。

「綺麗な髪ね、本当に綺麗な真っ白」

そのまま今度は頬へ触れる。

「肌も綺麗で羨ましいわ」

一方通行は気持ち良さげにまぶたをだんだんと下げていく。

「芳川」

眠そうな声で一方通行は芳川の名前を呼ぶ。

「どうしたの?」

「好きだ」

芳川は一瞬、動きを止め、小さく微笑む。

「……わかってるわよ、そのくらい」

一瞬だけ期待のような、なにか心が熱くなるものを感じたが、すぐにそれを打ち消す。
そして、今一方通行の言った『好き』はミサカや垣根に向けて感じているものと同じ種類のものだろう、と理解する。

一方通行が何を思って口に出したのかは本人にも解ってはいない。
垣根やミサカに感じている好意と同じ種類、ならば言わなくとも伝わっているだろう。
現に芳川はわかっていると答えた。

――なンか心地いいな……。

自分の本当の気持ち、好意の種類に気づかぬまま、一方通行は心を溶かす。
安心し切った表情で、芳川に体を預けるようにもたれかかった。

――こいつにも俺は幸せになって欲しいなァ……。

普通の家庭を築き、子供を授かり……そんな幸せなそうな家族を思い描いた。
芳川の隣にいるのは、もちろん一方通行自身ではない。

――あれ?なンか今……まァいいか。

一方通行は完全に眠りに落ちた。
359 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/12(月) 03:52:29.54 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

「たーだいまっ、と芳川ももういるのか」

玄関に入り、見覚えのある靴を見つける。

「お邪魔します」

上条は垣根が出会った時よりは元気を取り戻していた。

「おう、買ったもんは適当にその辺置いといてくれ」

言いながら寝室へ入り、財布や家の鍵などをベッドの上に投げ置く。

「あ、冷蔵庫に冷えた飲み物あるから適当に飲んでいいぞ」

寝室から出ると、立ち尽くす上条にそういい、客間へと入って行く。

「ありがとう、垣根もなんか飲むか?」

冷蔵庫を開けながら上条は聞き返す。

「いやーいらないぜ」

わかった、と返事をして中から炭酸飲料を一本取り出した。

「おい、上条来てみろ、第一位様の緩んだ顔が見れるぞ」

垣根は奥の部屋――垣根が客間と呼ぶ部屋――から顔を出す。
その顔は楽しそうに笑っている。

「……寝てんのか?」

ボトルを開け、飲みながらそちらへ向かうと芳川と一方通行が仲良さ気に肩を寄り合わせ寝ていた。

一方通行は子供のように穏やかな寝顔をしている。
芳川も嬉しそうな寝顔をしていた。

「一方通行って……なんか子供っぽいんだな、そんで芳川さんって美人だよな」

正直な感想を漏らす。

「芳川に惚れたら今度は本気の一方通行と俺と戦う事になるぞ」

二人の寝顔を写真に撮りながら、垣根は言う。

「一方通行って、芳川さんが好きなの?」

「俺だって好きだぜ?」

「それは家族として、だろ?」

「一方通行の好きがどういうものかは本人にしかわからねぇよ、ただ芳川は第一位と第二位にもビビらず立ち向かって来るようなやつじゃなきゃ渡せないね」

写真を撮るのをやめ、垣根は二人を見つめる。

「お姉さんを取られたくない弟みたいなものか」

三人を見て、上条は少しだけ笑う。

――この三人の幸せそうな関係を壊したくない。余計な不幸に巻き込みたくない。

上条は笑顔を消す。

「ごめん、垣根。やっぱ俺――」

「帰るなんて言うなよ?折角来たんだ、予定通り飯食ってけよ」

上条の言葉を遮るように言った。

「……分かった」

苦々しく、不安そうなそれでいてどこか怯えるような顔をしながら上条は頷く。
360 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:53:36.56 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

「あー、食った食った。やっぱ肉は派手に大量に食うのが一番いいなァ」

「一方通行はもう少し野菜も食べなさい」

芳川が肉ばかりを食べていた一方通行に注意をする。

そんな二人の会話を聞きながら、垣根と上条は皿洗いをしていた。

「スーパーでの話の続きだが、なんかあったのか?お前ちとおかしいぜ?あんなに元気いっぱい正義の味方やってたのに死にそうなツラでふらふらしやがって」

二人には聞こえない声量で言う。
皿を洗う手も止めない。

「……なんだろうなよくわかんね」

本当はわかっている。

『君の方が助けて貰いたそうな顔してるんだよ』

『君みたいな苦しそうな顔した人間に、背負ってくれなんて言えない』

――苦しくなんかない、俺が悪いんだからそんな事思っちゃいけない。でもあの時、一瞬だけ俺はあの女の子に頼ろうとした。なにをかはわからねぇでも、頼ろうとした。……ずっと考えてるけどなんにもわかんねぇ……。

上条はぼんやりと流れる水を眺める。
手が止まってしまっていることにも気づかない。
垣根も声をかける事はなかった。

――何かがこいつのスイッチを入れちまったんだろうな、それが何かはわからねぇが……。

水の音と食器のぶつかる音だけが、二人の間に流れている。
上条はそれを心地よく感じ、垣根はもどかしさを感じていた。
361 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:55:49.12 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

テレビとテーブル。
テーブルを挟むようにソファが二つ。
垣根が客間と呼ぶ部屋はそれ意外に何もない。
一人で暮らしている時、そこはただの音のない部屋であった。
テレビをつけても、耳には入ってこない。
ただ一人ソファに座りぼんやりとしているだけの事が多かった。

今は違う。

一方通行がいる。芳川がいる。ミサカ達もいる。そして、友達も遊びに来てくれる。

「皿洗い終ー了ぉ」

そんな今に喜びを感じながら垣根は笑う。

「なんか、いいよなこういうの……飯食ってリビングでみんなで食休みして……普段はミサカ達もいるんだろ?」

「ん?あぁ、そうだな」

「本当に、なんつーか俺が来ちゃって良かったのかな?」

「くだらねェ事言ってンじゃねェよ……垣根が無理矢理連れてきたようなもンだろ?」

こちらに顔を向けずに一方通行はコーヒーを飲んでいる。
芳川は無言のまま雑誌をめくっていた。

「あとここリビングじゃねぇぞ?客間だぞ?」

「え?でも普通リビングって一家団欒するような部屋だろ?」

「だって、不動産屋がここはリビング・ダイニング・キッチンをすべて一つの大きな部屋にまとめました……的な事言ってたもんよ」

ソファに座りながら垣根はテレビをつけた。

「だからあの部屋無駄に広いのか……」

垣根のいうLDKは食卓と冷蔵庫、食器棚と炊飯器含めた調理機器が少し以外には何もなく、なんとなくガランとしたさびしさがあった。

「多分本来は今ここでお三方がくつろいでるような空間もあそこの部屋に作れるように広いんじゃねぇの?」

上条も垣根の隣に腰をおろした。

「んー、元々一人で住んでたからよ、あのただ広い空間をリビングと呼びたくなかったのかもな……でも一方通行とミサカちゃん達と芳川と、住人も増えた事だし……うし、近いうち模様替えすっか」

言いながら一方通行に視線を送る。

「好きにしろよ」

「お前も手伝えよ」

はいはい。とやる気なさ気に一方通行は返事をする。
芳川はそんな二人の会話をぼんやりと聞いているようだった。
362 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:56:24.35 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

「んじゃ、どうもごちそうさまでした」

洗い物を終え少しだけ休むと、上条は泊まっていけという垣根の言葉を断り、玄関に立った。

「見送りは玄関まででいいよ、じゃあな」

「おう、またな」

二人は手を振り合う。

上条は逃げるように扉を開き、外にでた。
エレベーターを使い、地上まで降りる。
マンションから出ると、外は暗くなっていた。
月が妖しく光、上条の頭上を照らす。
その月を睨むように上条は夜空を見上げる。

すべて見透かしているかのように月は輝く。

――こんな月の夜だけは自分の不幸に他人を巻き込みたくない。

自分の罪を暴かれているようだ。と上条は思った。

目を閉じる。夏らしい生ぬるい風を思い切り吸い込むと足を一歩前へと出す。

――俺はどうすれば許されるんだろうな。

上条は歩く、その心にありもしない罪を抱えたまま。
手を伸ばせば、恐れを捨てれば、簡単に壊す事のできる……そんな脆いはずの幻想を抱えたまま。
363 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:58:32.12 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

「なァ、どォして今日上条を呼ンだンだ?」

上条が帰宅し、少しすると一方通行が口を開いた。

「なーんか元気なかったろ?だから」

「……確かに、なンか今日の上条はキメェっつーかウゼェっつーか妙な雰囲気してたな」

「だろ?まっすぐギラギラとした鬱陶しいくらいの情熱持って俺らに挑んできたあいつがだぜ?なんかビビってるような後悔してるような……なんか、こう、気になんじゃん?」

お互いテレビに視線を向けながら会話する。

「あいつはメサイアコンプレックスみたいなところあるからな……助けようとしたやつに拒否られたとかそんなくだらねェことじゃねェか?」

「そんな単純な話ならいいんだけどな……」

垣根はどこか納得がいかないような、心配するように眉を寄せる。

「……随分上条くんを気に入ったのね」

悩む垣根の顔を見ながら、芳川が声をあげた。
その顔には驚きと焦りが見えなくもない。

「ん?いや気に入ったというか……あいつも俺らと同じな気がするんだ」

垣根は病室で見せた上条の後悔の色の宿った目を思い出す。

「んで、俺は一方通行が言ったメサイアコンプレックスってのはちと違う気がするんだ」

「あいつ普段から不幸不幸言ってンじゃねェか。その不幸を押さえ込もうとして『自分は幸せだ。だから人を助ける事ができる』って思い込もうとしてンじゃねェのか?」

「それならいいんだよ、だけどあいつは……義務というか贖罪の為に人を助けなきゃいけないって思い込んでるように俺には見えた」

――その“不幸”も俺のせいかもしれない。

芳川は昼間偶然であった時のことを思い出していた。

「なんというかさ、あいつがなんでそんなよくわからねぇ思い込みしてるか知らねぇけど……この考え自体間違ってるかもしんねぇけどなんか……な?」

「もしそうだとしたらそれは傲慢というものだわ……世界は不幸で満ち満ちているというのに、彼はそれを全て自分のせいにしてるってことでしょう?」

「俺らも同じだよ。でかい力を持たされた。地獄を味わった。それが俺らだけだと思い込んでたんだ、でもそんなやつは他にもいるんだなぁって思ってさ……それに気づけたから今俺は会って一週間たらずの上条の心配なんかしてやれてる……思いやりとかそういうのをお前ら以外にも向ける余裕が出来た」

芳川は垣根の精神的な成長を嬉しく思う反面、寂しくも思っていた。
先ほど見えた焦りはつまりこういう事なのだろう。

『そのうち垣根帝督は芳川桔梗を必要としなくなる。芳川桔梗よりも速く大人になり、置いていかれる』

芳川もまた、この二人には依存しているのだ。
364 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 04:00:01.22 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

垣根の家と自分の学生寮の丁度中間地点にある公園で、上条は見覚えのある白い修道服を見かけた。

「あ、おい……」

声をかけ、少し後悔する。

「……あぁ、朝のご飯くれた人だね」

少女は月を輝かす太陽のように笑う。

「あ、うん……まだ追われてんのか?」

変な会話だな、と言いながら上条は感じた。

「うん、しつこくて嫌んなっちゃうんだよ」

疲れたのを隠すように、笑う。

「そ、か……なぁ、やっぱり俺のとこ来いよ。魔術だとかよくわかんねーけど多分お前を守れる」

縋るように上条は少女に手をのばす。

「……例えば君が『私に一目惚れしちゃったから俺が守ってやる』とか言ったら私は女の子だし、すごく嬉しいかも……でも、そんな『助けなくちゃ自分が壊れちゃう』なんて顔でそんな事言われても嬉しくないんだよ……私はそういう迷える仔羊を導くシスターさんなんだから、そんな迷えるあなたに助けてなんて言えないんだよ」

「俺は……別に贖罪の為にお前を助けたいんじゃない!俺は……俺は……俺のせいだから、俺がやるのが筋なんだ」

「その、『俺のせい』っていうのも意味わかんないかも」

二人が話していると、そこに一人の男が近づいてきた。

「鬼ごっこはここまでにしよう」

煙をはきながら男は言った。
少女の顔が強張る。
一瞬だけ、上条をみる。
上条は――笑っていた。

「おい、シスター俺に任せろ」

そういうと、一歩前へと進み出た。

「……君は彼女のなんだい?まぁ、邪魔をするというなら……[ピーーー]までだ」

煙草を人差し指と中指でつまみ、口から離すと、息をはきながら上条を睨みつける。

二メートルは超える身長に、燃えるような赤髪、右目の下にはバーコードの刺青と耳にはピアスが空いている。
その顔は自信と覚悟、そして上条への殺意で満ちていた。
365 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 04:06:45.01 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

「ステイル=マグヌス。と名乗りたいところだけど、Fortis931と名乗らせてもらおうか」

煙草を口に戻しながら自己紹介をした。

「んなもんどっちだっていいさ……この子の不幸がお前なら俺はお前を絶対倒す」

その言葉にステイルの顔が怒りで歪む。

「……君の言う通りさ、でも何も知らないお気楽な学生が知った口を聞くなぁああああ!」

タバコを放り投げると、呪文を唱える。

炎よ―――

巨人に苦痛の贈り物を!!

放り投げた煙草の軌跡をなぞるように炎の剣が現れる。それと同時に再度、呪文を唱える。

灰は灰に―――

―――塵は塵に―――

―――吸血殺しの紅十字!

炎の剣がもう一つ現れ、それら二つを上条に向かって投げつけた。
それは上条の手前二メートルの位置で爆発し、あたりは爆発音と熱、そして爆煙に包まれる。風がなく、まだ爆煙は晴れない。

「チッ……これじゃあインデックスをまた……クソ」

ステイルは新たな煙草を取り出し、火を付ける。

「――オイオイ、勝負はまだ終わっちゃいねぇのに一服とは余裕があるじゃないか」

上条が声を出すのを待っていたかのように、風が吹き、煙が一気に晴れた。

晴れた煙の先には右手を突き出し不敵に笑う少年。
何かを掴むかのように、その右手を思い切り握りしめる。

「インデックスってのはお前の名前か?」

ステイルから目を逸らさず、後ろにいる少女に言葉を投げかける。

「……そ、そうなんだよ……君は一体……」

インデックスは上条が炎を打ち消した事に驚きながらも、答える。

「インデックス、お前の不幸は俺のせいだ。だから俺はお前を助けなくちゃならねぇ……と思ってる。それをお前がどう思おうと関係ない……俺が俺のためにお前を助ける」

「……その子の不幸が君のせい……ね。君は神様にでもなったつもりなのかい?……ありふれている不幸が、不運が、惨劇が全て君が引き起こしていると?……馬鹿馬鹿しいね、だったら君が[ピーーー]ば良いだけの話だ。そうすれば世界は幸せになる」

「そうしたら俺は人を助けられな……あ、あ……れ?」

「大したヒーローだよ、思い込みに支配され、見失いなにもかもあべこべじゃないか」

煙を吐き出す。

「違う!俺は……俺は……」

「もういいよ、ぐにゃぐにゃした醜いヒーロー気取りが僕は嫌いなんでね」

カードのようなものを取り出しそれをばらまく、それらは外灯、自動販売機、ベンチなどに吸い込まれるように張り付いていく。

「世界を構成する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。その名は炎、その役は剣。具現せよ、我が身を喰いて力と為せ」

煙草の灰を親指で弾き、落とす。

「魔女狩りの王〈イノケンティウス〉……意味は必ず[ピーーー]……さ」

ステイルの言葉と共に、炎の巨人が現れ、吼える。

「んなっんじゃこりゃ」

そばにいるだけで肌が焼けるような熱を感じ取る。

「……でも、これも異能なら……」

上条は考えるのを一旦やめ、炎の怪物―イノケンティウス―へと暑さを我慢し、右手を突き出しながら、全速力で突っ込む。
そして、それの体を思い切り殴りつけた。
366 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/12(月) 04:07:22.15 ID:JvXcZAm0o
巨人はあっけなく消え、上条はステイルに向かって笑いかける。

「俺に魔術は効かねぇよ」

が、ステイルは余裕の表情で煙草をふかす。

「言っただろ?意味は『必ず[ピーーー]』だって」

後ろに何か高温の物体が現れたのを上条は感じた。
恐る恐る振り返ると、消したはずの炎の怪物が――復活していた。

「まじかよ」

その怪物は十字架のような武器を作り出し、それを上条めがけて振り下ろす。

「くっ……」

右手でそれを“受け止める”。

「な、んで消えねーんだ」

押される。気を抜けばこのまま十字架に押しつぶされてしまう。
一瞬だけ、十字架に燃やし尽くされるならばそれも罪人にはいいかもしれない。と考えがよぎった。
が、泣きそうな顔でこちらを見つめるインデックスを視界の端に捉え、その考えを打ち消す。

「消した先から……復活してんのか?」

力を振り絞り、十字架をそらすと、上条はステイルに背を向け走り出す。
そのままインデックスの手を取り、足のスピードをさらにあげた。

「なっ」

上条の予期せぬ逃走にステイルは煙草を落とした。

「こんな右手も効かねぇ化け物、対策も知らずに相手にできるか!とりあえず逃げるぞ、インデックス」

右手は何かあった時のために空けておく。
左手でインデックスの手を掴むと、そのまま公園から逃走した。
367 :やり直しすまんせん ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:08:11.28 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

「ステイル=マグヌス。と名乗りたいところだけど、Fortis931と名乗らせてもらおうか」

煙草を口に戻しながら自己紹介をした。

「んなもんどっちだっていいさ……この子の不幸がお前なら俺はお前を絶対倒す」

その言葉にステイルの顔が怒りで歪む。

「……君の言う通りさ、でも何も知らないお気楽な学生が知った口を聞くなぁああああ!」

タバコを放り投げると、呪文を唱える。

炎よ―――

巨人に苦痛の贈り物を!!

放り投げた煙草の軌跡をなぞるように炎の剣が現れる。それと同時に再度、呪文を唱える。

灰は灰に―――

―――塵は塵に―――

―――吸血殺しの紅十字!

炎の剣がもう一つ現れ、それら二つを上条に向かって投げつけた。
それは上条の手前二メートルの位置で爆発し、あたりは爆発音と熱、そして爆煙に包まれる。風がなく、まだ爆煙は晴れない。

「チッ……これじゃあインデックスをまた……クソ」

ステイルは新たな煙草を取り出し、火を付ける。

「――オイオイ、勝負はまだ終わっちゃいねぇのに一服とは余裕があるじゃないか」

上条が声を出すのを待っていたかのように、風が吹き、煙が一気に晴れた。

晴れた煙の先には右手を突き出し不敵に笑う少年。
何かを掴むかのように、その右手を思い切り握りしめる。

「インデックスってのはお前の名前か?」

ステイルから目を逸らさず、後ろにいる少女に言葉を投げかける。

「……そ、そうなんだよ……君は一体……」

インデックスは上条が炎を打ち消した事に驚きながらも、答える。

「インデックス、お前の不幸は俺のせいだ。だから俺はお前を助けなくちゃならねぇ……と思ってる。それをお前がどう思おうと関係ない……俺が俺のためにお前を助ける」

「……その子の不幸が君のせい……ね。君は神様にでもなったつもりなのかい?……ありふれている不幸が、不運が、惨劇が全て君が引き起こしていると?……馬鹿馬鹿しいね、だったら君が[ピーーー]ば良いだけの話だ。そうすれば世界は幸せになる」

「そうしたら俺は人を助けられな……あ、あ……れ?」

「大したヒーローだよ、思い込みに支配され、見失いなにもかもあべこべじゃないか」

煙を吐き出す。

「違う!俺は……俺は……」

「もういいよ、ぐにゃぐにゃした醜いヒーロー気取りが僕は嫌いなんでね」

カードのようなものを取り出しそれをばらまく、それらは外灯、自動販売機、ベンチなどに吸い込まれるように張り付いていく。

「世界を構成する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。その名は炎、その役は剣。具現せよ、我が身を喰いて力と為せ」

煙草の灰を親指で弾き、落とす。

「魔女狩りの王〈イノケンティウス〉……意味は必ず[ピーーー]……さ」

ステイルの言葉と共に、炎の巨人が現れ、吼える。

「んなっんじゃこりゃ」

そばにいるだけで肌が焼けるような熱を感じ取る。

「……でも、これも異能なら……」

上条は考えるのを一旦やめ、炎の怪物―イノケンティウス―へと暑さを我慢し、右手を突き出しながら、全速力で突っ込む。
そして、それの体を思い切り殴りつけた。
368 :やり直しすまんせん ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:08:39.37 ID:JvXcZAm0o
巨人はあっけなく消え、上条はステイルに向かって笑いかける。

「俺に魔術は効かねぇよ」

が、ステイルは余裕の表情で煙草をふかす。

「言っただろ?意味は『必ず[ピーーー]』だって」

後ろに何か高温の物体が現れたのを上条は感じた。
恐る恐る振り返ると、消したはずの炎の怪物が――復活していた。

「まじかよ」

その怪物は十字架のような武器を作り出し、それを上条めがけて振り下ろす。

「くっ……」

右手でそれを“受け止める”。

「な、んで消えねーんだ」

押される。気を抜けばこのまま十字架に押しつぶされてしまう。
一瞬だけ、十字架に燃やし尽くされるならばそれも罪人にはいいかもしれない。と考えがよぎった。
が、泣きそうな顔でこちらを見つめるインデックスを視界の端に捉え、その考えを打ち消す。

「消した先から……復活してんのか?」

力を振り絞り、十字架をそらすと、上条はステイルに背を向け走り出す。
そのままインデックスの手を取り、足のスピードをさらにあげた。

「なっ」

上条の予期せぬ逃走にステイルは煙草を落とした。

「こんな右手も効かねぇ化け物、対策も知らずに相手にできるか!とりあえず逃げるぞ、インデックス」

右手は何かあった時のために空けておく。
左手でインデックスの手を掴むと、そのまま公園から逃走した。
369 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:10:13.60 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

「あ、あの怪物、は公園からは、出れねぇ、みたいだな」

息を切らしながら上条はなんとか逃げ切る事に成功する。

「多分、あれはルーンの刻印を消さないと駄目なんだよ。戦いながらそれを全部消すなんて無理かも。だから準備させたら勝ち目はないんだよ」

ステイルの魔術を解説するインデックス。

「そう、なのか……あの飛んでってルーンってのはペタペタ張り付いたカードか?」

「うん、そんな認識でいいんだよ。そして、イノケンティウスはそのルーンの中からは出てこれないんだよ」

二人は上条の学生寮へ向かっている。

インデックスはまだ迷うような、上条は目的を与えられ喜ぶ愚者のような表情で……。
370 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:10:45.11 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

「あ、と俺は上条、上条当麻だ。よろしくなインデックス」

「う、うん。私はインデックスって言うんだよ」

二人は狭い学生寮の一部屋へと到着した。
玄関を入るとすぐキッチンがあり、その奥の部屋には小さな本棚と折りたたみ式の小さな机、そしてベッドがあるだけのシンプルな部屋である。

「とりあえずお礼を言うんだよ、助けてくれてありがとう。本当はとうまを巻き込みたくなかったんだけどな……」

うつむき、その顔から太陽のような笑顔は失せていた。

「気にするなよ、ずっと言ってるだろ? 俺 が 全 部 悪 い ん だ 」

「や、やっぱりとうま少しおかしいんだよ。朝からそれずっと言ってるけどなんの事か全くわからないんだよ」

上条に若干の気味悪さを感じる。

「……気にしなくていい、お前は俺が守るから」

優しく微笑むと、インデックスの頭を撫でた。
右手で。

パン。と音がした、気がする。
上条は目の前で起きているあまりにも意味不明な出来事に思考がシャットアウトされた。

右手でインデックスに触れたら、インデックスの修道服が弾け飛んだのだ。

「え?」

「んん?」

「うわぁあああああ!よくわかんねーけどごめん!」

「きゃあああああ!とうまのばかー!」

二人はお互い悲鳴をあげ、インデックスはベッドの上にあった布団にくるまる。

上条は適当に服を出し、それを後ろ手にインデックスへと渡す。

――は、はいてなかった……。

二人とも顔はステイルの髪色のように真っ赤である。
371 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:12:33.80 ID:JvXcZAm0o
〜〜〜

「うううー、もうお嫁にいけないんだよ」

インデックスは上条を睨みつける。

「なんだ?俺にもらって欲しいのか?」

機嫌をとろうと上条はつまらない冗談をとばす。

「そんな事言ってないかも!もう、でも、その右手……歩く教会まで壊しちゃうなんて……」

「ん?あぁ、これね」

言いながら、右手を目の前で握ったり開いたりする。

「初めは俺はただ人よりも不幸なだけのどこにでもいる普通の人間だと思ってたぜ」

懐かしむような表情をしながら、上条は昔話をはじめる。

「外食すれば食中毒。道を歩けば車が突っ込んできたり上から工事中の鉄板やら鉄骨が降って来る。公園で遊んでても車が突っ込んでくる」

上条は笑う。

「そんで俺と遊んでる子は巻き込まれるんだ、皆が言ったよ『上条当麻が悪いんだ』ってね。刺された事もあったな……事故に巻き込まれて、周りの子を無傷で助けられても誰も許しちゃくれなかった」

「……もういいんだよ」

「それどころか自作自演を疑われたんだぜ?笑える話だろ、命をかけてそんな事をして注目を浴びたい子だって周りの奴らは言ったんだぜ?『お前がいなければ』『お前がいるから』『お前は疫病神だ』何回も言われたよ」

狂ったように上条は喋り続ける。

「でもそれは決して間違いなんかじゃないんだ……」

微笑むように、上条は綺麗な顔をした。
温かみのある、何かを思っての顔。
372 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:13:24.23 ID:JvXcZAm0o
「親父がさ、だんだん引きこもって精神的にやばくなってきた俺を迷信を信じないこの街に連れてきてくれたんだ……小学校に上がる頃だぜ?その頃から俺の心は壊れてんだよ」

家族の優しさだけが彼をギリギリのところでとどめていた。

「そこで俺は右手に異能の力を消すって能力があるのを知ったんだ。能力者が喧嘩しててな、それの流れ弾が俺のところに飛んできたんだよ『いつもの不幸か』って思いつつなんとなく右手を出したんだ、本当に、なんとなく……」

上条は何を思いながら喋っているのだろう。
インデックスは何を思いながら聞いているのだろう。

「そしたら、それが消せたんだ。それで俺は直感的に思った『あ、俺は神様の好意とか運とかそういうのを消してんだ。そんで、疫病神に愛されてんだ』ってね。だから俺が疫病神ってのは間違っちゃいない。だから、この世の不幸は疫病の神様、上条さんのせいなんですよ……」
373 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:17:29.79 ID:JvXcZAm0o
いい終えると、先ほどのステイルの言葉が脳内に蘇る。

『思い込みに支配され、見失いなにもかもあべこべじゃないか』

――思い込み?なにが?

――見失ってる?なにを?

――あべこべ?だからなにが?

そして、今朝上条はインデックスに何を頼ろうとしたのか、理解した。

――俺はインデックスに救ってもらいたいと縋ろうとしたのか?こんな小さな女の子に?俺が悪いのに?

ブツブツと自問を繰り返していると、インデックスが口を開いた。

「とうまは何時の間にか不幸を全部自分のせいだって、思い込んじゃったんだね……無責任な大人の言葉を信じちゃったんだね」

――だって事実じゃないか。

「とうまは、初めから『自分のせいだから人を助けなきゃ』って思っていたの?」

――違う、最初はただ、傷つく人を見たくなかったからだ。

「とうまは、悪くないんだよ?不幸なんてとうまがいなくても全ての人に訪れるんだよ?だから人間は幸福を感じられるんだよ?」

――違う、違う違う違う。

上条は幼い頃両親以外の味方はいなかった。
外に出れば避けられ、怒鳴られ、非難された。

お前が悪い。疫病神。お前のせいだ。

どれもこれも聞き飽きた言葉だ。

それはつまり聞き飽きるくらい、その言葉は上条当麻の中に定着していたということだ。

散々言われた冷たい言葉は幼い上条の中に真実として築き上げられる。

幼いながらも、勇気と根性でこちらに向かって来るトラックから友達二人を守った。
上条は骨折の大怪我をした。

落下して来る鉄骨から人を庇った。
奇跡的に上条は大怪我で済んだ。

犬に襲われている友達を庇った。
また、上条は大怪我を負った。

火事現場から、そこの家の親が置いてきた赤ん坊を救い出した。
全身を火傷し、生死をさまよった。

いつも意識を失う直前に聞く言葉は決まっている。

『この疫病神が』
374 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/12(月) 04:22:11.74 ID:JvXcZAm0o
目を覚ますと、母親が泣いていた。
父親も泣いていた。

二人には笑っていて欲しかった。自分が笑えば両親も笑うと思って上条は微笑んだ。
そしたら、さらに両親を泣かせてしまった。

そして、つよくだきしめられた。

上条は段々外に出なくなったのではない。
外に出られなくなったのだ。

病室から見える公園では同じくらいの年齢の少年少女が楽しそうに遊んでいる。

上条はそれを見て、夢をみた。
自分もあの輪に入る夢を……。

――もしも、僕のしてしまったわるいことをぜんぶあやまったらなかまにいれてくれるかな?

その思いは十年経った今でも上条の中に「贖罪しなければならない罪」として存在していた。

上条は頭を抱える。

「だって、みんなそういった、おれはただ、一緒に、仲間にいれてほしくて……だから、罪を償えば、罰を受けたら……なんで?」

「許されるわけないよ、だってとうまはなにもしてないんだもん」

インデックスの目から涙がこぼれる。
そして、上条を抱きしめる。

「とうまは、なんにも悪くないんだよ……?」

初めはただ、人が痛がったり泣いてたりするのを見るのが嫌だったから。

助けることの出来た人からは笑顔が貰いたかった。
笑って欲しいから行動したんだから。

でも、その人たちはみんな、自分を睨みつけた。
そして憎悪の目をした。

そのうち、殺意に満ちた視線が上条を包んだ。

この街に来てからは、上条は助けた人の顔を見なかった。
その人が何かを言おうと迷ってる間に逃げ出していた。恐ろしかったから。

でも、今日出会った少女はなんの迷いもなく、ずっと欲しかった笑顔をくれた。

「とうまはなんにもわるくないんだよ」

ありがとう。と言葉を添えて、太陽みたいに笑った。

太陽の破片のように熱く、美しいものが頬を伝っていた。

少しだけ、上条は自分に誇りを持つことができた気がした。

上条が欲しかったものは笑顔。
ただ、友達からの笑顔だった。
375 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:29:34.98 ID:JvXcZAm0o
\(^o^)/

まぁ、もう開き直る

まじで変な展開でごめん

芳川と一方通行の寝ちゃうとこは地味な芳川×一方通行要素として頑張ったと思うんだ
自分で褒めちゃうくらい今回も後半の出来の悪さにダメージ受けたからまた批判とかよろしくお願いします

なーんかどうにも駄目だ
全く成長出来てない気がする

面白かったらどうぞ笑ってやってください
つまんなくてもどうぞ笑ってやってください

あとステイルさんごめん、サガわすれてピーピーだらけになってた
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/12(月) 07:27:54.91 ID:EHz6Se/3o
ダメだと思ったら投下しなきゃいいのに


とりあえず変な自虐はやめてほしいです
377 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 07:28:32.66 ID:qxP7cuVBo
まー、あれだ
いきなり上手くなるわけじゃないんだから、
いきなり納得がいくものなんてそうそう書けないよ

投げ出さずに書き続ければ、少しづつ書きたいことを上手く文字にできるようになっていくんじゃないかな

俺はこの話を楽しんでるし、
話の続きが楽しみだ
378 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 07:47:22.49 ID:5jarHpCao
乙!!
インデックスさんええこや
379 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 10:45:48.58 ID:oA+lATCAO
というかそう言う事書くと変な奴呼ぶから(つーか呼んでる)止めた方がいいよ

書きたい気持ちは痛いほどわかるけど
380 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 12:04:44.08 ID:m0OsDxFIO
俺は原作の人助けロボット上条さんよりも、人間的だと思った
ちょっと落ち込み過ぎてるとは思うけど

そもそも気楽に書けばいいんだよ、こっちも好き好んでここに来てるんだから
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/12(月) 13:08:34.05 ID:k38p5Y8No
最初との落差が酷いんだよな

最初から欝条さんならよかったんに
382 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/12(月) 14:29:04.19 ID:ikFZijoIO
すまん
頭の中ではもっとはっきりしてるのにそれが書けなくて落ち込んだ
不快な気分にさせたらすみませんね

これからはなるべく黙って投下しま
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/12(月) 14:47:54.31 ID:zs8FBFewo
乙!

感想としては>>381の意見とほぼ同じだな、前の章と今回の章とで上条さんのキャラに落差がありすぎる
読ん感じ『ストーリーを重視するあまりそのストーリーに合うようにキャラのほうを後付け設定とかで変にいじくってしまってる』ってイメージたな
この点は前章のほうでも言えるんだが今回の感想としては書くべきことではないので省かせてもらう

前回に続きまたもこんな内容になってしまって申し訳ないが、自分は続きを心待ちにしています
384 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 15:07:09.67 ID:f/VNrA62P

確かに過度の謙遜は不快なだけってやつだな
話自体は正直面白いし鬱条さんの心情も前章でちょっとだけフラグ立ってたしギリギリ納得できる
それより一方さんが急にデレたことにビビった
385 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/12(月) 15:10:19.62 ID:ikFZijoIO
>>383
全部終わった時もぜんたい通して悪いところ指摘してくれたらうれしいな

次は今週中にはきます
386 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 21:41:23.62 ID:KBX1FeCyo
この情けない上条さんを芳川一家が四苦八苦しながら
立ち直らせるしかないなww

沸き上がるアイデアに振り回されてるように感じるねぇ
ひとつの作品に全部押し込もうとして迷走してる気がする。

精神的な成長を描きたいみたいなので、各キャラクター毎
に、「元はこうでこういう風に変わっていく」って心理プロットを
テキストでつくって時々読み直すとかしたほうがいいのかもね。
性格付けとか基幹部分は途中から弄ると崩壊するので怖い。

謙譲と卑屈の境界線は曖昧だからあんまり卑下しない方が
良いと俺も思うよ。
387 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 04:30:26.96 ID:8YXc+rT+o
乙乙


個人的に思うに、もっとゆっくり書いたらいい
筆の早さって意味でもそうだけど、話のスピードっていう意味で

筆の早さっていうのは、しっかり見直してみたらどうかっていうことね
誤字脱字だけじゃなくてストーリーの流れや一つ一つの描写とか、
そういうとこまでしっかり気にして書いた方がいい気がする

自分が書いたものを客観的に見るのってすごく難しいことだから、
数時間とか2、3日しか置かないで良い推敲はできないと個人的には思ってる
もちろんこの更新のスピードはすごいことだけどね

で、話のスピードっていうのは、
このSSって原作から結構キャラが変わってるから(その点は批判してるわけじゃなくて、そういう作品だというだけの話)、
もうちょっと詳しい心理描写とかイベントがあってもいいような気がするんだよね
展開にしても心情の変わっていく様にしても、少し唐突な印象を受けた

多分書きたいものとか書こうとする展開が思いついたらすぐそこに行ってるんだと想像してるけど、
そこに至るまでの過程もしっかり考えて書いたらより良くなると思う


個人的な感想の域を出ないものを長々と大変失礼しました
応援してるのでこれからもがんばってね
388 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 17:28:42.73 ID:XldhmkLWo
上条さん立ち直り編か
389 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/14(水) 05:00:24.68 ID:BgvFzPtHo
レスありがとう
まじで参考になります

今日これたら来ます
390 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 23:45:41.12 ID:DNusMe5DO
舞ってるぜ〜
391 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/15(木) 00:11:17.01 ID:SZGEBzNko
日付変わってしまった

投下しよう
392 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:16:42.45 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

「おーっす、カミやーん!」

静寂が部屋を包む中、無遠慮に扉が蹴り開けられた。

「どこほっつき歩いてたんだにゃー?これ、プリントだ……ぜい?」

突然の乱入者――土御門元春――に二人は固まる。

「もしかしなくても俺はいまお邪魔虫かにゃー?」

そのサングラスで目が隠れているため、表情を正確に読み取ることは難しい。

「あ、そうだカミやんが終業式の日に助けた女の子覚えてるかにゃー?階段から落ちそうになった女の子だぜい?」

上条は小さく頷く。

確か隣のクラスの女の子だったはずだ。
ふざけてた男子生徒を避けようとして、足を滑らせた不運な女の子。

「『上条君お礼いう前にさっさと教室戻っちゃったから』って言って今日態々礼いうためだけに補習でもないのに学校来てたぜい?次からは礼くらい言わせてやるんだにゃー」

そう言い残すと、プリントの束を投げて寄越しさっさと部屋から出て行った。

「ほら、とうまは何も悪くない。昔の事は、みんな小さくて弱くて、怖さを何かのせいにしないと落ち着けなかったんだよ。たまたま何かがとうまになってしまっただけ」

インデックスが嬉しそうに表情を柔らかくし、上条の目を見つめる。

「……インデックス、俺はお前がずっと笑顔でいられるようにしたい……だから、お前を助ける」

―― ありがとうはまだ言わない。全部解決したら、そうしたら言おう。まだ完全に今までの考え方が変わったわけでもない。

上条の心情は当然の事である。
十六年間で染み付いてきたものだ。簡単に変わるわけがない、ただ、上条はきっかけを見つけたのだ。
心の闇を晴らす兆しを、光を見つけたのだ。

「な、なんか恥ずかしいんだよ」

インデックスは顔を少しだけ朱色に染め、上条から離れた。

「とうま、おなかすいた……かも」

そして背を向けながら、恥ずかしそうにそう言った。
393 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:27:21.40 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

「ごちそうさまでした」

満足気に上条の作った焼きそばを食べ終えると、手を合わせお行儀良く挨拶をした。

「お前、よく食うなぁ……あ、食器は台所もってけ、洗うのはあとで俺がやるから水に浸しといてくれればいい」

インデックスの食欲に度肝も抜かれながらも、後片付けの指示を出す。

「少し休んだら風呂先入ってきていいぞ、色々考えるのは明日に……明日も補習だった……まぁ、いっか……」

上条の顔にはサボってもしょうがないよな?という色が浮かぶ。

「いやぁ、良くねぇだろ。その銀髪の美少女はお前が学校いってる間俺が預かってやろうか?」

「お、いいのか?ありがとうなでも迷惑はかけらんねーよ垣根……垣根ぇ?」

ぼんやり眺めていた課題プリントから目をあげると、上条の携帯電話を見せびらかすように右手に持つ垣根帝督が座っていた。

「な、な、なんでお前がここに?というかどっから入ってきた?」

「ベランダから、ちゃんと邪魔するぜ?って言ったぞ。なぁ銀髪碧眼ちゃん」

インデックスも首を縦に振った。

「全然気づかなかった……まぁ、いいやどうしたんだ?」

上条はため息をつきながら、訪問理由を尋ねる。

「いや、だから携帯電話忘れてったからさ届けにきた」

上条の前に携帯電話をさしだす。

「ん、あぁ、わざわざありがとう忘れた事すら今気づいたよ」

笑いながら、礼を言うとそれを受け取り、充電器に差し込む。

「んじゃ、俺は帰るとするかねぇ……補習何時からだよ?朝嬢ちゃん迎えにくるぜ?」

「嬢ちゃんじゃなくて、インデックスって呼んで欲しいかも」

「そうか……俺は垣根帝督だ」

あからさまな偽名に一瞬顔をしかめるが、インデックスからは悪意を一寸も感じなかった。
そして上条の迷いが先ほどより消え、インデックスを信頼しているように見えたのも、垣根からインデックスへの警戒心を溶かした。

「うん、ていとくって呼ぶね」

無邪気に笑う。

――まぁ、上条の人を見る目は割りとしっかりしてるし大丈夫だろ。

人をしっかり見る事ができる、それゆえ上条は『この人に嫌われたくない、幻滅したくない』と人から逃げるようにもなった。

「いやでも……」

明らかにこれは巻き込む行為だと上条は顔をしかめる。

「おいおい、なんかトラブってるとしても俺の家ほど安全なとこはねーだろ?」

垣根も、上条の呼び寄せる不幸など気にはしていなかった。
上条が罪の意識から人を助けている印象は持っていたが、その罪を上条が巻き込まれるトラブルとは結びつけはしない。
むしろ垣根は、いや多くの人は上条がトラブルに人を巻き込むのではなく、上条が勝手に他人のトラブルに巻き込まれていると認識しているだろう。
一番近しい友人は上条の心の真実を感づいていたようではあるが、まだ知り合って少しの人たちはそんな事には気づけないでいる。

「……じゃ、じゃああそこの公園まで連れてくからそこからお願いしてもいいか?」

先ほどステイルと戦った公園を待ち合わせ場所に指定する。

「おう、任せろ」

そして、上条はまた迷った風に目線を泳がせる。

「どうした?なんかあんなら言っとけよ」

そんな上条の様子に垣根は勘ぐる。
394 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:29:47.93 ID:SZGEBzNko
「……ていとく、私実は今追われてるんだよ。だからもしかしたら明日お世話になってる時に襲われるかもしれない」

上条が言おうか迷っていた事をインデックスはいとも簡単に言った。

「私は今、逃げる力がないからとうまの守ってくれるって言葉に甘えさせてもらってるんだけど……それでもいい?」

自分の弱さを受け止めて、助けてくれと、願う。

「……何に追われてるんだ?」

「魔術結社なんだよ」

「魔術ぅ?科学の街でなにをオカルトな事を」

垣根は笑い飛ばす、が上条、インデックスの真剣な目にその笑いはだんだん乾いたものになる。

「……マジ、なのか?」

二人は頷く。

「まぁ、そうか……よし、いやまて……」

自分を納得させる理由を必死に垣根は探し出す。

『いや、なンか変なベクトルがたまに入り込む感じだな』

そして一方通行の言っていたよくわからない現象、それを魔術と結びつけた。

――まぁ、そんなものがあったら面白いな。くらいに考えときゃいいだろ、追われてるのは本当みたいだしな。

「よし、信じた。上条は魔術師と戦ったのか?」

科学の街で育ち、その街のトップに君臨する垣根であるが、決して全てが科学で解明できるとは思ってはいない。
それゆえ、頭から否定したりもしない。

「あ、あぁ、ステイルって赤髪のやつと……そいつは火を使ってた。そんでなんかカードペタペタ張り付けて火の怪物生み出してた」

「勝てたのか?」

「いや、逃げた。そのカードを全部壊さないとその怪物何度も蘇るんだってよ」

「……インデックスちゃん、魔術で火を出す時ってのはその火は普通の火なのか?」

少し考えながら、垣根はインデックスに魔術の事を尋ねる。

「魔術は『異世界の法則を無理矢理現世界に適用して様々な現象を起こす物』だから一概にそうとは言えないかも、でもステイル=マグヌスの炎は火種にこっちの炎を使ってるから、この世界の物理法則に従うと思うんだよ」

「だったら、そのステイルってやつは問題ないな」

この世界の物理法則に従う。
それならば対策などいくらでも立てられる。

「この世界の物理法則だけで、常識の中だけで戦うやつが、俺に勝てるわけがない」

垣根は自信たっぷりに笑う。
395 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:32:56.85 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

「帝督は?もう寝ちゃったの?」

風呂から上がると、垣根の姿が見えなかった。
髪の毛の水気をタオルでふきながら、芳川は客間のソファへ座る。

「上条の携帯電話届けに行った」

一方通行はつまらなそうにバラエティ番組をぼうっと眺めている。

「そう、私今日ミサカちゃん達の部屋で寝ていいのよね?」

「ン?あァ、どこでもいいぞ」

「……じゃ、一緒に寝る?」

芳川はイタズラっぽく笑い、一方通行をからかう。

「昔は三人でよく昼寝したよなァ」

が、一方通行はまだ恋というものに気づいていない。
さらっと受け流し、昔を思い出す。

「……昔とは違うでしょ」

なんとなく面白くなくて、芳川は目の前の、ボトルに入ったフルーツジュースを一気に飲み干す。
垣根が出かける前に飲んでいたものだ。

「それ、垣根のだぞ」

一方通行は若干イラつきながら、芳川に注意すると立ち上がり冷蔵庫へ向かった。

「……あの子はまだ、よくわからないわね」

芳川は一方通行が甘えて来るのは母親や姉に甘えて来るのと同じだと思っている。

――帝督はその辺ちゃんとに成長していたわね。二人の違いはなんなのかしら?

それは愛される事を願ったか、愛する事を願ったかの違い。

愛される事を願った垣根は自身を裏切り、妬み、利用する人々をも愛そうと努力した。
人を愛する事がどういう事か理解しようとした。

愛する事を願った一方通行は愛する事のできる人を探していた。
基準は唯一愛した二人の“家族”だが、一方通行に取ってこの二人と同等に信じてもいいと思えた存在など現れなかった。

だから、自分の好意を向け方がわからないでいる。

そして、一方通行は今、芳川に甘えている実感すら持ってはいない。
ただなんとなく、気を抜くと昔のような接し方をしてしまう。くらいにしか思っていないだろう。
本人はそれに対し、なにか心に霧がかるようなもどかしさを感じているようだが、それが芳川を一人の異性として見ているからという事には気づかない。

初めはお姉さんのように自分を可愛がってくれる芳川が大好きだった。
やがてそれは形を変えていき、子供ながら芳川を守りたいと感じるようになる。

それを恋と呼ぶ事を幼い一方通行は知らなかった。

そして十年の時を経て、二人は再会した。

この十年間、一方通行は垣根の事も芳川の事も一秒たりとも忘れた事はなかった。

それは、会えなかった十年間で気持ちは一厘たりとも減った事はないという事だ。

ただ、守りたい。

それが恋だという事を、一方通行は未だに知らない。

「お前もコーヒー飲むか?」

冷蔵庫の前から声をかける。

「なんかあまいものをちょうだい」

当たり前のように返ってくる返事に心地よさを感じる。

先ほど飲み干したフルーツジュースと同じものと缶コーヒーを取り出し、冷蔵庫を閉めた。
396 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:35:19.27 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

「さて、そろそろ寝るか」

垣根が帰り、風呂に順番にはいると上条は寝る準備に取り掛かろうとする。

「そうだね、もう眠いかも……とうまちょっと狭くなるけどごめんなんだよ」

インデックスはあくびをしながらベッドに潜り込む。
そして、その様子をじっと見ている上条に不思議そうな顔を向けた。

「あれ?寝ないのかな?」

ベッドの半分を上条のためにあけ、そこをぽんぽん手で叩く。

「いや……流石に同じ布団で寝るのは……ね、上条さん紳士ですから……」

ドギマギと顔を赤らめながら上条はうろたえる。

「そ、それもそうだね!布団もう一枚あるの?ないんだったらわ、私が床で寝るんだよ」

自分が何を言ったか理解したのかインデックスはあわあわとしながらベッドの上に正座した。

「だ、大丈夫だ!もう一つある!俺がそれで寝るから」

そういい、押し入れから予備の布団をとりだすと、そのまま浴室へと向かう。

「ちょ、ちょっと待って欲しいんだよ!別々の部屋で寝てたら寝てる間に拐われちゃうかもしれないんだよ。ベッドの横に布団敷いて寝ればいいかも」

上条の袖を引っ張り、引き止める。

「別に同じ布団で寝るわけじゃないから問題ないかも」

「あー、うんまぁそう、だな……そうなのか?」

守るため、と言い聞かせ上条はベッドの横に布団を敷いた。

そして電気を落とし、部屋を暗くする。

「あ、一番小さいの付けといて欲しいんだよ……」

真っ暗にするとインデックスが遠慮がちに言った。

「……わかった、おやすみインデックス」

「ありがとう、おやすみなさい、とうま」
397 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:40:01.00 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

豆電球でほんのり茶色がかった部屋には二つの呼吸音と時計の針の音だけがこの世に存在するかのような錯覚を感じさせた。
窓は開けてあるのだが外から物音は一切しない。
不気味すぎるくらいの静寂が上条にのしかかる。

――俺は……悪くない?

自問する。

反射的に出てくる思考はやはり「俺が悪い」というものである。

その言葉に怯えるように拳を強く握る。

――インデックスは笑ってくれた。

朝、ご飯をあげた時、さっき逃げ帰ってきた時、そして先ほどご飯をあげた時、インデックスは上条の脆い心を包み込むように笑ってくれた。

――土御門、青ピ、小萌先生。

クラスメイトと担任の顔を思い浮かべる。

――御坂、その二人の妹。

いつも勝負しろと言って来る、たまにゲームのできる実験に誘ってくれたりゲーセンで遊んだりする友達とその妹の顔を思い浮かべる。

――垣根、一方通行、芳川さん。

最近仲良くなった友達を思い浮かべる。

――この人達を俺は不幸にしたくない。インデックスは俺のせいじゃないというが、でも俺がそばにいたらいつか絶対“俺自身に降りかかる不幸”に巻き込まれる。

体を小さく丸める。

もしも全ての不幸が自分のせいではないのならば、他人に降りかかる不幸に罪悪感を持つ事はない。
納得はし切れていないがこれは解った。

でももし、そうだとしても、上条が巻き込まれる不幸は相当なものだ。
いつか絶対側にいる人を巻き込んでしまう。

それはどう考えても、自分が悪い。

上条は思考を進める。

――やっぱり、俺が悪いんだ。

最終的にたどり着く答えはそこである。
さらに体を小さくするように丸める。

「とうま……私はとうまが救われるまでずっと側にいてあげるよ?時にはとうまを襲う不幸に巻き込まれるかもしれない」

静寂と上条の思考に美しい声が割り込んで来た。

「でもね、私たちはもう友達なんだよ。迷惑かけて、かけられて、それでもその人と一緒にいるのが楽しいから自分の意思で側にいたいんだよ。楽しいから辛いことがあっても笑えるんだよ。まだ私達は出会って一日も経ってないけど、私はとうまといるの楽しいよ?」

もぞもぞと寝返りをうち、上条の方を向いた。

そして、目が合うとにっこり微笑んでから、ゆっくりと目を閉じた。

――俺が……救われる?
398 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:43:11.04 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

――とうまはきっとまだ自分を責めてるんだよ。

人はそんな簡単には変わらない。
それが幼少の頃から体に染み付いている事ならば尚更だ。

――きっと何かあったらすぐにうじうじし始めると思う。多分今も私の言ったとうまが救われるってセリフに疑問と罪悪感を感じてるんじゃないかな。

だけど大丈夫だ、とインデックスは確信めいたものを持っていた。

上条はまだ夢を見ている。夢を捨ててはいない。

怯えきった瞳の中でもしっかりとぶれないひとつがあった。

笑いかけてもらいたい。
大切な人達に笑顔でいて欲しい。

という優しい願いがある。

――とうまは、他人に優しくされて来なかったから、誰よりも優しい子になる事が出来たんじゃないかな。

自分がされて嫌な事は他人にしてはいけない。

幼い頃きっと誰もが教わる事だ。

上条はそれを忠実に守っている。

――とうまは誰かに助けて貰いたかったから人を助けるのかもしれないね。

上条の心には様々な欲望が渦巻き、絡み合っているのかもしれない、とインデックスは思った。

上条は闇の中にぼんやり光りながら佇む光の粒のような存在だ。
真っ暗の中で心を見失い、がむしゃらに祈り続けている、そんな存在。

――もっと簡単な事なのにね。手をのばせばみんな笑いかけてくれるのに……でも、それすらも心の底から信じる事がまだ出来ないのかな。

インデックスは上条の心をかき回し、その根っこを出会った瞬間に暴いた。
それゆえに根元に刻まれた暗い思いを正しく理解していた。
399 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:44:50.82 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

「……今、何かいいましたか?とミサカは何かが聞こえたと主張します」

長い検査と調整の一日を終え、ミサカ達は寝ようとしているところであった。

「何も言ってないよ、ミサカには聞こえなかったし空耳じゃない?」

「そう、ですか……とミサカは何やら不安な気持ちになります」

二人は二段ベッド上下で会話をしている。
ミサカ00001号が上で00002号が下だ。

「慣れないところだからね、それにこの部屋白いしね。日本人特有の心霊感覚が……あー、ある、らしい……よ?」

「あなたはお姉さまに似て漫画が好きなのですね」

「……わかるって事は00001号も読んでるんじゃん」

二人はクスクスと笑う。

「明日も調整だって言ってたよね?……早く寝よ」

「……そうですね、おやすみなさいとミサカは目を閉じます」
400 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:46:04.34 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

「じゃあ、先に休ませて貰うわね」

芳川はそう言い残し、普段ミサカが使っている和室へと消えた。

テレビを消してソファに寝転がる。

タレントの嘘くさい喋りが消えると水を打ったような静けさに部屋は包まれる。

――やっぱ一人だと……落ちつかねェな……。

自分の周りから誰もいなくなる不安が一方通行を襲う。
天井を見つめその不安をかき消すように舌打ちをして見るが逆に不安が増すだけだった。

目を閉じると一人取り残される自分を嫌でも想像してしまう。

――垣根はすごい。どんどん成長してるみてェに感じる。……俺は何ひとつ変われてねェ気がする。

不安だけが大きさを増す。

芳川がまたいなくなる。
垣根がまたいなくなる。

想像しただけで吐き気がする。

もう何度こんな意味のない想像をしただろうか。

その度に自覚なしに唯一甘えられる存在にみっともなく甘えてしまう。

――強くなれ、一方通行。これから先、何も失わないように……全てを守れるように、強くなるンだ。

自分に言い聞かせる。
401 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:49:08.41 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

垣根が家に帰ると、芳川はすでに和室にこもり、一方通行はソファで眉間にシワを寄せながら眠りこけていた。

「……どんな顔して寝てんだよ」

夕方芳川に寄りかかり眠っていた時はもっと安らかな顔をしていたはずだ。

――第一位だからな、俺以上に悲惨な実験を見せられてきたんだろうな……。その度一人でガタガタ震えてたのかな……?

一方通行の髪を撫でる。

自分がずっと一緒にいてやれる事は出来ない。と垣根は理解している。
今はまだ子供だからある程度の無理もわがままとして許されている節がある。
だが、この先自分たちは大人になる。
どのような大人になるかはわからないが、大人になったら責任というものが生まれる。

そして、一方通行と垣根はこの街のトップだ。
当然、多くの人を従える組織のトップに立つ事になるだろう。

自分達のわがままに多くの人を路頭に迷わず事もありうるのだ。

――一方通行、強くなれよ。俺も強くなるから、違う場所からでも同じ景色を見てやろうぜ。

垣根は未来を上手に想像することができる。
ただし、未来の自分の隣には誰もおらず、自分の表情も真っ黒だ。
自分の事、心の内。
垣根にそれはうまく描けない。

そんな垣根を慰めるように夏の生ぬるい風がカーテンをひらひらと揺らした。
402 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:53:32.79 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

一方通行は目を覚ますと腹にタオルがかけられているのに気がついた。
ぼんやりした意識で食卓へ向かうと垣根と芳川が笑顔で迎えてくれる。
ホッとするのと同時に、自分の弱さに腹立たしい気持ちが沸き起こった。

「おはよう、タオルお前か?」

パンにジャムをぬりながら垣根は頷いた。

「サンキューな」

言いながら丁度焼きあがったパンを芳川から受け取る。

「ちょうど起こそうとしたら起きたわね」

おかしそうに笑いながら温かいコーヒーを淹れる。

「なァにが可笑しいンですかァ?」

受け取った皿を机に置き、手洗いとうがいをするため台所に立った。

「タイミングの良さが可笑しいんだろ」

「タイミング?」

手を拭き、そして椅子を引き、そこに座る。

「丁度帝督に起こしてきてって言ったところだったから、なんとなくおかしくてね」

コーヒーを三人分淹れ終えると芳川も椅子に座った。

「意味わかンねェ……」

そして三人揃っていただきますをする。

朝食を食べ終えると垣根は散歩と言い残し家を出て行った。芳川はシャワーを浴びている。

一方通行はベランダに寄りかかり空を流れる雲を眺めていた。

――あの雲の向こうかァ……遠いなァやっぱ。

遠い雲のさらに向こう側、一方通行達が壊したいものはそこにある。

樹形図の設計者がある限り演算、再演算、再再演算……という具合に完全に凍結される事はないだろう。だから、ぶっ壊す。

非常にわかりやすくスマートな結論である。

しかし、わかりやすくスマートな事ほど難しいと、一方通行は身をもって体感した。

「どォすりゃいいのかねェ……」

流れのままに動く雲に問いかけてみる、当然答えはない。

「なにを朝から黄昏てんのよ」

髪の毛をふきながら、ジャージ姿の芳川がベランダにでてきた。

暑いわねー、と太陽に手をかざしながら一方通行に缶コーヒーを差し出す。

「一方通行は今日何をする予定なの?」

ミネラルウォーターをのみながら横目で一方通行をみる。

「……そォだなァ……」

缶を開け、一口飲む。

「雲でも眺めながらどォやってぶち壊すか考える」

空を見上げる。
太陽と天気予報を知らせる飛行船が本日の降水確率が零だと言う事を主張していた。

「そう、ミサカちゃん達にも帝督と顔見せにきてあげて……あの子達も検査ばっかで退屈しだすだろうから」

「……そン時ァ御坂美琴も連れてってやるよ」

「……そうね、よろしく頼んだわよ」

柔らかい笑顔を浮かべると、ボトルを一気に空にした。
そしてドライヤーで髪の毛を乾かし、服を着替えると芳川は家をでた。
403 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:55:43.35 ID:SZGEBzNko
芳川の出てった玄関をぼんやり眺めていると、その扉が急に開き垣根と一方通行には見覚えのないインデックスが現れる。

「うお、お前なんでこんなところに突っ立てるの?びっくりするじゃねぇか」

やれやれ、と言いながら垣根はごくごく自然にインデックスを招き入れる。

「お邪魔するんだよ!」

インデックスは無邪気に笑いながら、一方通行に気がつくと自己紹介をした。

「あくせられーたは本当に真っ白なんだね!私はインデックスって言うんだよ。よろしくね」

「……お、おう。コチラコソ」

戸惑いながらも応対をする。

「いやー、外はあっちぃぞ」

垣根はさっさと冷蔵庫へ向かい、冷えたジュースで渇きを潤していた。

「垣根くゥン、インデックスちゃンがどこの子でなンでここにいるのか説明してくれねェかなァ?」

何も説明をしない垣根の頭を掴む。

「あー、上条が匿ってる子?なんか追われてるっていうからあいつが補習の間預かる事にした」

「……あのお人好しは自分が凹ンでる時も他人優先なのか……頭のネジ吹っ飛ンでンのかァ?」

手を離し、垣根を開放する。
昨夜の上条の異様な空気を思い出しながら、インデックスを伺う。

「め、迷惑かな?」

捨て犬のような目をしながら、垣根から受け取ったボトルを握りしめている。

「……何に追われてンだよ」

ため息をつき、迷惑ではない、というように首をふった。

「魔術結社なんだよ」

「インデックスちゃん、そこは俺が説明するわ」

垣根から聞かされた話は一方通行にとって到底信じられるものではなかった。
が、ふざけているようにも思えなかった。

――でも、垣根もまだ半信半疑ってとこかねェ?

当然垣根も完全に魔術を信じているわけではない、ただそういう可能性もある、と受け入れているだけである。

「……世の中まだまだしらねェ事があるンだなァ……」

一方通行は整理しきれない情報に、そうコメントを残すのが精一杯であった。
404 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:57:26.31 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

「……上条は何時に補習終わンだ?」

三人でぼんやりテレビを眺めたり、魔術の事を簡単に聞いたりしながら過ごし、退屈を感じはじめた頃である。

「夕方って言ってたんだよ」

ソファにだらしなく寝そべりながらインデックスは答える。

「あいつ昼飯とかどうすんだろう、夏休みも購買やってるものなのかな?」

学校にまともに通った事のない垣根は不思議そうにつぶやく。
当然あとの二人も学校などまともに通った事はないので、その疑問には答え様はない。
三人はそのまま、黙る。

「……そろそろ、昼だな」

「うん、お腹減ったんだよ」

「なンか今から作るのめンどいし今日は外で食うかァ?」

「そうだな、ついでに上条になんか弁当でも買って持って行ってやるか」

大きく伸びをしながら垣根が立ち上がる。
そしてインデックスの手を引き、起き上がらせた。

一方通行はテレビの電源を落とし、ベランダを施錠する。

「うし、行くか。インデックスちゃんは何が食いたい?」

「今更だけどなンでお前そンなパンクな格好してンだ?」

一方通行の指摘したそれは、安全ピンでツギハギだらけのインデックスの修道服のことである。

「こ、これは山より深くて海より高い理由があるんだよ!」

こうなった理由を思い出し、顔を赤らめ少し慌てる。

「……まぁ、いい……何食いてェンだ?」

これ以上突っ込むと面倒な事になりそうだと、話をそらす。

「うーん、お寿司食べたいかも!」

「オッケ、んじゃあ寿司で!少し早いが帰りに上条とミサカちゃん達にも寿司を届けてやろう、病院の飯よりは寿司のがいいだろう」

時間は午前十一時。

食べ終わるころにちょうど世間は昼休みになる頃だろう。

三人は仲良く家を出た。
405 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:58:25.37 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

「美味しかったね!ご馳走様なんだよ、ていとく!」

「おう、それにしても良く食ったなぁ……一方通行の三倍は食ってたな」

お持ち帰りようのパックが四つ入ったビニール袋をぶら下げながら垣根はインデックスの食欲に感嘆めいたものを改めて感じていた。

「見てるだけで腹一杯ンなったわ……お前とインデックスは上条ンとこ行け、俺ァ病院行ってくる……コーヒー飲みてェから先帰っててくれて構わねェぞ」

「ん、了解。こっちも適当にデザート食ってから帰るわ」

デザートという言葉にインデックスは目を輝かせ、一方通行はそんなインデックスを微妙な目で見つめた。

じゃあなんかあったら携帯電話を鳴らせよ、とでもいうように二人は白と黒の携帯電話を見せ合う。
そして、一方通行は空に落ちる様にして病院へ飛んで行った。

「……あくせられーたってすごいかも」

インデックスはするすると空を滑るように移動する一方通行を驚愕の表情で見送った。
406 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:59:48.33 ID:SZGEBzNko
〜〜〜

「とうま、喜んでたね」

「だなぁ、あいつ寿司好きだったのか」

二人は上条へお昼ご飯を届け終えると、ケーキを買って家に向かっていた。
何処かで食べて行こうかと最初は思っていたが、丁度時間もお昼時なのでどこも混んでいた。
一息つきたいのに騒がしいのはいただけないという事で静かな我が家でティータイムを取る事にした。

「そういやさ、インデックスちゃんはなんで追われてるの?」

エレベーターに乗り込みながら垣根は何気なく聞いてみる。

「……そういえばとうまにもまだ話してなかったかも、とうまが帰ってきてから一緒に話すでもいい?」

申し訳なさそうな顔をして垣根の顔を下から見上げる。
垣根は頭に手を起きながら、いいぜ、と短く返事をする。

エレベーターから出て部屋までは十五メートルくらいだ。
その丁度、中間付近に二メートルくらいの大男が立っていた。

「……おいおい、この階は俺しかいねぇはずなんだけどよ?それにここは禁煙だよ赤髪くん」

「フゥー、そうかいそりゃ失礼」

煙草を床に投げ捨て擦りこむように踏みつける。
407 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 01:00:44.98 ID:SZGEBzNko
「その子を返してくれないか?」

ステイルの目が垣根の腕を掴み後ろに隠れるインデックスを見つめる。

「はい、ドウゾと渡すわけねーだろうが」

二人はにらみ合う。

――こいつがステイルって奴かな?とりあえず問題はねぇな。

「しょうがないね、では実力でいかせてもらおう」

新たな煙草を一本取り出し、火をつけようとする。
が、煙草に火がつく事はなかった。

「だぁから禁煙だと言っているだろ?」

垣根は不敵に笑う。

「貴様……何をした?」

「大したことじゃないさ、この空間内では物は燃えない。炎を使う魔術なんて物も使えないさ」

余裕の表情は崩れない。

「な、そんな事、できる訳が……」

「物を燃やすのは酸素だ、その酸素を助燃作用がなくなるようにちと変質させただけだ」

見逃してやるからさっさと行け。最後にそういうと、ステイルの横をやや怯え顏のインデックスの手を引き、素通りしようとする。

「クソッ……まて僕は別に炎の魔術しか使えないというわけでは――」

「はいはい、またな」

垣根とインデックスはステイルがいい終える前に部屋の中へと消えた。
408 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 01:04:24.26 ID:SZGEBzNko
以上

垣根VSステイルはすこしギャグっぽくなっちゃった……よなぁww

また感想とかアドバイスとか批評よろしくお願いします!
409 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 01:05:28.33 ID:urS1SIYgo
ステイヌざまぁ

>>1
410 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 02:05:44.94 ID:yaYuhgeRo
カッキーとステイルさんの噛ませ犬対決ならこんなもん
411 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 02:07:42.78 ID:SZGEBzNko
どんぐらいが普通のペースなんだろ
約二週間で10万文字ってのは速いのかな?
412 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 02:08:10.47 ID:SZGEBzNko
ミスったwwww
気にしないでください恥ずかしいwwww
413 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 09:07:28.55 ID:0O9iRoAE0
淡々と書いてるけど、冷静に考えると怖すぎるわ、垣根
414 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 11:43:14.89 ID:3TbqhwzBo
圧勝w
第二ラウンドはタッグマッチか
415 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 11:55:44.39 ID:Ae7LiO6Q0
魔術の火が普通の火かはわからんな
ともあれ乙
416 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 14:52:49.66 ID:NdPXVttTo
>>1乙ゥ
ていとくンって魔術師相手にはかなり強そうだな、インデックスつきなら。

417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/15(木) 17:20:09.18 ID:F4W7Vj8Qo
乙!

今後垣根や一方が魔術サイドの問題にどれくらい関わってくるかが気になるな
なんせ科学サイドでも飛びぬけたチートキャラだし、戦闘力・学力・理解力のどれとっても基本上条より上だからね
今回のVSステイルもそうだが、初期のインデックス関係のイベントだと自動書記以外は『上条さんいらなくね?』って状況になりやすい
この章は一応上条メインのようだし、上記のような状況にしないように絡ませるとなると難しいんだよな

>>1がどう物語を展開していくのか楽しみにしながら続きを待っている
418 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 19:54:37.88 ID:ebw/oa6AO
くだらない武双にはならんでほしいね。
419 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/16(金) 07:31:25.60 ID:sowZP/0so
おはようございます

今日昼過ぎにこれたら来ます
来れなかったら日曜にきます
420 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 12:50:01.20 ID:8UjXMrRAO
余裕ぶっこいてる垣根をねーちんにボコボコにしてほしいんだよ
421 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 16:10:40.43 ID:KFWjs5TIO
未元物質はチート
422 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 17:09:38.23 ID:bNpcZ62Mo
チートじゃ、つまんねえよな
423 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 21:10:28.84 ID:C53A/50IO
ねーちんの最大の能力は速くてチカラが強くて頑丈
超能力者は一方以外は殴れば勝ちだからな
424 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 21:26:57.55 ID:Vi9XuThro
たぶんアレイスターが最強
425 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 21:29:34.71 ID:3+kIJwSZo
エイワス「」
426 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:50:17.18 ID:RI3T7pbho
予定とは狂うもの

すみません、日曜無理そうなので今から投下します
427 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/17(土) 02:50:53.55 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

「たーだいまァ」

別れてから三時間ほど経った頃、一方通行が上条を連れ帰宅した。

「お、おじゃましまーす」

「おう、もう終わったのか?お疲れさん」

「ありがとうな、二人とも。インデックスは……寝てんのか……」

「さっきまで起きてたんだぜ?」

顔にかかった髪をはらってやりながら、垣根は言った。

「……上条とインデックスは夜飯食ってくンだろ?」

缶コーヒーと適当に手に取ったジュースを垣根、上条に渡す。

「いや、そんな……悪いしいいよ」

「何を遠慮してんだよ、飯は大勢で食った方がうまいだろ」

「……いや、でも……」

「チッ……晩飯の買い物はお前が行けパシリの駄賃に飯を食わせてやる、これならいいだろォが」

コーヒーを飲みながらめんどくさそうに言い捨てる。

そんな感じで上条、インデックスの夕飯参加は決まった。

〜〜〜

「じゃあ、行ってくるよ」

少し休み、その後夏休みの課題と補習の課題を超能力者二人にみてもらい、いい感じに頭が疲れきった頃、上条は晩御飯の買い物へ行こうと腰を上げる。

「あ、ちょっと待て。財布……これ使え」

そう言い、垣根が手渡してきたのは二つ折りの黒い革の財布だった。
まだ新しいのか、革の匂いがはっきりとわかった。
開いてみるとそこにはカード類は一切入っておらず、この財布が普段垣根が使っているものではないと気づく。

「これはなんの財布なんだ?」

それならばこの財布はなんなのだろうと気になり、素直に訪ねてみた。

「生活費だよ生活費。俺と一方通行で金出し合って一ヶ月の食費とか家で使うもんはこの財布からって決めたんだ」

「オイ、初耳だぞォ?」

垣根の言葉に一方通行が驚きの表情をする。

「だって言ってないもん、財布も昨日買ってきたばっかだし」

「言えよ、そういうのは……いくらだ?」

呆れたように頭を抱えると一方通行は自分の財布を取り出す。

「まぁまぁ、それはあとでいいだろ……上条、買い物よろしくな。いくら使ってもいいからよ」

立ち上がろうとする一方通行の頭を抑え込み、バイバイをするように上条に手をふる。

「……これ、落としそうで不安だなぁ……」

「ま、まぁ大した額じゃねぇから落としても気にするなよ」

垣根と一方通行を苦笑いさせる言葉を残し、上条はおつかいにでかけた。
428 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:51:25.82 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

「……さてと、ちょっと屋上行ってくる」

上条が家を出て少しすると外の様子を眺めていた一方通行が急に立ち上がった。

「なんかあんのか?」

垣根はテレビから目を離し不思議そうに尋ねる。

「……趣味だ」

照れ臭そうに目線を大きく外しながらそうつぶやいた。

「……なにを照れてんだよ」

冷ややかな目で一方通行を見送った。
429 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:53:13.58 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

――ン、今日もいい風が吹いてるねェ……。

屋上に上がると真ん中に立ち、体全体で風を感じるように両手を大きく広げた。

――気持ちがいいな、自然の流れってのはやっぱいい物だ。

全てが科学に染まっている学園都市である。
自然はそう多くはない。
そこで育ったからこそ、自然が一方通行は大好きであった。

――この街は狂ってやがる。正義だとか真実は嘘で固められて、子供達の命が埃よりも軽く扱われてやがる……。

風の流れを頭の先からつま先まで全身を使って感じ取る。

――大人達が作った超科学都市、それは大人の手を離れて一人歩きしてんじゃねェか?例えば俺や垣根を作ったのは大人達だ。でもそいつらは俺達を制御しきれてねェ……それは技術と呼んでいいのか?

学園都市、その存在自体に一方通行は長く疑問を持っていた。

何故この都市の上層部はレベル5という扱いきれないものを作り出したのか?
もしかしたら自分達を一瞬で殺せるほどの技術を持っているのかと疑ったこともある。

そして、新たな力。
魔術の存在の可能性。

――バッカらし……。誰が何を企ンでいようがこれから俺はなにも失わない様に……戦うだけだ。

一人真夏のぬるい風を全身にうけながら笑う。

――もう一人ぼっちにはなりたくねェからな……。

ぼんやりとそのまま時を過ごす。
430 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:55:15.73 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

――もう少しちゃんと戦ってやっても良かったな……魔術ってのを経験するいいチャンスだったんだしな……。

ステイルとのやりとりを一人静かに思い出す。

――インデックスちゃんの顔に浮かんだ色は間違いなくあいつを敵と認識した物だ。

眠りこけるインデックスの顔を見つめる。
インデックスは安心したように穏やかな寝息をたてていた。

――俺は……びびったのか?

戦いを避けた理由。
それが垣根にはわからなかった。

――得体のしれねぇ力に?絶対の自信を持っていたのに?何にびびった?……常識が崩れる事に?

奥歯を噛み締め悔しさを飲み込む。

――そうか、常識が壊れるのがそんなに怖かったのか……。笑えるぜ、この世の常識を覆すのが俺の能力のクセによ……。

子供らしい寝顔のインデックスを眺めながら垣根は一人笑う。

――しっかりしろ垣根帝督。第二位・未元物質。守りたい物があるからこその恐怖だ、恥じる事はねぇ……。

穏やかな寝息に包まれた空間を過ごした。
431 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:56:38.98 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

買い物袋を両手にぶら下げ上条は三人の待つ友人の家へと足を急がせる。

「……なんか変だな?」

違和感に気づいたのはあともう少しで垣根達の住むマンションにたどり着くという場所でである。

「な、なんだ?なんかいるのか?ってか誰もいねぇ……?」

明らかにおかしい、人が上条以外に一人もいないのだ。
完全下校時刻間近とはいえ、これは異常である。
いやな汗が全身から吹き出るのを上条は感じていた。

――いや、垣根と一方通行を巻き込んでねぇからラッキーだと考えろ。

買い物袋を花壇の横に置き、あたりを見回す。

――特に誰もいる気配はしねぇ……か?

「インデックスを返していただけませんか?」

透き通るような鋭い言葉は背中から聞こえた。

慌てて振り返るとそこには奇抜な服装をした一人の女が立っていた。
整った顔立ちと綺麗な黒髪をした日本人形のような女は二メートルはありそうな大太刀を腰にぶら下げている。

「神裂火織と申します。もう一つの名は名乗らせないでください。もう一度いいます、インデックスを私達に引き渡してください」

表情を一片も変えずに冷たく言う。

「……いやなこった」

途轍もない威圧感に上条は額に汗を浮かべながら言い返す。

「彼女を守ってあなたになんの利益があるのですか?あなた達は昨日出会ったばかりでしょう?」

「時間なんて関係ないさ、あいつは俺の友達だからな」

精一杯強がりぎこちない笑顔を浮かべる。

「素直に返して頂ければ手荒な真似はしません」

「自分の身可愛さにそうですかと渡すくらいならはじめっから関わったりしねぇよ」

片足を引き、拳を構える。

神裂はため息を一つつくと上条を思い切り睨みつける。

「手荒な事はしたくなかったんですがね……七閃」

何かが起こった。
足元には三本の亀裂が走り、体全体に風がぶつかってくる、両足に力を入れ踏ん張った。
頬には一筋血がたれ、そして買い物袋が弾けていた。
432 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:57:47.52 ID:RI3T7pbho
「な……」

一歩後ずさる。

――な、なにをされたのかすらわからなかった……でも、あれも魔術……なんだよな?

「七閃……一瞬で七度殺せます、次は……当てます」

鞘に入ったままの太刀を上条に見せつけるように持ちなおす。

「……やってみろよ」

上条は走り出した。

「……七閃」

そして、訳の解らない攻撃を今度は身体に受け、盛大に吹っ飛ぶ。

「……いってぇ……クソ、おかしいだろ」

「インデックスを返してください」

「……いやだ」

足に力を入れ、踏ん張りながらもはっきりと声をだす。

「なんであいつが追われてるとかそんな事知らねぇけどさ……お前らに渡したらインデックスは……インデックスの笑顔はみれなくなる気がするんだよ」

頬にたれる血をぬぐいながら上条は神裂を睨みつける。

「……私達が何故あの子を追っているか教えてあげましょう」

ややうつむくように視線をしたに落としながら、一歩、上条へと近づいて行く。

「あの子の所属はイギリス清教徒・必要悪の教会〈ネセサリウス〉です。そして、私とステイル……赤髪の魔術師もそこに所属しています」

また一歩、上条へと近づく。

「そして、彼女は十万三千冊の魔道書を保管する魔道書図書館でもあるのです」

「十万三千冊……?あいつはそんなものもっちゃいなかったぞ」

「いえ、ちゃんと持っていますよ、ここの中に」

言いながら頭を人差し指で二度叩く。

「常人なら一冊でも読めば発狂するであろう物を十万三千冊も彼女は記憶しているのですよ」

また一歩上条へ近づく。

「そして、彼女は優秀な魔道書図書館であると同時に爆弾でもあるのです。もしもそれが敵の手に渡ったら?十万三千冊の中には全人類を巻き込む魔術もあります」

「だからって、インデックスを捕まえるって言うのか?十万三千冊もあいつが喜んで読んで覚えたっていうのか?一冊読んだら常人なら発狂する?ふざけた事言ってんじゃねぇぞ」

「……話を続けます。正直私は世界なんてどうでもいいです、ですが、あの子を捕まえなくてはあの子の命に関わるのです」

上条との距離はもう五メートルもない。
また、一歩近づく。
433 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:58:26.81 ID:RI3T7pbho
「十万三千冊、彼女はそれを一字一句全て記憶しています。それを可能にしているのが完全記憶能力というものです」

「完全記憶能力?」

「見た物、聞いた物、どんな些細な事でも忘れる事の出来ない、そんな能力ですね……十万三千冊で脳の八十五パーセントは占められています。そして残りの十五パーセントは丁度一年生活すれば埋まってしまうんですよ……そうなるとどうなるかわかりますか?」

また一歩。
二人の距離は二メートルくらいまで縮まった。

「脳がパンク、彼女は――死にます。そうならないために、わたしたちは一年毎に彼女の記憶を奪います」

「ひとつだけ答えろ……どうして、そんな辛そうな顔を……してるんだよ」

神裂は太刀で上条を思い切り突いた。

「……あなたには関係ありません。さぁ、あの子を生かすためです。彼女を私たちに渡してください」

咳き込みながら上条は立ち上がる。

「本当は嫌なんじゃないか?さっき同じところに所属してるって言ってたよな?本当はお前達仲の良い友達だったんじゃないのか?そんな力があるんなら俺をさっさと殺してインデックスを奪えばいいだろ」

そしてゆっくり息を整えながら、続ける。

「あんたはそれをしなかった、それは出来るならこんな俺でも殺したくないって思ってくれたんだろ?本当はそんな優しい奴なんだろ?」

再度、鞘で殴られた。が、上条は喋るのをやめない。

「どうしてそれが逃げる立場と追う立場になってんだよ……あいつがステイルを見た時の顔、あんなのステイルもインデックスも辛いだけだろ」

上条はなんとか起き上がる。

「あなたに私の気持ちが、ステイルの気持ちがわかりますか?どんなに楽しい時間を過ごしても忘れてしまう、その度に『あなたはだぁれ?』と親友に聞かれる気持ちがあなたなんかに解りますか?」

「わっかんねーよそんなもん!インデックスが忘れちまうならお前らが覚えていて聞かしてやりゃいいだけだろ!そんで、その次の一年を聞かせた話よりもっと楽しい物にしてやればいいだけだろ!勝手に絶望して勝手に敵に回って、そんなんじゃインデックスが可哀想じゃねぇか!」

「うっるせぇんだよこのド素人が!」

思い切り殴りつけた。
同時に大きくジャンプし、吹っ飛んだ上条の腹をそのままの勢いで踏みつける。
434 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:58:52.86 ID:RI3T7pbho
「もう……私達にはあの子の笑顔を見てられない」

「だからって敵に回って追っかけ回すのかよ……記憶を消さない方法なら一緒に探してやる、だから諦めんなよ、お前とインデックスとステイルと三人で笑える未来を諦めるなよ!」

神裂はしたうちをするのと同時に上条の腹をもう一度踏みつける。

「どんなに頑張ったってそんな方法は見つからなかった……私だって頑張ったんですよ!頑張って頑張ってでもいつも答えが見つかる前に季節は一巡してしまう、その度にインデックスは苦しみの中で私に微笑むんですよ?何も出来ない私に彼女の優しさを受ける資格なんてない!」

「だ、から、そんなの、てめぇの、勝手な、思い込みだろ」

そのまま上条は意識を失った。
神裂は上条の上から足をどかし、背を向ける。
そして歩き始めようとした時、背後で何かが動く気配を察知、振り返った。

「……戦うつもりはねェし、戦ったとしてもお前は地面舐める事になるだけだ。目的のこいつとのお話は終わったンだろォ?」

いいながら無事だった袋と上条を担ぎ上げる。

「……いつから居たんですか?」

「七閃ってチャチな技でこいつとのお話が始まった頃」

興味なさ気に神裂に背を向け、さっさとその場を去ろうとする。

「あー、こいつの言った事は気にすンな、意味がわからねェ上に最後はお前が言うなってことだったからよ……あとひとつだけ教えてやるよォ……人間の脳みそがァ記憶で圧迫なンて事はあり得ませェン……ちったァお勉強しろよカンザキさン?」

「なっ……それは――」

神裂の言葉を聞き終える前に、一方通行は跳んだ。
435 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:59:20.04 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

風を観測していると、一方通行はまたもや変なベクトルを見つけた。

――あれ?まただ……変なベクトルが生まれてンのは……割りと近い?

上条が帰ってくるのは時間的にそろそろであろう。
そして、生まれた流れの歪み。
垣根から聞いた魔術の話が頭によぎった。

「……見に行ってみるかァ」

一方通行は流れの歪みが生まれている場所まで一足で跳んだ。

一言で言うと、異様であった。

そこそこ人通りの多いはずの交差点には上条と女が一人いるだけ。

――ワイヤー攻撃か?あーあー食物無駄にしやがって……まァあいつの戦いだし死にそうになるまでは手出ししなくて良いよなァ?

二人からすこし離れたビルの屋上から戦いを見つめる。

――馬鹿でけェ声で頭悪りィ事喋りやがって……人間の脳みそ舐めてンのか?……あと何いいたいかも解らねェがお前が言うなよ、お前もなンか思い込みで……って垣根が言ってたぞ。

二人の会話に突っ込みをいれながら神裂が上条から離れるのをみると、それを回収しに向かった。

――魔術ってのがどンな物か解らねェ、まず本当にあるかも怪しいが……あの程度の小細工で様子見から入るような連中なら余裕で勝てンだろ。

何か言おうとする神裂を無視して跳ぶ。
436 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:59:45.94 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

「とうま、目を覚まさないね」

インデックスが心配そうに上条の顔を覗き込む。

「派手にボコボコにされてたからなァ……でもそろそろ目ェ覚ますだろ」

一方通行が上条を担ぎ帰ってから一晩が明けた。
上条は未だに目を覚まさず、普段一方通行が使っている布団に寝かされている。

「……なんでこうなる前に助けてやらなかったんだ?」

「……これはこいつの戦いだろ?俺が手を出していいのはこいつが助けを求めた時か、敵が俺に仕掛けてきた時だけだ」

垣根は理解はできるが納得いかないというように顔をしかめる。

「うん、多分それは正しい選択なんだよ……私、やっぱりあの二人のところに行こうかな、あくせられーたの話を聞くと本当は敵じゃないみたいだし、記憶消されちゃうだけ見たいだし……」

「それはこいつが許さねぇだろ」

頬に絆創膏を貼った上条の顔を指差す。

「……イン、デックス……ふざけた事、いうなよ……」

垣根の言葉を肯定するかのように、上条はゆっくり目を覚まし、口を開いた。

「大丈夫だ……俺がお前と神裂とステイルがみんな笑える結末をみせてやるから」

インデックスの頭を優しく撫でた。
上条の中では二人の魔術師も不幸から救わなくてはならない存在に変わっている。

「……上条はもうちょい寝てろ。インデックスちゃん、一方通行、詳しく俺にも全体がわかるように話せ」

ふたりを引き連れ垣根は部屋を出た。
インデックスは心配そうに上条を見つめ、一方通行は何かを考えるような目つきでインデックスを見る。
437 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:00:14.02 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

上条を残し、三人は客間へと移動してから一時間ほど経った。

「つまり、インデックスちゃんは脳の八十五パーセントを魔道書が占めていて、一年で残りの十五パーセントを使い切っちまうから毎年記憶を綺麗にしてやんなきゃならねぇって事か……魔術師ってのは馬鹿ぞろいなのか?」

インデックスがまず自身の能力と、追われている理由の推測を二人に話し、一方通行が勘違いを訂正する形で話は進んだ。

「だいたい何をもって八十五って数字を叩き出したんだよ、それに人間の脳はもともと百四十年分くらいは覚えられる容量があるはずだ八十五が本当でも単純計算で十五パーセント残ってりゃ二十年はもつ」

「あァ、それに記憶はひとつじゃねェ、意味記憶とか手続き記憶とかまァいろいろあるからな、そンでどれかが一杯になったからって他のとこを圧迫したりはしねェ……」

「つまり、インデックスちゃんを手元に置いておきたい必要悪の教会のハッタリってことだろうな」

ふたりはインデックスを置き去りに、話をどんどん進める。

「ちょ、ちょっと待って欲しいんだよ。つまりどういう事なのかな?」

「あの二人はずっと騙されたまんま親友であるお前の記憶を涙こぼしながら奪ってたって事だろ」

垣根の言葉にインデックスは固まった。

「ひどいんだよ」

恨み言も言いたくなるだろう、と二人は思った。
自分の境遇を嘆くのだろうと。

「ふたりが……可哀想なんだよ……私だったら絶対に一緒に笑いあった楽しい時間を共有した友達の記憶を奪いたくなんか……ないもん」

しかし、こぼした言葉がこれである。
どこまでも優しく、人の事を考え涙する。
インデックスとはそういう人間である。

「大丈夫さ、誰かが悲しむ結末なんて俺がぶち殺してやる……一方通行、垣根、迷惑かけて本当に悪いな、このあとどうなるかわからねぇ、神裂とぶつかった時も死を覚悟した。でも、自分の罪には自分のこの体でぶつかって解き明かしていかなきゃ新しい道は開けないんだと思う」

まだ辛いはずの体で客間へと入ってくる。
そして二人の事を思い、涙を流すインデックスを愛でるように撫でる。

「その途中で今みたいに死ぬ目にあうかもしれねぇ、だけど守ると決めたんだ。こんなこと頼むの間違ってるし、かっこ悪いけど……もしもの時はインデックスを守ってやってくれないか?」

二人の超能力者を力強く見つめながら初めて自らの意思で巻き込まれてくれと一人の無能力者は頼んだ。
罪という言葉を使う所から心はまだ過去にとらわれているようであるが、確実に前には進もうとしている。

「……そいつは出来ねェ相談だなァ」

「全くだ、お前になんかありゃインデックスちゃんは悲しむだろ……だから、もしもなんてねぇよ」

二人の力ある者は、自分の力を正しく使うため、一人の力ない者に笑いかける。
438 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:00:40.98 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

「……あと二日だよ。どうするんだい?」

「そうですね、あの少年に私達と同じ辛さを味合わせたくはありませんが……」

二人の魔術師は遠くから垣根のマンションを監視していた。

「あの少年もインデックスが死ぬという結末は納得しないでしょう、リミットになったら私達に頼るしか道はなくなります」

「白髪と茶髪の妨害は?」

「彼らは問題ないでしょう。これはあの少年の問題だと自ら言ってましたから」

「そうか、リミットだけでも教えといてやることにするよ」
439 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:01:14.88 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

「しかし、魔術なんて詳しく知るはずもないからな。なにをどうすればいいかわからんな」

軽めの食事をとりながら、垣根は言った。

「つーかよォ、リミットはいつなンだ?」

三人とも黙った。

「いきなりポックリ逝かれちまった流石にどォしようもねェぞ?」

「いや多分なんか苦しそうになると思う、そんな事を神裂は言ってた……ような」

「じゃあインデックスちゃんが苦しみ始めたらやばいってことか?……なんで苦しむんだ?パンクで脳がってのは無いわけだろ?」

「……そりゃァ……催眠術?一年経ったら辛くなるゥ〜みてェな事が出来んじゃねェのか?」

一方通行はミニトマトを口に放り込んだ。

「だったら上条が右手で触れたらパキンといくんじゃねぇの?」

茹でたウインナーを音を鳴らし、折りながら垣根は言う。

「……なぁ、インデックス、魔術ってのはどうやって発動させる物なんだ?」

「色々あるよ、すているみたいにカード使ったり……共通するのは魔法陣とかそういう何かしらの道具と準備が必要って事くらいかな?」

「じゃあ、必要悪の教会にインデックスちゃんに催眠術かけてる魔法陣あるんじゃね?」

「……なんともいえないかも」

インデックスは難しそうな顔をして水を一口のんだ。

「インデックス自体に魔法陣書いてるって事はねェのか?」

「だからそれだと上条が右手で触った時何か起こるだろ?」

「……まだ触ってない場所にある……とか?」

自信なさげに上条は呟く。

一方通行はつぶやいた本人と同時に同じ考えに行き着いたのか、顔を赤らめ、上条をどついた。

「ちょ、違う違う!口の中とかとかさ!」

「うるせェ!じゃあさっさと口ン中に手ェ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせろォ!」

照れ隠しなのか、声のボリュームが上がっている。

「女の子の前で、しかも食事中にする話じゃないんじゃないかな」

不機嫌そうに、騒ぐ二人を睨む。
しかし食べる手は止めずに。

「……すみません」
440 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:01:43.34 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

食事を終え、片付けを終えると、来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。

「……誰だ?」

来客がくる事自体珍しいのか、垣根が不審に思いつつ玄関へ向かう。

鍵を開け、ドアを開くとそこには昨日の大男が立っていた。

「……こんにちは……ここは禁煙だって言っただろ?」

「……タイムリミットを教えにきてあげたよ、明日の午前零時だ」

取り出した煙草をしまいながら、ステイルはなるべく穏やかに余裕を見せつけるかのように言う。

「あー、聞きたいんだけどよ俺達はインデックスに何か催眠術的な物がかかってると思ってんだ。それを解いたらどうなると思う?噂に聞く炎の怪物的なのが出てきたりするの?」

「そんな、ファンタジーじゃあるまいし、それにあの子は魔術を使えない。君らの目論見が正しかったとしても普通にその催眠術とやらが消えるだけだね」

「そっか……昨日上条ボコボコにした奴もいま近くにいるのか?」

垣根は面白い事を思いついたというように口元を歪ませる。

「一時間後に屋上集合だ、ルーンとかいうのも設置してくれて構わねぇぜ……明日と言わず今ケリをつけようぜ、赤髪の魔術師君」

ゆっくりと扉を閉め、鍵をかけた。

部屋に戻ると上条とインデックスは不安そうに、一方通行は垣根のやろうとしている事がだいたいわかるのか黙ってコーヒーを飲んでいる。

暖かな日差しの差し込む部屋に向かい、垣根は笑いながら声を張る。

「さぁ、上条、舞台は整えてやる。魔術師三人が悲しむような結末に幕をおろしてみやがれ」
441 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:02:11.82 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

一時間、その間上条は後に起こる事を全て忘れ、三人の友人との会話を楽しんだ。

一方通行にうるせェと罵られ、垣根に気になってる女の子はいないのかとからかわれ、インデックスとはたまに目を合わせ微笑み合う。
上条が不幸も罪も一瞬でも忘れそうになるくらい楽しい時間がそこには流れていた。

まるでこのあと訪れる最大の不幸の取り戻すかのように、上条はずいぶん久しぶりに純粋に楽しんでいた。
442 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:03:01.64 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

「さてさて、お二人さん……この無能力者が救ってくれるそうだぜ?」

屋上にあがるなり、垣根は二人の魔術師に声をかける。

「その子に何かあったらただじゃおかないぞ」

魔女狩りの王を顕現させ、ステイルは威圧感を与える。

「ほう、それが炎のバケモンか……まぁ、その前にまず仲直りしようぜ?お前らインデックスちゃんの友達なんだろ?片方が忘れちまってるけどさ、まずはその誤解とこうぜ……そんでお前らにお勉強を教えてやる」

垣根は饒舌に喋り続け、インデックス、ステイル、神裂に手を差し伸べる。
親友と引き剥がされる辛さはよく知っている。例えインデックスが覚えていなくとも、敵対だけはしていて欲しくなかった。
ふたりがインデックスに頭を下げるとインデックスはただ一言「お互い辛いね」といって笑った。

そして、垣根は自分達の立てた仮説を二人に説明した。

「白髪の少年の言ってる事は本当だったのですか……」

「……催眠術云々の話はそこから来たのか」

二人はそれでも危ない橋は渡りたくないと言ったような戸惑いを見せていた。

――さ、ここからのメインは上条だ。舞台は温ままりつつある、俺たちはあとは見届けるだけだ。

空を仰ぐ、自分達の守りたいものを脅かすものはここからは見えない。
443 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:03:28.95 ID:RI3T7pbho
〜〜〜

「えぇっと……神裂さん?あなたはどう思います?」

「……体の表面にはないでしょうね、あるとしたら体内でしょう」

「ですよね、俺もそう思っていましたよ?」

ビクつきながら神裂に意見を聞く。

「でも、それを壊したらインデックスはどうなるというんだい?」

「それは……わからねぇ」

「話にならないな、死ぬかもしれない道を歩ませるわけないだろう」

「インデックスは教会側にも価値のある存在なンだろ、それに殺す様な事をするわけねェだろ」

「だったら記憶を消さなきゃ生きられないなんてひどい事もしないんじゃないかい?」

「お前は頭ン中パーなのか?そンなの教会の庇護無しでは生きられないように、逃げらンねェようにするためだろ」

「でもその呪縛が解けた時、逃げられるよりは殺してしまおうと考えてるかもしれないだろう」

「それはないと思う。一方通行がいったように教会にとってもインデックスは大切な存在なんだ、魔術がどういう物かはよくしらないけど、かけられた物を解くってのはなんらかの手順がいるだろ?例えばパスワードを解くのも一瞬で出来る訳じゃない」

一方通行は満足そうに頷く。
あくまで上条にヒントを与える立場に立つ。

「魔術も多分同じだろ?解析して、手順を踏む、その途中で解こうとした奴を無力化するような罠があるんじゃないか?インデックスを失わないようにさ……でも俺の右手なら一瞬で文字通り消せる」

――神様の奇跡だろうがな。

ステイルと神裂の表情から戸惑いが少し消えた。
444 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:04:01.84 ID:RI3T7pbho
「それに、これはインデックスに起きた不運だ、神様がこんな優しい子にバッドエンドしかない未来を用意してる訳がねぇよ……だから、いい加減こいつを泥沼の中から引っ張りあげてやろうぜ」

――代わりに俺が落ちてもいいからさ、それくらいの事を俺はしてるんだから。

「……命に変えてもとか思ってないだろうね?それは僕の役目だよ。彼女の為に生きて死ぬ、それだけが僕の行動理由だ、それを邪魔するなよ無能力者」

上条を不愉快そうに睨みながらステイルは煙草を燃やし尽くした。

神裂は黙って頷くと、インデックスに近づきその頭を撫でた。

「すみません、インデックス……」

それだけいうと、インデックスから離れ、ステイルの横に戻った。

「よし、いいな?」

確認するように魔術師二人を順番に見る。

ステイルは目を逸らし、神裂は数ミリ頷いた。

最後にインデックスを見ると、力強く頷く、その顔は笑顔だ。

「とうま……ありがとうなんだよ」

「……バッドエンドしかないなんて幻想はぶち殺すぞ」

上条は笑う、インデックスの明るいであろう未来を思い描いて……。
445 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:05:45.87 ID:RI3T7pbho
今回の分おわりです

一方物質はあくまで上条がスムーズに動くためだけに動かしたつもりですが無双っぽくなってないですよね?
なっちゃった?

よんでくれてありがとう
レスもありがとう

また感想や、批評、アドヴァイスまってます
446 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 10:51:53.49 ID:Akk6wAQAO


戦っても解決しないもんね
あと俺は、ちゃんと段階があれば無双とかは気にしない
447 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 15:31:59.24 ID:x9iXMl4ao
一方垣根がもっとボロボロになってほしいぜ!
うん!
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/17(土) 16:38:18.89 ID:LCG4rhz8o
乙!

無双っていうか、垣根と一方って存在感がでかいから無双してなくても直接その場にいるだけで意識しちゃうってのはあるかな(一応主役って立場もあるし)
個人的には全体通してもう少し間接的というか裏方的な形で関わってくれたほうが良かった

一方が上条VS神裂で静観に徹していたのは良かったな
ただ、ボコられてるの冷静に観察してるのも前章での『近しい人以外への配慮のなさ』云々を考えれば納得いくんだが
『じゃぁどれくらい仲良くなれば気遣ってもらえるんだろうか?』という新たな疑問が出てきた

あと、垣根がステイルとの戦闘を避けた理由についての心理描写・・・・・・というかいくつかの心理描写に言える事なんだが
描写を後にするとしてもできる限り同じ更新分内でやってくれるとありがたい
次以降の更新分に回したりすると間が開いた分後付け感がどうしても出てしまうのでちょっと残念だった

いよいよ第2章も大詰めだな、続き楽しみに待ってるよ!
449 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:11:31.93 ID:aK6cXhC+0
無双にはなっていないが、一方垣根コンビがもちっとピンチになってほしいかなと。
まあそれは最終信号編まで待とうかと思うが。

ああ、にしても上条さんにフラグがビンビンに……
450 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 04:24:45.95 ID:OF+bbAfIO
>>448
>「……これはこいつの戦いだろ?俺が手を出していいのはこいつが助けを求めた時か、敵が俺に仕掛けてきた時だけだ」

この発言からして配慮のなさから静観していたわけではないのは一目瞭然だと思うのだが
451 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 14:07:02.49 ID:QXjEdiH9o
無双だって構わないよ、それが納得できるきちんとした流れになってれば!

読者の意見に流されずに頑張れ!面白いぜ!
452 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/19(月) 01:37:34.81 ID:RPSSEkOko
明日来れたら来ます
453 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 10:18:20.68 ID:vp8PA74IO
無双でも構わんぜ頑張れ>>1乙!
どうでもいい相手に一方垣根がボロボロになるのは見たくないがな!
454 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:07:56.96 ID:RPSSEkOko
〜〜〜

格好つけてみたものの、やる事と言ったら『口の中に手を突っ込む』である。
そんなシュールな光景を二人は心配そうに、二人はテレビでも見ているかのような顔つきで見つめている。
そして、やっている本人達は真剣そのものである。

「ん?なんだ……これか?」

上条の右手が何かに触れた。
その瞬間、上条の右手に電気を流されたかのような痛みが走る。
そしてそれを痛いと感じた頃には、吹っ飛ばされ背中からステイルに突っ込んだ痛みもついてきた。

ステイルに押されながら無理やり起き上がり、インデックスの方をみる。

そこには全くの無感情な表情を浮かべ、瞳には怪しい光を宿したインデックスがたっていた。

「警告。『禁書目録』の首輪、その破壊を確認。十万三千冊の魔道書の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」

冷たく、大理石のような重みのある声をだす。
その様子をみて、科学の街の人間はどこか期待するような面白そうなものを見る目をし、魔術の世界の人間は初めてゾウを見た子供のようにその力の大きさに声を失う。

「あ、ありえない……。この子は……魔力を持ってないはずだ」

「今更あり得ないなんて言葉を使うな、そこも教会に騙されてたってことだろ!……呪いを解いたら発動する罠とは上条さんはいつからRPGの主人公になったんですかね」

固まるステイルを軽くどつく。

「これより『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を……破壊します」

インデックスの目の前に二つの魔方陣が現れ、それが重なり合う。
インデックスが上条のほうを向くと、魔法陣も同時に動いた。

――目と連動してんのか?

一瞬考えるが、すぐに頭を今起こっている事のみに向ける。
すると、空間が割れ、そこから“何か”が出てくるのを本能で感じとる。

――やばい。

とっさに右手を構え、ステイルを自身の後ろに突き飛ばす。

「無茶です!」

神裂が叫ぶ。
それと同時に空間の亀裂から光が柱となって上条を襲った。

455 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:08:25.30 ID:RPSSEkOko
「今放たれているのは『竜王の殺息』いくらあなたの右腕でも……」

飛び出そうとする神裂を一方通行が止めた。

「なんですか、こんな時に!」

「まて、落ち着け別にお前らの邪魔する気はねェ……あのビームみてェのの射程はどンくらいだ?上条が競り負けるって事はそォとォ強いンだろ?」

微妙に裂けて血が飛ぶ上条の右手を見ながら言う。

「……あなたは……いや、いいです……軽く宇宙には届くのでは、と思います」

それを聞くと愉快そうに口を歪め垣根の名を呼ぶ。
垣根も垣根で楽しそうに笑いながら、六枚の翼を展開する。

「上条、おめェはウチの連中から見たらまさにヒーロー、天の使い……利用させてもらうぜ」

叫びながら上条の後ろから手を伸ばしその光に触れる。
一方通行が触れた部分だけ光が変な風に曲がり、やがてその変化も均一になった。

「解析終了ォ……が、無理だな……オイ女ァチャチな技でインデックスを転けさせろォ!」

神裂はとりあえず一方通行の言うとおり、多少手荒にインデックスをこけさせる。

転けて上を向くと、それに連動するように光も上に向き、雲を撃ち抜いた。

上条は圧倒的な攻撃から逃れることを許され、肩で息をしながら思わず膝をついた。
受け止めていたのはほんの数十秒だが、体全体に力をいれていたため思いのほかダメージは大きい。

「垣根ェ!」

一方通行がインデックスの方へと走りながら叫ぶと、垣根は竜王の殺息へと突っ込み、翼をそこに叩き込む。

少しだが光の柱の角度、向きが変わった。

「もう一度ぉ!」

それを確認すると再度叩き込んだ。

そして光の柱がある位置を撃ち抜くと、一方通行と共に「よっしゃあ」と声をあげた。

その様子を上条に肩を貸しながら二人の魔術師は不思議そうに眺めていた。

「ありがとう」

不審そうな顔をする二人にそう声をかけると上条は力がうまく入らない足でインデックスの元へと走り出す。
456 :あっさり終わらせすぎたと投下して感じた、書き溜めだと割りと量あるように見えるけど三レスぶんか…… ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:09:57.00 ID:RPSSEkOko
〜〜〜

一方通行がインデックスの首を掴もうとした瞬間、竜王の殺息が消えた。

「警告――」

何を言っているのかは聞き取れなかった。
そして自身に何が起きたのかも理解できなかった。

貯水タンクをぶち破る勢いで一方通行は吹っ飛ばれ、垣根は金網を突き破り、下へと落ちた。

――な、ンだ……今、のは……。

思うように反射出来ず、タンクにぶち当たったのだと、自身を濡らす水を見て理解する。

頭を振り、顔や髪の水分を弾き飛ばすとインデックスが走り寄る上条に竜王の殺息をまたぶつけようとしていた。

そして、上条は運悪く、そのタイミングで体のバランスを崩す。
右手を地につき、顔をあげた時にはもう目と鼻の先の所へ先ほどの重い光が迫っている。

――あ、死んだ。

上条はインデックスの笑顔と優しい両親の温かい微笑みを思いだそうとするが、それは少し苦手な赤髪の魔術師の顔へと変わる。

「イノケンティウス!……チッ……しっかりしろ無能力者さっさとインデックスを救って見せろ」

上条の目の前に、炎の怪物が現れ、竜王の殺息を受け止める。

「……はは、かっこわりーやつ……その無能力者にまんまと逃げられたのは誰だよ」

足に力を入れ直し、踏ん張る。

――よし、大丈夫。

頑張ってくれているイノケンティウスの横を走り抜け、インデックスの頭に手を伸ばした。

「――警告、第二二章第一節。炎の魔術の術式を逆算に成功しました。曲解した十字教の教義をルーンにより記述したものと判明。対十字教用の術式を組み込み中……第一式、第二式、第三式。命名、『神よ、何故私を見捨て――」

パキィン、と割れるような音を響かせ、インデックスはその場にたおれた。

「けい、こ……く。だい……首輪、致命的な破壊、再生……不可……」

そのまま意識を落とした。
457 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:11:48.56 ID:RPSSEkOko
〜〜〜

――能力が……うまく使えねぇ……まじかよ……。

吹き飛ばされ、金網を突き破り落下する。

――やべぇ……死ぬのか?つーかなんだよ何が起きたのかすらわからなかったぞ……クッソ……。

能力は展開できる、が操作が出来ない。
ふと、何度も死のうとして飛び降りた時の事を思い出した。

――死にたいと思った時は死ねねぇのに……人生ってのは嫌だねぇ……。

垣根の意識は意外とはっきりしていた。
青空と透き通った風ばかりが垣根の目にはうつる。

死を覚悟し、諦めたように目を瞑ると、異様な浮遊感と誰かに抱きかかえられる感覚を感じた。

「あ?」

驚き目を開けると、近くの背の低い建物の上に、垣根は横たわっていた。

「あれ?え?あれ?」

「第二位様が天から降ってくるとは一体何が起きたんですの?」

常盤台の制服をピシッと着こなし、風紀委員の腕章をつけた少女が垣根の横に立っていた。

「黒子ちゃん、だっけ?」

「そうですの、たまたま私が近くを警邏中でしたから良かったものの……」

「まじ助かったわ……美琴ちゃんに今連絡とれるか?」

白井は一瞬何かを考えるように顔をしかめたが、ため息をつくと御坂に電話をかける。

「あ、もしもし黒子ですけれど……垣根さんがお話があるそうですの」

繋がると直ぐに垣根へ携帯電話を渡す。
垣根は上体を起こし、それを受け取る。

「おりひめ一号の状態を知りたい」

それだけ言うと御坂は全てを理解したのか、わかったとだけいうと通話状態のまま携帯電話を置く。
パソコンを立ち上げた音が聞こえしばらくすると「嘘」と小さくつぶやく声が聞こえた。

『垣根さん?一体何をしたの?……管理局がおりひめ一号をロスト、恐らく破壊されたって……おりひめ一号って樹形図の――』

「OK、ありがとう。落ち着いたらまた連絡する、そん時全部話す」

強制的に通話を終わらせ、電話を白井に返す。
立ち上がり、能力を使ってみる。

――よし、大丈夫だ。

「んじゃ、ありがとうな黒子ちゃん、今度なんかお礼させてくれよ……そんじゃ風紀委員の仕事頑張ってくれ」

そう言い残すと、飛び上がり上条達のいる屋上を目指した。
458 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:13:15.15 ID:RPSSEkOko
〜〜〜

「はぁ、はぁ……終わった……のか?」

上条は横たわるインデックスの横へ膝をつく。

「あれ?これなんだ?」

目の前に降ってきた羽を右手で触れると、それは弾け飛ぶような音を立て、消えた。

「痛って……んだこりゃ」

よく見ると周りは羽で囲まれている。

「――――――!」

神裂が何かを叫んだ。

垣根が丁度屋上へ到達したのを横目で捉える。

一方通行が走り寄ってくるのも見えた。

ステイルも慌てたような顔をしている。

――俺は……インデックスを守らなきゃ。

インデックスに抱きつくように覆いかぶさると、上条の身体へ数枚の羽が降り注ぐ。

ここで、上条は幸運を発揮した。

数枚のうち、一枚はインデックスの頭を守るようにおいた右手に落ちたのだ。

――インデックス、お前はずっと笑っていてくれよ。

背中に衝撃、肺が潰れた感覚と全身の骨が折れる感覚。

上条はそこで意識を失った、とても優しく朗らかな笑顔をしながら……。

――満足だ。初めて笑いかけてくれた、欲しいものをくれた人を助けれた。……満足だ。
459 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:14:04.55 ID:RPSSEkOko
〜〜〜

リズム良く鳴り響く機械音に心地よさと鬱陶しさを半々に感じながら、上条は意識を復活させた。

息が苦しい。
声が出ない。
動けない。

考えうる最悪の事態であったが、上条の心は穏やかであった。

――なんとか生き残ったのか?いや……死に損なったってほうが正しいかな……。

屋上へ向かう途中、垣根に言われた事を思い出す。

“お前は不幸なんだろ?だったら死にたいと本気で思ってそんな行動をとってりゃ不幸にも生き残っちまう……だから今から死にたいと思い込め”

それを聞いた一方通行はバカにしたように「くだらねェ」と笑い、インデックスは何かあったら自分を放ったらかして逃げろ。と言った。

頬を緩めると、そのまままた眠りに落ちた。

――そういや、あれからどんくらいたったのかな?補講受けないと、進級やばいんだよなぁ……。

ゆっくりと深い世界へと落ちて行く。
460 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:14:32.24 ID:RPSSEkOko
〜〜〜

「上条が壊した」

一方通行と垣根は口を揃えてそう言った。

「……深くは聞くなと、そういう事なの?」

芳川はため息をつきながらカップに入ったお茶を飲む。

インデックスを上条が救ってから一週間、丁度予定よりすこし遅れてマンションにミサカ達が帰ってきた日に上条は一旦目を覚ました。

そしてインデックスの顔を見ると微笑んでまた眠りについた。

その日から三日後、垣根は御坂を家に招き、『絶対能力者進化実験』の完全なる凍結を知らせた。

「……わかったわ。私も何も聞かない。アイツがなんであんな目にあったのかも、最強のアンタがなんで腕の骨なんか折ったのかも、何も聞かない」

一方通行はあの日インデックスのわけのわからない攻撃により、腕を折っていた。
学園都市の超高度技術により、大げさなギプスはつけなくて済んだが、本来はあり得ないことである。

慣れない痛みを必死にこらえる顔はとても面白いらしく、ミサカ00002号はそんな一方通行をからかってつまらなかった病院での生活の鬱憤を晴らしていた。
461 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:16:37.01 ID:RPSSEkOko
〜〜〜

「とうま……」

インデックスが目を覚ますと上条はいろんな機械に繋がれ、自身で息をする事さえできない状態をやっとぬけた所だとカエル顔の先生から聞かされた。

それから四日後、上条は目を覚まし、泣きそうな顔のインデックスに微笑む。
そして再度眠りについた。

それからさらに三日後、垣根の家に同じ顔の少女が三人と一人の女性研究員が訪れた日、その日もインデックスはずっと上条の病室にいた。
自身も三日間意識を失っていたというのに、彼女はこの一週間、ほとんど寝ずに上条の目覚めを待っていた。

「とうま、とうま……」

寝言のようにはっきりしない口調で上条の名を呼び続ける。

呼んでいたらそのうち頭を撫でてくれる気がしたから。
インデックスって呼んでくれる気がしたから。
優しく微笑んでくれる気がしたから。

「とうま……あなたが目を覚まさないと私は笑えないんだよ……」

それでもいいの?と涙声になりながらインデックスは言う。

涙はまだ零さない、それは上条の目が覚めてからと決めていた。

必死にこらえるように目をつむる。

「お邪魔するね?」

カエル顔の先生は二、三時間に一度は様子を見に来てくれる。

「うん、回復は異常なくらい速いね?それに一度は目を覚ました。いつ起きてもいいはずなんだけどね」

不思議そうに先生は言う。

「でも、あの時は驚いたね?腕をフラフラさせた真っ白いのが生きてるのが不思議なこの子を抱えて『カエル出て来やがれェ』だからね?病院中に響いたんじゃないかと思うくらい大きな声だった」

「あくせられーたはとうまが嫌いなんだと思ってたけど……そうじゃないのかな?」

「多分彼はこの子の事をそんなに好いていないね?でも人が死ぬのはもっと嫌なんじゃないのかな」

「そっか、ていとくはとうまが好きだよね、凄く心配してたし凄く仲良くみえるんだよ」

インデックスは三人がそれぞれの距離感でそれでも楽しそうにしている様子を思い出す。

「多分彼は自分の正義に反しないものは全て愛したいんだと思うよ、そして、愛されたいと心から願っているようにもみえるね?」

的確にカエルによく似た先生は言い当てる。

「愛される資格をもらうために愛するなんてこれもまた歪だね?」

一方通行、垣根帝督、芳川桔梗。
三人の歪んだ心をこの医者は正しく、理解していた。

愛したい、ゆえに今、他者を受け入れられない。

愛されたい、ゆえに今、他者を受け入れようとする。

守りたい、ゆえに今、他者を害か益かでしかみられない。

――この子達は幸せにしてあげたいね?もちろん、ここに眠る子もだ。

許されたい、ゆえに、他者を作らず全てを背負おうとした。

「君もすこし休みなさい、ここに小さいベッドを持ってきてあげようね?」

カエル顔の医者は上条の状態を診る機械を軽くチェックすると、そう言って部屋を出た。
462 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:17:04.44 ID:RPSSEkOko
〜〜〜

「お邪魔します。とミサカはノックをしても返事がなかったので勝手に開けます」

ぞろぞろと六人の男女が上条の病室へなだれ込む。

「あ、インデックスちゃんも寝ちまってる所か……とりあえずそのちっこいベッドに移してやんなきゃな」

上条のベッドにもたれるように眠るインデックスを抱え上げ、カエル先生が用意してくれたベッドへ寝かせる。

「まぁ、なんというか上条がインデックスを救って十日か?お前が折れた骨やら潰れた内蔵に無理な力がかからないように病院運んでやったんだろ?」

インデックスの髪が顔にかからぬようそっとはらいながら、一方通行のほうへ視線を向ける。

「あァ、それにあの医者は俺以上にチートだ。学園都市の超高度医療とかそういうレベルじゃねェ、折れた骨がなんも固定せずに三日ですこし痛む程度まで回復とか理解出来ねェ」

「……まぁ、そんな医者の世話になったんだからもう目を覚ましてもおかしくはねぇはずなんだがな……」

上条の顔を覗き込む。

「もう一度言うぞ上条、俺たちを巻き込んでくれてありがとう」

垣根は笑いながら言う。

「お前は俺らの状況をも救ったンだ。素直に礼を言ってやる」

一方通行の仏頂面は照れ隠しだと言う事が丸わかりだ。

「ありがとうございます。とミサカはお礼を言います」

「ありがとうね、もちろん一方通行と垣根もありがとう」

ミサカ達も笑顔だ。

「さっさと目を覚ましなさいよ、アンタのおかげで妹二人は救われたわよ」

御坂は泣きそうになりながらも笑顔を浮かべる。

「そうね、あなたの持ち込むトラブルは困難なほどいろんな人を巻き込んで幸せにするのよ、私たちはあなたのおかげで二回救われたわ、ありがとう」

芳川も微笑む。

上条が欲しかった、望んだ結果が溢れていた。

『笑って欲しい』

そのためだけに自分の身体を削って戦って来た。

だけど、まだ足りない。
一番笑って欲しい人はまだ笑っていない。
463 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:18:20.82 ID:RPSSEkOko
〜〜〜

「ん……あ、ていとく達来てたんだ。大事なお話終わったの?」

垣根達の話し声にインデックスが目を覚ます。

「あぁ、起こしちまったか?みんな揃って上条にお礼いいに来たんだ。そんで御坂姉妹と芳川は丁度帰った所」

「お礼?」

「そ、目を覚まさねぇわけねーんだし寝てる間に恥ずかしいこと言っとこうって魂胆だよ」

垣根は相変わらずの笑顔だ。

「起きたらパーティーしてやんなきゃな、ミサカちゃん達の検査終了記念兼インデックスちゃんの快気祝い兼上条退院祝い」

「……すごく楽しそうなんだよ」

笑う上条を想像して、笑顔をこぼす。

「お前はそォやって笑ってろちょいちょい覗きに来てたが暗ェ顔して病人に話しかける修道女とかホラー過ぎンだよ」

椅子に行儀悪く座る。

「一方通行の言う通りだぜ、もしかしたらインデックスちゃんが暗い顔してるから拗ねて起きねーのかも」

「そうなのかな?」

力なく笑う。

窓から心地よい風が吹き、カーテンを揺らす。
外からはセミの声や病院の周りを散歩する患者たちの声がなんとなく聞こえた。

垣根は窓際に歩み寄り、外を見渡した。

「夏だねぇ……こんなに気持ちのいい天気なのに上条はのんきに寝てやがる、もったいないからはやく起きろっての」

夏の匂いと病院の空気が混ざり合い、なんとも言えない不思議な気分になった。
464 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:19:01.38 ID:RPSSEkOko
〜〜〜

「とうま、かおりとすているも感謝してたよ。すているは『借りは必ず返す』って怖い顔で言ってたけど……」

すこし笑う。

「そうだ、今日みんながお礼いいに来てたよ。ていとく達の問題も解決できたんだって、とうまはすごいね……私はとうまに迷惑かけてばかりだね」

日の落ちかけた、オレンジ色の病室でインデックスは上条に話しかける。

「だから、今度は私が助けたいのに、とうまは目を覚まさないし……目を覚ましたらたくさんお話しようね?とうまの不安や怖いものやそういうのから私がとうまを守ってあげるんだよ」

上条の右手をそっと握る。

「支えてあげるから、とうまが見たいものや欲しいものを手にするまで、私がそばで支えてあげるから」

右手をつかむ力を少しだけ強める。

「とうまが自分を疫病神だなんて思わなくなれるまで、人から笑顔を向けられた時にそれを素直に受け入れる事ができるまで、私はそばにいるよ」

零さないと決めた涙が、一つこぼれてしまった。

それをごまかすように乱暴に目をふくと、沈んだ太陽の代わりのように笑った。

「とうま、ありがとうなんだよ。私を助けてくれて、かおりとすているを助けてくれて、あとていとくたちも助けてくれたね。あとは自分だけなんだよ、とうまだけが笑えない現実―幻想―をとうまが自分じゃ壊せないなら私が食べ尽くしちゃうかも」

上条の頬をそっと撫でる。

「だから、はやくおきて。一緒にごはん食べよ?」

ただ、笑った。
純粋な笑顔だけが、その顔には浮かんでいる。

「いん……でっ…くす?」

その声はとても小さいものだったが、インデックスにははっきりと聞こえた。

上条は三度目にして完全なる覚醒を迎えた。

そして翌日、担任の先生に入院の旨を伝えると三時間電話で説教され、最後に「馬鹿な上条ちゃんは全部補習に費やしても危ないので課題たっぷりだしてあげます」と留年回避の道を示してくれた。
465 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:20:04.78 ID:RPSSEkOko
〜〜〜

「だっかっら!なンでそこでそうなっちまうンだよ!」

机を叩きながら一方通行が上条を睨みつける。

「あ、一方通行さん?落ち着いて、上条さん病み上がりだから!そんでここ病院だから」

小萌先生に電話をした翌日、つまり上条が目覚めてから二日後、早速課題の束が病室に届けられた。

それを腕の様子を見せに病院に来たついでに上条の病室によった一方通行が手伝っている。

「……チッ。まァ、いいわ、退院したら補習後毎回家よれよ、学園都市の第一位様と第二位様の脳でお前に無理矢理でも数学物理化学を理解させてやる」

一方通行流の、感謝の気持ちである。

「はは、頼もしいんだか恐ろしいんだか……」

上条は青い空と白い雲を窓越しにみる。

「でも、色々とスッキリした気分だ。インデックスが笑っててお前らとはしゃいで……俺、今楽しいよ」

少しだけ、上条は前に進めた。
だが、これからも何かあるたびに、悩むだろう。自分を責めるだろう。
だが、上条にはインデックスがいる。
笑いかけてくれる人がいる。

それだけで、上条は幸せになれる。
自分の存在に感じる罪を少しでも消せる。

いつの日か、人に手を差し伸べる理由がはじめの頃の純粋な気持ちに戻るだろう。

その時、上条は本当の意味で新しい第一歩を踏み出した事になるのだろう。

第二章 「彼」 完。
466 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 18:23:24.22 ID:J/oq/fy+o
うおおおお乙ぅぅぅぅぅぅ
467 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/19(月) 18:28:03.37 ID:RPSSEkOko
初めは上条さんは死んでもらうつもりだった。
けどなんか死んだら死んだでこの上条さん喜びそうだからな
生き残ってこれからはインデックスとチーム芳川とビリビリに励まされながら強く生きて欲しい

なんというか一個の話を終わらせるってやっぱむずいね
一章も二章も最後すこし変な感じだし

最終章は打ち止め編かー

最終章 「失くした1/2」 一週間以内にはじまります。

読んでくれてありがとう
今回もアドバイス、批評、感想お願いします

468 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 18:37:42.05 ID:bicEfj4yo
乙!!
記憶はそのままなんだよな?
469 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/19(月) 18:46:15.71 ID:RPSSEkOko
>>468
そうですね
多分この上条さんが記憶なくしても一瞬でバレるしwwww

本当は記憶なくす→美琴の実験の手伝いで読み取った記憶を機械から脳へと移す→復活
にしようと思ってたけどそうすると上条さん前に進めなくなるからね
これやると垣根たちと出会う前に戻っちゃうし
それで決戦の前に実験の手伝いまた行く話書こうと思ったけどインデックスほったらかしてなにしてんだよ……って感じになっちゃったから没にした
470 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 18:57:03.01 ID:J/oq/fy+o
最終章だと…?
471 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 00:13:04.42 ID:AOhY9JkQo
おつ
まだちょっとあっさり風味だがなかなかいい章になったと思うよ!
472 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 00:39:05.63 ID:kxZmRZaWo
473 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/21(水) 21:36:29.64 ID:VSb2h+1uo
キリのいいとこまで書けない

明日くる予定です
474 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:38:24.64 ID:onKnFi8IO
短い、そして遅れたが投下
475 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:38:52.83 ID:onKnFi8IO
〜〜〜

「なんだとぉ!実験完全凍結?何故だ!何故だ何故だ何故だぁ!」

ミサカ達の生まれた研究所に男の声が響き渡る。

資料に書いてあったのは絶対能力者進化実験の完全なる凍結とそれに伴うチームの解散、定期研究費用給金の停止、そしてチームのリーダーからの男への責任転嫁のようになすりつけられた『実験失敗』による学園都市に対する賠償の命令であった。

「ぐぅうううう、クソがっ!」

机の上のものを全てなぎ払うようにして床にぶちまける。

「はぁ、はぁ、はぁ……これも全て芳川とクソガキ二人のせいだ……もういい、最終信号をつかって奴らを殺す……ぶっ殺してやる……」

「天井君、そんな事をゆる――」

暴れる男―名を天井亜雄という―によって、研究チームのリーダーは声を奪われる。
彼の言葉は乾いた音に遮られ、それ以降彼が音を出す事は永遠になくなった。

「ひっはははは!どうせ殺されるならせめて派手に死んでやるよぉ……最終信号は役割を果たすだけならもう完璧だ、見てろよくそったれども……皆殺しだ……」

狂ったように笑いながら天井は部屋を出た。
血を流し、すでに事来れたかつての上司に目もくれずに……。

それは上条が目覚めてから一週間。
夏休みも折り返し地点にきた時の事であった。

〜〜〜

諦めてしまったら、そこで全てが終わってしまう。
何を失おうとも彼等は諦めてはいけない。
その事に気づいた時、彼らまた一つ、大人になる。

一人ぼっちを感じても心の鍵を開こう。そう教えてくれたのは、そう思えるきっかけは何だったろう。

――ただ、守りたい。それだけだったのに……。

――一緒に探してたものがあった気がする。こいつにならこの身も心もを全てを捧げてもよかった。

――もしもあの日に戻れたら……伝えられるのに。

――心は二つ。身体も二つ……だったのになぁ……。

――最後に一つ伝えたい事があったんですが……まぁいいでしょう。

それぞれの胸に秘めた思いが夏の終わりを彩る。
何かを求めることは何かを失くす事でもある。

「これは……幻想なんかじゃない、現実……だ」

上条の言葉は二人の心に深く突き刺さる。

何が幻想で何が現実なのか。

現実にはどうやって立ち向かうべきなのか。

また五人で笑う事を最も強く願ったのは誰だろう。

真夏の生ぬるいまとわりつくような空気を鬱陶しく思いながら最強の二人組は部屋を出た。

それは、夏休みももう終わる八月の最後の日。

彼らの人生を狂わせた超能力。
彼らに心を与えた一人の女性。
彼らを再び巡り合わせた一つの実験。

一つでもかけていたら二人の最強のヒーロー達は二人の最凶のバケモノになっていただろう。

二人の超能力者はなにを思っていたのだろう。
476 :うお、いきなりミスった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:42:50.66 ID:onKnFi8IO
〜〜〜

夏も本番、太陽も本気を出してきた八月中頃である。
上条も無事に退院でき、潰れたらしい肺も「違和感がないのが逆に怖い」というくらい回復した。
カエル医者と一方通行が何かをしたらしいが、本人達以外にはわからないであろう。

そして夏といえば……そう、恋である。
夏の熱気は人々の服装のみを軽く開放的にするのではなく心をも開放的にしてしまう。

「はぁーあ、彼氏欲しいなぁ」

「佐天さんはその気になったらすぐ出来ますよ」

とある喫茶店。二人の女子中学生はまことにらしい会話を繰り広げている。
佐天は空色を基調とした明るめのTシャツに細めのデニムを合わせるという非常にラフな格好をしていた。
初春はモノトーンのワンピースという佐天とは対照的に全体として落ち着いた雰囲気である。
二人とも年相応の格好をしており、背伸びをするわけでもなく自身の良い所を伸ばしているようなそんな格好をしていた。

「あ、飾利ちゃんに涙子ちゃんじゃん」

そこに無地のシャツに黒いパンツを合わせただけの男が近寄る。

「あ、垣根さんじゃないですか。一方通行さんは?」

「知り合いの研究手伝ってるよ」

垣根は自然とそのテーブルに着く。

「私たち白井さんや御坂さんと待ち合わせしてるんでお二人が来たらどいて下さいね」

頭の花と同じくらい可愛らしく初春は笑う。

「……はは、意外と毒舌だよな、お前」

言いながら店員を呼び、カフェオレを注文する。

「そういやこないだ黒子ちゃんに助けてもらった」

唐突に垣根が言う。

「なんか事件起こしたんですか?」

「いや、その聴き方はどうなのよ?」

「全くだ。巻き込まれて死にそうになったのを助けてもらった」

初春の毒にため息をつきながら垣根は話す。

「垣根さんが死にそうになるって……」

佐天は信じられないと言うように垣根の言葉を繰り返す。

「まぁ、いろいろあってね……そういや黒子ちゃんにお礼するって約束したんだがよ……何喜ぶんだあの子?」

「白井さんの好きなものって事ですか?」

佐天がアイスティーをすすりながら目線を隣に座る垣根によこす。

「んー、そんな感じかなぁ」

店員さんが営業スマイルを貼り付け、垣根の注文した物を持ってきた。
それを笑顔で受け取り、小さく礼をこぼすと満足気に笑い、奥へと引っ込む。

「だったら簡単ですよ」

初春が平坦な声で言った。
垣根と佐天は初春が言葉を続けるのを待つ。

「御坂さんですよ。白井さんの好きなものは……ものっていうか人ですけど」

ずずず、と音を立て氷だけになったグラスをすする。お行儀が悪いからやめなさい、と初春の行動を軽く注意し垣根は頭を捻る。

「んー、じゃあ美琴ちゃんにも協力頼んでみるかなぁ」

「というか普通引いたりしません?」

すんなりと受け入れる垣根に佐天は笑いながら尋ねる。

「引かねーよ、人を好きになるのなんて理屈じゃないだろ?」

「なるほど、第一位と第二位はデキてる、とそういうことですか?」
477 :うお、いきなりミスった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:43:18.27 ID:onKnFi8IO
真剣な顔をして初春はとんでもないことを口走る。
佐天は同時に飲んでいた物を吹き出しそうになりながら垣根の顔をみる。
垣根は全く動揺せず、悠々とカフェオレを飲んでいた。

「そ、そそそうなんですか?」

「あいつは確かにかけがえのない大切なものだがそれは純粋な友情だ」

顔を真っ赤にした佐天、ニコニコと無邪気を装う初春、そして落ち着いた雰囲気を崩さない垣根。
三人はなにやら異様な空間を作り出していた。

そしてその異様な空間に割ってはいる制服姿の少女が二人。

「なーんで垣根さんがいるのよ」

いつも通りの常盤台の制服に身を包んだ御坂と白井は前回四人で集まった時もちゃっかりそこに加わっていた垣根を見ると、あきれ顔になった。

「たまたまだよ。黒子ちゃん、こないだはありがとうな」

「いえいえ、超能力者とはいえ一般の学生ですので風紀委員が助けるのは至極当然の事ですの」

「一般の学生……ねぇ」

遠くを見つめるように初春の後ろの壁の一点を見つめる。

「超能力者でも学生は学生ですの……お姉さまもですわよ?」

チロリと横に立つ御坂を見る。

「はは、第二位も第三位も頭が上がらねぇ風紀委員がいるとはな……っとわりぃ、座れよ」

カフェオレを一気に飲み干し、席を立つ。

「あ、垣根さん連絡先交換しましょうよ」

そのまま立ち去ろうとする垣根を佐天が呼び止める。

「あー、別にいいが……なんだ?俺に惚れたか?」

ふざけたように笑うと携帯電話を取り出し、そこである事に気づく。

「あ、わりぃ今日自分の持ってねーから俺の番号だけ教えとくわ」

そういうと11桁の番号を佐天に口頭で伝える。

「よし、オッケーです。あ、これアドレスなんで帰ったらメールください」

鞄からアドレスの書かれた紙を取り出しそれを垣根に手渡す。

「……用意がいいねぇ」

「丁度学校の授業で名刺作ったんですよ」

「なーるほどね……んじゃあ俺はこれで」

最後に黒子にお礼はまた今度する旨を伝えると、勘定を終え、店を出た。
478 :うお、いきなりミスった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:43:45.47 ID:onKnFi8IO
〜〜〜

ジリジリと肌を焼く太陽に辟易しながら上条当麻は学校を目指す。
じっとりと額に浮かんだ汗を手でぬぐいながら真夏の空を見上げ視界いっぱいの青に歩く元気を分けてもらう。

ぼんやりと歩いている余裕があるのは同居人のおかげだ。
目覚ましの電池がきれようが同居人――インデックス――は毎朝上条が余裕を持って登校できる時間に起こしてくれる。

補習が始まる時間より二十分だけはやく教室にたどり着くと、教室には青い髪をした少年と金髪アロハの土御門がすでにいた。

「あれ?お前ら補習終わったんじゃないの?」

挨拶より先に、もう補習が終わっているはずの二人が何故いるのかを口にした。

「カミやんおはよう、いやぁ下宿先で色々あって八月前半の補習をこの時期にまわしてもろたんよ」

ニコニコしながら青髪の少年は言う。

「俺もまぁそんな感じだぜい」

口元をニヤニヤとさせながら土御門も言う。

「……そっか、まぁ頑張ろうぜ」

きっとこの友人たちは上条の一生の友になるだろう。
上条が入院、夏休み中補習三昧と小萌から聞いた二人は終わったにも関わらず、補習を受けにきた。

――んー?カミやんおらんとつまらんからなぁ……補習は昼過ぎには終わるしそっから三人で遊ぶんよ。

――そうだぜい、馬鹿がいないと盛り上がらんですたい。

自身の補習が終わった日、小萌にそう言い残し学校を出た二人。

二人は上条の不幸を大笑いしながら勝手に回避して行く強さがあった。
それゆえに上条は二人と連んでいられた。

「しかし、カミやんも不幸やねぇ……小萌先生と二人きりの補習を僕らに邪魔されるんやもん」

「はは、んなことねーよ。お前らがいたらそれはそれで楽しいからな」

上条の不幸を上条の助けなしに笑い飛ばす気軽なだけであった友人はその日胸を張って親友と呼べる存在に変わった。
479 :うお、いきなりミスった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:46:00.34 ID:onKnFi8IO
〜〜〜

暑さを感じていないかのように涼しげな顔で一方通行は街中を歩いていた。

――コーヒーと……なンか食いもンとかジュースも買っとくか……。

目的地のコンビニへ入ると、カゴいっぱいの缶コーヒーとパンやおにぎりなどコンビニ弁当を適当に見繕う。

カードで支払いを済ませ、コンビニを出た。

そこからしばらく歩き、芳川の研究所へとたどり着いた。

おんぼろの扉を開け、汚れた廊下を進み、地下へと降りる。

「芳川、来たぞ」

そう声をかけると、反応したのはミサカ00001号であった。

「あ、今芳川博士はいませんよ。とミサカは尋ね人の不在を告げます」

「どこ行ったンだ?」

「病院へ」

「あァ?どっか悪りィのか?」

「いえ、カエル先生に今までの調整の資料を届けに行っただけですよ。とミサカは一方通行の心配は杞憂だと伝えます」

「……そォか。あ、これ飲むかァ?」

差し出したのはリンゴジュース。ミサカはそれを笑顔で受け取り礼を言う。

「……なァ、もし打ち止めを使って何かしようとした場合それをするのは誰だと思う?」

480 :うお、いきなりミスった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:46:27.13 ID:onKnFi8IO
「……天井亜雄、でしょうか。とミサカは推測します」

リンゴジュースのキャップを開け、答える。

「……調べておくか」

呟き、パソコンに向かう。
絶対能力者進化実験のデータベスを読み込み、研究者の一覧を見る。
目的の男はそれなりの地位に立つ人であった。次に第一位のアクセス権限を使い、過去にどのような実験に関わってきたかを調べる。

「……どれも俺が蹴ってきた実験ばかりだ」

それは非人道的な残酷な物ばかりであった。典型的な人を人と思わないクズである。

舌打ちをひとつすると、その他のデータを読み漁る。

「あ?こいつ行方不明になってンぞ……しかもこの実験の責任者ぶっ殺してやがる……使われた痕跡のある調整槽が一つ、持ち去られた培養器、調整槽が……三百ゥ?」

どうやって持ち去ったかは今は問題ではない。そんなもの空間移動系の能力ならば簡単に持ち出せる。ここは学園都市なのだ。

問題は“クローン生成の技術を持った狂人が、それを同時に三百人生み出せる”という現実である。

――御坂美琴と上条にも……別にいいか、第三位と上条だしな。

二人に注意を呼びかけるか考えるが、それを却下する。

「お前は起こりうる最悪の事態を理解しているか?」

椅子ごとミサカの方を向き、問いかける。

「……はい。自分の事ですからね。とミサカは暴露します」

さみしさに少しだけ申し訳なさを混ぜた表情を作る。

――こいつはこンなに感情豊かでも個性がないって言うのか?

個性の境界線を考えてみる、が答えはでない。

「そォか……俺“達”が守ってやる、安心しろ」

少しだけ表情を崩し、一方通行は言った。

「はい、よろしくお願いします。とミサカは一方通行達を心から信頼していると、微笑みます」

人を守ることは人を殺すことよりも難しい。
一方通行も、垣根帝督もその事をわかった気にはなっているが、実感として感じた事はない。
なんやかんやでここまでは順調なくらいうまく事が進んだ。

だから、彼らは忘れていたのだ。

最も難しい事、それは自分の正義を貫き、愛する人達を傷つけずに守る事だと言う事を……。

芳川だけが、常に危機感を持ち、不安に思っていた。
それは『何かあったら二人が傷ついてしまう』という理由である。
こんなめちゃくちゃな状況である。
いくら絶対的な力を持っていたとしても、不安であるのが普通なのだ。
恐れが緊張感を生み、正常な判断を下させる。
無意識でも恐れは必要なのである。
481 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:54:02.21 ID:onKnFi8IO
ラスボスというか黒幕というかは天井くんに引き受けてもらいました

ここからは垣根ではなく一方通行が主人公の座を取り戻すように進めていきたいな

いつも読んでくれてありがとう
今回は特にはなしもうごいてないし批評とかやりにくいかもしれないですけどアドバイスくれるとうれしいです

482 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 12:22:26.60 ID:JVkHJ0KAO
打ち止めいるのか

483 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 16:14:39.34 ID:ypZiOCnRo
乙!
タイミング遅れだが2章終わっての感想を・・・・・・

2章は上条メイン(?)と一応書かれていたのでその前提で読ませてもらった
最初は性格が1章とかなり差があったため困惑したが、それ以後は特に気にせず読めたし最後は上条の成長を感じれて良かった
ただ、途中からかなり垣根と一方サイドに比重が置かれていたため『この章のメインってこの二人だっけ?』と疑問に感じたな
・・・・・・まぁ垣根と一方のほうで衛星落とす都合もあるから仕方がなかったのかもしれないが
あと章のクライマックスにあたる部分がそこにいたるまでに比べてかなりあっさりしてたな

全体的に見て『上条メイン』としてはいまいちだったが『垣根・一方メイン』として見れば良い章だったと思うよ、続き楽しみにしてる
484 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 18:55:44.05 ID:wHFHpSEAO
長文って他のスレでもこんななの
485 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 19:41:55.59 ID:pNvGTJh2o
作者がリアクションを返してくれるとこには湧くよね
486 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 20:28:38.84 ID:Tc0Asxdro
おつ
本気で死にかけて結果を得た上条さんちっとは吹っ切れたかw
487 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/23(金) 21:37:11.50 ID:onKnFi8IO
>>486
多分今までの上条さんなら
こいつらの補習もしかして俺のせいでこんな夏休み前半で終わるはずの物がこんな時期に……ってなってたと思うwwww

次回予告をするのを忘れてた

明日クリスマスだし番外編とか書きたいけどそんなの書いてる暇あったら本編の書き溜め進めますわね

今年あと一回か二回きます!
488 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 02:27:49.14 ID:QW/PNg3u0
気付かなかった
乙!
489 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/28(水) 09:42:27.72 ID:ICn0VWRIO
書くペースがどんどん落ちている

あとで来ます
そのあとは31日年明けるまでに今年最後の投下するつもりです

あとまだ新巻よんでないんだけど一方通行はなにやらかしたの?
ネタバレとか気にしないから誰か教えてくれると嬉しいな


490 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/29(木) 01:42:42.75 ID:0GWb1Yy1o
超すくねぇけど投下します
491 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/29(木) 01:43:28.83 ID:0GWb1Yy1o
〜〜〜

「相談があるんだけどさ」

垣根が去った喫茶店で、御坂は三人の後輩達に唐突に話を切り出す。

「なーんかそわそわしてるなと思ったらそう言う事ですか」

佐天がニヤニヤとしながら察しはついたという風に言った。

「青春ですね」

初春は何故か嬉しそうだ。

「上条さん、でしたっけ?」

一目で不機嫌とわかる。

「うん、なんというか……」

顔を少し赤らめ言い淀む。
視線を下に落とし、右左と動かしたまに少しだけ視線をあげ、目の前に座る白井と佐天の様子を伺う。

「めんどくさいので話を進めますね?告白がしたいんですか?もっと仲良くなりたいんですか?」

なかなか話だそうとしない御坂に初春が質問をする形で無理矢理に進める。
492 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/29(木) 01:44:33.29 ID:0GWb1Yy1o
「う、ええと……で、デートしたい」

トマトのように顔を真っ赤にしならが、御坂は言う。
白井はともかく、佐天初春の二人も「か、かわいい」以外の感想が出ないほど、御坂は恋する乙女であった。

「ま、まぁとりあえず夏にしかいけないような所に行きましょう。それなら断られるような事はないですし」

「そうだねぇ、そうなると……やっぱ海とか?」

「う、海ぃ?……む、無理よ無理無理無理」

水着を見せると想像しただけで、御坂はパチパチと軽く漏電するほどうろたえる。

「お姉さまが簡単に外へ行く許可を取れるとも思えませんしね……垣根さんと一方通行さんも誘ってみんなで遊園地なんかどうですの?」

「なるほど、それでうまくはぐれて二人きりにさせる訳ですね!」

不機嫌ながらも、御坂が本気なのであれば、白井はそれを応援するつもりであった。

「お姉さまは変な所でチキンですので誘うまでに夏休みは終わってしまいますの、でも誘ってしまえばあとは……大丈夫ですわよね?」

寂しそうに笑う。
493 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:46:13.00 ID:0GWb1Yy1o
「……黒子、アンタなんか変わった?」

御坂は白井には邪魔をされる物ばかりと思っていた。
いつもいつもお姉さまお姉さまとひっついて来て、自分の思い人の事を類人猿呼ばわしていた白井が、協力的なのに驚く。

「変わったのはお姉さまですの。お姉さまが勇気を出して何かを成し遂げようとするならば……黒子はいくらでも手を貸しますわ」

寮に帰って来なくなったあの日から帰ってきてからの御坂。
一番の変化は精神的な成長、物事に対する意志の向け方の強固さだと、白井は感じていた。
何があったかは知らないし、御坂が自分から話すまでは知るつもりもない。
でもその出来事に上条当麻、垣根帝督、一方通行が関わっているのはわかっていた。

「お姉さまは自身の気持ちに素直になりましたの、以前までだったらこんな相談してさえくれなかったと思いますし」

「確かに、そうですね。御坂さん変わりましたよ……なんかうまく言えませんけど」

初春が小型のノートパソコンをいじりながら白井に同意する。

「あ、ここなんかどうです?」

そしてとある遊園地のホームページを開く。

「ほら、丁度昨日から夕方花火もはじまってますよ!」

「あ、いいんじゃない?私も行きたいし」

「私と佐天さんは女二人でカップルがイチャイチャしてる中での花火ですけどね」

「……あ、一方通行さんがいるもん!」

消去法で残った一方通行の名前をとっさに出す。

「一方通行さんは両手に花ですね」

「初春は頭に花だね」

意地悪な物言いの初春に少しばかりの嫌味を言う。
御坂と白井は微妙な笑顔を向けながら、二人のやり取りを見守っていた。
494 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:47:33.59 ID:0GWb1Yy1o
〜〜〜

「……一方通行は恋というものがどんなものか知っていますか?とミサカは静寂に耐えられないので話題をふります」

会話なく缶コーヒーをもくもくと消費し続ける一方通行と二人きりの空間に、居心地の悪さを感じたミサカが口を開く。

「……そンなもン……あれだろ、惚れたとかそんな感じのだろ」

「惚れると言うのはどういうことなんでしょう。とミサカはさらに突っ込みます」

「なンだろォな……ドキドキする……とか?」

コーヒーを飲む手を休め、自信なさげに言った。

「ふむ、じゃあミサカは垣根さんに恋してるのでしょうか?とミサカは垣根さんと仲のいい一方通行に聞いてみます」

「知るかよ……俺はお前じゃねェし、それはお前以外だれもわかンねェンじゃねェの?」

一方通行にあまり驚いた様子は見えない。
495 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:48:50.33 ID:0GWb1Yy1o
「ミサカはもっと垣根さんと居たい、もっと話がしたい、笑いかけてもらいたい……垣根さんといるとわけもなく楽しいんです」

「……じゃあ俺は芳川に惚れてンのか?」

「……知りませんよそんな事、ミサカは一方通行ではないんですから。とミサカは驚きを隠します」

微妙な空気が流れる。
時計の音とパソコンの起動している音だけが、二人の気まずさを表すかのように規則的なリズムを奏でていた。

「……やめだやめだァ……それにこういうのは俺の役目じゃねェだろォが!今度上条ンとこのシスターに相談しやがれ」

くしゃりと缶を握りつぶすと舌打ちをする。

「……そうですね。とミサカはよく食べるシスターの顔を思い浮かべ……あのお子様に諭されたらそれはそれで複雑ですよね」

「適材適所ってやつだ。あいつは人を導く力がその辺のやつよりあるンだよ」

新しい缶コーヒーを開けながら時計を確認する。
一方通行が着いてからすでに一時間以上がたっていた。

「ンな事より芳川はどこで何してやがる?俺の力が必要だからと呼びつけといて待たせるとはいい度胸だよなァ?」

同意を求めるようにミサカに視線を送る。
言葉は乱暴だが一方通行の顔から嬉しさの色は消せていない。
近づきたかった人に頼られる。それがどうしようもなく嬉しかった。

「……そうですね。とミサカは呆れていることを隠しつつ同意しておきます」
496 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/29(木) 01:49:14.41 ID:0GWb1Yy1o
〜〜〜

――どうしてこっちの番号を教えたくなかったんだろうな。

垣根帝督は携帯電話を二個持っている。
一つは芳川に与えられたもの、こちらには芳川と一方通行の番号しか登録していない。
そしてもう一つは研究所や知り合い、上条や佐天に教えたのもこちらだ。

――涙子ちゃんは置いといて上条はもう友達だ。最初は好かん奴だったが……今は普通に好きだ。なのにこの電話は教えたくねぇと思っちまう。

夏らしいぬるい風と刺すような陽射しを心地よく受け入れながら、一人街中を歩く。
目指す場所はビルの上、そこで真っ白な携帯電話を見つめながらもっともっと考えようと思っていた。

――大切なものが壊れるのはもう嫌なんだ。

歩きながら最後に思ったことはそんなことであった。

道を外れ、路地裏に入ると翼を顕現させ大空に向かって飛び立つ。

垣根は夢は夢のまま、諦めているのかもしれない。
だからこそ愛されたいといつまでも願う。
そして、それは夢で夢のまま取っておく、愛する人達との関係が壊れてしまわないように……。
497 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:49:47.71 ID:0GWb1Yy1o
〜〜〜

「あー、つっかれたー。カエル先生意外と人使い荒い」

夕方、買い物を終えたミサカ00002号は帰宅するなり愚痴をこぼす。

「それが働くという事よ……私も数年前まではこき使われたわ」

食材を冷蔵庫に移すのを手伝いながら芳川は笑う。

「でも……そこそこ楽しいよ」

「そうね、好きな仕事をしている時は生きてるって実感があるわね」

家には今二人しかいない。

垣根はどこに行ったかはわからない。
一方通行と00001号は芳川が研究に帰ってきた時なにやら話し込んでいた。
その後、ミサカの検査と一方通行の能力でどこまでウイルスコードを解除出来るかの実験を終えたあと二人して「インデックスに神の教えとやらを聞いてくる」と芳川を残し出て行ってしまったきりだ。
いつもより一方通行と目が合わなかったことを少し不安に思いながら芳川は一人マンションへ戻った所にミサカ00001号も帰宅してきた所だ。
498 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:50:11.58 ID:0GWb1Yy1o
「……芳川博士は初恋いつ?」

食材の整理を終え、一息つくとミサカが躊躇いがちに口を開く。

「そうね……パッと思いつかないわね……一方通行や帝督以外に好きになった男の子っていない気がするし」

「それは恋じゃないでしょ?」

呆れたようにミサカは頭を抱える。

「だってあの二人以外に私を純粋に慕ってくれた人なんていなかったもの……周りは常に敵だらけ、恋なんてしたくても出来なかったわ」

サバサバとした口調で芳川は昔を思い出す。

「……まぁ、いいや……ミサカ好きな人が出来た、んだけどさ……ミサカの大切な人もその人の事が好きなんだよ、多分……こういう時ってどうすればいいのかな?」

ほんのり顔を赤くし、真剣な目で芳川を見た。

「さぁ?そういうのは私じゃなくて御坂美琴さんかシスターさんにききなさい」

自分にそんな事わかるわけがないと言うように芳川は大きく息をはいた。
499 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:50:49.46 ID:0GWb1Yy1o
〜〜〜

その頃、一方通行とミサカ00001号は上条の学生寮へと来ていた。
それを提案したのは一方通行だ。

――なンか、今日は芳川の顔がうまく見れなかった……。

一方通行には珍しく、その理由を自分で考える前に他人の意見を聞こうとしていた。

無言で二人は学生寮を目指す。

上条の学生寮と一方通行達のマンション、芳川の研究所はちょうど上条の通う学校を中心に、同じくらいの距離の位置にあった。

――でもなァンて聞きゃいいンだ?……ミサカに任せりゃいいか。

ちらっと横を歩く女の子を見る。

――さっきも思ったが個性ってのはなンだろうな……。

一方通行の視線に気づき、ミサカは顔を少しあげ、首を傾げる。

なンでもない。とだけいい、視線を前に戻す。

そのままとぼとぼと会話もなく歩いていると、ミサカが唐突に口を開いた。
500 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:51:26.96 ID:0GWb1Yy1o
「……垣根さん?」

その視線の先には朝からふらふらと何処かに行ってしまった垣根帝督がいた。

「あいつ……なにやってンだ?」

垣根は上条の寮の周りをウロウロと歩き回っていた。
三歩進んで寮を見上げるように、止まる。そしてまた三歩だけ歩き止まる。

二人はそんな怪しい垣根に近づくが、垣根が気づく様子はない。

「……オイ」

気づくのを待つのも面倒だというように、一方通行は後ろから肩を叩く。

垣根は情けなく声をあげ、体を少し飛び上がらせた。

「うわぁっ……ってお前らか驚かせんなよ……なにしてんだ?」

「そりゃこっちのセリフだ、上条に用があンなら一緒にいこうぜ」

「上条?いや上条には用はねぇどっちかというとインデックスちゃん」

「ならばミサカ達と同じですね。とミサカはミサカ達もあのシスターさんに用があることを明かします」

「……んじゃまぁ、いくか」
501 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:52:14.97 ID:0GWb1Yy1o
〜〜〜

上条の部屋の前に立ち、インターフォンを鳴らす……が、反応はない。
もう一度、鳴らしてみるがやはり反応は無かった。
三人は顔を見合わせ、がっかりしたように頷き合う。

そのまま扉の前を離れ、廊下を戻りエレベータに乗り込んだ。

一階まで降りると、インデックスと上条が仲良さげに話をしながらそこでエレベーターを待っていた。

インデックスは夏の太陽にも負けぬくらい元気いっぱいに笑い、上条はその光を受けるように静かに微笑みを浮かべている。

エレベーターの扉が開くと二人は言ったんおしゃべりをやめ、こちらに頭を下げながら入れ違いに入ろうとする。
そこで降りてきたのが自分達の知り合いだという事に気がついた。

若干驚いたようなリアクションをするが、すぐに三人に何かようなのか。と笑いかける。

三人は上条が手にビニール袋を持っているのを見て、初めてもう夕飯時だと言うことに気づいた。
502 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:52:42.81 ID:0GWb1Yy1o
飯時にお邪魔するのも悪いかと思い直し、急ぎじゃないからまた明日にでも来ると伝え、三人は二人と別れた。

二人は兄妹のように仲睦まじくエレベーターに乗り込み、上へと上がって行く。
その様子をみて、三人は静かな満足感と羨望を覚えた。

上条の学生寮からマンションへと帰る道中、垣根はいつも通りからからと快活にしゃべり、ミサカも楽しそうに垣根の相手をしている。
一方通行は二人のそんな楽しそうな声を背中に受けながら歩いていた。

ずっとこんな時間が続けばいいと三人は思った。

そう思うのはそれを崩そうとする何かに気づいていたからだったのかもしれない。
503 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:53:49.34 ID:0GWb1Yy1o
〜〜〜

パソコンのディスプレイの光だけが灯る部屋で天井はカレンダーを睨みながら夏休み最終日、八月三十一日にペンを突き立てる。

最終信号もゆっくりと時間をかけてあと少しで完成予定だ。
そして兵隊も確保した。

これから自身が起こすイベントを思い、思わず笑みをこぼす。

――第一位と第二位は殺せる気がしねぇ……が、あいつらを死ぬほど辛い目にあわせる方法なら簡単に思いつく……。

芳川桔梗の殺害。
妹達の殺害。
御坂美琴とそれの友人らの殺害。
上条当麻とそれに懐いてるシスターの殺害。

彼らと関わったもの全てを殺せばいい。
大切なものを奪えばいい。

大切なものがある者にとってそれを奪われるのは耐え難い苦痛であろう。

――俺から絶対能力者って夢を奪ったんだ……これでおあいこ、だろぉ?

自分が傷つけられるよりも効果はある。
とくにあの二人には……大切なものを失わないようにと、それが戦う理由であるあの二人には一番効果的であろう。

天井は一人狂ったように笑う。

その部屋には下品な笑い声と機械の駆動音が若干聞こえるのみであった。
504 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:54:16.72 ID:0GWb1Yy1o
〜〜〜

家に帰り、ご飯を食べ順番にシャワーを浴びると各々は適当に時間を潰す。
芳川はぼんやりとテレビを眺め、ミサカ達は今日あったことをお互い話す。
一方通行は分厚い本をコーヒー片手に読みふけり、垣根は所在なさげに携帯電話を閉じたり開いたりしている。

「……明日模様替えします」

携帯電話を一際大きく音をたて閉じると垣根は唐突に言った。

「明日はミサカ達二人ともカエル先生の所だよ?」

「私もまだ整理が終わってないから研究所に戻りたいんだけれど」

女性陣は三人とも乗り気ではない。

「大丈夫、一方通行と俺でやるから……芳川も最近はこっちに泊まること多いしそろそろこの部屋にあるテレビやソファを隣に移したいじゃん?」

な?と同意を求めるように一方通行に顔を向ける。

「あー、ンまァいいンじゃね?そんくらいなら二人でも余裕だしなァ……」

本から目を上げずに答える。

「ベッドと机と本棚とかそういうのも買いにいくか……ミサカは和室に二人でいいのか?一人部屋がいいなら俺は垣根と同じ部屋でも構わねェけど……」

本から目をあげ、ミサカのほうを向く。
垣根もそれでいいと頷く。

「ミサカ達は二人一緒がいいからこのままでいいよ」

一方通行の問いには00002号が答え、00001号もその言葉に頷く。

「じゃあここを芳川の部屋にしてあとは今まで通りでいいな、ベッドとかは俺らのセンスで問題ないよな?」

垣根は満足そうに頷きながら芳川に確認を取る。

「えぇ、いいけれど私お金そんなないわよ?」

「そンなの気にすンな……この家本棚ねェからどォせ買おうと思ってたし、ベッドや机なンてたいして高かねェだろ」

そんな訳で、芳川の完全移住と男二人の明日の予定が決まった。

505 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:55:49.38 ID:0GWb1Yy1o
今日の分おわり

イベントに話をつなげたいんだけどそこに持って行き方に迷っていますので書くペースが亀のごときのろさ

また読んでください
506 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 07:07:49.86 ID:5FStqWaDO
乙〜
あれ?インデックスが殺害に入ってるのに上条さんが入ってないのはなんで?
507 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 08:47:05.77 ID:cgnStFRDO
おつー

>>506
>>503
>上条当麻“と”それに懐いてるシスターの殺害。

ちゃんと殺害リストに載ってるよ! やったね当麻!
508 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 08:56:32.60 ID:sZWv/i90o
うん、ちゃんと誰か死んだら俺的に良SSだ

天井の一人称、俺だっけ?
509 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 12:19:21.98 ID:/NMqSwPbo
天井くんの一人称は私だった気がする…けどどうだったかな
最初の方に確か分岐ありって話があったような。
つまりバッドならそういうことなんじゃないでしょうか
510 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 14:52:48.68 ID:/sHtSPvm0
>>508
おい馬鹿やめろ
露骨なバッドエンド要求は犯罪だぞ!
511 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 02:40:37.63 ID:acf0beUAO
展開予想もなるべくならしないのがマナー

それはそれとして乙
512 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/30(金) 07:11:18.37 ID:9vPjXXHYo
おはようございます
予定通り明日投下します

もうラストまでの道筋は決まってるんでこれからも終わるまで楽しんでくれ

あと天井くんの一人称はミスではないです
たいした意味はないけど話にちょい絡んでくる程度だけどもね

ではまた明日、日をまたぐかもしれないから先に「良いお年を」と言っておきますね

いつも読んでくれてありがとう
513 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 08:52:22.33 ID:HnlJpERxo
一方モノだと天井って取ってつけたような悪役にさせられるよな
原作ママだが、たまには違うのが見たいとも思った
514 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 11:44:38.17 ID:aXaihh30o
自分で書いてみたらいいんじゃないすかね
515 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 17:26:16.66 ID:7bigDXx6o
さて、脱いだ
516 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:41:56.50 ID:P/2pr6Buo
ギリギリ今年最後の投下できそうだ

短いが始めます
517 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:43:12.39 ID:P/2pr6Buo
〜〜〜

仕事に出るミサカ、芳川が少しでも朝の短い時間に余裕を持てるようにと一方通行と垣根は三人よりも早起きをし、朝ごはんの準備をしていた。

王道好きな二人は鮭の塩焼き、味噌汁、白米、漬物と非常に日本人らしい献立をチョイスする。

「よし、とりあえず味噌汁は俺に任せろ。お前は米炊いて鮭焼いてくれ」

ン。とだけ答えると、まず米をとぎ、炊飯器のスイッチを入れた。

コメが炊き上がるのと垣根の味噌汁の出来を見計らい冷蔵庫から鮭を取り出す。
鮭の切り身に塩をふり、オーブンを約二百五十度まで熱する。
しばらくしていい温度になったら網にサラダ油をぬり、その上に鮭を置いた。
あとは綺麗な色になるまで待てばいいだけである。

鮭が焼きあがる少し前に、垣根が出来た。と満足そうな声をあげ、同時に炊飯器もご飯が炊けた事を告げる電子音を鳴らした。

そしてタイミング良く三人も起き出してきて、手洗いうがいを終えた頃、丁度鮭もいい色になった。

白米、味噌汁、鮭、漬物をテーブルに並べ席につく。

「いただきます」

芳川家の一日がはじまった。
518 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:44:04.46 ID:P/2pr6Buo
〜〜〜

三人を送り出した後、二人はのんびりとした時間を過ごしていた。

「今何時だ?」

垣根の言葉に一方通行は無言で時計を指差す。

「あー、九時かぁ……十一時までに掃除してもの動かして……そのあと芳川連れて飯喰ったあと家具買いに行くか、そんで夕飯は女達に任せときゃいいから模様替え終わり次第上条のとこ行く」

言うなり立ち上がり、家中の窓を開けはじめた。

一方通行もめんどくさそうに立ち上がり部屋を片付け始める。
黙って掃除するだけなのも苦痛ではないが、なんとなく垣根に疑問をぶつけてみることにした。

「なァ、個性ってのはなンだと思う?」

「……俺だったらまず未元物質だろ、お前だったら一方通行。唯一の能力だから俺たちはそれだけで個性になるんじゃね?」

「じゃあ……超電磁砲・御坂美琴は?電撃使いなンて珍しくはねェだろ?」

「そりゃあ、そのまま超電磁砲だろ。あれは美琴ちゃんしか撃てねぇ……あとは常盤台の生徒とか妹のために命捨てる覚悟決める根性とか茶の髪の毛とか……?」

「じゃあミサカたちは?」

「……ミサカ姉は静か、恥ずかしがり屋、美琴ちゃんより臆病。ミサカ妹は明るい、よく喋る、美琴ちゃんより若干毒舌とか?」

学園都市製の音が全くと言っていいほど出ない掃除機でテレビやソファの影に隠れていた埃を吸い取る。
519 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:44:32.34 ID:P/2pr6Buo
「でもミサカ姉はなんか危うい……なんというかあの口調が心配になる」

一方通行はソファの足を雑巾で拭きながら垣根の話を黙って聞いている。

「なんというかさ、言いたかねーけど自分がクローンだっていうか、実験動物だっていうか……死にたくはないけどいつでも生きることを諦めるような思考から抜け出せてない感じ?」

なんとなくそう感じるだけだけどな。と最後に付け足す。

そのあと二人は黙ったまま掃除を続け、客間を空っぽにした。

そしてリビングを新しく作る。

テレビをどこにおくかで若干揉めたり、一度始めると完璧にやらないと気が済まない性格のせいで家中を細かく掃除したりなど、終わった時には予定時間を少しだけすぎていた。

だが、お互い満足行く結果を得たようで顔を見合わせ頷き合う。

「行くか」

「おォ……肉食いてェ」

垣根が部屋着から着替えるのを待ってから二人は外へでた。
520 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:45:37.05 ID:P/2pr6Buo
〜〜〜

ハンバーグを売りにしている店で昼食をとった後、三人は近くの喫茶店で食休みをしていた。

「研究所の片付けってなにしてんの?」

アイスコーヒーをすすりながら垣根はアイスティーにミルクをいれかき混ぜる芳川の方を見る。

「色々、よ。ミサカちゃん達の生まれてからの記録の整理だとか自分の理論立てたクローニング技術の改変とか」

「改変?」

「そ、わざと失敗するように書き換えてるの……一度学園都市に奪われ目を通されてるから統括理事会直々の実験だと意味ないけど他の連中がクローン作ろうとしても絶対出来ないように、書き換えてるのよ」

これで少なくとも外でクローンが生まれる心配は減る。と芳川は言う。

「クローンなンざ作ろうと考えるような学者はこの街にくるだろうしなァ……人間が人間を造るなンて馬鹿げたことを考えるよなァ」

人間に超能力を与える街。
そして余りにも大きすぎる力が備わってしまった第一位は誰よりも人間の愚かさというものを感じているのかもしれない。

「超能力もクローンも……人間が人間を超えるような技術はあっちゃいけねェンだよ。刃物を持つ責任を持てないようなちっぽけな存在が人を生かすだ殺すだなンて馬鹿げてやがる」

コーヒーを一口。

「それは……自分が人間を超えた存在だと勘違いしちまうからって事か」
521 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:47:35.28 ID:P/2pr6Buo
「そうね、私は自分がまともな大人とは思わないけれど、人間が人間を超えることなんて無理だという事を理解してる点ではマシな方だと思ってるわ」

それは人間をはるかに超えた力を持つ少年が誰よりも弱く、そして誰よりも強く普通である事を望んだのを自分がまだ子供で、これからの生き方を決める段階で目の当たりにしたからである。

「私は、あなた達に出会っていなければあなた達に恨まれるような人間になっていたかもしれないわね」

「それをいうなら芳川に俺らが会ってなきゃ俺らは実験に嬉々と参加して、人を殺すのをなんとも思わねぇクズになってたよ」

この出会いが最善であったと垣根は言う。

「でも、芳川……その……」

静かに紅茶を飲む芳川に一方通行は何かを言いよどむ。

「なに?」

芳川はごくごく自然に微笑みを浮かべ、一方通行の言葉を待った。

――一方通行は大丈夫だ、きっと時間の問題だ。

垣根は二人の様子をストローをくわえながら見守る。

「いや、なンだ?その、手伝えることあったら、言えよ?俺はずっと、それはもう……本当に出会った時から、お前の力になりてェと、お前を助けたい、支えたいと思ってたンだと思うからよ」

真剣な目をしている一方通行の瞳をじっと見つめ、芳川は小さく息を呑む。

そして、少女のように顔いっぱいで喜びを表すように笑いかける。

「ええ、ありがとう。一方通行も……帝督も、二人とも頼りにしてるわよ」

満足気に一方通行も微笑む。

その顔は幼さを残した少年のようであった。

この人の前では第一位はただの甘えたがりの男の子にすぎない。
522 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:48:15.76 ID:P/2pr6Buo
〜〜〜

「あ、オイ垣根」

芳川と別れ、とある大型の家具屋さんに二人は足を運んでいた。
そこで一方通行がなにやら面白いものを見つけたらしく、垣根を呼び寄せる。

「なんだ?なんか面白いものでも……ってこりゃあ懐かしいな」

一方通行が指差すのは黒を基調にした上品な本棚と、同じ材質の少し洒落た感じのある机であった。
商品名の横には『第二位・未元物質との共同開発品』と書いてある。

「お前らと再会する二週間くらい前かな?ちょうどこれの開発終わったんだよ……ここの研究員はそこそこいい奴らだったよ、まず俺に会ってから名前をちゃんと聞いてくれた」

その机にそっと手を触れる。

「……珍しい奴らもいるもんだな……具体的になにを協力したんだ?」

「汚れにくくて傷つきにくい材質を俺が生み出して、現実にある物質をそれにいかに近づけることが出来るかって研究だった」

「ほう、お前の能力オンリーで大量生産しろって言わねェところにプライドっつーかアーティスト魂というかを感じるな……よし、じゃこれにしようぜ……ベッドはねェの?」

「あるんじゃねぇか?」

二人は近くの店員を呼び寄せ、本棚と机を買う旨を伝える。
店員は素晴らしいほどの接客用のしかし嫌味のない笑顔で対応した。
そしてこれと同じ材質で作られたベッドも買いたいと伝えると送料を無料にさせていただきます。といい、ベッド売り場へと二人を案内した。
523 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:48:57.46 ID:P/2pr6Buo
〜〜〜

「すげェ店員だったな……店員の見本みたいな野郎だった」

思ったよりも速く買い物が終わり、二人は日差しが一番きつい時間帯の街を徘徊していた。

街は笑顔で溢れていて学生たちはみんな浮き足立っている。

そんな世界をどこか一枚ガラスを通して見るような目で二人は見ていた。

“あそこに俺たちははいれるのか”

「……なぁ、なんか楽しそうだな」

「……そォだな」

長く息を吐く。

「帰るか」

「……あァ」

家の方向へと足を向けた瞬間、後ろから二人の首に腕が回される。

「学園都市最強コンビさん!ちょうどいいところに!」

二人はとっさに反撃のための演算を開始するが、その声が聞き覚えのあるものだったのでそれを中止する。

「涙子ちゃんかよ……驚かせんなよ」

「お前あぶねーからいきなり俺にひっつくな、人体を反射設定に入れてたらお前怪我してンぞ?」
524 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:49:28.23 ID:P/2pr6Buo
あはは。と笑いながら軽く謝る。
佐天はどうやら一人のようだった。
なにをしているのか聞くと、四人で遊ぶ約束をしていたのだが、風紀委員二人は緊急招集、御坂も
協力していた実験でトラブルが起きた為呼び出され、暇をしていたらしい。

「垣根さんに朗報です。三日後私達とあなた達七人で遊園地に行きましょう、それで白井さんはチャラでいいそうです」

芝居がかった口調で佐天は話す。

「……俺は行かねェからな」

自然と人数に入っている事に気づき、一方通行はそれを拒否する。

「えぇ!行きましょうよ!初春と私で両手に花ですよ?」

「ちょっと待って、俺、一方通行、美琴ちゃんに黒子ちゃん、涙子ちゃんに飾利ちゃん……あと一人誰よ?」

「え?上条さんだっけ?御坂さんの思い人。その人に決まってるじゃないですか」

「とにかく俺は行かねェぞ……垣根、先帰ってるわ。お前は上条のとこ行って来い」

さっさと歩き出す。

「……ま、よくわかんねーが黒子ちゃんがそれでいいなら俺は付き合うぜ?上条も誘っとくわ」

一方通行の小さくなる背中をみながら佐天に了承の意を伝える。

「え……?あ、あぁ、はい、どうもありがとうございます。えっと……それで当日やって欲しいことがあるんですけど、いいですか?」

佐天は先日四人で立てた作戦を垣根に説明しようとするが、垣根がそれを遮り佐天の言葉を止める。

「まぁ、まて話すならどっか座るか最低歩きながらにしようぜ」

二人は街中、道端にポツンと立っている。

「ここだと他の人たちの邪魔になるだろ?」

そういい、垣根は行き先も決めずに歩き出す。

「そうですね、それでですね―― 」

佐天も垣根に続き、歩き出した。
そして、先ほど遮られた話をまた、始める。
525 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:49:56.57 ID:P/2pr6Buo
〜〜〜

「てなわけで三日後に中学生四人を引き連れて遊園地に行くことになりました」

佐天と別れると、垣根は上条の寮へと来ていた。

「無理。俺、お金、ない。それにインデックス、ひとりにできない」

話を聞くや否や即答で無理だという上条。

「……なんで日本語不自由な感じになってんだよ。金は……最悪奢ってやるよ、インデックスちゃんは一方通行に預ければいい」

垣根は出された麦茶を一口飲む。
インデックスは上条の横にちょこんと座りながら「遊園地……羨ましいかも」と呟いていた。

――悪いなぁ、インデックスちゃん。でも今回は美琴ちゃんがこいつに気持ちを伝えるためらしいから、我慢してくれ。

心の中でインデックスに謝りながら、どうにか上条を乗り気にさせようとする。

「お前が断ったら俺は男一人になるわけだが……」

「あ、じゃあ俺の友達紹介しよううか?女子中学生四人とか言ったらきっと泣きながら来そうなやつがいるぞ?」

「バカかてめぇは」

「……大体なんで俺なんだよ。御坂しかよく知ってる子いないし一方通行連れてけよ」

空になったコップに麦茶をつぐ。
垣根が自分のも飲み干したのを見て、垣根にもついでやる。

「大丈夫だ、あの子らはあの一方通行すらおちょくる勇気と人懐こさがある」

すぐに仲良くなれるさ。と息を吐きながら言う。

その後、一時間ほど誘い続けたら上条はついに折れた。

「……んー、じゃあわかった。行くよ」

渋りながら了承すると、インデックスにお土産買ってくるから、今度はお前も連れて行ってやるからと頭を撫でる。

――犬みたいだなインデックスちゃん……。

恨めしそうに上条を見ていた目は、すっかり消え、インデックスは嬉しそうに笑いながら「約束なんだよ。楽しんでくるといいかも」と言った。

羨ましさ三割、嬉しさ七割という印象を垣根は受けた。
526 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:52:15.29 ID:P/2pr6Buo
〜〜〜

一方通行が帰宅すると、丁度買ったものが届いていた。
机はギリギリエレベーターに乗ったので、配達員と協力してそれらを部屋に運び込む。

全部運び込まれると、机と本棚を自分のセンスで配置した。

次にベッドを組み立てる。
それが終わると朝干して行った布団を取り込んだ。

やる事がなくなると缶コーヒーを冷蔵庫から取り出し一息つく。

読みかけの本を部屋に取りに行き、積んである大量の書物を見てため息を一つ。

――読む前にこいつら全部本棚入れちまうか。

大量の本をバランスよく抱え、黒々としたツヤのある美しい本棚に、次々と並べて行く。
途中本を入れ替えたりなど、ここにもこだわりがあるようだ。

片付けながら本をパラパラとめくり、読み始めたりしてしまうので、整理はなかなかスムーズにいかなかった。
結局ほかの住人が帰ってくるまでおおよそ三、四時間かけて本棚にきっちり収めた。

527 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/31(土) 23:54:11.81 ID:P/2pr6Buo
切り悪いけど一旦やめ
あとで切りいいところまで投下しにまたきます

では一応今年最後の投下終わりと言う事で……

来年もよろしくお願いしまっす!
528 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 00:50:41.09 ID:oS6nS7sGo
乙!!明けましておめでとう
今年も期待してます
529 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 01:03:09.55 ID:ci4Z4D6R0
乙です。そしてあけましておめでとう。
530 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/01(日) 08:03:51.31 ID:fkNrnLpAo
あけましておめでとうございます

年末のこの時期に割とすぐレスついて嬉しいww
今年もよろしくお願いします!

では2〜3レスだが投下
531 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/01(日) 08:04:34.15 ID:fkNrnLpAo
〜〜〜

「遊園地?……一方通行も行くのかしら?」

ちらりと、一方通行の方に視線を一瞬だけ向けた。

「行くわけねェだろ」

皿洗いを終えた一方通行がソファへどかりと座りこむ。

「お、お疲れ。その日暇だろ?インデックスちゃんの相手してやってくれよ」

「めんどく……いや、解った。ミサカ達は三日後もカエルのとこか?」

食器をしまい終わった二人に目を向ける。

「その日は二人ともお休み!ミサカは芳川博士の研究所ついてくけど00001号は家にいるつもり……だよね?」

「はい。その日は一方通行と語り合おうかと思っていました。とミサカはシスターも来ることにタイミングのよさを感じずにはいられません」

二人はそれぞれ垣根の両脇に座る。

「……随分仲良くなったのな」

「……垣根さんこそお姉さまとその友人三名に囲まれてハーレムじゃないですか。とミサカは言い返します」

「そうだよそうだよ、ミサカ達とももっと遊べよー」

三人の様子を一方通行はぼんやりと、芳川は若干ニヤつきながら見守る。

「まぁ、帝督と御坂さん、それに上条君がいれば事故や事件に巻き込まれても問題はないだろうけど……気をつけなさいよ」

芳川は立ち上がり、お風呂先もらうわね、と言いながら部屋を出た。
532 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/01(日) 08:05:02.33 ID:fkNrnLpAo
〜〜〜

そして、佐天に誘われた日から二日がたった。

どうせならという事で、上条とインデックスを家に招き、泊まらせる事になっている。

上条が補習に行く頃に垣根と一方通行は迎えに行き、上条をインデックスを交えた三人で見送る。

入院している時に出された課題は二人がかりで上条にすでに教え込んだ。
その甲斐あってか、能力開発以外は平均までのレベルに到達していた、が出席日数はどうにもならない。
いま上条は成績面よりも出席の方をクリアするためだけに優しい担任の先生の補習を受けている。

勉強も分かるようになるとそれなりに楽しくなるらしく、補習があることに対して不幸だとは言わなくなった。

補習だけではなく、日常生活でもいう回数が減っていると、隣の住民が言っていたことをインデックスが二人に教えてくれた。

インデックスは上条の話をする時すごく楽しそうに表情をコロコロ変える。

太陽の光をそのままエネルギーに変えているかのような笑顔に二人も自然と笑顔をこぼしたり、優しい気持ちになれた。

蝉の声も鋭い日差しもまとわりつく温度も、全てを楽しんでいるかのように三人は歩く。
533 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/01(日) 08:06:30.97 ID:fkNrnLpAo
〜〜〜

「あなた達はみことの妹ってことでいいんだよね?」

夜、晩御飯を食べながらインデックスはミサカ達に確認を取る。
二人はそれを肯定し、よろしくと軽く頭を下げた。
上条はこの二人がクローンである事は言ってないようだ。

「よろしくなんだよ!」

インデックスは御坂の事をほぼしならない、だから妹がいる事にも疑問を持たなかった。

しかしこのシスターならクローンだとわかってもこう言うだろう。

“そうなんだ、でも神様に望まれたからあなた達が生を受けたことに変わりはないかも……それにあなた達は私の大切なお友達って事にも変わりはないんだよ”

純粋なただ笑っただけの笑顔でそう、言うだろう。
534 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/01(日) 08:06:56.67 ID:fkNrnLpAo
〜〜〜

夕食を摂り終え、少し休んだあと順番に風呂に入る。

インデックスが風呂を見て、その広さに驚き、ミサカと芳川に一緒に入ろうと誘いをかける。

ミサカ達は快諾し、芳川もあまり乗り気でないが了承した。

着替え、タオルを持ち、三人は風呂へ移動する。

「わー、とうまの寮とは大違いかも!綺麗だし広いし」

「学生寮と比べちゃかわいそうよ」

インデックスが小さいので、インデックスとあと二人ならばギリギリ浴槽に収まる。
芳川はミサカ達に先に温まるようにいい、自身は髪の毛を洗い始めた。

「……どうやったらききょうみたいにスタイル良くなれるのかな」

シャワーの前に座る芳川をじっと見つめる。
芳川は少し顔を赤くし、成長期なんだからいまからよ。とテンプレ通りの答えを告げた。

それからもインデックスは芳川を凝視し続けようとしたが、ミサカ00002号に注意され見つめるのをやめた。

芳川は体を洗い終えると先にでて、浴室には三人が取り残される。

「インデックスは初恋いつ?」

ミサカ達もインデックス同様に彼女の事情を知らない。

インデックスは自身の記憶がここ一年しかない事を魔術関連のことは伏せて説明した。

「そっか、じゃあ今した恋が初恋かぁ……人を好きになるってなんだろうね」

「好きにも種類があるからね。私が誰かを好き、みさかが誰かを好き、みさかいもうとが誰かを好き、同じ恋愛にカテゴライズされてしまう好きだけどその形は全員バラバラだよね。その辺は誰にならうとかっていうより自分の納得する形を見つけるしかないかも」

そんなこんなで三人も順番に風呂を終えた。
535 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/01(日) 08:08:54.12 ID:fkNrnLpAo
おわり!

一応今上条さんも芳川家にいますよ?
男性陣今回は空気すぎたな

次回は遊園地美琴上条編
さらっと終わると思う

ではよい新年を
536 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 08:19:42.69 ID:ZvCm8HCxo
よいお年を〜
537 :以下、あけまして [sage saga]:2012/01/03(火) 16:49:38.04 ID:Rgo8IGPY0
あっけおめい!
538 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/03(火) 21:24:20.69 ID:2mfe/x9IO
あけましておめでとうございます

今月は中頃までいろいろ忙しいのでそんなに来れないと思います
すみませぬ
一応予定では六日に来る予定です

こんな感じで今年もよろしくお願いします!


539 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/06(金) 18:22:28.35 ID:myvNs+3IO
なんか少し時間明けて書いたら話のつじつまあってるかすげぇ不安になるね
まぁ、今更だけどさwwww
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/07(土) 16:23:58.83 ID:C40BesGIo
三百年かかってもいいから
541 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/07(土) 23:54:41.54 ID:PR+s3PeQo
こっそり投下開始
542 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/07(土) 23:55:19.68 ID:PR+s3PeQo
〜〜〜

いってきまーす。元気にそう言いながら、垣根と上条は出かけて行った。
それから少しすると、ミサカ00002号と芳川も家を出た。
昼には帰ってくるとの事で午後は家でのんびりと過ごすようだ。

一方通行とミサカ00001号、インデックスの三人はソファに腰掛けながら、膨れた腹を休ませるようにゆったりとたまに口を開きながら穏やかな時間を満喫している。

「なァ、インデックス」

天井の一点を見つめながら、一方通行が口を開く。
それはどこか遠慮するように、内気な生徒がわからない所を先生に聞くような少し媚びるような声であった。

「なにかな?あくせられーた」

インデックスはどこまでも純粋な瞳で一方通行の方へ顔を向けた。
543 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/07(土) 23:56:27.32 ID:PR+s3PeQo
〜〜〜

「芳川博士、これはなに?」

ミサカが手に持っているのは日記と書かれた古ぼけたノートだ。
芳川は二人とバラバラにされた後、彼らの関わった実験で手に入る資料は全て手に入れていた。
それで何が変わるというわけでもなかったが、そうせずにはいられなかった。

「……一方通行の実験に関わって命を落としてしまった子の日記よ」

そこには第一位への恨み辛みが書き殴られていた。
芳川はその日記を最後までは読んでいない。
読めなかったのだ。

「あの子は何も悪くない、そしてこの子も何も悪くない。だから読めなかったのよ……大切な人を悪く言うその子に不条理な怒りを抱いてしまいそうで、どっちも悪くないから行き場のない感情をどうして良いのかわからなかった」

ミサカは相槌をうちながら、その日記をペラペラとめくり読み進める。

「この子はミサカと違って助けてもらえなかった子なんだね……なんだか、すごく悲しい」

喉につっかえた異物を飲み込むような苦々しい表情を浮かべ、ミサカはその日記を閉じ、ダンボールの中にしまった。

が、すぐにそれをまた手に取り、急いでページをめくる。

「どうしたの?」

その行動を芳川は不思議そうに見つめる。

「芳川博士、これ、ここ読んで」

数年来の友人を失ったかのようにボロボロと涙をこぼしながら、日記のあるページを読み、そこを芳川にも読ませようとする。

「――ッ!」

驚き目を見開く。
芳川の頬にも一筋の光がつたっていた。

「この子のお墓……というより死体処理場かな?そこに行こうよ」

涙を拭うとミサカは芳川に抱きつき、はっきりした声でそう言った。
544 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/08(日) 00:01:36.49 ID:vMkq2LiTo
〜〜〜

「……人を愛するってのはどォいう事なンだ?俺は人の愛し方がわからねェ……人を愛するのに資格はいるか?愛されるのには?」

次々と湧き出る疑問を全てぶつける。
一方通行の顔は迷子になった子供のように不安さと揺らぎに満ちている。
いつもの冷静で物静かな彼の姿はそこにはない。

「なァ、シスター。俺は自分で人を殺したことはねェ、でも俺が存在する事で死ンだ奴は山ほどいる」

座り直し、膝に両肘をつく形に落ち着く。

「反射の正確性、強度を測る実験で俺は自分と同じくらいの年齢の奴が撃って来た炎を反射せずに真上に行くように操作した。そしたらその発火能力者は研究員に頭を撃ち抜かれた」

そして、自嘲するように弱々しく笑う。

「あいつは悪くねェのに『ただ測るだけの事も出来ないクズが』って言われながら殺されてた……俺がいなきゃあいつはもっと生きることができた。これは俺が殺したも同然だろ?」

しん、と音がした。
ミサカもインデックスも一方通行の様子に驚き、言葉を発することができずにいた。
一方通行は真剣にインデックスの目を見つめ、答えを求める。

インデックスは小さく息を吐くと目を閉じた。
たっぷり三秒ほどかけてゆっくりと目を開くと同時に言葉を生む。

「それは違うんだよ。あくせられーたは守ろうとした。心ない人がその行為を更なる暴力で蹂躙した、それにあくせられーたが責任を感じる必要なんてないんだよ」

インデックスはこの街に奪われた命の事を思い、悲しそうに顔を歪める。

「ただ、その時は自分の行動が起こす結果を考え抜く力がなかっただけ、でも力ない正義を私は悪とは考えない。本当に悪なのは『人の為に使わない力』だと思うんだよ……あぁ、そっか。だからあくせられーたはかおりととうまが戦ってる時手を出せなかったんだね……とうまが『一方通行を巻き込んだ』って考えちゃわないようにそうしたんだ」

『まァあいつの戦いだし“死にそうになるまでは”手出ししなくて良いよなァ?』

『死にそうになるまでは』

あ、と何かを思い出したように一方通行は声を出した。

「そォだ……本当に“上条の戦い”だと感じてたンなら、その中で上条が死のうがそれは上条の納得いく結果なンだ」

「あとは、あなたが何よりも人が死ぬ事を嫌っているって事もあると思うけどね」

インデックスは心和む笑顔を浮かべる。

「最も愚かな行為は後悔から学ばない事。あくせられーたは確かにその子を守れなかった、だけどそれを糧に今たくさんの人を救える力を身につけた、その子は理不尽に命を奪われてしまったけど、あくせられーたを恨んでいるかもしれないけれど……仕方なかった事なんだよ」
545 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:02:43.42 ID:vMkq2LiTo
仕方がない。
そんな言葉で終わらせることしかできない自身の小ささにインデックスはもどかしそうな顔をする。

「私もまだまだ未熟だからちゃんとした答えは出せてないかも、ごめんね……でも必ず答えを見つけてそれをあくせられーたに伝えるから……待ってて欲しいんだよ」

申し訳なさそうにインデックスはうつむいた。

「そしてね、愛することをあなたが知らないはずがないんだよ、あくせられーた」

先ほどまでの歯痒さを押し殺し、次の問いに真剣に向き合う顔つきをインデックスはしていた。
それは人を納得させようとする顔だ。
真剣に向けられた疑問に向かい合い、真剣に頭を働かせ、慎重に言葉を選ぶ。

「貴方にはていとくがいる。ききょうもいる。みさか達もいるしみこともいる。とうまと私をそこに加えてくれると嬉しいけど、どうだろう?」

「俺が聞きてェのは友情とかそンな言葉に置き換えられる愛じゃねェンだよ」

「おんなじなんだよ。友愛も恋愛も親が子に向ける愛も……それは全て人を大切に思うって事でしょ?」

質問しに職員室まで来た生徒を優しく迎える教師のようにインデックスは笑う。

「あくせられーたは大切な人がいる。失いたくない人がいる。それはなんで?」
546 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:06:22.29 ID:vMkq2LiTo
一瞬だけ考える。
そして、答えた。
それは一人が嫌だからだと。

「なんで一人は嫌なの?」

インデックスはさらに質問をぶつける。

寂しいから。

一方通行は普段の彼が思っても絶対口にしないであろう言葉を即答する。

「どうして寂しいの?」

さらにぶつける。
一方通行の心に絡まった糸を解きほぐすように。

「俺を……ちゃンとに見てくれるのはお前らだけ、だから」

インデックスを指してのお前ら。
そこには当然上条当麻も入っているだろう。

「私ととうまもそこにいれてくれるんだね。ありがとうなんだよ」

くすぐったそうにインデックスは微笑んだ。

「そして、その中でも特に大切で失いたくない人がいる。そうでしょ?」

一方通行はゆっくりと考えたのち、頷く。

「私が出来るのは気持ちに気づかせて落ち着かせてどこにむかいたいかを意識させることまでだよ。そこからを形作るのはあくせられーた自身にしか出来ないんだよ」

時計の音がかすかに聞こえる。
インデックスはもういうことはないだろうとだらしなくソファに寝そべった。

一方通行は言われた通りに考える。

どこに行きたいか。

――俺は、垣根とずっと笑いあいたい。ミサカ達に生きてて良かったともっと思わせたい。御坂美琴や上条当麻の事も出来る事なら心から信じあえる仲になりたい。インデックスから答えが聞きたい。

「そして、何よりも――」

――芳川とずっと共に生きていきたい。

一方通行は大きく息をはいた。

「……インデックス、ありがとうよ。俺は、自分の気持ちに……気づくのが怖かっただけなのかも、しれねェ、心の奥底では気づいていたのかもしれねェ……」

いつの日か想像した未来。
芳川の隣にいるのが自分ではない未来。
それを描いた時、確かに一方通行の心は悲鳴をあげた。

「人を愛するって事がなンだか少しだけ解った気がする」

ミサカとインデックスは満足そうに一方通行を見つめる。

「大丈夫ですよ、弱っちいあなたをミサカ達や上条さん、お姉さまにこのシスターさん。そして垣根さんと芳川博士、みんなが守ってくれますよ。とミサカはその代わり暴力からは貴方がミサカ達を守れよと交換条件を提示します」

「とうまにも言ったんだよ、あなたの心を支えてあげるって……とうまとあくせられーたは似てるのかも」

嬉しそうに笑いながらインデックスは起き上がった。
547 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:07:11.12 ID:vMkq2LiTo
〜〜〜

「お前遊園地って行った事あんの?」

待ち合わせの駅まで歩く道すがら垣根は上条に話しかける。

「ん?ないよ……俺がそんな所行ったら誰か死ぬかもしれないし」

「そうか、まぁ今日は大丈夫だ。なんせ俺がいるし美琴ちゃんもいる。お前は俺らに頼れば良い」

「それで、いいのかな?俺が――」

「悪い。だなんて言うなよ?聞き飽きたし言い飽きた、ただ運が悪いだけだ、お前はなんにも悪かねぇよ」

突き刺すような太陽光が二人の体温をあげた。

「大丈夫だ、上条……お前のできねぇ事は俺達がやってやる。だから俺達が出来ねぇ事はお前がやってくれ……俺達もお前も出来ねぇ事にぶち当たったら――」

「全員で足掻けば良いんですの」
548 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:07:45.14 ID:vMkq2LiTo
二人の後ろに突然現れる白井と御坂。
二人は今日も制服だ。

「おおう……その通りだがびっくりさせんなよ」

「急に現れるのやめてくれよ……心臓に悪いだろ」

二人は驚きつつも、すぐに行動出来るよう構えていた。
上条は不幸の中から全てを守るために培った経験。
垣根は立場上狙われる事が多かったために育てた感覚。

驚きも恐怖も全て終わったあとでいい。
いちいちそんな事で身体も思考も止めていたら二人は命を落とす境遇で育った。

「それは失礼いたしましたわ。おはようございます、おふたりとも」

「お、おっす!二人とも」

「おはよーさん」

「おはよう、二人とも」

挨拶を交わすと、四人は待ち合わせ場所へ向かう。
佐天と初春はすでにそこにいて、二人で何やら楽しそうに過ごしていた。

「元気だねぇあの二人は」
549 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:08:25.14 ID:vMkq2LiTo
〜〜〜

「さってと……遊園地に着いたわけだが……なんで上条はすでに疲れてんの?」

チケットを買うと、垣根はぐったりとしている上条をニヤニヤとした顔つきで見る。

「……知ってるくせに」

電車内で痴漢に間違えられたり、どこかでイベントでもやっているのか、混雑していた駅で一人別の方へ流されてしまいそうになったり、ホームへ落ちそうになった女の子を助けたりなど……随分と朝から飛ばしていた。

「いやぁ……でもこんだけ不幸続いたらあとはもう今日は幸せいっぱいですよ!」

佐天がうなだれる上条を励ます。
垣根はチケットを上条と御坂に渡した。

「あれ?黒子や佐天さんや初春さんのは?」

御坂は不思議そうな顔で垣根に尋ねた。

「これを見よ!」

垣根は怪しく笑いながら、四枚のチケットを見せつけるように御坂の眼前へ差し出す。

「なになに?……優待券?」

「そっのとぉり!実は少し前に家具を買ってな、その家具は俺が開発協力した物なんだよ」

垣根は自慢気に事のあらましを御坂に説明する。
550 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:11:37.53 ID:vMkq2LiTo
家具を買った日、垣根は家に帰るとさっそく研究チームへ電話をした。
買わせて貰ったぜ、という報告と売れ行きはどうなのか、あんたらの研究ならいつでも付き合うぜ……などの事を話すと「こっちから連絡するべきだったのにすまなかった。かなり売れていて忙しくて連絡が遅れてしまった」と詫びをいれられてしまった。
次の日、お詫びに渡したいものがあるからと呼ばれた垣根はそこで優待券を四枚手に入れたのだ。

「この遊園地の持ち主がその家具気に入ってくれてな研究室のトップ四人に二枚ずつ送られてきたらしいんだが行く時は四人で行くからってみんな一枚ずつ譲ってくれた」

「なるほどねぇ……四枚なら女の子四人に譲りなさいよ」

「男二人で並べってか?嫌だよそんなの」

それに、と垣根は御坂にだけに聞こえるように声を落とす。

「こんな人混みで人質になりそうなのぞろぞろ引き連れてんだぜ?俺をよく思わねぇ連中の襲撃が万が一あった場合お前は全員守り切れると言えるか?」

「うっ……確かに、初春さんや佐天さんはなんかあった時にあんたといた方が安全……かも……」

「だろ?……それに上条と二人きりにしてやるんだ、むしろ感謝しろ」

垣根は兄が妹に意地悪をするような顔つきでからかう。

「なっ、なんであんたが知ってんのよ!」

「見てりゃわかるわ普通」

あきれ顔でつぶやく。
じゃれあう二人に、中学生三人は早く行こうと囃し立てた。

それに返事をすると、垣根は三人の少女を連れ、優待券専用のゲートをくぐって行く。

それは御坂美琴の戦い-恋-の決着への道のりの開始の合図でもあった。

551 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:13:36.02 ID:vMkq2LiTo


最近書くスピードがどんどん落ちている

次回は未定です

今回も読んでくれてありがとう
そしてまた読んでくれると嬉しいです
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/08(日) 00:42:32.11 ID:8UFrBbtQo


次回も楽しみにしてまっせー
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/08(日) 18:07:03.00 ID:SroxkqMuo
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/01/09(月) 00:22:56.84 ID:OSoqTWLZ0

待ってるぜぃ
555 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/09(月) 14:37:08.81 ID:Ok5E0xZio
〜〜〜

【とある少年の日記】

自分の人生の終わりが見えた。
だから日記をつけて見ようと思う。
この日記が*****の目に触れる事を祈る。

僕の苦しみと絶望をあいつに突きつけてやりたい。

才能がものをいうこの街であいつはそれがあった。僕には無かった。
たったそれだけの事で僕は生まれてから五千日すら生きる事が出来ぬまま死んで行くんだ。
556 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:38:05.82 ID:Ok5E0xZio
〜〜〜

○月◇日 雨

今日はあいつが「めんどくせェから」と言ったので実験が中止になった。
ふざけてやがる。
前回俺は全身を火傷した。
それでも毎日休む事も許されずに他の実験に付き合わされた。

俺がどんなに望んでも許されない休みを「めんどくさい」たったこれだけで

クソが
557 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:38:47.67 ID:Ok5E0xZio
〜〜〜

この日記帳もあと少しでページがなくなる。
僕は当初二、三ページ書いた頃には死んでいるんだろうと思っていた。
あいつのめんどくせェはずっと続いている。
一度あいつと偶然研究所内で会った。僕が睨みつけると怯えた顔でごめんと口を動かした気がした。
……気がしただけだけどね……。

あいつがいくらめんどくせェと言ってもいつかはその日がくるだろう。
その時僕はあいつに聞こうと思う。

僕の事をどう思っているのかを……。
558 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:39:18.60 ID:Ok5E0xZio
〜〜〜

□月△日 曇り

親友が死んだ。
あいつの遺品は安っぽいノートと真っ赤な綺麗な万年筆だけだった。

これが俺たちなんだと思い知らされた気分だ。

俺たちは所詮持たざる者なんだ。

明日は俺の番……俺は……おとなしく殺されてやるつもりはねぇ。
559 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:39:48.22 ID:Ok5E0xZio
〜〜〜

実験が今から始まる。
あいつは今回もめんどくせェって蹴ったらしいけど研究員がそれを許さなかったらしい。

僕と話したいとあいつが言ったらしい。
僕も死ぬ前に聞きたいことがあったからちょうど良かった。

部屋に入るとそいつは前置きもなく『俺はお前を殺したくねェ……だから安心しろ』そういった。

イメージとだいぶ違った優しいやつだった。

めんどくせェも僕たちを助けるための事だったのかな?となんとなく思った。

この実験が終わって生き残れたらあいつと友達になれるかな?

なれたらいいなぁ……。
560 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:44:46.31 ID:Ok5E0xZio
〜〜〜

□月▽日 快晴

朝起きたら研究員が全員倒れていた。
どいつもこいつもギリギリ死んではいなかった。

その死屍累々の中一人うずくまって泣いている痩せ細った真っ白いのがいた。

胸ぐらをつかんで立ち上がらせると罵倒してやるつもりの言葉が消え失せた。

そいつは泣いていたのだ。
顔面をぐしゃぐしゃにして、ボロボロと……そして「すまねェ」と繰り返し繰り返しつぶやきやがった。

どうすればいいんだよ、俺は……俺は……
561 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/09(月) 14:45:21.04 ID:Ok5E0xZio
〜〜〜

◎日○日

研究所を追い出された。
正式な学園のIDをもらい、俺は一人暮らしを始めることになった。
俺はこの日記と死んだ親友の遺品だけを持って行こうと思う。
562 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:48:23.23 ID:Ok5E0xZio
◎日*日

とある研究員が第一位の関わった実験の資料を集めているらしい。
この日記と親友の遺品も回収されるだろう。
親友のノートを悪いと思いつつも最後にみて見ることにした。

中を読んで俺は生きる目的を失った。

もしも何処かで会ったなら俺は自分を殺してくれるように第一位に頼もうと思う。

最後に、この日記を読んだ研究員へ

第一位にありがとうと伝えてくれ
俺は多分素直に言えねぇと思うからよ
この狂った街で誰よりも強く優しく、そして弱っちい男にどうか俺たちがお前を恨んでいなかったことを伝えてやってくれ。

多分、あの時のあいつの涙は俺の友人のためを思っての事だと思う。
俺の他に友人の死に涙してくれたのは第一位だけだったから……第一位は俺らがこんなクソッタレな環境にいたのを自分のせいと思い込んでたら……悪いからな

563 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:49:09.99 ID:Ok5E0xZio
〜〜〜

追記!

ありがとう、*****。
君の優しさが僕は嬉しかった。
ゴミのようにしか扱われず、負け犬どうしで傷の舐め合いしか出来なかった僕達に初めて優しくしてくれた人が君だ。

ありがとう。

564 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:52:41.53 ID:Ok5E0xZio
〜〜〜

ゴミ屋敷のように荒れた研究室に天井はいた。
真夏だというのにこの部屋は冷房で少し肌寒いくらいである。

「妹達の戦闘能力は格段に上がったなぁ……やっぱ感情なんてものは“実験動物”にはいらないよなぁ」

液体に浸された裸体のクローンを眺めながら天井はつぶやく。

「第一位も感情なんてものがなかったら良かったのになぁ……そうすりゃあの時の実験もちゃんとできたってのによ……」

忌々しそうに顔を酷く歪め拳を握りしめる。

「だがそれも、第一位に振り回される人生ももう終わりだ……私の計画通りやれば……クローンと上条当麻、それに懐くインデックスとかいうガキこの無能の三人は確実に殺せる……あぁ、芳川を忘れていたな……あいつはこの手で殺してやる」

悪意に満ちた空虚な笑いを浮かべる。

「一方通行、ついでに未元物質……お前らを絶望の淵に叩き込んでやる」

一人肩を震わせながら、不気味に笑う。
565 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:53:22.36 ID:Ok5E0xZio
〜〜〜

「白井さんはともかくどうして垣根さんや佐天さんもあんなにジェットコースター連続で乗って平気なんですか?」

グロッキーになりながら初春はベンチにもたれかかる。

「俺空飛べるし、ビルから何度も落ちてるし……能力使ったとこ見せた事なかった?」

「私はもともと好きだし……というか初春苦手なら言えば良かったのに」

水を差し出しながら佐天は初春の頭をよしよしする。

遊園地は相当混んでいたが優待券は乗り物も優先的に乗せてくれるものだった。
その結果入園してわずか三十分で人気の三つの絶叫系マシーンに乗る事ができたのだ。
遊園地に遊びにきている人々は夏の太陽に負けぬくらいみんな輝いた笑顔をしていた。

「さて、飾利ちゃんが復活するまでゆるゆるとしますか……俺も流石に三十分で三つのジェットコースターは疲れたしな」

初春の隣へ座り、パンフレットでぱたぱたと初春を仰ぐ。
566 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:59:10.80 ID:Ok5E0xZio
「垣根さんってさりげなく優しいですよね」

こそこそとベンチの横の木陰に移動しながら白井に耳打ちする。

「そうですわね、学園都市のトップお三方はみんなお優しいですわね」

二人は木に寄りかかり、しばらく口を閉ざす。
笑い声と蝉の声とアトラクションの機会音と……そこにはたくさんの音がせわしなく行き来していた。
佐天は目を閉じ音を感じるように呼吸を静かにさせた。
そして、唐突に白井に語りかける。

「最初超能力者ってみんな他者をバカにするような人ばかりだと思ってました……でも御坂さんとあって……無能力者の……いらない子の私にもそんなこと気にせず接してくれて……レベルでしか評価してもらえない街で評価されてる人が底辺の私をちゃんとに――」

「俺みたいなレベル5が言ってもあれかもしれねぇが……レベルなんて関係ねぇよ、少なくともこの街に住む子供達にはな……俺はお前も飾利ちゃんも黒子ちゃんも美琴ちゃんも上条と一方通行も……みんな同じただの友達だ。レベルなんてのに価値を見出すのは腐った大人と頭の悪いバカだけさ」

いつの間にか立ち話をしている二人の横に垣根と初春はたっていた。

「佐天さん、あなたは決していらない子なんかじゃないですよ。佐天さんがいなくなってしまったら私は泣きます。そして、必ず探します」

初春はグロッキー状態を何時の間にか回復させていた。

「さらに、もし私がいなくなっちゃったら佐天さんが迎えにきてくれると信じてます……佐天さんが消えたら私が、私が消えたら佐天さんが……そんなの面倒臭いからあなたはずっと私の、私達のそばにいればいいんですよ」

いいながら佐天の手を取る。

「初……春……うん、そうだね……私、頑張る!そしてなんかごめん、折角遊びきてるのにさ」

佐天の顔に笑顔が戻る。

「んじゃお化け屋敷行くか……何でも学園都市の技術をフルに使ってて世界一怖いらしいぜ?」

三人は楽しそうに頷くとお化け屋敷へと駆けていく。

御坂と上条の事などすっかり忘れているようだ。
567 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:59:36.15 ID:Ok5E0xZio
〜〜〜

四人がお化け屋敷へと向かった頃、御坂と上条はやっと遊園地内へたどり着いた。

「あっついなぁ……御坂大丈夫か?とりあえずなんか冷たい物飲むか?」

胸元を扇ぎながら上条は御坂に問いかける。
御坂もハンカチで汗をぬぐいながらそうね、と気のない返事をする。

――やっばい、なんか急に緊張してきた……。

「……なんか機嫌悪い?ごめんな俺なんかと待つ羽目になっちまってさ」

「あ、いやそんなんじゃないわよ……その、いやちょっと疲れたというか?うん、大丈夫」

少しだけ悲しそうな顔をした上条に慌てて何でもないということを主張する。
568 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 15:00:07.94 ID:Ok5E0xZio
「じゃ、少しどっかで休んでから垣根達と合流するか」

「え?」

「え?合流する……だろ?」

「あ、うん……そうよね」

上条はとりあえず目に入ったカフェへとさっさと歩いて行く。
御坂がついて来ないのに気がつくと振り返り御坂を呼びつける。

二人はカフェでお茶をしながら四人へ連絡を取ろうと携帯をいじるが、四人は誰一人として電話にでることはなかった。

学園都市の本気を体験中でとてもそれどころではなかったのだと二人が知るのはもう少しあとの事である。
569 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 15:00:49.89 ID:Ok5E0xZio
〜〜〜

「しょうがないからさ……お昼まで……ふ、二人でまわらない?」

御坂のこの言葉により、お昼までの約二時間、二人で適当に回る事となった。
二人の周りは楽しそうな声が行き交い、遊園地のマスコットも忙しそうに子供達の相手をしている。

「お、あれ空いてそうじゃん……乗ろうぜ」

上条が指差したのはコーヒーカップである。
並んでいる客はカップルばかりである。
親元を離れて寮で生活する子供が多いこの街では親子連れよりもカップルが当然多く、先ほどのカフェもカップルだらけだったが、御坂は変に意識してしまう。

「わ、わかったわ!美琴センセーに任せない」

「……何をだよ」

そんな御坂の心を知る由もなく、上条はマイペースである。

そして、最後尾に並びながら肌をジリジリと焼く太陽との一方的な我慢比べを二人は始めた。

――落ち着くのよ、デートだと考えるからダメなのよ、普通に遊んでるだけって思えばなんてことは無いわ!
570 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 15:02:03.57 ID:Ok5E0xZio
一人ブツブツと呟きながら御坂は言い聞かせるようにデートじゃないデートじゃないと繰り返す。
そんな御坂に上条は純粋に心配心からおでこに手を当てる。

「ひゃっわぁ!な、ななな何よ!急に!」

「いや、お前様子おかしいし熱でもあんのかな?と思ってさ……まだまだ暑いし体調悪くなったならすぐ言えよ?雰囲気壊さないために我慢とかしそうだからなぁ、お前は」

優しく笑いかける。
その笑顔は確かに優しく暖かいものだったが、御坂の心にはトゲが刺さるような微かな痛みが走った。

――なんか違う……これは誰にでも向けるような顔だ。

御坂は上条に「御坂美琴だけに見せる顔」というものをして欲しいと望んでいた。

そして、上条の見せたその笑顔は逆に御坂を落ち着かせるきっかけに働いた。

「……うん、大丈夫ありがとう。少しアンタと二人ってのに緊張してたのよ」

小さく微笑みながら、正直な気持ちを打ち明ける。

「緊張って……俺なんかに緊張してたら好きな奴できた時デートも出来ねーぞ?」

その好きな人が自分だとは上条は夢にも思わぬだろう。

「……アンタってやつは本当にもう……」

少し進んだ列を詰めながら御坂はため息をついた。

「それに緊張の度合いなら常盤台のエースで可愛い女の子とデートもどきしてる上条さんの方が上だと思いますことよ」

たはは、と笑う。

「か、可愛い……って」

頬を桃色に染め、顔を背けた。

「んー?お前は可愛いよ、白井も佐天も初春もみんな可愛いぜ?」

そんな事だろうと、多少気を落としながら御坂は何度目かになるため息をつく。
そんなこんなで時間を過ごしているとやがて係員に呼ばれ、二人はアトラクションへと乗り込む。

「所でさ、これってなにするアトラクションなの?」

カップの中に座ると上条は御坂にそう尋ねた。

「え?アンタしらないの?」

「来たことないからな……ただ座って外眺めるだけ?」

カップの中央にあるハンドルに肘をつく。

「それ回すとこれが回るのよっと」

上条を振り落とすようにハンドルを思い切り回した。

「ぬおっ……おぉ、すげぇなこれ……あっはははは、はははは」

上条は突然笑いだし、ハンドルをどんどんぐるぐるまわす。
それに伴い二人の乗るカップも勢いを増していった。

「あっはは、ははははあははははは」

上条は壊れたように笑いまくる。

「ちょ、あんた落ち着きなさいよ!速いって……いやまじ速いって!」

御坂は上条の暴走を止めようと、上条の身体を揺さぶる。

「遅い遅い遅ーい!もっと速くもっと速ーく!速さが足りなーい!あっはははは」
571 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 15:11:22.16 ID:Ok5E0xZio
上条さん壊れたなぁ

裏話として前日にインデックスから「明日はたくさん笑うんだよ!楽しむんだよ!余計なこと考えて楽しめなかったなんてことになったら許さないんだよ!」と釘を刺されていたので上条さんは自分を変えようと頑張っているのです

上条さんが二章で変になったのは本来のうじうじした性格を隠すのに限界が来てたのと、インデックスに何かを感じ、決壊してしまった結果ということなんでしょうね
インデックスはうじうじが治らなくてもいいと思ってますが生きてることを幸せに感じるようになって欲しいとも思っているので隠すのではなく無理なく少しずつ変えていこうと日々頑張ってます

また読んでください
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/09(月) 18:57:44.50 ID:zHOCzNCvo

上条なんとかしろ
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/09(月) 19:01:03.65 ID:1An0PH8qo
きもいなww
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/01/10(火) 10:22:15.77 ID:KsEMJaih0
おつ
575 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:43:13.18 ID:5FkIIq5vo
〜〜〜

「つ、疲れた……」

御坂は、ずるずるとコーヒーカップから這い出る。
上条はご機嫌にカラカラ笑いながらそんな御坂を支える。
笑い上戸なのか笑い止む気配が全く、見えない。

そのまま御坂を引きずりジェットコースターに並ぼうとするが、それを御坂はゾンビのような面持ちで阻止する。
そして御坂は最後の力を振り絞り、近くのベンチへ逆に上条を引っ張り座り込む。

「……すまん、少しはしゃぎすぎたみたいだな」

近くの自動販売機から水を購入し、御坂に手渡す。
御坂は力なくそれを受け取り、口に含む。

「あー、いいわよ別に……アンタの変な一面も見れたしね」

顔はまだ少し青い。

「それでも、悪かったな……なんか友達と遊ぶのって楽しくてさ」

「友達と遊ぶなんて珍しくないで――」

言葉を途中で止めると御坂はごめんと上条に謝る。

「いや、いいさ。本当の事だしな……それに今は垣根や一方通行やお前らもいるし」

遠くを見ながら小さく笑う。

「ほら、そんな暗くなるなよ!折角遊び来てんだ楽しもうぜ」

今度は楽しそうな笑いを貼り付ける。
576 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:43:39.94 ID:5FkIIq5vo
「……そうね……あ、ちょいごめん」

そう言うと御坂は震える携帯電話を取り出し、通話状態にする。

電話する御坂の様子をぼんやり眺めながら上条はインデックスの事を考えていた。

――インデックスともこういうところに来てみたいな。

通話を終えた御坂はその横顔を寂しそうに見つめる。
御坂には、というより恋する乙女には分かってしまうのだ。
好きな人が自分以外の女の子の事を考えているのはわかってしまうのだ。

女の子の恋愛嗅覚は鋭いという事を上条は知らない。

その後二人は比較的穏やかなアトラクションを一時間弱で数個乗り、垣根達との待ち合わせ場所へと向かうのだった。
577 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:44:47.17 ID:5FkIIq5vo
〜〜〜

御坂、上条ペアがそこで見たものはげっそりとした四人組である。
垣根はいつもより瞬きが多く、落ち着かない。
佐天はどんよりと顔を曇らせている。
初春は作り笑いのまま全く表情を変えず、白井は朝とは別人のように痩せこけているように見えた。

「電話でも佐天さん様子おかしかったから少し気になってたけど……あんたらどうしたのよ?」

御坂の問いに垣根はただ一言。

「ここのお化け屋敷やばいぞ……」

それしか言わなかった。

第二位すら挙動不審にさせるお化け屋敷……と上条がつぶやいたのが御坂にリアルな恐ろしさを実感させた。
578 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:45:19.19 ID:5FkIIq5vo
〜〜〜

六人はお昼を食べにイタリアンレストランへと来ていた。
パスタやピッツァを適当に頼み、それらを少しずつつまむような食べ方をしている。

店内はガヤガヤと賑やかだ。
垣根達も周りと負けず劣らず賑やかに食事をしている。

「おー、このピッツァまじうめーぞピッツァピッツァ」

「……垣根さんピッツァって響き気に入ったの?」

「このパスタもかなり美味しいですわよ」

「ほら、アンタもこれ最後の一切れ……まだ食べてないでしょ?」

「おー、サンキュサンキュ……やけに最近気が利く子になったな」

「んー、私はこのスープがお気に入りですかねぇ……」

各々好き勝手に運ばれて来た料理を食い尽くす。

それぞれが、程よく満腹になると午後の予定について話し合う。
その結果、午後は六人で適当に園内を散歩し、お土産の購入などアトラクションよりも買い物をメインにし、もし乗りたいものがあったら勝手に行けば良い。との事に決まった。
579 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:45:57.46 ID:5FkIIq5vo
〜〜〜

「お土産って言っても買う人いないよねぇ休み明けにクラスにクッキーでも配る?」

「そうですね、持ちしそうなお菓子適当に買っとけばいいですね」

柵川中コンビは園内のショッピングエリアの中でも一番大きな店であれこれ見て回っている。

垣根と白井はぬいぐるみやフィギュアなど置物系に特化した店に行き、御坂と上条は御坂の希望によりメリーゴーランドへと向かった。

「しかし、美琴ちゃんは本当に少女趣味だよな……あ、でもデートでメリーゴーランドは定番か?」

「なにが可哀想って上条さんですわね……恥ずかしがってましたし」

「……黒子ちゃんはこれで、本当に、良いのか?」

垣根は木彫りで出来たマスコットキャラの置物を「何故木彫り?」という表情で手に取りながら尋ねる。
そうすることでただ何となく気になっただけだというスタンスを崩さない。
580 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:46:59.88 ID:5FkIIq5vo
「……いいんですの。お姉さまが幸せならばそれで……」

「同性だからとかそんなくだらないことを考えてんなら今回の美琴ちゃんの告白を俺は阻止するぜ?……お前が報われない悲しみを背負うなんて間違ってると思しな」

「違いますわ、純粋に私はいつでもお姉さまの力になりたい……それだけですの」

二人は話しながらも次々と商品を手に取りそれらを一つずつじっくりと眺める。

「……上条が美琴ちゃんを受け入れたらお前は笑って美琴ちゃんの顔が見れんのか?」

「……そんなの当たり前ですの」

白井は能力を使い垣根からにげるように何処かに行ってしまった。

残された垣根は軽く舌打ちすると髪をガシガシとかきながらため息をついた。

「あー、なんか失敗したかも……」

近くにいた客や店員はそんな垣根を不思議そうに一瞬目に止めるが、すぐに興味を失いもとの行動へ戻っていった。
581 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:48:17.73 ID:5FkIIq5vo
〜〜〜

――垣根さんから逃げ出した。

白井はメリーゴーランドの天井部分にテレポートしていた。
御坂と別れる時メリーゴーランドの位置を確かめたからだろうか、咄嗟に能力を使ったらそこに来ていた。

――逃げ出したのは負い目があったから。垣根さんにではなくお姉さまに……。

「……私は……最低ですわね」

白井は気づいていた。
上条が御坂を見ていないことを。
上条の心には他の女性がすでにいることを。

――私はお姉さまを傷つけようとしている。

大好きで最も尊敬している憧れの人、その人が傷つく舞台を白井は自分自身で用意してしまった。
その事が白井の心を締め付ける。
罪悪感で胸がいっぱいになる。

「お姉さま……お姉さまは黒子を恨みますよね」

瞳を濡らし、楽しそうに上条の手を引きメリーゴーランドから出てくる御坂を見つめる。
582 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:48:50.24 ID:5FkIIq5vo
〜〜〜

「黒子ちゃんどこ行っちまったかなぁ?」

垣根は店を出ると、空から白井を探し始める。
眼下にはキラキラ光る来園客の笑顔と声が聞こえる。

いつの日かまた白井もここにありふれる笑顔を御坂とできたらいいなと垣根は思った。

園内で一番高い建物の上で羽根を休めると、そこからは学園都市がよく見えた。

空を見上げるとそろそろ夕暮れ、よく遊んだものだと垣根は呆れるのと同時にどこかくすぐったい気持ちになった。

「お、見つけた……しっかしお化け屋敷の上かよ……」

トラウマを植え付けられた場所の上へと、垣根は翼を羽ばたかせる。
583 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:54:06.53 ID:5FkIIq5vo
なんかさ、遊園地編と打ち止め編分ければ良かった気がするwwww
打ち止め編なの打ち止めが全く出てこないこの状況はどうなのだろうね
まぁ、打ち止め編・遊園地パートってことでいいか

忙しいのにやらなきゃいけない事やらずに現実逃避して書いてる
前よりも量は少ないが更新頻度は上がってるというね

遊園地は黒子が予想外の動きばっかするからなかなか終わりが見えない
打ち止めが出てくるのはいつになる事やら……
一方通行×芳川も進めたいのに垣根書いてるのが一番楽しい

愚痴っぽくなってすんません
また次も読んでください
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/10(火) 23:17:18.19 ID:UlpoGn0AO
乙!
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 01:03:54.95 ID:zuQlUGRIO

ミコっちゃん報われてほしいよ…
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 01:45:18.61 ID:8R0WxhOPo
乙( ^ω^)
587 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:31:55.35 ID:6XevJzvEo
だって、中学生だもん

現実逃避ここに極めり……
投下、開始
588 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:32:22.99 ID:6XevJzvEo
〜〜〜

お化け屋敷の上、体育座りをし、顔を膝に埋める白井に垣根は力強く声かける。

「正直になれよ」

――うるさいですの。

「お前が御坂美琴を本当に心から慕ってるのなんて出会って数回の俺にだってわかる」

――うるっ……さい。

「そんなお前が傷つける事が分かっててこんな舞台を用意するわけねぇ……そうだろ?」

「……」

「……お前は御坂美琴にとって一番いい選択をしたと俺は思うぜ」

「……でも、お姉さまが傷つく舞台を作り上げてしまったのは事実ですの」

白井は顔をあげた。

「自分の思いも告げれぬまま終わるなんて悲しすぎますの……最初はそう思ってたんですわよ?でも遊園地行きが決まったあと気づいてしまったんですの」

また、顔をふせる。

「上条さんを初めて見かけた時、あの人は絶望というか心が真っ暗でした。そして、つい先日見かけた時……彼の瞳に一筋の光が見えましたの……そして……その光は恋だという事も私にはすぐわかりましたの……相手はお姉さまではないという事も」
589 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:33:52.50 ID:6XevJzvEo
「……で?」

「結果的に私はお姉さまが傷つくだけのステージに上がらせてしまったんですの……今回の企画を中止させる事だって出来たのに私はそれをしなかった……大好きなお姉さまを取れられたくない、そんな醜い独占欲のためだけに」

「……それは違うよ」

垣根は沈みかける太陽に顔を向ける。
白井からはその表情は見えない。

「それでも、それが美琴ちゃんの為になるって思ったんだろ?想いが散るのも悪いことばかりじゃない……本当は分かってんだろ?想いも伝えずに終わるくらいなら、勝負する前に「終わった」と美琴ちゃんが悟るまえに勝負させてやろうと思ったんだろ?」

白井に向き直る。
太陽を背中に負いながら、垣根は白井に訴える。

「それは結果が例え美琴ちゃんが傷つく物だったとしても勝負もせずに終わる、それよりはマシだとお前は思ったんだろ?だったら自信を持てよ」

「だけど……私は、一番傷つけたく人を……」

「言いたくない事も、やりたくない事もそいつのためになるなら言ったりやったりしなきゃいけねぇんだよ……友達なんだからさ……友達って損な役割やるためにいるんじゃねーのかな」

「……とも、だち?」

垣根は頷く。
そして白井の手を取り立ち上がらせた。

「さてと、観覧車でも乗ろうぜ」

そういうと、子供のように屈託なく笑いかける。

白井は小さく頷くと垣根と観覧車乗り場の近くまでテレポートした。

その顔はまだ少し曇っていたが、白井の心の霧を晴らす事が出来るのは御坂だけである。
垣根は垣根が出来る百点満点の事をできていた。
590 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:34:47.39 ID:6XevJzvEo
〜〜〜

「お、白井に垣根……お前らも観覧車か」

テレポートすると、そこには上条と御坂がいた。

「あ、なんなら四人で乗るか?」

上条が三人に提案する。
それに対し三人はうんざりしたような反応をそれぞれ示した。

「そりゃないっしょ上条さん!」

「本当に朴念仁ですね」

そこに新たな二人の少女が合流する。

「というか私達は優待券なんで、御坂さんと朴念……上条さんは二人でノロノロと乗ってくださいよ」

初春はとびきりの笑顔で上条に言葉をぶつける。

「あ、ははは……あっはっは……はは」

垣根は困ったように笑い、初春について行く。
白井と佐天もそれについて行った。

「……これだと終わった頃ちょうど花火はじまる時間帯かね?」

上条は四人を見送ると御坂にそう話しかけた。

あたりは薄暗くなっており、観覧車で一周する頃にはあたりは暗くなり、花火にちょうど良さそうである。

――ま、俺の不幸でそんなタイミングよくいくとは思えねーけどな。

そんな事を思いながら、上条は観覧車を見上げた。
591 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:35:23.97 ID:6XevJzvEo
〜〜〜

――黒子、佐天さん、初春さん……ついでに垣根さん。ありがとう。

観覧車に乗る直前に御坂は白井へとメールを送信する。

係員が、二人を微笑ましそうに箱の中へ促した。
その中は二人で座るとちょうどいいくらいの椅子が二つあるだけの空間だ。

――二人きり……多分あの子らの事だから花火も二人きりにしてくれる、というか初めっから二人きりにさせられるとは思わなかったわ……。

朝四人がさっさと行ってしまった事を思い出し、微笑む。
ずいぶん前の事のように感じるが、まだ一日も経っていない。

――よし、がんばろう。

御坂は上条が座ったのと反対側へ座った。
しばらく外を眺め――観覧車も初めてなのだろう――はしゃぐ上条と笑い合う。
592 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:35:53.30 ID:6XevJzvEo
そして、四分の一ほど進んだところで上条の話をぶった切るように真剣な声をだした。

「あ、あのさ!アンタに話があるのよ」

「ん?改まってなんだよ」

「その、ええと……」

御坂はいい渋る。
なかなか良い言葉が見つからないのだ。

「いや、だからその……ね?」

「ね?と言われてもなぁ」

「そ、そそそうよね……ごめん」

覚悟は決めたはずだがなんと言っていいかわからない。
前まではいう事自体を恥ずかしがっていたが、今は言うべき言葉がわからない。

「もういや……」

御坂は一つため息をつくと肩を落とす。
自分の口下手さに嫌気が差してきた。

「あー、その、なんだ?あ、携帯電話光ってるぞ」

上条はいきなりしょぼくれた御坂をどうしようかととりあえず話を振ってみる。

御坂は力なく返事をすると、携帯電話を開き、メールをチェックした。
593 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:36:22.28 ID:6XevJzvEo
『どんな結果になったとしても、黒子はお姉さまを両手を広げてまっておりますわよ』

それは、観覧車に乗る時に送ったメールの返信であった。

《ありがとう。多分こうやって無理矢理舞台を揃えてもらわなきゃ私は遅かれ早かれ逃げていた。だからありがとう、頑張ってくるね》

御坂は白井にそう送った。
その返信が先のものである。

――がんばろう、大丈夫、私には黒子がついてるんだ。

微笑み、携帯電話を閉じる。

そして、勇気を出して上条へと告白をした。

「か、上条当麻さん。私はあなたの事が好きです。私の事をただの中学生として扱ってくれたり、私を助けようと第一位や第二位に立ち向かってくれたり……あなたは私のヒーローです。これからは私だけのヒーローでいてくれませんか?」

ちょうど、上条達のゴンドラが頂上についたところであった。
二人の顔は外からの光で一瞬明るくなった。
御坂は顔を真っ赤にし、上条を見つめている。
上条は信じられないというように目が泳いでいる。

花火は一発で終わった。
どうやら準備中のミスだったらしい。

上条にとっては御坂の表情がよく見えてしまったので「不幸」であったかもしれない。
御坂にとってはどうであったのだろうか……。

「答えはおりてからでいいわ……」

御坂は落ち着いた口調でそういった。
594 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:38:04.97 ID:6XevJzvEo
ひゃっはー

アナザー見忘れた、夏目ももう始まってるのを今知った
もうあれだ、プリキュアのBOXを買うしかない

また読んでください
595 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/11(水) 13:40:09.61 ID:6XevJzvEo
あ、最初の
だって中学生だもん
は黒子達の事です、俺のことじゃナイヨ一応ねwwww

俺は中学生に戻りたいですわ
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 17:02:42.70 ID:iFD2N7XOo
俺は転生したいわ
597 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:32:15.50 ID:6XevJzvEo
遊園地編一気に駆け抜けます
598 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:33:20.52 ID:6XevJzvEo
〜〜〜

「お姉さま……」

白井は御坂からのメールを見てつぶやく。
初春と佐天はそんな白井を不思議に思っているが、気づいていないふりをする。

二人も御坂と同じく白井の親友である。
なにかを悩んでいる事くらいは気づいていた。

「あ、初春あそこ綺麗だよ」

「本当ですねー第七学区でしょうかね、やっぱ賑やかな学区ですからね」

二人は白井をあえて無視する。

佐天と初春が喋り続け、垣根と白井は黙ったまま一周し終えた。

「――――」

垣根は白井にだけ聞こえるように降り際に何かをつぶやく。

「そう……ですわね、私はお姉さまをただ、支えることを考えればいいんですのね」

白井に笑顔が戻った。

それを祝うかのように、空に花が咲く。

ちょうど御坂が勇気をだした頃、白井は自分の行動に自信と勇気が持てた。

――お姉さまを支えるのは私の役目……どんな時でもお姉さまを支える事ができるのは……誰でもない、私だけ。
599 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:34:00.60 ID:6XevJzvEo
〜〜〜

「じゃあな……また」

御坂は返事をしなかった。

「あっ……」

その事は佐天、初春にも御坂が振られたと言うことをわからせるには十分である。

「上条さ――」

佐天は咄嗟に上条の肩をつかもうとするが、それを垣根が止める。

「駄目だ。それは間違っているよ、涙子ちゃん」

言われて佐天も、自分が何をしようとしたかに気づいた。

「すみません……また、遊びましょ上条さん」

「……うん、またな佐天さん、初春さんと白井も」

上条は困ったように笑いながら言った。

「……んじゃ帰るか、送ってく必要はあるか?」

その問いには白井が必要ないと答える。

「私が送って行くので心配ありませんわ」

朝集まった駅で六人は四人と二人に別れる。
600 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:34:50.10 ID:6XevJzvEo
〜〜〜

「お前が『申し訳ない』なんて顔するなよ、どんな答え出したか俺にはわからねぇがお前は自分に嘘つくような答えを出すようなやつじゃないことはわかる」

まっすぐ前を見つめたまま垣根は続ける。

「だったらそれでいいんだよ。惚れた腫れたの話に誰が悪いとかはねぇよ」

「うん、わかってる……けどさ、これから俺は御坂とどう接すればいいのかな?」

「いつも通り接すればいいさ……とか言うやついるけどさ、そんなの振った側の一方的な言い分だ。振られた側はいつも通りなんて無理に決まってる」

垣根は立ち止まり、空を見上げる。

「今はギスギスすればいいさ、そのうち前とは違った新しい関係が出来る……少なくとも前と同じような友達として仲良くやっていきたいとかそんな事は絶対に考えるなよ、そりゃ無理だからな」

「そう……か。そうなのか。分かったしばらく御坂とはギスギスすることにするよ」

観覧車後、合流してから上条は初めてちゃんとに笑った。
601 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:35:26.24 ID:6XevJzvEo
〜〜〜

「黒子……私、ダメ、だっ、たよ……」

御坂は寮へ着くなり泣き出した。
黒子はそれを宣言通り、両手を広げ受け止める。

「よく、頑張りましたわ……流石お姉さまですの。今は存分にお泣きください」

白井は優しく御坂を包み込む。

御坂の初恋は散った。
そうなることを御坂も知っていた。
だけれど、御坂は闘ったのだ。
想いを告げる、それは何よりも難しく、勇気のいることである。

成功したら花が咲いたように笑いに包まれ、失敗したらこの世の終わりのような悲しみに包まれる。

御坂が今ここまで大泣きしている事は、本気で恋をした証拠である。

それを御坂は誇っていいのだ。

「本当に好きだった……本当に、ほんとうに……」

「わかってますわよ、大丈夫です。上条さんもそこは絶対にわかってくれています。鈍い朴念仁ですが、あの方はお姉さまが心を奪われるくらいの素晴らしい殿方なのですから」

白井は優しく微笑みながら御坂を抱きしめた。
602 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:35:58.31 ID:6XevJzvEo
〜〜〜

夜空を光の花が明るくしていた。
今、ここには御坂と上条しかいない。
初春が事前に調べた花火が見え、なおかつ人が来ない穴場に二人は来ていた。

観覧車を降りると御坂は黙ってそこへと向かい、上条が追いかけた形だ。
二人はここでも一言も喋らない。

花火が上がり、散らす音だけが二人を包む。

「答えを……聞かせて」

花火が一段落ついた時、御坂はついに切り出した。

「……」

上条は大きく息を吸い込む。

「ごめん」

そして、一言そういう。
その言葉と共に花火がまたはじまった。

「御坂の気持ちはすごく嬉しい。俺なんかを好いてくれる人なんているわけないって思ってたし……でも御坂が本気だってことは伝わって来たよ、俺なんかにも愛される資格はあったんだって思えた……ありがとう」

上条は一生懸命御坂の想いに言葉を添える。
603 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:40:41.79 ID:6XevJzvEo
「でも、俺は守らなくちゃいけない人がいる。その人が俺には何より大切なんだ……だからごめん。俺は……インデックスを何より守りたいと思ってる、あの子は俺に光をくれた、俺はインデックスが――」

時が止まったかと、上条は錯覚した。
そして、ゆっくりと自分の気持ちに気がつく。

――そうか、俺は……インデックスが好きなのか。

上条は御坂が好きだ。芳川が好きだ。垣根が好きだ。ミサカ00001号が好きだ。00002号が好きだ。一方通行が好きだ。佐天が好きだ。初春が好きだ。
上条の中には一つの好きしか存在しなかった。
それは他者を作らぬようにと生きてきた結果だ。

それが、今、壊れた。

上条の中に特別な一人が存在していた事に、上条は今きがついた。

「――インデックスが好きなんだ」

上条は言い切ると、あたりはまた花火の音だけになった。

「そっか……うん、多分私はあんたの気持ちをわかってたんだと思う。でも、私は私の想いを知って欲しかった。貴方を困らせる事になるとしても……だからありがとう、上条当麻、真剣に私と向き合ってくれて……でも、やっぱもう少しだけ、好きでいさせて」

御坂は涙を必死に堪え、笑った。
その声は震えている。

「ごめ……いや、ありがとう御坂」

出かけた言葉を飲み込む。
それは絶対に言ってはいけない言葉だからである。

こうして、御坂美琴の初恋は花を咲かせる事なく終わった。
604 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:41:09.75 ID:6XevJzvEo
しかし、得難いものを得たのも事実。

それがなんなのかは今はまだわからないだろう。
それは時が経ち、落ち着いて今日の出来事を思い出せるようになった時、初めて理解できるのだろう。

失恋は花が枯れる事ではない。
枯れるとは、想いも伝える事が出来ぬまま諦めてしまうことである。
失恋とは違う種類の花が咲いてしまう事でなのだ。

だがその花は種をこぼし、いつの日か御坂の心に良い思い出として花開くだろう。

そうやって、少年少女は傷ついたり喜んだりしながら成長して行くのだ。

上条の心にも、どんな花かは分からぬ種が落ちたはずである。

それがどんな花を咲かすかは、誰にも分からない。

遊園地編 了。
605 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:47:56.52 ID:6XevJzvEo
これ書いてたら三月に振られた事思い出した
告って振られて、それとは別にこっちは友達としてホワイトデーのお返しと誕生日プレゼント渡したんだよ

その日は高校時代からずっと仲のいい奴らで集まって飲み会でね

なんと酔ってそれ忘れて帰られるというねwwwwww
誕生日プレゼントはブレスレットだったんだけどそれ俺今自分でつけてるんだぜい?

あと後日談として佐天初春の帰りの様子と後日佐天初春黒子垣根が集まった時の話を書け次第投下します
遊園地編はわりといい感じに終わらせる事ができたと思うがどうだろう
その辺も感想あったらよろしくお願いします

ではまた読んでください
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 21:58:52.14 ID:uCJrvPp/0
失恋して何かを得るより恋人を得る方がいいに決まってる  乙かれさま
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 23:03:31.77 ID:QLcP/utJ0
それぞれの心情に自然と寄り添える流れがいい
乙でした
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/11(水) 23:20:52.25 ID:XqPzh87u0
超乙ッス!
せつねぇー!上琴派の俺にはせつなすぎる話だった!
俺に涙を滲ませたこと、誇ってよいZO
VIPサービスの新スレ報告ボットはじめました。→http://twitter.com/ex14bot
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/12(木) 02:18:23.76 ID:+YS+Lfwbo
第二章で唐突に上条さん別人化してるし美琴が惚れてた上条さんって別にいるんじゃないかと思えてくるレベル
インデックスってなんか後付で出てきた感じだし・・・
第一章の上条さんドコー?
610 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/12(木) 04:17:41.11 ID:GbbKQaO8o
やっぱ上条さん別人になっちまってるのか

自分的には第一章では
平気なふりをして生活→クローンとか絶望的な状況にそこそこ仲良くしてた美琴が巻き込まれる→俺やっべぇ→少し壊れる→二章へ

二章では
インデックスと出会う→自分よりも小さい女の子に上条が一番思っちゃいけないと思い込んでいた「つらい」とかそういう部分を言い当てられる→我慢の限界→崩壊→鬱条さん出来上がり

こんな大まかなイメージだった
初めはサブキャラで終わらす予定でなんとなくこんな感じとしか決めてなかったというか裏と表的なあれでしたけど見事に失敗というか描写不足でしたね
やはり前に貰ったアドバイスの心理プロットと言うものを今度は作り込もう

まぁ、上条さんとかインデックスとかは正直樹形図の設計者壊すためだけの人と言ってもいいくらいですのでその辺は大目に見てちょ

でも御坂が振られるのは書くかどうかは迷ってたけどはじめから決まってた
インデックスに恋するのも決まってた
なんか上条さんと御坂は友達って感じや美琴の片想いってのを書いてるほうが楽しいんだよなぁ

はい、まぁ、長くなりましたが参考にさせて頂きま

611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/01/12(木) 18:56:37.10 ID:54t5MknAO
いや、普通に読み取れるから気にすんな

まあ全体的に描写が少し足りないとは思うが
612 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/12(木) 20:56:38.66 ID:GbbKQaO8o
蛇足的後日談というか打ち止め編本番へのつなぎ的な?
これはあってもなくてもいい話なんでぱぱっとね?
投下しま
613 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/12(木) 20:57:00.19 ID:GbbKQaO8o
〜〜〜

「お馴染みの喫茶店に来たわけだが……なんでそんなにお前らは怖い顔してるんだ?」

佐天から呼び出された垣根は怖い顔をしている佐天と初春に訝しげな顔をする。

「これはなんというか……つまり、私達はまだまだガキってことなんですよ」

佐天も初春も中学生くらいの女の子にありがちな「○○ちゃんを振るなんてひどい」という子供っぽく間違った正義感を持っていた。

「まず、ありがとうございました。あの時垣根さんに止めてもらわなきゃ私、上条さんにひどいこと言ってた……感情で動いちゃうのやめないとね……」

佐天はしょぼんと力なく頭を垂れる。

「私だって同じですよ……佐天さんが言ってなきゃ私がいいそうになってたと思います」

垣根は店員にコーヒーを注文すると白井の横にどかりと座った。

「良い子だよな、お前らは……間違ってると思ったら素直に謝れる、それは大切な事だぜ?そんで俺もお前らもまだまだ発展途上なんだ失敗もするし間違いも犯す、その度友達とかに叱られて成長するんだ」

「垣根さんはやっぱり大人ですわね……私も貴方のおかげで自分に自信が持てましたの」

「よせよ、お前らと比べたらそりゃ大人かもしれんが変わらんよ。……きっと俺がいなくても美琴ちゃんが黒子ちゃんに自信与えただろうし、そうしたら涙子ちゃんや飾利ちゃんを黒子ちゃんが止めたさ」

三人の顔を順番に見渡し優しく微笑む。

店員が冷たく冷えたコーヒーを持ってきた。
垣根はそれにストローをさし、それをくわえる。

「はぁーあ、なんか夏休みももう終わるのになぁ……こうなんかあれですよね」

佐天は天井を見上げ目をつむる。
614 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/12(木) 20:59:15.81 ID:GbbKQaO8o
〜〜〜

「御坂さん、ダメだったみたいですね……」

「そうだね……私上条さんにひどい事言うとこだった……多分それを言ったら御坂さんも傷つけてたと思う……やっぱ私ダメダメだなぁ、無能力者だし考えるより先に行動しちゃうし……」

二人は佐天の部屋で寝巻きに着替えながら今日の出来事を話していた。

二人は己の未熟さを痛感していた。

傷ついた友達に何を言ったらいいか分からない。
さらに、その友達を傷つける事をしてしまいそうにもなった。

窓を開け、ぬるい風をその体に受ける。

「夏休みももうすぐ終わりだね」

「そうですね……佐天さん、貴方はだめだめなんかじゃありませんよ?」

初春は佐天からわざと顔を背けながら言った。
なにか照れ臭かったのだろう。

御坂の失恋はその親友たちの心にも雫を落とし、波紋を広げていた。
615 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/12(木) 20:59:51.93 ID:GbbKQaO8o
〜〜〜

「夏休みも終わりかぁ……もう一騒動くらいありそうだなぁ」

佐天のこぼした夏の終わりに垣根は勘の域を出ない予感を感じる。

「私にも出来る事があったら言ってくださいね、無能力者ですけど」

「はは、頼りにしてやるよ」

垣根はゆっくりとコーヒーを飲む、その間四人はぽつぽつと笑いあったりする。

十数分かけて飲み干すと席を立ち店をあとにした。
616 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/12(木) 21:00:23.51 ID:GbbKQaO8o
〜〜〜

「あァもォーかなり鬱陶しィンですけどォ?」

「そんな事いうなよ、なんかさ自覚した途端困ることもあるよな?」

上条は遊園地から帰った日もインデックスと垣根達のマンションへ泊まった。

「……あァ、それはあるな。なンつーかこう……な?」

一方通行もインデックスに諭され気持ちを自覚したばかりである。

「そう!それ!こう……な?って感じだよな!」

「……テンション高ェようっぜェな」

心底うんざりしたように上条を睨みつける。

「インデックスとどう話していいかわっかんねぇんだよ!この後帰って変な感じになっちまったらどうすんだよ」

「俺がンな事知るかよボケ!こっちは芳川の事で……あ」

「お、おー?おうおう……落ち着け……顔がトマトみたいに赤くなってるけど落ち着け……俺は悪くないぞ?」

一方通行はどんどん赤くなり、プルプル震えはじめる。
617 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/12(木) 21:01:14.44 ID:GbbKQaO8o

「お、おめェが――」

悪りィんだよ!と上条へ掴みかかろうとするのをある人の一声でその動きが止まる。

「一方通行?何を騒いでるのよ」

「――あ?ああああ!ンでもねェ、なンでもねェよ!俺たちすげェ仲良し、な?」

そういい上条と肩を砕かんばかりの力で組む。

「え?あ、はい。すみま……せん?」

芳川は不思議そうな顔をしたが、深くは聞いて来なかった。
そのまま、そう?仲良くね?といい部屋に戻った。

残った二人は顔を見合わせ、ため息をつく。

「はぁ、まぁ恥ずかしがんなよ……人を好きなるのは……良い事なんだと思うし」

上条は自信なさげにそういった。

「……お前はもっと人からの好意を素直に受け取っていいンじゃねェか?」

「受け取ってるさ」

「……ならいいが」

少なくとも前よりは成長した。
以前の上条ならば「俺を好きになるなんてありえねぇだろ」と御坂とも真剣に向き合えなかったであろう。
それが御坂の気持ちを否定せずに向き合い、ちゃんとに答えも出したのだ。

「一方通行こそ、やっと素直になったなって感じだろ?本当は昔から芳川さんが好きだったんだろ?」

「……シスターの、いやインデックスのおかげだよ」

「自分の気持ちが一番わかんねぇよな、俺たち以外と似てるかもな」

「それインデックスにも言われたわ……似てねェだろ」
618 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/12(木) 21:02:24.86 ID:GbbKQaO8o
少し一方通行のキャラがおかしいけどここはつなぎ程度なんでさらっと流してね!

また読んでください
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/01/12(木) 23:32:55.66 ID:ZR5QnApAo
とても良かった
確実に表現力成長してるよ、自信持って!
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮崎県) [sage]:2012/01/13(金) 00:56:46.63 ID:yDEfTGDX0

621 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/15(日) 07:16:54.02 ID:N919m3pjo
おはようございます
現実逃避のツケが回ってきて死にそうなんであと三日〜四日お待ちください

では
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/17(火) 02:05:22.83 ID:bjqEyTqDO
舞ってるぜ〜
623 :緊迫感とか緊張感ってのはどうやればでるのだろうか ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:17:49.24 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

遊園地騒動から数日後、夏休みも残すところあと二日になった。

今日、この日、天井亜雄は動き出す。

それの行動力は一方通行、垣根帝督、芳川桔梗へ向けられた純粋すぎる悪意だ。

一方通行の最強の能力はそれすらを“反射”することができるのか。

垣根帝督は大切なものを守り抜くことが出来るのか。

芳川桔梗は“大人”として二人になにが出来るのか。

全て終わったその時、学園都市の夏も終わる。
624 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:20:59.99 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

「珍しく一日中全員集合か?」

「あ、このあと一方通行借りていくわよ?」

芳川家は久しぶりにゆっくりと朝食をとり、のんびりと食後の時間を過ごしていた。
そこへ垣根がニコニコしながら全員暇な事を喜んだ。
そして、芳川はこのあと一方通行を連れて何処かへ行くつもりだと言った。

それに一番驚いたのは一方通行であった。

「あ?聞いてねェぞ?」

「今言ったんだから当たり前でしょう。調べるのにずいぶん時間かかっちゃったけど本当はもっとはやく行きたいところがあったのよ」

ミサカ00002号はその様子をにこやかに見つめている。

――これで日記の少年も少しは報われるかな?

ふと、ミサカは先日みた日記を思い出す。

――あれ?『めんどくせェも僕たちを助けるための事だったのかな?となんとなく思った。』

“僕たち?”

――あの子には同じ境遇の友達がいた?だとしたらその子は?

「芳川博士!」

思わずミサカは叫んだ。

「な、なによ……私なんかした?」

出かけるのを渋る一方通行を一生懸命説得していた芳川は突然大きな声を上げたミサカに驚きその顔には少しだけ怯えも見えた。

「あ、いやごめんなさい……日記って一冊しかないの?」

「え?えぇ、私が手に入れられたものは前に見たものだけよ」

「そっか……」

――あの子の友達は生きてるのかな?

日記の少年の友人、生き残り自分の思いを恨んでいるこの街の研究員へと託すことしかできなかった少年。
この子は今どうしているのだろう。
ミサカはそれがなんとなく気になった。

その少年の日記は何故芳川のところへ届かなかったのか。

「そっかぁ……」

同じ台詞をつぶやく。

気づいた事をミサカは芳川へ伝えようか、少し迷う。
そして、結論を出した。
黙っていよう。と、言って何かが変わるわけではない。

「……さぁ、一方通行、いくわよ」

芳川はミサカの様子を不思議に思いながらも特に深く突っ込むことはしなかった。
625 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:22:02.85 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

気づくことなど出来なかった。
それはとても些細な変化であったのだから。

例えば何か重大な病気だったとしても日頃汗水垂らして働いていれば「少し疲れてるだけだな」と勝手に納得してしまうような、そんな些細な事だったのだ。

垣根も一方通行も芳川も00002号も変化の張本人の00001号ですら気にしていなかった。

ただ、少し疲れたな。程度に思っていただろう。

それにもともと00001号は口数も少ない大人しいほうである。

もう一度言おう、気づかなかったとしてもしょうがないのだ。

この時、すでにミサカ00001号は最終信号による強制命令を受け付けかけていた。

すんなりとその命令をミサカ00001号の脳が承諾しなかったのは果たして幸か不幸か……。
626 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:24:14.49 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

「ンでェ?俺をこンなとこに連れてきた理由はなンだよ」

白髪は彼の機嫌を示すかのように風で一回だけ大きく揺れた。
その赤眼は理解出来ない事への苛立ちで普段よりも色が濃く見える。
大抵のチンピラならば、小さく悲鳴をあげ逃げ出すような恐ろしい顔つきである。

そんな一方通行に芳川は全く動じることなくため息をついた。
それは彼女が彼より戦闘能力が高いからでは決してない。
彼が彼女を殺すはずがないとたかをくくっている訳でもない。
二人の間にあるもの、それは互いを必要不可欠な存在とする依存にも似た信頼関係である。

「もう少し素直になったほうがいいわよ、昔の一方通行は『よしかわー、よしかわー』って垣根と一緒にいつも素直でそれでいてちょこちょこ私の後をついてまわって……可愛かったのよ?」

覚えているかと聞くように首を少しだけ傾ける。
それに対し一方通行は芳川から顔を背けながら小さく舌打ちをした。
多少のイラつきと、多大な照れがそのしたうちには含まれている。
627 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:25:55.47 ID:LVCV3bXoo
「……ここはたしか……俺が潰した研究所だろ?」

いやな思い出しかない場所に連れてこられ、一方通行は焦りににもにた恐怖を感じていた。

小さな子供が窓ガラスを割ってしまい、それを叱られるのを恐れると同時に、ガラスが割れた窓はこれからどうなるのだろうとオロオロするしているのにすこし似ていた。

「そんな泣きそうな顔しないでよ……ただ、私は見せたかったものがあるだけよ」

そう言って芳川は困ったように笑うと一冊のノートを一方通行へと渡した。

そのノートは少なくとも十年近くは前のものだと推測できるほど古ぼけたものであった。
表紙に中央よりやや上の位置に日記と書いてあり、右下のほうにはかすれてしまい、うまく読み取れない。
この日記の持ち主と持ち主の友人ならばそこに書いてある日記主の名前だと判断でき、読めもするだろう。
一方通行も芳川も名前だと推測することまでは出来る。
だが、持ち主の名前を彼らは知らない、なので読むことが出来ない。
何か文字らしきものが書いてある。
その程度しか認識できなかった。

そんな古臭い日記を受け取った一方通行は見てもいいのかと聞くように芳川に視線を向け、顔を斜めに傾げた。
芳川は黙って一方通行に頷く。

「……ンでこンな物を俺に見せる」

一ページめくると泣き出しそうな声と表情で一方通行は芳川を睨みつけた。
628 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:29:19.75 ID:LVCV3bXoo
「いいから、読んで」

しかし芳川は日記を大事そうに閉じようとする一方通行にそれを許そうとしない。

『恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる』

その日記の前半は一方通行への憎しみしかなかった。

一方通行は心に釘を打たれるような痛みを感じた。
何度もページをめくる手を止めようとするが芳川の視線がそれを許してはくれなかった。
そして、その芳川の表情も苦しそうな痛々しいものである。

「……なァ、俺はやっぱ……生きてちゃいけねェンじゃねェかなァ……」

日記に視線を落としたまま一方通行は震える声を発した。

芳川は何も答えない。
芳川の出す答えでは一方通行が満足しないことなど彼女には分かっているからだ。

「……は?」

日記の後半、残り数ページの所で一方通行は驚きの声をあげた。
そしてその目からはポロポロと涙があふれる。
629 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:30:33.25 ID:LVCV3bXoo
「あ、こいつ……あいつ……か」

日記の持ち主を思い出し、一方通行の目からはさらに多くの光が零れる。

「そう、確かに守れなかった。それは私達がそれぞれ離れ離れになった直後くらいの実験よね……その頃のあなたはまだ人と仲良くなりたい、繋がっていたいと思っていた。だからその日記の子と話がしたいと申し出たんでしょう?」

そして、これが一方通行が他者を受け入れずにいた理由である。

自分と関わったら死んでしまう。

上条当麻と似たような感情が、一方通行にもあったのだ。
だからインデックスは二人を似ていると感じたのだ。

「あなたを……いえ、あなた達を理解しようとしてくれる人ははじめっから私だけじゃなかったという事よ……そして、この場所はその子の死んでしまった場所、そして埋葬されている場所でもあるのよ」

その子と言いながら日記を指差す。

「……どこだ?花なンか持ってきちゃいねェが手だけ合わせてェ」

芳川はにっこり微笑むとその場所へと案内しようと歩き始める。

一方通行は廃墟と化した研究所の裏側へ芳川が消えるのをゆっくりと歩きながら見つめる。
630 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:32:23.15 ID:LVCV3bXoo
「わりィが今は帰ってくンねェか?」

涙声で自分の背後へと声をかける。

「――――チッ……ばれてたのか」

物陰から現れたのは伸ばした髪で顔の半分を隠している一方通行よりやや年上に見える少年であった。

「お前がここをぶっ潰した時に会ったんだけど覚えてるか?第一位」

「……あァ」

「警戒するな、俺はただお前に……実験動物としてしか見られない俺たちの死に涙してくれたお前に……」

少年は何か言いたそうな顔をするが、言葉が見つからなかったのかそっぽを向いた。

「なんでもね、やっぱ無理だわ……あとよ、そいつは多分お前を恨んじゃいねぇよ、そしてお前があいつの眠ってるところに行ってやれば喜ぶ……親友だった俺が言うんだから間違いないさ……」

男の髪が風に揺れた、髪の下にはひどい火傷の痕が残っていた。
631 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:33:58.87 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

芳川と一方通行が出て行ったあと、残された三人は無駄話に花を咲かせていた。

垣根が口にするのは漫画の話や料理の話。
遊園地の話でミサカ達が少し不機嫌になったが今度一緒に行こうと提案すると直ぐにそれは直った。

ミサカ達は病院での出来事を
二人で一生懸命と話す。
いつも00001号のお尻を叩く患者がいるというと垣根の機嫌はすこぶる悪くなったが00002号が毎回ビリビリお仕置きをすると聞いてすこしだけ良くなった。

そんな和やかな空気を壊すように、垣根の携帯電話に着信があった。
それは上条からでどうやら宿題でどうしてもわからないから教えて欲しいとのことであった。

電話で話すよりも直接会ったほうが早いということで、垣根は一時間ほど出てくると二人に言い残し上条の学生寮へと翼をはためかせていった。
632 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:34:27.80 ID:LVCV3bXoo
「00001号は垣根さんが好きなんだよね」

垣根を見送るとミサカ00002号は唐突にそう言い切った。
質問ではなく確認、ミサカの中に答えはすでに出ている。

「えっ……あ……うぅ」

00001号は顔をほんのり赤らめて俯く。
それで00002号は満足し、さらに言葉を続ける。

「ミサカも垣根さんが好き、優しいしミサカ達のこと大切にしてくれるしいつも気にかけてくれるし……00001号の事も大好き」

00001号の手を自分の胸に抱くように取る。

「本当は黙ってようかなって思ってた……けど、やっぱ諦めたくない、00001号と垣根さんが幸せそうにしてたらそれはミサカにとっても幸せだけど……勝負もせずに逃げたら後悔する、ライバルが自分の半身なんて手強いけど……勝負だよ、おねーちゃん」

そして、言い終えると力強い笑顔を00001号へと向けるのだった。
633 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:35:03.85 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

火傷の少年が消えたあと、ほんの数秒消えた方向を見つめ、一方通行は芳川を追いかけた。

裏にまわってさらにすこし奥へと行った所で芳川は一方通行を待っていた。

「話は済んだの?」

「……あァ、とても穏やかにな」

芳川は心配そうにしていた顔からホッとした顔へと表情を崩した。

「ここに眠っているそうよ」

そこには木で作ったお世辞にもうまいとは言えない十字架が刺さっていた。
そしてその根元には花束がひとつ備えてある。
634 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:36:03.06 ID:LVCV3bXoo
「……」

一方通行は黙ってその十字架へ手を合わせた。

――ごめン。そして……。

渦巻く気持ちはたくさんあったが一方通行はその二つの言葉にすべてを込めた。

目を開け、ノートをひらひらとさせ芳川に確認を取る。

芳川はそれで何をしようとしているのかを理解し、頷いた。

芳川の了承を得たことを確認すると目を瞑り、演算を始める。

少し時が経過すると、一方通行の掌に小さなプラズマが発生し、それにノートを近づけた。

ノートは勢いよく燃え始め、一方通行はそれを花の横へと置いた。

「天国でも日記をつけろよ……ペンは今度また備えにきてやる」

空に向かって小さくそうつぶやいた。

素晴らしいまでに美しい空がそこには広がっていた。

なだらかに流れる白い雲、大空を駆け回る鳥、そして、今の一方通行の気分を表すような透き通った風ばかりがそこには存在していた。
635 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:37:38.00 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

垣根と芳川、一方通行はほぼ同時に帰ってきた。

そして五人は揃ってソファに座り、ジュースを飲みながらダラダラと時を削る。

最初の違和感はミサカ00001号がたまにぼんやりすることだった。

「――ってな訳なんだ、笑えるだろ」

垣根が上条に勉強を教えに行った時のことを楽しげに話し、一方通行はそれを鼻で笑い、芳川と00002号は呆れたように笑った。

「あれ?ミサカちゃんにはウケなかったか」

満足気に三人の顔を見渡した後、ぼんやりとしている00001号に垣根は気がついた。

「……え?あ、何でしょうか?とミサカは聞き返します」

ミサカ00001号はわたわたと慌てた。

「ぼーっとしてどォした?具合でもわりィのか?」

00001号の顔を覗き込むように一方通行は心配そうな顔をした。

「い、いえそういうことではないんですが……なにか頭がはっきりしないといいますか……とミサカは報告をします」

「疲れてるのかな?まぁ、無理しちゃだめだよ?」

00002号は00001号の肩を抱きながら顔を覗き込んだ。

「だ、大丈夫……だと思います。とミサカは微笑みます」

その微笑みにはいつものような自然な光は微かだが失われている。
その違和感すら「体調が悪いから」と勝手に納得してしまうくらいのほんのちょっとの変化であった。

「今日の買い物当番はミサカが代わるよ、00001号は休んでて」

00002号がそう微笑むと00001号も微笑みを浮かべながら頷いた。
636 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:38:44.69 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

呼んでいるのですか?
泣いて……いるのですか?

ミサカに出来ることは何かありますか?

あなたは誰なのですか?

……小さいミサカ……?

あぁ、あなたもミサカなんですね?

ミサカ00001号とミサカ00002号とあなた。

ミサカ00001号は00002号であり、あなた。

ミサカ00002号は00001号であり、あなた。

そして、あなたは、いえ……あなた方は00001号であり、00002号……え?

違うのですか?

……あ、なるほど、そういうことですね?

では、ミサカ達にお願いがあります。
このミサカの――――。

め、いわくを……おか、け、し、ま……す。
637 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:39:27.00 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

「よし、準備はいいな……00003号〜00032号は超電磁砲のお友達の所へ、00033号〜00082号は超電磁砲のところへ、00083号〜00100号は上条当麻のところへ、00101号〜00200号は奴らの家へ、00201号〜00300号は私と共に第一位を殺しに……だ。あぁ、芳川桔梗は俺の手で第一位と第二位の目の前で殺すから手を出すなよ?」

天井は上機嫌にコンソールを操作する。

データに間違いがないかを確認すると、おぞましい笑い声をあげた。

「インストール……ヒヒッ戦争開始、だっ」

天井の目の前にある調整槽の中にいる少女、打ち止めは身体を二回大きくはねあげた。
そして、一瞬だけ苦しそうな顔をし、無表情のまま目を開けた。

「おはよう最終信号。お前はもう用無しだ、三日もすれば勝手に死ぬようにプログラミングしてある……言っても理解など出来るわけないか……」

ニヤニヤと口の端を上げた。

破滅は着々と近づいている。

最後に笑うのは誰なのかそれを知るものは、誰もいない。
638 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:41:34.34 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

宣言通り夕飯の買い物はミサカ00002号がミサカ00001号の代わりをしようと買い物へ行こうとするが、一方通行がそれを止めた。

「お前はミサカについててやれ、誰より心配してンのはお前だろ?」

垣根も一方通行も芳川も、この家の住民はミサカ00001号の事も、ミサカ00002号の事もミサカと呼ぶ。
それは00001号だの00002号だのとは決して呼びたくなかったからだ。
そして、ミサカは二人とも三人がミサカと呼んだ時どちらが呼ばれているのかを間違えることも無かった。
それ程まで五人はお互いを理解し、共になくてはならない、守らなければならない存在、場所としていた。

「今日は何作ろうか!」

家を出てスーパーへの道すがら、00002号は献立を考えていた。

一方通行の申し出を笑顔で断り、「芳川博士と垣根さんがいるから安心だよ。そういうちょっとした事で甘えたくないんだ」とミサカ00002号は買い出しに出ていた。

呑気にあれが食べたいこれもいいと考えるミサカだが、何処かに自分達がいかに危うい存在であるかという危機感は残っていたのだろう。
もしかしたら生存本能かもしれない。
639 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:43:04.92 ID:LVCV3bXoo
手を叩いたような乾いた音が一度鳴り響いた時、ミサカ00001号はそれが鳴るコンマ数秒前に立ち止まった。

「ミサ――」

一方通行はそれよりも少しだけ素早く00002号に何かを言おうとするが、膝から崩れゆくミサカ00002号の姿を見て、言葉は途中で途切れた。

「チッ……下手くそが」

物陰から現れた男はイライラとした様子で、隣に立つごついゴーグルをかけ銃を構える二人がよく知っている顔を殴った。

「天井……亜雄ッ!」

倒れたミサカ00002号がその男の名前をつぶやく。
ミサカ妹達から撃たれた弾丸は、足を掠っただけでたいした怪我にはなってはいなかった。

「おっと、動くなよ一方通行ァ?百のクローンがその出来損ないクローンを狙ってるぜぇえ?」

一方通行は目つきだけで殺せそうなくらい天井を思い切り睨みつける。
対する天井は余裕を見せつけるかのようにニヤニヤとしていた。

「そんなに睨むなよ、俺の目的はなにもお前の命じゃあない」

さらに顔を歪める。

「お前に死んだ方がマシなほどの絶望を与えることだ」

言いながら一方通行を指差し、大笑いをする。

その笑い声をバカにするようにミサカは立ち上がりながら天井に言った。
640 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:44:56.52 ID:LVCV3bXoo
「……「俺」だって……いつもへこへこしていた奴が使うような一人称じゃないよ……それがあんたの本性なの?圧倒的優位に立った途端……かっこ悪いね」

そして、にっこりとわらう。

「それとも、百人もミサカの妹達作っといてまだビビってるのを隠してる精一杯の強がり?」

天井を挑発するかのように最後の言葉を強調した。

「実験動物の分際で……私に意見するな」

「私」を強調しながら怒りを抑えるように静かな口調である。
そして、一歩前へでると自らも銃を構えた。

「一方通行ぁ、お前が何かしたらその瞬間百の銃弾が出来損ないのクローンを襲うぞぉおお?」

二人に歩み寄る。

「だ・か・らぁ……反射を切っとけよぉ?」

そして、一方通行を思い切り殴りつける。

「ハッ……ハッハハ……ハァーハッハッハァァアアア!はぁぁあ、最高だぁ……お前をこうしてやりてぇとずっと思ってたんだぜぇえええ?アァクセェラレェタァアア!」

一方通行は大人しく殴られる。

その目に怒りと決意を燃やしながら……。

――絶対に守りきってやる。

その炎が意味するのは、ミサカを出来損ないと呼んだ事に対する怒りと、何も失わない決意である。
641 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:45:47.60 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

「私もう初春の同室になろうかなぁ」

毎日のように入り浸り、二人で宿題をやったりご飯を作ったり、佐天と初春はまるで恋人のような共同生活を送っていた。

今日もぼちぼち夕飯の準備を始めようかと、机の上に広げた教科書やらを片付けていたところである。
そこにそれは、いや、それらは突然現れた。

「佐天さん、初春さん!……良かった無事だった……とりあえず話は後、いくわよ黒子」

部屋に突然現れた白井と御坂、それに驚く猶予すら与えられずわけもわからぬまま外へと数回強制テレポートをされた。

一段落付き、先ほどまでいた方向を見ると、もくもくと煙が上がり「爆発したのか」と数秒後に気がついた。

「ごめんなさい、全部終わったら全部話すから今はとりあえず私のそばを離れないで……絶対に守るから」

混乱し、ぼーっとしている二人に御坂は申し訳なさそうにつぶやく。

しかし、佐天と初春は大混乱の状態でもしっかりと頷いた。

心の底から第三位・常盤台の超電磁砲《御坂美琴》の事を、親友として信頼している証拠である。
と白井は一人思い、微笑んだ。

しばらくどこかもわからぬ高いビルの屋上にいると、二人の頭も大分回復して来た。

御坂はそれを確認するとにっこり笑い頷く。

「とりあえず河川敷とか廃工場とかそういうところへ行きましょう、街中だと闘いにくいから」

白井へそういうと、四人はテレポートしていった。
642 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:46:28.26 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

「な、なんなんだよあいつら妹達……なのか?クソッ、何が起こってやがる……」

幸運なことに、上条とインデックスは佐天達と同じように部屋を爆破されたのだが、その時たまたまインデックスの散歩に付き合っていたため、二人とも難を逃れた。

――偶然命が助かるなんてこんな幸運俺にはありえねぇ……って事は生き残っちまったせいでこれからかなりきつくなるのか?

「よし、とりあえず垣根達の家に逃げよう、何が起きてるのかはあいつらが知ってるはずだ」

上条はインデックスの肩を抱いた。

「うん……でも無事に行けるかな?」

「大丈夫さ、俺を信じろ」

珍しく弱気なインデックスを励ますように力強く笑う。
643 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:46:56.11 ID:LVCV3bXoo
「でも、とうまは超能力や魔術以外には無能なんだよ?私の事はいい、でも私はとうまが――」

インデックスの弱気、それは殺す事だけを考え手段も選ばない相手に対してらあまりにも無力な自分達を理解しているからだ。
魔術ならば頭の中の魔道書で上条のサポートが出来る。
超能力ならば上条は一方通行や垣根が相手でもない限り負けはない。

だが近代兵器、銃や爆弾などに対して二人は無力である。

「大丈夫だ、何があってもお前は守る、俺がいないとお前が笑えないというのなら俺は俺自身も大切に出来る」

その目は自信と決意で満ち満ちている。

――絶対に守る。

そこに満ちているのは、笑顔を曇らせない自信と全てを守り尽くすという決意である。
644 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:48:34.40 ID:LVCV3bXoo
〜〜〜

「伏せろ」

垣根は急に声を落とし、ミサカと芳川をソファを盾にするようにその影へ引っ張り込む。
それと同時に能力を展開し、その副産物である翼で今は芳川の部屋となった空間へと続く扉と玄関へと続く廊下の扉をぶち破った。

「な、何事?」

芳川は突然の戦闘体制に驚きながらも、すぐに動けるように態勢を整えていた。

「わからねぇ……が、殺気がそこらから向けられてる――」

気をつけろ、と言おうとした瞬間、部屋は爆音と爆炎に包まれた。

――問題ねぇ、不意打ちなら多少は焦るがそんだけ殺気撒き散らしてりゃ爆発からこいつらを守るなんて息をするより容易い。

翼で二人と自分を包み込み爆発をやり過ごす。

「ミサカちゃんは銃とかも一応使えるんだろ?芳川も一応持っとけ」

爆発で崩れかけた壁を完全に破壊して、自室に置いてあるサブマシンガンをひとつずつミサカと芳川に投げ渡す。
645 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:49:51.31 ID:LVCV3bXoo
「なんでこんなの持ってんのよ」

芳川は疑問を口にしながらも、カチャカチャとすぐに撃てるように銃をいじる。

「前に俺をぶっ殺そうとして来たスキルアウトの連中から没収したもんだ」

爆弾の犯人は部屋に入ってくる様子はまだない。

――おそらく打ち止めって子が関係あるんだろうな。

軽く舌打ちをすると、買い物に出た二人の事を気にかける。

「まぁ、一方通行がついてりゃ平気か」

そして、そんな独り言をつぶやく。
本気で殺しにかかってくるならば煙が晴れる前に突入してくるはずである。
それがないということは少なくとも狙いは自分ではないのだろうと予測を立てた。

真正面からやりあって垣根に勝てるものなど一方通行しか存在しないという絶対の自信があるからこその考えだ。

――つまり狙いはミサカちゃんと芳川か。
646 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:50:36.56 ID:LVCV3bXoo
この二人ならば爆発で垣根がいなければ死んでいただろうし、もし垣根一方通行のどちらかがいて生き残っていたら中に飛び込んでくるのは自殺行為である。
部屋から出て来たところを狙撃でもした方がいい、それを防ぐ術を二人は持っていないのだから。


垣根はごちゃごちゃ考えるのを一旦やめると、二人を抱きしめるように自分に引き寄せ、耳を澄ます。

――足音は聞こえねぇ、息づかいも全く聞こえねぇ……がこの建物を囲むように兵隊がいるのはわかる。

それは、ピリピリした混じり気の、迷いのない殺気。

これだけ殺す気満々なのに追撃してこないのは何故だ。
爆煙が完全に晴れ、壊れてしまったリビングをさみしそうに見つめながら垣根はぞわりと背筋を舐められる悪寒に襲われた。

風船が割れたような音と、絶叫。
647 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:52:54.41 ID:LVCV3bXoo
「うぐ……うううい、いやぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、あ、ああ……ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあああああぁあああああああああああああああああああああああああああああ」
648 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:53:24.33 ID:LVCV3bXoo
「や、っぱり、だめ……だっ……たのね」

芳川の腹からは真っ赤なものが溢れ出ている。
それが血だと解るのに数秒かかり、腹を破った弾丸を発射したのが00001号だと理解するのにさらに数秒かかった。

「は?」

垣根が発した間の抜けた声はミサカ00001号の泣き声のような絶叫と数十人のミサカ妹達の突入の激しい足音にかき消された。

「芳川桔梗は第一位と第二位の目の前で天井亜雄が殺す予定だったのですが……まぁ、殺害という目的は達成できそうなのでいいでしょう。とミサカ00164号は判断を下します」

光の消えた氷のような冷たい目を、ゴーグルを取り見せる。

その声も顔もミサカ00001号とミサカ00002号と同じはずなのだが、二人にある暖かさとか人間味とかそういうものが全く感じられなかった。

その冷たい瞳が倒れる芳川、某然とする垣根、そして涙を流しながら頭を抱え苦しそうに叫ぶミサカ00001号を見下している。

爆破された灰色の世界に十数個の瞳だけが怪しく光っていた。
649 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 23:07:02.93 ID:LVCV3bXoo
今日の投下おわり

あああと恨んでやる
はやりすぎな気がしてきた

今回は書いてる時00001号と00002号が混ざって大変だった
あと上条さん部屋にいる時爆撃くらったら確実に死ぬから外に出す理由困ったwww
それで散歩って……自分の発想力が悲しくなるよね

また感想とかくれるとすごく嬉しいです

650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/01/21(土) 23:14:48.09 ID:FzL2yzDMo

凄く好みの展開で困った

続きが楽しみです
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/01/21(土) 23:31:34.99 ID:Q38NReDT0
>>649
原作でも似たような事やってるんだから問題ないじゃないですかー。

乙です。楽しみな展開
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/01/22(日) 00:31:27.48 ID:aldKxiBqo
超人的な危機回避能力で家からでてたよりよっぽどいい
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/22(日) 20:24:40.43 ID:0SU3vL4wo
よしバッドエンドきた!
これで勝つる!
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/01/23(月) 00:05:15.12 ID:SLNyfu5AO
そういうこといわない!
655 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/23(月) 05:17:25.27 ID:D8sbd+v4o
筆が乗りに乗って書いたのをなんか気に入らないから破棄そのご書き直して文量と話の進み具合は半分くらいになったけどまぁ、これでいいかなと思えるのが書きあがったから投下します
656 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/23(月) 05:18:11.42 ID:D8sbd+v4o
〜〜〜

「やっべぇ……いきなり上条さんピーンチ?」

およそ二十の銃口が上条へと向けられている。

ごついゴーグルとマスクのように鼻と口を覆うプロテクター。
その表情は読めないが、明らかなのは明確な殺意。

インデックスを守るように背中に隠す上条は歯を思い切り食いしばり、打開策を考えるが……。

――万事休す……でも[ピーーー]ない、俺が死んだら誰がインデックスを守るんだ?一人の女の子の想いを散らしてまで俺はインデックスを守ると誓ったんだ。

絶望的な状況にも関わらず、上条の目に諦めの色は一滴もない。

「ちょこまかと逃げ回るのはやめてください、無駄です。あなた方を殺害します。とミサカは宣言します」

だが、気持ちだけではどうにも出来ない事もある。
そして、無慈悲にもその銃口は上条に火をふいた。

そう、火を……。
657 :やりなおし ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:18:38.00 ID:D8sbd+v4o
〜〜〜

「やっべぇ……いきなり上条さんピーンチ?」

およそ二十の銃口が上条へと向けられている。

ごついゴーグルとマスクのように鼻と口を覆うプロテクター。
その表情は読めないが、明らかなのは明確な殺意。

インデックスを守るように背中に隠す上条は歯を思い切り食いしばり、打開策を考えるが……。

――万事休す……でも死ねない、俺が死んだら誰がインデックスを守るんだ?一人の女の子の想いを散らしてまで俺はインデックスを守ると誓ったんだ。

絶望的な状況にも関わらず、上条の目に諦めの色は一滴もない。

「ちょこまかと逃げ回るのはやめてください、無駄です。あなた方を殺害します。とミサカは宣言します」

だが、気持ちだけではどうにも出来ない事もある。
そして、無慈悲にもその銃口は上条に火をふいた。

そう、火を……。
658 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:20:34.35 ID:D8sbd+v4o
――Fortis931。

火と聞いて、上条がまず思い出したのは苦手とする赤髪の大男、ステイル・マグヌスであった。
煙草を吸いながら、自らの魔法名を口にする自身に満ち溢れた少年を上条は思い出していた。

――なんでのんきに『火を吹いたー』なんて言い回しが頭に浮かんだんだろ……火というと両親とか友達じゃなくて真っ先にあいつの顔が浮かんじゃうじゃん……。

インデックスを守るようにミサカ達に背を向け、抱きしめる。

「インデックス、俺が撃たれたらすぐ逃げろ、なに死にはしないさ……すぐ追いつくから振り返らず逃げるんだ」

耳元へそうつぶやく。

そしてインデックスは口にする。
上条が先ほど思い浮かべた男の名を。

「す、すている?」

「へ?」

スゥーと息を吸い、ハァーと煙を吐く音がした。

「インデックスを体を張って守ろうとした所だけは評価してやる。上条当麻」

振り返るとそこには抱き合う二人と妹達を遮るように炎の壁が出現しており、その前には炎の光を全身に浴び、紅く染まるステイル・マグヌスが立っていた。
659 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:21:28.40 ID:D8sbd+v4o
「約束通り、借りを返しに来たよ」

炎の壁の熱で燃え尽きた煙草の代わりを懐の箱から取り出す。

「本当だったらその子に銃を向けるような輩、燃やし尽くしてやりたいが……それはインデックスも本意ではないだろう?」

顔だけを二人にむけ、そう言った。

「お、おう……ありがとう、ステイル」

「ふんっ、借りを返しただけだ!この先に神裂がいる、とりあえず君たちは逃げろ……大丈夫だ、殺さないから安心しろよ」

忌々しそうに舌打ちすると追い払うように手を払った。

二人はそれを合図に走り出す。

「とうま、嬉しいね……全部一人で背負わなくても助けてくれる友達がいるって……嬉しいね」

「あぁ、そうだな……」

嬉しさももちろんある。
だが、それ以上にあるのは……。

「また、『俺がやらなきゃいけないのに』って考えている?」

「……うん」

言い当てられ、素直にそれを認める。
インデックスだけには自分の気持ちを偽る事ができなかった。

「ゆっくりでいいから……大丈夫、みんなとうまが好きだから……とうまの心が晴れるまでみんな手を貸してくれるよ」

にっこりと笑った。
それだけで上条は心が軽くなる。
660 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:22:09.36 ID:D8sbd+v4o
〜〜〜

河川敷へと向かうテレポートの途中、学生寮が集まっている地域から爆発音が聞こえた。

「あの方向って……」

御坂はその方向をみながらつぶやいた。
白井は、近くの屋上へと一旦降りると御坂の目をじっと見つめる。

「お姉さま……行きますか?」

御坂の考えを一瞬で見抜き、どうするかを問うた。
佐天と初春も上条関連だとすぐに推測し、頷き合う。
そして、迷っている御坂へと二人は声をかけた。

「み、御坂さん。上条さんの所ですよね?私だってバカじゃありません、私たち四人が襲撃される理由なんて多分一方通行さんや垣根さんと友達になったからですよね?」

初春の言葉を佐天が引き継ぐ。

「そして、もし今捕まったらこれから二人の弱点になっちゃうから……そうなると二人は私達から離れてしまうからだから、御坂さんが守ってくれてるんですよね?私達は二人と友達になれたのに後悔なんてありません怖い思いしてもそんなものより楽しい時間を過ごせたから……」
661 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:22:59.92 ID:D8sbd+v4o
しっちゃかめっちゃかだが、言いたい事はなんとなく御坂に伝わった。
そしてそれは半分正解で、半分は不正解の答えである。
御坂以外の三人が襲われた理由は恐らく佐天達の推測で間違いないだろう。
だが、御坂が襲われたのは当事者であるからだと御坂は考えていた。

「上条さん多分今危ないんですよね?あの人爆弾とかそういうのは防げないんでしょ?
御坂さん、行ってください私達なら大丈夫、逃げ切れます」

その足は震え、声も不安で溢れている。
その様子で、上条を助けに行きたいと傾いた御坂の気持ちがまっすぐに芯を持った。

「――ごめん」

その謝罪に白井は驚き、軽い失望を感じずにはいられなかった。

「謝らないでください」

二人は無理矢理笑う。
662 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:24:11.66 ID:D8sbd+v4o
「ごめん……私間違ってた……」

御坂はゆっくり顔をあげる。

「今、私がするべき事を見誤った」

白井、初春、佐天の三人は予想の言葉と違った言葉が御坂から発せられたのに素直に驚いた。

「あいつは私なんかよりずっと強い、もしピンチでも、私が助けにいかなくても助けてくれる人も多分いる……私は……私が今やらなきゃいけないのは、あなた達三人を守ることだって忘れそうになってた」

遊園地で垣根に言われた「守り切る自信はあるか?」というニュアンスの問い。
あの時、御坂は正直そんなものはなかった。
だが、今は自信がないなどとは言ってはいられない。
自分がやらねばならないのだ、それは変な責任感から湧き上がる感情ではない。
自分には目の前にいる三人より強大な力がある、だったら悪意から三人を守るのは「友」として、当たり前の事だろう。
好きだから守る、三人が御坂の事を想い御坂の恋を応援してくれたように……。

御坂の瞳から迷いが消えた。
力強く三人に笑いかける。

「さ、逃げましょう、第三位であり常盤台のエースである私がついてるんだもの、安心して……『中学最初の夏にはこんな事もあったなぁ』って言いながらまた四人でケーキを食べましょう」

力強さが優しさ、柔らかさへと変わった。
663 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:24:38.11 ID:D8sbd+v4o
――少しでも疑ってしまってすみません、お姉さま。あなたはやっぱり最高のお方でしたわ。

白井は先ほどの自分の思考を恥じ、改めて御坂を誇りに思った。

「み、さか……さん」

初春は本当はよほど怖かったのか泣きそうになりながら御坂の手を握った。

「そ、それ……死亡フラグ、ですよ?」

佐天は無理矢理笑おうとする。
その無理矢理は先ほどの無理矢理とは意味が違っている。

「行くわよ、私の親友は……あなた達は誰にも傷つけさせやしないわ」

御坂の目には希望と決意が宿っている。

また四人でお茶を飲むという希望、そしてそのために誰も失わないという決意。

その想いが静かに溢れている。
664 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:26:14.83 ID:D8sbd+v4o
〜〜〜

「ミサ、カは?ミサカ?ミサミサカミサカミサミサミサカミサカミサミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサミサミサカミサカミサカ……ミサカ……は?ミサカ?な、んで……やっぱり?どうして?やっぱり?な、ぁ……ああああああああ!」

ミサカ00001号は銃を妹達へと向けた。
垣根と、自分が傷つけてしまった芳川を守るように。

「ごめ、んなさい、芳川博士……。
垣根さん……ミサ……カはミサ、カ00001号……は、あなたの事が好――」

ガラスの割れる音が響くと同時にミサカ00001号の身体が激しく揺れた。
真っ赤な物を撒き散らし、その身体は糸の切れたマリオネットのように力なく床に崩れる。
妹達達が放った命を奪うちっぽけな塊は垣根の翼によって防がれたはずであった。
確かに、目に見える範囲から撃たれたものは全て垣根の翼が止めている。
では、どこからミサカ00001号は撃たれたのか……ミサカを撃ち抜いた弾丸はキッチンの脇にある小さな窓から撃たれたものであった。
予想外の事が起きていなかったただの襲撃ならば、垣根は守りきれただろう。
665 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:26:42.12 ID:D8sbd+v4o
ミサカ00001号の発砲。

それがなければ垣根はこの家が囲まれている事も忘れていなかっただろうし、キッチンの横に小さな窓があるのもわすれていなかったはずである。

そして、垣根はミサカ00001号の身体が床に崩れゆくのをみて、演算を止めた。
いや、脳が演算を止めてしまった。

そして、彼らにいや、垣根に鉛玉の雨が降り注ぐ。

あ、と思った時にはすでに肩を撃ち抜かれていた。そして、倒れそうになった時、垣根は後ろへと思い切り引っ張られ、そして投げられた。

「クッソがァアア!」

垣根を引っ張り投げ捨てたのは、一方通行である。

なぜ、一方通行がここにいるのか、それは少しまえに遡る。
666 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:27:42.09 ID:D8sbd+v4o
〜〜〜

天井はバカ笑いを続けながら一方通行を殴り、蹴り、踏みつける。

――耐えろ、耐えろ、耐えろ、耐えろ。

一方通行は爆発しそうになる気持ちを抑えるように自身に耐えろと言い聞かす。

そんな中、突然ミサカ00002号が声をあげた。

「一方通行!00001号が、00001号が……」

ミサカネットワーク。
テレパシー。
虫の知らせ。

嫌な言葉と想像が一方通行の脳内を駆け巡る。

天井は突然叫んだミサカ00002号に驚き、ミサカ00002号の方へと、慌てて体を向けた。

チャンスだと一方通行はミサカ00002号へ指示を出す。

「伏せろォ!」

そのチャンスをものにするべく、言葉と同時に地面を思い切り叩いた。
するとミサカ00002号の盾になるようにアスファルトがめくれる。
667 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:28:08.75 ID:D8sbd+v4o
が、上方からの狙撃だけはこれだけではどうにもならない、叩いたのと同時にミサカ00002号に覆いかぶさるように跳ぶが、完璧に守れるとは思っていなかった。
ほんの少しでも危険がある行動は、取りたくは無かったのだが、今動かなければならないと、一方通行の胸を何かが騒がす。
そして、それをミサカ00002号も望んでいた。

結果的に幸運にも無傷でミサカ00002号を救う事に成功、去り際に天井の顔面に一発だけ裏拳を叩き込み、そのままミサカ00002号を抱え、一気に自宅へと跳んだ。
668 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:29:00.51 ID:D8sbd+v4o
高級マンションだけあって、壁は厚い。
外からでは中で爆発が起きたなど微塵にも思わせないほど、いつも通りであった。
が、マンションの近くの高さのある建物には殺気を放つ妹達がいるのがなんとなくわかる。

一方通行はそれらを完全に無視し、ベランダから強行突破を測った。

そして、リビングへとそのままの勢いで跳び込んだ二人が見たのは床に倒れる芳川と、身体を激しく揺らし今まさに真っ赤な花を咲かせながら倒れんとするミサカ00001号の姿、そして思考を止め驚き固まる第二位の絶望の表情であった。

その時、一方通行の身体は考えるよりも先に動いた。
ミサカ00002号をボロボロになったソファの影へ投げ込むと、肩を撃ち抜かれた垣根の襟を掴み思い切り引っ張る。
何十も放たれた弾丸は肩の他に足にも当たったようだが致命傷ではないのでそのまま自分の入ってきた芳川の部屋へと放り込んだ。

「クッソがァアア!」

銃撃が垣根だけへと向けられていたのが救いであった。
今ミサカ00001号や芳川に刃を向けられたら確実に抹殺されていた。

一方通行は垣根の代わりに銃弾を受け、それを全て天井へと受け流す。
669 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:33:04.21 ID:D8sbd+v4o
芳川はミサカ00002号がソファの影へと引っ張り込み、傷口に脱いだシャツを押し当て止血しようとしているのを確認した。
次に一方通行はミサカ00001号の方へ視線を移す。
それと同時に真っ白い翼が一方通行達を守るように伸びた。

「ミサカ……ちゃん?」

垣根はミサカ00001号の傍に何時の間にか座り込んでいた。

「か……ね……さん。好き、です……大好き……です」

力なくミサカ00001号は垣根へと手を伸ばす。
最後の最後、ミサカ00001号は正気に戻っていた。
それは、強制命令を受け付けている脳が死にかけているという事を意味する。

その力ない腕でしがみつくように垣根を抱きしめる。
垣根も思い切り抱きしめ返し、ミサカ00001号の髪を撫でた。

「ミ、サカ……ちゃん、俺も……俺は……」

垣根はボロボロと涙をこぼす。

「は、な……さないで」

そして、そうつぶやいたミサカ00001号に垣根は何度も頷いた。

「垣根さん……絶対座標――――、――――で……す。そこに……上位固体が、助け、てあげて……」

ミサカ00001号は一度目を閉じた。

「最後に――」

そして、目をゆっくり開くとミサカ00001号は全てを受け入れたかのような優しく美しい笑顔を浮かべ、そこで力尽きた。

――なんだよ、何言おうとしたんだよ……。死んでないよな?眠っただけだよな?まだ、最後の言葉を聞いてねぇぞ?

垣根はミサカ00001号を抱き上げると、もう言葉を紡ぐ事のない唇へ優しく愛しく自分のそれを重ねた……。

そしてゆっくりと顔をあげると一方通行が芳川とミサカ00002号を担いだのを確認する。
確認できると翼を大きく広げ妹達を軽く吹き飛ばした。

妹達が起き上がった時にはそこに誰の姿もなく、ただ純白の翼が数枚ひらひらと舞うだけであった。
670 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:39:10.66 ID:D8sbd+v4o
投下終わり

天井くんと天井がでてくるとややこしくなるね
一方通行は天井くんに銃弾浴びせたわけじゃないですよ?
一応ねww

今回はステイル、美琴がかっこよく書けてればいいなぁと思う。
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/23(月) 07:00:31.30 ID:x4ocDU8uo
まじか…00001号ちゃん…
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/01/23(月) 20:08:53.84 ID:+kycSIdw0
あはww一瞬思ったそれwwww
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/23(月) 20:54:57.64 ID:+5ZTiS1To
よっしゃ!一 人 死 ん だ ! 
この勢いで天井くんも[ピーーー]!
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/24(火) 00:32:37.10 ID:xkgPSW800
>>673 人が死んでうれしいのか?
だったら俺がお前を殺ってやるよ
スレの空気悪くなんだよ五年黙れ 
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/24(火) 01:15:54.05 ID:M2zOkpBDO
まだだ まだリアルゲコ太がいる
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/01/24(火) 12:07:39.81 ID:zw9UPYyxo
>>673
そういうアピもういいから
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/24(火) 17:04:08.17 ID:TO8bUw/co
>>673
これだから福岡は…
678 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 01:58:13.94 ID:UYEXDufco
〜〜〜

「悪かった」

大空を駆けながら一方通行はミサカ00002号に謝罪をする。

「……なんのこと?投げた事?00001号が……死んだ事?芳川博士が大怪我した事?ミサカが撃たれた事?」

「全部だ」

「なにそれ?一方通行のせいなの?全部しょうがなかったことじゃん」

ミサカ00002号は怒っていた。
なぜならばミサカ00002号は知っているからだ。
ミサカ00001号が笑ってこの世を去った事を、芳川に謝罪と垣根に自分の想いを伝えて満足してから逝った事を。
その、ミサカ00001号の人生を馬鹿にされたような気がしたのだ。

ミサカ00001号が死んだ事は、誰のせいでもなく、それがたったひとつの最善の方法だと思い行動した結果だと。

それは、ミサカ00002号だけが正しく理解している。

ミサカ00001号は思い残した事ややり残した事、それら全てを含め数ヶ月の短い人生に満足して死んでいった事を、ミサカ00002号は知っている、二人は微かだが、確かに繋がっていたのだから。

「誰のせいでもない、ただミサカ達は今泣いたり立ち止まったりそんな事をしている余裕はあるの?ないでしょ?悲しむのも、後悔するのも、全部終わったあとでいい」

オリジナルである御坂美琴にも劣らぬその精神力。
心の強さだけならば、ミサカ00002号は間違いなく一方通行や垣根を凌駕していた。

一方通行の首に手を回し、しがみつく。
かたかたと震えているようにも感じるが、気のせいであろう。

彼女は泣かないと決めたのだから。

ボロボロの垣根と焦る自分を隠し平静でいようと努力する一方通行の……第一位と第二位の情けない姿が彼女を強くしてた。

「あなた達が心折れたと絶望してもいい、必ず立ち直ってくれると信じているから……それまでは、弱っちいあなた達をこの、ミサカ00002号が守ってあげる」

いつか聞いた言葉、やはりこいつらは姉妹なんだなと一方通行は思った。
679 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 01:59:05.61 ID:UYEXDufco
〜〜〜

怪我をした芳川を気遣う程度には垣根は落ち着きを取り戻していた。
だから、容赦なく銃を発砲する妹達を吹き飛ばし一方通行が芳川とミサカ00002号を担ぎ逃がす時間を稼ぐ事ができた。

それでも、垣根の心がへし折れたのに変わりはない。

垣根が目指すのは病院ではなく、いつか星空をみた丘。

ミサカ00001号が死んだという現実は垣根帝督が誰よりも理解している。

「お前は俺が最後まで面倒をみる、他の誰の手にももう触れさせない」

垣根は飛びながらミサカ00001号に語りかける。
もちろん、返事はない。

「あの丘に墓を作ってやる。あの辺の地質を変化させればおまえの身体を綺麗なまま眠りにつかせてやれる」

撃たれた胸当たりへ手を入れ、傷口を自身の能力でふさぐ。
服についた血液も、その状態を変質させた。
そこを軽く払うと、汚れは取れた。

「もう、俺はダメだ。芳川もお前も守れなかった。もうなにも、守れない……こんなんじゃ誰からも愛されない」

唯一自分が心から愛し、自分を心から愛してくれるかもしれないと思えた人を失った。

「お前が一片の偽りもなき愛情を俺にくれるなら、俺はこの身体も、こころも、全てを捧げていいと思っていたんだぜ?」

スピードを緩め、あの日と同じように同じ場所に舞い降りた。
680 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:01:04.31 ID:UYEXDufco
何もかも同じようだが、違うことがいくつかある。
一つはミサカ00001号はあの日のように垣根に笑いかけてはくれぬということ。
一つはまだ、あの日のような星空は見えぬということ。

そして、最後は、そこに黒髪の魔術師が立っていたこと。
垣根にうずくまっている時間を、神はあたえなかった。

「上条当麻に言われここに来ましたが、本当にあなたが現れるとは思っていませんでした」

「上条?……まぁ、どうでもいいや消えてくれ今ウザってぇ事いわれたら……俺の正義は死んでるし、アンタをぶち殺しちまいそうだ」

「あなたには負ける気はしませんよ。なんなら、やってみましょうか?その子と同じ所へ送ってあげますよ?」

神裂は表情を変えずに刀を鳴らした。

「……ムカついた」

神裂に、天井に、この世のすべてに、そしてなによりも自分に。

「やっぱ殺すのは辞めだ、手足引きちぎって目を潰し口を縫い付けてやる……無様に這いつくばって死ぬまで俺を楽しませろ」

ミサカ00001号を抱えたまま、垣根は初めて能力を「人を殺す」為に使った。

神裂に襲いかかるのは六枚の翼、それを一つを手を添え受け流し、一つを蹴り飛ばす。
足が上がったことにより不安定になった所にまとめてかかってきた残りの四枚を、片足だけの力で跳んでよけた。

「あなたは、最低ですね。胸に愛する人を抱えたまま、殺し合いをしようというのですか?」

「……黙れよ」

「上条当麻が言っていました。貴方と一方通行はこの街で誰よりも優しいと」

垣根の言葉を無視し、喋り続ける神裂に苛立ちを覚える。
なにがなんでも黙らせようとその翼を思い切り降り続けるが、全て簡単に受け流され、避けられ、弾かれてしまう。

「あなたは、その子の想いを受け止めてはあげないんですか?」

「だぁああまぁあれぇえええ」

「その子は私からみてもとても幸せそうな顔をしています。それは何故ですか?あなたに想いを託すことが出来て、それをあなたが実現してくれると確信していたからではないのですか?」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ」

「推測ですが、その子もまたあなたを愛していた。それは、甘いとわかっていても、人を守ることだけに力を使うあなただからなのではないんですか?」

「うっるせぇえええ!じゃあどぉすりゃいい?守りたいものは失った!大切な人の笑顔は奪われた!これから俺はどぉやって、なにを目的にいきりゃあいい?生きてれば真っ黒な感情がクソッタレの科学者どもをぶち殺せと急き立てる、俺は弱いからな、そんなものに打ち克ってまで自分の正義を通せる自信なんかねぇよ!だから、もう消えてくれよ、頼むから静かに俺をこいつと死なせてくれよぉおおお!」
681 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:01:40.89 ID:UYEXDufco
「Salvere000」

神裂は刀を抜いた。
その刀は垣根の翼を六枚とも全て切り捨てる。

「救われぬ者に救いの手を……私の魔法名です。今こそあなたに借りを返しましょう、私があなたを救い上げてあげます」

神裂は納刀すると、穏やかな声で垣根に語りかける。

絶対の自信を持っていた垣根は自身の能力が刀一本に切り捨てられてしまったことにショックを受けていた。

「復讐なんて辞めろとはいいません、出来るならば今回の首謀者を先ほど私に言ったみたいなやり方で殺せばいい……ですが、あなたはそれが出来ないんでしょう?」

垣根は肯定も否定もしなかった。
ただ力強くミサカ00001号を抱きしめ、縮こまる。

――ごめん、負けた。

神裂の言葉を受け流し、ミサカ00001号に心の中で詫び続ける。

――初めから俺におまえを守る力なんて無かったんだ……お前に愛される資格なんてものも……なかったんだ。

「……ならば、新しい道を私が与えてあげます。それを成し遂げた時、あなたの人生を終わらせてあげましょう。それが半ばで潰えた時、あなたの人生を終わらせてあげましょう」

何の反応もしない垣根に神裂はなおも続ける。

「他人の人生に勝手に新しい道を示すのですから、責任は持ちますよ。あなたはこの先の人生をかけてその子の大切なものを守りなさい……出来ないというならば私の所へきなさい、その子の大切なものが全て失われた時も私の所へきなさい」

キン、と音をたて刀を鞘へしまう。
682 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:04:25.79 ID:UYEXDufco
「責任を持って、あなたの人生の幕を私が下ろしてあげます」

それだけいうと、神裂は垣根に背を向け去って行く。
途中、歩みをとめると、一言「私は聖人、人間を超えた存在なので今の闘いは気にしないでください」と言い、また歩をすすめた。

垣根が神裂を殺そうと力をふるったこと。
それを気にするなと、神裂は気遣う。

――救われぬ者に救いの手を……私の魔法名ですからね……。
683 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:04:55.22 ID:UYEXDufco
――大切なもの?誰の?俺の?違う……ミサカの?それは……?

神裂の声は垣根にちゃんと届いていた。
そして、垣根は考える。
ミサカ00001号の大切なものを。
パッと花咲くように浮かんだのはミサカ00002号の顔、芳川の顔、一方通行の顔、御坂美琴の顔、上条当麻の顔、インデックスの顔……そして、名前すらも知らないすれ違っただけの暖かな笑顔を浮かべるこの街の子供たち。

――ミサカちゃん……お前も俺に守れというか?それとも首謀者を殺せと言うか?……なぁ、答えてくれよ、俺は自分じゃ決められない……お前の出した答えなら、自信持って歩けるから……なぁ……。

「答えてくれよぉおお……」

うあぁああ、と垣根は大声をあげて泣いた。

ミサカ00001号の死を理解した気になっていたどこまでも弱い男は初めて声を大にして泣いたいま、本当にミサカ00001号がもうこの世にいないことを実感したのだ。

空を見上げると、星が少しだけ瞬いている。
いつか一緒に見上げた星空には及ばないが、それは美しく神聖なもののように垣根には感じられた。

――大丈夫かな?俺、今度こそお前を……お前の大切なものを守れるかな?

大量の水分をそこら中から垂れ流しながら、垣根はだんだんその数を徐々に増やす星空に問いかける。

『大丈夫だよ、できることを精一杯やってくれたらそれで満足だよ』

ミサカ00001号が朗らかに笑いながら、いつもの口癖の消えた口調で、そう答えてくれたような気がした。
684 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:05:47.82 ID:UYEXDufco
〜〜〜

あ、ダメだ……このままだとミサカは壊れちゃう。
……手荒だけど、しょうがないかな?ごめんね急所は外すしここには垣根さんもいる、00002号にも不完全なネットワークで精一杯危機を伝えるよう試みた。

だから、芳川博士は痛い思いをするけど死なないから。

死にゆくミサカの最後の……最初かな?家庭内暴力ってことで。
……こんなの暴力じゃなくて家庭内殺人未遂だけどさ。

ごめんね、大好きだよ芳川博士。
一番うまく収めるには、撃つしかミサカには思い浮かばなかったんだ。

あぁ、でも垣根さんに好きだと言えて良かった。
この人の腕の中で死ねるのも最高だ。
抱きしめてもらえたのも、最高だ。
685 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:06:15.21 ID:UYEXDufco
でも、00002号には少し悪いことしたかな?
多分、垣根さんの性格だとミサカに義理を感じて……って感じになっちゃいそうだし……。

ミサカ00001号の事は忘れて、ミサカと同じくらい垣根さんを大好きな00002号と幸せになって欲しい……なぁ……。
686 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/25(水) 02:06:42.43 ID:UYEXDufco

………………。

…………。

……。

687 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:07:59.95 ID:UYEXDufco
嘘。
688 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:09:08.17 ID:UYEXDufco
本当はミサカの事忘れて欲しくない!
嫌だよ、垣根さんがこのミサカ00001号の事を忘れたら。

ミサカ00001号は確かにここにいた、あなた達と笑いあった。
それを忘れないで欲しい。

でも、ミサカ00002号と幸せになってくれたら……とは思うよ?

大好きな垣根さんが、大好きな00002号と笑いあってくれる未来なら、ミサカも死んだ意味がある。
ただ、ミサカの事、たまには二人で思い出して欲しいんだ……。

わがままかな?
689 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:09:36.32 ID:UYEXDufco
最後に、最後にこれだけは伝えたいけど……でも、もう、意識が……。
垣根さん……垣根さん?

あれ?もう、声……で、な……い。

あぁ、言いたかった、なぁ……。

ミ、サカの……大切な、家族とお友達を……守っ……てあげ、て、ください……って……。

おやすみなさい、みんなより、また先に休ませて貰うね?
次、目が……覚めたら、また、五人で笑おうね。

そう、言えば……ミサカ、口調が00002号……みたい、だね。
690 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:10:05.44 ID:UYEXDufco
〜〜〜

人を守るのは難しい。
ミサカ00001号の大切なものを全て守るなど無理だ。
それはちゃんとに理解していたし、ミサカ00001号は望んではいない。
出来る限りでいい……とミサカ00001号は伝えたかったのだろう。
またミサカ00001号のように失うこともあるだろう。
そうなったら、垣根はまた絶望し、己を責め、さらに自身を追い詰めるだろう。
でも、その時、ミサカ00001号の言った大切なものの中に垣根自身も入ってると気がついたら……きっと垣根は探し求めていた答えを見つけることができるのだ。

ミサカ00001号の心はイギリス清教の聖人が垣根に示した道と偶然にも重なっていた。

だから、大丈夫。

一度折れた心は元には戻らない。
一生傷を背負い、垣根は生きていくだろう。

折れた所を繋ぎ合わせ、垣根帝督はすぐに立ち上がれた。

泣くのも、落ち込むのも、反省も、後悔も……死んだあとにミサカ00001号に聞いてもらえばいい。
彼女はきっと笑いながら、よく頑張りましたと垣根を抱きしめるだろう。
691 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:13:16.70 ID:UYEXDufco
投下終わり
垣根にはすぐたちなおってもらいました
次回からは一方通行メインになるのかなぁ

あとせっかくSSだしSSならではのレスの区切り方を少ししてみたけど、微妙な感じになっちまったな

ではまた読んでください
感想も良かったらちょーだい
692 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/26(木) 18:15:13.37 ID:6JgtFYoNo
べろべろばー

もうちょいしたら投下しようかと思います
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/01/26(木) 23:38:18.50 ID:zeOvyXhro
聖人だからノーカンでいいのよ は、なくても良かったきもする
694 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/27(金) 01:35:43.68 ID:t3T688gfo
ねちまった

少しですが投下します
695 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:36:21.47 ID:t3T688gfo
〜〜〜

病院へ駆け込むと、止めるナース達を無視しカエル顔の医者のいる部屋のドアを蹴り開ける。

「わりィ、急患だ。おめェしか安心して任せらンねェ、無常識なのは解ってる許せそンで頼む」

断ったら殺すとでも言うような目つきとドスの効いた声で一方通行はカエル先生に詰め寄った。

「……やれやれ、そんなおっかない顔しなくてもちゃんと診るよ?その子は僕にとっても大切な知人だからね?」

恐ろしい表情の中にも見え隠れする動揺と不安。
それと、ミサカ00002号の耐え忍ぶような表情でカエル先生は何が起きたかをだいたい理解した。
696 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:36:54.14 ID:t3T688gfo
「君達も少し休みなさい、この病院は安全だからね?」

ナースにベッドと輸血パックを用意させるように指示を出すと先生は薬箱を取り出した。

「ナースがベッドを持ってくる間に足の傷をみてあげようね?……うん、応急処置はこんなものでいいかな……お風呂はシャワーだけに、そして出たらこれ塗りなおして包帯巻いておきなさい」

手際良くミサカ00002号の足に包帯を巻きつけると、薬も手渡す。

「仕事はしばらくお休みしていいよ、じゃあ次は芳川くんの番だ……大丈夫、生きているなら必ず助けるからね?」

芳川をベッドに寝かせると、腕に針をさし、輸血も開始される。

そして、手術室へと急いだ。

扉の前までくると、先生は一方通行の顔をみて任せろというように頷いた。
そして、芳川の腹部から一方通行の手が離れた。

ベッドは手術室へと運び込まれて行く。

扉が閉まり、手術中のランプが点灯する。

それを見た途端、一方通行は床に崩れた。
697 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:38:20.15 ID:t3T688gfo
「ミサカは垣根さんと、お姉さまや上条さんも気になるから探してくる……ミサカも自由にするから一方通行も自由にしてていいよ」

「まて、ダメだ行くな」

一方通行は消え入りそうな声で歩き出したミサカ00002号を止める。

「……なんで?」

「……行くな。一人で外なンか出てみろ、速攻で殺されるぞ」

「じゃあ、アンタが守ってよ……ミサカは大切なものを奪われてただ涙流すだけの負け犬にはなりたくない。ミサカ00002号はミサカ00001号のやりたかった事、守りたかったもの、それを守らなきゃいけないんだよ……そうしなきゃミサカ00001号に顔向け出来ない」

じわじわと涙が浮かんでくるが、頭を振り、無理やり引っ込める。

「お姉さまや上条さん、インデックスは私たちの友達だ、お姉さまはなんとかやってると思うけど、上条さんとインデックスは対能力者以外ならミサカより無力だもん……一応ミサカも戦闘用のクローンだからね、体術とかも少しは出来る」

じゃあね、と言いミサカ00002号は背中にかけられるいかないでくれという言葉を無視して外へと歩を進めた。
698 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:38:57.43 ID:t3T688gfo
――ごめんね、一方通行……でも今あなたといるとミサカも泣いちゃい、そうだからさ……。

ミサカ00002号の言動は全て八つ当たりと言ってもいい。
本来ならばミサカ00002号はわんわんないて取り乱していただろう。
だが、ミサカ00002号が現場についた時見た光景が「そうなったらダメだ」と訴えた。
それはもしかしたらミサカ00001号からのメッセージだったかもしれない。

ただ、一つ言える事は、垣根は壊れ、一方通行は怯え、ミサカ00002号まで狂ったらミサカ00001号が妹達から危険因子として処分される事をわかった上で芳川博士を撃った意味がなくなっていた。
ミサカ00002号も射殺され、芳川も失血死、垣根帝督と一方通行はその様子を目の当たりにしたら切れて妹達を皆殺しにするか生きる事を諦めるかしたであろう。

そうなっては、いけないのだ。
699 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:39:32.89 ID:t3T688gfo
〜〜〜

「なん……だ、これ……?」

上条がインデックスとステイル、神裂と共にマンションへ駆け込んだ。

「血?それ、にこの量……」

「これが一人分だとしたら確実に死んでいるね。血溜まりは二つ、まぁ、こっちのは死んでる可能性のが高いかな?」

ソファの横から後ろへと引きずられた跡のある血痕。

そしてそこから数メートル離れた所に広がる血を指差し言った。

「やめ、ろ……」

「上条当麻。これは君がいつも首を突っ込んでる喧嘩なんかじゃないんだ。――これは戦争だ」

煙草に火をつけながらステイルは厳しい目つきをする。

「甘ったれるな、殺そうとしてくるやつには容赦をするな、お前の迷いはお前だけではなくインデックスの死にもつながるんだぞ」

「わかって――」

「いや、わかってないね。わかった気になってるだけさ……人の死にいちいち反応してるのがその証拠さ……まだ戦争は終わっていないんだぞ」

「……わかった。ごめん……神裂、わりぃけど――」

少し前に垣根が何気なく話していた丘の場所を神裂に伝えた。
そこに垣根がいると、なんとなくそう思った。

「多分、垣根も一方通行も相当ボロボロになってると思う。だから、出来たら助けてやってくんねーかな」

「……わかりました。彼らもあなた同様的である人さえも殺す事をためらう人達でしたね――では、行きます」

神裂の身体能力ならば、垣根に追いつく、もしくは追い越すであろう。

「私たちはどうするの?」

神裂が消えた後、インデックスは黙り込んでしまった上条の袖を引っ張りながら言う。

「もし、両方死んでいたとしたら……垣根と一方通行は一緒にいる。二人とも助かっていたら病院、一人だけなら一人は病院にいく、と思う」

自信なさげに上条は必死に落ち着こうと、頭を働かせる。
700 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:39:59.41 ID:t3T688gfo
「ふん、インデックス、僕にして欲しい事はあるかい?」

「ステイルは御坂美琴を見つけてくれ」

ステイルの問いに上条が答える。
ステイルは上条にお前に言っているんじゃないと睨みつける。

「あ、あの……とうまの言う通りにしてあげて?私はなにが起きてるのかすらよくわかってないから……」

ステイルは大きくしたうちすると、なにも言わずに部屋を出て行った。

「……俺達は病院に向かおう」

ステイルが消えると床に広がる血液にもう一度目を向けるとインデックスの手を取り走り出した。

701 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:40:52.96 ID:t3T688gfo
終わり

また読んでください
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/27(金) 01:45:44.81 ID:+dMR+Lpbo

読まない理由が無い
703 :きっと忘れない [sage]:2012/01/27(金) 03:50:23.01 ID:t3T688gfo
>>700の最後の一文おかしいな

ステイルが消えると床に広がる血液にもう一度目を向ける。
そして、インデックスの手を取り走り出した。

こっちのがいいね
脳内補完おねがいしま〜
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/01/27(金) 07:02:51.93 ID:+smpH4qAO
うむ。乙である。
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga sage]:2012/01/27(金) 07:14:58.56 ID:ksPA01Mlo
おつ
706 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 21:32:14.43 ID:t3T688gfo
どうでもいい話だけど絵とかかけたら楽しいだろうなぁ
垣根のマンションの間取りとかすごく書きたいけど俺の絵心だと幼稚園生が書いた『しょうらいすみたいいえ!』みたいになる事は明らか

夜中にまた来ます

ミサカ00002号が頑張りさんすぎて書くのが辛い
707 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/28(土) 02:07:00.83 ID:C6Z7PpJUo
さて、はじめます
708 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:09:26.70 ID:C6Z7PpJUo

〜〜〜

―― 垣根の野郎は今何してやがンだろう……目の前で見たンなら、ぶっ壊れててもおかしくねェよな……結果だけ見た俺がこうだしな。

“一方通行も好きにしていいよ”

―― 好きに……? なら俺はもう、芳川の側を離れたくねェ……隣でずっと守りてェ。

そばにいたら守れたのか?

誰かが問いかけて来たような気がした。

―― あれ?……垣根で無理だったことを俺は出来るのか?
「垣根に勝てる」それは戦う力の差であって守る力の差じゃない……守る力なら、むしろ垣根のが上じゃねェか?

一方通行の能力は誰かを守るのには不向きだ。
自分の身を守る。その点においては核爆弾を落とされてもその透き通る肌には寝てても傷がつく事はない。
だが、他人を守るのはそうはいかない。
垣根の翼なら包んでやれば大抵のものからは守れる。

一方通行の能力は血流操作、成長促進……など他人が傷ついた時にこそ発揮するように感じられる。

じゃあ、そばにいても傷つけるだけ?

だったらもう関わらない方がいいんじゃない?

幻想が一方通行を笑う。
709 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/28(土) 02:14:01.89 ID:EDBFnCuIO
―― わかった、そォだな……もう、辞める。 俺はもう全部辞める。

己が作り出した幻想にとらわれ、一方通行は目を閉じた。

『 もう、いいや 』

ミサカ00001号の行動を完全に無駄にするその言葉を、垣根や00002号が聞いたらどう思うだろう。

―― それでも、もォいい……芳川達のそばに俺はいないほうがいい……あれ? でも今消えたら芳川は死ぬのか? ……そっかァ……じゃあ、天井を、殺そうとしてくるやつを、ぜェンぶ殺そう。

真っ黒な携帯電話をポケットから取り出し、何かを打ち込む。

操作し終えるとタイミングを見計らったかのように、ナースが一人芳川のポケットに入っていたと、血で少し汚れた青紫色の携帯電話を一方通行へ手渡した。

「 運び込まれて麻酔を打とうとした時一瞬意識を取り戻したの、そして寝言のように『 携帯電話を*****に 』って……*****ってあなたのお友達か誰かかしら? 渡しておいてくれる? 」

ナースはそれだけ告げると、仕事に戻った。
710 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:16:27.07 ID:EDBFnCuIO
その携帯電話を開く。

ディスプレイにはいつ撮ったのだろうか、撮影者以外の四人が楽しくおしゃべりをしている様子が写っていた。
その中の四人は本当に幸せそうであった。
まるで笑い声が聞こえてくるようにその写真は生き生きとした、輝いたものである。

そして、それはもう、戻ってこない。

端末を持つ手に力が入る。
握った指は、電源ボタンを押した。

芳川は画像フォルダを開いたままの状態にしていたらしい。
画面が切り替わり、時計と真っ白な少年の優しい寝顔の待ち受け画面が表示された。

それは、いつの日か垣根が撮ったものである。

「あ……」

自分とは思えないほど安らかな表情をしているディスプレイに写る顔に、一方通行は声を失う。

―― 俺は、芳川じゃなきゃダメなンだろォな……そンで芳川は俺じゃなくても大丈夫……でも、俺は芳川じゃなきゃ。ダメなンだ……。

そう理解し、それは芳川を守らなければという考えには……行き着かなかった。
逆に、離れなければという気持ちを加速させる。
711 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:17:52.66 ID:C6Z7PpJUo
―― わかった、そォだな……もう、辞める。 俺はもう全部辞める。

己が作り出した幻想にとらわれ、一方通行は目を閉じた。

『 もう、いいや 』

ミサカ00001号の行動を完全に無駄にするその言葉を、垣根や00002号が聞いたらどう思うだろう。

―― それでも、もォいい……芳川達のそばに俺はいないほうがいい……あれ? でも今消えたら芳川は死ぬのか? ……そっかァ……じゃあ、天井を、殺そうとしてくるやつを、ぜェンぶ殺そう。

真っ黒な携帯電話をポケットから取り出し、何かを打ち込む。

操作し終えるとタイ%7
712 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:18:29.74 ID:EDBFnCuIO
「 側にいなくても別にあいつらを守る事は出来る。 芳川に何かしようとした者を全て……殺してやる。 芳川だけじゃねェ、ミサカや御坂美琴や上条、そンでインデックス……こいつらに悪意ある暴力をもって危害を加えようとしたやつは……俺が全員ブチ殺してやる 」

力があっても、守れなければ意味がない。
一方通行は間違った答えに逃げようとしていた。

「 大好きな人を守れるのならば、大好きな友人を守れるのならば……俺は喜ンで人の道を外れてやる。 芳川や上条は怒りそうだな、ミサカは悲しむだろうし、御坂美琴は呆れるだろォな……でも、垣根だけはわかってくれるはずさ 」

ミサカ00001号を失ってしまった。
大切な同志を超えた家族を守りきれなかった。

一方通行は誰よりも優しい人間だ。
その優しさゆえ、脆い。

初めて目の前で人が死んだのをみた時は、どうしていいかわからず暴れまわった。
能力の制御が今より精密でなかったにもかかわらず、誰一人殺すことがなかったのは、ただたんに人を殺すのが怖かったから。
713 :711なにが起きたの?怖いんだけど ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:22:58.50 ID:EDBFnCuIO

だが、今は……。

恐怖よりも憎しみ。
嫌悪よりも悲しみ。

もっとも嫌っている事よりも怒り憎しみ悲しみといった負の感情のほうが強くなっている。

―― よし、行くか……。

一方通行は携帯電話を閉じる。

青紫色の物はメールの受信を知らせるランプがチカチカと点灯していた。

最後にもう一度だけ自身の黒い携帯電話を開くと、悲しそうに画面を見つめ、粉々に握りつぶした。

ずっと大事にしてきた者を、芳川を、垣根を、一方通行が拒絶した、初めての時である。

――垣根、ごめンなお前にミサカの死とかあの部屋で起きた事全部背負わせちまった。

親友の悲しそうな笑みを思い出す。

―― 芳川、すまねェ。お前の教えを裏切る事になりそうだ。あと……いや、いい。

大好きな人の血だらけの姿を思い出す。
714 :711なにが起きたの?怖いんだけど ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:28:56.88 ID:EDBFnCuIO

〜〜〜

「 あ……やば…… 」

ミサカ00002号は病院をでて、まず上条当麻を探そうと、彼の学生寮へと向おうと試みた。
慎重に、周りの警戒を決して怠らず、一方通行と別れてからかなりの時間をかけて、病院の敷地内から一歩でた。
そこからは全力で走り出す。

が、病院をでて数百メートルほど進んだ所で天井亜雄率いるミサカ妹達に囲まれてしまう。

「オイオイオイ、一方通行はどうした?あいつの目の前でお前らを殺す事に意味があるんだろぉ?」

お前らと天井が視線を向けた先には初春飾利、佐天涙子、白井黒子そして、御坂美琴が妹達に囲まれるように銃を突きつけられていた。

「上条当麻は捕まえることに失敗したが……男より女殺したほうが楽しいからなぁ……そして喜べ、今ここには00003号から00300号までの俺が作った妹達が勢ぞろいしてっからよぉ……にぃげらんねぇぜぇ?」

天井は狂気に満ちた笑い声を上げる。
空を見上げ、両手を高く広げ、天井は勝利を確信していた。

勝利を確信した時、そいつはすでに敗北している。
そう言ったのは誰であっただろうか……。

だが、確かに、それは今ここにおいては、真であった。

バカ笑いする天井の顔に叩き込まれるひとつの拳。
真っ白な翼を軽快に揺らし、その顔には憎しみを塗りつぶすように悲しみの仮面をつけている。

学園都市・第二位『未元物質』の垣根帝督。

真っ白な翼は天使のように美しく、悲しみにあふれるその表情に現れる心はズタボロだ。
にもかかわらず、そこにいるだけで、味方は安心し、敵対するものは恐怖するような、そんな雰囲気を持っていた。
715 :711なにが起きたの?怖いんだけど ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:31:01.31 ID:EDBFnCuIO

「こんばんは……天井亜雄、安心しろ、俺“は”お前を殺さねぇよ。 ムカつくけど、お前のやった事を全て暴いてこの街のルールで裁いてもらう……」

「垣根さん!」

突然現れた垣根にミサカ00002号は目を輝かせる。
垣根に駆け寄ろうとするが、一発の銃声で今の状況を思い出した。

「 動くなぁ! おい、超電磁砲とそのお仲間を全員ぶち殺せ 」

空に銃弾を放った天井は焦ったようなイラついたような様子で妹達に命じた。

―― 一方通行の目の前で殺せなかったのは残念だが……しょうがない、あいつの目の前では芳川を必ず殺してやる。

天井の指示に従い、超電磁砲組四人に銃口が向けられる。

そして、その引き金に指がかかろうとした瞬間。

プッと何かを吐き捨てるような微かな音が御坂には聞こえたきがした。
716 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:33:34.72 ID:EDBFnCuIO

「まったく、そこの茶髪の女の子は強いんだろう? 自分と大切なお友達が殺されそうになってんだ、迷わず相手を殺せばいいのに」

御坂達と妹達の間に一本の煙草が舞う。
そしてそのラインをなぞるように炎の剣が現れた。

「強いくせにくだらない道徳観で自分と自分の守りたいものを殺すなんて馬鹿げているよ」

上から降ってくるように舞い降りた赤髪の男はその剣を手に取ると、妹達の銃だけを器用になぎ払う。

「多少の火傷は我慢しろよ」

銃をはたき落とされた妹達に代わり、他の妹達が全員一斉に銃を構えた。

「サンキュー、ステイル。助かった、あとは俺が自分で守り切る」

ステイルがそれらに対しても同じ事をしようとした時、感謝の言葉と共に高速でステイルの横をミサカ00002号を抱えた垣根が飛んできた。
それと同時にステイルは炎を大きくあげ、大きなしたうちを残してその場を去った。

垣根はミサカ00002号と御坂美琴達が8の字を描くように囲まれていた所に、頭上から天井めがけて飛び降りた。
そしてミサカ00002号を抱えると、妹達の集団をなるべく穏便に吹き飛ばしながら、御坂達の元へと滑り込んだのである。
717 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:35:45.99 ID:EDBFnCuIO

「俺らと関わっちまったばっかりに悪いな」

佐天達に詫びをいれる。
非難されると思っていたし、されるのを望んでいたかもしれない。

が、返って来た答えは垣根の予想と大きく異なっていた。

「み、御坂さん双子の妹さんが?」

「なんか、ドッペルゲンガーを見た人の気持ちがわかった気がします」

「お、お姉さまが二人」

垣根の事なんか無視し、ミサカ00002号に三人は気を引かれてしょうがないらしい。

「ちょ、あんた達いま、それ、どころじゃ……」

「お姉さま、お友達は選ばなきゃだめだよ?」

好き勝手に盛り上がる女性陣。

今まさに命を奪われようとしていた事を忘れてしまったかのような明るさに、垣根は一瞬あまりの恐怖に頭がパーになってしまったのかと思った。

「あ、のぉ?大丈夫か?」

「ん?あぁ、はい。 だって御坂さんが守ってくれると言ったんですもん、信じますよ。 それで無理だったなら潔く諦めます、命を預けてもいいくらい私達は御坂さんを信じてますから! あ、もちろん、全部任せっぱなしじゃなくて、私達も出来る限りの事はしますよ?」

当然だと言うように佐天は言った。

「無能力者の私にはバット振り回すくらいしか脳がないですけどね」

そして、えへへっとわらう。

自虐的には不思議と感じず、ただ場の雰囲気を和ませようとしているように垣根には感じられた。

「そっか……ありがとうな。ミサカちゃんの事は全部終わったらちゃんと話すよ」

―― ミサカちゃんの死の事も……な。

御坂の顔をじっと見つめる。
御坂はどんな反応をするのか、守りきれなかった垣根を責めるか、その場にいる事さえ出来なかった一方通行を恨むか……それは、まだわからない。

でも、と垣根は顔をあげた。
今はここから逃げ切るのが先決である。
718 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:37:37.21 ID:EDBFnCuIO

〜〜〜

ミサカがどこから病院を抜け出そうかとキョロキョロしている頃、上条とインデックスは病院にたどり着いた。
ミサカ00002号が正面から出て行くような考えなしの子だったら簡単に会えていただろう。
しかし、ミサカ00002号は入念に病院周りを観察し、一番脱出できそうな所を探すような思慮深い子であった。
そのため、行き違いとなってしまったのだ。

「あれ? もしかしてここら一帯に人払いの魔術でもかかってるのか?」

普段はこの時間でもタクシーや見舞いから帰る人など、そこそこ人がいてもおかしくない病院の前庭に、人っ子一人いない様子を見て上条はインデックスに尋ねた。

「うん、多分すているがみことを見つけたんだと思うよ、そして彼女はこの近くにいる」

「俺らが病院まで走ってる間に御坂を見つけてここまでの魔術を発動させたのか? ……とんでもねぇな」

「すているは優秀な魔術師なんだよ、ていとくやあくせられーたが反則で強すぎるだけかも」

しゃべりながらもふたりは歩みを止めない。
そして、とりあえずカエル先生の診察へと向かった。
が、そこには誰もいなく、数滴の血が床を汚しているだけであった。
719 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:38:52.29 ID:EDBFnCuIO

「やっぱ、ここには来たんだ……手術室にいってみよう」

インデックスの手を握りしめ噛みしめるように声を出す。

部屋で見た大量の血液、それから連想させられる死。
上条は必死に心を落ち着かせる。

―― 罪悪感を感じる必要は本当にないのか? あの場所で起きた事は、俺が頻繁にあの場所に入り浸ったからでは……。

息が少し苦しくなる。
嫌な汗がだらだらと垂れてくるのがわかった。

―― やっぱり……。

「お―― 」

「とうま」

たった一言。

インデックスのその一言で上条の心は落ち着く。

「ごめん」

上条の謝罪に対し、インデックスは笑いながらいいんだよ、と言った。

支えるのがわたしの役目だから。とでも言うように……。

カエル先生の部屋を出ると手術室へとふたりで向かう。
ゆっくりと、でも確実に。
720 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:40:31.05 ID:EDBFnCuIO

〜〜〜

「ぎゃはっ! みィつけたァ! 」

悪魔のような笑い声を天井が聞いた時、その体は先ほどの比ではないほど激しく吹っ飛んでいた。

「アーララァ? 病院の近くでなァにやってンのかなァ? 天井くン? 」

妹達がボスである天井がぶっ飛ばされたと理解するのに数十秒かかった。

そして「天井に攻撃をしたものを撃つ」という命令通り、一方通行へと引き鉄を引く。

「無駄だァア!」

正確に一方通行の体へと吸い込まれて行く銃弾を全て足元へ叩き落とした。
そして一番近くにいた妹達の一人の頭部に触れ、そいつを気絶させる。
妹達は気絶させられた個体がいる事など気にも止めず、一方通行への銃撃を続けた。
それら全ての銃弾をやり過ごすと吹き飛ばした天井の元へと一方通行は超高速で向かった。
721 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:41:10.07 ID:EDBFnCuIO

「こォンばァンはァ、天井クゥン」

口の端を思い切り上げる。
そして、天井の首を掴みあげた。

「一つ質問答えろよ、打ち止めはどこにいる?」

カタカタを歯を鳴らしながら、天井は恐怖で顔を歪めた。
なかなか答えない天井に、もう一度、一方通行は尋ねた。

「打ち止め・は・ど・こ・だ・? 」

答えなければ殺すと言うように、言葉には怒りと憎しみが込められていた。

「ぜ、絶対座標――――、――――だ」

天井は一方通行のあまりの迫力に答えざるを得なかった。

「そォか、ありがとォ……今から十時間やる。俺に殺されない準備をしとけ……今度は、お前が、狩られる側だァ」

喉をくつくつと鳴らしながら一方通行は天井から手を離し、投げ捨てた。
722 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:42:36.17 ID:EDBFnCuIO

〜〜〜

そして、その騒ぎに便乗して、垣根達は病院内へと逃げ込んでいた。

「一方通行の野郎は何してやがんだ……あんな思い切りぶん殴りやがったら天井死んでもおかしくねぇぞ」

親友の心がわからないとイライラしたように吐き捨てる。

「それより垣根さんも肩と足、応急処置だけしよ?」

ミサカ00002号は垣根の肩に広がる血を見て心配そうにつぶやく。
00001号を何処へやったかはあえて話題にしない。

「いや、いい傷口は埋めたし多少血が足りない感じはするけど死にはしねぇよ……そうだ、飾利ちゃんはパソコン得意なんだっけ?」

00002号を若干避けるようにしながら初春の方へと顔を向ける。

「は、はい。まぁそこらへんの人には負けないと思います……でも専門的知識が必要な処理とか個人的な情報の必要なパスワードの解析だとかだと時間かかりますよ?」

決して「出来ない」と言わないあたり、自信があるようだ。

「ウイルスとかなんかそういうのの処理は? ワクチン的なのは用意されてるはずだ」

「それならば出来ます」

垣根は頷き、初春に協力してくれと頭を下げた。

「まず天井の兵隊を無力化する。そのためにお前の力が必要だ、頼む」

「もちろんいいですよ……あ、無事成功させる事ができたらパフェ奢ってくださいね」

ニコリと笑いながら、快く引き受けてくれた。

垣根は御坂に芳川を頼むと一言いうと、初春を担ぎ上げ、00001号に託された打ち止めの救出に向かった。
723 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:43:47.00 ID:EDBFnCuIO

〜〜〜

廃墟のような外観の建物の前に一方通行は立っていた。

初めてここに来た時の事を思い出す。

―― 今考えりゃあン時も芳川は睡眠も食事もろくにとらずセコセコ頑張ってたンだろォな……。

あの時ここは一方通行の長いトンネルの出口であった。
そして、今はそこはポッカリと口を開ける入り口だ。

―― 大丈夫、俺は一人でも生きていける。 一人が嫌なだけで、一人になったら死ぬわけじゃねェ……あいつらが幸せならそれだけで俺は十分なンだ。

静かにその中へと足を踏み入れた。

研究室の中にはほぼ何も残っていなかった。
ミサカ達を初めて見たとき奴らが入っていた調整槽と空の本棚、机とその上にポツンとおかれるパソコン。
電気水道ガスは生きているが、パソコンのデータは当然全て消去されている。

芳川は研究成果などを全て病院のカエル先生の元へと保管させて貰ったという話だ。
724 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:44:27.06 ID:EDBFnCuIO

では、なぜ一方通行はここに来たのか。

打ち止めの強制命令を解除するソフトの開発は一方通行も関わった。
データは全て頭に入ってる。
それにも関わらずここに来たのはとある事の確認のためだ。

調整槽の操作パネルに触れ、電源をいれる。

そして、過去のミサカの調整記録データを読み取った。

―― やっぱりなァ……天井も人間性はゴミ屑だが科学者としてなら優秀だからな、芳川のソフトに対するプロテクトもしっかりしてやがる。

先ほど読み取った妹達の脳内とミサカ00001号の一番最初の頃の脳内を比べ、そこに三人で作り上げたソフトをいれるシミュレーションをして見る。
すると、正常値へ戻すと同時に予想外の所へ負荷がかかるようになっていた。

―― こいつがどんな命令の発動スイッチかは知らねェが、ソフトを使って進めつつ同時進行でこっちのスイッチを壊せば問題ねェな。

学園都市最高の頭脳を使い、一瞬で解答への道を解き明かす。

シミュレーションを終えると電源を引っこ抜き、天井から聞き出した座標点へと向かった。
725 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:45:49.54 ID:EDBFnCuIO

〜〜〜

「この病院からノートパソコン一つ借りてってもいいですかね? 」

荷物のように担がれた初春はさっさと目的地に行こうとする垣根を引き止める。

「あ? あー、ならそこの受付の一個貰ってくか……緊急事態だしあとで謝ればいいだろ」

初春を下ろすと受付においてあるパソコンを乱暴に引っこ抜こうとする。

「わわわ! なにやってんですか! 」

垣根の暴挙を止め、カタカタとキーボードを叩いてから初春は丁寧にコードを引き抜きそれを傍にと持った。

「何やったんだ? 」

「このパソコンだけが担ってる仕事があったら大変じゃないですか、だからそれがないか調べてなかったから病院のネットワークから切り離してから持ち出したんですよ。 病院のパソコンですからね、外で勝手に使って個人情報とか抜かれたらえらい騒ぎになりますし、そんなので前科者になりたくはないんですよ」

「……よくわからんがまぁいい、いくぞ」

「待ってください、ワクチンってのはどこにあるかわかりますか? 」

「芳川のパソコン? 」

垣根はそこで初めてワクチンソフトの在り処を知らない事に気がついた。
芳川に聞こうにも彼女はいま手術中だ。

どうしようかと焦っているとミサカ00002号がそれならばと手を上げた。

「この病院のセキュリティの一番高い所に多分あります。 芳川博士は研究成果を全てここに移して貰っていましたから」

「そうですか……少し待ってください」

そういうと初春はまたパソコンを恐ろしい早さで操作する。
そして数分たつと、ありましたと言い、そのデータを引っこ抜いた。

「これで準備完了です。 さ、垣根さん行きましょう」

何事もなかったように初春は言ったがミサカ00002号と垣根はその技術に只々驚き言葉を失っていた。
しかし、驚いていたのは二人だけであった。
御坂、白井、佐天はいつもの事だと言うように気にしてはいない。

驚き固まる垣根を初春が急かす。

「垣根さん? 早く行きますよ! 一大事何でしょう?」

「あ、あぁ……悪い頼んだぜ」

初春をまた荷物のように担ぐと垣根は今度こそ座標点へと向かった。
726 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:54:06.07 ID:EDBFnCuIO
終わり

最後の一方通行の能力や初春のパソコンのらへんは適当というかパソコンとかまったく詳しくないんで、こういう感じかな?程度の知識で書いてます
一方通行の能力もかなり自己解釈というか正直ちゃんとに良くわかってない気が自分でしてるんで間違いとかあったらすみません

あと途中なんか変なレス入ったのはなんなの?
Wi-Fiの調子おかしいからかな?

あと内容についてもたまには一言w

一方通行は身近なひとの死でそうとう鬱状態になってるね
日記の少年はまだ何回か言葉を交わしただけだったからあれで済んだけどミサカ00001号とは同じ家で暮らしてたからねぇ
日記の少年が垣根並みの仲のいい奴だったら研究員全員一つの肉塊になってたと思う
そしてブラックな研究所潰して研究員殺してまわってたかもしれない

727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/01/28(土) 15:53:28.72 ID:EXkESlYAO
728 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/29(日) 23:47:16.00 ID:Pf14MzUIO
書き溜めすすまねぇ

なんかこう思うように進まない
正直読んでくれてる人は楽しめてるのか?
と不安になる

20〜30分後に投下はじめます
729 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:03:44.97 ID:V83xhbCmo

〜〜〜

「ここ、か?」

垣根と初春がたどり着いたのは一方通行と垣根が再会した研究所であった。

「どうりで見覚えのある場所なわけだ……でも、まさかこことは」

御坂、上条も縁がある研究所。
表向きは、というか何も知らない研究員はここで自分だけの現実だとかの研究をしている。

「……地下とかに天井亜雄の実験室があんのかね?」

天井がどういう経緯でここを手に入れたかはいまは関係ない。
いま必要なのは天井の研究室へといく手段だ。

垣根が考えている最中、初春は芳川の作ったワクチンソフトを解析していた。
同時にワクチンと同じ場所に保管されていたミサカ妹達のデータにも目を通す。

―― なるほど、これは想定されるバグを消すんじゃなく組み替えるものっぽいですね。消しちゃった方が早いと思うんですけどねぇ……。

想定される異常仮想マップと正常値のマップを見ながら、ワクチンのどこのシステムが異常を組み替えるのかを簡単に照らし合わせてみる。

―― しかし、凄いですね。芳川さんに本気でハッキングされたらうちの支部も破られるかもしれません、セキュリティ更に改良してみましょうかね。

垣根が建物内の構造を思い出しながら、一般研究員と隔離された部屋がありそうなところを考え、初春が自分の仕事をスムーズに進行させる下準備をしていると、建物の中から白衣をきた研究員が大慌ててで走り出てきた。

「な、なんだぁ?」

垣根は思考を保留し、駆け出てきた研究員の一人を捕まえた。

「おい、何が起きた」

「あ、あああ……あ、あく…あくせら……だ、第一位が……」

「チッ……んのバカ」

初春を乱暴に担ぎ上げると大急ぎで、暴れているという親友の元へ垣根は向かった。
730 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:06:35.95 ID:V83xhbCmo

〜〜〜

「だァかァらァ……俺はただ天井の研究室は何処だって聞ィてるだけだろォ?さっさと答えろよ」

言いながら研究員に向かって机を蹴り飛ばす。
その勢いは当たったら死んでもおかしくはない。

研究員は恐怖に体を震わせながら、涙を流しわからないわからない、とうわ言のようにつぶやくだけであった。

「わっかンねェ訳ねェだろォ?さっさと答えろよ」

ゆっくり研究員に近づいていき、その胸ぐらを掴み乱暴に立たせる。

「なァ……教えてくれよ、そしたらなァンもしねェよ」

研究員は震える事しか出来ない。
一方通行はめんどくさそうにため息をひとつつくと、研究員を壁に向かって投げ飛ばした。
なんの力も入れずに、なんの重さもその腕にかかっている様子をみせずに。

研究員は投げられた瞬間、その速度と迫り来る壁を視界の端に捉え、死という言葉が脳内を埋め尽くした。

そして、声を出す暇もなく、ただ、目だけをつむった。

731 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:07:36.34 ID:V83xhbCmo

死ぬ時とは案外穏やかなのかもしれない。
襲ってくるであろう激しい痛みはなく、握った拳、閉じた目の感覚はあるように感じた。

悲惨な状態になりすぎて身体が痛みを伝えるのに追いついていないのかと思い、恐る恐る目を開ける。

目に飛び込んできたのは自分の原型を留めない四肢ではなく、見覚えのある男の姿と真っ赤な血肉ではなく、真っ白な翼であった。

「大丈夫か?怪我してねーよな?」

その男は悲しみに満ちた目で優しく、研究員を気遣う。
そして、怪我がないとわかると立ち上がらせ、出口に向かって走るように言った。

「……」

一方通行は垣根の登場になにも言わず、研究所の奥へと進んで行く。
732 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:09:48.77 ID:V83xhbCmo

「おい、待てよ一方通行」

無視。
一方通行はもう関わらないと決めている。

「まてって言ってるだろ」

さらに無視し続ける。
一方通行は今垣根に何か言われたらまた自分がわからなくなってしまう。

「まてって、言ってんだろぉおおがこのクソガリィ!」

近くにあった壊れ落ちた椅子のキャスターを思い切り一方通行へ向かって蹴り飛ばした。

「チッ……」

それを反射せずに、はたき落とす。
代わりに転がっていた椅子をまるごと垣根に向かって殴りつけた。

―― いい、これを最後にすりゃいいンだ。垣根なら大丈夫。

なにが大丈夫なのかはわからない。
ただ、なんとなくそう思った。

「……なんだぁ?ここに来ると俺たちは喧嘩しなきゃいけねぇ理由でもあんのかぁ?あ?」

守るように翼で自分と初春の身体を包み、それを受け止める。
翼にあたり床にかしゃんと椅子が落ちると、翼を大きく広げながら一方通行を睨みつける。

が、すぐにその目は懇願するような物に変わった。
733 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:16:18.59 ID:V83xhbCmo
「なぁ、まじでどうしちまったんだ?ミサカの死なら全部終わったあとちゃんとに全員で悼んでやろう、芳川は死にゃしねぇし、こっからは誰ももう、死なない。俺とお前で、ミサカちゃん達の大切なもの、芳川の大切なもの、俺の大切なもの、お前の大切なもの……これ以上もう、失わぬように、戦おうぜ?」

無駄だと、垣根はわかっていたのかもしれない。
一方通行はあの惨状を見て、新しく生き方をすでに決めてしまっているかもしれないと心の奥底では理解していたのかもしれない。
だから、もう、垣根がなにを言おうと、それを変えるつもりはないのかもしれない。

だけど、言わずにはいられなかった。

垣根が選んだのは神裂の言葉と、自身の作り出した幻だったのかもしれないが、ミサカ00001号の言葉を参考にした道だ。
しかし、一方通行は一人で歩む道を決めている。
ミサカ00002号は半身とも言える存在の喪失でいっぱいいっぱいだったろうし、芳川は口も聞けないほどの傷を負っていた。

もしも、一人で決めたのならば、それは破滅へと誘う道だと、垣根は経験からわかっていた。
想いに目をつむり、全てを投げ出しミサカ00001号と共に眠る道を垣根も選ぼうとしていたのだから。

だから、一方通行の答えにも、垣根は驚かなかった。

「悪ィ、無理だわ。お前にも芳川にもそンで特にミサカどもに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。俺がいなきゃそもそもなにもはじまらなかった、俺がお前らと出会っちまった為にお前らに辛い思いをさせちまった……だから、俺はもう誰とも出会わねェように生きる」

「……そうか、わかった。出来たら俺は……死ぬまでお前と肩並べて歩きたいと思ってたけど、無理なんだな……それは悲しいが受け入れるよ、お前の人生だし……それに、家族じゃなくなるわけじゃねぇだろ?だが、さっき研究員を殺そうとしたのは許せねぇな」

当たり前のように、垣根は一方通行を家族と呼ぶ。

「芳川を、ミサカを……お前を傷つける可能性のある物は全部ぶっ殺すと決めたンだ」

「……芳川が聞いたらぶち切れるぞ?ミサカちゃん達も多分怒る」

「関係ねェよ、お前は家族だと言ってくれたが、もう、俺は違う。そンでそンな俺が勝手にやるだけだ、関係……ねェ」

「本当にもうなんの関係もないと……本気で家族じゃねぇと言ってんのか?」

「……あァ」

「……ふざけんな」

垣根は初春をおろし、一方通行へとズカズカ歩み寄る。
そして、その胸ぐらをつかもうとして




反射された。



734 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:19:03.37 ID:V83xhbCmo
「え?」

声を出したのは初春である。

付き合いがそんな無い初春でさえ、二人の絆の強さは知っていたし、一方通行が普段人の多いところでは反射を切っているという話も聞いた事がある。

そして、一方通行が反射するのは「自分に害をなす物」それだけだとなんとなくだが正しく理解していた。
どんな時でも一方通行が垣根を拒絶するとは思っていなかった。

だから、一方通行が垣根を反射した事に垣根本人よりもショックを受けた。

「そんなのって……だって、あなた達は……」

初春はこの二人のような友情を佐天や御坂、白井と築いて行きたいと思っていた。
彼ら二人の関係は決して壊れる事を想像させない、理想的なものであったのだ。
少なくとも初春にとっては。

だから、それが壊れそうな場面を目撃し、自分の目標を失ったような気持ちになったのだ。

「お前……本当にもう、俺らとは関係ない……って言うのか?」

寂しそうに垣根は震える声を出す。

「―――― 」

一方通行が口を開こうとした瞬間、それを遮るように初春が口を開いた。
735 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:20:15.71 ID:V83xhbCmo

「嫌です!駄目です、今あなたはなにを言おうとしたんですか?何があったかなんて知りません、でも、あなた達は、親友なんでしょう?いつか垣根さんがいってました、一方通行さんはかけがえのない大切なものだって、それは、一方通行さんも同じなんでしょう?死ぬほど辛く苦しい時にこそ、助け合うのが友人なんじゃないんですか?」

一気に喋り、一度大きく息を吸ってから続ける。

「こんな時に、垣根さんも一方通行さんも余裕なくて悲しそうで辛そうな……そんな時に、離れ離れになってどうするんですか?」

初春は真剣だった。
自分の目指す物を否定して欲しくなかったから。

だが、それでも、一方通行の出す答えはもう決まっている。

「垣根、さっきの答えはYesだ。俺はもう、誰とも関わる気はねェ、特に大好きなお前らとは……」

一方通行はそれだけいうと、研究所の奥へと消えて行った。
736 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:22:02.50 ID:V83xhbCmo

〜〜〜

「これは……?」

上条が発見したのは弱々しく画面を発光させるどこかで見た覚えのある真っ黒な携帯電話であった。

ディスプレイが生きているのが不思議なくらい、テンキー部分は粉々にされている。

ディスプレイの部分を慎重に手に取り、画面に写っている物を見て、これが一方通行の物であると思い出した。

―― 確か……。

上条は少し前に一方通行と垣根は何故携帯電話を二つ持っているのか聞いたことがあった。

『ん?あぁ、これは……なんつーか俺たちの……心の拠り所?』

『ン、まァそンな感じだな、ここまで生きてこれたのは間違いなくこれのおかげだ』

そんな二人の言葉を思い出す。
あの時の一方通行の『生きてこれた』は自分の正しいと思う道を貫き通してという意味に上条はとっていた。

―― それを壊したというのか?もう、自分の正しい道を歩く事を……諦める、ってこと……なのか?

「正義だなんだ言っといて、逃げんのか?一度心折られたくらいで、まだ確かに存在する守ると決めた大切な物からも、目を背けちまうのか?……それでいいのかよ第一位……」

―― お前は芳川さんを守ると決めたんだろ?

弱々しくもその存在を示すかのように光るディスプレイを見つめながら、上条は一方通行を一発ぶん殴る決意をした。

そのディスプレイには青紫色の携帯電話の待ち受けと対となる、芳川の寝顔が写っていた。
これもまた、垣根が撮ったものだ。

「とうま?」

「大丈夫、俺のせいとか今はそんな事よりも、純粋に道に迷った一方通行を助けたいと思ってるから」

携帯を拾い、なにやらポツポツ独り言をいう上条に不安を覚えたインデックスだったが、それはすぐに解消された。

―― とうまは、少しずつだけど変わってる。

それは嬉しくもあり、インデックスを心の支えとして必要としなくなる日がくる日が近づいているようにも感じられ、少しだけさみしいような気もした。
737 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/30(月) 01:27:51.57 ID:V83xhbCmo
終わりです

みじけぇ……そしてなんか話すすまねぇ……
さらに上条さん美琴ほどうまくフェードアウトしてくれねぇ
このままだといいとこ全部持ってきそうでこえぇええ

はい、そんな感じです

次回は
打ち止め救出
芳川手術終わり
病院に残った美琴黒子佐天00002号の様子
天井くんが今なにしているか

このへんまで書きたいかな

また読んでください


738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/30(月) 08:13:35.39 ID:/tuKY1UHo
乙だぜ
739 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:33:47.61 ID:WEELUuR2o

〜〜〜

―― 寂しいなンて思っちゃいけねェ。辛いなンて思っちゃいけねェ。

一方通行は奥にいた逃げ遅れた職員をみつけると、今度は天井の研究室ではなくここの設計図を出せと言った。
職員は会議室まで一方通行を連れていくとパソコンを起動させ、すぐさま要求の設計図を呼び起こしそれを、一方通行に見せる。

その設計図と自分がここに来て暴れる前に一通り見て歩いて測量したこの建物とを比べる。

実験室が三つ。
会議室が大部屋がひとつ、垣根が通された比較的小さな物が二つ。
入ってすぐの受付は先ほど一方通行が暴れたところである。
トイレが男女二つずつ。


―― みィつけたァ……。

不自然な空間。
そこにあたりをつけ、向かう。

カツカツと靴底が床を鳴らす音のみが響く。

―― 垣根のやつ、本気で怒ってたなァ……。初春の野郎はほんの少しだけ話しただけなのに、なンであそこまで……。

不自然な空間、それは男性用のトイレと女性用トイレの間。

設計図より若干広めに作ってある建物。
それは地下へ行くための通路を設計図上では消しているからだ。

そこをぶち破ってしまおうかと考えるが、なんとなくやめておく。
男性用のトイレに入ると個室の扉を次々開き、調べてみる。
が、わからない。

―― チッ……何だってンだァ?……あ。

そこである事に気がついた。

―― 天井はどォやってこの地下に機材を運ンだ?ちっと考えりゃわかることじゃねェか……。

ここは学園都市、超能力の街である。

空間移動。

この街には58人の空間移動系の能力者がいる。
金を積めば雇われるような輩も一人はいるだろう。

では何故通路があるのか?
それはおそらく制作途中にいちいち能力者を使うのは無理だったからだろう。
地下の仕上げをする時は通路も塞がれておらず、ちゃんと使われていたのだろう。
それが工事の終わりと共に塞がれた。
そういう事であろう。

一方通行は舌打ちをすると、トイレの窓から飛び出し病院へと戻った。

白井黒子を使うために。
740 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:35:20.69 ID:WEELUuR2o

〜〜〜

「はぁ……なんか私って本当に役立たずよね」

垣根と初春が飛び去ったあと、病院に残された四人は誰もいないロビーでぼんやりとしていた。

「そんな、御坂さんと白井さんがいなかったら私と初春は死んでましたよ?」

「それだって黒子だけで解決できたでしょう?」

「でも、そのあと河川敷では御坂さんがバリケード作ってくれたから耐えれたわけで」

「でも、結局捕まってあの赤い髪の人と垣根さんに助けられた……私なんかが、あなたたちを守りたいなんてやっぱ無理なのかな?」

珍しく弱気な御坂。
御坂もまた、大切な親友を失っていたかもしれないのだ。
少しくらい気落ちするのも無理はない。

「お姉さまは強いよ。垣根さんや一方通行なんかよりはまちがいなく、強い」

ミサカ00002号にとって御坂は憧れのお姉さま。
垣根や一方通行は心許せる親友という感じである。
だから、ミサカ00002号は二人に容赦ない。

「あの二人、特に白いの……みんな等しく辛いってのに一人でうじうじしやがって……普段人の事バカにするくせに自分が一番弱いんだ。それなのに、なにも話してくれない、弱音をミサカ達に向かって吐く前に勝手に諦めちゃう……それに比べたら弱音はきつつ励まされ立ち直るお姉さまはむしろ潔くてかっこいいよ」

「そうですの、私たちは友達なのですから……きつい時は助け合うのが当たり前なんですの」

「そうです!それにみなさんを励ます事しか出来ない私と比べたらビリビリできる分御坂さんはかっこいいですよ!」

御坂の顔に笑顔が戻る。
それを確認すると、ミサカ00002号はある決心をした。
741 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:37:18.34 ID:WEELUuR2o
―― ミサカ00001号の事……言わなきゃ……。

「お姉さま……ちょっといいかな?」

―― 大丈夫、泣かない自信はある。一方通行と垣根さんが不安定になっちゃってんだ、ミサカがしっかりしなきゃいけないんだ。

「え?いいけど……そういえばもう一人の妹はどこにいるの?」

ずっと気にはなっていたが、御坂もまたあえて聞く事ができなかった話題。
だが、00002号に呼ばれ察したのだろう。
00001号に何かがあったと。

「その、こと……な、んだけど……さ」

―― ダメだよ……ダメッ……泣かないって決めただろ、ミサカ00002号!

「ミサカ00001号さ……死、ん……じゃ―― 」

ミサカ00002号の目から涙が溢れ出そうとした瞬間、御坂は妹の事を思い切り抱きしめた。

御坂もそんな気はしていた。

暗い垣根。
鬱々とした一方通行。
泣かないように頑張っている自分の血をわけた妹。

そこにいるべき一人が見当たらなくての彼らの状態。

そして本気で殺しにかかってきた感情を奪われた妹たち。

「ご、めん……私、お姉ちゃんなのに……なんにも、出来なくて……ごめん……名前とか、私があげようって……もっと服とかケーキとか、食べ、させて……ごめん」

佐天と白井も最初は何が起きたのかと驚いたが、なんとなく察したようだった。

二人はそっと御坂達から離れ窓に近づいた。
そして、窓の外を眺めながら、つぶやく。

「私たちって……なんなんでしょうね」

「偉そうな事言っておいて……かける言葉が見つからない……なさけないですわね」


御坂とミサカ00002号は抱きしめあったまま動かない。
でも、お互い涙は最後の最後のところでこぼさずに済んだようだ。

「これが全部終わったら一緒に泣こう……それまでは、私もあんたも守るべき物を、守る事を……あの子が好きだった物をもう、壊されないように頑張ろう?……それまでは、泣くの我慢だね」

そういって、ミサカ00002号を離すと、ぎこちなく笑った。
742 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:39:51.62 ID:WEELUuR2o

〜〜〜

急所ははずれ、綺麗に撃たれていた事から、芳川の手術は簡単に終わった。
臓器は激しく傷ついておらず、弾も貫通していたため比較的楽だったよ、とカエル先生は笑っていた。

だが、大怪我に変わりはない。
病室へ運ばれ、機械につながれた。

面会は出来るが、目を覚ますのはまだ先、顔を見て安心したければ見てくるがいいと言われ、ミサカ00002号は芳川の病室へ向かった。

「芳川博士……良かったぁ……ごめんね、乱暴な姉で」

大丈夫と信じていてもやはり顔を見るまでは安心できなかったのだろう。
ミサカ00002号はそこでやっと、少しだけ穏やかな顔をした。

「……これ……って」

それは間違いなく一方通行の携帯電話である。

テンキー部分が粉砕され、ディスプレイが光を灯しているのが不思議な真っ黒携帯電話である。

「それ、とうまが拾って私に預けたから、とりあえずききょうのところに持ってきておいた」

暗闇から聞こえた声に驚く。

「インデックス?いたのかよう……声をかけてよ」

インデックスはごめんねと短くいうと、それきり黙る。

「……何も聞かないの?」

突然襲われた理由。
芳川の怪我の理由。

「うん、なんとなくわかるから……みさかいもうとは……」

インデックスの言葉を待たず、ミサカ00002号は頷いた。

「……そっか……ここは真っ暗、私もあなたの顔は見えない……だから―― 」

「だけど、ミサカは泣かないよ……ありがとう」

ミサカ00002号は携帯電話を机の上に戻し、部屋を出た。

このままそこにいたら、泣き出してしまいそうだったから。

「―― そっか……」

インデックスは機械の音と芳川の微かな呼吸音に包まれる部屋で、一粒の涙をこぼす。

「これは神様の元へかえったみさかの涙。そして、悲しむ前にやるべき事をやろうとするみさかの美しき魂への敬意の涙なんだよ」

743 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:40:36.67 ID:WEELUuR2o

〜〜〜

芳川の手術が終わる少し前、一方通行は病院へと舞い戻った。

御坂とミサカ00002号は顔を洗ってくると、トイレに向かい、ロビーには白井と佐天だけだ。

―― よかった。

ミサカ00002号と顔を合わせずに済んで。

「一方通行さん!どこいってたんですか?垣根さんは初春連れてなんかどっか行きましたよ?」

佐天は一方通行の姿を見つけると、走り寄っていった。

「知ってる……白井、ちと力を貸せ」

佐天をほとんど無視に近い形でやり過ごすと、白井に向かって声を張った。

「……わかりましたわ」

白井はなにか言いたそうな顔をしたが、それを飲み込み、おとなしく従う。

了承の意を貰うと、一方通行はさっさと外へと向かった。
それに白井も続く。

「佐天さん、お姉さまと妹さまに、黒子は出かけたと伝えてくださいな」

ついてこようとする佐天を白井は止め、伝言を頼んだ。

そして、一方通行に担がれ、佐天の目の前から消えた。
744 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:42:21.54 ID:WEELUuR2o

〜〜〜

「くそったれが!」

天井は自身の研究室を一方通行に教えてしまった事もあり、帰る場所を失った。

腹いせに雇っていたテレポーターを殺害するが、それでもイライラは収まらずミサカ妹達を犯そうかと考えたが、どうせなら一方通行達の目の前でやろうと考え、やめた。

「あぁ……くそっ!」

天井は今、垣根達が住んでいたマンションで、体を休めている。

ボロボロになったソファを、食卓のテーブルを、椅子を、次々に蹴り壊しながら、殴られた痛みを紛らわしていた。

―― 最終信号を救えたとしても、ミサカ00003業から00100号はもう命令を受付ねぇようにしてある。00101〜00300も無理に作った個体だ……ちゃんとに調整しても、もってあと半年……ひはっ!なんだなんだ?完璧じゃねぇか?

落ち着いて思い返してみると、天井の計画は成功といってもいいだろう。

一方通行達の目の前でミサカ00001号を殺害に成功し、それは一方通行に大ダメージを与えた。

妹達を殺されるのがそんなに辛いならば目の前で00100号までの98人全員を殺すのも面白いと考えはじめる。

―― 上条や超電磁砲を殺せなかったのは残念だなぁ……でもクローン殺したほうがダメージはありそうな感じしたし、いっかぁ……。

これから半年に渡り、二百名の妹達が日々死んで行くのに恐らく一方通行は耐えられない。

それを想像しただけで、天井はとても愉快な気持ちになった。

745 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:44:00.70 ID:WEELUuR2o
みじけーがおわり

打ち止めまだ助けれてねーや

なんか最近内容も微妙だし少しやすませてもらいま

746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/01/31(火) 07:15:05.72 ID:qm0+Wfrjo
俺は楽しんでるが…休みも大事かもな
楽しみに待ってる乙
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/31(火) 08:12:07.24 ID:/UU0vj9Go
天井くゥンは地獄をみろー
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/31(火) 09:14:12.90 ID:VkEoOZxIO
ずっと気になっていたんだ
「ちゃんとに」っておかしいだろって
それが破綻への序章だったんだ
749 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/03(金) 05:11:35.43 ID:0flqT09Yo
数えたら二十万文字超えてるとか
ビビるわ

一、二週間休もうかと思ったけど明日か明後日くらいにきます
なんかこれ以上投下せず休むとエタりそうでwwww
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/04(土) 23:24:02.56 ID:qcGEoNLuo
このSSつまんないだけじゃなくて>>1がきもすぎる
751 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/05(日) 00:00:40.09 ID:DxHzalvIO

〜〜〜

「妹さまが大変怒っておりましたよ」

一方通行に担がれながら天井の研究所へ向かっている途中、白井は静かにつぶやいた。

「もォ、関係ねェよ」

それ以上無駄口を叩くなというような拒絶をあらわにする。

そのまま無言で一方通行は目的地をめざす。

『頼むわよ』

芳川が、いつの日か言ったそんな言葉を思い出していた。
752 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:03:16.79 ID:DxHzalvIO

〜〜〜

「おい、携帯電話の番号教えろ、そんでまず俺だけを移転しろそンでなにもない座標を教えっからよ」

研究所に着くと一方通行は乱暴にそういい、白井はそれにおとなしくしたがった。

「では」

そういうと、白井は一方通行の肩に触れ、言われた座標へと飛ばした。
その直後、携帯がなり、同じ座標で問題ないとの事を言われる。

―― あれ?どうして一方通行さんは垣根さんが初春を連れて行った事を『知っている』といったのでしょう?

もしかして、と思い白井は研究所のなかへと足を踏み入れた。

ボロボロになった来客対応の受付。
そこに立ち尽くす第二位・垣根帝督。
どうしていいかわからずオロオロする初春飾利。

理解不能な光景が白井の目の前に広がっていた。

「い、いったいどうしたんですの?垣根さん?しっかりしてください!初春!落ち着きなさい!」

垣根の肩を揺らし、垣根の意識を現実へと引き戻す。

「あ、あぁ……あれ?黒子ちゃん?どうしてここに?」

垣根へ自分がここにきたいきさつを話しながら初春の頭をはたき、落ち着かせる。

白井の話を聞くと、垣根は迷うような顔をしながら俺も連れて行ってくれと頭を下げた。
753 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:04:25.57 ID:DxHzalvIO

〜〜〜

―― きったねェ所だなァ。

目に入るゴミの山にしたうちをしながら、打ち止めを探す。

天井の研究室は研究室というより簡単な仕切りのある体育館に近かった。
机や椅子の他には調整槽しかない。

薄暗い部屋の中、耳を澄ますと呼吸音がかすかに聞こえた。

「あっちか?」

その音のする方へゴミを蹴散らしながら向かう。
汚い調整槽がめだつ。

―― こンなのに入ってたらそれだけで病気になっちまうンじゃねェか?ふざけやがって

分かり切っていたことだが、天井がいかに妹達をぞんざいに扱っていたかを思い出し、気分を悪くした。
そして、微かな音を頼りに歩みを進めると……蓋の開いた調整槽にぐったりと倒れこむ打ち止めを見つけた。

「こいつか」
754 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:08:36.72 ID:DxHzalvIO

〜〜〜

調整。

それは、普通の人とは違った産まれ方をしたミサカ妹達が生きて行く為に必要不可欠な行為である。

今、ミサカ達は大きくわけて三つに分類できる。

一番丁寧に、無理なく創り出された打ち止め。

そこそこ丁寧に創り出され、その後の調整は完璧に施されているミサカ00001号とミサカ00002号。

そしてミサカ達にかかる負担など微塵も気にせず『最悪一週間"動けばいい"』という理由で生み出され、調整もまともに受けていないミサカ00003号からミサカ00300号。

調整とは普通の人よりも弱い免疫や、臓器の働きを助けるためのものだ。
芳川は二人が産み出されてすぐの頃は、毎日二人の身体検査をし、それぞれの身体にあった浸透液を調合していた。
だから、ミサカ00001号と00002号は一方通行達と出会う頃には調整がなくともそこそこやっていける身体になっていたのだ。
そして、その後、カエル顔の医者のところで受けたより精密な調整。
これにより常人と変わらぬ身体になったといっても過言ではない領域に達した。
それでも最悪一年に一回は調整が必要なのだが。

打ち止めは、常に調整槽にはいり、常に万全のコンディションを保たれている。
それは、打ち止めが使い物にならなくなったら天井が困るからだ。
一方ミサカ00003号以下の個体、彼女らは天井にとっては動けばいいだけの個体なので、作り出されたあと満足な調整もされず、死なないようにされていただけだ。

一番理想的な調整を受けたミサカ00001号と00002号でさえ寿命はおそらく40〜50歳とカエル先生は結論づけている。

ならば、最低の環境にいたミサカ00003号以下の個体達は?

正直、いつ死んでもおかしくはないのである。
755 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:10:25.43 ID:DxHzalvIO

〜〜〜

打ち止めを見つけた一方通行はその身体を抱き起こし、声をかけてみる。
が、反応はなく苦しそうな吐息を漏らすだけであった。

―― チッ……まて、こいつはなんでこンな苦しそうなンだ?

芳川とミサカ00001号とワクチンソフトを作ったとき、三人は『打ち止めは恐らく調整槽の中に閉じ込められている』という想定であった。

もし妹達が暴走したとき、打ち止めがいないと天井も困るのだから、打ち止めは命だけは安全だと芳川は予測していた。

が、その予想ははずれた。
芳川は天井の異常性、一方通行への執着を見誤ったということであろう。

『一方通行とついでに未元物質を地獄のような苦しみにつき落とせたらあとはどうでもいい』

天井はどうせ自分は殺されるということを理解している。
だからこそ目的を達成できるならば、あとのことなどどうでも良いのだ。
その時すでに自分は死んでいるのだから……。

そんな彼がなぜ。ミサカ妹達にゴーグルと鼻口を覆うプロテクターをつけさせ、御坂美琴のクローンと一目では認識できないようにしたのか。
それは、御坂美琴を殺害できようが出来まいが天井が騒ぎを起こした後『禁止されている人間のクローニング』の件でオリジナルとなった御坂がただ騒ぎたいだけの馬鹿どもに糾弾されるという可能性を考えてのことだ。

天井は妹達の顔を隠す事で、それを少しでも回避しようとしたのだ。
756 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:11:59.57 ID:DxHzalvIO
ただ、ひとつ勘違いして欲しくないのは、それは天井の優しさでも正義でもないというところだ。

馬鹿どもに騒ぎ立てるエサをやるのが気に食わないだけ。
御坂の心情、その後の生活のことなどカケラも考えてはいない。

ただ、気に食わないから。

そんな子供っぽい感情からである。

―― まてまてまて、落ち着け。こいつの状態がどうであろうと関係ない、俺は妹達の強制命令を解除する命令をこいつから流せばいい、やる事は変わらねェ。

打ち止めを調整槽へ入れ、コンソールをいじる。

ここから作ったワクチンソフトを流し、それと同時に先ほどシミュレーションしたようにすればいい。

イメージはそんな感じだ。

―― こいつが苦しそうなのは恐らく調整槽から放り出されたから、もしくは妹達とは別の命令を最終信号であるこいつ自身が天井に直接叩き込まれたからだ……妹達を無力化したあとミサカの正常値に書き換えてやればいいだけだ。

そして、はじめる。

芳川のプログラムを打ち止めにインストールし、それを強制命令として妹達へ発信、途中からそれに手を加えていく。

時間にしておよそ数分、その数分一方通行は自身の脳を全てその作業に向ける。
決してミスをしないように何度も検算する。

そして……。

「完了……か?」
757 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:13:59.05 ID:DxHzalvIO

打ち止めは未だ苦しそうだが、妹達の命令解除の手順は終わった。

「これ、妹達どォなるンだ?」

『強制命令を解除する』それだけを考え、成功したあとのことは全く想像していなかったことに気がつく。
今も恐らく何割かの妹達は病院の周りを囲んでいるだろう。
そこで倒れていたらどうなるのか。
季節が季節なので外で行き倒れていても命に別条はないだろう。
しかし、武装した集団が一般人に発見されてしまったら?

「大、丈夫だよ、って、ミサカ、はミサ、カは、一方、通行?に教え、てあげ、る」

突然声をあげた打ち止めに一方通行は少々驚いた。

「お前……大丈夫なのか?というか、喋れたのか」

「うん、あな、たは一方通行であってる?それ、とも、垣根帝督なのかな、ってミサカは、ミサカは、質問、して、みる」

途切れ途切れなのは、言葉を喋るのが初めてなのか、それとも声を出すのも辛いのか。
多分、両方なのだろう。

「一方通行であってる。お前を助けたい、どォすりゃいいかわかるか?」

「うん……その前に、言っておかなきゃ……妹達……00003号から00100号は、多分、助からない……残りの妹達も、多分、もって、半年……ってミサカは、ミサカは……」

「は?な、なンで?」

「00100号までの、ミサカは、命令を、受け付けない……そういう風に、天井亜雄が、改造したんだよって、ミサカはミサカは説明してみる……残りの、ミサカは無理な身体成長と、適当すぎる調整で、寿命自体が、短い……って、ミサカはミサカは、追加説明してみ、たり」

「やっぱり、俺は、誰も……守れねェのかよ……」

「そんな、こと、ないよ……って、ミサカは……00001号は、あなたにも、垣根にも、感謝してたし、今、解放された、ミサカたちも……きっと感謝してる…ミサカが、今、喋れるのは、00001号と、解放された、ミサカの、おかげ……ネットワークは、使い方、ちゃんとすれば、便利なんだよってミサカは、ミサカは笑ってみたり……」

弱々しく、目を細める。

「多分、生存本能って、やつなんだろうね……00002号は、ネットワークとの、繋がりが弱いから、モヤモヤした物しか、わかんないけど……他のミサカは、みんな、このミサカに……」

「お、前……に?」

「ミサカに、遺してる……色々と、ね……そろそろ、限界だから、やってもらいたいことを……説明するね」

打ち止めは目を閉じ、ゆっくりと説明を始めた。
758 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:14:37.30 ID:DxHzalvIO

今は打ち止めの入っている調整槽に昨日のデータが残っているはずだという事。
それを参考に、一方通行の能力だけで打ち止めにインストールされているソフトを破壊、もしくはアンインストールして欲しいという事。

だから、まず、昨日のデータを見つけ出して欲しいと、打ち止めは言った。

「お願いし、ますって、ミサカ、はミ、サカは……頼んでみたり……でも、無理、しないでね?人は誰でも、向き不向き、出来る事と、出来、ない事があるって、00001号、が、いって、たか、ら……」

「……任せろ、必ず助けてやる」

一方通行は打ち止めに、力強く宣言した。
759 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:15:51.28 ID:DxHzalvIO

〜〜〜

上条当麻は走っていた。
どこに向かっているのかは上条にもわからない。
ただ、がむしゃらに走っていた。

馬鹿正直に正面から病院を出て、ひたすらまっすぐに。

「あああああ!もうっ!何やってんだよチクショーが!」

病院から離れ、人払いの魔術の効果範囲外に出ると、そこでは日常がまだ続いていた。

突然叫んだ上条を周りにいた数人の人達は奇妙な視線で見つめるが、上条は気にしない。

―― 一方通行はどこ行きやがった?携帯もでねーし垣根も同じだ。

自分が病院を飛び出した頃、垣根は病院へ駆け込み一方通行は芳川の研究所へと跳んでいったのを上条は知らない。

じっとしていられなかったから上条は走り出しただけで、なにも考えがあるわけではないのだ。
760 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/05(日) 00:17:19.49 ID:DxHzalvIO

そんな上条に声をかける一人の男がいた。
金髪アロハ、上条の親友、そう土御門元春である。

「おっ、カミやーんサボりか?」

「土御門?……ってサボりってなんの話だよ」

「もちろん、妹達の件なんだにゃー」

ニヤリと笑うと、サングラスの奥の目を細める。

「お前の部屋と超電磁砲のお友達の部屋、それに第一位と第二位のマンション、超電磁砲はコンビニでいきなり襲われたそうだな……そんな事件が起きてるのに、学生が街中うろついてられるわけないだろ?」

表向きはただの事故、御坂については襲撃自体がなかったことと処理されていると教えられる。

「た、確かに……でも、おま、なんで、知って……?」

上条は土御門が余りにも知りすぎていることと、普段のおちゃらけた口調から真面目な物になったことに戸惑う。

「そんなのどうでもいいにゃー……ま、友達としてひとつ情報をくれてやるぜい!一方通行ならカミやんも縁のある所にいるんだにゃー」

「俺も……縁のある?」

一方通行達との出会いをひとつずつ思い出す。

まず喧嘩を止めた。
垣根を殴って、殴られたなんてこともあった。
それは二人の作戦に利用されてただけだったりもして、でも二人が優しいやつなんだと確信が持てて嬉しかった。
インデックスを助けるのに手を借りたり、勉強も教わった。
遊園地にも行ったし、一方通行と年頃の男の子らしく好きな子の話なんかもなんとなくした。

そして、今三人は普通に友達と呼べるレベルにまで至った。
761 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:19:12.13 ID:DxHzalvIO
―― 喧嘩……そういや、あの研究所で垣根に会ったのが全ての始まりか……あ。

「あそこなの、か?」

答えを出した上条に、土御門は満足そうに頷いた。

「でも、カミやんは天井の研究所にははいれないにゃー……それでも行くならいけばいい、出てきた所をうまく捕まえられるかもしれないぜい……って人の話は最後まで聞くもんだにゃー」

上条は、自分の考えが正解だと分かると否や、土御門に短く礼をいい走り出した、今度は目的地を定めてから。

「頑張れよ上条当麻。一方通行の運命は、お前含む第一位の周りの連中が握ってるといっても過言じゃないぞ……あいつのことは良く知らんが学園都市に借りを作るような真似だけはさせるなよ、暗部は一方通行を喉から手が出るほど欲しがってるからな―― 少しでも付け入る隙を作ったら楽しい楽しい暗部落ちだ」

サングラスを掛け直し、土御門は上条とは逆側へ歩き始めた。
762 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:19:44.57 ID:DxHzalvIO

〜〜〜

「チッ……打ち止めの言ってたデータってのはどれだァ?ンなもンねェぞォ」

頭をガシガシとかきながら、一方通行は調整槽のコンソールやら近くにあったパソコンやらを隅々まで調べる。

「一方通行……妹達は、打ち止めは助けられた……のか?」

そこへ、垣根と初春、白井が合流するが一方通行はそれを無視する。

「おい、一方通行?」

「チッ……うるせェぞ三下、てめェは病院に帰れ……芳川のとこにいろ」

キーボードをカタカタ叩きながら、乱暴に言う。
芳川に誰か信頼できる人が一人でも多くついていてほしい。
素直にそう言えないのはもう関係ないと切り捨ててしまったから。
763 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:20:15.41 ID:DxHzalvIO

「あなたは一人でやらなきゃ気が済まないのですか?あなたと垣根さんの間にこの短期間でなにがあったかは存じ上げませんが……目的は同じ、ならば仲間同士協力したらいいんですの。第一位様はそんな簡単なこともわかりませんの?」

挑発するように、白井が一歩前へと出て言った。

「パソコンをいじっているということは、なにか必要な情報があるという事ですわよね?だったら、恐らく一方通行さんより初春のほうが役に立ちますの、なにを一人で背負っているかは知りませんが、くだらないプライドで“また”大切な物を失うつもりですの?」

また。

その言葉に一方通行と垣根はぎょっとする。

何故、白井が00001号の死を知っているのか。
そして、今のままだとまた、失うと白井は言う。

「黒子ちゃん……なんで、いやなにを知ってるんだ?」

「何も知りませんわ、ただ、お姉さまと妹さまのやり取りで推測しただけですの」

初春は白井と垣根の顔を見比べる。
一方通行のほうはわざと向かないようにしているようにも見えた。
764 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:20:52.52 ID:DxHzalvIO

「そうか……ミサカちゃんが、美琴ちゃんに言ったのか、俺が言おうと思ったのにな……ミサカちゃんには辛い思いさせちまったかな」

「お姉さまの妹さまはそんな弱い方ではありません。もちろん、お姉さまも……いじけて一人で勝手な義務感を感じて突っ走る第一位なんかよりも、ずっとずっと強い姉妹ですわ」

四人の間に重苦しい沈黙が流れる。
部屋には調整槽の駆動音と一方通行がキーを叩く音だけが不協和音のように流れるだけだ。
そんな空気を破って声を出したのは、初春飾利であった。

「……一方通行さん、手伝います。私なら多分、探し物見つけられます。打ち止めさん?もきっと助けることができます。初めてあった時、白井さんが言いましたよね?『何かお困りのことがあったら一七七支部までお越しくださいませ』って……今、一方通行さんはお困りです。だから、私達一七七支部に頼ってください!私は……私と白井さんは学園都市の学生を守る、風紀委員なんですから……」

一方通行の暴れた傷跡や、未遂だが人を殺そうとした場面を見て、第一位の能力『一方通行』を肌で感じた後でも、初春飾利、白井黒子は一方通行を守るべき学生だと言う。
仲間だと言ってくれる。
765 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:22:14.00 ID:DxHzalvIO

―― だけど、俺は……一人で守ると決めたンだ。

一方通行はキーボードから手を離し、硬く目をつむった。

―― 関係ないと切り捨てたンだ。頼っちゃいけねェ。

「わりィが――」

「あなたが垣根さんや芳川さん、私達と個人的な関係を断ち切ったとしても、この街の学生であることに変わりはありません、風紀委員は見知らぬ学生でも……守るんです」

答えを決めたように、目をゆっくりとあけながら一方通行は初春の申し出を蹴ろうとした。
が、その時、失ってしまった大切な人が、一方通行へと話しかけてきた気がした。

『適材適所ってやつではないのですか?とミサカはいつか一方通行に言われたことを思い出します』

「あ……」

一方通行も何かを思い出す。

一番の目的はなにか。

それは、守る事、大切な人を傷つけないこと。

それは、笑っていて欲しいから。

切り捨てたのも、そのためだ。

切り捨て、その上助けることもできなかったら……それが一番恐ろしい。
766 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:23:18.76 ID:DxHzalvIO

―― 助けるために駒を使うと思えばいいンだ。白井だって、そうだったろ……必要だから使った。

「初春……頼ンだ」

一方通行は立ち上がり、初春に席を譲った。

初春は自信満々に、はい、とだけ答えパソコンに向かう。

『それで、いいのです。とミサカは微笑みます』

空耳でもいい、幻覚でもいい。

―― お前は、死んでもそォやって、笑ってられるような、そンな人生送れたのか?

打ち止めは言った。

『遺している』

それがどんな物なのか、妹達以外の人にも見える形で遺した物を現せるのだろうか。

もしそうならば、00001号が好きだと言った垣根に、00001号の遺した物を見せてやりたいと一方通行は思った。
767 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:23:53.40 ID:DxHzalvIO

〜〜〜

「黒子ちゃん、一回外まで飛ばしてくれるか?」

初春がパソコンをいじり出すと、一方通行は脳を休めるためか、調整槽の横へ腰かけ目を閉じた。
そして、微動だにしない。

「……わかりましたわ」

「ありがとう、終わったら全部話すし、それでそのとき文句でもなんでも聞くだから今はただ手を貸してくれ」

白井は頷くと、垣根と共に外へと移動した。

残された二人は無言で作業を進める。

初春の紡ぐキーを叩く音は、どこか楽しげで、聞いていて落ち着くものだった。
768 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:24:37.22 ID:DxHzalvIO

〜〜〜

「な、何があったんだ?」

上条は研究所へとたどり着いた。
駆け込むと、そこはひどい荒れようだった。

「上条、無事だったのか……よかった」

「垣根……一体、何があったんだ?一方通行は?ミ、ミサカ……は?」

上条はまだ、ミサカ00001号が生きているかもしれないという微塵粉ほどの可能性を捨てたくなかった。

「迷惑かけてるよな、悪い。一方通行は今、妹達を守ろうと……救おうとしてる。ミサカは……死んだ。守れなかったよ、俺」

垣根は上条へ、泣きつきそうになるのを必死に堪えた。

「迷惑なんかじゃねぇよ、むしろ俺は知らないところでお前らが傷ついてるのを……傷ついたのを後で知るほうが嫌だ……でも、そうか……いや、お前達が頑張ってるのに、俺だけ泣けねぇよな」

無理矢理に笑顔を作る。

本当は心が引き裂かれそうだった。
お前らと知り合っちまったから、疫病神だからと言いたかった。
でも、それは違うと上条はわかっている。
それは垣根や一方通行を侮辱する行為だとちゃんと理解している。
769 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:25:29.55 ID:DxHzalvIO

「垣根は、これからどうするんだ?」

「俺は……ミサカの大切なものを守る。これ以上、何も失いたく、ない、から」

―― もう、一番の親友を失っちまったようなものだけどな。

「そうか、お前は強いな」

―― やめてくれよ、俺は弱い。今まで無関係な人までをも全部救ってきたお前に比べたら、俺たちは弱い。

研究所内は壊れ、荒らされ、そして暗い。
夏だというのに肌寒く感じるような錯覚を覚えるくらいどんよりとしていた。
少し前までは、何も知らない研究員達が愚痴をこぼしたり笑いあったりしながら、研究を勧めていたのだろう。
その温度差が垣根の心にのしかかってくるようだ。

「というか、お前それ何持ってるんだ?」

上条の言葉で垣根は現実へと引き戻される。

「打ち止め素っ裸だったからとりあえず毛布にくるんでやろうと思ってな」

穏やかに、愛おしそうにミサカ00001号から『助けてやってくれ』と直接言われた子供の名前を口にした。

「そっか……白井がいるって事は、テレポートじゃないと行けない場所にいるんだな?」

確かめるように尋ねる。
土御門の言葉は微かだが届いていたようだ。

「賢くなったな、上条」

手がかりなしでそこにたどり着いたと思った垣根は、素直に感心していた。
小さく笑うと、そういうことだからお前は病院に行ってくれと上条に言う。

「芳川に、ついててやってくれよ。一方通行も俺もお前なら安心して芳川やミサカちゃんを任せられる」

当然、上条は頷いてくれると思った。
だが、上条は一方通行に会いに来たのだ。
目的を果たせずに帰るなんて事は決してしない。

「悪い、それは無理だ。俺は一方通行に言いたいことがあるんだ」

だから、ここで待ってる。とその意志を変えることは誰にもできない。

「そうか、じゃあ俺が戻る」

垣根は毛布を白井に渡すと、とぼとぼと歩き始めた。

「上条、一方通行の事……頼んだ」
770 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:26:00.74 ID:DxHzalvIO

〜〜〜

「一方通行さん、見つけたには見つけたんですが……」

「……なンだ?今更無理とか言うなよ」

垣根と白井が消えてから数分、初春が困ったような声を出した。

「いえ、出来なくはありません……ただ、このPCじゃ無理です」

「は?どういうことだ?」

「目的のは調整データでいいんですよね?それは既に消されています。データの消去っていうのは『データの上に消去したという情報を上書きする』という事なんです。完全に消去って難しいんですよ……それでそれを復元すればいいんですけど……この情報を復元しようとすると何個も連鎖的に色んな物が展開されちゃってこのPCのスペックではおそらく作業中に落ちてしまいます。持ってきたノートの方とこのパソコンを同期させたんでここじゃなくてもデータの解析はできます。私のパソコンは多分壊れてしまってるので一七七支部へ移動しましょう……この時間なら誰もいませんし、打ち止めちゃんが人の目に触れる心配もありません」

「わかった。こいつはとりあえず病院へ連れてく、お前はデータサルベージ出来たら連絡くれ」
771 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:26:43.36 ID:DxHzalvIO

〜〜〜

「一方通行さんに何をいうつもりですの?」

垣根の姿が見えなくなると白井は上条に声をかけた。

「なんだろうな……逃げるな、かな?それともふざけるな、かも……ただ、俺は一方通行の生き方を認めない」

一方通行と垣根は今は違えてしまったが、同じ道を歩んでいた。
芳川を、ミサカ00001号を、ミサカ00002号をそして、お互いを何があっても守りきるんだと。

「俺、逃げ道のない世界なんて間違ってると思うんだ。俺も外の世界からこの街に逃げ込んだわけだしな……でも、逃げるだけだとダメなんだって最近わかった。逃げたあと考えなきゃいけないんだよ……どうすればいいか、どうすれば同じ間違いを犯さないかを……一方通行は何もかも捨てることを選んだんだと思う……それは逃げただけで終わってる。ミサカを失った悲しみや苦しみにすぐ向き合えないのはしょうがないことだと思う、でも逃げっぱなしじゃダメなんだ。いつかは向き合わなきゃ……ミサカが可哀想過ぎるだろ?一方通行は何もかも捨てようとしてる、思い出すからあの家で一緒に生活した全てを捨てようとしてる、そんなの許せない……月並みな言葉だけどミサカはそんな事望んじゃいねぇと思うんだ」

一方通行は思考停止していると上条は言った。
逃げただけでそれ以上は何もしないと。
そしてそれは間違いだと言った。

逃げ続ければ楽かもしれない、実際上条も今まで不幸にも事故に遭いそうな人を何度も助けてきたが、その人たちからかけられる言葉や感情からは逃げ続けていた。
助けて終わり、自分のやりたいことだっけ終わりにしていた。
でもそれは独善的で傲慢だ。
上条はただ人を助ける機械だったのだ。

大切なものを守る。
一方通行のその目的は変わっていないがその大切なものの心をも捨てようとしている。

それでは、大切なものを自ら傷つけるだけである。
772 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/02/05(日) 00:59:22.70 ID:fFra7i41o

〜〜〜

「あ、白井さん……垣根さんは?」

白井が地下に戻ると初春はパソコンを閉じ移動する準備を整えていた。

「病院に戻りましたの……一方通行さん、打ち止めさんにこれを」

初春を軽くあしらい一方通行へ毛布を渡す。
受け取ると調整槽を開き、その身体を毛布で巻く。
そのまま胸に抱きかかえると、優しく頭を二度叩いた。

「よし、白井外に送ってくれ」

白井は頷くと二人に触れ、順番に外に飛ばす。
そして最後に自身も移動した。

773 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/05(日) 01:11:56.45 ID:fFra7i41o
今日のぶんおわり

つまらないと思う部分やキモイと思う部分は具体的に「こうなおしたがいいよ」と言ってくれると嬉しいです
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 02:06:08.25 ID:7iRJEKWN0
一方さん…切羽つまった追い詰められ感がつらいわ
乙‼ 自分は楽しみにして読んでるよ
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 02:11:27.49 ID:bAsYRSoDo
>>773 あとがきとかでグチグチ言うのやめたほうがいいよ
776 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/05(日) 02:18:32.61 ID:fFra7i41o
>>775
わかりました
ありがとう!
777 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 00:33:58.02 ID:2/ekjtq3o

〜〜〜

「……第二位はどこに行った?」

外に移動すると、そこにいるであろうと思っていた存在がいない。
一方通行の中で計算が少々狂った。

「……垣根さんなら貴方の言いつけ通り病院へと戻りましたの」

棘のある言い方で白井は言った。

「チッ……俺の言う事素直に聞く奴じゃねェだろォが」

完全な八つ当たりである。
見ていて不快になるほどの自己中心的な考え。

「それほどに、素直に言う事聞いて"あげなくちゃ"と思わせるほど一方通行さんが哀れになったんじゃありませんの?」

白井の言葉に一方通行は何も答えない。
少し考えたあと、携帯電話を取り出し垣根へと電話をかける。
778 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 00:35:56.91 ID:2/ekjtq3o

三コールほど鳴らすと、警戒したような垣根の声が電話口から聞こえてきた。

『……誰だ?』

「俺だ、一方通行だ。第二位、お前に頼みたい事があるンだが」

『なんでお前がその携帯持ってんだよ』

「今はンな事どォでもいいだろ……風紀委員の一七七支部へ来い、今すぐだ」

『チッ……第二位、ね……いいぜ?すぐ、行くよ』

要件だけの短い電話。
まるで仕方なく仕事を共にしているだけの関係のようだ。

信頼しあって頼りにしあっていたのが嘘のように見えるほど二人の関係は一方的に断ち切られようとしている。
779 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 00:36:23.82 ID:2/ekjtq3o

―― これでいいンだ。これで……。

初春に打ち止めを抱かせ、その初春ごと抱える。
もう一方で白井を抱え跳び出そうとすると、上条当麻が怒鳴った。

「一方通行ァアア……お前どういう事だよ」

「うるせーぞ無能力者、クソみてェな三下が俺に偉そうに怒鳴り散らすな」

「人と話す時はちゃんとに顔見ろよ」

一方通行はわざとらしく舌打ちすると、上条へと振り返る。
780 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 00:37:07.69 ID:2/ekjtq3o

「―― ッ」

その表情を見て上条は言葉を失った。

―― やっぱり……。

「なぁ、お前だけが悲しいわけじゃない。なんで、それに気がつかない?言葉を刃にして垣根に振りかざし、でも、お前の方が傷ついてるじゃねぇか……お前今どんな顔してるかわかってんのか?いろんな感情ごちゃまぜてでもそれを必死に隠そうとして……ミサカが終わるまで泣かないと決めたはお前らが泣けるようにだろ?それなのに必死に自分の気持ちを殺して幻想に駆られて敵でもない通りすがりの誰かといちいち殺しあって……お前は、守ると決めた人を自分の行動で傷つけてるだけだ」

一方通行は表情を崩さない。

「逃げるなよ!ひとつ大切ななにかを失った、そりゃ辛いさ……わかるとは言わねぇけどさ……そのひとつは、お前に生きていて欲しいから、幸せになって欲しいから、命を張って精一杯やった結果が死だったってだけだろ?それなのに、お前は大切にしている人の、その心からも逃げようとしている……逃げるだけじゃなくて、考えろ!頭いいんだろ?ちゃんと考えろよ!……もし、考え抜いてそれで、そんな人の心を踏みにじるような道しか選べないというなら、大切なものを全部投げ出すっていうならお前の心を隠している仮面を……その幻想をブチ殺す!」

「……言いたいことはそんだけか」

一方通行はそれだけ言うと、大きく跳んだ。
上条の前から、無能力者の前から学園都市最強の男、第一位・一方通行は逃げ出した。
781 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 00:37:57.63 ID:2/ekjtq3o
短いが終わり

782 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 03:40:58.40 ID:2/ekjtq3o

〜〜〜

「……んで?俺を呼び出したわけは?お前は、一方通行は俺をどう使うんだ?」

多少の嫌味を込め、垣根は自らを駒としてしか見ていない一方通行に微笑みかける。

「……白井と初春を守ってやれ、こいつらは、第三位の大切なものだから」

「……いいぜ、俺の目的とも合致してるしな……お前はこれからどうするんだ?」

「……お前には関係ない」

終始目を合わせぬようにと、一方通行は振舞う。
783 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 03:44:31.76 ID:2/ekjtq3o

今、最も自分の事をよく理解しているであろう垣根と目を合わせてしまったら、自分が間違っているという事を突きつけられそうだったから。
上条の言っている通り、これがただ思考停止し、逃げ回っている事だと自分で認めてしまいそうだから、一方通行は目を背けた。
第二位からも、逃げ出した。

「そうかい。じゃあ、な」

―― 一方通行、ミサカの大切なものの中にはお前もいるんだぜ?さっきは驚いちまったが、お前があんなこと本気でいうはずないもんな……だって、俺たちは家族なんだから、許してもらえるって分かってるから無茶苦茶やってんだろ?いいさ、間違えたらぶん殴ってでも止めてやる。

垣根はそんな一方通行の不安定すぎる追い詰められた感情を理解しているのだろう、さみしそうに二人は背中を向き合わせ、別々の所へ歩んで行った。

―― 分かってンだよ、そんな事くらい。

上条への、返事を今更心の中でした。
784 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 03:45:11.00 ID:2/ekjtq3o

〜〜〜

「あくせら……れーた……?」

必死に御坂や00002号と目を合わせぬようにしながら、一方通行は佐天に芳川の手術の終了とカエル先生がどこにいるのかを聞き出した。
そして打ち止めをカエル先生に預け、芳川に携帯電話を返すため病室を訪れた。
カエル先生が言うには麻酔は切れただろうがまだ目を覚ます事はないと言われたからだ。

そして、一方通行が病室へ入り、自分の壊れた携帯電話の横に芳川のものを置いた。

目に焼き付けるように芳川を見つめていると、芳川はぼんやりと目を開けた。

「どこに……いく、の?」

まだ、ちゃんとに覚醒はしていないのだろう。
言葉はおぼつかない。

「また、わたし……のまえ、から……いなくなるの?」
785 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 03:49:47.29 ID:2/ekjtq3o


「―― ッ!」

顔を少しだけ、泣きそうな、媚びるような、そんな切ない表情を芳川は一方通行へと向けた。

一方通行は相当に揺れているのだろう。
半覚醒の芳川にすら心を見透かされた。

―― ックソ……最後だ。これが最後。

一方通行は言い聞かせるように心の中でこれが最後だと何回も唱える。

「いやだよ……もう、ひとり……はいやだ」

一方通行と垣根と芳川、それぞれが引き離された十年間、三人は三人とも一人ぼっちだったのだ。
その事を、つい数ヶ月前までの事を一方通行はひどく懐かしく感じていた。

「……大丈夫だ。垣根もミサカもいるし……俺の、心……は、常に、お前の側に……ある」

震える声で一方通行は芳川に語りかける。
とてつもなく、穏やかな顔で。

そして、芳川の頬をそっと撫でると、眠りにつくように優しく言った。

「***、わたしの、心も……変わらないよ……なまえ……を」

呼んで、言われる気がした。
そして、名前を呼びたいと思った。
愛しく優しく、大切な人のその名前を呼びたいと思った。

「桔梗、もう、いい。あとで聞くから、もう、眠れ……そンで、早く元気になれ……そしたら、ミサカの、墓に……花ァもってって、やろォぜ……みンなでさ」

決して実現させないであろう未来を語る。
その中では死んだミサカ00001号までもが笑顔で、みんな泣きながらも笑顔で花を添えている。
そんな光景が思い浮かぶ。
だが、それは決して叶わない。
今のままでは。
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 18:37:02.46 ID:YhEsJaC00

芳川さんセツナス(ノД`) 
787 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/07(火) 02:07:02.90 ID:jnvXH1+wo
--訂正--

「―― ッ!」

顔を少しだけ、泣きそうな、媚びるような、そんな切ない表情に変え、芳川は一方通行へと向けた。

一方通行は相当に揺れているのだろう。
半覚醒の芳川にすら心を見透かされた。

―― ックソ……最後だ。これが最後。

一方通行は言い聞かせるように心の中でこれが最後だと何回も唱える。

「いやだよ……もう、ひとり……はいやだ」

一方通行と垣根と芳川、それぞれが引き離された十年間、三人は三人とも一人ぼっちだったのだ。
その事を、つい数ヶ月前までの当たり前のような地獄を一方通行はひどく懐かしく感じていた。

「……大丈夫だ。垣根もミサカもいるし……俺の、心……は、常に、お前の側に……ある」

震える声で一方通行は芳川に語りかける。
とてつもなく、穏やかな顔で。

そして、芳川の頬をそっと撫でると、眠りにつくように優しく言った。

「***、わたしの、心も……変わらないよ……なまえ……を」

呼んで、と言われる気がした。
そして、呼びたいと思った。
愛しく優しく、大切な人のその名前を呼びたいと思った。

「桔梗、もう、いい。あとで聞くから、もう、眠れ……そンで、早く元気になれ……そしたら、ミサカの、墓に……花ァもってって、やろォぜ……みンなでさ」

決して実現しないであろう未来を語る。
その中では死んだミサカ00001号までもが笑顔で、みんな泣きながらも笑顔で花を添えている。
そんな光景が思い浮かぶ。
だが、それは決して叶わない。
今のままでは。
788 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/08(水) 00:15:04.94 ID:rRG/dAsSo

〜〜〜

芳川の病室から静かに出ると、そこにはミサカ00002号が立っていた。

「打ち止めは?」

「問題ねェよ、お前は自分の事だけ気に―― 」

「そんな事出来るわけないだろッ!」

「キャンキャン騒ぐな、ここァ病院だぞ」

そっぽを向いたまま鬱陶しそうにいう。
「俺はお前を拒絶する」という意思をしっかりと見せつけるように。

「そうやって一生ミサカ達から顔を背けて生きるの?そんなの00001号が望んでると思ってるの?そんなんで芳川博士を守れると思ってるの?」

一方通行は答えない。

「ねぇ、どうしちゃったの?怒るなら分かる、泣くならわかる、だけど絶望するのはわからない……まだミサカも垣根さんも芳川博士も一方通行だって、生きている。ミサカ00001号はミサカ達を守ってくれたんだよ?それなのに、絶望して俯くなんて間違ってるよ」

目を合わせようとしない一方通行の肩をつかもうとし、弾かれる。

「……ねぇ……」

行き場を失った細い腕はそのままだらんと垂れ下がった。

「もう、歩き始めちまったから……この道は、一方通行なンだよ……」

だから、もう引き返して手をとる事は出来ない。

分かれ道で一方通行は垣根とは違う道を、一人ぼっちの道を選んだのだから。
789 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/08(水) 00:15:41.18 ID:rRG/dAsSo

〜〜〜

病院の裏側、そこで七十人の妹達が命令解除後のショックから目を覚ましはじめていた。

「どうやら、ミサ……カ達は、自由の身に……なったそう、ですよ。と、ミサカ00132号は、ミサカ達を起こし、ながら、つぶやき、ます」

「なん、だか、最低の、夢を……見ていた……気分です。と、ミサカ00144号は、現実、逃避します」

「調整、やってもらわないと、死にますね、身体が重いです。とミサカ00121号は……」

「ミ……サカ達は、人を……傷つけすぎ、ました。ミサカ00001号を、射殺したミサカは……このミサカです。もう、みんなで……ここで、死んでしまいま、せんか?と、ミサカ、は……提案し、てみま……す」

「それは、ダメ、です。ミサカ00001号の……気持ちは、ミサカ00162号の、なか、にも……残って、いるで、しょう?と、ミサカ00138号は、死に、たいなどと、00001号に……失礼、な事をい……う00162号を、叱ります」
790 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/08(水) 00:16:18.95 ID:rRG/dAsSo

命令から解放され、脳のリミッターが正常になったミサカ達は、意識を保つのが精一杯なほどボロボロであった。
00100号までのミサカは命令解除がされない、それゆえネットワークをつかってしまうと天井側のミサカからミサカ達がすでに助かっているという情報を与えかねない。
だから、彼女らは己の口で会話をしていた。

「と、り、あえず……比較的動けるこの、ミサカ00112号が、病院に居るであろう、一方通行、垣根帝督、お姉さまのいずれかに、助けを求めて……みます……」

「ですが……襲撃者で、ある……ミサカ達を…助けてなど、は……くれない……の、で……は……あ、り……ま……」

そのまま気を失った。
息は止まり、開いたままの左目からは涙が一筋頬をつたった。

天井の作戦による急激な運動。
その後の急激な脳内の変化にこの個体は耐えられなかったようだ。
791 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/08(水) 00:16:51.43 ID:rRG/dAsSo

ミサカ00116号、妹達二人目の犠牲者である。

フラフラと立ち上がった00112号はミサカ00116号の目を閉じさせ、病院へと向かった。

助けてくれなんて言ってはいけないのかもしれない。
その場で殺されるかもしれない。
そんな思いを胸に抱きながら、妹達七十人の命のために、恥知らずになろうと00112号は病院を目指した。
792 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/08(水) 00:18:38.35 ID:rRG/dAsSo

〜〜〜

同じ頃病院の左右でも、六十五人ずつの妹達が目覚めていた。

同じように一番動けるミサカが病院を目指し、とぼとぼと歩いている。

右側ではミサカ00178号が、左側ではミサカ00265号が、息絶えた。

一方通行達がもしも妹達を見捨てたのならば、バレては困る学園側が病院の周りに転がる二百人の妹達を秘密裏に処理したであろう。
もし手を差し伸べてくれても、全員が病院へ搬送される前に、何人かは息絶えるだろう。

垣根に初春達を任せ、自ら打ち止めを病院へと連れて来た一方通行はその光景を見てどうなってしまうのであろうか。

〜〜〜

次回へ続く
また読んでください
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/02/08(水) 00:26:28.53 ID:6EcgP82do


リアルゲコ太なら……リアルゲコ太なら……
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/02/08(水) 00:33:56.38 ID:4+CweHiAO
乙ン

それでもゲコ太なら
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/08(水) 08:18:40.62 ID:76g8E04ko
冥土返し……
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/09(木) 20:21:24.37 ID:pkUj2Lm8o
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/09(木) 21:11:16.93 ID:JL2z9iKeo
>>773
・喋らせるキャラによるけれども「ちゃんとに」等のゆとり語を使うのはなるべくは避けましょう
・「」内や――の後の文にも適切な改行をいれましょう
・それぞれがその感情に至るまでの描写が弱く情緒不安定に見える時があるので気を付けましょう
798 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/09(木) 21:56:10.10 ID:MCoyB4o9o
>>797
ありがとう
気をつけます

「ちゃんとに」は普通に小さい頃から先生とかも使ってたから変な日本語だとは知らなかった、勉強になりました
教えてくれてありがとう!
ほかにもあったら教えてくれたら嬉しいです!

次回は14日にくる予定です
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/02/10(金) 04:02:42.84 ID:oAt2rgbAO
>>797
方言=ゆとり語にするのは流石に止めろ
800 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:37:00.88 ID:DwwgtETOo
>>798はミス
今日の投下終えてから書き込みするつもりだったのがミスって書き込んじゃってた
とりあえず少しだが今回の投下はじめます

あとちゃんとにって方言なのか
だとしたらどの辺の方言か教えてくれると嬉しい
ちなみに俺は山梨県の人間です
801 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:38:26.83 ID:DwwgtETOo

〜〜〜

「あ、どうも……とミサカ00112号は挨拶します」

「どうも……しかし不思議な感覚ですね、とミサカ00215号は生まれてからずっと一緒にいるはずなのに、はじめて他の個体と言葉を交わすことにくすぐったさを感じます」

「ミサカ00296号もいますよ。とミサカは存在をアピールしてみます」

三人のミサカは歩いているうちに身体のリズムをとることが出来たのか、言葉も意識も先ほどより随分はっきりとしていた。

ネットワークを介さない会話。
それにお互い戸惑う。

相手がなにを思っているのか全く読めない事に少なからずの恐怖を覚える。
802 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:40:36.26 ID:DwwgtETOo

「……こちらは、ミサカ00116号が00001号の元へ逝きました。とミサカは報告します」

「そうですか、こちらは00178号が……とミサカも報告します」

「こちらは00265号が逝きました。とミサカはお二人に続きます」

死んだ。
そう直接言わなかったのは何故だろう。

確認したのだ、確かに死んでいた。
息は止まり何時間も前から死んでいるかのようにその身体は体温すらほぼ失っていた。
まるで、無理矢理死んだ身体を動かしていたかのようにすでに冷たくなっていたのだ。
なのに、まだどこかで死んだと認めたくない心がある。

過剰なストレスは妹達に「嫌悪感」に近い感情を覚えさせたのかもしれない。

もしかしたら、そんな可能性は万が一もありはしないのに、認めたくなかったのだ。
生まれてから今までずっと一緒だった自分を喪った事を……。

「とりあえず、行きましょう。ミサカ00112号はこの中では一番お姉さんなので仕切ります」

その言葉に二人は少しだけ表情を柔らかくし頷いた。
そして、三人は顔を見合わせ病院の中へと足を踏み入れた。
803 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:41:22.42 ID:DwwgtETOo

〜〜〜

靴底をコツコツ鳴らしながら一方通行は病院の受け付けへと向かって歩いていた。

人払いの魔術がなくとももう自然と病院の受け付けには、人がいなくなる時間帯へとなっている。
上の階では入院患者たちの消灯時間もそろそろだろうか。
襲撃を受けてからそれなりに時間がたっていた。

そこでは佐天涙子が船を漕ぎ、御坂美琴は両手の間に電気をパチパチと走らせながら、何かを考え込んでいる。

―― あ?インデックスのやつはどこに行った?

居るであろうはずのもう一人を一方通行は探す。

「あくせられーた」

悲しそうな声を、インデックスは出す。
全てを知っているかのような表情をその小さな修道女見習いはしていた。
804 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:42:46.83 ID:DwwgtETOo

「あンまりふらつくな、あと外には絶対でるなよ……お前になンかあると上条が泣くぞ」

「私たちはもうどこで死のうがどうやって生きながらえようが……関係ないんじゃないの?」

「……関係はねェさ、そうだな、関係、ねェわ……」

「よかった。あくせられーたはまだ、私たちの声が、手が、届く所にいるんだね。
だったら大丈夫、とうまとわたしと、ていとくとききょうにみさかとみこと……みんなあなたを諦めないから……また―― 笑えるよ」

そう、予言を残した。
大丈夫、あなたはまたみんなと笑いあえる。
だって、あなたは完全に関係を断ち切ることなんか出来ないから。
すべてを見透かすように、インデックスはそういった。
805 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:46:02.54 ID:DwwgtETOo

この少女の人を見る目は、一方通行も評価している。
だから、その通りになってしまうのかもしれないと思った。
自ら切り断とうとして、垣根とミサカ00002号に見たこともないような、悲愴な顔をさせてしまった。

―― それなのに、情けなく俺はあいつらの下へ戻っちまうのか?

「いや、絶対ェにそうはならねェよ」

情けなくたっていいからそうなりたい、と思っても無理なのだ。

一方通行はすでに諦めてしまっているのだから。

もう一度前を見て、左右を見て、上を見上げるまでは、抜け出せない。

一方通行の選んだ道は決して一方通行ではない。
出口も入り口もない。
ただ、全てが繋がったサークルだ。
前も後ろもありはしない。
歩いたら疲れるだけの道だ。

そしてそこに入り込んだのではない、道を踏み外し、落ちてしまったに過ぎない。

だから、自身の能力でいつものように跳べばいいのだ。

それが出来ないならば、誰かに引っ張りあげてもらえばいいのだ。

上を見れば、親友をはじめ、幾人かの手が必死に伸びている。

ただ、一方通行は上を見上げればいいだけなのだ。

うつむいていても、なにも見えないのだから。
806 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:47:23.04 ID:DwwgtETOo

〜〜〜

インデックスは一方通行に挑戦するかのように笑うと、コックリコックリしている佐天の横に座り、そっと自分の方に引き寄せた。
そして、佐天はそのままインデックスにもたれるように眠り出してしまう。

ミサカ00002号もとぼとぼと受け付けに歩いて来ていた。

そして、何気なく顔をあげ、あ、と短くつぶやいた。

「妹達……?」

三人の妹達も00002号が気づいた事に気づき、中に入って来た。

そして入ってくるなり三人は床に膝をつき頭を下げ、いわゆる土下座をした。

「ご迷惑をおかけしてこんなこと言える立場では、ありませんが……ミサカ00101号からミサカ00300号、合計二百名の妹達を……助けてはくれませんか?とミサカ00112号は頭を下げます」
807 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:48:08.85 ID:DwwgtETOo

「お願いします。せめて死にそうな個体だけでも最後くらいは温かいベッドの上で逝かせてやってください。とミサカ00215号も頭を下げます」

「そして、一言皆様に謝る機会をください。とミサカ00296号も頭を下げます」

三人に静かに歩み寄る御坂、ミサカ00002号、そして一方通行。

三人が妹達のすぐ前に立つと、妹達は少し怯えるように肩を震わせた。

「顔ォ上げろ」

「顔をあげなさい」

「顔をあげて」

三人は抑揚のない声で顔をあげるように命じる。

00112号がちょっとあげると、ほかの二人もそれに倣うように少しだけ顔をあげた。

三人は無言でもっとちゃんとに顔を見せろと、圧力をかける。
808 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:49:29.83 ID:DwwgtETOo

機械のようにギギギっと土下座から正座まで身体を起こすが、まだ、うつむいたままだ。

「オイ……顔、を、あ、げ、ろ」

一方通行が言うと、ゆっくりと三人とも顔を目の前に立つ三人へと向ける。

泣きそうな怯えるような、捨てられた子犬が拾ってもらいたいけれど、人間が怖いとでもいうような複雑な表情をしていた。

妹達はミサカ00001号、00002号と同じ程度の身体年齢だ。
それなのに妹達は00001号、00002号よりあきらかに細い。
頬もげっそりと痩けている。

「あんた達……」

御坂は、なにを言っていいかわからなくなり、三人を乱暴に抱き寄せた。

「あんた達、辛かったでしょ?苦しかったでしょ?
でも、もう、大丈夫……私たちが、助けてあげる……専門的な事は、全部先生や芳川さんに頼りきりになるけど……。
私もできる限りのことをするから、そんな……そんな怯えた顔をしなくて、いいのよ」

ぞんざいに造られ、初めて外へ出されたら同じ妹達の一人を他人の意思で無理矢理殺害させられる。
解放されても、人に頼らねば生きてはいけない身体。

なにも悪いことなどしてはいない。
それなのに、ひどく怯え会うなり土下座をした妹達に御坂は言い表せぬ感情に支配された。

「お、姉さまと、呼んでも……?とミサカは尋ねてみ、ます……」

「当たり前よ……他の子達はどこにいるの?」

御坂が妹達から身体を離すと、今度は一方通行がかくんと力が抜けたように、崩れた。
809 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:53:26.18 ID:DwwgtETOo

「ど、どうしたの?どっか痛むの?ねぇ?一方通行?」

必死に隣にいたミサカ00002号が支える。

「お前ら、助かったのか?本当に?」

「はい、死んだミサカも既に三体いますが……このミサカ達は、あと一、二日ならば調整なくとも死ぬことはおそらくありません。とミサカは答えます」

「三人……死ン、だ……?そォか……やっぱ、俺に全ては助けらンねェのか……。
でも、良かったなァ、お前ら、助かって……良かったなァ」

一番近くにいたミサカ00296号を抱きしめる。

「ミサカ達も痩せすぎだってのに、それよりガリガリじゃねェか……。
飯もちゃンと食わしてやる、住むとこも、なにも心配するな、大丈夫だから」

「ミサカ、達は……00001号を、殺したのですよ?」

「そうです、よ?大切な思い出の詰まった家を爆破したり、銃を突きつけたり……したんですよ?」

「そんな、ミサカ達が……そんな―― 」

「いいんだよ。ミサカが言えた義理じゃないけど、いいんだよ。
ミサカ達はお姉さまと同じ血の流れる家族だもん、そして一方通行も、垣根さんも、芳川さんも……。
血なんかよりももっと深いところで繋がっている。家族は、助け合うんだよ」

「それに、私達だって御坂さんの親友です。御坂さんの妹さん?でいいんだよね?
だったら、貴方だって私達の親友だよ、友達も助け合って生きていくんだよ……誰も一人でなんて生きれないし、誰も一人になんてなりたくはないんだから……」

いつの間にか起きたのか、佐天は御坂の両肩にそっと手を起き妹達に笑いかける。
インデックスはなにも言わずその光景を眺めていた。
そしてその目は一方通行に焦点を当てている。

―― るいこの言う通りだよ、あくせられーた。
誰も一人になんかなりたくないんだよ。貴方もそうでしょう?

傷つくというのは、一人で生きていない証だ。
たくさんの人と関わるから、人は傷つき、強くなる。
初めから誰もいなかったら、傷つく事もない。
ただ、寂しいだけだ。
でも、それは傷つく事より苦しくて、辛い。

孤独は人をゆっくりと殺すのだ。

―― 俺は……もォ、わからねェ。
なにが正しくてなにが間違ってるのか。芳川の声が聞きてェ、垣根と話がしてェ、ミサカとふざけあいてェ……でも……。
いや、考えるな。まずは妹達を全員病院に運ぶ。

「佐天、カエルにありったけのベッド用意するようにいえ、そンで準備の手伝いしてくれ、頼む。
超電磁砲は俺と来い、ミサカは調整槽使えるように準備しとけ……いくぞ、超電磁砲」

そういうと、一方通行はさっさと立ち上がり、外へと向かっていった。
810 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/10(金) 04:54:37.57 ID:DwwgtETOo
ここまで
次回は>>798でいった通りに来ます
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/10(金) 10:02:04.63 ID:ouBWoNPBo
乙!
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/10(金) 11:55:24.78 ID:HHX8pDGAO
まあ乙
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/02/10(金) 14:56:36.94 ID:Od/FWuzx0
>>800
ちょっと調べてみたけど普通に山梨でいいんじゃないか?
ネット調べだから正確じゃないかもしれないけど
方言だと素で使ってるから気がつかない時もあるよな。
814 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/10(金) 17:20:52.01 ID:DwwgtETOo
>>813
よかったぁ
これで九州やら四国やら東北とか、山梨かすりもしないところの方言だったら笑い話にもならないしね
調べて教えてくれてありがとう!
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/11(土) 02:55:18.19 ID:VwmasfHao
おぉ、「ちゃんとに」って方言でもあるのか
それは申し訳なかったです
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/11(土) 08:34:07.29 ID:Rpoh5Onu0
ふう追いついた
ところどころ文章的に稚拙?いや、それはなんかちがうな・・・未熟?
なところがあるけどストーリーは面白いよ
応援する
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/12(日) 00:15:46.71 ID:545r/8ZKo
訛ってる一方さんか
新ジャンルとして確立すべき題材だと思わないかねチラッチラッ
818 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/12(日) 03:25:07.56 ID:ZYGalQB0o
>>817
こんな感じ?

甲州弁
「あァァまァいクゥウウウン?だっちもねェこンいっちょばまっと長生き出来たのによォ……。
俺がおまンみてェな野郎を見逃しっかねェじゃンね……死げ」

標準語
「あァァまァいクゥウウウン?くだらねェ事言わなきゃもっと長生きできたのによォ……。
俺がお前みたいな野郎を見逃すわけないだろォ?……[ピーーー]」


本編には関係ないよ!
>>817の言った『訛ってる一方通行』ってのが面白いなと思ったから、それっぽいこと適当に甲州弁で喋らせてみただけだよ!
自分がはっきり甲州弁だとわかるのを使うと結構大変

あ、投下は予定通り14日に来ます
読んでください





819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/12(日) 09:25:39.52 ID:545r/8ZKo
早速サンクス
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/13(月) 17:33:01.84 ID:+3iFTcyb0
1乙
シリアスでしみじみ…とした余韻が、甲州弁でww
だっちもねェってかわいいなw
821 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/15(水) 17:41:18.54 ID:swAzk0UNo
きのうの予定投下ぶんは投下するだけなんでもしかしたらあとでこれるかも

無理だったら明日きますわ
822 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:49:22.61 ID:/1Nh7+6to

〜〜〜

佐天、ミサカ00002号に指示を出すと、一方通行は外へと飛び出した。

まずは病院の裏手へと回る。

「……どうして私を連れてきたの?」

黙って歩く一方通行に御坂は聞く。

「お前なら俺が妹達運んでるあいだに天井が仕掛けてきても死ぬ事はねェだろ」

「……」

御坂は一方通行の答えになにも答えない。

「全部で二百か……白井はこっちに連れてくりゃ良かったな」

何かを思い出さぬようにと、独り言をつぶやく。

「今のアンタなら私でも勝てそうね」

一方通行に聞こえぬよう、御坂もつぶやいた。
823 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:50:41.09 ID:/1Nh7+6to

〜〜〜

「……居たぞ」

一方通行は倒れる妹達を発見、駆け寄った。

「……オイ、助けに来たぞ」

一人のミサカに近づき、声をかける。
目を少しだけ開いたそのミサカは、唇をかすかに動かし何かを言おうとする。

だが、それを言う前に力尽きた。

「え……?おい、おい?」

「大丈夫よ、死んでない……触ってんだから分かるでしょ?落ち着きなさいよ……」

一方通行の頭を軽くはたくと御坂は妹達の方へと視線を上げた。

「みんな、あんた達のお姉様が助けにきてやったわよ。
動ける子はこっちきて、優先的に調整しなきゃまずい子を私たちに教えて頂戴。
すでに死んでしまった子は……後で花を添えてあげましょう。
今やっとでも辛うじてでも生きてる子は大丈夫よ……安心しなさい。私たちが助けてあげるから」
824 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:51:12.59 ID:/1Nh7+6to

〜〜〜

「おい、垣根か?悪りぃあの野郎俺から逃げやがった!学園都市の最強が底辺の俺から……逃げるってなんだよ!
確かに俺はあいつがいくら能力使ってようが殴れる右手を持ってるさ!けどよ―― 」

『落ち着け、上条。とりあえずお前は病院行くか一七七支部へ来い。
さっきはスルーしてたがよく考えりゃお前今襲われたら死ぬぞ?』

「……わるい、分かった……病院の方にいくよ」

上条は、携帯を閉じると、走り出した。
825 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:52:56.77 ID:/1Nh7+6to

〜〜〜

暗闇の中で一方通行は妹達一人一人に声をかけ続けながら病院へと一人一人運んでいた。
最初は調整槽のある部屋まで行っていたが、十人目くらいになると、佐天とベッドメイクをしていたインデックスが簡易ベッドを入り口に用意し、待っていた。

「ベッドに寝かせてくれたらあとは私が運ぶから」

それだけいうと、インデックスは一方通行から顔をそらした。

「……頼ンだ」

一方通行はその上に優しく妹達の一人を寝かせると、そう言い残し、自動ドアをくぐった。

―― 頭が痛ェ……。

原因は分かっている。
怖いのだ。
死んだ妹達を見るのが、何よりも怖いのだ。
だから、妹達の下へ行くのを、脳が拒否している。
死から逃げようと、このまま妹達の死を見たらお前は壊れるぞ、と脳がクラクションを鳴らし続けているのだ。
826 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/16(木) 20:55:23.88 ID:/1Nh7+6to

―― ダメだ。救える命のが多いンだから……ダメだ。

必死に逃げ出しそうになる思考を追い払う。

『もって半年』

打ち止めの台詞が頭をよぎる。

―― 半年……助けても、死ぬ……だったら、逃げても、いい、ンじゃ、ねェ、か……?

歩みを止めた。

うつむき、アスファルトをじっと凝視する。

―― 逃げても……。

『逃げるなよ!』

上条の真剣な声が、頭に響く。

「逃げるなよ」

今度は現実味を持った確かな声が耳に響いた。
顔をあげるとそこには上条……ではなく、垣根帝督が立っていた。

「上条がさ、病院に行くって言っておきながら風紀委員の支部にきてさ……『やっぱり、一方通行を救えるのはお前だけだ』って、芳川でもミサカ達でもなく、俺だけだって言ってさ……。
そんで、目が覚めた。お前にいくら拒絶されても、俺がお前を諦めちゃいけねぇんだよな……俺達は、同志を超えた家族だから」

にっこりと笑うと、行こうぜ、と妹達のいる場所を指差す。

この瞬間、一方通行を諦めるという選択肢を完全に排除したこの瞬間、垣根帝督は、ミサカ00001号の死から完全に復活したのかもしれない……。
827 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:55:50.87 ID:/1Nh7+6to

〜〜〜

全ての妹達を病院へ運び込み終わると、狙ったかのようなタイミングで、垣根の携帯が鳴り響いた。

「ん、そうか。分かった……」

「初春さんから?」

「あぁ、迎えに行ってくるわ……一方通行、準備しとけ……多分、打ち止めちゃんを助けたら天井は仕掛けてくるぞ」

一方通行は調整槽に急いでいれる必要のないミサカ達の頭を一人一人触り歩いていた足を一瞬止めた。
そして、目を閉じ、何かを心の中でつぶやく。
目を開くとまた、同じように歩きはじめた。
828 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:56:23.02 ID:/1Nh7+6to

〜〜〜

「は?暗部?暗部が俺の身柄を……?ふ、ふふふふ、ははははははは!
オーケィオーケィ、この程度ならば拘束命令じゃなくて殺害命令がでると思ってたが……なるほど……そうかそうか」

情報屋からの電話を切ると、天井は狂ったように笑い始めた。

「よし、二時間後、病院襲撃だぁ……暗部なんかに捕まってゴーモンされるのは嫌だからなぁ……さっさと芳川とお前らをクソッタレ第一位の目の前でぶち殺して俺も死ぬとするぞ……ヒャハ」

学園都市が天井を「拘束」としたのは恐らく命令を受け付けない妹達を作り上げたからだろう。
ミサカネットワーク、上位個体命令は大変に便利なものだが、今回のように打ち止めを握られてしまえば命令は解除されてしまう。
それでは兵隊として不安が残るし、打ち止め護衛のためにも人員を割かねばならない。
だが、天井の作り出した命令を受け付けない改造を施してやれば、それがクリア出来る。
そうなれば学園都市は最強の軍隊を持てるという結論に上層部は至ったのだろう。
829 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:56:48.16 ID:/1Nh7+6to

〜〜〜

「あー?依頼?……チッめんどくせぇ……はいはいわかりましたよ死ね」

乱暴に電話を切ると、暗部組織アイテムのリーダー麦野沈利は同じアイテムの人間、絹旗最愛に電話をかけた。

「依頼だ。第七学区のアジトに集合よ」

『こんな時間からですかぁ?私、超眠いんですけど……内容は超なんですか?』

「天井亜雄って男の拘束、生きてれば腕の一本二本なくてもいいらしいから鬱憤はそいつにぶつけなさい」

『……超了解です』

電話を終えると、麦野は大きくため息をつく。
寝巻きを脱ぎ捨てジーンズと七分袖のシャツをきた。
携帯と札を数枚財布から抜き取りジーンズのポケットに突っ込むと部屋の鍵を手に取り、フレンダへとコールしながら玄関へと向かった。

「あ、フレンダか?依頼だ。第七学区のアジトへ来い」

『りょうかーい』

テレビの音が微かに聞こえていた。
前に自分の部屋にはテレビを置いていないと言っていたのでアジトに既に居たのだろうと、そんな適当な事を考えていた。

「滝壺は……呼ばなくていっか」

麦野はサンダルを履き、家を出た。
830 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:58:26.98 ID:/1Nh7+6to
短いが終わり

次回は土日のどちらかに

また読んでくれ
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 23:03:41.43 ID:FXPXm4w+o

ところで風邪ひいた
832 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/17(金) 21:20:45.19 ID:o61NYQ/No
インフル流行ってるらしいから気をつけてね

日曜にまたきます
833 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/02/18(土) 14:28:39.82 ID:IFdmce0IO
ちと明日これなさそうなんでいまから投下
834 :ここの天井はてんじょうです。一応 ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:31:18.30 ID:IFdmce0IO

〜〜〜

初春から渡されたデータを元に、打ち止めの脳内を、正常な物へと構築して行く。

―― 消去、消去……消去……。

はたから見たら打ち止めの頭を撫でているようにしか見えないが、その顔は真剣で、額に汗も浮かんでいる。
打ち止めの顔色も、苦しそうなものから段々と穏やかなものに変わってきた。
呼吸も落ち着き、静かな物へとなっていく。

―― よし、これで……完了……だ。

一方通行は小さく吐息を漏らす。

ぐしゃぐしゃと打ち止めの頭を撫で回した後、優しく頬に手を添えた。

「誰でもいい、打ち止めについてろ」

その様子を見守っていた五人にそう、言葉を投げかけると部屋を出た。

「チッ」

扉をしめるのと同時に、そこにへたり込む。

―― やっべェ……頭が痛ェ……。

今度の頭痛は、能力の使いすぎによる単純な疲労からだ。

―― 反射、は大丈夫。無意識でも出来るからな……でも、いま天井が来たら……殺されっかもしンねェな。

喉の奥を震わせるように、小さく笑うと髪をかきあげ、天井を見上げる。

ぼんやりと、ある一点を見つめているとそこに見覚えのある顔が浮かんできた。
835 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:32:08.63 ID:IFdmce0IO

『一方通行、何故、このミサカたちは助けてくれなかったのですか?とミサカ00116号は―― 』

「あ、ああ……お前は……さっき、あそこにいた?」

『何故ですか?とミサカ00265号も―― 』

「……ご、めン」

『何故ですか?とミサカ―― 』

「ご、めンなさい……ごめン、なさい」

『何故ですか?』『何故ですか?』

「ごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさい」

『何故ですか?』『何故ですか?』『何故ですか?』『何故ですか?』

「ごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさい」

『何故ですか?』『何故ですか?』『何故ですか?』『何故ですか?』『何故ですか?』『何故ですか?』

「ごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさい」

『何故ですか?とミサカ00001号は―― 』

「うあ……ご、めン……ほんとうに、たすけらンなくて……ごめン」

病院の薬の匂いと真っ白な景色につつまれた廊下で、一方通行は一人、倒れた。
836 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:33:25.32 ID:IFdmce0IO

〜〜〜

「―― い!だ―― ぶか?アク―― ?おい!」

―― だれだ?……かきね?

「ちょ―― れか!ベッ―― いして!」

―― あー?くそっ……目が、あたまが、はっきりしねェ……なンだっけ?なにしよォとしてンだっけ?
……そうだ、芳川だ。よしかわを、まもンなきゃなンねェのに……。
837 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:33:58.22 ID:IFdmce0IO

〜〜〜

「一方通行は?」

「なんか顔青白くしてごめんとかずっと呟いてる」

「そっか……垣根さんは、大丈夫?」

「……あぁ、ミサカちゃんがしっかりしててくれたから……俺は真っ直ぐ歩けてる」

「いいんだよ、家族なんだから……」

―― ミサカ“ちゃん”ね……。
838 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:34:27.44 ID:IFdmce0IO

〜〜〜

「上条さんはなぜ病院にいかれなかったんですの?」

パソコンのディスプレイの光と防犯用のオレンジ色の電灯だけが光る薄暗い室内で、三人はお茶を飲んでいた。

垣根は初春からデータを受け取ると三人とも病院へと運ぼうとしたが、それを三人は辞退し、ここに残ることを選んだ。

「そんなの、そのほうがいいと思ったからだよ」

「それは、なぜ?」

「なぜって……多分出来ない事より、出来る事を選んだんだと思う。
俺に一方通行は救えない。出来るなら俺は全ての人を俺の手で救いたいけど……多分救えたとしてもその過程で俺も一方通行もいらない傷を負うと思ったんだ」

上条は、お茶を一口飲むと湯のみを机の上に起きながら、話を続けた。
839 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:35:00.53 ID:IFdmce0IO

「垣根なら俺よりうまくあいつを救う。
それが……俺以外の人が人を救うのを今まで俺は許せなかったんだけどさ。
最近の俺はそれを素直に受け入れることが出来るようになった。それだけさ」

そして、柔らかに微笑んだ。

「……申し訳ございません」

そんな上条に白井は何故か謝った。

「なにがだよ?」

「私、上条さんを見誤っていたようですの」

「……いや、俺が変われたのは最近だから、多分白井の評価は正しかったんだと思うよ」

上条はまた、笑う。
三人の間に奇妙な、だが心地よい時間が流れた。

「……これからどうなるんでしょうね」

初春が唐突に口を開いた。

「大丈夫だよ、一方通行も垣根も、御坂も……みんな大丈夫。
そして、あいつらが大丈夫なら、俺たちも君達も大丈夫だよ」

大丈夫だ。

それを繰り返すだけだが、初春はそれに随分励まされた。
840 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:35:40.51 ID:IFdmce0IO

〜〜〜

『これ、夢か?

……ああ、夢だ。ミサカがいるし、芳川もピンピンしてらァ。

垣根と、ミサカと……あれ?

俺がいねェ……当たり前か、俺はここにいるンだし。

でも、あれ?誰も、俺に気づいてない?

……。

………。

…………あ、そうか、俺は―― あいつらとはもう、関係ないのか。

ハッ、楽しそうにしやがって……でも、安心した。

俺なンかいなくてもあいつらは成り立つって分かったから。

これで、安心して……俺は消えることができる』

一方通行は、ガラスを一枚隔てたところから、四人の事を眺めている。

そこには視点しか存在せず、一方通行は前後左右上下から彼らをみわたしていた。
841 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:36:28.14 ID:IFdmce0IO

『はは、楽しそうに笑いやがって……。

でも、なンか仮面でも被ってるみてェだな』

微笑みを浮かべたまま表情を固める四人に恐怖に似た違和感を覚える。

『……本当は、笑ってねェ…のか?』

そう、口にした瞬間―― 声など本当は出ていないのだが、一方通行は独り言を呟いている感覚だ―― 四人の表情は一気に曇った。

『あ、ああ……ああああああああああああッ』

その表情を見た瞬間、存在しないはずの身体が引き裂かれるような痛みが一方通行を襲った。

『ダメだダメだダメだ!お前らは、笑ってなきゃダメなンだ!

俺なンかがいなくたって、お前らは笑えるンだ!

俺は、お前らが笑える未来を作りたくて、お前らを捨てたンだ!

だから、お前らは笑ってなきゃいけねェンだァよォオオオオ!』

支離滅裂で訳のわからない勝手な理屈を駄々っ子のように並べ立てる。

『笑えよッ!俺に笑顔を見せてくれよッッ!そうすれば、俺は一人でも大丈夫だから……』

垣根、ミサカの顔には諦めたような笑顔が浮かぶ。
それでも、一方通行は良かった。
少しでも、無理をしてでも笑ってくれるならば一方通行は大丈夫だった。

『だから、笑っていてくれよ、芳川……』

だが、一番笑っていて欲しい人物の表情は、他の三人の悲しみをも背負ったようにどんどん悲痛にゆがんでいく。
そして、最も見たくない物が、その両方の瞳からこぼれ落ちた。
842 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:37:00.17 ID:IFdmce0IO

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

そこで、一方通行は目を覚ます。
ゼーゼーと息を切らし、汗をびっしょりとかいていた。

「夢……そォだ、夢だ。夢ン中でも、夢だと気づいただろォが……クソッ……夢だ。夢だ。芳川は大丈夫、垣根もミサカもいるから……俺なンかいなくても、大丈夫……」

まるで自身を催眠術にかけるかのように大丈夫とつぶやく。

頭を抱え上体を起こす、次にベットの上で体育座りのような体制になり、膝に頭をつける。
機械音に気づき、何気なく横を見て大きくしたうちをした。

「あのカエル……いや、垣根か?どっちにしろなんでこんなとこに……」

一方通行が寝ていた場所、それは芳川の病室であった。

一人部屋の室内に、簡易ベッドが運び込まれていて、一方通行はその上で寝ていた。

「……芳川」
843 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:39:21.15 ID:IFdmce0IO
ここまで
次は月曜日か火曜日に
また読んでくれ

風邪とかインフルとかひかないように気をつけてください
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/18(土) 16:30:13.18 ID:ONfHqdp4o
おつおつつおつ
845 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/20(月) 19:11:21.78 ID:zhldWsFeo
明日23:00頃来る予定です
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 17:29:21.50 ID:sBbfTX190
乙待ってる
なかなか救いが見えてこないよのう…
847 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:42:02.12 ID:OjH8ZMW6o
〜〜〜

一方通行が目を覚ました頃、打ち止めも一度だけ目を覚ました。
そして、天井亜雄、暗部組織アイテムも行動しはじめる。
日付もちょうど変わった午前零時、夏休み最後の日だ。

暑さもやや落ち着き、夜になると涼しい風が気持ちがいい時季に差し掛かった、この日、全てが終わる。

「さて、行くぞ」

天井のその声で、ミサカ00003号からミサカ00100号までの九十八人のミサカ妹達は病院へと銃を向け、引き金を思い切りひいた。

「芳川はどっこかなぁー?暗部のクソッタレが来る前に芳川殺してミサカ共殺して自分も殺さなきゃなんねぇからなぁ……いっそがしいねぇ」

ニタニタと楽しそうに笑いながら天井は病院内へと歩いて行く。
848 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:44:05.67 ID:OjH8ZMW6o

〜〜〜

銃撃音とガラスが弾ける音が病院内へととどろく。
垣根はミサカ00002号の顔を見ると、行くぞ、と目で語りかけた。
ミサカ00002号も頷くと二人はインデックス、佐天涙子、カエル先生にここから何があっても出ないようにと言い残し部屋を出た。

「芳川のとこには一方通行をぶち込んどいたからまぁ、大丈夫だろ」

「うん、打ち止めと妹達のところにはお姉さまがいるからそっちも大丈夫。妹達も00112号と00215号、00296号は侵入を防ぐくらいには動けるって言ってたし」

かつかつと静かな廊下を二人は歩く。

そして、受け付けで銃を構えた妹達の前へと、堂々姿を見せた。

「悪いな、お前達は今すぐ助けるって事が出来ねぇらしい。多少手荒に―― 」

垣根の言葉が終わるのを待たず、二人の姿を確認すると、妹達は一斉に引き金を引いた。

「ここにいるのは全員じゃねぇのか……チッ、天井の野郎は一方通行のとこに行かせたくなかったんだがな」

翼を大きく広げながら、垣根は銃撃などなかったかのように言葉を漏らす。

「……あれ?ミサカってもしかしてここにいらなくない?お姉さまの所にいたほうがよくない?」

「……駄目だ、お前は俺の手の届くところにいてくれ。一人になりたくねぇんだよ」

「……分かった。銃をなんとかしてくれたらミサカも自由に動けるからさ、そうなるまではミサカを守ってね」

真っ白な翼の中、ミサカ00002号は笑いながらそう言った。
849 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:45:23.46 ID:OjH8ZMW6o

〜〜〜

「フーンフッフーン……おい、撃て」

ご機嫌に鼻歌を歌いながら天井は数十人の妹達を引き連れ病室のドアをひとつずつ撃ち抜く事を命令する。

妹達はそれに黙って従い、破壊する。
妹達の持つ銃はいつものサブマシンガンではなくショットガンである。
蝶番を破壊し、ドアを中へと蹴り抜く。

「ここもハズレか……冥土帰しが一般人も沢山いるフロアへ芳川を置くとも考えられねぇからなぁ……」

言いながら、最後の扉を見つめた。

「よし、撃て」

ダダっと、音が鳴り響くと妹達が蹴り開ける前にドアがゆっくりと部屋の外側へと倒れてきた。
部屋の中には横たわる芳川と、そのベッドに腰掛ける一方通行。
どこまでも白く美しい肌と穏やかに揺れる真紅の双眼は暗闇の中で怪しい存在感を醸し出している。
850 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:46:33.81 ID:OjH8ZMW6o

「よぉ、一方通行……ご機嫌いかがかなぁ? 」

「……最高だよ、これからお前のそのにやけヅラが苦痛と恐怖に変わる瞬間を想像すっとよォ……勃っちまいそうになるぜェ、天井クゥウウン」

「そいつは何よりだよ、俺も芳川が目の前で死ぬのをお前に見せた時の事考えると鳥肌立つほど震える……ぜぇえええ!」

天井は隠し持っていた手榴弾を投げつけた。が、天井が動いたのと同時に一方通行も先程まで自分が寝ていたベッドを天井へと蹴りつける。
手榴弾はそのベッドにあたり、弾けた。
それはベッドを半分ほど吹き飛ばす程度の威力しか持ってはいない。破壊されたベッドの破片は部屋中に飛び散る。
一方通行は自分に向かってきたものをはじき返すが、クレー射撃をやるかのようにそれは天井に届く前に妹達によって撃ち落とされた。

「不意打ちたァセコイ真似すンじゃねェか」

「化け物相手に正々堂々もねぇだろ。バケモンは退治されるのがお決まり、ってなぁ」

「ハッ、俺がバケモンだとォ?お前の方がよほどバケモンだっつーの……。
クローンを、命を簡単に、使い捨てるために生み出すなンて……狂ってやがるぜェ?」
851 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:48:54.90 ID:OjH8ZMW6o

一方通行の言葉に天井は黙った。
数秒の間、室内は無音が支配した。
その無音に水をさすように、フン、と鼻で笑うと禍々しく口角をあげ、べっとりと耳にこびりつくような声を天井は出した。

「使い捨て……ねぇ……。
それは、つまり……こういう事かぁ?」

破裂音が部屋に鳴り響く。
なにが起きたのか、次の情報は視界から入ってきた。
自分の瞳の色と同じものが広がる。
それは、周りにいた他の個体にも降り注ぎ、どこか幻想的な光景を形づくった。
そして、膝から崩れる一人の少女。
どさりと最初と同じように聴覚でなにが起きたかを判断する。

「は?」

理解した瞬間、一方通行の世界から音と光が消えた。

バカ笑いしているであろう天井の声も、床に広がる真っ赤な血液も、なにも聞こえないし見えない。

「―― ?」

自分の声すらも……聞こえない。

「―――― ?」

何も、聞こえない。

天井が笑いながら一方通行へと近づいて行く。
血溜まりを踏み、あしあとが赤く残る。
拳銃を一方通行の後ろにあるベッドへとむけた。

そして、天井はその引き金を―― 引いた。
852 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:50:16.52 ID:OjH8ZMW6o

〜〜〜

「あ……」

打ち止めが二度目の覚醒を果たした時、最初に見たものは沢山の同じ顔をした少女達であった。

「お、お姉さまに妹達?ってミサカはミサカは目の前に同じ顔ばっかで少しホラーな気分って複雑な心理状態を報告してみたり」

「……なんでもいいけど、元気になったのね?」

呆れつつ御坂は尋ねる。

「うん!一方通行をはじめみんなにお礼をいいたいなって思うんだけど……。
今、大変なんだね?ってミサカはミサカはシリアスな声を出してみる」

「えぇ、でも大丈夫。あんた達は私が……私達がまもるから」

「うん、ありがとう。ってミサカはミサカは素直にお礼をいってみる!
……あ、今……」

にっこり笑ったと思ったら、今度は急に涙を流しはじめた。

「ど、どうしたの?」

「今、ミサカ00051号が……死んじゃった。ってミサカは、ミサカは……報告、してみたり」
853 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:53:56.39 ID:OjH8ZMW6o

〜〜〜

『あぁ、なんだか頭がスッキリしてきました。
でも、同時にものすごく眠いです。
眠る前に、謝らなきゃ……あと、何か遺したい……いきてたって……あか、し、を……どこかに、のこし…た、い。
だめ……もう、だめ。
おや……す、み…なさ…い……。とミサカ00051号は……』
854 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:55:39.48 ID:OjH8ZMW6o
短いけど終わり
少し忙しくなりそうなんで次は未定です
今週中にこれたらいいなぁとは思ってます
また来る時は事前に連絡いれる

では、また読んでくれ
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 23:04:24.08 ID:x6/VtBYco
おつ
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/22(水) 08:25:14.42 ID:597f9owGo
事前に連絡はいらないよ
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/02/22(水) 12:14:41.67 ID:SY0Ar/yAO
いや、いるだろ普通に
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/22(水) 13:39:20.03 ID:3vm05CeAO
はい
859 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/28(火) 03:37:21.57 ID:d2TqDVGIO
すみません
三月半ばまでずっと余裕が出来なさそうですので一応生存報告しておきます
860 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/03/01(木) 01:50:07.88 ID:nHXp1IF3o
少し余裕ができて明日休みになったから少ないけど投下します
861 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/03/01(木) 01:52:37.58 ID:nHXp1IF3o
〜〜〜

天井の声だろうか、もしかしたら一方通行の声だったかもしれない。
短な「ぁ」という吐息のような声が発せられた。
そして、二人のうち一人には希望を散らすような―― 屋根まで届けと願ったシャボン玉があっけなく弾けるような――
もう一人には絶望を打ち破るような―― ベルリンの壁を打ち壊した市民達の雄叫びのような―― そんな、音がした。

涙を流し、血を流す。
命を落とし、頬を崩す。
未来を夢見て、下を向く。
過去を振り返り、今を蔑む。
絶望の淵を覗いて、頂を望む。
俯く狂愚な己の姿に、愛を忘る。

「……クソッタレガ」

どちらかが、つぶやいた。

「……ザマァミロ」

もう片方も、つぶやく。

涼やかな風が夏の終わりを知らせるように、カーテンを揺らす。
夏と一緒に様々なことが終わるように感じられた。

背中にあたるこの空間に似つかわしくない穏やかな風を感じながら一方通行はこの、夏休みを思い出していた。

こんなにも楽しいと思った事がここ十年であっただろうか。
心が壊れるほど悲しんだことがここ十年であっただろうか。

―― 笑って泣いて絶望し、真実を求めて歩き続ける……辛かったけど、生きてるって感じがしたなァ。

月明かりを背中から浴び、その表情は泣いているのか笑っているのか判断出来ない。
862 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/03/01(木) 01:54:47.86 ID:nHXp1IF3o

〜〜〜

「どうした?弾切れかい?」

一歩も動かずに、鉛玉の雨を全て純白の翼で受け止める。
その顔に浮かぶのは微笑みだ。

「弾がきれたならミサカも一緒に戦うよ!」

ミサカ00002号は駆けだし、一番近くにいた妹達の側頭部を思い切り回し蹴る。

「がしゃこんがしゃこん撃ってくれちゃって、これでも一応妹達の中では一番お姉さんなんだよ?
だから、お仕置きってことで我慢しなさい」

蹴り飛ばされた妹達の一人はそのまま気を失った。

―― ミサカ00112号の話ではミサカ00100号までの妹達は00300号まで作ってその中でも丈夫な個体を選んだらしい。
でもそれって同時に全てを作り、後から番号を振ったって事かな?
ま、そんなのはどうでもいいか……00112号よりこいつらは元気って事は、ある程度手荒に扱っても良さそうってことが重要!

そのままの勢いでミサカ00002号は他の妹達も次々と気絶させていく。

―― おかしいですね、ミサカ達の攻撃はさっきから見当違いのところばかりにいきます。これは……もしかしたら……とミサカ00007号は仮説を立てます。

ミサカ00007号は他の個体に一旦下がる事を命令する。
命令を受けると一瞬で全ての個体が垣根、ミサカ00002号から距離を取った。

―― なるほどね、一個隊のリーダーを決めてやれば残りはそれに忠実に従う兵士になるわけか……。

自我を持たず、命令された事だけを行う。
その統率力は恐るべきものだと垣根は思った。

「第二位の能力ですね?とミサカ00007号はゴーグルを取る事を他の個体に命令しながら、答え合わせを始めます」

「大正解、お前らのそのごついゴーグル……それのレンズに入る光の屈折率を変えた。ま、チャチな仕掛けさ」

ゴーグルを外し、投げ捨てる妹達と余裕をまとい微笑みすら浮かべる垣根。

「……では、純粋な肉弾戦で勝負という事で……とミサカは拳を構えます」

「……いいぜ?どうせ元から全員とっ捕まえる予定だったしな」

「あんた達がもう助からないなんて、ミサカも垣根さんも信じてない、絶対に、命令に縛られない自分の心を取り戻してあげる」

垣根達と数十人の妹達との、純粋な殴りっこが始まった。
863 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/03/01(木) 01:57:16.78 ID:nHXp1IF3o

〜〜〜

「この俺の目の前で芳川を殺せると思うな」

思い切り蹴り飛ばし、壁に激突し床に墜落した天井を見下しながら一方通行は吐き捨てるように言った。

「はっ……妹達の事なんか眼中にねぇってか?」

痛みを堪えながら天井は顔をあげた。

「……いいねぇ、俺が求めてたお前はそういうお前だ。目的以外には誰が死のうが心を揺るがせない。
……その心がもっと早い段階からあったら、今回の実験も成功してたのになぁ?」

フラフラと立ち上がり、おぼつかない足取りで数歩歩くと、殺害したミサカ00051号の頭を蹴り飛ばした。
蹴られた衝動で顔が一方通行の方へと向き、その視線は一方通行へと突き刺さる。
ミサカ00051号の目には当然光など存在せず、責めるような悲しむような深い暗闇が瞳を染め上げていた。

「……一人で逝かせはしねェから。
大丈夫、あの世に行ったら、今度こそ俺が守ってやる」

誰にも聞こえぬように呟く。
864 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/03/01(木) 01:58:16.86 ID:nHXp1IF3o
やべぇ
思ったより少なかった

まぁいいや
また読んでください
次もこうして時間できたら来ます
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/01(木) 03:00:47.04 ID:MeDUlvCTo
乙ん 少しづつでも読めたら嬉しいよ

それにしても一方さん、決着がどうついても
最後にやばい選択肢えらびそうなフラグが…
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/03/12(月) 12:32:35.05 ID:B7K5uMXY0
867 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/03/15(木) 17:08:55.81 ID:BGuNCI2IO
二週間たっちまったのか
今月中には再開しますのでまたよろしくお願いしま

868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/18(日) 21:47:18.28 ID:fqW7fBypo
待ってるよ
869 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/03/19(月) 02:10:27.20 ID:HQ735hYIO
二週間前に出来たはずの余裕が一瞬で消え去った

また2〜3レスだけど投下します
870 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/03/19(月) 02:12:40.67 ID:HQ735hYIO

〜〜〜

「はぁ、ったくレベル5の第二位様がこんなカス相手になにを手間取ってんだよ」

突如、垣根の前に現れた謎の光線。
それはミサカ00002号の鼻先をかすめ、そのまま直進し、壁を溶かした。

「結局広告塔の第三位はともかくレベル5トップスリーは揃って腑抜けって訳よ」

「そんな腑抜けの演算式叩き込まれて地獄を見たかと思うと超イラつきますね」

垣根達の目の前に突如現れた第四位である麦野沈利を筆頭とした三人組。

「……アイテムって言ったっけ?」

色々な暗い事を見てきた垣根である、暗部組織の存在も知ってはいた。
第四位が属しているチームもあると知って、その事を少しだけ調べてみたりもしたのだろう。

「大正解、おとなしく天井とかいう男を寄越しな」

「冗談じゃない、暗部なんかに渡したらどうなるかは目に見えてる」

「関連資料は一通り目を通したが、テメェらは天井を殺したいほど憎んでんだろ?私達が殺してやるから渡せって言ってんだよ××××野郎」

「断る、って言ってんだろ?」

垣根が表情を引き締めいった。
ミサカ00002号と妹達は暗部組織アイテムのリーダーであり、レベル5の第四位、麦野沈利の隠そうともしない殺気、怒気に彼女から目を離す事が出来なくなっていた。
突然現れた死をダイレクトに連想させる存在は、ギリギリの精神状態で戦っていたミサカ00002号の心には重すぎたのだろう。
そして、妹達が動けないのは、単純な生存本能である。
感情を奪われた彼女らなら、麦野沈利が何者であろうとその存在を無視し、目標である垣根、ミサカ00002号への攻撃をやめたりはしないはずである。
しかし、本能というものは消せない。
『余計な口を挟んだら間違いなく殺される』
死をも恐れる心を忘れた彼女らだが、本能は生きる事を叫んでいるのだ。

唯一動じていない垣根は髪をかきあげ微笑みすら浮かべる余裕を持っている。
戦う事、見知らぬ者と敵対することに慣れているのだ。

「……ま、どうせこいつらに私らは殺せないしあんたらどうする?私は一方通行に会いに行くけど?」

麦野は第一位と第二位が何があっても人を殺せないと確信していた。

―― それが極悪人であろうとね。

「私はここで第二位に超恩を売っておきます」

そう答えたのは、サマーセーターに中身が見えそうで見えない短いスカートをはいた御坂と同じくらいの年代の少女、絹旗最愛である。

「私は……滝壺のところに戻ってようかな」

金髪碧眼の絹旗より少し年上の少女はつまらなさそうに垣根、ミサカ00002号に視線を向けるとため息をついてそういった。

「じゃ、各々適当にやって……」

やる気なさ気に麦野はコツコツと靴底を鳴らしながら妹達の真ん中を闊歩して行く。
途中垣根に視線を向けるが、無視。
そのまま病院の奥と続く廊下に消えた。
871 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/03/19(月) 02:13:24.07 ID:HQ735hYIO

〜〜〜

「チッ……無反応かよ」

面白くないというように天井は舌打ちをすると、ため息をつき妹達に指示を出した。

「もういいや、そろそろ暗部の連中も来るだろうしさっさと芳川殺すぞ……俺の手でなんて言わねぇ、芳川桔梗という存在が死ねばそれでいい」

口角を不気味にゆがませ、一言。

「―― やれ」

その言葉と同時に、ミサカ妹達の銃口が圧倒的な暴力を振りかざした。

が、銃弾が一方通行に届くことはなかった。
その部屋をビームのような光線が幾千も折り重なり、通過したのだ。
その光線は銃弾を消失させ、その場にいた全員の思考すらも一時的に奪った。

「はァ?」

隣の部屋の壁をぶち抜き登場したのは、一方通行と同年代の一人の女性。

「お前が第一位か、まぁとりあえず……天井亜雄を渡せ」
872 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/03/19(月) 02:15:21.45 ID:HQ735hYIO

〜〜〜

「こいつらを殺さず超絞め落とせば良いんですよね?」

麦野が消えたのを確認すると絹旗最愛は垣根にそう尋ねた。

「お前らに貸しなんか作ったら何やらされるかわかったもんじゃねぇからな、そこで黙って第二位様の強さを拝んでおけ……邪魔したら残りの人生五体満足で過ごせると思うなよ」

殺し意外ならばなんでもやるぞ、とその目は語っていた。

「これは暗部とは関係ありませんよ。暗部のお仕事は“天井亜雄の超捕獲”ですから。
むしろ私が死なないための貸し作りです。単刀直入に言いますね、もし私やフレンダ、滝壺さんがこの先超ヘマをしたら麦野に殺される前に連絡いれるんで超助けにきてください」

「あ?」

「私嫌なんですよね。下部組織や研究員、その他大勢の学生がいくら死のうと構いませんが、私はアイテムの誰かが死ぬのは超嫌なんですよ」

「……自分勝手な奴だな」

垣根は「これだからお子様は……」とでも言うようにため息をついた。

「約束は出来ねぇが努力はしよう。いくら暗部だろうがもう、知り合っちまったやつが死ぬのは勘弁だからな」

「超交渉成立ですね。では、頼みましたよ、人の死を最も忌避する第二位さん」

満足そうに笑うと、絹旗は戦闘態勢へと、気を引き締めた。
873 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/03/19(月) 02:16:37.06 ID:HQ735hYIO
また読んでください
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/03/19(月) 07:45:20.58 ID:Mhy8pYWAO
おつ
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/19(月) 16:48:11.04 ID:UdsD+Fa90
よし、乙
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/30(金) 18:03:01.71 ID:soe9CGhJ0

むぎのん信頼されてねー
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/03/30(金) 18:13:50.11 ID:EGa2eUb2o
まあ、実際に仲間が仲/間になったわけですし
878 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/04/03(火) 01:25:16.40 ID:m1shkBcIO
すみません
三月中に復活無理でした
一通り流し読みしてから書き溜め&投下再開します
日曜日までには来ます
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/03(火) 13:44:20.51 ID:hn/ebIsAo
ほう
880 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:36:27.39 ID:LJhw5GtIO
〜〜〜

私が目覚めた時、一番側にいて欲しいと願った存在は既に消え失せ、私は一人だった。

彼がどこに行ったのかは分からない。

ひとつだけ確かなのは、家族だとお互いがお互いを愛し合い、必要だと認めあった塊は崩壊したと言うことだ。

「……」

私は壊れてしまった黒い携帯電話をそっと手に取り、十年間の歴史を感じさせる私の携帯電話と並べた。

「邪魔するぜ?……起きてたのか、なら返事くらいしろよ」

考え事をしていたせいか、ノックの音に気がつかなかったようだ。

「いろんな伝手を使って調べてるけどサッパリだ。でもあいつはまだこの街に居る。それは確かだ」

また、いつもの報告だ。
一日二日で何かがわかるはずもないのに、彼の親友―― 垣根帝督―― は毎日私のところに来る。
これにはきっと私が自ら命を絶たないかの監視の意味もあるだろう、と自分自身理解している。

「……」

私はうまく笑えているだろうか。
帝督もミサカちゃんも誰も悲しませたくないのに、私が笑うと二人は悲しそうに微笑む。

何故だろうか。

やはり、うまく笑えていないのだろうか。
881 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:37:16.55 ID:LJhw5GtIO
「……」

「……自販機行ってくるわ、お前はなんか飲むか?」

首を横に振る。

「そうか、んじゃちと待っててくれ」

彼はさみしそうに背中を丸め、部屋を出た。
季節は変わり、冬の足音が聞こえてきそうな、そんな冷たい風が私の髪を撫でた。
882 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:38:14.59 ID:LJhw5GtIO
〜〜〜

「芳川のあれは治るのか?」

垣根は病室を出ると自動販売機のある場所へは向かわず、カエル顏の医者のところへ足を運んだ。

「また、その話かい。それは僕でも治せない、と言ったよね?
彼女の心は彼女自身のものだからね?」

「なんでも治すんじゃねぇのかよ!」

全てがうまくいかない苛立ちを、協力者という立場の人間にぶつけてしまう。

「……すまねぇ」

「いいよ、君だってまだまだ子供なんだ。
もっと……いや、無理な話だね?」

カルテだろうか、何か書類をとんとん、と揃えるとカエル先生は大きく息を吐いた。

「それに、彼女は喋れないわけじゃない。独り言で“一方通行”の名前を何度か呟いているのを聞いているしね?
だから、あれは病気でも何でもない、なにか心に決めた事があるんじゃないのかね?」

「なにか、心……に?」

「分かったら戻るといい……ジュース、買い忘れないようにね?」
883 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:39:26.04 ID:LJhw5GtIO

〜〜〜

「邪魔になってるわよ」

後ろから急に手が伸びて、ヤシの実サイダーのボタンが押された。

カエル先生に言われた通り、ジュースを買うため垣根は自動販売機コーナーへと来ていた。
お金をいれ、そのままぼんやりと考え込んでいたため垣根の後ろには、ジュースを買いに来た入院患者であろう子供が、困っていたのだ。

「あ……わりぃな、ほれ好きなもん飲めよ」

チャリンとまた、小銭をいれると垣根は少年の頭を撫でにっこり笑った。

「……今日、というか今、ね。
00021号が死んだわ」

少し歩き、二人はソファに腰掛ける。
缶ジュースの開く、プシュという音がやけに大きく聞こえた気がした。

「そう、か……。
00100号までの妹達は00036号と00059号、00089号の三人だけになっちまったのか……」
884 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:42:52.03 ID:LJhw5GtIO

「……うん。でも、みんな笑ってくれたよ。
ただの操り人形じゃない、しっかりした自分の意志を持った人間として私に、そして垣根さんや一方通行にありが、とうって……」

涙を誤魔化すようにジュースを勢いよく飲む。

「あいつらは、本当に―― 幸せだったのかな?」

「幸せでしたよ。とミサカ00112号は……いえ、この口癖はやめましょう」

二人の間にニュッと顔を出したのは、ミサカ00112号であった。

「ミサカ達は全員、幸せでした。
芳川博士がいたから生まれてくる事が出来た。一方通行や垣根さんがいたからミサカ達はお姉様ともこうして触れ合い、話す事が出来た」

いいながら、ミサカ00112号は後ろから、御坂の頬に手をあてた。

「本来生まれる事すらなかったミサカ達が、自分の意志をゆっくりですが持ちはじめた。
貴方達の優しさや温かさを感じる事が出来た、それだけでミサカ達は幸せなんですよ」

―― 持ち始めた途端、終わっちまっても、それでも幸せと笑うのか?

垣根は悔しそうに、拳を硬く握る。

もっと遊びに連れて行ってやったり、うまいものを食わせたり、おしゃれさせたりなど、たくさんあったのだ。

それらが出来ぬまま、ただ、自分の意思でありがとうが言えた。
それを幸せだと感じる妹達に垣根は悔しさを感じられずにはいられなかっのだ。
885 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:45:19.47 ID:LJhw5GtIO

〜〜〜

ミサカ00112号が去ったあと、垣根は病室に戻り、御坂もそれについていった。

相変わらず芳川はぼんやりと窓の外を眺めている。

頷いたり、悲しそうに微笑んだりはするが、会話をしようとはしない。

―― 何か、心に……か。

「芳川さん、00021号も逝ったわ。命をくれてありがとう。だって」

芳川は、黙って頷く。

―― 一方通行、お前がいないと俺もこいつもミサカちゃんも、ダメなんだよ。
どこにこそこそ逃げてやがるんだよ……。

冷たい風を遮るように、垣根は窓を閉め、鍵をかけた。
886 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:46:35.96 ID:LJhw5GtIO

〜〜〜

俺は今までどこをどうやってここまで走って来たンだ。
俺の夢や垣根の夢、芳川やミサカ達の夢は、あの部屋と一緒にもうなくなっちまったのかなァ……。

気づいたら俺はクソみたいな場所で一人ぼっちだ。

垣根もミサカも芳川もいねェ。

俺はいい、真っ暗闇を自ら選ンだンだ。

でも、俺の守りたかった者からも、俺は笑顔を奪っちまった。

俺が望ンだ未来はこンな未来じゃねェのに……。

誰か、俺を―― 。
887 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:48:32.89 ID:LJhw5GtIO

〜〜〜

「ァ?」

「同じ事を言わせんなよ第一位、さっさと渡せ」

「お前、は……暗部ッ……クッソもうきやがったのか」

あの日、そこで起こったことを知る者は麦野沈利と一方通行しかもういない。
天井亜雄がどうなったかはわからない。
が、生きてはいないだろう。

「暗部?……お前、第四位の麦野沈利か?」

「どぉでもいいだろ、そんな事は、いいから渡せ私はさっさと帰って寝たいんだよ」

イライラとした様子で髪をぐしゃぐしゃとかきあげる。

「……お前、誰を目の前にしてるか分かってンのかァ?」

麦野沈利の余裕の表情が気に入らないのか、一方通行は思い切り殺意のこもった目で睨みつける。
しかし、それに対しても麦野はニヤリと笑うだけであった。

「はっ、人の殺せねぇバケモンに何をビビる必要があんだよ?
そんなニセモノの殺意で暗部を生きている私が怯むとでも思ってんのかァアア? 第一位ぃ」

そう、一方通行は人を殺せない。
人に限らず生き物を殺せない。
それはごく普通の感覚であり、何も恥じるべき事はないが、こういう状況では殺せない者は害悪な邪魔にしかならない存在である。

「……」

そして天井は麦野、一方通行の興味が自分から僅かにそれたその瞬間を見逃さなかった。

妹達を思い切り突き飛ばし、自身はそれを盾にするかのように、窓ガラスへ銃を発砲しながら突進する。
麦野は妹達を容赦なく殺そうとするので、当然一方通行はそれを守るために天井より一手遅れた。
888 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:50:58.54 ID:LJhw5GtIO

「クッソがァアア!第四位お前ふざけてンのかァ!」

麦野より放たれた能力から妹達を守り、その個体を廊下側へと放り投げる。
右腕に芳川を抱え、この場において最も危険な人物である麦野沈利のもとへひとっ飛びすると、その首を左手で掴み逃げた天井を追った。

「クッソ売女がァ!お前が来なけりゃ―― 」

「来なけりゃ? 自分が天井を殺したって?
嘘だね、お前に人は殺せない。現に今私は生きている」

その気になれば自分の命が消すのに一秒もかからない最強の男に首を掴まれているというのに、麦野は余裕を崩さなかった。

「―― ッ」

一方通行は舌打ちをすると、アイテムが乗って来たと思われる車に、思い切り麦野を投げつけた。

投げられている途中でも、照準はめちゃめちゃだが、麦野は原子崩しを放ってくる。

―― クッソ、第一位の野郎最後まで私を“ただのめんどくさい障害”としてしか扱いやがらなかった。
甘々の××××野郎のくせにムカつくじゃねぇか……。

麦野は確かに余裕をずっと持っていられた。
対する一方通行ははじめから余裕のかけらすら無いほど全てを瞬時に計算し、全てを考えながら行動していた。
そうせざるを得なかったのだ。
だが、その余裕のなさは“第四位『《原子崩し》麦野沈利』”を前にしたことが原因ではなく、麦野よりもちっぽけで弱い妹達、芳川桔梗の存在が一方通行の余裕を奪っていたにすぎない。
一方通行は最初から麦野沈利をただの邪魔にしかならない雑魚としてしかみていなかったのだ。

後部座席のドアをひしゃげる勢いで激突しながら麦野は最後の最後まで滅茶苦茶に原子崩しを撃ち続けた。

―― クッソ……生きてるのが奇跡なぶつけ方、ギリギリ骨が内臓引っかかない程度に折れてるかな?
あー、しばらくは入院かにゃー? ……ウッザ。

最後にそんなことを呑気に考えながら、麦野は意識を暗闇へと落としていった。
889 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:51:42.69 ID:LJhw5GtIO

〜〜〜

ねぇ、一方通行。貴方は今どこにいるの?
私のあげたこの携帯電話はもういらないの?








……………違うよね?

こんなになっても、まだ動いてるもん。
壊そうと、断ち切ろうとしても、無理だったんでしょ?

みっともなくても良い、情けなくても良い、貴方の声が聞きたい。
確かに私を抱きしめてくれたその存在を、もっと近くで感じたい。

貴方は私じゃないと駄目。
私も貴方じゃないと駄目。

私達はお互いが、お互いじゃないと駄目なのよ。

だから、お願い。

私の側に―― 帰ってきて……。
890 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:52:36.27 ID:LJhw5GtIO

〜〜〜

「*……**?」

頬に感じる心地よい風と、細くて骨ばっているが最も頼りになる存在を全身で感じ、芳川は目を覚ました。

「寝てろ」

「よか、た……貴方が、どこか、わ、たしの、知らないところへ、行っちゃうゆめを、みてた……」

「……寝てろ」

「でも、いま、あなたは、わたしを……抱きしめていてくれる」

「寝ててくれ」

「ねぇ、わたしの気持ちは、変わらないよ……だって、わた、しは……」

「もういい、お前の声を聞かせるな」

生体電流をいじり、無理矢理眠らせた。

「みっともなく、すがっちまいそうに、なる、だろ?
俺は、もう、駄目なンだ。
何も守れないのに、本当は、お前に俺の、心ってやつを……守って欲しなンて、言えねェよ」

一方通行も帰りたいのだ。
絶対に表へは出さないと決めた心の奥底の本心も、芳川の前では丸裸にされてしまう。
唯一絶対的に最強の男は、たった一人の女性に勝てないのだ。

「芳川……俺は……いや、もう決めたンだ。
こンなバケモノが人の世界になンかいちゃいけねェンだ」

こぼれかけた心を隠すように、むき出しにされた真実を覆うように、一方通行は芳川を抱く手に力を込める。
891 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:53:42.85 ID:LJhw5GtIO

〜〜〜

その後の事は、一方通行しか知らない。

垣根は絹旗の協力のもと正面から襲撃してきた妹達を全員捕縛し、芳川の病室に向かった。
そこには、天井、一方通行に置いてけぼりにされ、芳川桔梗という目標も失ってどうしたらいいか分からず、立ち尽くす妹達がいた。

それらはほぼ無抵抗に捕縛されると、全員まとめて調整槽へと入れられる。
そして順番に調整を一度綿密にやりながら、妹達を鎖につながれたマリオネットからこころを持った人間へと戻す方法をカエル先生と話し合った。

外の景色が黒から白に変わりはじめた頃、一方通行は穏やかな表情をして、芳川と共に戻った。

だが、垣根はその表情を見た瞬間内蔵を氷で撫でられるような奇妙な恐怖と、なんとも言えない気持ち悪さを感じた。

本来親友が、思いつめた何もかも諦めたような表情から穏やかな面持ちへと変化したら、喜べはしても、恐怖など感じる必要はないというのに……。

だが、それは―― 。

「垣根……悪いな」

それは、これまでの事を謝るようにもこれから何かやらかすから先に謝ってという風にも思えた。
892 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:54:53.14 ID:LJhw5GtIO

「後は……」

久しぶりに、みたような気がした。
一方通行の笑顔を。

「頼ンだ」

芳川を垣根に渡すと、一方通行は百人近くの妹達がいる調整槽のある部屋へと向かう。
垣根は何故か、一方通行に声をかけることができなかった。

「一方通行……」

「ミサカも、ありがとうな。そンでごめン。
……芳川と垣根の事……頼むぜ」

「アク―― 」

ミサカ00002号の言葉を遮るように一方通行は微笑みながら首を横に振る。

“もういいンだ。もう、終わったンだよ”

とでも、言うように。

部屋に入ると、そこには御坂美琴、カエル先生、インデックスがいた。

カエル先生とインデックスはそれぞれ別の事を察し、それで本当にいいのか? と無言で語りかけてくる。
御坂は、一方通行の表情にギョッとしたように目色を変化させると、00002号と同じように、名前を呼んだ。

「一方通行……?」

「悪いな、いまお前と話している暇はねェンだ」

軽くあしらうようにではなく、心底申し訳ないと、その声色は示していた。
893 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:57:55.56 ID:LJhw5GtIO

「死ンだのは、天井に殺されたやつだけか……」

ベッドに横になる、妹達の一人の頭にそっと手を乗せる。

十数秒間そのまま動かず、そして誰も言葉を発する事も出来なかった。

「……よし」

ゆっくりと目を開くと、そう呟きパソコンを貸してくれと、カエル先生に申し出た。

先生は黙ったままパソコンを指差すと、一方通行はそれをカタカタといじり出す。

「御坂美琴、これを初春飾利に渡してくれ。
渡してくれたら後は初春が妹達の心を溶かしてくれるはずだ」

笑顔のまま死を迎える事の出来た、そんな、穏やかすぎる表情に、御坂も垣根と同じような恐怖と気持ち悪さを感じた。

―― それは笑顔の根底は威嚇行動であるという事を痛感させた。
笑顔にも恐怖を感じてしまうのはいわば本能なのである。
それを知らずとも、遠ざけるために笑顔を向けたり、その笑顔を恐ろしいと思い、手を差し伸べにくくさせたりしてしまうのだ。

「じゃあ……な」

一方通行は部屋を出る時、誰にも顔をみられないように背を向け、そうつぶやいた。
894 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:59:34.29 ID:LJhw5GtIO
ここまで

また読んでください
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 02:18:47.36 ID:S7S1OvMDO


ゆっくりでいいから完結してくれ
896 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/04/08(日) 14:12:41.00 ID:LJhw5GtIO
>>892
訂正。

───────────────────

「後は……」

久しぶりに、みたような気がした。
一方通行の笑顔を。

「頼ンだ」

芳川を垣根に渡すと、一方通行は百人近くの妹達がいる調整槽のある部屋へと向かう。
垣根は何故か、一方通行に声をかけることができなかった。

「一方通行……」

「ミサカも、ありがとうな。そンでごめン。
……芳川と垣根の事……頼むぜ」

「アク―― 」

ミサカ00002号の言葉を遮るように一方通行は微笑みながら首を横に振る。

“もういいンだ。もう、終わったンだよ”

とでも、言うように。

部屋に入ると、そこには御坂美琴、カエル先生、インデックスがいた。

カエル先生とインデックスはそれぞれ別の事を察し、それで本当にいいのか? と無言で語りかけてくる。
御坂は、一方通行の表情にギョッとしたように目色を変化させると、00002号と同じように、名前を呼んだ。

「一方通行……?」

「悪いな、いまお前と話している暇はねェンだ」

軽くあしらうようにではなく、心底申し訳ないという気持ちがその声色からは、伺えた。

───────────────────

最後一文すこし変えただけです。
でもなんか読み直して変な日本語だなぁと思ったので

次回も一週間いないに来れたらきます
では、また読んでください
エタる事はないので

897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/09(月) 09:04:57.59 ID:n5U6LEQIO
おつ!
898 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:08:44.72 ID:udiEKYoIO

〜〜〜

「…………」

「上やーん?」

「…………なんだよ」

「冬服になってもうて、気になるあの子のブラチラが見えなくなったんわ確かに悲しい! せやけど―― 」

「はぁ、そんな事考えてんのはお前くらいだよ」

夏休みもとうに終わり二学期が始まった。
学園都市最大のイベント、大覇星祭も何事もなく過ぎ学生たちの姿も段々と肌の露出が少ないものになって来た頃、上条当麻はぼんやりと虚空を見つめる時間が増えて来ていた。

「そうか、んなら……大覇星祭で狂ったように大活躍して燃え尽き症候群なのはわかる。
せやけど、それを一ヶ月以上も引っ張るんはどうなん?」
899 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:10:17.17 ID:udiEKYoIO

大覇星祭、上条当麻は消えた一方通行へ怒りをぶつけるように、この街の何処かに一方通行がいたら上条当麻の名がその耳に入るように、がむしゃらに暴れまわった。
それは常盤台のエース、御坂美琴も同じ事で、彼女はなんと、個人の部で表彰までされ、なおかつライバル長点上機を破り、常盤台を優勝まで導く活躍ぶりであった。

「だから、そんなんじゃ、ねーって」

十月もそろそろ終わろうとしている。

―― どこいっちまったんだよ。お前は今どこで何をしているんだよ。
いつまでも……逃げてんじゃねぇよ。馬鹿野郎。

上条は青髪ピアスの言う事を右から左へと聞き流し、真っ青に晴れた空を見上げる。

―― お前がいないと、垣根も御坂もミサカも、インデックスも、白井も初春も佐天も……芳川さんだって、みんなが……。
みんな笑えやしねぇんだよ。

空から目を逸らすように、まぶたを閉じると、ちょうど午後一番の授業の開始を告げる鐘が鳴った。
900 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:11:24.40 ID:udiEKYoIO

〜〜〜

「一方通行さん、まだ見つからないの?」

「……はい」

青髪ピアスが、様子のおかしい上条当麻を何とか励まそうとしている頃、柵川中学校も昼休みであった。

佐天はこの所学校の授業と授業の短い休み時間でさえ、パソコンにむかい、なにやらカタカタとしている初春を心配していた。

―― どうしてここまで初春は一方通行さんの事気にかけるんだろう。

正直二人とも一方通行とはそこまで面識のあるわけではない。
御坂のお友達、つまり友達の友達レベルなのだ。
一緒に遊びに行ったことのある垣根が行方不明ならば、まだわかる。
だが、佐天には初春がここまで一方通行に固執する理由がわからなかった。
901 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:11:59.86 ID:udiEKYoIO
勿論、佐天も心配していないわけではない。
だが、相手は第一位どうしても、心配なんてする必要ないのでは? と思ってしまうのだ。


「なーんか、色々壊れた夏休みだったなぁ」

初春に聞こえぬように、ボソッとこぼした。

御坂の思いが散り、初春の様子もおかしくなった。
白井とも、夏休みを終えてからほとんど会っていない。

何がそうさせたのかはわからぬが、ここにもひとつヒビが入ってしまったようだ。

「一方通行さん、どーこいっちゃったのかなぁ……」

佐天は窓の外、風に揺れ、舞い上がる木の葉をぼんやりと眺めた。
902 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:12:53.97 ID:udiEKYoIO

〜〜〜

「逃げンじゃねェよ」

一方通行は天井の前にと舞い降りた。

天井は一方通行が芳川を抱いている事を確認すると、怯えるどころか、嬉しそうに口元を歪めた。

「おいおい、お姫様をこんな所まで連れ出したら……魔王にぶっ殺されちまうぞ?」

「ハッ、お前が魔王ってガラかよ? いい加減、もう飽きた」

一方通行は天井のジョークにうんざりとした様子を見せ、そしてゆっくりと気を引き締めて行く。

「もう、終わりだ」

芳川を近くにあるバス停のベンチに寝かせる。

「お前のくだらねェ夢も、お前の自由も……全部俺が奪ってやる」

そして、まっすぐと視線を天井に向けた。

―― こ、こいつ……。

天井も麦野同様一方通行に殺される心配はそれほどしてはいなかった。
が、今、目の前にいるこの存在は、この目は、全てを捨てようとしている目だ。
903 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:13:29.16 ID:udiEKYoIO

―― なぜだ?先ほどまでは第四位も言ってたとおり人なんてたとえ俺でも殺せない目だったのに……なぜだ?
何が起きた?なにがこいつに全てを捨てる決心をさせたんだ?

しかし、天井の考えた事はそんな事であった。
自身が殺されるとかそういう事は理解したあとすぐさま次の思考に移ったのだ。
それは、何が一方通行を変えた。という事である。
そしてその答えは、一方通行しか知り得ない。

靴底がアスファルトを叩く音が真っ暗闇の学園都市に響いた。
その足音はだんだんと天井の元へ近づき、ついに手を伸ばせば届きそうな距離で止まった。

「あばよ、天井。あの世でミサカ妹達に謝れなンて言わねェ、あの世では妹達に殺されろ」

一方通行は殺人を自ら推進するような、似合わなすぎるセリフを吐いた。

その手は既に天井の首に触れている。

少し、脳を動かせば簡単に殺せる。
904 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:21:29.16 ID:udiEKYoIO

―― 笑えるな、自分の正義を曲げる事がこンなに簡単だなンて……。
人を殺すのがこんなに、簡単だなンて……。

死ね。

そう、つぶやくと一方通行は演算を始めようとする。

「はじめまして、第一位一方通行」

その瞬間、一方通行の耳に男とも女とも、子供とも老人の物とも思え、それのどれとも言えない奇妙な声が届いた。

「お、前……は」

「アレイスター」

その人物は、微笑んでいるようにも睨んでいるようにも見える不気味な表情をしていた―― ように感じた。

「アレイスター・クロウリー、この学園都市の統括理事長だ」

そして、もう一度名乗る。

その存在は確かにここにいるがここにはいない。
声は聞こえど、どのような表情をしているのかはっきり伝われど、姿が見えないのだ。
その感覚に一方通行は素直に恐怖する。

「な、ンだ……お前」

キョロキョロとあたりを見渡すが、猫の一匹見つける事は出来なかった。

「お前は……なンなンだ?」

一方通行の顔に、今までとは違った種類の“焦り”が浮かんだ。

それは、麦野が望んだ反応であり、弱い人間が麦野を前にした時に見せる反応に近かった。

「ひとつ、私から敬意を示し提案をしよう。
それを受け入れるか否かは自由にしろ」

風が一層冷たく肌を撫でる。
日常で反射をしていない時ならば、それは自然な事だが、いまは違う。
戦いの最中だ。

無意識でもできる反射という絶対的な盾を一方通行が自らの意思で捨てる事はあり得ない。


つまり、一方通行は“アレイスターの声を聞く”たったそれだけの事に反射に使う脳のごく僅かな領域まで使い切っているのだ。

しかし、人間の脳とは計り知れぬ物に出会った時こそ冷静になれる。
一方通行もバケモンのような力を持っているが、その例にもれない。

一方通行がこの時考えていたのは、弱った芳川桔梗をこんな寒空に放置して置いたら死んでしまうのではないだろうか? ということであった。

905 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/04/11(水) 21:23:26.06 ID:udiEKYoIO
ここまで

短い……が、ためるより投下した方が気が楽だ

ではまた読んでください
レスもいつもありがとうございます
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/11(水) 21:40:34.75 ID:801QlLsv0
生まれて初めてリアルタイムで投下を見た!
いつも楽しく見させてもらってます!
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/11(水) 22:22:07.17 ID:oVRfNpeDO
おつおつー
908 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/04/18(水) 22:47:01.85 ID:NAZLefJIO

〜〜〜

「チッ……提案ってのはなンだ」

「簡単なことだ」

「もったいつけずにさっさと話せ」

アレイスターはおかしそうに、少しだけ笑った。
そんな些細なことですら、余裕をなくした一方通行は癇に障ってしょうがない。

「もォいい、次はオマエを殺してやる」

天井の首にかける手に力をいれた。

「その男を、この街の法で裁いてやろう。その代わり一方通行、お前にはしてもらいたい仕事がある」

アレイスターは相変わらず愉快そうな声で話す。
まるで一方通行には提案を受けいれる事がわかっているようだった。

「信用ならねェ」

「そうか、ならば芳川桔梗を[ピーーー]としよう」

「なンッでそォなンだよォ!」

「今回の『超能力者襲撃事件』その首謀者として」
909 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:48:17.72 ID:NAZLefJIO

「はァ?それは―― 」

「そう、確かに天井亜雄の仕業だ。
だが、クローン技術は芳川桔梗のものだ。
実際に私の手元に彼女の研究記録が残っている」

「クローンがあいつの技術だとしても、それを使って暴れたのはこの馬鹿だろォが!」

「その男は『絶対能力者進化実験』の責任者を殺した。
その時点で実験の責任者は芳川桔梗という事になっている」

「はァ?」

「もうひとつ、彼女はその実験成果を無断で持ち出し姿をくらませた。
それは学園都市ではご法度だ、外に中の技術を漏らしていないか取り調べもする必要がある」

首を締める手から、力が抜ける。
910 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:49:55.91 ID:NAZLefJIO

「これは敬意だと、私はそう言ったがそれは一方通行、お前に対してのものではない。
私のプランを大幅に崩し、再構築を余儀なくさせたなんの力も持たないはずの一人の研究員への敬意だ」

アレイスターの声は明るい。

「……こいつを差し出したら、こいつはどォなる?」

「結果から言えば、死ぬ」

「お前はなンで急に出てきた?
絶対能力者進化実験はお前の許可した実験だろォ?
何もかもが嘘くせェ」

「そう、そしてそれは一方通行、お前が蹴った事で終わりのはずだったのだ。
第二位に話を持って行ったのはそいつの独断だ」

「でも、それをお前は黙ってみてた」

「幻想殺しにどんな影響があるか少し気になったのだ」

「上条ォ?」

「レベル5など私のプランにはそれほど重要ではない。何よりも重要なのは、幻想殺しだ」

アレイスターは、淡々と話す。
911 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:50:50.66 ID:NAZLefJIO

「一方通行、垣根帝督両名との邂逅はイレギュラーであった。
本来ならば一方通行だけとの邂逅のはずだったのだ。
そして、幻想殺しはそのあと崩壊した。
そこからの幻想殺しの変化は私でも予測不可能でね、あれは最近やっと安定してきた」

「意味がわからねェ」

「私以外に私のやろうとしている事がわかるはずもないだろう」

しばらくの間、ほんの数十秒だが、二人とも言葉を発せず、あたりは天井の苦しそうな息遣いとそよそよと葉っぱを揺らす風の音に支配された。

「……クローン技術、それがこの先使われる事は?」

「クローンなどもう必要ではない」

「お前以外が使うかもしれねェだろォが!」

「そうならないためのお前の仕事だ」
912 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:52:03.66 ID:NAZLefJIO

「ァン?」

「天井亜雄を裁判にかけた時……あぁ、安心しろ、判決は間違いなく死刑だ。
そして焦点はそこではない『禁止されているクローニングを行い、さらに非人道的な行いを繰り返した』というところだ。
その話を聞いた科学者がその技術を盗もうとするのは分かり切った事だろう。
そうだろう?
本来ならば先程お前がリーダーを潰したアイテムなどの暗部組織を使うのだが……。
まぁ、そこまでやってやる義理もないし、使えそうな暗部組織はお前自身が潰した。
だがその研究を持ち出そうとする奴を教えてはやる。
あとは自分でカタをつけろという事だ」

アレイスターは意味ありげな笑みを浮かべると、ただ、と付け加える。
913 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:52:40.65 ID:NAZLefJIO

「その研究員をこちらに引き渡せばこちらで“処理”はしてやろう。
お前には私に自分の捕まえたものを引き渡す義務はないがね」

―― そろそろこいつは舞台から消える時間だ。その前に、幻想殺しを動かす駒になってもらう。

アレイスターの中では、着実とプランが組み上がっている。

―― そのためには一方通行には“人殺し”を覚えて貰わなければならない。
確かに自分が人を殺したという実感を……幼少の頃のものではまだ、弱い。

「こ、いつを……どこに、持っていけば……いい、ンだ?」

アレイスターの計画通り、一方通行は提案を受け入れた。

「窓のないビル」

ニヤリと笑ってからそう言い残すと、アレイスターの気配は消え、同時にあたりを包んでいた怪しい空気も散った。
914 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:53:58.55 ID:NAZLefJIO

〜〜〜

「ミサカちゃん、少し休め。お前は頑張りすぎだ」

「そんなことできるわけないじゃん。あいつはミサカ00001号の心を裏切ってる。
思いを踏みにじってる。ミサカはミサカ00001号の家族として、妹として、そんなの許せない」

「それで、お前まで倒れたらそれこそミサカの気持ちを踏みにじる行為だ」

「ミサカ00002号の事はどうでもいいよ。
ミサカの何より大切なものは血をわけた、というより同じ血を流すミサカ00001号なんだよ。
ミサカ00002号が、ミサカが死んでたら、00001号は倒れるまでミサカのやりたかった事をやってくれると確信を持てる。
だったらミサカも倒れるまでやらなきゃ―― 」

「それが間違いだと言ってるんだよ」

ミサカ00002号の言葉を遮り、垣根は少し怒ったような声をだした。
915 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:54:42.64 ID:NAZLefJIO

「一方通行が見つかった時、お前が倒れてたら……意味、ないだろ?
ちゃんと休め、食え、沢山の妹達が出来なかった普通の生活をしろ、それはお前の義務だ。
そして、それはミサカが、沢山の妹達がやりたかったはずの事でもあるんだからさ」

願うように垣根はまっすぐミサカ00002号を見つめる。

「……でも、部屋でじっとなんてしてられないよ……あの部屋には00001号が、いないんだもん……。
どこを探しても、声をかけても、いないし、返事も……してくれないんだよ?
そんなところに……ミサカは、いたくない……」

垣根達のマンションは修復にまだ暫く時間がかかる。
病院の子どもを見舞いに外から来た親などを泊めるための個室が数個あいているのでそこを使うかい?
とカエル先生に言われたが、垣根はそれを断り、いまは病院の近くのマンションを借り、そこでミサカ00002号と共に住んでいる。
916 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:55:15.71 ID:NAZLefJIO

「……大丈夫だ。ミサカがお前を、死んだくらいで見捨てるわけがねぇだろ。
今でも、お前の隣に、心に居てくれてる。
それに、俺もいる。芳川もすぐ近くの病院にいる。
一方通行だってこの街にいる。
お前は一人なんかじゃない。そうだろ?」

あやすように、必死に涙をこらえるミサカ00002号の頭をそっと自身の胸に抱える。

「俺がお前だけは守り抜いてやるから、だからそんな辛そうな顔をするな。
一方通行だってきっと見つけてここに連れ戻してみせる。
だから、お前はもうこれ以上―― 」

垣根は落ち着かせるように頭を撫で続けている。

「―― 我慢、するな」
917 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:57:13.38 ID:NAZLefJIO

「ちがう……よ、泣けないんだよ笑えないのと同じで泣けない。
ミサカは垣根さんが大好き。
でも、一方通行の事も芳川博士の事も好きなんだ。00001号の事だって誰よりも何よりも大好きで、ずっとずっと大好きで……。
でも、死んじゃって、ミサカは生きててっ!
垣根さんも一方通行も芳川博士も生きててっ!
なのに! なのに……00001号が大好きだったミサカ達は欠けちゃってさ……。
だから、ミサカ00002号も、壊れそうで、でも、ミサカは、どうしたらいいの?
ねぇ、ねぇ、教えてよぉ……」

泣きたいのを我慢していたのではない、泣きたくても泣けなかったのだ。
それは途方もない圧力となり、ミサカ00002号の心をぎしぎしと少しずつ潰していた。
ねだるような、縋るような、そんな必死すぎる目を垣根に純粋なまでの真っ直ぐさをもって向ける。
918 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:57:58.92 ID:NAZLefJIO

「ねぇ、ミサカ00002号はここにいるよ?
なのに、どうしてみんながいないの?
もっとミサカを見てよ、00001号の願いだからミサカ00002号をみるんじゃなくって、ミサカ00002号の願いだからって理由でミサカ00002号を見てよッ! 」

子どものように、いや実際子供なのだが、自分でも何を言っているのかわからないほど、ミサカ00002号は喚く。
ただ、喚く。

依存しているかのように、垣根に縋りつき、言葉にならない悲鳴をあげつづけた。
919 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:58:35.56 ID:NAZLefJIO

〜〜〜

「消え……たのか?」

ざわざわと風が騒ぐ。
月明かりが真っ白な少年を照らす。
星は煌きながらも、その少年をどこか笑っているようだ。

「チッ」

その少年―― 一方通行 ―― は天井を一度完全に気絶させると、その体を地面に乱雑に捨てるように放り投げた。

そして、芳川の元へと歩み寄ると、先ほどとは真逆に、優しく抱き上げる。

片手でバランスよく芳川を抱くと、余った方の手で地面に転がる天井を掴み上げた。

そして、月明かりを一身に受けて怪しく光を放つビルへと飛んだ。
920 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:59:25.27 ID:NAZLefJIO

〜〜〜

「ご苦労、暫くはこの中で生活すればいい。どうせ仲間の元へは帰れないのだろう」

その男は、いや男にも女にも見えるその存在は、ビーカーの中でゆらゆらと逆さまに浮かんでいた。

「お、前が……アレイスターか?」

かすかに頷く。

確認が取れると、一方通行は二人を抱えたまま思い切りそのビーカーを蹴り割ろうと飛びかかったが、ビーカーには傷ひとつつくことはなかった。

アレイスターはニヤニヤと笑う。

「無駄だ。
天井亜雄を置いたら芳川桔梗を病院へ返してこい。
第二位、そして第三位とクローンに別れもちゃんと告げてくるのだ」

「なンでお前にそンな事まで命令されなきゃなンねェンだ」

「お前に『私に脅迫された』という逃げ道を与えたまでだ」

「……チッ」

その後、一方通行は今後どうなるかを質問攻めにする。
そして、芳川を担ぎ、窓のないビルをでた頃には夜は明け、外は明るくなっていた。
希望の朝などと思えぬほど心に重しを背負ったまま、一方通行は病院へ向かった。
921 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:59:54.77 ID:NAZLefJIO

〜〜〜

優しく揺れている。

それはネオンライトがチカチカと優しく寂しい心を照らしてくれているような感触を受けた。

ピアノを静かに叩く細い指先のような、かすかなお互いの心音だけが聞こえる。

その音は決して他の音と噛み合う事はなく、だからこそ心地よい。

少年の胸には一人の少女が抱かれている。
男と女の仲というよりは、親子、兄妹のように見えた。

一定のリズムで頭を撫でながら、垣根は思う。

―― 多分、ミサカの気持ちは正しく伝わった。
だけど……。

「垣根さん……ごめんね」

頭を撫でる手に自らの手を重ね、ミサカ00002号はつぶやく。

「……いいんだよ。
お前は何も気にするな。
もともと俺と一方通行がよわっちいのが悪りぃんだからよ」

「……うん。でも、ごめんね」

重ねた手に力をいれ、その手を握った。

その手はただそこに存在しているだけで暖かな気持ちをくれるようだった。

922 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 23:05:30.14 ID:NAZLefJIO
ここまで
次もまた読んでください



923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/18(水) 23:05:41.84 ID:gaTMqXVxo
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/19(木) 02:22:53.71 ID:o13DgUWDO
乙!

闇落ちまっしぐらだな
どんなラストになるんだ……
925 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:17:50.66 ID:o8cvdhgIO

〜〜〜

「私、もう一方通行探すのはやめるわ。
それはアンタ達に任せる事にした」

一方通行が消えて三ヶ月が経ったある日の事、久しぶりに御坂、上条、垣根は集まっていた。
場所は夏休みに何度か立ち寄った喫茶店だ。

「そうか……まぁ、お前は学校も大切だしな」

「違うわよ、一方通行を見つける事のできるのは私じゃなくて垣根さん、妹、そしてあんただけだって昨日悟ったの」

どこか吹っ切れたというか、スッキリしたような妙に清々しい顔で御坂は上条に答える。

「……美琴ちゃんは何か自分なりの答えを見つけたのか……羨ましいぜ」

最後の一言は恐らく二人には届いていないだろう。
垣根は寂しそうに 俯き、ブラックコーヒーを見つめた。

「……んじゃ、私はもう行くわね」

「え?今きたばっかじゃねぇかよ」

「ほんっとにあんたは……そういう事言われると、なかなか諦めってもんがつかないじゃない。
女の子はね、というか恋してる人はその人の些細な言葉で色々勘違いしちゃったりするもんよ?」

御坂は諦めがつかないと言う割にカラッと明るくそんな事を言って笑っていた。
926 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:18:38.83 ID:o8cvdhgIO

「……」

垣根はそんな御坂を見て、こう思う。

やっぱこいつはすごい。
俺なんかよりも全然強い。
レベルだとかそんなもんじゃ超えられない物をこいつは手にしている。

「……美琴ちゃん、ここはお前の奢りだ」

垣根は伝票を抜き取りそれを御坂に渡した。

「……こういうときは男が払うもんじゃないの?」

「ばーか、未だ道に迷ってる俺たちなんかより、お前の方が余程かっこいいから最後までかっこいいところ見せてけよ」

「ったく、じゃあ美琴センセーが奢ってやるわよ。
ほら、ラストオーダーの時間よ?
他に頼みたい物あったら頼みなさいよ」

しょうがない、と御坂はため息をつくと近くにいた店員さんを呼びメニューを垣根、上条に渡した。

「じゃあ俺はサンドイッチのセットで……上条もそれでいいな?」

「え?あ……いいの?」

メニュー顔の下半分を隠し、上目遣いで御坂に確認をとる。

「いいわよ、これであんたらが何か答えを出せると言うならさ……正直、私が一番先に答えを出せたのは垣根さんと……か……」

一瞬言うのを躊躇うが、もういい、と言う風に一度目を閉じると、まっすぐ上条を見ていった。

「垣根さんと上条さんのお陰だから」

寂しそうな微笑みは、何を意味するのかは上条にはわからない、だが、それは良い方向への前進だという事は理解できた。
927 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:21:53.69 ID:o8cvdhgIO

〜〜〜

頭が痛む。
世界は真っ暗だ。
では、誰がこうしたのだろう。

答えなどあるわけもない。

そこにあるのは死に至る病ただそれだけ。

それを治す特効薬を一方通行は持っているにもかかわらずそれに気づかない。

一度気づいてしまえば、そうしたらもう彼は笑えるのだ。
彼の友人も、その友人も、みんな笑えるのだ。

人の繋がりとはなんであろうか、それゆえに人は傷つき、悲しむ。
では、繋がりとは人を壊す物なのだろうか。
それは否である。

繋がりがなくては人は生きれない。
それは死に至る病を発病させる原因でもあり同時に特効薬なのだから。

よくわからない機械が低い音を一定のリズムで出している部屋に一方通行はポツンと座っていた。
部屋の中は怪しい緑色のライトで照らされ、その部屋にいるだけで心が蝕まれて行くようだ。

ぼんやりと光るライトを見つめながら一方通行は最後の日を思い出す。
928 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:22:35.92 ID:o8cvdhgIO

〜〜〜

「一方通行、私の名前を、忘れないで……私は、いつまででも……あなたを待っているから」

病院に着くなり芳川は割合はっきりとした声でそういった。
目が覚めたのかとギョッとしたが、それはどうやら無意識の中から出た言葉らしい。
芳川の目は閉じられていた。

「……俺がお前を忘れるわけがねェだろォが」

これからの事を思い、泣きそうな目をしながら一方通行はその存在を確かめるように思い切り抱きしめた。
929 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:23:28.82 ID:o8cvdhgIO

〜〜〜

「芳川の名前……」

一方通行は一人つぶやく。

「桔梗。芳川桔梗。
あれ?桔梗ってなンだっけ? 花……か?」

誰に話しかけるわけでもなく、ずっと独りで呟いている。

声を出さなければ自分の存在が消えてしまうように思えたのだ。

だが、それを願って一方通行は垣根を、ミサカ00001号とミサカ00002号とそして芳川を捨てたのだ。
その事に一方通行は違和感を覚えてはいるが、自覚はしていない。
矛盾する気持ちが彼の中で渦巻き、瞳の真紅を濁らせている。

「……帰り、たい」

無意識にそう小さく呟くがその声を聞く者はここにはいない。
930 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:24:38.11 ID:o8cvdhgIO

〜〜〜

「なぁ、上条」

垣根はサンドイッチを掴みながら、ぼけっとしている上条に声をかけた。

「なんだよ」

「美琴ちゃん振った事、後悔してる?」

そして、何やらぼーっとしている上条に全く表情を変えずに尋ねる。
返ってくる答えはわかっているという風に、興味無さ気だ。

「はぁ? んなわけないだろ、俺はインデックスを……守りたいんだからさ」

「じゃあなんでそんな暗い顔してんだよ」

答えが予想通りで、本題にすんなり入れた事に満足し、さらに尋ねる。

「いや、なんかさ」

「んー? 」

サンドイッチをパクつきながら、反応を待つ。

「強いなと、そう思ったんだよ。
あいつはすごいなと、そう……思ったんだ」

上条もやっとサンドイッチに手を延ばし答えた。
そしてそれは先ほど垣根が思った事と重なった。

「それでダメダメな自分に凹んでるってか? お前はまたインデックスちゃんを泣かす気か?」

「なんで、そこでインデックスが出てくるんだよ」

「お前が暗い顔をしていると、インデックスちゃんは悲しむぞ。
そして、それでもお前に重く感じて欲しくないから無理やり笑おうとする。
最低な悪循環だ」

自分の言葉が自分にも突き刺さった。

「……垣根、今日泊めてくれねーか? もちろんインデックスも」

「あぁ、いいぜ。むしろ、ありがたい。
ミサカちゃんも喜ぶ」

三つ目のサンドイッチを飲み込むと、垣根は安心したような表情を浮かべた。
931 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:25:30.86 ID:o8cvdhgIO

〜〜〜

「ふう、やっぱ細かい作業はキッツイなぁ」

それが、どこから来るキツさなのかは、深くは考えない。
考えると駄目になってしまう気がしたからである。

御坂美琴はとある研究所へと垣根達と別れた後向かった。
協力の一息をつきながら、御坂はすっかり短くなり真っ暗になった外を見つめる。

「キツイのは頑張れる。妹達の為だから。
辛いのも耐えられる。私自身の為だから。
妹の為ならどんな苦境も楽しめる、それがわかった」

目を閉じ、死んでいった妹達の顔を一人一人思い出す。
みんな、最期は御坂を見て笑ってくれた。
声にならなくても、お姉さまと慕ってくれた。
それが、何よりも嬉しかった。
そして、同時に何よりも―― 悔しかった。

「よし、後少しなら出来る! 頑張ろっと」

大きく伸びをして、研究室へと入って行った。
932 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:26:15.77 ID:o8cvdhgIO

〜〜〜

「なんだか久しぶりだね」

インデックスは全てを分かっているという雰囲気をまとっていた。

「そうだな、元気だったか?」

「身体はね。ていとくとみさかも同じでしょ? 」

少しだけ表情を崩す。

「でもね」

インデックスは今度は目一杯の笑顔をしながら続ける。

「大丈夫なんだよ。絶対に、大丈夫」

そして自信をもってそう言い切った。

「あくせられーたも帰ってくるし、ききょうも帰ってくる。
みさかは神様のもとへ逝ってしまったから帰ってくる事はないけど……いつでもあなた達の側に居てくれている」

そうでしょ? と垣根、ミサカ00002号に言った。

「そう、なの……かな? 本当に、一方通行も芳川博士もミサカのところへ戻ってきてくれる?
みんなみんな、ずっと一緒に居てくれる?
本当に? 」

インデックスは答えない。

「大丈夫さ」

代わりに垣根が言葉を発した。

「なんかさ、インデックスちゃんは本当にすげぇな。
インデックスちゃんが言うと本当にまた四人で暮らせるような気がするんだ。
だから、大丈夫だよ。ミサカちゃん」

垣根はミサカ00002号に柔らかく微笑んだ。

「俺たちは家族なんだから」
933 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:27:24.99 ID:o8cvdhgIO

〜〜〜

―― ミサカはそうは思えないよ。

上条、インデックスを加え四人で晩飯を食べ終え順番に風呂に入ると、ミサカ00002号は自室で小さく丸まっていた。

手にはいつの日か御坂美琴に貰った缶バッジを二つ、持っている。
一つは自分の、そしてもう一つは亡くなった姉のものだ。

―― 家族でも、死んじゃったら離れ離れになっちゃう。
側にいても、声も聞けない触れ合う事も出来ないんじゃ……不安だよ。

苦しそうに顔を歪め、その顔を隠すように毛布に包まった。

―― 00001号に会いたい。00001号の声が聞きたい。
温度を感じたい。抱きしめて、欲しいっ……!
934 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:28:54.63 ID:o8cvdhgIO

『大丈夫ですよ』

「え?」

『垣根さんも言っていたでしょう?
ミサカが死んだくらいで可愛い妹を―― 見捨てるわけないじゃないですか、いつでも貴方を見守ってますよ』

「え? え? 00001号、なの?
どこにいるの?
ねぇ、ミサカに触れて! 抱きしめて!」

毛布から飛び出て、部屋の中を見渡す。
が、目的の人は見つかるわけもない。

「幻、聴? ……はは、ミサカもそろそろ、ヤバイかも、ね」

力が抜け、ペタンと座り込むと、背中から何か暖かい存在に包まれた。

『ほらね? ミサカはそばにいます。
貴方を見守ってますよ。
ミサカの事をいつも考えてくれるのは嬉しいけれど、それだけじゃ駄目なんですよ。
00002号は生きているんだから、だから沢山の事を経験して、沢山の幸せを心に貯めて、笑顔で生きてください』

「で、も……でも、ミサカだけ、幸せになって……い、いの?」

『当たり前でしょ!』

「あ、今の……少しだけ、お姉さまっぽい」

『えへへ』

「へへ」

『……ミサカの大好きな人たちが笑っていれば、ミサカも他のミサカ達も幸せです。
言ったでしょう? ミサカはいつでも貴方のそばにいる。
だから、笑ってください。恋してください。泣いてください。
そして、最後は笑ってください。ミサカ00001号の事は、そんなに考えなくていいですよ』

「そんなの―― 」

『……そうですね、ごめんなさい。
やっぱりたまにはミサカの事、世界中の誰よりも貴方を一番大好きだったミサカ00001号の事を思い出してください』

「あ、あったり、まえじゃん!ミサカだって、00001号のこと……一番大好き、だもん……ありがとう―― お姉ちゃん。
ミサカ、頑張るよ。頑張って、幸せになるよ」
935 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:29:37.65 ID:o8cvdhgIO

〜〜〜

「みさか? みさか! みっさっかっ!」

「……え? うわぁああ! な、なんだよ! インデックス、驚かすな……あれ? ミサカ、寝てた?」

「お、驚いたのはこっちかも!
……そうなんだよ! 寝ながら泣いてたから、起こしたんだよ」

「え?」

手を頬に持って行くと、確かにその双眸からは涙が溢れていた。

「ミサカ、泣いてる……ミサカ、泣けたよ」

その涙は、ミサカ00001号が与えたもの。
ミサカ00002号が欠けてしまったと思った何かを、ミサカ00001号はうめたのだ。

夢だったのかもしれない、妄想だったのかもしれない。
ミサカ00001号はそんな事を思ってはいなかったのかもしれない。
でも、あれは夢でも妄想でもなく、確かな現実だとミサカ00002号は確信を持っていた。

「バッジ、ミサカのなくなってる」

この日、初めてミサカは泣いた。
そして―― 笑った。

「ありがとう」

天井を見つめ、ミサカ00002号は恥ずかしそうに微笑んだ。

『……』

ミサカ00001号も笑ってくれたような、そんな気がした。

インデックスはわけがわからない、という顔をしているが、何か良い変化がミサカ00002号に起きたという事はわかっているようだ。

―― みさかが救われたなら、それで良かった。
やっぱり、みさかは……笑ってる方が可愛いんだよ!
936 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:30:46.37 ID:o8cvdhgIO
ここまで
次も読んでください
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/21(土) 10:30:44.19 ID:LGXO8vYco
うおおおおおおおおおおお乙
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/22(日) 17:25:58.81 ID:BIqhIiyO0
上琴病の俺には、美琴の「上条さん」のコトバがきつい。
939 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:07:51.24 ID:1dyaKj92o

〜〜〜

「やっと落ち着いてきたな」

「……」

「しかし、意外だったぞ一方通行」

「……」

「お前がなんの躊躇いもなく、人を殺すとはな。
しかし、あまり派手な殺し方をするな」

「……」

「……そろそろ、第一位が殺人鬼になったという情報も浸透してきた。
お前の仕事も終わりだ、以降芳川桔梗の研究成果を持ち出そうとする者は学園都市の敵とみなす。
さぁ、お前たちはもう自由だ。
好きなところへ行け」
940 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:08:19.73 ID:1dyaKj92o

〜〜〜

「うーいーはーるー? 」

「なんですか?」

「いや、なんか最近急に元気になったからさ。
一方通行さんまだ見つかってないんでしょ?」

「……あぁ、あのモヤシを探すのはやめました」

とてもいい笑顔をしながら初春は言った。

「初春どうしちゃったの? それこそ、失踪した恋人探すみたいに必死だったのに急にケロっとしちゃってさ」

「この私が約半年かけて見つけられないなら、私に一方通……モヤシさんは見つけられないって事ですよ。
だったら、無駄なことしないで私は私に出来る事をやろうと思ったんです」

「初春に出来る事? 」

「はい! 御坂さんの関わってる研究にいま協力してるんです。
今日も一旦家帰ったらすぐに行くことになってるんですよ」

「最近帰りが遅かったのは風紀委員じゃなかったのか」

「すみません。つい言うの忘れちゃって」

気まずそうに笑う。

「いいけどさ……じゃあ落ち着くまで家事は私が全部やるよ」

「……本当は、そういうと思ったから言わなかったんです。
今は私が居候させて貰ってる立場なんですからそんな事できませんよ」

「何遠慮してるのさ! 私達は親友、ベストフレンドでしょ?
それに私も初春と同じ、私の出来ることをやるだけだよ。
私には、初春みたいに御坂さんの手伝いをすることはできない。
だけど、御坂さんの手伝いをする初春を助ける事くらいなら出来る」

「佐天さん……」

「さ、初春。行きなよ。どうせ家一回帰るのも、少し家のことやってから行こうって思ったからでしょ?
そんなの佐天さんに任せない!
美味しいご飯を作って私は初春の帰りを待ってるからさ」
941 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:08:46.18 ID:1dyaKj92o

〜〜〜

「俺に出来る事ってなんだろう」

「……知るかよ」

男二人はウイスキーを片手にテレビを眺めていた。

「垣根はさ、これからどうするんだ?」

「どうするって? 」

「お前に出来る事はなんだよって話だよ」

上条はいいながらグラスを空にした。

「わっかんねぇよ。とりあえず一方通行見つけて……どうしようかな」

「というか、どうやって見つけるんだよ」

「あーもー、うっぜぇ!
お前は何がいいたいんだよ! そんなことわっかるわけねぇだろうが! 」

上条のグラスに酒をつぎながら、自身のグラスも空にし、追加する。

「……ごめん。なんか焦ってた」

「俺だってお前と同じさ。
美琴ちゃんはすげぇ、俺なんかじゃ敵わないくらい強い。
それを再確認させられて凹んでんだよ。
だから今日お前に、同じ気持ち持ってるであろうお前に来てもらったんだよ」

酒の勢いか、垣根は普段は絶対見せないような姿をさらしていた。
942 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:09:16.54 ID:1dyaKj92o

「俺とお前は同じだよ。
何かしたい、何か出来るはずだ。そう思っても実際何をしたくて何が出来るのかよくわかっちゃいねぇ」

また、一気に酒を飲み干した。

「ていとくもとうまも飲み過ぎかも」

二人の後ろには何時の間にかインデックスが立っていた。

「おま、寝たんじゃなかったのか」

飲酒が暴露たのを若干上条は気まずそうにする。

「みさかがね、泣いて笑ってまた泣きはじめたから一人にしてあげようと思って」

「そういう時はお前は何か声をかけるもんかと思ってたわ」

意外そうに垣根はグラスを揺らしながらインデックスの方を向いた。
943 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:09:44.74 ID:1dyaKj92o

「何もわからないからね。なんて声をかけていいかもわからないんだもん」

「賢明な判断だ。
誰かが涙を流しているのを見て何か言ってやれるのは、その人の涙の理由を知ってる奴と無責任な奴だけだからな」

もう一杯、一気に飲み干す。

「ていとく、お酒はもう駄目! 身体壊すかも」

「いいよ、別に。
何もできない俺なんていない方が良いんだからさ。
今でもまた四人で暮らせると思ってるし四人の事を考えると勇気が湧いてくる。
でも、俺は実際は何もできないんだから」

「……酔いすぎだよ、垣根。
まだ、何が出来るかわからないってだけだろ。
何も出来ないわけじゃない」

「は、やっぱお前と俺は違うわ。
お前は何だかんだ言っても絶対に諦めない。
……俺は、何かを諦めちまいそうだ」

「ていとくは、少し弱気になってるだけかも」

垣根からグラスを取り上げ、インデックスは優しく微笑む。
944 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:10:32.09 ID:1dyaKj92o

「ていとくは強いよ。ただ、自分の強さに気がついていないだけ。
私の言っている強さと、ていとくの向いている方向の強さは今は別なんだよ。
全く違う方を見て、全く違う種類の物を比べているから自分は弱いと思っちゃうんだよ」

「あぁ、そうか。だから俺はお前の言ってることがよくわからなかったんだ。
そうか、わかった。俺に出来る事、今わかったよ」

上条も何かに納得したように、頷いた。

「垣根、御坂の強さは、お前が敵わないと思った強さはなんだ?
それはお前にはない物なのか?」

「……ねぇよ」

「嘘だよ、あるよ。だって、俺はお前には勝てないもん」

「あ?」

「力だけの強さしかお前はみえてないんだよ。
だから、御坂の心の、人間にとってなにより大切な心の強さにビビっちまってんだ」

インデックスは上条の話に微笑みながら相槌をうつ。

「でも、お前も持ってる。振り返ってみろ、落ち着いて一旦立ち止まってみろ、お前に出来る事、お前にしか出来ないことが転がってるだろ?」

「……やっぱお前ら反則だわ」

「俺自身も今気づいたんだ。
俺は走り回ることしか出来ない、だったら、走り回ってやるってね」

「立ち止まる、か……」

垣根は寝そべりながら天井を見上げる。

「そうか……そうだよ。
見つけたい、それだけじゃ駄目なんだ。
俺の力は何かを守る為だけに使うって自分で決めたんだから……。
一方通行を、助けたい。馬鹿な親友を守ってやりたい。それが俺の力の使い方、それが俺の……俺にしか出来ないことだ……」

「ていとくはいつでもとうまやみさかやみことの心配をしてたよね」

インデックスはよく響く声で教え諭す。

「それは、ていとくが強い心を持ってるから出来る事なんだよ。
自分だってボロボロで誰かの助けが必要なのに、いつでもみんなを守ろうとしてくれてるよね。
あくせられーただってそう。
自分の事を後回しにして、自分の大好きな人の為にボロボロになって……もっとみんなを頼っていいんだよ?
ていとくやあくせられーたがみんなを好きなように、みんなもていとくやあくせられーたを好きなんだから」

―― でも、俺に……。

垣根は何かを隠すように目を覆った。
945 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:14:07.99 ID:1dyaKj92o
短いがここまで
また読んでください
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage ]:2012/04/23(月) 21:48:06.45 ID:TBTv2yS5o
こちらからお願いします
947 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:30:02.17 ID:+SNSsMpMo

〜〜〜

「お?」

「……な、なんだよ」

「いやいや、ええねん! そうかぁ、カミやん元気になったんかー」

翌日、ふらつく頭で学校に登校するなり、青髪ピアスが嬉しそうに笑った。

「え? ……あぁ、なんか悪かったな」

そういえばずっと心配していてくれたな、と上条はここ数ヶ月の事を思い出す。

「ええよええよ。
カミやんがなんも言わんって事は僕じゃ力にはなれへんのやろ?
せやったら僕も気にせんとカミやんいじって遊ぶからよ。
カミやんも僕と遊んでる時はややこいこと忘れて普通の学生に戻ったらええんちゃう?
何をやるにも休憩は大切やで!」

当たり前の事のように、青髪は言う。

「言えない事の一つや二つで友人関係終わってまうのは嫌やし、そんなもん誰にでもあるしな。
僕らは何時の間にか一緒におるんが当たり前になってそれが一番楽しいから飽きもせずこうやって話してる訳やし。
僕らの前では無理せんと愚痴ったりしてもええんやで?
一緒におるんが楽で楽しいから連んでるわけやしな! 」
948 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:30:28.14 ID:+SNSsMpMo

「そっか……ありがとう青髪。
お前もたまには真面目な事言うんだな」

「僕ぁいつも大真面目やで?」

「はは、とりあえず俺はもう大丈夫だ。
答えは見つけた」

「……そっか。じゃあ頑張れや」

「……おう」
949 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:31:33.77 ID:+SNSsMpMo

〜〜〜

「垣根さん大丈夫? 」

「……駄目」

「もう! 自業自得かも! だいたいこの国では二十歳になるまでお酒のんじゃいけないんだよ!
なのにあんなガブガブ飲んで、ていとくはおばかさんなのかな?」

「頼む、大声出すな。まじでやばい」

一晩明けて、ここまで酒が残り、さらに気分まで悪くなったのは初めてであった。
その理由はなんなのかはなんとなく垣根の中に答えはある。

―― まちがいなく上条とインデックスのせいだよこんちくしょう……。
バカのくせに俺に色々考えさせるんじゃねぇよ。
おかげで変な酔い方しちまっただろうが……。

完全な八つ当たりである。
950 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:33:34.02 ID:+SNSsMpMo

「もう、せっかくミサカ元気になったのに」

「……は、御坂遺伝子は強いな」

「そんな事ないよ。ミサカは一人では立ち上がれなかったもん、強いのはお姉さまとお姉ちゃんだよ……」

少しだけ、悲しそうに微笑んだ。

「それに! ミサカが立ち直れたのは垣根さんが居てくれたからだし」

だが一瞬で顔を輝かせ、垣根の額にタオルを当て汗を拭き取る。
この季節だと言うのに、垣根は汗だくであった。

「俺がお前に何をしてやれたんだよ……世辞はよせ」

「ずっと一緒に居てくれた。ミサカが縋り付いた時受け止めてくれた。
もし垣根さんが居てくれなかったら、ミサカは立ち直れなかったよ」

「……ミサカは何て言うかな」

「垣根さんはもっと自分を大事にしてください。
ミサカが大好きな垣根さん自身を垣根さんも大切にしてください」

声のトーンを落ち着いた物へと少し変え、ミサカ00002号はミサカ00001号の真似をした。
951 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:34:03.19 ID:+SNSsMpMo

「多分、すっごく心配そうな顔しながらこんな事言うよ。
しかも本気で言うから垣根さんすっごい反省すると思うよ。
ミサカが言うんだから間違いない」

うん、と頷き窓の外へと視線をずらす。
ベランダからは一羽の名前も知らない鳥が飛んで居たのが見えた。

「……シャワー浴びてくるわ」

何回か大きく呼吸をすると、垣根は立ち上がり風呂へと向かった。

―― 結局俺が一番最後か。

冷水をかぶると、心臓を掴まれたような痛さが身体に走った。
徐々にシャワーの温度をあげ、適温にする。
ゆっくりと何かを溶かすように垣根は頭からシャワーを浴び続けた。
952 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:34:30.27 ID:+SNSsMpMo

〜〜〜

「一方通行……」

真冬の冷たい風がカーテンを揺らす部屋で芳川は一人つぶやく。

「一方……通行……」

手にはチカチカと光る携帯電話を持っていた。
あの日、一方通行が自身の携帯電話を潰す直前に芳川に送ったメールをまだ芳川は開いていない。

「……」

窓のあいた部屋にいる芳川の頬は冷たく、うっすらと赤くなっている。
953 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:34:58.14 ID:+SNSsMpMo

〜〜〜

「……」

スキルアウトすら滅多にこない路地裏の奥の奥、鼠やゴキブリがわさわさと歩き回るそんな所に一方通行は一人座り込んで居た。

「……」

何をするわけでもなく、膝を抱え座り込んでいる。

日が落ち、あたりは闇に包まれた。

「……」

すると、一方通行は立ち上がり何処かへ向かいフラフラと歩き出した。
954 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:36:15.39 ID:+SNSsMpMo

〜〜〜

「出来た……。
これであの子達も少しは報われる」

一方通行を探すのを辞めると宣言した日から二週間が経っていた。
未だに垣根、上条から発見の知らせは聞いていない。

「あとは、あいつらがやってくれる。
私の出来る事は全部やった……はず」

「御坂さん、こっちも終わりました。
多分、問題ないと思いますよ実験できないから理論上はって事になりますけど」

疲労に満ちた頭に初春の声が染み渡るように届いた。

「初春さん……ありがとう。
ごめんね、無理いっちゃって」

「いえ、風紀委員の方は私の分の仕事も白井さんがやってくれてますし。
その他の生活の事は佐天さんがやってくれてますから全然大丈夫ですよ」

「あの二人にもお礼しなきゃね」
955 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:36:44.90 ID:+SNSsMpMo

「御坂さん、私達は自分の出来る事を、やりたい事をやっただけです。
私達にそれぞれ道をくれたのは御坂さんです。
お礼なんて考えないでくださいよ。
私達、仲間じゃないですか」

「そっか……。
ありがとう。これは私達四人で作った物だね」

そういいながら御坂が視線を向けた先には、垣根や一方通行と出会うきっかけとなった機械があった。

初春の作ったソフトは、既にインストールされ、あとは主役が揃うのを待つだけの舞台装置だ。

「一方通行、あんたにとってこれが救いであると、私は信じてる。
だから、はやく帰って来なさいよ」

御坂の目はいつかのように、激しく燃えていた。
956 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:37:47.43 ID:+SNSsMpMo

〜〜〜

「……」

一方通行の足元には気絶したスキルアウトが何十人も転がっていた。
そこに今立っているのは一方通行と一人の名も知らぬ怯え、涙を流す少女だけだ。

「……早く帰れ」

何をしたらいいか。
どうするべきか。
何もわからずにいる一方通行は毎日こうして路地裏を歩き回り、大切なものを助けられなかった罪を償うかのように、弱き者に暴力を振るわんとする外道を、さらなる暴力で黙らせていた。

結果としてみれば、街の治安維持に貢献しているのかもしれないが、その姿は助けられた者からみても恐ろしいだけである。

「……」

フラフラとまた歩き出すが、急に膝から崩れた。

「……」

そしてなんとか立ち上がり、闇に姿を溶かした。
957 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:39:19.42 ID:+SNSsMpMo

〜〜〜

「あ、そうだ! ねぇ、これって一方通行さんのことじゃない?」

女子中学生四人組は、久しぶりに全員揃っていた。
場所はファミレスである。

注文を終えると、佐天が思い出したように携帯電話を開き、とあるページを三人に見せた。

「んー、真夜中に現れる白い死神?」

「えーっと……最近多発しているスキルアウト襲撃事件、警備員が現場に到着すると某然とする少女を発見。
事情を聞くとただ一言、白い悪魔のような人が助けてくれた。
初めての目撃者は十二月初旬……最近じゃないですか、これ。
えぇっと……え?」

「どうしたんですの? 」

「いや、嘘か本当かわかりませんけど、今日十二月十五日じゃないですか……目撃者というか、多分スキルアウトに襲われてた学生で証言を得られたのは五人。
その他警備員が見つけた気絶したスキルアウトは百人を超えるって……たった二週間弱で?」
958 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:39:59.43 ID:+SNSsMpMo

「でもそれだと私達の所に何かしらの報告は来るはずですの、私は何も聞いてません。
嘘ですわ、こんなもの」

「でも、あいつなら襲われてる現場に出くわしたら立ってるだけでスキルアウト無力化くらいは出来るわよ?」

「……警備員のサーバに侵入してみましょうか?
もしかしたら風紀委員には荷が重いという事で知らされていないだけかもしれませんし、それに事件は夜中ですからね。
白井さんのような風紀委員が捕まえようと夜出歩くのを防ぎたかったとか、理由なんていくらでも思いつきますよ」

「そうね、私も協力するわ」

「……初春も私と同類だと思いますの。もちろん、お姉様もですわよ?」

二人は聞こえないふりをした。

「……」

そして、佐天は何やら迷うように眉を顰めていた。
959 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:40:33.17 ID:+SNSsMpMo

〜〜〜

「お姉様、ありがとう……か」

病院の屋上、御坂美琴は鈍色の空を見上げながらミサカ00296号の言葉を繰り返した。

「一方通行、あの子だけはあんたに恨み言を言うかもね……」

息をはくと、それは白くなり外の寒さを実感させる。

「そういえばあと一週間でクリスマスか……。
いい子にしてれば良かったなぁ、そうしたらサンタさんがプレゼント、くれたかもしれないのに……」

御坂は目を閉じ、冷たい風で肺を満たすように大きく息を吸い込んだ。
澄んだ空気は頭を浄化するかのように染み渡る。

「お姉様、風邪ひくよ?」

不意にかけられた声にパチっと目を開けると、相変わらずの鉛色が視界に飛び込んで来る。
声の出処を探し、視界を下に移すと自分によく似た小さな女の子が立っていた。

「打ち止めか。
……そうね、中入りましょ」

頭にぽんと手を乗せたあと、打ち止めの手を取り病院内へと続くドアへ歩き出した。
960 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:41:29.43 ID:+SNSsMpMo

〜〜〜

「助け……」

一方通行は何もかもがズタボロであった。
食事も取らず、日が落ちるとスキルアウトを狩る日々。

一方通行は昼間にもかかわらず薄暗い路地裏の奥で倒れるように座り込んでいた。
意識なんてものはほぼ無い。
今、一方通行の目に映るのは力で弱い人間を蹂躙し、壊そうとする最も嫌いな物だけだ。

自分の好きなものを決して目にいれないように、嫌いな物だけを目にいれ生きていた、その嫌いな物を排除すれば、好きなものは守れると信じて……。

「た、す……」

だが、ほぼ無い意識は、本当の願望を口にしようとする。

一方通行の意思とは全く関係なく、心を曝け出さそうとして来る。

「き、きょ……う」

そして、最も愛する人の名前を呼んだ。

「かきね……」

最も信頼する同志の名前を呼ぶ。

「みさ、か……」

守ることのできなかった妹のような存在の名を呼ぶ。

「桔梗」

そして、最後にもう一度、ハッキリとした声で愛する人の名前を呼んだ。
961 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:42:48.21 ID:+SNSsMpMo

〜〜〜

「……よし」

―― 私にも、私の出来る事をやらなきゃ……。

怯える心に喝をいれ、佐天涙子はゆっくりと夜の街へと足を進めた。

その目には、何かしたいという、わかりやすすぎる意思が灯っている。


962 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:47:26.20 ID:+SNSsMpMo
ここまでです
また読んでください

GWはもしかしたら来れないかもしれませぬ

あと1000以内でも終わらないと思います
ですがもう少し付き合ってくれたら嬉しいです
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/25(水) 20:47:18.15 ID:c4jtK7wio
一方さんが完全に病んでる恐い
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/04/26(木) 01:32:09.91 ID:qcBk8EIT0

一方さんの病み具合が辛い
965 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:36:17.13 ID:ZUJ42Ia1o

〜〜〜

「……あ」

ふと目を覚ますと、あたりは真っ暗だった。

「いか…ねェと……」

一方通行は立ち上がり、おぼつかない足取りで歩きはじめた。

「いか……なきゃ」

恐らく本人に声を出しているという自覚はないだろう。
無意識が声を出さねば野たれ死にしてしまうと警告しているのだ。
ふらふらと、見てる方が不安になるような動きだが、能力だけは正しく機能している。

難しい演算などは出来やしないが、無意識、睡眠中にも出来る反射だけはこの時でさえも完璧であった。
そして、大抵の者は一方通行の反射を破れずに敗れる。

「どォして……」

わけのわからない独り言を呟きながら、一方通行は暴力をさらなる力でねじ伏せるために歩き続ける。
966 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:37:48.96 ID:ZUJ42Ia1o

〜〜〜

―― こ、ここまでは予定通り。

佐天涙子は涙目になりながら、数人の男達に囲まれていた。
男達は下品な目付きで舐め回すように佐天の身体を上から下へと見る。

「お嬢ちゃん、こんな遅くにこんなとこ歩くなんて……馬鹿だねぇ。
あ、それとも俺たちみたいななのに声かけられるの待ってたとか?」

金髪のリーダー格の男が煙草に火をつけながらニヤニヤと尋ねた。

「ち、違います」

―― この人、発火能力者だ。

煙草に火をつけたとき、ライターのような道具は確認できなかった事から彼が能力者であると判断する。

―― というか、まっずい。
もし誰も助けに来てくれなかった時の事全く考えてなかった。

突然、恐ろしくなり足が震えはじめた。

だが、そんな心配はいらないのだ。

この街のこの学区には、ヒーローがいるのだから。

「あ? んだてめぇ? さっさと消えろ」

男達の一人が、路地裏の奥へ人影を見つけ怒鳴りつける。

「……」

怒鳴りつけられた男は何も言わずに、ゆっくりと男達に近づいて来た。
967 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:38:28.89 ID:ZUJ42Ia1o

〜〜〜

「う、あ……」

「……」

小さなうめき声をあげ、倒れる男達の真ん中に、一方通行は立っていた。
その瞳は薄黒く濁り、カタカタと歯を鳴らす少女を見つめていた。

「あ、ありがとう……ございます」

少女は助けてくれたのであろう真っ白な少年にお礼をいう。

「……はやく、かえれ」

ゲームの決められた台詞しか話さないキャラのように、感情なく言葉を口にする。

少女は一瞬迷ったが、直ぐに走り出した。
その後ろ姿が見えなくなると、一方通行はまた闇に消えた。
968 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:39:26.52 ID:ZUJ42Ia1o

〜〜〜

「……やはり、第一位は壊れたな。
友人の崩壊、しかし幻想殺しにはあの少女がいる。
幻想殺しの崩壊はありえない。
そして幻想殺しはまたひとつ精神的に強くなれるだろう。
……第二位の方はどうなるかわからないがな」

アレイスターはぷかぷかと浮かびながら、笑った。
目的はただひとつ、上条当麻に眠る何かを呼び覚ますことだ。

その為ならば、第一位だろうが第二位だろうが、彼にとっては道端に転がる石よりも価値を無くす。
969 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:41:02.51 ID:ZUJ42Ia1o

〜〜〜

「お前ら、楽しいか?
そうやって自分よりも弱い女の子を大勢で怯えさせて、楽しいのか?」

「あ? 何言っちゃってんだこいつ?」

「俺は、不愉快だ」

「この街は力こそが正義、だろ?」

「そうか、だったら、俺が……そのふざけた幻想を―― ぶち殺してやるよ」

現れたのは一方通行ではなく、上条当麻であった。
その目は怒りで満ちている。

力こそが正義。

男達はそう言った。
そして、上条は目の前でその間違った正義がもたらした惨事を見ている。
力を持ちながら、それよりも大切なものをちゃんと理解し、その胸に刻み込み涙を流した者を見ている。

その、彼らの清く強い心を踏みにじられた気がしたのだ。
970 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:43:27.78 ID:ZUJ42Ia1o

〜〜〜

そのふざけた幻想をぶち殺してやるよ。

―― 上…条……?
あ、いつは……佐天涙子か?

一方通行は、路地裏でツンツン頭の友人と、何の恐れもなく自分に接してきた少女を見つけてしまった。
そしてその声と、形は今まで虚ろだった一方通行の意識をはっきりと表へ出させるにはちょうどいい刺激を有していた。

「馬鹿やろ……お前じゃ……勝てねェ…だろォ」

だが、一歩を踏み出せない。

彼らの前に出てしまったら一方通行はもう二度とこの街にいられなくなるのではないかと怯える。

「……もう、いやだ」

上条から視線を外し、うずくまる。

研究員を私刑し、一人泣いていたあの日のことを思い出していた。
ただ夢中に、憎いという感情に従い、命を奪うぎりぎりまで痛めつけた。

そして、気がついたら自分は泣いていた。

力では何も解決しない。残ったのは後味の悪さと悲しみだけであった。
その、恐怖と痛みを思い出していた……。
971 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:44:03.48 ID:ZUJ42Ia1o

〜〜〜

「はぁ、はぁ……これが、これが正義か?
お前は、俺にこうやって殴られてりゃそれで満足なのか?
違うだろ! 」

上条はなんとか男達を全員気絶させた。

それが出来たのは、男達のうち何人かは能力者であり、能力に頼り切った戦い方しかしてこなかったからである。

「……行くぞ、佐天」

上条は佐天涙子の手を取るとそのまま大通りの方へと足を向けた。
佐天はただ俯きながら黙り込むことしか出来なかった。
972 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:45:07.28 ID:ZUJ42Ia1o

〜〜〜

「帝督」

垣根がいつものように、芳川の病室へはいると、決して喋ろうとしなかった芳川が口を開いた。

「お、おおお……な、なんだ?」

垣根は自然に振舞おうとするが、逆にとても不自然になってしまう。

「一方通行は帰ってくるわ。
だから、私はもう大丈夫」

「そ、そうか……よかった」

「貴方も肩の力を抜きなさい。
皺、寄ってるわよ」

芳川は優しく微笑みながら垣根の眉間を指差す。

「……なぁ、芳川」

垣根は子どものような声を絞り出す。

「なぁに?」

芳川は、母親のような微笑みを浮かべ応えた。

「俺は……俺にできる事って、なんだ?」

「そうね」

芳川は、少し考える。
973 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:45:48.43 ID:ZUJ42Ia1o

「一方通行をぶん殴る事じゃない?」

そして、面白いものを見つけた子供のように笑いながら言った。

「は?」

「馬鹿な事した友人は、誰かが叱ってあげなくちゃ」

「いや、でも殴るって」

「何も実際に殴れって言ってる訳じゃないわよ」

―― 言ったよ。すげぇいい笑顔しながら言ったよ。

「思い切り叱りつけて、物理的でも精神的にでも、どっちでもいいけどボッコボコにしてやればいいじゃない。
どんだけ心配したと思ってる!
どれだけ私達が悲しんだと思ってる!
どれだけ、お前自身を傷つけた!……ってね」

芳川は、ただ、一方通行を想い、微笑んだ。
974 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:46:16.59 ID:ZUJ42Ia1o

―― やっぱ、芳川はいいな。
母親なんて知らねぇけど、こんなような人のことを、母親だと言うんだろうな。
でも……。

「わかった。
じゃあとりあえず……あの白いの見つけなきゃな」

垣根は心にまだ引っかかりがあるというのを隠そうと笑う。
だが、そんな偽物の笑顔など、家族の前では通用しない。

「……そうね」

しかし、芳川はそれに触れることはなかった。
それは、信頼の証でもある。

―― 大丈夫、この子は本当に答えがわからなかったら素直に聞きにくる。

部屋を出る垣根の背中は、とても大きくなったように感じた。
975 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:46:58.90 ID:ZUJ42Ia1o

〜〜

カタンと音がした。
覚醒し切っていない頭を覚醒させ、音のした方向を見る。
看護師が閉めたはずの窓が開いていた。

「一方通行?」

「……芳、川……ごめン」

カーテンに隠れるように、ずっと側に、隣にいて欲しいと願った存在はいた。

「一方通行……あなた、何、してんのよ……みんな心配してる……だから、帰ってき、て……」

芳川はベッドから飛び降り、一方通行へと駆け寄った。
そして、カーテンごと思い切り抱きしめる。

「一方通行……一方通行………」

そして、ただ、一方通行の名前を呼び続けた。

「う、あ……ああ……」

だが、一方通行は困ったように身体を硬くする。
そして、あの日のように、芳川を無理矢理眠らせた。

「あ……一方…通行……な、んで……」

芳川はぼろぼろと涙を流しながら、眠った。
976 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:47:41.44 ID:ZUJ42Ia1o

〜〜〜

―― クッソ。クッソ。クッソ。クッソ。クッソ。
こなきゃよかった。こなきゃよかった。なンで、クッソ。


怖い。なにが?全部。
怖い。なにが?芳川が。
怖い。なにが?垣根が。

怖い。

なにが?

―― また、何かを失うのが。

一方通行は逃げ出した。
あと少し、彼に勇気というものがあったのならば救われたかもしれない。
だが、彼は臆病だった。
だから、一歩踏み出すことができず、逆に引いてしまったのだ。

もう嫌だ。と思ったとき、自然とその足は芳川桔梗のもとへとむかった。
だが、勇気が足りないばかりに、また嫌だと言った世界に戻る羽目になった。

一方通行、それは学園都市最弱の男の名前である。
977 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:48:35.29 ID:ZUJ42Ia1o

〜〜〜

「お前、なにやってんだよ」

上条の声からは怒りだけが滲み出ていた。

「……すみません」

「なんであんなところにいた。
俺が来なきゃどうなってたか」

「一方通行さんを、探していたんです。
最近、この辺りでスキルアウト集団が何個も潰されているんです。
それは、そのスキルアウトに襲われそうになってる学生を誰かが助けて回ってるんです。
だから、私がもし、襲われそうになったら―― 」

「一方通行が助けにきてくれるって思ったのか……。
でも、間違ってるよ。
お前の気持ちは分かる、けどお前が傷つくかもしれない行動はとるな。
俺がなんでここに来れたか分かるか?」

上条は佐天の肩を掴む。
978 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:50:23.95 ID:ZUJ42Ia1o

「初春が! 御坂が! 白井が!
俺にお前が帰って来ないって連絡してきたからだ!
みんな、お前がなにをやろうとしてるかすぐ察したみたいだった。
初春なんて泣いてたぞ? 佐天さんに何かあったらどうしようって」

「あ、初…春……」

「何も出来なくて歯がゆい気持ちは分かる、俺だって何も出来てないからな……。
でも、自分が傷つくような、そんな行動は起こさないよ。
なんでかわかるか?」

佐天は黙って首を縦に振った。

「私が……傷ついたら、傷つく人がいる……から」

「そうだよ、俺も最近やっとそれに気がついた」

「すみ、ません……」

「道は他にもあるんだ。絶対に!」

「……はい」

「お前は、自分のできることをちゃんとやっただろ?
だから、あとは俺達に任せとけ」

上条は、御坂が何か自分なりの答えを出したのならば、御坂が当然のように彼女の後輩を導くと信じていた。
だから、この四人は自分に誇りを持てる行動を起こしていると、信じていたのだ。
979 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:51:36.61 ID:ZUJ42Ia1o

「寒いな」

上条の吐く息は白い。

「そうですね」

「帰ろうぜ。初春が待ってる」

そういうと、上条は携帯電話を取り出し操作した。

「よっし! 御坂と白井も待ってる」

「常盤台の寮は厳しいのに、お二人には迷惑かけちゃいましたね」

「おっかねぇ寮監に怒られるよりも、お前に何かあった方がよほど痛いんだろうさ。
こういう時、まず会ったらなんていうか知ってるか?」

「……はい! 『ありがとうございます』そして、『ごめんなさい』ですよね」

「満点だ」

上条は、笑った。

冬の空は澄んでいて、星が綺麗に瞬く。

そして、ふと佐天は思った。

一方通行は、おそらく今この綺麗な星空が見えていないのだろうな、と。

もし見えていたら、自然とこの星空に手を延ばしたくなるはずなのに、と。
980 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:58:08.31 ID:ZUJ42Ia1o
今日はここまで
また読んでください

そして時系列ごっちゃになったから整理しておく

十五日

朝 垣根二日酔い

昼間 超電磁砲組ファミレスに集まる。

夜 上条佐天を救う。一方通行上条を見つける。

深夜 一方通行が芳川のところへ。一方通行逃げ出す。


十六日 垣根芳川と会話。

多分これでつじつまあってるはず
間違ってたらすみません
981 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:33:47.22 ID:+Xee8gWgo
風邪ひいてGW寝潰す羽目になったから少しだけどかいたの投下します。
982 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:34:34.11 ID:+Xee8gWgo

〜〜〜

「佐天さんは馬鹿です」

「本当ですの」

「ええ、全く、大馬鹿ね」

家につき、扉を開けるなり三人は佐天に辛辣な言葉を浴びせる。

「……でも、そんな馬鹿な私を、心配してくれて……ありがとうございます」

頭を深く下げた。

「そして、ごめんなさい、心配かけて」

顔をあげ、しっかりと三人の顔をみながらいった。

「ほんと、どうしようもないお馬鹿さんです。
いったい、私がどれほど心配したか、わかりますか?」

初春は、目に涙を溜めながら怒っていた。

「うん、ごめん、初春」

「気がついたら佐天さん家出てて、携帯ならしても繋がんないし、近くのコンビニとか行ってもいないし……」

「ごめんね、初春」

「佐天さん、前に私言ったでしょう? 私は佐天さんが居なくなったら泣きますよ?
そして、あなたを見つけるまで私は探し続けます。
そんなの、めんどくさいからあなたは私の側にいてくださいって言いましたよね」
983 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:35:33.54 ID:+Xee8gWgo

初春が最も怖いと思っている事、それは親友だと心を許したかけがえのないものが消えてしまう事だ。
その気持ちは、一方通行が垣根帝督を拒絶した時に一気に大きくなった。
同性愛者なんじゃないかとからかわれても、けろっと純粋な友情だよ、とまっすぐ言えるような、そんな二人に憧れて、そうなりたいと思っていた。
だから、最初初春飾利は一方通行を探すのに必死だったのだ。
自分の目指す最高の友情は、壊れかけても治るという事を確かめたくて……さらに綺麗に輝く素晴らしい財産になる事を確かめたくて。
984 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:36:33.76 ID:+Xee8gWgo

「佐天さん、私達も同じですわよ」

白井は微笑む。
佐天の無事を喜ぶように、また、自身の心を誇るように。

「私達は四人でひとつのチームですの。
お姉さまに出来て佐天さんに出来ない事、初春に出来て佐天さんに出来ない事、私に出来て佐天さんに出来ない事……。
沢山ありますわ、でも……」

「私達に出来なくて、佐天さんに出来る事だって沢山あるんだよ、例えば今」

白井の言葉を御坂が繋いだ。

「初春さんを笑顔に出来るのは? 」

そして、初春に質問をぶつける。

「超能力者と御坂さんでも、大能力者で空間移動の白井さんでもなくて、何も出来ないと思い込んでる佐天涙子だけなんですよ」

「白井、さん……み、さかさん……ごめんなさい。初春も、ごめ、ん……」

佐天は、初春を抱きしめた。

「ほんと、お馬鹿さんですね、佐天さんは」

初春も、しっかりと抱き返す。

―― なんか、こういうの……いいな。
純粋な友情で繋がるっていいな。
きっとこれからこの四人は互いに助け合って、喧嘩したりもするだろうけど、きっと最後はこうやって笑いあうんだろうな。

上条も、頬を緩ませた。
985 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:39:00.59 ID:+Xee8gWgo

〜〜〜

「あ、昨晩一方通行が来た事帝督に言うの忘れてたわ」

垣根が部屋を出て行き、一人きりになった途端、芳川は呟いた。

「まぁ、いいか……それより―― 」

芳川が手にするのは、十年の年季を感じさせる古ぼけた青紫色の携帯電話だ。
メールの受信を知らせるランプは、あの時からずっと存在を主張するかのように光っている。

二つ折りのそれを開くと、一方通行の顔を隠すように、新着メールあり、の文字が浮き出ている。

「なんか、怖いわね……」

送信者はわかっている。一方通行以外にありえない。

恐る恐る開くと、そこには一言だけ言葉が書いてあった。

その文字を見た瞬間、芳川は息を呑んだ。

そして、一粒涙をこぼす。

それは、一方通行の叫びであった。
垣根やミサカ00002号には決して言えないと彼自身が思い込んでいる、叫びであった。


『たすけて』


986 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:44:08.53 ID:+Xee8gWgo
本当に少しだった
今日はここまで、また読んでください

あといまきりいいし、あと15レスじゃ確実に終わらないのでこれでこのスレ埋めて新しいスレ立てようと思うのですが、どうかな?
987 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:49:41.95 ID:+Xee8gWgo

〜〜〜

凍えるような寒さの中、一方通行は倒れていた。
鼠が彼の体の上を走り、地面の冷たさは彼から体温を奪う。

「う、あ……ああ」

何か言おうとするが、それはただのうめき声にしかならない。
彼の目には今煌びやかな街の光がだんだんと消えていく様子が映っている。

―― これは、俺だ。

華やかな輝きも、時間が経てば終わりを迎える。
それを、夏のあの日々の自分と今の自分とに重ねていた。

―― 寒ィ。

光がすべて消えた時、自分は死ぬのだろう。
そう、一方通行は思っていた。

目に映る光はあと二つ。

―― 垣根がいれば、芳川は大丈夫。
垣根がいれば、ミサカは大丈夫。
ミサカがいれば、打ち止めは大丈夫。
上条がいれば、インデックスは大丈夫。
御坂がいれば、佐天達も大丈夫。
佐天達がいれば、御坂も大丈夫。
みんながいれば、この街は大丈夫。

一つ、消えた。

―― 携帯電話、壊さなきゃ良かったなァ……。
もし、もしも叶うならば……今度は五人で一緒の携帯電話が、欲しいなァ。
俺は今度は……。

そして、最後の光が、消えた。
それは消えたのではなく、一方通行のまぶたが完全に閉じただけなのだが……。

―― もう、駄目だな。

一方通行のまぶたには、楽しかった日々が走馬灯のように蘇っていた。
初めて垣根と会った日。
初めて芳川と会った日。
それから、数ヶ月前の日々。
一方通行の瞳からは自然と涙が溢れてきた。
その涙がなんの涙なのかはわからない。
だが、それはとても悲しいものだった。

―― 芳川ァ……。

必死に、芳川の笑顔を思い出そうとする。
だが、思い出せるのは悲しそうに自分の名前を呼ぶ彼女だけだった。

―― 笑っ、てくれ…よ……。

そこで、一方通行の意識は―― 消えた。

「たす…け」

その声を聞くものは……。
988 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:50:28.71 ID:+Xee8gWgo
ミスった
ひとつ投下し忘れてた
お恥ずかしい

では、またよろしくお願いします
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/30(月) 07:52:17.05 ID:mj7u2IYDO
おっつー
次スレも待ってる
990 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/04/30(月) 17:05:11.49 ID:PpSSP66IO
芳川桔梗「言ったでしょう? 私の名前を忘れないでって……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1335772847/

次スレ立てました。
よろしくお願いします。
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/30(月) 23:11:34.18 ID:HuB0sRXz0
己!!
次スレも楽しみです!!!
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/05/01(火) 01:50:29.52 ID:chmG6eZAO
おおー乙乙次スレでも楽しみにしてる
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2012/05/02(水) 02:59:46.13 ID:p7wpOpVl0
ようやく追いついたぜ〜

>>1
994 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/05/03(木) 22:29:29.88 ID:+YnTOk6Jo
少しずつ埋めていきます
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/04(金) 01:53:25.80 ID:UaSXgJoDO
うめうめ
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2012/05/04(金) 02:16:10.82 ID:T1Bu/Aq/0
お手伝い

次スレで待ってるよ
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/04(金) 08:21:51.62 ID:2L9aP2tYo
うめ
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/04(金) 09:23:11.20 ID:2L9aP2tYo
うめ
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/04(金) 09:25:25.63 ID:Rfi8aNAHo
うめ
1000 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/05/04(金) 09:37:40.82 ID:YHPhR79IO
これからもよろしく!
1001 :1001 :Over 1000 Thread
 達 じ   |                           / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
 者 ゃ   l                     | ・ な 会 多
 で あ  /                          | ・ い う. 分
 な    く      ,.'"´ ̄ ̄``丶.        | ・ と. こ 皆
___/ヽ)     /           ゙、.       ! ・ お と に
           /             ',       | ・ も が は
          ノ      _    __   !     |    う   も
         ,レ^ヽ  ∠:::::::.\ ヽ・ ヽ |     |       う
         / ,ヘ   ⌒`ト、:::.ヽ  ̄  |   _ノ           |
          l い    _,,,L・`ヽ:ル ノィノ     ̄\_____/
         ヽ       ー─-  ‘ー1
          >‐‐'.        、__,ゝ ,′
         /     ',       `二' /
          /     `丶、     /
        ノ           ``ーr‐'゙
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    _∠_ __ _ ,,,、、、-──‐┴-、、
    厂 ー──'''"´ ̄ ,  ニ二二ニヽ\
   ,′         , イ       ̄``ヽ \
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【みんな】安価で何かをうpするスレ【仲良し】◆20(sage進行) @ 2012/05/04(金) 02:14:46.85 ID:UZxmLcTIO
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黒い煮干し @ 2012/05/04(金) 01:44:01.00 ID:coQe2hkPo
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嫁宣言して嫁AAにお断りされなければ結婚 ヴァルハラを燃やし尽くす炎となる @ 2012/05/04(金) 01:38:26.43 ID:O0Hzr7Olo
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打ち止め「・・・・おっきくなっちゃった」 @ 2012/05/04(金) 01:25:11.35 ID:kW3Pt/Ih0
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