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涼「偶像を無礼るなッ!!」 -
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1 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 20:55:25.16 ID:+ndNRt3E0
前作 涼「僕とあなたの」千早「シーソーゲーム」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1339084421/
SS速報
アイマスとマブラヴオルタのクロスと言うわけではありません。期待した方、申し訳ありません
前作と同じく、ちはりょうSSになるので、そこはご了承ください
涼男バレ、アニマス後のお話
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1342180525
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
[
Twitter
]: ID:???
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】
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阿笠「最近ミセスというガキ共が調子に乗っとるのう」 @ 2025/06/25(水) 04:35:52.49 ID:v8H9IvXNO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1750793752/
男「自公政権が決めて来た増税と負担増?」 @ 2025/06/24(火) 20:08:58.15 ID:JMcKG0l20
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1750763337/
(安価&コンマ)鉄血に狼の男が(機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ) part2 @ 2025/06/22(日) 22:47:53.63 ID:xiq+pvxz0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1750600073/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:08:31.92 ID:A9RjOWcxo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421311/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:07:56.06 ID:9l741hD4o
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421275/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:07:18.78 ID:XCIH42NJo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421238/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:06:42.32 ID:sMr/Yf+to
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421202/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:06:05.72 ID:A9RjOWcxo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750421165/
2 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 20:58:49.76 ID:/WiOZhva0
りん「ちょっ、ちょっと! 麗華! どういう事なの!?」
麗華「どういう事って何がさ」
りん「とにかくテレビ見てよ! 大変なことになってるから!」
麗華「はぁ? 総理でも変わったか……?」
毎年のように変わるよな、この国のトップは闇の魔術に対する防衛術の先生かよ。
つまらないことを考えていると、りんがテレビをつけた。
りん「それよりもうちらにとっちゃ厄介なんだって!」
麗華「そんな慌てて何になるんだよ」
黒井『ウィ、よろしいかね? それではお集まりいただいた諸君。これより我が961プロよりデビューする新アイドルユニットを紹介しよう』
麗華「黒井のおっさんじゃねーか。相変わらず黒いな」
性格の悪さが全身からにじみ出いている。人のことを言えたわけじゃないけど。
りん「そうじゃないって! 重要なのはその隣!!」
麗華「それがどうし……なっ!?」
3 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:04:07.74 ID:Z0d5Dpnk0
どういう事だ? テレビに映っているのは黒井崇男。そしてその傍らにいるのは……。
りん「どうなってるのさ! 何で、あの2人が961プロに移籍してるわけ!?」
麗華「クッ……、そう来たか!」
やってくれたな……っ!!
麗華「あの男にはこっちも手を出せない……。現実主義で外道上等の黒井のおっさんと、理想バカの勘違い野郎は相容れない存在と思っていたが……」
りん「思いっきり手を組んでるじゃん!」
麗華「予想外だった……。まさか手を組んでくるなんて」
黒井『本日よりわがプロダクションに移籍した、秋月涼、如月千早。この両名による新ユニット……。その名も』
黒井『シルバーブレッドだ』
とりあえずおおーっと言う記者たち。
黒井『ふん』
予想通りの反応ゆえか、黒井のおっさんは心なしか満足そうな顔をしている。
4 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:08:36.08 ID:Z0d5Dpnk0
りん「……ダッサっ」
麗華「ダサいな」
それに関しては、りんに同調する。先のジュピターといい、このおっさんは、
どうもネーミングセンスが中学生レベルらしい。
と言っても、魔王エンジェル何て名前のユニットが言えた義理じゃないが。
麗華「ネーミングはどうでもいい。問題なのはあの2人だ! まさか揃って移籍するなんて思ってもなかった。まだ諦めないつもりか?」
黒井『諸君、質問はないのかね?』
記者『えっと、765プロと876プロ所属のトップアイドル2人が電撃移籍とのことですが、どうしてこの様な決断をなされたのでしょうか?』
記者もこの電撃移籍には困惑しているようだ。それもそうだろう。
両事務所のエースが揃って961プロに移籍、特に765プロと961プロは度々衝突を繰り返していたにも関わらずだ。
千早『それは……、音楽の、アイドルの未来のためです』
記者『音楽の未来のため?』
涼『はい。僕たちの目的は……』
涼『魔王退治です』
5 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:12:34.48 ID:Z0d5Dpnk0
ざわめく記者たちと、カメラ越しにこっちを射抜くように見ている秋月涼。
それが不快で、私はテレビのチャンネルを変えた。
黒井『そういう事だ。チカラのある2人に、我が961プロダクションのバックアップがあれば、無敵だと思うが?』
麗華「チッ! ここもかよ!」
りん「あらまー。電波ジャックしてらぁ。うちらの真似してる感じ?」
麗華「されたらここまで不愉快になるなんて、思ってもなかったよ」
どのチャンネルも電撃移籍の話題だらけで、会見が茶番やドッキリじゃないことを証明している。
『まぁ世界で一番可愛いのはボクですけどげへぇ!』
『ボクと契約して腹パン少女になってよ!!』
N○Kとテ○東は流石というか平常運転だったが。リモコンのスイッチを押して、テレビを消す。
りん「えー! 切っちゃうの!? 腹パン少女さちこ☆さちか好きなのに!」
麗華「知るか!」
自信家が腹パンされるだけの番組のどこが面白いんだ?
6 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:16:54.90 ID:Z0d5Dpnk0
りん「でもさ、記者会見見なくていいわけ? 面白そうじゃんか」
面白くもなんともない。寧ろ不愉快だ。
麗華「別に最後まで見る必要はねーだろ」
にしても魔王退治ねぇ……
麗華「りん、シルバーブレッドって意味知ってるか?」
りん「へ? 意味? 直訳して銀のパン?」
ブレッドはパンの意味も有るっちゃ有るが。
麗華「体に悪そうだな、それ。この場合のブレッドってのは弾丸だよ」
りん「弾丸ねー。アイドルグループにしちゃあ、ごついネーミングじゃね?」
麗華「かもな。シルバーブレッドってのは読んで字のごとく、銀の弾丸だ」
りん「銀魂?」
字が違う。
麗華「突っ込み待ちか、それ? で、シルバーブレッドの意味だが……」
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/07/13(金) 21:17:14.50 ID:ZeKf+alB0
タイトルのせりふマヴラヴが元って分かってるんだけど
???「キサマは中国武術を嘗めたッッッ!!」の方をまず最初に思い浮かべてしまった
8 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:19:03.64 ID:Z0d5Dpnk0
シルバーブレッド――銀の弾丸。狼男を殺す手段で知られるが、魔除けの意味もある。
つまりこれは、私たちへの宣戦布告。
りん「ふーん、なるほどねー。うちらにケンカ売るためだけに名前付けたようなもんじゃん。で、麗華はどうするわけ?」
麗華「決まってるだろ。絶対に叩き潰すっ!」
りん「おー怖っ。麗華だけは怒らせたくないや。くわばらくわばら〜♪」
茶化すようなりんにイラッと来たが、彼女に怒りをぶつけても仕方ない。
こみ上げる苛立ちを一旦抑えて、コーヒーを飲む。
麗華「そういえばりん、ともみは? 一緒じゃなかったのか?」
りん「ともみ? 知らなーい。最近付き合い悪いしさぁ。あっ、ひょっとして彼氏でもできたとか?」
麗華「まさか。私たちと対等になれる男なんていないだろ。それに、ともみに男が出来るなんて想像がつかねぇよ」
りん「まっ、何でもいいけどさ」
麗華「だな……」
とはいえ、最近単独行動が目立つ。尾行なりつけたらいいんだろうけど、流石に友人を尾行するのは気が引けるな。
9 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:24:28.21 ID:Z0d5Dpnk0
りん「でもさー、765と876と961が手を組むのって初めてじゃない? 黒井社長も甘くなったのかね?」
麗華「黒井のおっさんは何を考えているか知らないけど、あの人のことだ。目的があってこそだろうな」
りん「団結とか結束とかそういう言葉嫌いな人だからね。王者は孤独だ! フーッハッハッハ! みたいな?」
麗華「微妙に似ていているぞ」
りん「うわっ、それ嬉しくないんだけど。そんな悪っぽい?」
本気で嫌そうだ。黒井のおっさんに少しだけ同情する。
りん「でもさ、孤独だとか団結はくだらないと言う割にはグループで売り出したり、何がしたいんだか」
麗華「合理的なんじゃないのか? まぁ私は、あのおっさんの理念、嫌いじゃないけどな」
りん「……ホント、私たち変わったね」
麗華「現実を知っただけだろ」
確かに前の私なら、声を大にして否定していたのかもしれない。絆の力を舐めるな! 自分で想像して嫌気が走る。
私の柄じゃない。
10 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:28:45.16 ID:/WiOZhva0
愛だ夢だ団結だ。
そんな小学生の標語みたいな言葉は、この業界では意味を持たない。
涙を誘う綺麗な言葉を並べたところで、勝つのは金と権力だ。
アイドルなんて虚像に希望を持ち続けるというのなら、その希望を打ち砕いて二度と立てないようにしてやる。
麗華「秋月涼、如月千早……。どこまでも不愉快だ……っ!」
りん「で、どうするの? 向こうはやる気満々じゃん。わざわざユニット名をこっちに合わせてきたんだし」
麗華「決まっているだろ。あのおっさんが出てきた以上、こっちの小細工は通用しない。向こうが勝手に宣伝してくれるだろうが……」
携帯を取り出し、スタッフに電話をかける。
麗華「私だ。ああ、見ていたか。話が早い、シルバーブレッドを私たちの番組に招待しろ。広報は向こうがしてくれるだろう」
りん「やっちゃうっすか? やっちゃうっすか!?」
りんは妙に楽しそうだ。虫も凝らさぬ顔して、こいつはやることが結構エグイ。
どうせまた良からぬことを考えているのだろう。
麗華「たりめーだ。何度でも挑んでくるってのなら、その心を何度でも折るまで。ストックなんてなくなるぐらいやってやる」
それが私たち、魔王エンジェルだ。
11 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:35:21.72 ID:+ndNRt3E0
数週間前 876事務所
涼「ええっ!? 雪月花が引退したんですか?」
石川「ええ、今業界はその話題で持ちきりよ」
毎日どこかで新たなアイドルが生まれ、消えていくいく。この業界じゃ、引退の1つや2つ、さほど珍しい話でもない。
恐らくその全てを把握しているなんて物好きはそうそういないだろう。
でもそれが上位ランクにいるアイドルなら話が変わってくる。世間の関心度も大きくなるんだ。
雪月花と言うと、僕達よりも前からデビューしていた有名アイドルグループだ。
オリコンでは上位にも食い込むし、少し前に番組で共演したばかりだった。
その時は引退だなんて言葉をおくびに出さなかったけど、一体どうしてまた?
石川「円満な引退なら良かったんだけどね」
涼「つまり、円満な引退じゃないと」
石川「ええ。引退と言うと聞こえがいいけど、実際には干されたも同然ね。ある日突然雪崩の如くスキャンダルが出てきて、どういうわけかレッスン場も取れない、番組にも出してもらえないって状態だったらしいわ」
涼「なんかそれ、親近感沸きますね」
石川「沸いてどうするのよ。まぁ、いつぞやの貴方に確かに境遇は似てるかもしれないわね」
12 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:38:32.46 ID:+ndNRt3E0
一時期僕も、大人の事情によって、芸能界を干されていた時期があった。
それでも今こうやって活動できるのは、応援してくれたファンの皆や、仲間たちのおかげだ。
もし一つでもピースが足りなければ、僕は夢半ばでとっくに引退していたと思う。
石川「でも決定的に違うのは、貴方はクリーンだったって事よ。彼女たち、裏で汚いことをしていたみたいだし」
女装男子は、クリーンなんだろうか? グレーゾーンな気もするけど。
涼「裏で汚いことですか。とてもそうは見えなかったけど……」
雪と月と花。それらを模したチャームと、着物を着ていた彼女たちはむしろ真面目で、
汚いこととは無縁そうに見えたんだけど。
石川「人は見た目によらないものよ? それに、私は悪い人ですなんて自己主張する人間はいないわよ。そう見えないようにするから、性質が悪いのよ」
成程、テレビとかでよく見るインタビューと一緒だな。あの人はとても人を殺すような人に見えませんでしたって。
石川「それに、彼女たちのしてきたことは、芸能界の闇そのものみたいね。それも、あの子とは比べものにならないレベルよ」
涼「むっ、夢子ちゃんはもうそんなことしていません!」
13 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:40:28.43 ID:1ahFDsyB0
カッと熱くなる僕に、社長は淡々と返す。
石川「分かってるわよ。だからこそ、彼女をうちの事務所に入れたんじゃない。今も懲りずに妨害なんてマネしていたら、その辺に捨ててやったわよ」
涼「捨て犬みたいに言わないであげてください」
桜井夢子――。元々フリーで活動していた彼女が、ある日突然876事務所に入りたいと言ったのは少し驚いた。
涼『ええ!? 876に所属するの!?』
夢子『なによ、あんたは私が来るのが嫌なわけ?』
涼『嫌とかじゃないよ! でもどうして?』
夢子『別に、事務所ならどこでもよかったわよ。でも知った顔がいる方が何かとやりやすいわ。あ、あんたと一緒に頑張りたいとかじゃないんだからね!!』
絵理『はいはい、今時珍しいテンプレートなツンデレ乙』
夢子『違うわよ!!』
愛『よろしくお願いしますね!!』
夢子『よろしく。あと出来ればボリュームもう少し下げてくれないかしら。まだ慣れてないのよ』
うちの事務所がまた賑やかになった瞬間だ。
14 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:42:58.53 ID:Z0d5Dpnk0
石川「ただ彼女も貴方に会わなかったら、雪月花と同じ末路を辿ってたでしょう。すんでのところで、貴方が助け出したのよ。まるでヒーローね」
涼「ヒーローだなんて、大袈裟です」
石川「そうかしら? 夢子に聞いてみなさいな、涼のおかげで立ち直れたのよ。それに、彼女も」
夢を、声を奪われた彼女達の顔が脳裏によぎる。2人のあんな顔、もう二度と見たくない。
涼「それは嬉しいんですけど、同時に悲しくなります。もし雪月花の皆にもう少し早く会っていたら、……止められたかもしれないのに」
石川「もしもの話なんてするだけ非建設的よ。貴方にとってはきついことを言うかもしれないけど、みんながみんな、綺麗で生きていけるわけじゃないの。逆にうちみたいな事務所が少数派じゃないかしら?」
涼「そういうものなんでしょうか」
石川「そういうものよ。光があるから、闇が出来る。そして光が強ければ強いほど、闇も強くなるの。周りを見渡して御覧なさい、華やかなのはステージだけだから」
分かってはいる。その上で、僕は綺麗でいたいと思っている。だから、
涼「モヤモヤします……」
そういうものだと割り切れるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
15 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:46:28.96 ID:+ndNRt3E0
石川「そうやって悩めるところが貴方のいいところだと思うけどね」
社長は微笑むと、僕の背中を叩く。
涼「痛い!」
石川「さっ、いつまでもそう暗い顔しないの。ほらっ、時間でしょ?」
涼「あっ、本当だ! 遅れたら申し訳ないし、僕は行きます」
石川「ええ、行ってらっしゃい」
事務所を出て、走ってテレビ局へと向かう。雪月花の事で心残りはあるけど、それを一旦飲み込んでおこう。
『女性アイドル鈴月アキが実は男だった!?』
芸能界を巻き込んだ一大告白から、半年が過ぎようとしていた。
あれだけ賛否を巻き起こしたにも関わらず、1、2ヶ月も経つと僕が男の子であるという当たり前の事実が、
当たり前のものとして受け入れられるようになった。
退屈した世間はと言うと、大御所芸能人夫婦の離婚問題に関心がシフトしたようだ。
それっきり、僕の話題で盛り上がることはなくなった。
16 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:49:20.26 ID:Z0d5Dpnk0
芸能界なんて、そんなものだ。
流行り廃りが早く、今は売れていても、明日になれば関心がなくなってしまうかもしれない。
チヤホヤされたところで結局、僕たちはファンと大人の事情に振り回され続けるんだ。
涼「本当にその話題で持ちきりだ……」
電光掲示板には雪月花の引退が報じられ、道端に捨てられている週刊誌のトップも彼女たち。
比喩表現なんかじゃなくて、町中は雪月花の話題で埋め尽くされている。
そのいくつが、嘘偽りなく事実だけを伝えているのか? せいぜい2割ぐらいなんだろうなと思うとやりきれなくなる。
涼「明日は我が身、か」
いつどこで何が起こるか分からない。だからこそ、誠実に頑張っていきたいな。
涼「っと急がなきゃ!」
そのためには、遅刻しないように急がないと!
17 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:54:19.91 ID:Z0d5Dpnk0
テレビ局
涼「あっ、あれ? 千早さん?」
千早「えっ? 貴方も呼ばれたの?」
涼「はい。オールドホイッスルの特番の打ち合わせって聞いてますけど……。千早さんもですか?」
千早「私もよ。武田さんに呼ばれたの」
テレビ局にある仕事場に行くと、先客がいた。
如月千早、765プロ所属のアイドル。高い歌唱力と表現力を持つ、まさに歌姫。
そして学校の先輩で、隣人で、師匠で……。
恋人(仮)だ。
彼女とは色々とあって、呼び捨てで呼び合う仲になったはずなんだけど、
恥ずかしくて名前の後ろにさんを付けてしまうことがしばしば。
そんな自分が少し情けない。
恋人(仮)っていうのも、少し事情がある。今年のIU、アイドルアルティメイトまで、(仮)は外れそうにない。
18 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 21:58:43.69 ID:+ndNRt3E0
千早さんを見ていると、あることに気付いた。
涼「えっと、千早さん!」
千早「? 何かしら?」
涼「そのふ」
武田「待たせてすまないね」
最後まで言おうとしたが、武田さんの声で遮られてしまう。
千早「武田さん、こんにちわ」
涼「こんにちわ。えっと、用事があるというのは一体……」
武田「その話だが……まぁ座ってくれ給え」
武田さんに言われるままに、並んでソファーに座る。
音楽プロデューサー武田蒼一。恐らく去年僕が1番お世話になった人間だと思う。
困った時には道しるべをくれ、ある時は厳しくも僕の背中を押してくれた、憧れの大人だ。
格好いい大人とは、この人のことを言うんだろうな。
19 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 22:00:45.33 ID:+ndNRt3E0
僕の最大のヒット曲、Dazzling Worldを作曲したのも、
武田『そう、僕だ』
このお方。足を向けて寝れやしない。
社長はピースが一つでも足りなかったらって言ってくれたけど、きっと最大のピースを持っていたのはこの人なんだろうなと思う。
武田「少し準備する必要があるんだ。すまないが、少し寛いでいてくれ」
そう言って武田さんは、棚を探り出す。
涼「えっと、千早……さん」
千早「呼び捨てにするならするで、はっきりして欲しいわね」
涼「ごめんなさい……」
千早「冗談よ。私もその、呼び捨てで呼ぶのなんか恥ずかしいし……」
涼「一緒ですね」
千早「そ、そうね」
気恥ずかしさからか、互いに顔を見れなくなって俯く。
20 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 22:03:33.21 ID:+ndNRt3E0
武田「……蟻の行進でも見ているのかい?」
そもそもテレビ局の3階に蟻っていないと思いますけど。
武田「さて、君たちを呼んだのは3点ほど理由があってね。まず1つはオールドホイッスルの打ち合わせなんだが、それは最後で良いか。2つ目、これは如月君に関してだが」
千早「私ですか?」
武田「うん。遅くなってしまったが、君に曲を作れるかもしれない」
千早「ほ、本当ですか!?」
武田「ああ、1年越しになるのかな? 最近の君の活躍を見ていると、どうやら足りないピースを見つけたようだ」
横目に僕を見る。
涼「えっと、僕ですか?」
武田「君もきっかけの一つさ。するとどうだろうか、不思議と君に曲を作れそうな気がしてきてね」
涼「良かったですね、千早さん」
千早「夢みたいです……」
千早さんは、本当に嬉しそうに、目から涙を浮かべていた。
21 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 22:09:16.04 ID:+ndNRt3E0
武田「ほう、泣いてしまうほどのものだったのかい?」
千早「はい、武田さんに作曲してもらうことは、私の夢でしたから」
武田「夢、か。そう言ってくれると、僕も嬉しいよ」
武田さんは表情を少し和らげる。
武田「だが、まだインスピレーションが沸き始めたばかりなんだ。形になるまで、また待ってもらうことになるが、そこはどうか理解して欲しい」
千早「はい、いつまでも待ちます。私としても、満足のいくクオリティの曲を希望したいですから」
武田「君ならそう言うと思ったよ。僕もなるだけ早く仕上げられるように努力しよう。秋月君の時は、ギリギリまでかかって、迷惑をかけてしまったからね」
涼「あはは……」
オーディション当日、しかも始まる少し前に届いたからなぁ……。あたふたし過ぎて愛ちゃんも困ってたっけ。
むしろ良くあれだけの逆境で仕上げることが出来たと思う。自分を褒めてあげたいぐらいだ。
結果として、僕は負けてしまったけど、今もDazzling Worldは僕と一緒に成長していっている。
そんな曲が千早さんのもとに来たら? 鬼に金棒、負ける気がしない。
22 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 22:14:11.57 ID:+ndNRt3E0
武田「それが2つ目の要件だ。で、3つ目だが……、本当なら打ち合わせだけだったんだが、話が少し変わってね。追加要件なんだ」
武田さんは真剣な顔を見せる。
千早「もしかして、雪月花のことですか?」
武田「そう、雪月花だ。君たちも耳に入れているだろう?」
やっぱり武田さんも気にしていたみたいだ。彼女たちの行いを詳しく知らないけど、
きっと武田さんにとっては許せないことだったのだろう。
変わらない表情から、少しばかりの怒りを感じる。
武田「ニュースで発表された通り、彼女たちは引退した。それも、決して美しい物とは呼べないが……」
一拍置いて、僕の目を見る。
武田「秋月君、彼女たちが何をしたか聞いているかい?」
涼「すみません、そこまで詳しくは……」
千早「私もです。社長もプロデューサーも困惑していましたから」
765プロでも、事態を飲み込めていないようだ。
23 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 22:18:36.89 ID:Z0d5Dpnk0
武田「向こうの事務所の方で箝口令が出ているのか、詳しくは報道されていないからね。君たちの反応も仕方ないさ。裏であくどいことをしていた、それぐらいの認識でも大丈夫だろう」
報道されるのも時間の問題だと思うが、そう武田さんは付け加える。
千早「武田さんはご存じなのですか?」
武田「いいや、僕自身彼女たちと交流はないからね。だから伝達でしか知らないんだが……。知りたいかい?」
涼「ええ、少し気になったもので」
武田「聞いた限りでは、コネを使っての審査員の買収、他アイドルへの妨害、ゴーストライター……。死体蹴りのようなことをする趣味はないが、叩けばまた出てくるだろう」
千早「ゴーストライターですか……。確かに、雪月花の売りは、リーダーの雪が自身で作詞作曲していたということですが」
武田「その歌詞が、彼女の作ったものではなかったということだろう。彼女の歌詞に共感していたファンからすると、堪ったものじゃないだろうな」
成程と納得する一方で、気になる個所もある。
武田「秋月君、何かあるかい? 納得出来ませんって顔をしているが」
涼「すみません。審査員を買収するぐらいのコネがあるのなら、どうしてスキャンダルが発覚したのでしょうか? もみ消すのも苦じゃないはずです」
少なくとも今の今までそれで通してきたと思う。なのに、どうして急に?
24 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 22:21:42.74 ID:Z0d5Dpnk0
千早「それは……、雪月花以上に強い存在がいたのかしら?」
武田「ああ、そういうことだろう。上には上がいたということだね。実に単純な答えだ」
上には上……。
涼「まさか……っ!」
1人だけ知っている。目的のためには何でもする人間のことを。
涼「まさか、黒井社長が?」
千早「!」
厭味ったらしい高笑いが頭の中で再生される。あの人なら、邪魔なアイドルを消すことぐらいやりかねない。
現に千早さんも、彼の毒牙にかかったんだから。
千早「確かに黒井社長なら考えられるけど……」
涼「武田さんはどう思われますか?」
ボクの問いの答えは、ノー。武田さんは首を横に振った。
25 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 22:33:02.83 ID:+ndNRt3E0
武田「いや、彼の可能性は低いだろう」
涼「どうしてでしょうか?」
武田「ジュピターが移籍した後、961プロは新たなアイドルを大々的に出していないからね。彼が動くときは、基本的に自身がプロデュースするアイドルが出た時ぐらいで、普段は足が付く真似をしないんだ」
千早「自分が認めたアイドルしか出さない方針なんですよね」
武田「そういう事だ。故に、この件に彼は関与していないだろう」
涼「じゃ、じゃあ誰が?」
武田「もう2つあるんだ。小賢しいコネを、ひねる潰せるほどの権力を持つプロダクションが」
千早「2つ?」
武田「ああ、片方は西園寺プロ。だがこちらは可能性が低いと思う」
千早「そうですか? 不勉強で西園寺プロは名前しか知らないのですが……」
涼「有名タレントが多数所属している事務所ですよ」
武田「その通り。こちらも黒い噂がないわけでもないが……。それでも、僕なりに調べた上で、もう1つのプロダクションの方が原因じゃないかと思っているんだ」
26 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 22:36:04.60 ID:/WiOZhva0
涼「その根拠は?」
武田「雪月花の凋落とともに、伸びてきた。それだけでも十分な理由だと思う」
でもそれだけで決めるのは早計な気もする。
武田「加えて、そのプロダクションの所属アイドル兼社長は、雪月花とも交流があったようだ。恐らくそこが今回の事件の黒幕だろう。いや、黒幕という言い方も変だな」
涼「アイドル兼社長? そんな人がいるんですか?」
千早「それはどこなんですか?」
武田「1054プロダクション。かの東豪寺財閥が母体の芸能事務所さ」
涼「東豪寺財閥ってあの大財閥の!?」
武田「そう、あの大財閥だ」
千早「1052プロって……」
武田「幸運エンジェル。君たちも知っていると思うが?」
涼「はい、この前共演する予定だったアイドルユニットです」
27 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 22:42:16.67 ID:/WiOZhva0
千早「予定だった?」
涼「どうも都合がつかなくなったとかで、番組には出れなかったんです」
武田「その幸運エンジェルのリーダーは、東豪寺財閥の跡取り娘でね。同時に事務所の経営も行っているんだ」
千早「確かそうでした。なんでも水瀬さんの幼馴染だそうで」
涼「伊織さんのですか?」
お金持ち同士、交流があるのかな。
千早「ですが、私が聞いていた幸運エンジェルは、東豪寺の力を借りず、自分たちの力だけで頑張っていた、むしろ清潔なグループでしたが」
ラッキーエンジェル。芸能界の闇なんて無縁そうな名前なのに、それがどうして、不幸を招いたのか?
涼「あっ、その時でした。僕が雪月花と共演したのは!」
千早「まさか! 幸運エンジェルは雪月花に……」
武田「番組を降ろされた、か。考えうるな」
ならば合点が行く。雪月花は、それを恨んだ彼女たちによって処刑されたんじゃないのだろうか?
28 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 22:49:42.04 ID:+ndNRt3E0
武田「今の秋月君の話で、僕は確信したよ。雪月花を追放したのは、1054プロの幸運エンジェルだ」
涼「幸運エンジェルと雪月花。僕の知らない場所でそんなことが」
千早「どちらも綺麗な名前なのに……」
武田「……いや、もはや幸運と言う名前は相応しくないな。言うなれば……魔王だな」
涼「魔王……、ですか」
武田「強大な力を持つ、闇の支配者。全ての者から畏怖の対象として見られる。ぴったりだと思うが……。君はどう思う?」
涼「えっと、僕ですか?」
武田「いや、秋月君の後ろにいる、君たちだ」
??「つ・ま・り、魔王エンジェルってとこですか〜?」
涼「え?」
後ろから聞きなれない声が聞こえる。振り返ると、とそこには、3人の女の子がいた。
29 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/07/13(金) 22:52:05.64 ID:HlwKn4vDo
ぶ……無礼るな!!
30 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/13(金) 22:59:06.98 ID:Z0d5Dpnk0
とりあえずここまで。DSとアニマスのクロスだった前作に比べて、今回は全般にわたって、多分にオリジナルを含んでいます
魔王エンジェルと雪月花を詳しく知りたい方は漫画版を買うことをお勧めします。漫画版とはまた違った話にはなっていきます
あとタイトルのセリフは、マブラヴの御剣冥夜が元ネタですね。マブラヴとのクロスを期待した方、申し訳ありません。読み方が分からない人は、まずはググれ?
読んでくださった方、ありがとうございました。
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)
[sage]:2012/07/13(金) 23:08:33.01 ID:yGhtJTOW0
乙
やっぱり幸子ちゃんは腹パンするにかぎるな
32 :
投下します
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 07:46:41.04 ID:q5lJHduN0
武田「噂をすれば何とやら、と言ったところだな。東豪寺麗華君」
麗華「武田さんに秋月君に千早ちゃん、そんなメンバーに噂されるなんて〜、私感激で〜す」
??「いひひっ」
???「……」
厳しそうな見た目によらず、場の空気を壊しかねない甘えるような口調。
そのギャップに、何故か恐怖を覚える。
武田「……ここでは仮面を被らなくても良い。君も疲れるだろう?」
麗華「あっ、分かっていましたか? この喋り方、気持ち悪いったらありゃしない。楽にさせてもらいます」
涼「えっと、貴女たちが、幸運エンジェルですか?」
麗華「そう、私たちが幸運エンジェル! ……って名乗るつもりだったけど、たった今名前変わったわ。魔王エンジェル、良い名前じゃないか。うちらの使命にピッタリだ。まさか武田さんに名づけて貰えるとは」
武田「それは……、良かったね」
33 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 07:50:19.48 ID:q5lJHduN0
涼「何をする気なんですか」
??「何って……、アイドルの全滅じゃね? ねっ、ともみ」
ともみ「そこで私に振らないで、りん」
りん「ほんとアドリブ苦手だよね、ともみは。首縦に振ってたらいいじゃん」
ともみ「別に。そういう場でもないわ」
麗華「そういうこった。アイドルの無価値を証明して、夢見ている連中に現実を教えてあげるだけ。雪月花はその礎になって貰ったってことさ」
涼「やっぱり貴女達が雪月花を引退に追い込んだんですね」
麗華「追い込んだ? 勝手に引退しただけだろ。向こうがしてきたことそっくりそのまま100倍返しで送ったら、自滅したって話だって。なに、うちらが悪いって言いたいわけ?」
りん「てか100倍返しの時点でそっくりそのままじゃないっての」
異常な行動を、漫画を読んでいるように笑う2人。
ともみ「……」
ともみと呼ばれた背の高い女性だけ、表情一つ変えずこちらを見据えている。
34 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 07:53:28.78 ID:JoQNLzWp0
千早「一体何の用事ですか? 雪月花を追い出したことをわざわざ自慢しに来たと?」
険しい目つきで、千早さんは睨んでいる。
麗華「なに、挨拶もしちゃいけないわけ? こちとら新体制になったんだ、ちゃーんと偉い人らには挨拶しなきゃいけないだろ?」
武田「アポなしとは感心しないがな」
麗華「それは失礼いたしました。局長の方には話を通したんですがね」
武田「悪いが、局長からは特に聞いていなかったな」
麗華「嫌われてるんじゃないですか? まぁなんにせよ、幸運エンジェル改め魔王エンジェルを、今後ともよろしくお願いします。行くよ、りん、ともみ」
りん「じゃーねー!」
ともみ「……」
麗華「あっ、言い忘れてた。秋月涼」
涼「……なんですか?」
麗華「私さ、アンタみたいな夢は叶うなんて本気で信じてる人間大っ嫌いなんだよね。そんなものは所詮虚像、無価値だってこと教えてあげる」
35 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 07:59:02.45 ID:1QQHslWs0
憎々しげに僕を見る東豪寺麗華。恨みを買われる憶えはないけど、言われっぱなしも気にいらない。
涼「多分僕も、貴女を好きになれそうにありません」
りん「良かったじゃん! 両想いで」
麗華「それは良かったぜ。女装趣味のカマ野郎に好かれるなんて気味が悪いったらありゃしない」
涼「それと……」
麗華「あぁ? 何、僕はノンケですとか言うわけ?」
彼女を一目見た時から、違和感を抱いていた。それもそうだ、僕もそうしていたんだから。
涼「胸のパッド、ずれてません?」
麗華「!?」
りん「ちょ、おまっ!」
ともみ「……っ!」
武田「ほう」
千早「え? パッド?」
36 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 08:04:12.71 ID:JoQNLzWp0
麗華「あ、あ……」
涼「へ?」
プルプルと震える東豪寺麗華。あっ、やっちゃった?
麗華「秋月涼!! 絶対に殺す!! 憶えていろー!!」
りん「あーあ、麗華の触れちゃいけない所に触れちゃって。どうなっても知んないよ? じゃあねん」
ともみ「失礼しました」
そう言い残して、彼女たちは去って行った。
涼「武田さん、千早さん」
武田「魔王エンジェル、か……。ずいぶん安直な名前だな。望まずも名付け親になってしまうとは……」
千早「エンジェルの部分、気に入ってるのかしら? 魔王天使……。ジブリール?」
涼「いや、違うと思います」
2人ともどこか感想がおかしい。
37 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 08:06:56.80 ID:JoQNLzWp0
涼「ってそういう話じゃないです! あの人たち、本当に……」
武田「どうやら彼女たちが雪月花を陥れたのは事実のようだな」
千早「ええ、そして夢を見ている連中に現実を教える、その言葉も気になります」
武田「気を付けるに越したことは無いな。特に秋月君」
涼「はい」
武田「どうやら東豪寺君の触れて欲しくない部分に触れてしまったみたいだね」
千早「流石に今のはデリカシーが無さ過ぎたわね。でも少しすっきりしたわ。……自然体が一番よ」
涼「あ、あはは……」
何故か千早さんは勝ち誇ったかのような顔をしている。
武田「権力を持つものが怒りの感情に支配されたとき、何をしでかすか分からない。ゆめゆめ、気を付けたまえ」
涼「分かりました」
武田「さて、何時までも未確定事項の話をしても仕方ない。特番の打ち合わせと行こうか。情けない話だが、五十嵐局長が更迭された今、局内でも少々風向きが悪くなってきてね」
38 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 08:15:41.78 ID:JoQNLzWp0
恐らく絵理ちゃんの件が問題になったのだろう。五十嵐局長の理解と保護があったからこそ、
オールドホイッスルは誰にも邪魔が出来なかったわけで。
局長の後ろ盾が無い今、いつまでも良い顔をされないのだろう
武田「上もいつまでも数字の取れない番組を残すべきじゃないと考えている。当然と言えば当然だろうな。あくまで、僕とオールド・ホイッスルはお客様なんだから」
涼「どうなさるおつもりですか?」
武田「本当ならテコ入れなりをすべきなんだろう。いくつか案はあることはあるが……。しかし音楽業界最後の砦を名乗っている以上、あくまで音楽で勝負をしないといけないんだ。そこで、君たち2人の力を借りたい」
千早「私たちですか?」
武田「ああ。これからの音楽業界を引っ張っていく若い力が必要なんだ。君たちには、その先導者となって欲しい」
涼「買いかぶり過ぎですよ」
武田「そうかな? 君がどう自己評価しようが勝手だが、僕は君を勝手に高く買っている」
千早「私もよ」
涼「そ、そうなのかな……」
2人に褒められるけど、イマイチ実感がわかない。
それどころか、武田さんに千早さん。この2人と同じ席にいること自体、未だに場違いじゃないかと思えるぐらいだ。
39 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 08:21:38.49 ID:1QQHslWs0
武田「この特番は、オールドホイッスル並びに音楽業界の命運をかけた企画と言ってもいい。2人には重いぐらいの責任を課してしまうが、どうか理解して欲しい」
千早「私なんかでよければ、いくらでも力を貸します」
涼「僕もです。何が出来るか分かりませんが、武田さんの夢を守りたいんです」
武田「そうか……。君達にそう言われると、不思議と自信が出てきたよ」
武田さんでも、不安に感じることがあるのかな。
武田「また何かあれば僕から連絡を入れよう」
千早「よろしくお願いします」
武田「ああ、ところで如月君」
千早「はい、何でしょうか?」
武田「作詞、してみないかい?」
千早「作詞、ですか?」
40 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 08:29:49.27 ID:5ktIycZd0
僕達は意外そうに武田さんを見る。まさか武田さんがそんなことを言うなんて思ってもなかったから。
武田「別に僕が楽をしようと言うわけじゃないんだが、歌を自分のものにするためにも、自分で歌詞を作ってみるという経験を積んでみてはどうかな?」
千早「確かにそれはそうかもしれませんが……」
涼「千早さん、作詞の経験ってあるんですか?」
千早「いいえ、私自身はないの」
私自身? 他の人はあるのかな?
武田「別に無理強いはしない。もちろん、まだ早いというのなら、僕が作詞する。難しく考えなくて構わないよ」
千早「そうですね、考えてみます」
武田「尤も、僕が如月君の作った歌詞を見てみたいというのもあるが……」
千早「期待してくださり有難うございます」
武田「では、曲作りに専念しようか。わざわざ呼び出してすまなかったね」
41 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 09:42:51.62 ID:JoQNLzWp0
テレビ局を出ると、ザーザーと音を立てて雨が降っていた。
千早「雨、降ってるわね」
涼「ホントだ。千早さん、傘ありますか?」
千早「いいえ、天気予報も雨が降るなんて言ってなかったから……」
ここの所、そんなのばかりだ。土砂降りと言うから傘を持って行くと、雲一つない快晴だったり、
今日みたいに晴れると言ってたのに大雨降らせたり。
涼「じゃ、じゃあ使いますか?」
千早「え?」
備えあれば嬉しいな。鞄の中から、緑色の折り畳み傘を取り出す。
涼「いつ雨が降ってもいいように、折り畳みを常備してるんです」
千早「えっと、涼君は入らなくていいの?」
涼「大丈夫ですよ、僕男の子ですし。千早さんが風邪ひいちゃうよりかはマシです」
42 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 09:53:50.24 ID:1QQHslWs0
千早「それは良くないわ。私だって、貴方に風邪をひかれたら困るもの。歌えなくなるでしょ?」
涼「でもこの傘2人入るには小さいんじゃ……ってわっ!」
千早「す、少し近いけど……。こうすれば、2人とも濡れないわよ?」
千早さんに引っ張られて、傘の中に入る。濡れないようにすると、どうしても肩がぶつかってしまう。
涼「……」
千早「……」
気恥ずかしい沈黙の中、雨のオーケストラだけが響く。
涼「あ、あの! 千早……さん」
千早「な、何かしら?」
下の名前で呼べない僕はヘタレなんでしょうか? 2人とも、緊張で声が上ずっている。
涼「武田さんの曲、千早さんにピッタリな曲だといいですね」
千早「そうね。Dazzlingみたいに素敵な曲が来ると、信じているわ」
43 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 10:12:44.45 ID:1QQHslWs0
涼「だけど驚きました。武田さんが、作詞してみないかって言うなんて」
千早「私は彼の紡ぐ歌詞が好きだったから、断ろうと思ったんだけどね。だけど武田さんの言うように、その方が私らしい曲を作れるかもしれない、そう思ったの」
他愛のない会話を繰り返していると、アパートへ着く。
傘を閉じると、雨はもう降っておらず、雲の切れ目から日の光が見えていた。
千早「ありがとう、涼君」
涼「いえいえ、お互い様ですよ」
急な雨で困ったけど、こういうイベントがあるのなら、悪くもないかな。
千早「ねえ、涼君」
涼「はい?」
千早「さっき、何って言おうとしていたの? ほら、武田さんが来る前」
涼「えっ、あー、その……。新しい服似合ってますよ」
千早「え? あ、ありがとう……」
44 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 10:29:19.31 ID:q5lJHduN0
小鳥「なんですか、それのろけですか? のろけですよね、のろけたわね!」
涼「3段活用!? 違いますよ! ただこんなことが有りましたって話しただけじゃないですか」
小鳥「あてつけですね、分かります」
涼「違いますって……」
僕の部屋の夕食は、基本的ににぎやかだ。最低でも、僕+1人はいる。
今宵は、めぞん159の大家代行兼765プロ事務員の音無さんと一緒。
小鳥「千早ちゃんは、部屋にこもってますね」
涼「あっ、千早さんなんですけど、武田さんに曲を作ってもらえることになったんです。それで、今部屋で武田さんの作った曲を聴きあさってるみたいですね」
小鳥「よっぽど嬉しいのね。いつもなら、一緒に晩御飯食べるのに」
涼「そうですね。後でシチューでも持って行きますよ」
きっとお腹を空かせているに違いない。
最近は自炊もしているみたいだけど、音楽の世界に入り込んだら、なかなか戻ってこないし。
45 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 10:40:05.48 ID:1QQHslWs0
小鳥「でも本当に千早ちゃんは可愛くなったわ」
涼「最初から可愛いですよ」
小鳥「うーん、そうなんだけどね、入社した頃の千早ちゃんは歌にしか目が行ってなかったの。悪い言い方をすると、歌の上手いロボット。それが最初の印象だったわ」
涼「ロボットですか……」
音無さんの言うことも分かる。バラエティが嫌いだったのか、いつも不機嫌そうな顔をしていたし。
司会の人も困ってたっけ。
小鳥「あっ、勿論今もそう思ってるわけじゃないわよ? 本当は感情豊かで、悲しい時は泣くし、嬉しい時は笑う。あの頃は少し、深刻でいすぎたのかしらね」
真剣になるのと深刻になるのは違うもんね。
小鳥「でも一番の原因は、やっぱり涼君かしら?」
涼「へ? 今何って?」
小鳥「ふふっ、教えてあげない。あっ、春香ちゃんのドラマが始まっちゃう。テレビつけるわね」
涼「もう、はぐらかしちゃって……」
46 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 10:44:20.86 ID:q5lJHduN0
音無さんは僕に断りを入れて、リモコンのスイッチを付ける。
この時間は、765プロの天海春香さんと、ジュピターの冬馬君が主演しているドラマが放送されている……はずだった。
小鳥「え? チャンネル間違えたかしら? でも8chよね……」
涼「どうかしたんですか?」
小鳥「いや、記者会見が映ってて……」
涼「あっ!」
困り顔の音無さんの言うように、ドラマではなく、記者会見が映されていた。
そしてそこに映っていたのは、
麗華『魔王エンジェルの東豪寺麗華で〜す! みんなのハートを、ジェノサイドしちゃうぞ!』
涼「魔王エンジェル!?」
小鳥「ちょっとチャンネル変えるわね!」
りん『み〜んな〜、よろしくね〜♪ いひひ』
『やっぱり世界で一番かわいいのはボクぐへぇ!!』
ともみ『よろしく』
47 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 10:50:56.51 ID:q5lJHduN0
音無「どこのチャンネルもこれになってる! NHKとテレ東は通常運転で、腹パン少女さちこ映してるけど……」
涼「ブレませんね」
小鳥「録画したのにー!」
音無さんは悲しそうにがっくしと肩を落とす。
小鳥「ってあれ? あの子たち、確か幸運エンジェルって名前じゃなかったっけ? 心なしか麗華ちゃんの胸が大きく見えるし」
心なしか、今日会った時よりも盛っているように見えた。……根に持たれた?
涼「本日付で幸運から魔王に進化したみたいですね」
小鳥「あら、詳しいのね」
涼「今日会ったんです。武田さんの仕事場で。その時に改名したみたいですね」
小鳥「幸運から魔王だなんて、悪堕……、じゃなくて大胆な方向転換ね。でもいくらなんでも、民放のほぼ全チャンネル電波ジャックなんてできるものなの?」
涼「東豪寺財閥の力だと思います」
48 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 10:59:39.12 ID:JoQNLzWp0
小鳥「成程……。つくづくおかしいわね、私が知っている彼女たちは、自分たちで得たものだけに価値があるって言ってたはずなのに」
涼「僕はそうは見えませんでした」
麗華『私たちの目標は、IU制覇! アイドル界の頂点目指して頑張っていくので、応援お願いします!』
本性を知っているから、よくもここまで良い子になれるもんだと変に感心する。恐るべし、演技力。
りん『トップ目指しちゃうよ〜!』
ともみ『それでは聞いてください』
3人がステージに立つと、音楽が流れてくる――。
涼「このイントロ……!」
『The world is all one !!』
小鳥「え! ええ!?」
涼「な、何で……」
何でこの人たちが歌ってるんだ!?
49 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 11:01:45.50 ID:JoQNLzWp0
千早「涼君、小鳥さん!」
涼「千早さん! 見ていたんですね」
慌てた様子で僕の部屋に入り込んでくる。油断していたのか、可愛らしいパジャマのままだ。
千早「ええ、何の気なしにテレビをつけたらやっていたの。これが彼女たちのやり方なわけ?」
小鳥「丸パクリじゃないですか!」
千早「いえ、恐らく作曲者の方には話が言ってると思います。ですがこれは……」
涼「完全にコピーしている……」
3人のパフォーマンスは、見る者を圧倒する。一体どういうつもりなんだ!?
千早「これが魔王エンジェル……」
涼「え?」
千早「あの人たちは確かに上手いかもしれない。だけど、彼女たちの歌を私は認めたくない!!」
50 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 11:03:19.43 ID:JoQNLzWp0
小鳥「千早ちゃん?」
珍しく声を荒げる千早さんに、僕らは面食らう。
千早「……ごめんなさい、柄にもなく熱くなって。でも、許せないの。歌には、作った人、歌う人、聞く人。全ての人の思いが詰まっている。だけど彼女たちの歌は……、それをことごとく無視している。そこには想いが、ないのよ」
涼「想い……」
千早「去年の私のことを思うと、偉そうなことを言えた義理じゃないかもしれない。だからこそ、許せないの。自分のことを見ているみたいで」
誰よりも千早さんは歌が好きだ。その彼女にとって、魔王エンジェルのコピーは怒りのトリガーにしかならなかった。
麗華『よろしくね〜!』
小鳥「一体全体どうなってるの?」
涼「分かりません。だけど、凄く厄介なことになって来ました」
その時はまだ、アイドルランクも下の魔王エンジェルにそこまでの危機感を抱いていなかった。
自分の中で、IUで頂点に立ったということが、それを鈍らせていたのかもしれない。
だけど、魔王の手はすぐそこにまで来ていた。それも、僕自身ではなく、その周りを狙って。
51 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/14(土) 11:10:07.21 ID:JoQNLzWp0
とりあえずここまで。少年漫画的な展開と格好良いアイドル達を書けるように頑張りたい。読んでくださった方ありがとうございます
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2012/07/14(土) 14:57:20.55 ID:LX8nBK2Y0
愛の妨害なんてしてみろ。舞さんががが
乙
53 :
投下します
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 00:02:49.20 ID:zPSIsFgL0
涼「な、なんですかこれ……」
石川「どうやら、雪月花事件の裏にいたのは、彼女たちで間違いなさそうね」
たった7日間で、芸能界の情勢は大きく変わった。
至るところで魔王エンジェルの名前が出てき、どのチャンネルをつけても彼女たちが映っているなんて珍事態が起きているぐらいだ。
もはやステルスなんてしていない、力技。ごり押しと言えば聞こえが悪いが、
周囲の文句すらも黙らせる実力を持っていた。
また同時期に、スキャンダルが白日の下に晒されていき、引退を余儀なくされたアイドルが多数出てくる。
恐らく、その裏にいるのも彼女たちだと思う。
誰もがそう思ったはずだ。だけど、それを糾弾することが出来なかった。
相手があまりにも大きすぎるんだ。
どこにも証拠はなく、僕たちがあれこれ言ったところで、向こうはその先を行き、踏む潰すだろう。
そしてゴシップの魔の手は、876事務所にもにも来ていた。
54 :
にもにもってなんだ……
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 00:08:07.97 ID:zPSIsFgL0
石川「再度確認するわ。絵理、あなたは何もしていないのね」
絵理「はい。向こうが勝手に……」
尾崎「申し訳ありません。私がちゃんと絵理と一緒にいればこんなことにならなかったのに……」
夢子「いや、尾崎さんはもう少し離れてた方が良いんじゃ……。でも、良く撮れてるわね、これ」
週刊誌には、絵理ちゃんと共演者の男性がキスしている写真が載せられている。
これを見せられた時、衝撃的な写真に驚いたけど、よくよく見るとキスをしているように見えただけだった。
絵理「あの人が顔にゴミが付いてるって……」
とは絵理ちゃんの談。勿論僕たちは全員、絵理ちゃんが無実だということを信じている。
石川「なら釈明できるけど、弱ったわね……。事の真偽がどうであれ、ファンの中にはこの1件で絵理を見限ったって人もいる。早いとこ記者会見を開いて、弁明すべきね。向こうの事務所にも話を聞いておきたいし」
涼「そんな! 向こうが勝手にやったんですよ!?」
石川「だとしてもよ。宗教みたいなもので、ファンはアイドルに対して何よりも清潔さを求めるわ。火の無いところに煙が立たない、って考えのファンが多いのよ」
尾崎「まさに偶像崇拝ね。処女信仰って奴かしら? 男がいるってだけで、ファンを辞めるって人も多いでしょう」
55 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 00:11:20.55 ID:zPSIsFgL0
そういうファン心理、分からなくは無い。好きなアイドルの熱愛報道は、僕もそれなりにショックを受けたし。
尾崎「それに、この程度で見限るようじゃ、その人は本当のファンじゃない。絵理、気にすることは無いわ」
絵理「……でも、悪いことをした?」
涼「絵理ちゃんは関係ないよ。こんな記事をでっち上げた方が悪いんだから!」
尾崎「そうよ絵理。そもそも絵理に彼氏なんて……。彼氏なんて……? かれし?」
涼「えっーと、尾崎さん?」
夢子「もしもーし」
尾崎「」
尾崎さん起動停止。しばしの沈黙の後、
尾崎「い、いないわよね!? ね!?」
活動再開。
涼「わぁ!!」
夢子「必死ね……」
56 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 00:12:48.04 ID:r1czjnm00
絵理「うん、いないよ」
ここでいるって言われたら、僕もびっくりする。
尾崎「よねー。もう、心配して損したわ」
絵理「だけど、好きなのは涼さん」
尾崎「へー、秋月さんが好きなんだ」
夢子「もう! 絵理だって恋する乙女なのね!」
涼「へぇ、そうなんだ。嬉しいなぁ!」
『あははは……ぁ?』
尾崎「……」
夢子「……」
涼「……ってえええ!?」
57 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 00:16:48.95 ID:vSyuElC40
爆弾発言をかました絵理ちゃんは、ニヤニヤと笑って僕らを見ている。
尾崎「あ、あ、アーキーヅーキィィィィィ!!」
夢子「ちょ、ちょっと絵理! どういう事よ!!」
尾崎さんと夢子ちゃんが滅茶苦茶睨んではるんですけど!!
絵理「イッツアジョーク?」
涼「いやそこは疑問文にしないで欲しいなぁ!! 自信持って答えいででで!」
夢子「答えなさい!!」
思いっきり耳を引っ張られる。ちぎれるよ!
涼「って僕に聞かないでよ!! 知らないってば!!」
夢子「本当、絵理?」
涼「なんも無いって! だから耳を離して……」
絵理「あの日のこと、忘れた?」
涼「どの日のこと!? 痛い痛い! 夢子ちゃん両耳引っ張らないで!」
58 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 00:18:33.71 ID:afSvI1MF0
尾崎「秋月さん、絞殺刺殺格殺毒殺斬殺圧殺殴殺扼殺轢殺抉殺飢殺撲殺銃殺爆殺羅刹必殺暗殺黙殺謀殺瞬殺……どれがお好みかしら? ちなみに今日のお勧めは、爆殺よ。火薬の量が違うわ。今なら4割増しでぶちかましてあげるわよ」
涼「お、お断りします! ってさりげなく1つ違うの混じってませんか!? 羅刹って!」
なんか暗殺拳使えそうなオーラ醸し出してるんですが!!
絵理「個人的に、格殺が気になる」
涼「絵理ちゃんも煽らないでよ!!」
尾崎「秋月ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
夢子「涼、覚悟しなさい!」
涼「ひぃぃぃ!」
石川「止めなさい! 尾崎さんもいい年なんだから、子供みたいに怒らない! 絵理と離れたいのですか!? 夢子もよ! 追い出すわよ!」
おざゆめ『すみませんでした』
涼「いや、それよりも僕に謝って欲しいかなーって」
社長の鶴の一声で黙る2人。ふぅ、酷い目にあった……。
59 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 00:23:48.24 ID:afSvI1MF0
石川「にしても、ずいぶんと上手いこと撮ったわね。ベストポジションから撮ったのかしら?」
確かにそうだ。実際にはキスしていない写真を、キスしているように見せているんだから。
涼「もしかして、最初から狙われてたんですか?」
石川「みたいね」
尾崎「あっ、やっぱりそう思いますか? 私もその時、呼び出されたんですよ。今思えば、変な呼び出しでしたね。何でわざわざ、その場を離れないといけなかったのか……」
夢子「つまり、グルって事ですか?」
石川「可能性はないと言い切れないわ。どうやら、魔王エンジェルの件は、対岸の火事だなんて遠目で見ることも出来なさそうね」
涼「じゃあ愛ちゃんも気を付けないと!」
石川「多分だけど、愛は大丈夫じゃないかしら?」
夢子「どうしてですか?」
あー、夢子ちゃんはまだピンと来ないか。地上最強の母のことを。
60 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 00:29:41.36 ID:zPSIsFgL0
石川「愛には最強の保護者が付いてるからね」
舞『おはオーガ! 舞ちゃんだホ!』
愛『だから流行んないよ!』
そう、日高舞だ。
石川「彼女が本気を出したら、芸能界どころか日本が大変なことになるわ。それぐらい分かっているでしょう。魔王を名乗ったところで、本物の魔王に勝てるわけがないじゃない」
涼「あ、あぁ……。ですよねー」
あの人なら、日本の政権ぐらい軽く覆しかねないもんな……、冗談抜きで。
そのうちお札に描かれるようになるかも。
石川「IUで頂点に立った涼は不自然な攻撃をしにくいし、舞さんが付いている愛もその後のカウンターが怖いでしょう。だからうちでも立場の弱い絵理を狙ったと考えれるわね」
涼「弱い者いじめですか……」
石川「私が向こうの立場でも、同じことをすると思うわ。同様に、夢子も気を付けた方が良いわね。貴女に関しては、否定できない過去があるんだから」
夢子「そうですね……。私の過去は消えたりしませんから」
寂しそうに言う夢子ちゃん。
61 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 00:31:47.38 ID:zPSIsFgL0
涼「夢子ちゃん」
夢子「同情の眼差しはいらないっての。こっちだって、自業自得って分かってるんだから」
石川「愛とまなみが帰ってきたら、もう一度対策会議を開きましょう。これは無視していい話じゃないわ。私たちのような小規模事務所なんて、東豪寺からしたら、小指で潰せるレベルなんだから」
涼「……はい」
石川「どうかしたの?」
涼「いえ、多分ですけど、1052プロの狙いは、僕だと思うんです」
夢子「どういう事よ?」
涼「えっと、実は……」
僕は武田さんの仕事場で起きた出来事を説明した。
石川「つまり、胸パッドを指摘したから、恨まれたんじゃないかと?」
涼「はい……。ごめんなさい」
62 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 00:36:53.38 ID:zPSIsFgL0
だからかな、記者会見では武田さんの部屋で見た時よりも盛っていたのは。
あの開き直りの良さは尊敬したい。
夢子「はぁ、子供レベルの喧嘩で芸能界を巻き込まないでくれる?」
涼「すみません……、済みませんけどすみません」
子供レベルで、財閥やらを出さないで欲しいなぁ……。
石川「過ぎたことを言っても仕方ないわ。それも確かにあるかもしれないけど、彼女たちの行動を見るに、涼自身じゃなくて、芸能界そのものを叩き潰そうとしているように見える」
涼「雪月花の件がきっかけですよね」
石川「どうかしらね。少なくとも、私が聞いていた幸運エンジェルは、東豪寺の力を借りずにやってきてたはずよ」
それはみんな言っていた。それだけ、クリーンなユニットだったはずなんだ。
石川「それが今、持てる力をフルに使って攻めてきている。心境の変化があったのは確かね」
涼「心境の変化ですか……。なら、止めてと言ったら聞いてくれるのでしょうか?」
夢子「はぁ? まさかあんた、止めてくれって言うつもり?」
涼「うん。きっと話せば分かってくれると思うんだ」
63 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:06:49.53 ID:vSyuElC40
夢子「本気でそう思ってるのならあんたはどうしようもない馬鹿よ! 無理に決まってるでしょ!?」
涼「やってみないと分からないよ! それに、夢子ちゃんだって分かってくれたんだし」
夢子「私とあいつらは違うわ!」
石川「そうよ、涼。貴方が口を挟んでどうにかなる問題でもないと思う」
涼「でも! 放っておけません! このままじゃ、彼女たちの思うが儘です!」
石川「涼、貴方が魔王エンジェルを止めに行くとして、果たしてその代償は何かしらね?」
涼「え?」
石川「貴方の正義を振りかざしたとして、失うものはないと言い切れるの?」
涼「そ、それは……」
僕はフリーの立場じゃない。876プロに所属している以上、その方針に従わないといけないし、
最終的な責任は事務所が負ってしまう。
64 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:09:15.80 ID:afSvI1MF0
夢子「そうよ。1054は個人単位じゃなくて、事務所ごと攻撃が出来るのよ。私と一緒にしないで。向こうはもっと危険よ」
石川「涼、貴方の気持ちは分からなくないわ。絵理を狙われたんだもの、私だって許せないに決まっている。だけど、今貴方が暴走して、いい結果が残せると思ってるの? 返り討ちにあうのがオチよ。……私も慈善事業をしているわけじゃないの、分かって頂戴」
涼「すみません、熱くなりすぎました……」
夢子「涼……」
石川「若いってこういうことを言うのかしらね。大人になりなさい」
僕の行動次第で、この事務所を潰すことも出来る。だけどそんなこと、望んでいない。
僕は……、1052プロに為すすべもないのだろうか?
千早「1052プロは私たちの事務所にも仕掛けてきたの」
涼「765プロにもですか?」
千早「卑劣なやり方よ。……やっぱり私は彼女たちを許せそうにないわ」
千早さんはそう言ってゴシップ誌を見せる。絵理ちゃんが狙われた雑誌とは違うみたいだ。
65 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:15:22.23 ID:vSyuElC40
涼「これ……、出鱈目じゃないですか!」
雑誌に書かれていたのは、やよいさんの家庭の事。彼女の父親についてのゴシップだった。
借金、失業……。アイドルとしてのイメージを下げてしまいかねないワードが、そこには並んでいた。
涼「こんなの、嘘ばっかりじゃないですか!!」
千早「他の皆の記事もあったわ。実家が裏社会とつながっているだとか、プロデューサーと交際しているだとか……。明らかにこちらに悪印象を与えようとしているわね。……美希は何で私じゃなくて春香なの!? って怒ってたけど」
涼「……美希さん危機感無いですね」
千早「律子に説教食らっていたわ」
あくまでマイペースな先輩アイドルに変に感心してしまう。
千早「お陰様で、スポンサーが離れたりと散々よ。高槻さんもショックを受けて、少しの間休業することになったわ」
涼「そんなっ!」
あの元気いっぱいだったやよいさんが休業……。にわかに信じられなかった。
66 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:17:36.85 ID:afSvI1MF0
千早「小鳥さんは方々からの電話でパンク寸前だし、大変な一週間だったわ……」
千早さんからも疲れを感じる。
千早「そっちも、水谷さんが狙われたと聞いている。私たちの周りから攻めるつもりなのかしら」
涼「迷惑な話ですね」
千早「そう、ね……」
涼「千早さん危ない!」
立ち上がった拍子にふら付いて倒れてしまう。
千早「ごめんなさい、少し疲れてて。ごめんなさい、少し横になるわ」
千早さんはそう言って、横になろうとする。
涼「あっ、あの!」
千早「え?」
涼「僕の膝、空いてますよ?」
67 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:23:05.38 ID:afSvI1MF0
↑訂正
立ち上がった拍子にふら付いて倒れてしまう×
立ち上がった拍子にふら付いて倒れそうになる○
千早「えっと、今……」
えっと、今何を言ったかな僕。僕の膝空いてますよ、つまりそれは膝枕をしますって言ってるわけで。
涼「あ、ああ! 今の忘れてください! ちょっと僕も疲れて変なこと言っちゃったみたいなーって、千早さん!」
千早「じゃ、じゃあお言葉に甘えちゃおうかな?」
涼「え゛」
千早「えっと。お邪魔するわね」
涼「ち、千早さん!?」
千早「男の子だから、硬いかなって思ったけど、意外に柔らかいのね」
涼「う、うぅ……」
情けない声が出てしまう。自分から言い出したとはいえ、魅力的な女性が僕の膝に頭を乗せているという事実は、ドキドキするのに十分過ぎるわけです。
68 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:27:14.42 ID:zPSIsFgL0
千早「すぅ……」
涼「寝ちゃったし……。はぁ、どうしよう」
音無さんに見られたら間違いなく茶化される。そしてあの人は泣くだろう。
小鳥『リア充なんか死んじゃえ―!! どうせ私は寂しい事務員ですよー!!』
涼「綺麗な人だと思うけどなぁ」
有りえない話だけど、もし音無さんに言い寄られたら……。無い無い!
そんな小鳥さんが僕みたいな子供を……。
千早「涼……」
他の女の人を考えていたからか、千早さんが僕の名を呼ぶ。
涼「はい?」
千早「私のプリン食べたでしょ……。ぷくぅ」
涼「……なんの夢見てるんだろ」
夢の中では、彼女は僕を涼と呼ぶ。現実の千早さんは恥ずかしがってなかなか呼んでくれない。
夢の中の僕に少しだけ嫉妬。
69 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:33:00.71 ID:zPSIsFgL0
涼「気持ちよさそうに寝ちゃって。そんなに、僕の膝枕いいのかな?」
セルフで出来ないから、感触を共有できないのが残念。
涼「僕も眠くなってきたや。お休み、千早……」
千早「うん……」
涼「さん」
面と向かって名前で呼べない自分のヘタレっぷりに呆れながらも、微睡の海におぼれていった。
涼「んん……」
眠りの世界から、意識を取り戻していく。
涼「あれ、僕横になったっけ?」
昨日寝た時は、千早さんを膝に乗せたままだったはずだ。それに膝に重さを感じ……。
千早「すぅ、すぅ」
涼「……え゛っ」
70 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:38:44.14 ID:afSvI1MF0
目と目が合う瞬間、何とかかんとか――。
千早「きゃああ!!」
涼「ぎゃおおおおん!」
千早さんのアッパーが炸裂! えっと、どういう事?
小鳥「あら、昨晩はお楽しみだったようで」
涼「音無さん!」
小鳥「昨日涼君の部屋を覗いたら、膝枕して寝てたじゃない? 風邪をひいちゃうかと思ってベッドに入れてあげたのよ。どうだった?」
涼「顎が痛いです……」
その前に大家権限使って勝手にドアを開けないでください。
千早「あ、あの……それはごめんなさい」
涼「いえ、悪いのはこの人ですから」
ジト目で見てやる。
71 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:39:54.47 ID:afSvI1MF0
小鳥「悪いだなんて酷いわねぇ。夜遅くまで、仕事に追い回されていた私のことも時々で良いから労わって欲しいぐらいですよ」
千早「お疲れ様です」
小鳥「ってもう行かないと! 朝一番に行って、夜遅くに帰る。事務員ってのは大変よね」
涼「あはは……」
小鳥「じゃあ千早ちゃん、後でね」
千早「はい、小鳥さんも」
涼「そういえば、今日オールド・ホイッスルの打ち合わせですよね」
武田さんに呼ばれていたことを思い出す。
千早「お昼からだったかしら? もう一度スケジュールを確認しないと」
涼「そうですよ。ではまたテレビ局で」
千早「ええ、また後で」
72 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:43:41.49 ID:vSyuElC40
武田「さて、打ち合わせを始める前にだが……」
涼「どうしたんですか?」
武田さんは複雑な顔を見せる。
武田「少し飛び入り参加者がいてね」
千早「飛び入り参加者?」
麗華「飛び入り参加だなんて言い方ないんじゃないんですか? ちゃーんとアポとりましたよ?」
涼「魔王エンジェル!? どうして!?」
何でここに!?
麗華「そんなに驚くことねーだろ。それとも何? サインが欲しいとか?」
りん「人気者は辛いねー」
麗華「全くだぜ。世間じゃスキャンダル祭りだ。お陰様でこっちに仕事が入ってくる。感謝してもしきれねえよ」
涼「違う!!」
73 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:47:35.68 ID:r1czjnm00
なんで他人を蹴落としてそんな顔が出来るんだ!?
千早「涼君、落ち着きなさい!!」
涼「でも!」
りん「そーそー。カルシウム足りないんじゃない?」
麗華「それに、スキャンダルのほとんどが隠していた事実じゃねーか。うちらが手を出さなくても、遅かれ早かれバレていただろ」
涼「嘘を吐くな! そっちのせいだろ!! やよいさんは貴女たちのせいで!!」
武田「秋月君!!」
室内に響く武田さんの怒声。僕は、彼がここまで声を荒げているところを見たことが無かった。
武田「少し熱くなりすぎているよ。交渉事では、熱くなった方が負けだ」
涼「……すみません、武田さん。千早さん」
麗華「とりあえず、静かにしててもらえる? こっちだってあんたに用があるんじゃない。用があるのは武田さん、貴方だ」
武田「手短にお願いしようか。僕も予定が入っているものでね」
麗華「なに、時間は取らせませんよ。こっちの要件は2つ」
74 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:48:20.24 ID:afSvI1MF0
麗華「1つ、オールドホイッスルの出演。2つ、貴方に作曲を依頼したい。それだけだ」
75 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 01:53:22.38 ID:zPSIsFgL0
とりあえずここまで。かなり人を選ぶ内容になっているかと思いますが、最後までお付き合いいただけたらと思います。
涼ちんをヒートアップさせたら、口調が別人になってしまいました。秋月涼じゃない、別の誰かになっているような気がしてやまない……。違和感ありますか?
読んでくださった方、ありがとうございました。次の投下で、折り返しぐらいになるかなと思います。
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/07/15(日) 08:08:21.36 ID:u/pzI+uj0
乙です
>僕はフリーの立場じゃない。876プロに所属している以上、その方針に従わないといけないし、
最終的な責任は事務所が負ってしまう。
961に移籍したのはつまり・・・?
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2012/07/15(日) 09:44:36.66 ID:8ugaVRVf0
だって権力には権力で対抗するしかないですし
てかいおりんもやろうと思えば同じ事出来るんだっけ
乙
78 :
投下
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 13:44:41.63 ID:r1czjnm00
東豪寺麗華の要求は、武田さんの理念に反するものだ。だから、即答してくれると思ったけど……。
武田「ほう、聞かせて貰おうか」
麗華「今一番勢いに乗っているアイドルの出演は、視聴率と言う観点から見ても美味しい話だと思いますが?」
武田「成程、それは魅力的な話かもしれない。僕も業界人だ。浮世離れしているとはいえ、数字を求めない理由はない」
麗華「話が早い。偏屈な人間と聞いていたもので、もう少し難航するかと思っていましたよ。柔軟な対応、感謝いたします」
武田「それは心外だな。僕は常に自分が正しいと思った道を進んでいるだけだ」
麗華「失礼いたしました。勿論、今後のオールドホイッスルに関しても、資金協力いたしましょう」
武田「さて、君たちに関しての件だが、喜んで……」
涼「武田さん……」
武田さんは不安げに見る僕らを一瞥すると、険しい顔をして答える。
武田「お断りさせてもらおう」
79 :
投下
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 13:48:59.80 ID:r1czjnm00
麗華「つまり、拒否すると?」
武田「簡単な話だ。君たちの姿勢は、僕とオールド・ホイッスルの理念に合わない。音楽を通して人の心に幸せを届けるのが僕たちの使命だ。他人を不幸にする音楽を、僕は認めるわけにいかない」
麗華「いつまでも綺麗でいたいとお思いで?」
武田「そう、理想郷に穢れがあってはいけない。そこまで言えば、分かるだろう? 君たちは理想郷にいてはいけない、イレギュラーだ」
麗華「バカらしいと思いませんか? 芸能界で綺麗な人間なんていない。みんながみんな偶像だってことぐらい分かってるはずです。現実に目を向けようとしていないだけでは?」
武田「だからこそ、綺麗事を現実にしたい」
この人は、本気でそう思っているんだ。そんな武田さんだからこそ、みんな慕っているのだろう。
武田「それにだ、みんながみんなとは、些か視界が狭くないか? 少なくとも、彼らには理想を現実にする力がある。僕はそう信じているがね」
僕と千早さんをチラリと見る。
麗華「そうですか……。なら交渉決裂ですね」
武田「僕は最初から交渉だなんて思っていないが?」
淡々と返す武田さんに、東豪寺麗華は呆れたようにわざとらしく溜息をつく。
80 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 13:51:18.52 ID:r1czjnm00
麗華「はぁ、悲しい話ですね。こちらは誠意をもって、お話に臨んだというのに、そちらは最初から聞く耳を持っていない」
武田「すまないね、話は終わりかい? ならお引き取り願おうか」
麗華「では仕方がない。オールド・ホイッスルを潰しましょう」
涼「えっ!?」
武田「ほう」
千早「オールド・ホイッスルを潰す? まさか貴女達、最初からそれが狙いで……」
麗華「まさか! うちらを出してくれるならこんな手荒な真似はしねぇよ。オールド・ホイッスルに出たいってのは嘘偽りのない本心さ」
千早「本心と言うのなら、自分のしていることは間違えていると分かっているはずよ」
麗華「間違ってる? 芸能界をあるべき形に戻すだけだろ」
涼「あるべき形……? どういう意味ですか」
麗華「私たちの目的は1つ、全てのアイドルに鎮魂歌を捧げるだけだ」
さっきまでの丁寧な対応はどこへやら、本性を出した東豪寺麗華は捲し立てる。
81 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 13:55:38.32 ID:r1czjnm00
千早「レクイエム……、随分物騒な物言いね。比喩表現かしら?」
麗華「その通りの意味だよ。芸能界は終わりました、私たちが新たな時代を作っていきますってな。古い連中には、眠って貰おうってわけ」
麗華「変革の時を迎えるのも、オールド・ホイッスルでやりゃ影響はでかいだろ? いくら視聴率が悪くても、業界関係者の多くは見てんだ。終焉を見届けさせてやろうってんだ」
とんでもないことを言うが、その言葉、表情からは嘘を感じられない。彼女たちがアイドルに、
芸能界そのものに深い憎しみを抱いているのが見てわかる。
武田「なおさら、僕の番組に出す理由がないな。僕は今の音楽業界を憂いている一方で、若い才能に期待しているんだ。君たちのしようとしていることは、若い芽を摘もうとしている。実に愚かしい」
武田さんも負けじと反論する。
麗華「愚かなのは誰何だか……。良いですか? 局の方も数字の取れない番組なんて望んでねーし、そもそもあんたの理念は古臭いんだよ。音楽で幸せ? 小学生の標語かよ」
涼「そんなことない! 武田さんの理念は、夢は今も生きている!」
武田「……盛り上がっているところ悪いが、勝手に殺さないでくれるかな、秋月君」
涼「あっ、そういうつもりじゃなかったんですけど……。すみません」
82 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 14:00:01.32 ID:afSvI1MF0
麗華「話続けていいか? 五十嵐局長が更迭されてから、局内でのオールド・ホイッスルに対する風当たりは強くなってる。あんたが思っているよりも、ずっとだ」
武田「……」
麗華「知っているか? 今の局長も早く潰れて欲しいと愚痴ってるよ。武田蒼一の財を投げ打った自己満足番組よりも、スポンサーもついて、世間が本当に求めている番組を作った方が良いだろ? 今までだってそうだったはずだ」
武田「どうかな、お色気野球拳にその価値があったと僕は思えないがね」
涼「あー、そんなのありましたね……」
千早「オールドホイッスルを潰してまでそんな低俗な番組を……っ!」
お色気野球拳。オールド・ホイッスルを打ち切ってまで放送する番組なのかな……。
ってよくそんな番組をゴールデンタイムで放送しようなんて思いついたよね……。
お茶の間が凍るのが目に見える。
麗華「低俗で結構だ。あんたらは歌が高尚なものとでも思ってるわけ? 数字の面からみればどっちが勝つか見えてるだろ。いくら理想や綺麗事を並べたところで、深夜でやるレベルの番組に負けるんだよ」
武田「……だが、僕は姿勢を変える気はない」
りん「強情だねー」
麗華「なぁに、ここまでは想定内だ。番組を潰したくないってのなら、そうだな……。対価が必要だな」
対価? 脅すつもりか?
麗華「例えば……、理想を現実にすることが出来るとか言うそこの2人。秋月涼と如月千早の未来を閉ざすとか」
83 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 15:25:56.37 ID:zPSIsFgL0
武田「……何?」
武田さんの顔に、初めて動揺が走る。
千早「私たちを消そうというの……?」
麗華「そういうこった。歌姫だろうがIUの覇者だろうが、東豪寺の名が出りゃなんもできねーだろ? 言っておくが、これは脅しじゃねーぞ? なんなら今から契約しているCMをすべて打ち切らせようか? その空いた隙間に、うちらのシンパを入れてやる」
涼「シンパ?」
麗華「おっと、口が滑っちまった。それはとっぷしぃくれっとでございます」
貴音さんのものまねをするが、絶望的に似ていない。
りん「下手過ぎじゃね?」
麗華「う、うっせぇ! さぁ、どっちを選びますか? オールド・ホイッスルか、2人の未来か!」
クイズ番組の司会のように、武田さんに答えを求める。
武田「そうだね……。秋月君、如月君。すまない」
涼「え?」
武田さんは悔しそうな顔を一瞬見せると、静かに答える。
武田「オールド・ホイッスルを終わらせよう」
84 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/15(日) 15:26:23.34 ID:zPSIsFgL0
とりあえずここまで。バイト後にまた投下します
85 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 00:28:04.84 ID:/ceXfHAV0
麗華「ほう、そう来たか。まさか即答するとは思ってませんでしたが」
千早「た、武田さん!? 嘘ですよね……」
涼「そうですよ! どうして終わらせる必要があるんですか!? だってオールド・ホイッスルは……、武田さんの夢じゃないですか!!」
武田「そう、僕の夢だ」
涼「だったら!!」
武田「だが、君たちの夢を潰すことが出来ない」
涼「あの時言ったじゃないですか! 自分の夢を追えない人が、他人の夢のために何かをするなんて不自然だって! 武田さん! その言葉、そのまま返します」
夢子ちゃんの夢が消えた時、僕は武田さんに直談判しに行った。その時、彼はそう言ったんだ。
梅から逃げていた僕は、その言葉でもう一度向き合うことが出来た。
だけど、今彼は僕達のために夢を捨てようとしている。
武田「そう言えばそう言ったこともあったな……。まさかブーメランになって返ってくるとは思わなかったよ。だけど秋月君、オールド・ホイッスルがなくたって、僕は夢を見ることが出来る。そこに歌がある限り、ね」
武田「君たちの、歌の未来を守れるなら、打ちきりぐらい安い物さ」
86 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 00:33:53.38 ID:mDdWiXSK0
涼「そんな!」
千早「私たちなら大丈夫です! 干されたとしても、すぐに戻れます!!」
麗華「美しい自己犠牲ですこと、涙出そう。ともみ、ハンカチ頂戴」
東豪寺麗華はバカにするように言い、僕の心をざわつかせる。
武田「2人とも、どうか音楽の、アイドルの未来を導いていって欲しい。それが表舞台から去る、僕の願いだ」
涼「武田……、さん……」
武田「何、死ぬわけじゃないさ。僕の理想も、君たちがいる限りは」
僕らの肩をたたき、安堵したかのような表情を見せる。そんなやりきった顔しないでください……。まだまだでしょう?
麗華「そうと決まればこの部屋は貴方のものじゃない、出てってくれますか。安心してください、曲を作って貰えない以上、貴方の荷物なんかいらねぇ。家に送り届けてやるよ。金もこっちで持っておく」
武田「それは、助かるな」
麗華が指を鳴らすと、最初から待機していたのか、業者が武田さんの荷物を運んでいく。
てきぱきと作業は行われ、あれだけあった荷物が数分で全部撤去されてしまった。
この部屋、こんなに広かったんだ。でも、狭くても武田さんの夢が詰まった部屋の方が、良かったな、
87 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 00:43:53.04 ID:mDdWiXSK0
武田「随分と、この部屋も長い間世話になったものだ。局長にも挨拶をしないとな」
千早「武田さん……。私たちはまだ……」
武田「如月君、君の曲は必ず仕上げる。その発表の場がオールド・ホイッスルじゃないのが少し残念だが、それも仕方ないか」
千早「曲は良いんです! 武田さんが戻ってくれるのなら……、私何でも」
武田「如月君、秋月君……。後は頼んだよ」
そう言って、武田さんは部屋を出る。
りん「あー、疲れたー。笑い堪えるの必死だったんだよ?」
麗華「嘘つけ、普通に笑ってたろ。にしてもこの2人に託すなんて、理想とやらも大したもんじゃないな」
りん「音楽を通して人の心を満たすだって? 子供かっての」
麗華「これで邪魔な武田蒼一もいなくなった。局長も満足だろ。ゴールデンの枠は貰ったな……。で、あんたら何時までいるわけ? この部屋、今からうちらが使うんだけど。まずは掃除だな、古い夢の詰まった部屋なんて、カビ臭くて仕方ねぇ。ダスキン呼ぶか」
りん「そーそー、これからの時代、あんな理想は通用しないっての。だからさ、用がないなら帰っ……滅茶苦茶睨んでるんだけど! こわっ!」
僕はもう、我慢の限界だった。
涼「……しろ」
88 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 00:47:44.88 ID:mDdWiXSK0
麗華「あん? 何って言ったの今?」
涼「僕と勝負しろって言ったんだ!」
千早「涼君!」
涼「すみません、もう我慢できそうにありません。これ以上武田さんの夢を笑われたくないんです」
一度爆発した感情は、後に引けない。千早さんの制止も聞かず、僕は自分に酔っていた。
麗華「へぇ、勝負ねぇ。IU覇者が格下相手に挑むなんて、情けないと思わない?」
涼「IUの覇者だからこそ、お前たちを倒す! 音楽を通して人を幸せにする。武田さんの理想を、僕は守る」
それが、全てのアイドルの頂点に立った僕の義務だ。
麗華「何、うちらヒールなわけ?」
りん「じゃね? 魔王ってついてるぐらいだし」
ともみ「……」
魔王エンジェルの3人はだから何? と言いたげに、会話をしている。
89 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 00:53:14.88 ID:mDdWiXSK0
麗華「でもさ、ちょうど良いか。オールド・ホイッスルの後枠、うちらだし」
りん「あー、そこで決めちゃう?」
麗華「今止まることを知らない波に乗っているアイドルと、IU覇者の対決。20%越えは堅いだろ」
りん「おっ、ビジネスモード入っちゃったね」
麗華「初回で客を掴まねぇとな。良いぜ、秋月涼。あんたの挑戦受けてやる」
ともみ「普通こっちが挑むんじゃないの?」
麗華「向こうが喧嘩吹っかけてきたんだから、間違ってないって。IU覇者が出るんだ、最高のステージを用意してやるよ」
千早「嘘ね、貴女達の事だから、何か仕掛けてくるに違いないわ。だから涼君、行っちゃダメよ」
りん「うわっ、決めつけられたんですけど。ショック!」
麗華「信頼されてないのな。ちゃんと実力で戦ってやるさ。それとも何、罠かもしれないからって逃げる気? IU覇者がチキンなんじゃ、この業界も終わりだな」
涼「逃げるものか!」
千早「涼君……」
90 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 00:56:24.18 ID:mDdWiXSK0
麗華「勝負は生放送だ。そこでどちらが時代に選ばれたアイドルか、決着をつけようか」
涼「望むところだ! そっちがアイドルを、夢を無価値って言うのなら、僕は間違っているって証明してやる!」
絶対に勝つ! 僕は強くそう誓った。
麗華「そうと決まれば、広報どもに働いてもらうとするか。さぁ、今度こそ出てった出てった。ともみ、冷房つけて。暑くて仕方ないわ」
りん「仕事早いねー。あっ、じゃーね。チャオ☆」
ともみ「……」
元武田さんの仕事場を、魔王エンジェルに見送られながら出る。
千早「考え直して涼君、武田さんの夢を奪われたのは私も悔しい、だけど貴方は焦り過ぎている」
千早さんは不安そうに僕を見ていた。その眼差しに決心が少し鈍りそうになったけど、それでも僕はやらなければならなかった。
涼「大丈夫です、僕は勝ちます。勝ってみせます」
千早「涼君……。言っても聞かないのね……」
もしこの時、冷静になっていたら――。いや、Ifの話をしても仕方ないよね。
91 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 01:04:14.12 ID:8X3iYtUM0
『魔王エンジェルVS秋月涼! アイドルの未来を背負うのはどっちだ!?』
まるでプロレスのように、煽るマスコミにため息が出る。いくら僕がIU覇者と言っても、
ここまで宣伝されることは無い。改めて、東豪寺の力を思い知らされる。
石川「涼、あなたは確かに時代を切り開いていける男の子よ。だけど……、私は賛成しかねる」
石川「恥をかくのが嫌なら、私も一緒にやり玉に挙げられてあげる。今からでも遅くない、無かったことに」
涼「すみません、気持ちは嬉しいんですけど、……僕がやらなければいけませんから」
石川「……そう、なら何も言わないわ」
涼「助かります」
はっきり言おう。僕は調子に乗っていた。
人の夢を守れたから? IUで頂点に立ったから? 最後に勝つのは正義だから?
理由は何でもいい。ただ人の忠告に耳を傾けないぐらい、僕は浮かれていたんだと思う。
芸能界を、アイドルの未来を救えるのは僕だけだなんて。
そんなこと、有り得ないのに。
92 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 01:07:46.91 ID:/ceXfHAV0
そして本番当日――。
麗華「テレビの前の皆さーん! 今日から始まりました魔王アワー! 今夜もみんなをジェノサイドしちゃうぞ! 特に……、そこのあなた!」
涼「……?」
りん「もう、ノリ悪いよー?」
涼「それはすみませんね」
オールド・ホイッスルのスタジオだった場所で、眩いばかりのライトが僕らを照らす。
同じ枠の番組なのに、あの頃とは正反対だ。
麗華「初回は何と! IUの頂点に立ったアイドル、秋月涼君が来てくれてます! 初めての冠番組で、超大物が来ちゃったけど、胸を借りて頑張っちゃいまーす!」
人に貸せる胸で何を言うか。
ともみ「……」
場を盛り上げようとする東豪寺麗華と、朝比奈りんに比べ、三条ともみはいつもと変わらず涼しげな顔をしている。
この人、何を考えているか分からないんだよな……。
ともみ「何か?」
涼「あっ、いえ。何も」
綺麗な人だと思うけど、少し怖い。
93 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 01:15:08.84 ID:mDdWiXSK0
麗華「それでは、秋月涼君に意気込みの程、聞いちゃいましょうか!」
涼「僕は勝ちます。そして、武田さんの理想を守ってみせます」
一瞬静かになるが、少しして、観客席の方から、パチパチパチと拍手が聞こえる。
スタッフ『ここ拍手!』
見ると、カンペでするように指示を出しているみたいだ。まぁ意味分からないよね。
りん「視聴者に分かりにくい意気込みをどうも!」
麗華「さーて、決めましょうか! どちらが時代に選ばれるかをね!」
りん「ルールは簡単。順番にパフォーマンスをして、それを審査員と100人の観客に評価してもらう。言っておくけど、八百長なんかしてないからね」
朝比奈りんの言うように、今回の審査員は、IU本選でも審査をしていた面々だ。
確かにこのメンバーなら、八百長は考えにくいだろう。
千早「……」
観客席を見ると、見知った顔が。
涼「あっ……」
千早「……っ!」
僕は彼女に微笑みかけるが、千早さんは複雑な表情のままだった。
94 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 01:17:50.94 ID:mDdWiXSK0
りん「準備オッケー? なら、行きますか!」
麗華「じゃーまずはうちらからだ」
ともみ「曲は……」
麗華「Dazzling World!」
95 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 01:26:42.76 ID:mDdWiXSK0
涼「ええ!?」
流れてくるメロディは、いつも僕と成長してきたそれで。3人のダンスも僕のものと全く同じで。
千早「……っ!」
涼「そんなっ!」
一糸乱れぬ踊り、見事としか言いようのないアピール……。
認めるよ……。彼女たちは、完全にDazzling Worldを自分のものにしていた。
麗華「どうですか? 秋月さん?」
涼「クッ……」
麗華「言葉にならない? 最高級の褒め言葉をどうも」
歌い終わると、割れんばかりの拍手が彼女たちを包みこむ。
りん「さぁ、次はそっちの番だよ」
最初から、そのつもりだったんだ。先攻で、僕が歌うだろう曲を、イメージをコピーする。
涼「曲は……、Dazzling World」
僕は彼女たちのシナリオ通りにしか、動けなかった。
96 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 01:32:33.25 ID:QXIPh1lG0
りん「わぁ、一緒だ」
麗華「さて、本物のDazzlingとやらを見せて貰いましょうかね」
何度も歌って、僕と共に成長してきた曲。この曲と僕なら、負ける気はしなかった。なのに……。
涼「〜♪」
麗華「ふーん、これがIU覇者? 見れたものじゃないな」
涼(違う……、いつものように歌えない! 踊れ……わっ!!)
千早「涼君!!」
難しいダンスじゃなかったはずだ。今まで失敗することもなかったし、それが当たり前だと思っていた。
だけどもつれた足は、僕を支えることが出来なかった。
麗華「あちゃー、こけちゃって」
りん「これが女の子なら、サービスカットなんだけどね」
涼「クッ……」
麗華「それじゃあ観客席の皆さんと、審査員の方々、判定をよろしくお願いします!」
その後のことは、あんまり憶えていなかった――。何点貰えたか、エンディングをどう迎えたか。
ただ、僕に浴びせられたのは称賛じゃなくて、失望。
それだけは、はっきりとしていた。
97 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 01:45:26.58 ID:mDdWiXSK0
千早「涼君……」
千早さん、そんな顔しないでください。分かってます、僕があなたを悲しませたってことぐらい。
僕は……なんて愚かなんだろうか。
『IU覇者、散る! 魔王エンジェル、新たな時代を導いていくのか!?』
『魔王アワー、初回視聴率28%! 瞬間最高視聴率31%の快挙!』
『腹パン少女さちこ☆さちか、劇場版撮影開始!』
『今話題のアイドル、魔王エンジェルとは!? 彼女たちの秘密に迫る!』
『秋月涼、引退か!? CMから消えたワケ』
魔王エンジェルに負けた僕への、世間の対応は冷たかった。
僕の存在はもはや過去のものとなり、誰もが彼女たちを持て囃した。
IU覇者に勝ったアイドル。
その宣伝効果はばっちりで、仕事が無くなってきた僕に対して、彼女たちは前以上に露出が増えていく。
98 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 01:48:02.10 ID:mDdWiXSK0
石川「私は馬鹿だったわ」
涼「え?」
石川「貴方なら、彼女たちを止めることが出来ると思ってしまった。だから、無理やりにでも止めることが出来たのに、それをしなかった。私にも責任があるわ」
涼「いえ、全部僕の責任です。勝手に暴走して……、事務所に迷惑かけて。惨めですよね」
愛「涼さん……」
涼「みんなには謝っても謝りきれません。全部僕が……」
干されるのが、僕1人なら良かった。
だけど彼女たちは、876事務所にもペナルティを与えてきた。事務所ごと、仕事を干されたんだ。
石川「舞さんがいるからって油断していたけど、そうもいかないみたいね」
愛「ママは、子供の喧嘩には口を出さないって言ってます。私の娘なら、これぐらい何とかしなさいって。無理ですよ……」
舞さんの言うこともご尤もだ。これは、芸能界を巻き込んだ子供の喧嘩そのものなんだから。
夢子「これじゃあなんも出来ないわよ……」
絵理「でも、涼さんを責めるのもお門違い」
夢子「分かってるわよそれぐらい!! でもあの時の涼は……、今まで見てきた中でも最悪のパフォーマンスだった!」
99 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 01:52:35.88 ID:mDdWiXSK0
涼「うん、分かっている……」
後日音無さんに見せて貰ったビデオには、苦しそうに歌い踊る僕が映っていた。
精彩を欠き、素人目に見てもダメなパフォーマンスを、僕は見せていたんだ。
八百長なんかする必要もない。
寧ろ僕が勝った方が八百長を疑われるレベルだった。
石川「涼、貴方はもう帰りなさい。少し、休むべきね。後処理は、私たちがするわ」
涼「……分かりました」
夢子「涼……」
事実上の戦力外通告を受けた僕は、トボトボと事務所を出る。
千早「待って!」
僕を待っていたのかな。千早さんが僕の手を強く引っ張る。
涼「どうしたんですか。僕なんかといたら、貴女まで干されますよ。今の僕、悪徳記者が付いちゃったんだし」
悪徳記者が付いた……、この業界ではネガティブイメージが付いたときにそう表現する。一種の業界用語だ。
一度悪い方に落ちると、どこまでも落ちていき、誰も助けてくれない。
格好付けて、格下に負けたアイドル。それが世間の、アイドルたちの僕への評価だ。
100 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 01:56:45.52 ID:mDdWiXSK0
涼「千早さんは、もっと上に行けるんです。僕は、もうダメですから……」
千早「そんなことない!!」
武田さんに曲を作ってもらえるんだ。きっと、素敵な曲になると思う。
涼「それに、僕と一緒にいると貴女にまで迷惑かけちゃいます。それは嫌です」
千早「私は……」
涼「雨、降って来ましたね」
千早「そうね……。傘なんて持っていないのに」
ポツポツと、大粒の雨が空から降ってくる。僕は鞄を開けて、折り畳み傘を出す。
涼「傘、貸します。返してもらわなくて大丈夫です」
精一杯の笑顔を見せて、僕は彼女に背を向ける。
千早「涼君……」
涼「……っ!」
今の僕に、彼女は眩しすぎた。
101 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 02:00:36.19 ID:mDdWiXSK0
とりあえずここまで。色々至らない点があると思いますが、ご指摘等頂けたら幸いです。
特に読みやすいかどうかは客観的に見て貰いたいので、どうかひとつお願いします。
後、腹パン少女さちこ☆さちかは月曜21時から絶賛放送中です
読んでくださった方、ありがとうございました。
102 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2012/07/16(月) 08:23:37.55 ID:7P8hki9f0
腹パンぶれないなー
乙
103 :
そろそろ書き溜め無くなっちゃう
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 16:39:03.03 ID:/ceXfHAV0
涼「雨、止まないや」
降りしきる雨は、さらに強まっていく。
高架下で、僕はいつ止むのかなと考えながらボーっとしていた。
涼「ん? 君も雨宿りしているのかい?」
イヌ「くぅん?」
ふと見ると、足元にイヌがいた。雨で濡れたのかな、びしょびしょだ。
涼「びしょびしょじゃないか。ほら、拭いてあげるよ」
イヌ「ワン!」
タオルで体を拭いてあげると、イヌはくすぐったそうに鳴く。
涼「こらこら、暴れちゃだめだよ? ほら、これで綺麗になった」
イヌ「ワン!」
ありがとうって言っているのかな? 余計なお世話を、とかだったら嫌だな。
104 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 16:41:15.62 ID:/ceXfHAV0
涼「よしよし」
イヌ「くぅん?」
涼「君、独りなの?」
イヌ「ワン!」
お前と一緒にするなって言ったのかな。分かっているよ、勝手に擦れて逃げているだけだって。
??「涼?」
イヌを撫でていると、不意に声をかけられる。
涼「へ? 冬馬君?」
冬馬「何でお前がここにいるんだ?」
翔太「あれっ、涼君」
北斗「チャオ☆」
ジュピターの皆が、どうしてここに?
105 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 17:05:51.03 ID:mDdWiXSK0
冬馬「おっ、アキ。悪かったな」
涼「へ? アキ?」
冬馬「言っとくけど、涼じゃねーぞ。そいつだよ」
涼「この子のこと?」
冬馬「ほら、アキ。餌だぞ」
そう言うと冬馬君は、ドッグフードを開封し、アキと呼ばれるイヌに与える。
翔太「あっ、やっぱり驚いてる? 冬馬君、アキお姉ちゃんの名前を付けたんだ」
冬馬「ばっ! んなわけねーだろ! あれだよあれ、俺が冬だからアキなんだよ!」
北斗「苦しいぞ、冬馬。鈴月アキちゃんに惚れていたのは事実なんだからさ」
冬馬「思い出させるんじゃねー! 涼も今の忘れてくれ!」
涼「あっ、うん」
そういえば、そんなこともあったっけ。
あの時はどうなるかと思ったけど、今では良好な友人関係を築けていると思う。
106 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 17:13:49.08 ID:mDdWiXSK0
北斗「まぁ俺は、涼君が男の子でも問題ないけどね」
涼「ちょ、ええ!?」
北斗「冗談だよ」
涼「で、ですよねー」
彼が言うと冗談に聞こえないんだよなぁ。良い男だから?
涼「この子、冬馬君たちが面倒みているの?」
冬馬「こいつか? まーな。本当なら、家で飼えばいいんだろうけど、俺のアパートはペット禁止なんだよ」
翔太「僕は親がイヌが苦手で」
北斗「俺は一身上の都合でね」
涼「一身上の都合?」
冬馬「教えてくんねーんだよ。765の四条貴音も大概だが、北斗も謎だらけだぜ」
北斗「まぁ宗教上の問題だよ」
どんな宗教ですか。
107 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 17:31:52.12 ID:/ceXfHAV0
冬馬「そうだ。お前に聞きたかったことが有ったんだ」
涼「何? 冬馬君」
冬馬「最近どうしたんだ? 局でも見ないし、……干されたのか?」
涼「……っ!」
心を強引に掴まれる。
翔太「やっぱり、前の魔王アワーが……」
北斗「沈黙は肯定と取っていいのかな?」
涼「……」
北斗「肯定、だね」
冬馬「お前らしくないぜ。あの時のパフォーマンスもそうだった。それこそ、IUを制覇したものと言えなかった。一体全体どうなってやがる?」
涼「放っておいて……」
冬馬「あぁ?」
涼「放っておいてよ! 僕は……負けたんだ」
108 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 17:46:15.07 ID:/ceXfHAV0
冬馬「チッ、何不幸のヒーロー気取ってんだよ。あんな情けない物見せられちゃ黙ってることが出来るかよ!」
涼「情けない、か……。そうだよね。勝手にヒーローを気取って、みんなに迷惑かけて……」
冬馬「先に謝っておく。悪い」
涼「え?」
気付いた時、僕の体は宙に浮いていた。
ああ、そうか。殴られたんだ。それすらも、客観的に見てしまう。
翔太「ちょ、冬馬君!?」
冬馬「立てよ……っ!」
涼「……何をするの」
冬馬「殴ったんだよ! 俺たちはこんな奴に負けたのか? 自分が悔しくて仕方ないぜ」
涼「……」
僕は何も言い返せなかった。
109 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 17:50:59.98 ID:/ceXfHAV0
冬馬「結局夢だとか偉そうなこと言って、一回負けたらこれかよ! どんだけ心弱いんだよ!!」
翔太「止めなよ冬馬君! アイドルの顔は殴っちゃだめだよ! ってどこも殴っちゃだめだけど!!」
北斗「翔太、止めても無駄だと思うぞ?」
翔太「え?」
北斗「今は、2人を見守ろうじゃないか」
翔太「はぁ……、冬馬君熱血バカだからなぁ」
冬馬「死んだ魚みたいな目しやがって……っ! 自分の曲で負けたからって勝手に絶望してんじゃねえよ!」
涼「……」
冬馬「……言い返せよ! 俺今お前をバカにしているんだよ! 前みたいに反撃しろよ!! おっさんにやったようにさ! なんで黙ってるんだよ!!」
涼「僕に、そんな資格は」
冬馬「資格とかじゃねぇ!! 正しいこと正しいって言えよ!」
涼「グッ……」
110 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 17:57:18.50 ID:/ceXfHAV0
もう一発、顔面にパンチが飛んでくる。その拍子に、眼鏡はどこかへ飛んで行った。
冬馬「お前がそんなんだから、何も守れなかったんだろうが! 自分に酔ってんじゃねぇ! いい加減目を覚ませよ!」
涼「……」
冬馬「チッ、胸糞悪いぜ。俺が最初に見た秋月涼は、もっと格好良かった。……憧れるぐらいにな」
冬馬「だからこそ、許せねぇ。そうやって自分は何もできませんみたいな顔しているのがよ! 悔しくねぇのかよ!」
涼「あがっ!」
冬馬「やって来ただろ! 誰かの夢守ったんだろ!? 如月千早の歌を取り戻したんだろ!?」
涼「……僕は」
冬馬「なのにお前は何だよ! 自分の夢叶ったらもう何でもいいのかよ!! そんな奴が夢を語るんじゃねぇ!!」
涼「僕は……」
冬馬「あぁ?」
涼「僕は……、夢を背負ってるんだぁ!!」
111 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 18:16:30.79 ID:8X3iYtUM0
冬馬「カハッ!」
叫ぶと共に、強く握ったこぶしを冬馬君の顔にぶつけていた。
涼「悔しいに決まってる! 皆の想いを背負って負けたんだぞ! 何も感じないわけないよ!」
冬馬「なら意思表示しろよ! 自分は負けてないって言い聞かせろよ!」
涼「言われなくても分かってるよ! 大体自分に酔っているのは、どっちさ!!」
冬馬「お前だろ!! 悲劇のヒーロー気取ってんじゃねぇ!」
涼「冬馬君こそ! 何も知らないのに偉そうなこと言わないでよ!」
冬馬「じゃあ教えろよ! その上で殴ってやる!」
涼「結局殴るんじゃないか!」
冬馬「お前もだろうが!!」
ノーガードの殴り合い。僕と冬馬君は、ひたすらに声を張り上げ殴り合っていた。
大雨の中、わざわざ見に来る物好きがいなかったことが、幸いだったのかな。
カメラもないのにアイドルが殴りあってるって、洒落にならないもんね。
112 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 18:18:10.63 ID:8X3iYtUM0
雨は未だ止まず、僕と冬馬君に降り注ぐ。いつの間にか、高架下を出ていたようだ。
どれだけ白熱していたんだろう。
涼「はぁ、はぁ……」
冬馬「ゼェ、ゼェ……」
北斗「ヒートアップするのはいいが、わざわざ雨に当たりにいかなくてもいいだろうに」
翔太「そうだよ2人とも。土砂降りの中大の字になってさ。運ぶ方の気持ち考えてよね」
アキ「わん!」
その通り! とでも言っているのかな?
北斗「それにだ、2人とも顔を大切にした方が良いぞ。とてもじゃないが、テレビに出れない顔をしている」
涼「え?」
冬馬「あぁ?」
冬馬君と目が合う。顔はボコボコで、北斗さんの言うように、テレビに出て良い顔じゃなった。
でもそれは僕も同じだったみたいで。
113 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 18:20:21.45 ID:8X3iYtUM0
冬馬「な、なんだよその顔! 面白すぎるだろ……ッ!」
涼「あははっ! 冬馬君こそ!」
翔太「笑い合ってるけど?」
北斗「アイドルって言っても、2人とも高校生だしな。こういう青春も、悪くないんじゃないか?」
翔太「達観してるね……」
雨足が弱まってきても、僕たちは笑い合う。
モヤモヤを全部吹き飛ばしたからか、僕の心は、不思議と晴れ渡っていた。
北斗「おや、お迎えが来たのかな?」
涼「へ?」
北斗さんの視線の先には、緑色の傘。あの傘は……。
涼「千早さん……」
千早さんが息を切らして、立っていた。
114 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 18:21:12.85 ID:8X3iYtUM0
書き溜め終わり。最後まで展開は考えてますが、少々投下テンポが遅くなると思います。
115 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/07/16(月) 18:35:27.81 ID:nUegqxQDO
スレタイしか見てないけど偶像=アイドルでいいの?
116 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/16(月) 18:48:53.51 ID:8X3iYtUM0
>>115
そうですね。元ネタはマブラブオルタの有名な台詞、『人類(にんげん)を無礼(なめ)るな!』です
117 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/07/16(月) 20:25:57.16 ID:nUegqxQDO
>>116
そっか。そういう台詞があったのか。
Pが主人公だったらもっと伸びただろうけど。
気にせず書き続けられるのは立派だと思う。
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2012/07/17(火) 13:27:24.72 ID:K5o7zDBMo
セクロスマダー?
119 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/18(水) 14:43:12.77 ID:qKh2HlUh0
千早「涼君! どうしたの、その顔……」
涼「あ、あはは……。少し青春しちゃっ」
千早「馬鹿!」
涼「でぇ!」
翔太「うわっ、きついの入ったね」
パシンと音がすると、頬に痛みが残る。
彼女は振り切った手をそのまま僕の背中に回すと、強く抱きしめた。
千早「心配したんだからぁ……」
涼「ごめんなさい。僕、どうかしていました……。みんなに迷惑かけて、格好悪いですよね」
千早「格好悪いわよ……。本当に馬鹿なんだから」
涼「否定できません」
北斗「まぁ、男ってのは馬鹿なぐらいがちょうどいいのさ」
北斗さんは1人納得している。
120 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/18(水) 14:44:09.79 ID:qKh2HlUh0
翔太「えっと、僕ら邪魔かな?」
北斗「だな。それじゃあまたね、チャオ☆」
翔太「冬馬君、立てる?」
冬馬「立てるっての。おい、涼」
涼「え?」
冬馬「さっきのパンチ、効いたぜ」
涼「冬馬君も。おかげで目が覚めたよ」
冬馬「そうかよ。じゃあな」
翔太「またね」
3人は手を振りながら、去って行った。
涼「あっ、止んだんですね」
見ると雨は止んでおり、雲の切れ目から日の光が見えていた。
121 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/18(水) 14:46:06.80 ID:qKh2HlUh0
涼「えっと、千早さん」
千早「え?」
涼「帰りましょうか」
千早「ええ、そうね……。最近の涼君元気なかったから、音無さんも心配してたのよ」
涼「それは、悪いことしちゃいましたね。ちゃんと謝らないと」
今日ぐらいは、お酒を解禁してやろうかな。
そんなことを考えながら歩いていると、千早さんの足が止まる。
涼「どうかしました?」
千早「あれ、あの人……」
涼「えっ!? どうして……」
ともみ「こんにちわ」
魔王エンジェル三条ともみ――。どうしてここに?
122 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/18(水) 15:05:25.12 ID:uOGW5c1k0
ともみ「たまたま通りがかった……と言っても信じないですよね」
千早「ええ、タイミングが良すぎます」
ともみ「お好きに解釈してくださって構いませんよ」
つまり、ずっと付けていたのかな?
涼「何の用ですか?」
ともみ「少し、時間をいただけますか?」
涼「時間?」
ともみ「ええ、貴女達とお話がしたい、ダメですか?」
涼「何を話すことが有るんですか。僕と貴女たちは対立……」
千早「涼君、彼女から敵意は感じないわ」
僕の言葉をさえぎって、千早さんは一歩前に出る。
123 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/18(水) 15:11:39.09 ID:uOGW5c1k0
千早「用件にもよると思いますが?」
ともみ「そうですね。では、昔話を少々、良いですか?」
昔話……?
ともみ「そこまで昔と言うわけでもないけど、幸運エンジェルが、魔王エンジェルになった日のことを」
涼「……ッ!」
ともみ「行きつけのお店があるんです。どうでしょうか?」
千早「分かりました」
僕も首を縦に振る。
ともみ「では、案内します」
124 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/18(水) 15:12:21.39 ID:uOGW5c1k0
涼「えっと……、意外に庶民派なんですね」
ともみ「何かおかしいことでも?」
涼「いえ、てっきり高いところに行くものかと思っていたので」
行きつけの店と言う割には、財閥関係者御用達の高級店ではなく、こじんまりとした喫茶店だった。
ともみ「貴方が思っているよりも、私たちは質素よ」
あれだけのことをする人たちが言っても、説得力ないよね。
千早「あれは?」
ともみ「懐かしいわね。私たちが最初のライブをした日に、撮った写真なの。マスターのご厚意で置かせてもらってるのよ」
写真には、魔王エンジェルの3人が写っていた。だけど、今の彼女たちとは違って見える。
涼「パッド、してないんですね」
千早「見るところ、そこ?」
125 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/18(水) 15:14:28.50 ID:uOGW5c1k0
ともみ「うふふ、昔はそうだったの。嘘偽りなく、自分たちの力でトップアイドルになろうって、毎日頑張っていた」
屈託のない笑みを浮かべる彼女たちが、あれほどの変貌を果たすなんて、僕には到底思えなかった。
まるで、別人のように見えたから。
ともみ「勿論大変なこともあったけど、夢のために頑張っていたの」
涼「夢ですか」
ともみ「意外かしら? これでも私たちには、夢があったの。いや、麗華がって言った方が正しいわね」
三条ともみは昔を懐かしむように、目を細めて零す。
千早「あれだけ夢を馬鹿にしておいて?」
ともみ「彼女は……、夢に裏切られたのよ」
涼「夢に裏切られたってどういう意味ですか?」
ともみ「そのままの意味よ。麗華の夢は……、雪月花だったから」
コーヒーを飲み干すと、彼女は昔話を始めた。
126 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/18(水) 15:17:10.70 ID:uOGW5c1k0
ともみ「最初にアイドルになろうって言ったのは、意外かもしれないけど、麗華だったのよ」
ともみ「麗華が辛かったとき、雪月花の歌に救われた。私たちも自分たちの歌で誰かを元気づけれたらいいなって」
ともみ「出会った人すべてを幸せにする、それが私たちの原点だった」
涼「だから、幸運エンジェルだったんですね」
ともみ「そうね……。最初は麗華に引っ張られるままだった私とりんも、いつの間にかアイドル活動に楽しみを覚えていった。東豪寺の力さえあれば、何でもできる」
ともみ「だけど私たちは……」
千早「自分の力だけで上を目指そうとした」
ともみ「ええ、その通り。順調にアイドルランクを上げていって、遂に雪月花と共演できる日がやって来たの。その時の麗華の喜びようったら。子供みたいだったわ」
写真と同じように、柔らかな微笑みを見せる。
ともみ「だけど、それは叶わなかった。秋月君、あなたなら知っているはずよ?」
涼「ええ、その日あなたたちの出演は取りやめになっていましたから」
ともみ「そう。私たちは、同じ舞台に立つことが出来なかった。理由は簡単よ、雪月花が私たちを排除したから。勢いのある後輩が、邪魔になったのでしょうね」
127 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/18(水) 15:24:51.70 ID:uOGW5c1k0
ともみ「困惑する私たちの前で、雪月花は言ったわ」
『こんなこと芸能界じゃ珍しくない、歌詞なんか作ったことがないし、意味すら分かっていないって』
ともみ「それは、麗華の心を深く傷つけた。そして同時に……、麗華は手段を選ばなくなった」
それが雪月花事件の顛末……。
ともみ「勿論私も雪月花を許せなかった。だけど麗華は……、常軌を逸していた。気付いた時には、もう止めることが出来なかった」
涼「……止めようとしなかったんですか」
ともみ「したわ。だけど、麗華は戻れないところまで来てしまったの。全てのアイドルの価値を、夢を否定する。それが彼女の生きる糧になってしまったから」
ともみ「昔話はこれでおしまい。聞いてくれてありがとう」
千早「それを私たちに聞かせて、三条さんはどうしたいんですか?」
ともみ「私は……、麗華を助けて欲しいと思ってる。でも、私じゃ無理なのよ。麗華は私にとって、大切な友達だから」
涼「だったら! 尚更貴女の声が届くはずです!」
ともみ「友達だから言えないこともあるの。ごめんなさい、分かってはいるの。だけど……」
涼「あっ、ごめんなさい……。無神経でした」
彼女も悩んでいるんだ。それを強制する資格なんて、僕は持っていない。
128 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/18(水) 15:34:12.52 ID:5Ng59mBm0
ともみ「気にしないで。悪いのは勇気を持てない私なんだから……」
悔しさから、涙を浮かべるともみさん。僕に出来ることは……。
ともみ「でも、麗華を止めることが出来るとしたら。それはきっと、貴女たちだと思う」
涼「え?」
ともみ「貴女たちなら、希望になれると思うの」
千早「それは……」
ともみ「今日はありがとう。誰かに話せて、少し気が楽になったわ。お金、置いていくわね」
ともみさんは、そう言って席を立つ。
涼「待ってください!」
ともみ「なにかしら?」
呼び止められて、キョトンとするともみさん。僕はこぶしを力強く握ると、宣言する。
涼「僕が……、止めてみせます!」
涙なんか見たくない。僕の決意は固まった。
129 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/18(水) 15:37:50.30 ID:5Ng59mBm0
ここまでです。何でPをメインじゃなくて、涼ちんをメインにしたのかは、単純に涼ちんが好きなだけです。
それと、アイドル同士の戦いを書きたいので、Pを排除しました。自分でも共感されにくいSSを書いている自覚はありますが、とにかくかわいいじゃなくて、格好良い涼ちんが書けたらと思っています
130 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/07/18(水) 16:08:38.32 ID:sLw7eum6o
乙乙
一番最初から見てるよ。楽しみにしてる
131 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/07/18(水) 16:50:17.50 ID:BKN0PQiSo
乙。気にせず書いちゃってよ。
ただPを出してレスを伸ばせばいいわけじゃないし、そもそもPを出せば伸びるって考えがおかしい。
132 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(田舎おでん)
[sage]:2012/07/19(木) 00:53:21.52 ID:VmkeSmSdo
おつおつ
Pが主役であろうと涼が主役であろうと俺は
>>1
のファンだから気にせずやってくれると嬉しい
133 :
少し投下
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/21(土) 01:05:08.24 ID:zbZKL1CA0
夕食の席で、小鳥さんに心配をかけたことをわび、今日起きた出来事を話した。
小鳥「そんなことが有ったんですか……。こういう時の涼君って、すっごく格好良いですよね?」
千早「どうしてそこで私を見るんですか」
小鳥「あれ、千早ちゃんはそう思わないの?」
千早「ま、まぁ思わなくはないですけど……」
涼「えへへ……」
イケメンに近づいていってるってことかな?
小鳥「使命を持つのは立派なんですけど、どうやって?」
涼「それは……」
涼「とっぷしぃくれっとです」
口に指を当て、艶やかに言ってみる。
小鳥「あまり似てないですね」
千早「……思いつかなかったのね」
涼「はい、偉そうなこと言ってすみません……」
134 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/21(土) 01:08:15.37 ID:zbZKL1CA0
見切り発車は今に始まったことじゃない。無鉄砲だと言われても仕方ないよね。
涼「よくよく考えたら、今の僕は身動きが取れないんだよね……」
事務所ごと抑えられた今、動こうにも動けない。
順調にアイドルイメージが下がっていく中、対照的に1054プロの攻めは止まるところを知らない。
小鳥「AKB(赤羽根)84も1054プロに移籍ですね」
千早「各事務所からアイドルを引き抜いているみたいですね。そのアイドルたちが、私たちがしていた仕事をするようになった」
涼「シンパってこう言うことですか……」
1054プロと提携を結んだ事務所は、仕事を約束され、拒絶した事務所は干される。
実に分かりやすいシステムだ。
千早「765プロも話が来たけど、喜んで追い返してやったわ」
そのせいで仕事奪われちゃったけど、と小さく付け加える。
千早「勿論、後悔はしてないわよ。仕事の量が減って来たのは事実だけど、1054プロに屈するのだけはゴメンだから」
さっぱりとした顔で言う千早さん。干されて落ち込んでいるどころか、
むしろ一矢報いたいという気概すら感じる。
135 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/21(土) 01:10:29.89 ID:VqpvzfIo0
涼「何か手はないのでしょうか?」
千早「1054の妨害に屈しない方法……、あるのかしら?」
涼「無いと困るんですけどね……」
あるのならとっくに試している。876と765が封じられた今、出来ることは……。
小鳥「……ないことは、ないわ」
涼「え?」
小鳥「1つだけ、1054プロに対抗できる手段があるの」
涼「本当ですか!?」
小鳥「だけど……、あんまりお勧めできないわ」
音無さんは神妙な顔つきを見せる。出来ればして欲しくない、そう顔に書いてある。
涼「教えてください! なりふり構ってられないんです」
小鳥「でもそれは、今あるもの全てを捨てないといけない。涼君は、事務所を、仲間を捨てることが出来るの?」
136 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/21(土) 01:14:45.65 ID:VqpvzfIo0
音無さんは、いつになく真剣な顔で僕の目を見る。その眼差しに吸い込まれそうになる。
涼「どういう意味ですか?」
小鳥「言葉通りの意味よ。身動きが取れないなら、別の場所に行けばいいの」
涼「移籍、ですか……」
正直に言うと、その案は思いつかなかったわけじゃない。
だけど、876の皆を裏切ってしまうと考えると、二の足を踏んでしまう。
それに……
千早「それはそうですけど、結局は1054プロに抑えられるんじゃ……」
千早さんの言う通り、彼女たちはすぐに叩き潰そうとするだろう。それぐらいどの事務所も分かっている。だから僕を好き好んで引き取ろうとする所があるのだろうか?
小鳥「だけど1つだけ、1054も手が出せない事務所があるの。2人とも、良く知っているはずよ」
涼「まさか……!」
千早「……!」
137 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/21(土) 01:17:07.92 ID:VqpvzfIo0
上には上がいる。魔王の上に立つ存在って、何と言えばいいのかな?
小鳥「961プロダクション。対抗できる術を持っているのは」
涼「黒井社長……ッ!」
耳に残る高笑いが、自然と頭の中で再生される。確かに961プロダクションなら……。
小鳥「ええ。1054プロダクションも手を出せないし、彼の一声があれば、765と876にかかった圧力を跳ね除けることも出来る。だけど……」
千早「私は……、賛成しかねます」
心苦しそうな表情を見せると、立ち上がってお茶を入れる。
小鳥「うちの事務所、特に千早ちゃんは彼のせいで苦しい思いをしたもんね……。少し迂闊だったわ」
申し訳なさそうに、視線を逸らす。
小鳥「言ってはみたけど、そもそもあの人は765プロが……、と言うよりうちの社長が嫌いなのよね」
涼「876も多分嫌いだと思います。と言うよりも、僕のことが」
138 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/21(土) 01:17:53.15 ID:VqpvzfIo0
涼『黙れよ!!』
IU予選会場で啖呵を切ってから、僕は黒井社長と顔を合わす機会がなかった。
どう思っているかは知らないけど、プライドが高そうなあの人のことだ。
ジュピターを打ち負かした僕のことを快く思っているわけがない。
小鳥「そうね……、黒井社長と、涼君は正反対だもんね。でも」
涼「でも?」
小鳥「頑固なところは似ていると思うわよ?」
音無さんは悪戯に笑うと、僕を茶化すように答える。
涼「止めてください〜!」
武田さんに似ているなら喜べるけど、黒井社長に似ているって言うのは、何か嫌だ。何かって何かと聞かれても、答えれそうにない。
涼「でも、それしか無いのかな……」
千早「?」
お茶を用意してくれた千早さんに聞こえないように、小さく呟く。
139 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/21(土) 01:36:23.70 ID:VqpvzfIo0
涼「はぁ……」
大見得を切ったのに、今になって色々考えてしまう。
もし武田さんの理想を、夢を守れるとして。その代償は何だろう?
例え仲間を、世界を敵に回してでも果たさないといけないのだろうか?
夢を叶えるために、綺麗でい続けることはできないのかな?
諦める気はない、だけど僕は……。
「涼……、涼」
涼「僕はどうすれば……」
石川「いい加減気付きなさい!」
ガツン! 頭に痛みが走る!
涼「いだっ! な、何でしょうか?」
石川「ようやく気付いたわね」
涼「ファイルの角で叩かれたら嫌でも気づきますよ〜!」
頭凹んでないよね? 凹んでたらそれは一大事だ。
140 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/21(土) 01:39:02.65 ID:VqpvzfIo0
涼「で、用件は何ですか?」
石川「用件がないと話しちゃいけないのかしら?」
涼「いえ、そう言うわけじゃないですけど……」
頭を撫でていると、事務所の扉が勢いよく開かれる。
愛「おはようございまーす!!」
絵理「愛ちゃん、やっぱり声が大きいよ?」
夢子「流石に慣れたわよ」
尾崎「社長、お話とはなんでしょうか?」
石川「皆揃ったわね」
涼「え? ミーティング? 僕聞いてない……」
石川「話したわよ。ただその時、貴方は心ここに非ずって感じだったけど」
涼「すみません……」
最近考え事が多かったからかな、反省しなきゃ。
141 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/21(土) 01:48:46.34 ID:VqpvzfIo0
石川「さてと、現在のわが社の状況は芳しくない、それは皆理解していると思うの」
夢子「まさか、倒産とか?」
愛「えええ!?」
窓ガラスが割れそうなほどの大声を上げる。不意をつかれて耳がキーンとした。
夢子「そんな驚かないでよ! ……違いますよね、ね?」
石川「ええ、倒産には至らないわ」
絵理「それなら、安心?」
尾崎「至らないと言いますと?」
石川「765プロと業務提携を結びます。斜陽のプロダクション同士がなれ合う、と言われたらそこまでかも知れないけど、現状を打破するにはこの方法しかないの」
涼「今までしてなかったんですね」
少し意外だった。律子姉ちゃんも真っ先にここを紹介したし、愛ちゃんも春香さんの紹介で入社したんだから、
てっきり業務提携を結んでいるものかと思っていた。
石川「交流があったって程度だったからね。今では高木社長はもちろん、貴女達も向こうの所属アイドルたちとも繋がりがあるし、765プロの方から話を持ちかけてきたわ」
142 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/21(土) 01:56:34.24 ID:VqpvzfIo0
愛「春香さんや雪歩先輩と一緒に活動できるってことですよね!?」
夢子「お姉様とユニット……、悪い話じゃないわね」
石川「まぁ可能性としてはないでしょう。876プロと765プロ、8765プロって所ね」
尾崎「合併ではないんですね」
石川「こっちにはこっちのカラーがあるからね。それを尊重してもらうって意味でも、業務提携という形に落ち着いたわ」
765プロはプロデューサがいるけど、こっちはセルフプロデュースだもんね。
石川「あちらのプロデューサ-は優秀だから、得るものもあるでしょう。それが1つ」
絵理「まだあるんですか?」
石川「ええ、むしろ私たちにとって、こちらの方が重要かしら? 涼」
涼「えっと、何でしょうか?」
社長は淡々と続ける。まるでCDから流れているように。
石川「本日限りで、貴方を876事務所から解雇するわ」
涼「えっ?」
143 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/21(土) 01:57:07.51 ID:VqpvzfIo0
とりあえずここまでです。読んでくださった方、ありがとうございました。
144 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/07/21(土) 03:28:24.77 ID:RdsOGrAAo
もりあがってまいりましたぁぁぁ
145 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/07/21(土) 13:58:44.21 ID:44TPvj8SO
涼ちん熱い
146 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2012/07/21(土) 17:59:46.20 ID:lfcJDprA0
そして冒頭に至ると
燃えてきました
147 :
投下します
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 01:21:14.67 ID:zu0VJCx10
夢子「ど、どういう事ですか……」
石川「涼を解雇するって言ったのよ。有体に言えばクビ」
夢子「そういう事を聞いてるんじゃありません!!」
絵理「ちゃんと説明して欲しい」
愛「そうですよ! なんで涼さんがクビになるんですか! 納得いきません!」
涼「みんな落ち着いて!」
夢子「なんでアンタが落ち着いていられるのよ!? 急にクビだなんて明らかにおかしいじゃない!」
そうだ、解雇の宣告を受けたのに、僕は不思議と落ち着き払っていた。
どうしてかなと考えてみると、心のどこかで、この日が来るのを覚悟していた自分がいた。
そうだよね、迷惑ばかりかけるアイドルなんか、いらないよね。
涼「皆、社長の話を聴こうよ。ちゃんと説明してくれますよね?」
社長に詰め寄る夢子ちゃんと愛ちゃんを制止し、社長に話を促す。
覚悟していたとはいえ、ちゃんとした理由が欲しい。
148 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 01:23:36.93 ID:Bz1GExF40
石川「貴方の性格だと取り乱すかと思ったけど、案外冷静なのね」
涼「受け入れないといけない僕が取り乱してたら、話進みませんから」
石川「それもそうね。そもそも、現状を作ってしまったのは紛れもない涼、貴方自身。言ってしまえば全ての元凶なわけ」
涼「はっきりと言われると、結構きますね」
口では生意気に言ってみるけど、心の中では申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
夢子「でもそれは! 社長だって止めることが出来なったじゃないですか!!」
石川「それも重々承知しているわ。これに関しては、私の判断ミスも責められるべきでしょうね」
夢子「……ならどうして涼をクビにするんですか?」
石川「……そうすることでしか、解決できないからよ」
夢子「ふざけるな!! それは自分の無能を涼に押し付けているだけじゃないですか!!」
涼「夢子ちゃん! 落ち着いて!!」
夢子「落ち着いてなんかいられるか!!」
149 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 01:25:59.50 ID:Bz1GExF40
愛「絵理さんも夢子さんを押さえてください!」
絵理「う、うん!」
夢子「離しなさい!! 私は!」
今にも社長に掴みかかろうとする夢子ちゃんを3人がかりで何とか押さえる。
女の子1人を止めることが出来ないのが実に情けない。
だけど今の夢子ちゃんは危険だ。手を離してしまうと、また飛びかかってしまいそう。
石川「私のことはいくらでも責めて貰って構わない。だけど……、理解して欲しいの。涼1人と、貴女達3人。天秤にかけるマネはしたくない。だけど876事務所として、どちらが最良の決断かというのを」
夢子「……ッ!」
悔しそうな顔をして、目を細める。
愛「涼さん……」
心配そうに僕を見る愛ちゃん。
涼「大丈夫だよ」
それが少しだけ可愛らしくて、ついつい頭を撫でてしまう。
150 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 01:27:57.85 ID:Bz1GExF40
愛「んっ……」
涼「クビになっても、死ぬわけじゃないんだから。ね?」
愛「でも! 私は、大切な人がいなくなるなんて嫌です……」
一度まなみさんとの別れを経験した愛ちゃんにとって、僕がいなくなるというのは、耐え難いものなんだろう。
堪えきれず、大粒の涙をポロポロと流す。
まなみ「よしよし」
子供をあやすように、まなみさんは愛ちゃんに呼びかける。
こうやって見ると、姉妹みたいだな。
夢子「愛……」
激昂していた夢子ちゃんも、妹みたいな少女の涙に、冷静さを取り戻す。
僕は撫でる手を止めて、ハンカチを差し出した。
涼「涙を拭いて。僕は、大丈夫だから」
愛「……ありがとうございます」
少しだけ、落ち着いてきたかな。
151 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 01:29:45.95 ID:Bz1GExF40
尾崎「社長、失礼ですが」
愛ちゃんが涙を拭いていると、今まで黙っていた尾崎さんが口を開く。
尾崎「秋月君を解雇したところで、現状が変わるとも思えませんが?」
尾崎さんは飽くまで冷静に、社長に意見をする。
確かにそうだ。僕が自己犠牲の精神を見せたところで、1054プロは圧力を解除するだろうか? 可能性は低いと思う。
だけど社長はニヤリと笑うと、
石川「変わるわよ」
尾崎「へ?」
自信満々に答える。
石川「さぁ、涼。荷物を持って出ていきなさい」
涼「え、あっ、ちょ! そんな急に」
半ば無理やりに、事務所から追い出される。
152 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 01:35:06.07 ID:Bz1GExF40
呆気にとられるみんなに背を向けて、社長は口を開いた。
石川「ごめんなさい、貴方に全部押しつけてしまって。でも貴方がいるべき場所は、ここじゃないわ。……涼なら、出来るはずよ。全て、止めることが出来る」
涼「あっ」
石川「全てが終わった時、帰ってらっしゃい」
僕にだけ聞こえるような声でそう言うと、ポケットに1通の封筒を忍ばせた。
涼「社長!」
石川「何かしら?」
涼「お世話に、なりました!!」
石川「やって来なさい、男の子」
社長は小さく笑うと、事務所の扉を閉める。
「――!!」
「――!!」
扉の向こうが、騒がしくなる声の小さな絵理ちゃんですら、怒声を上げているぐらいだ。
皆が追っかけてくる前に、退散しないと……。
153 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 01:39:54.71 ID:Bz1GExF40
夢子「待ちなさいよ」
涼「夢子ちゃん?」
不意に僕を呼び止める声。振り向くと夢子ちゃんが腕を組んで不機嫌そうに僕を見ていた。
夢子「……リベンジ、するんでしょ?」
涼「なんだ、分かってたんだ」
夢子「頭を冷やしたら、社長の意図が読めたわ。どれだけ期待されてるのよ、あんた」
涼「あはは……」
夢子「またあんたはそうやってさ、自分1人が背負おうとして。格好つけるなっての」
涼「そのつもりはないんだけどなぁ」
夢子「そう見えるわよ。芸能界を何回敵に回せば気が済むのよ、あんたは」
涼「どうだろう。僕にも分からないや。でもね」
夢子「何よ?」
涼「芸能界をどうにかするって言うのは、無理かもしれない。結局僕はちっぽけな存在だ。だけど、目の前で間違っている人に間違っていると言える勇気は持っているつもりだよ」
154 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 01:49:11.41 ID:mtZOqTYH0
僕はまだ終わっちゃいない。過去の存在になったとしても、魔王エンジェルの暴走を放っておくわけにはいかない。
夢子「それが……、私たちと別れることになっても?」
涼「……うん」
何かを成し遂げるには、痛みが必要なんだ。どんな汚名を被っても、僕は彼女たちを止めてみせる。
そう約束したんだから。
夢子「はぁ、絵理は賢いからすぐに気付くだろうけど、愛は結構引っ張るわよ?」
いつも元気な反面、愛ちゃんは精神的に脆いところがあるからなぁ。
ちゃんと分かってくれたらいいんだけど……。
涼「皆には悪いことをしたと思ってる。ゴメン」
夢子「謝るなら、さっさと戻って来なさい。そろそろちゃんとした仕事がしたいわ。それに、あんたがいなきゃ、張り合いないんだから」
最後の方はもごもごと言っていたから、何を言おうとしたのか分からなかった。
だけど、夢子ちゃんの気持ちは伝わった。
涼「ありがとう、夢子ちゃん。行ってくるよ」
夢子「ホント、馬鹿なんだから」
馬鹿で結構。そうでもなきゃ、やってられないよ。
155 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 01:52:35.79 ID:mtZOqTYH0
涼「クビになっちゃった……、か」
リストラと言うとネガティブだけど、これは未来へ向けた、前向きなリストラだ。
リストラクチュアリング。確か再構築って意味だっけ?
涼「もし僕だけなら、決心がつかなかったもんね」
石川社長は、わざと悪人になったんだ。どうして? それは、僕を追い出すために。
もしそのままだったら、みんなを裏切るからと考えて、前に進むことが出来なかっただろう。
結局、社長には全部お見通しだったわけだ。みんなからの非難を浴びて、僕の背中を叩いてくれた。
だけど僕は、もっと恨まれることをしようとしているのかもしれない。
僕に出来ることは、みんなを信じて、みんなが僕を信じてくれるよう願うこと、それだけだ。
涼「よし! 行くぞ!!」
こぶしを強く握り、僕は961プロダクションへと足を運ぶ。
156 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 01:58:02.21 ID:mtZOqTYH0
涼「で、でかいなぁ……」
961プロダクションビル。正直な所、芸能事務所ってここまで大きくても仕方ないような気がする。
貧乏事務所の僻みだからそこまで気にしなくてもいいんだけどさ。
涼「アポイントとってないけど大丈夫かな……」
急な話で会ってくれるかどうかは分からない。礼儀知らずと一蹴されてしまうのも覚悟している。
だけど不思議と、黒井社長は会ってくれる、そんな気がした。
だってあの人のことだよ? 僕が来ると分かったら……。
黒井「ふん! 誰かと思えば最近姿を見せなくなった過去のアイドルじゃないか! 古臭くてたまらん! そこの君、換気をしたまえ」
涼「はは……」
黒井「へらへらと笑いよって、ますます気に食わんな。……何の用だ」
ほらね。大企業の社長様はお忙しい時間を縫って、イヤミを言いにわざわざ降りて来きました。
それに、ちゃんと消臭剤を持ってきているあたり、準備が良いよね。怒りどころか、感動を覚えたよ。
157 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 02:04:26.89 ID:mtZOqTYH0
涼「黒井社長、折り入ってお話があって来ました」
黒井「話? 貴様が私にか?」
涼「ええ。用件は1つ、僕を961プロダクションに入れて欲しいんです」
黒井「何だと?」
涼「僕を961プロダクションのアイドルとして雇って欲しいんです」
黒井「2度言わなくても分かっている!」
聞き返したの、そっちじゃないですか。
黒井「ふん、どういう風の吹き回しだ? 頭の悪い貴様でも知っているだろう? 私は貴様が大っっっっっっっっ嫌いだ!!」
涼「ですよねー」
やっぱり。あんなことがあった後に、好きでいてくれるわけがない。大人気なく大嫌いと言われてしまう。
黒井「第一貴様を引き取ったとして、何になる? 1054の小娘たちに敗れた今、貴様はIU覇者と言え過去の存在だ。まさに風前の灯火。そんなアイドルに、なんの価値がある?」
いい気味だがなと黒井社長は付け加える。かなり根に持たれているみたいだ。
158 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 02:13:58.36 ID:Bz1GExF40
黒井「話にならんな。目障りだ、さっさと私の目の前から消え失せろ!!」
僕を強く睨むと、黒井社長はその場を去っていく。周りには社員のみなさんだろうか、もの珍しそうに見ている。
涼「1054プロに対抗できるのは、961プロダクションだけなんです! お願いします!」
こうなったら……、奥の手を使わざるを得ない!
黒井「なっ!?」
女装アイドルになっていた時点から、恥なんて掻きつづけてるんだ。
今ここで土下座したって、痛くも痒くもない。
「見てー、社長ったら、こんな衆人環境で土下座させちゃって。可哀想」
「あれ良く見たら秋月涼じゃないか? 何で土下座してんだ?」
「うわっ、涼ちんになんてことさせてるんだ」
「涼ちんここに所属するの?」
ギャラリーはひそひそ話を始める。ここぞとばかりに言いたい放題だ。中には思いっきり非難している人もいる。
この人、あまり求心力ないのかな……。
黒井「チッ! ついて来い!!」
周囲の目線に居た堪れなくなったのか、黒井社長は僕に聞こえるように舌打ちをすると、社長室へ無言で案内してくれた。
159 :
◆dj46uVZbVI
[saga]:2012/07/23(月) 02:14:29.18 ID:Bz1GExF40
ここまでです。読んでくださった方、ありがとうございました。
160 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2012/07/23(月) 02:15:51.09 ID:fjUeI+LQ0
乙
161 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/07/23(月) 13:53:26.40 ID:xLG2pLc4o
もりあがってまいりましだぁぁ
162 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/07/23(月) 18:37:33.99 ID:jnpUA6dSO
乙
163 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/08/06(月) 10:11:38.76 ID:nSGEGEzWo
まーだー
164 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
:2012/08/08(水) 23:44:40.40 ID:ciUtE6190
続きが楽しみだなあ
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