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言峰「願いを叶えるミセ?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/05(日) 23:55:27.25 ID:d/Lk+2J90
fate×ホリックです。


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スイカバー @ 2025/06/16(月) 23:54:53.05 ID:7An/VCwoo
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全レスゾーンゼロ @ 2025/06/16(月) 17:23:39.88 ID:/JulHR0so
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750062219/

バームくんへ @ 2025/06/11(水) 20:52:59.15 ID:9hFPsRzXO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1749642779/

秘境 @ 2025/06/10(火) 00:47:53.81 ID:BDVYljqu0
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【安価】上条「とある禁書目録で」鴻野江「仮面ライダー」【禁書】 @ 2025/06/09(月) 21:43:10.25 ID:qDlYab/50
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749472989/

ツナ「(雲雀さん?!)」雲雀「・・・」ビショビショ @ 2025/06/07(土) 01:30:36.87 ID:AfN9Rsm0O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749227436/

【安価コンマ】障害走を極めるその5【ウマ娘】 @ 2025/06/06(金) 01:05:45.46 ID:RaUitMs20
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749139545/

貴様たちの整備のお陰で使いやすくしてくれてありがとう @ 2025/06/04(水) 20:56:21.03 ID:QjuK6rXtO
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/05(日) 23:56:00.23 ID:GZI3XJjWo
キレイキレイの願いを叶えちゃうのか…
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/05(日) 23:56:09.19 ID:d/Lk+2J90
【ミセ】

侑子「四月一日ぃー、晩御飯のデザートにアイス食べたーい! バニラ味ね!」

モコナ「モコナの分もー!」

日が沈んだ頃、侑子さんとモコナがいきなりそう言い出した。

四月一日「いきなりっすね! ああもう6時まわってるじゃないですか。仕込み間に合いませんしダメですよ」

侑子「まあケチだわ」

モコナ「ケチだな」

マル/モロ「「四月一日ケチだー!」」

見事なチームワークである。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/05(日) 23:56:50.14 ID:d/Lk+2J90
四月一日「ああもう、わかりました! 今から買いに行きます」

侑子「ハーゲンダッツでよろしく!」

モコナ「抹茶も買ってこいよ!」

四月一日「よりにもよってまた高いやつを・・・行ってきます!」

侑子「あ、ちょっと待ちなさい」

四月一日「何ですか侑子さん」

ふすまを開けて廊下に出ようとしていたところに声をかけられ振り向く。

モコナ「四月一日隙ありぃ! ちゃっきーん!!」

四月一日「へっ・・・ってうわあああ! お、俺の前髪が!!」

モコナ「前髪ゲーッツ!」

侑子「モコナ素敵よ!」

モコナは体のサイズに合わない人間用のハサミを右手に、俺の前髪の残骸を左手に持ってポーズを決めていた。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/05(日) 23:57:40.59 ID:d/Lk+2J90
四月一日「どうすんですか俺の前髪! パッツンってレベルじゃないっすよ!」

侑子「えーっと、四月一日の髪の毛をこの赤い巾着に詰めてーっと。よしオッケー!」

四月一日「何がオッケー何ですか」

侑子「出迎える準備よ」

四月一日「出迎えるって誰の・・・」

その時、カランとミセの扉が開く音がした。


侑子「お客様のよ。さて四月一日、案内してあげて頂戴」

四月一日「はい・・・ってぱっつんのままでですか!?」

侑子/モコナ「「いってらっしゃーい!」」

四月一日「無視かよ!」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/05(日) 23:58:19.99 ID:d/Lk+2J90

【応接間】

四月一日「どうぞ、紅茶です」

それほど広くはない応接間の中央には洋風の丸い机がおかれてあり、部屋の奥側と入り口側に机を挟むように二脚おかれている椅子には侑子さんと洒落た服装の男が座っていた。

?「・・・あの、ここには自分の意志で来たわけでは」

四月一日「あー、そういうミセですから。気になさらないでください」

?「それは一体」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/05(日) 23:58:53.59 ID:d/Lk+2J90
侑子「お名前は?」

?「・・・貴様は魔術師か?」

侑子「一応そうなるかもね」

言峰「・・・言峰綺礼だ」

男はそう名乗った。

侑子「そう構えなくていいわ。あなたがここに来たこともまた必然。ここは願いを叶えるミセだから」

言峰「願いを叶えるミセ?」

侑子「そう、対価にみあった願いを叶えるミセ。あなたの願いはなにかしら?」

言峰「・・・私にそんなものはない」

四月一日「ええっ!?」

侑子「四月一日静かにしなさい」

四月一日「すみません!」(どういうことだろう。いままでこのミセに来た人たちは大なり小なり願いを持っていたのに・・・)
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/06(月) 00:00:57.95 ID:d+tDBo/t0
侑子「本当に?」

侑子さんは微笑んだまま再び問いかけた。

言峰「そうだ。貴様がどういうつもりかは知らんが・・・」

侑子「よく考えてみて。悩み事があるでしょう」

侑子は椅子から立ち上がり、言峰の胸に手を添えた。

侑子「それって・・・ここの悩みじゃない?」

言峰「っ・・・、どういうつもりだ」

侑子「あなたが本当に悩んでいることだから」

四月一日「・・・やっぱり胡散臭いよな」ボソッ

侑子「四 月 一 日 ?」

四月一日「なんでもありません!」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/06(月) 00:06:57.43 ID:d+tDBo/t0
言峰「貴様に相談すする筋合いはない」

侑子「ここは願いを叶えるミセよ。どうしても叶えたい願いがあるのでしょう?」

言峰「・・・第一私は叶えたい願いどころか」

侑子「何かを楽しいと思ったこともない?」

言峰「!?」

侑子「幼い頃からずっと、今に至るまで?」

言峰「・・・・・・」

侑子「なぜ他者にはあるそれが自分にはないのかを探してきたのね」

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/06(月) 00:13:26.29 ID:d+tDBo/t0
言峰「なぜ貴様がそれを・・・」

侑子「・・・・・・」

しばらく沈黙が続く。先に折れたのは男の方だった。

言峰「ああ、確かに私は己の愉悦のありかも知らん空虚な人間だ。・・・もしその愉悦のありかがわかるのならば対したものだがな」

その言葉には暗に「これ以上干渉してくるな」「分かるものなら答えてみろ」という意味が込められていた。
しかしーーー

侑子「「己の願いがなんなのか知りたい」。それがあなたの願いね」


侑子「あなたの願い、叶えましょう」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/06(月) 00:23:28.98 ID:d+tDBo/t0
言峰「なっ・・・」

侑子さんはそう言い切った。

侑子「ではこれを」

言峰「赤い巾着?」

四月一日(・・・って俺の髪の毛入りのやつじゃねーか! なんでだよ!)

侑子「寝る時に枕元においておきなさい」

言峰「・・・それだけか?」

侑子「ええ」

侑子さんはそう答えた。

言峰(なんのつもりかは分からんが・・・この女は何か知っているのだろうか)

言峰はゆっくりと赤い巾着を受け取った。

侑子「そうね、対価は右ポケットに入っているもので構わないわ」

言峰「どうするつもりだ」

侑子「そう心配しなくても、もしあなたが満足した答えを得れなかったと感じた時にはお釣りをつけて返してあげるわ」

言峰「・・・・・・」

侑子さんがそうつぶやくと、言峰はゆっくりと右ポケットの中身を手渡した。

四月一日(十字架? キリスト教徒なのかな)

言峰「もう帰っていいか」

侑子「ええ。では「また」」

四月一日「案内します」

そうして言峰綺礼という今度の客は出て行った。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/06(月) 00:33:42.10 ID:d+tDBo/t0
【ミセ】

四月一日「侑子さん」

侑子「何?」

四月一日「さっきのお客さんのことなんですけど、「何も楽しいと感じたことがない」って・・・」

侑子「ありえないと思った?」

四月一日「運動とかテレビとか食事とか動物とか、大なり小なりみんな何かに興味があるじゃないですか。何もかもに全く興味がないっていうのは流石に信じがたいというか」

侑子「ええ、ヒトはただ必要だからという理由だけで人生のすべてを作業感覚でこなしていけるほど器用な生き物じゃないわ。だから彼も相当追い詰められているんでしょう。それこそ異端である魔術師の誘いに乗ってしまう程度には」

四月一日「じゃああの人は」

侑子「本当に空虚な人間もいないことはないけれど、少なくともあの男は違うわね」

四月一日「・・・そうなんですか」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/06(月) 00:39:14.62 ID:d+tDBo/t0
侑子「・・・まあ、知らない方が幸せなことなのかもしれないけどね」ボソッ

四月一日「えっ?」

侑子「ううん、なんでもないわ。さて! 四月一日アイスはー?」

四月一日「あっ・・・ってこのぱっつん髪ですか!?」

モコナ「にあってるぞ?」

四月一日「いや、そうじゃなくて・・・!」

侑子「いってらっしゃーい!」

四月一日「ああああもう、わかりましたってばあ!!!」

この時間帯だとコンビニで買わざるを得ないだろう。割高だったが仕方ない。

四月一日「明日ひまわりちゃんに笑われたらどうしよう・・・いやむしろ百目鬼に笑われた日には・・・」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 00:42:51.19 ID:wtO19VaDO
この後キレイキレイは師匠と恋人になるのかwwww
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/06(月) 00:48:48.73 ID:d+tDBo/t0

ーーー次の日。

【学校】

ひまわり「へえ、そんなことがあったんだ」

レジャーシートに座り、ひまわりと百目鬼との三人で昼ごはんを食べていた。

四月一日「大体俺の前髪入りの巾着とか何につかうんだろ・・・」

百目鬼「夢は無意識な願望があらわれるとは言うけどな」

四月一日「お前には聞いてねえよ!」

ひまわり(四月一日くん猫みたい)

百目鬼「夢で俺の爺さんに会ったりするんだろ。夢関連じゃないのか」

四月一日「そうなのかな・・・」(・・・それっぽい。それっぽい理由だがこいつに言われるとなんか腹立つ!!)




16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/06(月) 00:57:51.24 ID:d+tDBo/t0
百目鬼「・・・その客は大人だったのか?」

四月一日「あ゛? あ、えーっと、二十歳は超えてたと思うけど」

百目鬼「侑子さんはその客は別に空虚な人間って訳じゃないって言ったんだろ? だがそもそもだ、自分の欲望を知らない原因はなんだ?」

ひまわり「心を震わすものに会えなかったからかな」

百目鬼「もしくは無意識に楽しいと思ってはいけないと自分自身を縛っていたか、だな」

四月一日「楽しいと思ってはいけないこと・・・?」

キーンコーンカーンコーン コーンキーンカーンコーン

ひまわり「あっ、予鈴だ! 次の授業移動教室だから先にいくね!」

四月一日「うん! ひまわりちゃんばいばーい!」

ひまわり「あ、そうだ!」

四月一日「?」

ひまわり「その髪型、百目鬼くんとおそろいみたいでいいとおもうよ!」

グサリと心に何かが刺さる音がした。

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 00:59:20.05 ID:JzK4pMH2o
マーボーは愉悦開眼した後の方が面倒なんだよな…
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/06(月) 01:01:21.70 ID:d+tDBo/t0
ひまわりちゃんは校舎の方へと去って行く。

四月一日「感想が純粋すぎて心がいたいよひまわりちゃん・・・!!」

百目鬼「俺はそこまでぱっつんじゃねえけどな」

四月一日「うるせえ!」

その後、言い争いすぎて次の授業に遅刻しそうになったのはまた別の話だ。


四月一日「・・・楽しいと思ってはいけないこと、か」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 01:02:42.30 ID:wtO19VaDO
ぶっちゃけ願いをかなえるミセが願いをかなえるセミに見えて最初ビビった
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/06(月) 01:03:56.79 ID:d+tDBo/t0
今回の投下はこれで終わりです。
fateは言峰嫁死亡後?zeroまえで、ホリックは四月一日が百目鬼遥に夢で会ってからです。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 01:04:39.46 ID:JzK4pMH2o

愉悦に目覚めていない若言峰か。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2012/08/06(月) 02:56:00.96 ID:5YXo6fyDo
ホリックはこの頃が一番面白かったな
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/06(月) 06:30:47.02 ID:3xexoNLv0
願いをかなえるゼミと読み間違えて、「ああ、変ゼミスレか」と思ったことは秘密だ
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/06(月) 20:50:07.17 ID:11n3mnXIO
願いを叶えるセミでも願いを叶えるゼミでもないですwww
投下します。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/06(月) 20:51:22.02 ID:11n3mnXIO
【玄関前】

四月一日「今日の晩御飯はそうめんにしようかな。たしか流しそうめん用の台があったよな、探すか。・・・ん、あの人は」

学校からの帰り道。ミセの入り口で長身の男がいるのを見かけた。

四月一日「言峰さん?」

言峰「お前はこの店の使用人だったか」

四月一日「まあそんな感じです。どうぞ入ってください」

言峰「いや、構わない。ただこれを・・・」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/06(月) 20:52:12.04 ID:11n3mnXIO
侑子「満足する結果が得られなかったのかしら?」

言峰「・・・・・・」

四月一日「侑子さん!」

店の入り口に突然侑子さんが現れた。ノースリーブの夏らしい白い服を着ている。

言峰「悪いがこれは返す」

言峰は巾着を差し出したが、侑子は受け取るそぶりを全く見せない。

侑子「どうだったかしら?」

言峰「・・・妻の夢を見た。それだけだ」

侑子「そう」

侑子さんは受け流す。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/06(月) 20:54:12.14 ID:ofcavNRI0
目覚めた言峰がひまわりちゃんの秘密知ったら大喜びだろうなW
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 20:55:22.35 ID:4U2UbA9fo
マーボーの愉悦ストーキングが始まるのか…
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/06(月) 20:58:19.23 ID:eTDjWCeIO
侑子「知りたくないの? あなたの願いを」

言峰「そういうわけではない。だがこれは返す」

侑子「どうしても知りたくないのならいいけど。でもあなたの「知りたい」って気持ちは本物でしょう」

言峰「っ・・・だが、これはダメだ」

侑子「どうしても知りたくなくなったならここに来なさい。「またね」」

そう言い残して侑子さんはミセの中に入って行った。

四月一日「ゆ、侑子さん!? ちょっと!」

追いかけるように店に入る。つい気になって入り口を振り返ってみれば、どことなく不安そうな彼の目が見えた。

四月一日(・・・今度会いに行ってみよう)

なんとなくそう決めた。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/06(月) 21:00:11.28 ID:eTDjWCeIO
ーーーその晩


【???】

四月一日「ここは・・・」

遥「こんばんは」

四月一日「百目鬼のおじいさん!」

どこまでも続く真っ暗闇のなかで、唯一存在している縁側に百目鬼のおじいさんは腰掛けていた。

四月一日「おひさしぶりです」

遥「彼が気になるかい?」

四月一日「・・・はい」

誰のことだとは聞かなかった。この人は全部わかっているのだ。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/06(月) 21:01:07.77 ID:eTDjWCeIO
遥「よし、じゃあ見に行こうか」

四月一日「見にいくって・・・って、ええ!?」

一瞬で景色が変わる。いつ変わったのかはわからない。俺たちは見覚えのない部屋にいた。

四月一日「ここは・・・」

ほとんど何もない部屋に一際目立つベッドが一つ。そこには白い女性がいた。そしてそのすぐそばにいるのは。

四月一日「言峰さん?」

今より少しだけ若く見えたが、間違いなくその後ろ姿は言峰綺礼だった。

四月一日「えっとごめんなさい! わざと忍び込んだわけじゃなくて!!」

謝るが、彼も、そしてベッドの女性も反応しなかった。

遥「大丈夫だよ。私たちの姿は彼らには見えない。触れることもできないけどね」

四月一日「そうなんですか?」

遥「ああ。ここは彼の夢の中だよ」

四月一日「じゃあ夕方の焦っていた理由はおそらく」

遥「まずこの夢が原因だろうね」

おそらくベッドの女性が言峰が今日言っていた妻なのだろう。二人に意識を集中した。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/06(月) 21:04:24.14 ID:eTDjWCeIO
先に口を開いたのは言峰の方だった。
何の感情もこもっていない、報告書を読み上げるような声で「私にはおまえを愛せなかった」と告げた。

四月一日(そんな。どんなことも楽しいと思えないってことは、誰かを愛することも出来ないってことなのか?)

女は言峰の言葉を微笑みながら聞いていた。そして。

「――いいえ。貴方は私を愛しています」

四月一日「なっ!」

そして女は微笑みながら自害した。
触れないとわかっているはずなのに思わず駆け寄った。百目鬼遥は動かない。言峰綺礼も動かない。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/06(月) 21:09:57.03 ID:eTDjWCeIO
「ほら。貴方、泣いているもの」


四月一日(ちがう。言峰さんは泣いてない。彼は、彼は悔やんでいる!)

この世から消えていく彼女の言葉を心の中で即座に否定する。

言峰(ーーーどうせ死ぬのなら、私の手で殺したかった)

自身の妻が自害したその時、言峰綺礼は道徳観も教義も何もかもを忘れ、ただそう思ってしまっていた。
夢での出来事だったからか、その思いは四月一日にもしっかり伝わっていた。

四月一日(殺したかった? 「したかった」?」

百目鬼の言っていた「楽しいと思ってはいけないこと」という言葉が頭に浮かぶ。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/06(月) 21:13:29.87 ID:eTDjWCeIO
四月一日(じゃあ、言峰さんは)

遥「・・・時間のようだね」

百目鬼の祖父がそう言うと同時に、石造りの部屋がゆがむ。夢が終わる兆候だった。

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/06(月) 21:20:29.01 ID:eTDjWCeIO
【ミセ】

侑子「ーーーで、そんな夢を見たと」

四月一日「はい」

縁側でかき氷を食べている侑子さんと会話する。

四月一日「俺、思ったんです。言峰さんは「何も楽しいと思えない人」じゃなくて、本当は「楽しいと思ってはいけないことが楽しいと思う人」何じゃないかって」

侑子「ほぼあってるわね」

四月一日「じゃあ」

侑子「四月一日、楽しいと思ってはいけないことってどんなことだと思う?」

侑子さんは尋ねてきた。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/06(月) 21:36:25.65 ID:eTDjWCeIO
四月一日「えっ・・・んーと、他人の苦しんでいる姿とか殺人とか」

侑子「そうね。それは確かに楽しいと思ってはいけないことでしょうし、進んでやってもいけないことでしょう。どんな大義名分をつけようと、どんな世界だろうとそれはかわらない」

四月一日「・・・それだけですか?」

侑子「言ってしまえばそれだけね。だからこそ彼は選択しなければならない。この先どうしていくのかを」

四月一日「・・・・・・」

沈黙が続く。
しばらくそれが続いたあと、入り口の方から足音が聞こえてきた。

侑子「どうやら来たようね」

すくりと侑子さんが立ち上がる。
足音がした方に目を向ければ、ここまで急いで走ってきたのだろうか、息を荒げた様子の言峰綺礼が立っていた。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/06(月) 21:38:19.52 ID:eTDjWCeIO
短いですが、今回の投下は終わりです。
次あたりで完結します。
もしかしたら龍之介編とかも書くかもしれないです。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 21:39:15.15 ID:4U2UbA9fo

願いを叶えたら大変な事になるお客さんばっかりだな
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/06(月) 21:41:04.47 ID:FGUVk85v0

士郎編とか、アルトリア編も見たいな
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 22:27:10.93 ID:Jg+XiYexo
なんだろう侑子さんが居るのに違和感を覚えてしまうwww
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 22:12:44.56 ID:7byjdsi80
投下します。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 22:15:06.41 ID:7byjdsi80

【ミセ】

四月一日「あの」

言峰さん、と声をかけようとしたが、彼はそれを言い終わる前に目の前を通り過ぎて侑子だんに巾着を押し付けた。

言峰「これは返す」

侑子「・・・・・・」

侑子さんは受け取らない。じっと目をそらさず言峰を見つめている様子は、なぜなのかと理由を聞いているようだった。

言峰「妻の夢を見た。あれが死ぬ夢だ」

言峰は焦った声で言う。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 22:15:54.19 ID:7byjdsi80

言峰「もういい、これ以上はいい」

侑子「本当に?」

言峰「・・・・・・」

侑子「知るということはそのあとどうするかを決めるということよ。あなたは停滞している」

侑子さんは一歩言峰に近寄った。

侑子「停滞と変化、どちらを選ぶべきとは言わないわ。このままなにも考えず楽な生き方をしても構わない。けれど知りたいと願うのなら結果から目を逸らしてはいけない。」

言峰「・・・私は」

侑子「その後どうするかはあなた次第。辛いことかもしれない、綺麗なものばかりではないかもしれない、望んだ通りのものではないかもしれない。それでも知ると決断することが、本当に変わるということ。・・・あなたは答えを知りたいと望むのかしら?」

言峰「・・・・・・」
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 22:17:08.37 ID:7byjdsi80

侑子さんは聞いた。言峰は喋らない。何か思い出しているのかもしれなかった。
たっぷり1分は沈黙したあと言峰綺礼は答えた。

言峰「・・・ああ、私は知りたい。自分がどういう者なのか、その答えがほしい」

侑子「そう」

侑子さんはその返答を聞くと微笑む。今までのものとは違い、ほんの少しだけれど感情のこもった笑顔だった。

侑子「それじゃあ決断しなさい」

言峰は身を翻す。

侑子「「さようなら」」

言峰は去って行った。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 22:30:34.03 ID:7byjdsi80
四月一日「あの人は、どうするんでしょうか」

侑子「それは彼にしかわからないことよ。でもまあ、今夜ですべて決まるでしょうね」

四月一日「・・・・・・俺には何かできませんか」

侑子「ないわね。あの問題はほかでもない自分自身から発生した問題。出会って間もない四月一日には立ち入ることは難しい領域よ」

侑子さんはきっぱりと言い切った。それでも。それでも何もしないではいれなかった。

侑子「何かしたい、って顔してるわね」

四月一日「俺にできることなら」

即座にそう言う。

侑子「お人よしね、四月一日も。大したことはできないでしょうけど助言をしてあげるわ。
見届けなさい。言峰綺礼という人間の結末を」

四月一日「・・・・・・それだけですか?」

侑子「ええ、それだけよ。けれど誰かに知られているということは大したことに見えなさそうで、とても大切なことだから」

四月一日「・・・・・・」

侑子「実行するかどうかは四月一日が決めなさい」

四月一日「はい」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 22:32:45.29 ID:7byjdsi80
侑子「ちなみにこの助言の分は、バイト代に上乗せしとくからねー」

四月一日「・・・・・・やっぱりですか!」

侑子さんは侑子さんだった。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 22:40:40.16 ID:7byjdsi80
【???】

四月一日「・・・・・・」

ゆっくりと目を開く。石造りの狭い部屋だった。昨夜の夢と何一つ変わらない。

四月一日「見届ける、か」

ベッドのある部屋の隅に目を向けると、寝転んでいる白い女と言峰さんがいた。

先に口を開いたのは言峰の方だった。
何の感情もこもっていない、報告書を読み上げるような声で「私にはおまえを愛せなかった」と告げた。

四月一日(昨日といっしょなのか?)

女は言峰の言葉を微笑みながら聞いていた。そして。

「――いいえ。貴方は私を愛しています」

ここも変わらない。そして女は微笑みながら自害する。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 22:43:37.43 ID:7byjdsi80

?「えっ・・・・・・」


いや違う。

女は自害しなかった。

        ・・・・・・・・
正確に言うならば自害できなかった。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 22:54:15.85 ID:7byjdsi80
ほかならぬ言峰綺礼が自害しようとしていた女の腕をつかんで止めていた。

?「あなた」

女は驚いた顔をしたが、少しすると嬉しそうに顔をほころばせた。
言峰の顔を見ると、はっきりと笑っている口元が見えた。

言峰「自害などするな」

?「・・・・・・はい」

女は再び嬉しそうに笑う。言峰が自害を止めてくれたのがうれしかったのか、初めて笑っている姿を見れたのがうれしかったのかはわからない。

四月一日(言峰さんは、この結末をえらんだのか)

笑う言峰、幸せそうな女。拍子抜けしてしまうほど簡単に誰が見てもハッピーエンドであろうこの結末になった。
四月一日も思わず笑顔を浮かべた。

50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/10(金) 22:55:40.03 ID:NEP84vvto
しかしキレイキレイの性癖だと…
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 22:58:49.76 ID:7byjdsi80



言峰「−−−私はお前をもっと■■■■めたいと、もっと■■■■姿が見たいと、そう思っているのだから」


言峰綺礼は笑っていた。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/10(金) 23:00:20.14 ID:YYvwRnzo0
確かこの人妻を自分でコロコロしたいって言ってたな
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 23:06:36.70 ID:7byjdsi80
それはあまりにも自然な動きで、一瞬なにが起こったのかわからなかった。
女の腕をつかんでいた言峰の右腕は女の首へと移動する。

?「あな、た」

ゆっくりとゆっくりと、締め付けは強くなっていった。
片手のみとはいえ、死にかけの女と現役の代行者では比べるのもばからしいほどの力の差があった。
酸素が足りなくなってきたのか、女は魚のように口を開け閉めする。

?「あ、あ、ああ・・・」

言峰「そうか、お前はそんな顔もするのか」

言峰綺礼は笑っていた。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 23:16:21.20 ID:7byjdsi80
四月一日「あ、ああああ!!!」

人が今目の前で殺されている。加害者は心底愛おしいものを見る目を、被害者はそれでもすべてを真摯に受け止める目をしていた。

言峰の左腕が女の気持ちばかりの服へと延びる。包帯を乱雑に引きちぎったせいか、か弱い女の腕はおかしな方向に曲がったが、そんなことにはかまわず服を剥いでいく。

四月一日(そんな、そんな、これは)

これ以上見ていられなかった。予想はおそらくあたっているだろう。言峰は思いつく限りの方法で女を辱め、貶め、その醜い姿をアイスルつもりなのだと。

四月一日「うっ・・・はぁ、はぁ・・・」

吐き気がする。これ以上見ていられなかった。

言峰綺礼は笑っていた。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 23:25:26.93 ID:7byjdsi80
『見届けなさい。言峰綺礼という人間の結末を』

ふと侑子さんの言葉が頭に浮かんだ。

四月一日(・・・・・・そうだ、見なきゃ。俺が見届けるって決めたんだから。逃げちゃだめだ!)

室内に悪意が充満する。感情的な意味と、生理的な意味の二重の意味で逃げ出したくなったが、ぐっとこらえる。
なぜなら見届けなければいけないのだから。

言峰の行為は徐々にエスカレートしていった。当然死にかけの女にそんな扱いが耐えられるはずがない、ほどなくして女は息絶えたが、言峰の行為は終わらなかった。
女が死んでからも言峰はできる限りの方法で辱め、貶めていった。

言峰綺礼は笑っていた。

四月一日君尋はそれを黙って見届けた。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 23:39:57.28 ID:7byjdsi80
どのくらい時間が経っただろうか。一晩なんてものではない、とてもとても長い時が過ぎたような気がした。

言峰「・・・・・・ははは」

今までやむことのなかった暴力がついに止まった。言峰のあしもとにあるそれが「女」であったなど、今や言峰と四月一日ぐらいにしかわからないだろう。

言峰「ははははは、はははっ、ははははは!! なんだ、なんなのだ私は! 私の今までの人生はいったいなんだったというのだ!!」

言峰は気が狂ったように笑い続けた。その顔は、絶望しているようにも、歓喜しているようにも見えた。

言峰「確かに、辛いことで、綺麗なものではなく、望んだ通りのものでもなかったよ。これが私か。これが答えだとでもいうのか!」

言峰は女の血に染まった手をゆっくりと自身の首へと動かしていった。

言峰「ーーーああ、私は罰を願うことさえおこがましい」

ごきりとにぶい嫌な音がした。
言峰綺礼は最大の禁忌をである自殺を選んだのだ。
それはあまりにもあっけなかった。

言峰綺礼は笑っていた。

四月一日君尋はそのすべてを見届けた。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 23:42:06.90 ID:7byjdsi80
朝起きると、テレビでは近所の教会の神父が変死したと報道されていた。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/10(金) 23:52:30.83 ID:7byjdsi80
【ミセ】

侑子「そう。彼はそう決めたのね。あの夢は限りなく現実に近かったから、どちらでも死んでしまったんでしょうね」

四月一日「・・・・・・侑子さんはこの結末を知ってたんですか」

侑子「どうしてそうおもうのかしら」

四月一日「昨日だけ、「またね」じゃなくて「さようなら」って言ってましたから」

侑子「まあ、こうなるだろうとは思ってたわね」

後味が悪いなんてものではなかった。
どこまでも美しく行きたかった聖職者は、どうあがいてもそうはなれないとこの世に生まれ落ちた瞬間から決められていたのだ。
美しく生きようと願い、己の本質にふたをして、それでも虚無に耐えられず答えを知りたいと願い、己を呪ったまま死んでいった。

四月一日「あの人は、なんのために生まれたんですか・・・っ!? これじゃあまるで絶望するためだけに生まれたみたいじゃないですか!」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/08/10(金) 23:53:59.05 ID:EHmoPmuAO
これで世界が少し平和になったな!
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/10(金) 23:58:38.01 ID:NEP84vvto
愉悦を楽しむ汚い神父は、生まれる事無く消えたんだな…
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/11(土) 00:03:46.17 ID:z1RQmLXc0
侑子「何のために生まれたかもわからない人なんて世の中にはいくらでもいるわ。戦争に巻き込まれて死んだ一般人。ずっと病気で寝たきりの病人。そして誕生すらかなわなかった胎児なんかもね」

四月一日「でも!!」

侑子さんはすっと何かを差し出してきた。

四月一日「十字架・・・?」

侑子「前髪の対価よ」

シンプルなデザインのその十字架は、間違いなく言峰が対価として差し出したものだった。

侑子「確かに彼は何もなさなかったかもしれない。けれどその存在を知る者がいるなら少しは変わる」

十字架を受け取り、握りしめた。

侑子「彼がここに来たのも、四月一日が見届けると決断したのも必然だったんでしょうね」

四月一日「・・・・・・そうでしょうか」

侑子「ええそうよ」

62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/11(土) 00:10:02.63 ID:z1RQmLXc0
これは数ある客のなかのたった一人の男の話だった。

この先彼が生きていたところで、いつかは犯罪や悪徳を行っていただろうことは俺にも容易に予測できた。
それでも彼が望まれない命だったなんて思いたくはなかった。
無意識に自分自身を重ねていたのかもしれない。

俺はそれ以来この十字架を持っている。
俺が最期を見届けた唯一のものだったから。

63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/08/11(土) 00:12:57.26 ID:z1RQmLXc0
おしまいです。

4次言峰はちょっとやそっとじゃ愉悦覚醒しないよね! という考えのもと書きました。原作の覚醒はギルガメッシュの謎の優しい愉悦講座による賜物だと思うのです。

というかみんな外道神父に厳しすぎワロタwwwwww
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/11(土) 00:16:10.31 ID:ATWYAEgHo

孤独のマーボーに救いの手を…差し出すのはAUOくらいなんだよな。
何とも難儀なオッサンだ。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/11(土) 00:20:30.89 ID:z1RQmLXc0
続編書こうかと思うんですけど、出してほしい客の安価。できればfateキャラで
>>67
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/08/11(土) 00:20:51.42 ID:GjyJFyiAO
>>63
愛故の厳しさだよ
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/08/11(土) 00:21:38.60 ID:GjyJFyiAO
龍ちゃん
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/11(土) 00:23:50.67 ID:z1RQmLXc0
>>67
了解です。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/08/11(土) 00:30:36.22 ID:u8DtIBnyo
龍之介…
こやつもデッドエンドしそう
ハッピーになればいいな
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/11(土) 00:34:14.05 ID:ATWYAEgHo
龍ちゃんの本当に欲しい物を見つける事が出来たら…まぁある意味ではハッピーENDだろう。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/11(土) 11:13:14.27 ID:pMjrFePIO
龍ちゃんも根っこからぶっ壊れてるパターンだからな……
72 :1 :2012/08/13(月) 17:14:08.27 ID:+uTnD+eC0
投下します。
73 :1 :2012/08/13(月) 17:16:31.00 ID:+uTnD+eC0
【ミセ】

四月一日「まずいな、ずいぶん遅くなっちまたぞ」

夜道を急いで走る。
今日はひまわりちゃんのために書類整理を手伝っていたためにミセに行くのがずいぶん遅れてしまった。
しかもうっかりして連絡をし忘れてしまったのだ。
侑子さんもモコナも常識はずれのザルである。勝手に焼酎を何本飲んでいても驚かない。

四月一日「えっと、すみません侑子さ・・・・・・ん? 誰だ、あれ」

店の奥の庭には3つの人影が見えた。1つは言わずもがな侑子さんであるが、残りの2人は客なのだろうか?
74 :1 :2012/08/13(月) 17:17:13.37 ID:+uTnD+eC0

?「        」

侑子「ええ    なら    を   」

?「   」

侑子「      そう」


ここからでは距離が遠すぎて上手く声が聞き取れなかった。
ゆっくりと近づく。

侑子「−−−あなたの願い、かなえましょう」

侑子さんがそう言うのが聞こえた。
75 :1 :2012/08/13(月) 17:18:42.54 ID:+uTnD+eC0

?「ん? キミここの人?」

四月一日「はいそうですけど」

客の男が声をかけてきた。

?「なんかあんまし意味わかんなかったんだけどどういうことなワケ? 宗教かなにか?」

四月一日「えーっと、あまり深く考えなくてもいいと思いますよ。・・・・・・でもやっぱりうさんくさいよなここのミセって」ボソッ

侑子「四月一日、外まで案内してあげて」

四月一日「はい、わかりました」

?「ん、案内してくれるの?」

四月一日「こちらへどうぞ」

?「うっす」

とりあえずは侑子さんに頼まれた通り2人を玄関まで案内した。
76 :1 :2012/08/13(月) 17:20:01.87 ID:+uTnD+eC0
四月一日「ふう。さっきの人たちはお客さんですか?」

侑子「ほぼあってるけど、すこしだけ違うわね」

先ほど案内したばかりの2人について質問することにしたが、はっきりとした返事はもらえなかった。侑子さんは夜食のブルーハワイのかき氷を食べながらはぐらかすけだった。

侑子「バイト代上乗せでなら教えてあげないこともないんだけど」

四月一日「やっぱりいいです!」デスヨネー!!

侑子「あははー、四月一日変な動きー」
77 :1 :2012/08/13(月) 17:27:24.06 ID:+uTnD+eC0
ーーー次の日
【学校】放課後

ひまわり「へえ、お客さんがきたんだ。二人セットでなんて珍しいね」

四月一日「まあミセに来るお客さんは大体変わった人ばっかりなんだけど」

ひまわり「どんなお客さんだったの?」

四月一日「えっと、けっこう若かったかな。20代前半の男女の2人組だったよ」

ひまわり「ふーんそうなんだ!」

そういいながらうなずくひまわりちゃん。今日も変わらずものすごくかわいい。まさに天使だ。

ひまわり「あっ、もうこんな時間。帰らなきゃ」

四月一日「あれ、今日ピアノ教室だったの?」

ひまわり「それもそうなんだけど、最近このあたりに出没してる殺人鬼にあったらあぶないから、お母さんとお父さんに早く帰りなさいって言われてるの」
78 :1 :2012/08/13(月) 17:37:08.91 ID:+uTnD+eC0
もっと四月一日くんとお話ししたかったんだけど、とひまわりちゃんは残念そうに言った。

四月一日(ひまわりちゃんが、ひまわりちゃんが俺ともっとお話ししたかったって! ああもうかわいいよひまわりちゃーん!)ワーイワーイ

ひまわり(四月一日君面白い動きしてるなあ)

こんな状況で素直に見送る? ありえない。こんな状況だからこそ、いいところを見せなければ!

四月一日「じゃあ俺がひまわりちゃんの家まで送ってくよ! 一人だと危ないし」

ひまわり「えっ」

ひまわりちゃんは驚いた顔をする。

ひまわり「でも迷惑じゃないかな」

四月一日「そんなことないよ! ひまわりちゃんが襲われたりしたらそっちのほうが大変だし!」

ひまわり「・・・・・・」 
79 :1 :2012/08/13(月) 17:45:15.16 ID:+uTnD+eC0
しばらく考えた様子を見せた後、ひまわりちゃんはにっこり笑った。

ひまわり「じゃあお願いしちゃおうかな」

四月一日「うん! 任せてよ!」

ひまわりちゃんに頼られた。それだけで嬉しさのあまり昇天しそうだ。
おまけに今日は百目鬼という名のお邪魔虫も部活でいない。つまり二人きりなのだ。

ひまわり「四月一日くんってかっこいいね。ありがとう、実をいうとちょっと怖かったんだ」

四月一日(ひまわりちゃんが俺のことかっこいいって!)「いつでもまかせてよ! ひまわりちゃんと帰れたら俺も嬉しいし」

ひまわりちゃんと一緒に下校。おまけにナイトの仕事つき。
ひまわりちゃんは俺が守るんだと意気込みながら、ルンルン気分で学校を出た。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/13(月) 17:49:20.17 ID:m2pHy30+0
女性はお姉ちゃんかな
81 :1 :2012/08/13(月) 17:54:46.58 ID:+uTnD+eC0
【帰り道】

ひまわり「それでね、お母さんったらその日以来すっかりねぶた祭りファンになっちゃって」

四月一日(ねぶた祭・・・)「ははは、そうなんだ! ん・・・あの人は」

ひまわり「四月一日君どうしたの?」

四月一日「いや、あの人って確か」

前方にいる二人組には見覚えがあった。ちょうど昨日の夜にミセに来ていたお客さんだ。

?「ん、誰あんた」

?「もう、そんな言い方したらダメでしょ! 昨日の人でしょ!」

四月一日「昨夜のミセでバイトしているものです」

?「あー、そういえばいたような」

?「そうじゃなくてまずはあいさつでしょ!? もう、この子は・・・」

青年と女性はずいぶん仲がよさそうだった。
82 :1 :2012/08/13(月) 18:02:36.62 ID:+uTnD+eC0
ひまわり「私は四月一日君の同級生の九軒ひまわりっていいます」

龍之介「・・・へえ、かわいいね。俺雨生龍之介」

四月一日「俺は四月一日君尋っていいます」

龍之介「あっそう」

四月一日(なんか落差ひどくないか!?)

雨生「こら、出会いがしらの女の子をくどいちゃダメじゃない。私はこの子のお姉ちゃんだよ」

どうやら男女は姉弟だったようだ。
全体的に無気力な雰囲気の弟と、いちいち注意するしっかり者の姉。似ていなさそうで、外見がどことなく似ていた。


83 :1 :2012/08/13(月) 18:10:52.08 ID:+uTnD+eC0
龍之介「・・・うん、にしてもいいな」

龍之介がひまわりちゃんをじっと見つめながらいう。

四月一日「なっ、ひまわりちゃんは確かにかわいいですけど、いくらなんでも・・・・・・」

龍之介「なに、あんた彼女の彼氏か何かなの?」

四月一日「かっ、彼氏!?」アワアワ

雨生「・・・ふむ、純情少年はなかなかいいね」

ひまわり「四月一日君はお友達だよ?」

龍之介「だったらいいじゃん」

四月一日「もうやだこの人たち!」

この姉弟、なかなか強者である。
あと何気にひまわりちゃんに盛大に振られてしまい涙が止まらなかった。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/13(月) 18:13:13.85 ID:T9N2yKFd0
ひまわりちゃん逃げて!
殺される!
85 :1 :2012/08/13(月) 18:17:19.95 ID:+uTnD+eC0
龍之介「じゃあ、俺バイトだから」

くるりと龍之介は身をひるがえして帰っていく。
姉のほうもあわててついて行った。

ひまわり「さようならー」

雨生「さよなら、純情少年!」

四月一日「俺純情少年じゃないですからね!?」

龍之介「何言ってんだよあんた」

四月一日「ひどくないですか!?」

言いたいことだけいうと、姉弟は本当に去って行ってしまった。

86 :1 :2012/08/13(月) 18:24:21.37 ID:+uTnD+eC0
ひまわり「おもしろい人だったねー」

四月一日「なっ、もしかしてひまわりちゃんあんな男が好みだったりするの・・・?」

ひまわり「? かっこいいとは思うよ?」

四月一日「そ、そんな・・・・・・・」ガックリ

地面に膝をつき、うなだれる。とてつもない敗北感だった。

四月一日(顔か、やっぱり顔なのか!? ちょっとちゃらくてミステリアスなイケメンが女の子は好みなのか!?)

ひまわり「四月一日君?」

四月一日「あ、大丈夫だよ!」

そろそろ暗くなってきていた。
まずは早めにひまわりちゃんを家まで送り届けるとしよう。
殺人鬼に狙われたら大変だ。

87 :1 :2012/08/13(月) 18:30:19.57 ID:+uTnD+eC0
【ミセ】

四月一日「はあ・・・」

侑子「どうしたのよ四月一日、ため息なんかはいちゃって」

モコナ「元気出せよー」ピョッコリ

四月一日「いえ、実は今日ひまわりちゃんと」

侑子「フラれたのー?」

四月一日「」グサッ

侑子さんの言葉が傷口にクリーンヒットした。

モコナ「もしかしてあたりか? やーい四月一日フラれたー!」

四月一日「う、うるさい! フラれたわけじゃない! フラれたわけじゃ・・・うん、フラれたんじゃないはずだ。たぶん」

侑子「ふふふ、話してみなさい」

モコナ「話せ話せー!」

四月一日「おいモコナ! 顔に張り付くな!」

二人の押しに負けて、事情を話すことにした。
88 :1 :2012/08/13(月) 18:31:46.24 ID:+uTnD+eC0
今回はここまででです。
ひまわりちゃん逃げてー。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/13(月) 18:34:13.79 ID:T9N2yKFd0

龍ちゃんもある意味言峰と同類だよな
好きな人を自分の手で殺して初めて愛情を表現出来るみたいな
90 :1 [sage]:2012/08/13(月) 18:46:05.62 ID:+uTnD+eC0
雨生姉弟の書きわけ分かりにくいかもしれないので、次回から「龍之介」と「姉」と書きます。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/13(月) 18:47:10.68 ID:3WQkO9Kw0
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/13(月) 18:51:18.94 ID:fzni5UyNo

93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/08/13(月) 20:25:41.34 ID:JJwXjKtAO

寧ろこの場合逃げなきゃいけないのは龍ちゃんかもしれん
94 :1 :2012/08/16(木) 15:39:11.02 ID:9YhpwXvG0
投下します。
95 :1 :2012/08/16(木) 15:40:38.41 ID:9YhpwXvG0


すべての事情を話し終えると、侑子さんとモコナは顔を見合わせて爆笑しだした。

侑子「ふーん、そりゃああの子かっこいいもんねー」

モコナ「俗にいうイケメンだったしな」

侑子「たいていの女の子は四月一日みたいなのよりもー、
   茶髪で、女の子にやさしくて、ミステリアスな雰囲気を漂わしてる人のほうがいいわよねー」

四月一日「わかってます・・・わかってますよそのくらい!」

開き直ってみたはいいが、それでも侑子さんとモコナの笑い声は止まらない。
このノリは辛い、辛すぎる。
96 :1 :2012/08/16(木) 15:41:51.76 ID:9YhpwXvG0

四月一日「・・・そういえばあの人たちの願いってなんなんですか?」

辛い雰囲気をどうにか壊そうと、前々から気になっていた質問をこのタイミングで聞いた。

侑子「あら、気になるかしら」

侑子さんは笑い泣きのせいで目にたまった涙を拭きながら答える。

四月一日「・・・まあ。なにか思いつめた様子でもなかったですし」

ポケットの中に手を入れて十字架を握る。
今までの客や、この十字架のもともとの持ち主のような「悩んでいる者特有の雰囲気」を姉弟はもっていないように思えたのだ。

四月一日「姉のほうはちょっとおせっかいで元気な人で悩み事なんて無いように見えましたし、
     弟のほうは弟のほうで無気力というかそこまで強い意志や願いを持つようには見えませんでした」

正直な感想を述べる。
97 :1 :2012/08/16(木) 15:42:59.44 ID:9YhpwXvG0
侑子「まああの子たちはちょっと変わってはいるわね。欠けているともいうけど。」

四月一日「欠けている?」

そこまでおかしいようには感じなかったが、何かあるのだろうか。

侑子「そうね・・・「不幸」にも四月一日はもう関わってしまったのだから、教えておくべきかもしれないわね」

四月一日「不幸にもって、それはいくらなんでも・・・」

侑子「いつもはあの子たちに会った道は使ってないんでしょう?」

四月一日「まあ」
98 :1 :2012/08/16(木) 15:44:50.71 ID:9YhpwXvG0

確かに今日は、
たまたま殺人鬼がこのあたりに潜んでいて、
たまたま百目鬼が部活で遅くなって、
たまたま俺もひまわりちゃんも放課後に一緒に帰れて、
たまたまひまわりちゃんの警護をすることになって
たまたま俺があの姉弟を発見したから出会ったわけだ。

偶然が重なっているという点では使い方はあっているのかもしれないが、不幸は言いすぎではないだろうか。

侑子「つまりひまわりちゃんがいなければ会うこともなかったのね」

四月一日「・・・どういう意味ですかそれ」
99 :1 :2012/08/16(木) 15:45:50.45 ID:9YhpwXvG0


侑子「弟くんにひまわりちゃんを口説かれちゃったのに?」

四月一日「前言撤回不幸な出来事だったです!!」

侑子「はははー」

モコナ「四月一日態度変えるの早いぞ!」

四月一日「いいんだよ! おいこらモコナ、顔に張り付くんじゃねー!」

飛びついてきたモコナをはがそうともがく。

侑子「・・・まあ、これも自分で気づかないとね」ボソッ

四月一日「ん、何か言いました?」

侑子「いえ。じゃ、続けましょう」

どうやら空耳だったようだ。
モコナを引きはがすことに無事成功したので、改めて侑子さんの話を聞く体勢に入った。
100 :1 :2012/08/16(木) 15:47:22.84 ID:9YhpwXvG0

一拍おいてから、侑子さんは話しだした。

侑子「ーーーあの子の願いは「殺人」にまつわること」

四月一日「え・・・?」

殺人。つまり誰かを[ピーーー]ということ。
それがあの姉弟の願いなのだろうか。
しっかり者の姉と無気力で女好きの弟のある意味ほほえましいやり取りからはとても想像できない願いだった。

四月一日「殺人なんてそんなこと」

侑子「そう、それはとても重いこと。−−−潰れちゃうくらいにね」
101 :1 [saga]:2012/08/16(木) 15:48:15.91 ID:9YhpwXvG0
↑訂正版


一拍おいてから、侑子さんは話しだした。

侑子「ーーーあの子の願いは「殺人」にまつわること」

四月一日「え・・・?」

殺人。つまり誰かを[ピーーー]ということ。
それがあの姉弟の願いなのだろうか。
しっかり者の姉と無気力で女好きの弟のある意味ほほえましいやり取りからはとても想像できない願いだった。

四月一日「殺人なんてそんなこと」

侑子「そう、それはとても重いこと。−−−潰れちゃうくらいにね」
102 :1 :2012/08/16(木) 15:50:34.28 ID:9YhpwXvG0
四月一日「だったら!」

殺しの願いが潰れてしまうほど重いということぐらい俺でもわかった。
ならば止めるべきなのではないだろうか?

侑子「そのあたりの話はもう終わっているのよ。どんな代償を払おうとかなえたい願いがあって、そしてその覚悟もできているんだから」

だからと言って止めない理由にはならないと思った。

侑子「四月一日」

侑子さんは俺の方に手を伸ばしてくる。

侑子「気をつけなさい。巻き込まれないように」

四月一日「・・・それは「殺人」の願いにですか?」

侑子「ええ」

侑子さんの目はとてもまじめで冗談を言っている風には見えないし、今までも侑子さんはこの手の冗談をついたことがない。
この忠告はしっかりと心に刻むことにした。
103 :1 :2012/08/16(木) 15:51:15.22 ID:9YhpwXvG0

侑子「さて! 今日はハンバーグが食べたいなー!」

モコナ「中にチーズが入ってるやつだぞ!」

四月一日「また急ですね! なんも材料買ってないっすよ!?」

侑子「いいわよー、いくらでも待ってあげるから」

四月一日「結局作るのは決定事項なんですね! わかりました今から買い物に行ってきますよ!」

侑子/モコナ「「いってらっしゃーい」」

この時間からだと急がなくて取り掛からなくてはいけないだろう。
頭を切り替えて夕食に集中することにした。
104 :1 :2012/08/16(木) 16:01:04.15 ID:9YhpwXvG0
ーーー翌朝
【通学路】

四月一日「まずいまずい遅刻はさすがにだめだ!」

急いで通学路を駆け抜ける。
自宅からなら問題ない時間だが、侑子さんのミセからだと少し危ない時間だった。

四月一日「うっかりしてたな。今度からミセに自転車おいてもらおうかな」

・・・バイト代が上乗せさせられそうな予感しかしない。やっぱりやめておこう。

四月一日「あれ、そういえばルーズリーフ切らしてたっけ」

昨日の授業でちょうど最後の一枚を使ってしまっていたことを思い出す。

四月一日「コンビニだと高いんだけど、仕方ないか・・・」

背に腹は代えられない。横断歩道を渡ったところにあるコンビニへと急いだ。
105 :1 :2012/08/16(木) 16:12:25.87 ID:9YhpwXvG0


【コンビニ】

四月一日「えっと、B5は・・・」

?「これじゃないかな」

四月一日「うわあ! ・・・てあなたは」

姉「おはよう、純情少年!」

B5のルーズリーフを指差したのは、姉弟の姉のほうだった。

姉「勉強かな? 偉いねー」

四月一日「お姉さんは学生じゃないんですか?」

どう見ても高校生、高く見積もって大学生程度にしか見えないが、社会人だったのだろか。
106 :1 :2012/08/16(木) 16:13:47.51 ID:9YhpwXvG0

姉「もう、嬉しいこと言ってくれるなあ。龍ちゃんにも見習ってほしいよ」

そういいながらレジのほうを見た姉の目線につられてそっちを見た。

四月一日「・・・弟さん?」

姉「うん、ここ龍ちゃんのバイト先なんだ」

・・・いくらなんでも弟のバイト先に押し掛ける姉というのはどうなのであろうか。
常識的にありえない。もしかしたらとんでもないブラコンなのかもしれない。

四月一日(でも、こうやって会って話せば話すほど「殺人」なんて危なっかしい願いを持ってそうには見えないよな)

だとしたら願ったのは弟のほうだろうか。
しかしそれだと姉がミセに来た理由がよくわからなくなる。
107 :1 :2012/08/16(木) 16:18:39.04 ID:9YhpwXvG0

四月一日(まさか弟がミセに行ったからついてきたなんて理由だったりして・・・)

姉「純情少年、時間は大丈夫なの? その制服のところの学校って、ここから10分はかかったよね?」

四月一日「あと7分!?」

時計を見ると針は8時23分をさしていた。まずい。

四月一日「すみません急ぎます!」

姉「お気をつけてー」

弟のほうがいるレジに向かったが、弟のほうは俺に気づいた様子は見せなかった。
昨日にまして目が死んでいる。

四月一日(・・・女の子はこんなのがいいのかよ)

この弟といい、百目鬼といい、もてる男の基準というものに喧嘩を売りたくなってくる。

龍之介「りがとーございしたー」

四月一日(挨拶ぐらいちゃんと言えよ!)

と、まあこんなところで時間を消費するわけにもいかない。
学校に急いでいかなければ。
ショートホームルームまであと5分を切っていた。
108 :1 :2012/08/16(木) 16:24:00.69 ID:9YhpwXvG0
ーーー昼休み
【学校】

四月一日「行こうひまわりちゃん!」

ひまわり「うん!」

相変わらずひまわりちゃんはとてもかわいい。
幸運なことに今日も百目鬼は用事でいない。
テンションはうなぎのぼりだ。

とりとめのない会話をしながら歩いていく。

四月一日(そういえば、昨日の侑子さんの話をひまわりちゃんにも言っておいたほうがいいのかな)

姉弟の願いが「殺人」にまつわるものだということをだ。
特にひまわりちゃんは弟のほうに気に入られていたようだし、今後関わっていく可能性も高い。
知らせておくべきだろう。
109 :1 :2012/08/16(木) 16:31:28.16 ID:9YhpwXvG0


四月一日(断じてあの弟とひまわりちゃんが仲良くしているところを見たくないからじゃない、うん)

まあ理由の半分である本音はこんなものだがまあいいと思う。

ひまわり「四月一日君どうしたの?」

四月一日「いや、なんでもないよ! それよりも話しておきたいことがあって」

ひまわり「何?」

四月一日「昨日にあった姉弟のことなんだけど」

ところが、なぜかひまわりちゃんは首をかしげた。

四月一日「あれ、覚えてない?」

ひまわり「それって龍之介さんのこと?」

四月一日「まあ。一応今朝も二人に会ったんだけどね」
110 :1 :2012/08/16(木) 16:33:45.57 ID:9YhpwXvG0


ひまわり「二人?」

四月一日「うん、コンビニで弟さんのほうがバイトしてたみたいで、お姉さんのほうとも話したんだ」

ひまわり「龍之介さんにお姉さんがいるの?」

どういうことだろうか。どうも話が噛み合わない。

四月一日「ほら、龍之介さんと一緒にいた長髪の女の人だよ。俺のことからかってきた」

ひまわりちゃんは不思議そうな顔をしたままだ。
111 :1 :2012/08/16(木) 16:34:27.53 ID:9YhpwXvG0



ひまわり「ーーー昨日会ったのは龍之介さん一人だけだよ?」
112 :1 :2012/08/16(木) 16:39:17.72 ID:9YhpwXvG0
四月一日「えっ」

ひまわりちゃんが昨日会ったのは弟の方だけ?

四月一日(じゃあ、あのお姉さんは)

ひまわりちゃんに見えなくて俺に見えるもの。
ミセに二人一緒に来ていたのも、昨日姉弟一緒にいるときに会ったのも、弟のバイト先にいたのも、
すべて一緒にいたのではなく、一緒にいることしかできなかったのかもしれない。

四月一日(お姉さんは、あの弟にーーー)

113 :1 [sage]:2012/08/16(木) 16:40:48.77 ID:9YhpwXvG0
今日の投下はこれで終わりです。

・・・ところで赤字になっている部分ってどうやったらきちんと表示されるんでしょうか。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/16(木) 16:44:46.33 ID:bBf/2ZC2o
>>113
メール欄にsagaっていれればいいんだよー
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/08/16(木) 16:44:53.18 ID:hFK03N+AO
おつー

確かsagaってつけるんじゃなかったっけか
116 :1 [sage]:2012/08/16(木) 16:46:35.02 ID:9YhpwXvG0
>>101
この訂正版でsagaと入れたんですけど赤字のままで…
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/16(木) 16:58:38.62 ID:bBf/2ZC2o
>>116
半角小文字で名前欄ではなくメール欄ですよー
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/16(木) 17:05:07.57 ID:/35luKmDO
乙〜
龍ちゃんの目がますます死んでるってのは何かのフラグかね?
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/16(木) 17:11:18.84 ID:JIWDTgQDo

ZEROは殆どの登場人物が歪みを抱えているからミセ向きな人材の宝庫だよな…
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/08/17(金) 00:43:28.82 ID:8gptpd040
ヒトならざるモノかしら・・・
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) [sage]:2012/08/17(金) 01:36:36.34 ID:RzpUiPif0
喪黒さんがアップを始めました
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 01:38:09.77 ID:FU3ws8dZo
???「この世は老いも若きも男も女も、心のさみしい人ばかり、そんな皆さんの心のスキマをお埋め致します」
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/08/17(金) 19:05:43.28 ID:xGg2FiJF0
そういや確かに龍ちゃんとの会話って姉居なくても成立するし居ない方が自然だな
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 19:24:57.01 ID:ufiZhu5zo
>>85とか特にな…
125 :1 :2012/08/17(金) 21:18:18.73 ID:UsZuckHV0
投下します。たぶん龍之介編最終回。
126 :1 :2012/08/17(金) 21:21:04.96 ID:UsZuckHV0

ーーー放課後
【学校】

あのあと自分の中での情報整理で手いっぱいだったためにひまわりちゃんに姉弟の願いのことについて伝えることができなかった。
ひまわりちゃんのクラスのSHRが終わるまでの間、さらに考える。

四月一日(俺に見えて、ひまわりちゃんに見えないってことはお姉さんはすでに死んでて幽霊ってことなのか?
     それとも姉だと思い込んでるだけの全く関係ない幽霊かもしれないし、アヤカシの類なのかも・・・
     いや、アヤカシなら俺を襲ってるだろうし違うか。もしかしたら座敷童や雨童女のような尊きもの可能性も・・・)

なかなか考えがまとまらない。
可能性を上げ始めたらそれこそキリがなかった。
127 :1 :2012/08/17(金) 21:21:53.23 ID:UsZuckHV0

四月一日「いや、でも弟のことを愛称で呼んでたし、お姉さんの幽霊ってのが有力かな・・・」

ひまわり「四月一日君?」

四月一日「わあ! ひまわりちゃん? もう終わってたの?」

ひまわり「ううん、ちょうど今終わったところ」

ひまわりちゃんの笑顔を見ていると癒された。

四月一日(今考えてても仕方ないかな)

どのみちこの近所で殺人鬼がうろついているのは間違いないのだ。
今はひまわりちゃんの警護に集中しよう。

四月一日「じゃあ、今日もおくってくね」

ひまわり「うん、ありがとう四月一日君!」
128 :1 :2012/08/17(金) 21:23:19.76 ID:UsZuckHV0

【通学路】

帰り道の途中。どろりとした黒いものが裏路地から漏れ出してきているのを見つけた。

四月一日(・・・これって)

何度も見たことがある。これはよくないモノからあふれ出てくるものだ。
生理的な不快感を抱かせるような刺激臭がする。
むろん、四月一日にしか感じられない「本来見えないはずのもの」なのだが。

四月一日「うっ・・・」

あまりの吐き気に口元を手でふさぐ。
あれはアヤカシが発しているのではない。あれはヒトしか発せられないものだ。
129 :1 :2012/08/17(金) 21:24:24.04 ID:UsZuckHV0

ひまわり「四月一日くん?」

ひまわりちゃんが心配そうにのぞきこんでくる。

四月一日「うん、ちょっとめまいがしただけだから。大丈夫だよ」

ひまわりちゃんを守らなければいけないのだから、自分が倒れてどうする。
そう叱咤して体を奮い立たせた。

ヒトから発せられるよくないモノ。路地裏。徘徊する殺人鬼。

これだけヒントがそろえられていて答えが出せないほど俺は馬鹿ではない。

四月一日(この路地裏には殺人鬼がいる)

つまりそういうことだった。
130 :1 :2012/08/17(金) 21:26:38.34 ID:UsZuckHV0

四月一日(今はひまわりちゃんだっているし、避けよう)

この雰囲気は相当やばい。乗り込んだところで何の利益もないしできることもない。
だから行く必要もないのだと、良心の呵責をおさえこんだ。

四月一日「ごめんねひまわりちゃん、行こ・・・!?」

路地裏から目をそらそうとした瞬間、見知った顔が見えたようなか気がして二度見する。




ーーーいた。
131 :1 :2012/08/17(金) 21:27:10.42 ID:UsZuckHV0

姉「・・・・・・」

今朝あったばかりの姉のほうが黒いものがあふれ出ているほうへと歩いていた。

四月一日「お姉さん、そこはよくないから行っちゃだめだ!」

呼び止めようとしたが、聞こえなかったようだ。
彼女はどんどん奥へ進んでいく。

四月一日「ひまわりちゃんごめん! 先に帰ってて!」

ひまわり「四月一日君!?」

ひまわりちゃんを置いて追いかける。
見捨てることなどできなかった。
132 :1 :2012/08/17(金) 21:28:20.58 ID:UsZuckHV0

【路地裏】

四月一日「うっ・・・くそ、なんて匂いだよ」

奥へ進むほど臭気がひどくなる。
黒いものの密度も高くなり、数メートル先を見通すのも困難になってきた。

四月一日「これでもまだ俺が意識を保ってるなんてな」

百目鬼がいないこの状況。
普段ならひっくり返っていてもおかしくない。

四月一日「もしかしたらこれか?」

ポケットの中から十字架を取り出す。
これの本来の持ち主は本物の神父だったのだ。多少の退魔効果があってもおかしくはない・・・のかもしれない。
落とさないように、しっかりとポケットの奥に入れなおした。
133 :1 :2012/08/17(金) 21:28:59.37 ID:UsZuckHV0

四月一日「・・・・・・」

目前にはT路地。黒いものは左手からあふれ出ている。

四月一日(お姉さんはどこに行ったんだ)

探さなければいけない。ここはよくないものであふれている。

お姉さんは幽霊だ。
幽霊には本来人が持っている身体という殻がないため、外部からの影響を非常に受けやすいのだ。
こんなところで長居させてはいけない。

四月一日(・・・よし)

意を決して、左手をこっそり覗き込んだ。

134 :1 [saga]:2012/08/17(金) 21:30:14.20 ID:UsZuckHV0




人が殺されていた。


135 :1 [saga]:2012/08/17(金) 21:36:39.04 ID:UsZuckHV0
*グロ注意?



四月一日「・・・・・・っ!」

小さな子供が真っ赤になって死んでいた。
まだ心臓は動いているのだろうか、鼓動に合わせて動脈から鮮血が飛び散っている。
顔は見えない。

四月一日(殺人鬼、だ)

人が殺される瞬間を見たことがないわけじゃない。
だがそれとこれは話が別だった。

何しろ相手は子供なのだ。怨恨の線も、不慮の事故の線も薄い。
愉快殺人。殺人鬼の快楽のためだけにこの子供は殺されたのだ。
136 :1 [saga]:2012/08/17(金) 21:43:25.36 ID:UsZuckHV0
目をそらしたかった。
目がそらせることができなかった。

だからかもしれない。

龍之介「よお」

四月一日「!? 龍之介さん・・・!!」

後ろから誰かが近づいてくるのに気付かなかったのは。

四月一日「違います! 俺じゃなくて!!」

龍之介「そ」

龍之介はあっさりと納得した。

137 :1 [saga]:2012/08/17(金) 21:45:12.80 ID:UsZuckHV0
龍之介「そう簡単にあんな風に綺麗に殺せないしさ」

改めて子供を見る。傷口が綺麗にぱっくりと裂けていた。

四月一日「・・・よくわかりましたね」

龍之介「当たり前じゃん。俺が殺ったんだから」

四月一日「えっ」

龍之介は耐えきれないというように笑い始めた。

龍之介「はははっ! うまくできてるでしょ。苦労したんだぜ、そこまで上手くなるの」

龍之介の顔がゆがむ。
138 :1 [saga]:2012/08/17(金) 21:47:43.33 ID:UsZuckHV0
じゃあ

じゃあ

じゃあ

このあたりにいる殺人鬼の正体は。

四月一日「あなたが、殺人鬼だったんですね」

龍之介「あー、ニュースになってたんだっけ。このあたりだけで殺しすぎちゃったかなー」

あっさりと龍之介は自らが殺人鬼であると認めた。
139 :1 [saga]:2012/08/17(金) 21:55:22.33 ID:UsZuckHV0
四月一日「どうしてこんなことをしたんですか」

この子供の無残な姿や、テレビで見た遺族のインタビューを思い浮かべる。
どれも同情せずにはいられない。
だから問わずにはいられなかった。

誰にでも加虐願望は多少なりあるだろう。
しかしそれが殺人嗜好にまでなるとはっきりいって異常だ。

四月一日「なんで愉快殺人なんて非生産的なことを楽しめるんですか」

龍之介「ちょっとちょっと、何が非生産的だよ。俺はこれを生産的な活動だと思ってるけど」

龍之介は素直に不満に思ったように反論する。

四月一日「殺人が、生産的?」

意味が分からなかった。
140 :1 [saga]:2012/08/17(金) 22:06:13.19 ID:UsZuckHV0
龍之介「だいたいさ。どいつもこいつも毎日毎日くっだんねー平凡で代わり映えのない人生歩んでんだろ。
    でもさ、死ぬ瞬間だけは違うんだよ。
    一風変わった人が、死ぬ瞬間はあっけなくつまらなく死ぬことだってある。
    ふだんつまらない平凡そうなやつが、死にぎわに意外な行動をとることだってある。
    誰かを殺す瞬間だけは、普段では全く知りえないことを得ることができるんだよね。

    だからさ、俺のこの殺人はある意味生産的で意味のある儀式だと思うんだよ」

龍之介は屈託のない笑みを浮かべてそう言い切った。
そこには迷いも何もない。

龍之介「世界がこんな平凡でくそつまんねーはずがないでしょ。
    この世のどこかにはきっとオモシロオカシイことがある。
    だからさ、俺はそれを探してるわけ」

血まみれのナイフを右手に持ちながら語る。

理解ができなかった。
理解してはいけないと思った。
141 :1 [saga]:2012/08/17(金) 22:11:17.02 ID:UsZuckHV0
四月一日「一つだけ聞かせてください」

龍之介「ん?」

これだけは聞かなくてはいけない。

四月一日「あなたは、実の姉を殺したんですか」

龍之介「ああ、姉貴か。あれ、話したっけ・・・まあいいか。姉貴は・・・




ひまわり「四月一日君?」




俺のことを探しに来ていたのだろうか。
曲がり角には状況をいまいちつかめていない様子のひまわりちゃんがいた。

四月一日「なんでここに・・・!?」

龍之介の目つきが変わった。

龍之介「・・・うん。あの女で今日は最後にしようかな」

逃げなければいけない。
142 :1 [saga]:2012/08/17(金) 22:17:35.46 ID:UsZuckHV0
四月一日「ひまわりちゃんこっちだ!」

学生鞄を龍之介のほうに素早く投げつけ、俺はひまわりちゃんの腕を握って駆け出した。
学生鞄はひまわりちゃんのほうに意識を割きすぎていた龍之介にあっさり命中する。
何とか離脱する時間は稼げたようだ。

ひまわり「四月一日君!? これっていったい・・・」

四月一日「ごめん、説明してる暇がないんだ。とにかく路地裏を抜けないと」

龍之介「・・・逃がすかよ」

龍之介の声がさがる。

なんとか逃げ切らなければいけない。
143 :1 [saga]:2012/08/17(金) 22:22:51.40 ID:UsZuckHV0
?「純情少年!」

龍之介が追ってきているであろう方向から女性の声が聞こえる。

四月一日「これってお姉さんの・・・」

姉「龍ちゃんの居場所は私が教えてあげるから!」

四月一日「・・・はい」

そうだ、龍之介と姉はお互いそばにいるのだから、ここにいてもおかしくなかったのだ。
罠の可能性もあるだろう。だが路地裏の地理は向こうのほうが熟知しているはずだ。
どっちにしろ頼るしかなかった。

姉「そこ、右は行き止まりだよ!」

忠告通りに進んでいった。
144 :1 [saga]:2012/08/17(金) 22:31:06.64 ID:UsZuckHV0
走る。走る。
どのくらい走っただろうか。
俺にはまだ余裕があったが、そろそろひまわりちゃんが限界だ。

四月一日「・・・! 開けた場所だよ!」

ひまわり「う・・・うんっ! きゃっ」

四月一日「ひまわりちゃん!」

開けた場所は古いビルに囲まれた空地だった。
どうやらひまわりちゃんは廃ビルのネオンに使われていたコードに引っかかって転んでしまったようだ。
老朽化が進んでいるようで、コードは途中で切れているものや伸びきって一階まで垂れ下がっているものまである。
145 :1 [saga]:2012/08/17(金) 22:32:16.02 ID:UsZuckHV0

四月一日「この空地を抜けたら商店街だからがんばろう!」

ひまわり「・・・うん!」


龍之介「待てよ」

四月一日/ひまわり「「!?」」

廃ビルのふもとには不機嫌そうな龍之介がいた。

四月一日(まずい追いつかれた!)

龍之介のすぐ後ろには、姉が申し訳なさそうな顔で立っていた。
146 :1 [saga]:2012/08/17(金) 22:38:52.52 ID:UsZuckHV0
こうなったらひまわりちゃんだけでも守らなくてはいけない。

四月一日「・・・ひまわりちゃんさきに行って」

ひまわり「でも!」

四月一日「いいから早・・・・痛ぅ!!」

右腕をみると、ざっくりと大ぶりなナイフが突き刺さっていた。

龍之介「おい、待てって言ってんだろ」

突き刺したのは龍之介だった。
どうやらセリフを言い終わるまで待ってくれるタイプではなかったようだ。

四月一日「早く!!」

ひまわり「・・・・・・!!」

ひまわりちゃんは悲しそうな顔をしながら走っていく。
147 :1 [saga]:2012/08/17(金) 22:42:58.95 ID:UsZuckHV0

龍之介「ちっ」

龍之介はナイフを俺の胸にさっさと突き刺そうとするが、あっさりやられるわけにもいかない。
一か八か体当たりをして体勢を崩した。

龍之介「このっ・・・!」

四月一日「ひまわりちゃんには手出しをさせない!」

そのまま一気に押し倒し、できるだけ時間を稼ごうとする。
龍之介も簡単には逃れられないようで、数秒間硬直状態が続いた。


ギシリ


その瞬間

「不幸」なことに老朽化が進んだネオンが俺たちの真上に落下してきた。
148 :1 [saga]:2012/08/17(金) 22:47:14.94 ID:UsZuckHV0
四月一日(−−−あ)

死ぬな。本能的にそう感じた。

ネオンがやけにゆっくり落ちてきているように見えるが、動くこともできない。

ネオンは俺と龍之介に直撃するだろう。

きっと逃げられないと悟った。






「だめだよ純情少年」

そう聞こえると同時に、誰かに体を押された気がした。
149 :1 [saga]:2012/08/17(金) 22:53:03.22 ID:UsZuckHV0
ガッシャーンと、目の前にネオンが落下する音が響いた。

四月一日「・・・あれ、俺生きてる? なんで」

姉「よかったよ。君が霊媒体質で」

四月一日「お姉さん!」

ネオンの中から姉が通り抜けて出てきた。

姉「龍ちゃんは触れないけど、君なら触れたから助けられたの。よかった」

姉は困ったように笑う。

姉「ありがとう。私の願いはかなったから、お礼に龍ちゃんに聞いてた質問、代わりに答えてあげる。
  私ね、龍ちゃん殺されたんだ。2年前にね」

四月一日「やっぱり・・・」

予想は当たっていたようだった。
150 :1 [saga]:2012/08/17(金) 22:58:30.07 ID:UsZuckHV0
四月一日「侑子さんから、願いは「殺人」にまつわることって聞きました。お姉さんの願いは弟さんを殺すことだったんですね」

姉「あたり。私じゃ殺せなかったから」

つまり、こういうことだ。
彼女は弟に殺されて幽霊として龍之介に憑りついていた。
しかし幽霊の彼女には龍之介に干渉することも離れることもできない。
だから姉弟ごとミセに訪れて侑子さんに「殺人」を願ったのだ。

たったそれだけのこと。
復讐の一点のみのために、彼女は2年間も憑りついて幽霊として過ごしてきたのだろう。
151 :1 [saga]:2012/08/17(金) 23:03:50.43 ID:UsZuckHV0
四月一日「よかったんですか。死後の罪の重さは生前と変わらないそうですし。
     とてもよくない死者が集まる場所に行ってしまうんじゃないでしょうか」

姉「ううん、これでよかったの。私、龍ちゃんが大好きだったから」

四月一日「復讐なんて・・・」

姉は龍之介が死んだからだろうか。
ゆっくりと黒いよくないものに包まれていく。

姉「復讐? 純情少年、何か勘違いしてるんじゃないかな」

四月一日「えっ?」

姉「私は龍ちゃんのことが大好きなんだよ?」

姉は不思議そうな顔をする。
話がかみ合っていない気がした。
152 :1 [saga]:2012/08/17(金) 23:13:23.71 ID:UsZuckHV0
姉「龍ちゃんの本当の願いはね、原初の赤ーーーようするに死んでいく自分の血を見たいってことだったの」

姉は言う。

姉「大好きな龍ちゃんの手伝いはしたいんだけど、残念なことにそれに気付いたのが私が殺されたちょうどその時でね。
  私が殺すこともできなくなったし、龍ちゃんは龍ちゃんでうっかり屋さんなところがあるからなかなか自覚しなくてね。
  でも人様に迷惑をかけてまで殺してもらうのなんてもってのほかでしょ。
  だから願ったの。「誰のせいでもない不幸な事故で龍ちゃんを殺して、原初の赤を見させてあげてくださいって」

四月一日「・・・・・・ッ!?」

違う。
これは何かがおかしい。

今更になって侑子さんの「あの姉弟は欠けている」という言葉を思い出す。
そうだ、欠けているのは弟だけではなかったのだ。
153 :1 [saga]:2012/08/17(金) 23:17:04.31 ID:UsZuckHV0
姉の体が黒いよくないものでほぼ包まれてしまった。

四月一日「それでいいんですか・・・?」

姉「当然だよ。弟が幸せになって喜ばない姉はいない」

そう言い残して姉は完全に黒いものに包まれてしまい、消えていった。

四月一日「・・・・・・」

ネオンのほうに近づく。
弟は、出血する腹を愛おしそうに抱えながら満面の笑みで息絶えていた。
154 :1 [saga]:2012/08/17(金) 23:26:30.25 ID:UsZuckHV0
ーーーその夜
【ミセ】

侑子「右腕のはどう?」

四月一日「本当に綺麗にきれていたそうで。幸い骨は傷ついてなかったそうなので、後遺症は心配ないそうです」

侑子「そう」

右腕を見つめる。
確かに痛むが、それ以上に心がやりきれない気持ちでいっぱいだった。

侑子「気になるの?」

四月一日「まあ。本人は幸せだったみたいなんですけど、どうも納得がいかなくて」

侑子「別に本人が幸せならそれでいいのよ」

四月一日「でも!」

死にたい弟と死んでも弟を愛していた姉。
正直徹頭徹尾理解不能だった。
155 :1 [saga]:2012/08/17(金) 23:32:19.50 ID:UsZuckHV0

侑子「幸せは千差万別だし、何より彼女は覚悟ができていた。死後よくないところに行ってもかまわないと」

四月一日「・・・・・・」

侑子「それに、あの姉弟は死後同じ場所に行くでしょうね。それも幸せなのかもしれない。
   どんな対価を支払ってもかなえたい願いがある。それがかなったんだからそれでよかったんでしょう」

侑子さんは、最後にそう締めくくった。
156 :1 [sage]:2012/08/17(金) 23:33:45.58 ID:UsZuckHV0
投下終わりです。
龍之介編終了。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 23:35:37.48 ID:TqOmZXbUo

龍ちゃんじゃなくてお姉ちゃんの願いだったのか…
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 23:37:13.56 ID:2rRtu+RDO

対価はなんだったのか?
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/17(金) 23:38:25.94 ID:EGhWxhmY0

姉も狂ってたか、もしかしたら立場は逆だったかもしれんね
次はセイバー編とかエミヤ編も見たいな
160 :1 [sage]:2012/08/17(金) 23:41:26.18 ID:UsZuckHV0
>>163
次のキャラの安価
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 23:41:54.35 ID:TqOmZXbUo
間桐雁夜
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 23:46:17.21 ID:++5t9jRA0
わかめ
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/17(金) 23:47:24.56 ID:EGhWxhmY0
164 :1 [sage]:2012/08/17(金) 23:53:39.32 ID:UsZuckHV0
次の客→凛
了解しました。

対価は姉が死後とてもよくない死者が集まるところ、要するに地獄のようなところに行くということのつもりで書いていました。
ちなみに原作でも対価不明の話は結構あったりします。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 23:54:10.51 ID:lbz+DVQSO
あああー
中の人繋がりでアイリスフィールとの絡みが見たかった
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/17(金) 23:58:21.21 ID:EGhWxhmY0
侑子さんて普通にゼル爺の知り合いでも違和感無いよな
というか次元の魔女は魔術師からすればかなり凄いよな、魔法使えるし次元越えれる力持つ使い魔いるし、凛がまた大噴火しそうだな
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/08/18(土) 00:01:51.68 ID:W0U0LYaAO
>>1

>>166
確か人妻風の幽霊の話しで
「神様作ってた」
という衝撃の告白もしてたよな
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/18(土) 00:14:30.61 ID:ANyx5VVz0
そういやこの凛は何時のだ?
今までのメンツ見ると四次っぽいが、話的には五次の方が面白そうだな
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/18(土) 00:25:09.72 ID:Y+fA1fkm0
というか、ミセって自分の意思で願いを叶えようとする人には見えないって設定じゃなかったっけ
ホリックは結局全員見れるようになっちゃってなんだかなあって思ったのでよく覚えてる
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/08/18(土) 00:31:10.87 ID:9JnLC6J00
つまりここまでの話から10年後四月一日が店主になったミセに五次凛が来る可能性が微レ存?
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/18(土) 01:33:48.74 ID:T061lCySO
狐のおでん屋さんを出して欲しいと思うのは俺だけかな……
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/18(土) 05:02:54.19 ID:wMNy7ZoDO
>>1の話構成が上手いからかなり面白いな

特に龍ちゃんの話は本当にホリックの原作読んでるみたいで、よくできてると思った

個人的には切嗣が気になるところ

次も期待してるよ!乙!
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/08/18(土) 08:46:52.55 ID:1r/YFmIAO
これは小学生の凛ちゃんの話になるなのかな?
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/18(土) 16:04:42.01 ID:Fed8QnKm0
個人的には切嗣みてみたいな。

まあどうあがいてもBadendにしかならなそうだが…
175 :1 :2012/08/18(土) 17:48:55.67 ID:WvFPYDTl0
ちょっとだけ凛編とは全く関係ないネタを投下。
176 :1 :2012/08/18(土) 17:50:12.05 ID:WvFPYDTl0
【予告編】


聖杯戦争。それは7組のマスターとサーヴァントが最後の1組になるまで殺しあう儀式。

今まで3度失敗を繰り返してきた儀式の4回目ーーー歪んだ歴史の聖杯戦争が始まる。



ウェイバー「なっ・・・お前マスターだったのかよ!」

四月一日「マ、マスター?」

ウェイバー「聖杯戦争だよ! 聖杯戦争!」

ライダー「ははは、愉快な小僧たちだのう!」

友情を築き上げていく少年マスターたち。
177 :1 :2012/08/18(土) 17:51:34.02 ID:WvFPYDTl0

キャスター「俺はこのミセから出れないからね」

四月一日「どうするんだよそれ・・・」

正体不明のサーヴァント、キャスター。



子羽「だって、あなたは私と近いから」

アサシン「くえすちょん。あの人はだれ?」

白髪の暗殺者という初めての友達を得た幼い霊媒師。



四月一日「あなたが言峰さんの父親なんですか・・・!?」

璃正「君はなぜ綺礼のことを・・・?」

本来存在したはずのマスターとの因縁。
178 :1 :2012/08/18(土) 17:52:22.14 ID:WvFPYDTl0

セイバー「故国を救済する。悲劇で終わった結末を私は否定する。
     たとえ「現在」も「過去」も捨ててその時に生きる者達の呪いを受けることになろうとも、私は滅びの運命を変える!」

願いを否定されてなお、意思を貫くことを決意した騎士王。



切嗣「願いを叶えるミセだってーーー? そんなものがあるのだとしたらーーー」

焦燥する狙撃者。



ギルガメッシュ「雑種、珍しい出生をしているな」

四月一日「・・・英雄王」

ギルガメッシュ「ほう? 夢で我を見ていたか?」

ありえない異端に興味を示す最古の王。

179 :1 :2012/08/18(土) 17:54:01.22 ID:WvFPYDTl0

セイバー「約束されたーーーー勝利の剣!!!」

子羽「お母さん!!」

切嗣「僕は・・・正義の味方になりたかったんだ・・・!」

四月一日「キャスター、お前の真名はーーー!!!」

侑子「その願いは、あなた一人では対価が支払いきれない」








キャスター「侑子さんーーー俺はーーーもう一度あなたに会いたかったんだーーー!」



【fate/zero×xxxHOLiC】
もう一つの第四次聖杯戦争





*ウソ予告です。人選は1の好み。



180 :1 [sage]:2012/08/18(土) 17:54:56.98 ID:WvFPYDTl0
投下終了です。

なんちゃって予告。1に長編はできないです・・・
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/18(土) 17:56:59.54 ID:Avg/gs1c0
キャスター=士郎にとってのアーチャーか
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/18(土) 18:35:34.44 ID:86XtPMIDO
なにこれみたい

このアサシンってApocryphaのジャック?
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/18(土) 18:49:57.48 ID:T061lCySO
ここまでやって書かないだと!

このSS一段落したらやってください、お願いします。
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/18(土) 18:53:38.58 ID:tGtk4B1IO
凄い……見たいです

蟲爺が店に来るのも見たいな
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/18(土) 19:50:27.05 ID:GLXqtUcpo

Apocryphaキャラもいけるならミセが英霊で一杯になりそうだね
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/08/18(土) 20:07:15.97 ID:W0U0LYaAO
すごい楽しそうなんだが……本当にやらないの?
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2012/08/19(日) 12:23:09.96 ID:2WhlrnT4o
これを読む為にはどれだけの対価がいるのか
188 :1 :2012/08/19(日) 21:27:15.01 ID:1Gg9qH+P0
嘘予告はあくまで嘘予告ですwwwwww
もしやるとしたら少し設定は変わるかもしれません。

とりあえず凛編導入を投下します。
189 :1 :2012/08/19(日) 21:28:05.21 ID:1Gg9qH+P0
ーーー放課後
【学校】

四月一日「・・・ふう。書類整理でずいぶん遅くなっちゃったな。でもまあひまわりちゃんのたのみだしね!」

百目鬼「終わったならさっさと片付けろよ」

四月一日「うるせー! 今やろうとしてたところだよ!」

このクラスの学級委員はひまわりちゃんと百目鬼である。
百目鬼のどのあたりに人望があるのか、投票した人たちには小一時間問い詰めたい。
時計の針は7時過ぎをさしている。だいぶ暗くなってきていた。

四月一日「ったくこいつさえいなきゃよかったってのに!」

百目鬼「九軒がピアノ教室だから代わりに引き受けるっつてたのはお前だろうが」

四月一日「そりゃあひまわりちゃんが困ってるんだから助けないわけにはいかないだろ!」

百目鬼のそばにいると何から何までイラついてくる。
侑子さんいわく俺に近づきたいアヤカシが浄化能力を持っている百目鬼から離れさせようとしているのが原因らしいが、納得いかない。
190 :1 :2012/08/19(日) 21:28:42.30 ID:1Gg9qH+P0

四月一日「じゃあ俺は先に帰るからな!」

後片付けを済ませて、学生鞄を肩にかけて教室の扉を開ける。

百目鬼「おい」

四月一日「なんだよ」

うるさいなと思いながら一歩踏み出した。

百目鬼「廊下の床がねえぞ」

四月一日「はあ? ってうわああああああああああ!! お、落ちる!?」

本来床があるべきところには何もなかった。
踏み外した俺は空間の底のほうへ落ちそうになる。
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/19(日) 21:29:18.93 ID:V3wLJGXk0
もしかして喚ばれるのか…?
192 :1 :2012/08/19(日) 21:31:59.30 ID:1Gg9qH+P0

宙をかく俺の手を百目鬼が握り返した。

百目鬼「俺にも見えてるってことはアヤカシじゃないのか」

四月一日「何冷静に分析してるんだよ! ・・・っておい! 教室の床まで割れてるぞ!?」

ピシリと百目鬼の踏んでいる床にひびが入る。

四月一日「お、落ちたらどうなるんだよこれ!」

百目鬼「さあな」

四月一日「だからなんで落ち着いて・・・ってうわああ! 落ちる!」

百目鬼「・・・ッ」

ついに教室の床も崩れ、足場を失ったために、重力に従い下へ下へと落下していく。
193 :1 :2012/08/19(日) 21:32:39.82 ID:1Gg9qH+P0

落ちて。落ちて。
意外とすぐに着地した。

四月一日「あれ? ここは・・・」

百目鬼「あれ」

百目鬼が指さしたほうを見ると、二人の女性が言い争っているのが見えた。
どういうわけか大きな音を立てて落下してきた俺たちに気づいていないようだ。
それほど彼女たちがヒートアップして喧嘩しているのか、ほかに爆音がなる理由がこちらにもあったのか。

?「だから次元干渉には施設規模が足りないとあれほど・・・!」

?「そもそもあんたがちょっかい出さなければ・・・!」

?「誰が資金を出したと思ってるんですのー!?」

女性のうち一人は金髪ロールでいかにもなお嬢様、もう一人は黒髪ツインテールの日本人・・・だろうか。
言っていることのほとんどがよくわからないが、ひとつだけわかったことと言えば、彼女たちが侑子さん側の人間だということだ。
194 :1 :2012/08/19(日) 21:33:09.05 ID:1Gg9qH+P0

四月一日「あの」

??「「何!?」」

四月一日「あの、いえっ・・・」

二人のものすごい剣幕に押されて黙りかけてしまうが、気を引き締めなおす。
ここできちんと聞いておかなければ困るのはこちらなのだ。

四月一日「よくわからないんですけど、俺たち学校の教室から出ようとしたらよくわからない空間に巻き込まれてここに落ちてきたんですけど、何か知りませんか?」

できるだけ簡潔にまとめて事情を説明する。
女性たちはぽかんとしていたが、次第に喜んでいるような焦っているようなよくわからないテンションになっていく。
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/19(日) 21:33:30.78 ID:V3wLJGXk0
ま た う っ か 凛 か
196 :1 :2012/08/19(日) 21:33:36.56 ID:1Gg9qH+P0

?「もしかして成功したってこと・・・!?」

?「予定と全く結果が異なっている時点で偶然の産物にすぎませんわ! それより無関係な人間をここまで大規模な実験に巻き込んでしまったことが問題で・・・!」

?「こいつら魔術回路も開いてないみたいだし・・・」

魔術。侑子さんの普段使っている不思議パワーのことだろうか。

百目鬼「おい、カバン勝手に開けるぞ」

四月一日「はあ!? なんで俺のカバンを勝手に・・・」

モコナ「ぷぅーーーーーーーー!! みたいな!」

四月一日「ひべぶっ!」

なぜか俺のカバンからモコナが飛び出してきて俺の顔面に激突した。
なぜだ。
197 :1 :2012/08/19(日) 21:34:36.53 ID:1Gg9qH+P0

モコナ「モコナ108の特技のなかの一つ「超直観」! 嫌な予感がしたからついてきてやったぞ!」

百目鬼「108もあるのか」

モコナ「おう」

四月一日「おう! じゃねえよさっさと俺の顔からのけ!」

モコナをひっぺはがす。

?「自律機能付きの使い魔!? あんたたち魔術師だったの・・・!?」

急に警戒する黒髪の女性にあわてて弁解する。なにも敵対したいわけではない。
198 :1 :2012/08/19(日) 21:35:42.63 ID:1Gg9qH+P0

四月一日「それは違うんです・・・!」

しかしそれが言い終わらないうちに近づいてくる足音が聞こえ、俺たちのいる部屋に二人の男女が入ってきた。

?「どうしたんだ遠坂!? ルヴィア!?」

?「この者たちは・・・敵襲ですか!?」

入ってきた金髪の少女がいつの間にか取り出した黄金の剣を構える。
・・・剣?

四月一日「ってうわあああ!? 剣!? ちょっとまってください!」

百目鬼「何言ってるんだ?」

四月一日「何って、あの子が持ってる金ぴかの剣だよ!
     なんでこのご時世にあんな剣持ち歩いてるんだよ!?」

百目鬼「・・・剣なんてもの見えねえが。アヤカシかもな」
199 :1 :2012/08/19(日) 21:36:09.77 ID:1Gg9qH+P0

?「なっ・・・私の宝具を一瞬で見抜いた・・・!?」

?「魔術師、なのか?」

百目鬼はやけに落ち着いているわ(鈍いともいう)、新たに侵入してきた女性に剣を向けられるわで踏んだり蹴ったりだ。
状況を聞きたいのはこっちのほうだ。

?/?/?/?「「「「・・・・・・」」」」

四月一日/百目鬼「「・・・・・・」」

カオス オブ カオス。
この緊張状態をぶち壊すのはいったい誰なのか・・・!?

モコナ「ふっふっふ! モコナが説明してやろう!」メキョッ

それを実行したのはモコナだった。
パカ、と口を開いて映像を映し出す。
それは前にも見たことがあった。
200 :1 :2012/08/19(日) 21:36:55.39 ID:1Gg9qH+P0

侑子「あらあらモコナー、どうしたの?」

四月一日「侑子さん!?」

?/?「「はあ!?」」

金髪お嬢様ヘアーの女性と黒髪ツインテールの女性は、侑子さんが映っている映像を見て信じられないといった表情をした。

?「何もない空間に映像の固定ですって? いったいどれだけ機能搭載すれば気がすむのよこの使い魔は!」

?「それよりもこの者たちの知り合いが映っているということは、次元をまたいでの通信なのでは・・・!?」

侑子「・・・なるほどね。四月一日、話は私がつけておいてあげるわ」

四月一日「侑子さん・・・!」

侑子さんは一瞬で状況を理解したのだろう。
こういう時の信頼感は抜群だ。
201 :1 :2012/08/19(日) 21:37:55.23 ID:1Gg9qH+P0

?「あなたどこの魔術師なの・・・!?」

侑子「人に名前を聞くときはまずそちらから名乗るのが礼儀じゃないかしら」

凛「・・・遠坂家当主の遠坂凛よ」

ルヴィア「エーデルフォルト家のルヴィアゼリッタ・エーデルフォルトですわ」

侑子「私は壱原侑子。それじゃあちょっと話しましょうか」

どうやら交渉が始まったようだった。
侑子さんが話をつけてくれるのならそれに越したことはない。
202 :1 :2012/08/19(日) 21:38:29.84 ID:1Gg9qH+P0

士郎「えっと、俺は衛宮士郎っていうんだ。あんたたちの名前は・・・」

?「士郎!?」

士郎「いいじゃないかセイバー、悪い人には見えない」

あとから入ってきた二人のうちの男性のほうがこちらに話しかけてきた。
すごくお人よしのように見える。

百目鬼「百目鬼静です。で、こっちが四月一日君尋」

四月一日「何勝手に紹介してやがるんだよ!」

百目鬼「別にいいだろ」

四月一日「よくねえ! お前にやられるとなんか腹立つんだよ!」

モコナ「モコナはモコナ=モドキ!」

士郎「よろしくな」

セイバー「・・・セイバーです」

少女のほうもあきらめたのか、セイバーと静かにそう名乗った。
203 :1 :2012/08/19(日) 21:38:59.74 ID:1Gg9qH+P0

セイバー、つまり剣士。ヒトの名前のようには思えない。
アヤカシにも見えないので、座敷童や雨童女などの同類だろうか。

四月一日(剣精みたいな・・・?)

百目鬼「ここはどこなんですか」

士郎「ここか? ロンドンの時計塔だぞ」

四月一日「はあ!? ロンドン!? 俺たちさっきまで学校にいたのに!」

百目鬼「うるさい」

ロンドンは日本のほぼ裏側である。
あの一瞬の落下の間にそれだけの距離を移動してきたというのだろうか。
204 :1 :2012/08/19(日) 21:39:46.91 ID:1Gg9qH+P0

セイバー「もしや凛たちの実験が成功したのでしょうか」

士郎「遠坂たちなら第二魔法にたどり着いても違和感ないけどな・・・座標移動の効果まであるものなのか?」

セイバー「私も専門ではないのでよくわかりませんが。後で凛に事情を聞きましょう」

士郎「そうだな」

向こうは向こうでどうやら勝手に納得したようである。

四月一日「どうなってるんだよ・・・」

とにかく今の俺たちにはひたすら待つことしかできなかった。
205 :1 :2012/08/19(日) 21:40:13.99 ID:1Gg9qH+P0

ーーー数十分後
【時計塔の一室】

〜説明中〜

四月一日「平行世界の移動、ですか」

凛「私たちの実験と、そっちの使い魔の性質が共鳴し合ってあなたたちが巻き込まれたみたいね」

四月一日「そうなんですか・・・ってお前がいたからかよ!」

モコナ「モコナがいなかったら中途半端に成功して今頃次元の狭間をさまよってたかもしれないんだぞ!」

四月一日「それでもお前がついてきてたから巻き込まれたようなものだろうがー!」

モコナに顔を近づけて抗議する。
206 :1 :2012/08/19(日) 21:41:29.79 ID:1Gg9qH+P0

モコナ「とう!」キック!

四月一日「へぶっ!」

凛「・・・とまあ茶番劇はそこまでにして。とにかくあなたたちは私が責任をもって身柄を預かることになったわ。
  もう一度モコナ=モドキと私たちの施設を使って送り返すのが大体2〜3日後。今ルヴィアが施設を大至急修理してるわ」

四月一日「だからあの人は帰ったんですね」

凛「で、私が時計塔と話をつける役割よ。
  大体は自由にしてもらって構わないけど、この部屋と廊下を挟んでの向かいの部屋以外には無断でいかないでね。
  まああなたもあんな嘘みたいな魔術師のところでバイトしてるなら、魔術協会の中核でうろつくことの危険性くらいわかるだろうけど・・・
  どうしてもいかなければいけないときは私が同行するわ」

四月一日「わかりました」

どうやら安全に帰れそうである。安心だ。
207 :1 :2012/08/19(日) 21:42:07.09 ID:1Gg9qH+P0


モコナ「おい、ところで士郎とセイバーと百目鬼が勝手に町のほうに行ったけどいいのか?」

凛「ああ、士郎たちなら買い出しに・・・はあ!? なんで連れて行ったのよあいつ! いつよそれ!」

モコナ「10分くらいまえだな」

四月一日(そういえばいつの間にかいねえ・・・)

さすが百目鬼、そのマイペースさは平行世界に来ても健在らしい。
208 :1 :2012/08/19(日) 21:42:41.73 ID:1Gg9qH+P0

凛「ったく! 探しに行かないと・・・」

四月一日「すみません迷惑をかけて」

凛「何言ってるの。あなたもついてくるのよ?」

四月一日「えっ」

どうやら護衛なしで一人俺だけを放置するわけにはいかないらしい。
常識で考えてもよそ者を家で放置するわけもなかったのだが。

モコナ「モコナも手伝ってやるぞ!」

ぴょこりとモコナが俺の肩に乗った。

四月一日「・・・わかりましたついていきます」

さっそく、めんどくさいことになったようだった。
209 :1 [sage]:2012/08/19(日) 21:44:30.64 ID:1Gg9qH+P0
投下終了です。
凛編だけに、いままでとは違った鬱ではない話になるかも。
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/19(日) 21:46:24.66 ID:V3wLJGXk0

これは期待だ
しかしこれが終った後にお題が士郎だったら知り合いになるんかな、それとも■■士郎状態かな
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 23:11:54.70 ID:kVcsv6Lvo
212 :1 :2012/08/26(日) 03:47:51.66 ID:oKR0q2gb0
お久しぶりです。
こんな時間ですが投下します。
213 :1 :2012/08/26(日) 03:48:37.52 ID:oKR0q2gb0
【ロンドン下町】

百目鬼「外国には行ったことなかったんですけど、周りに日本語がないですね」

士郎「ははは、たしかに最初は戸惑うかもな。俺も最初のうちは街並みの配色なんかにも違和感あったし」

セイバー「そうだったのですか」

あらかたの買い物を終わらせると、三人はゆっくり歩きながら取り留めもないことを話し始めた。

百目鬼「今日は何を作るんですか」

士郎「ん、ああ。あんたたちが日本人みたいだから、食べやすいものにしようとは思ってるけど」

セイバー「シロウのご飯はなんでもおいしいです」

士郎「はは、ありがとうなセイバー。そういってくれると俺もうれしいよ」

214 :1 :2012/08/26(日) 03:49:05.05 ID:oKR0q2gb0

セイバー「・・・ところでシズカ、あの青年はいったい何者なのですか?」

百目鬼「四月一日のことですか?」

士郎「そういえばそれは俺も気になってたな。セイバーの風王結界を一瞬で見抜いてたみたいだし」

セイバーの問いかけに士郎もうなずいた。
風王結界。空気を密集し光を屈折させて剣の姿を隠すセイバーの宝具の一つである。
一見地味な能力に見えるが、接近戦ではこれほど役に立つ能力もなかなかない。
また、サーヴァントを相手にしても、攻略されたことはあっても初見で突破されたことはなかった。

百目鬼「・・・・・・」

士郎「言いにくかったら言わなくてもいいぞ」

百目鬼「いや、俺もよく知らないので」

セイバー「・・・そうですか」

セイバーは残念そうな顔をする。
215 :1 :2012/08/26(日) 03:49:49.77 ID:oKR0q2gb0

セイバー「・・・! シロウ、何者かが近づいてきます」

士郎「本当か!?」

セイバーは突然顔をあげて右手の道路の先を見据えた。

士郎「ちょっと下がっといてくれ」

百目鬼「はあ」

百目鬼はいきなり変身したセイバーと士郎の手に現れた一対の中華風の剣に驚くが、持ち前のマイペースさで流す。
百目鬼にはいまいち士郎とセイバーの対応が解せなかった。
しかしここは魔術協会の大本のすぐ近くなのだ。何が起こるかわからない。
士郎とセイバーの対応は正しいものだ。
まあ、その警戒も今回ばかりは無意味だったのだが。
216 :1 :2012/08/26(日) 03:50:23.88 ID:oKR0q2gb0

?「こっち! 逃げてください!」

?「いきなりなんなのよあんた! 勝手に動かないでって言ったでしょ!?」

士郎「・・・遠坂!? それにアンタもどうしたんだ?」

現れたのは四月一日と凛だった。
何かから逃げているようにも見えるが、その原因がわからない。

凛「士郎! あんたはあんたでどうしてそいつを勝手に連れ出して・・・」

士郎「う、悪かったよ。それにしても何があったんだ?」

四月一日「あれは相当やばいやつなんですって!」

セイバー「あれ、ではわかりません。簡潔な説明を」

容量を得ない四月一日の対応にしびれをきらしたセイバーが質問した。
217 :1 :2012/08/26(日) 03:50:54.91 ID:oKR0q2gb0


四月一日「えっと、アヤカシです」

士郎「アヤカシって、妖怪のことか?」

四月一日「はい。えっと、信じてもらえないかもしれませんが・・・」

凛「・・・なるほど、霊感もちだったのねアンタ」

四月一日「信じてもらえるんですか!?」

凛は驚くほどあっさりと四月一日の霊感を認めた。

凛「私の知り合いにもそれらしい子はいたしね。大体あの魔女のバイト君が普通だとも思ってないわよ」

四月一日「ははは・・・」

ある意味侑子さんのおかげだったようだ。
乾いた笑いが漏れるが、今はそれどころではない。
218 :1 :2012/08/26(日) 03:51:22.63 ID:oKR0q2gb0

四月一日「そうだ! あそこです」

四月一日は黒い何かをかたどろうとしているドロドロした塊を指さす。

士郎「俺はわからないな」

凛「・・・残念だだけど、私もよ」

どうやら二人には霊感はなかったようだ。

四月一日「そうだ百目鬼は!」

百目鬼「弓がねえ」

四月一日「うっ・・・」

八方ふさがりだった。
219 :1 :2012/08/26(日) 03:53:14.35 ID:oKR0q2gb0

四月一日「どうしたら・・・な!」

このまま撤退するべきかと考えた瞬間、アヤカシが触手を伸ばした。
反射的に一歩下がったのがよかったようだ。
触手は見事に地面をえぐっていた。
いや、そこだけ命を吸っていたというべきか。
触手がふれた部分の地面だけが、砂と化している。

狙いは四月一日。再びのばされる触手の人外の速さに今度こそ反応できなかった。
思わず目をつぶる。

しかしいつまでたっても衝撃は来ない。

四月一日「・・・?」

恐る恐る目を開けた。
220 :1 :2012/08/26(日) 03:53:55.46 ID:oKR0q2gb0

四月一日「セイバーさん!?」

セイバー「キミヒロ、指示を」

セイバーがアヤカシの触手と剣で拮抗していた。

凛「セイバーはどちらかというとそっちよりの存在だから感じられるのかしら・・・?」

セイバーが触手をたたき切る。
しかし目線はアヤカシをとらえていない。

四月一日(見えてないのか?)

四月一日の予想は正しかった。
セイバーは見えないアヤカシと、持ち前の直観のみで拮抗していたのだ。
221 :1 :2012/08/26(日) 03:54:31.01 ID:oKR0q2gb0

四月一日「セイバーさん!?」

セイバー「キミヒロ、指示を」

セイバーがアヤカシの触手と剣で拮抗していた。

凛「セイバーはどちらかというとそっちよりの存在だから感じられるのかしら・・・?」

セイバーが触手をたたき切る。
しかし目線はアヤカシをとらえていない。

四月一日(見えてないのか?)

四月一日の予想は正しかった。
セイバーは見えないアヤカシと、持ち前の直観のみで拮抗していたのだ。
222 :1 :2012/08/26(日) 03:55:30.02 ID:oKR0q2gb0

四月一日「右です!」

見える四月一日が指示をだし、フォローする。
しかしなかなか決定的な一撃が決められないでいた。

凛「あなた、さっき弓がどうとか言ってなかったかしら?」

百目鬼「・・・・・・」

セイバーとアヤカシが戦っている間、凛は百目鬼に質問する。

凛「弓矢があればあなたたちの言うアヤカシを対処できるのね?」

百目鬼「・・・はい」

凛「そう。士郎」

百目鬼が返答するやいなや、凛は士郎に呼びかけた。
主語も述語もなにもないただの呼びかけだったが、この二人にとっては十分な指示だった。
223 :1 :2012/08/26(日) 03:56:04.27 ID:oKR0q2gb0


士郎「投影開始」

百目鬼「・・・!」

士郎の手にいつの間にか弓矢が現れた。
無からの有の想像。もしくは転移。
どちらにしてもとんでもないことだ。

士郎「これで大丈夫か?」

百目鬼「大丈夫だと思います」

百目鬼は士郎から弓矢を受け取った。

百目鬼「・・・・・・」

キリキリと弓をひく。狙いはセイバーのさらに奥。おそらくアヤカシがいるだろう場所だ。
224 :1 :2012/08/26(日) 03:56:37.11 ID:oKR0q2gb0

凛「セイバー、よけなさい!」

セイバー「!」

セイバーは一瞬でその場から離脱する。
百目鬼もそれと同時に弓を射た。

スパンと、虚空に矢が刺さる。

四月一日「消えた・・・」

こうしてロンドンでのアヤカシ騒動は案外あっさりと終わったのだった。

225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/26(日) 03:57:50.85 ID:HChcrmizo
セイバーの直感Aが役に立った…だと…?
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/26(日) 03:59:34.48 ID:5cuFfVX90
一応小次郎の燕返しを初見で避けれたのも直感スキルなんだがな
227 :1 :2012/08/26(日) 04:02:03.26 ID:oKR0q2gb0

ーーーその夜
【凛の自室】

凛(願いの叶うミセ・・・いかにも胡散臭かったけど、あれほど珍しい人材を確保しているなら、いずれにせよ何らかの力はあるはず)

凛は自室で一人、思案していた。
今日の騒動の中心人物の二人の保護者(?)の壱原侑子についてだ。
四月一日君尋は人外を見られる話せる触れる感じれる、おまけに引き寄せる。ただの霊媒体質にしては異常なレベルだ。
百目鬼静はみることすらできないが、今日のアヤカシとやらを一撃で仕留める力がある。
どちらも教会からしたらのどから手が出るほどほしい人材のはずだ。

そしてそのどちらもを確保している魔女。
228 :1 :2012/08/26(日) 04:03:47.22 ID:oKR0q2gb0

凛(壱原侑子の力が究極の等価交換ならあり得るのかもしれない。だけど)

凛にとって願いをかなえるミセの存在は信じられないことだった。
何しろ聖杯のようなものなのだ。
聖杯戦争が戦いを対価にして願いを叶える願望器なら、壱原侑子は対価を指定して願いを叶える魔女。
しかしこのふたつには決定的な違いがある。

凛(願望器は意思のないものに過ぎない。けれどあの魔女はそうじゃない。彼女の分の手数料に裏がありそうだけど)

対価が願いと等しい等価だとして、しかしその間には壱原侑子という人物がはいっている。
そうなるとどうしてもロス、手数料がかかってしまうはずなのだ。
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/26(日) 04:03:56.11 ID:5cuFfVX90
実際侑子さんてゼル爺並の力ありそうだよな
230 :1 :2012/08/26(日) 04:04:46.35 ID:oKR0q2gb0

慈善事業という線はまずないだろう。

ならばあの魔女が払っているだろう手数料は何のためなのか?
何かよからぬことを企んでいるのではないのか?
願った客は何らかの損害を被るのではないのか?

ところが誰もその疑問に気づいていない。あのバイト君や弓の青年たちすらだ。

要するに胡散臭いのだ。
願ったところで何がどうなるのかもわからない。
231 :1 :2012/08/26(日) 04:07:27.08 ID:oKR0q2gb0

凛(でも、本当にあの魔女が万能なら・・・)

凛の脳裏にとある人物が浮かぶ。
現時点の凛では、いやおそらく死ぬまで不可能であろうこと。

もしそれが可能だとしたら・・・

凛「・・・とりあえずは四月一日君尋に聞いてみましょうか」

これほどのチャンスは二度とないかもしれない。
危険かもしれない。胡散臭い。だからなんだというのだ。
なんだって利用してやろう。
凛はそう決心した。
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/26(日) 04:09:07.79 ID:5cuFfVX90
侑子さんてどちらかと言うと英霊に近いよね
233 :1 :2012/08/26(日) 04:10:10.84 ID:oKR0q2gb0

ーーー同時刻
【夢】

夢を見ていた。
その夢は見たことのない場所だった。

丘に刺さっている無数の剣。
無数の剣に突き刺されながら赤い丘に膝をついている誰か。

誰かはとても疲れた顔をしていた、
誰かの心は何度折れそうになったかわからない。

それでも彼女と約束したから。
はじまりは間違いではなかったのだと知ったから。

だからその誰かは負けられない。
これが終わらない悪夢だとしても、永遠に続く拷問じみたものだとしても。

どれだけ記憶と心が磨耗しようが、決して忘れないと心に刻んだ祈り。
それを瞳に宿したまま、役目を終えた誰かは消滅していった。

ーーー誰かは、俺の知っている人のような気がした。

234 :1 [sage]:2012/08/26(日) 04:13:08.23 ID:oKR0q2gb0
投下終了。
凛の願いバレバレのような気もしますが。
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/26(日) 04:14:49.94 ID:5cuFfVX90

やっぱりアイツに会いたいのかな
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/08/26(日) 04:14:53.28 ID:Gn+PjZvAO
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/26(日) 04:16:13.52 ID:HChcrmizo
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/26(日) 04:25:57.62 ID:ZmELcTUj0
そういや侑子さんが対価としてもらうモノって、その人の人生に関わるレベルの大事なモノばかりだよな
関連性や自分の愛刀、追っ手から身を隠すためのモノ
寧ろそれだけで願いを叶えれる侑子さんは聖杯より凄いのかもね
239 :1 :2012/08/26(日) 20:32:43.74 ID:oKR0q2gb0
投下します。
240 :1 :2012/08/26(日) 20:35:32.66 ID:oKR0q2gb0
ーーー翌日・早朝
【キッチン】

士郎「へえ、そんなことがあったのか」

四月一日「ホント侑子さんとの出会いは押し売りそのものだよな・・・」

士郎「それにしても願いを叶えるミセか。まるで聖杯みたいだな。あ、小さじとってくれないか」

四月一日「どうぞ」

士郎「ありがとな」

アヤカシ騒動の次の日あさ、四月一日と士郎は朝食の支度をしていた。
四月一日はいつもの習慣で早く起きてしまい朝食の仕込みをしている士郎に会った。
せっかく起きているのだから、世話してもらってばかりでは申し訳ないということで、現在主夫たちによる共同作業の真っ最中だ。
作業の合間にお互いの身の上話もしていた。
241 :1 :2012/08/26(日) 20:36:00.75 ID:oKR0q2gb0

士郎「それにしてもこっちの料理も上手いな。ずっと日本に住んでたんだろ?」

四月一日「侑子さんのリクエストで海外の料理を作ることも多くて。でも、本場には負けますよ」

士郎「日本にいたころは基本は和食だったさ。和食もこっちの料理も、主食は負けるつもりはないが、デザートはもう完全に負けてるな・・・」

四月一日「どちらかというと菓子作りのほうが得意なので」

料理の腕は六対四でやや士郎優勢といったところだろうか。
ただ一概に決められるものではない。
主食なら士郎、デザートなら四月一日に軍配が上がるだろう。
242 :1 :2012/08/26(日) 20:36:55.90 ID:oKR0q2gb0

士郎「ん、それ・・・」

四月一日「外しておいたほうがよかったですか?」

士郎「いや構わないが。キリシタンだったのか。意外だなと思って。あっ、変な意味じゃなくてだな」

士郎はあわててそうフォローする。どうやら今日なんとなく首にかけていた十字架が目に入ったようだ。

四月一日「俺はキリシタンじゃないですよ」

士郎「そうなのか? でもファッションにしては本格的なやつだと思って・・・」

四月一日「形見みたいなものなんです」

士郎「・・・そうか。悪かったな」

四月一日「いえ、構いません」

どうやら気を悪くさせたと思っているらしい。申し訳ないので否定しつつ、元の持ち主について話をそらした。
243 :1 :2012/08/26(日) 20:38:06.72 ID:oKR0q2gb0

四月一日「これは昔店に来た人の対価でした。それを俺がもらったんです」

士郎「そっか」

四月一日「魔除けみたいな感じで重宝してるんですよ・・・って士郎さん鍋が!」

うっかりしていたのか、士郎が見ていた鍋が吹きかけていた。
あわてて火を小さくする。吹きこぼれるほどではなかったが、士郎は不満そうだ。

士郎「しまった・・・」

四月一日「このくらいなら大丈夫じゃないですか?」

士郎「いや、こんなことやってるようじゃあいつにまた馬鹿にされそうで・・・」

四月一日(姑さんみたいな人がいるのかな)

四月一日の予感では士郎は凛かセイバーと付き合っているはずだ。その保護者だろうか。
244 :1 :2012/08/26(日) 20:38:42.02 ID:oKR0q2gb0

四月一日「そういえば、さっき言ってた聖杯ってなんなんですか?」

士郎「聖杯か? ・・・うん、そのくらいなら言っても大丈夫だよな」

士郎はそう納得すると聖杯もとい聖杯戦争について話してくれた。
もちろん今度は火加減に最大限の注意をむけながらだ。

マスターと、サーヴァントと呼ばれる英霊のコピーたち。
令呪の命令権に、セイバーや凛との出会い。
聖杯戦争の成り立ちや、士郎の父親について。

ところどころぼかしてはあった上難しい内容だったが、何とかついていくことができた。
そして話題は聖杯戦争の監督者の存在へと移行する。
245 :1 :2012/08/26(日) 20:40:00.79 ID:oKR0q2gb0

士郎「で、5次での教会の監督役は言峰綺礼って神父だったんだけどーーー」

四月一日「えっ?」

思わず声を上げてしまった。

士郎「どうしたんだ?」

四月一日「いや、この十字架の持ち主も言峰綺礼って人だったんです」

士郎「本当か!?」

これには士郎も驚いた顔をした。
言峰綺礼なんていう珍しい名前の人物はそう何人もいないだろう。
まず同一人物と思っていいはずだ。

士郎(あの神父と同姓同名の人間が他にもいるとはちょっと思いたくないな・・・)
246 :1 :2012/08/26(日) 20:40:38.49 ID:oKR0q2gb0

となると二人には意外なところに接点があったことになる。

士郎「じゃあ俺たちもしかしたらすでにお互いの世界であってるのかもしれないのか」

四月一日「そうみたいですね」

四月一日が元の世界に帰った後もまた会えるかもしれないのだと思うとうれしかった。

士郎「でも聖杯戦争後に教会と接触してたらまず遠坂が把握してると思うんだけどな・・・」

四月一日「・・・そっか、あの人は聖杯戦争に出ていたのか」

士郎「血縁なのか?」

四月一日「いや、ただの店のお客さんでした。自分の楽しいと思えることは何か知りたいって願いで」

士郎「え?」

今度は士郎が疑問の声を上げる番だった。
247 :1 :2012/08/26(日) 20:41:24.16 ID:oKR0q2gb0

士郎「あの言峰がか?」

四月一日「まあ、悩んでる雰囲気はありましたよね」

士郎(あの顔が悩んでる人間の顔なんだろうか)

士郎は言峰綺礼の顔を思い出す。
・・・他人の不幸でメシウマを地で行っている印象が大きすぎた。
どう考えても悩んでいる人間の顔ではなかったと思う。

士郎「平行世界だからか・・・?」

四月一日「どうかしたんですか?」

士郎「ちょっとだけ質問していいか?」

四月一日「いいですけど」
248 :1 :2012/08/26(日) 20:42:08.13 ID:oKR0q2gb0
士郎はいくつか質問した。
まず外見について。四月一日の知っている言峰は20代程度で身長約180センチの短髪。この時点でまずおかしい。
そして性格について。悩んでいる雰囲気をもっていて寡黙。これもおかしい。

士郎(ありえないかもしれないけど、もしかして・・・?)

理不尽には慣れっこだった士郎はある仮説を立てた。

士郎「今って西暦何年だ?」

四月一日「19××年ですよね?」

士郎「・・・・・・」

仮説は当たっていたようだった。
249 :1 :2012/08/26(日) 20:42:37.46 ID:oKR0q2gb0

現在はもう21世紀に突入している。

つまり四月一日君尋は時間を10年以上またいでいる計算になる。

士郎(平行世界移動じゃなくて時間移動なのか? もしくは複合なのか)

どちらにしろこれでまた凛とルヴィアがいろんな意味でぶっ飛んでいることが証明されてしまったようだ。

士郎「・・・朝食の仕込み終わったら遠坂のところに行ってくれないか」

四月一日「? はい」

理由はわからなかったが四月一日はうなづいた。

250 :1 :2012/08/26(日) 20:43:25.22 ID:oKR0q2gb0

−−−数十分後


四月一日「これで良し、と」

士郎「あとは温めたり焼いたりするだけだな」

朝食にしては若干豪華な品ぞろえを眺める。
人手が多いとこうも早く作業が終わるものなのかと感動した。

士郎「それじゃあ遠坂のところに行くか」

四月一日「はい」

エプロンをフックにかけなおし、リンの自室へ向かった。
251 :1 :2012/08/26(日) 20:44:39.50 ID:oKR0q2gb0
【廊下】

士郎「起きてるかな・・・」

士郎は凛の自室のドアをノックしようとする。

その瞬間、いきなり勢いよくドアが開いた。

ごん、とある意味素晴らしい音が廊下にひびく。

凛「四月一日君尋! ちょうどよかった、話があるのよ」

四月一日「あー、その」

凛「?」

四月一日の目線につられて凛は下をみる。

士郎「−−−−−−っぅ!!!」

額を抑えて悶絶している士郎がいた。
252 :1 :2012/08/26(日) 20:45:26.61 ID:oKR0q2gb0

凛「あっ、その・・・ごめん士郎」シュン

士郎「いや、このくらい大丈夫だ・・・・」

涙目で言う士郎には全く説得力はない。
しかし珍しくしゅんとした遠坂凛は、こう、ギャップ萌えというのだろうか。とにかく当社比3倍増しくらいかわいらしかった。

四月一日(この人漢だ・・・!)

少女を落ち込ませないために体をはる姿に四月一日は感動した。
士郎が心のなかの漢の師匠に決定された瞬間であった。

凛「と、とにかく! なかにでも入って!」アセアセ

四月一日「はい」

士郎「紅茶いれるな」

とりあえずおとなしく凛の自室に案内された。
253 :1 :2012/08/26(日) 20:50:01.90 ID:oKR0q2gb0
【凛の自室】

凛「聞きたいことがあるの」

四月一日「なんでしょうか」

凛「壱原侑子の能力の限界よ」

士郎「!?」

凛の言葉を聞いて驚いた顔をしたのは士郎だった。

士郎「・・・かなえたい願いがあるのか?」

凛「・・・ないといえばうそになるわね」

神妙な顔で話し合う。

四月一日「俺の知ってる限りでは不可能はないように見えましたけど
     ・・・というか、実力不足であきらめる侑子さんの姿は思いつかないです」

凛「具体例はある?」

遠坂凛はやけに詳しく聞いてきた。
意図がわからない。
254 :1 :2012/08/26(日) 20:54:25.61 ID:oKR0q2gb0
四月一日「何か願いがあるんですか」

一番考えられる可能性はこれだろう。
凛はその質問を受けると、士郎のことをちらりと見た後に答えた。

凛「・・・余計な世話かもしれないけど、助けたい奴がいるの」

難しい表情をしながら凛はそう言う。

士郎「やっぱりそうなのか」

凛「士郎は止める?」

士郎「いや、遠坂が決めたのなら俺もそうするよ」

士郎は凛にそう返答した。

四月一日「救いたい人というのは・・・」

凛は大きく深呼吸した後、願いを告げた。

255 :1 :2012/08/26(日) 20:55:42.23 ID:oKR0q2gb0


凛「存在するすべての平行世界の守護者エミヤのアラヤとの契約破棄。それが私の願いよ」
256 :1 :2012/08/26(日) 21:03:53.86 ID:oKR0q2gb0
凛は聖杯戦争のあと、どうしても気になることがあった。
それは平行世界のエミヤの存在だった。

自分の世界の士郎を守護者にさせない自信はある。というかひっぱたいてでも止めるつもりだ。
しかしあの聖杯戦争でのアーチャーはすでに守護者の契約を結んでしまっている。

約束はした。彼がそれを裏切るとも思っていないし、負けるとも思っていない。
しかしそれでも可能ならば契約破棄させたかった。

おまけに平行世界は限りなく無限に存在している。
凛と聖杯戦争で会わなかったアーチャーはどうなる?
異なる聖杯戦争の結末を迎えたアーチャーは?
それらすべてのエミヤを救うことは実質不可能だ。

それでも、なまじ凛に才能があってしまったためにあきらめきれないのだ。
専門も第二魔法方面ときた。

彼はおせっかいだと言うだろう。
それでも凛は彼を救えるものなら救いたかった。
257 :1 :2012/08/26(日) 21:08:40.43 ID:oKR0q2gb0
四月一日「俺にはよくわからないですけど、対価さえ払えばたぶんできると思います」

凛「本当!?」

凛は普段のおしとやかさはどこへ行ったのか、焦ったようにそう言う。

四月一日「ただ、俺の知ってるその手の願いを叶えたひとの対価は、本人の最も大切なものでした」

凛「・・・それでも、可能性があるのならみすみす見逃すわけにはいかないわ」

士郎「・・・・・・」

凛「ありがとう四月一日くん。今度連絡を取るときに壱原侑子に交渉してみるわ」

258 :1 :2012/08/26(日) 21:11:12.79 ID:oKR0q2gb0
ーーー夜

四月一日「・・・・・・」

凛の願いを聞いてから、士郎に守護者とエミヤのことについて教わった。
エミヤは、未来の衛宮士郎の可能性のひとつの姿らしい。
それを救いたい。凛はそういっていた。

四月一日「・・・・・・」

四月一日はゆっくりと目をつむった。
259 :1 :2012/08/26(日) 21:13:55.54 ID:oKR0q2gb0
【夢】

夢を見ていた。
その夢は昨日見たばかりの場所だった。

丘に刺さっている無数の剣。
無数の剣に突き刺されながら赤い丘に膝をついている誰か。

その誰かが、今日はこちらを向いた。

?「・・・・・・」

四月一日「・・・はじめまして」

その誰かは、士郎にとてもよく似た男だった。

260 :1 [sage]:2012/08/26(日) 21:15:14.56 ID:oKR0q2gb0
投下終了です。何気に皆勤賞の十字架・・・

もしどなたかよろしければ、wwiki編集をしてくださるとうれしいです。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/26(日) 21:17:12.69 ID:5cuFfVX90

平行世界の全てのエミヤを救いたいって、まどかの願いの個人版だよな
平行世界行き歩いてエミヤが契約する前に阻止してきなさいって言われそうだな
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/26(日) 21:27:38.69 ID:VVYOc0I9o
263 :1 [saga]:2012/09/01(土) 00:49:26.91 ID:xIDyV40h0
お久しぶりです投下します。
おそらく凛編ラスト。
264 :1 [saga]:2012/09/01(土) 00:54:30.21 ID:xIDyV40h0


赤い誰かはこちらを見ていた。

?「・・・ふむ。なぜ今の私が自我を持っているのか疑問だったが、なるほどな」

誰かは納得した様子で一人合点した。

?「夢か。ならばすべての説明がつく」

余談だが、ここでの夢は記憶を整理する際に睡眠中みるもののことではなく、魔術的な意味合いのものだ。

?「しかし時間がないのは変わらないようだ。ひとつ伝言を頼まれてはくれんかね」

四月一日「なんでしょうか」

時間がないのはこちらもうすうす感じとっていたので素直に返事をする。
265 :1 [saga]:2012/09/01(土) 00:54:56.81 ID:xIDyV40h0

?「そう長いものではないさ。あの未熟者とーーー彼女へのな」

赤い誰かはそう言うと簡潔に伝言を残した。

四月一日「わかりました。必ず伝えます」

?「すまない。・・・時間のようだ」

一気に誰かの体が薄くなる。透けて向こう側が見えた。

四月一日「・・・・・・」

そうして誰かは消えていった。
誰かとは私的な会話は一切なく、事務的なやり取りしかしなかった。
しかし、誰かはーーーいや、彼はーーー・・・




ぱちり、と目を開けた。目に入ったのは洋風の天井。
凛の所持している一室だった。
時計を確認すれば、針はちょうど正午を刺していた。

266 :1 [saga]:2012/09/01(土) 00:55:54.73 ID:xIDyV40h0

ーーー同時刻
【とある一室】

士郎「そっか、静も弓道部なんだな」

百目鬼「あなたのように百発百中とはいきませんが」

士郎と百目鬼は四月一日とは別の一室にいた。
お互い高校で弓道部ということもあり、意気投合し、話していた。

士郎「・・・いや、俺のはそんな大したものじゃないさ。俺のは弓道じゃなくて弓術だからな。静の弓のほうが俺は素晴らしいと思う」

百目鬼「そうかもしれませんね」

士郎「ははは、言うじゃないか」

セイバー「・・・・・・」モキュモキュ

ちなみにセイバーは士郎作の和菓子を一心に食べている。士郎曰く、久しぶりに作ってみたくなったらしい。
たわいもない話をしていく。

士郎「それにしても君尋ずいぶんと寝てるな」

百目鬼「馬鹿は風邪をひかないっていいますけど」

士郎「君尋は馬鹿ではないと思うけど・・・」
267 :1 [saga]:2012/09/01(土) 00:56:32.60 ID:xIDyV40h0


その瞬間、大声が聞こえた。



凛「どういうつもりなの!?」



「「「!?」」」


士郎「今のって」

セイバー「凛の声です」

セイバーはそう答えるやいなや部屋を飛び出し、声のしたほうへと向かっていく。

士郎「あんたを一人残していくわけにもいかないしな。ついてきてくれるか」

百目鬼「はい」

士郎と百目鬼も後を追って部屋を出た。
268 :1 [saga]:2012/09/01(土) 00:57:11.35 ID:xIDyV40h0


【凛の部屋の前】

凛の部屋の前にはルヴィアが立っていた。

ルヴィア「部屋に入りたいならさっさとどうぞ」

士郎「凛は大丈夫なのか!?」

ルヴィア「そう焦らなくても死んだりなどしていませんわ」

ルヴィアは冷静にそう答える。

ルヴィア「私は何も見ていませんし、第一今の遠坂凛を「遠坂凛」として私は認めませんわ」

士郎「・・・・・・」

士郎は何か言いたそうな顔をしたが、今は凛の確認が先だ。
士郎、百目鬼、セイバーの順に並び凛の自室に入った。


269 :1 [saga]:2012/09/01(土) 01:03:36.48 ID:xIDyV40h0

凛の部屋には空間に映像が映し出されていた。
モコナ=モドキを使用しての平行世界通信。士郎の仮説があっているのなら時間さえも超えた通信。
士郎はこれを以前に見たことがあった。

士郎「あんたは壱原裕子か」

侑子「ええ」

凛「・・・・・・」

士郎「・・・・・・」

昨日の凛の言葉。願いを叶える店の店主。険悪な雰囲気。
これだけの情報が集まっていて、今何が起こっているか理解できないほど士郎は間抜けではない。
270 :1 [saga]:2012/09/01(土) 01:08:04.85 ID:xIDyV40h0

士郎「願ったのか?」

凛「・・・いいえ、まだよ」

士郎「なら、対価か」

士郎は四月一日から対価についていろいろ聞いていた。
なかにはとんでもないものが要求されることもあると。
まだ願っていないのならば、先ほどの凛の大声は対価に対する異論なのではないだろうか。
どんな時でも余裕をもって優雅たれ、が家訓の凛はよほどのことではない限りあわてたりしない。

士郎「あんたは、遠坂凛に何を要求したんだ?」

侑子「アーチャーの聖遺物の赤い宝石よ」

士郎「・・・・・・」

アーチャーを救うためにアーチャーの思い出を失う。確かにとんでもない対価だ。

侑子「彼女の分の対価はね」

士郎「・・・えっ?」
271 :1 [saga]:2012/09/01(土) 01:13:47.36 ID:xIDyV40h0
彼女の分の対価。

士郎「それだけじゃないのか?」

侑子「ええ。対価は常に過不足なく。もらいすぎてももらわなさ過ぎてもいけないの。
   特に今回は平行世界を超える願いだから、それに見合う対価を支払ってもらわなければいけない」

士郎「その対価の支払い人は、俺か?」

侑子「あら、察しがいいのね」

守護者エミヤと最も関係があるのは衛宮士郎に他ならない。
凛とかかわりが深いのも加えれば、ほかの支払い人が誰かはすぐにわかった。

侑子「あなたの分の対価はーーーー」





侑子「記憶。衛宮士郎の持つ衛宮切嗣に関する記憶のすべてよ」
272 :1 [saga]:2012/09/01(土) 01:19:30.04 ID:xIDyV40h0
士郎「なっ・・・!!?」

衛宮士郎はブリキの騎士である。
ただの比喩に過ぎない表現だが、非常に的を射ているといえるだろう。
衛宮士郎は空っぽの中身を埋めている。そのほとんどは切嗣が生きていたころの幼少のころにだ。
なにより、夢である「正義の味方」も、衛宮切嗣にあこがれてのものだった。

そんな士郎のなかからキリツグが消え失せたらどうなるか。
本人にすら予想できなかった。

侑子「好きにしなさい。決断は遠坂凛事態がすること」

侑子は強制する意思はないといった。
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 01:22:02.33 ID:4VhRPB4fo
エミヤの存在自体を消し去る願いか…救うと言うか、生まれる前に消し去る感じだな
274 :1 [saga]:2012/09/01(土) 01:29:27.42 ID:xIDyV40h0
士郎「・・・・・・」

士郎は思案する。遠坂の願いも、切嗣との思い出も、士郎にとってはどちらも掛買のないものだった。
士郎は凛のほうへ向く。

士郎「・・・俺はかまわない。したいようにすればいい」

凛「士郎!?」

凛は信じられないといった表情をした。
衛宮切嗣とのつながり、士郎の根幹にあたる人物の記憶を失うと即決したのだから。

凛「なんで・・・」

士郎「・・・・・・」

士郎は答えない。
ただ、凛の好きにしろと目で伝えていた。

凛「っ・・・! 私も・・・私は願いを・・・」



四月一日「待ってください!」
275 :1 [saga]:2012/09/01(土) 01:34:26.02 ID:xIDyV40h0
「「「「!?」」」」

侑子「遅かったじゃない四月一日」

モコナ「よう!」

いきなり部屋に飛び込んできたのは四月一日だった。
焦って走ってきたようで、肩で息をしている。

百目鬼「寝坊か」

四月一日「ちげーよ」

四月一日はまっすぐ凛の前まで移動する。

凛「・・・何の用かしら」

四月一日「伝言です」

四月一日は凛の目を見据えた。
276 :1 [saga]:2012/09/01(土) 01:43:03.73 ID:xIDyV40h0
四月一日「『俺は大丈夫だから。そのようなおせっかい、心の贅肉ではないのかね?』」

凛「−−−−−−!」

凛は驚いた顔をした。

誰からの伝言なのか? 聞くまでもない。
なぜ四月一日が伝言を受けたのか? いや、重要なのは内容のほうだ。

厭味ったらしい皮肉。
それが凛にとっては無性に懐かしく暖かいものに感じた。

凛「アー、チャー・・・・」

士郎「・・・・・・」

セイバー「・・・・・・・」

呆然としている凛を皆は黙って見守った。
277 :1 [saga]:2012/09/01(土) 01:50:09.88 ID:xIDyV40h0
凛「ははっ、ははははっ」

凛は笑い出した。初めこそ抑えていたが、次第にその笑い声は大きなものへと変わっていく。
その笑いが落ち着いた頃、侑子は再び凛にきいた。

侑子「さて、あなたは願いを叶えるのかしら?」

凛「ええ、かなえるわ。こんな嫌味を言われたんだもの。意地でもかなえてやるわ。
  −−−ほかでもないこの私の力でね!」

凛の瞳には強い意志が宿っていた。

凛「何をエラそうにいってるんだか。無理やりにでも契約破棄して、直接頬の一発や二発殴ってやらないと気が済まないわ」

士郎「そっか。そのほうが遠坂らしい」

セイバー「凛ならばできます」

士郎とセイバーも、心なしか顔がほぐれていた。
278 :1 [saga]:2012/09/01(土) 01:57:14.24 ID:xIDyV40h0
侑子「そう。あなたならきっとできるわ」

凛「あら、お世辞かしら?」

侑子「そんなことないわ。きっと、あなたたちならできる」

めずらしく侑子さんは柔らかい表情をした。
ほんとめずらしい。

凛「ありがとう。ありがたくその声援うけとるわ」

凛はすっかり本調子のようだ。

四月一日「そうだ、士郎さんにも伝言だそうです」

士郎「む、俺にか?」

士郎は意外そうな顔をした。
少し緊張してかまえる士郎と、伝言の内容を比べると、四月一日は笑いをこらえるのが大変だった。

四月一日「『ほかの作業に気を取られて鍋を吹かすなど三流のやることだ未熟者』だそうです」

士郎「・・・なんで知ってるのさ!?」

279 :1 [saga]:2012/09/01(土) 02:02:42.31 ID:xIDyV40h0
士郎が割と本気で凹み、そんな士郎に凛がさらに追い打ちをかけて、百目鬼が悪気のない刺さる一言でとどめを刺した。
モコナに肩をポンポンとたたかれている士郎に、四月一日は苦笑いすることしかできない。

侑子「・・・さて。そろそろ時間ね」

ルヴィア「こちらの準備は完了していますわ」

ルヴィアが設備を背にどーんとかまえて立っていた。
実に様になる。

四月一日「えっ、もうなんですか」

準備、すなわち元の世界への帰宅である。

士郎「・・・そうか、二人とももう帰っちまうのか」

モコナ「モコナも忘れるなよ!」

士郎「ごめんごめん」

280 :1 [saga]:2012/09/01(土) 02:09:55.07 ID:xIDyV40h0
四月一日(いざ帰るとなると、さびしいもんだな)

士郎とセイバーと凛と、そしてルヴィア。かかわった時間はほんの少しだけれど、それでも確かな絆を築けたと確信できる。

ルヴィア「さあ、早く指定の位置へ」

四月一日「今なんですか?」

ルヴィア「魔術にとって時間はかなり重要な要素ですのよ? 16年後に帰りたいのなら今じゃなくても結構ですわ」

四月一日「う・・・」

さすがに帰った時に成人済みなのは勘弁だった。

ルヴィアと凛の支持通り、指定の位置につく。
281 :1 [saga]:2012/09/01(土) 02:16:15.06 ID:xIDyV40h0
ルヴィア「調子が戻っていないなど、失敗の理由にはなりませんわよ?」

凛「あんたこそ足引っ張ったら許さないわよ?」

かるく言い合いながら、二人は魔術的な操作を始めた。

士郎「向こうでも、こっちでも、また会えるといいな」

四月一日「はい、逢いたいです」

百目鬼「きちんとした施設で、弓を見せてくれませんか」

士郎「・・・ああ、きっとだ」

凛「心配しなくても私が絶対に再会させてやるわよ!」

凛がとてもかっこよかった。
凛ならば、必ず再会を自力で果たしそうである。
ーーーそして、今日自力で成し遂げてみせると誓った願いも。

282 :1 [saga]:2012/09/01(土) 02:19:48.55 ID:xIDyV40h0
凛「いくわよ!」ルヴィア「いきますわよ!」

視界が光で満たされていく。

士郎「−−−過去の■■士郎にも、よろしくな」

何も見えなくなる。







侑子「お帰りなさい。四月一日」

四月一日「・・・ただいまです」

再び目を開くと、そこは見慣れたミセだった。
283 :1 [saga]:2012/09/01(土) 02:23:19.29 ID:xIDyV40h0
四月一日「あれ、百目鬼は・・・」

侑子「あの子なら自宅よ」

四月一日「そうなんですか」

いまだに平行世界にいっていたなんて実感がなかった。
ちょっと呼べばすぐにみんなに会えそうな気がさえする。

四月一日「こっちでも、あの人たちに会えるでしょうか」

侑子「ーーーええ、きっと会えるわよ」

侑子さんは優しく笑っていた。
284 :1 [saga sage]:2012/09/01(土) 02:24:36.57 ID:xIDyV40h0
凛編、これにて完結です。
セイバーと百目鬼の影が思いのほか薄くなってしまいました・・・

285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 02:25:00.76 ID:4VhRPB4fo
286 :1 [saga sage]:2012/09/01(土) 02:27:10.43 ID:xIDyV40h0
次の客の安価
↓3
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 02:29:16.02 ID:4VhRPB4fo
衛宮切嗣
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/01(土) 02:35:02.48 ID:4v9k6w/q0
間桐慎二
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/01(土) 02:35:15.92 ID:cCYpFi0AO
Fateのキャラは願いが壮大なやつが何人かいるから書く側の事を考えると迂闊な人選が出来ない

安価ならソラウ
290 :1 [saga sage]:2012/09/01(土) 02:44:18.75 ID:xIDyV40h0
>>289
ソラウ・・・だと・・・!?
了解しました。
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 03:01:01.35 ID:0jMRKix9o
追い付いた

ソラウとか予想外すぎるwww
言峰が四次前だったからな……ディルムッドと会う前か?
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 03:56:40.57 ID:jgEUGdADO
乙!
今回も安定の面白さだった

そしてソラウは自滅する未来しか見えないwwwwww
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 10:06:25.62 ID:iuaUsvDDO
いやわからんぞ。
ディルに会う前なら全てに対して無関心状態だから旨いことやれば案外ハッピーエンドになるかも
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/01(土) 16:32:43.55 ID:cCYpFi0AO
イケメンな方のランサーに会う前のつもりでリクエストしたけど>>1の書きやすい方で

ふと思ったけどセイバーとかの願いを叶えるのは大変そうだな
いやそもそもセイバーの願いってなんだったっけ?友達欲しい?
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/09/01(土) 18:36:07.18 ID:0hmjIx/Oo
>>294
死ぬほど食べるじゃないかな?
296 :1 [saga]:2012/09/02(日) 22:58:41.01 ID:mw9VOT1I0
>>295
セイバーぇ・・・

ソラウ編投下します。
297 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:01:18.94 ID:mw9VOT1I0
侑子「ふふふー」

モコナ「むふふー!」

侑子「ロンドンだー!」

モコナ「ロンドンなうだぞ!」

侑子さんとモコナはハイタッチしながら上機嫌で叫んだ。

四月一日「・・・楽しそうですね」

侑子「何よー、せっかくの海外旅行なんだからもっと楽しまないと損よ?」

四月一日「ええ、楽しいですよ! 俺が荷物持ちじゃなかったらですけど!」

百目鬼「もう疲れたのか」

四月一日「全然疲れてねえよ!」
298 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:02:49.27 ID:mw9VOT1I0

現在、侑子さんとモコナと百目鬼と一緒にロンドンに来ていた。
なぜこんなにも不機嫌なのかというと、侑子さんは荷物を持たないからである。そして俺と百目鬼に持たせるのだ。
百目鬼と俺の背中には巨大な荷物の山ができていた。

四月一日「大体あの通路なんなんすか! こんな荷物持ってあんなところ抜けられたのなんて奇跡みたいなもんですよ!」

モコナ「ア○ラ通路だぞ!」

侑子「便利でしょー! でも四月一日が行きたかったから来たのよ? 当然の対価でしょう」

四月一日「う・・・」

そういわれると何も言い返せなくなる。図星だった。
299 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:04:28.16 ID:mw9VOT1I0


そもそもロンドンに行くことになった発端は四月一日自身にある。
凛たちに会いたいと思ったのだ。
彼女たちはロンドンにいたため、まずはそこから探してみようという作戦だった。
しかし四月一日は学生の身、海外旅行など簡単にはいけない。
それを侑子さんがバカンスついでになら連れて行ってあげても構わないと、このメンバーでロンドンに旅行に行くことになったのだった。

侑子「それじゃあホテルに荷物を置いてきてね」

モコナ「バカンスだからな!」

四月一日「というかモコナ、お前は少しは隠れろよ!」

モコナ「モコナ人形だもーん」

四月一日「そんな動いてしゃべる人形があるか!」

あまりにも堂々と動き回るモコナに気が気ではない。
300 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:05:46.33 ID:mw9VOT1I0

侑子「それよりも、四月一日こそ気をつけなさいよ? 向こうのここでも襲われたんでしょう?」

四月一日「・・・まあ」

なぜ知っているかという質問は侑子さんには愚問だ。

四月一日「管狐もいますし」

管狐「・・・!!」スキスキ

四月一日「うわっ、すり寄るなって!」

百目鬼「好かれてるんだな」

侑子「じゃあ一度ここで別れましょうか!」

モコナ「買って買って楽しみまくるぞー!」

侑子「おー!」

侑子さんとモコナは楽しそうに買い物に出かけていった。
301 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:07:08.65 ID:mw9VOT1I0

百目鬼「まずは荷物を置きに行くぞ」

四月一日「なんでお前が命令するんだよ!」

先に勝手に進む百目鬼を追いかける。
侑子さんたちはバカンスだが、こっちはそうではない。さっさと捜索にかからねば。

遠坂凛と衛宮士郎。セイバーにルヴィア。
俺たちは彼らを知っていても、彼らは俺らを知らないのだ。
だから手当たり次第に探さなければ会えないだろう。

なにせ、俺たちがあったのは平行世界の彼らなのだから。


四月一日(ーーー大丈夫。こっちでも、きっと会える)
302 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:08:06.88 ID:mw9VOT1I0

ーーー昼
【とあるカフェテリア】

ウェイター「Here you are」

百目鬼「Thank you」

注文したアイスティーを受け取った。

四月一日「・・・にしてもなんでこうも手掛かりがないんだよ!」

思わずそう叫んだ。
凛にしてもルヴィアにしても、士郎やセイバーにしても、全く持って情報がない。
というかそもそも時計台が見つからない状況だった。
英語にしても一般学生レベルの基礎的なものしかできないこともあり、捜索は難航していた。

四月一日「せめて時計台が見つかればなー・・・」

百目鬼「迷ったのか」

四月一日「お前も一緒に迷ってるんだよ!」
303 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:08:33.45 ID:mw9VOT1I0

管狐「・・・・・・」スリスリ

四月一日「ありがとな、管狐」

服の中に隠れていた管狐が慰めるようにすり寄ってきた。
すこしこそばゆいが、その気遣いがとてもうれしかった。心のオアシスだ。

百目鬼「侑子さんに一度聞いてみるべきか」

四月一日「できれば頼りたくなかったんだけど仕方ないな」

残っていたアイスティーを飲み干した。

四月一日「一回ホテルに戻ろうか・・・ん?」

さっそく帰るかと思ったとき、同じカフェテリアにいた一組の男女に気づいた。
男のほうは金髪でいかにも外国人、といった顔をしている。白手袋が紳士っぽい。
女のほうは赤毛で、ブラウスが似合っていてかわいらしかった。
304 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:12:04.62 ID:mw9VOT1I0


しかし重要なのは外見ではなく会話の内容だった。

?「    時計塔    聖  サーヴァン   」

?「     魔力     関係   」

四月一日「・・・!?」

一見ただのデートにも見える二人組の会話は、明らかに凛たちと同じ「魔術師」のものだった。

四月一日(もしかしたら、手掛かりがつかめるかもしれない・・・!)

椅子から立ち上がる。

百目鬼「どうした」

四月一日「ちょっと最後にあの人たちに話を聞いてくる」

時計塔。サーヴァント。魔力。

あの二人に聞けば、探し人へと確実に近づくに違いないと確信した。



305 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:18:44.59 ID:mw9VOT1I0

四月一日「えっと・・・excuse me!」

?「・・・Who are you?」

四月一日「あの、俺探してる人がいるんですけど・・・じゃなくて! I am saurch for...」

?「見たところジャップのようだが。我々に何の用かね? 人探しなら他をあたってもらおうか」

男は不機嫌そうに返してきた。しかし、どうやら男は日本語が話せるらしい。
ならば一応聞けるだけ聞いてみようと思った。せっかくつかんだチャンスなのだ。

四月一日「あの! 人を探しに来たんです! このあたりに住んでるかも知れなくて」

?「・・・・・・」

男は面倒臭そうに俺に目を合わせようとした。


306 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:24:42.17 ID:mw9VOT1I0
百目鬼「あの」

四月一日「百目鬼!」

しかし、目が合う直前に百目鬼に声をかけられて俺は振り返った。

百目鬼「衛宮士郎という名前に聞き覚えはありませんか」

?「・・・・・・」

男は不機嫌そうな顔をする。

四月一日「あと、遠坂凛という名前には・・・」

?「トオサカ・・・?」

凛の名前を出すと、男の表情が変わった。
それ幸いにと、おれは続けて質問する。

四月一日「あと、セイバーという名前には・・・」

その名前があるいみ地雷だということも気付かないで。
307 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:30:43.64 ID:mw9VOT1I0
?「貴様、どこの魔術師だ?」

四月一日「えっ」

男は今までとは違う雰囲気をまとい、そう問いかけてきた。

?「私は時計塔のケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。・・・ずいぶん世間知らずの田舎者のようだが」

男の纏う異常さに腰が引けた。

四月一日(もしかして、なにかやっちゃいけないことをしたんじゃ・・・!)

ケイネス「無礼な対応をするドブネズミに与える優しさなどあいにく私は持ち合わせていなくてね」

百目鬼「逃げるぞ」

四月一日「うわっ!」

百目鬼に腕をひかれ我に返る。

四月一日(そうだ、よくわからないけど危険だ・・・! 逃げないと!)
308 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:39:39.61 ID:mw9VOT1I0
ケイネス「逃がすと思ったか」

男は何やらよくわからないことをし始めた。
本当に何をやっているのかわからない。
しかし、それが危険なことだということは分かった。

服の中から管狐が出てきた。

四月一日「管狐!?」

管狐「・・・・・!!!」ヘンシン

管狐は光に包まれ、八尾の大きな体へと変化する。

ケイネス「なっ、それほどの使い魔は・・・!」

管狐が炎を吐き出した。
圧倒的な火がすべてを覆う。
309 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:42:11.42 ID:mw9VOT1I0

四月一日「ありがとう管狐!」

その隙に俺たちは逃げ出した。

ある程度離れた地点で、管狐が心配になり振り向いたが、どうやらその必要もなさそうだ。

四月一日「あれ、あの女の人は」

騒いでいる管狐と男のそばで、その女性は悠々と紅茶にくちをつけているのが目に入った。
赤毛の女性。男の婚約者だったはずだ。
その女性は周りを気にせず紅茶を飲み続けていた。
何にも興味も関心がないようだった。
その、すべてに無関心であきらめたような目がやけに印象に残った。
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/02(日) 23:43:21.79 ID:bDp/9aYZ0
九尾って神様クラスの妖怪じゃなかったっけ?
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 23:44:43.22 ID:3K7UmSPDo
八尾だし
312 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:48:25.56 ID:mw9VOT1I0
【ホテル】

侑子「あははははー! そんな馬鹿正直に聞いて回ってたのね四月一日!」

四月一日「いいじゃないですか!」

その後、ホテルで侑子さんに今日の出来事を話していた。

侑子「駄目よ四月一日。魔術師は基本世間から隠れてるんだから。そんな堂々と聞いて回ってちゃ殺されるかもしれないわよ?」

四月一日「殺されるって・・・」

侑子「おおげさじゃないのよ」

侑子さんはだんだんと真面目な顔つきになっていった。

侑子「それにセイバーと遠坂の名前は特に禁句よ。聖杯戦争の関係者ですーって吹聴するようなものよ」

四月一日「でも、凛さんや士郎さんのときは」

侑子「あの子たちは変わり者よ。むしろ今日会ったタイプみたいなののほうがおおいわ。出会いがしらに記憶を消されなかっただけでもいいほうよ」

313 :1 [saga]:2012/09/02(日) 23:59:09.74 ID:mw9VOT1I0
>>310
管狐は8尾です。おそらく神霊一歩手前。
このSSでは管狐はサーヴァントの1〜2ランク程度下の存在という裏設定。






侑子「魔術を秘匿しなきゃいけない理由はきちんとあるわ。でもね、それだけじゃないの。
   他人が知らないことを知っているということは、ヒトに優越感をあたえ、選民思想を誘発させる。
   要するに、四月一日たち一般人を常に見下している分、そもそも対等な立場で交渉することすら難しい。
   もちろん実力行使でも四月一日達だけでは到底太刀打ちできないでしょうね
   研究材料にされる可能性もあるし、魔術師に無防備に接触するのは百害あって一利なしよ?」

四月一日「つまり、聞いて回るのは得策ではないということですか」

侑子「そうなるわね」

どうやら自分は相当ばかなことをやっていたらしい。
焦りすぎていたようだ。

四月一日「・・・それと」

侑子「何かあったのかしら」

四月一日「・・・いえ、やっぱりいいです」
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/03(月) 00:03:19.48 ID:p1T2TSDW0
魔術師ってヤバイ奴多いよな
人の命<魔術の秘匿 だもんな
315 :1 [saga]:2012/09/03(月) 00:44:14.38 ID:zn38BEWs0
あの赤毛の女性のことが気になったことを言おうとしたが、やめておいた。
改めて考えると特に言う必要もない。

四月一日「えっと、外の風あたってきますね」

モコナ「いってらっしゃーい!」

そういいな外に出る。
凛たちがまたいっぽ離れてしまったようで、悲しかった。

こんごどうやって探していこうか、方法を考えながら移動した。
316 :1 [saga]:2012/09/03(月) 00:44:50.02 ID:zn38BEWs0
すみません寝落ちしてました。
今回の投下終了です。
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 00:46:33.12 ID:9DOFC9Q7o
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/03(月) 01:19:33.63 ID:l9bBOPgAO

管狐可愛いよな
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/09/07(金) 01:59:46.24 ID:4qyu/XMqo
320 : ◆7usAPPBzDI :2012/09/09(日) 18:13:39.12 ID:fazEj+5IO
ホリック実写化するそうですね。
記念ということで、前回の嘘予告の内容とは違いますがソラウ編のあとに5次で長編やってみようと思います。
今夜ソラウ編続きを投下します。
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/09(日) 18:19:00.31 ID:v+SOD1HAO
舞ってた
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/09/09(日) 19:14:07.26 ID:O1jVKh3AO
>>313
タマモは神霊だったし 8尾ももうちょっと上なのでは……と
まあ こんな水掛け論やってもしょうがないんですがね
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 21:39:20.60 ID:azg1qLjeo
実写化ってmjd?
四月一日の変な動きをできる俳優がいるのか……?
324 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/10(月) 00:31:02.67 ID:C69EkMkH0
>>322
このSSでは一応雨童女や座敷童が神霊にあたる設定です。九尾はその中でも相当神聖な部類。
まああまり設定を語りすぎてもあれなので、どうしてもおかしい点以外はある程度まで感覚で読んでいただければ。

投下します。
325 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/10(月) 00:38:33.25 ID:C69EkMkH0
ホテルを出て、当てもなく歩く。
偶然凛たちと出くわさないだろうかと期待したが、そんなうまい話もなかった。

四月一日「はあ……それにしても、魔術師ってなんなんだろうな。侑子さんもよくわからないけど」

四月一日の感覚では、魔術が便利なのならば多くの人に伝えるべきだと思った。
そもそも四月一日が霊視の話をあまり進んでしないのも、信じてもらえないことと知ってもらったところであまり役に立たないからである。
魔術のように実際にすごいことを見せることができるのなら、なぜそれをもっと人助けに使わないのだろうか。
四月一日はそう考える。

四月一日「素人の考えなのか、やっぱり」

いろいろああだこうだと考えていると、ふと赤い髪の女性が目に入った。
326 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/10(月) 00:44:38.34 ID:C69EkMkH0
四月一日「あなたは!」

赤毛の女性は、たしかについさっきカフェテリアであったばかりの女性だった。

?「あら」

女性は一人で、男性のほうはいない。
しかし、あんなむちゃくちゃな威圧感が出せる男性とともにいたのだ。
警戒するには十分な理由だった。

四月一日(管狐もいねーし・・・!)

絶体絶命だとおもい、せめてもの気休めでかまえた。

?「さっきの子供ね。別にかまえなくてもいいわ」

四月一日「・・・あなたは」

ソラウ「ソラウよ。ケイネスは今あなたを探している真っ最中よ、私を残して」
327 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/10(月) 00:50:00.27 ID:C69EkMkH0
四月一日「あっ・・・」

言われてやっと彼女が一人だという理由に気付いた。
ケイネスは現在進行形で四月一日を探しているのだ。
魔術師は魔術の秘匿を第一にするという。それはきっとデートよりも大切にされる。

つまり、四月一日たちはソラウのデートを邪魔してしまったのだ。

四月一日「すみません」

ソラウ「なぜ謝るのかしら?」

四月一日「せっかくのデートを邪魔してしまったようなので」

四月一日がもしひまわりちゃんとデートをしていたとして、見知らぬ他人に無茶苦茶にされたなら、間違いなく切れるだろう。
そんな行為を四月一日は無遠慮にもやってしまったのだ。

328 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/10(月) 00:57:31.58 ID:C69EkMkH0
ソラウの表情に変化はない。
返事もしないので、四月一日は話を続けることにした。

四月一日「ええっと、ケイネスさんとは結婚されるんですか」

ソラウ「許嫁よ」

こんどは即座に返答される。

四月一日「そうだったんですか。結婚はいつされるんですか?」

ソラウ「来年には」

四月一日「そうなんですか!」

来年には挙式をあげる。
四月一日はそう聞いて驚いた。

四月一日「おめでとうございます。お幸せに」

デートを邪魔した謝罪もこめて、心から祝った。
せっかちすぎるかもしれないが、どうせもう会えないだろう。
だから今のうちに言った。

ソラウは返事をしない。
相変わらずの無表情だが、今度は少しだけ変化していた。


ソラウ「−−ーどうして?」


その顔に浮かんでいたのは、疑問であった。
329 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/10(月) 01:01:29.73 ID:C69EkMkH0
四月一日「・・・!?」

どうして結婚を祝うの?

そういう考えが伝わってきたような気がした。

ソラウ「ケイネスが来たようね」

四月一日「まずい! すみません、俺がいたことは黙っていていただけませんか」

ソラウ「聞かれないかぎりは」

ソラウは即答した。

四月一日「いいんですか、それで」

ソラウ「その役目は任されていないもの」
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/10(月) 06:15:31.54 ID:ulOy1MWx0

寝落ちするほど疲れてるならゆっくり体を休めてくれwww

そういえば、侑子ってミセから出られないはずなのに原作でも外出してたよね
どうやってんの?幽体離脱?
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 07:59:15.61 ID:eTWkE967o
出掛けた時も何かしら依頼を受けてた気がする
外出先でも願いを叶える事を対価に術式組んでるんじゃね
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/10(月) 20:26:04.48 ID:tAh9PmkAO
侑子さんが出掛けた回って斬鉄剣でパソコンぶった切った回くらいしか覚えてないな

アニメだったら家電売り場とか雪合戦とか映画版のホラーハウスとか覚えてるけど
333 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/10(月) 21:15:00.24 ID:C69EkMkH0
昨夜は寝落ちしてしまいすみません・・・。
一応短いですが、長編の予告を置いて行くます。
理想郷に投稿されているものと似ていますが、一応同一人物です。また、ストーリーもあちらとはかなり変える予定です。
334 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/10(月) 21:16:52.61 ID:C69EkMkH0

これは異なる並行世界での物語。

四月一日君尋は夢を見た。

どこまでも続く闇のなか、自分ともう一人の男だけが存在している。
自分と瓜二つの男。四月一日との違いらしい違いといえば、眼鏡をかけていないことと、落ち着いた雰囲気を持っていることぐらいだった。

「ーーー始まりはもうすぐみたいだね」

男は言った。

四月一日「始まり・・・? それってどういうことですか。それにここはどこなんですか?」

「もうすぐ。きっともうすぐーーー」

男の体が無数の鳥に変化し、煙と共に飛び去って行く。

四月一日「あなたはいったい・・・!?」

男は返事をしなかった。
335 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/10(月) 21:17:45.51 ID:C69EkMkH0

目覚ましの音がする。
見慣れた天井が目に入った。
もう6時をまわっているようだ。

四月一日「・・・まあ気にしてても意味ないか」

布団から起き上がり、伸びをする。
四月一日の朝は忙しい。家を出る頃には今朝の夢のことはすっかり忘れてしまっていた。








xxxholic×fate/stay night
モウ一人ノユメ
336 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/10(月) 21:19:38.75 ID:C69EkMkH0

小次郎「ーーーしばらく夜に出歩くな」

士郎「四月一日、ちょっと今日は弓道場の掃除をしていくから遅くなるって伝えといてくれないか」

アーチャー「どういうことだ・・・? 君は・・・」

凛「あなた、覚えてないの?」

セイバー「・・・!?」

すべての始まりは10年前の大火災。そして第4次聖杯戦争。
運命の訪れる夜がやってくる。
全ての鍵は揃ったのだ。



四月一日「・・・佐々木さん、少し協力してもらっても構いませんか」

小次郎「かまわんよ。我が秘剣、お前の命運に預けよう」



もう一人の運命が動き出すーーー!
337 : ◆7usAPPBzDI [sage]:2012/09/10(月) 21:24:56.39 ID:C69EkMkH0
以上です。
長編はソラウ編後開始します。
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 22:07:25.28 ID:8iCRhkFOo
339 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 21:34:36.28 ID:pfFrnmGA0
投下します。
ソラウ編今回で完結できたら・・・いいな。
340 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 21:36:34.04 ID:pfFrnmGA0
「その役目は任されていないもの」

ソラウは当たり前のように言った。

四月一日「・・・・・・」

予想が確信に変わった。
この女性にはないのだ。
この女性にはーーー

四月一日「って、やばい! 早くいかないと!」

魔術師とは秘匿を絶対とし、秘匿のためなら手段は択ばないような人々なのだ。
ケイネスに見つかるのはまずい。

四月一日「さようなら」

ソラウ「・・・・・・」

急いでこの場を去った。
341 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 21:37:21.78 ID:pfFrnmGA0

【ホテル】

四月一日「あの、侑子さん」

侑子「あら、お帰り四月一日。どうしたの?」

外でソラウに会ったことを侑子さんに話した。そして気づいたことも。



侑子「・・・そう、またあったのね」

四月一日「魔術師っていったいなんなんですか? 俺には、ソラウさんにーーー」

侑子「あれはそう珍しいことでもないわ。魔術はお金がかかるから、長期的に探究できるのは自然と名家が多くなる。そしてそこに生まれるのは権力なんかのしがらみ。
   四月一日、家と家の関係を強くするためのもっとも簡単な方法はわかる?」

わからないわけがない。
何せ、ソラウ自身がケイネスとの関係を言っていた。
342 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 21:39:14.87 ID:pfFrnmGA0

四月一日「政略結婚・・・」

侑子「正解」

魔術師とは根源に到達することを唯一の目的とする存在である。
親から子へ、秘跡は難題にもわたり受け継がれていく。しかし、1を2に分ければ伝えられる秘跡は減少し、根源への道は遠のいてしまう。
それでも魔術師が子供を複数作る理由は何か?

侑子「長男のスペアと、政略結婚。これが彼女の存在意義よ」

四月一日「そんなの・・・!」

その役目は、ソラウという人物自信を押しつぶしている。
そこにソラウという個は必要とされていない。
道具同然の扱いだ。

侑子「それが魔術師よ。魔術師にとっては、何もかもが、子供すらも根源に到達するための道具にすぎないの。そして彼女は自身の役割に納得している」
343 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 21:40:45.61 ID:pfFrnmGA0


四月一日「だから」

だから彼女にはーーー

侑子「そう、自我が感じられない」

そう。彼女と話した時の違和感がそれだ。
初対面では、まさしくお嬢様といったきつい印象を受けた。
しかし、少し話していれば、それが演技であり、彼女は本当はすべてに無関心だということに気付いたのだ。
それは彼女があきらめている、つまり納得していることをあらわしている。

四月一日「・・・・・・」

侑子「でもね、あきらめてるってことは、同時にまだ道具同然の扱いがいやだという意志が存在している証拠でもある」

四月一日「!」

侑子さんの言葉が、救いの可能性に見えた。
344 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 21:41:32.09 ID:pfFrnmGA0


四月一日「・・・・・・」

彼女と自分が無関係だということはわかっている。しかしだからと言って、道具として扱われ、諦観しきっている彼女を見過ごして何もしないこともできなかった。
もし。もし、自分に何かできるのならば。

侑子「・・・ねえ、四月一日。本当に彼女にかかわりたい?」

四月一日「・・・はい」

侑子さんは忠告するように話し始めた。

侑子「四月一日が思っている以上に、魔術師は危ないわよ? 四月一日なんて、格好の研究対象。下手にかかわれば死ぬかもしれない。いいえ、それはまだいいほうね。原型をとどめることができていたら幸運よ」

四月一日「原型・・・!?」

原型をとどめられたら幸運なほう。確かに恐ろしいが、あまりに突拍子がなさ過ぎて現実感がなかった。

侑子「それに、もし彼女自身が変化を望んでいなかったらどうするのかしら?」
345 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 21:42:20.62 ID:pfFrnmGA0


ーーー!
もし彼女が望んでいなかったら?

四月一日「もし、俺の行動がおせっかいだったとしたら・・・」

彼女の無関心さは、一種の防衛本能だ。
何かに興味をもって、それを我慢するくらいなら、最初からあきらめてしまったほうがよいと。
家のためだけに道具同然に扱われるのが当然だと。
仮にそれを取り払ってしまったら、彼女はどうなる。
もしかして、下手なおせっかいは彼女を傷つけるだけではないのか?

侑子「四月一日、アナタはどうしたい?」

四月一日「俺は・・・」

346 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 21:43:40.03 ID:pfFrnmGA0


四月一日「それでも彼女に知ってほしいです。何かをしたいと思うことは、とても素敵なことですから」


彼女に知ってほしい。
それは俺の望みだった。

侑子「・・・そう」

四月一日「やっぱりもう一回外に行ってきます。今ならソラウさんも近くにいると思いますから」

侑子「ホテルの近くに百目鬼くんもいるわ。連れて行きなさい」

四月一日「行ってきます!」

そういうや否や、ホテルを飛び出した。
目指すは彼女のいるところだ。





侑子「さて、私も行きましょうか」
347 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 21:44:24.33 ID:pfFrnmGA0


【ホテル外】

四月一日「どこだ・・・! さっきまでここにいたはず・・・!」

それにさっきケイネスが近くまで来ていたはずだ。
見つかったらまずい。

四月一日「くそ、いない・・・」

もしかして帰ってしまったのかもしれない。

百目鬼「おい」

四月一日「百目鬼!」

百目鬼に声をかけられた。
都合がいい。
348 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 21:45:06.96 ID:pfFrnmGA0



四月一日「ソラウさん、カフェテリアで見た赤毛の女の人を探してる」

百目鬼「・・・探せばいいのか」

四月一日「ああ」

百目鬼に頼みごとをするのは癪だったが、今は圧倒的に人手が足りない。

百目鬼「こっちを探すぞ」

四月一日「俺はこっちにいくからな」

いったん二手に分かれると、捜索し続けた。
349 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 21:47:26.16 ID:pfFrnmGA0


ーーー深夜

捜索は深夜まで続いた。

四月一日「はあ、はあ。どこにもいない・・・!」

ソラウさんは見つからなかった。
もう家に帰ってしまっただろう。

四月一日「また会えるとは限らないのに・・・」

うつむいた時だった。

四月一日「・・・蝶?」

珍しい柄の蝶が飛んでいるのを見つけた。
なんとなく気になって、飛んでいく方向を目で追った。

四月一日「・・・ってあれは!」

目線の先には探していた赤毛がいた。
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/13(木) 23:16:01.68 ID:xUKREuzAO
ホリック知らないけど面白い
351 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 23:22:24.37 ID:pfFrnmGA0

四月一日「ソラウさん!」

ソラウ「・・・またあなたなの?」

ソラウは多少うんざりした顔でこちらをみた。

四月一日「はい。少しだけ、話したいことがあったので」

四月一日はソラウをまっすぐ見つめる。
きっと余計な世話だといわれる。ひょっとすると馬鹿にしているのかと本気で怒られるかもしれない。
それでも自分は本気なのだと、少しは伝わればいいと思った。


四月一日「あなたは、何をしたいですか?」


ソラウは意味が分からない、という顔をする。
しかし、今回の四月一日の要件は、この一言に尽きる。
352 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 23:32:21.55 ID:pfFrnmGA0
ソラウ「何のつもりかしら。そもそもあなた正規の魔術師じゃないわね?」

四月一日「四月一日君尋といいます。おせっかいかもしれないですけど、言わせてください。あなたはあきらめてるんじゃないですか」

ソラウ「・・・あなたの言う通りおせっかいよ。不快だわ。さっさと消えて頂戴」

今度はソラウは露骨に眉をひそめた。

四月一日(でも、俺ははっきりとは言っていないのにそれが不快だというのなら、意識しているってことだよな)

こちらに都合の良すぎる解釈かもしれない。
けれども四月一日は言葉を続けることにした。
353 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 23:42:22.93 ID:pfFrnmGA0
四月一日「魔術師のことは知り合いから聞きました。許嫁という役割がどういうことなのかも。でも、あなたの目を見ていたらいてもたってもいられなくなったんです」

ソラウ「・・・そう。それを部外者が言うのね」

四月一日「うっ・・・でも、自分の意志で行動するってことは、とても素敵なことなんです! だから・・・!」

ソラウ「そこまでいうのなら、私という役割の重要性もわかるでしょう? 私が結婚すればソファリ家とエルメロイ家の結びつきはさらに強くなるのよ」

四月一日「!!??」

ソラウは一転無表情でそう言った。

四月一日「それはソラウさんの意思じゃないでしょう!」

ソラウ「どうしていきなり現れたあなたにそんなことを言われなくてはいけないのかしら。それとも・・・」

ソラウは少し言葉をためて、言う。

ソラウ「ケイネスを呼び出したほうがいいのかしら」

四月一日「なっ・・・!」
354 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/13(木) 23:59:02.25 ID:pfFrnmGA0
ソラウ「いきなり現れて、時計塔講師で権力もあるケイネスの許嫁にちょっかいをかける。挙句にそのケイネスすら手こずる極東の島国の高位の使い魔を従えている。
    ・・・こんな人物を警戒しないわけがない。むしろ当然の反応ではなくて?」

四月一日「ち、違います! 俺はそんなんじゃありません!」

ソラウ「私とケイネスは前実験として、パスをつないでいるの。そして、私がケイネスを呼ぶ前にあなたが本性を現して私を殺せばあなたはエルメロイとソファリの両家を敵に回すことになるわね」

四月一日「ちがうんです」

必死に訴えるが、通じない。
やはり無遠慮過ぎたのかもしれない。

四月一日「ソラウさん・・・あなただって本当は望んでるんでしょう」

ソラウ「しつこいわ」

四月一日「だって、本当に納得している人は、あきらめや無関心なんて感情は抱きません」

ソラウ「・・・っ」

四月一日「自分の意志で行動するっていことは、すごく素敵なことなんです。だから・・・」

ソラウ「うるさい!」
355 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/14(金) 00:08:01.56 ID:8ZXiT96a0
ソラウ「どうしてこの私が! 出会ったばかりのあなたにそんなことを言われなくてはいけないの!」

それは激昂だった。
普段のソラウからは想像もできない態度。
いままで少しは疑問に思ってきたこと。「なぜ私は道具なのか」という些細な疑問。疑問を抱いてはいけないと、抱いたらさいご自分自身を傷つけると感ずいていたからこそ、思考を避けてきた問題。
いままで、周りも自分も誰も踏み込まなかった領域、そんな繊細なところにずかずかと踏み込まれた。
だからソラウは激昂した。

ソラウ自身も、なぜこの領域に踏み込まれたから激昂したのかは分かっていなかった。

ソラウ「ケイネ・・・!!?」

ソラウは思い切り右腕を振り上げる。パスを使用するには必要のない大ぶりな動作だったが、激昂したソラウは気付いていなかった。

そして、そのソラウの右腕を誰かがつかむ。



百目鬼「まて」
356 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/14(金) 00:15:59.87 ID:8ZXiT96a0
ソラウの腕をつかんだのは百目鬼だった。

四月一日「百目鬼!」

ソラウ「なっ・・・」

百目鬼「何があった」

ソラウ「・・・放しなさい!」

どん、とソラウが百目鬼を吹き飛ばした。

四月一日「えっ」

体格差がありすぎる二人。
だというのにソラウは百目鬼を軽々と突き飛ばした。

四月一日(もしかして、これが魔術の一種なのか)

ソラウ「どちらにしろ、あなたたちに言われる筋合いもないわ。もう二度とかかわらないで!」

ソラウはいまだに激昂している。

四月一日「でも、あなたは!」

ソラウ「違うわ、私はソファリ家の長女で・・・!」




侑子「違わないわ」
357 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/14(金) 00:30:59.62 ID:8ZXiT96a0
ソラウ「!?」

現れた3人目の人物。
侑子さんだった。

侑子「極度の否定は肯定に等しいわ」

四月一日「侑子さん!」

ソラウ「次から次へと・・・!」

侑子「あなたはどうしたいのかしら?」

侑子さんは笑って問いかけた。

ソラウ「あなたもそんなことを・・・」

侑子「四月一日のは願望。私は対価の代わりに願いを叶える店の店主よ。
   どんなに四月一日が望もうとも、あなたが拒むのなら願いはかなえないわ。最終的な決定権は自分自身にある。−−−もちろん家でもなくね」

ソラウ「いい加減に・・・」

侑子「いいじゃない、そのままでも。すべては家のために動く。言われるがまま動き続けたあなたは、自分の意志で行動したいという微弱な願望はあれど、人形の時間が長すぎたせいか、自分の意志というものすらよく理解していない。
   そんな難しいことをするくらいなら、お人形生活でもなんだっていい。そう思うならそれもありよ」


358 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/14(金) 00:36:29.05 ID:8ZXiT96a0
ソラウの感情が激昂から混乱へと変化していく。

ソラウ「私は・・・」

侑子「願いをここに。望むのなら、今の環境を対価にすべてのしがらみを壊す」

ソラウ「私は・・・!」

ソラウは頭を抱える。
思考を放棄してきた問題に、突然答えろと、今を逃したらチャンスはないのだと。

ソラウはゆっくりと顔をあげ何にも関心のない、意思の持ち方を忘れてしまった目を向けた。






ソラウ「−−−わたしは、自分の意志で生きたい!!」

侑子「あなたの願い、叶えましょう」
359 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/14(金) 00:40:40.12 ID:8ZXiT96a0
エピローグ
ーーー数年後。
【イギリス片田舎】

イギリスのとある片田舎に四月一日は来ていた。

四月一日「イギリスも久々だな。前回来たのは数年前だっけ?」

手元のポストカードの地図を見かけながら、迷いながらもゆっくりと舗装されていない道を進む。

四月一日「ここを右折して・・・あ! あの赤毛は・・・!」

見覚えのある赤毛。最後に見た時よりも幾分かのばされ、腰の上あたりまで伸びている。

四月一日「お久しぶりです」

「あなたは・・・!」

赤毛の女性は驚いたような顔をした。
360 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/14(金) 00:47:11.14 ID:8ZXiT96a0
四月一日「どうして突然ポストカードを?」

ソラウ「・・・お礼が言いたくて」

四月一日「あの時すべてをやったのは侑さんですよ」

ソラウ「【自分の意志で動くことは、とても素敵なことだから】」

四月一日「あ・・・!」

ソラウはそういう。
彼女は数年前の自分の言葉を覚えていてくれたらしい。
嬉しかった。

ふと左腕の薬指にあるきらりとしたものが目に入った。

四月一日「その指輪は」

「あっ・・・えっと、私結婚するんです」

照れたように、ソラウは焦って説明した。

四月一日「おめでとうございます。お幸せに」


ソラウ「ーーーええ。ありがとう」


昔も言ったことのある祝いの言葉。
今度はソラウは満面の笑みでそう答えた。
361 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/14(金) 00:48:21.02 ID:8ZXiT96a0
ソラウ編完結! こちらもハッピーエンドでした!
ケイネスェ・・・

次回は長編入りたいと思います。
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/14(金) 00:48:21.18 ID:MsZsi5ATo
侑さん?
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/14(金) 00:48:44.28 ID:W0CyLoSto
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/09/14(金) 00:52:06.39 ID:aUutOJOAO
まさか ハッピーエンドとは……

365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/14(金) 00:58:14.76 ID:/Bc9mrYAO
まさかまさかのハッピーエンド
おつ
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/14(金) 02:49:11.05 ID:FreG2fM40

数年後ってことはミセを継いだ後か……
この片田舎でも何かが起きそうですね(チラッ
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/14(金) 04:00:05.68 ID:SgEQvq+AO
なんと……ハッピーエンドとはな……いいじゃないか
368 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/15(土) 23:39:15.64 ID:rlwJa4k20
どれだけハッピーエンドが意外だったんだ・・・ソラウェ・・・

長編投稿します。
しつこいようですが、某理想郷に似た作品がありますが、同作者です。またストーリーは改変します。
369 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/15(土) 23:42:35.79 ID:rlwJa4k20
【プロローグ】


これは異なる並行世界での物語。

四月一日君尋は夢を見た。

どこまでも続く闇のなか、自分ともう一人の男だけが存在している。
自分と瓜二つの男。四月一日との違いらしい違いといえば、眼鏡をかけていないことと、落ち着いた雰囲気を持っていることぐらいだった。

「ーーー始まりはもうすぐか」

男は言った。

四月一日「始まり・・・? それってどういうことですか。それにここはどこなんですか?」

「もうすぐ。きっともうすぐすべてがーーー」

男の体が無数の鳥に変化し、煙と共に飛び去って行く。

四月一日「あなたはいったい・・・!?」

男は返事をしなかった。



目覚ましの音がする。
見慣れた天井が目に入った。
もう6時をまわっているようだ。

四月一日「・・・まあ気にしてても意味ないか」

布団から起き上がり、伸びをする。
四月一日の朝は忙しい。家を出る頃には今朝の夢のことはすっかり忘れてしまっていた。












xxxholic×fate/stay night
モウ一人ノユメ
370 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/15(土) 23:46:53.96 ID:rlwJa4k20


ーーー早朝
【寺】


四月一日「ふっふふ〜ん! 今日もいう天気だな〜!」

ルンルンしながら階段を登る。清々しい朝。いつも以上に上手く作れた菓子。
そしてそれ以上に上機嫌になれる理由が「この寺」にはあった。

四月一日「外にでても、何も変なのがついてこねえ! もうここに住みたいくらいだー!」

そう、それがなにより四月一日が上機嫌である理由だった。
四月一日君尋は超霊媒体質である。外出すればアヤカシをひきよせてしまうのが当たり前だった。
しかしこの寺ーーー柳洞寺では、なぜかアヤカシの類を一切見ないのだ。四月一日には最高の場所であった。
唯一の短所といえば長すぎる山門までの階段だが、運動神経のいい四月一日にとってはたいしたことではない。

四月一日「今日はいいことありそうだー!」

テンションが上がり、一回転しながらはしゃぐ。
371 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/15(土) 23:49:04.83 ID:rlwJa4k20


?「相変わらず元気そうだな」

四月一日「あ、貴方は・・・」

ようやく山門までたどり着いた時、横から声をかけられた。

?「早朝の静けさを壊す気か、無粋だぞ」

四月一日「あ、すいません・・・」

声の主は長髪を後ろでひとくくりにし、陣羽織を着た、身の丈程の長刀を背負った男だった。
山門前、階段の一番上の段に腰掛けている。
自体錯誤なことこの上ないが、この人はこれで正しいのだ。いや、この「霊」というべきか。

出会ったのは結構昔のことだ。
たまたまここにきた際、山門にいた「ナニカ」に俺は挨拶をした。
ここが寺でなければ陣羽織を着たいかにもな人物がヒトでないことくらい予想できたのだろうが、どっちにしろあの時の俺は不注意すぎていた。
かけられるはずのない声に驚いた彼と一悶着あったが、アヤカシでも怨念でもないただの地縛霊の彼とは今ではそこそこ仲良くできている。
372 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/15(土) 23:52:53.35 ID:rlwJa4k20

四月一日「今日はミルフィーユです! どうぞ」

?「ん、おお。かたじけない」

彼は嬉しそうに顔をほころばせた。
手渡したのは洋菓子のミルフィーユ。
霊も食事ができると聞いて以来、ここを訪れては、彼に色々な料理を渡すのが日課になっていた。

?「ほう、これはなかなか・・・」

四月一日「口にあったみたいで良かったです」

彼は地縛霊と言うこともあり、山門からあまり離れられないのだそうだ。
本人は俗世に興味などないと主張しているが、流石に何百年ただそこにいるだけとのはやはり暇らしい。
変わったものが食べたいということで、洋風菓子も実は彼からのリクエストだった。
初めのころは危なっかしかったフォークの使い方も、今では何とか扱える程度にはなってきている。
373 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/15(土) 23:55:10.52 ID:rlwJa4k20

?「そうだ、伝えたいことがあってな」

四月一日「なんですか?」

?「最近「名」を得た」

四月一日「え・・・本当ですか!?」

彼は名無しの幽霊だった。
それが名を得たとはどういうことだろうか。
すく、と彼は立ち上がると、こちらを見据えてクスリと笑った。

小次郎「我が名は「佐々木小次郎」だ」

四月一日「佐々木小次郎・・・って宮本武蔵のライバルの!?」

小次郎「私は佐々木小次郎だよ」

佐々木小次郎と言えば宮本武蔵の逸話であまりにも有名だ。こんな有名人だったとは思いもしなかった。
・・・世界中探せば有名人の幽霊は他にもいたりするのかもしれない。
374 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/15(土) 23:57:19.26 ID:rlwJa4k20


四月一日「じゃあ今度からは、佐々木さんと呼ばせて貰いますね」

そう言うと佐々木さんは一瞬きょとんとした表情になった。
そしてしばらくしたあと、満足そうに頷いた。

小次郎「佐々木さん。佐々木さんか。ふむーーー名とは良いものだな」

四月一日「はい、素敵なものだと思います」

山門の幽霊に、佐々木小次郎という名前ができた。
佐々木さんの言うとおり、名前とはいいものだ。親が子のことを思って、願いが込められた贈り物。それが名前がなのだから。

四月一日「じゃあ、今日は佐々木さんの誕生日ですね」

佐々木「誕生日?」

四月一日「名前はその人自身を表すものだから、それを得た日も誕生日なんじゃないでしょうか。
     それに、佐々木さんの誕生日が分からないのが残念でしたから、いっそ作ってしまえばいいかと思って」

かなり無理やりな理論だったが、これは俺なりの祝い方のつもりだった。
いままで佐々木さんと過ごした時間はとても楽しいものだったし、きっと佐々木さんは誕生日を祝われた経験もないにちがいないと考えたからだ。

小次郎「誕生日、か」

佐々木さんは少し嬉しそうに頷いた。
375 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:01:50.75 ID:kx1z5YUZ0


小次郎「さて、そろそろ「ガッコウ」とやらにに行くべきではないのか」

四月一日「え・・・って時間!? マズ、早く行かないと・・・!」

あわてて彼に一礼し踵を返し、足を出そうとしたところで、再び彼に、佐々木小次郎に声をかけられた。

小次郎「四月一日、日頃の礼だ。伝えなくてはならない事がある」

四月一日「伝えなくてはいけない事?」


小次郎「ーーー暫く夜に出歩くな」


内容は単純明快だった。
しかし理由がわからない。
376 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:03:21.87 ID:kx1z5YUZ0

小次郎「できれば日中もここには訪れぬほうが良いだろう」

四月一日「佐々木さんは・・・」

小次郎「私は既に変質している」

変質している? しかし、表面上はいつもと違うようには見えなかった。
でも、よくよく目を凝らしてみればーーーいつもよりも存在がはっきりしているような、そんな気がした。

小次郎「行け。此度の菓子も中々に美味かったぞ」

四月一日「・・・はい」

もうあまり時間もなかった。なぜなのかを問い返すこともなく、俺は階段を駆け下りて行った。








小次郎「ふふふ、魔女よ。残念ながらあれは私の数少ない縁を持つ者でな。渡すつもりはないのだ。精々邪魔させてもらうとしよう」

佐々木小次郎の名を背負った「サーヴァントもどき」は、誰もいないはずの虚空に向かってそう呟いた。
377 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:04:06.56 ID:kx1z5YUZ0



ーーー放課後
【学校】

四月一日「・・・やっぱりおかしいよな」

放課後、運動場を歩きながら一人つぶやいた。
後片付けをしている運動部をのぞいて、ほとんど人はいない。

そして、この運動場を含めた学校全体が、学校全体が薄いピンクがかったようになっていた。
多くの人にはいつも通りにしか見えないだろう。
しかし霊感があるからだろうか、四月一日は異常に気付いていた。
甘ったるい香水がぶちまけられているようなにおいもする。

四月一日「う・・・」

甘ったるいにおいに酔ったせいか、少しふらついた。
異常事態だとは分かる。だがろくな知識のない四月一日には、この異常の正体も対処法も全く見当がつかなかった。

四月一日「とにかくさっさと学校からでるか」

多少ふらついた足取りで、校門に向かった。
378 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:05:13.06 ID:kx1z5YUZ0


士郎「君尋!」

四月一日「士郎? こんな時間までまた何か手伝ってたのか。お疲れ様」

士郎「まあ、俺にできることならやるのは当たり前だしな。
   ・・・と、少し頼みごとがあるんだけど、いいか?」

頼みごと。
士郎がするなんて珍しい。

士郎「今から弓道場の掃除するんだけど、桜に遅くなるって伝えといてくれないか」

四月一日「あれ、士郎ってまだ弓道部だったけ。・・・ああ、ボランティアか。手伝うけど」

士郎「いや、大したことじゃないから別に大丈夫だ」

四月一日「なら伝えとく」

士郎は礼を言うと弓道場の中に向かっていく。
379 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:06:59.49 ID:kx1z5YUZ0



四月一日「・・・?」

弓道場の赤さが回りより濃い気がした。
目をこする。

四月一日「・・・気のせいかな」

もともと赤色もごくごく薄いものだ。
差があってもそうそうわからない。気のせいだろう。

四月一日「危ないから、気を付けろよ」

士郎「わかった」

校門をでると、視界の赤色は嘘のように消え去った。
380 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:12:52.73 ID:kx1z5YUZ0


【衛宮邸】

四月一日「桜ちゃん、いる?」

玄関から呼びかけた。

桜「・・・四月一日先輩!」

さくらが小走りで玄関までくる。
俺が久々にここに訪れたからか、驚いていた。

桜「どうしたんですか? 先輩は・・・」

四月一日「ちょっと用事で遅くなるみたい。一応連絡を、と思って」

桜「そうなんですか。ありがとうございます」

そういって行儀よくお辞儀をした。

間桐桜は無論衛宮家ではない。
しかし、今となっては家族も同然だった。
桜が衛宮家に通うようになったのは、弓道部がらみのとある事件かららしい。詳しくは知らないが、何かあったのだろう。
通い始めたころに比べ、今の桜はずいぶんと明るくなった。いいことだと思う。
381 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:16:03.53 ID:kx1z5YUZ0

四月一日「じゃあそろそろ帰るね」

桜「あっ、待ってください!」

背中を向きかけるや否や呼び止められた。

四月一日「何かな」

桜「あの! えっと・・・」

桜ちゃんはすこし恥ずかしそうにもじもじした後、意を決したようにすこし緊張した顔になる。

桜「料理を教えてくれませんか?」

四月一日「料理?」

疑問形になってしまったのは仕方ない。
最近衛宮邸に来ることがなかったとはいえ、それでもかなりの頻度で訪れている俺は、桜ちゃんの料理の腕を知っていたからだ。
洋食に関しては、俺と士郎と比べても1番かもしれない。
382 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:19:39.79 ID:kx1z5YUZ0

桜「デザートを作ってみたいんです。四月一日先輩のお菓子みたいになかなか作れなくて・・・」

四月一日「デザートか」

なるほど。桜ちゃんは洋食においてはかなりの腕前だが、和食なら士郎に、デザートなら俺に劣っている。
桜ちゃんも年頃なのだ。お菓子作りに興味がわくのは当然だろう。
・・・しかしむしろこの場合は。

四月一日「いいよ。・・・もしかして、士郎のため?」

桜「えっ・・・ あ、あの、それは・・・!」

桜ちゃんは顔を真っ赤にして必死に否定した。
383 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:20:12.33 ID:kx1z5YUZ0

桜「私、先輩にもっと喜んでもらいたくて・・・。あと、バレンタインデーも近いですし、その!」

四月一日「・・・よし! じゃあしばらくはここにできるだけ通うようにするよ」

桜「あ、ありがとうございます! それで、あの、先輩には秘密にしておいてもらえないでしょうか・・・」

四月一日「約束する。一緒に士郎のやつを驚かせてやろう。そのかわりスパルタでいくからね!」

桜「はい! 頑張ります!」

桜ちゃんは背筋をぴんと伸ばすとはきはきと答えた。
こんなにも一途に想われている士郎がうらやましい。

四月一日「じゃあ、今日は夕飯こっちで食べていこうかな。今日はまずは試作なしで基本から教えるね」

桜「よろしくお願いします、先生」

先生。なれない呼び方だがなかなか気分がよかった。




384 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:21:11.94 ID:kx1z5YUZ0


ーーー翌日夕方
【商店街】

四月一日「士郎!」

士郎「君尋?」

凛「あら、あなたはたしか」

買い物をしてから侑子さんの店に行こうと商店街へ足を運ぶと、士郎と出会った。
他にも一緒にいる人たちがいて、随分賑やかだった。

四月一日「って、なあ!? 士郎、なんで学園のアイドルである遠坂凛と一緒に!?」

凛「・・・ちょっと家具が壊れてしまって困っていたところを、衛宮くんが治してくださると言ってくださったんです」

四月一日「士郎のその技術を今以上に羨ましいと思ったことはない!」

士郎「えっと・・・」

遠坂凛は笑顔で返してくれた。笑顔が好印象だ。学園のアイドルの称号は伊達ではないようだ。
385 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:22:55.85 ID:kx1z5YUZ0


四月一日「そうだ士郎、昨日はどうしたんだ? ずいぶん遅かったみたいだけど。桜ちゃんも藤村先生も心配してたし」

士郎「えっと、き、昨日はだな・・・」

珍しく士郎は言いよどんだ。

四月一日「聞いちゃまずかったかな」

士郎「そんなことはないぞ。だけど・・・」

士郎の声が小さくなっていく。他人に迷惑をかけるのを極端に嫌がる性格だから、はっきり言えないのかもしれない。
おせっかいだっただろうか。

四月一日「や、言いたくなかったら別にいいよ」

士郎「そういうわけじゃ・・・」

四月一日「また今度機会があったら言ってくれないかな」

士郎「・・・ああ、わかった」
386 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:23:35.31 ID:kx1z5YUZ0

士郎と二言三言言葉を交わしたあと、未だにしゃべらない人物に目を向けた。

四月一日「えっと、この人は・・・」

士郎「ああ。こいつはセイバーって言って、親父を頼って日本にきたんだ。今は家に泊まってもらってる」

セイバー「・・・セイバーです」

金髪の美少女は控えめな声で名乗った。人見知りなのだろうか。

四月一日「へえ、切嗣さんの。じゃあそっちの男の人も?」

最後の一人に目を向けながら軽い気持ちで聞いた。
しかし士郎から返事はない。もしかして聞いてはいけないことだったのだろうか。

士郎「そっちの、て。誰のことだ? ・・・もしかして霊、か?」

四月一日「えっ」

後半は小さめの声で聞かれた。
もし俺が最後の一人だと思っていた人物が無関係な霊だったなら、非常にまずい。
士郎には既に事情を説明してあるからいいのだが、この美少女二人は違う。
初対面で「俺霊感あるんだぜ!」と言うような人物など、胡散臭いことこの上ない。
387 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:25:16.03 ID:kx1z5YUZ0

四月一日「ええっと・・・」

?〈ふむ、霊体化しているはずなのだが。君には霊視の才能があるようだな〉

四月一日「なぁっ! この感じ、似てる・・・」

無関係な霊(暫定)にいきなり話しかけられ、思わず奇声をあげてしまった。
それにしてもこの感覚、佐々木さんと酷似している。
うまく説明できないが、この赤い外套の男も地縛霊なのだろうか。
でも、金髪の少女の感覚とも似ているし、イマイチどういう存在なのかが理解できない。
何よりこれ以上は気まずすぎる。

四月一日「ええっと! あの! ちょっと急用思い出したんで、帰るね!」

早々に立ち去らせてもらおうと慌てて三人に背を向けたところで。





凛「ーーーさせると思ったの?」
388 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:26:23.97 ID:kx1z5YUZ0


あかいあくまがいる、と思った。
さっきまでの笑顔は変わらない。
だというのになんなのだろうかこの威圧感は。
ツインテールの少女につかまれている右手がギリギリと悲鳴をあげた。

凛「え? 私の家で夕飯を作りたい? 積極的ですこと!」

これは本能だーーーこれ以上逆らってはいけない。

凛「ちょぉっとお話しましょうか?」

四月一日「ッ、はいっ! よ、喜んで!!」

士郎の同情する目が見えた。あいつも経験済みだと言うことだろう。合掌。

389 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:28:19.28 ID:kx1z5YUZ0


【裏路地】

凛「そう。霊媒体質か・・・面倒ね」

路地裏には四月一日と士郎とセイバーと遠坂凛、そしておそらく幽霊であろう赤い服を着た男性がいた。

凛「霊感と魔術は違うものとはいえ・・・サーヴァントまで見えるなんて想定外ね」

遠坂凛は難しそうな顔をして考えていた。

四月一日「サーヴァントっていうのはいったいなんなんですか?」

凛「・・・そうね。とりあえずは」

凛はじっとこちらを見つめてくる。
学園のアイドルは、瞳も綺麗だった。

四月一日(あれ・・・?)

そういえば、俺は何をしていただろうか。
ここがどこだかわからない。

いや、ソウデハナイ。

ソモソモ俺ハ商店街デ士郎タチト出会ッテナンカイナインジャナカッタカ・・・
390 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:30:21.78 ID:kx1z5YUZ0


士郎「何してるんだ遠坂!?」


四月一日「!?」

士郎の声で我に返った。とっさに目をそらすと、さっきまでのかすみがかった思考が一気に晴れる。

四月一日「今のはいったい・・・」

凛「士郎こそどういうつもりかしら。彼は無関係なのよ。記憶を消すのは当たり前でしょう」

士郎「だけど!」

凛「それともあなたは友達を殺したいの?」

士郎「殺すってそんな・・・」

士郎と凛は口論しだした。
聖杯戦争。記憶。危険。安全。無関係。魔術師。
日常生活ではありえない言葉が飛び交っていた。

士郎「・・・わかったよ」

どうやら口論は士郎が納得する形で終結したようだ。
凛は一回ため息をつくと、再びこちらをみる。
391 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:31:27.27 ID:kx1z5YUZ0


ーーーこちらを?


四月一日(冗談じゃねえ!)

さっきの感覚をもう一度味わえというのか。
すべてが靄がかったような感覚。何回もやられるのは簡便だった。

逃げ出そうと走り出した。

四月一日「って、ぎゃああーーーーーー!!っ」

走り出した途端、首元に何かが添えられた。
先ほどの女性、セイバーのもっている黄金の剣だ。

凛「ありがとうセイバー。
  ごめんなさいね。でも記憶を消すだけだから、別に死ぬわけじゃあるまいし、大丈夫よ」

何が大丈夫だ。
記憶を消される? しかも士郎がそんなことにかかわっている?
わけがわからないままというのは嫌だった。
392 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:36:43.52 ID:kx1z5YUZ0





?「−−−−−」


四月一日「えっ・・・」

何かの声が聞こえた。
士郎でも凛でもセイバーでも赤い男性でもましてや自分の声でもない第三者の声だ。

四月一日「この声は・・・」


セイバー「何者だ」

しかし、考える間もなくセイバーの声で再び現実に呼び戻された。
首元には剣は添えられていない。

士郎たちは新たに現れた青い男といつの間にか敵対していた。
393 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:37:59.80 ID:kx1z5YUZ0


ランサー「よお。弓兵に嬢ちゃんと・・・坊主にセイバーだな」

青い男はさっきの声の主ではなかったようだ。

四月一日(そうだ、今のうちに・・・!)

青い男がいるうちに逃げ出そうと、走り出した。これでも運動神経はいいほうだ。士郎にも、女性にも負けるつもりはない。

凛「ちょっと待ちなさいあんた・・・!」

ランサー「敵を前にしてよそ見とはいい度胸じゃねーか」

取り合えすは・・・佐々木さんに会わなければいけない。そんな気がした。
何しろ今朝の佐々木さんはいつもと違い、セイバーと呼ばれた女性や弓兵と呼ばれた男性と似たような雰囲気を持っていたのだ。
きっと何か知っているはずだ。

俺は後ろを振り向くことなく柳洞寺に向かって走って行った。


394 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:41:23.62 ID:kx1z5YUZ0


ーーー夜
【寺】

四月一日「佐々木さん・・・佐々木さん!」

必死で柳洞寺の会談を駆け上がる。一段飛ばしではだめだ。二段三段と勢いに任せて飛ばして進む。

四月一日「佐々木さん・・・どこに・・・!?」

小次郎「・・・四月一日か」

四月一日「佐々木さん!」

佐々木さんはいつものように山門の前にいた。入口を背にして立っている。

四月一日「佐々木さんは知ってませんか!? 士郎が・・・あと、遠坂さんも、幽霊が・・・!」

あわてているせいか、うまく言葉をまとめることができない。
395 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:48:10.91 ID:kx1z5YUZ0


佐々木さんはそんな俺の支離滅裂な言葉を遮るように言った。

小次郎「・・・今すぐ逃げろ」

四月一日「逃げ・・・?」

ただならぬ雰囲気に押された。

赤みがかかった学校。
昨夜帰ってこなかった士郎。
商店街で会った赤い幽霊と、剣をもったセイバー。
その2人とともにいた遠坂さんと士郎。
そして今の状況。

四月一日(俺の知らないところで何かがーーー)

小次郎「四月一日」

キャスター「あら、おもしろいお客さんね」

四月一日「!?」

佐々木さんの後ろ、山門の真下にその女性はいた。
フードを深くかぶっていて、顔が見えない。
396 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:53:03.57 ID:kx1z5YUZ0


キャスター「門番が役割を放棄だなんて、いったいどういうつもりかしら」

小次郎「なに、頼まれたのは門番だけ。ゆえにちょうど今こやつを追い返そうとしていたところよ」

この女性は、何者だろうか。
セイバーや弓兵、青い男や佐々木さんと同じ感じがした。

キャスター「まあいいわ。あれをとらえなさい」

四月一日「えっ、俺!?」

この場には3人しかいない。あれとは間違いなく俺のことだろう。

小次郎「・・・ほう、それでどうするつもりだ」

キャスター「いう必要があるのかしら」

小次郎「・・・・・・」

佐々木さんは黙っている。女性は佐々木さんの左横を通り、俺のほうへ向かってきた。

四月一日「あ・・・」

そして女性の手が俺に触れる。
397 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:54:13.82 ID:kx1z5YUZ0


まさにその瞬間、佐々木さんが初めて刀を抜いた。


キャスター「・・・何のつもりかしら、アサシン?」

小次郎「なに、貴様に付き合ってやる義理以上に大切なものがあったというだけのこと」

佐々木さんは素人目に見ても長すぎる長刀を右手だけで軽々と持ち、その切っ先を女性に向けていた。

小次郎「悪いが、こればかりは傍観はできん」

そう言って、佐々木さんは刀を構えなおした。

キャスター「・・・・・・」

小次郎「・・・・・・」

数泊の間。
動いたのはほぼ同時だった。
神速の剣が、四月一日には認識できないほどの速度で女性に向かっていく。
よけることなどできない。だれもがそう思うくらい早い斬撃だった。

ーーーしかしその神速の剣よりも、女性の行動はさらに早かった。
398 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:54:59.48 ID:kx1z5YUZ0




キャスター「自害しなさい、アサシン」
399 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:56:32.90 ID:kx1z5YUZ0


四月一日「佐々木さん!」

目の前が赤く染まる。血だ。紛れもない、暖かい血液。
物干し竿と呼ばれる彼の愛刀が自身の主人の胸を貫いていた。
どこか遠いところから現実を見ているような気がする。
ああ、霊でも血が出るのかとおかしなところで感心した。

キャスター「妙な気を起こすから、こうなるのよ」

自害を命じた張本人であるローブをきた女性がそう囁き、こちらに迫ってくる。

そうだ、逃げないと。
佐々木さんは俺のために時間を稼ごうとしてくれた。
無意味なことだと分かっていたのに、こんな俺のために、彼は。
だから、なんとしても俺は生きのびなければいけないはずなのに。

四月一日「ッ・・・!」

彼にはまだ僅かに息があった。
あと数十秒後に死ぬだろう。動くどころか話すことすらできないに違いない。
けれど、まだ確かに霊としての彼は生きていた。
400 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:57:10.44 ID:kx1z5YUZ0


キャスター「今のうちに利用させてもらうわよ。雑多な魂を集めるよりも余程効率がいいわ」

四月一日「あ・・・」

逃げないと。逃げないといけない。
そばには誰もいない。俺一人の力で逃げ切らなければ。

四月一日「くそ!」

震える足を無理やり立たせた。
目の前にはキャスターという女性。倒れ伏す佐々木さん。
逃げなければ。逃げなければいけないと思うのに。

ーーー彼を見捨てて逃げることなんかできなかった。

俺はキャスターを睨み返した。
武器はない。勝機だって無い。それでも立ち向かわなければいけない。
他ならぬ佐々木さんがそうしたのだから。

キャスター「あら、逃げないのね坊や。私としては手間が省けていいのだけど」

なにか、なにかないか。
俺にできること。なんだっていい。いっそ俺はどうなってもいい。だから、せめて彼だけでも助けることはできないだろうか。
401 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:58:46.64 ID:kx1z5YUZ0


四月一日「俺は!」

その瞬間、世界が黒く染まった。真っ暗闇の空間。何も見えなかった。

四月一日「ここは・・・」

この場所を俺はよく知っている。ここは俺の夢のなかだ。
はらりと桜の花びらが散っていくのを見て、後ろを振り返った。

?「また会ったね」

四月一日「・・・俺?」

目の前にいたのは、俺とうり二つの男だった。
・・・思い出した。少し前に夢であった男だ。

?「時間がもうない。早く終わらせないと・・・」

男は俺と同じ顔だとは思えないような落ち着いた様子で、つぶやく。
しかし、どことなく焦ったような声だった。
402 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 00:59:17.77 ID:kx1z5YUZ0


?「願いはなんですか」

四月一日「願い?」

?「・・・手を出して」

差し出した右手に男が手を重ねると、強い痛みが走った。赤い、めちゃくちゃに線を引いたような模様が浮かび上がる。

四月一日「なあっ!? なんだこれ!?」

?「強く願えば使えます」

四月一日「待ってください! あなたは!?」

?「−−−あなたの願いかなえましょう」

目の前がだんだん白くなっていく。夢から覚める兆候だ。

半信半疑だったが、右手の赤いぐちゃぐちゃした痣に意識を集中させた。
意識を研ぎ澄まし、強く念じる。
403 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 01:00:16.44 ID:kx1z5YUZ0


≪ーーーーーー≫

キャスター「なっ!?」

キャスターが察してあわてて対応しようと魔力弾を放ってくるが、もう遅かった。

≪ーーー全快してください、佐々木さんーーー!≫

ものすごい速さの何かが目の前を通り、魔力弾をひとつ残らず撃ち落としていく。

小次郎「了解した、マスター」

それは銀色に輝く長刀、先ほどまでアサシンを貫いていたはずの物干し竿だった。
紫の陣羽織は相変わらず血で濡れていたけれど、傷はどこにも見あたらない。よかった。上手くいったのだ。

キャスター「私から令呪を奪ったですって・・・!?」

小次郎「さて、今までの礼をさせてもらうぞ」

アサシンは、佐々木さんは不敵に笑う。
こうして俺は、聖杯戦争に参加することになったのだった。

404 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 01:01:05.56 ID:kx1z5YUZ0
投下終了です。
せいぜいエタらないよう努力します。
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 01:02:38.62 ID:19XkrJoQo
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/16(日) 01:04:31.03 ID:FawytrMAO
乙です

これは楽しみだ
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/16(日) 01:09:21.63 ID:3yBOTMCAO
乙!!
これは完結したら超大作になりそうな予感…
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/09/16(日) 02:41:35.73 ID:qNr04npO0

どっちも好きだから期待大
アサ次郎がメインに来るSSというのは・・・これ以外に記憶にないな
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/16(日) 10:13:38.62 ID:3qO9E92M0
おもしろそう!超期待
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2012/09/16(日) 10:25:03.03 ID:s3HnoX4Ro
まさか媒体はメガネか!
411 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:02:14.66 ID:kx1z5YUZ0
ちょっと安価スレにあこがれてやってみたくなりました。
安価はストーリー本筋とはあまり関係ない日常的なものになりますが、安価採用か、このままの形式で行くかどちらがいいでしょうか。
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 16:05:00.25 ID:JLaomE0yo
>>1がやりたいのなら良いんじゃない?
自由安価じゃなく選択安価なら捌く難易度もそれほど上がらないだろうし。
413 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:41:07.94 ID:kx1z5YUZ0
では、ちょくちょく安価はさんでいきます。
投下します。
414 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:42:04.52 ID:kx1z5YUZ0
【衛宮邸】


凛「で、のこのこ逃げ帰って来たのね。のび太くんみたいに」

四月一日「誰がのび太くんだ!」

現在地、衛宮邸。
時間帯、夜明け前。
メンバーは遠坂凛、衛宮士郎、セイバー、そして俺こと四月一日君尋とアサシン。あと屋根の上にアーチャーがいるらしい。

佐々木さんを助けたあと、これ以上続けるのはさすがに不利だということで俺たちは柳洞寺から必死で撤退した。
道すがら佐々木さんから聖杯戦争についての大まかな内容は聞いたが、その佐々木さん自身もイレギュラーであるためか、そこまで事情を詳しく知っていなかった。
だから、士郎と話し合いたいという俺自身の希望もあり、衛宮邸にきたのだ。

ちょうど事情を話し終えたところである。

凛「キャスターがマスターっていうのもおかしいけど、そいつから令呪を奪ったですって!? ただの人間が、魔術師のサーヴァント相手に?」

士郎「落ち着け遠坂!」

士郎があかいあくまを落ちつかそうと犠牲になってくれた。ありがとう士郎君のことは忘れない。
と、現実逃避している場合じゃない。
415 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:42:38.50 ID:kx1z5YUZ0


凛「・・・いいわ。ここまで面倒みたんだから、最後までみてあげる。共闘しましょう。勝手に死なれても気分が悪いもの」

四月一日「ありがとう、遠坂さん」

凛「礼を言うくらいなら、少しでも役に立つ方法を考えなさい」

四月一日「わかったよ」

言い方は厳しいが、彼女なりの優しさなのだと思う。それがとても嬉しかった。

凛「でも代わりにサーヴァントの情報は渡してもらうわよ。真名はなに?」

凛は佐々木さんに向かって質問した。

小次郎「ふむ。私は佐々木小次郎だ」

凛「宮本武蔵の伝説にでてくる佐々木小次郎なのね?」

小次郎「厳密にいえば違うがな。佐々木小次郎は架空の人物だ」

凛「本人じゃなくて、民衆が信じている虚像が召喚されたと言うことかしら」

その後も佐々木さんと遠坂凛は会話を続けていく。
ある程度聖杯戦争について説明を受けたとはいえ、俺はやはり素人なのだ。
全てを理解することはできなかった。
416 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:43:28.15 ID:kx1z5YUZ0

四月一日「士郎は聖杯戦争のことを知ってたのか?」

士郎「いや、昨日知ったばかりで、正直俺もあまり詳しくないんだ」

四月一日「あーもう、わけわかんねー・・・」

頭を抱えた。
わけのわからない状況から必死に意げ出せたかと思いきや、命の危険にさらされて、佐々木さんは死にかけて。
なんとか衛宮邸まで来て説明が受けれたものの、情報が消化しきれなかった。
疲れが一気に押し寄せてきたような気がする。

凛は佐々木さんと話し終えたのか、俺と士郎のほうに向きなおった。

凛「アーチャーが索敵と後衛、セイバーが正面からの襲撃、アサシンが前衛の援護。基本はこれでいきましょう。
  まずは学校の結界を張ったマスターを倒すのが目標よ」
417 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:44:19.01 ID:kx1z5YUZ0


四月一日「学校・・・やっぱりあの甘ったるい匂いもこの騒動がらみなのか・・・」

凛「へえ、気づいてたんだ。そういえばあなた士郎と仲が良かったのよね。魔術方面のことは知ってたのかしら」

四月一日「一応オカルト関係は否が応でも知っているというか・・・」

凛「霊視は今は関係ないわよ。魔術師のこと」

四月一日「まあ、ちょっとだけなら知ってますけど」

士郎が魔術使いだということだろうか。それなら知っていた。
俺が霊視のことを教えた際に「こっちも教えなきゃ不公平だ」という士郎の考えのもと、教えてもらったのだ。
しかし、霊視と魔術はそんなにも違うのだろうか。同じオカルトには変わりないと思うのだが。

凛「・・・はあ、あんたも結局士郎と同類ってこと。面倒すぎるわ」

凛はこめかみを抑えた。
それでも切り捨てないのは凛のやさしさゆえだろうか。甘さともいえるかもしれない。
418 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:46:04.25 ID:kx1z5YUZ0

凛「とりあえずは教会に報告に、と行きたいところだけど、あなたの場合は召喚じゃなくて略奪だしね。別にいらないわね」

士郎「何か違うのか?」

凛「まあ、表立っての理由はね。本音は教会に行く余力があるかどうかよ。
  昨夜の戦いに加えて、今日のランサーの襲撃。コンディションは万全とは言い難い」

士郎「・・・そうだな」

士郎自身も疲労はたまっていた。教会に行かなければ誰かが死ぬというわけでもないのだから、行かなくてもいいならそうしたかった。

士郎(それにあの神父にはあまり会いたくないしな)


凛「じゃあとりあえず朝まで休息を取りましょうか・・・ってもう寝てるのね」

四月一日はいつの間にかぐっすりと眠っていた。

小次郎「記憶操作の魔術をかけられそうになり、商店街から柳洞寺まで走り、キャスターから令呪を奪ったのだ。
    精神的な疲労を含めれば、相当なもの。仕方あるまい」

凛「・・・全く。でもまあ後々まで疲れを引き図られるよりはいいか」

小次郎「礼を言う」

そうして一同は一時解散した。
419 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:46:35.42 ID:kx1z5YUZ0

ーーー早朝
【衛宮邸】

四月一日「ん・・・」

小次郎「目覚めたか」

四月一日「うわあああああ!?」

目が覚めると佐々木さんがいた。
突然のことで悲鳴を上げてしまった。

四月一日「な、なんでここに・・・っていうかここは士郎の家か・・・?」

小次郎「朝だ。この屋敷はいい。山門にいたころに見た夜明けとはまた違った風情がある」

四月一日「・・・前から少し思ってたんですけど、佐々木さんってあまり人の話聞かないですよね」

しかし今回ばかりはそのマイペースさに助けられたようだ。
おかげで落ち着くことができ、昨日の記憶も戻ってきた。
420 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:48:14.06 ID:kx1z5YUZ0

右手を見れば、一筋の赤い線があった。令呪である。

四月一日「聖杯戦争か・・・」

佐々木さんはアサシンーーー暗殺者のサーヴァントらしい。
セイバーさんはその名の通り剣士、赤い男は弓兵、青い男は槍兵、柳洞寺であった女性は魔術師のサーヴァントなのだそうだ。
サーヴァントとは、簡単に言ってしまえば偉人の幽霊のこと。

小次郎「・・・・・・」

つまり、縁側に立ち庭を眺めている佐々木さんも英雄の一人だということだ。
以前はそこまで意識していなかったが、殺し合いという異常な状況にいるせいか、とても遠い人物に感じられた。
421 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:48:59.18 ID:kx1z5YUZ0


小次郎「四月一日」

四月一日「はい!」

突然声をかけられて焦って答える。

小次郎「すこし訪ねたいことがあってな」

四月一日「・・・なんですか」

見知った顔とはいえ、偉人、英雄からの改まった質問に、緊張してしまう。
何を聞かれるのだろう。
マスターとして俺にできることなどほとんどないというのに。
すこしためたあと、佐々木さんは真顔で質問してきた。



小次郎「−−−今朝の菓子はなんだ?」
422 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:50:52.78 ID:kx1z5YUZ0




ーーーーーー。
えっと、佐々木さんは今なんと聞いてきたのだろうか。


小次郎「・・・今日は菓子を作らんのか?」

佐々木さんの表情にあまり変化はないが、予想外だという雰囲気が漏れていた。

四月一日「えっと、食べたかったんですか?」

小次郎「あれほど美味なるものなら、また食したくなるのは道理であろう」

佐々木さんは「なに変な反応してるの?」と言わんばかりの反応だった。
空の様子からして、現在時刻は5時半過ぎだろうか。
もしかして、俺を早く起こしたのは、デザートを作らせるためだったのだろうか。

四月一日(今からかよ・・・)

小次郎「なに、山門から解放されたうえ、美女揃いの場所にいるのだ。
    できれば月見酒がよかったが、朝酒と言うのもまた風情がある」

四月一日「佐々木さん遊ぶ気満々ですよね!?」

佐々木さんのテンションがなぜか普段より高い気がする。
というか高校生に酒を用意させる方向になっていているのはどういうことだろうか。
423 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:51:31.40 ID:kx1z5YUZ0


四月一日「わかりました、作りますよ。ちょうど桜ちゃんとの練習用に材料も補充してありますし」

小次郎「まことか」

またしても表情にあまり変化はないが、うきうきしているのが丸わかりだった。

四月一日「じゃあ、桜ちゃんが来るまでに下準備だけしておこうかな」

熱心な生徒のことを思い浮かべながら、さっさと着替えを済ませて台所にむかった。
喜んで食べてくれるだろう人もいるのだ。頑張りがいがあるというものだった。
424 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:52:04.99 ID:kx1z5YUZ0


ーーー朝
【食卓】

「「「「「「「いただきます」」」」」」」

大勢の声が重なる。
士郎と藤村先生と俺3人だったころからは想像できないにぎやかさだった。
まあ、冬木の虎は一人で5人分くらいの存在感があったのであまり関係ないかもしれないのだが。

小次郎「ふむ、これはなんという菓子なのだ」

四月一日「クッキーです。時間がなかったので簡単なものを」

小次郎「して酒のほうは・・・」

四月一日「朝から高校生になんて無理難題出してるんですか佐々木さん」

暗に酒なんてねえよと伝えた。

今日のデザートはクッキーである。
初めのうちなので簡単なものを、ということになったゆえのチョイスだ。時間の都合もある。
ホットケーキミックスを用いた、コーンフレークを混ぜ込んだクッキー。お手軽に作れるうえ、おいしいしコストもあまりかからないお得な一品だ。

ちなみに俺名義で食卓には出してあるが、実は桜ちゃんの作品だったりする。
425 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:53:30.42 ID:kx1z5YUZ0


藤ねえ「わーい久々の君尋くんのお菓子だなんて、先生嬉しいー!」

小次郎「確かに四月一日の菓子は美味だな」

藤ねえ「そうでしょそうでしょー! 毎年私の誕生日にはおっきなケーキ作ってくれるんだからー!」

藤ねえは嬉しそうに語りだす。
しかし、突然手が止まった。

藤ねえ「・・・・・・」

士郎「ふ、藤ねえ?」


藤ねえ「って、誰よあなたーーー!!!!!!」


小次郎「む、私か?」

藤ねえの指の先にいたのは、実体化して何気なく衛宮家の食卓に混ざっていた佐々木さんだった。
ちなみに今着ているのはいつもの陣羽織ではなく、切嗣さんの遺品の和服だったりする。
426 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 16:55:15.53 ID:kx1z5YUZ0


藤ねえ「また士郎なにか拾ってきたの!? 士郎がやさしいのは知ってるけど、何でもかんでも拾ってきちゃダメじゃない!」

佐々木さんは犬か何かか。

四月一日「佐々木さんは俺のいとこです。実は昨日の夜に俺のところに来てたんです。
     士郎には前々から伝えてあったんですけど、藤村先生には言い忘れてたみたいで・・・すみません」

もちろんこれは朝のうちに遠坂さんと士郎と打ち合わせておいたウソである。

藤ねえ「えっ、あら、そうだったのー? もう、なんで士郎教えてくれなかったのよ。びっくりし損じゃない」

士郎「ごめん藤ねえ」

藤ねえ「でも君尋君のいとこねー。あんまり似てないみたいだけど」

四月一日「そ、そうでしょうか・・・」

藤ねえはこう見えてものすごく感がいい。これ以上怪しまれる前に、話を打ち切った。


時間には余裕がある。
・・・さて、誰と話そうか?
↓2
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 16:57:26.05 ID:JLaomE0yo
アーチャー
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 17:07:41.91 ID:IBdCAQhIO
佐々木
429 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 17:23:04.35 ID:kx1z5YUZ0
>>428 佐々木

佐々木さんのほうを見る。箸を使い、和食を黙々と食べていた。
セイバーといい、佐々木さんと言い、ずいぶんとおいしそうに食べている。
サーヴァントは食事好きという法則でもあるのだろうか。

四月一日「おいしいですか」

佐々木「ああ。ちゃぶ台を囲む食事がこうも楽しいとは思わなんだ」

四月一日「あ・・・」

そういえば、佐々木さんは山門の地縛霊だったのだ。つまりかなり長い間、あそこにずっといた。
少し不躾な質問だったかもしれない。

佐々木「しかし、このにんじんは何かをかたどっているのか?」

四月一日「えーと、ああ、士郎の作ったやつですね」

佐々木さんが箸でつまんでいたのは、味噌汁に入っていた星形に切られたにんじんだった。
特に意味はないが、見た目にもこだわる士郎が作ったものだ。
ちなみに星形に切ったあと残りはごぼうと一緒にして1品増やしているあたり、士郎の主夫力はかなり高い。
430 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 17:31:29.65 ID:kx1z5YUZ0

佐々木「ふむ、これを作ったのはあの少年か。なかなか心得ている」

佐々木さんが何をもって心得ているといったのかはわからないが、士郎は風情や優雅さ、儚さの美への感受性はないほうだと思うのだが。
まあ、今言うことではないだろう。

佐々木さんはゆっくり味わって食べたようだ。

藤ねえ「あー! トラ! トラがあっちにいる!」

藤ねえが少なくなったおかずを独り占めにするために、本人いわく綿密に計算された計画を実行したが、完全にスルーされていた。

佐々木「・・・おなごはもう少しおしとやかであったほうがいいと思うのだが」

四月一日「藤村先生は冬木の虎ですから・・・どっちかというとおなごというよりタイガーというか・・・」

藤ねえ「タイガーって言うなああああ!!!」

こうして衛宮家の騒がしい朝食は終わった。
そろそろ学校に行こう。
431 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 17:34:43.70 ID:kx1z5YUZ0
ーーー昼前
【学校・保健室】

四月一日「・・・情けなくて過ぎて恥ずかしすぎる」

小次郎「マスターは感知型なのだろう。あいにく私に学はないが、そういう役割もまた必要ではないのか」

四月一日「学校の結界がこんなにもやばいものになってるなんて想像してなかったぞ・・・」

学校を覆う赤。
数日前まではうっすらとしたピンク色だったものは、今やかなりの濃さになってきている。赤いセロハン越しに見ているようだ。
甘ったるいにおいも、もはや兵器級の危険物になっているような気がする。
そのあまりの威力に、俺が校門に入った途端速攻で倒れて保健室に運び込まれるくらいには強烈だった。

小次郎「しかし、学び舎に罠を仕掛けるとは、無粋なマスターもいたものよ」

四月一日「無粋・・・」

現代っ子な四月一日にはそういう感覚はあまり理解できなかったが、学校に人殺しの罠を仕掛けることへの不快感は理解できた。

四月一日(やっぱり殺し合いってこういうものなのか・・・)

さて、気分が悪くて保健室にいるとはいえ、何もしないでいるのも退屈である。
どうしようか。


1・世間話
2・アサシンについて
3・自分について
4・そのほか(内容必須)

↓2
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 17:39:37.91 ID:JLaomE0yo
3
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/09/16(日) 17:58:14.91 ID:A2i3bHuAO
1
434 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 18:10:04.42 ID:kx1z5YUZ0
>>433 世間話

小次郎「そういえば、今朝のことなのだが」

四月一日「今朝の?」

小次郎「虎が言っていたのだが、たしか誕生日には菓子を送るのだと」

四月一日「・・・・・・」

どうやら佐々木さんの藤村先生への呼び方は虎に決定したらしい。

四月一日「誕生日ケーキですか?」

小次郎「面白い文化もあったものだと思ってな」

つまり佐々木さんもほしい、ということだろうか。

四月一日「誕生日じゃなくても、いつでも作りますよ」

小次郎「なにもない日に飲んでどうする。雪月花・・・もしくは祝い事のときだからこそよいのだ」

四月一日「飲むの前提かよ!」

どうやら佐々木さんはまだ飲酒をあきらめていなかったらしい。
まあ、酒自体は藤村家にあるだろうが、ケーキと一緒に飲むにはいまいち相性が良くない。
435 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 18:15:44.89 ID:kx1z5YUZ0

四月一日「となるとワインか・・・」

小次郎「わいん?」

四月一日「洋菓子に会う酒の一種です。口に合うかはわかりませんが・・・」

佐々木さんは定番の日本酒のつもりで発言していたようだが、未知のものへの興味が勝ったらしい。

小次郎「西洋の酒、か。心惹かれるものだ」

四月一日「じゃあ今度、買いに行きましょう」

衛宮家から見える月は綺麗である。きっと佐々木さんも気に入るだろう。
そんな月の綺麗な日に、ケーキとワインを用意しようと約束した。
436 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 18:16:49.93 ID:kx1z5YUZ0


突然、ずんと揺れたような感覚と同時に目の前が一瞬真っ赤に染まった。

四月一日「これは・・・」

小次郎「動いたか。さて四月一日はどうする?」

四月一日「もちろん士郎たちのところへ行きます!」

急いでベットから降りたが、勢い余ってふらついてしまった。

小次郎「やせ我慢もまた美徳と?」

四月一日「そういうわけじゃないですけど。とにかく俺にもできることがあるならいかないと」

小次郎「・・・・・・」

ふらふらしながら歩く俺を見かねたのか、佐々木さんが無言で俺の脇の下から手を入れて背負った。
437 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 18:17:34.31 ID:kx1z5YUZ0


四月一日「ぬおお!?」

小次郎「運ぼう。案内を頼む。そのような速さではいつたどり着くかわからん」

四月一日「すみません・・・・」

佐々木さんの気遣いが痛いほど身に染みた。

四月一日「教室は上の階です」

小次郎「承知した」

そう言うや否や佐々木さんは駆け出した。信じられないスピードである。
うっすらと見えるステータスーーーマスターに与えられる能力らしいーーーがあらわす佐々木さんの素早さの値はA+。
四月一日は知らなかったが、これはランサーのさらに上を行く、サーヴァント7騎中最高の値だった。
438 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 18:20:50.06 ID:kx1z5YUZ0


【廊下】

四月一日「士郎! 遠坂さん!」

士郎「四月一日!」

慎二「なっ・・・四月一日!? お前もマスターだったのか!?」

真っ赤に染まった廊下の中、立っていたのは士郎と凛とセイバー、そして間桐信二と長髪の女性だった。
間違いない。長髪の女性はサーヴァントだ。

四月一日「まさか・・・」

この状況からして、まさか慎二がこの結界を張ったマスターだというのだろうか?

慎二「・・・はん! 自分のサーヴァントに背負われて登場だなんて、よっぽど僕のライダーの結界でダメージを受けてるみたいだな!
   所詮は三流さ」

慎二は一瞬でペースを取り戻したようだ。
俺は図星過ぎて何も言い返せない。
439 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 18:21:28.13 ID:kx1z5YUZ0


凛「あら、偽臣の書を持っているあなたがそれを言うのかしら? 令呪も持っていない身分でマスターを名乗るなんて、そっちこそ三流じゃない?」

慎二「遠坂おまえ・・・! ライダー! あいつを殺せ!」

慎二は何の躊躇もなく命令した。
しかしライダーと呼ばれたサーヴァントの剣は、セイバーの黄金の剣の前に阻まれる。

慎二「くそっ、おとなしく殺されろよ! 何やってるんだライダー! さっさと仕留めろ!!」

ライダー「・・・・・・」

慎二はやつあたりにも近い態度でライダーに命令する。
ライダーとセイバーのすさまじい戦いが始まった。

しかしそれ以上に俺の目を引いたものがあった。

四月一日(慎二の、周りに・・・黒い煙が・・・!)

慎二が怒りをあらわにするたびに大きく膨らみ量を増やしていく煙。
赤い結界とはまた違う。慎二を発生源にしている何か。
とても、よくないモノ。
440 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 18:24:15.16 ID:kx1z5YUZ0

四月一日「なんだあれ・・・」

慎二「衛宮! 格の違いってのはこういうことだよ!」

慎二が影のような何かを飛ばして士郎を攻撃する。俺のほうにも飛んできた。
佐々木さんはもちろん、士郎もうまくよけていた。

四月一日(みんな気づいてないのか・・・?)

だとしたら、慎二を覆う黒い煙は、俺にしか見えないモノなのかもしれない。

小次郎「どうしたマスター」

四月一日「慎二の周りに何かがあって」

小次郎「・・・様子を見るとしよう」

前々から俺の霊視のことを知っている佐々木さんはそれだけですべてを理解してくれたようだ。

四月一日「ありがとうございます」
441 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 18:25:39.62 ID:kx1z5YUZ0


慎二「くそ! くそ! くそ! なんで衛宮や四月一日には・・・僕のほうが優れてるはずなのに・・・!」

慎二が叫ぶ。

慎二「大体四月一日! 昨日だって俺が声をかけてやったのに無視しやがって! なめてるのかよ!」

四月一日「・・・昨日?」

全く記憶がない。
もしかして、柳洞寺へ走って行っていたとき、だろうか。
慎二に声をかけられたのかもしれない。

慎二「とぼけるのかよ・・・! くそ、これだから凡人は少し甘やかすとすぐに調子にのって!
   ライダー!!!」

士郎「がっ・・・!」

慎二がそう叫ぶとライダーは慎二のそばにあっという間に戻り、慎二に接近していた士郎を薙ぎ払った。
黒い煙が、よくないモノが、大きくなっていく。
442 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 18:26:58.28 ID:kx1z5YUZ0


慎二「お前じゃこいつらを殺すのも大変だよな。宝具を使うのを許可してやるよ。さっさと殺しちまえ!」

「「「「「!?」」」」」

宝具。どういうものかは知っている。
サーヴァント、英雄を象徴するエピソードや武器を具現化した切り札だ。
しかもライダーは宝具に特化したサーヴァント。その威力は計り知れない。
それを、信二は解放しようとしている。

セイバー「させるか・・・!」

セイバーは発動を防ごうとライダーに飛びかかる。
ライダーも鉄杭を構えた。

しかし、その鉄杭はセイバーの剣と交わることなく、ライダー自身の首を貫いた。

四月一日「なっ・・・!?」

しかし、疑問はすぐに恐怖へと変化する。
ライダーの首から噴き出した血が、赤い魔方陣を描いていたのだ。

ライダー「−−−−−−」

ライダーが何かを言う。




視界が白い光で埋まった。
443 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/16(日) 18:27:33.39 ID:kx1z5YUZ0
投下終了です。
VSライダー戦@終了
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 18:31:16.51 ID:JLaomE0yo
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/09/16(日) 20:41:02.41 ID:qNr04npO0

ホリックで黒いもやもやが出てくると大概ロクなことにならないんだよな
446 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 18:47:29.45 ID:i4WjvHEr0
投下します。
447 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 18:49:22.75 ID:i4WjvHEr0

【夢】


四月一日「・・・ここは」

?「・・・・・・」

四月一日「またあんたか」

?「敬語はやめたのか?」

四月一日「そっちこそな」

もう見慣れてきてしまった暗闇の空間。
そこには、いつものように俺とうり二つの男がいた。

四月一日「あんた、何者なんだ?」

?「今は気にしなくていい」

うり二つの男は余裕そうな笑みを浮かべている。
448 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 18:50:49.97 ID:i4WjvHEr0

?「それよりも、気になることはなかったか」

四月一日「・・・あったとしても、なんで言わなくちゃならないんだ」

この男にはなぜか嫌悪感があった。
間違っても相談相手にしてはいけない気がする。

?「その考えはあってる。だが聞いとくといい。たとえば・・・黒い煙とか」

四月一日「!?」

黒い煙。間桐信二にまとわりついていたとてもよくないモノ。
あれの正体を、こいつは知っているのだろうか。

?「知りたいか?」

四月一日「・・・まあ」
449 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 18:52:22.32 ID:i4WjvHEr0

?「あれはアヤカシでもなんでもない。あれは間桐信二の恨みや妬み・・・要するに嫉妬の塊だ」

四月一日「嫉妬の塊・・・」

嫉妬。今までの間桐信二を知っているからこそ、俺にはその言葉がなぜ出てきたのかがわからなかった。

間桐信二は、学もあれば勉強もスポーツもできて、顔もいいうえ甘え上手なこともあり女性からもモテモテという、俗にいう万能人だ。
性格こそ少しあれだが、四月一日はその実力がある程度の努力あってこそのものだということを知っていた。
底なしのプライドを持ち、多少の失敗はどこから湧いてくるのかわからない自信で忘れてしまうのが間桐信二だ。
間違っても嫉妬するような男ではないと思った。

?「でも、どうやっても乗り越えられない壁を知ってしまった。
  そして自分がどれだけ努力しようと得られないモノを何の努力もしていないのに持っている者の存在も知ってしまった」

あの黒い煙は間桐信二が初めて抱き、そして御しきれなくなった嫉妬心だ。
男はそう言った。
450 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 18:53:04.06 ID:i4WjvHEr0



四月一日「その壁っていうのは・・・」

?「魔術。間桐信二は先天的に魔術回路を持っていなかった」

四月一日「・・・・・・」

魔術回路。凛の話によれば、魔術を使用するときには必要不可欠な器官らしい。
肉体構造上の問題なら、確かにどうやっても乗り越えられない壁と表現するのもなっとくだ。
そして、その何の努力もしていないのに持っている者というのは。

四月一日「俺と、士郎なのか・・・?」

?「・・・・・・」

男は否定も肯定もしなかった。

?「感情はときにヒトを動かす強い意志となるが、あの黒い煙は違う。間桐信二の嫉妬心が黒い煙となり、黒い煙が更なる嫉妬心を誘発させる。
  今のあれは、意志が行動を支配するのではなく、感情にとらわれて行動を縛られている状態だ」

四月一日「そんな・・・」

それを止めなければならないと思った。きっともうすでに慎二ひとりでは止まれない段階に来ている。
451 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 18:54:41.80 ID:i4WjvHEr0

?「ところで話は変わるが、間桐信二が言っていた「昨日だって俺が声をかけてやったのに無視しやがって」って言葉を覚えてるか?」

四月一日「・・・いきなりなんなんだよ」

ついさっきの出来事だ。忘れるわけがない。
四月一日は柳洞寺に行っている途中に声を掛けられていたのだと思っていた。

?「間桐信二が声をかけた場所は、教会近くだそうだ」

四月一日「!?」

教会近く?
思わず耳を疑った。
もしこの男が嘘をついていないのだとしたら、矛盾が起きていることになる。

四月一日「俺は昨日教会のあたりには行ってないのに・・・」

?「矛盾が起きる。でももし間桐信二が声をかけたのがアンタじゃなかったとしたら、どうなんだろうな」

・・・どういうことだ。
俺は俺以外ありえないし、もし別人に話しかけていたのだとしても、それはよほど瓜二つで無ければ・・・

四月一日「まさかお前!?」

?「ーーーーーー」

・・・・・・・・
俺とうり二つの男は黙って笑みを深めた。
452 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 18:56:51.61 ID:i4WjvHEr0

まさか、昨日慎二が声をかけたのは。

四月一日「お前はなんなんだ・・・?」

?「話を戻すぞ。間桐信二を見つけたいか?」

四月一日「話をそらさずに・・・!」

?「どっちだ」

男はもう聞く気がないようだった。
しばらく沈黙して見つめてみるが、どこ吹く風と、押し切られてしまった。

四月一日「・・・見つけられるのなら、見つけたい。慎二の嫉妬の原因は俺にもあるだろうから」

そう俺が答えると、男は笑みを深めた。
453 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 18:58:27.20 ID:i4WjvHEr0


?「ポケットに入ってるものを出せ」

四月一日「ポケット? えっと・・・ハンカチ?」

?「ああ、これなら大丈夫。半分に折って」

言われた通りにする。

?「もう一度折って」

四月一日「どうするんだよこれ」

男が四つ折りにされたハンカチを左手の上に置き、右手をかざした。
そして探し人のまじないをかける。


?「−−−−−−」

「探しもの」

「探しびと」

「探している場所」

「探すもの」

「探す人」

「探すべき場所」


「導け 飛ぶものよ」

「彼の人のもとへ」
454 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 18:59:18.09 ID:i4WjvHEr0



四月一日「わああ・・・」

ハンカチは鳥を模し、宙へと舞い上がった。
しばらくふよふよと飛び回っていたが、ある遠くの一点を見つめるようなしぐさをした後、そちらに向かって飛び始めた。

四月一日「ま、待って!」

急いで鳥を追いかける。どうしても追わなければいけないような気がした。

真っ暗な闇の中を走る。

薄暗い場所を走る。

月明かりの下を走る。


小次郎「・・・ほう、このような名月の夜まで寝て過ごすのかと思いきや、散歩とは」

四月一日「佐々木さん!?」

縁側に佐々木さんが腰かけて、月見をしていた。
いつの間にか夢から衛宮邸に戻ってきていたようだ。
455 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:01:08.07 ID:i4WjvHEr0



士郎「君尋!?」

四月一日「士郎!」

俺の声を聴いてやってきたのか、縁側から驚いた様子の士郎が出てきた。

士郎「あの後ずいぶん眠ったままで・・・」

四月一日「士郎、こっちに来てくれ!」

鳥を見失わないよう注意しながら縁側まで向かい、士郎の腕を引っ張る。

士郎「なんでさ! いきなりどうしたんだよ」

四月一日「慎二がいる場所がわかったかもしれない」

士郎「!」

小次郎「・・・・・・」
456 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:01:54.29 ID:i4WjvHEr0


士郎は驚いた顔をしたのもつかの間、縁側につながっている一室にいたセイバーに声をかけた。

セイバー「・・・・・・」

士郎から事情を聴いたセイバーは俺の顔をじっと見つめる。
突拍子もない話をした俺を疑っているのかもしれない。

四月一日(だったらなおさら目をそらしちゃだめだ)

誠心誠意をもってセイバーのまっすぐで綺麗な瞳を見つめ返した。

セイバー「・・・わかりました。行きましょう、シロウ!」

どうやら信じてもらえたようだ。

四月一日「なあっ! もうあんなところまで飛んで行ってる!」

鳥の姿はもうずいぶん離れてしまっていた。
見失うのはまずい。

士郎「行くぞ!」

そのまま夜の冬木市を4人で駆け出した。
457 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:02:58.85 ID:i4WjvHEr0

ーーー夜
【新都・ビル屋上】


四月一日「士郎!」

士郎「俺はいいから慎二を追ってくれ!」

四月一日「でも」

士郎「頼む!」

ああもう、と悪態を尽きながら再び屋上から階段で駆け下りて行く。
ビルの壁を駆け上っていったセイバーやライダー、強化の魔術を使用した士郎に追いつける訳もなく、俺がアサシンと共に屋上についたのは一番最後だった。
階段を駆け上っていったときに、離れているのになお感じ取ることのできたナニカ。気持ち悪いものではなかった。セイバーが倒れていたのは、神々しさすら感じた二つの力の衝突の結果なのかもしれない。

四月一日「慎二! 待てっての!」

慎二「くるな! くるなあ!!!」

少し前を走って行く慎二に声をかけたが、興奮しているようでまるで取り合ってくれなかった。
しかし慎二と俺では身長も歩幅も随分違う。平地でなら負ける気はしなかった。
458 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:03:26.79 ID:i4WjvHEr0


四月一日「待って! 待っててば!」

慎二「くそ! 離・・・」

やっと慎二の腕をつかむことができた。
黒い煙は今や慎二の全身にまとわりついている。直接触れると吐き気がした。



ゴウ、と低い風切り音がした。



?「へえ、私のバーサーカーの攻撃を防ぐなんて、あなたのサーヴァントもなかなかやるじゃない。でも、ダメよ。負けたら死ぬってルールなんだから」

四月一日「え・・・」

あり得ないサイズの巨体が見えた。そしてその足元には風に揺れる美しい銀髪のかわいらしい少女がいた。
459 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:04:03.17 ID:i4WjvHEr0

四月一日「君は」

小次郎「下がっていろ四月一日」

四月一日「アサシン?」

サーヴァントとともにいるマスター。いくら幼い女の子のマスターだからと言って、危険なのは変わらないはずなのに、俺は少しそのことを忘れてしまっていた。

?「ふふ、サーヴァントの方がよくわかってるみたいね。あなたに興味はないけど、夜に会ったなら戦わなくちゃ。それがルールだもん」

少女は右手を上げた。

?「やっちゃえ! バーサーカー!」

小次郎「ふむ、理性を失っているというのは惜しいが相当な猛者なのだろう? 存分に楽しませてもらうぞ」

アサシンは、佐々木さんは嬉しそうに刀を構える。
吠える様に叫んだバーサーカーのあまりの大声に頭がおかしくなりそうだった。
460 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:04:58.25 ID:i4WjvHEr0

慎二「ぼ、僕は関係ない!」

四月一日「落ち着いて!」

半ばパニックになりながら叫んだ慎二をなだめる。
アサシンとバーサーカーはすでに戦いはじめていた。マスターの少女が何もしてこないのだ。こちらは2人。このアドバンテージを生かさない訳にはいかない。

四月一日「頼みたいことがある。俺は魔術もサーヴァントもよくわからないし、神話にも詳しくない。何か気づかないか!」

慎二「知らない! どうして僕がそんなことをしなくちゃならないんだ!?」

四月一日「でも!」

俺たちが話している一方で、アサシンとバーサーカーの戦いは進展していた。
狂化されたバーサーカーに小手先の技を使う理性は残されていない。肉体の力を惜しむことなく使い、巨刀の一振りで全てを壊して行く。
一方で、アサシンはその攻撃全てを受け流していた。バーサーカーを剛とするなら、こちらは究極の柔。生涯ただ一度も戦ったことのなかった剣客もどきは、歴戦の覇者相手に十分渡り合っていた。
461 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:05:57.31 ID:i4WjvHEr0


?「さっさと仕留めてしまいなさい!」

しかし少女が命令すると、バーサーカーの力はさらに増した。
一合の重みが、変わる。

小次郎「・・・まずいな」

四月一日「アサシン!?」

今まで付かず離れずを保ってきた佐々木さんが、一度バーサーカーと大きく距離をとった。

小次郎「刀身がゆがんだ。僅かだが、それゆえ致命的、か」

アサシンは言った。俺には歪みの有無など全くわからなかったが、状況はかなりまずいようだ。

?「終わりにしましょう?」

少女が笑顔を向けてくる。佐々木さんは再び構えるが、心なしか俺を庇う様に立っていた。
462 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:06:50.08 ID:i4WjvHEr0

慎二「なんで、なんでこんなことに・・・僕はこんなくだらないところで死ぬべき人間じゃない・・・!」

?「−−−バーサーカー!」

バーサーカー「■■■■■ーーーーー!!!」

四月一日「ひっ・・・!」

佐々木さんは構える。
バーサーカーの斧が振り下ろされた。



慎二「ーーーおまえがっ、お前が代わりに殺されろ!!!」

四月一日「え」

ぶわりと黒い煙が肥大化していくのが見える。
ドン、と背中を押された感覚がした。
463 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:09:56.99 ID:i4WjvHEr0

ーーー突然視界が黒く染まった。

四月一日「え」

ここは、どこだ。そうだ、ここは。

?「・・・今は此方に来てはいけない」

男の声が聞こえた。けれど姿が見えない。
少し先に暖色の光が見えた。

四月一日「あれは」

あれは俺の記憶だ。導かれる様に手を伸ばした。

それに触れる直前。
佐々木さんの焦った声と、少女のつまらなさそうな声が、聞こえた様な気がした。


464 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:11:43.17 ID:i4WjvHEr0


ーーー?
【?】

在りし日の、夢を見る。

もう随分と昔のことだ。
中学校にいたころの記憶。
その頃から、いつもの様にアヤカシに追われていた。
ただ買い物に出かけただけだと言うのに直ぐにこれだ。もはや諦めの境地に入っているとはいえ、やっぱり面倒なものは面倒だった。

四月一日「あーもー!! ついてくんなっつの!」

はたから見れば俺はなにもないところで騒いでいるように見えていただろう。何せアヤカシは俺以外には見えないものなのだから。
自分に見えない感じれないのなら存在しないも同然、だから俺が嘘をついているのだと周りは言う。人の価値観なんてそんなものだった。

好奇の目線はあれど、話しかけてくる人などいない。大人も子供もみんな無視をする。
それがあの頃の日常だった。
465 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:12:26.15 ID:i4WjvHEr0


士郎「おい、あんたどうしたんだ? 大丈夫か!?」

はずなのに。

士郎「何か困ることでもあったのか? 俺にできることならてつだうからさ」

そいつは話しかけて来た。気持ち悪いものを見る目なんてしていなかった。心底俺を心配して話しかけてくれたのだ。
もちろん霊が見えているという訳でもなかった。

四月一日「や、あの・・・て、うわぁ!?」

士郎「どうしたんだ?」

足を止めた隙にアヤカシが追いついてきていた。
のしかかられた重みで思わずバランスを崩す。

四月一日「あーもう! うざいんだよ!」

士郎「うわぁ!?」

今度は少年が声をあげる番だった。俺が彼の手を握り、思いっきり駆け出したからだ。はじめは慌てていた少年も、少しすると俺と並んで自力で走り出していた。
466 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:13:33.82 ID:i4WjvHEr0

士郎「どうしたんだよ?」

四月一日「・・・えっと、アヤカシって信じるか? 霊でもいい」

士郎「それに追われてるのか?」

少年はえらく飲み込みが早かった。

四月一日「信じてくれるのか?」

士郎「俺が見えなくても、あんたには見えてるんだろ? それに爺さんに、困ってる人がいたら助けてあげろって言われてるしな」

四月一日「そっか・・・」

少年は俺が今まで会ったことのないタイプのヒトだった。
467 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:16:30.36 ID:i4WjvHEr0

士郎「こっち! こっち俺の家なんだ!」

四月一日お「でも迷惑じゃ」

士郎「大丈夫だ。一人暮らしだからな。それに、俺は魔術使いだからな」

四月一日「魔術・・・?」

そっちが秘密を明かしたんだから、俺も明かさないと不公平だろと少年は笑う。
このご時世に魔術なんてものがあるのかとも思ったが、よく考えて見れば、アヤカシが見える俺の存在もどっこいどっこいなのだ。

四月一日「なら、行ってもいいかな?」

士郎「信じてくれるのか?」

四月一日「俺が知らないだけで、君は知ってるんでしょ?」

士郎「・・・ああ、そうだな」

お互いを見ながら、お互いに笑った。
468 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:21:49.91 ID:i4WjvHEr0

四月一日「俺は四月一日君尋っていうんだ。「しがつついたち」って書いて「わたぬき」」

士郎「俺は衛宮士郎っていうんだ」

これが俺と士郎の出会いだった。
俺と士郎が友達になった日の出来事だった。


その後、アヤカシがあきらめるまでの半日間土蔵に籠りっぱなしだったせいで、藤村先生ーーーこのころはまだ先生ではなかったがーーーにこっぴどく叱られたのはまた別の話。
469 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:27:21.71 ID:i4WjvHEr0

ーーー?
【衛宮邸】


日も沈みかけた頃。俺は士郎と共に夕飯の用意をしていた。
両方とも幼いながらに一人暮らしなのだ。保護者らしい保護者と言えば藤村先生ぐらいなのだから、俺たちが台所にいるのは必然的なことだといえた。

四月一日「士郎って手先器用だよね。俺機械関係のことは全然わからなくてさ」

士郎「いや、精密機械は全然だめだしな。それに俺のはずるしてるようなものだから。
    そういえば今日、ケーキを作ってみたんだけど、食べてみてくれないか」

四月一日「本当?」

士郎「デザート関連をまかせっきりにするわけにもいかないしな。採点してほしいんだ」

四月一日「・・・じゃあせっかくだし、いただこうかな。厳しめでいくけどいいか?」

士郎「むしろ言ってくれたほうが助かる」

作業を一段落させてから冷蔵庫を開ける。右上の奥には、トッピングされた小さなカップケーキケーキが4つ置いてあった。
470 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:31:34.52 ID:i4WjvHEr0

士郎「俺と君尋に1つずつで、藤ねえには2つだ」

四月一日「藤村さんが二つなのか・・・」

男子中学生よりも食べる女性とはいったい。まさにタイガーだ。
ケーキを冷蔵庫から取り出していると、どたどたと近づいてくる足音がした。

四月一日「誰だ?」

士郎「あー・・・」

バン、と扉を開けて部屋に入ってきたのは藤村さんだった。
冬木の虎ご本人様のご登場だ。

藤ねえ「やっほー! 士郎ただいまー! 君尋君もいるのねー! ってそれなになに? カップケーキ? わーいうれしい! ありがとー!」

・・・一気に人口密度が増した気がする。
嵐のような人物決定戦なんてものがあったら、藤村さんは間違いなく世界チャンピョンになれるだろうと確信した。 
471 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:35:50.19 ID:i4WjvHEr0
士郎「はいはい、すぐ準備するから藤ねえは待っといてくれ」

藤ねえ「あー! 士郎冷たーい! ねーねー聞いて君尋君、最近の士郎あんなに冷たいのよー! 昔は「藤ねえー」っていって甘えてきてくれてたのにさ!」

士郎「・・・藤ねえ」

四月一日「ははは・・・」

しかし、藤ねえのこの底抜けの明るさはある意味見習いたいとも思う・・・たぶん。
少なくとも憂鬱な気分にはならない。

四月一日「じゃあさっさと用意してしまおうか」

士郎「ああ」
472 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:41:18.35 ID:i4WjvHEr0
【食卓】

「「「いただきます!」」」

三人一緒にいただきますをした。
今日の品目は、オクラ入りのスープにヒレ肉カツと千切りキャベツ、こんにゃくとゴボウと人参と鰹節の和え物、それに白ごはんだ。
デザートには士郎手作りのカップケーキもある。

藤ねえからカツを死守しつつ、静かに食べる。
しかし、常に警戒しているというのもなかなか疲れるものだ。
なにか話を振って、気をそらそう。

・・・何について話そうか?
↓2
473 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 19:59:47.33 ID:i4WjvHEr0
安価の回数ががあまりにも少なすぎるので今後なしにします。
>>472 は無視して読んでください。
474 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 20:06:13.07 ID:i4WjvHEr0

【食卓】

「「「いただきます!」」」

三人一緒にいただきますをした。
今日の品目は、オクラ入りのスープにヒレ肉カツと千切りキャベツ、こんにゃくとゴボウと人参と鰹節の和え物、それに白ごはんだ。
デザートには士郎手作りのカップケーキもある

藤ねえ「んー! 士郎の料理はホントおいしいわね。君尋君も、ホントどこでその技術を手に入れてくるのかしら」

四月一日「大した腕じゃないですよ」

藤ねえ「またまた謙遜しちゃってー! カップケーキはどっちが作ったの?」

士郎「それは俺が作ったんだ。俺もそろそろスイーツに手を出してみようかと思って。和食に関しては負けるつもりはないけどな」

四月一日「いったね士郎」

ならば受けて立ってやろうではないか! と和食を鍛えることを決める。
475 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 20:38:57.73 ID:i4WjvHEr0
藤ねえ「いつごろから料理してるの?」

四月一日「えっと・・・」

料理をし始めた時期は、ちょうど両親と死別したころだった。
確か・・・

四月一日「あれ、なんで、どうしてだ」

いつだったか、わからなかった。
目ではっきりと見えるような異常ではないけれど、言いようのない嫌悪感が肌を嬲る。

士郎「君尋?」

士郎が声をかけてくるが、返事をする余裕がない。

俺は、家事をする必要があった。
なぜ? それは一人暮らしだからだ。
親がいない理由は・・・わからない。
だれに料理を習ったのか・・・わからない。

しかし、ならばなぜ俺は料理ができるのか?

藤ねえ「君尋君どうしたの? 大丈夫?」

四月一日「!」

藤村さんの呼びかけに我に返った。
あわてて手を動かし始め、食事を再開する。そうだ、あの違和感は気のせいだったのだと意識の深層に閉じこめて・・・
476 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 20:39:24.30 ID:i4WjvHEr0


?「いいや、そろそろ戻らなくてはいけない」

ふりむくと、俺とうり二つの男がいた。
昔の衛宮家にいてはいけない人物のはずだった。

四月一日「あ・・・」

?「夢は彼岸に近い。死なれちゃ困る」

突然場面が変わった。
場所が衛宮邸なのは変わらない。しかし俺は敷かれた布団の上で寝ていた。

小次郎「目覚めの一杯は必要か、四月一日」

四月一日「・・・おはようございます、佐々木さん」

今回の居眠りは随分と長かったようだ。
枕元に立っていた佐々木さんにむけて、俺は目覚めの挨拶を挨拶をした。

477 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/17(月) 20:39:54.18 ID:i4WjvHEr0
投下終了です。
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/17(月) 20:40:09.99 ID:3stE7EcRo
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/17(月) 20:44:40.74 ID:5/IhtK8AO
乙っす
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/17(月) 21:41:23.79 ID:CHw2x/wd0
今追いついた
しっかし世界観が見事にマッチしてんなぁ…
佑子さんが出てくるか気になる
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/17(月) 21:51:20.26 ID:gNv5i7FAO

侑子さんに踏まれたい
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/09/17(月) 23:02:02.17 ID:I7kUfYLc0

侑子さんと藤ねえが意気投合して、モコナも加わってドンチャン酒盛りやってる姿しか浮かばない
そして台所では四月一日と士郎が次々飛んでくる「酒!」「肴!」の注文にてんてこ舞い
483 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:04:58.19 ID:3Xtw6mOF0
短いですが投下。
安価はありません。
484 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:11:58.06 ID:3Xtw6mOF0
【衛宮邸】

凛「あなたが寝こけてる間におきたことで悪いニュースが3つあるんだけど、どれから聞きたいかしら」

四月一日「いいニュースからで」

凛「ないわよそんなの」

仕方ないので1番マシなものからと頼んだ。
現在、衛宮邸の居間でアーチャーがいれたという紅茶を飲みながら遠坂凛と話してる真っ最中だ。

俺はかなり長い間眠っていたらしい。
佐々木さん曰く慎二に押し出された俺は、そのままバーサーカーの斧の進行方向に飛び出した。そのままなら即死だったが、もともと佐々木さんが迎え撃つつもりで構えていたおかげで対応することができ、何とか俺は無傷でいれたそうだ。
そして突然なんの前触れもなく倒れてしまった。
少女が飽きて帰ってくれてくれなければ本当にそのまま殺されてしまったかもしれない。
485 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:12:58.51 ID:3Xtw6mOF0

・・・しかし、代償がなかったわけではないようだ。

凛「1つ目は、アサシンの戦力低下について。バーサーカーに剣を折られたそうよ。それに加え腕を負傷している」

四月一日「剣が・・・!?」

佐々木さんが刀身が歪んだと言っていた。
・・・その歪みが俺をバーサーカーの攻撃からかばったときに響いてしまったのだ。

佐々木さんの柔ははバーサーカーの剛に屈し、剣は折られ、腕はまがった。
佐々木さんの腕を見る。一見何の傷もなさそうに見える。実際、サーヴァントは魔力さえあれば自身を修復することも可能なのだそうだ。

しかし、それでだけではだめなのだ。
佐々木さんの剣は天性の才能に支えられている部分も大きいが、その軸は努力の上にある技である。
その技はこれ以上ないというほど高められ、そして精巧になり、その分万全の体の状態を必要以上に要求されるようになっていた。
その完璧な技は、完治しきっていない腕の些細な違和感ひとつで簡単にほころびが生まれてしまうのだ。
そしてなによりも武器がないというのは戦いにおいて致命的すぎる弱点だった。
486 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:14:55.99 ID:3Xtw6mOF0

凛「今は藤村先生の実家の業物を借りている状態よ。使い慣れてない刀でしょうし、士郎が言うにはなかなかの一品らしいけど、今までア

サシンが使っていた刀に比べれば質は劣る・・・気休め程度かもね」

四月一日「・・・・・・」

なぜ藤村先生の実家に真剣があるのかどうかはひとまずおいておいて。
しかし、佐々木さんがこんな状態なのは、自分のせいなのだ。
遠坂さんには、あのバーサーカーとやりあってそれだけですんだのはむしろラッキーだと言われたが、罪悪感は消えなかった。

四月一日「すみません佐々木さん」

小次郎「なに、私が未熟だっただけということ」

佐々木さんはそう返してくれた。しかし、自分で自分が許せなかった。償わなければいけない。

四月一日「ところで、慎二はどこなんですか」

凛「始末した・・・って言いたいところだけど生きて入るわ。士郎も甘いわ。記憶は消させてもらったけどね」

四月一日「! いつの記憶をですか!?」

凛「一応聖杯戦争についてはすべて消しておいたわ」

・・・それだけではまずい気がする。
慎二のまとっていた黒い煙は、魔術師への嫉妬だ。聖杯戦争の記憶だけ消したところで魔術への嫉妬心がなくならない限り原因解決にはつながらない。
俺の心配をよそに、遠坂さんは話し始めた。
487 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:15:34.34 ID:3Xtw6mOF0


凛「2つ目は、セイバーがほぼ戦闘不能になったこと」

四月一日「セイバーさんが!?」

そういえば彼女が倒れているのも屋上で見ていた。

凛「士郎が聖杯戦争に参加するようなった経緯はもう話したでしょう。無茶苦茶な召喚だったせいで、士郎と上手くパスがつながっていな

かったのね。急がなければ明日にでも消えてしまうわ」

四月一日「そんな・・・せっかく仲良くなれたのに」

彼女が消えてしまうかもしれない、というのはとても辛かった。

四月一日「あれ、それでとうの士郎はどこにいるんですか」

凛「そう、それが3つ目の悪いニュース。士郎がアインツベルンにさらわれたわ」

四月一日「士郎がアイン・・・えっと」

凛「アインツベルンよ。そいつにさらわれたの」

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。俺が気絶する直前まで戦っていた女の子の名らしい。
488 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:16:27.02 ID:3Xtw6mOF0


凛「セイバーが戦闘不能とはいえ現界していられるのだから、士郎は令呪を失ってはいないでしょうけど、それでも士郎がヒトとしての原型を留めてるのか怪しいものよ」

伝えられた衝撃の事実。あの時俺が寝こけてしまわなければこうはならなかったかもしれないのに。

四月一日「・・・アインツベルンはどこにいるんですか」

凛「救出するつもり? あれは1000年以上続いた家系。いくらあなたが特殊体質だからといって、できるはずがない。精々ホルマリン漬けにされるのが落ちね」

遠坂さんは無表情のまま言い切った。今までみたことのない顔。魔術師としての彼女の一面だった。

凛「でも、士郎はあなたの大切な幼馴染なのよね?」

先ほどとはうってかわって、遠坂さんは士郎の救出を促すような台詞をはいた。
これはきっと試されている。
なんとなく、そう思った。選択を誤ってはいけない。
遠坂凛は、真っ直ぐこちらを見つめてきた。

凛「あなたはどうするの?」

俺はーーー


四月一日「士郎を助けに行きます」

そうはっきりと答えた。
489 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:17:42.39 ID:3Xtw6mOF0


凛「これだけ言ってそう言うのなら、何か具体的な策はあるのかしら」

遠坂さんは問う。

四月一日「ありません」

凛「・・・へえ、ずいぶんはっきり言うじゃない」

遠坂さんは少しイラついた様子でそういった。

四月一日「すみません。でも俺は士郎を助けなきゃいけないんです」

凛「なぜ?」

四月一日「・・・昔、俺が助けてもらったからです」

夢で見た記憶。忘れられない記憶。
一人ぼっちだった、理解者のいなかった俺に手を差し伸べてくれた唯一の人物。
彼は見えなかった。なのに理解してくれた。
彼は俺と同じように親がいなかった。なのにまっすぐ生きていた。他人を救えるくらい強かった。

士郎は、俺にとってーーー間違いなく正義の味方だった。
490 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:20:49.31 ID:3Xtw6mOF0

凛「甘い考えね。無駄死にするだけよ」

四月一日「遠坂さんは助けに行かないんですか」

凛「・・・・・・」

遠坂さんは難しそうな表情をした。
・・・やっぱりこの人はやさしい。
本当は彼女も士郎を助けに行きたいのだ。
厳しい言葉も、俺の無駄死にを止めるためのものだろう。

四月一日「助けてもらったのなら、その借りは返さないといけません。何かを得たのなら必ずそれに見合った対価が必要です」

凛「そうね。でも無駄死にするのははたして対価を払うことになるのかしら?」

四月一日「俺は死にませんよ」

俺は笑みを深めながら言った。

四月一日「だって、遠坂さんがいますから」
491 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:21:24.78 ID:3Xtw6mOF0


凛「っーーーー! どうして私が一緒に助けに行くのを前提で話してるのよ!」

四月一日「士郎を見捨てるんですか」

凛「あ、当たり前よ! 魔術師として当然の判断だわ」

焦ったようにそう言う遠坂さんを黙って笑いながら見つめ続けた。

凛「・・・なによその目」

アーチャー≪どうやらマスター自身以上に、アサシンのマスターはマスターに理解があるようだ≫

凛「アーチャー! あなたは黙ってて!」

アーチャー≪図星をつかれたときに無理やり相手を黙らせようとするのは賢いやり方ではないな≫

凛「う、うるさいわね!」

遠坂さんは彼女自身のサーヴァントとどうやら言い争い始めたようだ。
492 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:22:15.35 ID:3Xtw6mOF0


小次郎「少々お転婆が過ぎるが、なかなか良い女よな」

四月一日「・・・佐々木さん、女好きですよね」

小次郎「美しい花は愛でてこそであろう」

四月一日「・・・そうなんでしょうか」

しばらく待っていると、どうやらマスターとサーヴァントの口げんかは終わった。まあ、一方はからかっているだけのようにも見えたが。

遠坂さんは肩にかかった髪を払う。

凛「・・・ふう。分かったわ。
  四月一日君尋。あなたをアサシンのマスターではなく、一人の人間として認めてあげる。一緒にこの遠坂を馬鹿にしたアインツベルン

の鼻っ面を折りにいってやりましょう」

四月一日「・・・はい」

どうやら一緒に士郎を助けに行ってくれるようだ。
そう言われながら差し出された手を、俺はしっかりと握り返した。

さあ、大切なモノを取り返しに行こう。
493 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:24:29.08 ID:3Xtw6mOF0

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【アインツベルン城】

アーチャー「ーーー別にあれを倒してしまっても構わんのだろう?」

アインツベルン城の一室に監禁されていた士郎を救出した後、もうすぐ城から出ていけると思ったとき、イリヤが現れた。
あのバーサーカーの圧倒的な強さはこの場にいる全員が身をもって知っている。
マスターのうちまともに戦えるのは凛のみ。サーヴァントもうち一人は戦闘不能、一人は負傷中といった状況だ。
そんな絶望的な状況の中、圧倒的な力を持つ大英雄を前にして、赤い弓兵は堂々と言い放った。
一人で相手をするなど無理に決まってる、と俺は思った。しかしここで足止めしなければイリヤスフィールは再び士郎をさらいにくるだろう。逃げきらなければ、助けにきた意味がない。
言葉を交わす弓兵と士郎を尻目に、佐々木さんが話しかけてきた。

小次郎「して、どうする四月一日」

四月一日「・・・・・・」

主語のない質問でも十分わかった。残るか否か、佐々木さんは聞いている。そして俺の意見を尊重してくれるだろうこともわかった。
すぐに答えられなかった。

494 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:24:56.11 ID:3Xtw6mOF0
小次郎「何故そこまで迷う」

四月一日「正直残りたい、です。でも・・・」

そもそもアインツベルン城に士郎を助けに行こうと言い出したのは四月一日自身なのだ。残ってアーチャーを手助けしたいという気持ちは

はっきりとある。
しかし、したいか出来るかは別問題。俺が残ってもあのバーサーカーを相手にどうこうできるとは思えない。
それにこれは俺だけの問題ではなかった。

四月一日「佐々・・・アサシンは、どうなんですか」

小次郎「私か? 四月一日の意思に従う、ではならんか」

四月一日「俺だけの意思で決める訳にはいきません」

小次郎「そうか」

相手の意思を無視して自分の意思を通すのは、強さではなく傲慢だ。
普通に考えて、Aランクより下の攻撃を受け付けず、12通りの方法で殺さないといけない脅威に好き好んで挑むような自殺願望の持ち主は居

ない。
だから俺は残りたいと主張することを戸惑ったのだ。俺がそう選択するということは、問答無用で佐々木さんを巻き込んでしまうことなの

だ。だからここは士郎たちと共に撤退しようと佐々木さんに告げたようとしたところで・・・

四月一日「アサ、シン?」

佐々木さんは腰に差していた新しい刀を抜いていた。
495 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:29:01.20 ID:3Xtw6mOF0

四月一日「どうして・・・」

小次郎「そもそもサーヴァントとはマスターのために動くものだ」

四月一日「そんなの!」

あまりの彼の言い方におもわず叫ぶ。しかし彼の表情は、怒るでもなく、悲しむでもなく、ましてや無表情でもなかった。
彼は、笑っていた。

小次郎「なにより「名」を得、四月一日のおかげでこのような強者たちと戦える。それだけで私の願いは半ば叶えられているようなものな

のだ。その対価を支払わずしてどうしてのうのうと生きていける」

四月一日「!」

佐々木さんは不敵な笑みを浮かべながらそう言い切った。
彼は、俺の意思のために折れるのではなく、俺の意思のために己の意思を貫くと言った。

四月一日「・・・ありがとうございます。佐々木さん、少し協力してもらっても構いませんか」

凛「ちょっとあんたたちなにやってるの!?」

城から脱出しようとしていた遠坂さんに声をかけられる。
早くこい、と催促されたが俺は首を横にふった。
496 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:29:29.05 ID:3Xtw6mOF0

四月一日「遠坂さん、セイバーさん。士郎。先に行ってて」

凛「あんたは・・・!」

少しイラついた様子で遠坂さんは言う。
けれど、俺はここに残る。アーチャーを残して先に行くことなど出来る訳がない。

四月一日「大丈夫だよ。だって遠坂さんのサーヴァントもいるんだから」

凛「・・・っ!」

アーチャー「こいつらが残ると言うのなら、私は構わんよ」

アーチャーは武然として言った。
異存はないようだ。

凛「ああもう! 結局そうなのね。アーチャー、死ぬ気で勝ちなさい!」

アーチャー「もとよりそのつもりだ」
497 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:29:57.42 ID:3Xtw6mOF0


イリヤ「おしゃべりはもういいの?」

イリヤスフィールがつまらなさそうな声で尋ねてきた。律儀に待ってくれていたようだ。

四月一日「うん、待っててくれてありがとう」

イリヤ「構わないわ。どのみち私のバーサーカーが勝つんだから」

去って行く2人を見送る。士郎が不安そうにこっちを見つめてくる。

士郎「君尋、やっぱり俺も残・・・」

四月一日「絶対、大丈夫だよ」

士郎「えっ」

四月一日「無敵の呪文」

どこかで聞いたことがあった無敵の呪文。いつ聞いたのかは思い出せないけど、言葉にするだけで安心感がわいてきた。

四月一日「大丈夫。だから士郎はセイバーさんのそばにいてあげて」

士郎「! ・・・ありがとうな」

士郎はそう言って2人を追いかけた。
だんだん小さくなりつつある士郎の背中に笑顔を向ける。安心して行っていいんだよ、という気持ちをこめて。
498 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:33:38.74 ID:3Xtw6mOF0



イリヤ「やっちゃえ、バーサーカー!」

アーチャー「・・・・・・」

小次郎「くるぞ四月一日」

四月一日「はい!」

バーサーカーが咆哮をあげる。
前回は途中で夢に迷い込んでしまったけれど、こんどはそうはいかない。

小次郎 「生前私は他人を頼ったことも他人に頼られたこともなかった。ただ剣を振ることしかしてこなかった。だからこそここまでの域に

これたとも言えるのだろうが・・・そうか、これが頼られるということか」

これはなかなか心地のよいものよな、と佐々木さんは呟いた。

「ならば答えぬ訳にはいくまい。
ーーー我が秘剣、貴殿の命運に預けよう」
佐々木さんは一歩、前に踏み出した。
499 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:35:00.77 ID:3Xtw6mOF0


ーーーーーー

佐々木さんとアーチャーと、バーサーカーの戦いは苛烈を極めた。
圧倒的な暴力を振りかざすバーサーカーの攻撃はまともに受けることすら難しい。しかし、一撃の威力と速さがすさまじい分、どうしても大振りで隙のあるものになってしまう。万全のアーチャーが時折攻撃をそらし、佐々木さんが牽制する。そして隙を見ては攻撃をしていた。
一回のミスが致命傷になる。最新の注意をはらって実行されていた作戦は、今のところは順調といったところだろう。

ーーーバーサーカーにダメージを与えられていた場合の話だが。

四月一日「・・・くそっ!」

聞いていたのと実際体験するのはずいぶんと違う。バーサーカーの宝具である十二の試練は、佐々木さんとアーチャーを苦戦させていた。
こちらは確実に疲労していっているというのに・・・相手にかすり傷すら作れないのだ。

イリヤ「当然よ。私のバーサーカーは最強なんだから」

四月一日「!」

イリヤ「サーヴァントが倒せないのならマスターを狙うのは定石。でもあなたが私を殺そうとするのはやめておいたほうがいいわ。死んじゃうもの」

イリヤはいつの間にか俺のそばまで来ていた。
500 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:35:31.44 ID:3Xtw6mOF0

四月一日「・・・あなたじゃなくて、名前で呼んでほしいな」

イリヤ「もうすぐ死んじゃうのに?」

四月一日「負ける気はないよ。俺は四月一日君尋っていうんだ」

イリヤ「キミフィロ?」

四月一日「・・・君尋」

イリヤ「キミフィロ・・・キミヒロ・・・クミフィロ・・・」

四月一日「なんで離れるんだよ・・・キ・ミ・ヒ・ロ」

イリヤに分かりやすいよう、一音ずつしっかりと発音した。

イリヤ「キミヒロ。・・・うん、覚えたわ。
でもどうして日本の名前ってこうも難しいのかしら?」

イリヤは自慢げそうにキミヒロと言った後、そう自問した。
501 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:36:09.04 ID:3Xtw6mOF0


四月一日「・・・・・・」

そんなイリヤを見つめながら、俺は考える。

せっかくここに残ったのだから、何かしなければならない。
俺はサーヴァント同士の戦いに介入することもできなければ、イリヤを倒すこともできないへっぽこだ。
だからできることは、イリヤの説得か、情報を聞き出すことくらい。
戦況が行き詰っている以上、俺がどうにかしたかった。

イリヤ「ねえ、あなたどうしてメガネをかけてるの?」

四月一日「え、そりゃあ視力が悪いからで・・・」

イリヤ「お母さまがあなたを見たときはメガネをかけてなかったわ」

メガネをかけていない俺。
心当たりといったら。

四月一日「それって・・・」


バーサーカー「■■■■■ーーーーー!!」


四月一日「!?」

バーサーカーの咆哮がとどろいた。
驚いてそちらに振り向く
502 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:37:53.53 ID:3Xtw6mOF0


アーチャー「埒が明かんな。アサシン、時間は稼げるか」

小次郎「ほう、なにか策があると」

アーチャー「稼げるのか、稼げないのかどっちだ」

小次郎「無論できる。・・・そのまま倒してしまっても知らんぞ」

アーチャー「そうなれば万々歳だ」

そういうと、アーチャーと佐々木さんは前後衛を交代した。
佐々木さんがーーー負傷しているはずの佐々木さんが前にでる。

小次郎「・・・・・・」

佐々木さんは刀を持っていないほうの右手を握ったり開いたりしていた。
感覚をたしかめているのだろうか。

小次郎「来い、狂戦士。存分に競う会おうとしよう」

バーサーカー「■■■■■ーーーーー!」

佐々木さんは肩の上で刀を前方に突き出すような、今までとは一風変わった構え方をする。
バーサーカーの斧剣が振り下ろされた。



小次郎「−−−秘剣、燕返し!」



斧剣に答えるように、銀の軌跡が同時に複数描かれた。
503 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/19(水) 00:38:52.90 ID:3Xtw6mOF0
投下終了です。
次回は少しですが独自解釈がでてくるのでご注意を。
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/19(水) 00:40:30.29 ID:7gjtLAJj0
乙っ
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/19(水) 00:41:19.69 ID:7gfEIMeUo
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/09/19(水) 00:43:03.65 ID:YOFkyEc30

この章が始まってからずいぶんアサ次郎に対するイメージが変わったな
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/19(水) 00:53:23.48 ID:6o9GzTHAO
熱いな
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/20(木) 00:07:40.97 ID:wKXb8FlAO

アイリと君尋が会ってる…のか!?
509 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 19:47:16.09 ID:/6V9eB9s0
>>506
作中での不遇さすらあまりネタにされないほどの空気の薄さ、それがアサ次郎なんで・・・幸運がギルガメッシュに続くAだなんて信じられないです・・・
ですのでそういってくださるとうれしいです。

今夜投稿する予定です。VSアインツベルン決着編。
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/09/20(木) 20:11:45.98 ID:MjAZ+kbQ0
>>509
正直言うとここで変わるまで抱いていたアサ次郎の最新イメージは山門と挙式を狙うトラック野郎でした
511 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:20:37.87 ID:/6V9eB9s0
CPか・・・トラック・・・

投下します。
512 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:23:45.50 ID:/6V9eB9s0
昔ある男がいた。
男は農民であったが、剣術を嗜む珍しい者だった。
物心ついたころから剣術という終わりなき道に惹かれ、没頭した。
家が比較的裕福であり、己が長男でないことをいいことに、ずいぶん好き勝手やっていた。

男には師と呼べるものなどいなかった。
基礎こそ習ったものの、あとは全て独学。
大多数の者にとってはそのような状況での修行など意味をなさないはずだった。
それでも男は愚直なまでに剣を振るい続けた。
そうしていつしか男は境地にたどり着く。
男は何百年に一度という剣の才能をもっていた。

あるときふと男は思った。
空を翔ける燕を切りたい、と。
本人もなぜそのときそう思ったのかは分からない。
だが、その日の思いつきで、男は生涯の目標を決めてしまったのだ。

疾さがたりないーーーならば疾く動けるまで鍛えればいい。
間合いがたりないーーーならば剣を長くすればいい。
それでもとらえられぬーーーならば手数を増やせばいい。
答えるだけなら子どもでもできる内容。
ただ一つ、燕を切るという目標のためだけに、バカバカしいほどの修練を男はこなしていった。

そして最期の時、男はようやく燕を切ることに成功する。
歴史に名を刻むことなく。
ただの一度も戦うことなく。
剣以外のものを知ることなく。

世界にたった5つしかない特権のうちの1つを得た男は、人しれず亡くなった。

その秘剣を男はこう名づけた。
ーーー燕返し、と
513 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:24:28.38 ID:/6V9eB9s0


【アインツベルン城】


すべてが止まっていた。
俺も、イリヤも、アーチャーも、佐々木さんもバーサーカーも。
先ほど起こった現象に驚きを隠せなかった。

イリヤ「多重屈折現象・・・? そんなの魔法レベルじゃない・・!」

バーサーカーと交差した瞬間、佐々木さんの振るった剣の軌跡は明らかに「二つ」存在していた。

剣が分裂したのではなかった。
全く同じタイミングに、全く違う軌跡を描く剣が現れたのだ。
どちらの太刀筋も、間違いなく佐々木自身のもの。
佐々木さんが起こした現象はーーー

アーチャー「第二魔法・・・平行世界の運用だと?」

第二魔法。宝石翁ゼルリッチの魔法。
佐々木さんは、平行世界の自分の剣をこの世界へと持ってきたのだ。
一体どの位の鍛錬を積めばその境地にたどり着けるというのだろうか。
514 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:25:33.13 ID:/6V9eB9s0

小次郎「なに、昔燕を切ろうと思った事があってな。風にのる鳥を切るのには苦労した」

燕を切る。人生においては不必要とも言えるだろうこと。
佐々木さんは、それを成し遂げるためだけに、常識外れなこの秘剣を取得したのだ。
しかしそんな切り札を成功させたにも関わらず、佐々木さんは不満そうな表情をしていた。

イリヤ「・・・まさか魔法を使えるなんて思わなかったけど、もういいわ。キミヒロのサーヴァントの切り札でも、バーサーカーには傷一つつけられなかったみたいね」

そう、佐々木さんの魔法レベルの秘剣でさえ、バーサーカーには傷一つつけられなかったのである。

この時の俺は知らなかったが、アサシンこと佐々木小次郎は正規のサーヴァントではなかった。
ただ燕返しを会得しているという理由だけで本来の佐々木小次郎の代わりに選ばれたただの元地縛霊だ。
ゆえに、アサシンは己の英雄としてのエピソード、宝具を持っていないのだ。

燕返し自体は魔法レベルの事象。発動すればよけることはほぼ不可能である。しかし用いられた剣は何の神秘もない刀。そこにランクはそもそも存在しない。
宝具がないことが弱さに直結するわけではないが、今回は相性が悪すぎたとしか言いようがない。
あくまでも魔法レベルなのは燕返しの技術であり、威力のランク補正がついているわけではないのだ。
515 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:26:48.33 ID:/6V9eB9s0

イリヤ「神秘というものがどれだけ重要か、あなたはわかってなかったみたいね」

アーちゃー「ではその神秘があればアサシンの攻撃は通るということだな?」

イリヤの言葉を遮るようにアーチャーが言った。
俺のいる位置からではアーチャーがどこにいるのかわからない。

イリヤ「・・・どういう意味かしら」

アーチャー「そのままの意味だよ。それともアインツベルンはそんなことも教育しなかったのか」

アーチャーは皮肉で返すと佐々木さんに向かって鞘に納められた権を投げ返す。

小次郎「これは・・・!」

アーチャー「さすがに気付いたようだな」

佐々木さんが受け取ったのは長さ三尺三寸程度の刀。しかし佐々木さんももともと持っていた刀ではない。
516 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:27:20.67 ID:/6V9eB9s0

通称物干し竿ーーー将監長光作の野太刀、二代目備前長船長光。
【佐々木小次郎】が使用していたと伝えられている刀そのものだった。

小次郎「なぜ貴様がこれを・・・」

アーチャー「残念ながら私は剣豪でも何でもない。ただのしがない弓兵だよ」

小次郎「・・・・・・」

佐々木さんは手元の二代目備前長船長光を見つめる。
何を思っているのか、俺には分からない。


ふと、先ほど考えた問いがよみがえる。
ーーー俺は何をすべきか。
その答えが見つかった気がした。
517 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:28:45.23 ID:/6V9eB9s0


四月一日「佐々木さん」

小次郎「!」

真名の秘匿などもういい。
俺はクラス名ではなく、いつもの呼び方で話しかけた。

佐々木さんの受け取った刀がすごいものだということはわかる。
ならば、佐々木さんだって全身全霊をかけてその刀にこたえるべきだ。
しかし佐々木さんは負傷していて万全の状態ではない。
ーーーこれはあってはならないことだ。

右手の令呪を見た。
サーヴァントへのたった三回しかない絶対命令権。
サーヴァントの反逆を防ぐための最後の命綱。
俺の令呪は残り一画しか残っていない。

一度目は自害を。
二度目は回復を命令した。
そして、最後の命令はーーー



四月一日「俺、信じてます。だからーーー頑張ってください!」



最後の令呪が消費される。
518 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:29:56.60 ID:/6V9eB9s0

小次郎「・・・・・・」

それと同時に佐々木さんの傷が完治した。
いや、完治というレベルでは収まらない。
佐々木さんは、これ以上はないというほど万全の状態になっていた。

明確な命令でも何でもない。
ただ、俺にできることを。
純粋な勝利への祈りを。

三度目はの命令は強化だった。

本来曖昧な令呪での命令はあまり効果を発揮しない。
しかし、マスターとサーヴァントの意思が一つにそろったとき、その効果は一気に倍増する。

アーチャー「贋作が新作に劣るとは誰も決めていない」

アーチャーの皮肉じみた声がした。
519 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:31:26.65 ID:/6V9eB9s0

小次郎「・・・なるほど。ここまでお膳立てされたのなら、答えぬわけにもいくまいな」

佐々木さんは古い刀を鞘に戻し、新たに得た刀を鞘から抜いてしっかりと握りしめる。
その瞬間、場の空気が変わった。
バーサーカーが動であり暴だとするなら、佐々木さんは静であり技であった。
二つの相反する存在が対峙する。

イリヤ「・・・・・・」

小次郎「謝罪しよう。先の燕返しは万全ではなかった」

イリヤ「・・・だとしても関係ないわ。勝つのはバーサーカーなんだから!」

突然イリヤの体に光の筋が現れる。
間違いないーーー全身に広がっているあれは、まぎれもない令呪だ。
イリヤのマスターとしての規格外っぷりを見ていると、何度驚いても足りない。

イリヤ「正面から叩き潰しなさい!」

バーサーカー「■■■■■ーーーーー!」

イリヤはそう命令した。
おそらくプライドがそうさせたのであろう。
自分のほうが格上なのだから、正面から叩き潰さないといけない。
そう考えているのだろうか。
520 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:32:27.75 ID:/6V9eB9s0

再び斧剣と刀が交差する。

小次郎「秘剣ーーー燕返し!」

バーサーカー「■■■■■ーーーーー!」

佐々木さんの刀の軌跡が別れる。

一撃目は斧剣と相殺された。
二撃目はバーサーカーの腕で叩き潰される。
そしてーーー

イリヤ「−−−−−!?」

・・・
三撃目が、バーサーカーの首をはねた。

小次郎「少々、腕の数が足りなかったようだな」

佐々木さんは不敵にほほ笑んだ。
521 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:34:25.79 ID:/6V9eB9s0



イリヤ「・・・本当に一回殺されちゃった。でもこれでもうあなたのサーヴァントの攻撃は通じない。次はーーー」

アーチャー「次などないさ」

「「「!!??」」」

声のした方向、ホールの二回にアーチャーは立っていた。

アーチャー「アサシンが時間を稼がなければ、準備できなかった。私一人では無理だっただろうな」

イリヤ「何よそれ・・・! どうしてそんなに宝具を持っているの!?」

アーチャーの背後には、無数の剣が存在していた。

錆びない剣がある。武骨な剣がある。宝石がちりばめられた剣がある。黄金の剣がある。
炎の剣がある。氷の剣がある。選定の剣がある。必殺の剣がある。契約破りの剣がある。伝説の剣がある。
この世のすべての剣がそこにはあるのではないか。そう思ってしまうほどの剣の壁だった。

アーチャー「貴様が挑むは無限の剣群。−−−はたして生き残れるか」

半分の矛先がバーサーカーに向く。
そしてもう半分の矛先が、俺とイリヤのいる方向に向けられた。

四月一日/小次郎「「!?」」

イリヤ「しまっーーーー」


アーチャーの宝具が、無限の剣が、一気に降り注いだ。

522 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:35:14.54 ID:/6V9eB9s0




四月一日「お、俺生きてるのか・・・?」

小次郎「・・・間に合ったか」

宝具の連続射出により、アインツベルン城には煙が舞っていた。
そして、俺は佐々木さんの小脇に抱えられている。
何とか回避に間に合ったようだ。佐々木さんの俊敏の賜物だ。

アーチャー「・・・生きていたか」

四月一日「生きていたかじゃないっすよ! なんでいきなり俺ごと打つんですか!」

現れたアーチャーに抗議した。
危うく死ぬところだったのだ。

アーチャー「マスターごと打つのが最善だったと思うが」

四月一日「俺を巻き込むのかよ!」

アーチャー「より確実に葬るためだ」

四月一日「より確実に俺も殺されかけたんですけど!」

だめだ。アーチャーに話が通じる気がしない。
523 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:35:52.65 ID:/6V9eB9s0

小次郎「・・・先の剣群。この備前長船長光といい、どういうことだ」

アーチャー「重要なのはそこではあるまい。使えるか使えないか。それだけだ」

小次郎「・・・ふむ、違いまい」

煙が晴れていく。
しゃがみこんでいるイリヤが見えた。

イリヤ「・・・・・・」

四月一日「イ、イリヤ・・・」

イリヤ「・・・さない」

四月一日「えっ?」

イリヤ「・・・許さない」

すくりとイリヤが立ち上がる。
524 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:36:35.17 ID:/6V9eB9s0

小次郎「・・・先の剣群。この備前長船長光といい、どういうことだ」

アーチャー「重要なのはそこではあるまい。使えるか使えないか。それだけだ」

小次郎「・・・ふむ、違いない」

煙が晴れていく。
しゃがみこんでいるイリヤが見えた。

イリヤ「・・・・・・」

四月一日「イ、イリヤ・・・」

イリヤ「・・・さない」

四月一日「えっ?」

イリヤ「・・・許さない」

すくりとイリヤが立ち上がる。
525 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:37:29.66 ID:/6V9eB9s0


イリヤ「−−−狂いなさい! バーサーカー!!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■ーーーーー!!!!!!!!!!!!」

「「「なっ!!!???」」」

砂煙の中からバーサーカーが現れる。

まだ、殺し切れていなかったーーーー!!!???


アーチャー「くっ・・・!!」

アーチャーの手に中華風の夫婦剣が現れバーサーカーの攻撃を何とか受け止める。
佐々木さんが援護するが、それすらもバーサーカーはものともしない。

アーチャー「あれでまだ狂化していなかっただと!?」

一撃一撃が今までとはまるで違った。
その上、アサシンの燕返しではもはや殺せず、アーチャーにはもうバーサーカーを殺せるほどの宝具の種類のストックがなかった。
絶体絶命だ。
526 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:39:09.11 ID:/6V9eB9s0

アーチャーの持つ夫婦剣が5回破壊されたとき、佐々木さんはアーチャーに話しかけた。

小次郎「アーチャー、勝負にでる」

アーチャー「ほう、燕返し以外にも切り札があるというのかね」

小次郎「ない」

はっきりと、ただし自信満々に言い切った。

小次郎「アーチャー、私に魔術の学はないが・・・一度殺された方法には耐性がつく、とはどういうことだと思う」

アーチャー「・・・つまり?」

小次郎「あいにく私は剣を振ることしか能がなくてな。なに、より完成度の高い燕返しならばあの男の守りを抜けられるのではないかと考えただけのこと」

アーチャー「・・・・・・」

例を出そう。
バーサーカーが一度500度の炎で焼かれて死んだとする。
すると、バーサーカーには500度の炎への耐性がつく。
しかし、その次に1000度の炎による攻撃をくらったなら?
ーーーはたして攻撃は通るのだろうか。

佐々木さんは通るという可能性に賭けていた。
同様の理屈で、先ほどの燕返しよりも数ランク上の質のものを繰り出せば攻撃は通ると。
527 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:40:17.09 ID:/6V9eB9s0


アーチャー「完成度を上げる自信は」

小次郎「ある」

迷いや不安など、佐々木さんにはなかった。

小次郎「あそこまでお膳立てされておいて、今まで通りの秘剣のみというのは少々さびしいではないか。より磨き上げられた秘剣を会得して見せよう」

そういって、前線を一時アーチャーに任せ、佐々木さんは構えた。


528 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:41:07.23 ID:/6V9eB9s0

イリヤ「・・・もう絶対に許してあげないんだから」

一方こちらでは、怒りをあらわにしたしたイリヤの周りに魔力弾が現れていた。

四月一日「わあああ!」

その魔力弾は俺のほうに向かって飛んできた。
精度はそこまで高くないが、数が多い。

イリヤ「キミヒロはシロウの友達だって聞いてたからやさしくしてあげようと思ってたけどーーーもうやめたわ」

魔力弾が生成される。生成される。生成されるーーー!
規格外の魔力による力押し。
一発一発に純分すぎるほどの俺を殺す威力が備えられていた。

小次郎「・・・四月一日!?」

佐々木さんが叫ぶが、今彼が持ち場を離れるわけにはいかなかった。バーサーカーの猛攻が助けに行くことを許さない。


イリヤ「ばいばい、シロウのおともだち」
529 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:41:56.78 ID:/6V9eB9s0









目の前を真っ赤な炎が覆った。



?「グルルルルルル……」



四月一日「き、狐・・・!?」

目の前にいきなり現れた獣。
一瞬狐に見えたその生き物は、明らかに狐ではなかった。
狐としてはありえないほどの巨体に、八本の尾がついていた。

管狐「−−−−−−」

イリヤ「きゃっ!」

管狐の炎がイリヤを襲う。
何者かはわからないが・・・どうやら俺の味方のようだ。

四月一日「佐々木さん! 俺は大丈夫です!」

小次郎「・・・そうか」
530 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:42:53.19 ID:/6V9eB9s0


俺の無事を確認した瞬間、佐々木さんはバーサーカーに向かって走りだす。

小次郎「秘剣、燕返しーーー」

一撃目は斧剣と相殺された。

二撃目はバーサーカーの腕で叩き潰される。

三撃目の刃はバーサーカーの肌を貫けなかった。


小次郎「ーーー四の舞!!」


そして、バーサーカーの背後から現れた四撃目が、ついに最後の命を刈り取った。

531 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:48:29.78 ID:/6V9eB9s0



四月一日「勝った、のか・・・?」

バーサーカーの体が光の粒になって消えていく。
佐々木さんは、バーサーカーの守りを貫いたのだ。

バーサーカー「・・・まさか、同じ技に二度殺されるとは」

四月一日「!」

バーサーカーが言葉を発していた。
消滅の直前になって、狂化が解けたのだろうか。

バーサーカー「見事な剣技だった・・・」

小次郎「理性のある貴様とも、刃を交えたかったよ」

バーサーカー「・・・・・・」

イリヤが消えていくバーサーカーを恐れるように見ていた。

イリヤ「バーサーカー・・・?」

バーサーカー「−−−−−−」

バーサーカーは最後に己のマスターに、なんといったのだろうか。
何かを呟いた後、完全に光の粒となって消えていった。
532 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:55:16.16 ID:/6V9eB9s0
ーーーどくん

四月一日「・・・・・・!」

その瞬間、胸やけがした。
喉の奥から、焼けるような暑さの何かがこみあげてくる。
心配そうに、八尾の獣がすり寄ってきた。

四月一日「がっ・・・げほっ、げほっ!」

口に手をやり、思わず何かを吐き出した。
胃液なのか、もしくは吐血なのかーーー暖かい何かが掌にこぼれる。

小次郎「大丈夫か、四月一日」

四月一日「う゛・・・」

何かに飲み込まれるような気持ち悪さだった。

四月一日「ははは・・・俺、なんか寝込んでばかりですね。ごめんなさい」

そう言い残して、意識を失った。





小次郎「・・・泥?」

吐き出したものが、真っ黒の泥だということにも気付かずに。
533 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/20(木) 21:56:15.30 ID:/6V9eB9s0
投下終了です。
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/20(木) 21:59:02.37 ID:Z+7QKKjAO
おつ
まさかの泥。続きがきになる
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/20(木) 21:59:39.45 ID:xCiJh07Zo

もう一人の四月一日の正体は…
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2012/09/20(木) 22:05:01.22 ID:V3WIWg9g0

吐いたのが泥だとは……
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/09/20(木) 22:08:33.19 ID:MjAZ+kbQ0

泥ということは・・・
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/20(木) 23:08:36.17 ID:FfDCrM8AO


アサ次郎かっこよすぎた、濡れるッ!管狐可愛すぎた、モフるッ!

しかし、これは……

一体何が始まるんです?
539 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 19:48:22.98 ID:w5EFUehL0
今夜11時〜12時に、≪真相編・表≫を投下します。
540 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:00:51.58 ID:w5EFUehL0
投下します。
541 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:02:26.30 ID:w5EFUehL0
ーーー夕方
【衛宮邸】

士郎「君尋! よかった・・・目を覚ましたのか」

四月一日「士郎・・・?」

目を開けると、すぐ近くに士郎の顔があった。
・・・衛宮邸だ。俺はまた気絶していたようだ。

四月一日「本当最近こんなのばっかだなあ・・・」

聖杯戦争を知った日に気絶し、ライダーと戦ったときに気絶し、新都でバーサーカーに襲われたときに気絶し、そして今回も気絶した。
士郎や遠坂さんだって頑張っているのに、なんという情けなさだ。

四月一日「俺どのくらい寝てたんだろう。迷惑かけなかったか」

士郎「いや、それは大丈夫なんだが、むしろ・・・」

四月一日「むしろ?」

士郎は何とも言えないような困った表情をする。

士郎「こっちを隠すほうが大変だったというか・・・」
542 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:03:04.24 ID:w5EFUehL0

スパーン! とふすまが勢いよく開く。
飛びついてきたのは・・・

管狐「−−−−!!」スキスキ

八つの尾をもつ狐だった。

四月一日「ぬおわああああ! 乗るな! お、重いんだよ!」

管狐「−−−−!!!!!!」スキスキスキスキ!!!

四月一日「ちょ、そこ腹・・・うぎゃあああ!!」

士郎「だ、大丈夫か!?」

士郎手伝ってもらい、何とか狐をのけることに成功する。
この狐は、アインツベルン城でいきなり現れた獣だった。

士郎「そいつ四月一日になついてるみたいでさ。寝込んでる間ずっと心配してたみたいなんだ」

四月一日「そ、そうなのか・・・」

管狐「−−−−−」ダイジョウブ?

獣は理由はわからないが、ずいぶん俺を気に入っている。
会った記憶はないのだが、俺の霊媒体質が関係しているのかもしれない。
543 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:04:21.18 ID:w5EFUehL0


士郎「というか、そいつ君尋だけじゃなくて俺や遠坂、おまけに藤ねえにも見えるみたいなんだよな・・・」

四月一日「本当!?」

そういえば、士郎がなぜ管狐の様子がわかるのか違和感があったが、まさか誰にでも見える存在だとは想像していなかった。

四月一日「困ったことっていうのは、藤村先生や桜ちゃんにこいつを隠すことだったのか」

士郎「アサシンからそいつが君尋を助けたって聞いてたから、追い出すわけにもいかなかったしな」

一応土蔵でこっそりと過ごしてもらっているらしい。

士郎「にしても、君尋は普段からこんな感じのが当たり前に見えてたのか・・・」

四月一日「うーん、この子みたいなのは結構珍しいけどな。大体黒いもやもやだったり、ヒト型に近かったりするし」

管狐「?」

狐は話題にされていることに気づいたのか、俺を見つめて首をかしげる。月のような細い目が印象的だ。
そのもふもふした毛をやさしくなでてやる。

四月一日「助けてくれて、ありがとうな。おかげで助かったよ」

管狐「−−−!」

どうやらお礼の気持ちは伝わったらしい。
嬉しそうに八つの尾を振っていた。

士郎「でもこいつなんなんだろうな。アヤカシなのか?」

四月一日「そうなのかな・・・でもそれじゃあ士郎にも見える説明がつかないよな」

士郎「・・・うーん」
544 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:05:56.04 ID:w5EFUehL0

しばらく二人で悩んでいると、足音が聞こえた。
やって来たのはセイバーだった。

セイバー「・・・・・・」

セイバーは黙って俺と士郎と狐を見つめた後、ずんずんとこちらへ進んできた。

四月一日「セ、セイバーさん?」

管狐「グルルルルルルルル・・・・・!」コッチクンナ!

狐が威嚇する。
全身の毛が逆立っていた。
セイバーさんはそれを一蹴し、黄金の剣を抜く。

四月一日「なあっ!?」

セイバー「・・・・・・」

切っ先が管狐の首先に向けられた。
545 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:06:27.73 ID:w5EFUehL0


士郎「何やってるんだセイバー!」

セイバー「・・・この狐がなぜここにいるのですか」

四月一日「えっと、その・・・」

セイバー「質問を変えましょう。キミヒロ、なぜあなたがこの使い魔を持っている」

セイバーさんはいつになく真剣そうな顔でそう訪ねてきた。

四月一日「使い魔・・・こいつは使い魔なのか?」

士郎「使い魔って確か、そんなに戦闘能力は持ってないはずじゃ・・・」

使い魔とは通常魔術師の手足となるために作られた代物だ。
使い魔を使役するということは、この分術者の魔力を消費するということ。
使い魔に機能をたくさんつけても無駄なのだ。使い魔にやらせるくらいなら術者本人が行動した方がはるかに効率がいい。
そのためたいていの使い魔には最低限の機能しかついていない。

しかしこの狐にはイリヤを圧倒したというただの使い魔にしては過剰な戦歴がある。

セイバー「ええ、間違いなく使い魔です」

だがセイバーは確信を持ってそう断言した。

546 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:07:12.07 ID:w5EFUehL0

四月一日「とりあえず剣をのけてもらえませんか・・・」

管狐「フー!」

セイバー「できません」

威嚇する使い魔と、剣を向けるセイバーの板ばさみはなかなかにつらかった。しかしその提案をセイバーは一刀両断する。

士郎「セイバー、なんでそんなに怒ってるんだ・・・?」

セイバー「・・・怒っているわけではありません。しかし、この使い魔は早く始末しなくてはいけない」

士郎「なんでさ」

セイバーは剣を狐に向けたまま、俺と士郎のほうをみて、衝撃の事実を暴露した。




セイバー「ーーーあれは、前回の聖杯戦争のキャスターの使い魔だからです」

547 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:08:53.79 ID:w5EFUehL0

【衛宮邸・居間】

凛「で、改めてきちんと説明してもらえるかしら?」

セイバー「わかりました」

管狐「・・・・・・」

居間には桜ちゃんと藤ねえを除いた、セイバーアサシンアーチャー陣営、衛宮邸にいる全員がそろっている。
ひとまずセイバーに落ち着いてもらって、なんとか話し合いの場を作ることに成功した。
机を囲むように並んで、少し離れた場所におとなしくしている狐に耳栓をしてもらい、警戒しながら話す。狐に耳栓、実にシュールだ。


セイバー「私は第四次聖杯戦争の際、セイバーとしてアインツベルンのマスターだったキリツグに召喚されました。
     前回の聖杯戦争で召喚されたキャスターは東洋系の魔術師。その狐も、キャスターの使い魔です」

凛「東洋系・・・イレギュラーってことね。あの使い魔は八尾ということは、九尾の狐を模しているのかしら」

セイバー「キリツグもそう予想していました」
548 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:09:42.64 ID:w5EFUehL0

聖杯戦争とは基本的に西洋系の英雄のみが召喚される。
理由は「聖杯」という概念そのものにあるそうだ。
聖杯とは神の子キリストの血を受けた器である。その杯は願いを叶える力を持っているとされ、数々の伝説が残されている。
逆に言えば、キリスト教のない文化圏の英雄にとっては聖杯とは未知のものであるのだ。

聖杯戦争が聖杯という形をとっている以上、英霊がその存在を知っていることは大前提。
よってキリスト教という概念のない東洋の英霊が召喚されることはないのだ。

ゆえに前回のキャスターはイレギュラー、ということになる。
・・・もっともその理論でいくと佐々木さんもイレギュラーということになり、2度召喚されたセイバーや反英霊のライダーなども含めれば、聖杯戦争はイレギュラーだらけになってしまうのだが。
549 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:10:14.21 ID:w5EFUehL0

凛「でもどうして前回の聖杯戦争のサーヴァントの使い魔が残っているのかしら」

セイバー「可能性はいくつかあります」

セイバーはいくつか仮説を立てていった。
一つ目は、実は八尾がキャスターの使い魔ではなかったというもの。
二つ目は、八尾が一から作られた使い魔ではなく、キャスターと一時的に契約を結んだだけの精霊だったというもの。
三つ目は、ただのセイバーの勘違いというもの。

セイバー「最後は、今回の聖杯戦争でも同じキャスターが召喚されているとうものです」

凛「そんなことがあり得るのかしら」

セイバー「現に私自身が2回連続で召喚されています。聖遺物である程度召喚する英霊を固定できるのですから、10年前と同じ聖遺物が使用された可能性は十分にあります」

なるほど。確かにその通りだった。
550 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:12:31.75 ID:w5EFUehL0

凛「キャスターはどんなサーヴァントだったの?」

セイバー「・・・残念ながら姿は見ていません。秘匿の魔術を使用していたのでしょう」

キャスター枠には基本的に現代の魔術師とは圧倒的に格が違う魔術師が召喚される。
キャスターは秘匿の腕もひときわ高かったそうだ。

セイバー「前回の聖杯戦争で、キャスターは私も含めた最後まで残った三騎のうちの一騎でした。消滅までは確認していませんが、確かに私自身が霊核を破壊しています」

凛「となると、聖杯の魔力をネコババして生き残った可能性もほぼゼロ。さっきセイバーが言ってた4つの可能性が高いのね」

霊核が破壊されれば間もなく英霊は死ぬ。消滅したとみていいはずだ。
それに聖杯がなければサーヴァントは存在を維持することすら難しい。キャスターが冬木に10年間も存在し続けることは不可能だ。
となるとこの説はないだろう。

俺個人の意見としては、4つ目のキャスターが今回の聖杯戦争でも召喚されているという説以外が望ましいが、その可能性が絶対ないとも言い切れない。
命の恩人の狐を疑うのは心苦しいが、キャスターの策略という可能性もある。
551 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:14:14.68 ID:w5EFUehL0

士郎「でも、今のところ俺たちはセイバー、アーチャー、アサシン、ランサー、ライダー、バーサーカーの真名を知ってるだろ。アサシンや君尋が教えてくれた柳洞寺のキャスターの特徴だって、東洋系とは遠いじゃないか」

凛「セイバーは前回のキャスターは外見を秘匿する魔術に優れていたといっているわ。外見を偽る魔術が使えてもおかしくない」

ということは、やはり今回のキャスターと前回のキャスターが同一人物という可能性が高いのだろうか。

セイバー「前回のキャスターも柳洞寺を拠点にしていました。共通点はあります」

アーチャー「・・・魔術師が高位の地脈を持つ土地を自陣とするのは当たり前のことだと思うが」

そろそろぐだってきた。
・・・完全に行き詰っているが、今の情報量ではここまでの推測が限界だろう。

ふと、夢で出てくる俺とうり二つの男の存在を思い出した。
聖杯戦争にかかわってからやけに頻繁に俺の夢に現れる男。
変身魔術を使えるのだとしたら、もしやあの男は前回のキャスターではないだろうか。慎二の証言もある。
・・・もう一人の俺の問題が気にかかった。
552 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:15:04.15 ID:w5EFUehL0

凛「そうね。とりあえず教会に行って綺礼にちょっと聞いてくるわ」

四月一日「教会の神父さんに? たしか監督役じゃなかったんですか?」

凛「そういえば君尋には言ってなかったかしら。
  あの似非神父はね、前回の聖杯戦争の参加者なのよ」

四月一日「!」

なるほど、ならば前回の聖杯戦争について、セイバーが知らなかった情報を持っている可能性もある。

凛「とりあえず一度私の家に帰ってから、夜に教会に行ってみるわ」

士郎「わかった。夕食はなくていいか?」

凛「構わないわ」

凛は立ち上がるとアーチャーに声をかけ、衛宮邸を去る準備を始めた。
553 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:16:09.72 ID:w5EFUehL0

アーチャー「マスター、少々提案したいことがあるのだが」

凛「どうしたのかしら」

アーチャーが突然改まって言い出した。
もともとアーチャーは俺たちに意見することは少ない。
何かあったのだろうか。

アーチャー「その男を聖杯戦争終結時まで拘束したまえ」

アーチャーはとある方向に目線を向ける。

四月一日「・・・って、俺かよ!」

アーチャーは、俺のほうを見ていた。

小次郎「ほう、なぜだ」

今まで沈黙していた佐々木さんがアーチャーをあからさまに警戒する。
腰に刺さっている刀にも手をかけていた。
ちなみに二代目備前長船長光ではなく、藤村先生の家の刀だ。
二代目備前長船長光は最後の燕返しのあと、消滅していた。
554 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:17:19.53 ID:w5EFUehL0


アーチャー「こちらとしても最大限の譲歩はしたつもりの提案なのだがね」

士郎「どういうつもりだ」

アーチャー「もし手段を選ばなかったら、私はあれを黙って狙撃をするさ」

士郎「・・・・・・!」

確かにアーチャーの言っていることは正しい。
これから殺そうとする相手にわざわざ「あなたを警戒してます」と言う狙撃者はいない。
確かにある程度譲歩はしてくれていたのだろう。
しかし今回ばかりはその言い方は士郎の神経を逆立てする結果になった。

士郎「どうして君尋を殺したり、拘束したりする必要がある。こいつは俺たちの味方だ」

アーチャー「人の本心などそのもの自身以外にはわからんものだ。それにこの男は泥を吐いた」

四月一日「泥?」

泥など吐いた記憶はない。
555 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:19:21.01 ID:w5EFUehL0

アーチャー「アインツベルン城で泥を吐くなり気絶したよ。
      わかりやすいように泥という表現を使ったが、あれは単なる泥ではない。あれは、危険なものだ」

四月一日「危険・・・?」

アーチャー「一般人がふれれば即死級の代物、と言っておこう。呪いと言ってもいいだろう。あいにく生前そういったものにかかわる機会があってね。審美眼には自信がある。
      あれは、放置するべきではない」

ゆえに拘束。ゆえに信用できない。
俺自身も呪いなどと言ったたいそうなものに心当たりはなかったが、たしかにアインツベルン城で何かを吐き出した記憶はあった。それがアーチャーの言う呪いだったのだろう。

アーチャー「本人に敵対する意思があろうがなかろうが、あれは危険だ。危険の芽はさっさとつぶすに限る」

四月一日「・・・・・・」

アーチャーの言っていることはただしい。
俺だって、みんなに迷惑はかけたくない。
もし本当にアーチャーの言う呪いを持っているのだとしたら、死ぬならまだしも拘束程度なら受けるべきだという気になってきた。

四月一日「俺は、拘束されるべきですか」

アーチャー「無論」

四月一日「なら・・・」



士郎「ふざけるな!」



承諾しようとした瞬間、士郎の怒鳴り声がした。
556 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:20:21.07 ID:w5EFUehL0

士郎「勝手に決めつけるな。四月一日が仮に本当にそんな危険を秘めていたとしても、それは勝手に拘束していい理由にはならないだろ」

四月一日「でも」

士郎「そんなものは、切り捨てる理由にはならない」

士郎はアーチャーではなく俺を説得するように、言った。
それだけで、安心感が生まれる。
やっぱり、士郎は正義の味方なのだとなんとなくそう思った。

士郎「少なくとも、俺自身が直接確かめない限り、納得できない」

アーチャー「ではもし何かあったときはどうする? 被害が出てからでは遅い」

士郎「その時は・・・俺が、何とかする」

士郎はそう言い切った。

四月一日「士郎・・・」

決断力。自信。他人への思いやり。
俺は士郎のその一面に救われたのだ。
やはり、士郎のこの一面は誰にも負けない長所だ。
557 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:22:23.23 ID:w5EFUehL0


凛「・・・まあ、アーチャーも士郎も落ち着きなさい。とりあえずは綺礼に話を聞きに行ってからでも遅くないでしょう?」

敵対心を燃やす士郎を何とかなだめ、凛はアーチャーを連れて去って行った。

四月一日「呪いか」

泥。前回のキャスター。夢の男。
気になることは多い。

しかしーーー





ぐうぅぅぅぅぅぅ・・・

おなかの鳴る音がした。

士郎「・・・・・・」チラッ

四月一日「・・・・・・」チラッ

小次郎「・・・・・・」チラッ


セイバー「・・・・・・」
558 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:23:39.96 ID:w5EFUehL0

セイバー「ち、違います! 別におなかがすいたなどというわけでは・・・!」

音の主であるセイバーが必死に否定する。

士郎「・・・・・・」

四月一日「・・・・・・」

小次郎「・・・・・・」

セイバー「うう・・・・お、お腹すきました・・・」

恥ずかしそうにセイバーはそう白状した。

士郎「・・・そろそろ夕食にするか」

四月一日「・・・そうだな」

・・・そろそろ食事の時間だ。
559 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:25:04.24 ID:w5EFUehL0

ーーー夜
【衛宮邸・食卓】


今日の夕飯は、藤ねえが今日もってきた貰いものの明太子のせのご飯と、水餃子と野菜のスープ、昨日の残り物らしい大根とこんにゃくと人参と豚肉の煮物である。
デザートは杏仁豆腐。盛り付けの練習としてのチョイスだ。簡単そうに見えて、白黄色赤の色のバランスを考えて盛り付るというのはなかなか難しい。

「「「「「「いただきます」」」」」」

一斉に食べ始める。
セイバーと佐々木さんと藤村先生が水面下でいかに他人より多く食べるかで争っているような気がするが、士郎や桜は最近は慣れてきたようで、あまりリアクションしなかった。俺も二人にならって無視する。
しかし、相変わらず士郎の和食はレベルが高い。野菜の切方一つでも、食べやすい形になっていて、見た目もよく、味がしみやすいように考えられている。
何よりも絶妙なのが繊細な味だ。すべての食材と調味料がお互いを殺すことなく引き立てあっている。
いつか俺もこんな和食が作れるようになりたいな、と思いながら味わって食べた。

さて、おかずもなくなりデザートタイムである。
藤村先生が心底楽しそうに杏仁豆腐を食べていた。
560 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:26:12.69 ID:w5EFUehL0


藤ねえ「そうだ、ねえねえ君尋くん、今日って商店街のほうに行った?」

四月一日「商店街、ですか?」

それがどうしたのだろうか。

藤ねえ「昼ごろにねー、君尋君を商店街で見かけたのよね。で、一緒にいた男の人に見覚えがなかったから誰かなーって思って。佐々木さんみたいな親戚の人?」

四月一日「・・・え」

俺が、今日の昼に商店街にいた?
それはありえない。なぜならアインツベルン城に行った後、俺はずっと寝込んでいたのだから。
だとしたら、藤村先生が会ったのはいったい誰なのだろうか。

四月一日「・・・・・・」

頭に浮かぶのは、夢の男。俺とうり二つの男。
ーーーもし、あの男が商店街にいたのだとしたら?
ーーーもし、藤村先生や慎二があったのが、もう一人の俺だったとしたら?
561 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:27:50.06 ID:w5EFUehL0



藤ねえ「あ、あれ? 君尋君どうしたの? 先生はこっちだぞー! おーい!」

四月一日「・・・大丈夫です。あと、俺は今日商店街にはいってないので、人違いだと思います」

藤ねえ「ふーん、ならいいんだけど」

そう言って藤村先生は杏仁豆腐のおかわりをする。
夢中になって食べる様子からして、きっともうさっきの会話も忘れているのではないだろうか。

四月一日「もう一人の俺か・・・」

だれにも気づかれないような小さな声でぼそりとつぶやく。
もし今度夢の男に会ったら何が何でも正体をつかんでやると誓った。



小次郎「・・・・・・」

562 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:29:07.38 ID:w5EFUehL0

ーーーside凛 ≪真相・表≫
ーーー深夜
【言峰教会】


重圧にすら感じるほどの静寂。
罪を許さぬ場。
神の見ている場。
凛たちは今、冬木氏に唯一ある教会、言峰教会に来ていた。

凛「いるんでしょ? でてきなさい、綺礼」

遠坂凛は開口一番そう言った。
アーチャーを霊体化すらさせていない。普段から彼女が心がけているはずの優雅さも、今はほとんどなりを潜めていた。

言峰「どうしたのかね、凛」

凛「あなたに用があって来たのよ」

凛の呼び出しに答え、出入り口付近に現れた長身の神父、言峰綺礼は、少女から発せられる威圧感に微塵も動じることなくそう返答する。
サーヴァントを実体化させたマスターがすぐ近くにいるというのに、言峰は構えることすらしなかった。
何か保険でもあるのか、単に図太い神経をしているだけなのか。どちらにしても綺礼らしいと凛は思う。
563 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:30:20.06 ID:w5EFUehL0

言峰「用? 凛、お前がか? お前がここに連れてきた間桐慎二に用があるなら間桐家に行け。・・・それともお前というものが棄権でもしにきたか?」

凛「無駄話はあとにして。さっさと本題に入りたいの」

言峰「・・・ふむ」

凛は言峰をまっすぐ見据えながら言い放つ。流石に凛が自分自身に用があって来たのだと気づいたのだろう、言峰は手を組み直し、改まって聞く姿勢に入った。

凛「あなた、八尾の狐の使い魔に見覚えはないかしら」

言峰「・・・・・・。前回の聖杯戦争で、そのような使い魔を使役していたサーヴァントはいたな。なぜお前がそれを気にする?」

凛「前回のキャスターの使い魔であるはずの八尾が、今さらになって表れたのよ」

言峰「・・・ほう?」

凛の発言は言峰のどの予想も裏切っていたようで、神父は興味深そうに眉をあげた。

言峰「それはそれは・・・なるほど、それで私が何か知っていないモノかと尋ねてきたわけか」

凛「これは完全なイレギュラーよ。あなたが中立を保つ必要もないんじゃないかしら」

言峰「・・・・・・」

しばしの沈黙。
しかしその沈黙はすぐに破られた。破ったのは言峰でも凛でも、ましてやアーチャーでもない。
564 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:31:52.49 ID:w5EFUehL0

カツン

カツン

カツン

静かな教会に新たな足音が響く。

?「・・・・・・」

奥の扉から、男が出てきた。

凛「あなた・・・君尋!?」

アーチャー「・・・・・・」

現れたのは、四月一日君尋とうり二つの男。
違いらしい違いと言えば、メガネをかけていないことと、落ち着いた雰囲気くらいだ。
男は和服を着ていた。

言峰「ほう、まさかもうお前が表舞台に出てくるつもりとはな」

?「別にどうだっていいでしょう」

言峰「最後の最後に種明かしをするほうが、私好みではあったのだが」

?「・・・娯楽、ですか」

男は言峰と当たり前のように会話する。
明らかに凛たちの知っている四月一日ではない。

凛「あなた、誰かしら」

凛の問いに、言峰がにやりと心底楽しそうな笑みを浮かべる。
そして衝撃の事実をあっさりと言い放った。
565 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:32:20.50 ID:w5EFUehL0








言峰「紹介しよう。前回の聖杯戦争の際、私のパートナーだったキャスターだ」


ーーーその夜、ついに聖杯戦争の後半戦が始まった。
566 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/22(土) 23:33:03.07 ID:w5EFUehL0
投下終了です。
次回≪真相編・裏≫
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 23:36:06.61 ID:IzSSpQ1Zo

第四次でAUOの代わりにキャスターが泥受肉していたのかな
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2012/09/22(土) 23:39:37.47 ID:OqDxwrsQ0

真相・裏とか


wwktk
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/22(土) 23:40:27.98 ID:GIkK5gbAO
ワクワクが止まらねえ
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/09/22(土) 23:41:44.66 ID:YmlrITWv0

この四月一日は・・・
何が未来に起こって英霊となったのか
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/23(日) 00:51:14.84 ID:8szlnEIAO
和服か

本編に近いな……

そういや百目鬼ってアーチャーだよな
572 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 14:53:30.42 ID:wnPxS+ic0
今夜≪真相編・裏≫を投稿します。
573 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:37:12.11 ID:wnPxS+ic0
投下します。
574 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:39:24.34 ID:wnPxS+ic0

side四月一日 ≪真相・裏≫


ーーー夜
【衛宮邸】

四月一日「ごめん士郎、ちょっと見回りに行ってきてもいいか」

夕食後、どうしても藤村先生の話が忘れられなかった俺は、士郎にそう頼んだ。

士郎「見回り? だったら俺もついていくけど」

四月一日「いや、俺と佐々木さんだけで行きたいんだ」

士郎「でも・・・」

士郎の戸惑いはもっともだ。聖杯戦争は夜が本番なのだから、単独で夜に外に出向くというのは危険極まりない。
だが俺は安全よりも優先したい、確かめたいことがあったのだ。

四月一日「佐々木さんだっているし、ここの守りを甘くするわけにはいかないだろ?」

士郎「そうだけど・・・」

四月一日「じゃあ行ってくるよ」

士郎「おい、君尋!」

半ば強引に見回りに行くことを決定する
575 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:39:50.53 ID:wnPxS+ic0


四月一日(・・・もう一人の俺)

いてもたってもいられなかったのだ。
夢に出てくるもう一人の俺は、藤村先生や慎二が見たもう一人の俺は、何者なのだろうか?
それを確かめに行くつもりだった。
俺自身の勝手に、士郎たちは巻き込めない。

四月一日「行きましょう、佐々木さん」

小次郎「・・・承知した」

そして、俺と佐々木さんは見回りをしにいった。

・・・もしも。
もしもこの時俺が一人でいかなかったら。
もしもこの時士郎と一緒に行っていたら。
もしもこの時凛が帰ってくるまでおとなしく待っていたら。
結末はまた違ったのかもしれない。
576 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:40:18.68 ID:wnPxS+ic0


ーーー夜
【夜道】

四月一日「・・・・・・」

小次郎「やはり、夕食時に虎が話していたことが気になるか」

四月一日「・・・聞いてたんですね」

小次郎「もう一人の四月一日の噂だな。ライダーのマスターの話や虎の話への反応を見ればわからぬはずはない」

四月一日「ははは、そこまでばれちゃってたんですね」

どうやら佐々木さんにはほとんどばれてしまっていたようだ。
正直に白状することにした。

四月一日「どう考えても今この街には「もう一人の俺」がいるんです」

そして、その正体がつかめれば、自然とキャスターの正体も判明するだろうと予測していた。

小次郎「一人で探ろうとしたのか」

四月一日「佐々木さんがいるじゃないですか」

小次郎「まあ、そうだが」
577 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:40:45.84 ID:wnPxS+ic0


簡単に説明したあと、再び歩いていく。

小次郎「で、ちなみにこの獣は連れてくる必要があったのか?」

四月一日「・・・不可抗力です」

管狐「?」

俺の半歩後ろを歩いている八尾はかわいらしく首をかしげた。
・・・あれは確か一般人にも見えるはずだ。見られるのはまずいのだが、どうしてもついていくと聞かず、おいていくことができなかった



四月一日「で、でもまあ! 見つからなかったらいいんですし!」

小次郎「・・・まあ好きにするといい」

四月一日「・・・・・・」

なんだか無性に恥ずかしかった。

578 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:41:32.36 ID:wnPxS+ic0


ーーー数十分後

四月一日「!」

小次郎「どうした」

寒気がして思わず足を止めた。
気になるのは、次の十字路の曲がり角だ。

四月一日「いる・・・」

曲がり角からは何も見えない。
黒いもやもやも、アヤカシの声すらも。
だが、俺はあそこをまがった先に必ずいるのだと確信した。

四月一日「もう、一人の・・・」

佐々木さんが剣を抜き構えた。
曲がり角の方向から足音が近づいてくる。

四月一日「・・・・・・」

緊張のせいか、額に汗が流れる。
相手が後数歩進めば鉢合わせるはずだ。

四月一日(逃げるなら、今のうちだーーー)

それでも俺は動かない。
動けない。
まっすぐと曲がり角を見つめ、会うその瞬間を待ち続けた。
ーーーその行動も必然だったのかもしれない。


579 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:43:23.04 ID:wnPxS+ic0



?「なっ・・・お、俺!? っていうか管狐まで!?」

?「・・・どういうことだ」


俺は、黒い制服に身を包んだ二人の青年と出会った。


四月一日「−−−−−−」

俺とうり二つの男と、見たことのない男だった。

?「百目鬼、お前にも見えるのか・・・。片目でも見えるか?」

百目鬼「管狐とお前とそっくりなやつは見える」

?「ってことはあっちはアヤカシじゃないのか・・・!?」
580 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:43:48.74 ID:wnPxS+ic0



四月一日「誰だ、あんた」

俺とそっくりな男は、確かにうり二つだったが、夢で見た男ではなかった。

?「それはこっちのセリフだ。ひまわりちゃんからもう一人の俺がいるって話を聞いたから確かめに来たんだよ! どういうつもりなんだ

、おまえ」

俺とうり二つの男が俺に言ってくる。
男の言い方は、被害者のようで。

四月一日(まるで俺のほうが偽物みたいなーーー)

百目鬼「誰だ、お前」

三白眼の男が、俺にそう聞いてきた。
581 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:45:02.28 ID:wnPxS+ic0




記憶が点滅する。

これはいつの記憶だろう。
見覚えのない部屋で、見覚えのない女性二人と百目鬼と呼ばれた男性とともに百物語をしていた。

(カミソリがない。4人しかいない。これは略式か)

いつ得たのかわからない知識で勝手にそう判断する。

百目鬼と、ひまわりちゃんとーーー顔がぶれて見えない女性が順番に恐ろしい話をしていった。

(これじゃあ結界がもたない)

顔の判別できない女性が話し終わった瞬間、結界が切れた。
障子の裏から現れたアヤカシが俺に一気に襲い掛かる。

(・・・・・・)

百目鬼が、部屋に設置してあった弓を手に取り、構える。
矢は持っていない。
しかしこいつはこれでいいのだ。なぜなら。

スパン、と百目鬼の気で編まれた見えない矢がアヤカシに突き刺さり、俺は解放される。

百目鬼静のもったアヤカシを祓う力は、いつも通り絶好調だった。


582 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:47:41.37 ID:wnPxS+ic0


四月一日「あ・・・・」

意識が現実に戻ってきた。

佐々木さんは剣を構え警戒したままで、もう一人の俺と百目鬼がこちらをにらみつけている。

四月一日「あ、あああ、あ・・・」

わけが、わからない。
さっきの映像はなんだ?
おれは、小さいころから冬木に住んでいて、士郎と怪談なんてものもしたこともないし、百目鬼なんて知り合いもいないはずだ。

百目鬼が警戒してこちらを見てくる。
もう一人の俺がこちらを見てくる。
まるで偽物は俺のほうだといわんばかりにーーーー!

四月一日「う、あ、ああ、あ、あああああああああああ!!!」

?「おい、待て!」

百目鬼「・・・・・・」

二人の男に背を向けて俺は逃げ出した。
足がもつれてまともな走り方ではなかったが、火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか、普段にまして速く走れていた。
583 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:48:21.96 ID:wnPxS+ic0

だめだ、ここにいてはいけない。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
とにかく、ここから離れなくては。

小次郎「四月一日!? どうした、しっかりーーー」

俺は、誰だ?
俺は四月一日君尋のはずだ。
アヤカシなんてファンタジーなものが見えて引き寄せてしまう体質だが、まぎれもない人間だ。
10年間も冬木に住んでいる記憶がある。
士郎と過ごした記憶はまぎれもなく本物だと確信できるし、聖杯戦争で何度も死にかけた経験も、見方を変えれば生きているあかしだ。
そうだ、おれは確かに生きている。

小次郎(四月一日は、そういえば泥をーーー)

目的地などないが、俺は走り続けた。
もう一度もう一人の俺と出会ってしまったが最後、何かが壊れてしまう気がした。

584 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:49:08.47 ID:wnPxS+ic0



【公園】

四月一日「はあっ、はあっ、はあっ」

ずいぶん疲労がたまってきたが、まだ走れる。
ここは、公園だ。

500人もの死者をだした10年前の大火災の跡地でありーーー聖杯戦争の決着の地。
ここで、士郎は切嗣さんに救われたのだ。

四月一日「・・・・・・」

何もない公園は、信じられないほどの黒い靄でよどんでいた。

どうして殺された。
どうして私たちなのだ。
いやだいやだ死にたくなかった。

怨念たちは成仏することなく渦巻いている。

ここで大火災が起きた原因は、聖杯戦争の被害のためらしい。
確かにこの公園の土にはまぎれもなく聖杯の泥が混ざっているーーーー

585 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:50:06.30 ID:wnPxS+ic0



記憶が点滅する。

俺のすぐそばには無月がいて、少し離れた場所にいるセイバーを相手にしていた。

セイバー「そこを・・・通せ・・・」

セイバーはひどく焦燥していて、見ていて痛々しいほどだった。

「騎士王、あなたはそれでも願いを叶えるのか」

セイバーは湖の騎士を倒してきたばかりだった。
宝具ももはや一発撃てるかどうかも怪しい状況で、心的疲労も考えれば、その消耗は計り知れない。

セイバー「それでも私は聖杯を取る・・・! 邪魔をするなら・・・倒す・・・!」

「それは困る。彼は俺に対価を支払っている」

だがそれでも俺が相手にするには難しい相手だった。
ここは俺の陣地ではない。
いくら消耗しているとはいえ、相手は最優のサーヴァントなのだ。

セイバー「ならば力ずくでも通させてもらう・・・!」

セイバーが黄金の剣を構える。
俺にインビジブルエアは効果はないが、どうせ俺の身体能力では対抗できない。

「無月」

管狐「グルルルルルル・・・!!!」

しかし俺は対価に見合った働きをしなくてはいけない。
だから、俺は無謀にも白兵戦最強のサーヴァントに直接対決をしようとしていた。



586 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:52:29.95 ID:wnPxS+ic0


意識が再び現実に戻ってくる。

四月一日「セイバー、さん?」

さっき対峙していたのは間違いなくセイバーさんだ。
しかし、なぜ?
それに無月と呼んでいた獣はーーー

管狐「−−−−−−?」ダイジョウブ?

四月一日「ッゥーーーー!」

だめだ、これ以上思考してはいけない。
俺は頭を振りかぶって公園から逃げ去るように再び走り出した。

俺は四月一日君尋だ。
10年前から一人暮らしをしていて、菓子作りが得意で、中学の時に士郎に出会った。
その記憶はまぎれもなく本物なのだから。

ーーーでは10年よりさらに前の記憶は?

四月一日「・・・・・・」

それより前の記憶がない。
料理を習った記憶がない。
親と過ごした記憶がない。
自宅のアパートの大家さんの顔がおもいだせない。
ほかの親戚に会ったことがない。

俺は、いったい・・・
587 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:53:45.02 ID:wnPxS+ic0





記憶が点滅する。

最初に感じたのは喪失感。
次にあったのは浮遊感だった。

「あーーー」

去っていくセイバーが見える。

(そうか、霊核を破壊されて)

どこまでも落ちていく気がしたが、もちろんそんなことがあり得るはずがない。

「がっ!」

背中にがれきが当たり、衝撃が走る。
運よく死ななかったようだが、しかしそれも大した差ではない。
結局俺はもう死ぬのだから。

「結局会えなかったか・・・」

無月の魔力すら用いて霊核の修理を試みたが、俺の実力では延命が限界だったようだ。
かりそめの体が緩やかな死を迎えていく。

「・・・・・・」

そして最後の瞬間。

「なっ・・・!」

罪が、この世の悪性が、流転し増幅し連鎖し変転し渦を巻いている悪意の塊がーーー俺を飲み込んだ。

対価に見合う願いをよこせ、と糾弾しながら。



588 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:54:45.42 ID:wnPxS+ic0

【教会】

意識が現実に戻ってくる。

四月一日「あ・・・」

さっきみた記憶に呼びさまされたように、俺の体のうちに潜む泥が脈打つ。

四月一日「あっ・・がはっ・・」

口元を抑えるが零れ落ちていく泥を抑えることができない。
なぜこれほどまでの呪いを無意識に抑えられていたのかがわからない。

手が焼け付く。
怨嗟の声が、何の理由もなくすべての責任を押し付けられてしまった悪が、なぜ自分が祭り上げられたのかを問うことすら飽きてしまった悪が、理不尽な対価に対する見合った願いを要求しているーーー!

四月一日「この世すべての・・・」

589 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:55:26.80 ID:wnPxS+ic0


?「こんな時間に何の用かね?」

四月一日「!」

声がした方に振り向くと、背の高い神父がいた。
どうやらここは教会のようだ。
いつの間にやらここまで走ってきてしまっていたらしい。

四月一日「あの、別に用事はなくて、その・・・」

?「何があった?」

神父は訪ねてくる。
その低い声が、重圧が、ものすごく危険なものだと本能的に感じた。

?「残念ながらここは懺悔室ではないが、この場も教会だということには変わりない。話してみたまえ」

四月一日「・・・・・・」

だというのに、告解せねばならない気がしてくる。
この男は間違いなく神父に向いているのだろう。他人の傷を開くことにたけているのだろうから。
590 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:56:41.57 ID:wnPxS+ic0

四月一日「もう一人の自分に会ったんです。そしたら、まるで俺じゃなくてそいつのほうが本物の「俺」なんじゃないかって気がしてきて・・・」

?「−−−なるほど」

神父は面白いものを見つけたかのように笑った。
・・・気に食わない。俺が真剣に悩んでいるというのに、その態度は神父としてどうなのだ。

?「まさかそうだとは思わなかったぞ。現代の英雄など、何があったならそうなるのか・・・」

四月一日「どういうことですか」

現代の英雄と男は言った。それが何を指しているのかがわからない。

?「いや、ちがうな。本当はお前自身もすでに気が付いているはずだ。理解できないふりをしているだけにすぎん。本当に何も気づいていなければ、ここまで逃げて走ってくるなどということもあるまい」

四月一日「・・・・・・」

神父はそう言いながら俺の傷を切開する。

591 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:57:23.71 ID:wnPxS+ic0

突然金属音がした。

ランサー「いきなり切りかかってくるとはどういう了見だ?」

小次郎「そちらにもその男に従う義務はないように見えるがな」

紫の陣羽織を来た男と、青い槍兵がお互いの獲物で打ち合っている。

四月一日「佐々木さ・・・!」

?「ーーーそろそろ茶番も飽きたころだろう?」

男がゆっくりと問う。

四月一日「・・・・・・っ!」
592 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:59:14.33 ID:wnPxS+ic0

ランサーが俺を手助けするような行為をした理由も。

キャスターが「今のうちに」と言っていた理由も。

キャスターから令呪が盗めた理由も。

アサシン維持の魔力がどうなっているのかの理由も。

夢の中の俺が対価なしで俺に助力していた理由も。

藤村先生や慎二の言っていたもう一人の四月一日君尋の話も。

「絶対大丈夫だよ」という言葉を知っている理由も。

イリヤの母親と俺が会っている理由も。

俺が死ぬ危険にさらされたまさにその瞬間に管狐が現れた理由も。

泥を吐いた理由も。

ついさっき会ったもう一人の俺の正体も。

ここに来るまでに見てしまった記憶も。

ーーー俺の正体も。


すべてを知ってしまう気がする。
593 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 16:59:56.56 ID:wnPxS+ic0




この神父の言葉を聞いてはいけない気がした。
きっと、今までの俺ではいられなくなる。
戻れなくなってしまう。

ついさっき別れた士郎のことを思い出す。
あの時士郎は俺を信じてくれてたのにーーー俺は聞いてしまった。




言峰「そろそろ思い出せ。出番だーーーキャスター」




四月一日「ーーーあ」

そして、俺は気づいてしまった。



四月一日「・・・・・・」

594 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 17:00:27.12 ID:wnPxS+ic0





俺は、10年前の第四次聖杯戦争で、言峰綺礼に召喚されたサーヴァントだ。



595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/23(日) 17:01:07.35 ID:tAyCFO3O0
願いを叶えるセミ、に見えた
596 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/23(日) 17:02:00.44 ID:wnPxS+ic0
投下終了です。
泥のあたりで何人か気付いていたっぽい人もいたような・・・?
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 17:03:23.16 ID:WbZfcmqvo
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/23(日) 18:13:12.88 ID:EFxvgtqAO
魅せるなあ
おつ
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/23(日) 20:03:58.42 ID:mhKliZmAO
乙!!
結局アサシンはキャスターの手駒になるのか…
ワクワクがとまらねぇよ!!
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/09/23(日) 21:07:24.66 ID:gZmGn3ZG0

物語はどこへ転がっていくのだろう
601 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/26(水) 23:38:55.57 ID:lYHC0d/k0
後半のプロット完成しました。
今後、
鯖ワタヌキ→君尋
原作四月一日→四月一日
表記で行きたいと思います。

投下します。
602 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/26(水) 23:43:49.60 ID:lYHC0d/k0

ーーー10年前

何もかもが燃えている。
モノは焼け、空は黒ずみ、人は死ぬ。
地獄の際限のような場所に俺たちはいた。

君尋「まさか俺たちが最後まで残るだなんて思わなかったが」

言峰「・・・・・・」

言峰に話しかけるが、反応はない。
理由はわかっている。

君尋「・・・願いはかなったか」

何せ俺自身がこの男の願いを叶えたのだ。そして俺は男が願いを叶えた先にあるのが絶望だということも知っていた。
神父がが首から下げている十字架と、全く同じ十字架を右手できつく握りしめる。
603 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/26(水) 23:44:38.59 ID:lYHC0d/k0

言峰「・・・なぜ貴様が生きている」

君尋「どうやらおれは人外に好かれる性質らしくてな。聖杯の呪いに生かされたようだ」

言峰「聖杯が・・・?」

君尋「聖杯の呪いが、だ」

十字架をきつく握りしめた右手からは血が流れた。
まぎれもない実体。俺は受肉を果たしていた。
霊核を破壊されたような存在を生かすなど、どうかしていると思う。
それは老人を若返らせるのと同じような、因果に反したことだ。
604 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/26(水) 23:47:30.20 ID:lYHC0d/k0

君尋「いくら不可抗力だったとはいえ、俺はこいつの願いをかなえなければならなくなった。・・・で、あんたはどうなんだ。満足できたか」

言峰「・・・いや、これでは足りない。私のような悪が、このような悪が生み出された理由があるはずだ。その理由を私は知らなければならない」

君尋「そうですか」

破滅するとわかっていてなお言峰の願いを受諾したのは俺だ。
ならば、その責任は俺が取らなくてはいけない。

君尋「あなたの願い、叶えましょう」

ふと、彼女ならばどうしたのだろうかという疑問が頭によぎった。
俺は、理不尽な役割を押し付けられてしまった存在を、身勝手にも「救えるのなら救ってやりたい」などと考えてしまったが・・・
あの人ならば、おそらく違った願いを叶えるに違いないと思った。

悪夢の炎の中で、俺は願いの対価を受け取った。
605 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/26(水) 23:50:18.33 ID:lYHC0d/k0

ーーー早朝
【衛宮邸】

凛「君尋はどこ!?」

士郎「と、遠坂!? ってどうしたんだその怪我! 教会に行ったんじゃなかったのか!?」

凛「そうよ。でも今確かめなきゃいけないのはそれじゃない…! 君尋はどこにいるの?」

士郎「君尋なら深夜にアサシンと見回りに行くって出てったきりだけど・・・」

凛「・・・やられた」

凛は焦燥しきっていて、どう考えてもいつもの様子ではなかった。

セイバー「教会で何かあったのですか?」

凛「何かあったってレベルの問題じゃないわ。教会でね、キャスターに襲われたの」

士郎「キャスターに!? まさか教会が乗っ取られたのか・・・」

凛「違うわ」

俺のの想像を凛は否定する。
606 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/26(水) 23:52:54.91 ID:lYHC0d/k0

セイバー「教会はキャスターとグルだった、ということですか」

凛「・・・そういうことよ。しかも5次じゃなくて4次のキャスターとね」

「「!?」」

4次のキャスターはセイバーに霊格を破壊されていたはずだ。
だというのになぜ生き延びているのだろうか。

凛「知らないわよ。でも4次キャスターが今存在しているというのは事実。しかも受肉していた・・・
  綺礼本人があれが4次キャスターだと明言してた。あれでいて嘘だけはつかないから」

士郎「・・・なら、君尋は大丈夫なのか? 遠坂はさっき君尋がどこにいるのか探してたよな」

凛「・・・・・・」

凛は言いにくそうな表情をした。

士郎「何かあったのか」

凛「まだ、確信はないわ。でも士郎、落ち着いて聞いてちょうだい」

士郎「なんだよ、急に改まって」

凛は、俺の目を見ながら言った。


凛「4次キャスターは、君尋よ」
607 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/26(水) 23:56:32.70 ID:lYHC0d/k0

士郎「−−−え?」

今、凛はなんといったのだろうか。

士郎「それって」

凛「もしかしたら、魔術で変装してたのかもしれないけど・・・あれは、間違いなく君尋だった」

キャスターが、君尋?
そんな、まさか。

士郎「・・・そんなはずないだろ。あいつは、中学の時から同級生で・・・」

凛「10年以上前から知り合いだった?」

士郎「それは・・・」

前回の聖杯戦争が行われたのは10年前だ。その時キャスターが受肉していたのなら、それ以降に俺が会っていたとしても不自然ではない。

士郎「でも、今までの君尋の行動が全部演技だったとも思えない」

凛「そうね。でももしかしたら条件付きで記憶を消していたのかもしれない。・・・どちらにせよ情報が足りないわ」

君尋がサーヴァントだったなんて、信じられなかった。
確かにあいつは異常な霊媒体質だった。でも普段の生活の中でのふとしたやさしさだって、まぎれもない本物だと思うのだ。
608 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/27(木) 00:02:11.52 ID:OYVnmacL0


士郎「どういうことなんだよ・・・」

君尋に会いたかった。話がしたかった。
あいつが本当にキャスターなら、いろいろ問い詰めたいことがある。
キャスターではなかったのなら、それならそれでいい。

士郎「っ・・・・・・」

情報が整理しきれない。
今が沈黙に包まれる。

ピンポーン

そのとき、チャイムが鳴った。

士郎「・・・こんな時間に誰だ?」

藤ねえなら無断で乗り込んでくるし、桜は合鍵を持っている。
客人にしても少々時間が早くないだろうか。
609 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/27(木) 00:04:26.52 ID:OYVnmacL0


?「すみませーん! えっと、この家でホントによかったのか・・・? えいみや、だよな」

?「まだ寝てるんじゃないか」

?「・・・やっぱり早すぎたよな」

声が聞こえてくる。

士郎「この声・・・!?」

片方の声には聞き覚えがあった。

凛「ちょっと待ちなさい士郎!」

凛の制止も振り切って、急いで玄関に向かった。

士郎「君尋!?」

?「うわあああ!?」

?「・・・・・・」

士郎「どうしたんだ君尋!? 何かあったのか? そっちの人は・・・」

駆け寄って聞くが、どうにもよそよそしい。
610 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/27(木) 00:09:55.25 ID:OYVnmacL0


士郎「・・・君尋?」

?「えっと、なんで俺の名前を知ってるんですか?」

士郎「なんでって・・・」

この君尋は、本当に君尋なのだろうか。

凛「士郎! 待ちなさいって言ったでしょう!」

凛が駆けつけてきた。
君尋を見つけて驚いているようだが、肝心の君尋自身の様子がどうにもおかしい。

四月一日「俺、四月一日君尋といいます。侑子さんの指示でここまで来たんですけど・・・すみませんが、どこかで会ったことがありましたか?」

士郎「・・・・・・」

ーーー違う。
この君尋は、俺の知っている四月一日君尋ではない。
では、この男は何者なのか。

凛「・・・少し話す必要があるわね。サーヴァントでもマスターでもなさそうだし・・・士郎、家に上げてもいいかしら」

士郎「・・・ああ」

一刻も早く真実がしりたかった。
611 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/27(木) 00:17:57.84 ID:OYVnmacL0
【衛宮邸・居間】

二人の男の来ている制服は、このあたりモノではない。
片方は四月一日君尋、もう片方は百目鬼静と名乗った。
この四月一日君尋いわく、ひまわりちゃんという人物に「冬木市で四月一日君尋を見かけた」という話を聞いて、調べることにしたそうだ。
バイト先の店主に「いった覚えのない場所で自分が目撃されていた」と相談したところ、衛宮邸に行けと指示されたらしい。

凛「胡散臭すぎるわね」

四月一日「・・・俺もそう思います」

凛「へえ、認めるんだ」

士郎(・・・バイト先の店主って何者なんだ)

間接的に話を聞くだけでも、ものすごく理不尽で反則的なポテンシャルをもっているのではいかと思ってしまう。
凛もここが一番胡散臭いと思っているのだろう。

612 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/27(木) 00:27:43.51 ID:OYVnmacL0

百目鬼「おい」

四月一日「あ、そうだこの手紙、着いたら向こうの人に渡せって侑子さんが」

凛「手紙?」

凛が四月一日から手紙を受け取り、開封して読み進めていく。
すると、面白いくらい顔色が変わっていった。

凛「えっ、ちょっと、これホント!? どういうことなの!? なんでこんなのが・・・」

士郎「どうしたんだ遠坂」

凛「ほら、この華押見なさ・・・って士郎はへっぽこだからわからないわよね」

士郎「・・・む」

へっぽこは余計だ。

凛「ここに蝶の模様があるでしょ。これは華押って言って、本人の証明みたいなしるしよ。魔術的要素も含めての証明だから、一応確実なものよ」

士郎「で、その本人証明のしるしがどうかしたのか?」

凛「やっぱり見てもわからないのね・・・士郎、次元の魔女って知ってる?」

知らなかった。
また馬鹿にされそうな予感がしたが、素直に白状する。
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/09/27(木) 00:30:26.25 ID:LjoF2Xql0
またの名を極東の魔女…
614 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/27(木) 00:36:05.18 ID:OYVnmacL0


凛「伝承レベルの魔術師。素性は一切不明。存在だけが知られてる魔術師。噂じゃ魔法使いの一人じゃないかなんて話もあるわ。この華押は次元の魔女のものよ」

士郎「そんなすごい人なのか・・・!?」

四月一日「侑子さんってやっぱりそんなに有名だったのか・・・悪行で有名なのか・・・?」ボソッ

凛「きゃっ! 内容が変わった!? えっと、「悪行ってどういう意味よ」・・・?」

四月一日「ぎゃーーー! なんでわかるんだよ!?」

凛曰く、もともと書いてあった手紙の内容は、もう一人の四月一日君尋の問題への干渉の許可を求めるものなのだそうだ。

凛「・・・まあ、構わないわ。一応信用できると思うし」

四月一日「本当ですか!? ありがとうございます!」

士郎「・・・それにしても、本当そっくりだな」

凛「そっくりというか、同じね」

四月一日「そんなに似てるんですか?」

士郎「性格までそっくりだと思うぞ」

あとおかしな動きも。
・・・もし君尋がキャスターなのだとしたら、この四月一日君尋はいったい何者なのだろう。
615 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/27(木) 00:39:01.98 ID:OYVnmacL0


士郎(・・・ん?)

ふと窓の外を見ると、銀の塊が木の上に止まっていた。

士郎(いや、違うな。あれは・・・)

銀の塊かと思ったそれは、よく目を凝らしてみれば、鳥だった。

士郎「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

凛「そう? さっさと戻ってきなさいよ」

士郎「ああ」

もしかしたらあの鳥は使い魔かもしれない。
なんとなく、その鳥の正体を確かめなければいけないような気がして、こっそりと確かめに行った。

616 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/27(木) 00:47:36.86 ID:OYVnmacL0
【衛宮邸・庭】

士郎「えっと、確かこの辺に・・・」

いた。比較的低い木の枝に銀の鳥がとまっている。

士郎「・・・攻撃されたりしないよな?」

恐る恐る手を伸ばしたが、特に危険もなく捕まえることができた。
しかし、その感触は明らかに金属のもので、どう考えても生きている鳥ではない。

士郎「羽もまるで刃物だな。下手したら切ってたかもしれない」

ゆっくりと触って正解だった。

士郎「!?」

とつぜん、鳥がしゅるしゅると紐解けていく。
おかしな表現だが、この表現が一番近い。

士郎「手紙?」

紐解けた鳥は、最終的に手紙になった。

士郎「これって・・・!?」

≪放課後、公園で。≫
書いてあったのは簡単な内容だった。
しかし、士郎が驚いたのはここではない。

士郎「君尋・・・」

差出人は、四月一日君尋になっていた。
617 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/27(木) 00:54:55.69 ID:OYVnmacL0
士郎「行くべきなのか・・・?」

今朝ここに来た四月一日君尋ではなく、士郎のよく知っている君尋からの手紙なのだという確信があった。
しかし、まるで士郎にだけ見てほしいかのような、伝え方。
罠の可能性は高い。

士郎「・・・いや、俺一人で行こう」

しかし、一人で行くことにした。
君尋が一対一で会いたがっているのなら、余計なことをしてはいけない。

士郎「おっ」

手紙は読み終えると、再び鳥の形に戻って士郎の肩に飛び乗った。
動きだけを見ていると、本当に生きているかのようだ。

士郎「・・・食事とかするのか、これ」

凛に早く帰って来いと言われている以上、あまりボーっとしている暇はない。
するどい羽に気を付けながら、急いで居間に向かった。
618 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/27(木) 00:56:06.47 ID:OYVnmacL0
短いですが、投下終了です。
次回、士郎と君尋の接触編。
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/27(木) 00:58:39.20 ID:EDZNrJrAO
おっつ
続きが待ち遠しい
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/09/27(木) 01:00:27.73 ID:LjoF2Xql0

本当に毎回気になる
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/27(木) 01:02:17.35 ID:asNHYeV+o
乙乙
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/27(木) 01:02:39.63 ID:i7s7pi4AO
全力でー
乙!!
623 : ◆7usAPPBzDI [saga sage]:2012/09/27(木) 01:05:14.83 ID:OYVnmacL0
おまけの一覧表です。

【四月一日=鯖フラグ一覧】
モウ一人ノユメ ←タイトルそのもの
夢で会う店主四月一日
キャスターからの令呪盗み
アサシン維持の魔力
ナイスタイミングで現れた管狐
もう一人の四月一日の話
四月一日以外のholic勢が出ていない・交友関係の変化
序盤の槍の四月一日を手助けするような行為
序盤の魔の今のうちに発言
夢の中の店主四月一日が対価なしで四月一日に助力していた
泥を吐いたこと
アイリと四月一日があってる
≪真相編・表≫での言峰と鯖四月一日の会話内容
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/27(木) 01:07:43.93 ID:aQmq2+hqo
625 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:06:56.23 ID:7jHu8Lix0
投下します。
626 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:09:09.64 ID:7jHu8Lix0
Side士郎
ーーー放課後
【公園】

放課後、俺は遠坂に何とか言い訳して一人で公園に行った。
もし今朝の手紙が本当なら、君尋はここにいるはずだ。
公園の隅のベンチに人影があった。

士郎「君尋・・・だな」

君尋「・・・・・・」

君尋はベンチに座っていた。普段は着ないような中華風の服を着ている。
君尋は俺の問いかけを肯定するように微笑んだ。

士郎「本当に君尋なのか」

君尋「士郎と10年間過ごしてきたという意味でいうなら本物だ」

士郎「おまえは、キャスターなのか」

君尋「ああ」

君尋は即答する。
627 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:09:58.75 ID:7jHu8Lix0



士郎「なんで、遠坂を襲った。それに今朝訪ねてきたもう一人の君尋は何者なんだ?」

君尋「俺がキャスターで彼女がマスターだったから・・・って理由じゃあ満足しなさそうだな。
   まあ俺は特殊な立ち位置でな。俺は「あの」四月一日君尋の一つの可能性だ」

可能性? 四月一日の成長した果てが英霊であり君尋だとでもいうのだろうか。

士郎「本当に、君尋なのか? 君尋がキャスターなのか?」

君尋「ああ」

君尋は顔色一つ変えない。それに無性に腹が立った。
628 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:11:10.80 ID:7jHu8Lix0


士郎「・・・なんで俺と知り合ったんだ?」

君尋「別にはめようと思ったわけじゃない。俺はとある事情で記憶を消してたからな。士郎と出会ったのは本当に偶然・・・いや、士郎の選んだ結果の必然だ」

士郎「・・・どういう意味だよ」

君尋「士郎が士郎だから、俺は士郎と仲良くなったってことだ」

士郎「・・・・・・」

それは、喜んでもいいことなのだろうか。
君尋は何でもない事のように言ったが、これは「騙すために仲良くなったわけではないが、今は敵」ということだ。
君尋は完全に割り切っている。

629 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:12:34.27 ID:7jHu8Lix0
君尋「・・・士郎とは、きっと友達になれるとは思ってたけどな」

士郎「・・・・・・」

君尋「じゃあ本題に入るか」

士郎「本題・・・」

思わず身構えた。
君尋とはもう敵同士。
俺と違って、君尋はもう完全に割り切っている。ならば、今の会合はただ世間話をするためだけのものではなく、何かしらの意味があるはずのものなのだ。
最後の別れの挨拶か、共闘の申し出か、はたまた裏切りの誘いか。君尋が口を開く。

君尋「ーーー士郎は正義ってなんだと思う?」

しかし君尋の発言は全く予想外のものだった。
630 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:13:32.00 ID:7jHu8Lix0
士郎「いきなりなんなんだよ」

君尋「いや、記憶を失っていた間の対価を払おうと思ってな」

士郎「対価?」

君尋「ああ、そうだ。物事には必ず等しい対価が必要だ。士郎が正義の味方になりたくて、なおかつ俺の話が聞きたかったら聞いていってくれ。もちろん聞きたくなかったら帰っても構わない」

対価。つまり借りを返すということだろうか。
・・・完全に今までのことを清算するつもりなのだろう。

士郎「もし俺が聞かなかったら、対価ってのはどうするんだ」

君尋「その時はまた別の手段で俺は対価を払う」

即答だった。
俺はどうするべきなのだろうか。君尋の話には興味はあるが、ここで話を聞いてしまえばそこで君尋はすべてを清算してしまうことになる。

士郎「・・・わかった。聞く」

悩んだ末、俺は話を聞くことにした。
俺が答えると、君尋は満足そうに笑う。
促されるまま、君尋の隣に座った。
631 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:14:50.35 ID:7jHu8Lix0

君尋「言葉っていうのはすごく大切な意味を持つ。だから士郎が正義の味方になりたいのなら、まずは言葉の意味を知る必要がある。そうだな。士郎は公平と平等の違いが判るか?」

士郎「・・・どっちも一緒じゃないのか?」

正直俺は、平等も公平もどちらも同じように使っていた。
しかし君尋は首を横に振る。

君尋「いや違う。そして正義は平等ではなく公平なものだ」

士郎「どう違うんだよ」

君尋「わかりやすいように例を出そう。
   ここにある兄弟がいたとする。兄弟は飴を一個ずつもらったんだが、兄が「兄は弟の飴をもらってもいい」と主張して弟の飴を奪った。これは公平か?」

士郎「そんなわけない。それは理不尽だろ」

兄だから弟の飴をもらってもいいというのはどう考えても暴論だ。公平であるはずがない。
632 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:15:40.83 ID:7jHu8Lix0

君尋「確かに理不尽かもしれない。でもな、これは平等じゃないが公平なんだ」

士郎「なんでさ」

「平等」じゃないが「公平」? 少し混乱してきた。

君尋「実はこの兄弟、さらに上に一人兄がいたんだ。上から順にABCと呼ぶぞ。
   さっきBはCに「兄は弟の飴を奪ってもいい」というルールを持ち出した。で、それを聞いたAが、Bの飴を奪ったとする。このときBがそれを甘んじて受けれたのならそれは「公平」なんだ」

士郎「だからなんでさ。それは違うんじゃないか? 一個ずつきちんと分けるのが公平なんじゃないのか」

君尋「士郎が言ってるのは「平等」だ。公平とは、あるルールをどんな身分の者もきちっと守っている状態のこと。全員が「兄は弟の飴を奪ってもいい」というルールを守っているこの兄弟は「公平」なんだ。もしさらに下に、Dという弟ができればCは飴を奪えることになるしな」

633 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:17:42.85 ID:7jHu8Lix0

士郎「・・・・・・」

・・・なるほど。平等と公平とはそのような意味の違いがあったのか。すこしずつわかってきたかもしれない。
しかし、それが正義と何の関係があるというのだろうか。
そんな俺の考えを見透かしたように君尋は話を続けた。

君尋「そして正義とは「公平」なものだ。一定のルールを守らせる、それが正義。よく言う「お互い違う正義がある」なんてのは、つまりお互い譲れないルールがあるということ。だから平等は正義になりえない」

士郎「正義は公平なもの・・・」

君尋「そうだ。
   そしてそのルール作りもまた大変だ。公平はルールを守っている状態なんだから、そのルールは矛盾しちゃいけないんだが・・・この世に完璧なルールはないからな。
   たとえばある正義は「数」だけですべてを決めようとした」

数ですべてを決める・・・!? 
もしそんなものが正義なのだとしたら、それは間違っている。

士郎「多数のために小数を切り捨てなきゃいけないなんて間違ってる!」

正義の味方は冷酷非情であってはいけない。10年前の火災の時に、理不尽な死に追い詰められた俺を救ってくれた爺さんですらあきらめた夢が、そんな冷徹なものであるはずがない。

君尋「・・・そうだな。そうかもしれないな」

俺の反論を、君尋は肯定した。

634 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:19:32.47 ID:7jHu8Lix0
君尋「そのルールは当然公平に守られなければいけないんだが・・・そこで問題なのが正義はエゴイズム、つまり特別を許さないということだ。公平のもとでは特別扱いは許されない。だが正義の味方はそれだけで矛盾をはらんだ存在だ。まあ「正義」の味方という特殊な立場にいるんだから当然だな。・・・そしてその矛盾は精神の磨耗を誘発させる」

磨耗、とはどういうことだろうか。
公平はどのような身分の者も特定のルールを守っている状態なのだから、特別が許されないのもわかるし、正義の味方が多少ややこしい立場にいるのも理解できた。
しかしそれは磨耗してしまうほど過酷なものなのだろうか?

君尋「たとえばさっき言った「数」というルールの正義の味方は、たとえ自分の大切な人だとしても、その人が少数ならば切り捨てなければいけない」

士郎「なっ・・・! そんなの・・・」

君尋「だがそれが「数」というルールの正義の味方だ。どんなルールでも、特別は許されない。身近な大切な人を、正義の味方は優先・・・特別扱いすることは許されない」

君尋は淡々と語り続ける。
・・・そんなものが正義の定義だというのか。
635 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:20:25.53 ID:7jHu8Lix0

君尋「・・・でだ。士郎がなりたい正義の味方はこんなものなのか?」

士郎「違う!」

しかし、だからこそ断言できる。

士郎「俺がなりたいのはそんなものじゃない。俺があこがれたのは、親父がなりたかったものは、絶対にそんなものなんかじゃない!」

俺の言葉を聞いて、君尋は笑みを深めた。

君尋「じゃあどういうものなんだ?」

士郎「うっ・・・それは。・・・わからない」

何しろ君尋の話を聞くまで、こんなことを考えたこともなかったのだ。今すぐに答えられるはずがない。
636 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:21:49.14 ID:7jHu8Lix0

君尋「なら探せ。士郎の納得できる、自信をもって貫けるルールを探すんだ。それが、士郎の夢への第一歩だ。自分でもよくわからない者にはなれないからな」

士郎「そっか・・・ああ、わかった。今までただやみくもに行動してるだけで、そんなこと考えたことなかった。ありがとう」

自分なりの正義の定義。これを見つけることができれば、俺は夢に近づけるのだと確信した。

君尋「いや、これは対価だからな。礼は必要ない。
   ・・・で、続きなんだが」

士郎「・・・・・・って、まだあるのか!?」

てっきりもう終わりなのだと思って立ち上がってしまったのだが、君尋はここからこそが大切なのだという。
すこし驚いた。

君尋「むしろここからが本題だ」

そういわれれば、聞いていくしかない。
俺は再び腰を下ろした。

637 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:22:51.36 ID:7jHu8Lix0
君尋「正義を語るのなら、正義の味方本人も、また同じルールを守る必要がある」

士郎「む、さっき、正義の味方は特殊な立ち位置だからこそ矛盾してるって言ってたじゃないか。どういうことなんだ?」

君尋「矛盾しているからこそ、正義の味方は誰よりもルールを守る必要がある。自身のルールだけではなく、人間に共通したルールもだ。
   たとえば士郎がもし善意で行動した結果、相手が謝礼をしたいと言ってきた。受け取るか?」

士郎「・・・もし俺がやりたいからって理由で行動してたのなら、受け取らない」

学校での備品修理にしろ、弓道部の手伝いにしろ、俺は謝礼をもらったことはない。
というか、お金をもらって働くのはただの仕事であり、正義の味方ではない気がする。
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2012/09/29(土) 00:22:59.60 ID:px8Zw0fHo
切嗣ェ
639 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:24:07.55 ID:7jHu8Lix0

君尋「それはだめだ」

士郎「なんでさ」

君尋「それは卑怯なコトだから。
   結果には対価が要求される。士郎が結果を出したのだとしたら、それに見合う対価を受け取らなければいけない。等価交換は正義以前の世界の理。それを放棄することは、卑怯な行為だ」

士郎「・・・でも謝礼をもらうのは・・・なんか、ちがうだろ」

なぜと聞かれたら、なんとなくとしか答えられないが、謝礼を受け取るのは違うと思った。

君尋「いいじゃないか。感謝の気持ちなんだから受け取ればいい」

士郎「でも」
640 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:28:07.47 ID:7jHu8Lix0

君尋「受け取らなければいけない。
   対価は等価交換。もらいすぎてももらわなさ過ぎてもいけない。でないとキズがつく」

何に、キズがつくのか。

君尋「現世の軀に、星世の運に、天世の魂に。
   士郎がするであろう選択は、等価交換という理に反している。ルール違反はあってはならない。さもないと・・・歪みがすべてを食い殺す。士郎自身はもちろん、救われた人や大切な人すらまきこんで」

士郎「・・・・・・」

君尋「まあ、そうならないよう気を付けることだ」

そう言うと、君尋はベンチから立ち上がった。

士郎「行くのか?」

君尋「ああ」

・・・そうだった。これで君尋の清算は終わりなのだ。
641 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:29:19.05 ID:7jHu8Lix0

士郎「そうだ、この鳥は」

今朝捕まえた金属の鳥を差し出す。
勝手にカバンの中で暴れたり、一成の前に飛び出そうとしたり、弁当のだし巻きを勝手に食べたりと、なかなかの暴れっぷりだった。

君尋「それはやるよ。剣の鳥は、最後の対価だ。俺の華押は鳥だからな」

士郎「華押・・・?」

確か遠坂いわく、本人の証明だったか。

君尋「そいつは丈夫だぞ。持ち主が生きている限り決して死ぬことはない。たとえ製作者の俺が死んだとしても。
   ・・・またな。次会うときは敵サーヴァントと敵マスターだ」

士郎「・・・ああ」

瞬きをした次の瞬間には、君尋の姿は嘘のように消えていた。

士郎「俺のなりたい正義の味方と、対価か・・・」

一人きりなった公園で、俺はつぶやいた。
642 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:35:01.18 ID:7jHu8Lix0

Side君尋
ーーー夜
【柳洞寺】

柳洞寺にある、5次キャスターの作り上げた神殿に3つの人影があった。
うち二つはほぼ無傷で立っており、対するもう一つは満身創痍だった。

キャスター「英霊の天敵であるソレに加えて、対魔力もちのサーヴァント。ずいぶん臆病だ事」

君尋「あなたほどの存在を相手にするなら当然の対策ですよ」

キャスター「やっぱりあの時さっさと殺しておくべきだったわね」

君尋「そうかもしれません」

俺は、ランサーとともに柳洞寺のキャスターを襲撃しに来ていた。

キャスター「他人の願いばかり叶えて、あなた自身の意思はどこにあるのかしら?」

君尋「俺は願いを叶える存在ですから」

キャスター「・・・あなたみたいなのは好きじゃないわ」

君尋「そうですか」
643 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:40:51.14 ID:7jHu8Lix0

消えていくキャスターに俺は声をかけた。

君尋「叶えたい願いはありますか?」

キャスター「・・・馬鹿にしないでほしいわね。私もキャスターなのよ?」

君尋「・・・そうですか」

俺の問いかけをキャスターは否定した。

キャスター「宗一郎様・・・」

そう小さくつぶやいて、キャスターは光の粒となって消滅していった。

君尋「っ・・・!! がはっ・・・・!」

それと同時に一気に泥の浸食が加速する。
急な変化に対応しきれず、俺は泥を吐き出した。

ランサー「おいおい、大丈夫かよ」

君尋「・・・すみません。泥には触れないほうがいいですよ」

ランサー「こんなもんに触れたいと思うほど物好きじゃねーよ」
644 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:46:28.24 ID:7jHu8Lix0


ランサー「その調子でよく戦えるもんだ」

君尋「白兵戦じゃないからな」

ランサー「それでどうするんだ。この土地を奪って新しくお前の神殿を作るつもりか?」

俺は、息を整えながら、ランサーの質問に答えた。

君尋「ミセを、構えようと思います」

ランサー「・・・ミセ?」

君尋「俺の宝具です」

ランサー「ほお」

さっそく、作業に取り掛かった。
・・・俺にはもうほとんど時間は残されていなかった。
645 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/29(土) 00:50:35.96 ID:7jHu8Lix0
投下終了です。


士郎「長い三行で」

>>631-636
君尋「理想の
   姿を
   固めろ」

>>637-640
君尋「対価は
   きちんと
   受け取れよ」
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/29(土) 00:55:07.10 ID:dZdpneMEo

これは士郎の出す答えが気になる展開だね
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/29(土) 01:53:59.42 ID:cIR/gmGAO
おつ
士郎はどんな正義の味方になるのか
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/29(土) 08:06:02.86 ID:HW9NmNBAO
>>645
良く分かった
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/29(土) 09:15:56.46 ID:TtFo5Bg2o
対価を受け取る正義の味方……

ぶりぶりざえもん?
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2012/09/29(土) 11:09:33.43 ID:px8Zw0fHo
敵を倒して英雄の座と姫を貰い受ける典型的な勇者とか
651 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/30(日) 23:41:02.97 ID:yo5Sqzlh0
投下します。
652 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/30(日) 23:46:55.39 ID:yo5Sqzlh0

【ミセ】

アサシンはミセの一室に入った。

小次郎「……四月一日はどこにいる」

マル「四月一日部屋でまた寝てた!」

モロ「うん! 寝てたー!」

室内でお手玉をして遊んでいた幼い少女たちが、手を止めて返事をした。
君尋の宝具でもあるこの空間の軸になっているという少女たち。
ちなみに名前はマルとモロ。フルネームはマルダシとモロダシという、悪ふざけの塊のような名前だった。

マル「四月一日に用事?」

モロ「用事ー?」

小次郎「しばし、この部屋にいろ」

マル/モロ「「はーい!」」

少女たちは息ぴったりの返事を返すと、楽しそうにお手玉で遊び始めた。
アサシンはそれを確認すると、君尋のいるであろう部屋に歩いて行った。
653 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/30(日) 23:48:23.77 ID:yo5Sqzlh0

数分と掛からず、君尋のいる部屋にはついた。
静かにふすまをあける。
部屋の中央奥に設置された大きな椅子に、君尋はいた。
蓮柄の着物を着て寝転んでいる。

小次郎「また寝ていたのか」

君尋「体力温存のようなものですよ。記憶を取り戻してから……いや、取り戻す以前もよく寝ていたでしょう」

小次郎「……」

アサシンは知らなかったが、君尋は泥の制御を常にしなければならない状況にあった。中途半端な受肉の影響だ。
夢は君尋が一番力を発揮できる場。そこに行くために長時間眠ることで、泥の暴走を抑えやすくしていた。。

君尋「それにしてもちょうどよかった。佐々木さん、手を出してください」

小次郎「手?」

君尋「その刀だけでは戦いづらいでしょう」

その刀というのは藤村大河の実家の真剣である。
確かにアサシンのもともと愛用していた剣ともわずかに間合いは異なるため、セイバーレベルの相手をするには心もとないものだった。
ならば刀でも渡すのかと思ったが、君尋が手渡してきたのは木でできた指輪だった。
654 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/30(日) 23:50:06.92 ID:yo5Sqzlh0


君尋「正しくは指ぬきですが」

小次郎「あいにく剣しかやってこなかったものでな。裁縫はできぬが」

君尋「正しい用途は違います。左手の人差し指にはめれば使える、使用者によって形をかえる桃の木でできた祓具。今までの対価の代わりです」

とてもアサシンの指にはまらなさそうな小さな祓具は、その見た目に反して簡単にアサシンの指にはまった。

小次郎「また面妖なものをもっているな」

君尋「……」

小次郎「どうした四月一日」

君尋「……いや、昔その指ぬきを渡した時に左手の薬指にはめようとした男(馬鹿)もいたなと思って」

小次郎「……」

君尋「……」

微妙な空気になった。
655 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/30(日) 23:53:50.83 ID:yo5Sqzlh0

君尋「ところで何の用ですか。世間話じゃないですよね」

小次郎「……体調は大丈夫なのか」

時たま吐き出す泥、突然の豹変、見えない目的。
アサシンはこの手のことには疎い。そのため予想することすらできなかった。聞いたところで理解もできないだろう。
だから、体調のみを訪ねた。君尋のやろうとしていることは、きっと自身を追い詰めるのと同義なのだと思ったから。

君尋「まだ持ちます」

君尋はそう答えた。
「まだ」持つ。つまり「いつか」は持たなくなるということ。

小次郎「……そうか」

しかし、アサシンは深く追求しなかった。
その返事を聞いて、アサシンは部屋を出た。
656 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/30(日) 23:54:29.65 ID:yo5Sqzlh0

【ミセ・廊下】

ランサー「よお、アサシン」

小次郎「……貴様は」

部屋のすぐ外には、ランサーがいた。

ランサー「小僧の様子が随分変わったみたいだが、ありゃ記憶操作か?」

小次郎「さあな。どちらも同じ四月一日だろう」

ランサー「今のあれより、昔の小僧のほうが好感はもてたけどな」

ランサーはからかうように言う。アサシンには真意が読めなかった。

ランサー「何をたくらんでるのかわかんねーが、お互いマスターに恵まれないもんだ」

小次郎「確かにこうも男ばかりではうまい酒もまずくなろう」

ランサー「そうかもな。
     でだ。お前、どうすんだ?」

ランサーの雰囲気が変わった。
今までの気楽な雰囲気ではなく、鋭い刺すような空気をまとっていた。
657 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/09/30(日) 23:57:12.46 ID:yo5Sqzlh0

小次郎「どうする、とは」

ランサー「言峰とあの小僧、何しでかすかわかんねーだろ。お前はどういうつもりなのかと思ってな」

このときアサシンはランサーと真意を理解した。
アサシンはこの先君尋と敵対するつもりなのかを聞いているのだ。

誰の目から見ても、君尋は以前とは様子が違う。
行動もスペックも何もかも違う。
今までと同じように従い続けるには、君尋は変わりすぎてしまっていた。

小次郎「私は君尋に従うさ」

しかし、アサシンは従うと決めていた。

小次郎「今も昔も、あれの根本は変わってなどいない。どちらも同じ四月一日だ。一度従うと決めたのだから、当然付き合おう」

ランサー「……はっ、なるほどな」

その返答に納得したようだ。

ランサー「こっちを裏切るつもりなら、貴様とも戦える。そのほうが俺としては面白かったんだがな」

小次郎「そういう貴様はどうするつもりだ」

貴様こそあのキリシタンに従う義理もないだろうと問えば、ランサーはあっさりと答えた。

ランサー「俺は戦えりゃあそれでいいさ」
658 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:01:54.33 ID:2oey0p460

ーーー朝 SIDE士郎
【衛宮邸】

イリヤ「おはようシロウ」

士郎「イリヤ、もう起きても大丈夫なのか?」

イリヤ「ええ。あいにく外傷はなかったもの」

藤ねえ「おっはよー、遠坂さん!」 

凛「ふぁーあ、みんな朝早いのね」

百目鬼「もう6時過ぎだけどな」

朝、衛宮邸にはたくさんの人がいた。
キッチンには四月一日と桜が、そのほかは居間にいた。

凛「あら士郎、手伝わなくていいの?」

士郎「なんかわからないけど、桜に追い出されたんだ」

台所では四月一日と桜が朝ごはんを作っていた。

ちなみに、四月一日は君尋と容姿と性格ががそっくりなため同一人物という設定で通し、百目鬼は弓道界ではかなり有名なため弓術の名手である士郎に会いに来たという設定だ。
士郎も百目鬼の名前だけならよく知っていた。藤ねえも聞いたことくらいはあるだろう。
イリヤはセイバー同様切嗣の知り合いという設定だ。
659 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:02:36.25 ID:2oey0p460

SIDE四月一日

一方こちらは台所。
四月一日に関しては下手に藤ねえや桜に接触するとばれる可能性があるためできるだけおとなしくしておく予定だったが、なぜか桜と一緒に台所に立つはめになっていた。
その原因は、昨夜の出来事にあった。

四月一日(……いきなり間桐さんがこっそり「いつものアレをしてほしい」って言ってくるんだもんなぁ)

あれってなんだよ!? と士郎にヘルプ目線を送ったのだが、間桐さんに「先輩には秘密だって言ったじゃないですか!」と言われてしまうともうどうしようもなかった。
何を約束していたんだともう一人の俺を恨みつつ、もしかしたらと邪な想像をしてしまったのも仕方のない話だ。四月一日は健全な男子高校生なのだから。
結局「いつものアレ」とは、菓子作りを教えてほしいという健全この上ないものだったのだが。

四月一日(まあどうせこうだとは思ったけどな! どうせ俺だし! 俺にはひまわりちゃんがいるんだからかまわねえし!!)

桜「四月一日先輩?」

四月一日「あ、うん! えっとじゃあまずはこの前のおさらいから行ってみようか!」

桜「昨日は盛り付けのれんしゅうで、色のバランスに気を付けながら杏仁豆腐を盛り付けました! 色のバランスは……」

間桐さんはすらすらとこの前のおさらいを言ってくれたが、残念ながらこの内容では次にどんなことを教えるべきかがわかりにくかった。
660 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:03:04.57 ID:2oey0p460

四月一日「……じゃあ、今日は桜ちゃんの作りたいものを作ってみようか」

桜「作りたいもの?」

四月一日「うん。さすがに時間がかかりすぎるものはだめだけどね」

桜「えっと……どうしましょうか……」

こうして決まったのがフォンダンショコラである。
そして今朝、ちょうど仕上げの段階に入ったのだ。

四月一日「食べる前に温めるんだけど、時間には気を付けてね」

桜「はい!」

こうして四月一日は無事朝食のデザートを完成させたのだった。
661 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:04:32.04 ID:2oey0p460
ーーー朝 SIDE士郎
【衛宮邸・居間】

藤ねえ「最近君尋君のお菓子がいっぱいで先生嬉しいなー! あ、でも今日のはちょっと味付けいつもと違ってたよね。何か変えたの?」

四月一日「な、なんでもないと思いますよ!」

藤ねえ「んー、そっかー。じゃあ先生先に学校に行ってるね! みんなも遅刻しないように!」

桜「私も朝練があるので先に行きますね」

そう言って、桜と藤ねえは去って行った。
四月一日のことは何とかごまかせたようだ。

士郎「……ふう。よかったな、ばれなくて」

百目鬼「おい、デザートの追加はねえのか」

四月一日「そんなもんはねえよ! というかお前に食べさせてやっただけでも喜べ! そしてこの四月一日様の慈悲に感謝するがいい!」

百目鬼「……」パクリ

四月一日「ああ!? 俺の分のフォンダンショコラ! 一口かよ!」

俺結局一口も食ってねー! と四月一日は悲鳴を上げた。
四月一日がさんざん文句を言っても、百目鬼はどこ吹く風である。
662 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:07:15.76 ID:2oey0p460


士郎(……君尋があんなに敵意を向ける奴がいたなんてな)

正確に言えば今士郎の目の前にいるのはサーヴァントの君尋ではなく、現在生きている四月一日であるのだが。
君尋は基本的にどんな相手にもあそこまでの敵意を向けることはなかった。やはりどれだけ似ているといっても、四月一日は士郎の知っている君尋とは違うのだろう。

凛「今後の予定なんだけど、短期決戦でいくわよ。現在残っている敵サーヴァントはランサーとキャスターと、第四次のキャスターである君尋と、おそらくアサシン。どちらのキャスターにしろ、スロースターターであることは間違いないでしょうし、これ以上時間を与えるのはまずいわ。君尋のほうはこっちの手の内もかなりばれちゃってるし」

セイバー「キャスターはこうしている今も魔力を集め続けてますから」

表向きはガス漏れ事故として処理されているのだが、これはキャスターの魔力収集の影響だ。

四月一日「……にしても、俺がその……英霊? になるなんて正直わからないというか、なんというか」

凛「そうね。現代ではそもそも英雄が生まれること自体難しいもの。そんな世の中で英霊まで上り詰めるなんて、何やったのよあんた」

四月一日「うーん……」

四月一日の能力は、士郎の知っている君尋同様の、最高レベルの感知すなわち霊感だった。
しかしキャスタークラスに選ばれるような英霊の能力がこれだけとは考えづらい。キャスターとしての君尋の能力を推測することは難しかった。
ちなみに百目鬼は血筋的な退魔能力を保有しているそうだ。
663 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:11:34.37 ID:2oey0p460

四月一日「そもそもそのキャスターっていうのは、本当に未来の俺なんでしょうか?」

百目鬼「別の正体の何かが俺に化けて混乱させようとしているって可能性はないのか」

凛「その可能性もあるわ」

四月一日や百目鬼の質問はもっともだ。

士郎「いや、君尋は間違いなく「四月一日君尋の一つの可能性」だ」

しかし、俺はそう言い切った。

凛「どうしてそう言い切れるのよ」

士郎「直接会って確かめた」

凛「……ちょっとどういうことよ!? それいつの話なの!?」

凛は思わず立ち上がって俺に訪ねてきた。

士郎「昨日の放課後に、君尋と会った」

凛「そういうことはちゃんと言いなさい! 何かされなかったでしょうね!?」

士郎「……いや、大丈夫だ。何もされてない」

まあ、一応真実である。実際何もされていないのだから。
664 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:13:47.96 ID:2oey0p460


イリヤ「君尋は変身なんてしてないわ。10年前にお母さまが会った時から少しも変わってないもの」

凛「どうしてあなたが10年前のことを知っているのか、って聞くのは野暮ね。知識の共有かしら」

イリヤ「そうよ。10年前の四月一日はまだ青年体じゃなかったのに、すでにキャスターが青年体に変身してなのはいくらなんでもおかしいもの」

……よくわからないが、凛は信じてくれたようだ。

凛「とりあえず藤村先生と桜に今夜は来ないように言っておいたから、今夜仕掛けましょう」

士郎「学校には行くのか?」

凛「私は休むわ。戦う前にいろいろ調整したいものもあるし」

士郎「そっか。じゃあ俺は行くよ」

セイバー「では何かあれば令呪を」

士郎「ああ、わかってる」

俺を除いた全員が、衛宮邸に待機ということになる。
665 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:16:49.94 ID:2oey0p460

凛「はあ……士郎一人だけ別行動するなんて本気なの?」

士郎「む。絶対に休まなきゃいけない事情があるわけじゃないんだし、当然だろ」

凛「これだからあんたは……」

凛が頭を抱える。しかし、よくわからないがあきらめたらしく、結局登校の許可をもらった。

そして学校に行く準備をするために立ち上がったちょうどその時だった。



?「−−−行く必要はない」

666 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:20:54.05 ID:2oey0p460
士郎「え」

背後から声がした。
四月一日の声ではない。四月一日は正面にいる。
聞きなれた声ーーーまぎれもない君尋の声だ。

四月一日「なっ!?」

百目鬼「……!」

四月一日と百目鬼は驚いたが、ほかの人物に見えている様子はない。
振り向くと、そこにはやはり君尋がいた。
黒をベースとした、鈴のついた長い中華服を着ている。

君尋が俺の目を見つめた。

(次会うときは敵サーヴァントと敵マスターだ)

今更ながら、昨日の別れ際の言葉を思い出す。

君尋「おやすみ」

視界が、黒ク染マッテイクーーーーー
667 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:26:25.42 ID:2oey0p460
SIDE 四月一日

士郎くんがいきなり倒れていった。
原因がまぎれもなく、突然現れたもう一人の俺だろう。
侑子さんが着そうなデザインの服を身にまとっている。

凛「士郎!?」

凛とセイバーも異常に気付いたようで、臨戦態勢に入った。
しかしどうやらもう一人の俺が見えているのは、襲われた士郎くんと俺と俺と視界を半分共有している百目鬼だけのようだ。

四月一日「士郎君になにをしたんですか」

君尋「……」

もう一人の俺は、俺には目もくれずもう一人の人物に目をやった。
銀髪の少女、イリヤスフィールである。
668 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:31:33.35 ID:2oey0p460

君尋「イリヤだな」

イリヤ「私の役目は分かってるみたいね」

君尋「君を連れて来いと言われましたから」

イリヤ「そう」

イリヤは抵抗しない。
もう一人の俺がイリヤの手を取ると、イリヤも気を失った。

四月一日「待て!」

もう一人の俺は動かない。
しかしそのまま去ろうとしているのだけは分かった。

四月一日「士郎君は……」

君尋「……夢を見ているだけだ」

ようやくもう一人の俺は返事をした。
669 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:39:48.04 ID:2oey0p460

四月一日「夢?」

君尋「そういえば、このころの俺も、夢で見ることだけはできたんだっけな」

君尋はそう最後につぶやくと、イリヤとともに消えていった。
まるで夢から覚める瞬間のように、あっさりと。

セイバー「しっかりしてくださいシロウ! シロウ!!」

セイバーが士郎君をゆすり起こそうとしたが、士郎君はピクリとも動かなかった。

凛「魔術……しかも相当深く夢に浸かってる」

四月一日(夢……?)

もう一人の俺は確かにそう言っていた。
士郎は夢を見ていて、俺は夢を見ることができると。

四月一日「もしかして、俺なら……?」

キャスターが士郎くんの言う通り未来の俺なのだとしたら、俺はキャスターと同じことができるのではないだろうか。
そう思い、俺は士郎君のもとに駆け寄った。

四月一日「夢……」

俺の力でなんとかできるのなら、絶対に助けたかった。

670 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/01(月) 00:41:03.48 ID:2oey0p460
投下終了です。
しかしかき分けェ……ややこしい……
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/01(月) 00:42:02.53 ID:s+4ury71o
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/10/01(月) 00:46:02.92 ID:M5A4DzrAO
おつ
マルダシとモロダシ可愛いよな
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/10/01(月) 00:50:39.60 ID:nKeOftOz0
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/01(月) 00:51:12.51 ID:y30oHzeOo

マルモロと風呂に入りたい
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/10/01(月) 04:14:19.74 ID:6dOXD+ZAO
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/10/01(月) 16:49:26.53 ID:RDbjKIH4o

つまり、この世界には四月一日のミセと侑子さんのミセ、2つあるってことなのか?
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/01(月) 17:41:05.38 ID:V33gIgHHo
キャスターのは固有結界みたいなもんなんじゃない?
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2012/10/03(水) 00:23:42.36 ID:yV+wKwcB0
>>672
`¨ − 、     __      _,. -‐' ¨´
      | `Tーて_,_` `ー<^ヽ
      |  !      `ヽ   ヽ ヽ
      r /      ヽ  ヽ  _Lj
 、    /´ \     \ \_j/ヽ
  ` ー   ヽイ⌒r-、ヽ ヽ__j´   `¨´
           ̄ー┴'^´
679 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:04:47.63 ID:fqesAtx80
投下します。

>>676-677
現存する宝具とサーヴァントの宝具のような関係です。また後日ステータスでも載せますね。
680 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:05:48.93 ID:fqesAtx80
【夢】


いつの間にか場所が変わっていた。

士郎「……ここは」

地面に足をつけている感覚がない。宙に浮いて、景色を見下ろしていた。
真下には、二隻の船があった。

ーーー300人が乗った船と200人が乗った船がある。
ーーーその二つに全く同時に船底に穴が開いた。
ーーー穴を修理するスキルを持つのは自分一人だけ。
ーーーさて、どちらの船を救う?

誰ともわからない声が問う。

士郎「そんなの、両方に決まってる」

しかし士郎に言わせればどちらかを選ばなければならない時点でその質問は実にナンセンスである。
どちらかしか救えない状況ですべてを救えるのが正義の味方なのだと、そう考えたのだ。

しかし。

?「当然、300人が乗ったほうの船だ」

懐かしい声が、聞こえた。
681 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:06:38.84 ID:fqesAtx80

士郎「爺さん……!?」

船の上には、衛宮切嗣がいた。

士郎「……違う」

しかし、士郎のよく知るではなかった。
士郎の知っている衛宮切嗣は、あんな目はしていないーーー!

天の声と切嗣が何か話した後、切嗣は200人を殺した。

士郎「なっ」

切嗣は止まらない。
繰り返される二択の問いを、数のみで判断して殺していく。
この時士郎は理解した。
まさしく切嗣こそ「数」というルールを持つ正義の味方だったのだと。

少数を切り捨て続けてーーーそして最後の3人になった。
かたやイリヤスフィールとイリヤスフィールそっくりの女性。かたや黒で統一された服を着たスレンダーな女性。
切嗣は呆然とした表情で、それでいて手際よく少数を切り捨てた。
682 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:07:08.18 ID:fqesAtx80

士郎「これが、切嗣なのか?」

切嗣は泣いていた。イリヤを抱きしめ、呆然としていた。
1人と1人。それは数の正義をもつ切嗣には選べない選択肢だった。

しかしそれでは終わらなかった。
切嗣はイリヤの首に銃を突きつけるとーーー手際よく愛娘を打ち殺した。

士郎「……」

当然の判断だった。ここで虚構の愛する妻と娘を取れば、外にいる現実の54億の人間の命はいともたやすく失われていったはずなのだと、士郎は言われるまでもなくなぜか理解していた。
切嗣は、正義の味方として、愛する少数より見知らぬ多数を選択したのだ。
切嗣は泣いていた。
683 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:08:00.72 ID:fqesAtx80

切嗣の記憶を見た。
夢なのかもしれない。

切嗣は大切な人が乗った飛行機を撃ち落とした。
死徒の感染拡大を防ぐためだった。

生存者の希望すらも切り捨てて、より確実な多数の命を守る方法を取った。
命乞いする哀れな被害者たちを容赦なく打ち殺して、今後その死使もどきどもが殺すだろう多数の人間を取った。

これが正義だ。
洗練された衛宮切嗣の正義だった。

悪意の泥と空に穿つ孔が見える
衛宮切嗣の末路が生み出した哀れな邪神は、地上へ零れ落ちて瞬く間にあたりを赤色に染め上げる。
唯一死んでいないさまよっている赤毛の少年が見えた。あれは、

士郎「■■士郎……」

己で発したはずの音がうまく聞き取れない。
そしてーーー
684 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:08:28.29 ID:fqesAtx80

場面が一気に変わった。
赤い丘が見える。
一面剣が突き刺さった丘。
それは正義の味方のなれの果て。
丘の上には一人の哀れな何かがいた。
その正体はーーー

士郎「ーーーあ」

あの男をどこかで見たような気がする。
あれは誰なのだろうか。
とてもよく知っているような気がする。
何よりも俺の近くにいる気がする。

あの男の正体はーーー

四月一日「士郎君!!!」

声が聞こえた。
君尋の声ではなかった。
この声は、君尋と同じだけど違うものの声だ。
685 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:09:18.12 ID:fqesAtx80

空から手が伸ばされる。

四月一日「ここにいちゃいけないから」

士郎「だけど」

丘の頂上を見る。男の正体がもう少しでわかりそうな気がするのだ。

セイバー「ーーー起きてください、シロウ!」

新たな声が聞こえた。
その声は凛としていて、強い意志が感じられて、それでいて安心する声ーーーセイバーの声だ。

四月一日「戻らないと。みんな待ってます」

士郎「……ああ、そうだな」

俺は四月一日の手をつかんだ。

次の瞬間、俺は自宅の布団で目が覚めた。
セイバーは俺の手を握っていてくれていた。
四月一日は少し離れたところで、まだうとうとした様子だったが、安心したように笑っていた。

セイバー「起きたのですね、シロウ。よかった……!」

セイバーはそう言って安心していた。
686 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:10:02.46 ID:fqesAtx80

士郎「セイバー……爺さんは「数」の正義の味方だったのか?」

セイバー「!」

セイバーは驚いた表情をする。

士郎「俺はずっと正義の味方になりたかった。爺さんの夢は俺がかなえてやるってそう決めてた。でも、俺は数なんかで選べない。俺は全員救いたいんだ」

セイバー「……それは、できません。不可能なことです」

士郎「選ばなきゃいけないときが来るなら、俺はどういう基準で選べばいい。俺の目指そうとしているものは……」

10年前、俺を救ってくれた切嗣は確かに士郎の正義の味方だった。しかし夢で見た切嗣は、俺のなるべき正義の味方なのだろうか。
もちろん切り捨てることが必要なら、やって見せよう。だが、昨日の君尋との対話で俺は「数」の正義を否定してしまっている。俺は切嗣のような正義の味方になりたかったのに。

士郎「爺さんの夢は間違ってたのか? 全部救えないのか? ……たとえ俺を犠牲にしてでも?」

もし自分自身が犠牲になることで救える人が増えるのなら、喜んで犠牲になろう。どうしても天秤の片方を零にすることが不可能なら、己が小数の唯一の一になってみせよう。
しかし、それではだめなのだ。衛宮士郎は対価を守ったうえで、「数」ではない正義のルールを見つけなければならない。自身を犠牲にして救うことは許されない。対価のバランスは守らなくてはいけない。そう約束したのだから。

士郎「俺は、助けなきゃいけないのに。選びたくなんかない」
687 :読みにくくて済みません  ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:11:16.05 ID:fqesAtx80



セイバー「・・・いつか選ばなければいけないときはやってきます。しかし、そのようなことを言わないでください。シロウ一人の力でそれをなすことができないのだというのならーーー私があなたの剣になる」

セイバーは俺の目を見つめていった。

士郎「・・・ありがとな、セイバー」

そうだ、セイバーがいるのだから、そして凛たちや四月一日たちがいるのだから、うじうじしている場合ではないのだ。
さっさと決着をつけなければ。

士郎「行こうセイバー」

四月一日「体調は大丈夫ですか?」

士郎「ああ、大丈夫だ」

俺は布団から起き上がって、和室を出た。

士郎「ありがとな、四月一日」

四月一日「……よかったです。無事起きることができて」

俺の右ポケットには、剣の鳥がおとなしく収まっていた。
688 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:12:15.03 ID:fqesAtx80

ーーー夜
【居間】

俺が起きたのは、午後の8時頃だった。随分長い間眠ってしまっていたらしい。
遠坂から今日の進展を聞いた。

凛「藤村先生から聞いたんだけど、今日学校に葛木先生が来ていなかったらしいわ。聞いてみたけど、柳洞寺の居候も昨夜突然いなくなったそうよ……おそらく5次キャスターが君尋にやられたんでしょうね。君尋は今キャスターの収集した魔力と最上級の土地を持ってることになる」

士郎「柳洞寺が!?」

凛「士郎のコンディションは気になるけど、これ以上君尋に時間を与えてはいけないわ。深夜0時に柳洞寺に襲撃するわよ。10時には準備を終わらせておきなさい」

士郎「わかった」

必要事項だけ伝えると、遠坂は席を立った。おそらく宝石の最終調整でもするのだろう。遠坂の魔術は宝石を使うらしいから。
俺は四月一日や百目鬼、セイバーを置いて、そっと居間をでた。
689 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:12:41.49 ID:fqesAtx80

縁側へ向かい、呼びかける。

士郎「アーチャー、いるんだろ」

アーチャー「ほう、未熟者のマスターが何の用かね?」

アーチャーの声は上のほうから聞こえた。屋根の上だ。

士郎「聞きたいことがある」

アーチャー「ふん、そのような暇があったらもっと己の今までの行為の愚かさでも見直してみればどうだ。泥に侵された詳細もわからぬ危険分子を擁護しあまつさえ「俺が何とかする」などとと言ったのは誰だったか」

アーチャーはいつも通り皮肉屋だった。しかし、最後の話については俺も自覚しているところである。

士郎「俺だ。だから君尋のことは俺が何とかする」

極論を言えば、俺が君尋をかばったせいで今このようなややこしい状況に俺たちは追い詰められている。
だからこそ、君尋を信じたものとしての責任を俺は取らなければいけない。

アーチャー「サーヴァント相手に戦う気とは。身の程を知れ。まったくこんな状況でなければ今すぐにでも殺してやりたいくらいだよ」

俺の考えはアーチャーに一蹴された。
しかし意見を変えるつもりはない。俺は責任をとると決めたのだから。

士郎「おまえには聞きたいことがあるって言っただろ」

アーチャーが地上まで下りてくる。俺はこいつの目を見つめ名から、聞いた。
690 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:13:45.31 ID:fqesAtx80

士郎「−−−正義ってなんだと思う?」

そう問いかけると、アーチャーは面食らったような顔をした。いつも余裕を崩さない振る舞いからは、想像しにくい表情だった。

アーチャー「ふっ……ははは、ははははは! まさか貴様にそれを問われるとはな」

アーチャーは心底おかしいというように笑い声をあげた。

士郎「何笑ってるんだよ」

アーチャー「ふん。衛宮士郎、これだけは覚えておけ。もし貴様が正義を捨てるというのなら、衛宮士郎は衛宮士郎ではいられなくなるぞ」

士郎「……正義の味方の夢をあきらめるつもりはないさ。爺さんと約束したしな。でも……」

俺は、全員救えるようになりたい。
今の状況でたとえるならーーー敵に回った君尋やアサシンすらも、俺は救いたいのだ。
でも、それはきっとかなわない。本人たちもそんな余計なお世話は望んでいないかもしれない。そうわかっていても、俺は彼らを救いたいのだ。

アーチャー「何があったかは知らんが、覚悟すら持てぬようなら、今すぐ令呪を破棄してさっさと逃げ出すべきだと思うがな」
691 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:15:02.18 ID:fqesAtx80

士郎「……なあ、もしも300人が乗っている船と200人が乗っている船の船底に同時に穴が開いて、治せるのがお前だけだったとしたら、どうする」

なんとなくだが、こいつは正義の味方なのではないかという気がしたのだ。だから聞いた。参考……というのはちょっと違うかもしれないが、俺はこいつの正義を知りたかった。

アーチャー「当然、300人の乗ったほうの船だ」

アーチャーはそう答えた。
すとんと納得がいった。こいつは切嗣と同じ「数」の正義の味方なのだ。こんな簡単な質問だけではすべてを理解するには足りないのだろうが、それでもわかったのだ。

士郎「そうか。−−−でも俺は両方救いたい」

今まで切嗣という人格も含めてみていたから、決心がつかなかった。だがこうやって別のやつからも聞くことで、俺は「数」以外のルールを持った正義の味方になることを決心した。
692 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:15:57.66 ID:fqesAtx80

確かに俺は、切嗣にあこがれていた。俺を救ってくれた時の切嗣が、あまりにも幸せそうで。まるで救われたのはそっちのほうじゃないかと思ってしまうほどだったから。俺もそういう風になれたならーーーそう思っていたのは事実だ。
けれど俺は爺さんのかなえられなかった夢をかなえると約束したのだ。
だから衛宮士郎は衛宮切嗣の正義のルールを受け継がなくてもいい。むしろ同じではいけない。

士郎「それに俺のあこがれたあの時俺を救ってくれた爺さんは「数」の正義の味方じゃなかった」

爺さんのかなえられなかった夢をかなえるために、俺は「数」ではないまた別のルールを模索しなければならない。

アーチャー「……そうか」

アーチャーは最後に俺を一瞥すると、再び屋根の上に戻り見張りを再開した。
693 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:16:29.02 ID:fqesAtx80

ーーー深夜
【柳洞寺】

凛「行くわよ」

凛の掛け声に続いて、一斉に山門の階段を駆け上がった。柳洞寺への襲撃だ。
ここには君尋がいるはずだ。工房内、神殿内で魔術師と戦うことほど恐ろしいこともなかなかないそうだが、それに加えてここには白兵戦に長けたアサシンもいるはずだ。
一方こちらはセイバーとアーチャー、それに四月一日と百目鬼と遠坂と俺だ。
どちらにせよ、厳しい戦いになるだろう。

山門までたどり着いた。あたりは静かすぎて、逆に不安をあおられる。
遠坂と四月一日と百目鬼と顔を見合し、タイミングを合わせて静かに侵入した。

「−−−よお」

そして暗闇から現れた人影が、俺たちを歓迎した。
694 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:17:33.25 ID:fqesAtx80

凛「なっ……ランサー!?」

現れたのは、キャスターでもアサシンでもなく、ランサーだった。

士郎「どういうことだよ。ここはキャスターの根城じゃなかったのか……?」

凛「まさか、ランサーのマスターは綺礼と同盟関係だったってこと!?」

ランサー「いや、違うぜ。俺のマスターはコトミネだよ」

「「「!?」」」

ランサーはあっさりと衝撃の事実を暴露した。
言峰が本当にランサーのマスターなら、言峰はキャスターとランサーの2体同時に使役していたことになる。
君尋が受肉しているとはいえ、魔力が必要なのは変わらない。
言峰は魔術師としては並の実力だという。
ならばサーヴァントの肉体維持の魔力はどこから持ってきたのだろうか。
695 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:18:30.69 ID:fqesAtx80

ランサー「ああ、それとキャスターとアサシンならここにはいねえぞ。……そうだな、セイバーかアーチャーか、どちらか残って戦うッつうんなら、多少の情報は流してやってもいい」

凛「どういうつもりなのかしら」

ランサー「何、あの糞神父に肩入れしてやる理由もねえからな。俺の願いは、強い敵と全力で戦いたいってだけだからな」

聖杯戦争とは、願いを叶える願望器を求める戦いだ。その過程を願いにするなど、酔狂にもほどがある。しかしランサーは冗談を言った様子でもない。

凛「さすがは英雄、ってことなのかしらね、その生き方は。いいわ、私とアーチャーが残りましょう」

士郎「遠坂!?」

凛「士郎は黙ってて。いい? 残る敵サーヴァントはランサーとキャスターとアサシン。キャスターを相手にするなら、対魔力の高いサーヴァントを温存しておくべきでしょう。ランサーは私とアーチャーが相手をする。十分よ」

遠坂はきっぱりとそういった。
696 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:20:12.20 ID:fqesAtx80

ランサー「ひゅう、いい嬢ちゃんじゃねえか。気に入ったぜ。と、情報だったか。
     ……あのキャスターはな、霊脈の質に関係なく最上級の神殿を作れるんだと」

凛「嘘! どういうことよそれ!?」

ランサー「空間を切り取ってなんかやってるんだと。俺も詳しいことはわかんねえがな」

もしそれが本当なら、君尋はどこででも最高の状況を得られることになる。秘匿性と実用性の面からみても、破格の性能。宝具級の代物だ。
霊格の高い土地でなくても神殿が作れるのだから、俺たちには君尋の拠点を探す手掛かりがない。

ランサー「それでもって、もう聖杯降誕の儀式の準備は整ってるみたいだぜ」

凛「……まだまだサーヴァントが残っているのに? わけがわからないわ」

ランサー「さあな。これも必然とか言ってやがったが」

そう言い終わると、ランサーは槍を構えた。……どうやら、どこに君尋の拠点があるかまでは教える気はないようだ。
697 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:21:12.40 ID:fqesAtx80

四月一日「必然……」ボソッ

四月一日は、小さくそうつぶやいた。

凛「いきなさい士郎。聖杯をもう降ろすだなんて不可能だけど、相手はキャスター。何かあるのかもしれない。ことは一刻を争うわ」

士郎「でも!」

ぐずるおれの腕を、百目鬼が引っ張った。

士郎「なっ」

百目鬼「行くぞ」

凛「ありがとう百目鬼君。早く見つけなさい。私もすぐ追いつくから」

セイバー「行きましょう士郎」

皆に促された。

士郎「……そっか。わかった」

そういうと、俺たちは遠坂とアーチャーをおいて急いで柳洞寺の階段を駆け下りていった。
遠坂は、アーチャーは、大丈夫だろうか。
698 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:22:40.86 ID:fqesAtx80
百目鬼が先頭を走る四月一日に声をかけた。

百目鬼「何か策はあるのか」

四月一日「ない! でもじっとしておくわけにもいかないだろ!」

この中で敵サーヴァントに対抗しゆるのは、セイバーのみ。わかれて捜索することも難しい。

士郎(いや、俺は……)

投影ーーーグラデーションエア。遠坂いわく俺の投影は異常なのだそうだ。
それならあるいはサーヴァントと対抗できるのではないだろうか。
チチチ、と剣の鳥がポケットから飛び出して俺の肩に止まり、小さく鳴いた。

士郎(ーーー剣)

そう、たとえば剣を投影すれば対抗できるのではないだろうか。
ーーーたとえば、アーチャーの持っていた夫婦剣のような。

四月一日「衛宮くん、何か場所の心当たりとかはない?」

士郎「……悪い、思いつかない」

手掛かりはない。俺たちはキャスターの捜索を続けた。
699 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/10/07(日) 20:23:34.87 ID:fqesAtx80
投下終了です。
わかりにくくて申し訳ない。

後3回前後でおそらく完結です。
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/08(月) 00:05:56.33 ID:yi5WNp1so
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/10/10(水) 02:11:15.25 ID:D5r7rw4AO
更新来てたのか気付かなかった
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/10/18(木) 23:35:34.70 ID:nYDBNzLd0
待ってる
703 : ◆7usAPPBzDI [saga]:2012/11/05(月) 23:14:38.83 ID:tYsD1xoY0
生存報告です。
最近リアルが忙しかったため、更新できず申しわけありません。
完結はさせるつもりです。
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/11/06(火) 00:02:47.65 ID:BeFQMRgeo
生きてたか、良かった
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/06(火) 01:18:39.05 ID:XMtNyReoo
生存報告乙
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/06(火) 11:24:52.66 ID:mRG2Ux57o
待ってるでー
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/12/01(土) 13:49:52.05 ID:vvVrrNgNo
待ってるよ
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/20(木) 06:53:10.47 ID:jVxky4Eko
待ってる
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