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インデックス「フィアンマに、安価で恩返しするんだよ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/08(水) 22:55:12.61 ID:Qmh4KC7AO

◆H0UG3c6kjA改め◆2/3UkhVg4u1Dです。

一度総合に投下したものに加筆修正を加えた文章です。



・タイトル通り、インデックスさんが安価に従ってフィアンマさんに恩返ししていくお話

・1巻内容のアバウトな原作再構成からスタート

・基本はほのぼの進行

・安価スレの割りに>>1は執筆ペースが遅い(かもしれません)

・キャラ崩壊注意



※注意※
安価次第で展開が多種多少に変化します(ガチホモから百合まで)。
過去捏造があります。
メインCPは『右方目録』なスレです。
エログロ展開の可能性がありますが、出来るだけ18禁的安価内容はご遠慮ください。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1344434112
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バームくんへ @ 2025/06/11(水) 20:52:59.15 ID:9hFPsRzXO
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秘境 @ 2025/06/10(火) 00:47:53.81 ID:BDVYljqu0
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【安価】上条「とある禁書目録で」鴻野江「仮面ライダー」【禁書】 @ 2025/06/09(月) 21:43:10.25 ID:qDlYab/50
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ツナ「(雲雀さん?!)」雲雀「・・・」ビショビショ @ 2025/06/07(土) 01:30:36.87 ID:AfN9Rsm0O
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【安価コンマ】障害走を極めるその5【ウマ娘】 @ 2025/06/06(金) 01:05:45.46 ID:RaUitMs20
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貴様たちの整備のお陰で使いやすくしてくれてありがとう @ 2025/06/04(水) 20:56:21.03 ID:QjuK6rXtO
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阿笠「わしの乳首に米粒をくっ付けたぞい」コナン「は?」灰原「は?」 @ 2025/06/04(水) 04:01:13.39 ID:ZjrmryLdO
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レッド(無口とか幽霊とか言われるけどまだ電脳世界) @ 2025/06/02(月) 21:21:00.13 ID:ix3UWcFtO
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/08(水) 22:56:47.30 ID:KHxOi8KSO
はえええ!!!!!舌の根も乾かぬうちからかよ!?スゲーなおいスレ建て乙また楽しみにしてるwwwwww
3 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/08(水) 22:56:50.74 ID:qj3AooZX0


夏のイタリア。
バチカン市国よりそう遠くない、とある街で。
ローマ正教最暗部『神の右席』の中でも最高権力を誇る、優秀な魔術師は。
右方のフィアンマは、裏路地の、つまり、建物と建物の間で、暇を潰して…いや、強制的に潰せられていた。
どのような状況か。
動物に好かれやすい彼は今現在野良猫に囲まれすりつかれ、一歩も踏み出せないままでいる。
流石に野良猫を蹴飛ばしてまで帰る程、彼は横暴ではない。
そういう訳でこんな状態だ。
その尊大な口調や態度、容赦のなさから勘違いされがちだが、彼自身はそんなに冷酷でもなければ、猟奇趣味のある人間でもなく。
必要な事を、ただ淡々とこなしているだけ。
一切の情を挟まず、問題に対して計算し、答えを出すだけ。
そしてその答えを躊躇なく行う。
だからこそ薄気味悪い、歪んでいるなどと言われがちな訳だが。

フィアンマ「…魚でも何でもやるから、いい加減一旦離れろ」

人語が通じるかどうかは不明なものの、面倒臭そうな声で、青年は野良猫達を窘める。
しかし、人語が通じる事はなく。
野良猫達は一層すりすりとフィアンマの足下で甘えるばかり。
当然の事ながら、猫達はもふもふとした毛が体表面を覆っている。
そんな綿の塊のような、加えて体温のある猫達は暑苦しく。
『聖なる右』で払うぞ、なんて。
右方のフィアンマも所詮は人間、暑さによりやや短慮になってしまっても、致し方ない訳である。
この猫畜生共、などという汚い言葉ではないものの、それに近い事を考え。
憂鬱だ、といった表情を浮かべるフィアンマが空を見上げたところで。







白くて可憐な少女が、唐突に降ってきた。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/08(水) 22:56:58.71 ID:Qmh4KC7AO
+
5 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/08(水) 22:57:15.71 ID:qj3AooZX0

場所は変わって。
普段の居住地としている聖ピエトロ大聖堂ではなく、殆ど使用していないやや狭めな、フィアンマの自宅で。
先ほど降ってきた少女を裏路地にて見事姫抱きにしたフィアンマは、その少女が開口一番「おなかへった」などと宣ったので。
仕方なく、強請られるまま、食事を与えていた。

インデックス「お腹いっぱいなんだよ、いい人だね!」

フィアンマ「……」

用意した大量の料理は、みるみる内に、清々しい程あっさりと少女の胃袋の中へと消えていった。
見ていて気持ちのいい食べ方だ、などとフィアンマがうっすら考えている間に、少女―――インデックスの食事が終わり。
いい人、という評価を受けたフィアンマは、怠そうに水を飲んでいた。
いかんせん暑いので、あまり人の話を聞いていない。
聖職者としては非常によろしくないことである。
これではいかんな、と自省し、フィアンマはインデックスを見つめる。
独特の色合いや柄、真っ白な修道服には、見覚えがあった。
布地はロンギヌスに貫かれた聖人を包んだトリノ聖骸布を正確にコピーした物で、その強度は絶対であり。
物理・魔術を問わずダメージを受け流し吸収するという、最高の一品。
即ち、『歩く教会』。
こんなものを身につけられるのは、余程の実力者である魔術師、或いは魔術的に重要な意味合いを持つ人間。
見たところ、少女はあまり強そうには思えない。さすれば、自然と予想は後者の方向へと向かう。
そしてローマ正教に、このような修道女は居ない筈だ。というよりも、ローマ正教は『歩く教会』を採用していない。
加えて、彼女はロシア系の顔立ちをしていない。つまりは、ロシア成教所属の可能性は低い。
ということは、旧教三大勢力の残り一つ。

フィアンマ「…イギリス清教の『禁書目録』、か」

インデックス「!? ど、どうして分かったの?」

まさか自分を狙う魔術師では、とびくつくインデックスの様子を眺め、フィアンマはくすりと笑う。

フィアンマ「修道服から予想したまでだ」

インデックス「…」

本当かな、と言わんばかりの視線に、フィアンマはくつくつと喉奥で低く笑った。
自分の築いた熱を遮断する術式が効いてきた為に涼しくなってきた事。
つまり、自分がれっきとした魔術師である事に気が付かないのか、と。

インデックスは辺りを見回した後、壁に書かれた魔術記号を見、目を瞬かせ、認識する。
目の前に居るこの赤い装束を纏った青年は、どう考えても魔術師だ。

インデックス(あからさまに魔術師だね、でもご飯くれたいい人だし…うぅ)

警戒と感謝との間で揺れ動くインデックスの様子を観察し、フィアンマは緩く首を横に振った。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/08(水) 22:57:18.85 ID:Qmh4KC7AO
+
7 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/08(水) 22:57:56.32 ID:qj3AooZX0


フィアンマ「少なくとも俺様は、お前を狙っている訳ではないよ。そうであるならば、こうして呑気に食事など振る舞うものか」

インデックス「そ、それもそうだね! …ええと、一応自己紹介しておくね。私は、イギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会(ネセサリウス)』のシスター及び魔術師なんだよ。魔道書図書館としての正式名称は『Index-Librorum-Prohibitorum(禁書目録)』、インデックスで良いかも」

フィアンマ「そうか」

聖ピエトロ大聖堂の地下書庫に招いた事があったはず、と思い出したものの、フィアンマは何も言わなかった。
自分の思い違いの可能性もあるからだ。

フィアンマ「俺様は…ミハイル=フェリーチ。十字教系の、フリーの魔術師だ」

フィアンマの嘘。
しかし、あまりにも堂々した様子の為、インデックスは疑わずに頷いた。
人は、一部に真実を混ぜられた嘘を堂々と言われると、なぜだか信じてしまうものである。

インデックス「ミハイルだね、しっかり覚えたんだよ!」

自らに備わる、絶対記憶能力。
ふふん、と誇らしげな表情で、インデックスはそう言った。
『禁書目録』が完全記憶能力保持者であること位既に知っているフィアンマはそれに対してあまり興味を示す様子は無く、再びだるそうに水を飲みながら、退屈そうに問いかけた。

フィアンマ「それで、何が原因で落ちてきたんだ」

インデックスは口ごもり、少女らしくもじもじとした後に、おずおずと答えた。
答えである内容は、とてもではないが少女らしくないものではあったが。

インデックス「え、えぇっとね…建物から建物に飛び移るのに、失敗しちゃったんだよ」

建物から建物に。
逃亡、という言葉が、容易に頭の中へ浮かんでくる。

フィアンマ「追われているのか?」

インデックス「…うん。二人の魔術師に。…でも、貴方を巻き込む訳にはいかないから…そろそろ行くね! あっ、本当にご飯美味しかったんだよ、ありがとうっ」

はっと思い出したかのように、インデックスは立ち上がる。
そして玄関に向かい、振り向き様。フィアンマに向かって、聖女のように微笑んだ。


どこか取り繕ったような綺麗過ぎる笑顔は、フィアンマの嫌う、弱者の強がりのソレだった。

フィアンマ「待て」

インデックス「?」

鋭い声に、インデックスはきょとんとしながら振り返る。
フィアンマは立ち上がって一歩踏み込み、インデックスの背後へ一瞬にして距離を詰め、少しだけ計算を誤ってつんのめり、慌ててインデックスを抱きしめバランスをとった。
挨拶のそれとは違い突然の抱擁に、びく、と羞恥で固まるインデックスの白いフードを見つめ、フィアンマは自らの力量に基づいた余裕たっぷりに、機嫌良く言い放った。




フィアンマ「丁度、白い猫を飼いたいと思っていたところなんだ。お前を狙う魔術師達には悪いが、適当にご退場いただいて…お前にはしばらく、ここに居てもらおうか」

インデックス「ふぇ…?」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/08(水) 22:57:58.12 ID:Qmh4KC7AO
+
9 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/08(水) 22:58:50.47 ID:qj3AooZX0

その日の夜。
インデックスを追ってきたルーン使いの魔術師を同系統の『炎』魔術でねじ伏せ。
同じくインデックスを『回収』する為に仕掛けてきた聖人の女性を『聖なる右』で叩きのめし。
しかし、それだけで帰してしまう程、右方のフィアンマは考えの浅い人間ではなく。
今現在、目に涙を浮かべながら俯く聖人の女性―――神裂火織は、インデックスという少女に纏わる呪いにも等しい慣習について話していた。
神父服を着た長身の少年―――ステイル=マグヌスは不服そうな表情で、ボロボロの状態でフィアンマを睨みつけていて。
インデックスは無言でおろおろとしながら、フィアンマと神裂、ステイルとをきょろきょろと見ていた。

神裂「放り置けば、彼女自身の記憶が脳を圧迫して、死んでしまうんです…苦しんで、痛がって、どうしようもなくて…だから、彼女を渡してください」

フィアンマ「……」

ふー、とフィアンマは長いため息を吐きだした。
子供が悪さを仕出かし、それを叱った所、子供が言い訳を並べ立てていつまでも謝罪しない様を見ている親のような、呆れというよりも退屈に似たため息を。
フィアンマの態度に、神裂は唇を噛み締めて言う。

神裂「…彼女を、私達に引き渡してください」

インデックス「…ミハイル、もういいよ。私、「俺様に逆らうつもりか?」え…」

高圧的な物言いにびくりとしながら、インデックスはフィアンマを見上げる。
ステイルは今にも掴みかからんばかりだったが、そんな事をしても誰も得をしないために我慢した。
フィアンマは、物覚えの悪い生徒へ同じことを教える教師のように、辟易した様子で問う。
優しく、難しい言葉を使わないよう、噛み砕いて。しかし、尊大な態度は崩さないままに。

フィアンマ「毎年必ずそうだったとしたら、おかしいだろう」

神裂「何がおかしいというのですか」

フィアンマ「その一年毎に見ているもの…つまり、記憶する量は違うだろう。にも関わらず、何故毎年同じ時期なんだ? もっと早く限界が来てもおかしくはないだろう」

神裂「それは…」

確かにおかしい、と神裂は押し黙る。
代わりに、という訳ではないものの、ステイルがフィアンマに噛み付いた。

ステイル「どのような理由であれ、彼女を助ける方法は手元にある。そして、じきに彼女は苦しみ始める。なら、救って何が悪い」

フィアンマ「救う? 馬鹿を言え。救いというものは、そんな簡単なものじゃないんだよ」

ステイル「ッ、何も知らない部外者が偉そうに…!」

フィアンマ「…お前達が苦しいというのは、よくよく理解した。仕方がないから、禁書目録含め、俺様が救ってやる。徹底的にな」

言い切ったフィアンマは、自らの予想を、否、本当は知っていることを、筋道を立てて説明する。
敢えて『自動書記』という単語を出さなかったのは、まだ自分の正体を知られたくなかったから。





―――彼女の身体には、どこかに時限爆弾があるはずだ。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/08(水) 22:58:52.36 ID:Qmh4KC7AO
+
11 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/08(水) 22:59:18.21 ID:qj3AooZX0

イギリス清教の仕掛けた安全装置。
それは、俗に『首輪』と呼ばれる。
一年周期でエピソード記憶を消さなければ、『首輪』のせいで死ぬ程苦しめられる。
そんな手の込んだ事をしたのは、インデックスと仲が良かったステイルや神裂という優秀なメンバーを確実に留めておきたいという目的と、『禁書目録』は安全であるというアピールの意味合いがあると考えられる。
残酷なシステムだ。
こんなシステムを築けるのは、イギリス清教最大主教位なもの。
一部単語は伏せられながらもそう説明されたステイルと神裂は納得し、同時に絶望した。
今まで彼女の為だと、記憶を消される前のインデックス含め三人で涙を呑んでやってきたことは、全て策略に乗せられた事だった。
記憶を消すということは、彼女を殺す事と同じ。
何度も手にかけてきた。その全ては、無駄だった。
もっと早く気づいていれば、インデックスという少女は苦しまなくても済んだし、ステイル達も忘れ去られる辛さを知る事は無かった。
絶望感に打ちひしがれる二人の様子を眺め、フィアンマは再度言った。

『俺様が救ってやる。徹底的にな』
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/08(水) 22:59:19.63 ID:Qmh4KC7AO
+
13 :宣言書状  ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/08(水) 22:59:48.41 ID:qj3AooZX0

『イギリス清教の『禁書目録』という図書館、及びその肉体である少女に対しての措置は人道的とは言えない。
隣人愛の精神から、ローマ正教内のとある神父がその対処に当たった。
その際、こちらにも少なからず被害が出ている。
この賠償については、特に要求しないこととする。
しかし、『禁書目録』という少女に対しての措置に関しては、同教の者としては悲しいばかりである。
よって、道徳的、人道的観点から、『禁書目録』の身柄は当面の間、ローマ正教が責任を持って保護する』
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/08(水) 22:59:51.59 ID:Qmh4KC7AO
+
15 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/08(水) 23:00:43.90 ID:qj3AooZX0

同居人が増え、多少内装を明るくした自宅にて、右方のフィアンマは。
マフィアの地上げのようだ、と思いつつ、文章を思い返す。
まるで愛人が夫から妻を奪い取ったかのようで少々気が引けるが、フィアンマは自分が不快になるような事は考えこまない主義だ。
嘘混じりの文書は、今頃イギリス清教に届いているだろう。
『首輪』は徹底的に破壊した。
『竜王の殺息』含め諸々の攻撃は『聖なる右』で防ぎきったため、何も壊れていないし、誰も傷ついていない。
事前に『聖なる右』安定化(=制御)に必要な知識を、意識のある状態のインデックスに聞き、学んでおいた事が功を奏した。
神裂はフィアンマに向かって何度も何度も頭を下げ、ステイルも少々不満そうではあったものの、フィアンマに感謝した。
フィアンマ本人としては、これから飼おうと思う猫に邪魔な『首輪』があったために外し捨て、ノミ取りをした程度に過ぎないのだが。
また、『禁書目録』として利用する必要も無い。
彼は世界を救うつもりでいるが、その為に必要なものの一つ、『禁書目録』の知識はもう学んだ。
故に、フィアンマはもうインデックスを『禁書目録』として扱う必要は無い。
それでも彼女を手元に置いておく理由は…。



人に選ばれた教皇はフィアンマの行動報告に感動したらしく、特にお咎めもなく。
というより、そもそも今までの流れでフィアンマを咎められる人間は居ないのだが。
今頃最大主教は何を考えているだろうか、と退屈しのぎに思案しつつ、フィアンマはふとインデックスへと視線をやった。
もぐもぐ、と頬張っているのは、先ほどケーキ屋でふと目に止まり、フィアンマが購入したホールケーキ。
上部分はティラミス、下部分はショートケーキ、という不思議な構成だ。
カットする素振りが無かったのを妙に思ってはいたが、どうやらスプーンで直接食べているらしい。
まぁ良いか、と結論付け、フィアンマは自分で先ほど淹れたアイスミルクティーを飲む。
牛乳によるまろやかな甘さが口の中へ広がる。砂糖とは違い、嫌味な甘ったるさはない。



ケーキを食べてお腹いっぱいになったインデックスは、部屋のソファーに座って暇潰しを探していた。
本棚になる本は全て昨日読み、覚えてしまった。
ちなみに、フィアンマ…ミハイルが、『右方のフィアンマ』という身分にあるということは、既に知っている。
それでも、いや、むしろ、そんな難しい地位にありながらも、イギリス清教に所属する見ず知らずの自分を(たとえそこにどんな理由があったにしても)助けてくれた事に、インデックスは感謝していた。
ローマ正教の影、至上のトップにありながら、気まぐれかもしれないけれど、何の関係も無い自分を助けてくれた。
もう自分は覚えていないけれど、友人だったらしいあの二人の心も、同時に救ってくれた。
お腹一杯ご飯を食べさせてくれて、優しくしてくれて。
どうにか恩返しをしたい、と思ったけれど。
料理を作ってあげたいと思ったが、自分は家事が苦手だ。

インデックス(…フィアンマ…ううん、ミハイルに、お礼したい、な)

ちら、とインデックスはフィアンマを見やる。
フィアンマは眠いのか、テーブルに上体をもたれ、ぼんやりとしていた。
疲れているのかな、と思いつつ、インデックスは真剣に考える。

インデックス(何をしたら、喜んでくれるかな…?)





インデックスはフィアンマに何をする?>>+2
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/08(水) 23:02:03.56 ID:5Khk54sYo
どう足掻いてもフィアンマルート。流石だな
>>1
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/08(水) 23:02:30.28 ID:KHxOi8KSO
美声で子守唄
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/08(水) 23:04:32.07 ID:KHxOi8KSO
このスレタイ見た時から思ってたがひょっとして総合スレでこのSSのプロトタイプみたいなん投下してた?
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/08(水) 23:08:39.01 ID:8KMLOJQu0
早ッ!楽しみ
20 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/09(木) 00:11:36.01 ID:ppiKD/Tc0
>>18様 はい、再構成諦めましたなどと宣っていたヤツが>>1です。あの時から既に右方目録書きたいと思っていました。我慢出来ませんでした》



真剣に考えて、浮かんだのは、唯一特技と言えるもの。
子守唄。
とはいっても一○万三○○○冊の魔道書の中に記されている、人をリラックスさせるための治癒術式の―――唄。
応用すれば攻撃にも転じるが、そもそもインデックスは魔力を作り出せない為、『強制詠唱』や『魔滅の声』などの魔術とも呼べない事しか出来ない。
それを除いても、インデックスは他人に対して攻撃などしないのだが。

インデックス「…すぅ、」

息を吸い込み、囁くように、美しい歌声を室内に響かせ。
ソファーに座ったまま、神に祈るかのように。
暖かな善意に満ちた歌声に心を癒されながら、フィアンマは口元を緩ませる。
心なしか、普段瞳の中に燃やしている、歪んだ世界や悪意に対する憎悪の念が薄れていった。
ほんの、少しだけれど。薄れていったのだ。


どうか、フィアンマが心地よく眠れますように。
どうか、フィアンマが嬉しいと思えますように。

優しさや思いやり。
血の通う人間らしく甘い思いのこもった、透き通るような歌声。
その歌声に聞き惚れながら、フィアンマは目を閉じた。
魔力を練れないインデックスの歌声は、術式としての意味合いをなしていないけれど。
確かに、治癒術式としての本分は果たしていた。

やがて、テーブルに上体をもたれたまま眠り始めたフィアンマの様子を窺い、徐々に声量を落としていきながら、インデックスは薄く微笑む。
恩返しをするには、まだまだ足りない。フィアンマが自分にしてくれたことの大きさに、偉大さに比べれば、自分の行動なんてちっぽけで。
叩き出した成果や、その手法はちっぽけでも、積み重ねていけば、きっと恩返し出来る筈。
穏やかな寝顔を見せるフィアンマを見つめ、にこにことしつつタオルケットを手にし、インデックスはぼんやりとそんな事を考える。

理由は不明だが、彼の瞳は絶望に濁っている。どこまでも果てしなく続く世界全てを憎んでいるかのように。
何かの復讐に燃えている、といった様子ではない。ただ漠然と、全てのものに憎悪を抱いている。

でも、自分の善意には微笑んでくれたような気がした。それならば、自分の行為はきっと無駄なんかじゃない。
一生かけてでも、彼の瞳に希望の優しい光を灯してみせる。
それが、自分を、本来迎えるべき『死』から救ってくれた彼に対してやるべきことだし、やりたいことだ。

インデックス「…おやすみなさい、ミハイル」

眠るフィアンマの背中に、そっとタオルケットをかけて、インデックスはそう囁いた。



それから三時間後。
午後六時に目を覚ましたフィアンマは、のろのろとソファーを見やった。
少し身動いたからか、ぱさ、という軽い音を立てて、タオルケットが床に落ちる。
ソファーに居るインデックスは、すやすやと眠っていた。
フィアンマから頭を守る必要は無いからと、フードを傍らに置いて。

フィアンマ「…」

大きな善意に触れた後だからか、インデックスの無防備とも呼べる姿に癒されたからか、フィアンマは気分が良かった。
そして彼は立ち上がると、タオルケットを拾い、パンパンと叩いて一応汚れを払う。
自分と彼女しかこの部屋には居ないのだから、このタオルケットは彼女がかけてくれたのだろう。
自分が寝ている間、寒い思いをしてしまわないように。
そう思いつつ、綺麗に汚れを払ったフィアンマは、善意を返すように、タオルケットをインデックスの小さな体躯にかける。
顔にかからないようよくよく注意して。
まだ人肌の温もりが残る毛布は心地良いらしく、インデックスは幸せそうに寝顔に笑みを浮かばせた。

フィアンマ「…禁書目録」

呟き、彼は台所の方へと移動した。
何を考えているのかは、何人にも読み取れない。
しかし、普段の彼を知る者であれば、口を揃えて言うだろう。
目元が穏やかだ、珍しいと。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/09(木) 00:12:05.98 ID:bOgpmpVAO
+
22 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/09(木) 00:31:31.60 ID:ppiKD/Tc0
>>20 ×毛布 ○タオルケット》
 

インデックスが目を覚ますと、良い匂いがした。食べ物の匂いだ。

インデックス「ううん…?」

気付けば午後七時過ぎ。
いつ寝入ってしまったのだろう、と首を傾げながら、インデックスはちゃんと起き上がる。
落ちこそしなかったものの、タオルケットが彼女の膝元に皺を寄せて溜まった。
このタオルケットは自分がフィアンマの背中にかけたものであるはず、と眉を潜め。
三秒程考え込み、フィアンマが眠っている自分にかけ直してくれたのだ、と気付いた。
恩返しをしたはずが返されてしまった、と嬉しいながらもプラス分が少なくなったような不思議な気分になりつつ、インデックスは食べ物の匂いがする方を見やった。
フィアンマが上体を預けて眠っていたテーブルの上に、所狭しと料理が並べられていた。
とはいえ統一性はあり、大体は煮込んだものとメインディッシュ。
サラダには水で戻したものであろう海藻が乗せられていて、且つ程よくドレッシングがかかっている。
美味しそう、とキラキラ目を輝かせたインデックスは毛布を急いで畳んでソファーに置いて立ち上がった。
食後のデザートを除いて最後の一品であるカットしたバゲットを置き、フィアンマはインデックスを見やる。

フィアンマ「…起きたのなら席に着いて祈って食べろ」

インデックス「うん!」

元気いっぱいに純真無垢な笑顔を見せ、インデックスは席に着く。
沢山食べるであろう自分を気遣っての食事量に、インデックスはまた笑みを浮かべた(ちなみにフィアンマは少食気味だ)。

インデックス「もしかしてこれ全部作ったの?」

フィアンマ「一部は和えただけのものもあるから、全て作ったとは言い難いが」

彼の中で和え物は料理に入らないらしい。
マリネも充分料理だろうにと思いつつ、インデックスは食前のお祈りを始めた。
フィアンマも席に着き、静かにお祈りを始める。
ローマ正教式、イギリス清教式、多少違いはあるものの、どちらも旧教、大きな相違は無く。

ほかほかと湯気を立てるスパゲッティーグラタンを頬張り、インデックスは満面の笑みで言う。

インデックス「美味しいんだよ!」

フィアンマ「そうか」

特別喜ぶ様子もなく、素っ気ない返事をしながらフィアンマはサラダを食べ進める。
ただし、表情は和やかだった。



食後のデザートを終え、もう食べられないという一言をインデックスに言わせたフィアンマは、暇そうにソファーへと腰掛けていた。

フィアンマ「…シャワールームならそこを曲がって右にある」

インデックス「へっあ!? うん!」

唐突に言われ、びくりとしながらインデックスは頷く。
比較対象の居ない分、インデックスにとって男性(しかも恩人であり顔立ちもよく整っている)と二人きり、という状況は多少なりとも緊張してしまう。
落ち着けば落ち着く程、ドキドキとした何かがこみ上げてくる。

インデックス「そういえば、えっと、私はソファーで寝た方がいいのかな?」

フィアンマ「いや、お前はベッドで眠ると良い。俺様はソファーで寝る」

インデックス「でも…」

ソファーで寝ると身体を傷める、ということくらい、エピソード記憶の無いインデックスでも容易に想像がつく。

フィアンマ「ベッドが不服なのか?」

インデックス「>>24
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/09(木) 00:34:49.93 ID:7bF0Qs1SO
わたしが寝るためにあなたが寝づらいのは悲しいんだよ

あ、あのそれにわたしはソファーで寝たいんだよ!
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/08/09(木) 00:35:51.18 ID:WCnNGcORo
あなたが家主なんだよ!
25 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/09(木) 03:42:47.83 ID:bOgpmpVAO

インデックス「あなたが家主なんだよ!」

家主を差し置いて居候がベッドに寝る(=良い思いをする)のは良くない、と言いたいが為にそう発言したのだが。
フィアンマはその発言をどうとったのか、首を横に振った。

フィアンマ「そうか。家主だと認識しているのであれば、むしろ言う事を聞くべきじゃないか? 心配には及ばんよ。そんなに寝心地の悪いソファーでもない」

インデックス「う…」
どうしたら分かってくれるんだろう、と悩み。
インデックスはじっと、咎めるかのようにフィアンマを見つめて食い下がる。

インデックス「私がソファーで寝るんだよ!」

フィアンマ「昼寝ならばともかく、継続的に眠れば腰を悪くするぞ」

インデックス「その言葉、そっくりそのまま返すかも」

フィアンマ「……」

面倒な、と言わんばかりの表情で、フィアンマは立ち上がる。
そしてインデックスから離れると、先程インデックスに説明したシャワールームへと消えた。
怒らせただろうか、と、小さくなりながら、白い修道女は落ち込む。

二十分程経過し、シャワールームから戻ってきたフィアンマは濡れた髪をタオルで拭きながら、再びインデックスの隣、ソファーへと腰掛けた。
インデックスは未だ落ち込み、しょんぼりとうなだれている。

フィアンマ「間を取ろう。下らん事に意見を対立させても仕方がない」

インデックス「間…? って何かな?」

フィアンマ「お前も俺様もベッドで寝れば良い。一人用ではあるが、お前は細身、問題は無いだろう」

インデックス「い、一緒?」

フィアンマ「聞いていなかったのか? ほら、シャワーを浴びてこい。俺様は少しやる事がある」

え、え、と戸惑いながらも、インデックスはシャワールームへと移動した。
先程までフィアンマが使用していたからだろう、熱気が立ち込め、加えて石鹸の良い匂いがする。

インデックス(一緒に寝る…いっ、しょ)

記憶が無いとはいえ、インデックスも年頃の少女であり。
年下の男の子であればまだしも、青年であるフィアンマと(ベッドの広さ的に考えて恐らく)くっついて寝るというのは、恥ずかしい。
貞操の危機という概念が無い訳でもないが、そこに関してはフィアンマは聖職者である為、問題は無いだろう。
26 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/09(木) 03:56:52.96 ID:bOgpmpVAO

互いに聖職者、性的行為(インデックスが博識なのは魔術であるため、あまりはっきりとしたイメージは湧かないが)…淫行に及ぶという事は、無いだろうけれど。
狭いという事は、身を寄せ合うという事で、つまりはハグをされるだろう。多分。

フィアンマと出会い、一度後ろから抱きしめられた時のときめきがぶり返し、インデックスは頭からぷしゅう、と湯気を噴いた。
顔は真っ赤で。
実に乙女らしい反応をする自分を律するべく、インデックスは髪を洗う事に専念した。

やがてシャワールームから出、インデックスは部屋へと戻ってきた。
フィアンマの『やる事』とはどうやら部屋掃除だったらしい。
元々が割と綺麗だった部屋は完璧に綺麗になっており、ベッド周りからベッドそのもののベッドメイキングも、ホテルの部屋のようにぴっしりとしている。
インデックスが入浴している間にさっさと済ませたらしく、フィアンマはソファーに腰掛け、暇そうだった。
髪は乾いたらしく、タオルは見当たらない。
インデックスは自分の長い髪をタオルでぽんぽんと軽く叩いて拭きながらフィアンマに近寄る。


インデックス「タオル借りたんだよ。後、着替えも」

フィアンマ「身長が違うせいで長さは合っていないようだが、適当に調整しろ。明日はお前の服を買いに行く」

インデックス「? 私には『歩く教会』があるもん、充分なんだよ」

フィアンマ「お前はもう追われる身では無いんだ。好きに服を着、好きに生きて良い。何より、年頃の女が下着の換えもロクに無いというのはみっともないだろう」

インデックス「…、ミハイル…」

これまでの自分がどうだっかは知らない。
だけれど、確かに、お洒落に憧れた事は、ここ数ヶ月でもほんの少しあった。
でも、自分は『禁書目録』。
ただの少女として、可愛い服を纏う訳にはいかなかった。
それを叶えると、フィアンマは言うのだ。
言外に、『これからもお前を守ってやる』と告げてくれた。

インデックス「ありがとうっ!」

感動したインデックスに抱き付かれ、かといって何の反応も返さず。
ソファーに落ちたタオルを拾い、フィアンマはインデックスの髪を拭いた。
あまり慣れないながらも、丁寧な手つき。
インデックスは笑顔で享受するのみであった。

27 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/09(木) 04:09:51.33 ID:bOgpmpVAO

自分から抱きつくのは良くても、自分が好意を持っている男性から抱きしめられると心臓の鼓動がヤバい。
一見我が儘だが、女の子とは得てしてそんなものだ。
インデックスもその例に漏れず、今現在、向かいに横たわるフィアンマに抱きしめられ、ドキドキとしていた。
別にフィアンマも好きで抱きしめているというより、スペース上の関係で、なのだが。
頭では事情を理解していても、実際に冷静に反応出来るかというと、人間はそんな冷徹な生き物ではない。
一向に眠れないインデックスは、フィアンマの顔を見上げていた。

インデックス(ロシアとイタリアのハーフ…なのかな。睫毛ぱっちりかも)

フィアンマはインデックスを女の子と認識していても何か感じる訳ではなく、静かに眠っている。飼い猫感覚なのかもしれない。
ちなみに現在インデックスが身にまとっているのは、フィアンマの私服であるワインレッドのワイシャツ一枚だ。

インデックス「…もっと、優しくしたいな」

柔らかな声音で呟き、インデックスは微笑む。
自分に優しくしてくれる彼に、もっと優しくしてあげたい。
インデックスという少女は、善意と厚意に満ち溢れた人間だ。
フィアンマが理想とし、諦め、周囲がそんな人間で満たされれば良いと願う、そんな、人間。
インデックスの笑顔や善意は、フィアンマの根本の部分に眠る悪意や罪悪感、怨念のような心の歪みを少しずつ削っていく。

インデックス「…おやすみなさい」

インデックスもまた、フィアンマの様子や優しさに安らぎを覚えるのだった。



翌日、インデックスは未だ眠るフィアンマの腕の中からするりと抜け、キッチンに立ち、張り切っていた。

インデックス(イギリスの誇る朝食、作ってみせるんだよ)

ふふん、となにやら決意して。

インデックス(ミハイルは少食だから、あんまり作っても…うーん…)






インデックスは何を作る?(料理名)>>+2
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/09(木) 04:12:35.90 ID:Hm8iVZFv0
ksk
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/09(木) 04:12:36.61 ID:7bF0Qs1SO
リゾット
30 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/09(木) 21:45:17.66 ID:MUViKCDj0

冷蔵庫の中を覗き、しばらく首を捻り、浮かんだのは消化の良さそうな料理。
ベーコンとキノコのクリームリゾット。
生クリームやバター、粉チーズといった諸々の材料はある。
スープを少しずつ吸わせてお粥を作れば良いのだから、きっと大丈夫。
自分にそう言い聞かせたインデックスは、元気良く、玉ねぎを切る事にした。

目を覚ましたフィアンマは、熱した生クリーム特有の匂いに気がついた。
そして身体を起こし、のろのろと立ち上がり、キッチンへと移動する。
フライパンから立ち昇るのは微妙に黒い煙。
そこに立つ少女は、フィアンマがほんの気まぐれから救った一人の少女。
ふんふんと鼻歌を唄いつつ上機嫌に水を足している。
どうやら鍋の底から混ぜるという発想は無いらしい。或いは、そんな腕力が無いのか。
いずれにしても不味そうだ、と予想しつつ、かといって責めるでも止めるでもなく、フィアンマは席に着いた。
インデックスは椅子を引く音でフィアンマの存在に気がついたのか、はっとすると振り返って笑顔を浮かべる。

インデックス「もう少しで出来上がるから、待ってて欲しいかも!」

フィアンマ「…あぁ」

出来上がるも何もそもそも失敗しているのだが。
口には出さず、フィアンマは暇そうにフライパンから昇る煙を見つめた。
少々焦げ臭いのだが、この修道女見習いは気づかないのだろうか。
もしや鼻が利かないタイプか、とフィアンマが首を傾げたところで、ようやく焦げに気がついたインデックスは大慌てで鍋を掻き混ぜる。
今更どうにも修正は効きそうにない。

それから十分程して、リゾットと呼んで良いかどうか分からない謎の物質のよそわれた皿がテーブルに置かれた。
インデックスは何か身の危険を感じているのか、一生懸命お祈りをし始める。
そんなに酷い代物なら諦めれば良いものを、と思いつつ、フィアンマはインデックスの皿と自分の皿を見比べる。
どちらも最悪の出来だが、幾分か、自分の分は焦げが少ないだけマシというべきか。
対して、インデックスの皿の中は全体的に黒い。焦げを集中的に集めたらしい。
バランス良くよそう能力が無いという訳ではなく、フィアンマに焦げを食べさせまいとしたようだ。
そこまで理解した上で、フィアンマは目を瞑ってお祈りをしているインデックスの邪魔をしないよう、音もなく皿をすり替える。
そして自分は簡易的にさっさとお祈りを済ませて食べ始めた。

苦い。生臭い。ところどころ米が硬い。
イギリス人というのはここまで料理センスがないのか、と思いつつ、フィアンマは黙々と食べ進めていく。
インデックスは覚悟が決まったようにお祈りを終わらせて目を開け、眼前の皿の、白い中身にきょとんとした。
そして隣に座っているフィアンマの皿を見、慌てて止めようとした。

インデックス「だっ、ダメなんだよ! そっちは失敗したやつで…」

フィアンマ「どちらの皿にせよ失敗しているだろう」

インデックス「え、ぅ…その、一応聞くけど、…お、おいし、い?」

インデックスの恐る恐る、という表情での問いかけに、フィアンマはにっこりと笑って答えた。

フィアンマ「不味いな。これで金を取られたら正直嘔吐して罵るレベルだ」

インデックス「ぅ…ご、ごめんね」

しょんぼりとするインデックスの様子を慮るでもなく、しかしフィアンマは食事の手を止めない。
不味いと言い、本当に不味いものだけれど、どうにか我慢して食べている。
確かに、食べ物を捨てるのは勿体ないとか、そういうことでもあるけれど、それだけではなく。

フィアンマ「…ただ、まぁ、お前が一生懸命作った事は評価してやる。次はもっと勉強してから取り組む事だ」

インデックス「…、うん!」

安堵したのか、涙目ながらもどうにか笑みを浮かべて頷くインデックスを見、フィアンマは口の中の異物を無理やり噛んで飲み込みながら、目元を和ませるのだった。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/09(木) 21:45:24.31 ID:bOgpmpVAO
+
32 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/09(木) 21:45:50.18 ID:MUViKCDj0

水を大量に飲んで気を取り直したフィアンマと、どうにか元気を取り戻したインデックスは、服屋へとやってきていた。
一見穏やかな好青年に見えるフィアンマと天真爛漫な少女といった風のインデックスは、まるで似ていない兄妹のようだ。
インデックスは服屋に来た事が(少なくとも記憶には)無いので、きょろきょろとしている。
うーん、と悩んだインデックスは、振り返ってフィアンマを見上げる。
女性物ばかり並ぶ商品棚では見たいものもなく、暇を持て余していた彼はインデックスと視線を合わせた。

インデックス「ねえねえミハイル」

フィアンマ「何だ」

インデックス「その…ミハイルはどんな服を着ている女の子が好きなの?」

えへ、と照れ混じりに問うインデックス。
別段、フィアンマに対し恋愛感情があるという訳ではないが、どうせなら男性に可愛く思われるような服を選びたい。
フィアンマはしばらく考える様子を見せた後、困った顔をした。
そして更に黙って悩むと、一言告げる。

フィアンマ「>>34
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/08/09(木) 22:36:07.91 ID:WCnNGcORo
白いワンピースと麦わら帽子だ、
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/09(木) 22:46:32.18 ID:01UEhjGIO
[ピーーー]
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/08/09(木) 22:54:08.15 ID:BcY6hmgD0
・・・お前ならなんでも似合うのではないか?
36 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/10(金) 00:10:17.34 ID:zCfyhLq40

フィアンマ「――、」

インデックス「?」

告げたのだが、生憎周囲の音で聞こえず。
小首を傾げ、もう一度、と復唱を求めるインデックスにフィアンマは緩く首を横に振り。

フィアンマ「特別好みといったものはないよ。お前が着てみたいと思うものを自由に選択すれば良い」

インデックス「うーん…」

それ以上食い下がる事はせず、インデックスはうんうんと唸って悩む。
やがてフィアンマから少し離れると、多数服がかかっている中、ハンガーを手にし、夏物のワンピースや半袖のシャツを眺めて悩む。
修道女としてはあまり肌を露出しない方が良いような、しかし、涼しい方が良いかもしれない。
うんうんと悩み、ふとインデックスははっとしながらフィアンマに尋ねた。

インデックス「…ところで、私のサイズっていくつなのかな?」

フィアンマ「知らんよ。店員にでも採寸してもらうんだな」

尋ねられても困るだけのフィアンマは素っ気なく言う。
幸い、周囲に居るのは女性店員ばかりだ。
インデックスはこくりと頷き、気になる服をじっと見つめて記憶した後、店員に話しかけた。
話しかけられた店員はインデックスとフィアンマを兄妹と思ったらしく、にこにことしながら応対する。
対して、フィアンマは退屈な為、目のやり場に困らないアクセサリーを眺めていた。
アクセサリーといっても大概は髪飾りやブローチなど、服に合わせるものだ。
昨今の主流なのか、リボンの付いた髪留めが非常に多い。
インデックスは試着室内で採寸してもらっているらしく、時折くすぐったそうな声がカーテン越しに聞こえてくる。
ああしていれば普通の女そのものだ、と何となしに思いながら、フィアンマは髪留めを眺めた。
それ一つで髪を纏められるものや、ただ単に前髪を止めておくものまで、多種様々。

フィアンマ(どのみち、金の使い道も無い。…無駄に散財するのは良くないが、)

朝の一幕を思い出し、フィアンマは表情を和らげる。
失敗が目立ちはしたものの、あれもまた、純粋な好意からだ。
ならば、その好意に好意に返すべきではないだろうか、とフィアンマは思う。
長年『右方のフィアンマ』として世界の闇に身を置きながらも、特別歪んでいる一部分を除けば、ミハイル=フェリーチという青年は人間的だ。

人間的な異常者。

自分が異常であることに、彼は気づいていないのだが。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/10(金) 00:10:18.95 ID:aKFSON5AO
+
38 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/10(金) 00:10:53.02 ID:zCfyhLq40

頭は神聖な場所とされている。
逆に、足は不浄の場所とされている。
つまり、髪留め一つにも、フィアンマはそれなりに魔術的意味合いをこめる。自然と気を遣うのだ。
そんな彼が選んだのは、アクセサリー類の中で最も高価な、銀で出来た十字の髪留め。背に七つの小さなルビーが埋め込まれている。
赤色の七。『七の美徳』を表現したもの、と解釈出来なくもない。

会計を済ませ、店員が提案するままに簡素にラッピングしてもらったソレをポケットにしまい、フィアンマは試着室を見やる。
丁度、インデックスがひょこりと顔を覗かせ、フィアンマと目が合った事で安心したのか、薄く微笑みながらちょいちょいと手招いた。
手招きを受けフィアンマが近づくと、インデックスはカーテンを横に退けた。
現れたインデックスは清楚そうな白のワンピースを身に纏っている。
少々落ち着き過ぎ感は否めないものの、少女らしく、よく似合っていた。
どうやらフィアンマが余所見をしている間に採寸をとっくに終え、目星をつけていた服に着替えたらしい。
インデックスは膝丈ワンピースの裾をくしゅりと握り、もじつきながら問いかける。

インデックス「に…似合う、かな?」

フィアンマ「あぁ、似合っているんじゃないか?」

インデックス「! じゃあこれが欲しいんだよ。後もうちょっとあるから、少し待ってて欲しいかも」

フィアンマ「構わんが」

にこにことし、上機嫌でカーテンを閉めるインデックス。
フィアンマはポケットの中にある重みを考え、いつ渡そうか、とぼんやり考えつつ、暇を潰すのだった。


白の膝丈ワンピース、シフォンフリル使いのフェミニンな薄ピンクのスカートと、白のブラウス。
必要な下着一切に、装飾の無い髪留め。
生活していくに必要な衣服を買い揃えたインデックスは、機嫌よく歩いていた。
フィアンマの機嫌は特別良くも悪くもなく、インデックスの服一切が入った紙袋を持ってやりつつ進む。
先程からインデックスは店先の食べ物に魅せられ、あれを食べたいこれを食べたいと強請り。
その度に買ってやり、特に財布の中身を心配する事も無く、フィアンマは自宅へ戻った。無論、インデックスも。

インデックス「ただいまー、なんだよ。後、お帰りなさい、ミハイル!」

フィアンマ「……、…ただいま」

フィアンマは、このように家族のような立ち位置の人間からお帰りと言われた事がなかった。
だからこそ一瞬反応が遅れた。何を言われたのか、わからなくて。

インデックス「お腹一杯かも」

フィアンマ「寝てしまっても構わんぞ。俺様は仕事があるしな」

一瞬思い出しかけた忌まわしい過去を無理やり振り払い、フィアンマはそう言うとテーブル上に紙袋置き、別の部屋へと消えた。
インデックスは手伝おうかと思ったものの、やめておいた。
もしかしたら自分はイギリス清教に戻る日が来てしまうかもしれないのだ。
であれば、ローマ正教の秘密を知り過ぎてしまうのはよくない。

インデックス(ずっと一緒に、居られたらいいのに)


フィアンマは別室で、『計画』を纏めていた。
世界を救う為の布石を敷く段取りを考えなくては。

この歪んだ世界を正す。

自分の右手はその為にあるのだ。
この崩壊しかねない世界をただ見過ごすには、罪悪感が重い。
自分がやらなければ。自分にしか出来ない。

フィアンマ「……、…」

ふと、フィアンマはポケットから小さな箱を取り出す。
リボンでくるまれたソレの中身は、インデックスに贈る十字の髪留め。



髪留めを渡す?


1.今インデックスに渡す

2.今はまだ渡さずに持っておく




判定>>+2
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/10(金) 00:31:33.79 ID:dJ8ShcxSO
渡す
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/08/10(金) 00:32:31.37 ID:9RnvvX7/o
1
41 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/10(金) 16:52:19.55 ID:DAwBXCkg0

フィアンマはしばらく小箱を見つめた後、そっとテーブルの、紙の上に置いた。
あの少女の事だ、嬉しいかどうかは別として、恐らく笑顔で受け取ってくれることだろう。
そんな事を心中で呟き、彼は山と積まれた本の中から一冊をそっと抜き出す。
魔道書の写し。その更に写し。
計画手順の頭文字を連ね暗号化されたそれはほとんど意味をなさない代物ではあるが、フィアンマの脳内にて『計画』を振り返るために使用するので問題は無い。
ミハイルという青年は絶対記憶能力者ではないものの、記憶力の良い方だ。
頭文字達を指表面でなぞり、口の中で呟いて復唱しながら間違いを正し、フィアンマは思う。

自分が『神上』と呼ばれるような存在になっても。
世界を『救済』した後、神聖なる光が人の知識全てを吹き飛ばしてしまっても。

きっと、あの少女から受け取った好意も、綺麗な笑顔も、忘れない。


フィアンマ(…無理だろうな)

              ノート
思い願った事を自分で否定し、記録帳を片付けたフィアンマは、机に手をついて立ち上がる。
ついでに小箱を手にし、部屋から出るとインデックスの下に戻った。
インデックスは暇を持て余した結果ソファーで何やら物思いに耽っていたらしい。
フィアンマを見るなり薄く笑みを浮かべて思考を中断した。

インデックス「仕事終わったの?」

フィアンマ「あぁ」

返事をしたフィアンマはインデックスに近寄り、隣に腰掛ける。
そしてそっと小箱を差し出した。
青一色の箱に、赤いリボンのかかったシンプル且つお洒落な箱。
きょとん、としながら、インデックスは箱を見る。

インデックス「綺麗な箱だね。誰かに贈り物?」

フィアンマ「…お前に、だ」

インデックス「…え?」

フィアンマ「…贈り物だよ。宛先はお前だ」

インデックス「……、」

驚いたような表情に、段々と嬉しさの色を纏わせ、インデックスは感謝に満ちた笑顔をフィアンマに向ける。
そして、フィアンマの手を包み込むように、両手で、大事に受け取った。

インデックス「えっと…開けてもいいのかな?」

フィアンマ「構わん」

フィアンマの返事を聞き、インデックスは箱を膝の上に乗せ、しゅるしゅるとリボンを解く。
大切そうにそのリボンを膝の上、箱の傍らに置くと、恐る恐る箱を開けた。
前述の通り、中身は銀十字の髪留め。
インデックスの美しい色合いの髪に輝きを加える、そして『歩く教会』を邪魔しないデザイン。
値段は分からないものの、とても質が良い事は素人目にもわかる。
インデックスは感嘆の声を漏らしながら箱の中身、髪留め表面を指先でなぞった。
ちら、とフィアンマの顔を見上げ、問う。

インデックス「つ…着けてみても、いい?」

フィアンマ「…あぁ」

インデックスはそわそわとした様子で髪留めを自分の髪に着ける。
身に纏っているのは『歩く教会』だが、フードは着けていない為、よく見えた。
よく似合っている、とフィアンマは思った。
しっかりと着け終わり、インデックスは最後に髪を撫で付け、微笑む。

インデックス「……、似合って、る?」

フィアンマ「よく似合っている。俺様の見立てに狂いは無かったようだ」

えへへ、と照れて嬉しがり。
それと同時に。

インデックス(もっと恩返ししないとダメなんだよ)

感謝の念の強まるインデックスであった。




恩返しに何をする?>>+2
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/10(金) 17:08:51.77 ID:btKbNaye0
ほっぺにちゅー
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/10(金) 17:13:34.85 ID:oYK6NSNAO
ksk
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/10(金) 17:14:23.38 ID:oYK6NSNAO
>>42
45 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/10(金) 18:09:22.64 ID:DAwBXCkg0

インデックスはしばらく黙り込んで悩んだ後、リボンを空箱の中へとしまった。
そして自分の傍ら、ソファー上のスペースに空箱を置くと、もぞもぞとフィアンマの方へ向き直る。
警戒する必要は無い為、フィアンマはちらりとインデックスを見やるだけに留まった。

インデックス「その、ミハイル」

フィアンマ「何だ」

インデックス「め、目を瞑ってもらえたら、嬉しいかも!」

挨拶程度のキスは、ヨーロッパ圏の人間は多少の馴染みがある。
しかし、インデックスはそういった暖かな思い出は毎年消されてきたので、慣れがない。
なので、目を瞑ってもらって、それから頬にキスをしようと思ったのだが。

フィアンマ「…理由は」

インデックス「えっと、うーん…」

別段何か考えがある訳ではなく、純粋な疑問としての問いかけ。
唐突に女の子から目を瞑れと言われて気付かないのは男性として鈍感の部類に入るが、そもそもフィアンマはインデックスを飼い猫や子供程度の認識しか抱いていないので仕方ない。
焦り焦り、どう言えば目を瞑ってくれるのかわからないままに、インデックスはもごもごと言う。

インデックス「い、いいからっ」

フィアンマ「…」

何だというんだ、と言わんばかりの表情ながらも、フィアンマは目を閉じる。
インデックスは勇気を振り絞り、自分の膝、『歩く教会』の布を握り、そっと顔を近づける。

ちゅ、という何とも可愛らしい音と共に、インデックスはフィアンマの頬へキスをし、即座に顔を離した。
頬へのキスは、親愛のキス。
こみ上げる羞恥に視線を彷徨わせて落ち着かないインデックスとは対照的に、フィアンマはいたって落ち着いた様子で目を開けた。
そしてインデックスの様子を眺め、笑みながら首を傾げる。

フィアンマ「…今のは、礼か?」

インデックス「…う、ん」

髪留めの、と口ごもりがちに言うインデックスの髪を撫で、フィアンマは笑みを浮かべたままに言った。

フィアンマ「目を閉じろ」

インデックス「!? えっ、あっ、う」

言われるままに、ぎゅっときつく目を瞑るインデックス。
とてつもなく緊張した様子を見せる少女にくすりと笑い、フィアンマはインデックスの鼻梁に口付けを落とした。
鼻梁へのキスは、愛玩のキス。
鼻の上、という唇に非常に近い場所へ口付けを受けたインデックスは、顔を真っ赤にしながら目を開けた。
非常に近い距離に、フィアンマの顔がある。彼は黙ってさえいれば穏やかそうな美青年だ。
絶望に染まり歪みを表す瞳は、しかし近距離に居るインデックスには、遊興の色も浮かべているように感じられた。

フィアンマ「何だ、恥ずかしいのか。挨拶ではよくある事だろうに。顔が林檎のように赤い」

インデックス「>>47っ」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/10(金) 21:04:57.94 ID:YEGkFaqco
ksk
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/08/10(金) 21:05:56.18 ID:9RnvvX7/o
ありがとぅる!
48 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/11(土) 15:23:10.75 ID:gBt5qpR00

噛み気味の感謝の言葉で誤魔化し、会話を中断し、インデックスはそっぽを向いた。
ソファー上に放置していた空き箱を手にし、両手でしっかりと握りながらもごもごと口ごもり。
そんな少女の様子を眺め、フィアンマは何を考えるでもなく、ヘアピンをズラさないよう気をつけながらインデックスの髪を撫でた。
さらさらと良い手触りの髪は長く、どことなく甘い匂いを放っている。
外は陽が落ちていく最中、つまりは夕方の時間帯。
緩やかな時間の流れに身を委ね、フィアンマはほんの少しだけ、心地よさを覚えていた。


完全に陽が落ちきり、フィアンマはインデックスから離れてキッチンへと移動した。
何を作ろうか、と悩み悩み冷蔵庫を覗き込んだ辺りで、インデックスがやってくる。

フィアンマ「ん?」

インデックス「見てても良い?」

はにかみ混じりの提案に、好きにすれば良いと言葉を返し。
冷蔵庫からありったけの材料を引き出したフィアンマは、黙々と調理を開始した。
インデックスは興味深そうにフィアンマの手つきを眺めている。
今朝の失敗は手痛い為、見て覚える事で美味しい料理を作れるようになりたい、と思ったのだ。
そのようなインデックスの思惑に興味を向ける事なく、フィアンマは調理を続け。

インデックス「少し手伝うんだよ!」

フィアンマ「…怪我をするなよ」

インデックス「子供扱いしないで欲しいかも」

むむ、と頬を膨らませるインデックスだが、今朝の失敗を忘れた訳ではないので、強くは言い返さず。
包丁を預けるには嫌な予感がしたらしいフィアンマから手渡された皮剥き器で、インデックスはまず人参から剥き始めた。
手元をじっと見ながら剥いていくものの、その動きはぎこちなく、テキパキと形容するには程遠い。
調理が遅れても困るのはインデックスであるため、フィアンマは特別言及する事はないが。

インデックス「…お料理ってどうやったら上達するのかな?」

フィアンマ「研究と経験、生まれ持ったセンスじゃないか?」

インデックス「うーん…」

フィアンマ「味音痴でない限り、何か余計な物を加えようと考えなければ上達する筈だが」

インデックス「……上手になったら、今度は美味しい料理作るからね!」

フィアンマ「そうか。楽しみにしておく」

インデックス「うん!」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/11(土) 15:23:18.69 ID:LehRQdtAO
+
50 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/11(土) 15:23:38.16 ID:gBt5qpR00

沢山の夕食の大半はインデックスが平らげ。
両者シャワーを浴び、多少早いものの、眠る事にした。
昨日と同じく、インデックスは抱き枕の如くフィアンマに抱きしめられたままでの眠り。
昨日と違い覚悟済み、且つ緊張は緩んだものの、やはり落ち着かないインデックスは、後ろからフィアンマに抱きしめられた状態で目を瞑っていた。
目を瞑っていても、依然寝付ける様子は無く。
明日はフィアンマと二人で居られないという決定事項に対する不安からかもしれない。

フィアンマ「…い、」

インデックス「…?」

ふと、考え込みながら沈黙を貫いていたインデックスの耳に、真後ろから声が届いた。
言うまでもなく、フィアンマの声だ。
どこか、懺悔のような響きを帯びた声色。
自信ある態度が大概で、余裕を崩す事の無い、彼が。

フィアンマ「…すまない…」

インデックス「……」

インデックスではない、『誰か』に宛てられた謝罪。

フィアンマ「今の、俺様…では、…」

役不足なんだ。
実力ある自信家な彼が、そんな言葉を。
数度謝罪の文句を繰り返し、フィアンマは再び黙って眠りに就いた。
どうやら寝言だったらしい。嫌な夢を見ているのだろうか。

インデックス「……、…」

もぞ、と振り返るも、魘されている様子は見当たらない。
むしろ、どこか満足したような表情を浮かべていた。
部屋片付けで何もかも捨てた時のような。

インデックス(…魘されてないのなら、いいの…かな…?)



翌日、フィアンマは所用のため、聖ピエトロ大聖堂へ。
インデックスはイタリア国内の別の教会へやってきていた。
幼稚園へ預けられた幼児さながら、ローマ正教の修道女に預けられた訳だ。
ちなみに今日纏っているのは『歩く教会』ではなく、簡素な白いワンピース。
そして今現在、インデックスはその修道女の独特なペースを掴もうと悩んでいた。

オルソラ「数時間程暇な時間が続くのでございますね」

インデックス「たった数時間だから問題無いんだよ。ところで、貴方の名前は何ていうのかな?」

オルソラ「数時間とは長く感じられるものでございます」

インデックス「あ、あれ? えっと、聞こえなかったかも?」

オルソラ「私はオルソラ=アクィナスと申します。よろしくお願いするのでございます」

インデックス「私は『Index-Librorum-Prohibitorum(禁書目録)』、インデックスで良いんだよ!」

オルソラ「ちゃんと聞こえているのでございますよー」

インデックス「話が巻き戻ってるかも!?」

どうやらマイペースな修道女の名前はオルソラというらしい。
にこにこと柔らかな笑みを浮かべているため、会話ペースが掴めないというのに、苛立ちは湧かない。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/11(土) 15:23:39.90 ID:LehRQdtAO
+
52 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/11(土) 15:23:58.82 ID:gBt5qpR00



そんな和やかな空気で満たされている少女達とは違い。
『神の右席』は各々がピリピリとしていた。
自分本位なメンバーが多い以上、仕方の無い事ではあるのだが。
何故イギリス清教という異教徒を助けたのか、とテッラに微妙な反応を受けながらも、フィアンマは淡々と言葉を返すのみ。
戦力として引き込む為だとか、そんなことを。

丸っきり嘘なのだが。

かくして殺伐とした会議(という名のフィアンマ個人への糾弾時間)を終え、フィアンマは『奥』で考え事を始めた。
どうすれば大義名分を作り上げ、『救済』出来るか。
『幻想殺し』を持つあの少年は、今現在学園都市に居る。
ある程度の理由をこじつけなければ、あの少年から右腕を没収することは出来ない。
そもそもまだ聖別が済んでいない以上、どうにもならないのだが。
『禁書目録』の一部知識を得、『聖なる右』の回数制限の問題はどうにか片付いた。
後は大天使を降ろせる素体を見つけ、四大属性の歪みを正す。
その素体は後々探して見つければ良い。"その時"までにどうにかなるはずだ。
自分の幸運に絶対的な自信を持つフィアンマは、そう信じている。

ふと、時計を見やる。気付けば思考をしている間に昼を過ぎていた。
そろそろインデックスを迎えに行くべきだろうか、と思いつつ、フィアンマは大聖堂を出た。
向かう先はインデックスを預けたとある教会。穏やかな修道女が居た筈だ。


インデックスと修道女が居る筈の教会の中はところどころ壊れていた。
ボロボロになった修道女は、フィアンマを見上げ、咳き込みながらこう告げる。

インデックスが攫われた。

53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/11(土) 15:24:00.19 ID:LehRQdtAO
+
54 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/11(土) 15:24:19.90 ID:gBt5qpR00

インデックス「ぅ、ん……離、して…!」

アウレオルス「的然。離す訳にはいかない」

インデックスを攫ったのは、ローマ正教から離反した一人の錬金術師。
二年前、インデックスの教師役として魔道書を綴っていた彼は、優秀な魔術師でもある。
やって来たのは、イタリアのとある神学校。
ぼんやりとした表情で居たのは、長い黒髪の少女だった。

姫神「…お帰りなさい」

アウレオルス「勧然。戻った」

インデックス「あなた達は何が「『眠れ』」っ…」

気を失うように眠るインデックスを、机を並べた上に寝かせ、アウレオルスは一息ついた。
どうにか彼女を救いたい。その想いは、今日ここで報われる筈だ。



フィアンマは、どうしようか迷っていた。
彼女をわざわざ助けに行く理由は何処にも無い。
フィアンマにとってのメリットもあまりない。

フィアンマ「…まぁ、助けるメリットは無いが、助けに行かないデメリットも無い事だしな」

オルソラ「ツンデレさんなのでございますね」

フィアンマ「治療はどうした」

オルソラ「もうとっくのとうに終了でございます」

フィアンマ「そうか」
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/11(土) 15:24:20.88 ID:LehRQdtAO
+
56 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/11(土) 15:24:45.96 ID:gBt5qpR00

インデックスが次に目を覚ました時、そこはフィアンマの自宅の天井だった。
横たわっていたのは、ベッド。
見慣れてきた天井に、ほっとし、体の力を抜きながら、インデックスはフィアンマを見やる。
フィアンマは傷一つない状態で、静かに本を読んでいた。
魔道書の類ではなく、どうやら小説らしい。

フィアンマ「…、…目が覚めたか」

インデックス「えっと…あの人は?」

フィアンマ「あの人?」

インデックス「オールバックの…」

フィアンマ「あぁ、ヤツなら今頃それなりの処遇を受けているよ」

インデックス「…」

処遇、という不吉な言葉に、インデックスは閉口する。
自分のせいだ、と、攫った本人にさえも同情するインデックスの様子を眺め、フィアンマはぱたりと本を閉じる。

フィアンマ「別にお前のせいではない。ローマ正教を裏切ったせいだ」

インデックス「?」

フィアンマ「元々、離反した裏切り者だったんだ。世界を敵に回した魔術師、といったところか」

インデックス「……」

フィアンマ「お前のせいではない」

もう一度言い切り、フィアンマは立ち上がり、本を片付けた。

インデックス「…また、助けてくれたの?」

フィアンマ「そこまで大仰な事でもないと思うが」

インデックス「……、…どうして?」

フィアンマ「何の話だ」

のろのろと起き上がり、インデックスは問いかける。
自分の価値は理解している。『禁書目録』としての価値。
一度目、彼は猫が飼いたかったと言った。
つまりは、気まぐれで助けてくれたのだ。
しかし、今回…二度目まで、気まぐれとは思えない。
意識は無かったが、それでもうっすらと、誰かの言い争う声が聞こえた気がしたし、血の臭いもした。
つまりは、恐ろしい戦場だった訳で。
フィアンマがインデックスを助けなければならない義務は無い。
ましてや、彼女の立ち位置は居候。血の繋がった家族でもない。

インデックス「見捨てた方が、きっと楽だったんだよ」

フィアンマ「そうだな」

インデックス「…どうして、助けてくれたの?」

フィアンマ「…知る必要があるのか?」

聞き返し、フィアンマはインデックスに近づいた。
そしてベッドの空きスペースに腰掛け、隣に座ったインデックスを見やる。

インデックス「……知りたいもん」

フィアンマ「……>>58
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/11(土) 15:27:23.41 ID:LehRQdtAO
>>48
台詞:インデックス「ありがとぅるっ!」

を入れ忘れました。
再投稿すると見難くなるので、脳内改変をお願いいたします
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/11(土) 16:03:40.23 ID:yLJ+qNLSO
…自分のものが傷つけられるのが嫌だっただけ
59 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/11(土) 18:22:48.54 ID:LehRQdtAO

フィアンマ「………自分のものが傷つけられるのが、嫌だっただけだ」

淡々とした解答に、特別扱いのような素敵なものは感じられなかった。
加えて、自分のものだと言い切られた事には、羞恥と不服が込み上げる。

インデックス「…ありがとう。でも、私は物じゃないんだよ!」

フィアンマ「『禁書目録』が物品扱いでもおかしくはないだろう」

インデックス「私が魔道書図書館だから助けたって事なのかな?」

フィアンマ「仮にそうだとしたら、どうするんだ?」

フィアンマの発言に、インデックスは黙り込む。そうだとしても、感謝しなければいけない事には変わりないのだけれど。それでも、自分を普通の少女扱いしてくれているのではないかと、ほんの少し、インデックスは期待していた。

服は買ってくれた。
好きな物を着れば良いと。
髪留めをくれた。
上品で素敵なものを。

でも、本で言えば服はブックカバー。

でも、本で言えば髪留めは栞。

人間扱いでなくとも、贈り物は出来る。
彼は、自分を人間扱いしていないのでは。
どこまでいっても、自分は魔道書図書館(禁書目録)に過ぎないのではないか。
彼は一人の魔術師として、自分という魔道書図書館を手元に置いておきたいだけなのでは、ないだろうか。

インデックス「…どうもしないかも。ミハイルが私を助けてくれた事は、事実だもん」

フィアンマ「……」

インデックス「…お、おなかへった!」

にこ、と笑みながらの要求に、フィアンマは目を伏せながら立ち上がった。
そしてキッチンに一時消えた後、アイスを手に戻ってきた。
60 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/11(土) 18:23:49.67 ID:LehRQdtAO
スプーンとアイスを受け取り、インデックスはにこにことしながら食べ始める。

彼は悪くない。
悪いのは、多少思い上がっていた自分自身。

そう自分に言い聞かせ、はしゃいでみせながらインデックスはアイスを食べた。
フィアンマは元の座っていた場所、インデックスの隣に腰掛ける。

フィアンマ「……禁書目録」

インデックス「?」

フィアンマ「…簡単に攫われるな。取りに行くのが面倒だ」

インデックス「ぁ…つ、次からは気をつけるんだよ!」

フィアンマ「それから」

インデックス「何かな?」

フィアンマ「……、」

沈黙したフィアンマに、インデックスは不思議そうな顔をする。





フィアンマ「……出来る限りずっと、俺様の傍で笑って居てくれ。俺様は、お前の無垢で可愛らしい笑顔を愛している」

インデックス「」
61 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/11(土) 18:25:26.17 ID:LehRQdtAO


イタリア男性特有の、口説きのようなロマンチックな言い回しに。
パニック状態となったインデックスに数度べしべしとはたかれたフィアンマは、気にせず夕食を作っていた。

インデックス(とっ、特別な意味なんて無いんだよ! 無いったらっ)

ベッドでじたばたとしながら、インデックスは口ごもる。
どうしようもなく恥ずかしい。
不快ではない。
色々と勘違いさせるような言葉と笑顔にときめいただけ。
不快になる理由は無い。どうしてそんな言い方を、と思いつつ、インデックスは枕に顔をうずめる。

インデックス「〜〜っっ!」

インデックスがじたばたしている間に夕飯の支度を大体済ませたフィアンマは部屋へと戻り、枕に顔をうずめたきり、動かなくなった少女の様子に怪訝そうな表情を浮かべた。

フィアンマ「……先程から騒がしいとは思っていたが、何をしているんだ」

インデックス「>>63
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/11(土) 18:39:22.63 ID:yLJ+qNLSO
ほひょっ!?えーと、最近泳いでないから泳ぎの練習なんだよ!
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/11(土) 18:40:31.36 ID:BXCke0Z5o
ksk
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/11(土) 18:40:45.89 ID:yGNcV3oH0
うっちゃい!この朴念仁!
65 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/11(土) 23:39:57.23 ID:LehRQdtAO


インデックス「うっちゃい! この朴念仁!」

フィアンマ「朴念仁とはまた随分な言われ様だな」

インデックス「わっ、私だって女の子だもん、それなりに配慮して欲しいかも!」

フィアンマ「意味が分からんのだが。別に売女呼ばわりした訳でもあるまいし」

インデックス「罵倒じゃなくても問題ありなんだよっ!」

がばっ、と枕から顔を上げたインデックスの暴言に辟易しながら、フィアンマは肩を竦める。
子供と言い争うつもりはないのか、はたまた女性特有のヒステリーと感じているのか、反応は極めて薄い。

インデックス「み、ミハイルの言い方は」

フィアンマ「で、食事は何時するんだ。用意は出来ているが」

インデックス「…今食べる」

言葉を続けようとするインデックスに、そんなことより、と言葉を遮ったフィアンマは、ひとまず食べ物で不毛な議論に終止符を打つ事にした。

一日の流れは早い。
歳を取れば取る程にそう思う。
とはいってもフィアンマはそこまで高齢ではないが。
やはり幼児や少年の頃と比較すれば遥かに、過ぎていく時間は早く…ぼんやりと、外を眺めてどことない哀愁に浸った。
『神の右席』に座する彼は、有事の無い限りほとんど動かない。
まして、『計画』の為の『準備』は、もう放っておけばやがて完成する。
このような怠惰な毎日を重ねて日々を終えるのはつまらない。
しかし、何をしたいという欲求も、今のところは見当たらない訳で。

フィアンマ「……」

インデックス「…?」

夕食や入浴を終えて以降椅子に腰掛け、僅かに憂鬱そうな顔をしているフィアンマの様子を眺め、完全に落ち着きを取り戻したインデックスは首を傾げる。
しばらく考え込む様子を見せた後、フィアンマはインデックスを振り返った。

フィアンマ「禁書目録」

インデックス「何かな?」

フィアンマ「明日からしばらく暇なのだが、何かやりたい事はあるか?」

インデックス「うーん…」

ソファーで座ったまま、インデックスは考え込む。
彼女も彼女で、逃げるのに必死だったせいでやりたい事など考えてこなかった。
それでもどうにか彼の期待に応えようと考え込み。

インデックス「…>>67
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/11(土) 23:53:07.40 ID:yLJ+qNLSO
よし、スポーツ観戦行こう。んでボーリングやってでっかいプール行って泳いでカラオケ行って花火大会やらお祭り行ってディズニやユニバ行こう、後美味しい海鮮物や名物が食えるとこに行こう
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/12(日) 00:51:31.32 ID:i4cSMIvAO
遊園地に行きたいかも!
68 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/12(日) 10:18:48.65 ID:XjBVn8sn0

インデックス「…遊園地に行きたいかも!」

フィアンマ「遊園地か」

インデックス「ちょっと興味があるんだよ。ジェットコースターとか、カンランシャとか」

フィアンマ「その知識をどこで仕入れたのかさっぱり不明だが、良いだろう。…何処の遊園地に行きたい、という欲求は無いのか」

インデックス「そこまではそもそも詳しくないかも。どうせ行くなら大きいところがいいなっ」

インデックスの答えに、フィアンマは考えた後、もう一度聞き返した。
大きいところが良い。
一度も遊園地に行った記憶の無い彼女としては当たり前の欲求だろう。
フィアンマが真剣に考え込む様をどうとったのか、インデックスはおずおずと言い直した。

インデックス「でも、本当はどこでも良いかも。ミハイルと一緒に行けるならそれで良いんだよ」

フィアンマ「…ローマ近郊に確か最近出来た遊園地があったような気がするのだが」

顎下に手を宛てがい、優雅に思考する様子を見せた後、フィアンマはそう呟いた。
これまで毎年『計画』準備に追われてきた彼はあまり遊びに詳しくない。

フィアンマ「プールがある方と、そうでない方、どちらが良い?」

インデックス「うーん、プールは今度で良いかも」

フィアンマ「そうか。明後日までに一応調べてはおく。明日急いで行く必要も無いからな」

インデックス「うん」

楽しみ、と笑みを見せるインデックス。
記憶を消される事はもう無いのだから、彼女はこれから先、何を恐れる必要もなく、楽しい思い出を作る事が出来る。
普通の人間にとってはどうということもない事だが、それを許されてこなかった彼女にとっては、とてつもなく幸福な事だ。
フィアンマは立ち上がり、定位置になったかのように、ソファー上、インデックスの隣へと腰掛ける。
インデックスはふと、気になった事を尋ねてみる事にした。

インデックス「…ミハイルは、遊園地に行った事あるの?」

フィアンマ「一度だけある」

インデックス「お仕事? それとも普通に?」

フィアンマ「後者だよ。まだ子供だったからな」

懐かしんでいるように目を細め、フィアンマは淡々と答える。

インデックス「楽しかった?」

フィアンマ「あぁ、楽しかったよ。とても、…楽しかった」

穏やかな表情で答え、フィアンマは一度頷く。
インデックスはきらきらと目を輝かせながら問いかけを重ねた。

インデックス「乗り物とか、食べ物がいっぱいあるところなんだよね?」

フィアンマ「あぁ」

インデックス「ジェットコースターは身長制限があるっていうけどどうなのかな…」

フィアンマ「あれは最低限の目安だ。お前の身長であれば問題は無いだろう」

インデックス「だと嬉しいな」

鼻歌でも唄いかねない程に上機嫌なインデックスの様子を眺め、フィアンマは口元を和ませた。

インデックス「そういえば、その時は誰と行ったの?」

フィアンマ「父親だよ」

インデックス「お父さん…」

インデックスという少女に、両親の記憶は無い。
だから、その響きが少し羨ましいような、未知の言葉にも思えた。

インデックス「ミハイルのお父さんってどんなひ「もう寝るか」む」

問いかけを遮って、彼は立ち上がった。
特別気分を害した様子は見られないが、表情は硬い。
何かトラウマでもあるのだろうか、と予想したインデックスは、それ以上食い下がる事なく、眠る事に決めた。
今聞く必要は無い。もっと後で、いい。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/12(日) 10:18:53.04 ID:xfHUHZZAO
+
70 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/12(日) 10:19:31.12 ID:XjBVn8sn0

その日から明後日。
ローマ近郊の、巨大なテーマパークの一部である遊園地へと、二人はやって来た。
何も防御を施さない方がむしろバレない、という事でインデックスはフリルのフェミニンなスカートに白いレース襟ブラウス、運動靴にも近いローヒールの靴。
流石に仕事着で遊園地に行く気にはなれなかったフィアンマは、黒地に白縦ストライプの入ったシンプル(デザインは少々複雑だが)なシャツとズボン、革靴。
見るものすべてが物珍しいため、インデックスはきょろきょろとしている。
そのまま放っておくと危なっかしい為、フィアンマはしっかりと彼女の手を握っていた。
恥ずかしい、と言った彼女に対し、首輪をつけられるのとどちらが良いと今朝言い争ったというのは、余談である。
並んでまで乗りたい、という欲求はまったくもって無い二人は、ひとまず何に乗るか考えながら食事を摂っていた。
テーブルに積み上げられていく皿に歓喜する少女に、一体どれだけ食べるつもりなのだろうかと思いつつ、青年は少なめの食事を摂っている。

インデックス「美味しい!」

フィアンマ「そうか。良かったな」

インデックス「これもこれも美味しいんだよ」

フィアンマ「そうか」

素っ気ない返事だが、別に呆れている訳でも興味が無い訳でもない。
フィアンマとしては、見事な食べっぷりのため、見ていて気持ちが良い位だ。
自分が少食だから相手に沢山食べさせたがるのは何の精神病だったか、と思いつつ、フィアンマはインデックスにマップを見せる。
数秒見れば全て暗記してしまう彼女にとって、長い説明や、長く見せる時間は必要無い。
もごもごと口いっぱいにピザを頬張りながらもしっかりとマップを覚えたインデックスは、こくりと頷いた。

フィアンマ「混雑状況はどこもまちまち、といったところだな。食べ終わる頃には少々減っているだろう」

インデックス「んぐ、む…」

フィアンマ「俺様は特に希望が無い。だから、お前に任せる」

インデックス「むむ、んぅ」

フィアンマ「口の中の物を飲み込んでから言葉を発しろ」

品が無い、と眉を潜め、フィアンマは紙ナプキンでインデックスのやや汚れた口周りを拭う。
飲み物と共に口の中の食べ物を飲み込んだインデックスは、マップを思い返した。
インデックスの思考に合わせるように、フィアンマは問う。

フィアンマ「何か乗りたいものはあったか?」

インデックス「>>72
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/12(日) 10:43:49.32 ID:AeLht9XSO
ksk
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/12(日) 11:54:48.11 ID:WjfOpLC40
富士○を越えるジェットコースター
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/12(日) 17:48:49.24 ID:UO68zfSM0
フィアンマさん三半規管は丈夫なのかい
74 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/12(日) 20:57:12.14 ID:R6GbcMVH0
インデックス「かの有名なMt.FUJIを超えるジェットコースター、が良いかも」

フィアンマ「ジェットコースターか。来る前にも興味があると言っていたしな」

インデックス「見た様子、何だか楽しそうなんだよ。すごく叫び声が聞こえるけど」

フィアンマ「あれは恐怖よりも歓喜の色合いの強い悲鳴だから問題無い」

二人が座る席からそれぞれ見上げて話しているのは、その件のジェットコースター。
とてつもなく高い位置まで登っていき、下ると同時に壮絶な悲鳴が聞こえてくる。
ぐるぐる回る、などといったコースではなく、暴走した列車のように行ったり来たり。
マウント・富士すら超える高さを誇る直線コース(部分)は、下る瞬間に恐ろしい程のGがかかることだろう。
安全管理は万全のようで、掴む部分から二重のベルト(膝に一つ、腰元に一つ)まであるのだが、怖いものは怖い。
もぐもぐ、とデザートを攻略し始めたインデックスの様子を眺めつつ、フィアンマはやや面倒そうな声音で言った。

フィアンマ「…吐くなよ」

インデックス「吐かないんだよ! 失礼しちゃうかも!」

食休みを十分程とり、二人は目的のジェットコースター乗り場へとやってきた。
並ぶといっても一応人の流れを見てから来た為、そんなに混んではいない。
頭上からは、距離的関係により先程よりボリュームの増した悲鳴。
インデックスは怖気づいたのか、フィアンマと手を繋ぐどころかぎゅうう、と腕にしがみつく。
ううう、と涙目になるインデックスを見やり、フィアンマは首を傾げた。

フィアンマ「お前が乗りたいと言ったのだろう。しっかりしろ」

インデックス「だってさっきより怖く見えてきたんだよ…」

ジェットコースターというものは、遠くから見ていると楽しそうにしか見えない。
客が全員叫んでいても、そんなに大した事はないだろうと思ってしまうのだ。
しかし、こうして近づいてみると、コースターの走る轟音、悲鳴、何もかもが怖く見えてくる。
乗りたい乗りたいと騒いでいた子供が乗り場にて急に泣き出すのは、そういう理由である。

店員に通され、ベルトの安全確認を行い。
インデックスはもう既にだいぶ怖いのが、ガチガチになりながらも、左手で前のバー(握る用)を、右はフィアンマの左腕と腕を組んでいる。

インデックス「何でミハイルは怖くないの!?」

フィアンマ「そんなに怖がるようなものでも無いと思うが。安全確認も済んでいる事だし」

インデックス「うわあああん! やっぱり降りるー、降りるんだよー!」

フィアンマ「…もう遅い」
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/12(日) 20:57:15.12 ID:xfHUHZZAO
+
76 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/12(日) 20:57:23.96 ID:R6GbcMVH0

発車したコースターは、ガコガコと不気味な音を立てて登っている。
周囲の客は割とコースターマニアなのか、「楽しみ」だとか「高いねー」とかいう呑気な声が聞こえてきた。
インデックスはうるうると目にいっぱいの涙を溜めながら、右手でフィアンマの左手を握る。
緊張を表現しているかのように、ものすごい手汗をかいていた。
とはいえ少女のソレ、不快なものでもなく、依然長い間ガコガコと登るコースターの背に身体を預けながら、フィアンマはインデックスを見やった。
彼はジェットコースターに乗った経験がほぼ皆無であるものの、肝が完全に据わっている為、怖がる様子は無い。

インデックス「は、離さないでね」

フィアンマ「あぁ」

インデックス「絶対だよ? ぜ、絶対だからねっ?」

フィアンマ「そう心配せずとも、お前の手だけは離さん」

インデックス「ま、またキザな言い方ひっ、にゃあああああ!!!」

握り返し、ついでに恋人繋ぎ(=指が外れにくいよう)にしてやりながら、フィアンマがそう言ったところで。
インデックスの抗議途中から、コースターは頂点に達し、無慈悲にも恐ろしいスピードで下り始めたのだった。

インデックス「やだああああああ!!!」

フィアンマ「楽しいな。涼しい」

インデックス「そうじゃないんだよおおおおおお!!」

ほぼ垂直なので、他の客は叫び、或いはインデックスのように泣き、或いは楽しそうに笑い。
正味10分程で、コースターは元の場所へと戻って来た。
ベルトを外し、さて降りようとフィアンマはインデックスを見やったのだが。

インデックス「…こ、しが」

フィアンマ「…腰が、どうした」

インデックス「…抜けて…立てないん、だよ…う、ぅ…」

フィアンマ「………」

仕方がないので、一旦手を離し、彼は少女を姫抱きにして運ぶ事にしたのである。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/12(日) 20:57:34.90 ID:xfHUHZZAO
+
78 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/12(日) 20:58:10.31 ID:R6GbcMVH0

グロッキー状態のインデックスを日陰のベンチに座らせ、二人分の飲み物を買ってきたフィアンマは、のんびりとアイスレモンティーを飲んでいた。
インデックスはというと、フィアンマに買ってもらったアイスココアの入れ物を持ったまま、項垂れ、顔を赤くしていた。
別に暑い訳でも、日焼けをした訳でもない。
そう、いうなれば。

インデックス(…手、離さないでいて、くれたん、だよ…)

吊り橋効果によるときめきの最中だった。
彼女は吊り橋効果がどんなものか、ということを知らない。
ただ、どうしようもなくドキドキとして、どうにもフィアンマの顔を直視出来そうにない。
それしか、分からない。

インデックス「…あ、ありがとう。その、ココア」

フィアンマ「あぁ」

インデックス「んと、ええ、っと…」

フィアンマ「ん?」

インデックス「な、何でもないかも。気にしないで欲しいんだよ」

フィアンマ「そうか」

インデックス(『そう心配せずとも、お前の手だけは離さん』って、何だか、うん…えっと、頼もしかったんだよ…いつも頼もしいけどそれとは違うかも…)

インデックスが盛大に勘違いしているその台詞には、『約束をしたので手は離さない、バーはともかくとして』という意味程度しかないのだが。
考えれば考える程余計に意味を付け足してしまい、インデックスはそれらのごちゃまぜな感情を誤魔化すようにして、ココアをごきゅごきゅと飲んだ。
冷えた飲み物で、多少は調子がまともになったかもしれない。

フィアンマ「…体調はマシになったか?」

インデックス「ふぇ!? えっ、あっ、うん、もう大丈夫かもっ」

ぺた、と額に触れられ、びくりとしながらインデックスはフィアンマを見上げた。
顔がやや赤い状態で俯いている姿から、どうやら体調不良を読み取ったようだ。

フィアンマ「そうか、なら良い。次に乗りたい物は?」

インデックス「>>80
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/12(日) 21:41:18.02 ID:AeLht9XSO
フィアンマさんがイケメンすな。

コーヒーカップがいいかも!
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/08/12(日) 21:44:27.09 ID:M6QohYlPo
81 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/12(日) 22:40:34.59 ID:R6GbcMVH0

インデックス「コーヒーカップがいいかも!」

フィアンマの中にあるであろう自分は体調不良である、というイメージを振り払うべく、笑顔でインデックスはそう言う。
そうか、と相槌を打ったフィアンマはインデックスの髪を撫で、手にあった飲み物を飲み干してゴミをゴミ箱へと放った。
一度吊り橋効果で好意を思い込んでしまうとなかなか払拭出来ないインデックスは、自分の髪を撫でる手にドキドキとしながらもココアを飲み干し、ゴミを捨てるのだった。
飲んですぐコーヒーカップは酔う、と考え、飲み物を飲み終えてからまた五分程ゆっくりと休憩を取り。

今回はロクに人の流れを見ないで乗り場にやってきたものの、思っていたより混雑はしていなかった。
一度に沢山の客を乗せられる為に回転率が良いからか、はたまたフィアンマの『幸運』か。
十分もせずに案内された二人はカップへと乗り、インデックスは少し悩んだ後、勇気を出してフィアンマにくっついた。
別段、くっつかれたからといって彼から意識されるはずもなく。
ちょっと寂しいようなしかし恥ずかしさが減って良いような何ともいえない気分になりつつ、インデックスは真ん中の皿のような、棒のようなものを見る。
円型テーブルのような形をしたそれは、カップ自体を回せるものだ。

インデックス「ミハイル、これって何かな?」

フィアンマ「それを回すとカップが連動して回る」

インデックス「カップって、今私達が乗ってるコレ?」

フィアンマ「それ以外に何がある」

インデックス「ま、回しても良い?」

フィアンマ「好きなだけ回してくれて構わないが、吐くなよ。程ほどにしておけ」

インデックス「そ、そんなに回るものなの…?」

フィアンマ「…実際に回す。それが一番わかりやすい」

うーん、とインデックスが首を傾げている内に、緩やかにカップが回りだす。
どれだけ回るものなのか、途中で回るのが止められるものか、ロクな思考もしないまま、インデックスは思い切りグルグルと回しだした。
当然の事ながらカップはとてつもないスピードで回る。

フィアンマ「…酔いそうだ」

インデックス「でも楽しいかも!」

ぐるるんぐるん、と回したのはいいものの、段々と酔い始め。
インデックスが反省したからといって、勢いよく回りだした中央テーブルは遠心力によって勢いを保ち続ける。

インデックス「あううう、とめて欲しいん、だよー…」

フィアンマ「程々、という言葉の意味が理解出来ていなかったのか?」

ため息をつき、フィアンマは片手でテーブルの動きを徐々に緩めていった。
そんなに握力があるのか、と目を瞬かせるインデックス。
囁くように、フィアンマはインデックスの脳内の疑問に答える。

フィアンマ「…筋肉の力じゃない。右手に『天使の力』を込めているだけだ」

インデックス「なるほど、なんだよ」
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/12(日) 22:40:42.49 ID:xfHUHZZAO
+
83 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/12(日) 22:41:14.63 ID:R6GbcMVH0

コーヒーカップから降り、再びグロッキーとなっているインデックスを椅子に座らせ、フィアンマは適当に購入してきたジャンクフードの数々をテーブルに並べていく。
少し遅くなってしまったが、昼食だ。
ちなみに、毎食満腹になるまできちんと食べているからか、インデックスが空腹を訴えた事はほとんど無い。
グロッキーながらも食欲はあるのか、段々立ち直ってきたインデックスはいつも通りのペースで食事を開始した。

インデックス「んむ、おいひいものはべはら、げんひへへひはかも!」

フィアンマ「飲み込んでから言葉を発しろ」

インデックス「んぐっ、んっ、むむ」

フィアンマ「…楽しいか?」

インデックス「勿論、楽しいんだよ!」

フィアンマ「…そうか」

ぽんぽん、とインデックスの頭を優しく叩き、フィアンマは穏やかな笑みを見せた。
ほんの一瞬だけれど、彼の瞳の絶望の色が薄まったように、インデックスは感じた。

フィアンマ「お前が楽しいなら良い」

インデックス「ミハイルは楽しくないの?」

フィアンマ「つまらない、という訳ではない」

インデックス「…ミハイルはいつも否定形だね?」

フィアンマ「んー? 自覚は無かったな」

くすりと笑って、フィアンマはそう誤魔化した。
どことなく、彼の芯の部分に空虚さが窺えた。
突っ込もうと口を開いたインデックスだが、フィアンマにホットドッグを突っ込まれ渋々断念。
兎に餌やりしているような気持ちになりながら、フィアンマはホットドッグから手を離して問いかけた。

フィアンマ「で、次は何をしたいんだ」

インデックス「んぐ、ん…>>85
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/12(日) 22:49:15.56 ID:OxjjTt8h0
ksk
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/12(日) 23:00:06.65 ID:28iiGGc+o
メリーゴーランドに乗りたい!
86 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/13(月) 01:56:41.55 ID:s2TxUNEAO

インデックス「んぐ、ん…メリーゴーランドに乗りたい!」

フィアンマ「メリーゴーランド、か。すぐ乗れるだろうな。俺様は乗らずに見ている事にするよ」

インデックス「むぐっ、私一人で乗るの!?」

フィアンマ「流石にこの歳でメリーゴーランドの馬に跨る気は無いな」

インデックス「何歳なの?」

フィアンマ「何歳だろうな?」

質問に質問で返すのは良くない、とむくれるインデックスを適当に宥めつつ、フィアンマは昼食を勧めた。

食休みを取り、メリーゴーランドに乗るインデックスを低い柵越しに眺め、フィアンマは時折手を振り返してやる。
インデックスは年齢より幼く見える為、幼い子供達に紛れてメリーゴーランドの馬に跨っていても違和感が無い。
はしゃぐ妹を見守る兄、という構図で、フィアンマはインデックスを出口まで迎えに行った。

87 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/13(月) 01:57:36.72 ID:s2TxUNEAO

充分楽しめたのか、インデックスはフィアンマの手を上機嫌に握る。
人混みに呑まれないようルートを選んで歩き、フィアンマは何となしに問いかけた。

フィアンマ「楽しめたようだが、脚は痛めていないか」

インデックス「大丈夫、まだそんなに疲れてないかも」

休憩を挟み挟み行動しているため割と元気なインデックスはにこにことしながらそう答える。
ただ、自宅に帰るまでにその体力は無くなってしまうだろう。
所詮は華奢な少女、後一、二カ所を回れば体力は大幅に消費される。

フィアンマ「他に何か希望はあるか?」

インデックス「んっ、>>89

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/13(月) 02:01:41.04 ID:T2gNANgSO
えーと…できればあの生乳ソフトクリームが食べたいんだよ!

…あと、その、…今度からは一緒に帰る時は手を握って欲しいかも
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/08/13(月) 02:10:13.88 ID:KTYeNNSR0
葛飾区亀有公園前派出所に行きたい。
90 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/13(月) 02:39:48.87 ID:s2TxUNEAO
《ある程度の連投、連続取得は可能です。基準はありませんので、皆様方の良識にお任せいたします》




インデックス「んっ、葛飾区亀有公園前派出所に行きたいんだよ」

フィアンマ「このテーマパークの一部にあの作品の博物館の分館があったな。そこの事か?」

インデックス「うん。…あ、でも遊園地から外れちゃうかな…?」

フィアンマ「行けない事は無いが…少々遠いぞ?」


インデックス「うーん…やっぱり、今日はやめておこうかな」

フィアンマ「そうか」

インデックスはそう結論を出し、うんうんと悩む。
そして、思い出したようにフィアンマを見上げた。

インデックス「私の行きたい場所を聞いてくれるけど、ミハイルは本当に全然希望無いの?」

フィアンマ「……」

インデックスの問い掛けに、フィアンマは少しだけ考える素振りを見せた。
そして、インデックスの手をしっかりと握り直して答える。

フィアンマ「…観覧車」

インデックス「観覧車?」

フィアンマ「あれだよ」

フィアンマが指差したのは、午前中に乗ったジェットコースターのレールに囲まれているかのような大きな乗り物。
狭い等間隔に配置されたゴンドラは、強風の影響を受け、ほんのちょっぴりだけ揺れる。
今まで自分の行きたい場所に行ってくれ、食べたい物を好きに食べさせてくれた彼の希望を否定する理由はどこにもなく。インデックスは、こくんと頷いて共に向かうのだった。

91 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/13(月) 02:41:31.14 ID:s2TxUNEAO

ジェットコースターとは違い、高さはあれどゆっくりじわじわと進んでいく観覧車は、風景を落ち着いてよく見られる。
高い位置から見下ろした人々や地上のアトラクションは、まるでフィギュアのよう。
二人だけの密室で、じっとしたまま、インデックスはフィアンマと同じく風景を眺めていた。
インデックスの方は、どうにもフィアンマを男性であると強く意識してしまって落ち着かないが。
夕方の風景は、赤く美しい。

インデックス「…夕陽が落ちていくの、綺麗だね」

フィアンマ「夕方、夜明け前。明るくなりかける、はたまた暗くなりかける、その直前が最も綺麗だと思う」

インデックス「完全に陽が昇りきっても、綺麗な空だよ?」

フィアンマ「あくまでも比較の話だよ。空自体は基本的に好きだ」

ワザとそう設計されたのだろうか、観覧車の中は狭い。
思えば、乗っているのはカップルばかりだったような。

インデックスの目と鼻の先に、フィアンマの顔がある。
彼が言葉を放つと、吐息がほんの少し頬にかかった。
インデックスはほんの少し顔を赤くしつつどうにか意識しないよう、風景や地上の様子に視線を集中させた。

フィアンマ「…お前に出逢えて良かった」

インデックス「…え?」

フィアンマ「…何一つ犠牲にせず、お前を救えた事は…俺様の誇りだ」

インデックス「…、」


何か、宝物を抱えた少年のような声で、フィアンマはそう言った。

フィアンマ「……禁書目録」

インデックス「な、っに、かな?」

聖職者にも関わらず、得体の知れない色気を帯びた低い声で呼びかけられ、インデックスはやや上擦った声音で返事をした。
色気といっても、わざとらしさはなく、気持ち悪さは皆無。
見目の良さと相俟って響きは良く、ましてデフォルトでドキドキとしているインデックスの鼓動を速めるには、充分過ぎる声だった。

フィアンマ「…キスをしようか」

インデックス「>>93
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/13(月) 04:40:09.96 ID:T2gNANgSO
…そういう時は言わずにするものなんだよ…?
んっ…こんな風に。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/08/13(月) 04:40:39.25 ID:KTYeNNSR0
いいだろう。ただし私をデュエルで倒してからだ!
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/13(月) 05:33:56.68 ID:T2gNANgSO
埼玉はそろそろ空気読もうか?
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/13(月) 07:04:26.85 ID:YkdAhPk70
埼玉はIDに表れてる

KTY 空気てんで読めてない
96 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/13(月) 07:33:47.00 ID:s2TxUNEAO

インデックス「%@◆¢※▽§!? っっ、…い、いいだろう。ただし、私をデュエルで倒してからなんだよ!」

突然の申し出に対し、パニック状態でインデックスはそう返した。
羞恥と混乱を表すかのように、頬は紅潮し、瞳には涙が溜まっている。
そんなインデックスの様子を眺め、フィアンマはくすくすと楽しそうに笑ってみせた。

フィアンマ「…冗談だよ」

インデックス「…冗、談?」

フィアンマ「あぁ」

インデックス「ッッ…悪趣味かも!」

わざとらしく肩を竦めての冗談宣言にインデックスはむすくれ、ギラリと歯を覗かせた。
噛んでやる、という意思表示の表れ。
かといってフィアンマは動じず、むしろインデックスを追い詰めるかのように問い掛けた。

フィアンマ「…何だ、したかったのか?」

インデックス「そ、んな事…私は修道女見習い、だもん。そんなほいほい簡単に男性と口付けを交わすのは良くない事で…でも、あの、その、完全に嫌とか気持ち悪いとかそんなんじゃないかも、んっと」

フィアンマ「要領を得んな」

胸の前で人差し指同士をちょいちょいともじつかせながら、もごもごと謎の言い訳を並べ立てるインデックスの頬を突っつき、思考を中断させて、フィアンマは首を傾げる。

フィアンマ「そこまで望まれてしまっては仕方があるまい。目を閉じろ」

インデックス「ふぇ、う…」

やれやれ、といった調子のフィアンマに言われるがまま、緊張した面持ちで、インデックスはぎゅっと目を瞑った。
バクバクと高鳴る心臓を無理やりに抑えつけ、そわそわとしていたのだが。

係員「足元お気をつけくださーい」

フィアンマ「さて、降りるか」

インデックス「…ええっ!?」

先程の空気全て含め、これもまた『冗談』だった。

97 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/13(月) 07:35:13.74 ID:s2TxUNEAO

ふてくされるインデックスに食べ物や飲み物を買い与え、機嫌が良くなったところで二人は帰る事にした。
フィアンマ一人であれば一歩踏み出して直線上にどこまでも進める為にさっさと帰れるのだが、インデックスが居る為、交通機関を使う事に。
幸運にもバスはすぐ来た為、二人は並んで後ろの方の席へと座った。
インデックスは窓側に座り、しばらく耐えていたものの、楽しかったとはいえ遊園地を歩き回った疲れが出たのか、フィアンマの肩に頭をもたれて眠り始めた。
フィアンマもそれを咎めるでもなく、目的地(=自宅付近)に着くまで暇だな、と思うのみ。

インデックス「くぅ…すー…も…食べられないん…だよー…」

フィアンマ「…眠っている最中まで食べ物か」

暴食の罪に当たらないだろうか、と考えたフィアンマだが、魔道書図書館の維持にカロリーが使われている為に不可抗力なのだろう、とも同時に思う。

一○万三○○○冊の、魔道書。

対策を施さなければ、廃人どころかその者は死に至る。
絶対記憶能力という才能故に、苦しめられなければならない。

フィアンマ(…それだけの重荷を背負って尚、他人を思いやって微笑む事が出来るのだから…大したもんだ)

自分と似ているようで、確実に違う。
否、境遇は似ているが、彼女はそれでも諦める事をしない。
他人を第一に考え、明るく振る舞える。
優しい人格者。
修道女見習いだが、立派な聖女である事に間違いなかった。

インデックス「…大丈、夫…だよ…ミハイ、ル…」

フィアンマ「…」

インデックス「…いっしょ…むにゃ…」

フィアンマ「…ずっと、こうしていられれば良いのだが」

絶対に叶わないと知っていて、フィアンマは、『右方のフィアンマ』ではなく『ミハイル=フェリーチ』として、そうぼやいた。
優しさをくれた彼女の為にも、過去救えなかった少年の為にも、自分自身の罪悪感を払拭する為にも、世界を救わなければならない。
その為には、自分個人の幸福など、捨て去ってしまわなければ。
どうせ、世界を救った暁には全部全部忘れてしまう。
神上という存在の誕生、新しい時代の到来と共に、自分という個人は死ぬ。

フィアンマ(…忘れたく、ない)

自分個人の幸福など、捨て去ってしまわなければ。

98 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/13(月) 07:36:08.74 ID:s2TxUNEAO

バスを降り、二人は自宅へ帰ってきた。
インデックスは眠っている為、フィアンマは起こさないよう姫抱きで運んできた。
依然起きる様子の見えない彼女をベッドに横たわらせ、靴を脱がせる。
そして華奢な身体にタオルケットをかけ、そっと離れた。
じきに空腹で目を覚ます事だろう。

フィアンマ「…おやすみ」

フィアンマにもらって以来基本的に身に着けている、髪留め。
自分の想いごと大切にされているかのような心地よさに、フィアンマは柔らかな微笑みを浮かべた。

99 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/13(月) 07:39:35.58 ID:s2TxUNEAO

二人が遊園地に行った翌々日。
フィアンマの自宅前で、神裂火織は思い悩んでいた。
インデックスを救ってくれた、加えて自分の心も救ってくれた事に対する恩返しに来たのは良いものの、一体何をすれば良いのか。
彼は強い。
自分が協力するまでもなく。
ローマ正教二○億の頂点に立っているだけの完璧な実力は持ち合わせている。

神裂(…と、兎にも角にも、希望を聞いてみましょう)

そう考えを纏め、神裂はドアをノックしかけ。
その手をぴたり、と止めた。

インデックス『ミハイルの、意地悪…そこはダメって言ったのに…』

フィアンマ『お前がシたいと言い出したのだろう? 俺様が強くヤりたいと願った訳ではない』


インデックス『だ、だって…』

フィアンマ『楽しいな。気持ちが良い』

インデックス『あぁっ!』

何やら卑猥な雰囲気を感じ取った。
この短期間で恋人に?
いやいや、彼は聖職者、インデックスは修道女見習い、そんな筈が…大体、年齢差だって。
いやしかし。
思考の泥沼にハマる内、神裂はどんどんと嫌な考えにシフトしていく。
恋人ではなく、インデックスが"いいように遊ばれている"だけでは。
聖職者だからといって、皆が皆自分の欲を消し去れている訳ではないのだから、そういった過ちだって…あり得る。
神裂は唇を噛み締め、どうにか勇気を振り絞り、ノックをした。

数秒経過し、フィアンマが出て来た。
衣服に乱れは無いが、もしかすると下衣を寛げて一方的に奉仕させていたのかもしれない。
その手の知識が極端に薄いながらも、むしろだからこそ、想像は深まっていく。
思い込みを加速させていく乙女、神裂火織18歳。
恩人に対していけない、とは思いつつも、疑いの言葉をかけざるを得なかった。

神裂「>>101

100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/13(月) 07:50:05.39 ID:IL+RFqIPo
ksk
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/13(月) 07:55:14.89 ID:/vf7/X610
なんだか卑猥な会話が聞こえてきましたが一体ナニを?
102 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/13(月) 08:11:36.97 ID:s2TxUNEAO

神裂「なんだか卑猥な会話が聞こえてきましたが…一体ナニを?」

フィアンマ「卑猥?」

インデックス「あ、かおり。お久しぶりなんだよ!」

ひょこ、とフィアンマの背後からインデックスが顔を覗かせた。
神裂の事は自分を追う魔術師ではなく元親友だと聞いてから、インデックスの態度は柔らかい。
彼女の衣服にもまた、一切の乱れは見られなかった。

フィアンマ「…あぁ、もしかしてあれについての会話か」

神裂「あれ?」

フィアンマ「まぁ、入れ」

促されるまま、神裂はお邪魔しますと慎み深く一言述べてから後ろ手でドアと鍵を閉め、室内に足を踏み入れた。
テーブル上には紙と鉛筆、2つの椅子がくっつけるようにして置いてあり。
紙には6つのマスと○、×の記号が散らされていた。
紙は何枚かあり、いずれも×の圧勝。
単純な○×ゲーム。
囲碁でいう五目並べの簡易版。
そんなゲーム用紙を眺め、自分の見事な勘違いに気が付いた神裂は、顔を真っ赤にしながら焦って頭を下げた。

神裂「も、申し訳ありません…!」

フィアンマ「いや、構わんよ。勘違いは誰にでもある事だからな」

インデックス「何の話?」

フィアンマ「気にするな」

神裂の名誉の為にそうすっぱり言い切って話を終わらせ、フィアンマは神裂の様子を眺める。
神裂はおずおずと頭を上げ、僅かに見上げる形で視線を合わせた。

フィアンマ「そういえば、何の用だ?」

神裂「僭越ながら、恩返しをしたいと考えまして…」

フィアンマ「不要だ」

無欲且つ欲しい物は自分で手に入れる主義であるフィアンマは、早々他人を助けない代わりに、助けた見返りも一切求めない。
満たされているのだから、余計な物は必要ないのだ。

神裂「しかし、その…そういう訳にはいきません。何か、私に出来るような事はありませんか」


フィアンマ「…>>104

103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/13(月) 08:37:33.38 ID:BaU1SM+r0
じゃ、もう俺様の前に現れるな・・・・以上
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/13(月) 08:42:14.00 ID:WihisKak0
禁書目録に満漢全席を食わせてやれ
105 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/14(火) 15:56:55.37 ID:Ir6NpvpN0

フィアンマ「…禁書目録に満漢全席を食わせてやれ」

何も欲しくない、と言っても神裂は食い下がるだろう。
そう考えたフィアンマは、無茶振りをした後、キッチンの方を指差した。

神裂「満漢全席、ですか」

フィアンマ「材料なら冷蔵庫と冷凍庫に入っている。…とはいえ、一人でやれとは言わん。手伝え」

丁度時刻は昼時一時間前。
今から作れば、昼頃に沢山の料理が出来上がる事だろう。
神裂はこくりと頷き、中華料理のレシピを何とか思い返しながら、キッチンへと移動した。
インデックスは少し手伝いたいと思ったものの流石に三人キッチンに入ると狭苦しい為に断念。

一人で作るよりは、二人で作った方が、料理というものは楽だ。
何故なら調理というものは単純作業の繰り返しになりがちだからである。
例に漏れず、フィアンマも今日に関しては楽だった。
満漢全席というのはあくまで例えで、沢山の中華料理を作るだけ。
なので、野菜の皮を剥く、火加減の調節をする、程度の手伝いで充分だったのだが、神裂は一生懸命に手伝ってくれている。

フィアンマ「…お前も一応は修道女の類に入るのかもしれないが、嫁に向いていそうだな。いや、少女という点を鑑みれば今はまだ花嫁修業の時期か」

神裂「そうでしょうか」

丁寧に野菜を洗い、ぴたっと手を止め、神裂は水の溜まった桶の中に思わず野菜を取り落とした。

神裂「しょ!?」

フィアンマ「…何だ?」

神裂「…今、後半は何と…?」

フィアンマ「…少女という点を鑑みれば、今はまだ花嫁修業の時期か、と。そう言っただけだが」

神裂「ふ、ふふ…そう、ですか…ふふ…」

周囲からリーダーとして頼られ、魔術師として大人扱いされ、はたまた『聖人』として化物扱いされてきた神裂火織という女性は、フィアンマの言葉と評価にときめいていた。
初めて言われたのだ。少女、などという評価は、初めて受けた。
性格の落ち着きと発達の良さ、長身及びスタイルの良さから成熟した女性という扱いばかり受けてきた彼女。
彼女自身はそれで良いと諦めていたものの、心の奥底では少女扱いをされたいと思っている面はあった。
ふふふ、と幸せそうな笑みを浮かべながら調理を続ける神裂の様子を訝しがりつつも、フィアンマが気にせずに作業を続けた。

そんな二人の様子を見、ぐぬぬ、とインデックスは歯噛みしていた。
フィアンマは女性からの評価などどうでも良いと思っている人間、だというのは読み取れる。
しかし、意識しない状態で相手に最良の言葉を発し、口説いている。少なくとも、インデックスにはそうとしか見えなかった。
むむむむ、と頬を膨らませるインデックス。
神裂はというと、ときめきが好意(別に恋ではない)に転化したらしく、元々恩人相手というのもあり、フィアンマからハサミを手渡され手が触れ合った瞬間のみで照れてみせた。

フィアンマ「…何だ」

むぐぐ、とむすくれているインデックスから放たれているオーラに気がついたのか、フィアンマが振り返る。
オーラだけでなく歯ぎしりの音が聞こえた、という理由もあるが。
神裂をさりげなく口説いているのが気に入らない、と言ったところで、彼は困惑するだけだろう。

インデックス「>>107
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 16:08:54.43 ID:5AGx90qSO
かんざきさんじゅうはっさいだかもんなぁksk
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/14(火) 16:46:19.90 ID:dJLg5IhX0
えーっと…えーっと…う、二股までならOK!(浮気はだめ!)
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 19:43:21.33 ID:5AGx90qSO
>>1の書き方からして、真面目さ、誠実さ、まともさを含んだ安価だったら書きやすいのかね?前に比べてスピードダウンしてきてるし…
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/14(火) 22:21:07.22 ID:GNckX46AO

どう見ても物理的に有り得ない安価内容である限り書けますが…投下スピードが落ちてるのは、>>1がスランプになりそうだからです。
安価スレを始めておいて申し訳ありません…。
いや、ちゃんと最後まで頑張ります。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 23:12:23.57 ID:5AGx90qSO
マジか…そうゆう時はちょっと離れて気分転換してみるんだ!散歩したり何か美味いもん食いにいったり友達と会ったりするんだ!!
111 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/15(水) 00:44:43.52 ID:kG+JhrzV0
>>110様 気分転換してきました。右方目録、両者共浴衣が似合いそうですね》




インデックス「えーっと…えーっと…う、二股までならOK!」

インデックス(浮気はだめなんだから!)

ぷく、と少女らしく、可愛らしく頬を膨らませ。
表向きは何とか懐の広い正妻アピールのような文句。
しかし、内心は嫉妬というか、可愛い言い方をすればやきもちでいっぱいだった。
兄を取られたような、とでも説明がつくし、或いは彼氏を盗られた女性のような気持ちでもある。
神裂以上にフィアンマに対し恩義を感じており、加えて遊園地に行った時の思い出から淡い恋心のようなものを抱いているからこその、複雑な感情。
フィアンマとしてはインデックスは恋人ではなく、神裂を何とも思っていないため、意味が分からないばかりであり。

フィアンマ「…言っている意味が、分からんのだが」

インデックス「だ、だから…うー…」

インデックスの言わんとしている事を察したのか、振り返った神裂は焦り顔で発言した。

神裂「別段、彼にそういった好意を抱いている訳ではありません。安心してください」

インデックス「…本当だね?」

じとー、という、インデックスから神裂に向かって放たれる粘っこい視線を制すように、フィアンマは、つい、と右手を出した。
別に『黙らないと聖なる右を使うぞ』などといった、脅迫という訳ではない。
手招きだ。

フィアンマ「何を拗ねているのかは知らんが、そんなにもこちらの状況が気になるというのなら手伝え」

インデックス「…うん」

基本的に誰に対しても素直なインデックスだが、彼に対してはその傾向が顕著だ。
フィアンマに噛み付いて八つ当たりをしたところで怒らせるのが関の山。
フィアンマ本人は歪みがありこそすれ穏やかな方だが、その怒りは神のソレにも等しい。
その気になれば惑星さえ指先一つで消しされる程の破壊力を秘める『奇跡』。
インデックスがそこまで考えた上で彼を怒らせないようにしているかというと、決してそんな訳ではないが。

神裂が火加減を調節する作業、フィアンマは切る作業を、インデックスが野菜を洗ってまな板に置く作業。
能力に応じた三者三様の働きの結果、昼時には大量の食事が出来上がった。
神裂と協力して調理をしている内に先程の『やきもち』は晴れ、誤解も解けた為、雰囲気は非常に和やかである。

インデックス「かおり、お塩取って欲しいかも」

神裂「はい、どうぞ」
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/15(水) 00:44:50.93 ID:/4VkfP8AO
+
113 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/15(水) 00:45:54.22 ID:kG+JhrzV0

元親友ということもあり(神裂にとっては今もそうだが)、一つ一つのやり取りはのんびりと仲が良く見える。
また親友に戻れそうなものだが、と思いつつフィアンマは一足先に食事を終えた。
三人の中で最も食べる量が少ない為、最も早く食事が終わるのも当然の事。
だからといって席を立つ程の急用は無い為、フィアンマは見つめるでもなしに二人の食事風景を眺めた。

インデックスは天真爛漫さを表すかのようにもぐもぐと口いっぱいに頬張っては幸せそうに感想を言い。
神裂火織は生真面目さを表すかのように楚々と少しずつ食べ、インデックスの声に目を細めて微笑む。

まるで母娘、はたまた姉妹のように和やかな風景。
人間同士のやり取りで気持ちが解されるのも珍しい、と思いながら、フィアンマは二人の様子を眺めた。

インデックス「美味しいんだよー、ほっぺた落ちそうかも!」

『おいしい! おにいさん、これほんとにいいの?』
『あぁ、全部食べて良いぞ』

神裂「口の端についていますよ」

『けが、もうなおった…おにいさん、まほうつかいなの?』
『あぁ、そうだよ。俺様は魔法使いだ』

インデックス「おかわりーっ!」

『まほうつかいなら、おれをたすけてよ。もういやだよ、どうしておればっかり、』
『…今の俺様では、役不足だ。すまないな、…すまない』

神裂「注いできます。器はこれで良いですか?」

『……じゃあ、いじめのないせかい、つくってね。いつか…やくそくだよ』
『約束する。もう二度と誰も不幸を嘆かない世界を創ってやる』

インデックス「うん、お願いするんだよ」

『まほうつかいのおにいさんがやくそくまもるときまでに、おれはひーろーになってるかなぁ』
『きっと、成っているよ。俺様にはなれないから…お前は頑張ってくれ。誰から疫病神と言われても、どんな目に遭っても、胸を張って生きていろ。生きてさえいれば、必ず誰かがお前を笑顔にさせてくれる。素敵な出来事がある。幸せになれる』
『うーん、おにいさんがいうならそんなきがしてきた』

(綺麗事だ、俺様はあの子供を傷つけて世界を救う)

インデックス「ありがとう、かおり」

神裂「いえいえ、どういたしまして。…、…どうかしましたか? 顔色が優れないようですが」

フィアンマ「……、…あぁ、問題無い」

純真無垢な笑顔と、優しく見守る笑顔。
そんな様子を見ていたら、余計なことまで思い出し、回想してしまった。
フィアンマは緩く首を横に振る。

フィアンマ「少し、疲れが残っているだけだよ。片付けは任せた」

神裂「はい、わかりました」
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/15(水) 00:45:55.84 ID:/4VkfP8AO
+
115 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/15(水) 00:46:30.48 ID:kG+JhrzV0

食事と片付けの後。
フィアンマは机に肘をつき、額に手をあてがってぼんやりと考え込んでいた。
少年との約束を思い返す度に、胸が痛む。

まるであの時善意を差し出したのが、布石のようになってしまった。
別に、あの子が『幻想殺し』を宿していると判断して、優しくした訳じゃない。
気まぐれではあったが、あの時の自分は、純粋に救いたいと思ったのだ。
救えなかったけれど。
思ったんだ。救いたいと。
自分は、ああして独りで泣いていても、誰にも優しくしてもらえなかったから。
あの子はまだ生きている。学園都市に居る。
右手を回収し、『聖なる右』に取り込んだ上で出力装置として用いる。
それ以外に世界を救う手立てが思い浮かばないのだから、仕方がない。
今頃、ヒーローになると言ったあの子は、元気なのだろうか。


深刻そうな面持ち、雰囲気で沈黙しているフィアンマの後ろ姿を見つめ、インデックスは神裂と隣り合ってソファーに腰掛けた状態で心配そうな表情を浮かべていた。
自分たちが食事をしている風景を眺めて、何やらあのような状態になったような気もする。
自分たちのせいかといえばそうではないのかもしれないが、何かを思い出したのだろうか。

インデックス「…かおり」

神裂「何ですか…?」

神裂も心配しているのか、表情は暗い。
うーん、とインデックスは小さく唸った後、神裂に相談を持ちかけた。

インデックス「人を元気付けるのに、名案ってある…?」

神裂「人それぞれですから、難しいですね…>>117はどうでしょうか」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/15(水) 01:58:06.52 ID:pAPsGuHSO
kskじゃkskじゃわっしょいわっしょい
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/15(水) 03:27:27.21 ID:pAPsGuHSO
悩みや話を聞いてあげるとか
118 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/18(土) 16:57:59.21 ID:/L4nrJN/0

神裂「人それぞれですから、難しいですね…悩みや話を聞いてあげる、などはどうでしょうか」

インデックス「うん…」

インデックスはじっとフィアンマを見つめ、どう言葉をかけるか悩む。
神裂は少し考えた後立ち上がり、フィアンマに声をかけた。

神裂「それでは、そろそろお暇させていただきます。お食事を振舞っていただき、ありがとうございました」

フィアンマ「ん? あぁ」

フィアンマは立ち上がり、神裂達の方を振り返って頷いた。
神裂は深く一礼すると静かに家から出ていく。
彼はそんな神裂を視線で見送った後、そっと鍵を閉めた。
再び表情に憂鬱の色が混ざる。
インデックスも立ち上がり、てくてくとフィアンマに近寄った。
良い台詞は浮かばなかったけれど、どうにか悩みを聞いてあげれば、少しは気持ちが楽になるかもしれない。
まどろこっしい言い方よりは素直に聞いた方が良いだろう、と判断し、インデックスは口を開く。

インデックス「ミハイル、悩み事…あるの?」

フィアンマ「特には無いな」

インデックス「…、ミハイル…」

やるべき時期に、やるべき事をするだけ。
たったそれだけのことなのだから、悩みというには及ばない。
それだけの事案に対してこうも憂鬱になっているフィアンマ自身の心の問題だ。
故に、嘘を混じらせる事なくそう言い切ると、フィアンマはインデックスから離れて、自室に消えた。

誰かに理解してもらおうとは思わない。
誰にも理解してもらおうとは思わない。
蔑むならそうすればいい。
嘲笑うならそうすればいい。

例え他人からどのような評価を受けようとも、構わない。
自分は救世主となるべくこの世に生を受け、免罪符として働き、人間としての生を終える。
ただそれだけでいい。
どのみち、自分にはこれ以上大切なものなんてどこにもない。

フィアンマ「…どこにも、ないんだ」

持ってはいけないから。
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/18(土) 16:58:00.84 ID:EIDZrt7AO
+
120 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/18(土) 16:58:55.84 ID:/L4nrJN/0

学生でいえば夏休みの終わる頃。
フィアンマはインデックスに強請られるまま、水族館へとやってきていた。

インデックス「茹でると真っ白になるのに透明って不思議だね」

フィアンマ「生物を見る度に食欲と直結させるな」

優雅に泳ぐイカをじーっと見つめ、インデックスはきらきらと目を輝かせる。
別に幸福だという訳ではなく。
これまでのエピソード記憶を喪ってきている彼女は見目よりも内面が幼い。
誰かと過ごした事、優しくされた事、全て忘れてしまっているのだから、当然の事なのだが。
きょろきょろと辺りを眺め、騒がしくない程度にはしゃぐ彼女の姿はまるで幼児のように微笑ましい。

インデックス「…か、…蟹…」

フィアンマ「………」

土の中からひょこりと顔を覗かせた小さい蟹に対してヨダレを垂らしかねないインデックスの額に軽くデコピンを食らわせるフィアンマ。
むむむ、と頬を膨らませるインデックスの様子に、フィアンマは肩を竦ませるのみ。
昨日これと同じような流れがあり、インデックスに噛まれた彼は涼しい顔をしていた。
恐ろしきは、人間味の切り離し。

フィアンマ「…で、腹は空いていないのか」

インデックス「まだ大丈夫かも」

フィアンマ「そうか」

インデックス「あ、でもおやつ食べたいなっ」

フィアンマ「…この時間に間食か。まぁ構わんが」

インデックス「うん。>>122が食べたいんだよ」
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/18(土) 17:08:45.57 ID:PwHrIHPB0
加速
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/18(土) 17:08:57.21 ID:9FRgCTqDo
スイートポテト
123 :小ネタ ◆2/3UkhVg4u1D [sage saga]:2012/08/18(土) 23:29:38.46 ID:EIDZrt7AO
《ほん怖見てました》



学生で言えば夏休み半ばの頃。
インデックスが強い興味を示した為、フィアンマはテレビを購入した。
DVD再生機能付のソレを購入した為、近場のDVD店からホラー(怖い話の再現ドラマ集)を借り、自宅で再生していたのだが。

インデックス「あ、ぅ…あぁ…」

じわじわ、と丸い瞳に大量の涙を浮かべたインデックスは、フィアンマの左腕にしがみつきながらもテレビを見つめている。
ホラーの質の高さを誇る日本のソレを借りたのだが、恐怖の根源が見えない和風ホラー特有の粘ついた恐ろしさにがたがたとインデックスは震えた。
対してフィアンマは驚くでも無く暇そうにテレビ画面を眺め。

インデックス「み、ミハイル、ミハイル」

フィアンマ「ん?」

インデックス「う…う…うううー!」

ちらりと見やったテレビ画面に現れた女の恐ろしい笑顔に耐えきれ無かったのか、インデックスは泣き出しながらフィアンマに抱きついた。

インデックス「こ、怖いんだよ…ひくっ、」

フィアンマ「ホラーなのだから、怖いのは当たり前だろう」

インデックス「う、ふぇ…こわ、怖い…」

丁度DVDが終了し、テレビを消すと、当然の事ながら部屋は静寂に包まれた。
響くのは少女の泣き声のみ。
別に可愛さアピールではなく本気の恐怖から来る涙。

フィアンマ「禁書目録」

インデックス「な、っぐす、なに、かな」

フィアンマ「…幽霊程度なら、俺様が祓ってやる。だから泣くな」

インデックス「……、うわぁああああん!」

フィアンマ「…より一層泣くというのはどういう事だ」

安堵によって増した涙に、青年は困惑するばかりだった。


124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 00:19:01.97 ID:SjkooNeSO
可愛いですなぁ…他のSSだと大抵インさんの扱いがアレだから>>1のインちゃんをしっかり書いてくれるのはありがてぇ
125 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/19(日) 12:44:04.58 ID:GMGBCJPh0

インデックス「うん。スイートポテトが食べたいんだよ」

フィアンマ「そうか」

基本的に彼女の希望する物を食べさせる事にしているフィアンマは、特に言葉を返すでもなく相槌を打ってインデックスの手を引く。
水族館を出て少し歩くと、カフェに到着する。
店員に案内されるまま、手を離し、向かい合って着席すると、インデックスは機嫌よくメニューを開いた。
フィアンマは微塵たりとも空腹を感じていない為、インデックスの様子を眺めるのみ。
ちょうど、大量の食事を猫が平らげる様を眺めて和むのに似ている。

インデックス「何にしようかなー…スイートポテトと…」

フィアンマ「何を食べても構わんが、ケーキばかり食べるのは勧めん」

インデックス「ちゃんとバランスを考えて注文してるから大丈夫かも」

何のバランスを取っているのかはさっぱり不明だが、彼女は彼女なりに自分の中のルールに従って注文しているらしい。
別段沢山注文されたからといって金に困る訳でもないフィアンマは暇そうにインデックスの様子を見つめ。
今日、インデックスは『歩く教会』を着用している。
何かあったという訳ではないのだが、何となく、そこはかとなく嫌な予感がしたから着せたのだ。
フィアンマも今日に限っては神父服ではないものの強固な防御術式を張った服を着用している。
虫の知らせというか、妙な胸騒ぎというか、何とも言えない嫌な予感がする。
フィアンマはこの類まれなる直感と『幸運』で何かと回避してきた。それ故に周囲の人間は死んだり傷ついたりしたが。
インデックスはそんな予感は感じ取っていないのか、呑気に注文を開始した。

インデックス「これとこれと、後これと…」

フィアンマ「…後アイスミルクティーを一つ」

店員「かしこまりました」

・・・・
女性店員は和やかに、のんびりとした調子で注文を受けていく。
一応確認良いですか、という言葉の後、注文内容がのんびりと繰り返されていく。
カフェが混み合っていない為、店員も殺気立つ事無く大量注文を受ける。

・・・・
男性店員の注文内容の復唱に笑顔で頷いたインデックス。
男性店員はそのまま和やかに厨房の方へと引っ込んでいった。
『歩く教会』で術式の影響を免れたインデックスと、『十字堅牢』(小さな教会レベル)の防御により術式の影響を免れたフィアンマは店員の変貌に違和感を生じたのだが。
他の数人の客もがらりと見た目が変化したにも関わらず、全く不思議そうな様子は見えない。
インデックスには何ら影響を及ぼさなかったものの、フィアンマの視界には多少なりとも支障が出た。
大体十分に一回程度、入れ替わる前の人間に見えるのだ。錯覚程度で済むが。
この大規模術式に名を付けるとしたら、『御使堕し』だろう。
何しろ、天使が肉の器を捜し、世界中で体の椅子取りゲームがなされているのだから。

フィアンマは世界中で起きている事の目星を付けつつ、戸惑うインデックスに、運ばれてきた食事を勧めた。

インデックス「…何が起こってるのかな…」

フィアンマ「さて、何だろうな」

そう心配しなくとも、望もうとも望まざろうとも、立場的に考慮して、彼の元に報告は届くだろう。
どこの誰が術式を展開させたのかは知らないが。
『右方のフィアンマ』がわざわざ動くまでもない事態だろうとも、彼自身思う。
不安げな表情を浮かべる少女の頭を撫で、彼は食事を済ませるよう、ただ呑気に促すのみだった。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/19(日) 12:44:06.22 ID:1oZWwCVAO
+
127 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/19(日) 12:44:42.22 ID:GMGBCJPh0

ティータイムを済ませた二人は一時的に帰宅し。
フィアンマは一応仕事をしておくか、とインデックスを残して聖ピエトロ大聖堂へと向かった。
インデックスは一人『歩く教会』をしっかり身に纏ったままフィアンマの自宅で待機。

インデックス(多分大規模術式が展開されたんだとは思うけど…)

一○万三○○○冊の魔道書の知識を持って、解析をするインデックス。
世界規模、というところに恐ろしさを覚えた。

インデックス(大魔術…うーん。無理やり天使を降ろしたのかな。儀式上は何処だろう…)

フィアンマの『嫌な予感』が的中した事に驚きつつも、インデックスはしばし解析を続けた。
天使を降ろす等という事案であった場合、座に戻ろうとした天使が恐ろしい事をするだろう。
たとえば、地震、洪水、落雷…考えたくもない災害の数々。

インデックス(でも、ミハイルが無事で良かったかも。後は災害が起きませんように…お祈りしよう…)




所変わって、聖ピエトロ大聖堂。
もしもの事態に備え、またはそれを想定するため、『神の右席』にて会議が開かれていた。
とはいっても、フィアンマ以外の人間は影響を受けている。
唯一ローマ教皇、及びその周辺の書記等に限っては聖ピエトロ大聖堂に居た為、無事だったものの。
他の『神の右席』メンバーは外に出ていたのだから、仕方がない。
仕方がないとは、思ったものの。





※全部外見のみ。禁書キャラ名でお願いします


ヴェントと入れ替わった人物>>+2

アックアと入れ替わった人物>>+3

テッラと入れ替わった人物>>+4
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 12:55:52.44 ID:JMDqCShho
ksk
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 12:56:17.82 ID:5a1GK2/6o
垣根
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/19(日) 12:58:49.66 ID:hLHkQ9aV0
佐天さん
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 12:59:05.69 ID:5a1GK2/6o
博士
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 12:59:10.43 ID:JMDqCShho
アンジェレネ
133 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/21(火) 22:22:56.43 ID:tMxrR48f0

あまりにもシュールな光景が、フィアンマの前に提示されていた。
中性ヨーロッパの女性のような黄色を基調とした前方のヴェントの装束を身にまとうのは、どこかホスト風の、チンピラのような、東洋人の少年。
ゴルフウェアにも見える青を基調とした後方のアックアの装束を纏い、静かに座しているのは、髪の長い東洋人の少女。
襟が特徴的な緑を基調とした左方のテッラの装束を身に纏っているのは、さっぱり見覚えの無い東洋人の男性。理知的な顔立ちだが。
少年はちらりとフィアンマを見やり、顎で席の方をしゃくる。

垣根「…それで? 私には一切知覚出来ないけど、何か変化は起きているんでしょう?」

博士「名付けるのであれば『御使堕し』ですかねー」

佐天「…儀式場を見つけるべく、既に幾つか部署が動いているようである」

フィアンマ「…この件については下に任せていた方が良いと思うのだが。異論はあるか?」

時折一瞬元の姿に見えるものの、やはりシュール過ぎる。
しかしそこで吹かないどころか表情に一切出さないのは、流石暗部に所属している人間だというべきか。
余談だが、この場に居る肉体の内フィアンマを除いても二人は暗部所属である。規模が違うが。

佐天「確かに、我々が直接動く問題でも無さそうですねー」

フィアンマ「災害が起きればまた別問題と言えるか」

佐天「被害が出るまでは、現状何も掴めないのである。現在出ている被害は一応見目だけのもの」

フィアンマ「そうだな。とはいえ、止めなければいけないのもまた事実。各々が部下を動かして詳細を探るしかあるまい」

垣根「どうせアンタはいつも通り静観するクセに?」

フィアンマ「俺様が直接動く必要を感じられん」

垣根「…ま、いいケド。何処の誰だか知らないケド、面倒な事してくれちゃって…」

何とか平静を装って会議を終えたフィアンマは、聖ピエトロ大聖堂から出た。
幾つか報告も受けた。
今頃大天使が何処かに居る。
儀式場については、東洋の国である可能性が高いだとか。
いずれにしろ深く気にする事でもないと結論づけて、フィアンマは自宅へ向かう。
幼い子供が元気良く、少々おっさん臭い言動をしていたり、老人が子供服を着用していたり、街中が奇妙で仕方がない。

フィアンマ「……、…」

早く帰ろう、と心に決めるフィアンマ。
ふと、ケーキ屋に目が止まる。





何のケーキを買って帰る?>>+2
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/21(火) 22:26:52.33 ID:tdYxKA4SO
7段ウェディングケーキ
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/22(水) 01:05:06.03 ID:tY8GDNXb0
ロールケーキ
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/22(水) 03:05:36.40 ID:daEum+NSO
マロングラッセ
137 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/23(木) 03:03:35.46 ID:43dtioNa0

少しばかり悩んで結論を出したフィアンマがケーキ屋に入って購入したのは、たっぷりの上質な生クリームを中央に巻いた、紅茶生地のロールケーキ。
ミルクティーシフォンロールだか何だか、とにかくドルチェらしい柔らかな口当たり、食感が売りらしい。
店員はどう見ても八十歳近いご婦人であったものの、『中身』は少女だったらしく残念なウインクをされた。
何とも言えない気分になりつつもにこやかに対応したフィアンマに対しての報酬は、ちょっとしたケーキのおまけ。
飴細工で出来た四葉のクローバー。薄い透けた緑色の、素敵な、涼しげな菓子細工。
『幸運』を象徴するソレは、フィアンマにとって苦々しい思い出しかない。

他者にも自分の幸運を分け与えてどうにか疎外されないようにと行った努力。
バラバラにちぎられた、無残な姿のクローバー。

孤独の、象徴。

しかし、持って帰ればインデックスは綺麗だと言って笑んでから食べるだろう。
そう思えばどうにか、我慢して捨てずに帰宅することが出来た。

インデックス「お帰り! その箱は何かな?」

フィアンマ「ケーキだ」

インデックス「ケーキ!?」

トラブルは起きていても、まだ災害は起きていない。
どれ程魔術に精通していても、インデックスは見目以上に精神性の幼い優しい少女でしかない。
世界中が危機に晒されていても、自分のすぐ傍に居る人間が無事で、美味しい甘いものを提示されれば何もかも忘れて笑顔になってしまう。
フィアンマにとってはむしろ、その無邪気さが好ましかった。
機嫌よく彼女は彼から箱を受け取り、テーブルの上に乗せる。
ぱかり、と箱を開ければ、紅茶の茶葉の色をした大きめのロールケーキの上に生クリームがあしらわれ、その上にちょこんと四葉のクローバーの飴細工が乗っかっている。
そわそわとしながらフォークやナイフ、皿等を用意しつつ、インデックスはフィアンマを見上げた。

インデックス「ミハイルも食べるよね! 私が切り分けるんだよ」

フィアンマ「俺様は少しで良い」

インデックス「うーん…この辺りで良いかな?」

フィアンマ「いや、もう少しばかりこちら側で良い」

切込を入れる場所に悩むインデックスに、自分の分は本当に少しで良いのだと告げ、彼は台所に引っ込んだ。
ミルクティー味のケーキを食べるのであれば、共に頂くお茶はさっぱりしたものが良い。
とはいえ多少甘くなければ少女の子供舌には酷だろうか、と思いつつ、フィアンマはお茶を淹れる。
正確にはお茶とも呼べない。ホットレモネード(ホットレモン)だ。
魔術的に様々な工夫を施したこの家は夏にも関わらず涼しい。
なので、温かい飲み物でも何ら問題がない。
ついでに言えば、喉に何か食べ物が詰まった時、冷たい飲み物よりも温かい飲み物の方が流し込み易い。
色々と(彼にしては珍しい他者への)気遣いによってその選択と相成ったのだが、ケーキを食べてから飲んだら確実に酸っぱいという事が多少失念されている感は否めない。
フィアンマはしばらく考えた後、インデックスの分には砂糖と蜂蜜を程よく溶かした。
対して、自分の分にはほとんど砂糖を入れない。蜂蜜などもっての他。
多分これで大丈夫だろう、と適当に決め、ホットレモネードをテーブルに置き。
向かい合わせに置かれたカップが不服だったのか、インデックスはそっとカップを隣り同士に置く。
ついでに皿とフォーク、スプーンもそれぞれカップの隣に置けば配膳(セッティング)は完璧だ。
何故カップを隣り同士に置いて座席位置をほぼ強制的に変更したのか、指摘を受ける前に慌ただしく少女は席に着く。
前述の通り指摘しようかと思ったものの、別に少女の隣に座る事にそこまで強く嫌悪感を抱く事もないフィアンマは無言のままに席へ着く。

インデックス「美味しそうかも」

フィアンマ「一応売れ筋の物らしいが」

インデックス「お祈りの時間すら惜しいんだよ! いただきまーす!」

フィアンマ「…それで良いのか、修道女見習い」

日本式の短い食前挨拶を言い、勢いよく食べ始めるインデックスの様子にそう無気力にツッコミを入れつつ、彼もまた、食べ始めるのだった。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/23(木) 03:03:37.04 ID:G0Kh4J2AO
+
139 :独り言  ◆2/3UkhVg4u1D [saga  !orz_res]:2012/08/23(木) 03:04:15.21 ID:43dtioNa0

『御使堕し』が発生したのは不幸な事故であったらしい。
天使を降ろす意図は誰にも、術者にも無かったそうだ。
イギリス清教が最も解決に尽力しただとか。
天使が降りた修道女の名は、サーシャ=クロイツェフ。
ロシア成教『殲滅白書』にその籍を置いていたはずだ。
ようやく、天使を降ろす為に必要な素体も発見出来た。
やはり自分にはどこまでも『幸運』がつきまとうらしい。
世界を救う手立ては完璧に見つかった。
後は適当で適切な騒乱を起こして人を使えば土台は作り上げられる。
もう少し、聖別が終わるまで…素材が集まるまでまだ少し。

そのもう少しの間は、一緒に居られる。

ああ違うそうじゃない
自分が優先すべきはこんな子供一人じゃなくて世界の危機だ

それなのに

世界は崩壊しかかっているんだ
自分がやらなくてはいけない
そうだ 自分にしか出来ない

少年との約束を果たす為にもこの子供を守る為にも自分の罪悪感を祓う為にもどうしても救済する必要がある。
個人の幸福は廃棄しなければ。放棄しなければならない。
そんなくだらないもののために多数を切り捨てる訳にはいかない。
絶対的な善の到来を確信しているのに、行わないというのはおかしい。
俺様の才能はその為に与えられたのだから。
自分に言い聞かせてる訳じゃない。

そんなことじゃない。

違う。

今更何もかも放棄して自分一人幸せになろうだなんてそんなのは、
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/23(木) 03:04:16.49 ID:G0Kh4J2AO
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141 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/23(木) 03:05:20.20 ID:43dtioNa0

十年ほど、前。昔。
俺様は個人的な所用の為、日本に居た。
その用事を済ませ、気分転換がてら散歩をしていた時のこと。
公園で、一人の幼い少年が、他の子供から虐げられていた。

「やくびょうがみ」

「きもちわるいんだよ」

「あ、さわっちまった…やべえ」

「……、…」

虐げられている子供は口答え一つせずに目を伏せていた。
虚ろな表情だった。
虐げていた側の子供達はやがて罵声を放つ事に飽きたのか、その場から立ち去っていった。
最後のおまけだ、とばかりに、その黒髪の虚ろな少年を突き飛ばして。
どうしてだろうか、他人に同情するなんて性格はしていなかったはずなのに。
尻餅をつき、のろのろと立ち上がる少年に、手を差し伸べた。
きっと、幼い頃の自分と重ねたのだ。
母親が居らず、あまりにも幸運過ぎて気味の悪かったせいで虐げられた自分に似ていたから。
ただ、少年は自分とは正反対に不運で仕方のないようだった。

「………」

「…怪我は…膝に、しているな」

「…さわらないほうがいいよ」

「…理由は?」

「おれ、やくびょうがみだから。おにいさん、ふこうになっちゃうよ」

「……ならないさ。なれないんだ」

うまく表情が作れている自信は無かったけれど、微笑んでみせた。
少年はじっと俺様の表情を見つめた後、手を取って立ち上がった。
そして俺様から促されるままにベンチへと腰掛ける。
不運にも転んだ瞬間に手をつけなかった彼の膝は擦りむかれていて、痛々しい傷を見せていた。
『箱庭』を造り治そうとしたが、どうにもうまくいかなかった。
試しに効果の薄い魔術を施し、何が原因なのか探ろうとした。

幼い少年の、右手だった。

「…おにいさん?」

「…ん、あぁ、何でもない。大丈夫だ。もう少し待ってくれ」

幻想殺し、という単語が頭に浮かんだ。
次代の幻想殺しが彼に備わっているのだろう。
可哀想に、と思った。自分の知っている限りでは、神の奇跡すら、この右手は打ち消してしまう。
今はまだ子供であるために効力は今ひとつ、弱いようだが。
工夫して組み上げた術式を少年の膝に適用させると、存外すぐに治っていった。
彼が成人するまでの間に、この術式も通用しなくなるのだろうが。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/23(木) 03:05:23.21 ID:G0Kh4J2AO
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143 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/23(木) 03:06:01.63 ID:43dtioNa0

「けが、もうなおった…おにいさん、まほうつかいなの?」

「あぁ、そうだよ。俺様は魔法使いだ」

きょとん、とした少年は、きらきらと目を輝かせ。
次いで、心を開いてくれたのか、ぼろぼろと涙を流した。
少年の涙が、彼自身のズボンを濡らす。

「まほうつかいなら、おれをたすけてよ。もういやだよ、どうしておればっかり、」

そう思うのも最もだ。
きっと今日のようにいつも虐げられているのだろう。
ただ、不幸であるというだけの理由で。
痛い程にその気持ちはわかった。
似ていたから。
自分と、少年とは。
まるで鏡に映したかのように、よく、似ていた。

「…今の俺様では、役不足だ。すまないな、…すまない」

「なんで、なんでおれなの、おれ、なんにもしてっ、ないのに…!」

ただ特殊な右手を持っているというだけで、他者から排除される。
苦しいだろう。辛いだろう。
しかし、そこから救い出す事は出来なかった。
今自分がしている事は、野良猫に一時の食事を与えるような気休め。
それはもはや救いと呼ぶべきでないと思ったものの、助けたかった。
どうしてこんなにも無力だろう。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/23(木) 03:06:02.78 ID:G0Kh4J2AO
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145 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/23(木) 03:06:36.33 ID:43dtioNa0

ひとしきり泣いて落ち着いたらしい少年は、深呼吸をして呼吸ペースを整えた。

「ん、…もう、だいじょうぶ。ごめんなさい」

「子供は泣いても良いんだ。謝罪する必要は無い」

「んと…えっと…そうだ、おにいさん。ほかにもまほうみせて!」

「そうだな…」

自分が扱えるのはどうにも物騒なものばかり。
少し悩んだ結果、優しい嘘を吐く事にした。
虐げられても純真な少年は、俺様の言う事に素直に従った。

「目を閉じて、美味しい菓子を思い浮かべるんだ。甘いキャラメルを」

「みるくきゃらめる?」

「苺飴でも良い。何ならチョコレートでも良いぞ。沢山、好きなだけ思い浮かべろ」

「うーん…」

「そして、それのほとんどはココに現れると思い込め。お前が信じなければ、俺様は魔法を使えない」

「いっぱいのおかし…きゃらめる、ちょこ、びすけっと…あ、あとくっきーも」

虚空から取り出した鞄は、俺様の私物。
日本に来て買い込んだ数え切れない位の菓子は口寂しさを癒す為のものだったが、あげても構わないだろう。
なるべく音を立てないように、大量の菓子を取り出しては、ベンチの上に置いていく。
そして鞄を再び虚空へと片付けてしまえば、何ら痕跡は残されない。
ベンチの上には、沢山のチョコレートとビスケット、クッキー、キャラメル、個装された飴玉の山。
出来る事であればお菓子の家の一つでも用意出来れば良かったが、生憎俺様は本物の魔法使いではない。
所詮は魔術師に過ぎない俺様が出来るのは、この程度だった。
もう目を開けても良いぞ、と言えば、少年は目を開き。
そして菓子で出来た小さな山を見ると、再び目を輝かせた。

「わぁ…!!」

「食べて良いぞ」

「え、でも、」

「目についたものから好きに食せば良い」

「…い、いただきまーす」

目に付いたもの。
個装のチョコレートを食べた少年は、幸せそうに笑う。

「おいしい! おにいさん、これほんとにいいの?」

「あぁ、全部食べて良いぞ」

祈りは届く。それで人は救われる。
自分としては、まったくもってそんな事は無かったが、どうやらそんな下らない幻想も、今に限っては、実現出来た。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/23(木) 03:06:37.85 ID:G0Kh4J2AO
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147 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/23(木) 03:07:15.01 ID:43dtioNa0


菓子の山を平らげて満腹になった少年は、継続的に幸せそうな顔をしていた。

「美味しかったか」

「うん!」

泣いたり笑ったり。
涙の後には笑顔があるべきだ。
少なくとも、子供には須らく幸福になる権利がある。

「あ、でもおなかいっぱいたべちゃった…おかあさんのごはんたべられるかな…いっぱいたべると、おとうさんがほめてくれるんだけど」

俺様と違い、両親は健在らしい。安心した。
生まれた時から母親は居らず、父親は一緒に楽しく遊園地へ行ったその日の夜に自殺する、といった形で喪った俺様とは違う。
本当に、鏡のようだ。別段羨ましいとは思わないが。

「家に帰った時にまた腹が減るお呪いを教えてやろう」

「おまじない?」

俺様を本当に魔法使いだと信じたらしい少年は、ドキドキとした様子で俺様を見上げる。
まやかしを心から信じていられるのも、また、子供の特権だ。

「『おなかへった』これで良い」

「おなかへった、っていったらおなかへるの?」

「家に帰ってから使えばな」

「おそとじゃいみないんだ」

「特別なお呪いだからな」

「ほかにおまじないってあるの?」

「そうだな…不幸が減るお呪いがある」

「! おしえてっ」

「少しずつしか減らんが、良いか?」

「うん」

「『不幸だ』と言うんだ。なるべく明るく」

「…いうの? いったらもっとわるくならない」

「いいや。そうして吐き出すんだ。口から、不幸を」
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/23(木) 03:07:16.50 ID:G0Kh4J2AO
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149 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/23(木) 03:07:32.84 ID:43dtioNa0

只の思い込みでいい。
将来、嘘だったじゃないかと俺様を心の中で責め立てる事になるかもしれない。
それでも、この少年が先程のように虐げられて黙るのではなく、不幸なのだと叫べたら。
そう自己主張出来たのなら、もしかすると、現実的には笑いをとってやめてくれるかもしれない。
夢想的には、その言葉に誰かの正義感が刺激されるかもしれない。大人でも、子供でも。
少年はこくこくと頷いた。
それでも何か引っかかる事があるのか、おずおずと言い出す。

「おにいさん」

「ん?」

「おれはしかたないけど、ほかになぐられたりしてるこをたすけられるおまじないってないの?」

「……、…無いな」

「そっかあ…」

自分がこれほどまでに痛めつけられて尚、他人の心配をする。
自分には出来ない。
こんなにも優しい子に、自分は何が出来るだろう。

「…だが、もっと大きな魔法を成功させる事なら、出来るかもしれんな」

「おおきなまほう?」

「世界を創る魔法だ」

自分の内側にある幸運…否、力の正体にはもう気づいていた。
何もかもどうでも良いと思って生きていた自分に、久しく存在意義が生まれた気が、した。

「そんなことできるの…?」

「あぁ、成功させてみせる」

「……じゃあ、いじめのないせかい、つくってね。いつか…やくそくだよ」

「約束する。もう二度と誰も不幸を嘆かない世界を創ってやる」

つい、と差し出された小指。
意味が分からず首を傾げる俺様に向かって、少年は照れくさそうに笑いかけた。

「いちどやってみたかったんだ、ゆびきりげんまん。だいじなやくそくのときに、こゆびとこゆびをぎゅっぎゅ、ってするんだよ。うたもあるんだ」

「そうか」

「…ふこうにしちゃったらごめんなさい」

「絶対にならない。…俺様は人じゃないからな」

「まほうつかいだから?」

「そうだ」

小指を絡ませ、少年が唄を唄い始めた。
幼い子供らしいボーイソプラノの歌声は、美しく澄んでいた。

救済の、約束。

まるで、まるでそれじゃ、

(聖書の、様だ)
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/23(木) 03:07:34.09 ID:G0Kh4J2AO
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151 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/23(木) 03:08:12.23 ID:43dtioNa0

約束の指切りを終え。
少年は、子供らしく将来の夢を語っていた。
テレビのヒーロー番組に影響されているらしく、ヒーローになりたいと言った。

「かっこいいし、つよかったらいじめられないもん」

「…そうか」


「まほうつかいのおにいさんがやくそくまもるときまでに、おれはひーろーになってるかなぁ」

「きっと、成っているよ。俺様にはなれないから…お前は頑張ってくれ。誰から疫病神と言われても、どんな目に遭っても、胸を張って生きていろ。生きてさえいれば、必ず誰かがお前

を笑顔にさせてくれる。素敵な出来事がある。幸せになれる」

「うーん、おにいさんがいうならそんなきがしてきた」

明るい笑顔を見せて、少年は頷く。

「お前は泣いているよりも、そうして笑っている方が似合うな。子供には笑顔が一番だ」

「うん、おれも、みんながにこにこしてるのすきだよ。おれがいると、みんなおこっちゃうし、ないちゃうけど…」

「…負けるなよ」

「? だれに?」

「お前が嫌だと感じる言葉をぶつけてくる全員に、だ」

悪意、と言っても、少年にはわからなかっただろうから、噛み砕いて話した。
少年はこくりと頷く。

「…それと、両親は大事にしろ」

「うん!」

元気良く返事をした少年。
最後に、名前を聞いた。

とうま。

かみじょう、とうま。

上条当麻。

「おにいさんのなまえは?」

「俺様の名前は、…ミハイル」
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/23(木) 03:08:13.90 ID:G0Kh4J2AO
+
153 :昔話は終わり、聖者は夢の中  ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/23(木) 03:10:00.40 ID:43dtioNa0

夜中、唐突に目が覚めたインデックスは、眠気眼でフィアンマの表情を眺めていた。

フィアンマ「……」

安心しきったような表情だった。
いつもこんな顔をしていられれば良いのに、とインデックスは思う。

インデックス「…良い夢見てるのかな」

フィアンマ「……」

インデックス「……」

彼は何かを抱え込んでいる。
何もかも抱え込んで、いつか自分の前から消えてしまうような気がする。
でも、引き止めるだけの権利が、果たして自分にあるのだろうか。
無いような気がする。
それでも、彼と一緒に居たいな、と漠然と思う。
自分はきっと彼に甘えているのだろう。彼の厚意に。
恩返ししなくては、と思うのだけれど。
彼は自分に沢山の事を止めどもなくしてくれる。
そして一切の見返りを求めない。
聖職者というのはそういうものなのかもしれないけれど。
それにしても。

インデックス(隙が見えないのは、寂しいんだよ…)

自分が『自動書記』を発動し、彼や他の魔術師と対峙した時。
彼は自らの奇跡の象徴で、自分を『守って』くれた。
必要以上に傷つける事もせず。
ただ、自分を傷つけるモノだけを、叩き潰してくれた。





現時点において、インデックスのフィアンマへの感情(アバウト可)>>+2
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/23(木) 03:11:23.58 ID:gdJKh4USO
ksk
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/23(木) 03:32:18.18 ID:gdJKh4USO
助けたい。救いたい。ずっと笑ってて欲しい。一緒にいたい。できるのならば愛したい。
この気持ちが例えエゴでも、彼がそれを拒んで、望んでないのだとしても。彼が笑って日の当たる世界で生きていけるようにしたい
156 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/23(木) 16:48:52.77 ID:v9AZYt+A0

彼がどのような思いで生きているのかは分からない。
自分の事など、彼が口先で言う通り、猫程度にしか思っていないのかもしれない。
それでも、自分は彼を限りなく大切に思う。好ましく感じる。
ただ、助けてくれたからじゃない。
ただ、食事や寝床を提供してくれたからじゃない。
自分の身を削ってでも人に優しく出来る彼の事が好きなのだ。
彼自身には自己犠牲の自覚など皆無なのかもしれない。きっと、問うたところで不思議そうな顔をされるだけ。
だからこそ、尚更心配で、尚更愛おしくなる。
何を悩んでいるのかはわからない。ただ、苦しんでいる事だけは漠然と分かる。

彼が自分にしてくれたように、助けたい。
彼が自分にしてくれたように、救いたい。
ずっと、笑っていて欲しい。幸せでいて欲しい。
出来る事ならば一緒にいたい。傍で笑っていて欲しい。
もっと欲を言えば愛したい。ああ、私は欲張りだ。
この気持ちが例えエゴでも、彼がそれを拒んで、望んでいないのだとしても。

彼の仕事について詳しくは知らない。
けれど、瞳の中に宿る大いなる絶望は、きっと自分の居ないような場所で培われたもの。
見つめ合うだけで良くも悪くも彼に囚われる。
傷ついた分だけ、人は優しくなれると言うが、その分歪む。
彼の人生がどんなものか、知らないけれど。
どんな仕事をしているのかも、詳しくはない。
だって秘密組織だから。
俗に暗部と呼ばれるのだろう。
彼は恐らく、世界の汚い部分や血生臭い部分を見てきたに違いない。

彼が、笑って日の当たる世界で生きていけるようにしたい。
して、あげたい。
今居る場所がどんなに暗くても、素敵な出来事はきっと沢山あるのだと、教えたい。
自分がほとんど知らないクセに、何を言うのかと自分自身思うけれど。

自分が記憶を喪う事で毎年死んできたように、彼はずっと昔に、死んでしまっているような気がする。
そう、言うなればゾンビに無理やり目的を吹き込んで生かしているような。
こんな言い方をすれば失礼だろうけど、彼は認めるだろう。
虚ろさをどうにかしてあげたい。自分では役不足かもしれない。
でも、どんな立場・境遇に居るかなんて些細な問題だ。
彼は自分を助けるに最も適していない立場から救ってくれたのだから。

インデックス「…インデックスはね、ミハイルが大好きなんだよ」

ぺたり。
フィアンマの頬に小さな手で触れ、彼女は優しく微笑む。
無理をしている訳ではない、優しい、慈しむような聖女の微笑み。
うとうととしながら、インデックスはのろのろとフィアンマの身体を抱き寄せる。
精一杯抱き寄せてみても、少女の腕力などたかが知れている。
ただ、動きに反応したのか単なる寝相なのか、彼はそっと抱き返してくれた。
彼女が勇気を出して彼を救う理由なんて、信じる理由なんて、それだけで充分だった。

インデックス「…大好きだよ」
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/23(木) 16:49:07.08 ID:G0Kh4J2AO
+
158 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/23(木) 16:49:38.77 ID:v9AZYt+A0

九月一日。
科学世界と魔術世界に戦争を起こす為、学園都市に侵入を強行した一人の魔術師が居た。
シェリー・クロムウェル。
インデックスと同じく『必要悪の教会』にその身を置く女性の魔術師だ。
彼女が日本の学園都市でとんでもない火種を撒き散らしている事を知っていて尚、フィアンマは何と思わない。
むしろ、戦争を起こす土台を作ってくれた方が、彼にとっては都合が良い。
ローマ正教が指針としている『世界の管理と運営』の点と彼の立場から考えれば気に病まないというのは問題なのだが。
ここで気にせず自分の目的を一番に考えるからこそ、彼は不気味だと、歪んでいるのだと評価を受けるのだろう。
どのような評価を受けようと、彼の思いが変わる事は無く。

二人は現在、呑気にも動物園へとやってきていた。
兎やモルモットと触れ合える広場には思いの他人は少なく、インデックスとフィアンマはベンチに並んで腰掛けていた。
インデックスの膝上には黒い兎が丸まっており、ふるふると震えている。
怯えているのか肌寒いのかいまいち判断はつかない。
そっと兎の背中を撫で、インデックスはのんびりとフィアンマを見上げた。
猫に限らず動物に好かれやすい彼は、兎に囲まれている。

インデックス「…暑くないの?」

フィアンマ「いや、暑い」

インデックス「触ってもいないのにものすごく懐かれてるかも」

フィアンマ「偶然だろう」

インデックス「動物は頭が良いからね。きっと、ミハイルの優しさに寄ってきたんだよ」

インデックス(寂しがり屋さんのところにも来るって言うけど、どうなのかな…)

フィアンマ「……」

自分は気まぐれであって優しくはない。
そう思っているフィアンマは、インデックスの言葉に困惑する。
インデックスは機嫌よく兎を撫でて愛でた。

フィアンマ「兎が好きなのか」

インデックス「うん、好きかも」

かも、と付けるのは癖である事を知っているため、フィアンマは曖昧な表現に指摘しない。
足元で丸まっている白いウサギを抱き上げ、彼は問いかける。

フィアンマ「答える必要は無いが。理由はあるのか? 見目の良さか」

インデックス「>>160
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/23(木) 17:05:34.48 ID:sZo9FmHm0
ksk
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/23(木) 17:05:45.39 ID:KIjMNp5I0
鍋にすると美味しい
161 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/23(木) 17:49:41.32 ID:v9AZYt+A0

インデックス「お鍋にすると美味しいから!」

フィアンマ「……ロマンが無いな」

インデックス「ロマンではお腹いっぱいにならないんだよ」

きらきらと目を輝かせながら笑顔で言うインデックス。
膝上の兎を撫でながら言う事ではないような気がする、とは思いつつも言及せず。
白いウサギの赤い瞳と見つめ合い、フィアンマは何を考えるでもなくぼんやりとした。

未来について考える事はやめた。隣りに居る少女に安らぎを感じてから。
楽しく考えていた事は、少女の存在によって憂鬱な考え事に変わってしまった。
しかし、その変化を疎ましいと思わないのは、彼の中に少女へのそれなりな好意があるからだろう。

インデックスが傷つけられても、フィアンマは怒らない。悲しまない。
ただ、面倒だと思うだけ。作業のように取り返しに行くだけ。

しかし、彼が特に必要でないものを取りに行く事事態が異常だ。
生きていくに関して必要が無いのに、人に対して執着している。それは俗に愛と呼ばれる。
その事に、彼は気づけない。だから、分からない。
自分がインデックスを大切だと思っている事が、彼にはよくわからない。
少女が彼を好きな程ではないが、彼だって少女が好きなのだ。
だが、いずれ捨てなければならないとわかっているから、彼は意識しないようにしている。
もっと一緒に笑い合いたいのに。一緒に居たいのに。
見ないフリをする。聞かないフリをする。

フィアンマ「…しかし、兎鍋は泥臭いと聞いたが」

インデックス「食用なら別物かも」

フィアンマ「なるほど。…さて、そろそろ食事にするか。他に見たい動物は居るのか?」

インデックス「>>163
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/23(木) 17:52:28.95 ID:gdJKh4USO
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/23(木) 18:05:34.30 ID:Js6DXBNxo
164 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/26(日) 16:46:21.43 ID:g1KwOy6g0

インデックス「狼が見たいかも」

フィアンマ「そういえば展示していたか」

インデックスの要望に従う形で、フィアンマは彼女の手を引きながら歩く。
向かう先は絶滅危惧種ばかりの狼の赤ん坊を育てている場所だ。
何重もの檻とガラス越しだが、その愛らしい様を見る事が出来る。

インデックス「すやすや眠ってるんだよ…可愛い」

フィアンマ「……」

すやすやと眠る狼の子を見つめ、インデックスは目元を和ませる。
この歳で母性が備わっているのか、はたまた小さいモノ好きなのかは不明。

インデックス「……うん、満足したんだよ。行こっ!」

フィアンマ「そうか」

こしょこしょ声で話しているのは、狼の赤ん坊が起きないようにとの配慮。
どうせ大声を出してもあちらには聞こえないのに無駄な努力だ、とフィアンマは思う。
そしてそんな冷めた考えしか出来ない自分の感性を、内心、鼻で笑った。



ファミリーレストランは意外にもあまり混み合っていなかった。
運が良い、と思いながら、フィアンマはインデックスの前にメニューを置く。
自分は空腹を強く感じない性質の為、特に何か選ぼうとは思わない。

フィアンマ「…他に行きたい場所はあるのか。水族館、動物園、遊園地、テーマパークと行ったが」

自分はいつか彼女と別れ、二度と会えなくなる。
その前にせめて沢山楽しい思いをさせてあげよう、とフィアンマは決めた。

インデックス「うーん…>>166
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/26(日) 16:49:30.55 ID:3GQ1/8Qm0
フィアンマと一緒ならどこでもいいかも!
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/26(日) 18:31:03.63 ID:gzSiTG9SO
ナガスパ
167 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/27(月) 20:08:33.49 ID:n0HCiYOc0

インデックス「うーん…ナガシマスパーランド、っていうところに行ってみたいかも」

フィアンマ「響きからして、テーマパークか」

インデックス「うん、そう紹介されていたんだよ」

元気な笑顔で言うインデックスに、フィアンマは何も言及せずに頷いた。
彼女が楽しそうならばそれで良い。それだけで良い。

フィアンマ「調べておく」

インデックス「お願いするんだよ」

会話をしつつメニューを開き、眺めている間に注文が決まったらしいインデックスはボタンを押す。
注文を受けにやって来た店員に大量の注文をしていくインデックスとは真逆に、フィアンマはガトーショコラを注文しただけ。
注文確認を終えて去っていく店員を見つめている内に空腹を覚えたインデックスはそわそわとし始める。
子供っぽい仕草だが、純真な行動や瞳の輝きに、フィアンマは表情を和ませた。

インデックス「ミハイル」

フィアンマ「んー?」

インデックス「ミハイルは、楽しい?」

出かけるの、と付け加え、インデックスは笑顔で問いかける。
半ば答えを確信しているようにも思える可愛らしい笑顔。
流れるような長い髪には、フィアンマの贈った髪飾りが煌めいている。

フィアンマ「あぁ、お前を見ていると楽しい」

インデックス「! 私は玩具じゃないんだよー!!」

フィアンマ「そうだったな。確か、俺様のペットだったな?」

インデックス「それも違うかも!」

出会ってまだ二ヶ月程しか経過していないにも関わらず、二人は確かに惹かれあっていた。
恋愛感情のみとも割り切れない。共依存ともどことなく違う。
ありとあらゆる面で真逆である筈の彼等は、しかしどうしてだか、似通っていた。
魔術的に重要な立場にあったりだとか。どこまで逃げても救われなかったところだとか。
大きな違いは、最たる違いは、彼女は人を信じ、彼は人を信じない。
記憶が毎年消されてきたとはいっても、魔道書の汚染は確かにあるはずなのに。
インデックスはフィアンマよりもずっと人間的で、他人に優しい。
彼女のそんなところが。フィアンマはそう思わないようにしていても、大好きだった。

インデックス「ん、ん、おいひい!」

フィアンマ「詰め込んだまま言葉を発するな。品が無い。口を閉じて黙って食べろ」

インデックス「食事の醍醐味はお話なんだよー?」

むむ、とリスのように頬を膨らませながら食事を続けるインデックス。
その小さな唇が本名を呼ぶ度、彼は自分が優しくなれるような錯覚に陥る。
誰にも胸を張れない人生を過ごしてきたクセに。
こんな力を持った化物であるクセに。
そうして自戒する。閉口する。
手を伸ばしてきた事はいつも空回りする。
一生懸命やったところで、他人は自分を愛してなどくれない。
だから、フィアンマは人を愛する事をやめた。
あの少年に優しくしたことだって、今、裏目に出ている。

彼は器用なのに、それがいつも悪い結果を呼び寄せる不器用な男だ。

でも、この少女であれば、自分を認めてくれるかもしれない。
悪い結果にはならないかもしれない。
この少女に施す努力であれば、報われるかもしれない。
無意識下で、フィアンマは…ミハイルは、そう思っていた。

インデックス「どれもこれも美味しかったんだよ」

フィアンマ「そうか。まだ満腹には見えんが、……食べるか?」

つい、と差し出された、フォークの上、一口分のガトーショコラ。
他人に対しては失敗の思い出が先に立ち、思いやりを発揮出来ない彼でも、この少女には優しく出来る。
フィアンマが知らず知らず浮かべた優しい笑みに視線を奪われそうになりながらも、インデックスは、はにかみつつ…フォークを、ぱくりと口に含んだ。
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/27(月) 20:08:36.80 ID:zrp60BvAO
+
169 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/27(月) 20:09:39.13 ID:n0HCiYOc0

九月八日。
オルソラ=アクィナスの史上なる功績にして最悪の悪行。
『法の書』の解読が成功した。
ローマ正教としてはこの人物が他の勢力に取られてしまう前に始末しなければならない。
イギリス清教との水面下の争いとなる。
だが、『神の右席』という暗部組織が関与する事でもない。
故に、フィアンマはこの大事件を無視して、インデックスと、彼女が希望したテーマパークへとやってきていた。
オルソラという修道女とは面識があるが、彼女が死んでしまっても、フィアンマは何とも思わない。
いや、心の片隅で祈っていない訳ではない。顔にも口にも一切出さないけれど。
彼女がローマ正教から離れても生きていられるならそちらの方が良い、とは思っている。
十字教社会のことは考えているものの、フィアンマはローマ正教自体には固執していない。

そんな組織どうこうよりも、個人の命や人生の方に価値があるに決まっている。
チェス盤が無くともチェスは出来るが、チェスの駒無しにチェスは出来ない。

そういった軽い感覚ではあるものの。

話を戻すと、二人はテーマパークのどこから回るか悩んでいた。
遊園地自体はこの間行った為、どうしても行きたいという訳ではなく。
結果、買ってきた水着を役立てる意味も篭めて、プールへ向かう事にしたのだった。

インデックス「早く着替え終わっても待っててね? 絶対なんだよ!」

フィアンマ「お前を待つ以外に選択肢があるのか? 無駄な心配をしていないで行ってこい」

ジャンボ海水プール、と銘打たれているだけあって、客は結構な数居るのだが、空いているように思える。
もしかすると、彼の幸運によるものなのかもしれないが。
フィアンマが身に着けているのは黒に赤のアクセントが入ったありがちな男性用水着。
インデックスは着替えに時間がかかるらしく、中々出てこない。
女性が身支度に時間がかかることは常識なので、別段苛立つでもなく、フィアンマはたなびく雲を見上げながら待った。





インデックスが選んだ水着(色のみでも可。例:ワンピースタイプ、パレオタイプ等)>>+2
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/27(月) 20:17:42.34 ID:IXgJrciQ0
エンゼルフォールの時に青ピが来てた奴
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/27(月) 20:23:12.50 ID:2yVDfVmWo
白スク水
172 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/27(月) 21:27:46.34 ID:AfMWisYj0

インデックス「ミハイルー!」

着替え終わったらしいインデックスはプールまで来ると、フィアンマに近寄った。
俗に言うスクール水着タイプの白い水着。
濡れてもあまり透けない二重構造の為、着用していると少々暑いのが難点だ。
髪は纏めてきたらしく、尚且つ頑張ったのか、ポニーテール。歩く度に揺れた。

インデックス「…に…似合ってる、かな…?」

おずおず、と問いかけ、インデックスは照れ混じりにフィアンマの表情を窺う。
フィアンマは見たままの感想を簡潔に伝えた。

フィアンマ「…よく似合っているんじゃないか?」

インデックス「そ、そうかな。ありがとうっ!」

実際、幼児体型と呼称すべきインデックスの華奢な体躯に、その水着はよく似合っていた。
インデックスは初めてのプールに目を輝かせ、さてどこから回ろうかと一生懸命考えている。

インデックス「すごく高いかも」

インデックスが怖々指差したのはフリーフォールスライダー。
高さは23m。
その高さから見下ろすと着水面が見えないほど垂直な60度の傾斜度で急降下し、直線コースを一気に滑りきる。
身長制限は140cmなので、インデックスは何問題なくセーフだった。フィアンマは言わずもがな。

フィアンマ「あれにするか」

インデックス「えぇっ!?」

言ってみただけなのに、と涙目になりながらもフィアンマに手を引かれて移動するインデックス。
ちなみにこのスライダーは二人で滑るもの。幸いにも二人乗りだ。

インデックス「う…」

フィアンマ「怖いのか?」

インデックス「怖いに決まってるかも。…は、離れないでね」

怯え気味なインデックスの頭を撫でてやり、フィアンマは頷く。




―――結果としては。吊り橋効果でまた少し…インデックスの心がフィアンマの方へ傾いたのだった。
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/27(月) 21:27:50.08 ID:zrp60BvAO
+
174 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/27(月) 21:28:11.16 ID:AfMWisYj0

ファミリープールでフィアンマに泳ぎを教え込まれ、流水プールで泳ぎ。
体力が尽きてしまいそうなインデックスと、割と元気なフィアンマは、のんびりと温泉プールに浸かっていた。
長島温泉をそのままプールにした天然温泉プールは程よく温かくて心地が良い。
他のプールで泳ぎ、冷えた身体を暖めるに際して丁度良いプールだ。

インデックス「ちょっぴり怖い思いもしたけど、概ね楽しかったかも」

フィアンマ「そうか」


日帰りというには少々厳しいので、一泊してから帰るのだが。
予約したホテルの部屋は従業員が聞き違えたのか、ベッドはツインではなくダブルだった。
自宅と変わらないな、と思うフィアンマに対し、本日の吊り橋効果でどぎまぎとしているインデックスだった。

夕食はバイキング、ということで。
例え恋する乙女だろうが修道女見習いだろうが、インデックスはいつも通り沢山食べ。

インデックス「ホテルにお泊りするのは初めてかも」

フィアンマ「慣れればつまらんぞ」

インデックス「そうなの?」 

フィアンマ「目的にもよるが。騒ぐなよ」

インデックス「子供扱いしないで欲しいんだよ」

むむむ、と頬を膨らませてあからさまに拗ねるインデックス。
その辺りが子供っぽいということに、彼女は気づけないようだ。

フィアンマ「先にシャワーを浴びたらどうだ」

インデックス「ぅ」

フィアンマ「ん?」

インデックス「な、何でもないかも! 行ってくるんだよっ」

たたた、と駆け込むようにしてバスルームへ消えるインデックス。
彼女の脳内では昼メロドラマにありがちな

男『先にシャワー浴びて来いよ』

女『う、うん…///』

といった展開が繰り広げられていたことを、フィアンマは知らない。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/27(月) 21:28:12.58 ID:zrp60BvAO
+
176 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/27(月) 21:28:31.19 ID:AfMWisYj0

九月二○日。
インデックスは、一人で家に居た。
昨日から、フィアンマはこの家に居ない。
意図的に帰ってこないのではなく、仕事が立て込んでいるのだ、とインデックスは思っている。
そうそう毎日自分と遊んでばかりもいられないということ位わかっていた。
でも、少し…いや、だいぶ。寂しかった。
お金は置いていってくれたし、食料も充分過ぎる程に買い込んで置いていってくれたから、やけ食いで寂しさを紛らわせてはみたものの。

インデックス(…寂しいかも)

自分はイギリス清教所属ともローマ正教所属ともつかない微妙なポジションに立ってしまっている。
いや、仮に正式にローマ正教所属になったとしても、仕事として彼に近づく事は難しいだろう。
仕事とプライベートは別なのだ。
フィアンマの事を考えていると、尚更寂しくなっていき。
孤独に耐え兼ねた彼女は何かしよう、と自分を奮い立たせる事に決めた。

インデックス「うーん…」

とはいっても、何をすれば良いのか。




インデックスは何をする?>>+2
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/27(月) 21:47:26.99 ID:aw2fmyLv0
ksk
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/27(月) 21:49:01.51 ID:aw2fmyLv0
オルソラ云々がどうなったか調べる
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/27(月) 22:09:53.76 ID:t1QK/gYSO
このインちゃんオルソラ云々知ってたっけ
180 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/27(月) 22:41:38.71 ID:AfMWisYj0

色々と考えてみたはいいものの、中々良い事は浮かばず。
そういえば、オルソラという修道女とは最近会っていないが、元気だろうか。
こうと決めたらやり通すインデックスは、自衛すべく『歩く教会』を身につけて近くの教会へ向かった。
そこのシスターは色々と情報に詳しい事に加えて少女に甘く、インデックスの要求に悩み悩み答えた。
親が子供に話すかのように、色々とオブラートに包んだ表現ではあったけれど。
インデックスは静かに聞き、しっかり覚えると目を伏せた。
何か、ショッキングな出来事が起きたようだ。
ひとまず命は助かったようだけれど、きっと、もう会う事は出来ない。

落ち込んでいるインデックスに、その修道女はおずおずとオルソラの自宅の場所を教えてくれた。

キオッジア。

地図も見せてもらい、記憶したインデックスは迷わないよう気をつけて向かった。
出迎えてくれたオルソラは心労からか少々顔色を悪くしていたが、優しくインデックスを出迎えてくれた。

オルソラ「お久しぶりでございますよー」

インデックス「久しぶりかも。…元気無いけど、大丈夫?」

オルソラ「見た目よりも元気でございます」

にこ、と微笑んでみせるオルソラ。
しかし、無理をしているようにしか思えなかった。
イギリス清教にも一応籍を置いているインデックスだからこそ、オルソラはこうして安心して会う事が出来た。
その安堵から、心労が顔に出てしまっても致し方無い。

インデックス「荷造り手伝うんだよ」

オルソラ「良いのでございますか…?」

インデックス「勿論かも。あ、でもお礼に…」

オルソラ「ご飯でございますか?」

インデックス「そ、それもそうだけど」

オルソラ「?」

インデックス「美味しいご飯の作り方、教えて欲しいんだよ」

オルソラ「…あの方に料理でアプローチでございますね!」

インデックス「なっ、何でそうなるの!? 違うかも!」

焦るインデックスの言葉を聞いているのかいないのか、オルソラはのんびりとした調子で頷いた。
オルソラの脳内ではインデックスが恋する乙女に変換されてしまっているらしく(確かにあながち間違ってはいないのだが)、本日は荷造りそっちのけで料理教室が始まった。
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/27(月) 22:41:43.83 ID:zrp60BvAO
+
182 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/27(月) 22:43:32.90 ID:AfMWisYj0

オルソラが旅立つ日まで毎日荷造りの手伝いと料理を習いに行き。
しかし、そんなインデックスの元に、フィアンマは中々帰っては来なかった。
それでも、フィアンマが帰ってきた時、少しでも上達した料理の腕を見せる為に、インデックスは努力し続けたのだった。

オルソラ「上条当麻、という優しく強い少年が救ってくださったのでございます」

インデックス「カミジョウ?」

オルソラ「東洋人…日本人の少年でございます」

インデックス「無茶してまで助けるなんて、すごいかも」

オルソラ「彼自身は無茶だと思っていないのかもしれません。ヒーローと呼ばれてもおかしくない方でございます」

インデックス「ヒーロー…」

インデックス(私にとってのミハイルみたいな感じ…なのかな?)

オルソラ「確かに彼はすごいのでございます」

インデックス「久しぶりに話が巻き戻ったかも。ある意味本調子ってことだね!」

オルソラ「ヒーローとは確か」

インデックス「説明されなくても大体分かるんだよー!」




九月二十七日。
久しぶりに、フィアンマは家に帰ってきた。
ただ、あまり機嫌が良いようには思えず。
また彼が調子を取り戻してから料理を振る舞えば良い、そう思い、インデックスは言葉を呑み込んだ。

インデックス「お帰り、ミハイル」

フィアンマ「…ただいま」

そう言い、彼はシャワールームに閉じこもってしばらく出てこなかった。
長い時間仕事に拘束され、疲れてしまったのだろうか、とインデックスは心配する。
ベッドメイキングはオルソラに(料理以外の家事も学ばせてもらった)教えてもらった通り、自分としては完璧に済ませた。
風呂から上がったフィアンマは水を飲み、半ば倒れるようにベッドへ潜り込んで眠り始める。

インデックス「……うん、起こしたら悪いんだよ」

寂しかったけれど、起こしてしまうから。
ハグは我慢し、インデックスはしょんぼりと微笑むのだった。
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/27(月) 22:43:36.01 ID:zrp60BvAO
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184 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/27(月) 22:44:46.57 ID:AfMWisYj0

九月二十八日。
アドリア海で何やら騒ぎがあったようだが、インデックスは特に心配しなかった。
オルソラの見送りに行けなかった事だけが残念だが、彼女なら今頃イギリス清教で頑張っている事だろう。
フィアンマは一晩寝てそれなりに元気になったのか、静かに読書している。
インデックスの料理の腕が壊滅的であるため(改善した事をフィアンマは知らない)、冷蔵庫にはぎっしりと出来合いの惣菜やパンが詰まっていた。
なので、未だ料理の腕を振るう機会も無く。
暇を持て余した彼女は、テレビを眺めつつ時折フィアンマの様子を見遣った。
どうしてだろう、少し会わなかっただけなのに、彼との距離が少し遠ざかってしまったような気がする。

インデックス「…ミハイル」

フィアンマ「ん?」

話しかけてみれば、そんなことはなく。
フィアンマは機嫌が良くなったらしく、本を読むのをやめてインデックスを見た。
話題をどうしよう、と思考を巡らせ、インデックスは笑顔で話しかける。
彼が塞ぎ込んでいる(と思われる)分、自分が明るく振舞わなければ。

インデックス「お仕事お疲れ様かも。またしばらくお休み?」

フィアンマ「…、…そうだな。しばらく休みだ」

インデックス「じゃあ、お家に居る?」

フィアンマ「あぁ。…何故そんな事を聞く?」

インデックス「…>>186
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/27(月) 22:46:15.61 ID:t1QK/gYSO
あの、えっと、…お、お腹すいてないかな!よかったら私が作るんだよ!
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/27(月) 22:47:33.36 ID:aw2fmyLv0
一人きりは寂しいんだよ……
187 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/27(月) 23:57:57.58 ID:zrp60BvAO


インデックス「…一人きりは、寂しいんだよ…… 」

フィアンマ「…」

テレビを消すと、部屋は無音となった。

この家はそんなに広くない。
だけれど、二人で住んでいる家に一人というのは、寂しくて。
明るく振る舞わなければ、そう思えば思う程、フィアンマの帰りを待つ間の寂しさが、我慢していた分胸の奥底からぐいぐいと込み上げてきて。
どうにか泣くまい、と懸命に堪え、インデックスは深呼吸をした。
そして、無理をして笑う。
彼は自分の笑顔が好きだから。
ただ、それだけの理由。
心配をさせてはいけない、と、インデックスは慌てて話題を転換しようとする。

インデックス「そ…そう! それに、一人で食べるご飯は美味しさダウンなんだ…から…」

インデックスのそんな無理をした努力を潰す形で。
フィアンマは本を適当にソファー上へ置き、インデックスの華奢な身体を抱きしめた。
インデックスはしばらく黙った後、何かを言おうとして、うまく笑顔が形作れなくなり、ぼろぼろと涙を流し始めた。
何も無かった逃亡中の孤独と違い、喪失感にも近い孤独は、幼い心に負担をかけた。
他に家族が居る訳でもなく、二人は二人きりが一番しあわせで、今やそれこそが当たり前で。
188 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/27(月) 23:59:18.60 ID:zrp60BvAO


一人は寂しかった。
独りは淋しかった。
もう帰って来ないのではないかと不安だった。
彼は自分を放って、危惧していた通り何処かに行ってしまったのではないかと怖かった。


わんわんと泣きながらそう訴えかけられ、フィアンマは目を伏せて謝罪を口にする。

フィアンマ「…すまなかった」

彼が謝っているのは、家を空けた事で寂しい思いをさせてしまった事だけではなく。
これから先、きっとまたそんな思いをさせる事に対しても。

フィアンマ「…許してくれ、」

インデックス「っ、ぐす、ミハイ、ル…?」

フィアンマ「…赦してくれ…」

『それでも俺様は、世界を救わなければならないんだ。
お前に別れを告げる日が、切り捨てる日が、来るんだ』

そんな言葉は呑み込んで。
珍しく湧き起こる激情のまま謝る男の声は、涙に濡れている。
抱きしめる腕の力が強いせいで、インデックスは顔を上げられない。
抱きしめ返す事で精一杯だ。

フィアンマ「俺様を、ゆるしてくれ…」

インデックス「>>190


189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/28(火) 07:40:07.76 ID:HBlEww8j0
ksk
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/28(火) 07:42:34.94 ID:HBlEww8j0
ずっとずっとずっっと一緒に居てくれる……?
一緒に居てくれなかったら赦さないんだよ
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/28(火) 07:43:22.62 ID:HBlEww8j0
もう涙でグシャグシャになりながらで頼むぜ
192 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/28(火) 15:19:20.55 ID:NtNylO9h0

インデックス「ずっとずっとずっっと…一緒に、居て…くれ、っる……? 一緒に居てくれなかっ、たら…ゆ、赦さないん、だよ…」

彼が内包している悲しみや痛みが、泣きたい気分にさせるような何かが抱擁から伝わり、涙声でうまく言葉に出来ないながらもインデックスはそう言った。
可愛らしい顔は涙で濡れ、しゃくりあげて酸素が足りず、ぐしゃぐしゃに歪んだ。
フィアンマは唇を噛み締めて涙を流し、中々返答出来ずにいた。

嘘を言えば良い。
騙すのは得意分野だ。
すらすらと嘘を紡ぐ自分の唇が動かない。
彼女に嘘をつきたくない。
かといって本当の事を言う訳にもいかない。

フィアンマはインデックスの髪を撫でた。
艷やかで手触りの良い、長い髪。
仄かに甘い匂いのする、銀の髪。
宥めるように、慰めるように数度撫で、フィアンマは言葉を返した。

フィアンマ「…あぁ、約束する。…仕事以外は一緒に居ると」

インデックス「う、っん…約束、だからね…? 絶対、絶対だよ…?」

未だ泣き止まないインデックスに対し、フィアンマはもう泣いてはいなかった。
彼はぐずって不安がる少女の背中を優しくぽんぽんと叩いた後にそっとさする。
自分でも何をどうしたいのか、不安定になってきてしまった。

フィアンマ「………」

インデックス「う…」

フィアンマ「…落ち着いたか」

腕の力が緩まり。
ようやっと顔を上げたインデックスは、フィアンマの顔を見つめる。
あの涙声が嘘だったかの様に、青年はいつも通りの様相だった。
インデックスは、じっとフィアンマの瞳を見つめ、その小さな手で頬にぺたりと触れながら再度言う。

インデックス「約束だよ」

フィアンマ「……あぁ」
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/28(火) 15:19:28.08 ID:7wVHUnfAO
+
194 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/28(火) 15:20:17.97 ID:NtNylO9h0

九月三十日。
前方のヴェントが学園都市へと侵入した。
フィアンマはあらかじめそれを知っていた為、インデックスに『歩く教会』を着るように言った。
正確にはそう発言した訳ではなく、マインドコントロールで着用するよう促したというべきか。
故にインデックスは何も疑わず、素直に着用するのみ。
世界中で多数の人間が倒れている。謎の症状、奇病か、とテレビが放映していた。

インデックス「変な病気かも…」

フィアンマ「……」

ソファーに座ったフィアンマの脚の間にちょこんと座って、インデックスは小首を傾げる。
病気にしては不可解。いや、現代版ペストのようなものなのかもしれない。
外に出ず、テレビ(主にニュース)を見ているのだが、どうやらイタリア周辺も被害が出ているらしい。

インデックス「病気にしては脈絡が無いような気もするんだよ」

フィアンマ「……そう思うか?」

インデックス「うん。不可解かも」

しかし、外に出ていない為いまいち危機感は持てず。
死者が出ませんように、と祈りながら、インデックスは目を伏せた。

しばらく時間が経過すると、倒れていた世界中の人々が意識を取り戻したようだ。
フィアンマはそのニュースを聞き、目を細めて告げる。

フィアンマ「…もうすぐ仕事に出る」

インデックス「ぁ、…うん…」

仕事であれば仕方がない、としょんぼりしつつ、インデックスは小さく頷いた。
しばらく、という言葉の指し示す日時は曖昧なので、責める事には値しない。

フィアンマ「…そんな顔をするな」

インデックス「すぐ帰ってくる…?」

フィアンマ「少し顔を出して報告を聞いてくるだけだ。すぐ戻る」

インデックス「わかったんだよ。行ってらっしゃい!」

フィアンマ「あぁ」

インデックスの頭を、フードをずらさないようにしつつ撫で。
彼女のフードの中で光る髪飾りを見届けた後、フィアンマは自宅を出て行った。
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/28(火) 15:20:19.58 ID:7wVHUnfAO
+
196 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/28(火) 15:21:36.15 ID:NtNylO9h0

その日の夜に、フィアンマは帰ってきた。
何か良い事があったのか、しかし、それにしてはあまり嬉しくなさそうな様子で。

インデックス「何かあったの?」

フィアンマ「…いや、何も無いよ」

インデックス「…何か出来る事があったら手伝うんだよ」

にこ、と純真な笑み。
インデックスの提案に、フィアンマは笑って首を横に振る。

フィアンマ「良い歳をした大人が子供の知恵を借りるというのもな」

インデックス「何度も言ってるけど、子供扱いしないで欲しいかも」

むすくれるインデックスに顔を近づけ、固まる少女に吐息のかかる距離で。
フィアンマは口元を歪ませつつ、低い声で囁くように言う。

フィアンマ「何だ、一人前に扱って欲しいのか?」

インデックス「う…あ、当たり前なんだよ!」

フィアンマ「なるほど」

言うなり、俗に言うお姫様抱っこで抱きかかえられて。
とさ、と存外丁寧にベッドへ降ろされたインデックスは、きょとんとしながらフィアンマを見上げる。
フィアンマはインデックスの顔の横に手をつき、再び低い声で言葉を紡いで問いかけた。

フィアンマ「…子供であればまだしも、男と"女"が一つの部屋に居るんだ。この体勢になった意味は分かるだろう?」

インデックスの性別を強調するような言い方。

嗚呼、確かに道理には適っているともいえる、おかしくはない。
男性と少女(=子供)との間でそのような行為に及ぶのは世間の間では評価されないものの、お互い一人前の男性と女性であれば話は別だ。
まして、インデックスはフィアンマに金銭的に世話になっている。
養ってやるから抱かせろ、とは比較的よくある話だ。

インデックス「…ぇ…、…」

怒っているのだろうか、分からない。
多分怒ってはいないのだろう。多分。

こんな時に限って、インデックスの脳内では昼メロドラマのベッドシーンが再生され。
硬直するインデックスの前髪を指先でそっと退け、視線を合わせるフィアンマの表情は無表情とも楽しそうともつかない。
つつ、と。
青年の、爪がきっちり切り揃えられた人差し指は、インデックスの頬から首筋へ向かってゆっくりとなぞり。

フィアンマ「…抵抗せんのか。禁書目録」

インデックス「>>198
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/28(火) 15:30:00.81 ID:0ZRcDPQG0
ksk
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/28(火) 15:30:26.28 ID:0ZRcDPQG0
あなたなら…良いんだよ…
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 16:23:35.18 ID:FR1b1VaSO
いやだ、って言ってもどうせエロい事するんでしょ!エロ同人みたいに!精々私にガンガン突っ込んでパンパンすればいいんだよ!エロ同人みたいに!
200 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/28(火) 16:52:14.02 ID:NtNylO9h0

インデックス「あなたなら…良いんだよ…」

未知の行為に対する恐怖こそあれど、嫌悪感は無い。
だって自分は、目の前のこの青年が好きなのだから。
色々と意味の籠った『好き』だけれど、大好きであることに変わりはない。
自分が彼にしてあげられることは本当に本当に少ない。
自分が持っているのは魔道書や十字教の知識と、他人から褒められる歌声。
だから、この身体を求めるというのならばそれでも構わない。
性魔術の知識はあまり役立たないだろうけれど、彼の欲望のまま身を任せれば良い。

フィアンマ「……、…怖くないのか」

インデックス「経験無いもん、怖いかも。…天にまします我らが父に仕える身としてはいけないことだし。…でも、私はそれでも…自分の意思を優先するんだよ」

深呼吸して緊張を和らげ、インデックスは真っ直ぐな瞳でフィアンマを見つめる。
そして、無理をした様子は無く、照れ混じりに微笑んでみせた。
恐怖や緊張よりも、フィアンマに対しての愛情や信頼の方が比重が大きいが故に。
優しく見守るような温かみのある視線に、フィアンマは口を噤んだ。
インデックスは、思い出したように言葉を付け加える。

インデックス「それに、私が出来る事といえばこれ位しかないんだよ。その、満足させてあげられるか自信はまったくないけど…」

フィアンマ「……」

インデックス「ミハイルが好きだから、怖くても痛くても我慢する。ううん、出来ると思う」

フィアンマ「……」

インデックス「ミハイルは私の事、そんなに好きじゃないのかもしれないけど…でもね、私にとってミハイルは、命の恩人で、親友で、家族で、大好きな人なんだよ」

言葉がもっと出てくれば良いのに。
そう言わんばかりの、一生懸命な様子のインデックスを見下ろし、フィアンマは無言のままでいた。
何を考えているのか、その顔から読み取る事は出来なかったが。
だいぶ緊張が解けたのか、顔を赤くしながらも、インデックスは告白を続ける。

インデックス「…ミハイルは、私が本当に嫌な事はしないって、信じてるもん」

フィアンマ「……馬鹿な女だ」

インデックス「ば、バカとは失礼しちゃうかも!」

フィアンマ「愚かだ、お前は。…俺様のような男を愛しても、裏切られるだけだぞ」

インデックス「うーん…そんな事言われても、困るんだよ」

だって好きなものは好きなのだから。
そこに理屈は要らない。あっても証明しきれない。

自分に優しくしてくれる彼の事を好ましいと感じ。
自分の我が儘を聞いてくれる彼に何か返したいと願い。
自分と笑い合う彼の幸福が続きますように、と祈り。

他人に優しくしながらも見返りを求めず、ただ孤高に孤独に生きている背中を支えたいと思ったから。
言葉にしてしまうと陳腐な、それこそ映画や小説にでも出てきそうな文句にしかならない。

フィアンマ「お前は勘違いをしている。俺様の事しか知らないから、その選択が出るんだ」

インデックス「…そうかもしれない。でもきっと、これから先誰に優しくされても、ミハイルの事が一番好きだと思う」

フィアンマ「何故そう言い切れる」

インデックス「どうしてかな。言葉にならないかも」

フィアンマ「…」

インデックス「疑ったり嫌いになるには理由が要るけど、信じたり愛し続ける事に理由なんて要らないんだよ。…だから、ミハイルが私を嫌いになっても、私はミハイルが大好き」
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/28(火) 16:52:24.24 ID:7wVHUnfAO
+
202 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/28(火) 16:53:19.92 ID:NtNylO9h0

どうして出会う時期がこんなに遅過ぎたのだろう。
ようやく自分が焦がれ、欲しかったモノが提示されているのに、今や捨てる流れになったこの状況で。
好きだなんて言われても、どうすればいいのかわからない。

そろそろ『時期』が来る。だから、嫌いになってもらおうとこの行動に及んだというのに。
もっと昔に出会えていれば良かったのに。せめて数年前であれば。

フィアンマ「…俺様は、…」

此処で嫌いだと冷たく突き放せば、ああは言っていても、自分の事を多少好きではなくなるだろう。
この少女は子供だ。大人とは違い、物の見方が直線的で頑固だ。
きっと気の迷いだろう。彼女にとっては。夢見がちな乙女の一時の夢想。
そうは思うのに、突き放すべきなのに、繕う前の本心が零れた。

フィアンマ「…俺様だって、お前が好きだよ」

インデックス「ミハイル、」

フィアンマ「好きに決まっているだろう。ああ、認めよう。お前の事が大好きだ」

インデックス「…、」

両想いである事がわかったのに、インデックスには何か不穏な雰囲気しか感じ取れなかった。
追い詰められた罪人が死刑台を前にして心中を吐露するような、不安定な響き。
感染した不安を隠す事なく表情という形で出力しながら、インデックスはフィアンマの様子を窺う。

インデックス「…ミハイル…?」

フィアンマ「……、…クソッたれ。ふざけやがって…」

インデックスから離れ、彼は本のある自室へと引っ込んだ。
取り残されたインデックスはのろのろと起き上がり、ベッドに座る。
そもそも性行為に及ぶつもりはなかったのだろうか、と今更ながら予測する。

インデックス(どうして急にあんな事言ったのかな)

咄嗟に思うまま告白してしまったものの、不可解に思う。
そういった事を言い出すのであればもっと早く言う筈だ。
いや、言い出さなかっただけかもしれないが、それにしても、好きであるならばそういう行為に及ぶだろう。
行為に至る意思が無かったのであれば、あのような事を言い出すのはおかしい。
自分が好きだと告げた時、彼は否定しようとした。信じられないというよりも、そうあってはいけない、と思っている様子に見えた。

インデックス「もしかして…私に…嫌われたかったの、かな」

馬鹿なのはどっちだ、とインデックスは思う。

インデックス「…どうしたら、思ってる事を話してくれるのか、わかんないんだよ」
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/28(火) 16:53:21.85 ID:7wVHUnfAO
+
204 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/28(火) 16:54:20.63 ID:NtNylO9h0

十月に入り。
雨の降る外を窓越しに眺め、インデックスはソファーに腰掛けてうとうととした。
何となく、昼寝がしたい気分だ。だが、横たわってすぐ眠れる程の眠気かどうかは怪しい。
フィアンマはそんなインデックスの様子を眺め、無言で毛布を彼女の身体にかけた。

インデックス「ん…ありがとう」

フィアンマ「あぁ」

インデックス「ミハイルは、眠くならないの…?」

フィアンマ「今何時だと思っているんだ?」

インデックス「えーっと…午後一時なんだよ…」

フィアンマ「そうだよ。眠る時間では無いだろう」

インデックス「お昼寝…嫌いなの…?」

フィアンマ「…嫌いという訳ではないが。夜眠れない訳でもない、時間の無駄だ」

インデックス「うー…」

そんな事無いもん、とばかりに毛布を握り。
うつらうつらとしながら、とろんとした瞳でフィアンマを見つめ。
名案だ、とばかりにインデックスが言う。

インデックス「そうだ…ミハイルも、昼寝しよ? きっと心地良いんだよ…」

フィアンマ「…」

インデックス「…ダメ?」

フィアンマ「……俺様が巻き込まれる理由が見えんのだが」

インデックス「>>206
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/08/28(火) 17:26:39.93 ID:tcA9oBsWo
Kakat
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 17:29:58.70 ID:FR1b1VaSO
一緒にお昼寝したら案外昼寝も無駄じゃないって思うかもしれないんだよ
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 18:15:55.85 ID:NHwmQa4W0
定期的に入る+ってレスはなんなんだ?
208 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/29(水) 11:52:19.19 ID:+ivpncP80
>>207様 イーモバイルなので連続書き込みが出来ない為、携帯で空(=+)投稿を挟んでいます》



インデックス「一緒にお昼寝したら…案外、昼寝も無駄じゃないって思うかもしれないんだよ」

ね? と柔らかな笑みを浮かべつつ首を傾げ。
フィアンマが来てくれるまで眠るものか、とばかりに眠気を堪えているのが傍目にも分かる。
無言で、圧力ではなく懇願という形で粘るインデックスを見つめ、折れてやる事にしたフィアンマは、収納戸棚からもう一つ毛布を引っ張り出してきた。
そしてその毛布は自分の身体にかけると、インデックスに言葉を返す。

フィアンマ「…付き合ってやるから、我慢していないで眠れ」

インデックス「んん…ミハイルは、やっぱり、優しい、ね…おやす、み…」

隣りに居るフィアンマが眠る体勢を取ってくれた事で満足したのか、笑みはそのままに目を閉じ、少女は眠り始めた。
耐えれば耐える程眠気は圧縮され濃厚なものとなっていき。
結果的に心地良い眠りに意識を委ねたインデックスの様子を見つつ、眠気の無いフィアンマは暇を持て余した。
眠る内に身体の力が抜けたらしいインデックスはフィアンマの肩、というよりも腕に頭をもたれる。

フィアンマ「……」

インデックス「すぅ…」

フィアンマ「…」

心地よさそうに眠る少女の寝顔は穏やかで、どこか幸せそうだ。

この幸せそうな表情を見る為に、『約束』を守る為に、この崩壊しかけている世界を見捨てるか。
この幸せそうな表情を守る為に、『やくそく』を守る為に、この崩壊しかけている世界を救うか。

しかし、後者はもう二度とこの表情が見られない事も意味している。
これまでほとんど迷うという事が無かったフィアンマだが、思い悩まざるを得ない。

出会うのが後一年早ければ、きっと迷い無く前者を選んだだろう。
出会うのが後一年遅ければ、きっと迷い無く後者を選んで達成していただろう。

この困難だけは、『聖なる右』でも解決する事は出来ない。
どちらを選んでも後悔が残る事は確かだ。
両立させることは不可能。どうにもならない。
どちらかを選ばなければいけない。放っておけば前者を選ぶ事になるだろう。

フィアンマ「…恐らく後者を選んでも、お前は俺様を許してくれるのだろうな」

この少女は優しい。
長年聖職者を務めてきた自分なんかよりもずっとずっと寛容で、敬虔だろう。
他人を傷つける事に対しては怒っても、自分が傷つけられる事に対しては我慢して微笑みの下に赦す。
現代においての聖母のイメージがそのようなものだっただろうか、とぼんやりと思う。

フィアンマ「……」

こんな右手さえ無ければ。こんな、世界を救う力など無ければ。
迷わず、胸を張って前者を選べたのに。

フィアンマ「…そもそもその力と幸運が無ければ、幼少期に死んでいたか」

神様とやらはどうやら自分が嫌いらしい、と、フィアンマは憂鬱そうな表情で、思った。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/29(水) 11:52:20.67 ID:w73aoclAO
+
210 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/29(水) 11:52:59.93 ID:+ivpncP80

インデックス「ん…」

目を覚まし、残った眠気に微睡み半分ながらも時計を見、今が何時かを知る。
思っていたよりも長く眠ってしまった、と思いつつ、インデックスは隣のフィアンマを見た。
自分が眠った時には確か、まだ起きていたような記憶があったのだが。
何か考え事をしながら眠ったのか、あまり穏やかな寝顔とはいえない。
はたまた、悪夢でも見ているのだろうか。どちらにせよ、あまり喜ばしい事ではない。

インデックス「……」

フィアンマ「…」

インデックス(起こした方が良いのかも…でも疲れてる時には寝た方が…)

うーん、と悩むインデックスの耳に、フィアンマの寝言が届く。

フィアンマ「…>>212…」
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 11:59:14.41 ID:kFU58Ze20
携帯あるなら何故携帯で書き込まないの?
とイーモバイルがなんなのかさっぱりわからない
俺が聞いてみたり
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/08/29(水) 13:35:58.24 ID:c825cL8Lo
携帯でss書くとか地獄だろ
st
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 15:54:45.81 ID:DE97DlUU0
俺は…『やくそく』を守る……
214 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/29(水) 20:19:26.07 ID:gH4mfHSj0
>>211様 携帯ですと改行などがうまくいきません。また、一レスに書き込める文字数も少ないです。なので、パソコンでの投稿を基本に据えています。イーモバイルはネットワークを閲覧する為に必要なWifi機器を扱っている会社です。>>1のネット環境を構築する為に必要なものです。しかし、イーモバイルを利用したネットワークでブラウザを開いた状態で書き込みをすると、現在の板の仕様で、連続で書き込みが出来ません。
+の文字は本文が空白だと投稿出来ない為に入れています。少々見辛いかもしれませんが、上記の理由にて不可抗力の為、皆様どうかご容赦願います》





フィアンマ「…俺…は…『やくそく』…を…守る………」

どちらの約束か。
否、インデックスはもう一つの約束を知らない。
だからこそ、自分との約束を守ると言ったのだろうと無条件に信頼する。
無条件にそう思い込める。愛し、信じているからこそ。
それが裏切りに変わる恐れを想定出来ないのは、無知と愛情が混ざっているから。
インデックスはフィアンマの寝顔を眺め、やはり浮かび続く苦悶の色にしばし悩んだ後、結局起こさずにキッチンへと移動した。
オルソラに教えてもらい、上達した料理の腕を実感してもらおう。
つまりは彼が起きるまでに手料理を作ろうと考えついたのである。

インデックス(ちょうど買い置きのパンとかも無いし、グッドタイミングかも)

美味しい料理を作ったら、彼は褒めてくれるだろうか。
少なくとも、僅かに笑顔は見せてくれるのではないだろうか。
別に褒めてもらえなくてもいい。自分の作った食事を食べて美味しいと思ってくれれば。
魔術を使えない自分は、こういった、自分自身を使うことでしか人を笑顔に出来ない。
裏を返せば、自分が一生懸命取り組んで成功させれば、誰かが笑顔になってくれるということ。
その『誰か』が好きな人であれば自分も嬉しい。愛する人であれば尚更。

インデックス(よし、頑張るんだよ。何を作ろうかな…?)

キッチンのシンク前に立ち、うーん、と首を傾げて悩むインデックス。
彼の好きな物はいまいち把握出来ていない。
嫌いな食べ物はほとんど無い、ということはわかっているのだが。

インデックス「うーん…うーん…?」

冷蔵庫の中、それなりに材料は入っている。




何を作るか(料理名)>>+2
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 20:21:55.36 ID:A41EXyVG0
わざわざ説明ありがとうございます

ksk
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 20:27:34.75 ID:A41EXyVG0
卵焼き(ちょっと甘く)
217 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/29(水) 21:00:46.85 ID:gH4mfHSj0

インデックス「オムレツ…はあんまり自信無いから、あれが良いかも」

彼はあまり和食を口にした事が無い気がする、と思いつつ。
インデックスは長い髪が料理の邪魔にならないよう簡素なゴムで纏める。
髪留めをズラして痛い思いをしてしまわないよう、気をつけながら。
入浴する時やプールに行った時など、無くしそうな、或いは着けてはいけない場面以外では常に着けている髪留め。
彼が帰ってこなくても、この髪留めを大事にしていればすぐ帰ってきてくれるような気がして。

インデックス(お料理を美味しく作れるのは良いお嫁さんになれる条件…)

オルソラと料理中に言われた事を思い出し、ちょっぴり顔を赤くしながら。
インデックスはいそいそと器に卵を割った。
殻が入ってしまわないように気をつけて、慎重に。
醤油は手元にない為、取り出したのは砂糖。
割った卵に、少しずつスプーンで入れていく。
本当はドバッと入れてしまいたいところだけれど、味の調整に自信がないから、少しずつ。
これ位で良いか、と結論付ければ砂糖をしまい、スプーンで掻き混ぜる。
かちゃかちゃ、と数度かき混ぜ、フライパンを熱しつつ油を満遍なく敷いた。
油を注いで行き渡らせ、一度火を止めてから紙で多すぎる油を取り除き、再度火を点け。
よく油を馴染ませたフライパンに卵を注げば、じゅうう、と小気味良い音がする。

インデックス「美味しくなーれ…」

料理を美味しくする最大の調味料は愛らしい。
であるならば、あの失敗した時に比べて遥かに美味しい物が作れる筈なのだ。
たかが卵焼きに全神経を集中させる少女の姿はほんの少し滑稽で、とても可愛らしい。
フライ返しでうまくひっくり返していき、ミルフィーユの如く多重構造にしていって、最後に切れば出来上がり。
あまり綺麗でない端っこ、つまりは切り落としは味見分としていただくことにする。

インデックス「うん、そんなに悪くないんだよ」

少々甘めの味付けにした卵焼きは、自画自賛になるものの、美味しい。
自分の舌を信じるであれば、このまま食卓に出す事が出来るだろう。
とはいっても、この卵焼きだけで夕飯、というのは寂しい。
料理は使う食材をあまり被らせない方が良いと聞く。

インデックス「うー…」

再び悩むインデックスの背中に、声がかけられた。
振り返れば、目を覚ましたらしい彼が無表情でこちらを見ていた。

フィアンマ「…料理か」

インデックス「おはようミハイル、とはいってももう夜だけど」

フィアンマ「昼寝が過ぎた。何を作るつもりだ?」

インデックス「タマゴヤキはもう作ったから、悩んでるかも。何か希望はある?」

フィアンマ「………」

大丈夫なんだろうか、と顔にこそ出していないが考えているのが滲み出ていた。
前回とは比較にならない程、インデックスは料理の腕前が上達しているのだが。

インデックス「今回は大丈夫なんだよ、ミハイルが居ない間に沢山お勉強したんだから!」

自信満々のインデックスを信じてみる事にしたらしいフィアンマは、ようやく希望を口にする。

フィアンマ「…>>219が食べたい」
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 21:03:32.00 ID:O482urLI0
お前の作った味噌汁
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 21:04:21.32 ID:O482urLI0
>>218

220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:22:53.46 ID:/shD/buSO
和食系で固まったなwwwwww
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/29(水) 21:51:02.64 ID:pP1Gkt5n0
まさかのフィアンマさん和食派
222 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/30(木) 18:08:23.68 ID:aaamNxL70

フィアンマ「…お前の作った味噌汁が食べたい」

インデックス「ミソシ…うーんと…あ、わかった! ミソスープの事?」

フィアンマ「そういう事になる」

インデックス「頑張ってみるんだよ。…ミハイル、もしかして和食好きなの?」

フィアンマ「納豆とやらは好かんが、基本的には好きだ」

インデックス「ナット…工具、じゃなくて…甘いやつかな?」

フィアンマ「それは甘納豆の事だろう」

インデックス「甘ナット…」

ダメだわからない、と首を傾げ。
ひとまず鍋にお湯を沸かし、インデックスは冷蔵庫を漁る。
ミソスープ―――味噌汁の具になりそうなものは、玉ねぎやキノコなど。
キノコと玉ねぎの味噌汁を作ろうと決めれば、きのこの苗床を切り落として捨て、軽く水洗いしてから鍋に入れ。
以前と見違えるインデックスの素早く的確な手つきを見、フィアンマは割と素直に驚いたような反応を見せた。

フィアンマ「勉強した、というのは嘘ではないようだな。習ったか」

インデックス「うん! ええっと玉ねぎ…」

手元を見つつ猫の手で玉ねぎを切る内、自然とインデックスの瞳が潤む。
玉ねぎを切った時特有の、むず痒いような感覚。

インデックス「ぅ…うぅ…」

ぐすっ、と泣き出しそうなインデックスの様子を眺め、後ろから抱きしめてやりつつ、彼は呆れたように言う。

フィアンマ「…線に沿って切る、というのは習わなかったか」

インデックス「何でだかこの玉ねぎは痛いんだよ…」

フィアンマ「そうか」

新たまねぎと玉ねぎではまた勝手が違う。
或いはオルソラは事前に玉ねぎを冷凍庫に入れていたのかもしれないが、フィアンマはインデックスが誰に料理を習ったのかは知らない。
フィアンマから料理の基本や応用を習いつつ夕食を作り終え、インデックスは満足そうな表情を浮かべていた。

インデックス(何だか新婚さんみたいかも?)

メインには手元の材料で洋食を据えて席に着き、食べ始める。
大方上手く出来た。途中から二人で作ったというのもあり、精神的にも美味しい。

インデックス「んむ…」

ちら、とインデックスがそちらを見やると、フィアンマが丁度卵焼きを食べていた。
おずおずとインデックスは問いかける。

インデックス「お…美味し、い?」

フィアンマ「……まぁ、この間の『あれ』に比べれば遥かに上出来だ。そもそも料理が違うが」

インデックス「! これからもっと勉強して、もっと美味しいご飯作るね!」

フィアンマ「…あぁ」

インデックスは褒められて伸びるタイプなのか、嬉しそうにはにかんだ。
食べ終わったフィアンマは腕を伸ばし、インデックスの頭を撫でる。


告白しあって以来ちょっぴり離れたような気がする距離が、また戻ったような気が、した。
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/30(木) 18:08:25.09 ID:tWw4W6QAO
+
224 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/30(木) 18:10:30.32 ID:aaamNxL70
十月某日。
各国でローマ正教徒が暴動を起こしていた。
様々なところで抗議活動が頻発している。
外は民衆でごった返し、あちこちから怪我人が出る始末。
学園都市とローマ正教とは完全に敵対し、対立してしまっている。
にも関わらず、要職に就いているらしいフィアンマが何の反応も示さない為、インデックスは不思議そうに首を傾げた。
しかし、要職に就いているからこそ動揺を見せないのだろうか、とも考え。
結局関与も干渉も出来ないインデックスは、何も言わないでおいた。

インデックス「ミハイル、何だか騒がしいね」

フィアンマ「…そうだな」

インデックス「怪我してる人も出てるみたいかも」

フィアンマ「……」

インデックス「…」

戦争に発展したりしなければ良いな、とインデックスは思う。
隣の男が、戦争の勃発を、目的を果たす手段として目論んでいる事も知らず。
外は相変わらず騒がしい。

インデックス「……」

フィアンマ「…禁書目録」

インデックス「? 何?」

フィアンマ「…俺様と、ずっと一緒に居たいか」

インデックス「うん」

迷い無く、一瞬でも考え込む素振り無しに、ほぼ条件反射の如く、インデックスは頷く。
そして、困ったように笑った。

インデックス「どうしてそんな事聞くの?」

何を当たり前な事を、とばかりの語調。
対して、フィアンマは答えずに質問を続ける。

フィアンマ「…もしもの話だ。もしも、…俺様がお前と一緒に居る事で、近々世界が壊れてしまったら、どうする。沢山不幸な人間が出たら」

インデックス「…ミハイル?」

フィアンマ「あくまで、IFの話に過ぎん」

迷い迷って、結局答えを叩き出せなかった彼は、インデックスに甘えた。
甘え方の部類としては最悪の形だが。

インデックス「……世界が壊れるっていうのは分からないけど…でも、沢山不幸な人が出るのは嫌かも」

フィアンマ「……」

インデックス「えっと、もしものお話だよね? ミハイルが私と一緒に居ない状態…どこかに行ったら、どうなるの?」

フィアンマ「そうだな…世界中の、全ての人が幸せになる」

インデックス「……」

最低だ、とフィアンマは自らの所業ながら思う。
自分の意思では決められないからと、こんな空想話として決定的な言葉を求めている。
こんな華奢で無力な少女一人に、責任の一端を担わせようとしている。

インデックス「どっちも選ばなかったら…ううん、質問が破綻しちゃうね」

フィアンマ「どちらかを選んでくれ。何、あくまで空想上…もしもの話だ」



インデックスの台詞決定投票安価区間は>>226-230です。
選択肢は以下のみ。

1. 『…選べない。だって、ミハイルと一緒に居られないなら、私は幸せになれないから。もしもの話でも、選べないよ…』(捏造=救済しないルート)

2.『…世界中の人が幸せになれるなら…、仕方無いかも。だって、もしもの話なんだよ、ね…?』(原作=世界救済ルート)

番号で投票してください。
同IDにつき一票です。(=連投無効)
よろしくお願いいたします。
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 18:21:42.07 ID:QNCICaCg0
これは2
展開に動きがなくなってしまうしな
226 :名無しNIPPER [sage]:2012/08/30(木) 18:23:16.22 ID:7+/N8GqQ0
2
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 18:23:50.48 ID:yh+C3i5DO
2しかないな
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 19:40:28.15 ID:AlIKhuDSO
じゃああえて俺は1と書こう
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 19:40:58.40 ID:yVuhDgCw0
>>1の事だし両方ルート用意してたりしてな って事で1
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/08/30(木) 20:26:41.40 ID:E9qy1ju0o
2
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 20:32:42.67 ID:/WhAF+Mr0
この二人はほっとくと際限なくイチャつきそうだからな
試練があった方がおもしろい
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:55:08.24 ID:kl50TStko
2
233 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/30(木) 22:32:47.10 ID:fMZI0U0w0
《投票にご協力いただきありがとうございました。 結果:捏造(2)、原作(3)の為、当スレのフィアンマさんは原作通り世界救済に進みます。捏造ルートにご投票くださった方には大変申し訳ありませんが、どうかご了承願います。尚、あくまで原作準拠という意味なので、原作とまったく同じ展開とはなりません。ご了承ください》 



インデックス「…世界中の人が幸せになれるなら…、仕方無いかも。だって、もしもの話なんだよ、ね…?」

不安げな表情で、インデックスが問いかける。
苦笑いを添えたのは、嫌な予感がしたからだろうか。
何はともあれ、今の発言でフィアンマの心づもりは確定した。
もう迷わない。迷う必要は無い。
いつだって効率的に目的を達成できるよう、沢山のモノを捨ててきた。
この少女だって、そう、捨てる為に手に入れたモノの一つ。
幸い、この少女は庇護欲を誘うという特技―――否、性質がある。
自分が居なくても、彼女はきっと誰かと結ばれるか、或いは誰かと共に生きていくだろう。
彼女の隣に居るのは、自分じゃなくていい。自分であってはいけないのかもしれない。
フィアンマは酷薄な、実に彼らしい笑みを浮かべると、一度頷いてみせた。

フィアンマ「あぁ、もしもの話だよ」

結局彼女だって、自分より世界を取るのだ。いや、人間は皆そうなのかもしれない。
だとすれば、自分も彼女より世界を取った方が良いに違い無い。
別に失望した訳ではない。元より、自分を選んで欲しいとも思っていなかった。

ああ、楽しい日々だった。本当に本当に、短いこの期間、楽しかった。
どうしようもなく幸せで、形容し難い程に名残惜しい。
けれど、もう必要無い。自分にはもう、必要無い。

フィアンマ「…禁書目録」

インデックス「?」

フィアンマ「……、…いや、何でもない」

さよならはきちんと言えるだろうか。
それだけはいまいち自信の持てないままに、フィアンマは笑ったまま、インデックスから視線を外す。
暴動は、尚、やまなかった。
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/30(木) 22:32:50.45 ID:tWw4W6QAO
+
235 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/30(木) 22:33:17.93 ID:fMZI0U0w0

十月某日。
決断をした日より数日後の事。深夜。
フィアンマは、玄関前で考え事をしていた。
インデックスが目覚める前に出ていくべきか、それとも別れを告げてから出ていくか。
これ以降、彼女と会う事はきっと無いだろう。むしろ、無い方がありがたい。

フィアンマ(…これから捨てるモノに何を、)

自分はこんなに甘く優しい人間だっただろうか、と彼は自嘲する。
彼女の笑顔を守る為に、そしてあの少年の為に、世界を救うのだ。そう思わなければやってられそうにない。
武器の調子でも確かめるように、右手、拳を握り、開いて。
目を伏せ、やはり別れは告げずに行こうと決め、フィアンマは玄関の取っ手に手をかける。
ガタガタ、と音がした。物が落下した訳ではない。人の足音。
振り返ると、インデックスが眠そうに目元を指で擦り、首を傾げていた。

インデックス「…仕事行く…の…?」

フィアンマ「……、…」

不安げな表情で、眠いのか、覚束無い足取りでフィアンマに近寄った彼女は、彼を見上げながら問いかける。

インデックス「……、…早く…帰ってきて、ね…」

フィアンマ「………」

振り返るべきではなかった。
そう思い、沈黙しているフィアンマの態度から何を読み取ったのか、インデックスは眉を下げて指摘する。

インデックス「…そ、っか。…『遠く』、に…行くんだね…?」

フィアンマ「……」

何か言わなければ。
何か言って、誤魔化さなければ。
でも、これが最後の会話になる。
最後の最後、彼女に嘘を吐くのか。
しかし捨てると決めた。切り捨てると決めたのだから、容赦はいらない。
それなのに、言葉に詰まった。

沈黙を貫いているフィアンマに、インデックスはまるで子供をあやす母親のような優しい笑みを見せる。

インデックス「…それが、ミハイルの決めた事だもん、好きにしたら、いいんだよ。…でも、私はずっと、ミハイルの味方だよ」

フィアンマ「…」

インデックス「…きっと、戻ってくるよね? この間のお仕事みたいに、時間はかかっても…帰って、くるよね…?」

彼を困らせてはいけない、とインデックスは我慢する。
本当は行って欲しくない此処に居てと泣き喚きたいけれど、我慢した。
疑問形の言葉に、返答は来ない。
ぞわぞわと胸騒ぎがする。引き止めなければいけない気がする。
それでも我慢する。彼が決めた事なのだから、きっと自分が思っているよりも、正しい事なんだ。

インデックス「…ミハイル。…ど、うして…何も言ってくれない、の?」

フィアンマ「……帰ってきたら、出迎えてくれるか」

インデックス「うん、当たり前かも。長くかかるの?」

フィアンマ「…あぁ、とても長くかかる。ずっと帰って来られない」

インデックス「でも、待ってる。…帰ってくるまでに、もっとお料理も勉強しておくからね! 後、他にもお皿洗ったり、家事、出来るように、頑張って…練習、する。それと、それと

…」

指折り数えて、沢山候補をあげて。
会話をする事で自分を引き止めてくれている事くらい、フィアンマには理解出来た。
重要な局面での聡さは自分だけでなく、これまで多くの人々の支えになってきたのだろう。

もう候補が浮かばない、と無力感に俯き、インデックスは自分の衣服を握り締める。
ぼろぼろと大粒の涙を零し、小さく震えながらも激情を堪える小柄な少女の姿は、ただそれだけで画になるようだった。
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/30(木) 22:33:19.01 ID:tWw4W6QAO
+
237 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/30(木) 22:33:40.39 ID:fMZI0U0w0


フィアンマ「…帰ってこられたら、良いのになぁ…」

いつもの尊大な口調なんて、傲慢な態度なんて、抜けていた。
泣いて、一生懸命に自分を引きとめようとしてくれている少女を抱きしめ、縋るように涙を流す彼の姿は魔術師も何も無く、惨めな青年の姿だった。
才能とこれまで築いてきてしまった犠牲の為に、歩みを止める訳にはいかない。
捨てると自分に言い聞かせたのに、こうして捨てられなかった。突き放せなかった。
馬鹿らしくて非効率だと自分でも思う。こんな行動に何らメリットは無い。デメリットはあるが。

フィアンマ「お前とだけ、居られたら良いのに」

インデックス「…、…」

頑張れば頑張る程空回りする。
欲しいと思えば思う程、結局は自分から捨てる事になる。
こんな才能も正義感も要らないのに、とフィアンマは思う。
自分から逃げ出せないから、こんな事になる。

インデックスは流れる涙を呑み込み、守られる可能性は極めて少ない約束を持ちかける。


インデックス「絶対、…絶対、帰ってきてね。どんなに時間がかかっても、帰ってきてね…」

フィアンマ「……きっと、帰って来る。だから、…味方で…居て、くれ…」

インデックス「う、ん…!」

彼らしくもない、弱さを感じさせる声に、インデックスは頷く。





そして、きっと彼が帰ってきてくれる事を信じ―――笑顔で、見送った。
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/30(木) 22:33:42.02 ID:tWw4W6QAO
+
239 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/30(木) 22:34:40.59 ID:fMZI0U0w0


ヴェントは戦闘不能。
アックアも同じく。
テッラに至っては死亡。
となれば、自然と『神の右席』の実権全てはフィアンマの手に委ねられる。
教皇に思惑の末端を話し、フィアンマはくすりと笑う。
眼前の教皇は術式を組んでいるが、そのような事は関係無い。彼の前には、ありとあらゆる困難は意味をなさない。

教皇「ユダは裏切りの後、強い自戒に駆られて首を吊ったそうだ。彼の世界は暗く寒く深く苦しく、どこを見回しても一縷の希望すら見えなかったのであろう。覚えておくが良い、これ

から貴様が味わうものの正体だ」

ローマ教皇の声を聞き流し、フィアンマは思う。
自分の人生に、希望という概念は正しくは見当たらなかった。
暗く寒く深く苦しく。いつでもそうだった。今もそうかもしれない。
悪意に満ちた世界で、どうにか手探りで見つけ出した優しい笑顔を泣き顔に変える事しか、今は出来ない。
あの少女はきっと、自分の言葉を信じて待ち続けてしまうのだろう。愚かにも。優しいから。愛ゆえに。

教皇「これより貴様を四○年ほど空転させる。ユダの陥った『己自身に対する孤独』を長く味わい、その未熟な精神を今一度研磨し直すが良い」

精神が未熟だというのは、認めてもいい。
だけれど。
この行為だけは、誰にも止めさせない。
これは、あの少年との約束なのだ。


一三面体の中で、棒立ち状態のフィアンマの唇が、僅かに震えた。

教皇「やめておけ。曲がりなりにも私は教皇。今ここで振るう力とは二○○○年の時を経て、二○億もの信徒を支え導く神聖なもの。一人二人の傲慢で振り切れるようなものではない」

聖ピエトロ大聖堂は旧教勢力圏の中でも最大最高の要塞だ。
バチカン市国そのものが、ローマ教皇を何重にも補強する巨大霊装として機能する。

フィアンマ「ふん」

傲慢なのはどちらの方だ、とフィアンマは思う。
最早『神の右席』の下に置かれた傀儡が、『右方のフィアンマ』に意見すること自体、間違っている。

自然な調子で、フィアンマは言う。






フィアンマ「残念だが……たった二○億人、たかが二○○○年ではな」
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/30(木) 22:34:42.32 ID:tWw4W6QAO
+
241 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/30(木) 22:36:00.19 ID:fMZI0U0w0

自分が周囲の人を助けようと考え始めたのは、いつ頃からだっただろうか。
思い返せば、それはあの人へヒーローになるという誓いを立てた時からだったような気がする。
疫病神と罵られ、近づけば逃げられるか、暴力を振るわれて。
挙句の果てには『俺の借金はお前のせいだ』なんて言いがかりをつけられて男に刺されたり。
この辺りの事は嫌な事ばかりで記憶が曖昧だけど、確かに覚えている事がある。
あの人は手品師だったのか、それは分からない。でも、あの時自分は確かに救われた。
突き飛ばされて負った膝の傷を、不思議な力で治してみせ。
目を閉じている間に、お菓子の山を築き上げてくれた、優しい人。
今思えば、魔術師か手品師かのどちらかなのだろうけど、純粋だったから、魔法だと信じていた。
俺が使っている『不幸だ』という口癖は、その人からもらったものだったように思う。
言う事で不幸を発散させるだなんて、子供騙しも良いところだ。
でも、その時から少しだけ、自分に良い風が吹いてきたようにも思う。

『誰から疫病神と言われても、どんな目に遭っても、胸を張って生きていろ』
『生きてさえいれば、必ず誰かがお前を笑顔にさせてくれる。素敵な出来事がある。幸せになれる』

何の根拠も無い言葉だったが、両親以外で俺に優しくしてくれた数少ない人の言葉だった分、心の奥底に沁みた。
笑っている方が似合うと言われたから、辛い事があっても泣かないように我慢した。

赤い髪に、白い肌と、端正な顔立ちは優しそうで。
細身ではあったけれど、華奢というイメージは無かった。
ああ、名前を思い出した。ミハイル、という名前のお兄さんだ。


そんな優しく和やかな記憶を塗り潰すかの様に、その男は上条の前に立っていた。

記憶のまま、身にまとう衣装は赤く。
優しい笑みは酷薄で残酷さを帯びた笑みに変化していたけれど。
纏う雰囲気は柔らかで不思議な曖昧さを帯びたものではなく、異様な重圧感だったけれど。
上条は、しっかりと覚えていた。

上条「ッ、…だ、れだ、テメェ」

否定したくて、咄嗟に言葉が出た。
彼ではなく、傍らで、地面に突っ伏しそうになりながらも王女が答える。

キャーリサ「フィアンマだ……。右方のフィアンマ。『神の右席』の実質的なリーダーだし」

嘘だ、と目を見開く上条。
双子の兄か弟か、とは思うが、どうにも本人のように思えた。
あの優しい人と、目の前のコイツが、同一人物?
嘘だ、と再度心中で呟きつつ拳を強く握る上条の様子を眺め、フィアンマは笑った。

フィアンマ「やるか? 良いぞ、こちらは不格好で申し訳ないが、温まってきた所だ」

上条「…ッッ…!!」

フィアンマの第三の腕が爆発的な光を発した瞬間、上条は咄嗟に右手を突き出す。
痛みこそ無いが、恐ろしい程の衝撃が上条の右手に伝わった。
色々な意味で動揺する上条に対し、フィアンマは纏わりつくような低い声で告げた。

フィアンマ「顔合わせだよ。…流石は俺様の求める稀少な右手。改めて見ると、その特異性が際立つ。まぁ、今しばらくその右腕の管理はお前に任せておくとしようか。ロシアの方で天使を降ろす『素体』の確保一切…少し、準備があるしな」

上条「待っ―――!!」

言いかけた上条に対し、再び放たれる閃光と衝撃。
咄嗟に右腕で防ぎ、上条が再び目を開けた時。
そこには、もう。

被害者以外誰も、居なかった。
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/30(木) 22:36:01.49 ID:tWw4W6QAO
+
243 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/30(木) 22:36:59.78 ID:fMZI0U0w0

周囲から手当を受けながら、上条は目を伏せる。
神裂も同じようにショックを受けた様子だった。
ステイルは少々納得がいかない、といった雰囲気で。
神裂やステイルの知るフィアンマとは、インデックスの命を立場に関わらず助けてくれた恩人という認識だった。
それが、動乱を引き起こし、上条の右腕―――『幻想殺し』を求めているとは意外で。
それ以上に、精神的ショックの方が大きかった。

上条「…止め、ないと」

ぽつり、と上条は呟く。
自分に手を差し伸べてくれた頃の彼に何があったのかはわからないが、この十年間で、上条の知るフィアンマと現在のフィアンマはがらりと豹変してしまったように思えた。
実際は十年前と精神性にさほど差異は無いのだが、これはあくまで上条個人の認識の問題である。
何かがあって、フィアンマはおかしくなってしまった。上条は、フィアンマを元に戻したい。その為に助けたい。

上条「ロシア、って言ってた…よな」

神裂「…上条当麻。あなたには『御使堕し』以来何かと頼んでしまっていますが…」

言い澱む神裂は、上条をあまり巻き込みたくないのだろう。
フィアンマの狙いである右腕を所持している、という理由もあるだろうが。

上条「…でも、いかないと。どちらにせよ、アイツが狙ってるのは俺の右手なんだし、此処に居ても殴り込みにいっても、同じ事だろ。…俺が、止めないと。多分、俺にしか止められない」

神裂は口を噤み。
しばらくの間の後に、静かに問いかけた。

神裂「……もしかして、彼を知っているのですか?」

上条の物言いは、なぜだか敵を相手にしたものとは思えず。
神裂の問いかけに対し、上条はしばし迷った後、こう述べた。

上条「>>245
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/08/30(木) 23:17:37.27 ID:E9qy1ju0o
俺にとっての…ヒーローです…
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 23:43:12.28 ID:/WhAF+Mr0
俺を地獄から引き上げてくれた人なんだ
246 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/31(金) 20:50:57.07 ID:1MX5y9MZ0

上条「俺を、地獄から引き上げてくれた人なんだ」

神裂「地獄…」

先程の衝撃を受け止めたせいで多少痛めた右手首を左手で摩りつつ、上条は昔の話をした。
とはいっても、全て詳細に話した訳ではなく、要点を踏まえた上で簡潔に。
自分の右腕を狙っている危険人物について話しているにも関わらず、その表情は穏やかだった。
急な事で、先程の恐ろしい男と脳内の優しい男性がいまいちしっかりと結びついていないというのもある。
神裂やステイルにとっては、上条の語るその優しいイメージの方が強かった。
納得がいかない。だからといってここで三人で語り合ったところで、彼が行動を変える事は無いだろう。

上条「…って、理由がある、から。…だから、俺はロシアに行くよ」

ステイル「…出来る限りサポートしよう」

本来であれば全力で上条の味方をしたいと言い切りたいが、相手が相手。
あの青年が傷つけばインデックスも悲しむと予測出来ている分、ステイルは苦い表情で頷いた。
神裂も同じく、腹の底、胸の奥から湧き上がる苦味に何とも言えない表情でバックアップを約束する。
その提案に対し、上条は頷いた後、言葉を付け加える。

上条「ありがとな。…でも、最低限で良い。後、命の危険を感じたら逃げてくれて良いからな」

神裂「貴方はあくまで一般人です。そして、私達は魔術師です。逃げるような事はしません」

上条「逃げてくれた方が良いんだけどな…」

困った顔で、上条は笑う。
少々頼りない、少年らしい笑顔だ。

神裂「…貴方が彼を止めにいく理由は分かりました。…怖くは、無いのですか」

上条「ちょっと怖いかな。俺の知ってるあの人とは変わっちまったみたいだし。でも、…」

神裂「…?」

上条「結局、俺はあの人と両親に生かしてもらったんだ。だから、そんなに怖がる必要は無い。神裂達はイギリスとかの対処を先んじて頼む」

話せばわかってくれる、と半ば自分に言い聞かせるように言い。
本当の理由は口に出せなかった。

上条(…俺とした約束のせい、かもしれない、な)

いじめのないせかいをつくって。
自分は幼い頃、そう要求した。
もう二度と誰も不幸を嘆かない世界を創ってやる。
彼はそう約束してくれた。
あの人が何をするつもりなのか。自分にはわからない。

思い上がりかもしれないし、勘違いかもしれないし、しかしそれが理由だとすれば。

上条(俺の、せいだ)

やはり自分は不幸を振りまいてしまう存在だったようだ、と上条は思う。
しかし、いやむしろ、それならばやはり、止めにいかなければ。
必ず、この手で止めなければ。
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/31(金) 20:51:00.35 ID:6lZqsC8AO
+
248 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/31(金) 20:51:57.15 ID:1MX5y9MZ0

一○月一八日。
ロシア連邦大統領の名において、宣戦布告が出された。
曰く、これは世界とそこに住む全人類を守るための戦い。
学園都市、及びイギリスを相手取っての戦争。
ロシアにとって圧倒的不利。にも関わらずこのような流れとなったのは、全てフィアンマの画策。
『神の右席』が裏で糸を引き、フィアンマが仕組んだとはいえ、戦争は戦争。
始まってしまえばそうそう簡単に終わる筈もなく。





一○月三○日。
上条当麻はロシアに居た。
一○月下旬だが、すでに辺り一面は白い雪に覆われていた。
バッシュを履いた足では、数センチ程度の雪でも応える。

上条「さっむ…」

雪解け水は冷たく、もはや寒さは痛みとなって指を苛む。
着ているのは学生服だが、学園都市製の繊維技術だからだろうか、意外にも凍死してしまいそうな想いはしなかった。
しかし、欲を言えばコートが欲しいところなのだが、こんな状況でわがままは言えない。
戦争。
様々な状況情報から予測するに、彼が裏で手を引いたのだろう。
何を考えているのかはさっぱりわからないが、よからぬ事であることは間違いない。
自分が右腕を切られるだけでは済まないだろ。どうにか計画を阻止しなければ。
そのために上条は、右方のフィアンマが潜んでいるとされるロシアへとやってきた。
やってきた訳なのだが……。

上条「……何で俺、>>250と一緒なんだろ。上条さんとしては単身のつもりだったんですけど」
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/31(金) 21:02:38.03 ID:LjA3tesN0
ksk
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/31(金) 21:03:18.38 ID:LjA3tesN0
風斬&一方
251 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/08/31(金) 21:40:35.10 ID:1MX5y9MZ0
>>248 ×応える ○堪える ×済まないだろ ○済まないだろう》



上条「……何で俺、風斬と一方通行と一緒なんだろ。上条さんとしては単身のつもりだったんですけど」

風斬「ご、ごめんなさい…その、ええっと…」

エイワスに向かって正面を切り宣戦布告した時と違い、普段の弱気な様子の風斬はしょんぼりとしながら謝罪する。
上条は苦笑しながら首を横に振った。

上条「いや、別にいいんだ。風斬にとっては学園都市は家みたいなもんだし、助けたいよな」

風斬「まぁ…はい」

上条「一方通行は、何か理由でもあったのか?」

一方「色々あンだよ。…途中から別行動だ」

一方通行が背中に背負っているのは、一人の少女。
幼いその少女は毒物でも飲み下したように弱っていたものの、上条に頭へ触れてもらって以来、少しだけ調子を取り戻していた。

ちなみに。
エイワスという天使に言われるがまま、一方通行はロシアへとやってきた。
正直何をすれば良いのかはいまいち掴めないが、ひとまず、上条にまた貸しを作った事は間違いない。
上条は自分の組み立てた予想の下、エリザリーナ独立国同盟へと向かっていた。

風斬はそんな上条を戦火から少しでも守れれば、と願いついていき。
偶然合流した一方通行はその独立国同盟にどうにか入れば少女―――打ち止めを休ませてあげられる、と思ったが故に向かう方向が同じなので、共に行動している。
途中から別行動だと宣言しているのは、そのためだ。

一方「…俺とそこのヤツはともかく、オマエは何でこンな場所に居ンだよ」

上条「え? あー…いや、その…」

かつての恩人が戦争を引き起こしてまでとんでもない事を仕出かしたので止めにきました。
この目的をそのまま言うと後々取り返しがつかない事になるような気が、した。
適当な理由をでっちあげるにも、戦争の真っ只中に一般学生がやってくる適当な理由って何だ、と思いつつ。
上条は悩んだ末に、冷や汗をかきつつ苦笑いで言う。

上条「あー…>>253だから」
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/31(金) 21:58:14.89 ID:AZ0RIpeeo
ksk
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/31(金) 21:58:44.28 ID:AZ0RIpeeo
み、道に迷って(汗)
254 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 01:06:01.46 ID:u9Gzqo/60

上条「あー…み、道に迷って…だから」

うんうん、と頷くジェスチャーつきの言い訳は、苦しい。
というより、どう考えても学園都市で迷子、いや、イギリスで迷子になったにしてもロシアへ来てしまう訳がない。
しかし、そんな心苦しい言い訳を聞き、風斬は心配そうな表情を浮かべた。
どうやら完全に信じてしまったらしい。

風斬「じゃあ、その、独立同盟国に到着したら帰れるかも…?」

上条「あー…ははー、うん。そう思う」

一方通行は上条の言い訳を『言いたくない、或いは他人に言えない用件』と受け取ったらしく、ノーコメント。
上条はその対応にほっとしながらてくてくと歩く。地図によればもうすぐ到着出来るはずだ。
しかし、そう穏便にはいかないらしく。辺りはやや不穏な雰囲気を醸し出してきている。
やけに人気が少ないのは、軍事基地が近いのかもしれない。
たとえば、エリザリーナ独立国同盟を攻撃するために急ごしらえした基地、だとか。
一方通行は何か、見つけてはいけないものを見つけたような表情で、立ち止まる。

一方「…俺はこっから別行動だ」

上条「…気をつけろよ」

一方「あァ」

打ち止めをしっかり抱えたまま、一方通行は地面を蹴って跳ぶように去っていった。
残されたのは上条と風斬。

上条「風斬、この辺りは危ないぞ。学園都市に居た方が、」

風斬「大丈夫!」

ぐっ、と自分に気合を入れるようなポーズで、風斬は頷く。
そして、困ったように、薄く笑った。

風斬「…だって、貴方は私を助けてくれた。友達の為に、私もやれる事をしたいんです」

上条「…ありがとな」

上条は柔らかな笑みを返し、雪を踏みしめて歩く。
相変わらず、寒い。
だが、歩みを止める訳にはいかない。
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 01:06:02.86 ID:MjcSAGJAO
+
256 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 01:06:26.10 ID:u9Gzqo/60

フィアンマは、何やら興奮した男の声を適当に聞き流していた。
霊装を用いて通話(とたとえていいものだろうか)をしている相手は、ニコライ=トルストイ。
ロシア成教の司教で、今回何かとフィアンマは彼を利用している。
小物だが、漁夫の利を求めるらしく。自分は頭が良いつもりでいるらしい。

フィアンマ「…将来設計は今する事ではないと思うが」

ロシア語で簡素にそう指摘すると、フィアンマは簡素且つ高級そうな机に肩肘をつく。
退屈したような表情、その瞳には虚ろさと世界の歪みを憎む心が映る。

フィアンマ「……報告はそれで全てか? 下らん交渉事を行うつもりなら、今すぐ切って別口を捜しても良いのだが」

指先で机に十字を描き、淡々と彼は問いかける。
右方のフィアンマとして、高圧的で傲岸不遜、尊大にして残酷無慈悲な声。

フィアンマ「そう、そうだ。良い子だ。…エリザリーナ独立国同盟、か。なるほど、見つけられなかったはずだ」

十字を描く指先の動きをぴたりと止め、フィアンマは笑みを浮かべた。
機嫌は良い。今の彼は自分の個人的な感情を捨てている。

世界救済に成功すれば、インデックスのことも上条のことも忘れ。
世界救済に失敗すれば、免罪符として存在が担がれることだろう。

そこまでわかっていて尚、彼はもう嘆かない。
自分に優しくは、しない。

ぱたん、と本の形をした霊装を閉じ、フィアンマは立ち上がる。
大天使『神の力』を降ろす為に必要な人材を用意するために。
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 01:06:27.26 ID:MjcSAGJAO
+
258 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 01:13:23.34 ID:u9Gzqo/60

目的地に何とか無事たどり着き、エリザリーナとどうにか言葉を交わせた上条は、疲れでふらふらとしながら壁に寄りかかる。
風斬は実体がない為支えられない事を申し訳なく思いながら、上条に優しく声をかけて励ました。
これで家に帰る事が出来るね、と励まされたところで、上条は苦笑いするしかないのだが。

エリザリーナ「勝算は確約出来ない。でも、対策を立てる事は出来るわ。もう遅いかもしれないけど、立てておくに越した事はない」

ホワイトボードに向かおうとするエリザリーナ。
上条は真剣な表情でそちらを向いたの、だが。

フィアンマ『この時点で対策を練っているというのは、いくら何でも遅過ぎる』

囁くような、響く男の声。
エリザリーナを含む周囲の魔術を心得る人間全てが術式を咄嗟に組んで。
しかし、次の瞬間、大きな衝撃と破壊行動により、全て無かった事にされた。
3〜40Km程の長さの、規格外どころではない大剣が、空間を切り裂いていた。
今の一撃で、地図を塗り替えられる程ではないだろうか。それほどの、破壊力。
上条が出来た事といえば、右手を突き出し、咄嗟に風斬を庇う位のこと。
散らばる瓦礫。積まれる人の山。
幸いにも死者はいないように思えるが、皆ほとんど気を失っている。
エリザリーナでさえ、のろのろと指を動かすのが精一杯、といった様子。
コツ、と革靴の音が響いた。
ガレキを優雅に乗り越えてきたのは、細身の青年。
右方のフィアンマ、その人。

フィアンマ「この俺様に向けて、『右腕』で術式を組むつもりか?」

エリザリーナの指の動きを眺め、フィアンマはゆっくりと彼女に近寄っていく。
上条は、慌てて大声を出した。

上条「ッ、フィアンマ!」

フィアンマ「……」

メキメキ、と右肩から『第三の腕』を乖離させ、その一振りでエリザリーナをガレキの下へ押し込めて完全に無力化したフィアンマは、上条の方へ振り返る。
完全なる無音の中、特殊な右腕を持った二人が、きちんと、互いに対してしっかりと意識を向けて向かい合うのは、実に十年振り。
唇を噛み締め、フィアンマを睨みつけ、上条は挑発的に言う。

上条「お前の相手は俺だろ」

フィアンマ「……脚が震えているぞ、当麻。怖いのだろう?」

久しく弟に会った兄のような、親しげな声。或いは、嘲笑の籠った声。
上条は右拳をしっかりと握り締めた。
優しい笑顔はあの時のまま、そのままなのに、決定的に何かが違う。
あの時の自分なんかより、よっぽど世界に絶望した瞳をしている。
覗き込んでいたら、そのまま取り込まれてしまいそうな程に。
フィアンマは何か調子を確かめるかのように、右手の指をゆっくりと動かす。
連動するように、ゴキゴキ、と奇怪な音を立てながら『聖なる右』…『第三の腕』が動いた。

説得しなければ、と、上条は思う。出来れば、彼を殴る事なく、彼の意思を変えさせたい。

フィアンマ「ここまでよく頑張ってきたな。疲れただろう。他人に振り回され、良い様に使われて。ヒーローというのは楽なものじゃないだろう」

上条「……」

フィアンマ「誰もお前を哀れまない。だから、俺様が哀れんでやろう。可哀想に。こんな世界の為に頑張る必要は皆無だった」

上条「……っ」

フィアンマ「その『異能を消去するだけ』の右手で、よくここまで生きてきた。褒めてやろう。お前はよく頑張ったよ」

優しい声なのか、嘲笑われているのか、曖昧だ。

フィアンマ「怖い思いも痛い思いもしただろう。もう少し待っていれば、もう二度とそんな思いはしないで済む。お前が忘れていても、俺様は約束を守る」

約束、という単語に、上条は絶望する。
やはり自分のせいだ。自分とした約束のせいで、彼を狂わせてしまった。

フィアンマ「幸せな世界を創ってやる。戦争も何もかも、その為の下準備だ。全てが終わったなら、お前の望む奇跡を与えよう」

上条「…、>>260
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 02:37:35.72 ID:mTfhlgRSO
そんな事よりおっぱいの話をしようぜ!
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 02:38:58.84 ID:mTfhlgRSO
なあ「まほうつかいのおにいさん」、それって結局俺との約束を破ってるじゃないか。あんたが俺にしてくれた約束の内容は、『もう二度と誰も不幸を嘆かない世界を創ってやる』…だろ?
もし、あんたのいう「皆が幸せな世界」って奴を実現したら、少なくとも俺は不幸になるんだよ。
俺は、多くの犠牲を出す手段で幸せになんかなりたくない。そんな後味悪い幸せなんかいらない。
もしそうなっちまったら叫んでやる。あんたに教わったように「不幸だ」って。

それに、俺が皆を守ってきた事を哀れまないでくれよ…あの時俺が、お兄さんが約束を守る時までにヒーローになれてるかな、って言ったら、

「きっと成っている、自分にはなれないけどお前は頑張れ。疫病神と言われても、どんな目に遭っても、胸を張って生きろ。
生きてさえいれば、必ず誰かがお前を笑顔にさせてくれる。素敵な出来事がある。幸せになれる」

って言ってくれたじゃないか。それでさ、あんたの言った通りだったんだ。
俺はヒーローみたいな事をしてて、色々痛い思いも怖い思いも嫌な事も、他にも沢山あった。でも、自分なりに胸張って生きたら、

俺は笑えた。色んな奴に会えた。楽しい事もあった。苦しんでる奴を救えた。お兄さんに会っても恥ずかしくないと思える人間になれた。

なのに、そのあんたに否定されたら俺はどうすりゃいいんだよ…
なあ、それでもあんたは実行するのか?俺との約束や色んな人を踏みにじってでも、矛盾してる世界を創って救った気になるっていうのかよ?そんなの只の自己満足じゃないか

いいぜ、もし、それでもあんたがこれ以上進むなんて言うのなら……


まずはそのふざけた幻想をぶちころす

261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 11:58:34.96 ID:FPLc0/j5o
上条さん説教タイムキター
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 12:09:02.47 ID:rY+0e6JO0
たぶん全部聞いてないw
263 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 16:13:29.51 ID:Bs5hkeWU0

上条「…、なあ『まほうつかいのおにいさん』。それって結局、俺との約束を破ってるじゃないか。あんたが俺にしてくれた約束の内容は、『もう二度と誰も不幸を嘆かない世界を創っ

てやる』…だろ?」

フィアンマ「……」

上条「もし、あんたのいう『皆が幸せな世界』って奴を実現したら、少なくとも俺は不幸になるんだよ。俺は、多くの犠牲を出す手段で幸せになんかなりたくない。そんな後味悪い幸せ

なんかいらない。もしそうなっちまったら叫んでやる。あんたに教わったように"不幸だ"って」

フィアンマ「……」

上条の言葉に対し、青年は何も語らない。答えないし、応えない。
まったくの無音と三人分の呼吸音の中、上条は言葉を続ける。
目の前の男が憎いから、怖いから言っている訳ではない。
絶対的な恩人だから、これ以上誰かを傷つけて欲しくないから、止める。

上条「…それに、俺が皆を守ってきた事を哀れまないでくれよ…。あの時俺が、お兄さんが約束を守る時までにヒーローになれてるかな、って言ったら、『きっと成っている、自分には

なれないけどお前は頑張れ。疫病神と言われても、どんな目に遭っても、胸を張って生きろ。生きてさえいれば、必ず誰かがお前を笑顔にさせてくれる。素敵な出来事がある。幸せにな

れる』って、言ってくれたじゃないか」

フィアンマ「…ああ、覚えているよ」

子供騙しで構わない。
どうか、自分に似た不幸な子供に少しでも幸せになって欲しくて、願いを籠めた『魔法』。
どうか、その優しいままで育って欲しいと願いを秘めた『確約』。
そこには『幻想殺し』を回収する為の裏事情など何も無く。
自分が幸せになれると宣言してあげれば、なれなかった時、自分に怒りを押し付けてもらえるように。
上条は、一生懸命に言葉を続けた。

上条「それでさ、あんたの言った通りだったんだ」

フィアンマ「…、…」

上条の言葉に、フィアンマは閉口する。
それは自分のお陰なんかじゃない。

上条「俺はヒーローみたいな事をしてて、色々痛い思いも怖い思いも嫌な事も、他にも沢山あった。でも、自分なりに胸張って生きたら、俺は笑えた。色んな奴に会えた。楽しい事もあ

った。苦しんでる奴を救えた。お兄さんに会っても恥ずかしくないと思える人間になれた」

フィアンマ「……」

上条当麻は。あの日の少年は。
いつか『あのお兄さん』に会ったら、自分がどれだけ頑張ってきたか告げるつもりだった。
それだけで全てが報われるような気がしていた。
勿論、困っている人を放っておけなかったという理由もあれど、それでも。
約束を守れば、笑顔で褒めてもらえるような気がして。

上条「なのに、そのあんたに否定されたら俺はどうすりゃいいんだよ…なあ、それでもあんたは実行するのか? 俺との約束や色んな人を踏みにじってでも、矛盾してる世界を創って救

った気になるっていうのかよ? そんなの只の自己満足じゃないか」

フィアンマ「…」

フィアンマは激昂しない。
上条の方が一般的に正論である事は分かるが。
しかし、フィアンマにだって、理由がある。
理由がなければここまで世界を救う事になんて固執しない。
理由がないのなら、インデックスとずっと一緒に居られた。

上条「いいぜ、もし、それでもあんたがこれ以上進むなんて言うのなら……」

上条の気持ちはよくわかった。
上条の優しさや、自分より他人を優先する思いやりが変化していない事を、フィアンマは知る。

上条「まずは、そのふざけた幻想をぶちころす…!」

敵意の無い睨みに、悪意の宿らない敵意に、フィアンマは目を細める。
ここで止まれたのならどれだけ良いだろう。
上条との約束のみで自分が動いていたのなら、きっと止まっただろう。

フィアンマ「…変わらんな。子供にとっての十年と大人にとっての十年が違う以上、変化したのではないかと思っていたが。お前は約束を守ってくれていたようだ。…で、あるならば。

説明してやるのが礼儀といったところか。流石にお前との約束故にこれだけの事態を引き起こしたと言い訳するのは苦しいし、お前が可哀想だ」
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 16:13:38.78 ID:MjcSAGJAO
+
265 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 16:13:57.80 ID:Bs5hkeWU0

『御使堕し』の時、不完全な状態で顕れた天使は、自らをミーシャと呼んだ。
ミハイルは『神の如き者』の別名。『神の力』の名には相応しくない。
しかし、その天使は神に作られた役割そのものであるはずの名前を、ミーシャと名乗った。
つまりは、ズレてしまっているのだ。
前方のヴェントは風と黄色と『神の火』を、左方のテッラは土と緑と『神の薬』を担う。
しかし、これもズレてしまっている。
本来ならば風は『神の薬』が、土は『神の火』が対応していなければならない。
そして、この事に。決定的な、致命的なズレに、誰も気付かない。
大きな四つの属性全てが少しずつ歪み始めているにも関わらず、今は世界は何事もなく回り、魔術も発動出来てしまう。
この世界は危機的状況にあるのだ。そしてこのおかしな世界は、フィアンマにしか救えない。

上条当麻との約束を守る以外にも、世界を救う理由。
世界の歪みを正さなければ、不幸な人間が沢山出る。

勿論、逆もまた然り。

だからこそ、フィアンマは自らの行動に、絶対的な善の到来を確信している。





―――自分が大切に思う二人の子供を傷つけてしまう事、以外は。
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 16:13:58.96 ID:MjcSAGJAO
+
267 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 16:14:24.89 ID:Bs5hkeWU0

独立国同盟に住む一般人を守る為に現れたサーシャ=クロイツェフは、フィアンマに連れ去られてしまった。
上条だって、一生懸命抵抗はした。
途中、前方のヴェントが割入ってくれたものの、フィアンマの力の前に倒れ伏し。
風斬の力も、一歩及ばず、フィアンマを引き止めるまでにはいかなかった。
上条は傷ついた人々の助けになって欲しい、と風斬を独立国同盟に留め、自分は何処に行くべきか悩んでいた。
素体を手に入れた以上、フィアンマは大天使を降ろす何らかの儀式をどこかで行っているのだろう。
となればその儀式場を見つけるべきだろうが、いまいち浮かばない。
やはり、ロシア軍の軍事基地かどこかだろうか。
手伝いとして他の人の手当を行いながら、上条は唇を噛む。

上条「…、…」

思い返すのは、去る直前、フィアンマが自分だけに向けて言った言葉。
『右方のフィアンマ』ではなく、一人の青年としての言葉。

フィアンマ『お前のせいではないよ。しかし、この救済はお前の為でもある。それでも納得がいかないのであれば、俺様を止めにおいで。心配せずとも、迎えに行ってやる』

自分の言葉では、彼の行動に変化を起こす事は出来なかった。
止めにおいで、というのもきっと気まぐれな一言だろう。
でも、もしかしたら、止めてくれる事を願っているのかもしれない。
希望的観測。ありえない。そうならば此処で止まっていてくれるはず。

上条「……、…」

走り出した車が急にブレーキをかけても間に合わないように、彼も一度やり始めたらやるしかないのかもしれない。
迎えに行く、と彼は言っていた。
となれば、自分一人になった方が良いだろう。
もう少し時間が経ったら、外に出よう。上条は密かにそう決める。
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 16:14:26.08 ID:MjcSAGJAO
+
269 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 16:14:42.40 ID:Bs5hkeWU0

右方のフィアンマは、ロシア国内にある基地へと帰ってきた。

フィアンマ「そう怯えるなよ、ニコライ」

本の形の通信用霊装から、言葉が返ってくる。

ニコライ『お前が始めた戦争だぞ』

フィアンマ「正確には、俺様が提案をした戦争だ。公式な引き金はお前達が引いたんじゃなかったか?」

ごちゃごちゃと喚く声に辟易しながら、フィアンマは肩を竦める。

フィアンマ「…だから、怯えるなと言っているんだがな」

策が無いのならこれまで、だとか。
自分の起こした戦争に自分なりの決着をつける、だとか。
これからが始まりだというのに、この男は本当に弱い。
くすくすと笑い、フィアンマは語りかける。

フィアンマ「悲観的だな。総大主教の陰でこっそり戦争の準備を進めていたお前も、その場合はロシア成教から追われる立場になるだろうに。…もしもの話をしようか。もしも、俺様の

手に一瞬で逆転する程の隠し玉があるとしたら?」

ニコライ『核兵器でも手に入れたか? 生憎と、ロシアにはごまんとあるぞ』

核兵器について早口で、嘲るような口調で語るニコライ。
そんな壮年の男に対し、フィアンマは囁くように言った。

フィアンマ「大天使『神の力』」

ニコライ『ッ!?』
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 16:14:43.43 ID:MjcSAGJAO
+
271 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 16:15:00.60 ID:Bs5hkeWU0

上条は一時的に塞ぎ込んでいた。
怖くなった訳ではないのだが、何とも言えない気分だった。
しかし、塞ぎ込んでいたところで何か解決する訳でもなく。
上条が目指したのは、ロシアの軍事基地。
やけにセキュリティーの緩い場所を選んで向かったのは、自然に紛れ込む不自然さを見つけたから。
彼はきっと自分に止めて欲しいのだ、と思う事が、上条が自らの足を動かす原動力になる。

上条「……」

寒さに白い息を吐き出し、上条は空を仰ぐ。
時折飛行機(否、戦闘機か)が飛んでいるし、周囲には戦火、逃げ惑う人々の声。

こんな事をしなければ、あの人は世界を救えないのか。

上条「…は、…」

一歩踏みしめる毎に、体力が奪われていく。
もうすぐ到着するはずだ。
でも、そこに彼が居るという確証は無い。

上条「……」

いつでも、あの人は自分を殺せた。
けれど、殺さなかった。
あれだけの力を持ってして、殺そうとはしなかった。
それは、自分があの人にとって、殺す相手ではなかったからだと、上条は願う。



軍事基地近くに辿りついた辺りで、嫌な音がした。
花火を打ち上げた時のような、ひゅるる、と甲高い音。
上条は考えるよりも先に、硬そうな部品の下へと逃げ込む。
落ちてきたのは爆弾、落としたのは学園都市の部隊。
ロシアの軍人達がすぐ側を駆けて行く。
上条は息を殺して気配を殺した。

上条「ッッ、…っ」

八方塞がり、とはまさにこのこと。
誰か助けてくれ、と上条が縋りかけた途端。
白い大地を揺さぶるような震動が響き渡った。
そう、足元から。
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 16:15:01.78 ID:MjcSAGJAO
+
273 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 16:15:28.64 ID:Bs5hkeWU0






気付けば、上条は古めかしい室内に居た。
とてつもなく高い場所にも拘らず、高山病のような体調不良は無い。
もしかすると、特殊な結界か何かが巡らされているのかもしれない。

フィアンマ『何も怖がる必要は無い』

スピーカーがどこかに取り付けられているのか、少々ノイズ混じりの声。
猫撫で声ではなく、自然な、優しい声色。

フィアンマ『ようこそ、俺様の城―――『ベツレヘムの星』へ』

ベツレヘムの星。
右方のフィアンマが持ち出してきた以上、その名前にも宗教的・魔術的意味が込められているのだろう。
ヘタをすれば学園都市がそのまま浮かんでいるかのように広大な要塞。

上条「……、…」

どうすればいいかわからないまま、上条は一歩踏み出す。

フィアンマ『…さて、必要な物は全て揃った事だし…そろそろ、脇役にはご退場願おうか』

穏やかな声がむしろ、恐ろしさを感じさせた。
思わず立ち止まって全身が総毛立つ見えない恐怖に怯える上条の耳に、宣言が届く。

フィアンマ『出撃だ、大天使『神の力』』



人間には到底出せない、神聖な絶叫が、聞こえた。
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 16:15:29.77 ID:MjcSAGJAO
+
275 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 16:17:16.25 ID:Bs5hkeWU0



数時間での情勢の嫌な傾きに、フィアンマはため息をついた。
大天使『神の力』は、上条に術式の中枢を壊され、力の半分程をアックアに取られ、そこに攻撃を受けた事で戦闘不能。
しかし、これで下準備は完了した。
四つの属性は全て元の場所に戻った。
もう何も困らない。後は、上条当麻の右腕を手に入れるだけ。
不要となった杖を放り、フィアンマは一歩進んだ。
ただ一歩踏み出すだけで、彼は直線上にどこまでも進む事が出来る。

フィアンマ「止めに来たのか? それとも、気が変わって俺様の手伝いを?」

揶揄するような笑い声。
第三の腕が、目に見えて実体を得ていく。
そう問いかけるでもなく言いながら、フィアンマは上条を見つめる。
対して、上条は落ち着いた状態でフィアンマを睨んだ。

上条「大天使はもう居ない。もう、諦めてくれ」

フィアンマ「あれは単なる手段…空を変える為の道具だよ。使い終わった以上、壊されてしまってもそんなに困らない。『ベツレヘムの星』も、第三次世界大戦も、全ては下準備に過ぎない」

上条「…」

フィアンマ「右手さえ差し出してくれれば、完璧に手当をして帰らせても良い。いや、それでは危険か。儀式の邪魔をしないのであれば傍に居ても良い。何にせよ、お前を殺すつもりはないのだからな」

上条「……、…」

フィアンマ「…戦闘意思を示すというのなら、力づくで奪う事になるが。穏便に済ませる事は出来ないか?」

上条「>>277
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 16:22:19.74 ID:jvATZngC0
熱膨張って知ってるか?
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/09/01(土) 16:29:06.60 ID:jvATZngC0
>>276
278 :名無しNIPPER [sage]:2012/09/01(土) 16:29:41.38 ID:QvaPfcAc0
こんな事して……こんな事してあの一緒にいた
銀髪の女の子が喜ぶとでも思ってんのかよ!
あの子の笑顔を曇らせたままにするつもりか!
279 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 17:34:52.40 ID:YGPs015z0

上条「熱膨張って知ってるか?」

そう言い、上条は制服の胸元へ手を差し入れる。
取り出したのは、何も細工の無い硬そうな箱に見えた。
上条は箱のような何かを数度握り、軽く振る。
熱湯でも入っているのか、はたまた熱伝導率が良いのか。
いくつかの金属の複合物は、ただそれだけの動作で、剣へと変わった。
エリザリーナ独立国同盟にて材料をもらい、何とか作り上げた非力な武器。

上条「少し計算すれば、どの程度膨張するかはわかる。ポケットにしまっている間は小さく、使う時にはこうして形を変える」

フィアンマ「…その程度の武器で、俺様に勝てると?」

上条「いや、そうは思ってない。使い捨ての、まさに諸刃の剣だよ。でも、使い様はある」

フィアンマ「…やはり邪魔をするのか」

上条「…俺はあんたに、これ以上誰かを傷つけて欲しくない」

鈍く輝く剣を左手に持ち、その切っ先はフィアンマへと向ける。
右手は利き手だが、『幻想殺し』を宿している為、持つためには使わない。

上条「俺はあんたを止める。刺し違えたって、絶対止める!」

フィアンマ「……、…真っ直ぐに育ったな。あれ以降、周囲に恵まれたようで何よりだ。…だが、」

フィアンマは上条を見据え、手の中から石を一つ落とす。
もしかしたら、石では無く何か別のものだったかもしれない。
カーン、というやや高めの音と共に、彼は一言口にした。
         
          A    L     A 
フィアンマ「『わたしのほかに神があってはならない』」

大天使『神の如き者』は、旧約聖書にてモーセへ十戒を記した石版を授けたという逸話がある。
その逸話を応用したこの術式は、石の落ちる=授けられる音を聞いた者に重い罪悪感を与える事。
術者(ミカエル)に剣を向けていた上条(民衆)は、当然の事ながら苛まれる。
大天使の授けた言葉、神に逆らってしまった、という強い罪悪感。
あまりにも濃厚なその鬱々とした感情は、精神を蝕み、呼吸を狭める。

上条「ぁ、っぐ…」

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。

謝罪しなければ、という罪悪感のあまり一歩も動けず、上条はその場に膝をつく。
フィアンマはそんな少年を冷酷に見下ろしながら、大剣を振り上げる。
3〜40Kmにも渡る長大な剣が狙い定めるは、上条の右肩。




上条はどうする>>+2
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/01(土) 17:36:58.18 ID:KoqBN7670
右手で自分の頭を叩く
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 17:40:51.83 ID:jvATZngC0
竜王の顎が出てきた
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 17:48:59.90 ID:Yxuein120
>>276>>277

これ(連レス)ありなのか?
内容も明らかにふざけてるし、ここは>>278だろ
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 17:49:27.67 ID:Yxuein120
手遅れだった
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 17:55:19.97 ID:byKQYml80
安価スレがカオスになるのは宿命さ。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 18:17:25.05 ID:mTfhlgRSO
残念ながらこのスレは>>1の都合上、流れが遅い等感じたら各々の良識に従って連投、連取が認められてる。まぁ、この>>1はもっとものすげー安価やクソ長い安価をうまーく捌いてきたトップクラスに出来る>>1だから安心して。
286 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 19:01:24.46 ID:YGPs015z0
>>282様 見てくださっている方が多いのか少ないのかわからないので、ありとします。連続取得にしても内容にしても、安価取得に参加なされる方々(=読者様方)の良識にお任せします》


上条は泣きそうになりながらも上を見る。
翳された大剣は、まるで自分を斬り捨てるようにも思えた。
長大な剣はあまりにもスケールが大きすぎて、現実感が吹っ飛んでしまいそうだ。
ああ、これは精神に関係する魔術なのだろうか。上条には、よくわからない。
酸欠でズキズキと痛む頭を摩ろうと手を頭に持っていくと、パキン、と甲高い音が聞こえた。
術式が解けた。ふらふらするけれど、どうにか回避しなければ。
しかし、上条が体勢を変える前に、一歩踏み出す前に。

残酷にも、聖なる大剣は振り下ろされた。



意識を失った上条は、昔の夢を見ていた。走馬灯のように。

『美味しかったか』

『うん!』

用意されたお菓子の山を平らげ、笑顔を見せると、お兄さんも笑った。
お兄さんは安堵したような表情で、柔らかい笑顔を浮かべていた。
知らない人からもらったものは食べちゃダメ、と母親に言われていたけれど。
どうしてだか、この優しいお兄さんは、自分の味方にしか見えなかった。
転んだ自分に手を差し出してくれたからか、怪我を治してくれたからか。
わからない。そんな事は、十年経った今、解析することも出来ない。

『ゆーびきーりげんまん、うそついたら…』

『続きが思い出せないのか?』

『ううん。おにいさんはうそつかないとおもうけど、はりせんぼんのむのいたそうだなーって』

『約束を破った相手に針を千本呑ませる唄なのか?』

『うん。…よくかんがえたらこわいね』

指を絡ませたまま悩む俺の様子を見ながら、お兄さんは楽しそうに笑っていた。
もしかしたら、お兄さんも俺と同じで、こうやって人と約束したことは無いのかもしれない。
急激に、このお兄さんと自分が似ているような気がしてきた。
だって、今笑っていても、お兄さんは寂しそうな目をしているから。

『なら、怖く無い条件にすれば良い』

『うーん。じゃあ、じゃあねー…んー…うそついたら、またまほうをおれにおーしえる!』

『まだ知りたいのか…』

『だっておにいさんのまほうききそうだから』

『…仕方がないな』

約束だよ、と頬を膨らませる俺の頭を撫でて、お兄さんは頷いた。

他人が傍に居るのに、初めて『幸せだな』、と思えた。
お菓子を食べたからじゃなくて、怪我を治してもらったからじゃなくて。
お兄さんが何を考えていたのかはわからなかったけど、優しくされて、幸せだと思えた。
地獄のような日々に、ただ一度手を差し伸べられてから、俺はその地獄から抜け出せた。
全部俺が悪いんだと考え込んで間違っていた俺を、彼は優しく正してくれた。
その時楽しかったのは、幸せだったのは、全部お兄さんのお陰だったんだ。

だから、今度は俺が正してあげなくちゃいけないんだろうと、思う。
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 19:01:26.06 ID:MjcSAGJAO
+
288 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 19:03:05.27 ID:YGPs015z0

斬り落とした角度が悪かったのか、上条の右腕はその場にぼとりと落ちた。
わざわざ近づいて回収しに行かなければならないのか、と思いつつ。
流石に右腕を斬られれば完全に無力となるし、そうなれば戦意を喪失してくれるだろうというフィアンマの考えとは裏腹に、上条の右肩、勢い良く噴き出した血液が、竜のような形を作る。

『竜王の顎』、とでも例えようか。

禍々しいソレは、生き物であるかのようにフィアンマへ攻撃を仕掛けてくる。
上条は痛みによるショックで気を失っているというのに。
だから、上条は攻撃なんて出来ないはずなのだ。
それなのに。

フィアンマ「ッ、」

フィアンマは咄嗟に右腕を突き出して振り、『聖なる右』を行使する。
第三の腕は、今や山は一振りにて突き崩し、海を一振りにて干上がらせてしまう。
そんな実力を秘めている恐ろしい力は、その竜と拮抗していた。
まるで、フィアンマの凶行を食い止めようとする上条の意思をそのまま力にでもしたかのように。

フィアンマ「…、…何が起きている」

思わず呟くフィアンマは、表情を歪めていた。
第三の腕と彼の腕は、当然の事ながら感覚がリンクしている。
一振りで相手を倒せば文字通り『手応え』が感じられるのだ。
なのに、第三の腕は、竜王の顎と未だ一歩進まず退かず、ぶつかり合っていた。
『幻想殺し』にこんな能力は無かったはずだ。だってあれは、たかが異能を消去するだけの力に過ぎない。
右肩に竜を宿した状態で、上条は立ち上がる。意識を取り戻したのだ。
怯えずに、フィアンマは上条を見据えた。
未だ、第三の腕と竜王の顎はぶつかり合っていた。
『幻想殺し』を宿していた右腕を吸収しなくては、フィアンマの『聖なる右』は本来通りの出力を発揮出来ない。
つまり、『禁書目録』の知識によって安定し、四大属性を正して力を宿してもまだ少し不完全な『聖なる右』の全力と、上条の右肩から出ている竜王の顎との実力が同じなのだ。
上条は、もう罪悪感に怯えない。何も迷う必要は無い。
一種脳内麻薬でも出ているのか、右肩の痛みは無く、上条は頓着しなかった。

上条「……、…」

フィアンマ「…何故だ。お前の右腕は、その神聖さ故に異能を消去するだけの力しか無い。ただそれだけだったはずだ。にも拘らず、何故俺様の『聖なる右』を受け止め切れる。実力が拮抗している。お前に魔術は行使出来ない筈だ。此処には、援護だって差し伸べられない」

上条「魔術じゃ、ねえよ。俺にだって、よく、げほっ…わから、ない」

ふらつく身体で、しかししっかりと立ち上がり、床を踏みしめて、上条はフィアンマを見つめる。
その目には信念を表すように、美しい光が宿っていた。人間らしい、人間的な、人間の力。

フィアンマ「…何故そうまでして俺様を止めようとする。お前だって、今もこの世界が憎いだろう。汚いと思うだろう。間違っている、歪んでいるとそう思うだろう? 事実、歪んでいるんだよ。正すべきなんだ。そうしなければ不幸な人間が沢山出るというだけではない。幼い頃のお前のように、ああして間違った行いが繰り返されるんだ。今までのように、これからもずっと」

上条「…ああ、大嫌いだよ。こんなクソッタレな世界、ブッ壊れちまえばいいのにって何度も思った。少なくともアンタに優しくされるまではそんなような事、ずっと思ってたよ」

フィアンマ「っ、」

上条「今そこに落ちてる俺の右腕を渡すだけで世界が救われるなら、俺は笑顔で差し出せる。でも、違うだろ。その為に何人も傷ついてきた。俺はこれ以上、アンタに人を傷つけて欲しくない。こんな方法で、こんな流れで! 尊敬してたあんたに、『世界を救った』なんて言って欲しくない! 間違ってるから何だよ。やり直せるから人間なんだろうが!」

フィアンマ「…もう今更やり直せないさ。神は大水で世界を洗い流した。にも拘らず、こうして世界に悪意は蔓延っている。『聖なる右』の全力を引き出す為に設定した、戦争によって高まり続けている『全世界の人々の悪意』はこんなにも強い。今更やり直しなどきくものか。俺様は世界を救う。お前の為だけじゃない、全ての人間の為に。絶対的な力で思い知らせなければ、人間は過ちに気づけない。そんな愚かな生き物に成り下がったんだよ、人類は」

289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 19:03:08.54 ID:MjcSAGJAO
+
290 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 19:04:35.79 ID:YGPs015z0

そんな事はない、と上条は思う。
だって、間違っていた自分を正してくれたのは、彼の持つ恐ろしい力じゃない。
彼の持つ暖かい優しさだった。諭す思いやりだった。
善意でだって、世界は変えられる。なのにどうして、この人は間違った方にしか進めないんだ。
ああ、そうか。やっぱり、自分とこの人は似ているのだ。いや、あの頃の自分と、似ている。
どこにも味方が居なかったから、或いは味方が少なくて、弱くて、頑張る方向を間違えた。
もしかしたらこれは思い違いで、彼にはそれなりに味方が居たのかもしれない。
でも、遅かった。味方が出来るのがあまりにも遅くて、彼は間違った方へ進むと決めた。
彼自身、わかっているはずなのだ。自分が間違っていると。世界が歪んでいても、こんな方法ではダメだと。

フィアンマ「それに。…弱者を砕いた小麦粉で作ったケーキを食べられるのは、世界でもほんの一握り。俺様もその恩恵に預かった事がある。下らない格差は間違っている事だと、わかっていたのに。…だからこそ、なくすべきなんだよ。創り直すんだ、誰もが幸せだと思える世界を。不幸を撤廃した完全なる世界を。お前だけでなく、お前の周囲も笑顔でいられる世界を。もう二度と、お前が虐げられる事の無い―――」

上条「ッ、俺じゃ、ない。…お前が! 虐げられたからじゃねえのか!! 世界を憎んでるのは、あんたの方だろ!」

フィアンマ「…、…」

フィアンマは、言葉を返せなかった。
それは本当の事だったから。

そうだ、自分は、自分こそが、世界を憎んでいた。

ただ自分が幸運を持っていただけなのに、周囲からは『幸運が盗られる』、気味が悪いと一方的に虐げられて。
せめて、と自分が行ったちっぽけな努力は、踏みにじられ、嘲笑われ。
たった一人味方で居てくれた肉親でさえ、収入の格差という世界の歪みのせいで首を吊った。
そしてそんな自分には、上辺だけの同情の言葉がかけられただけで、救ってはもらえなかった。
教会には養ってもらったが、それだって『孤児を養っている』という対外的なアピールの一つ。

誰も虐げられる事の無い世界。
創りたかったのは、誰の為だったのか。
この救済は誰にとっての救いなのか。
約束をした相手を、大切な人間を傷つけてまでやり遂げなければならなかった理由は、どこにあった?

そうか。

そうだったのか。







フィアンマ「―――救われたかったのは、俺様だけだったのか」
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 19:04:40.99 ID:MjcSAGJAO
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292 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 19:08:07.95 ID:YGPs015z0

ディストピア
『理想郷』を作り上げてでも、幸せにしたかったのは誰だったんだ。
世界の為。上条の為。インデックスの為。世界の人々の、為。
大義名分を並べ立てたのは、自分が救いを求めている事に気づかなかったから。
自分が目に付いた弱者を救ったのだって、救っていればいつか自分も優しくしてもらえるだろう、救ってもらえるだろうという浅はかな下心から。

フィアンマ「…そうか」

未だ第三の腕と竜王の顎は実力差無く拮抗したまま、彼は笑った。
この世界に生まれてきたことが間違いだったのかもしれない。
上条は、不幸に耐えてそれでも尚他人を思いやる事の出来る優しいヒーローは、自分がされた事なんてどうでもいい、と思う。

フィアンマ「俺様は免罪符だ。戦争から何から、全ての責任は俺様に押し付けられる事だろう。社会から追い詰められて、殺される。…誰にも赦される事は無い。いや、…そもそも、救世主とはそんなものだったか」

上条「俺にだって、罪がある。約束のせいでアンタの人生を潰した罪が。…もうやめよう。罪なら一緒に背負うよ。半分は俺のせいだ。だから、…だから…」

泣きそうな、声だった。

フィアンマ「…」

上条「もう、やめてくれ…」

床に突き刺していた剣を支えにして、何とか立った状態で、上条は言う。
かなりの出血量で、ふらふらとしていた。
上条の説得に世界が納得したかのように、世界の悪意は弱まった。
世界の人々の悪意が弱まるのは、つまり、『聖なる右』の出力が下がるのと同義。
当然、『竜王の顎』に『聖なる右』が圧され始める。
共有した感覚から、圧される痛みに脂汗をかきながら、フィアンマは上条に声をかける。

フィアンマ「…約束を、破ってしまったな」

上条「…、…>>294
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/01(土) 19:12:14.01 ID:nGyyJIHO0
……なら、また約束すれば良いさ
……約束してくれるかな…『まほうつかいのおにいさん』
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/01(土) 19:13:08.57 ID:nGyyJIHO0
>>293

295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 19:21:47.41 ID:mTfhlgRSO
細かいが理想郷ってユートピアじゃないのか?イタリア語だとディストピアなのかね?
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/01(土) 19:31:39.64 ID:nGyyJIHO0
ディストピア

http://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%94%E3%82%A2
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 19:37:20.66 ID:mTfhlgRSO
長屋サンクス。同音異義語とかかな?って思ったがやっぱ正反対であってたか
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 20:06:30.62 ID:85jG/RMpo
現在、自治スレにおいて安価スレの今後について話し合われています
是非ご参加下さい
299 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 20:47:13.90 ID:K5fX0TZ30
>>295様 ユートピア:上に人が居ない、全て平等で唯一価値観を持ち合わせる人間しか存在しない為、幸福に満たされている ディストピア:一見すると規則正しい世界だが、上に一人、或いは少数の『管理する側』の人間が居る為、反抗する者は排除してかりそめの幸福を保つ という特徴の解釈だったので、フィアンマさんが創ろうとした世界はこの両方の要素が入っているある意味最悪の世界、という意味のルビでした。理想郷は正確にはユートピアで合ってます》



上条「…、………なら、また約束すれば良いさ」

一時的な熱狂。
この世界は自分たちだけでやっていける。
救済の拒絶。
悪意は弱まっていき、やがて『聖なる右』は打ち破られたが、『竜王の顎』は、それ以上進まない。それどころか、役目を終えたとばかりに霧散した。
フィアンマを止める為にやってきた上条の努力を、フィアンマを傷つける形で無駄になんて、しなかった。
或いは、上条が制御下に置いたのかも、しれないが。
弱体化はしたものの、どうにかまだ『ベツレヘムの星』を支えている『聖なる右』を無駄な攻撃に転化する事なく、フィアンマは上条に近寄った。
その手には、取り出したらしい医療道具。本当に、彼は上条を殺すつもりなんて皆無だったから。
歩み寄ってきたフィアンマは、上条に赦しをこうかのように、その場で膝をつく。
上条も、立っているのが限界だ、と剣(支え)から手を離して、膝をついた。

上条「……約束してくれるかな…『まほうつかいのおにいさん』」

フィアンマ「…あぁ、約束する。今度は、破らない」

魔術的な手当は意味をなさないため、医療道具で縫合を行う。
動かすのは到底不可能だったが、応急処置程度には成功した。
再接続してもらった右腕ではなく、左手の指を差し出して、上条は弱々しく微笑みかける。
フィアンマは頷き、指を差し出し、絡ませた。憑き物が落ちたかのように、すっきりとした表情で。

上条「…もう、こんな事しないって、約束してくれよ。人を傷つけないって。破ったら、…今度はぶん殴る…ぶん殴りますからね!」

フィアンマ「別に敬語じゃなくて良いぞ。……難しいな。だが、なるべく傷つけないよう、心がける」

フィアンマに渡された増血剤の役割を果たす不味い飴を噛み砕きながら、上条は頷く。
途切れ途切れの約束の童唄は、十年前よりも、当然の事ながら、低い声だった。
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 20:47:15.83 ID:MjcSAGJAO
+
301 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 20:48:46.65 ID:K5fX0TZ30

フィアンマの魔力が尽きかけているのか、『ベツレヘムの星』全体が、特に床が揺れる。
崩壊を示唆する不穏な揺らぎだった。
上条は増血剤の飴のかけらを呑み込み、フィアンマの肩を借りる形で歩いた。
たどり着いたのは、脱出用のコンテナが並ぶ部屋、なのだが。

あの争いの余波の中、無事だったのは、たった一つ。
一人用の脱出用コンテナ。
何と運の悪い事だろうか、と上条は思った。

これに乗って生き残るのは、この二人の内、どちらか一人。
後の一人は、やがて完全に崩壊するこの要塞と運命を共にすることとなるだろう。

上条「…」

フィアンマ「…当麻、行け」

上条「何言っ、」

出血による貧血でふらふらとしていた上条を無理やり突き飛ばす形でコンテナに押し込み、フィアンマはさっさと鍵をかける。
上条は窓に手をついた。右手で触っても、殴ってみても、このコンテナは壊れない。
そして一度閉めてしまえば、内側から鍵を開ける事は不可能。

フィアンマ「英雄<ヒーロー>の最後は勝利と生存、栄誉と決まっている。救世主<メシア>の最期は敗退と死亡、悲哀と決まっているものだ。だから、生き残るのはお前の方が相応しい。…一緒に罪を背負うと言ってくれて、ありがとう。お前は守ったのに、俺様は約束を守れず、本当にすまなかった。だが、お前に責任は無い。覚えておけ、全て俺様の責任だ」

嫌だ、と追いすがるように、上条は窓を殴る。割れない。割れない。割れて、くれない。

フィアンマ「…それから、伝言を頼む。イタリアに、『禁書目録』という少女が居る。魔術師であれば皆知っている筈だ。居場所は…そうだな、イギリス清教の神裂火織という魔術師に聞くと良い。今、イタリアに居るのだが、『俺様は死んでしまったから帰れない』と、そんなような事を伝えてくれ」

上条『そんなの、自分で伝えろよ。それに、死ぬ事を前提に置いてんじゃ、ねえよ…!』

フィアンマ「そうだな。しかし、伝えられないものは仕方がないし、死んでしまうのも不可抗力だ。…ああ、そういえば、約束を破った罰に、魔法を教える事になっていたな。教えてやろう」

やめろ、出してくれ、と喚く上条に対し、フィアンマは言葉を紡ぐ。

フィアンマ「眠る前に、『俺は頑張れる』と一言言えば、努力は報われる。必ず、報われる。……俺様はお前と正反対だからな。祈れば必ず届くようになっている。だから、安心しろ。お前の努力は、絶対に報われるよ。この先もずっと」



       
優しく残酷な、魔法の呪文を、教えた。
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 20:48:49.41 ID:MjcSAGJAO
+
303 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 20:50:01.12 ID:K5fX0TZ30

上条を乗せた一人用の脱出用コンテナは無事射出され。
フィアンマは一人ぼっちとなった。脱出する術も無い。
崩壊していく『ベツレヘムの星』の中、フィアンマはぼんやりとした表情で呟く。
椅子なんて無いので、床に座り込んだ。
ぺたり、と座り込む姿は、途方にくれた子供のようだった。

フィアンマ「…すまないな、…インデックス」

禁書目録、ではなく。
インデックス、と呼び、きっとまだ自分を信じて帰りを待ってくれているだろう彼女を思い浮かべながら、謝罪の言葉を重ねる。

フィアンマ「すまない。…帰れ、なかった」

こんな場所で呟いても、届かない事位知っているのに。

フィアンマ「帰れなかったよ」

自分の城と共に死ぬ、というのもなかなかロマンチックなものだ、なんて。
場違いに呑気な言葉が浮かぶのは、全て諦めたからだろうか。

フィアンマ「…お前の笑顔をもっと見ておけばよかった。お前ともっとずっと一緒にいれば良かった。お前の手を握っていればよかった」

成功しても失敗しても自分には損ばかりの、最悪な賭けだった、最悪の復讐だった。
後悔は不思議と残らない、なんていうのが物語の定番だが、フィアンマは生憎生きている普通の人間。
後悔はあるし、無力感に打ちひしがれる時もある。

フィアンマ「…結局、俺様の人生には何の意味があったんだ。世界を憎み、大事な物を捨てる為に産まれてきたのか。ただそれだけの為に、生かされてきたのか」

世界で一番神に愛されている青年は、世界で一番神を呪った。
頑張れば頑張る程、自分だけが報われない。
中途半端な幸せだけ与えられて、どのみち自分から捨てる方向へ動くよう、運命が定められる。

フィアンマ「……俺様は、ただ」

我が儘を言うなら、上条の笑顔を見たかった。
そして、インデックスにも笑顔でいてほしかった。
平和でいられたなら、それだけでよかった。
並外れた幸運なんてなくたっていい。世界を救う力なんていらない。
魔術師なんかやめたっていい。信念すら曖昧なのだから。
もう一度、幸せになりたかった。
誰から虐げられたっていい、父親が死ぬ前に少しだけ感じていられた、あの充足感を得たかった。
限りなくあの感覚に近いインデックスとの生活を続けていれば良かったのか。

続けて、いたかった。    もう、一人ぼっちなんていやだったのに。

フィアンマ「…、…」

大天使『神の力」が、再暴走を始めようとしていた。
フィアンマは立ち上がり、違う場所へ移動した。
この下降し続ける要塞を移動させ、ぶつければ『神の力』は消滅、元の座に還るだろう。
自分の始めた事は、最後までしっかりと責任を持って自分で終わらせる。

泣いて謝って赦される年頃なんて、もうとっくに過ぎているのだから。
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 20:50:02.43 ID:MjcSAGJAO
+
305 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 20:50:30.02 ID:K5fX0TZ30


上条当麻は、イギリス清教に保護された。
イギリス清教の為に尽力してくれた人物なのであるから、当然といえようか。
第三次世界大戦は、様々な場所に余波を遺してしまっていた。
『ベツレヘムの星』―――あの巨大要塞は、『神の力』と正面衝突し、その後、北極海に沈んだらしい。


十一月二日。
右腕はまだうまく動かないが、その内治るそうだ。
応急処置がきちんとしていて、縫合も問題はほとんど無かったらしい。
イギリスの病院、病室の上で、上条はぼんやりと外の景色を眺める。
救えなかった。あそこまで行って、自分だけが生き残ってしまった。

上条「…初っ端から約束破ったじゃねえか…」

人を傷つけないと、約束した。
フィアンマの生死、安否は不明。
北極海に落ちた衝撃で死んだのだろう、と周囲は思っている。

とんとん、と病室のドアがノックされた。
上条が元気の無い返事を返すと、ガラガラとドアが開く。
入ってきたのは、神裂だった。

神裂「…貴方が生きていて、安心しました」

上条「…。…お兄さん、…フィアンマは、連れて帰ってこられ、なかったよ」

神裂「……貴方に責任はありません」

上条「…>>307
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/01(土) 20:55:18.35 ID:3W/F6nBc0
……なぁ、かんっ、ざき…しばらく…胸……かしっ、って、くれないか……ダメだ……こらえきれっ……(顔をうずめ台号泣)
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/01(土) 20:55:44.19 ID:3W/F6nBc0
>>306

308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/01(土) 20:56:38.13 ID:3W/F6nBc0
あ、ヤバい泣けてきた
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/01(土) 21:02:27.16 ID:3W/F6nBc0
変換ミスってるぅぅぅ!!
台号泣ってなんだよ!
大号泣だろ スマホ使いづらい!
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 21:19:42.71 ID:mTfhlgRSO
ああ、そういう事だったのか。ちゃんと意味があったのね。ケチつけてごめんよ>>1
311 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 21:29:33.94 ID:K5fX0TZ30
>>310様 いえ、文中で説明せず、失礼しました…》


上条「………なぁ、かんっ、ざき…しばらく…胸……かしっ、って、くれないか……ダメだ……こらえきれっ……」

神裂は上条に近づき、無言でその身体を抱き寄せた。
お兄さん、と言いかけた事とこの態度からして、きっと和解したのだろう。
だというのに、あの人は死んでしまった。きっと、死んでしまった。
なまじ戦犯であるが故に、葬式を挙げる事も出来なければ、惜しむようなことも公言出来ない。
上条は情けないとは思いつつも、神裂の胸元に顔を埋めて号泣する。
涙が溢れて呼吸もままならない程、時折噎せながら、悲しみのままに泣きじゃくった。

上条「俺のっ、せいなんだ! 本当は、俺の…だから、だから一緒に、つみ、せおうって、なのに、」

神裂「……」

上条「あり、がとうって…言ったんだ、全部、自分の責任だって…そんな、訳ないのに、」

戦争はただ一人の思惑では起きない。
だから、フィアンマ一人の責任とも言い切れないのだ。
なのに、フィアンマ一人に責任をかぶせて、死者に口なしとばかりに皆。
ここでは、上条一人しか、彼を讃えない。
一生懸命努力して、空回りした彼の事を、誰も良く思わない。
最低最悪、冷酷無慈悲な魔術師。
そんな事はない、否定しても、上条の声は同情の声にかき消される。
上条が優しいから庇っているだけなのだと、皆思っている。
悔しかった。そうじゃない。そうじゃないのに。
こうなる事を知っていて、それでも、彼は世界を救う事をやめた。
自分の言葉に耳を傾け、謝罪して、やめた。
後悔していた。上条一人生き残っても、それは成功とは言えない。


しばらく泣き、落ち着いた上条は、神裂からそっと離れる。
渡されたティッシュで顔を拭い、深呼吸して落ち着きを取り戻し。
そして、俯きながら、神裂に真実を話した。昔の事から、『ベツレヘムの星』内の出来事まで、全て。
神裂は静かに上条の話を聞き、泣きそうな顔で目を伏せた。
ああ、やっぱり自分たちの知っている彼の優しいイメージの方が正しかった。

上条「…インデックス、プロヒビットラム…? って子、知ってるか」

神裂「『禁書目録』ですね。知っていますよ。私の友人です。…同時に、彼が救った少女でもあります」

上条「…伝言、頼まれたんだ。伝えないと、いけなくて。イタリアの、何処に住んでるんだ?」

神裂「…地図を、描きます」
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 21:29:35.62 ID:MjcSAGJAO
+
313 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 21:30:24.25 ID:K5fX0TZ30


十一月半ば。
ようやく右腕が完治し、リハビリも終えた上条は、神裂の地図通り、イタリアのとある場所へとやって来た。
インデックス、という少女が住んでいる、フィアンマの自宅。

上条「……」

インデックス「お帰り、ミハ…」

コンコン、とノックをする。
バタバタと慌ただしい音の後、ドアが勢い良く開いた。
笑顔で出てきたのは、銀髪緑眼の愛らしい顔立ちの、華奢で小柄な少女。
上条を見、笑顔が急速に萎んだ彼女は、おずおずと問いかける。

インデックス「え、ええっと…その、ミハイルの、お友達?」

上条「…、…何ていうか…あの人に、世話になった事がある。友達っていうか…」

インデックス「うーん…知り合いって事で良いのかな? それで、何か用があるの? 今居ないけど、代わりに承るんだよ。記憶力は最高なんだから!」

上条「いや、あの人…ミハイルさんから、伝言を預かってきたんだ」

インデックス「…ミハイル、から?」

もしかして、近々帰ってくるのだろうか。
インデックスは期待に目を輝かせながら、上条を見上げる。

上条「…>>315
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/01(土) 21:34:34.59 ID:zyhgNIrH0
『俺様は死んでしまったから帰れない』って
………
ごめんなさい……ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…俺が……俺のせいで……
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 21:34:41.95 ID:byKQYml80
彼は死んだ。もう帰ってこない。
316 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 23:50:14.54 ID:rLm5G6GP0

上条「…彼は死んだ。もう帰ってこない」

インデックスの期待を裏切る言葉。
淡泊に言い放ったのは、きちんと思いを込めて言ったら、泣いてしまいそうだったから。
インデックスはきょとんとした後、上条の言葉を脳内で繰り返し、ようやく理解する。
そして深呼吸すると、緩く首を横に振った。

インデックス「…それは、無いかも。…だって、ミハイルは強いもん。そんな簡単に死んだりしないんだよ。それに、帰ってくるって約束もした。…だから、帰って来ない筈ない」

彼はきっと帰ってくる、と彼女は頑なに信じている。
上条が何を言ったところで、それを捻じ曲げる事は無い。
それは狂信にも等しい。
だが、彼女は彼の絶対の味方で居ると誓ったし、彼の事を愛している。
どんなに時間がかかっても、彼は必ず帰ってくる。

インデックス「…他に用は、ある?」

上条「…いや、無いよ。…ミハイルさんと、…仲、良いのか?」

インデックス「私としては仲良しのつもりなんだよ」

のんびりと答え、インデックスは深呼吸をする。
別に上条の言葉を疑っているのではなく、上条より自分の希望をとっただけだ。
もう泣く事を彼女はやめた。
自分の笑顔を好きだと言ってくれた彼が帰ってきた時の嬉し泣き以外今は泣いたりしない、と決めたから。

インデックス「よかったら上がっていって欲しいかも。話し相手が欲しいところだったから」

断ろうかと思った上条だが。
インデックスの『ミハイルをきちんと知っている人も少ないから』という言葉を受け、意思を変えた。

上条「…お邪魔します」
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 23:50:15.78 ID:MjcSAGJAO
+
318 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/01(土) 23:51:38.29 ID:rLm5G6GP0

その頃、同じイタリア国内のとあるアパートメントで。
右方のフィアンマは、天井を見上げていた。
どことなく身体の調子が悪い。
いや、空腹が最高潮に達しているせいで吐き気がするのか。
どちらにせよ。

フィアンマ「…生き残ってしまった、か」

誰が助けたのかは知らないが、勝手な事をしてくれたものだ。
どうせ生き延びたところで、魔術サイドから追われる事は間違いないのに。

フィアンマ「……、…」

上条は無事助かっただろうか。
インデックスに戦火は及んでいないだろうか。
そんな事を心配していると、不意に枕元に丸まっていた毛玉のようなものに気がついた。
手を伸ばして触ってみると、あたたかい。
しっかり見て確認してみる。どうやら猫だったようだ。
白い猫は丸まった状態ですやすやと眠っている。
もふり、とした手触りは触っていて心地が良い。
のろのろと起き上がり、ベッドに座ったフィアンマは、ぼんやりとしていた。
不意に部屋のドアが開き、入ってきた人物と目が合った。
金の髪に、明るい緑の瞳。
全体的に淡い配色の青年の瞳にインデックスを思い出しながら、フィアンマは問いかけた。

フィアンマ「…お前が、…」

けほ、と一度咳き込み。
目の前の人物が苦笑しながら差し出してきた水を飲み(毒であったならばむしろ大歓迎だ)、喉の渇きを潤したところで再度問いかける。

フィアンマ「…お前が、俺様を助けたのか」

オッレルス「あぁ。…私の事はオッレルスで良い」

フィアンマ「…何の為に俺様を助けた。メリットはほぼ皆無な上、デメリットは大きい筈だが」

オッレルス「>>320
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 00:09:40.07 ID:LxBlo+PJ0
人が誰かを[ピーーー]理由なんて知ったことではないが、誰かを助けるのに理由がいるかい?
そこに論理的な思考や損得勘定は入らないよ。
君が倒れていた。だから助けた。ただそれだけさ
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/02(日) 00:10:22.87 ID:LxBlo+PJ0
>>319
ピーは殺す、な
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 00:17:21.25 ID:MXngB49SO
安価↓か?安価なら>>319
322 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/02(日) 14:28:17.20 ID:CweiXXUn0

オッレルス「人が誰かを殺す理由なんて知ったことではないが、誰かを助けるのに理由がいるかい? そこに論理的な思考や損得勘定は入らないよ。君が倒れていた。だから助けた。ただそれだけさ」

フィアンマ「…なるほど。俺様の素性を知らないと見える」

オッレルス「『右方のフィアンマ』。第三次世界大戦の陰の首謀者」

フィアンマ「……」

オッレルスがフィアンマの身元を言いつつ、ベッドに腰掛ける。
と、ベッドの揺れで目を覚ましたらしい猫がフィアンマの手に擦り寄った。
フィアンマは猫を抱き上げ、自分の伸ばした脚、膝の上に猫を乗せる。
猫は毛布の感触が心地良いのか、そのまま丸まって尻尾を揺らした。

フィアンマ「……、…助けられても、困るだけだ」

オッレルス「魔術サイド全般から追われているから、か?」

フィアンマ「…まぁ、予想はしていたが。だからあのまま死のうと考えた。…お前は良い事をしたつもりなのかもしれないが、はた迷惑も良い所だ」

淡々と話すフィアンマに、感謝の念は無かった。
生き残ったにせよ、もうこのような状況ではインデックスに会う事は出来ない。
戦犯の自分と一緒に居れば、最悪彼女にも危害が加えられる。
その全てから守りきれる自信は無い。いくら『聖なる右』は『天使の力』を源泉として構成しているといっても、回数に制限は無くとも、自分の体力は削られる。
自分が倒れたら誰が彼女を守るのか。それならばこのまま、もう彼女に関わらずに自分は死んでしまった方が良い。
上条当麻に頼んだ伝言。彼は良い子だから、きっときちんと伝えてくれたことと思う。

フィアンマ「…その場限りの善意が生み出す結果など、ロクな事にならない」

オッレルス「…それについては同意だが。それでも、手を差し伸べようとしてしまうのが人間だ」

フィアンマ「……実行力は本当に善意のみだとでも? にわかには信じ難いな」

オッレルス「…いや、まぁ、君を助けるに際してまったく下心が無かった訳じゃない」

フィアンマ「下心?」

オッレルス「あれだけの事をするにあたって、君は魔術の中枢・基軸に踏み込んだ部分まで学んだ筈だ。その知識の一端でも良い。欲を言うなら全て、教えてくれないか」

フィアンマ「教えない、と言ったら?」

オッレルス「それでも構わない」

フィアンマ「……仕方がない。教えてやろう。一応、お前は『命の恩人』とカテゴライズせねばならんしな」

オッレルス「義理堅いな」

フィアンマ「嫌味だよ」
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/02(日) 14:28:22.94 ID:vsLX/xXAO
+
324 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/02(日) 14:29:57.85 ID:CweiXXUn0


甘い紅茶を啜り、クッキーを頂きながら。
上条は、インデックスと穏やかに会話していた。
共通点はフィアンマの存在だけ、だけれど、二人は気が合っていた。
とはいっても、話しているのは専らフィアンマについてだが。
インデックスの話を聞き、フィアンマは自分の知る『おにいさん』のままだったのだと知り、上条は紅茶と共に涙を呑みくだす。
そして少し仲良くなり、互いの名前や素性をきちんと自己紹介しあった上で。

上条は、懺悔を始めた。


彼がしようとしていた事。第三次世界大戦の真相。
それは、自分が関わっている事でもあるという事。
自分は彼に救ってもらった事。
そのかつて救われた恩返しの為に、彼を救おうとした事。
彼は本来やるはずの凶行に及ばず、話を聞いてくれた事。
脱出用のコンテナの数が足りず、またしても彼に救われた事。
その時に、伝言を頼まれた事。
彼はそのまま要塞と運命を共にした事。
現在の状況と、魔術サイドにおいての彼の扱い。
後悔。後悔。反省と…それから、後悔。

自分のせいなのだ、と上条は悔いた。
今思い返せばやはり自分の手に触れたから不幸にしてしまったのかもしれない、とも。
自分を責め、自分が死ぬべきであったと悔いる上条は、インデックスが聞いていた英雄<ヒーロー>という印象よりも、彼が救うと決めるに値した程弱い少年<こども>に見えた。

上条「……俺の、せいで。…本当に、…ごめん。…謝っても、…謝りきれない…」

インデックス「…>>326
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 14:44:52.79 ID:LxBlo+PJ0
……フィアンマが自分で決めたことだから。
あなたが苦しむ必要はないんだよ。フィアンマはあなたが苦しむことを、望んでいないはずだから
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 14:46:09.22 ID:hiBnJc/DO
>>325
327 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/02(日) 15:22:27.75 ID:CweiXXUn0

インデックス「………ミハイルが自分で決めたことだから。あなたが苦しむ必要はないんだよ。ミハイルはあなたが苦しむことを、望んでいないはずだから」

ここで醜く騒ぎ立て、上条を責める事は容易い。
激情のままに怒りをぶつけ、泣き喚く事だって。
ましてや、インデックスの愛する人はこの眼前の少年を守る為に身を賭したのだから。
でも、彼女は上条を責めない。責めようなどという発想すら無い。
この男のせいで自分の好きな人は帰って来ないだなんて、一切思わない。
というよりもむしろ、フィアンマが助けようとしたこの少年が生きていて良かった、とインデックスは思う。
そして、何よりも、こんな状況で、条件で、世界中から憎まれる立場にある彼を一心に慕う人物が自分以外にも居て、安心した。
彼が死んでいても生きていても、自分が彼を待ち続ける事に変わりは無い。

インデックス「…私も、彼を止めなかったから。…だから、ある意味私にも責任はあるんだよ。でも、そんな事言い出してたらキリが無いもん」

上条「…、…」

インデックス「…納得いかないみたいだね。そんなに悩むのなら、彼とまた会った時に直接謝れば良いんだよ。だから、一緒に待とう?」

住む場所は違っても、自分と上条は彼に地獄から救ってもらったという点で、同類。
笑顔でそう提案するインデックスは、誰よりも強かった。
自分のせいで彼が死んだ、と嘆き悲しむより、いつか彼が帰ってきた時に立派になった自分に自信を持ち、胸を張って『お帰り』と言えるように、強く、前向きに生きていた方が良いに決まっている。

インデックス「どんな状況でも、私はミハイルの味方で居たいし、居るつもり。…とうまは?」

上条「…俺だって、味方で居たい。誰が何て言ったって、あの人は不器用なだけなんだ。あの人一人が悪い訳じゃない」

インデックス「あなたがそう思ってくれているなら、ミハイルは嬉しいと思うよ。…住む場所は違うけど、お互い元気に待とう。沢山の、世界中の人が彼を責めて憎んでも、私達だけは彼を責めないで支えてあげないと。庇ってあげるの。じゃなきゃ、味方って言えないから。私達が諦めたり責めたら、彼にはもう味方が居ないんだから」

上条「…そう、だよな。…あり、がとう」

インデックスと話す内に希望が持てたのか、上条は穏やかな表情で頷く。
何を思っても彼が救ってくれた命を生きていかなければならないのだ。
ならば、悔いるより前を向いて生きていった方が、絶対に、良い。
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/02(日) 15:22:29.10 ID:vsLX/xXAO
+
329 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/02(日) 15:23:46.12 ID:CweiXXUn0

十一月末日。
自分の持っている全ての知識をオッレルスに教え、フィアンマは彼の家に世話となっていた。
それから、オッレルスの素性を知った。
魔神になり損ねたが故に魔術サイドから追われる彼は、神上になり損ねて追われる自分と似ている。
つくづく自分と似た男に縁がある、と思いながら、フィアンマは掃除を手伝った。

オッレルス「…君には、大切な人は居ないのか? 恋人、或いは親友」

フィアンマ「…知ってどうする」

この家にはオッレルスとフィアンマの二人しか居ない。
正確には『シルビア』という猫も居るが。
猫の名前は数年前自分に愛想を尽かして出て行ったオッレルスの恋人の名前らしいのだが、フィアンマはそこに興味は持たなかった。
オッレルスの問いかけに素っ気なく言うと、フィアンマは掃除を終え、所定の場所にテキパキと物を片付けた。

オッレルス「いや、帰る場所があるのならそれに越した事は無いと思っただけだよ」

フィアンマ「俺様を養う義務は無いからな。追い出したいのならそう言えば良い」

オッレルス「そんな事は思っていないが。ただ、このままこの家の居候として一生を終えて良いのかと、そう思ったんだ。大切な人が居るのなら、その人と一緒に「余計なお世話だ」…」

フィアンマ(今更、どんな顔をして会いに行けというんだ。会えば確実に危険に晒す。…いや、そもそもその前に俺様の所業は風の便りで届いている事だろうし、もう嫌われているかもしれないな。帰ったところで拒まれるのが関の山だ)

物を片付け終わり、ソファーに腰掛けて猫を招き寄せ、愛でるフィアンマ。
向かい側に座り、オッレルスはフィアンマの目を見つめた。

フィアンマ「…何だ」

オッレルス「…後暗い人間でも、幸せを得る事位は出来る」

フィアンマ「ハッ、自分の意思で大切な人間を食い潰してまで得る幸せに……何の、意味がある」

インデックスと一緒に居られる自分は幸せだ。
だが、その為に彼女を危険な目に遭わせたくは無い。

フィアンマ「…この家で生を終えるか、或いは捕縛されて処刑か、はたまた野垂れ死ぬか。俺様にはこの三択しか残されていない」

オッレルス「……」

フィアンマ「…俺様が幸福だろうと不幸だろうと、お前には関係の無い事だろう」

オッレルス「>>331
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/02(日) 15:38:30.74 ID:whz0i9ih0
俺には確かに関係ないな。俺にはな
お前 今会いに行ったら拒まれる、とでも考えているんだろう だがなお前がその大切な人を信頼せずに
何時までも待たしておく方がよっぽど悪質で質が悪いぞ 一度会いに行け、そして拒まれたならまたここに来い 拒まれなかったのなら、共にそいつらと暮らせ
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 15:39:00.78 ID:X4HNpvkJ0
実は一目ぼれだったんだ。愛してる。
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 18:47:20.41 ID:MXngB49SO
超☆展☆開☆!
333 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/02(日) 21:30:12.25 ID:QEYVougJ0

オッレルス「…実は一目惚れだったんだ。愛してる」

フィアンマ「…何を、」

オッレルス「…だから、君が幸せな方へ進んで欲しいと思ったまでだ。まったく関係ない相手であればともかく、好きな人の幸せを願うのは普通の事だろう」

言外に、関係無くなどないのだ、と告げながら、オッレルスはフィアンマの目を見つめ、視線を外さない。
好きな人の幸せを願う事。
確かにそれは当たり前の事だ。実際、フィアンマもインデックスの幸せを最優先するが故に、会いにいかない。

フィアンマ「…正気か」

オッレルス「狂ったつもりは無いが」

フィアンマ「…、…俺様には帰るべき場所がある。帰らないし、今更帰れないが。そこには好きな、…俺様が愛する女が居る。…言わんとしている事はわかるな」

つまり。
気持ちを受け入れる事は吝かではない。
そもそもフィアンマという青年は愛情に飢えているのだから、愛してくれるのであれば誰でも良いという部分がある。
だが、彼はもう会えない人間を愛している。いや、会いにいかないと決めているが、愛している事に変化は無く。
その状態でオッレルスの告白を受け入れるという事は、オッレルスをその愛する人間の代わりにするということ。
それでも良いのか、という遠回りな注意勧告に対し、オッレルスは嘆くでもなく頷いた。

オッレルス「…それでも構わないさ」

フィアンマ「……物好きなヤツだ」

オッレルス「自分でもそうは思う。…誰かの代わりでも、一向に構わない」

寂しい男だ、とフィアンマは思う。
いや、自分も充分寂しい人間ではあるのだろうが。
猫を愛でながら見つめる先、色素の薄い美しい緑の瞳は、インデックスとよく似ている。

フィアンマ(…俺様は、誰でも良いのか)

自分を好きになってくれるなら。
優しくしてくれるなら、誰でもいい。
何と自分勝手で貞操観念の低い事だろうか、とフィアンマは自嘲する。

フィアンマ「何の見返りも無しに家に置く時点でお人好しだけでは片付けられないとは思っていたが。そういう事か」

オッレルス「…生憎聖人君子ではないからな。普通、自分に心地の良い状況は率先して作るだろう」

フィアンマ「まぁ、そうだな。…で、主に何が目当てなんだ。身体か?」

オッレルス「否定はしない、」
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/02(日) 21:30:15.82 ID:vsLX/xXAO
+
335 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/02(日) 21:30:44.49 ID:QEYVougJ0

十一月末日。
インデックスは、ようやく一人暮らしにも慣れてきた。
勿論、フィアンマが帰って来る事を諦めている訳ではない。
でも、自活出来る姿を見られて恥ずかしくないように、一生懸命生活していた。

インデックス「…、」

食事を終え、皿を洗い、片付けて。
ソファーに座ったインデックスは、髪留めを外し、手のひらに乗せて見つめていた。
ぶつけないよう気をつけて生活しているがために、髪に着けている割にはヒビや欠け一つ無い。
この綺麗な髪留めを彼だと思う事で、彼女はどうにか疲弊を抑えていた。

インデックス「……お料理、沢山出来るようになったんだよ。お掃除は、前より効率的に出来るようになったかも。…だから、早く帰ってきて欲しいな…」

時間がかかっているんだ。
もしかしたらどこかの病院に入院しているのかも。
北極海に落ちたのであれば、重体なのかもしれない。
ならば、半年程帰ってこなくたって、何ら不思議じゃない。

インデックス「……、」

でも。
寂しかった。
彼がどんな重罪人だって構わない。
ただ帰ってきて、抱きしめてくれれば、こんな暗い気持ちなんて吹っ飛ぶ気がした。
何もいらないから、ただ彼と一緒にいられれば、幸せなのに。
いつになったら帰って来てくれるのだろう。
せめて、連絡の一つ、寄越してはくれないだろうか。

不意に、ドアをノックする音がした。
現れたのは神裂火織。

インデックス「何か用事があるのかな?」

神裂「はい。…>>337
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 21:34:11.90 ID:X4HNpvkJ0
あなたを……粛清しにきました。
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/02(日) 21:35:57.13 ID:17tW2JAA0
フィアンマ……ミカエルの居場所が判明しました
彼は生きています
338 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/02(日) 22:00:48.91 ID:QEYVougJ0

神裂「はい。…フィアンマ……『神の如き者』を司る彼の居場所が判明しました。彼は、生きています」

インデックス「…!!」

安堵に目を輝かせるインデックス。
しかし、ふとその表情を曇らせた。
生きているのなら、どうして連絡がないのか。

インデックス「…ミハイルは、入院してる、の?」

神裂「…いえ。とある人物と住居を共にしているようです」

インデックス「……、…」

きっと大怪我をしているんだ。
だから、その人が世話をしてあげているに違いない。
彼が自分を見捨てるなんて、そんな事無い。

自分に言い聞かせるように考える度、インデックスの表情は鬱々としたものに変化していく。
神裂は、インデックスに優しく話しかけた。

神裂「…同じイタリア国内です。…会いに、行きませんか?」

インデックス「…かおりは、ミハイルの事、敵視してないの…?」

神裂「本来は恨むべきなのかもしれませんが、…私にとっても、彼は恩人ですから」

インデックス「会いに行って、迷惑じゃないかな」

神裂「私はともかく、彼はきっと、恐らく貴女に会いたがっていると思いますよ」

インデックスはしばらく黙った後、髪留めを自分の髪に着けた。
帰って来られない理由があるのなら、それを知りたい。
彼が生きていると知った今、会いたいという気持ちは抑えられるはずもなく。
彼女は、神裂と一緒に、フィアンマの居場所へと向かうのだった。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/02(日) 22:00:50.16 ID:vsLX/xXAO
+
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/02(日) 22:01:45.11 ID:PcOT4yYm0
上条さん連れてったって
341 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/02(日) 22:02:14.49 ID:QEYVougJ0

事後。
フィアンマはシャワーを浴び、下衣のみ纏った状態で、オッレルスを見つめていた。
人外の力を持っているようには見えないが、それは自分に限っても同じ事。
今更貞操にこだわろうとは思わない。そこまで自分の身体に価値など無い。
猫の肉球を指先で触り、その間食から得た癒しにて自分の心を宥めつつ、フィアンマは時計を見遣った。
もうすぐ夕方。ということは、行為をしていた時間は昼間だったようだ。
そもそも敬虔でない自分に性行為云々のモラルは関係無いか、と考え。
フィアンマは猫の前足を使ってオッレルスの頬をぺしぺしと攻撃した。

オッレルス「…ん、…」

フィアンマ「…女役より長く寝ているというのはどうなんだ?」

オッレルス「…君の常識は、よくわからないな」

のろのろと起き上がり、着衣を正すオッレルスに対し、フィアンマは猫を愛でた。
動物に触れる事でアニマルセラピーを試みているのかもしれない。
猫を解放したフィアンマは上の服も纏い、着衣を整え、ため息を吐き出す。
オッレルスはやや申し訳なさそうな表情で、彼の肩を抱いた。

オッレルス「…すまない」

フィアンマ「何を謝る事がある。互いに同意の上での行為だろう?」

オッレルス「それは、そうだが」

フィアンマ「お前が思っている程俺様は敬虔な十字教徒じゃない、心配には及ばんよ。男妾のような真似事に、覚えが無い訳でもない」

愛してくれるのなら誰でもいい、と思う時期は常にある。
まして、男性であるフィアンマに貞操を堅く立てる必要性も無かった。
誰に抱かれようと何をされようと、彼の空虚な心は、そんな事では傷付かない。

オッレルス「……、居場所がバレたようだ」

フィアンマ「お前の追手か」

オッレルス「或いは、君の追手か」

フィアンマ「逃げるのか?」

オッレルス「>>342
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 22:04:40.01 ID:MXngB49SO
…君はどうしたい?
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/02(日) 22:04:56.11 ID:PcOT4yYm0
いいや、待ち構える
344 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/02(日) 22:35:07.64 ID:QEYVougJ0

オッレルス「…君は、どうしたい?」

フィアンマ「…別に、迎え撃てば良いんじゃないか? 今はまだ疲弊していないしな」

オッレルス「そうか。なら、待つ事にしようか」

自分の服装を少し調整する事で防御術式を構築したフィアンマは、ベッドから降りて靴を履く。
オッレルスもその動きに倣う様にしてベッドから降りた。
今のフィアンマに生きる希望は無い。死ぬならそれで構わないと思っている。
ただ彼が願うのは、頭の片隅にいつも浮かぶ彼女の笑顔が守られる事。
出来る事ならば自分が守ってあげたかったが、やはり、どう考えても、無理だ。





アパートメントを破壊されて奇襲をかけられると後々面倒臭い、ということで二人は先んじて外へ出た。
戦闘になるであろう事を考慮して、一応人払いを仕掛けておく。
あっという間に一般人は周囲から立ち去っていき、二人は取り残された。
そんな中、人払いを無視する形で現れたのは、二人の魔術師。

一人は、『歩く教会』を身に纏った白い修道女。
一人は、左右非対称の服を纏った極東の聖人。

どちらの顔も、フィアンマはよく知っていた。

フィアンマを守るようにして、オッレルスが前に立ち。
そんなオッレルスからインデックスを守るようにして、神裂が前に立った。

神裂「…こちらに敵意はありません。私は、彼女をその後ろの方に逢わせる為、付き添ってやってきました。イギリス清教としてではありません」

オッレルス「……、」

知り合いか、と目配せするオッレルスに対し、フィアンマはアイコンタクトで肯定の意思を示し。
前に立つ両者が退けば、自然とフィアンマはインデックスと向かい合う事になる。
フィアンマは嬉しがる様子も無く、むしろ冷めた表情でインデックスを見下ろした。

フィアンマ「…何の用だ。俺様は死んだと、伝えられていただろう」

インデックス「…、でも、生きて、」

フィアンマ「その伝言に篭められた意味に気付けない程頭の悪い女だったか? お前は」

帰らない。帰る意思が無いから、自分は死んだ事にする。
一般的にこれは、もう相手に愛が無いから失踪するのと同じ事。
淡々と話すフィアンマの声音には、迷惑だと言わんばかりの悪意が透けていた。
彼女を傷つける事で失望してもらおう、嫌ってもらおう、もう自分と会いたくないと思ってもらおう。
それら全ては彼女を不幸にしないために。
傷ついた表情を見せるインデックスに心が痛むのを感じながら、フィアンマは言う。

フィアンマ「愚かにも俺様の帰りを信じていたのか。それとも、こうして会って怒りをぶつけに来たのか。どちらにせよ、馬鹿馬鹿しい行動である事に変わりはないな。残念だが、俺様は約束を破る男だ」

挑発するような言葉に唇を噛むインデックスを見ていられないとばかりに、神裂はフィアンマを睨んだ。
インデックスはそんな神裂に対し、緩く首を振る。

そして、泣かずに、挫けずに、フィアンマを見つめた。

インデックス「>>346
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 22:37:27.37 ID:X4HNpvkJ0
や ら な い か
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/02(日) 22:40:30.08 ID:4OS3EKE90
あなたを……愛しているから……
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 22:40:56.38 ID:MXngB49SO
それでも、貴方に会いたかったんだよ
348 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/02(日) 23:42:41.16 ID:QEYVougJ0

インデックス「…あなたを……愛しているから……」

そのたった一言に、インデックスという少女の想いが凝縮されていた。

愛しているから、信じた。
愛しているから、帰って来るのを待った。
愛しているから、こうして会いに来た。

そこには打算も利害も無い。
フィアンマが居なくたって、インデックスは慎ましやかに一人で生活していくことは出来た。
彼女にだって状況判断能力が無い訳じゃない。
ましてや、上条からフィアンマの現在状況は聞いていたのだから。
彼と再び一緒に暮らせばどれ程自分が危険にさらされるか、予想は出来ている。
でも、その危険に対する恐怖より、愛情が勝ったから。

言葉が出なくなったフィアンマを見つめたまま、インデックスは微笑みかける。
傷つけられた者とは思えない、優しい笑顔。

インデックス「ミハイル。手を繋いで帰ろう。それで、お家に帰ったら一緒にご飯を食べよう。いっぱい練習したから、今度はもう一人で作れるよ。勉強したからね。自信、あるんだから」

フィアンマ「……」

インデックス「誰から責められたっていい、巻き込まれて酷い目に遭ったっていい。ミハイルが一緒に居て笑ってくれるなら、私は幸せなんだよ」

フィアンマ「……、」

インデックス「私はもうあなたに甘えない。ミハイルを守る。味方でいるって、そういうことだと思うから」

フィアンマ「お前が、俺様を、守る? 笑わせるなよ」

インデックス「『歩く教会』を着てミハイルに抱きついていれば、背後か前方、少なくとも一方向からの攻撃からは守ってあげられる。…何でもいいの。もう一度一緒にいられれば、なんでも、どうでもいい、」

フィアンマさえ傍に居てくれるなら、何も要らないと思えた。
本当に、今も強く、そう思っている。
彼と笑い合える日々に勝る人生など、幸福など無いと。

まったくもって意見を変えないインデックスに、自分の思うように嫌ってくれない彼女の態度に耐えかね、フィアンマは本心を吐露した。

フィアンマ「俺様はお前を不幸にしたくないんだ、」
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/02(日) 23:42:55.54 ID:vsLX/xXAO
+
350 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/02(日) 23:44:19.92 ID:QEYVougJ0

自分でこうして大切にして。大切だと言って。
約束したにも関わらず、裏切って。
こんな自分勝手な男、見捨てれば良いのに、とフィアンマは思う。
親が子供の道から危険性を排除するように、あまりにも一方的な思い込みを元にした言葉に、インデックスは唇を噛み締めてから、本気で怒った。

インデックス「私の不幸の定義を勝手に決めないで!!」

フィアンマ「……、…」

インデックス「朝起きて、ミハイルが隣に居てくれて。眠る時に、ミハイルが隣に居てくれれば、私は何も要らない。それが幸せなの。一般的かどうかなんて関係無い、私はそれがいいんだよ…!」

自分は大罪人で、彼女の傍に居てはいけない人物だというのに。

フィアンマが思い浮かべたのは、自分を救おうとしてくれた少年の言葉。

上条『間違ってるから何だよ。やり直せるから人間なんだろうが!』

今更、やり直せるだろうか。
こんなにも重い罪を犯した自分が、幸福を手に入れるなど、許される事なのか。

フィアンマ「俺様は、取り返しのつかない事をした」

インデックス「良いよ。…誰も赦さないだろうけど、私は、赦すから。ゆるすよ。だから、一緒に帰ろう。あのお家は、私のお家じゃないもん。私と、ミハイルの、二人のお家なんだから…」

自分は死ぬという確信を得た時、何を思ったか。

この少女の笑顔をもっと見ておけばよかった。
この少女ともっとずっと一緒にいれば良かった。
この少女の手を握っていればよかった。

そう思っていたんじゃないのか。ここまで自分勝手にやってきて、今更罪に拘る必要があるのか。


フィアンマ「…俺様は、」





フィアンマの台詞決定投票安価区間は>>352-356です。
選択肢は以下のみ。

1.「帰っても、良いのか。お前を危険な目に遭わせるだけだというのに、それでも構わないと、そう言うのか」(フィアインルート)

2.「帰る訳にはいかない。お前がどう望もうと、そんな事は知った事ではない。だから、…だからもう……。…俺様の事は、諦めろ」(以降オレフィアルート)




番号で投票してください。
同IDにつき一票です。(=連投無効)
よろしくお願いいたします。
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 23:44:28.82 ID:hiBnJc/DO
ID X4HNpvkjOは氏ね
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 23:46:44.26 ID:hiBnJc/DO
あ、投票は1で
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/02(日) 23:48:04.79 ID:4OS3EKE90
1しかねぇよ!
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 23:53:09.83 ID:LxBlo+PJ0
ならば後に続こう、1
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/02(日) 23:55:59.58 ID:4OS3EKE90
はい決定ー
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 00:00:02.44 ID:WaTxCVElo
オレフィアも好きだけどね、ここは1で!
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 00:20:37.94 ID:RzK4v1CSO
乗り遅れた…2は2で面白そうだがやはり1なんだよスレ主旨から言っても流れ的にも1なんだよ

と言っておく
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 01:41:07.20 ID:AqW0njpd0
これ安価いらないんじゃね?
ハッキリ言ってかなりクオリティ高いし、普通に書いて欲しいなぁと思った
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 01:49:01.61 ID:RzK4v1CSO
この>>1は普通に非安価SSも書いてたぞ。ただ…
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 06:12:27.10 ID:8ltBHBjao
すみませんここのフィアンマって男ですよね?
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 18:15:50.59 ID:RzK4v1CSO
何を今更
362 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/03(月) 22:33:42.18 ID:8OSerR7l0
《投票結果:全員一致で1(=フィアインルート)。投票にご協力いただき、ありがとうございました。
>>358様 安価スレでないと倉庫にある素晴らしい作品と被るかな、と思ったのもありまして。
>>360様 はい、男性です》



フィアンマ「帰っても、良いのか。お前を危険な目に遭わせるだけだというのに、それでも構わないと、そう言うのか」

インデックス「うん。…だから、…だから、ね。…ずっと、…一緒に居て…欲しい、な」

お願い、という念押し。
フィアンマはしばらく黙って考えを纏め、まず神裂に言葉をかけた。

フィアンマ「…迷惑をかけたな」

神裂「いえ。…イギリス清教には、貴男は死亡していると伝えるつもりです。それでどれ程振り切れるかは不明ですが…」

フィアンマ「…一応、礼を言っておこうか」

神裂「これで少し、恩が返せたような気がします」

フィアンマの真意にそれとなく気付いた神裂は穏やかな表情で頷く。
彼は続いて横を向くと、オッレルスに話しかけた。

フィアンマ「…お前には悪いが、戻る事にする」

オッレルス「君が幸せなら問題無いよ」

フィアンマ「聖人君子も良いところだな」

オッレルス「そうかな。普通じゃないか?」

フィアンマ「淡々としているな」

自分もそうか、とややおかしく思いつつ。
フィアンマは一度だけオッレルスを抱きしめた後離れ、インデックスに近寄った。
そして短く別れの一言を残すと彼女を抱き上げ、一歩踏み出して去っていった。

オッレルス「…つくづく、俺は運が無いらしい」

神裂「…、…彼らは強く結ばれていますからね…」
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/03(月) 22:33:47.21 ID:+D1JV0KAO
+
364 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/03(月) 22:34:19.48 ID:8OSerR7l0

二人は自宅へと戻って来た。
インデックスはフィアンマに所謂お姫様抱っこをされたまま、きょとんとしていた。
あれだけ一生懸命呼び止めたにも関わらず、彼が帰ってきたという実感がきちんと湧いてくるのに時間がかかったからだ。
フィアンマはインデックスをソファーに降ろし、自分はその隣に座った。
久しい我が家は空けていた期間もきちんとインデックスが掃除をしていたらしく、埃っぽさは皆無。
インデックスはようやく状況を呑み込めたのか、またしても溢れ出しそうになる激情を堪えながら言った。

インデックス「…お帰り、ミハイル」

フィアンマ「……、…ただいま。インデックス」

かしこまったフルネームの、魔道書図書館としての呼び名ではなく。
親しみのある響きに変わった事に、インデックスは目を瞬かせた。
そんな彼女の様子を気にする事なく、フィアンマはぽつりぽつりと語る。

フィアンマ「……状況から考慮して、死ぬと決まった時。結果的にはこうして生き残ったが、…お前の事を、考えていた」

インデックス「…わた、し?」

フィアンマ「…お前が笑顔でいたらいいと。お前と、もっとずっと一緒に居たかったと。…お前の手を握っていれば良かったと。ひたすら、後悔していた」

インデックス「…、」

フィアンマ「ずっと、お前の所に帰りたいと思っていた。お前とまた、こうして普通に暮らせれば幸せだと思っていた。…だが、助かって、冷静に考えれば考える程、お前と一緒に居る資格が無いと思った。戦争を起こし、最後まで目的を果たす事も出来ず、すぐ帰るという約束も破り…魔術サイド中から追われているこの身では、お前と会っても迷惑をかけるだけだとしか、思えなかった。それなら、一生会わない方がお前は幸せなのだと、思い込んでいた。…俺様の自己満足に過ぎなかった訳だがね」

インデックス「…ミハイルの、ばか」

フィアンマ「…あぁ、…俺様は、馬鹿だった。…幸せになりたいと思うのであれば、たとえ何を思っても会って、お前の手を引いて生きるべきだった」

インデックス「…もう帰ってきたから、いいんだよ」

フィアンマ「…今回の約束は、…破らないで、済んだ」

小さい声で呟いて、フィアンマは少女の華奢な身体を抱きしめる。
インデックスは彼の胸元に顔を埋め、数ヶ月ぶりに、嬉しいやら安堵やらと、様々な感情の籠った大粒の涙を好きなだけ零し。
子供らしく大声で、泣き出すのだった。
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/03(月) 22:34:20.47 ID:+D1JV0KAO
+
366 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/03(月) 22:34:51.18 ID:8OSerR7l0

翌々日。
神裂経由で連絡を受けた上条当麻は、フィアンマとインデックスの元へやってきた。
インデックスはフィアンマが帰宅してくれたことで今までの心労が出たのか、ぐっすりと眠っている。
わざわざ起こす理由も無いフィアンマはインデックスをベッドに寝かせたまま、上条に対応していたのだが。
彼はフィアンマと数度言葉を交わした後、子供返りでもしたかのようにわんわんと泣き出した。
彼としては約束を破られた(少なくとも上条は彼の行動で傷ついた)ため、殴ろうとしたのだが、泣いているために力が入らず、フィアンマの頬を力なくぺちりと叩くのみで終わった。
右の頬を打たれたら左の頬を差し出しなさい、という教えを思い出しながら、フィアンマは苦笑して上条を抱きしめ、頭を撫で、背中を軽く叩いてあやしてやる。

上条「何、で一人で、送りっ、出すん、だよ…!」

フィアンマ「次善の策だよ。許してくれ」

上条「俺のせっ、い、ある、のに、何で、」

フィアンマ「言っただろう、俺様は免罪符だ。そうなるべく産まれてきた」

上条「ち、がう!」

フィアンマ「……お前を苦しませるのは嫌だったんだ。罪の意識に苛まれて欲しくは無かったのだが、…裏目に出たか」

上条「ほ、本当、っに、死んだ、かと、思っ…!」

フィアンマ「…悪かった。泣くな。俺様が悪かったよ。…また少し身長が伸びたな、当麻」

上条「う、…ッ、あああああ!!」

フィアンマ「…だから泣くなと言っているだろうに。呼吸困難になるぞ…」

インデックスがフィアンマの『幸福』の象徴であるとするならば。
上条当麻はフィアンマにとって、『希望』の象徴だ。
自分とよく似ているが、自分より遥かに真っ直ぐで憎悪の無い少年の未来に、フィアンマは期待を懸けている。
自分が苦しんで諦めた事を、どうかこの子供は諦めませんように、と。
幸い、自分が見た限りでは上条は沢山の人に信頼され、愛され、守られている。
良かった、とフィアンマは素直に思えた。

数少ない―――いや、たった二人しか居ない大切な人の前では、彼は心優しい青年に過ぎない。

背中を摩られつつげほげほと咳き込む上条は数度深呼吸して落ち着きを取り戻し、フィアンマを見上げた。

上条「……」

フィアンマ「…ん?」

上条「…>>368
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/03(月) 22:37:29.88 ID:/2zOsvrQ0
今度こそ約束護ってくれよな!おにいさん!
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/03(月) 22:38:37.55 ID:/2zOsvrQ0
>>367

369 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/03(月) 23:50:52.22 ID:8OSerR7l0

上条「…今度こそ、約束護ってくれよな! おにいさん!」

フィアンマ「あぁ。…もう破らない」

泣いた直後の顔はいたく幼く見え。
十年前と同じような和やかな気分で、フィアンマは上条の頭を優しく撫でた。
あからさまな子供扱いなのだが、上条は別段不快には感じず。
傍から見れば二人はまるで、見目こそ似ていないが―――歳の離れた、仲の良い兄弟のようであった。



数十分経過し、完全に落ち着いた上条は。
現在、持ってきた宿題をフィアンマに手伝ってもらっていた。
冬休みの宿題なのだが、内容としてはそんなに難しくない為、何だかんだで学校に通った事のないフィアンマでも(いや、知識はあったからかもしれないが)簡単に解けた。

上条「うぐ…」

フィアンマ「そんなに難しくないだろう」

上条「いや、俺お兄さんみたいに頭良くないから…」

がくり、と項垂れる上条の口にお菓子を突っ込みつつ、フィアンマは肩を竦める。

フィアンマ「出来ないと思い込んでいるから出来ないんだ」

上条「そんな事言われても…」

もごもごとビスケットを食べつつ口ごもる上条に対し、フィアンマは個装のお菓子を一つ、上条の目の前にて手の中に隠す。

フィアンマ「少し休憩だ。…この手の中はどうなっていると思う?」

上条「お菓子がある、じゃないのか?」

フィアンマ「いや、そうとも言い切れないな」

そう言いつつ手を開いて見せるフィアンマ。
その手のひらの上に、隠したはずのお菓子は無かった。
目くらましをしている間に隠すという基本的な手品なのだが。

上条「おぉ…」

フィアンマ「…ちなみに、俺様の手の中の菓子が砕けている可能性、なくなっている可能性、現存する可能性、包み紙の中身だけなくなった可能性など、沢山の可能性が考えられる。これが俗に『多世界解釈』と言われるものだ」

上条「…お兄さん、魔術サイドなのに役立つのか? その知識」

フィアンマ「『神の右席』の理念はこれに乗っていたしな。天使の中に神が紛れ込んでいる可能性は、この多世界解釈の法則に通じる」

上条「なるほど…」

フィアンマ「何事も勉強しておいて損は無い。今から『きっと使わないだろうから』と学ぶ事を諦めると、後々後悔する恐れが高い。勤勉が一番だ」

上条「うぐ…説教が胸に痛い……あれ、休憩じゃ」

フィアンマ「ん? 休憩だよ、課題は片付けなかっただろう。さて、再開といこうか」

上条「ふ…、…不幸だあああ!!」
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/03(月) 23:50:58.66 ID:+D1JV0KAO
+
371 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/03(月) 23:51:24.70 ID:8OSerR7l0

どうにか宿題を終わらせ、上条は帰っていき。
上条が出て行ってから一時間後、インデックスは目を覚ました。
そしてのろのろとシャワーを浴びた後、フィアンマにくっつく。
フィアンマは退屈を持て余していた為、拒むでもなくインデックスの様子を眺めた。

フィアンマ「寝ぼけているのか? 眠いのならもう少し寝ていたらどうだ」

インデックス「もう…寝なくて…大丈夫、なんだよ…」

ぐしぐし、と目元を擦り。
呑気に欠伸を漏らしたインデックスは、ゆっくりと深呼吸する。
そしてフィアンマを見上げると、いまいち締りの無いふにゃふにゃとした可愛らしい笑顔を浮かべた。

インデックス「そうだ、ご飯作るね。何か食べたいもの、ある?」

フィアンマ「何でも作れるようになったのか?」

インデックス「中華はまだ少し難しいかも」

フィアンマ「……」

インデックス「でも、大体のお料理は作れるようになったんだよ。広く浅く習得したから…」

フィアンマ「…>>373が食べたい」
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 23:54:10.09 ID:IYMHQCpb0
インデックスを食べたい
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 23:54:41.97 ID:RzK4v1CSO
シチュー
374 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/04(火) 22:15:15.22 ID:XVqXUZuS0

フィアンマ「…シチューが食べたい」

インデックス「シチューだね! 材料ならあるんだよ」

ついでに自分も食べよう、とキッチンへと移動したインデックスは手を洗った後、調理作業を開始する。
フィアンマも暇なためキッチンへと移動してきたが、彼が手伝う必要もなく、インデックスは手際が良くなっていた。
自分を待つ間に一生懸命練習したのか、と思うと、何だかしんみりとする。

フィアンマ「…泣くなよ?」

インデックス「だ、大丈夫。もう泣かないように玉ねぎ切れるようになったかも」

フィアンマ「そうか」

いつまでも子供のままではない、と不機嫌になるでもなくアピールするインデックスの様子を、フィアンマは和やかな様子で眺める。
まだ子供に希望を抱く歳でもないと自分でも思うのだが、何となく、自分の感情は恋愛とは違うような気がしてきた。
たとえば、父親が娘に抱くような感情とも、兄が妹に抱くような感情とも言えるような。
いや、そう限定してしまうと逆に不健全というか、歪んでいるのだが。
インデックスの想いに応えるべき感情の方向性ではなかったか、と今更ながら後悔する。
けれど、これからまたしばらく過ごしていれば、きっと自分は彼女に恋をするか、多角的に愛し続ける事だろう。
ひとまず今は、かけがえのない存在という認識で構わない。


久しく口にしたインデックスの手料理は遥かに上達しており、手際の良さから読み取れた通り、美味しかった。
一般的に料理下手が多いと言われるイギリス人がここまで上達するには、さぞ沢山学んだのだろう。
その完全記憶能力を用いて一生懸命レシピ本でも読んだのかもしれない。
フィアンマは努力をする人間を好む。というよりも、勤勉な人間の姿を好ましいと感じている。
だから、インデックスの料理に関する感想を求められた時、彼は楽しいと感じつつ、きちんと褒めた。

フィアンマ(―――確かに、『右方のフィアンマ』は死んだのかもしれんな)

自分はこんなに優しく甘い人間でもなかったし、もっと冷徹で淡白だったはずだ。
と、彼が今思っただけで。
前々から彼自身は特定の人間には優しかったのだが、彼自身にその自覚は、無いらしい。


インデックス「お風呂先に入ったんだよ」

フィアンマ「ん、」

目くらましの術式を施したところで、インデックスが風呂場から戻ってきた。
髪留めは濡れた髪に着けられない為、服につけてある。

フィアンマ「…持っていたのか」

インデックス「…思えば、毎日着けてたかも」

フィアンマ「…そうか」

相槌を打ち、フィアンマは立ち上がる。
風呂場に行こうとした彼の服裾を、おもむろにインデックスは掴んだ。

フィアンマ「……何だ?」

インデックス「えっと…>>376
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/04(火) 22:17:07.10 ID:hDUYi7V00
一緒に寝てほしいかも…
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/04(火) 22:19:56.32 ID:zatJyMqSO
も、もし、よかったら…あ、お風呂入った後で、一緒に、寝ない?
377 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/09/05(水) 00:02:33.37 ID:NOIll0qL0

インデックス「えっと…も、もし、よかったら…あ、お風呂入った後で、一緒に、寝ない?」

フィアンマ「…構わんが。そもそもベッドは一つしかないしな」

そういえば買い足さないでいたか、と今更ながら思い出し。
けれどいつ引っ越すかわからないため、今はまだ良いとも思い。
インデックスの言葉にそう答えたフィアンマは、風呂場へと消えた。
少女は青年の服裾に触れていた手をやわやわと握ったり開いたりして、小さく笑む。
またこれから二人で暮らす事が出来る。
何度も認識し直したことだけれど、一時喪っただけ、幸せだと感じられた。
人は何か喪ってから、失ってからでなければ、大切なものの価値に気付けない。
もしくは、その価値の重きを実感しない。
フィアンマに限らず、インデックスにとっても、その言葉は適用されるのだった。

シャワーを浴び終わったフィアンマは、既にベッドへ横になっていたインデックスを見つつ明かりを消した。
そして暗くなった部屋で彼女に近寄ると、後ろから抱きしめる形で横になる。
少しだけ身長が伸びたような気がする、とフィアンマは彼女の以前の体躯を思い浮かべながら、思った。
暗闇の中、彼の両腕を、インデックスは抱きしめる。

インデックス「…ミハイル」

フィアンマ「…ん?」

インデックス「今度こそ、一緒に居ようね」

一緒に居てね、ではなく。
一緒に居ようね、という言葉。
フィアンマも自分と一緒に居たいと思ってくれていた事を知っているからこそ、変化した言葉。
何があっても、彼の傍に居るという堅い決心が言葉に現れた結果でもある。
先は見えないし、神裂のしてくれた誤魔化しだっていつまで有効かまるでわからない。

自分を邪魔だと思う人間達に追われ。
最後の最期、『神の子』と一緒に居たのは、彼に直接救われた女性の信徒だった。
で、あるならば。
まったく同じこの状況で、フィアンマの―――ミハイルの死を最期まで見届けるのは。
救世主に直接救われた、将来のインデックスという一人の女性である事だろう。

処刑される時、『神の子』は決して人を恨まなかった。
それどころか、自分を処刑しようとする人々を救ってくれるよう神に頼んだ。
自分が処刑される時までに。
そんな聖人になれるか、自信は、無いけれど。



フィアンマ「いつまでも、お前の手を離さないでいて、良いか」

インデックス「勿論なんだよ。…私も、もう離さないからね」

フィアンマ「…インデックス」

インデックス「?」

フィアンマ「世界中の誰よりも、愛しているよ」

インデックス「…っわ…、わた、私、も…その、好き…愛して、る、よ…!」








おわり
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/05(水) 00:02:37.25 ID:T3/Y7oyAO
+
379 :あとがき  ◆2/3UkhVg4u1D [sage  !orz_res]:2012/09/05(水) 00:03:28.17 ID:NOIll0qL0

長くなりましたがこのSSはこれで終わりです。
ここまで支援、保守をしてくれた方々本当にありがとうごさいました!
パート化に至らずこのスレで完結できたのは皆さんのおかげです(正直ぎりぎりでした(汗)
今読み返すと、中盤での伏線引きやエロシーンにおける表現等、これまでの自分の作品の中では一番の出来だったと感じています。
皆さんがこのSSを読み何を思い、何を考え、どのような感情に浸れたのか、それは人それぞれだと思います。
少しでもこのSSを読んで「自分もがんばろう!」という気持ちにな


冗談です。
駆け足で終わりましたが、楽しく書かせていただきました。
長くお付き合いいただき、ありがとうございました。
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/05(水) 00:08:04.69 ID:zy9jjPCSO
終わった!?
乙。楽しかったんだよ!久々にインちゃんがちゃんとインちゃんしてるSS見れてよかったんだよ!
次も楽しみかも!
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/05(水) 00:08:39.37 ID:UnE1OUKN0
乙でした!次回作も期待してます!
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