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とある水槽学園生徒会執行部の皮肉的学園都市視察 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:01:32.96 ID:F/i1DYkW0
このSSはとある魔術の禁書目録&とある科学の超電磁砲とめだかボックス、というかグッドルーザー球磨川のクロスSSです。

時系列的には禁書は新約辺りですが、あまり複雑に考えていませんのでノリでお読みください。
割と息抜き的に書いてる話ですので、更新速度は少しゆっくりしてます。

複雑なバトルなどは今の所予定していませんので、複雑な議論や考察などはなるべくおやめください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1353240092
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旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:23:40.62 ID:AZ8P+2+I0
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:22:39.08 ID:AZ8P+2+I0
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2 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:02:18.51 ID:F/i1DYkW0
 やぁ、球磨川君。ハッピーバスディ。

 え? 今日は別に誕生日じゃないって? 嫌だなぁ、そんな事当然、当たり前のように、君が生まれる前から知ってるぜ。

 僕が言いたいのは、人間毎日生まれ変わるくらいの新鮮さで一日を過ごしたいよねという事なんだよ。

 まぁ、君は新鮮な物より腐るギリギリのものを好むチャレンジャーなんだろうけれど。

 いや、チャレンジャーと言うよりはギャンブラーかな?

 しかも勝つことを考えていない、本当の意味での破滅型ギャンブラー。

 倍プッシュした後に見たいアニメがあるからと言って降参するような人間だからね、君は。
 
 まぁ、そんな事はどうでもいい。

 話を戻すと、球磨川君は今この瞬間、というか目を覚ました瞬間に生まれるわけだ。

 ここに居るという事は、君は死んだということなのだからね。

 死んだ所ですぐに生き返る君は、やはりその度に誕生日を更新していると言っても間違いじゃないはずさ。

 今回の死因はなんだっけ? いや、何でもいいか。死んだことには変わりないし。

 まったく、君は何度でも死ねるという事を利点のように考える人間だ。

 ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムを自分に向かって放つような愚かさだ。

 ボスがひどく哀れに見えるね。
3 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:03:01.77 ID:F/i1DYkW0
 おっと、また話が逸れてしまったね。

 まぁ、車の運転で一番楽しいのがわき見運転であるように、物事は横道にそれる方が面白いんだから仕方がないことかもしれないけれど。

 さて、君が生き返らないうちに本題を話しておくとしようか。

 今君が在籍している水槽学園なんだけれど、近々理事会から生徒会に伝令が来るはずだ。

 そう仕向けたのは紛れもなく百パーセント確実に僕なんだけどね。

 え? 何でそんな事をするのかって?

 そりゃ、娯楽のためだよ。

 僕が見たくない物の為に頑張ると思うかい? 僕が自分の好きじゃないシナリオを書くとでも思うかい?

 執筆と自己満足はイコールだ。

 創作物なんてものは、ファンがこれを見たいだろうから書く、なんて周到な感情からは生まれないんだよ。

 作者が書きたいから、自分の好きなものを書きたいから世に生まれて来るんだ。

 僕の一京を超えるスキルの中には、『読む人全てを楽しませる作品を作るスキル』や、『何でもない文章を感動的に見せるスキル』、他にも『中身のない作品が賞賛されるスキル』なんてのもあるけれど、そんなものを使うのは無粋と言えよう。
 
 まぁ、このスキルは僕以外にも持っている人は何人かいそうだけどね。
4 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:04:09.22 ID:F/i1DYkW0
 で、水槽学園生徒会執行部に下される命令なんだけれど、それはここで言ってもいいけど敢えて言わないでおこう。

 実際にその伝令が届いてから、内容を知るといいさ。

 君のお気に入りの、なんて言ったっけ、あのマスクを装備した女の子。――――そうそう、須木奈佐木咲ちゃんだ。

 彼女と一緒に、知るといい。

 そして君の事だから当然想像しているだろうけれど、僕の事だから当然しているんだろうと予想はしているだろうけれど、今回の件は少なからず僕が絡んでいる。

 いや、絡みついている。

 僕の思惑といくつかの謀略が、這いより絡みついているぜ。

 混沌よりも這い寄るマイナス、球磨川禊に絡みつく僕の思惑。

 お似合いだぜ、球磨川君。この僕が保証する、君は間違いなくこの世で最も傀儡にされるのが似合う男だ。

 世の中、支配する側より支配される側の方が楽なのは間違いない。

 そう考えると、君は案外得な生き方をしているのかもしれないね。

 まぁ、それは咲ちゃんにも言えるのかどうかは、わからないけれど。

 さて、ではそろそろ時間かな?

 では一つ、耳寄りな情報をお届けするぜ。
5 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:04:45.63 ID:F/i1DYkW0
 球磨川君、君が探している『僕を倒しうるスキル』を持つ人間だが、今回それを見つけられる可能性はとても高いよ。

 なぜなら、そうなる様に僕が仕向けたからだ。

 この僕に、人外に敵いうるスキル。

 まぁ、スキルと言っていいのかわからないけれどね。

 彼らの方からしたら、僕達の方が異常に見えるかもしれない。

 『原石』なんて呼ばれ方をしたとしても、自分をダイアモンドの原石のように価値のある人間だと思いあがっちゃだめだぜ?

 球磨川君は、その辺に転がる小石よりも価値が低いんだから。

 いや、そんな言い方をしてはかの未来道具、石ころ帽子に失礼だ。

 訂正するぜ。球磨川君、君はその辺の道端に転がる雑草の汁がついて微妙に変色してるBB弾くらいの価値だ。

 ……喜ぶなよ、球磨川君。

 まぁ、君らしいと言えば君らしいかもしれないけれどね。

 では、本当にそろそろ失礼するよ。

 と言っても、失礼するのは君の方なんだけどね。

 そして最後に言っておこう。

 テンプレの様なものさ、適当に聞き流して去ると良い。

 球磨川君。僕の期待に応えるよう、精々頑張らないでくれたまえ。

 じゃあ、また近いうちに。出来れば100年以内に会おうじゃないか。

 バイバイ。

6 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:06:36.25 ID:F/i1DYkW0























 っと、僕としたことが一つ言い忘れていたよ。
 テンプレのようなもの、始まりの口上のようなものだから、気にしないでくれたまえ。
 それは、行こう。








 キャラの崩壊にご注意ください。
7 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:07:47.30 ID:F/i1DYkW0




 私の名前は須木奈佐木咲。
 三年四組出席番号二番。
 水槽学園生徒会執行部庶務職。
  
 なのだけれども、私は今水槽学園に居るわけではない。
 自宅に居るわけでもないし、愛すべき幼馴染である焼石櫛ちゃんの家にお泊りしているわけでもない。
 

 学園都市、という冗談みたいなSFチックな街のゲート前にいる。


 どうしてこんな所に居るのかと問われると、組織に所属している人間の使命というかそんなようなものだ。
 要するに、上の命令でやって来た。
 上と言っても、私の所属する生徒会執行部の会長であり、今現在私の横で必死に入場パスを探している球磨川禊君ではない。
 所謂、理事会という奴だ。
 理事会のメンバーなんて、顔どころか名前も知らないけれど、そんな人の命令を聞かなければならないという事に若干の違和感を覚えるけれど。
 まぁ、球磨川君の命令を聞くよりかは少しか、いや、かなりマシだ。
 よくわからない上司の命令を押し付けられる事なんて、社会に出ればいくらでもある事だろうし、今のうちに慣れておこうという考え方をすれば、少し気が楽になるような気がする。
8 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:09:24.54 ID:F/i1DYkW0
「球磨川君、まだ見つからないの?」

 十分ほど学生かばんをガサガサと探っている球磨川君は、探し物をしているとは思えないほどさわやかな顔で、私の方を見てきた。

『ちょっと待ってね。今必死に思い出すから。ええと、僕は今日朝起きて歯を磨いて、ラジオ体操の放送を聞きながらご飯を食べて……』

 ラジオ体操の放送を、体を動かすための音楽ではなく聞くための音楽として使っているとは。
 さすがの球磨川君というか、まぁ球磨川君だしねというか、相変わらず評価の言葉を迷う性格をしている。
 常に評価が平均以下であることは確実なんだけれど。

『そうだ、思い出したよ。偶然鞄が破けて零れ落ちた中身を犬が咥えて持っていかない様に、ポケットに入れておいたんだった!』

 球磨川君の学ランのポケットから出てきたのは、私が持っているもの、つまりは学園都市への入場パスだった。
 ……普通、ポケットとか一番最初に探すんじゃないのかなぁ。
 まぁ、球磨川君の普通が世間一般古今東西で親しまれている普通とかけ離れていることは言うまでもないのだけれども。

『さて、これで心置きなく学園都市に侵入出来るぜ。コレがあれば僕達は不法侵入者じゃあない。つまりは正式な客だ。いうだろ? お客様は神様だって。つまり今僕達は学園都市の神様なんだぜ』

「性質の悪いクレーマーみたいなこと言わないでもらえるかな!? しかもパスを係りの人に渡しながら!」
9 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:10:35.79 ID:F/i1DYkW0
 ほら、係りの人がものすっごく球磨川君を怪しんでるし。
 何もしていなくてもこの世のすべての人間から怪しまれる様な球磨川君なのに。
 そして疑いの目がそのまま同行者である私にまで向けられているし。

 何と言うか、不幸だ。

 球磨川君と居るだけで、どれだけ清廉潔白な人でも第一印象だけで異端審問にかけられてしまう気がする。


『さて、咲ちゃん。どうして僕がここに居るのか、ここは初心に帰って振り返ってみようじゃないか』

「初心に帰るも何も、まだ大分序盤のような気がするけれど……」

『何を言っているんだ咲ちゃん。僕はRPGをやれば最初の村で三十回はセーブする人間だよ?』


 心配し過ぎだと思う。
 NPCであるおじいさんに村の中で話しかけたら「シャァァァー! 血肉じゃぁぁー!」とか叫びながら包丁を振りかざされるなんてことが無い限り、そんなにセーブする必要はないはずだ。
 最も、こんなゲームがあればそれは間違いなくクソゲーと呼ばれるに相応しい作品になるだろう。

 そして、そのクソゲーを何のゲーム情報雑誌も批評サイトも見ずに一発で引き当てるのが、球磨川君なんだろうけれど。
10 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:12:51.79 ID:F/i1DYkW0
『とにかく、振り返るんだ。言葉に出さなくてもいい、大丈夫。君の心で思ったことは全て僕に伝わるから』

「気持ち悪っ」

 気持ち悪っ。
 
 ……つい口と心、二つで同時に言ってしまった。
 まぁ、もしも本当に球磨川君が私の心を読んでいるのであれば、球磨川君は二倍罵倒された事になるからちょっぴり気分が良い。

「……まぁ、振り返るって事は悪い事じゃないから、別にいいんだけど……」

『だろう? さぁ、僕と一緒に回想の旅に出かけるとしよう』

 
 ひどく安上がりな旅だ。
 正直、回想なんて自分の頭の中でしかしないのだから、球磨川君が私の心を読まない限りは回想しなくてもばれはしない。
 しかし、私は庶務で球磨川君は会長。
 上司の命令には逆らえないと言うのが社会の常なので、仕方がなく、本当に仕方がなく、ここに来る事になった経緯を素直に頭の中で振り返るとしよう。

11 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:13:55.57 ID:F/i1DYkW0









 事の発端は三日前、生徒会室で起こった。

 いや、正確には生徒会室に生徒会執行部の顧問がやって来た事が原因で起こった。
 更に正確に言えば、生徒会執行部の顧問の所に学校の理事会からの生徒会執行部宛の伝令が届いたが原因で起こった。
 

 その日、私はいつものように机の椅子に、球磨川君はソファで横になりながらジャンプを読んでいた。
 生徒会室で、ジャンプを読むなんて生徒会長っぽくないけれど、それを言えばそもそも球磨川君に生徒会長っぽい部分が何もなくなってしまうので、言わないで置く。

 放課後になって二十分くらい経った頃、球磨川君が生徒会長に在任してから一回もノックされたことのない生徒会室の扉がノックされて、私が扉を開けるとそこに居たのは生徒会執行部の顧問の先生だった。
 生徒会執行部の顧問の先生(他人行儀な呼び方なのは、実際他人だし名前を忘れてしまったからだ)は、私に手紙を手渡すとそそくさとその場を去ってしまった。


 装飾とか、イラストとか、色気も何もない封筒だった。

 いや、色気のある手紙を名前も覚えていない先生から渡されても困るだけだけど。
12 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:14:41.54 ID:F/i1DYkW0
『どうしたんだい? ん? 咲ちゃんが持っているのは手紙かな? もしかしてクリスマスカード?』


 どうして夏休みにもなっていないこの時期に、手紙と聞いて最初に連想するのがクリスマスカードなんだろう。
 気が早すぎるんじゃないだろうか。
 そもそも、クリスマスを心待ちにしている球磨川君が不気味で仕方がない。

 似合いそうだけどね、キラキラしてる三角帽子とかトナカイの着ぐるみとか。


「ええと、理事会からのお手紙みたい。生徒会執行部宛だね」

『なんだ、つまらない。僕は女の子からの手紙しか食べないから興味はないよ』


 食べないって。
 食べないって。
 そこじゃないだろう。
 女の子からの手紙でも食べるのはまずいだろう。
 と、常識的な倫理を球磨川君に叩き込みたい衝動に駆られはしたけれど、無駄だと分かっているので私は無視して封筒を開封する。
 中に入っていたのは、これまたシンプルな便箋で、文章も面倒な言い方はしているけれど、内容自体は簡単だった。
13 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:16:06.56 ID:F/i1DYkW0
「…………ええと、視察の命令かな」

『視察だって? おいおい、この僕に女子更衣室の視察をしろっていうのかよ。適任だぜ?』


 球磨川君にはそろそろ独房の視察をしてもらいたい所だ。

 
「当然違うよ。ええと……学園都市への視察命令だって。生徒会執行部で」


 生徒会執行部、と言っても実際は私と球磨川君しかいないわけで、球磨川君との二人旅になる。
 いや、旅と言うには学園都市は近すぎるし、そもそも球磨川君と二人旅するくらいなら私は一人で行って来る。
 それにしても、どうしてこんな微妙な時期に、しかもあの超が付くほど閉鎖的な学園都市に、視察なんか行かなきゃならないんだろう?


『……成程、そういうわけか』

「え?」


 なんだか一人で納得した様な様子の球磨川君。 
 球磨川君についていこうとは絶対に思わないけれど、置いてけぼりにされるのもそれはそれで嫌な気分だ。
 仕方なく、本当に仕方なく私は球磨川君に尋ねてみる。
14 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:17:03.08 ID:F/i1DYkW0
「何か分かったの?」

『いいや、何も』


 ……
 私の決心とか、葛藤だとか、そういうのを返してほしい。
 球磨川君にモノを貸したら絶対に帰ってこなさそうな気もするけれど。
 それか逆に、貸した時よりいい状態で帰ってくるかもしれない。
 オシャレなブックカバーなんてかけたりとかね。
 球磨川君が本にブックカバーをかけている光景なんて、正直面白くもなんともないと言うか不気味なだけだけど。


『で、咲ちゃん』

「え?」

『視察って言うからには、見るべきものがあるのだろう? それを僕に教えてくれよ。一体理事会はこの僕に何を見せてくれるんだい?』


 どうして偉そうな言い方なんだろう。
 いや、仮にも生徒会長なのだから、実際偉いのだけれども。
15 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:18:49.52 ID:F/i1DYkW0
「……うーん、要約すると、『レベル5の人間と交流しろ』って事なのかな?」


 たしか、学園都市では超能力が開発されていて、その能力の強さというか規模というか、そんなのでレベル分けされているそうだ。
 で、一番上の位がレベル5で、学園都市に七人しかいないらしい。
 つまりは、エリート。超能力のエリートだという事なんだろう。
 私自身、学園都市の噂は聞いたことがあっても興味を向けた事はなかった。
 だって、そんな超能力が日常的に開発されている街なんて、平和なわけがないから。
 私は平和に暮らしたいだけなのだから。


『でもそれじゃあ学園都市の視察じゃなくて、人間の視察って事になるんじゃないの? 可愛い女の子ならいくらでも視察できるけどさ』


 ちょくちょく気持ち悪いセリフを挟まないでほしい。 

 
「まぁ、超能力者ってのは学園都市の象徴みたいなものだからね……学園都市の視察イコールレベル5との接触みたいなものなんじゃない?」

『成程。つまり学園都市を歩くという事は、レベル5の女の子を土足で踏みつけていると同義なんだね?』

「いや、絶対違うと思うけど……」

『やれやれ。コレが理事会の差し金なら僕は喜んで乗ったんだろうけれど、安心院さんの差し金だと思うと気が引けるなぁ。ま、女の子に振り回されるのが男の子の宿命みたいなものだし、仕方ないか。乗っかってやるぜ』
16 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:20:11.35 ID:F/i1DYkW0
 理事会から来た伝令なのに、理事会の差し金じゃないのだと言うのなら一体誰の差し金なのだろう。
 球磨川君は安心院さんと言ったけれど、安心院さんの名前は最近ちょくちょく聞くけれど、私は実際に有った事はないのでどうにも想像しにくい。

 球磨川君が苦手そうにしている所見ると、きっとものすごく碌でもなさそうな人だ。


『じゃあ、僕は帰って準備でもしようかな。咲ちゃんは?』

「え? あ、私も準備……かな? 一日じゃ終わらなそうだし、ちゃんと準備しないとね」

『そう。じゃあ生徒会長として咲ちゃん、君にひとつ僕からのアドバイスだ』

「アドバイス?」


 生徒会長っぽい発言をする球磨川君。
 違和感しかない。









『下着は、可愛いのを穿いてくるんだぜ?』







 前言撤回。
 まさに球磨川君、と言える発言だった。
17 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:21:08.55 ID:F/i1DYkW0









 回想終わり。

 …………………。



「なんだか球磨川君に限りなく殺意に近い怒りを覚えたよ」

『え?』


 過去を振り返る事は大切だと言うけれど、それは時と場合によるんだなとハッキリわかってしまった。
 高校生如きの分際でそんな人生を悟ったようなセリフを口にすることはちょっとだけ、本当にちょっとだけ烏滸がましいとは思うけれど、小さな子供が何気なく口にした事が物事の真理を突いていることもある様に、生意気に思える事もやっぱり時と場合によるんだなぁ。
 

「気にしないで。球磨川君が人から負の感情を向けられるのなんていつも通りなんだから」

『咲ちゃん。僕だって一応傷つく何かは持っているんだけど』


 ここで心とか言わずにぼかすところが球磨川君らしい。
 最も、球磨川君にピュアな心があるなんて言われた所で、私は爆笑する前にドン引きするだろうけれど。


「で、どうするの? 学園都市のレベル5……ええと、超能力者? は全部で七人。そのうちはっきりと所在がわかってるのは三人だけなんだよね」

『三人? おいおい、有名人は有名税を払う義務があるんだぜ? そんな雑税者はきちんと法で裁くべきだ』


 そんな理不尽な税金があってたまるか。
 ただでさえ、理不尽な税金で搾取されているようなものなのに。
 後、法に裁かれるべきはどんな悪人よりもまず先に球磨川君だと思う。

 球磨川君を裁く法なんて、おそらく未来永劫存在しえないだろうけれど。
18 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:22:01.88 ID:F/i1DYkW0
「とりあえず、学園都市統括理事長公認の身分証明書があるから、どこでも怪しまれるって事はないよね。そうなると、やっぱり最初に行くべきは……」


 私は学園都市のパンフレットと言うか、外部から来た人向けのマニュアルのようなものを開く。
 ついでに、ここに来るにあたって理事会から送られてきた特別資料も。
 そこにあるのは、レベル5と呼ばれる七人の名前と顔写真。
 なんていうか、外見から個性豊かな人が多い。


「常盤台中学、かな?」

『中学校?』

「うん。女子中学校なんだけど、そこにレベル5の女の子が二人在籍してるみたい」
 

 学園都市の第三位と第五位。
 球磨川君は水槽学園の生徒会長、つまりは水槽学園に在籍する生徒の中で最も偉い人間という事になるけれど、学園都市の区分けはそれよりも随分とシビアだ。
 数字で、はっきりと優劣を定めている。
 昨今の格差社会問題に正面から喧嘩を売っているようだ。


『ふぅん。なるほどね。いいよ、庶務である咲ちゃんの意思を尊重し、まずは常盤何ちゃら中学校とやらに向かうとしようか』


 台くらい、覚えてられないのかなぁ。
 いや、球磨川君に何かを期待するという行為自体が、もう意味をなさないのかもしれないけれど。

 そして、球磨川君と何気ない雑談をするという事も、本当に何の意味もない事はわかりきっているので、何なら球磨川君を置いていくくらいの気持ちで、私は常盤台中学への道のりを地図で確認しつつ向かった。
19 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:23:32.21 ID:F/i1DYkW0




















「…………」

「…………」


 二人分の沈黙。
 これは私と球磨川君の沈黙ではなく、私と常盤台中学校の理事長の沈黙だ。
 常盤台中学理事長、海原さんはとても厳格そうな女性でなんというか、オーラ的なものを纏っているような気がする程の人なんだけど、沈黙している、というか沈黙させられている状態ではさすがの威厳も僅かに収縮している。
 そして、私と理事長さんの沈黙の原因は、言わずもがな我らが生徒会長、球磨川禊である。




『と、いうわけでして。僕と咲ちゃんはこの常盤台中学校、男子禁制女人天国の常盤台中学校を隅から隅まで嘗め回す様に見回す理由がわるわけなんですが、さてさてどうしようかなぁどこから見ようかなぁワックワクだなぁ早く行きたいなぁドキドキするなぁ見たいなぁ見たいなぁ見たいなぁ早く早く早く早くハリーハリーハリー!』




 気持ち悪い。
 気持ち悪い。
 気持ち悪い。

 三回くらい言えばいいかな?
 本音を言えば、ニ万回くらい言っても足りないくらいだけど。
 
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/18(日) 21:23:57.71 ID:dxMI4V6V0
ネウロの人だっけ?
21 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:24:20.76 ID:F/i1DYkW0
「……確かに、学園都市総括理事長からの直々なご招待と言う事は納得しました。外部の名門校である水槽学園の生徒会執行部が我が学園に興味を持っていただいたことは、誠に恐縮です」


 さすがと言うか、球磨川君の気持ち悪さを前にしても見た感じの雰囲気を取り繕う精神力は驚嘆に値する。
 しかしその内面では、私達の事を明らかに良しとしていないのが見え見えだ。
 おそらく、海原理事長が守りたいのは自分の学び舎に通う生徒、ではなく評判、外見なんだろう。
 男子禁制なだけではなく、球磨川君の様なただでさえ気色悪い男子が出入りしていることを知られれば、よくて噂。悪くてスキャンダルになるかもしれない。


 提案としては、私だけで常盤台中学に入るつもりだったんだけど……


『おいおい咲ちゃん。女の天国に一人で行くなんて連れないこと言うなよ。女の天国はすなわち男の夢の国でもあるのさ。咲ちゃん、僕と君は何処までも一緒だぜ』


 と、異様なテンションで着いてきたので断りきれなかった。
 何処までも一緒、という点については全身全霊誠心誠意否定しておいたけど。
22 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:25:10.53 ID:F/i1DYkW0
『まぁ、僕も子供ではありませんし、こちらの我儘だけを通すなんて事は言いません。僕が欲しいのは常盤台中学への侵入許可です。何なら来客だという事がわかるプラカードを持って歩いても構いませんよ?』


 さすがにプラカードを持って歩くのは面倒臭そうだから、いやだなぁ。
 理事長はそれでも不満そうな顔をしていたけれど、最後の最後には渋々了承してくれた。
 権力とか外面にこだわる人は、自分よりも上の立場であるとはっきり分かる人の前には弱いらしい。
 


 こうして、私と球磨川君は常盤台中学へ自由に出入りする権利を得た。
 超が付くほどのお嬢様学校、通いたいとは思わないけれど、ちょっとだけ、本当にちょっとだけだけど、興味があるかないかと聞かれれば、ある。

 

『咲ちゃん。遊びじゃあないんだ、浮かれすぎるなよ?』

「いらっ」


 球磨川君にだけは言われたくないセリフだ。
 正しいセリフではあるのだけれども、違和感しかないセリフ。
 酔っ払いが交通安全を子供に訴えかけているような、そんなナンセンスでアンバランスでミスマッチなセリフだなぁ。


『さて、じゃあさっそく視察と行こうか』

「どこを見るか、もう決めてあるの? 先に会うのは三位の人? 五位の人?」

『ハハッ。咲ちゃん、僕が一番最初に見に行く場所なんて、一か所しかないだろう?』


 球磨川君は、日本有数の名門校の生徒会長に君臨する男、球磨川禊は格好つけながら、こう言った。
23 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:25:54.48 ID:F/i1DYkW0





『僕が見るべきは! 見なければならないのは! 見ている人が喜ばれるイベントが発生する場所と言えば! 女子更衣室しかないだろう!』




24 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:26:33.80 ID:F/i1DYkW0










 …………。
 
 まさか。

 いや、本当にまさかだよ、球磨川君。

 何で君がここに居るのかと聞かれれば、それは君が死んでしまったからに他ならないわけだけど。

 何で死んでるんだよ。

 いや、それ以前に何で女子更衣室に特攻してるんだよ。

 そもそも常盤台中学は女子中なんだから、更衣室が男女別に分かれていないので女子更衣室しか存在しないわけだけど。

 何でノックもなしに飛び込んでいるんだよ。

 それで、何で殺されているんだよ。
25 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:27:16.64 ID:F/i1DYkW0

 確かに、教室の扉とか部屋の扉とか、ラブコメの主人公が何らかの扉を開けたらそこには嬉し恥ずかしなちょっぴりエッチなシーンが広がっているのはお約束だよ?

 でも、球磨川君。君は主人公じゃあない。だから君はほっぺたにビンタされる前に、学園都市お得意の超能力の嵐を喰らって死亡したわけだ。

 攻撃した側も、まさか君が死ぬとは思っていなかったみたいだから、今頃慌ててるんじゃないかな。

 君の弱さは驚くほどだ。何をしても死ぬんじゃないかと思うくらいだ。全く、君の弱さには参ったぜ。

 さて、今回は長々と死んでも居られないだろう。

 ゲームはサクサクプレイを推奨している僕としては、人がアイテムやらイベントやらを回収しているのを見ているのはもどかしくてね。

 とっとと生き返って、僕の用意したイベントをこなしてくれたまえ。

 ああ、それと球磨川君。
 
 一つだけ僕が平等なアドバイスをしてあげよう。
26 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:27:46.35 ID:F/i1DYkW0
 常盤台中学に在籍しているレベル5は二人、第三位と第五位が居るのだけれども、まずは第三位に会うと良い。

 というか、第三位に会うんだ。

 じゃないと、イベントが進まないというか、そちらの方をこなしてくれないとちょっと面倒なことになるんでね。

 まぁ、ぶっちゃけ君の意思に関わらず、僕がそう仕向けるんだけど。

 では、そろそろ生き返ってゲーム再開と行こうか。

 いや、ゲーム再開と言うよりかは、ノベルスタートと言うべきかな?

 まぁ、そんな事はどうでもいいか。

 行ってらっしゃい。

 間違っても、逝ってらっしゃいにはなるんじゃないぜ?

27 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:28:38.41 ID:F/i1DYkW0

















「球磨川君! 球磨川君! しっかりして!」


 機敏に動く軟体動物みたいな気色悪いステップで女子更衣室へと突撃した球磨川君は、電気とか炎とか水とか風とかよくわからない力の一斉放火を受けて死んだ。 
 あっけなく、寿命の尽きたセミみたいにあっさりと死んだ。
 

「あ、ああっ!? そ、その殿方はまさか死、死んでしまって……!?」

「え? あ、えーっと……」


 どうしよう。
 球磨川君が死んでいる事は紛れもない事実なわけで、慌てている下着姿のお嬢様の予想は正しいわけなんだけど。
 私が迷っているのは、この世の何よりも取り返しのつかない、どうしようもないスキル、『大嘘憑き』の説明をするかどうか、という事だ。
 もしも私が『大嘘憑き』のスキルホルダーだったとしたら、そんな事は想像もしたくないけれど、仮にそうだとしたら、自分の知らない所で説明されるのは嫌だ。
 球磨川君に、私の中の常識が通用するとは思えないけれど。
 
「えっと、大丈夫です。この人は……あー、仮死状態になるのが趣味の人なので、すぐに傷も意識も元に戻ります」

「バイオレンスな趣味ですわね!? というか、傷も治るとはどういう事なのでしょう……?」
28 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:29:23.19 ID:F/i1DYkW0

 お嬢様口調でのツッコミとは珍しい。
 水槽学園の前生徒会長、蛇籠飽もお嬢様口調ではあったけれど、彼女はボケでもツッコミでもなく、芸人を裏で操るプロデューサー、つまりは暴君だったからこんなやり取りとは無縁だった。

 さて、それに比べて現生徒会会長、球磨川禊と言えば――


『ああ、生き返ったと思ったらどうやらここは天国らしい。可愛い女の子が下着姿で出迎えてくれているよ。咲ちゃんも可愛い下着を身に着けてくれているだろうから、楽しみだなぁ』


 そんな不埒な天国があってたまるか。
 後、地味に私の下着に期待しないでほしい。
 
 復活した、文字通り活動を復帰させた球磨川君はゆっくりと立ち上がり、服についた埃を手で払う。
 すでに傷や火傷何かのダメージは『大嘘憑き』で『なかった事』にしたらしい。
 相変わらず、いつみても悍ましいスキルだ。


『さて、じゃあ行こうか咲ちゃん』

「え?」
29 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:30:25.17 ID:F/i1DYkW0
 起きて早々、どこかに行こうと私を誘う球磨川君。
 自分を殺した女子生徒を完全スルーして。
 まるでマックにでも行こうと言っているかのような気軽な誘い方だ。
 

「行くって、どこに?」

『おいおい。何のために僕達は常盤台中学に来たと言うんだい? 目的を忘れて貰っちゃ困るぜ。それでも水槽学園生徒会執行部庶務職かよ』


 少なくとも、女子更衣室に突撃して殺されるためではないだろう。
 

『まずは、第三位の子に会いに行こう。そうしろと安心院さんに言われちゃったからね。プレイヤーキャラである僕はストーリーテラーに逆らえないのさ』


 また出てきた、安心院さん。
 結構出てくるなぁ、安心院さん。
 安心の登場率だなぁ、安心院さん。
 安心院さんだけに。


『で、咲ちゃん。第三位の子ってのは、いったいどんな下着を穿いているんだい?』

「下着の情報が乗っていたら、私はこのマニュアルを即座に焼き払うよ……ええと、第三位は……」


 私はパラパラとページをめくり、目的の情報を探し出す。




 常盤台中学校所属。
 御坂美琴。
 学園都市第三位、『超電磁砲』


 それが、この都市で三番目のエリートの名前だそうだ。
30 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/18(日) 21:35:25.22 ID:F/i1DYkW0
今回はここまでです。
まぁ、導入編という事でそこまで説明的な部分が多かったですが、次回からは掛け合いが増えていくと思われます。

ただ、更新は割とゆっくり目ですけれどね。
執筆の息抜きに執筆しているSSなので。
気長にお付き合いください。

咲ちゃん可愛いよ咲ちゃん。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/18(日) 23:24:29.95 ID:DnuUjkmeo
>>1

期待してます
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/18(日) 23:53:44.58 ID:jS8ClWnd0
西尾先生こんなところで何やってるんですか
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/19(月) 00:03:09.58 ID:c15Jj6TDO


あっちも楽しみにしてるんだよ
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/19(月) 01:54:07.81 ID:7NhtEgwh0
原作再現度高っ

安心院さんにスキルでももらったのか
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/11/19(月) 22:26:56.10 ID:dSg8V1ZSo
滅茶苦茶面白い
期待
36 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:21:15.76 ID:Z4VVzTP+0
こんばんわ。
ダブル投下です。別スレですが。


>>31 ありがてぇありがてぇ、ありがとうございます。

>>32 冗談でも嬉しいです。

>>33 向こうも読んでいただきありがとうなんだよ!

>>34 原作再現のスキル何てのもあるんだろうなぁ・・

>>35 ありがとうございます。頑張ります。


 掛け合いが多くなると思ってたら今回の方が説明会だったでござる。 
 多分読んでてだるいと思う人がいると思われるので、ご注意を。
37 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:24:00.70 ID:Z4VVzTP+0
 






 私と球磨川君は、向いていないどころの話ではないのだけれども、それでも一応生徒会役員という事になっている。

 しかも、日本有数の名門校で。

 たった二人の生徒会執行部として、いつも活動している。


 そして、以外にもと言うのは失礼かもしれないけれど、本当に以外にも球磨川君は案外、生徒会長としての業務を全うしているのだ。
 見ている側がストレスのたまるような、うだるような仕事ぶりではあるけれど。
 球磨川君は、恙なく生徒会長の仕事をこなしている。

 そうなると、球磨川君を生徒会長に押した人間である身として、生徒会執行部庶務職に就いている生徒として、私も業務を全うしなければいけない義務感のようなものに駆られるのだ。
 ちょっとだけ、本当にちょっとだけだけど。

 
 私も、意外とまじめな生徒なのかもしれない。
38 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:25:43.49 ID:Z4VVzTP+0

 そういうわけで、私と球磨川君は学園都市に滞在する期間、使う事を許されたホテルへ戻ってきた。


 当然、私と球磨川君は別の部屋だ。
 別に球磨川君と同じ部屋に泊まった所で如何わしい展開があるとは思えないし、私もそんな事をされたら裁判沙汰程度では許さないつもりだけれども、念には念を入れて、という感じだ。
 最も、本当に念を押すのならば、球磨川君には別のホテル、別の学区、別の街、別の国に居てほしいのだけれども。
 
 ホテルに戻ってきた私がやる事は、球磨川君が最初に接触すると決めた学園都市の頂点である七人の超能力者の第三位、御坂美琴という生徒について可能な限り調べる事だ。
 あのまま常盤台中学で調べてもよかったのだけれども、手元のパンフレットの簡易情報では御坂さんは部活動には参加していないらしいので、学校に居る可能性は低い。
 ならば、また明日、ちゃんと準備をしてから尋ねたほうが良いだろうと提案した。
 球磨川君は至極どうでも良さそうに


『好きにしなよ。僕は会長らしく、僕の部下であり生徒会執行部の庶務職である君の意思を尊重するぜ』


 と言ったので、好きにすることにした。
 ……一々癇に障る言い方なのは、気になるけれど。
 いつもの事といえば、いつもの事なので気にしたら負けだ。
39 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:26:57.91 ID:Z4VVzTP+0
 しかし、好きにすると言っても、好き放題にするわけではない。

 仕事を投げ出して週刊少年ジャンプの最後のページの作家さんのコメントを最初に読み始める球磨川君とは違って、私は仕事はなるべく早く終わらせたい性格だ。
 
 だけど、調べると言っても、私にはハッキングの技術はない。
 なので、ホームページだとか、ファンサイトだとか、リンクで飛んで行けるちょっと怪しい情報サイトとかで、少しずつ集めるしかない。
 何と言うか、分の悪いわらしべ長者をやっている気分だ。
 ウィルスに感染する可能性を恐れながら進んで、手に入るのがとっくに知っている情報、なんてオチもあるのだから笑えない。

 それを笑うのが、球磨川君なのだけれども。






 と、まぁ、そんなわけで。

 私が簡潔に、機械で調べた機械的な情報を、少々の個人的な見解も含めながら、まとめてみようかと思う。 
 第三位、御坂美琴さんについての情報と共に、学園都市の超能力とやらについて。
 球磨川君に渡す資料と思うと物凄く制作過程での倦怠感が増すけれど、仕方のない事だ。

 さて、何だか無駄に前置きしてしまったような気もするけれど。
 ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、いや実は結構頑張って。

 水槽学園生徒会執行部庶務職の須木奈佐木咲、つまり私が作った資料を解説していこう。 
 
40 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:30:21.58 ID:Z4VVzTP+0


 学園都市の超能力開発は、イコール脳開発だ。


 つまりは、脳に電極を差し込んだりして脳の回路を人工的に人為的に組み替えてしまう。
 他にも血管に薬を打ち込んだり、特殊なリズムを脳に刻み込んだりと、能力を『開発』する事と『強化』する事は違うみたいだ。
 そして、脳を開発された生徒達は自動的に、その素質によって六段階に分類される。
 


 まず、学園都市で最も多い、約六割を占めるのがレベル0、すなわち何の能力も発言しない、もしくは目に見えるレベルで異能の力を発揮できていない生徒の事だ。
 これはそのまま、能力開発が当たり前に行われている学園都市において、落ちこぼれ扱いされると言う事になる。
 私達風に例えるのならば、皆が当たり前にやっている算数で、九九がどうしても覚えられない。みたいな感じだろうか。
 他の人には当たり前にできる事が、自分にはどうやっても出来ない。
 レベル0というのは大きなコンプレックスになりやすく、武装した不良グループ、通称『スキルアウト』なんて輩もほとんどがレベル0だそうだ。

 勉強が出来ずに不良になる人と、超能力が使えないから不良になる人にはここでは大きな差はないのだろうけれど、どうにも私には不思議に映る。
 滑稽に、と言い換えてもいいかもしれない。
 私自身、『操作礼状』というスキルを秘密にしている身分ではあるのだが、この能力に執着した事なんてただの一度もない。

 例えるなら、たまたま身長が高かったからバスケをやっている、みたいなものだ。
41 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:32:01.05 ID:Z4VVzTP+0
 つまりは、あるから使っているだけで、もし誰かが欲しがると言うのならば私は喜んで差し出すだろう。
 差し出し方は、わからないけれど。



 次に、レベル1という段階の説明をする。

 これは、スプーンを曲げたりなどの日常生活には役に立つとは言い難いが、とりあえずは異能の力を発動している、と認識できる段階らしい。
 今日日、スプーン曲げなんてのは流行らない芸であるし、そもそもスプーンを曲げるだけなら機械でやればいい、腕自慢の人なら腕力でやっちゃえばいい。
 要するに、わざわざ異能に頼るほどもない事しか出来ない程度の異能力、とされるのがレベル1。
 そして、やはりレベル1はレベル0の次に数が多いらしい。

 当然と言えば、当然だ。

 ピラミッドの頂点の方が底辺より大きければ、それは構造に大きなミスがあると言わざるを得ない。
 何時の時代も、どんなものでも、弱い物が多いのは当たり前なのだから。

 ごくまれに、千年に一度くらいの割合で、オンリーワンの敗北者、弱者っていうのは出てくるみたいだけれど。
 そんなイレギュラーの誰よりもそばに、居たくもないけど私は居る。





 そして次の段階、レベル2と言うのはまぁレベル1と大差ない。
 実際に目で見たわけではないけれど、とりあえずレベル1よりはまぁまぁ強い、くらいの曖昧な認識だそうだ。
 特に解説するまでもないので、次に進む。
42 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:33:16.46 ID:Z4VVzTP+0
 レベル3。

 ここから、異能と言う力は急激に魅力を帯びてくる。
 日常生活を便利にする、なんていうと安っぽく聞こえるかもしれない。
 だが、日常生活を便利にするという事がいったいどれほど偉大な事か、考えても見てほしい。

 足が不自由な人の為に生まれた車椅子。
 腕を不慮の事故で無くしてしまった人の為に生まれた義手。
 ココまでのレベルと言わずとも、日本史を少し勉強した人は三種の神器や3Cなんて言葉を聞いたことがあるだろう。
 洗濯機や炊飯器、車、テレビの登場が一体どれだけ人間の日常生活のクオリティを天井知らずに跳ね上げさせたのか、それはここで語るまでもない。 

 つまりは、そういう事だ。

 能力のレベルではなく、人間の生活レベルという強大な壁をを一段階突き抜ける可能性を持つ。
 それが、レベル3と言う区分であると、私は推測する。
 なんだか贔屓目で見ているようにも思われる書き方をしているけれど、これは私の主観及び学園都市の外で生活する一高校生の意見として、軽やかに受け取ってほしい。
43 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:34:09.14 ID:Z4VVzTP+0

 次の段階は、レベル4。

 ここまで来ると、異能の力は便利というよりも兵器として見られがちだ。
 電気エネルギー、熱エネルギー、太陽エネルギー、それらを超えるエネルギーを探した果てに見つかったのが核爆弾を生成する種となる核エネルギーであるように。
 特出した力は、他を傷つけ廃するレベルのエネルギーを有する。

 もっと簡単に、学園都市の生徒に蔓延している言い方をすれば、軍隊において戦術的な価値を得られる程度の力、とのことだ。 

 つまり、アサルトライフルやスナイパーライフル、大砲、戦車、機関銃、戦闘機。
 そんなものに、人間が並ぶという事だ。
 ……まぁ、私自身、そんな無茶苦茶な破壊兵器に肩を並べるどころか、触れれば壊れるような弱い生き物の癖に何処までも足掻き蠢き這い回る生徒会長を知っているため、何となく感動が薄い。
 



 そして、最終段階。
 学園都市に存在する二百三十万の人間の頂点。
 たった七人しか存在しない、選ばれたエリート。

 ……なんて書き方をすると、なんだか二年くらい経ってからこの資料を見直すと悶える程に恥ずかしくなるような気がするけれど、今は考えないでおこう。
 
44 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:35:54.51 ID:Z4VVzTP+0

 レベル5。

 超能力者。

 正真正銘、名実ともに、天衣無縫のエリート集団。

 たった一人で軍隊と戦える程の戦闘力。

 さらには、その能力の応用は外の世界の科学技術ではもはや解析が出来ないレベルでの最先端をゆくと言う。
 ……なんだか、評価が人間の定規を超えすぎていて、わかり難い。
 如何すればわかりやすいだろうか。
 人工サイヤ人というか、『弓矢』で貫かれてスタンドに覚醒した人とでもいうか。 
 そこまで漫画を読むわけではない私には、どうにもたとえにくい。
 

 水槽学園の生徒会長ならば、どんな評価をするだろうか。
 ……まぁ、これは資料提出後のお楽しみ、という事にしておこう。




 
 長々と説明したけれど、能力は0から5までの六段階に分かれている、というのが結論だ。
 そして、この段階を分ける最大のカギが、脳開発によって形成される『自分だけの現実』、パーソナルリアリティと呼ばれるモノだという。
45 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:37:11.20 ID:Z4VVzTP+0
 私は学園都市の住人ではないので、このパーソナルリアリティというものの説明を読んでもイマイチわからなかった。
 ので、とりあえず箇条書きしてみる事にした。




 ・パーソナルリアリティとは、自分の脳内に存在する『常識の世界』からズレた所にある『可能性の世界』である。

 ・己の世界だけを信ずる力、妄想力。『自分だけの世界』を強くすることが、能力の強度を上げる引き金となる。

 ・『自分だけの現実』を観測できるという事は、常識からかけ離れた世界を観測しているという事。すなわち一種の精神障害である。

 ・学園都市の脳開発はこの障害を意図的に引きこ押し、異能と呼ばれる力を発現させる。

 ・発現する能力は、『自分だけの現実』によって決まる。



 ……と、まぁ。
 何が何だかわからない。
 まるで寝ぼけて書いた哲学書みたいだ。
 稚拙な文章を高尚に書く事で、余計滑稽に思えるように。
 
 意味もなく意義もなく、意図すら無いでたらめな文章を書いたようにしか思えなかった。
46 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:38:49.14 ID:Z4VVzTP+0
 ……とりあえず、投げっぱなしは良くないので、無理やり自分で納得できそうな理由を自分ででっち上げる。
 自分で書いた文章に、自分で言い訳しないといけないだなんて。
 ひどく不毛だ。
 なんて不憫なんだろう、私。
 不幸だー。

 ……何となく、どこかで私と同じことをつぶやいた人がいるような気がしたけれど、気のせいだよねっ!





 解説に戻る。
 
 つまり、その、パーソナルリアリティというのは、自分の頭の中で繰り広げられるオリジナルストーリーという事なのだろうか。
 妄想の中で、自分がたとえば炎を自由自在に操る古の血を引く家系の末裔であると、そう信じていれば炎系の能力が発現する、という事なのだろうか。

 だとすると、球磨川君は凄まじい能力を発現しそうな気がする。
 なので、ここの部分は球磨川君に提出する前に削っておこう。
 万が一、『大嘘憑き』以上にどうしようもない超能力、たとえば読心能力なんてものに目覚められたら、たまったものではない。
 世の中から『平穏』という二文字は霧の如く、プラスにマイナスを掛け合わせたように消えてなくなる事だろう。


 学園都市の能力開発についてはこんな所だろうか。
 結局のところ、よくわかっていないと言うのが結論なのだけれども。
 脳開発とやらを実際に受けてみれば、理解できるのかもしれない。
 けれど、御免だ。
 脳みそを弄られて、意図的に精神疾患になるのなんて、平穏な生活と平和な人生を望む私には不要すぎる。
47 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:41:09.98 ID:Z4VVzTP+0
 



 では、次は球磨川君が接触を考えた人物、第三位の精神疾患に犯された少女、御坂美琴についての記述だ。
 


 能力の分類は電撃使い、エレクトロマスターとか呼ばれる超能力の中では比較的ポピュラーな能力らしい。
 しかし、数が多いと言う事はイコールナンバーワンになりにくい、という事でもある。
 事実、御坂美琴は能力発現時はレベル1、つまり平均かそれ以下程度の力しか扱えなかったという。
 そこから努力を重ね、今や学園都市の看板とも言われるほどになった彼女の異名は『超電磁砲』。


 超電磁砲、レールガン。


 レールガンという兵器の名前だけは知っている、なんて人は昨今の戦争ゲームが蔓延している世の中じゃ案外多いかもしれない。
 詳しい構造はわからないけれど、電気と磁力でモノを飛ばす大砲、みたいな認識でいいと思う。
 
 名は体を表すとは言うけれど、彼女は驚くなかれ、あろうことか、生身でこのトンデモ兵器を実現してみせるのだとか。
 雷にも匹敵する電圧を生み出す電撃少女。

 ……ライトノベルのヒロイン辺りにしたら、すっごく人気が出そうだなぁ。 
 四連覇位しそうな人気キャラになりそうだなぁ。
48 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:44:10.33 ID:Z4VVzTP+0
 そんな彼女が通うのは、私達が先ほど訪れて、球磨川君が殺された記念すべき学び舎、常盤台中学校だ。
 
 入学条件にレベル3以上、人間以上の力を持つ人間しか入れないと言う狭き門を潜り抜けた先にあるのは、まるでラノベに出てきそうな程ぶっ飛んだお嬢様学校らしい。
 そこには当たり前のように派閥が存在していて、最大勢力の頂点は自らを女王と呼ばせているのだとか。

 何と、まぁ。
 二、三十年先を歩んでいるというのがキャッチコピーと言うか謳い文句の学園都市で、時代錯誤な事この上ないとは思う。
 と言っても、我らが水槽学園の元生徒会長である蛇籠飽も学園の支配者として君臨していた存在なので、実は意外と差はないのかもしれない。
 いつの時代にも、どんな場所にでも、支配者というのは必要なのだ。
 愚鈍であれ、低能であれ、マイナスであれ、チンパンジーであれ。
 一時的な頭というのは、必須なのだから。

49 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:45:23.35 ID:Z4VVzTP+0




 ……と、見直してみて何だけれど、読みにくい事この上ない資料になってしまった。

 そもそも私は文章を作るのがあまり得意ではない、国語よりも数学の方が得意なのだから。
 得意と言ってもちょっとだけ、本当にちょっとだけだけれど。

 まぁ、更に強いて言うのであれば、私は生徒会執行部の仕事のどれを熟すにも向いていない。
 生徒会なんて組織に所属している事自体、ありえないことなのだ。
 私も、球磨川君も。


 ……愚痴を言ってはみたけれど、何かが変わるわけではない。
 とりあえず、私は出来た資料を球磨川君に届けることにする。
 さて、球磨川君はこれを見てどんな反応をするのだろうか。

 ドキドキはするけれど、ワクワクはしない。
 これほど理不尽な緊張があるだろうか。
 つくづく、私は終わってしまっているのだと実感する。






 とりあえず、渡した直後に資料を破り捨てられるくらいの事は想定しておこう。
50 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:46:04.74 ID:Z4VVzTP+0

















『…………』

「……」


 意外。
 意外や意外。
 意外以外の何物でもない。 
 
 球磨川君は、私の制作した資料を熟読した。
 びっくりするほどたっぷり時間をかけて。
 一階フロント近くにある自動販売機まで行って戻ってきて、オレンジジュースを飲みほしてしばらくして二本目が欲しくなるくらいの時間をかけて。


『ありがとう咲ちゃん、良い資料だよ。きっとこれなら来年の教科書に採用されるだろうね』

「いや、その可能性は皆無だと思うけれど……」


 何と言うか、逆に裏切られた気分だ。
 ある程度蔑にされる事は覚悟していただけに、ここまで受け入れられると逆に気持ち悪い。
 人を裏切らなかったことが無く、且裏切られなかった事がない球磨川君らしいと言えば、らしいのだけれども。
 気持ち悪いのがらしいというのは、さすがの球磨川君だ。
51 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:47:08.43 ID:Z4VVzTP+0

「でも、作っておいて何だけれど、その資料でどうするの? 本当に、基本的な事しか書いてないけれど……」

『基本が大事、ってよく言うだろ? まぁ僕の場合、基本よりも重視すべきは敗北であるのだけれどね』


 最初から目指すところが敗北とは。
 世の中の格闘家やスポーツ選手、受験生その他もろもろあらゆる向上心に対して謝罪を要求したい所だ。


『ま、この情報は僕が有意義に、この上なく不誠実に使わせてもらうよ』

「有意義でなくていいから、せめて誠実に使ってよ……」

『じゃ、今日はもういいや。美味しい物でも食べて早く寝て、明日に備えようぜ。じゃ、お休み咲ちゃん』



 そう言って球磨川君は学ランのまま横になり、すぐに目を瞑ってしまった。
 ……時間はよると言うか夕方だし、美味しい物どころか晩御飯すら食べていないし、歯磨きもシャワーも無しに着替えず寝るだなんて。
 私が潔癖症でなくてよかった。もし潔癖症だったらこの光景には耐えられないだろうから。

 最も。
 潔癖症でなくても、球磨川君と一緒に行動することに耐えられる人は、案外稀有なんじゃないかと思う。
 ちょっとだけ。
 本当に、ちょっとだけだけれど。


















 ちなみに晩御飯は、特別に常盤台中学の学食を担当しているコックさんが作ってくれた。
 とてもおいしかった。
 小学生並みの感想ではあるけれど、想像を超えたものに対する感想は何時だってシンプルになってしまうものだ。
 球磨川君が、ストレートに気持ち悪いと言うように。
 ……でも、いくらわかりやすい比較対象だとはいえ、球磨川君と比べてしまったコックさんには、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになった。
 本当に、ちょっとだけだけれど。
52 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:48:27.03 ID:Z4VVzTP+0






 翌朝。

 爽やかな朝、ではないけれど夜が明けた事には変わりは無く、そして朝は必ずやって来るので今は朝だった。
 目覚ましが鳴り始めて二十秒くらいしてからベッドを出た私は顔を洗ったり髪の毛を整えたり、大よそ女の子の身だしなみを最低限守る程度の頑張りをして、隣の球磨川君の部屋へ向かう。
 部屋に鍵はかかっておらず、球磨川君はベッドの上で私が昨日部屋を出た時に見た姿勢を全く同じ体制で寝ていた。


 なのに、なぜか服装は涼しそうで楽そうなTシャツと短パン姿になっていた。


「……」


 学ランは、見ると床に乱雑に脱ぎ捨ててあった。
 一度起きて、着替えて寝なおしたのだろうか。
 それとも、寝たまま無意識に脱ぎ捨てたのだろうか。
 どっちにしろ、体勢はそのままに服装だけが変わっているというこの奇妙な光景が、気持ち悪い。
 答えが丸わかりのアハ体験をやらされているみたいで、気持ち悪いと言うか気分が悪い。
 

「起きて球磨川君、朝だよ」


 私は球磨川君の体をゆっくり揺らす。
 すると、案外寝起きは良いタイプなのか、球磨川君はすぐにうっすらと眼を開けた。
53 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:49:28.01 ID:Z4VVzTP+0
『……』

「おはよう、球磨川君」

『……ああ、君は僕の幼馴染の螢山さんか……』

「だから誰なの? その粋な名前の人。ていうか前は螢川さんだったよね? 川から山に変わったのには意味はあるの?」


 幼虫から成虫に進化して、川のほとりから山奥で光る事を決意したのだろうか。
 いや、螢山さんは蛍ではなく蛍山さんであって、螢川さんでもあるわけだから、虫ではないのだろうけれど。
 後、何で急に幼馴染属性が付属されているのだろう。
 そういうのがツボなのだろうか?


『急にどうしたんだい? 僕を起こすときはいつもパンツを見せてくれるはずだったのに……』

「そんな卑猥な幼馴染が出てくる漫画かゲームは、高校生ではまだやっちゃいけないよ……?」


 R18と言うのは高校生は許されないのだ。
 

『って、何だ咲ちゃんか……わかっていたけれど、期待して損をしたぜ。咲ちゃんに変装した螢谷さんだと思ったのに』

「波乱万丈だね、螢さんシリーズ」


 山、川ときて谷と来たか。
 次は沢辺りだろうか?
 しかし、それにしても私に変装した、だなんて皮肉が効いている。
 まだ気にしているのだろうか? 私が変装して球磨川君を刺し殺したことに。
 
 ……よく考えたら、気にしない方がおかしいのだけれども
54 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:50:19.00 ID:Z4VVzTP+0
『咲ちゃんも起きた事だし、じゃあさっそく常盤台中学に向かって……ええと、御坂美琴ちゃん、そうそう、美琴ちゃんに会いに行くとしようか』


 球磨川君はノソノソと起き上がり、床に落ちた制服を拾って着始める。
 球磨川君の着替えなんて、牛がお肉の部位分けされている光景と同じくらい見たくないので、顔は反対側に背けている。

 ……そういえばたまに思うのだけれど、球磨川君はちゃんとご飯を食べているのだろうか?

 いや、人間だから食事は必須なはずなのだけれども、もしかしたら『大嘘憑き』で自分の食欲だとか餓えだとかを『なかった事』にしているのかもしれない。
 でも前に何かで見た事があるけれど、人間は『食べる行為』というモノが奪われると精神を病んでしまう事もあるそうだ。
 それくらい食べるという事は人間には必須な事らしい。
 生きるためだけではなく、精神を安定させるために食べる。

 ストレスをためた人が物凄く食べるように、過食症になってしまう事もある様に、人間として生きるためには食事という存在は欠かせないのだろう。

 球磨川君はストレスとはかけ離れた生活をしているし、人間には必要だけど球磨川君には必要ないと言われれば、何となくそのまま納得してしまいそうな気もするけれど。


『……ねぇ、咲ちゃん』

「え、何?」
55 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:51:21.18 ID:Z4VVzTP+0
 
 適当な事を考えて暇を潰していると、球磨川君が声をかけてきた。
 振り向かず、そのまま答える事にする。

 何だろう、学ランを着るときにボタンがすべてはじけ飛んだりでもしたのかな?


『悪いんだけど、常盤台には咲ちゃん一人でいってくれないかな? そして、放課後に美琴ちゃんを呼び出してほしい』

「……えー」

 
 知っていたけれど。
 知ってはいたけれど。
 球磨川君の気まぐれさは、よく御存じではあるけれど。

 何でこんなタイミングで、翌朝になってから言い出すかなぁ。


「何かあるの?」

『うん。僕には果たさなければならない事があって、それは僕にしか出来ないことだから、咲ちゃんには咲ちゃんの仕事を任せる事にするよ』
56 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:52:41.79 ID:Z4VVzTP+0


 球磨川君にしか出来ない事ってなんだろう。

 ノーベル平和賞を絶対にあげないで賞の受賞とか、そんなのかな。
 まぁ、お嬢様たちを相手に、しかも色々とお話を聞いたりするには球磨川君は居ないほうが良いだろう。
 期せずして訪れたラッキーだと思えばいい。


「わかった。じゃあ放課後になったら連絡するね」

『うん、よろしく』


 私は荷物を取りに行くため、球磨川君の部屋を出て自室へと向かう。

 そして、そのままホテルを後にする。

 ……どうせだから、球磨川君と一緒だと絶対に見られないような、お嬢様学校の色んな所を見て回ろう。
 別に、興味があるだとかそんなんじゃない。
 私はマジメにお仕事をするのだ。







 ……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、息抜きはするかもしれないけれど。
57 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/22(木) 01:53:26.41 ID:Z4VVzTP+0
今回はここまでです。

おお、見事に説明説明説明説明・・・・


次回はちゃんと禁書キャラも出します。絶対。出ます。


そういうわけで、また次回。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/22(木) 02:54:50.24 ID:laQUWiZGP
グッドルーザーはマンガしか読んでないけど普通に面白いです
むしろ楽しみ
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/11/22(木) 09:18:13.43 ID:TKaqZO9Ro
精神疾患とはまたひどい言われようだな超能力者wwwwww
次から話が動き出すか、wwktk
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/22(木) 09:28:55.98 ID:6U1zDXws0


ここまで面白く読めて
展開の詠めないssの>>1は人外
……いや、現代風に『新たなる血族』か
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/22(木) 12:58:54.20 ID:miYe+XZn0
>>59中二病とか言われてるしな、わりといろんな所で

事実間違ってなうわなにをするやめpxsd$$#
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/22(木) 18:01:35.04 ID:T+bWPkTFo
というかレベル5はみんなどこかしら頭おかしいって原作で言ってた気がする
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/22(木) 23:12:58.83 ID:1gM+w1570
乙でした
>>割と息抜き的に書いてる話ですので〜
これ何て読むの?日本語ではないはずだが……
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/23(金) 22:58:22.38 ID:0DFnipQjo

ネウロといい面白いなぁ
65 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:11:53.60 ID:A/2c3FN00
ネウロの方がなかなか筆が進まなくて、先にこちらを更新することにしました。
こっちは一度の更新量は大目で頻度は緩やか、ネウロの方は量は抑え気味でテンポよく、なるべく数日起きとかの短い間隔で更新できるのが目標ですかね。


>>58 oh・・・ネタバレになってしまうやもしれませんでした、申し訳ないです。小説版は面白いので買っても損はないかと思われます。

>>59 自分の妄想を信じてやまないわけですからね・・・話も少しずつ進めていきます。

>>60 身の丈に合わない評価をいただき、誠に恐縮の至り。悪意は人並みだと・・・いいなぁ。

>>61 確かに間違ってなくぁwせdfrtgyふじこlp

>>62 確か超電磁砲の漫画でしたっけ? 隠しきれない人格破綻者みたいな感じに言われていた気がします。

>>63 私の日本語は基本的に崩壊してます。テンポと聞こえ重視に・・いや、なんでもないです。とりあえず、執筆の息抜きとして書いているSS,みたいな感じでお願いします。

>>64 どちらも面白くしていきたいです。



では、投下します。


まずはお願いします、人外さん。
66 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:13:43.95 ID:A/2c3FN00





 
 やぁ。
 
 最近、ここに来る頻度が異常すぎやないかい?

 過負荷である君が異常とは、これは何とも皮肉的な事だよ。

 まぁ、僕がここに来ざるを得ない様に色々と言葉巧みに誘導しているわけだけれどね。

 それにしても、実はこの段階で君がここに来るのは正直な話、僕としても予想外だったんだよ。
 
 もう少し後に気づいて、ある程度あたふたしてからここに来るのだと思っていたからね。

 しかし、これはなんというか、この安心院さんどころか咲ちゃんもビックリだぜ。
 
 今頃、咲ちゃんはこっちに、おっと、こっちと言ってもこの空間なわけではなくて、君達が滞在しているホテルにという意味での、こっちだ。
 
 つまりは、君の死体のあるホテルに向かっている頃かな? 一人ではなく、二人でもないようだけれど。

 しっかしまぁ、向こうは華のあるメンバーだぜ。初々しい女子中学生達を引き連れた瑞々しい女子高生。

 僕も三年前までは女子中学生だったんだけれどね、この封印が解けたら高校に入学でもしてみようかな?

 あはは、何も君が居る水槽学園に、というわけではないよ。

 だが、君という存在を見失うのはあまりに惜しい事だから、近くには居たいけどね。
67 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:14:12.35 ID:A/2c3FN00
……小躍りするのはいいけれど、その不気味な動きを僕は目の前で、というか夢の前で魅せられているという事を忘れないでくれよ。

 MPが吸われてしまいそうだぜ。

 え? 人間にMPはないって? いやだなぁ球磨川君。僕のスキルがあればMPどころかスキルポイントや切れ味ゲージ、スタミナバーやターン数まで全て設定して視覚化させることだって出来るぜ?

 ただ、TRPGにはそこまで厳格な設定はしたくないかな。

 フリープレイとは言わないけれど、やはりゲームで重要なのは自由性だよ。

 その点、横スクロールでという限られた空間であれほど偉大な結果を残したマリオは偉大な存在だと言わざるを得ないね。

 しかし、2Dと言うのも侮れない物だよ。

 今の時代、平面的な女子ヒロインに恋をする人がいったい何人いるのかね。

 最も、僕からすれば三次元の女性も二次元のヒロインも、等しく同じ世界に生きている身なのだから平等に、悪平等に愛してやるべきだと思うけれど。

 今回は時間があるからね、もう少し雑談に花開かせようか。花の女学生たちが戻ってくるまで。

 球磨川君。君はゲームをするとき、とにかく素早くクリアすることを目的としたタイムアタッカーとじっくりゆっくり完全にクリアするスコアラー、どっち派に属する?

 ちなみに僕だけど、当然の如く後者だぜ。

 なぜなら、『続きが気になる』という感覚は凄まじく幸福であるという事だからさ。
68 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:16:31.20 ID:A/2c3FN00
 週刊少年ジャンプで、悟空とフリーザの戦いが来週でクライマックスを迎えるという所。

 世間の人々は月曜日を心待ちしただろう。それと同じことさ。

 あえて『続きが気になる』という縛りを自らに与えるんだ。

 そうすれば、毎日を幸せに生きて行けるだろう?

 僕が有する予言系スキルを使えば、そんな感覚とは縁なく生涯をすごすこともあるけれど、それでは面白くない。

 推理小説作家が、自分の書いた小説を読みながらトリックを予測するようなもの。

 つまりは、不毛と言うか無意味と言うか、それこそ悪平等と呼べるものなんだよ。

 本は誰でも楽しめると言うけれど、作者はそれを先のわからないワクワクする書物としては読めないだろう?

 それと同じことさ。

 で、球磨川君はどちらだい?

 …………成程、新しい。

 ……いや、新しい、という口癖が僕的には気に食わないから、言い方を変えよう。

 君らしいというべきかな?
69 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:17:33.24 ID:A/2c3FN00
 成るべきがタイムアタッカーでもスコアラーでもなく、成すべきがノーアラートクリアでもノーキルクリアでもなく、目指すべきがパーフェクト勝ちでもフェイタルK,Oでもなく、負け、ルーザーとはね。

 ルーザー、敗者。それこそが君のゲームに対する信念と。

 この世がゲームであるのなら、君が全てにおいて負けているのにも納得がいくというモノだ。

 さしずめ、ただのルーザーではなくグッドルーザー、勝たない敗北者といった所かな?

 いや、負けてはいるのだけれどね。

 負けて死ね、なんて名前のスタンドもあるけれど、君は負けた者こそ生き残り、勝者が死ぬと言う状況を作り出す技術に特化しているのだから恐ろしい。

 どちらかといえば、惨たらしい、かな?

 君の敗北主義こそ、僕はどんな事よりも恐ろしいね。

 負ける以上に失っているのに、勝利者よりもいい気分になる。

 球磨川君、これは実は凄いことだって自覚はあるかい?

 勝利者は、勝利すればするほど身動きが取れなくなっていくんだよ。

 たくさん持っている人ほど、失った時のダメージは大きいもんさ。
70 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:19:04.80 ID:A/2c3FN00

 例えば何でもない普通の中学生の喫煙と、十五歳の人気絶頂アイドルの喫煙。

 どちらも平等に未成年の喫煙でしかないのに、話題になる格差は不平等だ。

 ああ、僕はたばこは吸わないよ。『煙を吐くスキル』や『ニコチンを生成するスキル』なんてものも持ち合わせているからね。

 球磨川君、あらゆる事に敗北する君は、ある意味この世の何よりも自由で楽な存在と言える。

 敗北することで、自らを縛る鎖すら失う。何も残らない、混沌すらも置いてけぼりで勝者に這い寄る球磨川君。

 この存在に、君の存在に、僕はあらゆる勝利よりも興味があるよ。
 
 さて、とりとめのない雑談で結構時間がつぶれたね。
 
 そろそろ、本題について話そうか。

 最初から本題を話せだって? おいおい、僕が無駄な事をしなかったことがあるかい?

 人生は何時だって無駄だ。

 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄。

 七ページ半くらい使いそうな程無駄だぜ。

 だがそんな無駄も有りなんじゃないかな?

 有り有り有り有り有り有り有り、なんてね。

 おっと、さよならはまだしないから、帰らないでくれよ?
71 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:19:59.33 ID:A/2c3FN00

 まぁいいさ、僕は週刊少年ジャンプからは卒業した身だから、この話題についてはここまでにしよう。

 本題だけれども、僕が第三位の子と接触しろと言ったのには、実はちゃんと理由があってね。

 難易度のベリーハードからハードに変更してやったんだよ。

 昨今のゲームではナイトメアだとか、よくわからない難易度も出ているらしいがね。

 でも君は結局、イージーモードであろうがマイナスモードであろうが、負けるのだろうけれど。

 例えるなら、最初の戦闘でスライムに負ける人が殆どいない中、自分だけがまけて逆にどうやるんだと周りから面白がられるように。

 弱い相手に勝利する事には、あまり意味がないんだよ。

 弱い物を駆逐することに快楽を抱く人はいない。

 強い奴を支配してこそ、人は快楽を抱く。

 雑魚キャラを20000体倒すより、ラスボスを倒す方が達成感がある様に。

 理不尽なステータス差を乗り越えて相手を倒すカタルシスこそが、人間の愉悦の根源なのさ。

 ああ、ちなみに第三位のこの前では20000という数字はあまり使わないほうが良い。

 人には色々あるのさ、過去ってもんがね。

72 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:20:54.79 ID:A/2c3FN00
 そうそう、第三位の子は他のレベル5の子達と、色々つながりがあるんだ。

 因縁だったり、清算し切れない過去だったり、ライバルだったり、対立だったりと、色々とね。

 だから、まずは学園都市に慣れるという意味でも、第三位をお勧めしたわけだよ。

 最も、そうは言っても難易度を高めに設定している事には変わりない。

 ファーストステージから初見殺しする気満々だぜ。

 まぁ、君なら僕の期待を見事裏切ってくれるのだろうけれどね。

 勝負に負けて、結果的に相手を上回る。勝利することなく。

 徹底した敗北者、球磨川禊。
 
 敗北する事に関しては負け知らずの君の行動を、僕は夢の中から応援しよう。

 まさに正夢、という奴だぜ。

 夢の中で夢を見る、夢中夢というのだけれども、そのことについて努々お忘れなく、だぜ。

 夢みたいな話だが、覚えておきたまえ。

 そして最後に、君が聞きたかったことを教えよう。

 そう、ファーストステージのクリア条件さ。

 それは――――

73 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:22:01.88 ID:A/2c3FN00









 球磨川君の指示により、私は常盤台中学に一人で乗り込んだ。

 いや、乗り込んだという言い方はちょっとだけ、本当にちょっとだけおかしい。
 私は正当な許可をもらっているわけだから、もうちょっと歓迎されるべきなんじゃないかと思う。

 しかし、私はクレーマーでも球磨川君でもないので、招待されてやったぜ、なんて烏滸がましい態度はとれない。
  
 慎ましく、名校門の生徒会役員として、慎ましく行動しなければ。


「…………」

 そんなわけで、私は一人で廊下を歩いているわけなんだけれど……。



「あら、ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう……」


 うわぁ。
 現代日本で、基本挨拶がごきげんようなんて学校が存在するなんて。
 先代生徒会長、蛇籠飽の言葉使いにいつも違和感を感じていた私の方がおかしかったのだろうか。
 いや、そんな事はないはずだ。
 頑張れ、私。
 自分を信じて明日を生きて行こうじゃないか、私。
74 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:24:36.48 ID:A/2c3FN00
「その制服、常盤台生ではないようですが……どちらからおいでですの?」

「え、えっとー、水槽学園……って言っても伝わりにくいし、あの、学園都市じゃない所の」

 
 我ながら、説明下手だ。
 球磨川君に最初に話しかけた時ですらこんなんじゃなかったのに。
 お嬢様体質の人間というモノが、どうにも私は苦手らしい。


「まぁ、外から? ではこの学園都市には視察に?」

「あ、はい。そんな感じで……」

「では、このわたくし、婚后光子がご案内してさしあげますわ!」

 絵に描いた様なお嬢様チックな外見の婚后さんが、扇子で口元を隠しながらそう提案してきた。
 確かに、案内してくれるのはうれしい。
 常盤台中学は広すぎるし大きすぎるし、何より一人だと心細いのだ。
 御坂さんも、この人に聞けば居場所がわかるかな?


「そういえば、アナタのお名前をお聞きしていませんでしたわ」

「ええと、私は須木奈佐木咲って言います」
75 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:25:33.09 ID:A/2c3FN00

 良く考えたら、私の方が先輩なのに明らかに私の方がおどおどして、まるで苦手な先輩に絡まれた下級生みたいな感じになっていた。
 まぁ、別に下級生相手に威張り散らした位だなんて、そんな事は一切合財ないのだけれど。

「あの、さっそくお聞きしたい事があるんですけど」

「あら、なんでしょう? 何でも聞いてくださいまし」

「第三位の、御坂美琴って人は何処にいるかわかります?」


 何でも、と言われたので遠慮せずにストレートに聞く事にした。
 これじゃあまるで聞き込みをしている刑事のようだ。
 御坂さんが犯罪を犯しているわけではないのだろうけれど、御坂さんについて嗅ぎまわっている私はあまりいい感じには取ってもらえないかもしれない。
 
 しかし、私の心配は杞憂だったようだ。
 

「ええ、御坂さんは私の誇るべき友人です。今の時間なら、まだ教室に居るでしょうか……? ご案内しますわ」

「あ、ありがとうございます」


 私は慌てて頭を下げてお礼を言う。
 この人、いい人だ。
 ……なんだかなぁ。
76 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:26:45.59 ID:A/2c3FN00
 良い人である事は良い事なのだけれども、球磨川君と言う良いも悪いも存在しないマイナスを知っている私には、どうしても嫌な予感がする。
 球磨川君、いや、私とですら。
 関わってしまった事で、婚后さんのようなプラスにマイナスがかかさってしまったのではないか。

 そんな、心配になるような考えが頭に浮かんできた。

 









「あ、御坂さん御坂さん!」


 私がモヤモヤとした考えにやきもきしていると、前を歩いていた婚后さんがいきなりブンブン腕を振り始めた。
 何だ何だ? 急性突発型痙攣か?
 いや、そんな病名はないけれど。


「んー? あ、婚后さん。やっほー、どうしたの?」

 
 婚后さんの呼びかけに答えたのは、机に腰を掛けながら本を読んでいた女の子だった。
 あの顔は……ええと、さっきの資料に乗ってた顔と同じ。

 つまりは、目的の人物。
77 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:34:11.54 ID:A/2c3FN00

「実は、この方が御坂さんにお会いしたいとの事でして」

「私に? まさか黒子みたいな変な奴じゃあ……」


 よっこらせっ、と言いながら第三位、御坂美琴が立ち上がりこちらに歩いてくる。
 何と言うか、お嬢様学校の頂点クラスのはずなのに、そういう気品と言うか厳かな感じと言うか、女王らしからぬフランクさがここからでも伝わってくる。
 どちらかというと、クラスに一人居るととても楽しい事をしてくれる、そんなムードメーカーチックな人だ。


「あれ? 常盤台の制服じゃない……他校生?」

「あ、えっと、私は学園都市の外にある水槽学園という所から来ました。須木奈佐木咲です」

「水槽学園……? あ、何かで聞いた事あるような……」


 意外。
 意外にも、御坂さんは学園都市以外の学校についても詳しいらしい。
 まぁ、水槽学園は頂点が球磨川君なだけで、名実ともに日本有数の進学校であるのだから、知っているのも不思議ではない。
 北海道や沖縄に住んでる子供が、とりあえず「東大に行きたい」と言うのと同じような物なんだろう。
78 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:35:43.18 ID:A/2c3FN00
「そ、それで私は水槽学園の生徒会長……名前は球磨川禊という人なんですけど、その人に命令されてと言うか、押し付けられたというか……とりあえず、私達は学園都市のレベル5の視察に来たので、まず御坂さんにお会いしたいなと思って」

「あー……取材とか、そういうのはなるべく勘弁してもらいたいんだけど」

「いいいい、いえっ! そんな堅苦しい物じゃなくて、お菓子でも食べながら会長と雑談でもしてくれればそれでいいんです! お友達も連れてきていいですし!」

 とは言ったものの、これは考えてみればとんでもない失言だった。
 友達を連れてきていいだなんて、つまりは球磨川君の前に女子中学生を差し出すという事だ。

 これは、おなかの空いたハイエナの前に生肉で巻いた焼肉を差し出すようなものだろう。



「今日は黒子や白井さん達と約束もあったのよねー……三人くらい友達もいるんだけど、イイの?」

「は、はい! 大丈夫大丈夫です!」

 またもや頷いてしまった。
 しかしここで断られてしまえば、球磨川君にきっと責められる。
 ものすごく陰湿に、時々エロティックに言葉攻めされるだろう。
 ……想像するだけで、死にたくなる。
79 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:36:51.58 ID:A/2c3FN00
「? どうしたの?」

「いえ、突発的に手首を切りたくなりまして……」

「何で!?」


 おっと。
 いきなりリストカット宣言なんて、私らしからぬ発言をしてしまった。


「何でもありません、気にしないでください」

「理由なしの方が怖いと思うけど!?」


 そりゃそうだ。


「ま、まぁ、とりあえずは大丈夫です。会長はホテルに居ますから、案内しますよ」

「あ、うん。ちょっと待ってね、今黒子を呼ぶから。えっと、婚后さんは今日は無理なのよね?」

「ええ、私もぜひ行きた……ゴホン、せっかくなので参加してあげてもよろしかったのですけれど、今日はエカテリーナちゃんを病院に連れて行かなければいけませんので」


 エカテリーナちゃん。
 豪華絢爛そうな名前だ。
 妹、じゃないな、ペットかな?
 まぁ、エリザベスとかいう名前のペットも昨今流行っているだろうし、ちょっとセレブリティな名前も女子中学生の間では流行ってるんだ。
 どんなペットかな? やっぱり犬とか猫とか、お嬢様だから物凄い血統書付きの――

80 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:38:55.21 ID:A/2c3FN00







「前はネズミを十匹はぺろりと食べていたのですが、最近は五匹ほどしか食べませんの」





「…………」

 ネズミが餌かぁ。
 きっと、猫ちゃんなんだろうなぁ。
 食欲旺盛な、猫ちゃんなんだろうなぁ。
 可愛いよね、猫。
 にゃあにゃあにゃあにゃあ。にゃあ。



「ああ、あの蛇ね……」



 打ち砕かれた。
 可愛いペットを想像してやや頬を緩ませた私に謝ってほしい、エカテリーナちゃん。
 全国のスネーク好きな皆さんには申し訳なく、本当に申し訳なく思うけれど、私は蛇が苦手だ。
 蛇と言うか、爬虫類と両生類があまり好きではない。
 理由を聞かれると、物凄く困るけれど……そして、物凄くイラッとされるかもしれないけれど、女の子だから、という理由でご勘弁願いたい。
81 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:42:16.83 ID:A/2c3FN00








 というわけで。
 どんな訳かは分からないけれど、話を変えた直後の常套句のようなものなので、取りあえず使っておく。
 というわけで、私は女子中学生四人を連れて、球磨川君が居るホテルへと向かっていた。

 ……魂をあの世へ連れて行く死神になった気分だ。


「せっかく、今日はお姉様とデートでしたのに……」

「いや、デートじゃないし。初春さんと佐天さんもいるし。ていうかいなくてもデートしないし」

「さっすが御坂さん、容赦ない返し!」

「そこに痺れる憧れるゥ! ですねー」

「あなた達、ちょっとそこに正座なさい」


 女三人集まれば姦しいとも言うけれど、ここに居るのは女五人だ。
 女々しく姦しい、といった所かな。
 いや、私は違うけど。
 いや、私だけ明らかに話に入れていない雰囲気はあるけれど。
 いや、私はそもそも別に入ろうという気持ちもほとんどないけれど。
82 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:42:55.69 ID:A/2c3FN00
「私は結構楽しそうだと思いますよ? 外の学生さんとお話しする機会なんてめったにありませんし」


 御坂さんが待ち合わせしていた友人と言うのは、よくもまぁと思う感じで個性的なメンバーだった。
 
 一人は、御坂さんと同じ制服、つまり常盤台中学の制服を着ている一つ下の後輩で、名前は白井黒子さん。
 ホワイト&ブラック。
 なんだかポケモンにありそうな感じがするけれど、まぁ変わった名前に関しては鉄砲撃なんて凄い名前の人がうちの学校にも居るので、白黒程度では弄るには少々弱いだろう。
 
 白井さんは話を聞くと、学園都市において警察的な役割を果たしている『風紀委員』というモノに所属しているらしい。
 学園警察、風紀委員。
 この世で最も物騒な風紀委員だと思ったけれど、もっと物騒な風紀委員も探せば居るかもしれない。
 爆弾を使ったりするような風紀委員は、さすがに居ないと思うけどね。

 そして白井さんは、レベル4の空間移動能力者、とのことだ。
 空間移動。
 ワープ。
 世の中の大半の人間が欲しいと言うような超能力。
 超凄い能力だ。
 ……まぁ、私は欲しいとは思わないけれど。

  
83 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:44:01.80 ID:A/2c3FN00

「は、はい、えっと、なんですか?」

「そんなに緊張しなくてもいいんですのよ? 私達は中学生、アナタは高校生なのですから」

「い、いえいえいえいえ!」


 ブンブンブンッと。
 私は首と手を器用に左右に別々に同時に振る。


「年上って言ってもちょっとだけ、本当にちょっとだけですし、こちらからお話を伺う事をお願いしたんですから!」

 
 自分で言ってて何だが、私は高校三年生。
 結構年上だった。

「須木奈佐木さん、お願いだから敬語はやめてくれる? 私、あんまり慣れてないのよ」

「でも……」

「お願い!」

 手を合わせてお願いされてしまった。
84 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:45:27.24 ID:A/2c3FN00
 こうなれば、断る方が無礼というモノだろう。


「……わかった。普通にしゃべるね。御坂さん」

「ありがとう」

「でも、御坂さん大人っぽいですし、何となく緊張する気持ちもわからないでもないなー」

「……趣味は子供っぽいんですけどもね」

「くーろーこー? 何か言ったー?」


 御坂さんの周りにバチバチと電気が散っていた。
 ……何でもない様にみんな接してるけど、アレ、結構危ないよね?
 怒らせたら電気でショック死させられるとか、考えないのかなぁ?
 身近にいつ爆発するかわからない、何が引き金になるのかすらわからない殺人可能なものがあるというのに、みんなそれを日常に受け入れていた。

 ……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、私は誰にも気づかれない様に身震いする。



 球磨川君とは全く別の意味で、この人達の考え方は、私とは違っているんだなぁ。
85 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:47:02.98 ID:A/2c3FN00
「やっぱり外の世界の人って、御坂さんみたいな超能力に憧れたりするんですか?」

 佐天さんが何気なく私に問いかけてくる。
 うーん……確かに、異能の力って言うのは漫画とかゲームとかのエンターテイメントには必須だし、憧れる人も多いのが事実だろうなぁ。
 でも、私はそうは思わない。
 私のスキルも球磨川君のスキルも、持っていてもきっと持て余すか疎ましく思うだけだろう。
 切れすぎる包丁が危ないように、効きすぎる薬が危ないように。
 何事も、過ぎると碌なことが無い。


「超能力に憧れて、学園都市に入る事を望む人も多いみたいですから……多いんじゃないかな?」

「あー、やっぱりそうですかぁ。ま、私みたいな無能力者が多いんですけどねー」

「さ、佐天さん!」


 無能力であることは、学園都市ではコンプレックスになりやすいと聞いていたけれど、そうでもないのだろうか?
 少なくとも、佐天さんはそれを気にしているようには見えない。
 今、この場では、という意味だけれど。
 過去もそうであったかは、私にはわからないし知る気もない。
86 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:49:18.53 ID:A/2c3FN00

「で、ええと……その、私の学校の生徒会長がここにいるんですけど……」


 気が付くと着いていたホテルの前でいったん止まり、私は一応警告しておくことにする。
 何事も、心配しすぎるに越したことはない。
 まぁ、さすがに最初の村でセーブ三十回は心配し過ぎだと思うけれど。


「なんていうか、エキセントリックと言うか、不気味と言うか、気色悪いと言うか、最悪と言うか、悍ましいと言うか、意味不明というか、失礼な奴というか、関わり合いたくないというか、これでもないくらい突拍子もない人間と言うか……」

「ず、随分凄い人なんですの……」


 球磨川君の本質は言い表せている気が全くしないけれど、自分でもびっくりするくらいいろんな言葉が出てきた。
 

「とにかく、アレな人だから……なるべく、気にしない方向で居てね?」

「学園都市にも変な人なんてたくさんいますし、そう簡単には動じないと思いますよ? 白井さんなんて、変な人代表みたいな人ですし」

「初春、帰ったらサービス残業が待ってますの」

「えぇーっ!?」


 このコントの様なテンションが、球磨川君の前でもやれればいいなぁと思いつつ、私達はホテルの中へと入った。
 
87 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:50:31.91 ID:A/2c3FN00






 部屋の前。

 私はとりあえず深呼吸をする。
 マスク越しだから、あんまり酸素を吸えてる気がしないけれど。
 まぁ、おまじないのようなもの、気休めだ。


「やっぱ初対面の印象が大事ですよね。どうします? 元気よく挨拶する活発キャラと、優等生的なエリートキャラ、御坂さんはどっちで行きます?」

「え、いや……」

「お姉様は今の状態で最高ですの! 究極体ですの!」

「黒子、恥ずかしいこと言わないで。……まぁ、ふつーにしてるわ」

「それでいいと思うよ。まぁ球磨川君の前だとキャラ作りなんてあんま意味内容にも思えるけどね……」


 かく言う私も、キャラ作りしているんだけどね。
 現在進行中で。


「じゃ、開けるよ」


 私は、球磨川君が居るはずの扉を開ける。
88 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:52:12.02 ID:A/2c3FN00


「え、と、あれ……え?」


 佐天さんが理解できない、という表情で狼狽えている。
 無理もない、部屋を開けていきなり死体が転がっていて、平常心で居られる人なんて推理小説や推理漫画でしか出てこない。
 しかし、なんというか、さすがの反応を見せたのは他の三人だった。


「初春! 病院に連絡ですの! ワタクシが脈を測りますの!」

「は、はい!」

「心臓が止まってたら電気ショックは任せなさい!」


 警察的な役割をしているらしい二人は納得できるとして、御坂さんの反応も迅速だった。
 あれで、割と人の生き死にに関わるなんて側面があるのかもしれない。

 ……どうしよう、治療なんて必要ないと言うべきだろうか?
 そんな事を言えば、私の方がアレな人扱いされてしまいそうだけど。

89 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:52:43.65 ID:A/2c3FN00

「……ッ! 脈が、ない……お姉様!」

「わかってるわよ!」


 バヂィッ! みたいな音がした。
 後、青白い閃光も。
 
 まるで目の前で爆弾がさく裂した様な、すごい音と光に私は面食らう。
 球磨川君は、文字通り電撃を喰らっていた。

 生きてる人間には有害であろう電撃を受けて、球磨川君の体が大きく跳ねる。
 心なしか、焦げているような気がしないでもないけれど、御坂さんならきっとそんなヘマは起こさないだろう。
 仮にもレベル5とか、学園都市の頂点と言われている存在なのだから、そんなケアレスミスの様なミスはしてほしくない。

 人の命がかかっていることをケアレスミスと言うのかどうかは、些か不謹慎な気がしないでもないけれど。
 そして、球磨川君に対しては蘇生治療をする事自体がケアレスミスであるような気がしないでもないけれど。






『…………』


 パチリと。
 球磨川君が、まるで私が朝起こした時のように、目を開けた。
90 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:53:57.93 ID:A/2c3FN00
「! よかった……何とか成功したわ」

「さすがはお姉様ですの」


 二人もヤレヤレ、と言った様子で安心していた。
 まぁ、目の前で人が蘇生したのだから、そんな気分になるだろう。
 ……真相を知っている私からすれば、ただただ気味が悪い光景にしか見えないんだけどね。


『やれやれ、まさか生き返った直後に殺されるだなんて、思っても居なかったよ』

「……え?」


 聞き返したのは、私だ。


『いやね、ついさっき生き返ったんだけど、その直後に電撃が僕に浴びせられて、それでもう一回死んだんだよ。流石に今回は早すぎるだろって安心院さんに叩き返されたんだけどさ』

「……」


 意味がないどころか、ダブルキルになっていたのか。
 御坂さんの電撃がひどく不憫だ。
91 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:55:37.40 ID:A/2c3FN00
「ていうか球磨川君、何で死んでたの……?」

『ん? ああ、これから女の子が訪ねてくるんだから、身だしなみをちゃんとしようと思って、念入りに顔を洗おうと思ったら気が付いたら死んでたんだよ』


 洗顔死。
 新しいなぁ……
 新しすぎて、球磨川君以外にそれで命を失う人は早々いないだろうなぁ。


「……須木奈佐木さん、仮にも知り合いが死んでいたというのに、嫌に冷静ですの」

「え?」

 
 しまった。、そうか。
 私は球磨川君が生き返る事を知っているから、というか死ぬことが日常的な球磨川君を間近で見ているから全然驚かなかったけれど、この人達からすれば違うんだ。
 なんて言い訳しよう、『この人は何度でも生き返るんです!証明の為に一度殺してみます?』なんていえばいいかな?
 いや、駄目だ。倫理的にも、私の心情的にも嫌すぎる。
92 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:58:04.06 ID:A/2c3FN00
「え、あ、はい……」

 御坂さんも、ぎこちなく答える。
 流石の御坂さんも、球磨川君みたいなタイプの人と会うのは初めてだろう。

 というか、初めてだと思いたい。

 球磨川君みたいなタイプの人が何人もいるとは、さすがに考えたくない。


『うわぁ! 気が付いたら女の子がいっぱいだ! こうしちゃいられない、咲ちゃん、今すぐお茶とお菓子を用意するんだ。それでも庶務かい?』

「いらっ、いらっ」

 二回言った。
 大事な事だから、というわけではないけれど、本当にいらっときたので二倍増しだ。

 とりあえず、本当にとりあえず、癪だけど、心から癪だけど、私はお茶とお菓子、後座る椅子を用意するために自分の部屋に向かった。



93 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 01:59:22.98 ID:A/2c3FN00








「え、ええと……紹介し遅れたけど、この人が水槽学園の生徒会長、球磨川禊君です」

『よろしく。僕こそが咲ちゃんに推されて仕方なく、しかし表面上好意的に生徒会長に就任した球磨川禊だ』

 
 一々人を不快にしないと自己紹介も出来ないのか、球磨川君。


「えっと、私は御坂美琴……です。学園都市の第三位って事になってます」

「ワタクシは白井黒子と申しますの。風紀委員であり、お姉様とは濃密な関係ですわ」


 げんこつ炸裂。
 白井さん涙目。
 自己紹介続行。


「私は佐天涙子でーす! 付き添いでーす!」

「佐天さん……あ、えっと私は初春飾利って言います。白井さんと同じく風紀委員に所属してます」
94 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:01:19.10 ID:A/2c3FN00
 やっぱり、『自分だけの現実』とかいうのが関係しているのだろうか。
 自分の世界に球磨川君と言う異物を受け入れないことが、気持ち悪さを乗り越える秘訣なのかな?

 ……もっとも。
 球磨川君は、転校初日に見せた様なマイナスを、見せてはいないけれど。


『そうだねぇ、僕が聞きたい事を聞かれたら、そりゃ君達がいまどんなパンツをはいているのかという事なんだけど』

「…………は?」

『ほら、可愛い女の子にはとりあえずパンツの色を聞くのが礼儀ってものだろう? 美琴ちゃん、それに他の三人のパンツにも、同様に僕は興味があるぜ』

 格好つけているけれど、ただの性癖のカミングアウトだ。
 白井さんの目つきが警察官のそれになっている。
 

「……あの、あまりふざけないでもらえると……」

『ふざけてるだって!?』

 ガシッ! と。
 球磨川君は、御坂さんの両肩を掴んだ。
95 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:02:00.33 ID:A/2c3FN00

『この僕が! ふざけて女の子のパンツの色を聞くとでも思っていたのかい!?』

「え、いや、あの」

『僕は何時だって真剣だ! 今だって真剣に、熱心に、これ以上なく君のパンツの色を考えているよ!』


 ただの変態だ。
 度し難い変態だ。
 とめどない変態だ。
 近寄りがたい変態だ。
 逃れようのない変態だ。
 弁明しようのない変態だ。
 

『冗談で僕は君のパンツを見たいだなんて言わないよ、美琴ちゃん。僕は真剣だ、心から君の事を真剣に考えている。だから、そんな事は言わないでくれ』

「は、はぁ……ごめんなさい」

「御坂さん、謝らなくていいよ」

 一応、フォローを入れておいてあげよう。
 もう、百パーセント手遅れだけど。

『っと、僕としたことがついつい熱くなっちゃったね、お菓子でも食べようよ』
96 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:02:39.92 ID:A/2c3FN00
 
 そう言って、球磨川君はテーブルの上に並んだお菓子(私が用意したものだ)を差し出す。
 四人とも、おずおずと言った様子で手を出した。
 球磨川君も、後からお菓子に手を伸ばす。


「……その、パンツ以外に聞きたい事は……?」

『僕からは、特にないかな? 咲ちゃんは?』

 パンツしか頭にないのか、この会長は。
 そもそも何も頭にないような、考えなんて何一つなく行動するような人だけどさ。
 そして、私に丸投げするなよ。
 私だってお菓子が食べたいのに。

 ……と言いたかったけれど、仕方がない。
 とりあえずは、生徒会執行部っぽい事をしよう。


「ええと、それなんですけど……私達が言われたのは、学園都市のレベル5の方を視察と言うか、交流しろみたいな大雑把な内容で……具体的な事は書かれてないんですよね」

「大方、レベル5を観察して外にその技術や秘密を隠しだそうという魂胆なんじゃないですの?」

「でも、私達が、それも本人を見て話した程度じゃ、頭の中なんてわからないし……」

97 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:04:00.30 ID:A/2c3FN00
 第一、水槽学園の教師や理事会がそんなに積極的とは思えない。
 蛇籠飽や球磨川禊という生徒会長を放置しているくらいなのだから。

「コネを作ろうとか、そういうのじゃないですか?」

「確かに、その方が考えやすいかもね」

「コネ、かぁ……」

 レベル5との接点。
 レベルというモノを重要視している学園都市の中では、意味がある事かも知れない。
 しかし、こうして依頼や命令が無ければそもそも学園都市に入ろうとすら思っていなかった私や球磨川君がそれを持ったところで、何か意味はあるのだろうか?


『理事会や先生たちなんて、何も考えてないよ』

「え?」


 口を挟んできたのは、球磨川君だった。
 お菓子の包装を乱暴に剥がしながら、何でもないように呟く。
98 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:05:01.92 ID:A/2c3FN00
『安心院さんの端末か、それかいいように操られているだけさ。ここに居る全員、安心院さんの手の上で弄ばれているに過ぎないんだよ。こんな風にね』


 お菓子をころころと掌の上で転がす球磨川君。
 行儀が悪いなぁ。

「その、安心院さんって……?」

『魅力的な可愛い子だよ。そして僕の今の所最後の恋の相手さ』


 驚いた。
 驚愕した。
 まさか、球磨川君の口から恋なんて言葉が出るなんて。
 詳しく知りたい――――球磨川君なんて人に好かれる、安心院さんに。
 まぁ、碌な人じゃないんだけどね。
 水槽学園をあんなにひっちゃかめっちゃかに掻きまわした、安心院さんは。

「……あの、一つ聞きたい事があるんですけど、いいですか?」

 手を挙げたのは、佐天さんだ。

『何だい? パンツの色以外ならなんでも答えてあげるよ』
99 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:06:07.41 ID:A/2c3FN00

 人には聞く癖に、自分のパンツの色は隠すのか。
 ていうか、誰も知りたくないだろ、ソレ。


「球磨川さんからみて……その、学園都市の能力、レベル0とかレベル5って、どう映ります?」

「!」

「佐天さん……」


 成程、そういう質問か。
 佐天さんは、おそらく、結構前から能力について、自身のレベル0という肩書きについて、思う所があったのだろう。
 レベル5なんていう存在が身近に居れば、当然のことだ。

 外の学校で成績で伸び悩む子がいるように。
 学園都市で能力で伸び悩む子が居るのは当たり前。

 
『そうだねぇ』


 球磨川君は顎に手を当て、そして割と短時間で答えた。
100 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:07:52.75 ID:A/2c3FN00






『物凄く、気持ち悪いかな』




101 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:09:22.01 ID:A/2c3FN00

「……え?」

 
 ぐしゃりと。
 手の上で転がしていた大福を、握りつぶして中身の餡子をぶちまけて。
 それをペロリと舐めながら、球磨川君は笑顔でつづけた。


『だって、電気なんて電池でも買えばいいだけでしょ? わざわざ頭の中を弄って普通の人間じゃなくなるなんて、気色悪いじゃないか。仮面ライダーであるわけでもないのに』

「……」


 全否定。
 レベル1と呼ばれる段階から、努力でレベル5に到達したと言われる御坂さんを全否定した。
 人間を即死させる電撃を簡単に放てる兵器を目の前に、その在り方を嘲笑った。
102 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:17:00.81 ID:A/2c3FN00

『漫画の世界じゃあるまいし、人間をやめるのなんてただただ愚かでくだらないだけの事だよ。涙子ちゃん、君はレベル0なんだろう?』

「えっ? あ、はい……」

『それを誇らしく思うんだ。君は人間だ、機械に頼り、他人に頼り、自分の力だけじゃ生きて行けないよわっちい人間だ。そんな君は、自分を大切にするべきだよ。間違ったって美琴ちゃんのような能力で人を殺せる殺人怪物になっちゃいけないぜ』

「……ッ! ちょっと、アンタ!」


 御坂さんが怒りに満ちた表情で、球磨川君を睨む。
 隣に居る白井さんも、同じような表情で球磨川君を見ていた。
 初春さんは、どうしていいかわからず困惑しているみたい。
 これが、レベルの差で現れる人間性の違いなのだろうか。


「黙って聞いてれば、人を化け物だの殺人怪物だの……!」

『アレ? 何で怒るんだい? 何か間違った事でも言われたの?』


 球磨川君は首をかしげる。
 何も知らない幼子のように、無邪気に。
103 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:17:39.39 ID:A/2c3FN00
『超電磁砲。それが美琴ちゃんの別名だろう? つまりは兵器だ。兵器や武器は人を傷つける為に存在するマイナスのモノだ。恐れ入ったぜ美琴ちゃん、自分の事をそんなモノに例えるなんて』

「……ッ!」

「球磨川さん? それ以上お口を開かないでくださいまし。……つまり、それ以上喋るとただじゃすまない、すませませんわよ?」

『あはは。大好きなお姉様が真実を突き付けられたのが、そんなに悔しいかい? まるでサンタクロースが居ないと言われた子供みたいだ』


 球磨川君。
 マイナス。
 その口は、止まらない。
 言葉が増えていくとともに、この場から何かが無くなっていく。
 マイナスされていく。


『あ、一つ言っておくよ?』

『僕の考えは、学園都市意外の全ての人間の考えだ』

『僕は代弁しただけだ』

『だから』










『僕は、悪くない』


104 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:19:31.14 ID:A/2c3FN00

「……黒子、初春さん、佐天さん。帰るわよ」


「えっ? あ、はい!」

「……球磨川さん、それと須木奈佐木さん、二度とお姉様の前に姿を現さないでくださいまし」


 速足に白井さんが、扉まで近づいて開ける。
 初春さんはコソコソと、佐天さんは最後にチラリと球磨川君の顔を見て、部屋を出て行った。
 御坂さんも、一度も振り向かずに扉へと向かうが――


『美琴ちゃん』


 球磨川君に名を呼ばれ、一瞬だけ足を止める。


『元気でね、君は笑顔が似合うんだから、いつも笑っていなよ。じゃ、また明日とか』

「……」


 何も言わず、出て行った。
105 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:25:10.14 ID:A/2c3FN00



「……球磨川君、よかったの?」

 御坂さんたちのいなくなった部屋で、私はお菓子を食べづつけている球磨川君に尋ねる。
 今回の事がもし本当に安心院さんとやらが仕組んだことなら、御坂さん達と険悪になることは決していい方向へ向かってるとは言えない。

 いくら球磨川君でも、ゲームシナリオをひっちゃかめっちゃかにすることはできてもエンディングの数を増やすことはできないのだから。
 つまりは、クリアかリタイアかの二択。
 そのどちらかには、たどり着かなくてはいけない。


『なに、気にする事は無いよ。あれは思春期特有の気難しさってやつさ。ほら、咲ちゃんにもあるだろう? 中学二年生の時、なんでもないのに眼帯をつけたりとかさ』


 ないよ。
 一切合財、そんなことなかったよ。
 マスクはしていたけれど。
 マスクと眼帯をしていたら、白すぎて色塗りが楽そうだなぁ。


『それに、ぼくはすでにファーストステージのクリア条件を知っている』 

「え?」
106 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:29:23.12 ID:A/2c3FN00
 その解答は意外だった。
 もや、さっき死んでいた時に夢の中で聞いてきたのだろうか?


「じゃあ、話は早いね。今度はどんななの? また剣を取ってこい、みたいのじゃないよね?」


 プールの底に沈んだ勇者の剣を取ってこい、何てクエストはそうそうないと思いたい。
 まぁ、球磨川君も安心院さんとやらもこれをファーストステージを読んでいるあたり、そういったゲーム性を孕んでいる可能性が高そうだけど。


『違うよ。今回は居たって単純で、けれど難しい問題さ。それこそ思春期特有の、ね』

「…………どういうこと?」

『わからないかい? まぁ、咲ちゃんが知るにはまだ早いかもねぇ、あははは』


 なんだかいらっとする。
 とっとと教えろよこの野郎。


『早く教えろ、って顔だね。いいよ、教えてあげる』


 ……顔に出てたのかな。
 マスクもしているのに、そんなわかりやすい表情なのかなぁ、私。




『ファーストステージのクリア条件、それは――――』
107 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:33:04.81 ID:A/2c3FN00


















『恋だ』








「……は?」


 こい。
 鯉でも故意でも乞いでも古井でも許斐でもない。
 恋。
 甘酸っぱい、青春の恋。



『つまり、美琴ちゃんの恋愛成就。それがファーストステージのクリア条件さ』



 学園都市の頂点。
 二三〇万人のうちの三番目。
 兵器の名を掲げる紫電纏いし雷鳴の乙女。



 御坂美琴の、恋愛。



 それが、安心院さんの仕掛けたゲームのファーストステージだった。
108 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/11/25(日) 02:34:46.59 ID:A/2c3FN00
今回はここまでです。

一気に話を進めました。また話を考えて、執筆の合間に執筆する日々です。


イメージとしては、咲ちゃん以外と話している時は漫画の球磨川っぽい感じで書いてます。
次の更新は、少し間を置きます。ネウロの方も進めたいですし。


では、また次回。感想を頂けるとありがたいです。
ありがとうございましたー。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/25(日) 02:36:14.86 ID:odt83GlGo

流石球磨川さん期待を裏切らない気持ち悪さ
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/25(日) 02:39:55.63 ID:YrRCtXGNP

球磨川くんならさらにもっとはっきりズバッと言いたいこと言うよね
まあ中学生相手にそれはかわいそうか
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/25(日) 04:17:10.47 ID:n9dxrCpx0
事実超能力がもたらしたものはマイナスしかないんだよね
無能力者狩りと能力者狩りの悪循環
非人道的な人体実験
レベル0というだけで努力していないと決めつけられる
能力が有ったから守れたものがあるといってもそもそも引き金は能力である矛盾

これは確かにマイナスだ
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/25(日) 04:17:43.67 ID:n9dxrCpx0
事実超能力がもたらしたものはマイナスしかないんだよね
無能力者狩りと能力者狩りの悪循環
非人道的な人体実験
レベル0というだけで努力していないと決めつけられる
能力が有ったから守れたものがあるといってもそもそも引き金は能力である矛盾

これは確かにマイナスだ
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/25(日) 07:22:22.95 ID:n9dxrCpx0
HALが教えてくれたんだ…二重投稿の快感を…!
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/25(日) 08:24:41.92 ID:qdZKRs3ko
事実超能力がもたらしたものはマイナスしかないんだよね
無能力者狩りと能力者狩りの悪循環
非人道的な人体実験
レベル0というだけで努力していないと決めつけられる
能力が有ったから守れたものがあるといってもそもそも引き金は能力である矛盾

これは確かにマイナスだ
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/25(日) 10:13:39.50 ID:n9dxrCpx0
なんかもうすいません、マジでごめんなさい
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/25(日) 10:26:10.44 ID:t6MHKuFCo
なんで原作の球磨川はこの気持ち悪さをなくしたんだろうな
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/25(日) 10:35:39.80 ID:1RXp+w8DO
すがすがしいくらい気持ち悪い



最高です
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/25(日) 12:15:04.03 ID:vurWNaci0

これ妹達直後の御坂だったらヤバくね?精神崩壊じゃね?
流石球磨川さんマジ容赦ねぇ
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/25(日) 12:35:51.60 ID:n9dxrCpx0
さすがクマッ!!!!!俺達に言えないことを平然と言ってのけるッ!!!!!
そこにドン引く吐き気するゥ!!!!!!
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/25(日) 12:57:27.08 ID:qdZKRs3ko
しっ、声が大きい!
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/26(月) 20:10:26.16 ID:EkJa9aLx0

咲ちゃん可愛いよ咲ちゃん

操られて目の前で裸踊りを強要させられたいよー
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/11/26(月) 23:31:16.51 ID:WSLYDMRIO
同じクロス物の開始早々妹達を復活させるssの球磨川さんの能力者や上条さんに対する感想を思い出したわ
すげー的を射てたから今でも印象に残ってる
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/26(月) 23:42:52.09 ID:EfRu9m1K0
球磨川やってることって簡単に言えば「言いにくい事をはっきり言う」、ただそれだけの事なのだけれどただひたすらマイナス思考なんだよね
しかも閉じた傷口を致死武器の如くこじ開けるから質が悪い
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/11/27(火) 06:07:42.16 ID:OGKcw2H5o
球磨川の厄介なところはこじ開けた傷口を優しく腐らせること
人を傷つけることではなく堕落させることが厄介
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/11/27(火) 09:44:14.07 ID:TAK17n1IO
そういえば

「なんていうか、エキセントリックと言うか、不気味と言うか、気色悪いと言うか、最悪と言うか、悍ましいと言うか、意味不明というか、失礼な奴というか、関わり合いたくないというか、これでもないくらい突拍子もない人間と言うか……」
球磨川君の本質は言い表せている気が全くしないけれど、自分でもびっくりするくらいいろんな言葉が出てきた。
  「とにかく、アレな人だから……なるべく、気にしない方向で居てね?」

この辺の忠告が全く意味をなしてなかったな
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/11/28(水) 00:07:42.76 ID:655A+OYao
グッドルーザー球磨川スレとは俺得すぎる

まぁ実際球磨川の言うとおりまともな人間なら思うことだわなあれは
話の都合と言えばそれまでなんだけど能力で面倒事が起きた結果それを能力で解決したことは良くあるけど
基本的には騒乱の種でしかない
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/28(水) 01:04:56.49 ID:ihoez4tt0
刀語で否定姫が変体刀を否定した感じに近いか

刀に特殊能力なんざ要らんだろ、大体斬れればいいじゃん
↓禁書風
科学進んでるんだから道具使えばいいじゃん
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/29(木) 10:09:00.36 ID:V91OK/2lo
最近球磨川のこの気持ち悪さはなくなっちゃったよね
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/11/29(木) 10:29:28.78 ID:IGK6DXFzo
まるで週刊少年ジャンプの敵から味方になったキャラみたいに個性が薄れたからな
気持ち悪さが無くなったかわりに普通にかっこいい言動取ることもあるようになったけど
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/29(木) 12:10:03.01 ID:e76FCS8IO
それどころか後輩達からは風と呼ばれ親しまれてるからな
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/04(火) 00:24:15.05 ID:/c2ujRCSO
続きはいつだろうな
楽しみにしてる
132 : ◆3e98J5/Lds [sage]:2012/12/04(火) 01:22:18.55 ID:2T7S66ix0
更新ェ……

すいません、更新が滞っております。
今週中には更新したいと思っているんですがね……どうにも風先輩が気まぐれで。


もうちょいとだけお待ちください。
身の回りのお仕事がひと段落したら書きます。ネタはあるのです、ただ時間がないのです・・・
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/04(火) 11:35:23.30 ID:u+wl9V6DO
風先輩なら仕方ない
毎日検索して待ってるから無理せず頑張ってくれ!
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/04(火) 17:07:10.51 ID:HYp2GAEt0
大丈夫!君がどんなに酷い事をしても僕がぜーんぶなかったことにしてあげるから!
135 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/06(木) 23:35:38.50 ID:7agw0Lpc0
『やぁ、久しぶり』

『遅くなっちゃってごめんね』

『でも、課題とか語学のテストとか、忙しかったんだよ』

『だから』

『僕は悪くない』



>>109 原作8巻くらいの球磨川を目指しています

>>110 『まだ本気を出していないだけさ』

>>111 >>112 >>113 >>114 >>115 逆に考えるんだ、レスしちゃってもいいさと。

>>116 主人公サイドへの移行故致し方なし。

>>117 GOOD!

>>118 そのあたりに時系列をやっても面白そうだったんですけどねぇ、キャラを出しにくいのです。

>>119 『初めての会ったのは善吉ちゃんじゃない』『この禊だっ!』

>>120 お口チャックマン。

>>121 するのも一興、してもらうのも一興・・・構わん、やれ。

>>122 あのクロスとなるべく内容が被らないようにしたいのですが、どうも難しい・・・オリジナル過負荷は出さない方向で行きたいのは決まっているんですが

>>123 だからこそ『僕は悪くない』なんでしょうね

>>124 堕落は気持ちがいいものです。

>>125 『前置きをなかったことにした』

>>126 木から落ちると危ないから、全国の木を伐採しようとか球磨川ならいいかねません。

>>127 刀語にまだ手を出せていない私。

>>128 ただただ格好いい人ですよね。寝返ったあたりから

>>129 それが主人公サイドの宿命・・・北斗のレイだって最初はリンにボロクソ言われるほどの悪人面でしたしねぇ

>>130 あの先輩はいったい何個異名をもらう気なのか

>>131 お待たせして申し訳ない。

>>133 ありがとうございます、がんばります

>>134 俺の頑張りまでは無かったことにはできねぇよ!



 最近『ドロヘドロ』という漫画を友人が貸してくれました。
 恵比寿ちゃんもいいけど、やっぱり心先輩が格好いい。
 あのマスクは結構真面目に欲しい、ウォッチメンのロールシャッハさんのマスクと並んでほしい逸品です。


では、更新していきます   
136 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/06(木) 23:36:48.00 ID:7agw0Lpc0




 女の子は恋をする生き物だ。

 何時だって誰だって何にだって、女の子は恋をする。

 それは、学園都市と言う閉鎖された世界でも当たり前のことで。



 電撃姫なんて異名をつけられた、怪物的な女の子にも当然のことだった。









「……つまり、御坂さんが好きな人と御坂さんが見事恋人同士になれたら、ファーストステージはクリアって事?」

『そういう事さ。でも今のままじゃ情報が足りないからね。少し足を動かす必要があるよ』


 そう言って、球磨川君はあんこが付いた指をペロペロ舐めながら立ち上がった。
 ……握手を求められた時、どうやって断ろうかな。

 
『とりあえず、咲ちゃんが知ってる程度でいいから、彼女たちについての情報を教えてくれるかな?』

「え? あ、うん」
137 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/06(木) 23:38:41.98 ID:7agw0Lpc0

 と言っても、ここに来るまでの道中で聞いた程度だから、気休め程度にしかならないと思うんだけれども。

 白井さんと初春さんが所属している風紀委員という組織がどんな組織なのかとか、初春さんはパソコンが凄まじく得意な事だとか、白井さんの能力は空間移動だとか。




 ……あれ? 四人居たのに二人の事しか喋ってない気がするぞ?

 ……まぁ、佐天さんは無能力者で御坂さんは言わずと知れたレベル5なわけだから、そうなるのも仕方ないと言えば仕方ない事なのかもしれないけれど。



『成程ね、ありがとう。でもまだ情報は足りてないかな』

「だよね、肝心なところは何もわかってないわけだし……」

『必要な情報は、とりあえず美琴ちゃんの好きな相手だ。これを調べなきゃクイズにすらならない。ポロロッカに正解したくらいで調子に乗る海堂君のようにはなりたくないからね』

「いや、海堂君頑張ってたよ……」


 相手が悪かっただけだよ。
 南野君もゲームマスターも、その分野では強かっただけなんだよ。


『とはいえ、僕が直接聞いてもきっと美琴ちゃんは答えてくれないだろうから、咲ちゃん。情報収集は君に任せるぜ』

「ええっ!?」


 酷い押し付けだった。

 先ほどの白井さんのセリフ的に、おそらく私は球磨川君と同じ括りに入れられてしまっている。

 それは物凄い侮辱であり屈辱であり、許しがたいソレではあるのだけれども、今はそれについて話したところで無意味すぎる。

 意味を持つのは、私も球磨川君と同様に敵視されている、という事実なのだから。
138 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/06(木) 23:45:17.90 ID:7agw0Lpc0
 
「む、無理だよぅ。私だって白井さん達にはかなり警戒されちゃってるし……」

『大丈夫だ。警戒心の強い女子はゆっくりゆっくり、徐々に警戒を解いていけばいい。咲ちゃんにはそれが出来ると僕は確信を持って言えるよ』


 何だろう。

 どうして普通のセリフが、球磨川君が口にすると途端に卑猥な感じになるんだろう。

 そして、そろそろ私に変な形で期待してくるのはご勘弁願いたい。
 

『ほら、さっさと行ってよ。時間は無制限だけど、無駄に時間を過ごす奴はただの馬鹿だぜ?』

「かっちーん、いらっ、むかっ」


 苛立ち三段活用。
 ……空しいだけだった。
 なんだっけ、落ち着きたいときは素数を数えればいいんだっけ?
 

 2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41,43,47,53,59,61,67,71,73,79,83,89,97…………

 ……………。



 よし、とりあえず行こう。

 落ち着きはしなかったけれど、納得いったわけでもないし正直怒鳴り散らしたい気分ではあるけれど。
 こういう時に大人になれる人間が、球磨川君の居る場所では必要になるのだ。
 球磨川君を生徒会長に推した実行犯である私は、その重すぎる責務を担わねばならない。
 
 ああ、アア、嗚呼。
 
 世知辛きかな、学生生活。



 というか、球磨川君との学校生活。
139 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/06(木) 23:57:18.01 ID:7agw0Lpc0









































『……』

『さて』

『ほら、入っておいでよ』

『まだお菓子はあるからさ』

『楽しく、まったりと、お話をしようか』

140 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/06(木) 23:59:07.02 ID:7agw0Lpc0






 五里霧中。

 霧の中を五里も歩かなきゃいけない、なんて意味の言葉ではないけれど、私の心情はそんな感じだ。
 目的地、つまり何をすればいいのかという事だけはわかっているけれど、そこに至るまでの道のりが全く見えない。

 あんな嫌われ方をした直後に彼女達と有効な関係が築けるわけもないし……


「どうすればいいのかなぁ……」


 御坂さんと白井さんは特に私達に敵意を抱いているだろう。
 となると、接近できる可能性があるのは初春さんか佐天さんかな? でも初春さんは白井さんと同じく風紀委員とやらに所属しているらしいから、横やりを入れられるのが目に見えている。
 佐天さんくらいしか可能性はないけれど、私は彼女たちのケー番もアドも知らないので、こうしてあてもなく歩いているのだけれども。


「はぁ……球磨川君も、もう少し協力体制でいてくれてもいいのに」


 というか、そもそも安心院さんとやらにゲームを吹っ掛けられたのは球磨川君だ。
 球磨川君こそ主体的に行動し、私こそが協力体制で居るのが普通なのに。

 ……まぁ、球磨川君に普通を期待するなんて、空しすぎるだけなんだけど。











「「はぁ、不幸だ……」」



141 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:09:20.93 ID:TyffA5LS0






 ……ん?
 今、何か、適当に口にしたワードがデュエットになったような気がする。




「何だ? 今上条さんと不幸を共にする不幸者が居た気がするぞ……?」


 不幸を共にする不幸者。
 いや、不幸な時点で不幸者だからね。
 死なば諸共というか、赤信号をみんなで渡れば怖くないだとか、そんな感じの言葉遊びだろうか?

 でも、正直、今の発言をした人はそんな雰囲気の人に見えないしそもそも誰ですかっていう話だけど。

「……えっと、どなた? 不幸を売りにする系の人?」

「そんな嫌なキャラ設定にしないでもらいないでせうか……不幸なのは否定しないけど」


 そう言って、やたらと頭に殺傷力のありそうな学ランの人は手に持った袋を私に見せてきた。
 中身は……卵かな? 8個入りの、パックのヤツ。
 ……まぁ、全部割れてるけど。
 粉々だけど。
 見るも無残な姿だけど。
142 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:10:23.37 ID:TyffA5LS0

「なんていうか、生命の神秘をバカにしてるのかっていうくらい粉々だね……」

「タンパク質様の粉砕により、我が家の食卓状況も微塵に粉砕されたわけなのですよ……」


 確かに卵は完全栄養食と言われるほど素晴らしい食べ物で、一日一個食べることが推奨されるほどのものではあるけれど。
 しかしながら、卵が粉砕したことで今すぐにでも適度な崖を探しそうな程暗い顔をしていると言うのは、さすがに女々しいんじゃないかなぁ。
 
 ……と、本音を言うのが憚られるほど萎れているので、ちょっとだけ、本当にちょっとだけだけど、同情してしまう。


「……コーヒーでも奢るから、話してみなよ……」

「……久々に人の心に触れた気がする……」




 そんな世紀末みたいな。

143 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:15:03.79 ID:TyffA5LS0







 本当に世紀末だった。

 皆の憩い場、緑豊かな公園に設置された自動販売機の商品ラインナップ。
 ヤシの実サイダーはまだ許そう。

 ただし、イチゴおでん。てめーはダメだ。

 イチゴ大福をバカにしているのかと憤慨してしまいそうな程、チャレンジ精神と言うかネタに走った商品。
 しかも、食べ物ですらないとか。
 イチゴの入ったおでんですらなく、ドリンクとは。

 とりあえず私は無難と思われるドリンクを適当にチョイスして、ツンツンな人に手渡す。
 ……涙ながらに感謝されても、なんだかなぁ。
 これならイチゴおでんを渡した方が良かったかな?

 ……多分、物凄く泣くんだろうな。



「そういえば遅れたけど、俺は上条当麻だ、よろしくな」

「あ、うん。私は須木奈佐木咲。よろしくね」


 差し出された手に、とりあえず私は答えて握手する。
 ……ないとは思うけど、手を嘗め回してたりはしないよね?

144 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:16:37.51 ID:TyffA5LS0

「須木奈佐木は学園都市の学生っぽくないけど、もしかして外の人?」

「え? 何でわかったの?」

「いや、なんつーか……学園都市の人の外の人って、何となく違うんだよな」


 違う、か。

 まぁ、そりゃ違うっちゃあ違うんだろうけど。

 学園都市からしたら、北海道の人が沖縄とかの九州に行くようなものなのかな?

 環境がまるっきり違う所に住んでいる人はどうにも受け入れがたい人が多いらしいから、そんな感じなんだろう。

 私視点で言わせてもらえば、街に居る学生全員が脳改造を受けているこの街の方がよっぽど魔境なんだけれど。


「まぁ、そうだよ。外の水槽学園っていう学校から来たの。この街のレベル5の人達と……うーん、コミュニケーションをとるのが目的かな」

「レベル5って事は……ビリビリとか一方通行とかか」

「?」

「ああ、悪い悪い。ビリビリってのはアレだ、第三位の御坂美琴っていう女の子だよ。良い奴なんだけど怒りっぽくてなぁー」


 まさか、こんな所で第三位とコネがある人と出会うとは。
 怒りっぽい人っていうか、完全に球磨川君が怒らせたんだけどね。
145 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:17:43.87 ID:TyffA5LS0

 そして、今さらっと出てきたけど、一方通行ってもしかして……パンフの最初のページに乗っていた、この街の第一位かな?

 白い髪に白い肌、赤い目というフィクションの中に出てろよみたいな外見をしたパンダな、じゃなくてパンクな人だ。

 パンダはどちらかというと、白井さんの方だろう。

 名前的な意味で。

 
「一方通行も昔はまぁ色々あったけど、今は大事な物の為に頑張れるやつだからさ」


 ……爽やかな笑顔で言われたけれど。

 ううん、どうにも球磨川君と生徒会を始めることになってから、さわやかな笑みに対して疑い深くなってしまった気がする。
 



 それにしても、第一位と第三位とコネがあるこの人は、一体どういう立ち位置なんだろうか?

 レベル5の人達のリストには上条くんは乗っていなかったし、レベル5ではないのだろうけれど。

 彼も、脳を改造された存在だ。その思考回路は私達のような常人にはきっと計り知れない物になっているのだろう。




 ……それでも、会話は出来るのだから。
 意思疎通とまではいかなくても、言語の疎通が出来るのならば、上条君からは情報を得る事が出来る。
 試してみるだけの価値は、あるかもしれない。


「ねぇ、上条君」

「ん?」



「御坂さんの事について、ちょっと聞きたいんだけど――――
146 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:21:32.92 ID:TyffA5LS0













『やぁ、久しぶり』


 扉を開けた私を出迎えたのは、あどけない笑顔を迎えた学ラン姿の男子高校生。

 学園都市の外側からやって来た彼は、学園都市の存在意義を真正面から否定した。

 まかり通る常識を螺子曲げて、覆せない当たり前を突き付けて。

 まったく正しい言葉で、人の心を踏みつけた。



 でも、そんな彼は。



 学園都市を、超能力を、この街の全てを否定して。
 そんな街に否定された私を、認めてくれた。


「……まだ五分くらいしかたってませんよ、球磨川さん」

『はは、君みたいなかわいい子と僅かな時間でも離れる事は、僕には悠久の時間に感じられるさ。涙子ちゃん』

「……あははっ、かっこつけちゃって」


 あの時、私は。
 球磨川さんの言葉を、もっと聞きたいと感じたんだ。

147 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:23:09.69 ID:TyffA5LS0

『コーヒーでいいかな?』

「あ、はい、ありがとうございます」


 ホテルの一室で、球磨川さんと私しかいない部屋で、球磨川さんはコーヒーを入れている。
 ……なんだかちょっと気恥ずかしい。


「あ、あの」

『ん? 何かな』


 コーヒーカップを二つ持った球磨川さんが戻ってきて、テーブルを挟んだ私の向かいに座る。
 静かに湯気を立てるソレを、螺子でかき混ぜる球磨川さん。
 ……何で螺子なんだろう。


「えっと、その……」

『あはは。何に緊張してるのかはさっぱりだけど、焦らなくていいんだぜ? あんな能力者達に囲まれて生活するのはストレスが溜まりそうだからねぇ』

「……それ、なんですけど……球磨川さんは外の学校の人だから、やっぱり私達とは考え方が違うんですよね」

『そりゃそうさ。人殺しの超能力を持って威張る美琴ちゃんみたいな人とは違って、平和でありふれた日常が広がる世界に暮らしているんだからね』
148 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:27:10.50 ID:TyffA5LS0




 ……御坂さんは、私の友達で。

 そんな友達を罵倒しているのは球磨川さんで。

 なのに、球磨川さんに対して怒りを向けられないのは、私だ。


「……確かに、御坂さんや白井さんの能力があれば、それこそ球磨川さんの言うように人間を簡単に殺せちゃうかもしれない。でも、私は御坂さんの能力に救われた事が何度もあるし、白井さんも能力で学園都市の平和を守ってるんです」

『火のない所に煙は立たないって言うよね?』


 球磨川さんは、なんだか独り言のように呟いた。


『涙子ちゃんの巻き込まれた事件って、もしかしたら超能力なんてものが存在しなければそもそも起こらなかったんじゃないの?』




 幻想御手。

 レベルに人生レベルを大きく左右される学園都市で、私の様な無能力者に垂らされたカンダタの蜘蛛の糸のような救いの都市伝説。
 でもそれは、色々な人の人生を狂わせた。
 上がったレベルは、歪んだ人格を表にむき出しにさせた。
 
 それを作った人の願いが、子供たちの救済だったとしても。
 救済された子供の人柱として、大勢の人間が傷つけられたあの事件は。

 幻想御手がなければ、ではなく、超能力が存在していなければ。



 あの事件も起こらなかったし、救済されなかった子供たちは救済される必要すらなかったんじゃないだろうか。
149 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:30:56.29 ID:TyffA5LS0
『黒子ちゃんだって、能力を使って事件を解決してるかもしれないけどさ、そもそも能力が無ければ起こらなかった事件だってたくさんあると思うよ?』

「……それは……」

『……涙子ちゃん。君が救われたって言うその事件について、教えてくれないかな?』

「え?」



『悩んでいるんだろう? だったら話してごらんよ。僕は君の意思を尊重しつつ、極々一般的な解答を示してやるぜ』




 ……。
 …………話そう、話してみよう。


 レベル0という事、レベル5という事、幻想御手の事、友人の事。



 全てを。

150 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:33:38.56 ID:TyffA5LS0









『…………え、何それ……』


 話を聞いて、球磨川さんはドン引きしていた。

 ……そりゃそうか。

 私のやった事は、いうなればトップアスリートに近づくためにドーピングをしたようなもの。
 
 まぁ、レベル5とまではいかなくても、ほんの少しだけでも同じ舞台に立てるようになれれば、程度のささやかな願いではあったけれど。
 学園都市ではレベル0の方が多いから、今ではもう幻想御手に手を出した人は――――犯罪に手を染めた人は別だけれど――――レベル0の人から馬鹿にされるという事は、ほとんどない。


 あるとすれば、レベル1や2の人がレベル0をバカにする事くらいだ。


 だから、ここまで真正面から引かれるのは、ちょっとだけ……辛いかな。



『あれ? 涙子ちゃん、何か勘違いしてない?』

「……え?」

『僕がドン引きしたのはね、そんな素晴らしい物をどうしてなくしてしまったのか、という事だよ』
151 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:35:42.68 ID:TyffA5LS0



 素晴らしい物。
 聞くだけでレベルを上げる魔法のような音楽ファイル――という姿をした、脳を静かに削り取る悪魔のような音楽ファイル。
 それを、球磨川さんは、素晴らしい物と評した。

 まるで、幻想御手を初めて手にした時の私のように。



『例えば週刊少年ジャンプの裏表紙にある記憶術に手を出す様に、成績を何かで補おうとすることなんて当たり前の事じゃないか』

「で、でも……」

『幼い頃から進研ゼミをやる様に、受験勉強の為に塾に通うように、涙子ちゃんは成績の悪い子なら誰だってやる事に手を出しただけだ』





『それに、脳が疲弊して意識不明になる? はは、そんなの別に良いじゃないか。だって、なんか変な化け物を倒したら治ったんでしょ? じゃあまた美琴ちゃんに任せて、みんなは能力を使い続ければいいのに』


『レベル5ってのは凄い人たち、エリートなんでしょ? じゃあもっと有意義にその力を使ってもらわないと困るじゃないか』


『便利なものほど、馬車馬の如く奴隷のように使いつぶさなきゃ勿体ない』


『使う側は、いつだって持たざる者だ』


『哂われながらも笑いながらエリートを嗤い使い潰すのが、過負荷だ』


『だから、涙子ちゃん』


『僕は君に。とびっきりの笑顔を常に浮かべてほしいと思う』


『だって』






『君は、悪くないんだから』
152 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:38:51.08 ID:TyffA5LS0



「……」


 あの事件は、私の咎。
 一生忘れることはないと思っていた、友人を傷つけた私の罪。
 
 否定はされても認められる事なんてないと思っていた。
 非難はされても賞賛される事なんてないと思っていた。



 だけど、球磨川さんは違った。



 レベル5の御坂さんとも。
 レベル4の風紀委員の白井さんとも。
 レベル1の学園都市の生徒である初春とも。

 
 全く別の目線で、私を認めてくれた。



『もしも飾利ちゃんや黒子ちゃんがピンチに陥っていたら、涙子ちゃんは助けに行くだろう? たとえ危険だとしても』

「……はい」

『それと同じさ。友達の為に傷つく事は当たり前の事なんだ。だから涙子ちゃん、君の為に傷ついてくれた友達のみんなは、紛れもなく涙子ちゃんの友達なんだから、気にする必要なんてないよ』

「…………」

『さて、じゃあ、いい話はこれくらいにして』


 球磨川さんがコーヒーを『もういいや』と呟きながら投げ捨てて、私に笑顔を向けた。
 とびっきりの、あどけない、空っぽの笑顔。

 きっと、今私が浮かべて居る笑顔と同じような、持たざる者の笑みを。





『涙子ちゃん達について、涙子ちゃん達が体験した今までの出来事について、色々知りたいな』



153 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:43:48.63 ID:TyffA5LS0










「白井さん、第四学区で能力者の喧嘩が発生したそうです」

「……すぐ、向かいますの」


 わたくしの所属する風紀委員支部のコンピュータマスター、初春からの連絡を受けてわたくしは出動準備に入る。

 ……けれども、どうにも身に入らない。

 やる気がないわけではない、のだけれども、心の奥底にまるで灰汁が溜まっているような、そんな気持ち悪い感覚が渦巻いている。


「……白井さん、さっきのを気にしてるんですか?」

「当たり前ですの」


 先ほどの、球磨川とかいう男。

 あれほど不敬で不躾で不愉快な男は見た事がありませんの。
 まだ、あの憎き類人猿の殿方の方がマシに思えますの。

 お姉様は先ほどの気にして寮に戻ってしまわれますし、わたくしと初春は人手が足りないと言う理由で支部に呼び出される始末。


 全く、球磨川と関わってから色々と不幸を呼び寄せてしまっている気がしますの。
154 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:48:15.75 ID:TyffA5LS0
「白井さん、仕事に集中しなさい。もしも戦闘になった時、別の事に気を取られていては危険よ」

「わかっていますの」


 固法先輩から余計なありがたいお説教を受けて、わたくしは出動準備を終える。

 敵を拘束する短い鉄矢を数十本、武器はこれだけで良い。

 わたくしの能力を使えば、どんなところにも打ち込んで相手の武装を無力化し、傷つけずにターゲットを拘束できる。
 
 いざとなれば、拘束だけではなく、肉体に直接転移すれば――


「……っ」


 ……不意に、あの男の言葉がフラッシュバックする。
 違う、わたくしの能力は、人を傷つける為に存在するのではない。
 学園都市の平和を守るため、大切な人たちを守るために存在するんですの。


「……では、行ってきますの。初春、紅茶の用意でもしておいてくださいな」

「はい! 任せておいてください!」


 頼れる同僚の花の様に明るい笑みに見送られ、わたくしは事件現場へと向かう。
155 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:54:12.22 ID:TyffA5LS0







 空間移動を繰り返し、現場近くに到着するとまず目に入ったのが人溜まり。

 細い路地裏へと続く入口の前に、何人もの学生が集まっていた。


「はいはい、退いてくださいな。風紀委員ですの。……何があったか、教えてもらえますの?」

「え? あー、俺も今来たばっかりだからよく知らないけど……」


 頬を指で掻きながら、男子生徒は路地裏のさらに奥、うっすらと見える曲がり角の方を見た。


「向こうの方に、胸ぐらを掴まれた奴が五人くらいのスキルアウトに連れて行かれたらしいんだよ」

「やれやれ、いつの時代でもどんな環境でも、カツアゲというのは存在するんですのね」


 古臭い手口であれど、弱者から金銭をむしり取ると言うのは単純な話なのだ。
 しかも、この学園都市、能力があればなお一層の事。
 便利な力はもろ刃の剣ですのね。


「まぁ、わたくしが来たからにはもう終わりですの」

156 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:57:10.04 ID:TyffA5LS0

 わたくしは一切の躊躇なく、路地裏へと足を踏み入れる。
 恐怖などどこかにおいてきた。
 わたくしを動かすのは、正義感……なんて綺麗事を言うのは少しだけ恥ずかしい。

 単純に言えば、怒り。


 弱者を踏みにじり笑う悪を、わたくしは憎む。
 弱者を食い物にする強者を、わたくしは悪と見る。


 だから、わたくしは風紀委員で居られる。

 それが、誇りなのだと胸を張って言える。




 だから、わたくしは――――
157 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 00:57:40.28 ID:TyffA5LS0










『やぁ、黒子ちゃん』










158 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:06:21.46 ID:TyffA5LS0



 その声を聴いて、その姿を目視して、その状況を知って、わたくしは理解する。
 
 強者を踏みにじる弱者が居る事を。
 強者を食い物にして嘲る弱者が居る事を。

 過負荷、マイナス、負完全。

 誇りも意思も何もかもをごちゃまぜにして、正義も悪もへったくれもない台無しだけを作る人がいる事を。


『相変わらず、可愛いね』


 状況が、五感を通じて機械的に脳へと伝えられる。

 しかし、この惨状を理解することを脳は拒んでいた。

 見るも無残な惨状に参上したわたくしを、その男は笑顔で迎え入れていると言うのに。
159 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:11:05.91 ID:TyffA5LS0

『聞いた通りだ。この辺りは黒子ちゃん達の管轄らしいね。こうすればきっと黒子ちゃんに会えると信じていたよ』



 黒い学ランに黒い髪は、今は赤くなっていた。
 趣味の悪いイメチェン、であればどれほどよかった事か。
 染め上げる染料の正体は、学ランの男――球磨川禊の周りに転がる、既に生命を感じられなくなった肉塊達。


 手も足も腹も顔も、そのすべてに巨大な螺子を捻じ込まれたそれらは、吐き気を催すにはあまりにも十分すぎる趣味の悪いアートの様にも思えた。


 アイアンメイデンで貫かれた罪人は、きっとあんな感じになるのだろう。


「……わたくしに、何か用があるのでしたら……直接風紀委員の支部に来ればいいだけではありませんの」

『え? やだよ。何で悪い事なんて何一つしていない僕がそんな所に出向かなきゃいけないんだよ』

「……」


 眩暈。
 頭痛。
 吐き気。
 
 ありとあらゆる生理的嫌悪だけがわたくしの思考をドロドロに染め上げる。

 今は演算にすら集中できそうにない。

 恐怖は置いてきた、と言ったけれど、恐怖はどうやらわたくしの後をつけてきたらしかった。
 いや、つけてきた、というよりも這い寄ってきた、という方がより的確かもしれない・

 
 ウネウネと、蛆虫の様に。
 ワサワサと、蜘蛛の様に。
 ズルズルと、蛞蝓の様に。


 どうしようもなく、ただただ目の前の男は気持ち悪かった。
160 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:13:12.30 ID:TyffA5LS0
『ああ、この人達? 実はね、黒子ちゃんに会いたいからちょっと死んで事件を起こしてもらえないかなってお願いしたら、逆に僕の事を殺しにかかってきたからさ、仕方なく抵抗しちゃったんだよね』


 仕方なく。
 仕方なくで、人体をここまで螺子で貫けるものか。


『ま、会いたくて仕方がなかった黒子ちゃんに会えたからどうでもいっか。それじゃあ黒子ちゃん、いくつか聞きたい事があるんだけど――』


 球磨川禊が一歩、わたくしの方へ踏み出す。
 それと同時に、わたくしは球磨川禊から一歩遠ざかった。
 まるで連動しているかのように。


 心ではなく体が、球磨川禊と言う人間を受け入れる事を、近づけることを拒否した。


『おいおい、傷つくぜ黒子ちゃん』

「お……黙りくださいですの……ッ!」


 わたくしは振り絞る。
 勇気だとか、負けん気だとか、気持ち悪さに対抗できるなら何でもいい。
 とにかく、敗北に負けないための全てを目いっぱい振り絞る。


「風紀委員として……球磨川禊、アナタを逮捕しますの……!」

『わーお、格好いいなぁ、憧れちゃうな』
161 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:15:19.28 ID:TyffA5LS0
 
 鉄矢を数本引き抜き、球磨川禊に向かって構える。

 空間移動で球磨川禊の背後に回り込み、球磨川禊を地面に転移させ倒し鉄矢の転移で拘束する。

 時間にして、二秒とかからない。
 それだけの事ですの。 



 何も恐れる事は、ないんですの!





『その鉄矢で、僕を拘束するのかい?』


「……」


 何故、球磨川禊はわたくしの戦術を知っている?
 須木奈佐木さんにホテルへ向かう最中も、風紀委員であり空間移動能力者であるという事も明かしてはいる。
 だけど、自分の戦術を教えた事は一度もない、はず。

 なら、どこから……?
162 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:20:41.46 ID:TyffA5LS0
『でもさぁ、そんな爪楊枝みたいな奴じゃ心細くない? ほら、これを貸してあげるよ』


 そう言って、球磨川禊はわたくしの足元に数本の巨大な螺子を投げた。
 ……周りに倒れている、スキルアウト達の顔に刺さっているモノと同じサイズ。

 つまりは、元の顔をわからなくするレベルの狂気の凶器。

『それを心臓とか顔とか、あとは肝臓とか? そこらへんにまとめて転移させれば、たとえ美琴ちゃんみたいなレベル5のエリートだって殺せるよ』

「……たとえ話だとしても、お姉様に対してそんな事は言わないでほしいですわね」

『黒子ちゃんは本当に美琴ちゃんの事が好きなんだね。妬けちゃうなぁ』


 戯言、虚言だ。
 耳を貸してはいけない。

 わたくしは鉄矢を構え直し、狙いを定める。



 狙うは、足と手。

 移動や攻撃などの行動をとれなくするために、太い血管等は外す様にして鉄矢を転移させる。
 球磨川禊の行動を一瞬でもいい、完全に止まるタイミングさえ見計らえば、恐れる必要はない。


 やれる。やる。


 風紀委員として、平和を守る立場として、こんなマイナスを見逃すわけにはいかない。
163 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:21:18.58 ID:TyffA5LS0

「……」

『……』



 球磨川禊は笑みを浮かべたまま動かない。
 わたくしと奴の距離は約十メートル。
 転移にタイムラグは存在しない。つまり見てからの回避は不可能。



(……行きますの)



 そして、私は、鉄矢を球磨川禊の両手両足に向けて転移させた。






『甘いぜ、黒子ちゃん』





 だが、外した。
 狙いを。
 このわたくしがミスをした――わけではないのに。


 球磨川禊は、このわたくしにミスをさせた。
164 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:23:41.91 ID:TyffA5LS0


『黒子ちゃん、ちゃんと狙わないと駄目だぜ? いざという時のミスが大きな失敗につながる事もあるんだから』


「……………」


 声が出ない。
 意味がわからない。
 気持ち悪い。


『ま、今回は僕がミスをフォローしてあげたから、黒子ちゃんは気にしなくていいよ。大丈夫、君は悪くない』



 球磨川禊が笑う。

 あどけない笑みを浮かべて。

 グロテスクなほどに顔を歪めて。

 そう、歪めて。

 文字通り。

 物理的に。



 右目に何本もの鉄矢が突き刺さった状態で。





 球磨川禊は、笑っていた。
165 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:25:09.26 ID:TyffA5LS0
『普通狙うならこういう場所でしょ? 黒子ちゃん、漫画やラノベじゃないんだからさ、そんな無傷で相手をどうにかしようだなんて、甘いぜ?』


 もはや話の内容など、頭に入ってこない。
 グチャグチャの右目を、痒そうに指を突っ込んで掻き混ぜながら、球磨川禊は私に歩み寄ってくる。


「ひッ……!」



 私は腰を抜かしたまま、後ろに何とか下がろうとする。

 しかし、私の背後は無機質な灰色の壁があるだけで、退路など存在しなかった。
 
 前門の過負荷、後門は存在せず。

 八方ふさがりなんて生ぬるい物ではない、全塞がりだ。
 



『どうしてそんなに怖がっているんだい? 黒子ちゃん』

「こ、来ないで……ッ!」

『はぁ、やれやれ。嫌われちゃったなぁ、ショックだなぁ』


 
 グシャリと。
 水っぽい音がした。

 この辺りに水道なんて見当たらないし、雨も二日ほど降ってないから水たまりなんてあるわけがない。
 じゃあ、どこから?
 わたくしの、右手辺りから?
 水の滴るモノなんて、何も持っていない筈なのに。
 どうして?

 どうして、わたくしの手は、真っ赤に――
166 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:26:44.61 ID:TyffA5LS0



「――――ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!」





 恥も外聞も、何もかもを投げ捨てて、わたくしは叫んでいた。
 よくぞこんな声が出せるものだと、自分の声帯に呆れた感心をしながらわたくしは叫んだ。
 痛み、自体はもはや痛すぎて感じないレベル。そもそも風紀委員として、ある程度の痛みに対する我慢の仕方は知っている。
 
 だが、それよりもわたくしの心を占めるのは、恐怖だった。

 この球磨川禊と言う男はおそらく、強くない。
 中学生であるわたくしと真正面からなぐり合っても、おそらくわたくしが勝つほどに。

 なのに、怖い。
 弱者が怖い。

 這い寄るこの弱者が、わたくしの人生で最も怖い存在だった。



『いいねぇ黒子ちゃん。その声は可愛いけれど、叫び声はもっと可愛いよ』

「あ、ああぁ……ッ!」
167 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:30:25.80 ID:TyffA5LS0

 逃げなければ。

 殺されることはない、けれど殺される以上にココに居る事が怖い。
 だけれども、恐怖と痛みがわたくしの演算を阻害する。
 その上螺子はわたくしの手を地面に深々と縫い付けており、自力では外せそうにない。

 まるで、斬首を待つ罪人の様に、わたくしは球磨川禊に頭を垂れていた。



『……黒子ちゃん。君に聞きたい事があるんだ。これに答えてくれれば黒子ちゃんは解放してあげるよ』

「!」


 突如目の前に垂らされた、救いの糸。
 例えそれが毒だとしても、縋りつく事しか出来ない見え見えの罠。


『君のお姉様の、美琴ちゃんについてすべてを教えてほしい。隠している事とか、周りには言えないこと。そのすべてを』


「……」



 お姉様は、レベル5の第三位。

 学園都市の頂点の一角。

 そんなお姉様が、この男に負けるはずはない。

 一瞬で消し炭にされるだろう。

 たとえ球磨川禊が何かを知ったとしても。

 お姉様に何かをしようとしても。

 あの類人猿や、初春達が絶対にそれを食い止める。

 お姉様は、どんな逆境でも乗り越えられる。


 だから――――
168 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:32:24.59 ID:TyffA5LS0






「……お断りですのよ、三下風情が」




 だから、言うわけにはいかない。
 お姉様の前に、こんな男を行かせるわけにはいかない。
 たとえわたくしがどうなろうとも。

 きっと、お姉様は全てを蹴散らし解決し、この黒子を救ってくれるはずですの。


『……そう』


 球磨川禊が、螺子を持ち上げる。

 あの螺子が貫くのは、わたくしの頭かそれとも心臓か。

 覚悟はできている。


 必ず、あなたを打ち破ってやると言う覚悟が――













『……さすがだよ、黒子ちゃん』
169 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:34:08.97 ID:TyffA5LS0
「……え?」


 球磨川禊は、螺子を投げ捨てた。


『君の美琴ちゃんへの想いは本物だ。それを僕に傷つける事は出来そうにない。……君の熱意に負けて、今回は全てを諦める事にするぜ』

 クルリと身をひるがえし、球磨川禊はスタスタとわたくしから離れて行った。
 そして、背を向けたまま、格好つけながら、気障に、言葉を吐く。


『美琴ちゃん達と、仲良くやりなよ』


 そう言って、球磨川禊は去って行った。

























































『ゴメン気が変わった』


 次の瞬間には。
 笑みを浮かべた球磨川禊が螺子を片手に走ってきて、わたくしの顔に螺子を嬉々として螺子込んだ。
170 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/07(金) 01:36:03.57 ID:TyffA5LS0
今回はここまでです。

佐天さん視点と黒子視点ではあえて、ちょっと文章の雰囲気を変えてみてます。
まぁ、三者三様の味方をしているので当たり前ではあるのですけど。


次回は、咲ちゃんで進むと思われます。
では、また次回。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/07(金) 01:38:58.73 ID:+v9obf8SO


流石球磨川えげつない
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/07(金) 02:01:27.26 ID:2FxMoEOe0
球磨川ってマイナス云々抜きにしてもカリスマスキル高いんだよな

ただし統率する気ゼロだけど
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/07(金) 10:06:31.74 ID:+5i7E05M0
乙乙
なんだ、なんだかんだここの全開パーカー先輩大人しいや
そう思っていた時期が私にもありました
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/07(金) 16:51:46.66 ID:hRvk44pxo
笑みを浮かべた球磨川禊が螺子を片手に走ってきてって凄い怖いな 妖怪か何かのレベル
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/07(金) 19:19:30.41 ID:dSe20HTRo
致命傷を食らってる球磨川の方が間違いなく不利なはずなのに全くそんなものを感じさせないな
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/07(金) 19:32:51.51 ID:fLEC66SAP
大嘘吐きもってなくても怖い
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/07(金) 21:06:02.96 ID:nP0HGFkTo
過負荷にどっぷり浸かってる時の球磨川の気持ち悪さは本当にすごいな
あと何人が壊され砕かれ潰され『なかったこと』にされるんだろうか
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/12/08(土) 20:07:04.05 ID:Ak2k4AiX0
球磨川が学園都市に来る話は速報ではこれで3作目だわ
ちゃんと完結させて欲しい
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/08(土) 22:19:33.03 ID:P0Cc9Eef0
>>178
ほかの2つってなに?
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/08(土) 23:05:19.48 ID:S7eyS+lgo
完結したやつと完結しなかったやつ
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/08(土) 23:09:01.77 ID:nW21GHa4P
単なる球磨川TUEEEEって話じゃないからおもしろす
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/09(日) 00:22:36.01 ID:AwLLW/OSO
そういやこの球磨川先輩って改心する前なんだよな……

グッドルーザー読んでたら
何故かマシになってるように見えたけども

そして成り行きとはいえこの球磨川先輩と一緒にいる殺気姫の苦労が計り知れん
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/10(月) 23:08:18.25 ID:OSKxAIPk0
黒子視点だと、気持ち悪さが全身の穴という穴から伝わってくるな……
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/10(月) 23:13:59.25 ID:96LIGpEZo
今週の球磨川さん久々にかっこいい
185 :名無しNIPPER [sage]:2012/12/10(月) 23:57:26.68 ID:Z8nt8+zAO
久々にデタラメな行動(よく考えるとちゃんとした理由が見えるが)したからな。
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/11(火) 03:55:30.16 ID:P+jBcRkIO
エイプリルフィクションの効果も気になるけど材料にしちゃったもう一つのスキルも気になるな

関係ないけど善吉再登場はないかもな
西尾はとがめの前科あるし
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/11(火) 13:30:01.26 ID:5qMTuELI0
>>182
ヒント、グッドルーザーは手ブラジーンズ先輩と同等の過負荷須木奈佐木さん視点の物語

>>184>>185>>186
とりあえず今週の全開パーカー先輩に関してはニコニコ大百科等で雑談すべきでは?
コミック派にとってはネタバレ以外の何物でもないし
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/11(火) 16:59:44.37 ID:YkX/iFK5o
>>186
『関係ないスレでageてまでつまんない考察カキコかよ(笑)』
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/12(水) 09:29:37.57 ID:o5ChJpnG0
ココで流れを読まずに

それにしても、佐天さんの行方も気になるが
この流れからの恋の行方も気になる
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/14(金) 18:14:55.36 ID:IthhKmQXo
これは尖ってた頃の球磨川さんだわ
今週のもどうせ善吉は普通に蘇ると思うよ
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/14(金) 18:31:19.98 ID:655FUomSo
つか原作善吉死ぬのもう何回目だよ
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/15(土) 20:28:53.95 ID:dX5kKPRo0
>>191
たぶん3回死んだ
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/15(土) 22:14:28.02 ID:OB37KK1B0
さすがデビル会長!
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/15(土) 23:47:02.71 ID:KsvyFCGSO
流石に雑談するのはやめようぜ
195 : ◆3e98J5/Lds [sage]:2012/12/16(日) 00:40:23.48 ID:k3WKm3Tz0
『明日更新するぜ』
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/16(日) 00:52:16.54 ID:lgLK2OYoP
正座して待っててやんよ
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/16(日) 09:28:22.60 ID:HrB5WtvYo
全裸で待っててやんよ
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/16(日) 10:58:14.94 ID:7ofwYndd0
裸エプロンで待っててやんよ
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/16(日) 12:10:33.86 ID:Hz92ypxH0
変態だ―――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/16(日) 16:04:45.84 ID:Q9G5K/130
変体して待っててやんよ
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/16(日) 18:07:59.33 ID:f+0abfZc0
変態1号一方通行!
まったく小学生は最高だぜェ!

変態2号垣根帝督!
メルヘンが好き!常識よりメルヘンがいいなあ!
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/16(日) 20:05:09.14 ID:Hz92ypxH0
変態3号御坂美琴!
パンツがなければ短パンを履けばいいのに

変態4号麦野沈利!
×××に焼きごての刑だァァァァァ!!!!!

変態5キルノートン!
メガネ…メガネ…メガネ…
203 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:11:31.09 ID:k3WKm3Tz0
ローソンでやってたジョジョのクジでスタープラチナが当たったけれど、すでに我が家には3種類くらいのスタープラチナがいらっしゃったので、どちらかというとC賞のクレイジー・ダイアモンドが欲しかった。ラストワンのソフト&ウェットは手に入れましたがね。



>>171 球磨川先輩は書けば書くほどだんだん書き抜くくなっていくという書き手にもえげつないキャラです。

>>172 DIO様みたいにアレな人たちからは崇められるタイプ。球磨川先輩は野心とかとは無縁そうな方ですけど。

>>173 いつから球磨川先輩はおとなしいと錯覚していた?

>>174 夜道で出くわしたら間違いなく泣きます。

>>175 『不利じゃないとマイナスじゃあないじゃないか』

>>176 却本作りもいいスキルなんですが、時系列的に出せないという。

>>177 それはこれからの安心院さんの筋書きによりますね。

>>178 >>179 >>180 一つは球磨川先輩というか、めだか勢が結構たくさん来てましたね。もう一つはオリジナル過負荷スキルが出てくる奴でした。使ってたのは禁書キャラですが、中々いい感じの球磨川先輩のマイナスっぷりでした。

>>181 やろうと思えば無双できるんですけどね。球磨川先輩を安易に勝たせてはいけないというイメージもあるのがつらい所です。

>>182 グッドルーザーの球磨川先輩はやや大人しめな印象もありますけどね。原作での初登場時付近に比べて

>>183 一般人から見ればあんな感じなんでしょう。

>>184 >>185 >>186 『週刊少年ジャンプの愛読者として、ネタバレなんてタブーはやめといた方がいいんじゃないかな?』

>>187 コミックスのおまけページでの瞳先生と半袖ちゃんの手ぶらジーンズは良い物でした。え、ロイヤルさん? 案外巨乳なんですね

>>188 『人が一生懸命考えているのを笑うなんて、最低だぜ? だから一緒に怒ってやろうぜ、何をするだぁー! ってさ』

>>189 佐天さんは案外使いやすいキャラです。下手に特徴がない分なんでもできる・・・活躍させられるかしら。

>>190 >>191 >>192 「死ぬなんて気軽に言っていいセリフじゃない。だから[ピーーー]」

>>193 そこに痺れないし憧れも特に・・・

>>194 このSSと関係ない雑談はちょっとご遠慮願いたいですね。

>>196 足のしびれにご注意ください。

>>197 冬なので風邪をひかないようにしてください。

>>198 あなたが男か女か、問題はそこだ。

>>199 シッ! 今まで言うのを我慢してたのに・・・!

>>200 蝶人パピ★ヨンはお帰りください。

>>201 >>202 レベル5勢にさらっと混じる天界人はいったいなんなんですかねぇ・・・? あの世界じゃレベル2にすらなるのは一苦労だというのに・・・

 新約6巻の表紙が格好いい。垣根さんが一方通行さんリスペクトみたいな見た目になってますけど。

 では投下します。投下中のBGMはジョジョ2部OP,「BLOODY_STREAM」です。シィィィィザァァァァァァァァ!!!
204 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:12:41.56 ID:k3WKm3Tz0











「でな、アイツももう少し怒りっぽくなきゃ良い奴なんだけど……」


 上条君の話を聞いたり聞き流しているウチに、色々と事実がわかってきた。
 
 学園都市第一位、一方通行と学園都市第三位、御坂さんには只ならぬ因縁があるらしい。

 まぁ、突っ込んだ部分は教えてはくれなかったけれど。

 その気になれば話術でぽろっと情報を引き出せそうな気もするけれど、ここではやめておこう。

 下手に警戒心を抱かれるよりも、今は味方を作っておいたほうが良い。

 球磨川君のせいで一瞬でパーティ解散なんて悲惨な状況も十分すぎるほどあり得るのだから、なるべくは大人しくしておこう。

 どうせ、今頃球磨川君も容赦ない事しているだろうし。


「成程ねー……やっぱり学園都市って、私達の学校とは違うね」

「ま、そりゃそうだ。こんな日常があっちこっちで溢れ返ってたらたまんねーよ」

「はは、確かに」
205 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:14:53.61 ID:k3WKm3Tz0


 他愛のない会話。

 コレをレベル5の能力者達とするのが目的……まぁ、ファーストステージは御坂さんの恋愛成就が目標なわけだけど。

 どうせ、レベル5のメンバーが後々のステージでも絡んでくるのだろうから、情報は集められるだけ集めておこう。

 非常食が非常時に少ないと困るのと同じように、使わなくともあるだけ無駄ではないのだ。

 …………というか、今まで話を聞いていて何だけど。

 ものすごく、個人的解釈が入っているけれど。

 上条君の話から推測するからに、おそらく御坂さんは上条君を嫌ってるわけじゃないんじゃないかな……?

 そもそも、真逆なんじゃないかな?









 つーか、御坂さんの好きな人って、上条君なんじゃないかな?









「……………」

「……? どうした? 須木奈佐木」
206 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:19:06.99 ID:k3WKm3Tz0



 やべーよ、真相辿り着いちゃったよ。

 いや、たどり着いたから終了、なんて話ではないけれど。

 これは大きな進展だ、何もない状態からゴール地点が見えたのだから。

 しかし、いよいよというかこれからというか、やっとと言うべきか、ここがスタート地点なのだ。

 ゴール地点が見えたとはいえ、スタート地点でもあるココからたどり着くには程遠い。

 なぜなら私や球磨川君に対する御坂さんの印象は最悪で、上条君は御坂さんの気持ちに一切気づいていないという状況。

 何なんだこのラブコメは。 
 
 違う、違うぞ。

 私や球磨川君はそんな作品に出演できるような人材ではない。

 私は気持ち的にはほのぼの日常系で、球磨川君はシュールギャグ。その辺りが妥当な所だろう。

 恋とか愛だとか、そんなのはどこか違う学校でやってほしい。


「い、いや、何でもないよ」

「? そうか、ならいいんだけどよ」


 何も良くないよ。

 運も勘も頭も全部悪いよ。
207 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:20:19.43 ID:k3WKm3Tz0












『おいおい咲ちゃん、僕が居ないからって他の男とデートだなんて、妬けちゃうぜ?』











 ……もっと悪いのが来た。

 最悪のタイミングで、最悪な人が。


「く、球磨川君……」

『まぁ、僕も可愛い女の子とちょっとはしゃいでたから、大目に見よう。で、君は?』

「ん? ああ、俺は上条当麻。アンタは……ええと」

『球磨川禊だ、よろしくね当麻ちゃん。君とはいい友達になれそうな気がするよ』


 球磨川君が右手を差し出す。つまりは握手を求める行動をとったわけだけど、どうにも意外だ。

 あの球磨川君が、握手なんて言う極めて基本的な対人コミュニケーション行動を取れるだなんて。


「こっちこそよろしくな」

 
 上条君も、何の考慮も疑いも無しにその手を握り返した。
208 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:22:09.45 ID:k3WKm3Tz0



 さながら長らく顔を合わせていなかった親友同士の体面に見えなくもないような、そんな青春的で爽やかな光景だったけれど、二人が握手を交わした瞬間、不可思議な現象が一つ起こる。






 パキンというか、バリンというか、何か凄まじく透明な物が砕け散ったような、そんな綺麗な破壊音が二人の手の辺りから聞こえたのだ。





「え、何今の?」

「……」

『……』


 何が起こったのかわからない、のが当たり前なんだけれども、狼狽えているのはどうやら私一人らしい。

 上条君は何やら神妙な面持ちで、球磨川君はニヤニヤといつもの笑みを浮かべて、お互いの顔を眺めている。

 対照的な二人の顔は、それでも何故か似ているように思えた。

 まるで、普通の鏡と歪んだ鏡の合わせ鏡みたいに、同じものを映しているのに別のものが映ってしまっているような。

 そんな、気持ち悪さとはまったく別種の、果てしなく奇妙な感覚がある。


「…………お前、外から来た人間……なんだよな?」

『そうだよ。こんな学園都市みたいなところとは真逆の、普遍的な平和の続く学園から来たんだ』


 嘘を言え嘘を。
 
 蛇籠飽の恐怖政治を強制的に終了させ、私が助言し後押ししたとはいえ生徒会長に就任、というか祭り上げられて、誰よりも下に居ながら学園の頂点を掌握している球磨川君が居る水槽学園の何が平和なのか。

 まぁ、私は平和を愛する学生ではあるので、そして球磨川君も限りなくマイナスではあるけれど、別に戦いを好むような好戦的なキャラでもないので、表面上的には平穏なのかもしれないけれど。
209 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:25:02.94 ID:k3WKm3Tz0
「……お前」

『安心しなよ。僕達は敵じゃない』


 味方になった覚えもないんだけれども。
 
 まぁ、それは別に良いか。

 そもそも球磨川君に味方なんて出来っこないんだから。


『僕から何かするつもりは全くないよ。でも、最近この辺りも物騒だからねぇ、美琴ちゃんも、もしまたあんな事が起きたらどうするつもりなのかな?』

「!」


 球磨川君の口から、御坂さんの名前が出てきた。

 しかも、何やら何かを知っている口ぶり。

 え、まさか、球磨川君に情報収集で負けた? 安心院さんなしに?

 ……ショックだ。スパーキングだ……。


「お前……御坂妹達の事知ってるのか……?」

『あの子は随分辛い目にあったみたいだね。それもこの学園都市が生み出したマイナスのせいなのだろうけど、学園都市に暮らす君達の殆どはアレについて知らないというから驚きだよね』

「……」

『だけどね、当麻ちゃん。僕は違う、学園都市の人間じゃないし、君達の敵でもない。外のツテ、外の情報がある。僕も大体は把握しているけれど、全てを知っているわけじゃない。けれど、僕と当麻ちゃんが力を合わせれば、もしかしたらあの悲劇を「なかった事」に出来るかもしれない』
210 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:26:25.87 ID:k3WKm3Tz0

 球磨川君が語る。

 語りと言うよりかは、歌っているかのような滑らかさだ。

 息を吸う様に人の悪意を飲み込み、息を吐くように自身のマイナスを吐き出す。

 ただそこに居るだけでマイナス。

 そんな球磨川君のマイナスに、上条君は気づかない。


『だから、君の知っていることを教えてくれないかな? 僕は、美琴ちゃんの力になりたいんだ』

「…………」


 警戒してるなぁ。

 まぁ、当たり前だけど。


『僕がどんな存在なのか、それは君にはわからないかもしれないけれど、美琴ちゃんのための行動をしたいっていうのには間違いないぜ』

「…………わかった。俺には殴って止める事しか出来なかったからな、御坂の力になれるなら話すさ」


 ああ。
 
 もう、手遅れだ。

 ここで球磨川君と上条君の、鏡合わせの決定的な間違いが出てしまった。

 ありとあらゆるものに真面目に取り合わず、そして人を信用する事も信用されることもない球磨川君と。

 ありとあらゆるものに真面目に挑み、そして人を信用する事で今までを過ごしてきた上条君の。

 二人の違いが、顕著に如実に決定的に、残酷に現れた。
211 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:29:49.20 ID:k3WKm3Tz0



 二万人に及ぶ第三位の人造クローン。

 そしてそれを殺害することによる能力者の進化実験。

 その検体は、学園都市第一位の超能力者、一方通行。

 目指すところは、学園都市の頂点にして人間を超えたあかしでもあるレベル6という領域。

 最強ではなく、無敵。

 そのために、単価18万円の軍用クローンは様々なシチュエーションで殺害された。

 容赦なく。

 悪意なく。
 
 もしかしたら、殺意すらなかったかもしれない。

 スチールウールの燃焼実験を見守るような、そんな純粋さがどこかあったのかもしれない。

 なぜならば、ここは学園都市。

 実験の街。

 この街全てが実験場。

 この街の人間すべてが実験体。

 どうしてそれに気づかないのか、私は不思議でならない。

 自ら実験体になる事に、何の疑問を抱かないのだろうか。

 良くわからない何かになるために、わざわざこんな所へ来ることに何の恐怖も抱かないのだろうか。

 どうして自分が生きているのか、何のために生きているのか、それにすらも。




『……話してくれてありがとう、当麻ちゃん。僕はこの情報をもとに、出来る事をしてみるよ』

「ああ、俺も出来る事があれば協力する」
212 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:39:02.11 ID:k3WKm3Tz0

 私は特に口を挟まずに、上条君の話を聞いていただけだけど、聞かされた情報は明らかに機密とされるべき情報だよね、コレ。

 でもまぁ、何となく協力者も確保して、そして重大すぎる情報も手にした。

 これは大きな進展ではあるのだけれども、球磨川君がやると正規ルートの攻略と言うよりかはチート、製作者のミスに付け込んで無理やり突破しているような理不尽さがある。


『じゃあ、また近いうちに』


 球磨川君が立ち去ったので、私も上条君に一度頭を下げてからその後についていく。

 ……さて、と。

 そろそろ、お話が進みそうだ。
213 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:40:12.49 ID:k3WKm3Tz0
















 ホテルへと戻ってきた私と球磨川君。

 ふと、私は疑問に思っていたことを球磨川君に聞いてみた。


「そういえば球磨川君、どうやって御坂さんの実験の事を知ったの?」

『ん? ああ、何も知らなかったよ』

 
 うすうすはそうかもと思っていたけど、やっぱりそうだったんだ……

 
『何となく、重大そうな過去がある風に喋ったら向こうの方から話してくれたからね。馬鹿だよねー』

「まぁ、あんまり勉強できそうには見えなかったけど……そういえば、さっき球磨川君と上条君が握手した時、何か変な音がしたけどアレは何だったの?」

『さぁ? ただ、僕の「大嘘憑き」が強制的に邪魔されちゃったのは確かだけど』

「え?」

『実は、握手した時に「当麻ちゃんの存在」をなかった事にしようと思ったんだけど、何か失敗しちゃったんだよね。まぁ当麻ちゃんなんてどうでもいいからどうでもいいんだけど』



 どうでもよかったって。

 というか、さらっと流されたけど、下手をしたらあの場で完全犯罪が起きていたわけだよね? いや、私と言う目撃者がいるから完全犯罪と言えるのかどうかはわからないけれど。
214 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:40:58.45 ID:k3WKm3Tz0

『けれど、これではっきりした』

「何が?」

『ファーストステージの攻略法さ。まぁ不十分なところもあるけれど、美琴ちゃんが好きなのは当麻ちゃん。そして二人にあった出来事。コレが知れたならもうやる事は決まってるよ』

 
 何時もの事ではあるけれど、球磨川君が何を考えているのか、それはさっぱりわからない。

 理解不能な人間と一緒に行動することは不気味で気持ち悪い事ではあるのだろうけれど、それももう慣れてしまった。

 慣れる、というのは恐ろしい事だ。

 どんな環境にすら適応してしまう、という事。

 球磨川君の様に、この世の全てに負けるというマイナスの立ち位置にすら、球磨川君は慣れてしまっているという事だ。

 不幸である事、マイナスである事、悲惨である事、それを球磨川君は望み、受け入れ、踏みにじる。

 他人の恋路を邪魔して馬に蹴り殺される様なミスは、決して起こさない。

 恋路を助けようとして、恋を実らせようとして熟させすぎて腐らせてしまうような、台無しに誘い引きずり落とすのだ。

 そんな球磨川君の策略は――黙って見届けるしかない。




『ま、今日の所は帰って休もうか。何かおいしい物でも食べようよ』


215 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:42:35.76 ID:k3WKm3Tz0











 やぁ、久しぶり。

 え? 別に久しぶりじゃないだろって? いやだなぁ、今のは別に球磨川君に対して言ったわけじゃないよ。

 誰の言ったのか、それはまぁ、各々の考え方次第、といった所かな? 携帯端末から見ている人や、デスクトップから見ている人もいるだろうからねぇ。

 ま、そんな事はどうでもいいんだ。

 重要なのは、これからの事だ。

 まずはおめでとう、と君を称賛する事から始めよう。

 君の場合、賞賛の言葉よりも蔑みの言葉の方が喜びそうな気もするけどね。

 いや、蔑まれて喜ぶ人間と言うのは、案外たくさんいるんだよ。

 そういう人は、君の様にマイナスの素質があるのかもね。

 とはいっても、君ほどじゃないが。

 まぁ、何がおめでとうなのかと言うと、よくぞ僕が仕掛けたファーストステージである御坂ちゃんの恋煩いの相手を見つける事が出来た、という事だ。

 それに、色々とオプションとして重要な情報も入手したみたいだしね。

 最も、それには須木奈佐木ちゃんの協力が不可欠だったわけだが、須木奈佐木ちゃんはここには来れないからね、君を称えることにしたんだ。

 と、言ったはいいけれど、僕としてはもう少しテンポ良く進めてほしい所だね。
216 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:43:56.28 ID:k3WKm3Tz0


 つまりは、球磨川君。君のマイナスとしてのマイナスな魅力を見せてほしい、というわけなんだよ。

 僕は中学で君がどれほどの逸材なのかはわかっているけれど、それを再確認したくなったんだよ。

 そう、あの子、ありとあらゆることに勝利する主人公であることを生まれながらに義務付けられたような、君を追い出したあの女の子の対極に位置する君の。

 同一直線状を正反対に歩む君とあの子を、僕はもう一度見たくなったわけだ。

 まぁ、この街には君とある意味で同一直線状の正反対に居る男の子がいるにはいるんだけどね。

 この街で物語を語る場合、彼と関わる事は逃れることの出来ない宿命みたいなものだから、まぁ彼と関わるときを楽しみにしていたまえ。

 では、本題へシフトしよう。 

 今回僕が訪れたのは、まぁなんというかボーナスみたいなもんだ。
 
 つまりは、君にプレゼントがある。

 おいおい、女の子が男の子にプレゼントを贈るというんだ、もう少し楽しそうな顔をしてくれてもいいんじゃないか?

 今回は本当に役立つものだぜ。ほら。

 ……これが何かだって? 球磨川君、いくら君ほどのマイナスと言えど、コレが何であるかはすぐわかるところだろう。

 見ての通り、種も仕掛けも何もない、どこにでもありそうな平凡なライトノベルだよ。

 ちなみに、僕が書いたわけではないから安心しろよ。

 普通に市販されているラノベだぜ。
217 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:45:14.00 ID:k3WKm3Tz0
 今も続いていて、アニメ化も二回した有名作だ。外伝的な物語も一度アニメ化し、二期が最近決定したよ。漫画版も二種類ほどあって、原作に沿っている方と外伝の方があるね。

 まぁ、漫画版は今度書店で確かめてみなよ。僕が今回用意したのは原作であるラノベ版であって、二十三冊だ。

 え? 一巻が二つあるだって? よく見てみろよ、微妙にタイトルが変わっているだろう? ちなみにリメイクとかではなく、新章的な意味での変化なんだけどね。

 現在発売されているすべての巻を持ってきたわけではないけれど、これを読めば、きっと君はこの街で有利に立ち回る事が出来る。

 ……どうして今回はこんなに手を貸すのか、だって?

 そうだね、どう答えれば君が満足するのかはわからないけれど、しいて言うなら限界を見極めたい、かな。

 人外であり一京のスキルを持つ僕が、人間の限界を知りたいと思う事は当然の事じゃないかな?

 限界を超える為に人間をやめた吸血鬼がいたけれど、僕は人間の本当の限界というモノが視てみたいんだ。

 つまりは、球磨川君。

 君と言う、敗北主義を体現したような敗北者が、一体どこまで敗北できるのか。

 最初から最強装備を与えられ、強くてニューゲーム状態の様にクリアルートまでの情報も手に入れた状態で、それでもなお君は敗北し、かつ笑っていられるのか。

 楽しみだよ、球磨川君。プレイヤーである君よりも、ウォッチャーである僕の方が楽しんでいるよ。

 じゃあ、それを読み終えたら向こうに戻るといい。

 球磨川くん。稀代の敗北者、球磨川禊くん。

 1000年に一度の主人公の宿命を背負った女の子と対をなす、人類史上唯一と言ってもいいラスボス気質の男の子。

 勝利よりも美しく、そして卑怯よりも陰湿な敗北を、僕に、僕達に見せてくれたまえ。
218 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:49:25.24 ID:k3WKm3Tz0








『……』

 
 翌朝。
 
 起床した球磨川君は気性が荒そうな顔をしていた。

 いつも能天気というか、能面的な笑顔を浮かべている球磨川君にしては、こんな表情は珍しい。


「どうかしたの? 球磨川君」

『……まぁね』


 これは本当に一大事だ。

 あの球磨川君が嫌みも憎たらしいセリフも吐かずに軽く流すだなんて。

 
『特に興味のない本を、しかも活字本を20冊以上読まされるっていうのは案外拷問になるね』

「え?」


 良くわからない事を口にする球磨川君。まぁ良くわからないのはいつもの事なんだけれども。

 確かに、興味のない文字を永遠読まされると言うのは、かなりの苦痛だろう。

 読んでいるうちに興味が湧いたりすればまた話は別なんだろうけれど、それでも本当に興味が無いと言う状態が続けば私も間違いなくウンザリするだろうし。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/16(日) 23:50:39.68 ID:3jXW16cj0

さりげなくえげつない行為をしてるなw
220 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:51:22.23 ID:k3WKm3Tz0

『コーヒーを入れてもらえるかな? ああ、拳銃に溢さない様に気を付けてね。世の中そんなに甘くないからね』


 なんだか本格的に球磨川君のセリフが支離滅裂な物になっている。



 そういえば、拳銃と聞いて安心院さんが仕掛けてきたゲームのチュートリアルで出会った鉄砲撃さんを思い出した。

 射撃の腕前が世界レベルの彼女は安心院さんから、借りたと言うスキルを使って、球磨川君を一度死に追いやった。(まぁその前に彼女自身も一度死んでいるのだけれど)

 『ロシアンルーレットの必勝法を見つけ出せ』なんていう無理難題を突き付けてきた彼女を、球磨川君は球磨川君らしい、いかにもと言った解答法で論破し、もう一度彼女を死なせた。

 これだけ言うと、短い間に母校で三人もの死者が出たわけだけども、その死は全てなかった事にされており、記憶には残り記録には残らない事件になったわけだ。

 そんなわけで、微妙に因縁のある拳銃と言う凶器だが、もちろん私と球磨川君が利用しているホテルの部屋には備え付けられているわけもなく、入手しようとすれば間違いなく法に引っかかりそうなので、コーヒーをこぼすとどうなるのかちょっとだけ、本当にちょっとだけ気にはなるけれど、普通にコーヒーを入れることにした。

 このホテルに備え付けられたコーヒーは見るからに高級感漂うブランド物で、別にコーヒーに思い入れのあるわけではない私が飲んでもその価値はあんまりわからないんだけどね。



 ブラックコーヒーしか呑まないような人が居れば、違いはわかるかもしれないけど。


221 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:52:24.96 ID:k3WKm3Tz0




 一服。

 一服盛ったわけではなくて、休憩と言う意味での、小休止と言う意味での一服だ。

 別にまだ何もしてないんだけれども、すでに疲労の極致を超えて疲労のマイナスに居る球磨川君を市中連れまわすのは何となく悪い気がしたので、私も自販機で買ってきたレモンティーをストローでチビチビ飲んでいる。

 
『疲労のマイナスって、どちらかというと元気な気がしないでもないよね』

「ん? ああ、まぁ……」


 確かに、そうかもしれない。

 数学の問題文で有りそうな、点Pが負の方向にマイナス3進んだ場合の点Pの位置を答えろ、みたいな感じの問であれば、点Pはプラスの方向に存在している。

 例えが適切かどうかはわからないけれど、つまりは一つのモノから悪い物がマイナスされれば、それはプラスになる、という事だ。

 ……あれ? じゃあ球磨川君がこれほどマイナスなのは、実は球磨川君は良い奴だった、みたいな話になるのかな?

 ゴメン、今の全部無しで。


『まぁ、イイや。受験勉強だと思えばいい。おかげで知識は手に入ったからね』

「知識?」

『うん。ある程度は適当にはぐらかすつもりだったけれど、不完全だった作戦は負完全になったよ』


 言葉ではよくわからなかったけれど、二つの「ふかんぜん」の「ふ」は別の「ふ」を使ってるんだろう。

『じゃあ、いこうか』

「行くって……御坂さんの所?」

『うん。まぁどこにいるかはわからないからね、ちょっと呼び出ししてもらうよ』


 そう言って、球磨川君は携帯を取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。


 ……球磨川君のアドレス帳に人の名前があるだなんて、これは世紀の大発見なんじゃないだろうか。
222 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:54:49.56 ID:k3WKm3Tz0











 エンドレスリピート。

 というよりかは、壊れかけたラジオの様に、一つの言葉、文章だけが私の耳を、私の脳を、塗りたくられた様に包み込んでいた

 永遠と、エンドレスにリフレインしてリピートされる。

 ウロボロス、尾を食い合う二匹の蛇は永遠を現しているけれど、この場合は蛇ではなく、もっと悍ましい何かに食いつかれているような気すらしてきた。

 そう、悍ましい。

 私が見てきた何よりも、この学園都市の暗部ですらあれほど不敵で負的な人間はそうそう居ないだろう。

 超能力は、人殺しの力。

 それを私は否定した。けれど、私は見てきた。

 最強の能力が、一万人以上の人間を[ピーーー]のを。

 まるで兵器の試し打ちでもするかのように。

 人間を実験動物としか思っていない、この街の裏側を。

 だからこそ、あの言葉がねちっこく私の耳から離れない。

 そんな事はないのに。

 私が磨き上げてきたこの能力は、そんな事の為に使う力ではないのに。
223 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:58:35.08 ID:k3WKm3Tz0




 と、泥沼に嵌った私の思考を呼び戻したのは、ポケットから聞こえる軽快なメロディ。

 一週間くらい前に設定した携帯の着信音だ。

 画面を見ると、表示されていた名前は――私の数少ない、本当に気を許すことのできる格好いい友達の一人。


「もしもし、どうしたの? 佐天さん」

『どもどもー御坂さん。今電話してよかったですか?』


 よかったどころか、助かったくらいだ。

 あのままだと、思考だけじゃなくて精神までもが泥沼から抜け出せなくなってしまいそうだったから。


「うん、全然大丈夫」

『よかったー。んで御坂さん、今日暇ですか?』

「今日? 特に予定ないけど……」

『実は、御坂さんに相談に乗ってもらいたい事があって……』
224 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:59:13.37 ID:k3WKm3Tz0
 相談、か。

 佐天さんにしては珍しいな、どうしたんだろう。

 もしかして、能力に関してとかかな?


「いいわよ。初春さんと黒子も呼ぶ?」

『あ、二人は今回は大丈夫です。御坂さんだけに聞いてほしくて……』

「? まぁ、わかったわ。じゃあ、待ち合わせは――


 とりあえず、時間と待ち合わせ場所だけ決めて通話をきる。

 黒子はまだしも、大親友である初春さんにも内緒で、私だけに話だなんて……初春さんと喧嘩でもしたのかな? でもそれだったら黒子にも話を聞いてもらうだろうし。

 
 と、適当に予想を立てていたところ、また私の携帯が鳴った。

 何か言い忘れでもしたのかなと思ったけれど、表示された名前は佐天さんの名前ではなかった。
225 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/16(日) 23:59:58.07 ID:k3WKm3Tz0
「初春さん……?」

 何と言うか、親友なだけあって、タイミングがばっちりだなぁ。

 これで二人とも仲直りの仲裁のお願いだったら、明日ドッキリで鉢合わせてみるのも面白そうだ。

 とりあえず、通話ボタンを押して応答した。


『御坂さんですか!?』

「はいはいーい、御坂さんですよーっと。で、初春さんはどうしたの?」


 私は軽く尋ねてみる。





















『白井さんが昨日の夕方から行方不明なんです! 何か知りませんか!?』




226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 00:03:08.21 ID:Q2giGy/fo
わぁい^^
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 00:03:59.68 ID:Q2giGy/fo
>>226
オウフ……誤爆っく
228 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:05:21.33 ID:Su+kAeOP0



 約束の時間、約束の場所。

 約束した友人は、約束通りに来てくれた。


「こんにちは御坂さん! 待ちました?」

「ううん、私も今来たところだから……」


 なんだかデートのテンプレみたいな会話だなと思いつつ、実の所三十分前に来ていた私は、とりあえず会話を先制することにした。


「佐天さん、昨日の夕方から黒子が行方不明になってるの」

「え、そうなんですか?」

「ええ。何でも白井さんが言うには能力者同士の喧嘩を止めに行ったらしいんだけど……それっきり」

「あの白井さんが、ですかぁ……」


 黒子は学園都市でも希少な、空間移動能力者だ。しかもその強度はレベル4。

 そこらのチンピラはおろか、腕に自信のある奴でも黒子に勝てる奴なんてそうそういない。
229 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:06:09.37 ID:Su+kAeOP0

「それで、お願いなんだけど……」

「白井さんを一緒に探して、ですよね? わかってますよ、私達、友達じゃないですか!」


 佐天さんの魅力の一つである、快活な笑顔に私も表情を緩める。

 この子は、強い。

 能力なんてなくても、人と人は友人で居られるという事を改めて教えてくれるからだ。

 嘗て、ちょっとだけ、学園都市の闇に、レベル0が抱える闇に落ちかけてしまった事はあるけれど。

 そこから立ち直った彼女は、きっと、私とは比べ物にならない程、強い。

 強くて、優しくて、友達思いの――





















「でもまぁ、そんな事より、まずは先約である私との約束をお願いしますね!」


230 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:06:44.95 ID:Su+kAeOP0

 ……。

 ……確かに、佐天さんも何か重要な話が合って、私だけを呼び出したのだろう。

 私はその約束を果たすためにここにきているのだから、それを優先すべきなのは当然のことだ。

 けれど。

 けれど、黒子が。友人が行方不明になった事を、「そんな事より」と言って後回しにするのは。

 
「あ、クレープでも食べます? 奢っちゃいますよー」

「え? い、いや、あの……ちょっと、佐天さん」

「遠慮しないでくださいよ御坂さん! 何食べます? 私的にはこのイチゴとクランベリーの――


「佐天さん!」



 私は怒鳴る。

 怒鳴らざるを得ない。



「……」

「黒子が、友達が行方不明なのよ? そりゃ何も佐天さんの相談を無視して、なんて言わないけど、そんな蔑に――」



「御坂さん」
231 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:07:58.55 ID:Su+kAeOP0


 佐天さんの笑顔。

 いつも見せてくれた、快活な笑み。

 の、はずなのに。

 どうしてだろう。

 どうして私は、こんなに怖いんだろう。



「御坂さんは、私の相談よりも白井さんを優先するんですね」

「そうは言って――」

「もしも私の相談が、私の人生を大きく左右するようなものだったとしても。私のお母さんとお父さんの命がかかっているような重要なものだったとしても、御坂さんは白井さんを優先するんですね」

「…………佐天さんの両親に何かあったの?」

「いえ、たとえば、の話ですよ。私のお父さんとお母さんは多分今も元気ですよ。多分、多分ですけどね」


 何だ。

 何だ、これは。

 どうして。

 どうして、被る?

 佐天さんと、あの男の姿が。

 どうしてこんなにも、被って見えるのだろう。
232 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:08:50.61 ID:Su+kAeOP0

「ま、イイですよ。もしかしたら危篤状態かもしれない私の両親と、もしかしたら人生の重要な分かれ道に立っている可能性が無きにしも非ずな私の事は、今は置いておきましょう」


 くるりと。

 幽雅に身をひるがえし、佐天さんは私に背を向け歩きはじめる。


「御坂さんが私よりも私の両親よりもイチゴとクランベリーのブルーベリーソースクレープよりも優先する、白井さんに会いたいですか?」


「っ! 佐天さん、黒子の居場所を知ってるの!?」

「いえ、私は知りませんよ。私は知ってるかもしれない人が来る場所を知ってるだけです。あの人は気まぐれですからねぇ」

「…………」

「ついてきてください。ついてこなくてもいいですけど、ついてきた方がいいんじゃないですかねぇ。まぁ、その選択がツいてるかツいてないかは御坂さん次第ですよ」


 そんな事、考えるまでもない。
 
 着いていくしかない。

 それが運の尽きかどうかなど、関係ない。

 世の中不幸不幸言っていても人を救える馬鹿な男も居るのだから。

 少しくらい不幸であっても、少しくらいマイナスな人生であっても。

 友人を見捨てていい事にはならないのだから。

233 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:09:59.58 ID:Su+kAeOP0









 連れてこられた、というか、着いてきた場所は――恐ろしい程に、因縁的な場所だった。

 操車場。

 嘗て、私にある意味で最も近い命達が救われた場所でもあり。

 嘗て、最強が最弱に倒された場所でもある。


「……で、その人は?」

「わかりません。来ると言っても来るかどうかわからないですし、来ないと言っても勝手に来るような人ですから」


 それは単なる人でなしではないのだろうか。

 しかし、ここに私を呼び出すという事は、少なからず私の過去について知っている人間かもしれない。

 例えば、この街の暗部。たとえば、あの実験に関わった研究者。

 だけど、そんな人が、どうして佐天さんと――――


「ん? あっ、よかったですね御坂さん。来ましたよ」


 佐天さんが両手を振って、私の背後に笑顔を向けた。
234 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:10:47.11 ID:Su+kAeOP0
















『この場所は美琴ちゃんの思い出の場所らしいね』













 声がした。
 
 恐ろしく、悍ましく、おどろおどろしい声が。


『……無視すんなやこらー、とか言った方がいいのかなぁ? まぁ、どうでもいいけど』



 振り返る。

 そして、振返りたくない光景がフラッシュバックする。

 黒い学ラン、黒い髪、スリムな体型、あどけない笑顔。

 そして、吐き出される過負荷。


 球磨川禊は、佐天さんの笑顔に笑顔で答えていた。
235 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:12:38.37 ID:Su+kAeOP0





 
 ああ、やっぱり。

 ちょっとだけ、本当にちょっとだけ予想はしていたけれど、御坂さんは引きつった表情をしていた。

 そりゃあねぇ。

 大切な友達が球磨川君何かと親しくしていたら、そんな表情にもなるよね。

 私だって櫛ちゃんが球磨川君とデートなんてしていたら、もう国中の人間を操って邪魔してやろうって気になるもん。

 ご愁傷様、御坂さん。

 あなたは悪くないよ。


『ありがとう、涙子ちゃん。きっと美琴ちゃんは僕が呼んでたら来てくれなかっただろうからね』

「いえいえ、これくらいお任せあれですよ!」


 しっかし、仲良くなったなぁ。佐天さんと球磨川君。

 私が居なくなった後で、一体何があったんだろうか。

 まぁ、ちょっとだけ、本当にちょっとだけだけど、私も予感はしていたしね。

 佐天さんは、球磨川君と似てはいないけれど、同じようなタイプの人だって。
236 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:14:40.11 ID:Su+kAeOP0

『さて、と。美琴ちゃん、君が知りたいのは何かな? 涙子ちゃんの事? それとも行方不明の黒子ちゃんの事かな?』

「……アンタが……黒子を……ッ! 黒子をどこにやったの!?」

『うん、やっぱりね。ほらね涙子ちゃん、言っただろう? 美琴ちゃんは君と黒子ちゃん、どちらかを選ぶ選択肢を与えられたらすかさず黒子ちゃんを選ぶだろうって』

「私も信じてたんですけどね。これがレベル4とレベル0の差って奴ですかねー」

「……ッ! そ、それは黒子が行方不明だから!」

『どんな時だって、どんな状況だからって、どちらも友人である事には変わりないだろう? 君は友達に優劣をつけた。優先順位をつけたんだ。美琴ちゃんにとって涙子ちゃんよりも黒子ちゃんの方が優先すべき存在であった、っていう事には変わりないんだからさ』


 酷い誘導尋問だ。
 
 完全に白井さんの名前を答えざるを得ないような状況と選択肢を叩きつけておいて、コレだから性質が悪い。

 人道とか条理とか、そういうモノは関係なしに、感情論を吐き捨てて、結果だけを本人に叩きつける。

 球磨川君ならきっと、可愛らしいフワフワのウサギと毛皮を全て剥がされたウサギを並べられても、どちらも迷いなく可愛いと撫でるのだろう。

 撫でる行為が、痛覚神経を刺激している事なんて全くのお構いなしに、球磨川君なりに愛でるのだろう。
237 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:15:46.96 ID:Su+kAeOP0
『けれど、涙子ちゃん。落ち込んじゃいけないぜ?』

「はい、わかってますよ球磨川さん!」

『裏切られても、信用を蔑にされても、優先順位の下位にされたとしても、それでも美琴ちゃんは涙子ちゃんの友達なんだから』

「ええ! 御坂さんにとって私は白井さん以下の友人です!」

「……ッ!」


 以下。

 ○○以下、なんて見定め方をされたら、誰だって少しはカチンとくるだろう。

 けれど、球磨川君はそれをポジティヴに考えた。その結果、凄まじくネガティヴな結論をたたき出した。

 ○○以下ではあるけれど、それでも友達には変わりない。

 君と私は友達だ。

 優先はされないけれど、どちらかを選ぶときは迷わず切り捨てられるけど、それでも友達なんだから許してあげよう、という寛大な心を持てばいいと。

 
238 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:16:28.06 ID:Su+kAeOP0
『さて、と。じゃあ美琴ちゃんの聞きたい事について話そうか。えーっと、なんだっけ? 黒子ちゃんがどうなってるかだったっけ?』

「…………」

『そう睨むなよ。ま、安心すると良いよ。黒子ちゃんは今頃僕達が居たホテルで寝てるだろうからさ』


 おや、いつの間に。

 少なくとも球磨川君の部屋と、私の部屋には居なかったように思えるけれど。


『昨日黒子ちゃんと遊んだんだけど、疲れちゃったのかな? 寝ちゃって目を覚まさないからさ。涙子ちゃんに僕達の居たホテルまで運んでもらったんだよ』

「白井さん、もっと食べないと駄目ですよアレ。軽すぎてびっくりしましたもん。御坂さんからも言ってあげてくださいね?」


 大方、私か球磨川君の部屋の隣にでも寝かせておいたのだろう。

 球磨川君にとって扉の施錠なんてものは無意味でしかないし、例えその部屋に先客が居ようとも女子中学生を放置していくくらいの事なら普通にするだろうし。


「……」

『ちなみに、黒子ちゃんは僕の事を覚えていない。それどころか、僕に関係するありとあらゆることを忘れてしまっているよ。ま、忘れたと言うよりも「なかった事にした」んだけどね』
239 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:18:06.69 ID:Su+kAeOP0

 怪我だとか死を『なかった事』にする、この世で最も恐ろしくてマイナスなスキルである球磨川君の『大嘘憑き』

 人の記憶を、しかも自分に関する事だけを完全に消してしまえるだなんて、恐ろしく使い勝手がいいスキルに思えるけれど、それは間違ってる。

 『なかった事』を『なかった事』には出来ない。つまりは、取り返しがつかないという事だ。

 つまり、球磨川君がその気になれば、いや、その気にならなくても世界の基準は消えてしまう。

 一メートルの長さが100センチではなくなり、一キロの重さが1000グラムではなくなってしまうのだ。

 それがどれほど恐ろしい事か、わかるだろうか。

 絶対的に頼られる基準、何がどうあろうとそこにそれしか存在しない絶対値。それがマイナスに傾いてしまえば、世界は多分終わってしまう。

 大きくて重いものほど、不安定になった時修正するのは難しい。

 それが、地球という大きく重い物であるのならば、修正は絶対に不可能だ。

 
『だから、今頃目を覚ましてる頃じゃないかな? よかったね、この後涙子ちゃんも連れて一緒にクレープでも食べに行こうよ。先輩として、僕が奢ってやるぜ』

「さっすが球磨川さん! 太っ腹ー!」


 まるで、同じ部活動に所属する先輩と後輩、もしくは生徒会の先輩と後輩みたいだ。

 別に嫉妬だとか、そんな感情を私は例え気が狂ったって球磨川君に抱く事はないだろうけれど、御坂さんはどうだろうなぁ。

 信頼できる友達が、あんな悪い先輩とつるんでいるなんて事を知ったら。
240 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:20:30.15 ID:Su+kAeOP0






 ……まぁ、やっぱり、あんな顔をするだろうね。

 悔しいだとか、ムカつくだとか、マイナス過ぎてよくわからなくなっちゃったような、そんな美人が台無しの顔。

 同じ女の子として、ちょっとだけ、本当にちょっとだけだけど、同情してしまう。

 あんな顔をしていることに対して、じゃなくて。

 球磨川君と知り合ってしまった事を、球磨川君に関わってしまった事を。


『……と、涙子ちゃんのお話はここまでだ。じゃあ、次は僕の話題に移らせてもらうよ』

「……」


 バチッ、と。

 御坂さんの周りでバチバチと耳障りな音が連続して聞こえてきた。

 それと一緒に、瞬きせずにはいられないような強い光も。


『そんなに電気を出さなくたっていいじゃないか、ピカチュウじゃあるまいし。それに、僕の話題と言うか、ぶっちゃけると美琴ちゃんの話題なんだし』

「…………私の?」

『そうだ。僕と咲ちゃんは君の恋のキューピットになりに来たんだぜ』


 球磨川君が恋のキューピット。

 ……なんだか、弓矢じゃなくてボウガン、弓の先には毒を塗るくらいの事はしそうな撲殺天使ではなく毒殺天使のイメージが湧いてしまった。
241 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:21:26.07 ID:Su+kAeOP0
 
「はぁ?」

『好きなんでしょう? 僕の事が』

「球磨川君、ふざけるなら私も御坂さんの味方するけど」


 全世界の女性を敵に回す発言をしやがった。何様だよ、球磨川君。

 ……生徒会長様だったよ、球磨川君。


『もとい、当麻ちゃん――上条当麻の事が、さ』

「っ!? べ、別に私はあんな奴!」


 わっかりやすいなぁ、御坂さん。

 上条君とは全く別の意味で、物凄くわかりやすい。


『けどね、美琴ちゃん。今のままじゃあ君の言葉はどうやったって届かない』

「あ、アンタなんかにそんな事言われる筋合い無いわよ」

『人の意見は聞かなきゃ駄目だって、お母さんや学校の先生、それに妹なんかには習わなかったのかい?』

「……」

『とにかく聞けよ、センパイの言葉だぜ。美琴ちゃん、君の言葉が彼の心に届かないのには理由がある』


 偉そうだなぁ、生徒会長様。

 まぁ、間違ったことは言っていないのかもしれない。
242 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:22:33.31 ID:Su+kAeOP0

「……理由、って、何よ。あいつにはもう好きな奴が居るとか?」

『違う違う、もっと単純な理由さ』


 球磨川君はニコニコと、まるで後輩の恋愛相談に乗ってあげる爽やかな先輩の様に、こうのたまった。








『彼が、君を見ていないだけさ』







「……!」


『わかるかい? 当麻ちゃんはね、いつだって誰かを助ける為に行動してきた。つまり、助けられる側の人間をみんな平等に、それこそ残酷なほど悪平等に見ているんだよ』

「……」

『助けを求めれば、当麻ちゃんは頑張る子だ。例え相手が美琴ちゃんであろうとも、美琴ちゃんが心底憎んでいる第一位でも、同じように行動するんだよ』

「……ッ!」


 御坂さんの顔が歪む。

 戯言を言われて腹立たしい、というよりも図星である事をズパズパ言われて腹立たしい、と言った感じの歪み方だ。
243 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:25:00.50 ID:Su+kAeOP0
 
『わかるかい? 当麻ちゃんの目に美琴ちゃんが映ったのは、美琴ちゃんがピンチの時だけだ。誰でも救う当麻ちゃんにとって、ピンチに陥っている子が重要であって助けられた後は自分は必要ないと思ってる。つまり、美琴ちゃんはもうお払い箱にされているんだよ』

「…………」

 
 えーっと、つまり、上条くんは人助けはするけれど、それはたとえばゲームのNPCが頼んで来るクエストをクリアするようなものであって、助けることが重要で助けた後は別に関わる必要はない、みたいな事かな?

 まぁ、そんな非情な人間ではないのだろうけれど、それでもあの鈍感さはおそらく幾人かにとっては残酷だと感じるんだろうな。



『そんな当麻ちゃんだけれど、例外もあるんだよね、コレが』

「!」


 御坂さんは球磨川君がボソリと呟いた言葉に、大きく反応した。

 最初は今すぐにでも電撃をぶっ放しそうだった御坂さんが、今や球磨川君の話を真剣に、腹立たしくも聞いている。

 もう、これは球磨川君の思った通りの展開で、御坂さんは思惑通りに動かされてしまっているんだろう。

 あらゆる事に敗北している球磨川君は、人心掌握という点についてはこの世の誰よりも長けているのではないんだろうか。

 心理掌握という超能力者がこの街には居るらしいけれど、人の心を掌握するのに超能力なんてものは必要ない。

 言葉だけで、人はいともたやすく傀儡と化すのだから。


『当麻ちゃんにとって、かなり違った立場に居る子も数人いる。たとえばインデックスちゃん、たとえば一方通行ちゃん、たとえば浜面仕上ちゃん、たとえばステイル=マグヌスちゃん……彼らは皆、当麻ちゃんにとっては普通以上の立場に居る。美琴ちゃんの知っている名前も混ざっているだろう?』


 一方通行、学園都市第一位は別として、そのほかの三人は白井さん達の話にも出てこなかったわけだけど、誰だろうか?

 事前に球磨川君に聞いて予習すべきだった。

 私はテストにはちゃんと二週間前から勉強して望む勤勉な生徒であるのに。
244 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:25:50.10 ID:Su+kAeOP0

『今例に出した彼らの共通点、わかるかい? 美琴ちゃん』

「……わからないわよ」

『あはは、第三位の頭脳も案外頼りないんだねぇ。ま、いいや。教えてあげるよ、美琴ちゃん』


 球磨川君は、ゆっくりと御坂さんの元へ歩き始めた。

 御坂さんは、逃げようとしない。

 というか、動けないのかもしれない。

 そこに縫い付けられたかのように、御坂さんはただ立っている。

 立っているだけで、それ以外の何もしていないような状態にみえる。



『彼らはね、みんな最初は当麻ちゃんの敵だったんだ』


「……え?」


『皆、当麻ちゃんの前に立ちはだかって、当麻ちゃんを殺そうとした人たちだ。だけど、その後でみんな大切なものが出来て、今や当麻ちゃんにとって特別な存在になった。どういうわけかわかるかい?』

「…………アンタ、まさか……」

『そう。流石は第三位の頭脳、よく回るね』


 さっきと真逆の事を言っているけれど、誰も突っ込まないから私も静かにしておこう。

 そして球磨川君は、吐く。


 大嘘、ではなく。

 甘い甘い、言葉の猛毒を。

 誘われれば逃れられない、魅惑の罠を。
245 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:26:58.93 ID:Su+kAeOP0












『当麻ちゃんにとって特別な存在になりたいのならば、美琴ちゃん。君は当麻ちゃんにとってのラスボスになればいいんだ』












246 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:27:58.59 ID:Su+kAeOP0


「……ラスボス」

『インデックスちゃんよりも可憐で、一方通行ちゃんよりも強く、仕上ちゃんよりも諦め悪く、ステイルちゃんのように一途な、そんな魅力あふれるラスボス。もしそれになれれば、当麻ちゃんは間違いなく君を特別に見てくれる』

「……」

『ただし、悪役になれって言ってるわけじゃあない。当麻ちゃんにとって今のところのヒロインは間違いなくインデックスちゃんだ。だから、当麻ちゃんにとってのラスボスになりながら、インデックスちゃんをラスボスとした主人公にならなきゃならない』


 ラスボスであり、主人公。

 なんだか、無理やり作られたゲームの続編だとか、漫画の第二部みたいだなぁ。


『当麻ちゃんが主人公でインデックスちゃんがヒロインのストーリーを「とある魔術の禁書目録」と題するならば、美琴ちゃんが主人公のストーリーのタイトルは「とある科学の超電磁砲」にでもなるのかな?』


 ありがちなラノベっぽいタイトルだなぁ。

 球磨川君、週刊少年ジャンプ以外にも本を読むんだね。


「私が……アイツの……敵に……」

『そう。敵でありながら、悪じゃあない。「本当は良い奴なんだけど理由があってこんなことをした」みたいな、そんなぬるいキャラになれば当麻ちゃんのハートをがっちりキャッチだぜ』


 球磨川君が一体どんな方法で、ファーストステージ――つまり御坂さんの恋愛成就を成し遂げるのか、疑問であったけれどこういう方法に出たか。

 まともなアプローチやアドバイスなんてものが球磨川君に出来るとは思っていなかったけど、敵対することで恋愛感情を煽ると言うのは、何というか、意外と正当法なのかもしれないと思う。

 部活動のライバルとか、吊り橋効果はちょっと違うかもしれないけれど、最初はあまり良好な関係ではない二人が戦いの末に理解し合うというのは、王道だ。

 さてさて、御坂さんは一体どんな返答をするのかな。
247 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:28:32.97 ID:Su+kAeOP0





「……ははっ。舐められたものねぇ、第三位の御坂美琴様も」

『ん?』

「アイツに見てもらいたいっていうのは、確かよ。でもね、それでアイツに、アイツの周りに迷惑をかけていい理由にはならないでしょうが」

『…………』

「私はアイツと肩を並べて歩きたいだけ。そんな独りよがりな感情だけで行動する程、落ちぶれちゃいないのよ」

『甘いぜ御坂ちゃん。そんなのは恋を知らないお子様だから言えるんだよ』

「だから何よ。私はまだ中学二年生、恋に恋したっていい年頃よ」


 バチッと。

 再び御坂さんの身体の周りに紫電が迸る。

 先ほどのような、激情に身を任せて勝手にあふれ出た電気とは違う、完全に制御された電気。

 ……あの球磨川君を前にして、そして球磨川君の言葉に溺れる寸前までいって、それでいて立ち直るかぁ。

 成程、彼女は普通ではない。

 異常とみなされ、過負荷に耐性を持つような、そんな人並み外れた人外だ。
248 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:30:14.64 ID:Su+kAeOP0

「アンタはここで倒す。佐天さんは……頼りたくはないけれど、元に戻せる奴がうちの学校に居る。つまり、アンタをここで倒せば全部スッキリ解決するのよ」

『やれやれ、戦って解決だなんて、まるで週刊少年ジャンプのような熱血展開だね。だけどまぁ、嫌いじゃないぜ』


 巨大な螺子を両手に構え、球磨川君は不敵に笑う。


 学園都市の頂点、レベル5の御坂美琴と人類の最底辺、球磨川禊の対決。

 結果なんて、見えている。

 結果なんて、一つしかありえない。

 けれど。


 その過程がいったいどうなるのか、それは私にもわからない。


 だから、私に出来る事といえば――――



「佐天さん、危ないから避難しておこう?」

「はーい」



 危険が及ばないように、ちょっと遠くに離れておくことくらいだよね。
249 : ◆3e98J5/Lds [saga]:2012/12/17(月) 00:32:24.17 ID:Su+kAeOP0
今回はこんな感じです。いやぁ、上条ちゃんを話の展開のためにものすごくうっかりな子にしてしまいましたぜ・・

次の更新はいつになるかな。今年中にもう一回くらいは更新したいところです。ネウロの方も書かないといけないですがね。


それではまた次回。ありがとうございました!


250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 00:34:58.26 ID:b6i0qEY+o

両方読んでるよ
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 00:35:54.59 ID:cSva7xU7o

佐天さん堕ちちゃったかー
そして球磨川の安心の気持ち悪さ
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 00:37:42.43 ID:zd3vFKMg0


堕ちた佐天さんかわいい
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 00:42:50.14 ID:Y8VsyqNC0

球磨川さんまじえげつないわ〜
それにしても、堕ちる佐天さんってなんでこんなにしっくりくるのか
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 00:44:04.41 ID:51tZRXTAO
>元に戻せる奴がうちの学校に居る

とりあえず過負荷の頭の中身とか覗いたらどうなっちゃうと思うの
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 00:45:30.35 ID:51tZRXTAO
間違えた

過負荷の頭の中身とか覗いたらどうにかなっちゃうと思うの
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 01:16:02.36 ID:aZsOV02e0
これからは堕天さんと呼んでみんなで崇拝しよう!
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 08:09:18.01 ID:pOEM57rb0
いちおつ
堕天さんかわいい
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 17:46:56.55 ID:PihygbLDO
くまーの言葉に耐えるなんて
さすが美琴さん!
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 18:18:44.51 ID:iF+/5HJK0
球磨川ァァああああああああああああああああああっ!!

と思ったけどみこっちゃんが強い子でよっかた



まぁ台無しになるけど
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 18:27:52.84 ID:otv2Lu81o
無駄に意思が強くて良かったね美琴ちゃん
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 18:38:19.21 ID:G8+rAXFlo
堕天さんはこういう役が似合うなあ
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 21:30:41.81 ID:3BEyLN1Bo
>>255
他の過負荷は知らんが球磨川は空っぽだと思う
虚無
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 22:37:16.73 ID:wDkDpxsio
乙ー
元に戻すって自分の都合に悪くなったからそんな友達は無かったことにしようってのと同じだね美琴ちゃん
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/18(火) 05:52:08.46 ID:2XN60GYDO
おつ
浜面と球磨川さんの絡みも見てみたいな
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/18(火) 10:15:10.40 ID:ffFuC/pFo


おれはクレイジーD一発で当てたぞ、ざまああああああああああああ
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/18(火) 11:19:26.65 ID:L3H9wdDIO
過負荷は幻想殺しに消されるのか
対上条は咲の方が強いな
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/18(火) 12:41:50.89 ID:zwhGLUfm0

流石美琴さん、この程度じゃ折れないか
てか何気に恋愛感情肯定しとりますがな
堕天さんかわいい

>>255
原作で善吉が志布志以外の過負荷勢の中身覗いてたし特に問題ないでしょ
ただ電気系の行橋が受信感度で球磨川の中身を覗けなかったから、みこっちゃんに干渉できない第6位にも球磨川は覗けないと思う

>>264
それには同意だけど、SSで注文ってのはマナー違反ですぜ?

>>266
過負荷はこの世の間違いが生んだスキル
幻想殺しはこの世の間違いを正すスキル
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/18(火) 13:11:27.25 ID:9SkzmaxIO
佐天さん過負荷なのは定番なのか
過負荷って脳内は球磨川の本音からするとかなり一般人してるような気がする
確かやばかったのは安心院さんだっけ
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/18(火) 14:30:16.51 ID:ffFuC/pFo
なんでいつも堕天さんは堕天してしまうんや・・・あれ?
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/18(火) 15:08:47.23 ID:bSRMS0yF0
アンタはここで倒す、ここで倒せばスッキリ解決するのよ〉

球磨川の毒気に参ってあまり深く考えられなくなってるな
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/18(火) 16:00:54.68 ID:EsXYfwlBo
御坂は別に球磨川相手じゃなくても深く考えてないと思う
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/19(水) 06:03:58.66 ID:IuDHgcea0
>>266
過負荷は体質みたいなもんってことで消せない
はずだけどそうすると話書けなくなるからね

そもそもめだかの方がそのへんの設定ぐちゃぐちゃだから
気にしちゃいかん
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/19(水) 06:05:25.10 ID:IuDHgcea0
sage忘れ...
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/19(水) 15:20:25.27 ID:CXde2ex6o
めだかのキャラなら全員やろうと思えば素手で上条くらいなら殺せそう
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/19(水) 15:27:59.30 ID:5gFduoLXP
上条なら俺でも殺せそう
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/19(水) 16:29:15.61 ID:u3tlmory0
ハイハイその幻想をぶち[ピーーー]。げんごろげんごろ
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/19(水) 18:11:35.54 ID:CXde2ex6o
そのうちこれは幻想じゃなくて現実だぞとか言い出すキャラが出そう
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/19(水) 18:46:46.45 ID:u3tlmory0
その現実をなかったことにする!大嘘憑き!!
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/12/19(水) 18:50:37.53 ID:BQkcPmPy0
その現実を無かったことにしたことをぶち殺す!幻想殺し!!
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/19(水) 19:01:48.62 ID:Zkeb5uu30
ガキくさいからやめろよ
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/19(水) 21:20:17.30 ID:oqELKuzt0
乙や感想以外のコメントはそろそろ控えてはどうでしょうか?

>>1が投下してから既に30を超えるレスが消費されております
過度なレス・>>1の作品を無視したレスは>>1やその他>>1の作品を読みたい読者の気分を害する恐れがあります
また、余分なレスで全体が埋まることで次スレを建てることになると、>>1に不要な負担をかけてしまいます

みんなで楽しくマナーを守って読みましょう
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/20(木) 10:03:49.79 ID:tnOO7XD5o
くせえ
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/20(木) 16:31:13.60 ID:eSUWjywFo
なにいってだこいつ
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/20(木) 16:42:12.04 ID:vIlgwvsc0
すごくおもしろいです!頑張ってください!
285 : ◆3e98J5/Lds [sage]:2012/12/21(金) 00:47:11.92 ID:GDK040Fn0
へい、聞いてくれよジョニー、笑っちまうぜ・・・

イギリスに半年ほど渡ることになっちまったんだ・・・

将来的な意味で仕方がない事なのですが、このスレとネウロの方はどうしようか……「>>1なんか目じゃねぇぜ! 俺の方がもっとうまくクロスさせられるんだ!」ドヤァ って人が居れば乗っ取ってくれても構わんです。

ジャパンに帰ってきたらまた建てるかも。

286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/21(金) 01:03:45.27 ID:4bs03Fka0
俺達の事は気にするなァ!
ふりかえるな!!行け!行けェェェェェェ!!!!!

行ってこぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!!!
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/21(金) 01:07:22.17 ID:4bs03Fka0
イヤ、ちょっと待て
スマホとか使えば海外から投稿できないのか?
イヤ、通信料とかできるかどうかも知らんが

イギリス頑張ってください。応援してます
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/21(金) 07:56:12.97 ID:OFJ/XDVDO
ここ最近の楽しみが…
ずっと待ってるからまた戻ってきてくれ

イギリスがんばれ
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/21(金) 09:59:20.19 ID:tVBVyPVAO
クマー×学園都市SS

完結した人
失踪した人
イギリスに行った人←new
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/21(金) 12:34:13.42 ID:4bs03Fka0
>>1は滅びぬ!何度でも黄泉ガエルさ!
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/21(金) 15:04:05.67 ID:LX7XEvUE0
『やれやれ……>>1は僕と同じくらい過負荷じゃないかな?この後の続きを他人に任せて
話がグチャグチャの台無しになるところが見たいだなんて……
スレのことは、無かったことにしてイギリス行き頑張ってきなよ』
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/21(金) 16:33:43.69 ID:zZ3SWp8eo
あーまいんぐりっしゅまんにゅーよーく(うぉーお)
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/21(金) 22:19:09.30 ID:UOAvhvkT0
うそだろ……やっとここまで追いついたのに、不幸だあああああああああああ
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/21(金) 22:48:58.61 ID:PTt6HoEG0
逆に考えるんだ!半年後には一気に大量の投下が来るのだと!!
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/22(土) 00:19:41.35 ID:JWUe8I0H0
保守すればいいのか?
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/22(土) 01:08:03.89 ID:62lqmw5Ao
もうhtml化出てる・・・
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 02:44:15.08 ID:fz1Pl6F40
>>263に球磨川さんがいたのに・・・
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