忍「隠し事、しちゃってましたね……」 アリス「……シノ」

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185 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:42:23.82 ID:5cAWbn0F0
カレン父「それで、カレン?」

カレン「ハ、ハイ?」

カレン父「――『あの子』も、来るんだよね?」

カレン「……Of Course」

カレン父「うん、分かった」


カレン「あ、あの……パパ?」

カレン父「なに、心配することじゃないって」

カレン父「……」

カレン父(ただ、カレンが「その子」に対して)

カレン父(何か、特別な感情をもってそうなことは否めない……)

カレン父(――親として、私はどう思ってるんだろう?)




そんなこんなで日は流れ。
各人の予定のすり合わせが行われた結果――


「その日」は、意外と早く訪れることとなった。




――待ち合わせ場所



忍「おまたせしましたー!」

アリス「お、おまたせー!」

陽子「よっ、二人とも!」

綾「もう、ちょっと遅れ、て――」

綾「……シノ、あなたそのカッコは」

陽子「――うひゃぁ」

忍「そ、そんなに見られると照れちゃいます」テレテレ

アリス「シノ……二人は、そういう目で見てるんじゃないと思うよ?」


陽子「なぁ、綾? 今って夏だよな」

綾「それは、夏よ。ただ――」

陽子「……目の前にいるシノは、どこの季節に?」

綾「それ以前に、ここは日本よね……?」


忍「うう……陽子ちゃんと綾ちゃんがいじめますー」グスッ

アリス「だ、大丈夫だよシノ! 私はシノの味方だからね!」

忍「……アリス」

忍「アリスは、似合ってると思いますか?」
186 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:43:11.88 ID:5cAWbn0F0
アリス「……」

アリス「に、似合ってるに決まってるよぉ」

忍(ちょっと目を逸らしましたね……)ハァ


綾「そういえば、今日の主催者は……」

陽子「カレンか。そういえば、ちょっとおそ――」

陽子「……」

綾「どうしたの?」

陽子「いや、あれ――」

綾「……あっ!」


カレン「みなサーン!」

アリス「カ、カレン!?」ビクッ

忍「す、凄く大きな車ですね……」

カレン「パパが頑張ったデス!」

綾「す、凄いわね……」

陽子「なんというか――お嬢様だったんだなぁ」





 ――着いた。


 運転席から、私はカレンの友達を見下ろした。
 皆、歳相応に可愛らしい子たちだった。なにより、良い子そうだ。
 私は、胸を撫で下ろす。
 父親たるもの、娘が心配なのは古今東西変わらない。

 ……ただ。


「わぁ、凄いです!」
「シノー!」


 窓からカレンは、「その子」に向かって手を振った。
 なるほど、たしかに可愛らしい。
 イギリスに来た頃から数年経ち、より「女の子」らしさに磨きをかけている……。


「……パパ?」


 ハッとした。
 見れば、カレンは少し不安げな表情を浮かべている。
 恐らく、私から「彼」への視線を感じ取ったのだろう。


「大丈夫だよ、カレン」


 私は娘に微笑みながら、


「――ちょっと、気になっただけだから」


 車を、停めた。
187 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:43:54.40 ID:5cAWbn0F0



――数分後


陽子「いやー、改めて凄いなこの車……」ジーッ

綾「陽子。あんまりジロジロしちゃ――」

陽子「うわっ、こんなところに引き出しが!」パカッ

綾「ああもう、言ったそばから!」


アリス「ふふっ、陽子は元気だねぇ」

忍「そうですねぇ……」

カレン「……」

忍「? カレン、どうかしましたか?」

カレン「な、なんでもないデス」

カレン「今日は、楽しみまショウ!」

忍「はいっ!」


アリス「……」

アリス(そういえば)

アリス(さっき車に乗る時、カレンのお父さん――)

アリス(少し、複雑そうな表情をしてた、ような……)




――さらに数分後



カレン「着いたデース!」

陽子「おおっ、これは……!」

綾「綺麗な所ねぇ」

忍「ふふ、車じゃないと、こういった所までは来られませんからね」

アリス「川、かぁ……」


アリス(意外と、水着で泳いでも楽しそう……)

アリス(――ダメダメ! 水着のことを考えただけで、悲しい気分になるのは)

カレン「アリス、大丈夫デス!」

アリス「カ、カレン!?」ビクッ

カレン「――アリスのママが、『アレ』ナラ」

カレン「娘のアリスにだって受け継がれるはずデス!」
188 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:44:29.08 ID:5cAWbn0F0
アリス「……カレン、どういう意味かな?」ジトッ

カレン「タダ」

カレン「ちょっと時期は、もうオソ――」

アリス「カレンッ!」プンスカ


忍「ふふ、仲良しさんですねぇ……」

忍(金髪少女と綺麗な川、という光景もいいですね――)エヘヘ

カレン父「……」

忍「あ、カレンのお父さん」

カレン父「――今日は、楽しんでほしいな」

忍「はい! ありがとうございます!」ニコッ

カレン父「……」


カレン「――」

アリス「カレン?」

カレン「――シノッ!」ダキッ

忍「ひゃっ!?」

カレン父「!」


カレン「ふふ、シノー? 油断大敵、デス!」

忍「ちょ、カ、カレン……くすぐったいですってばー」

カレン「相変わらず、綺麗な肌デス……」ナデナデ

カレン「嫉妬しマス」

忍「カ、カレンだって、お人形さんのように綺麗じゃないですかー」

カレン「……」

カレン「も、もう、シノ!」カァァ



アリス「……ああ」

アリス(「お人形さんのように」って、その言葉は私に言ってくれてたのに……)

アリス(カレンに取られちゃったよぉ……)

アリス(――あれ?)

カレン父「……」

アリス「あ、あの……おじさん?」
189 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:45:09.42 ID:5cAWbn0F0
カレン父「!?」ハッ

カレン父「あ、ああ、ごめんアリスちゃん」

アリス「どうしたの……あっ」

アリス「シノが気になるの?」

カレン父「……」

カレン父「ま、まぁね」

アリス「……?」




 ――少なからず、動揺した。

 カレンが、私の目の前で抱きついた時。
 私は、たしかに心が揺れるのを感じた。

 しかし――実際に間近で見れば見るほど信じられない。


「もう、カレン……くすぐったいですよぉ」
「ふふっ、シノは可愛いデス……」


 娘のスキンシップを受け、浮かべる表情といい仕草といい。
 完璧に、女性のそれではないか。


「――カータレットさん」

 呟いたのは、彼女の名前。
 遠い異国の友人と、私は芯から心を通わせたように思う。
 自分の娘と「あの子」のふれあいを見れば、それは混乱するだろう――






――それから




綾「ちょ、ちょっと陽子、危ないってば……」

陽子「大丈夫だって――よっ、と!」

陽子「ほら、綾もおいでよ」

綾「こ、怖いわよ……」

陽子「大丈夫だって」

陽子「私がいるんだから、こんな石ころへっちゃらだよ」

綾「……」


綾(――私がいるんだから、か)

綾(こんな岩場を、よくもまぁ)

綾(こういうことを、無意識に言ってるんだから……)

綾「何だろう、癪だわ」

陽子「癪なのはいいけど、転ぶなよー?」

綾「わ、分かってるわよ!」
190 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:45:52.28 ID:5cAWbn0F0
綾「――きゃっ!?」

陽子「よ、っと」

陽子「大丈夫か?」

綾「え、ええ――」

綾「!」ハッ

陽子「?」


綾(よ、陽子の腕に抱えられてる……!?)

綾(ち、近い! 陽子、近いってば!)

陽子「なんだ、どうかしたか?」

綾「バ、バカぁ……」

陽子(いやー、今日の暑さは酷いんだなぁ……)

陽子(なにせ、綾がこんなに顔を真っ赤にしてるし――)

綾(陽子の、バカ……)モジモジ



――その一方


アリス「待っててシノ! 今、自分で捕るから!」

忍「ええっ、アリス!?」

忍「あ、危ないですよ」

アリス「いいの!」

カレン「……釣れまくりデース!」

アリス「――カレンに、負けたくないもん!」

忍「ア、アリス! そ、そんな所まで!」

カレン「あっ、シノ!?」





 ――二人の子が向こうに探検に出かけて。


 こちらには、私と娘、それからもう二人が残った。
 その場にいれば、なるほどこの三人はとても仲が良いんだな、と実感する。
 カレンも、良い友達を持ってくれた――。


「アリス……そこは危ないですってば」
「いいの、シノ! 止めないで!」


 ――昔からかもしれないけれど。
 アリスちゃんはカレンとの勝負事になると、ムキになりがちだ。
 そういう所は微笑ましい……いや、待った!


「ふ、二人とも! さすがにそこは危ない――」


 ドボン!


「――よ?」


 何とも、間の抜けた音がした。
 視界には、アリスちゃんしか入らない――ということは、だ。
191 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:46:21.79 ID:5cAWbn0F0
「シ、シノー!?」


 カレンも、私と共に水に分け入った。
 アリスちゃんは慌てて、救出を試み始めていた。


 ――ザブン。


「え、へへ……」


 私たちが辿り着くとほぼ同時に、「彼女」は浮かんできた。


「ちょ、ちょっと無理しすぎちゃいました……」
「も、もう、シノったら」


 そんな「彼女」を、アリスちゃんは抱き上げる。
 しかし、小柄な彼女の手には余るようで、すぐさまカレンが補助に回った。


「カ、カレン。私一人で大丈夫だよぉ」
「アリス。その台詞は、145センチほどになってから言うべきデス」
「そ、そんなぁ!?」


 カレンのからかいに、アリスちゃんは涙目になってしまった。
 相変わらず、微笑ましい光景だ。
 ――しかし。


「……これ、は」


 私は、瞠目してしまった。


「――ちょっと、冷たいですね」
「シ、シノッ! 早く向こう、に……」
「アリス、どうした、デス……カ」


 娘たちも、ピタリと動きを止めてしまった。
 知らぬは当人ばかり。
 「彼女」は、キョトンとした表情を浮かべている。


 濡れた服から、彼女の「下」が透けてしまっていた。
 いくら西洋風に着飾ったとはいえ、夏ということもあり、生地は薄手だ。
 そのため、透けた部分がより一層目立ってしまっている。


 胸元から、薄い桃色の下着が浮き出ていた。
 身体のラインも明瞭に表れ、「女性」らしさが如実に出ている。
下手をすれば、下半身まで見えてしまう。

 ――なるほど。
 透けたレベルでこれなのだから、脱衣所で遭遇したカータレットさんの驚愕ぶりが目に見えるようだ。


「パ、パパは見ちゃダメデス!」
「うわっ!?」


 いけない、ついついぼんやりとしていた。
 気づけば、顔を真っ赤にした娘が私の袖をギュッと掴んで、抗議していた。
192 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:46:53.74 ID:5cAWbn0F0
「――エッチ、デス」


 カレンは、ジトッとした目で、私を捉えている。
 その仕草は、何とも女性らしく、密かに娘の成長具合に驚いてしまう。


「そ、そういうつもりじゃ……」


 いや、そもそもカレン、「あの子」は私と同じ――
 なんて言葉がちょっとでもよぎったのが恥ずかしいほどだ。
 そんな差異は――


「……ちょっと、濡れちゃいましたねぇ」


 あそこで、どこか色っぽさすら出ている「彼女」にとって、何の意味もないことだろう。


「あ、ああ……」

 
 赤く染め上げ、茫然自失の体といったアリスちゃん。
 そんな彼女と、私の娘が立ち直るのには時間がかかりそうだ――


「いや、私も、か」


 囚われてしまった、気がする。
 なるほど、これは――






 ――それから。


「あ、ありがとうございます」
「いや、いいんだ。風邪でもひいたらことだからね」


 私は「彼女」を連れて、車に戻っていた。
 カレンたちも付いてきたいと言っていたが、敢えて拒んだ。
 二人で待っていて、と言った時のカレンの淡い表情が印象深い。

 娘に、すまないと感じるのは親心だろうか。
 ……それでもやはり。


「重く、ないですか?」
「――いや、全く」


 少し、恥ずかしそうな口調で訊いてくる。
 きっと、背中では赤く切なそうな……「女の子」の顔が見られることだろう。
 そうした事もまた、私の認識を崩しそうで――


 だから――
193 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:47:24.72 ID:5cAWbn0F0
 私は、足を止めて、


「『女の子』みたいに、軽いよ――」


 瞬間。
 時間が止まった、ように感じた。
 私の肩にかかった手がピクッと動き、止まる。
 少し重みが増したのは、緊張のせいだろうか。


 時間にすればわずか数秒だったろう。
 しかし私には、10分以上にも感じられるほどだった。


「……気付いたんですか?」


 ポツリ、と。
 そんな消え入りそうな声で、後ろの「彼女」が言う。
 

「いや――カータレットさんから聞いていたんだ」
「アリスの……そう、だったんですか」


 言いながら、再び歩き始める。
 あまり止まってもいられない。風邪をひかれては困る。


「――あ、あの」
「ん?」


 消え入りそうな声は、先ほど私に感謝をしてくれた時とは別人のようで。
 チクリと胸が痛んだ。


「……どう、ですか?」
「どう、って?」
「あ、あの、その――」


 モジモジとしている様子が、よく分かった。
 背中越しの会話をしながら、私の足は目的地へと向かう。


「……だ、だから、その」
「もし君が、『気持ち悪いですか?』というようなことを言うのなら」


 ハッとした様子が、背中から感じられる。
 私は言葉を紡ぐのを止めない。


「それは、Noだ」
「で、でも……カレン、と触れ合っていたのは、その」


 男なんですよ、と。
 「彼女」は、言った。
194 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:48:10.84 ID:5cAWbn0F0
 恐らく、今日のような特殊な状況が、彼女をしおらしくさせていたのだろうと思う。
「父親」の目の前で、「娘」と――「男子」がスキンシップをとる。
 その光景を見て、何も感じなかったかといえば……


「――そうだね、確かに複雑な気分にはなったよ」
「……!」
「でもね」


 私は、歩みを止めない。
 目的地は、すぐそこだった。


「――そんな気分よりも、何よりも」


 
 そこで私は、「彼女」をゆっくりと降ろした。
 そして、しっかりと向き合う。

 「彼女」は顔を赤らめながら、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
 どこからどう見ても「少女」そのもので――


「カレンが、あんなに嬉しそうだったから」
「……!」
「それでいいんじゃないかな、と」


 そうだ、それでいいのだ。
 なんとなく、私は納得していた。
 よくわからないモヤモヤとした感覚は、面と向かってこう言ったことで霧消したように思える。


「――で、でも」
「いいんだよ」


 それは確かに、親の目の前で娘と異性が抱き付き合っていれば、感じることがないわけではない。
 けれど、それ以上に――


「……『二人』も、そう思っているんだろう?」
「えっ!?」


 慌てて、「彼女」は振り向いた。
 物陰から、ガサガサと音がして、


「……見つかっちゃいマシタ」
「ご、ごめんなさい」


 可愛らしい金髪少女が現れた――
195 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:48:38.10 ID:5cAWbn0F0
 


――帰り道


綾「……」スースー

陽子「……」ムニャムニャ

カレン「二人とも、よく寝てるデス」

アリス「何だか、凄く満足そうだよね」

忍「お二人とも、本当に仲良しですから」


カレン父「……」

カレン父「三人とも、ちょっといいかな?」

カレン「?」

アリス「は、はい」

忍「な、なんでしょう、か?」

カレン父「……」


カレン父「――これからも、普通にしてて大丈夫だから」

忍「……!」ハッ

カレン父「さっき、私が『忍ちゃん』にした質問も」

カレン父「全部、気にしないでいい」

忍「――で、でもっ!」

カレン父「……むしろ」

カレン父「気にして、カレンとギクシャクすることの方がずっとイヤだから」

カレン「……パパ」


アリス「……」

アリス(ママ――)

アリス(ママも、気づいてたんだね……)

アリス(それじゃあ……)


アリス(私はシノと、『仲良く』してて、いいのかな――?)キュッ
196 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:49:30.90 ID:5cAWbn0F0


――大宮家


忍「……ふぅ」

忍「楽しかった、ですね――」ニコニコ

アリス「う、うん」

アリス「……」

忍「? どうしました?」

アリス「――シノ」

アリス「……私たち」

アリス「大丈夫、なのかな?」

忍「……」

忍「はい?」キョトン

アリス「……」


忍「――アリス」ダキッ

アリス「わっ!?」

忍「大丈夫ですよ」

忍「こうして抱きしめているだけで、安心です」

アリス「そ、それは!」

忍「無敵です」フンス

アリス「――もう、シノったら」

アリス(ああ、なんだか)

アリス(……シノが「無敵」なんて言うんなら、大丈夫かな、って思っちゃうよ)

忍「……」


――九条家


カレン「あ、あの……パパ?」

カレン父「――カレン?」

カレン「……こ、これから、モ」モジモジ

カレン「仲良く、してて――?」

カレン父「……」

カレン父「カレン」

カレン「ハ、ハイッ!」

カレン父「……娘の幸せを願わない父親なんて、いないよ」

カレン「……!」

カレン「――パ、パパッ!」

カレン父「よしよし……」


カレン父(――しかし)

カレン父(あれで、「男の子」)

カレン父(……カータレットさん、世界は広いですね)トオイメ
197 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/17(日) 01:51:51.84 ID:5cAWbn0F0
ここまでになります。
……正直、ここまで長くなるとは全く思ってませんでした。
いざ川遊び編を書いてみようと思い立ち、気づけばメモ帳に溢れかえらんばかりの文章が……
こんなに長くして、読んでくださる人には感謝ばかりです。

さて、こうして夏休み編は終わり――おっと、お祭りという大事なイベントが。
次回がどうなるかは未定ですが、「お祭り」になるかもしれません。
……もしかしたら、二学期入ってしまうかもしれませんけれど(小声)

それでは。
こんなに長くても書いてしまうということで、改めてこのSSが好きだということを実感しました。
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/11/17(日) 02:03:47.32 ID:+ycH8ms80
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/17(日) 02:12:52.08 ID:FvPqmfqGo
乙!
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/18(月) 21:43:37.80 ID:Irg3suaho
二人無敵♪乙
201 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/30(土) 00:23:45.89 ID:QIqS//bp0


『看病』


アリス「……はい、タオル替えるね」

忍「アリス、ありがとう、ございます」ケホケホ

アリス「無理して喋ったらダメだよ」

忍「――は、はい」

アリス「……」


アリス(夏風邪)

アリス(先日の川遊びで、盛大に転んで水浸しになったことが原因なのかな)

アリス(顔の酷い赤みは取れたものの、シノは相変わらず咳が酷い……)


忍「……アリス?」

アリス「なぁに、シノ?」キョトン

忍「体温、計って頂けますか?」

アリス「――ああ」

アリス「体温計だね。持ってきた、から……」スッ

アリス「これ、脇に挟むタイプ?」

忍「はい」

アリス「……」チラッ


アリス「ねぇ、シノ?」

忍「なんですか?」

アリス「自分で、挟めない、かな……?」アセアセ

忍「――うーん」

忍「少し、厳しいかもしれませんね」ケホケホ

アリス「そ、そう?」


アリス「……」

アリス「――じゃ、じゃあ」

アリス「ボ、ボタン、開けるね」

忍「お願いします」

アリス「……」
202 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/30(土) 00:24:23.59 ID:QIqS//bp0
アリス(――どうしよう)

アリス(手が震えて、上手く外せない)

アリス(一つ、外せば)

アリス(それだけで、シノの肌が――)

アリス(……うう)


忍「――アリス」

アリス「!?」ビクッ

忍「大丈夫、ですよ」

忍「私は、その――」

忍「……気にしません、から」カァァ

アリス(そ、そこで顔を赤らめないでぇ……)


アリス「……」

忍「アリス」

忍「いいんですよ……」

アリス「――」

アリス「シ、シノ、やっp「私がやってあげるわ」


アリス「」

忍「あっ……」

勇「まぁ、アリス。顔が真っ赤」

勇「シノの風邪が伝染ったかもしれないわね……さ、休んで休んで」

アリス「イ、イサミ……?」

勇「私の部屋のベッド、使っていいから」

アリス「……」

アリス「わ、分かったよ」

アリス「――シノ、また、ね」



パタン



忍「……」チラッ

勇「――ねぇ、シノ?」

忍「なんですか、お姉ちゃん?」ケホケホ

勇「ずいぶんと、思い出したように咳をするのね?」

忍「……」

勇「それに、昨日は酷かった鼻水も」

勇「真っ赤だった顔色も」

勇「どこに行ったのかしら?」

忍「――」
203 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/30(土) 00:24:55.55 ID:QIqS//bp0
勇「……やっぱり」ピピピ


『37.2』


勇「……」ジーッ

忍「え、えへへ」

勇「――もう」

勇「アリスをからかったら、可哀想じゃない」

勇「腹黒いシノと違って、アリスは純粋なのよ?」

忍「……そう、ですよね」タメイキ

忍「ただ」

勇「?」


忍「目の前で、アリスが顔を赤らめながら」

忍「ボタンを外していく様子を見てたら」

忍「――つい、魔が差して」ニコニコ

勇「……」チラッ

勇「こんな平坦な胸を見て、何が楽しいのか……」ハァ

忍「あ、酷いです、お姉ちゃん!」ガーン


勇「とにかく」

勇「あまり、アリスを困らせないこと」

勇「――そりゃ、まぁ」

忍「かわいいですよねぇ……」ポワポワ

勇(同意せざるを得ないのが、悲しいところよね……)


勇「さ、次は身体を拭きましょう」

忍「あ、そ、それは大丈夫です」

勇「ううん、一応ね」

忍「一応、って?」キョトン

勇「――後で、『また』魔が差して、なんてことがあったら」

勇「アリスが可哀想だから」

忍「……」

忍「――きょうだいの心配は?」ジーッ

勇「その、腹の黒さがちょっと、ね」

忍「うう……」
204 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/30(土) 00:25:41.29 ID:QIqS//bp0
勇「こうして身体を拭いてると」

勇「ついこの前まで、一緒にお風呂に入ってたことを思い出すわね……」

勇(風呂場では、尚更この子の性別を意識せざるを得なかった、ってことも――)

忍「――お風呂、ですか」

忍「アリスやカレンと、入れたら」

勇「――いい、シノ?」

勇「偉い人も言ってたわ。『越えちゃいけないラインを考えろ』って」

勇「世の中には、『超えられない壁』というものも存在するし……」

忍「お、お姉ちゃんの方が、ずっと腹黒いです……」ウルウル

勇「はいはい」


勇「さ、もういいわ」

忍「ありがとうございました」

勇「うん」

勇「さ、上着を着t」



アリス「シノ! 私、飲み物を注いできた、よ……」ガチャッ

アリス「」

勇「……」アレ?

忍「あっ」


アリス「い、いや、え、ええと……」アセアセ

アリス「――」カァァ

勇「……アリス」

アリス「は、はいっ!」

勇「部屋に入る時は、ノックをしないと、ね?」

アリス「そ、そうだったね! たしかに!」

勇「さ、ここにいたら風邪が伝染っちゃうわ」

忍「……アリス」ニッコリ

勇(こ、この子……凄く喜んでる)


アリス「……」

アリス(上半身裸)

アリス(シノ 笑顔 イサミ 飲み物)グルグル

忍「混乱してるアリスも可愛いです……」

勇「――しょうがない。連れ出しましょう」

勇(アリスの手、熱い……)


アリス(カレン ごめん 私 シノ)トコトコ

勇「この子も、大変ねぇ……」ハァ

忍「えへへ」ニコニコ
205 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/30(土) 00:28:06.80 ID:QIqS//bp0
こうして、アリスの混乱は続く――

表題を付けたように、ちょっとした短編をいくつか投下しようと思いましたが、思ったより長くなってしまったので
また後ほど別のものを投下します。

それでは。
206 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/30(土) 00:49:29.15 ID:QIqS//bp0
後ほどと書きましたが、今しばらくは無理そうですね……ごめんなさい。


忍「……はぁ」

アリス「……」

アリス(シノの憂い顔――)

アリス(何を、考えてるんだろう……私にできることって、あるのかな?)

アリス(――シノ、心配だよ)

忍(アリスとカレンに囲まれて、ゆっくり眠りたいですねぇ……)
207 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/30(土) 01:18:29.78 ID:QIqS//bp0
『写真と娘と……』


カレン「……」

カレン「――ハァ」

カレン(こうして、過ごしてるト)

カレン(夏休みって、長いデス……)

カレン(――アリスたちといた時は、ずっと短く感じたノニ」

カレン(……シノ)

カレン(どうして、ここで変な気分になるんでしょうカ……)


カレン父「……」

カレン父(――カレン)

カレン父(どうして、そんな赤い顔をしているのか。風邪でもひいたのか)

カレン父(……そんなことを、普通の父親なら思うんだろうな)スッ


カレン父(――あの時の、写真)

カレン父(皆で撮ったものの中に……同じような娘が写っている)

カレン父(――『彼女』の隣で、アリスちゃんと共に顔を赤らめている、カレン)

カレン父「……はぁ」タメイキ

カレン父(あの時は、格好つけてしまったものの――)

カレン父(実際は、かなり戸惑っているんだな、私も)


カレン「……パパ?」

カレン父「!?」ビクッ

カレン「何を見てるデス?」ズイッ

カレン父「……カレン」

カレン「――あ」

カレン「あの日の写真、デス……」

カレン父「……」


カレン父「なぁ、カレン」

カレン「パパも、シノのことが気になりマスカ……?」

カレン父「あの時ああ言ったが、私h」

カレン父「……なんだって?」

カレン「あぁ」

カレン「パパも、シノのことガ……」カァァ

カレン父「いや、カレン。落ち着きなさい。君は正常な判断が――」

カレン「必死になる所が怪しいデス」ジーッ

カレン父「」
208 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/30(土) 01:18:56.91 ID:QIqS//bp0
カレン父「いいかい、カレン」

カレン「……シノが好きでも、私ハ」

カレン父「私は、男だ」

カレン「……知ってマス」プイッ

カレン父「――忍ちゃんは」

カレン「言わないでくだサイ……」

カレン父「……」


カレン「――そうデス」

カレン「私は、おかしくなってるんデス」

カレン父「……カレン」

カレン「――シノが、シノが」

カレン父(……娘なりに、事実と向きあおうとしてるんだな)

カレン父(いや、心配したよりも、進んd)

カレン「私に、ハダカを見せて、くれたノニ」

カレン父「……」



カレン父「え?」ピクッ
209 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/30(土) 01:19:41.20 ID:QIqS//bp0
カレン「あの時」

カレン「私、二――」

カレン父「カ、カレン、お、おお、落ち着きなさい」アセアセ

カレン「パパの方が、ずっとガタガタしてマス……」

カレン父「は、は、ハダカ、を?」

カレン「――シノが」

カレン父「……」

カレン父「――そ、それは、まさか!」

カレン父「風呂に入ったとか、そういう……?」

カレン「……?」キョトン

カレン「!」ハッ

カレン「ち、ちがいマス!」ブンブン

カレン「パパのエッチ!」カァァ

カレン父「ぐっ……!」

カレン父(な、なかなか、ダメージが大きい)


カレン「……私」

カレン「上半身裸のシノを、見たんデス」

カレン父「……そう、か」

カレン父(そういうことなら、まぁ……)

カレン父(――あれ、いいのか?)ピクッ


カレン「シノは、顔を赤くシテ」

カレン父(いやいや)

カレン「私も顔を、真っ赤二――」

カレン父(え、ええー……)


カレン父(なんというか、その)

カレン「あぁ、どうすれば……こんな風に、赤くなるのを止められるデスカ?」カァァ

カレン父(――日本って凄いんだぞ、カータレットさん)
210 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/11/30(土) 01:22:04.58 ID:QIqS//bp0
つらつらと書いてたら、もう一編書けていましたので投下します。

今後、原作のイメージを壊さない程度で、物語が少しずつ変節するかもしれません。
それでも、よろしいでしょうか? 不安ですが……。

それでは。
今日はもう、寝ます。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/30(土) 12:25:33.21 ID:xYMkUTcjo

いいと思うよ!
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/11/30(土) 18:05:26.69 ID:WkKZrrz/0
シノさん策士やなww
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/08(日) 16:08:41.53 ID:bpJPGi8AO
ところで性描写とかはあったりする…?(あったとしてもソフトな物だろうけど)

きらら繋がり(キャラットの方だけど)のひだまりスケッチのヒロさんも最初は男(男の娘みたいな)の設定だった
214 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/08(日) 19:54:59.01 ID:0tOJwtuK0
感想ありがとうございます。

>>213
性描写ですか……それは考えてませんね。
今後も普段の感じで、ちょくちょく少年誌的なお色気(?)が挟まれるような感じです。
シノと、アリスやカレンが「そういう」風になることはない、と思います。
そうか、ひだまりもそういう設定だったのか……。

しかし、今後どうやって物語を回したものか……。
読んで下さっている方にはとても申し訳ないですが、今後はなかなか煮え切らないノリになるかもしれません。


次の投下まで、もう少々お待ちいただければ。
215 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/10(火) 00:19:07.63 ID:bZBTqQiJ0
というわけで、お待たせしました。
投下です……が。


今回は、アリスやカレンは出てきません。
また、全てが地の文で、非常に長ったらしく感じると思います。
それでも楽しんで頂ければ、とても嬉しいです。


それでは。
216 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/10(火) 00:19:44.02 ID:bZBTqQiJ0
『いつかのあの日』


 ――陽子ちゃんは……

 あれ? なんだ、これ?

 
 ――ボク、は……

 おおう、よくわからないけど、何かシリアスっぽい雰囲気?
 って、何か見たことある顔なのに、随分と髪が短い……って。


 ――ボクも……

 ああ、なんだ。
 そっか、妙にしっくり来たぞ。

 これは、あの時の……



『はーい、笑って! 3、2、1……』
217 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/10(火) 00:21:10.21 ID:bZBTqQiJ0
「――」
「……ねぇ――こ」


 身体が揺さぶられるような感覚がして、ぼんやりとした視界がくっきりと映し出される。
 今度は……さっきより、ずっと髪が長い顔見知りがすぐ近くにいた。


「……なんだ、綾か」
「『なんだ』って……あなたねぇ」


 ハァ、と溜息を一つ。
 目の前の友人は、怒ったような呆れたような目で、私を見つめる。


「――宿題、手伝ってくれって言うから来たのに」
「そう、だったっけ……ごめん」


 私が返すと「まったく、もう」と、綾は横を向いてしまった。
 綾の良い所は、何だかんだ言いつつも根に持たない所だ。
 そんな綾に、私は甘えることも多い。


「ああ、ノートがグシャグシャじゃない……」
「そりゃまぁ、突っ伏して寝ちゃってたし?」
「『何が問題なの?』みたいな顔しないでよ……」


 ハァ、と再び溜息を一つ。本日、二つ目?
 とはいえ、綾の憂い顔の理由も分かる。


 8月31日。
 この日付に何を感じるか。
 私に言わせれば、この3つの数字ほど心を惑わせ、痺れさせるものはないんだけど。

 貴方は、どうだろう?
 その感じ方によって、普段の行いが見えてくる――


「……また、ロクでもないこと、考えてるでしょ?」
「きっと、綾は『恐怖』なんて感じないんだろうなぁ」
「何言ってるのよ……」


 ハァ、と溜息を――しつこいか。
 さて、気を取り直して、と。


「ちょっと、休憩しよう」
「どうしてそうなるのよ!」


 綾は、溜息に飽きたのか、今度はツッコミに切り替えてきた。
 いやー、普段なら私がツッコミで綾が天然ボケって感じなんだけど、私の起き抜けは立場逆転するんだよねぇ……。



「まったくもう、陽子ったら……」
「とか言いつつ、ノリノリじゃないか」


 私のベッドに座り、足をパタパタとさせる綾を見るに、言葉とは裏腹にどこか楽しそうだった。
 座布団に座りながらそのことを指摘すると、綾の頬に何故か少し赤みが差す。


「気、気のせい、でしょ」
「そうか……」


 こういう時に、深入りすると思わぬ事態を生みかねない。
 だからいつもこの辺りで引くんだけど、そうするとこれまた何故か、綾の表情は少し不機嫌そうになる。
 中学以来の付き合いだけど、こういう所はちょっぴり慣れなかったり。
218 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/10(火) 00:21:51.71 ID:bZBTqQiJ0
(そういえば……)


 中学以来、か。
 そんなフレーズに気を取られながら、本棚を見上げてみた。

 そのためか、すんなりと「それ」は視界に入り込んできた。


「……」
「陽子?」


 誘われるように、私は本棚に向かう。
 「それ」を取り、再び座布団に戻ると、


「……『〇〇小学校 卒業アルバム?』」


 綾が、そこに書かれた文字を読み上げた。
 そう。いかにもこれは、卒業アルバム。
 それもまだ――


「――何か、さっき居眠りしてる時にさ、ちょっと昔のことを」


 思い出しちゃってね、と我ながら照れくさそうに言った。
 綾は、足を止め、少しばかり真剣そうな表情になる。


「……もしかして」
「そっ。その『もしや』」


 おどけた口調で、私は勉強机にアルバムを開く。
 綾もベッドから下りて、私の近くに腰を下ろした。
 長い髪が私の頬をくすぐり、またさっきの「光景」を意識する。


「――これって」


 綾が目に留めた写真には、白色が目立つ。
 体操着服姿の私たちが、そこにはいた。

 男子たちに混ざって我ながら元気よくピースサインをする私。
 そして、そんな私にピタッとくっついているのが――



「そ、昔の……」


 ページを繰って、私は、


「――私と、シノ」


 あの日に、帰る――
219 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/10(火) 00:23:25.76 ID:bZBTqQiJ0

 

 ――考えてみれば、あの日も夏だったっけ。

 

「ホント、大宮は猪熊と仲良いよなー」


 写真は、卒業アルバムに載せられるらしい。
 そんな話を適当に聞き流していると、後ろからそんな声がした。


「だよな。ずっと昔から、仲良いんだ」


 重なるようにして、もう一つ。
 チラッと、隣を見る。
 予想通りというべきか、笑顔の私の友人が――


「はいっ! 仲良しです!」


 後ろの男子に、元気良く応える。
 そして、さっきまで引っ付いていた私から離れると、


「でも、二人も仲良しですよね?」
「いやまぁ、そうだけど……お前と猪熊って」
「そうだな、仲良しだな」


 そんな風にして、三人で笑う。
 私は、そんなシノを見る度に、何だか複雑な気持ちになっちゃってたっけ。




 ――帰り道



 当然のように、私とシノは一緒に帰っていた。
 イサ姉に、「シノをよろしく」と言われていたこともあったけど、何よりも――


「今日も、楽しかったですねぇ……」


 正直、一緒にいて落ち着いたんだな、これが。
 エヘヘと笑いながら楽しそうに話すシノを見てると、どうにも放っておけない。

 元々私は、男勝りな性格だってことは自覚していたから、男子といることもあった。
 勿論、女子とだって一緒にいられた。

 けれど、なんというか、色々と――


「……ねぇ、陽子ちゃん」


 シノは、特別だった。


「ん? どした?」


 私はシノを振り向いて、「あれ?」と思った。
 シノの目は、私の目に向けられてはいない。
 それは――


「――陽子ちゃんは、大きくなるんですね」
220 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/10(火) 00:24:25.91 ID:bZBTqQiJ0
 向けられた目線と、その言葉の意味するもの。
 「男子」にそんなことをされたら、普通なら顔を赤くして、少し嫌な気分になるだろう。
 嫌な思い出として、記憶のくず箱にでも放り込んでしまうはずだ。


 けれど私は、その時のシノの表情を忘れられそうにない。


「そうだな、きっとまだまだ――」


 当時、何の恥じらいも躊躇もなく、大真面目にそんなことを言えていた。
 シノ相手だと、普通の男子や女子相手とは、全く違う会話になるから。


「……ボクとは、違うんですね」


 自分の目線を下に向けて、シノは呟いた。
 「違う」。そうだ。私とシノは、違う。

 

 胸に付けるための、女子特有の「アレ」を、親と連れ立って買いに行ったのはいつだっけ。
 さっぱり記憶に無いけれど、初めて「それ」を付けて学校に行った時のシノの表情だけは、とてもよく覚えていた。


 残念そうでいて、何だか嬉しそうな、本当に複雑そうな表情。
 それを見て、私は「どうしてだろう?」と、純粋に疑問に思った。
 どうしてシノは、「違う」のだろう、と。


 髪は短かったものの、正直な話、他の誰よりもシノは女の子らしかった。
 見た目からしても、初めて会った時に感じた「可愛い子」そのもので。
 今日の授業みたいにシノが男子と話すことがあっても、やっぱりそんな男子とはどうも違う。

 
「陽子ちゃん……」


 だから。
 そんな上目遣いで、頼るような声を出されると、返答に困った。
 いも……弟をこよなく愛するイサ姉の気持ちが、凄くよく分かる気がした。


 そんなポーズのまま発せられた言葉は、声も含めて、今でも私の脳裏に焼き付いている。


「――ボクも、大きくなれない、でしょうか?」
221 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/10(火) 00:25:22.14 ID:bZBTqQiJ0





「――それで、陽子は何て応えたの?」


 何となく、そんな昔話をしてしまっていた。
 いやまぁ、休憩時間だしね。


 とはいえ、この質問……なんて答えたものか。
 

「いやまぁ……なんというか、その」


 ついつい照れてしまう。
 思えば、あの日の私も、なんて若かったことか。


「ほら、私たちは、普通に大きくなるだろ……」
「――『普通に』、ね」


 あれ? なんで綾は、凄く悲しそうな表情をしているんだ?
 まぁいいや。話を続けよう。


「で、シノは、普通には大きくならない。当たり前だ」
「まぁ、ね」


 綾の表情はいちいち気にかかったけれど、それはそれとして。
 コホンと一息。


「で、だから私は言ったんだ」
「ええ」



「だったら、何か詰めちゃえば、って」


「……」

「え?」




「ほら、シノは私みたいには、その……ならないから」


 その時、私は大真面目にシノと話し合っていた。
 帰りの通学路で、大真面目に見つめ合う、二人の小学生。
 傍から見たら、おかしな光景に映ったことだと思う。


 でも。
 その時の私は、心からシノの力になりたかった。


 さっきの体育の授業の時、男子にからかわれた(?)とき。
 シノが一瞬見せた、なんとも言えない表情が、ずっと忘れられなくて。


「――大きくすれば、いいんだ」
222 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/10(火) 00:27:55.06 ID:bZBTqQiJ0
 



 その翌日――



 シノは放課後、私を人気のない校舎裏に連れて行った。
 そこでいきなり服を脱ぎ始めるものだから、私はとても焦ったっけ。


「ちょ、ちょっと、シノ!?」
「し、静かに、陽子ちゃん」


 と言われても、恥ずかしそうに頬を染めながら、上半身裸になられても困るんだけど……!
 そんなあれこれを飲み込んで、せめて私は視線を逸らす。
 視界の隅っこで、本当に「男子」とは思えないほど白い肌が見え隠れした。正直、すっごく困った。


「……もう、いいですよ」
「う、うん……?」


 シノに促され、再びシノと視線を合わせた私が見たものは――





「――陽子が、今のシノの」
「そう。そういえば、綾には言ってなかったっけ?」


 中学時代は、色々とそれ以外にすることあったからなぁ。
 最終的に、何ともあっさりと受け入れられた、「大宮忍カミングアウト作戦」。
 綾にも手伝ってもらったっけ。

 あぁ、だから今まで話すことなかったんだ。タイミング外しちゃってたんだな。


「……ということは」
「シノは勉強とかはダメダメな割に、メチャクチャ器用でね。凄くその出来は良かった。
 で、その時も、シノの胸はもう、フツーに膨らんでるように見えた」


 あの時は、本当にビックリした。
 目の前に、いきなり正真正銘の女子が現れたんだから。


 とはいえ、それからシノの、その、女装能力にはますます磨きがかかっていった。
 今となっては、どこからどう見てもごくごくフツーの女子高生になり
 毎度のようにアリスやカレンを騒がせているのは周知の通りってわけだ。
223 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/10(火) 00:31:38.29 ID:bZBTqQiJ0





「ふーん……」


 さて、話を終えると少し疲れた。
 麦茶でも飲もうか、と下に取りに行こうと立ち上がると、


「――陽子とシノって、本当に仲良かったのね」


 綾がそんな事をいうので、少しキョトンとしてしまった。


「何言ってんだ、当たり前だろ。シノは私にとって、特別なんだから」


 さて、麦茶麦茶、っと。
 ちょっと行ってくる、と綾に言って、私は下に降りていく――





「……」
「『特別』ねぇ……」
「――」


 陽子がいなくなり、私は彼女のベッドに寝転んだ。
 ぼんやりと白い天井を見つめていると、そこに昔の「二人」の姿が見えるような気さえした。

 それくらいに、陽子の話はシノへの愛情でいっぱいだった。


「シノ」

 
 つぶやきは、止まらない。
 枕に突っ伏しながら、私は今のシノのことを思い浮かべる。


「アリスやカレンは言うに及ばず」


 金髪少女二人を骨抜きにして。



「……陽子までって」


 さっきの話をしている時の陽子は、まるで。
 保護者のような、姉のような……そして、また。


 ゴロゴロと寝返りを打ちながら、私は普段なら決して言わないことまでつぶやいてしまう。




「あなた、本当に罪な『女』よ……」
224 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/10(火) 00:34:55.06 ID:bZBTqQiJ0
ここまでになりますが、何とも長いですね……。

地の文でいっぱいにするのは、なかなか厳しかったです。
でも、何だかとても楽しかったです。


そんなこんなで、アリスやカレンからシノへ向いていた矢印に、新たな(というより元からあった?)矢印が現れました。
こりゃ、綾の立場が危ういですね……。
とはいえ、今後はまた金髪少女と和風少女の絡みという、主流に戻っていくと思います。


それでは。
いつもありがとうございます。
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/10(火) 01:18:11.10 ID:4fRYYbgKo
乙!
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/10(火) 12:28:27.82 ID:nLAheMhq0
キタ━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/12(木) 20:33:25.73 ID:G9u/WjyXo
乙!!
228 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/13(金) 00:12:34.99 ID:XcFYQHc30
投下です。

――とはいえ、今後は――

なんて書いたくせして、随分とおかしなことになりました。
この次の展開は、しばらく考えることになりそうです。
229 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/13(金) 00:13:40.60 ID:XcFYQHc30
 ――あっ。


「……」

 朝。
 私はいつものように、目を覚ましました。

 横を見遣れば、布団で寝息を立てる、可愛らしい英国少女の姿が。
 その姿に笑みを隠せなくなってしまいます。ここまではいつも通り。


(――さっきのは)


 目の前にいたのは、活発で優しい女の子。
 その子に、私はお世話になりっぱなしで――


(……なんだ)


 答えは明らかです。
 あの子に、決まっているじゃないですか。


「……」


 いつもと違うのは、そんな所でしょうか。
 さて――
 時計が指す日付は、9月1日。

 今日から、学校が始まります。







「……」
「ねぇ、シノ」


 あっ。
 隣を見ると、アリスが少し不安そうな表情を浮かべていました。
 いけない、何か聞き漏らしてしまったのでしょうか。


「――何か、あったの?」


 鋭い。
 日本人に比べて外国人はストレートという話は、本当だったのでしょうか。
 それはともかく、私はアリスに心配をかけてしまったようです。


「い、いえ、なんでも――」


 ――シノは、ずっと私の――


「――なんでも、ないです」
「……?」


 うーん、困りました。
 何だか、よく分かりません。
230 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/13(金) 00:15:06.70 ID:XcFYQHc30
――集合場所


陽子「……」

陽子「あれ?」

陽子(私が一番?)

陽子(へぇ、珍しいこともあるもんだ)

陽子(……)


陽子(あっ、来た来た)

陽子(――シノと、アリスか)

陽子(シノか……)


アリス「ヨウコッ!」

忍「……」

陽子「よっ、アリス」

陽子「……シノも、おはよ――?」

忍「――」


忍「……あっ」

忍「陽子ちゃん、おはようございます」

陽子「……?」


 ――なんだ?


 シノの調子が、おかしい。
 夏休み明けだからか?
 いや、でも……うーん。


「……」


 そういえば、こんなことが昔もあったっけ。
 で、私は、そんなシノに――


「……」
「あっ――」
「!!?」
「あっ、おはようござい……マ、ス?」

 額と額を合わせてみる。
 シノは――うん、熱はなさそうだ。
 ということは、風邪とかじゃないってことか。一安心一安心。


「ん、良かった。熱はないみたいだね」


 とりあえず、「診断結果」をシノに笑いながら伝える。
 問題はなさそうで、なによりだ。


 ……ん?


「……ヨウコ?」
「えっ、ええ?」


 戸惑う金髪少女が二人。
 あっ、カレンも来てたのか。
231 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/13(金) 00:16:17.10 ID:XcFYQHc30
「おはよ、カレン」
「は、はい、おはようござい、マス」
「……?」


 ん? 様子がおかしい?
 アリスもカレンも、何やら酷く戸惑ってるみたい、だけど……。


「……あ、ありがとうございます、陽子ちゃん」


 って、どうしてシノも変な顔してんのさ。
 え、なにこの状況? もしかして、私が変なコトした、みたいな……?


「――おはよう、みんな」


 首をひねっていると、聞き慣れた声が聞こえた。綾だ。


「あぁ、綾。おはよ」
「……いや、なんというか、その」


 綾に挨拶したらしたで、何故か綾は視線を逸らした。


「いやまぁいいわ。行きましょう」
「ん、そうだな」


 ほらみんな、行くぞ、と三人に声をかけ、私は歩き出した。



「……」


 歩きながら、私はさっきの光景を思い返していた。
 カレンに声をかけようとしたら、見えてしまった「それ」に心を奪われてしまった。


 シノと陽子の付き合いの長さを鑑みれば、ごくごく普通の光景だったかもしれない。
 ただ――私には、どうしても昨日のことが気になっていた。



「でさー、またうちの弟と妹が――」
「ふふ、陽子ちゃんのお家はいつも賑やかですねぇ」


 笑い合う二人は、どこまでもいつも通り。
 シノの表情も、いつものおっとりとした可愛い笑顔。

 ……だからこそ尚更、さっきの表情が気になった。


(――やれやれ)


 心のなかで嘆息してしまう。
 だって、目の前の二人の金髪少女だって――


 二人の「顔」を、見たんだから。
232 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/13(金) 00:17:04.47 ID:XcFYQHc30


 ――さっきの、アレは。


 結局、学校に着いても、離れてくれまセン。


 シノとヨウコの付き合いは、私とアリスと同じくらいカモ。
 そう考えれば、さっきのもごくごく当たり前のスキンシップ――


「……んん?」


 ナニかがひっかかりマス。
 それは、一体――?


「あっ」


 そうだ、わかりマシタ。
 恐らく――


 ――ん、良かった――

 ――……――


 陽子に額を当てられていた、シノの表情が。
 何故か、本当に「何故か」。


 ほんのりと赤くなっていたから、デス――











――教室


忍「……」

陽子「――昨日、昔のアルバムを見てたらさ」

忍「……」

陽子「シノ?」

忍「!」


忍「あ、ご、ごめんなさい……」

忍「――その」

陽子「ん、大丈夫」

陽子「……どしたの? 風邪じゃなさそうだけど、体調悪い?」

忍「……」


忍「思い、出しちゃった、みたいで」

陽子「……え?」
233 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/13(金) 00:17:50.17 ID:XcFYQHc30




――廊下



アリス「……はぁ」

アリス(一体、さっきのは、なんだったんだろ?)

アリス(陽子と、シノが――)

アリス(……こんなに気にするのは、おかしいよね)

アリス(――だって、あの二人は、ずっと)


アリス「シノ、陽子、ただいm」

忍「陽子ちゃんに、私のはだk」

陽子「ハイ、ストップ」

アリス「」


忍「……」

陽子「ごめん、シノ。その話は、ナシで」

忍「――」

陽子「よし」

忍「……ふぅ」


忍「酷いです、陽子ちゃん。いきなり口押さえるなんて」

陽子「い、いやまぁ、その……」

陽子「――さすがに、なぁ」

忍「……?」


アリス「……」

アリス「――二人とも! もうすぐHR始まるよ」

陽子「あ、あぁ、アリス。分かった、サンキュ」

忍「アリス、ありがとうございます」

アリス「ふふっ、どういたし、まして……」

アリス「……??」
234 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/13(金) 00:18:44.66 ID:XcFYQHc30

 

 ――さっきのは、一体?


 私の頭で、さっきの二人がグルグル回る。
 「はだ――」なに?
 それに、あの時の二人――


(どっちも、顔が真っ赤で)


 シノも陽子も、おかしい。
 夏休み明けで、陽子もシノも体調を崩したとか?
 それなら、顔の赤みも納得が――


(いかないよ……)


 目の前で、烏丸先生が何かを話している。
 私は、それが全く聞こえなかった。
 耳に言葉が入るのに、それはすぐに抜けていって――


(シノ……ヨウコ)


 結局、二人の姿だけが脳裏に焼き付いたままだった。
235 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/13(金) 00:20:01.20 ID:XcFYQHc30


 ――焦った。


 さっき、シノにあんなことを言われた時。
 咄嗟に、シノの口を塞いでしまった。


 でも、どうだろう?
 いつもの私なら、あんなことしたか?
 どうして反射的に、あんな行動を……?


(わかんないなぁ……)


 カラスちゃんが何かを話している。
 それはともかく、さっきの行動がさっぱり分からない。
 我ながら、どうかしてる、ような……。


(――でも)


 原因というかキッカケというか、それは分かる。
 ――昨日、部屋で綾と見た、「アレ」のせいだ。








 ――朝。


 起きたばかりの頭に、昔の陽子ちゃんの姿がありました。
 陽子ちゃんは、凄く恥ずかしそうに目を逸らしていました。


 ……あの時のことは。
 私もよく、覚えています。
 どうして、あんな行動に出たのか。
 小学生の頃とはいえ、上半身裸の姿なんて、それこそ家族とアリスやカレンにしか――


(――あっ)


 思い出して、しまいました。
 あの時交わした、会話を……。




 ――ボクは、陽子ちゃんを『特別』だと思ってます――

 ――……私だって、シノは『特別』だよ――



(……ああ)


 どうしてか、私は、非常に居たたまれない気分になってしまいました。
 これは……。
236 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/13(金) 00:22:46.77 ID:XcFYQHc30





 ――二学期が始まった。


 烏丸先生の話を耳に挟みながら、私は4人の大切な友人のことを考え続けていた。


 シノとアリスとカレン。
 やっぱり、この3人の組み合わせが、一番目立っていた。
 けれど。


(……どうなるの、かしら?)


 これからのこと。
 シノ。陽子。アリス。カレン。
 そして――私。


 私たちは、これから……












(そりゃまぁ、シノは私にとって『特別』だ)

(陽子ちゃんは、私にとって『特別』です。そんなこと、当たり前です)

(シノにとっての、アリスやカレンへの『特別』とは、違う)

(アリスやカレンと、ずっと一緒にいる。私は、そう二人に言いました。その『特別』とは、陽子ちゃんは違います)



(そうだ、シノと私は長い付き合いじゃないか)

(アリスやカレンと同じ、そんな付き合いだったじゃないですか)



(――だから)

(――そうです)



((別に、おかしなことじゃないんだ(です)――))
237 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/13(金) 00:24:53.55 ID:XcFYQHc30
どうしてこうなった。

今後の展開を漠然と考えていたら、こんなことになってしまいました。
果たして、陽子とシノは……そして、他の3人は。
それは、今後の思いつき次第になりそうです。


それでは。
いつもありがとうございます。
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/13(金) 14:29:17.51 ID:gBVfOUrs0
アヤヤー…
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/13(金) 17:10:19.02 ID:WiluaEpcO
あやや死亡……
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/13(金) 18:16:52.39 ID:bY3nHxGHo
241 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/14(土) 17:44:41.38 ID:Kls8wf240
 ――大宮と猪熊って、仲良いよなぁ――

 ――昔からずっと、一緒だもんねー――



(……いやいや、ちょっと待て)


 どうしてこのタイミングで、こんな記憶が浮かんでくるんだ。
 そりゃまぁ、イサ姉に頼まれたこともあって、私とシノは一緒にいることが多かった。
 だから、私にとっては、当たり前で……。



「……」
「――陽子」
「あ」


 隣を見ると、綾が心配そうな表情をしている。
 いけない、帰り道でぼんやりとするなんて。


 結局、5人で帰っている間、私はずっとおかしかったと思う。
 シノも、何だか様子が変だったし。
 ……なんだか、アリスやカレンには悪いことをしたような気がしてならない。
 あの二人が、シノを『特別』と思っていることは――


「ごめん、綾」
「……」
「な、なんか、寝付けなくってさー。それで、カラスちゃんの間延びした声で話されると眠くてしょうがなくて――」


「陽子、ちょっといい?」


 やれやれ。
 誤魔化しなんて、綾に通用するわけがないんだよね。
 この友人の鋭さは、私にだってそれなりに分かっているつもりだった。


「……なに?」
「その――はっきりさせたほうがいいんじゃない?」
「……」


 どういうこと、なんて突っ込むのは野暮か。
 私とシノと、付き合ってきてくれたんだから、そりゃ察するはずだ。


「――そう、なのかな」


 思い返す。
 抜けるように白い、およそ男とは思えない肌のシノ。
 男子に何か言われても、嫌な顔一つせずに話しに行くシノ。

 ……私のためにも、シノのためにも。



「ありがとな、綾」


 肩をポンと叩き、私は彼女に礼を言う。
 そして、すぐさま行き先を変えて、駆け出した。
 どこに行くかなんて、決まっている。


 と、後ろから、綾の声がした。


「あ、あなたがおかしいと、私たちも困るんだから……」


 その言葉に、私は何だかとても嬉しくなる。
 でも、敢えて振り向かずに、そのまま走っていく――
242 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/14(土) 17:45:47.02 ID:Kls8wf240
「……まったく」

 陽子が走り去っていくのを見て、私は溜息をついた。
 これで、良かったんだろう、多分。
 陽子と「あの子」がはっきりしないと、どうにも私やアリス、カレンも落ち着かないし。

 ……うん、それだけ。

「――陽子、シノ」


 それだけ、なんだ、きっと。
 だから、今締め付けられるようなこの胸の感覚も、気のせいで――


「……はぁ」


 帰ろう。
 そして、後でやって来るはずの連絡を待とう。


 ――ベッドにでも寝転べば、こんな感情は飛んでいってしまうだろうから。


「……」


 ケータイを閉じると、私は支度をします。
 制服のままだったので、私服に着替え、鏡の前で確認。
 ……普段なら、確認なんてしないのですが。


 階段を降りて靴を履き、ドアに手をかけたところで、


「シノ……?」


 後ろから、声がしました。
 その愛しい声に、私はピタッと止まります。


「アリス――」


 振り向けば、そこには不安そうな表情を浮かべる大切な女の子の姿。
 彼女は、胸の辺りでギュッと握りしめ、何やら耐えているように見えました。
 ……何に耐えているのか、何となく分かることに、罪悪感を覚えます。

「ちょっと、陽子ちゃんと会ってきます」


 そう言うと、彼女はハッと顔を上げました。
 その表情に、心が揺れるのを、確かに感じました。


「……それでは」
「シノ」


 ピクッと止まり、私は再びアリスの方を振り向きます。
 彼女は、目を彷徨わせた後で、


「――な、なんでも、ない、よ」


 何かを言わんとしているのは、私がどんなに鈍くても分かりました。
 ただ、敢えて追及はしません。


「大丈夫ですよ、アリス」


 ガチャッとドアを開け、私はもう振り向かずに、ゆっくりと、

「……アリスはずっと、『特別』ですから」

 ドアを、閉めました。
243 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/14(土) 17:46:21.70 ID:Kls8wf240


――公園


陽子「……」

陽子(ここの公園――)

陽子(それこそ昔、シノやイサ姉と一緒に、遊んだっけ)

陽子(今はもう、小学生とかいないんだ……時の流れを感じるなぁ)

陽子(――あの頃からもう、髪こそ短かったものの、シノは)

陽子「……」


忍「……陽子ちゃん」

陽子「……よっ、シノ」

忍「ごめんなさい、待ちました?」

陽子「いやいや、私も今来た所だし」

忍「それは、良かったです」

陽子「……」


陽子「――ちょっと、さ」

忍「?」

陽子「ブランコ、乗らないか?」




――ブランコを漕ぎながら


陽子「……」

忍「……なんだか」

忍「懐かしい、ですね」

陽子「そうだなー」

陽子「シノ、立ち漕ぎ出来なかったよなぁ」

忍「あっ、陽子ちゃん酷いです」

忍「い、今なら、出来ます……!」プルプル

陽子「こらこら、震えてるからやめなさい」


忍「……」

忍「――あの」

陽子「ん?」キョトン

忍「何だか、懐かしい、ですね……」

陽子「そう、だな……」

二人「……」
244 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/14(土) 17:47:09.06 ID:Kls8wf240


 ――二人でブランコを漕いでいる間、私はというと、昔のことが頭に浮かんでは消えていくばかりだった。


 私とシノは、イサ姉の言葉があったからこそ、一緒にいた――なんて。
 やっぱり、自分は騙せない。
 帰り道で思っていた「言い訳」めいたことは、この時間で全て吹っ飛んでしまっていた。


 隣で楽しそうに、ブランコを漕ぐシノ。
 そんな友人の笑顔を見てれば、「言い訳」なんて勝手に崩れてしまうのに。


「……陽子ちゃん」


 ぼんやりとシノを見ていると、シノが声をかけてきた。
 シノがブランコを漕ぐのをやめ、身体ごと私に向ける。


「呼び出したのは、何でですか?」


 その口調は思ったより真剣だったので、私もブランコを止めて、シノと向きあった。

 元々、呼んだ理由なんて、なかったも同然だった。
 ただこうして、高校生になってから二人だけで過ごしたことが無かったことを思い出しただけで。


「――シノと、話したくって」
「お話、ですか……?」


 私はシノに、何を話したかったんだろう。
 そんなもの、大して考えてない。
 だから、この会話だって、行き当たりばったりだろう。上等だ。


「……私は、さ」


 ブランコから降りて、私はシノの前に移動する。
 シノは、ブランコに腰掛けながら、私の顔をジッと見つめる。
 ……よくもまぁ、整った顔立ちをしているものだ。


「シノが、『特別』で――」
「……」
「好き、だよ」


 あ、意外とあっさり言えた。
 こんな言葉を言うだけでも、かなりまごつくと思ったんだけどな。

 で、シノはというと――


「私も、陽子ちゃんのことは、好きですよ」


 意外とあっけらかんと、シノも同じことを言ってくれた。
 お互い、ちょっと顔に赤みが差していただろうけれど、戸惑うことなしに。
245 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/14(土) 17:47:39.44 ID:Kls8wf240

 ……あ、そっか。


 なんだか、さっきまでの私がバカみたいに思えてきた。
 「はっきりさせたら?」という友人の言葉が、とても有りがたく思えてくる。


 なんだ、全く普通だ。
 当たり前のことを、当たり前だって確認しただけ。
 だから、私とシノは、殆ど様子をおかしくしていないんだ。


「……いやー、なんだかなぁ」
「照れますねぇ」


 お互い、笑い合う。
 シノの冗談めかした言葉も、何だかストンと胸に落ちた感触がして、気分がいい。
 ……だから。


「――ねぇ、シノ?」
「はい?」
「これから、街にでも行ってみよっか」
「……ぜひ!」


 さて、久々に「デート」とでもしゃれ込もうか。
 シノの手を引いて、私たちは笑いながら駆け出す。


 ……何だか、昔に戻ってきたみたいだ。







――翌日


カレン「……あっ」ピタッ

陽子「よ、おはよ、カレン」

カレン「――おはよ、ございマス」

陽子「どうした?」

カレン「い、イエ」

カレン「……もう、調子が良くなったみたいで、なによりデス」

陽子「ありがと」


陽子「――あ、そうそう」

カレン「……?」

陽子「私、シノのこと好きだよ」

カレン「」


カレン「そ、それは一体、ど、どうイウ……?」アセアセ

陽子「日本語ってややこしいけどさ」

陽子「――『Like』ってこと」

カレン「――あ」ハッ
246 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/14(土) 17:48:05.95 ID:Kls8wf240
陽子「悪かったね、カレン。はっきりさせないから、不安になっちゃっただろ?」

カレン「そ、そういうコトハ――」

陽子「いいっていいって」

カレン「……」


カレン(陽子が妙にテンション高いデス)

カレン(――なんだか、安心しマシタ)エヘヘ



忍「陽子ちゃん! カレン!」

陽子「おお、シノ! アリスもおはよ!」

アリス「……おはよう、陽子」


忍「……」

陽子「?」

忍「――よいしょっと」ピトッ

陽子「……?」ピクッ

アリス「!!」

カレン「!?」



忍「……うん」

忍「熱はないみたいですね、陽子ちゃん?」ニコッ

陽子「……お返しのやり方が、単純だなシノめ」

忍「ふふっ」



綾「……」

綾(はぁ)タメイキ

綾「おはよ、みんな」

陽子「よっ、綾」

忍「おはようございます」
247 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/14(土) 17:50:08.97 ID:Kls8wf240
アリス「」

カレン「……え、エエ?」

綾「相変わらず、こっちは二人とも呆けてるわね……」

綾「それよりも、陽子、シノ。昨日から言いたかったんだけど……」

陽子「?」

忍「?」


綾「……公衆の面前で、ああいうことは」

陽子「そうだなぁ……」

忍「綾ちゃんの言うとおりですねぇ……」

二人「……」ニコニコ

綾「――」














 そんな感じに、二人のちょっとした問題は決着がついた、みたい。
 何の戸惑いもなく笑い合う二人を見て、私は安心したような、まだ不安なような……複雑な気持ちだ。


 まあ、これで良かったんだろう。
 はっきりしてもらわないと、私(たち)は居心地が悪いし。
 ……ただ


「……シ、シノと陽子が」「『Like』、デスカ……」


 この二人は、慣れるのに時間がかかりそう。


 ……私?
 そうね、私は――


「私も、陽子ちゃんみたいに大きくなりたいですねぇ……」
「――シノ。そういう話はもう」
「え、身長の話ですよ?」
「……!!」


「こ、このっ!」
「陽子ちゃん、顔真っ赤です」


 
 ……私『も』、この二人に慣れることから始めないと、いけないかもしれないなぁ。
248 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/14(土) 17:52:51.43 ID:Kls8wf240
陽子とシノのお話は、これにて一旦おしまい、と。

え、綾のこれから?
大丈夫大丈夫。
……ちょっと、道が険しくなっただけかもしれないから。


結局、陽子とシノの関係は、友人としての「好き」の範疇だったんだな、とお互いに確認し合うという話でした。
最後のシーンだけ見ていると、本当にそれだけなのか? という疑問を感じる方もいると思いますが……。
今後、どうしましょうか。


それでは。
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/14(土) 23:44:32.84 ID:zX3Y4HK+o
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/15(日) 02:01:15.88 ID:97f71UHP0
キタ━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/15(日) 23:23:55.85 ID:s2oqR3rMo

楽しみにして気長に待ってるよ
252 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/16(月) 17:49:57.32 ID:wwKpbdsW0
「……」


 移動教室中のことだった。
 私たちが「それ」を見たとき、一瞬、世界が凍りついたような気がした。



「あの――!」
「……!?」



 視界の中で躍る金髪。
 止まった時間。
 息を呑んでしまう、私たち。


 あの光景が、離れてくれそうにない――





 その時は校舎を跨いでの移動で、私たちは昇降口で靴を履きかえていた。
 お昼休みの終わりのことで、慌ただしく生徒が出たり入ったりしていた。


「……ん?」


 いの一番に反応したのは、陽子だった。
 なにやら神妙な顔つきになったかと思うと、キョロキョロと辺りを見回し始める。


「どうしたのよ、いきなり」
「……綾。聞こえないか?」
「どうしたんですか?」
「ヨウコ?」


 シノとアリスもやってきて、陽子を囲む格好となった。
 そろそろ教室に移動しないと、先生に怒られちゃうわよ――
 と、そんなことを言いかけた私は、


「カレンと、誰かの声だ」


 その言葉に、言葉をなくしてしまった。




「――!」
「……?」


 陽子が先導して、私たちを連れて行く。
 ここは、校舎裏。
 普通、学校関係者はなかなか使うことのない場所だった。


「――やっぱり」
「ね、ねぇ、陽子……やっぱり、覗き見なんて」


 彼女の袖を引っ張りながらそんなことを言うものの、
253 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/16(月) 17:50:48.44 ID:wwKpbdsW0
「あっ、やっぱりカレン――と」
「……どちらさま、でしょう?」


 まったく、アリスとシノまで陽子に巻き込まれてるんだから。
 そう、だからしょうがない。
 3対1じゃ、勝ち目がないのだから――


「なんだ、綾も結構やるな……」
「ち、違うわよ!」


 声を押し殺しながら、私は視界の中の二人を見つめる。


 改めて状況を見てみると、一方がカレンなのは確実だった。
 あの特徴的な金髪とパーカーで、彼女でないわけがない。


 そして、もう一方は――


「……誰?」
「うーん、見たことのない……」


 男子用の制服を着ていることくらいか。
 なるほど、男子生徒とカレンか。
 ふーん……
 ……。


「――つ、つつ、つまり?」
「綾、落ち着け」


 れ、冷静になれるわけがないじゃないっ!
 つまり、その……「そういう」こと、よね?


 人気のない場所。
 男子と女子。
 見つめあったまま動かない、二人の姿。



「……カレン」


 私が必死に落ち着こうとしていると、すぐ近くから声がした。
 見れば、アリスは胸の辺りで手を握り締めている。
 ……やっぱり、英国少女にもわかるのね。


 そして――


「――」


 シノは、静かに、二人を見ていた。
 その瞳は透き通っているように見えるほどきれいだった。
 けれど、普段浮かべている笑んだ表情は、窺えなかった。


 アリスはなんとなく心中がわかる気もするけれど、こういうときのシノは本当にわからない。
 彼女が真剣になることなんて、滅多にない。
 こんな、心から神妙な顔つきをすることなんて、それこそ――


「……あっ」


 陽子の声で、我に返る。
 再び二人を見れば、男子生徒の方が頭を勢いよく下げていた。
 対するカレンの表情は――ここからでは、よく見えない。
254 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/16(月) 17:51:35.77 ID:wwKpbdsW0
「カレン、焦ってる……」


 ただ、アリスにはわかったらしい。
 付き合いの長さがそうさせるのか、感覚で掴んだのかもしれない。


「――」


 一言も漏らさずに、じっと見つめるシノの姿もとても印象的で。
 私は、移動教室のこともすっかり忘れてしまっていたような気がする。


「……」


 一瞬の間を置いて、


「……」


 カレンが、ペコリと頭を下げた。


 対する男子生徒は、頭を掻くと、手を振って駆け出した。
 昇降口の方向だろう。
 ……つまりそういうこと、なのかな?


「――いやー、カレンもやるねぇ」


 いつもなら調子のいい陽子の声も、なんだか震えてるように感じた。


「はぁ……カレンが遠くに行っちゃったような気がするよ」


 ため息をつくアリスも、今の光景に心奪われているようだった。
 まあ、無理もない。


 一緒にいると忘れてしまいがちだけれど、カレンはとびきり可愛い。
 けどまぁ、今日みたいなことは経験したことはなかったのかもしれない。
 顔を上げても、ずっとその場から動かないのだから……。


「――青春だねえ」


 陽子は、無理して声を出さなくてもいいと思う。
 あなた少し、恥ずかしそうよ?


「……シノ」
「……」
「シノ!」
「――あ」


 私はというと、もう一人の友人が気がかりだった。
 ぼーっとした表情を浮かべるシノは、まるで……本当に、こけしのように動かなかった。


「ごめんなさい、綾ちゃん」
「……大丈夫?」
「はい」


 私に向かって笑顔を作ってみせると、再びカレンを見つめ直した。
 ……全く、大丈夫じゃなさそうだった。

 その笑顔が作り物だってことくらい、私にだってわかる。
255 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/16(月) 17:52:23.27 ID:wwKpbdsW0
――放課後


忍「……」

アリス「シノ……」

陽子「どうしたんだろうな? さっきからずっと、こんな感じだけど……」

綾「……」


綾「シノ」

忍「――あ」ハッ

綾「今日は、五時間授業」

綾「帰りましょう?」

忍「……」

綾「カレンももうじき、やってくるでしょうし」

忍「――カレン」ピクッ



カレン「みなサーン!」ガラッ

陽子「あ、来た来た」

アリス「……」

綾「ほら、来たわよ?」

忍「……」コクッ

カレン「――?」


カレン「シノとアリスの調子がおかしいデス?」

陽子「ま、まぁなー」

綾「ちょ、ちょっと、ボーっとしてるみたいね」

カレン「Hnn……」


アリス「……」

アリス「ねぇ、カレン?」

カレン「What?」

アリス「……」

アリス「やっぱり、いいや」

カレン「……」キョトン


忍「――カレン」スクッ

カレン「なんデスカ、シノ?」

忍「……」


ダキッ


カレン「……!!?」

アリス「!?」

綾「あ」

陽子「!」
256 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/16(月) 17:52:53.74 ID:wwKpbdsW0
忍「……」ギュッ

カレン「シ、シノ……」

カレン「が、学校で抱き着くのは、チョット――恥ずかしいデス」

カレン「そ、そういうのは、家デ」カァァ

アリス「カ、カレン、何言ってるの!」アセアセ

忍「……」


忍「――カレンは」

忍「私を、置いていっちゃいますか……?」

カレン「……」


カレン「もしかシテ」

カレン「……見ちゃった、デス?」

忍「……」

カレン「――みんな?」チラッ

陽子「い、いやぁ、その……」

綾「ごめんなさい、見ちゃったの」

アリス「カレン――あれってやっぱり」

カレン「……」


カレン「ハイ」コクッ

カレン「同じクラスの人デス」

陽子「ああ……」

綾「つまり――」

カレン「――『I got asked out.』」

アリス「……告白、されたんだ」

カレン「YES」



忍「……」ピクッ

カレン「シノ――どうしたデスカ?」

忍「――カレンは」

忍「その方と、お付き合いするんですか?」

カレン「……」
257 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/16(月) 17:53:27.43 ID:wwKpbdsW0
カレン「気持ちはたしかに嬉しかったデス」

カレン「デモ……」

カレン「私ハ……」

カレン「――」カァァ



綾(……)

綾(「どう伝えればいいのかわからない」って感じね、あの顔の赤さは)


陽子「……」

陽子(ちょっとシノ、抱き着きすぎじゃあ……)アセアセ

陽子(――なんて、別に思わないけどさ)

陽子(ちょっと、胸をよぎっただけで……)ハァ

陽子(やれやれ……)タメイキ


アリス「……」

アリス「ふ、二人とも!」

忍「?」

カレン「――アリス?」

アリス「あ、あんまり、抱き着いてると、その……」

アリス「誰かに見られちゃうよ?」

カレン「……」

カレン「――!」


カレン「し、シノ! そ、そろそろ……!」

忍「ダメです」

カレン「え?」

忍「カレンを、離したくないです」ギュッ

カレン「……」

アリス「シ、シノが……」

陽子(意外と、「重い」タイプだったのか、シノ……)

綾(――これって、傍から見たら女の子同士の抱き着きあいにしか見えないわよね)

綾(……)チラッ


陽子「……そ、そこまでにしといた方が」

忍「陽子ちゃんの頼みでもダメです」

陽子「い、いや、そのー……」

忍「――陽子ちゃんも大事ですから」

陽子「……」ハッ

陽子「そういう問題じゃなくて!」カァァ

綾(とか言いながら、顔を赤らめるのね……)ハァ

アリス(――カレンもヨウコも)

アイス(ずるいよぉ……)
258 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/16(月) 17:53:59.98 ID:wwKpbdsW0
 ――結局。


 シノが解放してくれるまで、何分かかったことヤラ。
 ベッドに寝転びながら、今日のことを思い返してみレバ――


『九条さん……その――』

『……』

『I'm sorry……いえ』

『ごめんなサイ、デス……』


 告白されるって、意外と照れマス。
 確かに、気持ちは嬉しかったデス、ガ……


『カレンは……』

『カレンは、離れませんか?』


 シノの表情といい、口調といい……抱き着きの強さとイイ。


「ちょっと怖いデス……シノ」


 でも。


 嬉しかったこともまた、事実だから仕方ありマセン……。





――忍の部屋


忍「……アリス」

アリス「なぁに?」

忍「どうしたんですか、今日は」

忍「アリスの方から、私の膝に乗ってくる、なんて」

アリス「……」


アリス「だって」

アリス「いきなり抱き着かれると、ビックリしちゃうから」

忍「そう、ですか」

忍「――アリスは、可愛いですねぇ」

アリス「……」


アリス(本当は違うんだよ、シノ)

アリス(あの時――カレンに抱き着いたときの、シノが、その)


忍「……えへへ」ギュッ


アリス(カレンに持ってかれちゃうんじゃないかって)

アリス(……心配になった、だけで、だから、これは)

忍「……」ニコニコ

アリス(私の、わがままなんだ――)
259 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/16(月) 17:57:00.91 ID:wwKpbdsW0
>>257
×アイス→○アリス
誰だ、これ……。


こういう状態になった以上、陽子はシノにどう接していくのか……
あと、結局綾はどうなっていくのか――。

行き当たりばったりの、カレン告白騒動でした。


意外と早く投下できましたが、もう少し煮詰めた方がよかったかなー、とも思います。
それでは。


いつもありがとうございます。
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/16(月) 18:32:15.43 ID:uugrSEKt0
アイス「ずるいよぉ…」
ワロタ
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/16(月) 23:20:35.69 ID:U9xzFmhNo
262 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:21:21.00 ID:0p57gJ060
 ――秋。

 夏休みも終わり、蝉の声にも懐かしさを覚えるようになる時期。
 そんな蝉に変わって現れる鈴虫の声は、私たちを落ち着かせてくれる。


「……秋といえば?」


 私が窓の外を見つめながら、そんな感慨に浸っていると、すぐ近くの友人がそんな問いかけをしていた。
 顔を向けてみれば、そのお相手は、金髪少女と和風少女(……「一応」、嘘はついてないわよ?)
 いの一番に声を上げたのは、金髪少女の一人だった。


「はい! 『読書の秋』!」


 満足した笑みを浮かべる少女――アリスは、見ているこっちからしてもとても微笑ましく感じられた。
 

「正解! はい、次!」
「ハイ!」


 次もまた、金髪少女……ん?


「『運動の秋』、デス!」


 そんな風にエヘンとしてみせる少女――カレンは、その仕草がとても似合っていた。


「はい、正解! 最後は……」


 陽子は、まだ発言していない和風少女に照準を合わせる。
 和風少女――シノは、逡巡した挙句、


「……『金髪少女の秋』!」
「なわけあるか!」


 私の友人の二人は、すぐさまボケとツッコミを見せてくれた。
 うん、いつも通り安心できる光景だ。

 というより、シノ……まさか。


「ねぇ、シノ? あなたもしかして……知らない?」


 心配しながら問うた私に、シノはキョトンとしてみせた。


「……ええと、分かりません!」


 そんな自信たっぷりに言われてもなぁ……。
263 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:21:47.86 ID:0p57gJ060
「――まさか、とは思うけど」
「シノ……あなた」


 陽子も私も、少し呆れてしまった。
 そりゃ、シノがその容姿らしい知見を持っているとは言いがたかったけれど……まさか、ここまでとは。


「えへへ……やっぱり、どうしても金髪少女が好きで」
「ごめん、全く言い訳になってないぞ」


 陽子の指摘ももっともだ。
 しかし、日本で15年以上生活してきたシノが、二人の金髪少女に日本語的知識で負けている……。


「……私ですら、当たり前と思ってしってることを」
「陽子……あなた、意外と客観的に自分を見れたのね」
「あっ、綾! バカにしてるだろぉ!」


 さて、陽子をからかうのは後回し。
 ともあれ――何だか、シノがこのまま知らないことだらけっていうのもなんだし。


「……ねぇ、みんな?」


 私は、一つの提案をしてみることにした。
 「なんだなんだ?」と、私を見つめる8つの瞳。
 それらに向かって、


「今日、ちょっと図書館に寄って行かない?」
264 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:22:25.16 ID:0p57gJ060
――放課後・学校図書館


忍「……わぁ」

アリス「本が、いっぱい」キョロキョロ

カレン「面白そうデス!」ニコニコ

綾「もう、カレン。ダメよ?」

綾「ここでは静かにするのがマナー、なんだから……」

カレン「ハーイ!」

陽子「……」ジーッ


忍「……あ、これって!」

アリス「どうしたの、シノ?」キョトン

忍「えへへ」ニコニコ

忍「世界の美女名鑑、ってあります」ペラペラ

アリス「表紙は……」

カレン「OH! ビューティフルデス!」

忍「金髪、っていいですよねぇ……」パァァ

カレン「……シノは、こーいう人が好きなんデスカ?」ジーッ

アリス「……」ジーッ

忍「――あ」

忍「もう、お二人のことが一番! ですよ」ダキツキ

二人「……あ」

忍「二人とも、特別です」ナデナデ

アリス「……シノ」

カレン「く、くすぐったいデス――」


アリス(……二人とも、特別)

カレン(どっちも、一番……)

二人(最近は、なんだか複雑(デス)……)ハァ



綾「はぁ、まったく……」

綾「シノったら、相変わらず趣味にばっかり走るんだから……」ペラペラ

陽子「……」

陽子「なぁ、綾? ちょっといいか?」

綾「? どうしたの、陽子?」キョトン

陽子「――いや」

陽子「珍しいな、って思ってさ」

綾「……珍しい?」

陽子「いや、だって――」

陽子「あの、人見知りの綾が」

陽子「自分から提案して、みんなを集めてるんだ」

綾「よ、陽子……私、そんな情けなく見えてたの?」
265 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:22:56.22 ID:0p57gJ060
陽子「……」

綾「目を逸らした!?」ガーン

陽子「そりゃ……中学生の頃のお前を知ってれb」

綾「や、やめてぇ……」アセアセ


綾「――ええ、そうよ」

綾「どーせ私は、人見知りの恥ずかしがりやよ」ハァ

陽子「いや、そこまで言ってないんだけどな……」

綾「……」

綾「あの子たちを、見てたら」ジーッ

陽子「……?」チラッ


忍「わっ、この方、凄い髪型です」

アリス「あっちじゃ結構一般的だけどね」

カレン「家の近くで見たことありマス!」

忍「……ふふ、幸せです」

アリス「……ところで、シノ?」

忍「はい?」キョトン

アリス「――ごめん、なんでもない」

忍「??」


カレン(……アリスは、言いませんデシタガ)

カレン(3つの椅子の中央に座っているシノが、私たち二人にくっつきすぎなような気がしマス……)

カレン(い、いや! だからって、その、シノのSmellがGoodだとか、そうイウ……!)アセアセ

カレン(――ハァ)カァァ

アリス(……カレン、顔真っ赤)

アリス(わ、私は普段一緒の部屋で寝てるから慣れてるけれど)

アリス(……シノって、いい匂いするんだよね)

アリス(意識したら、何だかヘンな気分になっちゃったよ……)カァァ



綾「……ほら」

綾「なんだか、放っておけないでしょ?」

陽子「あー……」

陽子「なんというか、その」

陽子「可愛い? な、たしかに」

綾「ね?」
266 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:23:24.63 ID:0p57gJ060
綾「だから」

綾「私も、ちょっとあの子たちを見ていたら」

綾「……少し、リードしてあげないと、というか」

陽子「……綾も、変わったんだな」

綾「そ、そんなことはっ」アセアセ

陽子「いやいや」ナデナデ

陽子「――かっこよく、なった」ニコッ

綾「――!」


綾(そ、その表情でそんなこと言うのはズルい!)

綾(なにより、かっこいいのはいつだって……陽子だったじゃない!)

綾(と、いうより! なに、ドサクサに紛れて、ああ、頭を撫でるのよ!)


綾(ああ、もう! 考えがまとまらない!)

綾(わ、私は、ただ……)

綾「陽子に、憧れて」ボソボソ

陽子「ん?」

綾「――!」カァァ

綾「も、もう知らない!」プイッ

陽子「えぇー……聞かせてよ〜」

綾「絶対、ダメ!」

陽子「ちぇー、じゃあいいや」

陽子「それじゃ、私もシノたちのトコ、行ってこよーっと」テクテク

綾「……え?」


陽子「おーい、何見てんのー?」

忍「あ、陽子ちゃん!」

忍「これです、これ!」ズイッ

陽子「おー……金髪少女だー」

陽子「って、シノ! ここに来たのは、日本のことわざとか調べるためだろ?」

忍「……あ」

忍「ごめんなさい、ついつい」エヘヘ

陽子「ついつい、って……全くもう」

アリス「よ、ヨウコ! シノをイジメないで!」

カレン「そうデス! 私たちがシノに教えられマス!」

陽子「……金髪少女に日本のことを教わる、日本の和風少女」

陽子「なんだかなぁ……」タメイキ
267 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:23:55.45 ID:0p57gJ060
忍「ありがとうございます、お二人とも」

忍「でも……陽子ちゃんの言う通りだとも、思うんです」

忍「陽子ちゃんは――いつだって、私には正しいことしか、言いませんから」

陽子「……シノ」

陽子「全く、照れるって」エヘヘ

忍「ふふっ、可愛いですよ、陽子ちゃん」

陽子「――!」カァァ


アリス「」

カレン「」

アリス「……カレン」ツンツン

カレン「なんデス、アリス?」

アリス「なんだか」

アリス「二学期が始まってから」

アリス「ヨウコとシノが、すっごく仲良さそうだよぉ……」

カレン「……そう、デスネ」


カレン「でも、元々」

カレン「私たちと過ごした時間よりも、ヨウコとの時間の方ガ」

カレン「……シノにとってBigなのは、当然デス」

アリス「そう、だよね……」

アリス「……はぁ」

カレン「……ハァ」



綾「……」

綾(私は、そうして「かっこいい」あなただからこそ)

綾(――どこかで、近づけないと、思ってしまうのかしら?)

綾(よくわからないけれど……)


綾(なんだか、モヤモヤするわね……)ハァ



陽子「綾もこっちおいでよー!」

忍「綾ちゃーん!」

綾「……はーい」パタン

綾(でも、今は)

綾(こうして、一緒にみんなといられるだけで幸せ)

綾(それでいいのかも、ね)テクテク
268 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:26:51.39 ID:0p57gJ060





――その周辺



男子1「おい、あの3人」

男子2「ん? なんだよ?」キョトン

男子1「すっごく、引っ付いてるけど……」

男子2「ホントだ――うわっ、あれもう……」

男子2「ほとんど顔と顔が触れてんじゃん」アセアセ


男子1「……もし、かして」

男子2「もしかすると」

2人「あいつらってレz「それはないって」


2人「!」

男子A「ありゃ、うちのクラスのヤツだ」

男子B「まぁでも……見たら、なんだか勘違いするのも、無理ないかも」

男子1「ど、どういうことだよ」

男子2「ど、どう見たって、その……さ、3人の女子が」

男子B「……」

男子A「――大宮さんのこと、か」

男子1「そ、そう! あの、黒髪のこけしみたいな――」

男子A「いいか」

男子B「……ショック、かもね」

2人「……え?」



男子A「――あいつは」

男子B「――大宮さんは」





 ――その日。


 忍たちの通う高校内の図書館に、ほんの小さな悲鳴が起こったらしい。
 すぐに消え失せてしまうような儚い声だったものの、当人たちのショックは大きかったそうな。


 そんな二人の反応を見ながら、男子Aは考えていた。


 (――どっかの高校の文化祭で、女装コンテストとかやってたっけ)

 (優勝者の画像を見たことがあるけど……全く)

 
 視線の先には、相変わらず金髪少女と一緒に引っ付いているクラスメイトの姿。
 それを見て、嘆息してしまうのだった。


 (――大宮さんに、敵うわけがない!)
269 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/31(火) 02:28:48.03 ID:0p57gJ060
ここまでです。

年内に一本だけ書いておきたかったので、書いた次第です。
……しかし、陽子との関係の話に一応の決着がついたためか、今後どう進めればいいのか思案中です。
かなりグダグダとしたお話になってしまいそうですが、それでも読んで下さる方がいればいいのですが……。

とはいえ、書いていて楽しいのは事実なので、今後も書いていきたいですね。
それでは。また来年。
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/31(火) 11:02:25.45 ID:aXA7PJ1AO
おっつん
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/31(火) 15:19:22.42 ID:wfYERLCVo
おつ
272 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/08(水) 22:27:53.54 ID:Q4baw+Pe0
今更ですが、あけましておめでとうございます。
今は下書き中ですが、次はカレンの家にみんなでお邪魔する話になります。
もうしばらく、お待ちください。
273 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/09(木) 00:01:49.22 ID:u4m5fh7h0
私待つわ
274 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:41:26.90 ID:5OGn1x0I0
 ――どうして、こうなった。


 私の中に渦巻く思いを言い表すなら、こんなものだと思う。
 いや、そもそも何となく、こういった予感はしていたんだけど。


「えへへ、アリス〜!」
「シ、シノ!? そ、そういうことは……でも、いいよ、私も」


 目の前では、普段より更に深い笑顔のまま、アリスを抱きしめようとしているシノ。
 対するアリスも、何かあまり似つかわしくない(すまんアリス……)
 色っぽい表情を浮かべている。


 ……うん、決して普段なら見られない光景だ。


「シノー! アリスー! 仲間に入れるデース!」


 そして、そんな輪に加わろうとするカレンも、顔を赤く染めている。
 そんなカレンは、いつもの明るさはそのままに、「甘え」の色も濃くなっているような……。


 ――さて。


 そんな3人の「姦しい」(以前、綾に教えてもらった表現)光景を見ていると、


「……陽子ぉ」


 考えている間に、何故か私の首筋に手をかける友人の姿がそこにある。


「私、だってぇ……」


 私は、普段と今との綾のギャップに、正直ビクッとした。
 涙目のまま私を見つめる綾の表情。
 恐らく、男子が見たら卒倒するだろう――いや、そもそも綾が男子と話してる所なんて見たことないけどさ。


「――ホントに」


 私は、そんな綾の視線に出来る限り応えながら、再び思う。



 ……どうして、こうなった。
275 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:42:33.11 ID:5OGn1x0I0






――数時間前




陽子「うわあ……」

綾「大きいわねぇ……」

カレン「そうデスカ?」

アリス「カレン、お嬢様だもんね」

忍「お嬢様な金髪少女――」


陽子「いやまぁ、この前のカレンのお父さんの車に乗せてもらった時から思ってたけどさ」

綾「いざ見せられると……本当に」

忍「お嬢様というのも……いいですねぇ」

アリス「シ、シノ!?」

カレン「――」


陽子(もうすぐ、文化祭)

陽子(学生の文化祭というのは、そりゃ多くの生徒にとっては嬉しい)

陽子(というわけで、テンションを高くして、文化祭のあれこれについて話し合っていたら――)


カレン「私の家で、パーティーしマショウ!」


陽子(と、カレンが言うので)

陽子(『前日祭』ということで、カレンの家にお邪魔させてもらうことになった)

陽子(厳密には、すぐ翌日というわけではないけど……まぁ、その辺りは置いといて)

陽子(私たち全員が同意して、今こうして、カレンの家の前にいるというわけ)



カレン「それでは、どうぞ入ってくだサイ」

カレン「明日まで、私以外には家にいまセン」

陽子「――お父さんもお母さんも?」

カレン「ハイ!」

綾「高校生だけで泊まり込み、なんて大丈夫かしら?」

カレン「もう、アヤヤはおカタイデスネ……」

綾「わ、私は、別に!」

陽子「ははっ、綾はマジメだからなぁ」

綾「よ、陽子までっ!?」
276 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:43:32.66 ID:5OGn1x0I0
忍「もう、アリス? そんな顔しないでください」

アリス「だって……シノが、シノが」

アリス(カレンが「お嬢様」だって、そんな目をするからぁ――!)

忍「もう……」ダキッ

アリス「ひゃっ!?」

アリス「も、もう! シノ!」カァァ

忍「ふふっ……」ナデナデ


陽子「おーい、そこの二人組ー? 話、聞いてたかー?」

忍「明日までは、皆さんと一緒ですね」

アリス「カレンのお家にお泊りなんて、久しぶりだなぁ……」

綾(あ、そういえばシノ、こういう所はちゃっかりしてたわ……)

陽子(たまーに、シノの底が見えなくなるんだよなぁ……)




――カレンの部屋


カレン「さぁさぁ、入ってくだサイ!」

陽子「……なぁ、カレン?」

カレン「?」

綾「これ――カレンの部屋なの?」

カレン「ハイ! 全て私の部屋デス……」

二人「……」


忍「私とお姉ちゃんの部屋を合わせたくらい、でしょうか……?」

アリス「いや、多分シノのお家の2階部分全てくらいじゃないかな?」

陽子「いや、ひょっとしたらそれ以上……」

綾「――みんな、言っていてもしょうがないわ。正直、よく分からないもの」

綾「本当に、お嬢様なのね……」

カレン「私、『miss』だったデスカ!」

忍「??」

アリス「『お嬢様』って意味だよ、シノ」
277 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:44:10.85 ID:5OGn1x0I0
 ……まぁ、こういった流れがあって。


 私たちは、カレンの部屋(うん、「部屋」だ)で、ゆっくりと過ごしていた。
 巨大なベッドのふかふか具合にビックリしたり、備え付けられたテレビの画質に度肝を抜かれたり……まぁ、色々とあって。


「さて、それじゃあ――」


 そう、ここから全てが始まった……。



「『Ceers!』と、いきマショウ!」


「……『ちあーず』?」
「シノ、『カンパイ』って意味だよ」


 カレンの言葉にシノがキョトンとし、アリスが説明する。
 シノの通訳への道は、長く険しいものとなりそうだ。
 いやまぁ、私も知らなかったけどさ。


「……『チアーズ』って言うのね」


 ほら、綾が知らないことを私が知ってるわけないし。




「それじゃ、『カンパイ』!」


 カレンがそう号令をかけ(うん、間違いなくその日本語、最初から知ってたな……)、私たちのグラスがカチンと音を立てる。
 部屋のテーブル(これもまた大きいんだ……)に並べられた飲み物は、どれもフルーツ系のものかな?
 

「わぁ、美味しいです……」
「カレン、これ好きだったもんね」


 上機嫌なシノとアリスに、カレンが微笑みかける。


「Yes! パパもこれ、好きなんデス!」
「へぇ、お父さんも……」


 綾も気に入ったらしい。
 うん、私もこの味は好きだ。


「本当に美味しいですねぇ……」
「ふふ、シノもイギリスのジュース気に入ってくれたんだね」


 ああ、こんなところにも見られる日英交流よ……。
 そんな二人の笑顔に綾もクスっと笑い、カレンは次々に飲んでいき、私もそれを見て微笑ましく思う。
278 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:45:37.73 ID:5OGn1x0I0
 ……そして。


「――ほら、アリス」
「ああ、そ、そんなことっ……シノォ」


 今、目の前で展開される光景。
 その二人の友人は、お互い色っぽい表情を浮かべながら、抱きついたまま離れない。


「陽子の、バカァ……」


 で、さっきからグスッとしながら、私のすぐ近くに顔を寄せる綾。


「――なぁ、カレン?」


 綾には悪いけど、一回確認しておきたかった。


「? どうしたデスカ、ヨウコ?」


 シノたちの方へ向かったカレンが、私の方を見てキョトンとしている。
 私は、ジュースの入った缶を掲げてみせて、


「下の方に小さく、『Alcohol 3%』とか書いてあるように見えるんだけど……」


 底の部分を指し示しながら、聞いてみた。


「……アァ」


 カレンは得心がいったという表情で、ポンっと手を打った。


「Sorry……それ、パパも好きなものだったんデス」
「……つまり?」
「私が間違えて、『含まれている方』を持って来ちゃったんデス……」


 ――ああ、なるほど。

 要するに、お父さんの飲む方と間違えてしまった、と。
 まぁ、パッケージが似ていることは珍しくないのかもなー……。


「もう、陽子! 私を無視してぇ……」


 カレンと話していると、更に綾が顔を寄せてきた。
 っていうか、近い近い!


「あ、綾……一旦、引いてくれ」


 荒っぽくならないように綾の手をどかして、彼女の肩を掴み、元の場所へゆっくりと戻した。
 そんな私を綾は「うー……」と、恨めしそうに見ていた。


「ほら、アリス……顔、真っ赤ですよ?」
「あぁ、シノ! な、舐めちゃダメぇ……!」
279 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:46:19.98 ID:5OGn1x0I0
ふと目の前を見てみると、シノがアリスの首筋を舐めていた。
 シノが舌を動かす度に、アリスの身体が艶めかしく跳ねる。
 ――本当に、男子が見たら、倒れこんでしまう勢いだ(二回目)。
 というよりこれって、冷静に考えたら――


「酒に酔った男女が、互いの身体をつつき合う、過剰なスキンシップ」


 とかいうやつじゃないか?
 表向き、女子同士のじゃれ合いだけれど、そういった意味でも問題になりそうだな……。
 ほら、「酔った勢いで――」とかいう話も聞くし。



「……はぁ」


 そんな二人にカレンが混ざり、「シノ! 私も舐いいデスカ?」「カ、カレン! ダ、ダメェ……!」
とか話している光景を見て、「陽子ぉ……」と再び近づいてこようとする綾を見ながら、嘆息してしまった。
 なんで、こんなよくわからない分析をしているんだ、私は……。



 実のところ、私はアルコールを以前にちょこっと飲んだことがある。
 あれは、そう……高校に入学が決まった頃のことだったっけ。
「記念だ」といって、父さんが注いでくれたビールを飲んで、「おおイケるじゃん」とか思っちゃったんだ。


 グビグビ飲んだわけじゃないけれど、その時にわかったことは、私は酒が強いということ。
 うんまぁ、父さんと母さんを見てたら、何となくわかるけどさ……遺伝したんだな、きっと。


 そして、わかったことがもう一つ。
 それは私が「傍観者タイプ」だということ。
 こうして、顔を真っ赤に染めて、それぞれの反応を示す友人たちを見て思った。
 私だけが妙に冷静に、いわば「観察」している。


 もしかしたら、試験前に飲んだら問題もスラスラと……いや、それは絶対にやめておこう。


 だから――


「……もう、陽子ったら、またボーッとしちゃって」


 いや、色んな意味でボーッとしてるのはそっちだよ、というツッコミは抑えて、私は再び綾と向き合う。
 なるほど、綾は泣き上戸タイプらしい。目に浮かんだ涙を見て、そう感じた。
 シノは典型的なテンションが上がるタイプで、アリスは普段と違う態度を見せるタイプ。で、カレンは甘えに転じるタイプか。
 色んな反応があるんだなぁ……。


「――ねぇったら!」


 ヤバい、つい綾への警戒を怠った!
 綾は首筋に手を回す動作を途中で止め、私にぶつかってきた。
 その細い身体のどこにそんな力があったのか。
 気づいたら、私は綾に押し倒される格好になってしまった。


「……なぁ、綾?」
「――」
「なんかさ、泣きそうな顔、してるよ?」


 そりゃ、泣き上戸タイプなら、そうだろう。
 けれど、なんだか……綾の涙目は、それだけじゃないような気がした。
280 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:46:53.85 ID:5OGn1x0I0
「――だって」


 綾は少し首を振ってみせると、再び私に顔を寄せる。
 近くにやって来た友人の顔に、私は出来る限り真摯に応じようと思った
(さっきから綾をどこか蔑ろにしていた罪悪感かもしれない)。


「陽子が……陽子が!」


 悪いのよ、と綾は絞りだすように言う。
「?」としてしまったのは言うまでもないだろう。
 私が、悪いことを?


「――ごめん、綾。何か悪いことしたんなら謝るよ。ほら、私ってバカなトコあるからさ」


 普段なら冗談めかして言うところをスラスラ言ってしまえたのは、綾の表情が真剣だったこともあるだろうけど
 恐らく私にもアルコールの効力が出てきていたんだろう。
 ほら、何かお酒を飲むと、饒舌になったりする人はいるみたいだし。


「だから……泣かないで?」


 泣き上戸なことを分かりながら、こんなことを言うのは酷だろうか。
 とはいえ、綾のことを放っておけなくなっちゃったみたいだ。


「――そういう、所が」


 少しの間の後に、綾は再びグスッと洟をすすりながら言う。


「そういう所が、ズルいのよ、陽子は……!」


 そういう妙な所で気が利いて、変な所で優しくて、それでそれで――
 堰を切ったようにまくし立てる綾は、本当に別人のようだった。
 なるほど、酒は麻薬なわけだ。


「あ、あはは……そ、それはともかく、その――」


 そろそろ重いんだけど、なんて台詞が過ぎってしまったことに罪悪感を覚えた。
 とことん、今の私は甘くなっているらしい。


「……話、聴くよ。だからさ、その……この体勢じゃ、色々と」


 恥ずかしいよ、と言ったら、綾はキョトンとした、ように見えた。
 そして、


「――!」


 ほんの一瞬我に返ったのか、バッと私の上から向こうに跳ねた。
 そして、数秒間、顔を伏せたままだったものの……


「――聴いて、くれるの?」


 その上目遣いの表情を見るに、うん、やっぱりまだ酔っ払ってるんだな……。
281 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:47:21.31 ID:5OGn1x0I0
向こうで、姦しくスキンシップをとっている友人たちの声が聞こえてくる。
 ……うん、正直、向こうが気になってしょうがないところもあった。
「だ、ダメッ!」「OH……シノ、大胆デス」「アリス……ここは小さい、けれど」なんて、気にならないわけがないだろう。
 というか、ホントにシャレにならないだろ!
 まずいな、そろそろ――


「綾、ごめん! ちょっとまって、て……」


 私が3人組に割って入ろうと立ち上がると、綾は私の服の裾をキュッとつまんだ。
 その力は弱かったけれど、なぜだか振りきれなかった。


「……いつも、そう」


 私が綾を向いたままでいると、綾は俯きながら訥々と話し始めた。


「いつも――シノ『ばっかり』」


 ……シノ?


 そりゃそうだろう、綾。
 私たちは、シノを友人としてサポートするということを誓い合った仲じゃないか。
 シノのことが心配なのは当たり前――
 ……『ばっかり』?


「陽子は、私を見てくれないの……?」


 綾は、顔を上げ、涙目のまま心細そうに私を見つめる。

 服をつままれた時に思い出した。
 それは、中学生の時に綾が転校して、クラスに馴染めずにいた頃のこと。
 「一緒に帰ろう」と呼びかけた下校の際に、後ろから私の制服の裾を摘んできた思い出が蘇ったから……
 私は、それを振りきれなかったんだ――。


「――シノは、私より、大事?」


 綾の目に、私は射止められてしまったような気がした。
 その透明な涙が、私の心にそのまま落ちてくるみたいな、そんな感覚。
 ……うーん、これは、なぁ。


「……いいか、綾?」


 私は、綾の肩を優しく掴んだ。
 ビクッとする綾に顔を寄せ、はっきりと言う。


「私は、シノのことは――」
282 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:47:52.68 ID:5OGn1x0I0






 ――あれ?


「……?」


 目を開けてみると、辺りはシーンとしていました。
 近くには、少しだけ服装が乱れた、愛する二人の金髪少女。
 二人は仲良く手を繋いで、スースーと寝息を立てています。
 

「――可愛いですねぇ」


 そんな二人の頭を撫でると、「うぅん」と声を上げて、寝返りを打ってしまいます。
 本当に、愛しくてたまりません。
 正直、「その服装をもう少し……」と邪な気持ちが働いてしまいましたが、さすがにマズいという気持ちは私にもありました。
 だから、優しく見つめるにとどめておくことにしましょう。


 さて、視線を変えてみると、そこには――


「……あ」


 二人の、友人の姿がありました。
 陽子ちゃんは壁に頭を寄せながら、静かに眠っています。
 そして、そんな陽子ちゃんの膝に――


「――よう、こ」


 ちょうど膝枕になる格好で、綾ちゃんも眠っていました。
 そんな二人の姿は、こちらの金髪少女二人組とはまた違った意味で、絵になりそうな光景です。


「……」


 ゆっくりと、私は立ち上がりました。
 その際、少し頭がズキンとしたことで、「もしかしたらさっきの飲み物は……」とようやく得心がいきました。
 道理で、理性が言うことを聞きにくくなっていたわけです。


 そして、二人の元へと歩いていきました。
 足取りは確実に、誰も起こさないように静かに、静かに――
283 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:48:31.01 ID:5OGn1x0I0
「――陽子ちゃん、綾ちゃん」


 ――私は、シノのことは――


 なぜだか、この言葉は脳裏に残っているようです。
 アリスやカレンとじゃれ合っている中、どうしてかこの陽子ちゃんの声だけが――


「……もう」


 スッと、陽子ちゃんの髪の毛に手を伸ばします。
 「んん」とほんのちょっと声を上げますが、起こさない程度の加減のまま、ちょっぴり撫でました。
 続いて、綾ちゃんの綺麗に揃えられた髪にも――


「……」


 どうしてでしょうか。
 どこか複雑な気分がしてしまうのは。


 その答えは、また後で考えましょう。
 とにかく今は、ゆっくりと寝ることが大切なような気がしました。


 金髪少女の元に戻り、私は静かに二人の間に横たわります。
 二つのいい匂いをすぐ近くで感じられる喜び。
 それを噛み締めながら、私は再び目を閉じて――










 ――シノの、ことは……――



 



 ――大事な、『友達』だって、そう思ってるよ――
284 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:52:49.75 ID:5OGn1x0I0
ここまでです。
酒に酔った勢いで書いたら、長くなってしまいました。


今回の構想は、ネタが浮かばないので本棚を見てみたら『ひだまりスケッチ』の1巻が見えたことに起因します。
「そういえばチューハイ飲んでたっけ……」という漠然とした思いつきで、書いてみたらかなり筆が乗ってくれました。
あくまで自分の中でのキャラが酔ったイメージで、皆さんのイメージとは異なるかもしれません。


それでは。
次回はおそらく文化祭かもしれません。
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