忍「隠し事、しちゃってましたね……」 アリス「……シノ」

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263 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:21:47.86 ID:0p57gJ060
「――まさか、とは思うけど」
「シノ……あなた」


 陽子も私も、少し呆れてしまった。
 そりゃ、シノがその容姿らしい知見を持っているとは言いがたかったけれど……まさか、ここまでとは。


「えへへ……やっぱり、どうしても金髪少女が好きで」
「ごめん、全く言い訳になってないぞ」


 陽子の指摘ももっともだ。
 しかし、日本で15年以上生活してきたシノが、二人の金髪少女に日本語的知識で負けている……。


「……私ですら、当たり前と思ってしってることを」
「陽子……あなた、意外と客観的に自分を見れたのね」
「あっ、綾! バカにしてるだろぉ!」


 さて、陽子をからかうのは後回し。
 ともあれ――何だか、シノがこのまま知らないことだらけっていうのもなんだし。


「……ねぇ、みんな?」


 私は、一つの提案をしてみることにした。
 「なんだなんだ?」と、私を見つめる8つの瞳。
 それらに向かって、


「今日、ちょっと図書館に寄って行かない?」
264 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:22:25.16 ID:0p57gJ060
――放課後・学校図書館


忍「……わぁ」

アリス「本が、いっぱい」キョロキョロ

カレン「面白そうデス!」ニコニコ

綾「もう、カレン。ダメよ?」

綾「ここでは静かにするのがマナー、なんだから……」

カレン「ハーイ!」

陽子「……」ジーッ


忍「……あ、これって!」

アリス「どうしたの、シノ?」キョトン

忍「えへへ」ニコニコ

忍「世界の美女名鑑、ってあります」ペラペラ

アリス「表紙は……」

カレン「OH! ビューティフルデス!」

忍「金髪、っていいですよねぇ……」パァァ

カレン「……シノは、こーいう人が好きなんデスカ?」ジーッ

アリス「……」ジーッ

忍「――あ」

忍「もう、お二人のことが一番! ですよ」ダキツキ

二人「……あ」

忍「二人とも、特別です」ナデナデ

アリス「……シノ」

カレン「く、くすぐったいデス――」


アリス(……二人とも、特別)

カレン(どっちも、一番……)

二人(最近は、なんだか複雑(デス)……)ハァ



綾「はぁ、まったく……」

綾「シノったら、相変わらず趣味にばっかり走るんだから……」ペラペラ

陽子「……」

陽子「なぁ、綾? ちょっといいか?」

綾「? どうしたの、陽子?」キョトン

陽子「――いや」

陽子「珍しいな、って思ってさ」

綾「……珍しい?」

陽子「いや、だって――」

陽子「あの、人見知りの綾が」

陽子「自分から提案して、みんなを集めてるんだ」

綾「よ、陽子……私、そんな情けなく見えてたの?」
265 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:22:56.22 ID:0p57gJ060
陽子「……」

綾「目を逸らした!?」ガーン

陽子「そりゃ……中学生の頃のお前を知ってれb」

綾「や、やめてぇ……」アセアセ


綾「――ええ、そうよ」

綾「どーせ私は、人見知りの恥ずかしがりやよ」ハァ

陽子「いや、そこまで言ってないんだけどな……」

綾「……」

綾「あの子たちを、見てたら」ジーッ

陽子「……?」チラッ


忍「わっ、この方、凄い髪型です」

アリス「あっちじゃ結構一般的だけどね」

カレン「家の近くで見たことありマス!」

忍「……ふふ、幸せです」

アリス「……ところで、シノ?」

忍「はい?」キョトン

アリス「――ごめん、なんでもない」

忍「??」


カレン(……アリスは、言いませんデシタガ)

カレン(3つの椅子の中央に座っているシノが、私たち二人にくっつきすぎなような気がしマス……)

カレン(い、いや! だからって、その、シノのSmellがGoodだとか、そうイウ……!)アセアセ

カレン(――ハァ)カァァ

アリス(……カレン、顔真っ赤)

アリス(わ、私は普段一緒の部屋で寝てるから慣れてるけれど)

アリス(……シノって、いい匂いするんだよね)

アリス(意識したら、何だかヘンな気分になっちゃったよ……)カァァ



綾「……ほら」

綾「なんだか、放っておけないでしょ?」

陽子「あー……」

陽子「なんというか、その」

陽子「可愛い? な、たしかに」

綾「ね?」
266 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:23:24.63 ID:0p57gJ060
綾「だから」

綾「私も、ちょっとあの子たちを見ていたら」

綾「……少し、リードしてあげないと、というか」

陽子「……綾も、変わったんだな」

綾「そ、そんなことはっ」アセアセ

陽子「いやいや」ナデナデ

陽子「――かっこよく、なった」ニコッ

綾「――!」


綾(そ、その表情でそんなこと言うのはズルい!)

綾(なにより、かっこいいのはいつだって……陽子だったじゃない!)

綾(と、いうより! なに、ドサクサに紛れて、ああ、頭を撫でるのよ!)


綾(ああ、もう! 考えがまとまらない!)

綾(わ、私は、ただ……)

綾「陽子に、憧れて」ボソボソ

陽子「ん?」

綾「――!」カァァ

綾「も、もう知らない!」プイッ

陽子「えぇー……聞かせてよ〜」

綾「絶対、ダメ!」

陽子「ちぇー、じゃあいいや」

陽子「それじゃ、私もシノたちのトコ、行ってこよーっと」テクテク

綾「……え?」


陽子「おーい、何見てんのー?」

忍「あ、陽子ちゃん!」

忍「これです、これ!」ズイッ

陽子「おー……金髪少女だー」

陽子「って、シノ! ここに来たのは、日本のことわざとか調べるためだろ?」

忍「……あ」

忍「ごめんなさい、ついつい」エヘヘ

陽子「ついつい、って……全くもう」

アリス「よ、ヨウコ! シノをイジメないで!」

カレン「そうデス! 私たちがシノに教えられマス!」

陽子「……金髪少女に日本のことを教わる、日本の和風少女」

陽子「なんだかなぁ……」タメイキ
267 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:23:55.45 ID:0p57gJ060
忍「ありがとうございます、お二人とも」

忍「でも……陽子ちゃんの言う通りだとも、思うんです」

忍「陽子ちゃんは――いつだって、私には正しいことしか、言いませんから」

陽子「……シノ」

陽子「全く、照れるって」エヘヘ

忍「ふふっ、可愛いですよ、陽子ちゃん」

陽子「――!」カァァ


アリス「」

カレン「」

アリス「……カレン」ツンツン

カレン「なんデス、アリス?」

アリス「なんだか」

アリス「二学期が始まってから」

アリス「ヨウコとシノが、すっごく仲良さそうだよぉ……」

カレン「……そう、デスネ」


カレン「でも、元々」

カレン「私たちと過ごした時間よりも、ヨウコとの時間の方ガ」

カレン「……シノにとってBigなのは、当然デス」

アリス「そう、だよね……」

アリス「……はぁ」

カレン「……ハァ」



綾「……」

綾(私は、そうして「かっこいい」あなただからこそ)

綾(――どこかで、近づけないと、思ってしまうのかしら?)

綾(よくわからないけれど……)


綾(なんだか、モヤモヤするわね……)ハァ



陽子「綾もこっちおいでよー!」

忍「綾ちゃーん!」

綾「……はーい」パタン

綾(でも、今は)

綾(こうして、一緒にみんなといられるだけで幸せ)

綾(それでいいのかも、ね)テクテク
268 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2013/12/31(火) 02:26:51.39 ID:0p57gJ060





――その周辺



男子1「おい、あの3人」

男子2「ん? なんだよ?」キョトン

男子1「すっごく、引っ付いてるけど……」

男子2「ホントだ――うわっ、あれもう……」

男子2「ほとんど顔と顔が触れてんじゃん」アセアセ


男子1「……もし、かして」

男子2「もしかすると」

2人「あいつらってレz「それはないって」


2人「!」

男子A「ありゃ、うちのクラスのヤツだ」

男子B「まぁでも……見たら、なんだか勘違いするのも、無理ないかも」

男子1「ど、どういうことだよ」

男子2「ど、どう見たって、その……さ、3人の女子が」

男子B「……」

男子A「――大宮さんのこと、か」

男子1「そ、そう! あの、黒髪のこけしみたいな――」

男子A「いいか」

男子B「……ショック、かもね」

2人「……え?」



男子A「――あいつは」

男子B「――大宮さんは」





 ――その日。


 忍たちの通う高校内の図書館に、ほんの小さな悲鳴が起こったらしい。
 すぐに消え失せてしまうような儚い声だったものの、当人たちのショックは大きかったそうな。


 そんな二人の反応を見ながら、男子Aは考えていた。


 (――どっかの高校の文化祭で、女装コンテストとかやってたっけ)

 (優勝者の画像を見たことがあるけど……全く)

 
 視線の先には、相変わらず金髪少女と一緒に引っ付いているクラスメイトの姿。
 それを見て、嘆息してしまうのだった。


 (――大宮さんに、敵うわけがない!)
269 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2013/12/31(火) 02:28:48.03 ID:0p57gJ060
ここまでです。

年内に一本だけ書いておきたかったので、書いた次第です。
……しかし、陽子との関係の話に一応の決着がついたためか、今後どう進めればいいのか思案中です。
かなりグダグダとしたお話になってしまいそうですが、それでも読んで下さる方がいればいいのですが……。

とはいえ、書いていて楽しいのは事実なので、今後も書いていきたいですね。
それでは。また来年。
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/31(火) 11:02:25.45 ID:aXA7PJ1AO
おっつん
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/31(火) 15:19:22.42 ID:wfYERLCVo
おつ
272 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/08(水) 22:27:53.54 ID:Q4baw+Pe0
今更ですが、あけましておめでとうございます。
今は下書き中ですが、次はカレンの家にみんなでお邪魔する話になります。
もうしばらく、お待ちください。
273 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/09(木) 00:01:49.22 ID:u4m5fh7h0
私待つわ
274 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:41:26.90 ID:5OGn1x0I0
 ――どうして、こうなった。


 私の中に渦巻く思いを言い表すなら、こんなものだと思う。
 いや、そもそも何となく、こういった予感はしていたんだけど。


「えへへ、アリス〜!」
「シ、シノ!? そ、そういうことは……でも、いいよ、私も」


 目の前では、普段より更に深い笑顔のまま、アリスを抱きしめようとしているシノ。
 対するアリスも、何かあまり似つかわしくない(すまんアリス……)
 色っぽい表情を浮かべている。


 ……うん、決して普段なら見られない光景だ。


「シノー! アリスー! 仲間に入れるデース!」


 そして、そんな輪に加わろうとするカレンも、顔を赤く染めている。
 そんなカレンは、いつもの明るさはそのままに、「甘え」の色も濃くなっているような……。


 ――さて。


 そんな3人の「姦しい」(以前、綾に教えてもらった表現)光景を見ていると、


「……陽子ぉ」


 考えている間に、何故か私の首筋に手をかける友人の姿がそこにある。


「私、だってぇ……」


 私は、普段と今との綾のギャップに、正直ビクッとした。
 涙目のまま私を見つめる綾の表情。
 恐らく、男子が見たら卒倒するだろう――いや、そもそも綾が男子と話してる所なんて見たことないけどさ。


「――ホントに」


 私は、そんな綾の視線に出来る限り応えながら、再び思う。



 ……どうして、こうなった。
275 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:42:33.11 ID:5OGn1x0I0






――数時間前




陽子「うわあ……」

綾「大きいわねぇ……」

カレン「そうデスカ?」

アリス「カレン、お嬢様だもんね」

忍「お嬢様な金髪少女――」


陽子「いやまぁ、この前のカレンのお父さんの車に乗せてもらった時から思ってたけどさ」

綾「いざ見せられると……本当に」

忍「お嬢様というのも……いいですねぇ」

アリス「シ、シノ!?」

カレン「――」


陽子(もうすぐ、文化祭)

陽子(学生の文化祭というのは、そりゃ多くの生徒にとっては嬉しい)

陽子(というわけで、テンションを高くして、文化祭のあれこれについて話し合っていたら――)


カレン「私の家で、パーティーしマショウ!」


陽子(と、カレンが言うので)

陽子(『前日祭』ということで、カレンの家にお邪魔させてもらうことになった)

陽子(厳密には、すぐ翌日というわけではないけど……まぁ、その辺りは置いといて)

陽子(私たち全員が同意して、今こうして、カレンの家の前にいるというわけ)



カレン「それでは、どうぞ入ってくだサイ」

カレン「明日まで、私以外には家にいまセン」

陽子「――お父さんもお母さんも?」

カレン「ハイ!」

綾「高校生だけで泊まり込み、なんて大丈夫かしら?」

カレン「もう、アヤヤはおカタイデスネ……」

綾「わ、私は、別に!」

陽子「ははっ、綾はマジメだからなぁ」

綾「よ、陽子までっ!?」
276 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:43:32.66 ID:5OGn1x0I0
忍「もう、アリス? そんな顔しないでください」

アリス「だって……シノが、シノが」

アリス(カレンが「お嬢様」だって、そんな目をするからぁ――!)

忍「もう……」ダキッ

アリス「ひゃっ!?」

アリス「も、もう! シノ!」カァァ

忍「ふふっ……」ナデナデ


陽子「おーい、そこの二人組ー? 話、聞いてたかー?」

忍「明日までは、皆さんと一緒ですね」

アリス「カレンのお家にお泊りなんて、久しぶりだなぁ……」

綾(あ、そういえばシノ、こういう所はちゃっかりしてたわ……)

陽子(たまーに、シノの底が見えなくなるんだよなぁ……)




――カレンの部屋


カレン「さぁさぁ、入ってくだサイ!」

陽子「……なぁ、カレン?」

カレン「?」

綾「これ――カレンの部屋なの?」

カレン「ハイ! 全て私の部屋デス……」

二人「……」


忍「私とお姉ちゃんの部屋を合わせたくらい、でしょうか……?」

アリス「いや、多分シノのお家の2階部分全てくらいじゃないかな?」

陽子「いや、ひょっとしたらそれ以上……」

綾「――みんな、言っていてもしょうがないわ。正直、よく分からないもの」

綾「本当に、お嬢様なのね……」

カレン「私、『miss』だったデスカ!」

忍「??」

アリス「『お嬢様』って意味だよ、シノ」
277 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:44:10.85 ID:5OGn1x0I0
 ……まぁ、こういった流れがあって。


 私たちは、カレンの部屋(うん、「部屋」だ)で、ゆっくりと過ごしていた。
 巨大なベッドのふかふか具合にビックリしたり、備え付けられたテレビの画質に度肝を抜かれたり……まぁ、色々とあって。


「さて、それじゃあ――」


 そう、ここから全てが始まった……。



「『Ceers!』と、いきマショウ!」


「……『ちあーず』?」
「シノ、『カンパイ』って意味だよ」


 カレンの言葉にシノがキョトンとし、アリスが説明する。
 シノの通訳への道は、長く険しいものとなりそうだ。
 いやまぁ、私も知らなかったけどさ。


「……『チアーズ』って言うのね」


 ほら、綾が知らないことを私が知ってるわけないし。




「それじゃ、『カンパイ』!」


 カレンがそう号令をかけ(うん、間違いなくその日本語、最初から知ってたな……)、私たちのグラスがカチンと音を立てる。
 部屋のテーブル(これもまた大きいんだ……)に並べられた飲み物は、どれもフルーツ系のものかな?
 

「わぁ、美味しいです……」
「カレン、これ好きだったもんね」


 上機嫌なシノとアリスに、カレンが微笑みかける。


「Yes! パパもこれ、好きなんデス!」
「へぇ、お父さんも……」


 綾も気に入ったらしい。
 うん、私もこの味は好きだ。


「本当に美味しいですねぇ……」
「ふふ、シノもイギリスのジュース気に入ってくれたんだね」


 ああ、こんなところにも見られる日英交流よ……。
 そんな二人の笑顔に綾もクスっと笑い、カレンは次々に飲んでいき、私もそれを見て微笑ましく思う。
278 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:45:37.73 ID:5OGn1x0I0
 ……そして。


「――ほら、アリス」
「ああ、そ、そんなことっ……シノォ」


 今、目の前で展開される光景。
 その二人の友人は、お互い色っぽい表情を浮かべながら、抱きついたまま離れない。


「陽子の、バカァ……」


 で、さっきからグスッとしながら、私のすぐ近くに顔を寄せる綾。


「――なぁ、カレン?」


 綾には悪いけど、一回確認しておきたかった。


「? どうしたデスカ、ヨウコ?」


 シノたちの方へ向かったカレンが、私の方を見てキョトンとしている。
 私は、ジュースの入った缶を掲げてみせて、


「下の方に小さく、『Alcohol 3%』とか書いてあるように見えるんだけど……」


 底の部分を指し示しながら、聞いてみた。


「……アァ」


 カレンは得心がいったという表情で、ポンっと手を打った。


「Sorry……それ、パパも好きなものだったんデス」
「……つまり?」
「私が間違えて、『含まれている方』を持って来ちゃったんデス……」


 ――ああ、なるほど。

 要するに、お父さんの飲む方と間違えてしまった、と。
 まぁ、パッケージが似ていることは珍しくないのかもなー……。


「もう、陽子! 私を無視してぇ……」


 カレンと話していると、更に綾が顔を寄せてきた。
 っていうか、近い近い!


「あ、綾……一旦、引いてくれ」


 荒っぽくならないように綾の手をどかして、彼女の肩を掴み、元の場所へゆっくりと戻した。
 そんな私を綾は「うー……」と、恨めしそうに見ていた。


「ほら、アリス……顔、真っ赤ですよ?」
「あぁ、シノ! な、舐めちゃダメぇ……!」
279 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:46:19.98 ID:5OGn1x0I0
ふと目の前を見てみると、シノがアリスの首筋を舐めていた。
 シノが舌を動かす度に、アリスの身体が艶めかしく跳ねる。
 ――本当に、男子が見たら、倒れこんでしまう勢いだ(二回目)。
 というよりこれって、冷静に考えたら――


「酒に酔った男女が、互いの身体をつつき合う、過剰なスキンシップ」


 とかいうやつじゃないか?
 表向き、女子同士のじゃれ合いだけれど、そういった意味でも問題になりそうだな……。
 ほら、「酔った勢いで――」とかいう話も聞くし。



「……はぁ」


 そんな二人にカレンが混ざり、「シノ! 私も舐いいデスカ?」「カ、カレン! ダ、ダメェ……!」
とか話している光景を見て、「陽子ぉ……」と再び近づいてこようとする綾を見ながら、嘆息してしまった。
 なんで、こんなよくわからない分析をしているんだ、私は……。



 実のところ、私はアルコールを以前にちょこっと飲んだことがある。
 あれは、そう……高校に入学が決まった頃のことだったっけ。
「記念だ」といって、父さんが注いでくれたビールを飲んで、「おおイケるじゃん」とか思っちゃったんだ。


 グビグビ飲んだわけじゃないけれど、その時にわかったことは、私は酒が強いということ。
 うんまぁ、父さんと母さんを見てたら、何となくわかるけどさ……遺伝したんだな、きっと。


 そして、わかったことがもう一つ。
 それは私が「傍観者タイプ」だということ。
 こうして、顔を真っ赤に染めて、それぞれの反応を示す友人たちを見て思った。
 私だけが妙に冷静に、いわば「観察」している。


 もしかしたら、試験前に飲んだら問題もスラスラと……いや、それは絶対にやめておこう。


 だから――


「……もう、陽子ったら、またボーッとしちゃって」


 いや、色んな意味でボーッとしてるのはそっちだよ、というツッコミは抑えて、私は再び綾と向き合う。
 なるほど、綾は泣き上戸タイプらしい。目に浮かんだ涙を見て、そう感じた。
 シノは典型的なテンションが上がるタイプで、アリスは普段と違う態度を見せるタイプ。で、カレンは甘えに転じるタイプか。
 色んな反応があるんだなぁ……。


「――ねぇったら!」


 ヤバい、つい綾への警戒を怠った!
 綾は首筋に手を回す動作を途中で止め、私にぶつかってきた。
 その細い身体のどこにそんな力があったのか。
 気づいたら、私は綾に押し倒される格好になってしまった。


「……なぁ、綾?」
「――」
「なんかさ、泣きそうな顔、してるよ?」


 そりゃ、泣き上戸タイプなら、そうだろう。
 けれど、なんだか……綾の涙目は、それだけじゃないような気がした。
280 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:46:53.85 ID:5OGn1x0I0
「――だって」


 綾は少し首を振ってみせると、再び私に顔を寄せる。
 近くにやって来た友人の顔に、私は出来る限り真摯に応じようと思った
(さっきから綾をどこか蔑ろにしていた罪悪感かもしれない)。


「陽子が……陽子が!」


 悪いのよ、と綾は絞りだすように言う。
「?」としてしまったのは言うまでもないだろう。
 私が、悪いことを?


「――ごめん、綾。何か悪いことしたんなら謝るよ。ほら、私ってバカなトコあるからさ」


 普段なら冗談めかして言うところをスラスラ言ってしまえたのは、綾の表情が真剣だったこともあるだろうけど
 恐らく私にもアルコールの効力が出てきていたんだろう。
 ほら、何かお酒を飲むと、饒舌になったりする人はいるみたいだし。


「だから……泣かないで?」


 泣き上戸なことを分かりながら、こんなことを言うのは酷だろうか。
 とはいえ、綾のことを放っておけなくなっちゃったみたいだ。


「――そういう、所が」


 少しの間の後に、綾は再びグスッと洟をすすりながら言う。


「そういう所が、ズルいのよ、陽子は……!」


 そういう妙な所で気が利いて、変な所で優しくて、それでそれで――
 堰を切ったようにまくし立てる綾は、本当に別人のようだった。
 なるほど、酒は麻薬なわけだ。


「あ、あはは……そ、それはともかく、その――」


 そろそろ重いんだけど、なんて台詞が過ぎってしまったことに罪悪感を覚えた。
 とことん、今の私は甘くなっているらしい。


「……話、聴くよ。だからさ、その……この体勢じゃ、色々と」


 恥ずかしいよ、と言ったら、綾はキョトンとした、ように見えた。
 そして、


「――!」


 ほんの一瞬我に返ったのか、バッと私の上から向こうに跳ねた。
 そして、数秒間、顔を伏せたままだったものの……


「――聴いて、くれるの?」


 その上目遣いの表情を見るに、うん、やっぱりまだ酔っ払ってるんだな……。
281 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:47:21.31 ID:5OGn1x0I0
向こうで、姦しくスキンシップをとっている友人たちの声が聞こえてくる。
 ……うん、正直、向こうが気になってしょうがないところもあった。
「だ、ダメッ!」「OH……シノ、大胆デス」「アリス……ここは小さい、けれど」なんて、気にならないわけがないだろう。
 というか、ホントにシャレにならないだろ!
 まずいな、そろそろ――


「綾、ごめん! ちょっとまって、て……」


 私が3人組に割って入ろうと立ち上がると、綾は私の服の裾をキュッとつまんだ。
 その力は弱かったけれど、なぜだか振りきれなかった。


「……いつも、そう」


 私が綾を向いたままでいると、綾は俯きながら訥々と話し始めた。


「いつも――シノ『ばっかり』」


 ……シノ?


 そりゃそうだろう、綾。
 私たちは、シノを友人としてサポートするということを誓い合った仲じゃないか。
 シノのことが心配なのは当たり前――
 ……『ばっかり』?


「陽子は、私を見てくれないの……?」


 綾は、顔を上げ、涙目のまま心細そうに私を見つめる。

 服をつままれた時に思い出した。
 それは、中学生の時に綾が転校して、クラスに馴染めずにいた頃のこと。
 「一緒に帰ろう」と呼びかけた下校の際に、後ろから私の制服の裾を摘んできた思い出が蘇ったから……
 私は、それを振りきれなかったんだ――。


「――シノは、私より、大事?」


 綾の目に、私は射止められてしまったような気がした。
 その透明な涙が、私の心にそのまま落ちてくるみたいな、そんな感覚。
 ……うーん、これは、なぁ。


「……いいか、綾?」


 私は、綾の肩を優しく掴んだ。
 ビクッとする綾に顔を寄せ、はっきりと言う。


「私は、シノのことは――」
282 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:47:52.68 ID:5OGn1x0I0






 ――あれ?


「……?」


 目を開けてみると、辺りはシーンとしていました。
 近くには、少しだけ服装が乱れた、愛する二人の金髪少女。
 二人は仲良く手を繋いで、スースーと寝息を立てています。
 

「――可愛いですねぇ」


 そんな二人の頭を撫でると、「うぅん」と声を上げて、寝返りを打ってしまいます。
 本当に、愛しくてたまりません。
 正直、「その服装をもう少し……」と邪な気持ちが働いてしまいましたが、さすがにマズいという気持ちは私にもありました。
 だから、優しく見つめるにとどめておくことにしましょう。


 さて、視線を変えてみると、そこには――


「……あ」


 二人の、友人の姿がありました。
 陽子ちゃんは壁に頭を寄せながら、静かに眠っています。
 そして、そんな陽子ちゃんの膝に――


「――よう、こ」


 ちょうど膝枕になる格好で、綾ちゃんも眠っていました。
 そんな二人の姿は、こちらの金髪少女二人組とはまた違った意味で、絵になりそうな光景です。


「……」


 ゆっくりと、私は立ち上がりました。
 その際、少し頭がズキンとしたことで、「もしかしたらさっきの飲み物は……」とようやく得心がいきました。
 道理で、理性が言うことを聞きにくくなっていたわけです。


 そして、二人の元へと歩いていきました。
 足取りは確実に、誰も起こさないように静かに、静かに――
283 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:48:31.01 ID:5OGn1x0I0
「――陽子ちゃん、綾ちゃん」


 ――私は、シノのことは――


 なぜだか、この言葉は脳裏に残っているようです。
 アリスやカレンとじゃれ合っている中、どうしてかこの陽子ちゃんの声だけが――


「……もう」


 スッと、陽子ちゃんの髪の毛に手を伸ばします。
 「んん」とほんのちょっと声を上げますが、起こさない程度の加減のまま、ちょっぴり撫でました。
 続いて、綾ちゃんの綺麗に揃えられた髪にも――


「……」


 どうしてでしょうか。
 どこか複雑な気分がしてしまうのは。


 その答えは、また後で考えましょう。
 とにかく今は、ゆっくりと寝ることが大切なような気がしました。


 金髪少女の元に戻り、私は静かに二人の間に横たわります。
 二つのいい匂いをすぐ近くで感じられる喜び。
 それを噛み締めながら、私は再び目を閉じて――










 ――シノの、ことは……――



 



 ――大事な、『友達』だって、そう思ってるよ――
284 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/09(木) 00:52:49.75 ID:5OGn1x0I0
ここまでです。
酒に酔った勢いで書いたら、長くなってしまいました。


今回の構想は、ネタが浮かばないので本棚を見てみたら『ひだまりスケッチ』の1巻が見えたことに起因します。
「そういえばチューハイ飲んでたっけ……」という漠然とした思いつきで、書いてみたらかなり筆が乗ってくれました。
あくまで自分の中でのキャラが酔ったイメージで、皆さんのイメージとは異なるかもしれません。


それでは。
次回はおそらく文化祭かもしれません。
285 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/01/10(金) 21:34:46.10 ID:bWR2u9SM0

シノ達は何処までやったんですかね
286 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/11(土) 00:20:57.87 ID:fcW/ODXGo
287 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/12(日) 01:27:20.88 ID:LRXi86cuo
乙!
288 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/12(日) 23:25:51.35 ID:jBUzXUV7o

このシノは自分を女だと思ってるレズなの?
289 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/01/14(火) 01:44:29.79 ID:9SihSa360
感想ありがとうございます。

>>288
その解釈で、大体当たりかと。
自分が男ということは自覚しながらも、女でありたいと振舞っている大宮忍さんが、このSSの主人公です。
そして、そんな彼(女)に翻弄されながらも、親しく付き合っている少女たちのお話という感じです。


今回は投下はありませんが、次回はもしかしたら文化祭の準備編になるかもしれません。
もうしばらくお待ちください。
……何か良い案がありましたら、採用したいとも考えています。
290 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/01/14(火) 14:17:10.71 ID:t+wUFjKQ0
オカマだったか
291 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/01/30(木) 14:57:27.67 ID:f/jmyaPJ0
提案
ラッキースケベ的な展開を見たい
292 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/02/04(火) 00:54:58.51 ID:9OpMIHC20
>>291
提案、ありがとうございます。
今、文化祭の話を執筆しています。役立てられるよう、頑張ります。

恐らくですが、このSSは1年次で一旦区切りということになるかもしれません。
というのも、リアルが忙しかったり、久世橋先生を上手く書けるか分からないためです。
予めご了承下さい。

いつもレスして頂き、本当に感謝です。
293 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/02/04(火) 10:20:15.63 ID:RVNvywgmO
俺は待つぜ
294 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2014/03/03(月) 08:27:54.35 ID:23WYE10o0
申し訳ありません。
ようやく復活しましたが、もうしばらくお待ちを……。
295 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/03(月) 19:51:57.58 ID:jy1HndATo
まってるよー
296 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/05(水) 12:27:36.81 ID:ia6NLGdlo
いつまでもまーつーわー
297 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/22(土) 10:22:10.88 ID:/h+SNKFuo
待ってる
298 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2014/04/04(金) 12:08:10.50 ID:lsIURwo30
二期、やるみたいですね。
嬉しいものです。

しかし、未だに復調ならず……せっかくの朗報なのに。
今しばらくお待ちください。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/07(月) 21:29:20.39 ID:7wHCs5Kt0
おk
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/13(日) 01:41:08.61 ID:YIK/hs4f0
待つよ
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/16(水) 20:11:49.16 ID:URJSDT9F0
まだですか?
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/04/19(土) 01:17:23.49 ID:c4bTDPmr0
2期おめ
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/19(土) 06:00:01.84 ID:lomnAXNRo
続編・・・

二期なのかなぁ・・・
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/19(土) 10:44:48.53 ID:mmJI8PsAO
正式に二期と決まったらしい
ソースはアニメ公式のTwitter
305 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/04/29(火) 00:01:28.59 ID:iwt86xj20
文化祭。
 私たちのような高校生にとって、何とも胸が躍るイベントではないでしょうか。
 中学の頃は綾ちゃんと陽子ちゃんと、楽しんだ記憶があります。
 そして、高校では――

「……? シノ、どうかしたの?」
「いえいえ」


 いけません、ついつい凝視してしまっていました。
 朝の光を浴びて、視界の中で映える金色の髪。
 それはまるで、奇跡のようなバランスで――


「こらこら、シノ」
「わっ」


 ポンッと肩を叩いたのは、大切な私の友達でした。
 陽子ちゃんは溜息をつきながら、


「公道で、あんまりジーッと見ちゃダメだろ?」
「うう……すみません、陽子ちゃん」
「――ま、聞き分けのいいのは、シノの良い所だけどな」


 そう冗談っぽく言って、ヘヘッと笑う陽子ちゃん。
 そんな彼女に、私は何度助けられてきたでしょうか……。






 ――少し離れた所から、私は先を行く三人を見つめていた。
 シノの冗談にアリスが顔を赤らめ、それを陽子が優しくたしなめる。
 そんな、どこまでも仲睦まじい三人組を。


「――うーん」
「どうかしマシタ、アヤ?」
「ひゃっ!? カレン?」


 ビックリした。
 その特徴的なカタコト口調に反応してそちらを見れば、予想通りそこにいたのはカレンだった。
 カレンは、相変わらず可愛らしいキョトンとした表情を浮かべながら、私を見つめている。


「うーんと、ね……その」
「シノとヨウコ、デスカ?」
「……わかっちゃうの?」
「バレバレデス」


 そう言って、クスクスと笑ってみせる。
 相変わらず、憎めない英国少女だ。


「But……アヤは心配しスギデス」
「そう、思う?」
「ハイ」


 そう言って、腕を広げてターンし、笑顔を浮かべてみせる英国少女。
 そんな彼女は本当に自由で、その奔放さが私はちょっと羨ましい。


「私とアリスは、シノが好きデス」


 ほんの少しボリュームを落として、カレンは私に言った。
 さっきまで浮かべた満面の笑みを浮かべながら、はっきりと。
306 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/04/29(火) 00:02:02.26 ID:iwt86xj20
「うん、知ってるわ」
「アヤは、どうなのデスカ?」
「――そう、来るのね」


 そっか、私の気持ちか。
 前方を見れば、彼女は二人の友人と喋りながら、屈託のない笑顔を見せている。


 ――どうして、陽子は……私の、こと――


 ふと思い出した記憶は、私の体温を上げるのには十分すぎた。
 いけない、まだあの時のことを忘れられていない……。
 

 でも、あの時の問いかけを、本当に忘れていいのか。
 そのことを、帰った後で考えた。
 その結果……私は、「ちょっとした」答えを出したのだった。


「……ありがと、カレン」
「What?」
「思い出させて、くれて」


 そう言って、私は空を見上げる。
 本日は晴天なり――
 文化祭初日に、おあつらえ向きの天気だ。



「わぁ……」
「ついに、って感じだな」
「すごーい……」


 校門には、色とりどりのデコレーションが施されており、観る人の気分を上げていた。
 一方から一方へかけられたアーチが掲げるは、「ようこそ! 〇〇高校文化祭へ!」というアート。
 後からやって来た綾とカレンも、それを見てウットリとしている様子だった。


「――綾は、こういうロマンチックなの好きだもんな」
「……陽子」
「? どした?」
307 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/04/29(火) 00:03:06.72 ID:iwt86xj20
おや、おかしい。
 いつもならこんな風にからかったら、「そ、そんなこと!」とか言って顔を赤らめるようなものだけど……。


「――そ、その」
「……」


 モジモジとする友人は、何を思っているんだろう。
 付き合いの長い方の私も、時々分からなくなってしまう。


「……や、やっぱり、なんでもない!」


 逡巡した末に、綾はピューッと昇降口へ走って行ってしまった。
 しかしまぁ、後ろから見ても耳が真っ赤だ。
 まるで、カレンの家での「前日祭」の時みたいに――



 ――私だって、陽子が……!――


(……な、何を思い出してるんだ、私は!)


 いかんいかん、これはマズい。
 どうして、あの光景がフラッシュバックするんだ!


「……陽子ちゃん」
「シノ?」
「あ、大丈夫ですよ、アリス。今日も可愛いですね」
「……それ、寝起きから10回くらい聞いたよ」
308 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/04/29(火) 00:04:25.55 ID:iwt86xj20
短いですがここまでです。
リハビリ兼プロローグ的な何か。
本番の方は、しばしお待ちを。

ここ最近、体調を思いっきり壊してしまっていたため、遅れてしまい申し訳ありませんでした。
あぁ、二期が楽しみだ……(遠い目)
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/29(火) 05:32:05.24 ID:2fAsEGdso
310 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/05/22(木) 02:14:18.35 ID:z5gCSS+c0
 ――で。

 私たちの出し物は何かというと、少し説明に困る。


「甘味処!」
「メイド喫茶!」


 こんなやり取りと睨み合いの末、えらく変則的な結論に落ち着いた。
 すなわち、2つを同時並行する、ということに。
 この提案への決を採った時の委員長の困惑顔は、未だに忘れられない……。

 そして、もう一つ。
 私たちにとっては、とても重要なことがまだ残っていた。
 2つの出し物を並行して進めることはともかく、そこには「役割」というものがある。
 例えば、男子なら看板を作ったり、買い出しにすすんで行ったり。
 そして、提案の都合上、女子が目立つ役割――すなわち、メイドさんだったりを担当することになる。


「……ええと、その」


 壇上の委員長が困惑した。同時に、烏丸先生も最前列を見つめる。
 クラスメイトの視線も、「その子」に集中することになる――


「……ど、どうしますか、その」
「そ、そうですねぇ――」


 委員長と先生が困惑を声に混ぜながら、協議する。
 それはまぁ、しょうがないことなんだろう。


 なぜなら――


「……シノは、どうなるんだろう?」


 私の友人――陽子がポツリと呟いた。
 それはきっと、クラスの皆が思っていることだったと、私は思った。


「皆さんは、どう思いますか?」


 先生と簡単な話し合いを終えて、委員長が私たちに視線を移す。
 周囲を見てみれば、ある人は顔を赤らめているし、ある人はどこかにやけているようにも見える。
 十人十色の反応を見て、委員長は最後に、「本人」と目を合わせた。


「……大宮さんは?」
「私、メイドさんやりたいです!」


 そうして当人――シノがハキハキと応えた時、クラス全体が妙に脱力したことは言うまでもないことだろう。
311 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/05/22(木) 02:14:53.73 ID:z5gCSS+c0
「とはいえ……大宮さんは、ええと」
「そうだよシノ。シノは……その」


 逡巡する委員長の言葉を、シノの隣にいるアリスが継いだ。
 二人とも、顔が真っ赤になっている。無理もない。

 そう、何といっても、シノは――


「……よう、お前どう思う?」
「ええと俺は――」


 耳に入ってきたのは、いつだったかシノと話していた二人の男子生徒の声。
 私がそっちを向くと、二人もまた顔を赤らめながら、ひそひそと話していた。


「常識的には……無し、だけど」
「俺からすれば――有り、かなぁ」


 聞き耳を立てながら、もしかしたらこれがある意味、クラスの総意なのかもしれないと、私は思った。
 しばらく時間が経ってから、


「皆さん」


 委員長がコホンと咳払いをして、言う。


「――臨機応変に、いきましょう」


 明快な回答を好む委員長らしからぬ結論だったけれど、クラスは全員が頷いた、ように見えた。
 委員長、お疲れ様……。
312 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/05/22(木) 02:15:34.49 ID:z5gCSS+c0
――学校祭当日・校門前


綾「……なんてやり取りもあったけれど」

陽子「結局、どうなるんだろうなぁ」

アリス「……」

アリス(シノからすれば、メイドさんをやりたいのは当たり前、なんだろうけど……)

忍「えへへ……」

忍「メイドさん……」パァァ

アリス(あまりにも嬉しそうなシノの表情を見てると、何も言えないよぉ……)


綾「あら、そういえばカレンは?」

陽子「あぁ、さっき『OH! 待ち合わせ時間に遅れてしまいマス!』って、走っていった」

綾(い、いつの間に……)



――教室前


アリス「あっ、委員長さん」

委員長「……あぁ、カータレットさん」

委員長「そして――大宮さんたち」

忍「あの! それで、メイド服は、どちらに!?」ハァハァ

陽子「シノ、落ち着け」

綾(あぁ、ここまで嬉しそうなシノを見ると、辛い……)キュッ


委員長「……ちょっと、いいかしら」ヒソヒソ

陽子・綾「?」

委員長「結局」

委員長「……色々と、職員会議で協議された結果」

委員長「『男子』は、裏方作業に徹するべきだ、って結果になったみたい」

二人「」
313 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/05/22(木) 02:16:14.75 ID:z5gCSS+c0
忍「メイドさん、メイドさん〜♪」

アリス「シ、シノが歌を……」

委員長「……それで」

委員長「そのことを、その――大宮さんに言っていいもの、なのか」チラチラ

委員長「……」キュッ

綾(委員長、苦しそう……)

陽子(色々と苦労してたもんなぁ……)


男子A「……ん?」

男子B「あれ、委員長たち、どうした?」

委員長「!」

陽子「よ、よぅ、二人とも」

綾(だ、男子……!)アセアセ


男子A「……あぁ」

男子B「もしかして委員長――あのこと?」

委員長「……えぇ」

男子A「ふーん」


男子A「おはよ、大宮さん」

忍「あっ、おはようございます!」ペコリ

アリス(シ、シノが男の子と……)

アリス(あれ、でもシノ自体、『女の子』じゃないから、これは自然で、ええと……)グルグル


男子B「……」

男子B「今、女子なら別のあそこの空き教室で着替えてるよ」

委員長「!?」

忍「わぁ、そうなんですか! 綾ちゃん、陽子ちゃん、早く行きましょう!」

男子A「待った」ポンッ

忍「はい?」


男子A「いいか、大宮さん」

男子A「……今、この教室の中に烏丸先生がいる」

男子A「話してから――そことは別のトコで着替えることになりそうなんだ」

委員長(……先生!?)

陽子「お、おい、それどういう――」

綾(ど、どうなってるの……?)
314 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/05/22(木) 02:16:54.79 ID:z5gCSS+c0
忍「……あ」

忍「そう、でしたね――私としたことが」

忍「お二人とも、ありがとうございます」ペコリ

忍「それじゃ陽子ちゃん、綾ちゃん、アリス、また後ほど」タタタッ



委員長「……どういうこと?」

男子A「ん、簡単なこと」

男子B「俺たちがカラスちゃんに、『大宮さんには、何としてでもメイドさんをやらせてあげてほしい』ってお願いしただけ」

陽子「……それ、って」

男子A「職員会議だか何だか知らないけど」

男子B「大宮さんが、マズいこととか起こしそうにないことくらいは、わかってるつもりだし」

綾(……こ、この人たち)


アリス「あ、あの……」

アリス「それじゃシノは――メイドが出来るってことに?」

委員長「……いいの? 烏丸先生は、それで」

男子A「先生はかなり迷ったけど、最後は俺たちの提案に乗ってくれた」

男子B「まぁ、『久世橋先生に怒られちゃいますねぇ』とか溜息はついてたけど」

委員長「――バレたら、あなたたちだって危ないんじゃないの?」

男子A「ま、別に」

男子B「中学とかと違って、内申なんて無いしなぁ……」

男子B「それに、生徒がやりたいことできない学校祭って、どう思うよ?」

委員長「……それは」


陽子「……ま、いっか」

綾「ちょ、ちょっと、陽子?」

陽子「そんじゃ綾、アリス、私たちはそこの教室に着替えに行こう」

アリス「……シノ、大丈夫なのかな?」

陽子「いいっていいって」

陽子「なにかあった時はカラスちゃんと、そこの二人が責任取ってくれそうだし」

男子A「おお、プレッシャーだぞ」

男子B「ま、なんとかなるだろ」

陽子「それじゃ……委員長も、お疲れ様」

陽子「また後でなー」タタタッ

綾「あ、ま、待ちなさいって陽子!」

アリス「ヨウコー!」
315 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/05/22(木) 02:17:21.40 ID:z5gCSS+c0
委員長「……」

委員長「で?」

男子A「なにか?」

委員長「正直なところは?」

男子A「……」

男子B「……」


男子AB「大宮さんのメイド服姿に、めちゃくちゃ興味があったから」


委員長「……後で大宮さんが問題にならなくても、あなた達は職員室に突き出すことにしましょう」アキレ

男子A「おいっ!」

男子B「委員長はマジメだなぁ」
316 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/05/22(木) 02:19:47.67 ID:z5gCSS+c0
今回はここまで。

結局、欲望に人は勝てないというお話(嘘はついていない)。
ちょっとオリキャラがでしゃばり過ぎた感がありますね……次回は、主人公勢中心で回したいと思います。
あ、次回はカレンも登場予定です。

今更ながら原作をちょこちょこと読み始めてみると、シノたちの学校祭にイサ姉たちは来てないんですね。
アニメスタッフは、本当に素晴らしい改変をしたんだなぁと改めて感嘆しました。


それでは、また。
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/05/22(木) 02:40:28.55 ID:aOkWEbu1o
乙デース!
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/05/23(金) 16:47:16.79 ID:ErQ3IUlAO
あのスタッフなら二期も安心だ
というか(ごちうさなど)最近のきららアニメは原作愛のある良作ばかりで嬉しい
319 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/06/15(日) 20:23:13.75 ID:TrJbYPzW0
ごめんなさい、もうしばらくかかりそうです。




小ネタ



忍「……」ズーン

アリス「だ、大丈夫だよシノ!」アセアセ

アリス「つ、次のGreeceには勝てる確立高いよ?」

忍「――その、次は?」

アリス「……」

アリス「こ、Columbiaは、うぅ……」

忍「……」


忍「あぁ」タメイキ

忍「私たちのチームも、アリスの所と当たれればいいんですけどねぇ……」

忍「そう、夢の英国!」パァァ

アリス「……」

アリス(シノ、EnglandとUnited Kingdomの区別ついてる、よね……?)ドキドキ





書いてて、シノはスポーツに興味持ってる姿が想像つかないことに気づきました……。
320 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/06/15(日) 20:24:08.78 ID:TrJbYPzW0
訂正:☓立→○率

GL突破は難しいかもしれませんが、応援したいです。
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/15(日) 20:35:46.55 ID:dIPIQskOo
乙です。
たしかにスポーツに持っている忍は想像できない
322 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2014/07/08(火) 23:30:54.85 ID:Y2tta9Es0
体調が崩れて治らないので、もう少しお待ちください。
……完結しないうちに、二期になるかもしれないと思うと、何だか焦りますね。
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/07/11(金) 09:49:31.69 ID:/uj2PW3AO
まってる
324 : ◆iw8u0HxUVRB3 [sage]:2014/08/03(日) 23:16:14.27 ID:KDVSM3KW0
すいません、もう少し……
二期タイトル決まったのに、申し訳ないです。
325 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2014/08/03(日) 23:17:45.52 ID:KDVSM3KW0
あれ、トリップの様子が……
これで間違えてたらごめんなさい。
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/04(月) 08:10:46.61 ID:XnDCp2mAO
意図的にHTML化寸前まで放置してるのでなければいくらかかってもいいと思う
327 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2014/09/01(月) 21:42:36.61 ID:x7SH0rEF0
すいません……もう少し。
我ながら、虚弱体質ですね。
328 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/16(火) 01:02:34.43 ID:h7ZtWU6Z0
少し書けたので、投下したいと思います。
地の文ばかりで読みにくいかもしれません。

あと本当に今更ですが、>>32の時点でシノとアリスのコミュニケーションが成立するはずありませんね……ミスでした。
それでは、小出しにしていきます。
329 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/16(火) 01:03:30.88 ID:h7ZtWU6Z0
 ――AM9:00


「わー、そっちの服、可愛い」
「ありがと。でも、そっちも凄く似合ってるよ」


 教室のあちこちで、互いに互いを褒め合う声が聞こえてくる。
 ワイワイガヤガヤと、本番は始まっていないのに、もう学園祭のような感覚だった。


「……みんな、キレイ」
「いやー、アリスが和装してると、面白いなぁ」


 私が呟くと、ふんふんと納得したように頷く陽子がすぐ近くにいた。
 そちらの方へ目を向ければ、いやはやなんとも――


「陽子、凄く似合うね」
「そっか? へへ、ありがと。アリスも可愛いな」
「うん! 何か、『頼れるアネキ!』って感じ」
「……実の弟たちにも、そんな風に思われたらいいんだけどなぁ」


 素直に思ったことを言うと、陽子はクルッと後ろを向いて、頭を掻いていた。
 おそらく、照れ隠しだろう。
 察した私は、メイド服組の方へと目を転じる。


「綾!」
「……うぅ」


 声をかけると、綾は恥ずかしそうにモジモジとしていた。
 しかし、陽子が「頼れるアネキ」なら、綾は「花畑の百合」みたいだった。
 たおやかで、折ってはいけない雰囲気、というか……要するに、


「綾も凄く似合う!」


 ということだった。


「ア、アリス! そ、そんな大声出さないでぇ……」


 私が笑顔で呼びかけると、綾はガクガクと震えてしまった。
 元来、恥ずかしがり屋の性分の綾にとって、物凄く大変なんだなぁ、と一人頷く私だった。
330 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/16(火) 01:04:34.07 ID:h7ZtWU6Z0
 実のところ、前日に実物を着てみる人もいたりした。
「着たい人はどうぞ」というノリで。
 私たちは、採寸だけして、そのまま下校するという感じで、今日を迎えた。


 何故かといえば、そこでプルプルとしている彼女が身をもって証明してくれているし、
「あぁ、あいつらも、もーすこし嘘をだな……」とか未だに後ろを向いて呟いている彼女もいる。


(……みんなカワイイ)


 そんな人たちを見て、嬉しくなっていると――


「はい、みんな! そろそろ着替え終わった?」


 あっ、壇上に委員長の姿が。
 パンパンと手を叩き、さながら教師のように見える。


(……委員長も甘味処)


 そういえば、私はシノたちと以外、あまりお話をしたことがないような気がした。
 メイド喫茶と甘味処で別々に別れちゃうけど……それは、裏を返せば、


(色んな人と沢山お話する機会!)


 ということになる。
 私は、今更ながらそんなことに気づき、一人胸を躍らせた――


「……うぅ、慣れないわね」
「もう、そろそろちゃんと立てって。綾も凄く似合ってるぞ」
「――あ、あなたのそういう所が!」
「またか!」


 ――後で、二人の会話を耳に挟み、「綾は大丈夫かな……」と思うのだった。
 楽しくないと「お祭り」にならないから。


「……そーいえば」
「な、なによ」
「シノ、どーしたかなーって」
「あっ」
「あっ」


 私と綾の声は、ピタリと重なった。
331 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/16(火) 01:05:46.03 ID:h7ZtWU6Z0
 そうだ、シノはあれから――!


「……うん、全員、着替え終わってるみたいだし」


 委員長はそう言うと、扉の方を見て、


「入っていいわよ」


 と、優しく言った。


「わぁ、皆さんよくお似合いで」


 ほんわかとした口調で入ってきたのは、シノその人だった。


「……」
「へぇ……甘味処って、こういう感じなんですねぇ」


 女子の視線を一身に浴びせられながら、シノはどこまでもマイペースだ。
 さっきまでのザワついた感じは一瞬で立ち消え、全員が黙りこんでいた。ゴクリと唾を飲み込む音も聞こえる。
 きっと、シノは気づいていない。


「――改めまして、大宮忍です!」


 ニッコリと微笑んで、壇上でペコリと頭を下げるシノ。
 そんな彼女に、誰もが心奪われているなんて――



「……嘘、でしょ」
「あれが――おとk」
「シッ! 悲しくなるから言わないの!」


 静寂の後で、さっきまでのザワつきが戻ってきた。
 けれど、そこにあるのはさっきまでと、ちょっぴり違う感じもする。


「私たちは私服姿を見慣れてるから何だけど……」
「シノって、本当に恐ろしいのね……」


 改めて感じ入った、とばかりに友人二人が頷いた。
 私も便乗させてもらう。
332 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/16(火) 01:07:45.95 ID:h7ZtWU6Z0
「ええと、こういう格好で接客をするのは初めてなので……」


 にこやかな表情は全く崩さないままで、少しばかり頬を赤らめてモジモジとしてみせるシノ。
 何という反則級。しかし、当のかr――いや、敢えて――「彼女」は、それに気づきもしない。


「皆さん、よろしくお願いします!」


 そう言って、シノは再度頭を下げた。
 再び顔を上げると、視線が私とバッチリ合った。


「……」
「――!」


 その柔和な笑みを、私は忘れられないだろう。
 今まで見たシノの顔の中で、一番キレイで、奥底にまで引きこまれそうな、その微笑みを。
 つい気恥ずかしくなって、プイッと横を向いてしまう。顔が赤らんだのを確かに感じた。


「はーい、それじゃ大宮さんの挨拶はおしまい、ってことで」


 いいわね? と、委員長が皆に確認を取る。
 再び黙りこむ一同は、どこか困惑気味ではあった。
 それはそうだろう、事前に決を採ったとはいえ、実際に見るのとそうでないのとでは大違いだ……。


「……」
「よ、陽子?」


 静寂の中、隣の女の子が「パチパチ」と手を叩き始めた。
 たった一人だけの拍手は、しかし、静かな教室内によく響いた。
 それに倣って、私も同じ音を鳴らす。
 困惑気味だった綾が、私たちの後についてくる。
 そして、最後には全員を巻き込み、大きな輪になった――
333 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/16(火) 01:08:53.40 ID:h7ZtWU6Z0
 ――AM9:30


 シノを迎えた後、最後の調整に向かっていた男子たちも戻ってきていた。
 全ての席が埋まる――おお、何だかんだで皆、楽しみなんだなぁ。
 そうして、隣同士でワイワイとやってると、カラスちゃんがゆっくりと入ってきた。


「はい、皆さん! 今日までお疲れ様でした」


 そして響く、優しい声。あぁ、これだけで癒される……。
 周りを見れば、例えば「ホントきつかったよねー」なんて言いながら、頬が緩みきった女子の姿がある。
「もうこんな力仕事、二度とやりたくねー」なんて言う男子も、素晴らしい笑顔だった。


 私は、そんな皆を見てしみじみと思う。
 学園祭ってのは、そういう行事だよなぁ、と。


「そして、今日からが本番です!」


 教壇上で満面の笑みを浮かべるカラスちゃんは、本当に楽しそうだ。
 その気持ちは、きっと全員が持ち合わせているんだろう。


「皆さん、楽しみましょう!」
「おおーっ!」


 カラスちゃんがガッツポーズを取るのと同時に、私たちも腕を大きく上げた。
 いやぁ、始まる前からワクワクするね!


「この服で、接客、なんて……」


 ちょいと近くのお嬢さんは、振り上げた腕がプルプルと震えてますけど……。



 さてと。
 何か色々なおカタい注意事項とかを言った後で、カラスちゃんは「それでは!」と教室を出て行った。
 チラッと時計を見れば、9時40分。うん、まだちょっと余裕アリ。


「陽子、私、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「ん、行ってらっしゃい」
「うん!」


 律儀にそう言ってくれたアリスに返事をし、私は机に頬杖をついた。
 少し、この余韻みたいな感覚に浸っていたい……。
334 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/16(火) 01:10:51.33 ID:h7ZtWU6Z0
「あ、あのさ、大宮さん……」


 ん? 聞き覚えのある声だな。
 見れば、シノが今朝私が話した二人の男子といる。


「はい、なんでしょう?」
「……えぇと、その」
「一緒に写真、撮ってくれるかな?」


 モジモジとした様子の二人は、こっちから見る限り、頬の赤みがバレバレだった。


「はい、いいですよ」


 キョトンとした様子のまま、シノは立ち上がった。


「それじゃまず、俺からでいいか?」
「おう……3、2、1」


 パチリ、とケータイの音が鳴る。
 ちなみにポーズは、シノと男子が近くで一緒に立っているというごくごくシンプルなもの。


「終わったぞ」
「そんじゃ次な……いいか、大宮さん?」
「えぇ、大丈夫ですよ」


 再度確認する男子に、晴れ晴れとした笑顔を見せるシノ(メイド服Ver)。
 自分の望んだ服を着られて、ご満悦といった風だ。


「そ、そっか」


 おいおい、自分から声掛けといて、そんな顔赤くするなって……。
 やれやれ、と私は溜息をついた。
 中学時代まで、シノと個人的に写真を撮ろうなんて言い出す男子はいなかった。
 あの二人が特殊なのか、はたまた――


(シノが、私たちの想像以上に「女っぽさ」に磨きをかけているのか……)



 と、机に頬杖を付きながら、何となく時計を見れば――9時50分!?
 ヤバい、そろそろ最後の打ち合わせを甘味処班で行わないと……!


「い、委員長! そろそr」
「そこの二人、何してるの!」
「……あれ〜?」


 当の委員長、何やら男子二人組にご不満の様子。


「まったく、学園祭直前なのに、そんなにほうけて……」


 委員長が呆れた様子で溜息をつく一方で、シノたちは、


「……」
「……」
「わぁ……」
「な、なによ?」


 委員長を静かに見つめていた。
 キョドった様子の委員長は、なかなかレアだ。
335 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/16(火) 01:11:50.00 ID:h7ZtWU6Z0
「いや、お前さ」
「なんというか――似合うな」
「はい! とてもお似合いです!」
「……な、ななっ」


 何言ってるの! と、震えた声が私に届く。
 あちゃー、あの三人……直前だってのに、ややこしいことしてる場合かっての。


「おい、委員長! そろそろ」


 私が声を張り上げ、呼ぶ――


「……あ、あの」


 ――前に小さな声が、届いた。
336 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/16(火) 01:15:28.55 ID:h7ZtWU6Z0
尻切れトンボ感が半端じゃありませんが、今回はここまでです。
気づけば、放送終了から一年経ちそうなんですね……時の流れは、あっという間です。

それでは。
久世橋先生、誰になるのかなー、などと思いながら。
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/16(火) 12:01:54.64 ID:1PVDw4Suo
乙でした
最近シノが女装ということを忘れそうになって困る
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/16(火) 22:24:53.47 ID:L+BZ0Ew0O
おつ
339 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/19(金) 06:09:23.50 ID:6tdc02e90
それじゃ、今回も地の文付きで投下します。
少し、雰囲気が変わりました。とはいえ、シリアスになったというわけではない、と思います。
どちらかというと少女漫画のような……まあ、投下しましょう。
340 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/19(金) 06:10:22.06 ID:6tdc02e90
 

 ――AM9:48


(あぁ、そろそろ時間が……)


 私は焦った。
 昔から、時間通りに事が運ばないと、すぐに困ってしまう性分だった。
 予定通りにやるべきことをテキパキとこなす。
 その流れが崩れると、途端にポツンとしてしまう。


 10分前になるまで、2分足らず。
 シノの元へ男子二人が行ってから、ハラハラと見ていたけど、そろそろ時間だ。
 シノを呼んで、メイド喫茶側も最後の打ち合わせを行わないといけない――


(……どう、すれば)


 チラッと見れば、和装をした「彼女」は、どこかボンヤリとしている。
 ダメだ。こういう時のあの子は、あまり頼りにならない……。


「……うぅ」


 ゆっくりと、私は立ち上がった。
 ただでさえ衣装のせいで恥ずかしかったのに、心臓の鼓動は倍加したようにすら感じる。
 どうすればいい? 「男子」となんて、話したこともない気さえする。シノは例外中の例外で。



 ――綾、変わったよな――



(……陽子)


 電流が、身体に走ったような気がした。
 「図書室に行こう」と提案した私に、彼女はそんなことを言った。
 その名の通り、太陽のような笑顔で。
 その言葉が、私の中でずっと響き続けている。


「……」


 ゆっくりと、彼らに向かう。
 少しばかり逡巡していた間に委員長まで加わり、どうやら事態はよりややこしいことになっているようだ。
 ……それでも。


(足は、止めない……)


 そう、私は「変わった」はず。
 大丈夫だ、落ち着くのよ私。
 もう、中学時代の私は、いない――!
 四人の近くにまで行き、スゥっと息を吸い、


「……あ、あの」


 我ながら何て、か細い声。
 ちゃんと伝わっただろうか?
341 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/19(金) 06:11:18.62 ID:6tdc02e90
「……?」
「あ、綾ちゃん」


 三人の疑問符を浮かべた顔と、シノのほんわかとした表情。
 一瞬、萎縮する。けれど、踏みとどまった。
 私は、ゆっくりと話す。噛まないように、噛まないように……。


「そ、そろそろ……時間といいますか、その」


 え、なにこれ? 
 私の口からちゃんと出ているわよね?
 ダメだ、言いたいことはまとまっているはずなのに、頭がグルグルして――


「……あ、集まって、ですね、あの」


 ――言葉が、上手く出ない。


 すぐ近くにいる男子は、キョトンとしている。
 うっ、男の人の視線……どうしよう、なんでこんなに怖いんだろう。
 陽子やカレンなんて、あんなに当たり前のように男子とも会話している。
 シノは別としてもアリスだって、支障をきたしてない、のに。


 私だけ、取り残されたの?


 なんてことだろう。
 結局、私は変われていない……。




「時間……あぁっ!」


 ビクッとした。
 眼前の委員長が大きな声を出したからだ。
 そして、キッと男子たちの方へ視線を向ける。


「あなたたち、もう直前も直前じゃないの!」
「うわ、ホントだ」
「そろそろ男子組の方へ向かうか」
「おう」


 大宮さん、ついでに委員長もガンバ! 
 そんなことを言いながら、男子たちは去っていく。
 ……あぁ、良かった。とりあえず、「男の人」はいなくなった。
 何だかよくわからないままホッと息をつくや否や――


「小路さん、サンキュー!」


 ……え?
 完全に、油断していた。
 もう、「責務」は終わったのだとばかり思っていた。
342 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/19(金) 06:12:51.44 ID:6tdc02e90
 声に反応し振り向いてしまうと、二人の男子が笑っていた。
 視線はバッチリ合ってしまう。
 でも何故か、私は震えてもいない。ピクッときたものの、すぐに止まった。
 すぐさまペコリ、と頭を下げる。
 そうするのがベスト、という気がして。


「全く、最後まで……」


 顔をあげると、呆れ顔で呟く委員長の姿があった。ほんの少し、顔が赤くなっている。
 きっと、時間のことを失念していたからだろう。
 私は――今、どんな表情をしているのだろう。分からない。
 少しだけ頬が熱いけれど、気恥ずかしさはあまり感じられなかった。


「それじゃ、私も甘味処班へ……っと、小路さん。ありがとね」
「い、いや、その……どういたしまして?」


 再びペコリ。
 顔を上げれば、クスクスと笑いながら委員長が去っていこうとしていた――


「初めて見たわ。小路さんが男子と話した所」


 ――!?
 またしても、不意打ち。
 私がクルッと振り向けば、委員長は甘味処班の人たちを集めていた……。
 
 
(……からかわれた?)


 いや、さすがに考え過ぎか。委員長にも悪いだろうし。
 思い返してみて、普段、アリスが異性と話すレベルの10分の1位だと分析する。
 陽子やカレンと比べるのは、まだまだ無理だけど……。


「……あれ?」
 

 何を「分析」しているんだろう、私は。
 そもそも、何をやらかしていたんだろう。
 ――思い返しても、赤面しない。
 「しっくりときた」という文章表現が、これほどピッタリ当てはまる状況はあっただろうか。
 当たり前のことを、当たり前にしただけなんだから……。



 「……綾」


 ハッと振り向けば、そこには陽子の姿。
 浮かべている表情は、今まで見たこともないほどの優しさを湛えていた。
 穏やかに、彼女は言う。


「おめでと」
「!?」


 そして気づけば、頭を撫でられている……。
 へぇ、陽子の手は、「女の子」してるのね。綺麗で心地いい……あれ?
 な、何をしているの、この子は!


「よ、陽子!」
「昔からの『親友』が変われた記念だ。少し、許してよ」


 私が顔を真っ赤に染め上げて抗議しても、意にも介さない陽子。
 ど、どうすれば……あっ、そうだ!
 甘味処班に、この子を送り込めば――!
343 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/19(金) 06:15:01.31 ID:6tdc02e90


「……」


「変われたんですね。綾ちゃん」


 私が黙りこくっていると、これまた優しい声が聞こえてくる。
 さっきの「男子」と比べると、全く声のトーンが違う。声変わり、という現象がシノには起こらなかったとしか思えない。
 そう。だから私は、この子をある意味で「女の子」と見なすことが出来ている。


「私、初めて見ました。綾ちゃんが勇気を出して、踏みだそうってした所……そして、実際に踏み出した所も。凄いです」


 私も、考えないといけないのかもしれませんね――
 シノはそう言った後で、ポツリと意味深なことを呟いた。
 この子は何を「考える」のだろうか?
 私たちのグループは、今のところ良好な関係としか考えられないけれど……。


「もうっ、猪熊さん! 早く来ないと、話し合いが出来ないわよ!」
「あ、ごめん委員長!」


 あっ、陽子の手が頭から離れる。
 何も感触が無くなった頭は、熱を帯びていることが感じられた。
 陽子の手は、太陽のように温かい――名は体を表すというのは本当らしい。


「そんじゃな、二人とも! 楽しもう!」


 そう言うと、ピューッと甘味処班へと向かっていくのだった。


「……」
「ねぇ、シノ?」


 私は、どこかボンヤリとしている「彼女」に呼びかけた。
 どういうことなんだろう? もしかして、見えない所で軋轢が生じていたとか?
 ……まさか、ねぇ。


「――メイド喫茶班の所、行かなきゃ」
「……あっ」


 何か考え込んでいたようなシノは、パッと顔を上げた。


「そうですね、ありがとうございます綾ちゃん!」


 そう言うと彼女もまた淑やかに、メイド喫茶班に合流した。
344 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/19(金) 06:16:05.88 ID:6tdc02e90


「……」


 勿論、本当に言いたかったことはこれじゃない。
 けれど今は――


「学園祭、楽しまないとね!」


 そして、私もシノを追うような形で、メイド服班に向かうのだった。



 その頃になると、メイド服でいる自分というものがあまり気にならなくなっていた。
 さっきまでの気恥ずかしさが、嘘のように雲散霧消した。
 思い返すのは、「ありがとな!」と言ってくれた男子たちと、「初めて見た」と優しく言ってくれた委員長――


(……神様がくれたご褒美?)


 そうならいいな、とロマンチックなことを考えながら、私は時計をチラリと見る。
 AM9時53分――いよいよ、なのね。
345 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/09/19(金) 06:24:57.25 ID:6tdc02e90
ここまでになります。
……いや、ここまで書いて、まだ肝心の本番が始まっていないことは凄いですね。
次回は台本形式(?)中心で行っていく感じになる予定なので、トントンと進めば……いいですね。

「少女漫画的」といっても、別に綾が件の男子に好意を抱くとか、そういう展開は考えていません。
ただ少女漫画って、主人公の女の子も成長していく側面があるので、そう評しました。
そもそも「きんモザにそんな要素いるかな……」とか考えていましたが、書いていたら筆が乗ったので、綾の心情描写に特に文章を割きました。
もしかしたら自分の無知で、綾も男子と普通に話していたりする、のかなぁ……。
陽子やカレンはそういうイメージが強いのですが、皆さんはどうでしょう?

おっと、長くなりすぎました。
それじゃ、ここまで。次回から、本番スタートです。
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/19(金) 08:16:21.77 ID:Ws7PLUN0O
乙です

綾が男子と普通に話す・・・

うん、ないな
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/09/19(金) 22:03:00.25 ID:fK4wGA+n0
乙 次回も待ってる
348 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2014/10/15(水) 22:09:25.62 ID:AaWl9qVv0
やばい、もうすぐ一ヶ月でした……。
もうしばらくお待ちを。
349 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2014/11/12(水) 22:09:37.95 ID:J2hzzMiP0
すみません、まだかかりそうです……。
350 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/11/29(土) 02:37:59.15 ID:Kn2Q0xzu0



――開演


男子A「さぁ、いらっしゃいいらっしゃい!」

男子B「とびきりのメイドさんと……えっと」

男子B「和装姿の人? が接客してくれますよー」

男子A「……お前、なんか他に言いようはないのか?」アキレ

男子B「それじゃ、そっちは思いつくのか?」

男子A「悪い、無理だ」




――甘味処班



委員長「あ、あの二人は……」プルプル

陽子「まぁまぁ委員長」

陽子「受付なら、あんな感じのお調子者の方がいいと思うよ」

陽子「堅苦しいのは、お祭りに似合わないだろうし」

委員長「……まぁ、猪熊さんの言うことも一理あるわね」

委員長「それじゃ、私たちは臨機応変に接客といきましょうか」

陽子「おー」ニコニコ


アリス「……」

陽子「ん、どうかしたアリス?」キョトン

アリス「う、ううん」

アリス「……陽子って、あの二人と仲良しなのかなーって」

陽子「えっ」

アリス「……」ジッ

陽子(受付のヤツらのこと、だよね……?)

陽子「いやまぁ、普通に話す程度だって」

アリス「……」

アリス「そっか」クスッ

アリス「それじゃ陽子、そっちの班も頑張ってね!」ニコニコ

陽子「……」


陽子(……アリス?)

陽子(今の問いかけはなんだろう?)

陽子(うまく言えないんだけど、なんだか)

陽子(少しだけ、私とあの二人が仲良しであってほしいなー、って)

陽子(そんな感じが……)

陽子(ま、いっか)
351 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/11/29(土) 02:39:29.50 ID:Kn2Q0xzu0


――メイド喫茶班


綾「……あぁ」

綾「ついに、この時が」プルプル

忍「綾ちゃん、大丈夫ですか?」

綾「あ、あぁ、シノ……」

綾「大丈夫よ。さっき何とか――」

綾「……」ガクガク

忍「ホ、ホントに大丈夫ですか?」


綾(……男子とまともに話したことなんて久しぶりだった)

綾(小学生の頃以来かもしれない……ああ、だからこんなに緊張を)

綾(いや、きっと違う)

綾(その後、大切な友達……陽子が起こした行動のせい、よね)


綾(おかしいわね、まるで)

綾(カレンの家で、間違ってお酒を飲んだあの時みたいに考えが回らない……)

忍(綾ちゃん……心配です)キュッ



――数分後



男子A「いらっしゃいませー!」

男子B「お客さま二名、来店!」

忍「!」

綾「!」


客A「へぇ、なかなか凝ってるな」

客B「文化祭に本格的なのっていいわねー」

綾(お、男の人と女の人……)

綾(どうして、二人とも女性じゃないのよ……)アセアセ

忍「……あっ」

忍「いらっしゃいませ、お客様!」ニコッ

忍「こちらへどうぞ!」

客A「ああ、ありがとう」

客B「ふふっ、可愛いわね」

忍「ありがとうございます!」ペコリ


綾「……」

綾(ああ、私が動けないうちに、シノが案内を……)

綾(どうしてこう、身体が動かないんだろう)

綾(どうしても萎縮するこの身体が恨めしい――)
352 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/11/29(土) 02:41:19.40 ID:Kn2Q0xzu0


――昔からの親友が変われた記念だ――


綾(……あの言葉)

綾(嬉しかったはず、なのに)

綾(私は全然、それに見合うようなことを――)


忍「考え過ぎちゃダメです、綾ちゃん」


綾「……!」ハッ

忍「実は私も、色々考えてしまってます」

忍「――多分、綾ちゃんにも想像が付くようなあれこれを」

綾「……シノ?」

綾(なんだろう――)

綾(さっき、私に声をかけてくれた時も、今のように意味深長な表情をしていた……)

綾(優しさと愛しさがいっぱいの顔つきに――迷い?)


忍「私は」

忍「綾ちゃんが『踏み出した』所を、この目でしっかり見ました」

忍「そして私は、今の綾ちゃんなら今まで出来なかったことだってなんでも出来ると思ってます」

綾「!」

忍「……綾ちゃんは、私の言うことが信じられませんか?」ジッ

綾「……」


綾(そう、よね)

綾(私と陽子とシノ、三人)

綾(中学の頃に知り合って、これまでずっと一緒だった)

綾(……私が、シノの言うことを信じられない?)


綾「そんなわけ、ないじゃない」

忍「ふふっ、それでこそ綾ちゃんです!」ニコッ

綾「……」

綾「もう、シノったら」

綾「私を励ましてくれるのはとても嬉しいけど」

綾「お客様にお水を出すの、忘れてるでしょ?」

忍「あっ!」ハッ


綾(まったく)

綾(妙な所で鋭くて、おかしな所で抜けている)

綾(そんな、この子が――)

綾「大丈夫、私がやるから」クスッ

綾(こんなに大きな存在だった、なんてね……)
353 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/11/29(土) 02:42:53.75 ID:Kn2Q0xzu0
忍「……」

綾「す、すみません、お客様! 遅れてしまいまして……」プルプル

客A「ああ、大丈夫。そう緊張しないで」

客B「いいのよ、気にしてないから」

綾「あ、ありがとう、ございます……」アセアセ

忍(――綾ちゃん)


忍(大丈夫です、綾ちゃんなら)

忍(きっと、これからもどんどん変わって行けます)

忍(――私、も)



――甘味処班


陽子「いらっしゃーい!」

アリス「お茶ですっ!」

客C「おお、綺麗な金髪……」

客D「留学生?」

アリス「い、いえ! ここの生徒です!」

客C「すげー、日本語上手いね……」

客D「もう立派なバイリンガルね」

アリス「あ、ありがとうございます!」


陽子「……」

陽子(そういや、アリスはバイリンガルになるのか)

陽子(カレンはお父さんが日本人だし、そう考えるとアリスって何気に凄いな……)

陽子「今更か」

アリス「陽子! お客さま!」

陽子「ん、おう」

陽子「いらっしゃいませー!」
354 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/11/29(土) 02:44:57.42 ID:Kn2Q0xzu0
 ――接客に追われながら、私は充実した気分に満たされていた。
 少なくともうちのクラスは、全員やってきて文化祭に参加している。
 このことだけでも、何故か嬉しくなるんだよね。
 それに、こうして人と接していると、
 やっぱり私は人と話すのが好みだということがアリアリと分かって、嬉しくなったり。


(……祭り、かぁ)


 なるほど、大昔から今まで、多くの人に親しまれてきたわけだ。
 ホントはこういうあれこれを考えるのは綾の役目なんだけど、アイツはそれどころでもなさそうだし。


「い、いい、いらっしゃいませ」
「綾ちゃん、ファイトですっ」


 ほら、声も手も震えている。
 でも、縮こまってないし、しっかり目の前を向いている。
 近くには、お互いにとって大切な友達だって付いている。


「人は変われる」なんて、CMとかではよく聞くフレーズだけど、大切な友達がそれを実践したなんて格別だ。
 私まで、何だか熱くなってくる。


「お客様、二名!」


 おっと、外のお調子者たちが声を上げた。
 どうやら、客足は途絶えることもないらしい。
 まぁ――休みたいなんて、全く思わないんだけどさ。


「いらっしゃいま……」


 そして――



――同時刻


男子A「……うーん」

男子B「なんだよ?」

男子A「いや――今のサングラスの人、どっかで」

男子B「ああ、あの人か。あのスタイルとか、モデルみたいだよな」

男子A「……モデル?」

男子A「ああ、そっか」

男子B「悩んだと思えばあっさり納得するのな……」




 ――やってきたのは。


「やっほー、陽子ちゃん」


 耳に響く、陽気な声。
 私にとっては、シノと同じくらい長い付き合いになる人。
 サングラスをかけていても、そのスタイルの良さとか諸々が突出している。


「イ、イサ」
「ストップストップ。一応、内緒ってことで」


 つと、私の唇に綺麗な指が当てられた。
 絹のようにつややかなその指に、私の声帯は参ってしまったとみえる。
355 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/11/29(土) 02:46:55.83 ID:Kn2Q0xzu0
「もう……正直、隠すつもりないでしょ?」
「ふふっ、まぁバレたらちょっと困るし」
「バレたらバレたでいい、とか思ってるわね……」
「お客様ー! こちらに空き席がございます!」


 お客様――イサ姉とお友達は、そんなことを言いながら、空いた席に案内されていく。
 メイド喫茶側も含めて、店内の視線がイサ姉に集中していた。
 いや、分からないでもないけどさ。というか、妥当?


「あっ、お姉ちゃん!」


 イサ姉が席につくと、すかさず動き出そうとするメイド喫茶側の住人。
 おいおい、こっちに来ちゃダメだろ。メイド喫茶側に、お客さんが来店してるし。


「シノ。イサ姉は、甘味処班の席だから」
「えぇ〜……陽子ちゃんはケチンボですね」


 こっちに来ようとするシノの頭に、私は軽く手を載せて通せんぼする。
 すると上目遣いで、シノは膨れ面をしてみせた。
 うん、全く迫力がないし、むしろ……。

 
「――あ、後で何かおごってあげるよ」


 やばい、ついドギマギとしてしまった。
 正直、シノの不意打ちほど卑怯なものはないと思う。
 

「わぁ、本当ですか?」
「……100円くらいまでなら」
「やっぱり、ケチンボです」


 私がそう返すと、シノは嬉しそうに破顔する。
 そのままクルッと身を翻し、すぐさまお客さんの元へと向かっていった。


「はぁ……」
「おーい陽子ちゃーん、注文おねがーい」


 私が軽く溜息をつくと、図ったかのようなタイミングで聞き慣れた声が響いた。
 顔は見えないけれど、絶対ニヤニヤしてる。間違いない。


「さて、と……」


 それじゃ私も、本業に戻りますか。
 せめて、イサ姉に負けないくらいの笑顔で仕返ししてやろう……。


「……陽子」
「全く、あの子ったら」


 ……背中に感じる二人分くらいの視線は、敢えて無視。ごめんね。




「はいお客様、ご注文の宇治抹茶になります」
「わぁ、美味しそう」
「ありがとう」


 私が注文品を差し出すと、さっきやって来た二人は美味しそうに飲んでくれた。
 正直、高校の文化祭で出せる品物は知れたものだけれど、何か良い気分だ。
 やっぱり、お祭りが好きなんだな、私は。
356 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/11/29(土) 02:48:48.58 ID:Kn2Q0xzu0
「前よりずっと、仲良さそう」
「昔から仲良いだろ? だからイサ姉も、私にシノの保護者役みたいなものを任せたんだし」
「何だか、心から信頼し合ってるような……」
「――漫画の読み過ぎだって」


 溜息をつくと、外から「お客様一名!」の声がした。
 それがまたいかにも男子って感じで、またしてもさっきのシノの表情が脳裏をよぎる。
 いけないいけない、これじゃ接客が出来ないって。
 

「それじゃ私、お客さんの所に行かないと……」
「へぇ、あなたが『陽子ちゃん』ね?」


 へ? なんだなんだ?
 声のした方を見れば、そこにはイサ姉のお友達の姿が。
 興味深そうに私を見つめながら、彼女は言う。


「いつも勇から聞かされてるわ。『かっこいい、けれど凄く可愛い子なのよ』ってね」
「……」


 おいおい。
 困ったな。
 動揺するようなことでも、何でもないはずなのに。
 どうして顔が熱いんだろうね?


「あ、ええと――ありがとう、ございます?」


 なんだこの尻切れトンボな挨拶は!
 内心で自分を罵倒する私は、フラフラと新規のお客さんの元へと向かおうとする。


「ちょっと猪熊さん! 足、フラついてるわよ!」
「あ、ああ、ごめん……委員長」
「顔も赤いわね? 大丈夫?」
「……な、なんとか」


 ああ、もう……。
 イサ姉だけでも大変だってのに、お友達まで――!
 これじゃ、綾のことを励ます権利なんて……ない、のかな?






「……なかなか性悪ね?」
「勇ほどじゃないわよ。あんた、いつも年下をあんな風にからかってるの?」
「まぁ、程々に?」
「――はぁ」


 つい、ため息をついてしまった。
 目の前のモデル兼友人は、どこまでも飄々としている。
 この子と話してると、いつも「狐につままれた」ような気がするのは何故だろう。
 私のことはともあれ、今しがた話していたあの子は不憫だ。
 というか、この子の「きょうだい」って――


「……あの子が」
「そう、『妹』よ」
「世の中って、広いねぇ……」


 メイド喫茶側へと目を転じれば、そこでは喜色満面といった風に接客に励む少女の姿が。
 ……うん、どう見ても立派な女の子だ。
357 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/11/29(土) 02:50:25.08 ID:Kn2Q0xzu0
「勇。おと……妹さん、大事にしなさいよ?」
「あら、心配するなんて珍しい」
「はぁ……」


 目の前ではしゃぐ「お姉ちゃん」は、「きょうだい」のことを心配してはいないらしい。
 今日ここへ来たのも、ただ単純に、楽しみたかっただけというのは嘘じゃないとみた。
 まぁ、こういう「お姉ちゃん」の方が、下の子は楽しめたりするんだろう。きっと。


「……思ったより、ずっと本格的ね」


 そんなあれこれを思いながら、私は教室内を見回した。
 喫茶店の看板も、飾り付けも、なかなか気合が入っている。
 ……私も、もっと本気を出せば、文化祭に燃えられたのかもしれない。


「受験生でさえなければ、とか思ってる?」
「……モデル兼占い師?」
「褒め言葉と受け取っておくわね」


 目の前で、楽しそうにはしゃいでいる友人を見て、つい笑ってしまった。
 まぁ、過ぎていった日々に後悔するのは意味もないことだし、無粋ってものかも。
 今日は、せっかくの「お祭り」なんだから――
358 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/11/29(土) 02:56:42.81 ID:Kn2Q0xzu0
とりあえず、ここまでです。
散々遅れて、申し訳ありません。

今回からやっと、文化祭に入りました。
どこか意味深な描写が多かったと思います。
けれども、伏線として活かされるのかは決めていないという場当たり的な思考の中で書いています。
手探り状態ですね……。

次回は、ほんの少し波乱があるかと思います。
相変わらず冗長ですが、読んで下さる方々には本当に感謝しています。

それでは、また。
漫画も5巻が発売しましたね。
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/30(日) 15:58:49.31 ID:JYRn1Uibo
乙でした
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/30(日) 22:15:46.83 ID:pvXAKw7YO


漫画買わないと・・・
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/01(月) 08:43:05.99 ID:LgNBIv8AO
おお
続ききてた
362 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/05(金) 01:52:09.55 ID:5/HVdI+M0



――受付


男子A「いやー、まさか本物のモデルがここにいるとは……」

男子B「たしかに……どこかで見たことがあるとは思ったけど」

男子B「まさか、お前の家で見た週刊誌の表紙だったなんて」

男子A「妹が置きっぱなしにしてたんだな、あの雑誌」

男子B「……世間は狭いってヤツ?」

男子A「どうだろうな――正直、あの人が大宮さんのお姉さんだって方が」

男子B「コメントしにくいな……」


男子B「――っと、いらっしゃいまs」

カレン「女子高生一名、入りマース!」

男子A「……」

男子B「……」


カレン「どうかしたデスカ?」

男子A「あ、いや――たしか」

男子B「たしか編入生、だよね?」

カレン「ハイ! 九条カレンと申すデス!」

男子A「……いつも、大宮さんたちと一緒にいる」

カレン「Yes!」

男子B「ああ、いつもお菓子を恵まれてる……」

カレン「皆さん、親切デス!」

男子AB「……」

男子AB(明るい子だなぁ)


男子A「ま、気を取り直して」

男子A「いらっしゃい、ようこ、そ……」

男子A「――!?」

男子B「お、おいおい……あれって」


カレン「?」

カレン「Classroomで、何か――」

カレン「!」
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