忍「隠し事、しちゃってましたね……」 アリス「……シノ」

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363 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/05(金) 01:53:58.78 ID:5/HVdI+M0


(あぁ……やっと、少し慣れてきた、かも)


 相次ぐお客様の対応に追われてとても疲れたけれど、それ以上に充実感がある。
 何だ、私も意外と出来るものだ。


(後はこのまま、何も起こらずに終われば――)


 そう、私がゆっくりと呼吸をしていると、


「あ、あの! これ俺のメアド、なんですけど……」
「――へ?」


 唐突な異変に、私の口からつい、呆けた声が出てしまった。
 何があったの?


「……私、ですか?」
「はい! あの……凄く、可愛いですっ」


 緊張しきった男子の声に対し、当惑気味な「女子」の声がする。
 その声は、私がいつも近くで聞いていて、ついさっき私を精一杯励ましてくれたものだった。
 私は頭をクラクラとさせながら「現場」へと視線を転じる。

 
 何やら、面倒事が起きているようだった。
 クラス中の視線が、当人たちに集まっているように感じられる。


 メモのようなものを渡す私たちと同い年くらいの男子は、
 顔を真っ赤に染めながらメイド服に身を包んだ相手を褒め称えている。
 刈り上げたヘアスタイルから見るに、どこかの運動部員かしら? この学校の生徒じゃないみたいだけれど……。
 もう一人の方はこの位置からではよく見えなかったので、私は静かに移動した。
 果たして、そんな彼と相対しているのは――


「……シノ!?」


 愕然とした。
 メモに目を落とすお相手は、いつも一緒にいる大切な友達だった。


「――そう、ですか。私に」
「はい! メチャ可愛くて……付き合って、くれませんか?」
「……」


 シノはペコペコと頭を下げる男子を静かに見つめている。


 いつのことだったろう。
 私たちは、カレンが男子に告白されている場面を覗き見してしまったことがある。
 その時は、私の好きな少女漫画のワンシーンみたいだ、と感じた。


 そうだ、と私の中に、ある意味で理不尽な思いが湧く。
 ここは共学で、こういったイベントがあるのは構わない。きっと、他のクラスか上級生の教室でも、似たようなことがあったりもするのだろう。
 でも――と、私はそこで思う。


 でも、よりによって、どうしてシノなんだ、と。


 ある意味、八つ当たりなのかもしれない。
 私の視線にある見覚えのない男子生徒は、きっと一生懸命なのだろう。
 その懇願の様子からすると、決して軽い気持ちではないことがありありと分かった。
 だから――私の胸も、キュッとしてしまう。
 どうして……どうして、シノなの?
364 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/05(金) 01:55:43.94 ID:5/HVdI+M0


「……」


 気づけば、身体が勝手に動き出していた。
 男の人がいる、といったような考えは働かなかった。
 それ以上に、どこか放心しているように見えるシノのことが心配だった。


(待ってて、シノ――!)


 静かに、けれど急いで二人の元へ向かおうとすると、


「ごめんなさい、少しいいかしら?」


 聞き馴染みのある声が、した――
 






 
 ――ずっと昔から。
 それこそ、陽子ちゃん以上に馴染み深い声が聞こえました。
 

「私、ここの高校のOGなんだけれど……」
「は、はぁ……」


 その声につられて、私は目の前の方から頂いたメモから目を離しました。
 見れば、すぐ近くに大切な人がいます。
 長い髪。昔から憧れていた、綺麗でどこまでも女の子らしいスタイル。
 そこにいたのは、何を隠そう、私のお姉ちゃんでした。


「実は今、うちの高校、いわゆるナンパ活動に厳しくなっちゃったみたいで」
「……へ?」


 呆ける男性の前で、お姉ちゃんはゆっくりと言葉を紡ぎます。
 そのすぐ後ろには、こっちに来ようとしてくれた綾ちゃんの姿がありました。
 男性がいるのにも関わらず、こちらに来て私を助けようとしてくれたのでしょうか。
 どうやら私の考えていた以上に、綾ちゃんは変わっているようです――
 

「それでね、ええと……今、怖い先生がこの階を見まわってるのよ」
「……?」


 お姉ちゃんの言葉に相手の男性は、ほんの少し訝しげな視線を向けました。
 無理もありません。お姉ちゃんは、この高校のOGではないのですから。
 だから今、お姉ちゃんが言い淀んだことに疑問を持ったのでしょう。


「だから、その――」


 尚も歯切れの悪いお姉ちゃんは、こちらから見ていてもドギマギとした様子でした。
 ああ、そろそろまずいかもしれません。
 このままでは――ちょっと、ややこしいことになってしまいそうです。
 これ以上、お姉ちゃんに任せきりではいけません。


「あ、あの」


 私がそう、口を挟もうとすると――
365 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/05(金) 01:57:28.10 ID:5/HVdI+M0


「あ、烏丸先生!」
「見回りですか!?」


 外から、男の人の声がしました。
 見れば、受付係のお二人が椅子から立ち上がっています。
 ……あ。あの、金髪は。
 近くにいるのは、私たちの大切なお友達のようでした。


「……あ、そうそう! この烏丸先生っていうのがその怖い先生でね」


 彼らの声にひかれるような形で、お姉ちゃんは再び、ゆっくりと話し始めました。


「見つかると面倒なことになっちゃう、かも――」
「……マジすか」


 参ったな、と目の前の方は呟きました。
 見るからに残念そうな表情です。
 そんなことを思っていると、クルッと私の方へと視線を向けました。


「それじゃ、今日は帰ります。連絡先、気が向いたら……」


 ドギマギしながらそう言って、ペコリと頭を下げます。
 そして荷物をまとめると、教室から急いで出て行きました。


「……」
「シノ」


 その声に、ハッとしました。
 見れば、目の前でお姉ちゃんが複雑そうな表情を浮かべていました。


「――その、メモ」
「あ、これ、ですか……」


 お姉ちゃんが指摘したのは、やはりこのメモでした。


「……どうするの?」


 私が目を落としていると、お姉ちゃんが問うてきます。
 その声は――どこまでも複雑そうでした。
 非難しているわけでもなければ、歓迎しているわけでもない。
 お姉ちゃんにしてみても、今回の「一件」は予想外だったのでしょう。無理はありません。


「……一応、持っておこうと思います」


 声がつっかえないように、私はゆっくりと声にします。
 そのメモを大切にポケットの中に入れて、お姉ちゃんと視線を合わせます。


「……そう」


 お姉ちゃんはそう言うと、身を翻しました。


「――私は、シノがどう対処しても、いいと思うわ」


 もう高校生なんだし。
 そう言いながら、お友達の座るテーブルの所へと戻って行きました――
366 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/05(金) 01:59:16.86 ID:5/HVdI+M0
 

 ――シノが、告白された。
 カレンが告白されている所は私も皆と一緒に見て、「ああ、そっか」と納得していた。
 イギリスにいた頃から、カレンはどこか異性からモテやすいのかも、と思っていたからかもしれない。
 けれど……シノは。


「……ビックリしたぁ」


 近くで見ていた陽子は、そう言いながら脱力していた。
 私は、どこか遠くで起こった出来事のように、未だに実感が持てずにいた。


 シノが男子生徒に告白される。
 これは、ある意味でとんでもないことだった。
 ホームステイの日々を送っていても、納得できていない事実として――


 やっぱり、シノが「男の子」だということがあるから。


「……なぁ、アリス?」
「なぁに、陽子?」


 声を震わせながら、陽子が私に問うてくる。いや、きっと私の声も同じだったと思う。
 目の前の友人は、私と視線を合わせながら、


「――シノって、やっぱり『女の子』なんだな」


 と、恥ずかしそうに言った。


「……うん。そうだね、陽子」


 私も、どこまでも恥ずかしくなりながら、そう返事をする。
 そして、私は再び「現場」に目を転じながら思う。


(……シノ)


 私は、シノのことが「好き」なんだよ、と想い続けながら。
367 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/05(金) 02:02:17.35 ID:5/HVdI+M0





 ――とんでもない所を見てしまいマシタ。
「Amazing!」と、私の故郷では言うのでショウ。
 ただ……目の前で、私が見た光景は、『信じられない!』というレベルを遥かに超えていマシタ。


「……はぁ。びっくりした」
「でまかせでカラスちゃんの名前出しちゃったけど……ま、いっか」


 呆けた頭のままでいると、目の前の男子二人はそんなことを言っていマス。
 私はそれを見ながら「あぁ、『男子』ってこういう声だった」と実感しマシタ。


(……シノが)


 そう思いながら、私の頭の中ではいつかのあの光景がフラッシュバックしマス。
 人気のない校舎裏。目の前で深々と頭を下げる男子生徒。
 それに対し私は、嬉しく思ったのは事実デシタ。
 ……デモ。


(私は、ヤッパリ)


 あの時、頭の中をよぎったのは、いつも見ているオカッパ頭の「女のコ」。
 だから私は、あの時断りマシタ。
 今、私の頭はグルグルしていマス。
 例の男の人が出て行ってから、教室内はどこかざわついていマシタ。
 それも、イサミがテーブルに戻ってからは消えてしまったようデス――



「……私、戻りマス」
「ん? あ、あぁ、そっか」


 近くにいる受付係の男子生徒二人にそう言って、私はフラフラと廊下を歩き出しマシタ。
 どこへ向かうといえば――


(……私、は)


 今日、『あの』お芝居をブジに終えられるのでショウカ?
 目の前であんな光景を見せられても、私はあのシーンを演じられるのでショウカ?


 不安ですが、仕方がありマセン――そう、自分に言い聞かせマス。


 今日のお芝居の内容は、アリスを含めて誰にも伝えませんデシタ。
 かえって、良かったのかもしれマセン。
 ――だって。


(こんな気分のまま、お芝居ナンテ……)


 まともに出来る気がしないのですカラ――
368 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/05(金) 02:08:12.76 ID:5/HVdI+M0
とりあえず、ここまでです。
「一波乱」のお話でした。
今回のような展開は、このSSを書き始めてから、どこかで絡めようと思っていました。

次回は、カレンの演劇の話になると思います。
原作とはかなり異なったものになると考えていますが――ご容赦頂ければ、と思います。
このような設定で、読んで下さる方がいるだけで嬉しいものです。
……原作も、もしかしたらこうした設定(もちろん、違いはあるにせよ)で始まっていたのかもしれませんね。
見てみたいものですが、無理でしょうね……(諦め)。

それでは、また。
いつもありがとうございます。
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/05(金) 03:46:50.75 ID:36bASjDu0
おつです!
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/05(金) 17:08:32.30 ID:IQr+smSbO
371 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/22(月) 00:28:34.75 ID:c4dYWrVV0
カレンの演劇の話は、次回以降になると思います。ごめんなさい。
372 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/22(月) 00:29:29.14 ID:c4dYWrVV0


「それじゃ、陽子ちゃん。後はよろしくね」


 お友達との一服を終えてから、席を立ったイサ姉はそんなことを言った。
 口元は笑っているんだけど、どこか複雑そうな目つきをしている。


「……ん。まぁ、大丈夫だと思う、よ」


 頭をかきながら、私はそう返事をする。
 いけない、軽く流そうとしたのにどこか歯切れの悪い返事になってしまった。
 ……いやまぁ、無理もないんだろう。多分。


「うん。陽子ちゃんなら、あの子を任せてもいいと思えるわ」
「……だ、だからさぁ」


 あぁ、どうしてこういうことを言われると、瞬時に顔が赤らむのか。
 以前――そう、少なくとも一学期の間には決してなかった。
「あの子」絡みのことでからかわれた時に、こんな反応をすることなんて。


「――シノのサポート、ホント頼むわね」
「……あ」


 ポンっと肩を叩かれた。
 フワッとした風と共に、イサ姉は出口へと向かっていく。
 私の見た後ろ姿は、相変わらず綺麗なものだった。


「……」
「応対、ありがとね」


 おっと、見とれてしまっていた。
 声のした方へ振り向けば、イサ姉のお友達の姿がある。


「まぁ、えぇと……あまり緊張しないで。なんとかなると思うから」


 それじゃね、と手を振りながら去っていく彼女を見ながら思った。


(……励まされた、のかな?)


 疑問符つきの思いのまま、私は店内を見渡した。
 さっきの「一件」が起きてから、それほど時間は経っていない。
 店内は和洋入り混じった様子で、まぁ人入りはそこそこってとこか。
 ……ただ。
373 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/22(月) 00:30:56.73 ID:c4dYWrVV0

「……シノ、が」
「わ、私が、しっかりしない、と」


 私の大切な友達は、どうやらショックから立ち直れてはいないらしい。
 まぁ、無理もない。
 恐らく、アリスと綾で受けているショックの質みたいなものは違うんだろうけど。
 ――そして。


「お待たせしました! カフェラテになります!」
「おお、美味そう!」
「へぇ、学祭のものにしてはなかなか凝ってるわね……」
「ありがとうございます!」


 ペコリと一礼する「アイツ」は、さっきのこともどこへやら、完璧な接客をこなしていた。
 お客様に対する態度も良く、こっちから見る限り笑顔もしっかりしている。
 ……そう、だからきっと。


(――そっか)


 私とイサ姉しか気づけなかっただろう。
 付き合いの長さでいえば、あの人の次くらいに長い私くらいしか。


「……ねぇ、委員長?」
「どうかした、猪熊さん?」


 甘味処班のリーダーたる委員長に、私は声をかけた。


「少し、休憩してもいいか?」
「――ん、そうね」


 チラッと時計を見る委員長。
 次いで彼女は、店内を見回す。
 そしてまた私と向き合うと、


「実は、そろそろ節目としてはアリかな、と思ってたのよ」
「……そっか」
「今、来店しているお客様が出て行かれたら、休憩にしましょうか」


 委員長はそう言うと、クスっと微笑む。
「どうかした?」と私が聞くと、こう返した。


「……大宮さんのこと、心配?」
「っておいおい、委員長までそれか?」
「あなたが一番、付き合いの長いことは聞いてるしね」


 笑みを浮かべながら、委員長はゆっくりと言う。


「だから、他の子が気づかないことも……気づけちゃうんでしょう?」
「……」


 鋭い。
 ただの「真面目系キャラ」じゃないとは前から思っていたけど、やるな。


「さ、そうと決まれば休憩までベストを尽くしましょう」


 最後まで優しげな表情のままで、委員長は元の業務へと戻っていった。
 

「……うん」


 私もそう返事をして、接客対応へと足を向ける――
374 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/22(月) 00:32:32.01 ID:c4dYWrVV0
 

 ――AM12:00


「それじゃ、休憩ー!」


 ……あ。
 どうやら、一旦おしまいのようです。
 パンパンと手を叩く委員長の姿も、やりきったという充実感でいっぱいのように思えます。
 ――当然、私も。


「や、やっと……終わりなのね」
「お疲れ様、綾ちゃん」


 声を震わせながら言う綾ちゃんに、私は笑いながら返しました。


「今日は凄かったです、綾ちゃん。本当に、間違いなく『変わった』と思います!」
「……あ、ありがとう。でも、シノ」


 はしゃぎながら言う私に対して、綾ちゃんはどこか複雑そうでした。


「あ、あなたは……その」
「あっ! 甘味処班のお二人も!」


 今度は甘味処班の方へと目を向けて、私はそう口に出していました。
 陽子ちゃんもアリスも、やり遂げたという感じで、こちらへと向かってこようとしています。
 私は、そちらへ視線を転じながら、お二人の姿を待っていました――







 ――「その」の後、何を言おうとしていたのだろう。
 考えなしに私の口から飛び出した言葉に、当の私自身が驚いてしまった。


 とはいえ、具体的な内容なんてどうでもよかったのかもしれない。
 当然、さっきのことについて聞こうとしていたに決まっているのだから。


 相手の男子生徒は、シノの連絡先を知らない。
 つまり、シノが連絡しない限り、よほどのことがない限り二人はもう接触しない――


(……どうして)


 さっきの、やるせない気持ちが、また蘇る。
 どうしてシノなんだろう、と。
 仮にシノが正真正銘の「女の子」なら、私はこんなことは考えなかったはずだ。
 この行き場のない思いに、私はどう対処すればいいのだろう……。
375 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/22(月) 00:33:51.66 ID:c4dYWrVV0


「それじゃ、食べ物屋回ろうか!」


 私のすぐ隣で、陽子は満面の笑顔で言う。
 いつも「早弁」をしている彼女は、食べ物のことになると一味違う。
 それは、普段の付き合いの中でよく分かっていた。


「わぁ陽子ちゃん、私、おごられちゃうんでしょうか?」


 私の二つ隣にいるシノは、手を叩いてそんなことを言う。
 ポワポワとした笑顔は、いつも私の見るものだった。
 ……まるでさっきのことなんて、なかったことみたいな。


「……アリス」


 ハッとした。
 見れば、綾が私に顔を向けていた。
 その評定は、どこまでも複雑そうで。
 ……今の私も、同じような表情をしているのだろう。


「ど、どうしたの綾?」


 慌てて、私は応じる。
 目の前の彼女は、逡巡する様子の後で、私に言う。
 そして、私の耳元に口を寄せて、


「……さっきのこと、どう思う?」
「――!」


 驚いた。
 どうやら綾は、私と全く同じことを考えていたらしい。
 陽子とシノの二人はどこ吹く風で、おいしいクレープ屋のこととかを話していた。


「……綾」


 今度は私が綾の耳元に口を寄せて、ボソボソと言う。
 それに対し、綾はコクリと返事をすると、


「よ、陽子! シノ!」
「ん? どうかした、綾?」
「そ、その――ちょ、ちょっとアリスとお手洗いに行ってきたい、んだけど……」


 顔を赤らめながら、綾はそう続ける。
376 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/22(月) 00:34:41.33 ID:c4dYWrVV0


 ここで、私は驚いた。二回目だ。
 こういう、いかにも恥ずかしくなりがちなことを、綾が即座に言い出したことに。
 ……綾も、間違いなく変わっているんだ。
 そんなことを感じた。


「ん、わかった。それじゃ、待ち合わせ場所は――そうだな、中庭でいいか?」


 対する陽子は、いつものように気さくな調子で綾に返す。
「わ、わかった!」と綾は応じた。


「アリス、行きましょう」
「う、うん。わかった」


 綾に連れて行かれる格好で、私は二人から離れていった。
 その合間にチラッと、視線を向ける。


「行ってらっしゃい、お二人とも」


 そこには、いつものように、私の大好きな笑顔を浮かべるシノがいて――


「……」


 それを見てから私は、ゆっくりとそこから離れていった。
377 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2014/12/22(月) 00:37:44.20 ID:c4dYWrVV0
ここまでになります。

カレンの演劇に一気に話を飛ばそうと考えていたのですが、いざ書いてみると思いました。
一旦、その場面に至るまでにある程度の決着みたいなものを付けておいたほうがいいのではないか、と。
とはいえ、読者の方によっては冗長に感じられるかもしれませんが……。

次回は、とりあえず分かれた二人組同士で、あの「一件」について色々と語ってもらう予定です。
進捗次第では、次回にカレンの演劇の話が書けるかもしれません。

それでは。
いつも読んで下さる皆様に感謝を。
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/22(月) 10:01:28.53 ID:weX5eX0SO
おつ
379 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/21(水) 00:03:09.20 ID:IqDtd8Jf0




――廊下・ベンチ


陽子「おまたせ、シノ」スッ

忍「わぁ、ありがとうございます!」パァァ

陽子「わたあめだけど、良かったかな?」

忍「はい、嬉しいで……」ピタッ

陽子「私とお揃いってことで……ああ、美味しー」モグモグ

陽子「ん? どうかした?」

忍「よ、陽子ちゃん……」フルフル


忍「これ、おいくらでした?」

陽子「ん……そうだな」

陽子「500円だったよ」パクッ

忍「――わ、私、払いますね」アセアセ

陽子「ちょい待った。シノ、本気にしてる?」

忍「??」キョトン


忍「で、ですが」

忍「お祭りとかだとわたあめって……」

陽子「あれ実際、かなり高めにしてるんだってさ」

陽子「で、かなり儲けられるんだって」パクッ

忍「……」

陽子「だから、ホントは100円だよ」

忍「――おごって、くれるんですか?」ジッ

陽子「さっき約束しただろ?」

忍「……ありがとうございます」ニコッ

忍「やっぱり、陽子ちゃんはイジワルですね」クスクス

陽子「褒め言葉?」

忍「はい」パクッ


陽子「ああ、美味しかった」

忍「はい、とても……」ウットリ

陽子「あの二人、どうしてんのかな」

忍「もう、陽子ちゃん? お手洗いに行ったことを気にするなんてはしたないですよ」

陽子「ねぇ、シノはどうしてると思う?」

忍「そうですね。きっと、人気のない裏庭辺りで……」ハッ

忍「――本当に、イジワルですね」クスッ

陽子「引っかかるシノが悪い」ニコッ
380 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/21(水) 00:04:30.99 ID:IqDtd8Jf0
忍「お二人に心配をかけてしまったのでしょうか」

陽子「そりゃそう思うよ」

陽子「……シノが悪いんじゃなくて」

忍「……」

陽子「あー、あの男子が悪いわけでもないよ」

陽子「そうだな、誰も悪くない。で、シノがそうなるのも仕方ない」

陽子「そんな感じじゃないかな」

忍「何だか納得いかないような……」

陽子「こらこらシノ」


陽子「私はずっと一緒にいて、シノがどれだけ優しいのか知ってるよ」

忍「……陽子ちゃん」

陽子「で、我慢するタイプだってのも」

忍「――」ギュッ

陽子「右手」

忍「!」ハッ

陽子「大丈夫? 長い間、握ってただろ?」


忍「……気づいちゃいましたか」

陽子「まぁ、ね」

陽子「ずっと一緒にいた私やイサ姉が気づかないわけがないよ」

忍「実は、ちょっと赤くなってしまいました」

陽子「やっぱり……」ハァ

陽子「昔から」

陽子「緊張したりパニクったりすると、それやっちゃうんだよね」

忍「これは、癖みたいなものですね……」

陽子「まぁ、それで感情を抑えられるシノは強いと思うよ」

忍「ありがとうございます」

陽子「けど……」

陽子「たまには、シノから頼ってほしいかな」

忍「ごめんなさい」ペコリ

陽子「謝らない謝らない」

陽子「――シノは凄いよ」

忍「……ありがとうございます」
381 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/21(水) 00:05:35.42 ID:IqDtd8Jf0
忍「それでは、お言葉に甘えて」ヨッコラセ

陽子「わっ、ちょ、シノ!?」アセアセ

忍「膝枕、してもいいですか?」ジッ

陽子(うっ、上目遣い……)

陽子(しかも、こういう時だけ色っぽく赤面までしてみせるって)

陽子「たまに、シノが怖いって思うことがあるよ」

忍「ふふっ、陽子ちゃんってば」コロン

陽子「……」

陽子(傍からだと、どう見えるんだろ?)カァァ


陽子(ま、まぁ、あれだ……)

陽子(シノを膝枕してあげたことなんて、それこそ――)

陽子「記憶にないぞ」

忍「ええ、私も驚いてます」ウットリ

陽子「……知ってただろ?」

忍「ご想像にお任せします」

陽子「シノはイジワルだ」

忍「陽子ちゃんには言われたくありません」クスッ


忍「……」

忍「陽子ちゃん」

陽子「な、なに、シノ?」ドギマギ

忍「――私」


忍「どうしたらいいんでしょうか?」


陽子「……」

忍「あんな風に、気持ちを伝えられたのは初めてです」

忍「男性の方と一緒にお話ししたりすることは、もちろんありましたけれど」

忍「……まさか、自分がこうなるとは思ってもみませんでした」キュッ

陽子(そりゃまぁ――)

陽子(カレンが告白されるのとは、色々と意味合いが違うからなぁ)

陽子「……」

忍「陽子ちゃん」

陽子「――私は」

陽子「そうだな……シノが自分なりに行動すればいい、と思うよ」

忍「……そう、ですよね」
382 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/21(水) 00:06:30.86 ID:IqDtd8Jf0
陽子「でもね」


陽子「私はシノがどんな行動をしても、それを全力で応援するよ」


忍「――!」ハッ

陽子「それだけはホントだから」ニコッ

忍「……もう」


忍「本当にイジワルで……お優しいんですから」

陽子「まったく……」


忍「……」

忍「ねぇ、陽子ちゃん?」

陽子「ん? なに?」キョトン

忍「――いえ、なんでもありません」フルフル

陽子「もう、なんだよ。気になるぞ?」

忍「ふふっ、内緒です」

陽子「隠し事、か?」

忍「……」キュッ


忍「ご想像にお任せします」ニコッ



――裏庭


綾「……シノは、どうするのかしら?」

アリス「まさか相手の人は、シノのことを……」アセアセ

綾「いや、それはないと思うわ」

綾「――さすがにシノの『素性』を知っていて、告白したとすれば」

アリス「もう、私たちの手に負える範囲を超えてるもんね……」

アリス(ただでさえ混乱してるのに……)

綾(ああ、もう……どうしてシノなのよ)

綾(カレンが告白された時とは、わけが違うのよ……)ハァ


綾「……ええとね、アリス」

アリス「なに、綾?」

綾「アリスは、どう思った?」

アリス「……」

綾「シノが、そ、その……告白、された時」

アリス「――カレンに続いて、シノまで遠くに行っちゃったなぁって」

綾「ええ。正直、私も同じようなことを考えたのは否定できないわね……」

綾「でも、それだけじゃないんでしょう?」

アリス「……うん」コクリ
383 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/21(水) 00:07:29.14 ID:IqDtd8Jf0
綾「そうよね」

綾「私もビックリしたもの」

綾「……シノが告白される、なんて」

アリス「考えたこともなかったよ」

綾「ええ」


アリス「……綾は、どう思った?」

綾「今度は私の番、ね」

綾「そうね……私もホントは、今も気が気じゃないのよ」

綾「色々と考えが走っちゃってて、抑えられない状態というか……」

アリス「わかるよ、それ」コクコク

綾「――シノは、本当に大切なお友達で」

綾「あの子がいなかったら、私も今日、乗り切れたかどうか……」

アリス「うん、シノは凄いよ」

アリス「無理してないか心配だけど……」キュッ

綾「そうよね……」


アリス「そっか。綾もシノが好きなんだもんね」

綾「も、もちろん」カァァ

綾(アリスの『好き』とは、きっと意味合いが違うけれど……)

綾(きっと、この子もそれを分かっているんでしょうね)

綾「ねぇ、アリス?」

アリス「ん? なぁに?」

綾「戻ったら、シノに何て声を掛けましょうか?」

アリス「……もう、綾ってば」クスッ

アリス「いちいち考えなくても、私たちは大丈夫だよ」

アリス「――いつも通りにしてれば」ニコッ

綾「アリス……」

綾(気丈に言うアリスを見ながら、私は気づいてしまった)

綾(彼女の笑顔が、翳ってしまっていることに)
384 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/21(水) 00:09:54.00 ID:IqDtd8Jf0
綾(それなら――)

綾「そうね、アリスの言うとおりね」

綾「それじゃ、そろそろ戻りましょうか」ニコッ

アリス「うん!」

アリス「……良かった。綾が笑って」

綾「アリスのおかげで、ね」

アリス「ふふっ、綾ってば」クスクス


綾(それなら、私もそれに倣おう)

綾(アリスも私の表情に気づいてるのだろうし……それならそれで)


綾(お互い様、ということで)







 ――さて。
 二人が戻ってきた所で、私たちはその場を移動した。
 行き先は、講堂だ。
 そこで私たちの友達が劇をする、ということは知っていた……けど。


「そういえば……」
「な、なによ、陽子」


 講堂の目の前で、立ち止まる。
 ふと、思いついたことがあった。
 近くの綾に視線を向ければ、何故か綾が照れ出した。
 それに気づかない振りをしながら、私は、


「なぁ、カレンって何の劇をやるんだ?」
「……そういえば」


 私の質問に応えて、綾は鞄から冊子を取り出す。
 言うまでもなく、文化祭のパンフレットだ。
 手際よく、該当のページを綾は見つけ出した。


「あったわ、カレンのクラス」
「そっか。で、演目は?」
「……演劇、としか」
「マジか」


 綾に促される形でパンフに目を通した私は、呆気にとられてしまった。
 たしかに綾の言うとおりだった。


「カレン……一体、何をするんだろう?」
「そもそも、何の役をするのかしら……」


 腕を組み、考えこんでしまう。
 そういえば、カレンは「劇やりマス! ショーデス!」としか言っていなかった。
 なんやかんやで、今日まで詳細は明かされなかった、ってわけか。


「ねぇ、アリス? アリスは何か聞いていませんか?」
「うーん……私も何も聞いてないよ」


 先頭を行く私と綾の後方で、シノがアリスに訊ねていた。
 私たちだけでなく、シノとアリスまでも聞いていない、という。
 ……なんだろう。
385 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/21(水) 00:11:34.94 ID:IqDtd8Jf0
「なんだか胸騒ぎがするな……」
「奇遇ね、陽子。私も似たようなことを考えている気がするわ」


 自慢じゃないけど、私の『嫌な予感センサー』は外れたことがほとんどない。
 頼むから、今回は「はずれ」であってほしい……。


「うーん……考えていても始まりませんし」
「そうだよ、二人とも。中に入ろ?」


 私たちが考えていると、シノとアリスが私たちを促した。
 まぁ、確かに二人の言う通りだ。考えこんで当たるような問題でもない。


「それじゃ行くか、綾」
「ええ、そうね」


 隣で考え込んでいた様子の綾と一緒に、私はゆっくりと講堂に足を踏み入れる――



 ――そして。


「ず、随分と人が多いな……」
「空席、あるのかしら……」


 講堂内を見渡せば、かなりの客入りということがありありと分かった。
 私が見る限り、ポツリポツリと空いた席はあるものの、四人が一気に座れるスペースは、というと……。


「あっ、大宮さんたち」


 ん? 聞き覚えのある声がする。
 声のした場所を探せば、そこにいたのは――


「受付の二人組か」
「なんだ、空席でも探してるのか?」
「まぁね……というか、何するのか知ってる?」
「さぁ、俺たちも知らねえ」


 さっきぶりの二人組だった。
 取り留めのない会話の後で「俺たちが詰めるから、ここ入ってもいいぞ」と移動してくれた。
 あっ、ちょうど四人分だ。


「サンキュー」


 軽い調子で返事をして、私は三人を促して列に分け入った。
 私、シノ、アリス、綾の順に座る。


「いやー、助かった助かった」
「何かおごってくれてもいいぞ」
「無理。私がおごるのは、きっと一人だけだし」
「……え?」


 ん? 何か変なこと、言ったっけ?
 いや、目の前でピクッとしてから動きを止めた男子が、よく教えてくれているみたいだ。
 ……ああ。


「わぁ、陽子ちゃん。私、照れちゃいますよ?」
「……え、大宮さん? マジで?」
「ち、違う! シ、シノ、何言って」
「ふふっ、陽子ちゃんにおごられちゃって幸せですねぇ……」
386 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/21(水) 00:20:02.03 ID:IqDtd8Jf0
 ――さて。
 そんな一騒動(?)があってから、少し経った。
 そろそろ時間になる。


(……頼むよ)


 私は、知らず知らずのうちに手を握りしめていた。
 まるで、隣にいる「彼女」の癖が移ったように。
 何でかって? 
 そりゃまぁ、「センサー」が外れるのを祈ってるからだよ……。



 ビー、とブザーの音が鳴り響いた。
 そして、静かに幕は上がり――


「あぁ……」


 声が漏れた。
 目の前には、花畑が広がっていた。
 その脇に設置されたベンチに、二人の男女が座っている。
 男子の方は紳士的な格好をしていて、もう一方の女子の方はドレスで着飾っていた。
 どこかの王妃が着ているようなイメージをもたせるのに、十分すぎる出で立ちだった。


「……さすが、ですね」


 左隣から、心の底から感心したとばかりの声がした。
 シノもそう思ったか。いやきっと、シノだけじゃない。


「……あっ」
「凄い、わね」


 とはいえ、多分アリスと綾だけでもない。


「おい、あれってまさか……」
「そっか、さっきの」


 受付係もよくわからない反応をしているけど、この二人だけでもない。
 構内にいる観客全員が、同じことを考えているに違いない。


 普段は飄々としているあの子は、その実とんでもなく可愛い。
 それをよく知っている私たちは、そのギャップで余計に心を揺さぶられるんだと思う。
 普段のあの子を知らない観客も、嘆息するに違いない。現に、前からも後ろからも唾を飲み込んだような音がしている。


 舞台で淑やかに座っているのは、私たちの大切な友達――九条カレンだった。
 いつになく真剣なその表情は、ただ緊張しているというだけではなさそうだった。
 私は舞台の小道具と、カレンのそんな表情を見ながら、


(……「センサー」、当たっちゃったかぁ)


 そう、確信してしまった――
387 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/21(水) 00:33:51.59 ID:IqDtd8Jf0
ここまでになります。
二期の日程も久世橋先生の中の人も決まったようですね……時の流れは早いものです。ごめんなさい、遅れました。

気づけば、地の文は陽子視点のものが圧倒的に多くなりましたね。
一番書きやすいもので……いずれ、嘘つきブラザーズも出るかもしれません。
あと、いつの間にか主人公的な立ち位置になったようにも感じます。

それでは、また。
陽子の「センサー」は、どこまで当たるのでしょうか……。
388 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/21(水) 02:09:51.49 ID:IqDtd8Jf0
 すみません。
 >>385>>386の間に、この文章を挿れておきます。外されてしまっていました。




 左隣にいるシノは、満面の笑みを浮かべながら穏やかに言葉を紡ぎ続ける。


「けれど、陽子ちゃん? ホントに私だけでいいんでしょうか……」


 その後で、赤面と上目遣いの強烈コンボ。
 さっき見たばかりとはいえ、この技に私は勝てる気がしない。


「だ、だから、シノ……ええと、あのさ」
「そっか、猪熊が……」
「大宮さんの……ふーん」
「二人とも、静かにするっ!」


 シノを相手にするだけでも大変なのに、右側の二人まで来られちゃ泥沼化は必至だ。


「まぁ、なんだかんだで、か」
「猪熊がいるなら何とかなるか……さっきのことも」


 私がそう言っても説得力はなかったらしく、なんだか得心が行ったような反応を返されてしまった。
 というか、やっぱり「さっきのこと」を気にするのは私たちだけでもなかったらしい。当然といえば当然だけど。


「……もう、知らんっ」


 男子から視線を逸して、シノへと視線を戻す。
 相変わらずの表情を浮かべながら「陽子ちゃんは可愛いですねぇ」と、ほんわかに言われてしまった。
 私は「シノのイジワルめ」と返して、頭を垂れた。
 やれやれ、左右からの攻撃をかわすのは疲れる――


「陽子……やっぱり、シノに」
「あ、あなたねぇ……」


 ――まだ、休めないのか。
 溜息をつき、私は再び元の体勢に戻る。
 明らかに顔が熱い。熱でも出たんじゃないか。
 まぁ、いいや。
 気を取り直してから、綾とアリスの方へ視線を向け、



「わ、私とシノは、そ、そういうんじゃないからっ!」


 噛んだ。恥ずかしい。
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/23(金) 04:51:44.37 ID:+cZV3pxiO
かわいいな

乙でした!二期楽しみ
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/23(金) 09:33:32.24 ID:9IWPNdep0
おつ!

ラッキースケベされた陽子もみてみたい
391 : ◆OtZIp/YaIxCt [saga]:2015/01/25(日) 00:23:01.66 ID:/773hr+x0
レス、ありがとうございます。
>>390
ラッキースケベを書きたいと思っていますが、なかなか入れる場面が思いつかず……。
ともあれ、次回辺りで文化祭は決着すると思うので、それから考えますね。ありがとうございます。




――開演から遡って・空き教室


女子1「……これでよし、っと」

女子2「おー……何度見ても、惚れ惚れするね」

カレン「――そ、そうでショウカ」アセアセ

女子3「こりゃ、本物のお嬢様……いや、お姫様」

女子1「観客席が沸きそうだねっ」

カレン「……」


カレン(あれから時間が経ったノニ)

カレン(さっきのシノのことが気になって、しょうがないデス……)キュッ

カレン(シノは、あれからどうなったのでショウカ……)

カレン(――確認するのが怖くて、すぐに飛び出してしまいマシタ)


女子1「く、九条さん……大丈夫?」

カレン「……!」ハッ

カレン「ご、ごめんナサイ」

女子2「まぁ、九条さんも緊張するよね」

女子3「でも、大丈夫。何か失敗したとしても、今の九条さんなら」

女子1「多分、どんな振る舞いでも絵になるから……」

カレン「……ありがとうございマス」

カレン(この人たちに言えるわけでもありマセン……)

カレン(ホントは劇のことよりも、さっきのことが気になってる、ナンテ……)

カレン(ここまで準備してきてくれたクラスの皆さんに申し訳ないことデス)



カレン「……台本を取って頂けマスカ?」

女子2「ん、分かった。はいっ」スッ

カレン「Thanks……」

カレン「――」パラパラ

カレン「や、ヤッパリ、こういうシーンハ……」

女子1「まぁ、その辺は適当に」

女子2「そう気張らなくっていいよ」

女子3「どう演技しても、絶対大丈夫だから」

カレン「……」


カレン「ハイ、わかりマシタ」コクリ
392 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/25(日) 00:23:48.82 ID:/773hr+x0
トリップ間違えてました。




――集合場所



女子1「みんなー、終わったよー」

女子2「見て驚け!」

女子3「あんたが主役みたいになってるね……」

カレン「……お、お邪魔するデス」モジモジ


「わっ」「凄いキレイ……」「なんだあれは……」「く、九条さん、やっぱり」


カレン「……」

カレン(どうしてなんでショウカ)

カレン(皆さん、私をとても褒めてくれてマス。嬉しくないわけがありマセン)

カレン(……ナノニ)


「やっぱり似合うな、九条さんは」


カレン「あ」

男子「今日は、よろしくな」

カレン「……」

カレン「ハイ」コクリ

男子「うん」ニコッ

男子「それじゃ俺、ちょっと台本読んでくるから」

カレン「――ファイト、デス」

男子「そっちもな」


女子1「へぇ、スーツ姿ってのは初めて見た」

女子2「意外と似合うもんね」

女子3「同感」

カレン「……」

女子1「まぁ、九条さんには敵わないけど」

女子2「そりゃまぁ、仕方ないよね」

カレン「そ、そんなコトハっ!」アセアセ

カレン「ない、デス……」


カレン(だから、シノたちには言えませんデシタ)

カレン(私がヒロインで、「彼」がヒーロー)

カレン(私が主役ということもそうですが、何より「彼」のこともありマシタ)

カレン(シノたちは――あの時、「彼」を見ているのデスカラ)
393 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/25(日) 00:24:36.93 ID:/773hr+x0
――本番前・舞台袖


男子1「それじゃそろそろ行くぞー!」

男子2「主役ー!」

男子「おう」

カレン「……ハ、ハイ」


男子「よいしょ、っと」コシカケ

カレン「……」

男子1「それじゃ、ブザー鳴ったらスタートで」

男子2「ガンバ、二人とも」

男子「ありがとよ」

カレン「が、ガンバリマス」モジモジ

男子「……」


男子「緊張してる?」

カレン「……Yes」

男子「無理もないよな」

男子「まぁ、あれだ」

男子「今の九条さんなら、どんなミスしても大丈夫だと思う」

カレン「それ、さっきも言われマシタ」

男子「みんな同じようなこと思ってるよ」

カレン「そう、でショウカ」


男子「おっ、鳴ったな」

カレン「は、ハイ……」

カレン(幕が上がり始めマシタ)

カレン(私の目の前に、多くの人が現れテ――)

カレン「あっ……」

カレン(シノたち――)


――観客席


陽子「……あ」

忍「あの方は――」

アリス「そうだ、カレンに」

綾「……そうね、あの時の」

綾(もしかすると、だからこそ……)

陽子(カレンは、私たちに知られたくなかったのかも……)


カレン「……」

カレン「今日は、帰らなくていいのデスカ?」

男子「ええ」

男子「――今日一日は、あなたのものです」
394 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/25(日) 00:25:13.15 ID:/773hr+x0
陽子(胸やけしそうなセリフだ……けど)

陽子(主役が言うと、妙に堂に入ってるというか)

忍「……カレン」

綾「お話の世界みたいね……」カァァ

アリス「あ、綾? 顔、赤いよ?」



――時間が経って


陽子(劇の内容は、よくある男女恋愛モノで)

陽子(身分違いの恋だとかそれによる両家の確執、でもって最後は困難を乗り越えてハッピーエンド)

陽子(……どこかで見たことがあるような要素のごった煮、というイメージだった)

陽子(私は、評論家でもないからよく分からないけど)

陽子(筋書きはともかく、主役の演技が凄い)

陽子(まるで本当に「叶わぬ恋」みたいな鬼気迫る感がある、というのも)

陽子「当たり前か……」

綾「二人とも演技が凄いわね」

アリス「うん」

アリス「カレンも本当に上手だけど、男子の方が本気って感じがするよ」

アリス「……まぁ」

綾「無理もない、わね」


忍「……」

陽子(――シノ)



――舞台


男子「私の想いは、永遠に叶わないのかもしれません……」

カレン「そんなコト」

男子「でも……あなたを諦めることなど」

カレン「――」チラッ

カレン(シノ……)

カレン(あれからどうなりマシタカ? 相手の方と……)

男子「あなたを思うだけで、一日が終わってしまいます」

カレン「……あ」ハッ

カレン「わ、私も、デス……」

カレン(一日が、すぐに終わってしまいマス……)アセアセ
395 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/25(日) 00:26:18.27 ID:/773hr+x0
――更に時間が経って


――舞台


カレン「本当に……私で、いいのデスカ?」

男子「はい。もちろんです」

男子「さぁ、ここから抜け出しましょう」

カレン「……」

カレン(――「ここで」)



カレン(「ここで、軽くハグ」)



カレン(台本に書かれていた、ラストシーンの文章……)

カレン「……」キュッ

男子「……?」

男子「どうかなさいましたか?」キョトン



>ナンダナンダ?
>アクシデント?



男子「……九条さん、大丈夫?」ヒソヒソ

カレン「わ、私、ハグ、出来マセン」アセアセ

男子「……」

カレン「ご、ごめん、ナサイ」

カレン「――うっ」グスッ


カレン「シノ……」




――観客席



男子A「お、おい、あれって……」

男子B「泣いてる?」

陽子「!」ハッ

アリス「!?」

綾「カ、カレン……?」

陽子「――あぁ」

陽子(センサーを今日ほど憎んだ日はない……)


忍「……カレン」

陽子「シノ……」

忍「――」キュッ
396 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/25(日) 00:27:25.31 ID:/773hr+x0



――終演


「皆さん、ご観賞ありがとうございました!」


陽子(結局、あれから慌てた様子のナレーターが締めの言葉を述べて)

陽子(二人の主役は舞台袖に戻っていった)

陽子(最後の、全員揃っての挨拶まで少し時間がかかったけど)

陽子(カレンも中央で、お辞儀をしてくれた)

陽子(こうして、カレンのクラスの演劇は幕を閉じた――)


男子A「よかったな」

男子B「うん、特に主役二人の演技が凄かった」

陽子「……」

男子A「猪熊」

陽子「な、なに?」

男子B「あの主役の子、お前の友達なんだろ」

陽子「……そうだよ」コクリ

男子A「話、聞いてあげた方がいいぞ」

陽子「うん……」


男子A「それじゃな、大宮さんたち」

男子B「また後で」

陽子「……」

アリス「カレン、大丈夫かな」

綾「やっぱりあれって……」

忍「泣いて、ました」

忍「目が潤んでました……」

陽子「シノ……」




――それから


放送「これにて、第〇〇回文化祭を、終了します!」

アリス(放送……)

アリス(そっか、これでおしまい)

綾「お疲れ様、みんな」

陽子「これで後は片付けだな!」

アリス「うん、そうだね……みんなお疲れ様」
397 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/25(日) 00:31:10.61 ID:/773hr+x0
忍「はい、お疲れ様――」

忍「あっ、携帯電話が……失礼します」カチカチ

忍「……」ピクッ

アリス「?」


忍「皆さん、ごめんなさい」

忍「少し、席を外しますね」ペコリ

陽子「? どうかしたのか、シノ?」

忍「いえ――」

忍「すぐに戻りますから」タタタッ

綾「あ、し、シノ?」キョトン

アリス「……」


陽子「まぁ、なにはともあれだ」

陽子「片付けよう、二人とも」

綾「……ええ、そうね」

アリス「う、うん」


アリス(……あ)

アリス(そろそろ、ゴミが溜まっちゃった)

アリス「陽子、綾。ゴミ箱、捨ててくるね」

陽子「お、サンキュ……でも」

綾「重くないかしら」

アリス「大丈夫だよ。今、捨てにいくなら私一人でも」

アリス「それに、みんな忙しそうだし」ニコッ

陽子「そっか、それなら頼む」

アリス「うん!」ヨッコラセ


アリス(……ゴミ捨て場は)テクテク

アリス(うん、あった。あそこだ)

アリス(……シノ、どこへ行っちゃったんだろう?)

アリス「よいしょ、っと」

アリス「ふぅ、これでおしまい――」


「……シノ」「カレン……」


アリス「!?」ピクッ

アリス(こ、この声は……)

アリス(裏庭、だよね?)
398 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/25(日) 00:31:37.66 ID:/773hr+x0
アリス「……」

アリス(カレン――やっぱり)キュッ


カレン「少し、このままでいさせてくだサイ……」

忍「……」

忍「わかりました。大丈夫ですよ、カレン」ナデナデ

カレン「……シノ」ギュッ



アリス(カレンが、シノにハグしていた)

アリス(私は動揺するより先に、納得してしまった)

アリス(仮に私がカレンの立場でも、同じことをしたと思うから……)


アリス(――でも)

アリス「シノ、カレン……」

アリス(やっぱり、すごく複雑な気持ちだった――)キュッ
399 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/01/25(日) 00:35:16.65 ID:/773hr+x0
ここまでになります。
カレンの演劇まで、一気に書きました。

今回で一応、文化祭の行程自体はおしまいです。
色々とすっ飛ばした感は否めないですが、ご容赦下さい。
次回は、忍視点でカレンとの会合を書きたいと思っています。

それでは、また。
いつもお読みいただきありがとうございます。
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/25(日) 03:18:55.30 ID:LJvdaGtN0
乙です。
次回の更新がとても楽しみです!
401 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:23:32.18 ID:sef3L+Kl0
――アリスが来る前・裏庭


忍「……」

忍「ここ、ですよね」

忍「――」カチャッ


忍(文面は「中庭に来てくだサイ。シノ一人だけで」……)カチカチ

忍「……」パタン


忍「大丈夫ですよ、私一人だけです」

カレン「!?」ビクッ

忍「もう、カレンったら。私がカレンのことに気づかないと思いましたか?」クスッ

カレン「……シノ」モジモジ

忍「陰からチラチラと見ていても、わかっちゃいますよ?」

カレン「――ごめんナサイ」

忍「謝らないで下さい」

忍「……大丈夫、ですか?」

カレン「……」

カレン「正直、参っちゃってマス」タメイキ

忍「ですよねぇ」


カレン「――何からお話ししまショウカ?」

忍「カレンが話したいこと、全部言ってください」ジッ

カレン「……」

忍「私は、じっくりと聴きます」

忍「途中で言葉を挟んでしまうかもしれませんが……それで、どうでしょう?」

カレン「――ハイ」コクリ

カレン「ありがとうございマス、シノ」


カレン「これはシノだけではないのデスガ」

カレン「まず、内緒にしていてごめんなさいデシタ」ペコリ

忍「……」

カレン「私たちのクラスで、その……ああいった劇をすると決まってカラ」

カレン「最初にモメたのは、どの二人が主役をするかデシタ」

カレン「――それで結局」

忍「……投票」

カレン「Yes」コクリ

カレン「つまり、『誰が主役とヒロインになってほしいか』といった投票会が開かレテ」

カレン「結局、私と『彼』がそうなりマシタ」


カレン「初めは、断ろうと思ってマシタ」

カレン「シノたちと一緒にいる時間の方がずっと大事で……とても楽しかったからデス」

カレン「……それに、相手が相手というのもありマシタ」キュッ
402 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:24:35.23 ID:sef3L+Kl0
忍「――カレン」

カレン「But」

カレン「クラスの人たちは『それでもいい。九条さんが主役なら、どんな演技をしても絵になるから』ト」

カレン「そんな風に言われたら、せっかく仲良くしてくれる皆さんに申し訳ありマセン」

忍「……カレンは、優しいですから」ニコッ

カレン「……」


カレン「それから、あまり練習もしないまま本番を迎えマシタ」

カレン「……それからのことは、シノたちが見ての通りデス」

忍「……」

カレン「私が一番辛かったノハ」

カレン「――クラスの人が、誰も私を責めなかったことデス」

カレン「特に、相手の方にはとんでもない迷惑をかけてしまいマシタ」

カレン「それ、ナノニ……」ウルッ

忍「!」ハッ


カレン「相手の方は、何も言いませんデシタ」グスッ

カレン「た、ただ、『こっちこそごめん。台本に、やりすぎだって注意できなかった』ッテ……」

忍「……」

カレン「わ、私、最初に台本をもらって、相手が『彼』だと分かってイテ」

カレン「それでも、そう演技出来るって思ってマシタ。今日の朝までは、絶対に出来るつもりデシタッ」

忍「――カレン」


カレン「……But」

カレン「今日の午前中、私ハ――」






――アリスが教室を出てから・教室前の廊下



委員長「猪熊さん、小路さん。男子が片付け終わったみたいだから、ここ掃いてもらえる?」

陽子「ん、ああ。わかった」

綾「りょ、了解」


陽子「……」ホウキ

綾「……」チリトリ

陽子「なぁ、綾?」パッパッ

綾「なぁに、陽子?」サッサッ

陽子「――カレン、心配だな」

綾「ええ、そうね……」

陽子「……綾?」キョトン

綾「ごめんなさい。少し、考えることがあって」

陽子「そっか……」
403 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:25:47.57 ID:sef3L+Kl0
陽子(……あぁ、もう)

陽子(『センサー』が当たったことは、まぁ仕方がないと割り切った)

陽子(出来事って起こるときは起こるものだと思うし……だけど)


――お前、あの子の友達なんだろ?――

――話、聞いてあげろよ――



陽子(正直、あの二人に言われなくたって分かってる)

陽子(そんなの、当たり前だ。友達のために何かをする、なんて……)

陽子(なのに――なんだか、私は調子が振るわない)グルグル

陽子(どうしてなんだろう……)



陽子「はぁ……」タメイキ

綾「――そっか、こういうことなら」

陽子「あ、綾?」

綾「陽子。どうして、カレンは泣いたと思う?」ジッ

陽子「な、なんだ、いきなり?」

綾「考えてみて」

陽子「……そ、そりゃあ」

陽子「相手が例の男子だし、あの場面がどういう台本だったのかは分からないけど……」

陽子「恋愛モノは、やっぱりキツかったってことじゃないのか?」

綾「ええ、そうね。私もさっきまで、似たようなことを考えていたわ」

綾「――でも、本当にそれだけなのかしら?」

陽子「……え?」ピクッ


綾「私たちと行動を共にすることが多かったにしても」

綾「演劇をするんだったら、数回くらいは『通し稽古』を行うでしょう?」

綾「カレンや他の人たちの演技を見ても、さすがにあれが初めての『通し』だなんて信じられない」

陽子「……たしかに」

綾「それならそういった機会に、『こういう演技は出来ない』ということを台本担当の人に伝えるはず」

綾「別に伝えても良かったはず。普段のカレンなら、気軽な感じでそういった主張をすると思うし」

陽子「――そ、そうだな」


綾「ということは、カレンは台本の流れを知っていた上で、今日……」

陽子「泣いた、ね」

綾「そうね、辻褄が合わないわ」

綾「それなら今日の演劇前に、カレンに『何か』が起きたと仮定したらどう?」

陽子「……何か」

陽子「ダメだ、思い付かないよ」

綾「そうね、私もさっきまで同じだったわ」

綾「――『シノ』のことに、考えが及ぶまでは」

陽子「!」ハッ
404 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:26:18.78 ID:sef3L+Kl0
綾「陽子には、今更言うまでもないことよね。アリスとカレンがシノのことを――『好き』ってこと」

陽子「う、うん……」

綾「それなら今日のあんな場面を見せられて、カレンが平然としていられるわけがないと思わない?」

陽子「ってことは」

綾「そう……カレンが、あの時の光景を見ていたとしたら」

綾「壇上でのカレンの行動についても、辻褄が合うの」

陽子「だ、だったら。劇の直前にでも、台本係に『やっぱりやめて』って……」アセアセ

綾「そうね。でも何となくだけど――カレンは、人の期待を裏切れない子だと思うの」

陽子「――」ハッ

綾「……推理でも何でもない、ただの想像よ」

陽子「いや……」


陽子「びっくりしたよ、綾。よくそこまで考えられるな」

綾「……あまり、気は進まないけどね」

陽子「いや、凄いよ。だって、私には全然分からなかったし」

綾「あのね」ジトッ


綾「いい、陽子? あなたがしっかりしていてくれれば、私がこんな『想像』を話す必要なんてなかったの」

陽子「……綾?」

綾「私が知ってるあなたなら」

綾「今の私の話なんて全部とばして、『とにかくカレンの話を聞いてあげよう』なんて私たちを巻き込んで飛んでいったはずよ」

綾「――あの二人に言われなくても」

陽子「――!」ハッ


綾「シノの一件があって、調子が狂っちゃった?」

陽子「……そう、かも」

綾「それじゃ、もう悩むの禁止」

綾「いい? あなたのためじゃなくて、私たち皆のためなんだからね?」ビシッ

陽子「……うん」


陽子「ありがと、綾。少し、目が覚めた」

陽子「綾のためにも、調子戻すよ」パッパッ

綾「……まったく」サッサッ

綾「そういうことを臆面もなく言うから、陽子は困るのよ……まったく」カァァ

陽子「ん、ホントにありがと」ニコッ

陽子(……そうだ)

陽子(二学期に入ってから、シノのことで動揺することが増えて)

陽子(今日、色んなことが立て続けに起きて……私も、かなり参ったのかも)

陽子(――でも)

陽子「私が、しっかりしないとだな……」グッ
405 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:27:12.08 ID:sef3L+Kl0
綾「――ところで」

綾「私は、アリスのことも心配なのよ」

陽子「アリスが? そりゃまた、どうして?」キョトン

綾「……いい、陽子?」ジッ

綾「今日、シノに起きたことと、前にカレンに起きたこと」

綾「――わかるでしょ?」

陽子「……あ」



――再び裏庭



忍「――やっぱり、あれはカレンだったんですね」

カレン「ご、ごめんナサイ。中に入れなくて、ソソクサト」

忍「いえ……」

カレン「シ、シノが、相手の方にどうResponseするノカ」

カレン「それが気になったら、げ、劇に集中出来なくナッテ――!」

カレン「そ、ソレデ……」ポロポロ

忍「いいです、カレン。ほら、顔が水だらけですよ?」

忍「今、拭いてあげます」

カレン「シノ……」グスッ

忍「大丈夫ですよ。このハンカチ、今日は使ってないので……」フキフキ

カレン「――シノは、優しすぎマス」

忍「カレンには負けます」ニコッ

カレン「わ、私はトモカク……」

カレン「――シノだって、すごく疲れてマス」

忍「……そう、見えますか?」ピタッ

カレン「ハイ」

忍「そう、ですか……」フキフキ



忍「実は、私もかなり参っちゃってるみたいで……」

カレン「……ヤッパリ」

忍「カレンも見ていたのなら、分かりますよね」

忍「相手の方は――どこまでも『男の子』でした」

カレン「――!」ハッ

忍「私、どうすればいいのでしょうか?」

忍「困ってしまいました……ああ、どうしましょう」タメイキ

カレン「……シノ!」

ダキツキ


忍「カレン……」

カレン「ムリ、しないでくだサイ」

カレン「シノは、いつもムリしてマス」
406 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:27:43.04 ID:sef3L+Kl0
忍「そんな、ことは……」

カレン「ダッテ」

カレン「……私やアリスは、いつもシノに色んなカオを見せマス」

カレン「悲しい時、嬉しい時――今のように、泣いた時ダッテ」

忍「……」

カレン「ヨウコやアヤだって、シノには色んなカオをしマス」

カレン「……シノは、私たちに悲しいカオをしマセン。いつも、笑ってマス」

忍「――それ、は」

忍「私は、皆さんと一緒にいる時は、ただ、楽しいから」アセアセ

カレン「そうやって『ムリ』を重ねるカラ」

カレン「……まだ泣いてる私が、シノにハグしてるんデス」

忍「……!」ハッ


忍「――カレンには、隠し事出来ませんね」タメイキ

カレン「その『隠し事』は、私だけにデスカ? それもDoubtデスネ?」

忍「だうと?」キョトン

カレン「『嘘』って意味デス」

忍「……」

カレン「シノ」

カレン「……どうすれば、シノはムリをしないでくれマスカ?」ジッ
407 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:28:08.49 ID:sef3L+Kl0
 ――そう言って、カレンは私を見つめてきました。
 上目遣いで。
 私がさっき、陽子ちゃんにした行為です。
 ただ、今のカレンには、あの時の私のような「計算」が全く感じられません。


 私も、ゆっくりと彼女の瞳を見つめます。
 見れば見るほど綺麗な光彩を帯びていて、吸い込まれそうになります。
 そして、カレンの顔の下部にある唇もまた抜けるような赤さで、魅力的でした。


「――シノが、ムリしないでくれる方法」


 そう呟いて、カレンは私にその綺麗な顔を近づけてきます。
 ただでさえ近かったその距離は彼女が詰めることで、文字通り目と鼻の先にあります。


「シノは、どう思いマスカ?」


 カレンは、気づいているのでしょうか。
 恐らく、意識してはいないでしょう。
 まだ涙に濡れた瞳。
 私の首にかかる、滑らかな腕。
 抜けるように赤い唇。
 絹のように淑やかな、その金髪。


 そういった全てが、私の――


「……シノ」


 ――理性を、粉々に砕こうとしていることなんて。
408 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:28:48.70 ID:sef3L+Kl0
忍「……あ」

忍(その瞬間、私は気づいてしまいました)

忍(間違いありません……あの金色は)

カレン「シノ……?」

忍「――カレン」ポンッ

カレン「アッ……」

忍(私の手が、カレンの肩に触れました)

忍(そして、ほんの軽く押します)クイッ


忍「もう、あまりに勢いよく抱きついてくるから……」

忍「綺麗な金髪が乱れてしまってますよ?」ナデナデ

カレン「……シノ」

忍「……」

忍「ごめんなさい、カレン」ペコリ

カレン「!」


忍「私、カレンが『好き』です」

忍(いけない……)ハッ

忍「それは、本当です。信じてくれますか?」

忍(笑顔です、笑顔――)ニコッ

カレン「……ハ、ハイ」コクコク

忍「――でも、いや、だからこそ」

忍「その……こういったこと、は」

忍「出来ません」

カレン「……?」

カレン「!」ハッ


カレン「わ、私、ハグしたダケデ……Uh」

カレン「き、きs」カァァ

忍「ストップです、カレン」フルフル

忍「……どうですか? 落ち着きましたか?」

カレン「……」

カレン「Yes」
409 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:29:44.65 ID:sef3L+Kl0
カレン「シノのお陰で、本当に助かりマシタ」

忍「それは良かったです」

忍「それでは、一緒に帰りましょうか」

カレン「――イエ」

カレン「わ、私! ちょっとクラスの人たちの所へ――」アセアセ

忍「……そう、ですか」

忍「分かりました」

カレン「……」ジッ

カレン「シノ」

忍「はい?」


カレン「――I like you very much」







 ――そう言って、カレンは走っていきました。
 私は、そんな彼女の後ろ姿を見つめながら、さっきの英語に思いを馳せます。


(あいらいくゆー……?)


 さすがの私でもI Like Youの、それぞれの意味くらいは知ってます。
 私 好き あなた……


(じゃあ、最後のべりーまっちは)


「あなたが大好き、だよ。シノ」
「そういう意味だったのですか。さすがは、アリスです」


 私の悩みに颯爽と答えてくれたのは、大好きな金髪少女でした。
 アリスは、ゆっくりと私に近づいてきます。


「つまり、カレンはシノが大好きってこと」
「えへへ、照れますね」
「ただの『好き』じゃない、っていうことを強調したんだよ」
「……」


 黙り込んだ私に、アリスはしっかりと視線を合わせてきます。


「シノ、カレンとハグしてたね」
「……アリスも一緒に来ればよかったのに」
「うん、そうしたいと思ったよ。カレンと、その……キ、キス、しそうになるまでは」


 そう言うと、顔を赤らめながら地面に視線を落としてしまいました。


「私ね、どうすればいいのかわからないの。もちろんカレンのことは心配だし、いつも笑ってるシノが顔を曇らせてることも 心配だよ」
「……アリス」
「で、でも……私、もう二人に置いていかれちゃったし。二人とも告白されたのに、私だけ……」
「――!」


 アリスはブラウスをギュッと掴みながら、身体を震えさせています。
 その目に、さきほどのカレンと同じような光がきらめいたのは見間違いではないでしょう。
 アリスもまた、目を潤ませていました。


「どうすればいいんだろう、って……そう思ったよ? でも、私は、もう――」
410 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:30:36.03 ID:sef3L+Kl0
 次の瞬間。
 私の腕には、柔らかな感触が広がりました。
 顔には、可愛らしく風になびく金髪が触れています。


「シノ……」


 腕の中から、アリスが小さく声を出しました。
 私は、ギュッと抱きしめます。腕の中にいる、ガラス細工のように脆く柔らかい彼女を壊さないように。


「私はアリスが置いていかれた、なんて思ってません」
「……」
「それはですね、アリス」


 そう言いながら、私は少し腕を緩めました。
 そして、腕の中から現れたアリスの瞳と、視線をしっかりと合わせます。


「アリスの可愛さに、皆さんがまだ気づいていないってだけです。
 そして、私以上にアリスの可愛さを知っている人はいません」
「……シノ」
「これだけは、自信があるんですよ?」


 そう言って、にこやかに笑ってみせます。
 大丈夫、もう大丈夫です。
 さきほどカレンに指摘されたようなムリ、なんてことは――


「それじゃ、シノ。私には……」


 ――ない、はずです。


「え、えっと……キス、して」


 ない、はずでした。過去形です。ごめんなさい、ムリでした。


「な、なんて――私、言わないよ?」


 そして、アリスは顔を赤らめながら上目遣いをしてきました。
 どうすればいいんでしょう? 
 正直な話、私の理性はさきほどから揺さぶられていて、壊れる寸前一歩手前にあるような気がします……。


「だって……そうしたら」


 全部、壊れるような気がしちゃうから。
 アリスは静かに、そう言いました。


「……」
「ご、ごめんね、シノ? からかったわけじゃないよ」


 私だって、ホントはね――
 そこまでは聞き取れましたが、それ以降は聞き取れませんでした。
 それが何故なのかは、すぐ近くで、頭上に湯気をあげて黙りこんでしまった金髪少女を見れば一目瞭然でしょう。


「……と、とにかく!」


 しばらく唸った後で、アリスは頬を染めながら、私を決然と見つめます。厳しい表情です。
 ちなみに、まだ私の腕の中にいるので、その厳しさは可愛らしさに巻き込まれて消えました。
 いけない、真剣にならなくては――


「シノ! 私も、シノのことが好き――『大好き』なんだからね!」


 真剣になった反動で、私の理性は余計に強いダメージを受けました。
411 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:31:23.43 ID:sef3L+Kl0

――裏庭


アリス『あれ、メールだ……あっ』

アリス『ごめんね、シノ。今日は、一緒に眠れないみたい。イサミたちにも伝えておいてほしいかな』

アリス『え、どこに泊まるかって? それはね――』


忍「……」

忍「ああ――」ハァ

忍(どう、しましょう)

陽子「――いたっ!」

綾「もう、シノ! さっきアリスが教室に戻ってきて」

陽子「シノが裏庭で倒れてるって聞いて、飛んできたんだよ」

綾「あと、カレンも元気そうに『先に帰る』って言ってきて……」

陽子「何が何だか――って、シノ? 聞こえてるか?」ズイッ

忍「……陽子ちゃん、綾ちゃん」


忍「私、色々と参っちゃいました」タメイキ

陽子「へ?」キョトン

忍「正直な話、もう今日は疲れて、本当にくたびれてしまいました」クタクタ

綾「シ、シノ?」アセアセ

忍「――だから」


忍「お二人とも、私に肩を貸して頂けませんか?」




――その後・廊下


陽子「もう、大丈夫か?」

忍「ええ、ありがとうございます」ヨッコラセ

綾「珍しいわね。シノがあんな風に、誰かに頼るなんて」

陽子「基本、私たちが『大丈夫か?』とか言わないと、頼らないのになぁ」

忍「……」

忍「その考えを、さっき大きく揺さぶられてしまいまして」

陽子「――そっか」

綾「シノは、頑張り屋さんだから」

綾「……憧れてるのよ、私は」カァァ

忍「ありがとうございます」

忍「――はぁ、疲れました」


委員長「あ、猪熊さんたち!」

陽子「あ、委員長」

委員長「もう。急にいなくなって帰ってこないからどうしたかと」ハァ

綾「ご、ごめんなさい」モジモジ
412 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:32:34.39 ID:sef3L+Kl0
委員長「まったく……でも」チラッ

忍「――あ」ハッ

忍「委員長……ごめんなさい」

忍「私、ちょっと――理性が大変だったもので」

陽子(な、何を言ってるんだシノ……)

綾(普段のシノのボケとは何か違うわ――『天然』というより『素』というか)


委員長「……まぁ、無理もないわね」

委員長「あんな状況になったら、誰だってそうなると思うし」

忍「――委員長」

委員長「……ただ」


委員長「少し、カータレットさんにも気を配ってあげたほうがいいわ。先に下校したんだけど……さっき戻ってきた時、どこか物悲しそうな表情をしていたから」








 ――木枯らしが吹いていた。
 晩秋の寒さに見を震わせながら、私はゆっくりと「彼女」の家に向かって歩いていた。
 今日、おじさんはいないらしい。
 というわけで、私たちは二人きりでお泊り会ということに――


(……何年ぶりだろう)


 あっちにいた頃、私たちはシスターのように過ごしていた。
 家族ぐるみの付き合いで、本当に血の繋がったきょうだいのように……。


 私は、彼女の泣いた姿を見たことがある。
 シノたちがビックリしたのは無理もない。今日、初めてそういう姿を見たのだろうから。
 ただ、彼女だって普通の女の子だ。笑っていることが多くても、泣くことだってある。


 シノたちの知らない彼女の姿を、私はよく知っている。
 だからこそ、私は困っている。
 私は、今日のシノじゃないけど、誰よりも彼女のことをわかっている自信がある。
 ……だから。


(――シノ)


 私は、「好き」だよ。 
 ずっと一緒にいたいと思ってるよ。
 ――でも。



 それは、私だけじゃ叶えられないことなんだよね……?



 笑顔を作ろうとしても、なかなか作れない。
 会うまでには何とか形作れると思ったけど……仕方ない。
 マンションの前に着いて、私は彼女に電話をかける。
「着いたら電話をして」と、言われていた。



 二言三言の会話の後で、私は携帯電話を切る。
 そして、待つこと数秒――
413 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:33:18.33 ID:sef3L+Kl0



「……アリス」


 マンションのエントランスから、聞き馴染みのある声がした。
 ゆっくりと、私は彼女へと視線を向ける。


 トレードマークと言ってもいいユニオンジャックのパーカーは、少しクシャッとしていた。
「さっき、抱きつかれたせい?」と聞くと、「ハイ」と返ってきた。
 そして「やっぱり見ていたデスネ」と、クスクスと笑いながら言った。
 そんな彼女の姿を見ていると、何故か故郷のことが脳裏をよぎった。
 きっと、今日、色々なことがあったせいだろう。
 そう納得して、どこか愛おしい気持ちになりながら私も自然に微笑むことが出来た。


「――アリス」


 お互いに笑い合った後で、綻んだ口元はそのままに彼女は続ける。
 

「『Council of War』といきマショウ」
「『作戦会議』……それって、やっぱり」


 私が言葉を継ぐと「Yes」と彼女――九条カレンは首肯して、


「The Subject:『私たちが、これからもずっとシノと一緒にいるためには、どうしたらいいか』デス」
414 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/01(日) 00:41:02.97 ID:sef3L+Kl0
ここまでになります。
今回はおぼろげに頭の中に浮かんでいたアイデアを全部書き出しました。
結果、長さはもとより、展開としてもかなりチグハグなものになってしまったかもしれません……。

色々と触れたい要素はありますが、何よりここまで放置(?)されてきた金髪少女の「逆襲」を書きたいと思っていました。
ここの所、ずっと陽子が主役になっていましたし……それはそれで、とても面白かったのですが。
結局、この三人(アリス、忍、カレン)の関係に答えは出るのでしょうか……。

それでは、また。
二期まであと二ヶ月ちょっと……。
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/01(日) 02:09:11.58 ID:nMiegLa3o
良い感じに事態が動き出してて
この後の展開も楽しみ
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/02(月) 08:47:51.56 ID:f2o/UJsAO
2人がドロドロの愛憎劇をするのは誰も望んでないしなぁ…
417 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/05(木) 01:14:22.98 ID:vG49zpyi0



――校舎


委員長「……うん」

委員長「大体終わったわね」

委員長「今残ってるみんな、お疲れ様」


忍「……あ」

忍「お掃除、終わりましたね」

陽子「うん、おつかれシノ」

綾「おつかれさま」

忍「ありがとうございます、陽子ちゃん、綾ちゃん」ニコッ


忍「学園祭が終わりましたけど」

忍「これからどうしますか?」

陽子「……うーん」

綾「アリスもカレンも帰っちゃったし」

忍「――」

忍「私は、陽子ちゃんと綾ちゃんとご一緒したいです」

陽子「……シノ」

忍「お二人がいなかったら」

忍「今日あった、色々なことを乗りきれなかったと思いますし」

忍「ありがとうございます」ペコリ

綾「シ、シノ……もう、照れるじゃない」

陽子「まあ、シノがそう言ってくれるんなら」

陽子「帰り、どこか一緒に行く? そういえばシノと綾と、3人で過ごすのは久しぶりだね」

忍「はい、嬉しいですっ」ニッコリ


陽子「――と、いうわけで」

陽子「悪いね二人とも。私は、二人と一緒にいるから」

男子A「うわ、マジか」

男子B「『大宮さんたちも打ち上げ、どう?』って誘おうと思ってたのに」

男子A「……まあ、猪熊はともかく、二人は疲れてるみたいだし」

陽子「なんで私だけ別なんだよ?」ジトッ

男子B「お前が二人をリードしろってことだよ」

男子A「猪熊は鈍感だなぁ」

陽子「い、言わせておけば……」プルプル

委員長「はいはい」

委員長「まったく、あなたたちは……打ち上げは自由参加なんだから、無理に誘おうとしないの」


忍「……あ」

忍「お二人とも、今日はありがとうございました」ペコリ
418 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/05(木) 01:14:51.50 ID:vG49zpyi0
男子A「……ま、まぁ」

男子B「お、大宮さん……その」

忍「はい?」

男子B「……あまり」

男子A「気にしない方がいいかなって」

忍「……?」キョトン

男子B「そ、その」


委員長「要するに」

委員長「大宮さんにあまり無理しないでって、言いたいみたいよ」

忍「……あ」ハッ

忍「気をつけます。今日は、打ち上げ出られなくて申し訳ありません」

男子A「……気にしないでくれ」

男子B「うん」

忍「はい、そうさせていただきますね」


忍「それでは皆さん、お先に失礼します」

委員長「うん、それじゃあね、大宮さん」

綾「ご、ごめんなさい……せっかくの機会なのに」

委員長「大丈夫よ、小路さん。今日、本当にお疲れ様」

陽子「それじゃな、三人とも。また後で」

委員長「うん、それじゃあね」


委員長「……あなたたち、言いたいことくらい、はっきり言いなさいよ」アキレ

男子A「う、言い返せねぇ……」

委員長「――ほら。二人とも、打ち上げの前にちょっと行かなきゃいけない場所があるのよ」

男子B「……え?」

委員長「久世橋先生が呼んでるって、さっき烏丸先生から聞いたわ」

男子A「……マジ?」

委員長「そう」

委員長「――大宮さん本人を行かせない代わりに」

委員長「あなたちに着いてきてもらうわよ」

男子B「……まあ」

男子A「大宮さんたちの代わりに、だったら仕方ないか」

委員長「……本当に、よくわからない所で一途ね」タメイキ
419 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/05(木) 01:16:17.84 ID:vG49zpyi0



――それから。
 私たちは近くのファミリーレストランで、ささやかながら打ち合げをした。
 適当に料理を頼んで、思い思いに食べるという感じで。
 なんといってもよく食べたのが陽子で、「これ美味いな……」なんて言っている内に、テーブルから料理が消えていった。
 シノは、「ふふっ、陽子ちゃんは相変わらず食いしん坊さんです」と、陽子をからかいながら、自分の取り皿に料理を取っ ていく。
 ……私は、というと。


「もう、陽子。私が取ろうと思っていたのに……」


 そんな風に友達をからかいながら、自分の取り皿に料理を載せていったりしていた。

 色々と言いたいこと(さっき、陽子に話した『想像』のこととか)はあったものの、今それを俎上に載せるのは無作法と感 じていた。
 ……せっかく、ささやかながらの『打ち上げ』なのだから。



「……陽子ちゃん、綾ちゃん」


 そんなことを思っていると、ふとシノがそんなことを言った。
 陽子は口に食べ物をくわえたままで、私はスプーンを取り皿にあてていた。


「私、アリスとカレンを悲しませてしまったかもしれません」


 どうすれば、いいでしょうか。
 迷うことなくシノは、シノにとっての本題を私たちに訊いてきた。


「……シノはさ、妙な所で真面目すぎるんだよ」


 最初に口を開いたのは陽子だった。
 いつも通り飄々とした口調のまま、シノに向けて陽子は言う。


「こう言っちゃ悪いかもしれないけど。授業中のシノみたいに、もっと適当に考えてみたらいいと思うよ?」
「た、たしかに授業中はお昼寝とかしてますけど……アリスやカレンに対しては」
「シノ、声が強張ってるわ」


 陽子に対してシノが言い返そうとしている所に、私は言葉を挟む。


「シノがアリスやカレンに対して、どれだけしっかりと考えているか、私は知ってる」


 でもね、と私は続けて、


「だからこそ――シノは、緊張しちゃダメだと思うの。シノが緊張してると、きっとあの二人も困っちゃうわよ」


 ここまで言ったところで、私は気付いた。
 こんなに自分の意見を言ったことなんてなかった、ということに。
 見れば、陽子は私の方へ嬉しそうな視線を向けている。
 ……どうしよう。何か言い返したほうがいいのかもしれない。
 と、思いながら私は、


「……だ、だから。『適当に』やりましょう、シノ?」


 陽子の言を借りながら、私もまた顔を赤らめてテーブルへと視線を落としてしまうことになった……。
420 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/05(木) 01:17:40.71 ID:vG49zpyi0



――カレンの部屋


カレン「……私は、シノが『好き』デス。アリス」

アリス「――」


アリス(カレンの部屋へと上がって、彼女に飲み物を出してもらってから)

アリス(すぐに、私はカレンからそう言われた)


アリス「……」

アリス「私も、シノが『好き』だよ。カレン」

カレン「私も、よく知ってマス。アリス」

アリス「……」


アリス「私は」

アリス「きっと、シノに対して」

アリス「……カレンも同じ気持ちなんだと、思うんだ」

カレン「……」

カレン「いいデス、カレン。話してくだサイ」


アリス「――きっと、だけど」

アリス「カレンもシノのことが好き……いや、大好きで」

カレン「……」

アリス「そして」

アリス「シノと一緒にいたい、って、そう思ってると……私は思うんだ」

カレン「アリスは、よく分かってマス」

アリス「――多分」


アリス「カレンも、カレン一人だけじゃ、シノの『想い』をかなえられないって」

カレン「……」

アリス「そう、思ってるんじゃないかなって」

アリス「……これは、私もそう思ってたんだけどね」

アリス「だから、きっとカレンもそう思ってるんじゃないかなって」

アリス「――どう? カレン?」


カレン「……Oh」コクリ

カレン「アリスはまるでエスパーみたいデス!」

カレン「……そうデス。私もシノが大好きデス」

アリス「……」

カレン「But」

カレン「私『だけ』じゃ、シノの気持ちに応えられないと思ってマス」

アリス「……カレンは、どうしたいと思う?」

カレン「――」
421 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/05(木) 01:19:22.08 ID:vG49zpyi0
カレン「私は、シノが『好き』デス」

カレン「……多分、今日の劇の相手の方が、私に寄せてくれていたのと同じような気持ちだと思いマス」

アリス「――!」ハッ

アリス「……つまり」

カレン「私はきっと、そういう意味でシノが『好き』なんだと思いマス」

カレン「……デモ」

カレン「シノは、そういう風に思われたくないんだとも思いマス」

アリス「……」


カレン「アリスは、さっき私と同じような気持ちだと言ってマシタ」

アリス「……うん」

カレン「アリスも、シノのことが……」


カレン「『Love』、なんデスカ?」


アリス「……」

アリス「私は」

アリス「きっと、シノのことが『Love』なんだと思うよ」

カレン「……」

アリス「でもね」

アリス「――シノにキ、キス、とか」カァァ

アリス「そういうことを考えられないのも、ホントなんだ」

カレン「……アリス」

アリス「だ、だから」

アリス「――わ、私は、カレンと一緒に」

アリス「シノと……そうだね」

アリス「陽子や綾とも違った関係だけど」

アリス「シノと――『そういう関係』でいたいかなって」

アリス「思うんだ……」


カレン「……」

カレン「やっぱり」

カレン「アリスは私の、Big sisterデス」

アリス「……カレンと同じ、なのかな」

カレン「Yes」


カレン「私も、シノのことが『好き』デス」

カレン「アリスと同じような気持ちなのもホントデス」

アリス「……」
422 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/05(木) 01:20:14.88 ID:vG49zpyi0
カレン「今日、色々と疲れたでショウ?」

アリス「う、うん……」

アリス「シノにもカレンにも――色々あって」

アリス「私も置いてかれ――い、いや! 私も疲れたなって」アセアセ

カレン「……アリス」


カレン「私と、オフロに入りませンカ?」ニコッ



――大宮家


忍「……」

忍「ただいまです」ガチャッ

勇「あっ、シノ……」

勇「大丈夫? 今日、疲れたでしょ?」ニコッ

忍「……はい」

忍「私のこともそうなのですが……それ以上に」

忍「カレンが――それに」

忍「アリスは今日、カレンの家に泊まるそうです」

勇「……そっか」


勇「それじゃ、お風呂に入ってきなさいな」

忍「え?」

勇「疲れた時は、お風呂が一番いいと思うわよ」

忍「……そう、ですね」

忍「ありがとうございます、お姉ちゃん」

勇「ん」ニコッ



忍「……」

忍(あの二人は、どうしているでしょうか)

忍(――アリス)



――カレンの家


アリス(シノ、どうしているかな)

カレン「シノは、どうしているでショウ」

アリス「……あ」

カレン「ほら、アリス。もうそろそろ、オフロが湧きマス」

カレン「……今日は、ゆっくりお休みしまショウ」

アリス「う、うん……」


アリス(――シノ)
423 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/05(木) 01:25:47.68 ID:vG49zpyi0
祭りの後で、の話。

このSSは、一応一年時で区切りとしようと思っていましたが、書いている内に二年時も書きたいという思いが……。
どう思われるでしょうか?

それでは、また。
次回は、それぞれの「思い」の見つめなおしの話になると思います。
424 : ◆jOsNS7W.Ovhu [sage]:2015/02/05(木) 21:29:39.72 ID:vG49zpyi0
>>420 訂正です。

☓いいです、カレン→○いいです、アリス
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/05(木) 22:31:39.39 ID:Z8LpDMhJo
乙でした
書きたいと思うなら思うままに筆を執られた方がよろしいのではないかと
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/06(金) 05:00:15.18 ID:1o+EjL6rO
おつ!

できれば二年時も書いてくれるとありがたい
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/06(金) 09:16:23.06 ID:sB79tP0AO
続けたい限り続けるのがいいと思います
428 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/09(月) 22:20:22.35 ID:CE1Yry1/0
レス、ありがとうございます。
久世橋先生をどう絡めるかで悩んでいますが、思いついたら書いていきたいと思います。



――九条家・浴室


アリス「……」チャプン

アリス「はぁ」

カレン「ああ、気持ちいいデス――」ウットリ

カレン「? どうしたデス、アリス?」キョトン

アリス「……」


アリス(たしかに、気持ちがいい)

アリス(カレンのお家のお風呂は、ホントに広くて)

アリス(浴槽は私とカレンの二人が入っても、まだまだ余裕がある)

アリス(誰かが、入れそうなくらいに……)


アリス「……シノも、お風呂に入ってるのかなって」

カレン「……」

カレン「アリス、シノとお風呂に入りたいデスカ?」

アリス「うん。今日、ホントに疲れただろうし、しんぱ――」ハッ

アリス「って、カレン!? な、何言ってるの!?」アセアセ

カレン「Hnn、そうデスカ。アリスはシノと……」

アリス「ち、違うよぉ」カァァ


カレン「そうデスネ」ジーッ

カレン「アリスの体格なら、シノと一緒に入っテモ」

アリス「カレン」ジッ

アリス「……お、怒るよ?」グスッ

カレン「冗談デス」

アリス「むぅ……」プンスカ

カレン「正直な所」

カレン「全く、そういうことを考えなかったというワケではないでショウ?」

アリス「……」


アリス(シノに会いに、日本行きを決意した時)

アリス(『日本といえばお風呂! お風呂といえば、みんなで! 日本に行って、シノと一緒に――』)

アリス「……考えたこと、あるよ」

アリス「で、でも。その時は、まだ――」モジモジ

カレン「シノが……『男の子』だって、知らなかったデスネ」

アリス「……うん」
429 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/09(月) 22:21:02.41 ID:CE1Yry1/0
カレン「――私も考えたことがありマシタ」

カレン「シノが『女の子』なら、一緒に入っていただろうなッテ」

アリス「……カレン」

カレン「But」

カレン「一緒にお風呂に入れないからとイッテ」

カレン「――『シノとアリスと、ずっと一緒にいたい』」

アリス「……!」ハッ

カレン「私のお願いが叶わないわけではありマセン」

カレン「むしろ――私たちがシノとの『違い』を意識してしマウト」

カレン「一緒に居づらくなってしまうかもしれマセン……」


アリス「――カレン、変わったね」

カレン「What?」キョトン

アリス「前のカレンだったら」

アリス「こういうお話をしてる間に、顔が真っ赤になってたもん」

アリス「今じゃ、まるで『お姉さん』っぽくなってるよ」

カレン「……」

カレン「I decided the resolution」

アリス「『覚悟を決めた』……そっか」

カレン「ハイ」

カレン「……一緒にいるといっテモ」

カレン「なかなか、キモチの面とかでカンタンなものではないと思いマス」

カレン「こうして強がってますケド、私だって不安でいっぱいデス」キュッ

アリス「……カレン」

カレン「アリスは、カクゴできてマスカ?」

アリス「……私、は」


アリス「そうだね」

アリス「……『カレンとシノと、ずっと一緒にいたい』」

アリス「その気持ちだけはホントだよ」

カレン「よく知ってマス」コクリ

アリス「――カレンみたいに、覚悟? 決めたわけじゃないけど」

アリス「ずっと一緒にいられたらなって……」

アリス「それだけ、かな」
430 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/09(月) 22:22:29.39 ID:CE1Yry1/0
カレン「……アリスは気負わずにいられてマス」

アリス「そ、そんなことないよ」モジモジ

アリス「シノと一緒に寝てると、朝起きた時とかいきなり脱ぎだしたり――」ハッ

アリス「い、今のなしっ!」ブンブン

カレン「一緒に、朝、脱ぎだした――」

カレン「……アリスは、Hデス」カァァ

アリス「カレンだって、やっぱり顔赤くしてる」カァァ


カレン「やっぱり、アリスだけじゃシノと一緒にいるのはキケンデス」

アリス「カレンだけじゃ、きっとシノと一緒に寝起きするだけでおかしくなっちゃうよ」

カレン「……私が、一緒にいてあげマス」

アリス「……私が、一緒にいてあげる」

二人「――」




 ――それから、私たちはひとしきり笑った。
 一緒に笑っていると、お互いに持っていたような不安が消えていくように感じる。


 結局、私たちはいくら強がりを言っても、最後には照れてしまう。
 ……それなら「一緒にいよう」と思うのは当然なんだろう。


(――シノ)


 私たちは、もう決めてるよ。大丈夫だよ。
 ……そっちは、元気にしてるかな?









――その頃、大宮家・洗面所



忍「……ふぅ」

忍(やっぱり、疲れましたね……)

忍(妙に身体が重いですし――あっ)ポトッ


忍「いけない、外し忘れてました」

忍(いつもなら、部屋で外してくる『詰め物』が落ちました)

忍(拾おうと身体を動かして――)


忍「……」

忍(洗面所の鏡に、私の姿が映し出されました)

忍(まっ平らな胸に、我ながら白い肌――)

忍(普段なら意識することのない自分の身体に、今日は……)
431 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/09(月) 22:23:13.41 ID:CE1Yry1/0
忍「……お風呂、入りましょう」

忍(自分で自分に言い聞かせるようにして)

忍(私は残りの衣類を脱いで、浴室の中へ)

忍(そして軽く身体にお湯を当てた後で、ゆっくりと湯舟に浸かります――)


忍「……」チャプン

忍(アリスたちも、今頃お風呂に入っているのでしょうか)

忍(お二人は、どんなお話をしているのでしょうか……)



――どうすれば、シノはムリをしないでくれマスカ?――

――キス、して……な、なんて、私、言わないよ?――


忍「……」

忍(いけない、理性が飛びかけてしまいました)フルフル

忍(――本当に、どうすればいいのでしょうか?)

忍(陽子ちゃんに言おうとした『隠し事』が)

忍(まさか、こんな形で関係してくるとは思いませんでした……)


忍「……」

忍(この身体――)

忍(白い肌、平らな胸……そして)

忍(――本当に)


忍(私は、二人と――)




――大宮家・廊下



忍「……あぁ」

忍「のぼせて、しまいました」フラフラ

忍母「シ、シノ!? 大丈夫?」

忍「……あ、お母さん」

忍「大丈夫、ですよ」

忍母「もう、そんなにフラフラしながら言われても説得力ないわよ?」

忍母「ほら、リビングで冷たい麦茶でも飲みましょう」

忍「……はい」
432 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/09(月) 22:23:43.19 ID:CE1Yry1/0



――リビング


忍「……ふぅ」ゴクゴク

忍「ありがとうございます、生き返りました」

忍母「良かったわ」

忍「はいっ」ニコッ


忍母「……ねぇ、忍?」

忍「?」

忍母「勇から聞いたんだけど」

忍母「――告白されたって、本当?」

忍「……」

忍「はい、本当です」


忍母「……忍は、どうしたい?」

忍「実は、まだ考えがまとまらなくて……」

忍「相手の方の連絡先は、持っているのですが」

忍母「……私も、勇と同じ気持ちだと思うんだけど」

忍母「どう、対応してもいいと思うの。それは本当よ」

忍「ありがとうございます、お母さん」

忍母「……ただ」


忍母「アリスちゃんやカレンちゃんは、どうするのかなって」


忍「――」

忍母「……あ」

忍母「ちょっと焦っちゃった。のぼせてるのに、こんな話題を振っちゃってごめんなさい」

忍「……いえ」

忍「私も、そのお二人のことで、色々と悩んでいるので……」

忍母「――無理、しないでね」

忍「はい」


忍「それでは、私はお部屋に」ペコリ

忍母「……忍」

忍「?」

忍母「私たちは、いつだって忍の味方だからね」

忍「……」

忍「ありがとうございます」ニコッ
433 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/09(月) 22:24:14.91 ID:CE1Yry1/0
 


 ――シノは、『男の子』だ。
 その事実を、私はあの子と最も長い付き合いであろう陽子ちゃんよりも、よく知っていると思う。
 当たり前だ。家族、なんだから。


「……」


 階段から音が聞こえてきた。
 寝転びながら雑誌を読んでいた私は、ゆっくりと身体を起こす。
 案の定、足音はこっちへ向かってきた。


「お姉ちゃん、いますか?」


 コンコン、とノックの音がする。


「いいわ、入って入って」
「お邪魔します」


 カチャリという音とともに、シノが部屋へと姿を現した。
 ……お風呂あがりのシノには、見る人の心を突く「何か」がある。
 本人はそこまで意識しているわけじゃないんだろうけど、相当な「女の子」らしさだった。


(……あの子にも同情するわね)


 今日、本気でシノに告白した彼を思い、私は軽く溜息をついてしまった。
 無理もない。この子を自分と同性だなんて、あの子が思うわけがない。


「シノ、どうかした?」
「……お姉ちゃんがよかったら、なんですけど」


 モジモジと少しだけ恥ずかしそうな素振りを見せながら、シノは切り出す。


「アリスがいないので、寂しくなりそうで……今日、ここで寝かせてもらってもいいでしょうか?」
434 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/09(月) 22:26:41.22 ID:CE1Yry1/0
ここまでになります。
カレンとアリスは自分の気持ちを整理したようですが、果たしてシノは……?

行き当たりばったりですが、いつもありがとうございます。
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/10(火) 15:54:39.25 ID:jHIdycQ/o
乙です!

最近更新頻度早くて嬉しいです。
この先どうなるのか気になって仕方ない!
436 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/12(木) 21:45:20.80 ID:cbPRxX2V0



――時間が流れて


カレン「……そろそろ、寝まショウカ」

アリス「あっ、そうだね」

カレン「お布団、敷きマスカ?」

アリス「ありがと、カレン」


カレン「えっと、布団ハ――」キョロキョロ

アリス「わ、やっぱりカレンのベッドおっきい……」

アリス「ダブルベッドでも、ここまでのサイズは……」

カレン「――と、思いマシタガ」

アリス「カ、カレン?」ピクッ

カレン「アリス、Please come in!」

アリス「え、えぇ……?」アセアセ



カレン「……」

アリス「……」

アリス(結局、入っちゃったけど)

アリス(なんでだろう、妙に落ち着かない)

アリス(そ、そっか。いつもお布団だから、久しぶりのベッドで――)

アリス(……いや、違う。きっと)

カレン「やっぱり、シノと一緒に寝たかったデスカ?」

アリス「!?」ビクッ

アリス「そ、そんなことないよっ」アセアセ

カレン「声、裏返ってマス」

アリス「……」


アリス「こうして」

アリス「カレンと一緒に寝るのは、久しぶりだから」

アリス「ちょっと、焦っちゃった」

カレン「――アリス」


アリス「ホントはね」

アリス「最初、日本にホームステイしようって決めた時」

アリス「……『カレンも一緒に来られたらなぁ』って」

アリス「ずっと、思ってたんだ」

カレン「……」

アリス「だから」

アリス「こうして、一緒にいられるのは幸せだなぁ、って」

アリス「……カレンと一緒にいるのは、すごく落ち着くよ」ニコッ
437 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/12(木) 21:46:08.22 ID:cbPRxX2V0
カレン「――アリスが、そういう子ダカラ」

カレン「私だけが、シノと一緒にいる、ナンテ」

カレン「そういう、独占欲? みたいなモノが持てないんデス」モジモジ

アリス「あれ? さっき、アリスだけがシノと一緒にいるのはキケンだ、って……」

カレン「……アリスはイジワルデス」プイッ

アリス「冗談だよ」クスッ


アリス「――私も」

アリス「私だけがシノを独り占めしたい、なんて」

アリス「思ったこと、ないよ?」

カレン「……前に、ヨウコとシノが接近した時、物凄く焦ってマシタ」

アリス「た、たしかにそうだけどっ」アセアセ

アリス「……でも」

アリス「なんだろうね。今日、シノがああやって告白されて」

アリス「それで、普段あんなに丈夫なシノが……」

アリス「私が見た中で、初めてあんなに疲れちゃってるのを見てから」

アリス「……一緒にいてあげたい、って初めて思ったんだ」

カレン「一緒にいたい、じゃナクテ」

アリス「うん。私だって、シノを守れるんだって」


アリス「――そう思ったら、何だか」

アリス「いちいち、焦ったりしてちゃダメかな、って」

アリス「……でも、ここでこう言ってても、どうなるかわからないけどね」

カレン「つよがりを言うのは、お互い様デス」クスッ

アリス「――カレン」

カレン「What?」

アリス「一緒に、いようね」

カレン「……」


カレン「こっちこそ、デス」ニコッ




――その頃・大宮家



勇「布団、敷いたわよ」

忍「ありがとうございます、お姉ちゃん」

勇「今日、本当にお疲れ様。疲れたでしょうし、早めに寝ましょうか」

忍「そうですね」

勇「それじゃ、電気消すわよ」

忍「はい」


勇「……」

忍「……」
438 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/12(木) 21:46:41.48 ID:cbPRxX2V0
勇「それじゃ、おやすみ――」

忍「は、はい」

勇「――の、前に」

勇「ほら、話してみなさい」

忍「……」

勇「そうして何かを抱えたような表情のままだと」

勇「あの子たちも、心配するわよ?」

忍「――そう、ですよね」

勇「……」


忍「――陽子ちゃんにも、綾ちゃんにも」

忍「アリスやカレンにも、言えてません」

忍「……今日、お母さんにはお話ししようかと思いましたけど」

忍「結局、話せないままでした」

勇「言いにくいことなのね?」

忍「はい」

忍「お姉ちゃんにも、言おうか迷いました」

忍「今日、促されなかったら、隠したままだったかもしれません」

勇「……」


忍「最初の『隠し事』は」

忍「アリスに言えなかった、その――『性別』でした」

忍「……そうですね、『隠し事』が増えちゃいました」

勇「――今日、シノがされた」

忍「はい。あの告白と関係しています」

忍「私は、目の前にきたあの方を、じっと見ていました」

忍「そして、思いました。『あ、この人も――』って」

勇「この人も?」

忍「……やっぱり『同性』ですから、何となくわかってしまいました」

忍「『この方も、私が、あの二人に抱いているのと同じ気持ちなんですね』と」

勇「……!」ハッ


勇「シノ。ひょっとして……」

忍「……」

忍「はい、私――」


忍「――ボクは『男』としてあの二人を見ているのかもしれない、と思いました」


勇「……」

忍「一度、そう思ってからは」

忍「なんだか、落ち着かなくなってしまいました」モジモジ
439 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/12(木) 21:47:24.96 ID:cbPRxX2V0
忍「――アリスやカレンが私に向けてくれる『好き』と」

忍「私が二人に対して持っている『好き』は……もしかしたら」

勇「ストップ、シノ」

忍「お、お姉ちゃん?」ピクッ


勇「……何となく」コホン

勇「シノの悩みは、そういう感じだと思ってたの」

忍「お姉ちゃん……」

勇「つまり」

勇「その……シノは」

勇「あの二人が――異性として、好きなんじゃないかってことね?」

忍「……はい」

勇「えっと、その――」

勇「いやらしい意味で、ってこと?」

忍「そ、そういうわけじゃ!」アセアセ

勇「……そっか」

勇「それなら、大丈夫じゃない?」

忍「わ、私は、あの二人とそういうことは――」

忍「え? お、お姉ちゃん?」


勇「だって」

勇「私の知ってるシノは、そういうことを考えられない子だもの」

勇「だったら、いいんじゃない?」

忍「……で、ですけど」

忍「この前、カレンの家にお邪魔した時、あ、あの二人に……」

忍「ほんの少し、行き過ぎたことを……」

勇「あ。もしかして、お酒のせい?」ニヤニヤ

忍「――わ、わざとじゃないですよ?」

勇「分かってるわよ……お母さんには、内緒にしてあげるわ」

勇「まあ高校生なら、そういうこともあるでしょ」

忍「……もしかしてお姉ちゃんも?」

勇「それは秘密」クスッ


勇「ね? わかるでしょ」

勇「……シノは、あの二人が好き過ぎるのよ」

忍「過ぎますか」

勇「シノ、変な所でマジメだから」
440 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/12(木) 21:47:52.59 ID:cbPRxX2V0
忍「……それ、陽子ちゃんや綾ちゃんにも言われました」

勇「さすがに、お友達はしっかり見てるわね」

勇「――だから、なるようになるの」

忍「……はい」


勇「今日の、あの男子に感謝した方がいいわね」

忍「あの方、ですか」

勇「おかげで」

勇「……シノの悩みが、はっきりわかったと思うから」

忍「……」


忍「お姉ちゃん」

勇「なぁに?」

忍「……私」


忍「アリスとカレンと、ずっと一緒にいてもいいんでしょうか?」


勇「……」

勇「シノが、そう決めたなら」

勇「私は応援するわよ」

忍「……い、いやらしいこと、とか」アセアセ

忍「考えたらどうしよう、って――」カァァ

勇「もう開き直っちゃいなさいよ」

勇「『あ、そういえば自分って男だからしょうがないか』って」

勇「そんな感じで」

忍「……い、言うのはカンタンですけど」

勇「大丈夫、大丈夫」

勇「――正直、シノがそういうことを悩むようになったことも」

勇「ある意味、成長だと思うわよ?」

忍「……」


勇「――さて」

勇「そろそろ、寝ましょうか」

忍「は、はい」

勇「明日は、アリスも帰ってくるでしょうし」

勇「一日遅れの、私たちの打ち上げ会とでも行きましょうか」

忍「――楽しみです」

勇「ええ」
441 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/12(木) 21:49:00.81 ID:cbPRxX2V0
 ――そう言ってからすぐに、お姉ちゃんのベッドから寝息が聞こえてきました。
 かなり、お疲れのようです。
 私も、そろそろ寝ないといけません。


「開き直り、ですか」


 ……正直、自信はあまりありません。
 たしかに私は、金髪少女――いや。
 今はもう、あのお二人が大好きです。


 以前、私の家に陽子ちゃんたちが泊まってくれた時。
 私はアリスとカレンに抱きついて、離すことが出来なくなりました。


 あの時は、今のように考えてはいませんでした。
 純粋に、好きでした。


(……純粋、に)


 いけません、そろそろ寝ないとです。
 明日、元気な姿をアリスに見せないといけません。


(アリス、カレン――)


 ずっと、一緒に……。



 ―


 
 ――夢の中。


 黒髪の少女は、花畑にいた。
 きらびやかな景色に目を細めて、同時に気配を感じる。


 そこにいたのは、二人の金髪少女だった。
 彼女たちは手を振りながら、黒髪の少女を招く。
「こっちにおいでよ」と。


 少女は、走りだした。
 そして、すぐさま二人の元へ辿り着くと抱き寄せた。
 肩をぶつけ、頬を寄せ合い、「好き」という感情を思い切りぶつけ合う。


 ふと気づくと、二人が上目遣いに黒髪の少女を見つめていた。
 頬を赤らめたまま、彼女たちは誘う。


 自分の口元へ。


 誘われるまま、黒髪の少女は、金髪少女の口唇へと自分のそれを寄せて――




忍「!」パチッ

忍「――あ」

忍「……」アセアセ

忍「や、やっぱり……」


忍「わ、私は――」カァァ
442 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/12(木) 21:52:58.37 ID:cbPRxX2V0
ここまでになります。
停滞した展開が続いていると我ながら思いますが、次回で何かが動く予定です。
どうなるかは未定ですが……。

SS速報に、新しいきんモザSSが立ち始めているようで嬉しいです。
二期が始まれば、相当多くなりそうですね。
……それまでに、このSSに一応の目処が立てばいいのですが。

それでは。
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/13(金) 02:59:37.76 ID:+5nmEC6Ko
乙です!
444 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:06:49.19 ID:vAo00jiG0



――九条家


カレン「おはようございマス、アリス」ニコッ

アリス「おはよ、カレン」ニコッ

アリス(ベッドの上で、私とカレンは挨拶を交わした)

アリス(ビックリしたのは、私が身体を起こすと同時に、カレンも起きてきたことだった)

アリス(……まるで)


アリス「考えてみたら」

カレン「What?」キョトン

アリス「……私とカレンは、もう『一心同体』みたいなものなのかな」

カレン「アリス……」

カレン「私のコト、そんなに好きデスカ?」カァァ

アリス「……」

アリス「うん、大好きだよ」ニコッ

カレン「わっ、からかったのに通じてマセン……」ガーン

アリス「カレンとは、これからもずっと一緒」

アリス「……そうだよね?」

カレン「――ハイ」コクリ


カレン「それデハ」

カレン「シノに、メールしてみまショウカ」ピッピッ

アリス「……うん」

カレン「私がアリスと一緒に行くと言っタラ」

カレン「シノ、ビックリするでショウカ?」

アリス「うーん……どうだろ」

アリス「ただ――嫌がったりは、絶対にしないよ」

カレン「Thanks、アリス」



――大宮家・勇の部屋


忍「……メール」カチカチ

忍「……」

勇「? シノ?」

忍「お姉ちゃん、おはようございます」

勇「あ、うん。おはよ」

忍「……」

勇「どうかした?」

忍「――そ、そのですね、えっと」
445 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:07:21.31 ID:vAo00jiG0
――それから・道路



カレン「……Hnn」

アリス「シノから返信きた?」

カレン「いえ……」

カレン「来マセン」

アリス「ま、まだ寝てるのかな?」

カレン「シノ、昨日はお疲れデシタ」

アリス(それを言うなら、カレンだって……)


アリス(でも、シノ……何だか引っかかるなぁ)

アリス「今まで、お昼前には絶対に起きてたもん」

カレン「……電話、してみまショウカ?」

アリス「あ、でもでも! やっぱり、寝てる所を起こしちゃうのは悪いかなーって」

カレン「アリスは優しいデス」

アリス「……もう」カァァ



――大宮家・前の道路


アリス「……つ、着いちゃった」

カレン「……」

カレン「会ったら、何を言えばいいのでショウカ」アセアセ

アリス「もう、カレン。そんなこと考えなくていいよ」

アリス「……シノなら、何を言ってもちゃんと」


忍「……あ」ガチャッ

アリス「ちゃん、と……」

アリス(玄関のドアの前に、大好きな人が現れた――)

カレン「シ、シノッ!」

忍「……おはようございます、お二人とも」ニコッ

アリス「お、おはよ、シノ」

アリス(おかしいな……シノ、笑顔がなんだか)

カレン「だ、大丈夫デスカ?」アセアセ

忍「……」

カレン「な、何だか、様子がおかしいデス」

カレン「メールに返信も来なかったデス」

忍「――」

アリス「……シノ」


忍「ごめん、なさい……」


アリス「!?」

カレン「シ、シノ……?」
446 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:08:24.74 ID:vAo00jiG0
カレン(目が、潤んでマス……?)

アリス(口元は笑ってるのに――目だけが何だか)

忍「少し、外出します」

アリス「……?」

カレン「そ、それなら、私たちも一緒に――」


忍「……それは、ダメです」

カレン「……」

アリス(目だけが……とても、悲しそう)


忍「ごめんなさい」

忍「それでは……」

カレン「シ、シノ!」

忍「……」

カレン「あ、あの――」


カレン「I'll be waiting for you no matter what!」


忍「――!」ハッ

カレン「何があっても」

カレン「ずっとシノを、待ってマス」

アリス「私もっ」

忍「……もう」


忍「本当に……なんて」


アリス(「なんて」の後は聞き取れなかった)

アリス(その後、一瞬の間にシノは私たちの前から姿を消していた)

アリス(……いつか、かくれんぼで見た「ニンジャ」のように)

勇「二人とも、おはよ」

アリス「……イサミ」

カレン「イサミ、一体……シノは、どうしちゃったんデスカ?」

勇「そうね」

勇「二人とも、入っていいわよ……あの子を待ってたいでしょう?」
447 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:09:07.17 ID:vAo00jiG0



――街中


陽子「……はぁ」タメイキ

陽子(結局、何だかモヤモヤした気分は消えないままだ)

陽子(あれだけシノに「適当に!」なんて言った癖に、当の私はこの有り様)

陽子(まだ、調子狂ってんのかなぁ……)

陽子(ん? そういやこのショッピングモール……)

陽子(前に、シノたちと一緒に――)

陽子「行ってみるか」



――エントランス



陽子「……ん?」

男子A「あっ」

男子B「……昨日ぶり、だな」

陽子「おっす」


陽子「校外で会うのは初めてか」

陽子「何か用事あったの?」

男子A「いや、特にはないな」

男子B「何となく、足が向いただけというか」

陽子「ふーん……」


男子A「それじゃ、俺たちは適当に館内回るけど」

男子B「猪熊はどうする?」

陽子「うーん……そうだね」

陽子「特に目的あるってわけじゃないし、私は――」

男子A「? そっちに何か……あっ」

男子B「あれは……」


忍「……」

陽子「シノ!」

忍「――陽子ちゃん」

陽子(……目が、潤んでる?)ピクッ

男子A「お、大宮さん」

男子B「何かあったのか?」

忍「い、いえ」

忍「……悪いのは、私ですから」

陽子「シ、シノ……?」

忍「あ、あの子たちに……」

忍「……」
448 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:09:48.11 ID:vAo00jiG0
陽子(……困ったな)

陽子(どうしたもんか――)

男子A「とりあえずさ」

男子A「そこの喫茶店にでも入る?」

陽子「……え?」キョトン

男子B「大宮さん、何かかなり寒そうだし」

男子B「それだったら、ちょっと一服でも……」

忍「……」

忍「そ、そういうこと、でしたら……」

陽子「え、え?」



――喫茶店


忍「……暖かい」

男子A「うん。暖房が効いてるな」

男子B「これで注文した紅茶でも飲めば、少し落ち着くんじゃないか」

忍「はい……」

陽子「……」


陽子(奥の席に私とシノが座り、対面には二人が座った)

陽子(流れで私も着いてきちゃったけど、さっきからどう話を切り出せばいいのか分からない……)

陽子(やっぱり綾の言うように、まだ私はキッパリできてないんだな……)


陽子「――あ、あのさ、シノ」

忍「陽子ちゃん……」

陽子「どうかした? 目、ちょっと赤いよ?」

忍「……」

男子A「……えっと」

男子B「連れてきておいて何だけど……もし、込み入った話になりそうなら、出てった方がいいか?」

陽子「……あー、そうだなぁ」

忍「いえ。お二人にも聞いて頂きたいです」


陽子「シノ……?」

忍「――お願い、できますか?」

男子A「……そういうことなら」

男子B「まあ、聞くくらいなら全然構わないぞ」

忍「……ありがとうございます」

陽子「……いいの、シノ?」

忍「はい」
449 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:10:19.68 ID:vAo00jiG0
陽子「――」

陽子(この二人に、ねぇ……)

陽子(たしかに男子の中じゃ、シノとの接点は多いけどさー)ジッ

男子A「なんだ、猪熊?」

男子B「言いたいことあったりするか?」

陽子「……いや、なんでも」ハァ



忍「――まず、初めに」

忍「私は、その……好きな方が、います」

陽子「……言っちゃうんだ」

男子A「す、好きな人が……」

男子B「それって――」

忍「はい」

忍「……大好きな、金髪少女が」

男子A「金髪、少女……」

男子B(ってのは、もしかしなくても……)

陽子「……シノ」


忍「私、は」

忍「純粋に、その子たちが大好きです」

忍「そう、思ってました……」

陽子「……え?」

忍「――でも」


忍「キス、する夢を見てしまいました」


陽子「!」

男子A「キス……」

忍「それから、ずっと」

忍「その子たちのことが頭から離れなくなってしまって」

忍「……い、いやらしい目で、見てるんじゃないかって」

男子B「いやらしい……」

忍「そんなことを、思うようになって……そ、それで」

陽子「シノ、無理すんな」

忍「そ、そうだったら」

忍「あの子たちにハグしたりしている時、こんな風に思うことなんてな、なかったのに……」

忍「――私は、あの子たちを好きでいることは」
450 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:10:46.37 ID:vAo00jiG0
陽子(……何て言えばいい?)

陽子(私はシノに、何を言えるんだ?)

陽子(昨日、綾と言えることは全部言ったはず……なのに)


男子A「え、普通じゃない?」

男子B「気にすることじゃないと思うけど」


陽子「」

忍「……は、はい?」

男子A「だってさ」

男子A「好きな相手を思って、おかしくなることなんていくらでもあるし」

男子B「うん、普通のことだと思う」

忍「……??」

陽子「お、おい、二人とも」


男子A「それに」

男子A「相手だって大宮さんを、えっと……好き、なのは確かなんだよね?」

忍「……そ、それは、そうだと思いたいですけど」

男子B「だったら、尚更だよ。それ、両想いってことだよ」

男子B「――というか、羨ましい」ボソッ

男子A「おい、本音漏れてんぞ」

男子B「……お前もそうだろ」プイッ

陽子(なんだろう……この置いてきぼり感は……)


男子A「それならさ、きっと」

男子A「大宮さんの……それが『いやらしい』ことだとしたって」

男子B「相手は受け止めてくれるんじゃないかな、って……俺は思う」

忍「……」

男子A「キス、か……」

男子B「おい、遠い目するのやめろ」

男子A「だってさ……両想いの相手とキス、なんて」

男子B「……ダメだ、俺も羨ましい」タメイキ

陽子(本音、ダダ漏れだな……)


忍「……キスも、いやらしいことも」

忍「あの子たちなら、受け容れてくれる……ですか」

男子A「と、思うよ」

男子B「そもそも、そこまで『そういうこと』で悩める大宮さんを、その相手が見放すことなんて考えられないって」

忍「……そ、それは」ハッ

忍「すみません、メールが……」ピッピッ

忍「――あ」
451 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:11:14.83 ID:vAo00jiG0
忍「申し訳ありません、みなさん。私、急いで帰らないと……」アセアセ

男子A「相手の人絡み?」

忍「はいっ」

忍「わ、私! あの子たちに、酷い所を見せちゃいました」

忍「だ、だから……えっと」

忍「お先に、失礼しますっ」

男子B「紅茶、どうする?」

忍「お、お金は今度、お返しします」

忍「それではっ!」ダッ



陽子「……」

男子A「わ、行っちゃった」

男子B「なんというか、意外と思い切った所あるんだな……大宮さん」

陽子「――なんだかなー」ジッ

男子A「? どうかしたのか?」

陽子「いや……」

陽子「あっさり、シノを勇気づけちゃうんだなぁ、と」

男子B「……まぁ、大宮さんはある意味、俺たちと『同じ』だから」

男子A「そうだって、何となく……『男』ならその気持ちが分かるってだけだよ」

陽子「――そっか」


陽子「男子、か……」

陽子(私は、イサ姉の次くらいに、シノのことを分かってるつもりだった)

陽子(今でも、そう思ってる……でも)

陽子(きっと、私やイサ姉が似たような励まし方をしたとしても……)

陽子(届かない範囲っていうのも、あるのかな)

男子A「で? 猪熊、これからどうする?」

男子B「俺たちは飲み物片付けたら、適当にブラつくけど……」

陽子「ん、私は帰るよ。それで――」


陽子「シノからの連絡、待ってようと思うんだ」クスッ


男子A「……やっぱり、親友だな」

男子B「まったくだ」

陽子「まぁ、ね」
452 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:11:46.70 ID:vAo00jiG0



――大宮家


勇「……お帰り、シノ」

忍「た、ただいま、お姉ちゃん」

勇「あの子たち、シノの部屋で待ってるわ」

忍「わかりました」

勇「……へぇ」ジッ

勇「さっきより、だいぶ調子が戻ってきたみたいね」

忍「私と『同じ』人に、励まされちゃいまして」

勇「――そっか」

勇「それじゃ、行って来なさい」



――忍の部屋



忍「……」

アリス「あっ」

カレン「シノ!」

忍「……」

忍「ごめんなさい、お二人とも」

忍「――」グスッ

アリス「シ、シノ!?」ビクッ

カレン「な、泣いちゃダメデス! 私たち、何も怒ってマセン!」アセアセ


忍「……ありがとう、ございます」

忍「で、でも――私、さっき」

忍「大好きな二人を置いて、飛び出して――」

アリス「……シノ。ここに座ってくれる?」ポンポン

忍「……アリス?」

カレン「ここデス」

忍「ベッドの上……?」


忍「……」

アリス「ああ、シノの隣だぁ……」ニコニコ

カレン「気持ちいいデス……」ウットリ

忍(右にアリス、左にカレン……)

忍(お二人が、私の肩に寄りかかって、頬を擦りつけています……)

忍「――『普通』ですか」

アリス「え?」

カレン「シノ、どうかしマシタ?」
453 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:12:13.51 ID:vAo00jiG0
忍「ねえ、アリス? カレン?」

忍「そ、その……もし、私が」

忍「お、お二人に、えっと――」

忍「い、『いやらしいこと』をしたら……」

忍「どう、思うかなーって……」カァァ

アリス「」

カレン「」


アリス「ど、どど、どうしたのシノ?」カァァ

カレン「い、いやらしいことって、え、エェ……」カァァ

忍「ご、ごめんなさい」

忍「その――た、例えば、えっと」

忍「キス、とか……い、いえ! 私、しませんけどっ」ブンブン

アリス「シノと……」

カレン「キス、デスカ……」

二人「……」ジッ

忍(お二人が、私を見つめてきました)

忍(愛しくてたまりません……だからこそ)

忍(私は、どうしたらいいのか迷って……涙まで流して……)


忍「……いえ」フルフル

忍「やっぱり、聞かなかったことにしてください」

アリス「……シノ」

忍「私は」

忍「やっぱり、お二人が心から大好きです」

カレン「シノ……」

忍「……だから」


アリス「……ねぇ、シノ?」

忍「は、はい?」

カレン「シノ、私たちといやらしいコト、したいデスカ?」

忍「そ、そんなことは!」アセアセ

忍「……ちょ、ちょっとある、のかもしれません」カァァ

カレン「シノは素直デス」

アリス「そっか、シノ、したいんだ……」

忍「あ、あまり繰り返さないでください……!」
454 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:13:34.78 ID:vAo00jiG0
カレン「……それじゃ、シノ」

アリス「ちょっと目、つぶってくれる?」

忍「……え?」

アリス「いいから」

忍「――」

カレン「せーのっ」

アリス「せっ」


ピトッ


忍「」

カレン「……どうデシタ、シノ?」モジモジ

忍「」

アリス「い、いやらしいことってきっと……これ、かなぁって」アセアセ

忍「……な」


忍「何するんですかぁぁぁぁ」ガタッ

カレン「わっ、シノが泣き始めマシタ」

アリス「シノ、ごめんね? 歯、当たっちゃった? 痛かった?」

忍「ほ、ほっぺたが熱くてたまりませんっ」アセアセ

カレン「いやー、さすがにその……く、クチビルは」カァァ

アリス「て、照れちゃうよぉ……」カァァ

忍「だ、だからって……もう」



ダキツキ



カレン「……シノ」

忍「こうなったら」

忍「せ、責任とって、ずっと一緒です!」

アリス「……」

忍「お二人とも、離れちゃダメですからねっ」

アリス「――うん」


アリス「ぜんっぜん構わないよ、シノ」ニコッ

カレン「願ったり叶ったり、デスッ!」ニコッ
455 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:14:11.55 ID:vAo00jiG0
 ――こうして、私たちは一緒になりました。


 お二人からの「不意打ち」は、私の中でもなかなか処理できないことでしたけど……。
 そのことも、二人の愛しさにとって代えられてしまいました。


「……」


 いつも通り、目が覚めます。
 脳裏には、先ほどの夢の映像が焼き付いていました。
 二人のほっぺたに、私が……口づけをするシーンが。


「――アリス、カレン」


 隣で眠っている二人の大切な金髪少女。
 その姿を見ながら、私はベッドから下りて――


「……ん」
「んぅ……」
「――あ」


 やってしまいました。
 二人のほっぺたに、一回ずつ。
 その直後、私の顔がとても熱くなりました。
 どうして、寝起き直後の私はこうなのでしょうか。自分で行動もコントロールできないなんて……。


「……ま、まぁ、いいですよね」


 あの二人曰く、「普通のこと」。
 お姉ちゃんによれば、「開き直っちゃっていいこと」。
 そうです、大丈夫です……多分。


「さて、と――」


 その足で、私は窓に向かいます。
 そこにかかっているレース状のカーテンをパッと開いて、


 眩しい朝日が差し込んできました。


「……おはよ、シノ」


 私たちの、新しい日が始まります。


「シノ、おはようデス……」


 寝ぼけた顔のまま、二人が挨拶をしてくれました。


 こうして、私たちの日々は続いていくのでしょう。
 ずっと、このままでいてくれたら……いえ、違います。


「おはようございます――」


 ずっと、このまま一緒にいます。


「――大好きなアリス、カレン!」


 そう、決めたのですから……。
456 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/25(水) 23:17:37.62 ID:vAo00jiG0
ここまでになります。
ここで一旦、一区切りとします。最後の描写も、おしまいを意識したためです。
何はともあれ、これで三人は両想い(?)になりました。

まだ色々と書いていないイベントもあるので、今後それを書いていきたいと思います。
まさか、ここまで長引くとは思っていませんでした……。

それでは。
……陽子のラッキースケベ書けるかな。
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/26(木) 03:45:28.96 ID:lU7iUB59O
乙です!

ラッキースケベ期待ww
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/26(木) 11:13:55.56 ID:s/3czD+/O
乙です!
シノもついに性に目覚め(?)たか
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/27(金) 08:33:46.66 ID:uytkCngAO
とりあえず最大の問題は解決したのかな…
460 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/28(土) 14:24:39.34 ID:sdsAm8tr0





――これにて一旦、本編は終了です。




――「アリスとカレンと一緒になる」というTrue Endを迎えたため、追加エピソードが表示されました。



     『本編』

   ニア 『追加エピソード』





――『追加エピソード』が選択されました。



   『追加エピソード』

   ニア「モザイク少女たちのそれから」

    「告白のお礼」

    「幼なじみ・再考」

    「秘かに進行する校内事情」

    「12月23日  〜クリスマス前日〜」
    
    「 2月14日 〜バレンタイン当日〜」
   




――「モザイク少女たちのそれから」を開始します。
461 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/28(土) 14:25:15.33 ID:sdsAm8tr0



――勇の部屋



勇「……朝、か」

勇(目をこすりながら、ふと思う)

勇「そういえば、今日は『三人』なのよね」

勇(結局、昨日カレンちゃんは泊まっていくことになった)

勇(使っていない布団を一つ出して、そこであの子は寝ることにしたみたい)


勇「……いきますか」

勇(普段着に着替えて、身体を伸ばして目を覚ます)


勇(廊下に出て、何となく思う)

勇(昨日から、シノたちはどうなったんだろう、と)

勇「……行ってみないとわからないわよね」

勇「おはよ。三人とも、起きてる?」コンコンッ

勇「……入るわよー」ガチャッ



――忍の部屋



勇(ノックをしてから部屋に入った私が見たものは――)



アリス「シノと隣……あったかい」ウットリ

カレン「シノのほっぺた、気持ちいいデス……」スリスリ

勇(……アリスは肩に寄っかかり、カレンちゃんは軽く頬ずりしていた)

勇(当のシノは、というと……)

忍「」

勇(あっ、固まってる)


忍「――そ、その、ですね」モジモジ

忍「えっと……は、恥ずかしい、です」カァァ

アリス「え? シノ、いつも私たちにこうやって――」キョトン

忍「あ、あれはっ」

忍「……まだ、『こういうこと』を自覚してませんでしたし」カァァ

カレン「Oh、シノが照れてマス……」

アリス「いつも、私やカレンの役だったのに……」

勇「シノは基本的に無自覚なまま、あなたたちのことが『好き』だったからねぇ」タメイキ


アリス「あっ、イサミ!」

カレン「いつからそこニ?」

勇「ノックしたのに、気づかれなかったから……」
462 : ◆jOsNS7W.Ovhu [saga]:2015/02/28(土) 14:26:11.94 ID:sdsAm8tr0
勇「ところで、シノ?」

忍「な、なんでしょうかお姉ちゃん?」

勇「――もう」



勇「『男』でしょ?」



忍「……!」ハッ

アリス「わっ!」

カレン「イ、イサミ……」

勇「シノのことを、こんなに『好き』でいてくれる二人のお相手さんに」

勇「……あなたがしっかりしないとダメじゃない?」

忍「――その通りです」

忍「お姉ちゃんの言う通りです」

忍「私、頑張ります!」グッ

カレン「おお、シノの顔がSeriousニッ!」

アリス「ありがと、シノ。でも、大丈夫だよ?」

忍「……アリス?」

アリス「さっき」モジモジ



アリス「私とカレンの、その――ほ、ほっぺたに、キスしてくれたでしょ?」カァァ



忍「」

勇「あら……」
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