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垣根帝督「はぁ? 俺はオタクじゃねえぞ」

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939 :やったね国民の祝日だよ!  ◆q7l9AKAoH. [saga]:2017/10/09(月) 04:55:35.66 ID:CdsvNY5b0

マジかマジかよマジですか!!!!!
三木氏、三木氏、待ってた!
今度は遠慮せず描き下ろしに心理定規をおねがいしようぜ!!
最高にハッピーなニュースのお祝いにモバコインだけじゃない準備もしたんだ。
1、頂点で『スクール』のデッキくむんだあSSR復刻頼む


ネタが経過で長くなりすぎたから番外編の

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1507488194/

を立ててみたんだ。
良かったらこっちも付きあってくれるとうれしいなって>>1は肝心の進捗からはプイっとしてみる

>>932
1、無事死亡

>>933
おつありっすらっこさんはかわいかったよな

>>934
そんな必要なさそうだもんな。実はツンッ………デレくらいのきもちでかいている

>>935
うそだ、それ恐い笑顔だろ?!

>>936
冷え込むこの頃、保守ありです。
それは…一括で?分割にしときます?今なら22回払いの高級布団が

>>937
な!!!!!!
ちくせう、け○フレ砲にすっかり霞んじまってたじゃないか力ド力ワァ!

>>938
えっ動、1、そんなんぱずでっくすいらいだよ?むり
940 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/08(金) 05:01:13.89 ID:KJFJ+ctoo
真珠湾dayだし、奇襲的な発表とかないかな。
垣根主人公の公式スピンオフとか
941 :以下、名無しのかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/18(月) 21:14:32.99 ID:GHmpuWv20
15巻でなんで直接交渉権を得ようとしてたのか未だに分かってないしな〜
942 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「二日目・放課後」  ◆0S9Trjf4dQ [sage saga]:2017/12/22(金) 01:54:32.31 ID:NN+oq12q0

放課後、コンビニに漫画を読みに行くはずだった美琴の予定は大幅に変更されていた。
途中でばったり顔をあわせた亘木にパシリ…じゃなく買い物を頼まれた、と思ったらいつのまにかよく合うメンバーが集まっていた。
みんなでキャッキャ喋っているうちに、最初に声をかけた目的を放っておかれた亘木は、
『コンビニ行くのかいかないのか、どっちです?』と怒っているのかすねているのか、はたまた脅迫でもしたいのかよくわからない調子になってしまった。
きっと文句を言いたいのを、他の生徒の手前我慢しているのだろう。
ずいぶんマイペースそうな奴よね、と美琴は中身の垣根のことを勝手にそう思っていたのだが。
もしかしたら他人のペースに持ち込まれるのは意外と苦手だったりするのだろうか?

とにかく、ラーメンがどうしても食べたいらしい亘木の愚痴につきあっているうちに、他の生徒も興味を示し……それじゃあみんなで作って食べてみよう!ってことになってしまった美琴たちは調理設備を借りてラーメンを作ることになった。
なんでそうなっちゃったのか美琴は急展開にちょっと戸惑ったが。
ちらっと亘木の様子を確認すると、予想に反して嫌そうな態度ではなかった。
こっそり、それでいいのか聞いてみると、
『みなさんで支度してくれるんですよね』とこれまた予想外な返事が返ってきた。

コイツ…少し待てばラーメンが食べられる、と言うポイントで折り合いつけやがった。と言うか常盤台のお嬢さままでうまいこと使おうとしてる?! とあまりの図々しさには美琴も開いた口がポカンだ。
でもこの人数でコンビニは行きづらいわよね……と美琴が悩んでいると、話を聞いていた土御門舞夏がどこからか材料を調達してきてくれた。
カップ麺ではなくてゆでるタイプの袋麺だ。
カップラーメンの話にも湾内たちは驚いていたから、これはもしコンビニに行っていたら未知の世界の解説に時間がかかって当分帰ってこれなかったかもしれない。
まさかコンビニエンスストアで買い物くらいは……したことがあるだろうと言いきれないのが「学舎の園」の怖い所でもある。
ジャンクフードだと言う以上にレトルトパックのラーメンの具は、食材の下ごしらえから吟味したいタイプのメイドさんには美学に反するらしいが。
要望をかなえるのも仕事の内らしくちゃんと揃えてくれた。
その割には具のチョイスが男子の好きそうなガッツリめの物まで押さえてあって、庶民的な料理までカバーする見習いメイドの力量に湾内たちは驚いていた。
そうして。
「なんか国民食ってことになってるらしいけどお嬢様は知らないゾ? な麺料理を体験してみる会」が臨時発足した。

作ると言っても麺をゆでて具材とスープを用意したくらいで、出来はまあ普通のよくあるラーメンだった。
それでも一人前をきれいに平らげた亘木は満足したらしい。
美琴や、ラーメンに縁のなかった湾内たちはみんなで少しずつ分けて試食した。
白井はハイカロリーなおやつにぶつぶつ言っていたが湾内たちは初遭遇らしいラーメンを楽しんでいる様子で、
(やっぱり普段から部活でハードな運動してるとカロリーとか気にしないのかしら……)と美琴は思いついてハッとした。
でも、下手なことを言うと飛び回って移動する=日ごろから運動不足なのでは? な疑惑のあるルームメイトが余計なリアクションをしそうだ。
聞いてみようかと思ったが我慢して静かにしていた。
体型やダイエットの話は白井にもタブーらしくたまにおっかない。
美琴は……どことは言わないけどもう少しくらいボリュームが出てきてもいいのになあと別ベクトルな悩みならある。


「ところで貴女、見ない顔ですけれどお姉様とはどう言ったご関係ですの?」

『ああ、先日転入してきたんですよ。御坂美琴さんには……まぁ、色々と良くしていただいてます』

「それはそれは。お姉様はどなたとでも分け隔てなく接される方ですから…で・す・が! その優しさにつけ込むような振る舞いをもしなさったらこの白井黒子、貴女が上級生といえども容赦はしませんわよ?」

『そんな。食器を下げてもらっただけでずいぶん大袈裟ですね』

フシャー、ガルガルなんて唸り声を後ろに背負っていそうな白井は、亘木を睨みつけるようにしてなんだか物騒な忠告をしてきた。
初対面でずいぶん嫌われたものだ。
亘木はそこまで敵視される覚えがないからか平気な様子だ。
白井が新顔をけん制している間、後片づけしている水泳部の二人と美琴は水道の前できゃっきゃと楽しそうにしていた。
湾内が能力を使うとあっと言う間に食器がきれいになっていく。

『あちらの方の能力は…『水流操作』ですか? へえ、便利なものですね』

「ええ。湾内さんったらまたお姉様のお役にたって、ううっ黒子くやしくなんかありませんわっ」

『そう言うあなたは…白井黒子……ああ、『空間移動』ですか。レベル4の? 風紀委員もなさっているんですね』

「そうですが。一体それがどうかしましたの?」

わざわざ妙な聞き方で生徒の間では有名だろう事実を確認してくるのに首を傾げる白井。
じいっと彼女を見ていた亘木は興味深そうにしていた目をひときわ細めて笑った。

『いえ、でしたらきっと御坂美琴さんも鼻が高いでしょうね。有能な後輩をもつと』

「それは……そうですわね? 黒子はいつだってお姉様のおそばに!」

わたくしもお手伝いしますわ!! とテンションが復活した途端に美琴につっこんでいく白井を、亘木は一人優雅に座ったままでながめていた。

そのあと湾内たちは用があると言って、白井は風紀委員の仕事があると言って泣く泣く、それぞれ美琴たちと別れた。
暇な二人があとに残ってひと騒ぎあった前のように戻る。

「よかったわね、ラーメン食べられて」

目的を達成しておまけに満腹だと機嫌もいいのか、亘木は少しにこやかに見えたから美琴も安心して声をかけた。
普通にしているときの亘木はしかめっつらをしている訳でもないのに不機嫌そうと言うか。
何を考えているのかよくわからない、そんな少し近寄りがたい雰囲気があった。

「アンタこの後はどうすんの」

『また校内をみて回る予定だけど……』

「なに?」
943 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「二日目・放課後」  ◆0S9Trjf4dQ [ saga]:2017/12/22(金) 01:57:38.85 ID:NN+oq12q0

言葉の途中で亘木は何か気になったのか建物の先の方を睨んでいた。
つられて美琴がそっちを見ると廊下の向こうから誰かが歩いてくる。
多分三年生だ、二人の生徒は亘木を指さしながら何やらはなしていた。

「ああ、よかった。いらっしゃいましたわ」

「ええとわたりぎさんでしたかしら? あなた音楽はお好き?」

『何か用でも?』

「本日音楽鑑賞の集まりがありますの。よろしかったらご一緒にいかが?」

『そのお誘いは、私だけにですか』

相手の話をきいてから、横に居た美琴を示すように首を傾げる亘木の口調も表情も硬い。
何故か急によそよそしい態度になったことに、美琴は慌てて亘木の肩を引っ張った。
さっきは機嫌よさそうにラーメンすすっていた奴が一体どうしたって言うのか。

「何? アンタ急にどうしたのよ。ちょっと声掛けられただけでそれ、ないんじゃないの」

背後の二人に配慮してひそひそ話しかけると亘木はあからさまにムッとした顔をする。
一応、顔に出さないようにしていたのかと一瞬感心しそうになる美琴だが、そもそもその辺の女の子に問答無用でガンくれる方がおかしいはずだ。

『ああ? とりあえず目につく奴は全員容疑者だ。疑ってかかって何がおかしいんだよ』

ドラマ、いやマンガみたいな展開のおかげで女子中学生に混じって潜入捜査真っ最中のお兄さんは意外と真面目なことを言う。
顔をあわせてから何度か、のんびりドタバタ学園日常パートをしているから美琴はちょっと忘れかけていたが、本人はそうでもなかったらしい。

『この状況で有名人のテメェじゃなく俺に声かけてくるってのは、なんか裏があると見ていいだろうが。なあ?』

それにしても身構えすぎてないかと言うセリフを大真面目、いや当たり前のように言ってくる。
あえて意識してるのではなく普段からななめに物を見ているのか、と言うくらい自然な発言に美琴はちょっと引いた。

「ええー…アンタ実はネガティブだったりする? 近寄ってくる人に、『コイツは自分を利用しようとしてる』とかいちいち考えちゃうお年頃なの?」

[彼女面白いこと言うわね。確かに貴方はちょっと過敏すぎる気もするわよ]

んん?
とつぜん近くで女の子の笑い声が聞こえた気がして美琴は驚いて辺りを見回した。
だが、後ろの二人は美琴たちが相談している(ように見えるんだろう)のを遠巻きに伺っているし、今捕まえている食蜂カスタムで美少女モデルな第二位が声の主でもなさそうだ。

『(そうでもねえとやってらんねえだろ。ったく、とっとと終わらせたいんだこっちは)』

[別にいいんじゃない? 仕事への意識が高いのも結構だけど、お嬢様だらけの空間を満喫してきたら]

『(だーかーら。何でそう言う話になんだ?)』

よく見れば唇だけ動かして亘木――垣根は誰かと喋っていた。
このタイミング、至近距離で美琴が気付いた感覚から音源は能力ではなく通信機器だろう。
いくら第二位でもたった一人で常盤台に乗り込んできたんじゃなさそうだ。
女の子のふりをするんだし、相談相手でもいるんだろう。
そう言えばたまに一人でぶつぶつ言っていたようにみえたのは変なやつだからじゃなくてこのせいだったのか。

そんな風に、いままでもなんとなくあった違和感の正体がわかって美琴も納得した。

ちょっと混線したのか一瞬やりとりが聞こえたけどその後の会話の中身までは、はっきりわからなかった。
向こうの相手にも何か忠告されたのか。
むすっと面白くなさそうな顔をしている垣根に、美琴の怒ってやろうと言う気も先を越されて行き場をなくしていた。

「とにかく、その…元人殺しのアンドロイドみたいな迎撃態勢やめてよ。感じ悪いわよ」

『はあ? その辺の奴にも愛想をよくしろって?』

「うん。そっちのがかわいいわよ」

嫌味のつもりかにっこり笑って見せた亘木に美琴は親指をグッと立てて返した。
意味わかんねえ、と目で訴える亘木をもう一度ぐるっと振り向かせると、美琴は取り繕うように笑った。
待たせていた二人組に、
「この子は転入して来たばっかりで一人だと心配なのよね」と説明する。
後ろに立ってはいけないスナイパーみたいにあちこち威嚇しているやつを放っておくのはとても心配だ。
美琴も別に間違ったことは言っていない。
けど、それを聞いた女子生徒の反応は予想外だった。

「えっ。み、御坂様もご一緒に? ああ、わたくし以前からぜひお話したいと思ってたんですのよ? 御坂様夕食後、ご予定はございますか」

「え? えっと待ってね。アンタ行くの? なら……」

急に、あわあわしてはいるがものすごい勢いで美琴の発言にくいついてきた。
亘木を誘いにきたんじゃなかったのか、メインゲストのはずの当人にどうするか確認しようとしていると。

「会長? 今日は急に欠員が出てしまいましたから声を掛けましたけど。そちらの彼女がいらっしゃるならもう定員ですよ」

もう一人、隣の生徒にきっぱりお断りされてしまった。
944 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「二日目・放課後」  ◆0S9Trjf4dQ [ saga]:2017/12/22(金) 02:00:13.98 ID:NN+oq12q0

鑑賞会の会長らしい方の少女はすっかり忘れていた、と言う顔をしたが美琴も加わりそうなチャンスが諦められないらしい。
さっきの美琴たちのように話し合って、何とか出来ないか食い下がっていた。
結局。
会長自らルール違反をしていいのか、ときっぱり断られてしまっていた。
どうやらこの生徒は集まりのリーダーと言ってもそこまで独裁的に無理を通すようなタイプではないらしい。

「もう、いつも怖いんですから。残念ですわ。あの、御坂様? もしまた機会がありましたら」

「そうねーありがとう。で、アンタどうするの? 折角だし」

『まったく……一人でも大丈夫ですよ、お優しい御坂美琴さん』

二人の上級生は亘木に場所と時間を説明するから、と美琴に礼をして離れて行った。
と思ったら何故か会長の方だけ戻ってきた
握手だけいいかしら? と言われて美琴は差し出された手を握る。
どこかのアイドルじゃないんだから、と思うが超能力者はいろいろと特別視されてもおかしくない。
この校内でさえ、上級生でも多くの生徒は年下の美琴にこの態度だ。

「うふふ、あの風紀委員さんに怒られてしまいませんかしら」

「黒子に? いや、あの子だってこれくらい……うん。見てないから大丈夫!」

変に隠してもいない。
常盤台では美琴と白井が仲がいいのは知っている生徒も多い。
もしかしたら、間違ってもいないがちょっと一方的で偏った誤解をしている人もいるのかもしれないが……そんなことしないわよ、ときっぱり否定できないのが悲しい。

一人になった美琴は、このあとどうしよっかなーと小さく伸びをした。
そろそろ自分の寮に戻ろうか。
ついでにコンビニに行きびれたから立ち読みをしてもいいかもしれない。
そんなことを考えながら廊下を進んでいくと、湾内とまたはちあわせた。
聞くと資料室に用があると言うのでおしゃべりついでに美琴もそこまでついていくことにした。
湾内は部活が無い日はこうしてよく自習していると言う、真面目だなあと美琴は感心した。

「先程はご馳走様でした。とても楽しかったです。」

そう言えば亘木はどうしたのか聞かれた。

「なんとかの夕べって言う音楽鑑賞会に参加するって三年生についてったわ」

あの二人が亘木に説明していたような気もするが、横で見ていただけだ。
美琴もちゃんと覚えていたわけじゃない。
すると、湾内はちょっと考えてから「プシュケー」確か……ギリシャ語で魂や心を意味する単語を頭につけて美琴の言葉を復唱した。

「それでしたら以前に耳にしたことがありますが、他の会員の方に声をかけていただかないと参加できないそうですわね」

わざわざ探してまで勧誘に来たのもきっとそのせいだろう、と美琴は話を聞いて納得した。
無所属の美琴は聞いたこともなかったが派閥は幾つもあるし、いろんな集まりがあるんだろう。
なんて話しているうちに資料室についてしまった。
すると今度は、近くに婚后が居るのをみつけた。
彼女も用があるのか扉の前で様子をうかがっているようだが中には入らないのだろうか。

「どうしたの?」

「あら御坂さん、湾内さん」

婚后に亘木を見かけなかったか聞かれて、上級生に呼ばれていったと教えた。
一瞬残念そうな顔をしたように見えたが。
あっと思った美琴が声を掛ける前に、もう婚后はにっこり笑っていた。

「なら良かったです。わたくし少しばかり考えすぎていたようですわ」

「あら婚后さんは亘木さんと仲がよろしいんですか? わたくしはつい先ほど御坂様のご紹介でご挨拶させていただいたんです」

「ま、まあ……よろしいと言えばよ、よろしいのかもしれませんが、いえその。お部屋で少しお話をさせていただいたんです。よろしければまた、と思ってましたが予定がおありなら仕方ありませんものね」

婚后は一人で空回りしてしまったことを恥ずかしそうにしていたが、わざわざ亘木が行きそうなところを見て探していたのか。
お昼の時に一緒に居たのももしかして気にして話しかけに行ったのか。
ふと思い出して気付いた美琴は、あの時のちょっと居心地悪そうにしていた亘木のリアクションが頭によぎって苦笑いした。
そりゃあ、女の子扱いどころかお嬢様扱いであれこれアドバイスや世話を焼かれたら男子はあんな風に、
「どうしろってんだ」みたいな態度になってしまうかもしれない。

「彼女、ご自身の能力にあまりよく思わないところがおありらしくって。そう言ったこともおひとりで悩まれてはよくないでしょう?」

どうやら、どんな能力を使うのか聞いてみたらそんなことを言われたらしい。
そう言えば私もよく知らないわね、と美琴も今更に気付いた。
第二位、と言うのも微妙なポジションで。
有名すぎる第一位や、研究や活動と忙しい第三位、常盤台と言う一勢力を牛耳る第五位、のあたりと比べるとそれ以外の超能力者は不思議とその実態が噂にものぼらない。
他の生徒たちを同じように『書庫』に登録されているだろうからきちんと調べれば情報はでてくるかもしれないが。
同じ超能力者の美琴でさえこうして会うまでどんな奴か、名前も性別も知らなかったくらいだ。

婚后はわけありで怪しい転入生をずいぶん気にしていたらしい。
あんな……見た目はその辺の子に負けないくらいかわいいし隠れ巨乳だけど、実は中身が男で裏表が激しそうなやつのことでも心配している。
ただ純粋に人を思いやれるそのまっすぐさにただただ美琴は感動していた。
945 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「二日目・放課後」  ◆0S9Trjf4dQ [ saga]:2017/12/22(金) 02:02:19.66 ID:NN+oq12q0

「婚后さんって…ほんっといいひとよね!」

「お優しいですね」

「わっわたくしは、亘木さんのご学友の一人として当然のことを」

美琴と湾内に褒められて、片手で顔を隠しながら首を振る婚后。
なんて謙虚なのか。
同じ人間でも超能力者のアイツらとは大違いよね! と大きな人間性の差に美琴がぐっときていると。

「そういえば御坂さん? 寮監様がお探しになっているのを見かけましたが何か御用事が?」

「あーっ!! この前の門限破り、反省文書けって言われてたんだった!」

「そ、それは大変ですわね」

いい話の余韻をブチ壊す爆弾が降ってきた。
常盤台学生寮の寮監督、それは常盤台の秩序の象徴であり同時に最終兵器でもある驚異の存在だ。
お嬢さまが相手と言っても能力者には変わりない。
レベル3以上の能力者だけをあつめた学校では一般的な教師以上のものが教員に求められる。
寮監は警備員並みに、いやそれ以上に学生の鎮圧に長けた超のつくスペシャリストだ。
大能力者を一度に三人無力化したのは生徒ならだれでも知っている有名な話で、校則に非常に厳しい彼女に逆らおうとするものは学園内にはほぼ皆無と言っていい。
噂を含めて多少盛られているかもしれないが。
お嬢さま相手に容赦なく処罰(掃除など)を課したりお説教が怖いのは確かで。
事実、こればっかりは超能力者だっておっかないのが寮監だった。


二人と別れてから、なんとかそれっぽい言い訳……反省文をでっちあげた美琴は。
あわてて寮監のいる監督室に着くと、ノックをしてドアを開けようとした。
だが、丁度そのタイミングで一瞬早くドアが開く。
入れ違いに出てきたのは美琴より背の低い女子生徒だった。
彼女は人がいてびっくりしたのか、美琴を見ると目を見開いてぱっと頭を下げた。

慌てて通り過ぎる時に何か、花のようなにおいがした。
化粧品や香水は禁止されてるのに、と美琴は一瞬不思議に思ったがもしかしたらそのことで呼び出されたのかもしれない。

部屋に入った美琴はあれ、と拍子抜けした。
寮監は大体いつもピリピリしている(美琴がしょっちゅう怒られているからだが)のに、なんだか雰囲気が違っていた。
手に持っていたのはアイピローとちいさな置物だろうか。
おまけに黒い猫の形をしたずいぶんかわいいデザインだった。
実は女子力が高いのかもしれない、なんてちょっとおかしくなったがそこをつつくと余分に怒られるかもしれないので静かにしておく。

寮監は前回の違反についての説明を聞きながら反省文に目を通すと、

「よし。少しは生活態度を見直しなさい」

脅しめいた処罰のお話もなし。
何だかいつもよりあっさり解放してくれた。
やっぱりちょっとマイルドかもしれない、と美琴は最後に気になっていたことを聞いてみた。

「さっきのそれ。もしかして、寮監もかわいいものが好きだったり……します?」

「別に私の趣味じゃない、もらい物だ。こう言うのが好きなら猫野と話があうかもしれないぞ」

「……誰?」

さっき出ていった女子、彼女は一年の生徒で猫野緋十実。
学校生活で色々と悩みがあるらしく寮監によく話をしにくるのだと言う。
気になるなら今度声をかけてやりなさい、と寮監は話したが。
(寮監って、生徒の悩み相談とかもするんだ)
と、ちょっと違う所が気になってしまった。
ただおっかないだけの人ではないらしい。
その猫野さんは真面目なのか、話を聞いてもらったお礼にと寮監の肩をもんだり、リラックスするからと言ってああ言った小物をプレゼントしたりしていくそうだ。

「この仕事をしていると何かと疲れるからな、ありがたく使わせてもらっている」

「あー、私てっきりあの子もなにか違反してそれで呼び出されたのかと……」

そこまで言いかけて美琴はハッとした。
完全に藪蛇で、「規律をきちんと守っている生徒もいること」や「少しは他の生徒を見習い真面目に生活することで私の負担を減らしてくれるとうれしいのだが?」とせっかく少なく済みそうだったお説教は結局追加されてしまった。

ゲコ太に限らず少女っぽいものが好きな美琴は同年代でも少数派だが、別にこんなところで趣味の同輩探しがしたかったわけではない。
プレゼントだったとは、あっけないオチは少し残念だった。
寮監の意外な情報がゲットできたら黒子とちょっと盛り上がれたかも……なんて失礼なことを考えていると、

「どうした御坂。にやにやしていないで、早く寮に帰りなさい」

とキッとした目で言われてしまった。
来たときと同じくらい慌てて美琴は退散した。
946 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「二日目・放課後」  ◆0S9Trjf4dQ [ saga]:2017/12/22(金) 02:05:31.76 ID:NN+oq12q0

紅茶、甘い菓子、うっすら混じる香草のようなにおい。
最初に気付いたのがにおい、次が音だった。
重い響きのクラシック、オーケストラか。
首を少し動かすと背中の方で柔らかい感触がした。
座りごこちのいい上質なシート。
コンサートホールにでも来たなんてずいぶんとらしくない夢を見ている……。
そう思っていた垣根は違和感に目をあけた。

『ん?』

思わず漏れたはずの呟きが聞きなれない女の声で、寝ぼけていた脳みそが一瞬混乱する。

[あら、目が覚めた? 貴方さっきからちっとも返事しないんだもん。しっかりしてよね]

『……るせ』

あくびで隠そうとする仕草で誤魔化しながら、聞こえないくらいの声で悪態をつく。

[呼びかけてあげてたのに随分ね? またモーニングコールが必要?]

向こうにはばっちり聞こえていたらしい。
まさか心理定規の声に救われるとは、少し悔しくて垣根は眉をよせた。
耳元の音声で瞬時に状況を思い出した。
そう。
今は『スクール』での任務の真っ最中だ。
生徒の誘いに乗って謎の集会に潜入中……だと言うのに
少しうとうとしてしまったのか、気づけば一度照明を落としていたはずの部屋は明るくなっていた。
ぼんやりまばたきをしている亘木をみて隣に座っていた少女はくすくす笑っている。

「お気になさらないで。緊張がほぐれたんですわ」

どうも、と愛想笑いと会釈を返した亘木は見えないように伏せた顔をまたしかめた。
まったく、とんだ失態だ。
誘われてやってきた、『プシュケの夕べ会』が使用している部屋は確かに居心地がよかった。
広さはわずか十二畳くらい、教室などの規模を考えると狭い方だろうが、ここが学校の中だとは思えない上質な寛ぎ空間が整えられている。
心地よい温度の空調、ソファのすわり心地、ついでに睡眠不足も垣根のガードを崩すのに一役かっていたのかもしれない。

肝心の活動内容の方は古いレコードを最新式のプレイヤーと音響効果で楽しむ、と言うなんとも現代のお嬢様らしい趣向だった。
およそ中学生らしい趣味ではなさそうだが常盤台なら…と言うやつだ。
次に流れてきたのはピアノ曲だった。
テンポが遅いわけではないが、なんだか余計に瞼の重くなりそうな曲だ。

「先日お話した曲です。ぜひみなさまの感想をうかがいたいわ」

「会長はご自分で曲もお書きになるんですの」

親切に聞いてもいない解説をしてくれるのはさっきとは別の少女だ。
集まっているのは亘木を入れて全部で十人。
この派閥未満の交流会は、「音楽と美しいものを恋人に」と言う趣旨で上流にふさわしく感性を磨くための集まりだと言っていたが。
新顔の居眠りを見逃すくらいには、そこまで格式ばったお堅いものでもないらしい。

「ケーキ召し上がりませんか」

「よろしければお茶だけでも」

テーブルに並んだ甘いものをすすめられるが、亘木は笑顔で断った。
おままごとじみたお茶会だなんてそんなつもりで来たわけではない。

「楽しんでいただけてるかしら?」

ここに呼んだ張本人、会長が寄ってくると横に座っていた少女が亘木の隣を譲った。

「亘木さん、聞いていた通りお可愛らしい方ね」

『そうですか』

「ええ。ここには美しいものしか置かないの」

そう言って、誇らしげに振り返ってみまわした室内は彼女の趣味なのか。
壁の絵、美術品のように並んだ食器……ドイツや中国の古い陶磁器が多い。
どれも十九世紀のフランス風の貴族趣味だった。
ここは他の小さな派閥と共同で使っている場所だから集まりの度にいちいち片づけてはまた持ち込むのだと言う。
授業以外の設備の管理担当や、設営に関わる使用人の様な立場の人間がいるらしい。
なるほど、生徒が主体で何かしているからと言って関係者が当人たちだけとは限らない。
垣根にとっての組織の下っ端のように黒子役…意識しない駒の役割をこなしている人間がいるのか。
そうなるとやはり調査の対象には生徒以外の人間も含めた方がよさそうだ。
今後こう言った派閥に目をつけて、水面下で調査をするならまた、あの女王の手を借りることになるかもしれない。
なんて、面倒なことを考えていた垣根だったが。
ふと目の前に置かれたカップに目をやった。
白いソーサーとカップは他に並んだアンティークのセットとは種類も価格もどうみても違った。
ワンポイントでプリントされた動物の足跡柄は場の雰囲気に浮きすぎるくらい子供っぽい。
急に用意したにしてもずいぶんなギャップがある。
947 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「二日目・放課後」  ◆0S9Trjf4dQ [ saga]:2017/12/22(金) 02:07:08.94 ID:NN+oq12q0

「お気にめさなかったかしら。またいらして下さるなら貴女の分もちゃんと用意しますわ」

ぼんやり見ていると、それを不満だとでも受け取ったのか心配そうに声を掛けられた。

「会長。また食器を買うんですか」

「もう、綺麗なものはどれだけあってもいいんです。こちらのセットは今ぴったり揃っているの。次は何にしようかしら、亘木さんも何かお好みのものがあったら言ってくださいな」

既に亘木の分を買うつもりだろうか。
さりげなく、押しの強い勧誘に話を振ってくる。
自分の空間にいるからか初対面の印象よりもずいぶんと積極的だ。お嬢様と言うのはこんなものかもしれないが。
はあ、ええ、と適当に相槌を打っていると会長のコレクション自慢がはじまった。
この会のメンバーが使っているティーセットはペアカップが六組で一つのシリーズになっていて、色違い同柄で統一されているところもとても気に入っているとかなんとか。
意味のわからない話を流すのも亘木は慣れたものだった。

『ああ、こちらの会は十二人参加してるんですね』

カップの数から連想して、亘木が適当に呟いた言葉に会長は首を振った。

「いえ? 今日お休みの方を入れて今は十一人。ですから、亘木さんが来て下さると丁度人数も揃って素敵なのよ。どうかしら? 楽しい時間を共有する集まりですから。たまたまみなさんと好みがあって音楽をかけてますけど、ここでの活動は別にクラシック鑑賞に限らなくってよ?」

にっこり笑うと会長は最後に握手を求めてきた。
とりあえず亘木が出した手を両手でぎゅっと包むと、
「ぜひまた遊びにいらしてね」とずいぶん熱心に念押しされた。


お嬢さまの鑑賞会かお茶会か、もしくは両方が済んで亘木は自分の部屋に戻ることにした。
大きなあくびをしながら亘木は天井を眺めた。
注意深く様子をみていたが餓鬼のつまらない集まりにしか思えなかった。
なんだったんだ、と首を傾けて部屋に戻る。
何かあるのではと身構えていったのに何もなかった。肩透かしもいいとこだ。
悔しいが美琴の言った通り怪しんであれこれ考えすぎたのかもしれない。

『(そっちで話聞いてても何もなかったか)』

[そうね。ずっとクラシックがかかってたから……]

ふわぁ、と間抜けなあくびの音がして垣根は頭を左右に振った。
垣根の近くの音声を拾って聞いていただけの心理定規にも眠気を誘うような、退屈な集まりだったのは間違いなさそうだ。
時間は一時間半くらいだったか。
していたことと言えば、音楽をかけてそのあとお茶とお喋り。
念のため他の生徒の会話にもそれとなく気を配っていたが特に怪しい話題はなかったようだった。

『(無駄骨折っただけかよ。ったくめんどくせえ)』

と、垣根は手の中のカードをひっくり返した。
案内状は香水でもつけてあるのかハーブのような匂いがした。
文面には次回の開催日しか書かれていない。
時間も場所も決まっている内輪の集まりならこんなものだろうか。
熱心に勧誘していたが新入りの亘木がお友達クラブに参加する気も、機会ももうないだろう。
948 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「二日目・放課後」  ◆0S9Trjf4dQ [ saga]:2017/12/22(金) 02:16:52.17 ID:NN+oq12q0

[はよざいまーっス]

朝。
嫌なものだが慣れはじめてしまった、制服への着替えをしている垣根の耳に呑気な声が聞こえる。
今日はゴーグルが担当らしい。
支度を済ませると校外の連中の調査報告なんかを聞きながら、他の生徒たちに混じって移動する。

[そう言えば垣根さん、昨日の夜中なんかありました?]

『(何が)』

昨夜、いや日付は今日か。
ゴーグルが夜中にアニメをみていたら垣根の変声機が使われている様子があったと伝えられた。
垣根は知らなかったが故障や不備に備えてこの装置の使用状況は常にモニタリングされていたらしい。

[なんかカッコイイんで、使用中は解析にあわせてステータスバーが出るようにしてもらったんスよ。今も垣根さんが喋ってるとランプとかついてます。で、深夜に誰かと話でもしました? あ。なんか心理定規が、垣根さんがもてて困ってるらしいって言ってましたけど…男だってばれてないっスよね]

『はぁ? 何言ってんだお前ま…で』

つい声に出してしまい垣根ははっとしたがもう遅かった。
周りはひそひそ、咳払い、目があった向かいの席の女は気まずそうに頭を下げてくる。
今は食堂で朝食の最中だ。
当たり前だが大声を出すと目立つ。

食事をさっさと詰め込むと亘木は食堂から出た所で一人立っていた。
もうすぐ朝の門限だが授業の方に構っている余裕はない。
そんなことよりもさっきの話題を詳しくさせているが、誉望の話も要領をえなかった。
もちろん深夜の異変の方だ。
亘木の同性間の交友関係には話すようなことは何もないのだから。

[いや、録音とかはしてないですよ。垣根さんにもプライバシーがあるんスから、その辺は俺達も配慮して……]

『(使えねえな)』

会話をしているのでは、と考えたなら音声データが残っていれば話は早い。
だが、解析結果のログも残していないからそもそもさかのぼって調べることができないと言う。
モニタリングしているのもあくまで垣根が使っている機器の状況把握のための機能なので、ごく個人の周辺と言っても音声を保存していると事前に常盤台側と取り決めた契約内容に問題が生じるらしい。
変声機の使用があったなら、その場で内容は確認しなかったのかと聞くと。
実際の声は聞いてもいないしスピーカーにもしていないからわからないと言われた。
ただ誉望がアニメ見ているときにランプが点灯しているのを見て、
「あれ、垣根さんなんかしゃべってんのかな」と思ったくらいだと言う。

仮に、確認したくても通信機器のメインマイクのオンオフは垣根の持っている端末に対応しているから、そっちが切られていたら無理だと返される。
確かに寝るときなど必要なさそうな時は直通の通信は切っていた。
何かあれば携帯に連絡がくることになっている。

[こっちもですね、俺たちイヤモニ隊がスタンバってる以外で四六時中マイクをオンにしてる意味ないじゃないですか]

『(役に立たねえな)』

[つっても垣根さんだって、任務だからって勝手に寝言まで聞かれてたらキモいっスよね? なんかあったら気まずいしおっかねえっス]

『(もうお前の勘違いなんじゃねえの)』

[いや〜うーーん……あ。ちょっと待ってください]

そう断ると誉望は黙ってしまった。
少しして垣根の端末に画像の添付されたメッセージが届く。

[エンカとっておこうとして撮ってた中にありましたよ! ほら!]

嘘じゃないですよ! と騒ぐ奴と、もともとは中心になっていただろうアニメ画像の一部は無視しておいて。
確かにそこにはモニタの端に縮小されて映る装置の稼働状況と、解析イメージを可視化したウィンドウが一緒におさめられていた。
データの詳細はそれだけではわかりそうもないが、使用中らしい山形のバーの連なりは垣根の発声にあわせたものなんだろう、と言う想像は簡単についた。

『(やっぱただの寝言ってオチはねえだろうな)』

[寝言にしちゃあ長かったっスよ? ちょうど誰かと話してるくらいの間隔で……二時前って垣根さんなんかしてました?]

『(いや。昨日は見回りもなかったからさっさと寝たぞ)』

ゲームしながらぶつぶつ言っているような奴に、実は独り言激しい方ですか? なんて聞かれるのはなんだかムカついた。
だが、そう言われるとますます不思議になってくる。
垣根は確かにその時間寝ていたし、夜中にトイレに起きてもいないはずだ。
一応聞いてみたが、事前にいろいろ試していた時も呼吸やいびきくらいではこんなデータはでてこないらしい。
垣根がイラつきながら降ってわいた問題に頭を悩ませていると。

「ちょっと」

「何かあったのかしらぁ?」

キッとした顔とニヤニヤ笑い。
二人の中学生が垣根の前に立ちはだかった。
949 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「二日目・放課後」  ◆0S9Trjf4dQ [ saga]:2017/12/22(金) 02:18:43.08 ID:NN+oq12q0

三人はまた空き教室に移動する。
椅子に座らせた『未元物質』を囲んで、『超電磁砲』と『心理掌握』が並び、まるで取り調べ現場のようになっていた。
この部屋はここ数日で、能力値やAIMのスカウターでもあれば一瞬で蒸発しそうなくらい能力者の濃すぎる空間と化している。
食堂での亘木のちょっとした挙動不審はいつの間にかこの二人にも察知されていたようだ。

二人はそれぞれお友達から亘木の話を耳にして、何かあったのかと探しているところを合流したと言う。
揃って、なにかあったのは割れてるんだ吐いてもらうぞと言った様子だ。
多分バックれようとすると余計にうざったいことになることうけあいだった。
朝っぱらから超能力者対抗鬼ごっこなんてやっている暇はない。

ちくしょう、と垣根は美少女の顔で毒づいた。

仕方なく。
心底嫌そうな態度で、二人にも事情を説明した垣根は最終手段に訴えることにした。
食蜂に昨夜の記憶を探らせる。
もうそれくらいしかこの疑問を解決する方法はなさそうだった。
任務中に出てきた疑問点を放っておくわけにはいかない。
何より手がかりが今現在もほとんどないのだ、当たれるものは潰していくしかない。

「あらぁ? おかしいわねぇ」

リモコンを自分と亘木の頭にそれぞれ向けて記憶情報の一時的な同期をしていた食蜂は首を傾げた。
該当時間の垣根の記憶を洗ってみても、誰かと話していたなんてものどころか部屋を出歩いた記憶もない。
つまり昨夜の垣根は確かに自分の部屋のベッドで寝ていたはずだと食蜂も言う。
今度こそ、『心理掌握』が頭の中を調べたのだから間違いない筈だ。
誉望がここで嘘の情報を持ち出してくる理由もない。

「待って…あんまり考えたくないけどぉ、これって他の容疑者の人たちと同じよねぇ?」

「垣根さんも誰かに操られてるってこと? いつ誰にそんなことされたのよ。て言うか! 男の人は大丈夫なんじゃなかったの?」

「あくまで仮説力の話だったから、確証があった訳じゃないのよぉ。でも……もしそうなら困ったわねぇ」

「俺、何でこんなとこにいるんだ?」

[垣根さんが記憶喪失に?!]

誉望が誰も聞いていないのをいいことにまたふざけているが、急な記憶障害でも哲学的な自分探しでもない。
ふざけた任務でふざけた格好をさせられて散々な目にあっているのにまさかの、前提から的外れ&自身が被害にあった疑惑。
この連撃は垣根にもこたえるだろう。
わざわざスカートを履かされた苦労が無意味だったとは思いたくもないはずだ。

少し時間をおいて。
「こうなったらさっさと解決してとっとと出てく。元凶のヤツはブッ潰す」と、垣根が物騒な方向に気分を持ち直したところで。
改めて問題にとりかかることになった。
仮に操作されているとして、なにか思い当たるような能力者との接触があったか、と言えば。
放課後ラーメンを食った連中か参加した音楽鑑賞会だろう。
それを聞いて美琴がいち早くPDAを操作する。

「……いないわよ。アンタが昨日会った中に、精神操作の出来る能力者なんて」

スペースの使用許可の為に学校側に提出している『プシュケの夕べ会』の名簿も引き出してきたようだが。
それもあわせて『書庫』で調べても一致しそうな人物はいないと言う。

「ほら。あの会長さんも気流操作よ。レベル3」

見てよ、と言った美琴から亘木は端末を奪い取る。
彼女の言った通りそこに並んでいた『書庫』の検索結果の中には洗脳どころか念話能力者でさえ見つけられなかった。
むしろ能力の面では生徒たちに共通点があまりない、学年もばらばらで本当にただのお遊びの会だった可能性が強まる。

「仕方ないわねぇ」

そう呟くと食蜂は肩からかけていたバッグのチェーンをおろした。
中から無数のリモコンを取り出す。
それを、まるで威嚇する拳銃のように亘木に向けた。

「はっきりしないってことは、疑惑力もゼロじゃないってことよねぇ。こうなったら……垣根帝督、アナタの頭の中徹底的に調べさせてもらうわ」

「ちょっとアンタ、そこまでする気?」

美琴は思わず、と言った様子で二人の間に割り入ろうとした。
食蜂は対象を完全に意識のない操り人形に出来るほどの精神操作能力者だ。
その彼女が…徹底的になんて言ったら、一体どんなことをするのかわかったものではない。

「事前に教えてあげただけ良心力あるでしょぉ? ここに最新で最重要の手がかりがあるのに放っておける? もし洗脳済みなら、私たちも危ないわぁ。今手を打たないといけないじゃない」

そう言われると、美琴も反論できなくなる。
もしも。
第二位の垣根が、常盤台で悪さをしているような誰かの操り人形になっていたら……第三位の美琴ではまず敵わないだろう。

「アナタにはちゃんと協力してもらうわよぉ。最初からそのつもりでここまで来てもらったんだしぃ?」
950 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「二日目・放課後」  ◆0S9Trjf4dQ [ saga]:2017/12/22(金) 02:22:08.21 ID:NN+oq12q0

緊張しているのか、笑っているはずの口元が少しひきつっている。
もう一度リモコンを持ち上げる食蜂。
当の垣根は、と言うと、
「仕っ方ねえ。テメェに貸し作るみてぇで気は乗らねえが……やっとつかんだ手がかりだ。やれよ。そのかわり、成果が出なかったら覚悟しとけよ」

肩をすくめてそう言うと耳元と首に手をやる。
その時美琴には、何かの信号が途絶えるのがわかった。

「アナタの頭の中を丸裸にさせてもらえるなんて、私もとぉっても嫌☆ でもこっちも全開力でやらせてもらうわぁ。これ以上、私に恥をかかされちゃたまらないもの」

この件の黒幕に散々探査網を潜り抜けられているのは彼女も我慢ならないらしい。
最初に『心理掌握』で片がついていたら、そもそもこんな話にもならなかったのだ。
食蜂からすれば自身の力不足と言う評価にもつながりかねない事態は相当悔しいのだろう。

それぞれ覚悟を決めたらしい超能力者二人は互いに笑みを浮かべた。

垣根の能力の何が干渉して食蜂の能力に影響するかわからない、と言われて垣根は一瞬目を閉じて考えるような仕草をした。
目を開けて右から左、と視線を巡らせるといいぜ、と呟く。
彼の能力はもちろんその影響下にあるものへの解除はそれですんだらしい。
読心潜行005、幼児退行401……と呟きながら食蜂は次々リモコンを持ちかえてボタンを押していく。
そうして下準備がすんだのか。
食蜂はフフンと一仕事終えた様子で腕を組むと、
「あ、一応御坂さんは外に出ておいてねぇ。何かあった時に『忘れられないエピソード』は頭に入れたくないでしょ?」と言って美琴を振り返った。
これからいろいろ自白させられるだろう垣根本人はもちろん。
記憶の消去が完全に出来るかあやしい美琴にも気をつかったのか部屋から出ていくよう促した。

言われるまま二人を残して美琴は部屋を出る。
一応、気にしてドアの前でこっそり聞き耳を立てた。
何かトラブルがあった時にどちらも止められそうなのは美琴だけだ、何とかしなくてはいけない。
それくらいの責任はこの話に関わってしまった時にばくぜんと感じていた。
数十秒、数分、しばらくの間何か早口で話す垣根。
それに質問しているのか誘導しているのか声をかけているような食蜂の様子。
少し間を開けてなにか物音がする。
行動の再現でもしているのか、合間に二人の声が混じる。
一体何がおきているのかも外からはよくわからないまま、食蜂の取り調べは進んでいく。

「ああ。そう言うことねぇ」

ふと。
何か発見したのか食蜂がそれまでより大きな声で呟いた。

「きゃあ?!」

「何だよ」

「別になんでもないわぁ……ふぅん」

「今度は何だ」

「へぇ〜〜」

「何なんだテメェ」

余裕がでてきたのか、二人の雰囲気は最初の緊張感からはずいぶんゆるんでいるようだ。

「ふふふふふ…ねえ、アナタってぇ、意外と……ぷふふ」

「真面目にやれっつってんだろこの馬鹿、あ? なんだ? 何がそんなに笑えたか、テメェの頭に聞いてやろうか?」

「ちょっとぉ乙女相手に野蛮力にも程が、いたぁい!! みっ御坂さぁん、終わったから! もう終わってるからぁ! 早く助けてぇ!」

情けない悲鳴にげんなりしながらドアをあけると、亘木に拳骨でこめかみをえぐられている食蜂がいた。
見かけ上は少女の微笑ましいキャットファイトだが、中身のことを考えるとずいぶん大人しいおしおきだ。
意外に紳士的なのかしら、と美琴は思ったが。
普通は、特に男子は女の子相手にそう簡単に気軽な暴力に訴えたり電撃やドロップキックをかましたりしてこないはずである。

「どうせ大したことがなくても人をからかってくるんだから。まじめにこいつの相手すると疲れるだけよ」

「だからってクソ生意気なやつを放っといてやるほど俺は優しくねえんだよ」

どうやらガチのブレインウォッシュは無事に済んだらしい。
それを察して垣根も美琴も軽口を叩いている。

「もぉ! 二人とも、この先ずーっと私につき従いたくなる様にしてあげてもいいんだからねぇ?」

「いい度胸だなコラ」

「ふざけんじゃないわよ?」

「暴力反対よぉ!!」

リモコンを振りかざして文句を言っていた食蜂は、上位の二人から同時ににらまれてたまらず悲鳴をあげた。
かに見えたが、
951 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「二日目・放課後」 ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2017/12/22(金) 02:27:45.71 ID:NN+oq12q0

「いいわよぉ。意地悪な人同士仲良くしてればいいんじゃないかしらぁ?」

「は? 痛っ?!」

バチン! と美琴の頭に何か弾いたような衝撃があった。
食蜂のやつ、懲りずに人にリモコンを向けたらしい。
いつもきかないって愚痴っているくせに何をしてるんだか…と呆れと痛みに美琴が頭を押さえていると。

「美琴ちゃーん!!」

「だぁー! なに、ちょっとー!」

「美琴ちゃーん! かわいい!」

「嫌ぁああなに!! なんなの!」

急に亘木が抱きついてきた。
おまけに頭をもしゃもしゃ撫でられる。
なんだどうした、と突然の奇行に美琴が引いていると、食蜂はニヤニヤしながら勝ち誇ったようにポーズをきめる。

「ふ、ふふふ……これでアナタたちは三分間は問答無用でラブラブよぉ!!」

「なんっ、なんで急に操作され……いた、いたたねえちょっと、頭おさえないで?!」

「さっきまで私の前にすべてをさらけ出していたていこちゃんの頭をちょっとお花畑にするなんて簡単よぉ。能力面のセキュリティも今は心配なさそうだし。無防備力全開でガバガバな割に前に仕込んでおいたセーフティとの競合でちょーっとおかしな結果になってるのは……さすが私の洗脳力、どっちもつよぉいってことかしらぁ?」

第三位に通用しない洗脳が第二位にあっさり通ってしまった。
ハイテンションなドヤ顔でタネあかしをすると食蜂は近くの椅子を引き寄せて座った。
ニヤニヤ楽しそうに混乱しきった状況の二人を眺めはじめる。
食蜂はラブラブと言ったが。
なぜか動物王国の主とそのおともだちのようになっていた。
一方的に亘木に頭を撫でられているが、もしも美琴も正気を失っていたらバカップルのようにいちゃつくことになっていたのだろうか。
中身はクールなお兄さんの超能力者が異様なハイテンションで構おうとしてくる現状でも十分に地獄絵図だというのにもしかしたらそれ以上に悲惨なことになる筈だったのか。
邪智暴虐『心理掌握』、相変わらずの鬼畜の所業だ。

「どう見ても女の子なんだけど、本当は違うのよね……垣根さんしっかりして!」

「じっとしてろって。ったくかわいいなーお前。よしよし」

女子とは思えない(実際違う)腕力で、抵抗しようとする美琴を押さえつけて亘木はにこにこしながら頭をなでなでし続けている。
超能力者三人しかいないからと音声の細工をやめているせいで声が元のままだから、見た目とあいまってとても怖い。
美琴は小柄な白井にセクハラされるのも嫌だが、綺麗なオカマにかわいがられているような状況も非ッッッ常に嫌なんだと知った。

「御坂さん、どうなってるかよく見えるようにしてあげましょうかぁ?」

「こんのお、外道!! あっそうだ、お願いがあるのよ。ちょっと聞いてくれる?」

「何だよ美琴ちゃんなんでも言えよ」

大型犬をよーしよししているモードにでもなってしまったような亘木は手を止めて返事をした。
残念ながら電撃は通じないだろうから攻撃できない。
うっかり怒らせるのも多分怖い。
それに一応食蜂の被害者だ。
そこで美琴は邪魔者を残り時間でまとめて排除する方法をひらめいた。

「この外道しいたけを今すぐプールに投げ入れてきてくれない? 頭が冷えると思うのよね。場所わかるかしら」

「任せろ」

亘木はとってもいい笑顔で食蜂を小脇に抱えて翼を生やすと、あっと言う間に飛び去って行った。
なんだろうあの羽、と新たな疑問はわいたがとりあえず美琴の平穏は戻ってきた。

それから少し経って、
「時間が経って無効になればとは思ったけど……何で食蜂だけじゃなくアンタまでそんなカッコなの?」

なぜか二人ともずぶ濡れで教室に帰ってきた。

「放り投げてから正気に戻ったからな。こいつ、このナリで沈んでくんだぞ。どうなってんだよ」

「ちょっ、ちょっとやり過ぎちゃったかしらぁ?」

「ん? テメェ、鼻から死ぬほど水飲んできっちり反省したんじゃねえのか?」

「グスッ、ごべ、ごぇんなさぁい」

びしょびしょでグシャグシャになった食蜂は、思い出したようにべそをかいて美琴に頭を下げた。
よくみると既に泣いた後みたいな顔をしていた。
溺れかけた所は助けてもらったが、それが自分がひどい目に遭わせたお兄さんだったのがよっぽど怖かったのか。
どうやら美琴の知らない間に一つ修羅場が片付いていたようだ。

「それで。肝心の昨夜の空白の謎は解けたの?」

美琴が話題を戻すと食蜂はうなずいたが、露骨に視線を逸らしていた。
952 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「二日目・放課後」  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2017/12/22(金) 02:29:43.24 ID:NN+oq12q0

「そうねぇ。何があったかはわかったわぁ」

「どうすんの?」

「そっからはこっちの話だろ。元々テメェは部外者だ。余計な首つっこむんじゃねえ」

それについて既に把握したらしい二人は美琴を突っぱねるような態度だ。
確かになりゆきで後から関わって首を突っ込んだのは確かだ。
でも。
何か困ったことが目の前で起きていて、ある程度でも知ってしまった美琴がそれを放っておく理由にはならない。
そんなことは美琴が手を貸すことの障害にはならない。
まあ……あんまり協力もしたくない相手だと言うことの方がそういう意味では重要なくらいだ。
おそらく。
この先また相対するのは超能力者二人がここまで振り回された、常盤台で起きたトラブル。
それに巻き込みたくない人が、ものがある。
美琴が首を突っ込むにはそんな理由で充分だった。

「最初は人におしつけて楽できるなんて言ってたくせに、それってずいぶんじゃない? アンタたちねえ、困った時くらい素直に誰かを頼りなさいよ」

自分に力があって、なんでも出来る。
自分でなんでも解決しなきゃいけない。
実際に、なまじ力があるとそう考えてしまいがちな悪い所があるのは、二人と同じ超能力者の美琴も嫌と言うほど身に染みていた。
そして。
その結果、巻き込まれてしまった誰かに感謝しきれないくらい救われたことも。
だからこそ、進んで巻き込まれてやろうじゃない! と大きく声をあげた。
そんな美琴の勝手な発言を聞いて。
垣根も食蜂も二人してぽかんとしていた。
簡単に美琴が引き下がるとも思っていなかっただろうが、それ以上にしゃしゃり出てきた様子に本当に驚かされたのか。

「まぁ…そこまで言うなら、当てにはさせてもらうわぁ」

「おーおー、使ってやるよ。そん時があればな」

二人とも呆れた様に笑っていた。


「まぁ、これでいよいよテメェらの顔を見なくてもよくなりそうだな」

「そうねぇ。ていこちゃんがからかえなくなるのはちょーっとさみしいかもしれないけどぉ」

「は?」

「ちょっと、やめなさいよ。アンタたちが喧嘩なんてしたら絶対ただじゃすまないんだから。あ、ところで水に入ってその通信機大丈夫なの?」

それを聞いた亘木が不自然なくらい、一瞬動きを止めたが気付かない美琴は話し続けていた。

「前に女の子と喋ってたでしょ? アンタも大変よね。女子校に来るからってガールフレンドにいろいろ聞かないといけないなんて……」

「テメェ、どっから人の話聞いてやがった?」

「何、なんなの急に? ねえちょっと、さっきより怖いんだけど……って、えっ……」

相変わらず見た目は女子のままでガンを飛ばして凄んでくる亘木。
もう何度、ちょいギレの第二位を見ているかわからない美琴。
彼女は知らないが実は危険度では今が一番ヤバい。
訳ありすぎて困ってしまうていこちゃんのちょっとまずいネタを思いがけず掴む寸前だった美琴だが。
まさか自分がそんなにピンチだとは気づきもしないで、ちょっとまずいことになってる掴めそうな眼前に釘付けになっていた。

「コイツとテメェどっちを潰した方が早く済むんだろうな」

指先でつまんだイヤーピースと美琴を見比べた垣根の声はちょっと真剣だった。
953 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「三日目・朝」  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2017/12/22(金) 02:31:54.53 ID:NN+oq12q0

「……ねえ」

「ひゃぁ? 何よぉ。ちゃんと謝ったでしょぉ? やりすぎたのは、私だって反省力をみせたじゃない」

美琴に声をかけられて大袈裟にビビる食蜂。
彼女はちゃっかり取り巻きに連絡してタオルと替えの制服を持ってこさせていた。
髪を拭いてもらいながら、操られている生徒たちが床をきれいにして『女王専用お召し替えスペース』のカーテンの用意をするのを待っている。

「そうじゃなくて。アンタ、あんな所まで作ったの? ちゃんとていこちゃんのシャツが透けて見えるし……ってアンタもそんなところで脱ぐなーっ!!」

最初はひそひそ喋っていたのに、美琴はとうとう我慢できなくなって大声でツッコミをいれた。

「どうせそっちには俺の裸は見えてねえんだ。文句言うなよ」

どっかの大脳生理学の研究者みたいな堂々たる脱ぎっぷりで亘木は濡れたサマーセーターをその辺の机に放った。
こっちは替えまで用意がなかったようで、濡れたシャツのままタオルだけ勝手に借りて頭を拭いている。

「貸してちょうだい☆」

生徒の一人がそう言って亘木の制服を回収する。
ふり返ると、食蜂と少女は二人そろって同じ仕草でウインクする。
少女が濡れたセーターに手をかざすと濡れた服がだんだんとふわっとした状態に戻っていく。

「どうせなら他のもやれ。つうか運動着かジャージ、余ってねえのかよ。俺に風邪ひけって?」

「そうねぇ。なら、乾かす間着れそうなものを持ってこさせるけど……もしかして昨日と同じ服着てたのぉ? アナタも可哀想ねぇ」

「この状況でそこに同情すんのか」

文句を言いながら亘木はスカートに手をかけた。
スカートの下になにか履いているらしいので、常盤台生の目にはタイツでも履いているように見えている。
本来の状態から、適宜違和感のないように視覚情報が最適化でもされているようだ。
精神操作は本当に便利な能力だ。
散々あって、今更言うのもあれだが。
食蜂も亘木も濡れた服が透けたり貼りついてしまっているせいでなんかもう大変なことになっている。
本人たちはあまり気にしていないようだが、横から見ている方はそう言うわけにもいかなかった。

「あっアンタらはそれで中学生だって言い張る気なの?! どうなのよ! この……エロ下着共っ!!」

W濡れ透けに取り乱す美琴、彼女の対乳キャパシティはもういっぱいいっぱいだった。
うらやましいのか悔しいのか気になるのかおそらく全部だろう。
一人で叫んで落ち込んで、近くの机に突っ伏してしまった。

「御坂さぁん、虚像に負けたからってひがまないで欲しいわぁ」

「アンタねぇ…実は全然反省してないでしょ」

うつむいた美琴の前髪がアンテナのようにビリッとはねる。

「今電撃はそいつマジで死ぬぞ」

「あーっずるいわよぉ? ていこちゃんったら自分だけ安全力をキープしちゃってぇ!」

まだ少し伝導率がよさそうなていこちゃんは、自分の前に片側だけ翼を作り上げて呑気に呟いている。
その隣に入れてくれとふざけて駆け寄る食蜂。
きゃっきゃゆさゆさ見た目だけは天使っぽいのが並んでいるのを見て、また美琴は独り地獄に落ちそうな顔で凹んでいた。
954 :あと>>948から三日目だったねすまんね  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2017/12/22(金) 02:47:30.89 ID:NN+oq12q0
おひさっすドーモ
途中で鳥に気付いて1は、
「ああ…とうとう自分のスレのトリップさえわからなくなってしまったのか…」と絶望に襲われましたがただスペースの空きだけでしたとさ。
よかったしょうじきちょっと泣くかとおもった

>>940
スピンオフはうれしいけどいろいろとこわいような

>>941
それと暗部落ちの原因とかな。余地はたくさんあるんだよ。
レールガンは結構敵サイドのバックボーンを掘り下げてくれてるみたいだけど、『スクール』はミコッちゃんと直接関わらなかったからやらなくて残念だな。
いや、いや!でもおかげでらっこさんに会えたじゃないか?よかったな?やったぜ超電磁砲、ありがとう超電磁砲

大変長らくお付きあいいただいた常盤台編も次回が最後の予定です。ていこちゃんも見納めだぜー
このスレで安価は終わりにしたいんだ…頼む、もってくれ!
955 :以下、名無しのかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/22(金) 15:09:54.90 ID:QFur8hzVO
乙今年最後の更新かな〜
956 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/23(土) 03:55:50.58 ID:rfRpeoPdo
メリークリスマスイブ前夜祭(メリー天皇誕生日か?)。来年も楽しみにしてるわ
957 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/26(火) 23:33:09.03 ID:7kVtfBjX0

そういえば超電磁砲の外伝で常盤台生徒で、ラッコちゃんの親族らしき方が登場していましたね。
958 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/13(火) 22:46:15.19 ID:KalGNO6qO
三期まで保守
959 : ◆q7l9AKAoH. [sage]:2018/05/01(火) 02:52:22.58 ID:Bpv2fx0S0
ドーモ。常盤台潜入が仕上がったらきます。すいません
960 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/02(水) 22:16:53.75 ID:f6ZjF3+E0
やったぁ!
961 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/01(金) 10:20:15.99 ID:ld+fJ7Do0
垣根がスカート履き始めて2年経ったけど俺ここのss待つの全然嫌いじゃない
>>1ならエタらせない自信があるし
962 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/06(金) 12:56:26.73 ID:sfxtiE+70
動くていとくん見た?
963 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/22(水) 12:47:26.51 ID:Rb1Q6reo0
そういやスレ立てからもう四周年過ぎてたのか
面白くて何度も読んでるからかそんなに時間経ってる気しなかったな

最近たまに亘木ていこちゃんSSを妄想してる(形にはしない)
964 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/27(月) 17:55:19.07 ID:VWBMrUX+0
定期的に読み返してるが本当にここの垣根が一番好きだ
965 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/16(火) 11:24:47.08 ID:JntYw3T9O
ss速報復活してた保守 三期始まったね帝督
966 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「四日目・放課後」   ◆q7l9AKAoH. [saga]:2018/10/21(日) 03:39:21.44 ID:aWsBzONt0

終業のベルが鳴り教師が教室から出ていくと閉まるドアから一拍おいて、室内にざわざわとした賑やかさが広がった。
その辺りは世界有数の名門・お嬢様学校と言ってもここも学生、子どもの集まる場所だ。
控えめに、それでも開放感にはしゃいだ様子の生徒たちに囲まれて、美琴も席に着いたままぐーっと腕を上げて伸びをする。
食蜂たちと別れてあれから丸一日。
何かあったら、と美琴なりに不測の事態を想定して気を張っていたが拍子抜けするくらい何もなかった。
そして今日の授業もこれが最後。部活動のない美琴には放課後の予定もこれと言ってない。
ただ時間通り授業をこなしていく平和な時間割だった。専属の機関からの分析が割り込んでもいない、他の機関からの協力の要請もなかったし、とぷるぷる震える拳を伸ばしきって腕を下ろすと。
目を向けた先、廊下に立ってこちらを見る人影に気付いた。
普段ならツインテールの後輩が仕掛けてきそうな終業ジャストの出待ちアタックだったが、今日は相手が違ったらしい。
すらっとした足を軽く曲げて両手を腰に当てた姿勢で立っていた亘木は、くん、と顎を動かして廊下の先をさすとすぐに立ち去ってしまった。
それを見て美琴は首をかしげながらも荷物をまとめると鞄を掴んで教室から出た。
ちょっと帰りにお茶していきましょう、なんて雰囲気ではもちろんない。亘木はそんな奴でもない。
きょろきょろ見回していると教室から少し離れた所に亘木が居た。
不機嫌そうに眉を軽く寄せて、半分おりたような瞼で大きな瞳を隠した少女は、

『ちょっと来い』

やる気のなさそうな声で短く告げると亘木は美琴の返事も待たずに歩き出してしまった。
その後ろを慌てて追いかける。

(何よ。あんなこと言ってた癖に)

亘木のあの言い方。
丁寧口調のお嬢さまモードじゃないと言うことは用事があるのは垣根の方だろう。
美琴は当てにしないなんて昨日はそっけない態度を取っていた癖に、

(やっぱり頼りにしてくるんじゃない。素直に言いなさいよね)

と美琴は少しだけくすぐったい気分になって笑った。

やっとたどり着いた先はひと気のない校舎の間、教室二つ分はひらけた中庭だった。
そこで立ち止まっている亘木の背中に美琴は駆け寄った。

「どうしたの? こんなところまで」

美琴が見上げるが、亘木はちらっと目を向けただけで何も言わない。

「それで? 何の用よ。一言教えてくれてもいいんじゃない?」

やっぱり亘木の返事はなかった。
まだ何かあるのか、今度は無言で美琴の手を掴むとぐいぐい引っ張ってきた。

「え。ねえ! ちょっと!」

『うるさい。黙れ』

なにか変だ、と美琴はとっさに離れようとしたが腕をつかまれていて出来なかった。
美琴も短い付き合いだが、垣根の人間性もなんとなくわかっているつもりだった。
強引で話し方は乱暴でおまけに自分勝手。
それでも協力者に何も言わないなんてことはない。
むしろ聞いていなくても得意げにべらべら説明してくれそうだ。
それがここまで有無を言わせず返答もない状況、となるとやっぱり何かおかしい。

[ねえちょっと? さっきから、こっちには返事も無し?]

戸惑う美琴の耳に入ったのはかすかな、呆れた様な少女の声だった。
前にもあった感覚……至近距離での電磁的な混線、きっと亘木の通信機からだ。
垣根が怪しまれずに女子校で動き回るためにガールフレンドのアドバイスを受けている、と美琴は思っていた。

そこで美琴の疑問はある方向に向けて転がりはじめた。
この状況はきっと完全にイレギュラーだ。何か予定外のことが起きている。
それまでだって美琴や周囲の人間も構わずに無線で独り言みたいな内緒話をしていた相手にもだんまり。
おまけに相手がずっと話しかけてくるのを無視してまで。
耳元でうるさくされるくらいなら一言何か言って黙らせる、なんてことはやっていそうなのに。
そうして辿り着いた、確信めいた可能性にはっとして美琴は亘木の顔を見上げる。

「アンタ、操られてない?」

立ち止まって、無言で見返してくる亘木の顔は落ち着いてみえた。
慌てる美琴を前にして無表情、と言うのも変だ。
言い訳もしないし返事もない。
まるで。垣根にはそんなことよりずっと大事なものがあって。
それ以外のことは気にもならない、そんな風に美琴には感じられた。
ぱっとみた彼女……の見た目には、目に見えてわかりやすい変化はない。なにかアンテナとかアクセサリーが増えていたり、目や体に目印のようなマークがついている訳でもない。
でも、美琴はこう言った違和感に覚えがあった。
急に何か異質なものがさっきまでの景色に突然割り込んできたような感覚だった。
どこかちぐはぐさのある不自然な人間の動きにぞっとする経験は前にもあった。
そこまで頭を働かせた美琴は悔しげに眉を寄せた。
もしこれが食蜂の差し金じゃないなら、事態はおそらくきわめて悪い状況にある。
967 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「四日目・放課後」   ◆q7l9AKAoH. [saga]:2018/10/21(日) 03:45:24.18 ID:aWsBzONt0

「ったくもう、正気に戻ってよね!」

バチン!! と大きな音を立てて二人の間で電撃が弾けた。派手な音と衝撃が走った。
亘木は顔の前に左手をかざしたまま首をかしげていた。
電撃は突き出された肘から腕に走ったのか。それともまた何か能力で防いだのか。
わからないが少なくとも本人はしびれた様子もけがをした様子もなかった。
めざましがわりにしては相当強めの一発を放った美琴がほっとしたのもつかの間、

『そんなに嫌か』

「へ?」

『そこまでする程嫌か、って聞いてんだよ』


美琴にとって何度目になるだろう、威圧と怒りの感情が向けられている。
亘木は……一体何が引っかかったのかはわからないが。
さっきまでのそっけない態度が嘘の様に、急に美琴に詰め寄ると手首を掴んで顔の近くまで持ち上げてきた。

『大人しく出来ねえ、ってのか? おい。それならこっちにも考えがあるぞ』

「いたっ、ちょっと!」

耳元に落ちる少女の声は怒っているのに低くて冷え切った様だった。
何か考えがあるなんて口ぶりだったのにやっているのは完全にただの力ずく、実力行使だ。
美琴もとっさに振り払おうとしたが亘木の手はびくともしなかった。
今の外見はともかく中身は男だ。
それも今度はきっと本気。加減なしで掴みかかられるとこんなに力の差があるのか。
それを体感して美琴はぞっとした。
きっと能力でも力でも、美琴が本気で抵抗してもコイツには敵わない。
それどころか、逆上されて今以上に怒らせたら一体どんな目に遭うのか。
第三位の超能力者は彼女がほとんど経験したことのない感覚に背筋を冷やしていた。
学園都市の中でも、御坂美琴にそんな敗北感や恐怖を与えた相手なんて……あの馬鹿と、第一位と……恐ろしい寮監くらいのものだった。
まずい、と危機感と焦りが美琴の中で膨らんでいく。


「そこまで期待はしてなかったのに大成功ね。新入りさんが本当に連れてこれるとは思ってなかったんだから」

いきなり割り込んできた少女の声に、亘木は急に腕の力を抜くとぼんやりとそちらを向いた。
少し離れた建物の陰から制服姿の生徒が一人、二人の前に姿を見せた。
美琴はその隙に腕を振り払ったが亘木はもう気にもしていない。

「そんな風に押さえつけてなくていいわ。彼女とは先にちょっとお喋りをしておきたいんだから」

満足そうにうなずく少女の姿を見ると亘木は美琴から離れた。
さっきまでが嘘の様、借りてきた猫の様に大人しくなって様子を伺っていた。

「こんにちは御坂さん、会いたかったんだから。ずっとね」

笑いかけてくるその顔に美琴は見覚えがあった。
ついこの前、寮監に呼び出された監督室ですれ違った少女だった。笑うと目がつりあがる様に細くなる。
美琴は隣の亘木をちらっと見たが、何だかぼうっとしていた。
催眠か洗脳か、どちらにしても操られていたからだろうか?
この様子では相手が何かしてきても対応できるかどうか。まず戦力としては期待できそうにない。

「その子には簡単なおつかいを頼んだの。『御坂さんを連れ出してあたしが来るまで引きとめて、後はいいこにしててね』ってお願いしてあるんだから」

それを聞いて、気になっていた悪い予感が当たった美琴は内心焦っていた。
まさか、騒動の助っ人に呼んだ相手がまんまと操られてる。
だが、この状況はこちらにとってもチャンスだ。
事件の黒幕本人がこうして今目の前にいる。

(コイツ一人くらい、私だけでもなんとかなるわ)

呼び出して連れてくるだけの指令に従ったにしてはちょっと乱暴だった気もするが、それでも幸運だった。
美琴たち以外には、亘木=垣根帝督として認識されていないと食蜂が言っていたのは本当だったらしい。
亘木……垣根がもし、「どんな手段を使っても御坂美琴を確保して主人の元に連れてくること」なんて命令を猫野に受けていたら。
第二位の超能力者は文字通り何をしてでも御坂美琴を確保しようと攻撃してきたかもしれない。
そうなったら美琴は抵抗できない状態でまんまと猫野の前に差し出されていただろう。
それでは相手の思惑通りになって、美琴たちには今回の問題を解決することはできなくなっていたかもしれない。
それどころか、二位、三位、五位、と超能力者たちがこんな事件を企んだ奴の好きにされる……操作されてもおかしくない状況に陥ったら一体どんなことになるやら。
それに比べたら現時点ではそこまで最悪の状況にはない。

おまけにこれ以上亘木が何かしてくる様子もない。
超能力者を相手にするよりは手下や駒に頼る謎の能力者の方がましだ、と事態を捉えた美琴は笑みを浮かべて猫野をにらみつけた。
そう言う回りくどい手段に訴えるのは、能力者本人に直接的な攻撃力がない場合が多い。
彼女の嫌いなあの女王様がそのタイプ、最悪の場合でも相手はその下位互換程度なら。
それほどの脅威だとは思えなかった。
パチパチと牽制の電撃を迸らせて相手を威嚇する美琴。
だが、目の前の小柄な少女はまだその余裕の態度を崩さなかった。
その様子に美琴は少し引っかかった。

亘木には期待していないと言った。ここに連れてくる時点で、彼女の目論見は成功しているとも。
今まで周到に準備していた人物が美琴の抵抗、いや反撃を想定していないとは思えないが……。
968 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「四日目・放課後」   ◆q7l9AKAoH. [saga]:2018/10/21(日) 03:48:11.36 ID:aWsBzONt0

そこでふと美琴の思案は中断された。
すぐ近くに異変を感じて、悩むどころではなくなる。
ぼんやり俯いていた亘木の肩がびくびくと動いていた。
さっきまでただ立っていただけのはずの少女のシルエットがまるでわずかでも平衡感覚に異常をきたしたかの様に。
短い間隔で電気ショックでも浴びたように続く断続的なその動きに髪が小さく揺れていた。
電撃は通じないはず……と少しの間、その様子に首をかしげていた美琴だが、亘木の相変わらずぼんやりした目に変わりがないことに気付いて駆け寄ると顔を掴んで上げさせた。
瞳は真っ暗で焦点があっているかも怪しい。体の震えに対して呼吸は静かでそれが一層不気味だった。
さっきまでの操られている時よりよほどおかしな様子と何か発作でも起こしたかのような体の震えに異常な雰囲気が増した。

「ちょっと? 大丈夫……って、アンタ他にも何かしたの?」

「あっあたしは何も……」

怒鳴りつけてきた美琴の剣幕に、猫野はすくみあがった子猫の様に震えて首を横に振る。
彼女の仕業でないならこの異変には対処できないだろう。

『――ぁ、う……っく』

「しっかりしてよ!」

美琴が悲鳴を上げかけた瞬間。バシン! と大きな音がした。
亘木が自分の額を平手で強く叩いた音だった。

『……うるせえんだよお前ら。人の耳元で騒ぐんじゃねえ』

不愉快そうな呟きにあわせた様に、今度は美琴達の背後で靴音がした。
まだ驚いてひきつった顔の猫野が目を向けた先に現れた少女は手に持ったリモコンをライブ中のサイリウムのように振っている。
長い金髪を揺らし不敵に笑う彼女は、常盤台の頂点に君臨する女王。
食蜂操祈その人に違いなかった。

「おはよぉ☆ ていこちゃーん? 目はさめたぁ? ご機嫌いかがかしらぁ」

『おはようみさきちゃん♡ とでも言えば満足か? あぁ?』

顔を見合わせて笑う少女たち。さっきまで美琴が「敵」と対峙して張りつめていた緊張感はどこにいってしまったのか。
どこか気の抜けた空気に変わったことに美琴の肩からも力が抜けていた。

「アンタ大丈夫なの?」

『なーんかまだムカつくけどな。問題ねえ。だから、問題ねえっつってんだろ。お前もいいから静かにしてろ』

そう答えると亘木は乱暴に頭を振った。
後半の文句は、恐らく自分たちには向けていないことを察して美琴は改めてほっとする。
少なくとも普段の調子に戻っているんだろう。

「ここまでは予定通りなんだけどぉ。ていこちゃんったら私が直に弄ってあげないとダメなんだから困っちゃうわぁ」

『ならさっさとしろよ』

亘木が不満げに呟く。
食蜂の能力なら、様子がおかしくなる前に精神的なプロテクトを仕込んでおくことくらい簡単そうだと美琴も思ったが。
あえてそうはしないのが食蜂の狙いだったのか。
ともかく。こうして、一時的に共闘関係に身を置いた超能力者がずらりと揃うことになった。

『ったく。これでやっと面倒事が片付くな。とりあえずこいつ、拘束しときゃいいのか?』

「ああもぉ。野蛮力の高い人たちはすぐこれだから困っちゃうわぁ。犯人さんにはどう言うことかちゃあんと話してもらわないとねぇ」

『知るか。そんなもん後で好きなだけ吐かせりゃいいだろ。何ならテメェで洗えばいい』

ひとまずこっちの仕事を片づけさせてもらう、と言って猫野を見る亘木を美琴も慌てて止めた。
まだイラついているのか不愉快そうな表情に鋭い目をしている。
これは良くないやつだ、と美琴でもすぐに感づくヤバイ様子だった。

「私たちでもなんとかなるわ。アンタ、顔色悪いわよ。まだ他に何されてるかわかんないんだしちょっと様子見てなさい」

「あらぁ? なんとかするのは御坂さんだけよねぇ?」

「アンタもここまで来ておいて、面倒事はいきなり押し付けんのかーッ! 人を部外者扱いしといて都合よすぎるんじゃないの?」

「だってぇ。ていこちゃんに働いてもらえば手駒力は充分だしぃ。御坂さんに何もしらない餌の演技力なんて期待できないじゃない」

可愛い仕草で膨れてみせる食蜂だったが、あざといぶりっ子モードはこの場に居る誰にも通用しなかった。

『誰がテメェの駒だ』

唯一、性別の点では他より可能性のありそうな亘木でさえ目もくれずうざったそうにしていた。

「私に話があるって言うんだし、アンタも二人っきりじゃなくても構わないでしょ?」

「いいわ。まだ少し時間はあるんだから。昔話をしてあげる」

超能力者たちの勝手なお喋りを見せられていた猫野は諦めた様に首を振った。
カサカサとどこからか風に吹かれた木の葉が舞う音以外はあたりは静かだった。
969 :>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「四日目・放課後」   ◆q7l9AKAoH. [saga]:2018/10/21(日) 03:50:17.06 ID:aWsBzONt0

常盤台、そして『学舎の園』では高い水準を誇る能力開発と同時に、その為の設備からなにから、必要なものはすべてその敷地内で生産と管理をしている。
学園都市でもトップクラスの門外不出の機密事項がそこらじゅうに使われた、異物と部外者を徹底して排除しようとする淑女の温室。
外部からも内部からも何か運び入れたり持ち出すのは難しい。生徒たちが何気なく利用している施設や物が、その敷地の外では貴重で重要である、と言うケースもあるので有形無形に関わらず、ほんの少しの情報でさえ取り扱いが厳重だった。
それでもいくつかの例外はある。
学業に必要なものに関しては、学校側の監査や検閲を通った上で許可が下りれば物の出入りに問題はない場合が多い。
例えば派閥の活動で使う物品や、研究に必要な学術資料もその一つだった。

「あたしのお父様は外の会社でマイクロシステムの研究をしていたの。発表した論文が学園都市で似た様な研究をしていた派閥の目に留まって意見交換会の話まで来たわ。もちろんテレビ会議だったけど。学生相手でもきっと楽しい話し合いが出来るって……お父様はとっても嬉しそうだったんだから」

そう言って目を細める表情は、家族との幸せな記憶に浸る少女のものだった。
だが、その表情が再び暗く沈んでいく。

「お父様の研究は順調だった。忙しくて、毎日が楽しそうだったんだから。それも去年……事故に遭うまで。後遺症で以前の様には生活が出来なくなってしまった。そしたら、会社の人たちはそれを理由にお父様を辞めさせて何もかも取り上げたの。手を回してそれまでのデータも功績も権利も全部自分たちのものにした上で。あれは、お父様のものだったのに」

怒りに駆られた声で話し続ける。少女の目に続いて浮かんだのは恨みの色だった。
温かいものを急に奪われた悲しみと理不尽な裏切りに残ったものまで台無しにされてしまった。
それに対する怒りに駆られる様な勢いづいた声で話し続けていた。

「あの人たちが手を加えていない、そんな真似ができないデータが残っているのはここだけだったんだから。だからあたしはそれを知ってすぐに新年度からの転入の為に行動をはじめたの。誰にも邪魔されない様に全部秘密にしてね」

少女は、何を思いこの『学び舎の園』の門をくぐったのだろう。
何かを取り戻したかったのか。
あるいは。彼女自身わからないままに、それでも何かしなくてはいけないと感じたのか。

「それでも大変だったんだから。派閥のことは知っていたから所属している生徒を調べて、お父様の話をすれば済むと思ったの。でもね、ここのお嬢さまときたらプライドと選民意識が高すぎてその辺の人間とは口も利かないなんて面倒な人ばっかりなんだから。おまけに……あたしの名前を聞いてもまだ……なんのことかもわからないようだったんだから」

いつのまにか。猫野の目はすっかり落ち着いていた。
揺らがないその様子は、諦めきった人間の表情に似ていたが。
まだ、獲物を狙うようなぎらつきがのぞいていた。

『そいつがテメェの動機か? ずいぶんとつまらねえな』

「ちょっと! そんな言い方ないでしょ」

それ以上馬鹿にする気にもならない、そんな風に亘木がやる気なく首を振って呟いたのを美琴が咎めた。

「他にあたしに何か聞きたいことはある? 今なら質問に答えてあげるんだから」

自嘲に似た冷めた笑いを浮かべて猫野は美琴に首をかしげてみせた。

「今まであった、生徒の徘徊騒ぎはアンタのしわざでしょ。一体どうやったのよ」

「御坂さんには悪いけど、それなら大体の見当力はついてるのよねぇ」

「え。そうなの?」

美琴が驚いて振り返ると亘木もうなずいた。

「だから……答えあわせをしてもらおうかしらぁ」


そう言って今度は食蜂が話しはじめた。
彼女も、亘木に身に覚えのない行動が見つかった時に、本人の記憶に手がかりがないか、洗脳による痕跡が見つからないかを調べていた。
だが、いつものように『読心潜行(カテゴリ005)』などを使っても該当しそうな記憶は見つからなかった。
そこで。食蜂が徹底的に亘木の頭の中を洗い、その時間帯の行動を全て再現させると。
確かに誰かと会って、話をしたような言動をとった。
そこから、本人の頭の中に関連するデータが無いかを更に深く探ってみると。

「出てきたのよぉ。御坂さんを今日の放課後、この場所に呼び出さないといけないって言うていこちゃんの意志力が。でもそれは普通の記憶とは別の所に保存されてたわ。見当違いの場所で探し物をしたって見つからないわけよねぇ」

「データの参照先が別だったってこと? 一体どこに」

美琴が自然と口にした疑問に食蜂は薄く笑うと、

「夢の中よぉ」

まんまと出し抜かれた、その割には面白そうに話を続けた。
夢を見るプロセスでは通常の記憶に関わる場所とは別の領域が使われていて。
そこに関わった「見た夢」の情報は強く定着はせず放っておけば自然と薄れて消えてしまうことがほとんどだ。
そして当たり前だが、現実に起こった出来事や実際の本人の経験とは区別される。
だが、脳が夢を構成する段階で現実の体験や経験はその中身に影響を与えるものらしい。

本来なら夢と現実を混同する人間はそういないが、その逆流を暗示によって行っていると食蜂と、話を聞いた垣根たちは仮定した。
さっきまでの亘木の例なら、あの夜の亘木は美琴に関する暗示を改めて施すためにどこかに呼び出され……事件に巻き込まれた他の生徒たちの様に操作された状態で徘徊した結果、記憶の空白が起こったのだろうと言うのが食蜂たちの意見だった。
暗示をかけられていた本人は何をしていたかを目覚めた後覚えていないが。
その間に得た『御坂美琴を放課後呼び出さないといけない』と言う次の指示はその後も頭の片隅に残っていたと言うことになる。

「単純に思考や記憶の表層をなぞるだけの読心能力者じゃ、まず何があったかなんてわからないわよねぇ。うまいところに仕込んだ、と言うより……かなり使いどころの狭い能力だわぁ」

「そう。やっぱり記憶だけ探ろうとしても簡単に痕跡は出てこないのね……ありがとう。いいことを教えてもらえたんだから」

手の内を明かされたはずの猫野は食蜂に笑い返した。
精神系最高位と言われる能力者の、その手を煩わせたことが嬉しかったのかずいぶんと得意げな顔だった。
970 :レス数ぎりぎりの予感ごめんな   ◆q7l9AKAoH. [saga]:2018/10/21(日) 03:53:37.74 ID:aWsBzONt0

「食蜂さんのお話はほとんど正解。あたしの能力は『催眠能力』よ。眠っている人間の脳の働きに干渉するわ。でも、レベルが低いから無理やり従わせるような強制力はそんなにないの。暗示をかけた内容を本人にそうしむける程度のものでしかないんだから。朝見た夢はいつのまにか忘れてしまうでしょ? 誰かが、夢うつつでしてしまったことに……あたしは関係ないんだから」

「それで今まで尻尾を掴ませなかったの」

「あたしのやり方は時間はどうしてもかかるものだから、とっても慎重に進めたんだから。派閥のメンバーを何人か確保して暗示をかけて話を聞き出したり、少しずつ材料を集めたわ。派閥内での情報の扱い、必要なパスやデータ。先週やっと十分な手がかりを掴んだんだから。後は狙ったデータを集めて書きだすか転送すればよかったんだけど」

「思ったようには進まなくて、夢遊病の事件が発覚したのね」

美琴の言葉に猫野は残念そうにうなずいた。

「そこまで進めるまでに、途中で何度か見つかったの。ここでつまづいたら台無しだもの。頼みたいことの他に『誰かに見つかったら逃げる』様付け加えたり、催眠の対象に読心能力者を選んで警備員を察知させたり……大変だったんだから」

『ああ。それであいつ、向こうに先に気付かれたっつったのか』

「でもぉ。ここでおかしなことが起きはじめて、風紀委員が真っ先に捜索力を駆使してたわよねぇ? この私を含めて、他人の操作が出来る能力者はみんな調べられてたはずでしょぉ。その捜査網はどうやって潜り抜けたのかしら」

「そんなの人を使って調べるまでもないんだから。少し調べるだけで十分にね」

そう言われて、美琴はポケットから取り出したPDA端末を操作した。
『書庫』にアクセスすると。検索した中から顔写真で判断してファイルを開いた。
「あった。鍋島緋十実……レベル3の……『予知能力』? それなら捜査の対象にはならないかもしれないけど。能力のデータが大元から改ざんされてるってこと? でも、そんなの転入前にだってすぐわかるはずだし、簡単に出来ることじゃないわよ」

美琴が驚くと猫野は今度は得意げにほほ笑んだ。

「猫野は父の姓。あたしが何をしたか、そこの女王様ならわかると思うんだけど」

「開発官の洗脳かしらぁ」

何でもないことのようにさらりと食蜂は言った。
似た様な能力をもつとその使い方や考え方の傾向まで近くなるのか。
猫野も否定しなかった。

「先生にはお世話になったんだから。必要な試験データの書き換え、身体検査の結果の偽造データの作成。そしてここへの転入手続きもね。『あたしのように優秀な生徒をぜひ常盤台に入れてあげなくちゃいけない』って、あの人とっても親切にしてくれたんだから」

誰かのための善意の行いに抵抗のある人間はそういないだろう。
自分は良いことをしているとそう信じている人間がたまたま不正に手を出す人間だったか、そこまで仕向けられていたのかは美琴たちにはわからないが。
きっとその開発官は自分のしたことになんの疑いもないまま、募金箱に多めに寄付をしてやったくらいのいい気持ちで今も過ごしているだろう。
そこに不幸な人間はいないかもしれない、でも美琴は何だか嫌な気分になって眉を寄せた。

「ねえ、他人を操作できる能力者ってみんなアンタみたいな下衆い考え方なの?」

「私は自然と傅きたくなっちゃう天性の崇高力を振りまいちゃってるけどぉ、あのおちびさんのは小動物の愛玩力じゃない?」

「人形を並べたお姫様ごっこと一緒にしないで。それにあたしは子猫ちゃんたちをうまく使ってるだけなんだから」

猫野はいきなりの小動物扱いが不満だったのか食蜂をにらみ返したが、食蜂の指摘通り彼女もどっちかと言えば、
「ぜんぜんそんなの興味はないけど仕方ないから付きあってあげますよ〜」なんてノリで猫じゃらしをつついていたらそのうち全力で追いかけはじめてしまう子猫の方がタイプは近そうだった。
女王程のカリスマ性はなくても、下僕がそばに控えて進んでお世話をしている構図は近いかもしれない。

『テメェが世界の中心でそれが当然みてえなふてぶてしさは能力者の傾向ってより、女の特性じゃねえの』

「ていこちゃん……もしかして女子力の高さに自覚あった? やだ、いつの間にそんなとこまで女の子らしくなったの?」

『は? ふざけんなよ? っつうかその呼び方止めろ、ムカつく』

「なんで私にはそんな怒るのよ。食蜂はいいっての?」

「あらぁ、御坂さんたら嫉妬ぉ? やだぁ、全然嬉しくなぁい」

「女同士でいちゃつくのは止めてもらえる。不愉快なんだから」

脱線してきゃあきゃあ騒ぎ出した三人に、猫野はわざとらしい咳払いをしてから鋭い目を向けた。

「予知能力って言うのもまるっきり嘘じゃない、いい案だったんだから。あたしは子猫ちゃんたちの未来の行動がわかるんだから。おかげで誰にもばれなかったわ。今日まではね」

事前に操作した人間が暗示の通りに取る行動を予知だと言ってみせれば。
確かにはた目には、彼女の予言通りのできごとが起きた様にみえるだろう。
遅行性の記憶に残らない暗示は、ある意味未来を予見し操作する能力ともとれるかもしれない。
あらかじめ能力の有効な範囲や時間に制限がある、としておき「身体検査」があることがわかっていれば。
常盤台に入ってからも、それにあわせて準備をしてばれないようにしのぐこともできたのか。

「御坂さんはとっても頼りになりそうだから本当ならもっと早く落としておきたかったんだけど……あんなガードの固いルームメイトさんがいるとは思わなかったんだから」

「確かに、黒子なら深夜にベッドを抜け出す前にばれそうだし。誰かとこっそり会ってたなんて知ったら絶対つきとめそう。すごいめんどくさいことになりそうだわ」

自分でも驚くくらい、猫野が残念がる理由が納得できた美琴だった。
日頃からべったり張りついてくるちょっぴり面倒なルームメイトの存在に知らない所で助けられていたとは、美琴も夢にも思わなかった。
971 :おまけにもう一回つづくんじゃよ   ◆q7l9AKAoH. [saga]:2018/10/21(日) 03:55:58.58 ID:aWsBzONt0

「あれ、それでも変じゃない? 亘木さんがお茶会に行っている間に最初の暗示をかける様な時間はなかったでしょ?」

能力のからくりを聞いていた美琴がまた疑問を口にした。

「ちょっとうとうとはしたんだったかしらぁ?」

『ぼんやりしてたのは長くてもせいぜい二〇分程度だ』

「眠ってから夢を見るまではノンレム睡眠からレム睡眠に切り替わらないといけないでしょ。それならどれだけ早くても九〇分はかかるはずじゃない」

「あら、超能力者なのに随分古い情報を信じているのね? 夢を見るのはレム睡眠の時だけじゃないんだから」

猫野はにやりと笑う。
人間の脳は器用で複雑だ。半分覚醒しているような二度寝のわずかな間にだって夢をみた経験はあるかもしれない。
最近の研究では脳が夢を見る仕組みには睡眠の深度以外の要因も調べられている。
他にもうつ病や精神疾患の患者が極めて短い時間で夢を見ていることも発見されている。
様は、脳が眠っていればいい。極論を言えばそう言うことになる。

「……ねえ、この匂い。どこかで」

その時美琴は異変に気付いて鼻の下を手でおおった。
甘さのあるハーブのような匂いがうっすらと辺りに漂っていた。

「ああ良かった。ここまでとっても大変だったけど、欲しかった超能力者が二人も取れそうなんだから。そしたらあの人たちに思い知らせてやることだって何だって、なにもかも全部あたしの思い通りなんだから。さあて……お話はこのあたりにして、そろそろ仲良くお昼寝の時間よ子猫ちゃんたち」

目を細めて嬉しそうに猫野は笑った。
もうすっかり勝ち誇った様な顔をしていた。
自分の目的や、復讐以上の可能性が目の前に並んでいたら無理もないだろう。
超能力者を味方に付けることができたら、学園都市の征服くらいは手が届く範囲の夢になる。
だが、そんな少女の夢物語は簡単には叶わなかった。
そこに水を差したのは彼女が一度は思い通りにした筈の亘木だった。

『効かねえぞ。テメェの回りくどい能力のうざってえ下準備の方も仕掛けはとっくに割れてんだ』

亘木は馬鹿にした様な目を猫野に向けた。
不意に、近くに吹き付ける風が強くなって髪が、スカートがひるがえり煽られる。
だが、相変わらずそんなことには注意を払う様子もない。

『「ヒュプノスの吐息」、あの仲良し会で使ってる吸入タイプの睡眠薬だな。主成分はアルカロイド系で、ベンゾジアゼピンに近い強い鎮静効果がある。超短時間で脳の機能を低下させる代物だ。だが、揮発性が高いもんは薄まるのもそれだけ早い』

「骨董趣味の会長さんの能力は確かレベル3の『気流操作』よねぇ? それでターゲットを一人ずつ眠らせていたってことでしょぉ。操作可能な状態にするのにだってこんなに手間をかけないといけないんだからアナタも大変ねぇ」

美琴たち三人が集まって立っているそばには点々と風の柱が噴出していた。
それは近く一帯の空気を巻き込んであっという間に撹拌してから吹き飛ばしてしまった。
おそらくは、時間稼ぎに話す間猫野がこっそり準備していた薬剤も一緒に。
風に髪をおさえていた食蜂は小馬鹿にしたが、いくらそう言う能力でもボタン一つの気軽さで他人を好きにできるのは彼女くらいのものだ。

「そんなに大したものじゃないのよ。それってほとんどアロマオイルなんだから。ホップ、ネロリ、カモマイルそれにベースが確かヴァレリアン……ギリシャ時代から使われていたハーブだったかしら。元は不眠症用に作ってたものらしいけど、よく効くのよ。あの人たちの悪趣味はわからないけどあたしには……ラッキーだったんだから」

紹介制の趣味の集まり、派閥以下の小組織なら面倒な書類も名簿も詳細な記録や申請も必要ない。
それは密かに生徒を呼び出して情報収集をするにはうってつけの隠れ蓑だったに違いない。

「あの人たちもあたしのことは知らないんだから。目的も、利用されていたことも。なんにもね。それどころか会長はあたしを利用しているつもりでいるんだから。美意識とこだわりはあるくせに、センスってものがないんだから。可哀想よね」

それを聞いて、亘木は馬鹿にした様な表情を口元まで広げて笑った。

『あの退屈な曲はテメェのか。あれじゃあ標的以外の人間も暗示に従っちまうんじゃねえの』

「曲に仕込んである催眠は、眠っている間に後日呼び出すところまでなんだから。お願いをするのは一人ずつ、何かあっても簡単に足がつかないよう用心はちゃんとしてるんだから」

猫野は嫌味にも丁寧に、自分のこれまでの周到さを自慢でもするみたいにかえしていた。

「じゃあそろそろ観念したらどう?」

亘木の暗示も解かれてしまった。
猫野の目標である美琴はまだ捕まえられていない。
邪魔者を排除することもできていないし超能力者に囲まれている。
なにもかも失敗したはずの猫野だったが。
彼女はまだ、諦めていない執念深い目をしていた。

「目立つことはあんまりしたくなかったのに。ここまで来たら仕方ないわ。こうなったら、先生に助けてもらうんだから」

猫野はそう言ってスカートのポケットから何かを取り出した。
子どもが使う小さなおもちゃの鉄琴のようだったが鍵盤部分の形が変わっていた。
音叉を幾つも並べたような造りになっている。
それを叩いて高く澄んだ音を奏でながら、歌うように語りはじめた。

「あたしの能力は眠っている人間に干渉するわ。鍵になるのは聴覚。眠っていても休むことのない感覚はあたしの命令を伝えてくれるんだから。特定の周波数をあらかじめ組みあわせておけばもっと簡単なのよ。一番厄介な御坂さんはあたしのとびっきり仲良しなお友達にしてあげるんだから。あなたたちもその後でゆっくり夢を見てもらうわ。大丈夫、目が覚めたらみんな……嫌なことは忘れてるわ」

それまで、そしてここまでの得意げな様子に美琴も納得した。
彼女の余裕がどこからきているのか不思議だったが……これなら仕方ないとさえ思ってしまう。


「眠ってる間に洗脳されてるなんて普通は考えないわよね……それも、友達や生徒になんて」
972 :待て、次回。またきます  ◆q7l9AKAoH. [saga]:2018/10/21(日) 03:59:31.92 ID:aWsBzONt0

猫野の背後に静かに現れたのは。
普段通りにスーツにきっちりと身を包んだ……常盤台学生寮の寮監だった。
そこから感じるいつも以上のプレッシャーに美琴も身構えた。

「野蛮力のたかぁい人は御坂さんにお願いするわぁ☆」

「はぁ?! 何言ってんのよ!」

この局面で真っ先に戦線離脱を宣言した食蜂に美琴は思わず怒鳴った。
確かに、向こうの狙いは最初から美琴だ。
でもだからってこの速さで見捨てなくてもいいだろうと思う。
相手は寮監、できるなら美琴だって振り返らずに一刻も早く逃げたい。

「さっき触ってみてわかったけどぉ。これって無意識下に仕込まれてる時限爆弾みたいな暗示だから、ぱぱっと簡単に解けるような洗脳じゃないのよぉ。無理にして頭の方が壊れても困るし繊細な作業は落ち着いてやらせて欲しいわぁ。いくら私がとっっっても美人でパーフェクトで素敵な美少女でもぉ、直接やりあう野蛮力だけは持ちあわせてないしぃ」

「あー……もう。まさか寮監まで出てくるなんて。考えなかったわけじゃないけど。ねえ、本当にやる?」

猫野がここに現れてから。
能力の話が進んでいくうちに、彼女とどこで会ったのかを覚えていた美琴はその可能性にうすうす気づいてはいた。
それでも、人間認めたくないものがある。嫌な考えなら尚更だ。
まあ、常盤台生に対して一番効果のありそうな相手だ。
ぶつけてこない訳がない。
それすら見越して根回ししていたであろう猫野の慎重さが憎い。
ふと、美琴はちょっぴり期待を込めて亘木の方を見てみた。
流石の寮監も、第二位の能力者相手に無双できてしまったら……何というかもう、常盤台どころか世界でもトップクラスに強い生き物になってしまう。
そんなのは嫌だった。

(垣根さんだっていざと言う時は手助けくらいしてくれるわよね)

とでも思わなければこの場に救いも活路も無くなってしまう。
だと言うのに。

『俺の仕事はこっちの相手だ。そっちは勝手に好きにやってろよ』

「アンタたちは、本当にもう……」

亘木は美琴の方を見もしない。
ここに都合よくヒーローが助けに来てくれないか、なんてことを考えてしまうくらいには。
はじまる前から心が折れそうになる美琴だったが、泣いている余裕もなさそうだった。
静かに、だが確かに。
寮監は一直線に美琴目がけて歩いてくる。

973 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/26(金) 20:13:45.51 ID:X/F167M2O
追いついたー
こんな面白いssに四年間気づいてなかったなんて勿体無いことをしたぜ
今日は遂にアニメでスクール登場か
974 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 10:11:04.00 ID:Mp67z+0G0
ブラウザの同期ズレか知らんが一ヶ月もスルーしちゃってたんだぜ!?
そして美琴ガン無視の垣根にワロタ
975 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 11:05:56.98 ID:e0T7sHm+O
保守
976 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/30(火) 22:49:50.38 ID:gZft96vAO
平成
977 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 17:41:14.42 ID:GAPhdp2Vo
忘れがちだけど垣根はずっと女装してるんだよなぁ……
シュールかつユニークとしか言えない絵面
978 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/26(水) 21:16:17.47 ID:Xjf14GkAo
色々言いたいことあったけど一言で足りることに気付いた

このスレ好き
979 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/30(水) 13:25:58.91 ID:smC4AMU7O
1生きてる?
心理定規オメ
980 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/08(金) 00:13:30.57 ID:YQcZagZMO
遂に心理定規の本名判明したね
981 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/13(金) 08:50:54.26 ID:WhG9H5jS0
まさか心理ちゃんに姉妹がいるとは…
982 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/20(土) 08:17:34.68 ID:qy7dElRV0
スレを読み返してるとこのスレができてからスクールに色んな動きがあったなと感慨深い
983 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/24(水) 20:41:42.66 ID:31nVwjAo0
もうスレの残り的にも無理そうだけど常盤台潜入最後まで読みたかったな
984 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/03(火) 07:53:01.43 ID:jtInY1Mp0
いまだに更新されてないかなーと見に来てる俺がいる
まあでも1がどっかで元気にやってる事を祈ってる
985 :偽物 [sage]:2023/11/28(火) 14:32:41.66 ID:a6gh5625O
保守必要?
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