朝潮「制裁」

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463 : ◆oUFoaE/FvU [saga sage]:2016/02/20(土) 03:26:57.53 ID:G6MEXvOk0
>>462
誤字訂正次レス
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2016/02/20(土) 03:27:54.80 ID:G6MEXvOk0


大和 「加賀さん、今日は随分ご機嫌が優れないようですね」


 大和が加賀の損傷を服から艤装、上から下まで眺める。


大和 「珍しく随分被弾なさったみたいですね」

大和 「そのせいですか?」

大和 「慣れてないんでしょうけど・・・」

大和 「艦娘が大破如きで動揺するなんて敵の攻撃に当たらな過ぎるのも考えものですね」

大和 「ふふ・・・」

加賀 「・・・」

大和 「ご自慢の回避能力は?僚艦が庇ってくれなかったんですか?」

大和 「あっ、そうだ」

大和 「今日は旗艦じゃないんでしたね」

大和 「庇ってくれる僚艦がいないと加賀さんもこんなものなんですね」フフフ

加賀 「大和さん、嬉しそうね」

加賀 「一対一の模擬演習で私に手も足も出なかったからって」

加賀 「深海棲艦の活躍を喜ぶなんて轟沈した仲間達もさぞ浮かばれるでしょうね」

加賀 「今度爪の垢でも貰いに行ったらどうかしら」

大和 「・・・」
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:29:21.18 ID:G6MEXvOk0

長門 「止めないか、お前たち」


  長門と陸奥が歩み寄る。


長門 「鎮守府の多くが聞いてるぞ」


 朝潮が振り返ると朝潮から更に遠巻きに、

 解散したと思っていた艦娘たちがぞろぞろと集まり加賀と大和を見つめていた。


長門 「加賀、大和の方が鎮守府では古株なんだから立てたらどうなんだ?」

加賀 「今の秘書艦は私よ」

陸奥 「まぁまぁ〜」

陸奥 「もう寒いし解散しましょ、ね?」


 誰ともなく大和からその場を離れ他の艦娘たちも散った。

 朝潮の前を加賀が通り過ぎる。

 その時には加賀への失望で話しかける気は消えていた。



―――――
―――

466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:31:17.27 ID:G6MEXvOk0



 艤装を入渠させ、新しい制服を大和に支給してもらい、お風呂に入る。

 今日の新しい制服は普通にノリの臭いがした。

 清潔な体で新しい制服に袖を通す。


 自室まで色々な艦娘に賞賛や慰めの言葉をかけられた。

 言葉少なに応じても荒潮の轟沈に気を落としていると思われるのか

 提督が心配したように命令違反を疑われることはない。


 自室に入りベッドへ手に持っていた畳まれたダンボールを投げる。

 大和から新しい制服と一緒に支給されていた。


 椅子へ座りため息を吐く。


コンコン


朝潮 「はい」

霞 「入るわよ」

朝潮 「どうぞ」

大潮 「朝潮ちゃん?」

朝潮 「いらっしゃい」


 霞と大潮の大きい目は赤くなっていた。

467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:33:03.33 ID:G6MEXvOk0


霞 「もうダンボールがあるなら話は早いわね」

霞 「手伝うわ」

大潮 「いつまでなんですー?」

朝潮 「できればと言われてるけど」

朝潮 「大和さんに夕方の周回トラックに載せるよう言われているわ」

霞 「早いわね、ならとっとと始めましょう」


 言葉少なに作業が始められる。

 荒潮のような轟沈した艦娘の私物は遺族へ送られる。

 当然その作業は同室の朝潮に命令されていた。


霞 「まず、荒潮の私物を全て並べてからね」

霞 「種類を分けて綺麗にダンボールに入れるわよ」

霞 「その方が隙間が減って物同士で傷付け合うことないし」

霞 「それに、一つの箱に沢山入って節約にもなるわ」

大潮 「おー」


 霞が朝潮を気遣って陣頭指揮を執る。

 荒潮の私物は少なく、並べるのはすぐ終わった。


朝潮 「これ・・・全部どうするのかしら」


 荒潮らしい少し大人びて落ち着いた私物が多かった。

 文具や本、日用品や私服は持ち主を喪ったせいか、どこか寂しげに並んでいる。


霞 「孤児院で他の子に使うか・・・」

霞 「艦娘の適正は遺伝みたいなところもあるって言うから」

霞 「荒潮の妹に適正があればそのまま使うんじゃないの」

大潮 「妹ちゃんたちはなりたいと思いますかね?」

霞・朝潮 「・・・」

霞 「ばっかねぇ、なりたいって思うわよ」

大潮 「そうですよね」

朝潮 「・・・」

朝潮 (荒潮は勇敢だったとだけ伝えられる)

朝潮 (けど、その活躍のために乗り越えてきたものは伝えられない)

468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:34:33.92 ID:G6MEXvOk0


 並べられた私物に目を落とす。

 朝潮の目にふと一つのノートが飛び込む。


朝潮 「このノート・・・」

霞 「あっ!」


 ノートはキャラクターものや可愛い動物のシールが貼られた実に少女趣味なものだった。

 ただ、荒潮の私物たちからは浮いていた。


大潮 「満潮ちゃんのノート・・・」

霞 「とってたのね・・・」

朝潮 「満潮?・・・以前轟沈した満潮?」

大潮 「そうです・・・」

霞 「・・・」

朝潮 「これが?・・・荒潮が昨日お風呂で言ってた満潮の日記?」

大潮 「朝潮ちゃんに話してたんですね」

霞 「知ってるなら、止めないけど・・・読む気?」

朝潮 「うん、読んでおきたい」


 朝潮はノートを開く。

 ノートの前半は荒潮が昨日風呂で語っていた満潮の日記となっていた。

 パラパラめくると日々の思いや出撃の苦悩がそれに合わない可愛い字で綴られている。

 内容は荒潮が話した通りだった。

469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:36:57.20 ID:G6MEXvOk0


朝潮 「あれ・・・日記の後半から文字が変わってる?」

朝潮 「これ、荒潮の字だ・・・」

霞 「えっほんと?!」ズイ

大潮 「見せてくださいー」ヒョコ

霞 「文字が変わってる日、満潮が轟沈した日付と同じ・・・」

大潮 「満潮ちゃんの日記の後ろに荒潮ちゃんの日記が続いてますね」


 朝潮は日記を三人の真ん中に広げ読み進める。


大潮 「凄く・・・報告書に似てますね」

朝潮 「あぁ・・・」

霞 「そうね・・・」


 日記にしては病的なほど思いも感情もない報告書のような文体は、

 満潮のそれと対照的で自身の感情を殺そうとする荒潮の苦悩が感じられた。


霞 「「〜だと思いました」「頑張ります」を連発する大潮の報告書よりよっぽどしっかりしてるわ」

霞 「本当に日記なの?これ」

大潮 「さり気なくバカにされた気がします」


 客観的過ぎる荒潮の日記は一見わかりくいものだった。

 しかし、一緒に出撃していた朝潮にとってその全てが目新しいものではなかった。


朝潮 「間違いなく荒潮の日記よ・・・一緒に出撃してたからわかる」

大潮 「そうですかー」


 しかし、一部わからないものがあった。

470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:38:59.95 ID:G6MEXvOk0


朝潮 「これ・・・霞交換、大潮交換って何かわかる?」


 最後数日の日記末尾に付く、暗号のような文字。

 ページを見せながら霞と大潮に尋ねる。


大潮 「んー・・・」

霞 「あ・・・知らないわね」

朝潮 「?」

大潮 「あっ思い出したそれ、制服交換 モガモガ

霞 「もうっ!!・・・」

朝潮 「制服交換?」


 霞がためいきを吐きながら、大潮の口から手を外す。


霞 「はー・・・そうよ」

朝潮 「荒潮と?」

大潮 「そうです!」

霞 「もう・・・」

朝潮 「???」

霞 「この前、遠征艦隊だと制服の交換が基本的に認められないって話したでしょ?」

朝潮 「あぁ・・・あの話」


 少し前の食堂で、荒潮を含めた四人で話していた時の話題だ。

 あの時、霞が古い制服を着続るのは辛いと愚痴っていたのを朝潮は思い出す。

471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:40:14.30 ID:G6MEXvOk0


朝潮 「そういえば、あの時は霞と大潮の制服によれと汚れがあったけど・・・」

朝潮 「今はなくなってるわね」

朝潮 「荒潮と交換してもらってたのね」

霞 「余り驚かないのね」

朝潮 「荒潮だから」

大潮 「・・・」

朝潮 「私も言ってくれたら交換したのに・・・」

霞 「あきれた、ばれたら懲罰ものよ」

朝潮 「けど、ばれないでしょ?」

朝潮 「廃棄される制服はぼろぼろでチェックされないじゃない?」

霞 「確かに足はつかないかもしれないけど、イコールばれないじゃないのよ?」

大潮 「そうです、朝潮ちゃんみたいに制服の変化に気付く人もいるかもしれませんし」

朝潮 「それはそうかもしれないけど・・・」

朝潮 「言ってくれたら何時でも交換するわよ」

大潮 「大潮はもう交換しなくて大丈夫ですー」

大潮 「余り綺麗な制服を遠征艦隊で着てるとばれないかと気が気じゃないですし!」

霞 「私もパス」

霞 「孤児院出身なんて、ものは壊れてからが本番でしょ?」

霞 「新品の制服なんて着慣れてないからむず痒くなっちゃうわ」

霞 「それに、荒潮もあなたを巻き込みたくなくて言わなかったんじゃないの?」

朝潮 (荒潮・・・)


 目を落とすと一番新しいと思われる交換のしるしが目に入った。

472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:44:09.90 ID:G6MEXvOk0


朝潮 「最後のしるしは・・・一昨日で霞が交換でいいの?」

霞 「そうよ」

朝潮 「一昨日はあの危険海域でなく通常海域への出撃だったわね」

朝潮 「私と荒潮二人で小破したの、覚えているわ」

霞 「その時支給されたピッカピカの制服を荒潮と交換したのよ」

霞 「交換?って言うより追い剥ぎされたというか」

朝潮 「?」

大潮 「あー・・・」

霞 「一昨日急に荒潮が部屋に入ってきてね」

大潮 「ありましたねー」

霞 「新品の制服を着てきて「交換しましょ」って言ってきたのよ」

朝潮 「じゃあ、霞は一昨日に荒潮が手に入れた新しい制服を着てるのね」

霞 「そうなるわね、私最初は断ったんだけど・・・」

霞 「荒潮は妹や弟いるじゃない?」

霞 「それで慣れてるせいか良いように脱がされちゃって・・・」

大潮 「騙されてばんざいして一瞬でしたねー」

霞 「何すんのよって言って取り返そうとすると既に私の制服を奪って着た荒潮がね」

霞 「「脱がす気?!やだ〜ウフフ」って茶化してきてね」

大潮 「あの時の霞ちゃん可愛かったですねー」

霞 「・・・何言ってんのよ、そんなことないわよ」

朝潮 「そうよ、霞は何時も可愛いじゃない」

霞 「あのねー・・・」


 朝潮は霞の視線を躱し最後の数ページへ進む。



―――――
―――

473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:46:34.84 ID:G6MEXvOk0



朝潮 「『朝潮が執務室に呼ばれたまま、戻らない』」

朝潮 (昨日の日記・・・)


 荒潮の第一艦隊所属を止めてもらうよう提督に身を捧げ交渉していた、昨日。

 朝潮には力がなく、そうすることでしか荒潮を守ることができないと思った。

 同じ決意で挑んだ今日の戦闘で荒潮を喪い艦隊を危険に晒した。


朝潮 (もっと早く知覚を手に入れてれば・・・)

朝潮 (いや、知覚を知っている提督の発言、加賀の無言)

朝潮 (私の知覚は本物?)


大潮 「この時、朝潮ちゃんは執務室で何してたんですー?」

霞 「今日は朝潮が旗艦で活躍したって提督が言ってたでしょ?」

大潮 「凄いですよねー」


朝潮 (最終戦闘・・・)

朝潮 (覚醒する前の弱い知覚で戦闘中に荒潮の同調の大きな変化は感じなかった)

朝潮 (だから最後の砲撃まで全くと言っていいほど荒潮に被弾はなかったと思う)

朝潮 (同調は変わらないまま、気付いた時には轟沈前の弱い同調だった)


霞 「だから、旗艦として執務室であのクズと作戦とか打ち合わせしてたんでしょ?ね?朝潮」

朝潮 「あぁ・・・うん」

大潮 「打ち合わせって何するんです?」

大潮 「・・・朝潮ちゃん?」

474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:47:43.45 ID:G6MEXvOk0


朝潮 (最終戦闘の最初から・・・最初から荒潮は・・・大破してた?)


大潮 「朝潮ちゃん?」オズ

朝潮 「ん!何?!」

霞 「あんた大丈夫?」

朝潮 「あっごめん!・・・執務室のことね」

朝潮 「今日から制服の損耗判定を提督だけでなく旗艦もすることになってね」

朝潮 「その打ち合わせと他の第一艦隊の先輩たちの損耗表を覚えるのが長引いちゃって・・・」

大潮 「あー、だぶるチェック?ってやつですか」

霞 「あのクズも必死よねー」


朝潮 (そうだ、私だけじゃない・・・提督も制服の損耗判定をしたんだ)

朝潮 (大破進軍なんてあるわけない)

朝潮 (なら、私の知覚がやっぱり間違ってたの?・・・)


大潮 「慎重なのは良いことだって龍田さんいつも言ってます!」

霞 「まぁ、そうよ」

霞 「特に轟沈の危険がある第一艦隊にはね」


朝潮 (確かなのは荒潮が轟沈したことと艦隊を危険に晒してしまったことだけ・・・)


 許されることではなかった。

 その責任を差し置いて知覚について思い悩むことが、

 生真面目な朝潮にとって責任から逃げているように感じられ、知覚への思考を鈍らせた。

475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:49:54.51 ID:G6MEXvOk0


霞 「ね、朝潮!・・・朝潮?」

霞 「あんたさっきから顔色悪いわよ・・・大丈夫?」

大潮 「後は大潮たちに任せて休んでもいいですよ?」

朝潮 「いや、大丈夫。ごめん、心配かけて・・・」

霞 「馬鹿ねぇ、気にせず頼りなさいよ、仲間でしょ?」

大潮 「何かあったら大潮も力になります!」

朝潮 「ありがとう」


 止まっていた手でページをめくる。


朝潮 「『朝潮の代わりに自分と朝潮の艤装を入渠ドッグに取りに行く』」

朝潮 「『入渠ドッグに着いた時、艤装の入渠はバケツが使われたのか両方終わっていた』」

朝潮 「『艤装倉庫に二つとも収める』」

朝潮 「あぁ、そうか」

朝潮 「昨日は艤装を入渠ドッグへ引き取りに行けなかったんだ」

霞 「そうそう、あんた執務から部屋帰ったらすぐ寝て今日の出撃まで起きなかったんでしょ」

霞 「修復液まみれの艤装は流石にこの時期つらいわよ」

朝潮 「そうね、荒潮にはお世話になりっぱなし・・・」

朝潮 「それにしても入渠時間の短い駆逐艦に高速修復材を使うものかしら?」

朝潮 「大破の荒潮はまだしも私は中破よ」

霞 「昨日はあの後も出撃繰り返していたでしょ」

霞 「そういう時は状況が変わって途中から高速修復材なんてザラよザラ」

霞 「別に珍しいことじゃないわ」

朝潮 「そうなんだ」
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:52:45.01 ID:G6MEXvOk0

朝潮 (中破と大破・・・)


 昨日の中破で帰港した時を思い出そうにも、虚ろだったことで記憶や感覚がはっきりしない。


朝潮 (虚ろだった?虚ろだったのは・・・?)


 考えがまとまらない。



―――――
―――



 固まった朝潮を置いて、大潮が荒潮の最後の日記を読み上げる。


大潮 「『朝潮が深夜まで帰ってこない』」

霞 「あんたが執務室に殴り込みした日と同じで荒潮心配してたわよ」

大潮 「私は部屋で待機してました」

霞 「一応また探したのよ」

朝潮 「また夜遅くまで探してくれてたんだ」

朝潮 「ごめん・・・」


 朝潮の脳裏に今朝の体調が悪そうな荒潮の顔が浮かぶ。


霞 「気にすることないわ」

霞 「悪いのはあの海域よ」

霞 「朝潮は悪くない」


 知らず朝潮の顔に浮かんでいた苦悩の表情に霞が慰めの言葉をかける。
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:54:51.02 ID:G6MEXvOk0


 大潮も朝潮の気分を転換させるため、頭を捻って話題を絞り出す。


大潮 「そう言えば、葬儀がされたのは荒潮が初めてですね」

霞 「そうね、荒潮はあれで寂しがりやだったから良かったじゃない」

朝潮 「初めて?」

大潮 「いつもは葬儀しないんです」

朝潮 「あ」


 荒潮が昨日お風呂で話していたことを思い出す。


霞 「いつもは葬儀しないどころか、轟沈を報告するだけで次の部隊で出撃してるのよね」

霞 「あいつ艦娘を何だと思ってるのかしら」

大潮 「深海棲艦がいる限り戦争が続いて轟沈がなくならないなら、大潮は仕方ない気もします」

霞 「まぁね、出撃するしかないのもわかるけど・・・」

大潮 「その御蔭か、あの海域の轟沈って減ってたんですね!」

大潮 「大和さんと加賀さんの話を聞いて初めて知りました」

朝潮 「私も・・・」

霞 「はぁ・・・それくらい知っておきなさいよ」

大潮 「霞ちゃんは

霞 「物知りさんですー?」

霞 「大潮、あんた私を褒めとけば便利とか黒いこと考えてないでしょうね?」

大潮 「黒い?」

霞 「まぁいいわ」
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 03:59:44.20 ID:G6MEXvOk0

霞 「あの海域の轟沈は減ってるのよ」

霞 「本当に少しずつだけどね」

朝潮 「ふーん」

大潮 「いつか轟沈はなくなるんですかねー」

霞 「このペースだと十数年かかりそうよ」

大潮 「うえぇぇ」

大潮 「そんな少しの減少で大きい小さいって加賀さんと大和さんはやってたんですかー」

霞 「あんた言い難いこと割と容赦なく言うのここだけにしなさいね」

朝潮 「轟沈の話もそうだけど、加賀さんと大和さんは仲が良くないの?」

霞 「見てたらわかるでしょ?」

霞 「険悪ってレベルじゃないわよ」

朝潮 「何かあるの?」

大潮 「あります、恋のライバルです!」

霞 「そんな綺麗事じゃなくてもっと根深いわよ!」

朝潮 「そうなの?」

霞 「あの危険海域って元々出撃禁止が検討されてたの知ってる?」

朝潮 「え?!」
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 04:01:45.72 ID:G6MEXvOk0

霞 「少中破からの轟沈が多発するんで異常だって、当然よね」

霞 「それで何度も大本営から査察、不正を疑われて憲兵から臨検とか色々あったらしいわ」

霞 「そういう面倒事や疑惑を晴らして、あの海域攻略のレールを引いたのが大和さんなのよ」

霞 「それをぽっと出の加賀さんにとられたようなもんだから・・・誰だって面白くないでしょ?」

朝潮 「とられた?」

大潮 「加賀さんが大和さんから秘書艦をとった話ですー?」

霞 「そう、それ」

霞 「正確には大和さんが秘書艦としてさっき言ったレールを引き終わった後ね」

霞 「加賀さんが配属になってすぐ模擬演習で大和さんを倒して提督のお気に入り」

霞 「で、すぐ大和さんに代わって新しい秘書艦になったってわけ」

朝潮 「あの司令官ならやりそうね」

霞 「まぁ、そういうわけよ」

大潮 「大潮は大和さんは秘書艦とあの危険海域に思い入れがあるって聞いてますねー」

霞 「ふーん」

朝潮 「思い入れって・・・あの海域攻略のレールを引いた以外に?」

大潮 「ですですー」

霞 「何それ話してみなさいよ」

大潮 「大和さんは加賀さんと違って、前任の秘書艦が轟沈して秘書艦になったらしいんです」

霞 「あー聞いたことあった」

大潮 「大和さんが継いだ・・・轟沈した前任の秘書艦が仲の良かった武蔵さんで」

大潮 「その武蔵さんが轟沈したのがあの海域らしいですー」
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 04:03:15.12 ID:G6MEXvOk0

霞 「そりゃ、あの危険海域で秘書艦として暴れて敵討ちしたいでしょうね」

朝潮 「え?!武蔵があの海域で轟沈してるの?!」

大潮 「そうです、間違いなく大和型二番艦の武蔵さんですよ」

霞 「別に驚くことじゃないわ」

霞 「殆どの艦種で轟沈は起こってるし、戦艦が例外ってこともないわ」

朝潮 「殆ど?」

霞 「って、こんなんじゃ作業終わらないじゃない」


 時計を見上げれば、周回トラックの来る刻限が迫っていた。

 霞の号令の元、三人でダンボールに荒潮の私物を積めて行く。


 荒潮が朝潮に言った通り、轟沈した荒潮の体は骨も何も一切残らなかった。

 その荒潮の全てとなった私物が一つずつ、ダンボールに埋葬される。

 それぞれの私物に三人それぞれ荒潮との思い出が詰まっていた。


 大潮がまん丸い目玉に今にも溢れんばかりに水を貯める。霞も上を向く。

 この時、朝潮は気付く、霞と大潮は涙が枯れたのでなく朝潮の前で泣かまいとしていることに。

 それが優しさからの心遣いだと思うと朝潮は素直に泣けなかった。


 無理やり涙を止めすぎて大潮は涙を止めたまま引きつけを起こしたかのように震えた。

 霞はぼそぼそと馬鹿とつぶやきながら作業を続ける。

 積め終わる頃には三人の目から涙が止めどなく溢れ声を出して泣いていた。



―――――
―――

481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 04:04:20.42 ID:G6MEXvOk0



 加賀が執務室をノックすると、入れ違いで大和が出てくる。


大和 「・・・」キッ

加賀 「・・・こんにちは」


 大和はひと睨みすると挨拶もせず廊下へ消えた。

 加賀は執務室に入る。


提督 「遅かったな」

加賀 「そういう割にはぎりぎりまで大和さんとよろしくやっていたようね」

提督 「離してくれなくてな」

加賀 「座っても?」

提督 「許可する」


 加賀は秘書艦用の机に着く。

 執務室は何時もより煙たい。

 提督の机の灰皿は一杯になろうとしていた。

482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 04:05:18.71 ID:G6MEXvOk0


提督 「さてと・・・どこから話してもらおうか」スパー

提督 「まずは荒潮の救助作戦だ」

提督 「何故おれの命令を無視して荒潮を助けようとした?」

加賀 「提督が朝潮に言っていた通り・・・提督の安全のためよ」

提督 「・・・他に方法はなかったのか?」

加賀 「朝潮と旗艦を交代するとか他にも方法はあったでしょうね」

加賀 「けれど、どの方法も朝潮の暴走の可能性を考えると・・・無理ね」

加賀 「指揮作戦艇の防御に隙を生まないためにはあの方法しかなかった、断言できるわ」

提督 「そうか」

提督 「しかし、制空圏を抑えなければいずれ負けることもわかっていただろ?」

加賀 「あの時、私が何より優先したのは朝潮を指揮作戦艇の側にいさせることよ」

加賀 「負けることや、それで荒潮が轟沈しようがどうでも良かったわ」

提督 「その割には荒潮を守るのに必死だったように見えたが」

加賀 「必死?」

加賀 「本気で言ってるの?」

提督 「・・・」
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 04:06:26.53 ID:G6MEXvOk0

加賀 「いつもなら・・・いつもなら荒潮が轟沈しようがどうでも良かった、けれどね」

加賀 「新地方本部長官の選考中で轟沈を控えるように言われて出撃を止めていた危険海域」

加賀 「そこへの出撃を再開した途端に轟沈となれば・・・どうなると思う?」

加賀 「当て付けと思われるか、能力不足と思われるか」

加賀 「どちらにしろ上の心証は最悪よ」

提督 「それでお前らしくもなく駆逐艦如きを命懸けで守りました、と」

加賀 「茶化さないで」

加賀 「私の進退にも関わるのよ、本気にもなるわ」

提督 「ふふ、悪いな」

加賀 「聞いていい?」

提督 「何だ?」

加賀 「何でいまさら小規模とは言え荒潮の葬儀をしようと思ったの?」

加賀 「それに何時もなら轟沈に構わず連続出撃してたわよね?」

提督 「お前にくらい話しておくか」

提督 「出撃再開してすぐの轟沈、おれも目が付けられるとわかってる」

提督 「だから、反省している振りをするためというのが一つ」

提督 「後は単純に出撃頻度を減らして轟沈数を減らしたいという理由からだ」

加賀 「本当に新地方長官になるつもり?」

提督 「・・・」

加賀 「なら何で荒潮を殺したの?」



―――――
―――

484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 04:07:32.98 ID:G6MEXvOk0



提督 「ごほっごほっっ・・・・はぁ?!」


 むせた提督が灰皿の残った狭いスペースに煙草を押し付け加賀を睨む。


提督 「冗談がきついぞ」

加賀 「私の知覚が確かなら、荒潮は最終戦闘開始時には大破していたわ」

提督 「なんだと?!」

加賀 「昨日荒潮が大破したばかりで、その同調の乱れを私が覚えていたこと」

加賀 「最終戦の前に陣形を乱した荒潮が同調を感じられる距離まで私に近づいてきたこと」

加賀 「この2つでおぼろげながら知覚することができたの」

提督 「なら何で進言しなかった」

加賀 「おぼろげながらと言ったでしょ」

加賀 「この知覚について他言無用と言った時に・・・言ったはずよね」

提督 「不安定で実戦の勘も絡むから精度は低いというやつか?」

加賀 「そうよ、不正確なことはわざわざ進言できないわ」

加賀 「それに、さっきも言ったけどこの時期に轟沈があると思わないでしょ?」

提督 「はぁ?!」

提督 「何でおれの都合が悪い時に轟沈が起こらないと思っているんだ?」

加賀 「どう取ってくれても結構よ」

加賀 「けどね」

加賀 「これまでの轟沈では、沈む娘を、囮にしたり、煙幕代わりにして奇襲したり」

加賀 「轟沈がわかっていたかのようにそれを利用して勝利してきたわよね?」

提督 「今日は敗走しようとしてただろ」

加賀 「何かイレギュラーなことが起こったんじゃないの?違う?」


 提督は新たな煙草に火を付け吸って吐くという作業を繰り返すだけだ。

485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 04:08:37.62 ID:G6MEXvOk0


加賀 「まぁ、いいわ」

加賀 「私だって深く知りたくない」

提督 「なぁ」

加賀 「何かしら?」

提督 「お前らの知覚はそうポンポン手に入るものなのか?」

加賀 「ないわ、地方本部に一人いるかいないかじゃないかしら?」

提督 「この鎮守府に二人いるぞ」

加賀 「今まで見たことある?」

提督 「ない」


 色々な鎮守府と交流する提督の立場から聞いたことさえない能力だった。


提督 「できることは、損傷度の把握・敵の行動の予知、の2つだけか」

加賀 「多分・・・」

提督 「多分?」

加賀 「私も我流でやっているのよ」

加賀 「提督が言った2つだけと断言はできないということよ」

提督 「ほぅ」
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 04:11:34.30 ID:G6MEXvOk0

加賀 「それに朝潮・・・」

提督 「朝潮がどうした?」

加賀 「蝙蝠は人間より広い可聴域によって耳を音を聞くだけでなくレーダー代わりに使っているわ」

提督 「お前より知覚が優れているから使い方も増えるということか」

加賀 「可能性の話よ」

提督 「朝潮はその可能性を加賀に感じさせるほどには優れているわけだ」

加賀 「・・・」

提督 「言うほど朝潮は優れているのか、信じられんな」

加賀 「私が覚醒したのは朝潮よりもっと後よ」

加賀 「加えて、荒潮の損傷度に対する感度ね」

加賀 「私は近距離でやっとわかるのに、朝潮は集中すれば距離があっても問題なかった」

提督 「加賀がべた褒めか、これなら明日からの出撃が楽しみだ」

加賀 「果たしてそう上手く行くからしらね・・・」

提督 「問題でもあるのか?」

加賀 「明日、朝潮は満足に動けないまますぐ大破すると思うわよ」

提督 「今日の最終戦闘ではそのような素振りはなかったが・・・」

加賀 「朝潮に対してヲ級とタ級からの攻撃はあった?」

提督 「・・・」

加賀 「なかったでしょ?」

加賀 「知覚に慣れるまでは、新たな感覚に脳みそをかき回されてる状態よ」

加賀 「避けるとか、撹乱するとか、動きが伴うとボロが出るわよ」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 04:17:06.14 ID:G6MEXvOk0

提督 「慣れるまでどれくらいかかる?」

加賀 「さぁ?不確定要素が多過ぎるわ」

加賀 「このまま駄目になる可能性もあるわ」

加賀 「確かなのは、朝潮の知覚を提督が否定したから慣れるまでの期間が延びてるだろうことだけよ」

提督 「嫌味か?」

加賀 「・・・」

提督 「まぁ、いい」

提督 「一応、明日の出撃は朝潮を旗艦に据え、挙動が怪しければすぐ撤退するよう配慮しよう」

加賀 「お優しいことね」

提督 「貴重な能力だからな」

提督 「ところで、この能力は大和みたいな強力な艦娘なら習得できたりしないのか」

加賀 「不可能ね」

提督 「お前に艦種の相性で負けても大和が弱いわけではないだろう」

提督 「あいつに何が足りない?」

加賀 「砲艦はこの知覚に対して適正がないのよ」

提督 「どういうことだ」

加賀 「この知覚というのは、端的に言えば同調に対する感覚よ」

加賀 「必要なのは、繊細な同調といかなる時も冷静でいられる心の強さ」

提督 「同調ねぇ・・・」
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 04:20:09.70 ID:G6MEXvOk0

加賀 「艤装だけでなく艦載機とも繊細な同調を求められる空母はまだしも砲艦にはとても無理よ」

提督 「そこまで違うのか」

加賀 「砲艦は・・・感情の爆発を同調に乗せることで砲撃の威力を出すのでしょ?」

提督 「同調に感情という異物が入るというのか」

加賀 「どちらかと言うと、感情を出すから冷静でいられないことが問題ね」

提督 「大和も、轟沈した金剛も、戦艦で強いのは確かに直情的かもな」

提督 「だからこそ強かったとも見ることができるが・・・」

提督 「それに比べて確かに空母には冷静な落ち着いた奴が多いな」

加賀 「五航戦のような例外もいるけどね」

提督 「余りいじめるなよ」

加賀 「ふん」

提督 「だから、加賀の艤装に適性のある朝潮が覚醒できたのか」

提督 「そうなると・・・益々大和の考えがわからんな」

加賀 「どうしたの?」

提督 「お前と模擬演習をさせてくれとさっきまでゴネられててな」

加賀 「ふーん・・・」

提督 「あれだけ加賀に惨敗して挑むには勝算があってだろ」

加賀 「ふふ、どんな奥の手を用意しているのかしらね」

提督 「挑むだけなら可愛い、けどなぁ秘書艦を賭けろと言うんだ」

加賀 「じゃあ、明日の舟遊びの同伴も」

提督 「当然そうだ」

提督 「大和に損はなく加賀に何の利益もない」

提督 「だから、加賀の回答次第だと言ってあ

加賀 「良いわよ、大和と遊んであげても」


 提督は、驚きを隠さず加賀を見つめる。



―――――
―――

489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 04:21:19.40 ID:G6MEXvOk0



提督 「お前に何の意味がある?」

加賀 「意味?格の違いを教えてあげるくらいかしら」

提督 「・・・大和に同情するよ」

加賀 「さて、そうなるかしらね」

提督 「ん?」

提督 「まぁ、大和に知らせておくか」


 提督は電話へ手を伸ばし、受話器を取り内戦のボタンを押す。

 瞬間、電話がけたたましく鳴り提督の手が止まる。


加賀 「外線よ」

提督 「わかってる」


 受話器を耳にかけたまま、フックを押す。


提督 「はい、こちら鎮守・・・これは地方長官」

提督 「お孫さんが生まれまし・・・はぁ・・・え?・・・存じ上げませんが」

提督 「はい・・・・いえ、全く身に覚えが・・・・・・・・はい、その通りです」

提督 「いえ・・・そうです、はぁ・・・承知しました」

提督 「恐らく、新地方長官レースの対抗馬からでしょう・・・・そうです・・・デマですよデマ」

提督 「・・・はい、勿論です」

提督 「ありがとうございます・・・では失礼します」


 提督は受話器を置きため息を付く。

490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/20(土) 04:28:22.44 ID:G6MEXvOk0


加賀 「どうしたの?」

提督 「今日の命令違反をチクったのがいる」

加賀 「はぁ?!」

加賀 「ありえない・・・」

加賀 「命令違反を密告させないように艦隊全員に対して朝潮同様きつく脅しをかけたじゃない?!」

加賀 「本当なの?」

提督 「・・・憲兵隊から地方長官に、おれの身元について照会があったらしい」

提督 「反乱、命令違反の疑いがあるから戦績や人柄などの情報を出すよう言われたそうだ」

加賀 「チっ・・・」ギリ

提督 「犯人探しはいい」

加賀 「しかし・・・」

提督 「リンチでもする気か?それをすれば本当に問題になるぞ」

加賀 「はぁ・・・そうね」

加賀 「けど、安全を考えて明日の舟遊びはなしね」

提督 「ふふ・・・」

加賀 「何が可笑しいの?」

提督 「この件のもみ消しでもっと金がいる・・・舟遊びはやる」

提督 「楽しみだな、そうだろ?」

加賀 「・・・」


 舟遊びという名のコアの密売への同行へ加賀は不安な表情を見せる。


提督 「不安か?」

加賀 「普通はそうよ・・・」


 提督からは髪に隠れて見えない加賀の右耳にはめられた受信機が微音を発していた。


受信機 「ガガ・・・ガチャ・・・朝潮・さん」



―――――
―――

491 : ◆oUFoaE/FvU [saga sage]:2016/02/20(土) 04:31:26.08 ID:G6MEXvOk0
本日投下分はこれまで。
ご読了まことにありがとうございます。
恐らく後二回前後の投下で終わる見込みです。
何卒最後までお付き合いをよろしくお願い申し上げます。
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 09:12:40.01 ID:K8QirrXWO
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 12:01:37.34 ID:Vdp/3fUF0
おつ
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 12:12:56.59 ID:tfUEtnIEO

生きてて良かった
495 : ◆oUFoaE/FvU [saga sage]:2016/02/21(日) 22:35:39.29 ID:lL/VzVf70
>>492>>493>>494
乙お米ありがとうございます
これからも頑張って生き残りSS書きます
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/23(火) 17:29:19.87 ID:Q1eGb5kX0

おかえり!
497 : ◆oUFoaE/FvU [sage saga]:2016/03/09(水) 02:12:10.13 ID:l87Lyojv0
>496 様
ただいまです。お米ありがとうございます。
後投下は二回前後と書いたものの、いまさら二桁回かかりそうな気もしてきました。
気長にお付き合いいただければ幸いです。
498 : ◆oUFoaE/FvU [sage saga]:2016/03/09(水) 02:13:21.97 ID:l87Lyojv0
投下再開します
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:16:55.07 ID:l87Lyojv0



加賀 「提督、間違いがないように第一艦隊の所在を確認だけしてくるわ」ガタ

提督 「他の人間に気取られんよう慎重に行え」

提督 「おれの名前を使ってもいい」

加賀 「提督も密告した犯人が第一艦隊なら、もう鎮守府にいないと思う?」

提督 「思う」

提督 「証人保護プログラムで身をくらましてるだろ」

加賀 「そうね」

提督 「いない奴がいれば、そいつが嘘を言ってるように口裏合わせ」

提督 「もし、全員残っていれば、口が軽いのから聞いた第三者だ」

提督 「その時は第一艦隊に口止めを徹底すれば事足りる」

加賀 「同感ね」

加賀 「あ、そうそう」

提督 「何だ?」

加賀 「大和さんと話したのは模擬演習のことだけ?」

提督 「?そうだが・・・」

提督 「大和とすれ違った時に煙草以外の臭いでもしたか?」

加賀 「いえ、戦果が悪い時の癖でも出たのかと思ったけど違うのね」

提督 「ふっ・・・」

提督 「いる間は始終、模擬演習に出せ出せだったよ」

加賀 「残念そうね」

提督 「言わせるな」

提督 「代わりにお前が付き合うか?夜にどうだ?」


 加賀は思案顔をしつつ椅子を机に収めると後ろ手を振りながら口を開く。


加賀 「今日の夜は明日の模擬演習に向けて集中したいから・・・」

加賀 「それに提督とは明日できるでしょ?」

提督 「そうか、しょうがないな」

加賀 「もう行っていい?」

提督 「あぁ、問題があればすぐ言え」

加賀 「わかったわ」


 提督の振る手を見て加賀は執務室を出た。


 結果として出撃した第一艦隊のメンバーは全員鎮守府にいた。

 提督と加賀はこれ以上動揺させないよう軽い口止めを行うに留めた。



―――――
―――

500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:21:24.18 ID:l87Lyojv0



〜訓練所〜


 月はなく星だけが照らす暗い夜。

 倉庫街の間を艤装を装備して歩く朝潮。


朝潮 「はぁ・・・」

朝潮 (荒潮の私物が詰まったダンボールを送り出し・・・)

朝潮 (戦闘後の会議が終わったと思ったら、その後に加賀さんに集められて口止め)

朝潮 (やっと開放されたかと思ったら・・・)

朝潮 (荒潮のことを忘れたかのように加賀さんと大和さんの模擬演習で食堂の話題は持ち切り)

朝潮 (明日も出撃があるのに悲しむ暇さえ・・・)


 目的地のすぐ側にいくつかの倉庫をぶちぬいて作られた射撃訓練所があった。

 朝潮が中を覗くとレーンは全て第一艦隊所属の艦娘で埋め尽くされていた。

 あるレーンでロープに足を吊られた羽黒が射撃訓練をしている。

 その羽黒を吊るロープを那智が竹刀で不規則に叩き揺らしていた。


羽黒 「ひいいいいいい」

那智 「馬鹿者ォ!!!荒れた海上はこんな揺れでは済まんぞ!!!」

羽黒 「はっはい」

那智 「言われんでも、もっと・・・腰を、入れんかああ!!!」

羽黒 「ひゃいいいい!」


 羽黒のレーンに限らず訓練場は戦闘前の指揮作戦艇のように殺気に満ちていた。

 全員が何かを拒絶し振り払うかのように訓練に打ち込んでいる。


朝潮 (みんな恐いんだ・・・)


 朝潮は静かに訓練所を出て、指定された場所に歩を進める。

 波の音が大きくなり訓練場から連発する発砲音と競り合うように響く。

 指定された訓練所すぐ裏の埠頭で海に向かい、朝潮に背を向けてある艦娘が立っていた。


朝潮 「先にいらっしゃってたんですね」

朝潮 「遅れて申し訳ありません・・・・・・大和さん」



―――――
―――

501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:24:26.83 ID:l87Lyojv0



大和 「大和も今来たところです」

朝潮 「何を見てらっしゃるんですか?」

大和 「そうですね・・・朝潮さんは知ってますか?」

朝潮 「え?・・・何をですか?」

大和 「海の向こうでは日本と違って深海棲艦に脅かされない広大な内陸があるそうですよ」

朝潮 「陸が・・・見えるのですか?」


 訓練所の砲撃音に負けないようお互い大きめの声で応酬する。

 大和と朝潮の視界の先には飲み込まれそうに暗く海が広がるだけだった。

 大和が海から背後の朝潮へ振り返る。

 夜の帳に包まれ大和の表情が朝潮にははっきりとわからない。

 顔と艤装の輪郭だけが、弱い星明かりに照らし出されている。


大和 「荒潮さん、残念でしたね」

朝潮 「・・・」

大和 「大和も親しかった武蔵が轟沈したから気持ちがわかります」

大和 「仲・・・良かったんですよね?」

朝潮 「・・・はい」

大和 「・・・聞くまでもないですよね、ごめんなさい」

朝潮 「いいえ、それより・・・」

朝潮 「私の部屋で仰っていた、ここでしか話せないこととは何でしょうか?」


 湿気を孕んだ冷たい風が二人を削るように吹く。

 ビリビリと体を揺するほど砲撃音がする訓練所のすぐ近くとは言え、

 季節的に長居するような場所でもなく、この時間に人が来ることのない場所だった。

502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:26:21.00 ID:l87Lyojv0


大和 「命令違反の件、全て提督に聞きました」


 大和の言葉が朝潮の心臓を鷲掴みにする。


朝潮 「!・・・」

朝潮 (脅すつもりなの・・・?)


 朝潮は身構える。

 朝潮は大和との接点が少ない。

 荒潮の第一艦隊除隊のお願いで助太刀してくれたこと以外にはほぼなかった。

 辛うじて大和に付いて知っていることは、

 霞と大潮から聞いた大和と加賀が提督を取り合っているということだけだった。


朝潮 (この人は提督側の・・・)

朝潮 (知っていてもおかしくない・・・)


 吐き出すように真意を尋ねる。


朝潮 「仰りたいのはっ・・・命令違反に付いてでしょうか?」

大和 「落ち着いて・・・朝潮さん」

大和 「命令違反を咎めるためとかで呼んだ訳ではないの」


 心なしか強めの発言となってしまった朝潮に対し、

 大和は優しい言葉使いと両手を振ることで害意がないと伝える。

 朝潮はそれを理解し、提督にするように大和へ警戒を抱いていたことを恥じた。

503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:27:59.99 ID:l87Lyojv0


朝潮 「すいません、作戦の責任で猛省するべきなのは私なのに・・・」

朝潮 「こんな失礼な言い方を・・・」

大和 「気にしないでください」

大和 「朝潮さんが不安なのも痛いほどわかりますから・・・」

大和 「いつ命令違反が露呈するか心配なのでしょう?」

朝潮 「・・・」

大和 「ごめんなさい、言えないですよね」

大和 「怖がらせたくて言ったんじゃないんです、それに安心して下さい」

大和 「提督が告発することはありえませんから」

朝潮 「?」

大和 「信じられないってリアクションですね」

朝潮 「はい・・・」

大和 「命令違反が露呈したら提督にとって損なんです」

大和 「命令違反を部下に当たる艦娘が起こすなんて・・・」

大和 「上に向かって私は指揮能力がありませんと大声で言うようなものなんですから」

大和 「あのプライドの高い提督がわざわざ自身が不利になる告発なんてすると思いますか?」

朝潮 「・・・思いません」

大和 「そうでしょ?」

大和 「少しは安心できましたか?」

朝潮 「はい・・・ありがとうございます」


 闇の向こうで優しく微笑んでいるであろう大和に朝潮は心を開きかける。

 荒潮の死は慰められても、命令違反の責任を慰めてくれる人はいなかった。

 自身の責任なので慰められるものでないと心で分かっていても、

 朝潮は一人で抱えていた心の傷が少し軽くなるのを感じていた。

504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:30:04.58 ID:l87Lyojv0


朝潮 「このことで私を・・・?」

大和 「それもあります、けど・・・」

朝潮 「けど?」

大和 「本題は別です」

朝潮 「ここ・・・でないと言い難いことなのでしょうか?」

大和 「寮の一室ですと誰に聞かれているかわかりません」

大和 「万が一朝潮さんがそれで困るようなことがあれば大和も悲しいです」

朝潮 「ありがとうございます」

朝潮 「・・・では、お話しになりたいこととは一体?」

大和 「最終戦闘の終盤・・・」

大和 「加賀さんが制空権を放棄して、荒潮さんを助けに行ったそうですね」

大和 「そして・・・荒潮さんはタ級に殺された」

朝潮 「はい・・・」


 フラッシュバックのような一瞬のものではない、

 隙があれば壊れたビデオデッキのようにあのシーンが朝潮の脳内で繰り返し再生されていた。

 悲しみや怒りの感情だけじゃない、浴びた血の感触まで鮮明に思い出せた。


朝潮 「戦闘報告書は鎮守府の全員に公開されています」

朝潮 「御存知の通り、報告書の命令系統は虚偽のものです」

朝潮 「しかし、戦闘行動は間違いなく全て本当です」

朝潮 「確認すべきようなおかしい点でもあるのでしょうか」

大和 「・・・あります」

大和 「今日はそのことで呼んだんです」

朝潮 「はぁ・・・」

大和 「落ち着いて聞いて下さい」

大和 「荒潮さんを殺したのは・・・タ級ではなく加賀さんです」

朝潮 「はい?」


 訳がわからない。

505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:33:14.53 ID:l87Lyojv0


大和 「訳がわかりませんか?」


 頭から血がスッと引いていく感じがする。


大和 「正確には加賀さんが・・・荒潮さんを意図的に見殺しにしたということです」

朝潮 「確かに荒潮は最終戦闘のタ級から最後の砲撃を受ける前に・・・」

朝潮 (轟沈寸前だったけれど)


 知覚のことを話すなと言う提督の言葉が頭をよぎり、朝潮は言葉を引っ込める。


大和 「朝潮さん?」

朝潮 「すいません。何でもありません」

大和 「朝潮さん・・・大和が聞いたのは命令違反だけではありません」

大和 「当然・・・知覚のことも提督から聞いています」

大和 「今、言いかけたのはそのことではありませんか?」

朝潮 「え・・・」

大和 「図星のようですね」

大和 「もしかして、あなたも薄っすらと・・・」

大和 「荒潮さんが最終戦闘開始時点で大破していたのに気付いていたのではないですか?」

朝潮 「?!!」

大和 「その反応ですと・・・心当たりはあるようですね?」

大和 「覚醒前で荒潮さんの大破に確信まで持てなかったのでしょう?」

大和 「なので朝潮さんは仕方ないでしょう」

大和 「けれど・・・加賀さんはどうかしらね?」
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:34:50.43 ID:l87Lyojv0

朝潮 「加賀さん?」

大和 「そう・・・あなたより早く知覚に覚醒して使いこなしている加賀さん」

朝潮 「加賀さん?・・・・」

朝潮 「え・・・まさか・・・」

大和 「想像の通りよ」

朝潮 「加賀さんは気付いていた?!荒潮の大破に????」

大和 「当然ですよねぇ」

大和 「覚醒前の朝潮さんでも薄っすら気付くのに加賀さんが気付かない訳がないですよね」

朝潮 「な、何で・・・」

朝潮 「加賀さんが大破進軍を?意図的に?」

朝潮 「ありえません・・・加賀さんは命懸けで荒潮を守っていました」

大和 「加賀さんは提督と艦隊を守るために演技をしただけですよ」

大和 「あなたに指揮作戦艇を守らせるためにそうしたに過ぎません」

朝潮 「確かに・・・それは提督にも同じことを言われました」

大和 「そうでしょう? その目的のために命懸けの振りをしただけです」

大和 「そして怪我をしない内に切り上げようとした」

朝潮 「あれが・・・演技?」

大和 「まんまと騙されていたようですね・・・」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:37:40.23 ID:l87Lyojv0

大和 「考えてもみて下さい」

大和 「加賀さんの大破要因は何でしたか?」

朝潮 「タ級の砲撃に当たり、体勢を崩されてヲ級の攻撃を

大和 「不自然とは思いませんでしたか!?」

大和 「報告書の通りなら、かすっただけで四肢を吹き飛ばすような猛火の中で・・・」

大和 「それまで全弾避けられていたのに急に被弾したことに!!!」

大和 「しかも!!被弾した攻撃では体勢を崩しただけです」

大和 「まるで・・・」

大和 「タ級の弱い砲弾を選んでわざと当たりに行ったかのようだとは思いませんか?」

朝潮 「荒潮を守る演技を切り上げるために、意図的に被弾した?」

大和 「そうです」

朝潮 「荒潮が大破しているのがわかっていて?」

大和 「そうです」


 頭がくらくらする。息苦しい。

 底なし沼に体を保ったままずぶずぶと沈んでいくような感覚。

 大和の背後に暗闇は果てしなく続いている。


朝潮 「冗談なら・・・止めて下さい・・・」

大和 「・・・」

朝潮 「そうだ・・・私の知覚は提督に否定されているんです」

朝潮 「だから、私が戦闘開始から荒潮が大破していたかもと思うのは間違っていたんです」

大和 「あなたの知覚は・・・紛れも無く本物です」


 朝潮の頭はあれほど信じたかった知覚の存在を拒否している。

 何か触れてはならないものに触れてしまう、全身が最終戦闘の時と違うアラームを発していた。

508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:39:37.77 ID:l87Lyojv0


朝潮 「そんなわけない!!!提督が!!」

大和 「その提督が否定したのも・・・加賀さんの差し金だとしたら?」

朝潮 「!!!」

朝潮 「・・・加賀さんにそれをする意味があると思えません」

大和 「大破進軍をするとどういうメリットがあるか朝潮さんはご存知ですか?」

朝潮 「大破進軍???」

大和 「そうです、答えて下さい」

大和 「加賀さんの意図的な大破進軍、この真相を知るのに重要な質問です」

朝潮 「海域突破率やボス到達率の上昇・・・ですか」

大和 「その通り、秘書艦として戦果を稼ぎ出世するには重要です」

朝潮 「まさか・・・」

大和 「加賀さんは戦闘マシーンと言われるほど職務に真面目です」

大和 「それは私も認めていますけど、この頃は行き過ぎなんです」

大和 「朝潮さんが言ったようなメリットを求めて大破進軍をするようになってしまいました」

大和 「戦闘マシーンだからこそ・・・弱いものを省みることができないからかもしれません」

大和 「加賀さんには朝潮さんや荒潮さんのような大破し易い駆逐艦は・・・」

大和 「足手まといでしかないんでしょうね、悲しいことに」

朝潮 「加賀さんがそういうことを考えていも、不可能です」

朝潮 「提督も・・・私も・・・荒潮の制服の損傷は確認したんです」

朝潮 「間違いなく中破でした」

大和 「制服の損傷はそうでしょうね・・・」

朝潮 (制服の損傷は?・・・)
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:41:50.43 ID:l87Lyojv0

大和 「信じられない、信じたくない気持ちはわかります」

大和 「ですけど、中破と誤認させる方法なんていくらでもありますよ」

朝潮 「はぁ?!」

大和 「あなたは深夜に立ち入り禁止の執務室にいる加賀に会ったことがありますね」

朝潮 「何で知っているんですか?!」

大和 「それは今どうでもいいことです」

大和 「あの時、加賀さんは大破進軍する準備をしていたんですよ」

大和 「そう、入れ替えていたんですよ」

大和 「損傷表の写真をね」

朝潮 「!!!!!」


 激高した朝潮が殴り込み逆に叩きのめされた執務室。

 加賀が書類を漁っていたのを朝潮は見ていた。


朝潮 「加賀さんが?・・・本当に?」

朝潮 「そんな・・・」


 緊張による発汗が顔を叩く海風で更に冷やされちりちりと顔が痛い。

 風の圧力が、痛みが、加賀に床へ叩き伏せられたあの日の絶望的な感覚を蘇らせる。

510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:49:31.45 ID:l87Lyojv0


大和 「今なら朝潮さんの知覚を加賀さんが提督に否定させた理由がわかるでしょう?」

朝潮 「損傷度を隠すためですか・・・」

大和 「そうです」

大和 「加賀さんは損傷度が制服以外でわかると都合が悪いんです」

大和 「提督が損傷確認に利用する損傷表に記録される写真は大破直前のみ」

大和 「だから大破進軍を防ぐことができます・・・普通なら」

大和 「その写真を入れ替えているんですからね」

大和 「大破でも轟沈寸前の酷い損傷度の写真のものと」

朝潮 「そんな損傷表で確認を行えば・・・」

大和 「提督でも誰でも大破していないと誤認して進軍をしてしまうでしょうね」

朝潮 「では、加賀さんが否定させるということは、私の知覚は・・・」

大和 「本物です」

大和 「思えば加賀さんは朝潮さんが覚醒することもわかっていたんじゃないでしょうか」

大和 「加賀の艤装と同調させることで朝潮さん自身の艤装との同調を下げる」

大和 「証拠を残さず殺すためとは言え、こんな危険なこと普通ならさせません」

朝潮 (あの強力な加賀が殺そうとしていた?私を?)


 大和が軽く話すほど事態は甘くないと朝潮が一番わかっていた。

 朝潮と加賀はあの夜に格付けが済んでいる。

 寒さからでない震えがした。


朝潮 (この会話が加賀に知られたらただで済むわけがないっ・・・)


 周囲を見渡して確認し、大和に少し近付き声を落とす。

511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:51:51.71 ID:l87Lyojv0


朝潮 「・・・大和さん!!!」

朝潮 「もう憲兵か海軍上部に通報はしているんですか?!」

大和 「していません」

朝潮 「何でですか?!」

大和 「残念ながら加賀さんを通報するには証拠が足りないんです」

朝潮 「荒潮を殺したんですよ?」

大和 「加賀さんが知覚に付いてしらばっくれれば終わりですよ」

大和 「通報しても証拠不十分で不起訴か・・・」

大和 「下手をすれば無実の提督や他の艦娘になすりつけてくる可能性さえあります」

朝潮 「どうすればいいんですか・・・」

大和 「いい案があるんです」

大和 「加賀さんを・・・こらしめる」

朝潮 「本当ですか?!」

大和 「模擬演習のことはご存知ですか」

512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:55:14.35 ID:l87Lyojv0

朝潮 「聞いています、明日大和さんと加賀さんが行うと・・・」

大和 「知っているのなら話が早いです」

大和 「第一艦隊の朝潮さんは一番近い指揮作戦艇から見学ができるはずです」

朝潮 「それも聞いています」

大和 「大和の攻撃に合わせて朝潮さん・・・加賀さんの艤装との同調に干渉してください」

朝潮 「干渉?どうしてですか?」

大和 「ピンと来ませんでしたか」

大和 「同じ艦の艤装が一つの艦隊に入ることができない理由は知っていますね」

朝潮 「あ・・・」


 同じ艦の同調はお互いに干渉してしまうため、

 一つの艦隊にいれば二人共艤装と同調できなくなる。

 なので、例えば加賀と加賀を同じ艦隊に組むようなことはできなかった。


朝潮 「加賀さんの同調に干渉して艤装との同調を妨害するんですか?」

大和 「そういうことです」

大和 「加賀さんはあなたを殺すために自身の艤装に朝潮さんを同調させたんでしょうけど」

大和 「自身がそれで危機に陥るなんてとんだ誤算でしょうね」フフ

大和 「明日の加賀さんの反応が楽しみです」
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 02:57:27.40 ID:l87Lyojv0

朝潮 「殺す・・・ことになりませんか?」

大和 「殺すなんて野蛮なことをする積もりはありません」

大和 「傷めつけるだけでいいんです、後はもうしないように脅すだけです」

朝潮 「しかし、加賀さんの同調が下がるどころかなくなれば・・・」

大和 「死ぬことだってありますね」

大和 「けれど、仕方ないと思いませんか?」

大和 「加賀さんは荒潮さんを殺したんですよ?」

大和 「それに、加賀さんはあなたをも殺そうとしていたのですよ?」

朝潮 「そっ・・・それは」

大和 「それに何よりこれは朝潮さんのために言っているんです」

大和 「・・・知覚が覚醒した今、もっと露骨に加賀さんは朝潮さんを殺そうとしてくるでしょう」

大和 「止めるにはこうするしかないと思いませんか?」

大和 「当然やってくれますよね?」

朝潮 (加賀さんを殺す???)

朝潮 「・・・」

大和 「朝潮さんどうするんですか?」


 パチ・・・パチパチ・・・パチパチパチ


 朝潮の背後の暗闇から拍手が聞こえてきた。



―――――
―――

514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 03:01:58.65 ID:l87Lyojv0

大和 「誰!?」


 朝潮も振り返るが訓練所までの暗闇に潜んでいるであろう存在が掴めない。

 暗闇から拍手だけが続く。


大和 「朝潮さん、誰かわかりますか?」

朝潮 「えっ・・・何で私に聞くんでしょうか?」

大和 「わからないんですか?!」

朝潮 「はいっ」

大和 「提督ですか!!」


 訓練所の砲撃音を背に暗闇から人型が現れた。

 ただ存在だけわかる程度にそこにあり、未だ暗闇に溶けている。


加賀 「名演技だったわよ、大和さん」パチパチパチ

加賀 「艦娘を止めても食べていけそうなくらいにはね」パチパチ

朝潮 「加賀ッ・・・!」


 声のする方へ振り向いた朝潮の艤装を大和ががっしりと掴む。

 背負い紐はがっちりと固定され身構えて前傾姿勢になろうとした朝潮を抑えた。

 朝潮は不満を表すかのように大和へ振り向く。

515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 03:03:49.01 ID:l87Lyojv0

大和 「待ちなさい」

朝潮 「どうしてですか?!」

加賀 「何にでもキャンキャン吠えて・・・まるで臆病な小型犬のようね」

加賀 「強がるならその震えを止めてからにしたら?」

朝潮 「五月蝿いっ!!!荒潮を返して!!!」

加賀 「ふふ、飼い犬はしっかりと躾をしてくれる?大和さん」

朝潮 「大和さんっ!!!離してっ!!!」

加賀 「そりゃ止めるわよねぇ」

朝潮 「今なら!!」

加賀 「朝潮に同調を干渉させないと私に勝てる道理がないものね」

加賀 「前回の模擬演習で手も足も出ず大破轟沈判定を出されたんですから・・・」

加賀 「今朝潮を失えば致命的よね」

加賀 「命綱は離しちゃ駄目よねぇ」フフ

朝潮 「・・・」

加賀 「それにしても、あれだけこてんぱんにしたのに模擬演習をしたいと言うから」

加賀 「どんな奥の手があるのかと思ったら・・・ふッふふふ」

加賀 「他力本願とはね、演技もそうだけど芸人の素質もあるわね」
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 03:05:12.68 ID:l87Lyojv0

大和 ギリッ「・・・どういうつもりですか?」

加賀 「どういうつもり?」

加賀 「そうね・・・大和さん、あなたと二人だけで話をしたいの」

加賀 「まずは朝潮を下げなさい」

大和 「命綱を離せ・・・と?」

加賀 「朝潮が感知しなかったことでわかるでしょう?」

加賀 「私は今艤装と同調していないの」

朝潮 (そういうこと・・・)


 大和が朝潮に拍手した存在の名前を聞いた理由に気付く。

 そして、加賀が朝潮の知覚を認めていることも。


大和 「それでも、艤装を持っていないとは限らないですよね」

加賀 「隠しても仕方がないから言うけど艤装は持っているわ」

加賀 「けれど・・・ご存知の通り空母は夜間戦闘能力が乏しいの」

加賀 「弓で射抜くことはできるけど、それなら砲撃できるあなたと対等でしょう?」

大和 「・・・」

加賀 「改めて言うわ」

加賀 「朝潮を下げて・・・・対等に二人だけで話がしたいわ」

大和 「朝潮さん下がってくれますか?」

朝潮 「しかし、今なら!!」

大和 「下がってください」

朝潮 「っ・・・」

517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/09(水) 03:07:30.51 ID:l87Lyojv0


 気圧される。

 鎮守府トップ2が殺気をぶつけ合う狭間で

 朝潮は自身の存在がちっぽけなのを否応なく痛感させられていた。

 朝潮の足は手で抑えても小刻みに震えていた。


朝潮 「わかり・・・ました」

大和 「ごめんなさいね」

大和 「しっかり加賀さんとは話をつけますから」


 大和が朝潮の艤装を離す。

 朝潮はぎこちない足取りでゆっくり歩を寮の方へ進める。

 暗闇から加賀に言葉をぶつけられる。


加賀 「上官の命令はすぐ聞きなさい」


 怯える体と怒る心で朝潮は壊れそうになっていた。

 朝潮の足音が遠ざかるのを確認して加賀が大和へ口を開いた。



―――――
―――

518 : ◆oUFoaE/FvU [saga sage]:2016/03/09(水) 03:09:06.85 ID:l87Lyojv0
本日分投下終了です。
ご読了ありがとうございました。
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/09(水) 08:25:32.81 ID:z7y5221aO
乙です
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/09(水) 08:45:13.46 ID:iyETpHuSO
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/09(水) 13:38:58.50 ID:uqnTBAv90
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/21(月) 23:35:38.10 ID:Z+64e0QVO
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/11(月) 23:01:05.64 ID:GG1S0AoRO
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/25(月) 20:29:33.34 ID:/G6AzW5HO
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/08(日) 14:50:26.60 ID:NyiGy7D2O
明日で2ヶ月か
大丈夫かな?
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/08(日) 21:48:02.10 ID:vUy8oJxmO
てs
527 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2016/05/10(火) 00:32:25.20 ID:tbswnEyS0
お待たせして申し訳ありません。
私的な色々に加えこの度のイベントが重なり遅筆に拍車をかけてしまっている次第です。
恐らく現在の進みだと次回投下が6月末辺りになりそうな具合でございます。
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/10(火) 00:49:32.73 ID:WnGs7wF0O
良かった生きてたか
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/10(火) 17:16:47.57 ID:CLDSRbebo
わたし待つわ
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/10(火) 18:01:52.03 ID:xLKqe6kwo
いつまでも待つわ
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2016/05/10(火) 18:58:44.41 ID:CiUYkhSa0
age
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/10(火) 18:59:46.91 ID:JV6jdB4zO
待ってる
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/12(木) 17:44:56.26 ID:BudAKIzC0
6月の始め頃にも生存報告よろ
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/14(土) 03:11:45.42 ID:dhoWX2cU0
基地航空隊の札を待機にして待ってる
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/25(水) 23:47:45.83 ID:oezBY4bZO
536 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2016/06/06(月) 00:14:17.87 ID:5WIUZ19u0
お米ありがとうございます。
当SSがテンポが大事なストーリーものに関わらず我ながら情けない更新ペースですので、
完全終了を待つ方がいらっしゃっても、都度の更新を心待ちにしてくださる方たちがこんなに……と喜ぶとともに驚いています。
前回米からイベントを満喫してしまい、当初の見込み通り次回投下は6月下旬までにできる見込みです。
現在中旬投下を目指しせっせと書いているので実際の投下は少し早くなりそうです。
何卒引き続きよろしくお願い致します。
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/06(月) 01:45:43.26 ID:xrZqZl20O
期待してる
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/06(月) 05:47:39.14 ID:XJ4uB+CRO
了解
待ってる
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/08(水) 23:43:48.45 ID:HZFhB8QM0
朝潮改二とともに待ってる
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/18(土) 17:10:59.05 ID:pnK94EDZO
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 19:49:26.34 ID:lOgR6NYe0
そろそろかな?
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/17(日) 13:22:06.25 ID:JvOQZJaDo
待機
543 : ◆oUFoaE/FvU [sage saga]:2016/07/23(土) 04:49:55.37 ID:RF41QQe60
予告の期日よりずれ込み大変申し訳ありません。続きを本日中に投下します。

後、本SSについてお願いがあります。
もし、ご覧になってるまとめ関係の方がいらっしゃれば、
投下単位いくつかをまとめて、まとめサイトに掲載してもらえると幸いです。
まだ完結してない上での厚かましいお願いになるので、難しいことは重々承知ですのでご無理は禁物です。
理由は、上中下ドーンと一気にまとめサイトに出ると少し読む気力が減退するという利己的なものです。

朝潮改二可愛すぎませんかね。
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/23(土) 21:49:43.91 ID:VSj54Gd7O
朝潮ちゃああああああああああん
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/23(土) 23:08:50.83 ID:6PCJ1mC10
まだかなまだかな?
546 : ◆oUFoaE/FvU [sage saga]:2016/07/23(土) 23:40:59.66 ID:RF41QQe60
申し訳ありません。
ミスがあり後半部分に大幅な書き直しを行っています。投下は明日中になりそうです。
尚、万が一明日中に後半の書き直しが間に合わないことがありましても、
テンポを考えて投下を止めている完成した前半部分は確実に投下します。
何卒今少しお待ちいただければと存じます。
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/23(土) 23:58:40.72 ID:kTEvRPOgO
了解です
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/28(木) 22:51:49.52 ID:DYpf5ET+0
sage
549 : ◆oUFoaE/FvU [sage saga]:2016/07/29(金) 01:28:13.68 ID:Ve+vF1j60
お待たせし申し訳ありません
投下再開します
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 01:30:41.05 ID:Ve+vF1j60



加賀 「話をつける・・・ね」


 深夜に向け気温は落ちる。

 僅かな星明かりも薄まり、加賀の人型は再びすっかり闇に溶け込んでいた。


大和 「単刀直入に言いましょう」

大和 「明日の模擬演習、負けてください」

加賀 「言うことを聞かなければ?」

大和 「聞こえていたんでしょう?」

大和 「・・・不幸な事故が起きるだけですよ」

加賀 「私を殺すんでしたっけ?」

大和 「・・・そうなるかもしれません」

加賀 「負けたら事故が起こらない保証は?」

大和 「信じてもらうしかありません」

加賀 「ふっ・・・何それ、信じられると思うの?」

大和 「加賀さんに決定権はないんですよ」

加賀 「そうかもしれないわね」

加賀 「でも・・・負けるだけで良いの?」

加賀 「違うわよね」

大和 「・・・」

加賀 「正義として、フフ・・・私をこらしめる?裁く?・・・積もりなんでしょ」

加賀 「どうせなら今から私に説教してみる?」

大和 「何のことか・・・大和はただ勝ちたいだけですよ」

加賀 「なーんで、とぼけるのかしらね・・・」

加賀 「聞かれたら不味いことでも、朝潮に話していたのかしら?」

551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 01:32:25.33 ID:Ve+vF1j60


大和 「・・・」ハァ

大和 「・・・どこから聞いてらしたんですか?」

加賀 「・・・全部、ね」

大和 「全部?」

加賀 「あなたが朝潮の部屋へ、彼女を呼びに行ったところから」

大和 「はぁ?」

加賀 「ここにあなたと朝潮の会話の全てを録音したデータもあるわ」

大和 「・・・」

加賀 「不味いことがわかっているから・・・朝潮に話していた内容を私に伏せていたのでしょう?」

大和 「何を仰ってるのかわかりませんね・・・」

加賀 「私でも気付いたのよ」

加賀 「録音データを提督に聞かせたらどうなるかしらね・・・」

大和 「加賀さんが悪趣味な盗聴女ということがわかるだけではないですか?」

加賀 「・・・お互い様よねぇ」

加賀 「私は朝潮に・・・けど、大和さんは執務室に盗聴器をしかけているんでしょう?」

大和 「いい加減なことを言わないでもらえますか?」

大和 「執務室を盗聴なんて、加賀さんの命令違反ほどじゃなくても軍事裁判ものですよ」

加賀 「明らかなことをとぼけてもね、追求する相手を逆なでするだけよ」

大和 「証拠がないのに明らか?・・・加賀さん日本語は大丈夫ですか?」

加賀 「大和さん、まだ・・・「朝潮を呼ぶ時まだ加賀は提督と話していたのに不可能よ」・・・とか」

加賀 「そう思ってる?」

大和 「・・・」

552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 01:34:30.58 ID:Ve+vF1j60


加賀 「朝潮が提督を殺そうと執務室に乗り込んだ夜・・・」

加賀 「あの夜から朝潮を監視する必要を感じていたわ」

大和 「はぁ?」

加賀 「私の提督のために・・・」

大和 「・・・」ギリ

加賀 「朝潮に、脱走されたり、レイプされたと通報されれば、証拠はなくても提督の評判が落ちるもの」

加賀 「だから内線をかければ良い呼び出し如きで朝潮と荒潮の部屋を尋ね・・・」

加賀 「その時、勧められた椅子に盗聴器を仕掛けていたのよ」

加賀 「まさかそれが、こんな場面で役に立つなんて私も驚いているのよ」フフ

大和 「心底気味の悪い自白ですね」

大和 「大和でなく憲兵にでもしてもらえませんか」

加賀 「提督には、”朝潮が暴走しないよう手を打つ”と執務室で言ったのだけど・・・」

大和 「先ほどから大和が知っている前提でお話ししているようですけど・・・」

大和 「何度も言ってます通り、執務室の盗聴なんてしていませんので何もわかりませんよ」

加賀 「なら、朝潮に話した話していた内容は?」

加賀 「提督と私しか知らない会話の内容をどうやって知ったというの?」

大和 「提督に聞いたとか、色々方法はあるでしょう・・・」

加賀 「それは不可能ね、命令違反の密告者探しで提督も私も忙しかったから」

大和 「・・・今回はたまたま提督と加賀さんが執務室で話しているのを、ドア越しに聞いただけです」

大和 「加賀さんが、暗闇から大和と朝潮さんの会話を盗み聞きしたように、です」

加賀 「執務室のドアは艤装を付けたまま入れるように大きいけどね」

加賀 「防諜のために一般的なドアより数倍厚くて多少の音は通さないわ」

加賀 「ドアのノックや提督が致す時のように大きな振動や大声なら話は別だけどね」

加賀 「ドア越しに会話を聞いた?・・・普通の会話の盗み聞きなんてまず不可能よ」

加賀 「これからも嘘を付いて行く積もりなら最低限できるかを試した方がいいわよ」

553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 01:36:50.28 ID:Ve+vF1j60


大和 「・・・何時からですか」

加賀 「はぁ?」

大和 「何時から執務室の盗聴に気付いていたんですか」

加賀 「随分と素直ね」

大和 「・・・」

加賀 「私が気付いたのは、朝潮が荒潮の第一艦隊除隊を頼んできた時に都合よくあなたが現れた時からかしら」

大和 「・・・そうですか」

大和 「でしたら、大和や朝潮さんを殺すよう提督に提案していたのは、大和を釣るためだったんですか?」

加賀 「・・・さぁ?」

大和 「はぁ?」

加賀 「そんなことどうでもいいけれど、役に立ったでしょ?」

大和 「・・・随分急ごしらえに感じますけど、本当に録音できているんですか?」

加賀 「ご心配どうも」

加賀 「朝潮の部屋に仕掛けた盗聴器と同じものを、入渠していた朝潮の艤装に仕掛けるだけ」

加賀 「砲撃音に負けないように馬鹿みたいに大声で話していたから、音質も問題ないわ」

加賀 「ところで大和さん、自身がどういう状況にいるかわかっているの?」

加賀 「余裕そうだけど」

大和 「当然でしょう?、未だ大和の方が有利なのですから」

加賀 「有利・・・有利ねぇ・・・」

大和 「おわかりでないんですか?」

大和 「大和が執務室を盗聴していたことを自白した意味を・・・」

大和 「こちらにも加賀さんが命令違反をした確たる証拠があるということです」

大和 「命令違反という重罪を犯した加賀さん・・・それに対し執務室の盗聴をした大和」

大和 「罪の重さも交渉の材料においても大和が勝っていることは、火を見るより明らかです」

加賀 「ふふ、交渉に置いて、要求や条件を出せるのは、有利な立場にある者だけど、まぁ・・・」

加賀 「大和さんにも、交渉しているという意識はあったのね、驚いたわ」

554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 01:39:11.29 ID:Ve+vF1j60


大和 「どういう意味ですか」

加賀 「大和さんはご自慢の証拠に価値があると本当に思っているの?」

加賀 「私と艦隊の命令違反を上や憲兵に訴えたとして提督が認めると?」

加賀 「大和さんが朝潮に言っていたのと同様に、提督が保身のため揉み消すのがオチだとわからないの?」

大和 「もう揚げ足を取ることしかできませんか?」

大和 「それにもみ消しは加賀さんの盗聴についても言えますよね」

加賀 「そうね」

大和 「なら・・・

加賀 「出撃が減って、頭でも錆びついているの?」

加賀 「私が言いたいのは、お互いの情報自体には価値がないということよ」

大和 「はぁ?・・・交渉だなんだと偉そうに仰っておいて何が仰りたいんですか」

加賀 「わかりやすく説明してあげるわ」

加賀 「私の情報は、提督に聞かせて、初めて価値が出るということよ」

大和 「最初に加賀さんが「録音を聞いて提督が気付くことがある」と言っていたことですか?」

大和 「そんなの恥ずかしながら、大和が嫉妬で盗聴していたと思われておしまいですよ」

加賀 「恐竜並の脳みそしかないと思っていたけど、記憶力だけは良いのね」

大和 「加賀さん、立場を弁えずに吠えても痛々しいだけですよ」

加賀 「そういえば、今日の命令違反を密告した人間がいることはご存知よね?」

555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 01:42:31.47 ID:Ve+vF1j60


大和 「・・・」

加賀 「今更隠す必要もないじゃない?」

加賀 「提督と私で密告者を探そうとしていたことまでは知っているわね?」

加賀 「結果として、密告者は出撃艦隊の艦娘にはいなかった」

大和 「どうしてそう判断したんですか」

加賀 「本当に命令違反を密告していた艦娘がいたら、すぐに鎮守府から逃走しているもの」

加賀 「提督と私で探したと言っても、彼女たちを呼んで所在を確認するだけの簡単な作業だったわ」

大和 「何で密告していたら鎮守府にいないと言い切れるんですか」

加賀 「密告した裏切り者がいるとわかれば、出撃艦隊の他の娘が放っておくと思う?」

加賀 「自身の命が懸かっているのよ・・・聖人君子だって、その手を汚すわ」

加賀 「こういう時、口止めに艤装で木っ端微塵にして海に流すくらいはよくある話よ」

加賀 「だから密告者は安全のため、鎮守府から身を隠すよう憲兵から指導されたり、保護される筈なのよ」

加賀 「それもなかった」

加賀 「出撃艦隊に犯人がいないことを示す、これ以上に有用な証拠があるかしら」

大和 「ないかもしれませんね」

加賀 「さて・・・じゃあ、出撃艦隊以外の誰が密告したのかしらねぇ?」

大和 「・・・さぁ、大和にわかるわけないじゃないですか」

加賀 「わからない?嘘も大概にして欲しいものね」

加賀 「出撃艦隊以外の艦娘で、命令違反を唯一知っているのは、執務室を盗聴していた大和さんだけなのよ」

大和 「・・・」

加賀 「あなただったのね・・・密告した裏切り者は・・・」



―――――
―――

556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 01:48:47.38 ID:Ve+vF1j60



大和 「断定的な物言いですね、証拠もないのに」

加賀 「証拠なんていると思っているの?」

加賀 「お利口にも、軍法・軍規違反を交渉材料として用意したあなたを見てて思っていたけど・・・」

加賀 「ほんっと・・・ずれてるわね、大和さん」

大和 「軍の統制を軽視した危険思想ですよ、訂正してください」

加賀 「別に良い子ぶることないでしょう、ここには私とあなたしかいないのだから」

加賀 「あなたも軍法や証拠なんかに意味がないことはわかっている筈よ、この鎮守府において」

大和 「・・・」

加賀 「この鎮守府唯一にして絶対の権力は、大本営とか軍上層部とか憲兵とか軍法とか・・・そんなものじゃないでしょ」

大和 「提督ですか・・・」

加賀 「そう、提督が全てよ」

加賀 「提督を動かせない交渉材料しか用意できない時点で、大和さんは負けていたのよ」

加賀 「さて・・・私の録音データを聞いた提督は大和さんをどうするかしらねぇ・・・」

大和 「提督に渡す積もりですか・・・」

加賀 「止めて欲しい?」

大和 「・・・」

加賀 「外に出してない積もりでしょうけど動揺しているようね」

加賀 「艤装との同調が不安定になってるわよ」

加賀 「ほら・・・」

大和 「?」

557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 01:53:39.40 ID:Ve+vF1j60


 ビンッと聞き慣れない音に続いてめりと肉が軋む音が、訓練所の砲声の中で微かに響いた。


大和 「あ゛」


 大和の制服から露出した太ももを、細い線が貫いている。


加賀 「ただの矢が簡単に刺さる」

大和 「あ゛、あ゛あ゛あ゛っ」

加賀 「体は正直ね」

大和 「いたぁっ・・・」

加賀 「一々五月蝿いわね、返しもない弓道用の普通の矢よ」

大和 「ふ、普通の矢??そんな・・・」


 大和は自身に刺さった矢を手で抑えつつかがみ、闇を上目で睨む。


加賀 「感情が同調に出やすい砲艦というのが災いしたわね」

加賀 「防御壁が一瞬途切れていたわよ?」

大和 「な・・・」

加賀 「あなたが密告者ということは、今ので確信に変わったわ」

大和 「ぅ・・・確認のためだけに矢を?」


 大和は、矢に手をかける。


加賀 「あぁ、抜かないで」

加賀 「抜こうとしたら、また射るわよ」

大和 「はぁ?!」

加賀 「この暗闇で制服と急所を避けて撃つのは難しいから大人しくして欲しいわね」

大和 「痛ぅっ、加賀さんっ、あなた頭がおかしいんじゃないですか・・・」

加賀 「私を殺そうとしていたあなたがそれを言うの?」フフ

大和 「っ・・・」

加賀 「それに、吹けば飛ぶような命の軽い鎮守府で、足の一本二本が何よ」

加賀 「艦娘だから、傷はすぐ癒えるし、痛みもそこまで感じないでしょう」

558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 01:57:12.77 ID:Ve+vF1j60


大和 「・・・一体何が目的ですか?」

加賀 「いくつかの質問に答えてほしいのよ」

加賀 「肉が締まって艦娘でも悶絶するほど矢を抜くのが痛くなる前にね」

大和 「っ・・・拷問のつもりですか」

加賀 「あなたが答えないと言ったら、そうなるわね」

大和 「何が・・・聞きたいんですか?」

加賀 「何で密告なんてしたの?」

大和 「明日の舟遊びを、中止してもらう・・・ためにです」

加賀 「ふーん」

加賀 「憲兵の調査が入れば中止せざるを得ないし、そうでなくても提督が止めると思った?」

大和 「そうです」

加賀 「あなたなりに提督を動かそうとしたようね」

加賀 「けど、残念ね」

加賀 「憲兵にはいたずらと思われたんでしょうね」

加賀 「上官に問い合わせるだけの杜撰な捜査、いえ確認だけで片付けられてるわよ」

加賀 「提督もそれがわかってるから、明日の舟遊びはやると言ってるわ」

加賀 「私は念を入れてやらないよう進言したのだけど」

大和 「あなたが秘書艦に代わるまで、何でも・・・提督のためにしてあげていたんです」

大和 「それなのにないがしろにされて・・・大和と提督の最後の繋がりである舟遊びまで奪われたら」

加賀 「何でもしてた・・・ねぇ」

大和 「大和の燃費が悪いから、そう多く出撃できないのはわかります」

大和 「けれど、艦隊最強で提督の最愛は大和であるべきなんです」

大和 「大和に相性が良くて勝ったくらいで尊大な加賀さんが嫌いでした」

559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 01:59:09.25 ID:Ve+vF1j60


加賀 「私が好かれたいとか考えているように見える」

大和 「・・・どうでもいいんでしょうね」

大和 「そういう人を見下した態度も全部・・・」

大和 「あなたでは提督は幸せにできません」

大和 「加賀さんが好きなのは地方長官候補というブランドや、提督の地位や名声でしょう?」

加賀 「正解・・・」

大和 「そうですよね」

大和 「大和なら関係ありません!!提督を、提督の全てを愛することができます」

加賀 「馬鹿ねぇ・・・」

加賀 「私がそうであるように・・・提督も同じように地位と名声を欲していた」

加賀 「結果として、強い私を選んだだけ・・・提督に近いのは大和さんより私だったということよ」

加賀 「それにしても、私をハメようと思ったのでしょうけど、とんだ墓穴を掘ったものね」

加賀 「地位と名声を求める提督が、密告の犯人を許さないことは大和さんにもわかっていたでしょう?」

大和 「っ・・・」

加賀 「あなたの愛は実際のところ、自分に都合の良い自分だけの提督が欲しいだけ・・・」

大和 「ちがっ・・・」

加賀 「想像以上に初心ね、提督が初めてだったの?」

大和 「・・・違います!!!」

加賀 「まぁ、どうでもいいわ・・・」

加賀 「次の質問、大和さんがしてた執務室盗聴の目的は何?」

加賀 「提督か私の弱みを握るために?・・・それとも、提督に処分されるのを恐れたの?」

大和 「処分?・・・大和を提督が?、ありえません」

加賀 「・・・」

大和 「あなたの弱みを握るためです」

大和 「わかりきっていますよね、大和と朝潮さんとの会話で」

加賀 「・・・そう」

560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 02:13:05.72 ID:Ve+vF1j60


加賀 「次、全ての轟沈は、私が大破進軍をさせたせいだ・・・と、本当に思ってる?」

大和 「・・・」

加賀 「答えなさい!」


 弓を張る音と弾く音と矢が走る音が混ざり異様な音を一瞬に立る。

 闇から伸び出た矢は大和に避ける暇を与えず飛び、一本目と違う大和の足がまためりと悲鳴を上げる。

 大和は刺さった矢が体内で動く痛みを抑えるのに、立った姿勢を崩さず顔を伏せた。


加賀 「さすが”元”筆頭秘書艦・・・二本目は情けない声を上げないのね」

大和 「あなた・・・本当に・・・」


 その時、大和は矢の飛んできた方向、加賀のいる方向におもむろに手をあげる。

 闇を背景に蠢く大和の艤装主砲達が、その手の動きに確かに連動していた。

 吹き上げるような戦艦特有の同調の高まりが、質量を持っているかのように加賀を押した。


加賀 「!」


 その時、闇を介し睨み合う二人と離れた場所から、ガンと無機物がぶつかる音が響く。


大和 「誰ですか!!!」


 声は闇に吸われて消える。

 大和も加賀も音の発生源へ視線が吸い寄せられる。


加賀 「同調も感じないし、風でゴミが転がっただけでしょう」

大和 「そうですか・・・」


 加賀が気付いた時には、大和の同調の高まりは嘘のように消えていた。

 加賀は闇の中で位置を変えた。足音は砲声が消す。

 お互いの声は砲声に潰され平面的に聞こえ、その位置を正確には捉えることができなかった。


加賀 「怯えすぎて神経過敏なんじゃない?」

大和 「・・・そうかもしれません」

561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 02:20:10.28 ID:Ve+vF1j60


加賀 「私の知覚で周囲の艦娘の位置はわかるのよ、安心するといいわ」

加賀 「そんなことより答えなさい・・・全ての轟沈が私のせいだと思っているの?」

大和 「全ての轟沈までは・・・わかりません」

加賀 「歯切れが悪いわね、はっきり答えてくれない?」

大和 「轟沈は、海域の強力な深海棲艦によるものが殆どかと」

加賀 「はっきりと答えなさいと言ったわよね?」

大和 「轟沈したのが加賀さんのせいだと思ったのは、荒潮さんの轟沈した今日の出撃においてのみです」

大和 「他はわかりません」

大和 「これでいいですか」

加賀 「今日の出撃のみねぇ・・・」

加賀 「傍から聞いていたら、全ての轟沈が私のせいみたいな言い方になってたわよ」

加賀 「大和さんも酷なことをするのね」

加賀 「正義感の強い朝潮なら、なりふり構わず動くと思ったんでしょ」

大和 「違います」

大和 「轟沈自体は、大和が秘書艦の時から、加賀さんの赴任前からあるのですから・・・」

大和 「そんな勘違いを朝潮さんがするとは思えません」

加賀 「轟沈の話が基本タブーな鎮守府で、朝潮が、知ってると思った?」

加賀 「引っかかるけど、まぁ・・・いいわ」

加賀 「次・・・」

加賀 「私が損傷表を入れ替えたと本当に思うなら・・・」

加賀 「何で大和さんは損傷表を証拠として密告しなかったの?」

大和 「今の質問で確信に変わりました」

大和 「既に損傷表を、偽物から本物へ入れ替えているんでしょう?」

大和 「それに加賀さんがした証拠がないと、損傷表を管理する提督にも疑惑がかかって迷惑が・・・」

加賀 「私でなく提督が損傷表を入れ替えた可能性はないの?」

大和 「大和が秘書艦をしていた時に、提督はそんなことしていませんでしたから・・・」

加賀 「ふーん、そう」

562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/29(金) 02:24:04.97 ID:Ve+vF1j60


加賀 「そういえば、損傷を誤認させる方法はいくらでもあると朝潮に言ってたわよね」

加賀 「例えば、制服に細工するという方法もあるわよね?」

大和 「制服の損傷を都合よく誤認させる方法があるとでも?」

加賀 「可能性の話よ」

大和 「・・・制服を管理する私を疑っているんですか?」

加賀 「さぁ・・・提督にも言ったけどね、今はどうでもいいのよ」

加賀 「話のついでに聞いただけ・・・」

加賀 「聞きたいことはもうないわ、矢を抜いても構わないわよ」

加賀 「見る限り肉が締まり切っちゃってるけど」

大和 「・・・」


 大和は両手を添えると少しためらった後に、緊張で震える手に力を加える。

 自身の体を傷付けないよう、体外へ真っ直ぐにゆっくりと引く。

 眉根に皺を寄せ呼気を荒げ白い息を吐き呻きながら、大和は矢を体から少しずつ抜いてゆく。

 体外へ出てゆく矢の表面は血で赤く染まり鈍く煌めく、最後に体外へ出た先端の鏃は血の糸を引いた。

 艦娘の治癒力で締まり切ってしまった肉にも関わらず、加賀の宣言通り出血は少なく、

 唯一の出血は、矢の刺さっていた傷から一条の涙のように皮膚を伝い黒いストッキングの縁を黒く染めるだけだった。

 大和は抜いた矢を折り海へ落とし、二本目へ移る。

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