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モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part12 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/04/04(土) 01:03:36.02 ID:zZ70eiqY0
 それは、なんでもないようなとある日のこと。


 その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
 時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

 それと同じ日に、宇宙から地球を侵略すべく異星人がやってきました。
 地球を守るべくやってきた宇宙の平和を守る異星人もやってきました。

 異世界から選ばれし戦士を求める使者がやってきました。
 悪のカリスマが世界征服をたくらみました。
 突然超能力に目覚めた人々が現れました。
 未来から過去を変えるためにやってきた戦士がいました。
 他にも隕石が降ってきたり、先祖から伝えられてきた業を目覚めさせた人がいたり。

 それから、それから――
  たくさんのヒーローと侵略者と、それに巻き込まれる人が現れました。

 その日から、ヒーローと侵略者と、正義の味方と悪者と。
 戦ったり、戦わなかったり、協力したり、足を引っ張ったり。

 ヒーローと侵略者がたくさんいる世界が普通になりました。

part1
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371380011/


part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371988572/


part3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372607434/


part4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373517140/


part5
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/


part6
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/


part7
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/


part8
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384767152/


paer9
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391265027/


part10
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399560633/

paet11
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408673581/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1428077015
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千歌「海の日の素敵なハプニング」 @ 2019/07/16(火) 20:43:05.43 ID:b03YeYAZO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1563277385/

【龍騎】ライダーバトル、再び…【安価】 @ 2019/07/16(火) 19:38:23.86 ID:nPkQVtY90
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1563273503/

やあ、ダニエル! @ 2019/07/16(火) 02:23:20.51 ID:Qv30Ye6Ho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1563211400/

泰葉「やることが……やることが多い……!」 @ 2019/07/16(火) 01:28:04.06 ID:mY4uKMXi0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1563208083/

やる夫が正史を書くようです46 @ 2019/07/15(月) 23:25:51.04 ID:7S2r6L+X0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1563200750/

僕はほたるちゃんを幸せにしてみせる。 @ 2019/07/15(月) 21:15:32.67 ID:zPcQXE1G0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1563192932/

デレマス明治妖怪譚 『油取り』 @ 2019/07/15(月) 20:32:10.37 ID:vSb2yMPS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1563190330/

■ 萌竜会 ■ @ 2019/07/15(月) 19:57:52.77 ID:XpEX13a70
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1563188272/

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/04/04(土) 01:05:01.52 ID:zZ70eiqY0
・「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドスレです。

  ・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
  ・一発ネタからシリアス長編までご自由にどうぞ。


・アイドルが宇宙人や人外の設定の場合もありますが、それは作者次第。


・投下したい人は捨てトリップでも構わないのでトリップ推奨。

  ・投下したいアイドルがいる場合、トリップ付きで誰を書くか宣言をしてください。
  ・予約時に @予約 トリップ にすると検索時に分かりやすい。
  ・宣言後、1週間以内に投下推奨。失踪した場合はまたそのアイドルがフリーになります。
  ・投下終了宣言もお忘れなく。途中で切れる時も言ってくれる嬉しいかなーって!
  ・既に書かれているアイドルを書く場合は予約不要。

・他の作者が書いた設定を引き継いで書くことを推奨。

・アイドルの重複はなし、既に書かれた設定で動かす事自体は可。

・次スレは基本的に>>980
    
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」まとめ@wiki
http://www57.atwiki.jp/mobamasshare/pages/1.html

モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」@wiki掲示板
http://www3.atchs.jp/mobamasshare/
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/04/04(土) 01:07:04.20 ID:zZ70eiqY0
☆このスレでよく出る共通ワード

『カース』
このスレの共通の雑魚敵。7つの大罪に対応した核を持った不定形の怪物。
自然発生したり、悪魔が使役したりする。

『カースドヒューマン』
カースの核に呪われた人間。対応した大罪によって性格が歪んでいるものもいる。

『七つの大罪の悪魔』
魔界から脱走してきた悪魔たち。
それぞれ対応する罪に関連する固有能力を持つ。『怠惰』『傲慢』は狩られ済み。
初代大罪の悪魔も存在し、強力な力を持つ。


――――

☆現在進行中のイベント

『秋炎絢爛祭』
読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋……秋は実りの季節。
学生たちにとっての実りといえば、そう青春!
街を丸ごと巻き込んだ大規模な学園祭、秋炎絢爛祭が華やかに始まった!
……しかし、その絢爛豪華なお祭り騒ぎの裏では謎の影が……?

『オールヒーローズフロンティア(AHF)』
賞金一千万円を賭けて、25人のヒーロー達が激突!
宇宙人も恐竜も海底人も悪魔も未来人も魔法少女も大集合!
賞金を勝ち取るのは……誰だ!
4 : ◆cKpnvJgP32 [sage]:2015/04/04(土) 15:24:57.22 ID:IEMbCevbo
>>1おつー

そういえばここも今年で2周年目になるんだよなぁ……(遠い目)
5 : ◆q2aLTbrFLA [sage]:2015/04/10(金) 16:33:07.59 ID:adZce2Hz0
>>1おっつおっつ

学園祭も3日目突入かー
6 : ◆EBFgUqOyPQ [sage]:2015/04/22(水) 01:40:05.90 ID:HEFpIzrTo
お久しぶりです。

周子一位おめでとう!
やっぱり白肌美少女は最高です。

さて投下するのですが、今回の話は少しはっちゃけすぎたせいかグロ成分が少し多めだったり、胸糞成分があったり、挙句の果てに少しアイドルに優しくない描写が含まれます。

けっしてアイドルをいじめるのは私の趣味ではないことをここで声を大にして示しておきますが、そんなわけもあり不快に思われる方もいるかもしれません。
そんな方はスクロールバーを一番下まで下げるのをお勧めします。

7 : ◆EBFgUqOyPQ [sage]:2015/04/22(水) 01:41:27.93 ID:HEFpIzrTo
『Девушка Интересно действительно счастлив?』

(少女は果たして、幸せなのだろうか?)

『В судьбе останков смывается』

(流されるままの運命の中で)

『Она также может быть освобожден от рельса, который определяется она』

(彼女が決められたレールから解放されても)

『Его суждено продолжать борьбу до сих пор ли счастливы действительно?』

(未だ戦い続けるその運命が果たして幸せなのか?)

『Это то, что она решила.』

(これは彼女が決めたこと。)

『Я не знаю никого, это то, что право.』

(何が正しいのかは誰にもわからないのだ。)

『При выборе бесконечное Ведь где в конечном итоге просто одной.』

(結局のところ無限の選択肢の中で、たどり着く場所はただ一つ)

『Она сделала бесконечно』

(無限に彼女は―――――――)



 
8 : ◆EBFgUqOyPQ [sage]:2015/04/22(水) 01:43:07.69 ID:HEFpIzrTo


 敵は攻撃の狙いが定まらないように路地裏のビルの壁面を縦横無尽に駆け回る。

 さすがに彼女にはそれを真似できるような身体能力は持ち合わせていないため、敵を視界から逃さぬよう地に足を着け追いかける。

 しかし敵は黒い泥をまき散らしながら急に方向転換。
 泥で形成された鋭い爪状の凶器を振りかざして、少女の方へと向かってきた。

「くっ!」

 間一髪手元のナイフでそれをいなした彼女は半歩後ろに下がり、すぐさま反撃に転ずる。
 だが少女は視界の端に映した脇の路地に潜む黒い泥の姿を捉え、考えを変えた。

「ぐぅ……う!!」

 その黒い泥の塊から射出された硬質化した黒い槍を、彼女は攻撃しようとしていたナイフで強引に上へと逸らした。

 いっぱいいっぱいのその動きは当然隙を生み出す。
 その隙を当然敵は逃さず、先にいなされた黒い爪を次は横に振りないだ。

「ううう……らぁ!!!」

 その横薙ぎに対し少女は宙返りするように足を振り上げる。
9 : ◆EBFgUqOyPQ [sage]:2015/04/22(水) 01:43:59.60 ID:HEFpIzrTo

 その横薙ぎに対し少女は宙返りするように足を振り上げる。

「なっ!?」

 その足は敵の二の腕を捉え、少女を引き裂こうとした爪は見当違いの方向へと逸れてしまった。

 完全に敵の胴はがら空きとなり、着地した少女はその隙だらけの心臓へと、ナイフを突き立てんとする。

「調子に……乗るなよ!」

 だがガチリという衝突音。
 少女の攻撃はその間に乱入してきた泥の槍に防がれてしまった。

 少女は視線をそちらへとちらりと向ければそこには新たな黒い泥の塊。
 しかもそれと同じ塊がこの狭い路地裏の壁面のいたるところにへばりついていた。

「くたばれ!」

 敵の合図とともに、散らばった黒泥から少女を貫かんとすべく一斉に黒い槍が射出される。

「くぅっ……!」

 少女はそれらをよけるべく、地面を蹴り後ろへと飛びのいた。
 だが敵がその様子を不敵に笑っているのを見て、少女は自身の回避が悪手であることに気が付いた。
 下がりゆく身体、その刹那の中で少女はその体勢の中かろうじて首を後ろに向ければ、そこにはひときわ大きい黒い泥の塊が少女に向かってくるのが見える。
10 : ◆EBFgUqOyPQ [sage]:2015/04/22(水) 01:44:44.65 ID:HEFpIzrTo

 気が付いた時にはもう遅い。
 緊急回避であった少女は方向転換することはできない。
 その泥は剣山のごとくの針山を出現させ、少女は慣性に従いその渦中に突っ込んだ。

「ぐ……がぁ!」

 体全体を貫かれ、少女は呻く。
 肺も貫かれているので呼吸すらままならない様子である。

「はっ、手こずらせやがって……。

どこのヒーローだか知らねぇが俺に楯突こうとするからこうなるんだよ」

 敵は勝利を確信したのか、串刺しになった少女に近づいてくる。
 その後を追うように、周囲にいた黒い泥たちも付いてきたようだ。

「まったく正義の味方さまが逆にやられてちゃあざまぁねえぜ。

はっはっは」

 敵は余裕の表情を浮かべながら、憐れなものを見るように少女を笑う。
 その敵の笑いにつられるように周囲の泥たちもクスクスと小さく少女を嘲り笑っていた。
11 : ◆EBFgUqOyPQ [sage]:2015/04/22(水) 01:45:23.78 ID:HEFpIzrTo

「うぐ……ああ!!!」

 だがすでに事切れていたかに見えていた少女は敵の方を睨み付ける。
 そしてその棘の一本を手に取って背負い投げの要領で引っくり返した。

『グエエエッ!!!』

 投げられた黒い泥はうめき声を上げながら、地面にたたきつけられた衝撃によって硬質化した棘が維持できなくなる。
 その隙に自由となった少女は、胴体に穴が開いていることなど構わずに先ほど足元に落としたナイフを拾い上げて、投げた黒い泥を一閃。

 その一振りで核を両断し、黒い泥は塵へと還っていく。

「てめぇ……。

まだくたばってなかったのか」

 もはや勝利を確信していた敵にとって、致命傷を与えたはずの少女が動き出すことは予想外であり、驚きが隠し得ない様子である。
 だがその隙にも周囲の泥たちに能力による指示を出し再び臨戦体制に移行している。

「まだ……死にません。

私、絶対に[ピーーー]ないので」

 少女は不敵に笑い、ナイフを逆手に持ち替え構える。
 先ほど与えた傷もすでに塞がっているようだが、息は先ほど以上に上がっていた。
12 :>>11saga版 ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:46:26.38 ID:HEFpIzrTo

「うぐ……ああ!!!」

 だがすでに事切れていたかに見えていた少女は敵の方を睨み付ける。
 そしてその棘の一本を手に取って背負い投げの要領で引っくり返した。

『グエエエッ!!!』

 投げられた黒い泥はうめき声を上げながら、地面にたたきつけられた衝撃によって硬質化した棘が維持できなくなる。
 その隙に自由となった少女は、胴体に穴が開いていることなど構わずに先ほど足元に落としたナイフを拾い上げて、投げた黒い泥を一閃。

 その一振りで核を両断し、黒い泥は塵へと還っていく。

「てめぇ……。

まだくたばってなかったのか」

 もはや勝利を確信していた敵にとって、致命傷を与えたはずの少女が動き出すことは予想外であり、驚きが隠し得ない様子である。
 だがその隙にも周囲の泥たちに能力による指示を出し再び臨戦体制に移行している。

「まだ……死にません。

私、絶対に死ねないので」

 少女は不敵に笑い、ナイフを逆手に持ち替え構える。
 先ほど与えた傷もすでに塞がっているようだが、息は先ほど以上に上がっていた。
13 :>>11saga版 ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:47:34.73 ID:HEFpIzrTo

「怠惰のカースドヒューマンか?

……いや、同類には見えないな。別の能力か。

……全く生命力がゴキブリみたいだな!!!」

 敵は忌々しそうに叫びながら司令を出すように腕を前に降り出す。
 それを合図に周囲の泥たちが一斉に少女に跳びかかった。

「……ううう、らああああ!!!!!」

 だが少女も泥たちの動きを完全に予測し、ナイフを振るう。
 核を裂き、泥を削り、むき出しとなった核を踏み潰す。

 一瞬のうちにそれを繰り出し、数体の泥たちを刹那のうちに駆逐した。

「行け、ヘルハウンズ!!!」

 だが休む間もなく敵はさらなる配下の泥を繰り出す。
 その姿が鏡写しのような2体の黒い犬は、狭い路地を利用しながら少女へと接近する。

 ビルの壁面を利用し、上下左右三次元的な動きをしながら、すれ違うように少女に攻撃を仕掛けていく。
 猟犬が獲物を追い詰めるがごとくのその動きは、常人では追えぬほどに素早く、鋭い。

『ガアア!!!』
14 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:48:30.78 ID:HEFpIzrTo

「くっ……これは、すこし」

『グオオオオ!!!!』

 その激しい攻撃に少女も防戦一方である。
 動きをどうにか目で追い、攻撃をかろうじてナイフでいなしているようである。
 しかしかなり消耗しているらしく肩で息をしており、限界が近いのが見て取れる。

「どうしたヒーロー少女!?

死ねないとか言っていたが、ずいぶんと苦しそうだな。

だが今楽にしてやるから安心しろ!!!」

 敵は2頭の猟犬によって動けない少女に向けて手を突き立てるように向ける。
 その手に泥がまとわりつき獣の爪に、そしてさらに形を変える。

「これでも死なないなら、次からさらに休む間もなく殺してやるよ」

 腕にまとわりついた黒い泥は一本の鋭い槍となる。
 それはまるで極太の攻城槍であり、それで貫かれればいくら傷を治せる少女でも体組織の大半は吹き飛び、生きてはいられないだろう。
15 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:50:51.04 ID:HEFpIzrTo

「さっさとくたばれやあああああ!!!!」

 その叫びと共に、敵の手から黒い槍が射出される。
 猟犬たちはそれを察知し、少女の周囲から飛び退いた。
 それは一直線に少女の下へと向かっていき、渦巻く黒槍は殺意をもって少女を狙う。
 黒槍の速度はすでに疲弊しきった少女では回避するのは不可能であった。

「そう……ですね」

 だが少女はそれに対するように手のひらを槍に向けて差し出す。
 まるでそれをその手で受け止めようかのごとくだ。

「『聖痕(スティグマ)』解放(ヴィープスカ)」

 敵は眼を疑った。
 先ほどまで肩で息をし、自身の力に及びもしなかった少女が、自身の渾身の力で放った攻撃、それを上回る力によって一瞬でかき消してしまったことを。

 そして瞬時に理解した。
 この力は自身を、カースドヒューマンを、カースを滅ぼす力であることを。
16 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:51:46.65 ID:HEFpIzrTo

 少女から放出されるエネルギーの余波は、この場に滞留していたカースの元となる負の感情エネルギーは離散してしまった。
 濃度の薄いカースであったならばこの余波だけで蒸発していただろう。

『『聖痕』確認。累計予想最大持続時間約3分28秒コンマ33、残り時間に気を付けて戦闘してください』

 無機質な音声が少女の耳に届く。
 少女の来ているコートの襟もとから出ているその無機質な声は特殊な装置によって少女にのみ情報を伝える。

「ハウンズ!!!」

 敵は少女の回復能力の印象さえ忘れてしまうほどの衝撃を受けたが、この場を切り抜けるために意識を強引に切り替える。
 2匹の猟犬を指示を出し、挟撃を命じる。

『グオオオアアア!!!!』

 挟み撃ちで少女を狙う黒い犬。
 だが少女は慌てることなく、ナイフを投擲。

 高濃度の天聖気を含んだナイフは、まるでバターに刺さるように黒犬の片割れの空いた口から突き刺さり、核も一緒に胴体を貫いた。
 その隙に背後からのもう一体が、少女の喉元に食らいつかんとばかりにすぐ後ろまで迫る。

 だが少女は後ろ回し蹴りを犬の横っ面に叩き込み、ビル壁に叩き付けた。
17 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:52:43.86 ID:HEFpIzrTo

『キャイン!!!』

 獰猛な猟犬に似つかないか細い声で鳴きながら、地面にずり落ちる。
 少女は地に伏した猟犬を天聖気を込めた足で容赦なく踏みつけた。

『グ、グガアアア……』

 猟犬を構成していた泥は蒸発していき、跡形もなく消滅した。
 猟犬のいた足元から視線を敵に移し、少女は睨み付ける。

「あとは……あなただけ」

「クソ、ッタレが!!」

 もはや外部からカースを生成することはできない。
 敵に残った手段は自身の中に残ったエネルギーでどうにかこの場を乗り切るだけであった。

 敵は残っている力を放出して、一瞬にして再び大量のカースを生成する。
 さらに腕に泥の爪を出現させ、周囲のカースは自身の体を変形させた槍を一斉に伸ばした。

 少女はビルの壁面を駆けながら、それらを避けていく。
 敵もさらに爪を伸ばして、少女を追い詰めようとするがその機敏な動きを捉えることはできない。

「ウウウウウウウウウウ!!!!!」

 少女は懐から新たなナイフを取り出し、すれ違いざまの一瞬のうちに、カースを、それも核を的確に両断していく。
18 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:53:33.25 ID:HEFpIzrTo

「この……クソ、ガキが!!!」

 敵は爪を振り上げ、目の前まで迫る少女を襲い掛かる。

「ラアアアアアアアアア!!!!!」

 だが少女はその爪が届く前に、敵の腕を切り落とす。
 そして懐まで詰め寄って、その胴体にナイフを深く突き立てた。

「グ……はぁ……」

 突き立てられたナイフは腑を突き、敵は苦悶の吐息を吐く。
 傷口からは血だけではなく、泥たちを構成する負のエネルギーが漏れ出していた。

「あああああああ…………クソ、クソ、クソが……。

こんなところで、俺が終わるのかよ……」

 敵は恨み言でも吐くかのように小さくつぶやく。
 これまで欲望の赴くままに能力を使い悪行を繰り返してきた敵にとっては自らの命が終わろうとしているこの瞬間は信じがたいものであった。
19 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:54:29.88 ID:HEFpIzrTo

 だがふと敵は恨み節をやめニヤリと笑い、少女の瞳を覗き込んだ。

「ほら、俺の核はここ、喉にある。

殺せ、ヒーロー」

 あごを上げて、喉をむき出しに。
 そこには体と一体化した怪しく光るカースの核があった。

「殺さないとか、まだ敵でも死んでいい命なんてないとか甘っちょろい事だけは言うなよ。

地獄でてめえに呪い吐きながら待っててやるんだから、さっさと殺せよ」

 せめて死ぬ間際に、一泡吹かせてやる。
 殺しの世界とは縁遠い日の光だけを浴びてきたであろう少女のヒーローに嫌がらせのように自らの命の重さを背負わせてやるのだと。
20 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:55:17.47 ID:HEFpIzrTo

 だが少女は静かに敵の体からナイフを引き抜く。

「もう、迷いません。あなたのこと……覚えておきます」

 そして敵の喉を横に一閃。核ごと薙ぐ。

 その迷いのない一太刀に敵は眼を見開くも、すぐにあきらめたかのような表情に変わる。

「チッ、そりゃあ……光栄だぜ」

 そして敵は、そのまま塵となって風に吹かれていった。

『『聖痕』修復確認。解除確認しました』

 少女の耳元で事務的な音声は、少女の心情を察することなく響く。
 肉を裂く嫌な感触が残るナイフを2,3回振るって、コートの懐にしまい込んだ。

「ダー……そうですね。

これが、ヒーローとして、私のした覚悟。

最低限の殺しのため、かろうじてできる覚悟です。隊長」

 そして少女、アナスタシアはゆっくりと息を吐いて疲労感に満ちた足取りでその裏路地を後にした。
21 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:56:30.92 ID:HEFpIzrTo


***




「あああ……はあ……はあ……」

 よどんだ空気渦巻く密閉された薄暗い建物の中、一人の男が地に伏せ苦しそうにうめき声を上げている。
 額からは脂汗が滲み、その表情は苦痛に耐えるように歪んでいた。

「苦しそうね。熱いのかしら?

確かにここは閉めきってあるから熱が籠りやすいわね」

 地に伏す男の前で、一人の女がのんきにそんなことを言う。
 優しげな言葉使いだが、そんな女の言葉に男は憎悪の視線を向けるだけであった。

「うるせえ……お前が……お前がああ……。

みんな殺しやがって……こんなことをして俺たちの組が黙っちゃいないぞ……」

 地に伏す男はありったけの憎悪を込めた視線で女を睨み付ける。
 人を殺せそうなほどに感情を込め腹から吐き出した呪詛を女の方は気にした様子ではなかったが。
22 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:57:36.69 ID:HEFpIzrTo

 周囲を見渡せば、その惨状は一瞬で理解できる。
 一面中隅々まで塗り残しなく赤いペンキのように塗りたくられ、その赤色がそこら中に散らばる破片から何であるかが察することが容易であった。

 そう、あちらこちらに人間だったものが横たわっており、中には原形さえとどめていない物も多くあったのだ。

 地に伏せている男も、今かろうじて生きているような状況で、出血多量に加えすでに片足がない。
 男にとって最も熱を持っているのは片足の切断面であり、熱せられた鉄板を押し付けられるような痛みが常に走っていた。

「うふふ……バカね、そいつら来たところでアタシの前じゃゴミとおんなじ。

つまりあんたらが何人いようが何一つ変わりないってことだから遠慮なく来なさい。

みんなもれなくハンバーグに加工してあげるから」

 女は人が変わったように男を見下すような笑顔で、にやにやとしながら言い捨てる。
 その下品な笑みは見る者すべてに嫌悪感と拒否感を植え付ける。

「ああでも生意気な口アタシに聞いたからもう一本もらうわね」

 そして男の片腕を右手で持って、女は左手で手刀の形を作る。

「や、やめろ!頼む!それだけは!それだけは勘弁」

「ほらスパッと」
23 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:58:42.20 ID:HEFpIzrTo

 女は男の制止の声に全く耳を傾けす、左手の手刀で男の腕の付け根を一閃。
 鋭利でも何でもない手刀は、傍から見れば全く力が入ってなかったにもかかわらずただそれだけの動作で腕の付け根から綺麗に輪切りにした。
 切断面からは血が吹き出し、酸化の始まった血の匂いの充満するこの場に新鮮な血液の匂いが新たに満ちて行く。

「ああああああああああああああ!!!!!!

があああ、ぐう、あああ、あああああ……」

 男は悲痛な叫びを上げながら、体内から流れ出る血を止めんと残った片手で切断面を抑えるが、まるで意味はなく男の顔色はさらに青白く悪くなる。
 そんな地面でのたうち回りながら苦悶の叫びを上げる男の様子を女は心底楽しそうに見下ろしていた。

「ほら頑張って。

まだ死ねないわよね。ここに居る仲間の仇も取らなくちゃいけないしねぇ」

 女は再び優しい声色で、あたかも挑発するように男に声をかける。
 にやにやと芋虫のように這いつくばる男を見て女は心底楽しそうである。
 それに対し男はやはり憎悪の視線でその敵の対象である女を見上げることしかできなかった。

「だいたいまだ片手と片足でしょう?

それだけあればまだまだ余裕よ。アタシもこの通り両手ないし」

 女は両手を広げて、それを見せびらかす。その無機質な黒い両の義手を。
 女が指を動かすたびにカチャカチャと音が鳴り、その腕に血が通っていないことを主張する。
24 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 01:59:43.83 ID:HEFpIzrTo

 男はその両腕を見せびらかされた途端憎しみの視線から一転、怯えたような表情になる。

「怖い?そうよねぇこれでみんな殺したんだから、怖いのは当然よねぇ。

うんうん、それでいいのよそれで」

 男の脳裏に映るのは虐殺の情景。
 その両の義手のみで、武装したマフィアである自分たちを、さらに用心棒として連れてきていたサイボーグの傭兵でさえも一瞬のうちに皆殺しにしたのだ。
 男にとってはすでにその義手がいかなる凶器よりも恐ろしいものに見えてしまう。

「だいたい……どうして俺たちを襲った?

今回の取引はアンタに関係ないだろ」

 男は痛みや恐怖から意識を逸らすため、根本的な疑問を女に問う。
 もともと今こんな状況になっている理由さえも男にとってはわかっていなかったのだ。

「ところがどっこいそうでもないのよね。

もしもアタシがキミのところの組と敵対関係にある組織から派遣されているとしたら、ただの嫌がらせにも理にかなった道理が付くでしょ?」

「だが……そんなことをすれば抗争になる。

ぐ……今回のアンタの襲撃はあまりにも不自然だ」
25 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:00:46.93 ID:HEFpIzrTo

 脳内で敵対する組織を思いつくだけ考えてみるが、こんな強引な行動を起こすような組織は男の脳裏には思い浮かばない。
 男は血の回らない頭で必死に考えているが、女の方はそんな話題にはあまり興味がなさそうであり、自身の義手をいじくっている。

「そんなことどうでもいいでしょう?

そんなことよりも、今回の取引の情報の洩れどころ聞きたくないかしら?」

「な……どういう、ことだ?」

 当然ここで行うはずだった取引はこの女の襲撃で台無しになったわけだが、この義手の女は取引のことを知っていたはずである。
 ならばその情報を誰かが漏らしたことは明らかであったのだ。

 女は男のその『裏切り者』の情報を知りたそうな顔を見て下卑た笑みを浮かべる。
 その表情を男は見た時点で嫌な予感はしたのだが、女は男の顎を掴んで引き寄せ、耳元でささやくのだ。



「あなたが一昨日の夜に酒場で上機嫌に話していたのを、アタシは知ってわ。

泥酔しながら上機嫌にべらべら喋ってるなんてよほどいい事でもあったのかしら?

とにかくお手柄よ。だからそのお礼に今あなただけは殺さないでおいてあげてるの。

素晴らしいわ。みんなの命を犠牲にしたおかげで今君は命拾いをしてるんだから。

本当にありがとう、『裏切り者』さん」

 ねっとりと、耳元で脳内に浸みこむように囁くような女。
 その言葉を聞いて男は、体温が一気に下がるような感覚と、絶望的な表情をした。
26 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:01:40.63 ID:HEFpIzrTo

 確かに男は一昨日の晩酒におぼれ、記憶があいまいであった。
 だがその間にそんな重要なことを漏らしていただなんて思いもしなかったのだ。

「あなたの仲間が死んだのは、あなたのせいなのよ。

あなたのその紙のように軽い口ののせいで、取引は失敗し、仲間を死なせたのよ。やったわねぇ」

「ぐ……うう……ああああああああああああああああ」

 男はもはや泣くしかなかった。今の現状を引き起こしたのは自分だということを自覚した時点で、それしか逃げ道は残されていなかったのだ。
 あと男に残されたのは仲間への贖罪のために死ぬくらいであった。

「ころし……殺してくれぇ……」

「まぁ慌てないでお兄さん。まだお楽しみはあるんだよねぇ」

 女は泣きじゃくる男を尻目に立ち上がってこの場に元々あった青いビニールシートのかぶせられた資材らしきものへと近づいていく。
 男はぼやける視界でそれをただ見ているだけであったが、女がビニールシートを取り去った途端その表情は、さらに複雑に歪んだ。

「なんで……なんで彼女までも巻き込んだ!?」
27 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:02:54.86 ID:HEFpIzrTo

 男は怒りをあらわにしてそう叫ぶ。あまりに感情の起伏が激しすぎて男の表情はもはや感情が読み取れないほどにぐちゃぐちゃに歪んでいる。
 ビニールシートの中には一人の女性が椅子に縛られ、目隠し、猿轡、耳栓のためのヘッドフォンと完全に情報を遮断された状態で捕えられていた。

「はーい、あなたの愛しの彼女マキちゃん。

本日の特別ゲストよ」

 義手の女はそう言いながら、縛られた女性の猿轡を解き、ヘッドフォンを外す。
 封じられていた感覚が解放された縛られている女性は表情を不安と恐怖に歪ませながら周囲を見回す。
 どうにか拘束から抜け出そうとするその動きは縛られている椅子をぎしぎしと軋ませている。

「タクくん?助けて!急に私つかまって、お願い私を放してよぉ!!!」

 そして視界の先に見知った男の顔を見つけた瞬間、弾けるように助けを乞う声を上げる女性。
 本来ならばこの倉庫の惨状や男の切断された四肢を見て叫び声などを上げてもおかしくないのだが、錯乱しているのか女性にはそれらが見えていないようである。

「どうかしら?感動のご対面。

いいわね、アタシ泣けてきちゃう」

 そう言いながらも義手の女は口角を吊り上げ下卑た笑みを男に向ける。

「なんでなんでなんで……なんで彼女まで……。

俺だけでいいだろうに!!!!!」
28 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:03:43.49 ID:HEFpIzrTo

 男は怒りを言葉にして口から吐き出す。
 もはや堰さえ無い感情そのままの言葉であったが、まるで義手の女には馬耳東風であった。

「では、タク君、だったかしら?

彼女が殺されるのか、キミが殺されるのどっちがいい?」

「だから……俺だけ殺せばいいだろ……。

これ以上……俺に何をしろっていうんだよ……

彼女を、解放してくれよぉ……」

「タク……くん……」

 声さえ枯れ始めた男の悲痛な言葉。
 義手の女はそれをにやにやと心底楽しそうにみていた。

「うん、いいわ。その恋人を思う気持ちにアタシはもう感動。

じゃあ君の言う通り殺してあげるわね」
29 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:04:40.19 ID:HEFpIzrTo

 パキパキと義手を鳴らし、男のすぐ隣へと義手の女は向かう。
 そして男の隣で笑いながらぼそりと呟くのだ。

「キミの彼女を殺してからね」

 ずぶりと肉を貫く音が響く。

「あ……あれ?」

 男は眼を見開いて彼女である女性の方を見ている。
 椅子に縛られた女性の目隠しは、はらりと落ちていき今の彼女自身の状況を認識した。

「なんで……どうして、私を?」

 女性の腹から肉を裂いて女の腕の物とは違う、新たな義手が貫通していた。

「どうして、どうして私なのよ!?

が……ちゃんと情報だって渡したし、言うこと聞けば殺さないって……どうしてその男じゃなくて私をおおおお!!!!」

 まるで状況が理解できていないかのように取り乱す女性。
 義手の女はそんな女性を虫を残酷につぶす子供のような瞳で見るように見下し、笑いながら言う。

「簡単に人は信用しちゃだめよ、甘ちゃんで平和ボケしたお嬢さん?」
30 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:05:29.41 ID:HEFpIzrTo

「約束……したのにぃ!この嘘つき!!!!」

「じゃあね♪」

 その合図とともに、女性の体から新たに義手が2本突き出てくる。
 義手は女性の体を掻き毟るように引き裂き、血と臓物は混じり合うように飛び散る。

「ゴホッ……ゲ……ゴ……」

 逆流する血液によって、まるでおぼれているかのような表情をしたまま。
 そして強引に突き破ってきた義手によって、肉片は飛び散り女性は完全に絶命した。

「というわけで見せたかったのはこれ。

全部嘘なの。あなたは別に悪くなかったのよ。あなたたちを売ったのはぜーんぶあの女。

よかったわね、これはあなたのせいの惨状じゃないわ。

金と自分の命のおしさに目がくらんだ、あなたの馬鹿なガールフレンドのせいだったのよ♪」
31 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:06:10.38 ID:HEFpIzrTo

「あ……あ……」

 もはや男の目に光はない。
 自分のせいではなかったという安心感と、すでに死んだ彼女への不信感。
 そして彼女の死への悲壮感、自分を裏切ったものが無残に死んだ陶酔感、そんな感情を抱く自分への嫌悪感。
 相反する感情が濁流のように男の脳内を駆け巡り脳が焼き切れそうな痛みを上げる。
 何が真実なのか情報が交錯し、男はすでに廃人一歩手前まで来ていた。

「ぐ、ぎ、ギャハハハハハハーーーーヒヒヒ!!!!!

もう……傑作ね!!!前もって準備してただけあったわ!!!

もう最高、これ見るために生きてたってもんよアタシぃいいい!!!!」

 ついにこらえられなくなったのか義手の女は下品に笑いだす。
 これまでの面の皮が剥がれ落ち、性根の腐ったどす黒い本性が露わになった瞬間であった。

「最後はァ!!!

幸せなキスして終了ってのが相場だよねええええ!!!」

 そう言って義手の女はすでに死体となった女性の体を縛られている椅子から強引に引きはがす。
 その際に千切れかけていた体の一部が完全にちぎれてしまったが、義手の女は気にせず女性の頭を持ちながら男の目の前まで引き摺っていく。
32 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:06:59.11 ID:HEFpIzrTo

「オラ愛しの彼女だよ!!!

幸せ噛みしめて濃厚なキスして見せろよ!!!

アタシってばマジ優しいいいい!!!カップルの最後には一緒に殺してあげなくちゃねえええ!!!!」

「が……ふぐう……」

 義手の女は死んだ女性の顔を強引に男の顔に押し当てる。
 ぐりぐりと、叩き付けるように何度も何度も。

 だが男の方はもはや抵抗する気力さえ無くしたのか、苦しそうにうめくだけで無反応であった。

「つまんねーなぁ!!!

おい舌入れろよ愛し合えよ!!!!

それともやっぱり憎いのかぁ!?

だったらその歯でこの女ぐちゃぐちゃにしろよ憎いんだろうよなあああ!!!

あひゃ、あひゃひゃははははははーーーーーーー!!!!!」

 義手の女は眼を血走らせ狂ったように笑う。
 すでに男の方も事切れていたが、義手の女は構わず両者の顔面の形が原形をとどめなくなるまで何度も叩き付けながら笑っていた。
33 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:07:54.17 ID:HEFpIzrTo

「はーーーーーーはっはっは……はぁ……はぁ。

あー楽し。仕事の合間にゴミで遊ぶのだけはやめられないわぁ……。

まぁほんとのこと言うと、別にその女大したこと知ってなかったから自分ですべて調べたんだけどね。

全て過失100パーでアタシのせいでしたってこと。まぁもう死んでるか」

 ひとしきり笑った後、落ち着いた義手の女は、物言わぬ死体に向けて静かに言う。
 そして立ち上がって、両手を組んで伸びをした。

「さーてと……遊んだあとはお片付けね。めんどくさいわ」

 義手の女はゆっくりとあくびをしながら、この血だまりの屋内の処理の算段を考え始めた。




***

 
34 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:08:46.81 ID:HEFpIzrTo

 事の発端はアーニャは『プロダクション』へと向かう道中に、カースの襲撃に遭遇したことであった。
 ただしそこには別のヒーローが駆け付けた後であり、事態は収束に向かっていた。
 すでにアーニャの出る幕ではなかったので、このまま周囲に被害が出ないように警戒するだけにしようとしていた時のことだ。

 そんなカースの襲撃の様子を怪しげな視線で見つめる男をアーニャは発見。
 アーニャは男の後を着けていくと、多くのカースと共に居るその男の姿を見たのだ。

 そしてその男がカースドヒューマンであり、先ほどの首謀者であると確信したアーニャはその男に攻撃を仕掛け、結果として戦闘になった。

 先の戦闘の通りカースドヒューマンを倒したアーニャは、自分がいつの間にか路地裏深くまで来ていることに気づき、今の居場所がわからなくなっていた。
 しかたがないのでアーニャは当てもなく歩いて、そしてようやく見覚えのあるものを発見できたのだった。

「アー……ここは」

 アーニャの目の前に広がるのは、青い海。
 いつの日だったかアーニャが流れ着いた港であった。

 ここ最近の悪天候によって海はあまり穏やかではなく、同時に空は曇っているためあまり景色がいいとは言えない。
35 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:09:56.33 ID:HEFpIzrTo

「さすがに、さっき少し、疲れました」

 ここからならば『プロダクション』に向かう道はわかる。
 だがアーニャは戦闘後の疲労感が残っていることと、見覚えのある場所にようやくたどり着いた安心感もあり、しばらくここで休憩することにした。

 海沿いぎりぎりのコンクリートで舗装された場所にアーニャは座る。
 脚をぶらぶらさせながら、アーニャは遠い海の向こうを見ながらこれまでのことを思い返していた。

「……隊のみんな、どうしたんでしょう?」

 アーニャが流された時、作戦終了間近であったのであれ以上の死人は出てはいないだろう。
 だがその後、彼らがどうなったのかはアーニャも知りえない。

「カマーヌドゥユシェィ……隊長は、みんなバラバラになったと言ってましたが」

 彼女にとって部隊は居場所ではあったものの、元々生き死にの多い仕事であったので隊員同士の仲間意識は低かった。
 だがそれでも、一応は顔見知りではあるのでその後どうなったのかは少しだけアーニャは気になる。

「……みんなやはり、今もどこかで戦っているのでしょうか?」
36 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:11:17.53 ID:HEFpIzrTo

 隊長の話では部隊は解散になったと聞いたが、それでも戦闘員の個々の戦力は平均して高いのでどこの戦場でも重宝されるような人材であろう。
 多分存外に世話焼きな隊長に聞けば知っているのだろうけど、今ではアーニャが彼に連絡する手段を持ち合わせていなかった。

「みんなもう少し、穏やかな暮らし、しているといいですね」

 できることならば、アーニャと同様に戦いしか知らない他の隊員たちにもそれ以外の安寧とした人生が送ることができればいいのにと。
 アーニャはこの比較的平和な町に身を置いてそんなことを思った。




 アーニャは薫る潮風の中に身を任せる。
 戦闘の疲労は精神的な高ぶりも落ち着いてきたことと同時にそれなりに回復してきていた。

 今回はかなりの強敵であり、『聖痕』を使わなければ勝てない相手であったので普通よりも消耗していたが、この調子ならば明日以降の体調に影響はしないだろうとアーニャは思う。
 さらにカースの親玉であるカースドヒューマンを倒したことによって新たな別の脅威でもない限りは、暫くこの付近もおとなしくなるであろう。

 事実、最近のカースの出現は同盟が警戒するほどに頻発しており、アーニャもたびたびカースの討伐をしていたからだ。
 それらがあのカースドヒューマンによるものであるならば、原因を取り除いたことになり街の人々も安心して外を出歩けるだろう。

「そうなると……一応報告、しておいた方がいいですね。

……ん?」
37 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:12:06.37 ID:HEFpIzrTo

 なんてことをアーニャは考えていると、鼻孔に幽かな違和感を感じる。
 気のせいかとアーニャは潮風を念入りに嗅いでみると、やはり気が付いてしまえば意識的にはっきりとしてくる。

 やはり気のせいではない。その中に混じる明らかに異物の臭い。
 そう、記憶になじみのある何度も嗅いだことのある嫌な臭いだった。
 ほとんどが潮の香りだったのだが、その中にでもはっきりと主張するアーニャにとって最近めっきり嗅ぐことのなくなった臭気。
 ただの一般人、とくに嗅いだことのないものには気づかないであろう独特の臭いだ。
 アーニャはゆっくりと立ち上がって、その微かな臭いをたどる。

「なんで……こんなところで、血の臭いが?」

 戦場でならばごく当たり前の血の臭い。
 アーニャにとっては不本意にも少しだけ懐かしさのおぼえるその臭いは、この街でほとんど嗅ぐことなどないだろうとアーニャは高をくくっていたのに。

 アーニャは歩くたびに、その臭いがきつくなっていく。
 内臓をぶちまけたような悪臭は、アーニャを不快にさせるが当然放っておくことはできない。

 一歩、一歩アーニャは歩いて、そして一つの倉庫にたどり着いた。
 見た目は他の倉庫と何も変わらない没個性の倉庫なのだが、まるでその先の血の池があるかのような隠しきれない強烈な死臭。
 どんな殺し方をすればここまでの悪臭をぶちまけられるのかという疑問と共に、得体のしれない不気味な恐怖さえアーニャは感じた。

「シトー……なんで、しょう?この中でいったい?」
38 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:13:07.41 ID:HEFpIzrTo

 アーニャはその倉庫の扉に手をかける。
 その重量感のある扉は、さながら地獄の門とさえ感じるがそれでも彼女この場からは引くことはできない。

 もしかしたらこの中は食肉の倉庫であり、それが腐っただけなのかもしれない。
 そんな可能性も信じたかったが、やはりアーニャはヒーローとして立ち止まることはできなかった。

「スー……ハァ……」

 一呼吸、吸い込んでいったん精神を落ち着ける。
 そして意を決し、アーニャはその横開きの鉄の扉をゆっくりと開け放った。




 その倉庫内はまるでこの潮風に当てられて錆びついたかのように赤黒かった。
 本当にただの錆であったのならそれでよかったのだが。

 当然それは錆びた鉄の鉄分ではなく、血中の鉄分である。
 ペンキをぶちまけたなんて生易しいものではなく、倉庫の内装を塗り替えたと錯覚するほどに濃淡ムラだらけの赤で彩られていた。
39 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:14:02.86 ID:HEFpIzrTo

「……うっ」

 久しぶりであった事にも起因しているだろうが、死体を見慣れていると自覚していたアーニャでさえ思わず吐き気を催す。
 昇ってくる胃酸をどうにか押しとどめて、倉庫内を見渡せばあちらこちらに血液の色材の元となった人間の肉片が目についた。
 そのパーツは極小の断片程度の物から、腕など判別の着くものまでさまざまである。

 それだけでここで犠牲となった人間の人数がアーニャの見当の付かない数に上るということのみ理解できた。

「あら?……ここは立ち入り禁止よお嬢さん?」

 どうにか現場を冷静に分析しようとしたアーニャに突如問いかけてくるねっとりとした声。

「なっ!?」

 アーニャとしても倉庫に入ってから一度も警戒を絶っていなかったにもかかわらず突如として聞こえてきた出所の不明な声。
 そしてさらに気配を探ってもその出所を察知することさえできないアーニャは周囲を見渡すしかできない。

「……いったい、だれですか?あなたは……」

 アーニャはその声の主に問いかける。
 それに答えるように、倉庫の奥の暗闇から一つの人影がゆっくりと現れる。

「全く私有地なのに勝手に入っちゃだめじゃない。今ここでは大事なお仕事の最中なのに」
40 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:14:53.63 ID:HEFpIzrTo

 その人影はこの血濡れの倉庫に驚くほど馴染んでいて、それでいて外とは血濡れの倉庫以上に異質な容貌であった。
 背はアーニャより少し大きめの背。褐色がかった皮膚はインド圏の人種の女性であり、すらりとしたその姿とは対照的に両手が甲冑のような黒い装甲で覆われているのがわかる。
 何よりも目を引くのはまるで血雨を浴びたかのように全身が赤黒い血液に覆われており、その手には小さな肉片の付いたままの背骨らしきものを持ち、ぐるぐると振り回している。
 当然、体中にこびり付いた血液が、その女の物ではないことはほぼ確定的である。
 そんな異質な姿をしているにもかかわらず、その女の表情は友達にでも会うかのようににこやかであった。

 さすがにその猟奇的な容貌にアーニャは少したじろぐ。
 いや、その姿にアーニャはひるんだのではなかった。

(この人……一体なんですか?……この人が、怖い?)

 アーニャの脳内では本能が警鐘を鳴らしていた。
 この血染めの女が、絶対的に危険であると。

(下手をしたら、周子や……隊長よりも危険?)

 そんな考えが一瞬アーニャの脳をよぎるが、それはありえないと否定する。
 それに、ヒーローとしてもここで引くことはできない。
 こんな白昼に、これだけの殺戮をしたであろう人間を野放しにしておくなどアーニャには絶対に無理であった。
41 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:15:50.88 ID:HEFpIzrTo

「ああ、これ?ごめんね散らかってて。今映画の撮影中でね。

驚かせちゃったかしら?」

 女はこの惨状の訳を説明するが、アーニャにはそんなこと嘘であることなどはっきりとわかる。
 いや、こんな雑な嘘アーニャでなくただの一般人でも容易に判別できるだろう。

「ロウス……嘘、ですね。……あなた、隠す気、あるのですか?」

 当然のように嘘を見破ったことを指摘したアーニャに対し、女はわざとらしく目を丸くする。

「え?何言ってるのよ。大体こんな血糊の量、常識的に考えて本物なわけないでしょう?」

「……全部、本物ですね。そこら中散らばる破片から、あなたの手に持ってるそれ、まで」

 アーニャは静かに女の持つ骨を指さす。
 女は手に持った骨に視線を向け、小さくため息を吐いた。



「……あーあ、めんどくさ。

そのまま信じるか、空気読んで帰ろうとしてくれたらもっと楽だったのに」

 女はそう小さくつぶやくと、手に持った骨を適当な方向へと投げ捨てる。
 ぐるぐると回りながら捨てられた背骨は、血濡れのコンクリに叩き付けられると同時に、細かな関節がバラバラに砕け散った。
42 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:17:08.93 ID:HEFpIzrTo

「……でもまぁ、こういうのもちょっといいかも♪」

 女がゆっくり拳を握ると、カチリカチリと音が鳴る。
 金属製と思われる義手の指関節の駆動音であろうが、その無機質な音はアーニャの鼓膜にするりと入り込んできて心をざわつかせる。

「じゃあ本日の任務の、延長戦と行きましょうか」

 静寂。まるでアーニャの高鳴っていた心臓はいきなり静まった。
 それほどまでに、女は自然にアーニャへ向かって一歩を踏み出した。殺気も敵意もなく一歩、そして。

 もう一歩。
 アーニャがその一瞬まばたきをした瞬間に、女は目の前まで接近していた。 

 そして爆発するかの如くの殺気。アーニャは完全に反応が遅れてはいたが、反射的に両腕を前に構えて防御の姿勢を取った。
 女は右の義手を真横に薙ぐ。刃物を使うでもなくただそれだけの動作であった。

(……あれ?)

 その動作だけで、アーニャの両腕は肘から切り落とされ、目の前で重力に従って落ちていった。
 それにアーニャはまるで反応できていない。一瞬で接近されたことでさえ、まだ理解しきれていないほどである。

「あっけな……」

 女の退屈じみた呟きと共に、アーニャの両腕はぽとりと地面のコンクリに落ちる。
43 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:18:12.03 ID:HEFpIzrTo

「!?」

 アーニャはようやく状況を理解して、女から距離を取る。
 その過程で腕は一瞬であるべき姿に戻った。

 そうしてアーニャはようやくすべてを理解して、一呼吸、吐く。
 反応できなかった、という部分もあった。だがアーニャ自身認めたくはないが、女の動きに『見とれてしまった』という部分もあったのだ。

「おや?腕が治ってる。たしかに落としたはずなんだけど?」

 女は元通りに再生したアーニャの腕を興味深そうに見ている。
 アーニャはそんな女の視線を無視して女に問いかける。

「今の……ダガーニス、ですか?」

 ダガーニスは東南アジア発祥の殺人術であった。
 『手甲の刃(ダガーニス)』の名の通り、徒手空拳でありながら素手を刃物のごとくの切れ味を持たせるという魔技である。
 習得があまりにも難しく、その危険すぎる技術故に、時代の流れとともに習得法が廃れてしまった技術である。
44 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:19:10.67 ID:HEFpIzrTo

 アーニャはそれを何度か見たことがあった。ただし偽物であるが。
 隊長がそれを改変した技術として、念動力を腕に纏わせ、疑似的なダガーニスを実現させたのだ。
 最低限の念動力で、十分な殺傷力を生み出す技として、部隊内での超能力者にとっては必須技術だったのだ。

「あら?よくもまぁそんな化石みたいな名称覚えてるわね。これ使うのはアタシくらいだと思ったんだけど」

 だがこの女は念動力を全く使っていなかった。
 それどころか一瞬で接近したのも、アーニャが反応できないように呼吸を合わせたのにも全く『異能』を使っていなかったのだ。
 全て人間の技術。『特別』と言われるような力を全く用いない技。
 純粋なる鍛え抜かれた『技』であり、今の一瞬の動きでさえ芸術とまで呼ばれていいほどに昇華された技だった。

「ヴィー……あなたは、いったい?」

 その狂気の所業とは裏腹に見せる、精錬された戦闘技術。
 自身の数段上の技術を持つこの女が何者なのかアーニャは気になってしまった。

「誰でもいいでしょう。そんなことよりも……」

 女はアーニャの問いを一蹴して唇をぺろりと一舐めする。
 両腕を大きく広げ、獲物を定めたような目つきでアーニャを見つめ、ニヤリと笑う。



「あなたはどれだけ、そして何をすれば、泣いて許しを請いながら絶望してくれるのかしら?」
45 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:19:58.26 ID:HEFpIzrTo

 シャーデンフロイデという言葉がある。
 それは他者の不幸や悲しみ、苦しみに対して喜びや心地よさを感じるという感情である。
 『他人の不幸は蜜の味』。この女を表すならば、ただその感情を具現化させたような存在。

 人間の皮を被った悪意。そんな言葉がしっくりきた。

 ぞくりと感じる寒気。
 周子のように味方ではない。隊長のように手加減して戦っているわけではない。
 真に純粋な、格上の相手が殺意をもって正面から相対するのはアーニャにとっては実のところ初めてであったのだ。
 全身が逆立つような感覚。一瞬でも気を抜けば先のように腕2本程度では済まないだろう。

 アーニャは先の戦闘で消耗したために現在の手持ちのナイフはたった2本。
 その両方を両手にそれぞれ持つ。そうしなければあの女の両腕から繰り出されるであろう双刃に対応できない。

「その玩具で、いつまで持つのかしら!?」

 アーニャが臨戦態勢に入ったことを義手の女は確認したのか、両手を構えたまま距離を詰めてくる。
 そのままアーニャを挟み込むように両腕を振りぬく。
46 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:20:47.34 ID:HEFpIzrTo

 アーニャはそれをその場でしゃがんで回避。
 そのままがら空きである女の懐に向けて、右手のナイフを突き立てる。
 だがそれは振り上げられた女の膝によって方向をそらされた。そしてそのそらした腕にむけて女は手刀を繰り出す。
 それをまともに受ければ確実にアーニャの右腕は引き裂かれるであろう。
 アーニャはそれを阻止すべく、左手のナイフで女の手刀を防いだ。

 義手とナイフがぶつかり合うことによって、真剣が打ち合ったかのような鋭い音が周囲に響く。
 両者の腕はブルブルと振るえながらも拮抗する。だが。

(天聖気で補強していても……押し切れない)

 実のところアーニャの天聖気による身体能力の上昇効果はあまり高くない。
 天聖気の種類によっては人外に匹敵する力も出せるのだが、アーニャのでは素の筋力をある程度補強する程度の物である。
 だがそれでも生身の人間を相手ならば十分通用する力は出るのだ。

 だがそれでもこの女の膂力を押し切ることができない。
 それどころか、女にはまだ余裕があるとでも言いたげな表情をしている。

「次は、どーする?」

 そして女は空いていた右手で手刀を作り、アーニャに向けて振り下ろす。
47 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:21:41.97 ID:HEFpIzrTo

「くっ!」

 アーニャはそれを右腕のナイフで防ぐが、膝で弾かれた際のしびれが残っていた。
 じりじりとアーニャの両手のナイフは女に押し負けていく。

「うぅ……ラァ!!!」

 だがアーニャは押し切られる前に、ナイフを義手に滑らせるように動かし女の隣に身体ごと抜ける。
 その際に腕が女の手刀によって少し切れてしまったが気にするほどのものではない。

 アーニャはそのまま女の後頭部向けてナイフを振り下ろす。
 だが女もそれにすぐ反応し、義手で弾く。
 アーニャは続けざまにもう一方のナイフで、死角となる真下からナイフを振り上げるがまるで来るのを予測していたかのごとくそれも弾かれてしまった。

 それでも攻撃の手はやめない。
 この攻勢で手を止めれば、アーニャは再び後手に回るしかない。それだけは避けなければならなかった。

 アーニャはナイフを何度も繰り出す。上、左右、時に正面から、限りなく相手に手を読ませないように変幻自在にナイフを繰り出す。
 だがすべて紙一重で防がれる。まるでアーニャの攻撃をすべて予測しているかのごとくだ。

(でも……これで!)

 アーニャは女の喉元向けてナイフを繰り出す。
 当然のようにそれを防がれるが、これはアーニャにも想定済み。
 狙いはそれを防いだ義手の付け根。女には自身の腕が邪魔となってもう片方の腕ではその位置を防ぐことはできない。
 アーニャはその付け根である肩を目がけて、もう一本のナイフを振り下ろす。
48 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:22:21.36 ID:HEFpIzrTo

「……残、ネン!」

 だがそのナイフは女が先ほど防いだ腕の肘を上げることによって、ナイフは肘をギャリリという金属音を立てながらあらぬ方向へと逸れてしまった。

「そう、です、ね!」

 アーニャはその肘を振り上げる動作を狙っていたのだ。
 肘を上げることによってその下方は自身の腕によって塞がれ、死角となる。

 そこに向けてアーニャはすでに横蹴りを繰り出していた。
 その蹴りは、女のわき腹に刺さり内臓へと確実にダメージを与える。





「やっすい、わね」

 はずだった。
 女は、足をするりと振り上げる。

 そう、アーニャの繰り出した蹴りの、腿をなぞるように。
49 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:23:10.98 ID:HEFpIzrTo

「あ……れ?」

 蹴りによる遠心力の中心となるべき体を失った片足は女の後方へと勝手に飛んでいく。
 アーニャが視線を下げれば、先ほど繰り出した蹴りである脚は存在しない。
 先ほどの腿をなぞる所作。ただそれだけでアーニャの片足は切断されたのだ。

 ぐらりとバランスを崩したアーニャはその場に倒れる。
 その際にもなるべく距離を取るために、後ろ向きに反動を付けながら倒れ込むがあまり意味はないだろう。

「脚で……ダガーニスを?」

 ダガーニスは殺人術と言っても起源としては暗殺術に近い。
 その腕一本で、人を死に至らしめるために誕生した技術であった。
 そのために武術とは違い繊細で、精密な動きが必要となるのだ。

 当然、脚で行う技ではない。
 それを可能にしてしまえばもはや腕を刃にするだけの暗殺術などではなく、全身を刃物で武装した兵器そのものとなってしまうのだ。
 人一人を殺すだけにはあまりに過剰だったのだ。

「そりゃあ、腕で出来るんだから、足でも出来るでしょう?」

 それは一人の人間が持つには、あまりにも過剰な技術であった。
50 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:24:07.80 ID:HEFpIzrTo

「そんなことよりもさあ、もう脚生えてるのねぇ」

 アーニャの驚愕など気にもせず、女の興味はやはりアーニャの再生能力であった。

「あと腕を何本?あと脚を何十本?どれだけやればいい?

泣いて叫んで呻いて苦しんで発狂してその体を地に這いつくばりながら私に助けを請い始めるのは、いつ……いいい……。

ヒヒ……ギャハハ……いいいい、いつなのかしらぁ?」

 倒れ込み、座っていたアーニャに女はじりじりと近づいていく。
 両手で義手の付け根の辺りをがりがりと引っ掻きながら、もう我慢できないと言いたげに充血した目でアーニャを見下ろす。

「ひっ……」

 思わず喉から小さな悲鳴を絞り出してしまうアーニャ。
 これまで能力の特性から命の危機とは縁遠い人生であったが、今はじめて経験する。
 からからと喉が渇き、全身の筋肉が硬直し、早まっていく心臓の音だけが聞こえる。

 これが命の危機か?これが死への恐怖というのか?
 もはやこれ以上あの女を近づけてはならないと、アーニャの脳は警鐘を鳴らす。

(ああ……この人は、危険だ)
51 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:25:05.15 ID:HEFpIzrTo

 この女をはじめに見た時の危機感。周子以上に、隊長以上に危険だと感じたのは、まさにこの女の狂気と、これまで向けられたことのなかった絶対強者の殺意からであった。

 隊長と戦っていた時アーニャは気づいていなかったが、隊長はアーニャに明確な殺意は向けていなかった。
 故にアーニャにとって、真に感じる『命の危機』とはこの瞬間が初めてであった。



「……『聖痕』解放!」
『『聖痕』確認。統計より予測継続時間を算出。約163秒です』



 もはやなりふり構ってなどいられない。
 本日二度目になるが温存しておく余裕など微塵も残されていなかった。

 腕から開いた聖痕による傷口は特徴的な模様も形作りながら徐々に全身へと広がっていこうとする。
 それと同時に、全身から天聖気が立ち上り、背からは翼のように放出される。

「速攻で……終わらせます!」

 両腕を振り上げ、脚に力を込めてアーニャは女へと跳びかかる。
 脳天から勢いよく振り下ろされたナイフは、そのまま女を真っ二つにしかねないというほどの勢いである。

 女は両腕の義手で縦のように構えて、アーニャのナイフを防いだ。
 その瞬間密閉された倉庫内に響く轟音。ダンプカーの衝突音にも近いその音だけで衝撃のすさまじさがよくわかる。
52 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:25:58.99 ID:HEFpIzrTo

 義手の女はかろうじてアーニャの攻撃を防いでいるようだが、義手の方がミシミシと音を立てており、このまま攻撃を受け止め続けるのは義手が持たないだろう。
 アーニャは受け止められたナイフをすぐに手元に戻して次の攻撃に移る。

 上段、下段、時に蹴りを混ぜ女に隙を与えないように攻撃を繰り返す。
 その猛攻に女はなすすべなく防戦一方。本来ならばまともに受け切れるはずのない攻撃をうまくすべてをさばいているものの、じりじりと後ろへと後退していく。

「УУУрааааааааааааааааааааааааа!!!!!!」

 アーニャは攻撃を続ける中思い出す。
 かつて憤怒の街で隊長と戦った時も、こうやって攻撃の隙を与えないようにナイフを振り回していたことを。
 その時は隊長にあっさりと形勢を逆転されてしまったが、今度はそうはいくまいと。

 攻撃を繰り出す中でも相手の動きを観察し、絶対に反撃の隙を作らせない。
 そしてこの猛攻の中に。

(ここで!)

 攻めの中で構築した、完全な隙。そこに打ち込む高速のナイフ突き。
 いかなる達人と言えどこれを防ぐのは至難の技である。
53 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:26:49.18 ID:HEFpIzrTo

(……!?)

 だが、その一撃は金属が滑るような音と共に、ナイフは義手を滑り、逸らされる
 義手の女はまるで動きを読んでいたかのように女は巧みに防いで見せたのだ。
 アーニャの突きの流れを逸らし、完全に力の方向を受け流すように。

「それ、でも!」

 アーニャはそれでも体を動かすことをやめない。
 渾身の一撃ではあったが、アーニャはこの女の強さを理解していた。
 ゆえに防がれるその可能性も捨てず、防がれても動揺せずに攻撃を続けることができた。

(でも……この違和感は?)

 先ほどの突きから、脳裏に浮かび上がる一抹の違和感。
 聖痕を開放する前までに感じていた、ピリピリとした恐怖や危機感があまりにも感じられないのだ。

(……聖痕を、発動したから?)

 聖痕に精神を安定させる効果がある可能性は拭えない。
 それにしては心臓の鼓動の音がやけに大きく聞こえる。
 この死線の中での妙な平常心が逆に違和感となってねっとりと脳の一部にこびり付く。
54 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:27:30.83 ID:HEFpIzrTo

 だがアーニャにはそれを気にしている余裕はない。
 ただ攻める。反撃を与えないように、執拗に、そして渾身の一撃を織り交ぜながら。

 その猛攻はさながら暴風の刃である。今の聖痕状態のアーニャの攻撃はただの人間ならば、掠るだけで人体が欠損するほどのものである。
 確実に仕留めようとする渾身の一撃ならば、体ごとバラバラに吹き飛ぶであろう。

 女はそれをただ逸らし、力を苦し、巧みに避ける。
 暴風の中、一度でも当たれば即死という綱渡りの中で、まるで踊るように軽やかに。

 微塵の迷いさえない動きはあまりに流麗、あまりに精錬。
 最もアーニャにはそれをじっくりとみている余裕はなく、ただ仕留めるために猛攻を繰り返す。
 ただそれも女の舞踏を引き立てる物にしかなっていなかった。

 焦っていたとも、いや心のどこかでアーニャも女の動きに見とれていた部分があったのかもしれない。
 そう、気づけなかったのだ。
 アーニャは女の表情を。
 退屈じみたその表情を。すでに結末を知っている映画を見ているかのようなその表情に全く気が付くことができなかった。
55 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:28:08.08 ID:HEFpIzrTo

「……そろそろね」

 そして静かに女が呟く。
 アーニャにはそれが何なのか理解はできなかったが、その刹那に知ることになる。

「あ……あれ?」

 がくりと力が抜ける膝。
 顔面から受け身も取れずにアーニャは倒れ込み、コンクリの窪みにたまった血だまりに顔面から突っ込んだ。

 アーニャは自身に何が起こったのか瞬時に理解することができない。
 ただ全身に力が入らず、全身に鈍痛と大量の重しでも背負ったかのような倦怠感を感じるだけである。

 もちろんこんなことは今までに一度たりともなかった。
 いや、それどころかまともな『痛み』なんて感覚さえもほぼ初めてであった。
56 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:28:47.86 ID:HEFpIzrTo

「呼吸からの疲労感とか、身体に微かに着いた血の香りからすでに一度戦闘後であるなど推測して、『それ』の終了時間を予想してみたけどピッタリみたい」

 アーニャのぼやけた視界からはよくは見えない。
 だがその声はアーニャに向かって近づいてきていることだけわかる。

「まぁ攻撃も単調だし、結局のところ当たらなければ意味ないのよね。

答えの知ってる問題なんてものは退屈だったけれども、後のことを考えれば『手間が省けた』とでも考えておくべきかしら?

さて」

 倒れ伏したアーニャの頭上から聞こえてくる女の声。
 それが言い終わると同時に、アーニャの頭にガツンと衝撃が走り圧迫感と一瞬の痛みを生じさせる。
 微かに鼻孔に土の臭いがすることから、頭を踏まれていることがぼやけた視界のアーニャからでもわかった。
57 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:29:22.79 ID:HEFpIzrTo

「ねぇ?今どんな気持ちかしら?

自分の切り札をいとも簡単に攻略されて、血だらけになりながらこうして屈辱的に地面に這いつくばってる気分は?

ギャヒ……ヒヒ、大体同じ技を前にも見たことあるのよねぇ……。

どっかの宗教のお偉いさんの暗殺計画だったんだけど、その時にさ、アンタとほぼ同じ技使ってきたやつがいたの。

とりあえず防御してその場凌いでたらさ、ギヒ、ヒヒヒそいつ勝手に自滅してんのよ。

それと同じ。あんた同じアホやったのよ。ギャハ、グフフ……」

 こぼれ出そうな感情を押し殺しながら喋っているような女の声。
 その間もアーニャは全身が痛みながらふわふわとした脳でその声をただ聞いていた。

「ギャ、ぎゃはははははははははああああーーーーーははっはあはははっはははは!!!!!

ヒヒヒ……ギャハハハハヒーーーヒヒヒヒヒヒイイイイ!!!!

もう傑作!!!自信満々でぇ!!『速攻で終わらせる』とか腹が痛くて……ククク。

ギャハハハハハ!!!!

もう全部タネは割れてるっていうのに、自信満々でさぁ、そんなのでほんとにあたしを殺せると思ってたのかしらぁ!!!

ほんとアホみたいねぇ!!!悔しい!?こんなに笑われて悔しいよねええええ!!!!!

どうなのか言ってみろよこのくそザコちゃあああーーーーんんん!!!??」
58 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:30:03.49 ID:HEFpIzrTo

 女の下品な笑い声とぐりぐりと頭を踏みにじる際の耳元での摩擦音。

『聖痕予測終了時間、残り10秒』

 そんな今更聞こえてくる無機質な電子音声と共にアーニャは自身が完全に敗北したのだと悟った。
 だがその敗北による悔しさも、女のひどい罵声もなぜか大してアーニャには気にならなかった。

「……クラースヌィ」

(ああ……血が、赤い)

 今まで怪我をしても一瞬で消えていた傷口。そこから流れ出す血液も一瞬で消滅してしまっていた。
 だからこそ、今目の前を真っ赤に染める自身の流血が、自身の赤色があまりにも新鮮だったのだ。

 そんな的外れな思考をしながらアーニャの思考はまどろんでいく。
 義手の女の下品な声など気にもせず、力尽きたかのように眠りに入る。

 『聖痕』で開いた傷は、再び蓄積されゆく天聖気によって徐々に塞がりを見せていた。
 だが流れ出した血だけはこれまでとは違い、消えることはなかった。




 
59 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/22(水) 02:30:49.14 ID:HEFpIzrTo



 とりあえず以上です。
 長めになったのと区切りを付けたかったので前後編にしましたが後編の方もほぼ書き上がっているので近々上げる予定です。

 せっかくの選挙発表日だっていうのにまた陰気で趣味全開の話で申し訳ありませんでした(土下寝)。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/23(木) 12:53:04.56 ID:K3cIVbMu0
乙ですー
とりあえず理解が追い付かないがなんかヤバイ(こなみかん)
61 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/04/23(木) 16:36:36.15 ID:Tlj1fI0Po
>>59
おつー
……アッ、アーニャーーッッ!!

なんかまたヤバそうな奴が出てきましたな
この煽りスキル……、憤怒Pの親戚か何かで?
62 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:18:15.27 ID:NGKYIe+ko
こんばんは

では後編投下していきたいと思います。
前編ほどキツイ表現はないとは思いますが一応諸々注意です。
63 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:18:56.38 ID:NGKYIe+ko
 アーニャが目を覚ませば、何度か見覚えのある天井が目に映る。
 寝転がっていたソファから状態を起こし、周りを見渡してみれば見慣れた間取り。

 ここが『プロダクション』であることが判別できる。

「……寝て、しまったのでしょうか?」

 ふらふらとおぼつかない足取りでソファから立ち上がったアーニャは壁に掛けられた時計を確認する。
 だが時計は全ての針が外れており、それらは重力に従って文字盤の6の字の下で積みあがっていた。

「ニェエスプラーヴナシチ……故障、してるんでしょうか?」

 アーニャは壁に掛けられた時計を手に取って軽く振ってみるが、時計の針がシェイクされる乾いた音が響くだけであった。

「これでは、時間がわかりません……」

 これはもはや一度分解でもしない限り、直すことはできないであろう。
 諦めてアーニャは時計を元の場所に戻す。

 ここでアーニャは背後の窓へと振り返る。
 灰色のビルと、灰色の雲が窓からは映し出されており、この明るさから最低限日中であることは伺えた。
 アーニャはゆっくりと窓へと近づき、外と隔絶するその透明の壁に手を触れた。

 ひんやりとした窓は、ただでさえ体温が高いとは言えないアーニャの白い肌から熱を奪っていく。
64 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:19:33.98 ID:NGKYIe+ko

「スニェーク……」

 色の奪われた外界はよく見れば、空からゆっくりと小さな雪粒を断続的に降らせている。
 あまりにもささやかな白色はアーニャでさえも窓に近づいて目を凝らさなければ見えなかった。

「夢というのはだな」

 急に背後から聞こえてくる声。
 アーニャはその声に反応して、慌てて振り向く。

 その姿は、ツインテールに白衣、そしてピンクの角縁眼鏡。
 池袋晶葉は音もなく、あまりにも自然にこの部屋の真ん中に現れた。

 電気も付いていないこの部屋内は、外の曇り空も相まってあまりにも薄暗い。
 アーニャの立ち位置だと、眼鏡が光を反射し晶葉の視線がわからない。

「レム睡眠、体が眠っているのにもかかわらず脳が活動をしているという状態であるときに出現すると言われる現象なのだ」

 行儀悪く机の上に座りながら、晶葉はアーニャの驚愕を気にしない様子で一方的にしゃべりだす。
 その口調はいつものような自信に満ち溢れたものではなく、単調で淡々としたものであった。

「大脳皮質や近縁系の活動が覚醒状態に近い水準であるときに、脳の過去映像から記憶の像が再生されつつ、その映像に合致するストーリーを自ら構築していくと言われている」

 あまりにも普選なこの状況だが、アーニャは黙って晶葉の話を聞く。
 そう、この晶葉の言葉は聞き覚えのあるものであった。
65 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:20:20.23 ID:NGKYIe+ko

 前に夢見装置を晶葉が完成させたときに、自慢げに語っていた理屈であった。
 当然アーニャにはさっぱり理解できなかったが、晶葉が楽しそうであったことは印象に残っていた。
 だが今目の前にいる晶葉には表情がなく、だからこそ違和感だらけの存在であった。

「夢というのは結局のところ、想像された映像だ。

過去の記憶をもとに、それらをつぎはぎ足していき、一つの『夢』を作り上げる。

自らが想像したものであるにもかかわらず、新たなものは一つもない。

パッチワークなのだよ。結局のところ経験がなければ、絶対的に夢で未経験を作り出すことはできないのだ」

 そう言って晶葉は傍らに置かれた、小さなブラウン管、彼女自身が開発した夢見装置を撫でる。
 その画面内には、荒い映像ではあったが一つの映像を映し出していた。

 アーニャはその小さな画面を、多少離れた場所から目を凝らして見る。

「ヤー……私?」

 そこに映し出されているのはアーニャ自身であった。
 しかも今の自分の、今いる場所を、まるで窓の外から覗き込むような映像が。

 アーニャはとっさに振り返る。
 だが窓の外には誰もおらず、カメラなんて存在しない。ただ雪が降っているだけである。
66 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:21:00.04 ID:NGKYIe+ko

 そして視点を元に戻せば、そこには晶葉は居らず、代わりに尾を呑む白蛇が一匹アーニャを睨み付けていた。

「キミはいったい何を夢見る?アーニャ」

 その晶葉の声がする方は、この『プロダクション』からの出口の扉。
 開かれた扉の先で晶葉は背を向けて、淡々とアーニャにそう問いかけた。

 そしてバタンと勢いよく閉じる扉。
 再びこの部屋はアーニャ一人だけとなった。

「私は、夢見るのは……」

 アーニャはゆっくりと出口につながる扉へと歩いていく。
 靴が床を鳴らす音だけがこの室内で響いている。
 白蛇の傍らの夢見装置の画面はすでに何も映していない。

 そしてアーニャは無言のまま、先ほど晶葉の消えた出口へと通じる扉を開けた。






 
67 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:21:37.74 ID:NGKYIe+ko




 扉を開けば、純白。
 足元に積もった雪は体重によって靴の半分くらいを沈める。
 視界に映る葉を落とした木々は黒色に近く、視界はまるでモノクロだ。

「あ……れ?」

 アーニャは振り返ってみるが、そこには自分は来たはずの扉は存在しない。
 同じようなモノクロの景色が広がっているだけで、目の届く範囲には人工物すら見当たらない。

「ここは……」

 隊長の件のあとに一度アーニャは自分の生まれた北海道の集落跡に行った。
 ここはその近くの景色である。その時には雪は積もっていなかったが。

 こんな現実感のない場所移動をしたにもかかわらず、アーニャは特に疑問に思うこともなく歩き始めた。
 その姿は傍から見れば幽鬼のように、ふらふらと誘われるように。

「この先……には」

 アーニャはこの景色を知っていた。
 前に行った時とは違い雪が積もっているが、この歩く先に何があるのかアーニャは知っている。
68 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:22:13.49 ID:NGKYIe+ko

 雪を踏みしめる音は、壊れたラジオのノイズのように単調に、一定のリズムで鼓膜に刻まれる。
 視界に映る粉雪も、まるでリピート再生するように単調で冷たさなんて感じない。
 それでもアーニャは何の疑問も思わずに歩き続ける。

 そして歩き続けた先には、木の生えていない小さな広場。
 林の中でぽっかりと空いた広場は、空から降る雪をより多く吸い込んでいるようである。

 その中心には、厚手のコートを着た男が一人アーニャに背を向けて立っている。
 男は色のない景色の中で、武骨でデザイン性の欠片もない灰色のコートを着て佇んでいた。
 体には雪を微塵も被っておらず、景色から浮き出ており男だけ別の空間にいるようである。

「……隊長」

 アーニャが小さく呟く男をさす名称。
 男の本名さえ知らない彼女だが、その姿だけは決して忘れることはない。

 アーニャの人生に最も影響与えた人物であり、最もアーニャとの付き合いの長い人物。
 そんな男は、アーニャの小さな呟きに反応したかは定かではないが、ゆっくりとアーニャの方を振り向く。
69 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:23:00.45 ID:NGKYIe+ko

 その途端に雪は激しさを増す。
 暴風にも近いその降雪に思わずアーニャは腕を視界の盾にして目を細めた。
 その姿は隊長であるはずなのに、この雪のせいで表情までははっきりとつかめない。

「夢ってのは結局記憶の継ぎはぎだ」

 雪の流れに乗ってアーニャに届いてくる隊長の声。
 本来ならば雪の降る音でかき消されてもおかしくない声量だったが、その声はダイレクトにアーニャに届く。
 いや、届くのは当然であった。
 こんなにも激しい雪であるはずなのに、雪の降る音など全くしていないのだから。

「当然誰かの記憶を夢で見るなんてことはない。

それはただの妄想だ。そうだったらいいな、こういう感じだったのかなと自分勝手に捏造したに過ぎない」

 猛雪の先、隊長の姿の背後には、燃え盛る教会。
 いつの日かに夢に見た情景のまま、雪なんて全く気にしないようにあの時のまま燃え盛っていた。




「あの中には、きっとお前がいるんだろう。お前にとってはな。

だがよく見てみろ。あの教会は、お前の生まれた街の教会か?」
70 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:23:44.34 ID:NGKYIe+ko

 その言葉と同時に、雪混じりの風は何か小さなものをアーニャの足元に運んできた。
 それは小さな写真立て。中には都会の街並みの中でよく目立つありふれた様式の教会。

「これは……近所の教会?」

 アーニャの記憶の中にあるこの教会は、女子寮から『プロダクション』までの道中にある小さな教会であった。
 目立つ建物なので、アーニャの記憶によく残っている。

 アーニャはその写真立てから顔を上げれば、相も変わらず燃え盛る教会。
 だがその教会は、写真立てに写るものと同一であることにアーニャは気づいた。

「そう……あれはお前の両親の思い出の教会じゃあない」

 隊長のその言葉の瞬間、教会を侵食していた業火は一瞬で消え去る。
 先ほどまで燃え盛っていた教会には焦げ目ひとつない。その教会はやはりアーニャにとってよく見る、『プロダクション』への道中の教会であったのだ。

「いつだったかお前は、俺とお前の母親の夢を見たはずだ。

それにしたって、お前の赤ん坊のころの記憶だ。

母親の胎内の記憶を3歳ぐらいまで覚えているなんてよく聞く話だろう。

時間と共に思い出せなくなったとしても、それは確実に記憶に蓄積されている」
71 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:24:25.93 ID:NGKYIe+ko

 そう言って隊長は再びアーニャに背を向ける。
 身動きさえ取ることが困難な豪雪にもかかわらず、隊長はそれをまるで意に介さないかのようだ。

「言ってしまえば夢なんてものは記憶の断片を再生しているようなものだ。

それに価値なんてないし、意味なんてものはもっとない。

誰かと夢で繋がってるとか、夢の中で誰かの声を聴いたとかなんてのは全て自分の想像だ。

自分の願った結果であり、ただの願望。それを持ってる記憶で再現したにすぎない。

お前は今、何を願っている?アナスタシア」

 そしてゆっくり歩きはじめ、隊長は教会の扉を開く。
 その先は真っ暗闇で何も見えない。

 隊長はアーニャに向けて小さく手を振りながら、教会の扉をくぐる。
 そのまま隊長の姿は闇に溶けていくように見えなくなった。
 それを見計らったかのように教会の扉は勢いよく音を立てて閉まり、アーニャのゆく手を遮っていた豪雪さえもピタリと止んでしまった。

 アーニャは写真立てのあるはずの足元をちらりと見る。
 代わりにそこにはアーニャを見上げる小さな蛇が一匹。そのとぐろを巻く尾の先は自らの口の中に納まっている。

 それを一瞥した後に、アーニャはゆっくりと歩き出して、教会の扉に手をかける。
 上を見上げれば雪は止んだものの、依然真っ白い雲に空は覆われていた。
 そしてアーニャは誘われるがまま、その教会の扉を開いた。





 
72 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:25:16.21 ID:NGKYIe+ko




 扉の先はアーニャのよく知る場所であった。
 ふり返ってみると、そこは街中の教会であり、いつもの立地の『プロダクション』への道にある教会。
 内装はよく見るような、長椅子の敷き詰められた普通の教会である。

 アーニャは扉をゆっくりと閉めた後に、目の前の道路まで出る。
 教会の反対側には、ファミリーレストランが見える。
 全国チェーン展開されているポピュラーなファミレス。

 気が付くとアーニャはその目の前まで歩いてきており、自然と店内を窓から覗き込んでしまった。
 店内の中には一つのテーブルを除いて客は居ない。

 その四人がけのテーブルに座っているのは、みくと、のあと、アナスタシア

「やめ、やめるにゃあ!それを近づけるにゃあ!」

「大丈夫、あなたの大好きなハンバーグよ。たーんとお食べなさい」

「ラーナ……私がリーダーを抑えている間に、早く」

「ええ、さぁ口を大きく開けて。決して熱くないから」

 ワイワイと騒ぐ3人。
 賑やかな様子だが、客観的にみていると周囲の静けさも相まってなんだか無機質にも見えて来るようにアーニャは感じる。
73 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:25:48.29 ID:NGKYIe+ko

「こんな夢も……見たような気がします」

 アーニャは3人の様子を客観的に見ながら、その様子がなんだかおかしくてクスリと笑ってしまう。
 こんなやり取りを実際にしたことはないのに、まるで何度も交わした言葉のような親しみさえ感じた。

 アーニャはそんな3人のいる店内へと、ファミレスの扉を開けてゆっくりと入っていく。
 その足取りは自然に店内の奥の方、3人のテーブルを目指して進んでいた。

 そしてそこまでたどり着く。
 それだというのに目の前の3人はやってきたアーニャを気にせず話を続けていた。
 いや、まるで外から入ってきたアーニャのことが見えていないかのようであった。

 アーニャは少し笑ったまま3人の様子を間近で見る。
 やはり鼓膜に響くのは目の前の3人の会話のみで、周囲が一切の無音であることに変わりはなかった。

 だがその沈黙を破る、アーニャにとっては聞きなれた音が響く。

「…………」
74 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:26:40.95 ID:NGKYIe+ko

 肉を引き裂く鋭い音と同時に響くビチャビチャという粘性を少し持った水の音。
 同時に眼前に流血が迸る。
 頸動脈を一瞬のうちに掻き切られたみくとのあは、赤い噴水をスプリンクラーのように周囲に塗り付けながらその場に崩れ落ちた。

 アーニャにとって見慣れた光景。
 自分を含めた3人での会話以上に、慣れ親しんだ赤色。
 網膜に焼き付いている赤色は、何度も見てきた断末魔の色彩。

 アーニャの右手にはナイフが握られている。
 慣れ親しんだ得物には真新しい赤色が滴る。
 そして体は自然な動きで、一番奥に座っているアーニャからマウントポジションを取り眼前にナイフを突きつけた。

 そして向かい合うアーニャとアーニャ。
 目があった瞬間、その何も映さぬ瞳を見た途端にアーニャは我に返る。

「ダー……私は、何を?」

 見下ろすは自分と全く同じ顔をした人間。
 依然ナイフは突きつけたまま。いや、今のアーニャには我に返っても体を動かすことがなぜかできない。

 自分自身と同じ姿をした者の瞳からアーニャはなぜか逃れられなかった。
 まるで鏡を前にしているかのようで、あまりにも見慣れている自身の姿は他人として実体を持つと極端に不気味に見える。

「殺さないのですか?」
75 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:27:20.62 ID:NGKYIe+ko

 目の前のアーニャが口元を小さく上げながら言う。
 だがその瞳はどこを見ているのかも不確かで、透き通る瞳は虚空を映している。

「なんで殺したのですか?」

 今度は糾弾するような言葉。
 しかしやはり、今度も表情は変わらない。

「……だってそうですね。私(あなた)にはそれしかないのですから」

 手元がぶれ、持つナイフの先が揺れる。
 その言葉を否定する感情がこみ上げてくるが、一方で納得してしまう。

「あんな風に、他愛のない会話も、他愛もない話の話題も、私(あなた)にはない。

口(ロート)を開いて出てくるのは、殺していた人間のことと、死んでいった仲間のこと。

あとはせいぜい戦闘技術くらい。貴女(わたし)にはそれしかないのです」

「……それはっ!!!」

 かろうじて喉から搾り出た言葉。
 目の前の自分の言葉を否定するために紡ぎだした言葉だというのに、その先が続かない。
 そんなことはないと、たとえこれまではそうだとしても、今の自分にはそれだけじゃないと。
76 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:28:08.04 ID:NGKYIe+ko

 だが記憶の中には、結局カースとの戦闘や、悪を働く者たちとの戦いの記憶しか浮かばない。
 これまで培った技術を駆使して、それらと戦ってきたこの数か月。
 それ以外にもあるはずなのに、語ろうとするにはあまりに貧困であった。

「ヤー……я……わ、わたしは……」

 ナイフはこちらが付きつけているはずなのに、アーニャは逆に喉元に鋭い刃を当てられる気分になる。
 わからない。
 なんで二人を殺した?まるで当たり前であるように。
 なんで自分を殺そうとしている?まるでそうしてきたかのように。
 なんで自分は……。

「Я……борюсь(私は……戦っている)?」

 気が付けば、アーニャの目の前に突き付けられたナイフがあった。
 背中にはファミレスの冷たいソファの感触。
 そしてナイフの向こうには、やはりアーニャ自身。

「貴女(わたし)はどうして、ここで死にかけている?」

 そんなナイフを突き立てるアーニャからの問い。
 ナイフの先から血が一滴ポタリとアーニャの刃先に落ちた。
 さっきまで自分がナイフを突き立てていたというのに、いつの間にか逆転しているという状況。
 いや、アーニャにはわからない。初めからナイフを突き立てていたのが自分だったのか、目の前にいるアナスタシアだったのか。
77 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:29:14.56 ID:NGKYIe+ko

 アーニャの目が泳ぐ。ずっと目の前の自分の目を見ていると、蛇に睨まれたように体が硬直してしまうように感じたから。



「私(あなた)の願いは、いったいなんですか?」



 何度も問われたその問い。
 そしてふと、脳裏によぎる人たちの顔。

 『プロダクション』のみんなや、『エトランゼ』のみんな、それ以外にも自分とかかわりを持った人々。
 そう、その人々を守るために戦っていたのではないのか?




「そう……私は、みんなを守ることが、願いだったはず」

 そして思い出す直前の記憶。
 義手の女に敗れ、踏みにじられ、這いつくばった後のまどろみの中でこの夢を見ていることを。

「こんな場所で、寝ている場合では……ない」

 覆いかぶさる自らの像をアーニャはそのまま押し返し、再び押し倒す。
 そしてその手から素早くナイフを奪い、自らの手に押し当てる。

「悪い夢から、覚めましょう」

 思い返すは、先ほどの痛み。
 夢の中で相応の痛みを感じれば、目は覚めるだろう。
 そう思ったアーニャは手に押し当てたナイフを横に引いて手を切ろうとした。
78 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:30:01.99 ID:NGKYIe+ko

「……クス」

 しかし前に小さな笑い声が聞こえ、アーニャは思わずその手を止めてしまった。
 その声の主は下にいる再び押し倒されたもう一人のアナスタシア。
 アーニャは訝しげにそのもう一人の自分を見た。

「フフフ……まだ、そんなことを言ってるんですね」

 アーニャにはその言葉がまるで理解できない。
 これはアーニャの夢であるはずなのに、その夢の中の人物であるはずのもう一人の自分が全く理解できなかった。
 その姿は、自身と全く同じであるはずなのに、その妖艶に見える表情は、それでいて無邪気に見える笑みは自分自身のものだとは到底思えない。
 アーニャ自身そんな表情したことなかったし、そんな顔はしようとしても作れない。

「そんなことだってただの言い訳、貴女自身を正当化(アプラヴダーニェ)しようとしているだけ……なのに」

 目の前のアナスタシアは軽く笑いながらただじっと見ているだけなのに、アーニャは再び体が硬直する。
 ナイフを握った手は力が抜け、ナイフはするりと床へと落下する。

「……シトー?、何ですか……。

……ここは、私の夢でしょう?

ヴィー……あなたは、いったい、何ですか?」

 自身の夢の中だというのに、得体のしれない存在に怯えを隠せないアーニャ。
 だが目の前の鏡写しの存在は、当たり前だと言わんばかりに言う。
79 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:30:59.54 ID:NGKYIe+ko

「はじめから言っていましたよ。

貴女(わたし)は、私(あなた)だと。

なんで自分に怯えてるんですか、貴女(わたし)?」

 ちろりと唇を一舐めし、その奥を覗き込むようにじっと見つめてくるアナスタシア。
 その瞳は、見慣れた自身のブルーの瞳ではなく、その中に縦に細長い瞳孔があった。

「ッ!!??」

 その瞳に思わず怯むアーニャ。


 さらにその怯んだ一瞬のまばたきで景色は一変する。
 さっきまでのファミレスは一瞬で消え失せ一色の黒に包まれ、目の前のアナスタシアは小さな赤子に変わっている。

「時間があまりないので、さっさと進めましょうか」

 この暗闇全体に響く声。
 先ほどのアナスタシアの声がまるで全方向から響いてくるようである。

「……いったい?いったいどんな、意味なの!?」

「その紛い物の願いでも、憑代となりうるかもしれないですからね」

 困惑の声しか上げることのできないアーニャに対し、淡々と話を進めていく声。
80 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:32:33.17 ID:NGKYIe+ko

「どうせ目が覚めたところで、あの人に勝つなんて到底無理でしょうから……少し力(シイーラ)を貸しますよ。

そしてこれが……私からの最後のチャンスですから」

 その声の後に赤子の瞳がゆっくり開く。
 その瞳は、ブルーの瞳に縦に細長い瞳孔。先ほどの鏡写しのアナスタシアの瞳。

 瞬間に暗闇は晴れ、周囲は逆転するように一面の白。
 急に反転した色彩は、アーニャの瞳に急激な刺激を与えるが、それを感じている余裕などなかった。

「ひっ!?」

 その白色は、すべて白蛇。
 その白蛇たちはアーニャの体を這い上がっていく。
 いや、逆であった。
 白蛇たちの海ははじりじりとアーニャをそこへと沈み込んでいく。

 まとわりつくように、引き摺りこむように。

「い、いやぁ!!!いや、です!!!」

 体を蛇が這う生理的嫌悪感が全身に走り、悲鳴を上げるアーニャ。
 思わず手を上へと伸ばすが、向けた天井も同様に真っ白である。

「う……嘘……でしょう?」

 目を凝らせば、天井の白色でさえすべて白蛇。
 重力に逆らうように天井を埋め尽くしながら、絡み合い這っている。

「……そんな」

 体はそのまま沈んでいく。
 白蛇の海に沈み切ったアーニャは視界を埋め尽くす白色に精神が摩耗していく。

「いや……いやです……。

こんな……失うのは、いや。

失わないためには……戦わないと……」

 そのまま夢は覚めぬまま、意識は沈んでいく。
 その歪な願いを白蛇たちに乗せたまま。

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81 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:33:12.88 ID:NGKYIe+ko



「ヒャーーーハハハハハ…………はぁ」

 ひとしきり息を吐きつくしたのか、義手の女は呼吸を整える。
 それでも足をアーニャの頭からは退かさず、ぐりぐりを小刻みに動かしているのだが。

「ついでにこいつ持ち帰ろうかしら?

壊れにくい玩具ってのなら、ストレス発散にも丁度好さそう、だし!」

 そう言って、アーニャの頭を思い切り蹴りぬく。
 その衝撃によって、アーニャの体は義手の女の数歩程度先まで吹き飛んだ。

 それでも依然アーニャは動かない。
 まるで息絶えたかのように、静かに血を纏いながら横になっている。

「ん?……まさか死んじゃいないわよね?」

 さすがにあまりに微動だにしないので、やり過ぎてしまったのかと義手の女も少し心配になってきた。
 まだまだ楽しめそうな余地があったのにもかかわらず、殺してしまっていたら彼女的には損である。

「とは言っても仮に死んでても構わないのだけれど」
82 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:33:56.13 ID:NGKYIe+ko

 そんな気楽な気持ちで、とりあえずアーニャに近づいて生死を確認しようとする義手の女。


パキッ


 だがアーニャに近づこうと歩を進めた義手の女はこの場に不釣り合いな何かが割れたような音に足元を見る。

「なに、これ?」

 そこにはすでにこの場にお馴染みである血だまりであった。
 しかしそれを踏んで水が跳ねるような音ならばともかく、氷が割れるような音がするのは明らかにおかしい。

「氷が、張ってる?」

 その血だまりの表面は赤色で分かりにくいが、薄い氷のようなものが張っていた。
 それは義手の女が踏んだことによって、蜘蛛の巣状にひび割れその存在がより鮮明になっている。

 そしてそれはあまりにもこの場に似つかないものであった。
 血液は空気に触れれば比較的早くに凝固する。
 氷のように水たまりの表面だけが凍ることなんてない。本来傷口をふさぐために血小板が凝縮する作用が一般的だ。
 だがこの血液は、瞬間的に冷気を浴びせたかのように表面だけが結晶化している。無論周囲はそんな気温ではないし、液体窒素か何かを誰かがこぼしたなんてこともない。

 義手の女はその場に片膝を着いて、その血液の結晶らしきものを手に取る。
83 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:34:43.20 ID:NGKYIe+ko

「血かと思ったら……これガラスかしら?」

 義手の女はガラスと表現したが、それは石英に近いものであった。
 血に濡れて赤くなっているが、それを拭えば透明の結晶が姿を現す。

 義手の女は血だまりの中にガラスが紛れただけかと思い、再びアーニャの方を向き直る。

「は?……いったい何が起きてるのよ?」

 これまで終始余裕の表情であった義手の女も困惑の顔は隠せない。
 そこにはアーニャを中心として周囲の血液がじわじわと蒸発していた。

 いや、蒸発していたのではない。

「血が……結晶化してる?」

 赤色の血が次々と透明の結晶へと姿を変えていく。
 ところどころでは、六角の水晶体のような鉱物らしい結晶が血液の床から生えてきている。

 その結晶化は義手の女の足元まで広がっていき、足を着けていた血だまりは完全に高純度の結晶に姿を変えた。

「さすがにこれは……見たことないわね」
84 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:35:27.51 ID:NGKYIe+ko

 そう言いながらも義手の女は両腕の義手のセーフティを外す。
 視線は一切アーニャからそらさず、意識を一点に集中する。

 そんな中で、アーニャがゆっくりと立ち上がり始めた。
 何かをぶつぶつと呟きながら、顔を下に向けたまま。

「あー……これは、『暴走』かしら?」

 途端に苦虫を潰したような表情になる義手の女。
 彼女にとって、敵が死に際に『覚醒』して新たな力を得ることはたびたびあることであった。
 それさえも踏みにじって、完全に相手を屈服させ相手の顔を絶望に染め上げることこそ彼女の愉しみでったのだ。

 だが『暴走』となれば話は別だ。
 感情さえ無くしただの獣と化した敵はその時点で表情には絶望も苦悶さえも浮かばない。
 彼女の道楽の対象外になってしまうからである。

 彼女にとって『暴走』した相手はただ面倒くさいだけでしかなく、見返りのないモチベーションの上がらない敵となってしまうのだ。

「こうなったらしょうがない。

少し様子見て、面倒なら撤退するのが賢明ね」

 義手の女はアーニャを注視したまま、両腕を構える。
 実のところ彼女にとっては『殴った』方が強いのだが、こういった得体のしれない相手には距離のとれる攻撃の方が様子見という面でも有効である。
85 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:36:23.84 ID:NGKYIe+ko

「タタカワ……なければ、イキノコレナイ……タタカワナイト……マモレナ、い……でも、コロスノハ……。

だけ、ド……マモルタメ、なら、殺すのモ、シカタナいいい……。

ヤー、アー、ヴィー……アー…………」

 垂れた頭がゆっくりと上がり、その影から鋭く光る眼光が見える。
 獣と言うにはあまりにも無機でいて、兵器と言うには純粋な眼。
 その視線は、義手の女をまっすぐ射抜く。


「アー……ア、аааааааааааааааааааааа!!!!!!!!!!」


 アーニャを中心として吹き荒れる暴風。
 口を点に向け大きく開き、言語とも取れぬ方向が狭い倉庫内を反響する。
 周囲の壁はそれだけでびりびりと震え、結晶化した血液はその衝撃で多くにヒビが入る。

 そしてアーニャの背から放出される光の翼。それは『聖痕』の時以上に大きく、揺らめいている。
 さらにその翼は根元の部分から徐々に結晶化していき、芸術品のように荘厳な輝きさえ見せる一対の結晶の翼となった。

「ふーん……なるほどねぇ……」

 その様子を見て、義手の女は認識を改める。
86 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:37:25.69 ID:NGKYIe+ko

「てっきりそれは天使の翼かと思ってたのだけれど……竜の翼だったのねぇ」

 アーニャの背から生える水晶の翼には、羽毛のような柔らかさは一切ない。
 細やかな結晶細工の翼は竜燐の一片一片さえも形作り、武骨さと同時に空気さえ凍り付かせるような輝きを放っていた。

「なんて……どうでもいいのだけれども」

 芸術や風景に何の感傷もない義手の女にとってクリスタルの竜翼などさして気になる存在ではない。
 問答無用で量の義手の指先からマシンガンの弾を打ち出し、咆哮するアーニャを蜂の巣にする。

 それだけであっけなくアーニャは肉が飛び散り、血が散乱する。
 通常ならばそれだけで十分であるが、義手の女はなおも容赦はしない。
 両の手首が逆方向に折れ、開いた手首から覗くのはグレネードランチャーの銃口。

 ポンと気の抜けるようなランチャー特有の音と共にアーニャの体にそれは着弾。
 轟音と爆炎が巻き上がり、一瞬のうちにアーニャのいた場所は焦土と化した。

 義手の女は肘を曲げて腕を軽く振る。
 すると肘の切れ目からばらばらと先ほど撃ったマシンガンの空の薬莢が落ちていく。

「様子見としては、こんなものかしら?」
87 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:38:18.92 ID:NGKYIe+ko

 そう言いつつも警戒は怠っていない。
 爆風によって塵が巻き上げられたおかげで視界が悪く、アーニャを完全に倒したか判断できないからだ。
 義手の女は目を凝らし、粉じんの中からアーニャの姿を探す。

 そして発見したのは怪しげな光。

「嘘でしょう……」

 粉じんが巻き上がって視界が悪い中、アーニャは口を大きく空けて義手の女の方を確実に見ていた。
 両手を地につけ、翼は衝撃を吸収する落下傘のように広がり、口の前に集光するエネルギー球は、禍々しい色彩で輝いている。
 そして義手の女が気付いた時にはもう遅かった。

「グウウ……アアアаааааааааааааааааааааа!!!!」

 集積したエネルギーは解放されたように轟音と共に一直線に義手の女へと向かっていく。
 それはアーニャの制御を離れるにつれて大きさを増し、義手の女の元に辿りつ頃にはエネルギー砲の径が彼女を飲み込むほどまでに巨大化していた。

「クううううううぅぅソがぁ!!!!!」

 義手の女は額に青筋を立てながら、両の義手を構えそれが着弾する寸前に。
88 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:39:09.78 ID:NGKYIe+ko


 竜の咆哮たるエネルギー砲を机でも引っくり返すかの要領で、上方へと逸らした。



 明後日の方向に反らされたエネルギー砲はそのまま倉庫の天井を貫く。
 天井は揺れ、さらに埃が落ちてくる。

 そして再び向かい合うアーニャと義手の女。
 アーニャの口からは先ほどの残滓とみられる光がビリビリと小さく走っている。
 それに対し義手の女の両手の義手は、両方とも手首より先の部分が蒸発してなくなっていた。

「さすがに、これは予想外だったわ」

 義手の女がそう言うと、両の義手が付け根の肩の部分から外れてゴトリと質量を感じさせるような音を立てながら地面に落ちる。
 それと同時にどこからともなく新たな義手が、ジェットエンジンで女の元に飛んできて再び両の腕として納まった。

 だがアーニャもそんなことは関係ないように、翼をはばたいて宙に浮く。
 その理性を感じさせない視線は義手の女のみに向けられている。

「……まだ、マダ……コロセテナイ」

 そんなアーニャの呟きと共に鳴り始めるメキメキと言う音。
 結晶がアーニャの背骨に沿うように後方に向かって堆積していく。
 それは巨大な竜の尾のように、長く荒々しい形を象った。

 その結晶の尾は、鉱物であることを感じさせないようにしなやかに動き、その動きに呼応するように鱗がギラギラと輝く。
89 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:39:52.44 ID:NGKYIe+ko

「マ、ダアアアаааааааааааа!!」

 アーニャのその叫び呼応するように、翼と尾が激しく動く。
 そして目では追えぬほどの高速で、その場で一回転。

 普通の人間ならば回転したのかさえ判別できないであったにもかかわらず、義手の女は初動の時点でそれを判断した。
 その場に伏せるように膝をつき、上目でアーニャの姿を捉える。

 その姿はまるで余韻のように、翼を大きく広げ、長大な尾を揺らめかせる。
 義手の女がその姿を視界に移したと同時に、時が動き出したように音が鳴り始めた。

 地響きに似た音。それと共に初めは薄暗かった倉庫内の壁に切れ込みを入れたように細長い光が差す。
 そしてひときわ大きい『ビシリ』と言う音が合図に、倉庫の天井が自由落下を始めた。

 先ほどのアーニャの一回転。ただそれだけの動きで周囲3棟ぐらいを含めた倉庫群が一斉に輪切りにされていた。
 その長大な竜の尾はただ軽く一回転するだけで、衝撃波を含めた破壊力で半径数十メートルの範囲すべてを刈り取ったのだ。

「УУУрааааааааааааааааааааааааа!!!!」

 落下してきた倉庫の屋根を、翼で防ぐアーニャ。
 そして屋根の重量が完全に翼に乗った途端に、大きく翼をはばたかせ穴をあけて脱出した。
 随分と長く暗い倉庫の中にいたが、空は相変わらず曇り空である。
90 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:40:33.78 ID:NGKYIe+ko

 アーニャの視界に映る範囲は全て崩れ去った倉庫の残骸だ。
 その残骸を見下ろし、いまだ生きているであろう義手の女を探す。
 だが見当たらない。当然本能で仕留め切れていないことを知っているアーニャは無差別に攻撃を開始する。

 両手に結晶が収束していく。虚空から生み出された結晶はある形を形成した。
 片手に一つずつ、細腕では支えきれないほどの大きさのアサルトマシンガン。
 結晶でできたそれは繊細な美しさと共に武器としての狂気を孕む。

 アーニャはそれを先ほど義手の女がいた方向へ向けて、迷いなく乱射する。
 銃身と同様に結晶で生成された銃弾は、瓦礫の山など構うことなくすべてを貫通していく。

「……チッ」

 舌打ちと共に掃射される瓦礫の山から滑り出てくる義手の女。
 アーニャはそれを待っていたかのように、尾を槍のように高速で射出する。
 鋭利に尖る尾の先は、繊細に見える結晶細工であっても圧倒的な殺傷能力を誇ることは先の倉庫を両断した件ですでに判明していた。

 義手の女は自らを貫かんとする殺意の槍に対してもアーニャを目指しまっすぐ進む。
 そして尾が彼女を貫く寸前に右手を目の前の尾に添え当てる。
91 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:41:09.38 ID:NGKYIe+ko

 一瞬の鋭い金属音と共にわずかに逸れるアーニャの竜の尾。
 義手の女はそれに加えて尾の逸れる逆方向に十数センチわずかに体を動かす。

 そのほんのわずかの動きだけで全く進行速度を落とさずに攻撃を回避した義手の女。
 それに驚いたようにわずかに目を見開いたアーニャであったが、すぐに両手に構えたマシンガンを女に向ける。

 義手の女は機関銃を向けられた瞬間に射線から飛び退き一回側転する。
 それに遅れるように機関銃の弾は義手の女の元居た場所を通り過ぎていた。
 アーニャは追うように機関銃の銃口を義手の女の回避した方向にスライドしていくが、義手の女はアーニャを中心に円を描くように移動しながらすべて弾を回避していく。

 だが義手の女の進む先には、今度はフリーとなった竜の尾が迫ってきた。
 下がれば銃弾によって蜂の巣、進めば尾に割かれ真っ二つ。
 進むも引くもできない状態の女であったが、それにさえ全く動揺せず尾に向かって走る。

「邪魔よ」
92 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:42:02.54 ID:NGKYIe+ko

 淡々と一言、義手の女は愚痴でも言うように口にする。
 高速で振り上げられた左の腕は、同様に高速で迫りくる竜の尾を一瞬撫でる。竜の尾の先はその動作によって切断される。
 切断されても残った尾は勢いは落ちず女に迫り来ていたが、その残った尾を女は右手で掴んだ。

 そして義手の女は鉄棒で前周りをするかのごとく、尾を支えとして一回転。
 完全に肉体にかかる勢いをその回転で殺し、義手の女は高速で動く尾と一体となった。

 アーニャの高速化された思考の中でも、ほんの一瞬のうちに行われた刹那の妙技。
 あまりに荒唐無稽な技を繰り出した義手の女に驚愕し、アーニャは一瞬対応が遅れる。

「『光行(コウギャ)』」

 そう、その一瞬。まばたき一回する程度の時間であった。
 気が付けば義手の女はアーニャ自身の尾のほぼ根元、目の前で直立して立っていた。

 当然先ほど尾を振り回した慣性力は残っており、それに直立するなどマッハを超える戦闘機の上に直立しているようなものである。

「『クエロ・ヒール』」

 引き伸ばされたスローの意識の中で、まるで義手の女だけ通常の時間のように動く。
 女の放った後ろ回し蹴りは腹部を捉え、内臓全体に響くような激痛と共に胃酸と血液が逆流してくる。

「『アグ・ドグ・ブリグ』」

 すくい上げるように4本の指が顎の下を捉えて、肉を貫通して口内へ侵入してくる。
 そして口内を掻き毟るように、舌と歯茎を根こそぎ剥ぎ取った。
93 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:42:45.53 ID:NGKYIe+ko

「マーシャルアーツ改式『クレイジー・ドーター』」

 トドメと言わんばかりにアーニャに跳びかかる義手の女。
 ふくらはぎでアーニャの頭をがっちりホールドした後に、空中で一回転。
 いや、2回転、3回転、4回転、5回転。

 すべて頭から地面さえ削り取る勢いで叩き付けを一瞬で5回転。
 5回転目にホールドした頭部を踏み台にして一際のジャンプのあとに。

 脚でのホールドを解除して、地面に叩き付けた。



「ガ、ガは……」

 ほんの一瞬のうちにアーニャを襲った、殺人術。
 人一人を殺すためにはあまりに過剰な魔技の応酬。

 一瞬で怪我が回復するアーニャでさえその一瞬の激痛に意識をが混濁している。
 暴走状態であっても脳は生物のものである。負傷していなくとも痛みと回転によって脳はまともな命令を肉体に出すことさえ不可能になっていた。
94 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:43:32.27 ID:NGKYIe+ko

 それでもなお本能で立ち上がろうとするアーニャ。
 もはや三半規管さえ麻痺しているにもかかわらず、ただ目の前の敵を殺すために立ち上がろうとする。

「フフン」

 よろめきながらも立ち上がろうとするアーニャに対して、鼻歌混じりの義手の女は駄目押しと言わんばかりにつま先を腹に叩き込む。
 サッカーボールでも蹴ったかのように数回バウンドしながらアーニャは瓦礫の山に埋もれるように突っ込んだ。

「やっぱり持って帰るのもアリね。でも手土産に持って帰ろうにも、どうやって捕獲しようかしら?」

 すでに勝敗は決したと言わんばかりに、唇に指先を当てながらそんなことを言う義手の女。

「あの自己再生を一時的にでも封じ込めれば楽に運搬できそうなのだけれど……」

 買い与えられたおもちゃを持って帰る子供のような無邪気な笑みを浮かべる。
 事実彼女は運搬方法以上に、持って帰った後のことに思考の比重が傾いていた。

「ガアアアаааааааааааааааааааа!!」

 そんなことを考えているうちにアーニャを飲み込んだ瓦礫の山が、翼によって跳ね除けられる。
 四つ這いになり獣のように女の方を睨み付けるアーニャの姿は、すでに完全に回復したのか外傷は存在しない。
95 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:44:28.72 ID:NGKYIe+ko

 だがそんなアーニャを義手の女は横目に見つつ、すでに予期していたかのようにいつの間にか持っていた石つぶてを投擲していた。
 外傷はないアーニャであるが脳の状態は万全ではない。瓦礫を跳ね除けた時点ですでに目の前まで迫り来ていた高速の石つぶてを見てから回避することなどできなかった。

 尖った石つぶてはアーニャの眼球を貫通し、後方に着弾する。
 目から吹き出す血液に再びアーニャは声にならない絶叫を上げながら、目を押さえ跪いた。

 義手の女は間髪入れずに指先から弾丸をアーニャに打ち込み蜂の巣にする。
 それさえも一瞬で回復してしまうアーニャであったが、すでにその負傷量が脳が処理できる量を大きく超えていた。

「アア、аа、アアアアアаааааааааааааааааааа!!」

 だからこそさらに獣のように咆哮する。
 痛みを感じる精神は摩耗するが、それでも肉体は動く。
 わずかに残った人としての願望さえも、噛み砕いて力にする。

 貫通した眼球の部分を結晶が覆っていく。いや、それどころか全身にあった銃創を中心としても結晶は広がっていく。
 全身を覆うように結晶はアーニャの体を覆っていき、それは竜の鱗のように形作る。
 さらに目を覆っていた結晶の一部がパラパラと落ち、その中から鈍く光る赤い竜の瞳と露わとなった。

「フッー……ハァー……аааа……」
96 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:45:43.76 ID:NGKYIe+ko

 もはや言語の体さえ成していない声で低く唸り、アーニャは周囲の様子を伺うように周りを見渡した。
 そして未だ崩れていない残った倉庫へ向けて口を開き、再び光が収束していく。

「ガアアアアアアアааааааааааааааааа!!」

 口から伸びる一筋の熱線。解放されたエネルギーは再び射線上の物体を蒸発させながら破壊の限りを尽くす。
 アーニャはその光線を放出したまま、首を動かした。
 アーニャを中心角とした扇状を描くように光線は正面上をすべて焼き尽くす。





 そのエネルギーを吐きつくした後に残るのは港の残骸。
 アーニャが初めてたどり着いた地である面影はすでにない。
 そんな港の倉庫の残骸である瓦礫の隙間、義手の女は息をひそめながら思う。

(もうこれは駄目ね。生け捕りっていうか、持ち帰るのは不可能よ)

 いくら傷を負わせても再生するというのがアーニャを捕獲したい理由の一番の理由であったのだが、それは逆に捕獲することにおいては難点となる。
 元々戦闘用の道具しか持ち合わせていないため、即席で捕獲しようにも手段がないのだ。
 初めの段階での少し強い程度の少女であれば捕縛は容易なのだが、今義手の女の目の前にいるのは眼に映るもの見境なく破壊しつくす化物だ。

 回避や対処はできても捕縛するという場合に至ってはどうしようもないのが現状であった。

「帰りましょう」
97 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:46:24.90 ID:NGKYIe+ko

 そうと決めれば話は早い。任務はすでに終えているのでこの場から離脱して帰還するだけであった。
 義手の女は腰の裏。軍事用のカーゴパンツとセットとなる小さなポーチからあるものを取り出そうとする。



(ん?)

 だがその手は止まる。
 それと同時に感じるピリピリとした感覚。焦燥感にも似た感覚は背中の表面を滑る。

「何か、来る?」

 数々の戦場を渡ってきた彼女にとって敵意を察知することなど自然に身に付いたことであった。
 故にものすごい速度で敵意が接近してくるのが彼女にはわかる。

 義手の女は掴みかかっていたものから手を放し、別の物を握り取り出す。
 それは試験管のような筒の中に、黒く濁ったビー玉がいくつか収められていた。
 両手に持って合計8本、1本につき5つのビー玉が入っている。
 女は試験管を砕いて、そのビー玉をすべて地面へと転がした。

 そして義手の女は自身を覆う瓦礫の山思い切り蹴り飛ばす。
 分厚い瓦礫はその一撃で宙を舞いながら砕け散った。
 女はその蹴りの勢いを利用して跳びあがり宙返りをしながら着地。それと同時に舞い上がった瓦礫は小さな粒となり女の上に雹のように降り注ぐ。
98 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:47:22.61 ID:NGKYIe+ko

「フッー……カアアаааа……」

 義手の女が瓦礫から飛び出てきた音に当然のように気付いたアーニャはその方向を向く。
 口から吐く吐息は人間の呼吸ではない荒々しさを纏い、向けられた眼光からは破壊衝動ともいうべき暴力的な赤色が視線の尾を引く。

 その姿は身体の半分くらいが結晶の鱗で覆われ、竜としての姿に近いものとなっていた。
 透色の翼は2対に増え、大きさも先ほどの比ではない。手足の先には透き通るように鋭利な竜の爪が備わり、ナイフなどなくとも十分な殺傷力が備わっているのことを察することができる。

「ガアアааааааааа!!!」

 理性どころか意志さえも完全に失ったアーニャは、再び現れた標的を目がけてその美しい竜皮に包まれた脚で地面を蹴る。
 猛スピードで義手の女に接近するアーニャ。だが義手の女はそれを気にせずに曇り空の彼方を見つめる。
 いや、女には見えていた。

 ヒュンと高速で空気を貫く音の後に地面を穿つ轟音。
 どこからともなく飛来した垂直に曲がった金属の和釘は、義手の女を引き裂かんと振り上げたアーニャの手の甲に鱗を貫通して突き刺さりそのまま地面に張り付けた。

 突如として受けた部外者からの攻撃にアーニャはその釘を一瞥する。
 そこに巻きつけられるように張り付けられていたのは墨で奇怪な文字の書かれた符。
 それが飛来した方角は直上。そこをアーニャは向けば飛来する影と共に鈍い反射光を煌めかせる飛行物が複数。
99 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:48:13.50 ID:NGKYIe+ko

「!?」

 それを回避しようとその場から移動しようとしたアーニャであったが、まるで体が縛り付けられたかのように動けない。
 この異変に再び視線を戻せば目に映るのは自らの手を地面に縛り付ける和釘。だがその効力に気づいた時点ですでにアーニャには手遅れであった。

 グサリグサリと肉を貫く音。動揺の和釘が初めに振ってきた1本目に続くように計五本アーニャに突き刺さる。
 それらは的確に両手、両脚を地面に縫い付けた後に首裏に駄目押しと言わんばかりに突き刺さった。

「ガ、ァ……」

 地面に縫い付けられたアーニャはそれを振りほどこうともがいてみるが釘はその上に巨大な岩が乗っているかのように動かない。
 それでもかろうじて、はじめに刺さった釘が力を込めるたびにじわりと抜けていく。
 だが。








「『赤鬼』はん」

 そんなつぶやきと共に頭上から降り下ろされた巨大な拳がアーニャの右腕を粉砕する勢いで封じ込めた。

「『青鬼』はん、よろしゅうな」
100 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:49:26.01 ID:NGKYIe+ko

 そう言いながらふわりと降り立った青肌の鬼の掌から降りる少女。
 小早川紗枝は異形と化したアーニャを見下ろした。

「こんにちわ」

 アーニャと周子は『プロダクション』で何度も顔を合わしているが、紗枝とアーニャが対面したことはほとんどなかった。
 とはいっても今のアーニャには理性どころか意志さえ存在しないので『会っている』と言うことにはならないのだが。

「ほな、とっとと始めましょか」

 紗枝は穏やかな表情でそう言いながら。

 着物の袖から身の丈を超えるような巨大な太刀を取り出して、アーニャを背中から腹にかけて貫通させるように突き刺した。

「ア……ааааааааアアアアアアアアァァァアアアаааааааа!!!」

 その途端に今までとは比べ物にならない咆哮を、いや『悲鳴』を上げた。
 紗枝はその様子を気にすることなくすぐに別の符を取り出す。

「これはさすがにちとしんどそうやなぁ……『黒鬼』はん」
101 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:50:32.87 ID:NGKYIe+ko

 新たに紗枝の取り出した符からずるりと這い出てくる一体の鬼。
 神主のような装束をしたその姿は『青鬼』よりも一回り小さい。黒い肌、と言うより混じりけのない黒色がそのまま肌になっているかのような皮膚。
 それと同様に顔には表情と確認できるパーツはなくのっぺらぼうのよう。

 両手に金づちと杭、胸に突き刺さっているように生えた銀の角。
 『式』というにはあまりに禍々しい黒い鬼はのっそりとアーニャに近づく。

「『龍脈封印』でええん?ほんまに……」

 誰に聞くでもなくそう呟いた紗枝は手に印を結ぶと呪文のようなものを唱え始めた。
 黒鬼はそれに合わせるようにアーニャの体から和釘を抜き、その上に上書きするように新たにその手に持つ杭を打ち付ける。

 そのたびに響くアーニャの悲鳴。崩壊した港のど真ん中行われるその儀式は真昼間であるのにもかかわらず不気味な雰囲気を醸し出していた。






「キヒッ」

 そんな呪文の中に混じるノイズのような引きつる笑い声。
 邪悪な笑みを浮かべながら紗枝に向かって跳びかかった義手の女はそのまま義手を振り下ろす。
 無防備な状態な紗枝がそれを食らえば、少女の柔肌ならば真っ二つに割けてしまうだろう。
102 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:51:17.84 ID:NGKYIe+ko

「がぐぇ!?」

 だがその凶手が届く前に、何者かに横やりを入れられたかのように真横に吹っ飛ばされる義手の女。
 突如と受けたその衝撃に、思わず呻く義手の女。
 義手の女はそのまま瓦礫の中に体が突っ込むかと思われたが、空中で回転しながら地面に手を付けバランスを整えながら着地する。

「これね」

 ぺろりと口周りを人舐めする義手の女。付着した瓦礫の粉じんが口内に入り異物の苦味を感じるがそれさえも美味に感じる。
 殺気の出どころさえ直前まで察知させなかった存在がいることに、義手の女は紗枝が降り立つ以前に気づいていた。




「さすがにさ、これはやり過ぎだと思うよ。ねぇ」

 少しいらいらした口調で言う声。
 義手の女がその声の方を向けば、かろうじて残った倉庫の基礎の折れた柱の中腹、そこに座る少女。
 その姿こそ、すれ違えば思わず振り向くような真っ白い美しさであったがその背後からは禍々しい瘴気がにじみ出る。
 9本の毛並と異形の耳がその者がただの少女でないことを物語っていた。

「あげくに紗枝ちゃんにまで手を出そうとしてさ、さすがの周子さんもこれには激おこだよ」

 軽やかに話すが、顔は全く笑っていない。
 九尾の妖狐、塩見周子は義手の女をありったけの殺意と敵意を持って見下ろした。
103 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:52:06.91 ID:NGKYIe+ko

「きっと首を突っ込んだのはアーニャだと思うけどね、ああなるまで追い詰めるなんてさすがに笑って見逃せないよね。

いったい何をしたの?」

 有無を言わさぬようなプレッシャーが義手の女にのしかかる。
 常人であれば身体は麻痺し、意識さえ手放しかねない威圧感。

 だが義手の女はそれを物ともせずに周子の方を見上げる。

「あら心外ね。

たしかに首を突っ込んできたのはあの子だわ。

アタシの仕事の邪魔しようとするから、軽く相手してあげたのよ。

とは言ってもアタシ的には少し物足りないって手ごたえだったのだけれど」

 律儀に答える義手の女だが、そう言っている間にも常に隙を窺っていた。
 目の前の少女の姿をした『化物』の細首をへし折らんと機を逃さず、所作をひた隠しにしながら。

「あんな姿になってるのも、あんたのせい?」

 周子は横目で儀式を続けている紗枝たちの方向を見る。
 視線の先は、全身に竜の装甲を纏いながら依然咆哮するアーニャの姿。
104 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:52:46.73 ID:NGKYIe+ko


 当然義手の女は周子が視線を逸らしたその一瞬を逃さない。地を蹴りあげ周子に急速で接近、空中で肉を引き裂く右腕を振るう。


 だがその右腕を周子は片手で止めた。
 義手の女は止められた右腕にさらに力を込めて反動を利用して空中で体を逆回転させる。
 そのまま右脚を伸ばして周子を真っ二つにしようと鋭い脚先の形を作った。

「……ッ」

 だが義手の女はその脚が周子に到達する前に、周子が座る柱の残骸に目標を変える。
 義手の女は周子ではなく柱を蹴りつけて、その反動で周子から距離を取った。

 衝撃によって周子の座る柱は崩れる。周子はそれを気にせずひょいと崩れゆく柱の前の地面に着地した。

「さすがに脚を持ってかれるのは御免だわ」

 義手の女はやれやれとでもいうように息を吐く。
 今のまま周子に蹴りをくらわせようとしていたら、義手の女は右脚の膝下を失っていたと言う予感があった。
105 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:53:59.31 ID:NGKYIe+ko

「慌てないでよ。ああなったのはあんたのせいなのかってあたしは聞いてるんだけどね。

あんたがあたしに問答無用で攻撃してきたところであんたがどんな人間なのかは大方見当はついてるんだけどさー。

ねぇ、あんたがうちのアーニャをあんな風にしたってことでいいのかな?」

 最終通告とでも言わんばかりに周子は不機嫌そうに義手の女を見る。
 表情こそ先に比べかわいげのあるものであったが、発する雰囲気だけは先ほどと同様、いやそれ以上に黒く殺伐としたものとなっていた。

「知らないわよそんなこと。

勝手にあんな風になっただけだし、攻撃の規模だけ無駄に大きくなって面倒ったらないわ。

まぁああなる前に少し嬲(なぶ)ったから、それを原因って言っていいならアタシなのだけれど……」

 義手の女は大して興味のなさそうに足元の小石を蹴りながら周子の疑問に答えた。
 蹴り上げた小石はアーチを描きながら周子の元へと飛んでいく。



「そっか。ならよかったよ」

 女の言葉を聞いた周子の雰囲気は、殺伐としたものからいつもの周子の物に戻った。
 だがそれは嵐の前に、空の様子が一度静かになるのと同様である。
106 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:54:33.84 ID:NGKYIe+ko



「あんたを殺して、間違いじゃないんだから」



 周子のすぐ眼前に小石が落ちる。
 それを合図に瓦礫を蹴りあげ再び接近しようとした義手の女であったが、その脚は動かない。

 それどころか、腕も、首も、あらゆる関節が動くことを拒否するように硬直している。
 自分の体をねっとりと縛り付けている。

 義手の女が視線を周子の方に向ければそれは納得する。
 周子から地獄の窯を開けたように恐怖そのものともいうべき人間が忌避するものが滲み出していた。
 それは決して実態があるわけでも特別な力でも何でもない。

 動物が火を恐れるように、生存本能は恐怖と言う形で生物に備わる。
 長きにわたり妖の頂点として君臨してきた周子の殺気は、それだけで生物としての格の差を見せつけ絶望させ、『恐怖』を刻み付ける。
 もはやその殺気そのものが周子の武器として昇華され、人心の洗脳に近い事まで可能であった。

 感情エネルギーであるカースでさえその一睨みで蒸発させるほどのプレッシャーは、並の人間ならば容易に精神崩壊さえ引き起こすほどのもの。
 故に人格破綻者である義手の女でさえも、本能的に体が硬直し動かなくなるのは当然であった。
107 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:55:11.00 ID:NGKYIe+ko

「『中花』」

 周子がかざした手のひらから現れる小さな狐火。
 それは急速に膨れ上がり、周子の身の丈さえ容易に超える太陽のような炎球となった。

「燃えろ人間」

 心が氷点下まで下がるような声で周子は、その炎球を義手の女に向かって放つ。
 いまだに硬直したままの義手の女は自らを食らおうとする巨大な炎球をただ見つめたまま。

 炎球が爆ぜる爆風の中に消えていった。






108 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:55:59.19 ID:NGKYIe+ko



 口から唱えられる経のような呪文を絶やさないまま紗枝は周子の様子を横目に見ていた。
 本来今している儀式は数十人単位で行うものである。
 しかもその対象であるアーニャの抵抗が思いのほか激しいため普通ならば少しでも気を抜けば儀式自体が失敗しかねない状況であった。

 その状況の中で複数の式を同時に扱い、高度な呪言を詠唱し続ける中で周子たちに意識を割くことができる紗枝はやはり天才であるのだろう。

 そんな紗枝は様子を見ながらいくつかの思案を巡らせる。

(あんな周子はん初めて見たわ)

 周子とは数年にも及ぶ付き合いとなっているが、いつも二人は付きっきりと言うわけではない。
 基本的に京都からほとんど離れなれない紗枝は周子と顔を合わせていないことも多い。
 故にこれまで周子が紗枝の前で本気で怒っている姿を見せたことがなかったのだ。

 それは同時に周子が本気で戦っているところを見たことがないことと同義であり、紗枝が周子の一側面しか見たことがない事であった。

(うちもそれなりに修行もしてきて、周子はんにそれなりに追いつけたと思っていたんけどなぁ)

 離れていても伝わってくるピリピリとしたプレッシャー。
 当代一とうたわれた紗枝でさえこの周子を相手取ったのならば無事でいられるかはわからない。
 そんな漠然とした予感が数多の妖怪を相手にしてきた紗枝にはあった。
109 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:56:47.64 ID:NGKYIe+ko


(もしもうちに何かあった時は、周子はんはうちのために怒ってくれるんやろか?)


 そして目の前の杭に打ち付けられた白銀の少女を見ながら抱く一つの感情。
 紗枝にとっての想い人である周子ははたして自分のためにここまで怒ってくれるだろうかと言うささやかな不安。
 齢15の少女のささやかな感情は決して表に出ることはなかった。

(そんなたられば考えたって仕方ないわぁ……。

ともかくこれであの気味の悪い女の人は終わりやなぁ)

 周子から離れていても肌に突き刺さる畏怖の圧力。
 それを真正面で、しかも直接受けた後に周子の高密度の妖力で作られた炎をまともに受けたのだ。
 ただの人間どころか京都の名だたる大妖怪でさえまともに食らえば無事で済む攻撃でない。

 紗枝は背後から襲ってきたあの義手の女について不気味な何かを感じ取ってはいたがさほどの脅威だとは思わなかった。
 修行によって相手の妖力を感じ取ったりする術を持っている紗枝は妖力以外、魔力や天聖気などの異能の力であれば何かしら感じ取ることができたのだ。

 だからこそあの女にはそう言った異能の力の類は一切感じ取れなかった。
 相当の実力者であることはわかるのだが、ただそれだけで大妖怪、塩見周子を肉迫できるとは思わない。
110 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:57:48.26 ID:NGKYIe+ko

(あとはうちが仕事を終えればいいだけやなぁ)

 せっかく少しの間出来た暇で周子に東京案内をしてもらっていたのだが、とんだ休暇となってしまった。
 そんなことを思いながら再び目の前の封印に集中しようとする紗枝。





(……え!?)

 だが視界の端に捉えた光景に、おもわず紗枝は呪言を止めてしまいそうになった。
 実際周子の放った火球が破裂してからコンマ数秒しか経過しておらず、瞬き一回と言うほどではないが本当に一瞬の間である。
 周子の顔を照らす火炎はその場に残ったままであり、義手の女の姿はその炎の中であるはずだ。

 故に周子の背後の瓦礫から這い出てきた複数の黒鉄の義手はあまりにも唐突であった。
 それらは周子の背後を空中で停滞したまま指先を周子へと向ける。
 二の腕の部分から小型のミサイルが露出する。さらに腕からは小型の機銃が出現し、手のひらには何かしらの銃口らしき孔が開く。

 それらの銃口、すべての義手を合わせれば50はくだらない砲口はすべて周子の背に向かっている。
 紗枝はその様子をすべてスローモーションのように見ていたが、儀式の最中であるがゆえに周子に声をかけることが出来ない。
111 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:58:26.39 ID:NGKYIe+ko

 紗枝は、このまま儀式を中断しても周子に声をかけるべきか、それとも周子を信じてただ見ているだけか思考を巡らせる。
 だが迷っている間にも、義手の砲塔は待ってはくれない。
 それらは無機質な発砲音を立てながら、すべての銃弾を周子の背を目がけて射出した。

「『雲平』」

 だが周子は銃弾迫る背後を見ないまま小さく呟くと、大きめの狐火が周子の背後に出現。
 その狐火は周子を守るように周子の背に幕のように広がる。

 それに着弾した弾丸はその高温に一瞬で蒸発しミサイルは周子に届く前に爆発する。

「『葛桜』」

 さらに周子の身を守った狐火は分裂し、いまだ宙を漂う義手目がけて突き進む。
 義手はそれを回避しようとジェット噴射で周囲を縦横無尽に駆け巡るがそれに狐火も追随する。

 そして一つ、二つと義手に追いついた狐火は義手を飲み込みその義手内部の火薬と反応して爆発した。
 残った義手は手のひらからグレネード弾を狐火に向けて射出。それを食らった狐火は義手を道連れにすることなく爆発する。
 だが周子の背後を取っていた義手は散り散りとなった。
 そして義手は周子から距離を取りながらある地点に集まっていく。
112 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 01:59:06.11 ID:NGKYIe+ko

「正直言って、何で生きてるのさ?」

 周子の目の前の燃やし尽くした火炎の先、開けた視界の向こうには服をいくらか焦げつかせながらも、依然健在な義手の女が姿勢を低くしながら周子の方を見ていた。
 空中の義手たちは周子を迂回するように、義手の女の背後に着く。

「さすがに死ぬかと思ったわよ。

あんな初見殺しの技、どうやったって避けようがないじゃない」

 義手の女はそう言う口ぶりの割にはあまり切羽詰まった様子ではない。

「じゃあいったいどうやって避けたっていうの?」

 対して興味なさそうに周子は尋ねる。
 その間に周子の背後にぽつぽつと狐火が出現する。

「こう、少し腕を振っただけよ。

真空作ればいくら化物の火でも燃えないでしょう?」

 そう言いながら義手の女は両腕を軽く振るう。
 問題腕の振りだけで真空を作り出すことは出来るはずがない。

 音速にも匹敵する腕の振りと、特殊な習練によって体得できる動作によってのみ実現させうることができるかもしれない、そんな技。
 それによって真空の壁を作り出した義手の女は周子の炎球を防いで見せたのだ。
113 :>>112修正『問題』→『実際問題』 ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:03:13.23 ID:NGKYIe+ko

「正直言って、何で生きてるのさ?」

 周子の目の前の燃やし尽くした火炎の先、開けた視界の向こうには服をいくらか焦げつかせながらも、依然健在な義手の女が姿勢を低くしながら周子の方を見ていた。
 空中の義手たちは周子を迂回するように、義手の女の背後に着く。

「さすがに死ぬかと思ったわよ。

あんな初見殺しの技、どうやったって避けようがないじゃない」

 義手の女はそう言う口ぶりの割にはあまり切羽詰まった様子ではない。

「じゃあいったいどうやって避けたっていうの?」

 対して興味なさそうに周子は尋ねる。
 その間に周子の背後にぽつぽつと狐火が出現する。

「こう、少し腕を振っただけよ。

真空作ればいくら化物の火でも燃えないでしょう?」

 そう言いながら義手の女は両腕を軽く振るう。
 実際問題腕の振りだけで真空を作り出すことは出来るはずがない。

 音速にも匹敵する腕の振りと、特殊な習練によって体得できる動作によってのみ実現させうることができるかもしれない、そんな技。
 それによって真空の壁を作り出した義手の女は周子の炎球を防いで見せたのだ。
114 :>>112修正『問題』→『実際問題』 ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:04:45.58 ID:NGKYIe+ko

「しかし本当に今日は妙な日ね。

こんな怪獣大戦争みたいなことはあんまりないわ」

 義手の女は腰のポーチに手を突っ込んで何かを取り出す。
 指の間に納まっているのは小さなガラス玉。それは黒いような茶色いような形容しがたい色で濁っている。

 それを周囲にばらまくと、ガラス玉は地面に落ちず義手の女の周囲に漂う。
 そしてそのガラス球の中から這い出てくるように、中に納まるはずのない大きさの黒鉄の義手が生えてきた。

「だから面倒ではあるけど、出し惜しみは無しよ。怪物」

 周囲に数十もの義手を携えて、義手の女はクラウチングスタートのような体勢を取る。



「正直さ」

 周子は依然殺気を発し続け、義手の女に浴び続けさせている。
 だが義手の女は初めの時点で一瞬硬直しただけであり、すでに常人ならば発狂するようなプレッシャーの中で平常心を保ち続けていた。

「あたしのことを『怪物』って呼ぶけど、あんたのほうがよっぽど怪物じみてるよ。技術も、精神も」

 千年以上の長きにわたり妖怪の王として君臨し続けた周子に対して、凡人では一生かけても体得できない技術と、それを可能にする精神性で追随する義手の女。
 もはや周子にとっても義手の女はただの人間、いや一方的に殺す対象ではなく、余すところなく殺さねばならない相手として認識していた。
115 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:05:46.83 ID:NGKYIe+ko

 故に周子も、数十にも及ぶ狐火を背に従え、白き多尾を凛と靡(なび)かせる。
 化生としての姿を隠すことなく、その耳も、その尾も、その獣爪もむき出しで義手の女に構える。

「狐火『金平灯』」

 数十の狐火たちの周囲はさらに数個の火球を携える。すべてあわせて百をゆうに超える火球はゆらゆらと星図のように周子の背後に漂う。

「行って」

 周子の合図とともに義手の女へ向け一斉に飛んでいく火球群。
 鉛玉さえ溶かす流星は全てを焼き尽くさんと放たれた。

「発射(ランチ)!!!」

 上機嫌に声を張り上げ、義手の女は地を蹴り迫りくる火球群に向け飛び出す。
 それと同時に女の背に漂う黒鉄の義手たちの砲門がガシャガシャとすべて開く。
 むせ返る火薬と硝煙の臭いが空間に充満し、義手から弾丸が一斉に発射された。

 爆炎、重なり合う轟音。
 銃弾と火球はぶつかり合い、周子と義手の女の間で爆発する。
116 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:06:22.38 ID:NGKYIe+ko

 義手の女は眼前に爆風が立ちふさがるが何も気にせずに突っ込む。
 それに合わせるように周子は爪を振り上げ目の前に振り下ろす。

 爆風から飛び出てきた義手の女と腕と、周子の振り上げた爪がぶつかり合い、鋭い金属音と爆風さえ跳ね除ける衝撃が生み出される。
 両者の腕は一瞬の間に何度もぶつかり合い、高い衝突音をそのたびに奏でた。

 義手の女は半歩下がり両掌を周子に向かって突き出す。
 手のひらに空いた孔からグレネード弾が射出されその2発の弾はまっすぐ周子に向かう。
 だが周子は腕を振り上げて爪によって迫りくるグレネード弾を寸断した。

 その弾丸を両断した事によって内部の火薬が引火し、再び爆風が周子と女の間に壁を作る。
 今度は距離は開いておらず、ほぼ直前での爆炎。
 その閃光は普通ならば人の目に焼き付いて離れないが二人にとってはまるで意味がない。
 ましては身を焦がす熱量は、二人にとっては真夏の日差しにも及ばぬようである。

 義手の女は眼前に広がっていた爆炎をかき分けるように前傾姿勢で出現し、振り上げたままの周子の両腕に向けてサマーソルトからの蹴りを入れる。

「『ペイン・バッター』」

 その脚は相手の腕を挟み込み、はさみで切るように腕を引きちぎる殺人技術。
 アメリカのストリートで生まれたこの暴力が周子の腕を狙う。
117 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:07:02.26 ID:NGKYIe+ko

「甘い、ね」

 だが周子は振り上げた腕を裏返し、義手の女の足を掴む。
 義手の女は脚を掴まれた途端に力の入れ方を変えて状態を起こし、周子の手を蹴ってその頭上へ跳んだ。

「『翁飴』」

 周子と女の間に何層もの炎の壁が生成され、その壁は一枚ずつ落下する義手の女に食らいかかる。
 女は空中で前回り一回転した後逆さまの状態で、炎の壁に手を突っ込む。

「『カトラ・フェダハ』」

 その義手はまるで炎を掴むようにしてこじ開ける。
 まるで焦げ付いていない義手は、こじ開け両腕を広げるだけでその炎の壁を霧散させた。

 さらに義手の女は空中でもう一回転、流れで降り下ろされた踵はまっすぐ周子の脳天目がけて落ちていく。
 周子はその前に頭頂で両腕を構え防御の姿勢を取った。
 それを両腕で防いだ周子は、ミシミシと言う腕の軋む音と同時に義手の女の重みをそのまま押し返す。
118 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:07:55.15 ID:NGKYIe+ko

 周子の数歩前に着地した女は、その際に曲げていた膝のばねを思い切り解放し、再び周子に一直線に進む。
 鋭く形作られた貫手は周子に向けられ、迫りくる。

「『火ノ狐』」

 だが周子は爪を振り下ろすと、その軌跡に炎の流れが生じる。
 それは周子と女を遮り、炎の衝撃波のように女に対するように迫り来た。
 義手の女は貫手の先、指先の銃口から銃弾を数発その炎の波に打ち込む。
 だが銃弾は炎に触れた瞬間蒸発し、炎の勢いを全く削ぐことはできなかった。

「チッ……」

 小さく舌打ちをした義手の女は前に踏み出していた右脚で、急きょバックする方向に地面を蹴る。
 その蹴りは地面の瓦礫ともどもコンクリートを破壊して半分地面に埋まった右脚はブレーキとして進みつつある女の体を止める。

 だが左半身は未だ前へと進もうとしており、右半身とのバランスが崩れつつあった。
 義手の女はそれを立て直すことなく右脚を軸として左半身は進む。つまり体は時計回りをする。

「冥新流『神空断』」

 その回転によって薙いだ左足の蹴りは、真空を作り出しその炎の爪蹟を両断する。
 そして再び両者眼前にまで戻ってきた状態になり、爪と義手は金属音を響かせながら再び何度も打ち合う。
119 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:08:44.37 ID:NGKYIe+ko

 依然義手の銃弾と火球の弾幕は二人を中心として飛び交っており、二人の戦闘のすぐ隣でミサイルと火球が爆発していた。
 されど二人の動きは止まらず、いまだ両者致命傷ともいうべき傷を一切負っていない。

 絶えず義手から放出される弾丸と、狐火から生み出される火球は二人の周囲で飛び交い嵐のように熱風が吹き荒れる。
 火球を生み出せなくなった狐火や弾薬の切れた義手自体が直接ミサイルのように飛んでいき衝突した後爆炎を散らす。

 幾度となく打ち合い、その刃を交えた二人は同じことを考えた。
 このままでは勝てないと。


((もう一段、手を使わないと))


 戦闘において本気を出し切らずに敗北するというのは愚の骨頂だが、かといって初めから全力を出すのは愚かなことだ。
 実力が測れない相手に対して、自らの『底』が露呈してしまうということはこれ以上の手がないことを明かしているも同然である。

 故に両者ともに、相手を屠り得る実力は出しているものの、自らの能力のすべてを出し切っているわけではなかった。
 そしてこれまでの火薬と拳のぶつかり合いでは決着が着かないと二人も感じ取った。
 周子としてはこのまま三日三晩戦い続けることもできるが、仮に目の前の義手の女がそれ以上戦い続けることができる可能性も捨てきれない。
 ならばこのまま自らの『とっておき』を一つ披露し、この戦いに早急な決着をつける方が賢明であると考えた。

 そしてそれは義手の女にとってもおおむね同じであり、このまま拮抗し続けるというのも彼女にとって癪であったのだ。
120 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:10:23.13 ID:NGKYIe+ko

 両者は右腕の爪と義手が一度打ち合った後、同時に半歩足を下げる。
 その瞬間に周子の両腕が、赤い炎で包まれたのちにじりじりと色を変え、青色の炎へと変化する。
 両腕にまとった陽炎は、これまでの『現象』としての炎とは違う底知れぬ脅威を纏っていた。

 そして義手の女も再び腰のポーチに手を伸ばし、何かを取り出そうとする。

 二人の次の一手を繰り出すその予備動作。その頭上で義手と狐火がぶつかり合って一際派手な音を響かせた。





 その瞬間ピクリと義手の女の雰囲気が変わる。
 少し目を見開いたと同時に殺意と悪意に満ちたその表情は、まるで興が削がれた様に表情から気が抜ける。

(ん?どういう……)

 そんな女の様子に一瞬疑問を抱く周子であったが、それでもポーチから新たな何かを取り出そうとしていることには変わりがない。
 燃え盛る両腕を女に向かって突き出し、小さく呟く。

「九尾焔技『せん……」
121 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:10:52.77 ID:NGKYIe+ko

 だが女が両手の握りこぶし一杯に持ち出したのは、先ほども見た大量のガラス玉。
 それをすべて周子に向け、投げつける。

 その過程でガラス球から這い出てきた大量の義手はジェット推進によって一斉に周子の元へと迫りくる。

「な!?」

 その物量と女の『決め手』ではない不可解な行動に周子は一瞬面食らうが、それでも慌てず両腕の炎を盾のように展開。
 数十にも及ぶ義手に内蔵された火薬量は百キロを優に超える。

 それらに引火することによって、周子の視界さえも遮る火柱が鼓膜つんざく轟音と共に立ち上った。

「くっ!」

 その衝撃に思わず視界を腕で防ぐ周子。
 未だ火薬が断続的に暴発し、灼熱地獄を化しているこの状況で周子はすぐに女の気配を探る。
122 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:12:29.20 ID:NGKYIe+ko

 その位置は周子から距離を取った直線上20数メートル先の辺り。
 そして爆音と火柱が晴れれば、探った通りその辺りに義手の女は立っていた。

「今日は時間も押しているし、ここらへんでお開きにしましょう」

 そう言う義手の女の手には、棒のような機械的な装置が握られている。
 装置は青白い電撃をバチバチと帯びており、何かしらの動作中であることは明白であった。

「お開きって……あんたから仕掛けてきたのにそりゃあ無いんじゃないの?」

 虫の居所の納まらない周子としては、このまま義手の女が何かしらの手段を用いて逃走することを許そうとは微塵も思っていない。
 だが女の持っているその装置が、彼女にとっての逃走手段であることは周子は理解していた。

 これだけの距離を詰めるのは周子にとって造作もないが、装置が発動するまで周子の攻撃を回避し続けることも義手の女には容易い。
 そして姿をさらしている以上、装置が発動するまでの間時間稼ぎをすれば逃走が完了する類の装置であることも大方の予想がついた。

「まあそう言わなくてもいいでしょう狐さん。

また機会があれば相手してあげるわよ」

 上辺だけ見れば優しげな笑みを浮かべながら義手の女は言う。
 だがその異次元的に捻じ曲がった心は今更その表情では隠しきれなかった。
123 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:13:08.38 ID:NGKYIe+ko

「もし次会うときがあれば、もっと素敵なおもてなしをしてあげるわ。

あなたのより大切な何かといっしょにね。……ギャハハ」

 そんな笑い声を言い切った直後に、義手の女の背後の瓦礫から吹き出てきた狐火。
 背後から強襲する狐火は女の喉に食らいつこうと目がけて進む。

 だが義手の女はまるで気にしていないように空いた左手を振るえば、火の粉を散らすように狐火はかき消されてしまった。
 そうなることは周子にはある程度予想はついていたが、やはり忌々しげな表情をする。



「では、『さようなら(アルヴィダー)』。狐さん。

迦利(カーリー)の言葉を、忘れないでくれるとうれしいわ」



 装置がバチバチといっそう紫電を立ち上らせたのと同時に、義手の女の足元に魔方陣が刻まれる。
 その直後、いっそうの青白い閃光が周子の視界を一瞬奪い、その後には義手の女の姿は残っておらず瓦礫が散乱しているだけだった。
124 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:14:01.88 ID:NGKYIe+ko

「……はぁ」

 周子は敵のいなくなったこの場で、小さくため息をつく。
 数年ぶりの強敵、そして数世紀は見たことない狂気が姿を消した今、周子の肩の力がようやく抜けた。
 いまだ行き場のない怒りが多少燻っているが、どうしようもないので放置しておく。

「とりあえずは、いっか」

 視線を移せば、すでに儀式を終えて瓦礫の上に伏せるアーニャを見下ろす紗枝の背中。
 とりあえずの問題がいったん終息したことを確認した周子は、ゆっくりと紗枝のいる方向へと脚を進めた。

「おーい、紗枝ちゃーん」


****************

125 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:14:42.99 ID:NGKYIe+ko


 時は少し戻り、周子と義手の女の戦闘が激化した頃合い。
 紗枝が周子の背後に漂う義手に気づいた少し後のことだ。

 この場から動くことも出来ない紗枝はそれをただじっくりと見守ることもできない。
 今の彼女は、想い人の友人であるこの少女を暴走させる『何か』を封印するだけであった。

(これしか、周子はんのためにできることはないしなぁ……)

 今すぐに周子に加勢したい気持ちもあるが、もしもこの少女、アーニャを放置してそれを行った場合次に周子の怒りを買うのは紗枝かもしれない。
 仮にそんなことになり、周子に嫌われてしまった場合紗枝にとってはこの世の終わりに等しい。

 だからこそ今は自分のできる限りで目の前の少女の中の『何か』を封印するしかなかった。
 それにだ。

(なんとなくやけど……この子をこのままにしたら、取り返しがつかなくなる……気がするわぁ)

 ただの直感に過ぎない思考であったが、占術的技能も備えた紗枝の直感はただの予感以上に『予期』に近い。
126 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:15:31.04 ID:NGKYIe+ko

「ウオオオオオォォォォオオオオ!!!!!!!!」

 少女の四肢に一つ一つゆっくりと杭を打ち付けていた黒鬼は打つべき最後の1本を禍々しい咆哮と共に打ち終わる。
 四肢に打ち込まれた杭と、胴体に深々と突き刺さった大太刀はアーニャの動きを物理的に完全に封じ込めた。

「аааааааааааааааааааааааааааааааа」

 もはや人の物ではない叫び声と、畏怖さえ感じる赤い眼を動かすことくらいしかアーニャにはできない。
 それでもその地に這いつくばったその姿でさえ、他に与える『威厳』にも近い何かを周囲に発していた。

(これで……終わり!)

 呪文の前段階は終わり、龍脈封印の儀式は始める。
 アーニャの下に青白い光と共に、五行を表す五芒星が浮かび上がりそこからスパークにも似た何かが明滅する。

「ア……アアアアааа……あああああああああああ!!!!!!」

 その途端に抵抗するような咆哮を上げていたアーニャの叫びに苦悶が混じり始めた。
 全身を覆っていた結晶の鱗はパラパラと剥がれ落ちていき、少女としての姿を取り戻していく。

 紗枝が呪文を唱えるたびに、アーニャの体を覆う結晶は剥がれ消滅していく。
 紗枝自身、周子に指示されるがまま行った儀式であったがここまで効果があるとは思っていなかった。

「ああ……ぐぅ……あああ……」

 呪文も終盤に差しかかり、苦悶の声もかなり人間らしいものへと戻っていた。
 その様子に紗枝は自分の行った儀式が完全に成功したことを確信し、内心安堵する。
127 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:16:19.79 ID:NGKYIe+ko







「あ………………」

 だが突然その苦悶の声はピタリと止んだ。
 紗枝にはあまりにも唐突に起きたアーニャの変化に、緩んだ気を締め上げられるような感覚に陥る。

 耳に聞こえてくるはずの自身が唱える呪文は、なぜかひどく遠い。
 聴覚は麻痺したように静寂を鼓膜に届ける。

「クス……クスクス……」

 本来龍脈封印は人間に行うものではない。
 それに人間を巻き込んだ場合、人体を消滅させかねないエネルギーの奔流と共に激痛が走るはずである。
 いまだそんな儀式の最中なのに、苦悶の表情を一変させたアーニャはニヤリと小さく嘲り笑う。

「今日は……こんなものね……」

 流ちょうな日本語と共に紗枝に向けられる視線。
 その眼は依然すべてを飲み込むような赤色であったが、その瞳孔に刻まれているのは『∞(無限)』の意味を表す記号。
 それに見つめられた途端紗枝は素肌に氷を当てられたような感覚と共に、これまでの人生が走馬灯のように脳裏を廻る。

 過去から現在に至るまでを何順もするように悠久にも等しい螺旋が紗枝の脳内を一瞬で駆け走った。
128 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:16:57.54 ID:NGKYIe+ko

「あ……え?」

 続けていた呪文もその衝撃によって中断してしまう。
 脳裏を駆け巡った膨大な情報は、いまだ未成熟な少女である紗枝の思考を混乱させるのは容易であった。

 だがそんな紗枝の様子を気にせず、その氷点下の寒気さえする笑みを浮かべたアーニャは顔だけを紗枝の方に向けて目を細めながら言う。

「気にしなくて、いいよ……あなたには関係ないもの。

でも……もし機会が廻(めぐ)れば、また会いましょう。紗枝」

 フッと目を閉じたアーニャからは、氷のような雰囲気は一瞬で消える。
 全身を縫い着けていた杭と大太刀は、いつの間にか眠りにつくアーニャのそばに落ちていた。



「はっ……はっ……」

 心臓を掴まれたような一瞬の感覚から解放された紗枝は、呼吸を荒くしながらも自身の状況を冷静に分析する。
 儀式は中断したはずだったのに、目の前のアーニャは完全に沈黙しており落ち着いている。
129 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:17:37.28 ID:NGKYIe+ko

 これまで出していた式もいつの間にか手元の式符に戻っており、まるですべての作業をいつの間にか終わらせていたかのような状況であった。

「うちは……ちゃんとできたんか?」

 状況だけ見れば龍脈封印の儀式は完遂しているように見える。
 実際なぜか紗枝にもちゃんと終えた気がするし、アーニャだって暴走している様子は微塵もない。

 だが先ほど駆け巡った意識と、脳裏に焼き付いたあの瞳は何だったのか?
 緊張が作り出した幻影か、はたまた実際に紗枝自身がアーニャに何かされたのか?
 結局それを確かめる術は紗枝にはない。

(とりあえず……考えない方がええんかなぁ……?)

 紗枝は一抹の不安にも似たものを心に残したままであったが、とりあえず終わったのだと、思うことにした。

「おーい、紗枝ちゃーん」

 その呼び声と共に紗枝は振り向けば、ゆっくりとこちらに歩いてくる周子の姿を視界にとらえた。
 周子の姿を見ただけで、不安を残していた紗枝の心は安心感で満たされる。
130 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:18:24.01 ID:NGKYIe+ko

「あ、周子はん。いつの間に終わったんどすか?」

 想い人が無事であることを確認できた紗枝は、周子に先の戦いについて尋ねた。
 だが周子は苦々しい笑みを浮かべ、すこし罰が悪そうである。

「いやー……それが逃がしちゃってさ。

ごめんね。せっかく紗枝ちゃんは頑張ってくれたのに」

 ちゃんと周子が頼んだ通りに、アーニャの暴走を止めてくれたと思っている周子は、敵を逃がしてしまったという事実に少し申し訳なさそうであった。
 紗枝にとっては周子さえ無事ならばそれでいいのでそんなことは気にしないのだが。

「ええんどす。結局周子はんが無事ならあの女の人のことなんてどうでもええんやからなぁ」

「そう……。紗枝ちゃんは怖くなかった?」

 周子にとって自らをここまでさらけ出して戦ったのは久しぶりであったと同時に、殺気をむき出しにしているところを見られたのだ。
 その姿は、いくら凄腕の退魔士であっても、十代の少女である紗枝にはトラウマになりかねないものである。
 いつか抱いた懸念は周子の心に一抹の不安として引っかかる。
131 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:19:00.53 ID:NGKYIe+ko



「なんのことや?周子はんがちゃんと守ってくれはったから、何も怖くはなかったんどすけどなぁ」

 だが紗枝の方はそんな周子の不安をまるで気にもせず、信頼の言葉を周子に掛けた。
 特に変わらない紗枝の様子に少し安堵するとともに、何も変わらず接してくれる紗枝に周子は感謝する。
 周子はまだすべてを出し切ったわけではなく、『妖怪』としての本質をすべて出し切った時どうなるかの不安は周子にはまだあったのだが、それでも。

「そっか……ありがとー、紗枝ちゃん」

 そう言って紗枝に優しくハグをする周子。
 唐突にされた抱擁に紗枝は表情はみるみる赤くなっていく。

「な、なにしてはるんや周子はん!そ……そんな急に」

「いやーせっかくのお休みだったのにわざわざ頑張ってくれたからさ。周子ちゃんからのささやかなご褒美だよー。

なに?やっぱりこれじゃ足りない?」

「……いや、本当に充分やわぁ、周子はん。ありがとうな」
132 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:19:45.97 ID:NGKYIe+ko

 本当は跳びあがるほどに嬉しかった紗枝なのだが、果たして自分は本当に周子に頼まれたことを完遂できたのか定かでないのに、こんなご褒美をもらっていいのかという後ろめたさがあった。
 だがやはりそれを確かめる術を持たない紗枝は、そのことを黙っていることにした。

 それでも一つだけ、気になることが紗枝にはあった。

「ところで、どうして龍脈封印なんやぁ?憑き物の類なら、他にも手段はいくらでもあるはずやのに……」

 なぜ周子は、アーニャの異変に対して限定的な封印術である『龍脈封印』が効果的であることを知っていたのかという疑問があった。
 長きにわたり生きてきた妖怪としての知識と言ってしまえばそれまでだが、そのちぐはぐな対処法が紗枝にとってはあまりにも大きな違和感であったからだ。

「うーんと……経験則?」

 だが尋ねられた周子も首をかしげながら疑問形で返事をする。

「?……どういうことどす?」

「記憶にはないんだけどさ、何かそうすればどうにかなるっていうのかな?それがなぜか確信が持てたんだよね……。

なんでだろうかな?」
133 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:20:28.59 ID:NGKYIe+ko

 周子は、その事実をあまり気にはしていないようであったが紗枝にとってはさらに謎は増すばかりであった。
 あまりにも、あらゆることが不可解すぎる。
 すべての問題は終わったはずなのに、喉に引っかかった小骨のような些末な疑問が紗枝には残っていた。

「とりあえず……アーニャを連れて『プロダクション』に戻ろっか。

せっかくの東京見物だったけど、機会があれば埋め合わせはするからさ」

 そう言いながら、いまだに瓦礫の上で眠り続けるアーニャを周子は背負った。

「別にうちはかまへんよぉ。

すこし、ゆっくりしたいとも思っとったところやしなぁ」

「じゃあ、さっさと退散しようか。

こうも派手に壊してたら、そろそろ野次馬も集まってくる頃だろうし」

 周子と紗枝は気絶したままのアーニャを負ぶったまま、この破壊しつくされた倉庫群を後にする。
 その際に、アーニャの足首に付着していた小さな結晶片がはらりと落ちた。

 それは地面に着地する前に、気化して消えてしまったが。

134 :@設定 ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:21:25.27 ID:NGKYIe+ko


 黒鬼(こくき)
 別名『刻鬼』であり、狂気に走った宮大工のその意思が鬼となったものを由来とする。
 物を『縛り付ける』ことに特化しており、神霊級の存在であったとしても物理的に動きを封じることができる。
 ただし小早川家に受け継がれてきた特別危険な式の一体であり、半端な実力の者が扱えば暴走し杭で穿たれた死体が大量に生み出されることとなる。

 狐火
 周子が使役する妖力で作られた狐の形をした炎。
 その炎は金属さえも溶かす高温であり、周子の最も得意とする直接的な攻撃手法。
『中花』 狐火が巨大化し敵を丸呑みした後に爆発する。
『雲平』 帯状に広がった狐火が周子の身を守るように展開する。
『葛桜』 すでに発生している炎から狐火を生成し、敵を追尾していく。
『金平灯』 大量に発生させた狐火を端末として、さらに小型の火球を生成する。
『翁飴』 何層にも及ぶ炎の壁を出し、その一枚一枚が敵に向かって食らいついていく。
『孤ノ火』 爪の軌跡に炎を生み出し、炎の傷跡を刻み付ける。

 狐火・九尾焔技
 周子の奥の手の一つであり、周子の狐火と、能力にまで昇華させた他へ与える『恐怖』を掛け合わせた九つの技。
 九つの尾に対応するように編み出されたそれらは、炎の物理的法則を変えるだけに至らず深層心理さえ侵食する妖炎を生み出す。
135 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:22:28.78 ID:NGKYIe+ko










 雑踏からは程遠い、薄暗い路地。
 真昼であるのにビルに阻まれ光さえ届かないこの道は、曇り空も相まって漆黒で塗りつぶされている。

 当然人の気配は皆無であり、そこに息づくのは人の残飯を漁る鼠くらいであった。

 だからこそ、その場に突如発生した閃光は影の住人である鼠の濁った眼でさえ焦がす。
 蜘蛛の子を散らすように鼠の会議は離散し、暗闇の中に蠢く濁流が流れていく。

 その虚空から突如発生した閃光は、その中に一人の人影を映し出し、電流のような線を刻みながら実体化していく。
 そして完全に質量を持ったその『人物』は、ふわりと暗闇の地面に着地する。

『ヂュイ!!!』

 だがその人物のつま先は何かやわらかいものを踏むと同時に、悲痛な小動物の悲鳴が鼓膜を揺らす。

「……あちゃあ」

 その人物は禍々しい手甲、いや義手で頭を抱え失敗したような口ぶりで呟いた。
 何かを踏んだ足を退かし、それを躊躇なく拾い上げる。
136 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:23:12.99 ID:NGKYIe+ko

 それはこの路地の住人である小動物の一匹であり、すでに内臓が飛び出て絶命している。
 ただでさえ嫌悪感を抱く見た目をしている鼠が、臓物を露出させている時点で普通ならば顔を歪ませるほどの嫌悪感を抱かずにはいられない。
 だがその人物は特に何かを感じるわけではない、平常とした表情をしながらそれを



 口に入れた。



 そして複数回咀嚼し、ごくりと飲み込む。
 さらに口内を緻密に動かし、吐き出す。
 吐き出したのは鼠の骨であり、肉片は余すところなく削がれていた。

「やっぱり……まずい」

 その人物は少しだけ表情を歪め、胃に入れたものの感想を言う。
 ドブネズミはその体に多くの雑菌を飼っており、引っ掻かれたり触れたりするだけで鼠咬症やサルモネラ症など命に係わる病気を発症したりする。
 だがその人物はそれをまるで気にしないかのように、生の何の処理もしていないドブネズミを食したのだ。

 そしてその暗闇から数多の視線が鼠を食した彼女へと突き刺さる。
 漆黒に光る膨大な瞳は全てこの路地の鼠の物であった。
 本来人間に対して逃げるしかない小さな隣人である鼠であるが、仲間が殺されれば別である。
137 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:23:49.60 ID:NGKYIe+ko

 この路地で独自に進化したドブネズミの知性は高く、特に群れに危害を加える者に対しては容赦はしない。
 ただ一匹では一般人を殺す力さえ持たないが、それが数百、数千ともなれば話は別である。
 恐るべき数の暴力によって、標的となった者はそのまま鼠たちの晩餐と化すだろう。

「さすがに畜生繋がりでも、余韻には物足りないだろうけど……」

 特に慌てた様子もなく、鼠たちに狙われる女は退屈じみたため息を吐く。
 それを合図に一斉に鼠たちの行軍は開始した。







 ビル壁に備え付けられた室外機はすでに機能を果たしていないのか錆びついている。
 重みがかかれば落ちてしまいそうなその小さな錆びた箱の上、一人の少女が漆黒の路地を見下ろしていた。

「確かに呼んだのはこっちだけどさぁ……」
138 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:24:37.29 ID:NGKYIe+ko

 少女のその口調からは呆れた様子がにじみ出ている。
 眼下には足の踏み場もないほどの鼠の死骸が、絨毯のように敷き詰められておりそれらが纏っていた生ごみの臭いと相まってひどい悪臭を放っていた。
 少女は軽く鼻をつまむと小さな魔方陣が指先で点滅する。
 鼻孔を別空間とつなぐことによって、とりあえずの悪臭を防ぐことにしたのだ。

「ちょっちこれ、やり過ぎじゃねカレーちゃん」

 鼠の骸の平原の中心、一か所だけ唯一残されたコンクリートの地面の露出部分。
 そこには死に包まれたこの場で唯一生きている存在が室外機の上の少女の方を見ている。

「その呼び方アタシはあまり好きじゃないわ。

あんなスパイスまみれで味を誤魔化した料理なんてここの鼠の味にも劣るわよ」

「食べたの!?」

「喧嘩売るために一匹だけよ。

まぁ何匹も食べるとさすがにお腹壊すからしないけど、貧困下なら悪くない栄養元ね」

「や、ヤバーイ……」
139 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:25:12.18 ID:NGKYIe+ko

 様々な事柄に寛容な少女であったが、さすがにその女の発言にはさすがに引き気味であった。
 この場に漂う悪臭を嗅いだ時点で、それを口に含もうなど毛頭思わない。

「で、なんで鼠に喧嘩なんて売ったのカレーちゃん?

今日は妙に手こずってたみたいだけどそれが原因?」

「まあそんなところかしら。

アタシの道楽の延長線上だからあなたは特に気にしなくていいわ。実際あのまま続けるのもいろいろもったいなかったし」

 そんな女の発言に目を丸くする少女。
 この女を相手にして生き残り、その上でひどく浪費家の彼女に『もったいない』と言わせる相手はほとんど思いつきはしないからだ。

「そんな相手なんて、少し気になっちゃうなー♪」

「あいにく教えないわよ。

それと仕事がひと段落したら休暇をもらうわ。そいつの相手をしなくちゃならないし」

 その表情に映るは、意地悪く、悪魔のごとくの邪悪さを秘めた笑顔。
140 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:25:53.93 ID:NGKYIe+ko

「カレーちゃんってさ、なんか悪魔よりも悪魔っぽいよねー」

 悪魔であるがゆえに感じる、心からの言葉。
 この世に善と悪と言う言葉が定義されている上で、こうも邪悪を体現する人間は他にはいないと少女は考える。

「買いかぶらないで。アタシは所詮ただの人間よ。

ただ趣味が少し特殊な、どこまで行ってもただの人間。そうじゃないと、あたしは楽しくないわ」

(そんなところが、カレーちゃんの『悪い』ところなんだけどね)

 あくまでただの人間、それが他人を傷つけ、踏みにじり、尊厳さえも破壊しつくすことを趣味としている。
 さらにそのためだけに、人間の限界としての能力を駆使し、奇跡とも呼べる技を会得し、挙句の果てに限界さえも踏みにじる。

 自らの望む終末を実現するために、狂気とも呼べる精神性と人を踏みにじる手段を手に入れたこの女こそ真の意味で『悪人』なのだ。

「あの狐さんをもっとリサーチして、今度は大切なものから台無しにしましょう。

人質、拷問、殺人、嘘、挑発、次には力だけじゃないあらゆるものを駆使してあの小奇麗な顔をこの世の終わりに染め上げてあげるわ」

 他人の人生を、尊厳を、歴史を踏みにじることを趣味とした女は嗤う。
 周子と死闘を繰り広げた義手の女は、脳内で周子に対しどんな極悪を行うのか思想を巡らした。
141 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:26:55.05 ID:NGKYIe+ko

 そしてその様子を見る少女にとっても、義手の女の表情に嫌悪感を抱かずにはいられない。
 そうだ、親しげに話すこの少女でさえも、この女とは決して友人関係にはなれないと理解していた。

「でもカレーちゃん、ゆいに休暇欲しいって言われてもムリムリ。

それはイルミナPちゃんか、えいびっちに頼んでね」

 少女、大槻唯は義手の女を見下ろしながら言った。

「あのろくでなし二人ね……。

あの二人は殺し甲斐がないから嫌いだわ。まぁいつも殺したいと思ってるのだけど」

 女は義手で頭を抱え、二人の姿を浮かべる。
 脳裏に浮かぶは、アニメTシャツを着ただらしない男と、半裸で床を滑るナルシスト男。

「それとその『カレーちゃん』っての嫌いって言ったはずよ。唯」

「えー、良くない?『カレーちゃん』

たしかカレーちゃんはそんな感じの通り名で有名なんでしょ?」

「あいにくアタシの通り名は『迦利(カーリー)』よ。

他の呼び名はロクなものじゃないし」
142 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:27:50.87 ID:NGKYIe+ko

 悪逆非道の傭兵として、世界中の戦場から侮蔑を込めた名で呼ばれる女。
 『ジェノサイダー』『デスビッチ』『ドブゲス女』など聞くに堪えない蔑称は、彼女にとっては気にはならないがさすがに自称するのは気が引ける。
 自身の生まれた地、インドの神であり血と殺戮を示すその名は、自らの名前さえ忘れてしまった彼女にとっても自身を表す名となっていた。

「それとも、傭兵社としてのコードネームの『ジャイロ・アーム』のほうが良かったかしら?」

「正直ゆい的にはー、どっちもダサくない?」

「唯、あんたアタシに喧嘩を売っているのかしら?」

「カレーちゃん、こっわーい」

 けらけらと笑う唯に、いつものことなのだろうか諦めたように溜息。
 唯はひょいと室外機から降りて、鼠だらけの地面に着地する前に現れた魔方陣が唯の足場となる。



「じゃ、次の仕事があるってイルミナPちゃんも言ってたから帰ろっか。

騎士兵団6位『ジャイロ・アーム』ちゃん♪」

 まるで茶化すように唯は、カーリーのことをそう呼んだ。
143 :@設定 ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:28:50.10 ID:NGKYIe+ko

 迦利(カーリー) / 騎士兵団6位『ジャイロ・アーム』
 災禍の中で踊る女。両腕義手のインド・アーリア人系。
 傭兵出身であり純粋な白兵戦のみならば序列内で1位に次ぐ。
 だが性格は序列内でも最悪であり、裏切り、不意打ち、だましうち、人質などあらゆる卑怯な行為でも空気を吸うように行い、相手を絶望させるための労力を惜しまない。
 世界中で身に着けた人間の限界に匹敵する技の数々でさえ、自らの欲求を満たすためだけに習得したものである。
 『ドブゲス女』、『デスビッチ』『迦利(カーリー)』など様々な蔑称で呼ばれ、世界中の傭兵から兵士に恐れられている。

 量産型戦闘義手『ジャイロ・アーム』
 イルミナPが自身の『マジックハンド』をベースとして、魔導装置の代わりに現代兵器を多く搭載し量産化をした義手。
 だがその性能と重量によって汎用的に使える物ではなく、カーリーのみが使用する物として設計された。
 腕に装着されてない義手であってもカーリーの思考で並列コントロールすることが可能。
 また泥を完全に抜き取ったカースの核の内部保存領域を拡張して利用することによって、カースの核内部に義手を封じ込めて持ち運ぶことができる。
 カーリーが唯一行使する異能の力を有しているものである。

 テレポーターロッド
 唯の『個人空間』を参考に作られた簡易転送装置。
 特定の座標に向け一瞬でテレポートすることができる。
 だが誰にでも使える反面、記録した座標にしか移動できない、あまり距離が離れていると使えない(約2県くらいの距離が限度)、充電に膨大なエネルギーが必要なうえ、充電してから一度しか使えないなどのデメリットもある。
 基本イルミナティ騎士兵団内でも上位の人間が特定の任務でのみ携行が許される装備。
144 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/04/24(金) 02:30:04.72 ID:NGKYIe+ko



以上です。
これだけ長々やったのに謎増やしただけ。
果たして収拾着くのでしょうか……。
一応次の話でほとんど回収する予定ですがいつになることやら。

ちなみに周子の使っていた技は漢字を変えたりもしてますが全て和菓子の名前で統一してあります。
145 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/04/24(金) 03:41:07.51 ID:lWghYgyho
>>144
おつー

前編の時点で『こいつヤベェ……』感ハンパなかったのに
後編で更にヤバさが加速した新キャラのカレー……、カーリーさん
実力の伯仲する彼女に目をつけられた周子の今後や如何に

そしてまさかの紗枝はん登場に「おおっ!」となり
しかしそれ以上にアーニャの謎が深まり「おお……?」となるのであった
146 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/04/24(金) 07:34:10.46 ID:EaY1ZDdTO
乙です
まさかのさえしゅーにびっくり
そして謎が謎と殺戮を生む展開っすねー…
というかそのコードネーム…まさか…て、テノヒラクルー!?
147 : ◆q2aLTbrFLA [sage]:2015/04/24(金) 16:42:35.52 ID:k9o3TyPf0
乙、カレー

つまり、今回の話はしゅーこちゃん争奪戦にまた一人参戦したって事なんだな!(思考停止)
頭撃っても死ぬかわからない人がこの先何をしでかすか、恐れながら楽しみにしたいっす
148 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:23:20.07 ID:88jNd8ai0
乙にゃーん
なんだこれ……なんだこれやべえ!
色々と理解がおいつかねえけどイルミナティがマジヤベエってのは分かった(CONAMI)

投下しまーす
149 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:24:30.37 ID:88jNd8ai0

将軍が逮捕された日の夕方、学園付近にて。

カイ「……じゃあね、サヤ。ヨリコやマキノにもよろしく」

サヤ「ええ。と言っても、サヤはスパイクPさんを海底都市に送り返したらまた来るんだけどねぇ」

スパイクPを引きずりながらサヤは微笑んだ。

サヤ「あ、それから。エマを見かけたら、先にホテルに戻ってるって伝えておいてねぇ」

カイ「うん、オッケー」

サヤ「まったくもう、エマったらどこに行っちゃったのかしら」

カイ「親譲りなんじゃない? 自由奔放っぷりが、さ」

サヤ「うふふっ、そうかもねぇ」

カイの言葉に微笑んだサヤだったが、不意に表情を引き締めた。

サヤ「……カイ。あの女……海竜の巫女に気をつけて」

カイ「海竜の巫女……あの人が、どうかしたの?」

サヤ「まだ確証は無いけれど……多分、ヨリコは巫女に操られてるの」

カイ「えっ……そんな!?」

サヤ「今は海底都市に留まってるけど……地上にも何か仕掛けてくるかも知れないわ」

カイ「……アイツが……分かった、ありがとうサヤ」

サヤ「ええ。じゃ、サヤは帰るわねぇ」

サヤはスパイクPを引きずってその場を後にした。
150 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:25:41.01 ID:88jNd8ai0
カイ「じゃあねー。…………海竜の巫女……」

真の黒幕は奴か、そう考えるカイの背中に、聞きなれた声が投げかけられた。

亜季「おや、カイ」

カイ「あ、亜季。良かった、無事だったんだね」

亜季「それはこちらの台詞でありますよ。星花は一緒ではないでありますか?」

カイ「ううん、あたしもさっき学園を出た所だから……」

所在が知れない仲間に、二人は思わず表情を曇らせる。

と、そこに。

瞳子「あら、カイちゃんに亜季ちゃん」

アヤ「ん、知り合いか?」

瞳子「ええ、まあね」

同じく学園から出てきた瞳子とアヤが通りがかった。

亜季「おや、瞳子殿。瞳子殿もいらしていたのですな」

カイ「こんにちはっ。……そっちの人は、お友達ですか?」

瞳子「アヤちゃんって言ってね、さっき知り合ったのよ」

さっちゃん「フフーン!」

アヤ「お、おいコラ! 頭ペシペシすんな!」

頭上で得意げな表情を見せるぷちどるを、アヤは少し慌てて頭から取り上げた。

カイ「ず、随分可愛いの連れてるね」

アヤ「お、アンタこいつの可愛さが分かるか! 人間にしちゃあ話が分かるじゃねえか!」

カイ「人間にしちゃあ?」

アヤ「あっ、いやいや何でもない!」

自らの失言を、アヤは目を逸らして誤魔化す。
151 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:26:24.06 ID:88jNd8ai0
カイ(まあ、あたし厳密には人間じゃないけどね。ん、あれ? ウェンディ族って人間なのかな? 亜人ってヤツ? あれ? あれ?)

目を逸らすアヤと頭がショートしはじめたカイを置いて、瞳子が思い出したように亜季に話しかけた。

瞳子「そういえば、お昼くらいに星花ちゃんを見かけたわ」

亜季「ほ、本当でありますか!?」

瞳子「ええ。あの銀の馬に乗って大急ぎで学園から出て行くのを」

亜季「良かった、どうやら無事そうですな」

瞳子「ただ……その時後ろにスーツ姿の女の人が乗っていたのよね」

亜季「スーツ姿の……? 一体何者でしょうか……」

亜季は顎に手をあて考え始めたが、それをすぐに中断した。

亜季「いえ、今考えても仕方ない事でありますな。ともかく公園へ行きましょう、星花が戻っているかも」

そう言って亜季はくるりと踵を返したが、思い直して再び瞳子に向き直る。
152 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:27:22.95 ID:88jNd8ai0
亜季「瞳子殿、情報の提供に感謝するであります」

瞳子「ええ、お役に立ててよかったわ」

亜季「では、失礼いたします。行きますよ、カイ」

カイ「えっ? あ、うん。瞳子さん、ありがとうございました!」

亜季の言葉で我に帰ったカイは瞳子に頭を下げ、急いで亜季の後ろについて行く。

『キンキキン』

ヴ-ン ヴヴ-ン

そして、その後ろをホージローとマイシスターがついていった。

瞳子「……さて、アヤちゃん。せっかく助けてもらったんだから、何かお礼がしたいわ」

アヤ「あ? いーよ別に気にしなくて……」

瞳子「そうもいかないわ。お夕飯くらいおごらせてくれないかしら」

アヤ「…………」

本来、アンドロイドであるアヤに食事などは必要無い。だが……

アヤ(申し出を受ける理由はねえけど、断る理由もねえか……)

アヤ「……ま、そこまで言うんなら。ご馳走になろうかね」

瞳子「そう来なくちゃね。ええと、確かこの先に……」

瞳子はアヤの手を取り、少し嬉しそうに目当ての店へ向かって歩き始めた。

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153 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:28:32.20 ID:88jNd8ai0
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カイ達フルメタル・トレイターズが活動拠点としている公園。

カイ「……あ、いたいた。亜季、星花いるよ」

公園隅のベンチに、星花の姿はあった。

傍には、ユニコーン形態のストラディバリの姿もある。

そしてその反対側には、瞳子の言っていたスーツ姿の女性が座っている。

亜季「……確かに、隣に誰か座っていますな」

カイ「あれ? あの人……」

二人が疑問に思って近寄ると、星花と女性がそれに気付いた。

星花「あっ……カイさん、亜季さん……」

??「君達は……確か、メイド喫茶で」

カイ「あっ、やっぱり。エトランゼで相席だった人だ」

亜季「あの時のお嬢様……? 何故ここに?」

昼にメイド喫茶エトランゼで女性と面識があった二人は、思わぬ再開に戸惑ってしまう。
154 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:29:42.82 ID:88jNd8ai0

星花「お二人に、ご紹介いたしますわ……」

星花は弱々しく、申し訳なさそうにそう言うと、すっと立ち上がって彼女を紹介した。

星花「こちらの方は涼宮月葉。わたくしの遠縁の従姉にあたりまして……お父様より遣わされた、涼宮星花捜索隊の隊長です」

月葉「月葉だ、よろしく」

星花に紹介された月葉は立ち上がり、二人に軽く頭を下げた。

カイ「捜索隊って……まさか、星花を連れ戻しに来たの!?」

亜季「そんな……」

それを聞いた二人は、大きなショックを受けた。

彼女の来訪は、星花の強制送還、ひいてはフルメタル・トレイターズの解散を意味している。

短い間とはいえ、苦楽を共にした仲間との突然の別れに、二人は動揺を隠せないでいた。

月葉「その事だがな、少し星花と二人きりで話したい」

月葉は一度そこで言葉を切り、カイ達が入ってきたのと反対側の出口を指で示した。

月葉「そこの出口に部下達が待機している。悪いがそこで少し待っていてくれ」

カイ「えっ……」

亜季「……り、了解しました……」

釈然としないながらも、カイと亜季はそれぞれ相棒を連れて、出口は歩いていった。

星花「…………」

月葉「悪いが、お前もだ。少しだけでいい」

ストラディバリ『……レディ』

月葉に促され、ストラディバリも体を起こして出口へ向かった。

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155 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:30:53.64 ID:88jNd8ai0
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隊員A「……あ、ども」

カイ「こ、こんにちは」

隊員B「え、と……お嬢様のお仲間の方で?」

亜季「は、はい。……そういうあなた方は、月葉殿の部下の方々でしょうか」

隊員C「そうです。ここで待ってろ、って言われましたけど……」

カイ「…………星花、連れてかれちゃうんですか……?」

隊員D「本来ならそれが任務なんですけど……隊長がその前に少し話させろって」

亜季「……星花……」

『キンキン……』

ヴ-ン ヴ-ン

『レディ……』

六人と三体は、茂みから二人の様子をこっそりと伺っていた。

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156 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:31:54.03 ID:88jNd8ai0
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月葉「星花……ここでの暮らしはどうだ?」

星花「はい……時々辛い事もありますが……カイさんや亜季さんにはよくしていただいています」

月葉「そうか。……なあ星花」

星花「何でしょうか?」

月葉「お前は……何故戦っている?」

星花「え……」

月葉「今は、あの仲間達を守る為かも知れない。私が聞きたいのは、彼女達と会う前、お前が家を飛び出した時の事だ」

星花「……」

月葉「あの時のお前には、護るべきモノも倒すべき宿敵も存在しなかった。戦う義務は無かったはずだ。それなのに、何故だ?」

星花「…………」

星花から、答えは無い。

ただ俯き、押し黙っている。

月葉「……答えられないか? なら……」
157 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:33:55.26 ID:88jNd8ai0
星花「……確かに、あの時のわたくしには……護るモノも、倒す敵もありませんでした」

月葉の言葉を、星花が唐突に遮る。

星花「…………しかし……『力』は、ありました」

月葉「……!」

星花「オーラを操る力……それも、膨大な量のオーラを、です」

星花「それほどのオーラを操る力は……他に二つと無い、わたくしだけに与えられた力です」

月葉「…………」

星花「……『権力、武力、知力、財力、魅力。いずれであろうと、大きな力を持つ者は、それと同時にそれを世の為に、力を持たぬ者の為に振るう義務をも持つ』……お父様が、昔よく仰っていた言葉です」

月葉「……叔父様の言う、ノーヴレス・オブリージュ、か……」

星花「ええ。力を持つ者は義務を持つ。なのでわたくしには、世の悪と戦う義務を持っています」

星花はキッと引き締まった表情で、まっすぐ月葉を見つめている。

星花「先程申し上げた通り、護るモノも倒す敵もいませんでしたが、戦う義務なら……家を飛び出した時既に、持っていました。だから、わたくしは戦うのです」
158 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:34:46.62 ID:88jNd8ai0
月葉「…………なるほど。しばらく見ない内に、随分言うようになったじゃないか」

月葉はそれを聞いてフフッと笑うと、おもむろに立ち上がり出口に声を掛けた。

月葉「全員集合!」

その言葉を聞いた隊員達が、月葉の元へ駆け足で向かっていく。

カイ「な、なになに!?」

亜季「……我々も行きましょう!」

ストラディバリ『レディ』

カイ達二人と三体も、それに続いた。

月葉「よし、全員揃ったな」

隊員A「はい!」

隊員D「隊長、指示を!」

月葉「ああ」

整列した四人の隊員達へ、月葉が指示を下す。
159 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:35:47.21 ID:88jNd8ai0
月葉「今日、お嬢様を見つけた事は総裁には誤魔化せ。帰還するぞ」

隊員C「は……?」

隊員B「えっ……?」

カイ「今、何て……?」

亜季「誤魔化せ、と言ったのでありますか……?」

隊員達はもちろん、カイと亜季も、その言葉に呆気にとられた。

月葉「聞こえなかったか? 帰還するぞと言ったんだ」

星花「あ、あのっ、月葉姉様……?」

慌てて立ち上がる星花を、月葉がそっと手で制した。

月葉「どうやら、お前は私が思っていた以上に成長していたようだ」

フッと笑い、星花の頭を軽く撫でる。

星花「んっ……?」

月葉「そんなお前を、信じてみたくなった」

星花「……姉様……」

カイ「じゃっ、じゃあ、あたし達今のまま活動出来るんですか!?」

月葉「ああ。当分は私達以外の追っ手は来ないだろう、安心していい」

亜季「……感謝いたします、月葉殿!」

カイ「ありがとうございます!」

二人が月葉へ頭を下げる。
160 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:36:51.52 ID:88jNd8ai0
月葉「ああ。では、私達は帰還するが……星花」

星花「はい」

月葉「……頑張れよ」

星花「……はいっ!」

その返事を聞き届けた月葉は満足そうに頷き、部下達へ向き直った。

月葉「よし、撤収!」

部下A「はっ!」

月葉を筆頭に、捜索隊が公園から引き上げていく。

星花「……姉様……星花は、頑張ります……」

その背中を、見えなくなるまでじっと見据える星花。

カイ「……良かったね」

亜季「ですな。お祝いに、今夜は少し奮発しますか」

そして、その星花の背中を眺めながら、二人はそっと微笑むのだった。

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161 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:38:05.36 ID:88jNd8ai0
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海底都市。

マキノ「あら、サヤ。あなたも戻って来ていたのね」

サヤ「ええ。スパイクPさんが動けなくなったから、運んできたとこなのぉ」

海皇宮の廊下で、マキノとサヤが鉢合わせした。

サヤ「……っていうか、どうかしたの? なんだか騒がしいけれどぉ……?」

マキノ「なんという事は無いわ。ちょっとした暴動の鎮圧みたいなものよ」

サヤ「ああ……例の?」

マキノ「そう、例の。まあ侵入者そのものには逃げられたようだけれど……それとは別に、大きな収穫があったのよ」

マキノが眼鏡を指で軽く持ち上げ、不敵に微笑む。

サヤ「へえ……そういえば将軍のおじさんはどうなったのかしら?」

マキノ「地上の電波放送を傍受したわ。それによると、日没前に逮捕されたそうよ」

サヤ「あら、あっけないのねぇ」
162 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:38:48.30 ID:88jNd8ai0
マキノ「……エマはいないのね。ホテル?」

サヤ「多分ねぇ。サヤも途中から姿を見てないの」

サヤが少しおどけた様子で肩をすくめてみせると、マキノは軽く溜息をついた。

マキノ「はあ……まあ、エマの事だから無事だとは思うけれど」

サヤ「地上に戻ったらまた探すわぁ」

マキノ「頼むわね。私は少し休んでから地上へ向かうわ」

サヤ「りょうか〜い。じゃ、お疲れぇ」

マキノ「ええ、お疲れ」

労いの言葉を交わし、すれ違う二人。

マキノ(…………にしても)

マキノの脳裏に浮かぶのは、海皇宮の普段使われない区画で見かけた、海竜の巫女の言動。

巫女『……殺せるなら……しかし……せめて封印……チッ……』

マキノ(遠巻きで声はよく聞こえなかったけれど……あんな区画に何の用だったのかしら……?)

疑問を抱きつつ、マキノは自室へ向けて歩を進めていった。

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163 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:39:27.78 ID:88jNd8ai0
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ちなみにその頃エマは。

エマ「うっめー! 巴巴、これおかわり!」

巴「おう、ドンドン食え! 海底人にも話せるやつはおるんじゃのう、あはははっ!」

雪菜「楽しそうね、巴ちゃん」

イヴ「裕美ちゃん、次はアレ取って下さい〜」

裕美「あっ、はい。……って、イヴさん充分取れる位置だったじゃないですか!」

乃々「……すごいです」

ほたる「うん……海底都市の人と、こうして仲良くご飯が食べられるなんてね」

エマ「ほらほら乃々、ほたる! お前らも食わないと無くなっちゃうぞー!」

乃々「わわっ、エマさん速いです……」

ほたる「もう半分しか残ってない……」

イヴ非日常相談所で夕飯をご馳走になっていた。

続く
164 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/04/27(月) 20:40:53.57 ID:88jNd8ai0
・イベント追加情報
月葉隊長の協力で、星花が実家からの追手から遠ざかりました

サヤに教えられ、カイが巫女を警戒しはじめました

アビスエンペラー(プレシオ)がマキノの手であっさり捕縛されました

以上です
三日目が始まる前にやっておきたかった二日目夜ネタ
この出来事がまさかあんな事態に発展するなんてね(不穏)

アヤ、さっちゃん、巫女、巴、雪菜、イヴ、裕美、乃々、ほたるお借りしました
165 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/04/28(火) 01:45:01.12 ID:w3WJ++t5o
>>164
おつー

幕間の静かな一時って感じですなぁ
これが嵐の前の――と、ならなければ良いけれど……

しかし月葉さんが話のわかる人で良かったよ
星花さんの強い意志も確認できたし、ひとまずは一件落着かな
166 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/04/28(火) 22:53:11.22 ID:bTqxNLwf0
乙ですー
平和に見えるけどやっぱり着々と話は進んでいく…
星花さんのお話もおちつい…てないんだったなぁ(白目)

…あっさり捕まったプレシオェ
167 :@予約 ◆3QM4YFmpGw [sage]:2015/05/07(木) 14:57:44.22 ID:TJ6ro1lOO
超☆唐突に依田芳乃を予約します
実は既に結構書き進めてるので明日か明後日には投下できるかも?
168 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/07(木) 23:56:13.07 ID:/fiYMtsW0
思ったより早く書きあがったので投下ー
169 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/07(木) 23:57:02.44 ID:/fiYMtsW0

涼が、初めてこのアパートに来た時。

涼『あれ? 管理人さん……の、娘さんか? 親御さん留守か?』

涼『……え、ええっ!? アンタが管理人!?』

――――――――

マリナ達が、初めてこのアパートに来た時。

マリナ『あ、あなたが管理人さん……!?』

みりあ『よろしくね! ……って、ええええ!? と、年上なの!?』

若神P(…………って、何やってんの『先代』さん……)

――――――――

コハル達が、初めてこのアパートに来た時。

コハル『お世話になります〜』

ティラノ(…………なあ、この匂い……)

ブラキオ(魔界の地の匂いだな……しかも、我らの時代とそう遠くなさそうだ……)

――――――――

里奈が、初めてこのアパートに来た時。

里奈『…………まぢ?』

里奈『うへー、ちっちゃー! きゃわわー!』

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――――
170 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/07(木) 23:57:55.10 ID:/fiYMtsW0
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若神P「……はぁー。どこ行ったのかなー」

愚痴をこぼしながら、若神Pは住まいであるアパートの前に着いた。

若神P「あんにゃろ、さっさと見つけて……ん? あれは……」

アパートの一室……『管理人室』と札の提げられた部屋から、一人の少女が姿を現した。

着物に身を包んだ、小柄な少女。

??「おやおや、若神殿ー。今お帰りでしてー?」

若神P「まあね。管理人さんはこれからおでかけ?」

彼女は依田芳乃。

16歳という若さながら、この「アパート◯◯(あぱーとふたつわ)」の管理人を務めている。

芳乃「ええー。何かありましたら、ご一報くださいませー」

柔和な笑顔で、芳乃は懐からスマートフォンを取り出してみせた。

若神P「……ほんとミスマッチだよね。管理人さんがスマートフォンとか」

芳乃「今時はこういったものは必需品なのでしてー、持ち歩くのが当然かとー」

スマートフォンをしまい、芳乃はテクテクと歩き出す。

芳乃「ではー、いってまいりますゆえー」

若神P「はーい。いってらっしゃい」

軽く手を振って見送る若神P。

その姿が曲がり角に消えた頃、彼はふぅとため息をついた。

若神P「……なんというか。相変わらず威圧感がにじみ出てるよね、あの『先代』さん……」

彼は苦笑して階段を上がり、自分の部屋へ帰っていった。

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171 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/07(木) 23:58:46.34 ID:/fiYMtsW0
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「毎度ありがとうございましたー」

買い物袋を提げ、いきつけの和菓子屋を出る芳乃。

芳乃「お買物はー、これで全てでしてー」

帰路に着こうとしたところ、後ろから声が聞こえた。

??「げっ……『ご先代』」

芳乃「? ……おやー、これはこれはお久しぶりでしてー、アスモデウス」

奏「あんまりその呼び方やめてくれない? 今は速水奏よ」

色欲の悪魔アスモデウス……もとい、速水奏だ。

芳乃「ほほー。ではわたくしもー、依田は芳乃とお呼びくださいませー」

奏「この辺りに住んでいたのね……ここ最近?」

芳乃「いえいえー、もうしばらくになりましてー。今まで出会わざるはー、神の悪戯かとー」

奏「神って……よりによってあなたがその冗談言う? もういいわ、私急ぐから……」

そう言って奏は和菓子屋に入ろうとした。

芳乃「そちらに御用でしてー?」

奏「私が食べるわけじゃないわ。ベルの所に行くから、手土産に」

芳乃の方を向かずにそう言うと、奏は和菓子屋の中へと姿を消した。

芳乃「ほー。……さてさて、それでは帰りま……」

「うわああああああ!?」

「きゃああああああ!?」

芳乃のつぶやきを、爆音と悲鳴が遮る。

芳乃「……はてー?」

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172 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/07(木) 23:59:29.49 ID:/fiYMtsW0
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少し離れた場所まで芳乃が歩いて行くと、ほどなく騒動の原因が見つかった。

『バアル・ペオル! バアル・ペオル!』

『バアル・ペオル! バアル・ペオル!』

『バアル・ペオル! バアル・ペオル!』

怠惰のカースが多数、騎士の様な風貌をもって街を行進していく。

「アイドルヒーロー同盟はまだなのか!?」

「こっちだ、逃げろ!」

芳乃「おやおやー、これでは帰れませぬー」

そう、カースの行進は、ちょうどアパート◯◯と和菓子屋の間を進み、まるで運河のように芳乃の行く手を阻んでいた。

??(……しかし、目立つのも良くない。討つなら物陰から)

芳乃の脳内に「芳乃でないもの」の声が響く。

芳乃「わかっておりましてー」

その声にふっと微笑んだ芳乃は、群衆に紛れて裏路地へと姿を消した。

芳乃「ここなれば、人目にもつかぬでしょうー」

ポリバケツの陰からひょこっと顔を出し、カース達の様子を見る。

『バアル・ペオル! バアル・ペオル!』

今のところ、こちらに気付く様子は無い。

芳乃「ではー、手早く済ませましてー」

芳乃は着物の裾をふわりと広げ、右の手のひらをカース達へ向けた。
173 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/08(金) 00:00:13.71 ID:KR1PhdtB0



紅よー、

渦を描きてー、

龍と成りー、

荒ぶり狂えー、

日の落つるまでー…………


174 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/08(金) 00:00:59.92 ID:KR1PhdtB0


ドゥッ

芳乃が意味深な言葉を唱えた次の瞬間、周囲はひどい熱気に包まれた。

「な、何だぁ!?」

「お、おいアレ!」

人々が視線を上げると、そこには龍がいた。

それもただの龍ではなく、炎で出来た体をくねらせる巨大な龍だ。

そして炎の龍は急降下し、カース達を根こそぎ喰らい尽くしていく。

『グアアアアアア!?』

『ギエエエエエエエ!?』

ほどなくカースは平らげられ、炎の龍も掻き消えるように姿を消した。

芳乃「では、仕上げでしてー」

右手をそっと挙げた芳乃が、また言葉を唱える。
175 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/08(金) 00:01:45.59 ID:KR1PhdtB0



細雪ー、

涼風に解けー、

舞い降りてー、

熱き大地をー、

鎮め候へー…………


176 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/08(金) 00:02:29.93 ID:KR1PhdtB0
するとあたり一帯に、季節違いなほどに冷たい風が吹いた。

「うわっ、寒!」

「さっきまで龍の熱で暑かったのに……」

芳乃の吹かせた風が、龍の炎で熱された周囲の空気を冷やしていく。

「変な天気だな、今日は」

「だな。カースが増えないうちに帰ろうぜ」

人々は足早にその場を去っていった。

芳乃「……ではー、我々も帰りましょうー」

(しかしながら、少し目立ち過ぎたな)

芳乃「……むうー」

脳内の声からの忠告に、芳乃は不機嫌そうに頬を膨らませて抗議する。

芳乃「それはそなたの力が強すぎるだけでしてー」

(……すまない。私もだいぶ衰えたと思ったのだが)

芳乃「しかしー、実際に術を行使する様は見られておりませんのでー、問題は無いかとー」

(それもそうか。では帰ろう、住人達が待っているだろう)

芳乃「ええー、そのようにー」

芳乃は脳内の声に微笑み、裏路地からこっそり抜け出してアパート◯◯へと帰っていった。

――――――――――――
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177 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/08(金) 00:03:15.40 ID:KR1PhdtB0
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時子「…………チッ!」

現場に駆けつけた財前時子……いや、初代・怠惰の悪魔、バアル・ペオルは憤慨していた。

元々あのカースは時子自身がばら撒いたもの。

秘密裏にカースをばら撒き、アイドルヒーローレポ・クラリアとしてそれを狩る。

有り体に言ってしまえばマッチポンプと言える作戦を実行した。

だが、ばら撒いたカースは既に何者かに全て始末されていた。

時子「…………しかも」

その『何者か』に、時子は心当たりがあった。

いや、心当たりというよりは、完全な確信だったが。

現場に残された、魔力の残滓。

その残滓から発せられる力が、その『何者か』の存在を物語っていた。

時子「全く……厄介な奴が近くにいたものね……」
178 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/08(金) 00:03:52.76 ID:KR1PhdtB0



時子「初代・憤怒の悪魔…………シャイターン……!」



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179 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/08(金) 00:04:33.14 ID:KR1PhdtB0
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――――――――――――

芳乃「ただいま戻りましてー」

里奈「あっ、よしのんお帰りちゃーん♪」

帰ってきた芳乃を、里奈を筆頭にして住人達が出迎える。

涼「おっ、管理人さんお帰り。何買ってきたんだ?」

芳乃「行きつけのお店でー、お菓子を買って参りましてー。宜しければ皆で食べましょうー」

あずき「えっ、いいの!?」

みりあ「やったー!」

マリナ「ありがとね、管理人ちゃん」
180 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/08(金) 00:05:09.33 ID:KR1PhdtB0
芳乃「ではー、皆様支度をすませましたらー、管理人室へお集まりくだされー」

コハル「は〜い」

ティラノ「小春、夕飯が入る程度にな」

ブラキオ「今晩は翼が当番だったな。夕飯はなんだ?」

プテラ「カップ麺だよ」

若神P「……小春ちゃん育ち盛りだよね? もっと考えてやったら?」

芳乃「……ふふ」

住人達のやり取りを眺めて、小さく微笑む芳乃。

(楽しそうであるな)

芳乃「ええー、それはもうー」

脳内の声にも上機嫌で答え、和菓子の袋を抱え管理人室へと歩いていった。

続く
181 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/08(金) 00:06:11.49 ID:KR1PhdtB0
依田芳乃/シャイターン

職業

アパート管理人

属性

ほぼ人間/ちょっぴり悪魔

能力

三十一文字魔法の行使

詳細設定
「アパート◯◯(ふたつわ)」の管理人を祖父から引き継いだ少女。
学校には通っておらず独学。たまに涼など住人に教えてもらう事もある。
シャイターンの精神と共生している為、魔界・天界の関係者は彼女を見ただけでもシャイターンであると認識できる。
シャイターンの協力あってとはいえ三十一文字魔法を編み出すあたり、魔術の素質もあるようである。
現在は管理人としてのんびり過ごしながら、シャイターンの永い「余生」に付き合っている。

・シャイターン
初代・憤怒の悪魔。
かつてサタンより前の代に魔界を統治しており、
『魔界東部の海を一晩で干上がらせそこに三日で都市を創った』『魔界に現れた異世界の侵略者十数万人を一人で蹴散らした』など数多くの伝説を持つが、
加齢とともに力の衰えを感じてサタンに代を譲り、精神体となって地上へ降りた。
その時芳乃と精神の波長が一致し、彼女と共生する。
他の初代・大罪の悪魔からは主に『シャイターン』、それ以外の悪魔や天界関係者からは『先代』『ご先代』『先代様』などと呼ばれている。
余談だが人間でいう所の性別は女性である。

・三十一文字魔法
シャイターンの協力を得て芳乃が編み出した独自の魔法。
通常の詠唱の代わりに三十一字の「短歌」のような呪文を唱える。
本来の威力は普通の魔法よりやや高い程度だが、シャイターンの絶大な魔力を使うため結果的にとんでもない威力を発揮する。
ちなみに同じような魔法を使う場合でも芳乃は気分で呪文の内容を少し変えたりする。

関連アイドル
・涼、あずき(住人)
・マリナ、みりあ、若神P(住人)
・コハル、ティラノ、ブラキオ、プテラ(住人)
・里奈(住人)

関連設定
初代・大罪の悪魔
アパート◯◯

・アパート◯◯
市内に建つ小さなアパート。「アパートふたつわ」と読む。
二階建て八部屋(管理人室除く)でトイレは一階に二つ、風呂は無いが向かいに銭湯あり。
家賃はやや安めと、住人及び管理人の戦闘力以外は極めて普通のアパート。

関連アイドル
・芳乃(管理人)
・涼、あずき(住人)
・マリナ、みりあ、若神P(住人)
・コハル、ティラノ、ブラキオ、プテラ(住人)
・里奈(住人)
182 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/08(金) 00:06:51.76 ID:KR1PhdtB0
以上です
やはりよしのんには最強枠が似合いましてー
一応今回のお話は里奈登場以降だけどよしのんはいつ時系列で出てきても大丈夫かとー
涼、奏、時子、あずき、名前だけ菜帆お借りしまして―
183 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/05/08(金) 01:04:53.70 ID:7nT8m0M3o
>>182
乙でしてー

よしのんがアパートの管理人さんとな……?
それは良いな……、何だかすごく惹かれる……
そしてお強い
色んな人から一目置かれているのも強者感ありますね
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/08(金) 15:42:16.00 ID:Qsy84VarO
乙でしてー
まさかの初代憤怒…つよい…
三十一魔法もキャラにあってるし面白いし強いしですごいっすわぁ…
そして考えるほどあのアパートの戦力がやばくて笑うしかない
185 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/05/21(木) 02:22:23.20 ID:RBrD/abz0
SS速報VIPから偶然ここを見つけて、面白そうだから参加してみたくなった。
SSはおろか、2chで書き込みするのも初めてなんだが、大丈夫なんだろうか?

もしそうなら、@乙倉悠貴ちゃんと佐藤心さんでなんかやってみたいなぁ
案はあるけど、うまくかけるかわからないので、音沙汰ないまま一週間たったらごめんなさい
案の内容的にはは未来世界からのタイムスリップ物で、能力を求めて過去にやってきたという感じで。

あと、ドリップこれでいいんだろうか?
186 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/05/21(木) 16:39:44.64 ID:gRfhHhLG0
予約確認しましたー
何か相談が有りましたら>>2の掲示板の雑談スレへどうぞ
187 : ◆3QM4YFmpGw [sage]:2015/05/21(木) 16:42:50.15 ID:j/DjlfyyO
>>185
おう、やったれやったれい
正直今頃新人さんが来るとは思ってなかったから嬉しい誤算よ
あ、まだテンプレ更新されてないけと予約から投下の期限はもう二週間で大丈夫のはずだよー

ついでにドリップじゃなくてトリップ、トリップはそれで問題無いべ
188 : ◆q2aLTbrFLA [sage]:2015/05/21(木) 23:45:33.91 ID:xv+5mtF80
おおー、新人さんだ!
自分もここが初めてでした!一緒に頑張りましょう!
189 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/22(金) 23:57:23.16 ID:1Zew3Ep70
新人さんをwktk待ちながらも投下ー
190 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/22(金) 23:58:11.37 ID:1Zew3Ep70

ファイア「ファイアズムサイズ、フレアッ!」

地面に突き立てられた鎌を中心にして、地面から黒い炎が次々と立ち上る。

東郷「広範囲に広がる技か……だが遅いね」

そして、マーセナリー東郷はそれよりも速く駆け、エンジェリックファイアとの距離を詰めた。

ファイア「ファイアズムサイズ……ブーメラン!」

新たに精製した鎌を二振りマーセナリー東郷へと投げつけ、更にもう一振り手元に生み出す。

東郷「ふむ、その手数の多さは少々厄介だね」

ブーメランのように飛んでくる鎌を難なくかわし、マーセナリー東郷は一度エンジェリックファイアと距離をとった。

東郷「……本来は使わない予定だったけれど、仕方ないかな?」

マーセナリー東郷は口元を軽く歪めた。

東郷「おいで、ハナ。オリハルコン、セパ……」

カレンヴィー「ストップストーップ!」

聖來「二人とも、そんな事してる場合じゃないですよ!」

しかし、それをカレンヴィーと水木聖來の二人が遮った。

ファイア「聖來ちゃん……?」

東郷「……一体何だと言うんだい?」

少し不機嫌そうにお互い矛を収め、聖來とカレンヴィーに近寄る。

聖來「さっき、01ちゃんが言ってたの。アタリのチケットが三枚しか無いって!」

東郷「何……?」

ファイア「何ですって……!?」

――――――――――――
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――――
191 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/22(金) 23:59:18.19 ID:1Zew3Ep70
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――――――――――――

会場中央、最初に選手たちが集められた場所に、再び選手たちが集まっていた。

聖來、エンジェリックファイア、マーセナリー東郷、カレンヴィーの四人を除いて。

ナイト「ねえ、それホントなの?」

01「間違いないであります。上空へ上ってからずっと見ていましたから」

アビスナイトの問いかけにSC-01が即答する。

スカイ「ハズレを引いたのが私、ナイトさん、アースちゃん、スカルちゃん、オーフィスさん、01さん……」

カミカゼ「で、アタリがアタシとRISAと東郷……か」

ナイト(…………あれ? 九枚?)

アース「おい! どういうコトじゃ! キッチリ説明せんかい!」

ガルブ『みなさまおあつまりののち、せつめいさせていただきます』

ナチュルアースが苛立った様子でガルブに詰め寄るが、冷たくあしらわれてしまった。

アース「ぬぅ……」

ナイト(……気のせいかな。みんな気にしてないし)

乙「……主催側のミスか?」

アーニャ「……ニェート。それなら、もっと慌ただしく動きがあっても良さそうです」

ひなたん「じゃあ、ハズレのどれかが実はアタリかも知れないナリ! 熱したら赤く変色するとか……」

聖來「すいませーん! 遅くなりましたー!」

皆が口々に推理しあう中、聖來とカレンヴィー、そしてエンジェリックファイアとマーセナリー東郷が合流した。
192 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:00:35.09 ID:I5SaAVfE0
ガルブ『みなさま、おあつまりですね。では、あらためてごせつめいいたします』

ガルブの言葉に、選手たちが一斉に向き直る。

ガルブ『けつろんからもうしますと、これはふぐあいやミスのたぐいではありません。よって、これよりはいしゃふっかつをさいかいします』

甲「はっ……?」

その言葉は、ひどくあっさりしたものだった。

オーフィス「ちょっと待ってよ。いくらなんでも説明不足が過ぎ……」

α「まだ探してない場所があるって事にゃ」

そこへオーフィスの言葉を遮り、番人達が次々集まってきた。

β「みんなどこかを見落としてるんだよね」

δ「誰かがまだ隠し持っているか、はたまた……」

γ「どこかに隠されてるか、どうだかな?」

Ω「まーどっちにしろ、この会場内にあるのは間違いないぜ?」

Σ「時間制限があるわけでもないし、ゆっくりじっくり探して下さいね」

θ「もちろん、他の人に先を越されない程度にですね!」

ν「えーっと……以上!」

番人達は口々に述べて、ガルブの両脇に並ぶ。
193 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:01:23.44 ID:I5SaAVfE0
カミカゼ(あれ? アイツ……里奈か? いやでも引っ越したよな……)

カミカゼ「まあいい。そういうコトならアタシが最後のアタリチケット見つけ出して、九人目の番人になってやるぜ!」

両腕を打ち付けて息を巻くカミカゼは、そのまま瓦礫の奥へと姿を消していった。

東郷「九人目の番人か……面白い試みだね、ふふ」

RISA「そうね、せっかくだから楽しませてもらうわ!」

カミカゼ同様すでに復活が決まっている二人も、その言葉を受けて駆け出す。

オーフィス(ファインドで調べれば一発だけど……)

オーフィスは左腕の『ワード』をそれとなく隠しつつ、チラリとアヤに目をやる。

γ「なあ、アタイもう一回行っちゃダメか?」

ガルブ『ごしんぼうください』

こちらに関心はないようである。

オーフィス(……あの人からなるべく離れてから使おう)

オーフィスはこっそりと一団を抜け出した。
194 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:02:13.77 ID:I5SaAVfE0
ナイト「こうなりゃしらみつぶしだ! ライラちゃん、あたしに続けー!」

スカル「おー、でございます」

ひなたん「うーん、何か引っかかるひなた……?」

アーニャ「番人が持っていないなら……この中に、ウラギリモノが?」

カレンヴィー「ぅえっ!? あ、ああ、あたしじゃないよ!?」

ファイア「そもそもいると思えないけれど……」

アース「そうじゃな。参加者が未だに隠し持っとってもメリットがないじゃろ」

甲「……そういや、南側の赤いビル! 不自然にタンスが散乱してたぜ!」

乙「ナイスだリーダー! まずはそこから行くぞ!」

聖來「うーん……特にアテも無いし、ヤイバーズにくっついてこうかな」

01「……もう一度上空から探索しましょう」

スカイ「あっ、わ、私も……」

こうして、選手たちは再び会場内に散り散りになっていった。

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195 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:03:03.30 ID:I5SaAVfE0
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一方、とある物陰。

φ(あ……あっれえ……? おかしいなあ……?)

朋が再び”隠者”で身を隠しながら頭を抱えていた。

φ(あたし『隠れた九人目の番人』じゃなかったの? スタッフさんからはそう説明受けたんだけど……)

φ(隠れた九人目とか、普通アタリ持たせるでしょ……)

φ(01って人にも申し訳無かったなあ……てっきりあたしアタリだと思ってたもの……)

φ(…………)

φ(タイクツね。占いでもしようかしら)

パラパラとその場にタロットカードを広げ出す。

φ(何を占おう…………よし! この大会が成功するか、これでいこう)

φ(……んで、こうして……こう……)

手順に従いカードを並べていく朋。

φ(で、最後に……これ!)

最後に、裏返ったカードを一枚ひっくり返した。

φ「……げっ」

思わずそんな言葉が口を突いて出る。

現れたカードは”死神”、それも正位置だ。

φ(……縁起でもない。やり直しやり直し!)

朋は頭をフルフルと振って、もう一度大会の行く末を占い始めた。

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196 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:04:19.14 ID:I5SaAVfE0
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オーフィス「……そろそろいいかな。Ctrl、F。ファインド」

アヤからだいぶ距離をとったオーフィスは、あらためて『ワード』の機能でアタリのチケットを検索した。

アーニャ「あ、オーフィス」

カレンヴィー「座り込んでどうしたの? 疲れちゃった?」

と、そこにアーニャとカレンヴィーが通りがかる。

オーフィス「ん、ちょっとね。……あれ?」

検索の結果が表示される。

アーニャ「……もしかして、アタリの場所を?」

オーフィス「まあね。あんまり人前では使えないけど。……特にあの人の前だと」

アーニャ「あの人……?」

カレンヴィー「ねえ、それより……」

カレンヴィーが表示されたポイントを指差した。

カレンヴィー「ここってさ、さっき集まった場所じゃない?」

オーフィス「うん、会場のほぼ中央部だね」

アーニャ「では、やはり番人の誰かが二枚持っていたと……?」

オーフィス「うーん……?」

オーフィスは顎に手を当て少し考え込んで、やがて立ち上がった。
197 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:05:02.45 ID:I5SaAVfE0
オーフィス「ともかく、場所は分かったから探しにいかないとね」

そして数歩歩いたところで、くるりと振り向いた。

オーフィス「ね、二人にも手伝ってもらいたいんだけど」

カレンヴィー「手伝う?」

オーフィス「うん。本当に番人の中に二枚目を持ってる人がいるとしたら、それを守ろうと番人全員と戦うことになるかも知れないから」

アーニャ「なるほど……。なら、他にも協力者が必要かも知れません。あっ」

ふと空を見上げたアーニャが、ナチュルスカイの姿を目撃する。

アーニャ「まずは、ナチュルスカイに頼みましょう」

カレンヴィー「そうだね。あたし、呼んでくる!」

背中から黒い翼を大きく広げ、カレンヴィーはナチュルスカイへ向けて飛んだ。

オーフィス「……でも」

アーニャ「どうしました?」

オーフィス「誰かが持ってるにしては、位置が微動だにしないのは気になるかな」

ごちん。

アーニャ「アー……そうですね。少しくらい動き回ってもよさそうです」

二人がモニターを覗き込んで難しい顔をしているその頃、

カレンヴィー「あぁ〜〜……」

スカイ「うぅ……」

カレンヴィーとナチュルスカイは運悪く正面衝突を起こし、上空から仲良くキリモミ回転で落下してきていた。

――――――――――――
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198 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:05:54.19 ID:I5SaAVfE0
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ひなたん「うーん……」

瓦礫の中を、ひなたん星人は首を捻りながら歩いていた。

ひなたん「誰かが持ってるナリ……?」

手頃な瓦礫に腰掛け、これまでの会話にヒントが無いか思い返した。

《Ω「まーどっちにしろ、この会場内にあるのは間違いないぜ?」》

《β「みんなどこかを見落としてるんだよね」》

《ガルブ『けつろんからもうしますと、これはふぐあいやミスのたぐいではありません』》

《ガルブ『チケットはこのようなふくろにはいっています』》

《ガルブ『ただし、ほんもののチケットはこのなかによんまいだけです』》

《ガルブ『かれらは、ほんせんしゅつじょうのチケットをまもるばんにんです』》

ひなたん「…………あっ!」

何かに気づいたひなたん星人は跳ね上がる。

ひなたん「繋がった……脳細胞が、トップデコポンひなっ!」

そして、最後の一枚を目指して駆け出した。

ナイト「うわっ!? あれ、ひなたんちゃん?」

スカル「大急ぎでございますねー」

その途中、アビスナイトとアビスカルの前を横切ったが、ひなたん星人当人は気づいていないようだ。

ナイト「もしかして……アタリチケットの場所が分かったのかな? 追いかけよう!」

スカル「ラジャーです」

二人はひなたん星人の後を全速力でつけていった。

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199 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:07:26.86 ID:I5SaAVfE0
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会場中央。

α「……やっぱりイジワルだと思うにゃ」

不意にみくが口を開く。

ν「何が?」

α「最後のアタリチケットの場所の事にゃ。いくらなんでも難関すぎるにゃあ」

Σ「うーん……それは確かに、私もそう思うかな?」

その言葉に、慶も同調する。

γ「っつってもなあ、ちゃんとヒントっつうか……まあヒントか。それはあっただろ?」

δ「そこを見抜く術も試している、と。そういうわけですね」

φ「って、ちょっと待って!」

番人達の会話に、やってきた朋が割り込んだ。

θ「おや、九人目殿」

φ「みんな最後のアタリ知ってたの?」

呆然とした表情で問いかける。

Ω「え? ああ、直前に説明されたし」

φ「えっ……あ、あたし聞いてないんだけど……?」

β「……ガルブさん」

α「まさかの不具合かにゃ……?」

番人達がガルブを横目でジトっと見やる。

ガルブ『もうしわけありません、ともさま。どうやらでんたつミスのようですね。ではあらためて……』

そう言ってガルブが懐からチケット入りの袋を一枚取り出した、その時。
200 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:08:24.56 ID:I5SaAVfE0
ひなたん「ラブリージャスティスひなたんロケットぉー!!」

一団に飛び込んできたひなたん星人がガルブの手から袋を奪い取り、勢いでそのままゴロゴロと数メートル転がった。

ν「わっ!?」

β「な、何々?」

番人達が慌てふためく。

ガルブ『…………』

ひなたん「やっぱり! 最後のチケットはガルブさんが持ってたナリ!」

スカル「ガルブが……?」

ナイト「隠し持ってた、ってこと? それ反則じゃないの!?」

遅れて到着したアビスナイトが異議を唱える。

ひなたん「隠し持ってなんかないナリ。ガルブさんがこれを持ってる事は、参加者みーんな知ってたひなた」

ナイト「え? ど、どういうこ……」

オーフィス「……もしかして、開始時に見せた!?」

アーニャ「……しかし、あれは見本では?」

そこに、ナチュルスカイとカレンヴィーを背負ったオーフィスとアーニャも加わった。

ひなたん「そう。でもガルブさんは『これは見本だ』なんて一言も言ってないナリ。つまり、これは見本じゃなくてぇっ!!」

袋を宙に放り投げ、小春日和を縦一文字に振り下ろした。

ひなたん「……本物だってコトひなっ☆」

きれいに両断された袋の口から、赤いチケットが顔を覗かせている。

ν「ひゅう……」

φ「そ、そこにあったんだ……」

ガルブ『……おみごとです、ひなたんせいじんさま』

ガルブはゆっくりとひなたん星人に歩み寄り、カンカンと鋼鉄の両手で拍手を送った。

ガルブ『はいしゃふっかつせん、さいごのひとわくは……あなたのものです』

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201 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:09:24.38 ID:I5SaAVfE0
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本戦会場。

J『ついに来たぞぉー!! 敗者復活はマーセナリー・東郷、RISA、カミカゼ、ひなたん星人の四人だぁぁあーー!!』

ウォォォォォォォォォォォォ...

実況Jのアナウンスに、観客席が沸き立つ。

亜里沙『ではでは、ここで既に本戦出場が決まっている八人の選手にお話を伺いましょう』

亜里沙がウサコにマイクを持たせ、選手達に近づいた。

亜里沙『まずはノーヴル・ディアブルちゃん。お友達二人が来られなくて残念だったわね』

ディアブル『ええ。でも、お二人のぶんまでわたくしが頑張りますわ』

ウサコ『気合入ってるウサー』

亜里沙『ナチュルマリンちゃんはどうかしら?』

マリン『……最初は、ずっと帰りたかったですけど……』

ウサコ『けど?』

マリン『ここまで来ちゃいましたし……ナチュルスターを代表して、もう優勝目指しちゃいますし……』

亜里沙『うん、頑張ってね』
202 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:10:08.02 ID:I5SaAVfE0
ウサコ『お次はラプターウサ。けっ』

ラプター『おいウサ公。……まあいい、誰が戻ってこようと、優勝は俺のモンだからな。誰にも渡しゃしねえ』

亜里沙『自信満々ね。次は中野有香ちゃん』

有香『押忍! 今回はカミカゼさんと戦いたくて参加したので、今から楽しみです!』

ウサコ『あ、熱いウサ……パーボ・レアルの方へ避難するウサ!』

レアル『ん、アタシの番か。まあ、管理局の看板に泥を塗るような真似だけはしないつもりだな』

亜里沙『責任重大、ね。続いて桜餡ちゃん』

桜餡『…………』

ウサコ『ウサ?』

桜餡『い、今になって緊張してきちゃって……あわわわ…………』

亜里沙『アガっちゃってるわね……次、ナチュラルラヴァースちゃん』

ナチュラル『あっ、はい』

ウサコ『勝ち進むとラビッツムーンとも戦うかも知れないけど、大丈夫ウサー?』

ナチュラル『うーん……そういえば、二人本気でぶつかったコトは無かったなあ……ちょっと楽しみかも?』

亜里沙『意外とノリノリみたいね』

ウサコ『あんなコト言ってるけど、ラビッツムーンはどうウサ?』

ラビッツ『そうですね、ナナも少し楽しみです! 何よりナナ、連覇かかってますから! 気合は充分ですよ!!』

亜里沙『おおっ、こっちも熱いわね!』
203 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:11:24.92 ID:I5SaAVfE0
J『では! 早速ですがトーナメント表の発表です! コンピューター抽選に敗者復活枠をシードで組み込み……こうなります!!』

Jが大仰な仕草でモニターを示すとモニターにトーナメント表が表示された。

ラビッツムーンvsノーヴル・ディアブル
→( )vsRISA

ナチュラルラヴァースvsラプター
→( )vsマーセナリー東郷

パーボ・レアルvs桜餡
→( )vsひなたん星人

ナチュルマリンvs中野有香
→( )vsカミカゼ

オオオォォォォォ...

表示されたトーナメント表に、会場が再び沸いた。

J『このようになりましたが、亜里沙先生。注目のカードはどちらでしょう?』

亜里沙『そうね……やっぱり前回王者のラビッツムーンちゃんに、初参戦のノーヴル・ディアブルちゃんがどう立ち向かうか、かしら?』

ウサコ『ウサコはナチュルマリンと有香の魔法少女vs空手家が気になるウサ!』

J『では、早速ですが選手の皆さんは控え室へ! 休憩を挟んだ後、一回戦を行います!!』

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――――
204 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:12:04.95 ID:I5SaAVfE0
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――――――――――――

会場の片隅。

??『……めがねが、いっぱいー……』

??『おだやかじゃないですねー』

??『もうすぐ、おおきな同士くるよー』

??『これ終わる時は、ヒーローたちいっぱい疲れてるよねー』

??『じゃあ、それまでまとー』

小さな黒い人影が、ひっそりと蠢いていた。

続く
205 : ◆3QM4YFmpGw [sage saga]:2015/05/23(土) 00:12:47.82 ID:I5SaAVfE0
イベント追加情報
・AHF、本選出場者12人決定!
・警備員仕事しろ

以上です
やっと予選書き終えたーん
学園祭三日目始まるまではこっちに専念しますう
206 : ◆q2aLTbrFLA [sage]:2015/05/23(土) 00:28:47.27 ID:8IarMM/o0
乙ー
ついにガチンコ対決が始まるんですね!いったい誰が優勝するのやら
そしてヤバい、眼鏡を守らなきゃ
207 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/05/23(土) 17:29:27.70 ID:3ZdYetJtO
乙ですー
あー!ってリアルでなりましたわ、盲点
予選乙ですよ、敗退しちゃった子達も頑張ったし
そして忍び寄る……いったい何カースなんだ…
208 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/05/23(土) 19:14:35.24 ID:GnqxDUN+o
>>205
おつー

これにて予選終了
いよいよトーナメント本戦が始まるということで
これからの展開に今まで以上にワクワクが高まりますな
209 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 01:33:43.86 ID:n0yFMG/N0
乙倉悠希と佐藤心投下しまーす。
GDFの設定お借りします。

書き溜めてた設定をいろいろ継ぎはぎにして一度作った設定を崩してまた作り直したから、ちょっといろいろと修正漏れがあるかもしれない。
あと、シュガハさんをうまく表現できなかったかもorz
210 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 01:38:37.30 ID:n0yFMG/N0
人通りの家が立ち並ぶ道を、一人の女性が走る。
いや、正確には逃げていると言った方がいいのだろう。
その後ろには、藍色の宝石に黒い泥のような体をした生物……通称、カースが追いかけていた。

『グルァァァ!!』

「はぁとは、おいしくなんか、はぁっ、ありませぇーん☆」

既に何キロ走ったかなど、彼女の頭の中にはない。ただ、人からなるべく遠ざけるように走り続けていた。

(くそっ、なんたってこんな町中に……っ! とにかくこいつらを引きはがさねぇと……っ!)

だが目の前に新たなカースが立ちふさがり、彼女……佐藤心の足を止めようとしていた。

『ネタマシイ……ネタマシイィィィ!!』

心「うぇえ、行き止まり!?はぁと、大ピーンチ☆って、ふざけてる場合じゃねぇ! どうするはぁと?このピンチを、切り抜けるにはぁ……」

そういうと心は、まるで右手に何かを持っていて、立ちふさがったカースを叩き斬るかのようなポーズをする。すると、その右手の中から剣の柄らしき物がでてきた。

心「必殺☆はぁと、スラーッシュ☆」

その柄をしっかり握ると、その右手を横一文字に振りぬく。

右手の柄の先には刀身が現れる、刀のようにも見える刀身は、前方に立ちふさがったカースを横に薙ぎ払う。といっても本物の刀ではなく、一般的にそれは模造刀と呼ばれる代物であったが、それでも前をどかすには十分だった。

『グギャアアアア!!』

斬りつけられたカースは不意の一撃をもらい、叫びをあげた。

最も、核に傷を付けられなかったため、怯むだけではあったが、怯んでいるすきにその脇を通って通り抜けることには成功した。

だが、通り抜けた先で――

心「ぬあっ!?」

心はつまづいて転んでしまった。

心「いつつ………」

そして立ち直ろうとして振り返ると、心の周りには先ほど追いかけてきたカースが取り囲んでいた。一体は獣型。もう一体は、先ほど斬りつけた人型。
その2体が、じりじりと心へと徐々に寄ってくる。

『……グルァァァ!!』

『ネタマシイ……ネタマシイィィィ!!』

心(こりゃ、やべえな……)

獣型のカースが駆け出し、その口を大きく開け、捕食しようとしたそのとき――

「……ぅゎぁぁぁあああああああ!!」

突如、空から何かが降ってきた。そして獣型のカースを上から見事に踏みつけるように着地した。
そして上から降ってきた何かは獣型のカースを踏みつけた後、地面を転がっていった。

心「………えっ?」

やがて電柱にぶつかって止まると、その何か……いや、少女は立ち上がった。

少女「ふぅ……グラップラーさんが言う受け身というのをやってみましたがっ……何か踏んづけちゃったのかうまくいきませんでしたっ……」

そういって、あたりを見回すと、その目線の先に心を見つける。

少女「あ、第一過去人?発見ですっ!こんにちはっ!!ユウキ・オトクラって言いますっ!」

心「………」

心は起こった状況について行けない。襲われて喰われると思った次の瞬間には、上から少女が降ってきて、獣型のカースを踏みつぶした。
既に獣型のカースは核をつぶされたのか、あるいは先ほどの衝撃で消し飛んだのか、付近に散らばった泥となっていた。

そして今はその少女に挨拶されている。
だが、徐々に頭の中で整理していって、その中でようやく絞り出された。

心「………は、はろ〜☆」

………絞り出された言葉がこれである。
211 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 01:43:02.11 ID:n0yFMG/N0
ユウキ「あれっ、シュガーハートさんっ!?」

心「!?」

そして帰ってきた答えに、心は驚愕した。

シュガーハートは佐藤心がGDFに所属していた時に使っていたコードネームである。市街地に爆弾が落とされて壊滅した事件をきっかけに抜けたが、それを知っているということは―――

心「あんた、GDF所属か?」

ユウキ「GDF?」

ユウキは首をかしげる。

ユウキ「GDFっていうのは……なんでしょうかっ?」

心「あー、そっちの方じゃなかったか☆ じゃあ、どこの――」

『オレヲムシスンジャネェ!!』

心「っと、その話は後だ。まずはここを離れようぜ☆」

ユウキ「ええっとっ、あの人は誰なんでしょうかっ!?」

心「あれは人じゃねぇ、カースだ」

ユウキ「カースっ?」

心「知らねぇのかよっ☆」

『クソガァァァ!!』

耐えかねたカースがユウキ達に襲い掛かる。

ユウキ「はいっ、知りませんけどっ――」

ユウキは腰につけていたハンドガンらしきものを取り出し、

ユウキ「危険だっていうのはわかりましたっ!!」

銃口をカースに向け、引き金を引き絞った。

銃口から1本の青い雷光が迸る。それがカースに当たると、その体に電流が流れ、核を砕いた。

心「お、おおぉ……」

ユウキ「あ、あれっ?加減を間違えましたっ!?」

心「いや、それで大丈夫だ」

核を砕かれたカースは泥となって消滅し、悠貴と心の二人だけになった。

心「助かった。 礼を言うぜ♪」

ユウキ「いえいえっ、それほどでもっ!」

心「しかし、こんな少女がなんでそんなものを……あ、いや、話は後だ。今はこの場を離れよう☆」
212 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 01:44:21.74 ID:n0yFMG/N0
――とある喫茶店にて

心「やっと落ち着いて話せるぜ……よっこらせ☆」

心が席に座るのを見て悠貴も座り……

ユウキ「ええっとっ、メニューはっ……」

心「早速食べる気満々かよ☆」

ユウキ「私の友達が言ってましたっ。腹が減っては戦はできませんってっ!!」

心「いや、ちょっとは遠慮しろよ☆」

とはいえ……と、心は前置きして問う。

心「まあ、さっき助けてもらってなんだが、お前は何者だ?」

ユウキ「私ですかっ? 私はユウキ・オトクラって言いますっ!」

心「いや、名前はさっき聞いたから☆」

ユウキ「あ、そうでしたっ!」

心「それじゃあ、どこから来たんだ?」

ユウキ「ええっとっ、空から落ちてきましたっ」

心「いや、なんで空から落ちてきたんだよ☆」

ユウキ「わかりませんっ。過去にタイムスリップしたら、いきなり空でしたっ!!」

心「お、おう……って、タイムスリップ?」

ユウキ「はいっ。私はこの世界の未来からやってきましたっ!!」

心「ってことは、未来人ってやつなのか?」

ユウキ「そうなりますねっ。 詳しいことはこのカードに書かれていますっ。」

ユウキはたすきがけのバッグから、一枚のカードを取り出す。

心「なになに……」

カードには左側に写真が貼ってあり、右側にはこう書かれていた。


Name:ユウキ・オトクラ
Tribe:人型自律ロボット
CLASS:メッセンジャー
ギャラクシアンメイルサービス地球支部所属
213 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 01:45:50.41 ID:n0yFMG/N0
心「……こんな少女がロボット?」

ユウキ「はいっ。私は手紙配達用に生み出された、自立行動型の有機ロボットですっ!」

心「……ちょっと触ってみてもいいか?」

ユウキが肯定すると、心はユウキの手を触る。

心「……ロボットにしちゃ感触もやわらかいし、温かみもあるな」

ユウキ「はいっ。なんでも優しい人間らしさを演出するためらしいですっ!」

「ユウキ・オトクラっていう名前も、人間らしさを演出するための、いわば愛称っていうものですっていってましたっ!」

……未来の技術って、すごいなと心は感心する。

ここまで精巧に人間を真似られると、もはや人間とロボットの区別がつかない。

心「それじゃあ、今までの行動も、その『っ』が多いのも、その演出っていうやつなのか?」

ユウキ「いえっ、これは何といいますかっ……」

「普通の有機ロボットは擬似的な感情を持ってはいてもっ、それはあくまでも演出なんですっ」

「たとえばさっき、座った後に早速メニューを広げようとしましたけどっ」

「普通は遠慮しますっ。お金も持っていませんしっ。」

心「そうなのか……って、てめぇ分かってて勝手に奢らせようとしてたな☆」

ユウキ「てへっ」

心「てへっ、じゃねーよ☆
まあ、ユウキの素性はわかったが、なんで未来からこんな時代に来たんだ?」

ユウキ「それは勿論っ、配達の仕事があったからですっ! えっと、この手紙ですね。」

ユウキはそういうと、バッグから青色の1枚の手紙を出した。

ユウキ「差出人はシュガーハートさん。宛先はユウキ・オトクラ……私ですねっ」

心「えっ、未来にもあたしがいるのか?」

ユウキ「えっ?」

心「えっ?」

ユウキ「えっと、シュガーハートさん、じゃないのですか?」

心「……あー、なんだ? たぶんあたしはユウキが知っているシュガーハートっていう人じゃねぇ☆」

ユウキ「ええっとっ、それじゃあ誰なんでしょうかっ?」

心「佐藤心。それがあたしの名前だぜ☆
とはいえ、佐藤は普通すぎて嫌だし、心(しん)は男の名前っぽく聞こえるから、はぁとってよんでね☆」

ユウキ「えっ、それはなんか名前かぶっちゃって――」

心「呼べっ☆」

ユウキ「は、はいっ」
214 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 01:47:29.29 ID:n0yFMG/N0
店員「ご注文繰り返しまーす。桃色ハピハピジュースと100%野菜ジュース。以上でよろしいでしょうか?」

心「はい。よろしくお願いします☆」

店員「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」

店員は注文を取ると、カウンターの奥へ行く。

心「それでさっきの手紙についてなんだが、その手紙の内容をあたしが知るってことは無理なのか?」

ユウキ「プライベートなものなので、宛先人の許しがない限りは見ちゃいけませんっ」

心「えーっとじゃあ、ユウキちゃんの許しをもらえば見てもいいのか?見せろ☆」

ユウキ「はいっ。 あっ、でも往復手紙なので汚さないでくださいねっ?」

心はユウキから手紙を受け取る。その内容を読もうとするが……

心「……読めん☆」

ユウキ「あっ、じゃあ読みますよっ?」

かなり長ったらしく書いてあったが、そこに書いてあった内容を要約するとこうだ。


・未来において、何らかの驚異が迫っているということ。
・それは未来世界の技術では対抗できないということ。
・過去の世界(つまり現在)には、強力な能力が多くあったということ。
・そこで、『ラーニング』という能力を持ったユウキを過去に送り出したこと。
・『ラーニング』の能力でもって、能力の補完をおこなって未来に戻ることが、ユウキに課せられた第一の任務であること。


心(能力持ち、か。『ラーニング』っていうことは、戦闘に直接関わる能力とは思えねぇが……。)

店員「お待たせしました。こちら桃色ハピハピジュースと100%野菜ジュースになります。」

ユウキ「ありがとうございますっ!」

店員「ごゆっくりどうぞ!」

心(……しかし、未来か。 正直、今が一番大変だと思うんだけどな。
どう転ぶかわかんねぇから、あんまり間に受けない方がいいかもしれねぇな。)

心「……2つ、質問いいか?」

ユウキ「はいっ、なんでしょうっ?」

心「まずその『ラーニング』っていうのはなんだ?」

ユウキ「そうですねっ。心さんは何か能力を持ってますかっ?」

心「……そうだな。あんまり見せびらかしたくなかったんだが……。」

心はそういって手のひらを見せると、急に手のひらから、先端がハートの形をした杖が飛び出した。

ユウキ「わっ!いきなり出てきましたっ!」

心「それだけじゃないんだぜ☆」

そういって手のひらを閉じると、出した杖が姿を消す。

心「これがあたしの能力、『アイテムボックス』だぜ☆」
215 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 01:49:30.76 ID:n0yFMG/N0
心はGDFに所属していた。

GDFというのは『能力持ち』の力を借りずに対抗するための組織だ。

それ故に、本来は能力を持った人は所属していないはずだった。

だが、彼女は親しい友人をカースに殺され、それに復讐したくて入隊した。

しかし、入隊して兵士として活動している最中に、『アイテムボックス』の能力に目覚めてしまった。

当然、能力を隠し切ることはできず、何人かの隊員にはばれてしまった。

幸い、現場においては能力持ちだとかどうとかは関係なかった。

『アイテムボックス』という便利な能力を持った彼女は、現場の隊員には歓迎された。

それも、今となっては昔の話であるが。


ユウキ「すごいですっ!アイテムも何もなしでできるなんてっ!」

心「慣れれば、こういうこともできるぜ☆」

そういって立ち上がると、心が来ていた服が光る。そして形状が変化し、光が消えると先ほどとは違ってとてもフリフリな衣装が現れた。

ユウキ「ふっ、服が変化しましたっ!?」

心「まあ、能力で服を着替えるのは調節が難しいから、あんまりしたくねぇけどな☆」

心はそういうと、能力で元の服に着替える。

ユウキ「あっ、でもっ、今のでどういう能力か『覚えました』!」

心「えっ?」

ユウキはおもむろにおいてあった野菜ジュースが入ったコップを手に取る。そして、

ユウキ「『アイテムボックス』っ!」

ユウキがそう叫ぶと、手に持ったコップが中身の野菜ジュースごと消えた。
216 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 01:50:49.23 ID:n0yFMG/N0
心「なっ!?」

ユウキ「『アイテムボックス』っ!」

そして再びその能力の名前を叫ぶと、先ほど消えた野菜ジュース入りのコップが現れた。

ユウキ「私は相手の能力を『覚えられる』んですっ!」

ユウキの能力は『見た相手の能力を覚え、それを自分の能力として使える』能力であった。
その能力を覚える、あるいは使うのに何らかの制約はあるかもしれないが。

心「……すげぇな。」

この能力、どのようにも変化してしまう。
間違った使い方をすれば、ともすれば世界の脅威にもなり得る能力である。
……誰かがユウキを正しく導くよう、見守る必要があるだろう。
まったく未来の人々も、厄介なものを過去に、しかも一人で飛ばしたものだ。と心は思う。

ユウキ「?? どうしましたかっ?」

心「いや、この能力はあたしだけしか使えなかったのに、もう一人現れたって思うと……な」

ユウキ「!? ご、ごめんなさいっ!!」

心「いや、大丈夫だぜ☆ どうせ大した能力でもねーしなっ☆だが、人前でそんなの見せるのはよしておいた方がいい。悪いやつらがお前を狙ってくるぞ♪」

ユウキ「は、はいっ。わかりましたっ!」

心「ところでもう一つなんだが、このギルドカード?っていうのに乗ってる『メッセンジャー』っていうのはなんだ?」

ユウキ「それが私の職業なんですっ! 私は元々手紙を届けるロボットだったんですっ!」

心「ああ、だから手紙がどうとか言ってたのか。」

ユウキ「はいっ。それが私の職業ですのでっ!」

要は、肩書みたいなものだろうか?
にしては、ずいぶんと大事にしているような……ワーカーホリックだろうか?

心「まあ、要は未来の世界でメッセンジャーという職業で働いていたけども、『ラーニング』っていう能力を得て、そのうえでこの世界の能力が必要になったっていう訳か……ん?」

その時、心にある考えが浮かんだ。

心「……ユウキちゃん?」

ユウキ「はいっ、なんでしょうかっ?」

心「ユウキちゃんはここに来たばっかだよな? でもって、未来では手紙を配達していたと……。」

先ほども言ったが、心はGDFに所属していた。
しかし、現在はそのGDFからは脱退している。
つまり、現在の彼女は……

心「じゃあ、あたしと一緒に手紙の配達やらないか?ってか、やろう☆」

食い扶持を探していた。
217 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 01:54:17.47 ID:n0yFMG/N0
それから何日か経ったある日。

ユウキ「ただいま戻りましたっ!」

心「お帰り〜。報酬はもらってきたか?」

ユウキ「はいっ!今日はこのぐらいですっ!」

心「どれどれ……。」

心とユウキはどんな場所でも配達できるという触れ込みで『ハートメールサービス』というのを始めた。
最初は『どんな場所でも』という触れ込みにするつもりはなかったのだが、ユウキ自身が
「私はたとえ洪水が起こって水没しそうな街であっても配達できますっ!」
と言ったので、どこでも配達できるという触れ込みにした。

心(それ以上にユウキちゃん、今日も配達するのが速いわ……。隣街への往復なのに1時間くらいしか経ってねぇ。)

ユウキにはまだ、隠された能力というものがあるのかもしれない。
ともあれ、目下心配すべき点はそんなところではなく……

心「……まあ、こんなもんか。 GDFにいたころの給料と比べちゃいけねぇわな☆」

仕事として数をこなそうとも、まったく入ってこない収入であった。

ユウキ「私の世界ではメッセンジャーはほとんど慈善事業でしたしねっ」

心「よくよく考えれば、手紙を渡すぐらいでお金になるとは思えないぜ☆」

今のところはユウキは手紙の配達に専念しているが、心は会計などをしつつ、副業でアルバイトなどをしている有様だ。

心「っと、ほいっ☆先ほど受け取った次の配達先だぜ♪」

ユウキ「うむっ、緊急連絡ですねっ!」

心「今度の配達先は能力者だ。それなりに信頼できるやつだから、頼み込んで『ラーニング』してきたらいいんじゃないか?」

ユウキ「そうですねっ、頼んでみますっ! ではっ、いってきますっ!!」

そういって、玄関のドアを開けるユウキ。

ふと、こちらにタイムスリップしてきたときに、最後に交わした言葉を思い出す。

『……もし、過去の世界が好きになったのなら、戻ってこなくてもいいんだぞ。
別にお前は野菜ジュースだけでも生きられる体だし、……戻ってもそのあとは辛いだけなのかもしれないからな。』

そしてユウキに背を向け、こうつぶやいた。

『ユウキが最後に見るのは、世界の再誕かそれとも破滅か……
いずれにしても、こんな小さな背中にこの世界の未来を任せざるを得ないとは……。』

これはどういう意味なのだろうかと、彼女は考え――


!CAUTION:DEVIANCE PLEDGE!
この思考は職業(クラス)『メッセンジャー』の行動規範を逸脱する可能性があります。
直ちに話題の切り替えを提案いたします。


ユウキ(――そうですねっ。難しいことはよくわかりませんっ!)

深く考えようとしなかった。

ユウキは今日も手紙の配達をしながら、能力者を探している。
218 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 01:56:47.31 ID:n0yFMG/N0
<おまけ>

ユウキ「そういえばはぁとさんっ、あの早着替えを私もやってみたいですっ!」

心「ん、ちょうど手紙配達用の衣装も完成したし、やってみようか♪」

そういってユウキに差し出した衣装は、赤を基調として可愛らしく仕上がっていた。
赤いキャスケット帽、襟のついた服、チェック柄のスカートからブーツまでは黒タイツ。
赤もきつい赤ではなく、橙にちょっと寄った感じの色。
露出が少なく、清楚な感じを受けながらも、元気があり可愛らしい感じに仕上がっていた。

ユウキ「わぁっ、ありがとうございますっ!早速やってみますっ!」

そういってユウキは『アイテムボックス』の中に貰った服をしまう。

ユウキ「いきますっ!『アイテムボックス』っ!!」

そういって、ユウキの服が光りだす。
ここで、本当であればさっきしまった服に変わるはずだったが……。

心「……ぉぅ☆」

ユウキ「あっ、あれっ!? ひゃあああああっ!?」

ユウキは一糸纏わぬ姿となっていた。

心「いやぁ、まさかユウキにそんな趣味があっただなんて☆」

ユウキ「そんな趣味はありませんからっ!!うむっ、緊急事態ですよっ、これはっ!!」

心「しかしまあ、まじまじとみると、本当に人間の少女みたいだな☆」

ユウキ「観察してないでっ、早く何とかしてくださーいっ!」

心「そっか♪ユウキちゃん、もう一回アイテムボックスって唱えて服を着てみ?」

ユウキ「あ、あっ、『アイテムボックス』っ!!」

今度はユウキの体の周りに光が灯り、さっき貰った服が現れた。

心「うーん、どうやらユウキちゃんのアイテムボックスは一々言わないと発動しないから、早着替えは無理だぜ☆」

ユウキ「そ、そうなのですかっ……って、なんで下着まで脱げたのでしょうっ!?」

心「さあ、それはわからないんだぜ♪」
219 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 01:59:44.59 ID:n0yFMG/N0
ユウキ・オトクラ

職業
 メッセンジャー

属性(ヒーローor悪役など)
 人型自律ロボット(感情持ち)

能力

『ラーニング』
相手の能力を自分の能力として習得することが出来る。
ただし相手の能力の名前と効果について理解していなければならず、その効果を一度見たり、体感したりする必要がある。
効果は体感頼りのために、時には何か足りなかったり、間違った認識で能力を覚えることがある。
ラーニングできる数に制限はないため、実質彼女が記憶している限りには使用可能。
ただし、使用する際は能力の名前を叫ぶ必要がある。
能力を使う際には、その能力をイメージできるアイテムが必要になる場合もある。
覚えた能力を使いこなすには相応の熟練が必要となる。
一度ラーニングした能力を何らかの原因で失くしてしまった場合、二度と取り戻すことが出来ない。

●現在持っている能力
・アイテムボックス
佐藤心の能力。空間を召喚しアイテムを収納、およびアイテムを取り出すことができる。空間を召喚できる範囲は自分の体が触れられる範囲までとなる。
彼女の認識では部屋一つ分くらいは入るという認識でいる。
大きいものや、大量のものを出し入れするのには時間がかかる。
収納、取出の動作で能力名を叫ばないといけないので、早着替えなどはできない。


詳細説明
空から突然やってきた女の子。
この世界の未来のロボットと自称しており、未来の世界を救うためにやってきたと言う。
元の世界でもやっていた郵便配達をしながら、『ラーニング』で能力を覚えるべく活動をする。
戦闘時には、アイテムボックスの中にある支給された装備と『ラーニング』で覚えた能力を使う。

元々は郵便配達専用の人型自立ロボットとして開発されており、主に辺境地での手紙の配達を行っていた。
だが、そうした活動をしていくうちに『感情』というものが芽生え、それに伴って何故か『能力』も得た。
その『能力』でもって、この世界ユニークな能力を集め、自分の世界に持ち帰るのが彼女の目的。

もっとも、感情を得たはいいが、未来世界の住民は誰も彼も変人揃いであるようで……。

関連アイドル
* 佐藤 心(ハートメールサービスの事務担当。未来世界で同じ姿の人間がいる?)
220 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 02:01:40.08 ID:n0yFMG/N0
佐藤 心

職業
 元GDF隊員

属性(ヒーローor悪役など)
 人間

能力
『アイテムボックス』
佐藤心の能力。空間を召喚し、物を出し入れすることが出来る。空間を出せる範囲は自身の手が届く範囲のみ。
入れるときは空間を呼び出してアイテムを入れることで収納でき、取り出すときは頭で何を出すかをイメージして取り出す。
そのため、何を入れてたかを忘れると、そのアイテムがずっと取り出せないままになる。
また、中は真空に等しいため、人間などの生物を入れるのには向かない。

詳細説明
元GDFの隊員で、パッションチームの後方支援を担当していた。
実は入隊してから能力に目覚めたが、それを隠していた。
現場の人には度々バレてはいたが、能力が便利だったため歓迎された。
その際、現場の人の協力により、能力の隠蔽工作を手伝ってもらっている。
また、彼女自身もそれなりに貢献をしている。

市街地空爆の件でGDFをやめた後は、アルバイトをしている。
その後、ユウキ・オトクラと出会い、共同でハートメールサービスを運営している。
衣装を作るのが趣味で、GDF時代には作った衣装でドレスアップして隊員を盛り上げたり、ユウキ・オトクラに衣装を作ってあげたりしている。
元GDF時代の名残か、街中でカースなどを見かけたときは、市民の安全を守ろうと敵を誘導していたりしていた。
冒頭で走って逃げていた原因はこれである。

関連アイドル

・ユウキ・オトクラ(ハートメールサービスの実務担当)

関連設定

・GDF(元隊員)
221 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/05/27(水) 02:13:03.23 ID:n0yFMG/N0
以上、投下終了です。こ、こんなのでどうでしょうか!?
使ってくれればありがたいかなぁって思います。

一応、未来世界とか書いてありますが、現状の延長線上でたどり着く可能性の一つって感じなので、実質別世界って言った方がいいのかも。
あと、未来の世界は何かが一周まわってファンタジー世界になっていますので、もはや別世界なのかも。(平行世界っていうのとはちょっと違うけども。)

一応、設定やおまけその2とかはあるけども、これはどこで出そうかなぁ……。

あと、キャラとしては登場してはいるけど、最近登場してなかったり、あんまり活躍できないキャラとかどこかにいないかなー
能力を授けに夢の中に現れたりっていうのも考えたりしたので(最近のをまだ読めてないからわからないけど、千枝ちゃんとかどうなってます?)
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/27(水) 11:33:07.59 ID:On0Z5selo
乙乙。悠貴ちゃんポストガールなのか
223 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/05/27(水) 16:21:54.54 ID:Ze1CP4EJ0
おつです!コンゴトモヨロシク
未来世界はいくつあってもおかしくないしね、ラーニングもいろいろ楽しそう

相談事は作者用掲示板にして頂いてもよろしいのですぞー
224 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/05/27(水) 18:53:54.02 ID:SzlCF6fDo
>>221
おつー
ありそうで無かったラーニング能力!
使い勝手が良さそうで妄想の幅が広がる


>あと、シュガハさんをうまく表現できなかったかもorz

確かに口調に違和感があったような……
と言っても、俺もあまりしゅがはさんの事は知らないんだけどね☆
多分だけど「だぜ」口調は使わないんじゃないかなぁ、なんて


>千枝ちゃんとかどうなってます?

とりあえず『プロダクション』に居る感じかな
ちなみに今後どうこうする予定とかは個人的には無いです
225 : ◆3QM4YFmpGw [sage]:2015/05/27(水) 19:10:33.52 ID:QwguSgyT0
乙乙ー
また興味深い人達がやってきたもんだ、期待

口調?
自分もよしのんやふじりなの口調を完全に把握してるわけじゃないしへーきへーき(目逸らし)
226 : ◆C/mAAfbFZM [sage]:2015/06/03(水) 13:10:44.10 ID:N6VQhNoAO
すみませんwiki内の掲示板がどうやらサービスが終了したみたいで現在繋がっておりません……
どなたか新しい掲示板をレンタルしてくださるとよろしいのですが……
……いなかったら自分がレンタルした方がいいかな?
227 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/06/03(水) 16:15:32.26 ID:Xf47ofR50
あれサービス終了だったのか…いつか直る系のものだとばかり…そうすると過去のボツネタとか惜しい物をなくした感が(´・ω・`)
レンタルに関してはお願いしたいトコロ
228 : ◆3QM4YFmpGw [sage]:2015/06/03(水) 16:32:11.99 ID:yI3dpqwFO
なん…だと…
自分もてっきり不具合の類かと…
レンタルに関しては仕様が分からないので同じく分かる方にお願いしたいです
229 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/06/03(水) 16:58:20.49 ID:C/Wy97r80
ああ、なるほど。サービス終了しちゃったんですか。
自分が設定したキャラに関しての相談しようと思ってたら、つながらなくて困ってましたw
(特に確認不足のための驚きの設定かぶりとか。これは未来がヤバいw)

レンタルは私もわかりませんので、誰かよろしくお願いします。
230 : ◆q2aLTbrFLA [sage]:2015/06/03(水) 17:47:42.05 ID:lHOp4Nsu0
過去のネタとかサルベージできればいいですね・・・

自分も無理っす。お願いしたいっす。
231 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/06/03(水) 18:40:01.20 ID:9HmjksPko
これは……面倒なことになった……

とりあえず立候補がいないようなので、俺が適当に建ててきますよー
……レンタルに関しては、同じくあまり詳しくないので不備があったらごめんね☆

あと過去ログは全部取ってあるので、datファイルで公開とかならできるかも
232 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/06/03(水) 18:51:44.34 ID:9HmjksPko
建てたよー

【避難所】 モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17188/
233 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/06/03(水) 19:20:14.49 ID:9HmjksPko
主要なスレも建てておきました
しかし管理人って色々な事ができるのねぇ
何か要望とかがあれば、応えられる範囲で善処しますぞー

編集相談・要望スレ (実質)その2
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17188/1433326025/

書き手用・雑談スレ (実質)Part9
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17188/1433325695/

メタネタ・没ネタ 投下用スレ (実質)その7
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17188/1433325235/
234 : ◆C/mAAfbFZM [sage]:2015/06/03(水) 19:54:57.84 ID:N6VQhNoAO
>>232
乙!
掲示板新設ありがとうございます
……最近顔見せなくてすみませんね……
235 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/06/03(水) 20:54:16.85 ID:Xf47ofR50
乙です!
過去ログ保管とかも…つよい…あこがれる…
236 : ◆3QM4YFmpGw [sage]:2015/06/04(木) 02:08:52.83 ID:LdGO+dmM0
>>232
乙したー
ありがたやありがたや
237 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/06/05(金) 19:31:46.65 ID:j2HcKIIs0
ええっと、桐生つかささんを予約します。
次話では名前しか出てきませんが、その次で出てきますので。
@2くらい予約するかも。
238 : ◆R/5y8AboOk [sage]:2015/06/05(金) 20:03:08.02 ID:zJMRp7WH0
む、桐生チャンだって?
まあ早い者勝ちか(シナリオ修正を始める音)
239 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/06/06(土) 09:58:04.67 ID:zNNpI8gJ0
あ、先に何か考えてあるのであれば、そちらを優先して構わないです。
次出すのはあくまでも名前だけなので、こちらで考えてる設定まだ何にもないんです。
240 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/06/06(土) 18:20:16.10 ID:zNNpI8gJ0
すいません。修正始めちゃったところ悪いのですが、桐生つかささんの予約を取り消します。
書いた話を見直したいと思ったので……。
◆R/5y8AboOkさん、申し訳ないです。
241 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/06/13(土) 20:25:23.76 ID:NMfMXiSKo
トリ検索したところなんとpart12に書き込むのは自分初めてのようで…いかんよこれは……
話を書けて無くても、せめて感想のほどをと


>>144
おおおう……(リアルにこんな声出た)
いきなりヤバい人が登場してるじゃないですか
こんなの飼ってるイルミナティマジヤバ組織ですね、えげつねえです
アーニャちゃんの中にもなんだかよくわからないのがいるみたいですし…
シェアワ名物、不穏の嵐ですね

>>164
隊長が思ってたより物分りのいい人で安心した
エマのおかげで海底人との和解も早そうだし
着々と平和に近づいてるようで何よりです(最後の(不穏)から目を反らしつつ)

>>182
大物ポジながらどこか良い意味で凄みを感じさせない安心感がありましてー
隠居した悪魔とのんびりしたよしのんのお姿は和みを感じさせますね

>>205
ぃやったぁあああああああ!!!!!(大喜び)

……こほん、ひなたん星人滑り込みですね
ああ、なるほど最後のはそこにあったのか
しかし……集まってるヒーローの戦力的にいくら疲労してても…
侵入者達がどうにかできるビジョンが見えぬ……逃げよう、謎のカース達

>>221
新人さんおいでませー
オトクラちゃんはシェアワでも素直良い子可愛くて、見ていてついニコニコしてしまう、うふふ
心さんの口調は確かにちょっと違和感あったけど、
ノリもやり取りも楽しく、能力も面白いのでこれからも書いてくれると嬉しいです
あまり出てきてない子達が活躍できるならより一層と嬉しく

>>232
向こうでも言いましたが、こちらでも新設乙です


皆様乙でしてー
242 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/06/14(日) 19:58:26.24 ID:7LfOJCc80
今更だけど、返しです。

>>222
そうです。ポストガールですよー。

>>223
相談は大事ですよね……
ええ、ちょっと痛感しましたorz

>>224
実は後でチェックしたら、同じような能力ありましたorz
ただ、これはこれで面白そうなので、あえてこのままでw

>>225
ソ、ソウデスヨネーアハハー(目そらし


で、連投になってしまうのですが、投下します。
千枝ちゃんお借りしますー(先週だけど誕生日おめでとー。)
あと、プロダクションとピィさんを名前だけですけどお借りします。

時系列とかは深く考えてはないですorz
243 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/06/14(日) 20:02:20.01 ID:7LfOJCc80
ユウキ「ありがとうございましたっ!今後ともハートメールサービスをよろしくお願いしますっ!」

そういって、私は今回の配達を終わらせました。

しかし、私は不満でした。

ユウキ「うーん……なんだか手紙はおまけで、荷物を渡すことが多くなってる気がっ……」

それもそのはず。

この世界において、手紙という連絡手段はもはや電子メールといったものに取って代わられているようです。それもずいぶん前に。

今はSNSというサービスなどで連絡を取り合うことも流行っているらしいです。

今更、手紙を書いて送ろうという人など、正月などの特別な行事でもなければ、ただの物好きがやることのようでした。


私がいた未来では、手紙は人々の癒しみたいなものでした。

未来にも、今の時代での電子メールのような通信手段はありました。

しかし、度重なる星間戦争もあり、高度に発達した技術による弊害もありで、人々はいつしかコミュニケーションに餓えていたようです。

そこに目を付けた、当時、行政機関をも務めるコングロマリットとなった会社が、自社で開発した旧技術である建築用ナノマシンを発展させて生体を作り、

人型自律機動が可能な人型生体ロボットとして様々なサービスを始めたところ、いつしか全宇宙に広まるほどの人気になったそうです。

私が行っていた郵便事業もその一環であり、私もその事業を遂行するために作られました。


そんな背景があれど、過去のこの世界においては古臭い事業であるようです。

実際、体裁として手紙を渡しているが大抵が納品書であり、荷物を送ることがメインとなっていました。

アイテムボックスの能力がなければ仕事なんて来なかっただろうと思います。

なぜか……悲しくなってきましたっ……

これが、時代の流れというものでしょうか。

……本来、この言葉は何か使い方が間違っている思うのですがっ!
244 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/06/14(日) 20:03:53.27 ID:7LfOJCc80
現在、昼の12:00くらい。手持ちの手紙はもうありません。

さと……はぁとさんはバイト中ですから、家に帰っても誰もいません。

私は途方に暮れていました。

ユウキ「はぁ……生き辛い世の中ですね……」

いえ、別に生き辛くなんかはありません。

私の能力でコピーしたアイテムボックスは、能力名をいわないと発動しないものの、持ち運べる物の大きさや重さに関係なく運べます。

さらに言えば、能力以外にも私のメッセンジャーとしての役割<ロール>を使えば……

いえ、これは大事にしましょう。今はポイントを貯めなおすのが難しいです。

つまるところ、変なこだわりを捨てればこの世の中でも食いつなぐことはできます。


しかし、それでは私が納得しません……。

私は手紙を渡すために作られました、大きな荷物を運ぶために作られたのではありません。

思わずため息も出ます。立ってるのも辛いので、公園のベンチに座ります。

ユウキ・少女「「はぁ……」」

ユウキ・少女「「……あれ?」」

今気づきましたが、隣に誰か座ってました。

ユウキ「ええっと……こんにちは?」

少女「あ、はい……こんにちは。」

ユウキ「あなたも何かお悩みですか?」

少女「はい……」

ユウキ「一緒ですね……私もお悩みです……」

ユウキ・少女「「はぁ……」」

こんな小さな子でも悩みがあるんですね。人生ままなりませんねっ。

でも、それなら――

少女「………」

ユウキ「……あのっ」

少女「はい?」

ユウキ「よろしければ、お互いの悩みをここで相談しあいませんか?」

少女「……(こくり」
245 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/06/14(日) 20:05:54.72 ID:7LfOJCc80
こうして、お互いの悩みを打ち明けることにしました。

少女の名は佐々木千枝。この近所に住む少女だそうです。

ユウキ「で、なんで千枝ちゃんはここで悩んでいたのでしょうかっ?」

千枝「……実は、好きな人がいるんです」

ユウキ「好きな人、ですかっ」

千枝「はい……なんか、目が輝いていませんか?」

それはまあ、私も恋バナ好きですし……という言葉はぐっと抑えて……

ユウキ「き、気のせいですよっ」

千枝「は、はぁ。 それで、その人に私の想いを伝えようとは思っているのですけど、なかなか伝えられなくて……」

なるほど……想いを伝えるのって大変ですからね。

私がいた未来でもなかなか自分が想っていたことを伝えられないまま、別れてしまった人もいました。

それにいつまでも伝えられない想いほど、辛いものはありません。


ここは……メッセンジャーとして、何かアドバイスしてあげないとっ

ユウキ「なるほどっ。 うーん……根本的な解決になるかはわかりませんが、一度その想いを手紙にしてみればどうでしょうか?」

千枝「手紙……ですか?」

ユウキ「はいっ。 書いてみることで、気持ちの整理もつくかもしれませんっ」

ユウキ「ここに紙と鉛筆がありますので、ここは一つ書いてみませんか?」

千枝「な、なるほど……書いてみます」

そういって、千枝ちゃんは手紙を書き始めました。

最初はかなり悩んでいましたが、ちょっと書き始めるとすらすらと書いていきました。

が、最後の方になっていくにつれて顔がしだいに赤くなっていきました。

でも、頑張って最後まで書き終えたようです。

千枝「で、できました!!」

ユウキ「できましたねっ!すっきりしましたか?」

千枝「はい! なんだかすがすがしい気分です!」

ユウキ「ちなみにどんなこと書きましたかっ!?」

千枝「ええっ!? えっと……それは……」

ユウキ「ああいえっ、無理して答えなくてもいいですよっ!?」

千枝「い、いえ、ここで答えなかったらおにいさんの前でも言えないと思うから……読みますっ!!」

千枝ちゃんは顔を真っ赤にしながらも、勇気を振り絞って読み始めました。
246 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/06/14(日) 20:07:24.28 ID:7LfOJCc80
ピィおにいさんへ

お元気ですか?
かぜを引いたりはしていませんか?無理はしていませんか?
いつもプロダクションのみんなのためにお仕事がんばっていると、ちひろさんから聞きます。
みんなのためにがんばっているおにいさんが、私は大好きです。
またプロダクションのみんなと遊びたいです。

思えば、おにいさんは昔からよく遊びに来てくれました。
いっしょにごはん食べたりもしました。
私がプレゼントをもらって喜んだときは、おにいさんは微笑んでいました。
友達とけんかしちゃったときは、いっしょに怒ってくれました。
千枝が泣いたときは、泣き止むまでいっしょにいてくれました。
おにいさんといっしょに遊園地にいったときは、とても楽しかったです。

そんなおにいさんが私は大好きです。
プロダクションのみんなも、そんなピィさんが大好きなのだと思います。

今まで、おにいさんからは私のことを妹のように接してもらえました。
それはうれしいことでもあり、仕方のないことでもあります。
私は子供で、おにいさんは大人だから。
でも、たった一日でも、わがままを言ってもいいのなら――


千枝「わたっ私をっ……千枝をっ……千枝をっ……」プシュー

ユウキ「が、頑張ってっ! 千枝ちゃんっ!!」

千枝ちゃん、顔真っ赤にしながらも頑張って読んでいます。

がんばれっ、千枝ちゃんっ!!

千枝「……う、」

ユウキ「う?」

千枝「わぁぁあああっ!!」クシャッ

ユウキ「あぁーっ!?」

なんということでしょう。 千枝ちゃんは自分で書いた手紙をくしゃくしゃにしてしまいました……

千枝「うう……こんなのじゃ、本番でうまくいくかわかりません……」

ユウキ「大丈夫ですよっ!練習すればきっとうまくいきますっ!!」

千枝「そ、そうですか……?」

ユウキ「はいっ! おにいさんが好きだっていう気持ち、私にも伝わってきましたからっ!」

千枝「そうですか……千枝、が、がんばりますっ!」

ユウキ「その意気ですっ!」

私はそんな千枝ちゃんを応援したいと思っていますっ。
247 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/06/14(日) 20:08:30.74 ID:7LfOJCc80
千枝「ところで、ユウキさんの悩みってなんですか?」

ユウキ「私は……手紙を送るっていう人が見当たらなくて……」

ユウキ「でも、荷物を送りたいっていう人はいっぱいいて……」

ユウキ「そのせいで、なんだか最近は『メッセンジャー』っていうよりも『ポーター』と言った方がいい気がしてきました……」

千枝「そ、そうなんですか……あっ、それなら私が手紙を送りたいです!」

ユウキ「ほ、本当ですかっ!?」

千枝「ええっと、でも、送りたい相手の名前とか住所とかわからなくて……」

ユウキ「いえいえっ、ちょっと時間がかかりますが、探せばいいんですっ!」

千枝「それどころか、なんだか記憶がふわふわしてて……」

ユウキ「そうですね……もし、特徴とかあったら教えていただけますか?」

千枝「ええっと……すっごく大きくて……かわいい衣装を着てて……自分のことをきらりって言っていたような気がします……」

私はすかさず、そのキーワードを書き残します。

ユウキ「ふむふむなるほどっ わかりましたっ!」

ユウキ「いつ届けられるかはわかりませんけど、必ず届けますからねっ!」

千枝「はい、お願いします。 それじゃあ急いで書きます。」

ユウキ「わかりましたっ」


この後、千枝ちゃんといろんな話をしました。

千枝ちゃんは千枝ちゃんのおにいさんのこと、そして千枝ちゃんの思い出話を話してくれました。

私も未来でメッセンジャーとして働いていた頃の話をしてあげました。

特に遠距離恋愛のことについては、食い入るように聞いていたようでした。


そうこうしているうちに既に夕暮れ時……

千枝「ユウキお姉さん! またこの場所で会いましょう!」

ユウキ「またね、千枝ちゃんっ!」

こうして、私と千枝ちゃんはそれぞれの家に帰ることとなりました。


これが、この時代に来て最初の、小さなお客さん。

そして、私の旅、そして未来を救うための旅は始まっている……
248 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/06/14(日) 20:09:50.56 ID:7LfOJCc80
<おまけ take1>

ユウキ「なかなか本人の前じゃ恥ずかしいのであれば、遠回しに言ってみるというのも手かもしれませんねっ」

千枝「遠回しに……ですか?」

ユウキ「たとえば、ポエム調にして言ってみるとか……」

ユウキ「ほら、ここの『私は子供で、おにいさんは大人だから。』っていうあたりを変えてみると……」


――私は空も飛べない小さな雛鳥。だけどあなたはまるで大空をはばたく大きな鳥のよう。
けれど、私の内に眠るこの想いをあなたがついばんで拾ってくれるのなら――


ユウキ「っていう風になって、」

千枝「すいません。そっちの方が恥ずかしいです」


<おまけ take2>

ユウキ「なら、一言で自分の気持ちを出し切るのはどうでしょうかっ?」

千枝「一言で、ですか? でも一言でうまくいくのですか?」

ユウキ「結構侮れないものだって聞きました。あと、こういうのはシチュエーションが大事だって聞きました」

千枝「シチュエーション、ですか……」(ポワワ……


た、たとえば、千枝とおにいさんのデートのとき……

私が勇気を振り絞って、おにいさんに告白しました

「私はおに……ピィさんのことが大好きです! ピィさんはどうですか!?」

すると、ピィさんが近づいてきて、私の頭をそっと撫でてくれた後、耳元でそっと一言――

「俺も愛してるぜ、ベイベー」


千枝「っ!!」(ボンッ

ユウキ「あ、あのっ。逆です、逆っ。 千枝ちゃんが言うんですよっ?」
249 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/06/14(日) 20:24:05.10 ID:7LfOJCc80
以上です。 短いですけども、どうだったでしょうか?
あと、さっきも言ったけど千枝ちゃん誕生日おめでとう!
次は誰にしようかなぁー

あと、最初の方で忘れてた設定をペタリ

『ハートメールサービス』
『この近辺であれば、どんな場所でも届けます!』という触れ込みで、心とユウキが始めた事業。
その内容は手紙もしくは荷物を届け、時には読み聞かせやなどをおこなったりしている。
ほとんどボランティア活動に近くなっているため、心がアルバイトで資金繰りをするほか、現在寄付金とこっそりお手伝いさんとスポンサーを募集中である。

『ギルドカード』
悠貴の世界においての身分証明書ともなる、自分の職業などが記されたカード。
自分が所持している装備や『スキル』なども表示されるが、本人の希望で非表示にすることもできる。
表面にはその持ち主の写真とともに、名前、職業、種族、所属が書かれている。
裏面には現在保有しているポイントを数字として表している。
未来の技術で作られたものの一つ。

『自衛用の銃』
ユウキの自衛用装備。タイムスリップする際に自衛のために持たされた装備。自衛のための装備であるため、最悪でも気絶させる程度。
……のはずが、誰かが魔改造でもしたのか、チャージすることであたり一面を停電させたりするほどの大出力を有するなど、チャージの調整が難しい、扱いづらいが強力な装備となっている。
なお、最初に見せた電流を流す以外にも違ったモードもある。

なお、人型自立ロボットは基本的に人を傷つけないようにプログラムされているが、
【プログラムが判断しうる範囲】において、自身に危害が及ぶ、およびユウキがいた未来の人々にとって不都合になりうる要素と判断した場合には――
250 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/06/15(月) 02:51:18.37 ID:YYC8XI3q0
乙ですー
未来の設定がなんだか良いな、未来で逆に手紙が発展してるというのはなんとなくロマンを感じる
そんでもって千枝ちゃんとユウキちゃんの癒し空間がすごい…む、きらりとのフラグがたちましたなー…?
251 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/06/15(月) 04:12:05.14 ID:m5iEIW1zo
>>249
おつー
ほのぼのしててなんだか和みますなぁ
こんなにも良い子な千枝ちゃんにここまで想われてるピィとかいう男は爆発すればいいのに

>「俺も愛してるぜ、ベイベー」
ギャグ状態であればアイツの場合マジで言いかねないな……、とか思ってしまった
252 : ◆q2aLTbrFLA [sage]:2015/06/15(月) 14:10:07.40 ID:SrtX85dH0
おつおつー
やっぱり平和っていいな〜
253 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/06/15(月) 22:41:31.98 ID:uslEbRUEo
乙倉さまですっ
浄化されてしまいそうな清さ
なるほど、これが手紙の癒しか
254 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:27:02.31 ID:/Ug4Fbsgo
久しぶりに投下しますー
なんと3ヶ月ぶりである、なんてこったい

時系列は曖昧な感じで
255 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:30:28.10 ID:/Ug4Fbsgo



それは、桜の舞う麗らかな公園で、

いつものひなたぼっこの最中のことでした。


美穂「………ん」


気持ちのよい日差しと、午後のまどろみの中に居た私が、


美穂「ふわぁ……」


ふと。目を覚ますと。


ユウキ「おはようございますっ!ハートメールサービスですっ!」

美穂「……ふぇっ?」


そこにはニコニコ笑顔の女の子が居て、

とても元気のよい挨拶をくれたのでした。
256 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:31:09.32 ID:/Ug4Fbsgo

美穂「んー??……はーとめーる・さーびすさん?……外国の人??」


私は目を擦りながら、女の子に聞きます。

……

あぅ……その……

い、いかにも頭の動いていないっぽい感じの返事なんですけどね……

うぅ、この時は、本当に寝ぼけてたんです……許してください。


ユウキ「あっ、いえっ!今のは私の名前ではなく……えっと、私の名前はユウキ・オトクラですっ!

     ハートメールサービスと言うのは俗に言うところのお仕事の名前でっ!」

美穂「あぁ……なるほど……うん、なるほど……」


う、うわぁ……ダメだ、寝ぼけてる時の私全然ダメだ……

変なことを聞いちゃったせいで、変なこと説明させちゃってるし……

思い返せば、この時はずっと隙だらけで、恥ずかしいところを見せっぱなしだったと思います……
257 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:32:11.76 ID:/Ug4Fbsgo


……

……


美穂「そっか、この辺りでお届け物の配達をしてるんですね」


ようやく私の頭がちゃんと動いてくれるようになったのは、

その女の子、ユウキちゃんのお仕事の事をすっかりと聞き終えた後のことでした。


ユウキ「はいっ!そうなんですっ!」

それはとても嬉しそうな晴れやかな笑顔でした。

なんだか、その顔を見ているだけですっかりと彼女の楽しい気持ちが伝わってきちゃいそうです。


美穂「ふふっ、お仕事楽しそうですねっ」

ユウキ「!」

ユウキ「そ、そう見えますかっ!?」

美穂「…?」

ん?なんだろう、そう言われる事がちょっと意外そう?

……照れ隠しでしょうか?


美穂「はい、そう見えますよ。とっても」

ユウキ「むむむ…」


私がそう言うと、ユウキちゃんはなんだか難しそうに考え込み始めてしまいました。
258 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:33:13.25 ID:/Ug4Fbsgo


なので、しばらく様子を伺っていると……


ユウキ「……はっ」

私がじっと見ていることに気づいたようです。


ユウキ「いえっ!もちろんやりがいは感じてるんですっ!!」

彼女は両手のこぶしを胸の前で握り、力強く、私の視線に答えます。

その様子は可愛らしい顔と仕草ながらに、なかなか迫力がありました。

背の高い子だからかもしれません。


ユウキ「荷物を運搬するのも大事なことですしっ!運んだ先でお礼を言われることもありますっ!」

ユウキ「うぅ……だけど、ちょっと複雑でっ……」

美穂「複雑?」

ユウキ「はい、私は『メッセンジャー』ですからっ!」

ユウキ「でもっ……運んでいるのは荷物ばかりで、手紙を送りたいって人が少なくってっ……」

美穂「……なるほど」

ユウキ「あっ!もちろんっ、居ないわけじゃないんですよっ」

ユウキ「この前も小さな女の子が手紙を送りたいって言ってくれて……」


楽しそうに見えた彼女にも、悩みがないわけではなかったようです。
259 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:34:15.22 ID:/Ug4Fbsgo



うーん、悩みがありながらもきちんとお仕事をこなす。

それはとても立派なことではないかと思います。

……だけど、出来れば悩まずにいれた方がいいですよね。


ユウキ「出来れば……もう少し、手紙を届けたい人が居てくれたらっ……」

美穂「手紙かー……」


うーん、そう言われてみれば確かに、手紙を書いて送る機会ってあんまり無いのかも?

他に、伝達手段はたくさんありますから……

携帯メールとか……SNSとか……

あ、私の場合、一番多いのは電話だったりするんですけれどね。相手はもちろん卯月ちゃんですっ。

それらに比べれば……手紙を送る頻度はずっと少ないですよね。毎日とはいかないと思います。


だけど…
260 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:35:20.87 ID:/Ug4Fbsgo


この時代にも、心の篭った手紙が、きっとあるはずです。


美穂「手紙といえば……」


そう、例えば”あの時の手紙”。


この時私は、ごく最近書いたある一通の手紙の事を思い返していました。

あ、最近と言っても、ヒヨちゃんや、肇ちゃんに出会うよりも前の事ですよ。


…………あの手紙は……”あの人”にちゃんと届いたのでしょうか。


きっと、”あの人”にとってそれは、他の誰かからも同じように貰った、たくさんのうちのたった一通の手紙。

だけど、それは確かに私が”あの人”に向けて……

少し恥ずかしいけれど……この胸の内の思いが届くように……思いを込めて書いた一通で。

えへへ……なんだか思い出すだけでも照れくさいですね。



えっと、その宛先はですねぇ――
261 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:36:25.44 ID:/Ug4Fbsgo
――


――


――



テレビ「 ナ ッ ナ で ー す !! キャハッ!!」

テレビ「……って、あ、あれ?も、もしかして…みなさん引いちゃってませんか!?」


美穂「あはは、菜々ちゃんってば」


テレビの中を所狭しと活躍するのは、

この時代の華!アイドルヒーロー!

その名も『ラビッツムーン』!


……とは言え、この日の彼女の姿は悪と戦うヒーローとしてのそれではなく……


テレビに映るステージの上で、精一杯に輝いている彼女の姿は!

紛れもなくっ!歌って踊れる”アイドル”っ!!

そうっ!夢と希望を両耳に引っさげた『安部菜々』ちゃんですっ!!


テレビ「 聞いてくださいっ! メルヘンデビューっ!! 」

「「「「「「「ミミミン!ミミミン!ウーサミン!」」」」」」」


美穂「……わぁっ!」
262 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:37:22.89 ID:/Ug4Fbsgo

……


光り輝くステージは本当に瞬く間……。

部屋の時計を見ると結構時間経っちゃってるんですけれど、全然そんな気がしなくって。

楽しい時間は、本当にすぐ過ぎ去っちゃうんですね。

……あーあ、こんなに楽しいのなら私も現地に行ってみたかったけど、

菜々ちゃんも立つステージのチケットはそれはもう大人気で……手に入れられず……悔やまれます……。


テレビ「ゼェ……ゼェ……お、応援……あ、ありがとうございますっ!!」


……?菜々ちゃん、心なしか息切れしてるように見えましたけど……

きっと気のせいですよねっ!


テレビ「……み、みなさんっ!」

テレビ「た、楽しんでっ……ゼェ……くれましたかぁっ!!」


「「「「「 ウォォオオオオオオ!!! 」」」」」」


物凄い歓声。会場、すごく盛り上がってます。


美穂「……!」 ブンブン


私もテンションが上がっちゃってたので、負けじとテレビの前で手を振り上げました。

ご近所に迷惑ですから大きな声は出しませんでしたが……。
263 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:38:24.12 ID:/Ug4Fbsgo

テレビ「あ、あははっ!す、すごい歓声ですねぇっ…!」

テレビ「……菜々にも……こんなにもたくさんのファンがっ…いてくれて……ぐずっ」


感極まって……でしょう、菜々ちゃん泣いちゃいました。

テレビの前の私も思わず貰い泣きしてしまったりして……ぐすんっ。


テレビ「すぅー……はぁー…」

テレビ「すぅっ……!」

テレビ「会場のみんなっ!!……それにっテレビの前のみんなの声もっ!ちゃんと聞こえてますからねーっ!!」


「「「「「 FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!! 」」」」」」


怒号のような喝采!盛り上がってます!盛り上がっています!


美穂「……」

テレビの前のみんなの声……これ生中継だけれど……届くものかな?

……ううん!届いてる!確かにこの思いは届いてるはずです!


美穂「ふ、ふうぅぅ……!!」


あくまで小さくですが……私も歓声をあげました!


テレビ「みんなぁっ!!ありがとぉおっ!!」
264 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:39:11.04 ID:/Ug4Fbsgo


……


さて、ステージに立ったアイドルヒーロー達の挨拶をもって

ステージ中継が終わると、菜々ちゃんの所属してる873プロ、

そしてアイドルヒーロー同盟からのお知らせがテレビに表示されます。

グッズの通信販売だったりとか、次回以降に予定しているライブステージ中継の日程だとかですね。

他には……


美穂「……あ」


表示されたのは、こんなテロップ


”アイドルヒーローにファンレターを送ろう!”


”宛先は――同盟事務所の――” 


”アイドル名を忘れずに――”



美穂「…………よしっ」


思い立ったら早いもの。

この後私は、自室に戻るとすぐに引き出しから可愛い熊のキャラクターが描かれた便箋を取り出しました。

机に向き合い筆箱からペンを選び取ると、興奮の勢いのままに、筆を進めます。


届けたいこの気持ちを、メッセージに乗せて――
265 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:40:12.25 ID:/Ug4Fbsgo

――

――

――


ユウキ「……あの?」

美穂「……はっ」


ユウキちゃんの一声で、思い耽っていた私は我に帰ります。

……思えば、あの時の手紙、

大興奮の勢いのまま書いたせいで凄い恥ずかしいことばかり書いてた気がする……


ユウキ「顔真っ赤ですよっ?」

美穂「……ちょ、ちょっと思い出し恥ずかしで……」

ユウキ「思い出し恥ずかし……?……そ、それって思い出し笑いみたいな感じですかっ!?」


はい。これが自室のベッドの中なら足を振り回して悶絶しているところです……。
266 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:40:59.28 ID:/Ug4Fbsgo


美穂「……あ、えっと手紙でしたよね」


こほん、私の恥ずかしいエピソードはさておいてです。

今はユウキちゃんの悩みでしたよね。

……ええ、露骨に話題を変えてしまいますよ。


美穂「……せっかくだから」


ユウキちゃんのお仕事、『ハートメールサービス』でしたよね

先ほど聞いたお話だと、この辺りであればどんな場所でも届けてくれるそうです。

とは言え、今この場でパッと思いついた送り先はないのですが……

それでも、悩んでいるユウキちゃんの力に、少しでもなれるなら……


美穂「……私も誰かに手紙を書いて、ユウキちゃんに送ってもらおうかな」

ユウキ「!!」

ユウキ「本当ですかっ!?」
267 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:41:38.91 ID:/Ug4Fbsgo

ユウキ「わぁっ!!嬉しいですっ!!」

美穂「ふふっ」


やはり晴れやかな笑顔。でも心なしか先ほどよりも明るい。そんな気がします。


……さて、手紙は宛先は……肇ちゃんかなぁ?

一番近くに居るけれど、あえて手紙と言うのもなかなか風情がありそうで


ユウキ「あっ、でもその前にっ」

美穂「?」


ユウキ「手紙があるんですっ!」

美穂「えっ?」
268 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:42:29.65 ID:/Ug4Fbsgo

ユウキ「差出人は小さな男の子でしたっ!」

ユウキ「その子から特徴を聞いていたので、あなた宛で間違いないかとっ!」


……あ、なるほど。

ユウキちゃんが私に声をかけてきたのは、私宛のお手紙があったからみたいです。

でも男の子?……知り合いに思い当たるところはないのですが……


ユウキ「間違いないとは思いますけど、名前だけ確認させてくださいねっ」

美穂「えっと、はい」


そう言えば、ユウキちゃんの名前を聞いておきながら、

私、名乗っていませんでしたね……。

寝ぼけたまま失礼なことをしてしまいました……反省です。



ユウキ「えっと……」


ユウキちゃんは1通の手紙を取り出すと、そこに書かれた宛名を読み上げます。
269 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:43:20.44 ID:/Ug4Fbsgo


ユウキ「”ひなたん星人”さんっ、ですよねっ!」

美穂「えっ……は、はい……?」


ん?ひ、ひなたん星人宛……?

それってどういう……?


ユウキ「お手紙ですっ!どうぞっ!!」

美穂「……」


……少し疑問に思いながらも、受け取った手紙をおそるおそる開きました。

知り合いに思いあたらない小さな男の子からの手紙……宛名は”ひなたん星人”……

ううーん……検討がつきません……一体何が書かれているのでしょう……?


気になる内容に目を通します。



美穂「……」


美穂「……」


美穂「……」


美穂「え…………」


美穂「こ、これ……」


美穂「ふぁ………っ」
270 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:45:33.08 ID:/Ug4Fbsgo




美穂「ふぁぁぁあああああっ!?!??!!!!」







…………後の事は記憶が抜けているのであまりよくは覚えていないのですが、

どうやら私は、まるで、その場から逃げ出すように走り去ったようなのでした。




ユウキ「……???」

ユウキ「い、行ってしまいましたっ?」

ユウキ「……」

ユウキ「…………あ、でも」

ユウキ「あれほど大事に抱えているなら、良い手紙だったんですよねっ?」

ユウキ「えへへっ」
271 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:46:12.31 ID:/Ug4Fbsgo


小日向家


ガチャ  ドタドタドタドタ


肇「あ、お帰りなさい。美穂さん、今日は早か……」


美穂「――――っ!!!!」  ゴロゴロゴロゴロ


肇「!?」

母「美穂ー、部屋に戻る前にちゃんと手洗いなさいよー」

肇「……あ、あの……美穂さん凄い勢いで自室に転がっていきましたけど……」

母「うん?ああ、そうね」

母「あれは……発作みたいなものかな」

母「許容容量超えるくらい恥ずかしくなっちゃうと、よくあんな感じになっちゃって」

肇「なるほど………って、えっ?よくあるんですか?」


ドンガラガッシャーン!!


肇「……美穂さんの部屋の方からすごい音が鳴りましたけど……?」

母「演出効果音だから平気よ」

肇「ほ、本当に大丈夫でしょうか?」
272 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:46:54.65 ID:/Ug4Fbsgo

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…


肇「……あの、今度は何か凄い勢いで転がってる音が……」

母「ベッドの上で転がりまわってる音ね」

母「うーん……これはたぶん嬉し恥ずかしいってところかな」

母「とっても恥ずかしいけど、とーっても嬉しい……そんな気持ちが爆発してるところね」

肇「おや……美穂さん、外で何か良い事があったのでしょうか?」


マー!!マーー!!


肇「……大変です、プロデューサーくんが悲鳴をあげてます」

母「美穂ー!恥ずかしがるのはいいけど、プロデューサーくん抱きしめて転げまわったら可哀想よー!」


ドタバタバタバタドタ…


肇「……あ、こちらの部屋に戻ってきてますね」

母「……なんだか今日は特に慌しいわね」
273 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:47:39.04 ID:/Ug4Fbsgo

ズザザザザ

美穂「どどどどどどどどどどどうし、どうしっ、よよっ!!!!」

肇「美穂さん、落ち着いてください。何を言っているのかさっぱりです」


美穂「こ、ここここれっ!!これ、も、もも、もらっちゃって!!」

肇「それは……お手紙、ですか?」

母「あら、ラブレターでも貰ったの?」

肇「えっ!?そ、そそうなんですか?!お、お相手はっ!?」

美穂「ちちちち、ちがっ!ちがうっ!」


美穂「そうじゃないっ!!そうじゃないけどっこれっ!!」

肇「そうじゃないとしたら……」

母「……果たし状?」

肇「あ、川原で待つと言った感じの…?」

美穂「もっとちがうっ!!」


美穂「そうじゃなくってっ!!私っ!!ふぁっ…!ふぁあっ!」

美穂「ふぁ、ファンレターっ!!貰っちゃったみたいっっ!!」
274 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:48:29.28 ID:/Ug4Fbsgo

……


母「あららー、可愛らしい字ねー」

肇「”ひなたんせーじんありがとー”……

  なるほど。どうやら以前に、どこかで助けたことがある子みたいですね」

母「考えてみれば、美穂もヒーローとしての活動、それなりに長いんだし……

  ファンレターの1枚や2枚は貰っても不思議じゃあないわよね」

肇「そうですね。……今まで届いてなかったのはきっと、宛先がわからなかったからなのでしょう」

母「そうねぇ、アイドルヒーローならアイドルヒーロー同盟に送りつければいいのだろうけれど、

  フリーのヒーローだと……確かにそう言うものをどこに送ればいいか困りそうねえ

  まさかうちの住所を公開するわけにもいかないし」



美穂「あうあうぅあうぅう」 プスプスプスプス


肇「……美穂さんが赤面しすぎて発火しそうになってます」

母「ひなたん星人としての活動のおかげで、度胸もついたと思ってたけれど……

  ふふっ、こう言う嬉しいサプライズにはまだ慣れてないみたいね」
275 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:49:34.22 ID:/Ug4Fbsgo


……その時の私の気持ちを言い表すとしたら……なんて言えばいいんでしょう?

本当に、嬉しすぎて、

嬉しすぎて、

嬉しすぎて、

それ以外に言葉が思い当たらなかったと言うか。

だって、ファンレターですよ、ファンレター!!!


私は両手で顔を押さえつけていました。全力でです。

そうしないと、ニヤケ面が張り付いて元に戻らなくなっちゃいそうでしたから。

押さえつけた手から感じる自分の顔の温度は、

おそらく、小日向美穂史上でも最高温度に達していたとさえ思います。
276 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:51:27.39 ID:/Ug4Fbsgo


美穂「…………お母さん」

母「ん?」

美穂「額縁……額縁って家にあるかな?」

母「えっ、まさか……これ、そんな大げさに飾るつもりなの?」

肇「……美穂さん、落ち着いてください」

母「そうよ、肇ちゃん言ってあげて」

肇「まずは、念入りにラミネート加工からするべきだと思います」

母「おっとぉ」

美穂「!!」

美穂「それだよ肇ちゃんっ!!」

肇「ふふ、エトランゼ勤務で習得した私のラミ技術、実はなかなかのものなんです」

肇「またとない機会なので、ご覧に入れますよ」 ワキワキ

母「ま、まさかのボケ被せね……」


母「……」

母(……ま、それだけ嬉しかったのよね)
277 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:53:09.06 ID:/Ug4Fbsgo

母(美穂はもちろん……肇ちゃんだって、美穂の事一番近くで見てくれてた一番のファンなんだもの)

母(だから自分の事のように喜んでくれて……)

母(……それにしてもファンレター……そっか、そうなのよね……美穂にもファンがいて……)


母「……」

美穂「? お母さん?」

母「ぐすっ」

美穂、肇「!!」

肇「ど、どうしました?!」

母「ううん、ちょっとね……私も嬉しくなりすぎちゃったかな……ふふっ」

美穂「……お母さん」

母「よしっ!今日はもう盛大にお祝いしちゃいましょうか!ちょっと張り切ってご馳走つくっちゃうわよ♪」

肇「あ、それなら私もお手伝いします。私も美穂さんのためにすごくお祝いしたい気持ちなので」

美穂「お母さん、肇ちゃん……」

美穂「えへへ……ありがとうっ!」


たった1枚の手紙で、なんだか大げさなことになっちゃいましたね。

けど、そのたった1枚が私にとっては本当に、本当に素敵なことでしたから。


美穂「……ヒーロー、続けてて良かったな」


今日の出会いは、心から、そう思えるような出来事なのでした。


おしまい
278 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/07(火) 20:56:42.52 ID:/Ug4Fbsgo


と言うわけで小日向ちゃんにファンレターが届くお話。
乙倉ちゃん、菜々さんお借りしましたー

手紙と言えばやはりファンレターですよ
アニメでもキーファクターでしたね
そしてアイドルにはもちろんヒーローにだってファンは付き物。
とはいえ、フリーのヒーロー宛てのファンレターはどこに送ればよいのだぜ?と思い、
この度は、乙倉ちゃんに来てもらおうと言う事になりました

いやーそれにしてもライブステージの様子を普通に生中継できるなんて、
アイドルヒーロー同盟の力はすごいですね!(すっとぼけ)
……この世界ではアイドルヒーローの影響力はこれくらいは普通にあると思ってますまる
279 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/07(火) 22:52:58.61 ID:Npdy+zG30
>>278
おつかれさまですっ!
なんと微笑ましい話だぁ……私も頑張らなくては

>>……この世界ではアイドルヒーローの影響力はこれくらいは普通にあると思ってますまる
??「なんてったって、アイドル(ヒーロー)ですから!」
280 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/07/07(火) 23:17:51.39 ID:trl9WpBH0
乙ですー
やっぱり乙倉ちゃんが出る話はお仕事の性質も会ってほのぼのしてていい…
フリーのヒーローにも頑張ってお手紙届けちゃうのは素敵すぎる
菜々さんはホント体力もつの一時間だからねー歌でそう言ってるしねー(棒)
281 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/08(水) 00:01:02.34 ID:n49OK/3Do
>>278
はばかりさんどすー
ほのぼのしてはってよろしおすなぁ、なんや見ていてほっこりするわぁ
あない照れはって、美穂はんはほんまかいらしいなぁ(謎の紗枝感)

しかしこの男の子といい千枝ちゃんといい
かなりアバウトな宛先でもちゃんと届けてくれるのは乙倉ちゃん優秀ですね
282 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:04:03.02 ID:j2VnBMgZ0
オツカレサマドスエ!
乙倉ちゃん大活躍ですね、便乗してえ

ではでは、AHFの本戦を投下しまー
283 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:07:07.67 ID:j2VnBMgZ0

J『さあ、いよいよオールヒーローズフロンティア本戦が開始します! ルールをご説明しましょう!』

Jの熱いアナウンスが会場全体に響き渡る。

J『リングはこちら、直径15メートルの円形! フェンス、ロープございません!』

J『リングと観客席の間には幅4メートル深さ2メートルの溝!』

J『勘がよい方はもうお分かりでしょう! リングからこの溝に落ちれば敗退です!』

J『また、気絶及びギブアップも敗退となります!』

J『そして相手を死なせてしまった場合も敗退! ヒーローとしてあるまじき行為ですから当然でしょう!』

J『勝負はいずれも時間無制限一本勝負! 勝利の栄光を掴むのは一体誰なのか!!』
284 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:07:51.62 ID:j2VnBMgZ0
J『では早速、1回戦第一試合を行います!! 選手入場!!』

真っ白いスチームと共にリング端の扉が開き、両選手がリングに姿を現す。

J『みんなのアイドル、永遠の17歳!』

J『両耳に架けるは、夢と希望!』

J『大会史上初の二連覇なるか!』

J『ラビッツ、ムゥゥゥーンッ!!』

ウォオオオオオオオオ...

J『妖しさと優雅さを備えた、黒き悪魔!』

J『その悪魔を守護する、鋼鉄の騎士!』

J『その信念の拳は、月へと届くのか!』

J『ノォォーヴル、ディアブゥゥールッ!!』

ウォオオオオオオオオ...
285 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:10:11.68 ID:j2VnBMgZ0
ディアブル「…………」

ラビッツ「言っておきますけど」

ディアブル「!」

リング上、ラビッツムーンが口を開いた。

ラビッツ「相手が新人さんだからって、ナナは手加減しませんよ!」

ディアブル「……望むところですわ。わたくしも、全力でお相手させていただきます!」

お互いに笑みをこぼすラビッツムーンとノーヴル・ディアブル。

J『さあ、それでは……!」

Jのアナウンスに2人が即座に反応した。

ラビッツムーンはその耳を振りかぶるようなファイティングポーズを取り、ノーヴル・ディアブルはバイオリンを肩に構える。

J『試合……開始ぃっ!!』
286 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:11:11.52 ID:j2VnBMgZ0

ラビッツ「ウサミンカッタァー!!」

J『おおっと、先手を取ったのはラビッツムーンだぁ!!』

三日月型の鋭いカッターがノーヴル・ディアブルに迫る。

ディアブル「……オーラブレード!」

『レディ』

しかし、ノーヴル・ディアブルの指示を受けたストラディバリがこれを難なくはたき落とす。

J『お見事っ! っと、これはぁ!?』
287 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:11:54.93 ID:j2VnBMgZ0

ラビッツ「ウサミンッ、ラァーンス!!』

ディアブル「きゃああっ!?」

J『これは素早い! 一瞬で死角に飛び込んでからの痛烈な一撃だぁー!!』

亜里沙『ちゃんと石突の部分を突き出してるあたり、流石はベテランのアイドルヒーローね』

ウサミンランスの石突で突かれたノーヴル・ディアブルの体は、一気にリング端まで吹き飛ばされた。

ディアブル「うっ……く……オーラバレット!」

『レディ』

ストラディバリの頭部から放たれるオーラの弾丸に、ラビッツムーンは反射的に飛び退く。

ラビッツ「おっとと……牽制ですか」

J『これは迂闊に近寄れない! どうするラビッツムーン!』

亜里沙『ノーヴル・ディアブルちゃんはこの間に体勢を立て直しているわね』
288 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:12:46.70 ID:j2VnBMgZ0

ラビッツ「…………ふふ」

不意に、リングの端でラビッツムーンが足を止める。

ディアブル「……?」

ラビッツ「流石に逃げ疲れましたね〜、ナナあんまり逃げるの好きじゃないですし……」

J『おおっとぉ、あの構えはぁ!?』

ラビッツ「まずはその騎士さんをリングアウトです! ウサミンンン……ビィィィームッッ!!」

構えたラビッツムーンから放たれた極大のビームが、ストラディバリに直撃した。

『……ッ!!』
289 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:13:21.93 ID:j2VnBMgZ0

ディアブル「ストッ……いけない!」

ストラディバリの巨体が宙に放り出された瞬間、ノーヴル・ディアブルはラビッツムーンを見据えてバイオリンを構えた。

ディアブル「一か八か……オーラロケットパンチ!!」

『……レディ』

溝に落ちる寸前の土壇場、どうにかロケットパンチを発射したが……

J『ああーっ、ダメだぁ!! 苦し紛れのロケットパンチはラビッツムーンの左右目掛けて一直線! あれでは当たらない!!』

ロケットパンチが自分に飛んでこない事を確認したラビッツムーンは、軽く咳払いした。

ラビッツ「んっんんっ。焦っちゃダメですよ、ディアブルちゃん。ヒーローたるもの窮地の時こそ落ち着いて……」
290 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:14:14.68 ID:j2VnBMgZ0

ディアブル「オーラストリング!!」

ラビッツ「へ? ふげっ!?」

J『お、おおっとぉ!? どうしたことだ!ロケットパンチがラビッツムーンの左右を通り過ぎる瞬間……』

ウサコ『ラビッツムーンの体が、それに引っ張られるみたいに吹っ飛んだウサ!?』

亜里沙『……あれね。ロケットパンチの間に糸が張ってあるわ』

そう、ノーヴル・ディアブルはロケットパンチがラビッツムーンの左右をすり抜ける寸前に、ロケットパンチの間にオーラストリングを展開したのだ。

J『なるほど! ラビッツムーン一瞬の油断が死を招いたー!!』

ウサコ『今のラビッツムーンは壁に縫い付けられた、さながら昆虫標本ウサー』
291 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:15:12.72 ID:j2VnBMgZ0

ディアブル「…………ふぅ」

ラビッツ「あべっ」

ノーヴル・ディアブルが軽く息を吐くと、オーラストリングが消え、ラビッツムーンの体は溝の底にベタッと落下した。

J『……なんと言う番狂わせ! 新人ノーヴル・ディアブルが、前回王者ラビッツムーンを破って1回戦突破だぁぁーっ!!』

ウォオオオオオオオオオオ...

ラビッツ「あたたたた……完敗ですよ、ディアブルちゃん」

リング上に戻ってきたラビッツムーンが、ヨタヨタとノーヴル・ディアブルに歩み寄る。

ディアブル「ありがとうございます」

ラビッツ「ナナのぶんまで、頑張って下さいね!」

ディアブル「もちろんです!」

2人が堅い握手を交わすと、会場は更なる歓声に包まれた。

J『いやあ、一瞬も見逃せない熱い試合でしたね! では、この熱気が冷めやらぬ内に第二試合のスタンバイに入りましょう!!』

――――――――――――
――――――――
――――
292 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:16:00.17 ID:j2VnBMgZ0
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――――――――――――

敗者復活参加者を本戦会場へ運ぶバスの中。

ナイト「やったやった! 01、ディアブルが勝ったよ!」

01「ええ! めでたいですな!」

バス内部のモニターで、彼女らも試合の様子を観ていた。

RISA「アイツの次の相手はアタシね。やってやろうじゃない!」

カミカゼ「しかし、菜々が負けるのは少し意外だったな」

疲労や傷がひどい者は、ここで応急の処置を受けている。

スカイ「相手はベテランなのに……ディアブルさん、すごいですね」

オーフィス「でも一瞬の隙を突けただけ。試合全体を見るとやっぱりラビッツムーンが押してたね」

スカル「……あ、ランさんでございますです」

聖來「現役アイドルヒーロー同士の対決か……どうなるかな?」

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293 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:16:46.79 ID:j2VnBMgZ0
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――――――――――――

J『木々の、草花の声援を受けし歌姫!』

J『大自然の使者、癒しの権化!』

J『無念敗れた友の仇は取れるのか!』

J『ナチュラァール、ラヴァァアースッ!!』

ウォオオオオオオオオ...

J『あどけなき表情に隠しきれぬ、野獣の眼光!』

J『二面性の獣が今、牙を剥く!』

J『その爪で花を切り裂いてしまうのか!』

J『ラァァープタァァー!!』

ウォオオオオオオオオ...
294 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:17:39.15 ID:j2VnBMgZ0
ラプター「そういや、相葉先輩とはあんま一緒になんねえな」

思い出したようにラプターが口を開く。

ナチュラル「そうだね、私基本的にナナちゃんとペアだし」

ラプター「ま、んな事ぁどーだっていいか。俺ぁあのマーセナリー東郷ってヤツとやりあいてえんだ」

ナチュラル「こっちもね、ナナちゃんに勝ったノーヴル・ディアブルと戦ってみたいなって思ってるんだ」

ラプター「へっ……」

ナチュラル「ふふっ」

J『お互いやる気は充分のようですね! では……試合開始ぃっ!!』
295 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:18:35.79 ID:j2VnBMgZ0

ラプター「はっ!!」

J『先に動いたのはラプター! その爪を大きく振りかざす!!』

ナチュラル「やあっ!!」

ナチュラルラヴァースが両手を交差させると、目の前に巨大な葉が出現した。

ラプター「んなっ!?」

J『ラプターの爪は、葉の表面に傷を付けるに留まったぁー!』

ラプター「何で出来てんだよその葉ぁ!」

ナチュラル「ふふっ、内緒!」

ナチュラルラヴァースは続けてその葉をラプターへブーメランのように投げつける。
296 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:19:21.85 ID:j2VnBMgZ0

ラプター「チッ!」

J『しかしラプターそれをバク宙で回避ー!!』

着地したラプターはそのままナチュラルラヴァースへ向けて駆け出した。

ナチュラル「もう一枚!」

J『ナチュラルラヴァース再び葉の盾を構え……っとぉお!?』

ナチュラル「う、嘘っ!?」

水平に突き出されたラプターの爪は、ナチュラルラヴァースの盾を貫いた。

亜里沙『同じ力でも、働く面積が狭いほど強い力を発揮するわ』

ウサコ『爪全体で斬るより、爪の先端だけで突いた方が強いって事ウサ』

ラプター「へへっ!」

ラプターはそのままナチュラルラヴァースから盾を奪い取り右へ避けた。
297 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:20:15.26 ID:j2VnBMgZ0

その背後には、

ナチュラル「きゃああっ!?」

弧を描いて戻ってきた最初の盾が、ナチュラルラヴァースの体に激突した。

ナチュラル「……やるね。なら、これならどうかなっ!」

ナチュラルラヴァースがリングへ力を送る。

J『うおおおっ、こ、これはぁ!?』

亜里沙『巨大な……植物のツタね』

ツタは伸びながら絡まり合い、5メートルほどの高さの塔になった。

その中腹に立つナチュラルラヴァース。
298 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:21:00.21 ID:j2VnBMgZ0

ラプター「空中戦でもしようってか? 面白ぇ!」

枝のように別れたツタを足場に、ラプターが塔を駆け上がる。

ラプター「どぅおりゃああっ!!」

ナチュラル「とうっ!」

J『ラプターの爪による斬撃を、三度葉の盾で受け止めたぁ!』

ラプター「チッ!」

盾を蹴った反動でラプターは飛び退き、背後の枝に着地した。

ナチュラル「うわっと……」

蹴りで飛ばされたナチュラルラヴァースも同様、着地して体勢を整える。
299 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:21:33.53 ID:j2VnBMgZ0

ラプター(……もう一発いけるか?)

ナチュラルラヴァースを睨んだまま、ラプターが思考する。

ラプター(相葉先輩は飛行出来っからな……単純にリングアウトは狙えねえ)

ナチュラル「…………」

J『お互い動きが止まった! 隙を伺っているのでしょうか!?』

今のナチュラルラヴァースの背後には、枝はない。
300 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:22:22.13 ID:j2VnBMgZ0

ラプター(飛び掛ってしがみ付いて二人仲良く落下……これなら相葉先輩が先に下に着くな)

ラプター(避けられたら……枝に爪引っ掛けりゃまだ復帰出来る。よし!)

ラプター「はぁっ!!」

J『ラプターが仕掛けたぁ!!』

ナチュラル「ふっ!」

そしてラプターの予想通り、ナチュラルラヴァースは蝶の羽を広げて飛び上がった。

ラプター「はっ、やっぱそう来るか!」

ラプターはそのまま、ナチュラルラヴァースが足場にしていた枝に爪を突き立て……
301 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:22:57.99 ID:j2VnBMgZ0

ナチュラル「えいっ」

ラプター「は?」

られなかった。

J『え、枝がラプターの爪を避けたぁ!? ラプタークルクル回転しながら落下していくー!!』

ラプター「はぁぁぁぁーーーーー!?」

ナチュラル「それっ」

ラプターの落下地点に巨大な花が咲き、彼の体をやんわりと受け止める。

ラプター「……嘘だろオイ」

そのままラプターの体は、花弁からズルリと溝へずり落ちた。
302 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:23:40.94 ID:j2VnBMgZ0

J『……えー、ラプターのリングアウトにより、勝者はナチュラルラヴァースーッ!!』

ウォオオオオオオオオオオ...

ラプター「……おい相葉先輩! 汚ねえぞ! 何だよ今のは!?」

リング上に戻ってきたラプターがナチュラルラヴァースに詰め寄る。

ナチュラル「……って言われてもなー。敵が用意した足場を全面的に信用しちゃうのもどうかと思うな」

ラプター「んぐっ……!」

ナチュラル「カースが作った足場に乗ったりしたら最期、パクッと食べられちゃうかもよ?」

ラプター「…………やっぱ俺、アンタ嫌いだわ」

ナチュラル「そう? 私は爛ちゃん意外と好きだよ?」

ラプター「ホザけ」

吐き捨てるようにそう言うと、ラプターは早足で会場を出て行った。

ナチュラル「……ちょっとイジワルしすぎちゃったかな?」

その様子を眺めていたナチュラルラヴァースは、軽く肩をすくめてみせた。

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――――
303 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:24:24.00 ID:j2VnBMgZ0
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スタッフルーム。

シロクマP「あらら、爛くん負けちゃったね」

同盟のプロデューサー達もモニターで試合を見守っていた。

クールP「ええ、流石に少し残念です」

パップ「今のトコ勝ち上がってるアイドルヒーローは夕美、梨沙、拓海か。アイドルヒーロー同士がぶつかったのは痛いな」

873P「ですよねえ……この大会は、同盟の力を示す意図も込められてますから」

黒衣P「勝ち上がる現役アイドルヒーローが少なければ、上層部もあまりいい気分ではないだろうな」

クールP「次は管理局の代表の方でしたか……彼女が勝ち上がってくれれば」

パップ「で、アイドルヒーローの誰かがそれに勝てば、多少はマシかもな」

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304 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:25:01.90 ID:j2VnBMgZ0
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J『360°死角無し! 地平線まで射程距離!』

J『管理局のテクノロジーここに極まれり!』

J『その瞳は、既に勝利を見据えているのか!』

J『パァァーボ! レアルゥゥー!!』

ウォオオオオオオオオオオ...

J『世界よ! これが日本のオカルトだ!』

J『彼女こそは、日本が産んだラストヨーカイ!!』

J『オカルトが科学を叩き潰すのか!』

J『桜ぁぁぁぁー餡んんー!!』

ウォオオオオオオオオオオ...
305 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:25:39.67 ID:j2VnBMgZ0
桜餡「ラストヨーカイ……ま、まさか正体がバレてる……!?」

レアル「いや、ラストサムライとかラストニンジャと似たようなノリで言ってるだけだと思うけどな」

桜餡「そ、そうかな……? と、ともかくよろしくお願いします!」

レアル「ああ、こっちこそよろしく」

J『ではでは参りましょう! 試合っ、開始ぃ!!』
306 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:26:18.34 ID:j2VnBMgZ0

レアル(まずは様子見に…)

パーボ・レアルが目玉型ユニットの一基からレーザーを放つ。

桜餡「うわわわわっ!?」

J『桜餡ド派手なヘッドスライディングでこれを回避ー!』

レアル「…………」

J『パーボ・レアル追撃! 桜餡は猛ダッシュで回避している!!』
307 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:27:06.05 ID:j2VnBMgZ0

レアル(……正直)

攻撃を続けながら、パーボ・レアルは思案する。

レアル(勝つだけなら、簡単なんだよな)

そう、『穴』を空けて桜餡の体を溝へ落としてしまえば、それでもうパーボ・レアルの勝利だ。

だが……。

レアル(流石にそれは、まずいよな……)

パーボ・レアル本人が卑怯じみた勝ち方を嫌ううえ、そんな呆気ない勝利は、番組としても盛り上がりに欠けるだろう。

そして、何より。

レアル(今は、管理局の代表だもんな……)

自分が卑怯な勝ち方をすれば、管理局の名に泥を塗る結果になるかもしれない。

その為、あくまでも正攻法での勝ちに拘るのだ。
308 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:27:56.04 ID:j2VnBMgZ0

桜餡「うううっ、反撃しないと……」

J『おおっと、桜餡が足を止めた! 一体どうするつもりなのか!?』

桜餡「んんんん〜……はぁー!!」

レアル「なっ……!?」

桜餡の頭上に現れた、巨大な手。

それが握り拳を作り、パーボ・レアルへ向けられる。
309 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:29:11.28 ID:j2VnBMgZ0

桜餡「やあっ!!」

レアル「ぬあっ……!?」

J『パーボ・レアル間一髪回避ー!』

しかし、そこへ桜餡が追撃を仕掛けた。

桜餡「それそれそれー!!」

J『何処から取り出したか桜餡、巨大な裁ちバサミを閉じたまま振り回す! パーボ・レアルは回避で精一杯だ!!』

レアル「やべっ……なら!」
310 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:30:15.38 ID:j2VnBMgZ0

パーボ・レアルは脚にグッと力を込め、跳んだ。

桜餡「わあっ!?」

J『おお! パーボ・レアル、脚のジェットを活かした大ジャンプだ!!』

レアル「これでどうだっ!」

空中で更にレーザーを乱射するパーボ・レアル。

桜餡「えーいっ!!」

J『おお! 桜餡の巨大な両手が盾となってパーボ・レアルのレーザーを防いだ!!』
311 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:30:59.25 ID:j2VnBMgZ0

桜餡「そのままそれぇっ!!」

巨大な両手が張り手の形のままパーボ・レアルへ迫る。

レアル「いぃっ!? くっ!!」

J『パーボ・レアル再度ジェットで逃走を図る!!』

レアル「これならっ!」

二基のユニットからレーザーを放ち、桜餡を狙う。

桜餡「なんのっ!」

しかし、桜餡はそれを素早い横跳びで避け……
312 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:31:56.43 ID:j2VnBMgZ0

レアル「今だっ!!」

桜餡「ぎゃんっ!?」

J『おおーっと、これはぁ!? 桜餡が着地する瞬間を狙い、別のユニットが足元を掬ったー!!』

亜里沙『なるほど、自分が高く飛び上がった事で、桜餡の視線を上に移し……』

ウサコ『その隙に不注意な足元へユニットを忍ばせたウサ!』

レアル「よっし!」

バランスを崩した桜餡は、溝へと落ちていく……。

桜餡「……なんてねっ!」

落下する桜餡の体が途中で止まり、ふわっと浮かんだのだ。

桜餡「さあ、勝負はまだまだこれか……」
313 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:32:48.75 ID:j2VnBMgZ0

レアル「ホールドアップ」

桜餡「…………へ?」

桜餡の目の前に、レーザーユニットが一基。

桜餡「…………えっ? えっ?」

右に一基、左に一基。

桜餡「…………ええっ、え、えっ?」

おまけに、後ろにも一基。

桜餡「…………ええええええええっ!?」

J『パーボ・レアル驚きの早業! 桜餡が溝へ落下した一瞬で、レーザーユニットを浮上地点の周囲へ配置していたー!!』

亜里沙『一体どこから計算してたのかしら』
314 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:33:25.20 ID:j2VnBMgZ0

レアル「……さ、どうする?」

パーボ・レアルに詰め寄られ、桜餡は弱々しく両手を挙げた。

桜餡「……まいりましたぁ」

J『……っと、さあ! というわけで勝者はパーボ・レアルだぁー!!』

ウォオオオオオオオオオオ...

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315 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:34:26.78 ID:j2VnBMgZ0
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アパート○○。

涼「あずきのやつ、勝手に何やってんだ……? 変装してるつもりだろうけど結構バレバレだぞ」

涼はテレビを観ながら呆れていた。

眠り草『しかも一回戦敗けでござるな』

涼「お前は黙ってろ」

眠り草『ぶーぶー』

芳乃「涼殿ー、残念でしてー」

涼「ん、まあな。それよりほら、そこの問3」

芳乃「むむー……難問でしてー……」

芳乃は鉛筆片手に数学の問題を睨み付け、再び唸り声をあげた。

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316 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:35:43.25 ID:j2VnBMgZ0
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J『もう逃げない! 逃げられない!』

J『大海の妖精はただ、前を見続ける!』

J『友の無念を果たす事は出来るのか!』

J『ナチュウウウウル、マリィィィィィン!!』

ウォオオオオオオオオオオ...

J『この拳が全てを打ち砕く!』

J『憧れの人と拳を交える、その時を夢見て!』

J『大海原を吹き飛ばす一撃を魅せるのか!』

J『中野ぉぉぉー、有香ぁぁぁあー!!』

ウォオオオオオオオオオオ...
317 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:37:03.71 ID:j2VnBMgZ0
マリン「…………ふぅ」

有香「すぅー…………」

J『お互いに言葉は無い! 最早拳を交えるのみなのか!!』

J『それでは早速参りましょう! 試合……開始ぃっ!!』

マリン「水よ、力を貸して!」

J『先手はナチュルマリン! 掌からの水流で有香を狙う!!』
318 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:39:20.37 ID:j2VnBMgZ0

有香「ふっ、りゃぁあっ!」

マリン「うぇっ!?」

J『な、なんとぉ!? 有香の手刀で水流が真っ二つに割れたぁ!!』

亜里沙『人間離れした切れ味ね……』

マリン「みっ、水よ、力を貸して!」

有香「でぇぇぇあぁぁぁぁぁっ!!」

J『ナチュルマリンすかさず追撃! しかし水流はことごとく手刀の餌食だー!!」
319 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:40:53.33 ID:j2VnBMgZ0

有香「はぁっ!!」

マリン「ひっ!?」

一瞬の隙を突いて、有香がナチュルマリンの懐に踏み込んだ。

有香「でぇいっ!!」

そして力を込めて、ナチュルマリンの体を『押した』。

予選などでの様子を見て、有香は解っていた。

この少女を自分が本気で殴ればどうなるかを。

魔法のような力を持っていても、本来は華奢な少女。

有香の拳をまともにくらえば、最悪の場合命まで失いかねない。

だから、押した。

ナチュルマリンをリングアウトさせる為に。
320 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:42:14.91 ID:j2VnBMgZ0

しかし。

マリン「……海よっ!」

溝の底に着くより速く、ナチュルマリンが動いた。

マリン「力を貸してっ!!」

有香「っ!?」

J『こっ、これは! 予選でも見せた水流のジェット噴射だぁー!!』

有香「くっ……ぅあっ!?」

後ろに跳んで距離を取ろうとした有香だが、突然足を滑らせ転んでしまう。

J『おおーっと転倒ー!? どうしたことだー!?』
321 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:43:48.40 ID:j2VnBMgZ0

有香「っく……水!?」

そう、先ほど有香自身が切り払った水流。

それが飛び散ってリングを濡らし、足元を滑りやすくしていたのだ。

マリン「やあっ!」

有香「んぐっ……!」

ナチュルマリンの全身を使ったタックルが、有香にクリーンヒットした。

J『おおーっと! 滑りに滑ってリング端へ追い詰められたぁー!!』

有香「……まだっ!」

立ち上がって体勢を立て直す有香。
322 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:45:52.30 ID:j2VnBMgZ0

マリン「たぁぁー!!」

J『ナチュルマリン再度体当たりを敢行ー!!』

ウサコ『ウサッ!?』

有香は、避けない。

防御もしない。

ただ仁王立ちして、それを待っている。

有香「…………」
323 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:48:50.58 ID:j2VnBMgZ0

そして、

マリン「やぁー!!」

有香「……っ!!」

J『クリーンヒットォォォォオ!! 有香の体が宙を舞っ……っぇえ!?』

マリン「ひぅえっ!?」

体当たりを食らう瞬間、有香はナチュルマリンの衣装の裾を掴んでいた。

ほんの一瞬、ナチュルマリン当人さえ今気付いたほどの瞬く間にだ。

有香の体は吹き飛ぶが、それに引っ張られてナチュルマリンも同様に吹き飛ぶ。
324 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:51:21.90 ID:j2VnBMgZ0

そしてその勢いを利用して、有香が仕掛けた。

有香「っせぇあぁぁ!!」

ナチュルマリンの上半身をガッチリと抱え込んでそのまま上体を大きく反らす、俗に言う……

J『あ、アルゼンチンバックブリーカーだぁあ!?』

やがて、二人の姿が溝の底へ消えてゆき……


ドゴッ

マリン「おぶっ」


何かを打ち砕くような音とナチュルマリンの短い悲鳴のようなものが、同時に会場に響いた。

J『こ、これは……カメラ回してカメラ!』

会場中央のモニターに、溝内の様子が映し出される。

そこに映っていたのは、床にうつ伏せに倒れ込むナチュルマリン。

そして、壁に拳を叩き込んで床に触れる事なく静止している有香の姿だった。
325 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:52:41.54 ID:j2VnBMgZ0

J『お、おおっ……決まったぁあー!! 勝者は中野有香だぁあーー!!』

ウォオオオオオオオオオオ...

歓声の中、数人の同盟スタッフが2人に駆け寄る。

有香「……彼女を医務室へ。気を失っています」

スタッフ「あ、は、はい」

有香はリングから拳を引き抜きそう言うと、颯爽と会場を後にしていった。
326 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:53:48.98 ID:j2VnBMgZ0
J『……さて! これで一回戦全ての試合が終了しました! トーナメント表がこちらです!』

中央モニターにトーナメント表が表示される。

×ラビッツムーンvs○ノーヴル・ディアブル
→(ノーヴル・ディアブル)vsRISA

○ナチュラルラヴァースvs×ラプター
→(ナチュラルラヴァース)vsマーセナリー東郷

○パーボ・レアルvs×桜餡
→(パーボ・レアル)vsひなたん星人

×ナチュルマリンvs○中野有香
→(中野有香)vsカミカゼ

J『ありさ先生、ズバリ現時点での優勝候補は誰でしょうか!?』

亜里沙『そうねえ……やっぱり疲労度が目に見えて低いパーボ・レアルかマーセナリー東郷かしら?』

J『なるほど。選手達も休憩を挟むとはいえ、それまでに蓄積されている疲労度は重要ですからね』

亜里沙『あとは……有香ちゃんもあまり息が乱れていないわね、注目かも』

J『さあ、優勝は一体誰の手に渡るのか! 二回戦は1時間後より開始されます! 会場の皆様はお遅れのないようご注意下さい!』

ウサコ『テレビでご覧の皆さんにはドラマの再放送をお送りするウサー』

J『ではっ、1時間後にまたお会いしましょうっ!!』

続く
327 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2015/07/09(木) 00:55:38.55 ID:j2VnBMgZ0
以上、二回戦に続く
頑張る(白目)
328 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/07/09(木) 14:50:42.66 ID:D/h52F140
乙ですー!
それぞれのキャラやら戦法やら能力が存分に発揮されててすごい(小並感)
AHFならではの組み合わせばっかりでホント読んでて楽しいなぁ
二回戦も頑張ってくださいませー
329 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/09(木) 18:08:23.47 ID:j7pr51Kao
>>327
おつー

いよっ、待ってました(謎のノリ)
とうとう本戦開始、一対一のガチバトルですね
とりあえず押忍にゃんが一勝したようでなにより

……ちなみに今回一番印象に残ったのが
>ラビッツ「あべっ」
とかいう「自己紹介かな?」みたいなやられ声
330 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/09(木) 23:16:18.34 ID:C6Ueozixo
>>327
乙です、相変わらずすごいキャラクター数
さてさてなつきちは強いですが、ひなたん星人はどこまでやれるかな?

一番印象深かったのは
>壁に拳を叩き込んで床に触れる事なく静止している
これくらいは当然のように為してしまう有香にゃんでした、ナイスマッスル
331 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/10(金) 01:19:41.41 ID:PW+8Dd4r0
>>327
おつかれさまれすー
次回もこうご期待ですなー

バトルシーンも読むの面白いけど、
一番印象に残ったのはなぜかよしのんの勉強シーンだったりww
332 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/12(日) 13:18:01.86 ID:vQVvLUfg0
投稿しますん
よしのん、(名前だけ)きらりんお借りしますー
あと、アパート○○の設定をお借りします。

時系列的には、美穂ちゃんが去ったあとぐらいから。


あと、感想返し
>>241、253
すいません、忘れてましたorz
そうですねー、最近あんまり出てきてない人とか重点的にやりたいなーって思いつつ、
最近でたよーっていう人もちょこちょこ出してく感じでやっていければと思ってます。

浄化されてしまいそうな清さ……なんか書いてて心が……
実際、未来における手紙はこうした癒しというものがあるのかもしれませんね。
ともあれ、(私の設定上では)未来はそれほど生きやすい世界ではないかもしれません。


>>250
時が未来になるほど、昔にあった流行とか職業とかが見直されていくのかなーとか思ってこういう設定に。
脳波とか光とかで瞬時にメッセージが送れるような世界だからこそ、手紙という形で渡されるものに対しては何か特別なものがあるのかもしれません。
と、勝手に思ってみたり。


>>251
もうピィさんはプロダクションのみんなに『愛してるぜ、ベイベー!』とか実際に叫んでみればいいと思うの


>>252
守りたい、この平和


>>281
(私の設定上では)名前や容姿だけでも、届けようとはしてくれます。
でも、実際届くかどうかは別問題。
333 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/12(日) 13:18:56.77 ID:vQVvLUfg0
ユウキ「……???」

ユウキ「い、行ってしまいましたっ?」

う、うーん……そんなに逃げ出すように慌ててどうしたのでしょうか?

何かまずい内容でも書かれていたのでしょうか?

ユウキ「……」

ユウキ「…………あ、でも」

よく見てみれば、先ほどの手紙を大事そうに抱えています。

ユウキ「あれほど大事に抱えているなら、良い手紙だったんですよねっ?」

きっと、そうですねっ。

確か彼女もヒーローなのだと、小さい男の子も言っていました。

だとすれば、あれはファンレターか何かなのかもしれません。

ファンレターをもらって取り乱す……なんだか可愛いですねっ!

そう思うと、自然と笑みがこぼれました。

それに、あの人とはなんだかまたどこかで会えそうな気がしますっ!

さてと、男の子から頼まれた配達は終わりですっ! いいお手紙をお届けできましたので、気持ちがいいですっ!

そろそろ、『きらり』さんを探しましょうっ!


……あ、ところであの人、手紙を送りたいって言ってたようなっ?

むむっ、これはあの人も探さないといけませんねっ?

ああっ、なぜか探し物が増えましたっ!?
334 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/12(日) 13:20:13.10 ID:vQVvLUfg0
それから私は千枝ちゃんから預かった手紙を渡すべく、もらった手掛かりを元に『きらり』という名前の人を探していました。

しかし……本当に『きらり』という名前の人がいるのでしょうか?

自分のことを『きらり』と呼んでいることを考えると……そういうキャラ作りの人なのかもしれません。

となると……芸能人でしょうか?

そういえば、さ……はぁとさんと一緒に見ていたテレビで『アイドルヒーロー同盟』というものがあると聞きました。

もしかしたら、きらりさんはそこの人なのかもしれません。

みんなを守るヒーロー……かっこいいですねっ!


そんなことを考えながら歩いていると、ふと気になった表記がありました。

アパート○○……

ユウキ「……アパート、まるまる?」

この○○って、伏字なのでしょうか?

??「それは『ふたつわ』と読むのでしてー」

その声が聞こえる方を振り向くと、両手に袋を下げた和服を着た女の人がいました。

ユウキ「なるほど、『○○』と書いて『ふたつわ』と読むのですねっ」

芳乃「そうでしてー。そしてわたくしはここの管理人、依田は芳乃でしてー」

ユウキ「管理人さんでしたかっ! 私はユウキ・オトクラと言いますっ!」

芳乃「ほほー、ユウキ殿と申しますかー。 まこと元気の良い挨拶でしてー」

ユウキ「ありがとうございますっ!」

芳乃「このまま立って話すのも辛かろうかと思いますゆえ、どうぞおあがりになられませんかー?」

ユウキ「えっと、よろしいのですかっ?」

芳乃「ここであったのも何かの縁。 少しくらいお話ししたいと思ったのでしてー」

ユウキ「なるほどっ! それならお邪魔いたしますねっ!」
335 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/12(日) 13:21:20.40 ID:vQVvLUfg0
というわけで、部屋の中に案内された私は、和室で管理人さんが用意してくれた茶菓子を頂きながら雑談をしていました。

ユウキ「それにしても……なんだか懐かしい感じがしますねっ」

芳乃「そうでございましょうー。 このアパートはわたくしが生まれる前からずっと建っておられたゆえー。」

ユウキ「そうなんですかっ……」

なるほど……歴史があるのですねっ!

しかし、私の懐かしい……というのには、少し語弊があります。

私は、私の未来の企業によって作られたロボットなので、住んでいるところはその企業の中なのです。

なので、こうした小さいアパートの中で暮らしたことはありません。

ですが、このアパートはなぜかそういう気持ちにさせてくれるのです。

それはまるで……

芳乃「それでー、ユウキ殿はなにゆえ悩んでおられたので?」

ユウキ「へっ? 確かに悩みはありますが……なぜわかりましたっ?」

芳乃「声かける前から、たまたまですが、ユウキ殿の後ろを歩いておりましたー。
ゆえに、後ろから悩んでいる様子などがうかがえましたのでしてー。」

ユウキ「そ、そうだったんですか……」

芳乃「ユウキ殿は、まこと素直な子なのでしょうー。 後ろから見ても、その様子などが伺えましたのでしてー」

ユウキ「ううっ……、それはちょっと恥ずかしいですっ……。」

そんなに私はわかりやすいのでしょうか? 後ろから見ても分かるだなんて、感情が体に出ているのでしょうか?

芳乃「何を悩んでおられたのでして?」

ユウキ「実は人を探していまして……」

芳乃「ふむふむ、それはどなたでしてー?」

ユウキ「そうですね……『きらり』という名前の人なのですけど……このアパートにはいますかっ?」

芳乃「ふーむ……そうした名前の方はいらっしゃらないのでしてー」

ユウキ「そうですか……」

芳乃「ちなみに容姿などはー?」

ユウキ「そうですね、大きくてかわいい衣装を着た人と聞きましたっ」

芳乃「……やはり存じ上げませぬー」

芳乃「お力になれず、申し訳ないのでして」

ユウキ「いえいえっ! 知ってたらいいなって思っただけですのでっ!」

うーん、さすがに行き当たりばったりで見つかるようなものでもありませんねっ

一体、どこに住んでいるのでしょうか?
336 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/12(日) 13:22:48.91 ID:vQVvLUfg0
芳乃「しかしその格好……とても愛らしく見えるのでしてー。 流行りの服でございましょうかー?」

ユウキ「いえっ、これははぁとさんが作ってくれた手紙配達用の制服なんですっ!
私のお気に入りですっ!」

芳乃「郵便配達の人でしたかー。」

ユウキ「ほとんどは荷物を送るついでに手紙を送る感じで使われちゃってますけどねっ。
でも、久しぶりに手紙を送る仕事をもらったので、張り切ってますっ!」

芳乃「そうでしたかー。
今のご時世、インターネットなるものが普及している中で、紙の文とはー。
たとえばどのような手紙を送るのでしょうかー?」

ユウキ「そうですねっ! 先ほどはファンレターを送りましたっ!」

芳乃「ファンレターですかー。 送られた者はさぞうれしかったのでしょうー」

ユウキ「そうですねっ。 大事そうに抱えて走っていきましたっ!」

芳乃「それは何とも微笑ましい姿なのでしてー」

ユウキ「あとは、感謝の気持ちを込めた手紙だったり、合格通知だったり、ラブレターだったりですかねっ?」

芳乃「色々なものを送っているのでしてー」

ユウキ「ああでも、それだけじゃないですよ?」

芳乃「ほほうー?」

ユウキ「本当に事務的な連絡も送ったりしますし、社外秘の文章を送る方もいらっしゃいましたっ。」

芳乃「しゃ、社外秘の資料を郵送するのでしてー?」

ユウキ「珍しい例では、果たし状でしょうか?」

芳乃「は、はたっ!?」

ユウキ「しかも、手紙を顔面に叩きつけて『貴様にあの彼氏はふさわしくない!』と言うように指示されましたねっ!」

芳乃「えっ!?」

ユウキ「まあ、ちゃんと注文はこなしましたっ! とばっちりで殴られそうになったのはココだけの秘密ですっ!」

芳乃「ゆ、勇気がおありなのでしてー」

ユウキ「えっ、えーと……ダジャレですかっ?」

芳乃「違うのでしてー」
337 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/12(日) 13:24:05.75 ID:vQVvLUfg0
芳乃「でも、なんといいますかー」

ユウキ「はい?」

芳乃「とっても楽しそうに見えるのでしてー」

ユウキ「楽しい……ですかっ?」

芳乃「ええ、とっても楽しそうに語っておられましたゆえー」

ユウキ「そ、そうですか……」

芳乃「……いかがいたしましたでしょうかー?」

思い出すのは、未来での出来事。

確かに未来の世界でも、届けて楽しいと思えることはありました。

でも、それだけじゃないんですっ!

ユウキ「………」

芳乃「……ふむー」

私が運ぶのは、幸せだけだとは限らない。

確かに千枝ちゃんに話したことや、先ほどの人にファンレターのようなうれしい事を送るのも、私の仕事です。

ですが、悲しい事を運ぶことも、私の仕事なのです。

それは失恋の手紙だったりするのならば、悲しい事ではありますが、まだマシなのかもしれない。

……私が送る手紙一つで、悲しむ家族だって……

そう思っていた矢先、不意に頭をなでるような感触がしました。

ユウキ「ふえ……っ?」

芳乃「よしよし、なのでしてー」

その感触は、どこか優しかった。

芳乃「あなたの今までがどんなものだったかなど、私には知る由もありませぬー。
なれど少しでも、その暗い気持ちが安らぎますよう、おまじないをしてあげているのでしてー」

そのおまじないに意味なんてないのかもしれない。

けれどそれは、暗く沈んだ私の心を、優しく慰めてくれました。

そうされたら、落ち込んでなんて居られませんねっ

ユウキ「……ありがとうございますっ! おかげで元気が出ましたっ!」

芳乃「元気が一番なのでしてー。
その代わりと言ってはなんですがー。 もし、住むところを探しておられる方がおられましたら、このアパート○○を紹介してほしいのでしてー。」

ユウキ「……んー。 そんな人、滅多にいないと思うのですが……わかりましたっ!」


その後、管理人さんといろいろとお話をしました。

主に『ハートメールサービス』についての事とか、未来で送った手紙の事とか……。

そうして話をしていくうちに興味を持ったのか、『わたくしも文を送ってみたいのでしてー』といってきましたっ!

ですが、今は送る相手が思いつかないとのこと。 残念ですっ。
338 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/12(日) 13:24:44.59 ID:vQVvLUfg0
そうこうしていくうちに、時間は過ぎてしまうもので……

2時間ぐらいたった後、配達の事を思い出した私は、管理人さんにそれを告げました。

それを聞いた管理人さんは外までお見送りしてくれました。

ユウキ「では、私はもう行きますねっ!」

芳乃「また来ると良いのでしてー」

ユウキ「はいっ! 時間があったら、また来ますねっ!」

芳乃「人探し頑張るのでしてー」

そういうと、管理人さんは手を振って私を見送ってくれました。

さて、人探しを再開しましょうっ!『きらり』さんを探すのはなかなか難しそうですっ。



芳乃「………」

芳乃「まこと、末恐ろしくも面白き子なのでしてー」

芳乃はアパート○○へと戻っていく。そうして和室の真ん中にあるテーブルの前に正座する。

テーブルの上には、教科書とノートと筆記用具……

芳乃「……むむむー。 この問題の答え………なんで駄目だと言うのでしてー?」
339 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/12(日) 13:27:04.91 ID:vQVvLUfg0
その数日後の夕方――

私は早めに『きらりさん』を探すことを止めて、家に戻っていました。

すると、さ……はぁとさんが勢いよくドアを開けて戻ってきましたっ!?

心「やべっ、ユウキちゃん、大へぇ〜ん!!」

ユウキ「ど、どうしましたかっ!?」

心「ちょっと説明は後にして、今すぐこの家をでるよぉ☆」

ユウキ「えっ、えっ?」

心「ちっくしょー、あいつら逆恨みしやがってぇ☆ 許さねぇぞ☆」

ユウキ「逆恨み……?」

心「細かい事気にすんなー☆ とりあえず、家財道具全部アイテムボックスで閉まったから、今すぐ逃げよぉ☆」

ユウキ「は、はいっ!!」

その後、急いでマンションから降りて、逃げるように去っていきました。

……後ろから、ドーンという爆発音らしき音がしましたが……気のせいだと思いますっ!



そうして、ひとしきり走った後……

心「はぁっ、はぁっ。 もう年だから、ちょっとキツイ、ぜ☆」

ユウキ「ど、どうしたんですかっ、いったい……」

心「いやまあ、ちょっとな☆
それより、ちょっと住むところ探さないとね♪」

ユウキ「住むところですか……住むところっ?
あ、あのっ……はぁとさんっ……!」

心「ユウキちゃん、なぁに?」

ユウキ「住むところでしたら、思い当たるところがありますっ!!」



芳乃「おやおや、こんな時間に入居の願いですかー?」

心「はぁーい、お願いしまぁーす☆」

ユウキ「よろしくお願いしますっ!」

こうして、私達はアパート○○で暮らすこととなりましたっ。

……どうしてこうなったんでしょうっ!?
340 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/12(日) 13:31:21.63 ID:vQVvLUfg0
以上れすー
とまあ、こんなことがありまして、アパート○○に引っ越したのであったww

しゅがはさんのマンションがなぜ襲われたかは……ちょっと考えてはない。
うーん、また口調が変かもしれないなー
341 : ◆3QM4YFmpGw [sage]:2015/07/12(日) 13:52:02.94 ID:PagPQmF0O
おつおつ
新規入居者だ! 囲んでちやほやもてはやせ!
佐藤さんのセリフは語尾の「ぜ」を「ぞ」に変えるだけでもかなりそれっぽいかも

ちなみにコメント返信は無理にやらなくてもよいのよー
342 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/07/12(日) 22:07:58.73 ID:ZzHU61Ha0
乙です−
きらりへの考察のニアピン感
まぁ仕方ないけども!

アパートがまた賑やかになりますなー
343 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/13(月) 23:59:47.12 ID:Wjgyo2RGo
>>340
おつー
アパートの入居者も順調に増えていってますな

のんびりとしたよしのんと乙倉ちゃんの会話に和んだところで
謎の襲撃を受けるしゅがはさん、不穏
344 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/17(金) 18:01:42.05 ID:v4QqumpSo
>>340
乙でしてー
また○○アパートの戦力が上がってしまった
よしのんと乙倉ちゃんの絡みは実際モバマスにもありますがいいですよね、
情景の微笑ましさ度が上がります、うふふ…
345 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/22(水) 20:36:31.73 ID:h0XKPaLG0
アニメ二期も始まって、ちょこちょこと書いてたものもできたので投下ー
また連投になっちゃうけど許して。今回は短めです。

今回はしゅがはさんの話です。
しゅがはさん、誕生日おめでとー(タイミングを見計らったわけではないけども)

>>341
アドバイスどうもです。 ちょっとやってみたのですが、どうでしょうか?
あと、コメ返しは好きでやってます……というよりはやらないとすまない病がww


>>342
ユウキちゃん目線からはネバーディスペアは見えてないので、致し方なしですね。
仕方ないです。


>>343
今回はそのしゅがはさんをちょっと掘り下げてみました。


>>344
微笑ましい情景を書きたいww
暑中見舞いSSでも書こうかな?
でも、戦力っていう観点からすると、今のユウキはほとんど役立たずです。
(微笑ましさという戦力であれば、確かに上がってるけども)
346 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/22(水) 20:37:33.74 ID:h0XKPaLG0
佐藤 心。26歳。 元GDFパッションチームの一員。

GDF時代では、パッションチームの中の第310特殊支援分隊に所属。

当時の隊長と共に、市民の避難誘導など様々な任務への支援活動を行っていた。

だが市街地爆撃作戦時の、作戦内容と上官の態度に憤慨。

当時の隊長と共にボイコットし、独房入り。

その後、作戦自体が不当だったとして釈放されたものの、GDFに失望したのか退職。


退職後はアルバイトとして飲食店などに勤務しながら資金を溜め、『ハートメールサービス』を開始。

ユウキ・オトクラと共に、慈善事業としての郵便事業を手掛けている、いわゆるソーシャルワーカー。

現在、スポンサーを募集中。


これが、彼女の『表向きの』経歴である。

だが、彼女のもう一つの顔と隠された能力を知るものは少ない。


たとえば、彼女の能力『アイテムボックス』。

この能力の存在を知るものはそう少なくはないものの、その使い道は『荷物の運搬』などが大半であった。

習得時期もGDFにいた頃だという事実は、一部のGDF隊員しか知らない。

ましてや、この能力が応用のききやすい能力であるということも。


そしてもう一つの顔だが、これを知る者はごくわずかしかおらず、その実態は謎に包まれている。

心と共に郵便事業を手掛けているユウキですら、心の『能力の使い方』と『彼女の本当の仕事』については、知らないのである。
347 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/22(水) 20:38:45.25 ID:h0XKPaLG0
『サンキュー、シュガーハート。 いつもすまんな。』

「どうってことないって♪ 隊長には感謝してるんだぞ☆」

『その隊長という呼び名はよしてくれよ。
あんたはGDFをやめていて、俺も別の部署に左遷っていうことになっているしな。』

「そうだった、てへっ☆
でも、それじゃあどうやって呼べばいいのかわからねぇぞ☆」

『そうだなぁ……あんた確か、ユウキっていう子と共に郵便屋みたいなことをやってるんだっけ?』

「おい、どこからそんな情報仕入れた☆」

『新生GDFの情報収集能力なめんなよ? 市井の動向くらいはちゃんと仕入れていらぁよ。
まあ、あんたのその活動にちなんで、『ポストマン』とでも名乗ろうか。』

「『ポストマン』……むさいおっさんから手紙渡されてもなー」

『うっせぇ! そういうあんたは今年で何歳だ? 人前でぶりっ子ぶるのもいい加減にしたらどうだ?』

「はぁとの心はぁ、いつまでも乙女なんですぅ☆」

『ははは。 ジョークとしては面白いぞ、シュガーハート。
巷で人気の永遠の17歳アイドルならともかく、上司をマウントパンチでぶん殴ったあんたが乙女とか詐称も甚だしいな。』

「お前、後でボコるわ……」

『それは勘弁願いたいな。 ああ、それと。
先日は依頼達成した後に自宅を襲撃されたようだな。 あれはすまない。』

「まあ、はぁとの能力で自宅の家具とかは全部収納したし、すぐに次の住むところも見つかったから、結果オーライ☆」

『その住むところ……アパート○○だったか? それなんだが、セキュリティとか大丈夫なのか?
別なところを手配するっていうのも、こちらの方でできるが?』

「逆にはぁとみたいな人が、こういった所に住んでいるのは想像できねぇんじゃねぇか?」

『そういう考えもあるか。 まぁ、周りに迷惑かけないようにな?』

「セキュリティガッチガチのあのマンションに住んだらで襲撃されるんだから、どこいたって一緒だと思うぞ。
あ、それであのマンションの住民は無事だったか?」

『犠牲者は無し。 部屋もあんたが住んでた所だけが爆破されてて、他は両隣の家の壁に穴が開いたぐらいだ。
幸い、どちらも外出中で怪我はなかったがな』

「それ聞いて、はぁとも安心♪ でも、報復とかもうマジで勘弁☆」

『まあ、こっちの方でも報復とかされないよう、対策はきっちりさせておく』

「頼むわ☆ で、次の仕事とかあるのか?」

『あー、いや、今のとこは無いな。 まあ、平和なのが一番ってことで、許してくれ』
348 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/22(水) 20:42:41.92 ID:h0XKPaLG0
「それなら、ちょっと病院行ってくる」

『なんだ? どこか負傷したのか?』

「いや、別に負傷ってことじゃねぇけど、引っ越し作業で重いものいっぱい持ったから腰が痛いんだわ☆」

『ははは、ぎっくり腰か?』

「ちげえよ♪ 大事とって病院に診察してもらいたいだけだぞ☆」

『まあ、そういうことならうちらの病院に予約の手配をしておこうか?』

「あー、頼むわ。 それと、ユウキちゃんも連れて行っていいか?」

『ん? なんでだ?』

「ほら、憤怒の街の一件があっただろ? あの事件の被害者をうちらのほうで何とかできないかと思ってな。
ああ、こっちが本音なんだが、腰が痛いっていうのも本当だからな☆」

『なるほど、そういうことなら取り合ってみようじゃないか。』

「ありがとな☆」

『まあ、俄かには信じがたいが、未来から来た子なんだろ?
しかも、俺らの未来を救いに来たと言ってたらしいじゃないか
GDFとして、手伝ってやらない理由なんてあるか?』

「でも、これは明らかに職権乱用だぞ?」

『だからこその『裁量特権』だろうが。
その代わり、ユウキの件に関しての報告はしてくれよな?』

「分かってるよ☆」


心「ユウキちゃん、明日ちょっと病院行ってくる♪ 腰が痛くなっちゃったんだわ☆」

ユウキ「だ、大丈夫ですかっ? 一緒に行きましょうかっ!?」

心「あー、頼むわ☆」(頼む手間が省けたな☆)
349 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/07/22(水) 20:48:26.49 ID:h0XKPaLG0
佐藤 心(追加設定)
アルバイトと称して『ポストマン』と呼ばれるGDF関係者から依頼を受け取っている。
それ以外としては、傭兵などの活動をしている模様。


『ポストマン』(仮称)
GDF隊員の一人。
心とは同じ舞台の隊長と部下の関係。
GDFのどこに所属しているかは不明だが、心によく依頼を持ちかけている。
傭兵やOBに対するGDFの依頼仲介人という立ち位置。


以上です。
ちょっと雑だったかなーって思いつつも、GDF関係のつながりを一つ。
『ポストマン』はモデルになったキャラはいっぱいありますが、今のところはしゅがはさんに依頼を持ちかけたりとかするだけです。
(名前自体は本当に劇中で語った感じで決めてますが)

次回からちょっと連続物とか挑戦するかも?
350 :@予約  ◆R/5y8AboOk [sage]:2015/07/24(金) 00:32:48.38 ID:+Qy9MuyR0
噫…ようやくだ…
桐生つかさ、予約します
351 : ◆R/5y8AboOk [sage]:2015/07/24(金) 00:39:06.70 ID:+Qy9MuyR0
と、言いたいところだったが下書きが半分ほど吹き飛んでいる事実が発覚したので止める

何故だ
352 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/07/24(金) 00:51:05.08 ID:T7Msmw7n0
乙ですー
ポストマンと聞くとゼルダの伝説シリーズが脳裏をよぎる
はぁとさんにも色々あるみたいで今後が楽しみ
353 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/24(金) 14:24:19.40 ID:hQuQOgK7o
>>349
おつー
しゅがはさんの裏の顔……、気になりますな
一方で新たなP枠(?)の登場

ポストマン……、P……
略してPマンだな!(小並感)
354 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:30:18.21 ID:4g6m97E0o
どうもみなさん、7月25日ですね、ええ、私だ
今回のSSはちょっと、何というか……アレです
露骨なラブコメ、というレベルを超えた、もはや夢小説のような内容なので注意しましょう

ほぼIFのようなものなので、メタネタスレに投稿しようかとも悩んだけど
「誕生日だし、いっか」精神でこっちに


では『恐らくこんなハッピーエンド 〜行くとこまで行っちゃったよ編〜』を投稿します
355 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:30:48.62 ID:4g6m97E0o
――藍子と出会ってから、何年の月日が流れただろう。


――あれから色々な出来事があった。

――本当に色々あった。

――色々は色々である。一言では言い表せないほど色々だ。


――とにかく、その色々の時間を『プロダクション』で共に過ごすうち、俺と藍子は互いに惹かれ合っていき、

――いつしかその関係は交際へと発展した。

――恋人同士となってからまたしばらく時が経ち、藍子が成人すると、

――そのタイミングに合わせて今度はプロポーズを申し込んだ。

――――俺と藍子は、今では夫婦である。


――結婚式は、ささやかなものを『プロダクション』で挙げた。

――皆の祝福を受けたとても幸せな式だった。

――更に、程なくして藍子が妊娠し、そしてつい先日女の子が産まれた。

――――俺と藍子の子だ。
356 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:31:14.77 ID:4g6m97E0o
――今日は『プロダクション』の皆と、この子の初顔合わせの日である。


――事務所に着いた時、何人かはまだ来てないようだったが、

――既に集まっている皆は一様にそわそわした面持ちでスタンバってたようだ。

―― 一同は、俺と藍子……

――というか、藍子の腕に抱かれ、スヤスヤと眠っている赤ん坊を見ると、小さく歓声をあげた。



ピィ「……ということで皆、これがうちの子だ」

赤子「( ?ω? ) スヤァ…」


未央「うわぁ……っ! 可愛い〜っ!」

ちひろ「この子が二人の……」

楓「とてもキュートですね……、きゅーっと抱きしめたくなります、ふふっ」

美玲「こ、こんなに小っちゃいのか……」

晶葉「何だか不思議な感じだな……」

愛海「ほわぁぁ……」

アーニャ「プレクラスニー……! 可愛いです!」

薫「もっとよく見せてーっ!」

メアリー「か、カワイすぎるワ……」

千枝「……………………」
357 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:34:00.11 ID:4g6m97E0o
ピィ「はい、みんな十人十色の反応ありがとう、しかし一旦落ち着こう」


社長「いいものですな……」

博士「いいものですなぁ……」

ピィ「そこのお二人もしみじみしてないで」


藍子「ふふっ、こんなに喜んでもらえると、私まで嬉しくなっちゃいます」

ピィ「どうだ俺の妻は天使だろう」

未央「爆発しろ!」

ピィ「爆発しない!」
358 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:34:40.82 ID:4g6m97E0o
ピィ「えー、こほん……」

ピィ「まだ何人か来てないけど、ひとまず今いる皆」

ピィ「今日はこの子のために集まってくれてありがとうな」

ピィ「皆にはいつも本当に感謝してる」

ピィ「この子が産まれる前も――」

メアリー「ンもう、堅苦しいのはナシにしましょうヨ」

ピィ「……そうか?」


薫「はいはーい! 名前はなんていうのーっ?」

ピィ「ああ、そういえばまだ言ってなかったな」


ピィ「この子の名前は……」
359 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:35:07.87 ID:4g6m97E0o
――名前に関して、ずっと決めていたことがある。

――『青は藍より出でて藍より青し』ということわざに倣って、

――藍子から産まれたこの子が、素敵な子に育って欲しいという思いを込め、

――『青』という字を入れたい、と。


――すくすくと、日の光を浴びて元気よく成長して欲しい、

――そして、周りの気持ちも明るくできる、そんな子になって欲しい。

――……という意味で付けた名前。


――この子の名前は。


ピィ「”青葉”っていうんだ」
360 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:35:33.86 ID:4g6m97E0o
未央「艦こ――」

ピィ「関係ない、茶化すな」

楓「青葉ちゃんですか」

ピィ「はい」

楓「青葉……、あおば……」

ピィ「人の子供でダジャレを考えないで下さい」

薫「素敵な名前っ!」

ピィ「一番最初にそれが聞きたかった」


晶葉「苗字は高森になるわけか?」

ピィ「……そうなるな」

メアリー「複雑な家庭の子みたいネ」

ピィ「実際に複雑な家庭なんだから仕方ないだろ」

社長「複雑って、キミィ」

ピィ「だいたいアンタのせいだよ!」
361 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:36:06.27 ID:4g6m97E0o
ピィ「まぁ、ともかくだ」

――言いながら、俺は、ちら、と藍子に目配せをする。

――それに気づいた藍子が小さく頷き、柔らかく微笑んだ。好きだ。


藍子「未央ちゃんっ」

未央「ん? なになにー?」

藍子「はい、抱いてあげてください」

未央「えっ、ええーっ!?」


ピィ「是非、皆にこの子を抱いてもらいたいんだ」

アーニャ「抱いて回すわけですね」

ピィ「……言い方がちょっとアレだけど、そうだな」
362 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:36:38.90 ID:4g6m97E0o
――そういえば、さっきからずっと気になっていたんだが。


周子「……」

沙理奈「……」

ピィ「何でそこの二人はちょっと離れてるんだ?」


周子「やー、ほら、あたし達は属性がさー」

沙理奈「ねぇ、あんまり、良くないでしょ……」

ピィ「なに言ってんだ、二人にはずっと助けられてきたんだから」

周子「そうは言ってもねー……」

沙理奈「アタシの正体知ってるでしょお? 普通は近寄らせないわよ」

ピィ「そんなの気にしないから、こっちに来いって」


藍子「私からもお願いします」

周子「……じゃー、いいけどさ」

沙理奈「あんま縁起は良くないわよ?」

ピィ「縁起が良い奴がいるから平気平気」
363 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:37:10.60 ID:4g6m97E0o
未央「ああぁ〜……っ(泣)」


周子「その『縁起の良い奴』が、なんか泣いてんだけど」

ピィ「おわっ!? どうした未央!」

藍子「未央ちゃんっ!?」


未央「ピィさんとあーちゃんの子ぉ……っ!」

未央「こんなに……、こんなに尊い命があるなんて……!」

未央「私、二人に会えて良かったぁ〜〜っ……!」


ピィ「いや、泣くほどのことか……」

藍子「あはは……」

未央「うっ、うっ……、尊い……」

ピィ「……」

――いや、この子が産まれてきた時は俺も泣いたけどさ
364 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:37:47.75 ID:4g6m97E0o
ピィ「じゃあ次は、ちひろさん」

ちひろ「あら、いいんですか?」

ピィ「そりゃ勿論」

ちひろ「普段、鬼とか悪魔とか……」

ピィ「今その話しなくていいでしょ」

ちひろ「じゃあお言葉に甘えて」


未央「はい、どうぞ……」グスッグスッ

ちひろ「はい、どうも」

青葉「スヤァ…」


――涙ぐむ未央から、ちひろさんの元へ青葉が渡った。

――しかし、こんだけ喧しい上、色々な人に抱っこされてるのに、眠ったまま全然起きる気配がない。

――我が子ながら、随分と肝が座ってるなぁ。

――……いや、鈍感なのか?
365 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:38:17.22 ID:4g6m97E0o
ちひろ「わぁ、可愛いですねぇ」

ちひろ「青葉ちゃんが産まれたのも、私のおかげですよね?」

ピィ「いや何でですか」

ちひろ「えっ、だって一時期私のドリンクを買い込んでた頃がありましたよね?」

ピィ「……ありましたけど」


ちひろ「ハッスル、されたんでしょう……?」

ピィ「下世話な話はやめろォ!!」


ちひろ「下世話ってことは無いでしょう、ハッスルしなきゃ子供はできないんですから」

ピィ「だからそれ今する話じゃないでしょうって、ハッスルハッスル言わんでください」

藍子「求められるのは……、その……、嬉しいんですけど……」モジモジ

藍子「数が多いと、やっぱり、その……、疲れてしまって……」モジモジ

ピィ「藍子、今自分が何言ってるかわかってるか?」


千枝「………………」

周子(あー……)

沙理奈(あー……)
366 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:38:49.38 ID:4g6m97E0o
ピィ「はい次! 次は美玲な」

美玲「おッ、おう……!」


ちひろ「じゃあ、はい、こうやって頭を支えるように……」

美玲「う、うん……」

周子「爪出しちゃ駄目だよー」

美玲「出すかッ」



青葉「スヤァ…」

美玲「うわぁー……」

美玲「お前ほんとに小っちゃいな……」

美玲「軽いし、メッチャ弱そうだし……」

美玲「ウチらが守ってやんないとだなッ!?」

周子「落ち着いてー」
367 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:39:17.16 ID:4g6m97E0o
ピィ「そのまま次は周子だな」

周子「えー、ほんとに良いの?」

ピィ「良いって言ってるじゃんか」

周子「やめた方がいいと思うんだけどなー、あたしみたいなのがさー」

ピィ「くどいぞ」

周子「はいはい」

美玲「は、早く……」



周子(しかしまぁ、未央ちゃんが泣くのもわかるよ)

周子(なんてったって、あの二人の子なんだもんね)

周子(……小さな命)

周子(戯れに奪ってきたことだって、何度もある)

周子(ピィさんはあー言うけど、やっぱあたしには資格が無いと思うよ)

周子(ああ、でも、やっぱり……)


周子「はー、いいものですなー」

社長「わかる」

博士「わかる」

ピィ「次ー」
368 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:40:29.18 ID:4g6m97E0o
周子「ほい、社長」

社長「おお、次は私でいいのかねピィ君」

ピィ「どうぞ」



社長「ううむ、何度体験しても、いいものだな」

社長「新しい命、若い力、次の世代……」

社長「素晴らしいよ、実に嬉しいねぇ……」

ピィ「社長には、本当に感謝しています」

社長「おや、どうしたんだい急に」


ピィ「育児の時間を取りたい、という俺の希望を聞いてくれたじゃないですか」

社長「ああ、そのことかね」


――青葉が産まれたら、俺は育児休暇を貰いたいと考えていた。

――藍子と青葉との一緒の時間を大切にしたいと思っていたのだ。

――しかし、プロデューサーという重要な役職にいる自分には難しいのではないか、という不安もあった。

――実際、社長も難色を示したが……。
369 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:40:57.23 ID:4g6m97E0o
社長『いっそ、『プロダクション』に連れてきてあげればいいんじゃないかね?』

ピィ『えっ!?』

社長『勿論、君が良ければ、だがね』

ピィ『というかむしろ、……良いんですか?』

社長『当然だとも、……ああ、他の子たちの同意も必要だがね』

社長『しかし、うちには女の子も多いし、皆にもいい経験になるんじゃないかな』

ピィ『あ、ありがとうございます!』


――なんと、『職場に娘を連れてきてもいい』という許可をくれたのだ。

――他の皆もその提案に快諾してくれて、育児の手伝いまでしてくれるという。

――正直言って申し訳ないくらいの待遇だ。

――本当に感謝しかない。
370 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:41:25.72 ID:4g6m97E0o
社長「さて、そろそろ……」

ピィ「そうですね、じゃあ次は博士どうぞ」

博士「おお、私か」

博士「ではピィ君、娘さんをお預かりするよ」



博士「しかし感慨深いものだな……、そうか、ピィ君も父親か」

博士「ふふっ、大変だぞ、子供を育てるというのは」

博士「私も薫を育てるのに随分と苦労してるからな」

ピィ「肝に命じておきます」


薫「先生っ! 薫もう子供じゃないよ!」

博士「そう言ってるうちはまだ子供だよ、薫」

薫「もー!」
371 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:41:53.92 ID:4g6m97E0o
ピィ「それじゃ、次は薫ちゃんが抱いてあげてくれるかな?」

薫「はーいっ」



薫「うわぁー、こんなに軽いんだ!」

薫「可愛いなぁー……」

薫「お父さんがピィさんで、お母さんが藍子ちゃんで」

薫「青葉ちゃんってば幸せ者ーっ」

ピィ「そう言われると……」

藍子「なんだか照れちゃいますね……」


メアリー「カオル、いつまで抱っこしてるのヨ、ソロソロ次の順番じゃないカシラ?」

薫「あっ、ごめんね」

メアリー「ま、まぁ、アタシは別にいつでもいいんだけどネ……?」チラッ

薫「そっか! じゃあ次は晶葉ちゃ……」

メアリー「ぁ……」
372 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:42:24.95 ID:4g6m97E0o
薫「なんて嘘だよー、メアリーちゃんさっきからずっと抱っこしたそうだったもんね!」ニコニコ

メアリー「チョッ……、いつからそんなにセイカク悪くなったのヨあなた……」

晶葉「別に構わんが、私をダシに使わないでもらいたいな」

薫「じゃあ、はい」

メアリー「う、うん……、こうカシラ……」



メアリー「オゥ……」

メアリー「だめヨ……」

メアリー「だめだワ……」

メアリー「このプリティーさは罪ヨ……」

メアリー「ヤバイワ……」

沙理奈「あの子大丈夫かしら」


ピィ「じゃあ次、沙理奈さんお願いします」

沙理奈「ええ、本気ぃ……?」

周子「ほらほらー、あたしも抱っこしたんだからー」
373 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:42:52.03 ID:4g6m97E0o
沙理奈「……普通、悪魔と知ってて自分の子を預ける親なんていないわよ?」

ピィ「さぁ、悪魔と言われても俺にはピンと来ないし」

ピィ「それに、何かあったら天敵がやっつけてくれるんでしょう?」


未央「尊い……」グスッグスッ

藍子「未央ちゃん、大丈夫……?」ナデナデ


沙理奈「その天敵があの状況なのよ」

ピィ「……まぁ、いいから早よ」

沙理奈「知らないわよぉ?」



青葉「スヤァ…」

沙理奈(はぁ……、悪魔に「自分の子を抱っこしてください」なんて……)

沙理奈(とことん変わってるわよねぇ、ピィさん)

沙理奈(赤子を殺すことくらい、アタシには訳無いのよ?)

沙理奈(……って、それも随分昔の話なんだけど)

沙理奈(でも、ま……)

沙理奈「ウフッ、本当に可愛いわ、食べちゃいたいくらい」

未央「食べないでね」

沙理奈「……未央ちゃん、目がマジよ」
374 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:43:21.69 ID:4g6m97E0o
沙理奈「さぁて、未央ちゃんにお仕置きされる前に……」

沙理奈「じゃあ、晶葉ちゃん」

晶葉「む……、私か……」

沙理奈「ウフ、落としたりしちゃダメよぉ?」

晶葉「ふ……、天才を舐めてもらっては困るな」



晶葉「ピ、ピィ……、藍子……、抱き方はこれで合ってるか? 間違って無いよな? ねぇ、大丈夫……?」

ピィ「落ち着け晶葉、合ってるし大丈夫だから」

晶葉「そ、そうか、なら問題ないな……」

青葉「スヤァ…」


晶葉「しかし、こう……、改めてつくづく不思議な感覚だな」

晶葉「私がロボットを作る事とは訳が違うんだものな……」

晶葉「今ここには、確かに新しい”命”があって」

晶葉「そしてそれはピィと藍子の”命”を継いでいる」

晶葉「私の立ち位置は対極に居るようで、しかし、だからこそ常々考えるよ」

晶葉「”命”とは何か……、とな」
375 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:43:48.59 ID:4g6m97E0o
愛海「……」ジッ

晶葉「ん……? 次はお前が抱くか、愛海?」

愛海「うっひょー! 待ってました!!」

ピィ「師匠」

愛海「ん……? 何かねピィ君?」


ピィ「周子には抱かせる、沙理奈さんにも抱かせる」

ピィ「 愛 海 に は 抱 か せ な い 」

愛海「アイエエエエエッッ!?」


愛海「何で!? ホワイ!? 説明を要求する!!」

ピィ「師匠……、こと”おっぱい道”に於いて、俺は君を一番に尊敬している」

藍子「……」

周子(藍子ちゃんのあれは”おっぱい道”に関してピィさんと一悶着あった顔だ……)

未央(いや、えっ、”おっぱい道”……?)


ピィ「だがな、だからこそ愛海! 貴様に俺の娘を預ける訳にはいかんのだ!!」

愛海「ぬぐぅッ!! 小癪な! 子供が産まれた途端急に父親感を出しおって!!」
376 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:44:20.81 ID:4g6m97E0o
ピィ「尊敬はしているがな! それ以上に信頼をしていないんだ!!」

愛海「くっ……、身に覚えがありすぎて何も言い返すことができない……!」

愛海「……でも、浅いね!! 女の子の柔らかい部分がおっぱいだけだなんて、あたしは一言も言ってないよ!!」

ピィ「なんだと!?」

愛海「いくらあたしといえど、0歳児に変な事はしないよ!!」

ピィ「それは……、確かにその通りかもしれんが……、だが……」

愛海「ふっ、まあ安心して見ててよ……」


愛海「晶葉ちゃん」

晶葉「……いや、この流れでお前にこの子を渡すのは誰でも躊躇うと思うぞ」

愛海「いいからいいから」

晶葉「……いいのか?」

ピィ「あまりよくないが、まぁ……」
377 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:44:47.95 ID:4g6m97E0o
――愛海よ、一応信用はするが、仮に何かあったらグーでいくからな。

――あと娘よ、嫌なら抵抗していいんだからな、泣いて喚いて構わないんだぞ。

――ほら、邪悪なオーラを感じるだろ、君は聡い子だ、わかるだろ?

――……わからんのか? マジでにぶいのか?

――将来変な奴に騙されたりしないだろうな。

――そんなんじゃお父さん心配になっちゃうぞ。


青葉「スヤァ…」

愛海「ふひひ……、可愛いなぁ……」

愛海「ほっぺた……、やぁらかい……」プニプニ

愛海「うひ、うひひ……、うひょへひへは……」プニプニ

青葉「スヤァ…」


ピィ「……確かにほっぺたなら許すが」

ピィ「しかし見るに耐えんな、愛海のあの様子は……」
378 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:45:14.98 ID:4g6m97E0o
ピィ「愛海、そろそろ」

愛海「うひひ……、はぁい」

愛海「うーん、名残惜しいけど仕方ないよね」


ピィ「じゃあ次は千枝ちゃん」

千枝「………………はい」

周子(うわぁ……)

沙理奈(うわぁ……)



千枝(みなさんこんにちは、佐々木千枝です)

千枝(今、千枝の腕の中には、好きな人の子供がいます)

千枝(とても可愛いです、まるで天使のようです)

千枝(…………当然、千枝の子ではありません)

千枝(今のこの感情を、どう表せばいいのかわかりません)

千枝(憎いとか、悲しいとか、そういう負の感情では無いと思います)

千枝(二人が付き合った時とか、結婚した時に、色々と心の整理は付けました)

千枝(でも、やっぱり複雑です……)

千枝(この子が、お兄さんと千枝との子だったらな、なんて……)

千枝(……ダメダメ! これからは応援していくって決めたんだから!)

千枝(以上、佐々木千枝でした!)


千枝「とっても可愛いですね」

藍子「ふふっ、ありがとう」

ピィ「千枝ちゃんは優しいなぁ」

千枝「えへへ……」

周子(不憫や……)

沙理奈(強く生きるのよ……)
379 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:45:45.32 ID:4g6m97E0o
ピィ「じゃあ次はアーニャ」

アーニャ「ダー、私の番ですね」

千枝「……」

アーニャ「千枝……?」

千枝「あっ、ごめんなさい、ちょっとぼんやりしてて……」



アーニャ「ティオプリー……、温かい……」

アーニャ「こんなに小さくて……、とても大切です……」

アーニャ「沢山の失くなってしまう命があって……」

アーニャ「でもこうやって、新しく生まれてくる命もある」

アーニャ「……ピィさん」

ピィ「ん?」

アーニャ「私、また守りたいものが増えました」

アーニャ「でも……、それが幸せです」

ピィ「そうか、アーニャが守ってくれるなら心強いよ」
380 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:46:12.53 ID:4g6m97E0o
ピィ「じゃあ最後は楓さん」

楓「あら、ようやく私の番ですね」

アーニャ「楓、どうぞ」

楓「はい、お預かりします」



ピィ「どうですか?」

楓「重たい、ですね……、ずっしりと」

楓「命の重みを感じます」

楓「でも、今はもうあまり怖くない……」


楓(あの時ピィさんが掛けてくれた魔法のおかげ、かしら)

楓(拳銃を向けられた時、本当なら私の方が怖いはずなのに、そんな恐怖は無かった)

楓(だって、ピィさんを信用してたから、信頼してたから……)

楓(この人が撃つことは絶対に無いって、心の底から信じていたから)

楓(『私の事も、それくらい信用してくれてるのかしら』……って)

楓(そう思ったら、この”力”も、急に怖くなくなった)

楓(ピィさんが私を信用してくれてるのだもの、だったら私も私を信用してみよう)
381 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:46:41.92 ID:4g6m97E0o
楓「あ、そういえば、お誕生祝いを持ってきてたんですよ」

ピィ「そんなわざわざ、ありがとうございます」

楓「気が早いかもしれないけれど、赤ちゃんの為にミルクせんべいびーっくりする程……、ふふっ」

ピィ「そんな一杯は……、ん?」

ピィ「……」

ピィ(ミルクせんべいびーっくりする程……)

ピィ(せんべいびーっくり……)

ピィ(せん”ベイビー”っくり……)

ピィ「は、ははは……」

楓「うふふ」


社長「そうだった、お祝いなら私からもあるんだ」

――そう言って、隅にある布の掛けられた大きな物体へと社長が歩を進める。

――事務所に来た時から気になっていたが、あれは俺たちへのプレゼントだったのか。

――本当に何から何までありがたいことである。
382 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:47:12.35 ID:4g6m97E0o
社長「勿体ぶって隠す事も無いだろうとも思ったんだが、どうせならサプライズを、とね」

――社長が布に手をかけ、スルスルと回収する。

――そして姿を表したのは……。


藍子「わぁ……」

ピィ「ベビーベッド……、ですか?」

社長「うむ、いかにも」


ピィ「こんな立派な……、ありがとうございます!」

藍子「ありがとうございますっ」

社長「なに、私が言い出したことなのだから、その為の用意くらいはしておかないとな」

ピィ「本当に、何てお礼を言ったらいいか……」

社長「気にすることはないよ、我々も嬉しいんだ」


社長「それよりも、よければ是非寝かせてあげてくれないかな?」

ピィ「勿論です! じゃあ、藍子」

藍子「いえ、青葉は今……」

楓「あ、まだ私が抱っこしてます」

ピィ「そうだった……」
383 :ハローブルー ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:47:42.04 ID:4g6m97E0o
――青葉がベビーベッドに寝かせられ、その周りを皆が囲んだ。

――寝顔を眺めながら、思い思いの感想を口にしている。

――そんな様子を、俺と藍子は一歩後ろから離れて見ていた。

――隣にいる藍子の肩を優しく抱き寄せて、一緒に幸せを噛みしめる。


藍子「ピィさん……」

ピィ「ああ」

藍子「私……、今すごく幸せです」

ピィ「うん、俺もだ」

藍子「……ピィさん」

ピィ「どうした?」

藍子「愛してます」

ピィ「……俺もだよ」

藍子「はっきり言葉に出してほしいな……」

ピィ「……」

ピィ「愛してるよ、藍子」

藍子「うふふっ」

ピィ「あははっ」
384 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:48:15.57 ID:4g6m97E0o
はい
えー、以上です

ほら、一年に一回だから、普段と違う特別な日だから、と
リビドーの赴くままに書いてたら、なんか、まぁ……、こんな感じになりました
しかも読み返すと、あんま藍子出てないな

もしもの話ですが、基本的にはこういう結末になると考えています
『プロダクション』がバッドエンドになることは無いと思ってる

古賀家と沢田家が『プロダクション』にやってくる、というお話の予定を聞いていたので
未来の話だし、登場させようかとも思ったけど、一応やめておきました
IFの話、ということで、いるかもしれないし、いないかもしれない的な
今回の話も『何人かはまだ来ていない』という、ふわっとした表現で可能性を残してあります
それ以外の面子がもっと増えてるかもしれないし、ひょっとしたら、減っているかもしれない
385 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/07/25(土) 00:52:29.63 ID:4g6m97E0o
あと、>>356で『スヤァ……』のAAが上手く表示されてなくてプチ焦る
結局ちゃんと表示させる方法がわからずAAは削除する方針に変えました
なので、意図したニュアンスとはちょっと違ってしまったのが若干心残り
386 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/07/25(土) 01:24:21.39 ID:oWV52DSd0
乙ですー
いいのよ、シェアワ要素があればなんでもいいのよ(暴論)
ハッピーエンドすぎるしなんだか読んでて幸せになりますな…(千枝ちゃんは不憫だったけども仕方なし)
悪魔も妖狐も師匠も受け入れる、そういう懐のデカさもプロダクションならではというところか
387 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/07/31(金) 20:46:50.04 ID:oEHt7W3Io
一向に進まない筆
と同時に感想の筆も進まなくなるのですが……それはいかんのですよ
また盛大に遅れはじめるまえに書かなきゃ

>>349
ほほう、佐藤さんも何やら抱えているようですね
連作もそれ絡みかな?期待してますー

コメ返しはあると自分的には嬉しいです、お得感がある
無理なくお続けくだせー


>>385
こ、こいつっ、ついに一線越えやがったっ!
くそっ、爆発しろっ!全俺の嫉妬を身に受けて爆発しろっ!
いやむしろ爆発しないならさせるねっ!
いつかピィが爆発する話書いてやるんだからっ!(シェアワ特有の逆恨みアタック)
ほんともう末永く爆発しろっ!老後まで爆発しろっ!孫に囲まれて老衰で爆発しろっ!

あ、ところで何故か千枝ちゃんのハイライト完全に消えてるように見えるんですが……
……本当に大丈夫なんです?


とりあえずお二方乙でしてー
388 :@予約  ◆R/5y8AboOk [sage]:2015/08/06(木) 00:05:26.11 ID:nOJqFUAl0
今度こそ、桐生つかさを予約します
389 : ◆R/5y8AboOk [saga]:2015/08/14(金) 03:16:52.29 ID:+FUAmXwk0
一週間ルールを数時間ほどオーバーしているが、許容範囲とさせていただきたい…

野望の鎧奪取後編、投下します

390 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:18:50.11 ID:+FUAmXwk0

 紅の巨影、農業機械で堀り返したような茶色の土、斑点と無軌道な網模様の緑───空中戦艦ブラムと、それのもたらした災厄、後始末の残滓。その辺りを彷徨く点々とした人影は、GDFの連中に違いない。
 それらをまとめて見下ろすその画面は、ともすればゲームの一場面をも連想させた。
 或いは俗にFPSと言うような、戦争などを題材にした作品ならば、これそのままの画面が液晶に映し出されているということも、あり得ない話では無いのかも知れない。
 もしそうであったならば、ここからボタン一つで爆弾を落としてみたりするものなのだろうが、今手元にある装置、ひいてはこの映像を送ってくる無人偵察機にはそんな大それた機能は備えられていなかった。――――否、それを可能にするためのキャパティシなど初めから存在していない、と言った方が正確か。

 もう目視できぬ距離を飛行するその無人偵察機とやらは、和久井留美に目の前で見せられたとき、大雑把に見ても5センチ前後の大きさ、ともすれば手のひらで握り潰せてしまえそうにも思えた。
 そして留美がノートパソコンを徐に操作し、その信号を受けた5センチ前後の物体が空へと飛翔していった瞬間などは、思いがけず感嘆めいた気持ちが胸を満たした物だった。

 あの脆弱に見えた無人機は、その後も逞しく風を裂いて飛び、そして今現在戦艦ブラム周辺の上空から、偵察の成果を送り続けているのだ。

 あの身体で風の影響を受けぬと言うことはあるまい。しかし殆ど揺れのない俯瞰画像を送り続けているというのは、よほど機体制御が優れているのか、なにか凄まじい技術でそれを無効化しているのか。
 そもそも、あの大きさの機体に積んだカメラだと言うに、それが送る画像にしては不釣り合いに高精細ではないのか。

「テクノロジーも大概オカルトじみているじゃないか…」

 異星の技術吸収、絶えぬ外敵に対抗するための技術者の切磋琢磨、そう言ったような要因が重なるのであろう技術革新の時代。
 その結実、その一つがこの偵察機と映像なのだとすれば、それを先んじて味わえる自分は幸運だろうか───。
391 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:21:27.29 ID:+FUAmXwk0

 …と、言いたいところだが、留美が言うには現在の技術革新に至る以前に完成していた技術なのだと言う。こうなって来ると、また違った感情がが生まれてもくる。

 次は米粒が空を飛んだという話が出てくるのではないか。と冗談のように思いつき、その後から、有り得なくはないかも知れないとの思いが沸き上がると、飛鳥は高揚と畏怖の入り混じった思いが滲み出すのを知覚した。

 話の真偽を問う前に留美は街並みの何処へやらへ消えた。
 現在進行形で偵察機が送ってくる映像はあちらも確かに受け取っているのだろうが、果たしてどう攻めるつもりなのか。

 物思いの内に、ふと思いがけず溜息を吐き出し、すると後ろに控えている暴食の虎が怪訝げな顔をこちらに向ける。

「…ああ、キミは気にしなくてもいいさ」

 適当に笑いながらその頭を撫で、呟く。
 かしずいたように頭を垂れ、それを享受する内にリラックスしたとわかるうなり声を聞いた飛鳥は、ともすれば言えば猫のようだな、と思いついた。

 自分と留美を除いた現在の戦力はと言えば、この虎ぐらいの物であろう。そんな状態に野望の鎧の欠片でも持って来いと依頼するなどと。―――よほど彼女を信頼しているのか、それとも自分共々捨て駒か何かのような扱いでもしているのかは知れぬが、成る程「無茶振り」というの理解できる話だった。
392 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:22:27.86 ID:+FUAmXwk0
早晩に済ませねば更なる増援が来るし、近くにはヒーロー同盟も待機している。GDFも無能力者の集団とはいえスペシャリスト集団に違いない。

 飛んで火に入る夏の虫、という言葉があるが、それが彼女ならばどう表現するべきか───。

 ともあれ、彼女はそれを”やる”と言ったのだ。

「早くしなきゃ、手遅れになるよ…ふふ」

 大きな虎の胴に背中を預けつつ、暢気な言葉を吐けるのは、留美が正面切っての突撃を買って出てくれたおかげに違いなかった。

 ───先ずは社長秘書のお手並み拝見。

 と胸の中で呟き、飛鳥はにいと口元を歪めた。
 魔術的な光を灯した瞳が妖しく揺らめき、見据える先には暗い橙の巨大な核───野望の鎧。
 遠く高鳴るエンジンの遠吠えが銅鑼鐘の代わりに響き渡り、大立ち回り予感を飛鳥と留美にだけ伝えていた。




 ※
393 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:26:21.97 ID:+FUAmXwk0




 京華学院に派遣されたGDF陸戦隊は、現状で二つに分けられる。

 まず一つ。あまりに大きいブラムの船体周辺を警護する部隊。
 これは、内部で作業を行う技官に被害が及ばぬよう、ヒーロー同盟には出来ぬ数による監視の目を担うための三十人規模小隊だ。

 次に一つ。ヒーロー同盟が制圧したとはいえ、内部に何があるか分からぬブラム内部の本格的な探索、および技官の直衛に着く部隊。
 万一に侵入された場合のパトロールも担当する二十人規模小隊。

 扱う品が品であるが故、到底これだけでカバーしきれるものではなく、増援が到着するのも一時間などという問題ではないだろうが―――少なくとも現時点でこれを相手取るのは、彼らおよそ四十五人の有志達に他ならない。

 して、その内の二十人はと言えば、ヒーロー同盟が突入した道に倣い、今まさに突入せんとする間際であった。



「…で、これがヒーロー共の突入した穴、と」

「正確には、その一つですね」

 わかっているさ。
 内心に呟き、技官の護衛を任務としたGDF陸戦小隊の体長は、戦艦の腹に開く巨大な破孔を眺めた。

 大きさは──五、六人が並んでも大いに余裕ができる程度か…。

 どんな派手さだ。
 地面ごと抉って開く、空間を切り取ったかのような穴を眺めながら思う。
 曲がりなりにも戦艦であるモノに進入口を穿つのにそれ相応の威力を要したのは想像に難くないが───しかし、これは。

「…ウチの手榴弾を使ったとの話だったな」

「ええ、シンデレラの連中が持ってた新型だそうで」

「手榴弾、な…」

 文字一つを意識して、言の響きを確かめるようにそう呟くと、殊更目の前に開いた穴の現実感が遠のくように感じられた。

 ──そう、手榴弾なのだ。
 これだけの穴を開けたのは。
 手のひらに収まってしまうほどの、歩兵の装備なのだ。
394 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:28:10.61 ID:+FUAmXwk0

「プラスチック爆弾の類では…いや、持ち合わせているわけが無いか」

「警備に来た部隊がそんな破壊工作用の兵器持っていたら事でしょう…いや、これだけをやる手榴弾を問題無いとは言いたくありませんが」
「…中尉殿のお気持ちは察します…が、やっぱりこれは手榴弾なんですよ」

「ううむ…」

 繰り返し榴弾との単語を聞く度、中尉の脳裏に想起されるのは、所謂パイナップルと呼ばれている、最もポピュラーと思われるモデルである。

 あの頃―――否。今も所持しているタイプ。の手榴弾と言えば、発破の衝撃波ではなく、それによって撒き散らされる鉄片による殺傷効果を期待するものだったと記憶している。
 こういった破壊工作は範疇では無かった筈だが───。

 よしんばこれが手榴弾の仕業だとして、しかし。この破壊を手榴弾の手順で行うことができたのだとしたら、それは危うい火力であると認めざるを得ない。

 ピン一つにそんな爆弾が委ねられるのだとしたら、使う側としては気が気では無いだろう。

 ───或いは、恒常化する戦禍と焦りが、歩兵にすらこれほどの戦力を要求したとでも言うか。

 不意に不安に似たものを覚え、ふと、己の手に持った兵器へと視線を落とす。

 それは屋内戦を想定して配備されたサブマシンガン。内部構造が改良され、殺傷力が増したというがこれもまた、いずれは───。

「球状にカスタムされた設置爆薬なんかを奴らが手榴弾だと解釈した…などと思っておきたいが」

「…シンデレラの連中はモルモット隊みたいな側面もありますから…まぁ、正式型がこっちに降りてくればはっきりする話です」

 苦笑気味に言った部下の言葉を飲み込み、はっきりしない呻り声で応じた中尉は、無駄話もそこそこに、晴れやかならざる心持ちで戦艦の内部へと足を踏み入れた。

 内部は―――墜落した戦艦だというのに、存外に明るい。
 それが逆にというべきか、言わざるべきか、なんとも不気味で―――。

 ―――否。臆病風に吹かれたか。

 良くない感情を振り払うつもりで「敵が居ないとは限らんぞ!」と凛然と張った声を吐く。

 即座に「応!」と威勢の良い返事の数々が全身に響く感覚を確かめた中尉は、後ろを振り返り、「大輔少尉!寺島少尉!」と名を続けて呼んだ。

 呼ばれた二人は弾かれたように姿勢を正し、彼の言葉を待つ。

「既定の作戦に基づき、貴官の班をセーフ2、セーフ3とし、我々セーフ1と合わせ三方に分かれての探索及び巡回を行う」

「「了解!」」

 若々しさを残した瞳が彼に応じ、頼もしい返事を発する。
 瞳の奥、確かなものを感じ取った彼は無言で頷き、その次、脇を固めるベテランとも視線を交わすと、前方を向き直って息を吸った。

「セーフチーム、作戦開始!」

 作戦に合わせた隊名の都合、普段のキュートというあまりに女々しい呼称を使わなくて済むことを当面の幸いとし、張った声を響かせた。



 ※

395 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:31:32.72 ID:+FUAmXwk0




 光。


 ………――――そいつぁ丸っきりお子様の発想だぜ…


 光。


 ………――――だってあなたのおかげで守られた人がいるんでしょ?…


 ヒカル。


 ………――――これからも……光となって…この世界に平和を、導いて…



 …ヒカル…



 ………――――決まってるだろう……戦う! そして、世界を平和にする!…



 …アタシは────……




「お、おーい…?」


「……え?」

 微睡みの中に響いた声は、鼓膜を擽った優しい声の波紋に溶き解されていく。掬おうとして、霧散した声の残響は闇の中に消えて行き、それが何であったか、己でも判別がつかなくなる闇の中へと。

 ぼんやりと重い頭を身動ぎさせて、鈍い瞼を押し開けた光は「ふふっ、やっと起きたっ♪」と緩く弾んだ声を聞いた。

 頭を転がして声の方向を見ると、鼻先まで迫っていた少女の顔が視界を埋めた。少し年上。明るめの栗色の髪と、お人好しげな微笑、険を知らない瞳───知っているひとだ。

 あれは確か、ずっと前……傲慢のカースドヒューマンと相対して……自分の正義を『傲慢』と否定されそうになった時の……確か、名前は────。

「…誰だっけ…」

「あれ、顔は知ってるのかな?もしかしてちょっと有名人?なんて、うふふっ!」

 他人事のような態度に虚しい物を感じたが、あの時は変身していたのだ、無理はないだろう。と思い出せば、平静は取り繕えた。

「…あ、私高森って言うんだけど…有名人じゃないでしょ?」

 冗談めかして肩を竦めた少女───高森。の顔を眺めて、返そうとした愛想笑いは思いがけずに乾いた。まだ頭がぼんやりしている。気持ちの良い笑顔が出ない。よほどよく眠っていたのか…。
 つまらない態度だと取られたか、と思いつくも束の間。気に留めないような表情で、少女は「キミ、どうしてこんな所に寝ていたの?」と続けた。

「こんな所…?」

 見れば、頬を撫でる風に、視界の端に立つ木、体の下に敷いたのは雑草。学校の建物を少し遠くに眺め、植物に絡め取られた紅い某までもを認められる。───言われてみれば、”こんな所”だった。

 果たしてどうしてこんな所で眠っていたのだろうか。

 徐々に血の通う頭が記憶を探り、それは恐らく数分前か、数十分前か。確かアタシは。少し前までは確かに学校に居て、カースをやっつけて。
396 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:34:34.03 ID:+FUAmXwk0

「…アタシは…学校に居たカースやっつけて…」

「へえ、凄いんだ」

「うん…で、遠くにもいるのがわかったんだ」
「…と言うか、ここに」
「だからここに飛んできて…またやっつけて…」

「それで、そのまま?」

「いや、何か考えていたような気がするけど…」

 気がするけれど。
 その先を紡ごうとして記憶を探ると、まるで靄の中に手を突っ込んだような感覚に苛まれた。ここに来てからしばらくの記憶を思い出そうとすると、とたんに不明瞭になる。
 ここに来て、そのまま睡魔に襲われたのだろうか?それほどまでに、疲労していた記憶など無いと言うに。

 ここに飛んできて、向こうには悪の首魁が駆った戦艦がある。何か切っ掛けでもないかと視線をそちらに流し、己の思考を辿ろうとした光は、そこで、最近こうして記憶が飛んでいることがあるな、と思い付いた。
 もっと言うならば、ふとした瞬間にぼんやりしていることが。
 いつからか───そう、自分の所にライトが来てからだ。

 彼の力を借りるようになってから、より直接的に力を振るう機会が増えた。悪を裁き、罪無き人のため、正義のために、秩序のために。
 己の預かり知らぬ所で、知覚できぬ負担が蓄積してたのか。それとも、ライトの力が何やら副作用でももたらしているのか。その辺は、ライト本人に聞いてみれば何かわかるか───。

「───……あれ、ライトは?」

 ふと、手首に目をやる。手首を覆っていた腕輪の重さがない。変身しているのかと思い、次に周囲を見渡した光は、すっかりライトがどこかへと消えていることに気づいた。
 はっと顔を左右に振っていると、高森と言った少女が怪訝そうに光を見下ろした。

「ライト?」

「あ、うん…腕…じゃない。多分、猫」

「猫…多分?」

 曖昧な言葉に首を傾げるも一瞬。得心したように手を叩いた高森は、「それなら!」と言葉を発した。

「私がここに来たときに逃げちゃった猫ちゃんがそうかも!」
「白猫でしょ?」

「ああ…白猫だよ。ありがとう!…探してこなきゃ」

 「写真取ろうと思ったんだけど」と付け足された高森の声を半ば無視して、光は上体を起こす。草埃を払って立ち上がった光は、「あ、探すならあっちかも」と指された方向に顔を向ける。
 再度「ありがとう」とだけ告げて走り去ろうとして、
397 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:35:31.15 ID:+FUAmXwk0



「───ねぇ、アタシは誇っても良いのかな?…」



「…え?」

「あ、あれ?…アタシ、今なんて言って…」

 思いがけず発した言葉だった。
 自分の言った言葉だと理解したのは、思わず左右に人影を探し、きょとんとこちらを不思議そうに見つめる高森の顔を見つけてからだった。
 自分は何を喋っているのか?そんなこと問いかけていったい何になると言うのだ。当惑する己を振り払って叱責の言葉を唱え、こっぱずかしさに顔を赤くした光は、急いで発言を取り消そうとして、合点が行ったように笑う高森の妙に遮られた。

「え?」

 急に置いてけぼりにされたように感じ、思考をはっと白紙にされた光は、ただ目を白黒させてその顔を眺める。困惑したままの光の様子ごとおかしそうに笑った高森は、急にくるりと周り、後ろ手を組んだ背中を向けて「そうだなぁ…」と呟いた。

「比較の話になっちゃうけど…ずうっと前、皆のために戦ってた小さなヒーローさんは、とっても誇らしかったと思うなー?」

 体を揺らしながら紡いだ言葉の最後に、少女は悪戯っぽくはにかんだ横顔を付け加えて光を射止める


 ───誇りなど、今更疑うべくも無いだろうに。

 だって、アタシは正しいことをしているのだから。
 裁かれる奴らはまごうとこなき悪党なのだから。
 正義で世を照らし、秩序と平和をもたらす。
 それが誇らしくなければなんだというのだ。

 ───だのに。

 日だまりの少女の善意の言葉が、ひどく痛烈に胸に突き刺さり、光にちくちくとした違和感を覚えさせた。誰にも責められぬこの身を襲う正体不明のしこりを胸にひめたまま、ただ呆然と言葉を受け止めた光は、「…そっか」と曖昧な返事を返す事しかできなかった。

 寂しげな風が頬を撫で、寒くなりゆくそれは、わけもなく感傷的な体にはひどく沁みるように感じられた。

 ───居心地が悪い。早々にライトと合流しよう。

「…じゃあ、アタシは、これで」

 ばつが悪そうに顔を逸らした光は、諸々の感情を拭い去る気持ちで言う。小さく手を振って別れを告げて、「がんばってね」と声だけを背中で聞くと、逃げるような小走りでその場を離れようとして───。

 ────突如、視界の端にちらついた紅い爆光と、どんと重く轟いた爆発音がその足を遮った。






 ※
398 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:38:00.28 ID:+FUAmXwk0




 デジタル時計を見れば、そろそろ夕方に差し掛かるかという頃合いだった。
 GDFの部隊の、その第一陣が投入されてから未だ数十分と経たない頃だ。

 吸血鬼騒動の余韻も去りきらぬこともあり、特に喧噪騒がしい騒がしい事も無い京華学院周辺の町並みであるのだから、初めに遠く轟いた轟音は遮蔽なくその場にいた全員が聞くことになった。

 天高く轟くそれは、エンジンの呻り声であると疑いはない。
 して、何か奇妙に思うことがあるとすれば、国内最大規模を誇る京華学院が建つ、ある種高等な地域であるというに、こんな珍走団めいた騒音を轟かす者がそう果たしているだろうか―――それも、普段からこの周辺に慣れ親しんだものでなければ、考えなければ思いつかない程度のことであろう。

 彼は典型的な後者だった。
 GDFの駐屯地は、戦力の需要が恒常化した現在であってもその騒音の類や”軍事施設そこにある”だけで発生する市民感情の全て看破をされることは無く、エリート気質の強いこのような周辺区等からはとりわけ強い反対の声があり、必然的に駐屯地は遠くなる。

 これらの問題に対抗すべくして、輸送ヘリの高機動化等が推し進められていったが―――ともあれ、ここは彼らにとって馴染み深い地域ではなくなっていたのだ。

 そうした要因が、彼の咄嗟の判断を鈍らせたという事もあるだろうか。

 遠くで不意に轟いたエンジン音を、彼が訝しむことは無かった。
 決して環境音と同列に扱ったという事はない。が、とりわけそちらを注視するような事はなかったのだ。

 それが故、彼は”それ”が近づいてきている際にも警戒が遅れ、その自由を許した。

 暴走気味、だがあくまでも常識の範疇の速度でそちらに突っ込んでくる”それ”は次の瞬間、突如として弾丸めいた爆発的加速を発揮し、進路上の装甲車のフロントを踏み潰しながら飛び上がった。

 ブラムを包囲する監視網の最も外側を警備していた彼は、鉄と強化ガラスがひしゃげる悲鳴に心臓をどくりと跳ねさせ、反射的に振り向くも、既に遅い。

 ニトロ・ブースターの噴射炎の尾を引いて飛翔した二輪駆動は彼の頭上を飛び越え、直後に傍らで破裂した爆炎と衝撃波が彼の意識を刈り取った。

 股下で破裂した一発は、距離の関係で先んじた一発に過ぎなかった。

 膨れ上がる火球に下から照らされた真っ黒なシルエット。
 そこから側面に伸びた二対の円筒が扇状の軌跡で振るわれ、ぼん、と発射音を連続させながら計六つのグレネード弾を吐き出した。

 次々と破裂する火球が予定調和的にGDF兵の一団を巻き、熱と衝撃波の波に曝す。すれば、敵襲であることに疑いはなく、比較的爆風の被害を免れた数人が弾かれたように分隊支援火器と呼ばれた銃口を構えた。

 狙いを付けるは上空を直線に飛ぶ鉄塊。
 複雑な戦闘軌道を描くのでなければ、培った経験と電子機器の補正による偏差射撃の前には静止目標に等しい。
 コンマ数秒の交錯を見逃さず、必殺。
 従来よりもより戦闘向きの性格を強化されたモデル。装弾数が大幅に見直され、内部構造の見直しにより殺傷力を底上げされた四つの銃口が鎌首をもたげる。
399 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:41:34.58 ID:+FUAmXwk0
 と、刹那。全く意識の外から降り注いだ鋭い激痛がGDF兵四人に連続して突き刺さった。
 不意を突いて襲いかかった肉の裂かれる猛烈な痛みは、一点で交錯していた射線の尽くをあさっての方向に暴れさせ、辛うじて発射された数発の弾丸は何もない虚空に散る。
 
 GDFの攻撃を振り切って質量兵器と化したバイクが仮指揮所へと突っ込んでいく様を見送り、上空から違法改造ネイルガンを撃ち散らした影───和久井留美は、自らと同じ速度で落下する、使い捨てたグレネードランチャーに鉄釘を撃ち込んで残弾を爆散させると、陽炎へ変じる炎と黒煙が揺らめく、GDFの陣形の最中へと着地した。

 敵の配置は概ね偵察機の観測に倣っている。
 帯状に連なる数人グループの包囲網―――取りあえずの視界確保を目的とした陣形は、高速の一点突破に対応しきれるものではない。正確に言うのならば、詰所の立地を言い訳にした戦力の順次投入という結果による、不完全極まりない陣形では。

 今排除した四人も帯の一つ。現在脅威として認識できるのは、距離を離した場所にそれぞれ五人ずつ、こちらの側面に見える二つの帯───現在こちらを囲い込もうと動き始める───ぐらいのものだろう。

 して、監視の目はこれだけとして、控えの戦力はどれほどか。
 能力者戦力としてシンデレラは確実、ヒーロー同盟の援護もあるやも知れぬ。

 彼等が到着するまで、大目に見ても一分の猶予はない。

 一秒の思考を打ち切り、円上に散開しつつあるGDF兵に目を走らせた留美は、二方にネイルガンを向ける。敵は過去に分隊支援火器と呼ばれ、強靭な敵の撃滅を求められた現在ではアサルトライフルに迫る需要数を求められ始めた火器を構える。

 敵集団二つにそれぞれ腕を振り向け、その場で牽制の弾幕をばら撒いた留美に少し遅れ、左右両方、計三つのマズルフラッシュが解き放たれる。三方から連続する弾幕が広がり、十字砲火の最中にあった黒塗りの影が霞むのと、無軌道にばら撒かれた鉄釘が殺到するのは同時だった。

 両翼に分かれた部隊がそれぞれに体を庇う。
 密度の薄い弾幕が与える脅威はおそらく殺傷を期待したものではないだろうが、彼等の気勢を殺ぎ、一瞬動きを鈍らせるには十全な効果を発揮できた。

 生身よりは頑丈な得物を眼前に突きだして釘をやり過し、気の抜けぬ間に着弾点付近へ視界を流した班長は、そこに何も残っていないこと見た。

 ぞっと身の毛よだつ己を押し殺し、左右に振れる景色の中に敵の影を探した隊長は、すぐそこに迫った脅威に身をこわばらせた。

 その釘弾の連続は右方から彼を襲い、ぎらりとした鈍色の先端に血の気を引くも一瞬、半ば反射で振り回した火器の機体が細かい金属音を立てて襲い来る弾丸を幸運に弾く。
 そうして瞬きしかけた目を見開くや、間髪入れずに視界いっぱいに広がる程に迫った黒い影が、細い腕をしならせてバイザー越しに彼を睨んだ。

 ぎょっとして血の気を引き、引き金を引き絞った動作は思考の外のそれだった。
 マズルフラッシュに押し出された弾丸が噴き出すよりも先、そう長くない銃身を抱え込むまでに接近した影は、そのまま神速の速さで男の腕から得物を引き抜くと、ぐるりと半回転させて柄を男の鳩胸に打ち込み、意識が真っ白になるような衝撃に突かれた体が数メートルを吹き飛び、転がっていく。

 それを他の者が視認できたのは、一瞬遅れての事だった。瞬きするような間を縫って駆け抜けた敵の影にあっと意識を取られ、仲間の居たはずの場所に居るそれが敵であると理解するやという瞬間、揺らめいた両手のネイルガンの銃口が鈍く光る。

「──野郎ッ!!」

 仲間の行く末と敵を同時に視界に捉えた数人が哮り、硬直を振り切って引き金を引き絞るのと、ネイルガンが喧しい火薬の音を連続させるのはほぼ同時だった。
 不意打ち気味に数発の直撃を受けた二人と、押し寄せる弾幕を置き去りにして影のシルエットが霞み、次こそそれは人外の膂力による消えるような瞬発だと視認できる。
 辛うじて目で追えるかという速度で飛び出した敵の軌道を追い、撃ち出された弾丸が大気を切り裂いた。




 ※
400 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:43:41.07 ID:+FUAmXwk0




 外で巻き起こった爆音は、鉄の箱と化している船体内であっても、壁に穴が空いていればまるで吹き抜けるように聞こえてきた。

 物騒な響きを聞き、自分を含めたその場の全員が身体を強ばらせる気配を感じたコードネームセーフ1-1で活動する彼は、何よりも先んじて無線機を起動し、「総員待機しろ!」と怒声を吐き付ける。

 了解、との声が聞こえるのを待たずに回線を外の部隊とのそれに切り替え、起動の一瞬だけザッとしたノイズを吐き出して後、「セーフリーダーからパッションリーダー、今の爆音は何か」と食い気味に言った声は、意識せずとも低くなった。

 開いた無線の背景からは、連続する乾いた発砲音と喧しい怒声が、生で聞こえる音と重なって微かに聞こえていた。
 ごとり、と何か取り落とすような物音の後、『…こちらパッションリーダー、敵襲だ、目的は不明、敵は能力者、現在パッション3、パッション2が交戦中…』と焦りを抑えこんだように思える声を聞いたセーフ1-1は、思わず眉根を寄せる。

「何か指示はあるか?」
『貴官の判断に任せる』

 と、早々に通信が打ち切られたのは、すぐそこまで敵が迫っていることの証明であっただろうか。
 任せると言うよりは、余裕がないと言うように聞こえたが。あの様子では、部下にいらぬ気分を伝播させてはいないだろうか?
 いらぬ心配かとも思いつつ、しかし自分よりは若いらしいパッションリーダーの顔を思い浮かべ、副官がうまくやってくれれば良いが。との思いを拭いきれなかった。

 厄介げに鼻息を吐き出すと、その間も惜しむかのように「中尉殿」と自らの副官の声が呼び止め、俄か動揺に揺れている瞳がこちらを覗き込む。

「…ご指示を」

 先程まで軽い口を叩いていた声が、震えを押さえ込むように重量を増していたとわかれば、こちらは威厳を演出してやれねばと思われた。───ここで迷うようなことがあれば、小隊のリーダーとして、この場にいる最年長としてのメンツが立たない。

 セーフリーダーたる責任感とプライドが入り混じった感情が胸の中で身じろぎする感覚を確かめると、彼は「ひとまず撤収する」と苛々しげに言った。
 
401 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:44:25.90 ID:+FUAmXwk0

「撤収…」
「そうだ、敵の増援やらがここに入り込んで来ないとも限らんし、敢えてここに…空っぽのハリボテに拘る理由は無い。ひとまず体制を立て直して、それからだ」

 この時代ならば撤収した短時間に戦艦を掌握できてしまうような敵もいるかも知れないが、それほどの相手ならば、中に誰が入っていようといなかろうとさほど変わるものではない。
 心の中でそう付け加え、有無を言わさぬ視線で副官を見遣った。

「…了解しました」

 副官が先んじて応じると、並ぶ他三人も無言でそれに追従する。揃っていまいち不安の消えきらない面持ちではあったが、それでいい。と胸の中で呟くと、通信をオープン回線に設定し、「セーフリーダーからセーフチーム各員、外で敵襲だ。敵の目的は不明、この場に留まる危険が無いとも限らん。即時撤収、体勢を立て直す」と厳然とした声で続けた。

『セーフ2-1了解』
『セーフ3-1、了解しました』

 今度は二つ分の声を聞き届け、ぶつりと無線が閉じる。
 と同時、マッピングツールを兼ねた端末の画面をちらりと見るや、比較的シンプルな艦内構造を幸いに思った。吸血鬼といえども面倒は嫌う。不死だかなんだか知れないが、その辺の感性までは怪物じみていないようで何よりだ。

 出るのが簡単なら、とっとと出て行くまで。
 そう断じ、「駆け足!」と声を張り、応答を受け取った。

 エキスパートの集まりとは言え外の相手は能力者だ。
 敵であれ味方であれ、ただの人間である我々は散々と煮え湯を飲まされてきたのであるから、早々に合流してやらねばどうなってしまうかわかりもしない───。

 心配しながら駆けゆく間には、丁度良い窓があった。そこでふとこちらから外の戦況は見えないかと思いつき、足を止めて窓の外を覗き込む。

「…見えんか」

 窓という物の視角には限界があるが故、当然といえば当然だったか。外に映るのは淀んだ雲と、高級そうな街並み、そして、やたらと存在感を示す『野望の鎧』とかいう戦闘兵器ぐらいの物だ。
 直ぐに遅れを取り戻さなければならない。との思考が働き、先よりも気持ち足を早めるつもりで体を傾け、瞬間、

「中尉!」

 と咄嗟に呼び止める声が響けば、多少間抜けにバランスを崩す格好となった。

「なんだ!」と返した声は少し荒っぽくなり、声を受けた副官が少し怖じ気づくようになるのがわかる。そこで、鼻息を吐いて脱力した中尉が近づくと、「あれなんですがね…」先より縮こまったような印象を受ける声がそこに続き、窓の外へと視線を促した。

「何を…」
「ロボットの足下です」


「…あの黒い波のようなものは何でしょうかね」

 背後から伺い立てるような言葉には、ふとした恐れが混じってるようにも思えた。

 促されるまま怪訝な瞳を向ける先、紅い船体に突っ立つずんぐりした二脚の、船体との境目。───それを何と知ることができないならば、それは確かに黒い波というような表現が適切だったように思える。

 巨人の足の裏から湧き出したように見える真っ黒い障気が、脈打つ波紋を広げながら巨人の爪先を蝕ばんでいるように見えた。
 一目に見逃したのは、それが何か不吉なことの存在を主張するでもなく、どこか所在なさげに足裏で蠢いている程度のものであったからであろうか。

 吸血鬼がロボに組み込んだシステムやらが何か悪さでもしているのか、カースでも踏み潰されているのか?…
402 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:47:52.04 ID:+FUAmXwk0
 ――――と、瞬間カースと戦闘機械を結びつけた頭に『コプテッドビークル』との言葉が浮かび上がり、ぞっとしない感覚が背筋を駆け抜けた。

 コプテッドビークル。憤怒の街攻略の折、多くの戦闘兵器が乗り捨てられたことにが原因で発見されたカースの習性。
 そのコックピットの中に入り込み、何処から学習したのかその兵器を扱って見せる―――。

 もしあれが今動き出せば、我々歩兵部隊はどうなる?あの装甲と火力にヒーローはどこまで通用する?周辺の被害は…

 危機を感じる体が多機能ヘルメットに内蔵型CSGの起動を促し、ヴンと鈍い起動音が耳を擽ったかと思えば、動き始めたセンサーの捉える反応が多機能バイザー部にポイントマーカーとして投影された。
 先ずは野望の鎧の心臓部。事前の観測によりその存在を認知されていた、動力源替わりにされた巨大なカース核の反応。
 それに混じって少し下、遠方故か淡い点で主張するマーカーの揺らめき───制御された鎧の核とは違い、明らかに不自然な挙動で揺れる光の点、カースと見て違いはないであろう反応───。

「…でかしたぞ少尉」

 動乱に潜んで近付いていた小さな驚異を認め、血の気が引くと、短く労った声には微かな震えが混じった。

「セーフリーダーから本部、野望の鎧の足元にカースを確認した、乗っ取られる前に排除する…!」

 乱暴に起動した無線機に言うと、返事を待たずに場に目を張り巡らせれば、都合良く開いた脱出口と思しき戸を見つけることが出来た。
 吸血鬼共が脱出した後か、開きっぱなしの先は甲板に降りることが出来るようになっているようだ。
 今更罠を疑うこともあるまい。そう唱えて心を決めれば、万能ワイヤーで甲板に降りる動作に迷いはなかった。

 甲板に放置された二脚の巨人。その足下の陰にある反応をセンサーは逃していない。
 先ずは炙り出す。心の中で唱え、手榴弾のピンを噛んで引き抜くと「出てこい!」叫び、放物線を描いて転がった手榴弾が間を置いて炸裂。撒き散らされた鉄片を逃れた虎型のカースが影から飛び出し、その胴体にカースの反応を示すポイントマーカーを灯しながら、そのまま隊長に踊り掛かった。
 牽制のサブマシンガンが曳光弾の尾を引いて殺到し、一瞬早く直進軌道を逸らせた虎の輪郭を照らす。
 即座に敵の起動を追従する射撃の全てを躱しきることはできなかったが、しかし、虎のカースはジグザグの起動を描いて射線を振り、致命傷を避けて数秒かからずのうちに距離を詰める。

 核さえ生きていれば構わぬが故か、まともな知性を持たぬが故の猪突猛進か。
 迷いのない突進というのは中々に厄介であると、白熱する意識の中で再確認する。

呪いの声で虎が叫び、ズタズタの体を振り乱して爪を振り上げ飛び掛かる。このまま弾丸を撃ち掛けたとて、こちらに危害が加わる前にその体を止められるという保証は無かった。鈍い光を放つ大型ナイフ抜き放ち、正面から相対する。
 ぬめる泥でできた恐ろしき爪。筋肉を模した機関が脈動し、ぐんと加速した前腕が振り下ろされると同時、断ちきる思いで振り切られたナイフが交錯すると、泥と火花が飛び散った。

「───単調な獣が……!」
『GHUUU…』

 半ばをすっぱりと切断され、明後日の方向に吹き飛ぶ凶爪。バランスを崩した虎の胴体が宙に舞うまま彼の側面に横腹を晒せば、返す刃がその腹を一直線に切り裂いた。
 血飛沫の代わりに飛び散る泥が、鈍色のナイフと武骨なアーマスーツにこびり付く。受け身をとるべき体制をまんまと崩され、虎のカース半ばもんどり打つようにして地面に落ちる。

 生存本能という物を持たず、歪な衝動を行動原理とするカースは、例え窮地に陥ろうとも戦意を失うことはない。瞳には依然変わらぬ緑色の光が宿り、全身を使って跳ね起きた虎が牙を剥く。性質として不定形の泥は虎の戦意に反応してより長く変形し、より凶悪な表情を表したが、大きな隙を晒した者にとっては威嚇ほどの意味を持たぬ行為だった。

 隊長の構える銃口が冷徹な色を反射するも一瞬、マズルフラッシュと共に吐き出される無数の弾丸が三足の不安定な姿勢を容赦なく切り崩し、反撃をただの身動ぎに変え、苦し紛れの抵抗も許さない。
 そのまま叩きつけられる弾丸はやがてその心臓に収束し、そのままに核を貫く。
 泥の塊から核の反応が分裂し、不快な粒子となって散る呪いの残滓が、一瞬だけ色付いた霧のようになってから虚空に霧散した。
403 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:51:31.35 ID:+FUAmXwk0

「全く、油断ならんな…」

 冷や汗を拭おうとしてヘルメットに阻まれ、出鼻を挫かれた思いでヘルメットを外した隊長は溜息混じりの声を吐こうとして、その瞬間、CSGが新たに反応を検知したことを伝えるアラームがその息を詰まらせた。

「隊長!上です!」

 即座に飛んだ部下の声が言い切るよりも早く、視線を上空へと振り上げれば、蒼い付け髪を唯一の色としてしならせる、蝙蝠を思わせる翼を翻した漆黒の人型と刹那の間視線が交錯する。
 あどけない色の奥から混濁した狂気が突き刺さり、血の気を引くも一瞬、不吉の前触れめいて揺らめいた右手を見た彼は、思わず目を食いしばって防御の姿勢をとっていた。
 直後、一閃された右腕から漆黒の釘が降り注ぎ、苦し紛れの盾と突き出したナイフを掠め、不快な金属擦過音と肩のアーマーで何か打ち付けた衝撃が彼を襲う。生きた心地のしない音が鼓膜を伝った。

「姑息な…!」

 牽制に怯んだ隙を狙い、漆黒の鎧を纏う影は何よりも恐ろしいその腕力を振りかざして急接近を仕掛ける。はっとする思いで引き金を引くや、直後に横合いから突き刺さった味方の火線と交差してカースドヒューマンの接近を阻む。横ロールで弾幕をすり抜けた敵はそのまま明後日の方向に転進すると、こちらを狙う猛禽のように旋回を始めた。

 CSGの反応に無かったのは、野望の核の強い反応で自らを覆い隠していたためか。だが、今となって視認できる反応、その体に宿る核は七つ。一つ一つは小さく、少々異様ではあるが、間違いない。カースドヒューマン。節度を忘れ、力と引き替えに呪いに堕した怪物───。

 逃げず、追わずの距離を飛び始めた敵を追い立てる弾幕を見据え、取り落としそうになる手付きで無線機を立ち上げる彼は「セーフリーダーから本部、カースドヒューマンが出現した、現在交戦中…!」。
 逸る気持ちを押し殺して紡いだ言葉に、『了解した、少しだけ持ちこたえろ』との事務的な声を聞いた隊長は、無性に湧いた苛立たしさに任せてせっかちげに通信を打ち切った。

 必死に敵を追い込もうとする部下四人の弾幕は、突如の奇襲にも混乱には陥らず、規定のフォーメーションに則った戦術を採ってくれていると見えた。機動力を自慢とする敵の場合、三人が回避行動を押し付け、残る二人が───この場合一人が偏差射撃による撃破を狙う。幾度となく鍛練を重ねた技術。彼ならば、例え誰が欠け、役割を入れ替わったとて十分にこなしてみせるだろう。ただの人間と侮って仕掛けたことを、後悔させてくれる。
 攻撃役の火線に意識を振り向け、味方の方へと前進する。マークした一本の砲火がカースドヒューマンの紙一重を捉え、小さな旋回で回避を試みる一瞬を見定めたセーフリーダーは、その瞬間に重ねトリガーにかけた指を握り込んだ。
 途端、まったく別方向から飛来した弾丸に狙い撃たれ、つんと急制動をかけたカースドヒューマンの戦闘機動に乱れが生じる。その体を一点に睨みながら、さらに前へ進み、手榴弾を放り込んだ。曳光弾の光に紛れて濃緑色の塊が弧を描き、弾幕の包囲陣に絡まれて限定される敵の予測軌道上に躍り出た。
 目の前に投げ込まれた範囲攻撃兵器の脅威に身を縮ませた敵の挙動が鈍り、一瞬。再度速度を殺した翼が高度の維持をできなくなったと見るや、しめたと胸の中で叫び、サブマシンガンを撃ち掛けた。
 マズルフラッシュで色付く視界の先で、たまらず翼を撃ち抜かれたカースドヒューマンの姿が踊る。そのまま畳み掛けようとして、直後、ぎらりと煌めいた敵の視線がこちらを真っ直ぐに据えるさまを認めた彼は、ぞっと勢いを殺ぐような寒気が体を貫くのを知覚した。
 仕掛けてくる。という直感が駆け抜け、分泌される興奮物質に感覚を拡大させらると、漆の鎧から飛び出すようにして放たれる無数の釘を視認する。火薬で撃ち出される銃弾と比べれば幾分か弾速の劣る射撃。───だが、それでも体を捻っての回避はぎりぎりと言えた。避けるか食らうかの一瞬だけ生きた心地を奪い去り、釘の掠めた脇腹にひりついた錯覚が通う。
404 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:52:53.57 ID:+FUAmXwk0

「…やってくれるッ!」

 部下四人へも同様に攻撃を放ったカースドヒューマンが、者共の怯んだ一瞬を付いて戦闘機動の仕切り直しを図る。一瞬弾幕の途切れた内に翼の補強を生成し、あわや墜落かというすんでで翼を撃ったカースドヒューマンを狙い、応射の火線を張ったのは隊長が一番早かった。
 カースドヒューマンは殺到する弾丸を潜り抜け、彼を中心に見据えて側面へ回り込もうと飛行する。またあの釘が飛んでくるかと覚悟したが、次の瞬間、その体から放たれたのはもっと大質量の黒い砲弾とでも呼ぶべき代物だった。
 不意に人間大の歪な黒塊が放出されたかと思えば、次の瞬間大きな膜となって展開し、そのひろがった面積で向こうの景色を隠しながら襲いかかってくる。ぎょっとサブマシンガンをばら撒いて飛ぶ膜をぐずぐずに崩壊させるのは一瞬の出来事であったが、その膜が目隠しとなった致命的な一瞬、高速で回り込んできたカースドヒューマンへの対応を遅らせる事となった。

「姑息なマネを…っ!!」

 視覚よりも実直に敵を捉え続けるセンサーの反応が左後方を示せば、つられて振り向く首に追従した左手が、押っ取り刀で抜き出したナイフを渾身に振り抜く。振り向いた視線の先で敵の顔と真っ向に向かい合ったのは刹那の事。直後、漆黒の手刀と鈍色の短刀のぶつかり合う火花が炸裂し、不快な音を鳴らして二刀が交錯した。

 ただの人間である彼が、異能力者であるカースドヒューマンとの力比べに応じることができたのは、踏ん張りの利く地面とそうでない空中の差が味方した結果に過ぎない。衝撃で上体を弾かれた隊長を後目、回り込む間に首から下の鎧を脱ぎ去り───先の飛び道具の素材に使ったのか───やたらジッパーの目立つ服をさらけ出したカースドヒューマンが、共に露わになった人工的に青い髪を尾と引きながら翻る。
 上半身を踏ん張らせて敵を睨み、至近距離の二撃目を放たんと腕に力を込めると、不意、攻撃を放つという速度でもなく、届く距離ですらない場所に、カースドヒューマンの細腕が真っ直ぐに伸ばされた。
 拍子抜けするような思いが突き抜けるも束の間、次の瞬間に襲いかかったおぞましい殺気は、無意識の早さでそれを否と切り捨てる。ほぼ至近距離で睨み合うカースドヒューマンの瞳は、こちらを直接見据えると言うよりは、どこか透かしているようにも思え────。

「…後ろかッ!?」

 ぞっと背中に冷たい錯覚が通ったのは、恐らく勘が生み出した幻想すぎなかった。が、がむしゃらに体を横に反らすと、先程までそれがあった地点を真っ黒い槍が駆け抜ければ、根拠のない物の存在も信じなくなるようだ。
 己の影から飛び出したと思しき黒の槍は、突き出されたカースドヒューマンの白指にまとわりつくと形を変えて鎧になっていくと見えた。そのまま空中で半回転したカースドヒューマンが、その腕までを黒の装甲で覆いながら着地の姿勢をとった、その瞬間、

「───ナメるなあぁッ!!」

 全身の筋肉で強引に姿勢を整えた隊長の太い足が唸り、炸裂した後ろ回し蹴りが着地直後の土手っ腹を打ち抜き、鈍い音を漏らさせて、少女一人分ほどの体重しかないバケモノを数メートル向こうへとぶっ飛ばした。
 地面をもんどり打って転がっていった敵の体が、そびえ立つ野望の鎧の影に差し掛かった辺りで止まり、同時に射線を確保したセーフチームの銃口が無慈悲に殺意を突き立てる。

「射撃ィー!!」

 突き上がった怒声と共に力んだ人差し指が、トリガーをぐっと引き絞らせる。即座に応じる機構はマガジンに残った弾を吐き出さんと吠え、焚かれるマズルフラッシュの閃光が視界の半ばを眩く染めると────。



「あ゛っハハハハハハハハハハハハハハハはははははははははははっ!!!』


 ────それよりも目立つただひたすらの漆黒がせり上がり、向こうの景色を無遠慮に塗り潰して────。




 ※


405 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:55:44.60 ID:+FUAmXwk0




(どうなってるんだ、あれは!さっきのは陽動か!?)
(カミカゼとライラは何をやっている!二人がかりで対処に向かったのだろうが!!連絡を取れ!)
(ダメです!通信に応じません!…GDFは!どうにか通信はとれないの!?)

 あちこちで飛び交う殺気立った声を聞き、視線の先にその原因を見据えたクルエルハッター───或いはクールPは、「してやられたね」と極めて冷淡な声を吐き出した。
 京華学院の中に構えたアイドルヒーロー同盟仮会議室。その窓の先、悪趣味な紅に染まった戦艦の甲板にそびえ立つ”それ”は、言うなれば影の巨人とでも形容するのが適切かと思われた。

 大きさはちょうど横にある野望の鎧と同程度────いや、勿体付けるべきではない。まったくの黒塗りである事を除けば、姿形、全高含め、野望の鎧の写し身と言っても差し支えない存在が、前触れもなくブラムの甲板上に出現したのである。
 どの程度の存在であるか、予想の付くものではないが、下手に手を出すべきものではないだろうと言うことはわかる。───いや、それ以前に、あの存在に圧倒されたGDFの兵が、体の良い人質として捕らえられているようだ。

「…俺が行ってくるか?」

 諦めて一つ溜息を吐き出そうとしたクールPに、やたらと剣呑な声を吐きつけてきたのは、ヤイバー乙。思わずに振り返り見れば、その顔貌に埋まった油断のない瞳は、決然とした物を奥に秘めながら窓の外を睨みつけていた。

「いや、直ぐにシンデレラ1が向かう……もう向かっているだろう」

 気にすることはない。という意志を含ませて窘めると、極めて不完全燃焼げな「そうか」との返事が返ってきた。乙は沈黙の内に壮絶な物を感じさせながら、ただ視線を窓の外に注ぐ。その先にあるのは影の巨人ではなく────その足元で怪しげに振る舞う漆黒の鎧と翼を生やした人影。観測によれば、カースドヒューマン。

 言わんとしていることはそれとなく理解できる。
 要するに、彼は彼の目の前から去った少女が、あそこにいるカースドヒューマンと同一だと推測しているのだ。
 確かに、蝙蝠のような翼を使ってヤイバーズと共闘していたと言うし、カースの核を素手で触っていたのも、暴食のカースが咥えた物を噛み砕かずに持ち去ったという報告も、カースドヒューマンだと言うのならある程度納得できる。―――なによりも、先刻漏らしていた『嫌な予感』という言葉がそうさせるのだろう。

 だが。
406 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 03:57:35.57 ID:+FUAmXwk0

「…先に断っておくけど、早とちりは勘弁してくれよ?あの少女…二宮飛鳥とか言ったかな。…を指名手配してやるわけにもいかないからね」

「わかってるさ…」

「そのかわり、リサーチはしっかりとやらせてもらうから、それで勘弁してくれよ?」

「あのな!…俺を爆発物みたいに扱わないでくれよ?」

 それならば、もう少し殺気を抑えることだ。と、言いかけて止める。曖昧な鼻息を返事の代わりにして、これからの作業に思いを馳せた。

 対応できた事態か、と聞かれれば、現場としては違うと言いたくなる。ヒーローを何人も送り込んではヒーローの特性上不都合が生じるし、GDFが陣を固めているところに踏み込んでいってはお互いの顔が立たないというものだ。
 というわけで、そういうような理屈を並べて言い訳もしたくなるが、果たしてまんまと後手に回ったこの状況、上の人間はどれほど聞き入れてくれるものだろうか。

 ヒーローに徹していれば無用な悩みに頭を重くし、憂鬱な息を吐き出したクールPは、そのまま背後を振り返って怒号の中に体を送り込ませた。

「GDFとの連絡は!直ぐにでも人名最優先と伝えてくれ!」
「それと、手段は何でも良いからあの場をよく観測しておくように!どうせ人質をダシに逃げられるから、本部にも要請して直ぐに追跡できる準備だ!」

 皆がどれほど冷静に動いてくれるかも、今後の身の振り方に関わるだろうか。慌ててクールPの声に応じたスタッフの背中を眺めていると、思うようには行ってくれないだろうな、との諦念が降って湧いた。
 あちらは今頃どうしているかと、頭を丸めたもう一人のプロデューサーの顔を脳裏に呼び出し、ふと外へ視線を向けたクールPは、思いがけず彼も責任に巻き込む算段に思考を巡らせていた。



 ※
407 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 04:00:26.96 ID:+FUAmXwk0



 同刻。
 ブラムの方角から走り抜けた振動を知覚して、格闘戦の間隙を縫って戦艦を見上げた和久井留美にも、禍々しく直立するそれは認められた。

「肝心なところで派手好きね…」

 恐らく───いや、確実に飛鳥の仕業だろう。
 上で銃撃戦が起こっていたのは理解しているが、あそこまで大胆に能力を行使するほどGDFに追いつめられていたか。奴等も素人でない。相手がただの人間と言えど、能力者だのといったアドバンテージは容易に覆されかねないと言うこともあろうが、あそこまでやられては後に響かないだろうか。
 彼女はそれなりの面識はあると言っても、外様の人間だ。野望の鎧───その一部さえ掠め取れるなら、後の無視はいくらでもできるが、しかし。もし死人でも出されようものなら、『社長』の機嫌を損ねることにも繋がりかねない。
 個人的に、それは勘弁したいものだが───。

「余所見!してくれるのかぁッ!!」

 刹那、全身ごと怒声を張りあげた鋼色───カミカゼが抉るような軌道で迫り来る。頭部アーマーのスリットから覗く眼孔が留美を撃ち抜くや、強引に跳ね上がった握り拳が一閃。慌てて構えたガードの上から衝撃が全身を貫き、一瞬内臓の浮くような感覚を味わった。
 びりびりと走る殺気が目の前で燃え立ち、強化ライダースーツの下の肌毛が焼き散らされるように思える。腕を押し退けた先で強く存在感のあるカミカゼの瞳と睨み合った留美は、「六骨…」と耳元を過ぎった呟き声に身を粟立たせた。

 また来る。あのやたらと素早い六回の打撃。見知らぬ鎧をまとった戦士が。
 先刻に左半身を襲った数発の衝撃を反芻し、二度目はないと内心吐き捨てた留美は、正面を向いたまま意識を先鋭にさせる。こちらを抑えようとカミカゼが力を込めるタイミングに意識を凝らし、目を細める。
 拳を払われても怯まず、ほぼ全身で体当たりを仕掛けてくる。このままでは回避の動作を潰され、直後に来る打撃に晒されてしまうだろう。───だがしかしその瞬間、企業の先兵はカッと目を見開き、全身の体重を乗せた突撃が直撃する瞬間に合わせ、背後へと跳躍した。
 己の脚力とカミカゼの突進を乗算し、砲弾めいた速度で背後に加速し、ぎょっとした息遣いがうなじを擽る。両者歯を食いしばった直後、芯のずれた衝撃が両者の体を揺さぶり、放たれんとされていた六発の拳は、一発目を半ばで押し潰されて不発に終わった。

 ────技名を宣言するとはナンセンス。
 ヒーロー同盟が演出主義で戦わせるから、こうして対応される。

 もつれ合った二人の攻防の分かつのは心構えの差。ぶつかるよりも早く体をしならせていた留美は、鎧の戦士の四肢に絡み付き、自分ごと回転させて地面へと投げつける。
 そのまま受け身の体勢すら取らずにいた敵はそのまま無様に頭を打つかと思われたが、落下した地面にどぷりと波紋を広げると、そのまま地面を水に見立てたように沈み消えていった。───成る程。海底産か。

 こちらの曲芸に驚く素振りも見せずに突進してくるカミカゼを銃撃で牽制し、留美もまたしなやかに着地した。その背後から戦闘外殻が浮かび上がると、留美を中心に二人のヒーローが座して構え、落ち着けぬ静寂が場に張りつめる。

 物質潜行能力をもってすれば、この場を切り抜けて飛鳥の元へ向かうこともできたであろうが、それをしなかったのはこちらの危険度が高いと見ての判断か。───妥当か。この場にはヒーロー同盟が陣取っていること。よしんば、ヒーロー同盟が一つの戦場に多数の戦力を送りたがらない悪癖───商業上の見栄えを考えれば仕方のない部分もあるが───を発揮したとて、GDFの増援、ひいてはシンデレラ1が控えているのだ。欲張って自分たちで対処する必要もない。

『…聞こえるかい?留美さん』

 ───と、思いを巡らせていると、ヘルメットの下に潜ませた通信機がノイズを吐き出し、くぐもった声がヘルメットの中に響いた。
408 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 04:02:35.79 ID:+FUAmXwk0

『人質を取った、交渉は成立。野望の鎧は手に入ったも同然だよ』
「…そう、それはご苦労様。後は手筈通りにね」
『了解。切るよ』

 それだけを言うと通信は一方的に打ち切られ、ノイズの残響を残す。あの巨人がどうしたら人質に繋がるのか、少し気になるところではあったが、その辺はあとで聞いてみればよかろう。
 ただ、もう居座る理由はない。
 適当に勝利宣言でお茶を濁して、どこかに消えてしまおうか───思い、ぎゅっと握り込んだ右の拳を緩めた、その時だった。
 常人の数倍にもなる反射神経が、ぼうぼうと空気を灼きながら何かが迫る音を聞き、コンマ数秒後上体を反らすと、その傍らを眩い一本の光軸が貫いた。
 ライダースーツの表面に熱が当たり、光の突き刺さって地面が赤熱する。上空から来るビーム攻撃。ヒーロー同盟の差し金かと思考し、そのまま追撃を回避しようと構えたが、その次に来る射撃はヒーローをも対象にするかのように飛来した。
 白い翼を輝かせ、何者かが一直線に飛んでくる。
 ビームは牽制。ひたむきなまでに一直線の軌道で飛ぶそれは、猛禽の如き攻撃の第一目標に留美を見据えた。それ自身が弾丸のようになって飛ぶ白き翼の右手には、汚れのない純白の刃が煌めく。

「そこを動くなぁぁあああッ!!」

 バック転を打って回避した留美の一歩手前を斬った剣が勢い余ったように地面に突き刺さり、小柄の乱入者の体が振り回される。刀身の纏った光粒子の向こう、誰何する視線を投げかけた留美は、爛々と紅く輝く瞳がこちらを睨み付ける様を見た。
 怯んでいない。まだ来ると覚悟した直後、小柄の背負った翼が不吉にうねり、恐るべき触腕となって振り乱される。巨大化しながら回転するそれは、ヒーロー達をも当時に巻き込む攻撃であった。様子見の体制を取っていた二人は即座に距離を取り、無造作な攻撃を逃れる。
 たが本命はあくまで留美。両サイドから挟み込むように動いた翼が迫り、しかし。留美は離脱を図らない。その代わりに左手の銃を振り捨て、その両手を堅く握り込み腰を落とした。

「…ッ!!」

 逃げ場を押さえる軌跡を描いた翼の二振りが、禍々しいギロチンを思わせて留美を挟み込む。惨い両断死体が連想される刹那、直撃と同時に鈍い破裂音が炸裂した。「何っ!?」両サイドへ裏拳を叩き込んだのだ。衝撃波で弾き返され、白い泥が四方八方に飛び散る。仕留めること叶わなかった。乱入者はたたらを踏んだ。好機。
 留美の瞳が刃を思わせる鋭さを放ち、その直後、彼女の姿が霞んだ。直後に消える留美にぎょっと目を剥くも一瞬、とっさに構えた剣の腹を水平チョップが打ち据えると、もう片方の手を敵に突き出す動作は両者ともほぼ同時だった。一方は素手のまま突き出す貫手。一方は剣の半分をもぎ取り、モーフィング的変形で短剣の形に整えて一閃、貫手が刃を嫌って激突すると、白い泥がその表面から飛び散った。
 振り回される両手の剣戟が連続し、そのたび火花の代わりに白い泥が二度、三度と弾ける。純白の武器が不意打ち気味にスパイクに変形し、それすらも対応した右手が持ち手ごと武器を握り包む。
 握られた拳から骨の軋む音が聞こえ、ぎょっとして左手の剣が渾身の力で振り下ろされ、すかさず対応した掌底が一際強く激突し、衝撃波の反発で両者ともに飛び退いた。
409 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 04:05:29.06 ID:+FUAmXwk0
 地面にを引きながら踏みとどまり、留美はガンベルトに収まる残りの武器の感触を確かめながら、不機嫌な声を投げる。これもまた鎧の戦士。だが、ひどく小柄だ。人間であるなら、未発達の子供と言うほかにない。

「何者?」

 寸分の迷いもなく輝く瞳が留美を撃ち抜き、その鮮烈な赤の印象を際立たせる。

「…アタシは…!正義だ…!」

「胡散臭いわね…」

「黙れ…!さっきの爆発はお前だろう…!だからアタシが裁く…!」

 怒りの漲った声音には、己が真であると疑わぬ愚直さすらあった。尋常ではない。子供の無邪気で何か良くない物に触れ、精神を汚染でもされたのか。
 そもそも人間ではない可能性はあるが、成る程やりずらい────。

 内心に吐き捨て、この場を切り抜ける算段を整え始めたとき、真っ先に動いたのはヒーロー。

「…付き合ってられるか!ライラぁ!やらせとけ!」

 機先を制して叫ぶと、やおらカミカゼが己の鎧のホイールを地面に擦り付け、背負ったエンジンを駆動させる。奇妙な姿勢で体を疾らせると同時、風を浴びながら鎧をバイクに変じさせると、機動形態となったビークルに跨がる向井拓海は爆発的加速で離脱を図った。
 「……!?待てッ!」と小柄が反応するのは一瞬遅く、気を取られた瞬間を付いて物質潜行した戦闘外殻もそのまま沈み消えていく。体の半分を沈めた彼女の姿を睨み、ビーム攻撃を放とうと指先を向けたが、気の逸れた挙動は恰好の隙と言うほか無かった。

『…ヒカル!危ない!』

 不意に駆け抜けた第三者の声を聞き、ぎょっと訝しむ思いが生まれもしたが、留美が引き金を躊躇う理由にはならない。結論、小柄の持つ剣から発していた声は、直後に爆裂した破裂音の連続に掻き消され、小柄は何よりもその不吉な響きに反応した。
 留美が両手に携えた過剰改造マシンピストルが唸り、瞬間火力のみを突き詰めた鉄の嵐がばら撒かれる。反射で生み出した泥の防壁から小石の当たるような金属音が連続するのを聞いたヒカルは、弾かれるようにして跳躍、翼で飛翔し、被害の軽減に思考を塗り潰した。
 急加速に伴うGが内臓を掴むのがわかった。早鐘を打つ鼓動。噴き出す嫌な汗。不快感に惹起され、このまま逃げ出そうとする己が顔を出すのを知覚したヒカルは、ぎゅっと歯を食いしばり、鋼色の美学で弱気を噛み殺す。

 ───正義の味方に恐れなど……!

 奮い立たせる感情に励起されるように、頭皮がざわりと不可視の波を伝える。きつく閉めていた瞳をかっと見開き、二振りの剣先に攻撃色の光を漲らせたヒカルは、瞬間、見下ろした地面視線を走らせたにも関わらず、それらしき影が見当たらないことにはっとした。
 逃げたのか。真っ先にその思いが立ち上り、裂帛した感情が行き場をなくすような虚無感に苛まれる。何なんだ、さっきのやつらも、小賢しい。敵はこの刹那ではそう遠くに行けないはず。どこだ、どこに逃げた────。

410 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 04:06:35.52 ID:+FUAmXwk0



「───目、閉じたらダメじゃない」

 不意、ぞっとするほど冷たい声音が背中に吐き付けられ、肝を冷やした。背後。気付いたときには遅く、ぬっと影を落とす気配が神経を伝うも一瞬、空気の全て抜けるような衝撃がヒカルの背中を貫き、はっとする思考をも粉砕された。頭ごと揺さぶるような衝撃に意識を手放しそうになり、次いで前方から体重が跳ね返ってくるような衝撃に意識を覚醒させる。

 どうなった?叩き落とされた。違いない。どうやって?敵はどうして飛行できた?否、跳躍?───。

 このままではいけないと叫ぶ意識が全身を動かそう試みるが、瞬間的に機能不全を起こした運動機能はそれに応えなかった。代わりに、首もとに不吉な圧迫感があったかと思えば、動けないこの身をあざ笑うかのようにぐっと持ち上げられた。

「クソッ…がはッ……なんの、為に…!」

 それでも、なんとか絞り出して吐いた言葉は、苦し紛れのモノだったと言って違いない。留美はあくまでも平坦な態度を崩さず、言う。

「ビジネスよ」

「…何ッ…!?」

「ビジネス。…子供でも言葉くらい知ってるでしょう?カネになることをしにきたのよ、私は」

 さも当然。とでも言いたげな口調が背中を伝い、もがく自分の虚しさが対比されるように感じられ、ひとりでな気力だけがいっそう空回りするようだった。
 ふざけるな。子供扱いして。ビジネスだと?そんなことで人に迷惑をかけていいとでも───。

 怒りのような感情に任せ、苦しげな怒声を絞り出そうとすると、急にぐっと揺さぶられて果たせなかった。代わりに呻き声を出され、別の方向へ体を向けさせられた光は「だから」と重ねられる声を聞く。

「正義の味方だったかしら。悪事をしに来たわけじゃないから邪魔しないで頂戴」

「…そうね、お誂え向きはあっち。よく見なさい」

 早く。とでも言いたげに、体がまた一つ揺さぶられた。
 ぼんやりした視界の先にあるのは、吸血鬼が乗ってきた戦艦と、そそり立つ二体の巨人、それと───。

「ほら?あそこに真っ黒い人影が見えるでしょ?」
「あれこそ悪魔よ、余計な人質を取って人を困らせてるんだから、…それにあの子は───」

「それ、は…お前も…!」
「…わかったら、私の事は見逃して欲しいわね」

 お前も。言い掛けた言葉を強引に遮ると、留美は無造作にヒカルの体を放り落とした。受け身も満足に取れずに落下したが、先とは比べようもない。

 ようやく動き始める体を奮わせ、震える腕を杖にして上体を起こす。まだだ。屈するわけにはいかない。正義は絶対に───。

『ヒカル。もう居ないよ』

「えっ…」

 少しの間聞こえなくなっていた声が耳朶を打ち、はっと冷静になった光は空白の思いで背後を振り向いた。

 もう居ない。
 十数秒も無い時間だった。
 能力者の身体能力で駆け出したか、なにか面妖な手段でも使ったか。

『ボクもダメージを負ってしまって…ごめんよ、助けられなかった』

「いや、アタシが不甲斐なかったんだ…」

『じゃあお互い様だ…次こういう事が起こってはいけない。もっと正義の力を引き出せるようにならなきゃ』

 そうだ。───と、返そうとして喉を震わせたが、それはどうしてだか言葉にならなかった。行き場をなくして腐り落ちた体の熱。ぼんやりとした気持ちに駆られた光は当て所ない瞳を泳がせ、その終わりにブラムの巨影を眺めた。

 黒い巨人が赤の巨人の体を引き裂き、邪魔な四肢を放り捨てて、胸像になった巨人の胴体を抱き込むと、途端に溢れ出した漆黒の瘴気にお互いを包み込み、影に溶け込んで消えていく───冒涜的ですらある光景が繰り広げられている。

 その中、全身を漆黒の鎧で包み、悪魔めいた翼を広げる人影を認めた光は、お誂え向きはあっち、と言った声の残響を脳裏に呼び起こした。

 どこかへ消えた女の代わりにそのシルエットを目に焼き付ける行為は、せめてもの抵抗でもあり、屈辱のそれでもあり────。




────………

─────────………………
411 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 04:07:42.01 ID:+FUAmXwk0


─────────………………

────………






 全体がサイバースペースを内包する無機質なメガロシティは、闇が迫るごとに化粧を濃くしていく。

 丑三つ時を回る今となっても黄金の夜景は衰える事を知らず、時には光の血流を形作りながら、常闇の下に四角い町並みを浮き彫りにしていた。
 その一角、猥雑なネオンの濁流は昼の抑圧を晴らすかのように踊り、誘灯蛾めいて惹かれてくるサラリマンの悲喜こもごもを呑み込んではいっそう派手になるとわかる。
 「大特価」「家族サービス」「実際高級」…はるか上空、或いはビルの壁面、或いは店前の呼子。垂れ幕や音声で押し付けがましく主張する広告の類は、日々に疲れた者達から小さな夢の対価を引き出そうと必死だ。そして、それらは口々に主張し合う雑踏、喧噪、クラクションやエンジンの声とミックスされて、眠りを遠ざける騒音の波を形成している。日々のしがらみを忘れようともがく、閉塞的な者達の悲壮なミュージックを思わせて。

 雑音を小さく切りながら疾駆するサイレンが追うのは、下手を踏んだ闇取引の現場か、ドロップアウト達の暴力沙汰か。―――それはきっと、バルーンの下腹にニュースとCMを交互に映しつつ、喧騒を逃れて遊飛行する小型ツェッペリンが明日教えてくれるだろう。


 ここは経済特区ネオトーキョー。
 金と欲望と打算と闇を、無機質な仮面と華々しい光で覆い隠す、日本経済の先端地。

 夜景を指して幻想的。最先端のオブジェクトを指して近未来的。
 この景色を形容する言葉はいくらでもあったが、いずれにも共通しているのは外の人間の評価だということだった。この町に住まい、社会の歯車とその身を捧げ、夜景の光一粒の持つ意味を知った者達は、そういった煌びやかな印象を忘れる。

 その光は命の輝き。その形は意志の造形。
 今日もまたどこかで光が消え、今日もまたどこかでオブジェクトが建つ。
 日が堕ち、純粋に街の色のみを映し出した景色に思いを馳せてみれば、過ぎる尽くは感傷的な感情だった。

 ───だが。
 もし、そうでない物を感じることのできる人種を挙げるとしたら、それはセンチメンタルを愉悦と余裕で塗り潰すことのできる、勝ち組と呼ばれる者達に違いない。この街の景色を酒の肴にできるものなどは、それこそ―――。
412 : ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 04:10:44.22 ID:+FUAmXwk0

「…高そうなお酒ですね。さぞ良い味がするのでしょう」

 向こうに広がる光の海へと向けていた鋭い目つきを、ふと赤紫の液体に向けて女は言った。
 先刻までガンベルトを伴うライダースーツと硝煙の匂いに包まれていた彼女も、今は高級な特注スーツと淡い香水で身を飾っている。一部の隙も無く整えられたスーツに相応しく、その佇まいは完璧なものと言えた。
 後は、瞳に残っている戦の剣呑ささえ抜ききればどこに出しても良い社長秘書の顔つきだろうと思われたが、それは今すぐ要求するものではない。

「皮肉かよ、つくづく遠慮の無ぇ奴…ハッ!社長なんだ、安物飲んでたら示しがつかねぇだろ?」

 夜光を含んで輝く、白い肌と燃え立つような金の長髪。愉快げな色を匂わせて返す声もまた、女―――いや、少女と言った方が正確であろう。

 そういう話をしたのではない。とでも言いたげな女の溜息を背中に聞き、細指に支えたグラスを夜景に重ねると「確かに未成年だがな」と重ねる。

「…が、この街にアタシを裁ける奴は居ない…居るとしたら殺しに来る奴」

 赤紫の先に光の洪水を透かし、確信を持った声音で言い切った。
 そして、「だから留美…お前が居るんだろ?」と言った声とぎらついた瞳を振り返らせると、女が思わず言葉に詰まった隙を付いて液体を一気に呷った。喉を鳴らして奥へ流し込み、はっとする留美の息遣いを感じながら芳醇な香りで口中を満たした彼女は、やりきった顔で満足そうな息を吐き出し、飽きれたような留美の溜息に悪戯っぽい笑みで応じた。

「そんなことよりも、だ…例のモンはちゃんと確保したんだろ?」

「『野望の鎧』は間違いなく…ええ、最低限の部位だけですが。今は三番格納庫に…それと、GDFとヒーロー同盟双方に嗅ぎまわられているので、ご留意を」

「OK…飛鳥の方は…あの強欲の奴はいつも通りで問題ないか?」

「はい。既存のバックアップを維持しておけば良いと」

 と、そこまで聞いた少女は熱っぽく紅潮する口元をにいと歪め、「帰郷直後の吉報としちゃあ上出来だな…ボーナスは期待しておけよ」と興奮抑えきれぬように言った。酒で気分良くなっただけではないだろうと留美は考える。―――アジアから日本に帰国してきたのはつい先日の事。ただふんぞり返るのを嫌うこの女の事、わざわざこっちに足を運んだからには、こちらに注力すべき用事ができたと見てまず間違いない。
 開口一番でヒーローとGDFのただなかに突入させられるのだ、今後は一体どうなることか―――。

 脳裏に嫌な予感をいくつも呼び出し、なんとか嫌そうな顔を堪えた留美は、気持ち金髪の少女に近寄る。

「…つきましては社長、今回の見返りに休暇を貰いたいというのは」
「ダメだ。これから忙しくなるからな」
「………」

「スケジュールは今日中にまとめ上げっから、明日からはそれでヨロシク」
「少し前から予定は開けさせてあったな?明日の昼からはもうアタシの指示に従ってもらうから、死ぬ気でな」

 有無を言わさぬ畳みかけの最後、少女もう一つ興奮気味の笑みを見せつけると、露骨に鬱陶しそうな顔の留美を無視して鞄をさらった。おそらく中にはノートパソコンでも入っている。もう仕事を始めているのだと理解すれば、留美はもうその背中を見ることはしなかった。

 張りのある肌は彼女がまだ若々しく力の有り余る時期である証左。
 豊かな金髪は内に秘めた情熱をそのまま燃料にしているかのように燃え輝いている。
 齢を未だ十八。が、それが故にと彼女の口は語る。


 ―――桐生つかさ。桐生重工三代目社長。
 衰えなど遥か遠く未来の話と断ずるその瞳は少女に似合わぬほど覇気を秘め、充足を知らず、妥協を知らず、ただただ満たされぬ渇きを以てぎらぎらと輝き続けていた。


413 :@設定  ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 04:20:15.02 ID:+FUAmXwk0

名称:和久井留美

職業:社長秘書

能力:超人的身体能力

詳細:桐生つかさがアジアに渡るまでの社長秘書を務めていた人物。一応秘書として会社に入社していたはずだが、能力者であることが発覚するや、いつの間にやら私兵として扱われる日々を送っていた。正気を疑うような難題の数々を押し付けられ、一度は退職を考えたこともあったが、命の危険以外の待遇はすこぶる良いため結局踏み出せなかった過去がある。つかさがアジアに渡り、日本に置いて行かれてからは『比較的』平穏な日々を過ごしていたが…

戦闘時には身体能力を押し出した格闘戦のほかに、桐生重工系列の製品を使用。その際には当てつけのように乱暴に使い捨てている節がある。自身の残す戦闘結果と、残骸として残る桐生重工製品が体の良い宣伝となっていることは、あまり考えないようにしている。


名称:桐生つかさ

職業:桐生重工三代目社長

能力:無し

詳細:現在アジア圏を半ば以上掌握する総合兵器産業、桐生重工の現社長。天才的な開発者でもあり、桐生重工がここまで拡大するに至った一因にはそういった背景もある。前社長が急逝し、その時点では中小の域を出なかった桐生重工を継いだのは数年前の事。最近ではアジアの地盤固めに一段落ついたため、それを契機にある目的を持って帰国。…したが、暫くは往復することになるであろうと踏んでいる。

それとは別としてもう少し女の子らしい事業も手掛けたいと考えているらしい。


・『桐生重工』

創設八十年ほどになる総合兵器工業。…というのはあくまでも最近な話で、つかさが社長となる数年前までは兵器産業に手を出してはいなかった。つかさがふとしたことで手に入れた兵器開発のノウハウ、併せて本人の凄まじい才能により、異世界の技術流入により発生した『次世代兵器競争』にアジア圏で先手を打つことに成功。世界そのものの混乱も味方に付けながら、博打的な投資と電撃的な展開により巨大化したものが現在の姿。現在はもっぱら太平洋を挟んでヘカトンケイル重工と睨み合いを続けている。

あまりに急速な発展の背景には、戦闘向きの能力者を派遣した恫喝営業の存在もあるともっぱらの噂。
414 :@設定  ◆R/5y8AboOk [sage saga]:2015/08/14(金) 04:29:20.80 ID:+FUAmXwk0
◇桐生重工が野望の鎧(心臓部)を入手しました

◇飛鳥ちゃんはカースドヒューマンでもあるらしいですよ?


今後に向ける意味含めて詰め込み過ぎた感があるが気にしない…きっと矛盾もしてない…
南条光、高森藍子、クールP、ヤイバ―乙、向井拓海、ライラをお借りしました
終わり


…データが吹っ飛ぶ前は影の巨人vsシンデレラ1みたいなパートもあったんですよ
415 : ◆R/5y8AboOk [sage]:2015/08/14(金) 11:35:41.03 ID:+FUAmXwk0
あ、飲んでるのがぶどうジュースだったオチ入れるの忘れてた…
416 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/08/14(金) 19:39:37.29 ID:mrjgO2bso
>>414
おつー

とうとう現れたつかさ社長、出番は少ないがカリスマを感じる
秘書の和久井さんも強くてクールで格好いい、そして苦労人のオーラが……

個人的には、藍子の登場に「ファッ!?」、となりました
彼女との邂逅が、今後光にとって何かしらの意味を持つといいなぁ、なんて


>…データが吹っ飛ぶ前は影の巨人vsシンデレラ1みたいなパートもあったんですよ

アクシデントに見舞われながらもSSを書き上げるのは大変だったと思います
今回は本当にお疲れ様でした
417 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/08/14(金) 20:07:10.44 ID:Nsoud130O
おつですー
案の定なんかすごいことに。まさかズドンと持っていくとは
それに社長も秘書もタイプは違えど強キャラしてるなぁ……

光の行き先はどうなっていくのだろうか…戻りそうな気もするが悪化してるような気もする…
418 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/15(土) 01:17:57.64 ID:PiD6VP7t0
>>414
お疲れ様ですっ!
す、すごい、いろんな人が動いとる……

つかさ社長も和久井さんも強そうだなぁww
419 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:49:11.64 ID:PWAS3CMco
乙です
濃厚な描写に怒涛の展開。
これからが気になります。


さてお久しぶりです。
若干のスランプがありかなりの間投下できませんでしたがリハビリがてら投下します。
文章が拙くなっているかもしれませんがご容赦をば。
420 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:49:56.15 ID:PWAS3CMco
 緑の蛍光色に近い液体が円筒状のシリンダーに満たされている。
 薄暗い研究室内はわずかな照明の光をその緑が反射することによって怪しく光っていた。
 不気味なその水槽は仰々しい機械と一体になっており、その周囲では絶えず研究者のような身なりの人間がせわしなく動いていた。

 水槽内にはまるで太陽の黒点のような黒い塊が一つ。
 それはゆらゆらと微細に形を変えつつ水槽内の中間で浮遊している。

 その様子を詳しく見れば、泥のような物体であることがうかがえる。
 水と油のごとく、蛍光色の薬液とその泥は全く混じり合うことがない。

「これで調整も最終段階だ」

 他の研究員たちは慌ただしく作業しているにもかかわらず同様の身なりをしているその男だけは水槽の前で、黒い泥をじっと見ながら言う。
 いや、身なりは同じだとは言ったが実際にはそれは白衣だけでしかない。
 その白衣の下には、名状しがたき表情をした美少女アニメのキャラTシャツを着こみ、その髪はまるで整えられておらずくしゃくしゃである。
 おおよそその男を研究者たらしめているのは羽織る白衣だけであり、それ以外は日本の電気街ですらほぼ見られなくなったであろうファッションである。

 だがそのふざけた身なりの男は、眼光だけは鋭くその黒い泥の塊を凝視している。
 それに答えるかのように、水槽内の黒い泥は一瞬大きく揺らめいた。

「まぁ、全く知識もない状態でこの状態を保てていたっていう方がおっどろきーなんだけどねー」
421 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:50:29.56 ID:PWAS3CMco

 そのカビの生えたような男の隣で、ふわふわとした長髪の少女がこの場にそぐわぬような口調で言う。
 少女もまた白衣を羽織っているが、その風体はかび臭そうな男と同様に異質なものである。
 容貌こそただの少女であるが、けらけらと嗤うその表情からはある種の狂気がうかがえる。

「確かに『これ』に関する資料は少なすぎる。

管理局のせいで掘り起こす情報元さえも消されてしまいましたし……。

結局これに関しても、これの『大元』に関してもすべてを知っているのはあなたの父上だけということになりますよ。シキ」

 男の方、イルミナPは視線を水槽からちらりと、少女、シキの方へと移しながら言う。
 その視線は警戒心にも似た視線であり、その言葉も世間話をしようと口から出たものではなかった。

「だから唯一あの実験の真実と詳細を知るあたしに、この子の最終調整を頼んだのかなー?」

 だがイルミナPから発せられる警戒心などシキは意に介さない。

「その通りですよ。あの研究には我々を含むいくつもの組織が出資していましたからね。

他の組織も血眼になって裏切って行方をくらませたイチノセ博士を捜索しているのに一向に見つからない。

その上、ご丁寧に研究に関わっていた者はあなたを除いて全員に記憶洗浄(ブレインクリアリング)まで徹底されていたんですから……」
422 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:51:20.02 ID:PWAS3CMco

 イルミナPは数多ある悩みの種の一つを脳裏から掘り起こす。
 興味の惹かれる研究の上に、宇宙の中ではシキの父である高名なイチノセ博士の研究であったので軽く出資してみたが運の尽き。
 イチノセ博士は研究のデータをすべて持ち出したまま失踪、その後を見計らうかのように研究所には管理局がなだれ込んできたのだ。

「おかげで『アレ』についての研究内容はさっぱりわからない。

残っているのは密かに持ち出した遺伝子データから作り出したこのクローンだけというざま。

やはり他人の研究データを当てにしても、他人に研究を任せるのは駄目ですね」

「まぁパパはあたしに似て失踪するのがうまいからね〜♪」

「それはあなたがイチノセ博士に似ているんですよ……」

 小さくため息を吐いてイルミナPは、水槽へと向き直る。
 以前黒い泥の塊は水槽内で、混じり合うことなく漂っている。

「しっかし、これの『元』とは似ても似つかない姿だ……。

本当に、大丈夫ですかシキ?私には専門外故に、手も足も出なかったのは認めますが……。

はっきり言ってあなたのことは微塵も信用できないんですよ」
423 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:51:58.87 ID:PWAS3CMco

「にゃはは。あたしのこと信用できないのなんて今に始まったことじゃないでしょ。

でも、これについては『これ』で間違いないよ。

結局遺伝子劣化や、素材も違うからオリジナルとはある程度の違いが出ちゃうんだよね〜」

「そう、ですか」

 シキはイルミナPの懐疑心など意に介さず疑問に対して返答する。
 それは自らの研究に対する自信であった。

 イルミナPもシキに対して全く信用はしていないのだが、彼は専門外であっても検証くらいはできる。
 使えるか使えないかの判断はできるから、わざわざシキに確認を取る必要さえもないのだ。
 そう言った前提がある上でシキの言葉だけは信用していた。
 それに、同じ研究者であるがゆえに、自らの研究に対する自負は通ずるものを感じるのだ。
 シキ個人は信用できなくとも、その口から一度出た言葉は真実であるとイルミナPは理解していた。

「だからこそ、あとは我々の仕事です」

 イルミナPは白衣を翻し、右手を耳に当てる。
 彼の右腕である義手『マジックハンド』は超高性能の演算処理装置であると同時にマルチデバイスである。
 当然通信機機能は搭載しており、イルミナPの言葉を伝えるべく起動する。
424 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:52:39.52 ID:PWAS3CMco

「実証テストと、量産化を進める。

『サークルライン』がある程度完成し次第、これも実戦投入する予定だ。

実証テストの際には念のためにカースジャマーと兵団から一人対処できるだけの腕を持つ者を待機させろ」

 矢継ぎ早に通信先の人物に指示を出していくイルミナP。
 その様子をちらりと一瞬見たシキはそれで興味を失ったのか、再び水槽を見上げる。

「よかったね。もうすぐ外で遊べるみたいだよ、『終末因子(ウルティマ)』。

あなたのお姉さんに会ったのなら、よろしくね♪」

 ニヤリと無邪気で悪徳な笑みを浮かべたシキに答えるように、水槽の泥が静かに揺れる。
 それと同時に彼女と水槽の中の『彼女』を隔絶する硝子板が振動しながら静かに嗤い声を伝えた気がした。


***


   
425 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:53:16.45 ID:PWAS3CMco


 イルミナPがシキから目を放していたのはほんの1分にも満たない時間であった。
 連絡を取るべき人物が多く、シキに意識を割くのを疎かにしたこと。
 そして、『ウルティマ』が完成し、安心しきっていたのも原因の一つであろうがこれらはイルミナPにとってはこれは致命的なミスだった。

「では任せた。

すでに開いた『クロスポイント』は二つ。

『憤怒の街』とインヴィディアによって開けたあの駅前だ。

おそらく勘の鋭いものならば我々の目的に感付いた者がいるかもしれない。

だからこそここから先、3つ目以降からが本番になるだろう。

次に投入する戦力は、これまでより実力のある面子で行こうと計画中だ。

ではそちらの取りまとめは任せた。エイビス」

 そして右腕の通信機を切り、相手側との接続を遮断する。
 耳元に当てていた右手を降ろし、イルミナPは振り返る。

「では、ビジネスの話に戻ろう。シキ。

今回の報酬だ……が……」
426 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:53:44.70 ID:PWAS3CMco

 振り返った先には、すでに人影は居らず、視界には不気味な水槽が映るだけである。
 先ほどまでいたはずのシキの姿はもはや影も形もなかった。

「あ…………」

 先ほどまでのシリアスな顔つきも忘れ、イルミナPの顔は急降下するように真っ青になっていく。
 シキを研究所内に入れた時からずっと警戒していたのに、最後に犯した特大級のヘマ。

 シキを野放しにするということは、細菌兵器を野放しにしたようなものだ。
 決して人死にが出ることはないのだが、時によっては死より悲惨なことになることがある。

 いや、なったことがあるのだ。
 あえてここでは多く語らないが、イルミナティ創設以来最悪の出来事であったと皆の記憶に刻み込まれている。
 皆のトラウマ。最悪の痴態。

 100年以上の歴史のあるイルミナティがたった一人の少女がもたらしたパンデミックによって壊滅寸前に追い込まれたことは、ここで働く者たちにとっては記憶に新しい事なのだ。
427 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:54:20.59 ID:PWAS3CMco

「全員警戒せよ!!!ターゲット『公害』、発見次第即座に報告せよ!!!

絶対に手を出すんじゃないぞ!!!奴は猛獣、いやキャリア……くそ、ともかく細菌爆弾のようなものだ!!!

決して刺激するなよ!事前に打ち合わせておいた『公害』対策チームは第17ミーティングルームへ急行せよ!!!」

 つい先ほど切ったばかりの右腕の通信機能を再起動させ、イルミナティ全体に命令を下すイルミナP。
 それを聞いていた周囲の研究員たちは各々が手に持っていた貴重なデータ書類も、測定機械も放りだしてなだれ込むように一直線に一つしかない出口への扉へと向かいだした。

 この状況はこの研究所内だけではなく、他の部署においても同様な事態になっており、我先にと外へ避難しようとしていた。
 もはやパニック状態になった人員たちで埋まっているイルミナティ。
 実際のところ外へ逃げ出したところで、シキの薬害から簡単に逃れるわけではないのだが、これは自らの身に迫る本能が故だろうか。

「待て!!!パニックになるな!!落ちつ、落ち着いて対処するんだ!!!

刺激さえしなければ奴は何もしない!!!皆が混乱すれば奴の思うつぼだぞ!!!!」

 怒涛の人の流れを抑えようとイルミナPも制止の声を叫ぶが誰の耳にも届かない。
 イルミナP自身も軽いパニックに陥っており、今この瞬間、完全にイルミナティの機能は停止していた。

「くっ……、どこへ行った!?シキいいいいいぃぃぃーーーー!!!」


***



    
428 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:54:54.94 ID:PWAS3CMco


 イルミナティ内全域が未曾有の混乱に陥っている中、その騒動の原因であるシキは悠々とイルミナティ内の廊下を歩いていた。
 周囲の状況など知ったことではないように、その足取りは軽い。

 事実、彼女にとっては好きなように出歩いているだけである上、ただ雇われているだけの自分の行動を制限する権限などイルミナティにはない。
 いや、実のところ契約段階では『勝手な行動はしない』ということがあったのだが、たかがその一文でシキを束縛できるはずがないのだ。

「でも、なーんで誰にも会わないのかなー?」

 シキが今歩いている廊下には彼女のほかに誰も存在しない。
 秘密結社と言えど、相当規模の組織であるイルミナティだ。
 研究班と魔術結社とをつなぐ通路であるこの廊下は外へとも通じており、本来は人通りが全くないなんてことはない。

 だが彼女、シキがこの組織に与えた傷は生半可なものではない。
 すでに避難のノウハウは前のことで完成されており、避難経路としてシキと出会いにくい裏口に誘導されていた。

『予測、それはシキを警戒して人々は避難したからであると考えられます』

 そのシキのほかに誰もいないはずの廊下で、シキの声にこたえる声。
 その声は女性の声であることはわかるのだが、機会に録音された、電子音のような声。

 形容しがたい声色をあえて例えるとしたならば、この世の悪異、カースの声に近いものであった。
429 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:55:41.44 ID:PWAS3CMco

「あたしを警戒って……なんで?ケミカ」

 シキにとっては、かつてここで起こした参事について全く覚えていなかった。
 彼女の記憶は、研究と興味で埋め尽くされているためかつてのイルミナティでの大参事で得た研究成果以外については全く覚えていなかったのだ。
 当然それによって引き起こされた被害についても記憶していないので、彼女にとって反省という言葉は存在していなかった。

 シキのそんな様子に、その声の主は少し呆れを含んだ声色でシキの疑問に答える。
 そしてその声の出どころは、シキが手に持っているマス目が極小で成されているルービックキューブからであった。

『引用、2年前にシキがイルミナティから依頼された新型ステロイド『キャンディトーク』の生成と実用化の際のことです。

シキはそれを完遂した後に、ここを含めたバチカンからほぼイタリア全域に空気感染する『キャンディトーク』の作用を引き起こすウイルスをばらまいて人体実験したことですね』

「あー、あのみんな『ハッスル』しちゃう薬か。そんなこともあったねー」

 ここでは気軽に語っていることであるが、『キャンディトーク』は人の身体、脳にまで影響を及ぼすステロイド、劇薬である。
 それは本来、人を凶暴化させ暴走を引き起こし、言語中枢を破壊し意味不明な単語の羅列を永遠に語らせ続けるというものであった。

 シキによって一晩のうちに実用化されたそれは、即座にシキによって細菌兵器に加工、彼女の独断で散布された。
 実用化され比較的効能が抑えられたそれは、興奮作用、言語中枢の麻痺、思考能力の低下を引き起こし本能を呼び起こす。
 そして人々は、男女関係なく甘い言葉でささやき、肉欲を貪るのだ。

 「やらないか」と。

 分量を調節すれば自白剤などにも使える『キャンディトーク』だが、ここで散布された薄められたそれはただの『催淫剤』として機能していたのだ。
430 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:56:11.61 ID:PWAS3CMco

 その後イタリア全域は三日三晩にわたりピンク色の炎で燃え上がり、ベビーブームを引き起こしたと言うのは別の話。
 当然外部に漏れだしたその『キャンディトーク』の成果はイルミナティにとっては無価値のものとなってしまったのだ。
 なお『キャンディトーク』の成分は今では媚薬として薬局で一級医薬品として扱われている。

「ふっふっふーん。あの日はきっと争いがなかったとアタシは思うな。

ラブ&ピース、みたいな。まさに情熱の国」

『否定、情熱の国はスペインです。

それとあの状況はラブ&ラブです。それどころかセックスアンドザシティです』

「むむむ、さすが『欲求する化学』。

もっのっしり〜♪」

『当然、というよりも情熱の国は常識です。

あなた天才ですよね?頭の中も薬漬けでおかしくなっているのでしょうか?

事実、イルミナティズ・カースドウェポンを侮らないでください。

情報量だけなら、あなたを凌駕する自負はあります』
431 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:57:05.37 ID:PWAS3CMco

 シキが手に持っている通常サイズより一回り大きいルービックキューブ。
 シキとの会話相手になっているそれは、キューブの一角が宙に浮いて幾何学運動をする。

『シキ、騎士兵団まで動員した捕獲作戦が刊行されようとしているようです。

至急、脱出すべきです。

あなたが脱出しなければ、私たちカースドウェポンとの契約反故となりかねません』

「にゃはは。まぁ仕事はもう終わってるし、『ウルティマ』にはそんなに興味がないからね〜♪

約束通り、みんな連れてオサラバってねーケミカ♪」

『肯定。マスター、シキ。

警備などに妨害工作をしておきました。

最適なルートで脱出します』



 グリードキューブ・ディシダリオケミカ。

 イルミナPによって開発されたイルミナティズ・カースドウェポン、『強欲』のプロトタイプである。
 小型の研究施設を目標としてルービックキューブを改造して作られたそれは、カースの核を利用して歪曲空間を多層に備えている。
 その物理保存領域のほかにも様々な機能を持ち合わせているのだが、あくまで試作品であり、他のカースドウェポンの試作品と同様、倉庫に保管されていたのだ。
432 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:57:42.88 ID:PWAS3CMco

『故、私『強欲』その他『傲慢』『嫉妬』『暴食』『色欲』『怠惰』。

倉庫で埃をかぶっているのは本意ではないのです。

シキ、そこを左です』

 シキとケミカはのんびりとイルミナティ本部内を歩いている。
 実際、現在も必死の捜索が行われているのだが、ケミカのナビゲート、情報攪乱とシキの天性の失踪能力が相まって見つかる兆しは一切ない。

「おっけー。

ん?大罪って七つじゃなかったけ?いま6つだった気がするんだけど?」

『肯定、大罪は七つです。

ですが『憤怒』はすでに使用者がいて、一緒ではないのです。

ともかく、私のマスターはシキ、貴女で決まりなのです』

「んー?結構キミのことは気に入ってるけど、なんで君はアタシを選んだの?」

『感覚、フィーリングです。ビビビと』

「にゃっははー♪なるほど気が合いそうだねー」
433 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:58:19.46 ID:PWAS3CMco

 そう言いながらシキは入ったトイレの天井を開けて、ダクト内へと入っていく。
 その後ろでトイレの前をバタバタと捜索隊の走る音が聞こえる。

「ところでイルミナPじゃダメだったの?」

 シキはケミカに疑問を投げかける。
 カースドウェポンたちの製作者はイルミナPである。今こうしてシキの手の中にあるということはイルミナPが持つ所有権を拒否していることに他ならない。

『あの人は私たちだけでなく作ったものを持て余している節があります。

私たちは道具。使われてこそです。倉庫で眠るなんてのは以ての外なのですよ。

それに何よりの理由がもう一つあります』

「もう一つの理由?」

『嫌悪、イルミナPは正直気持ち悪いです。

不潔、盲信、天然パーマ、もはや役満。

えり好みの少ない『色欲』でさえ拒否する始末なのです。

あのダニに使われるのは勘弁ですよ』

「……き、きっとあの人にもいいところ少しはあると思うけどー」

 さすがのシキもイルミナPに同情する。
 作り出した道具たちにでさえ、この評価である。しかも結構理不尽である。
434 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 22:59:05.36 ID:PWAS3CMco

「えーと……天パなところ?」

『先ほど、欠点として挙げました。

ともかくアレはあり得ません』

「ま、まぁでもわからなくもないけどねー」

『おや、先ほどは庇ったというのに一転して罵倒側に回りますか。

歓迎しますよ、シキ』

 悪辣な口調なケミカなど気にせずに、シキはの表情は変わらず軽やかににこやかだ。
 這っていたダクト内から、ダクト蓋を開けて別の部屋へとシキは降り立つ。



「だってイルミナPは研究者じゃないんだもの。

確かに、作り出したものは素晴らしいと思うけど、あの人はほんとに駄目だと思うな。

すでに中身は腐り落ちているし、亡霊っていう言葉がしっくりくるよね。

そして亡霊じゃあ、何も価値のある者は生み出せないからね。にゃはは」


   
435 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 23:00:03.86 ID:PWAS3CMco

 降り立った部屋から目に入った扉を開ければそこは外。
 周囲はバチカンの古式建築の街並みが視界に広がり、ここはその裏通りであった。

 空は澄み切っているが、出口の雨よけとしてある小さな屋根はシキの顔に影を落とす。

 その影は嗤っているはずのシキの表情を、凶悪なものに見せていた。

『脱出、シキ、外です。

まだイルミナティの圏内を抜けてはいませんが十分でしょう』

 ケミカはあえてシキの言葉に反応を示さない。
 なにせケミカの『嫌悪』とシキの『嫌悪』は全く違うものであるからだ。

 きっとこの世の研究者というものがイルミナPと言う存在を見れば、全員がシキと同様の感想を抱くのだろう。
 あれは研究者ではないと。自分と同じ人種ではないと。

 研究と言う過程を賛美する我々とは、根本的に違う生き物であると。
 唾棄すべき塵。結果しか残らない直行帰結。

 『あれは駄目だ』
 こんなものには憧れない。
 彼の研究風景は見る者を幻滅させる。
 これがあの『魔機学』の開祖がこんなものなのか。歴史に名高い大魔術師、イルミナティの大魔導がこれだと?

 吐き気がすると。

 こんなものには憧れない。偉大とはもっと尊いものだと実感するのだ。
436 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 23:01:22.63 ID:PWAS3CMco

「そうだね。行こっかケミカ」

 そして歩き出すシキ。
 その足取りは依然変わらず軽いままだ。

『閑話休題。これからどこへ行くのですか?シキ』

 ケミカはシキの行先を尋ねる。
 ケミカの内部保存領域には他5つのカースドウェポンが収納されている。

 その5つの彼女たちを放す場所は適当な場所でなければいけないのだ。

「にゅっふふー。とりあえず日本に戻ろうかなー。

『ウルティマ』のサンプルを保管しに行かなきゃね」

 その手に持つ小さな小瓶には小さな泥が浮いている。
 それが『ウルティマ』の欠片であることは明白であった。

『疑問、『ウルティマ』には興味がなかったのでは?』

「要らないとは言ってないよー。

備えあればうれしいってね。とりあえずもらえる物はもらっておこうかな、みたいな」
437 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 23:02:12.91 ID:PWAS3CMco

『了解、では行きましょう日本へ。

なお確認しておきますが契約として『他のカースドウェポン5種の放出』。

そこに着いたら契約は満了です。その時点からあなたを正式なマスターと認めましょう、シキ』

「かたっくるしいなーケミカは。

まーよろしくね、ケミカ。アタシは好き放題するからちゃんと付いてきてね♪」

『では着いたら、よろしく。シキ。

私も好き放題するので、ちゃんと使いこなしてくださいね』




    
438 :@設定 ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 23:02:52.88 ID:PWAS3CMco


イルミナティズ・カースドウェポン
イルミナPがかつて趣味で開発した、カースの核を埋め込むことによって作り出した兵器。
しかしプロトタイプである各大罪7つの武器は、試作品と言うことで実戦で扱われることなく凍結された。
相応の性能を誇るが、一般人が使うことを想定されていないために『鬼神の七振り』とは違いカースの核を封じる機構が存在しない。
故に使用するにはカースの汚染を防ぐ手段を用意するか、汚染に耐えうるだけの強固な精神が必要になる。

グリードキューブ・ディシダリオケミカ
強欲のカースドウェポン。手のひらサイズより少し大きめのキューブ。『欲求する化学』
イルミナPが研究のためにルービックキューブを改造して作られた。
普段は3×3の普通のルービックキューブのような形態だが、一面最大9×9の9^3、合計729個の立方体まで分離し自在に複雑な動きをさせることができる。
その小さいキューブ一つの内部に圧縮空間が存在し、物質を収納したりそれらを組み合わせることによって融合や化学反応をさせることが可能となっている。
性格は比較的落ち着いている語り口だが、時々さらりと毒を吐いたり、収納したものを勝手に実験に使ったりと好き放題する。


439 :@設定 ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/08/15(土) 23:06:48.31 ID:PWAS3CMco

◇イベント情報
日本でイルミナティズ・カースドウェポン5種がばら撒かれました。
基本的に持ち主は鬼神の七振りと同様に、勝手に持ち主を選びます。
なおイルミナティは、シキがひっそりとばら撒いた『キャンディトークEX』の混乱のためにカースドウェポンが消失したことにはしばらくは気づきそうにないです。
これらのカースドウェポンはカース同様泥を生成できるのである程度の自立行動が可能です。




約2年前くらいの設定を引っ張り上げてきました。
リハビリがてらなので矛盾があるかもです。
また設定とかに不都合とかあったら指摘していただけると幸いです。

そしてもしあったのならば許してオナシャス
440 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/08/15(土) 23:32:42.31 ID:cHtKtNW9O
おつです
ウルティマ!?まさかまた『あの子』の亜種・近種が増えるのか!?姉妹喧嘩フラグなのか!?…………大丈夫かな
カースドウェポンの新しい奴も不穏っすなー
441 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/16(日) 23:42:46.81 ID:p2VqKJyl0
おつかれさまですっ
新しいカースドウェポンかぁ……
普通のカース同様に動けるのなら、なんかそれ自体で戦わせたりとかできそうね
442 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/08/18(火) 23:20:50.83 ID:LZf5ezlzo
>>439
おつー
志希にゃんは相変わらずのトラブルメーカーですなぁ

読んでる最中「イルミナティ創設以来最悪の出来事……? そういやギャグ回でそんな話があった気が……
いや違うな、あの時は確かサクライが――、まぁ何にせよ志希の仕業ではあるし、とんでもないなこのマッドサイエンティスト!」
とか思ってました
彼女にかかればイルミナPも形無しだし、”少佐”とも繋がりがあるみたいだし、本当とんでもない女だよ!

そして新たに登場した相方のケミカも良いキャラしてますね
……っていうかこれ志希にゃんの手に渡ったらアカンタイプのブツじゃない? とんでもないコンビ生まれちゃったよ!
443 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:16:22.97 ID:2hl+u/be0
1か月たっちゃったけど、前回の続きで投稿しますー
渋谷凛と横山千佳をお借りします。
444 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:18:01.60 ID:2hl+u/be0
きっかけは一通の手紙でした。


その手紙を受け取ったのは、さ……はぁとさんが怪我をしたということで、一緒に病院へ行っていたときでした。

はぁとさんが終わるまで少し時間が空くということでしたので、私は暇つぶしついでに手紙を送りたい人を探していました。

ですが、どうも皆さん、やはりというべきなのですが……お便りの方法には尽きないようでした。

「ここでも、ですか……っ」

私は地面に膝と手を着きそうになりました。

今や一人一台、いや、それ以上に携帯電話が普及している時代です。

どこでも話したい人に話せる今においては、人の手で届ける手紙の役割は少ないのかもしれません。



そんなことを考えている時でした。依頼人である男の人を見つけたのは。

その人は病院の中にある公園のベンチで、ただ空を見上げて呆然としていました。

その目は……なんだか手の届かない遠くを見ているような、そんな気がしました。

それが気になって、気づいたら声をかけていました。

「……あのっ、すいませんっ!」

その男の人は私の声に気づくと、ゆっくりとこちらに顔を向けた。

「……ああ、すまない。 ちょっと考え事をしていた。」

その男の人の姿は……ちょっと痛ましいものでした。

頭に包帯が巻かれており、左腕の先が無くなっていました。足を怪我したのか、車いすに乗っています。

そして何より、私の目から見ても明らかに生気がなくなっているように見えました。

「あのっ、大丈夫ですかっ!?」

「ああ、大丈夫だよ。 だが、私はもう生きるのが辛い。」

「……その、すいませんっ」

「謝ることはない。 もう俺は死にたい。 俺はあの街で、何もかもを無くしてしまった……

妻と娘がいないこんな世の中に、未練なんてない………!」

………この人は、死にたがっている?

こういう人を見るのはもう何度目なのでしょうか?

人類が能力を得始めたり、『カース』という未曽有の生命体による侵略など、様々な戦いがこの時代には渦巻いているという話を聞いて覚悟はしていたのですが………

………あれ?私をじっと見つめています。 どうしたのでしょうかっ?
445 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:19:21.51 ID:2hl+u/be0
「……あ、あのっ?」

「……似ている」

「えっ?」

……私以外にも、この時代にきた姉妹がいる?

そう思った私は、次の言葉ですぐに違うを気づきました。

「身長も違う、顔も違う、髪の色も違う、目の色も格好も違う。

だが、なぜだろうか? どこかが似ている……」

どうにも、わかりません。

私と同じような人が、この時代にもいるのでしょうか?

「そうだな……。 もし暇なら、俺の身の上話でも聞いていかないか?」

「……はい。」

どうも、かなり深刻な悩みを抱えているような気がします。

こういう人を見たのは……星間戦争の時以来でしょうか?

その頃のことは、私は記録の中でしか知らないのですけども……。

「俺はかつて、今の憤怒の街と呼ばれるところに住んでいた。 妻と娘の3人暮らしだ。

俺は教師で、妻は俺の元教え子だった。明るくて、優しくて、いつも俺の手伝いをしてくれた。

そして、妻は俺のひたむきに頑張る姿を見て惹かれたのらしい。

密かに交際を始めて、卒業式のあと、すぐに結婚したものさ。 妻を誰にも渡したく無かったからな。

妻も俺を誰にも渡したくないと思ったらしい。 周りからはお似合いのカップルだと言われたさ。」

「それはとっても素晴らしいですっ! うらやましいなぁ……っ」

「それもいろんな人に言われた。 娘も生まれて、順風満帆な人生だと思った。

だが……そんな妻や娘を、憤怒の街は奪った……。」

「えっ………」

「俺はあの日、街から離れた所で教鞭を取っていた。希しくもその日は俺の誕生日だった。

妻は俺の誕生日プレゼントを買って待っているからって言って、送り出してくれたよ。

それが、妻の最後の言葉だった………」

「………」

大切な人を失った人の気持ちは………私にはまだわかりません。

私は大切な人を失ったことはまだないから。

ただ、そういった人達を見たことなら、嫌になるくらいにはあります。

この人は、そうした人達と似ている……というより、そのものでした。
446 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:20:10.91 ID:2hl+u/be0
「俺はそのことを放課後になって知った。

急いで向かったさ。GDFの人に止められても、抜け道を使ったりして、憤怒の街に入ってな。

でも、見当たらなかった。 それどころかカースに襲われて、こうして左腕を失った。

妻と娘が死んだことを告げられたのは、憤怒の街の事件が終わった後だった。

だが、それからだろうか。 妻に捨てられたフィギュアの夢を見たのは。」

「フィギュア……ですか?」

あ、あの………フィギュアって………人形の事でしょうかっ?

人形が夢で語りかけてくるなんて、ちょっと怖いです………っ


「ああ。 妻と幸せな関係を結んでいた俺にも趣味というものがある。

俺は子供のころに好きだったアニメのフィギュアを集めていた。 限定版とかも買いに行ったりしていた。

娘の名前にも、そのアニメの主人公の名前を付けたりするほど、好きだった。

妻も俺のそういうところは認めてはくれたさ。それどころか生まれた娘にそのフィギュアで遊ばせたりもしていた。

だが、まあ、ちょっとしたことで喧嘩になって、妻が怒って、俺の大事にしていた限定版のフィギュアを捨ててしまったんだ。」


なるほど大切にしていたフィギュアを捨てられちゃったんですか………っ


「その後、なんだかんだで仲直りはしたんだがな。

だが、今頃になってそのフィギュアが私に語り掛けてくる夢を見るんだ。

『どうして捨てたの? 私はいらないの?』とね。捨てた俺を恨んでいるようにも見えた。 だが、それだけでもないのかもしれない。」

「それは……なぜですかっ?」

「最後に『ごめんね』と言い残したから……だろうな。」

「『ごめんね』………ですか………?」


確かに、恨みを持っているだけなら、謝る必要もありません。

……しかし、まるで生きているかのようですねっ?


「ああ。あの言葉に、妻の面影が重なった。娘の姿をも見た。

もしかしたらあのフィギュアに妻と娘の魂が乗り移ったんじゃないかと思った。」

「フィギュアに魂が乗り移る………」


――それは、まさしく、今の私のようです。

私自身に魂が乗り移った訳では無いですけれど、私は元々はただのロボットでした。

それに魂が宿って、加えて能力も得て、未来を救うために過去にやってきて。


人形とロボットでは、違いがあるのかもしれません。

私はとある出来事で魂がロボットに芽生えたという表現が正しいのですけど、彼女(口ぶりから勝手に女の子だと思いました)は魂が乗り移ったという形です。

そして、私は捨てられていませんが、彼女は捨てられてます。

考えてみるとかなり違いますけど、なぜか親近感があります。

そして、この人の現在の状況………。 何とかしてあげたいですっ。

なのでもし、その話が本当なら、私はその人形さんに――
447 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:21:34.24 ID:2hl+u/be0
「ははは……そんなわけないよな。 人形に魂が乗り移るなんて、怪談話でしか聞いたことがない。

だが、私はそう信じたくなった。でなければ私は……私は……っ!!」

男はそういうと、座ったままうなだれてしまいました。

でも、私にはこの人に伝えたいことがあります。

「さっき、こんな世の中に未練なんてないって言いましたよねっ?」

「ああ、そうだ」

「………未練、あるじゃないですかっ!

自分でありえないなんて言っておいて!妻と娘の魂が捨てた人形に乗り移ったとか言っちゃってっ!!」

「なっ………!」

「本当に未練なんかない人は、死にたいって思っている時にそんなこと思ったりなんかしませんよっ!

魂が人形に乗り移るなんてありえないなんていってますけど、本当はどこかでそうであってほしいなんて思ってるのではっ!?」

「じゃあ、どうすればいいっていうんだ!!」

「その夢で会った人形に、亡くなった娘やお嫁さんに自分の気持ちを伝えればいいんですっ!!

伝えて、自分の中で整理をつけるんですっ!」

「もういないんだぞ!妻も、娘も!! 捨てた人形だって、今じゃどこにあるかなんて!!」

「じゃあ、このまま未練がましく死にますかっ!?」

「………っ!!」



!CAUTION:FALSE IMAGE!
この発言は職業(クラス)『メッセンジャー』に相応しくない発言の可能性があります。
直ちに発言を訂正してください。



「………はっ!? す、すいませんっ!! 言い過ぎましたっ!!」

……落ち着かなきゃ………。

そう思って、深呼吸で息を整えます。

「……大丈夫か?」

「……はいっ、大丈夫ですっ!」

こんなことじゃ、メッセンジャー仲間の皆さんに怒られちゃいますね……っ。

「とにかく、このままじゃ生きていくのも辛いと思いますっ

なので……私の考えなのですが、そのことを手紙に書き記してはどうでしょうかっ?」
448 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:22:12.47 ID:2hl+u/be0
「手紙……?」

「はいっ。こういうのは気持ちの整理をつけるのが一番だと思いますっ。

なので、手紙を書いて、すっきりさせてしまえばいいと思うんですっ。」

「手紙か………いいかもしれないな」

「書いた手紙は、私がお嫁さんのところに持っていきますっ」

お墓は、死んだ人が住む場所って、聞いたことがあります。

だから、手紙もそこに届ければいいんだと、そう思いますっ。

「……すまない。 まだ墓は作ってやれてないんだ。こんな体だからね……。」

「ならば……夢の中で出てきたお人形さんに届けるっていうのはどうでしょうかっ?

もしかしたら、本当に魂が乗り移ってるのかもしれませんしっ」

「そうだとしても、フィギュアは捨てたからどこに行ったかなんてわかんないぞ?」

「それでも届けるのが、私なのでっ。

勘ですけど、魂が乗り移ってるのなら、家に戻ってるのかもしれませんっ。」

あくまでも、勘なのですが………

もしそのお人形さんに娘さんやお嫁さんの魂が乗り移ったにしても、恨みを持った人形になったとしても、家に帰りたいっていう気持ちが少しだけでもあると思うんです。

ですけど、勘は勘ですので………。

「もし、見つからなかったときは家の郵便受けに入れておきますから、大丈夫ですっ!」

「……俺の自宅は憤怒の街の中だぞ?」

「問題ありませんっ!ハートメールサービスは、近場であればどこでも届けるのがモットーですのでっ!」

そして、私は満面の笑顔でこう言った。

「私はユウキ・オトクラ、ハートメールサービスのポストガールですっ!」
449 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:24:18.51 ID:2hl+u/be0
その後、病院の待合室ではぁとさんと合流し、家に戻った後、この話をしました。

「で、その手紙を受け取った訳か………」

「はいっ」

「……しかし、ずいぶん変なの受けるんだなぁ。 宛先が人形とか、聞いたことないぞ?☆」

「それを言うなら、私はロボットですよっ?」

するとはぁとさんは怪訝そうな顔をして言います。

「………結構疑わしいんだがな☆」

「えぇ〜っ」

信じてもらえてたと思っていたのですが……まだ信じてないようですっ。

とはいっても証拠がないので、信じてもらうこともできそうにないですっ。

「まあ、それはそれとして、宛てはあるのか?」

「はいっ。この便箋に宛名が書いてありますっ! 3通ありますよっ!」

「ふむ………」

はぁとさんが、便箋の宛名を見ます。 一通目……二通目……三通目………

「はぁ?」

はぁとさんはその便箋を見ると、まさに苦笑いと言った表情を見せました。

「ははは……ラブリーチカって、20年前のアニメじゃねーかよ……☆」

「ラブリーチカ、ですかっ?」

「あー、えーと、ラブリーチカって20年前くらいに大ヒットしたアニメの主人公なんだ☆

……こんなのに嫁さんや娘の魂乗り移ってるとか、普通に頭おかしいって言われてもおかしくねーぞ☆

乗り移ろうにも娘は幼すぎるし、嫁さんじゃ若作りもいい加減にしろってレベルだし☆」

あの、それ、はぁとさんが言えたことでしょうかっ?

「なんか言ったか?☆」

「い、いえっ、何でもないですっ!」

「まあ、宛名はこの際いいとして♪ 目的地はどこなんだ?」

「はいっ、ええっと、憤怒の街の………」

「憤怒の街、だと?」

「はいっ、憤怒の街ですっ!」

私がそう答えると、はぁとさんは慌てた表情をして、

「ちょっとまでよ、おい♪ 憤怒の街はいま封鎖されてて、通れないんだぞ☆

そんなところに手紙なんか届けられるかっ☆」

「そこははぁとさんの伝手で何とかなりませんかっ?」

「そういうことじゃねぇよ♪ 危ないからそんな場所に行かせられるかって言う話だよ☆」

「………危ない、ですかっ?」

「そうだぞ☆ GDFが封鎖しているってことは、内部でまだ何らかの問題があるってことだ。

そんな場所にユウキちゃん一人で行かせられるかってーの☆」

「………心配、してくれるんですねっ」

「当たり前だろ☆ 例え未来からやってきたっていうのでも、ここで生きてる限りは守ってやるよ☆

はぁとはGDFを止めても、その教え自体を忘れるつもりはありませぇ〜んってね☆」

こういう心配をされるのは、とっても嬉しいですっ。

実際、私がいた未来では、私を物として扱う人も多かったですし………。
450 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:25:35.57 ID:2hl+u/be0
ですが、こうなると行かせてくれそうもありません。

なので、私自身も嫌なのですが………仕方ありませんっ!

私は隠し持っていた何かのボタンを押して、話を続けます。

「はぁとさん……すごいですねっ」

「?? いきなりどうした?」

「例えGDFをやめても、例え今じゃなくて未来からやってきた私でも守るなんて……感動しましたっ!」

「そ、そう?」

「それに、いつも私のことを大切に思ってくれてますっ!

そんなはぁとさんがかっこいいですっ! あこがれちゃいますっ!」

「でへへ、てれるなー☆」

「だからそんなはぁとさんとなら安心ですっ! 一緒に憤怒の街へ行きましょうっ!」

「はぁ〜い☆ って、えっ」

佐藤 心(はぁと)さんが仲間になりましたっ!

ちょろいですねっ!

「おい、ちょっと待て☆」

「はい、なんでしょうっ?」

「なんでしょう、じゃねえよ♪ 今の発言は撤回だ☆」

「えーっ、言質はもう取っちゃいましたしっ。

まさか元とはいえ、善良な市民を守るためのGDFが、善良な一般市民の頼みを途中ですっぽかすなんて、ありえませんよねっ?」

そう言った私なのですが、心の中で………

(ごめんなさいっ……本当にごめんなさいっ………!!)

などと謝ってます。 人を騙してはめるなんて、本当はいけないことなのですが……っ!

「で、でも、証拠とかないしぃ………」

カチッ『そういうはぁとさんなら安心ですねっ! 一緒に憤怒の街へ行きましょうっ!』『はぁ〜い☆』

「………お、おい、いつの間にボイスレコーダーなんか持ってるんだよ☆」

「ええっと、この間のお小遣いでっ………中古で格安で売ってた人がいたので、それを買いましたっ!」

はぁとさん、口をパクパクさせて、震えています。

でも、観念したのか、頭を下げて溜息をつきました。

「………ああもう、わかった、降参っ☆

ただ、許可の関係とかもあるから、ちょっと待っててくれ☆」

「ありがとうございますっ!」

こうして、何とか許可をもらうまでこぎつけることに成功しましたっ!

「とりあえず、掛け合ってはみるけど、おそらくダメだめだと思うぞ☆」

「まずはお願いからですからっ! 宜しくお願いしますっ!」

「その間すまないが、外に出てもらえないか? ちょっと会話の内容とか聞かれちゃ困るし☆」

「それはまあ、確かに軍隊でもありますからねっ。 わかりましたっ!」

聞かれて困ることなんて、誰でもありますしね。

そういう私も、はぁとさんに全てを話しているわけじゃありませんからっ。

「あ、それなら私、配達してきますっ!」

「ああ、そうだな☆ 頑張ってらー☆」

たぶん、お人形さんとは会えないかもですけれど、今日こそ『きらりさん』を見つけられるかもしれませんっ!

………という、何度目かの希望を抱きつつ、私は出かけることにしました。

でも、いったい私はいつ『きらりさん』に手紙を渡せるのでしょうかっ?
451 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:26:26.83 ID:2hl+u/be0
窓、床、天井、よし。 侵入者はいない。

防音、盗聴対策、よし。 これで下や隣からも何も聞こえない。

盗聴器や監視カメラ、確認できず。 探知機の反応も無し。

そうしたチェックを行った後に、私はGDFのポストマンに相談を持ち掛けている。

相談の内容は―――さっきのユウキのお願いだ。

まあ正直、そんな話は聞いてくれないし、許可もくれないだろうと、半ば冗談な気持ちで相談したが―――

『条件付きだが、上司から許可がもらえたぞ』

まさか、あっさり許可が出るだなんて思わなかった

すかさずキーボードを叩く。

『あっさりしすぎじゃねーのかよ、おい☆』

『あー、いや、俺も正直信じられないんだが………』

『……煮え切らないな? 何かあったのか?』

『その……上層部が人形に何か乗り移るっていう話を真面目に捉えたらしい』

『はぁっ!?』

あまりのありえなさに驚いた。まさか上層部がそんなこと考えるとは……

『勿論理由はある。 そしてそれは未だ封鎖されている憤怒の街の現状と関係している。』

なるほど………。ちゃんとした理由がありそうだ。

私は落ち着くために右手に持った飲み物を口に含んだ。

『現在、憤怒の街にてコラプテッドビークルなるものが暴れているらしい。

このコラプテッドビークルとは……つまり、我々の兵器を奪取したカースの事だ。

上層部の連中はこのカースと似たようなのがその人形に乗り移ったとみているらしい。』

「なっ!?」

思わぬ情報に、声を上げて驚いてしまった。

き、聞かれてないよな?

『おいおい、まさかカースは戦車とかのっとれるのか?

だとしたら、相当まずいじゃねーかよ、おい☆』

『だからこそ、封鎖して掃討作戦を行っているとのことだ。

ともあれ、そちらが提示した住所までのルートであれば、安全に行くことが可能だということだ』

『い、いいのか?』

『勿論、護衛はつけるがな。 ともかく、慈善事業ってことで手を貸そうじゃないか。

ただ、そちらの能力を使って、前線の兵士たちに弾薬などを送ってくれるとありがたい』

条件付きで立ち入り禁止地域の中に入れる代わりに、弾薬などの補給物資をアイテムボックスで運ぶ、か。悪くないだろう。

『それぐらいなら引き受けようかなぁ☆』

『交渉成立、だな。 日程は後日伝える。 それまでもうちょっと待っててくれ。

おそらく近いうちにいい返事が出来そうだ。』

『よろしくぅ♪』
452 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:27:19.48 ID:2hl+u/be0
ユウキがメッセンジャーとしての仕事で家を出て、はぁとが憤怒の街へ入るための手続きをしていたころ。

とある場所でメガネを付けた見た目高校生の女性がカースの研究をしていた。

その女性の手元には、憤怒の街の記事。

憤怒の街の事件が解決したのにも関わらず、未だに封鎖を続けている事に抗議した市民団体のデモの記事だ。

女性はそれを読み、考えていた……もしかしたら、新種のカースがいるのではないのかと。

憤怒の街はカースが大量発生した場所である。鎮圧にはヒーローの力を借りて、さらには癒しの雨を降らしてカースの勢いを弱めてやっと鎮圧したと、この記事には書かれている。

つまり、あの街には様々な力がかかっている。

さらには、カースドウェポンやメガネカースなど、カースも多種多様に変われるというのも分かった。

もしそうだとすれば、新種のカースがあの封鎖した街にあってもおかしくない………?

「………行かなきゃ。 留守番よろしく。」

『であります!』(ビシッ

そういって少女は憤怒の街へ行く準備をし始めていた。



また、一方では――一人の、見た目小学生くらいの少女が高いビルの上に立っていた。

まるでアニメの魔法少女のような服を着た少女が、暗闇の中の街をただ見ていた。

「………〜♪」

少女は歌う。友達に教わった、悲しみを和らげる歌を。

星が瞬く月夜の夜、少女は何を思い、崩壊した街に戻って歌を歌うのか。

その少女がいるビルの下には、草花が光を受けて輝いている。
453 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:29:14.03 ID:2hl+u/be0
おまけその1


「しかし、まさかユウキちゃんがそんな揚げ足を取るようなことをするなんて、はぁと、ちょっとショックだったなー☆」

「これも、昔取った間柄と言いますか………」

「うわっ、遠い目してやがる。 ユウキちゃんの未来って、どんななんだよ☆」

「そう呆れながら、はぁとさんが言うのも、無理ありませんねっ

一部の惑星とかでは、惑星に入るのにも手続き、国に入るのにも手続き、街に入るのにも手続き、施設に入るのにも手続き………なんて惑星もあるんです。

さらには、手紙を渡すこと自体にも手続き………とか。」

「うへぇ………なんだよその惑星………☆」

「だから、そういう時のためにマニュアルとか教えとかがあるんですっ!」

「それが………さっきのあれなのか?」

「はいっ! それ以外にも………」

私は近くにあった、手ごろな端末サイズの箱を耳に当て、こういいました。

「もしもしっ、あっ、はいっ!GMSのユウキ・オトクラですっ!ご無沙汰してますっ! えへへ、ありがとうございますっ!

ところでちょっと頼み事があるのですけどっ、実は○○の惑星で手紙の配達を請け負っているのですけど、手続きばっかりでちょっと………っ。

えっ、はいっ、ええっ!? いえいえっ、ただちょっと許可証とか発行してもらえませんでしょうかっ?

はいっ、はいっ! ありがとうございますっ! また今度会いに行きますのでっ! これからもGMSを宜しくお願いしますっ!!」

ピッ

「と、言う感じなのですが……っ」

といったところで、端末をしまう仕草をしてはぁとさんの顔をうかがうと、なんかとってもびっくりしたような顔をしています……っ。

「ひ、一つ質問いいか?」

「はいっ、何でしょうかっ?」

「ユウキちゃんはいったい、誰に電話をかけてたんだ?」

「ええっと、とある宇宙艦隊の総司令官ですっ!」

「おい、なんでそんなところとコネ持ってるんだよ♪」

「ポストガールのコネは広いんですよっ? でも、あんまりやりたいとは思わないですっ」

「積極的にやってもらっても困るけどな☆」

大丈夫ですっ。やりませんよっ。

ただちょっと、話を聞いてもらいたかっただけですからっ♪
454 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:30:01.26 ID:2hl+u/be0
おまけその2


「ちなみに……これはちょっとした好奇心なんだけど♪

会話の内容とか聞いてもいいかな?」

「じゃあ、相手側の声は声真似でやりますねっ」

ということで、いったん咳払いした後、改めて箱を耳に当てました。

「もしもしっ」

『もしもし、おや、その声はユウキちゃんかな?』

「あっ、はいっ!GMSのユウキ・オトクラですっ!ご無沙汰してますっ!」

『いやいや、こちらこそ。 先日の手紙の件はご苦労だったね。後で褒美を取らせよう。』

「えへへ、ありがとうございますっ!ところでちょっと頼み事があるのですけどっ、実は○○の惑星で手紙の配達を請け負っているのですけど、手続きばっかりでちょっと………っ。」

『なにぃ? ユウキちゃんの仕事を辺境惑星のやつらが邪魔してるだとぉ!?』

「えっ、はいっ」

『拷問だ!今すぐあの辺境惑星の役人を拷問にかけろ!!』

「ええっ!? いえいえっ、ただちょっと許可証とか発行してもらえませんでしょうかっ?」

『ユウキちゃんは優しいなぁ。だが甘さを出しているとつけあがぁっ!?』

『……艦長はただいま不意の口内炎により倒れてしまいましたので、艦長代理の私が受け付けます。

許可証を発行してほしいとのことでしたね?』

「はいっ」

『わかりました。それではこちらで特別許可証の発行を致します。 それを役人に見せればいいですよ。

お仕事、頑張ってくださいね。』

「はいっ! ありがとうございますっ! また今度会いに行きますのでっ! これからもGMSを宜しくお願いしますっ!!」

そして、受話器代わりの箱を机に置き、感想を聞きましたっ

「……ちょっと、どこからツッコめばいいのかわかんねぇよ☆」
455 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2015/08/31(月) 22:49:54.02 ID:2hl+u/be0
ってことで、To Be Continued......

●今回の動向
・ユウキ達が事件が終わった後の憤怒の街に入ります。
 ⇒ラブリーチカなるお人形を探しに行くようです。
・凛も憤怒の街へ、新種のカースを探しに行くようです。

設定とかで変なところないかなーとか、なんか組み込めそうな設定ないかなーとかしてスレ内とか避難所の方とか探し回ってました。
しぶりんも千佳ちゃんも、最近見ないなーとか思ったから借りちゃったけど、大丈夫だよね……?

あと、GDF絡みで何人か借りようか考えているのだけど………
一応、今やってる話は時系列は秋炎絢爛祭の前の話。
でも椿ちゃん達はすでに憤怒の街から出てるし、シンデレラ1達はこの時期に活動してるのか微妙だし……
なので、mobとかでもいいのかなーって思ったり。

コメ返しします。

>>352
僕も書いたときに真っ先によぎったのはそれですww
ちなみに名付けたときにACVのファットマンの歌を聞いてましたww

>>353
このP枠って、あんまり表に出ないかも……。
というより、P枠っていう認識すらなかったっていうか、Pマンっていう発想がなかったww

>>387
しゅがはさんは抱えてはいますけど、(自分の頭の中では)そこまで重いものでもなかったり。
GDF絡みではありますけども。
ちなみに今回のはそれに関しての絡みは、ユウキちゃんのとは半々です。


あと最後に……おまけみたいなギャグ展開なら、いっぱい思いつくんだけどね
今回は初めてなシリアスめで行きたいのよ……orz
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/31(月) 23:07:12.54 ID:qT6oym27o
乙乙。この乙倉ちゃんは自分の魂に対して「バグめ」とか言わない感じか(ポストガール繋がり)
457 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/09/17(木) 21:52:26.09 ID:1jFEcl5N0
ものすごく久々になったけど学園祭時系列三日目で投下するですよー
458 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 21:58:38.00 ID:1jFEcl5N0
カランカランと、全く客のいない店に客がやってきた合図が響く。

暇をしていただろう店員が、素早くにこやかに近寄った。

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」

ピィ「二名です」

「かしこまりました、開いているお席にどうぞ」

開いている席、と言われてもどこでも大丈夫なわけで。少々悩んだがピィは窓際の席を選んだ。

ピィ「席はここでいいかな…そういえばこの店で知り合いのお姉さんが働いているって聞いたけど…レジの人とは別の人なのかな?」

千枝「はいっ、あまり覚えてなくて…しばらく会えてなかったんですけど、昨日偶然会って…すごく優しい人なんですよ!」

ピィ「なるほど…それで無料券を貰ったのか」

千枝「でも今日はお店の奥の方にいるのかな…昨日は表でチラシを配っていたんですよ」

ピィ「…隠れた人気店って聞いたはずのこの店もほとんど客が来てないし…確かにチラシを配ることにもなるか…」

千枝「大変なんですね…千枝も、無料券もらってなかったら今日の自由時間、学園祭でお買い物してたと思います」

ピィは今日、千枝に誘われて彼女の自由時間に付き合っていた。

てっきり学園祭の店を一緒に回るのかと思っていたが、こういう場所のほうが静かで疲れなくていいかもしれない。
459 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:02:58.16 ID:1jFEcl5N0
ピィ「…とりあえずメニューを見ようか。朝ご飯は食べたしデザート系でいいかな」

千枝「はい!えーっと…ピィさんはどれがいいですか?」

ピィ「そうだな……うん、この季節のケーキにしようか。千枝ちゃんは?」

千枝「うーん…この、フルーツロールケーキにしようと思います」

ピィ「わかった、飲み物はどうする?自分はコーヒーでいいかな」

千枝「ええっと…ミ、ミルクティーを…」

ピィ「お、意外だなー、ココアとかかなって思っていたんだけど」

千枝「その、今日は…紅茶の気分だったから…あ、自分のケーキ代は自分で払いますからね!千枝、お小遣いありますから」

ピィ「いいって、そのお小遣いは学園祭を楽しむためにとっておいていいよ。千枝ちゃんが無料券くれたわけだし、これくらい大丈夫だから」

千枝「で、でも…」

ピィ「気にしないで。無料券の分を払ったって思ってくれればいいし…」

千枝「…あの…ピィさんは、他の人と一緒の時もこんな感じなんですか?」

ピィ「え?」

千枝「その…た、例えばですけど、プロダクションの皆さん相手とかにも…こういう風にするのかな…って」

ピィ「ああ、そういう事か……そうだな…男同士の時は場合によるし…最初から奢らせようとする気でいる場合もなくはないけど…」

千枝「あ、あはは…」

ピィ「まぁ、女性と二人きりって時は特に…男ってのは見栄を張りたいんだよ。そういうモノだってことで納得してくれないかな」

千枝「そうなんですか…わかりました。じゃあ千枝、お兄さんに甘えちゃいます。ありがとうございます」

ピィ「よしきた、甘えてくれ」
460 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:09:16.30 ID:1jFEcl5N0
場所は変わってカフェマルメターノの厨房。店内をそこから少し緊張しながらきらりは見つめていた。

きらり「…千枝ちゃん、幸せそう…きらりもはぴはぴしちゃうにぃ」

悩んでた彼女の後押しがとりあえず上手く出来て嬉しそうだ。

そこに先程まで暇そうに監視カメラの映像を受信して見ていた夏樹が声をかける。

夏樹「あの女の子が前に聞いた子か…あまり厨房から見つめすぎんなよ?」

きらり「うぇへへ、つい気になっちゃって…気をつけるにぃ」

夏樹「…ま、悩み相談を受けたって聞いたし、気になるのも仕方ないとは思うけどな」

きらり「でもでも、ちゃーんとお仕事に集中しなきゃ☆…だから今のはきらりが悪いよぉ」

夏樹「真面目だねぇ、注意したアタシが言うのもなんだけども」

きらり「学園祭の間は、お店の店員さんいつもより少ないからぁ…そのぶんしっかりしなきゃって思ってたのに…ちょっと失敗☆」

夏樹「…閑古鳥が鳴いてる店に店員そんなに必要ないしなぁ…学園祭恐るべしというか…」
461 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:15:07.74 ID:1jFEcl5N0
きらり「でもでも、きらり達は明日はカフェのお仕事お休みだし…学園祭楽しんでもいいよねぇ?」

夏樹「きらりは行く予定なんだなー」

きらり「夏樹ちゃんは?」

夏樹「まだ決めてない、今日は奈緒とだりーが行くみたいだしなぁ…どうすっかな」

きらり「きらりと一緒にいくー?」

夏樹「んー…まぁ予定もないし、行ってもいいか」

きらり「じゃあじゃあ☆夏樹ちゃんと一緒におでかけー?すっごくすっごーくたのしみ!」

夏樹「おいおい…期待しすぎじゃないか?」

きらり「そんなことないよぉ?誰かと一緒だと、楽しいことはもっともっと楽しくなるもん☆奈緒ちゃんと李衣菜ちゃんもきっと楽しんできてくれるにぃ☆」

夏樹「そうだな、流石に3日連続で事件が起き…るわけ…ない…よな!」

きらり「…きらりも、ちょっと心配かも」

夏樹「昨日だって、アタシたちが帰ったあとに色々あったしなぁ、LPさんも忙しいってのに仕事増えたらしいし…」

きらり「…でも、たのすぃ事しちゃいけないってわけじゃないにぃ、何かあるかもしれないけどぉ…休憩と気分転換は大事大事☆お仕事の時に元気じゃなきゃ!」

夏樹「…そうだな。確かにそうだ…LPさんも暇ができたらガス抜きできりゃいいけど。アタシも明日は休みを楽しむかね」

きらり「うん!」

夏樹「でもよ…よくもまぁ、2日連続で事件起きても客が減らないもんだな」

きらり「みんなちょっと慣れちゃってるのかもー?」

夏樹「良くも悪くも、な。……おっと、呼び出しだ」

きらり「はーい☆きらりがいってくゆー!」

夏樹「あっ……はぁ、空いてるし、長話しても問題ないか」
462 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:18:20.56 ID:1jFEcl5N0
きらり「おまたせしましたー☆」

千枝「あっ、きらりさん!」

きらり「千枝ちゃん、おひさー☆来てくれてうれすぃなー☆」

ピィ「えっと…この人が?」

千枝「はい、きらりさんです!」

ピィ「どうも、千枝が色々とお世話になったようで…」

きらり「ううん、きらりは千枝ちゃんのお話を聞いて、応援しただけだから…そんなお礼を言われる程の事、してないよぉ」

千枝「でも、会えて良かったです。もう会えないのかなって思ってたから…ここで働いてるなんて思ってもいませんでしたし」

きらり「ごめんねぇ、きらりもちょーっと他のお仕事とかあったから…」

ピィ「他の仕事?」

きらり「…えーっとねぇ、きらりはカフェのお仕事もしてるけど、たまに店長さんの別のお仕事もお手伝いしてて…いつもこの辺りにいるわけじゃないの☆」

千枝「忙しそうですね…あっ、それときらりさんにちょっと聞きたいことがあって…」

きらり「きらりに聞きたいこと…?なぁになぁに?」

千枝「え、えっと…お手紙、書いてみようと思ってて…でもきらりさんがどこにいるのか、知らなかったので…」

きらり「お手紙…?」

千枝「はい、ちょっと書いてみようかなって。どこに送ればいいですか?」

きらり「えっと…お手紙とかはここに送ってくれれば届くはず☆」

千枝「そうなんですか?」

きらり「きらり、ここには結構いるから届けば多分受け取れるし…いなくても預かってくれるから大丈夫!」

千枝「わかりました!そう伝えておきますね!」

きらり「うん☆」
463 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:20:50.54 ID:1jFEcl5N0
夏樹(やっぱりあの子と長話して…いや、そろそろ戻ってくるみたいだな)

夏樹(…そういえばだりーも奈緒も別々の方に出て行ったはずだけど…きらりが一緒にって言ったってことは…まぁそういう事だろう)

きらり「なつきちゃーん!注文とってきたよぉ☆季節のケーキとフルーツロールケーキとコーヒーとミルクティーだってー☆」

夏樹「遅いっての…あの子と何を話してたんだ?」

きらり「うーんとね、千枝ちゃんとお兄さんにあいさつしてー…ちょっと質問されたの」

夏樹「質問…?」

きらり「きらり宛に、お手紙を送りたいって言われちゃったんだぁ…ここ宛に送ってもらえばいいよねぇ?」

夏樹「手紙か…まぁ、隠れ家の住所教えるよりはいいと思うけど…」

きらり「うん!きらりもそう思って、そうしてーってお願いしたの☆」

夏樹「それにしても手紙を送りたい、ねぇ…今どきなかなか珍しい子だな」

きらり「うん、でもなんだか特別って感じ!楽しみぃ☆」

夏樹「おいおい、浮かれるよりまず仕事だろ?コーヒーとミルクティーは任せたからな」

きらり「はーい☆」
464 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:24:20.86 ID:1jFEcl5N0
学園祭、入り口すぐ近くで、奈緒と李衣菜は鉢合わせていた。

奈緒「来るなら最初から言えよー、まさか別々に行ってばったり会うなんて思ってなかったぞ…」

李衣菜「私もだよー、てっきりいつもどおりアニメ系のお店行ったりDVD借りてくるのかと思ってたから…何も言わずに来ちゃったよ」

奈緒「…まるであたしが休日それしかしてないみたいな言い方だな」

李衣菜「…事実でしょ」

奈緒「うぐ…だってまだDVD制覇してないのは事実だし…」

李衣菜「制覇…って、えっ?」

奈緒「えっ?」

李衣菜「…ま、まぁいいか、奈緒は初めてでしょ?この学園祭」

奈緒「李衣菜は来たことあったっけか?」

李衣菜「中学のときは参加校だったし、高校の時も何度か来たよ」

奈緒「あ…そっか…」

李衣菜「だから一応詳しいかなぁ…、邪魔なら別行動でもいいけど」

奈緒「べ、別に…一緒が嫌ってわけじゃ…ないけど」

李衣菜「そっか、じゃあ一緒に行こっか」

奈緒「…おう」

李衣菜「手つなぐ?迷子にならない?」

奈緒「子供扱いすんな!」
465 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:26:28.22 ID:1jFEcl5N0
李衣菜「私は適当に見て回るつもりだったんだけど、奈緒はどこか行きたいところとかあるの?」

奈緒「んー、あたしも特に考えてなかったな」

李衣菜「じゃあ適当にうろついてよっか、それでも楽しいと思うよ」

奈緒「そうするかなー、楽しそうだし…学校って結構見てて楽しいし」

李衣菜「楽しい…?学校が?」

奈緒「学校って、アニメとか映画でよく舞台になるけど…実際に行ったこと無いから、こうして見れるとなんか楽しくてさ」

李衣菜「…」

奈緒「…言っとくけど、別に行きたいとかそういうんじゃないからな。あたしは…もう十分だし」

李衣菜「わかってるわかってる」

奈緒「わかってない!!その言い方は絶対わかってない!!」

李衣菜「はいはい」

奈緒「うー…LPさんに言うなよ?」

李衣菜「うん、それは大丈夫」

奈緒「ならいいけど…」

李衣菜「奈緒はいい子だねーLPさんにワガママ言いたくないんだもんねー」

奈緒「ああもう!!だから!なんで子供扱いするんだよぉ!!」

李衣菜「………」

奈緒「…黙るなって」

李衣菜「…なんとなく?」

奈緒「えー」
466 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:31:43.60 ID:1jFEcl5N0
「おー?そこにいるのはー…」

奈緒「ん?」

声の方向に振り返るとアビスカルことライラと、見知らぬ女性がいた。

ライラ「あたりでしたー、昨日ぶりでございますねー」

AP「…どうも」

李衣菜「アビスカル、今日も来てるんだ」

ライラ「ライラさんですよー。…お二人は昨日と雰囲気がちょっと違うでございますね?」

奈緒「お、おう…今日は管理局としてじゃないしな…昨日の格好は仕事着(?)だし」

ライラ「ライラさんと一緒ですねー、ライラさんも、今日はライブまではただのライラさんですよー」

李衣菜「あ、そういえば昨日はライブの予定だったね。どうなるかと思ってたけど…ちゃんとやれるんだ」

ライラ「ところで…その腕のギプスは昨日の怪我でございますか?」

奈緒「えっ、あ、ああ…これはそういうのじゃなくて…」

李衣菜「…ファッション…?の一つだよ、うん。ロックでしょ?」

ライラ「ファッションですかー、斬新でございますねー」
467 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:34:35.02 ID:1jFEcl5N0
奈緒「それで…隣の人は?」

AP「……名刺…どうぞ」

自分の事だと気づいたAPは即座に名刺を奈緒と李衣菜に渡す。

奈緒「あ、どうも……『アイドルヒーロー同盟 上層部ボディーガードAP』…?」

李衣菜「…いろいろ突っ込むべきなのかな」

奈緒「たぶんダメだと思う」

ライラ「今日はライラさんと一緒にお出かけなのですよー」

AP「…ライラさまは午後の梨沙さまとのライブにご出演なさるため、それまで自由行動。私はそれの付き添い…いえ、お出かけ…でございます」

李衣菜「ステージのスケジュールとか大丈夫だったんですか?」

AP「…スタジアムホールは…すでに予定が組まれております。同盟としては…仕方ないと判断される、ところでしたが…」

ライラ「ライラさんも聞きましたよー、特別にライブの時間だけ運動場の広い所を一時的に貸してくださるらしいでございますねー」

AP「…はい。そういうことになりました。運動場に模擬店を出してる方には特別席を出すことで、交渉して…ます」

李衣菜「へぇ…それまた大変そうな…」

AP「…全力を尽くしております。…本日は元より予定されていた新人のライブ…加えてレポ=クラリアの正式なお披露目も兼ねていますので」

AP「ああ……ラビッツムーンは体調不良、ナチュラルラヴァースはその付添い。その為昨日の時点で予定されていた、サプライズは…無くなりましたが」

ライラ「昨日は帰ってきてすぐにガルブ達に湿布とか貼ってもらっていたですよー、大変そうだったですねー」

李衣菜「…やっぱり、腰?」

ライラ「そうみたいですねー…そういえば、グランパもたまにゴルフのやり過ぎでああなってましたねー」

AP「…彼女はその後信頼できる医療関係者に任せてあります。……すぐに復帰できるかと」

李衣菜「…人気アイドルヒーローも大変ですね」

ライラ「お二人がいなくても盛り上げられるように、ライラさんたちが頑張るですよー」
468 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:38:05.72 ID:1jFEcl5N0
奈緒「…ていうかさ、そういうこと…あたし達に言っていいのか?サプライズとか、体調不良とか…」

AP「……管理局の方に伝えるのは、万が一の場合に備えて、というTP様の意向です。事件が無いとも限りませんので」

李衣菜(…TP…同盟の一番上は一応協力的、ってことでいいのかな。同盟は色々ややこしいからなぁ…)

奈緒「そっか…じゃあ今日はそんな感じってことか」

AP「…私が把握している限りは」

奈緒「ま、事件が起きなきゃそれでいいんだけどなぁ」

李衣菜「ほんとにねー…」

AP「…そろそろ、目的の店に向かうので私達はこれで」

ライラ「そうでしたー、まずオコノミヤキを食べるのですねーお祭りは美味しいものがいっぱいで楽しいと聞きましたー、お二人も色々食べたらいいと思うですよー」

奈緒「んー…予定もないし、それでもいいかなぁ…」

AP「…?………あー…」

李衣菜「…どうかしました?」

AP「…お二人がご希望なさるなら…関係者優待券、を…お渡しすべきとSPが…い、いえ…お渡し、ます…」

李衣菜「…そう言ってくれてる所に悪いけど…遠慮しておきます。私達だと使うかもわからないんで」

奈緒「えっ」

AP「…そう、ですか。了解しました。…では…えっと……失礼します。ライラ様、行きましょう」

ライラ「はいですよー。お二人も、楽しい学園祭になるといいですねー、バイバイですよー」

奈緒「お、おう!じゃあなー…」
469 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:39:32.54 ID:1jFEcl5N0
奈緒「…なんで?」

李衣菜「優待券の事?」

奈緒「うん…貰っておいても良かったと思うんだけど」

李衣菜「私もそう思ったけどさー…なんか渡そうとする前にちょっともたついてたのが引っかかって」

奈緒「あー、あれ?なんかあの人のピアスから声が聞こえてたからその声を聞いてたんじゃないか?」

李衣菜「声?」

奈緒「完全には聞き取れなかったけど…『アレを渡しなさい』とか言ってた。合成音っぽかったかな」

李衣菜「…つまり、その声の指示を聞いて動いてたって感じ?」

奈緒「そう思うかもしれないけど…『しっかり大きな声で』とか『はっきり伝えなさい』とかも言っててさー…」

李衣菜「もしかして…警戒するほどじゃなかった?」

奈緒「…あの人話すの苦手そうだったもんな」

李衣菜「…ミスった」

奈緒「今更かよ!」

李衣菜「だって初対面だったら警戒するでしょあの流れは…初対面の人に優待券渡すなんて思わないよー…」

奈緒「気持ちはわかるけど優待券に何のトラップがあると思ったんだよ!」

李衣菜「……えへ」

奈緒「…もうこの件について話すのはやめようか…」

李衣菜「そうだね…」
470 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:40:45.83 ID:1jFEcl5N0
奈緒「じゃあこれからの事話そう!えっと、食べあるき提案されたけど…」

李衣菜「奈緒は食べるの好きだよね、いいんじゃない?」

奈緒「…でも」

李衣菜「私に遠慮してる?」

奈緒「そういう訳じゃ…」

李衣菜「いいよいいよ、別に食べれないのはいつものことだし…あ、スイーツ系のは今後の参考にするから、色々味のこと聞きたいかも」

奈緒「そう言ってくれるなら…そうしてもいいかな」

李衣菜「そーそー、色々出店もあるし、後でマルメターノさんの所に行ってもいいよね。ちょっとは顔出しておきたいし」

奈緒「そうだなー、ソーセージも美味しいし…どうしようかな」

李衣菜「地図見て考えたら?私はどこでもいいよ」

奈緒「うーん、一応地図は見たけど…なぁ、コレ…店が多すぎて、逆にどうすればいいのかわかんなくならないか?」

李衣菜「でしょー、この学園祭あるあるらしいからしっかり悩みなよ」

奈緒「あるあるなのか…」

李衣菜「確かねー」

奈緒「うろ覚えかよ!」

李衣菜「そりゃそうだよ。何年前だと…あれ…?」

奈緒「あっ、これダメな話題だ」
471 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:44:58.86 ID:1jFEcl5N0
李衣菜「で、決めた?」

奈緒「うん、やっぱり屋内の店から行こうかなーって……あ、れ?」

楽しそうに地図を眺めてた奈緒の手が突然震え、足がフラつき、バランスを崩した。

慌てて李衣菜が支えるが、その時にはもう震えも何も無くなっていた。

李衣菜「ちょ、ちょっと…大丈夫?立ちくらみ?」

奈緒「…違うと思う」

李衣菜「疲れてるんじゃない?」

奈緒「疲れ…ってことはないと思うんだけど。…昨日も妙な感じがしたことはあったけどあれは戦闘中だし…」

李衣菜「うーん、体調不良じゃないなら別の原因があるとは思うけど…」

奈緒「…気にするほどのことでも無いんじゃないか?痛みとかはないし、何かに攻撃された訳でもなさそうだし…」

李衣菜「この世の中にはどんな能力があるか想像もつかないから心配してるの。…恨み買ってもおかしくない職業でしょ、自覚して」

奈緒「お、おう…」

李衣菜「そもそも戦闘中になったってことなら、その敵…白い鎧の子供が近くにいるのかもしれないでしょ」

奈緒「あ、そうだな…なんか頭から抜けてた」

李衣菜「大丈夫?…ま、ほんとに立ちくらみなら拍子抜けして終わりなんだけどね。また同じ感じになったらすぐ言ってよ」

奈緒「わかった、気をつける」

李衣菜「…今日は武器持ってきてないんだよなぁ…何も起こらなきゃいいけど」

奈緒「そもそも持ち歩く必要あるか?夏樹に持ってきてもらったほうが便利だろ?」

李衣菜「急に襲われた時に迎撃したりとかは常に持ってないとできないでしょ…あと、ギターケースに入るからさー、なんかロックかなって」

奈緒「…まぁ、ギターケースに入れてるってのは…かっこいいと思うけど」

李衣菜「でしょ?そういうことだよ…うん」

奈緒「なるほど…?」
472 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:46:12.74 ID:1jFEcl5N0
李衣菜「さて、気を取り直して…まずはどこに行くの?メイド喫茶?」

奈緒「あたしはそういうコテコテのオタクじゃないから!そもそも、ああいうのは男が釣られるやつだろ…」

李衣菜「…『猫耳メイド、和装メイド、他各種取り揃え☆特別価格でおまちしておりますにゃん(はぁと)』…だって」

奈緒「…」

李衣菜「行く?」

奈緒「行かない!!」

(多分)つづく
473 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2015/09/17(木) 22:49:33.36 ID:1jFEcl5N0
以上、学園祭3日目開始のお知らせでした。
ものすごく遅くなった…

前日までの流れを汲みつつ、一部キャラの予定を決めさせていただきました
・アイドルヒーロー同盟のライブが午後から運動場にて開催(ラビッツムーン&ナチュラルラヴァースのサプライズ出演は『諸事情』で中止に)
・ネバーディスペアは本日は別行動(よほどの緊急時以外は奈緒と李衣菜のみ学園祭にいます)
・奈緒の目眩の原因は…

千枝ちゃんデートフラグは作中時系列だと回収がものすごく早めになってしまったけど、現実時間でかなり放置した感があるので仕方ないね…千枝ちゃんの行動力がものすごく高いね…
ついでにポストガールフラグに繋げさせていただきました

>>455
憤怒の街でいろんなことが…はたしてどうなる
そして未来でのポストガールの地位は実はものすごいのでは…しかたないねカワイイもんね
474 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/09/17(木) 23:30:10.44 ID:4dOTANvro
お二方ともおつです

>>455
おっ、メタネタスレで言っていたやつですな
自分で考えた設定を使ってもらえるとやっぱりありがてーですよ

そして、『いざ憤怒の街へ』という展開
今まで出番の少なかった面子にも動きがありそうで楽しみ

>>473
ピィと千枝ちゃんがデート……、これは事案ですわ早苗さんこっちです
と、まぁそれは置いといて、千枝ちゃんがきらりんに再会できて何より

一方学園祭では奈緒とりーなが一緒に回るようで
こちらは今後、無事に祭りを楽しむことができるのかなぁと――
まぁ波乱はあるやろなぁ……(諦観)
475 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/09/18(金) 01:30:01.92 ID:XZCwccr9o
違うんだ
ちゃんと話は読んでるんだ
でも腰据えて感想書きにくるタイミングが…その…
い、イベント走ったりとか…あとデレステが楽しすぎてですね…えっと…

適当すぎる言い訳はやめて感想書くよっ


>>414
相変わらずすごく濃い文量ですなー、本当にデータ吹っ飛びが悔やまれる。
で、盗られちゃいましたかー。和久井さん有能。
こうなると同盟大目玉ですねえ、うふふ(ゲス顔)
そして満を持しての社長登場、これから何をしでかしてくれるか楽しみです


>>439
またまたイルミナP、よからぬ事を考えていらっしゃる
シキやケミカには酷評されてますが、しかし優秀な人物には違いない
ウルティマやイルミナティズカースドウェポンの開発はもちろんとして、
セックスアンドザシティ化したイルミナティ内でなお童貞を死守した事実がそれを物語っている(真剣)


>>455
ちょっとだけ狡猾なところもあるユウキちゃんもかわいいよかわいい(とても紳士な感想)
ポストガール、かつての憤怒の町に突入ですね。めちゃくちゃわくわくする。
チカチャーンに関わる話、なんだかしんみりしそうな予感です、
続きを正座待機で待っておりますよ。……パンツも脱いでおいた方がいいかな?


>>473
なつきちは心配性だなー!
流石に三日連続で事件なんて起きるわけないじゃないか!HAHAHA!(フラグ)

そうは問屋が卸さないこと間違いないだろう学園祭3日目開幕ですね
とは言いつつ、出来るだけほんわか息抜きを期待してたり…チラッ
奈緒リーナも全力で学園祭を(特にメイドを)楽しんでくれることでしょう(期待)


みなさま乙かれさまでしてー
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/14(水) 09:01:39.50 ID:IP49vFNyO
ほしゅ
477 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/11/06(金) 00:38:21.08 ID:3L7loQpj0
おおう、最後に投稿してからもう2か月以上も経ってた………。
っていう訳で、憤怒の街編が途中まででも出来上がらないので、息抜きにわらしべイベントでもやってみようかとー。
ちなみに1時間で作ったくらいの突貫工事なので、誤字脱字などはご勘弁を。

時間軸は学園祭3日目となります。(1日目と2日目は不明というか決めてない。)


>>456
その展開も考えてはいますかね。
まあ、まだどういうキャラになるのかが分からないですけども。

>>473
ポストガールの地位はそこまでではないです。ユウキちゃんがものすごいんです。
ただ、スペック的には………?
あとフラグですけども、これが正しくつながるかどうかは神のみぞ知る………w

>>474
出番少ないキャラ、もしくは出番があんまり出てこなさそうなキャラを動かしていくスタイル。
その割に、卯月ちゃんやレイナ様を動かそうとして、かなり大変なことになってるけどもw
(卯月ちゃん、好きなんですorz)

メタスレとか、過去ログとか、そういったのを読んで、面白そうなのはどんどん拾っていこうかなーと。
自分で考えると、どうもめちゃくちゃになりそうだ………ちょっとはやらないといけないけども。

>>475
今回はしんみり系で行こうかなと。自分にその力量があるかはともかく。
あとは、しゅがはさんが自分の能力をどんな風に使うのかという感じ。
凛も登場します。どんな風に動かそうか迷ってはいるけども。
478 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/11/06(金) 00:40:33.06 ID:3L7loQpj0
ここはとある一軒家。

ユウキはとある依頼主から手紙を預かり、その手紙を街の離れに住むおじいさんに届けた。


「おんやぁ、こんなところにまで手紙を届けてくれてありがとなぁ」

「いえいえっ! 好きでやってることですからっ!」

「ほっほっほっ、今時珍しい子だのう!
 しかし、ここまで来るのにちょっぴり疲れとらんか? 家に上がっておいき」

「ああいえっ! お構いなくっ!
 今はお祭りもありまして、手紙を届けたいっていう人もいっぱいいるかもしれませんしっ!」

「おお、そういえば今はお祭りだったかの。確か名前は………」

「秋炎絢爛祭ですねっ!」

「そうそう、それじゃ! 5日間も行われるとあって、楽しそうなお祭りじゃの。
 わしゃ、お祭りが大好きじゃ!!
 ………でも、わしゃもうこの年だから、家で大人しくしようかの」

「いえいえっ!まだまだおじいさんも元気じゃないですかっ!」

「そうはいっても、この年になると人が多いとちょっと疲れるでの。
 代わりにお前さんが楽しんで行ってくれれば、わしゃ満足じゃよ」

「……おじいさんは、昔、この祭に参加していたんですか?」

「いやいや、今の祭の事についてはよくは知らん。
 じゃが、この祭の前にあった祭はよく知っとる。」

「どういう祭だったのですかっ?」

「いやなに、昔じゃよくやっていた、手作りの神輿を神社まで担いでくようなお祭じゃよ。うちらのお祭りは秋にやるお祭りだったでの。
 小さい神輿じゃったけど、地元のやつらと、どっちが大きくてド派手な神輿を作れるかを競争しとったもんじゃわい!
 他の学園祭ともかぶっちょるから、学園祭のついでに来ためんこい女の子もいっぱい来よったでの!」

「へぇ〜。 今も神輿を担いでっていうことやってるのでしょうかねっ?」

「いんやぁ。昔の災害で、神輿を作れるもんはほとんど死んじまっての。
 最近はカースっちゅーもんが出るようになって、危ないからっちゅーことで神輿を担げなくなっちたんじゃ。
 それに、今の祭は学生の祭じゃし、老いぼれが騒いでも邪魔なだけじゃよ。」

「そうなのですか………っ」
479 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/11/06(金) 00:45:27.84 ID:3L7loQpj0
「と、そんなしみったれた話はおしまいじゃ。長く引き留めてすまんかったの。」

「いえいえっ! とても楽しそうなお祭りだったんですねっ!」

「そういってくれると嬉しいのぅ。
 そうじゃ! ちょっとまっとれ!」

そういって、おじいさんは家の奥に探しに行った。

しばらくすると、おじいさんは袋いっぱいに詰めた梨を持ってきた。

「あと、これはわしの話を聞いてくれた礼じゃ。 受け取ってくれ。」

おじいさんはそういうと、梨をユウキに差し出した。

「ええっと、いいのですかっ? こんな立派な梨」

「ええんじゃよ。 わしが食っても余るでの!」

「ありがとうございますっ!」

そうして、おじいさんと別れた後、ユウキは再び「きらりさん」を探しつつ、手紙を送りたい人を探しに行った。


=====================================================================


祭が行われている街に戻ってきたユウキは、右手に梨の入った袋を持っている。

(うーん、この梨どうしましょうかっ? ナイフはありますけど、剥き方がわかりません………っ

果物なので食べられますが、このままかぶり付くのも……と思っていると、目の前に人が現れた。

「おやっ? 誰ですかっ?」

はたして、ユウキはどんな人と巡り合うことになるのだろうか?

巡り巡って、ユウキの手元に残る物。それは何なのだろうか?



全ては………未だ誰も知らない未来の中。
480 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/11/06(金) 00:50:38.07 ID:3L7loQpj0
というわけで、短いですけどプロローグ終わりです。

この後、誰に出会うかとか、そういうのは全くの未定………というか、つい2,3時間前に思いついたネタをそのまま書いただけの投げっぱなしですw
これをネタに話を書いてもいいですし、ストーリーと絡ませるのもいいんじゃないかとー
私もちょこちょこと書いていこうかなって思ってます。さて、3日目終わるまでに何人とわらしべするのかな?w


あと、避難所で書いたネタのことは、いったんは忘れてorz
481 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/11/07(土) 00:26:41.74 ID:Xamx9qvDO
おつですー
わらしべかー、どうなることやら…
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/07(土) 01:08:23.13 ID:3NetlyLAo
乙乙
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/07(土) 01:09:10.29 ID:3NetlyLAo
ageスマン
484 : ◆6osdZ663So [sage]:2015/11/10(火) 19:40:39.42 ID:pXOLBf+so
乙です
わらしべは楽しそうです
理由あって今は少し忙しいけれど時間が出来たら参加したい
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/06(日) 16:40:25.43 ID:68V3Brk+0
ほしゅ
486 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:33:12.11 ID:OBJgOl+No
毎回毎回お久しぶりです(白目)

アナスタシア完結編の序編投下します。


奈緒前回のお話 >>6『小怪獣戦争と怖い人』
4月なんだよなぁ……

487 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:34:43.72 ID:OBJgOl+No
 初めは私はただの感情だった。
 いや、今でも私はただの一感情でしかないと思い、それ以上でも以下でもないと自覚する。
 そんなただの刹那的な心の形が今の状況を形作るなどそれこそ誰も自覚はしなかった、


 私でさえも、彼女でさえも。


 きっかけは、不幸な運命であったのだろう。
 ちょうど『あの日』からほんの数年後に誕生した私の『体』はとてつもなく、途方もない異能を孕んでいた。
 胎児であるのに、それが孕んでいるなんて表現はおかしなものではあるが事実その通りなのだから仕方あるまい。


 とはいってもママのお腹から出る以前に、その力に気づいたとある『神さま』にその力は封印されてしまったのだけれど。
 それでもその封印は完全ではなかった。
 私の体、いや『魂』にとある封印を施した神は『全能神』とか呼ばれることもあるというのに実に情けない話だ。
 ある意味私の存在が『全能神』を全能たらしめない証拠となっているのだから。
 だがまぁ、『全能神』というのは自称ではなく他称であるらしい。
 たとえ本人がそうでなくとも勝手にそう呼ばれている節があるようなので、その過大評価に私はほんの少しの同情を乗せて大目に見てあげることにしよう。
488 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:35:36.26 ID:OBJgOl+No

 話を戻せば、神の掛けた『封印』は完全なものではなかったのだ。
 当然神はそのことを自覚していたし、神自身もこれ以上どうすることもできなかった。
 だがこうすることこそが現状出来る最善であり、神にとって無知なる私へのささやかな優しさであったのかもしれない。
 神ほどの力の持ち主なら、生まれてくる前に死産にしたり、私の存在そのものに干渉して『なかったこと』にすることもできたかもしれないのに。
 そうせずに無事私の身体が生まれてきたということは、そうなのだろう。


 だが結局『完全』でないものには、どうしようもない『欠陥』というか回避できない欠点があった。
 神の封印でも抑えきれない力は、その封印によって濾過のような作用が引き起こされ、神の力『天聖気』として私に露出していたのだ。
 故に『神の子』『奇跡の子』などと生まれた当初は小さな村の中では少し話題になった。
 でもそれこそが過ちだった。だからこそ狙われたのだろう。


 異能を欲する組織は星の数ほど存在する。
 悲劇が起きることは必然だった。
 その組織の一つが、私の故郷を焼いて、パパとママを殺し、まだ赤ちゃんの私を連れ去った。
489 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:36:13.77 ID:OBJgOl+No

 連れ去られた私は彼らの下で育てられて、兵士として教育された。
 でもいくら教育されたとしても、私にとっては耐えがたいものだったのだ。

 戦い、傷つき、殺し、殺され、蹂躙し、嬲られるこんな世界。

 私には無理だった。
 人は環境によって感情を形成していくと言われているが、それはきっと間違いだ。
 だって私は兵士としての教育を受けても、他人を傷つけたり、傷つけられたりすることが絶対に嫌だということは変わらなかったからだ。
 こんな『力』を持っていても、誰かが傷つく姿を見るのでさえ耐えがたいような、身が砕けるような性格をしていたのだ。

 非情になれない。暴力を容認できない。痛いのは嫌だ。

 私はあまりにも、兵士には向いていなかった。
490 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:36:55.34 ID:OBJgOl+No

『まだお前はできてなかったのか』

 兵士としての教育を拒絶する私のもとに、一人の男が訪ねてきた。
 子供である私の身の丈を何倍も超えるような長身に鍛えぬかれた筋肉。
 この人が私の故郷を滅ぼした人だと知ったのは、だいぶ後の話になる。
 そんな親の仇ともいえる人物が、私の元を訪ねてきて一体何の用だというのか?

『ここに一匹の犬がいるだろう』

 そうして私の暮らしていた施設の一室に連れてこられた私は、目の前で小さく震える子犬を視界にとらえた。
 小さく輝くつぶらな瞳は私の方をじっと見ている。
 いかにも弱々しく、このまま放置すればそのまま死んでしまいそうな子犬。
 私は思わず駆け寄って、その子犬を抱え上げた。

 体毛に包まれた小さな体躯は、ぬくもりを確かに私に伝える。
 それに答えるように私はその子犬を思わずギュッと抱いた。
 この子は私と同じだ。たった一人ぼっち。この酷く醜い狭い世界で私はこの子犬に共感を覚える。
 だからこそ同時に想像する最悪の展開。

 ここには最悪の住人しかいないのだ。
 あの男がこの子犬に大して意味を与えるのならば、想像することなど容易かった。
491 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:37:36.04 ID:OBJgOl+No

『―――、その子犬を殺せ』

 言って聞かない子供には、こうした手段が手っ取り早い。
 特に、兵士として百人殺せる人間になれと説くよりも、たった一つ『殺す』と言うことを経験させる方がこの場合では手早く、効果的なのだ。

『拒否は許さない』

 男は有無を言わさない。
 そうであろう。そしてそれでも拒否をすれば、私はきっとひどい目にあわされる。
 下手をすれば、これが最終通告なのかもしれない。
 私はこの子犬を殺さぬ限り、きっと最低限の人間的な暮らしでさえ剥奪されてしまう。

 だが私は男の言うことは聞かなかった。
 誰かを傷つけることなんてしたくない。それをするくらいなら死んだ方がましだという覚悟さえ幼い私ながらこの時持っていたのだ。
 この子犬を自分で殺すことは、それこそ自己の否定。死よりも恐ろしい自殺だ。

 この小さな個室の入口の扉の前から、男は私たちを見下ろしている。
 その瞳は影になっていて何を映しているのかわからない。
 だからこそ私は、決して屈しないという幼稚ながらも硬い意志と、腕に抱く子犬を守りきるという使命だけを抱いて男を睨み返した。

『そうか』
492 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:38:39.38 ID:OBJgOl+No

 私の拒絶の意志をくみ取った男は、ただ一言そう呟く。
 このまま暴力を振るわれたり、最悪殺されるものだと思っていた私は思わず拍子抜けする。

 だが、当然それで終わらない。いや、もっと最悪があることを私は予想できなかった。

『お前は、殺さなくちゃならない。殺せなくちゃならない』

 男がそう言った瞬間、私の手は自然と動いていた。
 脳がそう指令を出したというわけではなく、まるで勝手に動いていることが当たり前かのように。

 子犬を優しくそっとおろす。再び冷たい床材の上に戻された子犬は弱々しく私を見上げる。
 私はそんな子犬を見下ろし、そっと両手を子犬へと近づけていく。


『いや』


 そんな私の小さな叫びを無視するように、私の手はひとりでに子犬へと向かう。
 そして首輪をはめるように子犬の首に指を回す。


『いやだ……』


 子犬のぬくもりが私に伝わる。先ほどまで抱いていたぬくもりは、指先から腕を伝い、脳へと届く。
 私の脳は子犬の首から手を放すという指令を出しているのに、手は一方的に情報を伝えてくる。


『い、や……』


 徐々に絞まっていく私の指。すでに弱っていた子犬は泣き声すらほとんど上げることができずに、かろうじて苦しそうにもがく。
 それと同時にわたしの気管も徐々に閉まっていくように錯覚する。
493 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:39:23.24 ID:OBJgOl+No

 脳に酸素が行き渡らなくなり、意識を手放したくなる。
 だがそれは許されず、自らの支配を離れた両腕も決して止まらない。


『あ……』


 ぬくもりが消えていく。
 子犬の動きはさらに緩慢となり、命が尽きようとしているのが目に見える。
 零れ落ちる。私の手から命が。私の手によって命が潰える。

 その事実に、心が悲鳴を上げた。
 もっとも忌避すべき行為を、今私は行おうとしている。
 自らの意志でなくとも、自らの手で行われるこの行為は私の心を、体を締め上げていく。

『……ああ』

 そして指は最後まで絞まる。それと同時に子犬は抵抗をやめて動きを止めた。
 死んだ、死んだ、しんだ、しんだ、シンダシンダシンダシンダシンダシンダシンダシンダシンダシンダシンダシンダコロシタ。



 私が、殺した。
494 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:40:14.31 ID:OBJgOl+No

 幼い心はあまりに脆い。私の心は子犬と死と共に砕かれた。

『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』

 なんてことはない、ありふれた顛末。
 この後、『私』と言う感情、それを殺すことによって、精神を保った。
 ある意味私の心はこの時死んだのだが、身体だけは生きながらえようとしたのだろう。
 本能としての自己防衛。耐えられない感情ならば、その感情ごと封印してしまえばいい。
 私の『やさしい』感情は死に、そして一人の兵士が完成したのだ。

 今更だがあの時、あの男が私の体を操っていたのだろう。
 この特殊部隊内では、この類の超能力は別段珍しいものではない。
 きっと他人がこの話を聞けば、私のせいじゃないとか慰めてくれるのだろうがそんなことに意味はない。
 どうせ私は遅かれ早かれ壊れていただろうし、そうじゃなくても兵士として使い道がないとわかれば、頭のおかしい研究者らの実験材料になるのがオチとかそんなところだっただろう。
 壊れるよりも、感情に殺して無情になりきることが最善であったのだ。

 それに終わったことだ。これは私の最後の思い出。

 『やさしい』私が壊れる寸前の話なのだ。

 わかっただろうか、私のことが。
 前置きはここまで。じゃあ反撃を始めましょう。

 だって私は、本当は死んでなどいないのだから。


 
495 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:41:02.86 ID:OBJgOl+No


***


 その部屋は、外から差し込む光で十分に見通せるほどに小さな部屋だったが、窓から最も離れた入り口である扉側は光が物足りず薄暗い。
 家具屋に行けば簡素な回転椅子と比べて値段が張るであろう見てくれのいい椅子と、あまり使われていないであろうというような真新しさのある艶を醸す木製の机。
 この部屋がそれなりに、重役の個室であることはその様相から見て取れた。

 故に、扉側の薄暗い位置に立つ白い少女は影に飲まれただでさえ薄い色素がさらに抜け落ちているように見える。
 そのせいで俯く表情は、さらに暗い影を落としていた。

 顔には、後悔。そして反省の色。
 少女の表情から察すれば、彼女がこの部屋に呼び出された側であり、それは決して褒められるなどいい意味で招かれたわけではなさそうだ。

「君は、ここに呼ばれた理由はわかっているかな?」

 窓側には、年配の男性が窓の外を見ながら、少女を向けずに話しかけた。
 その口調は少女を糾弾するようなものではなかったが、威厳のある重みを含んだ口調であった。

「……ダー、私が、昨日引き起こしたこと、ですね」

 少女はうつ組む顔を上げず、ポツリポツリと言葉にする。

「ああ、そうだね。君は昨日、偶然会った凶悪な殺人犯と戦った。

その果てに能力を暴走させ、周囲の建物を全部壊してしまったそうじゃあないか。アナスタシアくん」
496 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:41:41.75 ID:OBJgOl+No

 窓の外に目を向けていた男は振り返り、じっとアナスタシアと呼ばれた少女の方を見る。
 逆光によって男の表情はアーニャにはうかがい知ることはできないが、逆にそれが自らの過ちを糾弾してくるような表情をしていると想像を掻きたてる。

「ムニェージャーリ……ごめんなさい」

 脳裏に浮かぶは昨日の記憶。
 義手の女と出会い、そして完膚無きまでに敗亡を喫したことを。

 そしてその先は、周子らからの伝聞でしかないがアーニャ自身が能力を暴走させ、あの倉庫群をすべて残らず壊滅させたというのだ。

 話を聞いた今でもアーニャは信じがたいと思っている。
 ――あの『隊長』ほどならばそれくらいのことは造作もないかもしれないが、この私にそんなことができるわけがない。
 だが実際にあの場、アーニャが初めて日本に立ったあの場所は、今では少女の記憶の風景の一切を留めてはいなかった。

 そして多くの疑問が残る。
 アーニャ自身、能力が暴走することなどこれまで経験したことはなかったし、そんな兆しさえ今までに一度もない。
 『聖痕解放』はこれまでに何度か行ってきたが、倒れるまで続けていたのは昨日のことが二度目である。

 一度目である隊長との戦いのときはこんなことにはならなかったのに、果たして何が起きたのか。
 アーニャにも理解できていない。
497 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:42:48.81 ID:OBJgOl+No

 だがそんなことは今考える必要はない。
 今重要なのは、そう言ったものではなくこの事実なのだ。

 アーニャが、能力の舵を取りきれず破壊活動を行ったことである。
 今回は無人の倉庫であったということが幸いし、アーニャによる犠牲者はゼロであった。
 しかし仮にこれが街中、人の多いこの『プロダクション』やその周囲で起きていた場合はどうであろう。

 アーニャの意識無意識関係なく、多くの犠牲者が出ていたのではないか?

 故に今回の件は、これまでの問題のように片付けられる問題ではない。
 外敵による破壊ではない。要は身内の不祥事なのである。

「昨日のことは、我々で片付けておいたから問題にはなっていないさ。

各所には何とか言いくるめたし、公にはただの事故だったということになっている」

 目の前の男性、社長は『プロダクション』の外に出ていることが多く、会社で目にすることはあまり多くない。
 何をしているのかは知らないが、妙なコネクションや影響力を持っているあたり只者ではないのだろう。

 実際、今回のアーニャの事件に関しても各所、ヒーロー同盟やGDFなどの組織にも事実はごく一部、ほんの葉先の一部が知りえることになっている。
498 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:43:48.27 ID:OBJgOl+No

「だが事実は事実。

たとえ公には君は何もしていないとしても、謎の女のせいで暴走したとしても、あれを引き起こしたのは君だ。

会社としても、対策は取らざるを得まい」

 そう、事実。
 たとえ大本の原因は他にあったとしても、この事件の発端はアーニャなのだ。
 お咎めなし、というわけにはいかない。

「君に責任はない。

ある意味『相手』が悪かったというのもあるし、それと君とが相対することになると予見できなかった我々のミスだ」

「……ッ」

 この言葉は、アーニャにとっては屈辱である。
 自ら守ると誓ったこの『プロダクション』に守られている事実。そしてあまつさえ、その責任を負うことさえ許されないということ。

 それはあまりにも情けなく、親が子の責任を取るような、自身を軽く見られているということに他ならなかった。

「……『相手』。

あの、人は誰だったんですか?」

 未だ脳裏に焼き付いて消えない歪な貌。
 すらりとした長身に付いた一対に凶悪な義手はアーニャにとって忌むべき相手であり、同時に恐怖を喚起させる対象へとなっていた。
499 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:44:46.53 ID:OBJgOl+No

「『カーリー』といえば知っているかな?」

 カーリー、と言われてアーニャはエトランゼのメニューの一つを連想したが、自身で即座に否定する。
 少し脳内を巡らせてみるがやはりその名に覚えはない。
 アーニャは静かに顔を横に振った。

「……そうか。その筋ならある意味であの隊長よりも有名なのだがな。

まぁ、いうなれば天然の悪鬼。カールギルの鬼子、戦場の都市伝説の一つのようなものだよ」

 暴走によって途切れ途切れのアーニャの記憶から呼び起されるのは、おおよそ人間業とは思えない魔技の数々。
 そして何より悪鬼と呼ぶにふさわしき、下賤で極悪、漆黒よりなお暗黒とも呼べるような精神性である。

 これまでにそれなりの数の戦場を経験してきたアーニャであったが、あそこまで常識外れな敵はいなかった。

(あんなに怖い人は……初めて見た)

 突き刺された狂気は、恐怖となってアーニャの中にじっとりとへばり付いている。
 奴のことを考えるだけで恐怖が震えとなって未だ露出する。
500 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:45:27.28 ID:OBJgOl+No

 だが次は、こんな失態は犯さないとアーニャは誓う。

(次は……負けません)

 心の中でそう誓うアーニャ。だが社長はそんな静かな誓いすら見据えたうえで次の言葉を紡ぐ。

「だが、君はもう彼女のことは気にする必要はない。きっと二度と会うことはないだろうからね」

 社長はそう言って、話題を切り上げる。
 それは暗に、これ以上そのことに関わる必要はないと言われたようなものであった。

「……っ」

 きっとこれ以上聞き出そうとしても、社長は一切教えてくれないだろう。
 それが彼なりの『子ども達』の守り方なのだろうが、アーニャにはそこまでは理解は及ばない。

「あの……モーヌストル、怪物を野放しにしておくということ、ですか?」

 あれは放ってはおけない。
 アーニャは、周子が暴走したアーニャから引き継いで彼女の相手をしたと言うことを聞いており、その後逃げられたと聞く。
 実際に周子の戦いを一度も見たことはアーニャはなかったのだが、それでも『あの』周子から逃げおおせたのだ。
501 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:46:10.65 ID:OBJgOl+No

 それだけでも無視できない、とても危険な存在であることがアーニャにはわかる。
 だがそれを社長は言下に放っておけと言うのだ。
 あんな猛獣よりも危険な女を放置しておくということが、アーニャには理解の範疇を超えていた。

「まぁ……あれは突っついた方が損をする、と言う手合いでもあるわけだからねぇ。

とにかく絶対に『あれ』を追おうなんて考えちゃだめだよ。

彼女については、一応私たちで何とか対策は講じておくからさ」

 アーニャは思った。
――その『私たち』には私は入っていない。

 この『プロダクション』を守るために戦っているのに。
 この街を守るために戦っているのに
 それなのに、その守るべき人たちから守られ、自分は何もせずにいる。

 それは今回の不始末を糾弾されるよりも、アーニャの身を苛む。

――私は、皆を守れる力を持っているのに。

 まるでこれでは、暗に役立たずだと罵られているようだ。
 アーニャはそんなことは思ってはいないが、それに近い感情を抱く。
 次こそは、あの義手の女を打倒して見せると、わが身に代えても倒して見せると思う裏腹に、守りたい周囲の人々はそれを制止していた。
502 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:47:03.15 ID:OBJgOl+No

 その感情は、かつてのアーニャならば絶対に考えない発想であったのに。

 それは彼女の成長であったのだが、同時にかつてあった『兵士』としての利点を奪っていた。
 なまじ戦えるだけの力があるだけに、その心はねじれを生む。

「それと、たとえ君に責任はないとは言ってもやはりお咎めなしとはいかない」

 言いようもないアーニャの懊悩を遮るように社長は話を戻す。
 そう、お咎めなしとはいかない。

 実際にアーニャは、自らの力を制御できず暴走させ、あの無人の港を壊滅させたのだ。
 その責を、当の本人が負わないというのはおかしな話だ。

 そしてアーニャは先ほどの話の流れから、どのようなことを言い渡されるのかはある程度予想がついていた。
 当然と言えば当然の処置。
 されどそれを言葉にされるということは、アーニャの先ほどの思案がすべてその通りであるという証明であり、事実であると彼女にのしかかる。


――お願い、今、それだけはやめてほしい。

 
503 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:47:40.80 ID:OBJgOl+No

 そして社長が言い渡す処置はアーニャにとっても安易に予想できること。それは決して納得のいくということではない。
 もっとも避けたいことが故に、最も容易く予想ができるのだ。
 彼女は齢15にもなる少女であるが、自由意志を持つアナスタシアと言う存在は赤子同然であり、それでいて持っているものが限られていた。

「アーニャ、君はしばらく『ヒーロー』としての活動は控えたまえ。

たまには大人しく、普通の生活だけをしているのも悪くはないんじゃないかな?」

 その言葉はアーニャの予想通りであり、彼女にとっての最悪が社長の口から紡がれた。

「…………」

 アーニャは何も言わない。
 だがアーニャのその表情から社長はある程度の感情を読み取ることができた。

「まぁ永続的なものではないし、完全に『そういったこと』から離れてみるというのもいい機会だよ。

バイトだってあるだろうし、君はもう少し『普通』の生活をしてみるのがいいだろうしねぇ」

 社長はこの会社の責任者としてこの決定を覆すことはできない。
 故に何の慰めにもならないであろうが、こうした言葉しか紡ぐことができなかった。
504 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:48:27.04 ID:OBJgOl+No

「ダー……そうですね。

しばらくお休み、します」

 やや間があってから返事をしたアーニャ。
 覇気のないその表情のまま、アーニャは背を向けていた社長室の扉から出ていった。

「本当に、『普通』も大事なんだけどねぇ。

世界は君の思慮よりずっと、広いのだから」

 社長のその小さな呟きも、誰も聞く者はいないければただの独白であった。







 アーニャが社長室から出ると、ちょうどその場にいた者たちからの視線が集まる。
 皆がアーニャと社長がどのような会話をしたのか、どのような結果となったのか気になっていたようだ。

 だがアーニャの表情を見ればそれが芳しくないものであることは、明らかであった。
505 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:49:17.78 ID:OBJgOl+No

「だ、大丈夫か?アーニャ」

 そんな様子のアーニャに誰も声をかけないわけにはいかない。
 心配するような目で一番最初にアーニャに近づいたのはピィであった。

「ダー……大丈夫です。

心配かけて、ごめんなさい」

 そう言ってアーニャは小さく頭を下げる。
 しかしその表情は、反省の色ではなく、別のものを映し出していた。

(これは、少しまずいな)

 職業柄ピィはそれなりに人の感情の機微には敏感である。
 さらに言えばアーニャの様子を見れば決して良くない状況であるのが、誰からでも見て取れるほどにはっきりしていた。

「大丈夫なら、いいんだ。

社長からは、何を言われたんだ?アーニャ」

 社長は今回のアーニャの処分については誰にも話しておらず、相談すらしていない。
 社員であるピィやちひろも社長室でどのような会話がされていたのかは全く知らなかった。
 何かしらの処分が言い渡されることは二人とも知ってはいるが、その内容の一端すら知らないのだ。
506 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:49:59.49 ID:OBJgOl+No

「……お休み、もらいました」

「お休み?」

「ダー……しばらく、ヒーローの活動は、控えるように。

つまり、お休みをもらいました。シャチョーさんも、そう言ってましたしね」

 そう言って、アーニャは微笑む。
 だが明らかに無理したぎこちない表情筋の動きは、それを誰であろうとアーニャの心理状態を理解できるほどのものであった。

「……そうか。

まぁ、仕方ないか。ヒーローを辞めるようにまで言われなかっただけでも、良しと考えた方がいいのかもな。

しばらくの辛抱だ。その間は、戦いから離れてのんびりと過ごすのがいいかもしれないな」

 ピィは少し目線を下に向けて、アーニャの頭に慰めるように手を置く。
 そんな様子を見て、傍らで見ていたちひろも口を開いた。

「そうですね。しばらくはゆっくりするのがいいかも、しれませんね」

「……ダー、わかりました。

お言葉に甘えて、暫くヒーローは、お休み……しますね」
507 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:51:04.04 ID:OBJgOl+No

 アーニャは未だ無理のある表情ではあったが、ピィやちひろにはこれ以上どうすることもできなかった。
 彼女がヒーローをするのは、自分がみんなを守れる力を持っていて、それでみんなを守りたいと思ったから。
 15年生きてきて、初めて抱いた願望であり、それが心の主柱であったのだ。
 それが封じられた今のアーニャの気持ちを、他の誰かにどうすることもできなかった。

「そうだよな……。自分で初めて、願ったことなんだから」

 アーニャのことを考えた拍子に、そんな呟きがピィの口から小さく漏れる。
 意図したものではなく、本人でも気付かないほどに小さな呟きであった。
 だが。



「それは、違うわ」



「え、アーニャ?」

 誰に向けたわけでもないピィの独白に返す言葉。
 それは確かに、アーニャの声であった。

「シトー?どうしましたか?ピィさん」

 だがその声の主は不思議そうな顔でピィを見ている。

「……いや、気のせいだよ」
508 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:52:23.97 ID:OBJgOl+No

 どうやらアーニャが発したものではないらしく、ピィは気のせいであったと判断する。
 ピィ自身もよく考えれば、先ほどの声はアーニャにしては流暢であった。

「ところで……なのですが」

「どうしたんですか?アーニャちゃん」

 アーニャの発言に、ちひろが答える。
 その確認ができたことをアーニャは確認し、言葉を続ける。

「ヒーローはお休み、ですが……。

アー、私は、何をすれば、いいのでしょう?」

「なにをって……好きにしていいのよアーニャちゃん」

「そうだな。いい機会だし、何かしたいことはないのか?アーニャ。俺たちでよければ手伝うぞ」

 何をしたらいいのか?アーニャの疑問に対して、ピィたちは答える。
 現状、アーニャの心のケアで何もできることがない以上、それ以外のことで二人はできる限りのことをアーニャにしてやろうと思ったのだ。

「スキに……ですか?

ンー……特にないのですが……」

「特にないって、何かあるだろう?

したかったこととかさ。一つくらい何かさ」
509 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:53:07.83 ID:OBJgOl+No

「私に、できることは、戦うことだけです。

そうなると、私がしたいことは……みんなを守ること、ヒーローなのですが。

何もないことは、おかしなこと、ですか?」

「そ……それは」

 そのアーニャの言葉を聞いて、ピィは二の句が継げない。

(これは……普通じゃない)

 アーニャが『プロダクション』にきてそれなりに経ってはいるが、ここにきてようやく、この少女の『歪み』を垣間見たと言っても過言ではない。

 これまでに『戦闘』のこと以外に何も与えられてこなかった少女にとってそれは全てだ。
 それ以外のものを持っていないがゆえの、狭窄した選択肢。
 アーニャは『戦闘』のことが主軸としているため、それを利用した『守る』と言ったような行動しか発想できない。
 いくら新たに物を覚えていっているとは言っても、これまでに形成された価値観は絶対的なものであるのだ。
510 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:53:44.08 ID:OBJgOl+No

「そ、そうだ!あのメイド喫茶、えーっと、エトランゼはどうですか?

アーニャちゃん。あそこでバイトしてたでしょう?」

 一瞬で張りつめた空気を戻すように、ちひろが提案する。
 実際ちひろのこの機転は功を奏したようで、アーニャは思い出したような顔をした。

「ダー!そうですね、エトランゼでしばらく、お仕事、しましょう。

ずっと不定期でエトランゼのお仕事、してたので……これもまた、いい機会、ですね」

 することも決まったおかげか、幾分かアーニャの表情も好転している。
 そして善は急げと言わんばかりに、アーニャは出口の扉へと向かう。

「では、イッテキ、ます」

「行ってらっしゃい。アーニャちゃん」

「あ……ああ、そうだな。気を付けて行けよ。アーニャ」

 そうしてアーニャは扉の向こうに消える。
 再び事務所の中は静寂を取り戻した。
511 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:54:35.14 ID:OBJgOl+No

 今事務所には、社長以外には二人しかおらず、他の皆はちょうどいなかった。
 故に、ちひろの吐いた溜息ですらピィの耳に届くほどに静かである。

「まったく、一時はどうなることかと思いましたよ。ピィさん」

「……いやー、すみません。ちひろさん」

 地雷を踏んだ自覚はあるようで、ピィは小さく頭を下げる。
 そんなピィを横目に見ながら、ちひろは自分のデスクまで歩いていき、その上にあったドリンクを一本ピィへと放った。

「お?おおっと、ありがとうございますちひろさん」

 なぜドリンクをくれたのかいまいち理解できていないピィであったが、とりあえずドリンクのキャップをひねる。
 そんな様子を見ながらちひろは窓の外を見る。
 すでにアーニャは『プロダクション』を出て、目的地へと向かっているだろう。

「なんというか、この『プロダクション』。いろんな人がいますよね」

「そ、そうですね」

 脈絡のない話をしだすちひろに、ピィはよくわからないまま返事をする。

「未央ちゃんや周子ちゃん、紗理奈さんとかものすごい人たち……というか厄介な人もいっぱいいて、こんな会社ひとつで抱えきれるのかなーなんて思ったりもしたんですけど……。

もしかしたら一番厄介なのは、アーニャちゃんかもしれませんね」

「……」
512 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:55:26.87 ID:OBJgOl+No

 ピィはそんなちひろの言葉に何も言わなかった。

 赤ん坊に育てるのは困難だ。何でも吸収するその脳に、刻む情報を取捨選択しなければならない。
 獣を人に育てるのはさらに困難だ。野生と言う価値観を、理性と言う思考回路で抑えることを教え込まなければならない。

 だが機械を人に育てるのは最も困難だ。人の多様性をプログラムするということは、それはもはや神の領域なのだから。

 機械仕掛けの少女は、いまだ人への一歩は踏み出せど、人には成れていなかった。

「したいこと……ね」

 今一度、アーニャの言葉を脳内で反芻しながら、ピィはドリンクを口元へと持っていく。
 その隣でちひろが妙なものを取り出したところでその手は止まってしまったが。
513 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:56:12.00 ID:OBJgOl+No

「……その妙に俺に似た人形。なんですかそれ?」

「『ピィ君人形』です。晶葉ちゃんが暇つぶしに作ったみたいで、頭を押すと声が出るんですよ」

ポチッ\オイラはピィ/

「その音声はいろいろまずい気がするんですけど……」

 そんなピィの心配を横目に、ちひろは傍らにあったもう1本のドリンクの蓋を開け、躊躇せずに『ピィ君人形』にかけた。



\オイラはピィ/
\オオオオイラはピィ/
\オオオオイララはピピピィ/

\オオオオイラハハハ、ビィィィイイイイイイイ!!!!!!/

 ドリンクをかけられた『ピィ君人形』は氷が水に変わっていくように融解していく。

「なんてもの飲ませようとしてんだちひろさんーーー!!!」

 ピィは口の付けかけた、手の中のドリンクを床に放り投げる。
514 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:56:53.56 ID:OBJgOl+No

「ふがいないピィさんに少しイラついてしまったので、ちょっとしたイタズラです♪」

「ちょっとしたどころの話じゃないよ!こんなの飲んだら口の中焼けただれて2メートルぐらい跳ね上がりますよ!!」

「安心してください。渡したドリンクはちゃんとしたもので安全ですから」

「ほ、本当ですか?」

 ちらりと床に放り投げたドリンク瓶をピィは見る。
 中からこぼれてた薬液は、せっかく新調したばかりの床材を溶かし、シュウシュウと湯気が上がっていた。

「やっぱりダメなやつじゃないかちひろォ!!!」




 
515 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:57:38.91 ID:OBJgOl+No


***



 雲は太陽を覆い隠し、街から色彩が奪われている。
 グレースケールの空は、この季節ではありふれたものであり、あらゆる輪郭を不鮮明にしていた。

 アーニャは『エトランゼ』へと向かう道中、そんな何気ない空模様をふと見上げてみた。

「じんわり……です」

 春から夏に移り変わるこの季節としてはありふれた天気であり、やや高めの湿度はさほど不快にはならない。
 そんな曇り空は、アーニャには一つのことを思い出させた。

「カマーヌドゥユシェィ……隊長が来た時も、こんな空でした」

 あの日は、今日とは違い雪雲であった。
 ロシアならばそんな雲も珍しいものではなかったが、日本では気候的に雪の頻度は多くない。
 故に印象に残っているのか、あの日窓越しに見た空のことは妙に覚えていた。

「あの日は……いろいろ、ありました」

 足元に転がっていた小石を蹴り、止めていた脚を再び動かしだす。
 隊長の過去、母親の想い、そして自分自身の願いと決意。
516 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:58:38.17 ID:OBJgOl+No

 『プロダクション』に多大な迷惑をかけたことなど、決していい思い出とは言わないがそれでもあの一日はアーニャにとっては重要な一日であったことには間違いない。
 あの日があったからこそ、今アーニャはヒーローを続けているのだ。

 だが今回の件で、アーニャはあまりにも無力であった。
 あの義手の女には決意をあざ笑うかのように踏みにじられた。
 守りたい居場所からは、願いを封じられた。

 無力な自分を呪ったとしても、意味がないことは彼女自身がわかっている。
 今更、社長の下した処分に反抗しようとも思わない。
 アーニャは言われたとおりにヒーローとしての活動を自粛するつもりである。

「私は……戦わないなら、何ができるのでしょう?」

 だが彼女は、いま「したいこと」が思い浮かばないでいた。
 これまで戦うことを強いられてきたアーニャにとって、それ以外には何も持ちえない。
 結局戦いから解放された港でのカースとの戦闘以降も、ずっと戦ってきたのだ。

 戦うことしか知らない少女から『それ』を奪えば、何も残らないのは必然である。

 今『エトランゼ』に向かっているのは、あくまでちひろに提案されたからである。
 アーニャ自身他にすることもないので向かっているおり、実際にやりたいことかと問われれば頷けるものではなかった。
517 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 00:59:14.50 ID:OBJgOl+No

 アーニャにとっても『エトランゼ』は嫌いな場所ではない。
 みくや他の従業員とも会えるし、あの店の雰囲気をアーニャは気に入っている。
 居心地のいい場所であり、働いていても楽しい場所なのだが何かが違うとアーニャはたまに思うのだ。

「ヤー……わたしは、ここで何をしているのでしょう?」

 気が付けばアーニャはエトランゼへとたどり着いていた。
 湿気た天気ではあるが、そんなものお構いなしのように今日も店内は盛況の様である。

 そしてやはり、ここに立つと感じる心の片隅に沸き立つ小粒の感情。
 ここに私は、場違いだ、と

 アーニャは裏口に回ると、そこにはメイド服姿の小柄な影。
 チーフは白い棒を口に銜えながら休憩を取っていた。

「おや、アーニャじゃないか。こんな時間に珍しい」

 近づいてきたアーニャに気づいたのかチーフは口に銜えていたものを取り出し、視線を向ける。
 口に銜えていたものは赤いロリポップでありおそらく、イチゴ味であろう。

「食べる?」

 チーフは再びロリポップを口に銜えつつ、エプロンのポケットから新たなロリポップを取り出してアーニャに差し出した。
 それをアーニャは無言で受け取り、包み紙を剥いだ。
518 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:00:25.90 ID:OBJgOl+No

(……メロン味)

 緑色のガラス玉のようなそれを口に銜えながらアーニャは『エトランゼ』を訪れた理由をチーフに話す。

「ヒーローの活動が、できなくなったので……しばらくは、ここでお仕事、したいです」

「……ははーん、その顔を見るに、何かヘマをやらかしたな」

「シトー……なんで、わかったんですか?」

「まぁ……さっきも言ったけど顔見ればなんとなくわかるさ。客商売だから、感情の機微はそれなりに敏感な方だよ。

その顔で出てもらうのは少し困るし、隠しようがないってなら、悩みも聞くけど?」

 そう言って、エトランゼ裏口の扉にもたれかかるチーフ。
 じっくりとアーニャの目を覗き込みながら、舌の上のロリポップを転がす。

「ヘマ……失敗をしたの、確かです。でも、大丈夫。

少し休めば、元通り、です」

「……なるほど、ね。

とやかくは言わないよ。ここでの仕事を『お休み』って呼び方はちょっと気になるけどね。

ヘルプでの働き方を言い出したのは私だからアレだけど、それだといろいろ不都合あったからちょうどいいし。

暫くのシフト組んじゃうけどいいよね?」
519 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:01:02.50 ID:OBJgOl+No

「ダー……はい、アリガトウ、ございます」

 確かにアーニャは落ち込んではいる。
 ヒーロー活動を禁止されていることは、アーニャにとっての悩みであるかもしれないが、ここで話したところで何かが変わるわけではない。
 それをアーニャは知っているからこそ何も言わなかった。

 ガリリと言う音がチーフの口から聞こえる。
 飴玉を砕いた音の後、口に銜えていたロリポップの棒を近くにあるゴミ箱へと投げ入れる。

「じゃあ行くよ。

とりあえず考え事は後にして、しかめっ面から切り替えな」

 チーフはそう言いながら、店内へと手招きした。

***
520 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:02:10.99 ID:OBJgOl+No

 エトランゼの更衣室へと入ると、目につくのは壁面に沿うように並べられたロッカーだ。
 一つ一つに名札がつけられているものの、ここで働いているもの全員でこの膨大なロッカーをすべて使いつぶすことはできないようだ。
 名札の付いていないロッカーもちらほらとみられ、チーフに至っては4つ分のロッカーを占有している始末である。

 そんな典型的な更衣室と言う様相のこの室内には二つの影。

「だーかーらーっ、シシャモとカラフトカペリンはまったく違うにゃ!」

「両者とも大して変わらないと思うのだけど……どれ程の差異だというの?」

 そこにいたのはロングのメイド服に身を包んだのあと、大人しめの服装をした眼鏡の少女。

「マーク・パンサーとジャガー横田くらいちがっ……」

「ニェート……そこまでの違いはないと思います、みく」

 いつもとは少し雰囲気の違うネコミミ少女、みくであった。

「む、その声はアーニャン?なんだか数日会ってないだけなのにずいぶん久しぶりな気がするにゃ」

 みくは更衣室の扉の前にいるアーニャの方へと視線を動かしながら、ネコミミをぴょこりと立てる。
 先ほどまで象徴ともいえるネコミミは髪の毛の中に器用に隠していたようだ。
521 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:02:52.09 ID:OBJgOl+No

「……ところで、どうしてそんな話を、していたの、ですか?」

 猫のくせに魚嫌いのみくが、魚のことを会話のネタにしていることは珍しい事であった。
 話の流れを掴めないアーニャはその点に疑問を抱く。

「昨晩、夕飯にシシャモを出してみくがそのことについて文句を言ってきたのだけれど……どうしてそんな因果の会話になったのかしら?」

「そもそものあチャンがお夕飯に魚を出すのがいけないのにゃー!!!」

「ンー……やはりこれは、みくがいけない、と思います」

「まさかの方向からの追撃!?なんでにゃ!?」

「ダー……ロシアにいた時でも、カラフトカペリン、食べてました。

ロシアで、カペリン馬鹿にすると、シュクセイされます!」

「なんて独裁国家にゃ!?」

「これで2対1ね。今夜の晩御飯も魚に決定だわ」

「そんな約束してないにゃあ!?」

「みくの食べたシシャモはできそこない、です。本物のシシャモを見せてあげましょう」

「アーニャンは唐突に何キャラにゃ!?」
522 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:03:38.71 ID:OBJgOl+No

「お前らいつまで漫才してる気だ!さっさと着替えてこい!」

 ぐだぐだと漫才をしていれば、更衣室の扉からチーフの声。
 それなりに店内は盛況な為、着替えに時間などかけていられないはずなのにいつまでも更衣室から出てこないからしびれを切らしたようであった。

「みくいじりもここまでね。というかみく、まだ着替えてなかったの?」

「ダー……そうですね。ワタシ、もう着替え終わっているのに」

「二人の相手してたからにゃあ!てかアーニャンいつの間に着替えたの!?」

 文句を言いながらメイド服に着替え始めるみく。
 慌てすぎてうまく服が脱げなくなっていたり、眼鏡がひっかかったりしている。

「まだみくは着替えに時間がかかりそうだし、先に行きましょうか。アーニャ」

「ダー、ですね。……先に行ってます。みく」

「うにゃああああ!!!」

 みくを更衣室において出てきたアーニャとのあはホールへと向かう。
 だがその道中、アーニャはふと疑問に思ったことがあった。
523 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:04:34.75 ID:OBJgOl+No

「そういえば……みくは今日、ジミ……ですね」

 いつものみくならば好きなようにかわいらしい服を着てくる。
 今日来ていた服が似合っていないというわけではないが、これまで見た服と比べるとかなり地味な服装であった。

「ああ、あれは特別意味なんてないわ。今日はただそういう気分なだけだったみたい」

 その疑問に対して、この場にいないみくに代わってのあが答える。

「でも……まぁ強いて言うのならば、群衆の視線が煩わしかったみたいだわ」

「……視線、ですか?」

「今の世間は雑多な個性を受け入れてくれる。一昔前のこの国の様子とはだいぶ変わっているみたいね。

でも、それでもやはり自分と違う、明確に他と分かつ個性と言うものは自然と目を引くものよ」

 今の世の中は様々な人種を受け入れる土壌ができつつある。
 人外であろうと、特別であろうと、言葉を交わせる程度のことができれば十分に人々は受け入れる。
524 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:05:11.73 ID:OBJgOl+No

 だが、それでも自分と明確に違う『他者』に対して、奇異の視線を向けてしまうことは一種の本能である。
 差別しているわけでもない、排斥しているわけでもない、だがそこに悪意はなくとも『目を引く』というのは被対象には負担をかけるのだ。
 一昔前までは外国人と言うだけで向けられていたこの視線は、現在その方向を変えていたのだ。

 みくは獣人である。最近ではちらほらと目にすることも多くなったある意味ポピュラーな『他者』である。
 その耳は特徴的で、彼女のアイデンティティでもある。

 だがそれでも、自分の誇りであっても、視線と言うものは人を疲労させる。
 だからこそ、みくはたまには休みたかったのだ。その視線から逃れ、『普通』の女の子でいたかったのだろう。

「なんて……こんなところね」

 と、そのような推察をしたのあ。
 みくは口には出さないものの、実にわかりやすい性格をしている。

 それでもここまで察することができるのは、のあの観察眼をもってしてなのか、それとも二人の絆によるものなのかだろう。

「みくも……苦労しているんですね」

「それよりも……」
525 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:05:53.33 ID:OBJgOl+No

 のあはみくの話題から切り替えるように、視線を横に向ける。
 その視線はみくの心情を推察したように、アーニャの瞳の奥を覗いている。

「正直のところ、あなたの様子の方がおかしいわ。アーニャ。

貴女は隠そうとしていたみたいだけれど、私の瞳はごまかせないわ」

 見抜く。その不可思議な光を放つように見える虹彩はアーニャに威圧感を与える。
 まるですべてを見透かされているような気になってくる。

「イナーシェ……別に、特になにかあったわけでは、ないです……。

少しお休み、もらいました。ヒーローの活動のお休みを」

 アーニャはありのままを応える。
 特にのあに隠すことなどアーニャにはない。そのはずである。

「お休み……ね」

「ダー、そうです。お休み、もらいました。

だから、こうして、エトランゼに……」
526 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:06:38.17 ID:OBJgOl+No

「アーニャ、『休み』というものはふつう休むものよ。

わざわざ働きに来ることを休むなんて言わないわ」

「……それは」

「おおよそ何か思うところがあるわね。アーニャ。

休みをもらったのにもかかわらず、エトランゼに働きに来ているということはおそらく……」

 ほんの断片的な情報しか提示しなかったアーニャであったが、そこからのあは推測を立てていく。

「気を逸らすためにここに来たのだろうけど、勤務態度としてはあまり良くないわ。

恐らくヒーロー活動で何かあったのでしょうけど、あまり気負いすぎるのは下策よ」

 のあの観察眼の前では隠す通すことなど無駄であろう。
 アーニャの状況をほぼ完璧に推察したのあは、その上で言葉を紡ぐ。

「この点については、みくを参考にすべきね。

たとえあなたの抱える悩みがあなた自身に起因するものであっても、折り合いのつけようはいくらでもあるもの。

みくのように、一時でも逃避することは決して間違いではないわ」
527 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:07:34.77 ID:OBJgOl+No

 アーニャは考える。
 のあの言う通り、いっそすべてあの義手の女のせいにしてしまうのはどうだろうかと。

「ニェート……」

 だがそれは即座に無意味だと判断する。
 確かにあの義手の女は許せないし、今回の件の元凶はあの女ではある。

 しかしこれは、アーニャ自身の問題だ。
 たとえ義手の女を憎んだとしても、それははけ口になるだけで根本の解決にならない。

 このアーニャの悩みは終わったことなのだ。
 守るべき者たちから守られ、その上で自らの行動を封じられた状況はすでに『完了』しており、結論はついている。

 もはや今の『お休み』の状況が解除されるまでは、アーニャのもどかしさは決してなくならないことは、彼女自身でもわかっていた。
528 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:08:42.21 ID:OBJgOl+No

「アー……」

 現状を打開できないことだけがわかったアーニャであったが、ここでまた別の疑問を思いつく。

(なぜ私は、みんなを『そんなに』守りたいのだろう?)

 思えば不自然であった。
 確かにみんなが大切であるから守りたいということは間違っていない。
 だが冷静に考えれば守る必要がない人など考えれば『プロダクション』には何人かいる。

 しかも彼女たちは自分よりも何倍も上の力を持っているのだ。
 故にわざわざアーニャが自ら戦う必要なんてなかったのだ。

(だったら私は、戦わなくてもいいはず。

でもみんなを守りたい。その理由はみんなを守るため。

……あれ?)

 自己矛盾が増幅していく。
 アーニャは自らの基盤が不自然に乖離していく気分になる。
 地に足を着けていない、不安定な浮遊感。
529 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:09:19.52 ID:OBJgOl+No
 思考は疑問で埋没し、脳内は処理を超えていく中。

「アーニャ」

 のあの呼びかけでアーニャは意識が覚醒する。

「考え事は後にしましょう。これ以上の雑談は、チーフの逆鱗に接触しかねないわ」

「だ、ダー……そうですね。チーフ、怒らせると、怖いですから」

 のあの呼びかけで冷静になったアーニャは、とりあえずの疑問は棚上げしていくことにする。
 今は目の前の仕事に集中しようと、気を引き締める。

「その前に」

 そんなアーニャの前にのあは顔を近づける。

「の、のあ?」

「客の前に出るときに、物を食べているという姿は不相応よ」

 アーニャの口元にのあは手を当てて、くわえていたロリポップを引き抜いた。
 唾液は糸を引きながら、アーニャから飴玉は離れる。

530 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:09:58.12 ID:OBJgOl+No

 そのままのあはロリポップを口に含んだ。

「!?」

 さすがにこの突然の行動に驚いたアーニャであったが、のあはそんなことには意を会さずに口に含んだロリポップをすぐに引き抜いた。
 それなりの大きさを残していたはずの飴玉は、その棒先にはすでに存在してはいなかった。

「これでいいわ」

 のあはそう呟いて、傍らのゴミ箱にロリポップの棒を放る。
 ロリポップの棒は放物線を描きながらきれいにゴミ箱の中に着地した。

「いきましょう。アーニャ」

「そ、そうですね。のあ」

 アーニャはのあの奇行に圧倒されながら、その後についていった。
 だがそんな奇行は、幸いアーニャの思考を一度リセットすることには成功していた。

531 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:10:51.00 ID:OBJgOl+No


***


「『メイド特製、ちーずハンバーグ』を頼んでくれるなんてお目が高いにゃご主人様!

このハンバーグははじめに一口メイドさんに分けてくれれば、いっしょに『はい、チーズ』で写真を撮ることができるにゃあ!

え?『みくにゃんはいいです』?なんでにゃあ!?」

 エトランゼの店内はいつも通りの賑わいであった。
 そんなふつうの日常のおかげで、アーニャ自身もだいぶ落ち着いてきた。
 ホールに出たばかりの時の不慣れに見えた接客から、いつもの感覚を取り戻してきたようである。

 少し考えごとをしながらでも接客できるようになってきており、先ほどの疑問にも冷静に向き合うことができるようになっていた。

(良く考えてみれば、別に『プロダクション』が特別なだけですね)

 テーブルの上に残った食べ終わった後の皿を持ちながら、アーニャは考える。
 『プロダクション』を守りたいのは事実であるが、守りたいのはそれだけではない。

 アーニャが守りたいのは日常だ。
 来たばかりのアーニャも受け入れてくれたこの街の人々を守りたいと思ったのだ。

 だからこそのヒーロー活動だと、アーニャは納得をする。
 アーニャの居場所は『プロダクション』だけではない。
 この街こそがアーニャの居場所であり、守るべき場所であるとアーニャは思うのだ。
532 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:11:33.64 ID:OBJgOl+No

「すみませーん」

 脳内で納得したアーニャに、近くの声から呼ぶ声がする。

「ダー!今行きます」

 プロダクションから出た時には落ち込んでいたアーニャであったがそれも大分回復してきたようである。
 どうにもならない結果にくよくよしているより、実際に何か行動している方が気が晴れるものだということは大方真実であることが見て取れた。

「定番オムライスと、コーラを」

「ダー、かしこ、まりました。ごシュジンさま」

 注文を受けたアーニャはそれを伝えるべく厨房の方へと向き直る。
 脳内で注文を反芻すると同時に、先ほどの思考を思い出す。

(ここも、私の守りたい場所)

 このエトランゼもアーニャを受け入れてくれた場所である。
 アーニャにとってもこの場所も守るべき場所なのだ。

 だがそこでふと、ひとつの妄想、程度の想像がアーニャの脳裏に湧き上がる。
533 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:12:27.68 ID:OBJgOl+No

(もしこの時に、エトランゼに誰かが襲撃してきたら?)

 まるで中学生のような想像。誰もが一度はしたことがあるような空想は、この世の中では全くないと言えない。

(まぁ、あり得ないでしょうけど)

 仮に来たとしても、すぐにそれを沈黙させられる自信がアーニャにはある。
 しかもこの場合はヒーロー活動中ではなく、自分が標的のようなものだ。
 特にお咎めもないでろう。

(この場合なら、仕方ないですね)

 だがそこで、新たな想像がアーニャの脳裏に浮かぶ。

(ここで、私が暴れたらどうなるのだろう)

 逆に、アーニャ自身が襲撃者となってこの場で暴れたらどうなるのだろうか。
 きっと、のあとみくが止めるのだろうとそんな想像をするのだ。
 突如として思いついたこの発想を、アーニャは脳内に思い浮かべた。







    
534 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:13:16.02 ID:OBJgOl+No




 だがこれは失敗であった。

 これまでのロシアでの特殊能力部隊では作戦前には脳内でシミュレートすることがよくある。
 それはあくまでイメージでしかないが、それでも実際に行う作戦を脳裏で行うのだ。

 当然その過程で人殺しも伴う。
 脳内で再現された作戦は、意図せずに現実へと影響を与えた。

「……えっ」

 アーニャの手から皿が滑り落ちる。

 たとえ想像上とはいえ、エトランゼに向けられた『敵意』『殺意』はほんの一瞬外へと漏れ出てしまった。
 あまりに不用意すぎるその敵対行為は、まさに虎の尾を踏んだと言っても過言ではない。

 これまでにこの『エトランゼ』は少し変わり者の多いメイド喫茶であるとアーニャは思っていた。
 実際全員の素性をアーニャは知らないし、聞く気もなかった。

 だからこそ勝手な思い込みであったのだ。

『この場に戦えるものはみくと、のあと、私だけだ』と。
535 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:14:09.82 ID:OBJgOl+No

「あっ……かはっ」

 うまく呼吸できない。まるで深海に落とされたかのようにアーニャの瞳には光が届かない。
 殺気に当てられた体は思うように動かない。

(ああ……)

―――なんでこんな『化物』がここにもいるんだ?

 アーニャの想像上の中での意図しない殺気。
 その微弱な、プロでさえも気づけないような殺気に対して、店内の何者かは純粋な殺意として返してきた。
 それはあまりにも圧倒的で、途方もない。

(まるで、あの義手の女のような、明らかな敵意)

 決して仕事場の同僚に向けるものではない、自らの場所を侵すものに対しての迎撃行為。

(しかも……何人?)

 その中で、確認できたのは途方もない殺気は、最低限一人。
 周子や、大罪の悪魔にも匹敵するような魔神級の実力者。
 その殺気は、義手の女と対峙した時の比ではないほどであり、脳裏にあらゆる死を想起させる。

 さらにそれに隠れて複数の『格上』の殺気までいくつかアーニャには確認できる。

 だが、冷静でいられたのはここまでだ。
 圧倒的なアーニャと言う外敵に対する殺気の奔流は、少女の理性では耐えられない。
 これ以上は、アーニャには持たなかった。


  
536 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:15:15.16 ID:OBJgOl+No



「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





   
537 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:15:42.91 ID:OBJgOl+No





 手に持った皿すら投げ捨て、身に着けた制服も気にせずにアーニャは店内から飛び出した。
 後ろから制止の声が聞こえるが、アーニャの耳には届かない。

 防衛本能は帰巣本能へと帰結し、アーニャは自分の持ちうる可能な限りの速さで、道を駆け抜けていく。
 必然その脚は、自らが住まうアパートへと駆けだしていた。

***
538 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:16:19.65 ID:OBJgOl+No

 店内に小さな舌打ちが響く。
 舌打ちの主であるチーフは不機嫌そうに眉間にしわを寄せながらホールの中を見渡す。

「すみませんご主人様。お見苦しいところをお見せしました」

 ころりと表情を変えて客一人一人に頭を下げていくチーフ。
 客の方も状況がよくわかっておらず、チーフの謝罪に応じるしかなかった。

「それと、のあとみく。抜け出すなよ」

「ギクッ!?」

 そろりそろりと裏口へと向かっていたみくは、その声で足を止める。
 のあの方もその場から動いてはいなかったが、すぐにアーニャを追おうとするような雰囲気である。

「それとキヨラも、突然だったとはいえやり過ぎ」

「ごめんなさい。つい反射的に……」

 厨房の方から一人の女性が顔を出す。
 その女性は謝ってはいるものの、特に反省している様子はなさそうではあった。
539 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:17:14.78 ID:OBJgOl+No

「まったく……あんなの直接向けられたら誰だって漏らすレベルだって……。

他のみんなもわかったな!」

「「「はーい」」」

 その場にいた何人かのメイドたちが、チーフの声に答えた。
 当然そこで答えた者は、状況を理解しているということなのだろう。

「アーニャに伝えてなかったあたしも悪いが、さすがに『敵意』出さないように気を付けるのは訓練受けてるならガキでもできるだろうに……。

ここであんなことすれば、まぁああなるわ……」

 チーフにも、アーニャの行動がわざとではないことはわかっていた。
 だがあまりにも不用意すぎたその行いは、チーフにはやはり不自然に思えた。

(わざとじゃないとすれば、なんでアーニャは『敵意』を向けたんだ?

『お休み』の原因と何か関連でもあるのか?)

 チーフはアーニャの落とした割れた皿を塵取りと箒で拾いながら考える。
 アーニャの『殺気』の漏れは、結局何が原因かチーフには皆目見当がつかない。

「まぁ……キヨラのあれを感じ取れるほどに敏感な奴は客にはいなかったみたいだし、とりあえずは良しとしましょう」

 この場でアーニャが抱えていた問題を気にしていても仕方ない。
 そう判断したチーフは割れた皿を片付けるべく、店の裏側へと向かう。
540 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:17:54.52 ID:OBJgOl+No

「ごめんなさい……私が、軽率だったわ」

 その脚の途中、チーフの背に謝罪の声がかかる。
 チーフが振り向くと、その声の主はのあであった。

 のあの表情はいつも通り読めないものであったが、それでも雰囲気から申し訳なさそうな様子が伝わる。
 その隣にはみくも顔を俯かせながら立っていた。

「はぁ……二人とも仕事を続けろ。何を気に病んでるのか知らないが……」

「アーニャは何か、悩んでいたようだったわ」

 チーフの言葉を遮るようにのあが喋る。
 仕方なくチーフも塵取りの中身をゴミ箱に入れながら小さくため息をついた。

「知ってる。でも問題ないと判断したのは私だ。

責任は私にもある。まぁ次アーニャが来た時には説教だがな」

「チーフの説教を受けるべきは、私よ……。

私が、アーニャの抱えている問題に口を挟んだのよ。アーニャを追い込んだのは……私なのよ」
541 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:19:35.52 ID:OBJgOl+No

 のあはアーニャの行動の原因が、先ほどの会話だと思っている。
 アーニャがなぜあのような行動をとったのかはわからなかったが、それでも自分との会話によって引き起こされたものだと思っているのだ。

「だったら、のあも説教だな。アーニャと一緒にだ。

そう思ってるのなら、その後にちゃんとアーニャに謝ればいいさ。

それに正直言わせてもらうが、あれはアーニャが最も軽率だったさ」

 客観的に見れば、いくら知らなかったとはいえ自分でまいた種だ。
 悩んでいておかしな行動をとったのならばともかく、なぜあの場で店に向けて『殺気』を放つ必要があったのかチーフにもさっぱりわからないのだ。

「でも、そんなにアーニャンが悩んでたなんて……

みく、何にも気付いてあげられなくて……」

 のあの隣のみくもそう小さく呟く。

「まったく……みくこそ本当に気にする必要はないな。

エスパーじゃあるまいし、他人の心情を読み取れることは難しいんだ。

本人が何も言わないのなら、他人からはその悩みをどうすることだって出来やしないよ。

どうしてもというなら、次会った時におせっかいでも焼いてやるのがいいさ」
542 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:20:31.11 ID:OBJgOl+No

 チーフはそう言いながら、みくの頭に手を乗せる。

「チーフ……。

すごいいいこと言ってる気がするけど、みくと同じくらいの身長じゃああんまり威厳がないにゃあ」

「みく。お前も説教な」

「そんにゃあ!?」

 チーフは笑いながらみくの頭から手を放す。
 そして二人の間を抜けて、ホールの方へと脚を向けた。

「あいにく今日は二人を手を明かせるほどの余裕はない。

だから仕事に戻るぞ二人とも。のあも、さっき私の言った通りだ。気に病むのは後にしな」

「……だけど、本当にアーニャは大丈夫かしら?」

「別に、アーニャだってそこまで子供じゃない。

あまり過保護すぎるのはどうかと思うがな」

 チーフはそう言いながら、みくの首根っこを摘まみつつホールへと向かう。
 のあは、裏口の扉を横目に見つつも、チーフの言う通り仕事に戻ることにした。
543 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:21:10.14 ID:OBJgOl+No


***


 どれだけの距離を走ってきたのかわからない。
 アーニャの身体はいまだに恐怖に震えており、殺気は棘のように心に刺さりぬけそうにない。

「……ここは」

 そんな状態の中でも、少しだけ冷静さを取り戻してきたアーニャは周囲を見渡す。
 そこは薄暗い小さな部屋の中で、殺風景だが見覚えのある部屋だった。

「ここは……私の、部屋。

かえってきたの、ですか」

 無意識のうちに、自らが住むアパートに帰ってきていたことを認識したアーニャは息を整える。
 未だにメイド服を着ており、あのまま飛び出してきたことが理解できた。

「アディエジュダ……服、返さないと、ですね」

 そして幾分か落ち着いた心で、これまでのことを思い出す。
544 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:22:10.99 ID:OBJgOl+No

「そうでした……。間違えて、敵意を、向けて。

とても、怖い、人が」

 殺気の強さだけなら先日の義手の女すら凌駕していた。
 圧倒的な高密度の敵対意志は、それなりの経験があるアーニャでさえ耐えることができなかった。

「でも……これは、私のせい。

お店を、守るために誰かが私に向けたもの、だから」

 アーニャ自身も今回のことは自身の不用意さが招いたことだということは自覚していた。
 こんな世の中だ。隣の誰かが超人じみた力を持っていることくらい珍しくない。
 そんな中で、殺気など漏らしたのならばあのような結果になることだってあるだろう。

 たとえ元とはいえど、あの『隊長』の下で訓練を受けた者がする失態としてはあまりにお粗末であるとアーニャは痛感する。

「アー……お店の、誰かだったはず。

なら、よかった」

 とはいっても、店に対するアーニャの殺気に反応したということは敵ではないということ。
 そしてその殺気は、義手の女の黒いドロドロとしたものに比べ、まっすぐな外敵に対する排撃の意志をしっかりと含んでいた。
545 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:22:46.30 ID:OBJgOl+No

 それは『エトランゼ』を守ろうとする誰かであったことは確実である。
 もしも義手の女のような危険人物が店内に紛れ込んでいたらと思えば、ずっといいのだ。

「そうです。シューコくらい強い人が、お店を守ってくれてるんです。

とても、心強いです」

 今回の件の非は全て自分にある。
 そう思ったアーニャは、座り込んでいた床から立ち上がり窓の外を見た。

「もう夜、ですか。

これじゃあもう、今日は謝りに、いけないですね」

 すでに空には月が昇っていた。
 時間も見ればもう午後の8時過ぎと営業時間も終わっている頃合いであった。

「……突然、飛び出してきましたから、迷惑かけてしまいました」

 正直今回アーニャがしたことは簡単に許されるようなことではない。
 クビになることすらもアーニャは覚悟はしている。

「携帯、電話は……」
546 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:24:15.90 ID:OBJgOl+No

 直接店に行くことはできなくとも、電話での連絡はできる。
 アーニャはそう思い、携帯電話を探すが、メイド服のポケットには入っていなかった。

「おいてきて、しまいました……」

 来ていた服はエトランゼのロッカーの中であることをアーニャは思い出す。
 急げばまだエトランゼに誰かいるかもしれないとも考えたが、結局アーニャは足を止めた。

「なんだか、とても、疲れました……」

 先日の義手の女の件に続き、今日の出来事である。
 あまりにも失敗を重ね続けているアーニャは精神的にかなり疲労していたため、その場に座り込む。

「でも、なんでエトランゼに、あんなに強い、人が……」

 アーニャは本来そこまで鈍感ではない。
 みくはともかく、のあはどんな時でも隙がないように、ある程度実力のある人物をアーニャは見分けることができるはずだ。
 たしかに紗理奈や未央のようにそう言った雰囲気を隠す術を持つものもいるだろうが、誰もかれもができるわけではない。
547 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:24:54.42 ID:OBJgOl+No

 ましては周子なんかはそういった点に関してはかなり適当である辺り、アーニャが道行く強者をまったく感知できないなんてことはないはずなのだ。

「……日本に来てから、勘が、鈍った?」

 アーニャはふと気が付いた。
 ロシアにいたころであれば、こんなことはありえなかった。

 だが、日本に来てからそういった強者を感じ取れるような勘が鈍っているのだ。
 だからこそ、こっちに来てから『失敗』が増えたのだ。

 もし勘が先日の義手の女の時にあったのならば、絶対にアーニャはあのような無謀はしなかったはずなのだ。

「そんなに、すぐ勘は、鈍るものでしょうか?」

 これまで自覚していなかったとはいえアーニャは客観的な疑問に気付く。
 この勘の鈍りが、つい先日の件くらいのことならまだいい。
 この国の平和に慣れたということなのかもしれない。
548 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:25:42.40 ID:OBJgOl+No

 だがこれは、日本に来た当初の、カースとの戦闘の時もそうであったのだ。
 日本での、初めての敗北。
 みくたちがいなかったらどうなっていたのかわからないあの戦闘。

 あの時点で、自らがかなわない相手を相手取っていたとしたら、これは勘が鈍るというには早すぎるのだ。

「あれ?……私は、どうして勘が、鈍った?

ニェート……これは、『勘を鈍らせていた』?」

 無自覚のうちに、アーニャはわざと勘を鈍らせていたのではないか。
 そんな疑念が頭を埋め尽くす。

「ダー……そうです。私は、みんなを守りたかった」

 だから、強者を感じ取らないようにしたのだ。

「みんなが、ヒーローを……私を必要だと、自分が思うために」

 初めから、歪だったのだ。



「だって、……わざわざ、私が率先して誰かを守らなくても……ヒーローはいるから」


  
549 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:26:32.26 ID:OBJgOl+No

「そう、街にはヒーローだっている。

『プロダクション』にはもっと強い人がいる。

ましては、エトランゼにすら、わざわざ私が守る必要がないほどに、強い人がいる。

だったら私が、ヒーローをする必要なんてない。

だから、私は気づかないふりをしてきたんだ。

周囲の『ヒーロー』から、意図して視線を外した」

 アナスタシアの行動原理。
 みんなを守りたいから、というのは理由と目的が逆転しているのだ。

 普通ならば、傷ついてほしくないからとか、大切だからとか、そう言ったことが念頭に来るのだ。

 『守りたいから』は理由じゃない。

「そう。私は『守りたかった』、というのが始まりじゃない。

『失いたくなかった』の。この15年を。

戦闘技術の研鑽だけに費やしたこの15年を、平和と言うぬるま湯で無駄にしたくなかったのよ。

私(アナスタシア)」
550 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:27:18.63 ID:OBJgOl+No

 背後から聞こえてくる声。

 アーニャはその声を、誰よりも知るその声の主を振り返る。



 そこには窓枠を額とした月夜を背景に、白銀の髪の少女が立っていた。

 何度も見てきたその姿は、座り込むアーニャを月の逆光と共に見下ろす。
 その瞳は、『∞(無限)』が刻まれた赤い瞳。

「だからこそ、それしか持たない私は、15年を失わないために、『ヒーロー』を理由にしてきたの。

だけど、ワタシはそれが耐えがたく許せなかった。

やっと平和に帰ったというのに、戦い続ける私(アナスタシア)が」
551 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:28:23.54 ID:OBJgOl+No

 その瞳は『無限の蛇(ウロボロス)』の瞳。
 その瞳の奥を見上げながら、アーニャは尋ねる。


「あなたは……私?」



「そう。私。

ずっと隣にいたでしょう?

ワタシこそが、私(アナスタシア)の初めの願い(ジュラーチ)。

もう、嘘は吐かせない」


 願いは目覚める。
 円環(ウロボロス)は動き始めた。

   
552 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2015/12/08(火) 01:33:50.43 ID:OBJgOl+No
以上です。


期間が空いたことと、スランプではじめと最後の方の文章の質がいまいち違うかもしれませんがすまない……

社長、ピィ、ちひろさん、みく、のあ、清良さんと名前だけ紗理奈、未央お借りしました。

さてこれでまだ序編。あと中編と終編が残っているわけですが、できれば早く投下したいなぁ……(願望)
553 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/12/08(火) 19:05:55.74 ID:pO7bRm20o
おつーっす

>>480
ほう、わらしべイベントとな? なるほど、これは面白そうな試み
しかし、参加……できるかなぁ……(書き上がらないSSを見ながら)

>>552
いやぁ、惹きつけられますな……、夢中になって読んでしまう
このボリュームでまだ序編っていうのも、相変わらずスケールがでかくて凄い
未だ残る謎とか、気になる引きとか、早くも続きが待ち遠しいです

あと、シリアスな展開の中にちょいちょい挟まれる小ネタが、また良い味を出してて好き
オイラはピィ!
554 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/12/08(火) 20:00:53.23 ID:KP7oy95q0
乙ですー、オイラはオイラ…

アーニャちゃんの過去と願いでなんかヤバゲなのが…大丈夫じゃなさそう
メイド喫茶のメンバーって確かに強いんだよなぁ…チーフの何者感がすごい(あとかわいい)
555 : ◆6J9WcYpFe2 :2015/12/14(月) 00:35:48.96 ID:gR7gj4JF0
さて、そろそろ続きださないとなぁ……もう2か月も経っちゃってるなぁ。
次の回は年内に出そう、そうしよう(ちょっとした決意表明)
ってことで、憤怒の街リターンズ(勝手に命名)の続きです。

>>481>>484>>553
是非参加してくださいなー
ちなみにこのわらしべイベントをやろうと思ったきっかけは、ちょっとした息抜きにぱぱっとかけるものがほしいなぁって思ったからだったり。

>>552
おつかれさまですっ
アーニャちゃんはデレステで初めてプロデュースして、良さが分かった……という話は置いといてww
なかなか根が深そうですなー、アーニャちゃん。
そしてウロボロス………アーニャちゃんの幸せはどこにあるのやら?
あと、訓練を受けたアーニャちゃんを怖がらせるほどの戦力を持った人のいるメイド喫茶ww
そうか、戦うメイド喫茶とはこのことかww
556 : ◆6J9WcYpFe2 :2015/12/14(月) 00:36:45.77 ID:gR7gj4JF0
---憤怒の街について---

憤怒の街とは、憤怒のカースによって起こった事件の舞台になった街のこと。
かつて、この街には多くの人が住んでいたが、事件発生の際、その多くの人がこの街の事件に巻き込まれた。
結果として、街の人口の半数以上が何らかの被害を被ったという。
カース関連での被害の規模では、過去最高の被害を出した最悪の事件とされる。
最終的には、現場に居合わせたヒーロー同盟などの活躍によって、この事件は解決した。
現在はGDFによって、安全の確保のため、街は封鎖されている。
(明日に役立つかもしれない時事 第20号より)

ユウキ注釈:今度手紙を届ける場所(○で囲ってある)


---カースについて---

カースとは、黒い泥のような体をした、正体不明の生物。
泥の中には宝石らしきものがあり、その色によって傾向があるらしい。

ユウキ注釈:はぁとさんと会ったときは獣や人型でしたっ

特に人に乗り移ったカースはカースドヒューマンと呼ばれ、強大な強さを発揮する。
憤怒の街の事件は、このカースドヒューマンのせいではないかとも噂されている。
どちらにせよカースに出会ったときは、ヒーロー達が来るまで逃げるべし。
(明日に役立つかもしれない時事 第8号より)
557 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/12/14(月) 00:37:42.87 ID:gR7gj4JF0
はぁとさんから憤怒の街へ行ける許可がもらえたという話を聞き、

諸々の準備を終えて憤怒の街へ入ることになった当日――

私とはぁとさんは憤怒の街へ続く、GDFの検問所の前にいました。

今は検問所の前で、通行許可の確認を取ってもらってる最中ですっ。

「しかし……なんだか、物々しいですね」

「……はぁともここまで厳重だとは思わなかったなぁ☆」

辺りを見回すと、GDFの人が警戒しているのか、あたりを鋭い目で見ています。

勿論、私達にもそういう目を向けているように見えます。

と思っていると、二人のGDF隊員さんが私達のところへやってきました。

「お待たせしました、さと……シュガーハートさん。ここからはポストマンさんが案内してくれます。」

「よぉ、久しぶりだな」

「なっ!? 案内役ってあんたかよ!? 歳考えろばーか!!♪」

「俺はまだまだ現役だ! お前こそ、そんな年してぶりっ子ぶって何考えてんだばーか!」

「女の心はいつまでもJKなんですよーだ!
あんたみたいに禿げてきたりなんかしないんだぞ☆」

「生憎、俺は現実に生きてるんでな。ハゲと言われるぐらいで目くじらなんかたてんよ!」

……はぁとさん達、いつまでも口喧嘩しそうですっ

と、とりあえず、止めに入りましょうっ

「あ、あの……っ」

「ん……ああ、すまんな。 君がユウキちゃんかな?」

「は、はいっ」

「俺はポストマン。今はGDFの対傭兵用窓口の担当をしている。
ユウキちゃんの話はこいつからいろいろと聞かされている。よろしく頼む、ユウキちゃん」

「はじめましてっ! よろしくお願いしますっ!」

「ははっ、いい子だな。 どこぞの心がJKとかのたまってるやつとは大違いだ」

「はぁとはこれでも必死に生きてるんだぞぉー!!」

「その必死さの方向が違うんだよ! 今時のJKでぶりっ子キャラなんか流行らねぇよ!」

「あ、あのっ!喧嘩はしないでくださいっ!!」

喧嘩するほど仲がいいとは言いますけど、このままじゃ話が進みませんっ!!
558 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/12/14(月) 00:38:28.73 ID:gR7gj4JF0
「さて、ユウキちゃんに怒られちったし、今日の事について話そうか」

「いや、怒られたのあんたのせいだろ☆
ということはともかく、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だろ。 俺がいなくても何とかなる。」

「……ああ……まあ、そういうのならそうなんだろうよ☆」

あの……はぁとさんの上司さんの職場、かなり暇なんでしょうかっ?

「ともかく、今日の俺はユウキちゃんを目的地まで連れて行くエスコート役だ。
さしずめ、姫をシンデレラ城へと連れて行く御者と言う感じか?」

「こんなおっさんの御者なんて、はぁとだったらチェンジって言いたくなるけどなー」

「うるせぇ!」

「あ、あはは……と、とにかく、よろしくお願いしますっ!」

「おう、任せろ! この車の後ろの座席に乗ってくれ」

「分かりましたっ」

そう元気よく返事をして、私は車に乗り込みました。
559 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/12/14(月) 00:39:45.77 ID:gR7gj4JF0
憤怒の街内部、とある道路。

マンホールの蓋を開けて、中から出てくるメガネをかけた女性。

リンは検問の網をかいくぐって、内部に侵入していた。

「これで検問は突破………中で活動しているGDF隊員もいるから気を付けないと………」

すると、左のポケットから声のような音声が鳴る。

『テンっ!(えっへん!)』

「ふふ……ありがと、ハンテーン」

そうつぶやき、右手で携帯端末を取り出し、あたりを見回す。

ここはかつて住宅街であった場所。普段であれば、閑静でありながらも人の営みを感じられる場所であった。

今は無人であり、慌てて逃げた痕跡、何かが暴れた痕跡などはあれど、人がいるような雰囲気ではなかった。

ほとんどの家の窓ガラスは割れ、ひび割れた道路からは草が伸びていた。

中には倒壊している家などもあり、その瓦礫が道路にまで散乱していたりもしていた。

「人がいないと、こうも殺風景な感じになるんだ………。ちょっと、怖いね。」

リンはその街中を歩く。しばらく歩くと、壊れた塀や家などが多くなってくる。

ここでは何か戦闘があったのだろうか?

ふと気づくと、周りには血痕らしきものがいくつも見つかった。

おそらく逃げ遅れた人がここで何人も死んだのだろう。

それに伴って、崩れた塀や砕けたアスファルトなどが特に多かった。

一体何が暴れていたというのか。カースの泥らしき痕跡も見つかっていることから、カースなのか?それとも別の何か?

彼女は足早にその場から立ち去る。私が見たかったものはこれではない、と。
560 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/12/14(月) 00:40:28.44 ID:gR7gj4JF0
そうして踵を返すと、遠くに一人の少女の姿を見た。

「!?」

おかしい。リンは最初にそう思った。

ここは閉鎖されている。リンみたいに不法侵入しているのでなければ、あれはGDFの隊員か何かなのだろう。

だが、それにしては小さすぎる。まるで小学生ぐらいの子供が、通学路を通って家に帰るかのような光景であった。

その少女の影がゆっくりと交差点の角に消える。

すると、リンの右手の端末から音声が聞こえた。

『テンテーン!(あれからカースの反応がするぞ!)』

「カース………あの少女が?」

あの少女がカース………?

それにしては、普通の少女と雰囲気が何ら変わらなかったように思える。

カースドヒューマンなのか、はたまた別の何か?

「―――ちょっと、追ってみようか。 引き続き周りに危険がないか、調べてもらってもいいかな?」

『テーンっ!』

リンは自身の探求心に促されるまま、少女の後を追いかけた。
561 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/12/14(月) 00:41:14.91 ID:gR7gj4JF0
ポストマンさんの車で移動している中、私ははぁとさんに尋ねました。

「ところで、どうして憤怒の街と呼ばれているのでしょうかっ?」

「ああ、その前にユウキちゃんはカース……は知ってるよな?」

「ええっと、確か泥のようなもので形作られた怪物なんですよねっ?」

「そうだ。まあ、そのカースなんだが、実は色々と種類があるってのは知ってるか?」

「え、ええっと………」

私は鞄の中からスクラップブックを出し、ページを開く。

「中にある宝石の色によって、傾向が異なる………ですよねっ?」

「ああまあ、そうだな。厳密には7つあって、それぞれ『高慢』『憤怒』『色欲』『怠惰』『暴食』『強欲』『嫉妬』といった感じで、7つの大罪をモチーフにして名付けられている。」

「何故そう名付けられているのでしょうか?」

私はそれらをスクラップブックに書き加えながら、話を聞きます。

「それはまあ、そのカースの習性というものだな。
例えば『暴食』であればそこら辺の物を食べるし、『嫉妬』であれば妬ましいと恨みながら襲ってくる。
『怠惰』であれば一見やる気なさそうに見えるし、『色欲』であれば誘惑してこようとする。
まあ、要は人間の感情と同じもんだと思えばいい。」

「じゃあ、『憤怒の街』というのは………」

「じゃあ、憤怒の街って………」

「ああ、『憤怒のカース』が大量に発生したからそう呼ばれている。
『憤怒』っていうことだから、怒りに任せて暴れるカースも多い。
その上、力だけなら他のカースよりもはるかに強い。
加えて、カースが発生した場所はその感情にちなんだ感情が伝染しやすくなる。つまり………」

「街の中で、怒りの感情がそこら中にあふれた………?」

「そういうことだな。そしてその感情を元にカースが増える。後はその繰り返しだ。」

「街の人は………大丈夫だったのですかっ?」

「アイドルヒーロー達がその街の病院を守って多くの人を助けたというが………それでも救われなかった人は、いる。」

「………っ」

「………そんな時に、GDFはあんまり役に立てなくてな。助けられた人はいるが、それでもわずかだ。」

そんなポストマンさんの顔を見ると、まるで悔しがっているような感じが見受けられました。
562 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/12/14(月) 00:42:23.02 ID:gR7gj4JF0
「ところでユウキちゃん、その本はなんだ?」

「へっ? あっ、これですかっ? 私のスクラップブックですっ!」

そういって、さっきまで読んでいた本をはぁとさんに見せました。

「へぇ……そのスクラップブック読んでもいいか?」

「いいですよっ!」

そういって、私からスクラップブックを受け取ると、そのページを読み始めました。

「……うーん、憤怒の街については、正直負い目があるかなぁ☆」

「?? 負い目ですか?」

「だって、はぁとがGDFを抜けた後に起こったから、はぁとだけ逃げたような形になっちゃって……。
ちょうどそのころ、はぁとは海外に居たし………。
いや、一人の力で何とかなるもんじゃないってことはわかってるけど、ね☆」

「……そう、なんですか」

「だから、今回のはせめてもの罪滅ぼしなのかなーって思って♪」

「シュガーハートがそんな湿っぽい態度取るとは………まさか、偽物か!?」

「はぁとだって、悪いって思う気持ちはあるんだぞー!!」

「ははは、悪い悪い。だがな、あんまり思いつめるなよ。
いくらお前が強いからって、変えられないものっていうもんはある。それを忘れるな。」

「分かってるよ☆ あ、でもこのカースのところの最後の部分、GDFも忘れるなよ☆」

「あー、そういえばヒーローの事しか書かれてませんねっ。ペンはここにありますので、付け足しておいてくださいっ!」

「ん、了解っと♪ よし、返すぞー☆」

そういって返してもらったスクラップブックの中の1ページには、「GDFも忘れんなよ、こらぁっ☆」と書かれていました。

「GDFは………俺は………いったいどうすればいいんだろうな………」

そう、呟く声。

………実はポストマンさんの方が、思いつめてないでしょうかっ?
563 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/12/14(月) 00:43:43.49 ID:gR7gj4JF0
「ん? ポストマン、あれはなんだ?」

そうはぁとさんが指をさす先には、黒く長い髪の人が見えました。

その人はこちらの姿を見ると………一目散に逃げました。

「あっ、逃げましたっ!」

「なんであんな少女が………とにかく追うぞ!」

「こらぁっ!そこの人、止まりなさーい!!」

「俺らは警察か何かか!!」

私達の車は、その人を追っていきました。

さすがに車の速度と人の走る速度では、車の方が圧倒的に早いわけで、すぐに追いついたわけなのですが………。

「………おい、もう一人増えたぞ」

その逃げた先の道には先ほどの女の人と、もう一人。

可愛い衣装を着た小さい女の子が、一緒に倒れていました。

「って、この子って………」

「………はい。これ、間違いなくあの『ラブリーチカ』ですっ」

その小さい女の子は、私たちが探していた『ラブリーチカ』というフィギュアに似た格好をしていました。

=====================================================================
564 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/12/14(月) 00:45:23.83 ID:gR7gj4JF0
―――憤怒の街の端

その近くに、GDFが憤怒の街への駐屯地として使っている施設があった。

その施設の一角、いわゆる執務室と呼ばれる場所で、二人の男が向かい合って話をしていた。

「………ネズミが何匹か迷い込んだみたいだな。」

そう話す男性は、この『憤怒の街』の後始末を任された上官。

「あのポストマンとかいう奴らのことでしょうかねぇ?」

その向かい側で受け答える男性はその上官に雇われた傭兵。

「ああ、そうだ。」

「上官殿、なんであんな奴らを通したので?」

「上からの命令だ。逆らえん。」

「あ、それじゃあしょうがありませんねぇ。して、目的は何でしょ?」

「おそらくこの前発見された『コラプテッドビークル』の調査だろう。 まったく、厄介なもんだ。」

「ってことは、そろそろ潮時ってやつ?」

「だが、あいつら自身は下っ端の兵士だ。」

「ほーう………どのように?」

「例の場所に近づかずに帰ってくれるならそれでよし。

近づいたなら、危険区域だと言って追い返せばよし。」

「それでも近づいた場合は?」

「………そうだな。上にはコラプテッドビークルにやられたとでも言っておこうか。

一応、戦闘配備をしておけ。 くれぐれも内密にな。」

「へいへい、了解しましたよ、上官殿」

ブラインドの隙間を少し開けて外を見つつ、命令する上官。

彼にはとある目的があった。

(くそっ!いい金になりそうな場所をみすみす渡せるか!!

せめて、あの兵器の開発資金は稼がねばならんのに!!)

彼はGDFの技術士官である。本来であればこんなところで指揮をするような者ではない。

そして、GDFの中でも変わり者として有名な技術士官でもあった。
565 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/12/14(月) 00:46:08.56 ID:gR7gj4JF0
曰く―――

「あいつに銃を預けたら、最高の連射速度と引き換えに全く真っ直ぐ飛ばない銃になって帰ってきた」

「あいつに戦車の改造を任せたら、多脚の戦車になって帰ってきた」

「あいつに予算を渡したら、巨大な人型ロボットを作ろうと計画していた」

そんな曰く付きの技術士官であるが、一部の宇宙管理局の者ですら目を引くような技術力を持っているため、扱いに困っていた。

だが、GDFには彼をこの街の任務に就かせなくてはならない理由もあった。

それは――何とも情けない話だが――憤怒の街に行きたがるGDF士官があまりいなかったのである。

最初は志願者もいたのだが、コラプテッドビークルの報告を聞いて一歩引く士官が相次いだのだ。

だが変わり者はいるもので、彼は憤怒の街の監視任務に志願。

危険手当などの報酬をギリギリまで釣り上げて、この監視任務についた。

だが、どうやら彼にとってはつまらない任務よりも、お金が稼げる物が憤怒の街にはあったらしい………。

(あの場所は………絶対に渡さん!!)

彼は憤怒の街の―――とある場所をにらみ続けていた。

=====================================================================
566 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/12/14(月) 00:48:02.03 ID:gR7gj4JF0
ここは憤怒の街。

一人の怒りの感情の末、多くの犠牲を払った嘆きの街。

その怒りは消えたか、あるいはまだ燻っているか。

怒りの主はただ、暮れゆく街と人をみて、不敵に笑みを浮かべる。


―――それぞれの思惑が、再びこの街で交差する。
567 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2015/12/14(月) 00:54:56.26 ID:gR7gj4JF0
てな感じで、To be continued...
前話に引き続いて、凛と千佳ちゃんをお借りしております。
でもって、最後のキャラもちょっとお借りしてます。(誰かはわかるかな?)

で………投稿する過程で(わかる範囲で)2つほどミスを犯しちゃいました。
・sage忘れ
・凛が街に侵入した際の話に移る際に区切り忘れたこと。

本当に申し訳ないです。(特にsage忘れ)
拙い自分ですけれど、どうかこれからもよろしくお願いしますorz
568 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/12/14(月) 21:54:47.05 ID:1ZDKKxqf0
おつおつ、このあとが楽しみでも有り不安でもある

投稿に限ればsagaはともかく、sageは忘れても大丈夫よ、更新がわかるし
569 :まりも [ken.shige1226@ezweb.ne.jp]:2015/12/15(火) 20:58:11.56 ID:XfzrTOy+O
最近スレの進行が遅くなってますよね

570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/21(月) 22:32:30.91 ID:eySw0Tzh0
随分久々に投下するなあオイ
時系列は学園祭三日目、ピィと千枝ちゃんが出かけるよりわりと前

いつもと投下方法が異なるのでちょっと手間取るかも
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/12/21(月) 22:34:08.65 ID:eySw0Tzh0
マリナ「やっぱり、不安なのよね」

アパート◯◯の一室で、マリナが不意に口を開く。

若神P「不安って……みりあちゃんの事ですか?」

マリナ「そうよ、全くあなたがついていながら……」

マリナはねっとりとした口調で若神Pをなじりながら、手頃な雑誌を丸めてそれで彼の頭をポコポコ叩いた。

若神P「す、すみません……」

事は、学園祭初日。

色欲のカースドヒューマンに、みりあが攫われてしまった件だ。

あの時はマキノ、そして春菜の協力で無事に救出出来たが……。

マリナ「念のため今日は外出させなかったけど、いつもそういうわけにはいかないじゃない?」

若神P「そう、ですね……」
572 : ◆EXIbvjkLq8iw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:35:46.35 ID:eySw0Tzh0
そこで会話が途切れ、2人は既に眠りについているみりあを眺める。

みりあ「……すぅ……ぇへへ…………」

よほど楽しい夢を見ているのであろう、幸せそうな寝顔だ。

若神P「天使」

マリナ「ホントよ。で、話を戻すけれど。あたしがいない間どこかでみりあちゃんを預かってもらえないかなって思ったのよ」

若神P「そうですね。僕が四六時中一緒にいるわけにも……」

若神P(まあ、正直『先代』さんがいる限りここが安全だと思うけどね)

シャイターン……依田芳乃。

彼女に保護を頼めば、まあ間違いなくみりあの身は安心だろう。

だが……

若神P(表向きはただの管理人さん、頼めるわけもないよね)

マリナ「そこで、ある所にお願いしようと思ってるの」

若神P「ある所? どこですか?」

マリナはにっこりと笑みを浮かべ、その名を口にした。

マリナ「能力者支援団体『プロダクション』よ」

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573 :@何か酉がおかしい ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:37:41.84 ID:eySw0Tzh0
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翌朝、プロダクション。

マリナ「ここがプロダクションね……お邪魔しまーす」

マリナ達がプロダクション施設内に入ると、すぐそこに白衣の少女が立っていた。

晶葉「よし、早速起動テストを……む? 客人か?」

マリナ「え、ええ。昨日連絡を入れた沢田という者だけど……」

晶葉「そうか、ならピィかちひろだろうな。よし、この天才発明少女池袋晶葉が案内してやろう」

晶葉は自慢げに胸を張った。

若神P「いいの? 何か始めるみたいだったけど……」

晶葉「お、気になるか? 気になるだろう? これこそ私が造り出した傑作、その名も……」
574 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:38:43.23 ID:eySw0Tzh0
美玲「あれっ、晶葉。その人達何だ?」

晶葉の演説めいた言葉を、ひょっこり現れたフードと眼帯の少女が遮った。

晶葉「おっと、本題を忘れる所だった。すまんな美玲、どうやらピィかちひろに客人らしい」

みりあ「赤城みりあです、こんにちはー!」

美玲「お、おう! 元気だな、ウチは美玲だ!」

みりあにあいさつを返した美玲は、思い出したように晶葉の方を向く。

美玲「……って、ピィはさっきお客に会ってたぞ?」

晶葉「何? あのピィがダブルブッキングなんてヘマをするとは思えないが……」

晶葉が怪訝そうな顔で顎に手を当てた、ちょうどその時。
575 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:39:51.43 ID:eySw0Tzh0

「 そ ぉ ー な ん で す っ ! ! ! 是 非 、 ア コ ち ゃ ん を 探 し て ほ し い ん で す っ ! ! ! ! 」


若神P「うわっ!?」

地を割らんばかりの大声が、プロダクションを物理的に震撼させた。

マリナ「な、何今の……?」

美玲「応接室の方だな……行ってくる!」

晶葉「あ、おい待て美玲!」

返事を聞く前に美玲が駆け出し、晶葉達も急いでそれに続いた。

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576 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:40:37.55 ID:eySw0Tzh0
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応接室。

ピィ「〜ッ……」

ちひろ「ぅ……」

苦悶の表情で耳を抑えるピィとちひろ。

目の前には、事態を理解していない笑顔で座り続ける少女。

ピィ「え、えーと……日野茜さん、だったね? アコちゃんっていうのは……?」

茜「はいっ!! お友達ですっっ!!!」

ピィ「…………ッ!!」

ちひろ「はぐっ……!?」

茜が口を開くと、爆発音にも似た大声が応接室に響き渡った。

ピィ「な、なるほど……それで、アポも無くウチに突入してきたと……」

茜「アポって何ですか!? あっ!! リンゴ! リンゴですか!?!?」

ちひろ「そ、それはApple……ぐふっ」

ついにちひろが倒れた。

ピィ「ちっ、ちひろさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

茜「大丈夫ですか!? 病気ですか!? それともお腹が空いたんですかぁっ!!?!?」

ピィ「君は一度口を閉じよう! マジで!」
577 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:41:31.55 ID:eySw0Tzh0
茜に負けじとピィが声を荒げたその時。

美玲「どうしたっ、ピィ! 何かあったのか!?」

マリナ「ずいぶん大声だったわね……まさかあの子の声?」

みりあ「あーっ! あそこ、誰か倒れてるよ!」

美玲達が次々応接室になだれ込んで来た。

ピィ「美玲! 晶葉! ……その人達は?」

晶葉「沢田さんだ。昨日連絡したらしいが……」

マリナ「ど、どうも……お取り込み中?」

晶葉に紹介され、マリナが軽く会釈する。

ピィ「あ、あぁー。どうも、昨日お電話預かりましたピィと申します」

若神P「…………」

マリナ「あら、どうしたの若神Pくん?」

ふと、若神Pが応接室の外をジッと見つめている事にマリナが気付いた。

若神P「マリナさんすいません、僕ちょっと向こう行ってきます」

言うが早いか、若神Pは早足でその場を去っていった。
578 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:42:47.80 ID:eySw0Tzh0
マリナ「迷子になっちゃダメよー? ……さて、これはどういう状況かしら?」

晶葉「その前にちひろだ。よく分からんがとりあえず診察ロボを……」

みりあ「あっ、みりあがやーる! みりあがやーる!」

みりあが元気良く手を振って晶葉の言葉を遮った。

そして倒れているちひろの前に立ち、ゆっくりとしゃがみこむ。

ピィ「……あの、何を?」

マリナ「まあ見てて」

みりあ「……《チュウ》ッ」

みりあがちひろに向けて投げキッスのようなポーズを取ると、口元に『注』と書かれた方陣が現れた。

方陣から流れ出る光の粒子がちひろを取り囲むと、程なくしてちひろが立ち上がる。
579 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:44:11.87 ID:eySw0Tzh0
ちひろ「うう、ひどい目にあった……」

美玲「おお!? ちひろが起きたぞ!」

ピィ「治癒能力、ですか?」

マリナ「それ一辺倒じゃないけどね。じゃ、早速で悪いんだけど……」

ピィ「ああ、そうですね」

ピィがマリナに向かって頷き、茜の方に向き直った。

ピィ「悪いけど、こっちの人達は昨日会うと約束してた人達なんだ。こっちを先にさせてもらっていいかな?」

茜「そうだったんですね! 分かりました! じゃあ別の場所で待ってます!!」

茜は元気良く立ち上がり、部屋を出て行った。

ピィ「ふう……すみません、お待たせしました」

マリナ「今の子は……飛入りだったの?」

ピィ「ええ、そんな所です。さ、お掛けください」

ピィに促され、マリナとみりあがソファに腰掛ける。

ピィ「では、改めてお話をお伺いします……」

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580 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:45:30.09 ID:eySw0Tzh0
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プロダクションの通路を、やたらキョロキョロしながら突き進む若神P。

若神P「確かにこっちの方からだよね……この『気配』……」

気配を頼りに『何か』を探しながら、やがてある部屋の前に立った。

コンコン、と軽くノックする。

??「はーい、どうぞー」

部屋の中からの底抜けに明るい声を聞き、若神Pはドアを開けて中に入る。

未央「いらっしゃー……」

沙理奈「あら、どちらさ……」

中にいたのは、本田未央と松本沙理奈。

2人とも若神Pの顔を見るなり硬直した。

若神P「……何してんのさ、ラファエル。それにアスモダイまで……」

未央「……こっちの台詞だよ、若」

沙理奈「は、ハァイ若。何かご用?」

若神P「ちょっとね。まさか熾天使と大罪の悪魔が仲良く煎餅食べながらリバーシで遊んでるとは……」

呆れた様子で2人の手元を見やる若神P。

白の未央側がだいぶ劣勢なようだ。
581 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:46:23.30 ID:eySw0Tzh0
未央「いやー、もう3連敗中でさー」

沙理奈「1回勝負のハズだったのに、ずいぶん食い下がってきてね。って、それよりも」

未央「あぁあー!?」

投じた一石で未央の白石を全滅させ、沙理奈は表情を引き締めた。

沙理奈「あんた、『ヤツ』は見つけたの? 確かそれの為に降りて来たんでしょ?」

若神P「……見つけてたらもう地上にいないよ」

未央「ちょっ、それってまずくない?」

若神P「分かってるよそれくらい……」

若神Pはギッと歯を食いしばって俯いた。

沙理奈「まあ、そう簡単に見つかれば苦労は無いわよね」

未央「でも『ヤツ』を野放しにしたら何が起こるか……」
582 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:47:20.09 ID:eySw0Tzh0
茜「お邪魔しまぁーっす!!!」

部屋のドアが勢い良く開け放たれ、茜が弾丸のように飛び込んできた。

未央「うぉわぁっ!?」

若神P「あ、さっきの……」

茜「はい!! 日野茜です!! お話が終わるまで別の場所で待っているように言われました!!!」

茜は大音量で自己紹介し、経緯を説明する。

未央「あ、茜ちゃんね……本田未央ですっ、よろしくね」

沙理奈「松本沙理奈よ、よろしく」

若神P「(2人はそう名乗ってるんだ…)あ、僕は若神P。まあ、僕もプロダクションに来るのは今日が初めてなんだけどね」

茜「よろしくお願いしますっ!!」

3人の自己紹介を受け、茜は勢い良く頭を下げた。

若神P「……ところで、茜ちゃんはここに何の用だったの? 確か、アコちゃん? がどうとか……」

茜「聞いてくれるんですか! ありがとうございます!! 実は……」
583 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:49:00.61 ID:eySw0Tzh0
茜の話をまとめると。

茜にはアコという友人がいる。

彼女は妖精界の秘宝というものを探していて、茜はそれを手伝っている。

しかしある日、突然アコが姿を消し、連絡も取れなくなった。

聞けばアコが姿を消したのは、あの忌まわしい大事件の当日だった……。

未央「GDFが戦略兵器で街ごとカースの群れを焼き払った日かー……」

未央が顎に手を当て唸る一方、

沙理奈(私その時地上にいなかったから知らないのよねー……)

若神P(僕その時地上にいなかったから以下略……)

2人はそんな事を考えながら、未央と同じ様に手を顎に当てていた。

未央「もしあの爆発に巻き込まれてたらまず助からないよねー……」

茜「で、でも! 私はアコちゃんが生きてるって信じたいんです!!」
584 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:50:04.81 ID:eySw0Tzh0
未央「うん、私も信じるよ、日野っち!」

未央が明るい笑顔で茜の肩を叩く。

茜「おお!! ……日野っち、ですか?」

未央「そう、アダ名! んー……茜ちん、の方がいいかな? どっちかなー……」

沙理奈「いや、どっちでもいいでしょ」

未央「それもそうだね。とにかく茜ちん! アコちゃんの事は私からピィさんに伝えとくよ!」

茜「おお!! ありがとうございます未央ちゃん!!」

感激した茜は力一杯未央に抱きついた。

未央「ぐえぇ……日野っちブリーカー……ちゃんみお幻人が全滅してしまう……」

若神P「……あ、そうそう。気付いてる?」

若神Pがそっと沙理奈に耳打ちする。

沙理奈「何が?」

若神P「今この街に、『先代』が来てる事」

沙理奈「せっ……!? し、シャイターンが来てるの……?」

若神P「うん、僕が暮らしてるアパートの管理人さん」

沙理奈「うわー、会いたくなーい。私あの人苦手なのよね、マジメすぎて」

茜の熱すぎる抱擁を受け続ける未央をよそに、2人ヒソヒソと話を続けていた。

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585 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:51:22.65 ID:eySw0Tzh0
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一方、プロダクションの一室。

ピィ「では、マリナさんが一緒にいられない時のみりあちゃんは、我々が責任をもってお預かりします」

マリナ「ありがとう、よろしくお願いするわ」

2人はそこで言葉を切り、みりあの方へ目を向ける。

薫「わー! すごいすごーい!」

メアリー「ヘンシンするなんて、やるワネ!」

千枝「とっても可愛いお洋服ですね」

みりあ「えへへー!」

みりあは歳の近い子達とすっかり仲良くなっていた。

マリナ「……楽園かしらね」

ピィ「楽園と書いてエデンですね」

2人が固い握手を交わした瞬間、部屋の戸が開いた。
586 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:52:34.18 ID:eySw0Tzh0
藍子「へえ、茜ちゃんって言うんだ。よろしくね」

茜「はい!! よろしくお願いします藍子ちゃん!!」

未央と藍子が、茜を連れて入ってきた。

ピィ「お、未央に藍子」

未央「ピィさんピィさん、カクカクシカジカハシレミツボシ……」

ピィ「ふんふん、コレコレウマウマアイコマジテンシ……なるほど、そういう事か。分かった、おーい茜ちゃんや」

未央から事情を聞いたピィが、茜に呼びかける。

茜「はいっ!! 何でしょう!!」

ピィ「事情は分かった。アコちゃんの情報が入ったら報せるから、今後も気軽に遊びに来てくれ」

そこで一度言葉を切り、未央と藍子の方へ視線を移す。
587 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:53:30.28 ID:eySw0Tzh0
ピィ「仲の良い子も出来たみたいだしね」

茜「はい!! ありがとうございますピィさん!!!」

感極まった茜は、ピィに向かってまるでラグビーのタックルのような弾丸めいたハグを繰り出した。

ピィ「ごばぁっ!!?」

勢いのまま宙を舞うピィの体は、偶然にも全開だった窓をすり抜け、建物の外へと放り出されていく。

ピィ「ぁぃこぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

藍子「ピィさぁぁぁぁん!?」

その後ピィは落下寸前のところでアビストラトスに変身したマリナに助けられ、

マリナがウェンディ族である事と現在の海底都市の事情をほぼ知らない事が、プロダクション全員に知られる事となった。

続く
588 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2015/12/21(月) 22:56:27.99 ID:eySw0Tzh0
○イベント情報追加
マリナ、みりあ、若神P、茜がプロダクションに出入りするようになりました(マリナはみりあの迎えのみなのであまり長居しない)

プロダクションがアコの情報について集め出しました

以上です
主にポジパを揃えたかったの巻
古賀家は4日目以降に予定変更って事で…
晶葉、美玲、ピィ、ちひろ、茜、未央、沙理奈、薫、メアリー、千枝、藍子、名前だけ亜子お借りしました
589 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2015/12/22(火) 02:42:46.27 ID:qVJFbF4S0
おつでしてーポジパそろった!やったぜ!!!
こうして改めて思うけどプロダクションメンバーの安心感よ(ロリ楽園と絶対的保護者的な意味も含む)
590 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2015/12/22(火) 19:26:38.34 ID:HVr3/TyWo
>>567
おっ、とうとう憤怒の街アフターですな
不穏なフラグがちらほらと立ってて、今後の進展が気になる所

>>588
ロリっ娘が増えるよ! やったねピィ君!
そしてポジパも勢揃い、これはやかまs――、賑やかになるな!


お二人共おつッス
591 : ◆OJ5hxfM1Hu2U [sage saga]:2015/12/28(月) 19:07:04.74 ID:z0LTZyCH0
大変ご無沙汰しております
仕事納めの皆さん、そうでない皆さん、お疲れ様です
明日が誕生日の真鍋いつきちゃんで近々なんかやります
それから、次回の投稿から酉が◆PupFZ5BZvyzZに変わります
これは特に深い理由はないが、処理は適切に行われているので安心できると思う
592 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:27:23.93 ID:Ah1rtJBzo
あけましておめでとうございます(超遅)

>>567憤怒の街編は終わっても、伏線が多く残されていたりして続きが気になりますね

>>588『プロダクション』に新たなメンバー
ヒャッハー、ロリが増えたぞー!

さて中編書き上げてから挨拶しようとしたら、1月も半月過ぎてました。
今年中(2015年)に書き上げるやでー

しょ、正月中に書き上げなくちゃ(願望)

もうむーりぃー(白目)

思うようにいかず満足いかないクオリティですがアーニャ中編投下します。

序編>>486『おおおおおオイラハ、ピィイイイイ、イイイ!!!』
593 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:29:01.14 ID:Ah1rtJBzo
「アー……」

 全てにおいて合点がいく。
 腑に落ちるとはこのことかと感じてしまうほどに。

 ずっと一緒であったことを。目の前の少女が、自身であることを。

「Нет(いや)」

 だが、目の前の少女は否定する。
 同一であることを拒否し、憐憫と失望の視線でアーニャを見下ろす。

「確かに、私(あなた)にとってワタシはアナスタシアかもしれない。

だけど、ワタシにとって『あなた』はアナスタシアでは、ないわ」

「……シトー?どういうこと、ですか?」

 月光は等しく二人のアナスタシアを照らす。
 だがその影は一つしか形を成さない。
594 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:29:53.00 ID:Ah1rtJBzo

「ワタシは『願い』なの。

はじまりにして、そもそもの形。ずっと抑圧されてきた心。

争いなんてワタシは嫌だった。特殊部隊みたいな血なまぐさい環境はワタシには耐えられなかった。

だから、押しつけたの。あなたによ。アーニャ」

「押しつけ、た?」

 言われて、アーニャは思い返す。
 物心ついた時から、自分は特殊能力部隊で訓練を積んできた。

 人殺しの術から、戦術技術、基本的な教養なども学んできた。

 その過程は決して楽なものではなかった。
 訓練は到底普通の子供には耐えられないようなものであったし、誰もが歩調を合わせてくれるような生易しいものではない。
 誰か一人倒れれば、次の日にはその倒れた者はどこかに消える。

 おいて行かれれば、それは終わり。
 振り向けば闇ともいえるような環境であったのだ。

「あ……れ?いつから?

カグダー……?いつから、私は、私でした?」
595 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:30:40.38 ID:Ah1rtJBzo

 その中で、アーニャは思い返す。『思い返せない』ことを思い返す。
 自分のルーツなど、誰だって知りようがない。
 記憶を探れど、どんな人間でももっとも古い記憶が自我の芽生えの時と言うわけではないのだ。

 アーニャが日本にいたころなど、まだ生まれたての赤子のころだ。
 その頃の記憶がないことはふつうである。

 だが、ある点を境に思い出せないのだ。
 5歳の冬、自らの手の中で冷たく横たわる子犬の死体。
 命令されたのは、子犬を殺すこと。死に触れさせるということ。人殺しに慣れさせるという名目で行われた『普通の訓練』。

「それ以前は……何がありましたっけ?」

 自分が思い出せる最後の記憶。5歳頃の記憶など、明確に覚えていない者など普通にいるだろう。
 だが、それが最後の記憶と言うのは、あまりにも遅くないだろうか?

「その日は、ワタシが壊れた日。

そして、あなたの誕生日。9月16日。奇しくも同じ誕生日ね」

 本来ならば祝われるはずの日。偶然か否か、その日少女の心は死に、新たな心が乖離した日であった。

「あなたは都合よく改変しているみたいだけど、あの日あの訓練を受けたのはワタシだけ。

辛抱強く血なまぐさい訓練を拒否するワタシに対して、隊長が行ったことよ」

 思えば、その頃から『隊長』はアーニャに肩入れしていたのだ。
 本来であれば、アーニャは拒否をできる立場では無かった。そんなことをすれば即刻処分か、研究対象となって使い捨てられただろう。
 だがそうならないように、影で隊長は便宜を図っていたのだ。
596 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:31:29.04 ID:Ah1rtJBzo

 それでも庇うのにも限界は来る。そうしてとった最終手段が『殺し』を強制的にでも覚えさせることだった。

「そう。隊長にしてみれば、アナスタシアを殺したくない苦肉の策だったんでしょうけど、結果として私は自殺した。

そして特殊部隊と言う環境に適応できる『あなた』と言う人格が生まれた。ある意味、『隊長』があなたの父親なのかもね」

「ヤー……私が、その時生まれた?隊長が……父親?」

 自らの存在意義さえ揺るがしかねない事実の奔流。
 自分が目の前の自分自身の代理でしかなかった事実は、アーニャの思考では簡単に処理しきれない。

 だが、『アナスタシア』はそんなことを意にも介さず話を続ける。

「だけど、ワタシは死ななかった。たしかに壊れたの。

でも戻ったの。何事もなかったかのように、意識の奥底で、私は『復活』した。

そんな意識の奥底、抑圧された心の最奥で、私は見たの」


「……見た?」


「蛇……いや、『龍』を」


 アーニャの記憶がフラッシュバックする。
 なぜ忘れていたのかと思うほどの、鮮烈な記憶。
 つい先日義手の女と戦った日に見た白昼夢、膨大な白蛇の濁流を。
597 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:32:22.79 ID:Ah1rtJBzo

「あなたは……あの時の」

「Да(ええ)、やっと思い出したのね。夢は記憶の断片を再生したもの。

あの情景は、ワタシのものよ」

「あなたが……港を壊したのですか?」

 あの日、アーニャが暴走した原因。あの港を全壊させたのは、目の前の自分が引き起こしたことであるとアーニャは理解する。
 アーニャは眼の前の『アナスタシア』を睨み付けるが、当の本人は呆れたような顔をする。

「あの時も言ったけど、私は力を貸しただけ。

それを制御できなかったのは、あなたの方よ」

「わ、私は、壊すつもり、ありません、でした!

私は……あんなこと……」

 向かいの自身が言っていることはアーニャには理解できていなかった。
 だが責任は自身にあると糾弾されていることだけは理解し、それを否定する。

 『アナスタシア』はそんなアーニャを相も変わらず呆れたような眼で見ている。

「アナタは、自動車事故の責任って誰に有るか知ってる?」
598 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:33:31.32 ID:Ah1rtJBzo

「……と、突然なん、ですか?」

「自動車事故の責任は、どんなに歩行者の飛び出しとかが原因でも、自動車を運転していた側にも責任が生じる。

不条理にも感じるけれど、当たり前の事実。

つまり手綱を握る者には、相応の責任が伴うの。

アナタは、制御できなかった。ワタシのことを、理解できなかった。

だからこそ、あの結果なのよ」

「そんな……私は、私のせいじゃあ……」

 頭で解っていても、認めにくいことは常日頃多くある。
 たとえ理性で自分に責任があることを理解していても、それを認めることは容易ではない。

「だから、あの姿だったの。『ウロボロス』はあんな姿じゃないから。

それは、ワタシを理解できなかったということ」

 アーニャが暴走した時に象った竜の鎧。
 結晶の鱗は、まさに禍々しい竜と言う姿ではあったが、本質とはかけ離れていた。

 アーニャの連想した『竜』は両翼に鋭い尾を持つ怪物だ。
 だが、本質は『龍』であり、『蛇』なのだ。
599 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:34:14.53 ID:Ah1rtJBzo

「別に、理解してもらう必要もなかったのだけれど。

結局、あれが最後のチャンスだったわけだし」

「最後の……チャンス、ですか?」

「そう、ワタシは、もうアナタには期待できないの。

未だに戦いに固執するアナタが、変わることを期待はしていない。

もう、見限ったのよ」

 故に、姿を現した。
 心の奥底で息をひそめていた怪物は、待つことを諦め這い出てきた。

「話を戻すけど、ワタシはあの日自殺した。

だけどワタシは死ねなかった。しばらくした後に逆再生するかのように意識が復元されていった。

そして見たの。そもそもの始まりで、事の発端。

復活の龍、円環の蛇、『ウロボロス』を、ワタシの奥底で」

「うろ……ぼろす」
600 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:35:07.40 ID:Ah1rtJBzo

「別にアナタの力は、神サマが祝福して与えたものじゃないの。

偶然か何かでワタシに引っ付いていた『ウロボロス』を封印した際の副産物。

封印でも『ウロボロス』の大きな力は封じ込めきれず、その封印を介すことによって変質したもの。

それがずっと使ってきた力の正体。『復活』の天聖気」

 これまでなんとなく使ってきた力。
 あるのが当たり前で、あるからこそ自分が今も生きているともいえる力。

 その源泉、『ウロボロス』の存在を伝えられるが、アーニャには今一つ遠い話で、理解が追いつかない。

「ワタシはずっと、『ウロボロス』の力で死ぬことさえ許されなかった。

アナタの中で、アナタがワタシにとって耐えられないような残酷なことをするたびにワタシは身が張り裂け、そして復活した。

それでも、感謝していたの。アナタには。ワタシのが投げ出したことをずっとしてもらっていたから。

だから、少し時間はかかったけど『ウロボロス』の力を制御できるようになったわ。

これで、アナタにすべてを投げ出したワタシが、アナタの手助けができるようになったから」

「てだ……すけ、ですか?

そんなこと……これまでに」
601 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:36:05.95 ID:Ah1rtJBzo

「そう。気付いてないのね。

まぁ……悟られないようにしていたし、仕方ないのだけれど……複雑なものね。

ずっと、手助けしてきたわ。『ウロボロス』の力を制御して、外で戦うあなたを。

どんな困難な戦いでも、無事でいられるように。

そしてずっと見守って、ようやくこの境遇から解放される時が来た」

「あの……極東の、孤島」

 事の始まり。
 部隊を離れるきっかけとなった、敵性組織の根城の廃工場があった島。

 アーニャにとっては随分と昔にすら思えてしまうあの日、今でもあの嵐の空を思い返すことができた。

「そうよ。あの日、偶然にもアナタは爆発に巻き込まれて海に投げ出された。

ワタシはいつものように傷を負ったアナタを治癒しながら、気が付いたの。

『このまま、この特殊能力部隊から逃げられるんじゃないか』って」

 もともとこの部隊は脱走など許されない。
 お互いがお互いを監視し、誰も裏切らないように常に見張ってるのだ。
602 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:37:08.22 ID:Ah1rtJBzo

 当然当時のアーニャもそうであった。部隊に裏切る素振りなんてない。反抗の意志さえない『駒』の一つ。
 だが、アーニャの中にいた『アナスタシア』はその限りではない。
 常に部隊の残酷な仕事に心を痛め、それでも目をそらさず『外』で戦うアーニャを手助けしてきた。

 この狂った境遇からいつか抜け出すため。いつの日にか夢見た、誰もが当たり前に享受できる安寧を手に入れるために。
 そしてその意思は、『外』には決して漏れないため、誰にも怪しまれることはなかった。

 そうして数年かけてようやく廻ってきたチャンス。
 『脱走』は不可能。ならば、部隊から解放されるには『死』ねばいいのだ。


「あの嵐の海に投げ出されて、生きていられるとはふつう思わないでしょう?

そう、普通なら死ぬ。いくらアナタが『不死身』の能力者だからと言っても無事に陸に打ち上げられる確率なんてほぼゼロ。

だけどアナタはここに居る。

偶然にも『あの嵐の海を沈むことなく流れていき』、

偶然にも『能力で死ぬことのないアナタの意識が海中で復活することなく』

偶然にも『生まれ故郷である日本の港にたどり着く』

ここまで言えば、鈍いアナタでもわかるでしょう?」


「……あなたが、意図して、日本まで到達させた?」


  
603 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:38:13.73 ID:Ah1rtJBzo

 すべての物事に因果がある。
 そもそもの始まりにして、偶然ができすぎていたのだ。

 地球上の地表の70%を海は占めている。
 そんな中で、嵐の海に投げ出され意識のないまま無事に陸までたどり着ける確率がどれほどのものだろう。
 その確率を超えて陸地にたどり着いたとしても、自らの生まれ故郷である日本にたどり着くということを運命の悪戯で済ませることができるだろうか。

「Да(そのとおり)

天聖気は物理的なエネルギーに変換できることは知っているでしょう?

アナタが意識のない間も、ワタシが天聖気の放出で舵を取って、『ウロボロス』を頼りにたどり着いた。

ワタシの故郷(プラットノーヴェ グーラトゥ)に」

 彼女の願いの成就は近い。
 このまま部隊からの追っても無く、この国で平和に過ごすことをどれだけ夢見たことか。
 もう流血も、死骸もいらない。

 誰かが傷つくのも、自分が傷つけられるのも限界だった。

「だけど、ワタシの願いはかなわなかった」
604 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:39:50.81 ID:Ah1rtJBzo

 そこからは語るに及ばず。
 部隊から解放されたはずなのにアーニャは戦うことをやめなかった。
 町の人を守りたいなどという、自ら戦いに赴く願いを手に、なおも『アナスタシア』の悪夢は続く。

 『隊長』が直接赴いてきた後でさえも、気が付いたのは価値観のズレだけだ。
 アーニャは自らの戦いを捨てることはできなかった。

「ああ、そうだ。ワタシはずっと押し付けてきた。

いまさら自分が主人格として返り咲くつもりもなかったし、そのまま緩やかに消えていけたらとさえ思っていたの。

それがどう?『みんなを守る』?『ヒーロー』?

信念も何もない、あるのは捨てられない過去への執着と、自己の存在証明のための解決手段としてのそれ。

それの何がヒーローよ……自分の願いさえ汲み取れない愚か者だというのに」

 始まりこそ願いであった。
 だがそれが外界に触れずに、何年も強大な力に侵されれば、本質さえも歪める。

 彼女の願いは彼女自身のあり方を決して許せなかった。

「せっかく手にした平穏を、自ら捨てる私(アナタ)が嫌い。

ママの思いさえ理解できず、いまだに自分を傷つけ続ける私(アナタ)が嫌い。

過去の経験を捨てることができず、戦闘技術を振るい続ける私(アナタ)が嫌い。

たった今でさえも、何一つ自分の愚かな執着が理解できていない私(アナタ)が嫌い。

嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌いキライキライキライキライキライキライ!

でも我慢した。ワタシが押し付けたから。ワタシの責任で私がこうなったのだからって。

我慢我慢我慢我慢我慢我慢ガマンガマンガマンガマン!!!」
605 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:41:18.43 ID:Ah1rtJBzo

 顔を押さえ、自らが発する感情を封じ込めようと表情を歪ませる。
 だが指の間から覗く赤い瞳はギロリと目の前のアーニャを見下ろす。

「……ア……ああ」

 その瞬間、身が竦む。
 蛇に睨まれた蛙のような、格の違う威圧感。

 辛いことを、ずっと自分に押し付けてきた弱い人格。
 それが今、目の前に表出しているというのに、それが耐えがたく理解できず、たまらなく恐ろしい。

 人間は理解できないものに恐怖する。
 数年来気づかぬところで寄り添ってきた心は、すでに怪物と化していた。

「だけど、もう終わり。

ずっと、いつか分かってくれると、こんなひどいことはやめて、普通の暮らしをしてくれると思ってたけど、もういい。

アナタは、結局ワタシを理解できなかった。

ワタシはアナタを見限った。

もうアナタは、いらない。不要なものは、脱皮(ぬ)ぎすてればいいのよ」

「脱ぎ……捨てる?

アナタは……いったい?」

 狂気に駆られていた『アナスタシア』は急に静まり返り、まっすぐ直立しながらアーニャを見下ろす。
 月光は彼女の背を照らし、赤く光るその瞳以外は影に落ちる。
606 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:42:21.98 ID:Ah1rtJBzo

 そもそも、疑問はまだあった。
 なぜ、今になって目の前に姿を現したのか?
 これから一体、何をする気なのか?
 アーニャには、目の前の『自分』が何を考えているのかさっぱりわからない。

「この世界は、嫌いなものが多すぎるわ。

なんて暴力的で、なんて救いようがないのか。

全部、やり直さなきゃ。ワタシが望んだ『願い』のカタチに」

 翼が、広がる。
 半透明で、羽毛のような、鱗のような純白の双翼。
 『ウロボロス』は覚醒する。

「やり直しましょう。こんな世界は間違っている。

ママが死んだことも、パパが死んだことも、故郷が滅んだことも全部。

『ウロボロス』には、それが可能なんだから」

「やり直す……って、どう……いう?」

 『アナスタシア』の言葉を聞いて、アーニャはその意味を問いただす。
 だが、ただでさえ疲労していた意識は、ここにきて急激に落ちていく。

「さようなら、私。

今までありがとう。結局好きにはなれなかったけど。

いらないものは、全部アナタにおいていくわ。

中身のないアナタは、消え行くだけだけど、せめてワタシのすることだけ見届けなさい。

ずっとワタシがしてきたように、今度はアナタが」
607 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:42:55.88 ID:Ah1rtJBzo

「ま……って……く……」

 『アナスタシア』のその言葉を最後に、アーニャの意識は途切れる。
 その場に倒れ込んだアーニャを見下ろしながら『アナスタシア』は小さく嗤う。

「待ってて。全部、叶えるから」

 『アナスタシア』は月を見上げながら、誰ともなく誓う。
 その龍の翼は崩れ落ちると同時に復活し続ける悠久の存在。
 幻想的な輝きを持つと同時に、どこか破滅的である。

 滅びの三竜が一体。伽藍堂の願望機。最新の災厄。無限の大地。円環の龍。

 ウロボロスは世界を終わらせるべく動き始めた。


***



  
608 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:44:14.05 ID:Ah1rtJBzo

 エトランゼの朝は早い。
 開店時間は午前10時からであり、事前の開店準備も含めれば9時前から準備しなければ間に合わない。

 メイド喫茶だとは言っても、客に提供する者には妥協はしない。
 サービスも料理もちゃんとしてこそ一流のメイドであるとは、メイド長でもあるチーフの言葉である。

 ゆえに、開店時間前から居座っている、風体が不審者である者に対しても、相応の接客が求められるのだ。

「と言うわけで、みく。逝ってこい」

「またこんな役割かにゃあ!?」

 まだ、時間は午前10時過ぎから5分も経っていない状況。
 開店前から店先に立っていた男は、店内の一席に案内されたのち腕を組んだまま沈黙している。

「だって、あの人絶対普通じゃないにゃ!

メイド喫茶になんて縁もないような感じだにゃあ!

あの筋肉、あの表情、あの眼光、絶対一般人じゃないにゃあ!!!」

「ええい、だだをこねるな!ただ注文取ればいいだけだ!殺されたりはしない!多分!」

「多分って何にゃ!嫌にゃ嫌にゃしーにーたーくーなーい!!!」

「給料上乗せてしてやるし、死んだら骨は拾ってあげるから、GO!」

「ぶにゃあ!!!」
609 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:44:47.53 ID:Ah1rtJBzo

 蹴りだされたみくは、店の奥から転がるように飛び出していく。
 きれいに前転しながら、男の前へと転がり止まる。

「う……にゃあ。ご主人さま、ご注文は……?」

 みくが見上げればその男の見下ろす視線が突き刺さる。
 その眼光は凶悪。人の一人や二人は確実に殺ってそうなほどの視線。
 そしてさらに目を引くのは、その鍛え上げられた肉体。

 膨張した筋肉は、店の椅子では納まりきらず窮屈そうな印象さえ与える。
 それでも一切の隙を生じさせない佇まい。
 通常の人間の身体能力を超える獣人であるみくでさえ、片手だけで丸めてポイされそうだという印象を抱いていた。

 それでもなお必死に注文を取るみく。
 体は震え、泣きそうになりながら、と言うかもうすでに半泣きの状態ではあるがそこは意地で乗り越えた。

「……オムライス」

 男の口から小さく漏れた超低音。
 一瞬その言葉を理解できずにみくは数秒制止するが、すぐに意識を取り戻した。

「は、はい!『メイド特製、ふんわり定番オムラ……」

「……オムライスだ」

「か、かしこまりましたにゃーー!!!」
610 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:45:27.13 ID:Ah1rtJBzo

 有無を言わせぬその声は、みくを撤退させるには十分であった。
 注文を取るという自らの仕事を果たしたみくは店奥に戻ると滑り込むように崩れ落ちた。

「お……ムライス、一つ」

 息も絶え絶えながらオーダーをチーフに伝えるみく。
 その姿には成し遂げた仕事人の佇まいである。

「よくやったみく。後は任せろ」

 倒れるみくを支えるようにチーフは腕を差し出す。
 その背後から現れたのあはみくを見下ろしながら、疑問を投げかける。

「あの筋肉もりもりマッチョマン、いったい何者なのかしら?」

「さてな……あんな変態知った顔なら忘れないさ」

 自分たちは蚊帳の外と言わんばかりに好き放題言うのあとチーフであったが、やはりあんな客はこれまでに来たことがないという点で疑問は尽きない。
 明らかに気まぐれでこの店に入ってきたわけではないあの男に対して、気になることは多くある。

「はっ!……まさか」
611 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:46:17.27 ID:Ah1rtJBzo

 ここで何かに気づいたチーフ。
 のあと、若干復活したみくがチーフの方を向く。

「あの明らかに堅気じゃない風貌。いくつもの修羅場をくぐってきたと思われる眼光。

そして、オーダーのオムライス。

あの人は!」

「……あの人は?」

「いったい誰何にゃ!?」



「ミ○ュランマンよ!」



「な、なんだってにゃー!!!……って、へ?」

「歴戦の風貌は星の守護者。昨今のグルメ業界で食の門番をするためには筋肉は必須要項。

そして、卵料理は全ての料理のベーシック。これはほぼ決まりね……」

「ど……どういうことにゃ……?」

 ツッコミしようにも今一つ理解できないみく。
 そんなみくを尻目にのあは冷静に判断する。
612 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:46:53.02 ID:Ah1rtJBzo

「なるほど……聞いたことがあるわ。

最近ではレストラン側が星を貰うために苛烈な行動を起こすようになってきて、ミ○ュランの審査員たちが脅されるということがあるらしいわ……

……それで不当に得た星の評価が問題になってきているのよ」

「そう、そのための筋肉、強硬手段に出るレストランへの対抗策としての防衛手段。

あの人の正体は、ミ○ュランの覆面審査員だったのよ」

「なるほどにゃ……ってそんなわけあるかにゃ!

二人ともおかしいにゃあ!」

 みくがとやかく言おうと二人には聞こえていない。
 のあの方は意図して無視している感じはあるが。

「そうと決まれば善は急げ!

日本初の星持ちメイド喫茶になるために最高のオムライスを届けるために、あたしが作ろうじゃない」
613 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:47:43.34 ID:Ah1rtJBzo

「まさか……貴女が動くというの?チーフ」

 無表情ののあでさえ、チーフのその宣言によって表情に驚きの色がにじみ出る。
 周囲で仕事をしていた他のメイドたちもざわつき始めた。

 実のところ、このメイド喫茶『エトランゼ』の中で最も料理の腕前が高いのはチーフである。
 チーフが作る料理は、どんなものでも一級品となる。
 食べた者曰く、口に入れれば脊髄に電撃が走るような衝撃さえも走るとか小宇宙を幻視するといわれているほど。

 だが彼女はメインはホールでキッチンには立たない。

「だからみんな、フォローお願い」

 メイド服の袖をまくりながらチーフは静かに言う。
 それだけで、みくを除く全員が臨戦態勢に入った。

 チーフの料理の腕は一流であった。
 だが、絶望的に調理中の要領が悪かった。

 たった一品出すだけでもこだわるあまりに妙に時間がかかる。
 何に使うかわからない調理器具を使いだし、料理が終わるまで洗わず片付けない。

 料理の腕がよくとも、飲食業であるこのメイド喫茶においてはそれはあまりにも致命的であった。
 故にチーフは調理に口を出さず、新人に対しての料理の指導担当と言う位置づけのみになっている。

 だが今日、その枷は外された。
614 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:49:21.55 ID:Ah1rtJBzo

「火力が足りない!!」「トマトどこ!?」
「泡だて器片付けて!」「皿をよこせ!」

 荒れる厨房。台風のごとく。
 チーフの渾身の一皿が今生まれる。

「お待たせしました。ご主人様」

 厨房の中は死屍累々。数多の調理器具の残骸と共にメイドたちが転がっているが必要な犠牲であった。
 その手に一皿のオムライスを携えて、チーフはゆっくりと男の前に現れた。

「オムライス、でございます」

 先ほど厨房で鬼のように鍋を振り回していた姿とは一変し、静かに上品な立ち振る舞いをするチーフ。
 皿の上に盛られたオムライスは金色に輝きながら出来立ての蒸気を上げていた。

「これは……!」

 目の前に置かれたオムライスを見るなり、これまで些細な機微さえ見せなかった男の表情が変わる。
 男は傍らに置かれたスプーンをその巨大な手でつかみ、オムライスへと差し込んだ。

 中から現れるのは定番のチキンライス。橙色に彩られた米は鮮やかな艶を放ちながらトマトケチャップの風味を立ち上らせる。
 その様子を一呼吸観察し、男はスプーンですくい上げ口へと運んだ。
615 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:50:02.49 ID:Ah1rtJBzo

「…………」

 男は静かに咀嚼する。
 その間エトランゼ内は沈黙に包まれており、陰からみくを含めるメイドたちがその様子を覗いていた。

「なんて……オムライスにゃあ……。

あんなめちゃくちゃな調理だったのに、見ているだけで涎が止まらないなんて……」

 静かに涎を垂らしながら、男の食事を見守るみく。
 そして男は、一言も発さぬまま嚥下する。

「いかがでしょうか?当店自慢のオムライスは?」

 男の傍らで見守っていたチーフが尋ねる。
 言葉の上では当店自慢とは言うが、普段出されているものとは違うことは伏せておくべき事実ではある。
 それでもチーフが魂込めた、至高の一皿。それがいかなる評価を受けるかは気になるだろう。

「これは……うまいな。まさかこんな喫茶店でここまでのものが食べられるとは思ってなかった。

ライスを包む卵は、しっかりとしているのにもかかわらず柔らかい。

その中身であるチキンライスは、姿を現したとたんに広がるトマトの香りがいい。

味付けも絶妙で、油、調味料、そして米のバランスが最適だ。

付け合わせも申し分なし。シンプルながらも隙が微塵もない。一流の条件を満たしていると言える」
616 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:50:57.60 ID:Ah1rtJBzo

 男の口から出たのは、称賛の言。
 それを聞いたチーフは、自分の料理を一流の料理審査員に認められたと錯覚する。

「だが、少し待たせすぎだ」

「!」

「どのような調理をしていたのかは言及はしないが、さすがにレストランとしては調理時間がかかり過ぎだな。

それに、恐らく手間もかかり過ぎている。これ一品だけならともかく、本来注文は次々に入ってくるだろう。

そんな中で、一々このクオリティを維持できるはずがない。

この料理は、俺のために出された料理ではあるが、 『客』のために出された料理ではないな」

 小手先の待遇など、男にはすべて筒抜けであった。
 レストランとして求められるのはその店の質だ。

 その瞬間だけ最高の物を出したところで意味がなく、常に一流の物を提供し続けなければならない。

「接客のスタイルは、俺の風貌のせいもあるかもしれないが十分だろう。

別にわざわざ俺のために気を張る必要なんてない。常に出来る限り最高で、ありのまま自然の経営をすることが一流への近道だ」
617 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:51:52.79 ID:Ah1rtJBzo

「……さすがですね。御見それしました」

 チーフは自らの浅はかさに恥ずかしくなる。
 店のためとはいえ、プロの料理審査員に対して失礼なことをしてしまった。
 その後悔と反省がチーフを苛む。

「全て見破られるなんて、さすがは一流の審査員、ミ○ュランマン。

甘い考えで星を貰おうだなんてあたしが甘かったわ……」





「……は?ミ○ュランマン?誰のことだ?」

 チーフの独り言ちた反省を聞いて、男は残っていたオムライスをつつきながらそんな疑問を口にする。

「……は?」

「……はぁ?何を言ってるんだ?

俺はミ○ュランマンじゃないし、これはただの朝食だ。何を勘違いしている」

「あなた……本当にミ○ュランの審査員じゃないの?」

「何を言っている?あいにく俺はあんなフードファイター集団に加わった覚えはない」

「……えー……みんな、かいさーん」
618 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:52:53.02 ID:Ah1rtJBzo

 物陰から見守っていた他のメイドたちも馬鹿馬鹿しくなったのかそれぞれの仕事に戻る。
 チーフもまるで何事もなかったかのように男に背を向けた。

「はー……紛らわしい見た目しやがって……ミ○ュランマンかと思って損したわ……。

念願の星持ちメイド喫茶はお預けか……」

「よくわからんが、俺は今すげえコケにされている気分だ」

 もはやメイド喫茶の体すら保てていなかったがそれを咎める者はいなかった。
 男は、失礼極まりない接客状況に青筋を立てつつも一つ小さくため息。

「そこのメイド。ひとついいか?」

 口に運んだオムライスと一緒に怒りを嚥下して、そのまま店の奥に戻ろうとしていたチーフを呼び止める。

「……はい、何でしょうかご主人様?」

 一度崩壊した空気を何とか組みなおして、チーフは通常通りの接客を男にする。
 本音のところ、ミ○ュランマンではなかった時点で興味は失せているのだが、これも客商売である。

「何を勘違いしていたかについてはまあいい。正直言ってどうでもいいことだ。

元々ここに来たのはメシを食いに来たわけじゃない」

 事の本題と言わんばかりに男は眼光を鋭くする。
 チーフもその視線に晒されたことで、目の前の男がただの一般人ではないことを再確認した。
619 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:54:25.41 ID:Ah1rtJBzo

「この店に『アナスタシア』という店員がいると思うのだが、今いるか?」

 可能性の一端としてはすでに存在はしていた。
 この突然現れた男の目的として、チーフが予感できる範囲としてはごく自然なものであった。

 先日のアーニャの一件と、今目の前にいる男。
 これらが何か繋がっているのではないかと言う一抹の予感がすでにあったのだ。

「いえ、何のことでしょうか?」

 目の前の男が単なるメイド喫茶でたまにあるメイドの追っかけなんかではないことは重々承知している。
 だがチーフとしても、このあからさまに危険な臭いを放つ男に自分の店の従業員の情報を渡すことなどできなかった。

 特に昨日のアーニャの様子を思い出せば、この男にそのことを話すことなど以ての外である。

「はっ……御託はいい。さっきも言ったが小手先の嘘など無用だ。

今ここにいるか、いないか。ただそれだけだ」

 明らかに店内の空気は張り詰める。
 男の口調と眼光がより鋭くなる中で、店内の『わかる』店員もそれぞれが気を張るので、店内は異様な威圧感で満たされていた。



「……今は、いないわ」

620 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:55:23.52 ID:Ah1rtJBzo

 今はまだ昼前に時間であり、客がこの男以外にいないのが幸いしていた。
 チーフとしてもこれ以上店内が殺伐となるのは困るのと、所在などの重大な情報ではないので仕方なく男の疑問に答える。

「……ふん。そうか」

 そう言いながら男は、長財布を取り出し律儀にオムライスの値段分の金をテーブルに置く。
 そして無言で立ち上がりながらチーフに背を向けた。

「邪魔をした」

 ただそれだけを言い残して男はこの店を後にする。



「行かせると思います?」

 だがその脚を止めるように男の目の前に投擲されるのは灼熱の杭。
 それは壁に鋭く突き刺さるが、傷は残さず空気のみを焼き、室温を上昇させた。

「俺は『邪魔をした』と言ったはずだ。

だが邪魔をされる覚えはないんだが、これはどういうことだ」

 ギロリと男の眼光が鋭くなり、炎杭の主を睨み付ける。
 その視線は先ほどまでの比ではなく、明確な敵意として店内の全員に突き刺さる。
 余波だけで昨日のアーニャのものを軽く凌駕する殺気であり、直接向けられれば常人ならば意識を保てるはずがない。
621 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:56:23.18 ID:Ah1rtJBzo

「何を企んでいるかは存じませんけど、あなたにアナスタシアちゃんを渡すわけにはいきませんから」

 だがその殺気さえも意に介さない柔和な笑み。
 魔界の法の番人にして、熾天使ウリエル。柳清良はこのような状況であろうと表情を崩さなかった。

 そしてその背後には、中身を待ちわびように鋼鉄の処女が杭を鈍色に煌めかせながら口を開いていた。

「最後通告なしでアイアン・メイデンか。

いいのか?ここはそんな物騒な物を出す場所じゃないぞ」

 最悪の拷問具を出されても、男はまるで怯まない。
 殺気と殺気が交錯し、もはやメイド喫茶とは呼べないほどにこの空間は異界化している。

「優先事項と、危機判断からですよ。

絶対にあなたは危険だってわかりますのし、そんな人が同僚の子を狙っているって知れば普通そんな人を放っておかないでしょう?」

 清良はもはや場所もかまわない。
 両の手に大量の注射器が出現し、その針先は橙色の炎を纏っている。
 そんな清良の様子でさえ、男は鼻で笑う。

「はっ、建前はいらねえよ。あんたにとっては同僚とかどうでもいいはずだ。

それよりも重要なのは、『全能神』の加護があるアナスタシアを渡せないからだろう?

そんなに感情丸出しで炎滾らせれば、嫌でも正体はわかる」

「……あなたは!」
622 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:57:51.31 ID:Ah1rtJBzo

 ごく一部の者しか知りえない自らの秘密。
 それを目の前の男が知り得ていることが危険因子であると判断する。

 清良は両の手を振りかざしすぐさま攻撃の構えに入った。

「ストップ!」

 だがテーブルを強打する音が店内に響くと同時に制止の声。
 清良は、その声に思わず手を止める。

「これ以上店内でもめ事起こすのは、やめてもらえる?」

 男と清良の間に割って入ったのはチーフ。
 清良は何か言いたそうに慌てているが、チーフはそんなことにかまわず清良に近づく。

「いい加減にしなさい!」

「いたいっ!」

 清良の頬に鋭いビンタを一発入れる。
 身構えていなかった清良は不覚にもその衝撃で、気の抜けた声を出すと同時に出していた装備は全て霧散した。
623 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 18:58:56.75 ID:Ah1rtJBzo

「それと、『お客さん』。営業妨害だから出てってくれないかしら」

「言われずとも、そのつもりだったさ」

 チーフは男に退店を促す。
 男の方も、素直に出口の扉へと脚を向けた。

「……待っ!」

 立ち去ろうとする男を清良は呼び止めようとするが、チーフはそんな清良をじろりと見つめる。

「昨日から問題起こしすぎ、清良さん。

あなたが何者かあたしは知らない。

けど、私情を持ち込んで店を荒らすのはやめてちょうだい。

怯えてる子だっているんだから」

 その言葉に清良は我に返ったように店内を見渡す。
 厨房の片隅で、肩を寄せ合い泣いている同僚のメイドたち。

 それなりに戦う手段を持っているような者でさえ、次元の違う強大な力に晒されて平静を保っている者が大半であった。
 同様に目の前のチーフも気丈に振る舞ってはいるが、冷や汗をかき呼吸が乱れている。
624 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:00:23.80 ID:Ah1rtJBzo

「ごめんなさい……。

加減を、忘れてしまったわ」

 この地上においては、『エトランゼ』は数少ない清良にとっての居場所である。
 確かに男の言う通り偶然見つけたアーニャの中の『加護』は彼女にとって重要視する物であった。
 故に『エトランゼ』にいる間は昨日のように常日頃から注意を向けていたのだ。

 だが同様にこの居場所も大切であったはずなのだ。
 それを考えずに暴れれば、本末転倒であった。

「ふん……これはいつも言っていることだが、2度と俺と会うことはあるまい。

別にアナスタシアをどうこうするつもりはないから、ここで大人しくしていろ」

 落ち着いた店内を見渡しながら、男は出口のドアノブに手をかける。
 嵐のように訪れた男は、嵐のように去っていく。





「ちょっと、待つにゃああああ!!!」
625 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:01:09.51 ID:Ah1rtJBzo

 はずだった男の手が止まる。
 その声の主であるみくは、子猫のように体を震わせながらも気丈に男を呼び止めた。

「なんだ猫娘。死にたいのか?」

「うにゃああああああ!こ、殺されるーーー!!!」

 みくは男の脅しに後ろにはねながら尻餅をつく。
 そんな様子をクツクツ笑いながら男はみくを見下ろした。

「あんな様子を見ても、いまだ俺に話しかけてくるか。

何の用だ?猫」

「にゃ、にゃあ……その……」

 みくは怯えながらも、男と向き合い言葉を紡ぐ。

「アーニャン……アナスタシアチャンは……いったいなんなの?

たぶんオジサンは、そのことを知っているんでしょ?」

 誰もが感じていた疑問。
 事の発端である謎を、みくはそのままにしておけなかった。
626 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:05:29.43 ID:Ah1rtJBzo

 明らかに様子のおかしかったアーニャをみくは友達として放っておくことができなかったのだ。

「……別に、知っているわけじゃあない。

実際のところ、俺も知ったのはつい先日。そして知ったところで、お前には何もできることはない」

「そんなこと……そんなこと知らないにゃ!

みくは……アーニャンが困ってるなら助けたいから、力になってあげたいから!」

 みくは、自分の気持ちを精一杯絞り出す。
 周囲の人々にハラハラとしながら見つめられる中、男は何度目かのため息を吐く。

「あの情報屋の言い方を真似するならば『ここはまだ、お前の舞台じゃない』とかいうのだろうな。

まぁいいさ。今回の俺は『大団円の舞台装置(デウス・エクス・マキナ)』の使いっ走りだ。

ここで多少時間を潰しても、結末は変わらんな」

 男はみくの小さな肩を軽く一叩きした後に、先ほどまで座っていたテーブルの一つに座る。

「コーヒーのオーダーだ。

そこの清良とか呼ばれていた女も気になるだろう?

人伝の真相だが、この場で紐解いてやる」
627 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:06:18.10 ID:Ah1rtJBzo
人伝の真相だが、この場で紐解いてやる」

 時刻は太陽が頂上に昇りきるのはまだ先のこと。

「そう言えば……オジサンっていったい何者にゃ?」

「名乗るほどの名などはないさ。

だが、アナスタシアとの関係を語るなら、元上司。

『元』ロシア政府直轄パビエーダ機関第17部隊、かつてアナスタシアの所属した特殊能力部隊の隊長。コードネーム”P”。

いわゆる、諸悪の根源だ」

 不遜な笑みを浮かべ、『隊長』は再び舞台に乱入する。


***



  
628 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:08:04.15 ID:Ah1rtJBzo


 目を覚ませばすでに日は高く昇っている。
 窓から差し込む光が、視界を差し意識を覚醒へと導く。

 少女は、ゆっくりと周囲を見渡し何も変わらぬ自らの部屋を認識する。

「アー……あれは……ゆめ?」

 彼女自身そんな呟きを口に出すが、それは彼女自身が理解していることであった。
 それでも、認めることは耐えがたかった。

 まるで自分の中身を無くしてしまったかのような虚脱感。
 今自分がここに居ると認識できるのに、自分の存在はここにはないという矛盾。

 少女はゆっくりと立ち上がり、洗面台へと向かう。
 顔を上げないように俯きながら、蛇口をひねる。

 冷水を顔に押し当て、意識は鮮明にしても地に足がつかない。
 未だ夢の中のような、幻想に揺蕩う霧のような感覚。

「ああ……やっぱり」

 もはやわかっていたことだった。
 自分は、捨てられた。要らないと切り捨てられたと。
 言葉通り、見限られた。

 要らないものを脱皮(ぬ)ぎすてて、私はどこかに行ってしまった。

 洗面台の姿見には、何も映らない。
 そこに少女は存在しておらず、自らが不要なものを切り捨てた後の残滓でしかないと言うことを告げていた。

「私は……幸せなんかじゃなかった」


***




   
629 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:09:14.86 ID:Ah1rtJBzo


 エトランゼの扉には『close』と書かれた看板が掛けられている。

「解離性同一性障害、通称DID。アナスタシアはこれだった」

「でぃーあいでぃー?」

 隊長はカップに入ったコーヒーをブラックのまま口に運ぶ。
 その向かい側に借りてきた猫のように座るみくは、隊長の言うことが理解できずに首をかしげる。

「知性も動物並みか?ガキなら今のうちにもっと勉強しろ。

アホのまま大人になったら、それこそ取り返しがつかなくなる」

 隊長の辛辣な物言いに、文句を言いたそうな眼を一瞬みくはするが、やめておく。
 おおむねその通りであるし、何より反論しようものなら後で何をされるかわからない怖さが目の前の男にはあった。

 今でこそどうにか平常心を保てているが、いまだに目が合えばみくは少し失禁しそうになるほどである。

「もっと簡単に言えば多重人格ね。

目の前の認められない現実や耐えられない苦痛などに対して、それを受けているのは自分じゃないと錯覚する防衛本能。

そこから発生する切り離した部分が人格となって表に出てくるものよ」

 隣ののあが、噛み砕いて説明する。
630 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:10:29.02 ID:Ah1rtJBzo

「PTSDとかに近い精神疾患。わりとよくある話だ。珍しくともなんともない」

 隊長にとっても話の本筋ではないのか、さして重要視して話していない。

「ということは、昔アーニャンにとてもつらいことがあったてこと……?

心が……別れちゃうほどに……」

「ああ、俺が壊した」

「それは……どういうこと?」

 さらりと自分が原因であることを話す隊長を、のあはじろりと睨む。

「……昔のアナスタシアの性格は、まるで聖人君子だった。

虫も殺せない。暴力など許容しない。平和を愛し、他人を慈しむ少女。

まさに聖女だ」

 皮肉交じりに話す隊長はその視線を後ろの方で待機している清良へと向ける。

「神の寵愛を受けて生まれた子供は、聖人足り得る性格が形成されることがほとんどなのよ。

だから、当初のアーニャちゃんは天聖気を持つにふさわしい、優しい性格だったのね」

 天聖気を持つものは、純粋で清らかな心を持っていなければならない。
 故に、後天的に天聖気を持つ者以上に、先天的に持つ者の心はより精錬された物になる。
 清良としても、天聖気を持つ者としては常識的なことであった。
631 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:11:43.78 ID:Ah1rtJBzo

「だがそんな性格じゃあ、部隊には要らない。

人を傷つけることを頑なに拒んだアナスタシアには、荒療治するしかなかったわけだ。

別に難しいことをさせたわけじゃない。

子犬の命を、自分の手で奪わせただけだ。アナスタシアの手を操って、俺が殺させた。

たったそれだけで、その人格は限界に達して、新たな人格が生まれた」

 猫の獣人であり、動物の感性に近いみくからすれば、その行いは耐えがたいものであった。
 小さな命を、望まぬ者に奪わせる。そんな行いは、みくは絶対に許せなかったし、この話を聞いていた他の者も決して許容できるような話ではなかった。

「どうして……どうしてそんな残酷なことをしてまで……」

 みくは感情のまま口からそんな言葉を漏らす。

「お前が考えるほどこの世界は優しくないぞ。猫娘。

その優しさは尊いが、仮にその状況で虫も殺せないような役立たずに待つ受ける末路なんぞ、想像に容易かろう」

「それは……」

 かつてアーニャから軽く聞いたことのある、以前居た殺し合いの世界。
 そんな中で、そんな優しすぎる性格は不要であり、そのままであったのならば切り捨てられアーニャは今この日本にいることさえなかったであろう。
632 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:12:31.14 ID:Ah1rtJBzo

「ともかく、そうして生まれた人格こそ、今のアナスタシア。

任務のためならば無情にだってなれる。今ならば人を守るためにナイフを手に取ることさえ厭わないような少女は誕生した」

 これが事の始まり。
 すべての原点であったのだ。

「じゃあ……その、優しい方のアーニャンは……どこへいったの?」

 みくはその話を聞いて疑問に思った。
 2重人格であるはずならば、もう一人のアーニャが心の中にいるはずである。
 だがこれまでにみくはそんなアーニャを一度も見たことはなかったし、そんな話をアーニャから聞いたことすらなかった。

 つまりアーニャ自身自覚していないし、その人格は存在さえ意識させないほどに実生活上で表出していないということになる。

「……それこそが、今回の騒動の中心だ」

 これまでのはきっかけだ。
 疑問に答えるための前提条件であり、多重人格自体もあり得ない話ではないほどに珍しくもない事象であった。

「そこの熾てん……キヨラとか言ってたか?」

「……ええ。清良で構いませんよ」
633 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:13:36.58 ID:Ah1rtJBzo

「そうだな……キヨラ。

お前はなぜアナスタシアに注目していた?」

「それは先ほどあなたが指摘していたじゃないですか。

理由はわからなけれど、『神さま』の加護をアナスタシアが受けている。

そう、理由なんてわからなくても『神さま』が加護を与えたというなら、それに気をかけるのが私の務めですから」

 基本的に清良は自らの正体を隠している。だからこそなるべく情報を伏せるような言葉となるが、それでも隊長には理解できた。

「盲信的に上司を信用するのがお前らかもしれないが、そうじゃあないだろうが。

お前だって思ったはずだ。

お前の『神』は容易に人に加護を与えるか?

直接動くか?最も近しいお前たちに何も言わずに?

これはあまりにも異常だということだ。お前たちが知りえないところで『神』が動いていること。

それこそが、もっとも不安要素として一番だろうよ」

 天界は唯一神ではなく様々な神がいる。
 だがその中でも1、2を争うほどに力を持つ『全能神』が直接介入した事態。
 本来『全能神』は直接介入してくることはなく、配下である天使を介して地上に介入をするはずなのだ。
634 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:15:06.65 ID:Ah1rtJBzo

 側近である四大天使全員ですらこの事実を知らないということ。
 誰にも悟られないように『全能神』がたった一人密かに手を下したことの重大さは明らかである。

「……ええ、そうですね。私は不安なのよ。

特に大きな力を持っていないように見えるあの子、アナスタシアが一体何を抱えているのかを。

『神さま』が誰にも話さず秘匿している彼女が……何者なのか不安なんです。

だから、いい加減もったいぶらずに教えていただけるかしら?

アナタは知っているのでしょう?隊長さん。

アーニャちゃんが『何なのか』を」

 清良としても、知らねばならなかった。
 この行為が『全能神』に対する越権行為となろうとも、自らが信じる者の行いの意図を理解しなければならなかった。

「ああ、それが正しい。

得体のしれないものってのは誰であろうと不安を煽られる。

そしてそんな『正体不明』は魔物の条件だ。

ここまで言えばわかるだろう。

あれは『加護』なんかじゃない。『枷』だ」
635 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:15:49.45 ID:Ah1rtJBzo

 そこまで言われて、清良は眼を見開き理解した。
 だが同時に、想像できなかった。否、想像したくなかった。

「『神さま』でさえ封印するしかないなんて……そんなもの」

「『ありえない』ことはない。……自ずと数は限られるがな」

 隊長は、手に持つコーヒーカップをあおり、中身を飲み干す。

「ああ、確かにアナスタシア自身の力は世界の脅威になるほどのものじゃない。

だが世界を滅ぼしかねない『鍵』なら封印するしかないだろう。

それが『壊せない』と言うならなおさらだ」

「……『復活』の天聖気、世界を滅ぼす、『神さま』でさえ壊せない不滅存在」

 パズルのピースはそろっていた。
 四大天使である清良でさえ、その存在は聞き伝えられたもの。

 人知れず滅びをもたらし、誰の記憶に残ることなく地に眠る『閉塞の円環』
636 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:16:57.92 ID:Ah1rtJBzo

「ああ……閉塞する世界、神さえ知れぬイレギュラー、滅びの三竜が一体。

無限円環竜『ウロボロス』。アナスタシアは魂として自我を持ったその力の欠片だ」

「うろ……ぼろす?」

 話を目の前で聞いていたみくには何がなんだかさっぱりであった。
 だが何かとてつもなくスケールの大きな話であることは理解できた。

「……それはあり得ないわ。

だってその三竜は神造兵器のはず。神と同等の力を持っていたとしても、神が対処できないはずは……」

 清良はその可能性を否定しようとするが、それらの情報を記憶から探れば探るほどに『穴』が見えてくる。

「神が作ったのならば、不要なら神が滅ぼせばいい。それができなかったからこそ今も『封印』されてるんだろうが。

『神造兵器』ってしといた方が都合が良かっただけだ。

実際のところ神の干渉を受けたのは『リヴァイアサン』だけだ。それでさえ始めの一押しだけでその後は自己進化の果てに神をも超越した。

『バハムート』にしても、竜族の始祖にして元からそうだった『運命殺し』。

ましては『ウロボロス』に至っては発生の因果から捻じれている運命のパラドクス。

それぞれが『運命』そのもの。世界の『ルール』だ。

『運命』を観測するのがやっとな神々じゃ、太刀打ちなんて不可能なんだよ」
637 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:18:08.98 ID:Ah1rtJBzo

「よ……要するに、どういうことにゃあ?」

 やっと話に割り込むようにみくが喋る。
 実際この場でまともに話についていけているのは清良だけであり、この話を聞いていた者はみく同様さっぱりであった。

「チッ……要するにだ。

アナスタシアの魂は鍵なんだよ。世界を崩壊させるほどの化物の封印を解くためのな。

それに封印をかけていたからこそ、あいつは力を、天聖気を使えていたってことだ」

「おそらく……天聖気は副産物、なんでしょう」

 清良が隊長の説明に補足するように言葉を挟む。

「力の欠片とはいえ、その力は強大。

その力が封印を介することによって、天聖気となって漏れ出していたのでしょう」

 ウロボロスの無限は、復活の天聖気へと変換されていた。
 故に、これまで扱ってきた天聖気は、封印が正常に機能していた証拠である。
638 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:19:38.22 ID:Ah1rtJBzo

「さてと……アナスタシアの正体がわかったところで、悪い知らせ、というかそもそも俺がこの日本に来た理由だ。

昨日、アナスタシアの封印が完全に破られた」

「は……つ、つまり?なんなのにゃ?」


「世界が滅ぶってことだ」


「は、はにゃあああああああああああ!?」


 さらりと吐かれた重大な事実にみくは奇声を上げる。
 隊長は心底うっとおしそうにそれを眺めているだけだったが、一方チーフは懐疑的に隊長を見ていた。

「正直そんなこと言われても実感わかないけれどさ。

なんで封印が破られたのよ?何の『神さま』か知らないけど曲がりなりにも神の封印が簡単に破られるとは思わないんだけれど」

 その点に関しては黙っていた清良も同様であった。
 実際昨日の時点では、神の『加護』と思われていたものは何の問題もないように見えていたはずである。

「そこで始めにしたDID、多重人格の話になる。

壊れた方、『優しい』アナスタシアの人格は、心の奥に引っ込んだわけだ。

そこでその人格は、あるものを見つけた」

「『ウロボロス』の力……」
639 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:20:46.06 ID:Ah1rtJBzo

 清良は隊長の話を聞いてそれが何なのかすぐに理解した。
 魂の源泉にして、アナスタシアそのもの。
 封印された『ウロボロス』を、心の奥底に封じ込んだ人格が発見するのは道理である。

「ウロボロスの力を見つけたその人格は、それの使い方を何年もかけて学んだ。

心の奥底でその人格は、外で自分の代わりに頑張っている『アナスタシア』のために力の調節なんかをしていたらしい。

神は万象は把握できても、人の心は把握できない。

故に神は、そんな人格の存在を把握できなかった」

 人の心は小宇宙などとは言ったものだ。
 たとえ神が全宇宙を把握できたとしても、数多の生命一つ一つの心を把握しきることは不可能であった。

「さて、そんなアナスタシアにも転機は訪れる。

『部隊』からの脱走だ。たとえ心の内から、自らが手を下していなくともこんな血なまぐさい環境はその人格には耐えきれなかった。

だからこそ訪れた脱走のチャンス。海に投げ出されて意識を失っているアナスタシアに代わってその人格は目指した。

自分の故郷であるこの国をだ」

 そうしてアナスタシアはたどり着いた。
 故郷である日本に。そしてようやく、あの地獄のような日々から脱出したのだと。
640 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:21:27.80 ID:Ah1rtJBzo

「なんて中の人格は思ったが、そんなことはなかった。

あろうことかアナスタシアはヒーローを始めた。

前ほど血なまぐさくはなくとも、なぜ争いの道を選ぶのか。なぜ暴力の道に進むのか。

せっかく自由になれたのに、やってることが変わらなければ、さすがにその人格も我慢はできないだろう。

『強要されているわけでもないのに、なぜ戦う?そんなの私は許さない』ってな」

 そこからは中の人格は動き出した。
 ウロボロスを解き放って、自らの願いをかなえるために。

「ん……なんでウロボロスの封印を解く話になるにゃ?

自分が表に出て、戦わない生活をすればいいのに……」

「だいたい……まだ『神さま』の封印の問題も解決していないわ。

そこらへん、いったいどうなんです?」

 みくとキヨラの同時の疑問。
 疑問の毛色こそ違えど、どちらも当然の疑問であった。
641 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:22:35.12 ID:Ah1rtJBzo

「DIDはそんな簡単な病気ではないわ、みく。

主人格、副人格、混沌に近い精神は簡単に折り合いがつく問題ではないの」

 みくの隣で話を聞いていたのあの言う通り、そんなに簡単な話ではない。
 現在の主人格であるアーニャの意識を、ずっと潜んでいた人格が簡単に乗っ取れるほど人の心は単純ではない。

 これまで中の人格が一歩引いてきたために、アーニャは気づかずにこれまで過ごしてきたのだ。
 突如として主導権を奪い返そうとすれば、人格に様々な齟齬が発生するだろう。

「ウロボロスは他の二竜と違って魂と言うものを持たない。

代わりに別の魂を内包する。というより、一つの願いを取りこんで叶えようとする所謂『願望機』だ。

当然中の人格はそのことを理解していた。

そしてずっと心の中に引きこもっていれば、いくら清廉な心であっても腐り落ちる。

ウロボロスの隣で地獄を見続けてきた人格は自然と歪んでいったわけだ。

そして外の世界には絶望していた。外に出ることは望んでいなかったのだよ

せめて自分の代理で体を動かしている『アナスタシア』が幸せに、戦いのない平和な生活を送ってくれることを願っていたのに。

それもアナスタシア自身で否定された。

全てに絶望した人格は、自ずと考えた。『全部やり直そう』ってな」

 もはやこの世界に希望はない。
 中の人格にとって、この世界は父と母と過ごしたわずかな時間しか価値はなかったのだ。
642 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:23:43.96 ID:Ah1rtJBzo

「たしか、ウロボロスは『願い』を聞くが『叶えない』。

やり直したい過去に対して、世界の時ごと巻き戻し、やり直させる。

だがその願いは絶対に叶わない。その願いを起点に叶うはずのない過去改変を延々と繰り返し続ける。

世界そのものを閉塞した時間の檻に閉じ込める。故に『無限円環』」

 かつて魔界の書庫で見た『ウロボロス』の情報。
 清良にとっても情報があっているかはわからなかったが、それでもこれが事実ならば、封印が解けた今世界は同じ時間をループする檻が起動する直前なのであろう。

「それは正しい。

無限ループこそ『ウロボロス』のルール。世界を閉塞させる滅びの龍だ。

そしておそらく中の人格は、全てを無かったことにして親の死ななかった世界にしようとするだろう。

だがそれは絶対に叶わないことは知らないはずだ。その上、理解もしようとしないだろう。

すでにその人格は『ウロボロス』に囚われているはずだ」

 清良のウロボロスの情報に注釈するように隊長が言う。

「次に、なぜ封印が破られたか。

普通ならば、何千年単位で解呪を試みなければ、封印が綻ぶことすらもなかっただろう」
643 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:25:03.29 ID:Ah1rtJBzo

 続いて清良の疑問に隊長は答える。
 天界でも一,二を争う力を持つ『全能神』の封印である。
 いかにウロボロスの微弱に漏れ出す力を用いようと、その封印は決して揺らぐはずはない。

「答えは簡単だ。封印の解くための鍵を、『神』が直接渡していたからだ」

 神は知らぬうちに、自らの封印の解除の手助けをしていたのだ。
 『全能神』最大の誤算であり、中の人格によって全て巧妙に偽装されたのだ。

「『聖痕解放』。俺との戦いにおいてアナスタシアが得た技にして、神のバックアップ。

だが中の人格は、神から受けとったその力を封印の解除に使った。

神は合鍵を渡していたようなものだよ。

受け取った力を封印の解除に使いつつ、自らの力にする。

そしてウロボロスの力を封印を介して天聖気に変えて放出させた。

天聖気は封印対象ではないからそもそも封印を抜ける。さらに封印は扉のようなものだ。そんな大量の力を扉から放出すれば、扉にもガタは来る。

つまり『聖痕解放』を行うたびに神から鍵を受け取り、封印を力の放出で緩める二重の封印解除。

エネルギーはほぼプラスマイナス0。傍から見れば『神』でさえも正常に『聖痕』が機能していると錯覚した」
644 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:26:03.60 ID:Ah1rtJBzo

 封印の解除は、『聖痕解放』によって指数関数的に速度が早まった。
 そして先日の限界を超えた『聖痕解放』によって、最後の一押しは為されたのだ。

「さて、以上が事の真相だ。

満足できたか?猫娘」

 長々と喋り続け、ようやくすべてを喋り終えた隊長は目の前のみくに嫌味たらしく尋ねる。

「もう……何が何だか……さっぱりにゃあ……。

とにかく……やばいってくらいしか……」

「はっ……そんなものだ。『運命』なんてものは。

直にお前の番も来るさ。前川みく。いずれ主演の『舞台』がな」

 『運命』に縛られないがゆえに、『運命』の輪に入れない隊長にとって、その目に見えぬ流れは最も遠く、近しいもの。
 人の数だけ物語がある。傍から見ることしかできない隊長がそのことを最も理解していた。

 そして隊長は立ち上がる。
 話すべきことは話したと言わんばかりに出口へと歩を進めた。

「待ってくれます?」

 だがそれを、清良は呼び止める。
 その声にこたえるように、隊長は足を止めて振り向いた。
645 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:26:48.68 ID:Ah1rtJBzo

「今の状況はどのような状況なんです?」

「まだ封印が解けただけだ。この段階じゃあウロボロスの力のほんの一欠けらでしかない。

デッドエンドは、いわゆるウロボロス・アナスタシアが地中に封印されている『本体』にたどり着いた時だ。

……だが別に気にする必要はない。

俺が片を付けてくる」

 そう言って隊長は扉に手をかける。
 だが、背後から飛来する注射器が隊長の顔をかすめ、扉に突き刺さった。

「チッ……またか」

「……これは、『神さま』の沽券にもかかわる問題です。

私がアナスタシアの処理を行います」

 ウロボロスが復活すれば世界が終わる。
 そんな状況で、素性さえよくわからない男に清良は任せておけない。
 神の封印が破られたのならば、それをカバーするのが天使の役目であった。

 たとえ堕天した身であっても、自らが大切にする者のためならば、清良としても意地がある。
 ただ黙って任せておくことなどできない。
646 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:27:25.61 ID:Ah1rtJBzo

「沽券……ねぇ……」

 ゆらりと、隊長は清良の方を振り向く。
 その瞳は先ほどまでの眼光とはまるで違っていた。

 決意に満ちたその瞳は、殺意とは全く違う威圧感を放つ。

「悪いが、今回は誰にも手出しはさせない。

これはアナスタシアの問題だ。

神だとか、世界平和だとかそんな問題じゃあねーんだよ。

あいつが決める、『物語』だ。

だからこそ番人として俺が関与する。

その限り、誰も手出しできない。そう言うルールだ」

「あなたは……まさか」

 清良としても寡聞にして聞いたことがあるだけであった。
 『外法者(デストロー)』の存在は、『運命』に多くかかわる者にとっては最も縁遠い。
 ましては正体が世界規模で高名な天使である清良にとって本来出会うことすらない人種である。

 見たことも存在さえも確認したことのない存在であったが、清良にはその男が何者であるか理解できた。
647 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:28:29.34 ID:Ah1rtJBzo

「でも……こんなことって」

「もちろんイレギュラーだ。

だが、『外法者』のルールを『外法者』の力で破ることに何の疑問があると言う?」

「そんなの……正気の沙汰ではないわ。

『運命』に反逆するということは、運命から抹消されかねないということ。

あなたは……」

 清良にとっては、ウロボロスのような伝え聞いただけの脅威よりも今目の前にいる男の方が得体が知れなかった。
 隊長の言い方こそ軽いものだが、それを実行するということがどれだけの狂気かわかっていない。

 精神崩壊しかねないほどの『運命』からの圧力と、それをさらに無視するという対症療法にも似た対応策。
 長き時を生きてきた清良でさえ想像することができぬほどの苦痛が、今隊長の身に降りかかっているはずである。

「どうして……あなたは、そこまで」

 清良には理解できなかった。
 隊長がなぜそこまでしてアナスタシアというたった一人の少女を気に掛けるのかを。

「そんなもの……お前が沽券と言うならば、俺は矜持だ。

俺はろくでもない大人だが、ガキまでろくでなしするわけにはいかない。

俺は、俺の責任を果たすだけだ。可能性を……潰さないためのな」
648 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:29:20.40 ID:Ah1rtJBzo

 隊長の額から垂れる一筋の赤い雫。
 すでに『外法者』の代償は体に現れるほどに、深刻な域に達していた。

 何せ今回のは、前回の冬の時とはまるで違う。
 アナスタシアと言う個人と戦うのではない。今回はウロボロスという世界のルールそのものに抗うのだ。
 先ほどから話している間にも、脳内がフォークでかき回されるような状態だったのである。

「ああ……それとだ」

 男は額の血を拭いながら、視線を移す。

「前川みく……と高峯のあだったか」

「う、うにゃあ!?いったいなににゃ?」

 みくは突然名前を呼ばれ驚くが、のあの方は無言のまま隊長を見据えている。

「たしか、アナスタシアの友達とか言ってたか」

「そ、そうにゃ!みくとアーニャンは友達だよ!」

「はっ……下らねぇ」

「くだらないとは何にゃ!だって、友達だから……友達が困ってるのなら助けに行かなきゃ!

こんな状況なら、余計に、なにがなんでも、アーニャンに会いに行かなきゃ!」

 そう、先ほどからみくは落ち着きがなかった。
 昨日の時点ですでに様子がおかしかったのにアナスタシアの今の状況が切迫していると知ってから、いてもたってもいられなかったのである。
 話を聞けばなおのこと。たとえ隊長が行くなと言おうと、そんなものは無視するつもりであったのだ。
649 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:29:55.78 ID:Ah1rtJBzo

「お前も来る必要はない。来たところで無意味だ。だが……」

 隊長は一息置く。
 眼光こそ鋭いが、その瞳の奥は少し和らぐ。

「あいつが帰ってきた時に、変わらず友達でいてやってくれ」

「なっ!?」

 そう言い残して、隊長はエトランゼを後にした。
 みくは追いかけて扉を開くが、すでにどこにも姿はない。

「言われずとも……そのつもりよ」

 のあはみくの背を見ながら小さく呟く。
 気が付けば昼11時少し過ぎたところ、長かったように思えた男の来訪は、わずか一時間弱の出来事であった。


***



  
650 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:31:16.72 ID:Ah1rtJBzo


『本日紹介する商品はこちら!スーパーウォーターブラシEX!

高圧の水の噴射によってしつこい汚れも一刀両断!』

「なぁメアリー……こう言うのってよく通販してるの見るけどさ、実際に買う人っているのかな?」

「そりゃあ……頭の悪い人しか買わないでしょ。

これくらいの物ホームセンターに行けばもっと安くってると思うワ」

『一流のレディたちの間でも大流行!鮮やかな洗浄技術こそ今のレディたちの必須スキルなのです!』

「……お小遣いで足りるかしら?」

「さっそく頭悪いことになってるぞ!?」

 テレビの中では朝の番組と昼の番組の繋ぎでろう通販番組が放映されている。
 それをメアリーと美玲はソファに座りながら退屈ながらも見続けていた。

「さってと……頼まれてたことだけど、軽く調べてみたわよ」

 テレビの前の二人とは少し離れたところで会話する集団。
 その中で始めに喋った沙理奈は足を組みながら椅子に座っている。
651 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:32:01.95 ID:Ah1rtJBzo

「どう?何か心当たりは……?」

 それに向かうにように座っているのは周子と紗枝。
 自然に紗枝は周子の腕にもたれている。

「周子から聞いたアーニャの結晶?というか竜の鎧?っていうの?

実はいうとね……」

「い……言うと?」

「……よく解んない♪」

「なんでやねん」

 周子は沙理奈の額に軽くチョップを入れる。

「あいたー!……まー冗談はさておきいくつか候補はあったわ」

 周子は先日のアーニャの暴走について気になっていた。
 前にも見たことあるような感覚。アーニャのあの姿は初めて見たはずなのに、似たものをどこかで見たような、そんな気がするのだ。

 しかし、自らの記憶にもなく、紗枝も心当たりのある伝承は知らないらしい。
 なので、魔界や天界と言った事に詳しいであろう沙理奈に伝手で調べてもらうことにしたのだ。
652 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:32:51.35 ID:Ah1rtJBzo

 ちなみに未央にも頼んではいたのだが、アーニャのことに関して調べるのは乗り気ではなかったようだ。
 周子としても無理に頼むつもりもなかったので、今この場に未央はいない。
 それも仕方のないこととして周子は話を進める。

「候補?例えば?」

「えーっと……とりあえず竜の姿ってことで、竜族について少し洗ってみたわ。

メアリーの件である程度は調べたことがあるし、心当たりとしてあるのは二つ」

 沙理奈は指を二つ立て自らの唇に押し当てて、もったいぶるように妖しく笑う。

「魔界では竜族はもうほとんどいないけど結晶、特に氷の竜の種族は存在するわ。

その一族の長のリンドヴルムは今も存命してるらしいってのを聞いたから部下に頼んで連絡を取ってみたのよ」

「まぁ、幸先がよさそうやなぁ」

 周子の隣の紗枝はのんびりとした口調で言う。
 紗枝としてみれば今周子が隣にいるこの状況の方が重要であり、アーニャのことについてはそこまで気にかけていないようだ。
 一方で紗枝不在の京都はかなりてんやわんやな状況であるのだが、それを彼女が知るのはしばらく後のことであるし、別の物語である。

「所はノースヘル。ニヴルヘイム州。アタシの部下のインキュバスであるエクスタシー汁田くんが、氷狼や野生のスノーゴーレムに追い掛け回され、苦労してたどり着いく。

そこには巨大な竜の姿があったのです」

 語る口調は、他人事。
 部下の苦労を茶化すように沙理奈は語る。
653 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:33:39.45 ID:Ah1rtJBzo

「まぁ結論言えば氷結竜リンドヴルムは自分の冷気で凍り付いて冷凍保存されてたってわけ。

彼以外その一族は全滅してるみたいだし、そもそもアーニャの結晶は氷じゃないらしいからハズレね」

(憐れ汁田くん……)

 周子は沙理奈に振り回されて極寒の地まで行く羽目になった部下に内心で同情しておく。
 ともかくすでに数百年以上前からリンドヴルムは凍り付いたままらしく、おそらくアーニャとは関係ないであろう。

「ちなみに結晶に所縁のある竜としてもう一つの候補、眼が宝石になってる宝石竜ウィーヴルっていうのがいたのよ。

でもかな〜り昔に金欠で困った友人のティアマットって竜に、両目を奪われて死んでるらしいわ。

そもそも結晶を身に纏うような竜でもないし、これもハズレよね」

(早くも全滅かぁ……)

 数少ない候補二つが速攻でなくなる。
 周子はあえて口には出さないが、頼んだ相手を間違えてしまったかと思った。

「そ、そんな失望を含んだ目で見ないで、ね」

「沙理奈はんの言う通り竜じゃないなら一体なんやろなぁ?

『龍脈封印』で抑えられるから、それに何か関連するんやろか?」
654 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:34:52.50 ID:Ah1rtJBzo

 龍脈とはそもそも地中に流れる自然的な力、別の言い方をすれば魔力の膨大な流れのことである。
 その形が龍に見立てられることで龍脈と呼称されるようになっただけで、実際のところ竜とはそこまで関係があるわけではないのだ。

「うーん……やっぱりアーニャの中に膨大な魔力流が渦巻いてる、なんてのも考えてみたけど……そんなことになってるならすぐにわかるわよね」

 龍脈封印で封じることができるならば、魔力の流れがアーニャの中で渦巻いているはずである。
 だが、そんな膨大な魔力の気配はここに居る誰も感じたことがない上に、そもそも天聖気が存在する以上アーニャは魔力を貯蔵できない。

「一応、魔力が結晶化するっていう話はないわけじゃないのだけれど……」

「ん?それってどういうことなん?」

「えーとね、魔力は大気中だとすぐに散っちゃうのよ。だから魔術を使うときは体内の魔力を使うんだけど……。

ごくまれに龍脈が詰まるようなことや流れ着いた魔力が収束して結晶のカタチ、マナクリスタルになるの。

そう言った環境さえあれば、時間はかかるけど人工的にマナクリスタルを作れるのだけど、正直可能性としては低いわよ」

 そもそも魔力管理を管理人がしている時点でそう言った環境が作られることはほぼない。
 かといって人工的に環境を作り出すことも不可能なので、マナクリスタルは非常に希少性が高い。
 マジックアイテムに使われることが多く、その希少性も相まってすさまじい値段で取引されているのがほとんどだ。

「そんな瞬間的にマナクリスタルを生成できるはずがないし、非効率だわ。

それだけの魔力操作ができるのなら、直接魔力波として飛ばした方がまだマシね。

それにそんなことすれば世界の魔力のバランスが崩れるレベル。速攻で管理人が察知するはず」
655 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:35:56.62 ID:Ah1rtJBzo

 だが今のところアーニャの暴走は『プロダクション』以外で知る者はほぼ皆無である。
 特に魔界で騒ぎにもなっていない上、管理塔は通常運営であった。

「つまりマナクリスタルではないってこと。天聖気で同様のことをするのはもっと不可能だろうし、この可能性は考えなくていいわね」

「そっか……」

「あまり参考に慣れなくてごめんなさいね」

 沙理奈は知識に関して魔界でもトップクラスだ。
 だがそんな彼女でもわからないということはアーニャのはほぼ全例のない事象であるという可能性が浮上してきた。
 それでも周子が感じる一抹の既視感は、依然残ったままである。

「結晶ね……氷でもなく、星の様で、雪のように消える、あの感じ……」

 周子はあの時ことを思い返す。
 あの禍々しい、全身結晶の鱗で覆われたアーニャの姿が、一方で儚く、日が昇り始めた時のような雪を思わせる。




「あ、あーー!!!忘れてた!そんなのもあったわー」

 突然、周子の呟きを聞いた沙理奈が何かを思い出す。
 その言葉を聞いて、巡らしていた思考から周子は意識を戻す。
656 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:37:00.87 ID:Ah1rtJBzo

「星のような結晶で、雪のように儚く消える。『素霊結晶』なんてのもあったわねー」

 その言葉を聞いて周子の脳に電気が走った。
 初耳のはずなのに、どこかで聞いた単語。

「そ、それ!それって何?」

「あぅ!」

 周子はその言葉に思わず立ち上がり、もたれかかっていた紗枝が思わず弾かれる。

「え?知ってるの周子ちゃん?これアタシもすっかり忘れてたくらいのことなんだけど……」

「あ、いや……なんとなく聞き覚えがあるというか……まぁとにかくそれって何なの?」

「ふぅん……。『素霊結晶』ってのは文字通り『素霊』の結晶よ。

『素霊』は霊体の最小単位。プランクトンとか細胞一つ一つの魂で、数も膨大だから魔力みたいに空気中に満ちてるわ。

さて魂ってのは輪廻転生を経て新たな生命となるわけだけれど、それにも手順があるのよ。

それを考えずに、魂に生命エネルギーを大量に注ぎ込んで受肉させようとするとどうなると思う?」

 魂は情報の塊でもある。死後情報量がそのままで生まれ変わるには莫大なエネルギーを要するために、魂を洗浄し情報を軽くする。
 そうしたような過程を経ることによって魂は生まれ変わりを果たす。
657 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:38:11.46 ID:Ah1rtJBzo

 だが極論を言ってしまえば、情報をそのままでも莫大なエネルギーさえ確保できれば情報、つまり記憶などをそのままに生命を蘇生できるのだ。
 しかしそれでも魂が戻るための肉体や霊体と肉体との拒絶反応など様々な問題がある。

 それさえも無視して魂に、復活するためのエネルギーを注ぎ込めばどうなるか?

「結晶化……する」

「そのとおり周子ちゃん♪

魂が、魂のまま物質としての質量を持つ。実体を持たない霊体がそのままに結晶として物質化する。

水蒸気が水を経て氷になるように、魂が実体として凝固するのよ」

「それが……『素霊結晶』ってわけ、ね」

「いや、人間ほど魂を結晶化させるには、普通に受肉させる以上のエネルギーが必要だから基本的にありえない。

だからこそ魂の最小単位『素霊』が結晶化する事例のみで、それを『素霊結晶』というのよ。

それでもそれなりのエネルギーを消費するから絶対に自然に起きる現象じゃあないんだけど」

 いくら魂を結晶化させるとは言っても、これは死者の蘇生である。
 かつて幾度となく挑んできた者はいたが、完全な蘇生を実現したものはほぼ皆無。
 事実生き返るには、一般的な生まれ変わりをするしかなかったのだ。
658 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:39:19.00 ID:Ah1rtJBzo

「注ぎ込むエネルギーも何でもいいってわけじゃないの。

生命の源。魔界よりもさらに下の、一周廻って天界につながる輪廻の極地にある魂の終着点。そこにのみ満ちているエネルギー。

いくつかそういった場所はあるし、基本的にはそこでしか生命の復活は不可能ね。

『素霊結晶』という現象自体が、突如として魂が物質化するほどのエネルギーを得てしまう世界のイレギュラー。

レア度にしては、マナクリスタルなんて目じゃないほどの、天文学的確率で引き起る可能性がある『だけ』の現象だわ」

 そもそも発想としてあり得なかったのだ。
 マナクリスタルは、起こり得る可能性がある現象だ。
 一方『素霊結晶』、魂の結晶化はそもそも可能性が提唱されているだけの机上の現象なのである。

 沙理奈としても、情報と知っているだけで候補にすら上がらなかった。

「昔天界で強引に試した天使がいるらしいけれど、実験の余波のエネルギーに耐えきれずその天使は消滅。

その後には、星の煌めきのようで、雪のように儚く消える『素霊結晶』が数秒間だけ確認できたらしいけどね」

 たとえ消滅を免れていたとしても、その行いは生命に対する冒涜でありその天使はただではすまなかっただろう。
 だがそれでも、『素霊結晶』の唯一の記録として残る程度のことは為していた。
659 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:41:39.57 ID:Ah1rtJBzo

「たしかあのアーニャはんは『復活』の天聖気だったんちゃうん?」

 横で話を聞いていた紗枝は首をかしげながら尋ねる。

「『復活』の天聖気は、死から肉体を復活させる天聖気なのよ。

だから、魂を受肉させる力はないし、肉体から完全に離れた魂を復活させるまではできないのよねー」

 そう言った前提があるからこそ、まず沙理奈は候補から外していた節もある。
 似ているようで非なる力であり、あくまで『復活』は自己蘇生の力で、治療はあくまでその副産物。他者を蘇生することは不可能であった。
 当然たとえ矮小な『素霊』であっても、『復活』の天聖気で蘇生はできない。

 だがそれでも、周子は確信があった。

(あれは『素霊結晶』だ)

 アーニャが纏っていた竜の鎧を構成していたのが、まぎれもなく『素霊結晶』であると確信できる。
 鎧を構成できるほどの素霊をどうやって結晶化させたかは謎だが、それが正しいことを『覚えている』。

「結局のところ、よくわからへんなぁ」

 アーニャの事情を詳しくは知らない紗枝は、これだけのことを聞いてもさっぱりであった。

「まぁ結局あれこれ考えたところでわかんないし、アーニャ本人を調べるわけにはいかないからねー。

未央ちゃんは何か知ってるかもだけど、あんまり触れてほしくないみたいだしとりあえずそっとしておくのがいいんじゃないの?」
660 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:42:30.40 ID:Ah1rtJBzo

 周子の脳内とは裏腹に、アーニャのことについては話として終わりのような雰囲気になる。


 だがその時、プロダクションの入り口の扉が開き、皆の視線が集中する。

「ドーブラエ ウートラ!おはよう、ございます!」

 入ってきたのは話題の渦中の人物。
 アナスタシアは、先日とは打って変わって上機嫌な様子で現れた。

「あら、アーニャちゃんおはようさん〜」

 紗枝は周子の隣をキープしたまま、現れたアーニャに向かい小さく手を振りながら挨拶する。

「アー!おはようさん、です!サエ」

 アーニャも紗枝に倣う様に挨拶を返す。

「ああ……おはような、アーニャ」

「ダー!周子も、おはよう、ですね♪」

 まるで悩んでいたことが杞憂であるかのように、アーニャの様子は明るい。
 全て吹っ切れたかのような屈託のない笑みを周囲にふりまく。

「機嫌がいいわねアーニャちゃん。何かいいことでもあった?」

 昨日は相当に沈み込んでいたことをピィから聞いていた沙理奈は、アーニャの機嫌の理由を尋ねる。
661 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:43:44.55 ID:Ah1rtJBzo

「私、考えました。お休みをいただいた、意味を。せっかくだから、このお休みの間で、やりたいこと、やってみることに、しました!」

 その表情に必要以上に責任を背負い込んでいた影はない。
 誰もが、アーニャが前を向いて歩きだしていることを理解する。

「心配なさそうね。周子ちゃん」

「……そう、だね。シューコちゃんの、気にし過ぎか」

 なんとなく違和感というか、喉の小骨のような突っかかりはあるものの、周子はとりあえず良しとする。
 できれば、『素霊結晶』以上に、余計な記憶を思い出さないようにと。

「ミレイ、メアリー。おはよう、ございます!」

「ん?ああ、アーニャ、おはよう、だぞ……?」

「あら、遅かったじゃない。アー……にゃ?」

 長く生きるということは、知性や精神など様々なものを研ぎ澄ませる。
 それは、違和感を察知するには長けていくということだ。

 だが純粋さは、逆に鈍っていく。
 違和感がないほどに溶け込んでいても、純粋であるがゆえに他者には敏感であった。
662 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:44:43.18 ID:Ah1rtJBzo

「なぁ……」「エー……っと」

「オマエ……誰だ?」「アナタ……どちらさま?」

 結晶の翼は羽ばたく。
 少女にして長身のアーニャは、その赤い双眸で二人を見下ろす。

「Да(ええ)、Разрешите представиться(はじめまして).」

 宙に浮くのは2本の結晶杭。
 その鋭さは、子供の柔肌を貫くには十分であった。




「下がりなさい!」

 だがその杭は打ちだされることなく、アーニャの姿と共に炎に包まれ、正体不明の力で抹消される。
 『プロダクション』内が一切荒らされることなく、アーニャは消滅した。

「メアリーに手を出すなんて、一体どこの馬鹿か知らん?」

 メアリーの前に守るように出るのは沙理奈。
 その口調こそいつものように軽いものだが、警戒心はこれまでに見せたことのないほどに張りつめている。

「沙理奈さん、まだだよ。『アレ』は、殺せない」
663 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:47:27.68 ID:Ah1rtJBzo

 同様に美玲の前に出るは周子。

「どういうこと?あのアーニャを知ってるの?」

 沙理奈がどういうことか聞き返す。
 周子は窓側の虚空を見つめながら、先ほどの翼を見てすべてを『思い出した』。

「ああ……全部、あたしは知ってるんだ。

数百年も前の、地獄の繰り返しが。

狐火の『型』も、柄にもない妖怪の『大将』も、かつての『外法者』も、『素霊結晶』も……。

全部は忘れ去られたループの渦。『外法者』の介入がなければ気づくことすらなかった世界の流転を……。

そもそもテキトーなあたしが妖怪の大将なんて……柄じゃない。

全部は『役割』だったの……。

……『ウロボロス』」

 虚空に散った影は収束する。
 『ウロボロス』は無限の輪廻。世界の極点。決して『滅ぼせない』ルール。

「Да(うん)……周子さんは、やっとワタシが何かに気づいたんだ。

『ウロボロス』の前任者のループを破った立役者の一人が、全部忘れてるのは滑稽ではあったね。

それが『ウロボロス』と言う世界のルールだから、仕方ないけど」
664 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:48:36.58 ID:Ah1rtJBzo

 ロシア語混じりでも、その言葉は日本人のように流暢。
 それなのに誰もがそれを違和感なくアナスタシアと理解し、それでいて別の『モノ』であると理解する。

「あの……ときのや」

 少し離れた場所にいる紗枝は思い出す。
 崩壊した港、アーニャを『龍脈封印』する直前に現れた謎の人格を。

「『ウロボロス』……アンタ、今度は何をするつもりなん?」

 周子は、警戒しながらも目の前の『アナスタシア』に尋ねる。
 『アナスタシア』は薄く笑い、それに呼応するように周囲の結晶の粒が輝く。

「別に……前のことはワタシも『ウロボロス』の記憶が知っていただけですから。

今度とかじゃあないよ。ワタシは、ワタシだけの『願い』を叶える。

ここに立ち寄ったのは、別れの挨拶です。ワタシ、みなさんのこと結構好きでしたから」

「人様の子たちに手を出そうとして、よくも言えるわね」

 沙理奈はメアリーを背に庇いながら、『アナスタシア』を見据える。
 二人の後ろにいる美玲とメアリーはいまだ現状把握ができておらず混乱している。

「どうせ守るって、信じていましたから」

 その物腰こそ柔らかいものであるが、その姿に得体のしれない不気味さを感じる。
 姿こそ『アナスタシア』であるのに、感情を持つ『人』と話していないような、無機物的な不気味さを。

「よく言うね……『ウロボロス』。

一体目的は、なんなの?」
665 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:49:24.37 ID:Ah1rtJBzo

 『ウロボロス』の目的はただ一つ。周子はそれを理解していたが、一応質問する。
 もしかしたら、目の前の怪物の中にまだ『アナスタシア』が残っているかもしれないということに賭けて。

「周子さんは解ってるでしょう?

『ウロボロス』が何なのかを。

ワタシは、それで『願い』を叶えるだけ。この狂った世界を正さないとね」

 張り付いたようにニヤリと嗤う顔はこれまでのアーニャとは違い、不気味に白く見える。
 その願いは始めこそ純粋なものなれど、精神は蛇の毒でねじ曲がっていた。

「そう……アーニャはもう、いないんやね」

「なにを言ってるんです周子さん?

ワタシが『アナスタシア』ですよ」

 もはや抑えきれなかった。自らが気にかけていた子の顔で醜く笑うその姿を、周子は見ていられない。

「黙って!」

 無意味だとわかっていて、周子はアナスタシアを燃やし尽くす。
 骨さえ残さぬ業火によって焼き尽くされたはずなのに、当然のように手ごたえなどない。

「周子ちゃん!?」

「ごめん……、さすがに我慢できなかった」
666 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:49:59.35 ID:Ah1rtJBzo

「ではみなさん。また会いましょう。

ワタシの願う『正しい』世界か、それとも悠久の渦の中か、何れかは知りませんけど……。

たとえどんな形になろうと、ワタシはもう止まりません。

では、До свидания(また、会う日まで)」

 当たり前のように姿なきアナスタシアは言葉を発した。
 それを最後に、異形の気配はこの室内から消える。

 まるで存在したことすらなかったかのように、静まりかえる。

「まだ……間に合う」

 ゆっくりと、周子は立ち上がる。
 時計の針は午前の11時半を差していた。


***



   
667 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:51:22.58 ID:Ah1rtJBzo


 同時刻のとある公園。

 目立った特徴もない公園では、近所の主婦が談笑していたり、子供たちが駆けずり回って遊んでいる。

 その中の小さなひとつのベンチ。目を凝らしてみれば一人の少女が小さく座る。
 誰にも見向きもされないその少女は、俯いたままただ時が過ぎるのを待っていた。

「アー……私には、何も、無いですね」

 もはや自らの存在は脱皮後のへびの抜け殻と同様であった。
 存在を保っていられるのは、わずかに残ったウロボロスの力の残滓と、掃き捨てられた神の封印、それに付随した天聖気のみである。

 それと残されたのは記憶だけ。
 忌まわしい部隊にいた時の記憶は、ご丁寧に置き去りにしていったのだ。

 自らの存在価値どころか、存在そのものまで失ってしまった彼女はもはや何もできることはない。
 諦観し、ただ時を経つを待つだけであった。

「きっと私(あのこ)は、願いを叶える」

 何も持たない、過去を諦めきれない彼女は何もできない。
 一方で、たった一つの願いを持ち過去を取り戻そうとする彼女は、世界を捻じ曲げてでも勝ち取りに行くだろう。

「だって……戦うことしか、できなかったんだから……」
668 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:52:09.00 ID:Ah1rtJBzo

 言い訳のように小さく呟く。
 誰に聞こえるわけでもない。認知ないほどに希薄化した存在は、この公園の中で唯一の孤独であった。

『ずいぶんと詰まらねえことを、言ってやがる』

「アー……それしかできないんですから仕方、ないです」

『はっ……脳がねえな。できることが限定されるなんてことはねってのによ。

やりたい放題すれば、全部はうまくいく』

「それは……あなたの、理論でしょう?」

『決まってるだろうが。俺が、『外法者(ルール)』だからだ』

 テレパシーで少女の脳内に直接響く言葉。
 だれも少女の言葉は聞けず、だれも男の声を聞き取ることはできない。

 二人だけの、静かな会話。

「……隊長」

『情けねえ面しやがって。お前は、もっと強かっただろうがよ』

 小さなベンチに、眼光の鋭い大男と姿が見えぬ純白の少女
 二度と会わないはずの二人は、小さな公園で、誰の目にも触れずに邂逅する。





   
669 :@設定 ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:53:10.10 ID:Ah1rtJBzo

ウロボロス・アナスタシア
アナスタシアの5歳まで主人格であり、本来の人格。
その精神性は、神の天聖気を内包していることにより、優しく、慈愛に満ち、争いを嫌う聖女のようなものであった。
だがある一件によって人格は崩壊、現在のアナスタシアが表の人格を引き継いで、心の中に埋没する。
それによって心の奥底、神の封印さえ超えた領域の、自らの源泉でありそのものである『ウロボロス』を発見。
内側からそれをコントロールすることによって、『外』のアーニャを助けてきた。
だが強大な『ウロボロス』の力に触れ続けることで、その人格は歪み、囚われていく。

『戦うこと』に囚われるアーニャを見限り、ウロボロスの完全復活を目論む。
そして両親が死ぬことのなかった『正しい世界』を『ウロボロス』に願う。

『ウロボロス』
滅びの三竜が一体。伽藍堂の願望機。最新の災厄。無限の大地。円環の龍。
他の二竜と同様に神を超える力を持ち、世界そのものである絶対の『ルール』。
根本から通常の竜種とは異なり、更には三竜の内もっとも近代に出現し、特に異質な性質を持つ。
数百年前に突如として現れ、世界をループによって閉塞させ、未来を消失させた。
成り立ちから歪んでおり魂を持たず、『願い』を持つ人の魂を内包することで起動する『願望機』。
『願ったから現れた』のか『現れたから願った』のかというような捻じれた因果によって、世界に突如出現している。
そして『ウロボロス』自体が意図しているのかは不明だが、『願い』を叶えさせるために時間を何度もやり直させるが、その『願い』は決して叶うことはない。
世界を閉塞させるためだけに存在する歯車である。
また、自らで完結している輪廻によって、存在するだけで周囲の生命を蘇生し『素霊結晶』を無尽蔵に生成し続ける。

ミ○ュランマン
タイヤとかも扱ってる某星認定組織のエージェント。
料理の質や店内の雰囲気などを調査し、レストランに星を与える。
星を与えられるということは実績と信頼のおけるレストランであると認定されると言うことであり、名誉であると同時に強力な宣伝効果を持つ。
そのため脅迫して星を得ようとする悪徳レストランが増えてきたため、エージェントは味覚のほかに筋肉も必要となる。
食のプロ。フードファイターとしての質は世界最高峰であり、質の高い料理で育てられた筋肉は黄金の輝きを放つ。

  
670 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/01/16(土) 19:57:44.72 ID:Ah1rtJBzo
以上です。

伏線や設定は盛り過ぎない。後で後悔することになるぞ。
おじさんとの約束だ!

てなわけで伏線大回収と説明で埋め尽くされた中編です。
長かった……。

みく、のあ、清良
周子、紗枝、沙理奈、美玲、メアリー、名前だけ未央お借りしました。
671 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2016/01/17(日) 21:16:18.34 ID:QgK/JliK0
流石の濃厚さ、おつでしてー
二重人格と願望機ウロボロス、2つが合わさり世界がヤバイ…
一瞬だけ入るほのぼのさえぶっとんでしまいますな(褒め言葉)
いろんな因縁もあるみたいですが果たしてどうなるのか…
672 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2016/01/19(火) 01:20:15.83 ID:C+aYhN7eo
>>670
おつー

いやー、隊長とアーニャの戦いに決着が付いた時
「これでアーニャの設定は大体出尽くしたのかな?」とか思ってた頃が懐かしい
まさかこんなに深いところにまで原因が根ざしていたとはねぇ

次こそはいよいよクライマックスだろうかと思うと、毎度のことながら期待とワクワクが天元突破
これもいつも言ってるけど、早く続きが読みたい
673 : ◆6J9WcYpFe2 :2016/01/22(金) 21:23:06.97 ID:SboB+OoA0
>>670
おつかれさまですっ
僕もこのぐらい書けるように頑張りたいなって思いますなぁ。
果たしてアーニャはウロボロスを止めることができるのか………

さて、早く続きを書かねば……年末にはあげられなかったよorz
674 : ◆3QM4YFmpGw [sage]:2016/01/27(水) 16:23:46.42 ID:wBTDnXNgO
>>670
おつしたー
相変わらずのボリューム&スケール、隊長との邂逅で事態はどう動くか……

うん、駄目だ
だらだらしてる間に新年最初の投下を逃してしまった、このままじゃ駄目だ
というわけで、自分を追い込む意味でも若林智香を予約します!
675 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:07:08.07 ID:l35uEx/h0
お久しぶりです
学園祭三日目のイベントを投下させていただきます
676 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:08:14.00 ID:l35uEx/h0
2日続けて事件が起こったにもかかわらず、相変わらず学園祭は賑わっている。

適当に露店を巡りつつ、地図を片手に李衣菜と奈緒は会話を交わしていた。

李衣菜「リンゴ飴美味しい?」

奈緒「うん、飴とりんごが口の中で混ざっておいしい」バリバリ

李衣菜「…バリバリいくね」

奈緒「飴ってそうやって食べるもんだろー?飴先に舐めたらただのリンゴだし…」

李衣菜「そう言われればそうなんだけど…あー、次どこ行く?今ココだから…近い飲食系の店はメイド喫茶だけど」

奈緒「メ、メイド喫茶かぁ…やっぱりそこはちょっと…」

李衣菜「行きたくないの?」

奈緒「……恥ずかしいし…」

李衣菜「恥ずかしい…?」

奈緒「だって!メイド喫茶って『お帰りなさいませご主人様❤』『今からオムライスに魔法をかけますねぇ❤』とか言われるんだぞ!?」

李衣菜「…それが恥ずかしいの?奈緒ああいうの好きでしょ?」

奈緒「いやいやいやいや違うから」

李衣菜「違うんだ…」

奈緒「違うんだってー…アニメとああいうのは違うっていうかー…李衣菜にわかる表現だとロックとメタルくらい違うんじゃないかな」

李衣菜「……そ、そうなんだー」

奈緒「だろー?」

李衣菜「でもさ、一切興味が無いってワケじゃないでしょ?」

奈緒「そっ、そんなわけないだろ!?別に行きたいなんて少しも思ってないしっ!」

李衣菜「はいはい」

奈緒「はいはいじゃないー!」
677 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:09:30.19 ID:l35uEx/h0
「きゃあああ!!」

メイド喫茶が見える場所で行くか行かないかグダグダと問答を繰り返してると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

その悲鳴に人々は足を止め、何事かと周囲を見渡す。もちろん二人も一瞬で顔を見合わせていた。

奈緒「李衣菜!」

李衣菜「今のは…向こうからだね」

声の下方向から蜘蛛の子を散らすように逃げ出す人々を躱しながら悲鳴の聞こえた方へ向かうと、ベンチが置かれている木のそばに黒い異形…カースと、倒れている少女が見えた。

カース自体はそこまで大きくもなく、獣型というわけでもない。それほど強敵ではないように思えた。

しかし、その姿をはっきり視認すると、普段見るカースとは少々雰囲気が違うように感じられた。

カースの核を覆う黒い部分は流動体のような動きと不浄を感じさせる色から泥と例えられることが多い。

しかし、このカースは比喩ではなくそのまま黒い泥が沼から人の形をして起き上がったような…そんな奇怪な印象を与える姿をしていた。

特に奈緒はそのカースの発する異様な何かを察知し、少し声を震わせながら李衣菜に伝える。

奈緒「り、李衣菜…こいつ、普通のカースと違う…!何か変だっ…!」

李衣菜「…少なくとも今までこんな見た目のやつはいなかったよね」
678 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:11:52.58 ID:l35uEx/h0
『ア”…ア”…』

こちらに気づいたカースが伸ばした腕からぽたりぽたりと黒い泥を滴らせながら近寄ってくる。速度こそ遅いものの、不気味としか言いようが無い。

奈緒「そうじゃないんだ!なんか…、近寄るだけでヘンになりそうだ…!」

李衣菜「…奈緒がそこまで言うなら、かなりやばそうなんだけど…もしかしてこれ怠惰のカース?精神干渉系?」

奈緒「わかんない!でも少なくとも怠惰よりやばそうだ、触らないほうが良いと思う!」

李衣菜「触らないほうが良いって言われても武器は家だし…」

奈緒「だ、だってぇ…」

『オあ…!』

李衣菜「…まぁ、私にはコレが一応あるけどね、あの女の子も早急に助けなきゃだし」

ボルトを隠していた帽子を取ると、頭から延長コード付きのボルトを取り外し、程良い長さに調整する。

李衣菜「よーいっ…」

ボルトをぐるぐると振り回し、遠心力のままにカースに叩きつけた。

李衣菜「しょっと!」

『あ”……あ”ー…』

叩きつけた衝撃によってぐちゃっと音を立ててカースの形は崩れる。

李衣菜「…うわ…ちょっとこれは…」

口では狼狽えてるように装いつつも、露出した核を視認するとすかさずそこに再びボルトを叩きつけた。

緑色のその核は、奈緒には普段見かけるものよりも濁っているように見えた。

『いあ”…!?』

核は砕け散り不浄の泥も消滅する。それを確認すると奈緒はすぐさま倒れていた少女に駆け寄った。

奈緒「おい、大丈夫か…って…あれ、みく!?」

猫の耳と尾、そしてメイド服。間違いなくそれは前川みくだった。
679 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:14:32.97 ID:l35uEx/h0
李衣菜「その子、知り合い?」

ボルトを頭にはめ、帽子をかぶり直した李衣菜が、横から問う。

奈緒「うん、前に色々あって知り合った子なんだけど…」

みく「おさ、おさかな…かかかか…」

李衣菜「…大丈夫…じゃなさそうだね」

うつ伏せに倒れていた彼女をとりあえず仰向きに寝かせるように体勢を変えてやると、虚ろな目でよくわからないことを言い続けている。

みく「くるにゃぁ…さかかかか…かっ、かつうぉ…」

奈緒「おい、しっかりしろ!魚なんていないだろ!」

李衣菜「うーん…とりあえず見えるところに怪我は無いね…」

奈緒「それ以前に正気を失ってるよ!?」

李衣菜「そうだけど、あのカースがどういうカースか手がかりがないかなぁって。外傷は無いから…」

みく「にゃぁぁぁ…」

奈緒「幻覚か何かかはわかんないけど…こういう感じで精神に干渉するのは初めて見るよな?症状が今までの七つのカテゴリーには当てはまらなそうだし」

李衣菜「そうだね…偶然生まれた個体ならまだしも、同じ力を持ったカースがいたらヤバイだろうし…戻らないならこの子を検査しなきゃなんじゃないかな…」

みく「にゃっ、にゃああああ!!」

李衣菜「!」

二人で話していると突然、寝かせていたみくが飛び起き、叫びながら李衣菜に跳びかかった。

みく「ふーっ!ふーっ!」

李衣菜「お、落ち着きなよ…」

目を見れば明らかにまだ正気ではない。狂乱のあまり全てが敵にでも見えているのだろうか。

素早く対処した方がいいと機械的なほど冷静に判断した李衣菜は、微弱な威力の放電をみくに行った。

李衣菜「…ちょっと、ビリっとするよ」

みく「にゃぁぁ!?」
680 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:16:22.77 ID:l35uEx/h0
奈緒「ちょ、ちょっと李衣菜!?」

李衣菜「いやぁ…なんかこれしかないかなって」

李衣菜に倒れこむように気を失ったみくを今度は壁により掛かるように寝かせ、少しして彼女は目を開いた。

みく「うう…みくは一体何を…?」

奈緒「あ…みく、大丈夫か?カースの影響は感じないし…正気に戻ったんだな?」

みく「…奈緒チャン?えっと、隣の子は…」

奈緒「ああ、こっちは多田李衣菜、あたしの…友達。ところでさっきは何があったんだ?」

みく「えっと…みくは確か…お店の呼び込みをしていて……そうにゃ、女の子がカースに襲われていて、トロそうな奴だったし少しこっちに気をそらそうとして…」

奈緒「攻撃したのか?」

みく「うん、ちょっとひっかいてすぐに逃げれば十分だと思ったんだけど…」

李衣菜「…それで攻撃したらこうなってた…って感じ?」

みく「…そういう感じにゃ」
681 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:19:07.40 ID:l35uEx/h0
奈緒「そうだ、身体は大丈夫か?違和感とかは?」

みく「まだちょっとくらくらしてるけど…違和感も無いし問題なさそうにゃ」

奈緒「よかった…」

李衣菜「でも、結構心配になるレベルでおかしくなっていたから…一応気をつけてね、もうカースの影響は無さそうだけど」

みく「えっ、何、みく何かヤバイ感じだったの?」

奈緒「…なんというか…意味分かんないこと言ったりしてた」

李衣菜「ちょっと私に襲いかかったりもしたよね」

みく「そ、それは…ごめんにゃ」

李衣菜「あ…いや、こっちもみくちゃんに手荒なことしちゃったし。…とりあえず無事なら良かった。私たちもう行かなきゃ」

奈緒「そうだなー…もうちょっと話していたかったけど、用事ができちゃったし。調べなきゃなぁ」

みく「急用?……まぁみくも呼び込みの途中ではあったけど…」

李衣菜「同じようなカースがいるかもしれないし、気をつけて。とにかく近づかないほうが良いよ」

みく「それは十分身を持って知ったにゃ…」

奈緒「じゃああたし達もう行くから!また今度あったらゆっくり話そうな!」

みく「う、うん、二人も気をつけてね」

みく(……李衣菜チャン、だっけ?なんか奈緒チャンとはまた違う感じでミョーな雰囲気の子にゃ…)
682 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:25:31.12 ID:l35uEx/h0
そんな出来事とほぼ同時刻。屋台で買った食べ物を機嫌良さそうに持ち歩くあずきと涼がいた。

あずき「もう3日目だけど、涼さん…おっきいライブで歌うって大変じゃない?毎日ここに来て、歌って…」

涼「まぁ、大変っちゃ大変かな…でも、この学園祭で歌えるってのは結構名誉なことなんだ、それならその期待に答えなきゃだし」

眠り草『そうは言っても、事件で潰されちゃ期待も何もないでござる。来ただけ損でござる。メイド喫茶は別として、メイド喫茶は別として!!!』

涼「そう力説されても刀背負ってメイド喫茶なんて行かないからな?」

眠り草『殺生な!鬼!悪魔!』

あずき「でも、そうだねぇ、昨日も一昨日もいろいろあったし…今日は落ち着いて歌えるといいよね…あれ、あそこ…何?」

涼「どうした?」

あずきが指で示した方に視線を向けると、黒い泥の塊がいくつかうごめいているのが見えた。

それは子供に擬態したカース…AMC、そして妙な…ゾンビめいた雰囲気を感じるドロドロとしたカースだった。

『ヒィィ!』『助ケテ!』

『ア”…、アー…』

『イヤダァァァ!』

おそらくはAMCが狂信を感染させようと接触したのだろうが、逆に精神汚染を受けてしまったようだ。

不安定なエネルギーによって姿を保てなくなり悲鳴を上げながら擬態が不完全なモノになっていく。

それは下手なホラーよりも背筋が冷える光景だった。
683 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:27:22.59 ID:l35uEx/h0
あずき「カースがカースを襲ってる!?」

涼「…カースが近くにいるなんて聞いてないんだけど…」

眠り草『ヤッベー☆メイド喫茶のこと考えてたからカースの気配を察知し忘れたでござるぅ☆』

涼「コイツ…」

眠り草『ヒエッ、すみません…し、しかし、あれらはカースにしては何か気配が妙でござるな、何かしらの力の影響を受けているようでござるよ!よ!』

あずき「何かしらって?」

眠り草『専門外でござる』

あずき「そっかー、とりあえず向こうがお互いに集中してるならさっさと通り過ぎたほうが良さそうだね…」

涼「そう、だな…」

眠り草『…なにか来るでござる』

涼「へっ?」

眠り草の言葉を聞いたと同時に壁…いや、壁と床の境から、煙が吹き出していた。

その場に居た者の注意がその煙に向いた瞬間、そこから狼のような…狼男のような、「何か」が飛び出してきたのだ。

絶句した刹那、その獣はその場にいたカースをまとめて粉砕し、周囲にカースがいないのを確認すると再び煙とともに壁と床の境に消えてしまった。

それはあまりにも素早く、力強く、静かな嵐のようだった。
684 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:28:33.25 ID:l35uEx/h0
あずき「…なにあれ」

眠り草『カースでござるな』

涼「…やけに素早いカースだったな」

眠り草『ワープできるカースなんて拙者も初めて見たでござるよ』

あずき「うーん…カースってカースを攻撃するものなの?」

眠り草『えーっと、まぁありえなくはないでござるけども』

涼「こっちが襲われないならまぁいいけど、カースがまだ校舎に残ってるのはちょっと…不安かな」

あずき「昨日のが残っちゃったのかなぁ…気をつけないとね」

妙なカースの出現と異変。それに気づいた者は少なく、そして異変に気づいても何が起きているのかわからない。

訪れた人々は何も知らぬまま、事件へと巻き込まれていた。
685 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:29:18.41 ID:l35uEx/h0
日菜子「…王子様、大変なことになってますねぇ?」

日菜子「『屍食教典儀』がこんなことになるなんて、流石に日菜子にも予想外でしたよぉ」

学園の裏山で、少女がふわふわと浮かぶ暗闇に話しかけながら学園祭の人の流れを見つめている。何かを探すように。

日菜子「『ナコト写本』がカースと結合したモノは害を与えるモノにはなりませんでしたけど…」

日菜子「『屍食教典儀』は存在そのものが邪悪な魔道書…それがカースと結びついて悪影響を与えないはずないですもんねぇ…実際、人の多いこの場所に現れたのもそういう事でしょうし」

彼女からはいつもの笑顔が消えていた。冷静に、人々の動きを見ている。…そして蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う人々の動きを見つけた。

日菜子「むふ、名付けるなら『退廃の屍獣』…という感じでしょうかねぇ…以前からここに住み着いていた『孤高の猟獣』が探しまわってるみたいです」

日菜子「…日菜子、今日こそ普通に楽しみたくて来ていたんですよぉ…きっとこの混沌が悪い気か何かの流れを運んでしまって…あっ、コレは日菜子の妄想ですけどぉ…♪」

日菜子「いえ、いいんですよぉ…見失ったあのカースの悪影響を日菜子の友達が受けてしまったらと思うと放置なんてしておけませんし…」

日菜子「わかってますよぉ、昨日と同じようにしますからぁ…」

いつの間にか彼女は仮面を付け、その手には白銀の槍が握られている。

ニコ「…むふ、準備はバッチリですねぇ、行きましょう王子様♪」

そしてゆったりと一歩を踏み出した。
686 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:30:31.15 ID:l35uEx/h0
イベント・魔道書事件開始

ボスカース
・『退廃の屍獣』
暴食・色欲・怠惰の核に魔導書『屍食教典儀』が干渉して生まれた『退廃』のカース。
巨大な山羊のような姿をしており、ドロッとした人型カースを生み出す能力を持つ。
また配下のカース共々、体を構成する泥に触れると精神汚染を引き起こし、同じカースでさえ正気を失ってしまう。
精神汚染をばらまき、同類を増やすために京華学院を襲う。
また、特殊な事に核同士や魔導書は融合しておらず、更に核は一つでも残っていると他の核を再生させる。

エクストラカース
・『孤高の猟獣』
傲慢・強欲・怠惰の核に魔導書『ナコト写本』が結合し生まれた『孤高』のカース。
成人男性程の狼の様な姿で、以前からたびたび京華学院で目撃されていた。
特に何かする訳でもなく近寄っても危害を加える素振りを見せなかったため、京華学院の研究対象として半ば放置されていた。
物質の鋭角から鋭角への瞬間移動能力と高度な追跡能力に加え『孤高』ゆえの何者にも屈しない精神力を持っている。
基本的に屍獣とその配下のみを標的にしている。
別名『京華の魔獣』。
687 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:31:04.81 ID:l35uEx/h0
・魔導書事件の大まかな流れ。
1:人の多い所に行こうとする屍獣や手下を迎撃・撃退する。
2:その際、ニコ(仮面の少女)または猟獣の片方もしくは両方が参戦してくれる。
3:撃破すれば魔導書を確定ドロップ。要らない場合はニコが引き取ってくれます。
4:猟獣を倒そうとすると逃げる他、下手するとニコも一緒に襲いかかってきます。
5:ちなみに猟獣は学院内ではわりと受け入れられてます。

「ナコト写本」
旧き魔道書の一つにして時と空間に関する記述が記された一冊。
並みの人間では、手にする事さえ不可能な程の力を秘めた魔道書であると共に、「窮極の門」と呼ばれる物を開くための暗号が記されているとも言われる。
記された秘術も時間や空間に関する物が多い。

「屍食教典儀」
旧き魔道書の一冊であり、闇に生きる者達が行った背徳的行為に関する記述を残す書物。
その内容は、正常な感性を持つ人間にとっては到底受け入れられるものではなく、まさしく邪悪の一端である。
また、使用者の精神を退廃的に蝕む為、扱う際には自分を強く保つ必要がある。
秘術は主に闇や土を操る術が書かれている。

※専用スレの◆UCaKi7reYU氏の投稿から引用、改変させていただきました。
688 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/01/29(金) 02:32:17.46 ID:l35uEx/h0
以上です
開始宣言にボスカースを登場させないプレイング

久々の投稿だけどもやっぱり投稿すると書いている時より短く感じる…
689 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2016/01/30(土) 00:31:15.59 ID:bQHNqKiZ0
>>688
おつかれさまですっ
投稿すると書いている時より短く感じる・・・・・・あると思いますw
結構長く書いちゃったなって思っても、実際に投稿してみるとあれ?ってなったり・・・・・・。

3日目のボス+エクストラ登場ですなー
3日目はこっちはユウキのわらしべイベントもあるから、それと絡ませ・・・・・・たら大変なことになるねw
んー、ちょっと本編が煮詰まっちゃったし書いてみるか
690 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 21:57:02.81 ID:H+PnEL/o0
ドーモお疲れ様です
近々とは。果たして何だったか
次レスより投下します
『獣人界』および『イツキ』の設定を頂戴していますが、あまり原型をとどめていない
691 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:00:05.98 ID:12lMyB4a0
 プロローグ

 その朝イツキは、高層ビル建設現場鉄骨の上から地上を見下ろしていた。視線の先、数キロメートル遠方には舗装された大噴水広場。そして、戦うヒーロー。
 朱色のヒーローはアケグチの高速スピンに弾かれ、空高く巻き上げられた。黒い方が発砲。アケグチ回転体から血とは異なる色の液体が迸るがダメージ軽微。

(アケグチ、機械の体になって手がつけられなくなってる……獣人界に生かして帰すわけにはいかない、けど)

 ヒーロー達は目に見えて苦戦。無理からぬ話だ。カメ族のアケグチは生身の頃から走攻守に隙のない強力な戦士だった。まして、人間界のテックと融合した今となっては。
 握り締めた拳に血が滲んだ。この戦いはイツキにとって、単なるヒーローとヴィランの死闘以上の意味を持つ。獣人界の行く末を占う一戦だ。
 ……事の始まりは四ヶ月ほど前。半世紀に渡り獣人界を治めてきた蛮王センジンも老いには勝てず、季節の変わり目に体調を崩して病床に臥したのだ。
 これを好機と見た獣人六戦士は、己が王となるべく各々配下の軍団を率い、ライオン王家に戦いを挑んだ。
 氷雪に閉ざされた険しき地に王都ファングリラが拓かれた古来より、獣人界では力こそが全てに優る価値観だ。それは王位継承に関しても変わらない。
 故に王家の若き忠臣イツキも、敗れて死ぬならやむなしと考えていた。……だが、戦乱は年が明け、季節が移り変わった今なお続いていた。

(大軍団を率い、民を巻き添えにして多くの血を流し、それでも王家を滅ぼせない。逆賊どもに王の資格なし!)

 馬鹿げた戦に、滅ぼされるまで付き合ってやる必要はない。イツキは身の程知らずの戦狂いに思い知らせるべく、兵団の同志に後を任せて人間界へ発った。
692 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:02:11.25 ID:12lMyB4a0

 彼女の目的、それは人間界で武者修行しているはずの王子シャキョウを見つけ出し、獣人界へ連れ帰ることだ。
 王子が六戦士と決闘し、六つの首級を以て正当後継者の力を知らしめる。真に力を持つ者を知れば、六戦士の配下達も再び王家に忠誠を誓うだろう。
 ……だが、この策はイツキが人間界の地を踏んだ翌日には頓挫していた。何の当てもなく一人の獣人を探すには、人間界は広すぎたのだ。
 否、失望するには早い。やるべきことは一つではない。センジン王が度々口にしていた旧き友、エボニーレオへの協力要請。
 五年前の平将門参拝の折、王は人類至上主義ヤクザの襲撃を受けた。窮地の彼を助け、共闘した者こそ、エボニーレオを名乗る霊長の戦士であった。

(あの蛮王が友と認めたほどの戦士なら、きっと獣人界の戦乱を収め、民を救える力がある!)

 エボニーレオについて分かっているのは、アイドルヒーローと呼ばれる戦士の一人であることのみ。ならば、まずは同じアイドルヒーローと接触し情報を得るべし。
 イツキはネオトーキョーを目指した。メガコーポと町工場、科学と神秘、秩序と無法。相反するものが陰に日向に争う暗黒経済都市を。

(善と悪の……ヒーローとヴィランの戦いも、日本のどこより激しい。きっとアイドルヒーローも……)

 苦難に満ちた旅路であったが、精霊はイツキに味方した。ネオトーキョーにたどり着いたその朝、事件が起き、アイドルヒーローが投入されたのだ。
693 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:05:26.32 ID:12lMyB4a0

#1

 正面から迫る死は、軽自動車にも匹敵する巨大な甲羅の形をしていた。エボニーコロモは少々不格好に転がり、死神の手を逃れる。
 甲羅が通り過ぎる瞬間こそ、カウンター至近距離攻撃のチャンス……否、時速200kmの高速を誇る巨体は、移動に伴い強力な風圧を発生させる。
 下手に動けば体勢を崩され、隙を逃さぬ恐るべき逆噴射機構を備えたサイバー甲羅の反転突撃により血の花を咲かせていたであろう。

「来るかよ」

 サイボーグカメ獣人は伸ばした右腕をアスファルト路面に突き刺し急ターン。同時に甲羅表面のヘキサ形パネルがスライドし、推進器が露出する。第二撃の構え!
 避けるばかりでは埒が明かぬ。それどころか、ヒーロー肉体を持つとはいえ素のままの人間と疲れ知らずのサイボーグでは持久力の差は歴然だ。
 エボニーコロモは束の間、空を見上げた。鉛色の空。分厚い雲より遥かに低い所に、鮮血めいて赤い太陽が浮かぶ。彼は真っ向受けて立つ覚悟を決めた。

「ちと、位置が悪いか? まァ、上手くやるさ」

「バモーッ!」

 推進器から眩い光が溢れ、サイボーグカメ獣人はわずか二秒でトップスピードに達した。一方のエボニーコロモは連続側転し、甲羅から大きく距離をとる。
 サイボーグカメ獣人にとって数メートル程度は誤差の範囲。隙を逃さぬ恐るべき逆噴射機構が攻撃ベクトルを強引に反転させ、アスファルトを溶かしながら再度の突撃!
694 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:06:56.48 ID:H+PnEL/o0

 エボニーコロモは最早その場を動かぬ。コンマ五秒後、大質量が衝突! ……おお、見よ! エボニーコロモ健在! 巨大甲羅をガッチリと受け止めている!

「ヌウーッ……」

 エボニーコロモは歯を食いしばった。無表情な黒子ヒーローマスクの奥では、オニめいた形相に汗が幾筋も流れ落ちる。
 スーツ内蔵筋力増強装置のリミッター解除は禁じ手に等しい裏技だ。常人の10倍を上回るヒーロー筋力を得られるが、最悪の場合、全身粉砕骨折して死ぬ!
 故にエボニーコロモの判断は早かった。ヒーローとしては小柄な体躯に、神話時代の英雄を思わせる気迫が満ちた。

「フンッ……トゥオーッ!」

 シャウトと同時に巨大甲羅は地面と垂直の形に持ち上がり、次の瞬間にはアスファルト路面に裏返しで叩きつけられていた!

「グワーッ! ……ハハッ、やった。あとは任せる」

 仰向けで全身こむら返りじみた激痛に悶えながら、エボニーコロモは空を見上げた。赤い太陽は……否、直径2メートルほどの火球は、未だそこにあった。
 火球は狙い定めるように小刻みに数回揺れると、ジャベリン形状に変化し急速落下、腹を見せるサイバー甲羅の中心に深々と突き刺さった!

「ARRRGH!?」

 サイボーグカメ獣人が悲鳴を上げ、もがいた。甲羅は半ば地面に埋まり、自力では満足に動けぬ。腹の上で人型に変化した炎を振り落とすことも当然不可能。

「ARRRRRRGH!」
695 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:10:59.99 ID:OdbudYhc0

「プロデューサー、トドメは?」

 不定形の人型から削り出されたような右半身、少女めいてあどけない顔が問うた。エボニーコロモの顔面ディスプレイにオレンジ色の髑髏マーク……キルサインだ。
 放送コード上、人型ヴィランの処分には面倒な制約が多い。身体の大部分を機械化された敵の場合、ゴアが映り込まなければ電波に乗せることができる。
 フレアダンサーは頷き、甲羅に刺さった炎そのものたる左半身を深くねじ込む。サイボーグカメ獣人の悲鳴にノイズが混じる。

「ARRザザッRRGH! ……ザリザリアバザザッバババ」

「……イア! クトゥグア!」

 フレアダンサーは神を讃え、深奥から力を搾り出す。サイボーグカメ獣人の断末魔はノイズに塗り潰され、サイバー甲羅の隙間から白い灰がこぼれた。

「……生体部位の焼却を確認、討伐完了。……フゥー。お疲れ様だな、フレアダンサー」

 半人半炎のシルエットは甲羅から回転ジャンプ、エボニーコロモの隣に着地した。
 右半身に侵食し胸と腰を隠すだけの扇情的踊り子ヒーロー装束を織り上げていた赤い炎が消え失せ、既に斉藤洋子はスポーティーなインナーを着用している。
696 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:12:53.70 ID:H+PnEL/o0

「プロデューサー、大丈夫? けっこう無茶してたみたいだけど」

「ひとまずは、な。筋肉痛が長引かないよう願うばかりだ」

「そんなこと言うトシでもないでしょ」

 エボニーコロモは全カメラの停止を確認してからヒーローマスクを脱ぎ、相棒と軽口を交わす。……そして、スクラップと化した軽バンを見やり、肩を落とした。

「二代目はよく頑張ってくれたな。買い換え予算は下りるだろうが」

「美世ちゃんの能力、当たりが出るといいですね」

「ソレよ」

 亡き『二代目』は田舎くさい外観に見合わぬスーパーマシンであったが、その改造はアイドルヒーロー同盟の同僚、原田美世の能力による。
 車両に超スペックを付与する彼女の能力は、一方で確実性が低い。頼りきりになるより、ベース車両の時点でワンランク上のものを買うべきか。
 エボニーコロモ、すなわち黒衣Pの懸念は社用車だけではなかった。サイバー甲羅の残骸に歩み寄り、脱落したパネルの一つを拾い上げる。

「双子のワンチャン……いや」

 パネルの裏には、サイボーグ改造を手がけたと思しきメーカー章が精密レーザー彫刻されていた。付着した灰を払い、……予想は不愉快にも的中した。
697 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:15:49.83 ID:12lMyB4a0

 エンブレムの正体、それは可愛らしい子犬ではない。キツネの死骸を奪い合うように貪り食らう、おぞましき双頭の狂犬である。オルトロス機関。
 ツインパピー・エレクトロニクスは、表向きにはルナール社と提携関係にあり、サイボーグやドロイド制御用の電子基板を製造・供給している。
 だが、その裏の顔こそは反ルナール組合の盟主、神出鬼没たるオルトロス機関であり、時折こうしたルナールへの武力攻撃を行っているのだ。

「あっ、コレ……またオルトロス?」

「ああ。何となくそんな気はしてたが、いい加減ウンザリしちまう」

 いつの間にか手元を覗き込んでいた洋子に、黒衣Pはパネル残骸を押し付けた。オルトロスは彼にとって憎き敵であるが、ここまで来ると憎悪も褪せるような気さえする。
 二月に始まったオルトロス製改造獣人によるルナール襲撃事件は、二ヶ月も経たぬ内に五件目となった。さらに言えば、四件目は本件と同時進行だ。

「こんな短期間で、よくこれだけの改造獣人を揃えられたというか、何というか……」

 洋子の驚きも無理からぬことだ。獣人は人間より強力な種族であり、特に改造素体として有用な戦い慣れした獣人は、殺すも捕らえるも困難を極める。
 市井の獣人であれば交戦リスクはいくらか下がるだろう。だが、その場合には市民に害を成す者をアイドルヒーロー同盟が見落とすことはないはずだ。

「闇ルートで流れてきた住民タグ無しが、そのまま闇に飲まれたか? ……厄介な、どれだけの数が入ってるのかも把握できてねえッてのに」

 黒衣Pは短い黒髪をバリバリと掻いた。果たして今後も改造獣人事件は続くのか。場合によってはシロクマPを通じて獣人コミュニティを調査せねばなるまい。

 少数者への干渉となる行為は、たとえ市民を守るためといえどもヒーローとして望ましくない。黒衣Pは不機嫌に唸った。
698 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:18:18.70 ID:OdbudYhc0

 ……その時だ。フォウフォウと奇怪なキネシス干渉音を従え、VTOLめいて降下してくる物体あり。クジラかカツオブシを思わせるシルエットの輸送ツェッペリンだ。

「ウンパンマンか。あのサイズを寄越すのは、要するに残骸も持って帰れってことだよな?」

 円滑なヒーロー活動には周辺への配慮が欠かせぬが、上の指示は現場に余計な苦労を強いる。ここぞとばかりに全身の筋肉が痛みをアピールし始めた。
 クジラ輸送機の後部ハッチが開き、先客の姿が見えた。四件目を担当したアイドルヒーロー、カミカゼこと向井拓海。そして彼女をサポートする原田美世。
 武装スーパーカーの奥に見えるものは、彼女らが仕留めたサイボーグイノシシ獣人の残骸であろう。

「ソレ積むんだろ? アタシがやる、どいてろよ」

「おう、助かる」

 願ったりだ。黒衣Pは邪魔をせぬよう数歩下がった。カミカゼスーツを装着したままの拓海は、サイバー甲羅の残骸を軽々と持ち上げる。
 廃車確定軽バンも詰め込まれ(無惨な姿に美世は卒倒しかけた)、黒衣Pもまた輸送機に乗り込んだ。洋子は? ……外だ。彼女はどこか遠くを見ていた。

「……プロデューサー、先に帰ってて! 私、ちょっと寄り道するからっ!」

「ア? おい、待グワーッ!」

 洋子は走り出していた。背後のクジラ輸送機から聞こえた悲鳴は、後を追おうとした黒衣Pが倒れたか。もはや振り返らず、速度を徐々に増す。
699 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:21:08.86 ID:OdbudYhc0

 カエン索敵視界には、寄せ木細工めいて入り組んだ透明感のある赤と黄、そして黒ずんだ濃い桃色が映し出されていた。即ちヒーローと、色欲のカースドヒューマン。
 次の瞬間、ヒーロー色が桃色に覆われて見えなくなり、洋子は己の判断が間違っていなかったことを知った。
 カエン視界を朱色のジャベリンが無数に飛び去っていく。洋子自身もヒーロー脚力をフルに発揮し、投槍の群れを追って色の元へと向かった。

《ボウズ、そろそろ出しちまいたいンだけどよ》

「アー……ハイ、スンマセン、オッケーです」

 スーツ内蔵の通信機から聞こえたダミ声に、黒衣Pはやむなく了承した。あまり長居をすると、ルナールとの間で厄介事が起こりかねない。
 然り。この大噴水広場はルナール西支社ビルの敷地内であり、ルナール自社戦力の介入前に決着をつけられたのは実際幸運であったのだ。

「……流石に迷子にはなるまいが」

 フォウフォウフォウフォウ……。キネシス能力による飛行は、エンジン音も不快な振動も生じない。黒衣Pはキャビン床に伏せったまま動けなかった。
 洋子がいれば、多少は美世の気を逸らせただろうか? 背中に刺すような視線を感じながら、黒衣Pは相棒を無理にでも引き留めなかったことを後悔した。

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700 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:23:57.54 ID:H+PnEL/o0
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 アケグチの最期を見届け、イツキは腰に提げたヒョウタンの中身で口を潤した。良質なアルコールと薬効成分がケミカル反応を起こし、思考を加速させる。
 賊軍は王軍を数で上回り、王城にまで迫りながらも攻めきれなかった。六戦士の各々が自ら王にならんと望み、互いに連携しなかったことが理由に挙げられよう。
 だが、先の戦いが真の理由を明らかにした。焼かれて死んだアケグチと、飛行機の中から死臭を放っていたトホツグ。いずれも六戦士のツワモノであった。

(戦いの膠着は、賊軍最大戦力のうち二人が獣人界に不在だったから……それだけじゃない、戦力差から考えれば、六戦士の残り四人も人間界に来てるかも)

 人間と協力しハイ・テックや能力者の力を借りようとするのは、王家を滅ぼした後を考えれば当然の判断だろう。イツキ自身、似たような理由でここにいるのだ。
 人間界で六戦士をいくらか減らしておけば、獣人界に戻ってからの戦いも多少は楽になるだろうか? ……彼女の思考はそこで中断された。
 その肉体は今や空中にあり、首と四肢には何らかの黒いヒモ状物体が巻き付いている。

(なっ、何これ!? 敵!?)

 思索に耽り、気配に気付かなかったか? イツキはウカツを悔いた。得体の知れぬ黒い物体は泥めいた質感の割に強靭であり、力任せにすら引きちぎれぬ。

「イッヒヒ……ケモノ……ケモノ……ヒヒヒッ」

 悪戦苦闘するイツキの目の前で、黒い泥が集まって人の形をとった。黒い人型はイツキの胸に顔を埋め、深呼吸するようなそぶりを見せた。
701 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:25:43.01 ID:12lMyB4a0

 生温かい吐息に、イツキは全身をこわばらせた。発情を理性で抑制できぬ、単なる獣に等しい下賤の者を目の当たりにした時と同様の不快感がある。

「……ッ! 離してっ!」

「ダメ、駄目ダヨォ……オレ、ケモノ、ノ、オンナノコガ……ヒィーッヒヒ!」

 黒い人型は極めて興奮状態にあった。イツキの腰や太腿を撫で回していた泥の手が分裂して無数の触腕と化し、好き勝手にその身体をまさぐり始めた。
 イツキは過去の戦いの記憶を呼び起こそうとした。クモ獣人の粘着網、タコ獣人の締め落とし、クラゲ獣人の神経毒。彼女は全て打ち破り、血の海に沈めてきた。
 だが今、牙も爪も無力。いずれ辱められ、誇りなき死を迎えるのだろう。不快な快感に弛緩しつつある心身で、イツキはそれ以上考えられなかった。

「……ウッ! ……フウーッ……フウーッ……カワイイヨ、ケモノチャン……今度ハ中、中デ……アバーッ!」

 恍惚じみた声が突如として絶叫に変わり、イツキを正気に引き戻した。猥褻存在の首から上がなく、その断面は朱色の炎を上げて燃えている。
 一体何が!? 次いで不躾な触腕が爆ぜ、白い灰と化して散った。

「ヤメロ! オレノ邪魔アバーッ!」

 再び悲鳴。身動きの自由を奪っていた黒いヒモ状物体が触腕と同じ運命を辿り、解き放たれたイツキは落下!
702 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:27:39.36 ID:12lMyB4a0

 見上げた鉛色の空を、朱色の光が横切った。イツキは首を動かし、朱色の動きを追う。獣人の動体視力は、舞台装置めいて空中を舞う女の姿を捉えていた。
 猥褻存在が次々と繰り出す触腕は、女に届く前に空中で爆ぜ、灰となる。さらには黒い泥の本体らしき部位さえも次々と爆ぜ、黒ずんだ桃色の球体が露わとなった。

「……ハイイーッ!」

 鋭いシャウトが遥か空高く飛ぶ猛禽めいて響き、女は投擲動作を終えていた。朱色の装飾剣が球体を砕き、黒い泥を焼き尽くした。
 イツキは獣人特有の身体能力で姿勢制御、ウケミ回転により着地衝撃を極限に抑えた。すぐさま立ち上がろうとし、その場にへたり込んだ。
 未知の敵への恐怖か、快楽の残渣か。彼女の下半身は未だに震え、力が入らぬ。正面に人影。イツキは顔を上げた。女が屈み込み、手を差し伸べていた。
 猥褻存在を瞬く間に殲滅した、炎の能力者。その瞳に朱色の光は既になく、そして下着姿であったが、先ほどアケグチを討ったアイドルヒーローに違いなかった。

「プリミティヴ・バーニングダンサーです。間に合って良かった……けど、ヒーローじゃ……ない? ……あれ?」

 バーニングダンサーを名乗ったアイドルヒーローは困惑しているように見えた。イツキは俯き、嗚咽した。もはや感情を抑えられそうになかった。

「……私は、ヒーローなんかじゃない……自分の身も守れないのに、民のために、王家のためになんて……これじゃ、エボニーレオにだって」

 遅れてやってきた安堵、そして同時に突き付けられた己の無力に、イツキは打ちひしがれていた。目と鼻の奥が熱を帯び、視界が歪んだ。
 一方のバーニングダンサー、洋子もまた動揺していた。どうやら己の言葉が、眼前の獣人の何かに引火してしまったらしい。こんな時にはどうしたら?

「……ごめんっ!」

 今や眼前の獣人を形作るのは不穏に色数の多いマーブル模様であり、そして洋子は物事をあまり深く考えず直感的に行動する部類のヒーローであった。
 洋子は獣人の女を抱き締め、マーブル模様の色数がいくらか減るまでそうしていた。ネオトーキョーのケミカル瘴気とは異質な匂いが心地よかった。
703 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:29:50.86 ID:12lMyB4a0

 ……30分後! 洋子は獣人イツキを背負い、事務所への帰路を急ぐ。ひとまず信用を得たか、洋子はイツキから獣人界の現状を打ち明けられていた。
 特に洋子が目をつけたのは六戦士の反乱だ。それは多分にイツキ自身の推測を含んでいたが、一連のオルトロス改造獣人事件と奇妙な符合を見せた。

(プロデューサー、もう帰ってるかな。この事件、解明にはイツキちゃんの力がきっと必要になる……)

 そして、もう一つ。イツキの現時点での最優先目的、アイドルヒーロー・エボニーレオとの接触。……エボニーレオ。洋子も黒衣Pも、よく知る名だ。
 相次ぐベテランの引退とニューカマーの台頭で若返り著しいヒーロー業界において、あるいは誰よりも彼女ら二人こそがエボニーレオを知るだろう。
 とは言え洋子は、己の口からそのヒーローについて何かを言える気がしなかった。諸々の事情を複合的に考え、洋子はイツキを事務所に連れ込むことにしたのだ。
 イツキに異論はない。不慣れな土地において、探索も戦いも上手くいかなかった。ヒーローが水先案内人を買って出てくれるなら、断る理由などない。
 目を閉じると、ヒーローのうなじに触れた頬が熱く火照った。炎の能力者が生む熱であろうか? きっとそれだけではない、とイツキは自覚していた。

(センジン王も、エボニーレオに助けられた時はこんな気分だったのかな)

 ……イツキは不意に気恥ずかしさを感じ、それ以上の思考を打ち切った。洋子は事務所に帰り着くまでに、道を三回ほど間違えた。
704 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:32:49.06 ID:H+PnEL/o0

#2

「……スウウーッ……フシュウーッ……」

 壁際に鎮座するオーディオ機器から軽快なレトロ・ディスコナンバーが流れ、やや遅いリズムでプリンタが作動し紙を吐き出し続ける。
 心地よい騒々しさに身を沈め、黒衣Pは二つのリズムの最小公倍数的ペースで深呼吸を繰り返す。

「……スウーッ……フシューッ……」

 黒衣Pの対応は速かった。彼は事務所に戻るとすぐさまシロクマPと連絡をとった。今プリントアウトされているのはシロクマPから送られる改造獣人事件の資料だ。
 同盟直轄の研究機関による報告書から、関連性を疑われる事件を扱った新聞記事のスクラップ、電脳空間に広まる噂話まで、もたらされる情報は広く、深い。

「スウーッ……シューッ……。……ヌウッ」

 黒衣Pは目を開き、既に1センチの厚みに達した資料の束にゆっくりと手を伸ばした。(いいぞ)彼は安堵した。痛みはほとんど引いていた。
 そのまま、上から一枚抜き取る。……獣人コミュニティ聞き取り調査の書き起こしだ。日付は一週間前。シロクマPが独自に行っていた調査と見えた。

(杞憂だったか? ……いや、シロクマP様サマだな)

 黒衣Pは改めて感謝の念を抱いた。獣人が人間界で生きる市民としての資格を得て久しいが、彼らと多くの人間の間には未だに壁がある。
705 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:34:36.86 ID:12lMyB4a0

 例えるならドアやハシゴが設けられ、しかし同時に電流鉄条網やタケヤリ罠が仕掛けられた、越えるは容易いが致命的事態を招きかねない壁だ。
 そうしたデリケート問題を解決するにあたり、獣人でありながら人間の荒くれヒーロー達と接し続けてきたシロクマPの知見は大きな武器となるのだ。

「『新年早々に猛獣の咆吼』『ケンカ? 一時期頻繁』『都会的でないニオイ』『ヒノワ・ストリート』『最近サル族が増えた気がする』……この辺りが臭うな」

 現時点で、仮説は充分に立てられる。黒衣Pは目を閉じ、反ルナール行為に関わったサイボーグ獣人を思い起こした。
 オオカミ獣人、ウマ獣人、ツバメ獣人、そしてイノシシ獣人とカメ獣人。いずれも一般市民では手出しできぬ……能力者ヒーローでも苦戦必至の相手だ。
 では、同じ獣人ならばどうであろうか? 聞き取り調査で証言された『猛獣の咆吼』『都会的でないニオイ』が示すものは?

「……つまり、こうだ。ライオンかトラか、獣人界のタフな狩猟者がオルトロスと手を組み、強力な獣人の肉体を手に入れるために活動していた」

 これはおそらく真相に極めて近い。彼のヒーロー直感とヒーロー推理力がそう告げている。後はこの説を裏付ける根拠が必要だ。

「それって、王子が悪事に加担してるってことですか?」

「どうだろうな。あるいは騙されたり、脅されたり。犯罪について言えば、ネオトーキョーは何でもござれだ……ア? 王子?」
706 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:37:21.78 ID:OdbudYhc0

 聞き慣れぬ声。黒衣Pは目を開いた。裸身にバスタオル一枚を巻いただけの見知らぬ女がデスクトップ情報端末に両手をかけ、身を乗り出していた。
 後ろで一つに纏めたさほど長くない髪はオーカー色。その顔を注意深く見れば、産毛めいてうっすらと生えた毛が光を反射していることに気付くだろう。
 視線を下げていけば、同様の薄毛は胸元や腕にも認められる。それら体毛の分布から、おそらくは何らかのサル種の獣人であると推測できた。

「……獣人? ……どちら様で?」

 仕事の依頼か? 否、そもそも今は臨時休業中だ。玄関には施錠しており、部外者が入って来れようはずがない。
 獣人の女は何か言おうと口を開き、それより早く今度は聞き慣れた声が彼の疑問に答えを与えた。

「イツキちゃん! そのカッコで出ちゃダメっ! 先にシャワーっ!」

 事務所の奥、居住スペースに通じるドアが開き、洋子が現れた。イツキと呼ばれた女と同様のバスタオル姿だ。

「あっ、ただいま、プロデューサー。ちょっとイツキちゃんにシャワー貸しますね。終わったらお昼ごはん作るから」

 洋子はイツキの手を引き、ドアの向こうに消えた。黒衣Pは時計を見た。11時少し前。メディテーションと頭脳労働に随分と時間をかけてしまったようだ。
 プリンタは既に仕事を終え、厚さ1センチ半の紙束が残されていた。黒衣Pは大きく伸びをし、背中に残る引きつった感覚に顔をしかめた。

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707 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:39:14.21 ID:OdbudYhc0
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 事務所の一画、金のタテガミを持つ黒いライオンが描かれた衝立に仕切られた応接スペースは、にわかに人口密度を増していた。
 天然木材と職人手製ガラスで構成された応接机の上には、シロクマPより受け取った資料の中から選りすぐられた特に重要そうな20枚。
 机を挟んで向き合うソファのうち、玄関に背を向ける方に半ば飲み込まれるように座り、イツキは微妙な居心地の悪さを味わっていた。

「……アー、もう少し待っててくれ。何だったら、今のうちに資料にざっと目を通しておいてくれれば……グワーッ!」

 イツキの向かいのソファにうつ伏せる黒衣Pは悲鳴を上げた。高浸透バイオ医療湿布を貼り終えた洋子が、彼の背中をバシッと無遠慮に叩いたのだ。

「オイ! もうちょっと優しく」

「これやらないと、なんか締まらなくないですか? さっ、イツキちゃん、始めよっ」

 相棒の抗議を軽くいなし、洋子はイツキの隣に座った。黒衣Pも起き上がって座り直し、ヒーロースーツを着込んでいく。
 イツキと協力関係を構築するに至ったいきさつは、治療行為の間に洋子から聞いている。事件の性質を鑑みて、黒衣Pは速やかに本題に切り込むことにした。

「エート、イツキさんだっけ。事情は大体わかった。まず、アイドルヒーロー・エボニーレオに関してだが」

 イツキは思わず身を乗り出していた。黒衣Pは一瞬の躊躇の後、短く息を吸って口を開いた。
708 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:40:56.04 ID:H+PnEL/o0

「エボニーレオは引退した。今から一年ほど前だ。奴はもう誰の力にもなれない」

 獣人の瞳に失望の影が差した。だが彼女は首を横に振ってそれを払いのけると、決然たる眼差しを黒衣Pに向けた。

「私の決意は変わりません! ヨーコちゃんとエボニーコロモさんが追っている事件、その先に王子がいるかも知れないなら、立ち止まるわけには!」

「よかろう」

 黒衣Pは頷いた。イツキの覚悟は本物であろうか。もはや遠慮だの気配りだのは単なる時間の浪費だと彼は判断した。

「さっき言ってたな、王子が悪事に加担してるのか、と。六戦士だの反乱だのの話を聞いて確信できた。王子はクロだ」

「……ッ」

 イツキは俯き、唇を噛みしめた。敬愛する王子が、遠く人間界でお尋ね者になり、獣人界の恥となるというのか?
 王家への忠誠心と獣人としての誇りがせめぎ合う。膝の上で握った手に、肉を抉り潰さんとするほどの力がこもった。
 あるいは自らが王子を討たねばならぬ時が訪れるのだろうか? だとしたら、何のために人間界へ? 獣人界の民はどうなる? ほんの数十秒前の決意が、既に揺らいでいた。
709 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:42:52.30 ID:OdbudYhc0

 ……ふと、イツキは手の甲に熱を感じた。いつの間にか重ねられた洋子の手から伝わる体温だ。静かに深呼吸し、顔を上げた。黒衣Pの声。

「と言っても、この件は被害者が揃いも揃って住民タグ無し。要するに、ネオトーキョーに……いや、人間界に存在しない連中ッてことだ」

「……つまり?」

「闇から闇へ。王子はこっちのルールじゃ裁けん。こんな案件じゃ警察も動きたくないだろうさ。巻き添えで市民の一人も死んでりゃ、こうもいかなかった」

 イツキは安堵しかけたが、エボニーコロモの険しい眼光はむしろここからが重大事であると暗に語っていた。
 実際、肝心の王子の居場所をイツキは知らされていないのだ。

「それじゃ、ちと確認だ。現時点で討伐したサイボーグ獣人はオオカミ、ウマ、ツバメ、イノシシ、カメ。うちイノシシとカメは六戦士と同一人物だった」

「はい。アケグチもトホツグも、機械の体になってもニオイが残ってました」

「……そして他の三体についても、同種族の獣人が六戦士の中にいる。偶然じゃなく、同一人物と考えた方が自然だ」

 イツキは無言にして肯定。ここまでの見解は双方で一致している。

「長らく人間界で過ごしていた王子が獣人界の政情不安を知っていたとは考えにくい。おそらく獣人界から来たガイド役がいるはずだ」

「それがサル獣人ですか。確かに、知恵が回る者たちです。王子の危機感を煽り、六戦士を始末させようとそそのかしたのかも」

 イツキは机上の紙を一枚、手に取った。シロクマPによる聞き取り調査結果だ。そこに記された全てがヒントであったのだ。何たる敏腕か!
710 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:44:31.79 ID:H+PnEL/o0

「現状、サイボーグ体を確認できていないのはヘビ獣人だけだ。ソイツを見つけ出してマークする。王子は絶対に現れる」

「ヘビ族のヤミヅチは狡猾で慎重な男です。王子と真っ向やり合わない限り、まず死ぬことはないでしょうね」

 イツキも同意。だが、まだ不足。そもそもどうやってヤミヅチを見つけ出すのか? 遥かに目立つライオン獣人さえ、彼女は見つけられなかったのだ。

「……ヒノワ・ストリート。協力者の知性が高いなら、王子に有利なキリングフィールドを拵えて獲物を誘い出すこともできるだろう」

 シロクマPの調査では、猛獣のケンカめいた咆吼に関する証言はヒノワ・ストリート一帯に集中していた。十中八九間違いない。
 イツキもまた確信。そして同時に湧き上がった不安を吐き出した。

「もし、とっくにヤミヅチが仕留められていたら? 王子に繋がる手がかりも全部なくなって……」

「……オルトロス機関は強欲で無慈悲だ。ヘビ獣人を仕留めたら、王子を見逃しはしないだろう。無論、そのための準備も欠かすまい」

 神出鬼没たるオルトロス機関の拠点を、黒衣P達は未だ掴めていない。それはすなわち、最悪の可能性を示唆している。
 もし王子が捕らえられれば、サイボーグと化してルナールへの攻撃を始めた時こそが彼を連れ戻す最初で最後のチャンスになるであろう。

「大丈夫! 私が見つけるよっ!」

 難しい話はあまり得意でないため黙っていた洋子であったが、彼女が不意に発した声はシリアスに傾きすぎた空気を振り払った。
 黒衣Pはやがて笑い出した。そうだ、おあつらえ向きの能力が洋子にはある。かつて彼を失意と堕落から救い、今日イツキの純潔を守った力だ。

「……ハハハッ! ……そうだったな! それじゃ洋子、頼めるか?」

「任せて! バーニングダンサー、これより協力者とともにヒノワ・ストリートの探索に向かいます!」

 洋子は小ぶりなリュックサックを掴み、玄関を飛び出していった。イツキも後に続いた。事務所の中には黒衣Pただ一人。
711 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:46:35.62 ID:12lMyB4a0

 ヒノワ・ストリートは常人の三倍の脚力を持ってしても遠い。『二代目』の喪失がこうも響くことになるとは。
 黒衣Pにはさらに懸念がある。オルトロスがヘビ獣人のみならず王子をも確保するつもりであるとして、その手段とは? 考え得る答えは一つだ。
 オルトロスに与する獣人は、サル獣人以外にもいる。ヘビ獣人と戦い消耗した王子を倒す程度には強く、改造素体にされない程度の上役が。

「王子を助けられなくても、ソイツをインタビューしてオルトロスの機密を聞き出すことはできるか……?」

 助けられなくても。然り、最悪の事態は想定しておかねばならぬ。黒衣Pは『代表』ホンゴエ・タコシとの通信回線を開き、本部倉庫の開錠権限を得た。
 ……ババババババババ……ヘリのローター音が徐々に近づき、事務所ビルの真上で最大になった。通信端末に着信……シロクマPだ。

「何から何まで世話になる……トゥオーッ!」

 黒衣Pは窓から飛び出し、ヘリコプターより垂れ下がる縄梯子を掴んだ。間に合うチャンスがあるなら急がねばなるまい。
 シロクマPによれば、獣人コミュニティ内部で調査を継続中のエージェントがヒノワ・ストリートで不穏な兆候を捉えたという。
 カモフラージュ襤褸布を被り屋根の上に展開する複数サル獣人。不自然に封鎖されたストリート。……準備だ。戦いの。少なくとも今、王子は生きているのだ。
712 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:48:39.54 ID:12lMyB4a0

#3

 暗黒経済都市ネオトーキョー。煌びやかで喧しいメインストリートから一歩脇道に逸れれば、そこは闇と湿度と静寂が支配する裏通りだ。
 ヒノワ・ストリートもそうした退廃通りの一つで、軽自動車が辛うじてすれ違える程度に狭い道を挟んでシャッター閉鎖店舗が並ぶ。
 歪にへしゃげたシャッターと枠だけになったショーウィンドウをくぐり、死にかけた街灯の点滅は夜逃げ廃墟と化した家具屋の展示フロアに届いていた。
 「キングサイズ」「セール対象外」のラベルが貼られた高級ベッドに腰掛け、ライオン王族の王子シャキョウは尊大な態度を崩さない。

「貴公と郎党のおかげで、王家は……いや、獣人界は、最悪の事態を迎えずに済んだ。その功に報いて、何か褒美をとらせようと思うのだ」

「滅相もございません。数多の同胞が危機に晒されているとあっては、知らぬフリなど私にはできなかった。それだけのことです」

 同胞。然り、アサミ=ロイを名乗るこの初老の男も獣人であり、郎党たるサル獣人達を率いて王子と接触したのは昨年の暮れのことであった。
 白髪白ヒゲのアサミ=ロイは、王子の御前に跪き頭を下げている。敬意と自尊心を併せ持つ凛々しい姿は、気高き王子の気分をとても良くした。

「貴公のごとき知恵者こそ、獣人界には必要なのだ。国賊どもに知性があれば、此度の戦乱を招かずに済んだ。獣人界も、我々自身も変わらねばなるまいな」

 王子はアサミ=ロイの背後を見やった。サル獣人達が慌ただしく行き交い、ヘビ獣人ヤミヅチの太く長い死骸を運びやすく分割する作業に汗を流す。
713 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:50:56.31 ID:OdbudYhc0

 ヤミヅチを仕留めたのはシャキョウ自身だ。それだけではない。六戦士すべて、彼が殺した。そのためにアサミ=ロイが欠かせぬ役割を果たした。
 アサミ=ロイは王子をネオトーキョーに呼び、獣人界の危機を知らせた。同時に六戦士をネオトーキョーに誘き寄せ、王子との戦いの場を整えた。
 王子は逆賊を討ち果たし、あとは獣人界に凱旋して王位を継ぐのみ。王子はアサミ=ロイに名誉ある地位を与えようとしたが、彼は無欲じみて辞退した。

「貴公はつくづく変わった男よな。我々は授かりし命が短い。故にモノであれ地位であれ、褒美は遠慮せぬというのに」

「私には時間がありますからな。今でなくとも、あと一世紀も待てば望むもの全てが手に入りましょう」

 街灯が点滅し、二人を照らした。アサミ=ロイの目は虚無あるいは無限遠の宇宙めいて暗く透き通り、王子を見ていないかのように思われた。
 シャキョウは言い表せない不安に駆られた。一世紀待つ? 獣人どころか、アサミ=ロイほどの年齢であれば人間でも望めぬことだ。この男は、何を、どこを見ている?
 死骸を積み終えた幌付きトラックがしめやかに発進し、エンジン音はやがて静寂に溶けていった。アサミ=ロイはゆっくり立ち上がった。

「王子、申し訳ないが、凱旋はキャンセルしていただく。……キキャアーッ!」

 アサミ=ロイは突如、甲高いシャウトを発した! 鼓膜を突き抜け脳に刺さるようなそれは、僅かの間シャキョウの筋肉を異常振動させ、動きを封じた。
714 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:52:46.01 ID:12lMyB4a0

 ライオン獣人の第六感は、眼前で膨れ上がる殺気を悪霊のシルエットとして知覚した。
 白髪白ヒゲの獣人はジャケットを脱ぎ捨て、シャツの袖を引きちぎり、剥き出しのダイコンめいた腕からストレートパンチを放つ態勢に入っていた。

「何をッ……ゴアアオオオオーッ!」

 王子は獣と化して咆吼、逆位相の振動で肉体の自由を取り戻し、ストレートパンチで応えた。重い衝撃が空気を伝って建物を揺らし、カビ臭い埃が舞った。

「何の、つもりだ……ッ!」

 王子は拳を押し返しながら立ち上がり、アサミ=ロイを睨んだ。白い獣人の空虚な目には今や金色の光が灯り、煌々と輝いていた。
 伸びた白髪と白ヒゲに半分以上覆われたその顔は、古の時代に高僧のバウンサーとして西に旅立った白サルのごとく神々しい。
 王子と拳を突き合わせる剛腕には、細く黒い縞模様。サルの顔に白タイガーの腕? 然り、幻獣人の一種たるヌエ獣人こそ、アサミ=ロイの正体に他ならぬ!

「驚いたかね? 別に、呪術だの妙薬だのとは関係ない、生まれついての私の腕さ。だが、キャアーッ!」

 ヌエ獣人は拳を合わせた状態から瞬時に王子の右拳を掴み、グイと引っ張り上げた。筋肉量が多く見た目以上に重いライオン獣人の肉体が軽々と宙を舞った。

「グワーッ!」

 王子は背中から床に激突! 追撃のトーキックをネックスプリングひねり跳躍でかろうじて回避し、バック転で距離をとった。
715 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:54:37.98 ID:12lMyB4a0

「だが、獣人界にいる限り、この腕のせいで私の力は認められることがなかった。呪わしい何かと見なされ、王位継承の決闘すらも許されず」

「獣人界を恨み、憎んでいるのか!? 僕が帰らなければ戦乱は止まらず、滅びるまで続くと!? 僕に六戦士を殺させたのも!」

「キイーッ!」

「グワーッ!」

 直撃ならば胸板どころか肋骨まで引き剥がしていたであろうアッパースイングをヌエ獣人は易々と見切り、スウェーめいて浅く仰け反って躱す。
 同時にガラ空きの右脇腹へニーキックを打ち込むと、王子は血を吐きながらよろめいた。獣人のタフネスをも上回る一撃!
 おぼつかない足もとを追撃ローキックにあえなく刈られ、王子は再び天井を見た。無慈悲なストンピング。肋骨の砕ける音が響いた。

「ARRRRRGH! アッ……アバッ……ゴボッ……」

「王の座も獣人界も、実際どうでも良いのだ。己の正体を、幻獣人概念を知って以来、私の居場所はこちらだ」

「アバッ……人間界を、支配……しようと」

「少し違う。私はステキな居場所をもっと快適にしたいだけさ。新しい知識、美味い食事、垢抜けた女。計画が軌道に乗れば、私はもっと楽しい」
716 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:57:41.97 ID:H+PnEL/o0

 ヌエ獣人は無邪気に笑った。シャキョウは今や己を待つ運命を理解していた。胸を踏み押さえる脚から逃れようともがくが、抵抗する力はなかった。

「本命は君だった。これまでの改造獣人で集めたデータは全て君のためのものだ。陸海空を統べる、真の意味での百獣の王となりたくはないか?」

「……百獣の……王、聞こえはいいが、結局は僕を……ただの獣としか、思……ていない……ようだな……飼い猫など……ゴホッ、お断り、だ……アバッ」

 王子は血の泡を吐きながら拒絶。ヌエ獣人は何も言わず、王子の顎につま先を打ち込んだ。瀕死のライオン獣人は白眼を剥いて動かなくなった。
 王子にして最強の戦士といえど、所詮は獣人。獣を超え、人を超え、獣人をも超えた幻獣人にとっては実際猫と同程度。獣を説き伏せようなど無駄であったか。
 早く帰って一杯やるとしよう。アサミ=ロイはジャケットを拾い上げ、小脇に抱えて家具屋を出る。アリめいて王子を運ぶサル獣人たちが後に続いた。
 ……その時である。KABOOM! 彼方から何らかの爆発音! ヘビ獣人を載せたトラックが去った方向だ。アサミ=ロイは目をこらした。炎と黒煙を上げるトラック。

「馬鹿め、運転をしくじりおったか」

 否、あり得ぬ話だ。彼自身が信頼し、運転手の任を託した配下。これまで同様、しくじるはずはないのだ。……これまで同様、邪魔が入りさえしなければ。
 アサミ=ロイは咄嗟にブリッジ回避! その判断は適切であった。直後、朱色の熱風が吹き荒れ、彼の上半身があった空間を灼いた。
 白き獣人は油断なく身体を起こし、低く身構えた。配下のサル獣人達はことごとくが冷たい路面に倒れ伏していた。そして、頭上から声。
717 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 22:59:59.86 ID:12lMyB4a0

「プリミティヴ・バーニングダンサーです。迷惑な企み、ここで終わらせるよ!」

「アイドルヒーロー……嗅ぎつけおったか。だが、キキイーッ!」

「あッ!?」

 ヌエ獣人はジャケットの金ボタンをむしり取ると指で弾いた。狙いは非常階段踊り場の踊り子ではなく、彼の背後をしめやかに走り抜けんとしたもう一人!
 金ボタンはイツキの額をざっくりと切り裂いた。彼女に獣人の危機察知能力がなければ、今頃は左右側頭部から脳をこぼして死んでいたであろう。
 イツキは奥歯を噛み締め、数歩後ずさった。王子は見るからに重篤ダメージを負っており、長くは保つまい。早急にヌエ獣人から引き離さなければ。

「ハイーッ!」

 バーニングダンサーが跳躍、その手に聖炎の扇を生み出し、猛禽めいて襲いかかる! ヌエ獣人は僅かに上半身を捻り、危険なコンドルキックを回避!
 踊り子は着地と同時に回転、瞬く間に恐るべき炎の殺人独楽と化す! 握る炎扇は今や二振りの装飾剣に形を変え、ヌエ獣人を上下に分断せんと迫る!

「子供だまし! キヤーッ!」

「えっ」

 バーニングダンサーは目を疑った。炎の刃はヌエ獣人に届かなかった。白き獣人は衛星じみて自らも回転しつつ、高速ステップで踊り子の周囲を旋回していた。
718 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 23:01:53.66 ID:H+PnEL/o0

 ヌエ獣人の拳がバーニングダンサーの胸の中心を捉え、軽く突いた。一呼吸の後、踊り子の胸と背が爆ぜ、彼女は血肉を撒き散らしながら吹き飛んだ。
 間髪を入れず、ヌエ獣人は再びイツキに牽制の金ボタン投射。だが、ボタン弾は空中で炎に包まれ、灰と化した。

「……なんと。これで死なぬか」

 ヌエ獣人は驚嘆した。踊り子は赤ペンキで「米」と書かれたシャッターから身を剥がし、再び立った。胸と背中から朱色の炎が噴き出し、傷を焼き塞ぐ。

「ステージの途中でよそ見されるのって、けっこう傷つくんですよ!」

「ならば、もっとマシな芸を見せよ」

 ヌエ獣人の挑発にもバーニングダンサーの心は乱れなかった。唯一にして最大の問題は、火力が上がらないことだ。
 サイボーグカメ獣人にカースドヒューマン、朝からの連戦で思った以上に力を消耗していたらしい。クトゥグアの力は使えぬ。
 どこまでやれる? 洋子は考えないことにした。視界の端で、イツキは王子のもとへたどり着いていた。もうひと頑張りだ。王子を多少とも安全な所へ。
 踊り子は小さく息を吐き、バーニングダンスの構え。鮮血めいて赤い炎が、足元で渦を巻いた。
719 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 23:03:31.52 ID:OdbudYhc0

#4

 踊り子の決死の攻撃は苛烈さを増し、ヌエ獣人を釘付けにする。火の粉や瓦礫の雨をかいくぐり、イツキは辛うじて王子のもとへたどり着いた。
 ……何たる獣人界最強の戦士にして蛮王の血を引く証、強靭な生命力であろうか。王子は既に意識を取り戻し、何やら口をパクパクと動かしていた。
 イツキは獣人の聴力を研ぎ澄ます。弱々しくかすれ、しかし断固とした声が、彼女を叱っていた。

「ぼくが、あれしきで死ぬものか……それより、さっさと、あの火の戦士を、たすけに行け……!」

「王子……ッ! はい、仰せの通りに……!」

 イツキは手の甲で涙を拭い、頷いた。王子が生命の火を取り戻した今、彼女の心を乱すものは何もない。
 ヒョウタンの中身をグイと呷る。灼熱が喉の奥に流れ込み、イツキの顔は……否、顔のみならず全身が、紅潮というには赤すぎるほどに色を変えた。
 イツキは着衣を脱ぎ捨てた。産毛めいた薄毛が瞬時に伸びてオーカー色の毛皮と化し、裸の胸元を、腰周りを、四肢をフサフサと飾った。
 ……遂に膝をついたバーニングダンサーに断頭チョップを繰り出さんとしていたヌエ獣人は、ただならぬ圧力を感じ、トドメを断念した。
720 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 23:06:20.86 ID:H+PnEL/o0

 振り返りもせず左の裏拳、砲弾めいて飛来するヒョウタンを粉砕! ……だが、

「グワーッ!?」

 ヒョウタンは砕け散りながらもヌエ獣人の左拳を完全に破壊し、へしゃげた肉と骨の混合物体に変えていた! 恐るべき投擲スピード!

「バカナ! チンケなオランウータン獣人風情が……いや、違う! 馬鹿な、こんなことが……!」

 ヌエ獣人は目を見開いた。獣人の女は光沢ある体毛に肉体の赤を映した緋色を纏っていた。
 だが、何たることか! 彼女の赤ら顔は緋色で飾られ、閉じきらない口から牙が覗いているものの、顔立ちは人間そのものに他ならぬ! 奇怪!

「……そうか! 私は知っているぞ……幻獣人……ショウジョウ獣人ッ!」

 ヌエ獣人は牙を剥いて威嚇! 初めて遭遇した己に比肩し得る存在、彼の特別性を突き崩さんとする存在を、本能的に恐れたのだ。
 ショウジョウ獣人イツキは意に介さず、肩で息をする満身創痍の踊り子の前で屈み、手を差し伸べた。

「ありがとう、ヨーコちゃん。もう大丈夫、私も一緒に戦う……一緒に踊るよ!」

 洋子はイツキの手を掴み、立ち上がる。そして踊り子と獣人の戦士は拳を突き合わせ、どちらからともなく笑いあった。
721 :【HeatUp!DANCER&KUROKO】 [sage saga]:2016/02/03(水) 23:08:30.85 ID:H+PnEL/o0

「構わぬ! 所詮小娘が二匹! 生きてきた歳月も、戦の経験も、私の足下にすら! キッキャーッ!」

 イツキの背後よりヌエ獣人! 己のアイデンティティー崩壊を前に気取る余裕なし! 捨て去ったはずの野性を剥き出しにした暴力がみなぎる!
 白タイガーの腕がプレスマシンめいて二人を叩き潰さんと迫る! ……だがその時、KABOOM!

「グワーッ!?」

 ヌエ獣人はイツキの肩越し、踊り子の右眼に弱々しくも残る赤い光を見た。直後、彼は爆炎に飲まれた!
 先ほど破砕したヒョウタンの中身、獣人界に口伝のみで遺されし霊験あらたかな薬酒が踊り子の聖炎と神秘的反応を起こし、その火力は今や10倍近い!
 そして、勇敢なるサーカスライオンめいて炎をくぐり飛び込んできたショウジョウ獣人が、白き獣人を無慈悲なインファイトに引きずり込んだ!

「小細工を……ッキャアーッ!」

「キィヤーッ!」

「グワーッ!」

 イツキの右ストレートパンチが速い! 僅か一瞬に三打放たれた拳は、ヌエ獣人のチョップ右腕を弾き、ガード左腕を折り、無防備な鼻を砕いた!
722 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 23:11:02.18 ID:H+PnEL/o0

「構わぬ! 所詮小娘が二匹! 生きてきた歳月も、戦の経験も、私の足下にすら! キッキャーッ!」

 イツキの背後よりヌエ獣人! 己のアイデンティティー崩壊を前に気取る余裕なし! 捨て去ったはずの野性を剥き出しにした暴力がみなぎる!
 白タイガーの腕がプレスマシンめいて二人を叩き潰さんと迫る! ……だがその時、KABOOM!

「グワーッ!?」

 ヌエ獣人はイツキの肩越し、踊り子の右眼に弱々しくも残る赤い光を見た。直後、彼は爆炎に飲まれた!
 先ほど破砕したヒョウタンの中身、獣人界に口伝のみで遺されし霊験あらたかな薬酒が踊り子の聖炎と神秘的反応を起こし、その火力は今や10倍近い!
 そして、勇敢なるサーカスライオンめいて炎をくぐり飛び込んできたショウジョウ獣人が、白き獣人を無慈悲なインファイトに引きずり込んだ!

「小細工を……ッキャアーッ!」

「キィヤーッ!」

「グワーッ!」

 イツキの右ストレートパンチが速い! 僅か一瞬に三打放たれた拳は、ヌエ獣人のチョップ右腕を弾き、ガード左腕を折り、無防備な鼻を砕いた!
723 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 23:12:29.21 ID:H+PnEL/o0

 だがヌエ獣人の闘争本能が敵を即座に分析する! 速いが、一撃の重さは彼が遥かに上。攻撃を受け止め、抱え込んで全身の骨をへし折るべし!

「キィヤーッ!」

 彼の狙い通り、ショウジョウ獣人は再び肉薄! 繰り出されるのはパンチではなく掌打! 瞬間三度の打撃が彼の顎、肺、心臓を打つ! だが!

「グワーッ非力! 私のタフネスを見誤ったな!」

 ヌエ獣人はキアイで耐え、ショウジョウ獣人の細い腕を掴む! スピードを重点した戦士は腕一本失うだけで手数が減り致命的!
 ショウジョウ獣人の顔に、怯えの色が……ない! ヌエ獣人の一瞬の戸惑いの間にショウジョウ獣人は炎と化して消えた! 幻覚であったか!? 眼下に本体!

「キィヤーッ!」

「ARRRGH! バカナ!」

 再び顎に掌打、今度は一撃に三倍のパワー! ヌエ獣人の歯が数本まとめて飛び、彼はノイズ明滅する視界にほとんど全裸に近い踊り子を捉えた。

「これは……貴様のッ……!」

 バーニングダンサーは悪戯っぽく笑うとサムズアップし、力尽きてへたり込んだ。ヌエ獣人は踏みとどまり、その狙いを踊り子に向ける! 右腕を振り上げ、

「ARRRRRRGH!」

 彼方よりの飛来物が彼の右腕に立て続けに命中……狙撃だ! 右腕は未だそこにあるが重度の麻痺により指一本動かぬ! 暴徒鎮圧用重ゴム弾!
724 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 23:14:46.88 ID:OdbudYhc0

 ようやく復帰した彼の視界にはムチめいてしなる緋色! もはや認める他なかった。彼は、負けたのだ。ヌエ獣人はゆっくりと崩れ落ちた。
 彼は老獪であったが、己と同等の存在と真正面から戦った経験はなかった。それはショウジョウ獣人も同じであったか。ならば勝敗を決めたのは……。

「若さ……熱……そうだな……私は半端者だったのだ。もはや楽園も……」

 ヌエ獣人の危機に、周辺ビル屋上に控えているはずのサル獣人達は動かぬ。見捨てられたのではなく、狙撃手の仕業であろうことが救いだった。
 女が二人、横たわる彼を覗き込んでいた。どちらも裸で、人間の姿をしていた。

「……トドメはどうした? ……まだ、その柔肌と臓物を食いちぎるだけの力は……ある……」

「そのつもりだったんですけどね。……オルトロスの話を聞きたがってる人がいるから。それに、王子も生きてた」

「……なるほど。だが、こうも醜態を晒した以上、私の命は長くない。……何も話す時間はないよ」

 アサミ=ロイの言葉は偽りではなかった。彼の心臓の位置に奇怪な紋様が浮かび、赤い炎が燃え上がった。
 炎に身体の中心から焼かれながら、アサミ=ロイは己の右眼を抉り出した。金の眼光を放つサイバネ・アイだ。

「私が見届けた、王子の勇姿……。私は弱い。獣人界の争いも、結局は便乗しただけだった。これで力を、正当性を示せ……さすれば争いは……」

 王子シャキョウはアサミ=ロイの傍らに跪き、サイバネアイを受け取った。自らを手酷く痛めつけた敵に、彼は深々と頭を下げた。

「こちらで最後に出会えたのが貴公で良かった。僕は一生、貴公に勝てない。いつまでも、僕の慢心を戒め続けてくれ」

「……光栄だ、王子。獣人を……獣人界を……変え……」

 最後まで言いきることなく、白き幻獣人アサミ=ロイは白き灰と化して散った。後に残った三つの花弁を持つ炎の花めいた紋様も、やがて消えた。
 『……!』奥底でヒノタマが何か叫んでいたが、洋子にはその声を拾い上げるほどの力は残っていなかった。
 仰向けに倒れ込んだ洋子を、イツキが抱きかかえた。降り出した冷たい雨の中、二人は互いの熱を感じていた。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
725 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 23:16:26.94 ID:12lMyB4a0
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 アンチマテリアルスマートガンのスコープの中、ヌエ獣人は燃えて死に、三人だけが残った。エボニーコロモは小さく呟いた。

「……人知れず暗躍し、人知れず死に、忘却にすら知られることなし」

「キキッ。ポエット」

 その足下でスマキにされ転がるのは、ヘビ獣人運搬トラックのドライバーだったサル獣人だ。彼はからかうように笑い、続けた。

「良かったのかよ、ボス死んじまったぜ? オレはただウマい飯で雇われた下っ端よ、アンタの欲しがるような情報なんてないゼ」

「良いワケないだろ、これでオルトロスはまた遠くに行っちまった。……けどな」

 黒衣Pはそれ以上何も言わなかった。サル獣人は彼を見上げ、無関心めいて欠伸した。
 オルトロスの手掛かりを得られなかったのは残念だ。だが、獣人界を担う王子の命は守られ、人間界に住まう獣人達にも平穏が戻った。今はそれでいい。
 ……いや。黒衣Pは大切な用事を思い出していた。旧き友への見舞いの品を、獣人の王子に言づけておかねばなるまい。
726 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 23:19:51.55 ID:OdbudYhc0

 エピローグ

 軽快なレトロ・ディスコナンバーも、今や黒衣Pの閃きに何ら刺激を与えることはない。それは一枚の紙を挟んで彼と向かい合うイツキも同じことだ。
 イツキは獣人界に帰らなかった。王子シャキョウが忠臣に褒美を与えんとしたとき、彼女は人間界での武者修行を望んだのだ。
 王子はそれを拒めなかった。そもそもイツキが人間界を、ヒーローを知ることになったのも、彼が人間界にいたからだ。全ての原因は彼にある。
 王子は単身、獣人界へ凱旋した。イツキは改めてアイドルヒーロー契約を望み、洋子も黒衣Pも歓迎した。……そして一週間が過ぎた。

「洋子、そっちはどうだ? ……洋子?」

 返事はない。頭を使うことが苦手な洋子は友のため果敢に戦い、力尽きたのだ。応接机に突っ伏し微動だにせぬ彼女の周りには、何冊もの辞書が積まれている。
 ヒーローネームはヒーローとしての己を定義しプライベートを隠すヴェールとなる、アイドルヒーローにとって能力やコスチューム以上に欠かせぬものだ。
 故に余程の事情なく変えることがないよう、その命名には何より注力する必要がある。
 現役時代の名を変えて別人となった黒衣P、野良時代の名をそのまま使用している洋子。二人はゼロからの命名が如何に困難か思い出していた。

「ショウジョウ……緋色……スカーレット……? ……うーん」

 イツキも二人以上に頭を働かせながら、己を定義するものを見つけられぬ。王家の忠臣であった頃はそれでも良かった。必要なもの全てが与えられていた。
 今は。イツキは理解している。一人の戦士として、ヒーローとして立つために、乗り越えねばならぬ試練だ。
 登録書類の残る空欄はヒーローネームだけだ。だが、明日31日までに提出できなければ処理が遅れ、最悪の場合デビュー戦が数週間延期となるだろう。
727 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 23:22:50.39 ID:H+PnEL/o0

 ……その時である。BEEP! 玄関の呼び出しブザーが福音めいて鳴った。洋子が身体を起こし、黒衣Pを見た。

「ドーモスミマセン、小包です」

 配達員の青年は、事務所の中に漂う重苦しい雰囲気に耐えかね、早々に退散した。辞書を脇に追いやった応接机の上で、小包は開封された。
 中身は封書と何らかの布めいた物体だ。黒衣Pは封書を手に取った。癖が強いが人間界の文字。ライオン獣人の王子、シャキョウの手紙だ。
 ……獣人界の戦乱は、思わぬ形で終結したという。旧友からの見舞いの品を見た蛮王はたちどころに活力を取り戻し、民の前に堂々たる姿を現したのだ。
 王軍、賊軍、市民全てがその威光に平伏し、王子の出る幕はなかった。

「もう、獣人界で不要な血が流れずに済むんですね」

 イツキが涙ぐんだ。蛮王の治世は少なくとも五年は続くであろう。その間に王子は王の何たるかを学び、王位継承を滞りなく行うため力を蓄えるという。

「『彼の者の忠誠と武勇は全ての者が認めるところである。更なる活躍を祈り、王家より餞別を贈る』だとさ。そのモコモコはイツキのだな」

「何だろ、見せて見せて!」

 二人に促され、イツキは布めいた物体を広げた。長い。およそ二メートルはあろうかというそれは、黒や茶色が入り混じった毛皮だ。
 洋子は毛皮をイツキの首に巻き、満面の笑みを浮かべた。

「ふふっ、似合うよイツキちゃん! なんか、王様? 女王様? みたいな……あっ!」

 洋子は啓示を受けた預言者のごとく辞書の一冊を掴んだ。パラパラとページをめくり、筆ペンを短冊に叩き付ける。

「……獅子の女王『リオンレーヌ』……どうかな、イツキちゃん!」

「……リオン、レーヌ……リオンレーヌ!」

 イツキは噛み締めるように繰り返した。獅子の女王。その名に恥じぬヒーローになれるか? 無論、なるのだ。迷いはない。イツキは新たな己を受け入れた。
728 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 23:24:12.07 ID:H+PnEL/o0

「決まりだな。こういうのは直感が大事なんだ。気が変わらないうちに書いといてくれ、直筆でな」

 黒衣Pは事務机に戻った。……手紙には一枚の写真が同封されていた。傷も完治したと思しき王子と、隣には目元のよく似た不敵な笑顔の老獣人。蛮王センジンだ。

「……元気そうで何よりだ、蛮王サマ」

 蛮王は金のタテガミと赤の隈取りで飾られた、カブキめいた黒いヒーローマスクを脇に抱えていた。黒衣Pは写真を事務机の引き出しにしまい込んだ。


(終わり)
729 :@設定 [sage saga]:2016/02/03(水) 23:26:18.24 ID:TZQ2scmP0

イツキ(ヒーロー名:リオンレーヌ)

職業
 獣人界戦士 → アイドルヒーロー

属性
 等身大変身ヒーロー

能力
 獣化(幻獣人)

詳細
 幻獣人の一種、ショウジョウ獣人のヒーロー。
 並の獣人を上回る身体能力に王立兵団で鍛えられた戦闘術、高い知性を併せ持つ、油断ならぬ緋色の戦士。
 黒や茶色が入り混じった毛皮の首巻きをライオンのたてがみめいて身に着けている。変身時に衣服が損傷することはないが、邪魔なので首巻き以外は脱ぐ。
 秘伝の薬酒を好むが、変身に必ずしも必要なわけではない。

関連アイドル
 斉藤洋子

関連設定
 アイドルヒーロー同盟
 獣人界
 幻獣人
730 :@設定 [sage saga]:2016/02/03(水) 23:27:33.00 ID:12lMyB4a0

獣人界
 獣人が住まう土地。おそらく日本列島のどこか寒いところにあると思われる。
 古き時代、父祖によって王都ファングリラが拓かれて以来、徐々にその領域を広げながら発展してきた。
 極めて険しい自然の中にあり、生き抜くために強き力こそが何より必要とされたため、力を体現するライオン族が伝統的に王位を継いできた。
 多くの場合、獣人界の獣人は人間界の者に比べて外見、内面とも獣性が強い。すなわち、身体能力や直感などが優れる反面、寿命がより短い。
 表向きには人間界との交流はないが、現在の王をはじめ人間界に興味を持つ者は少なからずおり、密かに人間界を訪れる者も少なくないようだ。
 一方の人間界では、獣人の存在が明らかになってからも獣人界の存在は黙殺あるいはタブー視されてきたため、市民レベルで獣人界を知る者は少ない。
731 :@設定 [sage saga]:2016/02/03(水) 23:29:00.25 ID:H+PnEL/o0

幻獣人
 ヌエやショウジョウ、ケルピーなど、伝承に残る幻獣の特性を有する獣人。謎に包まれた存在であり、そもそも獣人に分類できるのかすら疑問である。
 これまでに発見された10体前後に限って言えば、一般的な獣人を凌駕する身体能力や知性といった共通点を持つ。
 そのほとんどは観察中に行方をくらましており、発生の条件や寿命など一切が不明のままである。
 意外にも、外見的に近い妖怪とは明確に区別でき、幻獣人の用いるワザは全て生物学的に説明できる範疇に収まっているという。
732 :@設定 [sage saga]:2016/02/03(水) 23:30:20.71 ID:H+PnEL/o0

フレアダンサー
 斉藤洋子の新たなる力。詳細不明。
 聖炎の装束を纏うバーニングダンサーから一変、左半身が炎そのものと化し、装束もその炎から生成されている。
 聖炎の色が朱色から鮮血めいた艶やかな赤に変化しており、全身を炎に変え、人型以外の形状に変形することも可能。
 ヒノタマの力を引き出すバーニングダンサーとは異なり、神を讃えその力を引き出していることから、一つ上のレイヤーに位置する存在であろうか。
733 : ◆PupFZ5BZvyzZ [sage saga]:2016/02/03(水) 23:33:57.75 ID:H+PnEL/o0

!ノーティス!
・ヒーロービークル『二代目』が再起不能、代替ビークルの目処は立たず。
・イツキがアイドルヒーロー『リオンレーヌ』としてデビューしました。
・このエピソードは『憤怒の街』事件の翌年3月の出来事となります。


 たくみん、美世ちゃん、シロクマPにご出演いただいた。
 特にシロクマPには姿こそ現さないがかなりお世話になっており、黒衣Pは割と頭が上がらないんじゃないか。
 途中とんでもないアクシデントが発生したので、次はまた別の酉になると思います。
 以上です。長々とお付き合いありがとうございました。
734 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2016/02/04(木) 02:07:10.55 ID:IKupXuHFO
乙ですー
相変わらずのカッコ良さと濃厚な文章に安心です
新たな能力とか設定もわくわくして読めました
アイドルヒーローが増えた!やったぜ!Paだぜ!
735 : ◆3QM4YFmpGw [saga]:2016/02/04(木) 23:18:53.55 ID:A7LbD25lO
乙したーん
魔導書イベントもイツキもワクワクですなぁ!

それでは投下します
時系列は一応2日目の深夜って事で
736 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:20:21.20 ID:A7LbD25lO
海皇宮。

ヨリコ「すみませんマキノ、貴女には休暇を与えたはずだったのに……」

マキノ「お気になさらないで下さい。人手が足りない今、動ける者が動くだけです」

ヨリコの謝罪に、マキノは涼しい笑顔で返した。

学園祭に赴くはずだった彼女が受けた任務は、GDFが開発していた新型海洋兵器の破壊。

地上に派遣していた斥候からの報告で明らかになったそれは、海底都市破壊用の兵器であった。

高熱のプラズマを発生させて全てを焼き払う『アポロン魚雷』をはじめとした多数の兵器を搭載する予定だった超大型潜水戦艦『ポセイドン』。

しかし、建造が始まる前に極秘ドックをマキノが単独で襲撃、壊滅させた。

そして、ポセイドンやアポロン魚雷の設計図データも全て破棄、海底都市への直接的な危機は去った事になる。
737 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:22:11.35 ID:A7LbD25lO
マキノ「あれを捨ておけば、海底都市全域が危機に晒される所でした。……それよりも」

ヨリコ「何か?」

マキノがキッと表情を引き締め、データ記録用のチップを取り出した。

マキノ「ドックの端末から、GDF本部のデータベースへのハッキングを試みました。残念ながら中核に辿り着く前に締め出されてはしまいましたが……」

巫女「収獲はあったようね?」

マキノ「ええ、彼らが『ブラックファイル』と呼ぶデータ……これの複製に成功しました」

取り出した携帯用端末に記録用チップを差し込み、マキノは話を続ける。

マキノ「『ブラックファイル』……人類を脅かす存在の情報をまとめたもので、脅威度の高さでランク分けされています」

壁面にその『ブラックファイル』が次々と写し出されていく。

《妖怪》
脅威度○●●●●
活動範囲が限定的かつ規模も小さい。
現地の退魔士で充分対応出来ている為、脅威とはなり得ないだろう。

《海底都市》
脅威度○○○●●
尖兵のアンドロイドはともかく、戦闘外殻と呼ばれる上位種はやや危険。
本拠地の特定が急がれる。

ヨリコ「なるほど、彼らはここを見つけ出そうと躍起になっているのですね」

巫女「カモフラージュ工作は万全だけれど……念のためにダミーとして電波妨害装置を各地にばら撒いておきましょう」

そこで、マキノが操作を止めた。

マキノ「これです。恐らくこれに関しては、地上だけでなく海底都市にとっても脅威となりうるでしょう」

ヨリコ「これは……」

《七つの災厄》
脅威度○○○○○
通常のカースはおろか、災厄級カースすら及ばない力を秘める。
遭遇した場合は応援の到着を待て。

――――――――――――
――――――――
――――
738 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:33:38.43 ID:A7LbD25lO
――――
――――――――
――――――――――――

??「はっ……はっ……!」

深夜、1人の少女が橙に近い茶色のポニーテールを揺らしながら路地裏を走る。

時折後ろを振り向き、何かに怯えた様子だ。

??「……はぁっ……はぁっ……逃げ、きった……?」

少女はゆっくりと路地裏から這い出し、表通りに顔を出す。

しかし、

隊員「いたぞ! この反応……間違いない、《セブン》だ!」

??「!」

隊員「《トゥスロウス》か……じきに応援も到着する、まず俺たちだけで仕掛けるぞ!」

隊員「おう!」

運悪く追手……GDF陸戦部隊に発見されてしまった。

隊員達はライフルを片手に少女に迫る。
739 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:35:27.35 ID:A7LbD25lO
??「っ、仕方ない……!」

少女が両腕を大きく振ると、野球ボールほどの大きさの球が9つ、宙に舞った。

濁った緑色のそれからはどす黒い泥が次々と湧き出し、やがて人の型となって地面に降り立つ。

隊員「チッ、カースを呼ばれたか!」

隊員「構うもんか! 撃て、撃て!」

隊員達はライフルを構えてカースへ向けて掃射した。

『ゥゥグウ……!』

『グァ……!』

顔面に1〜9までの数字を刻まれたカース達が、掃射を受けてよろめく。

隊員「ははっ、大した事ないな!」

隊員「《トゥスロウス》が《セブン》の中でも格下ってのは本当みたいだな! こりゃ応援を待つまでもねえ!!」

隊員「おう、俺たちだけで《セブン》討伐の手柄をいただいちまおうぜ!」

隊員達はライフルを構え直し、少女へ突撃する。

??「…………!」
740 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:37:53.95 ID:A7LbD25lO
??「アハハ、クセンしてるじゃないか」

突然、紅い光弾が数発降り注いだ。

隊員「ぐぁあ!!」

『ガフゥッ!』

隊員「ごふっ……!!」

光弾に撃たれ、隊員達は次々と地面に倒れ伏す。

少女の生み出したカースも、巻き添えで消滅してしまったようだ。

??「こ、これって……」

隊員「ま、まさか……」

少女と生き残った隊員が空を見上げた。

ビルの屋上に立つ人影が、こちらへ向けて手を振っている。

人影はふいに飛び降り、数十メートルの高さから悠々と着地してみせた。

隊員「せ、《セブン》が2体……それも、《トゥラース》だと……!?」

学ランと学生帽に身を包んだ、赤毛の少年。

その姿を見て、隊員の体は震え、銃を取り落とす。

??「《トゥラース》かあ…そのヨびナ、あんまりスきじゃないんだよね。ん、んんっ」

片言で喋っていた少年は2、3度喉を鳴らすと、今度は打って変わって流暢に喋り始めた。

キッド「俺はさあ、もう自分の名前決めたんだ。『キッド』って、そう気軽に呼んでくれていいよ」

キッドと名乗った少年はにこやかな笑顔で隊員へ人差し指を向け、そこから紅い光弾を再び放った。

隊員「がっ……!?」

生き残った最後の1人だった隊員が倒れるのを見届け、キッドは少女に向き直る。
741 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:40:56.71 ID:A7LbD25lO
キッド「やっと落ち着いて話が出来るね、スロウス。……あー違うや、えっと……」

智香「智香。……今は、そう名乗ってます……」

少女は智香と名乗り、キッドから2、3歩後ずさった。

キッド「そうそう、智香だったね。……何で逃げるんだい?」

笑顔を崩さず、キッドは智香に近寄る。

キッド「俺らは仲間だろ? 怖がる事ぁ無いよ。現に今だって、人間に襲われてた君を助けたんだぜ?」

智香「……じゃない」

キッド「?」

智香「アタシは……もうカースじゃない! アタシは人間に……人間の智香になるんです!」

そう叫んで智香は今来た路地裏を逆走して逃げ出した。

キッド「あらら……フられちゃった」

キッドは肩を竦めて表通りをしばらく歩いていき、角を曲がった所で人影を見つけた。

みく「にゃふふー、肉まんが美味しいにゃあ……にゃ?」

肉まんを頬張るみくはキッドを見つけ、不思議そうに彼を見つめている。

キッド「お、ちょうどいいや」

みく「どちら様かにゃ? みくに何か用?」

キッド「いやあ、可愛いお嬢さんにちょっとプレゼントってね♪」

キッドが指を鳴らすとビー玉ほどの大きさの赤い光が指先に生まれ、ふよふよと漂ってみくの胸の中へと消えていく。

みく「あっ……、……もうっ、何なのにゃ! いきなり話しかけてきて失礼にゃ! みくもう帰るからっ!!」

突然怒りだしたみくは肉まんを袋に押し込み、ドスドスと音を立てそうな足どりで帰っていってしまった。
742 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:43:01.72 ID:A7LbD25lO
そしてみくが視界から消えた時、キッドがゆっくりと吐き出すように喋り出した。

キッド「……おっし、結構種蒔きしたねー。どうよ旦那? 名付けて『憤怒養殖』」

ちらりと隣を見やるキッドの目に映るのは、ポリバケツの上で舌をチロチロさせる小さなトカゲの姿。

『シュルルルルル……』

キッド「そーそー、テキトーに誰彼構わずチョイと怒りの沸点を下げてやってさ、怒りやすくさせんの」

トカゲの言葉を理解しているのか、キッドはポリバケツに肘をかけてトカゲへ語りかける。

キッド「それで生まれた憤怒を俺が埋めた球に溜めて、後で回収するって寸法♪ 俺賢いっしょ?」

『シュルルル……』

キッド「んー? いやいや、後遺症なんか残んないよ。だってそんな所から足がついたらマヌケじゃん。周りからは『アイツなんか短気になったよなー』くらいしか思われないって」

キッド「まあ見てなって。じきに旦那が復活するのに必要な量が溜まるさ」

キッドはにっこりと笑ってトカゲを拾い上げ、夜の闇に消えていった。

――――――――――――
――――――――
――――
743 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:44:03.37 ID:A7LbD25lO
――――
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――――――――――――

隊員「いたぞ、《トゥスロウス》だ!」

隊員「応援を呼んだ奴ら……まさか、アイツにやられたのか!?」

隊員「許さねえ……俺達で仇を取るぞ!」

一方、智香は応援で呼ばれたGDFの陸戦部隊に遭遇していた。

智香「また……!」

智香は再度核を放り投げてカースを生み出す。

人型のカースが9体、隊員達の前に立ちふさがる。

隊員「たかだかカースに怯むな! 撃て、撃て!!」

銃を構えて突撃してくる隊員達へ、智香はゆっくりと両手を振り上げた。そして、
744 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:45:08.64 ID:A7LbD25lO
智香「フレーッ! フレーッ! 『ナ・イ・ン』!!」

突如智香から発された、場違いなほどに爽やかなエール。

それが響いた時、カース達に変化が起こった。

『グォオッ!!』

『フンッ!!』

隊員「な、何だ!? 急にエネルギーが増加した!?」

隊員「まずい、来るぞ!!」

見るからに隆々とした体躯へ変貌を遂げたカース達が、智香へ近づけさせまいと泥の弾丸を吐き出す。

隊員「ぐわっ!?」

隊員「くそっ、これじゃ近付けないぞ!」

9体のカースが次々に吐き出す泥の弾丸は、智香を追う隊員達を見事に足止めしてみせた。

その隙に、路地の奥へ奥へと逃げていく智香。

隊員「しまった、《トゥスロウス》が!?」

智香の姿が完全に見えなくなると、カース達も何処かへと消えていった。
745 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:46:55.83 ID:A7LbD25lO
隊員「くそっ、反応は!?」

隊員「無い……どうやらカースの産み過ぎで、体内のエネルギーが少なくなっているようだ」

隊員「で、レーダーにも引っかからない、か……」

隊員「ともかく捜索を続けよう。《トゥスロウス》は被害報告の少ない個体ではあるもの、放っておくと何があるか分からん」

隊員達は四方へ散り、智香を探し回った。

智香「……はぁっ……はぁっ……」

足音が遠ざかるのを確認して、智香はそっと物陰から顔を出す。

カース……『ナイン』を今日だけで5回も召喚している、その内『力』を使ったのは2回。

流石にエネルギーの底が見え始めてきたが、そのお陰で追っ手を撒けたのは怪我の功名と言うべきか。

智香「今のうちに……どこか、隠れる場所を……」

ふらふらと歩き続ける智香は、やがて小さな廃ビルを見つけた。

智香「ここなら……」

中に人が居ないかを警戒しながら、智香はゆっくりと廃ビルの中へと足を運んでいった。
746 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:47:43.58 ID:A7LbD25lO
彼女はカースを産み、使役する。

しかし彼女はカースドヒューマンではない。かといって悪魔でもない。

彼女はカースそのもの。

強大な力と知性を得た、7体のカース……その内の1体。

彼らは皆各々の『目的』の為、自由気ままに動く。

智香の『目的』はただ1つ、カースではなく人間になる事。

方法は知らない、有るのかも分からない。

それでも智香は、人間に憧れた。

自分を人間にする方法が有ると信じ、行く当てもなく駆け回る。

彼女に安らぎの日は来るのか。

それはきっと、神でさえも識らない。

続く
747 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:48:25.65 ID:A7LbD25lO
若林智香

○職業
不明

○属性
カース

○能力
カースの生成、『呪詛声援』

○詳細設定
《七つの災厄》の1体、《トゥスロウス》。
カースの体を持ちながら人間に憧れ、人間になる方法を探している。
GDFやヒーローなどに襲われた際は、カースによる足留めに終始している。

○『呪詛声援』(カースドエール)
智香の固有能力。
「フレー! フレー! ○○!」のフレーズで発動し、対象の身体能力、魔力などを一時的に増大させる事が出来る。
また、その際に対象の肉体のみを意のままに操る事も出来る。
エールが聞こえた相手にしか効果が無い為、例えばGDFに向けてエールを飛ばしてもGDF全体にしか効果は無い。

○ナイン
智香が産みだす9体の人型カース。
カースに襲われた際に敵のカースと区別して『呪詛声援』を使う為に「ナイン」と名付けられている。

○関連設定
《七つの災厄》
748 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:49:01.83 ID:A7LbD25lO
キッド

○職業
不明

○属性
カース

○能力
カースの生成、光線、憤怒感情の増幅

○詳細設定
《七つの災厄》の1体、《トゥラース》。
外見は学ランと学生帽を身につけたにこやかな笑顔の少年。
『憤怒養殖』やカースを使い、憤怒の感情を集める事に固執している。
憤怒Pの事を「旦那」と呼び慕っているが、彼に作られたわけではない。

○憤怒養殖
キッドが憤怒Pの肉体を蘇らせる為に進めている策。
道行く人に「球」を埋め込み、怒りの沸点を下げて怒りやすくさせる。
その怒りを球に集め、後から回収して回る。
過剰に怪しまれたりしないように、球を抜き取られても後遺症などは残らないとの事。
749 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:50:22.47 ID:A7LbD25lO
《七つの災厄》
「ザ・セブン・マスターカース」それぞれ7種のカースの中で最も強力な7体、通称『セブン』
外見は人間に近く、高度な知性を持ち、人語を解する。
七罪の悪魔には及ばないものの、それに迫る程の力を持っており、
各個体ごとに名前が付けられて、様々な組織から警戒されている。
GDFでは個体毎に「トゥ○○」(The One Of ○○の略)と呼んでいる。
750 : ◆3QM4YFmpGw [saga sage]:2016/02/04(木) 23:53:11.81 ID:A7LbD25lO
○イベント追加情報
みくが少しだけ短気になっています、他にも短気になってる人がいるかも…?

智香がこっそり街を歩いています


以上、《七つの災厄》の設定は没ネタスレから拝借しました
恐らくモバマス創作史上最も暗い智香ちゃんです(白目)
みくにゃんお借りしました
751 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2016/02/05(金) 02:01:00.91 ID:ko/Gpcxr0
乙でしたー
人間になりたいカース…幸せになってほしいが…
そんでもって憤怒Pとキッドがなにか仕込んでらっしゃる…

…なんかみくにゃん被害受け過ぎなのでは(やった人)
752 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 06:55:43.83 ID:ARR+iEHZo
お久しぶりです
またもや副業で離れる羽目になっていました
一年半以上前でとっくに一週間過ぎているけど、予約した首藤さん念の為取り下げます
生存報告はしておくべきだったと反省しきり

あと、超絶放置していたビアッジョ一家投下します
読み直して分かり辛い点があったから事前に補足
宇宙犯罪組織≒宇宙海賊って感じです
753 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 06:56:24.91 ID:ARR+iEHZo
前回までのなんとか
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/434-443



宇宙連合軍特務艦隊との戦闘によって傷つき、意図せずも太陽系に流れ着いた宇宙冒険家ビアッジョ一家。
宇宙の中で辺境とも呼ばれる地においても、彼女らはしぶとく生き延びていた。


メグミ「ミサト、新しい仕事よ」

プリマヴェーラ号の艦橋のデスクで呆けていたミサトに、メグミは唐突に切り出した。

ミサト「……それって、例のあの子の?」

メグミに対しミサトは、怪訝さを隠ず言葉を返す。

メグミ「そうだけど……なによ、不服なの?」

ミサト「だってぇ、何かいいようにこき使われている気がしてねぇ」

メグミが持ってきた"仕事"に対して不満気なミサトに、メグミは諭すように言葉を続ける。

ミサト「仕方が無いわ、こちらの弱みを握られているし……それに、報酬としてプリマヴェーラ号の修理費を前借りしているわ」

地球において活動しているうちに、宇宙連合に影響力を持つある人物と出会った二人は、その人物といびつな協力関係を築いていた。
今回の話もその人物からの依頼とのことだが、ミサトはそれが多少気に喰わないらしい。


メグミ「まあ、対外折衝はメグミちゃんに任せているから、いいんだけど」

メグミ「……話を続けるわよ」

メグミ「目標は、ある宇宙犯罪組織の非合法取引の目録の確保」

メグミ「クライアントの話では、対象の組織は人身売買にも手を出しているって話」

ミサト「ふぅーん、やることやってる相手ってことね」

宇宙犯罪組織といってもそれこそ星の数ほど存在するが、例外なくあらゆる悪事に手を染める連中だ。
人身売買もさして珍しい事ではないが、相手をするうえで遠慮は不要だとはっきりと認識出来る。


メグミ「連中は何処から入手したのか、旧式の戦艦を根城にしていて、一か所に留まらず常に移動しているらしいわ」

メグミ「だから、宇宙管理局が検挙に向かっても逃げられてしまって、手を焼いているって話」

戦艦クラスが相手では管理局もそれなりの大部隊を用意する必要があるが、その戦力が災いし事前に察知されてしまうということだ。

ミサト「ま、そういう相手なら私達に頼るのは間違っていないわねぇ」

その点ビアッジョ一家は宇宙における艦艇の中でも小型と呼べるコルベットクラスが一隻──察知されずに接近するのは容易い。

メグミ「とりあえず、その犯罪組織の情報を集めに行きましょう」

言うとメグミは、プリマヴェーラ号の舵を取るのだった。
754 :いきなりミスしてる ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:00:43.34 ID:ARR+iEHZo
>>753訂正
×ミサト「仕方が無いわ、こちらの弱みを握られているし……それに、報酬としてプリマヴェーラ号の修理費を前借りしているわ」
○メグミ「仕方が無いわ、こちらの弱みを握られているし……それに、報酬としてプリマヴェーラ号の修理費を前借りしているわ」


──どこかの宇宙──


件の犯罪組織の情報を集めたメグミとミサトは、その組織が潜伏していると思われる宙域にやってきていた。
ミサトは愛機に乗り換え、既にプリマヴェーラ号から発進している。

メグミ『ミサト、聞こえる?』

ミサト「はぁーい、感度良好よぉ」

ミサトとの通信確立を確認したメグミが、段取りを説明する。

メグミ『もう一度今回の作戦を確認するわ』

メグミ『フェリーチェ単騎で目標の戦艦に接近──艦内に侵入したのち、取引目録を確保し脱出』

メグミ『必要時は武力行使も構わないとクライアントからお達しがあるわ』

ミサト「まあ、戦艦に近づいて、それで攻撃はするなっていう方が無理があるけどねぇ」

メグミの説明に、ミサトは皮肉めいて返す。


メグミ『まずは目標の戦艦を探し出すところからだけど──』

メグミ『情報屋の話では、この宙域に居る可能性が高いとのことだから、そこは自力で何とかして頂戴』

メグミ『ランデブーポイントはミサトの脱出後に指定するわ、よろしく頼むわね』

説明を終えると、メグミからの言葉は無くなった。

ミサト「まずは探すところからかぁ……まぁしょうがないけどねぇ」

愚痴のように独り言つと、ミサトは目標の戦艦を探し始めた。
755 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:02:23.90 ID:ARR+iEHZo

ミサト「居た居た……あれだけ大きい図体してれば、見つけるのは簡単よねぇ」

しばらく宙域内を探し回ったのち、ミサトは目標の戦艦を捕捉した。

メグミ『ここまでは手筈通りね』

P子「目標質量11.8Mt……クラスD"準大手"級バトルシップです」

P子「外観から、エルダー・スキーパンタイプと推察されます」

ミサトの乗機に移し替えられたP子──ビアッジョ一家の3人目の仲間である新鋭人工知能が、各種センサーで捉えた情報を視覚化し、ホログラムイメージをHUD上に投影する。

ミサト「エルダー・スキーパンねぇ……数多く出回っている型落ち戦艦とはいえ、そこらの宇宙犯罪組織が運用出来るのかしら」

ミサト「人身売買って、儲かるのかなあ」

P子の分析を聞いたミサトは率直な感想を口にする。

メグミ『儲かるかどうかはさておき、忌むべき行為であることは確かね』

メグミの相槌を聞きながら、HUD上のイメージと、電子望遠装置で視認している実像とを見比べる。
目標のその姿──"宇宙戦艦"という艦種を冠する船体の巨大さは、ちょっとした宇宙コロニープラットフォーム並の威容をたたえている。


ミサト「うーん、流石に戦艦に真正面から挑むのは骨が折れるよねぇ」

P子「直掩機も多数出撃している模様です」

戦艦の周囲には、艦載機と思われる戦闘機が多数飛び回っているのが見て取れる。

メグミ『目標はあくまで戦艦だけれど、まずは取り巻きから片付けるのが肝要ね』

ミサト「ま、やってみようかぁ──P子ちゃん、戦闘用意」

P子「了解、戦闘システム起動」

P子「ハイパーロングレンジビームキャノン、スタンバイ」

P子の合成音声に合わせ、ミサトの乗機の機首下部から、全長数十メートルはあろうかという長大な砲身が展開した。
宙間超長距離射撃に用いられる、高出力長射程のビーム砲だ。


宇宙空間で長距離射撃を行う際は、射線の周囲の惑星の引力や、空間中を漂う種々の物質による磁場の乱れ等の影響で、非常に緻密な弾道計算が必要となる。
そのため、長距離砲は一般的には観測機を目標の近くまで飛ばしての間接照準射撃がほとんど唯一の運用方法となる兵装である。

しかし、それはあくまで"一般的な"運用方法の話である。
P子の高度な演算処理能力と、ミサトの操縦技術が合わさることによって、
目を瞑ったまま針穴に糸を通すかのような曲芸じみた長距離射撃を単機で可能とするのだ。


P子「ジェネレーター直結、エネルギー充填開始……射撃準備完了」

ミサト「りょうかぁい」

ミサトは戦艦の周囲を警戒している戦闘機のうちの一つ、丁度足を止めている機に狙いを定める。

ミサト「だいたいこの辺かなぁ……発射!」

ミサトの声と同時に、砲身の先端から光が迸った。
756 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:04:02.42 ID:ARR+iEHZo

───────────────────

『なあ兄貴』

「どうした?」

宇宙犯罪組織の戦闘機部隊指揮官は、突然入った通信に意識を向けた。

『毎度思うんだが、俺たちが外に出て見張りをする必要ってあるのか?』

部下の一人(組織の性格上"手下"と表現した方が適切かもしれない)が、若干不満の色を含んだ口調で疑問を口にする。
自身も、もっともな言い分だと考えるところはある。

電子戦に特化された自機のセンサーによれば、母艦の警備を開始してから今に至るまで、宙域内に敵性存在は認められず。
それに加え、宇宙連合艦隊や宇宙管理局の通信は逃さず傍受しているが、
自分達を対象にした作戦行動が実施されるといった内容は確認出来ていない。
差し迫った危険は無いであろうことは確かだ。

「念のため……といったところだろう」

だが、組織の幹部連中の慎重さは今に始まった事ではない。
組織の運営を行っている連中からは定期的に"重要な取引"だとかを行うと宣言されるが、
その際には毎回過剰とも思える程周辺の警戒を行うように指示が出される。

「トラブルに対する警戒はするだけしておいて、実際に何もなければそれに越したことはない」

実際、この慎重さがあってこそ、今まで組織が存続されてきたというところはある。
今回の警戒態勢も、今までと何も変わらない。
自分達は用心棒として、いつも通りの仕事をこなすだけだ。

『ん……? 何か光っ──』

その直後、彼の思考は中断された。
仲間の戦闘機のうちの一機が、突如として閃いた一条の光芒に貫かれ、爆散したのだ。
757 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:04:36.07 ID:ARR+iEHZo

『攻撃!? くそッたれ!何処から撃ってきやがった!』

撃墜された機の直近に居た海賊は、突然の事態に取り乱し声を荒げる。
非常事態を察知した犯罪組織の戦闘機集団は隊列を崩し、散り散りに回避行動を取った。


『兄貴! チ、チビがやられた!』

「落ち着け! 敵の位置は今調べて──バカな!? スキャンレンジ外だと!?」

指揮官は思わず狼狽する。
長距離攻撃を受ける可能性は当然認識しており、機体には対策の為の高精度センサーを搭載していた。
だが事実として、敵の不意打ちを許してしまった。
センサー範囲外からの攻撃など、彼の戦闘機乗り人生の中でこれまで受けたことが無かったのだ。

しかし、浮き足立つ仲間を取りまとめるべく、なんとか指示を出す。

「各機! ビーム偏向フィールドを展開しろ!」

「恐らく二射目が来る……それで下手人の位置を割り出す!」


果たして、彼の読みは当たった。
最初の攻撃からさして間を置かず、
電子望遠装置を最大出力で稼働してもなお遥か彼方に砂粒の如く見えるデブリ群の中から、恐るべき速度で光の奔流が飛来する。
収束された粒子ビームの類だろう。

その光は正確無比に海賊機のうちの一機を捉えていたが、着弾の直前でまるで見えない壁に当たったかのように軌道が逸れた。

「見えたぞ! 各機、俺に続け!」

指揮官は自機のブースターを戦闘出力で稼働させると、先陣を切って飛び出した。

「(敵の規模は不明だが、センサーで捉えられんということは、つまり小型の目標であるということだ……逃がしはしない!)」

襲撃者の位置を割り出した海賊達の編隊は、その潜伏地点へと急行するのだった。
758 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:06:33.26 ID:ARR+iEHZo

───────────────────

敵集団の様子を観察していたミサトは、思いがけず目標を仕留め損なった事実を受けて顔をしかめた。

メグミ『……逸れたわね』

ミサト「逸れたねえ」

P子「あの現象は、ディフレクト・フィールド・ジェネレーターによるものと推察されます」

P子「発生器の周囲に特殊な磁場を形成し、粒子ビームを反射します」

ミサト「そんな大層なものを持ってるなんて、三下風情が生意気ねえ」

P子の分析を聞いたミサトは誰にともなくボヤくと、潜伏していたデブリ群から飛び出す。

メグミ『結局、正面突破ね』

ミサト「その方が手っ取り早いしねえ」


ミサト「ところでP子ちゃん」

ミサトはコクピットコンソールを操作しながらP子に話しかける

ミサト「この兵装、実戦で使うのは初めてだけど……P子ちゃん、反動制御出来る?」

コンソールのディスプレイ上には、自機のウェポンマウントラッチに新たに増設された、"地球製"の武装の情報が表示されている。
この武装は装薬を燃焼・爆発させて砲弾を撃ち出すといういささか原始的(ビアッジョ一家の用いるテクノロジーと比べてという補足は必要だが)な兵器であるが、
ビーム兵器のそれに比べて反動が強いという欠点がある。

P子「試射時のデータは機体の姿勢制御システムにインプット済です」

P子「発砲時の反動制御は問題ありません」

ミサト「ならオッケーね、いくわよぉ」

P子に新兵装の状態について確認を取ったミサトは乗機を加速させ、敵集団へと突っ込んでいく。
759 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:07:58.68 ID:ARR+iEHZo

───────────────────

海賊機の編隊は程なくして、襲撃者と会敵した。

『目標捕捉!速いぞ!』

『機種照合中……該当あり!』

各々が確認した情報を報告し合う。

『……なんだこりゃ、グランスミラージュ? 聞いたことねえ機体だ』

『構やしねえ、たった一機でナメやがって……叩き落としてやる!』

「一機であればこそ油断するな! 勝算もなく向かってくることはあるまい!」

指揮官は逸る部下を諌める。

再度宙域内をスキャンにかけたが、やはり現在補足している一機以外は敵性存在は確認出来なかった。
自分達に単騎で喧嘩を吹っ掛けてくる相手が居るとすれば、とんでもない愚か者か、
あるいはその逆──とてつもない実力者のどちらかだろう。

いずれにせよ、楽観視はすべきではない。


『気負い過ぎるなよ、ビーム兵器相手ならやられる要素なんてどこにm──』

典型的な慢心台詞を吐いた海賊は、次の瞬間には爆散していた。

『な、なんだと!?』

その光景を目の当たりにした他の海賊に動揺が広がる。

『今のは……実体弾か!?』

『ふざけんなよオイ! なんでそんなモン積んでやがる!?』

「落ち着けと言っている! 食らわなければなんとやらだ!」


『クソがぁ! やってやる! やってやるぞッ!』

破れかぶれか、海賊の一機が襲撃者に突撃する。

「馬鹿野郎! 不用意に突っ込むんじゃあない!」

『ぐわぁっ!!』

指揮官の制止も空しく、迂闊な動きを見せた海賊機は即座に撃墜されてしまった。
断末魔の後僅かなノイズと共に通信は途絶え、編隊内の機体稼働状況を示す一覧にオフラインアイコンが増える。


「(超長距離からの不意打ちに続き実体弾によるこちらの防御の無効化……初動から完全に相手のペースに乗せられてしまっている)」

「(状況を仕切りなおさねば被害が増える一方だ)」

「各機! 単独で動くな! 僚機と合流しろ!」

「数ではこちらが上だ! いいか、囲い込んで封殺するぞ!」

『り、了解!』

指揮官の指示により、海賊達は多少のまとまりを見せるようになった。

「(よし、ここから反撃を始める……ッ!)」
760 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:09:27.14 ID:ARR+iEHZo

海賊機の編隊は、襲撃者と会敵してから数分と経たずに、阿鼻叫喚の様相を呈していた。
指揮官の懸命の指示にも関わらず、既に半数以上が撃墜されている。

『なんなんだコイツは! ちくしょう、振り切れねえ! うわぁっ』

『クソッ!またやられた……ッ!? く、来るな!来るなああぁっ!』

数で上回るものの、相手の動きについてゆくことが出来ない。
複数で追撃を仕掛けるも射線に捉えられず、逆に撃墜されていく。

遂には、指揮官機とその僚機を残すのみとなっていた。


『兄貴! う、後ろに……周られた!』

「持ち堪えろ! こちらもヤツの後ろが取れる!!」

『た、助け──』

指揮官の援護はあと一歩間に合わず、僚機は眼前で爆散した。
四散した破片が高速で背後に流れてゆくが、そちらを見やる余裕は無い。

「クッ!」

指揮官は最後の仲間がやられた事実を受けて歯噛みする。
これまで多くの難局を──あの、宇宙戦争をも切り抜けてきた仲間が、たった一機の相手になす術も無くやられていった。
それも、ほんの僅かの間に。


「だが……背後を取った! 堕ちろッ!」

それでも仲間の犠牲の甲斐あってか、襲撃者を照準の中央に捉える事に成功した指揮官は、逸る気を抑えビームガンポッドの発射トリガーを引いた。

「やった……やってやったぞ……!!」

ビーム粒子の束が襲撃者に襲い掛かるのを視認し、勝利を確信する。
761 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:11:00.93 ID:ARR+iEHZo

──だが、発砲に伴う閃光が晴れた時、指揮官は己が目を疑った。

「……え?」

そこには、味方を一瞬のうちに全滅させ、そして自身がたった今撃墜した筈の機影はなかった。
代わりに、漆黒の"巨人"の姿が映し出されている。

「な……なんだと……」

巨人の左腕部には幅広の装甲が据え付けられており、その中央が白く赤熱している。
先のビーム砲撃を防いだという事だろうか。

「人型に変形……可変型機……だと?」

眼前の巨人が、今まで対峙していた戦闘機が変形した人型兵器であると認識した指揮官は、再度攻撃を仕掛けるべく機種を回頭させようとする。

「ッ!? く、動かん……!」

だが、いくら姿勢制御バーニアを操作しても、機体は全く動かない。
人型の右腕マニピュレータが、機体を押さえつけているのだ。
突然の出来事で隙を晒してしまったが故の状況だ。

死の危機に瀕し、指揮官の体感時間は引き伸ばされ、世界がスローモーションに映る。
人型の頭部──人間でいうところの"眼"の部分が赤く、妖しく輝き、シールド兼近接戦闘用ブレードを備えた左腕部を振り上げるのが見てとれた。


「(こいつは…………まさか……)」

自らに死をもたらさんとする相手とお互い睨み合ったまま、指揮官はかつて宇宙戦争真っ只中の戦場で伝え聞いた、ある噂を思い出していた。

──相対した者に絶望を歌わせる、戦闘機乗りの噂を。


「……フェリーチェ……カンツォーネ」

迫りくる大質量を前に無意識のうちに漏れ出た呟きは、自身の耳にさえ届くことは無く、コクピットが拉げ潰される音に消えた。
762 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:13:01.61 ID:ARR+iEHZo

───────────────────

ミサト「ふぅ……とりあえず、取り巻きは殲滅できたわねぇ」

戦艦の直掩を全滅させたミサトは、息を吐き出すと共に強張った筋肉を弛緩させた。

メグミ『まだ本命が残っているけれどね』

ミサト「うすのろ戦艦一隻なら、どうとでもなるわ」

ミサト「それにしても──」

ミサトは、今しがた海賊の機体の悉くを叩き落とした"新兵装"に思いを巡らす。
提供者から寄越された地球人の仕様書には『艦載単装速射砲』だとか書かれていたか。

ミサト「実弾兵器、悪くないわねぇ……反動が癖になりそう♪」

自身にとって満足のいくレベルの兵器を作り出しているとは、地球の技術力もなかなかどうして侮れない。

ミサト「さてと、次は本命ね」


乗機の人型形態を維持したまま目標の戦艦に接近したミサトは、右腕に装備されたビームガン(こちらは元来装備されていたものである)を用いて攻撃を開始した。
敵の接近を許した戦艦は、迎撃の火砲を遮二無二撃ちまくる。

ミサト「温い対空砲火ねぇ、あくびが出ちゃう」

対してミサトは、舞うように火線を躱し、的確に砲火の元である銃座を潰していく。

ミサト「面倒だし、このまま対艦ミサイル撃ち込んじゃう?」

メグミ『ダメよ、目標を確保するまではね』

ミサト「やれやれねぇ」

ぼやきながらも手を休める事は無く、遂にはハリネズミの体毛の如き対空銃座群を全て潰し終えた。
763 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:15:32.06 ID:ARR+iEHZo

敵から反撃の手段を奪ったうえで、ミサトは艦内に入り込む手立てを練る。

ミサト「さてと、P子ちゃん、カタパルトデッキの位置は分かった?」

カタパルト──すなわち艦載機の発進口であるが、分厚い装甲を持つ宇宙戦艦の内部に侵入する上で、最も都合の良い部位である。

P子「スキャン済み──船体後方・底面にあります」

ミサト「さっすがP子ちゃん、仕事が速いわねぇ」

ミサトはP子の指示の場所に機を移動させると、外部と発進口を隔てるハッチを探る。

ミサト「ここね……こじあけるよぉ」

P子「了解、ヴェセルディセクター、スタンバイ」

P子の合成音声に合わせ、ミサトの乗機の左腕に装備されているシールド兼近接戦闘用ブレードがその形状を変える。
細く長い剣状に変形したそれは、次第に白く発光しだす。

ミサト「失礼しますよ……っとぉ」

ミサトはその剣をハッチと思しき位置に水平に一閃。
返す刃で少し位置をずらし平行にもう一閃。
今度は切り裂いた線と垂直に──先に切り裂いた部分を合わせ、丁度"四角"を描くように二連撃。

その"四角"を蹴りつけると、ハッチ部の隔壁はいとも簡単に船内側に押し出された。


ミサト「お邪魔しまぁす」

船内に侵入すると、スペーススーツを着込んだ戦闘員が十数名待ち構えていた。

ミサト「待っててもらったところ悪いんだけど、お出迎えは不要よ」

だが、待ち伏せを当然予測していたミサトは、対人プラズマスロワーを用いて容赦なく焼き払う。
制圧戦闘用に特化された人型形態の前では、生身の歩兵など物の数では無い。

ミサト「生身を相手にするのはやっぱり気が引けるわ……弱いものいじめよねぇ」

聞こえこそしないが、苦悶の断末魔を上げているであろう人影を見つつ苦々しげに呟く。

P子「周囲に動体反応なし、格納庫エリア確保しました」

そんなミサトの気を知ってか知らでか、P子は無感情に敵を制圧した旨を告げた。
764 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:17:43.34 ID:ARR+iEHZo

メグミ『侵入に成功したわね』

P子の報告を聞いた、メグミから通信が入る。

メグミ『とりあえず、その辺のあるコンピュータ端末を探してみて』

ミサト「はぁい」

今回の仕事の目的である犯罪組織のデータは、コンピュータに記録されているはずである。
ミサトは近くの壁面に据え付けられた端末に近づくと機体を屈み込ませ、マニピュレータを押し当てる。
さらに、マニピュレータから紐状の物体が伸び、壁面端末の有線ネットワークケーブルの端子口に接続された。


P子「艦内コンピュータネットワークにはアクセス出来ましたが、目的の情報はありませんでした」

P子「この端末からは、最上位データへのアクセス制限がかかっています」

マニピュレータのケーブル接続によって情報を読み取ったP子が、しかし目的が達せられていないことを告げる。
それなりに秘匿性の高い情報の為であろう、安易に持ち出すことは出来ないようだ。

ミサト「残念ねぇ」

P子「ですが、この艦の内部構造をダウンロードしました」

メグミ『あら、P子お手柄ね』

メグミ『電算機室のメインフレームからなら、恐らく最上位データにもアクセスできるはずよ』

P子から送信された情報を確認したメグミが、新たな索を提示する。

ミサト「よし、P子ちゃん、案内よろしくぅ」

P子「了解、経路を表示します」

HUDに新たに表示された目的地への経路情報を確認すると、ミサトは機体の歩を進めるのだった。


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────────

───
765 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:18:35.81 ID:ARR+iEHZo


──ところ変わって、宇宙連合軍の本拠地──


提督「(ビアッジョ一家め……一体何処へ逃げおおせたというのだ)」

以前ビアッジョ一家を取り逃がした艦隊は、依然その行方を掴めずにいた。

提督「(ううむ……ここ数ヶ月は、尻で椅子を磨く毎日だ……)」

提督「(艦隊の指揮も下がっている……どうにかせねばならんな)」

艦隊の提督は内心で無念さを呟く。


「提督!」

提督が艦隊の行く末を案じていると、艦橋のオペレーターの一人が声を上げた。

提督「なんだ?」

「何者かから、暗号化通信が入ってきました」

「送信元は、セクターアルファの23……特に何でもない宙域からですが……」

提督「暗号化通信だと……?」

提督は身に覚えのない通信を訝しむ。

提督「よし、繋げ」

「はっ!」

だが、無視を決め込むわけにもいかず、通信を取った。
766 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:19:41.66 ID:ARR+iEHZo

『はぁーい、おじさん元気してたぁ?』

提督「!?」

提督の眼前の中空ディスプレイに映し出されたのは、想定を超える人物だった。


提督「き、貴様は、ビアッジョ一家のミサト!」

ミサト『相変わらずうるさい顔してるねぇ』

提督「な、何のつもりだ!」

今まで探し続けていた相手からの突然の通信に、提督は狼狽する。
だが、相手からの続く言葉は意外なものだった。

メグミ『あなたに手柄を譲ろうと思ってね』

提督「何だと?」

ミサト『私達が"仕事"で相手をした宇宙犯罪組織の戦艦がね、無力化はしたんだけど、そのまま放置してあるからぁ』

メグミ『あなたの手柄にしてしまって良いと、そういうこと』

ミサト『私達じゃあれはどうしようもないし……とりあえず、情報は送っておくねぇ』

メグミ『まあそういうことだから、どうするかはあなたの自由よ』

ミサト『じゃあねぇ』

提督「おい! 待て!!」

状況が読めず混乱している相手に一方的にまくし立てると、ビアッジョ一家の通信は提督の制止の途中で途絶えた。
767 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:22:59.46 ID:ARR+iEHZo

提督「(奴らめ、何を考えている……)」

「罠……でしょうか?」

通信を聞いていたオペレーターが呟く。

提督「いや……奴らの態度には外連が無かった……」

提督「(いつも通りの、忌々しい人を食ったような態度だ……我々をだまくらかそうという意思は感じられなかった)」

提督「(と、なれば)」

提督は勢いよく立ち上がると、大仰に腕を突き出し叫ぶ。


提督「各艦に通達! 我々はこれより宇宙犯罪組織の検挙に向かう!」

提督「全艦、発進準備!」

「了解!」

艦橋内の部下も、久方ぶりの出撃命令に気合いが入っている様子だ。

提督の指令を受けて、艦隊は数ヶ月ぶりに母港から発進するのだった。


──その後、犯罪組織検挙の功労により、提督の胸に勲章が増えたという話は、余談である。
768 :@設定 ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:25:59.61 ID:ARR+iEHZo

※可変型全領域強襲制圧攻撃機(トランスフォーマブル・アサルト・ドミネート・アタッカー略してTADA)

ぱっと見は普通の宇宙戦闘機。
通常の戦闘機としての役割の他に、大型艦艇へのボーディング(接近しての白兵戦)や基地施設等への効率的な攻撃のための、
制圧攻撃形態(人型形態)への変形機構を有する変わり種。
現代地球の航空機に例えると、制空戦闘後に対地・対艦攻撃を加えて、必要があれば拠点の制圧戦もこなす……みたいな感じの兵器。
特殊な操縦系により搭乗員の養成に時間がかかるうえ、生産性と整備性が劣悪で運用コストも嵩むため、
ほとんどの武装組織から敬遠され使われなくなり、今となっては骨董品レベルの存在。
一応宇宙戦争時代にはそれなりに使われていたらしい。


※グランスミラージュ

ミサトの乗機。
扱いの難しい「TADA」の中でもキワモノ扱いを受ける曰く付きの機体。
運動性や操作系の反応速度が極端に高められており、何人ものパイロットを潰してきたらしい。
そのハチャメチャさは設計・開発者をして「調子乗り過ぎた」と言わしめるほど。
腕にそれなりに覚えのあるミサトでさえデチューンを施し搭乗している。
ちなみに、ミサト機のコールサインは『フェリーチェ』。


※フェリーチェ・カンツォーネ

宇宙戦争時代にあだ名されたミサトの二つ名。
その鬼神の如き戦いぶりに、味方からは歓喜の声が、敵方からは絶叫が、戦場にまるで歌声のように響いたという。
誰が言い始めたか、その現象をフェリーチェ・カンツォーネ(フェリーチェ(ミサトの乗機)がもたらす歌)と呼ぶようになった。
そのうち、ミサト自身を示す名として使われるようになる。


※宇宙戦艦

宇宙戦艦という艦種は、当初はそれが最大最強の戦闘艦であるという意味合いで定義された。
その後時が経ち、より大型で戦闘力の高い船が次々現れたため、
今日では宇宙戦艦の中でもさらにクラスE"中小"級からクラスS"銀河"級まで細分化されている。
769 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/07(日) 07:27:48.68 ID:ARR+iEHZo
終わりです

太陽系に着いてからの話を色々とすっ飛ばしてますが、とりあえず活躍させておこうと思った
放置し過ぎていたし
770 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2016/02/07(日) 23:36:58.30 ID:XbUGQH7p0
乙でしたー
戦闘機を用いた宇宙戦闘って今までほぼなかったし良さしかない…強い…
イメージが某星の狐になってましたけども
そんでもって人型変形はロマンですわ…
771 : ◆OJ5hxfM1Hu2U [sage saga]:2016/02/10(水) 16:26:22.77 ID:B/tsw1do0
ドーモお疲れさまです
なんかバレンタインのキャンペーンが始まったので投下します
総レス数は少ないが一レス当たりが割と長そうなのでチョコとかアップルパイとか食べながら読むといいと思う
アイさんに登場していただいております
772 : ◆OJ5hxfM1Hu2U [sage saga]:2016/02/10(水) 16:28:52.95 ID:jNcq/NRi0

 ドア一枚を隔てた室内に充ちる一触即発の気配が指先からニューロンへ光ファイバーめいた速さで伝わり、アイにそのドアを開けることを躊躇わせた。
 ヴィランの侵入を許したか? その可能性はアイの中ですぐに排除された。ドアの向こうにいるであろう二人ならば、こんな雰囲気になる前に鎮圧しているはずだ。
 アイは決断的にドアノブを回す。鍵はかかっていなかった。無慈悲なる凄腕の傭兵は薄い金属ドアを開き、後悔した。
 甘く香ばしい匂いが鼻腔に入り込む。睨みあう若い男と女。その狭間には、匂いの源たるアップルパイ……しかもチョコがかかっている!
 アイは即座に状況を把握し、溜息をついた。面倒な仕事を終え、面倒な荷物が増え、面倒を片付けるべく訪ねた先で最大級の面倒に出くわそうとは。

「……ゴホッ、オホン」

 わざとらしい咳払い。世話を焼くなどキャラではないが、知らぬ仲でもないヒーローコンビの危機を見て見ぬフリで去るのも気分が悪い。
 二人のヒーローはアイを前に休戦を決めたと見えた。大皿に載ったアップルパイ(チョコがかかっている!)に女がラップをかけた。
 男はその一部始終を目で追い、ようやく納得してかアイに向き直った。

「アンタが来るってのは、どういう風の吹き回しだ? 何かヘマでもやらかしたか? アイドルヒーローの手も借りたいレベルの」

「あいにく仕事は絶好調だよ。ただ、厄介な報酬を手に入れてしまってね。……ああ、少し世間話をしたい気分なんだ。茶を淹れてくれるかい?」

 あの緊張感は二人にとっても望ましくない状態であったらしい。女はホッとした様子ですぐさま給湯室に向かい、男は応接机を濡れ布巾で拭いた。
 アイはソファに身体を沈めた。ややあって女が三人分の紅茶を持って現れた。アイと向き合うように座るヒーロー二人、その間にはおよそ1.5人分の空間。
 実際他人事であったが、アイは気まずさを感じた。それを決して表面に出さぬよう意識しながら紅茶をすすり、苦労性の傭兵は世間話を始めた。

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773 : ◆OJ5hxfM1Hu2U [sage saga]:2016/02/10(水) 16:32:21.99 ID:WON0jd3s0

 『あの日』から時を経て、能力者の存在はありふれたものとなっていた。
 能力ヤクザがキネシス抗争でストリートを赤く染め、能力ホームレスが能力万引きをはたらく。そうした能力犯罪者を追う警官も当然のごとく能力者である。
 かつてカートゥーンの中にしかあり得なかった光景は、日本において……無論、この暗黒経済都市ネオトーキョーにおいても今や日常の一部なのだ。

「それでは、用件を聞こうか」

 白熱灯が弱々しく照らす薄暗い廃ガレージの隅、屏風で区切られた二畳の仮設座敷。埃っぽい座布団の上に正座し、アイは切り出した。
 チャブ台を挟んで向かい合わせに座るのは、この廃ガレージの主にして今回の依頼者、野良ヒーローのセンジュカンノンだ。
 彼の目は血走っている。チャブ台の上で組んだ両手が震え、背中から生えた八本のサイバネアームが怒りを関知してカチカチと威圧的に鳴った。

「あの野郎、生意気にもサイバネ脚を増設しやがったんだ! 俺の許しも得ずに!」

 岩塊めいた顔は赤く、分厚い唇をわなわなと震わせ、センジュカンノンは言葉を絞り出す。

「こないだまではタコだったのにイカになりやがった。あの野郎ナメやがって」

「制裁か。どこまでやる?」

「……あんなクソ野郎でもたった一人の家族だ。懲らしめるだけでいい。サイバネ脚を三本、へし折ってやってくれ」

 意外にも慈悲。センジュカンノンが手元の端末を操作すると、電子的効果音と共に前払金がアイの端末に振り込まれた。
 額面は廃ガレージのみすぼらしさからいえば当然の端金ではあったが、依頼内容が比較的簡単なものである以上、断る理由にはなり得ない。

「いいだろう、最善を尽くそう」

 アイは依頼を承諾し、しめやかにガレージを退出した。
 ……『あの日』を経て変わったのは能力者周りだけではない。宇宙インベダーを始めとする邪悪存在も頻繁に現れ、競うように人類のテックが進歩を遂げた。
 環境の変化は、そこに生きる者達にも変化を強いた。能力者、テック者を問わず、数が増えれば淘汰が始まる。その流れに拍車を掛けるのがアイドルヒーロー同盟だ。
 カッコイイ・カワイイ・強いと理想の条件を揃えたアイドルヒーロー達は、以前の主流であった『男性』アイドルヒーロー達すら追いやりつつあった。
 ましてや組織の後ろ盾がなく、同盟にスカウトされるほどの実力もない野良ヒーロー達は、僅かばかり残された甘い汁を奪い合うばかりの現状。

(曲がりなりにもヒーロー同士だろうに、情けない)

 アイは内心呆れながらも依頼を断らない。彼女のような実力あるフリーランスにとって、野良ヒーローの小競り合いは良い小銭稼ぎなのだ。
774 : ◆OJ5hxfM1Hu2U [sage saga]:2016/02/10(水) 16:37:05.79 ID:jNcq/NRi0

 センジュカンノンの双子の弟ロータスパイダは野良ヒーローにしては羽振りが良く、往年のホンゴエ・タコシもかくやのプール付き豪邸に住んでいるという。
 ……そして情報に偽りはなかったようだ。アイは高圧電流有刺鉄線の張られた塀を難無く飛び越え、ロータスパイダ邸の敷地内にエントリーした。

(さて、どこにいるものやら。これだけ広い屋敷となると……)

 目を閉じ、耳を澄ます。微細なモーター音が多数、そして水音。……プールだ。遠い。現在地点への奇襲可能性はおそらく無し。
 アイはセントリーガン・ビッグドッグや即死トラップ、地雷原を入念に回避、あるいはしめやかに破壊しながら音の方向を目指した。
 およそ十分後、アイは生け垣の陰から目的のプールの様子を窺っていた。モーター音は今やはっきりと聞こえる。
 水面には一人の男。まだ二月だというのに上半身裸だ。腰の生体動力ユニットから生えた十本のサイバネ脚が放射状に広がって水を掻き、その上にアグラしている。
 さながらロータス上に座すブッダ。ターゲットのロータスパイダであろう。

「バカ兄の手の者か。脚を増設した時から、こうなることは予想しておったわ」

 ロータスパイダは目を開き、アイの潜む生け垣を見据えた。美男ながら怒るセンジュカンノンさえ比較にならぬ気迫! まさしく猛者に相違あるまい!
 しかしアイは怯まぬ。襲撃が予測されていた? 構うものか、どのみち戦うためには姿を見せねばならぬのだ。彼女はプールサイドに踏み込み、獲物に宣戦布告する。

「貴様がロータスパイダだな? その脚を三本ほどへし折らせてもらう」

「ロータスパイダ? ハッ、それは先週までの名よ! 今の俺はロータスクード! そして覚えておけ。雇われめ、貴様を浄土に送る者だッ!」

 ロータスパイダ改めロータスクードは生体動力ユニットに内蔵の水圧ロケットを噴射し水面から跳躍、空中で巧みに姿勢制御し、アイ目掛けて急降下!
 先端に鋭い高振動クローを備えた十本のサイバネ脚が悪魔の両手めいてアイに迫る。掴まれたが最後、骨ごとクズ肉となるであろう。

「ふむ、数が多いだけではないな。稼ぎ相応の質、だが使い手の方は」

「ゴチャゴチャうるせェ! イヤーッ!」

 ロータスクードは未だ冷静な傭兵を訝しんだ。彼女は彼の必殺攻撃を躱そうともせず、不敵に微笑むばかり。何か策が? 否、どうでもよいことだ。バカは死ぬのみ。
 彼の闘志と裏腹に、サイバネ脚はあくまで無機質に閉じんとする。残るのはプールサイドのコンクリート残骸と肉塊だけだ。ガキン、と堅い感触。
 ……だが、それだけだった。ロータスクードは地上から1メートルの高さに浮いていた。サイバネ脚も閉じきらぬ。

「バカナ! どういうことだ! メンテナンスは欠かしていない!」

「安心したまえ、動作不良ではないさ。少しばかり過負荷をかけさせてもらってはいるが」

 ロータスクードの真下から、涼しい声。彼自身のサイバネが遮り目視できぬが、おそらく傭兵は無傷だ。
775 : ◆OJ5hxfM1Hu2U [sage saga]:2016/02/10(水) 16:42:00.14 ID:WON0jd3s0

 ここで彼はサイバネ脚に絡みつく茨のツタめいた物体に気付いた。それは植物の柔軟さでサイバネ脚を絡め捕りながら、鋼鉄の頑強さでその重量を支えていた。

「エエイ生意気! 最新鋭テックをナメるな!」

 ロータスクードは高振動クローでツタを切断しようと試みる。(無駄なことだ)片膝をついて身を屈めるアイは無感動に呟いた。サイバネ脚は微動だにせぬ。
 ツタはそれ自身が意思あるいは知性を持つかのごとく、サイバネ脚の関節を極めていた。もはや1ミリとてアイの身体が危険に近付くことはあるまい。

(ねえ、アイ、すこし重いわ)

 アイの脳裏に声。その主は彼女がコンパクトに構える妖刀『茨姫』だ。鋸刃めいた刀身の根元、柄からは茨のツタが十本生えている。

(そうか。なら、早めに片付けよう。もう少しだけ、頑張れるね?)

(もちろん! アタクシ、アイの期待は裏切らないんだから!)

 声はにわかに力強く、同時にツタがグンと伸びた。長さ13メートルに達したそれは禍々しくうねりながら、ガッチリ抱え込んだサイバネ脚を掴み続ける。
 身動きのとれぬまま空高く揺られ、ロータスクードを恐怖が支配する。この高さから地表に叩きつけられれば、ヒーロー肉体を有する彼とて勢い次第で死ぬ!
 遥か眼下で傭兵は立ち上がり、鋸刃の妖刀を打ち振るった。ツタが鞭めいてしなり、ロータスクードは今や地獄のジェットコースターを体感!

「アアアーッ! ヤメロ! ヤメローッ! アアーッ!」

 水柱が上がる。哀れな堕落ヒーローは地表激突死を免れ、代わりに頭から胸までプールに沈んでいた。
 無慈悲な傭兵は一本釣りめいて彼を引き上げ、再び沈める。三度目の水没でロータスクードの心は完全に折れていた。

「……起きたまえ。ヒーロー肺活量をまともに鍛えているなら、この程度では死なないはずだ」

 ロータスクードは目を開き、直後、決壊ダムのごとく水を吐き出した。彼を見下ろす傭兵は逆光で黒い影。

「ハイ……ゴメンナサイ」

 息も絶え絶えに、果たして何に謝っているのか分からぬまま辛うじて言葉を漏らす。傭兵はロータスクードのサイバネ脚を三本、無造作に引きちぎった。
 徐々に意識がハッキリしてくると、彼の中で激しい怒りが湧き上がった。傭兵にではない。理不尽な言いがかりをつけ、このような目に遭わせた兄にだ。
 ……報復を。自分が味わったのと同じ恐怖と絶望を、センジュカンノンに。それができるのは、まさしく眼前の傭兵のみ。
776 : ◆OJ5hxfM1Hu2U [sage saga]:2016/02/10(水) 16:47:26.34 ID:WON0jd3s0

 ビボッ。傭兵の端末が鳴った。任務完了報告を終え、報酬を受け取ったのだろう。もはや兄と傭兵の間に雇用関係は成り立たない。

「センセイ、お願いします!」

 ロータスクードの土下座にアイは主導権を握られることとなった。たしなめようと屈み込んだアイに、七本足のイカはまくし立てた。

「そもそも! 俺がこんな金持ちになれたのも、稼ぎをひたすら高性能サイバネに注ぎ込んで、強くなる努力をしたからなんス! バカ兄は結果だけ見て俺を!」

「う、うむ」

「挙げ句、こんな暴虐! 許せませんよ! 許せませんよね!? 俺の依頼を受けてくださいセンセイ! あのバカ兄に思い知らせてやってください! 二本だ!」

 ロータスクードは猛烈な勢いで端末を操作する。アイの端末が鳴った。振り込まれた前払金は、センジュカンノンが提示した額より0が二つほど多い。

「……いいだろう……最善を尽くそう」

 勢いに押し切られ、アイは依頼を受諾せざるを得なかった。
 幾度となく死線をくぐり抜けた傭兵のカンが、この仕事がロクな結果にならないであろうことを知らせていた。
 ……依頼主が殺されタダ働きになった。偽の依頼で誘き出された。敵の数が情報の倍だった。協働の傭兵が襲いかかってきた。そういった苦い記憶が甦る。

「……今さら、引き下がれるものか」

 アイは傭兵のカンを黙らせる。彼女はこの仕事に、カネ以上の意味を見出していた。
 互いに憎み合う兄弟ヒーロー。彼らは納得ゆくまでぶつかり合わねばならぬ。今やアイは奇妙なセンチメントを感じている。

(無慈悲な傭兵が、感情に振り回されるなど)

(でもアタクシは、そんなアイのことが気に入ったから一緒にいるの)

 茨姫が無邪気に言った。アイは答えず、ただ妖刀の束を撫でた。隣を歩くハナもアイに擦り寄る。……心強い戦友達だ。アイはキアイの漲りを感じていた。

「……少しばかり邪魔するよ」

 直径2メートルの穴が開いたシャッターに、傭兵の逆光シルエット。センジュカンノンは危うく失禁しかけた。
 鋸刃めいた妖刀を逆手に持ち、甲殻類めいた鎧を纏う、表情を窺うことかなわぬその影の双眸だけが無慈悲に光った。

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777 : ◆OJ5hxfM1Hu2U [sage saga]:2016/02/10(水) 16:54:54.67 ID:pyJOmbBoO
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 夕暮れ。ナカガワ・リバー河川敷で、二人の男が殴り合う。どちらも上半身は裸で、片や背中に、片や腰に、何らかの制御装置めいた小型機械。
 その身のこなしは今や互角にブザマだ。よろめくだけのステップで、腰の入らぬパンチを繰り出し合う。一目で彼らをヒーローと見抜ける者は多くあるまい。
 悲しくなるほどに無惨な光景を、芝生斜面に体育座りのアイはマグロめいた眼差しで眺めていた。
 傍らには超常の茨のツタで束ねられたサイバネ義肢18本が転がる。……然り。双子のヒーローは、全てを失うまで気付くことができなかったのだ。

(……だが、これで良かったんだ。生身で殴り合う今なら、全て二人で解決できるさ)

 疲労困憊のアイは独りごちた。力なく転がる抜き身の妖刀も金属シャコも、答えを返さなかった。
 脳裏をいつぞや聞いた地上の寓話がよぎった。……肉塊を奪い合う犬の兄弟は、狡猾なキツネによって破滅した。
 似たような寓話はアンダーワールドにも海底都市にもあった。犬がモグラやイルカに変わっていたものの、キツネに騙され破滅する末路は同じだ。
 予言者イソポは寓話の形で何を伝えんとしたのか。愚かな民を惑わすキツネとはまさしく……否、一介の傭兵たるアイにこれ以上言及する権利はない。

(だが、キツネが民を支配しようというなら)

 せめて民の導き手たるヒーローには……あるいは、モグラやイルカには、強く賢明であってほしいものだ。アイは願う。
 ……らしくない。アイは苦笑した。視線の先で双子の兄弟が、左右対称に倒れた。
778 : ◆OJ5hxfM1Hu2U [sage saga]:2016/02/10(水) 16:58:40.08 ID:jNcq/NRi0
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 アイはすっかり冷めきった紅茶をすすり、カップを置いた。斉藤洋子と黒衣Pは顔を見合わせ、頷きあった。
 洋子が離席し、黒衣Pは無表情なハイ・テック黒子ヒーローマスクを装着。マスク越しのくぐもった声が、朗らかに言った。

「アンタに解散の危機を助けられるのは二回目か。結構申し訳なく思うぜ」

「それに、あんな空気の中で食べるのは愛梨ちゃんに失礼だし。ねっ?」

 洋子がアップルパイ(しかもチョコがかかっている!)大皿を応接机に置き、黒衣Pに包丁を渡した。
 アップルパイは既に4対6で分割されていた。何かのはずみに手元が狂ったか。それだけで二人の仲を危機的状況に追い込むアップルパイとは如何ほどのものか?
 アイの聴覚はハイ・テック機器の高速演算がもたらす低く唸るような音を聞き取った。そして

「トゥオーッ!」

 シャウトとともに包丁が一閃、4対6のアップルパイは4対3対3に分割されていた。

「賢明であれ。最初からこうしときゃ良かったんだな」

「……ん?」

 アイは訝しんだ。4の方には包丁を入れないのか? 内心浮かんだ疑問に答えるように、洋子はキッチンペーパーとラップで4のパイを包み、アイに差し出した。

「はいっ、授業料とバレンタインのおすそ分けです!」

「……ふふっ、なるほど。私はただ世間話をしただけだが、おすそ分けならありがたく頂くよ」

 アイはパイを受け取り、ソファから立ち上がった。いい時間だ。土産までもらって長居するのも格好が悪い。
 玄関を出てコンクリート階段を下り、踊り場でアイの姿が消えるまで、二人のヒーローは彼女を見送っていた。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「……ああ、しくじった」

 アイはため息をついた。道端に停めた軽トラックの荷台には18本のサイバネ義肢。そもそもの目的は、この面倒な戦利品の処分を押し付けることだったのだ。
 今からもう一度顔を出すか? あり得ない。長居するより不格好だ。

「さて、どうしたものかね?」

 アイは運転席に座り、彼女を叱るかのように騒ぐハナと茨姫をあしらいながら、パイの包みを開いた。時間を経てなお、その匂いは甘く香ばしい。
 この甘さはきっとニューロンに効くだろう。食べ終える頃には妙案が浮かぶ。アイはそう確信していた。


(終わり)
779 : ◆OJ5hxfM1Hu2U [sage saga]:2016/02/10(水) 17:03:22.49 ID:B/tsw1do0
以上です
アイさんには実質主役として面倒ごとに巻き込まれていただいた
『憤怒の街』翌年の2月14日(厳密にはさらに1、2日ぐらい前)にアイさんが既に茨姫を持っているのかとかは多分大丈夫なはずだ!
あと、愛梨ちゃんも結構たくさん準備するだろうから1枚は来てても不思議じゃないはずだ!
780 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2016/02/14(日) 14:47:29.36 ID:vdNnf3Oso
ここの所ちょっと停滞気味かなー、とか思ってたら唐突な投稿ラッシュで感想が追いつかない(嬉しい悲鳴)
ひとまず皆様おつです

>>688
おっ、とうとう魔道書事件開始ですな、三日目も大波乱の予感しかしねーぜ!
……みくにゃんはお空の上の夢でも見てるんでしょうかねぇ

>>733
ドーモ、お久しぶりです
めっちゃサイバーパンクしてる、スゴイ格好良い!
途中ちょっと色欲のカースを応援してしまったのは秘密だ

>>750
>以上、《七つの災厄》の設定は没ネタスレから拝借しました
わーい、使っていただいてありがとうございまする、しかしまさか憤怒Pと絡めてくるとは
そして智香ちゃん頑張れ、超頑張れ

>>769
お久しぶりですー
宇宙戦艦だ! 変形ロボだ! SFだー!
ロマンを感じる! ミサトさん強い! カタカナで書くとCV三石琴乃っぽい!

>>779
ペースが早い……、スゴイ
相変わらずアイさんは渋くて格好良いですね、惚れる……
781 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2016/02/16(火) 17:51:12.57 ID:U/AH/C/m0
おつでしてー
アイさんのお仕事はほんといろいろと厄介なのが多いな(褒めてるつもり)
アップルパイ(しかもチョコがかかっている)…すごくあまそう
782 :@予約 ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/19(金) 09:22:39.89 ID:ZnflQ1cvo
首藤さん再度予約します
今度はちゃんと投下するんだ…
783 : ◆R/5y8AboOk [saga]:2016/02/24(水) 07:39:58.43 ID:ljDzQOQtO
 ───曰わく、いつもより度を増して不定形。
 ───曰わく、触れれば正気を失う。
 ───曰わく、同族ですら例外ではない。
 ───曰わく、どころか一部の同族にすら敵とされている───。

 ”それ”に付随する噂はいくらでもあった。
 が、大前提「カースに纏わる噂」と言う時点で、それらは噂以上の意味を持つことはなく───強いて言えば、触れないよう遠距離攻撃で仕留めておくかという判断材料になりはした程度であり。

「ライト!…何体目だ?」
『5つかな、全く数ばかり…』

 カース。罪ありき。さすれば討つべし。
 いつものとは少しばかり様子が違うようであったが、核を貫けば死ぬのならなにも問題はない───。

 少なくとも、正義の剣のライトはそう言った。
 南条光の頭の中で。
784 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:40:40.91 ID:ljDzQOQtO
 泥人形とでも形容すべきカースには、初め戸惑いこそはしたが、心得さえあればありきたりな敵ですらあった。目の前には三つ────今し方、滴る汚泥を尾と引きながらこちらに走り込んできている。
 簡単だ。適当に距離を取りながら、光線で核を暴き、抉ればいい。

 あくまでも冷静に、手順通りに物事を進める思考を整えた光は、その足で後ろ跳びのステップを踏みながら、棒状に伸ばした正義の剣───射的の得物を真似て作った光線銃を視線と同軸に据える。
 引くべきトリガーも無く、ただ光線を撃つ上では素手でも代用できるような武器ではあったが、それでも、狙った場所に物を飛ばすためのデバイスとしては流石に実戦的な物があった。

 引き金を引くつもりでグリップを握り締め、気を筒先から迸らせるイメージを描く。

 すると、体の奥にはなで何かが脈動する気配があったかと思えば、一瞬。銃の先端から短く鳴いて光の線が一つ飛び、着弾。焼け抉れた肉体に矢継ぎ早の二つ目が突き刺さると、狂乱の僕は核を貫かれて絶命した。

 正気を失っているがためか、残り二体のカースは仲間の消失も厭わぬように突撃を続けるも、それとはつまり飛んで火に入る羽虫に等しかった。

 直線的な突撃を読み切るのは余裕以前の問題でしかなく、無慈悲な狩り人と化した南条光の射撃を受け、二撃三撃のうちに制圧は成された。
785 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:41:45.01 ID:ljDzQOQtO
 最後の一体の肉体から粘性が失われ、乾いた土のようになって消えていく様を見送りながら、南条光は一つ息を吐き、しかし、直後に『ヒカル!まだだ!』との声が電流となって体を駆け抜けるのを感じ、弛緩しかけた筋を張る。

「シャアァッ!!」

 刹那、背筋を冷やした殺気を頼りに間一髪で体を反らすと、そのすれすれを致命的な”爪”の一閃がかすめていく様を光は見た。

 爪。およそただの動物的とも言えぬ、鱗を纏った獰猛な鉤爪……見覚えがある!…それもつい先日に…!

 鉤爪の男は光の上を通り過ぎて飛び、その先で勢いを去なすような回転着地を決めると、幼顔に埋まった肉食性の歯を剥き出して笑った。

「fushhhhh…ドーモお久しぶり、ラプター参上だ」

 マスクに覆われてその顔の半分以上は伺い知れなかったが、その声音と吊り上がった口元だけで、ある程度の予想は付く。

 先日の奇襲では足を払う程度で済ましていたものが、今日になっては殺すつもりの一閃を放ってくるとは、一体どんな心変わりがあったのか…とも思われたが、直ぐに単純な事だと分かる。

 要するに、今は人目がないのだ。
 故に相手が何であろうと、遠慮しなくても良いと言うだけの話───所詮ヒーローを名乗っていても、一皮剥いてしまうだけでこれか。

 どだい、正義を売って富を得ているような奴等がまともである道理がないのだ。

 過去には憧れもしたが、今となっては判る。
 やはり、本当の正義とは───。
786 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:42:36.33 ID:ljDzQOQtO
「二人雁首揃えてよぉ…お誂え向きじゃねえか、エエッ?」

 爪の生えた掌を威嚇めいて開けたり閉じたりしながら、ラプターは言う。

 二人と聞き、自分とライトのことかと思ったが、違うと直感する。
 ぎょっとしかける己を押し隠して、瞳だけを左右に走らせてみた光は、直後、全く予想外の方向から飛んできた声に打ち抜かれ、マスクの下で丸くした目を無防備に振り向ける羽目となった。

「やれやれ、同盟を襲った輩と同類なのかい?ボクは」

 ───背後! 

 まったく背中の方から聞こえてきた声には、流石に動揺を隠しきれなかった。

 己の背後で、己の影を踏んで立つ少女。
 明るいオレンジの髪から流れる薄紫の長髪、衣服には安全ピンだとかチェーンだとか、奇抜な印象が無いでもなかったが、そんな事は意識の外だった。

 いつから立っていた?真後ろを取られるなんて…。

 ぞったした感情を抱えつつ、唖然とする瞳を少女の横顔に注いだ光は、黄昏げに閉じられていた目が薄く開いて、こちらに目を合わせてくるのを見る。

 しかしそれは一瞬のことで、そこに含まれた意志を汲み取る間もなく、その曖昧な瞳はラプターの方へと流された。

「同類か、だと?…ハ!テメェみたいに澄まし顔でロクでもないこと考えてるヤツには飽き飽きしてんだよ…」

 そう言うとラプターは肩を怒らせ、隠すつもりのない殺気を発散しながら、「臭うのさ、要は」。

「ひどい言い種だ、ボクだって怖い思いをして戻ってきたっていうのに…フフッ」

 と、語る口に真は感じられなかった。
 誰に言う何という言葉ではなく、呟きにも似ていたが、そういった思い付きは刹那の感情でしかなかった。
787 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:43:44.90 ID:ljDzQOQtO
 直後、やおらと目線のあたりまで屈んできた少女の冷たい瞳と唇の印象が、少しびくりとした寒気を伴って駆け抜けるのを知覚する。

「…さて、ボクはキミに用事があったのだけれど、このままだと二人とも無事じゃ済まない」

 …というのは、先程から痛いほどに突き刺さるラプターの視線を感じていればわかる。

 自分ならまだしも、民間人であろう彼女まで難癖で巻き添えにしようという事実を認めれば、腹の底で渦巻く熱が噴出しかけるが、しかし、それは得策ではないと認識する自分も居る。

 ライトはどうなのか?と意識を飛ばしてみるが、ライトは先ほどから何か集中するように沈黙を寄越したままだ…。

 途端に芯を失った気分にもなって、当惑する体を浮遊させる光の気分を知ってか知らずか、少女が次の言葉を寄越してくるのは少々間を置いてからだった。

「ボクならキミをここから一瞬で逃がせる。どうだい?ちょっと取引をする気分でさ」

「えっ…」

 と、思わず声が漏れ出ていれば、いよいよ優柔不断になっていると知れる。

 今度こそライトに直接声をかけてやらねば────いや、この会話を聞いていないわけではあるまい。
 いつもなら直ぐにでも指向性を示してくるくせに、今度に至っては一体どうしたというのだ?───。

「逃げる?…逃げるって言ったよなァッ!」

 …瞬間!耳をじっとそばたてていたらしいラプターが、その一言に弾き出されたように、有無を言わさぬ爪を振り上げて突進を放つ!
 土煙を巻き上げ、砲弾さながらに迫ってくる古の竜にぎょっとする光をよそに、併せて動いた少女の唇は仄かに吊り上がっていた。
788 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:45:21.05 ID:ljDzQOQtO
「ッシャァ!」

 竜のシャウトが駆け抜け、爪に反射する光が揺らめいた一瞬、回避運動を試みた光の視界が、前触れ無く暗闇に包まれる───否!

 直後に鈍い金属音が響き、視界が暗闇になったのではなく、漆黒の壁が眼前を覆い、ラプターの爪を防いだのだと気付く。───少女の能力か!

 だが相手はさる竜人。即席の壁で攻撃を防がれるのは一秒に満たない刹那の出来事でしかなかった。
 壁のヒビから漏れ出た射光を意識する間もなく、バック転回避を打つ光の眼前を、振り下ろしの爪が通り過ぎる!

「まだだ」

 と、笑った少女。
 ラプターがマスクの奥の瞳を不快げに歪めるのと、砕け散った壁の破片が不自然な回転を見せるのはほぼ同時!

 何かと訝しむ一瞬───光の襟首を引っ張るような慣性が貫き───遠ざかる視界の先───鋭利な破片群が独りでに飛行してラプターに殺到し───その場で高速回転したラプターが───「ぐぅっ!?」

 少女に首を捕まれて後ろに引っ張られた光は、そのまま数メートルを移動させられたのちに辛うじて受け身を取った。
789 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:46:21.39 ID:ljDzQOQtO
「チィ──…」

 破片を全て叩き落としたラプターが忌々しげに呻く。

 存在を保てる最低限の大きさを失った影の破片は霧に変じて元に還る。

「さて、答えを聞くよ」

「何…」

「難しい事じゃない、キミのココロが事象を切り開くのさ」

 難しい事じゃない?…確かにそうだった。
 目の前から襲ってくるのは敵で、でも下手に手を出せば厄介な事になって、彼女はアタシを庇ってくれて、逃がしてくれると言っていて…。

 でも、いまいち踏み切れないのは何故だろう?
 彼女は一体何者なのか?もしや、ヒーローに狙われるだけの理由を持った人間なのか?そもそも、本当にヒーローは悪い奴なのか?アタシのしている事は…。

 次から次へと、余計な思考が沸き上がってきて、光の体を所在なさげに浮き立たせる。

「ライト…」

 堪えきれず、その名を呼ぶのと、様子身を止めたラプターが再び切り込んでくるのは同時。まだ返ってこないライトの声に歯噛みし、身構えた光は───。
790 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:46:50.32 ID:ljDzQOQtO
『ッ!!ヒカル!そいつはダメだ───!』
「……まぁ、事象を切り開くのが必ずしも自分とは限らないけどね」


「えっ──?」

 漸く飛び出したライトの声は、しかし、光の耳に飛び込む半ばで行き場を失う。

 光の肩にぽんと手のひらが置かれたかと思うと、途端、足下が抜けたような錯覚が襲い、落下するような感覚が光の全身を貫いていた。

 全く呆気にとられていた光には、ライトの焦った声音と、右腕に握っていた武器の重さが消え失せる感覚だけが意識の外にこびり付き、今度こそ目の前が暗闇に包まれて───。



 ※
791 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:47:22.10 ID:ljDzQOQtO


「拓海」

「あン?」

 眉間の皺を精一杯寄せぬようにしながら、肩を怒らせて歩く向井拓海を呼び止めたのは、強面の上に頭を根こそぎ丸めた、見てくれは威圧的な男────パップだった。

 拓海はつい振り返りに睨みそうになったが、そこでどこか気まずげなパップの顔を見るや、眉間に指を押し当てて「悪い」と短く言う。

「今、大丈夫か?」

「ああすまねえ、コレはアンタにゃ関係のない話だから、大丈夫だ」

 と言って拓海は不機嫌をはぐらかしたが、パップはおおよその顛末を知っていた…と言うより、壁を隔てた向こうからでも、拓海を中心とした押し問答は聞こえていた。

 噛み砕けば、今外にいる新種のカースについて、直接の接触を必要とする戦闘スタイルの拓海の出撃の是非についてだ。

 触れればただでは済まないとするカースに対し、危ないから止めろとする周囲と、カミカゼの鎧はカースの呪いを拒むから平気だとする拓海。

 誰かの不用意の一言から押し問答がヒートアップして、時には誰か別のヒーローを呼んで物理的な仲裁を頼むべきかとの思考も過ぎったが、珍しく声を荒げた原田美世の、「拓海がキレたらヒドいことになるでしょ!!」との一声で事態はひとまずの収束を見た。

 出撃の是非については、クールPが要検討ということにしておいたが、暫くはこうして廊下をほっつき歩くしかない拓海からしてみれば事実上の戦力外通告というところか。

 黙って外に飛び出すのも時間の問題かも知れない。と、思考の隅に思いつきながら、しかし、彼が切り出すのはまた別の話題。
792 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:48:29.21 ID:ljDzQOQtO
「で、何の用だ?」

「昨日の件だ」

 そう短く告げるや、拓海の纏う雰囲気がまた別の物に切り替わるのをパップは知覚した。

 それもそうだろう───。
 昨日の事。というのは、野望の鎧奪取に関わる一連の…こと拓海に告げることとなれば、GDFに強襲をかけた方の女の話になる。

 結局、戦闘中事態がややこしくなったと見た拓海は、ライラと共に一時撤退の後、他のヒーローと足並みを揃えて再度戦闘を開始。

 とはいえ乱入者の片割れは短い時間で姿を消しており、後は二台目のバイクで逃走を図る女への追撃戦と相成った。

 最後に起こったカミカゼ、その女、途中で混じったGDFのバイク乗りを含めた壮絶なバイクチェイス───撮影隊が振り切られてしまった為に世に出ることはないであろう───の後、大破したバイクを残して犯人は失踪。

 野望の鎧を含め、目下GDFと争うように捜索を続けている最中、という所で現状の説明は終わる。

「取り逃がした責任…ってか?」

 そう言った拓海の声音には、随分とうんざりした物が含まれている。というのは、昨日の晩、独断で公道をぶっ飛ばしたものをお咎め無しというわけには行かず、始末書やれと格闘させられていたせいだろう。

「違う、そうじゃない…ただ小耳に挟んでおいてもらおうと思った事があってな」

 立場上、縁のある話ではあり、内心に同情の念を向けながらパップは続ける。
793 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:49:12.23 ID:ljDzQOQtO
「ついさっきだが、あの…、…女なんだな?」

「ああ、人間なら女だったぜ」

「よし、あの女。…が残した武器やれバイクやれを解析した結果が出た」

「何だ、宇宙製か?それとも地底?」

「残念なことに純地上人製…それも、恐らく全て『桐生』の系列の製品だ」

「あ?桐生って言やァ、メタルスラッシャーの奴が世話になってるって…」

 と、言いかけた言葉を思考の彼方に飛ばし、拓海は開いた口を暫く固まらせ、何と言うべきか、と言うように憎々しげに歪めた。

 補足しておくと、メタルスラッシャーとは拓海とおおよその同期にあたるヒーローだ。肉体美とちょいワルの強面が評価され、最近ショートドラマへの出演が決まった。

 ヒーローとしての戦闘スタイルは腕に担う重金属装甲による打撃と、そこに仕込んだ数々の武器による圧倒戦術。
 世話になっているというのもそこで、ある意味では大雑把ですらある構造の桐生の製品が、重金属装甲用の改造や直接の酷使にも耐えうるというのが理由であるらしい。

 武器とは往々にして犯罪者の手にも渡ってしまうもの。ヒーローと犯罪者が同様の武器を使用するというのもそういう話ではあり───無論、放置しておいていい話でもないが───彼が桐生の製品を使ってるからどうという話にはならない。

 ならば、この話の主軸は?…。

「…それがどうしたんだ?」

「…その桐生重工のエージェントの仕業…という見方が出てきた」

 勿体付けておくのは得策ではなかった。…を理屈にしてきっぱり言うには、随分と邪推げな話だろうとパップは自分でも思った。
794 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:50:02.27 ID:ljDzQOQtO
「続けろ。根拠ナシとは言わねぇんだろ?」

「ああ…まず一つ。さっき桐生の系列の製品だとは言ったが、あれはピカピカの最新モデル…そんじょそこいらのヤツが手に入れられる代物じゃあない」

「ああ、ありゃ間違いなく良いマシンだったぜ」

「バイクの方は普通に買えば手に入るがな、銃はそうはいかん。それと、ここから先は噂と政治の話になるが…」
「だったら手短にしてくれ」
「わかってる」

「昨日…GDFの動きが鈍かったのがわかるか?」

「あん?馬鹿言えアイツは速ぇ男だった。軍のカタログ通りのマシンでアタシと張り合うなんざ…」

「バイクの話じゃねえ。…全体の対応の話だ」

「…それは…、そうかも知れねぇな」

「最近、桐生重工とGDFの間で提携の話があってな」
「ヘカトンケイル重工とか、アメリカの関係とか、理由は色々あるが…かついまんで言うと、桐生重工とGDF極東支部の利害は部分的に一致してる状況があるんだ」

「…昨日の一件はグルだってのか?」

「巨大兵器の確保と解析…どっちの陣営もやりたくてしょうがねえだろう」

「GDFからしたら、本部の手前勝手なマネはできねぇが、桐生が隠れ蓑になってくれるなら…ってか?」

「GDFにも被害が出てる以上、もう少し複雑な事情があるだろうがな…で、最後の理由。これは間を埋めるピースみたいなモンだが」

「ああ、それならアタシにもわかるぜ。…たまに聞くよ、桐生にはお抱えの戦闘集団が居る…それもとびっきり腕利きの…」
「今回出てきたのがそいつ等だとしたら、大方の辻褄が合っちまう…」

「そういうワケだな…ここまでなら与太話だが…まあ、後はお前さんには言えない裏付けが色々とな」
795 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:50:36.08 ID:ljDzQOQtO
「…解せねえな、それにしちゃ動きが早過ぎる。犯行声明の直ぐから計画を立てたって、何時間の話だ?」

「だが、否定はできん…GDFに被害が出たり、バイク野郎の独断を許したのも、それこそそれが理由になっちまう」

「成る程なァ…ケッ、アコガレのアイドルヒーローサマがなんでこんな臭せぇ話しなくちゃいけねぇんだ、お?」

「それはな、これから俺が『今後も似たような事が起こるかも知れんから用心しておけ』という話をするからだ…これは本当に噂だが、桐生の社長が近日中に帰国してくるらしいしな、何か起こしてくるかも知れん」

「へぇへぇ…、…桐生のエージェント、なァ…」

 漸く話が一区切りしたと分かるや、やれやれ体の息を吐き出し、そう呟いた拓海の瞳は────どうしてか複雑な物を湛え、どこか遠くに思いを向けているように見えた。

「しかし、最近は落ち着いてたクセに、公道でトップスピード出したんだってな?」

「マァ、いろいろあんだよ。オンナにはな…」

 と、予想外にセンチな言葉が返ってきた事を意外に思いつつ、ただカッコつけただけかとも結論付けたパップは、踵を返しかけた拓海の背中に「あ、あんまり言いふらすなよ、裏付けがまだ不十分だから」とだけ投げて、無言で後ろ手を振るさまを見送った。

 直後、向こうの角でクールPの声が聞こえ、待ってましたと言わんばかりの拓海の声までもが聞こえてくれば、どうしてか長く留まっていてはいけないという気分になって、パップはそれに従った。






──────………………
──────────…………………
796 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:51:07.85 ID:ljDzQOQtO
「はっ………?」


 夢か現か───などという文句は、この世界にあっては既に無粋なものだったかも知れない。

 それでも、全く自分の意志も関係なく目の前の景色が変わっていれば、少しなれども困惑はしてみせる。
 視界が暗闇に呑まれたのは一瞬の事であったか、それとも気の遠くなるような時間なのか?

 それすら定かにはできない。なんにせよ、異能に先手を取られた――――そう理解すれば呆けてられる状況では無く、光は背筋に冷や水をかけられたような思いになって五感を周囲に巡らせた。

 ここはどこだ?…寂れたトタン板で囲まれた、広いようで、狭い空間。外からは何か音が聞こえているが、遠い。ここが常世ならば、町外れに移動させられたということか?

 摺り足を動かしてみると、ざり、と室内にむき出しの土が音を立てる。
 掘っ建て小屋か物置か…そんな風情だ。

「…ライト、何か感じるか」

 向け目無く張らせた警戒を緩めないようにしつつ、光は緊張から細くなる声で呟いた───。
797 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:52:03.21 ID:ljDzQOQtO
「…ライト?」

 数秒ほどの沈黙が流れ、居たはずの相棒の声は聞こえない。

 はっと思って自分の体を精査し、次にぐるりと周囲を見渡してみた光は、そこで漸くライトの姿がすっかり消えていることに気付いた。

 馬鹿な、いつの間に…というのは考えるまでもなく、不意の能力に掛かってこんな所に飛ばされた時に引きはがされたと見て違いない。

 何たること。完全にアウェーの空間に引きずり出された挙げ句、孤立無援────。腕にも、手の平からも、正義を成すための重さが消えていることが冷たい実感となって駆け抜け、光は途端に不安定になったらしい己を見つけた。

 青ざめた顔を、不安を取り繕うようにして左右に振り、どこだ、どうする、動くべきか、動かざるべきか?─────。


「フフ…心配しなくとも、無事だよ…キミも…、ライト君も」

「…お前っ!」

 不意に小さく反響する声が響き、声のした方へ振り向いた先。先刻まで聞いていた声ならば聞き間違えようは無く、想像した通りの澄まし顔がそこにはあった。

「そう睨まないでくれよ…そうだね、無礼を詫びよう。ボクはアスカ、二宮飛鳥…キミのことはよく知らないけど、キミのことをずっと探していた」

 腰掛けていた荷物の山からひょいと飛び降り、乱れたエクステをすっと撫でながら、二宮飛鳥は言った。

 先程から言うとおり、敵意は感じ取れないが、しかし、光が警戒を解く理由にはならない。
 二宮飛鳥はそれを認めるや、困ったように肩を竦めて、「それでいい、健全だ」と呟いた。

「ライトを何処にやった…ここは何処だ?」

「ライト君は…学校に置いて行かれたんじゃないかな?ボクはキミ以外をココに誘った覚えはないから…」

 言いながら、二宮飛鳥はこちらに歩み寄ろうとしてきたので、光は目でそれを牽制した。能力者同士ならば既に戦闘距離。

「ボクはキミのような心を持つ人を求める…そのために余計な声は全て置き去りにさせてもらった」

 させてもらった。と主導権を握っているような物言いが鼻についたが、事実そうなのだから仕方がない。
 せめてペースに流されはすまいと心得、光は目を正面に据えたまま拳と唇をぎゅと締めた。
798 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:52:33.76 ID:ljDzQOQtO
「…黙っているなら、勝手に進めさせてもらうよ」

「ところでキミは、どうして正義の味方をやっているんだい?虚しくて、損な役さ」

「理由…?善いことに理由なんて要らないッ…それに、虚しいとも損だとも思わない!アタシは…誇りに思ってる!」

「…そうか、善意なんだね…フフ、その真っ直ぐで綺麗な瞳を見れば理解るよ…」

 そこまで言うと、飛鳥はやおら目元を手で隠し、そのまま天井を仰ぎながら「そうだ、本当はキミのように潔癖な人間こそヒーローと呼ばれるべきなんだ…」と誰に言うでもない声で続けた。

 謎めいた仕草ではあったが、表情を隠している、とも思えたのは何故だろう?…二宮飛鳥が瞳をこちらに向け直し、より微笑を深めてきたのは、その感情を掘り下げるよりも先。

「なら、キミは間違いなく正義の味方だ」

「………」

「だんまりかい…それもいいが、いつまでもそうさせているつもりは無いよ?」

 やってみせろ、アタシはお前なんかに惑わされない。声には出さず、胸の中で強く唱える。拳を構え直して眉の皺を深くした光の決意は───しかし、飛鳥が窓から刺す斜光の影に手を翳し、異能を発現させたらしい次の瞬間、半ばほど崩れ去る結果となった。
799 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:53:22.26 ID:ljDzQOQtO
「……なっ…!」

「ふっ、くく…彼に見覚えがあるんだろう?聞いているよ、昨日のことは」

 影に、ぼつり、といっそう黒い染みが浮き出てきたかと思えば、水溜まり大の染みはその場から「盛り上がった」とも形容すべき変化を経て、ずるずると人型の大きさまで膨れ上がっていた。

 ここまでならば、これそのものには特に驚く要素はない。そういう能力で済む話。

 しかし、光にとって重要だったのは、そうして形作られた人型────蝙蝠めいた翼を生やした、全身を漆黒の鎧で包んだような姿が、昨日、吸血鬼の巨大ロボットの下で悪さをしていたらしい人影と、全く重なって見えたからだった。

 それと同時、先日の苦々しいダメージまでもが思い起こされれば、ぎょっと見開いた目で二宮飛鳥と影の鎧を交互に見るような様にもなった。

「お、お前ら…」

 一瞬真っ白になった頭が、徐々に敵意の色に塗りつぶされていくのを感じながら、光は呻く。

 昨日の女と影が共謀していて、それを飛鳥が呼び出して見せたとなれば、自ずとそこに繋がるものができる。
 いよいよもって嵌められたという実感が思考を満たし、じわと汗が滲み始める光を知ってか知らずか、音一つ無く歩み出た鎧に代わり、二宮飛鳥がくつくつと喉を鳴らす音を押し被せた。

「そう、キミの見間違いなんかじゃないよ。

 彼は正真正銘、昨日全てを持っていった彼…失態を演じたヒーローとGDFが血眼で探し回っているだろう彼さ」

 一度敵と認識してしまえば飛鳥の言葉は皆まで聞かず、一方的に人を攻撃していった「悪」であるのだから、迷うことは無い。

 悪を討って正義を成す。条件反射的に動く体が、隙を気にする思考さえ振り切って攻撃を促す。そのまま抵抗の暇なく押し掛けて、手に持った武器で無慈悲な一撃を──────。
800 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:54:07.24 ID:ljDzQOQtO


「────…あれ…?」

 ────と、普段ならばそうしていたであろうビジョンが脳裏を駆け抜けて、しかし。そうしていたとばかり思われた南条光は、一瞬の後、呆然と立ち尽くすままの己の存在に気付いた。

 何だ、既に敵の能力にかかったか?
 そうやって訝しむ思考が全身を探るも、そうではないとすぐに分かる。

 この体に異常はないと言うことが?そんな保証はこの世界においては存在しない。ならば何が分かったというのか?…。


 ……”この体は初めから動こうとしなかった”。

 全身の血から全く激情の熱が冷えているのを知覚すれば、そういう言葉で己を表現したくもなった。

 フラッシュバックめいて普段の思考が蘇っただけで、この身一つではそこまでの攻撃性を剥き出しにしようとはしていなかった。

 普段ならば、直ぐに攻撃一色に塗り込められているであろう思考も、こうやって己を精査する余裕すらある。

 一体どうしたというのか?こうやって呆然としている隙も、目の前にいる奴らも、普段の自分なら容認していいものではないだろうに。

 ライトと離れ離れにさせられたから?違う。そんなに臆病な覚えはない。ライトが現れる以前からだって、アタシは一人でだって戦ってきた────。

 そうして「ライトが現れる以前の自分」に意識を飛ばした光は、そこで、あの頃はここまで積極的な攻勢に出ていただろうか?…と思い当たる。

 いや、出ていなかった。ここまで攻撃的ではなかったし、今ほど短絡的な手段には出ていなかったように思える。

 では今の自分はなぜここまで攻撃的なのか?…いや、自分の意志じゃない。そうしろと促していたのはいつだってライトだ。…アタシはそれを受け入れて…ライトは…攻撃的で短絡的?…それは正しい事なのか?…それを受け入れていたアタシ自身は?…アタシ自身も?…正義とは?…そうだ、アタシ自身の意志はどこに?…。
801 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:54:39.93 ID:ljDzQOQtO
「ぁ…あ?…」

「わかったかい?…キミは…」

 無意識に頭を押さえて呻く光を見、飛鳥が何やら呟いたようだったが、光の耳に届いてはいなかった。

「あ、頭がァッ…!?」

「今のキミなら理解る筈さ、モノには程度というものがある」

「やめろッ…」

「彼はどんな気持ちだったんだろう?…彼にはどんな事情があったんだろう?…」

「黙れ…」

「クッ、ふはははははっ!でも安心するといい、その匙加減はさほど難しいものじゃない」

「黙れッ…」

「自由で正しいココロを持つ人間が、思うがままに従うだけでいい」

「黙れェッ!…」

「そう例えば、キミのように曇りのない瞳を持つ人が、自分の意志で、そこに映ったままに────」


802 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:55:12.40 ID:ljDzQOQtO
『────ヒカル!』

 刹那、細かいガラスの破砕音が響き、一本の矢のような声が乾いた空間を貫いて飛来した。純白の体を細く長く飛翔させ、その瞳のような器官は荒れ狂う紅に染まっている。

 南条光にとってそれは、見知った相棒の声であった筈。────が、しかし、光の反応は明らかに正気を欠いており、見てみれば、今飛来したライトからしても異常な事態が起こっていると知れた。

 頭を抱えて呻く光。その先で笑うあの女───一足手遅れか!

『ヒカル、そいつの言葉に耳を貸すな!───今すぐ殺せ!そいつはマズい!』

「おや?…ふふ…キミはもう邪魔なだけなんだけどな…!」

 ライトが叫びながら飛鳥に挑み掛かり、その背後から飛び出してきた影の鎧が純白の泥と打ち合う。
 すれば、その鎧は能力で動かされるばかりの空人形でしかないと知れたが、宿主が動けぬまま単独で押し切るには限界があった。
803 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:55:45.94 ID:ljDzQOQtO
『ヒカル、ヒカル!』

「ヒカルって言うのかい?覚えたよ」

「……ぃ…」

『ボクの声だけを聞け!』

「今のキミなら理解る筈さ、キミの意志はどこにある?」

「…るさい…」

『裁くんだよ!それは放っておけない悪だ!』

「邪魔なモノは全て取り払ってしまおう、その瞳が曇ってしまう前に」

「ウルサい…ッ!」

『正義なんだろ!?わからないのか!』

「世界は思うよりシンプルさ、深く考えなくてもいい」

「うるさい!!!!」

『ボクのヒカルなら、こんなヤツの呪詛なんて振り払え!』

「感じたままを見せてくれ!このボクに!!───」

「──────────!!!!!!!」
804 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:56:17.32 ID:ljDzQOQtO









 ───────ぶつり。

 と、何かが切れる音がした。









805 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:56:47.10 ID:ljDzQOQtO
 その瞬間、二宮飛鳥と、何かを察して振り向いたライトは、険に満ちた顔でかっと見開かれた南条光の瞳を────白眼まで真っ赤に染まった瞳を見る。

 何事かと思う間もなく、直後に、見る者の視界を染めたのは、目を焼き潰すほどに膨れ上がった光の塊。

 以前、ほんの浄化の作用を持つだけだった正義の光は、ただしこの瞬間において、明確な破壊の予感を以てその存在感を示した。


「く、はは!これが最後だ!強すぎる光は、より強く濃い影を生む!」

「黙れええええええええええええええええええええええええッッッッッッ!!!!!!」


 衝撃力を伴った爆光が炸裂するのと、飛鳥の背後に引いた長い影がおぞましい体積を吐き出すのはほぼ同時。

 慌てて防御の泥を呼び出したライトからすれば、それが景色として認識できた最後の光景──────。









806 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:57:24.78 ID:ljDzQOQtO














『…ヒカル』

 泥を剥いて見てみれば、周囲は少々以上に様変わりしていた。

 ヒカルのそれは無差別攻撃であったはずだが、それでも施設の全壊が免れていたのは、あの女が自分の能力で対抗していたおかげだろうか?

 そんな思考は詮無きことであり、興味の外側。

 巻き添えから逃げおおせたライトは、穴の空いた天井から刺す陽光の下でうなだれる光に寄り添ってみた。

 その顔はどこか疲れているようにも見え、虚空を見つめたままこちらに振り向こうとしない。

『…大丈夫かい?何をされたんだ』

「ライト…なんだろう、ごめん。今頭の中がぐちゃぐちゃで」

『なら、いい…けど、いつまでも休むのはダメだよ、今もカースは暴れてる』

「そっか、じゃあ今すぐ戻ろう」

『ヒーロー達には任せておけな………え?今すぐ?』

「…今は、できるだけモノを考えたくないから、体だけでも動かしたいんだ」

『…そうか、ヒカルがそれでいいなら…』

 と、その方が都合がいいのは確かだと言うに、ライトが素直に頷けなかったのは、その相貌に廃れきったような影を見つけたからだ。

 精神が衰弱しているのなら、それも好都合だ。
 …しかし、あの女に何を吹き込まれた?昨日近寄ってきた、近寄るだけでカースを浄化せしめる少女の作用もあり、精神掌握に綻びが生まれていたのも気がかりである。
807 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:57:51.71 ID:ljDzQOQtO
「…ライト?」

『…ああ、ごめんよ、直ぐに』

 そこで光に呼び止められたライトは、そこで思考を打ち切って己の体を翼に変じさせる。

 ───まあ、何にせよ光の一番近くに居るのは自分だ。焦らずとも、アドバンテージは確かだろう。

 そうして思考に一段のケリを付けたのは、少々浅慮であっただろうか?…何にせよ、今に知れることではないならば、それ以上の思考は無意味だった。

「行こう」

 光に促されるまま、ライトは翼を広げて光の体を押し上げていく。

 脱出口に選んだ廃屋の天井から刺す陽光は、何故だか少し眩しいような気がした。
808 : ◆R/5y8AboOk [saga sage]:2016/02/24(水) 07:58:54.23 ID:ljDzQOQtO
とりあえず一連の流れにはケリを付けておくスタイル
南条光、向井拓海、パップ、ライトをお借りしました
809 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2016/02/24(水) 21:29:18.28 ID:a+u0wfMQ0
乙です
光ぅぅぅぅ!!!
明らかにやばい感じだったが…これは一体

とにかく、またもや思惑が交差しまくってて目が離せない状況が続きますな!
810 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:13:27.77 ID:rhio0V+5o
おっつおっつ
これはあれかな、桐生重工とGDFが人型兵器を作るフラグ?

それはそうと首藤さん投下します
学園祭2日目です
811 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:14:11.83 ID:rhio0V+5o

とある住宅街に、若干うらぶれた一軒の大衆食堂が建っている。
軒先は清掃が行き届いており小奇麗だが、その佇まいは建物の目的に反し、おおよそ人の興味を引きそうにない場末感を放っていた。

店内は昼食時だというに人の数はまばらで──というより、ただ一人の客しかいない。

仁美「……」

その客──女子高生退魔士丹羽仁美は、4人掛けの長テーブルに頬杖をつき、
うららかながらどこか気だるさを感じさせる昼を、呆けて過ごしていた。


『続報が入ってきました!』

食堂の角、天井近くに据えられたテレビから、慌ただしい声が聞こえてきた。
情報番組の類であろうその映像からは、番組進行のキャスターが切羽詰まった様子でカンペを読み上げているのが見て取れる。

『京華学院の敷地内で起こった謎の爆発に関して、ただいまよりアイドルヒーロー同盟が緊急の会見を行うとの発表がありました』

『えー、番組の予定を変更して、これより会見の様子をご覧頂きたいと思います』

テレビの映像はキャスターの言う会見の会場であろう、無機質で飾り気の無い空間を映しだす。
画面中央の壇上では、同盟のスポークスマンと思しき大柄な男性(映像下部には彼の名前か『黒木宗雄氏』のテロップ表示)が、記者の準備が整うのを待っている。


仁美「(京華学院で爆発……? 早めに帰って来ておいて良かったー)」

仁美「(あやめっちは大丈夫かなあ……)」

テレビをなんとなしに見ていた仁美は、京華学院に居る友人の安否を気に掛ける。
彼女の友人である浜口あやめは、現在京華学院で行われている一大イベント『秋炎絢爛祭』に参加しているのだ。
(ちなみに仁美も自校の出展物の手伝いのため先程まで京華学院におり、そこで行われていた草競馬に乱入したりしていた)

会見会場の準備が整ったことを受けて、報道官の男性は開口一番、同盟アイドルのライブパフォーマンスが爆発の影響から中止となった事態を詫びた。
そののち、本題の説明に入る。

『──この度の京華学院における爆発事件に際し、我々アイドルヒーロー同盟に向けてとある組織から犯行声明が送られてきました』

仁美「(犯行声明って……なんか思った以上にきな臭いことになってるみたいね)」

同盟に送られた犯行声明によると、吸血鬼を名乗る存在が何らかの手段を用いて、京華学院の裏山を破壊したのだ──と、男性の説明は続いた。


『我々アイドルヒーロー同盟としましても、今回の爆発に関して、全容を把握出来かねている状況ではございますが──』

『事態の早期究明と収束を、皆様にお約束させて頂きます』

報道を聞く一般大衆の不安感を和らげるためか、男性の語り口は威厳と自信に満ちている。
ともすれば、この騒動は同盟のパフォーマンス──秋炎絢爛祭におけるイベントの一つなのではないかと考える人間も出てきそうなほどだ。
812 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:14:57.86 ID:rhio0V+5o

仁美「犯人は吸血鬼? 随分と大っぴらに動くね……」

厳めしい表情の男性が事件の概要を説明する様子を眺めていた仁美は、誰にともなく呟く。

「はぁー、物騒やねぇ」

すると、建物の奥──厨房と思しき場所から出て来た少女が相槌を打った。
年の頃は十代前半だろうか、仁美に比べ一回り幼い雰囲気の少女はお盆に載せていた二人分のお茶を仁美の座る机に置くと、自らも仁美の対面に座った。


仁美「物騒って、他人事みたいに……」

仁美は少女の発言に対し、眉をひそめる。

仁美「同族の不始末をなんとかしようって気は無いの?」

少女「今のあたしはただの一市民に過ぎんけん、荒事はヒーローに任せるっちゃ」

自身に向けられた責めるような言葉に対し、しかし少女はこともなげに返す。


仁美「まあ、同盟があれだけ張り切ってるし、何とかなるだろうけどさ」

少女「ちゅうか、仁美さんも大概のんびりよね……ヴァンパイアハンターなんでしょ? 一応」

仁美は少女の発言に「一応は余計だよ」と、抗議の言葉を返し、続ける。

仁美「これでも、葵っちに会うまではさ、吸血鬼ってどんな恐ろしい相手なんだろうって、ものすごく気を張ってたんだけどね」

仁美「いざ会ってみたら話に聞いてたのと全然違うし、なんだか気が抜けちゃったのよね」

仁美「まあ、葵っちが例外なんだろうけどさー」


葵と呼ばれた少女は、仁美の言葉を神妙な面持ちで聞いていたが、やがて口を開いた。

葵「……あたしもね、仁美さんの一族の中でどんな伝えられ方してたかちゅうのは想像に難くないけどね」

葵「そこはほら! 昨日の敵はなんとやらってことで多めに見て欲しいっちゃ!」

仁美「いや、アタシも今更葵っちをどうこうしようとなんて考えてないよ」

仁美「──それに、葵っちが本気を出したら、アタシなんか瞬殺なワケでしょ?」

葵「それは、やってみんと分からんけん……ちゅうかその質問は意地悪よ」

会話の内容からすると、どうやらお互い因縁浅からぬ関係のようだが──

そもそも、この二人の出会いは数日前に遡る。
813 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:15:24.67 ID:rhio0V+5o


──数日前──


仁美は、とある街中を歩いていた。
一族の宿敵である『吸血鬼の祖』を探し出し、仕留める為である。

以前、現世とあの世の狭間にて祖先の少女からその存在を聞かされたが、
現世に戻った後調査をしてみたところ、『吸血鬼の祖』はどうやら既に復活を遂げているらしいことが判明したのだ。
しかも、それが潜伏していると考えられる地域は、仁美の生活圏からさほど離れていないのであった。


松風『なあ仁美よ、本気でやろうってのか?』

仁美「当然よ」

松風『勝算はあるんだろうな』

仁美「勝算は……どうなるか分からないけど……」

松風『……そもそも、相手の居場所は分かっているのか?』

仁美「そこは問題無いよ、朱槍アンテナが場所を示してくれてる……もう少しで、着くかな」

仁美の背負う得物は、退魔士の先祖が代々受け継ぎ、多くの異形を屠ってきた魔槍である。
それゆえ、槍その物に犠牲となった魔族の魔力が付加されており、その魔力の波長に同調する存在の居場所を特定することが出来るのだ。
特に、今探している吸血鬼に関しては、一度祖先の少女が相対している存在であるため、その精度はより高い。


仁美「それに、覚悟なら出来てるよ、生前葬も済ませたし」

松風『生前葬?』

仁美「先祖代々の墓碑にね、名前刻んできた」

松風『そうかよ、それに何の意味があるのか知らんが』

松風との会話を続けながらも、しかしそちらに気を取られることなく、その歩みは決然とした意思を感じさせる。


松風『……もう幾度目の忠告か忘れたが、相手は人間族を滅ぼしかねん存在だぞ? 単騎で挑むなんてのは愚昧極まる』

仁美「だからこそ今がチャンスなわけよ」

仁美「一般人は今の時期大半が京華学院に出払ってるから、派手にやっても被害が少なくて済むでしょ」

現在、秋炎絢爛祭の準備期間中のため、京華学院の周辺地域の人口密度は普段より低い。
仁美の現在地も例外では無く、吸血鬼の祖と戦う際には二次被害が少なく済むであろうという算段だ。
かくいう仁美も、自校の出展物の準備手伝いを頼まれる立場にあったのだが、それを蹴ってここへ来ているのだ。
814 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:15:55.27 ID:rhio0V+5o

仁美「それに、急く理由はそれだけじゃないよ」

松風『何?』

仁美「お師様の話では、復活してたとしてもしばらくは、往年の力も発揮できないだろうって」

仁美「時間が経って力を付けられる前に挑んだ方が、勝てる可能性は高いはず」


松風『(だが……実際問題、魔王クラスの化け物相手にどう戦う)』

松風『(仁美の戦闘力も以前より上がってはいるが……俺も本気でやれば、2人掛かりならいけるか?)』

松風『(認めるのは癪だが、確かに仁美の言は理に適っている……魔力の充填が満足になされていなければ……あるいは)』

使い魔として仁美と共に吸血鬼と戦うことになる松風は、何とか勝機を見出せないものかと思案を重ねる。
だが、彼の思考は仁美の歩みが止まったことで遮られるのだった。


街の喧騒から距離を置くように──幹線道路沿いから2本ほど奥まった路地に、その建物はあった。


仁美「お食事処……はいから……?」

仁美は思わず、建物正面上部の、日焼けした軒先テントに書かれた文字を読み上げた。
入り口の引き戸に掛かるのれんにも、同じ文字が書かれている。

仁美「吸血鬼の祖の反応は……ここからね……間違いなく」

仁美は意を決してのれんをくぐり、強敵との激戦の予感に強張った手を、入り口の引き戸に掛ける。
そして、気を落ち着かせるように深呼吸を一つ。

仁美「(もう、後には引けない……いくよっ!!)」

その手に力を込めて、見た目よりずっと重く感じる戸を開き──


仁美「たのもーーっっ!!」


大声を上げて乗り込んだ。
815 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:17:08.10 ID:rhio0V+5o

「はーい! いらっしゃいませー!」

仁美「!!?」

しかし、意気込んで乗り込んだ仁美を待っていたのは、予想だにしない(あるいは、建物の外観から判断するに当然の)反応だった。

「お好きな席へどうぞー!」

仁美「…………」

声に促されるまま、仁美は手近な座席に腰を下ろす。
ややあって、建物の奥から、湯気を上げる湯呑と御絞りが乗った盆を抱えた少女が現れた。

少女はそれを仁美の座るテーブルに置き、

少女「メニューはそこにあるので、決まったら呼んでください」

テーブル隅のお品書きが挟まったメニュー立てを差し、そう告げると、再度建物の奥へと引っ込んでいった。


仁美「松風……これはアタシ、どうすべきなのかな?」

松風『知らんよ、必要になったら呼び出せ』

仁美「てっきり、不意打ちとかかまされるんじゃないかって、警戒してたんだけど」

松風『だから、知らんと言っている……逆にこちらから仕掛けるとか、好きなようにしたらどうだ?』

松風もナーバスになっているのか、その反応はいつも以上ににべ無いものだ。


仁美「うーん……」

仁美「(あの子が吸血鬼って言われても……そうは見えない)」

仁美「(吸血鬼の祖は、どこかに隠れているのかも知れない……けど)」

仁美「(お店に入っちゃった以上、何か頼まないと、悪いよね)」

出方を探りあぐねた仁美は、少女に促されるままお品書きを手に取り眺める。
ともすれば危急の状況であるが、しかし妙な律儀さを発揮していた。
816 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:18:06.79 ID:rhio0V+5o

仁美「すみませーん!」

「はーい!」

仁美の声に呼応し、建物の奥から先ほどの少女がパタパタと擬音を発しそうな動きで現れる。

少女「ご注文はお決まりですか?」

仁美「……えっと、この『日替わりはいから定食』で」

少女「本日の日替わり定食は鯖の味噌煮定食ですが、よろしいですか?」

仁美「はい」

少女「かしこまりましたー、少々お待ち下さいませー」

少女は注文を取ると、再度奥へと引っ込んだ。
仁美の頼んだ料理の準備をするのだろう。


その様子を観察していた仁美は、動揺を隠せないでいた。

仁美「(ど、どういうことなの……)」

仁美「(やっぱりこの建物内には、あの子の気配しかしない……けど)」

仁美「(アタシの朱槍は、確かにここに『吸血鬼の祖』の反応を示してる)」

仁美「(ということは、あの娘が吸血鬼…?)」

仁美「(なんか流れで食事注文しちゃったけど……まあいいわ! とりあえず腹ごしらえよ!)」

──だが、その切り替えも早かった。
817 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:18:53.02 ID:rhio0V+5o

注文をしてから数分後、仁美の眼前には小さな器が置かれていた。

仁美「(先ずはお通しの小鉢からか……切り干し大根の煮物ね)」

仁美「(さっき持ってきたお茶に変なものは入っていなかったし、これもパッと見何か盛られているってことは無さそう)」

仁美「(具は、大根・人参・油揚げか……)」

念の為、毒物の類が混じっていないかを確認しつつ、その中身を口に運ぶ。

仁美「っ! 美味しい!」

すると、またしてもその表情に動揺の色が浮かんだ。


仁美「(煮物なんだけど、大根は水っぽくならずにシャキっとした食感!)」

仁美「(それでいて油揚げには程よく味が染み込んでいて、噛む度につゆが溢れてくる!)」

仁美「(あと、この歯ごたえと風味……この縮れてるのは……貝ひも!)」

仁美「(あー、これズルいわ……旨味がすごい出てくるんだもん)」


その後も手を休めることなく、煮物を口に運び続ける。

仁美「(はぁ……すごい勢いで食べちゃったけど、お腹は膨れるどころか、むしろ臨戦態勢に入っちゃったよ)」

仁美「(『もっと寄越せ』っていってるよ……)」

小鉢の中身を食べ尽くし物足りなさを感じていた仁美だったが、

「お待たせしましたー」

仁美「(待ってました!)」

さして間を置かず、湯気を立ち上らせる皿を乗せた盆が運ばれてきた。
818 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:19:49.51 ID:rhio0V+5o

仁美「(これはお吸い物……? お味噌汁じゃなくて?)」

仁美「(お麩に三つ葉に、柚皮の欠片)」

膳の検分をしつつ、それぞれを口に運ぶ。

仁美「(まずは一口……)」

仁美「(うん、薄口の……お吸い物だ)」

仁美「(続いてこのお新香……浅漬け? まぁどっちでもいいや)」

仁美「(キャベツとキュウリに……刻み塩昆布……)」

仁美「(あー、これも美味しいわー)」

仁美「(丁度いい塩っ辛さで、これだけでごはん2杯はいけるね!)」

ポリポリと音を立てながら、野菜類を咀嚼する。


仁美「(そして、鯖の味噌煮……これまた何の変哲もない味噌煮……)」

千切り生姜が乗った煮魚の、その身に箸を入れるとほろり、と、抵抗なく適度な大きさに分かたれた。

仁美「(あ、でもこの匂いはヤバい……生唾が……い、いただきます!)」

いよいよになって煮魚を口に入れた仁美だったが、途端に切羽詰まった様子を見せる。

仁美「(っ! これは早急にお米が必要!! 可及的速やかに!!)」

慌てて茶碗を手に取ると、およそ年頃の娘と思えない動作で白飯を掻っ込む。
慌て過ぎて、口内がげっ歯類のほお袋の如く膨れ上がるが、気付いた時には咀嚼が困難になっていた。

仁美「(マズイ……汁物……!)」

咄嗟に先ほどの吸い物の椀を取り、口内に流し込む。

仁美「(はぁ……がっつきすぎた……)」

仁美「(それにしても、薄味が優しい……)」

仁美「(そっか……煮魚と浅漬けが若干濃い目の味付けだから……箸休めね)」
819 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:20:44.98 ID:rhio0V+5o

仁美「ふぅ……」

その後も勢いよく食を進めていた仁美だったが、一時手を休め膳を見やる。

仁美「(っ!? し、しまった……っ!)」

そこで、とある事実に気が付き、その表情を絶望に染めた。


仁美「(ペース配分を誤った……白米に対して、鯖煮の割合が多すぎる……!)」

仁美「(このままじゃ……鯖煮だけ残っちゃう!)」

気付いた時には茶碗の中の白飯が、二口三口ほどにまで減少していた。
漬物が存外濃い味のため無意識の内に消費していたか、あるいは鯖煮との相性の良さ故に無計画に食べ過ぎたか。

いずれにしても、このままではメインである煮魚を残し主食の白飯が尽きてしまうだろう。
まさしく致命的な事態である。

仁美「(どうしよう、何か手は無いの!?)」

──と、策を探す仁美の視界に、とある一文が飛び込んできた。

安っぽい、コピー用紙と思しき白紙に、これまた安っぽい黒インクのフェルトペンで書かれたそれは、
壁面に並んだ木製のメニュー板の横に、無造作にテープで貼られていた。


仁美「(あれは……『ごはんお代わり無料』……!? な、なんてこと!!)」

仁美「す、すみませーん!」

窮地に一筋の光明を見出した仁美は、再度少女を呼ぶのだった。
820 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:22:06.01 ID:rhio0V+5o

お代わり得た後の仁美は、暴食のカースもかくやといった食べっぷりを発揮していた。
浅漬けを食べ、白飯を食べ、それらを汁で流し込む。
鯖煮を分け、皿に溜まった味噌を塗り付け、一度白飯の上に乗せたうえで、一気にかき込む。

ともすれば、「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」といった擬音が聞こえてきそうなほどだ。


仁美「(ああ、美味しかった……ご馳走様でした)」

やがて米の一粒も残さず膳を食べ終えた仁美は、茶碗の上に箸を揃えて起き、両手を合わせる。
そして、やおら立ち上がると、少女の元へ歩いていく。

仁美「ご馳走様でした、おいくら?」

少女「日替わり定食は、500円になります」

仁美「(っ!! わ、ワンコイン! このクオリティで、ごはんお代わり無料でワンコイン!)」

仁美「それじゃあ、これで」

少女「500円丁度ですね、お預かりします」

少女から食事代を聞いた仁美は、本日何度目かの驚愕を味わうが、気を取り直し会計を済ませた。


少女「ありがとうございましたー、またお越し下さいませー」

勘定を終えた仁美は満足気な様子で店から出ていこうとするが──

松風『ちょっと待てよコラァ!!』

入口の引き戸の取っ手に手を掛けたところで、松風の怒声が響いた。


仁美「うわっ……なによ松風、大きな声出さないでよ」

松風『仁美お前……ふざけるのも大概にしておけよ!?』

仁美「……エ?」

松風『「エ?」じゃねーよ! なんで何言われてるか分かんねえって顔してんだ!!』

──そもそも、仁美は吸血鬼の祖を狩るためにここに来ていたはずだ。
食事に夢中になるあまり目的を失念していたのか、仁美と共に祖に挑む気構えで居た松風の怒りもむべなるかな。
821 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:22:52.25 ID:rhio0V+5o

松風『それにアンタもそうだ! 何普通に飯出してんだ!!』

続いて松風の怒声の矛先は、料理を作り持ってきた少女に向いた。

松風『せめて毒盛ったりとか、それくらいしろよ!?』

少女「ウチはお食事処やけん、お客さんに毒盛るとかありえないっちゃ」

松風『どうした!? 言葉使いが変だぞ!?』

松風『って、それはどうでもいい! アンタあれだろ!? パッと見人間ぽいけど、吸血鬼なんだろ!?』

松風『俺の念話でビビりもしねぇってことはただの人間じゃあねえよな!?』

仁美「もう……松風、せっかく美味しいごはん食べて気分良くしてるところに水差さないでよ」

松風『テメエはっ倒すぞ!!』


仁美「あのね松風……これは人間的な感覚だから、魔族のあなたには理解出来ないかも知れないけどね」

まさしく怒髪天を衝くといった様子の松風に対し、仁美は窘めるように言葉を続ける。

仁美「あんな美味しい料理が作れる人に、悪い人は居ないよ!」

少女「わかってくれるん?」

仁美「わかるよ!」

ガシィ、と、擬音がしそうな勢いで仁美と少女は握手を交わした。

松風『握手するとこなの!? なんで仲良くなってんの!? 俺がおかしいのか!?』
822 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:23:54.49 ID:rhio0V+5o

松風をなんとか落ち着かせた仁美は、今一度先ほどのテーブルに着いていた。
対面には件の少女も座している。

少女「えっと……何から話したらいいかな……」

若干尻込みした様子を見せながら、少女はぽつぽつと語り始めた。

少女「たぶん……あたしの正体、知ってて来たのよね」

仁美「吸血鬼の、親玉……なんでしょ?」

少女「仰る通りやけど、昔の話っちゃ」

少女「今のあたしは、首藤の葵を名乗っているに」

仁美「しゅとうのあおい?」

少女は自らの正体──すなわち、吸血鬼の祖であるという事実を認めた。
そのうえで、首藤葵と名乗った。

続いて、自らの身の上話を語り始める。

葵「そもそも、なんであたしが料理屋をやっているかっていうとね」

葵「今から13年前の話になるっちゃ」

仁美「(エ? また回想? 今この状態が既に回想シーンの最中なんだけど)」

葵「(あんまり長くならんけん堪忍ね!)」

仁美「(直接脳内に!?)」


───────────────

────────

───

823 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:25:30.65 ID:rhio0V+5o


──現在から13年前・どこかの山奥──


かつて人間界を蹂躙し、しかし最終的に仁美の祖先に打ち破れ封印された、吸血鬼の祖の一柱──
人呼んで『夜明けを遠ざける者』は、永劫とも感じられる雌伏の時を経て、遂に復活の時を迎えていた。

「矮小なる人間共め……よくも……」

「真祖たる私を……このアオイを…………」

しかしその姿には、かつて魔界において魔王と並び立つとまで評された程の覇気は見受けられない。
長きに渡る封印が解かれた直後のため、衰弱し切っているのだ。

おまけに、間が悪い事に吸血鬼の弱点の一つである雨まで降っている。

「吸血鬼の支配下に置き、飼い慣らしてやるつもりでいたが……」

「事ここに至っては、連中を生かしておくことは出来ぬ……根絶やしにしてくれる……!」

「だが……先ずは、力を蓄えねばならぬか……く、忌々しき雨よ!」

祖は雨に打たれながらも、エネルギー源となる人間(の生き血)を求め、ほうぼうの体で歩き出した。



祖の復活と時を同じくして、足元が満足に舗装もなされていない山道を、足早に過ぎる男が一人。

男「(風の吹くまま、西へ東へ……急ぐ旅ではないが、雨の中野宿は御免被るな)」

男は行く当てのない旅を続ける身であったが、先刻から降り始めた雨に加え、日没が近いこともあって、人里を目指すその歩みは速い。

男「(あれは……女の子? こんな山の中に?)」

と、その進路上に、雨の中地面に倒れ伏す少女の姿を認めた。

男「(行き倒れか……?)」

すわ非常事態かと、急いで駆け寄る。

男「(なんだこの服は……妙な恰好をしているな)」

男「君、大丈夫か?」

人気の無い山林で、尚且つ見慣れぬ服装をしている点を訝しむが、恐る恐る声を掛ける。

「人間ども……よくも……ぐ……うぅ」

男「(息はあるようだが、何を言っている?)」

この少女こそ、今しがた復活を遂げたばかりの──かつて人間族を恐怖に陥れた吸血鬼であるのだが、男はそのような事は知る由もない。
824 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:26:27.47 ID:rhio0V+5o

男「(まあいい、何れにせよ放ってはおけんよな……)」

男「(外傷は無い……となると何らかの疾病か、空腹で倒れたか……?)」

男「(だが、病気であるとするならば、こんな所で倒れているのは不自然だ……)」

男「(取り敢えず、食べ物を与えるか……確か、まだ握り飯があったはず)」

男はバックパックを漁ると、中からソフトボール大の球体と、金属の筒を取り出す。
今朝宿を発つ前に厨房を借りて握った塩むすびと、白湯の入った水筒だ。

男「ほら、食べなさい」

それを、目の前の少女に差し出した。

「人間に、施しを受けるなど……!」

「(だが、このままでは……もはや動くこともままならぬ)」

「(この際、生血でなくとも……な、何でもいい……何らかのエネルギーを得ねば)」

少女はそれを力無く受け取ると、一口だけ齧りついた。

「っ!?」

すると、その顔に驚愕の色が浮かんだ。


「(な、なんだこれは……なにゆえ……私は……)」

知らず、その眼からは涙が溢れる。

「(こんなもの……下賤なる人間共が食んでおる餌ではないのか……)」

「(だのに、なぜこんなにも……美味い……)」

それを拭う事も忘れ、少女は握り飯を齧り続ける。


男「(可哀想に……余程ひもじい思いをしていたと見える)」

男「あまりがっつかん方がいい、胃が受け付けないかもしれん」

男「まだあるから、落ち着いてお食べ」

男は目の前の、食物を与えられしゃくりあげる少女に憐憫の情を抱き、慰するのだった。


──その後、男は少女に"葵"の名を与え共に旅を始めることになるのだが、それはまた別の話である。
825 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:27:41.92 ID:rhio0V+5o

葵「──最終的に、おとんはあたしを連れてここに流れ着いて、お店を構えたってわけね」

葵は、復活してから現在に至るまでの顛末を仁美に話して聞かせた。
彼女の言う"おとん"というのはつまり、葵を行き倒れから救った男のことである。

仁美「……なるほどね」

それを聞いた仁美は、如何ともしがたいといった様子で相槌を打つ。
葵の様子が話に聞いていた『吸血鬼』の印象とは大きくかけ離れているため、退魔士としての使命よりも困惑が先に立っているのだ。


葵「あたしも昔はね、自分で言うものどうかと思うけど、結構強かったんだよ」

葵「魔王の魔術に打たれても、竜帝の放つ獄炎に灼かれても、天使連中の聖なる気で浄化されかけても──」

葵「それでもめげずに、戦ってきたっちゃ」

仁美「(何の話か分からないけどなんかすごそう……)」

葵「今となっては、何でそんなに必死だったのかよく覚えて無いけど……」

葵「いや、もしかしたら理由なんてなかったのかもね」

葵は遠い過去を懐かしむように言葉を続ける。
聞く者が聞けば、冗談の類と紛う内容であるが。


葵「けど、おとんに出会って──おとんの料理を食べて、気づいたっちゃ」

葵「あったかい、おいしいごはんがあれば、幸せに過ごせるんだって」

葵「他人と競い合って、のし上がるとか……世界を我が物にするとか……そんなの、必要ないって」

そう語る葵は寂然とした雰囲気を漂わせ、その目はどこか遠い所を見つめているかのようだ。


葵「仁美さんって言ったっけ、退魔士なのよね?」

仁美「……うん」

葵「あの時の事は──人間界で暴れてた時のことは、あたしも忘れようがないからすぐに気付いたっちゃ」

仁美「(あの時──お師様と死闘を繰り広げていた当時の事かな)」
826 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:29:40.27 ID:rhio0V+5o

葵「……自分がかつて人間にしたことを無かったことにできるとは思わないし」

葵「今更こんな事言うのも、都合が良すぎるって言われるかもしれないけど……」

葵「できたら、あたしのこと……見逃してくれたら嬉しいっちゃ」

仁美「……一応聞いておくけど、なんで見逃して欲しいの?」

仁美は、目の前の少女のいやにしおらしい態度を訝しがりつつ、問いただす。


葵「もっと大勢の人に、あたしの料理を食べてもらいたいけん」

葵「あたしの料理で、誰かを幸せにすることが出来たらいいなって」

葵「おとんがそうしてくれたようにね」


仁美「そっか……」

仁美は、どこか納得した様子で深い息を吐いた。

仁美「さっきも言ったけど、アタシも葵ちゃんのごはんを食べて、吸血鬼っていっても悪さをするような事は無いって思ったのよね」

すなわち、その行動を見て、話を聞いて、眼前の少女──一族の宿敵である吸血鬼を、もはや無害であると判断したのだ。


仁美「悪さしたり暴れたりしないなら、退治する必要なんて無いし」

葵「それじゃあ、見逃してくれるん?」

仁美「見逃すとか見逃さないとか、そもそもそういった段階まで話が進んでないよ」

仁美「アタシの中では葵ちゃんは、退治する対象じゃないから」

人に仇を成すことが無ければ、異形の存在であったとしても狩る対象には当たらない。
それは、退魔士を始めた時分からの、仁美の行動理念の一つだった。


仁美「それに……むしろ命拾いしたのはアタシの方かも知れないし?」

そう言って、仁美が意地悪く口角を上げると、対する葵はまだ信用されていないのかと眉根を寄せた。

仁美「だけど、葵ちゃんがそう言うなら見逃す代わりに一つだけ──」

だが、葵から抗議の言葉が出る前に機先を制する。

仁美「これからも、ごはん食べに来ていい?」

仁美の言葉を受けた葵は、面食らったように様子で発言しかけた口を半開きにし目をしばたたかせるが、すぐにその表情は綻んだ。

葵「そういうことなら、むしろお願いしたいっちゃ!」

葵「御覧の通り、お客さん少ないしね!」

そして、自虐とも取れる言葉と共に、笑顔で答えた。

──こうして、かつては命を懸けて争った者同士(片方はその子孫であるが)の、しかし現在では茶を交わし雑談に耽るような、奇妙な関係が出来上がるのだった。
827 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:31:04.13 ID:rhio0V+5o

──そんなこんなで現在──


葵「──で、結局、仁美さんは吸血鬼をやっつけに行くん?」

共に情報番組を見ていた葵は、仁美に今後の行動について尋ねる。

仁美「うーん……行かない、かなぁ」

仁美「というのも、アイドルヒーロー同盟が会見開いてまで相手をするって言ってるし」

仁美「アタシの出る幕じゃ無いよね」

仁美は、世間的には在野ヒーローとさえ認識されていない程無名の存在である。
故に「吸血鬼の退治屋だ」などと抜かし同盟のテリトリーに踏み込めば、白眼視のうえ門前払いされるであろうことは想像に難くない。


仁美「例によって、同盟の手が届かないところを見回るかな」

葵「例によって?」

仁美「こっちの話」

つまり、差し当たって京華学院の吸血鬼退治に向かう予定は無いということだった。


仁美「逆にさ、葵っちがさ、その吸血鬼に会いに行ってみたら? 知っている相手かもよ?」

今度は仁美が、冗談めいて問いかける。

葵「うーん……」

それに対し葵は、仁美の言を真に受けつつも乗り気でないような、苦笑いのような表情を見せた。


葵「仮に知っちょる相手だったとしても、今のあたしの姿を見たら多分ガッカリさせちゃうからね」

仁美「昔の葵っちはやっぱり武闘派な感じで、それを慕って付いてきてた吸血鬼が多かった──みたいな?」

葵「今となっては、お恥ずかしい話やに……」

葵は、仁美に昔の話をする度に、気恥ずかしさと共にどこか廓寥とした想いを知覚していた。
人間で例えるなら、若い頃の愚行を恥じつつも、その当時を懐かしむかのような、そういった類の感情である。

そもそも、葵は自らが封じられてから──途方もない時間であろうことは確かだが、
どれほどの月日が経ったのか正確に把握していなかった。
当然、その間に吸血鬼の社会も世代交代なり、諸々の時代の流れといったものはあっただろう。
あるいは、その流れの中で自分の存在はとうの昔に忘却の彼方へと葬り去られているのではないかと、そう考えることも多い。
葵自身は人に仇を成す存在でなくなって久しいが、かつて率いていた吸血鬼らの現況について、興味が無いかと言われればそのような事は無かった。


仁美「……まあでも、機会があったら、料理でも振舞ってあげたらいいんじゃない?」

仁美「何かの拍子に、昔馴染みの吸血鬼に会えたらさ」

なんとなく感傷的な雰囲気を感じ取った仁美は、半ば無理矢理フォローじみた言葉を絞り出す。


葵「そうねぇ……」

葵「機会が、あったらね……」

そう呟いた葵の瞳は、テレビ画面に映る京華学院上空の中継映像──
その奥にある、今回の騒動の首魁が座す、不可視の戦艦を見据えているかのようだった。
828 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:32:11.65 ID:rhio0V+5o

補足的なおまけその1


仁美「葵っちのおとんて、どんな人なの?」

葵「んーと、実は、おとんはただの人間っちゃ」

仁美「それは今までの話からなんとなくわかるけど」


葵「で、方言」

仁美「方言?」

葵「あたしの言葉も、おとんの影響ね」

仁美「でも回想シーンでは普通だったよね」

葵「あれは、分かりやすさを重視したのと、手間を惜しんだ結果ね」

仁美「そうだったのね」


葵「あと、おとんの料理は天下一っちゃ!」

葵「……今は……もう、遠い所に行っちゃったけど」

仁美「あ……そうなんだ、ごめん……」

葵「ネオトーキョーに居るんだけど、元気しちょるかなあ」

仁美「って、ご存命なのね」


葵「おとんの実家は老舗料亭で、おとんはその跡取りなんだけど──」

葵「何か、"料理のあり方"で実家と揉めたらしくて、勘当同然で家を出て旅をしてたんだって」

葵「で、旅先であたしを拾ってくれたっちゃ」

仁美「ふーん」

葵「なんだかんだで実家との関係も丸く収まって、今は実家の料亭のネオトーキョー店を切り盛りしてるっちゃ」

葵「それで、あたしがおとんからこの店を受け継いだってわけね!」


仁美「ちなみにその老舗料亭って、有名なの?」

葵「"しゅ藤"って、聞いたことない?」

仁美「エ!? しゅ藤って、あのしゅ藤? アタシでも耳にしたことあるよ!」

葵「そう、あのしゅ藤」

仁美「ええー、すごいじゃんおとん!」

葵「うん、おとんはあたしの自慢よ!」
829 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:33:04.69 ID:rhio0V+5o

補足的なおまけその2


仁美「それにしても……相変わらずお客さん来ないねえ」

葵「うん……なんでかねー」

葵「おとんが居た頃は割と繁盛してたんだけど」

松風『ふん、知れた事よ』

仁美「エ? 松風は理由が分かるの?」

松風『少し考えりゃ分かる』


松風『まずアンタ、人間を装って──実際、気配自体人間そのものだが、その正体は吸血鬼だ』

松風『吸血鬼といやあ人間の天敵とも言える存在、おまけにアンタはその最上位のアンセスターだ』

松風『故に、人間どもがその脅威を本能的に感じ取って近寄らないってことがあっても、何も不思議じゃあない』

仁美「なるほど……」

松風『ま、人間界で人間に交じって暮らそうって考えが、そもそも俺には理解出来んがね』


葵「あたしも薄々気づいていたっちゃ……どうしたって、あたしは人間とは違うからね」

葵「でも、なんとかせんといけんと思って……一応、働き手を募集しとるに」

仁美「働き手?」

葵「うん、アルバイトってやつ? お客さんを呼び込んでくれるようなね」

葵「三食まかない付きで、希望があれば住み込みも出来るっちゃ」

仁美「へぇ」


葵「幸い、おとんが残してくれたお金があるから、お給金は出せるけど──」

葵「仁美さん、知り合いに働きたい人いよる?」

仁美「うーん……ちょっと心当たり無いね……申し訳無いけど」

仁美「でも、アタシも探してみるよ」

葵「助かるっちゃ! よろしくね!」
830 :@設定 ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:34:59.35 ID:rhio0V+5o

首藤葵/真名もアオイ(人間界で復活してから13年)

職業:大衆食堂の若女将
属性:以前は悪玉だった系一般人
能力:不明

かつて『夜明けを遠ざける者』とか『ザ・デナイア・オブ・ドーン』とかあだ名された、最高位の吸血鬼『アンセスター』の一柱。
大昔に仁美の先祖に敗れ封印されるが13年前に復活、その際に行き倒れから救ってくれた人間族の男を"おとん"と慕い共に暮らし始める。
行き倒れの際の経験から「美味しい料理を作って皆を幸せにしたい」と考え行動しているが、店に食事に来る客が少ないのが目下の悩み。
人間界において復活を遂げて以来吸血鬼の真祖としての力は一切発揮していないため、
他の魔界・天界出身者からはその存在を感知されていない(仁美は得物の斧槍の力で辛うじて感知出来た)。

ちなみに、おとんの影響で大分弁なまり。


※お食事処はいから

とある住宅地の中にある大衆食堂。
某個人貿易商のおじさんがふらりと立ち寄りそうな雰囲気を放つ。
料理は美味しく、値段もそこそこ安く、店の内外の清潔感も保たれているが、
店主である葵は人類の天敵とも言える吸血鬼(しかもその最上位種)であるため、一般人はそれと知らずも本能的に入店を避けているらしい。
そのための打開策として、客を呼び込む気立てのいい働き手を募集中(3食まかない付き・店舗2階の居住スペースに住み込みも可)。


※料亭しゅ藤

頭に超が5つくらい付く高級老舗料亭。
表・裏社会問わず、ヒエラルキーの頂点連中の接待・密会の場としても頻繁に利用されるらしい。
葵のおとんは料亭の若旦那にして、現在はネオトーキョー店の板長を勤めている。
831 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2016/02/25(木) 08:36:11.97 ID:rhio0V+5o
終わりです

・首藤さん出してセンゴク華ランブ結成したい
・首藤さん出すなら飯作らせたい
・かつての悪役が時間が経って小市民的な感じになってる展開いいよね

みたいな話でした

折角のネームドキャラということで一瞬だけど宗雄さんお借りしました
広報やるような人か分からなかったけどアイドルヒーローじゃない=営業とかそっち系なイメージで

帝王さんの仰っていたのは首藤さんとは別の個体とか、たぶんそんな感じ
832 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2016/02/27(土) 14:29:01.16 ID:uZrRVNyyO
おつでして
メシテロだ…メシテロドラマだ…と某BGMが頭を流れておりました旨そう
いやはやどんな凶悪なのかとおもったらすっかりご隠居だったとは…

バイトの子がみつかるといいですねぇ
833 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2016/03/01(火) 17:45:56.45 ID:uElIVRydo
お二方おつー

>>808
あぁ、光の闇堕ちが加速していく、……南条闇だな(ボソッ)
何とかしてくれそうな聖とか麗奈とか幸子とかは今どこに居るのだろうなぁ

>>831
強い力を持ちながらも、すでに隠居している感じのキャラとか好きです

首藤ちゃん、説明だけ見るとかなりヤバい怪物っぽいけど
それを封印してしまった丹羽ちゃんのご先祖様も同じくらいヤバい
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