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風俗嬢と僕

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474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2015/12/12(土) 12:54:57.69 ID:+wRvbLP70
がんばってクレー
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/21(月) 17:20:30.41 ID:RlPiLd3JO
左利きのフリーキッカー…背番号10…俊さんはすごいもんな……わかる……

続き楽しみにしてます
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/22(火) 00:54:16.28 ID:LopFddMV0
サッカーの醍醐味はドリブルで相手を抜き去ること。

そう信じて疑っていなかった。それは今も変わっていない。

子供のころはひたすら上手くなりたい一心で、周りの誰よりもボールを蹴り続けた。そして、周りの誰よりも上手くなった。 

無名の公立中学で県ベスト4まで勝ち進んだところで、スカウトされたんだ。それがきっかけで、俺の環境は一変した。

専用のグラウンドがあって、サッカー部ってだけで注目をされる、応援もされる。中学までとは大違いの環境だ。

そんな学校でも、俺は一年の頃から試合に出ることが出来た。何となくだけど、プロになるのかなって気もしていた。

大きな勘違いだった。

一年の冬に出た全国高校選手権、一回戦で俺達は大敗を喫して、そこで気づいた。

俺みたいな選手は全国に大勢いる。ちょっと強いチームで、ちょっと上手い選手。俺なんて、そんな程度の評価だ。

そりゃそうだ。一年前まで無名中学にいた俺が、そんなに簡単に全国トップレベルまで駆け上れるほど、サッカーは甘くない。

それでも、諦められなかった。理由なんて無い。俺はサッカーが好きだ。それだけで、負けたくない理由、下手だと認めたくない理由には十分だろう。

昔みたいに誰よりもボールを蹴った。誰よりも上手くなろうともがいた。

足技に磨きをかけて、得意なフェイントが出来て、今までよりもっと色んな方法でディフェンダーをかわせるようになった。

その結果が、最後の冬の全国四強だ。途中では、一年の冬に負けた相手にも勝つことが出来た。成長していることを実感できたし、いよいよ俺もプロの道が見えてきたと思った。

けれども、現実っていうのは甘くない。
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/22(火) 00:54:48.70 ID:LopFddMV0
『軽いプレーが多すぎる』

『ドリブルに偏重しすぎていて、怖さが無い』

こんな評価が積み重なって、俺を獲得しようとするチームは現れなかった。

有名大学からの推薦の話があったのは素直に嬉しかったけれど、そんな評価をされてしまった俺はどこを目指せば良いのだろうか。

だって、軽いと評されてしまったプレーは、俺にとってサッカーの醍醐味だ。楽しい事を我慢しなければいけないものなんだろうか、サッカーって。

そんな哲学的な悩みを抱えながらも、俺はプレースタイルを変えなかった。

俺は好きなサッカーをしたい。好きなプレーで、サッカーを楽しみたい。

けれども、大学でもその評価は変わらなかった。チームでは主力。ユニバ代表にも選ばれた。でも、プロクラブからは扱いが難しいという理由で敬遠される。

プロにはなれないと漠然と気づき始めた時に、進路についてどうすべきか考え始めた。

478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/22(火) 01:06:43.42 ID:LopFddMV0
サッカーをやめることは、きっとできない。

でもプロになることもできない。俺は何でサッカーを始めたんだったっけ。

そんな堂々巡りの思考を繰り返すうちに、一つの結論が導き出せた。

高校に入って以降、俺はサッカーでプロを目指すこと、上に昇り詰めていくことばかりを気にしていたんじゃないかなって。

プレースタイルを変えないで、周りに認めさせてやる。

気づかぬうちにそんな意地が出来てしまっていたんじゃないかと、その時に初めて気がついた。

上手くなりたいのはサッカーを楽しむためじゃなくて、周りを認めさせるために変わっていたんだ。

そこで、俺は中学時代までの仲間とサッカーをする道を選んだ。こいつらとサッカーをしていた頃が、一番純粋にサッカーを楽しめていた。そんな気がした。

大学の名前のおかげか、Uターン就職もあまり困らずにできたのは幸いだったね。 

地元の社会人チームに声をかけて集まって、リーグ戦を戦って。昔取った杵柄ってやつかな、気がついたら、天皇杯本戦に出場が決まっていた。

社会人チームも高校もそれほど強いところがない県だったっていうのもあるんだろうけどね。

元々楽しみたくて帰って来たはずなんだけど、勝ってしまうといけるところまでいってやりたいと思うのがサッカー選手ってやつだ。

どうせならプロクラブに勝って、俺を取らなかったことを後悔させてやる。

逆恨みみたいな感情だけど、ドロドロした気持ちでもない。ただ、俺は自分のプレーを、評価してくれなかった人たちに見せてやりたかっただけだ。

ただ、俺以上にその感情を抱いていたのはチームメイトだった。
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/22(火) 01:15:47.87 ID:LopFddMV0

予選の準決勝くらいからかな。ラフプレーだったり、プロフェッショナルファールだったりがちらほら見え始めた。

昔からずっと、俺のことを認めてくれてる。プロのスカウトに、今の俺を見せる機会を与えようとしてくれている。

これを自分で言うのはかなり恥ずかしいんだけど。でもたぶん、俺ってこいつらにとっての希望でもあったんだと思う。

このチームの中で言えば、客観的に見て俺の実力はずば抜けて高いところにいる。実績も、能力も。

だから、俺を陽のあたるところまで連れて行ってやるって気持ちを持ってくれていたんだと思うんだ。

でも、それは間違った方向で現れ始めてしまった。そしてそれを止めることも、俺にはできない。

だってこいつらがラフプレーをしてしまっているのは、俺のためでもある。それを止めることなんて、俺にはできない。
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/23(水) 04:14:11.15 ID:P/5RBRBLo
ここにきて相手視点?
どこに向かってるんだ
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/23(水) 09:20:40.16 ID:hdPfqgmBO
いいんだけどねー
ちょっとサッカーに寄りすぎ感ある
更新頻度が少ないからからサッカーのSSに見える
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/23(水) 10:59:57.31 ID:7nBENF/AO
メインはサッカーだから当たり前だろ
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/23(水) 13:38:07.36 ID:Io/8rHTco
サッカーよりでもいいじゃないか乙
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/26(土) 10:18:52.12 ID:3FX2hNFY0
進み方がカイジとハンターハンターを足して2で割ったような感じ
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/26(土) 12:51:50.68 ID:MjRinK8MO
完走すれば名作なんだけど、これは尻切れになるパターンだなあ。もったいない
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/26(土) 14:39:24.62 ID:qBRiKrdAO
完走はしてくれそうだけどここからじゃ最初のイメージとは違うゴールになりそうだな
例えば日本代表に選ばれるとか
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/26(土) 22:26:31.67 ID:+mvL8o3AO
ここからスペインに渡って未完に…
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/29(火) 01:25:33.20 ID:3ku3vfCK0
俺は、正しい道を歩けているのだろうか。

楽しいサッカー、自分がしたいサッカーをするために俺はこのチームに入った。それなのに、仲間は勝つために楽しさを犠牲にしているんじゃないのか。

漠然とそんな不安が脳裏を過るけど、そんな自問の答は出るはずもない。

『つまらないサッカーだけど試合には強い』と評されるチームと、『面白いサッカーをするけど弱い』チーム。どちらが正しいかなんて、それを考える人の主観によるものだ。
 
勝つことに重点を置く人なら前者が魅力的に映るだろうし、そうでなければ後者になる。

もちろん両立できるのが最高なんだろうけれど、それができるチームなんて世界中を探してもほとんど存在していない。ヨーロッパのトップリーグの、更に選ばれたチームくらいのものだろう。

俺だってサッカー選手なんだから、試合には勝ちたい。でも、だからと言って楽しさを捨てるのであれば、このチームに来た意味が無くなってしまう。

やりたいサッカーと、勝つために必要なこと。その取捨選択ができないままに、本戦まで勝ち進んでしまった。
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/29(火) 01:27:15.50 ID:3ku3vfCK0
俺のマッチアップの相手は、実力としては相手にとって不足無し、といった感じだ。

予選決勝のビデオを一度見てはいたんだけど、仮にもユニバ代表やってきた俺からしてみると、ずば抜けて上手いわけじゃない。ただ、たまに魅せるプレーをするタイプだ。

ポジション的にはこういう呼び方をするのは相応しくないのかもしれないけれど、ファンタジスタって感じ。

ただ、そのプレー以外には怖さが全くない。なぜか分からないけど、仕掛ける姿勢がほとんど無いのがその原因だろう。サイドバックってことを考慮しても、あまりに攻撃参加する頻度が低すぎる。

ディフェンスは普通に上手いし、技術だって無いわけじゃない。ただ、怖くない選手であれば、ボールをロストしてもそこまで危険なことにはならない。そういう意味では、やりやすい相手かもしれない。

前半から、俺はいつも通り自分で仕掛けるプレーを中心に選択をしていく。

気持ちよく相手を抜けると、快感だ。相手が上手ければ上手いほどその気持ちよさは強くなる。
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/29(火) 01:49:00.44 ID:eidosOcSO

荒らしその1「ターキーは鶏肉の丸焼きじゃなくて七面鳥の肉なんだが・・・・」

信者(荒らしその2)「じゃあターキーは鳥じゃ無いのか?
ターキーは鳥なんだから鶏肉でいいんだよ
いちいちターキー肉って言うのか?
鳥なんだから鶏肉だろ?自分が世界共通のルールだとかでも勘違いしてんのかよ」

鶏肉(とりにく、けいにく)とは、キジ科のニワトリの食肉のこと。
Wikipedia「鶏肉」より一部抜粋

信者「 慌ててウィキペディア先生に頼る知的障害者ちゃんマジワンパターンw
んな明確な区別はねえよご苦労様。
とりあえず鏡見てから自分の書き込み声に出して読んでみな、それでも自分の言動の異常性と矛盾が分からないならママに聞いて来いよw」

>>1「 ターキー話についてはただ一言
どーーでもいいよ」
※このスレは料理上手なキャラが料理の解説をしながら作った料理を美味しくみんなで食べるssです
こんなバ可愛い信者と>>1が見れるのはこのスレだけ!
ハート「チェイス、そこのチキンを取ってくれ」  【仮面ライダードライブSS】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1450628050/


>>1を守りたい信者君が取った行動
障害者は構って欲しいそうです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451265659/
491 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/10(日) 08:58:20.91 ID:7XSGdD8xo
まぁだぁ?
492 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/19(火) 19:49:51.12 ID:zJtBZeUBO
誰かが定期的に発言しないとスレ落ちそうで怖い!ww
それだけ期待ということで
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2016/01/31(日) 20:16:32.41 ID:JnZBlC6vO
保守
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/07(日) 02:15:36.34 ID:xR6Pu0Iw0
今までにこいつより上手いやつとは何人もマッチアぬプをしてきた。

それでも、こいつからはそいつらから感じなかった何かを感じる。

それが何か、言葉にするのは難しいんだけれど。華があるとか、チームのエースとか、そんなんじゃない。もっと抽象的で、でもきっと凄く大切な何か。

だからかな、こいつを抜いた時の快感は今までにないくらい気持ちいい。

俺がノってプレーできているとか、天皇杯本戦という高揚感を抜きにしても、今日の試合は楽しい。気持ちいい。

こいつも楽しんでるのかな。そう思って、つい顔色を窺っちゃったよ。活き活きした顔で、俺を見返してきてやがる。

本当に、楽しそうにサッカーをするやつだな。でも、それこそが一番大切なことだよ、なぁ。

俺たちは好きでサッカーをやってるんだ。楽しまなきゃ嘘だって。
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/07(日) 03:50:42.52 ID:Eyq9NdrAO
久しぶりに来たか
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/24(水) 01:10:59.14 ID:R8fico+d0
ほしゅ
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/24(水) 05:09:03.25 ID:QQGqfNez0
一夜漬けで追いついた
次楽しみにしてるぜ
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/25(木) 00:12:13.79 ID:dj3qTM8a0
面白い。サッカーしないけど屑な人間に感情移入しちゃってます。おつ!
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/25(木) 19:01:25.53 ID:aAPZ0TlCO
天皇杯本戦という緊張感からか、スコアはなかなか動かない。試合自体はうちのペースになってるんだけど、最後のところで決めきれない。

良い位置で貰ったフリーキックも、相手センターバックに跳ね返されてしまった。そしてそのボールは、相手のエース、10番の選手に拾われた。

……やばいっ。

守備が得意じゃない俺でも、あの10番が相手チームでキープレーヤーの一人なのは理解している。今まではうちのマーカーの頑張りで自由にさせていなかったけど、今回はそうもいかなさそうだ。

自陣に向かって走り始めたところで、俺のマーカーだったサイドバックを確認……もうあんなところにいるのか!

気がつけば、あいつはもうハーフウェーライン手前まで既に辿り着いている。単に切替が早いのか、それともチームメイトがパスをくれると信じているからなのか。

何にせよ、俺も戻らないと枚数が足りない。パスを受けたあいつを全力で追いかけるけど、間に合わない。アーリークロスをあげようとした瞬間、スライディングで足を伸ばす。

ボールにギリギリ間に合わなかった俺の足は、振り抜かれた相手の足を掠めていく。

悪い、怪我はしないでくれよ。久しぶりに楽しいマッチアップなんだ。こんなことで途切れさせたら、色んな意味でモヤモヤしてしまう。
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/25(木) 19:02:05.35 ID:aAPZ0TlCO
倒れていたから見えはしなかったけど、シュートはゴールを外れたみたいだ。

審判からの注意をハイハイと聞き流しつつ、倒してしまった選手も怪我はなかったのが分かって安心した。

相手のエースの心配する声が聞こえてくる。そっか、カズっていうんだね、こいつ。

その後も、スコアは動かないまま時間が進んでいく。前半のうちに一点は欲しい。これだけ攻勢に出ていてノーゴールなのは、後半の士気に関わってくる。

恐らく前半のラストプレー。ボランチからパスを受けた俺は、カズと向かい合う。

さあ、いくぜ。

フットサルよろしく、足裏でボールを運んで仕掛けるタイミングを計る。軽くカットインを仕掛ける仕草を見せて、重心移動の瞬間……ここだ!

イメージ通り、俺のフェイントに引っ掛かってくれた。そのまま勢いをもって相手陣地を切り裂いていく。
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/26(金) 02:23:24.40 ID:NWDL864u0
後ろから追いかけてくる気配を感じる。綺麗に抜き去ったとはいえ、このままカットインを狙うと追い付かれるかもしれない。

敢えてそのまま縦に縦にと切り込んでいく。そして、カズの体が俺に並んだ瞬間、ボールをアウトサイドで引っかけて急ブレーキ。

ここまで全力で追いかけてきたところで、この切り返しには耐えられないだろう。予想通り、もう一度綺麗に抜き去った。しかもそれは、ゴール近くの絶好の位置。

今度こそ、そのままカットインしてゴールを見据える。相手センターバックがつられてコースを消しに来る。そこだっ!

元々そいつがいたところが、ぽっかりとスペースになっていた。そこに走り込むフォワードに、寸分の狂いも無いようにインサイドで優しくパスを出す。

キーパーが飛び出してシュートコースを消そうとする。でも、ペナルティエリアど真ん中では限定すると言ってもたかが知れてる。もらった!

俺のパスを受けたフォワードが慎重にワントラップをして、シュートを打つ……瞬間。ボールは、ゴールとは逆側から伸ばされた足にクリアされた。

まさか。そこはスペースになってたはずなのに。

前半終了を告げる笛と共に見えたのは、相手の10番だった。こいつ、危機察知して戻ってきたのか? ボランチより先に、トップ下が?

ナイスカバーとしか言いようがない。これでダメなら、点が取れるまで攻め続けるまでだ。

こいつらからゴールを奪えたら、どんなに気持ちが良いだろうか。

「お前、やるね」

そんな言葉がつい漏れちゃったよ。ふざけてるわけじゃないんだけどね。
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/26(金) 02:26:50.85 ID:I9IDs+iAO
やっと来てくれたか
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/27(土) 16:17:18.67 ID:sRceBnDvO
なかなかゴールが奪えないけれど、試合はうちのペースで進められている。ハーフタイムのベンチの空気も悪くない。

「あとは決めるだけなんだよなぁ」

「一点は決めときたかったわ」

「やっぱりオオタは凄いわ、最後のカバーとか」

そんな雑談を挟みながら、後半の戦術を話し合う。

相手のストロングポイントとうちのストロングポイントが、偶然にも被っている。

自分で言っちゃうけど、俺とカズのことだ。となれば、ここは引いてはいけない。

「前半通りだ。イヌイのサイドを起点にして、相手を折る」

いけるな? と、確認するように監督が俺の顔を確認してきた。

自信を込めて頷くと、おおっと盛り上がる。

「良いか、あとはゴールだけだ! さっさと一点取って、勝ちにいくぞ!」

その声に応えて、俺たちは前半通りのメンバーでピッチに向かって行く。

ふと、カズを探してしまった。後半こそ、お前を完全に抜き去って得点を決めてやる。

そのシーンを想像すると、つい笑みがこぼれちゃったよ。

さあ、まだまだ楽しもうぜ。
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/15(火) 05:09:04.23 ID:1al7nlk3o
風俗嬢どこいった
飽きたのか?
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/22(火) 22:03:11.60 ID:ugzuBINt0
ほしゅ
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/05(火) 11:35:33.42 ID:ZmVq3t6V0
>>504
諦めろ
もう>>1には無理だろ
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/16(土) 22:02:51.97 ID:zZDo6jA6o
待ってる
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/04/21(木) 01:32:30.07 ID:3JoCPVs60
後半も俺とカズのマッチアップは続く。

絶対抜いて決めてやるって気持ちと、中々そこまでいけないことが嬉しいっていう相反した気持ちが俺の中に湧いてくる。簡単にやらせてくれないからこそ、挑み甲斐がある。

それにしても、一対一強いなコイツ。楽に仕事をさせてくれないのは前半で分かっていたけど、本当に骨が折れる。

……個人技で魅せるっていうのが俺のプレースタイルだけど、それだけで挑んで勝てるほどサッカーは甘くない。それは、挫折と言って良いのか分からないけど、ユニバ代表の時にも学んだことだ。

それなら、違った形の駆け引きをすればいい。

前半からカズのケアを意識してはいたけれど、意識的にマークを緩めた。コイツにパスが渡されるように、絶妙な間合いで。

その餌に、相手センターバックが釣られてくれた。

俺との間合いが広くなっているカズに、緩い横パスを出した。最初からそれを狙っていた俺は、ボールに向かって全力でダッシュを仕掛ける。

それにいち早くカズも気づいたみたいだけれど、もう遅い。
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/04/21(木) 01:40:31.54 ID:3JoCPVs60
カズを振り切るように、普段の細かいタッチとは違ってランウィズザボールのように大きく蹴り出して前に進む。

センターバックがスライドして対応しにきたところで、俺は中を確認する。g

俺のドリブルコース、パスコース、シュートコース、その全てを消そうと中途半端なポジショニングでプレッシャーをかけてきた相手センターバック。そいつの足がギリギリ届かないコースを狙って、俺はボールをゴール前に転がした。

逆サイドのセンターバックもうちのフォワードを捕まえきれていなくて、そのパスは見事にゴールに繋がった。

予選とは違い、結構な数が入っている観衆が沸いた。

「ナイスパス!」

ゴールを決めたフォワードが勢いそのままに俺に向かって飛びついてきた。後ろからチームメイトも重なってくる。

まず、一点だ。

自陣に戻ろうとしたところで、チラッとカズを見てみると目が合った。良いね、闘志を向けられてる感じがする。

今の勝負は俺の勝ちだ。今度こそは、個人技で勝ってやる。そんな決意を込めた笑みを浮かべてやった。
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/21(木) 01:55:50.70 ID:3JoCPVs60
再開後、先制点を決めて余裕を感じるようになったからかな。今まで以上に俺は個人技で抜くことに固執し始めた。

見る人によってはスタンドプレー、軽いプレーと言われても仕方がないのかもしれない。それでも、うちのチームはそれを認めてくれている。そして、期待してくれている。だからこそ、俺はカズを個人技で抜き去らないといけない。

勝負を仕掛けて止められる。抜けそうで抜けない。綺麗な形は作らせてくれない。その繰り返しだ。

それでも楽しい。俺はやりたいサッカーをやらせてもらえている。他でもないこのチームで、俺は俺のしたいサッカーをできている。

ヒールリフトで頭を超えさせようとすると、カズの頭に掠ったボールはタッチラインを割った。くそ、これも反応するか。

それにしても、こいつ、サッカー好きなのは感じられるのに、本当に窮屈そうなプレーばかりだね。

「アンタさぁ、勿体ないよね」

そんな言葉が、つい口から漏れてしまうくらいには。

必死なのも、勝ちたいのも分かる。でも、何かに怯えているように見えるのは、それが理由じゃないはずだ。

楽しい試合、楽しいサッカー。好きでやってることなのに、何がそんなに怖いんだろう。

俺たちはプロじゃない。負けたらクビになるわけでも無ければ、生活に困ることだってない。そこは、俺たちがアマである所以だけれど。

こんなに俺が楽しんでいるのに、カズがそんなに窮屈そうだったら悲しいよ。お前っていうライバルがいるからこそ、俺はこの試合を楽しめているんだから。

「もっとやりたいようにやってみろよ。せっかく楽しい試合をしてるんだぜ?」

相手チームの選手にしてみたら、余計なお世話かもしれないけど。それでも、俺はカズにも楽しんでいて欲しいんだ。

不思議な気持ちだけど、こんな好ゲームは滅多にできるものじゃない。敵とか味方とか関係なく、俺は単に良い気持ちでこの試合を終えてほしい。勝敗はあるんだろうけど、それを超えた感覚だ。当事者になってみないと、説明するのは難しい。

「楽しい、試合」

そう呟いた後に、俺を見返してきた目は、何だかそれまでの視線とは変わっている気がした。勿論、いい意味で。

そうだよ、その目をしたお前に俺は勝ちたいんだ。
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/21(木) 07:11:49.83 ID:WgjDeHmcO
ジャイキリ
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/21(木) 17:01:31.30 ID:b+pkpX02o

待ってた
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/21(木) 21:39:55.93 ID:6Uda+VTAO
お久しぶりだな忙しいのかな?
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/21(木) 23:39:52.55 ID:3JoCPVs60
もしかしたら、俺は余計な一言を漏らしたのかもしれない。

そんな後悔をしそうなくらい、こいつのプレーは変わってしまった。今まで以上に積極的にプレーに絡んで、挑戦してくる。

今までは俺の突破を防ぐことに重きを置いていたようなプレーだったのに、今度は攻撃にも顔を出すようになってきた。

ただでさえ手強い相手だったのに、更に強くなっちゃったよ。でも、嫌じゃない。

ワクワクした気持ちはそれまでより高まっていて、コイツとの勝負がますます楽しみになってきた。

一進一退の攻防が続き、試合終了が近づいてきた。勝負で完勝はできなくても、試合は貰ったな。次に戦う時は、個人技でも抜き去ってやる。

そんな油断が災いした。

ギアを上げてオーバーラップを仕掛けたカズに、振り切られてしまった。オオタからのパスが、カズに渡った。

俺には守備に欠けているということは、悲しいことにチームメイトも承知していることだ。だから、うちのディフェンダーもすぐに対応してカバーに入ってきた。

残り時間もあと僅か。ここは大事に行きたい場面のはずだ。

一旦預け返して、裏を狙いに来るか? それなら挟み撃ちにするより、正確なパスを出せるオオタのマークを厚くしたい。

「10! 10のケアしろ!」

オオタの背番号を叫んで、チームメイトに意思を伝える。

そして俺の読み通り、カズは横パスを出した。かと思った。

「えっ」

驚きのあまり、一瞬止まってしまうくらい、それは見事なフェイントだった。たぶん、あの場にいたやつら全員がつられてしまったとしまったと思うくらいには。

気が付いた時には、アイツはうちのディフェンダーを置き去りに、サイドを独走していた。
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/21(木) 23:48:38.28 ID:3JoCPVs60
サイドを独走したカズは、そのままうちのセンターバックを引っぱり出したところでマイナスのクロスを上げた。

そこには誰も……いた。オオタだ。こいつだけ、さっきのキックフェイントを理解して一早く走り出していたんだ。何なんだよ、お前らの信頼関係は。

うちのディフェンダーは振り切られてしまっている。……間に合わない。

オオタがボールを綺麗にコントロールして、シュートモーションに入った瞬間。やられたと思った。

その瞬間、後ろから追いかけていたうちの選手がオオタの足を削った。

……またか。

勝つためには仕方のないプレーかもしれない。それでも、これは果たして正しいのか? 止められない俺は、これで良いのか?

そんな自問とは関係なく、ファールを犯したチームメイトは退場、オオタは負傷で一時離脱。フリーキックはカズが蹴るみたいだ。

嫌な予感がする。とんでもない瞬間に出くわしているような気もする。理由なんて無いけど、ただ何となく。

このフリーキックは決まる。そんな、嫌な確信だ。

さっきのカズのキックフェイントから、そんな嫌な雰囲気があったんだ。今までにも何度か経験したことがある。

そしてその予感は的中してしまった。ビューティフルゴールだ。敵ながら天晴と言いたくなるくらい。

喜びを爆発させているアイツらが何だかまぶしいよ。さっき、俺が言った言葉は何だっけな。

本当に、嫌になるくらい楽しんでやがるぜ。
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/22(金) 00:02:33.61 ID:XIUN+/Ro0
「ラフプレー、やめようぜ」

その一言を言えないまま、延長が始まった。

簡単に言えるんだったら、もっと前から言ってるよ。そんな、勇気が出せなかった言い訳を自分に言い聞かせながら。

オオタへのプレッシャーは相変わらず厳しいし、カズに対するディフェンスも今まで以上に強くなった。

それでも、こいつらの勢いはなかなか止められない。ゴールまでは結び付かなくとも、決定機の数はこれまでとは段違いに増やされてしまっている。

向かい合ったカズは、輝いた目で俺に仕掛けてきた。止めるっ。

同点フリーキックのきっかけとなった、カズの仕掛け。それを意識しすぎたあまり、今度はそれがフェイントとして有効になってしまっていた。

仕掛けるような重心移動はフェイクで中を向かれてしまった。スイッチを入れるパスがカズからオオタに渡る。

……ヤバい。ただでさえ一人少ないうちが、ここで決められてしまえば逆転はかなり難しい。

オオタのシュートコースを潰したセンターバックはあっさりかわされて。そしてうちの選手が、またオオタの足に向かってスライディングしている。

勝つためには仕方のないことだ。ここで止めないと、さすがに厳しい……。

あのフリーキックと同じように、オオタが倒れる光景を思い浮かべた。でも、それは現実のものとは違って。

後ろからのスライディングを察知したオオタは、見事にそれをジャンプでかわした。そして浮かせたボールをそのまま叩き、ゴールネットに吸い込まれていく。
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/22(金) 00:10:33.36 ID:XIUN+/Ro0
目に見えて、うちのチームの士気は落ちてしまった。

一人少なく、残り時間もあと僅か。勢いも相手チームにある。スーパフリーキックに、ビューティフルゴール。あんなゴールを見せられて、意気消沈するなという方が難しい。

……ここまでかな。

諦めているわけじゃない。それでも、厳しい状況であるのは間違いない。

試合は再開したけれど、うちのチームは動きが悪い。それは俺を含めてなんだけど。

防戦一方な展開になって、どうにか得点だけは許していない。そんな状況。

相手チームのシュートが外れて、うちのゴールキック。たぶんこれが途切れたら終わってしまうのかな。

ポジションを取っていると、俺のマークについてきたカズが一言呟いた。

「楽しめてます?」

普通に考えると、煽ってるように聞こえるんだろうだけど。こいつの目は純粋に俺を見てきている。

楽しめよって言った俺の気持ちと一緒だと思う。こいつは今、この試合を楽しんでいる。

それなら、俺も楽しまないといけない。いや、違った。負けそうになって悔しくて、プロフェッショナルファールへのモヤモヤがあって忘れていただけだ。

この試合は、楽しい。そして俺はカズを抜きたい。勝負に勝ちたい。試合にも勝ちたい。まだ試合は終わっていない。

ゴールキックの競り合いのこぼれ球を拾ったボランチに、大声でパスを要求する。

足元に届いたそれを、自分の間合いでコントロールする。

さぁ、最後の勝負だ。いくぜ。
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/22(金) 00:19:55.27 ID:XIUN+/Ro0
最後は俺の一番得意な形で勝負してやる。

縦にじわじわとドリブルを仕掛けていくと、ゆっくりとコースを限定するかのように間合いを詰めてきた。

わざと少しボールタッチを大きくして、餌のようにカズの目の前に差し出す。

そして、一気にプレッシャーを強くしてきた、その瞬間。

ギリギリのところで自分が先にタッチできるところに置いていたボールを、左足裏で引いてクライフターンをきめる。

よし、かわした。

そのまま中を向いてカットイン。斜め45度が俺の一番得意な角度だ。憧れていたイタリア代表の選手が、この角度からのシュートを得意としていたから、俺も真似して練習していたらいつの間にかそうなっていた。

チームメイトいわく、イヌイゾーン。ここで決めて、PK戦までもっていってやる。

右のインフロントで擦るようにインパクト。

その瞬間、抜き去ったはずのカズの足が視界の端からすっと入り込んできた。

俺のキックの直後、カズの足にあたったボールはコロコロと転がり、相手センターバックのもとに向かう。それが強く蹴り返された瞬間、俺の天皇杯本戦は終わりを告げた。
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/22(金) 00:25:56.68 ID:XIUN+/Ro0
チームメイトはピッチの上に倒れて泣いたりしているけど、不思議とそんな悲しさはない。

それより、スライディングで倒れたままのカズに手を伸ばしてやった。俺の手をつかんだこいつは、まっすぐに俺の目を見返してくる。

「何で、最後間に合ったんだ?」

それが一番の疑問だった。完全につり出してやったと思ったのに。

「イヤらしいなって思ったから」

「は?」

どういうことだろう。イヤらしい?

「うちの失点シーン。あれ、わざと自分のマークを弱くしてつってきたじゃないっすか。だから、ああいうイヤらしいプレーがあるかもしれないっていうのは、頭の中にあって」

「それだけで?」

「あと、あれだけ個人技を持ってるのに不自然にボールタッチが大きかったから。たぶん何かやってくるなとは思ってたんで」

……ははっ、大したもんだ。そこまで読まれていたんなら、ぐうの音も出ない。

「完敗だよ。すごいのな、お前。カズって言うんだっけ?」

「どうも。イヌイさんですよね? 高校選手権、テレビで見てて覚えてます。見てて面白い選手だなって、印象的だったから」

そんな風に褒められるとむずがゆいし、でもやっぱり悔しいね。
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/22(金) 07:09:51.12 ID:5jEWXpSoo
待ってた
イヌイ視点も面白いな
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/22(金) 10:27:13.91 ID:HkSmZAf3O
やっと追いついた
一筋縄でいかないキャラばかりで面白い
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/22(金) 23:37:54.78 ID:XIUN+/Ro0
「光栄だな。楽しかったよ、サンキューな。ナイスゲーム!」

そう言って、改めて右手を差し出した。今度は立ち上がらせるためじゃなくて、健闘を称えるために。

「こちらこそ、ありがとうございました」

握り返された手は、熱を感じる。サッカー選手の熱だ。今の今まで、死闘を繰り広げていた熱だ。

それに勝てなくとも、胸を張れる程度には応えることができた自分を誇りに思う。次は、負けない。

手を放し、肩をぽんっと叩いて背中を向けたところで、最後に言い足された。

「『楽しめよ』って言われたの、忘れません! イヌイさんとのマッチアップ、めちゃくちゃ楽しかったです!」

真っ正面から、こんな恥ずかしくなるようなことを言われたのは初めてだ。それでも、嫌じゃない。こいつ、良いやつだな。

「次は負けねぇから」

振り向かずに、そう言い返してやった。今度はカズ以上に俺が楽しんでやる。そして、試合に勝ってやる。

まだ泣いているチームメイトのところに向かって、整列するように促した。

「ほら、行くぞ」

「悪い、悪いな……」

どうした? 何が悪いんだろう。負けたのは俺がカズに勝てなかったからであって、こいつらのせいじゃない。

「お前をプロに勝たせてやりたかった、なのに、なのに……」

漏らした言葉は嗚咽交じり。

間違ってたんだと思うんだ。俺が楽しいサッカーをできていたのは、こいつらのおかげ。それなのに、ラフプレーとか汚いプレーをこいつらにさせてしまっていた。苦しいところを、他人に投げてしまっていた。

悪いのは俺であって、こいつらじゃない。もっと上手くなって、正々堂々としたプレーでチームを勝たせてみせよう。こいつらにも、サッカーを楽しませてやろう。

それが俺なりの贖罪であって、チームメイトの恩返しだ。

だから。

ああ、畜生。今日はいい天気だ。負けたことすら、何だか正しく思えるくらいには。
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/04/25(月) 00:00:51.31 ID:tA41QsajO
デルピエロゾーン懐かしい
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/25(月) 02:31:15.82 ID:APYXR6N70
『お疲れさま。一回戦突破おめでとう! カズヤのシュート、すごかった!』

そんな、素人みたいな感想のメールをカズヤに送りながら、家路を辿る。素人みたいっていうか、素人なんだけどね。

一点目のシーンを思い出す。ううん、正確にはその前のカズヤのドリブルのシーンから。

あそこから、何かが変わった気がする。外から見てる、それもサッカーのことを詳しく分からない私じゃ、言葉にするのは難しいんだけど。

でも、あれが何か大切なプレーだったことだけは分かる。

このまま帰ろうかな、とは思ったけど、少しお腹が空いてしまった。15時開始って、微妙な時間だからお昼も軽くしか食べなかったし。

外食して帰ろうかな……そんな考えが頭に浮かぶと、行きたいお店はヤギサワさんのところしか思いつかなかった。あそこのオムライス、本当に美味しかったんだもの。

そうと決まれば私の行動は早い。少し遠回りにはなるけど、散歩で行けない距離でもない。

暑さは気になるけど、ダイエットだと思って歩くことにした。

カズヤたちが勝ったからかな、私も嬉しくて足取りは軽い。

浮かれた気持ちで歩いていたら、携帯から着信音が鳴り始めた。画面を確認すると、カズヤから。

『ありがとう! あのシュートは自分でも会心だったよ! 今日、忙しい?』

『ううん、今日は空いてるよ。お休みだから』

もしかして、お誘いかな? どうしよう、急にドキドキしてきた。
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/25(月) 02:39:30.71 ID:APYXR6N70
その返事はすぐに返ってきた。

『もしよかったら、ご飯行かない?』

何だろう、緊張してくれてるのがその文面だけで伝わってきて、可愛いような、こっちまで照れてしまうような。

私に断る理由なんてもちろんなくて、快諾の返事を送っておいた。

うーん、どうしよう。会場に引き返したほうがいいのかな。

さっきとは違う着信音が鳴り始めた……っと、電話。どうしよう、それはまだ心の準備ができていない。

とはいえ、出ないわけにもいかなくて。どうか可愛い声で出られるようにと思いながら、画面をスライドさせて電話を受ける。

「もしもし……カズヤ?」

「あっ、よかった、ごめんね、急に」

「ううん、誘ってくれて嬉しかった。お疲れさま」

彼の声の後ろは、まだ少しガヤガヤしてる。チームメイトの人とかと一緒なのかな?

「今、大丈夫なの? 後でかけなおそうか?」

「あ、いや、もう外に出てるから。ダウンとシャワーでこんな時間になったけど」

「そっか。えっと、どうすれば良い? どこに行けば良いかな?」

その問いには、会場最寄りの駅を告げられた。うん、それならここからそう遠くはない。

了解の返事をして、電話を切った。

……待って、これってデート?
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/25(月) 02:52:25.90 ID:APYXR6N70
待ち合わせ場所に着いても私のドキドキは収まらなくて、どうしようどうしようって一人で頭の中を騒がせている。

もっと可愛い服を着て来れば良かった。貰ったハットを被ってるのは当然だけど……暑い、あんまり気合を入れた服を着て行ったらああいう競技場で浮くって分かってきたから、結構ラフでカジュアルな服しか着てない。

うわー、一回帰りたい。

どれくらい時間かかるのかな。今から近くのお店で適当に見繕う?

そんな現実的じゃない案さえ頭の中に浮かんでくる。ああ、どうしよう。

悩んでいれば悩んでいるだけでカズヤの到着が近づいてくる。

カズヤ、オシャレだし。女の子のファッションにも色々好みがありそう。本当の私はもっと……いやもっととは言えないけど、もうちょっとは可愛いの。いつもの私はもう少しマシなの。分かってくれるかな。

そんな言い訳染みたことを考えていたら、後ろから声をかけられた。

「ごめん、待ったよね」

「ううん、全然……」

心の準備すらできてませんでした、とは言えなくて。

振り向いた先にはカズヤがいた。ジャージ姿で。一瞬驚いて言葉が止まったけど、そっか、試合帰りだもんね、よくよく考えると当然だ。

「? どうかした?」

その私の反応に、不思議そうに問い返してきた。

「いや、ジャージ姿って新鮮だなって。さっきまで悩んでたのがバカみたい」

「悩んでたって?」

「今日、かなりラフな格好で来ちゃったから。カズヤはおしゃれだから、幻滅されないかなって」

そういうと、彼は一瞬止まった。そして、顔を真っ赤にした。

「……僕、着替えて来ようか?」

小声で、そっかジャージ姿じゃんそういえば……ダメじゃん……なんて呟いている。

私が盲目なのかもしれないけど、そんなところすら可愛く思えてくる。そういうことが頭に浮かばないくらい、私に会いたいって思ってくれてた……っていうのは、私の勘違いかしら。

「ううん、全然。そのままが良い。私だってこんな感じだしさ。ほら、行こうよ」
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/25(月) 04:59:27.40 ID:BVWSEUgC0
面白いかも
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/25(月) 06:31:51.99 ID:YlFsOuKb0
ねーちゃんの登場待ってた!
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/04/25(月) 12:45:38.09 ID:bN+G/w9+O
なんかねーちゃん超久しぶりじゃね?
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/25(月) 20:33:22.99 ID:APYXR6N70
決まり悪そうに頷いて、カズヤは歩き始めた。それが何だかおかしくて、つい笑ってしまいそうになる。

アキラといたときには、考えられなかったことだ。見返りを求めず、求められずにご飯に行くだけでこんなに嬉しい気持ちになるなんて。ラフな格好で出かけて、それをお互いに恥ずかしがるなんて。中高生みたいな気持ちかもしれないけど、それでも私は嬉しい。

……手、繋ぎたいな。嫌じゃないかな。図々しいかな。

そんな、甘酸っぱい気持ちを抱いてしまう程度には。

彼の歩幅に合わせて手を伸ばそうとして、でもちょっと遠慮しちゃって。

私の好きと、カズヤの好きが違ったらどうしよう。そんな心配をしてしまうと、どうしてもあとちょっとの指先を触れ合わせることができない。

「ね、どこ行くの?」

信号待ちで止まった時に、ドキドキを抑えるために話しかけてみた。

「あ、ごめん。食べたいものある?」

「ううん、初デート、どこに連れて行ってくれるんだろうって」

私自身の緊張を誤魔化すために、カズヤにもわざと意地悪っぽくデートって言ってみた。良いよね、そう言ってしまっても。少なくとも、私はデートだと思っているし。

「デートって」

冗談っぽく復唱してきたけど、顔が赤くなっているのは誤魔化せていない。こういうところが可愛いんだよね。

「この間、ヒロさんといたレストランあるじゃん。あそこで良い? っていうか、あそこに行きたいなって思って」

「うん、行こ行こ。私もあそこ、また行きたいなって思ってたから」

カズヤと一緒に、とは言い足せなかったのは恥ずかしかったから。それにしても行きたいところが被ってるのって嬉しいね。軽く運命感じちゃった。

信号が変わって、周りの人が歩き出した。そして、私の手にはカズヤの手が触れてきて。

「デート、でしょ?」

さっきの恥ずかしそうな顔とは打って変わって、悪戯っぽい笑みを浮かべている。本当に、彼はズルい。

今度は私が赤面を誤魔化して、俯き気味になってしまう。それでも触れあった指先の力は緩められない。できるだけゆっくり歩きながら、私は幸せを噛みしめ
る。

……好きだなぁ。
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/25(月) 22:19:54.61 ID:bvLxxHXAO
仲が進展してるな
出会いはともあれ初々しいなww
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/25(月) 22:39:49.04 ID:YlFsOuKb0
いいね!
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/26(火) 02:50:50.62 ID:KnibPy4h0
「いらっしゃいませ」

お店に着かなきゃいいのに、なんて私の惚気た願い事なんて叶うはずもなく、あっという間にヤギサワさんのお店に着いた。

声をかけてくれたのは女性だった。ヤギサワさんは今日はいないのかな。そういえば、奥様の実家のお店って言ってたっけ。

案内された席に座って、メニューを開いた。

「前、何食べてたんだっけ?」

「オムライス。お勧めらしいよ、ヤギサワさんが言ってた」

水を持ってきた店員さんが、私の話し声に反応した。

「あら、旦那の知り合い? ……君たち、何か見たことあるわね」

そう言って、私たちの顔を交互に見返す。そして視線はカズヤのジャージに向かって。

「あ、わかった。この間試合してたよね、うちの旦那と。ジャージで分かったわ」

ジャージと言われて、またカズヤが恥ずかしそうになってしまう。

「あ、はい。その節はお世話に……。すみません、こんな服装で」

「あはは、良いのよ。そんなにお高いお店でも無いんだし、気軽に来てよ気軽に」

ありがとうございます、と二人でぺこっと頭下げてしまった。

「で、ご注文はお決まりかしら? 仕事もしないとね」

その問いかけには二人でオムライスと答えた。

「かしこまりました。旦那も好きなのよ、オムライス。たぶん、後で来ると思うから」
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/04/26(火) 18:23:09.38 ID:XIsa57YJO
一気に読みました。
とても面白いです。完結まで頑張ってください。
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/26(火) 18:29:53.33 ID:AfOQNJhAO
>>534
面白いの知ってるからsageてくれないか
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/27(水) 00:50:51.45 ID:h3TVKyXX0
その一言を言い残して、彼女は厨房に向かっていった。

ふと、向き合ったカズヤと目が合った。……うわ、何か急に緊張してきた。

この間は私の話を聞いてもらっていたし、お店ではカズヤからの相談を聞いたりしてたけど、今日みたいにゆっくり話せる状況に改めてなってしまうと、何を話そうって頭の中がパニックになる。

「今日、見に来てくれてたんだよね、ありがとう」

「あっ、ううん、楽しかったから。サッカーってカズヤに会うまでちゃんと見たことなかったけど、面白いんだなって最近思うようになってきたの」

実際、凄いパスとかシュート……としか形容できない時点で素人なんだけど、そういうのがビューンっていくのは見ていて面白い。あんな風に思い通りに蹴れたら楽しいだろうなって。

「本当に?」

そう言って目を輝かせる彼は、少年みたいで。同い年のはずなのに、何だかお母さんみたいな気持ちになってしまう。

「本当に。ねぇ、カズヤは何でサッカーを始めたの?」

それは純粋な興味本位だった。サッカーが楽しいからっていうのはわかるんだけど、それは始める理由じゃなくて続ける理由だろうし。

「えっとね、憧れている選手がいるんだ。分かるかな」

そう前置きをして伝えられた名前は、私でも聞いたことのあるサッカー選手だった。数年前までは日本代表だったかな? 海外で活躍していたころ、流し見ていたスポーツニュースとか、父親が読んでいたスポーツ新聞なんかで見たことがある気がする。

「その選手がさ、凄いフリーキックを決めた試合があって。それをテレビで見て、あんな風になりたいなって憧れて」

結局、なれなかったんだけどね。

そう言い足した彼は、少し照れくさそうで、でも寂しそうで。

「なれてるよ」

つい、私は無責任にそんなことを言ってしまった。無神経だったかなとは思ったけど、私の本心は止められない。
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/28(木) 02:47:32.59 ID:y3QVFkIH0
「私はさ、カズヤの試合を見てサッカーって面白いなって思ったの」

私がカズヤに惹かれているからとか、知ってる人たちが試合をしているとか、そんな理由もあったのかもしれない。

それでも、最初は何でサッカーをしているのか理解すらできなかった私にとっては、それは長足の進歩だと思う。

理由があって何かをするわけじゃないって、こういうことなんだって教えられた気がする。

「だからさ、私にとってカズヤは、カズヤにとってのその選手みたいなものなんだよ」

誇張表現なんかじゃなくて、これは本心だ。憧れているといっても、過言ではない。

試合中の彼のまっすぐさに、情熱に、ひたむきさに。それに惹かれて、私は彼から目が離せなくなってしまったのだから。

「本当に?」

「本当だよ。だって私、最初はサッカーのことなんて分からなかったもの。それなのに、今じゃ試合を見に行くのが楽しみで仕方ないの」

不思議だよねって自分で思う。

「うん、ありがとう。そう言ってもらえるなら、次も頑張らないと」

「あ、そっか。次って……ヒロさんが昔いたチームなんだっけ?」

そんなことを、以前このお店に来た時にヤギサワさんが話してた気がする。

「あれ、詳しいね」

そう呟いたカズヤは、少し複雑そうな顔をしていた。
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/28(木) 02:58:18.69 ID:y3QVFkIH0
「どうかした?」

「あっ、いや、何でもないよ」

そうかな。それにしては、ちょっと気になる感じだったけど。

カズヤが何でも無いって言うなら、何でもないんだろう。それならそれでいいや。

「でも、ヒロさんが昔いたチームってことは……プロのチームなんだよね」

「あれっ、そんなことまで知ってるの?」

まただ。少しだけなんだけど、ちょっと不機嫌そうな、複雑そうな表情。

「それも前教えてもらったから。ね、やっぱり、どうかした?」

「うーん……」

今度は思案染みた顔になっていた。言って良いのかな、ダメかなってちょっと躊躇っている表情。

「あ、言いたくないならいいよ。ごめん、何回も聞いちゃって」

カズヤにだって、言いたくないことはあるよね。今まで色々相談してくれたから、つい無神経に踏み込みすぎてしまった。

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

少しうつむいた後、彼は私の目を見つめた。改めて視線が合うと、少しドキッとしてしまう。

「呆れないでほしいんだけどさ、一つ聞いていい?」
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/28(木) 08:14:33.96 ID:nmvnXuIt0
一旦乙してイイのかな?
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/28(木) 15:39:17.45 ID:bQDpXI9AO
俊輔かな?
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/30(土) 02:24:08.11 ID:7wBlEefp0
「えっと、うん?」

改めてどうしたんだろう。何かあった? 私が何か気に障るようなこと言っちゃった?

ドキドキしながら彼の言葉を待つ。ほんの一瞬のはずなのに、何だか凄く長い時間にも思える。

「あのさ、えっと……」

歯切れが悪いまま、彼は言葉を続けた。

「ヒロさんのこと、好き?」

「はっ?」

それはあまりに予想してなかった質問で、思わず間抜けな声が出た。

好きって、私が? ヒロさんを? どうして?

その『好き』ってどういう意味で? もちろん、人としてはいい人だと思う。でも、それはカズヤの聞いてる『好き』とは、きっと違うニュアンスだと思うし。

「良い人だとは思うよ。でも、そういう意味での好きではない、かな」

「そっか……うん、わかった」

「何で? どうしてそう思ったの?」

そう聞くと、凄く気まずそうに、そして恥ずかしそうに彼は言葉を漏らした。

「いや、だって……結構ヒロさんのことについて詳しいし。一緒に食事もしてたし。僕が女の人だったら、ヒロさんみたいな人を好きになるかなぁ、って……。ごめん、変なこと聞いた。忘れて忘れて」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/30(土) 02:33:04.34 ID:7wBlEefp0
あれ、もしかして、これって嫉妬? 嫉妬されてる?

嬉しいような、ちょっといじってみたいような。道中ののデート発言じゃないけれど、ちょっとつっついてみたくなる好奇心が沸いてきた。

「ね、嫉妬してる?」

ちょっと煽るみたいにニヤニヤしながらそう言ってみると、彼は俯き気味に頭をかきながら頷いた。

「そうだよ、嫉妬してたよ。だから、ヒロさんが羨ましくて今日ここに誘ったんだよ」

そんなことしなくても、私が好きなのはカズヤなのに。子供みたいな嫉妬心も可愛く思えてしまうっていうのは、さすがにちょっと惚気過ぎなのかな。

嬉しくてつい頬が緩んでしまいそうなのを、どうにかこらえてニヤけ顔をキープする。

「へぇ……そっかそっか、嫉妬してたんだ。そっかそっか。何で?」

どうせまた照れて、彼は言葉を止めてしまうんだろう。

「何でって……いや、好きだからだけど」
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/01(日) 14:54:13.70 ID:E/OwCTHTo
白熱した試合から一転二人のやり取りにニヤニヤする乙
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/02(月) 10:06:53.34 ID:lBPRFmlEO
電話後のサキの反応が見たいねぇ
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 02:41:00.03 ID:Xk4gwRi70
えっと……好き?

いくらネガティブなことを自覚してる私でも、これは浮かれて良いのだろうか。好きって、そういう意味で? そういう意味の好きじゃないと嫉妬はしないよね? ね?

さっきまで意地悪をしてたのは私だったはずなのに、気づけば立場は逆転してしまっていた。手をつなごうってなった時もそうだったけど、こういう不意打ち、本当にズルい。

つい俯いてしまった顔をあげて、チラっとカズヤの顔を様子見してみた。

意地悪で言われたのかな。でも、彼の顔からはそんな嫌らしい表情は読み取れなくて。

きっと、本心で言ってくれてる。照れもせず、変ないやらしさもなく、だからこそ言われた私は顔を真っ赤にしてしまう。

何ていえばいいんだろう。私も好き? でも聞かれてるわけじゃないもんね。でも言わないのもおかしい? ああ、どうしよう。

「えっと……うん」

うん、じゃないよ私! それだけじゃないでしょ! もっと言いたいことはあるはずなのに、あるはずなのに口に出来ない。

でも、今までの、そして今日のカズヤの試合を見て思ったのは、変わらないと思ったなら行動しなければいけないということだったはずだ。

行動するって……そういうことだよね。
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 02:50:01.73 ID:Xk4gwRi70
「私も好きだよ」

とうとう言ってしまった。……言ってしまった!

好きって口にするの、いつ以来だろう。何かさ、そういうことを口にするのって恥ずかしくなってしまってた気がする。

アキラに対しても言ったことはなかったし、その前の遊びの人に対してなんかもってのほかだ。

捨てちゃいけないはずの純粋さを捨ててしまって、代わりに間違えた『大人像』を手に入れたつもりになってたのかな。

そんな勘違いを捨てさせてくれたのは、まぎれもなく彼の純粋さだ。

それが私に向けられた純粋さじゃなくて、サッカーに対する純粋さっていうのにすら妬けてしまいそうなほど、私は彼に惹かれている。好きになってしまっている。

気持ちを言葉にするのって、こんなに緊張することだったかな。

彼の反応を見たいような、でもやっぱり怖いような。
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/06(金) 07:25:34.62 ID:T8VOPqhH0
乙だわ
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/06(金) 07:40:42.01 ID:yfZemoTbO
くそビッチでも風俗嬢でもいい!

いいかな?
いやー、どうかな
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/06(金) 11:59:31.33 ID:1sAlOaXp0
やっと追いついた!
結構ドロドロしてるのにめちゃくちゃ面白いな!
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/07(土) 00:48:27.73 ID:k7GeINyw0
恐る恐る、彼の顔を覗くように視線を上げてみる。

視線が合った。逸らしたくても逸らせない。……いや、逸らしたくなんてない。

やっと、彼と本当の意味で向き合っている。自分の気持ちを隠さずに伝えることができた。気恥ずかしいけれど、これは私の本心だ。それを伝えたのだから、もう逃げはしない。

ニコッと微笑んだ彼も、少し照れている。これは、私の言葉を喜んでくれたから……ってことで良いんだよね?

「ありがとう」

その一言で、何だか報われた気持ちになる。

「私こそ、ありがとう」

本当に。

出会ってから半年も無い期間。それに、お店の外で会うようになってからはもっともっと短い期間のはずなのに、彼にはいろんなことを教えられた。救ってもらった。

その彼に、好きだと言われてしまった。こんな幸せが、私に訪れて良いのだろうか。
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/07(土) 01:16:28.88 ID:k7GeINyw0
「お待たせしました」

幸せに浸ろうとしていると、ヤギサワさんの奥さんがオムライスを持ってきてくれた。

そうだった、レストランの中で何を告白し合っているんだろう。思い出すと、少し顔が熱くなってきた。

ご飯を食べる前に、手を合わせて。

「「いただきます」」

と、声が被った。オムライスから視線を上げて、再びカズヤと向き合う。

ふふ、と笑みがついこぼれてしまう。何だろう、どうでもいいことのはずなのに、こんなところまで気が合うと嬉しくなってしまう。

「息の合ったカップルで羨ましいわぁ」

厨房に戻ろうとしていた奥さんにそう声をかけられた。

違います……とは言いたくないし。でもそうなの? 本当にそういうことで良いの?

「あはは、ありがとうございます」

ちょっと恥ずかしそうにそう言って、カズヤはこちらをチラッと見てきた。

少しニヤけた顔で、首だけ上下に動かしちゃった。カズヤも、ちょっとだけ頷き返してくれて。

……うん、そうだ。そういうことだよね。
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/07(土) 01:27:57.83 ID:k7GeINyw0
「ごちそうさま……は私だけか。出来立てのうちに召し上がれ」

奥さんはそう言い残して、今度こそ厨房に入っていった。

良いの? って聞き返したくなるけれど、それはそれで何だか悪い気もして聞き出せない。

「……嫌じゃない?」

スプーンに手を伸ばしたところで、小声で問いかけられた。

その言葉の真意をすぐには読み取れなくて、首をかしげてしまった。嫌じゃない……嫌なことなんて、何もない。

それが『自分が恋人で嫌じゃない?』という問いかけならば、私が聞き返したくなるくらいお門違いだ。

今、私が嫌に感じたことなんて何もない。

「嫌じゃないよ」

そう言って、小さく首を横に振った。それを見て、安心したようにカズヤは息を吐いた。

「じゃ……よろしくお願いします」

小さく頭を下げて。そして照れ隠しのように言葉を重ねた。

「ほら、冷めないうちに食べよ」

ほらほら、と今度はカズヤに急かされた。

さっきまでより幸せで、その気持ちだけで以前のオムライスより美味しく感じてしまう。

ああ、今日は何て素敵な日なんだろう。
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/07(土) 03:03:26.60 ID:k7GeINyw0
ちょうどオムライスを食べ終えた頃、ヤギサワさんがお店のドアを開いた。

「あれ、カズくん……へぇ、上手くいった?」

カズヤと私の顔を見比べながら、楽しそうにそう言った。この間の経緯を知られていると、ちょっと恥ずかしい。

「おかげさまで。その節は色々と……」

「どういたしまして。それにしても、今日はナイスゲームだったね。おめでとう」

「ありがとうございます」

そこまで返事をしたところで、ヤギサワさんは厨房にいる奥さんに名前を呼ばれた。

「おっと、忙しくなる前に着替えないと」

言い残して、彼も厨房に向かっていった。先日も手伝いで入ってたみたいだし、結構忙しいのかな。オムライスしか食べたことは無いけど、味は確かだし。

「美味しかった……」

空っぽになったお皿を目の前に、カズヤがそう漏らした。うん、私も初めて食べたとき、そんな感動を覚えたんだっけ。

ギャルソンスタイルに着替えて出てきたヤギサワさんに、コーヒーの追加オーダーをお願いした。

コーヒーを持ってきてくれたヤギサワさんは、小さいガトーショコラと生クリーム、そしてフルーツが添えられたプレートを二枚、テーブルの上に置いた。

「あれ、頼んでないですけど……」

「初戦突破祝い……と、まあその他色々のお祝い。まだ忙しくなるまでには時間あるから、ゆっくりしていってよ」

ありがとうございます、と頭を下げて、ありがたく頂くことにする。こういう好意には、甘えないほうが失礼ってものだ。

フォークで小さく切って、ガトーショコラを一口。

「……美味しい!」

思わずそう言ってカズヤと目を合わせ、ヤギサワさんを見てしまう。

甘すぎず、ビターすぎず。淹れてもらったコーヒーに絶妙にマッチしている。

「今日はオムライスもだけど、妻が手作りしてるからね。自慢じゃないけど、料理は上手いんだ」

「本当ですか?!」

美味しい市販品を見つけてるのかなぁと思うほど、それはよくできた味だった。

手作りでこんなケーキを作れたら楽しいだろうなぁ。オムライスもあんな風に作れるなんて。

「魔法使いみたい……」

そんな子供じみた感想を、つい漏らしてしまった。

「あはは、魔法使い。良いね、聞かせてみよう」

そう言って、ヤギサワさんは奥さんを呼び寄せた。
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/07(土) 03:08:13.84 ID:k7GeINyw0
「ちょっと、邪魔しちゃ悪いでしょ……」

そんな文句を漏らしながら、でも楽しそうに奥さんはこちらにやって来た。

「彼女がね、お前のことを魔法使いみたいだって。オムライスもケーキも褒めてくれてたよ」

「あら、本当に?」

その問いかけに、カズヤと二人で頷いた。

「嬉しいわ。えっと、お姉さん……料理はお好きなの?」

作るのも、食べるのも、嫌いではない。でも、得意かとか趣味って言えるほど好きかと聞かれたら、それも違う気がして。

「うーん……得意ではないんですけど。でも、美味しいものは好きです。こんな風に作れたらなぁって思います」

「それじゃ、うちでバイトしない?」

「えっ」

あまりに突拍子もない提案に、つい声が漏れてしまった。

「おいおい、この子にも都合があるだろ。ごめん、気にしないで」

「あっ……そうよね、ごめんなさい。うちの店、人手不足だから、つい」
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/07(土) 10:20:03.55 ID:zY70wukH0
イイぞー
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/07(土) 10:41:48.52 ID:JO/ZXG8AO
乙!
ついに元風俗嬢になるのかな?
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/09(月) 00:44:02.56 ID:y2NatuabO
3日かけてじっくり追いついた
めちゃくちゃ面白い
読みながらセンター試験に出てきそうな文章だなぁと

でも同じ場面を複数人の視点で何度も何度も見せられるとちょっと冗長かな、面白いんだけどね
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/09(月) 01:16:17.44 ID:5lJkUKRR0
最初は驚いて声を漏らしてしまったけれど、私はむしろ乗り気になっていた。

いつまでも今の仕事を続けられると思ってもいなかったし。カズヤと付き合う……ってことになるなら、風俗嬢を続けるのは彼も良い気はしないだろう。というか、私が申し訳ない気持ちにもなってしまう。

「バイト……良いんですか?」

そう問い返すと、奥さんは「えっ、良いの?」と驚いた。さっきと立場が逆だと思うと何だかおかしい。「気を使わなくていいんだよ。思い付きで言っただけだから、本当に」とは、旦那さんの方のヤギサワさんからのフォロー。

「いえ、あの……やってみたいです。ご迷惑じゃなければ、お願いします」

幸い、貯金は少なくはない。アキラに貢いでいたとはいえ、将来の不安を感じ始めた時期から、ある程度のお金は貯金するのが癖になっていた。

今までふらふらしていた私がすぐに正雇用の職に就くのは難しいだろうし、何よりこのお店で働けるというのは魅力的だ。幸せな気持ちにしてくれる場所だなって、二回しか来たことはないけど思っていた。

「嬉しいわ。えっと……名前と電話番号と住所……」

それらを書くのに適切な紙が見つからなくて、奥さんは申し訳なさそうに紙ナプキンを渡してきた。「ごめんね、後でちゃんと他の紙に書き写しておくから」と。

アンケート用に備え付けられていたボールペンで記入していると、カズヤがぽつりと「……みたいだ」と漏らした。それを聞いたヤギサワさんも、プッと笑いをこぼす。

きょとんとして顔を上げると、カズヤは海外の有名選手のエピソードを話し始める。

「今、世界一じゃないかって言われてる選手なんだけど。子供のころの彼をスカウトしようとした人が、プレーを一目見て、今すぐにでも契約しようって紙ナプキンで契約書を作らせたって話があるんだ。だから、それっぽいな、って」

説明をした後、またおかしくなってきたのか彼は笑い始めた。
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/09(月) 01:41:40.84 ID:5lJkUKRR0
「まぁ、うちの店からしたらそんな感じだよ。これで俺も手伝いに来なくて済む」

そう言い足して、ヤギサワさんもまた笑った。

「私からしてみたらそんなもんじゃないわ。待ち望んでいたんだから……今日はいい日だわ」

口々にそんな風に言われると、むずがゆい用な照れくさいような。実際、まだ働けているわけじゃないんだけど。

私は誰にも求められることもないと落ち込んだこともあったっけ。あの頃からしてみると、信じられないくらい進歩している。

記入し終えて奥さんに渡すと、彼女はそれをまじまじと見て、そして私に視線を移した。

「それじゃ、改めてよろしくね。えーっと……エリカちゃん?」

「はい、よろしくお願いします」

席を立ってぺこりと頭を下げると「礼儀正しいわね、良いわ」と一言。それだけでちょっと嬉しい。

「エリカちゃんって言うんだ? それで、あだ名はゆうちゃん? 珍しいね」

ヤギサワさんが当然の疑問を漏らした。そっか、この間ヒロさんと話してる時も源氏名を名乗っちゃったから、当然の疑問だ。

「そう呼ばれることが多くて」

そう返すと、ヤギサワさんはそれ以上深く問いかけてくることは無かった。こういうところが大人だなぁって思う。

ドアの開く音がして、新しいお客さんが入って来た。

「いらっしゃいませ」と声をかけ、ヤギサワさんが接客に向かう。

「……それじゃ、いこっか。忙しくなりそうだし」

カズヤにそう声をかけられて、私も頷いた。

「それじゃ、出勤日とかについては電話するから」そう言って、携帯番号の書かれた紙ナプキンを私に渡し、奥さんも厨房に戻っていった。

お会計を済ませて、ヤギサワさんに「ごちそうさまでした」と声をかける。「次も楽しみにしてるよ」って言われちゃった。二人でお礼を返して、扉を開けた。

夏の終わりを告げるような、ちょっとノスタルジーを感じる夕焼け空。それでも、寂しさとか切なさより、私は幸せな気持ちで満たされていた。

「行こう、エリカ」

そう言って、私に手を伸ばしてきた。……初めて名前で呼ばれちゃった。

返事をするのも恥ずかしくて、私は頷いて手を繋いだ。暖かい手だ。幸せをくれる手だ。いつか私も、彼に少しでも返したい。

これからのことなんて、何も不安はないと思っていた。

まだ、やるべきことはたくさんあるのに。
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/09(月) 01:53:38.94 ID:Agp/XKpk0
とてもよい…
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/09(月) 02:28:53.16 ID:5lJkUKRR0
カズヤに拒絶された私は、何もする気がわかなかった。

ヒロくんからの連絡も、返しはするけど適当になってしまってる。もう、返さなくても良いはずなのにね。

私は結局何を求めているんだろう。何をしたいんだろう。

カズヤと別れたのは社会的な地位とかお金とか、そういうのが欲しかったから。そのはずなのに、その理由すら揺らいでしまっている。

何をもってカズヤを好きになったんだろう。何でヒロくんに惹かれつつあったんだろう。

そんなことばかりを考えていると、日が昇ってもすぐに沈む。答なんて見つかるのかな。というか、あるのかな。

気づけばあっという間に夏の終わりが近づいていて、ヒロくんから久しぶりに試合があるんだって内容のメッセージがきた。

もう見に行く必要もない。そのはずなんだけど、一方で期待もあった。

ヒロくんとカズヤをそういう気持ちで見比べて見れば、私の悩みを解消する種が見つかるかもしれない。

表向きは、応援に行くとは返事をしなかった。できなかった。罪悪感とかじゃなくて、単に面倒なことになるかと思って。カズヤにはヒロくんに乱暴されてるって言っちゃってるし。

返事は案外あっさりと「そっか、残念」くらいのもので、私も少し安心してしまう。

気づかれないように普段とは少し違ったラフな格好をして、好きじゃないけど眼鏡もかけた。こういう地味な格好の方が会場に溶け込みやすいっていうのは、以前見に行った時に気づいて良かった。

暑すぎる日差しの中、試合をする彼らをスタンドの後ろの方から眺める。カズヤもヒロくんも、今日も二人とも試合に出てるみたいだ。
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/09(月) 02:46:30.76 ID:L+cH8nu8o
サキか
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/12(木) 03:04:00.94 ID:ux7yyn/S0
 サッカーのことなんて全然分からない私は、ただ二人の走る姿を目で追うだけ。ピンチとかチャンスとか、何となくしか分からないし。

 ……来たの、間違いだったかな。

 これを見続けて、私は何かを得られるとは到底思えなかった。やっぱり私はダメな人間で、カズヤに惹かれてしまってたのも単に悔しかったからなのかな。

 考えるのも億劫になってしまった。前半が終わった笛が鳴ったところで、私はグラウンドに背中を向けて歩き始める。

 出口に向かって歩いていると、視界の端に見覚えのある麦わら帽の女の子が入って来た。……うん、可愛いけど、私ほどじゃないよね。きっとカズヤはああいう子を新しく好きになっただけで、私が彼女に劣っているというわけではない。

 そんな言い訳なのか、負け惜しみなのか。自分でも分かっているんだけど、言い聞かせてそのまま外へつながる階段へさしかかった。

 そこで、またもや見覚えのある顔の子が目に入る。それも、ここにいるのはふさわしくない気がする。俯き気味に歩く彼女に、私はつい声をかけてしまった。

「ミユちゃん?」

 私の問いかけに、彼女は驚いたように顔をあげた。しまった、今から帰ろうとしてるのに、何で声かけちゃったんだろう。ベンチじゃなくて客席にいることが驚きで、つい呼び止めちゃった。
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/12(木) 03:04:31.84 ID:ux7yyn/S0
 ぺこりと頭を下げた彼女は、戸惑った感じで私を見つめ返してきた。うん、私もどうしようか困ってる。

「えーっと……」

 どうしよう。「一緒に試合見る?」っていうのは違うよね、そもそも私帰ろうとしてたんだし。「ベンチにいなくていいの?」っていうのも、何か問題があってこっちにいるんだったら、気分を害してしまうかもしれない。

 何も考えずに名前を呼んだ自分を責めながら言葉を探していると、彼女が口を開いた。

「今日も来てくれてたんですね。兄も喜ぶと思います」

 そう言って笑顔を作る彼女は、何だか以前の印象とはかなり違う気がする。

 以前会った時はもっと明るくて、愛嬌があって、自然と笑顔が零れている印象だった。その彼女が、今は無理して笑っているような。

 それに気づいたのは、私が男に対してキャラを作っているからかもしれない。自分でやっていると、自然な笑顔とそうでないものの見分けは案外簡単にできるようになる。

「……何かあった?」

 無神経にも、私はそこに踏み込んでしまった。というよりも、彼女の話を聞きたかったというのが本音かもしれない。

 自分が悩んでる時って、他人の悩みを聞きたくなるんだ。そうすると、悩んでいるのは自分だけじゃないって思える気がして。

 彼女に解決策をあげることはできないだろうし、そんな親切心で私が踏み込んだわけじゃない。単に、私の悩み、今のこのモヤモヤを、ミユちゃんの話で上書きしようとしているだけだ。

 とはいえ、それを私みたいな、ちょっと会ったことがあるだけの女に話してくれるかどうかは、また別問題なんだけど。

 戸惑った表情を見せた彼女は、どうしようと思案しながらこちらを窺ってくる。

 私は彼女に対しても表情を作って見せる。男を騙してきたように、親切心で声をかけているように見えるような表情。

「聞いてもらえますか?」

 彼女の確認には首肯で返事をすると、「立ち話も何なので」とスタンドの日陰になっている座席向かって行った。さっきとは逆方向だから、ヒロくんたちのチームの応援団からは離れてしまっている。良いのかな、こっちに来ちゃって。

 適当な席を見つけて腰かけた彼女に、一席分のスペースを空けて私も座る。近いような、遠いような。試合はまだ再開してないから、応援団の声も無いし話し声は聞こえるんだけどね。

「すみません、ありがとうございます」

 恐縮したように一言だけ残すと、彼女は語り始めた。
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/12(木) 03:05:14.43 ID:ux7yyn/S0
 えーっと。私、こんなのなんですけど、一応彼氏……なのかな。まあ、そんな感じだと思ってた人がいたんですよ。

 で、その人、本当にダメな人なんです。女遊びの悪い噂もあれば、同じ大学なんですけど授業にも中々出てこなかったりで。

 少なくとも良い人ではないっていうのは分かってたんですけど、それでもたまに優しかったりかっこよかったりで、好きになっちゃって。

 すみません、こんな話で。惚気じゃないんですけど。

 それでですね、まあその、女遊びが激しいってところなんですけど。友達の彼女……彼女なのかな。好きな人? と一緒にホテルに入ろうとしてるところ、見ちゃって。

 噂では聞いてたけど実際に目の当たりにすると、凄いカッとなっちゃって。

 先日、友達とその女の子がいるときに、女の子につい手をあげちゃったんですよ。……最低ですよね。そういう人だって分かってて彼のことを好きになったのに。
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/13(金) 00:59:57.60 ID:b0QbD1g00
「手をあげたっていうのは……」

一息ついたところで、私は問いかけた。

「平手打ちです。悪いのは彼女だけじゃないって、一番悪いのは私の彼氏だってわかってるんですけど、幸せそうなところを見てると、つい」

「そっか……」

何だろう、ドロドロしてるなぁっていうのが正直な感想だ。

この子に比べたら、私なんて悩むこともないのかもしれない。ヒロくんもまだ私の彼氏だったわけじゃないし、カズヤだってもう昔の男だ。

私がそう割り切ることさえできれば、それで終わってしまう。

「今日、ベンチに入ってないのもそれが理由なんです。友達……、うちのチームにいるから」

「えっ」

どういうこと? ということは、ヒロ君のチームメイトの彼女が、ミユちゃんの彼氏の浮気相手? 何それ、世間って狭いなぁ。

「カズくん……分かります? えっと、この間お会いした時に私が探してた、兄が可愛がってる子がいるんですけど」
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/13(金) 21:01:23.76 ID:iJuCtImAO
波乱来そうだなww
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/25(水) 11:20:43.74 ID:0lA12qEiO
期待
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/06(月) 10:05:10.48 ID:u0Sn+xEBO
まだか…
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/06/12(日) 10:38:56.70 ID:z56s8hv10
出てきたのは、私にも覚えのある彼の名前。

「カズくんに罪が無いのは分かってるんですよ。……カズくんの彼女にも。だって、私が怒ってるのは二人に対してじゃなくて、彼氏に対してだし」

ミユちゃんの言葉を、私は黙って聞き続ける。言葉を挟む余裕なんて、私にはなくて。

「それでも、そういう人だって知ってて好きになった手前、彼を叱責することもできなくて。たまったモヤモヤが、その時爆発しちゃって。それ以来、気まずくて練習にも行けないし、カズくんにも会えないし」

辛さを誤魔化すような曖昧な笑みで「すみません、変な話をしちゃって」と彼女は言い足した。

頭の中をフル回転させて、何と言えばいいのかを考える。

「……大変だったんだね」

結局出てきたのは、そんなありきたりな言葉でしかなかったんだけど。

彼氏に対して、そこまで傾倒することが私にはできない。だって、私にとっては彼らは道具でしかなかったから。自分の価値を証明してくれる道具。

ダメになったら買い替えるし、不満ができればより良いスペックのものを求める。それは誰もが持つ欲求だと思う。不満を持ちながら、それでも相手を好きでいることが、私には理解ができない。

『じゃあ彼氏と別れて、他に好きな人を作れば良いじゃん』と、私なら考えてしまう。それでもこの言葉は、きっと彼女が求めているものとも違う気がして。
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/12(日) 12:52:16.71 ID:v2JCNuFAO
乙!
忙しいのかな?
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/12(日) 20:42:52.26 ID:DVtT1gEkO
>>571
今年中の転職を目指して、勉強したり準備をしたりしつつ、仕事も忙しくなってきたのでどうしても更新がなかなかできなくて……

読んでくださってる方々には申し訳ないことではありますが、もう少し長い目でお待ち頂けたら嬉しいです。
ただ、何があってもこの作品は書き上げます。

更新が途切れ途切れですみません。
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/13(月) 01:04:04.92 ID:KMM7Kpnj0
「本当はちょっと、羨ましかったんです。カズくん、良い人だから。誰か他の人のものになっちゃうの、悔しくて」

「そうなの?」

昔は私の男だったのよ。

そんな自慢は虚しいからやめておこう。カズヤは今、あの麦わら帽の子に捕まえられてるんだから。

「良い人ですよ。私の愚痴にも付き合ってくれたし、サッカーも上手いし。……友達として、大好きです」

「友達として、で良いの?」

意識して付け足されたような言葉を、私は確認するかのように繰り返した。

「はい。だって恋してるのは、結局カズくんじゃなくて、彼なんです。カズくんみたいな彼氏を持てる子は幸せだろうなって羨ましいけど、カズくんと付き合いたいわけじゃないから」

「……そっか。大人だね」

私なんかより、よっぽど。

少しでもいいなと思ったら、そっちに移り気してしまう私なんかとは大違いだ。こういうのを誠実さって呼ぶのかな。少し違う?

「でも、彼とは別れようかなとは思うんです」

「えっ?」
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