とある後日の幻想創話(イマジンストーリー)4

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810 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/02/13(月) 00:36:03.48 ID:/dRSXglt0

冥土帰し「来たね、待っていたよ」

御坂妹「こんな夜遅くに病院に厄介になるなど、夜遊びは程々にした方が良いと思いますが。
と、ミサカは紛う事なき非行少年たちにジト目を向けます」



第七学区の病院に辿り着いた一行に待ち受けていたのは、既に受け入れ準備を済ませていた冥土帰しと担架を担いだ『妹達』の面々。
どうやら土御門が予め連絡を入れていたようだ。『妹達』は眠り続けるレミリアを担架に乗せると、風のように院内へと運び入れていく。
さながら軍隊のような手際の良さに舌を巻くが、彼女達の出自を考えれば当然のことだろう。
パチュリーはレミリアに催眠をかけ続けるため、当麻達と一旦別れ『妹達』に同伴していった。


その作業の中で冥土帰しは、少しばかり溜息をつきつつ土御門に対して愚痴のようなものを零す。

811 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/02/13(月) 00:36:46.54 ID:/dRSXglt0

冥土帰し「まったく、僕としては患者が現れるのをみすみす見逃すようなことはしたくないんだけどね?」

冥土帰し「突然電話で『これから怪我人が出るから治療の準備を頼む』なんて言われる身にもなって欲しいね?」

土御門「それに関しては申し訳ないと思ってる。 だが、あんた以外に頼れる医者がいなかったんだ」

土御門「魔術と科学の双方に通じていて、尚かつ信用に足るとなると数限られるからな」

冥土帰し「魔術に関してはアレイスターと知り合いだったというだけで、そこまで詳しい訳じゃないんだけどね?」

冥土帰し「まぁ、求められたからには全力で答えるのが僕の信条だ。 彼女は絶対に救って見せよう」

冥土帰し「勿論、君たち二人も完治させてから退院させるよ?」

上条「ハハハ……」



一瞬冥土帰しの目が鋭くなったのを見て、当麻は気まずい顔をしながら頬を掻いた。


冥土帰しの病院は当麻の行きつけの病院であり、今までの間に数え切れない程お世話になってきている。
それこそ、既に病室の一つが事実上彼の専用になってしまっている程には。
何らかの事件に巻き込まれて怪我を負った場合、必ずと言っていいほどここに入院することになるのだ。
そんな明らかに不自然なことになったのも、おそらく裏でアレイスターが糸を引いていたからなのだろう。
自身の目的の要である上条当麻を、万が一にでも死なせないために。
学園都市の中でも最高峰の医療技術を持ち、尚かつ信用できる彼の庇護下に入るようにしたのかもしれない。


一行は今後の方針について話し合うため、冥土帰しの後について彼の診察室へと足を運ぶ。
その道中で当麻に背負われたまま眠っていたフランドールと、彼女と一緒にいると言い出したインデックスを病室の一室に預けた。
当然の如く二人が一緒になることに土御門は難色を示したが、御坂妹をお目付役として宛がうことで溜飲を下げてもらう。

812 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/02/13(月) 00:37:25.82 ID:/dRSXglt0

残った二人は冥土帰しに誘われるがまま、彼の仕事部屋へと入室する。
喜ばしいことではないが、冥土帰しの診察室も当麻にとっては見慣れたものだ。
決して広いとは言えない部屋の中には、彼専用のデスクと回転椅子。
壁際には多くの医学の専門書が収められた本棚が一列に立ち並んでいる。
大方仕事の途中だったのだろう、やや使い古された鉄製のデスクの上には、
点けっぱなしになっているパソコンと、患者のカルテの束が置き去りとなっていた。



冥土帰し「とりあえず君たちの治療については後で話すとして、先に本題に入ろうか」



冥土帰しは少年二人を椅子に座らせると、開口一番にそう繰り出した。
その眼の中に携えるのは、プロの医師としての意気込み。
先ほどよりも明らかに雰囲気が変わった冥土帰しに、当麻達の背筋に緊張が走る。



冥土帰し「大まかなことは土御門君から電話で聞いているよ。 何でも今運ばれてきた子の全身を蝕んでいる、
悪性の細胞を除去することに協力して欲しいそうだね?」

上条「はい。 ただ、それを取り除くことについては俺達の力で何とかできます」

上条「先生にはその後のことをお願いしたいと思って……」

冥土帰し「ふむ……つまりそれが『そちら』に関わることというわけだね?」

813 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/02/13(月) 00:37:59.15 ID:/dRSXglt0

土御門「そうだ。 レミリア・スカーレットの全身に散在している細胞は魔術側の手で作られたものだ」

土御門「そうである以上、そいつは既存の医療技術でどうこうなるようなもんじゃない」

土御門「あんたの腕前の疑うわけじゃないが、まず間違いなく治療には時間がかかるだろう」

土御門「そしてその時間を許せるほど、今は余裕がある状況じゃない。 だから細胞の除去は俺達の手で行わせてもらう」

冥土帰し「君たち子供に問題を丸投げするのは、大人としての矜持が許さないんだけどね……」

冥土帰し「ただ、必要ないと言っているところに無理矢理介入するのも考えものか。
わかった、そのことについてはより詳しい君たちに任せるとしよう」

冥土帰し「勿論、不測の事態に備えて立ち会いはさせてもらうけどね?」

土御門「そうしてくれると助かる」

冥土帰し「となると、僕は君たちが仕事を終えた後のアフターケアをすることになるわけだけど、
具体的には何をすればいいのかな?」

土御門「それは――――」

814 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/02/13(月) 00:40:24.44 ID:/dRSXglt0

土御門は冥土帰しに対し、自分達がこれから行う治療の方法、そして冥土帰しに行って欲しいことを伝えた。
嘘偽りなど一切ない。吸血鬼のこと、『吸血殺し』のこと、治療によって齎されるであろう事象など、全ての情報を開示する。
当麻は彼らしくないその姿に少しばかり困惑した顔をしていたが、それも無理からぬことだろう。


土御門元春は自他共に認める嘘つきであり、その何重にも張り巡らせた虚偽によって己の本性を覆い隠す。
そのようなことをする理由は、彼が科学と魔術を橋渡しする仲介役であり、
それと同時に双方の陣営に潜入している多重スパイであるがため。
蜘蛛の糸を綱渡りするかのような非情に危うい立場に立っている以上、
容易に他人に対し本心を見せるのは、ギロチンに自身の首を自ら晒すようなものだ。


だがそんな彼であっても、嘘をつくタイミングは弁えている。
冥土帰しは上条当麻の作戦を成功させる為の最重要人物だ。
彼の力無くしては、レミリアとフランドールを救うことは不可能。
ここで情報を出し惜しみしては、彼の十全な力を借り受けることは出来ない。

815 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/02/13(月) 00:42:45.00 ID:/dRSXglt0

冥土帰し「……なるほど、君の話からするに、かなり大がかりなことになりそうだね?」

土御門「あぁ、少なくとも体の大半を欠損した患者を生きながらえさせるだけの設備が必要だ」

冥土帰し「となると、必要となのは失われた臓器の代替と、細胞の再生を促進する培養液、後は生命維持装置かな?」

冥土返し「培養液と生命維持装置は『妹達』の調整に使っているものを転用できそうだね?」

冥土返し「代替臓器はいくつかスペアがあるはずだから、彼女達の体型に合ったものを一通り用意しよう」

冥土返し「後は設備を置く場所だけど、結構規模があるから場所は限られるね?」

冥土返し「君達が作業を終えた後直ぐに執りかからないといけないから……土御門君、
どのくらいのスペースが必要なんだい?」

土御門「いや、場所はとらない。 そこら辺の診療台の上でもできる」

冥土返し「そうか、それは都合がいい。 なら設備を置く大部屋と診察室が近いエリア……
ふむ、5階の南西にある区画が丁度いいね」

冥土返し「至急、設備をその場所に設置するとしよう」

816 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/02/13(月) 00:45:22.96 ID:/dRSXglt0

冥土帰しがそう言ってからの行動は早かった。


彼は手の空いた『妹達』や夜勤の看護師達に指示を出し、必要な物資を手際よく目標の場所に輸送させる。
1時間どころか10分もしないうちに齎された準備完了の報告に、当麻ならず土御門も心の底で舌を巻くことになった。


確かに彼が『超』のつく程の一流の医者であることは重々承知しているが、いくら何でも早すぎである。
彼だけでなく周囲のスタッフも優秀でなければ、こうも迅速な対応は出来ないだろう。
改めて冥土帰しの――――否、この病院の規格外さを二人は実感したのだった。



土御門「さて、果たして上手くいくかにゃー?」

パチュリー「今頃になって何を言ってるのよ、貴方は」



診察室へ向かう道すがら、土御門は独り言のように呟く。
それに対し、隣を歩いていたパチュリーが眉間に皺を寄せながら睨みつけた。



土御門「いや、今更ながら俺達のやってることは実に非合理的なもんだと実感してな」

土御門「この作戦は『吸血殺し』という存在だけを柱にして成り立っているようなもんだ」

土御門「それだけでも危ういってのに、肝心の『吸血殺し』は実体もよくわかっちゃいないものときてる」

土御門「常識的に考えれば、こんな作戦を実行するなんて正気の沙汰じゃない」

パチュリー「だから言ったじゃない。 馬鹿げた作戦だって。 そしてそれを黙認している貴方も大馬鹿者よ」

土御門「正論過ぎてぐうの音も出ないな。 ……そう言いながら、結局ここまで一緒に来てるあんたも同類だぜい?」

パチュリー「本当にね……」

817 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/02/13(月) 00:47:32.98 ID:/dRSXglt0

ふぅ、と肩を竦めて溜息をつくパチュリー。
死んだと思っていた親友と再会し。そして再会したばかりの親友と死闘を繰り広げ。
親友に敗北した挙げ句、命を諦めかけたところを助けられ。
最後には親友を助けるべく、こうして一世一代の賭けに出ようとしている。


今日という日は、一人の人間が体験にするには余りにも濃密すぎる一日。
まともに自身の気持ちの整理をする余裕もなく、ここまで走ってきた彼女の心労は如何ほどのものか。
常人であれば疲労の色を隠せないはずであるが、しかし彼女の表情にはさほどの陰りは見られない。
むしろ体の重石が取れたかのような、少しばかりの清々しさが感じられた。



土御門「ま、兎も角これで俺達も背水の陣って訳だ」

土御門「『最大主教』に報告もしないで、現場で巻き込まれた一般人に諭されて博打紛いのことをしようとしている」

土御門「もしもばれたら大目玉……今まで築き上げてきた立場やら何やらが跡形もなく吹き飛ぶって寸法だ」

土御門「オレのスパイ稼業も、そろそろ卒業ってところかにゃー……」

パチュリー「私としては本さえ読めれば、後はどうなっても良いわ。 今の立場が惜しいわけでもないし」

パチュリー「図書館の管理はリトルにでも任せて、隠居生活もいいわね」

土御門「その歳でもう隠居か? 第一、『最大主教』がそんな悠々自適な生活を許すと思ってるのか?」

土御門「あの女狐ことだ、嫌がらせで読書とは無縁の猫の手を借りたいくらい忙しい部署に配属されるぞ」

パチュリー「……………………心配いらないわ。 もしそうなったら、跡形もなく吹き飛ばしてあげるから」

土御門「おぉ、怖。 世界広しといえど、『最大主教』に正面切って攻撃仕掛けられる奴なんか片手で数えられるかどうかだぜい」

818 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/02/13(月) 00:50:58.44 ID:/dRSXglt0

腕を組んで怯える仕草をする土御門であるが、その隠そうともしない口角の釣り上がった顔を見ては説得力など皆無である。
しかしその不敬な姿を見た当のパチュリーは、何も言うことなく黙って歩くばかりであった。



上条「大丈夫さ」

土御門「何?」



そんな会話をしている二人に対し、前を歩く当麻が不意にそんな言葉を零す。
怪訝な顔をする一同に向かって振り返る彼の顔には、不安の感情など一切見て取ることは出来ない。
その代わりに張り付いている感情を言葉で表すとするなら、それは『確信』。
そう、彼は自分の考えた一連の策の成功を確信している。



土御門「随分と自信満々だな、カミやん。 ……何か根拠でもあるのか?」



余裕を持ちすぎている立案者の顔を見て、土御門は不可解そうに眉間に皺を寄せて問い質した。
すると当麻は少し困ったような、嬉しいような嬉しくないような、何とも言い難い表情をしながら頬を掻く。



上条「ちょっと、思うことがあってな」

土御門「は?」

上条「いやさ――――――――」

819 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/02/13(月) 00:54:39.38 ID:/dRSXglt0










上条「『不幸の避雷針』なんて呼ばれてる俺がいるのに、俺を差し置いて不幸になる奴なんているわけないだろ?」
だから、あいつ等に『人間に戻れない』なんて不幸が起きるわけないさ」










820 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/02/13(月) 00:57:32.54 ID:/dRSXglt0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/13(月) 01:01:04.85 ID:uhciagy3o
乙です
822 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/13(月) 23:21:37.25 ID:a4w5IThC0
へぇー?なら、そんなアンラックスティーラーが、その状況で真っ先に受ける不幸ってなどんなもんなんだろうねぇ〜?
823 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/16(木) 22:46:53.93 ID:6P4x/nPh0
はやい!もう(治療の用意が出)来たのか!
824 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/19(日) 06:20:03.90 ID:xwv94D3e0
いや、早いってレベル遥かに超えてるだろwww

それにしても、エピローグに入る前だからか?随分淡々と状況説明されるだけだったなぁ
目立ったのはパッチェさんの感情発露くらいかな?w
825 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/06(月) 23:35:32.79 ID:FKJ0eI+b0
>>822
どうせ
ラキスケて
ボコられる
826 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/03/09(木) 02:26:32.42 ID:2YPfu8Qf0
やべぇ、話が纏まんねぇ。残りはそれぞれの視点のエピローグを書くだけなんだが
後レジェンドでワイルドなゲームのせいで時間ががががg

というわけで次投稿には時間がかかりそうです。申し訳ない
827 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/26(日) 20:10:34.09 ID:lv02HZcJ0
さて、今日はどうかなー?
828 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/02(日) 22:49:33.06 ID:Vp38R4uW0
めーちゃんはああなるのかい?
829 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2017/04/10(月) 01:35:58.62 ID:5wSePt270
これから投下を開始します
830 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/04/10(月) 01:36:41.12 ID:5wSePt270





     *     *     *





831 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/04/10(月) 01:38:00.80 ID:5wSePt270

ふと気がつくと、私は地面に仰向けに寝そべっていた。
眠りから覚めたにしては、余りにもあっさりし過ぎている目覚め。
電球にスイッチを入れたかのような覚醒に違和感を覚えつつも、私は目の前の光景に意識を向ける。


空を見上げた瞳に映るのは、木立の隙間から顔を覗く血のように紅く染まった満月のみ。
星の姿は見受けることは出来ず、その瞬きを望むことは叶わない。
心なしか月から発せられる赤い光が、まるで質量を持っている液体のように空を舐め回っているように見える。
もしやあの光は、月が食らった星々の血液だとでもいうのだろうか。


一瞬過ぎった思考に、不快感が胃の奥底から広がり、体の末端まで染み渡る。
その悪寒から逃げるかのように、私は弛みきった体の筋肉を叩き起こし、ぎこちない動作で上半身を起こした。

すると次に視界に飛び込んできたのは、自分を包囲するかのように立ち並んだ木々。
鬱蒼と生い茂った森は月の光が地上まで落ちることを許さず、地を這いずり回る深淵達に闇の楽園を提供している。
そのおかげで目が届く範囲は自身から数メートルといった有様であり、
『一寸先は闇とはこのことを言うのか』などと場違いな考えが浮かぶ始末。

832 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/04/10(月) 01:43:13.85 ID:5wSePt270

無音が一帯を支配している。風の音どころか、生命の息吹さえも感じられない。
これほどまでに緑が生い茂っているというのに、鳥の囀りも、虫の羽音さえも聞こえないのだ。

『緑の砂漠』とも表現できるだろうか。それ程までにこの場所には命の気配が存在しなかった。
自身の乱れた呼吸の音が耳を突き抜け、心臓の鼓動が体を大太鼓のように叩き続けている。
自分が生きているという感触。それがどうしようも無く気持ち悪く、私の心をぞりぞりと削っていく。

この感情は『孤独に対する恐怖』だ。それが私を押し潰そうとしてくる。
心の奥底から湧き出す悪寒。それを抑えようと、身を抱えたくなる。大声で叫びたくなる。
昔、私が過ちを犯してしまった頃に散々感じたそれに、非常によく似ていた。


私はその状況に耐えきれずに立ち上がり、そして行く当ても無いのに足を動かし始める。
その足が向かう先は闇。何処の方角を向こうとも闇しかないので、選択肢など初めから在りはしない。
紅く染まった木漏れ日が地面に残す、血痕のような斑点だけを頼りに前へ前へと進んでいく。

ガサガサという落ち葉の音。パキパキという枯れ枝の音。それらを音楽にして、私は道無き道を歩んでいく。
それからしばらくした頃、私は何やら開けた場所が先にあることに気づいた。
逸る気持ちを抑えつつ、それでも足が早歩きになることは抑えきれずに先を目指す。

833 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/04/10(月) 01:48:00.04 ID:5wSePt270

そしてものの数分もしない内に森を抜けた私は、目の前の光景に思わず息をのんだ。
広がるのは、向こう端の木々が針の先のように小さく見える程の広大な湖。
四方八方を森で囲まれた中にあるこの場所は、まるで世界のヘソのようだ。
風波一つ立たない湖面は巨大な鏡のようであり、空の月を模様の細部までくっきりと映し出している。
空の月と地上の月。その二つは双眼のように、湖岸に立ち尽くす私を睨んでいる。


幾許の間呆然としていた私は、妙なものが視界の中にあることに気がついた。


館だ。それもかなり大きい。

私もそれなりに大きな家に住んでいるけれど、目の前にある建物はそれ以上だ。
何せ遠目から見ても分かるくらい大きな塀がある。私の身長の5倍くらいの高さがありそうだ。
加えて館と塀の遠近から考えれば、塀の中も相当な広さだろう。最早、『城』と表現しても良いかもしれない。
屋上から突きだした、巨大な時計盤が備え付けられた塔がより『それっぽさ』を醸し出している。


湖の畔に聳え立つ城。ただの人がその言葉だけを聞いたならば、さぞ荘厳な情景が脳裏に浮かぶことだろう。
だが今私の目の前に映る建物は、人々が思い描くようなものとはかけ離れたものだと断言出来る。それは何故か。

『紅い』のだ。屋根の色が紅いとか、紅月の光に照らされているから壁が紅いとか、そんな次元ではない。
『全てが紅い』。空からペンキをぶちまけられたかのように、真紅に染め上げられている。
唯一の例外は時計盤だけだ。その部分だけがくり抜かれたかのように白かった。


そんな異様な雰囲気が漂う建造物に対し、私はどうしてなのか、その目を離すことが出来なかった。
まるで眼球が固定されたかのように、視線を逸らすことが出来ない。
それどころか、無性にその場所に行きたいという感情が湧いてくる。
そして何よりも不思議なことは、その事実に微塵も不快感を覚えないことだった。

834 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/04/10(月) 01:55:34.45 ID:5wSePt270

ふらふらと、何かに操られたかのように、足が勝手に動き出す。
あの妖しい建物に向かうような、さしたる理由などある筈がない。
そもそも、何故この場所にいるのかさえ分からないのだから。


それだというのに、私の足が止まる気配はない。
理由なんてないのに、そこに行かなければならないという考えが振り払えない。
そもそも振り払おうにも不快感がないのだから、私がその正体不明の誘惑に抗える道理などなかった。


視界が壊れたテレビのようにコマ落ちする。

ある時には、私は湖畔の傍を唯々歩き続けていた。
ある時には、私は浮遊感と共に空の月を見上げていた。
ある時には、私は体に風を受けながら湖の上を進んでいた。

意識が定まらない。麻薬を打ち込まれたかのように、心地よいしびれが全身を支配している。
私の眼が映す光景を、脳が解釈することが出来ない。
明らかに異常なものな、それを異常と判断することができない。


どれ程の間、そんな状態になっていたのだろう。
始まりがあやふやで、過程すらも定かでないのに、そんなことがわかるはずがない。
ただ、終わりだけは明白だった。豆電球に電気を通すように。パチンという幻聴が聞こえそうなほどはっきりと。
私の意識は、突然微睡みの中から引きずりあげられた。


眼前に聳えるのは、先ほど遠目で見ていた紅の館。私はその門前に立っていた。
重量感のある鉄柵の門に右手を触れると、それは想像に反して驚くほど簡単に開かれる。
その動作には殆ど重さを感じさせず、自分から勝手に動いたかのように。
まるで私を招いているかのようにさえ感じられた。

835 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2017/04/10(月) 02:02:52.98 ID:5wSePt270
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ

ネタが浮かばないせいで滅茶苦茶短くてなってすまない……
836 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/10(月) 08:28:02.74 ID:+zixlBlXO

短くても更新あるだけでありがたい
837 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/10(月) 08:45:44.32 ID:FKLwBhMFo
乙です
838 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/10(月) 10:55:04.42 ID:1X4QP5IK0
乙!
このクロスではイマブレで学園都市から完全否定された”吸血鬼であるレミリア”も、幻想入り?によって救われた?んかなって……
839 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/22(土) 22:07:04.98 ID:wOoJtIEA0
二次創作は原作世界の夢を見るか?
840 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/03(水) 19:40:46.12 ID:qvNL5v5J0
乙!!
841 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/30(火) 00:03:56.03 ID:WN9lR/2V0
メントス紅魔館
842 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 15:12:45.13 ID:UsnMpIN90
>>1さんは天空璋と憑依華、購入の予定はありますかな?
843 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/21(水) 20:36:18.39 ID:7Dh+wMax0
とりあえず天空璋は欲しいなぁ
844 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/08(土) 10:26:28.60 ID:TFun65wB0
日焼けチルノか……このSSの世界なら毎年普通に見られそうですね
845 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/22(土) 23:05:51.94 ID:EK3z6eQn0
レミフラ 仲良しになれ
846 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/20(日) 21:32:46.77 ID:shCNAHgR0
落とさせはしない
847 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/13(水) 21:43:22.47 ID:bMg901FZ0
来るのを待ってる
848 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/08(日) 18:12:27.06 ID:ixkxGSJp0
>>1さん冷えてんの?
849 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 16:47:05.67 ID:jW4QEN600
忘れてたら危ないとこだった
850 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/30(木) 17:02:13.46 ID:qaTCODY/0
ぷぷぷぷっぷっよぷよ〜
851 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 19:16:40.54 ID:Kqy65rzdO
横から失礼するぜ。俺ガイル荒らしのハチマ○コことnikkolのpixivとtwitterのアカウントだぜ

https://www.pixiv.net/member.php?id=2716600

https://twitter.com/nikkol000

「罵詈雑言も誹謗中傷もねじ伏せてやるからいつでもかかって来い」との仰せだ
852 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/12/25(月) 19:31:50.94 ID:E1Ij+NE+0
知らんがなw
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/01(月) 10:59:08.18 ID:JUILk7iA0
あけおめ!ことよろ!
854 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/08(木) 16:31:49.24 ID:XcQBpGB50
あれからほぼ3ヶ月……
855 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/01(日) 10:57:44.33 ID:GXLMLtboO
新年度始まったぞ
856 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/16(火) 20:38:11.75 ID:bMxI1nbt0
祝!SS速報復活!
857 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/10(月) 23:35:06.57 ID:YjC0i0yZ0
平成終わったぞ
以前待ち続ける
858 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/29(日) 18:43:14.97 ID:rqFjqOYG0
鬼形獣も出て数ヶ月経ったなぁ。
859 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/30(月) 07:41:07.45 ID:NEnLDDvT0
こうなるともはや、生きていらっしゃるのかどうか……。
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