「『須賀京太郎』とは、あなたのそうぞう上の存在に過ぎないのではないでしょうか」

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471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:01:35.81 ID:hFArNs2bo




                                 



472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:02:46.12 ID:hFArNs2bo




「──京ちゃんを、思い出したの?」


私は、言う。


「思い出した?」

「何を言ってるの、咲」



「まるで須賀くんが忘れられてるみたいに」



部長の言葉が、頭の中を掻き回す。

部長の反応は、正常であるはずなのだ。

昨日までそこにいた人ひとりが、忘れられるなんて無い。





でもその正常は、数日前に失われている。


473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:04:28.05 ID:hFArNs2bo

反射的に、言いかける。


「だって、さっきまで……」



言いかけて、それよりも聞かなければいけない亊に気づく。

部長たちが、もし本当に思い出したのなら。



「じゃあ、京ちゃんが居なくなったことは……?」



部長は、なんとも無しに言う。

「ああ、そうね。須賀くんは居ないわね」

それは、あまりにも軽い言い方で、思わず語気が強くなる。
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:06:12.23 ID:hFArNs2bo


「そんな、まるで出掛けてるみたいに」

「出掛けてるってどーいうことだ、咲ちゃん」


優希ちゃんが、怪訝そうに言う。




「きょーたろーなんて、最初からいなかったじぇ?」









「……?」

475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:08:41.66 ID:hFArNs2bo


優希ちゃんの言葉が、理解できない。

いや、なんと言ったのかは分かる。



京ちゃんは、最初からいなかった。



……ええと、どういうことなのだろう。

先ほど優希ちゃんは、京ちゃんがいるのは普通のことだと言ったばかりだ。

でも、今は、最初からいなかったのだと言う。

何か、意味があるのだろうか?

隠喩? 文字通りではない意味が、隠されている?

476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:09:45.43 ID:hFArNs2bo


混乱する私を置いて、和ちゃんも続ける。


「そうですよ、麻雀部には、須賀くんなんて人は居ませんよ?」


477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:13:21.79 ID:hFArNs2bo





「また……忘れたの? 京ちゃんを、知らないの?」


ええと。

また、振り出しに戻った?


「いやいや、京太郎が入部してくれたお陰で咲が来てくれたんじゃから、冗談でも知らんとか言えんわ」

「そうですね。色々と、部活では支えてくれていますし」



???

ええと、つまり?

478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:17:49.15 ID:hFArNs2bo


「咲、どうしたのよ。私たちが須賀くんを知らない事がそんなに変?」

「咲さんは、須賀くんと中学から一緒だったのだから気になるのも仕方ありませんよ」

「須賀くんって、咲の知り合いなの? 中学の時からの付き合いだってことは知ってるけど」

「そういえば、咲ちゃんと京太郎のなれ初めとか聞いたことないじぇ。普通なら接点無さそうな二人はどーやって仲良くなったんだ?」

「確かに不思議じゃのう」

「中学校からなのに仲良いわよねえ。やっぱり須賀くんから声をかけたのかしら」

「京太郎って、どういう奴なんじゃ?」

「須賀くんって、誰?」

「先輩の知り合いかー?」

「そういえば、須賀くんは?」

「きょーたろーなら多分その辺に居るじぇ」

「そーじゃな」

「そういえば、須賀くんの話題なのに咲が黙ったままだけど」

「……大丈夫ですか? 咲さん、具合でも悪いんですか?」
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:21:52.19 ID:hFArNs2bo



確かに、具合は悪かった。



「……ううん、大丈夫。……ねえ、和ちゃん」



「和ちゃんは、皆は、京ちゃんの事を──知っているの?知らないの?」


和ちゃんは、不思議そうな顔で、きょとんとして、首をかしげる。






「ええ、須賀くんの事なら知っていますけど──須賀くんって、どなたでしょうか?」

480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 00:26:31.59 ID:4jBSCMufO
正しい記憶と見えないチカラがごちゃごちゃになってる感じか
怖い
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:27:18.82 ID:hFArNs2bo



──なに、これ。



事象がもはや、悲しいとか、嬉しいとか、苦しいとかを超越していた。

言い表す言葉が見つからない。

矛盾? とんち?

理解できない、に気分の悪さを足したかのような。

そう、言うなれば、自分で作った造語が答えのなぞなぞを聞かされているような感じ。

482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 00:46:41.65 ID:Orp2oSvCO
こわっ
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:49:04.04 ID:hFArNs2bo



知っている。

知らない。




京ちゃんは居る。

居ない。




ふと、同じ感覚を思い出す。

それは、つい先ほどの──

484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:52:15.01 ID:hFArNs2bo



バサリ。



485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 00:56:20.74 ID:hFArNs2bo


よろけて手をついた先で、紙の山が崩れる。

ざさっと、広がる紙の中から、数枚の小さめの紙が滑り出た。

それは写真で、少年たち──今の私とそれほど変わらないが──がユニフォームを着て、並んでいる姿。



一目で分かる。

ハンドボール部のメンバーの写真。

そして、その中には、チームメイトと肩を組んで笑う少年の姿。




──京ちゃんの姿。

486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/01(水) 01:21:02.98 ID:hFArNs2bo
ここから進めるとちょっと切りづらいので今回はここまで
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 05:48:53.85 ID:3h2hI26co
乙!
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 06:32:46.46 ID:9DPwFasrO
おつ
得体の知れない気味の悪さにゾッとした…
続き待ってる
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 06:40:43.64 ID:eHTHaxp+o
こわい
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 10:43:02.56 ID:xZGoEixxO
乙です
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 11:36:16.91 ID:ZIq/SqRAO
ハイライトが付いたり消えたりしてそう
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 12:35:15.27 ID:JinF0QDPo
何らかのスタンド攻撃を受けているぞッ!
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 12:56:50.53 ID:nerSq6KAO
乙です

知ってるけど知らない
知らないけど知ってる
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 22:28:06.56 ID:ibMrD0J60
誰かお客様の中にスタープラチナをお持ちの方はいらっしゃいませんかーーーッ!
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 23:15:58.63 ID:9bUAt9M5o
持ってるけどスタープラチナって何だっけ?
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 23:19:55.42 ID:q3QVmNJLo
ttp://media.g-cores.com/uploads/image/32dff5a4-766f-4b4b-9344-15fb454c3496_watermark.jpg
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/02(木) 00:00:34.91 ID:zSezFc990
照さん!
無敵のスタープラチナでなんとかしてくださいよォーーーーーッ!!
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/02(木) 00:10:53.19 ID:PDyZB6oGo
こーわーいー
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/02(木) 00:33:47.81 ID:9635dccko
「月島さんのおかげ」みたいな不気味さ
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/04(土) 16:30:21.50 ID:Hm53Nvqt0
>>1は本当にいいところで切りやがる
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/13(月) 23:53:14.04 ID:3xzSlnVpo
おいおいマジかよ追いついちまったよ…
続きが気になる
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 21:13:09.42 ID:b1RtG9Bfo
今日いけるかなと思ったけどあんま纏まんなかったー
来週寝落ち含みで金〜土で投稿する所存ー

ちなみに次回投下後、ラストまで書き溜めてから投下予定なのでしばらく落ち防止の生存報告のみになるやも?
その場合補完的なショート欲しいって人居ますかね、多分即興で1、2レス程度
誰のショートかにもよりますが、有る無しでかなり印象異なったりするんでその辺は希望に任せます
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/20(月) 04:10:31.99 ID:htPQUR8WO
負担にならんのなら読みたいかなー
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/21(火) 23:49:07.30 ID:8rLX7e030
>>1が無理にならない範囲でなら、補完話読めるのは嬉しい
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 15:16:02.03 ID:e5Irjmzfo
驚きだわ、24時間近く寝た
夜にゆったり投下する所存〜
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/25(土) 15:18:27.19 ID:erZjGlXko
ずいぶんまともな作品だな……百合厨が
京太郎をコケにするSSかと思った(@_@)
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/25(土) 15:20:48.06 ID:3ATd/Yfco
夜投下把握
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/25(土) 16:19:25.37 ID:HRKb8pq00
マーツ!
なんかに似てるなーと思ったら岸辺露伴は動かないの雰囲気に似てるのか...
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/25(土) 17:51:26.58 ID:wWe/s8++o
投下期待
>>505
12時間じゃなくて24時間とかどんだけ疲れてんだよww
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 21:36:09.88 ID:e5Irjmzfo



久しぶりに、京ちゃんの姿を見た気がする。


最後に見たのは、インターハイから帰ってきた日なのだから、まだ5日と経っていないのだけど。


そこに写る男の子は、その最後の姿よりも少し幼く見える。


511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 21:41:18.87 ID:e5Irjmzfo

大きく滑ったそれらのひとつを、部長が拾い上げた。


「あら、写真ね。どうし──」


部長は、写真に写るものに目を落として、言葉を切る。



「──ああ、そういえば、ハンドボールをやってたって聞いたから、ハンドボール部の情報も集めてたんだった」



ん?と、部長は首をかしげる。

その横で、染谷先輩が他の写真を拾い上げる。


「……やっぱり、知っとるよりは若いのう。やっぱり……」


その言葉は、どこか歯切れが悪い。

私の横で、散らばった紙を拾い上げていた和ちゃんと優希ちゃんも、難しい顔をしている。
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 21:47:07.80 ID:e5Irjmzfo


「──そう、よね。私たちは探してたのよね」

「これは、進展があった……と考えて良いんでしょうか」

「良いと思うじぇ」

「そうじゃのう、京太郎の名前があったということは、十分な進展じゃろ」



「咲、お手柄ね」



その言葉に、部長を見る。

そこには、なんというか、先ほどあった違和感はない。

513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 21:55:43.62 ID:e5Irjmzfo


「……思い、出したんですか?」


今度こそ、本当に?

それとも、また?



部長は、私の言葉に少し考える。


「思い出した……そうね、思い出したんでしょうね」

「なんだか、変な感じだじぇ」


優希ちゃんは、言いながらぐらぐらと頭を回す。


「確かに、変な感じですね。覚えていると覚えていないの境目、とでも言うのでしょうか」

「なんじゃろーな、とりあえず、今は京太郎のことが分かるのは確かじゃ」


和ちゃんと染谷先輩も、違和感を確かめるようにこめかみに手を当てている。
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 22:00:14.00 ID:e5Irjmzfo


そこには、いつも通りの姿があるように思えた。
             ・ ・ ・ ・
あの、ブキミな 食い違い も無いように思える。

でも、やはり、警戒が解けない。


「京ちゃんを……京ちゃんを、教えてください」


私の口から零れたのは、そんな言葉。

515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 22:14:43.88 ID:e5Irjmzfo

それを聞いた部長は、苦笑する。


「須賀くんを、教える……そう言われると、難しい感じがあるわね」

「前に聞かれとった『分からないこと』に沿うんなら、咲を麻雀部に連れてきて、一年生麻雀で見事なラスを引き、タコス作りが上手くうちの模様替えに尽力してくれ……他になにがあったかのう?」

「紅茶を淹れるのが上手、とかありませんでしたっけ。そういえば、タコス以外にも料理を作ったりしていましたね」

「龍門渕の執事さんと仲良くなったのよね。夏休み入ってかららしいけど、紅茶とかその辺はホント向上したわよねぇ」

「タコスについては免許皆伝と言って良いじぇ」

「タコスに免許ってあるんでしょうか……」




それらの言葉が、京ちゃんの事を教えてくれているのかは、正直のところ分からなかった。

そもそも、自分が何を求めてそんな発言をしたのかも、分からないことなのだけど。

でも、それらの言葉は、私の知っている皆から発されているように思えた。

516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 22:21:11.38 ID:e5Irjmzfo


「じゃあ、本当に……」


「咲には、悪いことをしたわね。忘れられてた須賀くんにもだけど」

「なんで忘れてたんじゃろーな」

「でも、これからどうするんですか?」

「犬のことを思い出したのはいーけど、どうしたら良いかはさっぱりだじぇ」



ほう、と大きく息を吐く。

皆、思い出したんだ。

今度こそ、本当に。

安心した。




……うん、安心した。
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 22:27:33.43 ID:e5Irjmzfo


でも、なんだろうか。

変な言い方だけど、なんだか喜びきれていない気がする。


嬉しい、私は今確かに喜んでいる。


京ちゃんは居るんだ。


皆が思い出したのは、そういうことだろう。


なのに、なんだか大きな喜びが出口のところで引っ掛かっているような感じなのだ。

518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 22:39:56.75 ID:e5Irjmzfo

理由は何となく分かる。

皆の反応が、なんというか、普通なんだ。

忘れていた仲間を思い出した。

それは、劇的なことだと思うのに。

劇的な方が良いというわけではないのだけど、なんというのだろうか。

反応が乏しくて、私もなんだかそれに引っ張られて、反応が鈍くなっている。


「……でも、少し怖かったですよ」


変な落ち着きのまま、私は言う。


「どうしてですか?」

「だって、さっきは、居ないって言ったり、居るって言ったり……」

「?」


和ちゃんたちはキョトンとしている。
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 22:54:14.51 ID:e5Irjmzfo


「え……ほら、京ちゃんは知ってるけど誰だっけ、とか」

「そういえば、そうですね」

「……変だと、思わないの?」

「そう言われると、確かに不自然じゃな」





──そう言われると





ぞっとした。


.・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そう言われなければ、変ではないということに。

520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/25(土) 22:57:08.63 ID:UeTkXPSFo
痴呆老人と会話してる気分になるな
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 23:05:42.32 ID:e5Irjmzfo


「どういうことだじぇ?」

「わしらは、今は京太郎のことがわかっとる。じゃがさっきは、その分かる前に『分かっている』と言っとったじゃろ?」

「あー、確かに言われてみれば」

「……確かに、なんだか変ですね」


引っ掛かることを、染谷先輩が言った気がした。


「え……あのときはまだ、分かっていなかったんですか?」
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 23:19:51.36 ID:e5Irjmzfo


「ああ、京太郎の事は分かっておらんかった。……そうじゃな、確かに、分かっておらんかった……」

「……それって、どういう──」

「あ、これ」


私の呼び掛けは、部長の声に中断される。

部長が、なにやら一枚の紙を持ち上げていた。

それは、私が4日前に見た、あの紙。


「中学の方にしか須賀くんの名前がないのなら、なにか理由があるのかなと思って気になったんだけど」



──『麻雀部員一覧』。


それを、私へと差し出す。


「高校の方を見てみたら、ほら」

523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 23:38:26.90 ID:e5Irjmzfo





   3年
   ・竹井久
   2年
   ・染谷まこ
   1年
   ・須賀京太郎
   ・原村和
   ・片岡優希
   ・宮永咲




524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 23:39:33.14 ID:e5Irjmzfo



 ── 『1年

       ・須賀京太郎』


525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 23:40:33.40 ID:e5Irjmzfo


「もちろん、前と同じ物よ。今回は台帳ごと持ってきたって違いはあるけど」


あの時欲した名前は、なんの変哲もなく、そこにある。



「……どういうことだと思う?」





私は、何も言うことが出来ない。


526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 23:48:36.98 ID:e5Irjmzfo




その後、京ちゃんは至るところに見つかった。


部長と優希ちゃんは、高校の資料から。


染谷先輩と和ちゃん、私は、中学校の資料から。


京ちゃんの名前を、姿を。



527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/25(土) 23:54:41.33 ID:e5Irjmzfo


部長たちは、すっかり私が知っている部長たちだった。


名前がある度に京ちゃんらしいと言い、姿があれば知っている姿と比べて若いと言う。


部長が苦笑していた。



──変な話ね。知るために、とか言ってたくせに、こんなにも知っているなんて。



皆、覚えていなかったことも覚えている。

528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:02:02.02 ID:6tQxwIWDo

         ・ ・ ・ ・
ただ、あのおかしな状態のことだけは、靄がかったように曖昧な状態だった。


聞けば、それについて答えてはくれる。


だけど放っておけば、それらが当たり前のことだったとでも言うように放っておかれたままだった。

529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:05:24.09 ID:6tQxwIWDo


そして、忘れてしまったことについても、原因は相変わらず分かっていない。


どうして忘れてしまったのか。


いつ忘れてしまったのか。


4人が4人とも、それを覚えていなかった。

530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:11:40.96 ID:6tQxwIWDo


疑問は疑問のまま、更にいくつかの疑問を産み出して、今日は解散となった。


京ちゃんの名前があったことは、現状認識の上で大きな進展だと、皆で話す。


そうした会話もやはり静かで、落ち着いていて、全員が妙なもどかしさを感じていたようだった。





とはいえ、当初の目的は達成できたのだ。


私も、これで京ちゃんは居るのだと確信できた。


だけど。






京ちゃんが何処に居るのかは、分からないままだ。
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:21:01.33 ID:6tQxwIWDo





「ただいま」


その声は我ながらすごく冷静で、思わず苦笑する。

感情が未だに、妙な落ち着きに引きずられていた。


「おー、おかえり」


お父さんが、リビングの方からひょいと顔を出す。


「早かったな」

「んー、まあ」


曖昧に応えて、靴を脱ぎかける。

そんな私に、顔を引っ込めながらお父さんが言う。


「そーいや、なんか須賀さんがさっき来てたぞ。咲ちゃんいますかーって」

「え……なんだろ」

「さぁ。まあ、どーせ暇だろ。後で顔出してきな」

「いいよ、どうせだし、今行ってくる」


脱ぎかけた靴を再び履く。
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 00:22:29.10 ID:UoyLXJ5G0
他の面子が京太郎を全く知らないままだと色々と都合が悪いから
やっぱり他の面子も京太郎を知ってる事にしておこう、と咲ちゃんの都合に合わせた感じがして不気味だなぁ

533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 00:29:46.25 ID:4KOrT6pE0

ふと、永水の人達ならこういうことできそーだなーと思った
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 00:30:39.01 ID:KTQVtfeJo
>>532
京太郎どころかこの世界そのものが咲さんの無意識によって出来たものだった…?
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:32:27.59 ID:6tQxwIWDo


インターフォンの向こうから聞こえたのは、先日と違う声だった。


「宮永です、先ほどウチに来たって聞いたので……」

「……おお、咲ちゃんか」


低めの、男性の声。


「ああ、うん……どうしようか……」


私が来たことで、少し困っているようだった。

呼ばれて来たわけではないけど、先ほど私に会いに来たにしては、少し様子が変だった。


「……うーん、まあ、上がってもらおうか」


ちょっと待ってて、という声と共にインターフォンから向こう側の気配が消える。

536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:41:51.13 ID:6tQxwIWDo


玄関のノブが押され、ガチャリと音をたてて扉が開く。


「久しぶりだね」

「お久しぶりです」


出てきたのは、長身で筋肉質の日に焼けた男の人。




──須賀龍太郎さん。


京ちゃんのお父さんだ。

537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:48:06.64 ID:6tQxwIWDo


「……」

「……?」

「……まあ、上がって」


何かを言おうとして、結局はその言葉に落ち着いた。

そんな印象を受ける。


「……おじゃまします」


何となく気まずくて、そろそろと玄関をくぐる。

私が通ると、ムッとした熱気が室内の冷えた空気と混ざった。

そして、そのままリビングに入って、


「あ、」


という龍太郎さんの声に立ち止まる。
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:58:03.53 ID:6tQxwIWDo

目に入ったのは、ソファーの上で薄手のタオルケットに覆われた京香さんだ。


「……」


くぅくぅと、手を抱え込むようにしながら寝息を立てている。


「京香が寝てるんだ」


後ろで、そっと龍太郎さんが言う。

寝かせてやってほしいんだ、という言葉に、私も音を立てないようにリビングを出る。

その際、ちょっとした違和感を抱いた。

廊下に出てから、違和感の原因に思い至る。


──部屋の家具の配置が、変わってた?


そして、気になることがもうひとつ。


京香さんがなんだか、泣いた後のようで──。
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 01:16:36.52 ID:DflAKGdE0
京の字!!
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 01:16:42.73 ID:6tQxwIWDo


「あー……どうしようかな……」


私が考えている先で、龍太郎さんも考えをまとめているようだった。


「えぇと……うん。ちょっと、こっちで話そう」


そう言われて、付いていった先は二階の階段脇の部屋。

ここは──


「……ここがなんの部屋か、分かるかい?」

「京ちゃんの部屋、です」


言ってから、ハッとする。

龍太郎さんは、京ちゃんの事を京香さんから聞いたのだろうか。

聞いたのだとしたら、どう思っているのだろうか。

私の恐れに、しかし龍太郎さんは苦笑いを浮かべただけだった。

その苦笑いは、自嘲のようで、どこか辛い。


龍太郎さんが、ドアを開ける。
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 01:32:31.95 ID:6tQxwIWDo


そこは、以前私が来たときのままだった。

勉強机に、本棚、ベッド、ハンドボール選手のポスター。

比較する対象が居ないけれど、男の人にしては綺麗に片付いている、と思う。

本棚には申し訳程度の参考書、漫画、ハンドボールの本に、麻雀の本。

勉強机にはパソコン。

開かれっぱなしのクローゼットには、制服やジャケットなどが掛けられている。その下には木造の収納ラック。

ベッドの上は、普段は着替えなんかが放ったままになっているけど今は綺麗になっていて、これは以前と違うところだ。

ベッドの枕元には、目覚まし時計が一つ。



──私が京ちゃんの誕生日にあげた、目覚まし時計。

542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 01:33:24.27 ID:6tQxwIWDo


「どう掛けたものかな……咲ちゃんはそちらへ。俺はベッドでいいか」


怒られたらまあ、後で謝ればいい。

勉強椅子に腰を下ろすと、龍太郎さんがそう小さく呟くのが聞こえた。

私がそれに疑問を浮かべるより先に、


「──咲ちゃんは」


そう、静かに龍太郎さんが言う。

その姿が、京ちゃんと重なる。

京ちゃんはどちらかと言えば京香さん似だけど、ふとした時に、やはり龍太郎さんの子供なのだと思う。

20近くも、年離れた京ちゃんの姿。

543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 01:41:15.06 ID:6tQxwIWDo

重なる京ちゃんが、静かに言う。



「京太郎のことを、忘れては居ないんだね」



喉が、ゴクリと鳴った。

そうか、これが息を飲むということなんだ。

そんな場違いな感想が浮かぶ。

544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 01:55:10.09 ID:6tQxwIWDo


「龍太郎さんは」


恐る恐る、聞く。


「京ちゃんのことを、覚えているんですか?」


京香さんは、覚えていなかったのに?

私の言葉に、龍太郎さんは先ほどと同じ苦笑いを返す。

どこかに自嘲を抱えたような笑み。

部屋の中を見渡す。


「京太郎のことを思い出したのは、昨日なんだ」




「昨日まで、忘れていた──息子のことを」


ズキリと胸が痛んだ。

545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 01:57:19.90 ID:6tQxwIWDo



                                 



546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 01:58:37.46 ID:6tQxwIWDo


龍太郎さんは続ける。


「咲ちゃんは、さっき、この部屋が京太郎のものだってすぐに言っただろ?」


その手は、握り締められている。


「昨日まで、俺は──俺達は、この部屋の存在すら忘れていた。気づけなかった」


立ち上がり、本棚へと近寄る。


「咲ちゃんは、知っているのか?」


手に取ったのは、分厚い本。

それを開く。


「京太郎が、今何処にいるのか」


しっかりとした足取りでベッドに戻り、どしりと腰を下ろす。

京ちゃんのアルバムを開いて、そこから目を離さないまま。

547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 02:06:36.60 ID:6tQxwIWDo


「……私も、知らないです。──探しているんです」

「……そうか」


龍太郎さんは、ゆっくりとページを開きながら言う。


「そうだったな……京香のとこに来たのも、京太郎に会うためだったもんな」


しばらくは、ふたりとも無言だった。

只々、京ちゃんの写真が成長していくのを見ていた。

548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 02:16:08.74 ID:6tQxwIWDo


校門の前で私と並んで制服を着ている写真。

──授業参観の時だ。平日だというのに、龍太郎さんも休みを取って二人で来ていて、京ちゃんは嫌そうな顔をしていた。

   京香さんと龍太郎さんと、三人で撮った写真もその横にある。



ハンドボール部のユニフォームを着ている写真。

──初めての練習試合の時の写真。自分たちの中学だったから、私も応援に行った記憶がある。

   この練習試合は1年にも試合の経験を積ませるという目的のものだったようで、京ちゃんも出番があった。

   京香さんと龍太郎さんの喜びようは、写真の多さが語っている。

   活躍のほどは、まあ……時期が時期だけに、仕方ないことだけど。



カピを抱えた京ちゃんの写真。

──どこかで、京ちゃんが一目惚れしたらしい。

   龍太郎さんが連れて来て、京香さんが結構怒ったそうだ。

   怒った京香さんは珍しくて、龍太郎さんはそれにデレデレで、京ちゃんは呆れていたけど。



二年生に上がった時の写真。

──私と一緒に、お互いの家の玄関で撮った写真。

   うちのお父さんはこういうことを積極的にするタイプではないのだけど、私にもこうした写真が多いのは、つまり須賀家の存在に依るところが大きい。



ハンドボール部で初めてレギュラー入りした試合の写真。

──私も、須賀夫妻に誘われて応援に行った。

   出そうな試合にはたまに応援に行くことはあったのだけど、しばらくは予定が合わなくて久々に見に行ったのを覚えている。

   その時の京ちゃんは、正直、結構カッコ良かった。

   1年前のあのわたわたしていた姿は何処へやら、私にはもはや何が何やらのスピードで、コート内を駆けまわっていた。

   ちなみに、写真も一年前と比べれば枚数はかなり落ち着いている。1枚1枚の写りの良さは格段に向上しているけれど。


549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 02:27:37.38 ID:6tQxwIWDo


家でごろごろしている時の写真。


母の日、父の日のプレゼントを渡している写真。


旅行に行った時の写真。


遠足の写真。


自然教室の写真。


アイスを食べている写真。


海に行った時の写真。


修学旅行の写真。


かまくらを作っている写真。


私とこたつに入っている時の写真。


花見の時の写真。



高校の入学式の写真。


550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 02:28:45.55 ID:6tQxwIWDo





「なんで、忘れていたんだ」


ぽつりと、龍太郎さんが言った。



551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 02:33:48.11 ID:6tQxwIWDo


「京香の、様子が変だと思った」


落ち着いた様子の、言葉の静かさが、氷のようだ。


「いきなり、私たちには子供が居たんじゃないかって。あまりに辛そうな様子だったから、根気強く話を待っていたら、そう言った」



「そんなことがあるわけ無い。そう思った」




声が震えた。

気がした。

552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 02:39:53.80 ID:6tQxwIWDo


「でも、言うんだ。咲ちゃんが言ったことに、何一つ答えられなかった。心にはぽっかりと、理由の分からない穴が開いている」



「理性は、子供なんて居ない。そう言うのに、」






「──心が、子供を忘れるなと悲鳴を上げるんだと」





龍太郎さんは、冷静であるのに。

その言葉は、氷のようなのに。

熱を帯びている。
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 02:40:43.01 ID:6tQxwIWDo



「俺は、言われるまで気づかなかった。昨日まで分からなかった。何か足りない、そう感じていたにも関わらず、そう感じていたことが」



「写真を見た。京太郎が居た。階段の先に知らない部屋があった。京太郎の部屋だ」



「部屋を見た。リビングを見た。京太郎の記憶があった。京太郎から貰った記憶があった。京太郎と繋いだ記憶があった」




「──なんで、忘れられるんだ。なんで、京太郎が、俺たちは、なんで」


554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 02:45:16.33 ID:6tQxwIWDo


言葉が無い。

ただ、無言で居るしか出来ない私に、龍太郎さんは今気づいたようにハッとして、ゆっくり息を吐き、吸う。

乱れていない息を整えている龍太郎さんに、迷いながらも、聞く。


「……京香さんも、思い出したんですか?」

「……ああ。少し、大変だったよ」


苦笑する。

今度は、親愛の混じった苦味の笑み。


「少し、暴れてね。ものを散らして、机をひっくり返そうとしたところで、力が足りなくて少し動かして、次はソファーを少し動かしたところで力尽きたよ」


ああ、それで。


「だから、少し配置が変わってたんですね」

「覚えてたのか、凄いな」


女性はそういうのが得意だと聞いたことがあるけど、と表情が少し穏やかになる。

555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 02:51:01.45 ID:6tQxwIWDo


「まあ、そういうわけなんだ。京香は、少し寝かせてやりたい。同時に、少し京太郎のことから離しておきたいんだ」


京香さんは、体が弱い。

龍太郎さんの言葉で、さっきの事にも納得した。

京香さんが眠っている間に、私に話を聞きたかったのだろう。

家に来られて困っていたのは、京香さんが起きてしまうのではないかと思ったから。


「……その間に、もしかしたら、ひょこっと帰ってくるかもしれない」


誰が、とは言わない。

それは願望だった。

自分でも分かっているのだろう、それでも望まずにはいられない。

私も同じだから、分かること。

今にも、この京ちゃんの部屋に、ひょっとしたら──
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 02:51:32.08 ID:6tQxwIWDo


トン

557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 02:52:28.44 ID:6tQxwIWDo


階段を上がる音が聞こえた様な気がした。

二人は口を閉じる。

廊下は、誰かが上がってきたにしてはあまりにも静かだ。

外の蝉の音が急に大きく聞こえる。

耳をすませても、誰かが歩く音は聞こえない。


気のせいだったのか。






そう思ったら、ドアのノブが降ろされて──
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 02:53:40.66 ID:6tQxwIWDo




「──あ」


京香さんが、ゆっくりと顔を覗かせた。

分かっていた事なのに、そこに居た誰もが息を吐く。



「あぁ、咲ちゃん、来てたのね。ごめんなさいね、私、ええと、ちょっと寝てたみたいで」


京香さんが、落ち着こうとしているのが分かる。

559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 03:00:34.49 ID:6tQxwIWDo


「ちょっとね、ええと、誰か居る気がして、京くんが帰ってる気がして」


ぽろぽろと、涙が落ちる。



「ああ、ごめんなさいね、ええと、京くんって呼んだらまた怒られちゃうかしら、私、京太郎が帰ってる気がして」



椅子から立ち上がって、京香さんの手を取る。

龍太郎さんは、固まったように動かない。

握られた手だけが、震えているのが見えた。

京香さんの手は震えていない。

ただただ、冷たい。



「咲ちゃん、京太郎がね、」



膝をつく。

崩れ落ちる。

引き摺られるようにして、床に座る。




「京太郎が、どこにも」



嗚咽が、声を濁す。



「どこにも、居なくて」




「私、謝らないと、忘れちゃって、だから、いなくなった、のかなって」

560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 03:01:17.50 ID:6tQxwIWDo


「だから、わたし……あぁ」


京香さんの手が、私の頬を伝う。


「だめよ、咲、ちゃん……咲ちゃん、が、泣いたら、京くんも、泣いちゃうわ」


言われて、気づく。

私は、涙を流していた。


「あれ……なんで……」


拭っても拭っても、涙は止まらない。

京香さんが、私をぎゅうと抱きしめる。


「大丈夫……だよ、咲ちゃん」

561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 03:01:45.04 ID:6tQxwIWDo






──京くんは、すぐ帰ってくるよ。



562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 03:03:12.42 ID:6tQxwIWDo


その言葉に、私は。



「ぅぁ……っぁあぁ」



ようやく、重みを持つ。

京ちゃんはいた。

絶対に。

証拠があった。京ちゃんの足跡がたくさんあった。

それ以上に、確信させる。

心が、京ちゃんは居たのだと言っている。





涙は、止まらない。

563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 03:05:06.05 ID:6tQxwIWDo














──その夜、電話があった。





──お姉ちゃんからの電話だった。





──言いたいことがたくさんあって、何から伝えるべきかを迷っている間に、お姉ちゃんが言った。



564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 03:05:47.75 ID:6tQxwIWDo






「咲。明日は、空いてる?」





「詳細は、来てから。とにかく、来て欲しい」



565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 03:06:37.39 ID:6tQxwIWDo









「──鹿児島、霧島へ」







566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 03:19:29.11 ID:6tQxwIWDo
皆お待ちかね、永水女子のお時間です

というわけで以後、ラストまで書き溜めまする
現状は生存報告代わりにショート投下2票なんでショート投下予定
本編速度には全く影響ないですが、待ちの内に印象が変わるようなシナリオもあったりなかったりなんで念のため
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 03:28:18.83 ID:4KOrT6pE0

やっぱり永水の人達かー
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 03:35:43.91 ID:KTQVtfeJo
乙!
こういう系だとまず裏にいるのは永水になるよね
京太郎がいるはずなのに〜違和感で東亰ザナドゥ思い出した
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 09:06:51.63 ID:9VcPn1keo
困った時の永水頼み
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 09:16:27.20 ID:UoyLXJ5G0
よかった…迷い家に囚われたり妖怪ぽぽぽに連れ去られたわけじゃなかったのね
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