末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」(最終章と後日譚)

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35 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2015/12/11(金) 00:06:45.29 ID:t40CHnQU0
(次兄「……へへ、我ながら何言ってんでしょうね?」)

(次兄「己の夢を叶えるになるため、妹と離れて家を出ると宣言した兄なのに」)

(次兄「妹がどんどん大人になって行くのは寂しいとか」)

(次兄「野獣様にとって俺はどういう存在か、じゅうぶん身に沁みているのに、改めて思い知らされると悲しいとか、身勝手な……」)

(野獣「…………私にとっての『友』という存在では、やはり不服か?」)

(次兄「……」フルフル)

(次兄「人生における初恋の相手が基本的に一人しかいないのなら、初めての友達だって唯一無二の存在」)

(次兄「野獣様が俺にとってのそれであり、俺もまた野獣様のそれであると思ってもらえるのは名誉以外の何物でも……」)

(次兄「……………………」)

(野獣(黙ってしまった、また泣くのではあるまいな??)オロオロ)

(次兄「……うへへ、そう考えたらやっぱり俺は幸せ者ですね」ニパ)

(次兄「俺の涙なんて子供じみた独占欲の現れですよ」)

(次兄「いっぽう野獣様との出会いをきっかけに末妹は少しずつ一人前の淑女へと成長しつつある、今この時も」)

(次兄「俺も大人に、真の意味での紳士にならねば」)

(次兄「頼りないままでは美術学校を父親に認めてもらうのも困難ってものですよ、ねえ?」)

(野獣「……焦って早足で大人にならんでもいいのだぞ、しかし、私に言わせれば、お前は立派な……」)

(野獣「……」)

(次兄「ん? 『立派な』何ですか、野獣様?」)

(野獣「……うむ、立派な、変な奴だ」ニッ)

(次兄「わーい(棒)、なんとなくそんな予感はしていましたー」)

(野獣「ふっ、冗談だ。すまんな、ふふ……」)

(次兄「むー、野獣様ったら、お茶目さんなんだから!」)

(野獣「ははは……」)
 
36 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2015/12/11(金) 00:07:44.22 ID:t40CHnQU0

※今夜はここまで。イチャイチャ回(違)。うーむ、最近は2レス程度ずつしか投下できません…※
 
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/11(金) 03:02:49.15 ID:pTBoMmNAO
乙ー
38 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2015/12/13(日) 23:10:34.83 ID:ChTzkDMw0
(野獣「さて、末妹も呼ぼうか……」)

(次兄「いつもどうやってこの夢の世界に俺達を呼び出しているんですか?」)

(野獣「ああ、今からやって見せよう。まず、私の指で『仮想の窓』を開く」シュパ)

(次兄「おお、まるであの銀板鏡みたいなものが空中に」)

(野獣「これに、ここへ来て欲しい者の姿を映し出し、呼び掛けるだけだ」)

(野獣「……さあ、おいで、末妹……」)

(次兄「あ、『鏡』が少しずつ薄くなって消えて行く、いや、代わりに目を瞑った末妹の立ち姿に……?」)

(末妹「……」フワーン)

(次兄「末妹が宙に浮いてるうううう!?」)

(野獣「声が大きい、お前も覚えていないだけでいつもこうやって出て来るのだぞ?」)

(末妹「……」ストン)ユルヤカニチャクチ

(末妹「野獣様……?」パチ)

(野獣「こんばんは、末妹」ニコ)

(末妹「野獣様、こんばんは」ニコリ)

(末妹「……そして、お兄ちゃん」)

(次兄「おいっす」)

(野獣「二人とも、帰還のための旅支度は万全なようだな、すっかり旅慣れたものだ」)

(野獣「お前達と知り合ってから一ヶ月と半月以上…二カ月近くが経とうとしているが……色々な事があったな」)

(末妹「……ええ」コクリ)

(次兄「なんか振り返ると、この間に一生分の大冒険をしちゃった気分ですよ」)

(野獣「ふふ、私もだよ」)

(末妹「冒険、確かにそうですね」)

(末妹「私、野獣様と出会う前より…ずいぶん強くなった気がします。冒険物語の主人公のように」)

(次兄「……ま、まさかお前も素手で薪が割れるようになったのかっ!?」アワワワ)

(末妹「そうじゃなくて」)

(末妹「心の話、心の強さの話よ」)

(野獣「……お前は私と知り合う前から強い子だったよ?」)

(野獣「父親の身代わりに自ら怪物の住処に飛び込んでくる女の子など、そうそういない」)
 
39 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2015/12/13(日) 23:12:24.35 ID:ChTzkDMw0
(末妹「…私、あの頃はきっと何もわかっていなかった、怖いもの知らずの子供なだけだった、と思います」)

(末妹「それに、前より強くなったと言ってもまだまだですよ、私なんて」)

(末妹「もっと……例えば、次姉お姉さんのように強くなりたい」)

(次兄「や、やはり目指すは剛腕系女子なのかっ!?」)

(末妹「お姉さんの強さは…確かにそっちも強いけど…本当は別の所だと思う」)

(末妹「私の事も守ってくれたのもそうだし、部屋に閉じこもった長姉お姉さんの事をずっと支えていたのも」)

(末妹「うまく言えないけど」)

(末妹「……まるで、私の事を命がけで産んでくれたお母様みたいな、そんな強さ……」)

(野獣「末妹……」)

(次兄「でもさ、以前はそんなんじゃなかっただろ?」)

(次兄「派手好きな浪費家で、お前や俺への態度もツンのみで」)

(次兄「姉さんも色々あった中で、変わって行ったんだと思う……今の方が本質なのかもしれないけど……」)

(野獣「以前の次姉とやらは私はよくわからんが、その本質を引き出した……思い出させた、かな」)

(野獣「それは末妹や次兄の存在があってこそだ、いや、お前の家の者、皆がそうかもしれん」)

(野獣「……羨ましいな、家族とは良いものだ」)

(末妹「野獣様だって素敵な家族と一緒ですよ」)

(末妹「執事さんも、料理長さんも、メイドちゃんと庭師くんも……」)

(末妹「お屋敷の皆さんがいたから、野獣様は長年のひとりぼっちから抜け出せた」)

(末妹「皆さんは野獣様を支えて、野獣様は皆さんを守って、このお屋敷で」)

(野獣「家族……」)

(野獣「ああ、そうだな。あの者達は私の大切な家族だ、紛れもなく……」)

(末妹「そして、今は…師匠様と菫花さんも」)

(野獣「……うむ、叱咤激励(時には罵倒)してくれる父親と、成長を見守って行く…なんだろうな、弟のような、息子のような…?」)

(末妹「ですから、家族の皆さんのためにも、野獣様はお元気でいてください」)

(末妹「私達が家に帰っても、寂しさのあまりご病気になったりでもしたら、叱りに来ますからね?」)

(野獣「ふふふ…末妹も言うようになったではないか」ナデナデ)

(末妹「えへへ…」)

(次兄「お、俺もそんなことになったらペロペロしに来ますからねっ!?」)

(野獣「う、うむ、次兄は相変わらずだな」ワシャワシャ)
 
40 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2015/12/13(日) 23:13:32.38 ID:ChTzkDMw0

※ここまででした。前回の続きと次回も続き、そこそこ長い一夜の話になりそうな、もうちょっとと言いながら…※
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/14(月) 03:48:54.03 ID:H/Nd+YpAO
一番芯が強いのは末妹だと思うけどな
次兄は強いんだか弱いんだかよく分からんww
42 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2015/12/15(火) 23:07:27.99 ID:kqUUF1Lu0
(次兄「必ずまた、会いに来ますよ。父親に将来の話をした結果も、俺自身の口から直接伝えたい」)

(野獣「……うむ、私も次兄自身から聞きたいよ」)

(野獣「頑張るのだぞ、願わくば……お前の夢が、良い形で叶うことを」)

(次兄「ありがと、野獣様」ケヘヘ)

(次兄「……さて、俺は体力もないことだし、明日に備えてもう寝ましょうかね」)

(末妹「もういいの?」)

(末妹(今夜の夢の世界から出てしまったら、野獣様としばらく会えないのに……))

(次兄「うん、寝る前にも話したけど、またの機会に取っておくさ」)

(次兄「おやすみなさい、野獣様。末妹、限られた時間だけど、楽しい思い出を作ってね?」)

(末妹「お兄ちゃん……」)

(次兄「それからね、やっぱり末妹が我が家では誰よりも強い人間だと思う」)

(次兄「次姉ねえさんだって、末妹よりも自分が『強い』なんて思っていないさ」)

(末妹「……次姉おねえさんも、確かにそう話していた事はあるけど……」)

(次兄「自分ではなかなか気が付かないもんだよ」)

(次兄「じゃあ二人とも、今度こそ本当におやすみなさいまし」)

(野獣「明日の道中、末妹の事をしっかり頼むぞ? 頼れる兄としてな」)

(野獣(次兄、お前だって自分では自分の強さに気付いていない))

(野獣(……図太さなら自覚して開き直っているようだがな))

(次兄「では、眠りの呪文いっちょお願いしやす」ペコリ)

(野獣「わかった。 おやすみ、次兄。 またな……」ポワンワ)

(次兄「ほぇぇ、この瞬間がね……きもちぃのぉ……」ホワンワ)

(次兄「……お先に失礼、末妹……」ムニョ)

(末妹「おやすみなさい、お兄ちゃん」)

(末妹「……柔らかい光に包まれて、消えて行く……」)

(末妹「野獣様が私達を見送る時、いつもこう見えているのですね」)

(野獣「ああ、この後は朝までぐっすりと眠っているよ」)

(野獣「さて、末妹。少しの時間だが……」)

(末妹「ええ、ほら、私もう着替えてしまいました、あのドレスに」イッシュンデデキルカラ)

(野獣「おやおや、今夜はお前からダンスに誘ってくれるのかい?」フフ)

(末妹「はい、私と踊っていただけますか、野獣様?」ニコッ)
 
43 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2015/12/15(火) 23:08:06.85 ID:kqUUF1Lu0

※短いけど今夜はここまで。次兄は強いというより図太いのかもね、です※
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/16(水) 00:25:24.17 ID:fLqbhc/AO
乙やで
これが最後のダンスシーンなのかな
45 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2015/12/19(土) 23:36:35.45 ID:OYvgmtg50
…………

次兄の客間。

次兄「……すやすや」

次兄「んむう…わかりましたぁ、野獣さまあ…むにょ」

次兄「ぱんつ、パンツは毎日取り換えますぅ…だから怒らないでぇ…ぐうぅぅ」

寝言の夜は更けて行く……

…………

(野獣「ふふ、では…私も着替えようか。場所もバラ園に……」ハヤガワリー)

(オルゴール:♪〜〜♪〜♪♪〜♪〜〜)

(野獣「舞台が整った、さあ」)

(末妹「……はい!」ニコッ)

(〜♪〜♪〜)

(野獣「……お茶会の様子、私も見ていたぞ。お前達なら安心して魔法の鏡を預けることができる、師匠も同じ気持ちだ」)

(末妹「何もかも、次兄(あに)の頭の良さと意志の強さです。私は兄について行くだけ」)

(野獣「次兄が強いのは、お前という妹がいてこそだよ」)

(野獣「……何度でも言う、この時代で出会った人間がお前達で、本当によかった」)

(野獣「『友』がいる喜び、使用人達を改めて家族として大事に思う気持ち、それから……全てお前達のお陰で呼び覚まされた」)

(末妹「私も……さっきも話しましたが、色々な事があって、皆さんとの出会いがあって」)

(末妹「……お陰でちょっとだけ変われた…大きくなれたような気がします」)

(末妹「背はちょっとも伸びていませんけど」ボソ)

(野獣(ううむ、気にしているのか……お年頃なのだなあ))
 
46 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2015/12/19(土) 23:37:36.83 ID:OYvgmtg50
(野獣「そのドレスだが……実は、お前が今より成長しても着られるようになっているのだ。気付いていたか?」)

(末妹「え、これがですか?」)

(野獣「装飾のためにしか見えない折り返しだが、伸ばすことができる。多少の裁縫の技術があれば簡単に直せる」)

(野獣「そうだな、最大で身長150センチの、標準体形までは」)

(末妹「ひゃくごじゅう…………」)

(野獣「ハッ」)

(野獣「い、いや、お前の将来の身長がそこで頭打ちという意味ではないぞ!?」)

(野獣「当初の予定では毎年ドレスを送るつもりだった、成長期なら1年間でどれほど大きくなるかわからんではないか!?」)

(末妹「……私、この先、140センチにもなればいいほうかなって思っていたんです」)

(野獣「……は?」)

(末妹「でも、今のお話を聞いて、150センチまで、今より17センチも大きくなれたらいいなって」)

(末妹「野獣様の仰るように、このドレスの限界まで背が伸びたらいいなって、思ったところ……」クス)

(末妹「でもさすがにそれ以上は伸びないと思いますから、新しいドレスは必要ありませんよ」)

(末妹「だいいち、私にはこれが世界一素敵なドレスですもの、後にも先にも」)

(野獣「毎年新しいドレスというのは、別に体形が変わるからって意味ではないのだが」)

(野獣「お前の姉達も、町のちょっといい家の娘達も、何着でも持っているのではないか?」)

(野獣「……しかし、お前はドレスより宝石より……花一輪が嬉しい娘だったな」)

(末妹「ええ、ですから……またお花の季節にここへ必ず来ます」)

(末妹「前庭で、バラ園で、生まれた場所で瑞々しく咲き誇るお花を、メイドちゃん達や…野獣様と…一緒に見たいのです」)

(野獣「……楽しみにしているぞ。庭師にも、今まで以上に頑張って仕事をしてもらわんとな」)

(〜♪〜♪〜)

 
47 : ◆54DIlPdu2E [sage]:2015/12/19(土) 23:38:11.79 ID:OYvgmtg50

※今夜はここまで。読んでくれてありがとうございます※
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/20(日) 02:38:16.91 ID:pm8GNbdAO
おっつ
150センチに望みをかける末妹ちゃん可愛い
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/23(水) 16:46:21.67 ID:SydOuZwAO
野獣様ちょっと気が利き過ぎて怖いっす!
50 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2015/12/23(水) 22:35:12.54 ID:pPeh+7SJ0
(〜♪〜♪〜)

(末妹「……ねえ野獣様、次兄(あに)は画家になれると思いますか?」)

(野獣「きっとなれる。信じている。その時が来るのが楽しみだ」)

(末妹「私もです」)

(末妹「そして、将来の夢を見つける事ができた兄が羨ましい……」)

(野獣「お前は店を継がないのか、いや、しかし、そうか、店を継ぐのは上の兄か」)

(野獣「次姉も商売の才能に目覚めているようだし……」)

(末妹「うちの店の手伝いは楽しいです、だけど最近」)

(末妹「もしかしたら他に『これだ!』って思えるような仕事があるかもしれないって…そう考えてしまうのです」)

(野獣「自分の将来をあれこれ考え始める年頃でもあるのだな」)

(野獣「お前もこれから見つける事が出来るだろう、まだ決まっていなくてもおかしくはないさ」)

(末妹「……でも野獣様、私も少しだけ……見えてきました」)

(野獣「うん? 見えてきた?」)

(末妹「ええ、これはまだ誰にも言った事はありませんが」)

(末妹「……私、人を教える仕事ができたらいいなって、思うようになってきました」)

(野獣「ほう、乗馬学校の教官にでもなるのかね?」)

(末妹「ふふ、馬は基礎の基礎がせいいっぱいですよ、しかも私によく慣れたうちの馬(こ)が一緒でなくちゃ」)

(末妹「…でも菫花さんも、きっかけのひとつです」)

(末妹「他には、少しお話しした事がありますが、私の友達……友3ちゃん」)

(野獣「お前が勉強を時々教えてやっている同級生だったな」)
 
51 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2015/12/23(水) 22:36:47.10 ID:pPeh+7SJ0
(末妹「二人とも頑張る気持ちがあって、私は少しお手伝いをしただけ」)

(末妹「…私なんかよりもっともっと優秀で教えるのが上手な人はたくさんいるのでしょう、それでも」)

(末妹「私の教え方が『合っている』という『生徒』が他にもいるのだとしたら……」)

(末妹「まだ見ぬその子達のお手伝いがいつかできたら素敵かな、って」)

(野獣「……ああ、それは素敵だな」)

(野獣「私がかつて人として生きていた時代は、学問とは限られた者のための厳しく狭い道だったが」)

(野獣「今の時代、そしてこれからは、貧しい者や幼い者にも学ぶ場は必要になって行く」)

(野獣「末妹のような優しく根気強く教えてくれる教師も、今まで以上に必要とされるだろう」)

(末妹「優しいだけじゃ務まらないのも知っていますよ?」)

(野獣「ふふ、お前だったらそれも心配ない」)

(野獣「必要とあらば厳しくなれるさ、今から既に……怒らせたら実におっかないからな?」)

(末妹「おっかないって…やだ、野獣様ったら!」)

(野獣「ほぅら、怖い怖い」クワバラクワバラ)

(末妹「もう、知りません!!」プイッ)

(野獣「おや、本気で怒らせてしまったかな」)

(末妹「……」)

(末妹「…………くす」)

(野獣「お、笑ったな?」)

(末妹「わ、笑ってなんかいません…ふふふ…」)

(野獣「ふ、からかって悪かった、ははは……」)
 
52 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2015/12/23(水) 22:40:12.21 ID:pPeh+7SJ0
(末妹「笑いながら謝っても許しませんよ、ふふ、あははは……」)

(野獣「おいおい、お前もどう見ても怒っていないではないか…はは」)

(野獣「……やはりお前には笑顔が一番だな、末妹」)

(末妹「誰だって同じですよ、野獣様も」)

(末妹「……初めてお会いした頃は、野獣様の表情が私にはわからなくて」)

(野獣「そりゃ、生まれて初めて見る毛むくじゃらの怪物の表情はわかりにくかろう」)

(末妹「怒っていらっしゃるのかな、もしかしたら今のは笑われたのかしら、とか」)

(末妹「考えないとわからなくて、いえ、考えても的外れだったのかもしれませんが」)

(末妹「いつの間にか……ごく自然に」)

(末妹「野獣様の笑顔がわかるようになっていました」)

(末妹「……そして、野獣様が笑ってくださると、私は嬉しいです」)

(野獣「末妹」)

(末妹「もちろん私だけじゃないですよ、執事さん達だって野獣様の笑顔が好きだと思います、絶対」)

(末妹「……次兄(あに)は『睨まれたい』とかたまに呟いていましたが」ボソ)

(末妹「……」)

(末妹「だから私、今回は泣かずに、笑って野獣様ともお別れします」)

(末妹「野獣様も、笑顔で見送ってくださいね?」)

(野獣「うむ、約束しよう」)

(野獣「だが、そのためにも、もう少しだけこのまま一緒に踊っておくれ?」ニコ)

(末妹「ええ、もちろんです」ニコ)

(〜♪♪〜♪〜〜♪)
 
53 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2015/12/23(水) 22:42:16.94 ID:pPeh+7SJ0

※今回ここまで…細切れ投下だと色々作者の記憶がげふんげふん※

>>49
それだけ末妹を屋敷に迎えるのに気合が入っていたという事ですん
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/24(木) 04:33:52.48 ID:fh8Cd/dAO

先生か。ぴったりだな
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/25(金) 04:50:04.91 ID:WsrUwfzAO
>>1
めりくりでやんす
前スレのだけどよろしければドゾー

http://m1.gazo.cc/up/25434.jpg

すごく良いシーンだなと思いました(小並感)
56 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2015/12/27(日) 02:07:40.45 ID:YHo0sFHs0
(野獣「それで……帰ったら父親に、教師になりたいという話をするのかね?」)

(末妹「ええ、私は来年で15歳になるので、今の学校に通えるのはあと1年くらいなのですが」)

(末妹「その後の進路について、卒業までに決めなくてはならないので」)

(末妹「いずれにせよ、そろそろ父とそういう話をしなくてはならない時期なのです」)

(野獣「ふうむ、それならば特に改まる必要もなく、自然に将来の話ができるわけだな」)

(末妹「……同級生の中でも、将来の事をはっきり決めている子達と比べたら、遅いくらいですけどね」)

(末妹「父は以前から『お前が望む道に進めばいい』と言ってくれています」)

(末妹「私達の先生が前にお話ししてくださった事がありますが、先生になる方法はいくつかあって」)

(末妹「方法によっては、きっと父も賛成してくれると思います」)

(野獣「つまり、必ずしも今の家を遠く離れるとは限らない、というわけか」)

(末妹「……やっぱりそれがうちの父にとって重要だって、野獣様にもわかりますか?」)

(野獣「そりゃあな、商人の人柄と言うか、お前への接し方を知れば…」)

(野獣「……」)

(野獣「……今ならば、彼がお前を、親が我が子を慈しむ心がどんなものか」)

(野獣「バラを折った行為を咎めた時とは比べ物にならぬほど、私にも理解できる…少なくともそのつもりでいる」)

(末妹「野獣様」)

(野獣「四週間前に、末妹と次兄とは二度と会わぬつもりで家へ帰した時は、お前たち家族への罪悪感でいっぱいだったが」)

(野獣「今はそれとは別の想いがある」)

(野獣「よくぞ再び、ふたりをこの屋敷へ送り出す事を許してくれたと……」)

(野獣「どれほど感謝しても足りないほど感謝している、お前達の父…お前達の家族に…心から」)

(末妹「ええ、野獣様……」コクリ)
 
57 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2015/12/27(日) 02:10:34.46 ID:YHo0sFHs0
(末妹「……野獣様、私、『ごめんなさい』って言葉はとても大切だと思っています、でも」)

(末妹「『ありがとう』に言い換える事が出来る『ごめんなさい』なら、そうした方がもっと素敵かな、って…そうも思います」)

(末妹「野獣様が私の家族に向けてくださるお気持ちが、今は罪悪感よりも感謝だ、って」)

(末妹「…そのお言葉がすごく…嬉しいです」ニコ)

(野獣「……そうか」フフ)

(野獣「お前は本当に……私の中のあらゆる『正の感情』を呼び覚ましてくれる」)

(野獣「何度でも言おう、末妹に出会えて、よかった」)

(末妹「私もですよ」)

(野獣「……話は尽きぬ、名残惜しいが夜は無限ではない、夜明けが近付いている」)

(野獣「しかし、また…そう遠くない未来に再会できるのだ」)

(野獣「約束通り、笑顔で今は別れよう」)

(末妹「ええ、必ず会いに来ます、またここへ」)

(野獣「さあ、目を閉じて……」)

(末妹「はい……おやすみなさい、野獣様……」)

(野獣「ああ、おやすみ、末妹。また会う日まで、どうか元気で、そして、お前の夢が叶うように……」)

(末妹「野獣様も……お元気で……」)

(野獣「……よ。……は……私の…………」)

…………



   眠りにおちる直前、それは本当に野獣様から出た言葉だったのでしょうか

   わからないけれど、でも

   目覚めた私の胸には、暖かくて幸せな想いが残っていました……



   『末妹よ。お前は、私の……生涯二度目に恋をした女性だ……』

   『だからこそ、どうか、お前の生きる世界で幸せになってくれ、幸せでいてくれ……』



…………
 
58 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2015/12/27(日) 02:11:37.96 ID:YHo0sFHs0

※ここまで…野獣の出番、後でもうちょっとあります。主に師匠とですが※


>>55
クリスマスプレゼントありがとうありがとうありがとう、転がりたいほど嬉しいよおおおお
末妹は相変わらず可愛いし次兄の目が開いているし王子まで描いてくれて、たまらんとです
 
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/27(日) 03:40:13.17 ID:IeE1xGOAO

末妹ちゃんの感性はとても素敵だ

>>58
次兄の目てww
確かにギャグ顔ばかりだったもんなww
60 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2015/12/28(月) 22:07:35.44 ID:nEDCdNYl0
※お知らせのみ※

諸事情により、次回更新は年明けになります。トシヲマタグトハオモワナカッタヨ
体調は問題ないのですが色々重なりまして……
というわけで、今年はありがとうございました。皆様どうかよいお年を!!ノシ
 
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/30(水) 00:54:16.60 ID:Ire3joAAO
了解
良いお年を〜
62 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/04(月) 05:57:06.13 ID:20PMlkgAO
>>1
明けましておめでトーマス
昨年は素敵なSSに出会えて良い一年でした
今年も引き続き応援しております

http://m1.gazo.cc/up/25775.jpg
完結までガンバッテネ
63 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/01/10(日) 21:31:34.71 ID:ikZOb3it0
翌朝、6時20分。次兄の客間。

次兄「……別れの朝、せめてカラッと秋晴れならばよいものを」

空:どんより

次兄「なんだと言うのだ、この曇天と来たら」

次兄「空一面、まるで俺の虹彩のごとき渋い灰色ではありませんか……」ハァ

次兄「…………とか言って」

次兄「わかっております、空の色にかこつけているが、窓の外を見る前から消沈しているのは我が心だ、と」

次兄「末妹に笑顔で別れようねって言ったのはどの口だ、この口かぁ!?」ムニュイイイイイイイ

次兄「……痛ぇ」ヒリヒリ

次兄「うむ、一時のちっぽけな感傷など吹っ飛んでしまうがよろしい」

次兄「最後の一瞬まで執事さんの姿でもこの網膜に焼き付けておく方がよほど有意義というものです」

次兄「さて、元気よく着替えて顔でも洗って来ましょうかね!」

……

末妹の客間。

末妹「……ぐっすり眠れたわ、着替えて顔を洗ったら、ご飯の前に馬さんの顔を見てこようかな?」

末妹「曇っているけど、雨は降っていない、よかった」

末妹「……」

末妹「私達が何をしていても、何を思っていても、こうして朝はやって来る」

末妹「皆さんと笑顔でお別れ、そして笑顔でお父さんの所に帰る……」

末妹「…うん、大丈夫、できる」コクリ

末妹「私は大丈夫です、約束守れます、野獣様」

末妹「野獣様も夢の世界から笑顔で見送ってくださいますよね?」

末妹「さあ、お兄ちゃんに会ったら元気に『おはよう』って言わなくちゃ!」

……
64 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/01/10(日) 21:32:26.52 ID:ikZOb3it0

※ことよろ。またぼちぼち更新再開します、もうちょっとですが。今回はとりあえずこのスレに帰還報告※

>>62
ジャパニーズキモーノ! キュート(&一部変態)な初詣ありがとう!!
65 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/12(火) 00:43:18.94 ID:6GaGPrJAO
再開乙
次兄の煩悩は108どころじゃないんだろうなぁ(諦め)
66 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/01/18(月) 23:17:47.17 ID:1PVYLXax0

※再開と言いつつ諸々でなかなか腰据えて取り掛かれません、今週どこかで更新します※
67 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/19(火) 03:50:03.23 ID:CSXTgJSAO
お待ちしております
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/23(土) 23:24:40.46 ID:TY9NcW+AO
今週が終わりそう
69 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/01/24(日) 23:06:34.13 ID:8jRa9Vhj0
馬の繋がれた東屋。

末妹「あ……」

馬「ひん!」

庭師「おはようございます。末妹様!」

王子「おはよう、末妹さん」

末妹「おはようございます、菫花さん、庭師くん」

末妹「……朝のお世話を、すっかりお任せしちゃったみたい」

末妹「もう少し早起きすればよかったかしら……ごめんなさい、ありがとう」

王子「この子、今日はすごく調子良さそうだけど……末妹さんから見てどうかな?」

末妹「ええ、お見立て通りですよ。毛艶も目の輝きも上々です、それにご機嫌で、だけど落ち着いていて」ポンポン

馬「ぶるる♪」

王子「よかった、僕も少しは馬を見る目が養われて来たかな……」

「庭師くーん! こっち手伝ってー!!」

庭師「あれ、メイドちゃんの声だ。どこから呼んでいるんだろ?」

末妹「庭師くん、あの窓」

メイド「あっ、菫花様と末妹様、おはようございます!!」ペコン

メイド「庭師くん、手と足を洗って厨房に来て!!」

庭師「わ、わかったよ! すみませんお二人とも、僕戻りますね!!」シュタタッ

末妹「馬さんのお世話ありがとうね、庭師くん」

王子「また後でね」

馬「ひん」

王子「……」

王子「本当にいい馬だった、この子に会えてよかった」ポン

王子「おかげで自分の馬(と言うか騾馬)を持つ事に自信が持てるようになった」

末妹「菫花さん」
 
70 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/01/24(日) 23:10:01.86 ID:8jRa9Vhj0
王子「もちろんどんなに素質の良い馬が来ても、心を開いてくれるかは乗る人間しだい」

王子「お互い感情のある生き物、ましてや僕はこんなに未熟者、だけど」

王子「諦めずに、時間はかかっても、良い関係を作って行きたい」

王子「君も言ってたでしょう?」

王子「『相手に気持ちを伝え、相手を受け入れて、それは時には大変かもしれないけれど、そうして私達はわかり合える』」

王子「馬と付き合う時も同じ……ではないかと」

末妹「ええ、私もそう思います」コク

王子「そう考えるようになれたのも、君のおかげですよ。僕の馬の先生というだけではなく」

王子「末妹さん、そして次兄君、二人にはどれだけ感謝しても足りません」

王子「いえ、二週間前に目覚めてからの全ての出会いにも、だけど」

王子「……君と次兄君がこの屋敷の外から来た人、初めて出会った外の世界の人、そして」

王子「屋敷の皆さんが家族なら、君達は初めての友達」

王子「屋敷の皆さんが僕に我が家をくれたのなら、君達がくれたのは」

王子「『我が家』の外でも頑張れる、まだ見ぬ出会いを恐れない、そのための『勇気』」

末妹「私達が、勇気を……?」

王子「何度でも言います、ありがとう」

末妹「菫花さん」

馬「ひひん!!」カオスリスリー

末妹「きゃ、馬さん」スリヨラレ

末妹「ふふ、構って欲しかったのね」ナデナデ

王子「ごめんね、無視していたわけじゃないんだよ」

末妹「……朝ごはんの後にまた来るわ。いよいよ帰りの旅支度」

末妹「久しぶりに馬車を引いてもらうけど、よろしくお願いね、馬さん」ポン

馬「ひひんひんー」マカシトキー

王子「それじゃあ、道具を片付けて、と……」

師匠「おお、やはりここにいたか」

馬「ぶるる?」

王子「師匠」
 
71 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/01/24(日) 23:13:00.73 ID:8jRa9Vhj0
末妹「師匠様、おはようございます。菫花さんにご用ですか?」

師匠「君にも、だよ。二人に、いや、君の兄さんも入れて三人に」

末妹「?」

師匠「執事がな、今朝は朝食の準備に少しばかり時間がかかりそうで、と」

師匠「普段通りにしても早い時間ではあるがな。とにかく」

師匠「馬の世話の道具は片付いたか?」

師匠「よし、手と靴を洗って、と」ポワン

末妹「あ、水が手に、足元にも?」シャワワワ

王子「師匠の魔法ですね、これ」パシャパシャ

末妹「水が動いて、こぼれもせずに手や靴を包み込んでくるくる回ってる……」

師匠「ここから井戸へ行くより手っ取り早いからな」ポヨン

末妹「今度は熱くもないのにみるみる乾いて行く、不思議」シュゥゥ

王子「師匠の魔法は、相変わらずなんでもありですねえ」

師匠「儂には使えても、お前には教えていない魔法なぞいくらでもあるからな」

師匠「さて、屋敷に入ろうか」

末妹「後でね、馬さん……」

馬「ひん」



屋敷の中。

次兄「……で、用ってなんです、おっさん?」

師匠「君の今朝の寝癖は一段と…とんがっているだけならまだしも、捻りが加わって」

師匠「……まあよいわ。昨夜…もう明け方か、とにかく野獣に呼ばれてな、夢の中に」

次兄「野獣様が!?」

末妹(私とお別れした後ね……)

師匠「早い話、ひとつ頼まれた」

王子「頼まれた?」

師匠「皆ついておいで、詳しくはそこで話す」

末妹「……」
 
72 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/01/25(月) 00:04:21.81 ID:bLE3/ISO0
とある部屋の前。

王子「……ここは……!」

次兄「このあいだの菫花さんの試練の部屋じゃないですか」

末妹「……王様と王妃様の、肖像画のお部屋……」

師匠「君達兄妹、この時代に生まれた人間には、単なる芸術作品だ」

師匠「少年」

次兄「お、俺?」

師匠「著名な画家の遺した、200年以上も歴史に埋もれ存在を殆ど忘れ去られた作品を」

師匠「芸術家の卵であるお前に見せたいと、野獣が望んでいると聞けば…どう思う……?」

次兄「……」

師匠「少女よ、君も」

師匠「野獣が菫花と共に乗り越えたものが何であったか、それを知って欲しいと」

師匠「野獣が望んでいるとすれば、どうする……?」

末妹「野獣様が……」

王子「……」

師匠「菫花よ、前にも言ったが、お前はこれからいつでもここに入るか入らないかを自由に選べる」

師匠「……そして、お前が拒むのならば、この子達を入れない事もできる、と」

師匠「これも野獣は言っていた」

王子「……師匠」

王子「拒む理由なんて、ありませんよ」

王子「絵は絵です、僕だってもう普通にこの部屋に入れます、友達と一緒に」

師匠「……ほう」

師匠「お前も一緒に、か。これは儂にも奴にも予想外だったかな」

王子「二人とも、僕からもお願いです、どうか一緒にこの部屋に」

師匠「儂もご一緒していいかね」

次兄(断る理由もないし断っても来るのがおっさんですよねー)

末妹「……お兄ちゃんは……」

次兄「うん、俺は見てみたい、いろんな意味でね」ニヘ

末妹「……じゃあ、私と同じね」ニコ
 
73 : ◆54DIlPdu2E [sage]:2016/01/25(月) 00:04:54.80 ID:bLE3/ISO0

※ここまで。遅れてすみません、たいへんお待たせしました…… 来週じゃなくて今週、可能であればあと1回は※
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/25(月) 00:18:58.60 ID:/Iv3xwcAO
待ってて良かった乙
ずーっと思ってたけど魔法便利過ぎうらやま
でも頼り過ぎるとダメ人間になっちゃいそう
75 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/01/30(土) 01:29:50.88 ID:bj+dknBb0
朝食準備中の厨房。

庭師「ジャガイモ裏ごしたよ、これどうするの!?」

メイド「それはポタージュにするから、こっちに持って来て!!」

料理長「ふう、朝食にしては品数を増やしたので我ながらどうなるかと思ったが、ふたりのおかげで間に合いそうだ」

料理長「さてと、焼き上がり時間を逆算して……秋野菜と森のキノコのキッシュ、そろそろ、かまどに入れようか」ガチャリ

庭師「料理長さん! 僕が削ったチーズ忘れてる、焼く前にかけなくちゃ!!」シュババッ

執事「……食卓のセッティングは終わった。何か手伝おうか?」ガチャ

メイド「執事様!! 丁度よかったぁ、そこの木べらを取ってください!!」

執事「ああ、これか? 確かにこの高さではお前には届かないな」カチャ

メイド「そっちじゃないです! 右のほう!!」

執事「こっちだって木べらだろう」

メイド「とろみの濃い汁物を混ぜるのには穴あきの木べらが混ぜやすいんです!!」ピョンピョン

執事「そ、そうなのか? 悪かった、ほら、穴あき」スチャ

メイド「もう、執事様のせいでポタージュが焦げ付く寸前でしたよ!!」マゼマゼ

執事「……わたくしのせいなのか??」

庭師「火に掛ける前に用意してなきゃ駄目だよメイドちゃん……僕に言えば棚によじ登って取ったのに」

料理長「メイドちゃんや、張り切るのは良いが、料理はいつも通り落ち着いて取り組まないと」

メイド「むぅ……だって、末妹様に召し上がっていただくお食事は、今回で……」マゼマゼ

執事「気合が入ってしまうのは仕方ない、お前の気持ちもわかる」

メイド「……執事様には失礼な事を言ってしまいました……ごめんなさい」ペコリ

執事「わたくしの事は気にしなくて良い、美味しい料理を仕上げるほうに心を配れ。末妹様達に喜んでもらえるようにな」

メイド「はい!」マゼマゼ

料理長「わしが普段より時間がかかる献立を選んだばかりに、焦らせてしまっているのですよ」

執事「最大で、どれほど遅くなりそうだ? 料理長」

料理長「最大……15分弱といった所でしょうか」

執事「それならば問題ないな、いつもより多少遅くなっても構わないと師匠様も了承済みだ」

執事「師匠様から菫花様と次兄様、末妹様にも説明しておいてくださるとのことで」

執事「朝食待ちの時間を利用してお三方にご用があるとか……」

76 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/01/30(土) 01:32:08.92 ID:bj+dknBb0
肖像画の部屋。

ドア:ガチャ…

次兄「…………暗い」

王子「窓に他の部屋よりも分厚いカーテンがかかっているので」

師匠「手っ取り早く魔法で開くか」指パッチン

カーテン:スルスルスル……

次兄「おお明るくなった、いよいよ名画とのご対め……ん?」

末妹「お部屋の中はよく見えるようになったけど……」

次兄「絵はどこっすか??」

師匠「肖像画が描かれた当時から、埃や日光から守るために覆いがかかっているのだ」

師匠「ほら、そこの壁。覆い布とさほど変わらんサイズの絵がこの下にある」

末妹「これが……だとすればすごく大きな絵が、ここに……」

次兄「さすが王様、巨匠画家においくら積んだのかしら」

王子「……」

王子「…皆さん、もう少し近付いて」

末妹「え、ええ……」

次兄「うーん、これだけでかい絵だと近過ぎるのもな。このくらいがベストポジションか」ビチョウセイ

師匠「妥当だな」

師匠「さて、魔法で御開帳と行くか」

王子「待ってください」

王子「僕が開けます。この紐を引いて」

末妹「菫花さん」

師匠「そうだな、お前が開いてくれ」

師匠「……」

……

師匠の回想、明け方の夢の世界……

(野獣「……師匠」)

(師匠「なんだ、儂を呼び出したりして」)

77 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/01/30(土) 01:34:17.44 ID:bj+dknBb0
(師匠「少女との…兄妹との別れは済んだか?」)

(野獣「ええ」)

(師匠「寂しいだろう?」)

(野獣「……二人とも笑顔でここを発ち、笑顔で家に帰り、そしてまた…笑顔でここに来てくれますよ」)

(野獣「だから私も悲しい顔はしません」ニコ)

(師匠「ふふ、強がりおって」)

(野獣「菫花がずいぶん頑張りましたから、私とは違う数十年をこれから歩き出すために」)

(野獣「だから私だって負けずに頑張り通します」)

(師匠「確かに頑張ったわな、あいつにしては、と前置きが必要だが」)

(野獣「大抵の人にはどうってことない行為が、彼、いえ、彼と私には確かに試練でしたよ。馬に乗る、外の世界に踏み出す」)

(野獣「……両親の肖像画に向き合う」)

(師匠「あいつは『絵は絵』だと、『今度は普通にここへ立ち入れるようになる』と言った」)

(師匠「お前にとっても、そうか? 仮想の窓の術であの部屋を覗けるか?」)

(野獣「……半分は菫花の強がりでしょう」)

(野獣「それでも、次に入る時はもう倒れるほどの圧力を感じる事もないでしょう、その程度には間違いなく強くなった」)

(野獣「しかし私には……未だに……」)

(師匠「ん?」)

(野獣「……件の絵ですが、屋敷に師匠や菫花が暮らしているうちはともかく、数十年後、百年後」)

(野獣「あの絵を後世に残すべきか、世間に忘れ去られたまま静かに葬るべきか」)

(野獣「私は菫花が絵に向き合ったあの日以後、何度かそのことを考えました」)

(野獣「そして描いた画家の意志は、私にはどう考えても……願わくばなかった事にしたかった、としか」)

78 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/01/30(土) 01:36:31.20 ID:bj+dknBb0
(師匠「……現在、この世に残っている過去の人物の肖像画は単なる芸術作品、あるいは単なる歴史的資料だ」)

(師匠「当時関わった人間が何を思っていたか窺い知れるのは、その中でもごく僅か」)

(師匠「ほとんどはわからんと言ってよいくらい」)

(師匠「第一にな、完成させて依頼主に渡した絵は、もう画家の所有物ではなくなっているのだぞ」)

(師匠「しかも絵をなかったことにしたい云々だって、お前の思い込みではないか」)

(野獣「それはそうですが」)

(師匠「後の人間に任せればよいと儂は思う」)

(野獣「……後の人間」)

(野獣「肖像画に描かれた人物を直接知らない、ずっと後に生まれた人々は、あの絵を見て何を思うのでしょう」)

(師匠「いるではないか、『後の世に生まれた人間』ならば」)

(野獣「あ」)

(師匠「あの子達から率直な感想が聞けたならば、お前も」)

(師匠「……両親の影から今度こそ完全に解放される、あの絵もお前から解放され、ただの芸術作品になれる」)

(師匠「儂はそう思うのだがな、どうだ?」)

(野獣「……やはり師匠は私の事を私自身以上におわかりですね」)

(野獣「画家を目指す次兄は、何を思うのか」)

(野獣「私と菫花をあらゆる呪縛からひとつずつ、縫い止める糸を解くように自由にしてくれた末妹は、何を思うのか」)

(野獣「…………師匠にお願いしてよろしいでしょうか?」)

……

79 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/01/30(土) 01:37:18.76 ID:bj+dknBb0

※ここまで。次回は最低でも一週間後に…※
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/30(土) 02:29:52.58 ID:3/ZTru3AO

みんなで料理してるの可愛いな
81 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/02/08(月) 23:11:32.53 ID:YGk031uu0

※お知らせのみ。次回投下はあと2〜3日後の予定です…※
82 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/02/12(金) 01:25:30.79 ID:UiQ0p+yt0
王子「では、覆いを開きます、皆さん……」グッ

末妹「はい……」

次兄「どきどきわくわく」

覆い:サーッ

師匠「……」

師匠(久し振りだな、王よ)

師匠(野獣よ、お前も仮想の窓で見ているのであろうな……)

(野獣「……父上、そして母上……」)

(野獣「菫花がこの部屋に入り、絵と向かい合ったあの日」)

(野獣「菫花はよくやった、頑張ったと私は思った、嬉しかった」)

(野獣「しかし、私自身は……」)

次兄「」

末妹「……っ」

菫花「!」

(野獣「お前達……」)

菫花「……なぜ、泣くのですか……?」

菫花「二人とも……」

末妹「……何故でしょう、この絵は……とても立派で美しいと、芸術の知識がない私にもわかります」グス…

末妹「そして描かれている王様と王妃様……お二人も奇麗なかた、でも、でも」

末妹「……この絵を見たとたん、胸のこのあたりがぎゅっと……苦しくなって、涙が……」グシ

(野獣「末妹」)

(野獣「あの場所は末妹が……『私の欠片』を押し当て、そのまま溶け込んだ場所……」)

次兄「……俺は、これ、あくまで直感なんだけど」グシュ

次兄「俺こええよ、この絵……」

次兄「描かれている対象そのものがじゃなくて、なんというか、その……」ズビー

次兄「依頼をこなすだけ、それだけでよかったんだこの画家は、なのに」

次兄「頼まれていないものまで描いちゃったんだ、そしてそれは描いちゃ駄目なものだった……」

(野獣「次兄、お前にはそれがわかるのか……」)
 
83 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/02/12(金) 01:27:02.36 ID:UiQ0p+yt0
次兄「……なんて、さっきも言ったけどあくまでも直感」

次兄「見たとたん、俺の心にずっしり来たのを言葉にしたら、そんな感じなんだ……」グシュン

菫花「君たち……」

師匠「……」

師匠「君等の家は庶民とは言え裕福ではあるが……ご両親の肖像画は家にあるかね?」

末妹「……あります」コク

末妹「ふたりが結婚した頃に、祖父が王都の画家に依頼したという……」

次兄「今はそこそこ名も売れているけど、20年前はまだまだ新人で」

次兄「じいさんが知人の伝手で紹介してもらったと聞いたけど……」

末妹「勿論こんなに大きくはありません、今は母の部屋に飾ってありますが……」

末妹「………………」

菫花「きっと、幸せそうなお二人…ご両親の姿が描かれているのでしょうね」ニコ

末妹「菫花さん」

師匠「……次兄君、小国の歴史書を何冊か読み漁ったのならば……この王の先王は『何者』か、知っているか?」

次兄「ふぇ?」

次兄「……うん、確か、この王妃様のほうの父親が前の王様だって」

次兄「だから、王子様の……菫花さんの祖父には間違いないけど、王様は前の王様の子供じゃない」

菫花「……その通りだよ」

師匠「ああ、小国では、女性には王位継承権がなかった」

師匠「そして、王妃がまだ王女だった頃、彼女には三人の兄王子がいたので」

師匠「次代の王はその王子達に間違いないと、誰もがそう思っていたが……」

師匠「戦や思いがけぬ事故が原因で、王子達は立て続けに若くして亡くなってしまった」

師匠「王子達に続く王位継承権の高い者も、同じ戦で亡くなったり重い病の床にあったりと……」

師匠「結局は先王の従弟の息子である『この男』に回って来た」

師匠「そして、この王家にはもうひとつしきたりがあった」

師匠「先王の王子は不在だが王女だけは存在している場合、強制的に次の王の妃にならねばならない」

師匠「先王の『直系の血』は残さねばならんのでな」

末妹「……」
 
84 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/02/12(金) 01:27:43.13 ID:UiQ0p+yt0
師匠「儂は『この男』を、そんな立場に立たされる前から知っているが」

師匠「…………彼の人生は彼の思い描いた通りに行かなかった」

師匠「おそらくは、『彼女』も」

次兄(……そうか、このきらびやかな衣装の美形王族カップルが漂わせる暗さは……)

師匠「だからってなあ、国を、民を、我が子を」

師匠「全てを王の名の元に自分の思い通りにしてやろうとはなあ、許された所業ではないぞ、わかっておるのか?」コンコン

次兄「お、おっさん、絵を杖で叩いたら絵具が剥がれるし」アタフタ

師匠「……この男とは少年の頃、机を並べて共に学んだこともあってな」

師匠「ま、それはどうでもいい」

師匠「この画家は間違いなく腕が良かった、天才と言っても良い」

師匠「……しかし既に名声が拡がっていたとは言え若くもあったのだ、思いがけず、彼らの複雑な心境まで筆に込めてしまった」

師匠「王と王妃自身が気付いていたかは今となってはわからんが」

師匠「……彼らの子である王子は、間違いなく敏感にそれを感じ取ったのは間違いない」

菫花「…………」

師匠「そして、赤の他人であるにもかかわらず」

師匠「芸術的センス、若さゆえの感受性の強さ、野獣への想い、他にもあるかもな」

師匠「あらゆる要因が、この絵に向かい合った君達兄妹に涙を流させた」

師匠「……正直、君達がここまでの反応を見せるとは予想外で」

師匠「まだ幼く柔らかな心が傷付いたとすれば、すまないことをしたと儂は思う」

(野獣「……」)

末妹「……(お兄ちゃん)」チラ

次兄「……(うん)」コクリ

末妹「いいえ、師匠様」

末妹「兄も私も、この部屋に入った事を後悔してはいません」

末妹「私の場合は、最初に胸がとても痛く、苦しくなりましたが、その後は次第に落ち着いて」

末妹「……それから、今度は同じ場所がほんのりと……暖かくなったのです」

末妹「野獣様が夢の中で、ご自分の欠片を、泣き続ける私に分けてくださった直後のように」

(野獣「!」)
 
85 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/02/12(金) 01:29:07.27 ID:UiQ0p+yt0
末妹「今は、いつもと同じように何の違和感もありません」

末妹「……野獣様の欠片に野獣様の『心』が残っていたのかもしれません」

末妹「正直に言います、私は……あまりにも、自分の両親の結婚式の絵と、違い過ぎて」

末妹「とても切なくて、悲しくて……恐くって……」

(野獣「末妹……」)

末妹「その時…私自身のその感情と、野獣様の心が重なったような気がして、よけい辛くなって」

次兄「相乗効果で増幅されたのかもしれないな」

末妹「でも、涙と一緒に痛みも外へ流れたのでしょう、きっと」

末妹「だからもう大丈夫、ここにある野獣様の『心』の一部も」

末妹「……菫花さんや野獣様と同じように、絵に向き合う辛さを乗り越えたと思うのです」

菫花「野獣の、心の一部……」

末妹「ええ、こういう言い方はおかしいかもしれませんが、野獣様から切り離されたがために」

末妹「菫花さんと野獣様に置いてきぼりにされてしまったのでしょうね」

末妹「でも、ようやく私の目を通して向き合う事ができました」

末妹「……それを終えて、今度こそ本当に、この欠片は完全に私に溶け込んだ」

末妹「そう思うのです、そんな気がしてならないのです」

末妹「同時に私自身の心も……今は穏やかです」

末妹「この絵を見て、切ない、悲しい、という気持ちはまだ拭えませんが」

末妹「『恐い』という気持ちは、もうありません。何故かはわからないけれど……」

師匠「……一度あいつから切り離され君に吸収された『あれ』に、あいつの要素が残っていたとは到底考えられんのだが」

師匠「が、あいつと君達が関わることで、儂の思いもよらぬ事象が今までも何度も起きた」

師匠「世の人が呼ぶ『奇跡』という事象かもしれんが」

師匠「ま、奇跡などと大袈裟な物ではない、そんな事もアリか、くらいの話だ」

師匠「信じたからと、誰も損はしない」

師匠「……少年…次兄君、君はどう思う?」
 
86 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/02/12(金) 01:29:52.21 ID:UiQ0p+yt0
次兄「うーん、俺の直感は案外当たっていたんでしょうね、おっさんの話によると」

次兄「この画家は天才で、この絵を描いたより後の時代にはもっと活躍した」

次兄「でもやっぱり、この絵はできるだけ忘れていたかったと思う」

次兄「……俺は画家になりたいし、そのために何でも描ける腕が欲しい」

次兄「そして、描いちゃいけないものまで描けるほどの力が欲しい、でも」

次兄「その上で、必要とあらばそれを抑える力も必要だと今は思うし」

次兄「抑える事で、絵としての完成度を上げる事が出来る、そんな力を身につけたい」

次兄「この画家もきっとそうすることで、より素晴らしい絵を残せたんだと思う」

次兄(でも趣味で描く絵はまた別の話)

次兄「だから、俺が最終的にこの絵からもらった物は前向きな気持ち」

次兄「夢を叶える意欲、そんな感じ……かな」ニヘヘ

(野獣「末妹、次兄、お前達は」)

(野獣「……お前達は……どれほど私から『ありがとう』という言葉を引き出したいのか……」)

菫花「……」グス

次兄「お、おいおい、今度はあんたが泣いちゃうのか!?」

師匠「どうしたのだお前は」

末妹「菫花さん!」

菫花「……はは、なんでしょうね、これは」グシュ

菫花「僕は今、ものすごく嬉しいのです……」

菫花「これは身勝手な思い込みですが……」

菫花「君達の涙で、ようやく……僕の両親の魂は……浄化された、救われたんじゃないかな、って」

菫花「君達にそんなつもりは毛頭ないとしても、結果として」

菫花「これでようやく、穏やかに眠りに着けたんじゃないかって」
 
87 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/02/12(金) 01:30:55.21 ID:UiQ0p+yt0
菫花「……そう簡単に許されてはいけない罪を犯したと、わかってはいますがね……」グス

末妹「……救われた……おふたりの魂が……」

師匠「……」

師匠(本当の所はどうか知らんけが)

師匠(なあ、王よ王妃よ、どうだ、お人好しのド間抜けの息子の言う通りに…もう穏やかに眠ってみないか)

師匠(自分の立場を利用して好き勝手に振舞いながら決して幸福ではなかったあんた達だが)

師匠(菫花の言葉で、菫花にこんな友達ができた事で、充分過ぎるほど報われたではないか)

師匠(なあ野獣)

師匠(お前ももう、それでいいよな? 両親の魂は穏やかであれ、と願ってやれるよな……?)

(野獣「……師匠」)

(野獣「ええ、私も末妹と次兄に感謝していますよ……」)

メイドの声「皆さーん、朝食ができましたよー」

末妹「メイドちゃんが呼んでいる」

師匠「おお、思ったより時間を取ってしまったな」

師匠「冷めないうちにいただくとするか、ほら、行くぞ」

次兄「そういえば腹ペコだぁ」グゥ

菫花「ええ、用意してくれた皆を待たせてはいけませんね」

菫花「……」

菫花「父上、母上」

菫花「僕はこれからもこの世界で生きて行きます、皆と一緒に」

菫花「……またここに来る事もあるでしょう、しかし今は……」グイ

覆い:シャッ

菫花「……おやすみなさい、さよなら……」

……
88 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/02/12(金) 01:32:02.93 ID:UiQ0p+yt0

※ここまででした。入れよか外そか迷ったエピソードだったり※
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/12(金) 02:58:25.68 ID:wlUKLrsAO
野獣と王子が両親の絵を恐れていたのはそんな理由もあったんだなぁ
ところで次兄がまともなことしか言ってなくて私心配
90 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/02/13(土) 20:08:46.04 ID:3ZDHMJfd0
>>89
すぐいつもの次兄に戻るのでご心配なくw


※お知らせ※
リアルでの事情で最低でも2週間ほど?更新できなさそうです…
しかし必ず完結します

見返すと>>82-87で王子の表記名間違えたよギャーですが次回更新時に差替分も投下する かもしれません
それではまた…
 
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/14(日) 01:38:18.96 ID:t8FuO4ZAO

のんびり待ってる
92 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/02/28(日) 00:17:41.93 ID:dkyA67w70

※お久しぶり※
>>82-87で王子の表記名間違えたので、以下>>93-98に修正して差し替え。
表記名のみの修正なので、>>99まで読み飛ばしても問題ないですよ……
 
93 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/02/28(日) 00:18:43.86 ID:dkyA67w70
王子「では、覆いを開きます、皆さん……」グッ

末妹「はい……」

次兄「どきどきわくわく」

覆い:サーッ

師匠「……」

師匠(久し振りだな、王よ)

師匠(野獣よ、お前も仮想の窓で見ているのであろうな……)

(野獣「……父上、そして母上……」)

(野獣「菫花がこの部屋に入り、絵と向かい合ったあの日」)

(野獣「菫花はよくやった、頑張ったと私は思った、嬉しかった」)

(野獣「しかし、私自身は……」)

次兄「」

末妹「……っ」

王子「!」

(野獣「お前達……」)

王子「……なぜ、泣くのですか……?」

王子「二人とも……」

末妹「……何故でしょう、この絵は……とても立派で美しいと、芸術の知識がない私にもわかります」グス…

末妹「そして描かれている王様と王妃様……お二人も奇麗なかた、でも、でも」

末妹「……この絵を見たとたん、胸のこのあたりがぎゅっと……苦しくなって、涙が……」グシ

(野獣「末妹」)

(野獣「あの場所は末妹が……『私の欠片』を押し当て、そのまま溶け込んだ場所……」)

次兄「……俺は、これ、あくまで直感なんだけど」グシュ

次兄「俺こええよ、この絵……」

次兄「描かれている対象そのものがじゃなくて、なんというか、その……」ズビー

次兄「依頼をこなすだけ、それだけでよかったんだこの画家は、なのに」

次兄「頼まれていないものまで描いちゃったんだ、そしてそれは描いちゃ駄目なものだった……」

(野獣「次兄、お前にはそれがわかるのか……」)
 
94 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/02/28(日) 00:20:01.81 ID:dkyA67w70
次兄「……なんて、さっきも言ったけどあくまでも直感」

次兄「見たとたん、俺の心にずっしり来たのを言葉にしたら、そんな感じなんだ……」グシュン

王子「君たち……」

師匠「……」

師匠「君等の家は庶民とは言え裕福ではあるが……ご両親の肖像画は家にあるかね?」

末妹「……あります」コク

末妹「ふたりが結婚した頃に、祖父が王都の画家に依頼したという……」

次兄「今はそこそこ名も売れているけど、20年前はまだまだ新人で」

次兄「じいさんが知人の伝手で紹介してもらったと聞いたけど……」

末妹「勿論こんなに大きくはありません、今は母の部屋に飾ってありますが……」

末妹「………………」

王子「きっと、幸せそうなお二人…ご両親の姿が描かれているのでしょうね」ニコ

末妹「菫花さん」

師匠「……次兄君、小国の歴史書を何冊か読み漁ったのならば……この王の先王は『何者』か、知っているか?」

次兄「ふぇ?」

次兄「……うん、確か、この王妃様のほうの父親が前の王様だって」

次兄「だから、王子様の……菫花さんの祖父には間違いないけど、王様は前の王様の子供じゃない」

王子「……その通りだよ」

師匠「ああ、小国では、女性には王位継承権がなかった」

師匠「そして、王妃がまだ王女だった頃、彼女には三人の兄王子がいたので」

師匠「次代の王はその王子達に間違いないと、誰もがそう思っていたが……」

師匠「戦や思いがけぬ事故が原因で、王子達は立て続けに若くして亡くなってしまった」

師匠「王子達に続く王位継承権の高い者も、同じ戦で亡くなったり重い病の床にあったりと……」

師匠「結局は先王の従弟の息子である『この男』に回って来た」

師匠「そして、この王家にはもうひとつしきたりがあった」

師匠「先王の王子は不在だが王女だけは存在している場合、強制的に次の王の妃にならねばならない」

師匠「先王の『直系の血』は残さねばならんのでな」

末妹「……」
 
95 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/02/28(日) 00:20:57.88 ID:dkyA67w70
師匠「儂は『この男』を、そんな立場に立たされる前から知っているが」

師匠「…………彼の人生は彼の思い描いた通りに行かなかった」

師匠「おそらくは、『彼女』も」

次兄(……そうか、このきらびやかな衣装の美形王族カップルが漂わせる暗さは……)

師匠「だからってなあ、国を、民を、我が子を」

師匠「全てを王の名の元に自分の思い通りにしてやろうとはなあ、許された所業ではないぞ、わかっておるのか?」コンコン

次兄「お、おっさん、絵を杖で叩いたら絵具が剥がれるし」アタフタ

師匠「……この男とは少年の頃、机を並べて共に学んだこともあってな」

師匠「ま、それはどうでもいい」

師匠「この画家は間違いなく腕が良かった、天才と言っても良い」

師匠「……しかし既に名声が拡がっていたとは言え若くもあったのだ、思いがけず、彼らの複雑な心境まで筆に込めてしまった」

師匠「王と王妃自身が気付いていたかは今となってはわからんが」

師匠「……彼らの子である王子は、間違いなく敏感にそれを感じ取ったのは間違いない」

王子「…………」

師匠「そして、赤の他人であるにもかかわらず」

師匠「芸術的センス、若さゆえの感受性の強さ、野獣への想い、他にもあるかもな」

師匠「あらゆる要因が、この絵に向かい合った君達兄妹に涙を流させた」

師匠「……正直、君達がここまでの反応を見せるとは予想外で」

師匠「まだ幼く柔らかな心が傷付いたとすれば、すまないことをしたと儂は思う」

(野獣「……」)

末妹「……(お兄ちゃん)」チラ

次兄「……(うん)」コクリ

末妹「いいえ、師匠様」

末妹「兄も私も、この部屋に入った事を後悔してはいません」

末妹「私の場合は、最初に胸がとても痛く、苦しくなりましたが、その後は次第に落ち着いて」

末妹「……それから、今度は同じ場所がほんのりと……暖かくなったのです」

末妹「野獣様が夢の中で、ご自分の欠片を、泣き続ける私に分けてくださった直後のように」

(野獣「!」)
96 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/02/28(日) 00:21:54.50 ID:dkyA67w70
末妹「今は、いつもと同じように何の違和感もありません」

末妹「……野獣様の欠片に野獣様の『心』が残っていたのかもしれません」

末妹「正直に言います、私は……あまりにも、自分の両親の結婚式の絵と、違い過ぎて」

末妹「とても切なくて、悲しくて……恐くって……」

(野獣「末妹……」)

末妹「その時…私自身のその感情と、野獣様の心が重なったような気がして、よけい辛くなって」

次兄「相乗効果で増幅されたのかもしれないな」

末妹「でも、涙と一緒に痛みも外へ流れたのでしょう、きっと」

末妹「だからもう大丈夫、ここにある野獣様の『心』の一部も」

末妹「……菫花さんや野獣様と同じように、絵に向き合う辛さを乗り越えたと思うのです」

王子「野獣の、心の一部……」

末妹「ええ、こういう言い方はおかしいかもしれませんが、野獣様から切り離されたがために」

末妹「菫花さんと野獣様に置いてきぼりにされてしまったのでしょうね」

末妹「でも、ようやく私の目を通して向き合う事ができました」

末妹「……それを終えて、今度こそ本当に、この欠片は完全に私に溶け込んだ」

末妹「そう思うのです、そんな気がしてならないのです」

末妹「同時に私自身の心も……今は穏やかです」

末妹「この絵を見て、切ない、悲しい、という気持ちはまだ拭えませんが」

末妹「『恐い』という気持ちは、もうありません。何故かはわからないけれど……」

師匠「……一度あいつから切り離され君に吸収された『あれ』に、あいつの要素が残っていたとは到底考えられんのだが」

師匠「が、あいつと君達が関わることで、儂の思いもよらぬ事象が今までも何度も起きた」

師匠「世の人が呼ぶ『奇跡』という事象かもしれんが」

師匠「ま、奇跡などと大袈裟な物ではない、そんな事もアリか、くらいの話だ」

師匠「信じたからと、誰も損はしない」

師匠「……少年…次兄君、君はどう思う?」
 
97 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/02/28(日) 00:22:45.23 ID:dkyA67w70
次兄「うーん、俺の直感は案外当たっていたんでしょうね、おっさんの話によると」

次兄「この画家は天才で、この絵を描いたより後の時代にはもっと活躍した」

次兄「でもやっぱり、この絵はできるだけ忘れていたかったと思う」

次兄「……俺は画家になりたいし、そのために何でも描ける腕が欲しい」

次兄「そして、描いちゃいけないものまで描けるほどの力が欲しい、でも」

次兄「その上で、必要とあらばそれを抑える力も必要だと今は思うし」

次兄「抑える事で、絵としての完成度を上げる事が出来る、そんな力を身につけたい」

次兄「この画家もきっとそうすることで、より素晴らしい絵を残せたんだと思う」

次兄(でも趣味で描く絵はまた別の話)

次兄「だから、俺が最終的にこの絵からもらった物は前向きな気持ち」

次兄「夢を叶える意欲、そんな感じ……かな」ニヘヘ

(野獣「末妹、次兄、お前達は」)

(野獣「……お前達は……どれほど私から『ありがとう』という言葉を引き出したいのか……」)

王子「……」グス

次兄「お、おいおい、今度はあんたが泣いちゃうのか!?」

師匠「どうしたのだお前は」

末妹「菫花さん!」

王子「……はは、なんでしょうね、これは」グシュ

王子「僕は今、ものすごく嬉しいのです……」

王子「これは身勝手な思い込みですが……」

王子「君達の涙で、ようやく……僕の両親の魂は……浄化された、救われたんじゃないかな、って」

王子「君達にそんなつもりは毛頭ないとしても、結果として」

王子「これでようやく、穏やかに眠りに着けたんじゃないかって」
98 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/02/28(日) 00:23:50.68 ID:dkyA67w70
王子「……そう簡単に許されてはいけない罪を犯したと、わかってはいますがね……」グス

末妹「……救われた……おふたりの魂が……」

師匠「……」

師匠(本当の所はどうか知らんけが)

師匠(なあ、王よ王妃よ、どうだ、お人好しのド間抜けの息子の言う通りに…もう穏やかに眠ってみないか)

師匠(自分の立場を利用して好き勝手に振舞いながら決して幸福ではなかったあんた達だが)

師匠(菫花の言葉で、菫花にこんな友達ができた事で、充分過ぎるほど報われたではないか)

師匠(なあ野獣)

師匠(お前ももう、それでいいよな? 両親の魂は穏やかであれ、と願ってやれるよな……?)

(野獣「……師匠」)

(野獣「ええ、私も末妹と次兄に感謝していますよ……」)

メイドの声「皆さーん、朝食ができましたよー」

末妹「メイドちゃんが呼んでいる」

師匠「おお、思ったより時間を取ってしまったな」

師匠「冷めないうちにいただくとするか、ほら、行くぞ」

次兄「そういえば腹ペコだぁ」グゥ

王子「ええ、用意してくれた皆を待たせてはいけませんね」

王子「……」

王子「父上、母上」

王子「僕はこれからもこの世界で生きて行きます、皆と一緒に」

王子「……またここに来る事もあるでしょう、しかし今は……」グイ

覆い:シャッ

王子「……おやすみなさい、さよなら……」

……
99 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/02/28(日) 00:25:17.15 ID:dkyA67w70
朝の食卓……

師匠「ほう、手の込んだ朝食ではないか」

料理長「こちらは摘みたてのハーブ各種と薄く切った森の林檎、そこに胡桃をトッピングしたサラダです」

庭師「冬場は庭のハーブを鉢植えにして室内に持って来るので、一年中新鮮な物が手に入るのですよ」

料理長「こちらは商人様からおみやげにいただいたジャガイモで作ったポタージュです」

執事「さすがは末妹様のお父様が選んだ物です、味となめらかさ、日持ちも良くて最高級の品質だと料理長が」

次兄「俺の父親でもありますですよ?」

料理長「そして、これが庭で採れた秋野菜と森のキノコのキッシュ……チーズがトロトロのうちに召し上がってください」

メイド「新鮮な卵は、今朝、菫花様が魔法で手に入れてくださいました」

王子「前から思っていましたが師匠、鶏を飼えばもっと楽に卵が手に入るのでは?」

師匠「お前が騾馬も鶏も自分で面倒を見るのなら、考えてみるか」

料理長「あとは、紅茶と……無花果のコンポートです。物足りなければ、昨日のパンですが温めて」

次兄「これだけあれば物足りなくならないってば、昼食も兼ねて充分なくらいだ」

師匠「ふむ、君達がここを発って家に着く時間を考えたら、そのつもりだったのかもしれんな」

末妹「朝からこんなに、大変だったでしょうね……」

料理長「メイドちゃんや庭師くん、それに今朝は執事さんも手伝ってくださいました、そのおかげで」

次兄「執事さんがこの朝食をぉぉぉぉ!?」ババーン

執事「」

料理長「……そのおかげで助かりました、とにかく暖かいうちに、さあ、皆さん」

末妹「ありがとうございます、いただきます」

次兄「いただきますっ! 執事さん、執事さんは主に何を担当されましたかっ!?」

執事「…………主にポタージュでしょうか」

次兄「ポタージュですね!? うおおお、まったりとコクのある中に自然の甘み、これが執事さんの味ぃぃぃぃぃ!!」レロレロ

執事(手伝ったと言っても、メイドに調理器具や調味料を言われるまま取ってあげただけですがね)
100 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/02/28(日) 00:27:34.39 ID:dkyA67w70
師匠「ふむ、野生種の林檎の酸味を敢えて活かす事で、爽やかなサラダに仕上がっているな」

末妹「どれも本当に美味しい……あら、キッシュのチーズは種類を混ぜて使っているのね」

王子「味に深みが出るんですよ、具が野菜中心でも満足感が得られます」

王子「……ずっと前に料理長さんは野獣からそれを教わり、以来、料理に合わせてあれこれ自分で工夫しているそうです」

末妹「……野獣様」

末妹「野獣様はこの席にいなくても、教えを、野獣様の好みをお屋敷の皆さんは守り続けている」

末妹「……『野獣様の欠片』を持っているのは、私だけじゃないのね」

王子「末妹さん?」

末妹「もちろん、菫花さんはいつも共におられるのでしょうけど」

末妹「料理長さん、執事さん、庭師くん、メイドちゃんも」

末妹「野獣様の教え、野獣様の言葉、野獣様の心を受け取って」

末妹「それだって野獣様の一部だもの」

末妹「お兄ちゃんだって同じ」

次兄「はい? 何が?」ポリポリ

メイド「次兄様、サラダから胡桃だけ拾って食べるのはさすがにお行儀が」

次兄「ちゃんと他の物も完食するから安心してよ、でも胡桃のお替わりがあると嬉しいかしら」ポリポリ

料理長「そう思って、持って来ましたよ。はい次兄様」ザラザラザラー

師匠「もうトッピングどころか胡桃がメインだな」

末妹「……お兄ちゃんも、野獣様の欠片を持っている」

末妹「師匠様だって、きっと」

王子「……」

王子「……そうですね、この場に彼の姿を見ることはできなくても」

王子「今もこの先も、ずっと……僕だけじゃない、君とも、皆とも」

王子「野獣はすぐそばにいる、一緒に生きて行く」

王子「お互いを忘れない限り、いつまでもね」

末妹「ええ、いつまでも……」

……
101 : ◆54DIlPdu2E [saga sage]:2016/02/28(日) 00:28:41.13 ID:dkyA67w70

※話の続きが短くてすみません、とりあえず今回はここまで、ネムイ※
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 03:11:27.22 ID:sCcTGgvAO
来月まで待つかなーと思っていたから嬉しい
和やかな食事風景に癒されると同時に腹が減るぅう乙ぅ
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/03(木) 18:57:02.30 ID:/+VKylZ8o
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/03(木) 19:50:39.84 ID:T9eOeMVc0
おつー
105 : ◆54DIlPdu2E [sage]:2016/03/03(木) 22:16:37.64 ID:Cq3kjopJ0

※お知らせのみ。明日の夜かそれ以降に更新します。読んでくれてありがとう※
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/04(金) 07:51:40.01 ID:tqodNt1/o
     /⌒ヽ
 (ゝrr<フ::. /⌒
ニ(゚д゚ ニ)ニ::{ 胡桃のお替わりがあると嬉しいかしら
 (つと ヽ::ノ
 ((  ) ノ
 ´^⌒^`
107 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/06(日) 02:31:19.09 ID:eEa0kNBX0
再び、東屋。

次兄「よっしゃ、馬車に積む荷物はこれで全部……」

馬「ひん」

次兄「末妹、乗馬服に着替えたんだな。俺はそのまんまだけど」

末妹「師匠様が馬車のチェックをしてくださったの」

次兄「おっさん何でもできるんだな、ありがと」

師匠「車軸の傾きや車輪の減り、ネジの緩み具合等を魔法で鑑定し、必要な部分には微調整を施した程度さ」

師匠「儂には大した労力ではないが、普段から君達の父上の手でしっかり整備されているのがわかったよ、それが何よりだ」

次兄「それじゃ、客間の最終確認をしようか」

末妹「また後で来るね馬さん。その時はいよいよ出発よ、よろしく」

馬「ひひひん!」マカセテ

次兄「忘れ物はないと思うけどね」

師匠(忘れ物より…少年は客間の片付けをしたのか不安だのぅ、自宅の部屋の惨状を見るに……)

……

執事「末妹様、次兄様」

末妹「執事さん」

次兄「執事さーん!」

執事「……荷物運びをお手伝いさせていただくつもりでしたが、その様子では既に終えられたようですね」

次兄「元々そんなに荷物なかったからね」

執事「他にもまだご用はおありですか?」

末妹「客間を確認しに行く所です。その後は、いつでも出発できますよ」

執事「出発の前に少しばかりお時間をいただけますか? おふたりとも」

次兄「うん、いいよね、末妹」ニヘ

末妹「お兄ちゃん」

末妹「ええ、執事さん」ニコ

執事「畏まりました。では、ご用がお済みになられましたら、主人の部屋へおいでください」

……
108 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/06(日) 02:33:41.96 ID:eEa0kNBX0
野獣の部屋……

ドア:カチャ……

執事「お待ちしておりました、さ、中へ」

メイド「末妹様ぁー!」ピョン

末妹「メイドちゃん」

王子「次兄君、末妹さん、いよいよお別れですね……」

庭師「へへ、わかってはいても、やっぱり寂しいです……」

料理長「お二人とも、いつも食事を美味しそうに召し上がってくださって、わしは本当に嬉しかった……」

次兄「みんな……」

末妹「お兄ちゃん……笑顔でお別れしようって言ったじゃない」

末妹「皆さんも、しんみりしないで。だって、私達はまた会う約束をしてお別れするのに」

執事「末妹様の仰るとおりですよ」

師匠「交流のための鏡も渡してあるのだ、この部屋の銀板鏡もそいつを使う日を楽しみにしているぞ?」

鏡「ワタシノモウヒトツノ『メ』ヤ『ミミ』トナルカガミデス、イイシゴトシマスヨー」

次兄「……そっか、俺達が預かった鏡台を通して、お前とつながるわけか」

次兄「これからもよろしくな、鏡」

末妹「そうね、これからも。皆さん、これからもよろしくお願いします!」

王子「これからも」

メイド「……これからも、そうですね、次兄様もたまには良いこと仰いますー!」

料理長「そうですな、気を取り直して……お二人に、これを」ヨイショット

末妹「何かしら、大きな蓋付きの缶……」

料理長「以前、貴方様達のために作った、胡桃のサブレと鏡のクッキーです」

執事「今回はご家族の分もあります、お家でお茶の時間に召し上がっていただければ、と」

末妹「家族の分も……嬉しい!! ありがとう!!」

次兄「どれどれ……ぎっしり入っているな、たくさん作ってくれたんだね、ありがとう」

次兄(これだけあるなら胡桃のサブレを数枚ポッケにないないしてもバレますまい)
109 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/06(日) 02:36:32.31 ID:eEa0kNBX0
料理長「今回も、メイドちゃんも庭師君も……執事さんも手伝ってくれました」

次兄「!! 執事さんっ、主にどのパートを!?」

執事「……出来上がってから、わたくし一人で缶に詰める作業を。その際に手袋はしましたよ」

師匠「狼の前足に合う特注品の手袋な」

次兄「では、では満遍なく執事さんの味が行き渡っているのですねぇぇぇぇぇ!?」

次兄「ああああ、家族で分け合うのが惜しいぃぃ!!」ジタバタ

末妹「お、お兄ちゃん、私のぶんなら分けてあげるから……ね?」

執事「……」ハァ

執事(改めて、描いてくださった絵のお礼を述べるつもりだったが……その気が失せてきた……)

王子「……えーと、あのですね、僕からも何か……君達に感謝の意味も込めて贈り物ができればと……」スッ

メイド「奇麗なガラス瓶に入っていますねー」

末妹「あら、これは……紅茶?」

王子「ええ、夢の中で野獣と相談しながら、数種類を調合したものです」

王子「料理長さんの焼き菓子に最適なお茶ができれば、と思って」

王子「お気に召してくれたら良いのですが……」

末妹「素敵、きっとこのお菓子に合うわ、ありがとうございます菫花さん!!」

次兄「野獣様のオリジナルレシピによる調合ですと!?」

王子「う、うん、僕の意見も取り入れてくれたけど」

次兄「野獣様の紅茶、執事さんが手をかけたお菓子、これでお茶会をするという事は……つまり」

次兄「つまり、野獣様と執事さんの共同作業の結晶ではありませんか!?」ドドォォォォン

王子「あの」

執事「いや、わたくしは詰めただけで、本当に」

末妹「お兄ちゃん、本当に何を言っているのか私わからない」

次兄「ありがとうありがとう! 心奮い立つ、じゃなかった心温まるお土産に感動しました!!」

庭師「あっ次兄様、鼻血が」

師匠「…………何が何だか」

師匠「とりあえずしんみりした空気は払拭されたから、まあ良し、か……」

……
110 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/06(日) 02:38:37.07 ID:eEa0kNBX0
野獣の屋敷、前庭。

庭師「馬さん、元気でね」スリスリ

馬「ぶるる……」マタネ

末妹「……何度も言うけど、またこのお屋敷に二人で来ますから」

メイド「待っていますー」

末妹「鏡でお話しもしましょうね、メイドちゃん。家に着いたら、すぐ家政婦さんにお手紙を渡すわ」

次兄「……」ジー

執事「……何か仰りたい事がおありで? 先程からずっとわたくしを見つめていらっしゃいますが……」ウンザリ

次兄「執事さんの姿を出来る限り鮮明にこの目に焼き付けているだけです、お構いなく」

庭師「魔法の鏡でまた姿を見る事ができるのに」

次兄「本日の執事さんは本日限定だよ、庭師君」キリッ

王子「……僕も何度でも言います、本当に感謝しています、次兄君と末妹さんには……」

王子「それで、あの……これから、君達を友達と思っても……良いでしょうか……?」

末妹「とっくに友達ですよ、これからも」ニコ

王子「あ」

王子「ありがとう」ニコ

末妹「次に来る時は、可愛い騾馬にも会えるのを楽しみにしていますね」

王子「それまでに騾馬と仲良くなれるよう、頑張るよ」

師匠「その前に馬小屋かな、あの東屋を改造してみようか……」

料理長「お父様にジャガイモのお礼をくれぐれもお伝えください」

料理長「一緒に入っていたお茶や岩塩も、質の良いものでした」

師匠「儂も気に入ったよ、今ある分がなくなったらまた欲しいくらいだが」

師匠「今後は父上のお店から、ちゃんと客として買うことにしよう」

次兄「おっさんまた瞬間移動で買いに来るのか。我が父親ながら、父さん商売上手ですなぁ」ジー

執事「他のかたの会話に加わる時くらい、視線はわたくしからお外しになってはいかがでしょう……」ゲンナリ
 
111 : ◆54DIlPdu2E [sage]:2016/03/06(日) 02:39:55.49 ID:eEa0kNBX0

※眠いのでここまで。次回は、お別れセレモニーの続き&道中の兄妹(たぶん) です。※

>>106
可愛いAAありがとう、次兄もリスだったらまだ可愛げあるのに
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/06(日) 08:11:36.38 ID:qsSY6HsAO

まさかポケットに直接サブレを入れたりはしないだろうな次兄よ
113 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/06(日) 23:31:07.44 ID:SrQI5lXM0
師匠「……で、当面の間は緊急な出来事がない限り、鏡で話をするのは金曜日の夜。この約束で、良かったな?」

末妹「はい」コク

メイド「私、お屋敷中のカレンダーの金曜日に印をつけてしまいそうですー」ピョコピョコ

庭師「この先おいでになる時も、この馬さんと一緒ですか?」

末妹「……できればそうしたいわ、でもこの子は、私にも懐いているけどお父さんの馬だから……」

馬「ひん……」

次兄「こいつは魔法の地図を使った移動にもお屋敷の皆さんにも、すっかり慣れているからね、他の馬ならまた一から」

次兄「……って、あれ? 末妹」

末妹「なあに?」

次兄「この馬、いつのまにか執事さんが平気になっていないか?」

末妹「あ、そう言えば?」

執事「……………………」

馬「ぶるる……♪」ゴキゲン

庭師「へへへ、僕知ってますよ。執事さん、東屋の馬さんからギリギリ見える位置の窓を開けて、顔を出す所から始まって……」

庭師「その翌日は少しだけ近くの窓へ」

庭師「次は外に出て……最初は離れた場所から、少しずつ距離を詰めて来たんですよね?」

末妹「執事さんが……」

執事「うむ、まあ、その……これだけ良い馬であれば、警戒すべき野生の狼とわたくしを区別するくらい容易く……」オホン

メイド「馬さん、庭師君とは仲良くなったし料理長さんの事も最初から怖がっていないし」

メイド「執事様だけ仲間外れが寂しかったんですよねー?」

執事「こらメイド、またお前は、調子に乗って……」メゾピアノ

料理長「はは、いつもほど叱りつける時の迫力がありませんな」

末妹「執事さん……嬉しいです、ありがとう」ニコ

執事「は、はい、恐縮です……」
 
114 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/06(日) 23:32:50.17 ID:SrQI5lXM0
次兄「……むむむ」

次兄「執事さんが、うちの馬との親密さを深めようと陰で努力をしていた、ですと……?」

次兄「……こ、これはまさか執事さんの、将を射んと欲すればまず馬を射よ、作戦では!?」

馬(馬)「ひん?」

次兄(将?)「そんな回りくどい事しなくたって、俺はいつでも執事さんを受け入れる準備はできているのに」

次兄「執事さんったら恥ずかしがり屋さんなんだから……もぉ」ポッ

メイド「小声のおつもりでしょうが聞こえていますよー」

執事「と、とにかく、この馬がわたくしの姿に怯える事は今後ありませんから、安心してください」

王子「でも、これなら新しく来る騾馬も執事さんと仲良くなれる希望が持てます」

師匠「賢くて度胸の据わった騾馬を選ばなくてはな、菫花の目利きは少し心配だが」

メイド「今度はいつ、末妹様達がお見えになるかはまだわからないけれど……」

庭師「馬小屋を作って、そして……騾馬さんを迎える準備もしなくちゃね、寂しがってる暇はないかも」

メイド「忙しくなりそうですねー」

末妹「ふふ、そうね、私も……家に帰ったら、学校の勉強を頑張らないと」

次兄(二か月もお休みしちゃったからな)

末妹「ちゃんと来年の秋には、友1ちゃん達と一緒に卒業したいの」

次兄「俺も頑張るよ、まずは父さんと話をする所から」

末妹「二人で頑張ろうね、お兄ちゃん」

末妹(町の学校を卒業してからの、将来の私の夢)

末妹(ゆうべ野獣様にした話を、次に話す人はお兄ちゃんだから)

師匠「若い者には夢があっていいのぅ」

王子「……」
115 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/06(日) 23:34:07.74 ID:SrQI5lXM0
王子(末妹さんにも、将来の夢があるのでしょうね)

王子(いつか、ずっと先でもいいから、そのお話も聞かせて欲しいな……)

師匠「お前も頑張れよ菫花!」

王子「は、はいっ!?」ギクッ

師匠「隙あらば過去を振り返っては毛布の塊になりたがるからな、お前は」

王子「も、もうしませんよ、いや、しないように努力します」

末妹「……みんな、自分にできる事を頑張るんです、少しずつでも」

末妹「そんな毎日から、また会う時にお話ししたい事がいっぱい作られて、心の中に溜まって行く……」

末妹「私は、そう思います」

庭師「僕も、来年の春は今年よりもっと庭の花達をきれいに咲かせられるよう、頑張ります」

料理長「わしもこの歳ですが、もっと料理のレパートリーを増やしたいのです、頑張ります」

メイド「私は、えーと、食欲を自制して、もっともっと身軽な兎を目指します!」

次兄「そんなんでいいのメイドさん?」

執事「……わたくしは、皆の頑張りを守り支える執事でありたいですな」

末妹「ふふ……皆さんにまた会える時がますます楽しみです」

師匠「さあ、あまり引き留めては家に着く時間が遅くなってしまう」

師匠「……お父上も、やきもきしている頃ではないかな?」

次兄「うーん、日にちだけじゃなく家に着く時間も決めておけばよかったかなあ」

末妹「お父さん……」

(商人「ふたりで助け合って、そしてどうか笑顔で家に帰って来てくれ」 )

末妹「長兄お兄さん、長姉お姉さん、次姉お姉さん、家政婦さん……」

次兄「今度は、我が家の全員で迎えてくれるさ」

次兄「長姉ねえさんも一緒にね」

末妹「……そうね、きっと」コク
116 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/06(日) 23:39:53.80 ID:SrQI5lXM0
執事「さあ、門を開きました」

庭師「木に登って眺めたけど、周囲に危険な存在はなさそうですよ」

師匠(儂の魔法でも安全は確認済み、と)

メイド「次兄様、末妹様をどうか」

次兄「おぅ、みなまで言うな、まかして!!」ニヘ

メイド「……大好きです、末妹様」スリスリ

末妹「私も大好きよメイドちゃん、私の大切な、小さな友達……」モフモフ

次兄「ああ、俺にもいつかは執事さんとあのようなスキンシップを図れる日が来るのでしょうか?」

執事(来ません)

料理長「また会う日まで、すこやかにお過ごしください、おふたりとも……」

王子「次兄君も末妹さんも、魔法の地図を使うとは言え、どうか気を付けて……」

末妹「ええ、ありがとう、皆さんもお元気で……」

末妹(野獣様も……さようなら、またお会いしましょう……)

末妹「馬さん、お願いね」

馬「ひひひひん!」

馬車:ザシュ……ガラガラ

メイド「末妹様ー!!」

庭師「末妹様、次兄様、馬さん……」

王子「………………また会おう、僕の友達」

執事「……ご主人様、ご覧になっておられますよね……」

野獣(……また会おう、末妹、次兄よ)

野獣(二人とも明るい表情で馬車を進めている、嬉しいよ)

野獣(私も笑顔で見送るぞ、約束だからな……)


……………………
117 : ◆54DIlPdu2E [sage]:2016/03/06(日) 23:45:03.95 ID:SrQI5lXM0

※ここまで※
予告と違ってすみません、細かい部分を回収しつつキリの良い所までやっぱり投下したかったので……
この後は、道中の兄妹とお屋敷の様子を挟みつつお送りする予定。

余談。この世界のこの国の学校は基本的に秋から新年度で、同年の1〜12月に生まれた子は同学年というシステムです

>>112
次兄は帰宅後に実行するポッケないない計画を瞬時に3パターンほど立てた模様
だから準備も綿密であると予測されますです
 
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 04:36:14.91 ID:OAT+lfLAO
悲しい別れじゃなくて良かった
少しずつお馬さんを慣らす執事さん可愛い
119 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/12(土) 01:28:25.55 ID:NRefISqt0
…………………………………………

……………………

…………

夢の世界。

(師匠「……行ってしまったな」)

(野獣「はい、でも『しばしの別れ』ですから」)

(野獣「と言うか師匠、午前中からお昼寝ですか?」)

(師匠「眠りの魔法をかけてな、わざわざお前に会いに来てやったんだぞ」)

(野獣「それは恐れ入ります」)

(野獣「……魔法の地図の効果であっという間に森を出てしまったので、仮想の窓からも見えなくなってしまいました」)

(師匠「未練たらたらではないか」)

(野獣「そんなんじゃありません、笑顔で見送るという約束を果たしたかったのですよ」)

(野獣「……嘘の約束ではない、本当の約束を」)

(師匠「四週間前にお前があの子らについた嘘も、あの子らは本物に変えてくれたがな」)

(野獣「ええ、あんな素晴らしい兄妹を、もう裏切ることはできませんよ」)

(師匠「あの子らとお前の繋がりは、もう断ち切れないほど強いと思うぞ」)

(師匠「……200年以上の時を経て、形を変えて結ばれた、とでも言えば文学的かな」)

(野獣「……?」)

(野獣「師匠、今のはどういう意味でしょうか?」)

(師匠「図書館の娘の孫という男、5人いる中のひとりだが」)

(師匠「彼は北辺都市に生まれ育ち、そのままそこで嫁をもらい子もできた」)

(師匠「子は男ばかり3人」)

(師匠「うち三男は情熱的でな、親の猛反対を押し切って想い人と駆け落ちして王都へ行ってしまった」)

(野獣「はぁ」)
 
120 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/12(土) 01:30:31.16 ID:NRefISqt0
(師匠「三男はそこで名前を変え、周囲とやがて生まれた我が子達には孤児で通し」)

(師匠「職人として弟子入りした先に気に入られ、そこそこの暮らしは出来たらしい」)

(師匠「で、彼の娘だがそれはそれは美しく、仮にAとしようか」)

(師匠「Aは西端都市出身のある若者に気に入られ、彼の故郷で皆に祝福されて結婚し幸福に暮した」)

(師匠「若者はそれなりの家柄だったにもかかわらず、ほんの二代前の先祖がどこの誰かも知らない娘でも一向に構わん、と」)

(師匠「Aは本当に父親より前の先祖を知らなかった、当然、彼女の子や孫も」)

(師匠「だから、Aとその子孫達と、図書館の娘が血縁上は直系である証拠を見つけ出すのは、本当に苦労した」)

(師匠「苦労したが、事実なのは間違いない、と儂の弟子の子孫達が話しておったわ」)

(野獣「……何を仰りたいのかまだわかりませんが」)

(師匠「王家や貴族ならざる庶民が」)

(師匠「自分の数代前の先祖を知らないのは、理由によっては仕方がない、やむを得ない」)

(師匠「必ずしもその者の落ち度や恥ではない」)

(師匠「……そんなわけで、次兄や末妹が図書館の娘の話を聞いてもだ、自分達に繋がりがあるとは気付くはずもない」)

(野獣「……!?」)

(師匠「兄妹の母親……商人の妻は西端都市出身」)

(師匠「西端都市に嫁いで来たAという女性は商人の妻の父方の曾祖母、更に辿れば……」)

(野獣「……な」)

(野獣「なぜもっと早く教えてくれなかったのです!?」)

(師匠「知って、お前はどうした?」)

(野獣「」)

(師匠「商人の妻から生まれた子だけでも5人」)

(師匠「商人の妻には姉2人と弟がいる、それぞれの子供達は合計10人」)
121 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/12(土) 01:33:56.13 ID:NRefISqt0
(師匠「商人の妻の父方のいとこ達は、商人の妻と同じだけ曾祖母Aの血を引いている」)

(師匠「……(感じ悪い)親戚2と親戚3、あと(影の薄い)親戚1、その他にも4人くらいいるとか」)

(師匠「末妹達より一代前だから彼等の方が血は濃いわな」)

(師匠「ついでに彼らの子供らは……ああもう全部で何人いたか忘れてしまったぞ」)

(野獣「……」)

(師匠「な、『価値』は『そこ』ではないのだ」)

(師匠「図書館の娘の子孫は、いま生きているだけでも儂の頭脳でさえ覚え切れないほど存在するが」)

(師匠「それより、お前の友達のあの子達がどんな子で、お前とどんな会話をしてどんな思い出を作ったか」)

(師匠「その重さに比べたら、あの子達が図書館の娘と血の繋がりがあった、という事実は『ちょっとしたおまけ』程度なのさ」)

(野獣「ちょっとしたおまけ……」)

(野獣「……ですが、私にはこの上なく嬉しい、素晴らしいおまけですよ?」)

(師匠「とりあえず、お前は菫花には黙っておけよ? 本人にも言ったが、頃合いを見て儂が『会わせて』やる」)

(師匠「あいつには、時間と色々な物がまだまだまだまだ足りていない」)

(師匠「兄妹にもその時に知らせるつもりだ」)

(野獣「承知しました、でも」)

(野獣「……驚くでしょうね、三人とも」)

(師匠「うむ、ま、伝え方はじっくり考えるがな」)

(師匠「……嬉しい、か……」)

(師匠「ふ、ロマンチストのお前ならばそう考えるよな、運命とか奇跡とかそんな言葉を当てはめて」)

(野獣「時を経て形を変えて結ばれた、とかさっき仰っていたのは師匠ですよ?」)

(師匠「……ふふん」)

(師匠「運命や奇跡を当てにするだけの人生は実に阿呆らしいが、彩を添える程度であれば」)

(師匠「たまぁに起きても悪くはない、とはこの儂も思わんでもないのだぞ?」)

(野獣「師匠も丸くなりましたね」)

(師匠「お前達と付き合うからには、こちらも文学的発想に理解を持たないとな」)

……
122 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/03/12(土) 01:35:11.69 ID:NRefISqt0

※ここまで。ドライなおっさんと夢見がちなおっさん、いずれにせよおっさんしかいねえ回でした※

次回は来週のどこかで……3月中に終われるかな……
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/12(土) 03:04:20.98 ID:rainpuJAO

次兄は「野獣様の想い人の血が俺の身体にもぉぉ!」とか狂喜しそうだよネ
124 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/15(火) 23:14:01.47 ID:PZ9SW6HQ0
屋敷の廊下、裏庭へ続く扉の近く。

執事「おや菫花様、バラ園へ出られるのですか?」

王子「ええ、冬に向けてバラの雪囲いをどうするか、庭師君と二人で考えようかと」

執事「なるほど、普通のバラになったからには雪の中に放って置くわけにもいかないでしょうね……」

執事「ところで菫花様、師匠様がどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」

王子「ああ、師匠なら自室で二度寝してくる……とのことです」

王子「……野獣に『会いに行った』のだろうけど」

執事「……なるほど」

王子「でも、彼も今回は心から笑って見送ったと思いますよ、僕は」ニコ

執事「ええ、わたくしもそう思います」ニッ

王子「執事さん、師匠に用事が?」

執事「実はですね。さきほど玄関にこちらが」ピラ

王子「師匠宛の手紙?」

王子「……呪文か、いにしえの魔法道具を使ったかは、僕には判断できないけれど」

王子「いずれにせよ何らかの魔法で届けられたのでしょうね、ということは師匠のお弟子さんの子孫さんか」

王子(なんの用件だろう……?)

……

ふたたび、夢の世界。

(師匠「儂の弟子の子孫な、早々と、騾馬探しに取り掛かってくれている」)

(野獣「おお、それは楽しみですねえ……!」)

(師匠「早ければ今月中にでも、質の良い騾馬の生産者リストを送ってくれるらしい」)

(師匠「リストに従って、実際に訪れ実物を見て決めると、だいたいこんな予定だ」)

(師匠「確かな生産者を選んでくれるとは思うが」)

(師匠「どんな優れた騾馬でも菫花がうまく扱えるには時間も手間もどれほどかかるのかと、心配でもある」)

(師匠「特別に忍耐強い個体だと有難いものだ」)

(野獣「菫花だってがんばりますよ、そして騾馬相手にもそれは通じるはず」)

(師匠「そうあってほしいな」)
125 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/15(火) 23:15:19.89 ID:PZ9SW6HQ0
(師匠「……なんにせよ、乗馬教師のアドバイスも時には必要かな?」)

(野獣「末妹ですね」)

(師匠「鏡越しの会話、か」)

(師匠「それで思い出したが、お前が鏡の魔法で使った合言葉」)

(野獣「え?」)

(師匠「『かぐわしき小さな赤いバラ、陽だまりの庭に踊るそよ風、小雀のさえずりに耳を傾けまどろむひととき』」)

(野獣「だだだだだだ、誰から聞いて」)

(野獣「あ、そう言えば私が鏡を使う様子も……何度もご覧になっておられたのでしたっけ……」)

(師匠「第一印象からお前らしいとは思ったが」)

(師匠「……お前の掌で愛らしくさえずる小さな雀、お前の屋敷の庭に踊る心地よいそよ風」)

(師匠「お前の心に花開いた甘い芳香の小さな赤いバラ」)

(野獣「 」)

(師匠「今になって考えるに……お前にとってのあの少女を文学的というか詩的に形容しt」)

(野獣「わああああああああああああああああ!?!?!?」アセアセ)

(師匠「図星だな」)

(師匠「今さら照れることか」)

(野獣「……だから本当は次兄にも教えたくなかったのですよ……」ボソ)

(師匠「ん、あの子に話したのか。気付かれたか?」)

(野獣「……乙女チックなカフェのメニューみたい、とは言われましたが」)

(師匠「妹への口止めは?」)

(野獣「え? していませんよ、よけい怪しまれるじゃないですか」)

(師匠「ふむ、意外と妙なところでだけ鋭い勘の働く少年だ、少し考えれば正解に辿り着きそうな」)

(野獣「ちょ」)

(野獣「追い討ちかけないでください、ああ、ドキドキしてきた……」)

(師匠「それくらいなんだ、お前の情けない所はすでに散々さらけ出しているではないか」)

(師匠「お前の小心も簡単には治らんようだな……」)

……
126 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/15(火) 23:17:13.11 ID:PZ9SW6HQ0
南の港町へ進む馬車、肉眼ではその姿は見えない……

ガラガラガラガラ……

馬「ぶるる……」

次兄「……お前は学校の先生になりたいんだ」

次兄「うん、絶対いい先生になれるよ!」

末妹「ありがとう。そのためにはまず学校に戻って勉強を頑張らないと」

次兄「末妹なら、すぐ遅れを取り戻せるさ」

次兄「それで思い出した、美術学校の受験科目にも一般教養くらいあったはず」

次兄「去年まで家庭教師に習っていた勉強を復習せねば、まずは教科書を部屋の混沌から発掘し」

次兄「……見つかるはず、たぶん、いや、願わくば」ブツブツ

次兄「とにかく兄ちゃん、復習の鬼と化しますよ!!」バァーン

馬「ひん」

末妹「……最後だけよくわかんなかったけど、頑張ろうね、お互いの夢のために」

次兄「頑張ろうな、野獣様が喜んでくれる報告をしたいし!!」

次兄「家に着いて、落ち着いたら父さんとじっくり話を、俺と末妹それぞれの」

次兄「……その前に、魔法の鏡の話をするほうが先、だな」

末妹「ええ、お父さんは私達がお屋敷の皆さんと友達でいたい気持ち、わかってくれたけれど」

末妹「だからと言って……それに甘えて良いお返事を最初から期待しないよう、きちんとお話ししなくちゃね!」キリッ

次兄「」

次兄(……末妹が可愛くお願いしたら父さんはイチコロ、とか甘い作戦を考えていたが)

次兄(もうちょっと真面目な方向へ軌道修正しなくては、うむむ……)
127 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/15(火) 23:19:09.54 ID:PZ9SW6HQ0
末妹「ところで、お兄ちゃん」

次兄「はっはい?」

末妹「鏡の合言葉を野獣様から教わるって話、何日か前にしていなかった?」

次兄「確かにしてた、ね。結論から言うと、預かった鏡台に魔法がかかっているから、合言葉は不要になったけど」

次兄「でも、教えてはくれたよ」

末妹「あら、どんな言葉だったの?」

次兄「知りたい? ま、それも当然っちゃ当然か」

次兄「……『かぐわしき小さな赤いバラ、陽だまりの庭に踊るそよ風、小雀のさえずりに耳を傾けまどろむひととき』」)

末妹「……可愛い合言葉ね、優しい野獣様らしいな」フフ

次兄「ああ、実に乙女チックでポエミーでファンシーで野獣様らしいと、俺も思ったが」

次兄「……今にして思えば、これって全部……野獣様目線の、末妹の事じゃないかな?」

末妹「」

馬「ひんっ!?」ザシュ

次兄「ちょ、なんで馬を止める!? ど、何処だよここ!!??」

末妹「はっ……ご、ごめんなさい! 魔法の地図では普通ではありえない場所も通るって」アワアワ

手綱:ピシ!

馬「ひん!」カッ…カッポカッポ…カッカカッカカッ

次兄「……よかった、また周囲の風景が魔法の地図の道になった……」ホッ

末妹「止める気はなかったの、つい手綱を握る手に変な力が入っちゃって……本当にごめんなさい」

次兄(……ものの数秒間だったが、南の港町よりずっとでかい都会のど真ん中だった)

次兄(通行人から見れば、馬車が忽然と街の中に出現したように見えただろう)

次兄(もう少し止まっていたら、向こうにいた兵隊さんだか憲兵さんだかが近寄って来たかもしれないな……)ヒヤアセ
128 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/15(火) 23:21:58.13 ID:PZ9SW6HQ0
次兄「俺の方こそごめん、そんなに動揺するとは思わなかったから」

末妹「……そう、それが合言葉……」

次兄「あのね、俺けっこう強引な方法(精神的な意味)で聞き出しちゃったんだ」

次兄「恥ずかしそうにしてたし」

末妹「恥ずかしそう……」

次兄「でも末妹に秘密にしてくれとは言わなかった……」

次兄「……あっ、秘密にしろなんて言ったら、よけい怪しいからかな……?」

末妹「 」

次兄「いや、それでも末妹の事かなー、なんてのは俺の推測に過ぎないから!?」

末妹「……そうよ、野獣様自身が説明されていなかったら、推測しかないもの」

末妹「バラの花、爽やかなそよ風、小さな雀さん」

末妹「野獣様のお好きなものの名前を詰め込んだだけの合言葉よ」

末妹「私の事だなんて、無関係に決まってるわ、からかわないでお兄ちゃんたら」

次兄「……」

次兄(無関係と思うなら何故、棒読み気味で顔を真っ赤にして、こちらを見ようともしないでしょうねぇ)

次兄(うーん、乙女心は難しいっす)

馬「ひひん……」

ガラガラガラガラ……

……

(野獣「まさか、な、次兄……末妹……」)

…………

馬車が南の港町に着くまで、あと少し……

…………
129 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/03/15(火) 23:22:34.28 ID:PZ9SW6HQ0

※今夜はここまで。※
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/16(水) 00:24:00.12 ID:kNNPHFpAO
おつん
動揺する野獣と末妹ちゃんが可愛い
次兄は変なところで勘がいいからなww
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/18(金) 05:54:04.27 ID:2RCqN40mO
乙 ほんとこのお話すき
キャラがみんな愛おしいぜ…
132 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/21(月) 02:30:08.45 ID:MefZcEaC0
ガラガラガラガラ……

次兄(……そろそろ末妹も平常心かな?)

次兄「……時間的に、もう道中の半分以上は来ているな」

末妹「そうね」

次兄「この先の話より何よりも、お屋敷で起きた事を話すのが先、と言うか」

次兄「父さん達もそれを聞いてくるだろうねえ」

末妹「……そうね」

次兄「正直、どこからどう話そうか俺もわかんなくて……末妹と事前の打ち合わせも持たなかったんだけど」

末妹「うん、私も……いろんな事がありすぎて、どこから話していいかわからないの」

馬「ひひん」

末妹(……でもね、お兄ちゃん)

次兄「でもね末妹、今思うのは」

次兄「どう話すかなんて、あらかじめ決めなくてもいいかな、って」

次兄「魔法絡みの話とか、軽騎兵が押し寄せた話とか、慎重に扱うべき話題もあるけどさ」

次兄「父さん達が聞いてくるのに答える形で、後はそれぞれ心の赴くままに話せばいいような気がするよ?」

末妹「……お兄ちゃん」

次兄「ふぇ?」

末妹「私も、それでいいかなって、お兄ちゃんに提案しようと思ったところなの」ニコ

次兄「そっか、じゃあ決まりだな!」ヘヘ

……………………

…………

南の港町、商人の店の前……

看板:【本日は休業させていただきます】

通行人A「おや、今日は商人さんの店はお休み?」

通行人B「2、3日前にお断りとお詫びのチラシが配られていたよ」

通行人A「予定の用事か、まあ商人さんの病気とか悪い理由じゃなきゃいいよ」

……
133 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/21(月) 02:31:41.89 ID:MefZcEaC0
商人の家。居間……

商人「……」ウロウロウロウロウロウロ

次姉「……お父さん、気持ちはわからないでもないけど、じっとしていなさいよ」

次姉(さすがに当日は予想通りになったわ)

長兄「父さんほら、とりあえず椅子に座って落ち着こうよ」

家政婦「皆様、ホットミルクをお持ちしました。旦那様も、どうぞ」

商人「あ、ありがとう……いただくことにするか」ガタ

長兄「家政婦さん、ナイスタイミング」

長姉「家政婦さん、私ホットミルクに蜂蜜入れたい。アカシア蜜がいいわ」

家政婦「はい、お持ちしますね長姉様」ニコ

長兄「全く……お前はマイペースにも程がある」

長姉「いつも通りで別にいいじゃないの。あ、ありがと家政婦さん♪」

長兄「到着時間の目安だけでも決めておけばよかったかな」

次姉「お父さんの話だと、町外れからは魔法関係なく普通に帰って来るんでしょ?」

次姉「それなら明るいうちに家に着くよう、あの子達も逆算して出発するわよ」

商人「明るいうち……か」

商人「ああ、日没までト」

次姉「日没までトイレにも行けやしない、なんて言わないでよお父さん?」

商人「あう」

次姉「落ち着いて笑顔で迎えなくちゃ、あの子達に無駄に気遣いさせるつもり?」

商人「あうう」

次姉の営業用ボイス「しっかりなさい、どっしり構えた父親を目指すのでしょう?」

商人「はい!」シャキーン

長兄「父さん、軽く仕事の話でもしようか。他にする事がないから余計に気を揉むんだよ」

商人「そ、それもそうだね」
 
134 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/03/21(月) 02:33:32.14 ID:MefZcEaC0
商人「あの子達に、あの子達の強さを信じると言ったのは私なんだ……」

商人「私も信じてもらえるに値する父親でいなくては」

長姉「今、落ち着いていてもソワソワしてても、まさにその時が来たらグダグダになっちゃうから同じだわ」

長姉「ま、それでも別にいいと思うけどね……」

長姉「……ホットミルク美味しい」フゥ

長姉「私こそ、こんなに悠然としてあの子達を迎えていいのかしら」

次姉「いいに決まっているじゃない、姉さん。……私にもそれ頂戴?」

長姉「……いいのかな。はい蜂蜜の瓶」

次姉「ありがと」ハチミツトロー

次姉「笑顔の一つでも見せてあげたら、末妹は嬉しいと思う」

次姉「あ、次兄のリアクションは多少むかついても気にしないでサラッと流すように」

長姉「笑顔……」

長姉(そう言えばあの子に、どれだけ前からまともな笑顔を見せていないだろ……)

次姉「それに、姉さんは幸せな報告をしなくちゃね、驚くだろうけど祝福してくれるわ」

長姉「……祝福、してくれるかな……こんな私を」

次姉「しない理由がないじゃない」

次姉「あの子達の普通の姉になる、今日が第一歩なんだから、頑張って踏み出すのよ」

長姉「普通の姉になる」

次姉「自分で言ったんでしょ、お父さんを気の済むまでクッションで叩くのと引き換えに」

長姉「……うん」コクリ

長姉「あんたがそばにいてくれたら、私、できると思う!」

次姉「そうよ、私がついてるからね、姉さん」フフ

…………
 
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