ほむら「幸せに満ち足りた、世界」2.5(まど☆マギ×禁書)

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1 :暗黒史作者 ◆FPyFXa6O.Q [saga]:2016/01/03(日) 02:35:32.02 ID:FQv2s0UF0
Happy New Year!!!

………何と言いますか、すいません。
別スレに手を出して、
そろそろ平行作業入れるかと言う矢先に作者の私的な機能停止とスレ落ちと言う次第で。

改めまして、本作は

「魔法少女まどか☆マギカ」



「とある魔術の禁書目録」

及びその外伝のクロスオーバー作品です。

前スレ
ほむら「幸せに満ち足りた、世界」2(まど☆マギ×禁書)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1435465986/

過去スレ
ほむら「幸せに満ち足りた、世界」(まど☆マギ×禁書)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419447208/

二次創作的アレンジ、と言う名の
ご都合主義、読解力不足

分野によっては考証を勘と気合で押し切る事態も散見される予感の下、
まあ、数学とかもアレな世界だしとか若干の言い訳をしたりしなかったり

本作第二部の続きとなります。

年始特番的なノリとタイミングでまずは区切りのいい所まで投下、出来たらいいなと。

それでは今回の投下、入ります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1451756131
2 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/03(日) 02:41:33.13 ID:FQv2s0UF0
==============================

 ×     ×

土曜日、上条恭介は、
ホオズキ市内の屋敷の正門でインターホンを押していた。
恭介の自宅も見滝原市内では立派な部類に入るのだが、
目の前の屋敷は明らかに一つ上の存在感を放っている。

「はーい」
「あの、上条です」
「今、開けるから入って」

電子ロックを解除され、恭介は正門から玄関に進みインターホンを押す。

「どうぞー」

恭介が扉を開き、玄関に入る。

「こんにちは」
「いらっしゃい」

そんな恭介を、奏遥香が出迎える。
その美少女の眩しい笑顔は、
同年代の少年のハートであればまず一撃食らわせる事が出来る威力。
恭介も又、特技以外、そちらの感性に於いては只の平凡な中学生に他ならない。

「上がって」
「お邪魔します」

促され、恭介は邸内に入る。
手入れの良さそうな長い髪に白いワンピースの遥香は、
いかにも清楚なお嬢様と言った雰囲気。
と、言語化できるかはとにかく、恭介の感性にそう響く。
案内された先で、恭介は促されるまま応接セットのソファーに掛ける。

「お待たせ」

声と共に、どこか温かで甘酸っぱい香りが漂う。
3 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/03(日) 02:46:48.70 ID:FQv2s0UF0

「どうぞ。アップルティーとタルト・タタン」
「いただきます」
「どうかしら?」
「美味しいです」

当然と言うべき返事だったが、それは素直な本心。
少なくとも、素人としては十分な技量に基づく一品だった。

「良かった。丁度いい紅玉があったから」
「美味しいです」

美味しい林檎のスイーツをもぐもぐいただきながら、恭介の記憶にふと触れるものがあった。
ごく最近の記憶であったが、それを口には出さない。

出さなかったのはたまたまに過ぎない、
と言うぐらい、些か疎い向きのある恭介であったが、
そこは結果良ければ全てよし。

その間に、遥香は部屋のカーテンを閉じる。
カーテンを閉じて薄暗くなった室内で、
用意を終えた遥香は恭介の隣に座っていた。

 ×     ×

至福の時間が過ぎ、恭介はふーっとも、ほーっともつかぬ息を吐いていた。

「良かった」
「はい」

遥香の言葉に、恭介は応じた。

「もう一杯、お茶を用意するわ」
「いただきます」

立ち上がった遥香が、今度は普通の紅茶を用意して戻って来る。
少なくとも、一山幾らで湯の中に糸で吊るす類の紅茶でない事は確かだ。
4 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/03(日) 02:52:15.33 ID:FQv2s0UF0

「まだ誰もが無名だった学生時代、
友人の自主製作映画にグループで演奏に加わった。
今となっては、映画も、音楽も、とてつもないとしか言い様のないメンバー」

「やっぱり、素晴らしかったです。
後から見たら粗削りで稚拙な所があっても、
でも、勢いがあって力強くて、何よりも面子が信じられない」

ホームシアターで、まだ頬の紅潮が見える様な恭介の言葉を聞きながら、
遥香はにっこり頷いた。

「商品化の話は何度もあった。
だけど、権利関係の問題とかでどうしても叶わなかった。
関係者と仕事をした伝手で姉さんが持っているのを最近知って、
上条君なら絶対食い付いて来るだろうって」

「ありがとうございましたっ!」

ソファーに掛けたまま深々と頭を下げる恭介を、遥香はくすくす眺めていた。

「と、言う訳で、姉の七光りだけどね。
それでも喜んでもらえて光栄です。
何より、将来有望な上条君がこれに触れる事が出来て、
姉さんに頭を下げたかいがあった」

「そう言えば、カナタさんは?」
「お仕事よ。両親も揃って文化事業の会合に出席してる」
「そうですか」
「………そろそろかしら」
「?」

遥香が閉てた指を唇に当てる。
それと共に聞こえてきたのはヴァイオリンの音色。
弾き手も、その録音を伝える機材も素晴らしいの一言。
再び、恭介は潤んだ目を見開き、頬を紅潮させた。

「………やっぱり、凄い………」

演奏が終わり、ほーっと息を吐いた恭介がぽつりと言った。
5 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/03(日) 02:55:41.52 ID:FQv2s0UF0

「そうね」
「音質を気にしなければ大抵のものは聞けますけど、
やっぱりこうやって聞くと………」
「聴いた事、あった?」

遥香は、やや意外そうに尋ねた。

「ええ。………版ですけどCD持ってますから、
時間があったらよく聞いています。
でも、この版をこの設備で聴けるなんて、最高です」

「それは良かった。でも、流石ね。
それですら、中学生で持ってる人なんてまずいないでしょう」
「そう、ですね………」

何か思い出した様な恭介の少々やんちゃな笑みを、
遥香は横で少し眩しそうに眺めていた。

「上条君」
「はい」

遥香に呼びかけられ、ソファーに隣同士で座りながら、
恭介と遥香は互いに横を向いて正面から顔を見合わせた。

==============================

今回はここまでです>>-1000
続きは折を見て。
6 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/03(日) 12:49:26.21 ID:FQv2s0UF0
引き続き今回の投下、入ります。

==============================

>>5

 ×     ×

「次は、何がいいかしら? そうね………」

言いかけた所で、
二人はしんと静まっていたホームシアターに響く物音に気付き、そちらを見る。

「ただ今」
「姉さん」
「カナタさん」

ドアを開いて現れたのは、スーツ姿の奏可奈多だった。

「やっぱりここにいた。まだ、映画の途中だったかしら?」
「映画の後の音楽鑑賞会」
「そう、じゃあカーテン開けましょうか」
「そうね」

遥香の返答を聞き、可奈多がシャッとカーテンを開ける。

「こんにちは、上条君」
「はいっ! 素晴らしいものを聞かせていただいて、ありがとうございましたっ!」

可奈多から魂を根こそぎ奪い尽くさんと言う魅惑の微笑を向けられ、
恭介は直立不動から一礼していた。

「姉さん今日仕事だって」
「ええ、だから仕事して帰って来たの。
一日かかる様なものじゃないわ」

「そう」
「上条君これから暇?」
「え?」
7 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/03(日) 12:54:30.56 ID:FQv2s0UF0

 ×     ×

奏可奈多の運転する車は、コインパーキングに駐車した。
可奈多を先頭に、車を降りた遥香と恭介は駐車場を出て少し歩く。
ちらほらと食堂や飲み屋が見える街並みを歩き、
ビルの入り口からそのまま地下への階段を下りる。
ドアを開けると、強烈なフォーンが三人を歓迎した。

「やあ、いらっしゃい」
「こんにちは」

ドアの向こうの喫茶店で、可奈多、遥香と初老のマスターが挨拶を交わす。

「ジャズ喫茶、ですか?」
「そう、来た事あったかしら?」
「いえ」
「そう。ま、そっち座ってて」

可奈多と恭介が言葉を交わし、恭介と遥香は促されるままにボックス席につく。

「ブラッドオレンジジュース、あなた達は?」
「私もそれでいい」
「僕も」
「ブラッドオレンジ三つとソルトピーナッツ」
「はいよ」

マスターが気さくに応じ、用意を始める。
恭介が改めて周囲を伺うと、ジャズ喫茶とはこういうものかと、
なんとなくイメージ通りにも思える。
結構な音量のジャズレコードが響き、ぱらぱらと客も入っている。

「お待たせ」
「有難うございます」

出されたものを摘みながら、
恭介は折角の機会なのでレコードに耳を傾ける。
8 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/03(日) 12:59:48.80 ID:FQv2s0UF0

「上条君」
「はい」

遥香が、そんな恭介を正面から見て声をかけた。

「上条君、
私がクラシックだと姉さんにかなわないからジャズを始めた、
って思った?」
「え? えっと………」

「ふふっ、正直ね。ま、そういう所が全然ないとは言わない」
「………」
「このお店、父と母の青春の場所なんですって」
「じゃあ、この店に二人で?」

「そうみたい。
もう随分昔の事ね、私もピアノで煮詰まってた時、
察してくれたのか、父が私をここに連れて来てくれた。
麻疹、お蔭で大分良くなったわ」

「そうですか」
「大体、この間聞いたでしょう。
ジャンルを変えたぐらいでどうこう出来る人じゃないって」

ついっと遥香が視線を向けた先では、
二人に背を向ける形で、可奈多がマスターと立ち話をしている。
確かに、それだけでも圧倒的なオーラが伝わってくるのだから仕方がない。
そのマスターが、ボックス席に近づいてきた。

「上条恭介君」
「はい」
「見せたいものがあるんだけど」

遥香が小さく頷き、恭介は立ち上がる。
マスターに付き合い、店内の一角に移動する。
そこで渡されたものは、恭介にとっては馴染み深いケースだった。
マスターの視線を追うと、そこには写真立て。
9 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/03(日) 13:05:10.64 ID:FQv2s0UF0

「これって………この店ですよね?」
「ああ、学生時代からの常連さんだ。
今でも時々弾いていく」

恭介は、自分が知っているのよりもずっと若い、
恭介とは畑違いであるが好感を持っている
女性ジャズヴァイオリニストの写真を眺めてからケースを開く。

「………いいですか?」
「ああ、カナちゃんの紹介だからね」

恭介がケースからヴァイオリンを取り出し、弓を弾く。
高価なものではないが、
十分に手入れされ弾き込まれている、温かで好感が持てる出来だ。

その時、ぱち、ぱち、ぱち、と、店の客から拍手が起きる。
恭介がその気配を追うと共に、
いつの間にかレコードは止まり、その代わりに生のピアノ演奏が店内を席巻する。
演奏者は奏遥香、恭介と初めて会った時、最初に弾いていた曲、ではあるが、

「驚いた?」

そう、恭介に声をかけたのは奏可奈多だった。

「あの娘、外ではあの曲ちょっと女の子っぽく弾くでしょう。
だけど、本当はこの方が好きだし得意なの」

そして、それは恭介もそうなのかも知れない。
スタンダードで、男性的な程に挑む様な力強さ。
遥香の演奏は力一杯恭介の感性に迫って来る。

「昔はちょっと引き気味だったんだけど、
あれで結構負けん気強いからね。
それを御するってなると大変だよ。
だが、それがいい」

腕組みしてうんうん頷く可奈多の言葉そのままに、
ぐいぐい引き付ける激しくも艶やかな演奏はあっと言う間に過ぎていく。
10 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/03(日) 13:08:28.04 ID:FQv2s0UF0

「Attention please」

一曲弾き終えた筈が、
何か同じ曲の前奏の様なものを弾きながらそうコールした遥香と恭介の目が合った。

元来、上条恭介は些か気難しい所もあるが荒々しいタイプの少年ではない。
或は、身近な女の子の方が力強いタイプだったため、
自然と逆に性格が触れたのかも知れない。
だが、それでも、ここは譲れない、と言うものは持っている。

ピアノの側に歩を進めた恭介に、
奏姉妹は不適な笑みをもって応じる。
再び、力強い演奏が始まった。
力強くも繊細で、艶やかでいて男性的な二重奏は、
拍手喝采を以て店中から迎えられた。

 ×     ×

「今日はありがとうございました」
「こちらこそ、いいものを聞かせてもらったわ」

ビルの入口近くで、恭介と可奈多が言葉を交わす。

「ちょっと済ませたい用事あるんだけど、
何なら二人で先帰ってくれるかな?
この辺ならこの娘が案内できるから
それとも、やっぱ先に送った方がいい?」

「私は構わないけど、上条君は?」
「ええ、僕も大丈夫です」
「そ、じゃ、悪いわね」
「有難うございました」
11 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/03(日) 13:12:42.28 ID:FQv2s0UF0

 ×     ×

逢魔が時、魔を狩る二人の少女が、ホオズキ市の繁華街周辺を見回っていた。

「あーあー、どうせだったらさっさと見つかんないかなぁ」

本日の反応の鈍さに、成見亜里紗が腕を頭の後ろに組んで声をあげる。
その側で、詩音千里はふうっと小さく嘆息して歩を進める。

「?」

その千里がふと足を止め、亜里紗がそれに気づく。
ぱちくりと瞬きする千里の視線を亜里紗が追った。

「あれって?」
「………」

亜里紗が、通りの向こうに見える、
見覚えのある先輩を交えた二人組に目を凝らす。

「へぇー、もしかしてなんかいい感じ?」
「………」

 ×     ×

奏遥香にバス停まで案内してもらい、
上条恭介は無事見滝原の帰路に就いていた。

「上条君」
「ああ、志筑さん」

もうすぐ自宅、と言う路上で、恭介は志筑仁美と遭遇した。

「お出かけでしたの?」
「うん、ちょっとね」
「そうでしたか………」
「じゃ、明日………明後日、学校で………」
「はい………」

挨拶を交わし、恭介はすれ違い歩を進める。
12 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/03(日) 13:16:22.97 ID:FQv2s0UF0

「………お待ち下さいっ!」
「?」

叩き付ける様な声に、恭介は振り返る。
その恭介に、びっ、と、何かが差し出された。

「明日、あすなろプールのリニューアルオープンでチケットが手に入りましたの。
それで、是非上条君とご一緒に………」
「………」
「ごめんなさい、コンサートも近くてお忙しい時でしたわね」
「いや」

仁美は、意外な声を聴いて視線を上げた。

「明日だよね」
「はい」
「うん、一緒に行こう。
明日は自主練だけだから少しそういう時間も欲しかった」
「本当ですの?」

疑う訳ではないが、嬉しさ故に確かめずにはおれない。

「うん」

それは、仁美が手と手を組んで歌い上げたくなる様な恭介の微笑みだった。
さあ、帰宅したら改めて吟味しよう。
それは、戦いに挑む鎧、武器であると共に戦場の華。
決して後悔等しない様に、未だ十分には程遠くても、
女の知恵の粋を尽くす今がその時。

==============================

今回はここまでです>>6-1000
続きは折を見て。
13 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします :2016/01/03(日) 16:29:37.21 ID:FLseByhfO
 【このスレは無事に終了しました】

  よっこらしょ。
     ∧_∧  ミ _ ドスッ
     (    )┌─┴┴─┐
     /    つ. 終  了 |
    :/o   /´ .└─┬┬─┘
   (_(_) ;;、`;。;`| |
   
   【放置スレの撲滅にご協力ください】  
   
      これ以上書き込まれると

      過去ログ化の依頼が

      できなくなりますので

      書き込まないでください。


            SS速民一同
 【糞スレ撲滅にご協力ください】
14 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/22(金) 00:34:56.12 ID:iGnM/Ek50
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>12

 ×     ×

「もしもし」

日曜日午前、上条恭介は、待ち合わせ場所に向かう途中で
自分のスマホに一本の電話を受けていた。

「もしもし、上条君?」
「志筑さん」
「ごめんなさい、朝稽古の帰りに電車の事故がありまして、
少し遅れそうです」

「どれぐらい?」

取り敢えず、待ち合わせ場所と時間は折り合う事が出来た。

「申し訳ございませんが、先に入っていて下さいまし」
「うん」

 ×     ×

「おーい」

そういう訳で、本日リニューアルオープンのあすなろ市内の総合遊泳施設、
通称あすなろプールを一足早く訪れた上条恭介は、
さてどこで泳ごうかと動き出した頃合いで、呼びかける声を聞きそちらに顔を向ける。
そちらでは、ビーチチェアの上から、水着姿の女性が口元に笑みを見せて手を振っていた。

「よっ」
「あ、どうも」

鹿目詢子は、ラベンダーカラーの水着姿で、
ビーチチェアの上でサングラスをずらしてニッと笑う。
恭介もなんとなく知り合いだと思い当たってはいたが、
それを見てようやく頭で理解する。
15 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/22(金) 00:40:22.47 ID:iGnM/Ek50

「上条君も来てたんだ」
「はい。おばさんも」
「ああ、ファミリー券もらったからね」

「じゃあ、まどかさんも?」
「いんや、まどかは先に友達と予定入れてたとかでさ、
だから今日はまどか抜き」
「そうでしたか」
「さて、と、あたしも日向ぼっこはこの辺にしとくかな」

そう言って、詢子は右腕を掲げ、んーっと伸びをする。

「ああ。ま、まどかと仲良くしてやってくれよ」
「はい」
「………一応言っておくが、
仲良く、って言っても節操持ってだからなモテ男。
まあー、まどかもそんなネタになるぐらい色気づいてくれりゃいいんだけど」
「あははは」

割と古い知り合いの、元々がむしろ恭介自身より男っぽいのではと言う
陽性の友人の母親にからりと言われ、恭介も笑って受け流す。
それを見て、詢子も微妙に戦闘的な笑みで釘をさす。

「おーい」
「まーまー」
「それじゃあ、僕は」
「ああ」

踵を返す恭介が軽く手を挙げ、
愛する家族の声を聞いた詢子はビーチチェアから軽く飛び降りる。
16 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/22(金) 00:45:51.71 ID:iGnM/Ek50

「あれでコブつきかよ」
「上級者向けだな」

プールサイドで立ち上がり、んーっと伸びをした詢子を見ながら、
プールの中では小さく毒づいた後輩にショウさんがふっと戦闘的な笑みを浮かべる。

仮想ターゲットは、どこぞのバリキャリと言っても通用するであろう、
さっぱりと活動的なショートボブも好印象のいい女。
通用する、と言うか、と言う辺りは知らないのだから仕方がない。

ショウさんに言わせれば、まず、お子さんがいる様には見えませんね、と言う事になるだろう。
但し、その点で詢子の家族構成を完全に知れば、流石のショウさんも少々驚いて
七割本気を120%本気に引き上げてその称賛を言ったかも知れない。

水着のデザインは、前から見るとホルタービキニの上下を同じ布で繋いだ様なもの。
小娘一捻りの力強さと見た目二十代もアリかも知れない若々しさを兼ね備えて、
両サイドのざっくり抉れたモノキニに近い水着を
無理すんな感を欠片も見せずに着こなして見せている。

価値はある、と、上級者たるショウさんは確信するが、
リスクから言っても今はその時ではない、となる相手だ。
何よりも、とっかかりとなる欲求不満が欠片も見えない。
ここは、その野郎に敬意を表し引き下がる所だ。

 ×     ×

「あらあら、降りられなくなったのかしら?」

あすなろプールの一角で、水着姿の宇佐木里美が、
結構高い立ち木の前に立って何やら話しかけている。
誰かがそれを聞いていたならば、
独り言を言っている様にしか聞こえなかっただろう。
里美の視線の先には、見上げた先の枝に蹲る子猫の姿が。

友達と遊びに来たと言う事で、今の里美は水着姿。
簡単に言えば、彼女の魔法装束のスカートをフリル程度にバッサリ切って、
ノーマルタイプのワンピース水着の下半身と合体させた様なデザイン。
基本、木登りには余り向いている格好ではない。

だからと言って、割と人通りもある中、この用件で変身、
と言うのも流石に気が引ける。
17 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/22(金) 00:51:15.59 ID:iGnM/Ek50

「踏み台でもないかしら」

里美は、困った顔できょろきょろと周囲を見回す。

「これでいいですか?」

そんな里美の背後から話しかけたのは、
プラスチックの酒函をぶら下げて現れた上条恭介だった。

「あら、有難う」

里美は函をあっさり受け取ると、木の下に函を置いて立ち上がる。

「大丈夫、こっちよ。おいで」

そして、腕を伸ばして優しく呼びかける。
動物の扱いに慣れてそうだ、と、恭介がなんとなく感じる話し方だ。

「うふふっ」

そして、子猫は恐る恐る下へと移動し、
にゃんころりんとばかりに木から飛び降りて、
そのまま着地した里美の胸元で抱き留められた。

「良かった。もうあんまり危ない事しちゃ駄目よ」

優しく語り掛けるその姿を、本当に猫と話している様だ、
と、恭介は微笑ましく眺めている。

「ありがとう、手伝ってくれて」
「いや、大した事は」

胸に猫を抱いたままにっこりと礼を言う里美に恭介が応じる。
実際の所、もうちょっと早く事態を把握していたのだが、
それなりに優しい少年であると同時にコンサートを控えたヴァイオリニストの卵として、
素性も気性も知れない猫の相手は躊躇していた、と言うのが実際だった。

「里美ーっ」
「それじゃあ」

そして、里美は遠くで呼びかける声を聴き、その場から立ち去っていた。
18 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/22(金) 00:54:59.16 ID:iGnM/Ek50

 ×     ×

「ふーっ」

ひと泳ぎしていた恭介がプールサイドに手をついて水からあがる。
えらい美人がそこにいた。
恭介の目の前では、しゃがみ込んだ奏可奈多がにこにこ笑って水から上がる恭介を見ていた。

「はぁい」
「カナタさん」

立ち上がる恭介に合わせて、可奈多も立ち上がって軽く手を挙げた。

「やっぱり上条君」
「ハルカさんも」

その側から、奏遥香も恭介に声をかけた。

「今日は二人で?」
「姉さんは仕事」

恭介の問いに遥香が答える。

「ここのリニューアル、姉さんも仕事で少なからず関わってるの。
だから、さっきまでちょっとインタビュー受けてたの。
若干読者サービス入りの記事になるわね」

遥香が言い、共に水着姿の姉妹でふふっと笑い合う。

確かに、奏可奈多はこの世に似合わないものを探す方が難しい
抜群のプロポーションを備えた最強クラスの美人であるが、
今日はクラシックコンサートのドレスを思わせる濃いワインレッドのワンピース水着。

ドレスを基に例えるなら、スカートをばっさり切って
シースルーのミニスカート状態に変換し、その下はハイレグのワンピース。
可奈多の大人の美女の魅力を一欠落とて殺す事はしていない。
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