ほむら「幸せに満ち足りた、世界」2.5(まど☆マギ×禁書)

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

20 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/23(土) 03:55:49.04 ID:omF0MHMp0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>19

 ×     ×

「上条先輩?」

ひと泳ぎしてプールサイドを歩いていた恭介が、その声に足を止めた。

「上条せんぱーいっ」

恭介がそちらを見ると、フリルトップが可愛らしい感じの
タンキニ水着の女の子が手を振っていた。

「確か、茜ケ崎の」
「はい、日向茉莉です」

そちらに歩み寄って尋ねた恭介に、茉莉が明るく答える。

「こんにちは」

茉莉の斜め後ろで、
色白の頬に若干の赤みを増した天乃鈴音がミリ単位で頭を下げるのを発見し、
恭介は優しく笑って挨拶する。

それを見て、鈴音はすすすと移動し、改めてぺこりと頭を下げる。
鈴音は、彼女の魔法装束にも似ている黒と白を合わせたプリントの、
トップスはフルカップに近いスポーティーにも見えるミニスカートつきビキニを着用していた。

「ほおずきからこっちに」
「はい。見滝原からも来てるんですね」

頭を上げても視線は下向きの鈴音の側で、恭介と茉莉がのんびりと世間話を交わす。
21 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/23(土) 04:01:19.40 ID:omF0MHMp0

「ここにいたんですか」

そこに、更にもう一人、水着姿の女性が近づいて来る。

「お友達ですか?」
「上条先輩。この間、見滝原に音楽聞きに行った時に。
すっごくヴァイオリン上手なんだよ」
「そうでしたか」

会話の合間に、天乃鈴音の首がミリ単位で下に動き、
美琴椿はそれを鋭敏に察してにこっと微笑みを向けていた。

「お姉さん?」

屈託なく会話する茉莉と美琴椿を見て、恭介が尋ねた。
年上と言うか成人、低く見ても大人びた高校生なのは間違いないとして、
紅に近いオレンジ色のクロスホルターのワンピース水着は
スタイルのいい妙齢の美女によく似合っている。

「んー、保護者、かな?」
「ああごめんなさい。美琴椿です」
「上条恭介です」

そうして、恭介に向き直った椿と恭介が互いに一礼する。
その側で、すすすっと移動していた歴戦の戦士天乃鈴音が、
冷徹に戦況を分析するのと同じ目で恭介の視線の動向を把握する。

「マツリーっ、何やってんのーっ?」
「すいません、友達待たせてるから」
「うん」

遠くから声が聞こえて、茉莉が慌てて動き出す。
その側で、鈴音が踵を返しながら小さく頭を下げ、
恭介がにっこり微笑みを返すと、
鈴音は僅かに足を止め、そして、つつつと茉莉の後を追う。

「仲良くしてあげて下さいね」
「はい」

ふふっとほほ笑む椿に恭介はほぼ社交辞令、特に考えもなしに返答し、
椿はふうっと小さく息を吐きやや困った笑みを浮かべて後を追った。
22 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/23(土) 04:06:31.25 ID:omF0MHMp0

 ×     ×

さてどこかのプールに入ろうかと恭介がプールサイドを移動していると、
小さな女の子がトテテと動き回っていた。
あっちこっち動き回りながら、きょろきょろと周囲を見回している。

「………う………ええ………うえぇえぇーーーーーんんんっっっっっ!!!」
「えーと、もしかして、迷子?」

しゃがみこんだ恭介が尋ねると、千歳ゆまはこくんと頷いた。

「そう。じゃあ、ちょっと………あっちの売店で聞いてみようか」

恭介の言葉に、千歳ゆまはこくんと頷いた。

「あらあら」
「おりこ」

ぱたぱたと駆け付ける気配と共に、ゆまが喜色を浮かべた。
恭介がそちらを見ると、水着姿の少女がこちらに向かって来ていた。

恐らく恭介よりも年上だろう。
前から見るとワンショルダーのビキニの上下を細い三角の布で斜めに繋いだ様な、
モノキニの範疇に入る水着と本人の素晴らしいマッチングもしかり。
恭介が少々圧倒されるぐらい、大人びた美女と言った雰囲気を解き放っている。

「お姉さん?」
「保護者です」
「おりこー」

恭介の質問に、駆け付けて来た水着姿の少女が応じる。
確かに、迷子ちゃんも懐いているらしい。

「そうですか、売店で迷子センターの事聞こうと思って」
「そうでしたか、有難うございました」
「ありがとー」

美国織莉子とゆまが頭を下げ、恭介もそれに応じた。
織莉子がゆまに向ける眼差しは優しく、年相応の素直さも見えるが、
その微笑みの気品は恐らくいい所のお嬢様。
割とそちらに縁のある恭介は何となく感じ取っていた。
23 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/23(土) 04:11:39.83 ID:omF0MHMp0

「おりこーっ、見つかったかーい?」
「ええー、大丈夫。
それじゃあ、有難うございました」
「ありがとー」

織莉子が相変わらず気品溢れる微笑みと共に踵を返し、
友人の呉キリカ、間宮えりかが待つ方向に歩き出す。
その織莉子に手を引かれたゆまは恭介ににこにこ手を振っていた。

 ×     ×

キャッキャッアハハハ

連れが遊んでいるプールのプールサイドで一休みする美国織莉子は、
銀色がかった白い水着姿でビーチチェアに身を横たえ、
カップに入ったドリンクのストローに口をつけていた。
そして、サングラスをちょっとずらすと着信した携帯に出る。

「もしもし、そっちはどうだい?」
「ええ、楽しんでるわ。
そちらこそモモさんの具合は?」

「ああー、残念がってるよ、この分だと大丈夫だろ」
「それは何よりです」
「悪いな、チケット手に入って
こっちで行く予定がモモは熱出してあっちの爺さんも腰やっちまって」
「お大事に」

「おーい、織莉子ーっ」
「おりこー」
「織莉子さーんっ」
「はーい」

電話を切って、んーっ、と、体を伸ばした所で一斉にお呼びがかかる。
織莉子がすくっと立ち上がり、改めて体を伸ばすと
目の前のプールを中心に少なからず視線がそちらに集まる。
一部のカップルに於いて女性が男性の頭を水に沈めていた。
24 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/23(土) 04:14:56.89 ID:omF0MHMp0

 ×     ×

「うん、うん分かった」

水着姿でプールにいると言う事で、
仁美に携帯で定時連絡を入れて待ち合わせを再確認した恭介は、
待ち合わせの前に屋台売店を訪れていた。

「えーと、じゃあチーズたこ焼き一つ」
「あいよ」

お金を払い、注文の品物を受け取って屋台を後にする。

「ええぇぇーーーーーーーーーっっっっっっ!?!?!?
ええぇぇーーーーーーーーーっっっっっっ!?!?!?
ええぇぇーーーーーーーーーっっっっっっ!?!?!?
ええぇぇーーーーーーーーーっっっっっっ!?!?!?」

その、つい先ほどまで自分がいた屋台から聞こえるリフレインした悲鳴に、
恭介はふと足を止めた。

「チーズたこ焼き、無いんですかぁぁぁーーーーーーっ!?!?!?」
「ごめんねー、普段そうでもないのに今日に限って馬鹿売れでさー、
後で材料買いに行くまで売り切れなんだ」
「う゛う゛う゛ーーーーー………
……………お腹すかせて待ってるです………普通のたこ焼き下さいです」
「ごめんねー、毎度あり、ちょっとサービスとしくからね」
「はい、有難うです………」

買い物を終えた百江なぎさは、とぼとぼと売店前広場を歩いていた。

「あー、ちょっと」

そこで不意に思い切り年上の男の子に声をかけられ、
なぎさは反射的に身を固くする。

「ごめんね急に」

既にたじっと後ずさりしていたなぎさだったが、
しゃがみ込んだ恭介にパックを見せられて、ごくっ、と喉を鳴らしていた。
25 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/23(土) 04:18:39.52 ID:omF0MHMp0

「さっき、最後に買ったんだ。
なんか、僕は適当に買ったけど君、凄く欲しそうだし、
良かったら普通のたこ焼きと交換してあげるけど」
「本当ですかっ!?!?!?」

自分の絶叫ににっこり笑って頷く恭介を見て、
なぎさの精神状態はハート目で天国に飛び上がる様相を呈していた。

「どうしたんですかっ!?」

そこに、厳しいぐらいの声が割って入る。

「あ、マミ」
「あの、なぎさちゃんがどうかしたんですかっ?」

そこに現れた巴マミが、半ば詰問調で恭介に声をかける。

「あ、お姉さんですか?」
「ええ、保護者です」

恭介の問いに、やや息を乱して駆け付けたマミが答える。
なざきの余りの落胆に引っ張られてしまったが、
流石に今のご時世、よく考えると今の自分の立場は少々きな臭いと、
それは恭介も分からない訳ではない。

「そうですか。えっと、
売店でなぎさちゃんの欲しがってたチーズたこ焼きが売り切れてて、
たまたま僕が買ったのとなぎさちゃんのたこ焼きを交換しようと言う話で」
「そうなの?」

立ち上がった恭介が答える。
それを聞いたマミに問われ、
なぎさは少々バツ悪そうにこくんと頷いた。
26 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/23(土) 04:22:13.69 ID:omF0MHMp0

「ごめんなさい、わがままにつき合わせて」

なぎさのお守りも兼ねて遊びに来たのだろう。
同色の短いパレオを巻き付けた白い三角ビキニ姿で
なぎさに顔の高さを合わせて腰を曲げて話し込んでいたマミだったが、
話が終わったらしく、恭介の方に向き直って頭を下げる。

「いえ、いいんですよ。僕も適当に買っただけですから。
なんか、サービスでそっちの方が数ありそうだし」
「そう言っていただけると………じゃあ、せっかくですから。なぎさちゃん」
「はい、有難うです」
「どういたしまして」

なぎさの顔を覗き込む様に体を折ったマミに促され、
なぎさが自分のパックを差し出す。
品物が交換され、ぺこりと頭を下げるなぎさに恭介はにっこり笑みを見せる。

「本当に有難うございました」
「いえ、こちらこそ………」
「それじゃあ」

なぎさと共に深々と頭を下げるマミの前で恭介も頭を下げ、
マミとなぎさは席を探して移動を始める。
それを見て、恭介も移動を開始した。
27 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/23(土) 04:25:26.59 ID:omF0MHMp0

 ×     ×

「上条君」

大きな屋外時計に近づいた所で、恭介は声を掛けられた。

「やあ、志筑さん」

プールサイドの屋外時計周辺、大体合ってる待ち合わせの時間と場所で、
上条恭介は姿を現した志筑仁美に声を掛ける。

「お待たせして申し訳ございません上条君」
「なんか、大変だったね。お疲れ様」
「はい」

志筑仁美は、軽いフリルのついた白いワンピースの水着姿で、
恭介の側にトトトと駆け寄りにっこりほほ笑む。
いかにも仁美らしい清楚な可愛らしさは、恭介にほっとしたものを感じさせる。

「志筑さん」
「はい」
「たこ焼き、買ったんだけど食べる?」
「あら、ちょうどお腹がすいていましたの」
「そう。じゃああっちの広場で」

 ×     ×

「はっ、はふっ、ふっ」

屋台広場のテーブル席で、一瞬我を失った、
それをはしたないと躾けられていた仁美はかああっと頬を赤くするが、
くすくす笑う恭介を見て、うーっと怨みっぽく見てしまう。
そして、仁美も又、くすくす可愛らしく笑い出した

「ごめんごめん」
「いえ」

互いににっこり笑い、仁美は今度はゆっくりフランクフルトの続きを食する。
恭介がちょっと見回すと、既にたこ焼きを交換した二人連れはここにはいないらしい。
28 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/23(土) 04:37:26.86 ID:omF0MHMp0

ちょっと本格的に空腹を覚えたと言う事で、
フランクフルトを追加したランチタイム。

その後は、二人で大型プールに入って
相手を追いかけたり探したり、
キャッキャウフフを地で行く遊泳を満喫する。

「そう言えば」

他の場所でもうひと泳ぎしようか、
と言う頃合いに、仁美がぽつりと口を開いた。

「先程の売店にクレープもありましたわね」
「食べたい?」
「んー………」
「僕も食べたくなったんだけど、二人でどう?」
「いただきますわ」

と、言う訳で、恭介と仁美は改めて売店広場に戻った。

「………ちょっと、かかるかな」
「ですわね」
「僕が並ぶけど、いい?」

かなり疎い方ながら、
こういう時の男の振る舞いをなんとなく思い浮かべた恭介の言葉だった。

「有難うございます。では、わたくしはあの辺りのプールで」
「うん」

かくして、恭介は売店へと動き出した。

==============================

今回はここまでです>>20-1000
続きは折を見て。
29 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 03:12:20.27 ID:xNl9Ab8c0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>28

 ×     ×

「上条君?」

結構しぶといクレープ屋の行列のスタートを探しながら、恭介はその声を追う。
恭介の視線の先には、恐らく美人なのだろう、
髪の毛をアップにまとめた水着姿の女性がこちらを向いていた。

「はぁい」
「ああ、カナタさん」

女性がサングラスをずらし、ようやく恭介は返答する。

「水着、替えたんですね」
「プライベートだからね」

どちらかと言うと、敢えて話題に出す事には疎い恭介であるが、
それでも、コンサートドレスを大胆にカッティングした様なワンピース水着が、
ボトムスの両方の腰から伸びる黒い帯が狭まりながら首のすぐ下でクロスし、
そのまま細紐になって背中に回ってクロスしてボトムスに繋がってる様なデザインに代わっていれば、
奏可奈多の完璧とも言えるプロポーションへの強烈な適合性も含めて
恭介ですら口に出す程に気づくのも当然の事と言えた。

「それじゃあ、撮影とかも終わったんですか?」
「ん」

恭介の質問に、可奈多はニッと笑って返答する。

「お待たせ、姉さん」

そこに駆け寄って来たのは、可奈多の妹、奏遥香だった。
30 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 03:20:41.65 ID:xNl9Ab8c0

「あら、上条君」
「どうも」

可奈多共々先程も遭遇した遥香を前に、恭介はぺこりと頭を下げる。
遥香も水着を着替えており、
白とレモン色を合わせたハーフカップのトップスの前方中心辺りと
ネックレスタイプの紐を小さなリング一つで接続したスタイルの、
黒いボトムスに合わせたバンドゥビキニを着用していた。

「ハルカも友達と現地解散で、
これから一緒に夜のイベントにも参加するんだけど
なんなら上条君も一緒にどう?」
「あ、すいません。今日はちょっと………
ごめんなさい。人が待ってるので」
「あらそう、残念ね」

ぱたんと頭を下げ、ようやく見つけた行列のスタートに走る恭介を見て、
可奈多も予定があったのか、
タイミングを逃した様に、一言告げて遥香と共にそれを見送るだけだった。

 ×     ×

「えーと………」

結構なかなかの忍耐力の消費を経てチョコクレープを手にした恭介は、
打ち合わせていたプールサイドで仁美を探してきょろきょろ周囲を見回す。

「こちらですわー」

その声を聞いて、恭介はその方向に駆け寄る。

「志筑さん?」
「はい」
「水着、替えたの?」
「はい♪ あちらでレンタルしてましたの」

そう言って、仁美は両腕を広げてくるりと一回転した。

「ふうん。ああ、これ、あっちで食べようか」
「はい」

恭介の言葉に応じ、仁美もそちらの方向を向く。
31 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 03:26:18.11 ID:xNl9Ab8c0

「水着、可愛いね」

もったいない事に、恭介は直後の直視を少々逃したものの、
そのぱああっと輝いた仁美の表情は可憐そのもの。
細紐ではなく全体に同じ布に見えるタイプのオレンジ色のビキニで、
こちらは買い取りで髪の毛に花飾りと言うトッピングもつけていたが、
仁美としては些かの冒険の結果に心から満足する。

取り敢えず、ちょっと目を離して再び目にした仁美が
満面の笑みでご機嫌であるので、それは恭介としても気分がいい。
こうして、二人でテーブル席に移動して微笑ましい一時を過ごす。
そうやって、科学的な糖分と精神的な甘さをたっぷり注入してから、
二人は又、水と戯れる。

二人で流れるプールを泳ぎ回ったり
ウォータースライダーを滑って顔を見合わせてなぜか笑っていたり、
波プールで悲鳴を上げたり笑ったり。
そうやって、詳細に描写するとなると力量を求められる
他愛もない一時を積み重ねる内に、楽しい時間は瞬く間に過ぎていく。

「ふーっ」
「疲れまして?」
「ん、楽しかった」

プールハウスの廊下を歩きながら、恭介と仁美はそんな会話を交わす。
仁美にとっては、そんな一言一言、
本当に久しぶりに二人で言葉を交わしながらの道行き全てが楽しく、幸せだった。
もちろん、恋愛感情としてそのまま二人の世界を独占で、と言う気持ちもある。
だが、一方で、やっぱりまだ恋敵の親友と一緒も楽しいのではないか、
と、思える辺り、それは心が広いのか幼いのか。

「それでは」
「うん」

そんな事を自覚的に考えているのかどうかは別にして、
仁美は一旦恭介と別れ、シャワー付き更衣室に入る。
ブースの扉に水着を引っ掛け、温かな湯を浴びる。
鼻歌も絶好調に、ご機嫌だった。
32 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 03:31:36.17 ID:xNl9Ab8c0

 ×     ×

巴マミは、後輩達の拍手喝采を浴びていた。
親戚の子であるなぎさとプールに遊びに行った訳だが、
その後、二人の後輩達と合流してカラオケボックスに雪崩れ込み、
極まった乙女の歌を溢れ返りそうな中身で熱唱して盛り上がっていた。

「ヒューヒューッ!」

ぱちぱち手を叩き、
美樹さやかがいい気分のマミに歓声を浴びせる。

「やっぱマミさん、ティロ・フィナーレッ」
「もー、美樹さんっ」

マミが、ちょっと頬をぷっとさせて見せる。
ともすればぴりっとしそうなからかいではあるが、
現状のノリノリとさやかのキャラクターと信頼が楽しい範囲にとどめている。

「お、まどか?」
「うん」
「おーし、いっけーまどかーっ」
「ウェヒヒヒ」
「そう言えば………」

拳を突き上げるさやかにやや照れ気味に、
自分と言うものに就いて当たり前と言えば当たり前の言葉で
極まった乙女の歌をまどかの側で、マミがさやかに声をかける。

「さっき、お話ししたけど今日は上条君あっちの娘と?」
「ええ、まあそういう事です」
「先輩として一応聞くけど、平気なの?
只でさえ最近会えないって言ってたのに」

「まあー、仁美には前にちょっと借りがありますし、
ちゃんと話してくれますからねー。
なんか、こんな正々堂々やってたら当面それでいいかって。
なんかこういうのも楽しくなって来た、って言うか」
33 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 03:36:02.15 ID:xNl9Ab8c0

「んー、美樹さんがそれでいいって言うならいいけど」
「はい。もし、もう駄目だーってなったら
マミさんの胸で泣かせてもらいますから」
「そうして頂戴、そのぐらいの事はさせてあげるから」

「ごっつぁんです。その胸で泣かせてもらうとか、
マミさん周りの男子なんか血の涙で羨ましがるでしょうねー」
「美樹さんっ」
「おっとぉーっ出番だ。まどかヒューヒュー」
「ウェヒヒヒ」

ぱあんとまどかにハイタッチしてステージに立ったさやかが、
実に諦め悪く執念深く極まった乙女の歌で元気よく盛り上がる。

 ×     ×

暁美ほむらが、
鯵の握りを逆さにして、ちょいと醤油をつけてからぱくりと口にする。

「はい、岩牡蠣お待ちっ」

少し珍しい岩牡蠣のいいのが入ったと言う事で、
両親と共に、お勧めのままに軍艦の塩酢橘でいただく。
成程、その言葉は知らなくとも馥郁たる味わいは分かる。
今日は、午前中から旧友の鹿目まどか、美樹さやかとショッピングを楽しんでから、
両親と合流して寿司屋の小上がりで夕食を共にしていた。

「すまないな、なかなか仕事の目途がつかなくて」
「うん。ご苦労様」
「おお」

本来、見滝原での転校直後に同居する筈が、
父親の仕事の事情の急変で未だにほむらは一人暮らしを続けている。
この寿司屋は見滝原への引っ越しが決まった頃に一度見つけて来た所ではあるが、
久しぶりの家族の夕食を些か張り込んだのも、その辺の心苦しさもあったりしたり。
そんな父親に、ほむらも瓶ビールをお酌して気持ちを示す。
34 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 03:41:04.85 ID:xNl9Ab8c0

「カレイを下さい」
「はいよっ」

ほむらが追加を注文する。
知っている者から見たらちょっと順番に難があるのかも知れないが、
それでも、なんとなく又食べたいと思ったお気に入りだった。

「………学校は、楽しいか」
「うん」
「友達は、出来たのか?」
「うん」

恐ろしい程に当たり前の当たり障りの無い会話だが、
これを真実として心からの返答が出来た事をほむらは心から幸せに思う。
かつて、病気に怯え、それを克服してむしろ優秀に突き抜けてからは孤高に過ぎて、
そんな不器用なほむらを、やはり器用とは言い難い態度でもと心配してくれた、
それはよく分かっていた。だから、

「中トロ鮑ウニ、一貫ずつ、でいいわね」
「ああ」
「あいよっ」

ニュアンスとして事前に承諾を得た上で、今夜は、甘える事にする。

 ×     ×

「ふんっふんっふんっふんっふんっ!!!」
「スズネちゃーん、お風呂いいよーっ」
「はーい」

ホオズキ市内の新聞販売店二階で、
ノルマの腕立て伏せを終えた天乃鈴音は立ち上がる。
そして、一風呂浴びて汗を流すと、
用意しておいた300ミリリットル牛乳を飲み干した。
35 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 03:45:10.79 ID:xNl9Ab8c0

 ×     ×

「ふーっ」

よく眠れそうだ。
心地よい疲れと共に床に就いた上条恭介が、実感する。
確かに時間的には厳しい事になったが、それでも、
久しぶりに親しい相手と外で思い切り遊んで、それから力いっぱい弾き込んだ。
精神的に、随分楽になったと思う。

そんなお相手、志筑仁美の事は心から愛しく思う。
いかにもお嬢様らしくお上品でおっとりした所があって、
それが素直さであり、凄く優しい女の子である事を恭介は知っている。

そして、最近は自分でも少々自覚出来るぐらいヴァイオリン馬鹿の不器用者な、
ちょっと女の子相手には難があるらしい恭介の事を心から思ってくれている。
幼馴染の美樹さやか、と言う、少々微妙なファクターも存在するが、
それも又、仁美ともさやかとも今の所は織り込み済みの楽しい関係。

今日も、仁美の事は、一人の女の子として見て、
一緒にいて可愛らしいと素直に思った。
こうして相手が恭介だと公然となる迄は、
誠実な仁美は頻繁たるラブレターのお相手に悩んでいた、
と言う状態が生じたのも無理からぬ事だと。

今日の、プライベートの仁美は可愛かった。
蕾が綻ぶ様な可憐な笑顔。美少女の部類と言ってもいいクラスメイトの水着姿。
この年頃の男子であれば、それだけでも十分にハートを直撃出来る。
それは恭介とて例外ではない。このヴァイオリン馬鹿も、
もちろんその辺の人並みの感性は持ち合わせている。

楽しい一日の脳内メモリーを稼働させる。
思い出シアターを脳内上映していた恭介は、
その幕が下りるまでに、ギンギンに目が冴えてむくりと身を起こしていた。
36 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 03:50:16.61 ID:xNl9Ab8c0

 ×     ×

「んー」

夜、志筑仁美は、天蓋つきのベッドの上で枕を抱いて幸せに浸っていた。
今日一日でたっぷりと焼き付けた、
恋愛乙女アイを通した恭介の爽やかな笑顔を何度でも思い返す。
まあ、恭介の事だ、水着を口に出して褒めてくれたのは
デートの常識に従った様な気がしないでもない。

それでも、仁美としては相当に思い切った、
購入時には躊躇したものを敢えてあの場で選択したぐらいには
ちょっとした冒険に踏み切った甲斐があった、あった筈。
はしたなかろうとさやかさんと研究した雑誌の
殿方とはそういうものですものキャーキャーキャーと確信する。

そうやってプールで一緒に遊んで一緒におやつを食べて帰路を共にし、
自宅近くで唇をキャーキャーキャー
今日一日、仁美をエスコートした恭介は実に優しく、
丸で若き賢者の如く紳士的なふるまいだった、仁美はそう記憶していた。

とにもかくにも、その想い人のジェントルな振る舞い爽やかな笑顔、
放っておいても勝手に思い浮かぶその度に、
仁美は頭の中でキャーキャー叫びながら
枕を抱いてスペースたっぷりなベッドの上を転げまわる。
安眠は、もう少々先の事らしい。
37 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 04:00:21.70 ID:xNl9Ab8c0

 ×     ×

本日のおまけ 幕間小ネタラジオ劇場「ブリザード」
録音済み放送 いつものファミレス収録

ほむら「美樹さやか」

さやか「なーに?」

ほむら「相変わらずそのタグなのね」

さやか「お互いにね」

ほむら「今日、上条恭介と志筑仁美のデートみたいね」

さやか「そうだね。ま、今日は仁美の番、楽しんで来たらいいよ」

ほむら「寛容と言うか淡泊と言うか、
    アップルパイもあんな感じで、最近彼女らしい事してないんでしょ」

さやか「それはお互い様、仁美にはちょっと貸し借りはあるから今回は優先って事で」

ほむら「志筑仁美の事はおいといて、
    そんな放し飼いで大丈夫なの? 浮気の心配とか」

さやか「無い無い、あのヴァイオリン馬鹿にそんな器用な真似できないって」アハハハハ

まどか「んー、でも、私の親友二人に熱烈ラヴされてるって、
    いい線行ってるんじゃないの上条君」ウェヒヒヒ

さやか「褒めてくれてありがとーまどか」

ほむら「そうね。彼氏がそれだけ魅力的だと、
    どこかで例えば年上でスタイル抜群で実は肉食系で髪が長くてピアノが上手な美人のお嬢様、
    辺りに迫られるなんて事もあるかも知れないわね」

さやか「元女子校のお姉様妄想とか別の意味で面白そうだけど、
    それあったとしても気づくかなぁあの朴念仁」

まどか「鈍感主人公って流行ってるって聞くけど」ウェヒヒヒ
38 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 04:05:00.86 ID:xNl9Ab8c0

さやか「それが成立するためには、
    それだけの積み重ねとテレパシーが必要なのだよ明智君。
    あの朴念仁のヴァイオリン馬鹿にそれを伝えるのに
    あたし達がどれだけ苦労したか………」ハアッ

ほむら「あなた方って、本当にどういう付き合いしてる訳?」

さやか「どういうって?」

まどか「やだなぁさやかちゃん。
    それはもちろん………とか………とか………とか………」

カチッ

ほむら「何か、まどかに相応しくない空耳でも聞こえたかしら美樹さやか?」ファサァ

さやか「(口にバッテン絆創膏………)
    ああ、うん。今は恭介忙しいけど、普段は登下校とかお昼一緒したり、
    一緒に遊びに行ったり、それで、まあ、時々チューしたり、
    いちおーやってる事は友達以上って感じで、ま、楽しくやってるよ」

ほむら「分かった、了解、お腹いっぱい」

まどか「まーたまたぁ」ウェヒヒヒ

まどか「1スレの>>169-なんて、完全に事go………」

カチッ

ほむら「何か、まどかに相応しくない空耳でも聞こえたかしら美樹さやか?」ファサァ

さやか「うん。そのイマジン早めにブレイカーしとかないと後悔すると思うよ転校生」

まどか「と言うか、あの人いつ出て来るんだろうねー?」

ほむら「それで、実際の所どうなのかしら美樹さやか?」

さやか「聞く事は聞くんだ」

ほむら「それは、興味が無ければハナから聞かないわよ仲間として友達として
    それ以前に思春期真っ盛りとして」
39 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 04:08:54.35 ID:xNl9Ab8c0

さやか「花札」

ほむら「は?」

さやか「だから花札、三人でベッドの上で盛り上がってたって訳」

ほむら「あの描写のどこからそういう与太話が?」

さやか「思わせぶりな単語を使いたくなるお年頃なのよー」ウェーッヒッヒッ

まどか「でも、1スレの序盤とか、
   仁美ちゃんとおしくらまんじゅうとかしまくってたよね」

さやか「あー、あれね。やっぱ正々堂々のライバルとかいるからね。
    あれぐらいの事はやりますよ」

ほむら「中学生の男の子にはちょっと刺激強すぎるんじゃない?」

杏子「さやかだからなぁ………
   ま、ほむらがやっても効果薄いモンな。
   だって、本当に薄いんだから」

まどか「マジカルな光に包まれたタンクローリーで
    杏子ちゃんを追いかけてるほむらちゃんはおいといて。
    でも、ワルプルギスの時、ビルの中でカマかけられてたよね」

ほむら「ハァーハァー戻ったわゼェーゼェー」ファサァ。

さやか「ああ、お帰り」

ほむら「それで、1スレ>>337でこれ図星って事?」

さやか「ああ、幼稚園の頃ね」

ほむら「幼馴染ネタの鉄板ね」

さやか「それに、あの女に煽られたら行くっきゃないでしょ」

ほむら「まあ、カップルの前に存在している時点で宣戦布告みたいなキャラだから」
40 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 04:12:46.39 ID:xNl9Ab8c0

杏子「ま、ほむらにすりゃあ、
   あいつの存在自体が宣戦布告しちまってるからなぁ」

まどか「黒い翼を伸ばして杏子ちゃん追いかけてるホマンドーはおいといて、
    さやかちゃん、言ってて苦しいって思わない?」

さやか「軽率な行動で誤解を与えてしまい、
    心から反省しています。やめるつもりは毛頭ございません」

ほむら「ハァー、ハァー、今戻ったわ。
    つまり、あくまで中学生として健全なお付き合いをさせていただいております。
    そう言いたいのね美樹さやか?」

さやか「ま、そういう事になるね」

ほむら「アホみたいにアレな状況を描いたはいいけど、
    展開が予想以上にラブコメしてるから急遽過去改変を実行した、
    なんて事じゃない訳ね?」

さやか「ヤダナーソンナコトアルワケナイジャナイデスカ」ダラダラダラ

まどか「さやかちゃん、目、見て話そうか」メガミスマイル

ほむら「滝の様に汗、って実物はなかなかお目にかかれないわね」

放送終了(無言土下座)

==============================

今回はここまでです>>29-1000
続きは折を見て。
41 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/01/24(日) 04:16:56.00 ID:xNl9Ab8c0
すまん修正1レス

>>37

 ×     ×

本日のおまけ 幕間小ネタラジオ劇場「ブリザード」
録音済み放送 いつものファミレス収録

ほむら「美樹さやか」

さやか「なーに転校生?」

ほむら「相変わらずそのタグなのね」

さやか「お互いにね」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/30(土) 21:32:42.19 ID:kytLJanTo
追いついた、しんど
一スレ目の長文批評書きたいんだけど書いてもいい?
43 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/02/17(水) 14:36:36.53 ID:8gLkL7sQ0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>41

 ×     ×

「おはよう」
「お早うございます」

月曜日の朝、さやかとまどか、仁美、ほむら、と言った面子が通学路で合流する。

「昨日、どうだった?」
「はい、楽しませていただきました」

さやかの問いに仁美が臆面もなく返答し、
さやかの肘がぐりぐりと仁美に押し付けられる。
これは、まどかもほむらもお手上げである。

「お早うございます」
「おはよー」
「おはよう志筑さん、さやか」

教室で恭介が交わす挨拶を、
教室内の面々はさり気なくウオッチする。

「昨日は楽しかったですわ」
「うん」
「ふふーんっ、仁美の水着姿、どうだった?」
「うん、可愛かったよ」

これは、まどかもほむらもお手上げである。
44 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/02/17(水) 14:41:42.86 ID:8gLkL7sQ0

 ×     ×

「ああ、美樹さん」

放課後、美樹さやかは、
廊下で担任の早乙女和子教諭に呼び止められた。

「ちょっといいかしら?」
「なんですか?」

取り敢えず、少々長い話になりそうなので、
ほむらとまどかは先に帰路に就く。
まどかはまどかでウサギ小屋の用事を一つ忘れたかも知れないと言う事で、
ほむらは先に帰路に就く。

<ちょっと、いい?>

校門を出た辺りで、ほむらの頭の中に聞き覚えのある声が届く。
視線を走らせると、近くの曲がり角に人影が見えた。

「どうしたの?」

そちらに向かったほむらが、
塀に背中を預けていた詩音千里に声を掛ける。
その側には成見亜里紗の姿もあった。

「ちょっと、聞きたい事があって」

千里が口を開く。

「何?魔法少女関連?」
「んー」

ほむらの問いに、千里は少々困った顔を見せた。

「?」
「暁美さん、そちらの学校に上条、って男子生徒はいるかしら?」
「かみ、じょう?」

千里の問いに、ほむらは怪訝な表情をする。
45 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/02/17(水) 14:46:52.35 ID:8gLkL7sQ0

「ええ、結構いい家に住んでて、多分ヴァイオリンに関わってる」
「知らない事もないけど、一体どういう話?」
「どういう男子?いい人?」
「んー、悪い人、って事はないと思うけど」

ほむらと千里が、やや要領を得ない会話を交わす。

「で、その上条君、彼女とかいるの?」

少々苛ついた様に、亜里紗が口を挟んだ。

「ええ、いるわよ」

ほむらがあっさりと応じる。

「その、彼女と上手くいってんの?」
「リア充爆発しろ」

亜里紗の問いに、ほむらはぼそっと答える。

「その、恋人と言うのは見滝原中学校にいるの?」
「ええ」

千里の、やや低い声の問いにほむらはやはりあっさりと応じる。
46 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/02/17(水) 14:51:44.95 ID:8gLkL7sQ0

「………そう、分かった」

どこか、底に冷たいものを漂わせた千里の答えを聞きながら、
ほむらにもなんとなく話の筋が読めて来た。
女子校育ちで少々疎い、とほむらは自覚していたが、
つまり、千里の学校の誰それが、と言った辺りの事で、
顔見知りで学校が同じほむらに探りを入れて来た、と言った辺りだろう。
どちらにしても、ほむらとしては余り深入りしたくない類の事だ。

「お手間を取らせたわね。じゃあ」

千里がくるりと踵を返し、ざっざっと前進する。

「それじゃあ」

亜里紗もその後について行く。
ほむらから見て、本来危険人物と見ていた亜里紗は千里を追うばかりで、
むしろ優等生タイプの千里がどこか剣呑なのが気にかかった。
むしろあのタイプこそ、こじれたら面倒だ。

「えーっと、千里」

亜里紗が、ざしざしと前進する千里に後ろから声を掛ける。

「なんか、背中が物語ってるって言うか、
今、この辺に魔獣とか出てたっけ?………」
47 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/02/17(水) 14:54:59.11 ID:8gLkL7sQ0

 ×     ×

「美樹さやか」
「おおっ」

用事を終えて、歩いていた廊下で思わぬ声を聞いたさやかが仰け反っていた。

「何?転校生、さやかちゃんを待っててくれたの?」
「あなた、詩音千里、って知ってる?」
「詩音?」

「ホオズキ市の魔法少女、ワルプルギスの時に会ったんだけど?」
「いや、知らない」
「そう。じゃあ、
どうしてその詩音千里が上条恭介の事を聞きに来ているのかしら?」
「は?」

「さっき聞かれたのよ、詩音千里から上条君の事を」
「何を?」

さやかの表情が少々剣呑なものとなる。

「いい人かとか彼女はいるかとか」
「何それ?」
「取り敢えず、
魔法少女関連でその手の揉め事とか、勘弁して頂戴」

 ×     ×

「食うかい?」

友人に会うために訪れた見滝原市内の路上で
佐倉杏子は、チョコ菓子を差し出したまま
ばびゅうんっと通り過ぎた痕跡を追って首を右から左に動かしていた。
48 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/02/17(水) 14:58:05.16 ID:8gLkL7sQ0

==============================

今回はここまでです>>43-1000

>>42

まずは読了感謝です。
あれを読了するのに相当な忍耐を求められる事は、
書いてる私もよく分かりますので………

許可求められても困る、と言うのが正直な所ですが、
荒らしじゃなければ現時点で止める理由はありません。

本来は歓迎したいのですが、まあ、色々ありまして。
敢えて事前にそう質問されますと、ここは無難な返答を。

続きは折を見て。
49 :ご自身でさえ忍耐力がいると思うのならばもう少し改善してほしい…… [sage]:2016/02/18(木) 02:48:46.59 ID:HAaEd5cro
お許しも出たので遠慮なく批評行きます

まずは文章について

恐らく三人称であると思うのですが『話し言葉』が文中に頻出するせいで、あれ? と幾度も首を傾げました

三人称で書くのならば地の分は『書き言葉』を中心にし、
心理描写をするときなど状況の変化に合わせて『口語体』を雑ぜる程度に収めておくべきと感じます
文体の不徹底感もあいまって物語への没入感が大きく削がれているという印象を受けます

>>1は軽妙洒脱な文章を書きたいのかなと勝手に憶測しているのですが、個人的には滑っているとしか思えません
もしくは単に手癖と勢いでつないでいるのか、どちらにせよ地の文でユーモアを語るのは一考した方がいいかもしれません

特に唐突に挟まれる伏字のギャグっぽいやつとか冷笑がこみ上げてくるレベルでした、どことは言いませんが

これは極々個人的な見解ですが、文章そのもので笑いを取るのは恐ろしいまでに難易度が高いです
強烈なキャラクタを用いるのでもなく、世界設定そのものを盛大に崩すでもなく、ただ文章だけで笑いを取る
これのなんと難しいことか。はっきり言ってプロの作家でさえ時折滑ったりしているのです

最低限プロレベルの文章力がないと成功しない手法と言って差し支えないと思っています
それだけの実力があるとお考えならば止めはしないですけれど、私見を言えば『キツイ』かなと思います

場面転換と描写について

まず場面転換について、三人称であれば転換用の記号は排除してしまっても構わないと思います
というより、氏の場合は転換用の記号は排除してしまった方がいいように思います

最も大きな理由としては『転換用の記号を入れているのだから場面が変わったってわかるだろ』
という意識が生まれてしまう、ということです。自覚的か無自覚かは問いませんし、これは非常に自覚し辛いです

きちんと情報を整理してあれば、必要な場面に必要な情報を必要なだけ仕込めるはずです
ですが書き手の意識に少しでも『これくらいは伝わるだろう』という思いが入ると途端に崩れます。

『これは伝わらないかもしれないな』というのならば伝わらなくても問題はない構成であることが多いですが
『これくらいは書かなくてもわかるはず』という意識になるとほぼ百パーセント伝わらなくなります
理由は単純です、書き手は読み手が持っていない情報も持っているから、にほかなりません

なのでまずは大枠として時間、例えば太陽や月、星が出ているや空の色など、ほかには正確な時間等々
その次に場所、屋内か屋外が、どんなところで、何のためにいるのか等も併せて併記し
最後にそのキャラの目線へと移行して、誰といるのかそこで何をしようとしているのか、等の情報を添付する
といったように順序を決めて描写し、慣れてきたらそこから徐々に崩していく、というような手法をお勧めします


描写にも触れます

読んでいて真っ先に思ったのことがあります
『果たしてその情報は必要なのか?』というもので、これを思った文章は大体あとで何かにかかわることもなかったです
修飾語や状態の説明が無意味に長く書き連ねられているために全体としてとっ散らかった印象の文になるのだと思います
少し引用させてもらいます

> 年上で、一見するとややふっくらかぽっちゃり目にも見えるとは言え、
> ブラウスタイにスカートと言う着の身着のままの姿で
> 焼け出されに近い形で土砂降り暴風雨の大嵐の中に放り出されている。

これなんか
『濡れ濡れスケスケの年上の少女(しかも巨乳でエロい)。』とかそんな風にすればたったの一行に圧縮できますし
その次の

> そんな、素人目にも当然体力ゲージがゴリゴリ音を立ててノンストップでマイナス進行している筈の
> 風斬氷華の肩を借りるのは男として間違いなく心苦しいが、
> 骨折こそしていなくともむしろ痛みを忘れそうなぐらい危ない怪我人の身として、
> 黄泉川の合理的な発言に逆らう気力も体力も持ち合わせてはいなかった。

これも
『上条恭介の男のプライドには反しているが背に腹は代えられず素直に黄泉川の言葉に従って風斬に肩を借りたのだった』
とかにしてしまえば圧縮率は約五割程度になります

これに対しての解決策は
『必要最小限の描写にどれだけ肉付けをすべきかを考える』になるかと思います

憶測ですが、氏は足し算で書いているんじゃなないでしょうか? 恐らくその辺りに原因があると見ています
なので、引いて引いて極力シンプルな文章へと変換したのちにそこからどうしても必要な描写だけを足してあげてください
そうすれば恐らくですが読みやすい文章になるかと思います

ついでに氏の文章は益体もないことをくどくどと並べ立てる傾向を感じました
そういう書き方をするならば一人称形式を採用した方が違和感は抑えられるかと思います、キャラクタにもよるのですが

まとめれば、
文体と人称は徹底してブレがないように、話し言葉は極力混ぜないようにしてください
地の文でのギャグは相当自信がなければ控え方が無難です
場面転換をするときは時間、場所、キャラ、思考のように順序立てて描写すると分かり易いです
足し算でどんどん修飾描写を積んでいくのではなく、引き算でシンプルな文章になるように考えるといいと思います
といった感じだと思います
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/18(木) 02:55:46.66 ID:HAaEd5cro
長くなりましたけど、続けてお話についても触れます
一言でいうとひたすらに退屈でした
おそらく考えるに理由は明白で、『目的の欠如』でしょう
冒頭から特に目的のない暁美ほむらの日常というなだらかな物語が延々と続きます

だらだらと続く日常モノとして見たとしてもあまりにも起伏がなさすぎます
お話自体がスロースタートなのだから仕方がないと思うかもしれませんが、そういうことではありません

例えば、投下一発目の時点で恐らく主人公と思われるほむらに目的を与えてあげるのです
この目的っていうのは何でもいい、例えば『まどかと仲良くなりたい』でも、『早くクラスに馴染みたい』でも、
『この町にいる魔法少女たち全てと知り合う』とかでもいいかもしれないです、とにかく何かしら目的をあげてあげてください

そうすればキャラクタに方向性が生まれるし、読者も話の方向性が分かれば読みやすくなります
これは非常に重要なことです。方向性の分からないお話を読みたいと思う人は少ないです、長丁場なら尚更です

で結局ほむらちゃんに仮初の目的が付与されるのに大体百レス程度掛かって、しかもなんだかふわっとしてる
これでは読んでる方には何にも響かない、少なくとも私はそうでした

でクライマックスっぽいワルプルギス戦になってわらわらと禁書キャラが登場します
ただ、理由付けがなおざりに過ぎる、百歩譲って吹寄制理がボランティアに来るのはいいです
でも、教師である黄泉川愛穂がボランティアで来ちゃダメでしょ。授業どうするの?
風斬氷華はまぁロシアに行ってたしで済ませるとしても、
アイテム勢が来てる理由は全く分からないです、しかもフレンダもいるっぽいですし……。時系列ちゃんと考えてますか(小声
なんというか、人的資材あたりの属性を便利なご都合主義と勘違いしてません?
新約のあの辺って負でも正でもご都合主義がから回る話じゃないでしたっけ? 記憶違いなゴメンナサイですけど

それでやっと話が動き出したと思えば全く何も絡まない上条君主役の番外編が始まる始末です
しかも無駄に長い。書きたいのは分かるけれどワルプルギスそっちのけすぎて思わず投げたくなりました。
面白いならいいんですけど、正直このパートはほかにもましてつまらなく感じられました……。
『君たちなにしてんの?』感が半端じゃないです。もちろんこの後の展開に必要なパートだったのですよね?

正直言って群像劇は向いてないと思います

キャラについても少しだけ
ほむらちゃん自意識過剰すぎだし、全部乗せしすぎです
この感じは所謂『U‐1』とか『スパシン』とかに近いものを感じました
ほかにもキャラ出しすぎの割に全然捌けてないぞ、とかいろいろあります

けど一番言いたいのはこれです
『大人書くの下手』

ぶっちゃけ上条君パートの黄泉川先生とかいる必要が微塵も感じられません
大人キャラを集団に突っ込むのならば相応の役割と行動をさせないと意味がないです
これは詢子さんや知久さんも同じです。背中を押す役やブレーキをかける役というだけならば別のキャラでも同じに思えます
同じ背中を押す役だとしても大人には大人なりの、子供には子供なりの時と場合によって必要となる属性は変わってきます

だけれど氏の書く大人にはそれを感じられませんでした
なんというか、『それ別のキャラが言っても同じだよね』というか、『言葉に重みがない』というかそんな感じです

理性と感情を切り離して背中を押すだとか、背中を押してあげたい気持ちはあるけれどそれでもブレーキをかけてあげる
みたいなキャラクタとしての芯の強さや責任みたいなものがいささか足りていない感覚です

禁書作中の黄泉川先生も割と無茶なことには突っ込みがちですが、その後ろには必ず子供たちがいますし、
組織に抑えられて動けなくなる場面も多いです。そんな中でもできる限り子供たちのためになることを選択していきます

そんな先生が果たしてボランティアの先で予想以上の悪天候により要救助者になるでしょうか?
少なくとも私には想像できないです。例えばこれが突然堤防が決壊して鉄砲水に飲み込まれるとかならば、
まぁあり得るかな、と思うのですけれど暴風雨の水害で身動き取れなくなるというのはキャラクタとして軽率が過ぎるのでは?
学生の吹寄ならばまぁそういう甘い目算でもそんなもんだよなと思えるのですけれど、大人キャラがそれはダメだろう、と思うのです

そのほか細かいこと
本文と>>1の一言や挨拶を分けてほしいといわれる理由

本文だと思って読み始めたら違っていて萎えるだとか、
そもそも本文以外には興味がないから本文と一緒くたにされると読みたくないものも読まなくちゃいけなくなって苦痛だとか、
各々理由は違うだろうけれど共通することが一つ
つまり、余計なノイズが混じると物語の没入感が損なわれるということ

もし書いたものを色眼鏡で見られたくないと思うならば絶対に分けた方がいい
一言だけなら平気、だとか本文と区別がつくようにマーカーつけてるとかそう言い訳ははっきり言えば無意味
なぜならば一レスは紙の本の一ページに相当する。紙の本で章の頭や区切りの部分で作者の挨拶が乗っていたら鬱陶しいでしょう?
そういうことなのです。どうしても挨拶に一レス使いたくなければ名前欄に入れるとか、メール欄に入れるとか、工夫しよう

返レスそのものが無駄に長いのも読者にとってはノイズになりえます
私がその内容で返すとすれば
荒しじゃなければどんと来い
くらいに収めます。キーワードは短く簡潔にです

ついでになぜ批評を書いていいか聞いたかといえば
称賛以外の感想なんか聞きたくない、という人種が一定数存在するから、です
流石にそう思っている書き手に批評をするのは労力の無駄なので出来れば避けたいし、お互い気分が悪くなるだけかと思います

言いたいことはこれで全部です
続き書くの頑張ってください。この長文で心が折れないことを祈っております
51 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/03/06(日) 13:29:41.39 ID:jFT/WcAU0
生存報告しときます。
52 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/03/11(金) 01:54:19.04 ID:M9gxy/OV0
今回は作品投下無しで。

>>49
>>50

あんただったか(汗

畏れ入って乾いた笑いが、と言うのが実感です。

そして、まず何よりも感謝と敬意を。
何と言うか、全部賛成、とは言いませんが、
あなたの熱意、作品愛と観察には脱帽です。

今回の返答ですが、基本はノーコメントです。
あれだけの熱意を傾注していただき本当に申し訳ないのですが、
言える事言えない事入り乱れでちょっと返答しかねる、と言うのが一つ。

技術面も含めて大いに読ませていただきました感謝します、
と言うのは正直な所なのですが、
ちょっとそこから先の返答が難しいと言うのも。

かなりの部分私の書き癖になっている様ですが、
読み返してみると場所によっては身の程知らずにも
原作かまちーに勝手に引っ張られて地の果てまでスリップした部分もある、かも。

そういう訳で、まことに失礼いたします。

ではありますが、二つばかりこちらで気が付いた事を。

何故か作者の私が他人事の様な口調になりますが、
実際、結構前と言う事もあり、
自分で読み返して感想を書くのに書き易いと言う事で。
書いてる時には、プロットと押さえておくべき事を叩き込んで
勘に近い所を突き進んでる部分もありますので。

以下、震え声タイム。
53 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage saga]:2016/03/11(金) 01:56:55.77 ID:M9gxy/OV0

>>49の時点で、上条君は純粋に
風斬さんの体調やそちらの悪条件の事しか考えていなかったと思いますよ。
少なくとも自覚意識の88.3%以上は。

まず余計な事を考える余裕なんて無い状態でしたから。
彼がメインで自覚している限りにおいては
主に風斬さんの体力面を測る要素を観察して
助けを得るべきか自分がどう行動するべきか。

あの時の彼の考えを論理的に言えば、
およそこれ以上の事を考える余裕もなさそうでしたので、
記述に於いてもそちらの要素を専らとしたものになったものと。
まあ、その辺で人称のブレが、と言う事にもなりましょうが。
語彙が異常にくどい、と言うのは書き癖でしょうが。

それから、黄泉川先生は引率ですね。
時々書かれてはいましたが、
確かに成り行きでそうなったとも受け取られる書き方でした。
(準)公的なボランティア募集で、安全なルートを移動して
安全地域の受け容れ先に引き渡して帰って来る予定だったのではと。
本来スーパーセルは短期間で素人ボランティアは災害後が出番ですから。

その途中で天候の急変とバス事故に巻き込まれた
と言う事ならあの状態もありでは、と。

そちらも呆れて触れなかったのかも知れませんが
しまいに交通システム障害も絡んで常盤台まで来てましたし。
あっちは実習っぽいですね。

ワルプルさんのスーパーセルって暴風雨としての威力も常軌を逸している上に
元がモンスターですから発生しても移動パターンの予測が難しい。
本編でも住民が避難している体育館をミンチにする勢いで突き進んでいましたから。
そんなのが進路を急変更してバスごと巻き込まれたら
或はああ言う事態も発生する、かも(汗

そこまで書かなくても、と言う見込みが余り上手くないのかも知れませんが。

言われておきながら色々妙な書き方になりましたが、
私からは以上です。
ホントーに中身の無い事を長々とマジすまん。

それでは、今回はこれにて失礼します。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/11(金) 17:05:14.52 ID:k+s9kuyfo
今全てが腑に落ちました
長々と批評家気取りで書き込んだ手前、頂いた返信に返信するのは憚られるのですが、

一個だけ絶対に伝えておかなければならないことが出来てしまった。というか氏の決定的な弱点がハッキリしました

内面描写と外面描写を一緒くたにまとめてしまっているんですね。それならば読みづらいのは道理です
取り上げさせてもらった文章にキャラクターの主観描写が混在しているとは全く読み取れていませんでした
多分、読んでくれてる方のほとんどが気が付いてないと思います

内面と行動を同時進行するならば、〜はそう考えながらも、や――の状況を客観的に頭の中で分析して、のように
キャラクタの内面描写であることを明確にし、そのあとで動きや行動の結果を描写するとグッと分かり易くなります

文章のどこまでが内面描写でどこからが外面描写になっているのかがとかくわかり辛い
氏の返信を拝見して本当に全てが腑に落ちました

三人称でキャラクタの内面を描く場合は()や〜はそう思った。等の分かり易い描写の分かれ目を意識してみてください
重ね重ね長文失礼しました
55 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/03/12(土) 03:35:37.35 ID:UcxQ0O8D0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>47

 ×     ×

上条恭介は、ごくごく当たり前に安全なルートを選択し、
通いなれた歩道をテクテク歩いて帰路に就いていた。

そして、気が付いた時には、見知らぬ工事現場のただ中に立っていた。
そこは、取り壊し中のビルの前、囲いの中の資材置き場だった。
少なくとも、彼自身は何をされたのか、全く理解出来ていなかったが、
種を明かせば意外と単純だった。

フルブースト状態の魔法少女に胸倉を掴まれ、
短時間の内に力ずくの最高速でそこまで移動していたため、
理解が追い付かない。これだけの事だった。

「上条恭介君?」

そして、恭介の目の前には、
体をすっぽりとマントで覆った成見亜里沙が不敵な笑みと共に立っていた。

「な、何?」

見た目、同年代らしい亜里沙に、恭介が怪訝な顔で聞き返す。

「ちょっと、聞きたい事あって顔貸してもらったんだけど………」

その時、資材の山の陰から、もう一人の少女がツカツカと接近して来る。
そして、亜里沙にドムッ、と、肘鉄を食らわせた。

「手荒な事をしてごめんなさい。
もう少し常識的な話し合いをする予定だったんだけど」
「つうぅーっ」
「一体、何?」

一応、まともな話の出来そうな新しい少女に恭介が声を掛ける。
56 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/03/12(土) 03:40:59.07 ID:UcxQ0O8D0

「失礼しました。私は詩音千里。茜ケ崎中学校の者です」
「茜ケ崎?」
「はい。風紀委員として奏ハルカ会長と関わりを持っています」
「ハルカさんと」
「へぇーっ、名前呼び」
「あの人は、多少親しい人にはそれを求めます」

ずいっと顔を出す亜里沙を千里が手で制した。

「つまり、ハルカ先輩とはそれなりに親しい、と言う事ですよね?
先輩とはどういうお知り合いなんですか?」

「どういう、って、ハルカさんが見滝原中学校に来た時に知り合って、
ジャズ同好会と一緒にピアノを弾きに来た時に。
僕もジャズヴァイオリンを少し弾くから、その時に」

「ああ、あの時ね」

亜里沙が、間違いなく自分のせいで聞き逃した演奏を思い出して声を上げた。

「それで上条君、あなた、付き合ってる人、いますか?」
「付き合ってる?」
「彼女とかいるのか、って聞いてるんだけど」

どうも少々鈍い反応を返す恭介に、亜里沙が続けて尋ねる。

「なんでそんな事、を?………」
「恋人はいるんですか?Yes or No?」

どうにも不躾な質問に答えあぐねたその時に、
恭介はそれこそキスしそうな距離感で千里の顔を見ていた。
何か、妙な成り行きだが千里自体は可愛い、
本来、真面目にきりっとした雰囲気も悪くない、美少女と言ってもいい。
混乱しながらも、恭介としてもその事を全く感じないでもない。

「う、うん、いるけど」
「その恋人は、見滝原中学校にいるんですか?」
「う、うん」

とにかく、気圧されているのが一番で、恭介は返答する。
57 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/03/12(土) 03:46:33.12 ID:UcxQ0O8D0

「そう。もう一度聞くけど、ハルカ会長とはどういう関係?」
「どういう、って、ハルカさんとの関係って………」

次の瞬間、やはりマント姿だった千里の右腕が、びゅうんっと右手に振られていた。
そして、その右手には、拳銃が握られている。

「それって………」
「ああ、玩具よ。
ごめんなさい、少々苛立ってたみたい。
だから、これが本物だ、と言うぐらいのつもりで返答して」
「あー、上条恭介君」

そそそっと近づいていた亜里沙が、恭介の肩をぽんと叩く。

「早めに全部ゲロッた方がいいよ。
アタシも結構大概だけど、この件に関してだけは、
チサトがキレたらアタシの百倍怖いから」
「ハルカさんの事?」

恭介の改めての問いに、拳銃をだらんと下げた千里が頷く。

「さっきも言ったけど、最初に会ったのは見滝原中学校のジャズ同好会で。
ハルカさんは尊敬するピアニストの妹さんで、
ハルカさん自身も尊敬に値する演奏者。
僕も、ヴァイオリンやっててジャズも少し齧ってるから、
その事で何回か会ったり演奏した事はある」

「音楽関係の付き合いって事?」

恭介の返答に、千里が聞き返す。

「うん」
「あの人の事を、魅力的な先輩だと思う?」
「うん。素晴らしいピアノを弾いて、
それであんなに綺麗でしっかりした人だから、尊敬してる」

その返答を聞き、千里は天を仰ぐ。
千里自身経験豊富、と言う訳では決してないが、これは、素直過ぎる。
何か、想像以上に単純過ぎる事が、千里にも段々と分かって来ていた。
58 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/03/12(土) 03:52:09.82 ID:UcxQ0O8D0

「そう、分かった」

次の瞬間、千里と亜里沙は目配せを交わした。

「これはっ?」
「チッ!」

千里と亜里沙は、目の前の景色がぐにゃりと歪むのを目の当たりにする。

「加減、大丈夫でしょうね」
「伊達に経験積んでないって」

尋ねた千里に、恭介を当て落とした亜里沙が答える。
千里の右手の拳銃が天に向けて発砲され、
花火のシャワーの様なものが降り注ぐ。
それと共に、景色は普通の工事現場のそれに戻される。
次の瞬間には、死神規格の大鎌と槍がガキインッと衝突していた。

「!?」

千里の発砲した魔法弾が、空中で飛来したサーベルを撃ち落とす。

「えーっとさ」

飛来源からのその声を聞きながら、千里の足がじりっ、と下がる。

「あんた達、他所の縄張りで一般人捕まえて何やってる訳?」
(オーケーそれでいい、打ち合わせ通り、取り敢えず魔法少女の筋論から様子を見る)
「ごめんなさい、もう用事は終わったわ。
彼にも危害は加えていない。退散させてもらう」
「ふーん、それで、納得してもらえる、とか思ってる訳っ?」


==============================

今回はここまでです>>55-1000

>>54
有難うございます。
今回はお礼だけで失礼します。

続きは折を見て。
59 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/04/04(月) 23:46:50.78 ID:Fmu7ZFeG0
生存報告しときます
60 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/04/28(木) 23:02:33.43 ID:ZljhueG40
すいませんが生存報告です
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2016/05/11(水) 22:42:25.47 ID:6/81+6x40
age
62 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/05/28(土) 23:13:51.08 ID:AjTiPIr50
生存報告です
63 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/06/25(土) 13:38:06.89 ID:zwFCVwBT0
生存報告です
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 00:32:13.72 ID:tULHUK7J0
乙です
本日初めてこちらのSSを発見したので、ちょっと読んでみます
65 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/07/24(日) 02:42:19.59 ID:5R2V/YuL0
生存報告

そろそろ行けます、かね………
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/07/25(月) 10:24:34.00 ID:kBbsFUTXo
 
67 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/07/29(金) 01:40:19.27 ID:b1q2A61p0
大変お久しぶりですいません。
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>58

「おっ」

佐倉杏子が呟いた時には亜里紗が踏み込み、
成見亜里紗の大鎌と杏子の槍が打ち合う。

(こいつ、強いっ)
(ちょっとは出来るじゃんっ)

杏子に、ニッと笑みを向けられて、亜里紗の頭にカッと血が上る。

「っのおっ!」

一度距離を取った亜里紗が再び杏子に突っ込んだ。

(こっちもデカイけど、あのでっかい槍なら動き、をっ!?)

何とか、杏子の槍働きに合わせて打ち合っている、
と、亜里紗が思っていた時には、
亜里紗は杏子の得意手にはまっていた。

「こ、のっ!(鎖仕込みかよっ!!)」
68 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/07/29(金) 01:46:22.78 ID:b1q2A61p0

ーーーーーーーー

ほとんど裸のフロアの空中で、
放たれるサーベルと銃弾が激しく衝突する。
親友の突撃が作った隙に、詩音千里は解体中のビルの中に逃げ込んでいた。

そして、途中で待ち伏せして、
美樹さやかとの戦闘状態に入っていた。

本来、無闇な戦闘をするタイプではない千里だったが、
今回は色々まずい歯車が回った、と、頭を痛めていた。
それも自業自得と言わざるを得ないのが本当に頭が痛い。

まともに逃げても追い付かれる、
千里の側が縄張り荒らしなだけに、普通の話し合いも難しい。
と、なると、申し訳ないが一度ぶつかって退路を作るか、
虫のいい話だが優位に立ってから話を付けるしかない。

およそその様な発想だったが、
追いかけて来た相手もなかなかの手練れ、
益々以て頭の痛い話だった。

(やるじゃん)

柱の陰で、さやかも心の中で呟く。
ホオズキ市から来てよりによって上条恭介に手を出す。
なんだか知らないけど何はともあれ取り敢えず万死に値するのは間違いない。

そんな相手を追い込んでここまで来た訳だが、
まあ、誘い込まれた、と言う事は理解出来る。
相手が銃だけに、遠距離戦は向こうに分がありそうだ。

「!?」

物陰から物陰へ、ちょこまか移動を始めたさやかを、
千里は銃口で追いかけて銃撃を続ける。
その内に、さやかの動きに合わせて空中に現れた消火器が、
千里の銃撃を受けて爆発していた。
69 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/07/29(金) 01:51:48.51 ID:b1q2A61p0

(もらった、あっ!?)

さやか会心の一撃、が、ガキイッと受けられた。
自分の距離に持ち込んだ、その確信が、逆にさやかの心に狼狽を生んでいた。
そして、気が付いた時には、振り下ろした刃は全て相手の銃身に受け流され、
ドカッ、と、腹を蹴られたさやかはそのまま背中を打ち付けるまで吹っ飛んでいた。

「ごめんなさい」

経験差があったとは言え、パワーそのものを願いに大業物を振るう成見亜里紗を
手もなく捻った事もある千里である。
さやかの隙を堅実に見抜くと一気に畳みかけ、
さやかが復活する前にドンドンドンと魔法弾を浴びせていた。

(ありゃ? 変身解けた?)

マジ死んだ、ぐらいに思っていたさやかが自分の異変に戸惑っている間に、
千里は走り出していた。
魔法少女の強みで、何階もの高さの窓から飛び降りる。
もう一人のポニーテールもかなり厄介そうだ。
亜里紗に撤退を促して、と、思っている所で千里は異変に気付く。

ーーーーーーーー

千里が把握した現実は、降下中に近くの窓に引きずり込まれたと言う事だった。
その結果を齎した、千里の脚に絡まった黄色い紐を千里が銃撃した頃には、
別の銃弾が雨あられと千里を襲っていた。

「くっ!」

物陰に隠れ、そこから敵を銃撃したが、
その効果は覿面だった、悪い意味で。
身を隠していた柱が目の前から消滅し、千里は這う這うの体で別の柱の陰に入る。
70 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/07/29(金) 01:57:12.43 ID:b1q2A61p0

(一発撃ったら百発返って来る、っ)

自分が銃撃タイプの魔法少女だけに、
今戦っている状態が本気でまずい、と言う事が骨身に染みて理解出来た。

最早、余計な事を考えている余裕はない。
鋭い空気が掠める連射にチビりそうな恐怖を覚えながら、
千里は柱から柱へと駆け抜け、威嚇にもならない拳銃を発砲しながらチャンスを伺う。
足を止めたら死ぬ、見切り損ねても死ぬ、と、痛感しながら。

「やああああっ!!!」

そして、千里は相手の斜め後ろから飛びかかった。
千里の右手に握られた横殴りの拳銃が相手の振るった長い銃身に受け流され、
千里の左手の拳銃が火を噴いたが、その銃弾は壁に埋まる迄空しく空を切る。

いつの間にか、相手が振るった銃床が千里の後頭部に叩き付けられそうになり、
千里は文字通りに這う這うの体でそこから逃れる。
千里が走り去った後を銃撃が追跡し、千里は柱の陰で荒く呼吸する。
そして、又、紙一重に銃撃を交わしながら柱から柱へと飛び回る。

(もらったっ!!!)

その中で発見した千載一遇の機会。
詩音千里はそこに、文字通り飛び付く。
魔法少女ならこのぐらいでは(辛うじて)死にはしない。一番大きな胴体を的に。
とっさに狙った相手の胸元に魔法弾の連射を浴びせた瞬間、
千里の目の前には、
ぶわっ、と、紐の塊が展開していた。

==============================

今回はここまでです>>-1000
続きは折を見て。
71 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage saga]:2016/07/29(金) 02:04:30.76 ID:b1q2A61p0
雑談
随分お久しぶりになりまして、
短い投下での再開ですいません。

少し勘が鈍ってる予感もありますが、
まあ、ぼちぼち続けます。

改めまして、
今回はここまでです>>67-1000

それでは失礼します。
72 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 01:38:23.12 ID:PL2otzEv0
No.16 充填完了。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>70

「付いて来てもらいましょうか?」

全身雁字搦めで身動きが取れない。
その間に、銃口を向けられて詩音千里は一度抵抗を諦める。

魔法銃を使う事が出来たら拘束を解除する目もあったが、
拘束がきつくてそれも使えない。

魔法少女同士の抗争になってしまった以上、
本来ならここで頭を吹っ飛ばされても文句は言えない。
千里は、その生真面目な声の指示に従う事にする。

ーーーーーーーー

かくして、連行された先は、最初の資材置き場だった。
そこには、多節棍で拘束された成見亜里紗の姿もあった。

「チサトっ!? 放せ畜生っ!!」
「てめぇで喧嘩売って来たんだろうがっ!!」
「この、っ………」

拘束されたまま、無言で向けられた銃口に亜里紗が息をのんだ。

「余り手荒な事はしたくないけど、
他人の縄張りで暴力沙汰を起こされて甘い顔は出来ないわね」
「申し訳ありません」

厳しい口調で告げる巴マミに、千里が拘束されたまま頭を下げた。
73 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 01:45:33.44 ID:PL2otzEv0

「私は巴マミ、この辺りで魔法少女のリーダーみたいな事をやってる。
あなた達の事は暁美さんから聞いてるけど、
一体どういう事か説明してもらえるかしら?」

「はい、その、何と言いますか………
私達のチームの副長、奏ハルカと最近見かけない男子生徒がやけに親しくと言いますか。
それで、その男子生徒に就いて少し確認した所、見滝原の上条恭介君だと分かって、
それで、あの、本当はもう少し穏やかにどういう事か確かめるつもりだったんですが、
手違いがありまして………」

「つまり、そちらの副長さんに粉掛けて来た野郎がいたから、
どんな奴だか確かめてやろうとこの見滝原まで出張って来たって事ね」
「まあ、そういう事ね」
「アリサッ、確かに、否定する程間違ってはいません」

杏子の要約に亜里紗と千里が応じた。

「で、その、奏ハルカ? あっちの副長って知ってるのか?」

杏子が、側にいた暁美ほむらに尋ねる。

「ええ」
「どんな奴だ?」
「綺麗なひと(女性)よ」

杏子の問いに、ほむらはファサァと黒髪を払って答える。

「綺麗なロングヘアの美人で背が高くてスタイル抜群。
物腰は折り目正しくて、育ちがいいみたいね。
魔法少女のリーダーとしても強い責任感と実力の持ち主で、
いかにも憧れの先輩、ってタイプかしら」

「ええ、その通りです。
ハルカ先輩は立派な先輩で素敵なひとです」
「ウェヒヒヒ………」

自分の指で自分の顎をついと上げて言うほむらの言葉に千里が応じる。
その側では、腕組みして眉をヒクヒク動かしている幼馴染を横目に入れて、
鹿目まどかが乾いた笑い声を漏らしていた。
74 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 01:51:44.80 ID:PL2otzEv0

「本当はもっと穏便に話を進める予定でしたし、
そちらと事を構えるつもりもなかったのですが、
全てこちらの不手際で騒ぎを大きくしてしまって、
本当に申し訳ありません」

プイッ
ギロッ

千里が頭を下げ、そっぽを向いた亜里紗もそれに倣う。

「それで、その、元々の調査の目的はどうなったのかしら?」

ほむらが尋ねた。

「音楽を通じた友人だと言う事が分かりました。
それだけの事です。彼には他に付き合っている人もいるみたいですし、
それが分かって引き上げる所だったのですが、本当にすいませんでした」
「この事は、そちらの副長さんやリーダーは知ってるの?」

頭を下げる千里にマミが尋ねる。

「いえ、知りません。全て私の一存です。
アリサにも無理を言ってついて来てもらいました」
「格好つけるなっつーの」

千里の言葉に亜里紗が毒づく。
しかし、マミと杏子がチラッと見たところ、その脚は震えを帯びている。
まず、本人の言葉がどこまで信用されるか、と言う事もあるし、
魔法少女が他所の縄張りで変身しての暴力沙汰となると、
それ相応の目に遭わされても文句は言えない。

「あー、めんどいから言っておくけど、
あの坊やの彼女ってこいつだから」

親指で指しての杏子の言葉に、千里と亜里紗の首がぐるーりと動く。
75 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 01:56:52.12 ID:PL2otzEv0

「んんっ、あたしは美樹さやか、よろしく」
「つーか、そんなら彼氏の事ぐらいちゃんと見とけってーの」
「アリサッ。今回は本当にごめんなさい。
あなたにも彼にも迷惑をかけて」

「まあ、分かったんならそれでいいけど、
それでその、ハルカ先輩って音楽とかやってるの?」
「ピアノを、年齢的には相当な腕前だそうです。
こちらの学校でジャズピアノを弾いた時に上条君と知り合ったと。
ただ、肝心な所の確認に少し手間取りまして………」

「ああー、恭介も時々ジャズ弾いてるからね。
あいつ筋金入りの音楽馬鹿で、ちょっと色々疎い所あるから、
なんかそっちで誤解招いたかも、って事にしておくわ」
「有難うございます」

「これでまた恭介に手ぇ出した、とか言ったら、
あたしも本気でキレるからね、多分文字通りの意味で」
「覚えておきます」

「美樹さんがそれでいいと言うなら。
ワルプルギスの件では手助けしてくれたとも聞いてるし、
今回だけはあなた達を信じて不問に付しましょう」
「有難うございます。本当にすいませんでした」

マミの言葉に、千里が深々と頭を下げ、
拘束を解かれた亜里紗が腰を抜かしていた。

ーーーーーーーー

「ん、んー」
「気が付きましたか?」

上条恭介が目を開けると、可愛らしい少女が視界に入る。
確か、ごく最近の記憶にありそうな。

「話している最中に立ちくらみしたみたいで、
短い時間でしたけど」
「そう」

そっぽを向いて笑いを堪える亜里紗の横で、
地面で身を起こす恭介と、それを覗き込む千里が言葉を交わした。
76 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:00:11.15 ID:PL2otzEv0

「確か、ハルカさんの後輩の」

「詩音チサトです。
さっきまであなたと先輩の事を少し話していただいたのですが、
事情は分かりました。
こんなところでお手間をとらせてすいません」

「ああ、うん。こちらこそ何か面倒かけたみたいで」
「はい。出来れば今日の事はハルカ先輩には内密に。
私達もあなたから勝手に色々聞きましたから、
余り気分のいい事ではないですので」

「詩音さんがそういうなら僕は構わないけど」
「それじゃあ」

双方、頭を下げた後で合意が成立し、ここで別れる事となる。

ーーーーーーーー

「あなた達」
「良かった、追い付いて」

馬鹿馬鹿しい騒ぎに付き合わされ、帰路に就いていたほむらの前に、
その騒動の元凶二人組が姿を現した。

「少しだけ、いいかしら?」
「何?」
「………あの場では、収拾するために敢えて言わなかった事」

その時には、千里の唇はほむらの左耳のすぐ側まで近づいていた。

「私は、あんな女の子の顔をしたハルカ先輩を見た事がない」

ほむらが視線を外すと、亜里紗も小さく肩をすくめていた。

「正直、この手の事で拗れたら他人にはどうにも出来ない。
それでも魔法少女同士のトラブルは避けたい。
だから、私も気を付けるけど少しだけ頭に入れておいて欲しい」
「そうさせてもらうわ」
「ごめんなさい」

千里が小さく頭を下げ、ホオズキの二人組はその場を離れる。
77 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:03:49.08 ID:PL2otzEv0

「………どうしろって言うのよ」

女子校出身暁美ほむら、人選を考えろと心の中で毒づく所であるが、
後の人選はと言えば、

当の本人。
暁美ほむらが固く信じている所によると、ピュアそのもの。
花より団子のがさつ者。
多分残念美人。
消去法の結果、暁美ほむらはもう一度嘆息する。

ーーーーーーーー

「何やってんだかなぁ」

見滝原でのちょっとした馬鹿馬鹿しい揉め事も片付いて、
佐倉杏子は陽の落ちた風見野で繁華街をうろついていた。

「ん?」

そこで、ちょっとした気配を察知する。

ーーーーーーーー

「うぐっ!」

薄汚い路地裏で、一人の少年がうめき声と共に蹲る。
その周辺には、少女を含む柄の悪いのが集団で、
ニタニタ笑って取り囲んでいる。

「なぁ、このままボコボコなる前に金出しちまおうぜ」
「分かんねーならもう一発いっとく?」
「ヒャハハ………あがっ!?」
「おいっ? おごっ!!」
「てめぇ、何して………」
「?」
78 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:07:21.78 ID:PL2otzEv0

蹲った少年が気が付いた時には、
彼を取り囲んでいたグループが仲間割れの様に殴り合いを始めていた。

「行くぞっ!!!」

そして、彼を掴んだ手は、意外に柔らかなものだった。

ーーーーーーーー

「大丈夫か?」
「ええ、すいません」

佐倉杏子は、夜の公園で、
路地裏からかっ攫って来た少年にハンカチを差し出した。

下らない気配を感じて路地裏を探った所、
分かり易く進行していたカツアゲの中から被害者の手を引いて今に至る。
見ると、相手は杏子と同年代、
ちょっと年上にも見えるが、如何にも育ちのいい、線の細そうなタイプ。

「アンタみたいな坊ちゃんがあんな所で何やってたんだよ? 夜遊び?」

まず、「食うかい?」とチョコ菓子を勧めてから杏子が質問する。

「妹を、探してた」
「妹?」
「うん。この娘、見かけなかったかな?」

杏子が差し出された写真を見る。
同年代らしいが、生憎心当たりはない。

「妹さん、どうかしたのか?」
「いなくなったんだ。何日も帰ってない」

「警察には?」
「一応。恥を言うけど、僕の母親がちょっと毒親入っててさ、
昔から僕の事を贔屓して妹にはきつく当たってたんだけど、
事故の後からちょっとひどくなって」
79 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:10:59.43 ID:PL2otzEv0

「事故?」
「うん。通学路に車が突っ込んで来てね。
僕が妹を庇う形で大怪我したから」
「それで、母親から嫌われたってか」

「正直、家出しても仕方がないと思う。
僕も、出来るだけフォローして可愛がってたつもりだし、
兄妹仲は悪くなかった、と、思ってるけど。
妹も、祈ってくれた」

「祈って?」
「入院中に、僕のために祈ってくれた。
夢か現実か、はっきりしないんだけどね。
だって、意識もなかった筈だし。
それでも、妹が僕のために必死で祈ってくれてたのはなんとなく覚えてる。
後で看護師さんに聞いても本当にそうだったって」

「健気だな」
「うん。必死に僕の回復を祈って、
しまいには何かおかしなものが見えてたのかも知れない」
「おかしな、もの?」
「うん、なんか、願いを叶えるとか、奇跡とか、契約とか、
そんな事をぶつぶつと言ってた様な気がして」

「奇跡、か」
「実際、僕がこうして普通に動いてる事自体、
医者に言わせれば奇跡なんだって。
即死しなかっただけで、まず生きて病院を出られないって所から
信じられない勢いで回復したって、医者も驚いてた」

話を聞きながら、杏子は、すっ、と目を細めていた。
80 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:14:51.49 ID:PL2otzEv0

「何か、手がかりとかないのか?」
「携帯とか財布とかもなくなってた。只………」
「只?」

尋ねる杏子に差し出されたのは、印刷された風見野の地図だった。

「申し訳ないけど、妹のPC開けさせてもらった。
見当のついたパスワードが当たりだったから。
それで、見られる範囲で見つかったのがこの地図」

「印がついてるな」
「何か所か印がついてるから、
そこを回ってみようと思ったんだけど、一つ目であんな風に………」
「ああ、これ、アンタみたいな坊やが出入りする場所じゃねーよ、
コピーとっていいか?」

「え?」
「ちょっと、あたしが見てみるって言ってるの。
アンタはもう帰った方がいい。
そうだ、名前は? あたしは佐倉杏子」

「マナ、人見マナ」
「妹さんは?」
「人見リナ」

「そうか。連絡先聞いていいか?
何か分かったら連絡する。はっきり言って気紛れでやってる事だし、
全然当てにならないって事で良かったらだけど」
「うん」

人見マナは素直に応じた。杏子の見た所、愛されて育ったのだろう。
確かに、甘やかされたのかも知れない、と言う部分はあるが、
ある種の素直な好ましさが見える。
甘やかされても、それを他人、恐らく妹にも、
優しさに変換する術を身につけている様に見えた。
81 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:18:09.86 ID:PL2otzEv0

ーーーーーーーー

大槍一閃、魔獣が一掃され、魔獣の結界は錆の浮かんだ廃工場でしかなくなる。

「佐倉、杏子か?」

ドン、と槍の石突で床を叩いた杏子が、背後から声を聞いた。

「この辺には現れない、と思っていたが」

そんな言葉を聞きながら、
杏子は背後に現れた集団に魔獣のキューブを放った。

「最近この辺で売り出し中の魔法少女パーティーってあんたらか?
あたしも面倒はごめんだからなるだけ近づかなかったけど」

「まあ、そういう事になるだろうな。
私は朱音麻衣。風見野で槍を使う凄腕、佐倉杏子と言うのは?」
「佐倉杏子はあたしだけど。
それで、ちょっと聞きたいんだけど、人見リナってそっちの関係か?」

次の瞬間、杏子は胸倉を掴み上げられていた。

「お前、何を知ってる!?」
「美緒っ!?」

麻衣が叫び、美緒と言う魔法少女は杏子に振り解かれていた。

「やるってーの?」
「風見野でも利己的な魔法少女って聞いてる。
リーダーをどうかしたのかっ!?」

槍を持ち直した杏子に美緒が叫ぶ。

「やめなよっ!」
「よせ美緒っ!
仮にも風見野の一匹狼で名の通った相手だ」

グループの一人佐木京がおろおろと叫び、
麻衣も強く制止する。
82 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:20:45.06 ID:PL2otzEv0

「じゃあ、人見リナって、あんたらのリーダーかよ」
「そういう事だ。だから、何か知ってると言うなら話して欲しい」

不精不精引き下がった美緒に代わって麻衣が頭を下げた。

「リナの兄貴に会った」
「お兄さんに?」

杏子の言葉に京が聞き返す。

「ああ、リナの事を探してた。何日か前から行方不明だって」
「こっちも同じだ。急に連絡が取れなくなった」

杏子の説明に、麻衣が続ける。

「独りで魔獣にやられたんじゃねーだろうな?」
「まさか、あの生真面目で、自分で集めたグループを大事にしてたリナが、
何の連絡もなくなんて考えられない。
そもそも、リナの技術で魔獣相手に致命的な事態になる事自体考えにくい」

「家庭がちょっとアレみたいってのは聞いたが」
「それも、少しは聞いている。
だが、お兄さんとは仲が良かった筈だ。
誰にも何も報せず、と言うのは、リナの性格からして………」

杏子とやり取りをしていた麻衣の言葉が途切れた。

「だとすると………本気でどっかの変態野郎にとっ捕まって、
何かの弾みで変身も出来ず、って線か」
「そんなっ」
「残念だが、理論的に一番あり得る推測と言わざるを得ない」

叫ぶ京の側で、麻衣も下を向いて言う。
83 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:24:15.83 ID:PL2otzEv0

「人見リナって、どういう奴なんだ?」
「立派な奴だ」

杏子の問いに麻衣が答え、京が頷いた。

「立派な魔法少女で立派なリーダー、であろうとしている。
そしてそれを実践している。
正直、それで少し頭が固過ぎて抱え込み過ぎる所がある。
だが、それを含めて私達はリナを支え、付いて行こうと決めた。
私達にそう思わせる奴だ」

麻衣の言葉を聞き、杏子はくるりと背を向けた。

「………親の事以外は恵まれてる奴だな、色々と」
「ああ。だから、心から無事を祈ってる。
心当たりも色々当たったが、駄目だった」
「………気が向いたら探してみるよ。
気が向いたら、だからな」
「ああ、分かったよ」

麻衣の言葉を背に、杏子は歩き出していた。

==============================

今回はここまでです>>72-1000
続きは折を見て。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/19(金) 07:27:24.46 ID:wi4EqFEgo
まだこのスレあるのか
85 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/09/15(木) 23:06:58.53 ID:Ymq9F1qf0
生存報告です
86 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/10/06(木) 20:19:13.02 ID:yiR9IGEW0
生存報告しときます
87 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/11/02(水) 02:39:10.35 ID:1VKAtVmY0
生存報告

そろそろ行けそう、ですが
88 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 00:45:33.11 ID:6BO///6e0
かなりお久しぶりですいません。
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>83

 ×     ×

その日、上条恭介は少なからず陰鬱な心を引きずりながら登校していた。

「おはよー」
「おはよー」
「お早う、上条君」
「お早う」

教室近くの廊下で、恭介は顔見知りの女子生徒と挨拶を交わす。

「それで、連絡とかは?」

恭介の問いに対し、割と古い馴染みの同級生は首を横に振る。
その側から向けられる、
最近こちらの学校に来た黒髪美少女の涼しい眼差しが重苦しさを増加させる。

「お早う、志筑さん」
「お早うございます上条君」

教室で挨拶を交わした恭介に対し、
彼と親しくしている志筑仁美が相変わらず優美な物腰で一礼する。
しかし、その表情には常にない疲労が漂っている。
そして、恭介の問いに対して、仁美は小さく首を横に振る。
89 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 00:51:05.14 ID:6BO///6e0

ーーーーーーーー

放課後、上条恭介は、ごくごく当たり前に安全なルートを選択し、
通いなれた歩道をテクテク歩いて帰路に就いていた。
しかし、その表情は常になく険しく、憂いていた。

そして、気が付いた時には、最近見かけた工事現場のただ中に立っていた。
そこは、取り壊し中のビルの前、囲いの中の資材置き場だった。
少なくとも、彼自身は何をされたのか、全く理解出来ていなかったが、
種を明かせば意外と単純だった。

フルブースト状態の魔法少女に胸倉を掴まれ、
短時間の内に力ずくの最高速でそこまで移動していたため、
理解が追い付かない。これだけの事だった。

「えー、と、成見亜里紗さん、だっけ?」
「そう」

そう返答した亜里紗の口調は、以前に増して剣呑なものだった。
亜里紗が恭介の胸倉から手を離し、一歩下がる。
それと入れ違う様に、近くにいた詩音千里がつかつかと恭介に近づいてきた。

「あなたに聞きたい事があります」

千里の口調は丁寧だが、前回とは違う、敵意に近いものすら感じられた。

「先輩がどこにいるのか、分かりますか?」
「ハルカ先輩? いなくなった?」

それは、自分への問いに近い恭介の呟きだったが、
次の瞬間恭介の体は軽く浮き上がっていた。
90 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 00:56:23.65 ID:6BO///6e0

「もしかして尻尾出した?」

恭介の胸倉を掴みながら、亜里紗の口角は僅かに吊り上がっていた。

「知ってる事、洗いざらい喋った方がいいよ、じゃないと………」

言いかけた亜里紗の肩が、ぽんと叩かれる。
亜里紗が移動すると、恭介は自分に向けられた銃口を見ていた。

「早めに全てを白状して下さい」

地面を一発の何かが貫き、恭介のこめかみにつーっと汗が伝う。

「さもなくば、足から始まって手の指が残っている間に、
と言う事になりますから。
それは大いに困る事でしょう、特にあなたは?」

「あー、上条君上条君、
基本、千里は常識的な冗談は通じる娘だけど、
ハルカ先輩絡みだとヒャクパー本気だから」
「ち、ちょっと待って」

「はい」

ごくりと息をのんだ恭介がまあまあまあの形で手を動かし、
千里も素直に従う。

「聞きたいのは僕の方なんだ」
「え?」
「さやかの事を、知らないか?」
「何?」

恭介の言葉に、亜里紗が聞き返した。
91 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 01:01:47.42 ID:6BO///6e0

「ちょっと、待って下さい………さやかと言うのは?
あなたの知り合いの方ですか?」
「うん、ハルカ先輩、いなくなったんだよね?
それで探しに来たんだよね?」

「ええ」
「さやかもそうなんだ、何日も家を空けて、
今までそんな事なかったのに」

恭介の言葉に、二人の少女は顔を見合わせた。

「分かりました」

千里が言った。

「正直言って、何も分からないからこちらに来た次第で、
さやかさんの事までは分かりません。失礼しました」

千里がぺこりと頭を下げて走り去り、亜里紗がその後を追う。

ーーーーーーーー

マミルームに集まっていたのは、
鹿目まどか、暁美ほむら、詩音千里、成見亜里紗、
そして巴マミと言った面々だった。

「あなたから連絡をもらった訳だけど、
奏ハルカさんが失踪したと言うのは本当?」
「ええ」

まず、ほむらと千里が状況を確認し合う。

「奏さんと美樹さんが、失踪………」

マミが不安げに呟いた。

「この組み合わせだと………」

言いながら、ほむらが顎を撫でて思案する。
その脇で、マミがインターホンに向かっている。
92 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 01:07:33.99 ID:6BO///6e0

「可能性として考えるなら、何処かで二人で剣を交えた決闘を行って、
そのまま二人とも動けなくなった、とか」
「ほむらちゃん………」
「アンタ、ふざけてるの?」
「可能性として、排除出来るかしら?」

剣呑な声を上げる亜里紗にほむらが言う。

「二人だけならな」

そんな会話に割って入ったのは、佐倉杏子だった。

「もう一人、いなくなってる」
「もう一人?」

杏子の言葉に、ほむらが聞き返した。

「人見リナ、風見野で魔法少女グループのリーダーをやってる奴だ」
「魔法少女のリーダー………」

杏子の言葉に、千里が呟いた。

「多少調べて回ったが、魔獣にやられたとも思えない、
責任感が強い真面目な奴で、
一人で勝手にいなくなる様な奴じゃないってな」
「それは、ハルカ先輩もそうです」
「さやかちゃんも、色々やんちゃな所はあったけど、
こんなに何日もいなくなる、なんて事はなかった」
「魔法少女が、失踪してる?」

口口の言葉を聞きながら、マミが言った。

「その可能性が出て来たわね」

ほむらが言う。
93 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 01:10:54.50 ID:6BO///6e0

「今の所三人。
その何れもが魔法少女で、失踪する様な理由が無い。
確かに魔法少女には危険があるけど、
三人が三人、一人で誰にも分からず連絡不能になる、
そんな間抜けが揃っている面子じゃない」
「その通りです」

ほむらの言葉に千里が同調した。
その時、マミが自分のスマホを手にして着信を受けていた。

「もしもし………ええ、ちょっと落ち着いて………ええ………」

マミがスマホをテーブルにおいてスピーカー状態にする。

「キリカを、探して頂戴」
「織莉子さん?」

スマホの声にほむらが言う。

「キリカと連絡がつかない、
その前に不審な状況があった。手がかりは………」

切迫した口調の織莉子の声を聞きながら、ほむらがメモを走らせた。

「こちらでも条件に合う所を探しながら、みんなで手分けしてって事でどうかしら?」
「それで行きましょう」

パソコンを起ち上げたほむらの言葉にマミが応じ、一同が動き出した。

==============================

今回はここまでです>>88-1000
続きは折を見て。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 01:19:18.01 ID:f0KkfsexO
このクソスレ読んでるやつまだいるのか?
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 09:38:21.40 ID:Me4fTiLmP
ここにいるぞ!
ここまで来たからには頑張って完結して欲しいな
96 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 12:56:03.13 ID:6BO///6e0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>93

ーーーーーーーー

「詳しい話、聞かせてもらえるかしら?」

マミルームに再集結した一同の中で、
新たに合流した美国織莉子に暁美ほむらが尋ねる。

「有難う」

織莉子は、巴マミが差し出した紅茶を傾ける。

「見えたのよ」
「予知?」

ほむらの質問に、織莉子は頷いた。

「キリカが、見覚えの無い車に乗っていなくなるシーンが。
変な感じだったから、私はキリカに連絡を取った。
キリカも覚えが無いと言った。
だけど、その後で連絡が取れなくなった」

「それで、私に連絡して来たのね?」
「ええ、私が見た光景を覚えている限り伝えたんだけど………」
「彼女も、手がかりも見つからなかったわね」

割と大量の魔法少女が出動しての捜索結果をほむらが告げた。

「まだ、連絡はつかないの?」

亜里紗の言葉に、織莉子が頷く。

「こんな事、今までなかった」
「ああ。あいつ、織莉子にべったりだったからな」

この中では織莉子と割と古い知り合いである杏子が言った。
97 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 13:01:17.74 ID:6BO///6e0

「きな臭いわ」

ほむらが言う。

「今、その事で話し合っていたんだけど、
最近、魔法少女が相次いで失踪してる」
「なんですって?」

ほむらの言葉に、織莉子も硬い口調で聞き返す。

「こちらの美樹さやかもいなくなった。
その事で、こちらのホオズキの魔法少女も合流していた所」

千里と亜里紗が頷き、ほむらが概略を説明した。

「それじゃあ、魔法少女が相次いで姿を消していて、キリカも」
「状況から言って、十分考えられる」

織莉子の言葉にほむらが応じた。
織莉子の元々の性格から動揺は少ない様にも見えるが、
内心の動揺は想像以上だろうと、その事は周囲の者からも見えていた。

「でも、正直手詰まりね」

マミが言った。

「探し回っても手がかりは見つからなかった。
今までの失踪は警察にも届けが出ている。
取り敢えず、織莉子さんは連絡を待って、
今夜は一度、それぞれの狩りに行きましょう。
決して単独行動はとらない様に。
明日、又ここで話し合うと言う事で」
98 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 13:07:16.23 ID:6BO///6e0

 ×     ×

翌日放課後、マミルームのリビングに、
一人の少女が疾風の如く飛び込んできた。

「魔法少女失踪事件の事、詳しく聞かせて」
「………この娘は?」

飛び込んで来た少女が、周囲をじろりと見回して叩き付ける様に言った。
その有様に、余りの勢いに戦闘態勢を取りながらほむらが尋ねる。

「日向カガリ、私達のチームメイト」

追い付いた千里が質問に答えた。

「天乃スズネ………」
「日向マツリです。ほら、カガリ」

千里らと一緒に現れた鈴音がミリ単位で頭を下げ、
華々莉との関係が一目で推測できる日向茉莉が頭を下げながら華々莉に促す。

「只事ではなさそうね」

そんな様子を見ていた織莉子が口を挟んだ。

「ツバキが、いなくなった」

ぼそっと言ったのは鈴音だった。

「ツバキ?」
「私達のリーダーよ」

聞き返すほむらに千里が言った。
99 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 13:12:33.00 ID:6BO///6e0

「じゃあ、そっちはリーダー、
サブリーダーがいなくなったって言うの?」
「そういう事っ」

少し驚いた口調で言うマミに、亜里紗が苛立ちを隠さずに言った。

「前にも言ったけど、うちは実質的に二つのチームの合同に近い。
副長のハルカ先輩の下に私とアリサ、
リーダーのツバキの下にカガリとスズネ、両方に属しているマツリ」

「対立とか派閥とかじゃないけど、
元々の人間関係とかもあってやり易い様に組んでる」

千里の説明を亜里紗が補足する。

「ツバキはマツリ達の家の家政婦でもあるんだけど、
私達が学校にいる間にいなくなってた、連絡もつかない。
携帯の電源もずっと切られてるし、まさかと思って………」

「今まで、こんな事は無かった。しかも、魔法少女失踪事件の真っ最中。
チサト達がそっちに向かっている間も
私達は私達でハルカを探してはいたけど、他に考えられないっ」

泣き出しそうな茉莉に続いて、
吐き出す様に言った華々莉がギリッと歯噛みしていた。

「それじゃあ、一度分かっている事をまとめましょう」

マミが提案し、報告会が始まる。
それぞれに分かっている事を報告するが、
ほむらの聞く限り目新しい話は出て来ない。
100 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 13:17:07.48 ID:6BO///6e0

「車に乗った?」

華々莉が織莉子を見て言った。

「呉キリカは、自分で車に乗ったと言う事でいいの?」
「ええ、私が見た映像はそうだった」
「魔法少女を力ずくで車に乗せるとか、
それも何人も、そっちの方が無理だろうな」

織莉子の言葉に杏子が続いた。

「それで、何か他に見えた事は?」

マミの質問に織莉子は首を横に振る。

「車に乗った時の映像は辛うじて見えたんだけど、
それ以上の事は何も見えない。
キリカの事を見ようとして集中しても形になる映像が全然出て来ない。
多分………意図的にジャミングされてる」
「なんですって?」

織莉子の言葉に、ほむらが聞き返した。

「いくつもグリーフシードを消費して全力で集中して、
それでも、一つの事に就いてここまで何も見えないなんて
そんな事は今までになかった」
「完全に、こっち側の人間か」

織莉子の説明を聞き、杏子が天を仰ぐ。
その側で、華々莉がすくっと立ち上がった。

「カガリ?」
「ツバキを、探す」

声を掛ける茉莉に華々莉が告げた。
101 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 13:21:16.93 ID:6BO///6e0

「ちょっと………」

マミが声を掛けるのにも構わず、華々莉はそのまま出て行った

「どういう娘なの?」
「ちょっと、難しい娘だから」

ほむらの質問に千里が応じた。

「あの娘を本当に抑えられるのは、ツバキだけでしょうね」
「あいつの前にツバキと犯人探し出さないと、犯人の方が危ないな」

千里がぽつっと言い、亜里紗がバリバリと頭を搔いて続けた。

「教えて………」

呟いた鈴音は、胸の中できゅっと手を握っていた。

「誰が、こんな事をしたのか………」
「もう一人いた………」

呟いた亜里紗がごくりと息を飲む。

==============================

今回はここまでです>>96-1000

コメントどうもです。
続きは折を見て。
102 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/07(月) 02:38:56.20 ID:DBnCgKGX0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>101

ーーーーーーーー

「大漁だな」
「ええ」

夜更けの見滝原、高台の公園で
魔獣狩りを終えた杏子とマミが余り嬉しくなさそうな会話を交わしていた。

「怪しそうな所を重点的に回ったから、魔獣には遭遇したけど」
「さやかちゃんは、見つからなかった」

ほむらの言葉に、まどかが悲し気に続いた。

「失踪しているのは魔法少女、何か手がかりだけでも、
とは思ったんだけど」

マミも無念の思いを隠さない。

「ったく、何処行きやがったあいつら………」
「さやかちゃんにハルカさん、他にも何人も、
あの、ツバキさんも………」
「そう考えるべきね」

まどかの言葉を、ほむらが肯定する。

「日向マツリに色々確認したけど、予定や約束を完全にすっぽかしてる。
何より今まで発見されたと言う連絡が無い」

そのまま、話が続いても実りも無く、
その夜は重苦しさを残した解散となった。
103 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/07(月) 02:44:35.88 ID:DBnCgKGX0

 ×     ×

「日向カガリは?」
「連絡はしておいたんだけど、家にも戻ってない。
返事は返って来るから失踪はしていないと思うけど」

放課後のマミルームリビングで、ほむらの質問に茉莉が答える。

「それ、本人の返事なんだろうな?」
「うん、そう言われると思ったのか折り返しの電話はくれるから」

杏子の問いに茉莉が答えた。
失踪した者を別にすると、
マミチームと椿・遥香チームのほとんどの者がこの部屋に顔を揃えていた。

「来たみたいね」

インターホンに応対したマミが言う。

ーーーーーーーー

「カガリっ」
「ちょっと遅れたけど、一応それだけのものは持って来た」

口調が強くなる茉莉に、
華々莉が答えて自分のノートPCをテーブルに置く。

「警察関係の情報を収集してきた」
「警察?」

華々莉の発言に、ほむらが聞き返した。

「ええ、その辺のお巡りさんから始まって、
上から下から横から手繰れるだけ手繰ってね。
警察自体の動きは鈍いから外れかとも思ったんだけど、
あすなろ警察署にこれを一連の事件と疑って独自に動いてる刑事がいた」

PCのディスプレイに、一覧表が表示される。
104 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/07(月) 02:51:55.68 ID:DBnCgKGX0

「奏ハルカ、美樹さやか、人見リナ、他にも、
この近隣で発生した条件の似ている失踪事件がかなり詳しくリストアップされてる」
「さやかちゃん………」
「思った以上にいるわね」

リストを見ながらマミが言った。

「あすなろ警察署………確かに、あすなろにも該当者がいるのね」

リストを見て、千里が呟く。

「事件扱いのケースだと、
失踪直前の携帯電話の位置情報や聞き込みの結果も入ってるわね」
「ええ。車に乗った、と言う証言も出て来てる。
状況から言って、頭の方をどうにかする能力が絡んでる」

ほむらの言葉に華々莉が続く。

「このリストを参考に、失踪した魔法少女のテリトリーを洗ってみましょう」
「当面、それしかないかなぁ」

マミの提案に亜里紗が応じた。

「私はあすなろに行く」

ほむらが言う。

「杏里あいりは私の古い友人、
あいりの友人の飛鳥ユウリとも面識がある」

「それじゃあ、私となぎさちゃんはここに残るから、
安否確認のメールはさっき言った通りのルールでお願い」

マミの言葉に、一同が小さく頷いた。
105 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/07(月) 02:57:19.37 ID:DBnCgKGX0

ーーーーーーーー

「よう」
「佐倉杏子」

あすなろ駅周辺で、遭遇した相手にほむらが言った。

「当てはあるのか?」
「取り敢えず、さっきのリストから
あの二人とあすなろの魔法少女の関係先を調べるつもり」

「じゃあ、一緒に行くか。こっちの魔法少女にちょっと当てがあるんだ」
「そうなの?」
「ああ」

「さっきはそんな事言ってなかったけど」
「日向カガリ」

ほむらの問いに、杏子がぽつっと言った。

「今、敵対するつもりはないけどあいつはちょっとヤバイ。
今、あいつに手がかりがあるって言ったら何やらかすか分からない、
そういうタイプだ」
「同感ね」

ーーーーーーーー

「よう」
「杏子ちゃん、に………」
「暁美ほむらです」
「あたしの知り合い、見滝原の魔法少女だ」
「見滝原の………」

あすなろ市内のビストロで、
取り敢えず三人の少女が一つのテーブルに就く。

「こちらが?」
「ああ、和紗ミチル、こっちの魔法少女」
「和紗ミチル、よろしく」

杏子に紹介され、ミチルが頭を下げる。
106 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/07(月) 03:01:51.93 ID:DBnCgKGX0

「それで、今日はどうしたの? 急に連絡とって来たけど」
「飛鳥ユウリ」
「杏里あいり」

それぞれ杏子とほむらが、ほぼ同時に言った。

「覚えてるよな」
「うん、二人がもめてる所をわたしが間に入ったんだから」
「そうだったの」

「うん。それから杏子ちゃんと約束してたんだけど」
「ああ、悪かったな。仲間と引き合わせるとか言われてたけど、
ちょっとこっちで色々あってな。なんとなく流しちまった」

「その、飛鳥ユウリの友人が杏里あいり、杏里あいりは私の友人。
そして、総合すると二人とも魔法少女と言う事になる」
「うん、知ってる。地元が同じだから」

ほむらの言葉にミチルが応じた。

「二人とも、姿を消してる」
「え?」

ほむらの言葉に、ミチルが聞き返した。

「飛鳥ユウリと杏里あいりが失踪した。
他にも、何人も魔法少女が姿を消してる」
「ちょっと待って、姿を消した、って、
それって魔獣退治で………」

ミチルの言葉に、説明していた杏子が首を横に振る。

「こっちの仲間や知り合いの知り合いも姿を消してるが、
魔獣絡みにしては色々不自然な事がある。
あすなろでもユウリとあいり、それに双樹って奴も姿を消してるらしいが、
何か聞いてる事無いか?」
「………」

杏子の問いに、ミチルは首を横に振る。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/07(月) 03:05:44.36 ID:DBnCgKGX0

「ごめん、最近ちょっとあの二人とも連絡とってなかったし、
そういう事は知らなかった」
「そう………さっき、仲間って言ったけど、
あなたのお仲間で不自然に姿を消した人とかは?」
「いない」

ほむらの問いにミチルが答えた。

「あなたのお仲間ともお話しがしたいわね。
広範囲に魔法少女が失踪しているから、少しでも情報が欲しい」
「うん、わたしから話しとく。
只、忙しい娘もいるから今すぐってのは無理だけど」

ーーーーーーーー

「なかなかウエストに厳しい一日になりそうね」

日が沈み、風見野のラーメン屋で相席した杏子にほむらが言った。

「ま、今日も狩りに行くし、体が資本ってな」

ニカッと笑う杏子に、ほむらが嘆息する。
かくして、美味しいラーメンと共に話が進む。

「あそこのパスタ、
美味しかったしボリュームも一杯だったわね。彼女も………」
「………ああ、今のあいつには少し多すぎたらしいな」

ほむらの言葉に、杏子はつと横を見て言った。
ふとした無言の中、本棚に視線の向いたほむらの目が見開かれる。

「?」
「思い出した」
「何?」
「和紗ミチル、どこかで見たと思ったら」
「なんだ、知ってたのか?」
「一方的にね」
108 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/07(月) 03:09:21.24 ID:DBnCgKGX0

ーーーーーーーー

食後、ほむらと杏子の姿はネットカフェのブースにあった。
今時スマホでもいいのだが、
そんな時代から取り残された様なラーメン屋では気が引けた。

「ワルプルギスの時に来てたから、
元々魔法少女としても見た事のある面子ではあったんだけど」

言いながら、ほむらがパソコンの操作を続ける。

「御崎海香、中学生小説家か」
「ええ、それから牧カオル。
中学レベルだけど、そのつもりで探せば見つかる女子サッカー選手」
「この二人がミチルの仲間だって?」

「ええ、多分。
少なくともあの店で彼女達とつるんでいるのを見た事がある。
それから、和紗ミチルには双子の姉妹がいる筈よ。
何か、彼女に不審を覚えたんでしょう?」

「ああ………まあな」
「どっちにしろ彼女のグループには接触する必要がある。
みんなにどこまで情報を共有して協力を求めるか、考えましょう」

==============================

今回はここまでです>>102-1000
続きは折を見て。
109 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage saga]:2016/11/09(水) 02:44:14.78 ID:B3RAv/ZC0
すいません、差し替え入ります。

該当箇所を、以下の通り差し替えになります。

>>107

==============================
ニカッと笑う杏子に、ほむらが嘆息する。
かくして、美味しいラーメンと共に話が進む。

「私達はデザートだったけど、パスタも美味しそうだったわね。
ボリューム一杯だったから彼女も………」
「………ああ、今のあいつには少し多すぎたらしいな」

ほむらの言葉に、杏子はつと横を見て言った。
ふとした無言の中、本棚に視線の向いたほむらの目が見開かれる。
==============================

差し替えは以上です、失礼しました。
110 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 01:36:05.68 ID:t3CPdH3c0
それでは今回の投下、入ります。

>>108

==============================

ーーーーーーーー

佐倉杏子、暁美ほむらが
あすなろ市で和紗ミチルと接触していたその夕方のお話。
百江なぎさは仲のいい親戚のお姉さんである巴マミの家を出て、
一人、見慣れた帰路に就いていた。

しかし、この日は、少々いつものルートを外れつつある。
その理由は明らかだった。

「フォンデュー、フォンデュー、
あっつあつのフォンデュはいかがっすかぁー」

百江なぎさは、涎を垂らしそうになりながら、
一台の手押し屋台の後をふらふらと追跡していた。

「お嬢ちゃん」

ぴたりと止まった屋台の側で、
屋台を押していたショートボブのお姉さんがなぎさに声を掛けた。

「お嬢ちゃん、フォンデュ好きかな?
お子様用のノンアルコールのもあるけど」

風邪マスク姿のショートボブが、なぎさににっこり笑いかける。

「大好きなのですっ!」
「だって」

その言葉に、調理台にいたもう一人のお姉さんがにっこり笑う。

「じゃあ、開店祝いに一本サービス、バゲットでいい?」
「はいですっ」

ショートボブの誘いになぎさが易々と応じて、
調理台で調理が始まる。
111 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 01:41:44.73 ID:t3CPdH3c0

「はーい、お待たせー」

ふわふわ髪を三角巾に包んだお姉さんが調理台から出て来て、
わくわくと舌なめずりするなぎさにフォンデュを差し出した。

「熱いから気を付けて食べてねー………」
「有難うなのですーっ」

エプロンをたゆんと揺らしてなぎさの前にしゃがみ込んだお姉さんが、
なぎさに囁きかけながらフォンデュを渡した。

「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」

明るく挨拶を交わし、なぎさと屋台は別方向へと別れて行った。

ーーーーーーーー

屋台と別れた後、ひょこひょこ歩いていたなぎさは、
塀による人通りの死角となった一角にたどり着いていた。
そして、そのまま停車したワンボックスカーに近づいた所で、
なぎさの体が秘かに装着されていたリボンに引っ張られ、ガクンッ、と、停止した。

「ぐ、ぐっ………」

次の瞬間、空から斜めに撃ち込まれた光弾がなぎさを直撃し、
なぎさの動きが止まる。

「なぎさちゃん逃げてっ!」

聞き覚えのある叫び声を聞き、体の自由を取り戻したなぎさが
自分の体から延びるリボンを頼りに元来た道を一目散に駆け戻る。
ワンボックスカーから、黒スーツの集団がバイザーを装着してばらばら降車する。
その内の一人が、飛来した光弾を浴びてぶっ倒れ、残りの者が一斉に拳銃を抜く。

(本物の拳銃っ)

近くの低いビルの屋上から、
黒スーツと撃ち合いになった詩音千里がささっと身を伏せる。
112 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 01:46:58.29 ID:t3CPdH3c0

「何やってんだこの野郎っ!!」

怒声と共に、黒スーツの一人が吹っ飛ばされる。
辛うじて軍用ナイフを抜いた者もいたが、
ブーストで飛び込んで来た成見亜里紗の敵ではなかった。

「さあて、きっちり吐いてもらおう、かっ!?」

亜里紗がグロッキーの黒スーツの一人の胸倉を掴んでいたが、
それをどんと突き放して飛びのいた。

(電撃っ!?)

と、思った次の瞬間、びゅんと振った亜里紗の鎌が鞭を弾き飛ばす。

「逃げろっ!」

そして、亜里紗との間に割って入った浅海サキの言葉に、
黒スーツ達は這う這うの体で車に飛び乗った。

「じゃあ、あんたが話してくれるってーのっ?」

鼻から下にマスクを巻いたサキを、亜里紗が鎌を振って威嚇する。
バババッ、と、両者が交錯した。

((速さ、の能力はお互い様かっ))

荒い息を吐きながら、双方が心の中で呟く。

「ちっ!」

長さの変わった鞭を亜里紗が寸手で交わし、
続いて亜里紗が大鎌の刃と柄をぶん回してラッシュする。

「くっ、この、っ………」

鎌の柄に鞭が巻き付き、力ずくで弾ける。
サキの頬の辺りを柄が掠める。
113 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 01:52:30.97 ID:t3CPdH3c0

「な、に、やってんだぁ………
こんのっやろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!!!」
「!?」
「落ち着けっ!!」

助けられる筈のサキが叫び声を上げる。
次の瞬間には、雪崩れ込んで来たクマーの大群は、
その大半が一掃されていた。

「!?」

チリ、ン………

「教えて………」

振り返ったサキの大剣が、負けじと振るわれた豪剣と衝突する。

「あなたの名前を、何故こんな事をしているのか………
ツバキはどこに行ったのかっ!?」

刃が弾け、若葉みらいと天乃鈴音がじりっと対峙した。

ーーーーーーーー

路地裏をすすすっと移動していた宇佐木里美は、すっと足を止めた。

「操る能力はあなたのものね?」

里美の前方から現れた巴マミが、マスケットの銃口を向けて里美に問う。

「話してもらいましょうか?
何故こんな事をするのか、失踪した魔法少女はどこにいるのか?」

里美は、ふっ、と昏い笑みを浮かべて小さく両手を上げた。
114 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 01:56:47.32 ID:t3CPdH3c0

「分かりました、今、詳しくお話しします」

マミは、そう言って静々と接近して来る里美をじっと警戒する。
すぐそこまで接近していた里美とマミの距離が、
ふいっ、と急接近していた。

「!?」
「そう、そのまま銃を床に置いて両手を上げて、動かないでちょうだい」

里美は、里美の指示に従うマミからじりじりと距離を取る。

「!?」

里美が、ざっ、と飛び退いたが、
近くの曲がり角から飛び込んで来た光弾は、巴マミを直撃していた。

「!?」
「チェックメイト」

里美がハッとその意味に気付いた時には、
懐に飛び込んで来たマミが里美の顎の下にアンティーク拳銃の銃口を差し込んでいた。

「喋らないで下さい、喋ったら容赦なく撃ちます」

曲がり角から現れた詩音千里が銃口を向けて言う。

「巴さん、ここでの尋問は危険です。この手の能力には心当たりがある。
喋らせないでカガリに引き渡して口を割らせるべきです」
「分かった、わっ!」

その時、ざっ、と振り返ったマミの召喚した大量マスケットの銃弾と
飛来したミサイルが衝突、爆発した。

「えっ、えほっ!!」

周囲が煙に包まれ、気が付いた時には里美の姿は消失していた。
115 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 02:00:40.47 ID:t3CPdH3c0

ーーーーーーーー

「!?」

鈴音、亜里紗は、近くでの爆発と発煙にぴりっと反応した。

「くっ!」

そして、ドドドッと飛来した幾つもの光球から身を交わす。

「双方引き揚げよっ!!」
「何勝手言ってやがるっ!?」

他の面々同様巻覆面を装着して
牧カオルと共に現れた御崎海香の言葉に、亜里紗が激昂した。

「これ以上は警察沙汰になるって分からないかしら!?」
「スズネっ!」

海香が叫んだ時は鈴音が大跳躍で海香に斬りかかり、
亜里紗の叫びと共に、
カオルの硬化した両腕でガキインッと受け太刀された鈴音が後ろに吹っ飛ぶ。

「つーっ」
「こ、のっ………」

痛そうにぶんぶん腕を振るカオルを前に、
益々激昂する亜里紗の肩を掴んだのは鈴音だった。

「言う通り、これ以上はまずい………」

普段低体温系な後輩が目を吊り上げて言う言葉を前にしては、
亜里紗も従わざるを得ない。
116 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 02:08:24.70 ID:t3CPdH3c0

ーーーーーーーー

「動きがあった」

風見野で、メールの着信を確認したほむらが鋭く言った。

「来やがったか誘拐犯っ!」
「戻りましょう、見滝原に」

吐き捨てる様に言う杏子に、ほむらが促した。

==============================

今回はここまでです>>110-1000
続きは折を見て。
117 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/15(火) 02:37:59.98 ID:TB46B0gp0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>116

ーーーーーーーー

「つまり、なぎさを囮に使った、って事か?」

マミルームで、大まかな説明を聞いた杏子が言った。

「結果としてはそうなるわね。

出来る事なら失踪事件が解明されるまで、少なくとも事件の集中時間帯は
なぎさちゃんは私の手元で保護しておきたかったんだけど、
急に事情が変わって一度親元に帰さざるを得なくなった。

だから、本当は念のためと言う事で、
追跡用のリボンを付けて近場にいたホオズキの娘達にも
協力を要請してたんだけど………」

「そうしたら、本当に本命が食い付いて来た、って言う事?」

ほむらの言葉に、マミが頷いた。

「今までの例から帰宅後は大丈夫だと思うけど、
念のため後から合流した鹿目さんと織莉子さんにお願いして
なぎさちゃんを家まで送って周辺警備をしてもらってる」

「これで色々はっきりしたな」
「ええ、敵は魔法少女と武装した人間のグループ。
そして、狙われているのも魔法少女と見ていい」

杏子の言葉にほむらが続けた。
118 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/15(火) 02:43:29.41 ID:TB46B0gp0

「で? 結局捕虜の一人も確保出来なかった訳?」

腕組みして聞いていた日向華々莉が片目を開いて言った。

「向こうも集団、かなりの手練れでもあったわ。
かなり派手に暴れたから、あれから本当に警察も出動してた」
「ああーっ、もうっ。
そんなの私がいたらいっくらでもごまかし効かせたのにっ」
「仕方ないよ、間に合う場所じゃなかったんだから」

マミの言葉に華々莉が吐き捨てる様に言い、茉莉が宥めた。

「せめて一人でもとっ捕まえてたら
アジトでもなんでも吐かせられたのに、これじゃあ手がかりなし?」
「気になる事がある」

苛立ちを隠さない華々莉にほむらが言った。

「もしかしたら、あすなろに何かがあるのかも知れない」
「あすなろ市? 今日あなた達が行ってた?」

マミの質問にほむらが頷いた。

「証拠、って程でもないんだけどな。
あすなろの魔法少女で和紗ミチル、
今日そいつと接触したんだけど、どうも様子がおかしかった」

杏子が説明する。
119 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/15(火) 02:48:59.08 ID:TB46B0gp0

「オーケー、その和紗ミチルをとっ捕まえて吐かせる、居場所どこ?」
「分からん」

杏子の言葉と共に、
チャクラムを振り上げた華々莉を茉莉がドウドウドウと押さえる。

「だけど、手がかりはあるから、
少し穏便に話をしていただけないかしら?」

腕組みをして見ていたほむらが、ファサァと黒髪を掻き上げて片目を開いた。

ーーーーーーーー

会合は、マミルームからほおずき市内の夜のファミレスに移っていた。

「御崎海香、牧カオル、ね」

既に為されたほむらの説明に、マミが呟く。

「似てる………」
「うん、顔隠してたから確定とは言えないけど」

スマホに映し出された海香、カオルの顔に鈴音と亜里紗が言う。

「いらっしゃいませ」

ほむらが、聞こえて来た店員の声にちろりと視線を向ける。

「当たりっぽいね」

店に入ってほむら達と相席し、注文を終えた日向華々莉が言った。

「ほむらの言った通り、御崎海香御殿はちょっと調べればすぐ分かる」
「中学生でもあんな豪邸に住んでる人気小説家、当然目立つわよね」

華々莉の言葉にマミが言った。
255.26 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)