文才ないけど小説かく 7

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6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/07(日) 15:54:39.64 ID:wUp+2ALmo
>>5
雪雲

ついでにお題ください
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/07(日) 16:07:57.19 ID:NrHBk7MVo
>>6
茶柱
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/07(日) 16:59:13.86 ID:lRIA5Tkuo
>>6
把握しました
ありがとう
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/07(日) 23:08:04.32 ID:lRIA5Tkuo
さっそくですが、4レスほど投下します
10 :白い空の下で 1/4 ◆d9gN98TTJY [sage]:2016/02/07(日) 23:13:33.25 ID:lRIA5Tkuo

 厚手の手袋越しだというのにすっかり指先は冷えていて、それほど長く空を見ていたのか
と少し驚いた。
 自転車を支える手はすっかりかじかんでいたのに、まだこの胸は熱いつもりで――。零れ
出た息が白いのは当然の事だろうに、この身が立ち竦むに任せて、ただ、空を見ていた。
 街中を走り抜けた身体の熱さを、走り出さずに居られなかった熱を、吐き出してしまいたく
て。空一面の雲と同じ色をした息を吐きながら、ただ空を見ていた。
 時には視界が霞むに任せて、舞いては静かに街中に降り下るこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいと、一面の空を覆って
隠す雲と、白く空気に溶けていく吐息とが綯い交ぜになるままに、ただ空を見ていた。
 見るともなしに、こうしてただ空を見ていたように。
 それがそうであると判っているつもりの事すら、判ろうとしていなかった。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/07(日) 23:15:10.92 ID:lRIA5Tkuo
投下しなおします
12 :白い空の下で 1/4 ◇ ◆d9gN98TTJY [saga]:2016/02/07(日) 23:15:58.89 ID:lRIA5Tkuo

 厚手の手袋越しだというのにすっかり指先は冷えていて、それほど長く空を見ていたのか
と少し驚いた。
 自転車を支える手はすっかりかじかんでいたのに、まだこの胸は熱いつもりで――。零れ
出た息が白いのは当然の事だろうに、この身が立ち竦むに任せて、ただ、空を見ていた。
 街中を走り抜けた身体の熱さを、走り出さずに居られなかった熱を、吐き出してしまいたく
て。空一面の雲と同じ色をした息を吐きながら、ただ空を見ていた。
 時には視界が霞むに任せて、舞いては静かに街中に降り下る粉雪と、一面の空を覆って
隠す雲と、白く空気に溶けていく吐息とが綯い交ぜになるままに、ただ空を見ていた。
 見るともなしに、こうしてただ空を見ていたように。
 それがそうであると判っているつもりの事すら、判ろうとしていなかった。
13 :白い空の下で 2/4 ◆d9gN98TTJY [saga]:2016/02/07(日) 23:17:16.65 ID:lRIA5Tkuo

 昨晩は今に劣らず寒かった。
 けれど窓の鍵は普段通り外していて、耐えられない寒さならそれこそいつもの様に、前足
を器用に使って窓を開けて入ってくるだろうと。                         ユメウツツ
 稀によくある。矛盾のようでそうではない日常の、猫が喧嘩をして駆けて行く喧騒を、夢現
の中で聞いた。
 なぜ判ったのかは判らない。その鳴き声の一つが、知っている猫ものだとは判っていた。
 不安は覚えていた。
 いつ亡くなってもおかしくはないと。
 冷えた身体を震わせたまま、窓の隙間から布団の隙間へと入り込んでくる。それを、半ば
眠ったままで迎え入れて温める。その冷たさで目が冴える事もなく、むしろ安堵と幸福の中
で深い眠りについていった。
 今日は生きていてくれた。けれど、明日亡くなるかもしれない。
 そう覚悟しているつもりで、毎日の様に己に言い聞かせているつもりで、生きていてくれる
“ 今日 ”が永遠に続いてくれるものとばかり思っていた。
 不安が不安のままである、この幸せな日々が続くと――。ずっと。
14 :白い空の下で 3/4 ◆d9gN98TTJY [saga]:2016/02/07(日) 23:18:25.68 ID:lRIA5Tkuo

 巧く抱かないと曲がりくねって滑り落ちる。あの柔軟な身体はもう無くて。
 手に抱いた硬さと冷たさばかりが思い出される。
 空を見ている。
 体中にあった暑さも、胸を焦がす程の熱ももはや感じられない。ただ、寒さと冷たさばかり
が今のこの身を満たしていた。
 確かに見えていた筈の事が、どこか遠い事の様にしか思えなくて、ただ空を見ている。
 涙で霞むに任せて、空を見ている。
 確かにあるはずの雲も見えず。
 確かに降るはずの雪も見えず。
 確かに浮かぶはずの息も見えず。
 ただ真っ白く塗りつぶされる、霞んだ空を見ている。
 雪雲は他の雲よりは地に近いのだと、どこかで得た知識ではそう判っていても、涙で世界
が滲む時でもないと、その近さを実感できないままでいて。
 何の心の準備もできていない幼子の様に、突然の現実に振り回されるしかなくて。
 それでも、困惑しながらも別れを済ませる事ができていた事に今さら気づいた。
15 :白い空の下で 4/4 ◆d9gN98TTJY [saga]:2016/02/07(日) 23:19:28.97 ID:lRIA5Tkuo

 どれほど空を見ても、雪の冷たさを感じずにいられるようにはならなくても。
 どれほど慣れても、寒さを覚えずにはいられなくても。
 判っている筈のことをどれだけ考えても、実際の日々には叶わなくても。
 ただ、空を見ている。
 確かに触れたあの冷たさを思い出して、もう触れないこの身の寒さを思い出して、そして、
この空の下で確かにあった暖かい触れ合いを思い出して、泣く為に。
 ただ、空を見ている。


                                                             終わり
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/07(日) 23:20:37.59 ID:lRIA5Tkuo
以上です
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/08(月) 04:08:26.33 ID:oAC4nmtGo
>>16 おつ
じわりと沁みるような喪失が印象的でした
乱暴にあらすじをまとめれば『飼い猫が死んで悲しい』になるんだろうか

このお話には劇的さはないけれど、逆にそれが味になっている節がある
猫の死に対して完全に受け入れることは出来ない
けれど、かといってひどく執着しているかと言われればそれも違う
やけに現実的で絶妙にあいまいな心の距離感、何とも言えぬが個人的には好ましい

ただ一つ気になったのは死ぬ間際に帰ってくる猫について
なんとなくだが、死に際に帰ってくるのは猫ではなく犬のイメージだ
猫の死を演出するのならば、
『一度帰ってきて主人公の顔を一舐めしてどこかへと消える』
主人公はなんとなくそれを察する、くらいあいまいでも良かったように思う

個人的には非常に好みの物語だった
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/08(月) 07:12:25.45 ID:+wZ66Ukpo
お題下さい
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/08(月) 16:26:31.17 ID:zIi+VF6Bo
>>18
爆竹
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/08(月) 17:53:28.20 ID:+wZ66Ukpo
把握
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/09(火) 17:46:15.34 ID:FSSi5yNQo
お大工太斎
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/09(火) 18:19:39.87 ID:ayl/SQvlo
>>21
カンナ
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/09(火) 19:25:38.38 ID:FSSi5yNQo
把握しました
24 :(お題:茶柱)0/2 ◆FLVUV.9phY [sage]:2016/02/09(火) 21:32:19.04 ID:DOWKOnFqo
完成したので投稿します
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/09(火) 21:33:30.23 ID:DOWKOnFqo

 久しぶりに自分で煎茶を淹れてみればどういうわけか茶柱が立っていて、

『おばーちゃん! 見てみて、コレ! 茶柱、茶柱たったよ!』
『おぉ本当かい、すごいね。きっといいことあるね』

 不意に、そんなことを思い出した。
 確か、かれこれ十年以上前の出来事のはずだ。
 あの頃は茶柱を見てあんなにはしゃいでいたのに今ではさほど驚かなくなっている。
 それは別に感性が鈍ったからだとか、大人になって物怖じしなくなっただとか、そういうことではない。
 端的に分かり易く表現すると『私にとって幸運とは当たり前のものになってしまったから』である。
 茶柱に喜んでいた頃は確かここまでではなかったはずだ。
精々人よりも少し運がいい、その程度であったと記憶している。
あの頃の私はなんてこともない普通の子供だった。
 だけれど今は違う。
 今の私は……、

「控えめに言って幸運に愛されている、としか言えないのよね」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/09(火) 21:34:14.90 ID:DOWKOnFqo

 ありがたいといえばありがたいことではあるのだ。あるのだが、正直に言うと生きる甲斐がないのも事実。
 成人してからなんとなくで買ってみた宝くじは現在七連勝中で、総額にすると十億円程度。
 ほかにも色々と試してみた、競馬、競輪、ボートレース、お年玉付き年賀ハガキ等々。
パチンコとスロット以外で運の関わるものは片っ端から試したように思う。
その結果、私は一生働かなくても食っていける程度には当たりを引いてしまった。
 さすがにここまでになるとは思いもよらず、
この多大なる結果を友人どころか親族のだれ一人にさえ打ち明けることが出来ていなかった。
 正直に言えば、今言えていない時点でそれをすることに運が向いていないんだろうなと半ば確信しているが。

「でもなぁ……、」

 現時点でもかなり好き放題生きているのだが、だとしてもどこか虚しさが漂うのだ。
 そうまるで運命の女神に操られているかのような。
 なんて、そんなのは考えすぎか。

「気分を変えるために、何か始めてみよっかな」

 幸い資金は潤沢にある、最後の最後にはきっと運で勝ちを拾ってしまうだろうけれど、
そこに到達するまでが出来るだけ遠い、出来れば実力至上主義の趣味がいいかな。
 こういう時間が私は好きだ。
 物事は始める前が一番楽しいのだから。
27 :(お題:茶柱)3/2 ◆FLVUV.9phY [sage]:2016/02/09(火) 21:36:47.86 ID:DOWKOnFqo
以上です、お題くれた方ありがとうございました
名前欄はミスりました
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/09(火) 23:09:58.51 ID:TM1E0YJrO
http://i.imgur.com/Crh0L0H.jpg http://i.imgur.com/wCIfZoW.png
http://i.imgur.com/Iz5kd7m.png http://i.imgur.com/4ZrvhX5.jpg
http://i.imgur.com/xTDcDxo.jpg http://i.imgur.com/foWcC9M.jpg
http://i.imgur.com/g8F7VeU.jpg http://i.imgur.com/LqR1ASf.png
http://i.imgur.com/TZVviOp.jpg http://i.imgur.com/mGtngCg.png
http://i.imgur.com/EtDNBac.jpg http://i.imgur.com/JtyVcVM.jpg
http://i.imgur.com/Nt2XLw3.jpg http://i.imgur.com/7OES2Os.jpg
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/10(水) 02:15:48.19 ID:YOBHMN2no
乙乙
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/10(水) 07:57:25.51 ID:gDw8wuXTo
お題ください
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/10(水) 13:10:57.27 ID:YOBHMN2no
共鳴
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/12(金) 01:38:49.22 ID:nK8dZdDfO
お題下さい
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/12(金) 02:15:58.84 ID:PkXFyqa7o
めまい
34 :(お題:共鳴) [sage]:2016/02/12(金) 16:20:47.95 ID:5lHfbfrno
完成したので投下します
35 :(お題:共鳴)1/4 [sage]:2016/02/12(金) 16:21:33.01 ID:5lHfbfrno

 俺の中には長いことしこりのような一つの感情が居座り続けてきた。

『幼馴染にはかなわない』

 アイツは女の身でありながらほぼ全てのスペックで俺を遙かに凌駕し続けていたのだ。
 運動も勉強も、何か一つだって勝てたためしがなかった。
 俺としては一緒にいればそれだけ劣等感が募っていくばかりだったから、

『いつまでも仲良く一緒になんていたくない、何かの縁でそのまま関係を切れればいいのに』

 なんて結構本気で考えていたのだ。そのはずだったのだ。
 なのに、現実は違う。
 すべての面で俺よりも凄かった幼馴染はもういない、いなくなった。

「なぁに、タツ。毎日毎日飽きずに見舞いに来てくれちゃって。青春が勿体ないよ?」
「統理は一人でいるといつまでもウジウジしてるからな、気を紛らわせてやろうっていう俺の配慮だよ」
「ふぅん、まぁわざわざありがとうね」
「おう、感謝しろよな」

 代わりにいるのは勉強は出来るし、運動神経もとても良い隻眼の幼馴染だ。
 それは事故だったらしい。
 夜の弓道場で備品の確認作業をしていた統理に一本の矢が飛んできて、運悪く目に突き刺さったのだそうだ。
 弓を射てしまったのは部内の三年生で腕前は五指からは少し漏れる程度だったらしい。
36 :(お題:共鳴)2/4 [sage]:2016/02/12(金) 16:22:15.73 ID:5lHfbfrno

 ついでに補足しておくと統理が入ってくるまでは大会のレギュラーだった人だそうだ。
 つまりはそういうことなんじゃないかと、俺は勝手に思っている。
だけど、肝心の統理はそれに対して何も言わないのだ、本当に何も。
 悔しいとも、つらいとも、ズルイとも、何とも言わない。
 ただ時折片目でぼぅと遠くを眺めている。

「タツは部活入らないの?」
「あぁ、そうだな。どこか入ろうかな」
「ウソ!? 本当?」

「俺が部活入らない理由もなくなったしな」
「なにそれ? どういうこと?」
「いや、こっちの話。大したことじゃない」
「あそう、言いたくないなら聞かないけど……」

 しつこく聞かれても絶対に答えないけどな、格好悪いし。

「それで、何部に入るの?」

「いや、まだ決めてないけど」

「それじゃあさ、弓道やろうよ。楽しいよ?」
37 :(お題:共鳴)3/4 [sage]:2016/02/12(金) 16:22:57.27 ID:5lHfbfrno

 統理は他人の劣等感に酷く疎い。
 俺の幼馴染は何でも即夏こなすことが出来る天才タイプだから、というわけではない。
 逆なのだ。こいつは異常なほど負けず嫌いなのである。
 誰にも負けたくないから以上に努力をする。それ自体は褒められたことだし、俺も尊敬している。

 問題はその精神性の方にあり、『努力をしないやつは悔しいともわない人間だ』そんな風に信じ込んでいる。
 つまり、打てば響くこいつにとって『やってもできないグズなやつ』ってのは本当に理解できない存在なのだ。
 優秀であるために弱者の気持ちが分からない。それが俺の幼馴染というやつだった。
 そしてそいつは、絶対に超えられない壁に直面して、それでも笑ってる。

「なぁ、教えてくれないか?」
「ん? 何、弓道?」
「違う、お前の今の純粋な気持ち」
「……、」

 何とも清々しいほどに憎々しい笑顔を浮かべる。

「正直に言えばね、すごくムカついてる。すごくすごく、ムカついてる。
だって、的の前に人がいるのに弓を引く人なんていないでしょ。普通に故意だよ、絶対。
でも何よりムカつくのはね、あの人がアタシに勝てるように努力しなかったこと。
アタシにはそれが信じられない。だって人の足を引っ張って蹴落としたところで自分は何にも変わらないんだよ」

 荒くまくし立てる統理に、俺は僅かばかり安堵を覚えた。
 あぁ、こいつはちゃんと憤れるやつなんだって、安心した。若干ずれてる感は否めないとしても。
38 :(お題:共鳴)4/4 [sage]:2016/02/12(金) 16:23:54.16 ID:5lHfbfrno

「安心した」
「何がよ!」
「お前もちゃんと人の子なんだなって思ってさ。気に食わないことに腹を立てるんだってそんなことが」
「じゃあついでにぶっちゃけるけど! アタシからずっと逃げ続けるあんたもムカつく!」
「……ッ!」

 どうやら筒抜けバレバレであったらしい。
 あぁ、クソほんとに恰好悪いな。

「だから弓道やろ?」
「結局俺はお前には一生勝てない気がする」
「タツ、そんなのは分からないんだって。今負けてるなら勝てるようになるまで努力し続ければいいでしょ?」

 あぁ、そうだよな。統理はこういうやつだ。
 そう統理は、どこまでもこういうことを本気で言うやつなのだ。
 いい加減俺もそれくらいは分かってる。

「格好悪いままだと、男としての沽券にかかわるし、本気になるよ」
「じゃあ努力の仕方から教えてあげる」

 多分俺は、一生こいつに勝てないと思う。色んな意味で
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/12(金) 16:24:46.53 ID:5lHfbfrno
以上です
お題くれた方ありがとうございました
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/12(金) 17:33:30.92 ID:rp2KLjxfo
お題くだし
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/12(金) 17:40:44.62 ID:T2VJMNLQo
ケサランパサラン
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/12(金) 18:01:46.36 ID:y/WLum7FO
お題下さい。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/12(金) 18:02:14.17 ID:y/WLum7FO
お題下さい。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/12(金) 18:21:46.93 ID:eyXqinkOo
旬の食べ物
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/12(金) 19:20:28.50 ID:1lf7yq650
幸せ
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/16(火) 02:51:37.04 ID:N64CuoT+o
おだくだ
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/16(火) 22:00:12.12 ID:kfk5RQOEo
クイーン
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 00:10:14.57 ID:SUswtyEjo
お題please
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 00:18:06.83 ID:obmBHBDcO
雑種
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/21(日) 10:00:02.28 ID:DAfRHPLfo
>>35-38
投下乙

抒情的な作品と短編という形式がミスマッチ起こしている感があるのが、勿体ない気がする
とは言え、お題を消化することを第一に考えると、一応の答えに向かって書ききらなくちゃいけないのも分かる

長編で読みたい作品だなと思いました
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/21(日) 12:55:37.79 ID:MYDjQQS+o
感想ありがたや
勿体ないと長編で読みたいは短編書くたびに言われてる気がする、そこが課題か
ついでにお題ください
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/21(日) 13:00:06.59 ID:1gA1f1zXo
明晰夢
53 :0/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:14:26.46 ID:MYDjQQS+o
書きあがったので投下します
54 :1/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:15:46.27 ID:MYDjQQS+o

「ねぇねぇ那月! あたし退屈だよー、なんかないの? 事件! 事件ないの!?」
「そんなポンポン事件が起こってたら俺が平和を堪能できないだろ」

「平和より激動だよ、絶対そっちの方が楽しいってばぁ!」
「俺にそんなことを言われても知らん、俺は激動よりも平和がいいの、楽しくても疲れるのは嫌だからな」

「那月のアホー! じゃあ、どっか行こう! 事件を探しに行こう!」
「つかこの間謎のカエル蓑事件を解決したばっかだろ。思い出で満足しとけよな」

「やだやだ、あれもう一週間も前だよ? 満足できないー! ほらほら、出かけようってばぁ」
「だぁぁ! 分かった分かった! 準備するからちょっと待っとれ」

「ふふん、それでいいよの、そ・れ・で!」

 俺はケサ子に急き立てられて仕方がなく課題をまとめていたノートを閉じて立ち上がる。
 にしてもこいつが来てから毎日が忙しなくて仕方がない。
 大体こいつなんでまだ俺にまとわりついてくるんだったっけ? 

 そんなふうに考えてしまえばそこからはもうトントン拍子に記憶の渦が逆流してくる。
 それは俺とケサ子が初めて出会って、それから解決した非日常の記憶である。
55 :2/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:16:56.95 ID:MYDjQQS+o

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんっ!」

 呼んでもいないのに突然現れた小さなそいつはフヨフヨと元気よく宙を漂う。
 俺はこの現実を理解できなかった。

「はっ? いや呼んでないし、ていうかなんだよお前? いやついに俺は頭がおかしくなったか?」

 思わず頭を抱えて独り言をつぶやく始末。
 だというのに、

「へぇぇ、いい度胸しているじゃない! 見えてるし聞こえてるんでしょ! この童貞っ!」
「げ、幻覚じゃないのか? それじゃあ……、夢か?」

 目の前に浮かんでいる半裸の生き物を右手で掴み、左手で思い切り頬を抓ってみる。
 痛いな。ということは夢というわけでもないらしい。
 信じられないぞ、おい。

「放しなさいよ! いきなり人のことを無遠慮に握るなんて頭おかしーんじゃないの!?」
「やっぱりそうだよな、けど感触もあるし、やっぱり俺の頭がおかしくなったとしか思えない……」

 痛みもある、手の中には温もりさえ伝わってくる。
 けど、存在そのものがあまりにも現実的じゃないのだ。

「違うわよ! あんたの頭がおかしくなったんじゃなくて、あたしが現実にいるの! 信じなさいよぉ!」
「もしかして、さっきから俺に話しかけてたの?」

「ほかにどんな選択肢があるっていうのよ!?」
56 :3/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:18:11.96 ID:MYDjQQS+o

 どうも目の前のよくわからないやつは意思疎通ができるらしい。
 全くもって訳が分からない。

「つーかさ、このままここで君、でいいのか? 
まぁいいや、君ってほかの人には見えてないとかそういうやつでしょ?」

「そうね! あたしの姿は適性のある人にしか見えないわ!」
「だと思った。せめて俺が家に帰るまで待ってから声をかけるという選択肢はなかったのか、と言いたいわけだ。
まぁだから、これから俺は一切君に反応しないから、少なくとも家に帰るまでは」

 もうすでに周りの通行人の皆様方から可哀想な人を見る目というものを沢山頂いてしまっているのである。

「はぁ!? ふざけんじゃないわよぉ! 何、何、無視するきなわけ!?」

 そうだ、無視無視。

「んっぎぃ! 本当に無視するってわけ!? んむむぅ、あったま来たわ!」
 それから一人寂しく通学路を歩く俺の周りをよくわからない小さなそいつはびゅいんびゅいんと飛び回った。
まるで、犬のフンに集るハエのような勢いで。

「あんた今絶対失礼なこと考えたでしょう!? そのくらい分かるのよ!」

 なんと、この小さいのは心が読めるのか!?

「ふっふーん、心は読めないけど、人間の考えることなんて大体わかるわよ!
特にあんたみたいな根暗野郎の考えそうなことはね!」
57 :4/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:18:58.42 ID:MYDjQQS+o

 俺にまとわりついてくる気満々なこいつはどうやらとてもとてもパッション溢るる陽気な奴らしい。
 正直そんなふうに自由に生きれるのだとしたらとてもとてもうらやましく思うのだけれど。

「いいこと思いついたわ! これならあんたは絶対にあたしを無視できないはず!」

 ブンブンと俺の周りをぐるぐるしていたそいつは俺の真正面から顔に向かって飛びかかってきやがった。
 だが、これは苦もなく華麗にスルー。

 顔に向かって飛んでくる何かを避けるのには慣れているのだ、すまんな。

「むっきー! あんた断りもなく避けるんじゃないわよ!」
 いや普通避けるだろ。むしろ断ってる暇がある方が驚きだっての。

「まぁいいわよ、別に突撃しなくても目的は果たせるし! 果たせるし!」
 で、なんで俺の頭の上に腰を下ろして髪の毛を引っ張りながらデコの方に降りてくるかね。

「どうよ! これであんたはあたしのことを構わずにはいられないっ、って寸法よ!」

 あー、確かにこれなら普通だったら構わないとダメだな。
 なんせそのちっこい体で俺の視界を塞いできてるわけだし。
 けど、そんなこと俺には関係ないね。大体学校から家までの通学路なら目をつぶっていても間違えないっての。

「えっ、ちょっとー!? 何でよ、なんで視界塞がれたまんまでそんなずんずん進んでいくわけぇ!?
信じらんない! 怖くないの? 頭おかしーんじゃないの!?」

 視界の端っちょからちらっと見えてるし音をしっかり聞いてればそうそう何かとはぶつかったりしないっての。

「あぁ、ちょっと止まりなさいよ。赤よ、信号よ! 轢かれるわよ!?」
58 :5/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:19:44.76 ID:MYDjQQS+o

 別に問題ない、車の音もしないし。何よりこんなところを通る車なんかありゃしないっての。
 この辺りの別名は『近代魔術師の森』。まぁ別段、幽霊が出るだとか自殺者が多いだとかそういう曰くはない。
じゃあ何でそんな呼ばれ方をしているのかって? 決まってるじゃん、いるんだよ、曰くそのものが。

 そいつが誰かって? 俺の祖母だ。
 ばーちゃんは、現代の魔女だとか、近代最後の錬金術師だとか言われている。
 別に何をしたわけでもなく、というか嫌われ者というわけでもない。
 ただ、杜の中にポツンと佇む洋館なんてゴーストスポット紛いなものに近づきたいと思う奇特な人間が少ない
というだけの話だと思う。少なくとも俺はそう思っている。

「信っじらんない! あんたどういうつもりよ!? 前も見ず、信号もガン無視でそのまま歩き続けるとかっ!」
 いや、むしろお前がどういうつもりだ。大体勝手に人の視界を塞ぐとか常識ないってレベルじゃねーぞ。

「ンッ! まあいいわ、少し黙っててあげるわよ! お望み通りねっ、お望み通りね!」

 なぜ最後を二回言ったし。
 まぁ負け惜しみとしてもその方が助かる。


「さて、話を聞こうか。お嬢さん?」
「何よ、あんた。さっきまであたしのことを無視していたとは思えないずうずうしさね」

「ずぅずぅしいとは何事か。大体突然の出来事に取り乱してないことを褒められてもいいレベルだと思うけど?」
「どーだか! ふつーに取り乱してたじゃないの!」

「いや、幻覚を疑うくらいは極々有り触れた対応だろうよ」
「ふん、イーだ!」
59 :6/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:20:28.35 ID:MYDjQQS+o

 小人さんは歯をむき出しにして怒りを表したご様子だった。

「まぁ、取りあえず今までのことは水に流そう?」
「い・や・よ!」

「そりゃないぜ。取りあえず自己紹介しよう、な?」
「あたしのことくらい知ってなさいよね!」

「なんツー理不尽な……、俺は山ノ辺那月(やまのべ なつき)」
「そう、ふーん。山ノ辺、それとも那月?」

「どっちでも好きに呼んでくれ。でそっちは?」
「あたし? んー、どしよっかな」

「いや、まぁ名乗りたくないならいいけどその場合、『おい』とか『お前』とか『小さいの』とか呼ぶよ?」
「名乗るわよ、名乗ればいいんでしょう!? あたしはケセランパセランよ」

「ケサランパサランって、あのUMAか?」
「ユーマじゃないわよ、妖精よ!」

「ほー、そうなんだ。んじゃケサ子な」
「ん、んなー!? ケサ子って、ケサ子ぉ!?」

「なんだよ、不満か?」
「あたしはケサランパサランだって言ったじゃない!」

「だってケサランパサランってなげーじゃん。だから縮めてケサ子」
「子はどっから出てきたのよぉ!?」
60 :7/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:21:07.56 ID:MYDjQQS+o

「かわいいだろ?」
「かわいかないわよぉ……」

 そろそろ本題を聞きたいわけなんだけど、聞いてもいいのだろうか。

「あんた、このやり取りに飽きてきてるわね……、そう思うならもうちょっとあたしに優しくしなさいよ」
「やっぱケサ子ってスゲーね!」

 適当におだてておこう。

「ふっふーん。まぁいいわ許してあげる」
「それはよかった。で、ケセ子は何の用があって出てきたわけか?」

「そうよ! 森に出るのよ!」
「出るって何がだよ。幽霊はでんだろ?」

「そんなのはどうだっていいのよ! 出るって言ったらツチノコに決まってるでしょ!?」
「マジ!? 捕まえないと!」

「そうよ、捕まえてよ! そして森から追い出して!」
「はぁ、なんでそんなに必死なんだ?」

「捕食されるからに決まってるでしょぉ!」

 なるほど、ツチノコはケサランパサランを捕食するのか。
 知らなかった。

「ツチノコの餌ってケサ子たちなの? ケサランパサランあるところにツチノコありってヤツか?」
「ツチノコってやつは基本的に小さい生き物なら何でも食べてくれやがるのよ……。まぁヘビみたいなものね」
61 :8/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:21:47.96 ID:MYDjQQS+o
 なるほど。
 捕まえるというのはまぁいい。しかし問題がある。

「で、俺はどうやってツチノコを見つければいいんだ?」

 そう、現実世界においてツチノコとはUMAであるのだ。
 UMA、Unidentified Mysterious Animalの略で日本語で言えば未確認生物。
 ビックフット、雪男、ネッシー、モケーレムベンベ等々、世界中のいたるところに伝わったり伝わらなかった
りする幻の生き物たちのことであり、ケサランパサランもツチノコも同じようにコレに属する。

 ちなみに本人は妖精と言い張っているがケサランパサランは純和風なので、実際には妖怪だと俺は思う。

「そんなの見ればわかるわよ! あたしのことが見えてるのにツチノコが見えない道理があると思うの?」
「うぅん、言われてみれば、その通りのような、それとこれとは話が別な気もするような……」

「大丈夫、普通に見えるわよ! あんたはそこんじょそこらの一般人とは違うって!」
「いあ、俺は普通でいいんだけど、というか普通でいたいんだけど……」

「何でもいいわよ! ツチノコを退治してくれたらなんだって!」
「退治つったってなぁ、小さいんならまだしも、ケサ子を丸呑みするくらいにはデカいんでしょ?」

「あたしが感じたのは……」

 言い淀んでから、大きく手のひらをぐわぁと広げる。

「こんのくらいよ、こんのくらい!」
「ほぉ、全然分からん。ちょっと待っててくれっか」
62 :9/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:22:26.73 ID:MYDjQQS+o

「むぅー! このわからず屋! アホ、トンチンカン、ドスケベ、童貞! 童貞、童貞!」
「童貞連呼すんなってんのー!」

 俺が探し物をしている背中にあまりにも連呼してきたために思わずスルーに失敗した。

「なるほどね、気にしてるのね童貞なこと!」
「あんまりそういうこというと君のちっこい体を凌辱するぞー?」
「ひぃ!?」

 ケセ子はどうやら割と小心者らしい。
 大体こんなもんでいいな。

「そんじゃもう一回聞くな。大きさどのくらい? 一番近いのを指さしてくれ」

 目の前にそれぞれ二リットル、一リットル、五百ミリリットルのペットボトルを並べる。

「んー! その一番大きいのを三本くっつけたくらいよ!」

 なるほど、割とでかいな。
 男子でも免疫がない奴なら普通に躊躇するレベルの爬虫類だ。女子ならば言わずもがなだし、五百のペットボ
トルよりも一回りほど小さいケサ子からしてみたらとんでもない大きさの化け物だ。

 はて……。

「なー、ケサ子」
「何よ!」

「俺は怖くないのか? ぶっちゃけケサ子からしたら俺ってゴジラくらいあるだろ?」
「はぁーん! そんなことっ、あるわけないでしょ! 何で妖精のあたしが人間を怖がらないといけないのよ」
63 :10/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:23:08.69 ID:MYDjQQS+o

「そういうもんか。じゃあ俺がケサ子食べるって言ったら?」
「えぇ……? あんた、あたし食べるの?」

「実はずっとおいしそうだなって思ってたんだけど」
 もちろん冗談だ。

「ひぃぃ。やめなさいよ!? いやよ、食べてもおいしくなんてないんだからぁぁ!」
 めちゃくちゃ声が震えてやがってますよ、こいつ。ちょっとかわいいぞ。

「冗談、冗談」
「ふ、ふふんっ。知ってたわよ、知ってたんだからねそのくらい!」

「ほいほい、分かった分かった。それで俺はどうやってツチノコを捕まえればいいわけ?」
「そんなの自分で考えなさいよ!」

「そーかい、ならちょっと準備してくるから待っとれよ」

 必要なものはなんだろな、革の手袋にデカい網だろ、そっから懐中電灯も持ってくか。
 ほかには、あぁそうか一応あれとあれも持ってくか。杜の中で使うのはちょっと怖いけど、まぁ定番だし。

「まっこんなもんで大丈夫だろ」
「なぁに、やっと用意できたの? まったく待ちくたびれちゃったわよ!」

「いい御身分ですこと、ほら行くぞー」
「うわ、何その重装備っ! ちょっと引くんだけど……」

「俺は脆弱な人間なんだ、ケサ子たちみたいな不思議生物と一緒にしてくれるなよ。分かるか? 君らは丸呑み
されれば咀嚼の必要もないし自力で浮いてるから最悪井の中でも数時間くらいなら余裕だろうけど、俺らは脆弱
だから噛まれたりして、その牙に毒でもあった日にはもう、すぐにおっ死んじまうんだよ。分かったか?」
64 :11/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:23:40.37 ID:MYDjQQS+o

「ふーん、人間ってよわっちいのね」
「身体能力的には最弱の生物とさえいえるね」
 これは俺の持論である。

「まっ、いいわよ。早く行きましょ」
「へいへい」


 ちゃんちゃんちゃんと、やってきましたうちの杜。
 直径二千六百メートル、総面積は大体五百三十ヘクタールのうちの広大な森林だ。割とカブトムシとかも取れ
たりするんだぜ。捕まえないけどな!

「んで、どのあたりよ」
「向こうね、このまままっすぐ」

 にしても、さっきからすごいぞケサ子のヤツ。長年住んでる俺でさえ目印がなくって迷うこの森の中をグング
ン進んでいきやがる。

 俺はケサランパサランことケサ子のヤツを見直しながら何の疑いもなくそのあとをついていく。
 だって、相手は不思議生物だぜ? そのくらい、なんかホラ杜の声的な奴が聞こえてるとか思うじゃんか。

「あっ、迷ったわ」
「ケサ子お前……」

 あっちゃー、ポンコツだったか。

「何よ! 何の確認もせずにノコノコついてくるあんたが悪いんじゃないの!」
「そうだな、それに関しちゃ俺も同意見だわ」
65 :12/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:24:19.50 ID:MYDjQQS+o

「ふふーん、そうでしょ。あたしは悪くないわ」
「あぁ、おまえは悪くないよ、初見から漂っていたポンコツ臭に気が付かなかった俺が悪いんだ」

「そうよ! あんたが悪いんだから……、ってぇ! 今あたしのことポンコツ呼ばわりしたわねぇ!?」
「杜の妖精が杜に迷うとかポンコツ以外の何物でもないだろ?」

「うぐぅ、ぐぬぬぬ」
 さすがにこれには反論の余地もないらしい。

「んじゃ、ケサ子がツチノコと会った場所ってどこよ」
「えっ? あたし別にツチノコに会ってないわよ?」

「はっ? えぇ?」
「だから、あたしはツチノコに会ってない」

「じゃあどうやってツチノコがいるって分かったんだ?」
「ビビッときたのよ! ビビッと!」

「えぇー、解散!」
66 :13/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:24:57.44 ID:MYDjQQS+o

 そうだった、あの時はというか今までも結局うちの杜でツチノコなんてものは一切発見できずにいるんだった。
 ほんとに迷惑な奴だよ、ケサ子は。

 そういえば、大体の事件の顛末はこんな感じの益体のなさだった。
 たまにはいつも振り回されている分仕返しをしてやろう。

 そう思い立ち、出かける用意を済ませた俺はケサ子を家の一室へと案内することにした。
 その部屋は俺が五歳の時に封印されて、月一の掃除以外では決して戸が開かない曰く付きのお部屋。

「なーケサ子。出かける前にお前に紹介しないとけない部屋があるんだ」
「何、那月! まだあたしに隠し事してたの?」
 そうそう、隠し事。

「ごめんなー、だからちょっとついてきてくれ」
「しょうがないわね!」
 そして、俺はそのドアを開く。

「な、に、よ、あれぇ!?」
「うちのペット兼見張り役兼要石のスラ子ちゃんです」
 ウニョウニョと床をべったりと濡らしながら動くスライムちゃんがこっちにこんにちはをしていた。

「なんなのよぉぉぉ!?」
 訳の分からない知り合いならまかせるんだぜ!
 というわけで、俺の楽しい人外ライフは順風満帆、旗色輝かしである。
67 :14/13(お題:ケサランパサラン) ◆FLVUV.9phY [saga]:2016/02/21(日) 15:25:36.21 ID:MYDjQQS+o
以上です
お題くれた方ありがとうございました
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/21(日) 18:35:48.13 ID:1gA1f1zXo
乙乙
69 :『パノプティコンの女王様(お題:クイーン)0/5』 [sage]:2016/02/24(水) 19:11:36.93 ID:pgV1oSIqo
投下しまーす
70 :『パノプティコンの女王様(お題:クイーン)1/5』 [sage]:2016/02/24(水) 19:12:07.16 ID:pgV1oSIqo
 1989年、ベルリンの壁が崩壊したその年に、台湾の屏東県である事件が起きた。それは実に奇妙な事件だっ
た。その現場にいた全員が笑顔だったことは間違いない。それはまさに熱狂の渦だった。紅潮した肌、額に浮か
ぶ汗。人々の歓声が沸き立ち、拍手喝采が巻き起こった。誰かが害を被ったわけではない。その事態に気付き、
最初に駆けつけた男性は「あれほど幸福と熱気に満ちあふれた刑務所は見たことが無い」と話している。とはい
え常識的に考えて、それは許されることではなかった。
・・・・・
 アイビー・リーはそれほど貧しいわけでもないがそれほど豊かなわけでもない家庭に産まれた三女である。二
人の姉については、現在長女は実力派の女優として人気を博しており、次女は国の奨学金を受けてアメリカに留
学したあと研究機関に就職した。アイビーは高校を卒業した後大学に進まず、定職にも就かず、仕事を点々とし
てそこそこの生活を送っていた。配偶者は居ない。長女のような華々しい容姿もなければ、次女のような明晰な
頭脳も持たなかった彼女は己に誇るところを見いだせず、引っ込み思案で人見知りな性格に育ち、特に親しい友
人もいなかったという話である。
 アイビーはとくに親戚の集まるイベントが苦手だった。やはり二人の姉が脚光を浴びる一方で、自分の惨めさ
が強調されるためだった。
 彼女には将来の目標らしいものは無く無為な日々を送っていたが、一人アパートに帰って布団に入ると、自ら
が多くの人間に囲まれて賞賛される夢を見た。そこでは両親は自分を誇りに思い、親戚たちは自分を育てた両親
をしきりに褒め称えるのだ。もちろん目が覚めれば、ただただ虚しい思いをするだけだったが。
 そんな彼女が屏東県の南端にある刑務所に就職したのは1988年の春、年齢は23歳だった。
 その刑務所は民間に委託された新しい民営刑務所で、とくに資格を必要としなかったうえ、接客することもな
いし、同僚とのコミュニケーションもそう多くなく、肉体労働もないという条件の職場だった。給料は高くない
し交通は不便だったが、アイビーにとっては願ってもない環境だった。
71 :『パノプティコンの女王様(お題:クイーン)2/5』 [sage]:2016/02/24(水) 19:12:57.74 ID:pgV1oSIqo
 刑務所は何も無い平地にぽつんと建っていた。外見はローマのコロッセオを思わせる平たい円柱形で、工場の
ような無骨な灰色だった。風の強く吹く地域だったため、終始雑草が左右に揺れ、砂埃が巻上って空気を黄色く
染めた。しかし刑務所だけが絵の具をべっとりと厚塗りした油絵のように微動だにしなかった。
「この刑務所はパノプティコン構造って言うんだよね」
 60代と思われる禿げて太った所長がアイビーに説明した。
「パノプティコンっていうのはさ、つまり刑務所の人件費を抑えるのに最適なんだよね。囚人たちを入れる部屋
がバームクーヘンみたいに円形の建物の中にあって、監視はバームクーヘンの穴の中から360度全ての部屋を見
渡せるってわけなのね。一人で全ての囚人を監視できるっていうのがスゴいとこよ。ホントは人間一度に周囲を
見られないけどさ、監視は首をくるっと回せばどの部屋も瞬時に見られるわけでしょ。囚人からしてみれば、い
つ監視が自分の方を見るかわからないから、結局は常に監視されてるのと同じってわけなの」
 実際に建物の中を見てアイビーは驚いた。
 ペットショップの犬猫のショーケースのような監獄が円形に並んでいて、部屋は三階まであった。円の中心に
は灯台のようなものがあって、監視は灯台の中に入って監視業務を行うようになっていた。
 異常が発生した時ただちに非常ベルを鳴らすのが監視の仕事で、異常発生後の事態鎮圧を行うのは別の部署の
仕事である。つまりアイビーは決まった時間この灯台の中に座って囚人を監視し、何かあればそれを知らせるだ
けで良い。刑務所の監視が世間体の良い仕事でないのは確かだが、とりあえず明日食う飯を買えれば良いと考え
ているアイビーにとって仕事は楽なものほど良いのである。
・・・・・
 それから半年ほどアイビーは真面目に勤務を続けたという。監視交代のときくらいしか同僚と会う機会がない
仕事だが、そのときでさえアイビーは会釈するだけで口もあまりきかなかった。そういう彼女のイメージを持っ
ていた同僚たちは、何故あんな事件が起きてしまったのか、まったく理解できないという。
72 :『パノプティコンの女王様(お題:クイーン)3/5』 [sage]:2016/02/24(水) 19:13:32.17 ID:pgV1oSIqo
・・・・・
 勤務開始から半年が過ぎたころから、アイビーはある囚人に悩まされるようになった。
 大抵の囚人が寝転がったり、本を読んだり、手紙を書いたり、筋トレをしている中、その二階北北東に居る囚
人は終始灯台を見つめているのだ。もちろん、灯台の監視をからかうような連中は何人もいた。しかし無視を決
め込めば、すぐに飽きて無駄な体力を使わないようになった。
 その囚人もそういう類いのいたずらをしているのだと思って、アイビーは無視を決め込んだ。
 しかしいつちらりと視線を向けても、彼は飽きること無くじっとアイビーを見つめている。彼女はその視線が
いやでたまらなかった。
 来る日も来る日も、囚人はアイビーをじっくりとねっとりと見つめた。彼女はそれを誰にも報告しなかった。
報告すれば、あの囚人のもとに「監視のほうを見るな」という注意がなされるだろう。しかしそれは囚人のいた
ずらにこちらがこたえているという証拠になってしまう。それでは相手の思うつぼだ。彼女と囚人の静かな闘争
はしばらく続いた。
 ある日変化が現れた。いつものように例の囚人を無視して周囲を見回すと、二、三人がこちらを見ていたの
だ。最初、アイビーは例の囚人が他の連中にもいたずらを広めたのだと思った。いよいよ面倒なことになったと
気持ちが暗くなった。
 ところが、事情が少しちがうらしいことにしばらくして気がついた。例の囚人が、苛立ったように、アイビー
を見ている別の囚人を指差し怒りを露わにしているところを目撃した。また囚人たちがただ見つめるのではな
く、手紙の便せんを折り紙にしてアイビーに見せたり、服を脱いで鍛えた筋肉をみせたりし始めたのである。
 囚人たちは口裏を合わせて一緒にいたずらをしているのではない。彼らは競ってアイビーの視線を得るために
アピール合戦をしていたのである。
 ある者は手を振ってみたり、ある者は下品に腰を動かしてみせたり、その方法は多種多様だった。
 そしてアイビーが視線をやって眼が合うと、嬉しさを隠さずに飛び上がってみせたり拳を突き上げたりした。
73 :『パノプティコンの女王様(お題:クイーン)4/5』 [sage]:2016/02/24(水) 19:14:01.21 ID:pgV1oSIqo
 どうあっても彼らに指一本触れられることが無いアイビーはこの事態に恐怖心も覚えなかった。
 むしろどこかくすぐられるような気持ちーーそれは彼女にとって初めての感情だったーーになった。いつの間
にか、わざと視線を向けずに焦らしたり、サービスしてウインクするようになった。そうすると檻の中の男たち
は大喜びしてみせる。見知らぬ快感の芽が胸の内に生まれ出て、急速に成長しつつあった。それは根を張り、葉
を広げ、今にも花びらを開くところだった。ことここに至り、異常性も忘れ、この現状を楽しむ自分がいること
にアイビーは気付いた。
 それは天体が動いているのではなく、地面が動いているのだと気付いたの同じくらい、大きな転回だった。
・・・・・
 そしてあの日、ベルリンの壁が壊れた年、地球は動き始めたのである。
 いつものように出勤し、薄灰色の制服で灯台に入ったアイビーは、やはりいつものように椅子に座って監視を
始めた。アイビーが来る時間をしっかり把握している囚人たちはすでに檻にすりよって灯台に向かって各々のア
ピールを始めていた。
 しかしいつも以上にアイビーは無愛想で、反応を見せない。囚人たちのアピールは次第しだいに勢いを失って
いった。
 ふとアイビーは立ち上がり、椅子の上に登ってぐるりと周囲を見渡した。
 なんだなんだ、と囚人たちは怪訝そうに灯台の中のアイビーを見た。
 アイビーは後ろにまとめた髪を解き、前髪を思い切りかきあげる。そしてゆっくりと上着を脱ぎ始めた。観衆
は息を飲む。アイビーは腰を左右にゆったりと振りながら、色気の無い灰色のズボンをおろしてゆく。柔らかそ
うな白い太ももが露出する。
74 :『パノプティコンの女王様(お題:クイーン)5/5』 [sage]:2016/02/24(水) 19:14:36.40 ID:pgV1oSIqo
 囚人たちの歓声がわき上がる。スリッパで檻を叩く。指笛を吹く。アイビーの指一本の動きにどよめき、静ま
り返り、再び興奮の叫びをあげる。
 アイビーは黒い下着だけの姿になって自らを取り巻く観衆に身体を見せつける。彼女の心臓はかつてないほど
激しく高鳴っている。指先が緊張と興奮で震えていた。服を一枚脱ぐ度に歓声が沸き上がる。その度に背筋に熱
い液体をそそがれる様な感覚が襲った。脳の奥からじゅわじゅわと何かが滲み出している。
 決して女性的に優れた肉体なわけではない。胸もないし背も高くない。しかしそんなことは関係がなかった。
露出されたのかむき出しのアイビーの魂であり、囚人たちにもそれがわかっている。
 熱いスポットライトが全身を照らしている。焼けるような快感、汗が粒となり肌を濡らす。
 パノプティコンの刑務所内は熱気に包まれていた。今やアイビーはブラジャーのホックを外し、胸を手で覆っ
ている。しゅるりとブラを下ろしそれを放り投げる。挑発するように周囲を見渡す。右腕で両胸を抑え、左手を
パンツのひもにかける。爆発したような男たちの声で建物が振動した。ガリレオ・ガリレイも大声で地動説を叫
んだ。
 騒ぎに気付いた警備員がやってきたのはそのときだった。
・・・・・
 もちろんアイビー・リーは解雇処分となった。地元誌によれば刑務所はパノプティコン構造にも問題があると
して、灯台の窓はマジックミラーで覆い、囚人たちから監視の姿が見えないように改善する予定だという。
 所長は真面目な所員の起こした事件に関して「アイビーは真面目で静かな女性でしたね。何故こんなことに
なったのか、さっぱりわからない」とコメントした。アイビーの心の中で何が起こったのか知っているものはお
そらく誰もいないであろう。彼女には恋人もなければ友人も無く、親戚とだって付き合いがなかったのだから。
 その後彼女がどこへ行ったのかは明らかになっていない。ゴシップ誌にはストリップ・覗き部屋界隈で有名な
女王になっているという記事が掲載されたが、根拠の無い噂話に過ぎない。人々は関心を失い、事件のことはす
ぐに忘れられた。
 確かなことは、壁はこわされたということだけである。


おわり
75 :『パノプティコンの女王様(お題:クイーン)6/5』 [sage]:2016/02/24(水) 19:15:40.29 ID:pgV1oSIqo
以上です
気軽に読んでいただけるとうれしいです
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/24(水) 20:15:01.16 ID:ljwk/nhOO
>>70
読みました。綺麗にまとまった作品だと思います。
1点だけ指摘するのなら、論評記事のような文体でありながら唯一刑務所長がアイビーに
パノプティコンを説明するセリフだけが普通に入っているのが浮いているのかな、と。
そこまで違和感があるというわけではないですが。
いっそ架空の(過去の)ニュースを伝える記事という体で、そこも最後の所長のコメントみたいに、
「確かこういう説明をしたはずです」みたいなインタビューの形式にしても面白いかも、と思いました。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/25(木) 04:56:33.00 ID:nC5Fpbboo
>>76
読んでくれてありがとう

最後のレスで「露出されたのかむき出しの…」ってあるけどほんとは「露出されたのは」って書きたかった
推敲しっかりせんといかんですな
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 15:01:46.93 ID:mQteOTQiO
お題くだち
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 15:13:19.13 ID:8eurZ52oO
霹靂
80 :曇天の霹靂(お題:霹靂) 0/4 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/09(水) 17:57:47.02 ID:BtpY/IcOo
完結したので投下します
81 :曇天の霹靂(お題:霹靂) 1/4 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/09(水) 17:59:29.13 ID:BtpY/IcOo

「私が生まれるずっと前、あの空はいつも晴れていたんだって」


彼女は口元を覆う防塵マスクをずらしながら、しかし視線は双眼鏡から外さずにボクに告げる。

ボクはというと、彼女の真似をするようにどんよりと蠢く鈍色の空を飽きつつもただ眺めていた。


「あの灰色の霞が一面真っ青なの、想像できる?」

「見渡す限りが青一色だなんて、少し怖いね」


彼女は僕の面白味のない返答にふくれながらも、双眼鏡を持ち上げる腕を休めることはない。

もし赤色なら、彼女のように包丁と仲が良くなければよく目にすることができる。 緑色ならば道に積もった灰をどかせばすぐに会えるだろう。

青は人工物でしか見たことがない。 海沿いの土地に住んでいればすぐに見つけられるだろうが、生憎とこの辺りは鶯色の山に囲まれている。


「テレビもラジオにも砂嵐は飛んでいなくて、雨の日じゃなくても傘は差さなくてよかったの」


そう言って彼女はようやく双眼鏡をおろし、肩や髪に積もった灰を払い落してボクにしたり顔混じりの微笑みを向ける。

気恥ずかしさから逃げるように、ボクは目線を慌ててレンズの向こうに逸らした。


肌寒さを覚えながらも双眼鏡を覗き込み、あるかどうかも分からないサザンカ前線を探す。

今日こそ"青空"を見れるかもしれない。 制止するボクを振り切って飛び出した彼女は、そう言い残して台風のように去っていった。


遅れて荷物を彼女に届けるのはいつもボクの役割だ。
82 :曇天の霹靂(お題:霹靂) 2/4 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/09(水) 18:00:19.31 ID:BtpY/IcOo

「あ……今」


ふいに彼女の声が投げかけられた方向へと目を向ける。

一見いつもと変わらない灰空に目を凝らすと、濡れた指でこすられたように色が滲み、波打つベールに似た濃淡が現れていた。

こちら側はより深い燻し銀、あちら側には水色を一滴落とした藍鼠。


「思ったより薄いね」

「でも、蒼いわ」


緩慢に、けれど着実に青を重ねていく蒼空は彼女の注意を一点に集めて離さない。

それがなんだか気に入らなくて"これ以上青くならないで"と祈ったけれど、空はそんなボクに構わずどんどん表情を変えていく。

気付けばボク自身もあのどこまでも蒼い青に目を奪われていた。


「不思議ね……どうしてあの蒼は、どこを切り取ってもみんな決められたように同じ青なのかしら」

「だけど、なんだか作り物の気がしない。 きっと空は大昔からあの醒めるような蒼だったのね」


くいと引っ張られるような感覚。 そこで彼女の指がボクの上着の袖を掴んでいることに気が付く。

あの影一つない蒼空の向こう側には限りがあるのだろうか? 灰に満ちたこの世界こそ作り物ではないだろうか?


ボク達は引き延ばされた時間の中で、ただただ灰空の裏側を眺め続けていた。
83 :曇天の霹靂(お題:霹靂) 3/4 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/09(水) 18:01:00.08 ID:BtpY/IcOo

「あれは何?」


彼女がそう呟いた刹那、灰の切れ間から覗く蒼空に光の裂け目が走った。

遥か彼方を覆う偽物の雲は、その裏側で瞬く稲光に合わせて古ぼけた電灯のようにせわしなく点滅している。


「あれは……稲妻だ」

「イナヅマ?」

「空がいつも晴れていた頃の自然現象だよ」


帯電した灰が裂けることで放たれた電子が、蒼空を跨いで橋を架けるようにまた別の灰へ。

空がひび割れないかしら、という彼女の問いに相槌を打つやりとりをいくつか繰り返したあと、予期せず訪れたそれにボク達は息を飲んだ。


――――――――轟ッ!!


この曇天の空を埋め尽くすかのように弾かれる閃光。

網膜を焦がすほどの輝きに囚われた意識は、遅れてやってきた怒号に大きく揺すぶられる。
84 :曇天の霹靂(お題:霹靂) 4/4 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/09(水) 18:02:45.87 ID:BtpY/IcOo

濁流のように叫びを上げた大気は、宙に漂う灰燼に乗って伝播していく。

そうしてボクに届いた揺らぎは全身から侵入して内側で何度も反響したあと、じりじりと肌を掻き鳴らしながら去っていった。


「あの煤まみれの空は、こんなものまで私達から隠してきたのね」


雷は、さらに古い言葉で神鳴りと書くらしい。

雨の涙を流す神、その口から漏れた嗚咽がボク達の住む地上に響いているさまを指しているそうだ。

ならばこの蒼空に轟く神鳴りは、きっと久しぶりにあの澄み渡る空色を見て感嘆の声をあげているのかもしれない。



舞い上がる灰が地上へと差し込む光芒に照らされて燦然と煌めき、一筋の梯子となって埃を被った舞台に踊り出る。

それからしばらくは灰色の世界に広がる蒼天に、いつまでも嬉しげな霹靂が響き渡っていた―――――
85 :曇天の霹靂(お題:霹靂) 5/4 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/09(水) 18:03:32.09 ID:BtpY/IcOo
以上です
お題くれた方ありがとうございました
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/09(水) 20:31:11.43 ID:65cwWLqQo
>>81
読んでると絵が頭のなかにスッと浮かんでくるような作品だ
とても好きだ
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/10(木) 22:02:44.30 ID:+CGKzIp7o
お題くだち
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/10(木) 22:10:06.84 ID:43jagV54O
劫火
89 :知恵の焔(お題:劫火) 0/6 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/11(金) 21:11:14.59 ID:jIIawTj0o
完結したので投下します
90 :知恵の焔(お題:劫火) 1/6 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/11(金) 21:12:35.52 ID:jIIawTj0o

「思い出してほしい。 私達は燃やすことができる」


いまだ震えの鎮まらない手に乗せた紙屑を掲げ、迸る紅蓮で包み込む。

原理は知らない。 科学の範疇にあるのかもしれないし、私の考えるように人智を逸脱した現象なのかもしれない。

とにかく私には燃やせるということに気づき。

私以外にも燃やすことができるということを知るために実験した。



「やめ、うア゙」


得られたものは塩の塊へ姿をかえた野良猫、そして手足にへばりつくような恐怖。 埋められるべき孤独は敵愾心で満たされていく。

こいつは本当に今まで燃やせるということに気づいていなかったのか? お前などいつでも殺せるという警告ではないのか?

燻る疑惑は止められない。 どちらにせよこいつは私と同じなのだ、迷っている暇はない。

燃やされる前に、燃やしてしまえ。


足音が聞こえる。

彼女を燃やしているところを見られたかもしれない。
91 :知恵の焔(お題:劫火) 2/6 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/11(金) 21:13:28.51 ID:jIIawTj0o

脈がうるさく鳴り響く頭の片隅で、私は一つの結論に辿り着いた。

人は燃やせるのだ。 誰も自覚していないだけで、おそらく誰でも。


こみ上げる胃液を抑えつけ、むさぼるように肺へ空気を取り込む。 それから酸素の足りていない脳で逃げるように思考を巡らせた。

なぜ今まで誰も気づかなかったのだろう? 私のような子供が思いつくほどには単純な発想だというのに。

熱を帯びた脳裏で想像する。 誰もが燃やせるという社会を。


人ひとりを跡形もなく灰に還すことのできるこの焔は、絶対に裁くことができない。

なぜなら拘束したところで、人も建物も燃やし尽くせばいいだけのことなのだから。

人がこの火から自衛するためには、そいつに燃される前にすみやかに彼を殺せばいい。

善人にも悪人も等しく危険に晒される社会―――そんなものが果たして存続可能だろうか?


自分を安全な人間だと主張するつもりなら、私には燃やすことができないと騙ればいい。

それを証明するつもりなら、一度も誰も燃やさなければいいだけのことだ。

そうしていくうちに、いつしか人は燃やせるということを忘れてしまったのだろう。


だが、燃やせるという事実が消え去ったわけではない。
92 :知恵の焔(お題:劫火) 3/6 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/11(金) 21:14:24.33 ID:jIIawTj0o

「大丈夫かい?」


全身がびくりと引きつる。 呼吸のために俯いていた上体を起こすと、見知らぬ男が珍しいものでも見たかのような表情を浮かべていた。

そこで私は思い出す。 あの時の足音はこの男のものではないか?

そのぎこちない作り笑いは、きっと私の警戒を解くためのものだろう。


―――私を燃やすために。


私は駆け出した。 追ってきたので燃やした。

視界の外から大きなクラクションが聞こえる。 車ごと燃やした。

それを見た若い夫婦が叫びを上げた。 燃やした聞きつけた人がやってきた燃やした燃やした燃やした燃えろ燃えてしまえ。


燃やすことのできる側の人間である私に、この社会のどこにも居場所なんてない。
93 :知恵の焔(お題:劫火) 4/6 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/11(金) 21:15:39.09 ID:jIIawTj0o

こんなつもりじゃなかったのに。 ただ私を理解して欲しい、それのなにがいけなかったと言うのか。

いまや世界のすべてが私の敵であり、すべての他人は私を燃やせるかもしれない脅威に過ぎない。


ならば燃やしてしまえばいい。 私を認めない世界なんて灰になってしまえ。

しかし世界中を火の海にするには人手が足りない。 どうすればと考えていると、ふと疑問が浮かび上がった。

どうして人類はいままで絶滅しなかったのだろう? 全員が燃やせることに気づけば、この程度の被害では済まないはず。


隔たりがあったのだ。 それは時間的であり、空間的でもある。

そして今の私には、すでにそれを解決する手段を知っていた。

私は携帯端末を操作し、ストリーミング放送サービスにアクセスする。

ディスプレイの向こう側へ呪詛を吐く私を止められる者はもういない。


「思い出してほしい。 私達は燃やすことができる」
94 :知恵の焔(お題:劫火) 5/6 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/11(金) 21:16:43.66 ID:jIIawTj0o

紙屑の燃えかすをつまみ上げ、吊り上がる口角も隠さず私は淀んだ感情を投げかける。


「これと同じように、あの建物も燃やした。 大勢焼き殺した」


私だけこんな思いをするなんてあんまりだ。 おまえらこそ自分達の撒いた火種で自滅すればいい。


「なにも特別なことじゃない。 これを見ているあなたにもできること」


この汚らしい人間どもを一匹残らず焼き尽くせるのならば。


「たった一度"燃えろ"と念じればいい。 ここで私を殺さなければもっと人が死ぬ」


もはや私さえも必要ない。


「さあ、私を燃やしてみろ」



―――私の身体はたちまち燃え盛る焔に包まれた。
95 :知恵の焔(お題:劫火) 6/6 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/11(金) 21:18:03.68 ID:jIIawTj0o

これでいい。 言葉のウイルスは情報機器を介し、不特定多数の脳へばら撒かれた。

私を燃やしたことにより、彼らは燃やせるということを自覚したのだ。

劫火の連鎖は止められない。 この世は燃え広がる死によってたちまち灰と化すだろう。


そういえば、どうして私はこれほど世界を憎んでいるんだっけ。

理由は忘れてしまったが、もはやそんなことはどうでもいい。


きっとこれは復讐だ。




みんな燃えてしまえ。
96 :知恵の焔(お題:劫火) 7/6 ◆NSr7d3y3ORk4 [saga]:2016/03/11(金) 21:18:52.91 ID:jIIawTj0o
以上です
お題くれた方ありがとうございました
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/12(土) 16:37:29.50 ID:/1ORHS5ko
乙です
激しいのに寂しいなぁ……

お題下さい
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/12(土) 16:46:54.72 ID:/BK9vAcTO
鯉のぼり
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/12(土) 19:31:45.10 ID:/1ORHS5ko
把握
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 02:20:47.94 ID:XisEfrBd0
おっ、新しいの建ってたんだ。
せっかくなんでお題ちょうだい。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 02:24:42.23 ID:dO2ccUtwO
諸刃
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/20(日) 02:48:43.44 ID:XisEfrBd0
>>95
遅いかもしれないけれど感想を。


色々と考えさせる小説で面白かった。
ある力を持った子供がいて、その力を止めるために力を使った人間がいる。

一つの存在が他の存在より大きな力を持つと、他の存在を容易に信用できなくなり、他の存在もその力を持った唯一の存在を信用できなくなる。
うまく言えないけど、戦争とか、もっと身近な争いでも、こうやって相手を信用できないことによる恐怖で、被害が大きくなっていくんじゃないかなと感じさせられた。
例えば国同士でも、抑止力のために力を持ったり、自らが襲われるかもしれないという恐怖、想像に取り憑かれて、力で相手を抑えたり殺したりしてしまう。
たいていは自らの想像が自らを殺すみたいな感じなんだけど、恐怖に勝てる存在なんてそうそうないし、ましてや子供だと恐怖には勝てない。
この主人公も、もっと言葉でコミュニケーションを取って信用を築いていけたらよかったけれど、子供が力を持つというのはやはり危険なことなんだと思う。
個人的に戦争を思い浮かべたけれど、そういう観点で見ると、『燃やせる』も核爆弾なんかに思えるし、
まあたぶん戦争だけじゃなく、いろいろな方向に想像させられるような、普遍的に訴えかけられるいいテーマで、読んでいる人の想像力に訴えるような小説だと思った。
読みやすかったし、面白い。燃やせるって設定もいいと思う。


103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/20(日) 02:49:30.31 ID:XisEfrBd0
>>101
把握。ありがとう
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 13:39:22.51 ID:aHvWlCE1o
>>102
感想ありがとう

ついでにお題くだち
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 14:16:06.58 ID:dO2ccUtwO
ラーメン
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