ほむら「巴マミがいない世界」

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178 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:40:48.26 ID:UVJ2f3OsO
その日の放課後、さやかは仁美に呼び出された。
大事な話があるということだったが……

さやか「ごめん、待たせちゃったかな」

仁美「いいえ、私も今来たところですわ」

さやか「ならよかった。で、話って何?」

仁美「……恋の相談ですわ」

さやか「恋!? 仁美が? なんか意外……」

さやかは、仁美の様子がいつもと違うことに気がついた。
普段はどちらかと言えばおっとりしている彼女が、とても真剣な表情をしている。

仁美「私、前からさやかさんやまどかさんに秘密にしてきたことがあるんです」

さやか「うん」

仁美は、意を決したかのように口を開いた。

仁美「ずっと前から私、上条恭介君のこと、お慕いしてましたの」

さやか「え……」
179 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:43:12.64 ID:UVJ2f3OsO
あまりにも予想外の言葉だった。
仁美が、恭介のことを……?

仁美「さやかさんは、上条君とは幼馴染でしたわね」

さやか「あーまぁ、腐れ縁って言うか、なんて言うか……」

仁美「本当にそれだけ?」

さやか「……」

さやかは思いの外落ち着いていた。
なぜ、仁美がさやかにこのことを打ち明けたのかを考える。

さやか「……なんで、仁美はこのことをあたしに話してくれたの?」

仁美「あなたは私の大切なお友達ですわ。だから、抜け駆けも横取りするようなこともしたくないんですの」

さやか「あたしが恭介に対してどう思ってるかなんて、仁美に話したことあったっけ?」

仁美「ありませんわ。だから、何もないのならそれでいいんです」

さやか「……」

仁美「私、明日の放課後に上条君に告白します。丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください。上条君に気持ちを伝えるべきかどうか」
180 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:44:38.65 ID:UVJ2f3OsO
さやか「……仁美はそれでいいの?」

仁美「上条君のことを見つめていた時間は、私よりさやかさんの方が上ですから。あなたには私の先を越す権利があるべきです」

そういうことか。

こんな状況にも関わらず、さやかは笑みを押さえ切れなかった。

なんていい子なんだろう。

仁美の性格からして、ほんの少し恭介が気になったくらいでは、ここまでの行動は起こさない。
好きになってからあたしの思いに気づいたのか、あるいはあたしの思いを知りながら好きになってしまったのか……

どちらにしても、仁美は相当悩んだのだろう。

そして、自分の気持ちに嘘は吐けず、親友のことも裏切れず、最も自分が納得できる方法を探したのだ。

もっと楽な道もあったはずだ。

実際にあたしの思いを聞いたことはないのだから、全てを知らなかったものとして恭介に告白することもできた。

でも、仁美はそれをよしとしなかった。

さやか(……あたしって、本当に親友に恵まれてるんだなぁ)
181 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:49:36.95 ID:UVJ2f3OsO
仁美「話は以上です。では、これで……」

さやか「あ、待って!」

呼び止められ、仁美に動揺が走った。

さやか「あたしにも、何か言わせてよ」

仁美「……ごめんなさい。急にこんな話をしてしまって。私、自分勝手ですわよね」

さやか「え? そんなこと……」

仁美「いいえ、自分でもわかってますの。さやかさんがこれまでどれだけ上条くんへの思いを大切にしてきたのか。それを考えると、本当に申し訳ないですわ」

さやか「……なんか恥ずかしいんだけど。あたしってそんなにわかりやすいの?」

仁美「それなのに、急に告白しろなんて言われても、困りますわよね」

仁美は、完全に落ち込んでいた。
目も合わせてくれない。

さやか「待って、違うよ。そんなこと思ってないって」

仁美「え?」

さやか「呼び止めたのは、お礼を言いたかったからだよ。わざわざ話してくれて、ありがとう」
182 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:51:12.56 ID:UVJ2f3OsO
仁美は、ポカンとした表情でさやかを眺めた。

仁美「……許してくださるんですの?」

さやか「許すも何も……仁美こそいいわけ? 本当に好きなんでしょ? 恭介のこと」

仁美「……はい。ですが、さやかさんに黙って告白なんてできませんわ」

さやか「あたしも恋愛なんてよくわからないけどさ、そういうもんなんじゃないの? 恋愛って。早い者勝ち! みたいな」

仁美「……恋愛ドラマの見過ぎでは?」

さやか「あはは、そうかも」

仁美がくすりと笑った。

よかった。
いつもの調子に戻ってくれたようだ。

恋愛と友情。
人によってはきちんと優先順位をつけているのだろうが、どちらかを選ぶことでどちらかを捨てるなんて、あたしにはできない。

さやか「仁美、ありがとう。ちゃんと考えて、後悔しない道を選ぶって約束するよ」

仁美「えぇ。それでこそさやかさんですわ」

……さて、どうしたものか。
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/09(水) 23:21:14.85 ID:GGtGCh0s0
些細なこととはいえ契約の時期的にハコの魔女から仁美を救ったのはさやかではないんだな
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/10(木) 20:47:00.91 ID:Mj5+eieoO
杏子との事に一区切りついてるぶん少し余裕があるのだろうか。乙
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/11(金) 00:20:43.23 ID:j08EDioYo
ソウルジェムの真実について知らないままだから余裕があるな
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/11(金) 05:13:15.51 ID:7meLLWRNO
おれ個人としては腐りもせずにゾンビの称号が手にはいるなんて、けっこう嬉しいけどな
まぁ、だからどうしたって話だが
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/11(金) 10:19:21.83 ID:AaD6Zj3AO
知らずにゾンビになって相当ショックなのはよくわかったけど
こんな体じゃキスしてなんて言えないには放送当時首を傾げた
だって親友のまどかに寄り添われながら言うんだもの
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/13(日) 13:55:19.59 ID:XjyrMzzOo
ゾンビも結局そのキャラがどう捉えるかでしかないしな
さやかちゃんだってお年頃の女の子だし
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/13(日) 20:55:43.98 ID:O3Kggaq6o
まあゾンビという表現するのは違和感あるね
ゾンビなら負傷したら基本的に回復しないだろっていう
マジカル☆義体っていう表現が個人的にはしっくり来たり
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/13(日) 21:32:14.68 ID:hZDyrdQOo
まあ大事なのは、知らん間に自分が普通の人間じゃなくなってたという点であって
女子中学生の感性ではとても喜べなかったから、ゾンビって表現したんだろうね
嫌悪感が一番最初に来た、それはしょうがない

しかし、ポータブルでそれを見て気持ち悪いと表現した上条は誤解からだろうと絶許
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/13(日) 21:44:16.68 ID:yUte8AV2o
誤解というかポ外観がそのものズバリゾンビなんだから仕方ないだろ
さやかが中学生なように上条だって中学生なんだから咄嗟に理想的な対応とれという方が無茶
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 01:42:25.61 ID:LJutDqRko
普通の人間じゃなくなるのは、魔法少女になった時点で覚悟しておくべきことなんだけどね。
あれだけの軌跡を起こしておいて、まだ人型をしてるだけましじゃん……と思ってしまうのは、すれた大人だからなのかな?
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/14(月) 06:56:36.75 ID:pFSXslKq0
自分なら正直ゾンビになる(基本的には人間)代償として願いが叶うならゾンビになるよ。魔女化のことを知ったらどうなるかわからないけども。
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 08:22:12.23 ID:ssaEq/Pso
上条さんはもう、虚淵とかいうまど神様の上位存在が絶対さやかを不幸にするよう設計した舞台装置だから
彼が何をどう頑張っても虚淵の手で悪い方へ向けられるだろうから、心情や性格を考察してもしゃーないねん

……と思ってたんだけど、映画では仁美にも昇龍拳させたからな
やっぱ男としてどっか残念なんだろうな
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/14(月) 08:42:52.26 ID:+GDwVT2q0
良くも悪くもバイオリン馬鹿だからな
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 10:13:34.59 ID:B0HCbsmO0
せめてウィクロスの香月レベルは欲しかったな
展開のためとはいえ、理解力もあってすぐにアドバイスとか考えてくれた善人
上条君とはポジションが似ているのに段違い


思ったけど、恭介がさやかの義弟なら話は変わったのかな?
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 20:06:54.95 ID:qn9RlbVZP
男子中学生なんてあんなもんだろ
漫画とアニメとゲームと部活とエロで頭がいっぱい
むしろ相当できた子だと思うよ、上条くんは
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/15(火) 07:33:32.13 ID:2FKo/Ty0o
確かに中学生くらいなら、ちょっとかわいい子に告られたら即OKだわな。
さやかが入院中に、乳の一つも揉ませてやれば話は違ったんだろうが……。
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/15(火) 22:36:41.23 ID:Y7kPUbsko
大事なのは男子中学生として妥当かどうかなのかな
さやかが一度限りの奇跡を使おうと思うまで惚れる相手かどうかじゃない?

このSSでは、ほむらの言う通りマミさんが既に死んでいて状況が異なってるけど
アニメ本編でのさやかはマミさんが首を食い千切られたのを目の前で見ている
強いマミさんでも死んでしまうような戦いに身を投じなければいけないと知っている

逆に言えば見滝原の平和を守るって新たな義務感を背負ったし
目の前のまどかを助けたかったってのも大きかっただろうが
結局願いは「恭介の腕を治して」

どの辺りにそこまでするほど惚れていたのか、が見えにくいから色々言われるんだと思う
まあイケメンで金持ちってわかりやすいスペックは高いから最悪それでもいいんだけれど
ただの面食いや金目当てが命を投げ出すかなあ
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/15(火) 23:33:15.96 ID:qtULCwKaO
ずっと子供の頃から仲良しだったんだろ
昨日今日惚れた相手じゃないんだし
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/16(水) 06:43:25.50 ID:COzbi4w2o
???
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/16(水) 18:19:25.72 ID:fWLxgZtyo
>>199
いろんな意味でお前は何も分かってない
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/16(水) 21:12:49.80 ID:Zp4d/KL6O
他人のSSのスレで 感想以外の長文を書く人の感覚がわかんない
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/18(金) 15:51:31.77 ID:NxMIM9ceO
上条の性格とかが全く見えないというのは大きいかと
それが感情移入を阻んでるのもあるんじゃないか?
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/18(金) 17:15:13.34 ID:0UDdf4p90
とりあえずさやかや仁美が期待するような関係をバイオリン馬鹿の上条に求める限り幸せにはなれんだろう
そこらへんをうまく割り切って彼を支えるなり、あきらめてまた別のいい人探すなりして青春の一ページにしちゃえればいいんだが、そううまくできないのがこの年の女の子なんだろう。めんどくさい事に。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/18(金) 17:56:57.14 ID:NxMIM9ceO
そうは言うけど女の子って割とドライな一面あるぞ?
今はそうでも時間が経てば、好きだった相手が自分に好意を寄せてきても、あの時と同じ感情を抱けはしないケースがあるみたいだし
人にもよるんだろうけどさ
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/18(金) 18:09:19.75 ID:41S+TjZzo
女の子は年齢を重ねる度に
男性に求めるハードルが跳ね上がっていくから仕方ない
208 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 19:52:34.66 ID:4uy4RBmeO
***

さやかは、パトロールをしながら仁美と話したことについて考えていた。

仁美には『ちゃんと考えて後悔しない道を選ぶ』なんて言ったが、答えは出ているようなものだった。

さやか(あたしは、恭介のことが好きだ)

自覚はある。
となれば、もはや選択肢はない。

さやか(……明日、恭介に告白しよう)

受け入れてもらえるかどうかはわからない。
正直、恭介があたしのことを異性として意識しているかどうかすら疑わしい。

そもそもあのバイオリン馬鹿は、そういったことに興味はあるのだろうか。
彼女ができても、バイオリンに没頭し過ぎて愛想を尽かされる姿が容易に想像できる。

だから……というわけではないが、今まで、恭介とその類いの話をしたことはない。
好きな人がいたことがあるかどうかすらわからない。

あるいは、さやかとではなく男子生徒同士では、そういった話をしているのだろうか。

その場合は、一応はさやかを異性として扱ってくれているという意味では、喜ぶべきことなのかもしれないが……

さやか(……ないだろうなぁ)

こう言ってはなんだが、恭介はまだ良くも悪くも子どもだ。
恋愛面についてはほとんど経験がないだろう。
中学生くらいだと、やはりこういったことに関しては、女子の方が進んでいるのだと思う。
209 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 19:54:32.53 ID:4uy4RBmeO
もちろん、恭介のバイオリンに打ち込む姿を好きになったのだから、そこに対して不満があるわけではない。

問題は、恭介が恋愛に免疫がないであろうことだ。

あたしが告白しても、そもそも恋愛そのものに対して拒否反応を示すかもしれない。
あるいは、仁美のような可愛い娘に好きだと言われたら、舞い上がってよく考えずに付き合ってしまうかもしれない……

さやか「……はぁ」

思考が迷子になっている自覚はある。
明日告白するだなんて、急な展開に頭がついていかないのだ。

本来なら、すると決めたのだから、どう告白するかを考えるべきだ。

だが、どうしても現実感がない。

自分が恭介と付き合えるのか、あるいはフラれてしまうのか。
それが明日決まるということが、とても信じられなかった。

さやか(……仁美はすごいな)

自分にはあんな勇気はなかった。
仁美には『気持ちを大切にしている』などと言われたが、実際は、女友達という心地いい関係に甘んじていただけだ。
気持ちを打ち明けることもできず、異性として見られていないなどと言い訳を重ね、その結果がこれだ。
今日のようなことがなければ、告白なんて考えもしなかったかもしれない。

まどかも仁美も、自分にはない強さを持っている。

親友としては誇らしい限りだが、ふとした拍子に、どうしても引け目を感じてしまうことはある。

さやか(だけど……!)

ここだけは譲れない。

ずっと好きだったのだ。
口にすることはできなかったが、その思いは、仁美のそれに負けているとは思わない。

しかし、だからこそ怖い。
フラれたときのことは、正直考えたくない。

……結局あたしは、まだ覚悟ができていなかったのだ。
210 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:04:34.76 ID:WRd9JxklO
さやか(……魔力の反応!)

ソウルジェムが反応を見せた。
上の空だった状態から、急激に現実に引き戻される。

恭介のことはひとまずおいておこう。
今は魔女を倒すことが先決だ。
さやかは、反応があった地点へ向かった。

結界に入り、使い魔を倒しつつ奥へ進んでいく。

さやか(大丈夫、いける……)

痛覚遮断を使うまでもない。
油断は禁物だが、使い魔の強さからしてそれほど強い魔女ではないはずだ。

魔女のもとにたどり着く。
しかし、魔女が捕らえている少女を見て、さやかに戦慄が走った。

さやか(まどか……!?)

心が揺れる。
だが、さやかは逸る気持ちを押さえつけ、自分に言い聞かせた。

さやか(……焦っちゃダメだ。冷静に、確実に魔女を倒すんだ)

今までと同じだ。
捕らえられている人間が誰だろうと、必ず救い出す。
それだけだ。

さやか(……よし)

自分が落ち着いたことを確認する。
辺りを見渡すと、先程より視界が広がっているのを感じた。

やはり、動揺していたのだろう。
しかし、もう大丈夫だ。

さやか「待ってて、まどか。今助ける」

さやかは、魔女に襲いかかった。
211 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:08:05.68 ID:SM89dPfeO
落ち着きさえすれば、こっちのものだ。

さやかの予想通り、魔女の強さは大したことはなかった。
契約したての頃ならともかく、今のさやかなら問題なく倒せるレベルだ。

さやか「これで……終わりよ!」

さやかの斬撃が直撃し、魔女はふたつに切り裂かれた。
ほぼ間違いなく、これでとどめを刺せたはずだ。。

しかし、まだ警戒は解かない。
確実に倒したとわかるまでは、魔女を相手に気を緩めてはならない。

結界の崩壊を確認し、ようやくさやかはわずかに息を吐いた。
やはり、普段に比べれば張り詰めていた部分はあったのだろう。
しかし、それでこれだけ冷静に動けたのだから、上出来だ。

さやかは、これまでの戦闘経験により、未熟ながらも安定した強さを身に付けつつあった。
212 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:12:54.75 ID:nRwpWRkhO
さやか「まどかっ!」

さやかは、倒れているまどかに駆け寄った。

まどか「……さやか、ちゃん?」

反応があったことに、思わず胸を撫で下ろす。
外傷もないし、まず大丈夫だろう。

さやか「無理しないで。あんた、魔女に襲われたのよ。もう倒したから安心して」

まどか「……」

どうやら少し混乱しているようだ。
無理もない。

さやかも、自分が魔法少女じゃなければ魔女を見ただけで逃げ出すだろう。
魔法少女として戦った経験がある今だからこそ、魔女の恐ろしさがわかる。

以前、魔女の口づけを付けられた人を追いかけようとしたことがあったが、それがどれだけ危険なことだったか。
改めて思い出すと、背筋が冷たくなる。

さやかとは違い、まどかは今日初めて魔女の恐ろしさを目の当たりにしたのだ。
ショックがあって当然だろう。

しばらくすると、まどかはどうやら現状を把握したようだった。

さやか「まどか、大丈夫?」

まどか「うん、助けてくれたんだね。ありがとう」

さやか「どういたしまして」

助けられてよかった。
もし間に合っていなかったらと思うと、ゾッとする。
213 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:15:30.83 ID:nRwpWRkhO
さやかが胸を撫で下ろしていると、ふとまどかが何かを思い出したかのように口を開いた。

まどか「あ、そうだ。仁美ちゃんもここにいたんだ。魔女の口づけで、おかしくされちゃってて」

さやか「え……仁美が?」

仁美の名前を聞き、さやかは思わず今日のことを思い出した。

まどか「そうなの。他にもたくさんの人が操られて、一緒に死のうとしてて……」

さやか「……」

まどかの声が遠くに聞こえるようだった。
妙に現実感が薄れていく。

さやか(そうか、仁美が……)

思考が、途切れる。

魔が差した、としか言えないのかもしれない。

さやか「……」

しかし、そのとき確かにさやかの心に、ひとつの考えが浮かんでしまった。
214 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:16:34.16 ID:nRwpWRkhO



───だったら、助けなければよかった?


215 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:19:00.60 ID:v30v4Rp4O
さやか「ッ!?」

ゾクリ、と体が震えた。
心臓の音が、やけに大きく聞こえる。

さやか(あたし、今……)

足元が崩れたかのような錯覚を覚えた。
視界が揺れる。

さやか(……何を、考えた?)

理性は否定しようとした。
そんなはずがない、そんなことを考えるはずがない、と。

しかし、他の誰でもない自分の心情だ。
誤魔化せるはずがない。

さやか「あ……」

さやかは、自分が何を思ったのか、改めて知ってしまった。
自分で自分が信じられなかった。

さやか(あたし、は……)
216 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:21:11.92 ID:v30v4Rp4O
まどか「……さやかちゃん?」

さやか「!」

まどかに声をかけられ、ハッとする。
さやかの様子が変わったことを不審に思ったのだろう。

さやか(まずい、今は……)

顔を合わせられなかった。
今まどかに顔を見られたら、全てを見透かされてしまう気がした。

まどかには、こんな自分の汚い部分、卑怯な部分を知られたくなかった。

さやか「……ごめん、魔力の反応があった。あたし、もう行かなきゃ」

顔を背けたまま、早口で伝える。
幸いにも、まどかはそれを緊迫した状況故のことだと受け取ったようだった。

まどか「えっ? あっうん、わかった。頑張ってね」

さやか「ッ……」

まどかの優しさが、今のさやかにはつらかった。
言葉が胸に刺さる。

さやか「……ありがとう。仁美のこと、よろしくね」

まどか「うん、任せて!」

返事を聞くや否や、さやかは駆け出した。

魔力の反応などありはしない。
ただ、1秒でも早くこの場所を離れたかった。
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/19(土) 12:44:26.06 ID:ljYZHXIMO
よく上条が叩かれてるのを見るがさやかが可愛く見えるのは視聴者視点であって設定的には普通若しくはブスの可能性だってあるんだからな
ブスにはどんなに親しくても優しくされても惚れないだろ
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/19(土) 12:57:11.98 ID:btdJYUwgo
例え相手がドブスだろうと、親切にされたらまずはありがとうだろ
その上で恋愛が成就しないのはしゃーないが

ちゃんと告白した上でふられたならさやかはあんなに堕ちなかっただろうとも思うけどね
こうして箱の魔女と戦う前なら、仁美を助けなければ……と思う事もなかっただろうし
だって仁美が生きてても死んでても自分がふられた事実に変わりはないから
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/19(土) 21:10:44.80 ID:F3ePMwmbO
嫌な考えがへばりついたときって、ホント最悪。乙です
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/19(土) 21:20:26.64 ID:BibHSGrU0

まあまどぽの各ルートとか見るにさやかが告白できない意気地無しで、(しかも自分でもわかっているのにどうしようもできない)言い方は悪いが潔癖のいいかっこしいの部分がある所為で自分で自分を追い詰めてるんだよな・・・
高すぎる理想と現実の差で絶望したわけだし。本当に不器用で馬鹿な奴だよ、良くも悪くも。
221 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/23(水) 22:22:25.76 ID:Pfshhs6BO
さやかは、全力で走り続けた。
まるで、見えない何かから逃げるように。

しかし、その声がやむことはなかった。

──仁美さえいなければ、こんなことにはならなかったのに。

さやか(……違う)

──仁美さえいなければ、こんなふうに悩まされることもなかったのに。

さやか(……違う!)

──仁美さえいなければ……

さやか「違う!!」

大きく叫んで、さやかはようやく立ち止まった。
呼吸が荒い。
いつの間にか、見たこともないような場所に来てしまっていた。

さやか「……っ」

さやかは、無理やり呼吸を押さえ付けた。
自分の心と向き合う覚悟を決めようとした。

だが、できない。

息が整っても、まだ心が鎮まらない。
魔女と戦っていたときの方が、まだ平静を保てていた。

さやか(……あたし、一体どうしちゃったんだろう)

本気で、仁美を助けなければよかったと思ったわけではない。
だが、少しでもそんな気持ちがなかったかと言われれば、否定はできなかった。

さやか(どうして……)

さやかは、自分の本心がわからなかった。
222 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/23(水) 22:24:35.30 ID:Pfshhs6BO
仁美が恋敵だから、思わずそんなことを思ってしまったのだろうか。

もちろんそれは原因の大部分ではあるだろうが、さやかはそこに引っ掛かりを感じていた。

さやか自身、『恋愛は早い者勝ちみたいなもの』とも言ったし、そう思っていたことも嘘ではない。

もし、さやかの知らないうちに仁美が恭介と付き合っていたとしても、さやかは恋心を隠して笑えたはずだ。

……ひとつの要素さえ、そこになければ。

さやか(何か、が……)

納得できない何かが、そこにある気がする。

仁美が言っていたように、自分の方が長く恭介を想っていたから?

……違う。

もっと、わかりやすい何かが。

仁美が恭介と付き合うことが許せないと、理不尽だと思ってしまう、何かが……

さやか「………………」

そして、さやかは気づいてしまう。

さやか(あぁ、そうか……)

自分の本心に。

さやか(つまり、あたしは……)
223 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/23(水) 22:27:29.10 ID:Pfshhs6BO


──恭介の腕を治したのはあたしなのに、他の誰かが恭介と付き合うなんて、許せない。

224 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/23(水) 22:43:33.70 ID:Pfshhs6BO
さやか「……あはは」

自分でも驚くほどに空虚な笑い声だった。

始めから狂っていたのだ。

正義の魔法少女?
なんて笑い話だろう。

あたしが魔法少女になったのは、自分のためでしかなかったっていうのに。

さやか(あたしは、何をしていたんだろう)

今までの自分が揺らいでいく。
こんな自分が正義を語っていたことが、茶番にしか思えなかった。

さやか(……もう、どうでもいいや)

これ以上は考えたくなかった。
心が沈む一方だ。

さやかは、フラフラと歩き始めた。

ソウルジェムに、穢れが溜まりつつあった。
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/24(木) 13:48:00.21 ID:FQ7LQiTPO
自分をごまかしてはいけない。

同時に、欠点を見つけても、

自信を喪失させたり、

自尊心を傷つけるまで

自分を責めてはいけない。


くさるなさやかちゃん、乙乙
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/24(木) 20:51:49.63 ID:ZdVSzehRP

『最初から間違えてるモノ』は、
第三者がどう横槍を入れても最終的には必ず破綻しちゃうよね

繰り返す時間の中で僅かな違いこそあれど、運命の車輪は冷徹に回る。
227 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/27(日) 10:07:20.97 ID:X5WB82RZO
しばらく歩いたところで、ソウルジェムが反応した。

魔力の反応だ。

さやか(魔女? 使い魔? どっちでもいいか……)

さやかは、もはや無視しようかとも思った。

今の自分に、正義の真似事をする資格などあるはずがない。

さやか「……」

しかし、さやかはしばらくの逡巡の後に、反応があった地点へ歩き始めた。

他の誰かのためじゃない。

戦闘に没頭すれば全てを忘れられるかもしれないという、歪んだ考えからの行動だった。
228 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/27(日) 10:12:10.95 ID:X5WB82RZO
***

そのとき、杏子はパトロールの最中だった。
最近は気分が優れないことが多いが、魔法少女である以上、魔女を狩らないわけにはいかない。

魔力の反応がありその地点へ向かうと、そこには杏子を悩ませる原因の人物がいた。

杏子(……さやかか)

杏子は、隠れて様子をうかがった。

さやかとの二度目の戦闘から数日間、杏子はさやかのことを避け続けていた。

ああいう結果になった以上、杏子にはもうごちゃごちゃ言う気はなかった。

正義の魔法少女なんていつまでも続けていられるとも思わなかったが、いけるところまでいってほしいという思いがなかったと言えば嘘になる。

同時に、かつての自分と重なりを感じるところもあり、似たような挫折を味わえば杏子の気持ちをわかってもらえるのではないかという期待も多少あった。

いずれにせよ、杏子からさやかに対して直接行動を起こす気はもうなくなっていた。

だが……

杏子は、さやかの様子がおかしいことに気づく。

杏子(……なんだ? さやかの奴、いつもと違う……?)
229 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/27(日) 10:15:25.95 ID:X5WB82RZO
その要因はいくつかあったが、杏子が一番違和感を覚えたのは、さやかの戦闘方法であった。

さやかは、相手の強さによっては、痛覚を遮断して多少の傷を負うことをいとわない。
だが、当然それは必要最小限のダメージで済ませており、決して、受ける必要のない攻撃をむざむざ受けていたわけではない。

また、痛覚遮断はあくまでも戦術のひとつであり、さやかも好んで使っていたわけではないはずだった。

しかし──

杏子(あいつ、何してやがんだ……!?)

今のさやかは、そんな取捨選択を行っているようには見えなかった。

明らかに、避けられるはずの攻撃を避けていない。
防げるはずの攻撃を防いでいない。

魔女の攻撃に対し、そもそも反応すらしていなかった。
その姿は、わざと全ての攻撃を受けているようにすら見えた。

さやか「……」

防御を一切行わず、攻撃に意識の全てを向ける今のさやかは、凄まじかった。

魔女「ガァ……ッ」

一方的に攻撃され続けているようなものだ。
敵うはずがない。
魔女は為す術もなく、あっという間に倒されてしまった。

だが、その代償は大きい。
さやかは全身傷だらけで、ボロボロだった。

回復魔法を使い、服も新品同様になり、見かけ上は完璧に元に戻る。

だが、それを見た杏子は鳥肌が立った。

その姿は、人として何かが狂っているようだった。
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 00:37:05.03 ID:kUpqDM0No
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 00:37:20.12 ID:uysmXeBqO
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 01:56:46.22 ID:eUyn2TAGO
乙!
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 03:30:49.40 ID:7XxKArh4O
乙。イラついたら戦闘に没頭するしかないよな
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/29(火) 22:02:57.26 ID:wNDEo4K30

まあ助けたっていう事実と誰を好きになるか、助けたからって好きになってもらえるかはまったく別問題だしな

それに正義の魔法少女って言っても具体的にさやかはどうしたかったんだろうか。魔女より悪い人間がいるなら戦う。例え魔法少女でもといっているが杏子をどうする気だったんだろう。叩きのめしたからって変わるとは限らないし、殺したらただの人殺しだし、仮に弾みでも殺してしまえばきっと壊れてただろうし・・・そしてこうやって人間がみんな当たり前に醜さを受け入れることもできず・・・馬鹿な奴だな。
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/30(水) 22:44:16.96 ID:2mtSg9KIP
236 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/01(金) 20:09:19.19 ID:yJ7QJF/qO
***

次の日、さやかは学校を休んだ。
気分が悪い、頭痛がするなどと親に伝えると、あっさり納得してくれた。
仮病だが、あながち嘘というわけでもない。

さやかは、ベッドの上でぼんやりと天井を眺めていた。

今日の放課後、仁美は恭介に告白する。
恐らく、ふたりは付き合うことになるだろう。

恭介が断れば話は別だが、たぶんそれはない。
女のあたしから見ても、仁美は魅力的だ。
告白されて戸惑いはするかもしれないが、最終的には受け入れるはずだ。

……そのことを、あたしはどう思うんだろう。

さやか「……」

嫌に決まっている。
たとえ仁美であろうと、恭介が自分以外の女子と付き合うなんて、想像したくもなかった。

しかし、それならば学校を休むべきではない。
受け入れてもらえるかどうかはともかく、さやかには告白する以外の選択肢はないはずだ。

なのに、さやかはベッドから起き上がる気にもならなかった。

自分の本心を知ってしまったからだ。
こんな自分が恭介と付き合うなんて、許されるはずがない。
そう思ってしまった。

かと言って、そう簡単に諦められるはずもない。
堂々と仁美に『あたしは恭介のことを好きではない』などと言えれば格好も付くだろうが、それもできなかった。

結果、相反する感情がさやかの中で攻めぎ合い、どちらの行動もとれなくなっていたのだ。

結局さやかは、学校を欠席することを選んだ。

もう、自分の手の届かないところで物事を勝手に進めてもらって、自分ではどうにもならない状況にしてほしかった。

具体的には、さっさと仁美に告白してもらって、恭介と付き合ってほしい、なんてことを薄々考えていたのだ。

さやか(……あたし、最低だな。結局あたしは、自分の本当の気持ちと向き合えなかったんだ)

さやかは、こんな選択しかできなかった自分を、嫌悪していた。
237 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/01(金) 20:13:03.58 ID:yJ7QJF/qO
『おい、聞こえるか?』

さやか「!」

不意に、テレパシーで呼び掛けられた。
この声は……

杏子『ちょっと話がある。出てこいよ』

さやか「……」

なんであたしの家を知っているのかとか、学校はどうしたのかとか……いろいろと思うところはあったが、今のさやかに噛み付く気力はなかった。

さやか『……何の用?』

杏子『そろそろ、正義の魔法少女だなんて言っていたことを後悔してるんじゃないかと思ってな』

さやか『……』

一気に出ていく気が失せた。
さやかは返事をするのも面倒になり、布団をかけ直そうとする。
反応がないことにあわてたのか、杏子が再度テレパシーで呼び掛けてきた。

杏子『おい無視すんなよ、悪かったって。こんな時間に家にいるってことは、今日は学校には行かないんだろ? 魔法少女が体調不良ってこともないだろうし、暇なら付き合えよ』

さやか『……あたしに文句があるんなら、別の日にしてくれない? そんな気分じゃないの』

杏子『喧嘩を売りに来たわけじゃねーよ。言ったろ、話があるって』

……本当だろうか。
しかし、暇を持て余していたのも事実だ。

杏子『いいから出てこいよ。危害を加える気はないからさ』

さやか『……ちょっと待ってて』

しばらく迷ったが、さやかは杏子に付き合うことにした。
親は夕方まで帰ってこないし、少しくらいなら大丈夫だろう。



着替えてから外に出ると、私服姿の杏子が立っていた。
そういえば、魔法少女以外の姿を見るのは初めてだ。

杏子「ついてこい」

そう言って、杏子は歩き出した。
238 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/01(金) 20:19:33.83 ID:yJ7QJF/qO
***

杏子がさやかを訪れたのは、昨日のさやかの様子が気になったからだった。
まるで鬱憤を晴らすかのような戦い方であり、これまでの彼女とは明らかに違っていた。

なぜそうなったのかはわからないが、大体の想像はつく。
自分に失望したか、願いを否定してしまったか、あるいは信念が折れるような出来事があったのか……

かつての杏子と同じなら、そんなところだろう。
だからこそ、放ってはおけなかった。

さやか「……」

さやかは、すたすたと杏子の後を歩いている。

杏子(こいつ……)

やはりおかしい。
確定的だ。

普段と様子が違い過ぎる。
行き先も話さず歩いてるのに文句ひとつ言わず付いてくるなんて、これまでのさやかではあり得ない。
相手が杏子ならなおさらだ。

杏子「どうしたんだよ、元気ねーな。何かあったのか?」

さやか「……別に」

杏子「ったく」

聞いてはみたものの、その内容に興味があるわけではない。
重要なのは、さやかが正義の魔法少女として戦い続ける気があるかどうかだ。

杏子(もし、そうでなくなったのなら、もしかすると……)

うまく言いくるめることができれば、杏子の仲間にできるかもしれない。
そうすれば、これまでのような無茶もしなくなるだろう。

……と、まるでさやかのために行動を起こしたかのような言い方だが、杏子は、自分の本心に薄々気がついていた。

あまり認めたくはないが、どうやら自分は仲間を欲しているらしい。
あえて目を逸らしてはいたが、やはりどこかに寂しいという感情が残っていたようだ。

自分から別れたものの、マミと一緒に過ごした時間を忘れたわけではない。

杏子(……お前なら、こんなときどうしたんだろうな)

その答えは、もはや知りようがなかった。
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/02(土) 10:48:53.12 ID:w5B+eq9dO
ここもまた今のところ同じだが心情描写が味よね、乙
240 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/08(金) 23:43:10.20 ID:Dq/yhV0IO
杏子「……着いたぜ」

さやか「……」

さやかは、ぼんやりとその建物を見上げた。

さやか「……教会?」

杏子「あぁ」

杏子がこの場所を訪れるのは久しぶりだ。
いろいろと思い出してしまうということもあり、当時は近寄り難かった場所だが、今はもう懐かしいという感情の方が強い。

杏子「ちょっと長い話になるぜ。ほら、食えよ」

そう言って、杏子はさやかにリンゴをひとつ投げて渡した。

さやか「……」

受け止めはしたものの、食べ始める気配はなかった。
ぼんやりとリンゴを眺めるさやかからは、何の感慨も読み取れない。

杏子(……さやかは今揺れている。このまま赤の他人のために戦い続けることに疑問を持ちつつある。ここで、あたしというもうひとりの例を知れば……)

……わかってもらえるはずだ。
241 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/08(金) 23:47:38.93 ID:Dq/yhV0IO
杏子「……」

杏子は、一旦心を落ち着かせた。

こうして誰かに話すのは初めてだが、自分の中で既に整理は済んでいる。
今更当時を思い出して涙ぐむなんてことはないだろう。

杏子(……よし)

杏子は、静かに話し始めた。

杏子「……ここは、あたしの親父の教会だ。いや、正確には、教会だった、というべきなんだろうな……」

さやか「……」

そして、杏子はかつて自分に起こったことを全て話した。

自分がどうして魔法少女になったのか。
何を思って魔法少女になったのか。

その結果、何が起こったのか。
何を失ってしまったのか。

……何を、わかっていなかったのか。
242 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/08(金) 23:52:28.40 ID:Dq/yhV0IO
……

杏子「……とまぁ、そんなわけで……あたしのせいで、家族はメチャクチャになっちまったのさ」

さやか「……」

杏子「そのとき決めたんだよ、二度と、他人のために魔法を使わないって。自分のためだけに使い切るってね」

杏子はそこで、一度間を置いた。
さやかの反応をうかがう。

さやか「……ごめん。あんたのこと、誤解してたよ。そんなことがあったなんて、想像もしてなかった」

杏子「……」

悪くない反応だ。
以前の彼女ならあり得ない。
これまで魔法少女として生きてきて、多かれ少なかれ共感する部分があるのだろう。

杏子は、言葉を続ける。

杏子「もうあんたもわかってんだろ? 他人のために魔法を使うのは間違いなんだ。奇跡を祈れば、その分絶望を撒き散らしちまう。そういう風にできてんだよ」

さやか「……」

この世界そのものがそのようにできている。
だから、どうしようもない。
抗いようがない。

そう、印象付ける。
243 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/08(金) 23:54:36.43 ID:Dq/yhV0IO
さやかが、杏子に問いかけた。

さやか「……どうして、あたしにこんな話をしてくれたの?」

杏子「見ちゃいられねーからだよ。あたしもあんたも、同じ間違いから始まった。あたしはそれなりにわきまえちゃいるが、あんたは違う。現に、苦しんでるじゃねーか」

さやか「……同じ間違い?」

杏子「そうだろ、他人のためなんかに魔法を使っちまって、そのことを後悔してるんだろ?」

一歩、踏み込む。
さやかの口から、自分が間違っていたと認めさせる。
そうすれば……

さやか「……」

さやかは、しばらく考える素振りを見せ、ゆっくりと口を開いた。



さやか「違うよ。あたしとあんたは違う」
244 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/08(金) 23:55:07.41 ID:Dq/yhV0IO
さやかが、杏子に問いかけた。

さやか「……どうして、あたしにこんな話をしてくれたの?」

杏子「見ちゃいられねーからだよ。あたしもあんたも、同じ間違いから始まった。あたしはそれなりにわきまえちゃいるが、あんたは違う。現に、苦しんでるじゃねーか」

さやか「……同じ間違い?」

杏子「そうだろ、他人のためなんかに魔法を使っちまって、そのことを後悔してるんだろ?」

一歩、踏み込む。
さやかの口から、自分が間違っていたと認めさせる。
そうすれば……

さやか「……」

さやかは、しばらく考える素振りを見せ、ゆっくりと口を開いた。



さやか「違うよ。あたしとあんたは違う」
245 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/08(金) 23:57:04.31 ID:Dq/yhV0IO
あちゃ、二重投稿失礼
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/09(土) 01:11:37.75 ID:/Mz0M4Nl0
自分は杏子のように他人のためにではなく、自分自身のための契約だったと・・・
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/09(土) 07:34:36.62 ID:6EjrY0Qgo
完璧に利己的な理由で助ける人間を選抜しようとしちゃったわけだからな、もうごまかしようもないくらい
自分のための奇跡だったって気付いてるだろ。
自分を痛めつけるような戦い方も、案外罰でも受けてるつもりなんじゃないか?
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/14(木) 14:04:13.69 ID:20NOeDW5O
やっと追いついたと思ったら安定のバッドルーテナント
ハーベイのオリジナルじゃなくてニコラスリメイク版みたいに上手くいかねぇもんかな乙乙
249 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/23(土) 17:54:14.43 ID:GL279vN+O
杏子「……っ」

さやかの言葉に、杏子は少なからずショックを受けた。

わかってもらえなかったのだろうか。
杏子は自分の全てをさらけ出した。
さやかに仲間になってほしいという打算があったことは否定しきれないが、それでも正直な思いを吐き出したつもりだ。

これでダメなら、もう……

杏子(さやか……)

……しかし、そうではなかった。

さやか「……あんたは、紛れもなく自分以外の誰かのために魔法を使ったんだ。だからこそ、今はその反動で、自分のためにしか魔法を使っていない」

杏子「……?」

さやか「立派だよ。結果がどうであろうと、その行為自体は称賛されるべきだと思う」

杏子「……何が言いたい」

そんな言葉がほしいわけではない。
むしろ、杏子の話を聞いた上でそんなことを言うなど、馬鹿にしているようにしか受け取れない。

さやかは、わずかに笑って、一言呟いた。

さやか「……あたしとは、違う」
250 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/23(土) 18:06:00.39 ID:GL279vN+O
杏子「……」

さやか「あたしは結局、自分のために恭介の腕を治したんだ。他人のために魔法を使ったあんたとは、根本的に違ったのよ」

さやかは、自嘲気味な笑顔を浮かべていた。

……そういうことか。
杏子は内心ほっとした。

杏子「いいじゃねーか、それで。そっちの方が正しかったんだよ。これからは、そうやって生きていけばいい」

さやか「……」

杏子の言葉に、さやかはわずかな逡巡を見せ、やがて口を開いた。

さやか「……そうね。あんたと一緒にそうして生きていくってのも、悪くないかもね」

杏子「……!」

さやかの言葉を聞き、杏子は歓喜に打ち震えた。

杏子(やった……!)

やっと、わかってもらえた。
同じ境遇の仲間ができる。

その事実は、杏子にとって非常に喜ばしいものだった。

さやかの手前、なんとか平静を装う。
顔を背けて表情を隠し、感情を抑えて言葉を返す。

杏子「あぁ、そうしろよ。悪いようにはしないからさ」
251 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/23(土) 18:17:45.59 ID:GL279vN+O
さやか「……うん、ありがとう」

素直に礼を言われ、戸惑う。

杏子は、自分の表情が戻ったことを確認し、改めてさやかの方を振り向いた。

杏子「やめろよ、別に、礼を言われるようなことじゃ……」

言いながら、杏子はさやかの顔を見返して……

杏子(なっ……!?)

──気づいてしまった。

さやか「……」

その目には、光がなかった。

かつて、正義のために戦っていた頃は眩しいほどに輝いていたさやかの目が、今は見る影もなかった。
昨日魔女と戦っていたときでさえ、今よりは光が残っていた。

杏子(なんだ、どうしたって言うんだ……?)

いつからそうなってしまったのか。
決まっている。

杏子の仲間になり、同じ生き方をすると宣言したときからだ。

さやか「……」

杏子「……ッ」

杏子はその目に、どうしようもないほどの越えられない壁を感じた。

杏子(……そんなにか? 魔法少女なんかになっておきながら、他人を気にせず自分のためだけに生きることが、お前にとってはそんなにも耐え難いことなのか……!?)

さやかは、自分の変化に気づいているのだろうか。
252 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/23(土) 18:37:45.63 ID:GL279vN+O
確かに、さやかがこのまま正義を貫き続ければ、近いうちに死ぬ可能性は高い。

杏子のように自分のためだけに生きるようになれば、それは回避されるだろう。

だが、そもそもさやかの精神は、そんな生き方を受け入れられないのだ。

杏子「……っ」

杏子は、ここにきてようやく気付いた。

杏子(……あたしとさやかは、違うんだ)

それは、奇しくもつい先程さやかが杏子に思ったことでもあった。

同じ生き方をすることはできない。
やはり、杏子が初めに思ったことは正しかった。
さやかは、魔法少女になるべき人間ではなかったのだ。

杏子「……」

さやか「……どうかした?」

急に黙り込んだ杏子の様子を不審に思ったのか、さやかが問いかけてきたが、杏子は言葉を発することもできなかった。

さやかは特に気にもせず、ふと手に持っているリンゴを眺め、口を開いた。

さやか「……そういえば、あんたそんな境遇なのに、このリンゴはどうしたの?」

杏子「!」

責めるような口調ではない。
単に、疑問に思ったことをそのまま口に出しているような表情だった。

杏子「っ、それは……」

杏子が言い淀む。
しかし、そもそもさやかは答えを気にしていなかった。
253 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/23(土) 18:40:09.33 ID:GL279vN+O
答えるまでもない。
家族のいない杏子がこの年でまともに働けるわけがなく、そうなると、リンゴを手にいれる手段は限られる。
誰にでも想像はつくだろう。

さやかにも、それはわかったはずだった。

さやか「……」

そのとき、杏子にはある種の期待が芽生えていたのかもしれない。

心のどこかで、盗みを非難されることを望んでいたのだ。

杏子の間違いを正すことで、さやかが以前のように、目を輝かせて正義を語るようになることを期待したのだろうか。

しかし──

さやか「……まぁ、どうでもいいか」

杏子「……!」

杏子が期待した展開にはならなかった。

思わず、愕然とする。
さやかの口からそんな言葉が出てきたことが、信じられなかった。

さやか「……」

盗まれたリンゴであることはわかっているはずだ。
しかし、さやかに気にしている様子はない。

何の躊躇いも見せず、さやかはリンゴを食べようとする。

杏子「……ッ!」

さやかの口が、リンゴに近づいていく。

その光景は、まるで何かの象徴のように思えてならなかった。
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/23(土) 20:14:29.88 ID:vB1ZfH88o
おつん

さやかは言わずもがなだが、杏子も割とめんどいな
実は一人が辛い、でも正義の魔法少女とは共に歩めない、しかしさやかの闇堕ちは嫌

壮絶な半生を振り返ると、どれも不思議じゃないんだけどさ
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/23(土) 20:20:10.07 ID:lTjDVUnH0
まあ杏子がさやかを救おうとするのは過去の自分を救いたいからで自分のためだしな
それが悪いとは思わないけど
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/23(土) 20:37:14.90 ID:O94ckrDqO
0ー2 後半ロスタイム、ここからの逆転ハットトリックを杏子に期待する
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/23(土) 20:39:54.52 ID:WlSvRI4kP
あんこちゃん、内心ではさやかに負けたいと思ってたみたいな節があったしね
258 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/05/03(火) 21:58:36.54 ID:MDONGe0PO
杏子「やめろっ!!」

杏子は、さやかからリンゴを奪い取った。
完全に無意識からの行動だった。
勝手に体が動いたとしか表現できない。

さやか「……何?」

怒るわけでもなく、さやかはキョトンとしていた。
杏子の突然の行動を、純粋に疑問に思ったのだろう。

杏子「……」

杏子は、何も答えられなかった。
自分の行動が、自分で理解できなかった。

杏子(どうして、あたしはこんなことを……)

自分でも矛盾した行動をとっていることはわかっている。
だからこそ、言葉では説明できなかった。

気づけば杏子は、呻くように声を漏らしていた。

杏子「……どうしたんだよ。お前は、そんなんじゃなかっただろうが。正義の魔法少女になるって、言ってたじゃねーか」

さやかはポカンとして、あきれたように答えた。

さやか「何を言ってるの? それが間違いだったって、たった今あんたが教えてくれたんじゃない……」

杏子「っ……」

その通りだ。
しかし……

杏子(……本当に、それでいいのか?)
259 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/05/03(火) 22:00:53.66 ID:MDONGe0PO
あたしは一体何がしたいのだろう。
さやかに、どうあってほしいのだろう。

杏子「……」

今のさやかは、自分で物事を決められる状態ではない。
ここでの杏子の言葉は、さやかに大きな影響を及ぼすはずだ。

だからこそ、慎重に言葉を選ばなければならない。

どの道が正しいか、間違っているか。
もはや、そんな言葉では語れない。
魔法少女になった時点で、正しい道などあるはずがないのだ。

すぐには選べなかった。
仲間になってほしいという自分の感情と、どこまでも正しくあってほしいというさやかへの願望が、混ざり合う。

両立は不可能だ。
どちらを優先するかを決めなければならない。

杏子「…………」

そして、杏子は選択する。

杏子「……さっきの話はなしだ」

さやか「え?」

杏子「お前はあたしとは違う。どこまでも正義を貫いていけよ」

さやか「……」

さやかが戸惑いを見せる。
突然正反対のことを言われたのだから、当然だ。

さやか「ふざけないでよ……何を勝手なことを言って……」

杏子「……」

結局杏子は、さやかを正義の道に押し戻すことを選択した。

決め手となったのは、今のさやかの姿だった。
こんな状態のさやかを見ていたくないという思いが、それ以外の感情を上回ったのだ。
260 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/05/03(火) 22:03:34.60 ID:M5GsA7PKO
さやか「誰かのために魔法を使うのは間違ってる……その通りよ。今なら、あたしにも理解できるわ」

杏子「……それは、あたしが出した結論だ。お前には、お前の答えがあるんじゃないのか?」

さやか「同じよ。今まであたしは他の誰かのために戦ってきたつもりだったけど、結局それは自分のためでしかなかった。そもそも願いからして、間違っていたのよ」

杏子「そのお前の願いは、本当にお前のためだけのものだったのか? その男は、全く喜んでいなかったのか?」

さやか「……そういう話じゃないわ。あたしが何を思ってその願いを選択したかが問題なのよ」

杏子「何を思って……か。そいつの怪我を治すことで、そいつの恩人になりたいという気持ちがあったってことか?」

さやか「そうよ。そのときは気づいてなかったけどね」

杏子「……本当にそうか?」

さやか「……」

言葉を交わし合う。
互いの気持ちをぶつけ合う。

さやかに、迷いが生じつつあった。
261 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/05/03(火) 22:07:17.12 ID:M5GsA7PKO
杏子「その男に関してだけじゃない。お前が今まで魔女や使い魔と戦ったことで、救えた命は確実にあるんじゃないのか? それらが全て、お前自身の自己満足に過ぎなかったとでも言うつもりか?」

さやか「……ええ。あたしは正義のために戦っていたわけじゃなかった。恭介のために願いを使ったように見えて、実際は自分のためでしかなかったようにね」

杏子「……」

やはり、そこを基準に考えてしまっている。
願いの意味をずらさなければ、さやかを説得することはできない。

そのための言葉を、杏子は持ち合わせていた。

杏子「……違うね。お前は勘違いをしている。まだ思い出せねーのか?」

さやか「えっ……?」

杏子「……」ギリッ

杏子は、歯を食い縛った。
自分が、さやかにどれだけ過酷な道を歩ませようとしているのかはわかっている。
だが、もう止まれない。

杏子(あぁそうさ、これはあたしのわがままでしかない。一旦楽な道を示しておいて、後から別の険しい道を勧めるだなんて、自分勝手もいいところだ。あげく、自分はその道を歩まないってんだからな)

しかし。
それでも……

杏子(だが、こいつの始まりは、正義の魔法少女を目指すことだった。魔法少女のあたしを見て、それでも怯まずに言い返してきやがったんだ。そんなこいつが間違っていたなんてこと、あってたまるかよ!)
262 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/05/03(火) 22:09:25.14 ID:M5GsA7PKO
感情論だ。
さやかに『こうあってほしい』という願望が先にきている以上、論理的ではない。

杏子もそれはわかっていた。
その上で、吠える。

杏子「お前が魔法少女になったのは、その男の腕を治すためじゃねえ。ましてや、そいつの恩人になるためなんかじゃねえ!」

杏子「正義の魔法少女になって、あたしみたいな悪者をブッ飛ばすために、お前は魔法少女になったんだよ!!」

さやか「…………」

無茶苦茶だ。
理屈も何もあったものじゃない。

だが、その飾らない杏子の言葉は、間違いなく本心からきたものだった。

だからこそ、さやかの心を動かした。

さやか「正義の魔法少女、か……」

気づけば、さやかの目には光が戻っていた。

それは、これから先ふたりの歩む道が、二度と交わらないであろうことを意味していた。

杏子「……」

手放しには喜べない。
しかし、これが杏子の選択の結果だ。
今更後戻りはできない。

さやかは、先程までとは別人のような表情をしていた。

さやか「ありがとう。目が覚めたよ」

杏子「……そうかよ、ならとっとと失せな」

さやか「うん……さよなら」

仲間にならない以上、もうここで話すことはない。

さやかもわかっていたのだろう。
そのまま、何も言わずに教会を後にした。
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/04(水) 08:33:39.71 ID:/HIffTMZ0

これ、さやかちゃんホストとか悪人皆殺しにしちゃうようになるんじゃ…
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/04(水) 09:19:55.52 ID:UUzJ0CQfo


さすがに独善で一般人を[ピーーー]ような馬鹿ではあるまい
原作のどん底状態ですら別に殺してないよって虚淵が言っているし
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/04(水) 11:42:30.83 ID:/HIffTMZ0
>>264
でもクズ野郎相手とはいえ丸腰の一般人に襲い掛かることじたいはしているわけで…
本当のヒーローは人間の醜さまで愛せなくちゃだめなんだろう…潰れずに頑張ってくれよ、さやか
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/05(木) 11:01:11.26 ID:Pa5wJN7no
市民「本物のヒーローは人間の醜さまで愛せなくちゃだめ」

市民「でもお前が闇堕ちしたらブッコロス」

市民「あと正義が間違ってたらバッシングする」

市民「ヒーローの孤独?俺の知ったことじゃないし」

市民「でも正体探ったりゴシップ読んだりはするから!」

こらダークヒーローやアンチヒーローが流行りますわ
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/11(水) 12:52:27.94 ID:OLH14Gk7O
おつー、心情描写って下手だから感心するわ今回の杏子とか
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/11(水) 17:22:52.35 ID:HbmLZVMco
>>264
新房がきっと殺してないと思います
虚ぶちはうーん、どうでしょう(笑)
ハノカゲ(脚本どうりなら)ぶっ殺してます
だから虚淵は殺してないとは言ってないよ
269 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/05/18(水) 18:08:06.70 ID:19PX2CMeO
さやかが去り、杏子はひとり物思いに耽っていた。

さやかが食べなかったリンゴに、何の躊躇いもなくかぶりつく。
自らのその行動に、さやかとの違いを認識せずにはいられなかった。

杏子(……本当に、これでよかったのか?)

いいはずがない。
たとえば、あいつなら。

巴マミなら、もっといい選択ができていただろう。

すなわち、共に正義の魔法少女としての道を歩み、近くでさやかを支えることができたはずだ。

だが、杏子にはそれはできなかった。
無責任に、明るく険しい道だけを示しておきながら、自分はそこについていくことができなかったのだ。

杏子「……」

今更、この生き方を変えることはできない。
杏子にも、様々な経験をして、その上で見つけた答えがある。

だから、これは当然の結果だ。

元々、さやかは杏子の仲間になれるような人間じゃなかった。
ただそれだけの話なのだ。

自分に言い聞かせる。

杏子(……あたしとさやかは、違う)

杏子の胸には、喪失感だけが残っていた。
270 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/05/18(水) 18:11:07.30 ID:19PX2CMeO
***

次の日、さやかは学校に登校した。
仁美に、伝えなければならないことがあった。

まどか「さやかちゃん、おはよう」

さやか「おはよう、まどか」

さやか(……そう言えば)

まどかの顔を見て、さやかは一昨日のことを思い出した。
自分に余裕がなくなっていたことを、改めて思い知らされる。

さやか「一昨日、あの後大丈夫だった? ごめんね、全部押し付けちゃって……」

まどか「ううん、いいよ。わたしは倒れた人たちの発見者ってことで大したことしてないし。むしろ大変だったのは、色々聞かれてた仁美ちゃんの方じゃないかな」

さやか「そうだよね。仁美は魔女を知らないわけだから何も説明できないだろうし、そもそも何も覚えてないだろうし……」

まどか「うん。結局、集団催眠とかそういうのじゃないかってことになったみたい」

さやか「ふぅん……」

まぁそんなところだろう。
いくら警察でも、魔女の存在を知っているとは思えない。
真実を知っているのは、さやかとまどかだけということだ。
271 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/05/18(水) 18:14:02.81 ID:19PX2CMeO
まどか「それで、さやかちゃんは大丈夫だったの?」

さやか「……何が?」

ドキリ、と心臓が跳ねる。
一昨日、まどかと別れたときはうまくごまかせたと思っていたが、甘かっただろうか。

まどか「……」

さやか「……えっと」

まどかは、さやかの顔をしばらく見つめ、やがて口を開いた。

まどか「ううん、ごめんね。なんでもないよ」

さやか「そ、そう?」

危なかった。
たぶん昨日杏子と会ってなかったら、まどかに全てを見透かされていただろう。

まどか「昨日は体調が悪かったって聞いたよ。あまり無理はしないでね」

さやか「……うん、ありがとう」

昨日までとは違い、今のさやかに迷いはない。
まっすぐに前を見て歩けているという自覚はある。

だが、その見つめる先は、果たして希望に満ちているのだろうか。

それとも……

さやか「……」

考えないわけではない。
しかし、さやかの考えはもう決まっていた。

さやか(……杏子が、背中を押してくれた)

この道の先がどうなっていようと、さやかはこの道を歩むと決めたのだった。
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/19(木) 17:36:30.82 ID:g3wPBIvm0

TDS読んだ身としてはマミさんがいたとしてもさやかは潰れるんと思う
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/20(金) 11:31:57.45 ID:9c7SJ4TqO
てす
274 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/06/03(金) 01:42:13.69 ID:966iIJr9O
***

その日、またしてもさやかは仁美に呼び出された。
さやかとしても、仁美には話さなければならないことがあったので、好都合ではあった。

仁美「……お待たせしましたわ」

さやか「ううん、あたしも今来たところだから」

仁美「それならよかったですわ」

仁美は椅子に座り、一呼吸置いてさやかの顔を見つめた。

さやか「……っ」

その表情に、さやかは思わず怯んでしまう。

仁美「一応、確認しておきますわ」

……仁美の笑顔が怖い。

仁美「さやかさん、あなたは昨日、本当に体調が原因で欠席したんですのね?」

さやか「……」

……昨日休んだことに対して、後ろめたさを感じていないわけではない。

まどかとは違い、仁美はさやかが休む理由に心当たりがあるのだ。
さすがに気付かれて当然か。

さやか「ごめん」

仁美「……」

その一言で、察してくれたようだった。
仁美がため息をつく。

仁美「……急な話でしたし、そうなるかもしれないと思ってはいましたわ。あなたはどこまでも真っ直ぐですが、その分、精神的に脆いところもありますから」
275 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/06/03(金) 01:44:38.16 ID:966iIJr9O
……耳が痛い。
思わず苦笑してしまう。

さやか「自覚はあるよ……仁美は、あたしなんかと違って強いよね」

仁美「そんなことありませんわ。私がこの数日間、どれだけ悩んでいたか知っていますの? 」

さやか「……悩んでたの?」

仁美「もちろんですわ。正直今でも、自分の選択が正しかったかどうかはわかりません。間違った道を歩いていないか、何度も不安になりましたわ」

さやか「間違った道、ね……」

さやかも同じだ。
自分の選択が正しいのか、それとも間違っているのか……

誰かが保証してくれるわけではないが、それでも選択はしなければならない。

いや、正しいかどうかという面で判断するなら、さやかの選択は、むしろ……

さやか(……関係ない)

さやかにぶれはなかった。

正しいかどうかではない。
自分がどうしたいか、どうありたいか。
それが最も大切なことなのだ。

仁美「そういった観点で語るなら、私の知る中で最も強いのは……まどかさんでしょうか。彼女には、私たちにはない強さがありますわね」

さやか「あー、まどかね。確かに……」

精神的な強さ。
芯のある強さとでもいうのだろうか。

本人は否定するだろうが、親友のあたしたちは、まどかの強さをよく知っている。

仁美「彼女は、何が大切なのかをよく知っている。そのためなら、どんなことでも躊躇いなくできるのでしょうね。他人のために行動し過ぎるきらいはありますが……見習いたいところですわ」

さやか「うん、そうだね……」

さやかにしてみれば、そのように自分にはない他人の強さを素直に認めることができるのも、ひとつの強さだ。
自分が親友に恵まれていることを改めて実感する。
276 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/06/03(金) 01:47:01.84 ID:966iIJr9O
仁美「……話が逸れましたわね。さやかさんは、もう大丈夫なんですの?」

さやか「うん、もう整理はついたよ。ありがとう」

仁美「なら、よかったですわ」

あえて冷たく振る舞おうとしているのだろうが、仁美の目は安心を隠しきれていなかった。
結局、あたしはどれだけ仁美を悩ませてしまったのだろう。

仁美「……けれど、これが最後ですわよ。私は今日の放課後上条くんに告白します。行動を起こすなら、それまでにお願いしますわ」

さやか(……え?)

仁美の言葉に、さやかは思わず顔を上げて問いかけた。

さやか「仁美は、昨日恭介に告白したんじゃなかったの?」

さやかの言葉に、仁美は半ば憮然とした表情で答えた。

仁美「……するはずがありませんわ。もし、さやかさんが体調等のどうしようもない理由で学校を休んだのなら、私が告白するのはアンフェアだと……そう思うのは当然でしょう」

さやか「仁美……」

仁美「まぁ杞憂でしたけど」

さやか「本当に申し訳ありませんでした」

仁美「……」ハァ

仁美が、あきれたようにため息をついた。

仁美「……私への謝罪はもういいですから、今は、少しでも長く御自分の気持ちと向き合って下さい。できるだけ、後悔なさらないであろう道を選ぶことを望んでいますわ」
277 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/06/03(金) 01:49:09.64 ID:966iIJr9O
さやか「……」

仁美は、さやかの恭介への想いを確信している。
つまり、言外に仁美は、さやかに告白するべきだと主張しているのだ。

それは間違ってはいない。
これまで色々と悩むこともあったが、それでもさやかの恋心は、一切揺らいでいない。

しかし──

さやか(……もう、決めたんだ)

もはや、迷う必要はない。
さやかの答えは、既に決まっていた。

……仁美には、伝えなければならない。

さやか「仁美。聞いて」

仁美「……どうかされました?」

さやかの雰囲気に、ただならぬものを感じたのだろう。
仁美は、改めて真剣な表情を作った。

さやか「……」

さやかは一度深呼吸をした。
大丈夫だ。もう間違えない。

さやか「仁美」

さやかは正面から仁美を見据え、はっきりと言い切った。



さやか「あたしは、恭介とは付き合えない」
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