ほむら「巴マミがいない世界」

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78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/21(日) 18:35:56.58 ID:2zpH4NMlO
あきらめたらそこで仕合終了だろ?今現在に集中すりゃ大丈夫だ

乙、おもしろいよ
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/21(日) 19:04:20.83 ID:NtDBr6coO
最悪の場合、80年以上もの間まどかと契約させなようにQBを牽制し続けないといけないのが地味に面倒!

寿命が尽きる直後に「魔法少女になれば10代の頃に若返って不老不死になれるよ」とか言ってQBがまどかに契約を持ち掛けようものなら洒落にもならん!!
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/21(日) 19:34:55.78 ID:sh6qCUR5o
>>77の条件達成後に、まどかに「魔法少女は必ず魔女になって人を襲う」と伝えれば、まどかの魔法少女化は防げるじゃん?
その上で「まどかと仲良くならない」というルートで進めば、ほむら自身の魔女化を防ぐという条件は必要なくなるぞ。
魔女化しそうになったら、自分のソウルジェムをぶち抜きゃいいんだし。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/21(日) 20:47:22.79 ID:0bGCEe2BO
まどかを魔法少女に誘導するだけならいくらでも方法がある

例えば自己顕示欲の強い独裁者の願望を具現化して、まどかが魔法少女になってその独裁者を倒さない限り全人類がそいつの奴隷となるように仕向けるとか

QBは自分の目的のためなら手段なんて選ばないから、魔女化する前にほむらが自殺するなんて展開はそれこそ奴等の思う壺じゃぁないかい?
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/21(日) 20:52:28.73 ID:TKsF5jRHo
>>79
大人になれば契約できんから
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/21(日) 21:38:58.50 ID:/NdGOn6dO
考察はいらん
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/21(日) 23:04:38.01 ID:jj3QKhhGO
>>82
第二次性徴時期の少女を魔女にするのが一番エネルギー回収効率が良いから魔法少女の勧誘をしているだけで、感情を有する生命体なら大人でも男でも契約自体は可能じゃなかったっけ?
>>83
考察なんて高尚なものじゃなくただのいちゃもんだからいちいち気にすんな
下手に刺激すると薮蛇になりかねんし……なっ?
85 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 13:29:17.58 ID:bi205V3UO
***

結界が消える。

杏子「マジで強かったな……こりゃ、マミも負けるわ」

ほむら「……」

ほむらは、自分の甘さを痛感していた。
確かに巴マミは、これまでの時間軸ではお菓子の魔女に負けることが多かった。

だが、その原因は実力の不足というよりも、むしろ油断によるところが大きい。
そして、彼女が油断する理由は大抵、まどかとさやかという後輩の存在にあった。

となれば、彼女がまどかたちが出会わなかった今回の時間軸では、巴マミは油断ではなく、純粋に実力で敗れたのではないかと想定しておくことはできたのだ。

杏子「どうしたんだよ、実際相当強かったじゃねーか。苦戦は恥ずかしくないだろ」

もしほむらがひとりでお菓子の魔女に挑んでいたら、死んでいたかもしれない。
そうなれば、まどかは永遠に助からない。

──私は、それだけの覚悟を持って行動できていただろうか。
86 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 13:31:55.70 ID:bi205V3UO
杏子「何をそんなに落ち込んでんだか……あ、グリーフシードいるか? 今回は譲ってやってもいいぜ」

ほむら「……遠慮するわ」

杏子「そう? じゃーありがた……く……」

ほむら「……?」

ほむらは、不自然に途切れた杏子の台詞を不審に思い、彼女の視線の先に目を向けて……

──愕然とした。



さやか「なんだ、もう終わっちゃったの?」



そこには、魔法少女のさやかの姿があった。
87 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 13:34:12.30 ID:bi205V3UO
杏子「……」

ほむら(そんな……ありえない。なぜ、こんなに早く……)

さやか「悪いね、転校生。でも、あたしも大事なことに気づいちゃったからさ」

ほむら「……」

ほむらは返事をすることすらできなかった。
代わりに、杏子が口を開く。

杏子「……契約したのか」

さやか「前に言ったよね。あたしはあんたみたいにはならないって」

杏子「……」

さやか「見てなさい。あんたに代わって、あたしがこの町の平和を守ってあげるから」

杏子「……馬鹿が」

杏子は吐き捨てるように呟いて、そのまま立ち去ってしまった。

さやかが、ほむらに振り向く。

さやか「忠告を無視する形になってごめんね。でも、あたしはもう契約せずにはいられなかった」

ほむら「……」

さやか「あたしは自分の大切な人のために契約した。この思いが間違ってるなんて、誰にも言わせない」

ほむら「……後悔するわよ」

さやか「しないよ」

ほむら「……っ」

その場にいることに耐えられなくなったほむらは、能力を発動させ、その場を後にした。
88 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 13:36:18.58 ID:bi205V3UO
***

ほむら(どうして? 何故、こんなことに……)

ほむらは家でひとり、嘆いていた。
とにかく今は、ひとりきりになりたかった。

ほむら(まさか、このタイミングでさやかが契約するなんて……一体、どうして……)

これまでの時間軸では、一度としてなかったことだ。
だからこそ、ほむらには理解できなかった。

ほむら(契約していない状態での、杏子との出会いが引き金となった……? いや、その状況は以前にもあった……じゃあ、何故……)

いや、ほむらは既に気付いていた。

これまでの時間軸で起こらなかったことが起こったのなら、その理由もやはり、これまでの時間軸で起こらなかったことに限られる。

つまり、それは……
89 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 13:37:33.32 ID:bi205V3UO
ほむら(巴マミがいなくなったことで、さやかの契約が早まった……?)

そうとしか考えられない。
しかし、ほむらには受け入れ難い仮説だった。

ほむら(……あり得ない。巴マミは、むしろふたりを契約させたがっていた。彼女がいなくなることでふたりが契約しなくなるならともかく、その逆が起こるなんて……)

ほむらの中で、巴マミに対するイメージが揺らぐ。

ほむら「……っ」

ほむらは、強引に思考を断ち切った。

ほむら(今は巴マミについて考えても仕方がない。私がすべきことは、この時間軸でベストを尽くすこと。それだけに集中しましょう)
90 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 19:42:10.76 ID:bi205V3UO
***

次の日の早朝、ほむらはさやかを呼び出した。

いつまでも悔やんでいても仕方がない。
起こってしまったことは取り返せないのだから、受け入れて最善を尽くすだけだ。

反省はこの時間軸でもダメだったときにすればいい。

ほむら(……来たわね)

時間も時間だけに、もしかしたら来ないかもしれないとも思っていたが、さやかはほむらが指定した場所に現れた。

さやか「……おはよ」

ほむら「おはよう、美樹さやか」
91 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 19:46:42.18 ID:bi205V3UO
さやか「話って何よ。昨日のことなら悪かったわよ。でも、もういいでしょ」

ほむら「……」

さやか「あたしだって、叶えたい願いがあったから契約したの。あんたに、理由も聞かされずに契約するなと言われたって、従えるわけないでしょ」

……なるほど、多少の負い目は感じているようだ。

この時間軸のさやかは、これまでの時間軸と比べれば、まだ良好な関係を築けている方だ。

他の時間軸では、恐らくは呼び出しても来ないくらいには険悪な関係だった。

その理由は、巴マミの死だ。
どういうわけか、さやかにはほむらがマミを見捨てたと誤解されることが多いのだ。

また、今回の時間軸では、知り合った魔法少女の違いもある。
普段なら、巴マミと比較されてしまい、いい印象を持たれないことが多い。
しかし今回は、比較される対象は佐倉杏子であり、さやかからすれば、ほむらはまだましな魔法少女、といったところだろうか。

もちろん、性格的に合わないのは間違いないので、積極的に協力してもらえるとは思ってないし、ほむらとしてもそんな気はない。
92 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 19:49:48.37 ID:bi205V3UO
ほむら「済んだことはもういいわ。どうせ困るのはあなただしね。話というのは別のことよ」

さやか「……何?」

ほむら「そうね、まずは確認だけど……あなた、自分が魔法少女になったことを鹿目まどかに伝えたかしら」

さやか「まどかに? まだ話してないよ。今日学校で話そうとは思ってるけど」

そうだろうとは思っていた。
そのためにこんな時間に呼び出したのだ。

しかし、昨晩電話やメールで伝えた可能性もあったので、本来なら、昨日のうちにこうして呼び出しておくべきだった。
ほむらは、昨日すぐに気持ちを立て直して行動できなかったことを、反省していた。

とはいえそこには、恐らく口止めは難しいだろうと予測していたということもあった。

ほむら「あなたが契約したことを、鹿目まどかには話さないでもらえないかしら」

さやか「……なんで?」

ほむら「いい影響を与えないからよ。あなたが契約したと知れば、少なからず彼女は、自分も魔法少女になりたいという思いを強くするでしょう」

さやか「……」
93 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 19:52:34.37 ID:bi205V3UO
さやかは、少し間を置いてから、確認するようにほむらに問いかけた。

さやか「……転校生は、まどかに契約してほしくないんだよね?」

ほむら「もちろんよ。正確には彼女だけでなく、あなたにも契約してほしくはなかったけど」

さやか「……悪かったってば」

とりあえずこう言っておく。
まどかを特別視していることを、あまり知られたくはない。
単に、魔法少女になる人間を増やしたくない、という考えであるように匂わせておく。
ついでに、契約を負い目に感じているであろうことを利用して、この後の交渉で優位に立てるようにしておこうという企みもあった。

ほむら「私としては、これ以上魔法少女を増やしたくないの。どうかしら」

さやか「……」

さやかは、しばらく考え込んだ後に、口を開いた。

さやか「ごめん、やっぱりあたしはまどかに話したい。正直あたしは、まどかが満足して契約するなら、それでいいと思ってるから」

ほむら「……だからといって、積極的にまどかを契約させたいわけではないのでしょう? だったら、自分の中だけで答えを出せるように、余計な情報は与えるべきではないと思わないの?」

さやか「その考えもわからないわけじゃないけど……やっぱりあたしは、まどかに隠し事はしたくないよ。あんたには悪いけどね」

ほむら「……」
94 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 19:56:14.82 ID:bi205V3UO
これ以上は無駄だろう。

ほむらの目的がまどかを契約させないことだと知られている以上、説得は難しい。
どう言い繕おうと、その目的ありきの言葉にしか聞こえないだろう。

ほむらとしても、この説得が失敗することは予想していた。

ほむら「……わかったわ。あなたがそこまで言うなら仕方ないわね。ただ、代わりにひとつだけお願いしていいかしら」

さやか「何よ?」

ほむら「まどかを、できるだけ魔法少女には関わらせないでほしいの。たとえば、パトロールに連れていくなんてことは、やめてほしいわね」

まどかを契約させないためでもあったが、何より、まどかを危険に晒したくないという思い故の言葉だった。

しかし、さやかの返事は予想外のものだった。



さやか「……パトロールって?」
95 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 19:58:07.82 ID:bi205V3UO
ほむら「……!」

今更ながら、ほむらはふたりの魔法少女に対する認識が大きく異なっていたことに気づく。

ほむら「……あなた、もう魔女と戦った?」

さやか「まだだよ。昨日契約したばかりだし、病院にいた魔女はあんたらが倒しちゃったんでしょ?」

凄まじい違和感がほむらを襲った。

ほむら(……そうか、この時間軸のさやかは、魔法少女がどんな存在かまだ知らないのね)

それは、魔法少女の本体がソウルジェムであることや、魔法少女がやがて魔女になることといった、キュゥべえが隠しているようなことではない。

もっと、ずっと表面的で、魔法少女が知っておかなければならないこと。

知らずに契約してはならないようなことだ。

ほむら「……」

もちろん、全く知らないということはないだろう。
キュゥべえから、簡単な説明は受けているはずだ。

しかし、言葉でいくら説明されても、それで本質を理解できるはずがない。

昨日、ほむらと杏子が一歩間違えれば死んでいたかもしれないことを、今のさやかは信用するだろうか。
96 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 20:01:21.06 ID:bi205V3UO
ほむら(魔法少女として過ごしていけば、自ずと理解してはいくでしょうけど……)

さやかなら問題ないとは思われる。
これまでの時間軸でも勇敢に魔女と戦っていた彼女なら、魔法少女のそのような一面を知っても後悔することはないはずだ。

だが、そんな少女ばかりというわけでもないだろう。

契約して、魔法少女としての生き方を知った後で後悔しても、もう遅い。
魔法少女という存在を、きちんと理解せずに契約してしまうことは、悲劇とさえ言えるかもしれない。

さやかだってこの時間軸では、他の時間軸に比べれば、魔法少女としての生き方を受け入れるのに時間がかかるだろう。

ほむらの脳裏に、ひとりの魔法少女の姿が浮かぶ。

ほむら(……巴マミ)

彼女のような魔法少女は少ない。
つまり、多くの魔法少女は、そのような悲劇に見舞われている可能性が高い。

まどかとさやかがこれまでそうならなかったのは、紛れもなく、巴マミのおかげだったのだろう。
97 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/22(月) 20:03:39.04 ID:bi205V3UO
ほむら(……魔法少女体験ツアーね。バカバカしいとしか思ってなかったけど、案外、無意味というわけではなかったのかもしれないわね)

さやか「……転校生?」

ほむら「あぁ、ごめんなさい。そうね、魔法少女について、詳しくキュゥべえに聞いておきなさい。パトロールの方法も教えてくれるでしょう」

さやか「うん、ありがとう」

ほむら「巴マミのことは、あなたには話したんだったわね……あれは、決して珍しいケースではないわ。そうならないように、気を付けなさい」

さやか「……わかった。まどかを巻き込まないと、約束するよ」

ほむら「そうしてもらえると助かるわ」

まどかを危険に晒したくないという思いは、共通のものだ。

珍しく、ふたりの意見が一致した瞬間であった。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/23(火) 05:05:18.75 ID:azekC8TqO
さやかちゃんキレキャラ扱いじゃなくてよかった、乙乙
99 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/24(水) 15:15:37.48 ID:YK8fSg1PO
***

さやか(さて……まどかにどう切り出そうかな)

さやかは、自分が契約したことをまどかにどう伝えるべきか、迷っていた。

さやか(別に、悪いことをしたわけじゃないんだけど……)

まさか、抜け駆けしたと責められることはないだろうが、まどかがどう思うか、いまいちわからない。

ほむらの忠告を無視したこともあるし、やはり、軽い気持ちで契約したと思われてしまうだろうか。

もちろん、まどかがそんなことを口にするとは思わないが、内心ではあきれられてしまうかもしれない。

そんなことを考えていると、不意にさやかの目にまどかの姿が映った。
100 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/24(水) 15:27:13.77 ID:YK8fSg1PO
さやか「おはよう、まどか」

いつもの通学路で、さやかはまどかに声をかけた。

まどか「おはよう、さやかちゃん」

どう言い出すべきか、とさやかが悩みながら横に並ぶと、まどかはさやかの顔をじっと見た。

さやか「……?」

さやかが戸惑っていると、まどかが口を開いた。

まどか「さやかちゃん、何かあった? なんか、いつもと違う感じがする」

さやか「!?」

さやかは、自分が明らかな動揺を見せてしまったことを自覚した。
101 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/24(水) 15:29:54.88 ID:YK8fSg1PO
さやか「えっ……そう? どう違うの?」

内心あわてながらまどかに問いかけると、返ってきた答えは斜め上のものだった。

まどか「なんていうか……真面目?」

さやか「失礼な!」

まどか「ごめんごめん」

しばらくふたりで笑い合う。
さやかは、ごちゃごちゃ考えていたことがバカらしくなった。

さやか「……ねぇ、まどか」

まどか「何?」



さやか「あたし、魔法少女になった」
102 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/24(水) 15:31:36.28 ID:YK8fSg1PO
まどか「……」

まどかは特に表情を変えず、一言だけ答えた。

まどか「……そっかぁ」

さやか「ごめんね、相談もせずに急に決めちゃって」

まどか「ううん、なんかそんな気がしてた。さやかちゃんなら、契約しちゃうよね」

さやか「……どういう意味さ」

さやかは、ほんの少しむっとしてまどかの顔を見た。

さやか「あたしが強欲だってこと?」

そんな風に思われていたのだろうか。
いや、自分でも完璧には否定できないけど……

しかしまどかは、きょとんとして言葉を続けた。

まどか「違うよ。だってさやかちゃん、上条くんのために契約したんでしょ?」

さやか「え……」

さやか「助ける手段があるなら、さやかちゃんがいつまでも悩んでるはずないよね」
103 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/24(水) 15:33:51.28 ID:YK8fSg1PO
さやか「まどか……」

胸に込み上げてくるものがあった。
不覚にも、泣きそうになった。

別にまどかは、さやかが契約したことに対し、よかったとも悪かったとも言っていない。
実際、どちらでもないのだろう。

しかしまどかはただ、誰よりもさやかのことを理解してくれているのだ。
だからこそ、余計なことは言わない。

それは、無責任に励まされるより、よほどさやかの心に響いた。

さやか「まどかぁっ!」

まどか「ひゃあっ!」

さやかは、思わずまどかに抱きついた。

さやか「……やっぱりまどかはあたしの親友だよ」

まどか「もう、今更何言ってんのさ」

まどかは、少し照れながら答えた。

まどか「当たり前でしょ」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/26(金) 00:58:38.08 ID:Cfzof1wYO
いろいろ丁寧に進むな。乙
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/26(金) 10:16:31.41 ID:PMAfCNPBO
待ってる
106 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 05:59:01.98 ID:oa2aF0g3O
***

放課後、ほむらはとあるゲームセンターへ向かった。

目的は、佐倉杏子に協力を取り付けることだ。
普段より早いタイミングだが、杏子との接触が早かった以上、早めに話しておくべきだとほむらは判断した。

目当ての人間はすぐに見つかった。

ほむら「こんにちは、佐倉杏子」

杏子「待ち伏せか? いい趣味じゃねーな」

台詞ほど警戒されてはいないようだ。
さやかと比べれば、ほむらの方が杏子好みの魔法少女ということだろうか。

ほむら「話があるの。あなたに協力を要請したい」

杏子「……内容は?」

ほむら「2週間後……いえ、正確にはもう少し後かしら。この街に、ワルプルギスの夜がくるわ」

杏子「なっ……」

さすがの杏子も、完全には動揺を隠し切れなかった。

杏子「……なぜわかる」

ほむら「それは秘密。でも、確かな情報よ」
107 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 06:00:01.18 ID:oa2aF0g3O
杏子「……」

信じさせるのは一苦労かと思ったが、案外あっさり信用したようだ。
こんな嘘を吐く意味のないことに気づいたのだろう。

杏子「ふん……なるほど、共闘しろってか」

ほむら「そういうことよ。どうかしら」

杏子「確かに、あたしとあんたが協力すれば倒せるかもしれねーな。伝説級の魔女ってのも、面白そうだ」

ほむら「……」

杏子「いいぜ、協力してやるよ」

ほむらは内心ほっとする。
とりあえず、第一段階はクリアだ。

ほむら「……ありがとう。詳しいことは、また後日話すわ」
108 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 06:02:37.78 ID:oa2aF0g3O
***

さやかが契約して、数日が過ぎた。
今までに数匹の魔女と戦ったが、幸いにも、それほど強い魔女はいなかった。

その日も、さやかはいつものようにパトロールをしており、魔力を感じて駆けつけたのだった。

魔力の主を見つけ、さやかは軽い違和感を覚える。

さやか「なんかあいつ、今までに見た魔女と違うような……」

QB「あれは使い魔だね。端的に言えば、魔女の手下だ。グリーフシードは持っていない。今はそれほど力を持たないけど、人を何人か襲うことで魔女に成長するよ」

さやか「なるほど……それなら、倒さないわけにはいかないわね」

さやかは、すぐさま攻撃を開始した。
剣で数回切りつけると、使い魔はろくに反撃もせず逃げ出した。
使い魔というだけあって、やはり魔女に比べると強さは劣るようだ。

だからといって、逃がすわけにはいかない。

さやかは足元に複数の剣を展開させ、投げつけることで逃げ道を封じ、そこを更に切りつける。

少しずつ弱っていくのが動きからわかる。
109 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 06:04:22.65 ID:oa2aF0g3O
さやか「よしっ、いける……!」

あと一撃で倒せる。
確信を持ったさやかは、複数の剣を同時に投げつけた。

あの使い魔の動きでは、全てをかわすことはできない。

それで終わるはずだった。

だが、信じられないことが起こった。
投げつけた剣が全て、叩き落とされたのだ。

さやか「えっ!?」

使い魔ではない。そんな力は残っていないはずだった。

意表を突かれたさやかは咄嗟に動くことができず、使い魔はその隙に逃げ出そうとする。

さやか「っ……! 逃がさない!」

あわてて剣を投げつけたが、やはり、全て叩き落とされてしまう。
ならばと、直接追おうとしたところで、介入者に立ち塞がれてしまった。
110 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 06:06:34.38 ID:oa2aF0g3O
さやかは、介入者、佐倉杏子に詰め寄った。

さやか「……あんた、何のつもりよ!」

杏子「お前こそ、どういうつもりだ? あれは使い魔だろうが」

あきれたような口調で言われたが、さやかには意図がつかめない。

さやか「はぁ? 何が言いたいのよ」

杏子「わかんねーのか?」

杏子は、ぎろりとさやかを睨んで、言い放った。

杏子「卵産む前の鶏の首絞めてどうすんだって聞いてんだよ」

さやかの背中に冷たいものが走る。
その言葉の意味するところを、察してしまう。

さやか「……あんた、まさか……」

杏子「魔女になってから殺さないと、グリーフシードを落とさないだろうが。死にたくなかったら、素直にいうことを聞いておきな」

怒りがこみ上げてくる。
こんな奴が魔法少女であることに、激しく憤りを覚える。
111 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 06:09:10.98 ID:oa2aF0g3O
さやか「……本当に救えないわね、あんた」

杏子「てめえは勘違いしてんだよ。魔法少女が魔女と戦うのは正義のためなんかじゃねえ、生きるためだ。使い魔まで倒してたら、自分が苦しくなるだけだぞ」

さやか「だとしても、誰かが殺されるのをわかってて放っておけるわけないでしょ!」

杏子「……ぬる過ぎんだよてめえは。他人のために契約した甘ちゃんらしいし、わかっちゃいたがな」

歯軋りが漏れる。
勝手にこちらの事情を詮索されていることに、苛立ちを隠せない。

杏子「今まで、なんであたしがあんたを見逃していたかわかるか? この町がいい狩り場だからだよ。あんたひとりが増えたところで、あたしの狩れる魔女の数が減ることはないからだ。あの黒髪の奴はほとんど狩ってないみたいだしな」

さやか(黒髪……転校生のことか。でも、ほとんど狩ってないって……?)

杏子「だが、てめえが使い魔も狩るとなれば話は別だ。魔女になるはずだった使い魔を狩り、更にその戦闘で消費した魔力を回復するために、別の魔女を狩る必要も出てくるだろ。それはさすがに見過ごせねーな」

さやか「……本当に自分のことしか考えてないのね。あたしはあんたとは違うのよ」

杏子「……」
112 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 06:11:26.78 ID:oa2aF0g3O
ふと、杏子の目付きが変わった。

まるで誰かの言葉を借りているかのような口調で、杏子はさやかに問いかけた。

杏子「……お前は誰のために魔法少女になったんだ? その男のためか? それとも……」

杏子「……お前自身のためか?」

さやか「……?」

意味がわからなかった。
さやかの願いを知っているのなら、そんなわかりきった質問をするはずがない。

杏子は、舌打ちをしてから言葉を続けた。

杏子「……お前は魔法少女という存在をわかっていない。前にも言っていたが、正義の魔法少女なんてもんはありえないんだよ」

さやか「あたしの勝手でしょ。どうせあんたみたいな奴にはわかんないわよ」

杏子はため息をついた後、囁くように言葉を漏らした。



杏子「うぜえ……殺されなきゃわかんねーか?」
113 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 06:14:45.98 ID:oa2aF0g3O
さやか「……ッ!?」

瞬間、凄まじい殺気を感じた。

気づけば、さやかは弾かれたように杏子に斬りかかっていた。

予測していたかのように待ち構えられているが、今更止まる気はない。

さやかは、ほぼ全力で剣を振り下ろした。

しかし、槍で容易く受け止められてしまう。

さやか「く……っ!」

杏子「どうした! そんなもんかよ!?」

激しい反撃を受けたが、危ないところでなんとか防御する。

……強い。

今まで戦ってきた魔女とは桁が違う。
今の攻防だけで、実力差は十分にわかった。

だが、さやかに退く気はなかった。

さやか(……こいつにだけは、負けるわけにはいかない)

──絶対に。
114 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 19:41:12.92 ID:oa2aF0g3O
***

ほむら「……」

ほむらは、物陰に隠れてふたりの戦闘を眺めていた。

大抵の時間軸でそうなのだが、やはりこのふたりはいがみ合う運命にあるらしい。

ほむらは、改めてふたりを観察した。

さやかは、数日前に魔法少女になったにしては、なかなかいい動きをしている。

彼女は、決して才能に恵まれていないわけではない。
経験を積めば、かなりの強さを身に付けることが予想される。

だが、さすがに今の段階では、さやかに勝ち目はない。

対する杏子の強さは、才能よりも経験によるところが大きい。
巴マミの指導を受け、その後ひとりで生き抜いてきた彼女の強さは、生半可なものではない。
対魔女の戦闘はもちろん、対魔法少女の戦闘経験が豊富なことも、今回は強みになっている。

杏子の猛攻に、さやかは必死で食らいついているが、もはや時間の問題だ。
このまま戦闘が続けば、勝敗は火を見るより明らかだ。
115 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 19:42:41.32 ID:oa2aF0g3O
ほむら(問題は、ここで私がどう動くべきかなのだけど……)

ほむらはわずかに逡巡したが、結論はすぐに出た。

ここは、関与しないのが得策だろう。

もしこの場にまどかがいれば、契約を防ぐために、ほむらが戦闘に割り込まざるを得なくなっていたわけだが……

そうでない以上、このふたりの戦闘を止める理由は、ほむらには存在しない。

また、戦闘に割り込めば、杏子とさやか、ふたりのほむらに対する心象も、いいものにはならないだろう。

万が一さやかがこの戦闘で命を落とせば、まどかがさやかのために契約する可能性もなくはないが、さすがに杏子もさやかを殺しまですることはないだろう。

ほむら(……問題はない。ここは静観を決め込みましょう)
116 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 19:46:37.41 ID:oa2aF0g3O
だが次の瞬間、ほむらは自分の見通しの甘さを思い知らされた。


まどか「さやかちゃん!?」


ほむら「!?」

今だけは、最も聞きたくなかった少女の声が聞こえた。

ぎょっとして声のした方向を探ると、やはりそこには、まどかが息を切らして立っていた。

偶然通りかかった?
そんなはずはない。
これは作為的なものだ。
それが誰の仕業かなんて、決まっている。

ほむらは物陰から、まどかの足元にいるそいつを睨み付けた。

ほむら(インキュ……ベーター……ッ!)

殺意にも似た感情が迸った。

あいつがこの場面にまどかを呼んだのだとしたら、その狙いはひとつしかない。

この状況を盾にして、まどかに契約を迫るつもりだろう。


まどか「本当に、わたしが契約すれば、ふたりを止められるの……?」


キュゥべえがまどかに何を伝えているのかはわからないが、まどかの台詞で大体の想像はつく。

放っておくわけにはいかない。
117 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 19:49:35.24 ID:oa2aF0g3O
ふたりの戦闘に、明確に優劣が見られ始めた。

さやかは、反撃を仕掛けることすらできなくなってきている。

杏子が、槍を本来の形状、多節棍に変化させた。

意表を突かれたさやかは、槍を巻き付けられ、勢いよく壁に叩き付けられる。

まどか「さやかちゃん!」

まどかが悲鳴を上げる。

ダメだ。
もう一刻の猶予もない。



まどか「わたしが、魔法少女になれば……」

ほむら「それには及ばないわ」



ほむらは、能力を発動させた。
118 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 19:52:29.45 ID:oa2aF0g3O
まずは、派手な登場をして皆の注目を集める。

まどか「ほむらちゃん!?」

さやか「転校生……?」

杏子「お前……!」

反応を確認し、即座に能力を再度発動。
さやかの背後に移動する。
能力を解除すると同時に、彼女の首筋を手刀で強打し、気絶させる。

さやか「ッ……」

まどか「さやかちゃん!」

倒れそうになるさやかを、まどかが駆け寄って受け止めた。

キュゥべえに動かされてしまった形になるが、状況的にはこうするしかなかった。
むしろ、まどかの契約の機会をひとつ潰せたことを喜ぶべきか──

……残念ながら、ことはそれほど単純ではない。
119 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 19:54:07.06 ID:oa2aF0g3O
杏子「……おい、どういうつもりだ」

ほむら「……」

何か答えたいが、まさか本当の理由を言うわけにもいかない。

杏子「一体何がしたいんだ。お前の目的はなんだ?」

ほむら「……素人相手に何を遊んでいるのよ。魔法少女同士で争うこともないでしょう?」

杏子「答える気はないってか」

ほむらの建前は瞬時に看破された。

どうも、そんなことを考える性格だとは思われていないようだ。

杏子は周囲を見渡し、まどかを目に留める。

杏子「あいつの契約を止めるためか? 確かに、それはあたしとしても望ましくねーな」

ほむら「……そんなところよ」

ほむらは曖昧な返事で誤魔化した。

できるだけ、自分の目的を知られたくはない。
それが弱みになりかねないからだ。

しかし、今はまだ問題ないはずだ。

杏子は恐らく、ほむらが『これ以上魔法少女を増やしたくないから契約を阻止した』と思っただろう。
『まどかの契約だからこそ阻止した』とは思っていないはずだ。
120 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/27(土) 19:57:41.85 ID:oa2aF0g3O
まどかには、ほむらと杏子の会話は聞こえていなかったようだ。
今も、さやかに呼び掛け続けている。

ほむらがまどかに近寄ると、それに気づいたまどかが顔を上げた。

まどか「……ほむらちゃん?」

……忠告をしないわけにはいかない。

ほむら「あなたはどこまで愚かなの。私の忠告を忘れたの?」

まどかは、口をきつく結んでこちらを見た。

わかっている。
まどかは優しすぎる。
軽率に契約してはならないとわかってはいても、目の前で傷つけ合う人間がいれば黙って見てはいられないだろう。

どうせ回復できるから問題ないというのは、魔法少女の理屈だ。
本来なら、まどかの考え方は人間として正しいのだ。

ほむら(……でも、私にも私の都合がある)

まどかを契約させるわけにはいかない。

とはいえ、今ここでこれ以上できることはない。

さやかは回復魔法に長けている魔法少女だ。
じきに目を覚ます。
その前にこの場から立ち去っておいた方がいいだろう。

ほむらは能力を発動させ、その場を後にした。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/27(土) 20:35:07.05 ID:IUM51zdXO
ここら辺はマミがいなくても原作通りだね
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/27(土) 22:01:22.49 ID:cmVvhvB+O
>>121
魔法少女としての在り方の思想が全く正反対なのに、どちらの言い分も間違っていないっていう矛盾の同居が成立しちゃっているから、こればっかりは改変のしようも無いんじゃね?
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/27(土) 22:12:43.48 ID:Cq+r4rbyo
原作でも早々に退場したしな
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 03:35:56.52 ID:e3+bmI0u0
ドラマCDでマミと杏子の関係が明らかになって態度は変わったけど……発表される前は険悪だと思われていたな。2人
125 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/28(日) 13:29:22.50 ID:UaBB63nWO
***

さやかが目を覚ましたとき、既に杏子とほむらの姿はなかった。
さやかは若干の混乱を伴いつつも、まどかの存在に気づく。

さやか「まどか……? あんた、なんでここに……」

まどか「キュゥべえに、ここまで連れてきてもらったの。さやかちゃんが危ないって聞いて、わたし、びっくりして……」

さやか「……まさか、契約したの?」

まどか「ううん、その前に、ほむらちゃんが戦いを止めてくれたの。ちょっと乱暴なやり方ではあったけど……」

さやか「……」

さやかは、自分が気絶した理由を察した。

争いを止めたという一面だけを見るなら、むしろほむらに感謝すべきかもしれないが、そう簡単なものではない。

そもそも、さやかは戦闘を止めてほしいとは思っていなかった。
恐らく、杏子も同様だろう。

子供の喧嘩ではない。
互いに譲れないものがあったからこそ、戦闘にまで……殺し合いにまで、発展してしまったのだ。
そういう意味では、起こるべくして起こった戦闘だった。

それを、横から戦闘だけ止められたところで、何の解決にもならない。
これでは、一時的に戦闘が中断しただけで、根本的な問題は何も解消されていない。

それに、いくらなんでも方法が酷すぎる。
ほむらの目的がどうであれ、やはり気持ちのいいものではない。
126 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/28(日) 13:31:25.50 ID:UaBB63nWO
さやか(目的……そうだ、あいつの目的は一体何? あたしと佐倉杏子の戦闘を止めて、あいつに何の得があるっていうの?)

さやかは、先程のまどかの言葉を思い出した。



さやか『……まさか、契約したの?』

まどか『ううん、その前に、ほむらちゃんが戦いを止めてくれたの。ちょっと乱暴なやり方ではあったけど……』



さやか「……」

まどかの契約を防ぐための行動だったのだろうか。
前にキュゥべえが言っていたように、グリーフシードの分け前が減るのを恐れたのか。

しかし杏子が言うに、転校生はほとんど魔女を狩っていないらしい。
だとすると、グリーフシード目当てというのはしっくりこない。

他に、魔法少女が増えることで発生する不都合があるのだろうか。

あるいは……

さやか(……もしかして、まどかだからこそ、契約を阻止した……?)

以前ほむらは、まどかを魔法少女の活動に関わらせないように頼んできた。

さやかとしては当然、それはこれ以上魔法少女を増やさないためだとばかり思っていたが、そうではなかったとしたら……
127 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/28(日) 13:34:58.00 ID:UaBB63nWO
ふとさやかがまどかの顔を見ると、まどかは気まずそうに目を伏せた。
さやかが考え込んでいたことで、心配を募らせたのかもしれない。

さやかも色々と思うところはあったが、まどかの手前、感情を抑える。
立ち上がり、まどかを安心させるために笑みを浮かべた。

さやか「ありがとう。ごめんね、心配かけて」

まどか「……いいよ、家まで送るね」

さやか「本当にありがとう」

魔法少女同士で争うのは良くないとか、話し合いで解決できないのかなんてことを言われるかと思ったが、まどかは何も言わなかった。

杏子とは、昨日今日会ったばかりというわけではない。
さやかが杏子と争う理由も、それが話し合いで解決できるようなものでないことも、まどかはおおよそわかっているのだろう。

パトロールについていきたいなどと言われたらどうしようかと思っていたが、そんなことを言われることもなかった。

ふたりは、さやかの家の前に着くまで無言だった。

まどか「じゃあね、また明日」

さやか「うん、またね」

さやかはまどかと別れ、自分の部屋に入り、ベッドに倒れ込んだ。
128 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/28(日) 13:38:22.87 ID:UaBB63nWO
さやか(……勝てなかった)

押さえ付けていた感情が噴き出してくる。

勝敗はうやむやになったが、実力差は明白だった。
あのまま戦闘が続いていれば、負けていたのは、恐らく……

さやか「……ッ」

決して負けてはいけなかった。
必ず勝って、あいつに、あんな生き方を改めさせなければならなかったのに。

自分の無力さに腹が立つ。
正義の魔法少女なんて、よく言えたものだ。

さやか「なんで……あんな奴に……っ!」

さやかのソウルジェムに、穢れが溜まっていく。
さやか自身そのことに気づくが、今は浄化する気分にもならなかった。
129 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/28(日) 13:40:05.11 ID:UaBB63nWO
そこに、とある来訪者が現れた。

QB「随分荒れているね」

さやか「……キュゥべえか。何の用?」

QB「僕に聞きたいことがあるんじゃないかと思ってね」

さやか「……」

さやかは多少冷静になり、今の自分に必要なものを考えてみた。

杏子に負けた理由ならわかっている。
魔力を惜しみ無く使ってこられたこともその一因ではあるが、それ以上に、純粋に実力の差が大きすぎた。

一朝一夕で埋まるようなものではない。
しかし、悠長に自分の実力が上がるのを待っていては意味がない。

時間が経てば、それだけ犠牲者も増えてしまう。
ならば、どうすべきか。

さやかは、キュゥべえを正面から見据えて、自分の望みを口にした。

さやか「あいつに勝てる方法を教えてほしい」
130 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/28(日) 13:42:50.87 ID:UaBB63nWO
***

次の日、ほむらはまどかに呼び出された。

まどか「ごめんね、急に呼んじゃって」

ほむら「構わないわ。用件は何かしら」

まどか「……さやかちゃんのことなんだけど」

……やはり、か。

ほむら「あら、彼女がどうかしたの?」

わざととぼけたような言い方をしたら、軽く睨まれてしまった。

まどかのこのあとの言葉は想像がつく。
恐らく、さやかを助けてほしいと頼んでくるのだろう。

しかし、さやかが契約した時点で、彼女自身が救われることはまずない。
また、さやかの味方になることは、杏子を敵に回すことにもなる。
ワルプルギスの夜を倒すためには、それは望ましくない。

まどかに対し、頼みをばっさりと断りたくないという思いもあり、あえて今のような言い方をしたのだが……

まどか「さやかちゃんを、助けてあげてくれないかな」

……他人のために動くまどかが、その程度のことでくじけるわけがなかった。
131 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/28(日) 13:45:39.28 ID:UaBB63nWO
ほむら「……助ける、というと?」

まどか「魔法少女に関する面で、さやかちゃんを手助けしてあげてほしいの。本当なら、親友のわたしが支えてあげたいんだけど、わたしは魔法少女じゃないから……」

ほむら「そうね……」

ほむらの中では既に答えは出ているのだが、それをそのまま伝えても納得するはずがない。

……ここは言葉を選びましょうか。

ほむら「できるだけのことはするつもりよ。私も、美樹さやかを見捨てたくはない。昨日のような争いが起きるのは、私としても不本意だわ」

まどか「……!」

まどかの表情が、ぱっと明るくなる。

後ろめたさを感じないと言えば嘘になるが、やるべきことを見失うわけにはいかない。

ほむら「でも、あまり期待はしないで。少なくとも、美樹さやかと佐倉杏子の争いは、しばらくは続くことになるでしょう」

まどか「……使い魔のこと、だよね」

まどかの言葉に、ほむらはわずかに目を細めた。

まどかが魔法少女に関わることは、歓迎できることではない。

ほむら「……美樹さやかに聞いたの?」

まどか「ううん、キュゥべえに教えてもらったの」

ほむら「……そう」

どうやら、さやかは約束を守ってくれているようだ。
しかしそれなら、昨日のさやかと杏子の戦闘は、まどかにとっては非常に衝撃的だったはずだ。

思っていた以上に危なかったのかもしれない。
契約を止めることができて、本当によかった。
132 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/28(日) 13:49:29.74 ID:UaBB63nWO
ほむら(『魔法少女に関する面で、さやかちゃんを手助けしてあげてほしいの』……か)

ほむら「わかってくれているようで何よりよ。あなたは魔法少女に関わるべきじゃない。それ以外の面で、美樹さやかを支えてあげるといいわ」

まどか「……」

喜んで頷くかと思ったが、まどかの表情は固かった。

……私の言葉に引っ掛かるところでもあったのだろうか。

まどか「……ほむらちゃんは昨日、なんでさやかちゃんを助けてくれたの?」

ほむら「!」

不意に、まどかがほむらに問いかけた。

ほむら(そこか……『あなたは魔法少女に関わるべきじゃない』なんて、余計な念押しだったわね)

ほむら「言ったでしょう? 私だって、美樹さやかを見捨てたいわけじゃない」
133 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/28(日) 13:51:10.93 ID:UaBB63nWO
まどか「じゃあ、なんであのタイミングだったの?」

ほむら「……」

この質問をするということは……

気づかれてしまっただろうか。
さすがに、あのタイミングは少し露骨過ぎたかもしれない。

ほむら「……偶然よ。たまたまあのときに通りかかっただけ。他意はないわ」

信じてもらえないことは承知で、とりあえず弁明はしておく。

まどかは少し間を置き、言いにくそうにしながら口を開いた。

まどか「もしほむらちゃんが、わたしの契約を防ぐためにふたりの争いを止めたのなら……いや、そもそもそのためにさやかちゃんを助けてくれるって言ってくれてるのなら……」

ほむら「……」

まどか「……ううん、ごめん。なんでもないよ」

言葉を飲み込み、首を振るまどか。
しかし、ほむらにはまどかが言おうとしたことは伝わっていた。
134 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/28(日) 13:53:54.93 ID:UaBB63nWO
ほむら(そうよね。あなたはそんなことを言える人ではないわ)

恐らくまどかは、こう言おうとしたのだ。

自分の契約を防ぎたいのなら、さやかを守ってほしいと。
そうしなければ自分は契約してしまうと、そう言おうとしたのだろう。

しかし、そんな脅迫めいたことを、まどかが言えるはずがない。
ほむらもそのことはわかっていて、それを前提に行動している。

だが……

ここはむしろ、こう言っておいた方がいいのかもしれない。

ほむら「美樹さやかについては、私に任せてもらえないかしら。昨日のようなことがあれば、また私がなんとかするわ」

まどか「……それは、わたしに契約してほしくないから?」

ほむら「そういう理由も、ないと言えば嘘になるわね。でも、美樹さやかを心配してるのは本当よ」

まどか「……」
135 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/28(日) 13:57:37.73 ID:UaBB63nWO
まどかが不安そうな顔を見せた。

当然だ。
ほむらがさやかを助ける理由が純粋に心配からくるものでないのなら、状況が変わればさやかに危険が生じる恐れがある。

だから、ここはこう言っておく。

ほむら「だから、あなたがさやかのために魔法少女になる必要はないわ」

まどか「……!」

これでいい。
こう言っておけば、まどかがさやかのために衝動的に契約することはなくなる。
さやかの窮地を目にしても、とりあえずはほむらを頼るようになるだろう。

また、そうせざるを得ない、とも言える。
まどかが契約することは、同時にほむらの助けを失う可能性に繋がる、と暗に示したのだ。

これが、ほむらがさやかを助ける理由がまどかの契約にあることを、完全には否定しなかった理由だった。

まどか「……うん、わかった」

まどかは複雑そうな表情を見せた。
逆に脅迫めいたことを言われてしまったのだから、当然かもしれない。

ほむら「あまり難しく考えないでいいわ。美樹さやかは、魔法少女としてうまくやっている方よ。しばらくすれば、私の助けなんて必要としなくなるでしょう」

これは嘘ではない。
『しばらく』というのが問題ではあるが。

まどか「……ありがとう。少しだけ安心した」

ほむら「それはよかったわ」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 14:58:31.65 ID:9LLu0LNGo
こうして地の文や心理描写で丁寧に補完して行くタイプの二次創作を読む度に
原作ではお互い何も話さず、話そうにも相手の地雷を踏み過ぎたんだなと思う
あと、無駄に煽り文句が多いのもねww

ほむらは数え切れないほどのループに失敗して疲れきっていたし
杏子は親に掌返しされるわ師匠とも決別するわで荒みきっていたし
さやかは憧れの人が惨殺されたのに始まり踏んだり蹴ったりだったし
そもそも中学生に対応できるような事じゃないから責められんのだけど
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 16:01:59.24 ID:qkCfx5tfO
さやかが魔法少女になった時点で、思想の相違による杏子との確執は不可避で積み状態になっちゃってるからねぇ〜。

そんでもってそんな2人のやってることって、小火を消すために原子炉の冷却水を使用し続けて、使用した冷却水分の容量を補充しないために炉心の爆発を誘発するか、
小火が大火事になるまで放置してから原子炉の冷却水を使用して消化して、使用した冷却水分の容量を実はガソリンで補充して気づいたときには炉心溶融寸前の手遅れ状態になるかの違いでしかないっていうのがまた性質が悪い。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 18:29:34.52 ID:x7k7qFzAO
思想の違いというか、背景の違いというか

一般人を見殺しにしてでもGS集めを優先しろってのは杏子が壮絶な半生を過ごした上でたどり着いた最適解なんであって
さやかに限らず、平和な日本の学生なら丁寧に説明されてもいきなりは納得できない子の方がずっと多いであろう意見
あんほむみたいに実際に体験して全ては救えないと知るか、俺ら視聴者みたいに神の視点で眺めて理解するしかない

まして使い魔を狩り続けても魔女化と無縁だったマミさんって特殊例を最初に見た後だったからね
時間軸によってはあんまどさや全員育ててメガほむの面倒も見てたんだぜ、どんだけだよあの人
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 20:02:54.49 ID:a3xNzvv90
ほむらちゃん、本気でさやかちゃんの契約を止めたかったら、
目の前で拳銃で自分の眉間をぶち抜くぐらいしてもよかったかもね
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 21:50:35.76 ID:tOQPTx1e0
こんなにも丁寧に書かれているまどマギSSは久しぶりだ。
何かこう懐かしくて嬉しくなる。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 02:01:21.27 ID:LA5RTEgvo
>>121
原作でも既にいないし
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 07:17:49.78 ID:FSrsFrBCo
>>139
ほむら「魔法少女になるというのはこういうことy」;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン
再生の得意なさやかならともかく、ほむらはこれやったら魔翌力切れで魔女化一直線な気がするが……。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 08:19:33.47 ID:QDWKMbGAO
設定的には時間停止にリソースのほとんどを持って行かれてるんだっけ、ほむらは
でも11話のタンクローリー特攻とか対艦ミサイルぶっぱ(&隠蔽)を見ていると
その設定死んだも同然じゃねって気がしちゃう……再生一度くらいなら余裕では
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 13:06:35.40 ID:P9wwb5WjO
たしかにこの辺からは原作でもマミさんいないわけだ。どうなりますかね…乙
145 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 16:55:07.34 ID:anBxTlYZO
***

数日後、ほむらは杏子を家に呼んだ。
ワルプルギスの夜の説明をするためだ。

あらかじめ用意した資料も使い、ワルプルギスの夜の戦闘能力、特性、従えている使い魔、予想される攻撃方法など、ほむらがこれまでに知り得た情報を杏子に伝えていく。

ほむら「……とりあえず、こんなところかしら」

説明が一段落したところで、杏子は感心したように息を吐いた。

杏子「すげえな……よくもまぁ、これだけ細かく調べたもんだ。つーか、一体どこから情報を集めたんだ?」

ほむら「……」

ワルプルギスの夜は、伝説になるほど有名ではあるが、その実態まではあまり知られていない。
実際に戦った魔法少女が少な過ぎるのだ。

大抵の魔法少女は勝てない魔女には挑まないし、また、戦った魔法少女の多くはその命を落としている。

恐らくは……いや、間違いなく、ほむら以上にワルプルギスの夜に詳しい魔法少女は存在しないのだろう。
146 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 16:57:45.46 ID:anBxTlYZO
ほむら「ワルプルギスの夜がこの町に来るのは××日。ここは間違いないわ。そして、これがその出現範囲予測」

ほむらの言葉に、さすがに杏子も訝しむような視線を向けた。

杏子「……本当に、どこからの情報だ? ワルプルギスの夜がこの町に来たことはないはずだろ」

ほむら「企業秘密。でも、信頼できる情報よ」

杏子「……あっそ」

ここで私が嘘を吐く意味はない。
特に根拠を示さなくても信用してもらえるはずだ。

あとは……

ほむら「本当なら、あなたとの連携の練習もしておきたいのだけど、それは直前でいいわ。あなたも、むやみに自分の手の内を晒したくはないでしょう?」

杏子「それはそうだが……結局同じことじゃねーの? どうせワルプルギスの夜と戦う前には能力を教え合うんだろ?」

ほむら「……」

ワルプルギスの夜が来るまでに、何があるかわからない。
ほむらとしては、ぎりぎりまで自分の能力を明かすことは避けたかった。
147 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 16:59:42.58 ID:anBxTlYZO
ほむら「……ワルプルギスの夜の規模の大きさは説明した通りよ。連携とは言っても、実際には各々で戦うことになるでしょう。直前で十分よ」

これは嘘だ。
ほむらの能力は、連携することでその真価を発揮する。
実際にはふたりの連携を軸に据えて戦うことになるだろう。

ただし、ほむらは既に杏子の戦闘能力を把握しているので、どのように連携を行うかの考察は今の時点で可能であり、更に言えば、その考察はこれまでの時間軸でほとんど終わっている。

この時間軸の杏子の能力がこれまでと大きく異なっていれば再考の必要もあったが、これまでの彼女の戦闘を見る限り、そのまま用いて問題ないだろう。

前日にそれを杏子に伝えれば、とりあえず問題はない。
148 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 17:01:09.17 ID:anBxTlYZO
杏子「まぁお前がそう言うんなら、それでいいか。で、さやかはどうすんだ?」

ほむら「……どう、とは?」

杏子「あいつには、ワルプルギスの夜が来ることを教えないのかよ?」

ほむら「……」

彼女からすれば、当然の疑問ではある、が……

ほむらは、少し言葉を選んだ。

ほむら「……あなたが彼女と仲違いしてなければ、協力の要請も考えるのだけど」

杏子「あぁ、あたしとあいつを比べた上で、あたしを選んだってことか? 別に大丈夫だろ。共通の敵がいれば、あいつだってあたしたちに協力せざるを得ないはずだ」

ほむら「それはそうなのだけど、ね」

杏子「なんか引っ掛かるのか? 相手は伝説級の魔女だ。戦力はあるに越したことねーだろ」

ほむら「……」
149 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 17:03:50.42 ID:anBxTlYZO
今回の時間軸では、ほむらは始めから杏子とふたりでワルプルギスの夜に挑む状況を作ることを目標としていた。

理由として、まず、さやかの戦闘スタイルはほむらと共闘するには相性が悪いのだ。
基本的に近距離で戦闘を行う彼女は、爆弾を使用するほむらとは連携が取りづらい。

また、3人という人数も不安要素のひとつだ。
ほむらの能力を使う際、手を繋ぐことでその人間の時間を止めずにいることができるが、機動力を考えれば同時にふたりというのは難しい。

つまり、ほむらを含め3人以上で戦うならば、どちらかの目の前で突然爆発が起こる、というようなことが必ず起こり得る。

巴マミのようなベテランの魔法少女ならそのような事態も経験でカバーできるのだろうが、さやかにはさすがに荷が重い。

そして、もうひとつ危惧していることがある。

今のふたりの関係ならまずないとは思うが、杏子が、戦闘中にさやかを庇って死にやしないかということだ。
そんなことになったら目も当てられない。

要するに、さやかが加わることは戦力という面ではプラスだが、同時に不確定要素も強くしてしまうのだ。
150 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 17:06:44.83 ID:anBxTlYZO
ほむら「……美樹さやかについては、少し考えさせて。協力を頼むときは、私から直接話をするわ」

杏子「ふーん、まぁわかったよ。好きにしな」

ほむら「いずれにせよ、彼女との関係が険悪化することは望ましくないわ。必要以上に彼女と争うことはやめてほしいわね」

杏子「……」

どうせ言っても無駄か、とほむらがため息をついていると、不意に杏子が呟いた。

杏子「……どうもしっくりこねぇな」

ほむら「え?」

杏子は、ほむらを正面から見据え、問いかけた。

杏子「単刀直入に聞こうか。お前の目的はなんだ?」

予想外の質問に、ほむらはわずかにたじろぐ。

ほむら「だから、ワルプルギスの夜を倒すことが……」

杏子「それは目的ではなく手段だろ。なぜ、ワルプルギスの夜を倒そうとする?」

ほむら「……そんなに不思議かしら。魔法少女が魔女と戦うのは当然でしょう」

杏子「まぁな。だが、ワルプルギスの夜に挑もうとするのは普通じゃない。大抵の魔法少女は逃げ出すぜ。あたしだって、ひとりなら倒そうだなんて思わなかったよ」

ほむら「……」
151 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 17:14:11.97 ID:anBxTlYZO
杏子「あたしには狩り場を守るって理由もあるが、お前はそうじゃない。この町ではほとんど魔女を狩ってないみたいだしな。かと言って戦闘狂ってタイプでもねぇだろ」

杏子「ワルプルギスの夜に何か因縁でもあるのか……あるいは」

杏子「この町にこだわる理由でもあんのか?」

ほむら「……」

この町にこだわる理由。

それは、ほむらにとって最も大切な人がこの町にいるから。
ほむらがワルプルギスの夜を倒さなければ、その少女は我が身を犠牲にしてでもこの町を守ろうとしてしまうから。

……そんなことを、わざわざ説明してやるつもりはない。

ほむら「そんなものないわ。ただの気まぐれよ」

杏子「……ま、いいけどさ」

恐らく杏子は、ほむらが何か隠し事をしていることには気づいたのだろう。
だからこそほむらは、明確に『話したくない』という意思表示をしたのだ。

ほむら「話は以上よ。ワルプルギスの夜が来る前日に、またここに呼ぶわ」

杏子「わかったよ」

これでいい。
あとは、何も起こらないことを祈るだけだ。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/02(水) 18:01:58.09 ID:0l7h+E7l0
ここから何が起こるかなぁ……
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/02(水) 20:46:45.61 ID:KFRT/DRjP


この後は流れ的に、怒涛のさやかちゃんラッシュですね・・・
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/03(木) 11:52:19.01 ID:eHfLDqYfO
乙乙
155 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:32:19.47 ID:sBYU6ntzO
***

その魔女は、決して弱いわけではなかった。
魔法少女との戦闘経験も豊富で、知能も高く、杏子でさえ単身で挑めば苦戦していたかもしれない。

……そんな魔女が、困惑していた。

さやか「……」

その魔法少女は何かがおかしかった。

もう十分にダメージは与えたはずだった。
普通なら、実力の不足を認識して逃げ出していただろうが、その気配もない。

そもそも、どれだけ攻撃しても、全くと言っていいほど怯まないのだ。

今まで戦った中に、こんな魔法少女はいなかった。

大抵の魔法少女はとどめを刺される前に逃げ出していたし、逃げずに立ち向かった魔法少女も、その実力差を覆すことはできずにいた。

だが、この魔法少女は、そのどちらにも当てはまらないかもしれない。
実力的にはその魔女には及ばないはずなのだが、どうしても嫌な予感が消えない。
156 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:35:10.56 ID:sBYU6ntzO
何度終わりを確信して攻撃したか、もうわからない。

魔女(……きりがない。次の攻撃で牽制して、その隙に逃げるべきか)

さやか「」ダッ

魔法少女が攻撃を仕掛けてきた。

剣を振り上げ向かってきたが、魔女は的確に反撃した。

……いや、その反撃はあまりにも的確過ぎたのかもしれない。

さやか「……」

魔女は終わりを確信した。
確信せざるを得なかった。

魔女(……杞憂だったか。わざわざ逃げる算段を立てる必要もなかったか──)

一瞬の弛緩。

それが、その魔女の敗因だった。
157 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:37:35.40 ID:sBYU6ntzO
***

杏子「……さーて、もう一匹くらい狩っとくかな」

その日も杏子は、危なげなく魔女を倒したところだった。

グリーフシードの予備はまだあったが、せっかくなのでもう少し狩っておこうかと思い、杏子は街を歩き始めた。

しばらくすると、魔力の反応があった。
しかし、杏子がその地点に近づくと、何者かが戦闘を行っているような音が聞こえてきた。

杏子(……先客か。この音の感じからすると、さやかか?)

杏子は、物陰から様子をうかがった。

わざわざ邪魔するつもりはなかった。
この前さやかにも直接言ったが、この町で魔女を狩ることを許さないわけではない。

単に、少しは強くなったか見てやるか、くらいの気持ちだった。

ところが──

杏子(あいつ、また性懲りもなく……!)

さやかの戦闘相手は、魔女ではなく使い魔だった。

杏子「ったく……!」

杏子も、前回の戦闘くらいでさやかが素直に従うようになるとは思っていなかったので、案外冷静ではあった。
158 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:46:23.55 ID:sBYU6ntzO
杏子「おい、何してんだてめえ!」

ズバアッ

杏子「!」

杏子が声を掛けると、さやかは即座に使い魔を切り捨てた。

さやか「……きたわね」

さやかが杏子に向き直る。
その行動は、杏子を誘い出すために使い魔を利用したとしか思えなかった。

杏子「……使い魔は狩るなって、ついこないだ言ったばかりだよな? 今度こそ殺されたいか?」

さやか「勝手にすれば? あんたの言うことなんて、聞くわけないでしょう」

杏子「あれだけ言ったのに、まだわかんねーのか? いい加減、正義の魔法少女だなんて戯れ言をほざくのはやめておきな」

さやか「……」

さやかは、異様に落ち着いていた。
前回杏子が戦った相手と同一人物には見えなかった。
159 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:48:24.38 ID:sBYU6ntzO
さやか「……今日は、ずいぶんおとなしいのね。文句があるなら、直接かかってきたらいいじゃない」

杏子「……?」

さやかの様子がおかしい。

どう見ても、戦闘を誘ってきている。
だが、前回あれだけやられておいて、何の考えもなしに喧嘩を売ってくるとも思えない。

杏子(まさか、この数日でそんなに変わったってのか?……面白いじゃねーか)

杏子はにやりと笑って、槍を構えた。

杏子「わかった、お望み通りズタボロにしてやるよ」

さやか「……前回のようにはいかないわよ」

杏子「期待してるぜ」

杏子は、さやかに襲いかかった。
160 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:50:49.82 ID:sBYU6ntzO
激しく、剣と槍がぶつかり合う。

さやか「……ッ」

杏子「……」

とりあえず全力は出さず、杏子はさやかの様子を観察した。

前回に比べれば、確かに動きは良くなっている。
この数日で、かなり戦闘を重ねたのだろう。

だが……

杏子(……舐めてんのか? この程度で、あたしに勝てるとでも思ったのかよ)

実力差は覆らない。

もちろん杏子も、さやかの実力が杏子に及んでいると期待していたわけではない。
しかし、さやかから戦闘に誘ってきたのだから、何かしらの策はあるのだと思っていた。

しかし、それすら見られない。

やはり、素人がたった数日で杏子に勝とうというのが、そもそもの間違いなのだ。

杏子は、軽くさやかに失望した。
161 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:53:23.78 ID:sBYU6ntzO
杏子(話にならねーな。もう終わらせるか)

槍を多節棍に変化させると、さやかはわずかに動揺した。
前回、壁に叩きつけられたことが印象に残っているのだろう。

だからこそ、そこを警戒する。
そして、それこそが杏子の狙いでもあった。

一瞬にして槍を繋げ直し、横凪ぎに振るう。

予想外の攻撃にさやかは対応できず、激しく吹き飛ばされた。

杏子「……もういいだろ。あたしに挑むんなら、あと数ヵ月は経験を積んでからにしな」

杏子は、倒れ込むさやかに背を向けて言い放った。

これで使い魔を倒さなくなるとも思えないが、とりあえず実力差は思い知ったはずだ。
また勝負を仕掛けてくるにしても、しばらくは先のことになるだろう。

杏子は、その場を立ち去ろうとした。

しかし──


さやか「待ちなさいよ。何勝手に終わらせてんの?」
162 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:56:01.47 ID:sBYU6ntzO
杏子「!」

杏子が振り返ると、何事もなかったかのようにさやかが立っていた。

杏子(……浅かったか? いや、手応えは十分だった。それにしては回復が早過ぎる。待てよ、そういえば……)

以前キュゥべえが言っていたことを思い出す。
さやかは、他人の怪我を治すという願いで魔法少女になったと言っていた。

そして、魔法少女の能力は契約の願いによって決まる。

杏子(なるほど、回復魔法を得意としてるってところか。だが……)

結局は同じことだ。
むしろ攻撃に特化した能力であれば一矢を報いることもできたかもしれないが、回復しているだけではどうしようもない。
苦しむ時間が長引くだけだ。

杏子「これ以上続けても無駄だ。本気で勝てると思ってんのか?」

さやか「もちろん。無駄かどうかなんて、あんたが決めることじゃないわ」

杏子「……確かにな」

そう言われては仕方がない。

ふたりの魔法少女は、戦闘を再開した。
163 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 23:00:43.76 ID:sBYU6ntzO
しかし、やはり戦局は変わらない。

杏子はさやかを攻め立てながら、降参を促す。

杏子「いい加減にしろ。 お前がどれだけあたしに勝ちたいかはよくわかったが、今はどうしようもねーだろ。ここは退いとけよ!」

さやか「……!」

これまでは半ば無表情だったさやかの表情に、変化が見られた。

さやか「黙れ、あんたなんかにはわかんないわよ!」

杏子「……なんだと?」

さやか「せっかく魔法少女になったのに、その力をそんな風にしか使えないなんて……どうせあんたなんて、自分のためだけに魔法少女になったんでしょ!?」

さやかの言葉が、杏子に突き刺さった。

杏子「てめえ……ッ!!」

瞬間、杏子は我を忘れた。

手加減を忘れ、全力でさやかに攻撃を叩き込む。

杏子(しまっ……)

あわてて槍を引こうとしたが、もう手遅れだった。

ザクゥッ

槍は、さやかの腹部に直撃した。
164 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 23:03:53.51 ID:sBYU6ntzO
杏子「……っ」

だが、さやかに動揺はない。
それどころか、そのまま杏子に斬撃を叩き込んできた。

ズバァッ

杏子「ぐっ……」

攻撃直後の隙を狙われた。
この戦闘で……いや、前回の戦闘から通して、初めて明確に杏子にダメージを与えた一撃だった。

だが、浅い。

対して杏子の槍は、完全にさやかの脇腹を突き抜けていた。
どちらのダメージが大きいかなど、考えるまでもない。

杏子(……やり過ぎちまったか。まぁあいつもこれで諦めるだろ)

さやかも、これ以上やっても勝てないことは十分にわかったはずだ。
大人しく杏子に従うか、あるいはまた後日再戦を挑んでくるか……

そんなことを考えていた杏子の耳に、あり得ない言葉が聞こえてきた。



さやか「……まずは、ひとつ」
165 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 23:08:03.13 ID:sBYU6ntzO
杏子「……ッ!?」

杏子の全身が総毛立った。

つまり、さやかはこう言っているのだ。

今の攻防を繰り返すことで、杏子にダメージを与え続けると。

思えば、さやかは杏子の全力の攻撃を待っていたのかもしれない。
そうでなければ、いくら攻撃直後であろうと大きな隙は生まれなかっただろう。

その上で、全力の攻撃を防御すらせず、受ける。

いくら回復魔法に長けた魔法少女であろうと、杏子には正気の沙汰とは思えなかった。

杏子「てめえ、なんだそりゃあ……まるで、ゾンビみてーな戦い方じゃねーか! それが、正義の魔法少女の姿かよ!?」

思わず、杏子は叫んでしまった。
叫ばずにはいられなかった。

さやか「……格好なんて、どうでもいい」

杏子「っ!?」

さやか「あたしは、あんたみたいな奴には絶対に負けるわけにはいかないの……そのためなら、ゾンビにだって、なってやるわよ……ッ!」
166 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 23:09:38.95 ID:sBYU6ntzO
杏子「…………」

この瞬間、杏子は完全に戦意を喪失した。

この戦闘における、互いの覚悟の違いを思い知らされたのだ。
まさか、さやかがこれほどの覚悟をもって杏子に挑んでいたとは思っていなかった。

杏子「……あたしの負けだ」

さやか「……」

杏子「もうお前の邪魔はしねーし、使い魔も狩る。それで文句ねーだろ」

杏子は吐き捨てるような口調で言い放ったが、返事はなかった。

杏子の敗北宣言を聞いた時点で意識を失ったのか、さやかはその場に崩れ落ちる。

杏子「さやか!?」

地面に倒れ込むかと思った次の瞬間、ひとりの魔法少女が現れ、さやかを支えた。

ほむら「大丈夫。気絶しているだけよ」

杏子「……見てたのか」

ほむら「……」

杏子「チッ……」

見られていたことを知り、イラつく。

もう一秒たりともこの場にいたくなかった。
杏子はさやかを一瞥して、その場を後にした。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/06(日) 03:58:15.26 ID:4p7/XCdJO

熱さと冷静さのバランスがおもしろい
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 07:21:07.68 ID:bScQDA2oO
169 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/07(月) 19:53:24.34 ID:3+8IoRcGO
***

ほむら(まさか、こんなことになるとはね……)

ほむらは、ふたりの戦闘を始めから隠れて監視していた。
前回のように、キュゥべえがまどかを連れてきたときに戦闘に横槍を入れるためだ。

しかし、この展開は予想外だった。

ほむらとしては、まどかが関わらないのであれば、このふたりには気が済むまでやりあってもらって構わないと考えていた。
使い魔を狩ろうが狩るまいが、ほむらにはどうでもいいことだ。

その上で、勝つのは杏子であり、さやかが納得することはないだろうと予想しており、しばらくはふたりの戦闘が勃発することを覚悟していた。

だが今日の杏子の様子を見る限り、もう彼女にさやかと争う気はないだろう。
素直に使い魔を狩るとも思えないが、少なくとも、さやかに正面から戦闘を仕掛けることはないと思われる。

まどかの契約の機会が減ったという面では、好ましいことだ。

しかし、ほむらは手放しには喜べなかった。

不安がよぎる。

ほむら(さやかの、あの戦い方は……)
170 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/07(月) 19:56:00.99 ID:3+8IoRcGO
「全く、わけがわからないよ」

──不意に、ほむらの背後から声が響いた。

ほむら「……!」

QB「まさかこんなことになるなんて、君たちは本当にわけがわからないね」

現れたのは、キュゥべえだった。

ほむら「……さやかにあの戦い方を教えたのは、あなたね」

QB「そうだよ。ただでさえ、魔法少女はどんな傷でも回復できるのに、痛覚なんて動きを阻害するだけだ。回復魔法に長けたさやかならなおさらだよ」

ほむら「……」

QB「さやかは杏子に勝つ方法を求めていた。だから、彼女に合った戦闘方法を教えてあげたのさ」

ほむら(確かに、さやかの特性には相性のいい技術ではある、が……)

『痛覚遮断』

今の段階でさやかが知ってしまったのは、予想外だった。
できれば、あまり使用すべきではない技術だ。

あれは、格上の相手に攻撃を当てるには有効だが、当然その分傷を負い、回復のために魔力を使用することになる。
もし魔女との戦闘で使用した場合、落とすグリーフシードで回復できる量以上の魔力を消費する可能性があり、そんな戦闘が続けば、消耗していく一方だ。

本来なら、魔法少女は勝てない魔女とは戦闘するべきではないし、もし勝つ手段があっても、戦闘前よりソウルジェムを濁らせるとわかっていれば戦わない。

だが、さやかはそういう考え方をするタイプではない。
魔女を見つければ、格上であろうと確実に狩ろうとするだろう。

だからといって、今すぐ魔女になるというわけでもないだろうが……

ほむら(……気を付けておきましょう)
171 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/07(月) 19:59:23.31 ID:3+8IoRcGO
ほむらは、改めてキュゥべえに視線を向けた。

ほむら「……それで、あなたの思惑通り、美樹さやかを佐倉杏子に勝たせることができたわけね」

正直、相変わらずの黒幕ぶりに感心した面もあり、ほむらは半ばあきれるような口調で称賛した。

──だが。

QB「本気で言っているのかい?」

ほむら「……え?」

QB「さやかが、痛覚を無視する手段を得た程度で、それであの杏子に勝てると、本当に思うのかい?」

ほむらの脳内が疑問符で埋まる。
キュゥべえは、本気で不思議がっている様子だった。

ほむら(こいつは何を言っているの? 思うも何も、現に……)

QB「あのまま戦闘を続けていれば、先にさやかの魔力が尽きていたことは明らかだ。そうなれば、痛覚の有無など関係なく、杏子は確実にさやかを殺せていただろうに……」

ほむら「あなた、何を……」

QB「単純に、魔力の消費を嫌って……? いや、それにしては、杏子の様子が腑に落ちないし……」

ほむら「……!」

ほむらは、ようやく気づいた。
なるほど、この展開は、キュゥべえにとっても予想外のものだったのだ。

恐らくキュゥべえの狙いは、さやかが痛覚遮断を使用した上で、それでも杏子に負けることだったのだろう。
もしそうなっていれば、さやかはこの場で魔女になっていてもおかしくなかった。

痛覚遮断を教えたのは、杏子にさやかをギリギリまで追い込ませるための手段だったのだ。

だがキュゥべえの計算外だったのは、人間の感情だった。
キュゥべえも、簡単な喜怒哀楽なら理屈として理解はしているだろうが、杏子がさやかに向けるような複雑な感情は、とても理解できないのだろう。
172 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/07(月) 20:01:01.77 ID:3+8IoRcGO
ほむら「……そうね、あなたにはわからないでしょうね」

ほむらの言葉に、キュゥべえはやっと合点がいったような口調で呟いた。

QB「やはり、感情というものなのかい? 厄介なものだね。僕たちには、まだまだ理解できそうにないよ」

ほむら「……」

キュゥべえがこんな調子なのはいつものことだ。
感情がない相手に振り回されても仕方がない。

やはりキュゥべえを出し抜くには、感情を利用するのが一番なのだろうか。
しかし、それこそ理屈で測れないのが人の感情というものだ。
利用しようと思って利用できるものではない。

ほむらは、一旦頭を切り替えた。

ほむら「あなたがいるなら丁度いいわ。美樹さやかのこと、任せたわよ」

さすがに気絶した少女を路上に放置するのは気が引けたが、キュゥべえがいるのならまぁいいだろう。

QB「僕に戦闘能力はないよ?」

ほむら「いいのよ、さやかもそろそろ目を覚ますことでしょう」

さやかに見つかり、余計な勘繰りはされたくない。

ほむらは、歩いてその場を後にした。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/09(水) 13:33:23.32 ID:GsAzOPUzO
バーサーヤカ好き、でも濁りがヤバいんだよなぁ…。乙
174 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:29:19.21 ID:UVJ2f3OsO
***

杏子との二度目の戦闘から数日が経った。
あの日から、さやかは杏子の姿を見ていない。
どうやら意図的に避けられているようだ。
さやかとしても、わざわざ争いたいわけではないので問題はなかった。

ほむらも、以前のようにさやかに干渉してくることはなくなった。
魔法少女になってしまった以上、あとは好きにしろといったところか。
しかし、常に何やら観察されているように感じるのは気のせいだろうか。

まどかは、今のところは契約する気はないようだ。
あたしからは、『願いがないのなら魔法少女にはなるべきじゃない』以外のことは言っていない。
あとは、まどか自身の判断に任せるだけだ。

そして、今日は……

まどか「どうしたの? そわそわしちゃって」

さやか「……別に、そわそわなんてしてないけど」

まどか「隠さなくてもいいじゃん。今日からでしょ? 上条くんが学校に来るのって」

さやか「……うん」

そう、今日は、恭介が退院してから初めて学校に来る日だ。

退院には立ち会ったが、それからはまだ一度も会っていない。
病院ならお見舞いという建前もあるが、用もなく家にまで押し掛けるのはさすがに恥ずかしい。
それに、恭介もブランクを取り戻すのに忙しいらしく、ほとんど連絡もできなかったのだ。
175 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:31:45.57 ID:UVJ2f3OsO
まどか「あっ、上条くん来たみたいだよ」

さやか「……!」

教室に入るなり男子に迎えられ、ふざけ合っている。
恭介が日常に戻れたのだと思うと、さやかの胸が熱くなった。

さやか(……魔法少女になってよかった)

後悔なんて、あるはずがなかった。

まどか「さやかちゃん、上条くんのとこに行ってきなよ」

さやか「いいよ、あたしは入院中も会ってたし、恭介も恥ずかしいだろうし……」

まどか「もう……しょうがないなぁ」

思わずほっとする。
まどかも、余計な気を使わなくていいのに。
176 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:33:44.61 ID:UVJ2f3OsO
まどか「上条くーん!」

さやか「!?」

完全に油断していた。
まさか、そんな強行手段をとってくるとは……

恭介「おはよう、鹿目さん」

まどか「おはよう、上条くん。退院できてよかったね!」

恭介「うん、ありがとう……えっと、さやかはどうかしたの?」

まどか「ほら、さやかちゃん!」

……どうやら覚悟を決めるしかなさそうだ。

さやか「お、おはよう恭介。退院おめでとう」

恭介「ありがとう。思えば、入院中はいろいろとお世話になったね。本当に助かったよ」

さやか「き、気にしなくていいって!」

恭介「これからはまたいつでもバイオリンを聞きにきてよ。聞いてくれる人がいると、僕の練習にもなるからさ」

さやか「うん、ありがと」

恭介「じゃあまた」
177 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:35:44.52 ID:UVJ2f3OsO
恭介が離れてから、さやかは盛大に息を吐き出した。

さやか「ふぅ……まどか、あんたねぇ」

まどか「ご、ごめんね。怒った?」

少しくらいは文句を言ってもいいかと思っていたが、不安そうにこちらを眺めるまどかを見ると、そんな気は失せてしまった。
残ったのは、感謝の気持ちだけだった。

さやか「……ううん、ありがと」

まどか「どういたしまして!」

満面の笑みでそう言われると、何も言えず、苦笑するしかなかった。

こういうときに実感するのだ。
まどかの強さを。

普段はおとなしいくせに、他人のためならどんなことでもできてしまうような……

それが、鹿目まどかという少女なのだ。
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