【艦これ】禍福は絡み合う触手の如し 〜鎮守府水着の乱〜

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189 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:43:51.41 ID:qy3Zo8l10


「………………」

昼間の暑さが若干後を引く夕暮れ時。
艦娘寮の屋上で榛名は一人物思いにふけっていた。

彼女は一人になりたい時、よくここを訪れていた。
別段ストレスや悩み等が普段から特にあるわけでもないが、何となく一人で考え事をしたい時はあるというもの。そんな時、彼女の足は自然とこの場所に赴くようになっていた。

とはいえ、屋上とは得てして一般的にそういう場所になりがちもので、一人なりたいといざ着てみれば既に誰かが先に居たり、後から誰かがやって来たりといったことが多々ある。
そうなると榛名は、相手に気を遣って屋上を後にしたり、あるいはその誰かとちょっとした世間話や相談事をしたりされたりしていた。

190 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:45:34.87 ID:qy3Zo8l10

しかし今は彼女以外には他に誰もおらず、屋上は彼女の貸し切り状態になっていた。

「………………」

少し強い風に髪を泳がせて、ここから一望できる水平線を屋上のフェンス越しに榛名はぼんやりとただ眺めていた。


しばらく彼女がそうしていると、彼女の視界の下端――この寮の一階玄関口の辺りから何やら騒がしい気配がしてきた。
彼女がふとそちらに視線を落とすと、寮から出ていくとても見慣れた後ろ姿の二人が見えた。

「あれは……お姉さま?」

足早に歩き去って行こうとする金剛と、金剛の腰に縋りついて半ば引きずられていく比叡。
声はここからではよく聞き取れないが、一体どうしたのだろうと榛名はその様子を窺うことにした。


191 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:46:50.36 ID:qy3Zo8l10


妹を引きずってでもどこかへ行こうとする金剛。

引きずられていく比叡。

しばらくすると根負けしたのか、疲れたように肩を落として足を止める金剛。

縋りついていた金剛の腰から離れてその前に立ちはだかる比叡。

何やらわいのわいのと騒いでいる様子の二人。

そこで突然比叡の右腕を取り、見事な一本背負いを決める金剛。

綺麗に投げられ、地面に大の字になる比叡。

そのまますかさず比叡に袈裟固めをかける金剛。

するとどこからともなく現れて地面を叩きながらカウントを取り始める霧島。

3カウントの後、霧島に腕を掲げられ高らかにガッツポーズを決める金剛。

そして地面で伸びたままの比叡。


……本当に、何をしているのだろう。そう思わずにはいられない榛名だった。

192 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:48:22.03 ID:qy3Zo8l10

「もう、お姉さま達ったら」

しかしながら、そこは鎮守府きってのムードーメーカー金剛シスターズが一人。あんな姉妹達の珍騒動など日常茶飯事なので特に驚くようなこともなく、困ったように笑いながら、あの三人に合流しようかと榛名は振り返りフェンスに背を向けた。

するとその時、彼女の視線の先、屋上へ出る扉が開かれた。

「…………フゥ」

扉を開けて屋上に上がってきたのは、長髪長身の艦娘だった。

「大和さん?」

「え? ……あ、榛名さん」




そこから自然に和気藹々と雑談を始める二人だった。

互いの近況や姉妹のこと、あと提督に対するあれやこれやについて。元々話の合う二人ということもあり、こうして二人きりで出会えば花を咲かせる話題には事欠かなかった。

193 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:50:24.72 ID:qy3Zo8l10

そして当然、今のこの二人が揃えば自ずと話題になることは決まっていた。

「そういえば、いよいよ明日……ですね」

「……ええ。そう、ですね」

大和の一言に、途端に歯切れが悪くなる榛名であった。
それを見て、自分も同じ立場である大和も苦笑する他なかった。

何の事かとわざわざ口にするまでもない。明日は水着コンテストがあるのだ。

「まさかこんな大事になるだなんて、榛名思ってもいませんでした」

「私もです。まったく、武蔵達には困ったものだわ。こっちの気も知らないで勝手に盛り上がっちゃって」

「はい、本当にその通りです」

そう言って、二人して盛大に溜め息をついた。お互いこの期に及んでなおコンテストへの出場は甚だ不本意だということをこれみよがしに表した一息であった。
ただそこで"コンテストなんか知ったこっちゃねーや"と投げ出せるほど彼女達は我の強い性格ではなかった。

そう、お互いそういう控えめな性格であると知っていたものだから、大和のこの後の発言は榛名を少しばかり驚かせた。

194 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:52:22.41 ID:qy3Zo8l10

「……でもね榛名さん。正直に言うと、もう少し状況が違っていたら、案外私も武蔵達と一緒にはしゃいでたかもしれないって思うんです」

「えっ、そうなんですか?」

「ええ。私も何だかんだ言って勝負事は好きな方ですから。勝てる見込み――優勝できるような可能性が多少なりともあるなら、きっと前向きな気持ちでコンテストに出られたんじゃないかな、って」

まあ、水着勝負は流石に少し恥ずかしいのだけれど――と、大和は照れたように頬を掻きながらそう付け加えた。
それに対して、榛名は小首を傾げる。

「でもそうおっしゃるということは、今の状況だと大和さんはご自分が優勝できる見込みがないと思っていらっしゃるのですか?」

「そうですね……だって――」

そこで大和は榛名をジッと見つめて、寂しげな顔で言う。


「――提督の前で、こういう女性の魅力を競うような勝負……私、榛名さんには勝てる気がしませんから」


195 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:55:19.53 ID:qy3Zo8l10

「え……」

思いがけない言葉に、榛名は目を丸くした。

「もちろん他の方を軽んじてるわけではないんですよ? でもやっぱり私の中では榛名さんは別格というか、勝てるようなイメージが思い浮かばないんです。これがもしクイズ大会や体力勝負の類だったら、こう気負わずにいられたのかもしれません。あるいは提督が審査員ではなかったら……なんて、そんなことを考えたりもしました」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ。そんな……榛名なんて、大和さんにそう思っていただけるほど大層なものでは……」

「そんなことはありませんよ。榛名さんは可愛くて綺麗で気立ても良くて、そして提督と一番付き合いの長い戦艦で……もうこれだけで私には勝機がないといいますか……」

「そ、そんなっ、大げさですっ。榛名より大和さんの方がずっと素敵だと思います! それに付き合いの長さを言うなら、初期艦だった叢雲さんの方が――」

「確かに叢雲さんにも色々と勝てる気はしないのですけれど……それでも同じ戦艦として、どうしても榛名さんの方を意識してしまうんです。それに提督も、榛名さんには特別な思い入れがあるようだと金剛さん達から伺っていますし」

「それは……」

196 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:58:08.22 ID:qy3Zo8l10

確かにそれについて、榛名は否定することはできなかった。それだけのことが彼女と提督の間にはあったのだから。
ただその"思い入れ"は、提督と艦娘――上司と部下としての関係から来るものであって、大和や他の艦娘達が想像しているようなものでは決してないのだと、彼女は声を大にして言いたかった。

しかし、代わりに彼女が口にしたのは――

「…………それを言うなら、榛名だって……大和さんには、絶対勝てる気がしないです」

「え……榛名、さん?」

急に声を落とし、物憂げな表情を浮かべる榛名に大和は戸惑いを隠せなかった。

「提督にとって榛名が特別だというなら……大和さんは、それ以上に特別な艦娘なはずです」

「ッ……あの、榛名さん――」

「大和さんは……戦艦大和は、提督の憧れで特別で―― 一番大切だった人、でしたから……」

「榛名さん、でもそれは――」

「はい、わかっています。今の大和さんと"あの大和さん"は違うんだって、よくわかっているんです…………でも」

197 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:59:46.11 ID:qy3Zo8l10

俯いて、自分の胸を押さえるように両腕を掻き抱いて、今にも泣き出しそうな声音で榛名は告げる。


「それでも、"提督がまた私を選んでくれなかったらどうしよう"って……そんな考えが、どうしても頭を離れてくれないんです……ッ」


榛名の脳裏を巡るのは――提督と"彼女"が笑い合っていた、今となっては遠いいつかの光景。
仲睦まじいその二人の姿は、見ているだけでとても微笑ましくて――見ているだけで胸が張り裂けそうなほど苦しいものだった。

割って入ることなど、とてもできなかったあの二人の絆。明日のコンテストで提督が水着姿の大和を目の当たりにして、それをまた見せつけられるようなことがあったら、自分はどうしたらいいのだろうか――あのフィギュアの騒動があった朝の執務室から今日ここに至るまでずっと、彼女は思い悩んでいた。

そうして鬱々とした想いは蓄積し、今こうして当の大和本人を前に決壊してしまった。

198 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:01:15.10 ID:qy3Zo8l10

「榛名さん……」

「…………すいません。こんなこと言われても、大和さん困っちゃいますよね……」

「そんな、私の方こそ無神経なことを言ってしまって……ごめんなさい」

「いえ、そんなに気にしないでください。榛名は……榛名は…………」

大丈夫ですから――と、いつものように笑ってみせることが今の榛名にはできなかった。
どうしてあんなことを口走ってしまったのかと、自己嫌悪で彼女はどうにかなってしまいそうだった。

もういっそこのまま、明日のコンテストも棄権してしまおうか――そんな自暴自棄じみたことを考え出した、その時だった。


「……でも、今ので気が変わりました。榛名さん。私、明日は勝ちにいかせてもらいます」


199 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:03:03.48 ID:qy3Zo8l10

「えっ……」

大和の突然のその発言に、榛名は耳を疑った。

「榛名さんの気持ちは痛いほどよくわかります。私も同じ状況だったら、きっと今の榛名さんみたいになっていたでしょう。だって――」

そして、真摯な顔つきで榛名を見据えて大和は言う。


「――私は提督のこと、諦めるなんてできませんもの。榛名さんがそうなっているのも、提督のことを諦めきれていないからでしょう?」


「ッ……!」

そう、諦めてしまっているのなら今更何も思い悩むこともない。少しばかりの寂寥感はあるのだろうが、その程度のことでしかない。

だが、今こうして胸を焦がすような想いに苛まれているのは、ひとえに自分が心から納得していない――諦めていないから。これはそういう単純な理屈。

200 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:06:16.09 ID:qy3Zo8l10

「だったら、するべきことは一つ。勝つために――提督にとっての一番になるために、胸を張って堂々と勝負に臨む。少なくとも私はそうします。尻込みして負けようものなら、それこそ悔やみきれませんから」

「…………」

「それに今の意気消沈した榛名さんになら、私でも難なく勝てるような気がしますし。提督もいつも言っているでしょう? "勝てると思ったら全力ブッぱだ"って。だからこの好機、みすみす逃す手はありません……もう一度言います。私は明日、全力で勝ちにいきます」

「…………」

「それで、榛名さんはどうされますか?」

「……どう、って――」


「私に――"大和"に、また"勝ち"を譲っていただけますか?」


「――――――」

再び脳裏を過るのは、あの日々の記憶。

届かない憧れと想いに軋む胸を押さえて、笑い合う二人の幸せを見ていることしかできなかった、かつての自分。

時が過ぎ、薄れることはあっても決して消えることはなかったその記憶。
しかしそれを再び現実として目の当たりにする。そんなことが起こり得るとするならば。

大和の問いに対する榛名の答えは――――ただ一つだった。

201 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:07:57.74 ID:qy3Zo8l10


「――いいえ、譲れません。榛名はもう、負けたくありません!」


彼女の胸を焼く焦熱が、今砲火となって炸裂する。

「榛名はずっと提督のことを想っていました。大和さんよりもずっとずっと長く強く……その自負は今も変わりません。その想いに誓って、一度ならず二度までもあなたに――"大和さん"に負けるつもりはありません! 勝ちを譲るなんてもってのほかですっ!」

だから――と、どこまでも真っ直ぐな眼差しで榛名は大和を見つめ返す。


「榛名も、明日は勝ちにいかせていただきます。大和さんには――いえ、誰にも、榛名は負けません!」


鋼を思わせるような強い意志で、もう一歩も引かぬという覚悟で、榛名はそう告げた。

普段の穏やかな佇まいからはかけ離れた、戦場を駆ける戦艦の威厳に満ちたその姿。並の艦娘なら気圧されて然るべきその気迫を前に、大和は――


「はい。そう言ってくれると信じていました」


――朗らかに笑って、そう返したのであった。

202 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:09:41.41 ID:qy3Zo8l10

「え……あの、大和さん?」

予想とは大分違う反応が返ってきたことに戸惑う榛名に、大和は静かに微笑んで右手をそっと差し出した。

「榛名さん。明日は正々堂々、全力で、お互い頑張りましょう。まぁその、水着コンテストで何をどう頑張るのかは、よくわかりませんけれど、ね?」

「大和さん……」

差し出された手とその笑顔を見て、大和が何故突然あんなことを言い出したのか、榛名はようやく悟った。

放っておけば面倒な相手が勝手に潰れて消えてくれただろうに、それをわざわざらしくもない言い方で焚きつけて煽って。
結果、彼女にとっての一番の強敵であるらしい自分は完全復活を遂げてしまった。

それでも、笑ってそれを迎えてくれた彼女のその振る舞いが、いつかの"彼女"を思い出させた。

(そういうところに、榛名は負けてしまったのかもしれませんね……)

でも――と、すっかり軽くなった胸の内から自然と溢れる笑みを零して、榛名は大和の手を取った。

203 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:10:55.44 ID:qy3Zo8l10


「後悔しても知りませんよ? 榛名に塩を送るような真似をしてしまって」

「構いませんよ。塩や砂糖の備蓄にも私自信がありますから」

「もう、何ですかそれ。ふふふ」

「お互い勝っても負けても、恨みっこはなしですよ?」

「それは……ちょっと難しいかもしれません。負けたら妬みっこくらいまでは許してほしいです」

「フフッ。わかりました。じゃあ、それで」

「ええ」


そうして二人は互いの健闘を誓い合った。

固く交わされた握手で結ばれた彼女達の姿は、沈みゆく夕日の残照よりも強く綺麗に輝いて見えるようだった。


204 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:11:48.43 ID:qy3Zo8l10



かくして戦乙女達はそれぞれの想いを胸に、この夏最後の決戦の日を迎える――――










「フゥ〜…………アレ? なんでワタシ、比叡とレスリングなんてしてたんだっけ?」

「よ、4ラウンドも、やって、ようやくっ、我に返りましたか、お姉、さま……っ」
205 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:13:30.74 ID:qy3Zo8l10








「ただいま。今戻ったぞ」

「おかえり。随分遅かったわね」

「ああ、すまない。少し野暮用でな」

「ふーん…………あら、その手に持ってる水筒みたいなものは何?」

「これか? 霧島からのお裾わけだ。金剛の新作らしい」

「あら、そうなの? ありがたいわ。早速いただきましょうか。お茶の用意するわね」

「いや、今日はもう遅い。こんな時間に間食というのもあまり良くはないだろう」

「んー……それもそうね。じゃあ明日の朝にしましょうか」

「それがいい。さあ、早く寝るとしよう。お前は明日早いのだろう?」

「ええ。審査員は色々と準備があるらしいから。まったく、本当は私も出場したかったのだけど……でもまあ、頼まれて悪い気はしないし、これはこれで楽しそうだから、別にいいけど。フフ」


「そうだな。私も……実に楽しみだ」


206 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:17:28.68 ID:qy3Zo8l10
今回ここまで

よくあるお話。ここの提督にとって大和は二隻目。あとはもうご察し

良い話っぽいだろ? でもプロローグを思い出してほしい。ああなるオチが待ってるんだぜ? 胸が熱いな
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 15:44:42.66 ID:iUpYHoTco
おちゅん
208 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/04/25(水) 18:00:29.32 ID:J5gTkeMz0
現在鋭意執筆中
近日中にちょろっと投稿します
瑞雲でも愛でながらお待ちください
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 20:18:38.37 ID:F+mS5A5Ko
まあ、そうなるな
210 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:26:11.97 ID:Qjom0bOk0
お待たせしました
やっと本編。その始まり
211 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:27:23.00 ID:Qjom0bOk0



「水着――それは、夏の水辺の女を彩る装甲」


「水着――それは、異性の胸を撃ち抜く夏の女の主砲」


「つまり水着とは、夏の女の戦闘艤装に他ならない。そしてそれは我ら艦娘もまた然り」


「その艤装を纏って競うのは火力でも制空力でも対潜力でもなく、女の魅力」


「そこに艦種による性能の垣根はなく、あるのはただ己の実力のみ。最も強い夏の女とは、最もイカした水着の女ということ」


「であるならば、ここに疑問が一つ……この鎮守府で一番強い夏の女とは、果たして誰なのか?」



「「その疑問――今日ここで答えを出しましょう」」



「「"第一回 ドキッ!? 艦娘まみれの鎮守府水着大会! ズドンもあるよ"! 開幕ですっ!」」


212 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:29:03.19 ID:Qjom0bOk0

拡声された霧島と青葉の声がそう宣言した瞬間、会場からドッと歓声が上がった。屋外だというのに騒がしいことこの上ない。
二百名近い艦娘が、せいぜい小学校の体育館程度の広さのこの特設会場に一同に会すればこうも騒々しくもなるのだろう。

「鎮守府のレディース&ガールズの皆様。おはようございます。そしてお集まりいただき誠にありがとうございます。今回司会進行を務めさせていただきますは私、金剛型四番艦・霧島と――」

「重巡・青葉ですっ。よろしくお願いしまーす!」

二人の紹介に、盛大な拍手が返ってくる。相も変わらずノリの良い鎮守府の面々である。

「いやーそれにしても盛況そうでなによりですねぇ霧島さん」

「ええ。本日はお日柄も良く、絶好のイベント日和と言えるでしょう」

「会場設営が昨日の昼過ぎからだったので間に合うかビミョーなところでしたが、何事もなく終わって良かったです」

「そうですね。思えば今回、発案からわずか一週間程度であったにも関わらずこのように無事に開催できたのは、ひとえに皆様のご協力があったからこそです。この場を借りて、皆様に御礼申し上げます」

213 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:31:18.30 ID:Qjom0bOk0

「もー霧島さんってば相変わらず固いですねぇ」

「何事も感謝の心は大事ですから。さて、挨拶等はこのへんで。まず今大会概要の簡単なおさらいをば」

「冒頭で言いました通り、この大会は鎮守府一の夏の水着女性を決めるものとなってます」

「参加条件は二つ。この鎮守府所属の艦娘であることと、水着着用であること。自薦他薦は問いません」

「わざわざ言うまでもないような条件ですけどねぇ」

「ただし着用する水着に関して、大本え――提督指定の共通水着は不可とします」

おい、なんで今言い直した? 大本営指定であってるぞ? 俺の趣味みたいに聞こえるからやめれ。

「これは、自分に合う水着を選んでくるセンスも評価に含まれるという観点からの判断です。ご了承下さい」

「まあどうせなら地味な共通水着より華やかな水着を見せてほしい、ということで!」

214 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:33:42.27 ID:Qjom0bOk0

「はい。そして審査形式ですが、審査は各艦種で部門ごとに分けられて行われます」

「駆逐・軽巡・重巡・空母・戦艦・特殊艦の六部門ですね」

「それぞれの部門で審査を行い、最終的に各部門での一位と全部門での総合上位三位を決定する流れになります」

「なお各部門の一位の方には、本日協賛となってます甘味処間宮より特上間宮券が贈呈されます。さらに総合上位三位になられた方には、酒保・甘味処間宮・居酒屋ほうしょう等、協賛として参加してくださった鎮守府内各所で使用できる特別券が贈呈されます。協賛していただいたみなさん本当にありがとうございます!」

「ありがとうございます。そして審査方法ですが、こちらは五名の審査員による採点方式で行われます」

「出場者はステージ登壇後、水着を審査員と会場のみなさんに一通り披露して、アピールポイントや意気込みなどを語っていただきます。それを受けて、審査員の方は採点をしていただく形になります」

「各審査員の持ち点は二十点。五人の合計百点満点で採点されます」

「あとは至ってシンプル。点数が最も高い方が勝者ですっ」

215 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:35:49.83 ID:Qjom0bOk0

青葉の言葉に会場が再び沸き上がる。本当に一々ノリのいい連中である。

「フゥ……さて、概要としてはこんなところですかねぇ。あとは各自お手元のパンフレットで確認してくださいね」

「ええ…………では、堅苦しいのはここまで。ここからはアゲて参りましょうか!」

「イエイっ! 待ってました霧島さんっ!」

二人のやり取りに再三会場が沸く。
この二人のこういう仕事の手慣れた感には毎度のことながら感心させられる。
……艦娘って、何だっけ?

「まずは、審査員のご紹介から参りましょうっ!」

「厳正な審議の下、選ばれたる五名の公正な審査員……その一人目は――――」


216 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:36:55.68 ID:Qjom0bOk0



「…………」

薄暗い中、霧島と青葉のその振りを聞いて、俺は二歩程踏み出して木目調の正方形の床の中央に立つ。
すると、その床が機械が軋む音ともにゆっくりと上に持ち上がっていく。

「提督、グッドラック!」

暗がりからの夕張の激励に俺は溜め息で返し、腕を組んで、昇っていく床に身を委ねた。



『何はともあれこの人がいないと始まらない! 挙げた戦果は数知れず。堕とした女も数知れず。我らが鎮守府のトップオブトップ! てぇいとくぅぅ!』


217 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:38:34.44 ID:Qjom0bOk0

ステージ上にせり上がってくるや否や、何やらとんでもない煽り文句が耳に飛び込んできた。
もうこの時点で俺はこのテンションにはついていけなさそうだと察した。

「はい。まあ事前に告知してましたので、今更驚くようなことはないとは思いますが。司令、本日はお時間を割いて参加していただき、誠にありがとうございます」

「司令官は今回、"鎮守府男性代表"枠として審査員に選ばれました。と言っても、鎮守府で唯一の男性ですからねぇ。司令官が審査員に選ばれるのは必然でした。さ、司令官っ。ついに始まりました水着大会。今のお気持ちは?」

「カエリタイ(部屋に)……カエシテ(休みを)……」

「お? 闇墜ちした吹雪さんのモノマネですか? 似てますねぇ」

似てたまるか。吹雪に失礼だろうが。
そしてこの野郎、俺の渾身の恨み節をスルーかちくしょうめ。

218 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:41:08.24 ID:Qjom0bOk0

「え、えーと……では司令、出場者の皆さまに何か一言を」

その一方で霧島は、俺に若干気を遣うような面持ちでこちらにマイクを向けてきた。こっちは多少は申し訳なく思っているのだろうか。

そうか。それなら俺もそれなりに気の利いたことを喋るとしよう。

「あー……水着ではしゃぐのは構わないが、肌の出し過ぎで風邪とかひかないよう気をつけるように」

こんなところか。
ちらりと二人の様子を窺うと、霧島はわずかに嘆息し、青葉はやれやれと言わんばかりに肩をすくめていた。
まあ、そうなるよな。

「はい。司令、どうもありがとうございました」

「ありがとうございました。あ、ちなみに総合一位の座に輝いた艦娘には、司令官より特別賞として何かが贈呈されます。お楽しみに!」

「待てコラ、聞いてないぞそんなこと!?」

219 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:43:18.70 ID:Qjom0bOk0

「さっき唐突に思いついちゃったもので。なので司令官、表彰式までには何か考えといてくださいね?」

「振りが乱暴にも程があるぞ青葉ぁ!」

「まあまあ。最悪何も思いつかなかったら、"一回だけ司令官が何でもいうこと聞く権"とかでも喜ばれると思いますんで、だいじょーぶですよ」

青葉がそう言った瞬間、周囲がざわついた。
そしてどこからともなくギラつくような視線が何条も突き刺さってきたような錯覚を覚えた。

何だろう……すごく、身の危険を感じるな。

これはどうにかして拒否しておきたいところだが、もう会場の空気が"一位になったら俺から何かがある"という期待で固まってしまっているようだった。
これを覆すのは……もう無理だろう。せめて無難な感じに茶を濁しておかねば。青葉ワレェ……。

「クッ……わかった。何か考えておこう」

そうぼやいて、俺は大きく溜め息をついた。
まだ自分が登場しただけというのにこの疲れよう。メインの審査が始まったら一体俺はどうなってしまうのか。

嗚呼まったく、今日は長い一日になりそうだ……。


220 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:45:08.48 ID:Qjom0bOk0
今回はここまで
五周年、感慨深いですな
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/03(木) 08:51:59.12 ID:CAKOeWo8o
おちゅ
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/03(木) 10:33:29.37 ID:AJEFjbDjo
おつ
次も待ってるわ
223 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/18(金) 02:41:08.00 ID:lo/HW7xH0
こちらも大分かかりそうです。面目ない。

お茶集めなきゃ……
224 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/06/17(日) 19:14:16.42 ID:YPu0eug+0
こちらは近日中にはポチポチいきます
お待ちください
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/19(火) 09:03:27.47 ID:qzoHHWpZo
あいよ
まってるわ
226 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/07/16(月) 20:07:32.63 ID:S1p3zjf30
近日中と言ったな。すまないあれは嘘になった。面目ねぇ

ではいきます
227 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/07/16(月) 20:09:03.93 ID:S1p3zjf30

「ではでは続きまして二人目の審査員をご紹介しましょう! 二人目は"大人のお姉さん"!」

霧島に案内され、ステージ上に設置された審査員席に着くやいなや青葉がそう切り出す。
そういえば、俺以外の審査員はあとは全員艦娘だと聞いたな。水着コンテストで審査員がほぼ同性しかいないのはどうなんだろうと思うが、仕方ないか。

それにしても"大人のお姉さん"か。というとやはり重巡とか戦艦、空母あたりの誰かだろうか。

『皆さんご存知、世界に誇れる我らがビッグセブンが一人――』

ビッグセブン――そのワードを聞いて、真っ先に脳裏に浮かんだ人物を脳内で排除し、消去法でその妹の方が審査員であろうと俺は当たりを付けた。
なるほど。確かに陸奥なら最近のファッションとかに精通しているようだから審査員としての目は確かだろう。"大人のお姉さん"の肩書もしっくりくる。良い人選だ。
228 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/07/16(月) 20:09:47.17 ID:S1p3zjf30

まああれだ、駆逐艦も参加するこのコンテストで"あの"姉の方が審査員に選ばれることなんてまさかあり得な――


『長門型戦艦一番艦――長門さぁぁんっ!』


――と、青葉は言い放った。

するとステージ中央、先程俺が乗っていたエレベーターが動き出す。
そしてゆっくりとステージ上に現れたのは、腕組みをして不敵な笑みを決め込んだ長門だった。威風堂々と仁王立ちするその姿が似合うのは、ヒーローロボットかこいつくらいなものだろう――

229 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/07/16(月) 20:11:27.02 ID:S1p3zjf30

「――って、なんでだよ!? そこは普通陸奥だろ!? なんで長門!? 出オチにも程があるわ!」

「お、やっと調子出てきましたか司令官」

「言ってる場合か! お前あのロリコンに駆逐艦の水着姿なんて見せてみろ。理性のタガが外れたただの獣になり果てるぞ。審査員どころじゃない……って、そもそも何故長門を選んだ? 駆逐艦とか海防艦が絡むと"公正"の"K"の字もないだろうが」

「それがですね司令。私達も当初は陸奥さんに審査員をお願いしていたのですが、その陸奥さんが今朝方体調不良で緊急入渠されてしまいまして……」

「はい? 何? また何か爆発したのか?」

「いえ、どうやらそういうわけではないみたいでして。詳細は分かりかねますが、見たところ肌がとても青ざめていて、まるで生気を根こそぎ持っていかれたような状態でした」

「なんだそれ怖」

「あ、でも命に別状はないって明石さん言ってましたよ。今日一日寝てれば大丈夫だそうです」

230 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/07/16(月) 20:12:53.21 ID:S1p3zjf30

「別状あったらこんなことしてる場合じゃないもんな…………ということは、あの長門は……」

「はいです。陸奥さんの代理で来てもらいました」

「何分突然のことで他に頼める方がいらっしゃらなかったものですから」

「……なるほど」

ようやく合点がいった。
恐らくだが、謎の体調不良に陥った陸奥の第一発見者は同室の長門だったのだろう。で、自室からドック、医務室まで付き添い、様子を見に来た霧島達にその場で代理を頼まれたといったところか。まあ至って自然な流れだろう。

自然な流れ……謎の体調不良…………何か引っかかる気がするが。

231 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/07/16(月) 20:16:04.50 ID:S1p3zjf30

「しかし、よりにもよって長門かぁ……」

「――まったく、先程から黙って聞いていれば随分な物言いじゃないか提督」

「あん?」

俺のぼやきにふてぶてしく応じるのは長門であった。

「提督が私に対してどのような懸念を抱いているのかは、まあ今更わざわざ聞くまいよ」

「自覚はあるんだなお前」

「だがこの長門、頼まれた以上、責任をもって審査員の任を全うするのみだ。ビッグセブンの名と亡き陸奥に誓って」

「おい、妹を勝手に殺すな」

「長門型の審美眼は伊達ではないよ。公明正大な審査を約束しよう」

「それ水着の駆逐の前でも同じこと言えるか?」

「………………無論だ」

「その間が無ければお前の言葉の四割くらいは信じてやれたのになぁ…………ハァ」

もういいや。俺は知らんぞ。こいつ選んだの俺じゃないし。何が起きても俺の責任じゃないし。

「大丈夫ですよ司令官。いざっていうときの策はありますんで」

「そうかい。じゃあ任せたよ」

まあ、あまり期待はしないでおこうか。

232 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/07/16(月) 20:18:08.42 ID:S1p3zjf30
今回はここまで
あと三人審査員を紹介したらようやく本筋です。
その前に今年の水着が実装されそう……
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 21:21:01.88 ID:czNwwCYEo
おつ
次も待ってるわ
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 00:25:13.27 ID:joQ9hB48o
おつこれ
235 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/08/16(木) 04:02:29.43 ID:p03njMrj0
生存報告ー
塩分と水分は大切にね
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/04/21(日) 21:29:54.47 ID:TurbB7yq0
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/06(金) 15:53:47.30 ID:06hZQm3Do
まつわ
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/15(火) 10:08:42.67 ID:w2dRAr420
松輪
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