見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!)

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381 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/25(月) 03:56:34.37 ID:lDycOOgF0

「元々、不干渉の関係だった魔法使いと魔法少女が両方絡んだ事件、
ってだけでも対処は難しいんだろ。
魔法少女は魔法少女で勝手にやる気だし、
魔法使いには魔法使いの秩序があるんだろ」

「ええ、ですから………」

「魔法少女は、身内が消えてまともに説明も出来ない事態に本気でキレてる。
これでこっちが邪魔に見える動きをしてみろ、最悪殺し合いだ。
ネギ先生以下の四人組が留守で、
上の方に直に話を通せるパイプが無い。
あんた達だけが灯篭の斧で中途半端に協力するってのはリスクが高過ぎる。
それなら、今ここでの事は見なかった事にした方がお互い話が早い。佐倉」

前を見続ける愛衣に向かい、千雨はほんの僅か前に動いた。

「戦争の引き金を引く心算か?」

明石裕奈から見て、普段は礼儀正しく、
年相応に可愛らしい年齢後輩キャリア先輩な佐倉愛衣は、
魔法使い、魔法協会でのキャリアでは裕奈の先輩。
実際は同年代でも指折りの俊才である努力家らしく、
根っこの所は強い芯と負けん気を持っている。

それが、千雨から、自分達が関わっている事件の事で、
確かに理屈は通っているが一蹴に近い形での撤退を求められて、
一瞬それでも食い下がろうと言う表情を見せてから、
歯噛みが聞こえそうな動きで斜め下を向いていた。

そんな愛衣と、
クラスメイトでもある千雨の顔を見比べた明石裕奈は、
訝し気にちょっと首を傾げていた。

「明石、どうだ?」
「仕事に関してはメイちゃんの方が先輩だから、
私は指示で動くだけ」

千雨の問いに、裕奈はふっとごまかしの笑みを交えて答えた。
382 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/25(月) 04:00:54.23 ID:lDycOOgF0

「勝手に、して下さい。
私達は何も知らなかった、それでいいんですね?」
「恩に着る」
「感謝するわ」

愛衣の言葉に千雨とマミが言い、
裕奈の眉は益々訝しく動いていた。

裕奈が見習いでも魔法協会に属して改めて分かった事として、
今の3年A組、その中のネギ・パーティーはかなり独特な存在だった。

元々千雨は愛衣の一つ年上であり、何より、あの夏休みの実績がある。
裕奈は千雨を裏番長、と呼んだが、
裕奈が後で聞いた所では、夏休み以前の学園祭からも
今や「英雄」であるネギの側でコアな活躍をしていた。

そして、それが出来るぐらいに頭も回る。
そんな千雨に理屈と現実的なパワーバランスで圧倒されて、
愛衣は自分の正規の持ち場で黙らされる。

今は「こちら側」でもある裕奈としては、
色々な意味での自分の中途半端がもどかしくなる。

「明石裕奈」

その呼びかけに、裕奈は思考を止めた。

「一つ、確かめたい事がある」

それを言ったのは、暁美ほむらだった。

「何?」

「今、まどかの側で彼女を守る桜咲刹那、
クラスメイトでもあるあなたから見て、
一体どういう人物なのかしら?」

ほむらの問いに、裕奈は指先で顎を押し上げながら少しだけ考える。

「誠実な人」

それが、裕奈の答えだった。
383 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/25(月) 04:04:39.04 ID:lDycOOgF0

「うん、クラスメイトで、
魔法協会の関係で関わる事もあるけど、誠実な人だね。
誠実で寡黙なサムライ」
「見たままね」

マミがくすっと笑い、裕奈がニカッと笑みを返した。

「でも、中身は結構普通な女の子の所もあってさ、
それが又かわいーんだ」
「分かる」

ふふっと笑って言ったのは、美樹さやかだった。

「でも、凄く真面目だから、
このかの事だって、今見たら心の底から大好きなのに、
このかに悲しい顔させても昔は距離をおいた護衛に徹してた。
本当は自分が一番友達でいたいのに、
守るためにそうするべきならそうし続けてた。そういう娘だよ。
色々厳しいけどそれも優しいからで、凄くいい娘だから」

裕奈の真面目な言葉に、さやかは真面目な顔で下を向いた。

「今はこのかともアスナとも、ネギ君ともすっごくいい関係で、
誰よりも強いサムライしながらすっごく可愛い女の子になってる。
それでも、何より守るべきものは絶対、命懸けで守り抜く。
だからさ」

そう言って、裕奈は自分を見据えるほむらをしっかと見返す。

「だから、鹿目まどかちゃん、
あんた達の大切な友達の事も、刹那さんなら必ず、
それこそ命を懸けてでも守り抜く筈だよ。
まー、今の魔法世界に、
あの二人を本気にさせる程の脅威があるとも思えないけどね」

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今回はここまでです>>372-1000
続きは折を見て。
384 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/25(月) 13:31:16.73 ID:lDycOOgF0
すいません
>>374差し替えます。

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「まどかみたいに
魔法少女以外で魔法少女に同行してるケースもあるから」

「いや、だからミチルは間違いなく魔法少女だって。
あたしはいっぺん会ってるんだから」

「だったら、事情があって今回はパスした?」

杏子の言葉に、思案顔のマミが続ける。

「そしてもう一つ、和紗ミチルはここ最近学校を欠席し続けてる」
「あたしがあいつに会ったすぐ後からだ」

千雨が表示したデータを見て杏子が言った。

「もう一つ、本格的にヤバイ話がある」
「勿体ぶらないで」

ほむらの鋭い言葉に、千雨が頷いた。

「時期だけで言えば、
この和紗ミチルの不登校の直後から、あすなろ市を中心に、
私らと同年代の少女の失踪事件が続出してるって事さ」
「なん、ですって?」

マミの言葉を聞きながら、千雨がノーパソを操作する。

「まず、さっきの魔法少女の説明にも出て来たが、
正体不明の少女の失踪は、魔女に食われた魔法少女である可能性がある。
そういう話だったな?」
「ええ」

千雨の問いにマミが答える。

==============================

差し替えは以上です。
続きは折を見て。
385 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/27(水) 03:05:43.83 ID:UojWe8dL0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>383
>>384

ーーーーーーーー

「取り敢えず、お茶でも飲んで考える?
私の部屋すぐ近くだから」
「いえ、取り敢えず………」

麻帆良学園女子中等部寮、
佐々木まき絵、和泉亜子の部屋を出て少し歩いた所で
明石裕奈はスマホを取り出した。
側を歩く佐倉愛衣、大河内アキラの注目が集まる。

ーーーーーーーー

「色々言いたい事はありますが」

裕奈と愛衣は、女子中等部エリアダビデ像前の広場で、
腕組みする高音・D・グッドマンの眉がひくひく動くのを見ていた。

「まずはメイ、着衣一式携帯電話ごと
お風呂場に置いたまま何処かに出歩く、と言うのは
如何に女子寮でもはしたない、では済まない事だと思いますが」

そう言って、高音はビニール袋に入った一式を愛衣に押し付ける。

「メイと連絡がつかない上に、
事件性すら疑われるレベルの忘れ物が寮からこちらに連絡があったので
明石さんに電話してみた訳ですが、
一体何事か、当然説明いただけますね? メイ?」
386 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/27(水) 03:08:50.40 ID:UojWe8dL0

そこで、ようやく高音は愛衣の様子に気付く。
高音にとって愛衣は、長いか短いかはとにかく、
魔法の鍛錬からちょっとした戦場気分も含めて
そこそこ濃い付き合いをして来た相手だ。

その高音から見て、愛衣は明らかに憔悴していた。
それも精神的なものだ。
確かに疲れる一日ではあったが、
何時間か前に分かれた時の事を考えると、
何も無しにここまで憔悴するとはちょっと考えられない。

「何が、あったのですか?」
「ああ、うん」

目を閉じて後頭部を撫でていた裕奈が、
左目を開いて高音を見る。
恐らく厄介事だろう、と、高音は覚悟を決めようとする。

ーーーーーーーー

「何と言う………」

裕奈からのおおよその説明を聞き、
高音は絶句し愛衣は下を向いていた。

「あなた達は、それを看過したと言うんですか?」
「あの場で止めようとしたら、本気で殺し合いになってた」

ビクッ、と肩を震わせる愛衣の隣で、
裕奈はむしろ高音の目を見据えて言った。

「ええ、今のは只の質問です。
魔法少女の火力は私も知らない訳ではありませんから、
その判断を責めるものではありません。
こちらで加担したのは長谷川千雨、雪広あやか、
綾瀬夕映、宮崎のどか、これでいいですね?」

「はい」

高音の問いに、裕奈は迷わず答えていた。
387 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/27(水) 03:12:39.52 ID:UojWe8dL0

「ふざけた真似を………」

裕奈は息を飲んだ。
高音は麻帆良学園系列の聖ウルスラ女子高等学校の生徒、
性格は悪く言えば頑固で指導も厳しい。
その分真面目で育ちの良さが見える礼儀正しい先輩。
それだけに、口調に呪詛の籠った呟きは尋常ではなかった。

「ネギ先生の下で、
強大な魔法の実力を持って学園や魔法世界を救う中心にいた。
だから今回もそれを押し通そうと言うのですか。メイ」
「はい」

そこで、ようやく愛衣は怖々と顔を上げた。

「3Aと魔法少女が結託して横車を押そうとしている。
その事に就いては、これからフェイト先生に報告して対処を求めます。
ええ、学園内の魔法関連事件、その調査に関わる学園警備への暴挙として、
私からフェイト先生、魔法先生に厳重に抗議します。
………ふざけるな………」

高音の最後の言葉は、僅かに震えていた。
最近こちらの世界に関わった裕奈は、
お祭り娘の地はなかなか変わらず、高音からもしばしば雷を落とされている。
だからこそ、この事態が高音の心の何に触れたのか、
それぐらいは分かる心算だった。

「高音さん」

だからこそ、裕奈はごくりと喉を動かし、拳を握り、
それでも、口に出した。

「何ですか?」

高音が聞き返す。高音は確かに頑固だが、
責任感が強く、頑迷ではない。
後は、自分次第と裕奈は一度深呼吸をする。
388 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/27(水) 03:16:18.87 ID:UojWe8dL0

「私も、彼女達を追って今回の事件の調査続行を」

そこまで言って、裕奈はぐっと踏みとどまる。
そして、本当にチビりそうな高音の目をしっかりと見返す。

「本気で言っているんですか?」

「本気です。これは、麻帆良学園の中の魔法の事件です。
人が三人消えてて正直何が起きてるのかも分からない。
手がかりは、動き出したグループの後を追う、
今はもうそれ以外には、現実問題として、ない、んじゃないかと、
そう思いますっ!」

「だから、あなたのクラスの暴挙に追随しろと?」

「私も、っ、今回の事はやり過ぎと言うか
やっていい事じゃない。私も、そう思う」

「あなたがそう言うのでしたら、間違いなくそうでしょうね」

「だけど、その事と調査とは別です、
目の前に手がかりがあるんですから」

「そうやって、又、済し崩しに3Aが事件を解決して
私達がそれを手伝って目出度し目出度し、
と言う事にする心算ですか?」

「高音さんっ」

裕奈は踏み留まって前を見て、
高音も決して退かない眼差しでそれを見返した。

「私は、高音先輩を尊敬しています」

裕奈の言葉を聞きながら、高音は裕奈をじっと見据えた。
389 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/27(水) 03:19:45.94 ID:UojWe8dL0

「力だけを持って魔法協会に入った私に、
高音先輩、メイ先輩は魔法使いの事を一つ一つ教えてくれた。
私が調子に乗って、高音さんから雷を落とされた事も一度や二度じゃなかった。
魔法なんて力、好き勝手に使ったらいけないって私にも分かる。
力があるからこそ、何かあったらフォローしなきゃいけない事もいっぱいある。
高音さんもメイちゃんも、
その事にずっと誠実に向き合って努力して積み重ねて、私にも教えてくれた。
魔法協会で高音さんの下について、少しは教えてもらったつもりです」

「それでもあなたは3Aにつくと言うのですか?」

「それでも、高音さんも分かってますよね?
これが只事じゃない、只の魔法のトラブルじゃないって。
襲撃に関わった魔法使いの正体は不明、
魔法少女のグループの関与まで浮上してる。
協会の具体的な動きも見えないで、こっちに手がかりが見えてる。
そんな状態で、一般人が巻き込まれて安否が分からないんです。
だったら、魔法使いとして………」

「私は、あなたよりもずっと長く魔法使いをしています。
身の程を弁えず藪を突く事の怖さもあなたよりは知っています。
いいえ、あなたはその意味では、
3A、ネギ先生と言うとてつもない素質揃いの身近で、
あなた自身が並み以上の素質の持ち主として
魔法に覚醒したと言う環境はむしろ悪かった。
あなたは、お母様の遺志を継ぐと言って魔法使いを志願した。
優秀な魔法使い優秀なエージェントであった
あなたのお母様ですら、任務中に落命した。
見習いが軽々しい事は言わないものです」

「私は………」

裕奈は、ぶら下げた手で改めて拳を握った。

「私は、何も知らなかった、母さんの事を」
「明るくて優しい、強い母だった。
あなたにとっては、
娘の母親としてそれで十分だった。違いますか?」

高音の言葉に、裕奈は小さく頷いた。
390 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/27(水) 03:23:41.65 ID:UojWe8dL0

「それは、明石教授の意思でした。
それを押してあなたに教えたあの時の判断が正しかったか、
今でも私は自問自答します」

「私は高音さんに感謝してる」

「それならば、あなたが知った先人の犠牲に学ぶ事です。
事は、魔法使いに魔法少女まで関わっている。
私も最近関わりましたが、
彼女達は侮れないどころか敵に回したら本気で危険です。
魔法使いとして、ヒヨコとも言えるかどうか分からない雛鳥が。
これは、表向きのスキルや火力の問題じゃない、あり方の事です」

「怒ってたんだ」
「?」

「魔法少女のみんな、本気で怒ってたよ。
大事な仲間、友達がこんな事になって、
魔法使いの範囲でこんな事になって、それで何も分からないって。
刹那さん達と付き合ってたなら、魔法使いの強さだって分かってた筈。
それでも、一般人の友達のために衝突、戦争覚悟で戻って来て
躊躇なく最短ルートのやり方でこっちに迫って来た。
あの娘達、それぐらい本気で怒って、本気で心配してた。
大事な人がいなくなるって、そういう事じゃないの?
私達のテリトリーで私達にもよく分からない事態が進行してる。
それに、もっと、嫌な予感がする」

「まだ何かあるんですか?」
「千雨ちゃん、長谷川千雨」
「ああ、3A側の今回の首謀者だと言っていましたね」
「それがおかしい、おかし過ぎるんだ」

裕奈の絞り出す様な声に、高音は訝し気に眉を動かす。

「確かに、千雨ちゃんは本当の所を言えば
情に厚くて優しくて、だからネギ先生からも信頼されてて。
だから、魔法少女の側につく、ってのも分からないでもない。
それでも、それでもあの千雨ちゃんはおかしかった」

「私も、そう、思います」

そこで、愛衣が口を開く。
391 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/27(水) 03:27:18.99 ID:UojWe8dL0

「あの夏休みの時も割と側にいる事がありましたけど、
あの人、何と言うか、あんな話し方をするとは………」

愛衣の言葉に、裕奈が頷いた。

「千雨ちゃん、長谷川千雨は、能天気な3Aの中では、
どっちかって言うとスカしてる、ノリが悪い、
そっちに近い態度をとってる。
それだけ慎重な娘で、
それに、魔法じゃない日常を大切にする娘でもあるんです。
少なくとも、こっちの世界の事に関して
やたらと無理押しするタイプの娘じゃない」

「確かに、私もそういう印象を持っています」

とうとう高音も思案して同意を示す。

「千雨ちゃんが怒るって言ったら、
むしろ常識とか安全圏が崩れる時。
そうじゃなかったら、慎重派だから
自分からごり押ししてリスクを負う様なタイプじゃない。
率先して魔法の事に関わって仕切りたがるタイプでもないし、
こんなやり方してたら、明日にでも
フェイト先生からのチョーク責めじゃ済まないって事も分かってる筈。
何より、人を踏み付けて押し除けるみたいな言い方、
根が優しいからちょっと距離取ってる千雨ちゃんが好き好んでやる筈がない。
何て言うか、千雨ちゃんから自分の事みたいな
嫌な危機感がひしひしと伝わって来てたって言うか
………焦ってる………」

「彼女が、何かを知っている、とでも言うのですか?」
「それもあり得る」

やや青ざめた高音の問いに、裕奈が答えた。
392 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/27(水) 03:31:12.58 ID:UojWe8dL0

「だから、このまま訳も分からない状態が続けば、
何か凄く嫌な予感がするんです。
分からないままじゃ済ませられない。高音さん………
高音先輩、私に、僅かな勇気を使わせて下さい」

深々と頭を下げる裕奈の前で、高音がはあっと嘆息する。
高音から見て、裕奈は頭の痛い後輩だった。
高音の下につけられた、あの3A出身のお祭り娘。
力だけはやたらと持っていて、
羽目を外して高音から雷を落とされた事も一度や二度じゃない。
気が付いた時には、裕奈は宙に浮いていた。

「メイは念のためです。
夜は長い、少し頭を冷やしなさい」
「ちょっ、高音さんっ!!」

裕奈と愛衣は背後に現れた巨大な黒衣の触手に持ち上げられ、
高音は裕奈の叫びを背にカツカツとその場を後にしていた。

ーーーーーーーー

「高音さん?」

長い様な短い様な時間の後、高音がダビデ像前の広場に戻って来て、
僅かに浮いた裕奈と愛衣の足がすとんと着地した。
そして、高音は裕奈に資料を押し付ける。

「今回の事件に就いて、ナツメグが調査を行いました。
結果、ゲートのある図書館島周辺の防犯カメラの映像から、
麻帆良の外部の人物が割り出されました」

裕奈は、何処かで聞いた話を聞きながらちょっと首を傾げる。

「御崎海香、撮影された顔面と各種データベースを照合した結果、
あすなろ市の女子中学生作家、なのだそうです。
この、御崎海香と言う少女の周辺調査と接触を行い、
事件に関して何か見聞きした事でもないかを確認して下さい。
エージェント明石裕奈………返事は?」

「は、はいっ!」
393 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/27(水) 03:34:24.53 ID:UojWe8dL0

「………ナツメグが言っていました………」
「?」

「こういう場合、学園警備が防犯カメラ映像を調査するためには、
閲覧許可を申請した上で、防犯目的で防犯カメラデータを提供されている
ミラーサーバにアクセスするのが通常手順です。
しかし、今回は、事件直後から提出されていた許可申請は棚ざらしにされ、
調査のために正規にアクセスした痕跡も無い。
それなのに、何かアクセスした形跡はある。
きな臭いものを感じたナツメグは、
学園警備のダミー活動で顔を繋いでいたルートから、
店舗等の防犯映像の生データを直接確保しておいて
今回分析に用いたと言う事です」

「やるね………」
「跳ね返りも地道にやるものです」

裕奈の言葉に高音が答える。

「この御崎海香と言う人物に就いて、私はそれ以上の事は知りません。
出張先での聞き込み調査である以上、
現場の判断で臨機応変に対応するのはエージェントの務めです。
メイは、魔法使いとして経験の浅い明石裕奈のバックアップを。
私自身、緊急時としてこの指示を出していますが、
軽率の疑いがある事も否定はしません。
あくまで魔法先生の指示を待つと言うのなら指示を留保しますが、
あなた達の判断は?」

「エージェント明石裕奈、
只今の高音・D・グッドマン先輩の指示、了解しました」
「佐倉愛衣、同じく了解しました」
394 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/27(水) 03:37:58.37 ID:UojWe8dL0

「明石裕奈、佐倉愛衣」
「「はい」」
「魔法使いの誇りにかけて、
あなた達の本当の魔法と言うものを見せてみなさい」
「「はいっ!」」

高音から見て、裕奈は頭の痛い後輩だった。
それでも、弱小でもバスケットボール部員で、
からりと明るく笑いながら、先輩に対して真っ直ぐな眼差しを向けて来る。
そして、お調子者に見えて、存外聡い。
頭の回転も速く、よく見ている。根っこの所で大事な所を把握している。

「硬い」と言われている高音だからこそ、
チームとして欠落を埋め合わせる必要が分からない程愚かでもない。

愛衣は優秀な魔法使いで可愛い妹分。
姉貴分である高音共々、誇り高き魔法使いは
面を張られて張られっぱなしのタマではない。

==============================

今回はここまでです>>385-1000
続きは折を見て。
395 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/30(土) 02:45:35.36 ID:abUgDWIv0
2018年にはまだ40時間以上ある筈なのですが…………


おめでとうございます!


それでは今回の投下、入ります。

==============================

ーーーーーーーー

>>394

「………ウェヒヒヒ?」

光に包まれた、と思った後の鹿目まどかの視界に広がる光景は、
彼女の脳内処理能力を相当大幅にオーバーしていた。

どこから記憶を辿ればいいのか、
確か、自分は見滝原に住んでいて、

強くてたくましい母、優しくて頼りになる父、
夢いっぱいの可能性をもつ弟
がいて、見滝原に引っ越してから美樹さやかと、志筑仁美と友達になって。
見滝原中学校に入った。

魔法少女なるものと魔法使いなるものと魔女なるものにほぼ同時遭遇した。
魔法少女の巴マミ先輩、その日に転校して来た、
やっぱり魔法少女だった暁美ほむら、
そして、魔法使い、退魔師だと言う桜咲刹那と関わる事になった。
396 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/30(土) 02:49:15.52 ID:abUgDWIv0

そこに、魔法少女の佐倉杏子、
刹那の親友だと言う魔法使いの近衛木乃香も加わり、
魔法少女とか魔女とか魔法使いと言う時点で、
時々命が危なくなる程度には色々なんやかんやがあった。

そして、魔法使いの実力者だと言う近衛木乃香の招きに応じて
麻帆良学園都市でお茶会に参加して、
楽しい時間を過ごしていた。
ところが、そこから外出した途端に何者かの襲撃を受け、
逃げ回っている内に、大きな木のある広場で光に包まれた。

理屈で言えば、大体こんな感じで脳内プレイバックする。

そこまで筋道を立てて、
突っ立っていたまどかは改めて周囲の景色を確認する。
一言で言えば荒野。
その中に、巨大な石造りの何かが見える。
少なくとも、自分がいた筈の麻帆良の街中ではない。

そこで、まどかは思案する。
魔法少女、魔法使い、と来たからには何が来ても余り不思議ではない。

では、今度は、近年本屋にもWeb小説辺りにも
溢れ返っている異世界転生とやらか。
その場合、もしかしたら半々ぐらいで
輪廻転生と言う事になるが、それはちょっと洒落にならない。

まだまだパパとママにはいっぱいいっぱい甘えて
タツヤの彼女のツラぐらいはおがんでやりたい。

取り敢えず、わたくしこと鹿目まどかといたしましては、
不意打ちに後ろから突き落とされる程恨まれた覚えもなければ、
お盆もお正月もクリスマスも家族向けバレンタインデーも
日本西洋どっちのカボチャ祭りも等価に楽しむ程度の
平均的日本産女子中学生であり、
別に信心そのものに喧嘩を売るつもりはないので、
辛辣なジョークを交えた気合の入った演説で
戦場を飛ぶ来世を迎える等と言った展開は御免こうむりたい。
397 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/30(土) 02:52:38.66 ID:abUgDWIv0

その思考の理屈の趣旨を少々分かり易い例示を交えて意訳したが、
およそそんな事を思案していた鹿目まどかは、
であるからして、今、目の前で
見事な翼の巨大なトカゲが素晴らしくギザギザな歯を見せて
風を切ってこちらに突っ込んで来る、
等と言う展開もさもありなん、と、思考的には結論付けつつあった。

「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!!」

その轟音が、まどかの意識を「こっち側」に引き戻した。

「ごめんなー、痛かったやろ。
でも、ちょっとあの娘にオイタは堪忍や。
ほな、あっち行ってなー」
「ご無事でしたかっ!」

目の前に、桜咲刹那の安堵の顔を見たまどかは、
近衛木乃香の声を聞きながらその場にへなへなと頽れた。

ーーーーーーーー

「あの、刹那さん………」
「この状況の説明、ですよね」

話の早い刹那に、立ち上がったまどかがこくんと頷く。

「まず、ここは魔法の国、魔法世界です」
「魔法世界?」
「はい、その通りです」
「魔法の世界、って、つまり、
えーと漫画やアニメに出て来るみたいな魔法の世界で
別の世界って言うか………」

「そう思っていただけるなら、話は早いです。
場所としては、火星の異次元空間にある様です」
398 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/30(土) 02:55:56.39 ID:abUgDWIv0

「あーまどかちゃん、大丈夫やから瞳のハイライトオンしてな」

「あ、はい、カセイノイジゲンなんですね」
「ええ、理屈としてはそういう事になりますが、
元の世界に無事戻る方法は確立されていますので
その辺りの事はご安心下さい、失礼」

鹿目まどかは、一礼して跳躍した桜咲刹那が、
斜め上結構上空でプテラノドンの魔改造か何かみたいなの一撃して
まどかの隣に戻って来て一礼するその間、億のつかない35秒を
大汗を浮かべて眺めていた。

ーーーーーーーー

「少し、手間取りましたね」
「ごめんなさい、私が足手まといで」
「とんでもないっ!」

陽の沈んだ後、荒野の中の焚火の前で、
頭を下げるまどかを刹那が両手で制した。

「そもそも、魔法少女に関わっているとは言え、
一般人を勝手に魔法の世界に連れて来てしまった事自体、
身近にいた魔法使いとして大変な責任ですから」

「さっきも言ってましたけど、理由は分からないんですか?」

「両方の世界を繋ぐゲートが暴走した、
それは確実なんですが、事態は明らかにイレギュラー。
現在使われていなかったゲートが急に稼働した結果です」
「焼けたえー」

そこで、にこにこ笑った木乃香がマンガ肉を二人に差し出す。
399 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/30(土) 03:00:10.61 ID:abUgDWIv0

「いただきます」
「………どうですか?」

「はい、ええと普通に美味しいって言うか、
本当に普通のお肉みたいだし、
刹那さんが一生懸命戦ってくれてたのも分かりますから」

「そうですか。では、食べたら休んで下さい。
明日には市街地に到着します。
そこで普通の食事と寝床も用意できます、
そこから帰りの算段もすぐにつけます。
ですから今夜だけはご辛抱を。
安全だけは私が必ず」

「はい………あの」
「?」
「刹那さんも寝ないと」
「大丈夫」

そこで、木乃香が口を挟む。

「うちが交代するさかい、
うちでも見張りぐらいは出来るえ。
心配してくれてありがとな」

木乃香がにっこり笑い、
まどかが、何とか材料をかき集めた寝床に身を横たえた。
400 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/30(土) 03:03:52.40 ID:abUgDWIv0

ーーーーーーーー

オ オ オ オ オ オ オ…………

英国、某基地内。
長谷川千雨と雪広あやかのアーティファクトとコネを総動員して、
日本国内某基地からこの基地迄を
地球上で科学的に最も速いであろう乗り物で直行した結果として、
暁美ほむらと美樹さやかはバケツに顔を突っ込んでいた。

「はいはーい、乗り物酔いは収まりましたですわねー」

顔を上げた二人が見たのは、
どうも十代後半ぐらいであろう快活そうな女性であった。

「雪広のお嬢様からあなた達の事を最高スピードで、
とのオーダーによりわたくしが選ばれた訳でございますから、
それでは早速参りますわよ」

かくして、二人はあれよあれよで
ジャガーEタイプの座席にふらふらと到達する。

「シートベルトオッケー歯の食いしばりオッケーですわね。
信号機オール進めの根回しオッケー、
それではエンジン全開出発進行でございますわよおっ!!!!!」
401 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/30(土) 03:07:52.51 ID:abUgDWIv0

ーーーーーーーー

「………ウェヒヒヒ?」

夜も明け、程なくして新・オスティア都市部に到達した鹿目まどかは、
脳内での過密処理に難渋しながら通りに突っ立っていた。

「あー、やっぱりそうなるわなー」
「大丈夫ですよ」

目の前で、にっこり微笑む刹那の顔を見て、
まどかの脳内ではようやくカシャンと噛み合った。

「見ての通り、獣やら魔物やらに見える人達も色々いますが、
ええ、彼らは人と言って差し支えの無い存在です。
我々と同様の感情も頭脳も意思疎通もあります。
そして、このオスティアの都市部は相応の秩序も保たれています。
私達がついていますから、海外旅行程度に気を付けていれば大丈夫です」

「まあー、今回は逃げ隠れする必要もないしなー」
「は、はい、有難うございます」
「それでは早速、寄りたい所がありますので」
「はい」

かくして、刹那を先頭にした三人組が到着したのは、
巨大な扉の前だった。

==============================

今回はここまでです>>395-1000

本年最後の投下の可能性が大ですので
一言ご挨拶を。

よいお年を。

続きは折を見て。
402 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/16(火) 02:52:43.93 ID:poFWmeVh0
遅ればせながら
新年あけましておめでとうございます。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>401

 ×     ×

連合王国ウェールズ国内

「はーい、お車はここまででございますわよーっ」

運転手が陽気に声をかけた時、ジャガーEタイプの各席では
辛うじてマウス・ピースを吐き出した美樹さやかと暁美ほむらが
べろんと舌を出して脱力していた。

「出発の前に、お食事のご用意がありますわ」
「「いただきます…………」」

人里離れた緑豊か過ぎる一帯で、
少しばかり車を離れていた運転手が用意した食事に、
二人の魔法少女はふらふらと両手を合わせる。

「………それでもその有様で食が進むのは、
なかなかの根性でございますわね」

「うん、さっきの基地で出すもん全部出しちゃったし」ガツガツガツ
「作りだけは頑丈に出来てるから」モシャモシャモシャ

「ふふっ、気に入りましたわ」
403 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/16(火) 02:59:57.69 ID:poFWmeVh0

「でも、今度はもっと穏便に、
折角のイギリスだから優雅にティータイムとか洒落込みたいわー」
「なかなか、簡単にお似合いとは言えない事ですわよ」
「お互いにね」

\アハハハハハハ/

「それではどうも」
「ご馳走様でした」
「それでは、お気を付けになって」

スターゲイジーパイとハギスをお腹いっぱいご馳走になり、
さやかとほむらがぺこりと頭を下げて運転手も陽気に見送った。

「いやー、なんか凄い人だったね」
「確かに、凄い運転だった。魔法少女じゃなかったら心臓止まってたかも」
「言えてる。まあ、流石に今回だけの付き合いだろうけど」
「そう願いたいものね、少なくとも同乗者としては」

ーーーーーーーー

さやかとほむらがジャガーから離れてどれぐらい経過したか、
二人は霧の中にいた。

「駄目ね」

ほむらが携帯機器を見て言った。

「スマホと軍用のGPS、
用意はしておいたけど、完全に妨害されてるわ。
この分だと方位磁針も当てにならないと思った方がいい」

「で、気が付いてるよね」
「誰に言っているのかしら美樹さやか?」

自分のソウルジェムを掴んださやかの側で、
ほむらが手だけファサァと架空の黒髪を払う。
二人共麻帆良で用意されたフードつきのローブ姿だった。
404 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/16(火) 03:03:59.08 ID:poFWmeVh0

「この空間、結界の類よ」
「だったら………」
「ええ、私達が知っているものとは異質な部分はあるけど、
魔力を辿って行けば辿り着ける………その前に………」
「!?」

最近まで疎遠、と言うか避けていた部分のある「転校生」に
バッと手を握られ、やはり慣れない感情を抱きながらも、
さやかはほむらと共に走り出していた。

「引っ張らない様に気を付けて」
「オッケー」

ほむらが注意しているのは空中に浮いている紐であり、
その先にはゴムボールが縛り付けられていた。

「霧の中からこっち囲んでた?」
「ええ、だから、
迷う前に時間停止を解除して又方角を確認するわよ」

 ×     ×

「あの、ここって………」

魔法世界新・オスティアの一角で、
鹿目まどかは巨大な門を見上げて問いを口にした。

「温泉です。このオスティアは現在は観光都市、
中でもこの巨大温泉は魔法世界の中でも
極めて高い知名度を誇っています」
「これが、温泉………」

桜咲刹那の回答を受けて、
自分の知識がどれぐらいだろうか、と思いながらも、
それでも桁違いに大規模そうな建物を前にまどかは瞬きをする。
405 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/16(火) 03:08:41.48 ID:poFWmeVh0

「この温泉は魔法世界でも一種の聖域、
ですからここで少々確かめたい事もあります。
只、鹿目さんがこうした所が苦手だと言うのでしたら………」
「いえ」

真摯な態度の刹那の言葉に、
まどかはにこりと笑顔で応じた。

「今、お風呂に入れるんだったらそれはとっても嬉しいなって。
魔法世界の温泉ってちょっと興味あるしウェヒヒヒ」
「そうですか」
「せやせや、こんなんなる迄お風呂無しって、
女の子には辛いとこやなー」

もちろん作為的に言った部分はあっても、
およそ正直な事を言ったまどかに近衛木乃香が気さくに声をかけ、
刹那もほっとして返答する。

ーーーーーーーー

「ウェヒヒヒヒヒ」

まどかが知る温泉、入浴施設、温泉レジャー云々を
まとめてぶち込んで桁を一つ二つ外した様な光景の中、
鹿目まどかは借り物のタオルをぶら下げて突っ立っていた。

「相変わらず凄いなぁ」
「はい、凄いですウェヒヒヒ」
「気に入ってもらえて何よりです」

隣からまどかに声を掛ける木乃香にまどかも素直に目を輝かせた。
そして、きょろきょろ辺りを見回していたまどかが、
つーっと視線で半円を描く。
406 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/16(火) 03:12:37.10 ID:poFWmeVh0

「相変わらず、こっちの人はスタイルええなぁ」
「そうなんですねウェヒヒヒ」

すらりと背が高くそれでいてボンキュボンで
生物学的レベルで異国情緒過ぎる美女二人組が通り過ぎるのを
つーっと目で追っていたまどかに木乃香がにこにこ声を掛けた。
改めて、いよいよどの温泉に、と、まどかが思った刹那、
手近な湯舟からどっぱーんっと水柱が上がる。

「彼女は狼藉には不慣れなあちらの世界の一般人ですので、
オイタはご遠慮いただけますかね?」ギリギリギリ

「いやいや、背丈こそおちびさんでも、
あの全体のふわふわ感は愛情に包まれてすくすく育ったもの。
故に、ちょっと見の大きさだけでは測れぬ
健康に育ったそのぷにぷに感こそがモフフフフ
その上であの至高の白絹の肌に包まれた慎ましき………」メキメキメキ

「それが遺言ですか?」ギリギリギリギリ

「えーとウェヒヒヒ」
「気にしない気にしない、気にしたら負けや、さ、お風呂入ろ」
「はい」

最近知り合った美少女剣士とこの辺では割と見かけるタイプの褐色の女の子が
普通に硬そうなお風呂の床で寝技の応酬をおっ始めたのを横目に、
鹿目まどかは大汗を浮かべながら未知の入浴に心躍らせた。
407 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/16(火) 03:16:08.48 ID:poFWmeVh0

ーーーーーーーー

「ふぅーっ」

とにもかくにも、とてつもない数の湯舟から
木乃香に手を引かれるままに温泉を堪能し、
少々体が茹った所でまどかは湯を上がる。

「んー」
「?」

床に立ち、タオルでまとめた髪の毛を解いたまどかに
湯舟の中から木乃香が微笑みかける。

「髪解くと感じ変わるなぁ。
その、ちょっとうぇーぶしたのが可愛ええわ」
「私はこのかさんのすっごく綺麗な長い黒髪が羨ましいですけど」
「ややわー」

木乃香がころころ笑いながら湯を上がり、
まどかが羨む黒髪をタオルから背中にさらりと流す。

「あの、暁美ほむらちゃんも」
「はい、さらさらの綺麗な黒髪で美人で」

「まどかちゃんも可愛ぇよ。可愛い小動物系と言うか、
隠れファンとかクラスに一杯いるんと違う?」

「ウェヒッ、ママみたいな………
あ、ごめんなさ、い………」

調子に乗って人込みでおしゃべりが過ぎた上での感触に、
頭を下げようとしたまどかが目をぱちくりさせる。
確かに、体に当たった時点で、肌に触れた感触がちょっと変わっていた。
408 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/16(火) 03:20:12.10 ID:poFWmeVh0

「ぬい、ぐるみ?」

最初、キュゥべえの事をぬいぐるみだと思った。
確かに、今見ているのも、形状自体はぬいぐるみに見えない事もない、
只、問題はそのサイズだった。

ここにいる時点で着ぐるみではなさそうだ、
確かに、今まで見ていてこの手の人がいても不思議ではない。
それはその通りであるのだが、それでもやはり見た目微妙に可愛くても
サイズが多分ヒグマ越えでそのままの姿の生き物で、

「もしかしてあっちの世界の娘かい?」
「ウェヒッ?」

そして、まどかは気さくな中年女性に声を掛けられていた。

「こっちの世界でも北の方だと私らの同類は少ないからね」
「あ、あのっ、私達の世界の事をっ?」

「ああー、ちょっとだけ知ってるよ。
昔、こっちに来た娘達を世話した事があってる。
アンタ、ちょっとあの娘に似てるかね。
ほら、そんな風に可愛らしく笑う所も」

「ウェヒヒヒ」

気さくに笑う、どうやらかなり懐の深い女性らしい
でっかく温かそうな熊のぬいぐるみに優しく話しかけられ、
まどかもほっと笑みをこぼしていた。
409 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/16(火) 03:23:57.35 ID:poFWmeVh0

ーーーーーーーー

「あら」
「おや」

木乃香とまどかを追っていた刹那は、
ふと近くの浴槽に視線を向け、声を掛ける。
そちらでは、浴槽の中の岩の島で刹那と同年代の少女の一団が寛いでいた。

それぞれタオルを手にしているが、元々ここは女湯、
それも彼女達が女子校育ちと言う事もあってか、タオルの身に着け方もまちまち。

集団の中心となっているのは、
ツインテールの金髪から「角」が覗いている褐色肌の少女。

彼女を中心とした一団の大半は、
この風呂場にはよくいる人間と獣、或いは幻想獣の特徴を備えているが、
角ツインテールの隣のきちっとした黒髪ショートカットの少女達だけは
人間以外の外見上の特徴は見当たらない。

==============================

今回はここまでです>>402-1000
続きは折を見て。
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 21:45:15.37 ID:h+7XtgJi0
https://www65.atwiki.jp/sajest/pages/74.html
https://www65.atwiki.jp/sajest/pages/39.html
https://www65.atwiki.jp/sajest/pages/47.html

http://hayabusa9.2ch.net/test/read.cgi/news/1516009856/43 http://hayabusa9.2ch.net/test/read.cgi/news/1516009856/74
http://hayabusa9.2ch.net/test/read.cgi/news/1516009856/327 http://egg.5ch.net/test/read.cgi/applism/1515949463/106
http://leia.2ch.net/test/read.cgi/poverty/1516021823/110 http://hayabusa9.2ch.net/test/read.cgi/news/1515749204/157
http://egg.2ch.net/test/read.cgi/applism/1516089390/304 http://egg.2ch.net/test/read.cgi/applism/1516089390/337
http://egg.2ch.net/test/read.cgi/applism/1516089390/339 http://egg.2ch.net/test/read.cgi/applism/1514725181/66
http://egg.2ch.net/test/read.cgi/applism/1515861619/628 http://egg.2ch.net/test/read.cgi/applism/1515910062/8
411 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/19(金) 02:37:09.05 ID:IOxANT5I0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>409

「ユエの友達の?」
「はい、桜咲刹那です」

岩の島から声を掛けられ、刹那はぺこりと頭を下げる。

相手は、魔法世界の独立学術都市
アリアドネーの騎士団の騎士団候補生グループ。
その中でも、綾瀬夕映が一時所属していたために、
刹那とも面識のあるグループだった。

そうすると、声を掛けて来た少女、
褐色肌に頭から垂れる耳を持ったコレット・ファランドールは
島から湯に入りざばざばと刹那に近づいて来た。

「やっぱり! ユエは元気?」
「はい、とても。あなた達との再会を心待ちにしています」

可能なら手を取らんばかりに食いついたコレットの質問に、
刹那も優しい微笑みで返答する。
コレットが動作からしてぱあっと明るくなり、岩の島にも喜色が広がる。

「それはそうと」

刹那が言葉を続けた。

「アリアドネーの騎士団候補が集団でこちらに?」
「あら?」

いつの間にか湯に入り、そそそと接近していた
角ツインテールの少女が口を挟む。
この集団のリーダー格、エミリィ・セブンシープだ。

「あなたもその用事でなくて?」
412 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/19(金) 02:40:09.16 ID:IOxANT5I0

ーーーーーーーー

「チーフさん」
「おや、確かコノカだったかい?」
「はいな」
「知り合い、なんですか?」

するりとまどかの隣に立って
熊のぬいぐるみな外見の多分中年女性と言葉を交わす
近衛木乃香にまどかが尋ねた。

「うん、前に友達が世話なって」
「アコ達は元気かい?」
「はいな。チーフはこっちに?」
「ああ、仕事にね。あんた達もその用事じゃなかったのかい?」

ーーーーーーーー

「せっちゃんせっちゃんせっちゃん!」
「お風呂で走ると危ないですよ」

ぱたぱたと急接近して来た木乃香に刹那が優しく言うが、
きらきら輝く瞳で刹那に縋り付く木乃香を、
後を追ったまどかは大汗を浮かべて眺めていた。

ーーーーーーーー

「凄い………」

いただいたばかりの温泉をあっさり無効化しそうな熱気。
建物に入る前からの尋常ならざる盛り上がりの中、
きゅっと手を握られる感触を確かめる。

「私から離れないで下さい」

刹那の言葉にまどかが頷く。
413 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/19(金) 02:43:59.00 ID:IOxANT5I0

「でも、なんか大変な事みたいなのに私までいいんですか?」
「大丈夫大丈夫」

まどかの隣で、木乃香がにっこり笑う。

「まあー、確かにコネそのものやけど、
向こうさんも二つ返事で入れてくれたさかい」
「確かに、濫用は控えるべきですが、
そのぐらいの事はしましたからね。こちらです」

そして、刹那を先頭に三人は長蛇の列とは別の入口へと移動する。

ーーーーーーーー

どういう状況か、まどかにも朧気に把握出来た。

スタジアムの中を、一般の混雑を他所に
スタッフが案内するVIP待遇で通路を進み、
そして観覧席へと到着した。

まどか達の前方には、如何にも高貴な椅子に掛けた、
やはり褐色で少々変わった耳の形の女性が腰かけている。
まどかの見た所では高校生ぐらいの年齢、民族衣装か何かなのだろう。

その側には矍鑠としたスーツ姿の年配の女性、
こちらは色白で豊かな白い髪の毛から生物学的な角が見える、
そんな女性が椅子の側に起立して控えている。

「おお」

前方の二人がこちらを見て、褐色の女性が立ち上がり声を掛ける。
刹那がざざっと片膝をついた。

「この度は、この様な席までお招きいただき感謝いたします。
姫様、グランドマスター(総長)」
「お招きいただき、おおきに」
「あ、有難うございます」

木乃香がぺこりと頭を下げ、
勢いで土下座一歩手前だったまどかもそれに倣う。
414 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/19(金) 02:47:09.13 ID:IOxANT5I0

「おお、久しぶりじゃの。
その娘か? 旧世界の知り合いと言うのは?」
「はい、鹿目まどか、と申します。
行き掛りで私達と同行する事となりまして、
無理をお願いしました」
「あ、あの、鹿目まどかです。有難うございます」

刹那の言葉に続き、まどかがもう一度頭を下げる。
まどかの見た所、褐色の女性の方が偉い、それも尋常じゃなく。
側に控えるスーツのご婦人も気品があり、只者ではなさそうだ。

「うん。私はテオドラ、ヘラス帝国の第三皇女である。
この魔法世界において、南北二つの大きな国の一つ、
ヘラス帝国の三番目のお姫様、易しく言えばそういう事じゃな」

「アリアドネー騎士団総長のセラスです」
「は、はいっ」

「良い、頭を上げよ。いい娘の様だ。
名乗る以上説明はしたが、この者達には返し切れぬ恩義がある。
まして、この者の言う事であれば信ずるに値する」

「「有難うございます」」

刹那とまどかが同時に言った。
こちらに来てからはよく見かける褐色肌にちょっと別の生物っぽい、
それでも、素人のまどかが見ても分かる高貴な美人。
まどかが何の事情も分からなくても平伏してしまいそうなオーラと、
それでいて懐の深い優しさがそのまま感じられる相手だった。

「ほら、そろそろ始まるぞ」

テオドラの言葉に、三人はスタジアムの試合場に視線を向けた。
415 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/19(金) 02:50:35.78 ID:IOxANT5I0

「あれが………」
「はい、私達の担任、ネギ・スプリングフィールド先生です」
「本当に、十歳の子どもなんだ………」

スタジアムに現れた男の子を見て、まどかは感心を口にする。
まどか達は明らかにVIP待遇の観覧席にいるが、
スタジアムの観客、熱気はとんでもない事になっている。
そんな中を、まどかよりも年下の少年が堂々と、
それも虚勢には見えない品のいい仕草でスタジアム中央へと進んでいる。

「ラカンさん」

木乃香の言葉に、ネギとは逆側に視線を向けたまどかは目を見張った。
一言で言えばマッチョマン、
確かテレビの映画で聞いた、筋肉モリモリマッチョのなんとか。

「あ、あの………」
「ん?」

掠れる声で尋ねるまどかに、木乃香がにこーっと応じる。

「えーっと、その、この、スタジアムって、
なんか、戦う、みたいなそういう事確か来る前に
そんな事と言いますか………」
「案ずるな」

答えたのは、くすっと笑ったテオドラだった。

「優しい、いい娘の様じゃの。
たまにはなかなか刺激的なものが見られるぞ」
416 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/19(金) 02:53:59.24 ID:IOxANT5I0

ーーーーーーーー

鹿目まどかが呆然としている間にそれは始まり、終わった。
ここ最近、見るだけであれば、
まどかも非常識な戦いと言うものをそれなりに経験している。
先輩の巴マミの魔砲力等は兵器と言ってもいいだろう。
だが、今見ていたものは、桁が二つ三つ違った。

「あー、負けてもうたなぁ」
「残念でしたね」

首をつーっと動かして、会話をする木乃香と刹那に視線を動かしながら、
まどかはようやく口を閉じる。
取り敢えず、スタジアム中央で握手をしている
ネギが負けてラカンが勝ったらしい。

まどかに言わせればそれはまあ、
ちょっと服装をいじれば可愛い女の子にすら見えそうな
確かにここでは精悍な雰囲気でもまどかより年下の少年、小さな男の子と
見た目からして魔女の一つや二つ捻る事が出来そうな
筋肉モリモリマッチョのなんとかが正面対決すればそれはそうなるだろうと。

魔法を駆使していい勝負をしていた、
と言うのは一応まどかにも理解は出来たが、
とにかく壮絶、の一言だった。

「さあ、お待ちかねじゃぞ」

==============================

今回はここまでです>>411-1000
続きは折を見て。
417 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:17:36.58 ID:X0NSnIeo0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>416

ーーーーーーーー

「セブンシープ分隊、お召により参上しました」
「有難う」

試合の余韻も冷めやらぬスタジアム。
その貴賓室で、片膝をつくエミリィ・セブンシープ以下に
セラス総長が声を掛ける。

「事情は先に伝えた通りです。
イレギュラーな任務、いえ、お願いと言うべき事で申し訳ありませんが」
「大切なゲストの案内、光栄です」

セラスの言葉に、エミリィが改めて一礼する。

「鹿目まどかさん」
「はい」

セラスの言葉に、格好いい黒制服の一団を眺めていた
鹿目まどかが小さく飛び跳ねそうに返答する。

「今から少し、彼女達と行動を共にして下さい。
こちらの二人も一緒です」
「分かりました、有難うございます」

刹那と木乃香が小さく頷くのを見て、
まどかが頭を下げた。

「この人達は、私達とも存じよりです。
ご配慮感謝いたします」

刹那が言い、刹那と木乃香も頭を下げた。
418 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:21:38.93 ID:X0NSnIeo0

ーーーーーーーー

「箒は初めて? 命綱は付けた?」
「はい」

スタジアムの外でコレットに問われるまままどかが答え、
詳しい説明がなくとも今ここがどういう場所で
コレットが跨っているものが何か、と言う所から
今更ながらむしろ簡単過ぎて信じたくない予想もつく。

「うわぁー」
「ま、魔法の力で転落はしないけど、手は離さないでね」
「はい」

絵本そのままのシチュエーションで、
箒に跨ったコレット・ファランドールにしがみつく形で
建物よりも高く浮遊し、まどかは歓声を上げた。
周囲では、刹那と木乃香も他の面々の箒で飛行を始めていた。

「確か、アリアドネー騎士団、でしたっけ?」
「はい」

まどかの声に、隣を飛ぶエミリィが応じた。

「あなたの事は、旧世界からの迷い人であり
こちらのコノエコノカ、サクラザキセツナの同行者と伺っています。
我々はオスティア総督府での夜会までの案内とガードを仰せつかりました」

「ヤカイ?」
「パーティーや」

「色々引っ張り回して申し訳ありませんが、
向こうの世界に戻るための根回しだと思って下さい。
無論、鹿目さんに何かをしてもらうと言うつもりはありません」

「美味しいお食事ぐらいに思っててええさかい」
「はい。皆さんも有難うございます」
「だーいじょうぶ大丈夫」

まどかの言葉にコレットが口を挟んだ。
419 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:25:18.37 ID:X0NSnIeo0

「私達もユエの事とか色々聞きたかったしね。
それに、そのまま夜会で自由行動って聞いたら委員長が真っ先に」

コレットの言葉に、エミリィが大きく咳払いをした。

「ユエ?」
「綾瀬夕映、麻帆良学園における私達のクラスメイトです」

ーーーーーーーー

まどか達が到着した先は、飛行船だった。
確かに、ゲートのある廃都からこちらの新・オスティア市街地に行き着く迄にも
なんとか危険区域を脱出した後でヒッチハイクの飛行船のお世話になった訳だが、
今乗り込んでいる飛行艇は、まどかの素人目にも立派に思える代物だった。

「よう」
「どうも」

飛行船に到着した面々を待っていたのは、
まどかから見たら
古い映画でトレーラーでも運転してそうな精悍なおじさんだった。

「ジョニーさん、お久しぶりです」
「協力感謝致します」

「おう、あいつら、ユーナちゃんやマキエちゃんは?」

「はい、元気にしています」
「そりゃあ何より。あんたらの事だし貰うモン貰ってるからな。
出来る事ならなんでも持って来いだ」
「有難うございます」

ドンと胸を叩くジョニーおじさんに刹那以下三人組が頭を下げる。
420 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:29:00.46 ID:X0NSnIeo0

「この娘は?」
「はい、少々事情がありまして」
「やっぱり、旧世界の?」
「ええ。こちらはジョニーさん、以前こちらの世界で一方ならぬ協力を」
「いやー、そんな大層な事じゃねーって」

「どうも、鹿目まどかです」
「ははっ、素直でお嬢ちゃんだな。あいつらの事思い出すよ。
ま、ここじゃあ大船にいるつもりでいてくんな」
「有難うございます」

ジョニーの言葉に、まどかがもう一度頭を下げる。

ーーーーーーーー

「まどかちゃん」

飛行船のリビングで、木乃香がまどかにスマホを差し出す。

「この娘、この娘がゆえや」
「へえー………ウェヒヒヒ………」

まどかがそれを目にした瞬間、一挙に高まった背後の密度に
まどかが乾いた笑いを漏らす。

「夕映さんは一時期彼女達、アリアドネー騎士団で
共に候補生として参加していた事があります」
「アリアドネー騎士団」

刹那の説明を聞き、先程も聞いた単語をまどかは聞き返す。

「アリアドネーはこの魔法世界の都市の名前です。
極めて高い独立性と学術水準を持つ独立学術都市だからこそ、
その中立かつ高度な技術のアリアドネーに属する魔法騎士団の意義があります」
「その通りですわ」

刹那の説明に、エミリィが腕組みしてうんうん頷く。
421 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:32:27.77 ID:X0NSnIeo0

「夕映さんは私達の同級生ですが、
事情によりそのアリアドネー騎士団候補生としてに参加し、
今でもその身分を持っている筈です」

「ま、まあ、そういう事もありましたわね。
それで、そのお話に出て来た旧世界に戻った候補生は
その後如何です事?」

「はい、すこぶる元気に、
あなた方との再会を心待ちに勉学、修行に励んでいます」
「それは結構」

刹那の言葉にエミリィが頷くが、
既に周囲もくすくす笑いが我慢出来ないエミリィの顔の緩みが、
まどかにも何となく関係性を察知させる。

「でもさ、凄かったんだよユエ」

笑いを噛み殺しながら、コレットが話に加わった。

「最初は全然だったけどメキメキ上達して
あの時の選抜チームにも実力で選ばれて」
「ま、まあ、向上心と努力は立派なものでしたわね」
「凄かったんだ」
「ん」

呟くまどかに、木乃香が声を掛けた。
422 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:35:43.43 ID:X0NSnIeo0

「ゆえはな、うちのクラスメイトで学校の図書館探検部でも一緒、
それで、おんなじぐらいに魔法に関わったけど、
頭が良くて一杯勉強してなぁ、ほんまに凄い娘や」

「それは、お嬢様も同じです。
溢れる程の才に驕らず、幾度となく地獄の特訓を繰り返して」

刹那の言葉に、木乃香ははにかんで小さく頷く。

綾瀬夕映、まどかも、女子寮に行った時も含め
ちょいちょい写真を見せてもらったが、
もっさりなぐらいたっぷりとした黒髪でまどかよりも更に小柄な女の子。

何時も一緒の娘とは対照的におでこが光り、
そして、ちょっと冷静に見えながら
みんなと一緒にいい笑顔で撮影されている少女。

「さあさ」

エミリィがぱんぱん手を叩く。

「そろそろ支度の時間でなくて?」
「そうだね、マドカ」
「はい?」

にっこり笑うコレットにまどかが聞き返す。

「こちらへ」
「よろしく頼みますわよ、ビー」
「かしこまりましたお嬢様。
ベアトリクス・モンローと申します」

案内の分隊メンバーの中から、この中では珍しく
生物学的に人間の少女にしか見えない黒髪の娘がまどかに一礼した。
423 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:39:02.11 ID:X0NSnIeo0

ーーーーーーーー

「上がりました」
「それではこちらに」

VIP待遇とは言え大混雑のスタジアム帰のまどかが、
高級飛行船らしくシャワーでさっと汗を流してバスローブ姿で戻った所で、
ビーことベアトリクス・モンローが飛行船内を先導する。

ベアトリクスは、生物学的にやや人間離れした面々の多い中、
余り長くないかちっとした黒髪の、
元の世界でまどか達の側にいてもおかしくない少女だった。

そして、ビーに連れられた飛行船の奥で扉が開くのを見て、
まどかはわあっと声を上げた。

「パーティー会場になりますので、お好きなものをお選び下さい」
「え、ええーっと、ウェヒヒヒ………」

素人目にも分かるゴージャスな臨時クローゼットのラインナップに、
まどかは乾いた笑いを漏らす。
だが、それでも、中の上以上の家庭に育ち、
友達付き合いで上条恭介のコンサートにも出入りしていた。
そんな経験があって本当に良かったとまどかは有難く思う。

「こちらですね? 社交場の嗜みも騎士の任務の内、
万全に淑女を完成させていただきます」
「うらー、良いではないか良いではないかー」
「ウェ、ヒヒヒ、ヒヒヒヒ」

閉ざされた扉の向こうからの声を、
残された一同は大汗を浮かべて聞いていた。

==============================

今回はここまでです>>417-1000
続きは折を見て。
424 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 02:48:04.20 ID:l+RyK1Mr0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>423

ーーーーーーーー

「ウェ、ヒヒヒヒ………」

陽もとっぷり落ちて、まず、坂の上に見える建物、
到底お役所等と言う規模ではないオスティア総督府の
宮殿そのものの威容にまどかの口から乾いた笑いが漏れる。
あんな所で開かれるパーティーと言ったら、
それこそガラスの靴を履いていく世界にしか見えない。

「あ、あの、刹那さん、このかさん」
「はい」
「変、じゃないかな?」
「よく、お似合いです」
「可愛えぇなぁ」
「ウェ、ヒヒヒヒ………」

刹那と木乃香は褒めてくれるが、
まどかはそれに対して乾いた笑みを返すばかり。

「我々は伝統と栄誉ある騎士団。
まして、ビーは幼少時より私の側にいた者。
公の場における嗜みも身に着けています」
「あ、すいません」

エミリィの言葉に、まどかが小さく頭を下げる。
425 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 02:51:32.68 ID:l+RyK1Mr0

「とても、よくお似合いです」
「うんうん」

コレットはとにかく、と言っては何だが、
如何にも真面目そうなベアトリクスの言葉は文言によらず
何となくまどかを安心させてくれる。
そうすると、コレットの誉め言葉も素直に聞こえる。

まどかとしても、多少の余所行きの経験はあるが、
本格的なパーティードレスは初めて。
それでも、微かな鴇色を流したふわふわの白いドレス、
両サイドをリボンでくくりながらも長めに垂らした後ろ髪。
飛行船の姿見で見た自分の姿がちょっとだけ誇らしくなる。
そして、改めて元々の同行者である二人を見る。

今回の木乃香の服装は白いドレス姿。
前の茶会の振袖も見事なものだったが、
白を基調としたパーティードレスも木乃香の違った魅力を引き出す。

素晴らしい黒髪の美少女の、日本人形の様に清楚な魅力と共に、
やや大人びたパーティードレスは、
一つ年上の先輩の綻ぶ様な色気すら匂わせてまどかを魅了する。

先に記した事情で、
まどか自身にクラシックコンサートに行く機会があった事も、
まどかに木乃香の魅力をより感じさせる。

そんな木乃香の隣に控える刹那は、格好良すぎる。
ボディーガードそのものの黒服パンツスーツ姿。
それは、凛々しいと言う言葉がぴったりであり、
それでいて、その凛々しさは同時に美しい女性、
と言う評価を邪魔しない。
426 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 02:55:38.83 ID:l+RyK1Mr0

「手間のかかる事で申し訳ない」

そこで、又、刹那が一つ頭を下げた。

「本来であれば勝手に巻き込んだ鹿目さんを
一刻も早くお返ししなければならない所。
只でさえ気苦労の事を異国で強いる事となってしまい。
今はこのルートから通した方が話が速いものでして」
「こちらこそ色々していただいて有難うございます」

刹那の真摯な態度に、まどかもぺこりと頭を下げた。

ーーーーーーーー

「それでは、私達はこれで」
「有難うございました」

宮殿の門番は騎士団が書面を示して交渉すると易々と道を開け、
途方もなく広い宮殿の一角のエントランスで、
まどか達から離れる騎士団の面々にまどか達は頭を下げた。

「えっ、と、綺麗なお料理もあるけど………」
「肉、やな」
「肉、ですねウェヒヒヒ」
「飛行船のサンドウィッチは美味しかったけど、
色々あってお腹ペコペコやな」

立食パーティーに潜入したまどかは、
目の前の木乃香の豪快な、それでいて汚さを感じさせない動きを
早々にトレースして実行を開始する。

「チキンも美味しいけど、
あれ、子豚の丸焼き、美味しい所切ってもらおな」
「はいっ」

まどかとしては、年頃の女の子として、
ここを出る迄にドレスのお腹周りは、等と思わないでもないが、
一方で、まだまだ色気より食い気の精神年齢。
正直知らない世界を動き回って、その上こんなに美味しければ尚の事。
普段から豪快美人が身近にいる可愛い女の子の鹿目まどかとしては、
既に鳴り始めたお腹、それが最優先だった。
427 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 02:59:05.69 ID:l+RyK1Mr0

「あ、これも美味しそう」

木乃香を追跡していたまどかが、途中で視界に入ったテーブルに進路を変える。

「こっちも美味しそうだけど、このお皿で一緒だと、
えーと、やっぱりこっちを………」
「おい」

やけにドスの利いた声にまどかが振り返ると、
やけにガタイのいい給仕の男性が
両腕に大量の皿を携えて眉をひくひく動かしていた。

「ご、ごめんなさいっ!」
「人の行く先行く先のたのたしやがって」
「す、すいませんでしたっ!!」

そう言えばテーブルの上もかなり隙間が開いている。
まどかが青い顔で頭を下げながらざざっと横に移動し、
給仕はざざざっと料理を並べ直す。

「ちょいと」

聞き覚えのある声を耳にしてまどかが顔を上げると、
ガタイのいい給仕がボロボロになる迄
でっかい熊のぬいぐるみにじゃれつかれている所だった。

「ウェ、ヒヒヒヒ………」
「すいませんねぇ、お客様に失礼な態度を」

そして、ぬいぐるみは、
大汗を浮かべて突っ立っているまどかに声を掛ける。
428 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:02:31.75 ID:l+RyK1Mr0

「い、いえ、私も不注意でしたから。
クママさんですよね」
「ああー、マドカちゃん。コノカ達と一緒かい?」
「はい。クママさんはここで?」

「ああ、私は仕事でね。あっちに活きのいい魚が届いてるよ、
ニホンの子って好きなんだろ?」

「はい、有難うございます」
「うん、そのドレスと髪型も、よく似合ってるよ」
「有難うございますっ」

まどかがぱたんと体を折り、
クママチーフはのしのしとその場を後にする。

「よう」
「あ、ごめんなさいっ」
「いや、俺が悪かった、いや、申し訳ありませんでした」
「アウウ………」

凄味駄々洩れな給仕の男に給仕に丁寧に頭を下げられ、
まどかは対応に困る。

「ったくっ」
「ひっ」

顔を上げた給仕の呟きに、まどかがたじっと足を引く。
429 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:06:21.43 ID:l+RyK1Mr0

「もしかして、例の旧世界の迷子ってお前か?
コノカって言ってたからな」
「は、はい、鹿目まどかです」

「そうかい、俺はトサカ。コノカ達とは知らねー仲じゃない」
「そう、なんですね。クママさんも」

「まあな。まあ、なんつーかあれだ、
いい加減おどおどしてないでもうちょっとしゃんとしとけ。
そっちじゃ馬子にも衣装って言うのか?
見栄えがしないでもないんだからよ」

「あ………有難うございます」

ふんっ、と、もう一度鼻を鳴らしたトサカが、
近くの柱の陰で顔を見合わせくすくす笑っていた給仕二名への
鉄拳的教育的指導を実行するのを
まどかは大汗を浮かべて眺めていた。

ーーーーーーーー

ちょっとはぐれたものの無事木乃香と合流し、
お腹いっぱい夕食をいただいたまどか、
そこに刹那も加わって宮殿の廊下を移動していた。

「刹那さんっ!」

その声を聞いた瞬間、まどかは、
刹那の顔がぱあっと明るくなるのを見た。

「刹那さん、こっち来てたんだ」
「お久しぶりですっ」
「もぉーっ、やめてよ。友達だって言ったでしょっ」

そうやって、頭を下げた刹那と言葉を交わしたのは、
恐らく刹那と同い年と直感出来る。
まどかから見るとすっきりとしながら出る所はそこそこ出ている、
盛装の夜会ドレスがスタイルの良さを引き立てている
中身は快活な少女だった。
430 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:09:28.88 ID:l+RyK1Mr0

「アースナっ」
「このか、しばらくっ。
そっちの娘ね、あっちの世界から来たって」
「あ、あの、鹿目まどかです」
「私は神楽坂明日菜、よろしく」

ぺこりと頭を下げるまどかに、明日菜がにかっと笑って答える。
長い髪の毛を鈴つきの髪飾りでツインテールに束ねた、
少なくとも美少女の部類には入る年上の少女。
確かに、先に見せてもらった写真の中にも彼女はいた。
だとすると、相当親しい間柄だと言う事も頷ける。
何しろ、木乃香が迷いなく明日菜の首っ玉にしがみつき、
明日菜がそれを軽く振り回しながら、それを見ている刹那共々
とってもいい笑顔なのだから。

「刹那さんっ」
「ネギ君」
「ネギ先生」

そして、近くの曲がり角の向こうに、
ひょんなきっかけで指先にキスを受けて真っ赤な顔でぐるぐる目を回した
褐色角つき騎士団候補生とそれを介抱する仲間達を残して
ぱたぱたとこちらに近づいて来たのは、
つい何時間か前にスタジアムでとんでもない激闘を見せてくれた、
刹那達の担任教師、弱冠十歳のネギ・スプリングフィールドだった。

「鹿目まどかさんですか?」
「はい、鹿目まどかです」
「騎士団から総長経由で刹那さんからの報告は届いています。
今回は大変な事に巻き込んでしまいました」
「い、いえ、あの、珍しい世界も見れましたし、
刹那さんもこのかさんの良くしてくれましたから」
「そう言っていただけると」

白人の少年だが日本語ぺらぺら、何よりも優しく礼儀正しい。
あれだけ勇壮な戦士が今は小さな紳士。
まどかにも、彼が慕われるのが分かり過ぎる程に分かる気がしていた。

「しかし、丁度本日がこちらでのイベントだったんですね」
「そぉーなの」

刹那の言葉に、明日菜が苦笑を見せた。
431 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:10:51.27 ID:l+RyK1Mr0

「外交日程って奴でさ、ネギ共々ね。
歓迎イベントで、その中でネギとラカンさんのエキシビジョンとか、
引き受けるネギもネギなんだからねっ!」
「ほへんははいっ」

あの勇壮で桁外れに途方もなく強い
ネギ・スプリングフィールドの口に明日菜の指が突っ込まれ、
唇が左右に広げられるのをまどかはくすくす笑って見ていた。

「な、お姉ちゃんみたいやろ」
「はい」

木乃香の言葉にまどかが快活に答える。
その辺、まどかの本音としては、きょうだいネタによくある
実物はこんなに可愛いもんでもないよな感情も無いではなかったが、
それは逆に実物も遠慮が無いぐらいに可愛いと言う事でもあり、
それでも微笑ましいと素直に思った。

「それでは」

刹那が、尽きない話を一旦引き取った。

「私と鹿目さんは明日一番にメガロメセンブリアに向かい、
政府と折衝の上であちらのゲートから鹿目さんを送り届けます」
「せっちゃんと二人で?」

木乃香が、ちょっと不思議そうに尋ねた。

「はい。今は鹿目さんの帰還が優先になりますから。
お嬢様はこの機会です、お二人と旧交を温めて下さい。
ネギ先生、ご多忙の所すいませんが、
お嬢様の帰還の手配を願えますか?」

「分かりました」
「まあ、そういう事情ならね」

刹那の言葉に、ネギと明日菜も名残惜しそうに承諾した。
432 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:14:04.26 ID:l+RyK1Mr0

「あ、あの、ごめんなさい。何か、凄くお邪魔と言うか………」
「いい娘ね」

まどかの言葉に、明日菜がくすっと笑って言った。

「でも、まどかちゃん? あなたが悪い所なんて一つもないでしょ、
事情はよく分からないけど
本当なら私達魔法使いが思い切り文句言われる所なんだから。
優しいのはいいけど、あんまり卑屈にならないの」
「有難うございます」

明日菜の優しさに、まどかはもう一度頭を下げた。

ーーーーーーーー

「はあーっ」

新・オスティア観光エリア、リゾートホテルの客室で、
浴衣姿のまどかが、ベッドの上にうつ伏せに体を投げ出した。

「気持ち良かったですね」

隣のベッドに座った刹那が、にっこり笑って声を掛ける。

「はい。なんか体の中から
悪いものがぜーんぶどばどば出て行ったみたいで、
すっごく疲れてたんですねー」

岩盤浴マッサージつきの入浴を終えて、
このツインルームに戻って来ていたまどかが長く息を吐く。
433 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:17:30.90 ID:l+RyK1Mr0

「流石に、一般人の立場では
ここまで肉体的な負担だけでも甚だしいものでしたし、
まして、普通の外国ですらない未知の世界でしたから
精神的な緊張も大変なものだったと」

「それでも、そんな所で私の負担が最小限になる様に
色々手を尽くしてくれて、本当に有難うございました」

「いえ、魔法の立場で巻き込んだ以上当然の事です」

「ここでも、普通に見ても人が一杯来てる時に、
こんないい部屋とってもらって、それに、浴衣ってウェヒヒヒ………」

「確かに、こちらから見たら異文化ですが、
なんと言いますかこちらでは我々は少々顔が利きます。
それに、こちらには立派な温泉もありますからね。
簡単に用意出来る良き風呂文化は導入も速いです」

「やっぱりドレスのパーティー緊張したから、凄く楽になりました」
「お似合いでしたよ」
「刹那さんもティヒヒヒヒ」
「有難うございます」

隣り合ったベッドで互いにうつ伏せになり、
まどかの言葉に刹那もにこっと笑って応じた。
その後で、刹那はよいしょとベッドの上に座り直す。

「鹿目まどかさん」
「はい」

改まった呼びかけに、少々砕けていたまどかも口調を切り替えた。

「あなたに一つ、お伺いしたい事があります」
「はい」

まどかの返答を聞き、刹那はベッドを降りてまどかの方に歩き出した。
434 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:21:09.90 ID:l+RyK1Mr0

「鹿目まどかさん」

ベッドの上に座り直したまどかは、
ベッドサイドから声を掛ける刹那を見ていた。

「あなたは、自分の人生が貴いと思いますか?
家族や友達を、大切にしていますか?」

まどかは、既視感を覚えながらも顔を上げた。
刹那は、まどかを静かに見下ろしていた。

「私、は」

まどかは、立ち上がっていた。

「大切に、思っています。
家族も、友達のみんなも、大好きで、
とっても大切な人たちです」
「そうですか」

言葉を選びながらも言い切ったまどかに、
刹那は静かに微笑みかけた。

「そうですね。わた………」
「?」

まどかが、異変に気付いた。
何かを言いかけた刹那がぱちぱちと瞬きをしている。
目を見開き、口をぱくぱくさせている。

「刹那、さん?」

まどかに問いかけられ、顔を上げた刹那は、
ごくりと息を飲んだがぱくぱく動く口から声は出ない。
その代わり、ぽろりと一筋、刹那の頬に涙が伝っていた。

「あ、鹿目、さん………」
「はい」

刹那がようやく声を絞り出し、まどかが応じる。
だが、その後に刹那の口から漏れるのは小さな呼吸音だった。
435 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:25:22.10 ID:l+RyK1Mr0

「刹那さん? あの、大丈夫ですかっ?」

まどかの問いかけに、刹那は小さくうんうん頷く。
丸で、強力な腹の差し込みでも耐えている様な顔で。

「刹那さん、刹那、さん」

自分でも気が付いた時には、まどかは刹那に抱き着いていた。

「あの、何処か痛いんですか? 刹那さん?」

刹那に抱き着き、背中を撫でながら問いかけるが、
まどかの頭の上から刹那が発するのは、言葉にならない嗚咽だった。
刹那が、きゅっとまどかに抱き着き、
刹那が静かに呼吸を整えるのをまどかも感じる。
刹那の手が離れる。
まどかから離れた刹那が、ゆっくりと息を吐く。

「醜態を失礼しました」
「う、ううん」

馬鹿丁寧に一礼する刹那に、まどかが小さく首を横に振る。

「あ、あの………」
「ええ、大丈夫です。やはり少々疲れた様です。
休みましょう、明日は早くから遠出になりますので」
「はい」

まどかが見たのは、完璧なスマイルだった。
そこには、首を縦に振る以外の選択を即座に失わせる力が込められていた。

==============================

今回はここまでです>>424-1000
続きは折を見て。
436 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/23(火) 03:51:28.53 ID:lWROmukU0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>435

 ×     ×

大切、だよ。

家族も、友達のみんなも、

大好きで、とっても大切な人たちだよ

ーーーーーーーー

鹿目まどかは、自分の声を聞いた様な気がした。
そんな気がしながら、温かなベッドの中で薄目を開く。

(雨?)

耳からの情報で、なんとなくそんな事を考える。
見知らぬ天井。まどかはそのまま記憶を整理する。

魔法の世界に来て、
色々あってホテルのツインルームに宿泊して朝を迎えたらしい。

その辺りの諸々の事情を、
何とか頭の中で論理化しながらベッドの上で身を起こす。
口に手を当てながらふぁーっと大口を開けた辺りで、
視線の先のドアがガチャリと開いた。

「ああ、お目覚めでしたか?」
「あ、はい」

そこから現れたのは、桜咲刹那だった。
先程までの水音も今はやみ、
浴衣姿の刹那はバスタオルで黒髪を挟みながら
ツインルームのベッドサイドに戻って来た。
437 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/23(火) 03:57:45.10 ID:lWROmukU0

「鹿目さんも先にシャワーを使いますか?」
「あ、はい、そうします」

んーっと伸びをして、
そこで気が付いてベッドに垂れた浴衣を右肩に掛け直してから、
まどかは帯を締め直して立ち上がる。

その間に、刹那は着替えを用意している。
下着はドレス合わせのついでの様に簡素なものを用意してもらえたが、
それ以外は旧世界で着ていたものをクリーニングしたものだ。
まどかがふいっと刹那を見ると、
まどかと目が合った刹那がふふっと微笑み、まどかはバスルームに向かう。

まどかはシャワーを浴びながら考える。
あれは、自分の知っている桜咲刹那。
頼もしくて、誠実で優しい先輩。
さ程長い付き合いでもないが、
まどかが知る限りの今迄の桜咲刹那像と合致すると。

シャワーが朝の眠気を払っている事を自覚しながら、
まどかはそんな感じで自分の記憶と感覚を整理する。
眠気と寝汗をシャワーに流し、まどかは浴衣姿でベッドに戻る。
そこで着替えを終えると、洗面台に立った。
438 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/23(火) 04:04:56.38 ID:lWROmukU0

「あの………」
「はい」

洗面台から戻ったまどかが、刹那に声を掛けた。

「あの、このリボンって似合ってますか?」
「え? あ、はい。とてもよく」

刹那は、優しく微笑んだ。
常識的に考えるなら、今の状況の常識人なら誰でもそう答えるだろう。
そんな思いもあったが、それでも、まどかは異郷で鏡の前に立って、
ふとこの先輩に尋ねてみたくなった。

「良かった。このリボン、マ………母が選んでくれたんです。
私の隠れファンもメロメロだとか」
「そうですね」

刹那が、又、にっこり笑った。
そして、つかつかとまどかに近づく。

「戦術的観点から申し上げますと、
性格も体格も大人し目で優しい、小動物的に可愛らしい。
同じ教室にいれば引かれる異性も一定数してもおかしくないでしょうね。
そんなあなたの派手過ぎない、強めの色のリボンはさり気なく目を引く
いいインパクトになります」

「ウェ、ヒヒヒ」

大真面目に語る刹那にまどかが大汗を浮かべ、
その様子に刹那はふっと破顔した。
439 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/23(火) 04:08:29.71 ID:lWROmukU0

「一応、女性として一年程先に生まれていますのでこのぐらいは。
私から見てその様にとても魅力的です。
もっとも、専らこちらの武骨者で通っているのが女子校ですから
当てにして頂いても困りますが」

夕凪を手に大真面目に説明する刹那を前に、
まどかはとうとうくくくくと腹を抱えてしまった。

「あ、有難うございます。
刹那さんみたいに格好いい人にそう言ってもらえて
とても嬉しいですウェヒヒヒ」

「こちらこそ、光栄です。
それではそろそろ。やはり文化交流でしょうか、
ここはイギリス風の朝食が美味しい様です」

「はい、なんか、お腹がすきました」

優しく微笑む刹那に、まどかも元気よく答えていた。

==============================

今回はここまでです>>436-1000
続きは折を見て。
440 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/24(水) 03:26:28.73 ID:usJB+thL0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>439

ーーーーーーーー

「それでは、お嬢様をお願いします」
「分かりました」
「ほなな、まどかちゃん」
「はい」

新オスティアの飛行船港で、桜咲刹那がネギに後を託し、
にこにこ微笑む近衛木乃香がまどかと挨拶を交わしていた。
そんな様子を、神楽坂明日菜は人差し指の背で顎を撫でながら眺めている。

「刹那さん」
「はい」
「帰ったらゆっくりお茶しよう。
最近ちょっと忙しかったから、みんなで原宿とかお出かけして」
「そうですね」

明日菜の言葉に、刹那はにこっと笑って即答した。
そんな刹那の笑顔を見ながら
人差し指の背で顎を撫でていた明日菜は、破顔して小さく頷いた。

「それでは」

刹那に促したのは、一見して彼女よりも年下の執事風の少年だった。
かくして、刹那とまどかは用意された飛行船に搭乗する。

ーーーーーーーー

「うわぁー………」

飛行船の窓から景色を眺めていたまどかが、声を上げた。
前例をほとんど知らないまどかであっても、
これがかなり高級な飛行船である事は分かる。
何時間かの飛行の間、乗り心地も上々の船内で、
まどかは雲を眺めたり軽く昼寝をしたりお菓子を摘まんだりと
いい加減異常事態にも慣れつつある移動時間を満喫していた。
441 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/24(水) 03:30:09.26 ID:usJB+thL0

「メガロメセンブリアですね」
「あれが………」

刹那にそれが目的地である事を告げられ、まどかが呟く。
程なく、魔法世界内の大都市メガロメセンブリアに到着した刹那とまどかは、
執事風少年の案内で徒歩での移動を開始していた。

「刹那さん」
「はい」
「魔法世界でもちょっと、感じが違うって言うか」
「そうですね」

まどかの言葉に刹那が頷いた。

「あちら、と言うよりもこの世界の南側はいわゆる亜人、
獣とか魔族に繋がる人達が多く、オスティアはいわば中間点です。
対して、北側の政治的中心に当たるこのメガロメセンブリアは、
私達にとっての元の世界に近い世界で、
魔法こそポピュラーでも住人もそういう事になっています」

刹那が噛み砕いて説明を行う。
確かに、飛行船から見た景色も今の道行きも、
丸で未来都市を思わせる、それでいて魔法らしさも全開の摩天楼。
そこに、いかにも魔法らしい色々なものが空中を飛び交っている。
行き交う人々も刹那の説明通りに見えた。
そして、一同が行き着いた先は、
見た目からして壮大にして由緒正しきホテルだった

「こちらです」

少年が案内した先は、
そこに至る過程と扉だけでも特別さが理解出来る程の、ホテルの特別室だった。
442 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/24(水) 03:37:12.17 ID:usJB+thL0

ーーーーーーーー

「初めまして」

特別室に入ったまどか達を出迎えたのは、
眼鏡をかけた、背の高いスーツ姿の男性だった。

「鹿目まどかさんですね?」
「はい」

ちらっ、と、このだだっ広い部屋の
さり気なくも高級な調度品を気にかけていたまどかに、
男性は歩み寄り声を掛けた。

「メガロメセンブリア元老院議員、クルト・ゲーデルです」
「あ、鹿目まどかです」

求められるまま、まどかはゲーデルと握手を交わす。

「報せは受けています、この度は思わぬ事態となった様で。
帰国の事はこちらで準備させていただきます」
「有難うございます」

肩書も本人の雰囲気も間違いなく偉い人らしいゲーテル相手に、
手を離されたまどかがぱたんと頭を下げる。

「サクラザキセツナ君」
「はい」
「お嬢様共々元気そうで何よりだ」
「はい、有難うございます」

「………お知合い、ですか?」
「神鳴流門下として親類筋に当たります。
少々込み入った経緯があるのですが、
私等は到底及ばないお方です」
「そういう事ですから、妹弟子の大切なゲスト、無碍にはしませんよ」
「は、はい、ありがとうございますウェヒヒヒ」

まどかににっこり語り掛けるゲーデルにまどかは頭を下げるが、
まどかの本能は彼の微笑みに微かなアラームを鳴らしていた。
443 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/24(水) 03:38:23.17 ID:usJB+thL0

「それでは、こちらに」

かくして、ゲーデルの案内でゲーヂルと刹那、まどかがテーブルに就く。
執事少年の差配で、そのテーブルに色々と運ばれて来た。

「………お粥? それに………味噌汁?」

「粥は好みで梅干しか鰹節の餡を。

豆腐と菜の味噌汁に里芋の煮物、鯵の開き。一夜漬け。ほうじ茶
一部はこちらの食材でそれらしいものを代用しましたが、
特に鹿目さんはそろそろ胃もたれする頃かと思いましてね」
「はいっ、有難うございますっ!」
「では、いただきましょうか」

ゲーデルの言葉に、ここまでやや儀礼的になりつつあったまどかは
本心から声を上げてぱたんと頭を下げ、
ゲーデルの言葉と共に三人は合掌した。

==============================

今回はここまでです>>440-1000
続きは折を見て。
444 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/24(水) 03:40:44.74 ID:usJB+thL0
すいません>>443差し替えます。

==============================

「それでは、こちらに」

かくして、ゲーデルの案内でゲーデルと刹那、まどかがテーブルに就く。
執事少年の差配で、そのテーブルに色々と運ばれて来た。

「………お粥? それに………味噌汁?」

「粥は好みで梅干しか鰹節の餡を。
豆腐と菜の味噌汁に里芋の煮物、鯵の開き。一夜漬け。ほうじ茶
一部はこちらの食材でそれらしいものを代用しましたが、
特に鹿目さんはそろそろ胃もたれする頃かと思いましてね」

「はいっ、有難うございますっ!」
「では、いただきましょうか」

ゲーデルの言葉に、ここまでやや儀礼的になりつつあったまどかは
本心から声を上げてぱたんと頭を下げ、
ゲーデルの言葉と共に三人は合掌した。

==============================

今回はここまでです>>440-1000
続きは折を見て。
445 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/30(火) 12:53:41.70 ID:+EHgy1Jh0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>444

「お口に合いましたか?」
「はい、何日も経ってないのに和食がこんなに美味しくて、
有難うございました」
「そう言っていただけると」

一見素朴にして十分な仕事の為された昼食を前に、
ぱたんと頭を下げた鹿目まどかにクルト・ゲーデルが紳士のスマイルを返す。
お粥と汁、お菜の食事が終わった辺りで、緑茶が出される。

「これ、お味噌?」
「いかがですか?」
「美味しいです」

お茶請けに出されたのは、
味噌を付け焼きにした小麦粉や蕎麦粉の和風クレープだった。
446 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/30(火) 12:56:50.90 ID:+EHgy1Jh0

「私はオスティア総督でもありまして」
「オスティア? じゃあ、あのパーティーに?」

「ええ、会場にはいました。
しかしああいう日だからこそ公務が立て込んでいまして。
ゲートのあるこちら側で一度に話を済ませた方がいいと言う事になりまして」

「そうだったんですか」

「ええ。色々と支度は整っていますので、
鹿目さんの旧世界への帰還とそれまでの安全は保障します。
そこに至る迄、留守にした事の辻褄合わせに就いても
あちらの魔法協会の方で根回しが行われている筈です。
特に旧世界における魔法と言う性質上、
何かあった時の隠蔽工作には習熟していますからね」

「ウェヒヒヒ………」

にこにこ微笑んで語るゲーデルのやや人聞きの悪い言葉に、
まどかは汗を浮かべて笑みを返す。

「しかし、それまで時間もあります。
手始めに、映画等如何ですか?」

まどかの目の前で、ゲーデル総督は両手を広げて微笑んだ。
447 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/30(火) 12:57:59.94 ID:+EHgy1Jh0

 ×     ×

明石裕奈は、振動するスマホを取り出し通話状態にする。

「もしもし?」
「もしもし、明石だな?」
「そうだけど、千雨ちゃんだよね?」
「ああ」

取り敢えず、互いにスマホの画面表示通りの相手である事を確認する。

「その後、例の件どうなった?」
「現在調査中。千雨ちゃんには悪いけど、私達も動いてるからね」

「今何処だ?」
「あすなろ駅」
「一人か?」
「メイちゃんも一緒」

「だったら、学園警備、少なくとも高音さんは知ってるって事だな?」

「ま、そういう事。今回の千雨ちゃんの仕切り、
高音さん相当キテたから、覚悟しといた方がいいよ」
「だろうな、分かってる。
二人であすなろに来てるってんなら、
ちょっとセッティングさせてもらっていいか?」
448 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/30(火) 12:59:56.07 ID:+EHgy1Jh0

ーーーーーーーー

あすなろ市内のカラオケボックスの一室に集合したのは、
明石裕奈、佐倉愛衣、巴マミ、佐倉杏子の四名だった。
尚、彼女達の家族構成に就いて少々触れると、
明石裕奈は母を亡くして父一人娘一人、
巴マミは両親、佐倉杏子は両親と妹を亡くして他に家族はおらず、
佐倉愛衣はステップファミリーで実父と義母、義姉の家族構成だった。

「もしもし」
「はい、もしもし」

そして、現在裕奈のスマホにテレビ電話で繋がっているのが長谷川千雨だった。

「取り敢えず、その面子で協力する、って事でいいのか?」
「ええ、構わないわ」

千雨の問いに、答えたのはマミだった。

「私は、明石さんにも魔法使い一般にも、
正直悪い感情は持っていない。
もちろん魔法の関係で鹿目さんが行方不明になっているのはその通りだけど、
その事ではあすなろの魔法少女も疑わしい。協力出来るものなら協力したい。
こっちで繋いでくれてあなたには感謝する」

「まあ、エージェントって言うには単純そうだからな」

真面目に言うマミの横で、早速お摘みに手を伸ばしながら杏子が笑った。

「まあ、そうだね。正直私、騙しとか腹芸とか無理っぽい」
「私もそう思います」
「言ってくれるよ魔法使いの先輩」

自分で認めた裕奈に愛衣が続き、笑い合った。

「それじゃあ、本題に行くか」

千雨が話を切り替える。
449 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/30(火) 13:01:14.90 ID:+EHgy1Jh0

「現時点で、あすなろ市での第一ターゲットは御崎海香。
データから言って、彼女の豪邸を拠点とする
魔法少女グループが関わっている可能性は小さくない」
「だから、これから探りに行こうって途中でそっちから連絡があったんだけど」
「そりゃ良かった」

杏子の言葉に千雨が応じた。

「情報を総合すると、御崎邸には現在中学生だけで生活している。
それだけにセキュリティーは万全だ、
下手打ったら一発で近所中に鳴り響いた上に
警備会社に直通でそのまま警察沙汰だ」

「機械的、電子的な防壁は魔法使いにとっても侮れない。
街中で、社会的な地位もある相手では特にそうです」

千雨の指摘に、愛衣が言った。

「しかも、グループの全員が魔法少女だとすると、
科学と魔法、両方を相手にする事になるわ」

マミが言葉を続けた。

「そこで、狙い目になるのが、御崎海香グループのイレギュラー………」
「和紗ミチルか」
「ああ」

答えた杏子に千雨が言う。
450 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/30(火) 13:02:18.87 ID:+EHgy1Jh0

「彼女を中心に、防犯カメラや携帯電話の位置情報を洗い直した。
電話会社側の全データから合致するものを特定する感じの荒業だったがな。
ミチルの行動パターンは、
確かにグループの一員ではあっても独自の部分も目立つ」

そして、一同はマミのスマホを見た。

「鍵になるのはここ、ビストロ「レパ・マチュカ」だ。
確定は出来ないが、関連情報が集まっている地理的に言って
ポイントは多分ここだ。
ずっとは無理だが、後何時間か、私はこの近辺に電子情報の網を張る。
あんたらは周辺に配置して、引っかかったら動く。
こういう作戦でどうだ?」

マミのスマホに地図情報を送った千雨が裕奈のスマホ越しに言い、
個室にいる一同は小さく頷いていた。

==============================

今回はここまでです>>445-1000
続きは折を見て。
451 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:11:38.48 ID:EoPZtMcQ0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>450

ーーーーーーーー

「よう」

ビストロ「レパ・マチュカ」店内で、
巴マミを伴った佐倉杏子がテーブル席の少女に声を掛けた。

「?」
「しばらくだったな」
「あの………どちら様ですか?」
「何?」

きょとんとして問い返す相手に、杏子が聞き返す。

「私の事、知ってるの?」
「何言ってんだ、お前?」
「お客さん」

厨房からマスターの声が聞こえる。

「ごめんなさい。少し、同席してお話いいかしら?」

マミの言葉に、着席している少女はこくんと頷いた。
452 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:14:39.12 ID:EoPZtMcQ0

ーーーーーーーー

「レモンティーを」
「チョコレートパフェ、もらおうかな?」
「あの………」
「ん?」

「ここ、バケツパフェが美味しいんだけど、
良かったら一緒に」
「へえー、変わったメニューだな。そうさせてもらうかな」

「この量なら、二つを三人で分けない?」
「それでちょうどいいと思う」
「それならそれでいいや」
「じゃあ、レモンティー一つとバケツパフェ二つ、
取り皿とスプーンをもう一つお願いします」

取り敢えず、マミがオーダーを出す。

「最初に聞くけど、あなた、私達の事を覚えてる?」

マミの問いに、少女は首を横に振った。

「そう。私は巴マミ」
「………佐倉杏子だ」

マミの肘が軽く当たり、杏子が名前を伝える。

「巴さんに佐倉さん………」
「名前でいいよ、ちょっとややこしい事もあるから」
「私はかずみ」
「かずみ?」

名乗った少女に、杏子が訝し気に聞き返す。
453 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:17:58.00 ID:EoPZtMcQ0

「それが、あなたのお名前?」

マミの問いに、かずみが頷いた。

「ちょっと待て、かずみ、って言われても、
大体お前………」
「お待たせしました」

マミが杏子を手で制し、注文の料理が運ばれて来る。

ーーーーーーーー

「うん、旨い」

杏子の反応に、かずみがとろける様な笑みを見せる。
それを見て、杏子も不敵な笑みを返した。

「話を戻すが、あんた、あたしを担いでるんじゃないだろうな?」
「違う」

杏子の問いに、かずみは真面目に答えた。

「多分、佐倉さんも気が付いてると思うけど………」
「ああ。けど、今の顔見ても、あんたはあたしが知ってる奴だ」
「私の事、知ってるの?」
「ああ、知ってる」
「私もあなたの事は覚えがあるわ」
「分からない」

杏子とマミの答えに、かずみは改めて答えた。

「双子の姉妹とか、いないのか?」
「いない、と思う」
「あなた、記憶が?」

マミの問いに、かずみが頷き杏子が天を仰いだ。
454 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:21:11.09 ID:EoPZtMcQ0

「和紗ミチル、鹿目まどか、この名前に心当たりは?」

マミの問いに、かずみは小さく首を横に振った。

「それじゃあ、御崎海香」
「知ってるの?」
「ちょっとな、あんたの仲間か?」

杏子の問いに、かずみは頷いた。

「ソウルジェム、って知ってるかしら?」

マミの問いに、かずみはそれを取り出した。

「変わってるわね」

マミが、自分のソウルジェムを差し出して言った。

「普通、底は台座になってるけど、
あなたのはトゲなのね。まるでゴルフのティー」

「ああ、確かに見た事ないな」
「あなた達も魔法少女なのね」
「ええ」

かずみの問いに、マミが答えた。

「あたしの知る限り、あんたの名前は和紗ミチル。
あたしと他の魔法少女が揉めてる時に、
あんたが仲裁に入った事があった」

「他の、魔法少女」
「覚えてない?」

マミの問いに、かずみは首を横に振った。

「私は、魔女に襲われていたあなたを助けた事がある。
まだあなたは契約していなかったと思う」

マミの言葉に、かずみは首を横に振る。
455 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:24:29.36 ID:EoPZtMcQ0

「御崎海香達の事、聞かせてもらえるか?」
「私の、友達、仲間」
「魔法少女?」

マミの問いにかずみが頷いた。

「私達のグループ、プレイアデス聖団」
「プレイアデス?」
「確か、ギリシャ神話ね」
「うん、ギリシャ神話から名前を取った、って聞いた事がある」

「じゃあ、麻帆良学園都市の事、なんか知ってるか?」
「知らない」
「あんたのお仲間が麻帆良学園都市に行ったってのは?」
「知らない」
「それ、マジで言ってんだろうな?」

ずいっと視線を向ける杏子に、かずみが小さく頷く。

「だけど………」
「ん?」
「珍しく他のみんなが、
全員用事があるって言ってほとんど一日会えなかった」
「それって………」

マミがかずみから日付を確かめ、「当たり」である事を確認した。
そして、マミがスマホを取り出す。

「少し、付き合ってくれるかしら?」

==============================

今回はここまでです>>451-1000
続きは折を見て。
456 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/06(火) 17:13:30.94 ID:+2ytnorA0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>455

ーーーーーーーー

「あなた、確か店に?」

マミと杏子に連れられ、トタン囲いの中のビル工事現場に入ったかずみが
目の前に現れた少女に言った。

「はい、私達もあの店にいました」

明石裕奈を伴った佐倉愛衣が返答する。

「改めまして、佐倉愛衣です」
「どうも、私は明石裕奈。
こんな所に来てくれて有難う」
「正直、助かりました。
すんなりついて来てくれて」

裕奈の言葉に、愛衣も続く。

「食べ物に配慮が出来るマミさんと美味しそうに綺麗に食べる杏子、
悪い人だと思えなかったから」

かずみの回答に、マミが苦笑し杏子が肩をすくめた。

「あの………あなた達も魔法少女?」
「いいえ、私達は魔法使いです」

かずみの問いに、愛衣が答えた。
457 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/06(火) 17:16:31.75 ID:+2ytnorA0

「魔法使い?」

「ええ、魔法少女とは別に、
元々の才能と特別な訓練によって魔法を使うのが私達魔法使いです。
事情があって巴マミさん、佐倉杏子さんと協力して行動しています。
なお、私の知る限り、私と佐倉杏子さんは親戚的な意味では赤の他人です。
本来であれば魔法使いと魔法少女は不干渉が原則ですけど、
そうも言っていられない事情がありまして。
取り敢えず、一つ確かめたい事があります」

「確かめたい事?」
「ええ、あなたの記憶の事です。
あなたは過去の記憶を失っている、そうですね?」
「うん」

「それは、どの様に?」
「…………より前の事は全然分からない」
「最近ね」

かずみの説明に、マミが言った。

「日常生活は大体大丈夫なんだけど、
私が誰で、過去に何があったのかは全然覚えていない」
「いわゆるエピソード記憶、ですか」

かずみの回答に愛衣が言う。
458 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/06(火) 17:19:52.75 ID:+2ytnorA0

「確認のためにいくつか質問をします、
Yes or Noで答えて下さい。
あなたの名前はかずみですね?」

「Yes」

「あなたは12歳よりも年下ですね?」

「No」

「あなた、本当は記憶喪失なんかじゃないですね?」

「Yes 私は本当に記憶喪失だよ。
本当に、昔の事は何も分からない」

「そうですか、失礼しました。
………問題はその記憶喪失の理由です。
何か魔術的な理由があるのかも知れない。
その事を確かめたいのですが」

「うーん」

愛衣の言葉に、かずみが腕組みして唸る。

「それなら、海香が気が付きそうだけど………」
「あなたのお仲間ですね?」
「うん、海香とかニコとか魔法分析が専門だから、
私の記憶喪失の原因が魔法なら分かるんじゃないかって」
「成程………一応、確認だけさせてもらってもいいですか?」
「………いいよ」

かずみは、愛衣を真っ直ぐ見て答えた。

「感謝します。
メイプル・ネイプル・アラモード………」

ぺこりと頭を下げた愛衣が、
呪文を唱えながら右の掌をゆっくりかずみに向ける。
そして、掌をかずみの額に当てた。
459 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/06(火) 17:23:04.80 ID:+2ytnorA0

「………!?」
「メイ、ちゃん?」

その場にすとんと腰を抜かした愛衣に、裕奈が目を見開く。

「…ケ…ノ………」
「ちょっとメイちゃん」
「………な………なんなんですか、あなたは………」

裕奈の口調も変わる中、
その場にへたり込んだ愛衣は口の中でぶつぶつと呟いていた。

==============================

今回はここまでです>>456-1000
続きは折を見て。
460 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/07(水) 17:50:28.53 ID:q9fpzJGT0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>459

「メイ?」

心配そうに言うかずみを前に、愛衣はごくりと喉を動かし、立ち上がった。

「メイちゃん」

懸念をにじませて声を掛けた裕奈に、呼吸を整えた愛衣は小さく頷く。

「かずみさん」
「はい」
「これから少し、付き合っていただけますか?」
「えっ?」
「麻帆良学園までご同行願います」
「メイちゃん?」

大真面目な眼差し、硬い口調で言う愛衣に、
裕奈も真面目に問いかける。

「おいおいどうなって………」

杏子が言いかけ、鋭く視線を走らせた。
その視界に入ったマミも同様だった。

「アデアット!!」

愛衣がざざっと後退し、裕奈が斜め上に向けて魔法拳銃を連射した。
こちらに飛来中に銃撃を受け、
複数のミサイルが白煙に包まれて空中爆発した。

「!?」

次の瞬間、強烈な衝撃を受けて愛衣の体が吹っ飛ぶ。
461 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/07(水) 17:54:31.52 ID:q9fpzJGT0

「野郎っ!!」

愛衣と敵との間に杏子が割って入り、
杏子が振るった横殴りの槍が跳び越された。

「!?」

地面に投げ出された愛衣がとっさに地面を転がり、
愛衣がいた地面に一撃が叩き付けられる。
愛衣の目が、乗馬服風の衣装で鞭を振るう眼鏡の魔法少女をとらえる。

(さっきの体当たり、魔法防壁が無ければ感電で卒倒してた。
武器は帯電、それに魔法で強化した鞭)

「このっ!」

杏子の剛槍が、でっかいぬいぐるみを思わせる熊を切り裂いていた。
その間にも、熊の群れが工事現場に殺到し、
大量のマスケットを空中に呼んだマミと
魔法拳銃の裕奈が弾幕でその進行を阻止する。

「デフレクシオッ!!」

愛衣の側でしなる鞭が、風の楯に弾き飛ばされる。

(無詠唱光の矢!)

愛衣が背後の空間から発した光の矢を鞭使い浅海サキが交わし、
サキは帯電と共に愛衣に急接近する。

「貴様はボクを怒らせた」
「伸縮自在、ですか」

サキの鞭が猛獣調教から乗馬用に変化し、
サキが呟きと共に放った一撃を愛衣は箒で受け止める。
462 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/07(水) 17:58:23.14 ID:q9fpzJGT0

「サキッ」
「かずみ、逃げろっ!」
「え、えっ?」
「いいから、ここから離れて、戻ってるんだっ!」
「浅海サキさん」

愛衣の声に、サキは愛衣の目を見た。

「彼女、かずみさんは、自分の事を知りたがっています」
「黙れ………行くんだ、かずみ」

得物が弾け、双方距離をとる。

「気が付きませんか?」
「何?」
「あなたの言動こそが、私を核心に近づけている」
「黙れえっ!!!」

サキの放った猛獣鞭が、愛衣の風楯に弾き飛ばされる。

「お返しです」

愛衣から近距離で無詠唱の一撃を食らい、
サキが体を折った。

(まだ、魔法少女相手にはサギタ・マギカ一発二発は威力が………)

畳みかけようとした愛衣が、ゾクリとした悪寒と共に振り返り、箒を振るった。

「黙れよ、お前」

たっぷりの髪をふわっと膨らませ、ピンク色のふわふわメルヘン系な衣装。
それにしては武器が凶悪にゴツ過ぎる。

愛衣の使うオソウジダイスキは魔法具の箒だが、
ふわふわピンクが振り下ろす
魔力を帯びたクレイモアの振り下ろしを捧げ持った箒で受け太刀するのは、
かなり手の痺れる事だった。

若葉みらいがそのクレイモアを振り上げ、愛衣が後ろに跳んだ。
463 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/07(水) 18:01:53.95 ID:q9fpzJGT0

「サキを惑わせやがって、潰してやるよ………!?」
「怨み事の前に手ぇ動かすんだなっ」

みらいの腰に背後から鞭が巻き付き、がくんと後ろに引っ張られる。
鞭は杏子の槍が化けたものだった。

「くそっ!」

振り返ったみらいが幅跳びで杏子に斬りかかり、
杏子は鞭を解いてそれを交わした。

「かずみ、今は逃げろっ!!」
「!?」

サキが呼んだ落雷が愛衣を足止めし、
サキの叫びにかずみが踵を返した。

「明石さん追ってっ!」
「オーライッ!!」

愛衣の叫びに、ようやく熊が片付いた裕奈が応じる。
裕奈の側では、手刀をマミに向けた神那ニコと
マスケットをニコに向けた巴マミが互いの手の内を晒した形で睨み合っていた。

「!?」

工事現場の中に、再びミサイルと熊のぬいぐるみが殺到する。

==============================

今回はここまでです>>460-1000
続きは折を見て。
464 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:36:53.46 ID:Vo/udzBi0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>463

ーーーーーーーー

「待って、かずみちゃん、っ!?」

工事現場の資材や骨組みから塀を飛び越え、
屋根から屋根へと跳躍するかずみを裕奈が追跡する。
追跡しながら、裕奈は空き地に飛び込んでいた。

(資材やクレーン車とか、さっきの工事のかな?)

着地と共に一瞬周囲を見回した裕奈が、ダッと横っ飛びする。

(光の矢? いや、もう少し大きい)

斜めに降って来た光球が猛スピードで地面を抉り、
裕奈が発砲した魔法拳銃の銃弾が次に飛来した光球を消滅させる。
そして、走り去るかずみと裕奈の間に、
近くの資材の山から二人の少女が着地した。
どちらもフードつきの白い装束、半ばフードに隠れているが、
一方はロングヘアで一方はショートボブ。

「………(確か、ロングが御崎海香、ショートが牧カオル)
どう見ても魔法少女、だよね」
「そっちも、魔法を使うみたいだな」

牧カオルが裕奈の言葉を返す。

「お互い素人じゃないって事で。
麻帆良学園学園警備魔法使い明石裕奈。
御崎海香さん、学園での事件に関して聞きたい事がある。
少し、付き合ってくれる?」

「断る、と言ったら?」

御崎海香が聞き返す。
465 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:40:27.05 ID:Vo/udzBi0

「そもそも、私はかずみちゃんを追っていた」
「させないっ!」
(ボレーシュートッ!?)

海香が開いた本から光球が弾け出し、
とっさに身を交わした裕奈の側を通って光球が空中を突き抜ける。

「(行け行けにジグザグっ!)デフレクシオッ!」

駆け寄って来るカオルの複雑な動きとスピードに魔法拳銃での銃撃を諦め、
裕奈は防御魔法と共に弾き飛ばされていた。

(鋼鉄の腕のクロスガード突進、
防壁が一瞬遅れてたら血反吐吐いてるねこれ)

跳躍しながら、裕奈は小さな魔法練習杖を握ったまま、
痺れの走る左腕を振る。
その時には、カオルは海香からの光球を跳ね上げていた。

「くっ!」

裕奈がカオルに向けて発砲し、
カオルが蹴り出した光球が銃撃を受けて消滅する。
その時には、裕奈はずしゃあっと足を滑らせて
カオルのクロスガード突進を交わし、
裕奈の発砲をカオルが身を反らして交わす。

「デフレクシオッ!」

たたっと双方距離を開き、裕奈が練習杖を突き出して風楯を張るが、
とっさの未熟な楯を威力ピーク距離からの光球が一撃し
衝撃を察した裕奈がそれを受けながら背後に跳ぶ。
裕奈が、背後に跳躍して鉄材の山に乗る。
すると、カオルは更に跳躍して、裕奈が乗った山の背後にある
更に高い鉄材の山に飛び乗っていた。

「くっ!」

上からの光球シュートを交わし、山を飛び降りながら、
裕奈は上の山のカオルを銃撃する。
カオルも又、それを交わしながら山を飛び降りていた。
466 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:44:03.70 ID:Vo/udzBi0

(上からオーバーヘッドキックッ)

海香が高々と放った光球が空中のカオルに追い付き、
カオルは空中でくるりと回転しながら下の裕奈へとシュートを放った。

とっさに張る事が出来た一杯いっぱいの魔法防壁が、
光球が帯びた強烈な衝撃波に押され、
裕奈の背は辛うじて魔法防壁に守られながら
バウンドする勢いで地面に叩き付けられていた。

カオルが着地する。裕奈は痛む体を引きずって即座に跳躍し、
クロスガードタックルを交わした。
そして、クレーン車のコクピットの上に飛び乗る。
その頃、カオルは海香からの光球をトラップしている所だった。

「ちょこまかと、結構いい動きじゃん」

資材や重機の上を飛び回る裕奈を、
リフティングしながら目で追ったカオルは不敵な笑みを浮かべていた。

(背中が痛いけど、雨は降ってない。
祈るから上手く当たってっ!!!)
「カオルっ!」
「!?」

裕奈の発砲した魔法銃弾は、
身を交わす迄もなくカオルの周辺を突き抜けた。

「チッ!」

幸い、ダンプからは若干の距離があったものの、
裕奈の動きの緩みを見て瞬時にシュート体勢に入っていたカオルの耳に、
すぐ側のトラックの荷台や資材の山からの荷崩れの轟音が突き刺さった。
カオルが、そのまま光球を裕奈に向けて力一杯シュートする。
467 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:48:02.84 ID:Vo/udzBi0

「!?」

裕奈が、魔法使いの出力で大ジャンプをした。
そして、カオルと、カオルの側に駆け寄った海香の側に勢いよく着地する。
二人がとっさに身を交わし、
裕奈は着地しながら両手持ちした光球を勢いよく振り下ろしていた。

「とっ!」

そして、裕奈は鋭い足払いを交わす。
御崎海香は、目の前で展開される団子状の混戦を呆然と見ていた。
手出しが出来なかった、と言うのが正しい。
物理的に手出しが出来ず、
裕奈とカオルは不敵な笑みと共に走りながらもつれ合っている。

「つっ!」
「もらっ………」
「チェックメイトっ!」
「こちらがね」

カオルの鋭いスパイクの足裏が、裕奈の脛を一撃した。
と、次の瞬間には、裕奈は転倒がてらカオルの胸倉を掴み、
二人もつれての回転が終わった時には、
裕奈の魔法拳銃の銃口がカオルの額に押し付けられる。
そして、その裕奈の背中には海香の向けた槍先が向いていた。

海香は、槍を向けながら、目の前の二人がくくくっと笑い出すのを見た。

「やってくれたね、牧カオル」

カオルの上に乗っかって拳銃を向けていた裕奈が、
ごろんと地面に転がり大の字になった。

「明石裕奈? あんた、バスケやってるの?」

あははっと笑ったカオルが質問した。
468 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:51:55.74 ID:Vo/udzBi0

「まーねー、うちの部は弱いけどね、つっ」
「大丈夫? 結構思い切り削った筈だけど」
「まあね、これぐらいなら私の初歩的治癒魔法でもなんとか」

立ち上がった裕奈が、とんとんと脚の具合を確かめ軽く顔を顰める。

「お互い、ホントんとこはボールは友達、でいたいもんだね」
「全く」

裕奈の言葉に、カオルが苦笑しながら立ち上がる。

「で、あんた達プレイアデス聖団?
実際ん所、麻帆良学園都市で一体何してた訳?」
「ちょっと観光に、って言ったら納得していただけるかしら?」
「正直、かなり難しいと思う」

海香の返答に裕奈が苦笑する。
裕奈が、そろそろと拳銃を差した腰に手を動かし、
海香が手にした本を槍に変化させる。

「カオル、かずみはあなた達を友達だと言った。
カオル達もそう思ってる? それでいい?」

裕奈の問いに、カオルが頷いた。

「あたし達の大事な友達だ」
「そう………!?」

裕奈が、とっさに腕をクロスして魔法防壁を張った。
殺到するカササギの群れが裕奈の側を通り過ぎた時には、
資材置き場には裕奈だけが取り残されていた。
469 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 02:01:32.41 ID:Vo/udzBi0

ーーーーーーーー

さっとシャワーの湯を浴び、少しばかりの英気を取り戻す。
脱衣所からバスローブ姿でリビングに戻り、
二枚のバスタオルの内一枚を解いて
豊かな黒髪を解き放ってからどうとベッドに倒れ込む。

(十分、ぐらい目を閉じようか)

麻帆良芸術大学附属中学校女子寮の一室で、
夏目萌はスマホを手元に心の中で呟いていた。

(出来る所までやっておかないと。
本当はデータの持ち返り自体違反なんだけど、
本部の、上の方がきな臭いって………)

政治的事情に加えてそのために公的設備の使用も制限される。
IT系要員でもあるナツメグこと夏目萌にとってはダブルパンチで頭が痛い。

「ん………」

ナツメグがスマホの着信に気付いたのは、
意識が飛ぶ寸前の事だった。

「メイ? ………
もしもの時は、送られて来たものに
ナツメグさんの生年月日末尾二桁を足し算して下さい。
それがパスコードです。
現時点では他言無用、このメールは即座に削除して下さい、
って………何やってるのよあの娘………」
470 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 02:07:18.25 ID:Vo/udzBi0

ーーーーーーーー

「もしもし、明石か?」
「佐倉愛衣です」

スマホの電話に出た長谷川千雨に、愛衣が電話越しに告げた。

「ご協力いただけるのでしたら、一つお願いしたい事があります………」

愛衣の生真面目な声を聞きながら、千雨はメモを用意した。

「………ああ、イミグレの………分かった、やってみる」
「有難うございます。それから、そちらに送ったメール、
出来ればすぐにでも読んで下さい」
「ああ、分かった」

千雨が電話を切り、メールを読む。

「まず、メモに書き写してこのメールは即座に削除して下さい。
定期連絡が途切れたら、
これをこのまま指定のアドレスに転送して下さい、か。
クラウドストレージのサービス名とID、パスだな。
どんな危ない橋渡ってやがる」

ーーーーーーーー

「有難うございます」

あすなろ市内、漫画喫茶の多目的ルームで、
愛衣が裕奈にスマホを返却した。

「PCとメイちゃんのスマホから何か色々送信してたよね?」
「はい」
「一体何を?」
「すいませんが、その答えは少しだけ待って下さい」
「お前、絶対何か隠してるよな?」

杏子が、愛衣に剣呑な視線を向ける。
471 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 02:10:49.30 ID:Vo/udzBi0

「あんたは箒で追跡して、あたし達には屋敷を見張る様に指示を出した。
それから、ここを待ち合わせ場所に指定して来た。
あたしらから連絡内容を隠すために時間稼ぎをしたって事か」

「申し訳ありません」

愛衣が、ぱたんと体を折って頭を下げた。

「これだけは、確証無しに口に出せる事じゃないんです」
「かずみさんの事?」

マミの問いに対して、
愛衣の反応は沈黙は肯定と受け取るに十分なものだった。

「明石さん、確認します」
「うん」
「牧カオルは、かずみさんの事を友達だと言った、そうですね」
「うん」
「その言葉に嘘は無かったですか?」
「なかった、私はそう思う」

愛衣を真っ直ぐ見て返答する裕奈に、
愛衣は小さく頷いて、斜め下を見た。

==============================

今回はここまでです>>464-1000
続きは折を見て。
472 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:18:33.14 ID:2egH53yq0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>471

ーーーーーーーー

「もしもし?」

あすなろ市内の漫画喫茶多目的ルームで、
そろそろ次の事を考えようかと言う矢先に明石裕奈がスマホを取った。

「明石か?」
「うん」

相手は、長谷川千雨だった。

「今、何処にいる?」
「ああ、………って漫画喫茶の個室」
「そこ動くな、大丈夫だと思うけど防戦の準備だけしとけ」
「マジ?」
「ああ、流石にそこでドンパチはないと思うがな。
少しだけ待ってくれ」
「分かった」

裕奈が電話を切り、口調が変わった裕奈を同じ部屋にいた
佐倉愛衣、巴マミ、佐倉杏子も見ていた。

「千雨ちゃん、なんか、近くに敵がいるみたいだね」

へらっとした口調で言うが、伝わるものは伝わった。

「どうするんですか?」

「仮にプレイアデスだとすると、
ここでおっ始めるって事は無いんじゃないの?
次の連絡あるまでここで警戒しつつ待機、って事でいい?」

愛衣の問いに裕奈が答え、一同が頷いた。
473 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:21:50.26 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「もしもし」

千雨からの次の連絡を、裕奈他の一同はスマホのスピーカーで聞いていた。

「もしもし、千雨ちゃん? みんな聞いてるけどいい?」

「上等だ。佐倉のがどうも嫌な予感がし過ぎる言い方だったからな。
念のためこっちで色々確認して見た。
結論を言う、そこ、御崎海香のグループに張られてるぞ」

「プレイアデス聖団に?」
「プレイアデス?」
「御崎海香達の魔法少女のグループの事です」

裕奈の言葉を愛衣が補足した。

「携帯電話会社と防犯ビデオのデータで把握した。
現在進行形でそっちの店を包囲してる」
「相手も魔法少女、今までのパターンから言っても
街中戦う事はないと思うけど」
「ああ」

マミの言葉に千雨も同意する。

「だがな、そのプレイアデスのメンバーの神那ニコってのが
ちょっと厄介な代物を使ってる」
「厄介?」
「お前ら四人の魔力の波長をスマホに記録させて探査してやがる」
「魔力の波長、スマホに、って、本当ですか?」

愛衣が食い気味に尋ねた。

「ああ、想像以上のハイテク魔法軍団だ、
放っておいたら地の果て迄でも追いかけて来るぞ」
「面倒だな」

千雨の答えに、杏子も苦り切った。

「私に考えがある」
474 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:25:22.58 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「動きは?」
「ノン」

ドーナツショップのテーブル席で、
浅海サキはスマホ越しに神那ニコの返事を聞く。

「いいか、動きがあったらすぐに報せろよ」
「よござんす」

サキは、ふうっと息を吐いて通話を終えた。

「サキ………」
「押さえるぞ」

同席した若葉みらいに、サキが言う。

「多少危ない事をしても、あの魔法使いの身柄を全力で抑える。
言っておくが殺しちゃ駄目だ。
ネカフェって事を考えても、あの箒女の口は絶対に割らせるんだ。
後の三人も………絶対に、足止めする。
対策出来ないなら、絶対にこのあすなろ市から出さない」

「分かってるよ、サキ」

「………」

みらいとサキのやり取りを見ていた宇佐木里美が、
自分のスマホを見た。

「動き出したみたい」

里美が、何処ぞのビルの屋上から
ニコが送って来た通話アプリの言葉を示す。
475 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:28:22.30 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

御崎海香と牧カオルが、裕奈達から少し遅れて漫画喫茶の個室を出て
裕奈達とは一見逆方向に歩行する。

「駅方向」
「人通りの多い所を通ってこの街を脱出するつもり?」

それぞれスマホを見ながらカオルの言葉に海香が続き、迂回路へと急ぐ。

ーーーーーーーー

「………丁目方面」
「よし」

スマホの地図を見ながら進む里美に、同行するサキが呟く。

「この先のオフィス街だ」

サキが言った。目標の地点はこの時間は閑散とする、
何度か魔女狩りで出向いて土地勘もある。

「どうしてそのルートを?」

サキの差しているイヤホンに、海香からの声が聞こえる。

「駅からも反れて、無意味なオフィス街に向かっている意味は?」
「海香はどう見る?」

サキが、スマホに繋がるマイクに問いを吹き込む。

「釣り野伏せかしら?」
「あたしもそっちの線だね。
明石裕奈、グラウンドが無限大なら伏兵ぐらい仕込んでるかも」

海香の言葉にカオルが続く。

「今、先行して洗う様にニコに伝えた」
「じゃあ、私達はこのまま、タイミングを見て、狩る」

海香の言葉に、サキが告げた。
476 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:32:02.89 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「路地裏に入った?」

スマホの地図に表示される魔力探査情報と
直接追跡しているサキ隊からの連絡に海香が呟いた。

「ニコ、どうだ?」
「伏兵らしき姿は見えない」

ーーーーーーーー

「こちらも同じね」

サキ隊の中で、宇佐木里美が通話状態のスマホに告げた。

「鳥と猫の伝言からも、待機している者はいない」
「へぇーっ」

既に営業終了状態のオフィス街で、
クレイモアを肩がけにした若葉みらいが暗い声を出す。

「つまり、身を隠すつもりか、
それとも、四人でカウンターでもかけるつもりなのかなこれ?」
「好都合だ」

サキの手にした乗馬笞が鋭く空を切る。

「海香、絶好のチャンスだ。
大至急追い付いて挟撃をかけてくれっ」

「サキ、もう行く? この場所なら」
「ああ。だけど、海香達も到着するから手堅く行くぞ」
「でも、倒しても構わないよね?」
「箒の魔法使いの口だけは割らせる、それが優先なの忘れるな」
「分かってるよ………」

オフィス街の歩道から路地裏の突入しようとした
サキ隊の三人が、動きを止めた。

「爆発っ!?」
477 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:35:40.58 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「状況はっ!?」
「壊れた音は聞こえない、煙幕弾かな、これは?」

スマホでの海香の問いに、ニコの返答が聞こえて来る。

「?」

そして、カオルが自分のスマホを見た。

「かずみからのメール? こんな時に」
「私も」

ーーーーーーーー

「敵襲、って?」
「あいつら自体がデコイっ!?」

スマホに届いたメールを見たみらいの言葉に、
同じくメールを見ていたサキが叫んだ。

「敵の写真、ね」
「ぼやけててよく見えない、っ………」

その時、新たな着信に気付き、サキが電話に出る。

「かずみメール今すぐ破棄しろ、添付ファイルは絶対開けるなっ!!」

それはニコの怒声だった。

「添付ファイル………まさかっ!?」
478 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:38:40.61 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「やられたわ」

思えば単純なやり口に、海香は笑いを禁じ得なかった。
だが、プレイアデス聖団、神那ニコを相手にやってのけたと言うのは
とてもじゃないが単純では済まない。

「被害状況、分かる範囲で」
「取り敢えず、魔力探査アプリを集中的にやられた。
特に、最近十何時間以内の更新データは回復不能じゃないかな。
私達の間なら、一人が添付ファイルを開いただけでも瞬時に食い荒らしにかかる、
それぐらいヤバイ奴だよこれは」
「ええ、こちらも、今の所探査アプリを使えない事だけは確かね」

ニコからの説明に海香も応じた。

ーーーーーーーー

「くっそおおおおっっっっっっっっっ!!!!!」

路地裏で、若葉みらいの振るったクレイモアが深々と地面に叩き付けられる。

「ニコ、どうなってるっ!?」
「ノン、分からない。そっちにいない?」

「いないから聞いているっ!
奴の、箒女の魔力波長を記憶させたソウルジェムにも反応は無い。
遠くに逃げたとしか思えないが、気づかなかったのかっ!?」

「サキ達、海香達のルートを考えて、抜け道を上から見張ってた筈だけど、
そこから逃げた奴はいない筈だ」

苛立ちも露わに尋ねるサキに、ニコも感情を秘めた声で応じた。

「里美っ!?」

みらいの問いに、里美は首を横に振る。

「探してもらってるけど、情報網に引っかからない」
479 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:55:35.17 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「助かったわ」

見滝原市内のマンション玄関で、巴マミと佐倉愛衣が言葉を交わした。

「あのさ、マミ」
「安全のためよ」

マミの隣で何か言いたげな杏子に、マミはキリッとした顔で言う。
そして、二人は一緒に玄関から建物に入って行った。

ーーーーーーーー

麻帆良学園女子中等部寮廊下。

「助かりました」
「助かった、有難う」

礼を言う愛衣と裕奈に、長瀬楓と村上夏美が笑顔で応じた。
そして、そのチートな隠密能力の魔法で
あすなろ市からの脱出を手伝ってくれた楓、夏美と別れ、
裕奈と愛衣は女子寮大浴場「涼風」に向かう。

「ああー、しんどかったぁー」

浴槽に浸りながら裏声を出す裕奈に、愛衣は苦笑する。

この時間は、言わば魔法使いタイムだった。
既に通常の使用時間は終了しており、
通常時間から完全終了までなんとなくラグを作っておいて、
魔法使いのルートで裏で申請したら使用出来る
魔法使い作業用のちょっとした便宜だった。

シャワーを浴び、汗を流してサウナに移動する。
少し遅れて、二人から見たら立派な金髪美女がサウナに入って来た。
二人の学校の先輩であり、
既に「仕事」らしき事を始めている二人にとっては上司でもある
高音・D・グッドマンが裕奈、愛衣の隣に座る。
480 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:59:20.96 ID:2egH53yq0

「何か、分かりましたか?」

愛衣からメールでの帰宅報告を受け、
待ち合わせを指定して来た高音が尋ねる。

「まず、御崎海香のグループは、プレイアデス聖団を通称とする
魔法少女のグループでした」
「魔法少女、ですか」
「………お姉様」

少しだけ目を閉じ、目を開いて呼びかける愛衣を、裕奈は見た。

「なんですか?」

「もう少しだけ、時間を下さい。
相手が魔法少女であっても、
今回は麻帆良学園、魔法使いに関わっている可能性は捨て切れません。
今、何とか接点が出来つつあります。
この段階で魔法少女と魔法使いの関係で公式に扱えば逃げられる恐れがあります。
ですから………」

「………明後日一番に詳しい報告をしなさい。
それまでは現場の判断での対応を許可します」
「分かりました」
「………メイ」

立ち上がった高音が、二人に背を向けたまま口を開いた。
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