見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!)

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411 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/19(金) 02:37:09.05 ID:IOxANT5I0
それでは今回の投下、入ります。

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>>409

「ユエの友達の?」
「はい、桜咲刹那です」

岩の島から声を掛けられ、刹那はぺこりと頭を下げる。

相手は、魔法世界の独立学術都市
アリアドネーの騎士団の騎士団候補生グループ。
その中でも、綾瀬夕映が一時所属していたために、
刹那とも面識のあるグループだった。

そうすると、声を掛けて来た少女、
褐色肌に頭から垂れる耳を持ったコレット・ファランドールは
島から湯に入りざばざばと刹那に近づいて来た。

「やっぱり! ユエは元気?」
「はい、とても。あなた達との再会を心待ちにしています」

可能なら手を取らんばかりに食いついたコレットの質問に、
刹那も優しい微笑みで返答する。
コレットが動作からしてぱあっと明るくなり、岩の島にも喜色が広がる。

「それはそうと」

刹那が言葉を続けた。

「アリアドネーの騎士団候補が集団でこちらに?」
「あら?」

いつの間にか湯に入り、そそそと接近していた
角ツインテールの少女が口を挟む。
この集団のリーダー格、エミリィ・セブンシープだ。

「あなたもその用事でなくて?」
412 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/19(金) 02:40:09.16 ID:IOxANT5I0

ーーーーーーーー

「チーフさん」
「おや、確かコノカだったかい?」
「はいな」
「知り合い、なんですか?」

するりとまどかの隣に立って
熊のぬいぐるみな外見の多分中年女性と言葉を交わす
近衛木乃香にまどかが尋ねた。

「うん、前に友達が世話なって」
「アコ達は元気かい?」
「はいな。チーフはこっちに?」
「ああ、仕事にね。あんた達もその用事じゃなかったのかい?」

ーーーーーーーー

「せっちゃんせっちゃんせっちゃん!」
「お風呂で走ると危ないですよ」

ぱたぱたと急接近して来た木乃香に刹那が優しく言うが、
きらきら輝く瞳で刹那に縋り付く木乃香を、
後を追ったまどかは大汗を浮かべて眺めていた。

ーーーーーーーー

「凄い………」

いただいたばかりの温泉をあっさり無効化しそうな熱気。
建物に入る前からの尋常ならざる盛り上がりの中、
きゅっと手を握られる感触を確かめる。

「私から離れないで下さい」

刹那の言葉にまどかが頷く。
413 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/19(金) 02:43:59.00 ID:IOxANT5I0

「でも、なんか大変な事みたいなのに私までいいんですか?」
「大丈夫大丈夫」

まどかの隣で、木乃香がにっこり笑う。

「まあー、確かにコネそのものやけど、
向こうさんも二つ返事で入れてくれたさかい」
「確かに、濫用は控えるべきですが、
そのぐらいの事はしましたからね。こちらです」

そして、刹那を先頭に三人は長蛇の列とは別の入口へと移動する。

ーーーーーーーー

どういう状況か、まどかにも朧気に把握出来た。

スタジアムの中を、一般の混雑を他所に
スタッフが案内するVIP待遇で通路を進み、
そして観覧席へと到着した。

まどか達の前方には、如何にも高貴な椅子に掛けた、
やはり褐色で少々変わった耳の形の女性が腰かけている。
まどかの見た所では高校生ぐらいの年齢、民族衣装か何かなのだろう。

その側には矍鑠としたスーツ姿の年配の女性、
こちらは色白で豊かな白い髪の毛から生物学的な角が見える、
そんな女性が椅子の側に起立して控えている。

「おお」

前方の二人がこちらを見て、褐色の女性が立ち上がり声を掛ける。
刹那がざざっと片膝をついた。

「この度は、この様な席までお招きいただき感謝いたします。
姫様、グランドマスター(総長)」
「お招きいただき、おおきに」
「あ、有難うございます」

木乃香がぺこりと頭を下げ、
勢いで土下座一歩手前だったまどかもそれに倣う。
414 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/19(金) 02:47:09.13 ID:IOxANT5I0

「おお、久しぶりじゃの。
その娘か? 旧世界の知り合いと言うのは?」
「はい、鹿目まどか、と申します。
行き掛りで私達と同行する事となりまして、
無理をお願いしました」
「あ、あの、鹿目まどかです。有難うございます」

刹那の言葉に続き、まどかがもう一度頭を下げる。
まどかの見た所、褐色の女性の方が偉い、それも尋常じゃなく。
側に控えるスーツのご婦人も気品があり、只者ではなさそうだ。

「うん。私はテオドラ、ヘラス帝国の第三皇女である。
この魔法世界において、南北二つの大きな国の一つ、
ヘラス帝国の三番目のお姫様、易しく言えばそういう事じゃな」

「アリアドネー騎士団総長のセラスです」
「は、はいっ」

「良い、頭を上げよ。いい娘の様だ。
名乗る以上説明はしたが、この者達には返し切れぬ恩義がある。
まして、この者の言う事であれば信ずるに値する」

「「有難うございます」」

刹那とまどかが同時に言った。
こちらに来てからはよく見かける褐色肌にちょっと別の生物っぽい、
それでも、素人のまどかが見ても分かる高貴な美人。
まどかが何の事情も分からなくても平伏してしまいそうなオーラと、
それでいて懐の深い優しさがそのまま感じられる相手だった。

「ほら、そろそろ始まるぞ」

テオドラの言葉に、三人はスタジアムの試合場に視線を向けた。
415 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/19(金) 02:50:35.78 ID:IOxANT5I0

「あれが………」
「はい、私達の担任、ネギ・スプリングフィールド先生です」
「本当に、十歳の子どもなんだ………」

スタジアムに現れた男の子を見て、まどかは感心を口にする。
まどか達は明らかにVIP待遇の観覧席にいるが、
スタジアムの観客、熱気はとんでもない事になっている。
そんな中を、まどかよりも年下の少年が堂々と、
それも虚勢には見えない品のいい仕草でスタジアム中央へと進んでいる。

「ラカンさん」

木乃香の言葉に、ネギとは逆側に視線を向けたまどかは目を見張った。
一言で言えばマッチョマン、
確かテレビの映画で聞いた、筋肉モリモリマッチョのなんとか。

「あ、あの………」
「ん?」

掠れる声で尋ねるまどかに、木乃香がにこーっと応じる。

「えーっと、その、この、スタジアムって、
なんか、戦う、みたいなそういう事確か来る前に
そんな事と言いますか………」
「案ずるな」

答えたのは、くすっと笑ったテオドラだった。

「優しい、いい娘の様じゃの。
たまにはなかなか刺激的なものが見られるぞ」
416 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/19(金) 02:53:59.24 ID:IOxANT5I0

ーーーーーーーー

鹿目まどかが呆然としている間にそれは始まり、終わった。
ここ最近、見るだけであれば、
まどかも非常識な戦いと言うものをそれなりに経験している。
先輩の巴マミの魔砲力等は兵器と言ってもいいだろう。
だが、今見ていたものは、桁が二つ三つ違った。

「あー、負けてもうたなぁ」
「残念でしたね」

首をつーっと動かして、会話をする木乃香と刹那に視線を動かしながら、
まどかはようやく口を閉じる。
取り敢えず、スタジアム中央で握手をしている
ネギが負けてラカンが勝ったらしい。

まどかに言わせればそれはまあ、
ちょっと服装をいじれば可愛い女の子にすら見えそうな
確かにここでは精悍な雰囲気でもまどかより年下の少年、小さな男の子と
見た目からして魔女の一つや二つ捻る事が出来そうな
筋肉モリモリマッチョのなんとかが正面対決すればそれはそうなるだろうと。

魔法を駆使していい勝負をしていた、
と言うのは一応まどかにも理解は出来たが、
とにかく壮絶、の一言だった。

「さあ、お待ちかねじゃぞ」

==============================

今回はここまでです>>411-1000
続きは折を見て。
417 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:17:36.58 ID:X0NSnIeo0
それでは今回の投下、入ります。

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>>416

ーーーーーーーー

「セブンシープ分隊、お召により参上しました」
「有難う」

試合の余韻も冷めやらぬスタジアム。
その貴賓室で、片膝をつくエミリィ・セブンシープ以下に
セラス総長が声を掛ける。

「事情は先に伝えた通りです。
イレギュラーな任務、いえ、お願いと言うべき事で申し訳ありませんが」
「大切なゲストの案内、光栄です」

セラスの言葉に、エミリィが改めて一礼する。

「鹿目まどかさん」
「はい」

セラスの言葉に、格好いい黒制服の一団を眺めていた
鹿目まどかが小さく飛び跳ねそうに返答する。

「今から少し、彼女達と行動を共にして下さい。
こちらの二人も一緒です」
「分かりました、有難うございます」

刹那と木乃香が小さく頷くのを見て、
まどかが頭を下げた。

「この人達は、私達とも存じよりです。
ご配慮感謝いたします」

刹那が言い、刹那と木乃香も頭を下げた。
418 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:21:38.93 ID:X0NSnIeo0

ーーーーーーーー

「箒は初めて? 命綱は付けた?」
「はい」

スタジアムの外でコレットに問われるまままどかが答え、
詳しい説明がなくとも今ここがどういう場所で
コレットが跨っているものが何か、と言う所から
今更ながらむしろ簡単過ぎて信じたくない予想もつく。

「うわぁー」
「ま、魔法の力で転落はしないけど、手は離さないでね」
「はい」

絵本そのままのシチュエーションで、
箒に跨ったコレット・ファランドールにしがみつく形で
建物よりも高く浮遊し、まどかは歓声を上げた。
周囲では、刹那と木乃香も他の面々の箒で飛行を始めていた。

「確か、アリアドネー騎士団、でしたっけ?」
「はい」

まどかの声に、隣を飛ぶエミリィが応じた。

「あなたの事は、旧世界からの迷い人であり
こちらのコノエコノカ、サクラザキセツナの同行者と伺っています。
我々はオスティア総督府での夜会までの案内とガードを仰せつかりました」

「ヤカイ?」
「パーティーや」

「色々引っ張り回して申し訳ありませんが、
向こうの世界に戻るための根回しだと思って下さい。
無論、鹿目さんに何かをしてもらうと言うつもりはありません」

「美味しいお食事ぐらいに思っててええさかい」
「はい。皆さんも有難うございます」
「だーいじょうぶ大丈夫」

まどかの言葉にコレットが口を挟んだ。
419 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:25:18.37 ID:X0NSnIeo0

「私達もユエの事とか色々聞きたかったしね。
それに、そのまま夜会で自由行動って聞いたら委員長が真っ先に」

コレットの言葉に、エミリィが大きく咳払いをした。

「ユエ?」
「綾瀬夕映、麻帆良学園における私達のクラスメイトです」

ーーーーーーーー

まどか達が到着した先は、飛行船だった。
確かに、ゲートのある廃都からこちらの新・オスティア市街地に行き着く迄にも
なんとか危険区域を脱出した後でヒッチハイクの飛行船のお世話になった訳だが、
今乗り込んでいる飛行艇は、まどかの素人目にも立派に思える代物だった。

「よう」
「どうも」

飛行船に到着した面々を待っていたのは、
まどかから見たら
古い映画でトレーラーでも運転してそうな精悍なおじさんだった。

「ジョニーさん、お久しぶりです」
「協力感謝致します」

「おう、あいつら、ユーナちゃんやマキエちゃんは?」

「はい、元気にしています」
「そりゃあ何より。あんたらの事だし貰うモン貰ってるからな。
出来る事ならなんでも持って来いだ」
「有難うございます」

ドンと胸を叩くジョニーおじさんに刹那以下三人組が頭を下げる。
420 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:29:00.46 ID:X0NSnIeo0

「この娘は?」
「はい、少々事情がありまして」
「やっぱり、旧世界の?」
「ええ。こちらはジョニーさん、以前こちらの世界で一方ならぬ協力を」
「いやー、そんな大層な事じゃねーって」

「どうも、鹿目まどかです」
「ははっ、素直でお嬢ちゃんだな。あいつらの事思い出すよ。
ま、ここじゃあ大船にいるつもりでいてくんな」
「有難うございます」

ジョニーの言葉に、まどかがもう一度頭を下げる。

ーーーーーーーー

「まどかちゃん」

飛行船のリビングで、木乃香がまどかにスマホを差し出す。

「この娘、この娘がゆえや」
「へえー………ウェヒヒヒ………」

まどかがそれを目にした瞬間、一挙に高まった背後の密度に
まどかが乾いた笑いを漏らす。

「夕映さんは一時期彼女達、アリアドネー騎士団で
共に候補生として参加していた事があります」
「アリアドネー騎士団」

刹那の説明を聞き、先程も聞いた単語をまどかは聞き返す。

「アリアドネーはこの魔法世界の都市の名前です。
極めて高い独立性と学術水準を持つ独立学術都市だからこそ、
その中立かつ高度な技術のアリアドネーに属する魔法騎士団の意義があります」
「その通りですわ」

刹那の説明に、エミリィが腕組みしてうんうん頷く。
421 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:32:27.77 ID:X0NSnIeo0

「夕映さんは私達の同級生ですが、
事情によりそのアリアドネー騎士団候補生としてに参加し、
今でもその身分を持っている筈です」

「ま、まあ、そういう事もありましたわね。
それで、そのお話に出て来た旧世界に戻った候補生は
その後如何です事?」

「はい、すこぶる元気に、
あなた方との再会を心待ちに勉学、修行に励んでいます」
「それは結構」

刹那の言葉にエミリィが頷くが、
既に周囲もくすくす笑いが我慢出来ないエミリィの顔の緩みが、
まどかにも何となく関係性を察知させる。

「でもさ、凄かったんだよユエ」

笑いを噛み殺しながら、コレットが話に加わった。

「最初は全然だったけどメキメキ上達して
あの時の選抜チームにも実力で選ばれて」
「ま、まあ、向上心と努力は立派なものでしたわね」
「凄かったんだ」
「ん」

呟くまどかに、木乃香が声を掛けた。
422 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:35:43.43 ID:X0NSnIeo0

「ゆえはな、うちのクラスメイトで学校の図書館探検部でも一緒、
それで、おんなじぐらいに魔法に関わったけど、
頭が良くて一杯勉強してなぁ、ほんまに凄い娘や」

「それは、お嬢様も同じです。
溢れる程の才に驕らず、幾度となく地獄の特訓を繰り返して」

刹那の言葉に、木乃香ははにかんで小さく頷く。

綾瀬夕映、まどかも、女子寮に行った時も含め
ちょいちょい写真を見せてもらったが、
もっさりなぐらいたっぷりとした黒髪でまどかよりも更に小柄な女の子。

何時も一緒の娘とは対照的におでこが光り、
そして、ちょっと冷静に見えながら
みんなと一緒にいい笑顔で撮影されている少女。

「さあさ」

エミリィがぱんぱん手を叩く。

「そろそろ支度の時間でなくて?」
「そうだね、マドカ」
「はい?」

にっこり笑うコレットにまどかが聞き返す。

「こちらへ」
「よろしく頼みますわよ、ビー」
「かしこまりましたお嬢様。
ベアトリクス・モンローと申します」

案内の分隊メンバーの中から、この中では珍しく
生物学的に人間の少女にしか見えない黒髪の娘がまどかに一礼した。
423 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/20(土) 03:39:02.11 ID:X0NSnIeo0

ーーーーーーーー

「上がりました」
「それではこちらに」

VIP待遇とは言え大混雑のスタジアム帰のまどかが、
高級飛行船らしくシャワーでさっと汗を流してバスローブ姿で戻った所で、
ビーことベアトリクス・モンローが飛行船内を先導する。

ベアトリクスは、生物学的にやや人間離れした面々の多い中、
余り長くないかちっとした黒髪の、
元の世界でまどか達の側にいてもおかしくない少女だった。

そして、ビーに連れられた飛行船の奥で扉が開くのを見て、
まどかはわあっと声を上げた。

「パーティー会場になりますので、お好きなものをお選び下さい」
「え、ええーっと、ウェヒヒヒ………」

素人目にも分かるゴージャスな臨時クローゼットのラインナップに、
まどかは乾いた笑いを漏らす。
だが、それでも、中の上以上の家庭に育ち、
友達付き合いで上条恭介のコンサートにも出入りしていた。
そんな経験があって本当に良かったとまどかは有難く思う。

「こちらですね? 社交場の嗜みも騎士の任務の内、
万全に淑女を完成させていただきます」
「うらー、良いではないか良いではないかー」
「ウェ、ヒヒヒ、ヒヒヒヒ」

閉ざされた扉の向こうからの声を、
残された一同は大汗を浮かべて聞いていた。

==============================

今回はここまでです>>417-1000
続きは折を見て。
424 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 02:48:04.20 ID:l+RyK1Mr0
それでは今回の投下、入ります。

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>>423

ーーーーーーーー

「ウェ、ヒヒヒヒ………」

陽もとっぷり落ちて、まず、坂の上に見える建物、
到底お役所等と言う規模ではないオスティア総督府の
宮殿そのものの威容にまどかの口から乾いた笑いが漏れる。
あんな所で開かれるパーティーと言ったら、
それこそガラスの靴を履いていく世界にしか見えない。

「あ、あの、刹那さん、このかさん」
「はい」
「変、じゃないかな?」
「よく、お似合いです」
「可愛えぇなぁ」
「ウェ、ヒヒヒヒ………」

刹那と木乃香は褒めてくれるが、
まどかはそれに対して乾いた笑みを返すばかり。

「我々は伝統と栄誉ある騎士団。
まして、ビーは幼少時より私の側にいた者。
公の場における嗜みも身に着けています」
「あ、すいません」

エミリィの言葉に、まどかが小さく頭を下げる。
425 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 02:51:32.68 ID:l+RyK1Mr0

「とても、よくお似合いです」
「うんうん」

コレットはとにかく、と言っては何だが、
如何にも真面目そうなベアトリクスの言葉は文言によらず
何となくまどかを安心させてくれる。
そうすると、コレットの誉め言葉も素直に聞こえる。

まどかとしても、多少の余所行きの経験はあるが、
本格的なパーティードレスは初めて。
それでも、微かな鴇色を流したふわふわの白いドレス、
両サイドをリボンでくくりながらも長めに垂らした後ろ髪。
飛行船の姿見で見た自分の姿がちょっとだけ誇らしくなる。
そして、改めて元々の同行者である二人を見る。

今回の木乃香の服装は白いドレス姿。
前の茶会の振袖も見事なものだったが、
白を基調としたパーティードレスも木乃香の違った魅力を引き出す。

素晴らしい黒髪の美少女の、日本人形の様に清楚な魅力と共に、
やや大人びたパーティードレスは、
一つ年上の先輩の綻ぶ様な色気すら匂わせてまどかを魅了する。

先に記した事情で、
まどか自身にクラシックコンサートに行く機会があった事も、
まどかに木乃香の魅力をより感じさせる。

そんな木乃香の隣に控える刹那は、格好良すぎる。
ボディーガードそのものの黒服パンツスーツ姿。
それは、凛々しいと言う言葉がぴったりであり、
それでいて、その凛々しさは同時に美しい女性、
と言う評価を邪魔しない。
426 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 02:55:38.83 ID:l+RyK1Mr0

「手間のかかる事で申し訳ない」

そこで、又、刹那が一つ頭を下げた。

「本来であれば勝手に巻き込んだ鹿目さんを
一刻も早くお返ししなければならない所。
只でさえ気苦労の事を異国で強いる事となってしまい。
今はこのルートから通した方が話が速いものでして」
「こちらこそ色々していただいて有難うございます」

刹那の真摯な態度に、まどかもぺこりと頭を下げた。

ーーーーーーーー

「それでは、私達はこれで」
「有難うございました」

宮殿の門番は騎士団が書面を示して交渉すると易々と道を開け、
途方もなく広い宮殿の一角のエントランスで、
まどか達から離れる騎士団の面々にまどか達は頭を下げた。

「えっ、と、綺麗なお料理もあるけど………」
「肉、やな」
「肉、ですねウェヒヒヒ」
「飛行船のサンドウィッチは美味しかったけど、
色々あってお腹ペコペコやな」

立食パーティーに潜入したまどかは、
目の前の木乃香の豪快な、それでいて汚さを感じさせない動きを
早々にトレースして実行を開始する。

「チキンも美味しいけど、
あれ、子豚の丸焼き、美味しい所切ってもらおな」
「はいっ」

まどかとしては、年頃の女の子として、
ここを出る迄にドレスのお腹周りは、等と思わないでもないが、
一方で、まだまだ色気より食い気の精神年齢。
正直知らない世界を動き回って、その上こんなに美味しければ尚の事。
普段から豪快美人が身近にいる可愛い女の子の鹿目まどかとしては、
既に鳴り始めたお腹、それが最優先だった。
427 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 02:59:05.69 ID:l+RyK1Mr0

「あ、これも美味しそう」

木乃香を追跡していたまどかが、途中で視界に入ったテーブルに進路を変える。

「こっちも美味しそうだけど、このお皿で一緒だと、
えーと、やっぱりこっちを………」
「おい」

やけにドスの利いた声にまどかが振り返ると、
やけにガタイのいい給仕の男性が
両腕に大量の皿を携えて眉をひくひく動かしていた。

「ご、ごめんなさいっ!」
「人の行く先行く先のたのたしやがって」
「す、すいませんでしたっ!!」

そう言えばテーブルの上もかなり隙間が開いている。
まどかが青い顔で頭を下げながらざざっと横に移動し、
給仕はざざざっと料理を並べ直す。

「ちょいと」

聞き覚えのある声を耳にしてまどかが顔を上げると、
ガタイのいい給仕がボロボロになる迄
でっかい熊のぬいぐるみにじゃれつかれている所だった。

「ウェ、ヒヒヒヒ………」
「すいませんねぇ、お客様に失礼な態度を」

そして、ぬいぐるみは、
大汗を浮かべて突っ立っているまどかに声を掛ける。
428 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:02:31.75 ID:l+RyK1Mr0

「い、いえ、私も不注意でしたから。
クママさんですよね」
「ああー、マドカちゃん。コノカ達と一緒かい?」
「はい。クママさんはここで?」

「ああ、私は仕事でね。あっちに活きのいい魚が届いてるよ、
ニホンの子って好きなんだろ?」

「はい、有難うございます」
「うん、そのドレスと髪型も、よく似合ってるよ」
「有難うございますっ」

まどかがぱたんと体を折り、
クママチーフはのしのしとその場を後にする。

「よう」
「あ、ごめんなさいっ」
「いや、俺が悪かった、いや、申し訳ありませんでした」
「アウウ………」

凄味駄々洩れな給仕の男に給仕に丁寧に頭を下げられ、
まどかは対応に困る。

「ったくっ」
「ひっ」

顔を上げた給仕の呟きに、まどかがたじっと足を引く。
429 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:06:21.43 ID:l+RyK1Mr0

「もしかして、例の旧世界の迷子ってお前か?
コノカって言ってたからな」
「は、はい、鹿目まどかです」

「そうかい、俺はトサカ。コノカ達とは知らねー仲じゃない」
「そう、なんですね。クママさんも」

「まあな。まあ、なんつーかあれだ、
いい加減おどおどしてないでもうちょっとしゃんとしとけ。
そっちじゃ馬子にも衣装って言うのか?
見栄えがしないでもないんだからよ」

「あ………有難うございます」

ふんっ、と、もう一度鼻を鳴らしたトサカが、
近くの柱の陰で顔を見合わせくすくす笑っていた給仕二名への
鉄拳的教育的指導を実行するのを
まどかは大汗を浮かべて眺めていた。

ーーーーーーーー

ちょっとはぐれたものの無事木乃香と合流し、
お腹いっぱい夕食をいただいたまどか、
そこに刹那も加わって宮殿の廊下を移動していた。

「刹那さんっ!」

その声を聞いた瞬間、まどかは、
刹那の顔がぱあっと明るくなるのを見た。

「刹那さん、こっち来てたんだ」
「お久しぶりですっ」
「もぉーっ、やめてよ。友達だって言ったでしょっ」

そうやって、頭を下げた刹那と言葉を交わしたのは、
恐らく刹那と同い年と直感出来る。
まどかから見るとすっきりとしながら出る所はそこそこ出ている、
盛装の夜会ドレスがスタイルの良さを引き立てている
中身は快活な少女だった。
430 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:09:28.88 ID:l+RyK1Mr0

「アースナっ」
「このか、しばらくっ。
そっちの娘ね、あっちの世界から来たって」
「あ、あの、鹿目まどかです」
「私は神楽坂明日菜、よろしく」

ぺこりと頭を下げるまどかに、明日菜がにかっと笑って答える。
長い髪の毛を鈴つきの髪飾りでツインテールに束ねた、
少なくとも美少女の部類には入る年上の少女。
確かに、先に見せてもらった写真の中にも彼女はいた。
だとすると、相当親しい間柄だと言う事も頷ける。
何しろ、木乃香が迷いなく明日菜の首っ玉にしがみつき、
明日菜がそれを軽く振り回しながら、それを見ている刹那共々
とってもいい笑顔なのだから。

「刹那さんっ」
「ネギ君」
「ネギ先生」

そして、近くの曲がり角の向こうに、
ひょんなきっかけで指先にキスを受けて真っ赤な顔でぐるぐる目を回した
褐色角つき騎士団候補生とそれを介抱する仲間達を残して
ぱたぱたとこちらに近づいて来たのは、
つい何時間か前にスタジアムでとんでもない激闘を見せてくれた、
刹那達の担任教師、弱冠十歳のネギ・スプリングフィールドだった。

「鹿目まどかさんですか?」
「はい、鹿目まどかです」
「騎士団から総長経由で刹那さんからの報告は届いています。
今回は大変な事に巻き込んでしまいました」
「い、いえ、あの、珍しい世界も見れましたし、
刹那さんもこのかさんの良くしてくれましたから」
「そう言っていただけると」

白人の少年だが日本語ぺらぺら、何よりも優しく礼儀正しい。
あれだけ勇壮な戦士が今は小さな紳士。
まどかにも、彼が慕われるのが分かり過ぎる程に分かる気がしていた。

「しかし、丁度本日がこちらでのイベントだったんですね」
「そぉーなの」

刹那の言葉に、明日菜が苦笑を見せた。
431 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:10:51.27 ID:l+RyK1Mr0

「外交日程って奴でさ、ネギ共々ね。
歓迎イベントで、その中でネギとラカンさんのエキシビジョンとか、
引き受けるネギもネギなんだからねっ!」
「ほへんははいっ」

あの勇壮で桁外れに途方もなく強い
ネギ・スプリングフィールドの口に明日菜の指が突っ込まれ、
唇が左右に広げられるのをまどかはくすくす笑って見ていた。

「な、お姉ちゃんみたいやろ」
「はい」

木乃香の言葉にまどかが快活に答える。
その辺、まどかの本音としては、きょうだいネタによくある
実物はこんなに可愛いもんでもないよな感情も無いではなかったが、
それは逆に実物も遠慮が無いぐらいに可愛いと言う事でもあり、
それでも微笑ましいと素直に思った。

「それでは」

刹那が、尽きない話を一旦引き取った。

「私と鹿目さんは明日一番にメガロメセンブリアに向かい、
政府と折衝の上であちらのゲートから鹿目さんを送り届けます」
「せっちゃんと二人で?」

木乃香が、ちょっと不思議そうに尋ねた。

「はい。今は鹿目さんの帰還が優先になりますから。
お嬢様はこの機会です、お二人と旧交を温めて下さい。
ネギ先生、ご多忙の所すいませんが、
お嬢様の帰還の手配を願えますか?」

「分かりました」
「まあ、そういう事情ならね」

刹那の言葉に、ネギと明日菜も名残惜しそうに承諾した。
432 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:14:04.26 ID:l+RyK1Mr0

「あ、あの、ごめんなさい。何か、凄くお邪魔と言うか………」
「いい娘ね」

まどかの言葉に、明日菜がくすっと笑って言った。

「でも、まどかちゃん? あなたが悪い所なんて一つもないでしょ、
事情はよく分からないけど
本当なら私達魔法使いが思い切り文句言われる所なんだから。
優しいのはいいけど、あんまり卑屈にならないの」
「有難うございます」

明日菜の優しさに、まどかはもう一度頭を下げた。

ーーーーーーーー

「はあーっ」

新・オスティア観光エリア、リゾートホテルの客室で、
浴衣姿のまどかが、ベッドの上にうつ伏せに体を投げ出した。

「気持ち良かったですね」

隣のベッドに座った刹那が、にっこり笑って声を掛ける。

「はい。なんか体の中から
悪いものがぜーんぶどばどば出て行ったみたいで、
すっごく疲れてたんですねー」

岩盤浴マッサージつきの入浴を終えて、
このツインルームに戻って来ていたまどかが長く息を吐く。
433 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:17:30.90 ID:l+RyK1Mr0

「流石に、一般人の立場では
ここまで肉体的な負担だけでも甚だしいものでしたし、
まして、普通の外国ですらない未知の世界でしたから
精神的な緊張も大変なものだったと」

「それでも、そんな所で私の負担が最小限になる様に
色々手を尽くしてくれて、本当に有難うございました」

「いえ、魔法の立場で巻き込んだ以上当然の事です」

「ここでも、普通に見ても人が一杯来てる時に、
こんないい部屋とってもらって、それに、浴衣ってウェヒヒヒ………」

「確かに、こちらから見たら異文化ですが、
なんと言いますかこちらでは我々は少々顔が利きます。
それに、こちらには立派な温泉もありますからね。
簡単に用意出来る良き風呂文化は導入も速いです」

「やっぱりドレスのパーティー緊張したから、凄く楽になりました」
「お似合いでしたよ」
「刹那さんもティヒヒヒヒ」
「有難うございます」

隣り合ったベッドで互いにうつ伏せになり、
まどかの言葉に刹那もにこっと笑って応じた。
その後で、刹那はよいしょとベッドの上に座り直す。

「鹿目まどかさん」
「はい」

改まった呼びかけに、少々砕けていたまどかも口調を切り替えた。

「あなたに一つ、お伺いしたい事があります」
「はい」

まどかの返答を聞き、刹那はベッドを降りてまどかの方に歩き出した。
434 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:21:09.90 ID:l+RyK1Mr0

「鹿目まどかさん」

ベッドの上に座り直したまどかは、
ベッドサイドから声を掛ける刹那を見ていた。

「あなたは、自分の人生が貴いと思いますか?
家族や友達を、大切にしていますか?」

まどかは、既視感を覚えながらも顔を上げた。
刹那は、まどかを静かに見下ろしていた。

「私、は」

まどかは、立ち上がっていた。

「大切に、思っています。
家族も、友達のみんなも、大好きで、
とっても大切な人たちです」
「そうですか」

言葉を選びながらも言い切ったまどかに、
刹那は静かに微笑みかけた。

「そうですね。わた………」
「?」

まどかが、異変に気付いた。
何かを言いかけた刹那がぱちぱちと瞬きをしている。
目を見開き、口をぱくぱくさせている。

「刹那、さん?」

まどかに問いかけられ、顔を上げた刹那は、
ごくりと息を飲んだがぱくぱく動く口から声は出ない。
その代わり、ぽろりと一筋、刹那の頬に涙が伝っていた。

「あ、鹿目、さん………」
「はい」

刹那がようやく声を絞り出し、まどかが応じる。
だが、その後に刹那の口から漏れるのは小さな呼吸音だった。
435 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/22(月) 03:25:22.10 ID:l+RyK1Mr0

「刹那さん? あの、大丈夫ですかっ?」

まどかの問いかけに、刹那は小さくうんうん頷く。
丸で、強力な腹の差し込みでも耐えている様な顔で。

「刹那さん、刹那、さん」

自分でも気が付いた時には、まどかは刹那に抱き着いていた。

「あの、何処か痛いんですか? 刹那さん?」

刹那に抱き着き、背中を撫でながら問いかけるが、
まどかの頭の上から刹那が発するのは、言葉にならない嗚咽だった。
刹那が、きゅっとまどかに抱き着き、
刹那が静かに呼吸を整えるのをまどかも感じる。
刹那の手が離れる。
まどかから離れた刹那が、ゆっくりと息を吐く。

「醜態を失礼しました」
「う、ううん」

馬鹿丁寧に一礼する刹那に、まどかが小さく首を横に振る。

「あ、あの………」
「ええ、大丈夫です。やはり少々疲れた様です。
休みましょう、明日は早くから遠出になりますので」
「はい」

まどかが見たのは、完璧なスマイルだった。
そこには、首を縦に振る以外の選択を即座に失わせる力が込められていた。

==============================

今回はここまでです>>424-1000
続きは折を見て。
436 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/23(火) 03:51:28.53 ID:lWROmukU0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>435

 ×     ×

大切、だよ。

家族も、友達のみんなも、

大好きで、とっても大切な人たちだよ

ーーーーーーーー

鹿目まどかは、自分の声を聞いた様な気がした。
そんな気がしながら、温かなベッドの中で薄目を開く。

(雨?)

耳からの情報で、なんとなくそんな事を考える。
見知らぬ天井。まどかはそのまま記憶を整理する。

魔法の世界に来て、
色々あってホテルのツインルームに宿泊して朝を迎えたらしい。

その辺りの諸々の事情を、
何とか頭の中で論理化しながらベッドの上で身を起こす。
口に手を当てながらふぁーっと大口を開けた辺りで、
視線の先のドアがガチャリと開いた。

「ああ、お目覚めでしたか?」
「あ、はい」

そこから現れたのは、桜咲刹那だった。
先程までの水音も今はやみ、
浴衣姿の刹那はバスタオルで黒髪を挟みながら
ツインルームのベッドサイドに戻って来た。
437 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/23(火) 03:57:45.10 ID:lWROmukU0

「鹿目さんも先にシャワーを使いますか?」
「あ、はい、そうします」

んーっと伸びをして、
そこで気が付いてベッドに垂れた浴衣を右肩に掛け直してから、
まどかは帯を締め直して立ち上がる。

その間に、刹那は着替えを用意している。
下着はドレス合わせのついでの様に簡素なものを用意してもらえたが、
それ以外は旧世界で着ていたものをクリーニングしたものだ。
まどかがふいっと刹那を見ると、
まどかと目が合った刹那がふふっと微笑み、まどかはバスルームに向かう。

まどかはシャワーを浴びながら考える。
あれは、自分の知っている桜咲刹那。
頼もしくて、誠実で優しい先輩。
さ程長い付き合いでもないが、
まどかが知る限りの今迄の桜咲刹那像と合致すると。

シャワーが朝の眠気を払っている事を自覚しながら、
まどかはそんな感じで自分の記憶と感覚を整理する。
眠気と寝汗をシャワーに流し、まどかは浴衣姿でベッドに戻る。
そこで着替えを終えると、洗面台に立った。
438 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/23(火) 04:04:56.38 ID:lWROmukU0

「あの………」
「はい」

洗面台から戻ったまどかが、刹那に声を掛けた。

「あの、このリボンって似合ってますか?」
「え? あ、はい。とてもよく」

刹那は、優しく微笑んだ。
常識的に考えるなら、今の状況の常識人なら誰でもそう答えるだろう。
そんな思いもあったが、それでも、まどかは異郷で鏡の前に立って、
ふとこの先輩に尋ねてみたくなった。

「良かった。このリボン、マ………母が選んでくれたんです。
私の隠れファンもメロメロだとか」
「そうですね」

刹那が、又、にっこり笑った。
そして、つかつかとまどかに近づく。

「戦術的観点から申し上げますと、
性格も体格も大人し目で優しい、小動物的に可愛らしい。
同じ教室にいれば引かれる異性も一定数してもおかしくないでしょうね。
そんなあなたの派手過ぎない、強めの色のリボンはさり気なく目を引く
いいインパクトになります」

「ウェ、ヒヒヒ」

大真面目に語る刹那にまどかが大汗を浮かべ、
その様子に刹那はふっと破顔した。
439 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/23(火) 04:08:29.71 ID:lWROmukU0

「一応、女性として一年程先に生まれていますのでこのぐらいは。
私から見てその様にとても魅力的です。
もっとも、専らこちらの武骨者で通っているのが女子校ですから
当てにして頂いても困りますが」

夕凪を手に大真面目に説明する刹那を前に、
まどかはとうとうくくくくと腹を抱えてしまった。

「あ、有難うございます。
刹那さんみたいに格好いい人にそう言ってもらえて
とても嬉しいですウェヒヒヒ」

「こちらこそ、光栄です。
それではそろそろ。やはり文化交流でしょうか、
ここはイギリス風の朝食が美味しい様です」

「はい、なんか、お腹がすきました」

優しく微笑む刹那に、まどかも元気よく答えていた。

==============================

今回はここまでです>>436-1000
続きは折を見て。
440 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/24(水) 03:26:28.73 ID:usJB+thL0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>439

ーーーーーーーー

「それでは、お嬢様をお願いします」
「分かりました」
「ほなな、まどかちゃん」
「はい」

新オスティアの飛行船港で、桜咲刹那がネギに後を託し、
にこにこ微笑む近衛木乃香がまどかと挨拶を交わしていた。
そんな様子を、神楽坂明日菜は人差し指の背で顎を撫でながら眺めている。

「刹那さん」
「はい」
「帰ったらゆっくりお茶しよう。
最近ちょっと忙しかったから、みんなで原宿とかお出かけして」
「そうですね」

明日菜の言葉に、刹那はにこっと笑って即答した。
そんな刹那の笑顔を見ながら
人差し指の背で顎を撫でていた明日菜は、破顔して小さく頷いた。

「それでは」

刹那に促したのは、一見して彼女よりも年下の執事風の少年だった。
かくして、刹那とまどかは用意された飛行船に搭乗する。

ーーーーーーーー

「うわぁー………」

飛行船の窓から景色を眺めていたまどかが、声を上げた。
前例をほとんど知らないまどかであっても、
これがかなり高級な飛行船である事は分かる。
何時間かの飛行の間、乗り心地も上々の船内で、
まどかは雲を眺めたり軽く昼寝をしたりお菓子を摘まんだりと
いい加減異常事態にも慣れつつある移動時間を満喫していた。
441 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/24(水) 03:30:09.26 ID:usJB+thL0

「メガロメセンブリアですね」
「あれが………」

刹那にそれが目的地である事を告げられ、まどかが呟く。
程なく、魔法世界内の大都市メガロメセンブリアに到着した刹那とまどかは、
執事風少年の案内で徒歩での移動を開始していた。

「刹那さん」
「はい」
「魔法世界でもちょっと、感じが違うって言うか」
「そうですね」

まどかの言葉に刹那が頷いた。

「あちら、と言うよりもこの世界の南側はいわゆる亜人、
獣とか魔族に繋がる人達が多く、オスティアはいわば中間点です。
対して、北側の政治的中心に当たるこのメガロメセンブリアは、
私達にとっての元の世界に近い世界で、
魔法こそポピュラーでも住人もそういう事になっています」

刹那が噛み砕いて説明を行う。
確かに、飛行船から見た景色も今の道行きも、
丸で未来都市を思わせる、それでいて魔法らしさも全開の摩天楼。
そこに、いかにも魔法らしい色々なものが空中を飛び交っている。
行き交う人々も刹那の説明通りに見えた。
そして、一同が行き着いた先は、
見た目からして壮大にして由緒正しきホテルだった

「こちらです」

少年が案内した先は、
そこに至る過程と扉だけでも特別さが理解出来る程の、ホテルの特別室だった。
442 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/24(水) 03:37:12.17 ID:usJB+thL0

ーーーーーーーー

「初めまして」

特別室に入ったまどか達を出迎えたのは、
眼鏡をかけた、背の高いスーツ姿の男性だった。

「鹿目まどかさんですね?」
「はい」

ちらっ、と、このだだっ広い部屋の
さり気なくも高級な調度品を気にかけていたまどかに、
男性は歩み寄り声を掛けた。

「メガロメセンブリア元老院議員、クルト・ゲーデルです」
「あ、鹿目まどかです」

求められるまま、まどかはゲーデルと握手を交わす。

「報せは受けています、この度は思わぬ事態となった様で。
帰国の事はこちらで準備させていただきます」
「有難うございます」

肩書も本人の雰囲気も間違いなく偉い人らしいゲーテル相手に、
手を離されたまどかがぱたんと頭を下げる。

「サクラザキセツナ君」
「はい」
「お嬢様共々元気そうで何よりだ」
「はい、有難うございます」

「………お知合い、ですか?」
「神鳴流門下として親類筋に当たります。
少々込み入った経緯があるのですが、
私等は到底及ばないお方です」
「そういう事ですから、妹弟子の大切なゲスト、無碍にはしませんよ」
「は、はい、ありがとうございますウェヒヒヒ」

まどかににっこり語り掛けるゲーデルにまどかは頭を下げるが、
まどかの本能は彼の微笑みに微かなアラームを鳴らしていた。
443 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/24(水) 03:38:23.17 ID:usJB+thL0

「それでは、こちらに」

かくして、ゲーデルの案内でゲーヂルと刹那、まどかがテーブルに就く。
執事少年の差配で、そのテーブルに色々と運ばれて来た。

「………お粥? それに………味噌汁?」

「粥は好みで梅干しか鰹節の餡を。

豆腐と菜の味噌汁に里芋の煮物、鯵の開き。一夜漬け。ほうじ茶
一部はこちらの食材でそれらしいものを代用しましたが、
特に鹿目さんはそろそろ胃もたれする頃かと思いましてね」
「はいっ、有難うございますっ!」
「では、いただきましょうか」

ゲーデルの言葉に、ここまでやや儀礼的になりつつあったまどかは
本心から声を上げてぱたんと頭を下げ、
ゲーデルの言葉と共に三人は合掌した。

==============================

今回はここまでです>>440-1000
続きは折を見て。
444 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/24(水) 03:40:44.74 ID:usJB+thL0
すいません>>443差し替えます。

==============================

「それでは、こちらに」

かくして、ゲーデルの案内でゲーデルと刹那、まどかがテーブルに就く。
執事少年の差配で、そのテーブルに色々と運ばれて来た。

「………お粥? それに………味噌汁?」

「粥は好みで梅干しか鰹節の餡を。
豆腐と菜の味噌汁に里芋の煮物、鯵の開き。一夜漬け。ほうじ茶
一部はこちらの食材でそれらしいものを代用しましたが、
特に鹿目さんはそろそろ胃もたれする頃かと思いましてね」

「はいっ、有難うございますっ!」
「では、いただきましょうか」

ゲーデルの言葉に、ここまでやや儀礼的になりつつあったまどかは
本心から声を上げてぱたんと頭を下げ、
ゲーデルの言葉と共に三人は合掌した。

==============================

今回はここまでです>>440-1000
続きは折を見て。
445 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/30(火) 12:53:41.70 ID:+EHgy1Jh0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>444

「お口に合いましたか?」
「はい、何日も経ってないのに和食がこんなに美味しくて、
有難うございました」
「そう言っていただけると」

一見素朴にして十分な仕事の為された昼食を前に、
ぱたんと頭を下げた鹿目まどかにクルト・ゲーデルが紳士のスマイルを返す。
お粥と汁、お菜の食事が終わった辺りで、緑茶が出される。

「これ、お味噌?」
「いかがですか?」
「美味しいです」

お茶請けに出されたのは、
味噌を付け焼きにした小麦粉や蕎麦粉の和風クレープだった。
446 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/30(火) 12:56:50.90 ID:+EHgy1Jh0

「私はオスティア総督でもありまして」
「オスティア? じゃあ、あのパーティーに?」

「ええ、会場にはいました。
しかしああいう日だからこそ公務が立て込んでいまして。
ゲートのあるこちら側で一度に話を済ませた方がいいと言う事になりまして」

「そうだったんですか」

「ええ。色々と支度は整っていますので、
鹿目さんの旧世界への帰還とそれまでの安全は保障します。
そこに至る迄、留守にした事の辻褄合わせに就いても
あちらの魔法協会の方で根回しが行われている筈です。
特に旧世界における魔法と言う性質上、
何かあった時の隠蔽工作には習熟していますからね」

「ウェヒヒヒ………」

にこにこ微笑んで語るゲーデルのやや人聞きの悪い言葉に、
まどかは汗を浮かべて笑みを返す。

「しかし、それまで時間もあります。
手始めに、映画等如何ですか?」

まどかの目の前で、ゲーデル総督は両手を広げて微笑んだ。
447 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/30(火) 12:57:59.94 ID:+EHgy1Jh0

 ×     ×

明石裕奈は、振動するスマホを取り出し通話状態にする。

「もしもし?」
「もしもし、明石だな?」
「そうだけど、千雨ちゃんだよね?」
「ああ」

取り敢えず、互いにスマホの画面表示通りの相手である事を確認する。

「その後、例の件どうなった?」
「現在調査中。千雨ちゃんには悪いけど、私達も動いてるからね」

「今何処だ?」
「あすなろ駅」
「一人か?」
「メイちゃんも一緒」

「だったら、学園警備、少なくとも高音さんは知ってるって事だな?」

「ま、そういう事。今回の千雨ちゃんの仕切り、
高音さん相当キテたから、覚悟しといた方がいいよ」
「だろうな、分かってる。
二人であすなろに来てるってんなら、
ちょっとセッティングさせてもらっていいか?」
448 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/30(火) 12:59:56.07 ID:+EHgy1Jh0

ーーーーーーーー

あすなろ市内のカラオケボックスの一室に集合したのは、
明石裕奈、佐倉愛衣、巴マミ、佐倉杏子の四名だった。
尚、彼女達の家族構成に就いて少々触れると、
明石裕奈は母を亡くして父一人娘一人、
巴マミは両親、佐倉杏子は両親と妹を亡くして他に家族はおらず、
佐倉愛衣はステップファミリーで実父と義母、義姉の家族構成だった。

「もしもし」
「はい、もしもし」

そして、現在裕奈のスマホにテレビ電話で繋がっているのが長谷川千雨だった。

「取り敢えず、その面子で協力する、って事でいいのか?」
「ええ、構わないわ」

千雨の問いに、答えたのはマミだった。

「私は、明石さんにも魔法使い一般にも、
正直悪い感情は持っていない。
もちろん魔法の関係で鹿目さんが行方不明になっているのはその通りだけど、
その事ではあすなろの魔法少女も疑わしい。協力出来るものなら協力したい。
こっちで繋いでくれてあなたには感謝する」

「まあ、エージェントって言うには単純そうだからな」

真面目に言うマミの横で、早速お摘みに手を伸ばしながら杏子が笑った。

「まあ、そうだね。正直私、騙しとか腹芸とか無理っぽい」
「私もそう思います」
「言ってくれるよ魔法使いの先輩」

自分で認めた裕奈に愛衣が続き、笑い合った。

「それじゃあ、本題に行くか」

千雨が話を切り替える。
449 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/30(火) 13:01:14.90 ID:+EHgy1Jh0

「現時点で、あすなろ市での第一ターゲットは御崎海香。
データから言って、彼女の豪邸を拠点とする
魔法少女グループが関わっている可能性は小さくない」
「だから、これから探りに行こうって途中でそっちから連絡があったんだけど」
「そりゃ良かった」

杏子の言葉に千雨が応じた。

「情報を総合すると、御崎邸には現在中学生だけで生活している。
それだけにセキュリティーは万全だ、
下手打ったら一発で近所中に鳴り響いた上に
警備会社に直通でそのまま警察沙汰だ」

「機械的、電子的な防壁は魔法使いにとっても侮れない。
街中で、社会的な地位もある相手では特にそうです」

千雨の指摘に、愛衣が言った。

「しかも、グループの全員が魔法少女だとすると、
科学と魔法、両方を相手にする事になるわ」

マミが言葉を続けた。

「そこで、狙い目になるのが、御崎海香グループのイレギュラー………」
「和紗ミチルか」
「ああ」

答えた杏子に千雨が言う。
450 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/01/30(火) 13:02:18.87 ID:+EHgy1Jh0

「彼女を中心に、防犯カメラや携帯電話の位置情報を洗い直した。
電話会社側の全データから合致するものを特定する感じの荒業だったがな。
ミチルの行動パターンは、
確かにグループの一員ではあっても独自の部分も目立つ」

そして、一同はマミのスマホを見た。

「鍵になるのはここ、ビストロ「レパ・マチュカ」だ。
確定は出来ないが、関連情報が集まっている地理的に言って
ポイントは多分ここだ。
ずっとは無理だが、後何時間か、私はこの近辺に電子情報の網を張る。
あんたらは周辺に配置して、引っかかったら動く。
こういう作戦でどうだ?」

マミのスマホに地図情報を送った千雨が裕奈のスマホ越しに言い、
個室にいる一同は小さく頷いていた。

==============================

今回はここまでです>>445-1000
続きは折を見て。
451 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:11:38.48 ID:EoPZtMcQ0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>450

ーーーーーーーー

「よう」

ビストロ「レパ・マチュカ」店内で、
巴マミを伴った佐倉杏子がテーブル席の少女に声を掛けた。

「?」
「しばらくだったな」
「あの………どちら様ですか?」
「何?」

きょとんとして問い返す相手に、杏子が聞き返す。

「私の事、知ってるの?」
「何言ってんだ、お前?」
「お客さん」

厨房からマスターの声が聞こえる。

「ごめんなさい。少し、同席してお話いいかしら?」

マミの言葉に、着席している少女はこくんと頷いた。
452 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:14:39.12 ID:EoPZtMcQ0

ーーーーーーーー

「レモンティーを」
「チョコレートパフェ、もらおうかな?」
「あの………」
「ん?」

「ここ、バケツパフェが美味しいんだけど、
良かったら一緒に」
「へえー、変わったメニューだな。そうさせてもらうかな」

「この量なら、二つを三人で分けない?」
「それでちょうどいいと思う」
「それならそれでいいや」
「じゃあ、レモンティー一つとバケツパフェ二つ、
取り皿とスプーンをもう一つお願いします」

取り敢えず、マミがオーダーを出す。

「最初に聞くけど、あなた、私達の事を覚えてる?」

マミの問いに、少女は首を横に振った。

「そう。私は巴マミ」
「………佐倉杏子だ」

マミの肘が軽く当たり、杏子が名前を伝える。

「巴さんに佐倉さん………」
「名前でいいよ、ちょっとややこしい事もあるから」
「私はかずみ」
「かずみ?」

名乗った少女に、杏子が訝し気に聞き返す。
453 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:17:58.00 ID:EoPZtMcQ0

「それが、あなたのお名前?」

マミの問いに、かずみが頷いた。

「ちょっと待て、かずみ、って言われても、
大体お前………」
「お待たせしました」

マミが杏子を手で制し、注文の料理が運ばれて来る。

ーーーーーーーー

「うん、旨い」

杏子の反応に、かずみがとろける様な笑みを見せる。
それを見て、杏子も不敵な笑みを返した。

「話を戻すが、あんた、あたしを担いでるんじゃないだろうな?」
「違う」

杏子の問いに、かずみは真面目に答えた。

「多分、佐倉さんも気が付いてると思うけど………」
「ああ。けど、今の顔見ても、あんたはあたしが知ってる奴だ」
「私の事、知ってるの?」
「ああ、知ってる」
「私もあなたの事は覚えがあるわ」
「分からない」

杏子とマミの答えに、かずみは改めて答えた。

「双子の姉妹とか、いないのか?」
「いない、と思う」
「あなた、記憶が?」

マミの問いに、かずみが頷き杏子が天を仰いだ。
454 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:21:11.09 ID:EoPZtMcQ0

「和紗ミチル、鹿目まどか、この名前に心当たりは?」

マミの問いに、かずみは小さく首を横に振った。

「それじゃあ、御崎海香」
「知ってるの?」
「ちょっとな、あんたの仲間か?」

杏子の問いに、かずみは頷いた。

「ソウルジェム、って知ってるかしら?」

マミの問いに、かずみはそれを取り出した。

「変わってるわね」

マミが、自分のソウルジェムを差し出して言った。

「普通、底は台座になってるけど、
あなたのはトゲなのね。まるでゴルフのティー」

「ああ、確かに見た事ないな」
「あなた達も魔法少女なのね」
「ええ」

かずみの問いに、マミが答えた。

「あたしの知る限り、あんたの名前は和紗ミチル。
あたしと他の魔法少女が揉めてる時に、
あんたが仲裁に入った事があった」

「他の、魔法少女」
「覚えてない?」

マミの問いに、かずみは首を横に振った。

「私は、魔女に襲われていたあなたを助けた事がある。
まだあなたは契約していなかったと思う」

マミの言葉に、かずみは首を横に振る。
455 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:24:29.36 ID:EoPZtMcQ0

「御崎海香達の事、聞かせてもらえるか?」
「私の、友達、仲間」
「魔法少女?」

マミの問いにかずみが頷いた。

「私達のグループ、プレイアデス聖団」
「プレイアデス?」
「確か、ギリシャ神話ね」
「うん、ギリシャ神話から名前を取った、って聞いた事がある」

「じゃあ、麻帆良学園都市の事、なんか知ってるか?」
「知らない」
「あんたのお仲間が麻帆良学園都市に行ったってのは?」
「知らない」
「それ、マジで言ってんだろうな?」

ずいっと視線を向ける杏子に、かずみが小さく頷く。

「だけど………」
「ん?」
「珍しく他のみんなが、
全員用事があるって言ってほとんど一日会えなかった」
「それって………」

マミがかずみから日付を確かめ、「当たり」である事を確認した。
そして、マミがスマホを取り出す。

「少し、付き合ってくれるかしら?」

==============================

今回はここまでです>>451-1000
続きは折を見て。
456 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/06(火) 17:13:30.94 ID:+2ytnorA0
それでは今回の投下、入ります。

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>>455

ーーーーーーーー

「あなた、確か店に?」

マミと杏子に連れられ、トタン囲いの中のビル工事現場に入ったかずみが
目の前に現れた少女に言った。

「はい、私達もあの店にいました」

明石裕奈を伴った佐倉愛衣が返答する。

「改めまして、佐倉愛衣です」
「どうも、私は明石裕奈。
こんな所に来てくれて有難う」
「正直、助かりました。
すんなりついて来てくれて」

裕奈の言葉に、愛衣も続く。

「食べ物に配慮が出来るマミさんと美味しそうに綺麗に食べる杏子、
悪い人だと思えなかったから」

かずみの回答に、マミが苦笑し杏子が肩をすくめた。

「あの………あなた達も魔法少女?」
「いいえ、私達は魔法使いです」

かずみの問いに、愛衣が答えた。
457 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/06(火) 17:16:31.75 ID:+2ytnorA0

「魔法使い?」

「ええ、魔法少女とは別に、
元々の才能と特別な訓練によって魔法を使うのが私達魔法使いです。
事情があって巴マミさん、佐倉杏子さんと協力して行動しています。
なお、私の知る限り、私と佐倉杏子さんは親戚的な意味では赤の他人です。
本来であれば魔法使いと魔法少女は不干渉が原則ですけど、
そうも言っていられない事情がありまして。
取り敢えず、一つ確かめたい事があります」

「確かめたい事?」
「ええ、あなたの記憶の事です。
あなたは過去の記憶を失っている、そうですね?」
「うん」

「それは、どの様に?」
「…………より前の事は全然分からない」
「最近ね」

かずみの説明に、マミが言った。

「日常生活は大体大丈夫なんだけど、
私が誰で、過去に何があったのかは全然覚えていない」
「いわゆるエピソード記憶、ですか」

かずみの回答に愛衣が言う。
458 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/06(火) 17:19:52.75 ID:+2ytnorA0

「確認のためにいくつか質問をします、
Yes or Noで答えて下さい。
あなたの名前はかずみですね?」

「Yes」

「あなたは12歳よりも年下ですね?」

「No」

「あなた、本当は記憶喪失なんかじゃないですね?」

「Yes 私は本当に記憶喪失だよ。
本当に、昔の事は何も分からない」

「そうですか、失礼しました。
………問題はその記憶喪失の理由です。
何か魔術的な理由があるのかも知れない。
その事を確かめたいのですが」

「うーん」

愛衣の言葉に、かずみが腕組みして唸る。

「それなら、海香が気が付きそうだけど………」
「あなたのお仲間ですね?」
「うん、海香とかニコとか魔法分析が専門だから、
私の記憶喪失の原因が魔法なら分かるんじゃないかって」
「成程………一応、確認だけさせてもらってもいいですか?」
「………いいよ」

かずみは、愛衣を真っ直ぐ見て答えた。

「感謝します。
メイプル・ネイプル・アラモード………」

ぺこりと頭を下げた愛衣が、
呪文を唱えながら右の掌をゆっくりかずみに向ける。
そして、掌をかずみの額に当てた。
459 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/06(火) 17:23:04.80 ID:+2ytnorA0

「………!?」
「メイ、ちゃん?」

その場にすとんと腰を抜かした愛衣に、裕奈が目を見開く。

「…ケ…ノ………」
「ちょっとメイちゃん」
「………な………なんなんですか、あなたは………」

裕奈の口調も変わる中、
その場にへたり込んだ愛衣は口の中でぶつぶつと呟いていた。

==============================

今回はここまでです>>456-1000
続きは折を見て。
460 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/07(水) 17:50:28.53 ID:q9fpzJGT0
それでは今回の投下、入ります。

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>>459

「メイ?」

心配そうに言うかずみを前に、愛衣はごくりと喉を動かし、立ち上がった。

「メイちゃん」

懸念をにじませて声を掛けた裕奈に、呼吸を整えた愛衣は小さく頷く。

「かずみさん」
「はい」
「これから少し、付き合っていただけますか?」
「えっ?」
「麻帆良学園までご同行願います」
「メイちゃん?」

大真面目な眼差し、硬い口調で言う愛衣に、
裕奈も真面目に問いかける。

「おいおいどうなって………」

杏子が言いかけ、鋭く視線を走らせた。
その視界に入ったマミも同様だった。

「アデアット!!」

愛衣がざざっと後退し、裕奈が斜め上に向けて魔法拳銃を連射した。
こちらに飛来中に銃撃を受け、
複数のミサイルが白煙に包まれて空中爆発した。

「!?」

次の瞬間、強烈な衝撃を受けて愛衣の体が吹っ飛ぶ。
461 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/07(水) 17:54:31.52 ID:q9fpzJGT0

「野郎っ!!」

愛衣と敵との間に杏子が割って入り、
杏子が振るった横殴りの槍が跳び越された。

「!?」

地面に投げ出された愛衣がとっさに地面を転がり、
愛衣がいた地面に一撃が叩き付けられる。
愛衣の目が、乗馬服風の衣装で鞭を振るう眼鏡の魔法少女をとらえる。

(さっきの体当たり、魔法防壁が無ければ感電で卒倒してた。
武器は帯電、それに魔法で強化した鞭)

「このっ!」

杏子の剛槍が、でっかいぬいぐるみを思わせる熊を切り裂いていた。
その間にも、熊の群れが工事現場に殺到し、
大量のマスケットを空中に呼んだマミと
魔法拳銃の裕奈が弾幕でその進行を阻止する。

「デフレクシオッ!!」

愛衣の側でしなる鞭が、風の楯に弾き飛ばされる。

(無詠唱光の矢!)

愛衣が背後の空間から発した光の矢を鞭使い浅海サキが交わし、
サキは帯電と共に愛衣に急接近する。

「貴様はボクを怒らせた」
「伸縮自在、ですか」

サキの鞭が猛獣調教から乗馬用に変化し、
サキが呟きと共に放った一撃を愛衣は箒で受け止める。
462 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/07(水) 17:58:23.14 ID:q9fpzJGT0

「サキッ」
「かずみ、逃げろっ!」
「え、えっ?」
「いいから、ここから離れて、戻ってるんだっ!」
「浅海サキさん」

愛衣の声に、サキは愛衣の目を見た。

「彼女、かずみさんは、自分の事を知りたがっています」
「黙れ………行くんだ、かずみ」

得物が弾け、双方距離をとる。

「気が付きませんか?」
「何?」
「あなたの言動こそが、私を核心に近づけている」
「黙れえっ!!!」

サキの放った猛獣鞭が、愛衣の風楯に弾き飛ばされる。

「お返しです」

愛衣から近距離で無詠唱の一撃を食らい、
サキが体を折った。

(まだ、魔法少女相手にはサギタ・マギカ一発二発は威力が………)

畳みかけようとした愛衣が、ゾクリとした悪寒と共に振り返り、箒を振るった。

「黙れよ、お前」

たっぷりの髪をふわっと膨らませ、ピンク色のふわふわメルヘン系な衣装。
それにしては武器が凶悪にゴツ過ぎる。

愛衣の使うオソウジダイスキは魔法具の箒だが、
ふわふわピンクが振り下ろす
魔力を帯びたクレイモアの振り下ろしを捧げ持った箒で受け太刀するのは、
かなり手の痺れる事だった。

若葉みらいがそのクレイモアを振り上げ、愛衣が後ろに跳んだ。
463 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/07(水) 18:01:53.95 ID:q9fpzJGT0

「サキを惑わせやがって、潰してやるよ………!?」
「怨み事の前に手ぇ動かすんだなっ」

みらいの腰に背後から鞭が巻き付き、がくんと後ろに引っ張られる。
鞭は杏子の槍が化けたものだった。

「くそっ!」

振り返ったみらいが幅跳びで杏子に斬りかかり、
杏子は鞭を解いてそれを交わした。

「かずみ、今は逃げろっ!!」
「!?」

サキが呼んだ落雷が愛衣を足止めし、
サキの叫びにかずみが踵を返した。

「明石さん追ってっ!」
「オーライッ!!」

愛衣の叫びに、ようやく熊が片付いた裕奈が応じる。
裕奈の側では、手刀をマミに向けた神那ニコと
マスケットをニコに向けた巴マミが互いの手の内を晒した形で睨み合っていた。

「!?」

工事現場の中に、再びミサイルと熊のぬいぐるみが殺到する。

==============================

今回はここまでです>>460-1000
続きは折を見て。
464 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:36:53.46 ID:Vo/udzBi0
それでは今回の投下、入ります。

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>>463

ーーーーーーーー

「待って、かずみちゃん、っ!?」

工事現場の資材や骨組みから塀を飛び越え、
屋根から屋根へと跳躍するかずみを裕奈が追跡する。
追跡しながら、裕奈は空き地に飛び込んでいた。

(資材やクレーン車とか、さっきの工事のかな?)

着地と共に一瞬周囲を見回した裕奈が、ダッと横っ飛びする。

(光の矢? いや、もう少し大きい)

斜めに降って来た光球が猛スピードで地面を抉り、
裕奈が発砲した魔法拳銃の銃弾が次に飛来した光球を消滅させる。
そして、走り去るかずみと裕奈の間に、
近くの資材の山から二人の少女が着地した。
どちらもフードつきの白い装束、半ばフードに隠れているが、
一方はロングヘアで一方はショートボブ。

「………(確か、ロングが御崎海香、ショートが牧カオル)
どう見ても魔法少女、だよね」
「そっちも、魔法を使うみたいだな」

牧カオルが裕奈の言葉を返す。

「お互い素人じゃないって事で。
麻帆良学園学園警備魔法使い明石裕奈。
御崎海香さん、学園での事件に関して聞きたい事がある。
少し、付き合ってくれる?」

「断る、と言ったら?」

御崎海香が聞き返す。
465 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:40:27.05 ID:Vo/udzBi0

「そもそも、私はかずみちゃんを追っていた」
「させないっ!」
(ボレーシュートッ!?)

海香が開いた本から光球が弾け出し、
とっさに身を交わした裕奈の側を通って光球が空中を突き抜ける。

「(行け行けにジグザグっ!)デフレクシオッ!」

駆け寄って来るカオルの複雑な動きとスピードに魔法拳銃での銃撃を諦め、
裕奈は防御魔法と共に弾き飛ばされていた。

(鋼鉄の腕のクロスガード突進、
防壁が一瞬遅れてたら血反吐吐いてるねこれ)

跳躍しながら、裕奈は小さな魔法練習杖を握ったまま、
痺れの走る左腕を振る。
その時には、カオルは海香からの光球を跳ね上げていた。

「くっ!」

裕奈がカオルに向けて発砲し、
カオルが蹴り出した光球が銃撃を受けて消滅する。
その時には、裕奈はずしゃあっと足を滑らせて
カオルのクロスガード突進を交わし、
裕奈の発砲をカオルが身を反らして交わす。

「デフレクシオッ!」

たたっと双方距離を開き、裕奈が練習杖を突き出して風楯を張るが、
とっさの未熟な楯を威力ピーク距離からの光球が一撃し
衝撃を察した裕奈がそれを受けながら背後に跳ぶ。
裕奈が、背後に跳躍して鉄材の山に乗る。
すると、カオルは更に跳躍して、裕奈が乗った山の背後にある
更に高い鉄材の山に飛び乗っていた。

「くっ!」

上からの光球シュートを交わし、山を飛び降りながら、
裕奈は上の山のカオルを銃撃する。
カオルも又、それを交わしながら山を飛び降りていた。
466 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:44:03.70 ID:Vo/udzBi0

(上からオーバーヘッドキックッ)

海香が高々と放った光球が空中のカオルに追い付き、
カオルは空中でくるりと回転しながら下の裕奈へとシュートを放った。

とっさに張る事が出来た一杯いっぱいの魔法防壁が、
光球が帯びた強烈な衝撃波に押され、
裕奈の背は辛うじて魔法防壁に守られながら
バウンドする勢いで地面に叩き付けられていた。

カオルが着地する。裕奈は痛む体を引きずって即座に跳躍し、
クロスガードタックルを交わした。
そして、クレーン車のコクピットの上に飛び乗る。
その頃、カオルは海香からの光球をトラップしている所だった。

「ちょこまかと、結構いい動きじゃん」

資材や重機の上を飛び回る裕奈を、
リフティングしながら目で追ったカオルは不敵な笑みを浮かべていた。

(背中が痛いけど、雨は降ってない。
祈るから上手く当たってっ!!!)
「カオルっ!」
「!?」

裕奈の発砲した魔法銃弾は、
身を交わす迄もなくカオルの周辺を突き抜けた。

「チッ!」

幸い、ダンプからは若干の距離があったものの、
裕奈の動きの緩みを見て瞬時にシュート体勢に入っていたカオルの耳に、
すぐ側のトラックの荷台や資材の山からの荷崩れの轟音が突き刺さった。
カオルが、そのまま光球を裕奈に向けて力一杯シュートする。
467 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:48:02.84 ID:Vo/udzBi0

「!?」

裕奈が、魔法使いの出力で大ジャンプをした。
そして、カオルと、カオルの側に駆け寄った海香の側に勢いよく着地する。
二人がとっさに身を交わし、
裕奈は着地しながら両手持ちした光球を勢いよく振り下ろしていた。

「とっ!」

そして、裕奈は鋭い足払いを交わす。
御崎海香は、目の前で展開される団子状の混戦を呆然と見ていた。
手出しが出来なかった、と言うのが正しい。
物理的に手出しが出来ず、
裕奈とカオルは不敵な笑みと共に走りながらもつれ合っている。

「つっ!」
「もらっ………」
「チェックメイトっ!」
「こちらがね」

カオルの鋭いスパイクの足裏が、裕奈の脛を一撃した。
と、次の瞬間には、裕奈は転倒がてらカオルの胸倉を掴み、
二人もつれての回転が終わった時には、
裕奈の魔法拳銃の銃口がカオルの額に押し付けられる。
そして、その裕奈の背中には海香の向けた槍先が向いていた。

海香は、槍を向けながら、目の前の二人がくくくっと笑い出すのを見た。

「やってくれたね、牧カオル」

カオルの上に乗っかって拳銃を向けていた裕奈が、
ごろんと地面に転がり大の字になった。

「明石裕奈? あんた、バスケやってるの?」

あははっと笑ったカオルが質問した。
468 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:51:55.74 ID:Vo/udzBi0

「まーねー、うちの部は弱いけどね、つっ」
「大丈夫? 結構思い切り削った筈だけど」
「まあね、これぐらいなら私の初歩的治癒魔法でもなんとか」

立ち上がった裕奈が、とんとんと脚の具合を確かめ軽く顔を顰める。

「お互い、ホントんとこはボールは友達、でいたいもんだね」
「全く」

裕奈の言葉に、カオルが苦笑しながら立ち上がる。

「で、あんた達プレイアデス聖団?
実際ん所、麻帆良学園都市で一体何してた訳?」
「ちょっと観光に、って言ったら納得していただけるかしら?」
「正直、かなり難しいと思う」

海香の返答に裕奈が苦笑する。
裕奈が、そろそろと拳銃を差した腰に手を動かし、
海香が手にした本を槍に変化させる。

「カオル、かずみはあなた達を友達だと言った。
カオル達もそう思ってる? それでいい?」

裕奈の問いに、カオルが頷いた。

「あたし達の大事な友達だ」
「そう………!?」

裕奈が、とっさに腕をクロスして魔法防壁を張った。
殺到するカササギの群れが裕奈の側を通り過ぎた時には、
資材置き場には裕奈だけが取り残されていた。
469 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 02:01:32.41 ID:Vo/udzBi0

ーーーーーーーー

さっとシャワーの湯を浴び、少しばかりの英気を取り戻す。
脱衣所からバスローブ姿でリビングに戻り、
二枚のバスタオルの内一枚を解いて
豊かな黒髪を解き放ってからどうとベッドに倒れ込む。

(十分、ぐらい目を閉じようか)

麻帆良芸術大学附属中学校女子寮の一室で、
夏目萌はスマホを手元に心の中で呟いていた。

(出来る所までやっておかないと。
本当はデータの持ち返り自体違反なんだけど、
本部の、上の方がきな臭いって………)

政治的事情に加えてそのために公的設備の使用も制限される。
IT系要員でもあるナツメグこと夏目萌にとってはダブルパンチで頭が痛い。

「ん………」

ナツメグがスマホの着信に気付いたのは、
意識が飛ぶ寸前の事だった。

「メイ? ………
もしもの時は、送られて来たものに
ナツメグさんの生年月日末尾二桁を足し算して下さい。
それがパスコードです。
現時点では他言無用、このメールは即座に削除して下さい、
って………何やってるのよあの娘………」
470 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 02:07:18.25 ID:Vo/udzBi0

ーーーーーーーー

「もしもし、明石か?」
「佐倉愛衣です」

スマホの電話に出た長谷川千雨に、愛衣が電話越しに告げた。

「ご協力いただけるのでしたら、一つお願いしたい事があります………」

愛衣の生真面目な声を聞きながら、千雨はメモを用意した。

「………ああ、イミグレの………分かった、やってみる」
「有難うございます。それから、そちらに送ったメール、
出来ればすぐにでも読んで下さい」
「ああ、分かった」

千雨が電話を切り、メールを読む。

「まず、メモに書き写してこのメールは即座に削除して下さい。
定期連絡が途切れたら、
これをこのまま指定のアドレスに転送して下さい、か。
クラウドストレージのサービス名とID、パスだな。
どんな危ない橋渡ってやがる」

ーーーーーーーー

「有難うございます」

あすなろ市内、漫画喫茶の多目的ルームで、
愛衣が裕奈にスマホを返却した。

「PCとメイちゃんのスマホから何か色々送信してたよね?」
「はい」
「一体何を?」
「すいませんが、その答えは少しだけ待って下さい」
「お前、絶対何か隠してるよな?」

杏子が、愛衣に剣呑な視線を向ける。
471 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 02:10:49.30 ID:Vo/udzBi0

「あんたは箒で追跡して、あたし達には屋敷を見張る様に指示を出した。
それから、ここを待ち合わせ場所に指定して来た。
あたしらから連絡内容を隠すために時間稼ぎをしたって事か」

「申し訳ありません」

愛衣が、ぱたんと体を折って頭を下げた。

「これだけは、確証無しに口に出せる事じゃないんです」
「かずみさんの事?」

マミの問いに対して、
愛衣の反応は沈黙は肯定と受け取るに十分なものだった。

「明石さん、確認します」
「うん」
「牧カオルは、かずみさんの事を友達だと言った、そうですね」
「うん」
「その言葉に嘘は無かったですか?」
「なかった、私はそう思う」

愛衣を真っ直ぐ見て返答する裕奈に、
愛衣は小さく頷いて、斜め下を見た。

==============================

今回はここまでです>>464-1000
続きは折を見て。
472 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:18:33.14 ID:2egH53yq0
それでは今回の投下、入ります。

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>>471

ーーーーーーーー

「もしもし?」

あすなろ市内の漫画喫茶多目的ルームで、
そろそろ次の事を考えようかと言う矢先に明石裕奈がスマホを取った。

「明石か?」
「うん」

相手は、長谷川千雨だった。

「今、何処にいる?」
「ああ、………って漫画喫茶の個室」
「そこ動くな、大丈夫だと思うけど防戦の準備だけしとけ」
「マジ?」
「ああ、流石にそこでドンパチはないと思うがな。
少しだけ待ってくれ」
「分かった」

裕奈が電話を切り、口調が変わった裕奈を同じ部屋にいた
佐倉愛衣、巴マミ、佐倉杏子も見ていた。

「千雨ちゃん、なんか、近くに敵がいるみたいだね」

へらっとした口調で言うが、伝わるものは伝わった。

「どうするんですか?」

「仮にプレイアデスだとすると、
ここでおっ始めるって事は無いんじゃないの?
次の連絡あるまでここで警戒しつつ待機、って事でいい?」

愛衣の問いに裕奈が答え、一同が頷いた。
473 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:21:50.26 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「もしもし」

千雨からの次の連絡を、裕奈他の一同はスマホのスピーカーで聞いていた。

「もしもし、千雨ちゃん? みんな聞いてるけどいい?」

「上等だ。佐倉のがどうも嫌な予感がし過ぎる言い方だったからな。
念のためこっちで色々確認して見た。
結論を言う、そこ、御崎海香のグループに張られてるぞ」

「プレイアデス聖団に?」
「プレイアデス?」
「御崎海香達の魔法少女のグループの事です」

裕奈の言葉を愛衣が補足した。

「携帯電話会社と防犯ビデオのデータで把握した。
現在進行形でそっちの店を包囲してる」
「相手も魔法少女、今までのパターンから言っても
街中戦う事はないと思うけど」
「ああ」

マミの言葉に千雨も同意する。

「だがな、そのプレイアデスのメンバーの神那ニコってのが
ちょっと厄介な代物を使ってる」
「厄介?」
「お前ら四人の魔力の波長をスマホに記録させて探査してやがる」
「魔力の波長、スマホに、って、本当ですか?」

愛衣が食い気味に尋ねた。

「ああ、想像以上のハイテク魔法軍団だ、
放っておいたら地の果て迄でも追いかけて来るぞ」
「面倒だな」

千雨の答えに、杏子も苦り切った。

「私に考えがある」
474 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:25:22.58 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「動きは?」
「ノン」

ドーナツショップのテーブル席で、
浅海サキはスマホ越しに神那ニコの返事を聞く。

「いいか、動きがあったらすぐに報せろよ」
「よござんす」

サキは、ふうっと息を吐いて通話を終えた。

「サキ………」
「押さえるぞ」

同席した若葉みらいに、サキが言う。

「多少危ない事をしても、あの魔法使いの身柄を全力で抑える。
言っておくが殺しちゃ駄目だ。
ネカフェって事を考えても、あの箒女の口は絶対に割らせるんだ。
後の三人も………絶対に、足止めする。
対策出来ないなら、絶対にこのあすなろ市から出さない」

「分かってるよ、サキ」

「………」

みらいとサキのやり取りを見ていた宇佐木里美が、
自分のスマホを見た。

「動き出したみたい」

里美が、何処ぞのビルの屋上から
ニコが送って来た通話アプリの言葉を示す。
475 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:28:22.30 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

御崎海香と牧カオルが、裕奈達から少し遅れて漫画喫茶の個室を出て
裕奈達とは一見逆方向に歩行する。

「駅方向」
「人通りの多い所を通ってこの街を脱出するつもり?」

それぞれスマホを見ながらカオルの言葉に海香が続き、迂回路へと急ぐ。

ーーーーーーーー

「………丁目方面」
「よし」

スマホの地図を見ながら進む里美に、同行するサキが呟く。

「この先のオフィス街だ」

サキが言った。目標の地点はこの時間は閑散とする、
何度か魔女狩りで出向いて土地勘もある。

「どうしてそのルートを?」

サキの差しているイヤホンに、海香からの声が聞こえる。

「駅からも反れて、無意味なオフィス街に向かっている意味は?」
「海香はどう見る?」

サキが、スマホに繋がるマイクに問いを吹き込む。

「釣り野伏せかしら?」
「あたしもそっちの線だね。
明石裕奈、グラウンドが無限大なら伏兵ぐらい仕込んでるかも」

海香の言葉にカオルが続く。

「今、先行して洗う様にニコに伝えた」
「じゃあ、私達はこのまま、タイミングを見て、狩る」

海香の言葉に、サキが告げた。
476 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:32:02.89 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「路地裏に入った?」

スマホの地図に表示される魔力探査情報と
直接追跡しているサキ隊からの連絡に海香が呟いた。

「ニコ、どうだ?」
「伏兵らしき姿は見えない」

ーーーーーーーー

「こちらも同じね」

サキ隊の中で、宇佐木里美が通話状態のスマホに告げた。

「鳥と猫の伝言からも、待機している者はいない」
「へぇーっ」

既に営業終了状態のオフィス街で、
クレイモアを肩がけにした若葉みらいが暗い声を出す。

「つまり、身を隠すつもりか、
それとも、四人でカウンターでもかけるつもりなのかなこれ?」
「好都合だ」

サキの手にした乗馬笞が鋭く空を切る。

「海香、絶好のチャンスだ。
大至急追い付いて挟撃をかけてくれっ」

「サキ、もう行く? この場所なら」
「ああ。だけど、海香達も到着するから手堅く行くぞ」
「でも、倒しても構わないよね?」
「箒の魔法使いの口だけは割らせる、それが優先なの忘れるな」
「分かってるよ………」

オフィス街の歩道から路地裏の突入しようとした
サキ隊の三人が、動きを止めた。

「爆発っ!?」
477 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:35:40.58 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「状況はっ!?」
「壊れた音は聞こえない、煙幕弾かな、これは?」

スマホでの海香の問いに、ニコの返答が聞こえて来る。

「?」

そして、カオルが自分のスマホを見た。

「かずみからのメール? こんな時に」
「私も」

ーーーーーーーー

「敵襲、って?」
「あいつら自体がデコイっ!?」

スマホに届いたメールを見たみらいの言葉に、
同じくメールを見ていたサキが叫んだ。

「敵の写真、ね」
「ぼやけててよく見えない、っ………」

その時、新たな着信に気付き、サキが電話に出る。

「かずみメール今すぐ破棄しろ、添付ファイルは絶対開けるなっ!!」

それはニコの怒声だった。

「添付ファイル………まさかっ!?」
478 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:38:40.61 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「やられたわ」

思えば単純なやり口に、海香は笑いを禁じ得なかった。
だが、プレイアデス聖団、神那ニコを相手にやってのけたと言うのは
とてもじゃないが単純では済まない。

「被害状況、分かる範囲で」
「取り敢えず、魔力探査アプリを集中的にやられた。
特に、最近十何時間以内の更新データは回復不能じゃないかな。
私達の間なら、一人が添付ファイルを開いただけでも瞬時に食い荒らしにかかる、
それぐらいヤバイ奴だよこれは」
「ええ、こちらも、今の所探査アプリを使えない事だけは確かね」

ニコからの説明に海香も応じた。

ーーーーーーーー

「くっそおおおおっっっっっっっっっ!!!!!」

路地裏で、若葉みらいの振るったクレイモアが深々と地面に叩き付けられる。

「ニコ、どうなってるっ!?」
「ノン、分からない。そっちにいない?」

「いないから聞いているっ!
奴の、箒女の魔力波長を記憶させたソウルジェムにも反応は無い。
遠くに逃げたとしか思えないが、気づかなかったのかっ!?」

「サキ達、海香達のルートを考えて、抜け道を上から見張ってた筈だけど、
そこから逃げた奴はいない筈だ」

苛立ちも露わに尋ねるサキに、ニコも感情を秘めた声で応じた。

「里美っ!?」

みらいの問いに、里美は首を横に振る。

「探してもらってるけど、情報網に引っかからない」
479 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:55:35.17 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「助かったわ」

見滝原市内のマンション玄関で、巴マミと佐倉愛衣が言葉を交わした。

「あのさ、マミ」
「安全のためよ」

マミの隣で何か言いたげな杏子に、マミはキリッとした顔で言う。
そして、二人は一緒に玄関から建物に入って行った。

ーーーーーーーー

麻帆良学園女子中等部寮廊下。

「助かりました」
「助かった、有難う」

礼を言う愛衣と裕奈に、長瀬楓と村上夏美が笑顔で応じた。
そして、そのチートな隠密能力の魔法で
あすなろ市からの脱出を手伝ってくれた楓、夏美と別れ、
裕奈と愛衣は女子寮大浴場「涼風」に向かう。

「ああー、しんどかったぁー」

浴槽に浸りながら裏声を出す裕奈に、愛衣は苦笑する。

この時間は、言わば魔法使いタイムだった。
既に通常の使用時間は終了しており、
通常時間から完全終了までなんとなくラグを作っておいて、
魔法使いのルートで裏で申請したら使用出来る
魔法使い作業用のちょっとした便宜だった。

シャワーを浴び、汗を流してサウナに移動する。
少し遅れて、二人から見たら立派な金髪美女がサウナに入って来た。
二人の学校の先輩であり、
既に「仕事」らしき事を始めている二人にとっては上司でもある
高音・D・グッドマンが裕奈、愛衣の隣に座る。
480 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:59:20.96 ID:2egH53yq0

「何か、分かりましたか?」

愛衣からメールでの帰宅報告を受け、
待ち合わせを指定して来た高音が尋ねる。

「まず、御崎海香のグループは、プレイアデス聖団を通称とする
魔法少女のグループでした」
「魔法少女、ですか」
「………お姉様」

少しだけ目を閉じ、目を開いて呼びかける愛衣を、裕奈は見た。

「なんですか?」

「もう少しだけ、時間を下さい。
相手が魔法少女であっても、
今回は麻帆良学園、魔法使いに関わっている可能性は捨て切れません。
今、何とか接点が出来つつあります。
この段階で魔法少女と魔法使いの関係で公式に扱えば逃げられる恐れがあります。
ですから………」

「………明後日一番に詳しい報告をしなさい。
それまでは現場の判断での対応を許可します」
「分かりました」
「………メイ」

立ち上がった高音が、二人に背を向けたまま口を開いた。
481 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 04:02:02.12 ID:2egH53yq0

「はい」
「あなたは、年齢的には優秀な魔法使いです、私はあなたを買っています」
「有難うございます」

「そして、魔法使いのなんたるかを、
少なくとも隣の見習いよりは弁えていると、
その様に理解しています。
魔法使いとして為すべき事、為さざるべき事、
その最低限弁えるべき事は弁えていると、
私はあなたの事を、そう理解しています。
自分の身を守り、驕る事なく、
魔法使いとしての為すべき事を為す事です。いいですね」

「はい」

高音が、ようやく振り返る。

「それを理解して、今夜は休みなさい」
「はい、お休みなさい」

「お休み、高音さん」
「あなたも余り無茶はしない様に………
メイの手助けをして下さい」
「うん、はい、了解しました」

高音が頷き、サウナを出て行く。
残された二人も、スリリングな一日の疲れがいよいよ
眠気になるのを自覚しながら腰を上げた。

==============================

今回はここまでです>>472-1000
続きは折を見て。
482 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 02:28:14.66 ID:nTewOq/m0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>481

ーーーーーーーー

高音は水風呂とシャワーだけを使ってさっさと大浴場「涼風」を後にし、
明石裕奈と佐倉愛衣はひと風呂浴びて修羅場の垢を落として脱衣所に移動する。

「メイちゃん………佐倉先輩」

愛衣は、髪の毛をバスタオルに挟みながら、
声を掛けて来た裕奈を見た。

「最悪、私の独断専行って事でいいですから」
「?」

「先輩、メイちゃんが、
何かかなり危ない事をやってるって事ぐらいは分かる。
メイちゃんが任務中に、高音さん相手にもそれをやるって事は、
それは本当に考えた末の事で、決して只の馬鹿や我が儘じゃないって事も。
でも、佐倉先輩は魔法協会で上に行く、行かないといけない人だから」

「高音お姉様に任されたあなたに独断専行で無茶をされては、
私はひどく間抜けな先輩と言う事になりますけど」

何でもない事の様に着替えを始める裕奈に愛衣が答える。

「だよね」

裕奈がふうっと息を吐き、
愛衣は丁度裕奈が下着を身に着けた辺りを手の甲でぽんと叩く。

「僅かな勇気は使いどころが肝心。
今の所はその立派な胸にしまっておいて下さい」
「言うね、メイちゃん」
「魔法使いですから」

へへっと笑った裕奈に、愛衣はとびきり可愛らしく微笑んだ。
483 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 02:32:35.02 ID:nTewOq/m0

「魔法使いですから………
彼女達は、希望を願った魔法少女ですから………」
「ん?」

さっぱりとシャツ、パンツ姿になった裕奈が、
気が付いて自分のスマホを手にした。

「メイちゃん、これ、千雨ちゃんがメイちゃんにって」
「私に?」

裕奈に言われ、愛衣がスマホを見た。

「神那ニコのスマホから気になるものを見つけた?」
「これって、何? イングリッシュ?」

「英字新聞みたいですね。
分かりました、私のスマホに送って下さい。
私の方から長谷川さんに連絡します」

「りょーかい」

「………明石さん」
「何?」
「明日、私の背中をお願いします。
それが、当面の明石さんのお仕事です」
「了解、先輩」
484 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 02:35:48.24 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

「一体、何がどうなってるのっ!?」

御崎海香邸のリビングに、かずみの叫びが響き渡る。

「魔法使いって何なの!?
どうしてこんな事になってるのっ!?」
「かずみ、かずみが心配するのは分かる。
でも、大丈夫だ。ちゃんと、対処出来るから」
「そういう事を言ってるんじゃないっ!」

なだめる浅海サキに、かずみが叩き付ける様に叫んだ。

「魔女、魔法少女、それに魔法使いまで関わって、
わたしの事でわたしに隠れて何をやってるのって言ってるのっ!!」
「分かってる、かずみが怒るのはもっともだ」

牧カオルが割って入った。

「そうね………」

腕組みをして立っていた御崎海香が片目を開いて口を開いた。

「見ての通り、魔法使いまで関わって来て状況が混沌としてる。
きちんと説明したいのはやまやまだけど、
事情が凄く込み入ってて………」

「海香っ!」

「ええ、だから、明日………
いえ、早ければ明日、二、三日、少しだけ時間を欲しい。
ちゃんと説明はする。
当座の問題は魔法使いよ」

「そうだ!」

海香の言葉に、狼狽していたサキが勢い込んで言った。
485 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 02:39:23.99 ID:nTewOq/m0

「あいつを何とかしないと、
明日にでもこっちから………」
「サキが行くならっ」
「落ち着けっ!!」

前のめりなサキと若葉みらいをカオルが一喝した。

「そんな事、出来る訳ないだろっ!!
佐倉愛衣、明石裕奈、あいつら単体であれだけ強いんだ。
魔法使いの本拠に殴り込みなんてしてみろ、
拷問不要で全部吐き出すのはこっちの方だっ!!」

「何か、魔法使いと揉めてるの?
あの人達、悪い人には見えなかった」
「ええ、そうよ」

かずみの言葉に、海香も応じた。

「魔法使い、魔法使いは魔法使いのルールを守っているだけ。
それは決して悪い事じゃない。
だけど、今回はちょっと私達と利害が合わない、それだけの事だから、
今は防御を固めて、傷が浅ければ時間をかけて調整できる事だから」

「うぅー、だから、その理由をちゃんと教えてって言ってるのっ!!」

「ええ、分かってる。分かってるから、
だけど、色々込み入った事情があって、
分かる様に説明するのには材料が必要なの。
だから、少しだけ私達に時間を頂戴」

「そうだ、かずみ。頼むから今はあたし達を信じて待っててくれ」

サキの絶対零度の視線を浴びつつ両肩を掴んで迫るカオルに、
かずみはみらいの絶対零度の視線を浴びながら僅かに唸って頷いた。
486 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 02:43:13.86 ID:nTewOq/m0

「アプリの再インストールはどう?」

「取り敢えず、全員のスマホを預かって点検してるけど、
あれだけのサイバー攻撃だ。
こっちの安全確認と相手のタイプからのセキュリティー設定をやらないと
危なくて使い物にならない。もう少し時間をくれ」

海香の問いに神那ニコが答えた。

「只のサイバー攻撃じゃないんだよな」

「辛うじて痕跡を見つけた、
微かに「魔法があった」と言う事だけが分かる微量の痕跡がね。
間違いない、敵は魔法を使う。
十中八九魔法使い、それも科学的見地から見て極めて高度なハイテク魔法。
こんなハイテク魔法使いがいるって、
時代は変わるモンだね。くわばらくわばら」

ニコの答えに、カオルは天を仰いだ。

==============================

今回はここまでです>>482-1000
続きは折を見て。
487 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 22:51:17.29 ID:nTewOq/m0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>486

 ×     ×

「いやぁー、何度見ても、この件はいいですねぇ」
「ウェ、ヒ、ヒヒヒ………」

臆面もなく大泣きしているおっさんを隣に見て、
鹿目まどかは大汗と共に乾いた笑い声を漏らしていた。
だが、それも無理のない事である事も、まどかは理解していた。

魔法世界メガロメセンブリアの高級ホテルの高級会議室で、
美味しい和風ランチをいただいてから唐突に三部作の映画の鑑賞が始まり、
今、第二部が終わった所。

この魔法世界の歴史を描いたスペクタクル超大作映画は、
笑いあり涙あり手に汗握り感涙にむせぶ、
まどかが映画として観て素直に面白いものだった。
本当はとても三部作の、それもこの鑑賞時間では済まないものを
徹底厳選編集して、それでも結構な長さだったがここまで決して飽きさせない。

そして、まどかの隣で映画を鑑賞しているこの魔法世界の偉い人、
メガロメセンブリア元老院議員にしてオスティア総督であるクルト・ゲーデル。
物腰柔らかな紳士にして何処か油断ならない曲者。

これだけ偉いんだからそうなのだろうとまどかにも分かる人物であるが、
この涙に嘘はないのだろうと言う事も分かる。
取り敢えず、彼自身が映画の中の登場人物の一人として
描かれたあの体験をしているのだから。

「あ、あの、刹那さん」

第三部が始まる前の休憩時間、まどかは、
ここまで同行して来た桜咲刹那に声を掛けた。
488 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 22:54:19.02 ID:nTewOq/m0

「はい」
「あの、あの映画に出て来た
ナギ・スプリングフィールド、って、
もしかしてネギ先生の………」
「はい、お父君です」

刹那があっさり返答し、まどかは目をぱちくりさせた。
魔法少女に魔法使いと関わって来て
現在地が魔法世界であるまどかであるが、
その状況に頭が完全について来ている、とは言い難い。
只、名字と顔立ちが余りにもあからさまだったものを質問した結果がこうだ。

「えっ、と、これ、本当のこの世界の歴史、なんですか?」
「ええ、当時の事を忠実に再現しました」

鼻をかみ終えた議員先生の提督閣下がソフトに返答する。
だとすると、刹那達の担任教師だと言うネギ・スプリングフィールドは
とんでもない人物、掛け値なしの英雄の息子だと言う事になる。

「それじゃあ、ネギ先生のお母さん、って………」
「それは、今私達が答える事は出来ません」

刹那の穏やかな言葉に、まどかは自分の不躾を反省する。
そして、この映画と今迄の体験から、もう一つ、
何か引っかかるものが喉迄出かかっていた。

「では、そろそろ最終章の上映を」

ゲーデルが言い、まどかは椅子に座り直した。

「本邦初公開。何しろ、今年の夏の出来事なのですから」
489 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 22:56:05.42 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

「無事でしたか」
「お互いにな」

明石裕奈と共に見滝原市の通称マミルームを訪れた佐倉愛衣に、
部屋で待っていた佐倉杏子が応じた。

前日、あすなろ市の漫画喫茶からなんとか脱出して、
翌日、マミは普通に学校に、杏子はこの部屋で留守番をしていた。

一般的な魔法少女の性質上、後の面倒を考えても
登下校や学校に殴り込む事迄はしないだろう。
常識的な多人数の中にいた方がいいと言う判断の結果で、
マミは学校、実質的な所在不明女子の杏子は
マミが事前の合言葉で連絡する迄は絶対に部屋を開けない。
それは裕奈、愛衣も同様の判断で半日を過ごしていた。

「始めましょうか」

甘い香りに釣られ、裕奈がマミの出て来るキッチンを見た。
部屋の主、巴マミの用意したお茶とケーキは美味しかったが、
会議は大真面目に行われた。

「長谷川千雨さんが用意してくれたプレイアデスのデータ」

言いながら、マミが広げたのは地図だった。

「これを見てて、気になった事があるの」
490 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 22:58:39.48 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

日も暮れて、佐倉愛衣、明石裕奈、巴マミ、佐倉杏子の四人が
あすなろ市内工業団地跡地に集結していた。

「そこに目を付けたか」

電話の相手は、長谷川千雨だった。

「ええ。携帯電話の位置情報の地図データ、見せてもらった。
プレイアデス聖団が魔法少女のグループであれば、
魔女の出易い場所を移動するのは説明出来る」

スマホのマイクを手にしたマミが言った。

「だけど、ここだけはそのパターンを外れてる。
確かに、閑散としていて魔女が出て来ても不思議じゃない
だけど、パトロールにしても
何もない場所にみんなで来ている頻度が多すぎる。
それも、かずみさん抜きでね」

そして、千雨とイヤホンマイクを装着したのは、
魔法装束姿の明石裕奈だった。

「GPS作動してる?」
「OK、茶々丸衛星映像と一緒にリアルタイム把握した。
それを、プレイアデスの過去データを最高精度で照合して………
もう少し、もう少し右回り………そっから真っ直ぐ!」

明石裕奈が、閑散とした跡地に向けて魔法制限弾を発砲した。
491 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 23:00:41.52 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

「!!」

御崎海香邸の食後のダイニングで、
神那ニコが何やら言葉を吐き捨てた。

「どうしたっ!?」
「やられた………」

浅海サキの問いに、ニコが改めて答える。

「再インストールしたアプリ、汚染が………」
「そんなっ! あれは………」
「ああ」

声を上げたサキにニコが説明を続ける。

「再インストールしたのはラボにあったバックアップ。
それを、新品の機材を使って有線から有線にコピーして、
最終的に、新しく用意した全員のスマホにインストールした。
徹底的にチェックした筈だが、
バックアップそのものが、ラボにまでサイバー攻撃が及んでいたか、
厳重に調べて、どうしてもこれはと
前のスマホからコピーしたデータにウィルスが残っていたか」

「アプリは正常に動いている様に見えるけど」

ニコの言葉に若葉みらいが言う。
492 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 23:04:10.63 ID:nTewOq/m0

「それはダミーだ。
書き換えられたのは魔力探査アプリのあの四人の探査プログラム。
ある時点を最後に、そこから過去五時間以内の
行動の往復を表示するだけのループプログラムに切り替わって
魔力データそのものはデリートされてる」

「それじゃあ、奴らは………」
「!?」

サキが言いかけた時、ニコはスマホからの警告音にスマホの操作を再開する。

「結界が、破られた………」

ーーーーーーーー

通話を終えた長谷川千雨は、猛烈な速さでノーパソの操作を始めた。
そして、がたりと立ち上がり、詠唱を始める。

「広漠の無、それは零。大いなる霊、それは壱。
電子の霊よ、水面を漂え………」

ノーパソが短いステッキに変化して、千雨の手に戻った。

「我こそは、電子の王!」
493 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 23:07:26.57 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

「今回は又、一段と薄気味悪いな………」

長谷川千雨は、周囲を見回して呟いた。

そこは電脳世界がイメージ化された世界であり、
得体の知れない絵画の様に、今までにもまして得体が知れない。
そこを、アニメキャラクター
ルーランルージュを模した魔法装束姿で歩いている、

と、千雨は認識している訳だが、
本来の千雨の肉体は別の場所で意識を失っている筈だ。
つまり、魂だけ電脳世界に吸い込まれた、
これに近いイメージであり、それが千雨の能力でもあった。

「ちう・パケットフィルタリーングッ!!」

そして、半回転しながらステッキ状の魔法具「力の王笏」を振るう。

「アハッ」

千雨に迫っていた大量のケーブルが弾き飛ばされ、
微かに声が聞こえた。

「今の、分かるんだ」

半透明のケーブルがちらっ、ちらっ、と
微かに姿を見せながら四散する光景する中、
千雨はその声に目を向ける。

「ああ、魔法だけでもエレキだけでも駄目だっただろうな。
重ねがけの反則技でギリギリ分かった」

千雨が返答する。
494 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 23:10:12.45 ID:nTewOq/m0

「出やがったな」
「私の事を?」

「ああ、連続少女失踪事件。
公式にはバラバラの扱いだが、それでも捜査は進んでる。
失踪した少女の中には、メールで接触を受けていた者がいた。
だが、その発信元は不明だった。
海外串とかなんとかチャチな話じゃねぇ。
電話会社、接続業者の鯖から、都合の悪い情報を丸ごと消しちまう
電脳世界の化け物が一枚噛んでやがる」

「電脳世界の化け物、か。
君に言われたくはない所だが」

「ま、私も結構大概だけど、さぁ。
だから、今回の件であすなろ市中心に動き回ってりゃあ、
何れ出て来るだろうとは思ったけどね」

「成程、まんまと得意フィールドに呼び出されたって訳か」



あんたが相手じゃあ舐めプ、って訳にもいかねぇだろうがな。

なぁ、

ヒュアデス



==============================

今回はここまでです>>487-1000
続きは折を見て。
495 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:13:29.75 ID:/WZ1nIy00
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>494

「チャオ♪」
「お前がヒュアデスか、聖カンナ」

簡単に言えば魂が電脳空間に飛び込んだ状態である千雨が、
その電脳空間内で、目の前に現れた少女の姿に呟く。
帽子を被った黒い魔法装束。
その顔立ちは、プレイアデス聖団のメンバーの一人に瓜二つ。

「ゴーストダイブ………いや、ケーブルつきのデコイか」

「ご名答。君の言う通り、
この状況では私の絶対のコネクトすら分が悪いらしい。
直接仕掛けようとしたら僅かにでもリスクがある。
だから、コミュニケーション用のダミーインターフェイスを仕立てた。
私の事は何処から知った?」

「御崎海香のグループを調べ始めてすぐだな。
顔認証の分析に使ってたAIが、一卵性双生児の可能性の確認を要求して来た。
機械的に分析にかけた結果、そのレベルで外見が酷似した二人の人間が
あすなろ市の近いエリア内で同時に動き回ってる。
しかも、接触した形跡がない。その時点できな臭いってレベルじゃない。

二人の内の一人は神那ニコ。
御崎海香のグループ、つまりプレイアデス聖団のメンバー。
もう一人があんた、聖カンナ。

二人共アメリカ帰りなのは共通していたが、
神那ニコは辛うじて実在が確認出来るってレベルで公式記録が薄い。
形式上一応存在している、って言うレベルだ。
対して、聖カンナは普通に家族、学校に繋がっていた。
ああ、コネクトだな。
神那ニコのコネクトは事実上プレイアデス聖団だけに近いが、
聖カンナは普通の中学生の社会、生活にコネクトしてる」
496 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:21:43.51 ID:/WZ1nIy00

「流石、と言っておこうか電子の王。
見事な電脳ストーカーだ」

「リソースは使い放題だし必要に迫られたからな。

あんたと神那ニコ、
引いてはプレイアデスの行動パターンその他を分析する限り、
単に近いってだけじゃない。
プレイアデスに対して何等かの暗躍をしている、
あんたこそがストーカーって考えるのが自然だろうな。

さっきちょっと触ったが、あんたのコネクト、
電子と魔法の重ねがけが最強な私だからこそ、
この電脳空間では対処出来たが、それでもあそこまで迫られた。
魔法少女としてまともに仕掛けたらどれだけのモンなんだろうな」

「まあ、万能の透明ケーブル接続だとは言っておくよ」

「ヒュアデス、プレイアデスの異母姉妹だな。
あすなろ市で失踪した少女の一部が、
「ヒュアデス」からのメールを携帯に残していた。

メール本文に加えて電話会社、接続業者側のログが綺麗に消されていたから
警察はそこから先を追えなかった。

だが、私はあんた自身をマークしていた。
同時にあすなろ市を中心にした魔法少女関係の情報を収集していた。
その結果、あんたとヒュアデスの一致度が高過ぎる、と言う結論に達した。
ヒュアデス、プレイアデスの異母姉妹だな。
ヒュアデスを名乗る魔法少女がプレイアデスの周辺に現れた。
これは、偶然じゃあないよな」

「そうだね。だから、何?」

カンナに問われ、千雨は取り出したスマホの画面をカンナに示す。
カンナが見せた笑顔に、千雨の足は退きそうになっていた。
497 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:23:29.40 ID:/WZ1nIy00

「カリフォルニアで発生した拳銃暴発事故。
これが全ての始まり、って事でいいんだよな?」
「Yes 曖昧なものの無い零と壱。
その世界の電子の王が確信しているのなら、
答えは二択の内の一つ」

笑顔で答えるカンナに、千雨は天を仰いだ。

「三人の子どもが、ちょっとした手違いで
放置されていた実弾入りの拳銃を手にした。
その結果が二人死亡一人重傷。
この、重傷を負って生き残った子どもが聖カンナだ」
「私の事か」

カンナの言葉に、千雨は僅かに口角を上げる。

「家で友達と遊んでいた幼児が、身近にあった拳銃に興味を抱いただけの事故。
親の方も、多分な不可抗力と遺族の厚意と元からの財力によって、
社会的に死なない程度の示談金で刑務所行きを免れた。
だが、この結果は子どもにとって余りにも重過ぎた。
その子は以後十年余り、神に許しを請い、笑顔を失って過ごして来た」

「今時のネット社会はそんな事迄?」

「確かに、かなりの所まで入手可能だったが、
種を明かせば私一人の調べじゃない」
「それにしても、よく調べたものだ。
聖カンナの物語を」
「お褒めに預かって光栄、と言っておこうか」

そう言って、千雨はちらりと横を見た。

「?」

千雨とカンナの視線の先から現れたのは、
麻帆良学園が誇る魔法ガイノイド、絡繰茶々丸が引く屋台だった。
498 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:25:55.70 ID:/WZ1nIy00

「釜揚げもらおうか」
「ありがとうございます」
「いや、ちょっと待て」

屋台のカウンターに立ち、
茶々丸と注文を交わす千雨にカンナが口を挟んだ。

「ん?」
「おかしいだろ、明らかに」

「科学的な非科学的上等だからな。五感全部支配されるVRなんて、
推理漫画発のアニメ映画やらWeb小説発のラノベ経由のアニメやら
今時珍しくもない。電脳世界の何丁目かは分かってるから、
ちょっと味覚データの出前してもらったって事さ。食わんのか?」

「………パスタの屋台? おかしいだろ、明らかに。
ちょっと調べたけど、麻帆良の名物屋台はチャイニーズじゃないのか?」
「多角展開って奴だ。何作っても及第いける技量だしな。
それに、最近の屋台はこれが流行りらしい」

「じゃあ、鉄板ナポリタンもらう」
「ありがとうございます………出来ました」
「おう」
「………」

深めの皿の中に手際よく卵を割り入れ、鬼の様に七味をぶっ込んで
混ぜ込まれた卵の絡む熱々のパスタを猛然と食らい始める千雨の隣で、
カンナが突っ込む言葉を探している内に
カンナの前のカウンターにいい匂いの皿が置かれた。

「成程」

フォークに巻いたパスタを口にしながら、
カンナの語彙はそれだけだった。
そして、その響きは、間違いなく好意的なものだった。
499 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:28:49.01 ID:/WZ1nIy00

「聖カンナの物語」

皿を拭ったパンを口にしながら、カンナが言った。

「君が調べたのは、聖カンナの物語なのか?」
「まあ、そういう事になるかな」

いっそ清々しくパスタを掴んでいた箸をおき、千雨が答える。

「つまり、私の物語か?」
「ああ、そういう事になるな」

「それにしても、よく調べたものだな」

千雨は、すっと隣のカンナを見る。

「あんたが生まれた物語だ」

カンナの顔から、笑みが消えた。

「聖カンナの物語は、私が生まれた物語。
今の言葉を繋げるとそういう事になるんだけど?」
「それで合ってる。そうだろ聖カンナ」
「どういう意味かな?」

静かに微笑んだカンナの手で、
皿の上のパンにすとっとフォークが突き立つ。

「だから、言っただろ。科学的な非科学上等だと」
「流石に、今のこの時代の科学だけなら、
電脳世界でこの美味はやり過ぎだろうね」

カンナの言葉に、茶々丸が一礼する。

「そうじゃないと繋がらないんだ」

そう言って、千雨は改めて英字記事が表示されたスマホを掲げる。
500 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:31:42.86 ID:/WZ1nIy00

「それは、精神攻撃か何かのつもりか?」
「只の物証だ」

口だけ微笑むカンナに、千雨は淡々と答える。

「笑顔を失い贖罪意識に囚われた少女。
事件の事を知る、知らないに関わらず、
聖カンナを知る者は皆、聖カンナに就いてそう評価している。
事件後からつい最近までな」

「つまり、過去の話だと?」

「そういう事になる。最近の聖カンナは変わったと。
この一年足らずの事だ。家族にも友達にも恵まれた快活な少女。
それが、今の聖カンナの評価。
心境の変化なんてちゃちなもんじゃない。
分厚い黒雲が突風で綺麗さっぱり吹き飛ばされた、
そんな変わり様だ」

「それは、おかしな事なのかな?」

「本来歓迎すべき事だと思うが、客観的に見ておかしい。
おかしいかどうか、まずそれを判断して見た。
結論を言えば、明らかにおかしい。
聖カンナがそうなった経緯から言ってな」

「聖カンナがどうしてそうなったのか、
勿体付けずに口に出して言ってみたらどうだい?」

「二人が死亡し聖カンナ自身が重傷を負った拳銃暴発事故、
物理的に引き金を引いたのは聖カンナだ」
「零と壱、君が断言するなら、そうなんだろう」

「ああ、既に調べはついてる。
自らの大怪我、それ以上に二人の友人を死亡させた、
その引き金を引いた聖カンナの事件後の言動。
今の聖カンナは、過去から現在までの流れと噛み合わない。
だからと言って、全くの別人にすり替わった訳でもない。
関係者が多いだけに、流石にそれは無理がある。
余りに非論理的であり得ない事が起きた。
だったらいっそ、こう考えたらすっきりする。
これは、非科学的な現象なんだとな」
501 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:35:18.63 ID:/WZ1nIy00

「魔法少女の契約、か」

「最初は、自分の事件の記憶だけを消したのかとも思った。
こっちの魔法にそんな都合のいいモンはちょっと見当たらない。
都合よく自分の記憶を操作するカードゲーム、
なんて都市伝説も無いではないが、
取り敢えず本人の素質があれば
無制限でピンポイントなオーダーが可能な魔法少女契約が一番適しているし、
結論としてあんたも、そして神那ニコも魔法少女だった。
遠いアメリカでの事件、法的な責任が問われた訳でもない、
日本で直接知っている者が限られているならうってつけだ」

「最初はそう思った。今はそう思わない」
「ああ、思わないね」

そう言って、千雨はスマホを見た。

「過去の惨劇、罪悪感、一人で苦しんで来た聖カンナが、
例えそのチャンスを得ても記憶を消して逃れようと考えるか?
もちろん、もう嫌になったと、苦しみを手放す事はあり得るだろう。
だが、聖カンナはそうしなかった。私はそう思う」

「何故?」

「こちらの事情でプレイアデスを調査した時にこいつを見つけた。
神那ニコ、聖カンナのそっくりさんのスマホからだ。
それも、常時と言っていい程この記事を見ている。
聖カンナは、過去の惨劇、大き過ぎる罪悪感を抱えて、
決してそれを手放そうとしなかった。
そして、非科学的上等、その中でも、
とびきりのご都合主義が可能な魔法少女の契約。
これで、理屈が繋がる」

「どういう風に?」
502 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:37:37.03 ID:/WZ1nIy00

「もう一人の自分、理想の自分、
あの事件が無かった自分。
その一方で、現実の自分の罪悪感は、
償いを忘れる事を自分に許さなかった、
だけど、空想するぐらいは神も許すだろう。
その足を、あくまで現実に留めながら、
なりたかった理想の自分を作り出した。
それが聖カンナの魔法少女契約の概要、
私は、そう考えた」

ぱん、ぱん、ぱん、と、手を叩く乾いた音が響くのを、
千雨はつーっと汗を浮かべながら聞いていた。

「じゃあ何? 私は、聖カンナは、
聖カンナの空想上の産物って事なのかな?」

「私の推測ではそういう事になるな。
過去から契約時点までの聖カンナは、
魔法少女契約で生み出したニュー聖カンナを現実社会に結び付けて、
元の聖カンナは神那ニコと名前を変えて闇に消えた。
恐らく、一つの願い、契約に基づく包括的な効果で、
神那ニコとしての最低限の公式記録もセットだったんだろう」

「随分と、想像力が逞しい」

「だが、現実問題として、
非科学的だが一定の法則がある現実を受け入れた以上、
実際に存在する材料から私が見る限り、
それが不可能を除いた残りの真実、って事になっちまう」

「素晴らしい。流石は電子の王、君は全てをお見通し。
この時代においては、君は丸で神様だ」

「いながらにしてその目で見、その手で触れぬ事の出来ぬあらゆる事を知る。
何一つしない神様。少し前までそうだった。今も似た様なものか。
もっとも、全部が全部私が安楽椅子で検索したって訳でもないけどね」

「だったら、次に私がどうするつもりかも分析済みかい?
誰かの都合で作り出されて、
己の罪も知らずに幸せごっこを満喫して来たおめでたい私が、
そうやって、丸で神様の様に私を作り出し、高見から見下ろして来た者に対して
どうするつもりでこの魂を契約に差し出したのかを?」
503 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:41:09.15 ID:/WZ1nIy00

「まあ、どう考えても不穏な事だろうな。
割り切れるぐらいならこんな話にはなっていないだろうし。
相手が神様なら、神がやらなきゃ」

「人がやる。そのために私はこの力を得た。
祈りの心は向こうに置いて来ても、
バイブルはその役割を教えてくれた。
そう、私が何処から来た何者なのか、それを知った時にね、
何処に行くべきか、そして、何をするべきか。
私が、何を齎すために生まれたのか、そこに赴くのか」

「ルカによる福音書、か」
「Correct」
「とっさにそれが出るって、
あんたのデータベースもちっと偏向してるな」
「お互い様だ」

テーブルの下での蹴り合い、と言う比喩が相応しい空気の中、
茶々丸は綺麗に平らげられた食器を黙々と片付ける。

「そういうあんたはどうするつもりだ? 電子の王?」

「さあな、元々、こっちの都合で必要があって当たってただけの事だ。
そんなクソ重いモンどうにか出来る柄じゃない。
只、デジタルな情報、
一部は足で稼いだモンを使わせてもらったのも含めてだが、
それだけでも分かる事もある。
旨いものを食って喜び、身近な人に愛され愛する人といる事を喜び、
そして、失う事、傷付く事を悲しむ。
少なくともあんたの心は本物の筈だ」

バン、と、両手でカウンターを叩いたカンナを、千雨は静かに見ていた。

「魔法少女の事は詳しく知らない。
だが、非科学的上等に馴染んだ私として、知ってる事はある。
一歩前に進むための、願いをかなえる魔法の契約は、
宿った心がその意思を決める、生きている魂と結ぶものだってな。
私が知ってるのは、その程度の事だ」
504 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:43:30.82 ID:/WZ1nIy00

「………美味しかったよ、ご馳走様」

横を向いたカンナに、茶々丸が一礼した。
カンナが、数秒間茶々丸をじっと見る。

「私にとって害はなさそうだし、
ここで不利な喧嘩をするメリットは無い」
「それは、利害が一致して助かる」
「チャオ♪」

ーーーーーーーー

あすなろ市内のビルの屋上で、望遠鏡を覗いた聖カンナはくっくっ笑い出した。

「おいおい、派手に喧嘩売ってるじゃないの魔法使い………」

そして、左手でスマホを見る。

(魔法使いは何処迄把握して何処迄介入するつもりだ?
長谷川千雨、電子の王………最悪を考えるなら、
PCにスマホ、ラボも全てハッキングされたとしたら………)

………チリン………

「………教えて………」
「ん?」
「貴方の名前」
「我々は何者なのか!?」

振り返ったカンナの手にしたバールと天乃鈴音が振るった剣が激突した。

「アテンション!」
「!?」

バールと剣が弾けた刹那、
左手からの叫びと共にカンナの意識が強烈に左手に引っ張られる。
同性から見ても美人な、スタイルのいい同年代の魔法少女の姿が
嫌でもカンナの目に入る。
次の瞬間には、カンナは新手の敵による銃撃をまともに受けて、
それと共にカンナの魔法少女の変身自体が解除され、
カンナは丸腰状態で鈴音の剣と死神規格の鎌を向けられていた。
505 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:45:26.88 ID:/WZ1nIy00

「なんなんだ、あんたら?」
「初めまして、私は奏遥香。
ホオズキ市で魔法少女グループのリーダーをしています」
「堂々とした縄張り荒らしだね」

スタイル美女の言葉にカンナが毒づく。

「それなんだけどさぁ」

口を挟んだのは、
カンナに鎌を向けているツインテールの魔法少女成見亜里紗だった。

「あんたがけしかけた双子もどきの変態牝郎がこっちで悪さしてくれてね。
スズネっちが追っ払ったからカナミは無事で済んだけど、
大元叩こうって事でこっち来た訳。
ま、それは口実で借りを返しにってのも大きいんだけどさ」

「何を………」

「なんか、あんた随分物騒な事計画してるんだって?
文字通りの世界平和ってなると、
結局こっちの縄張りにも引っかかるしね」
「世界の平和、ね」

刃を向けられながら、カンナはくっくっ笑い出す。
そんなカンナの前に、
フードを被った白いローブ姿の魔法少女が姿を現した。

「そんな訳で、あんたは全部喋ってもらってから地元に任せるから。
ま、周りに迷惑かけるのは程々にして、
精々当事者同士でドツキ合って解決するんだね」

「おーおー、あんたが言うと重みが違うわ」

亜里紗の茶々を聞き流しながら、
白い魔法少女日向華々莉がフードを脱いでカンナの頭を掴み、
カンナの目を見ながら告げた。
506 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:47:46.25 ID:/WZ1nIy00

ーーーーーーーー

長谷川千雨は、椅子の背もたれを軋ませて一言呟いた。

「只の、時間稼ぎだよ」

ーーーーーーーー

「ヒュアデス、聖カンナは確保しました。
後はこちらの領分で処置します」
「分かった。有難う詩音さん」

住まいの女子寮の一室で、
ナツメグこと夏目萌は手にしたスマホで詩音千里からの電話を切る。

ゲートの暴走事件後、
独自に御崎海香グループの内偵を進めていたナツメグだったが、
明石裕奈等の情報を得た後、秘かに長谷川千雨にも連絡、
非公式に情報をすり合わせて調査を進めていた。
アメリカに関わる当事者が多いと言う事で、
佐倉愛衣の留学時の友人に依頼してそちら側からの情報も得ていた。

最終的に、行き掛り上知り合った奏遥香のチームに
駄目元で協力を依頼した事も含め、
いつの間にかキーステーションになって
綱渡りな事をしていた状況にどっと疲れを感じるが、
であるからこそ、取り敢えず今夜の状況が確定する迄一風呂浴びて休む、
と言う訳にはいかないらしい。

「後は、メイ達がどう決着つけるか………」

==============================

今回はここまでです>>495-1000
続きは折を見て。
507 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/18(日) 03:30:56.19 ID:Hj5Wsof20
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>506

ーーーーーーーー

「海香、カオルっ!」

正に出撃、出陣の様相を呈した
御崎海香邸リビングで、かずみは叫んだ。

「私も連れて行ってっ!」
「待て、かずみ………」

割って入ろうとした浅海サキを御崎海香の腕が制する。

「分かった、付いて来て」
「海香!」

海香の返答にサキが叫ぶ。

「相手があの四人ならなまなかな事じゃ収まらない。
留守番が安全だと言う保障も無い。
向こうで説明する事になると思う」
「腹、くくれ、ってか」

海香の言葉に、牧カオルが空笑いした。
508 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/18(日) 03:33:23.25 ID:Hj5Wsof20

ーーーーーーーー

「これが隠れてたってか?」
「魔法で異界、異次元空間に隠匿していた、そんな所ですか」

あすなろ市内工業団地跡地で、
明石裕奈の魔法制限弾を受けた空間から唐突に表れた建物を見て
佐倉杏子と佐倉愛衣が言葉を交わす。

「確かに」

続いたのは巴マミだった。

「魔女の結界も異次元空間だから、こんな魔法があっても不思議じゃないわね」
「鍵、かかってるね」


唐突に現れた大きな洋館の入口を調べていた裕奈が、
玄関ドアを確認していった。

「お願いします」
「了解」

ドアを確認してそこから下がった愛衣の言葉を受けて、
裕奈がドアに魔法拳銃を向けた。
509 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/18(日) 03:35:55.66 ID:Hj5Wsof20

ーーーーーーーー

「凄い………」

裕奈の銃撃による魔法のロックが解除され、
建物の中に入ったマミが中の光景に呟いた。

「これ、全部テディ・ベア?」
「可愛い、けどちょっと怖いわ」

膨大と言ってもいいぬいぐるみが
夜の博物館の棚に陳列されている光景にマミと裕奈が言葉を交わした。

「明日葉、ですか」

「?」

「Anjelica Bears
この建物の名前として表の壁に書かれていました。
ベアーズは熊達、熊々、アンジェリカは人の名前かとも思いましたが、
元の意味は明日葉と言う日本の植物です。
生命力が強く栄養価も高い、医学的な薬効もありますから、
魔法使いによる研究対象にもなっています」

「なんとなく、アンジェリカってだけでもありそうな名前だけどな」

杏子の言葉に、愛衣は小さく頷いて言葉を続けた。

「前の戦いで熊の使い魔を使っていたのは若葉みらい。
漢字の意味が似ている若葉と明日葉を
当て字にした名前と見るのが自然かと」
「だとしたら、恐らく魔法少女としての願いそのものね」

愛衣の推測にマミが続く。

「建物の規模と隠匿、魔法少女の普通の魔法にしては規模が大き過ぎる。
このテディベア博物館を願いにして契約した、
そう考えるのが自然よ」

マミの推測を聞きながら、
愛衣は静かに片膝をついて床に手を当てていた。
510 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/18(日) 03:38:31.81 ID:Hj5Wsof20

ーーーーーーーー

「どうしたっ!?」

屋根から屋根へと移動するプレイアデス聖団御一行様。
最終目的地に到着間近と言う時、
偵察ポイントに予定していたビルの屋上で、
先行して棒立ちになった御崎海香に浅海サキが声を掛けた。

「炎の、文字?」

サキの隣で、若葉みらいが呟く。
確かに、アンジェリカ・ベアーズの屋根より少し高い空中に、
炎が浮遊しているのをサキも見て取った。

「アルファベット? アール、イー………
イー、エム………」

宇佐木里美が呟く側で、海香の顔から血の気が引き、
カオルもぐっと前を睨み付けている。

「何語?」

かずみが首を傾げる屋上で、バチッ、と、不穏な響きが伝わる。

「あ、あああああ………
魔法使いいいいいぃぃぃぃぃっっっっっっっっっ!!!!!」
「サキっ!!!」

==============================

今回はここまでです>>507-1000
続きは折を見て。
511 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:27:08.28 ID:VZJbN5Sj0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>510

ーーーーーーーー

若葉みらいの魔法少女契約で作られたテディベア博物館
「アンジェリカ・ベアーズ」。
その中で、雷の勢いで飛び込んで来た浅海サキが、
佐倉愛衣の魔法箒「オソウジダイスキ」ですぱーんと足を払われ
テディベアが陳列されている壁際の棚へと雷の勢いで体ごと頭突きするのを、
巴マミと佐倉杏子は首を左右に動かしながら大汗を浮かべて眺めていた。

「風花・風障壁」

その間に愛衣は呪文詠唱を終え、雷の勢いで突っ込んで来た浅海サキが、
ダンプカーのカチコミにも耐える魔法障壁に雷の勢いで体当たりし、
自分が崩壊させた棚の穴へと背中から戻っていくのを、
巴マミと佐倉杏子は首を左右に動かしながら大汗を浮かべて眺めていた。

「明石さん」
「お、おう」

ガラリ、と、崩壊した棚から立ち上がり、
両手で猛獣鞭を振り上げたサキに明石裕奈の発砲した魔法制限弾が直撃した。

「なっ!? 変身がっ?」
「紫炎の捕らえ手っ!」

そして、魔法少女への変身が解除されている事に戸惑うサキに、
既に呪文詠唱を終えた愛衣からの捕縛魔法が飛ぶ。
512 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:30:18.09 ID:VZJbN5Sj0

ーーーーーーーー

「な、に、やってんだてめえぇぇぇぇっっっっっっっっっ!!!」

決して弱くはない筈だが、完全に感情に飲まれてる。
そんな浅海サキの有様を大汗浮かべて眺めていたマミと杏子は、
絶叫が聞こえた時には戦闘態勢をとっていた。
だから、殺到する熊の使い魔の群れは、
マミの周囲を包囲回転する大量のマスケット銃と
杏子の豪快な槍使いを前に次々と消滅していく。

「サキいぃぃぃぃぃっっっっっっっっっ!!!
どけやああああああっっっっっっっっっっ!!!!!」

そして、その熊の大群の向こうから
小柄な体躯と正反対のクレイモアを振り上げて絶叫する
若葉みらいが突撃して来ると、
マミと杏子はさささっと彼女の言う通りにした。

「ああああ………あああああっっっっっ!?!?!?」
「あなたの熊さん達、いいカモフラージュになったわ」

邪魔者ことごとくを一刀両断し、愛するサキを救出する。
脳内リソースをそれ以外に欠片も利用するつもりのなかった若葉みらいは、
足元から噴出した大量のリボンに雁字搦めを通り越して
顔だけ出した繭包みにされてその道行きを強制中断し、
巴マミが胸の下辺りで腕を組んでその理由の一端を告げていた。

「デフレクシオ(風楯)ッ!!」

愛衣が魔法防壁を張り、裕奈も魔法拳銃を発砲して、
博物館に飛び込んで来た光球を回避する。

「サキっ!?」
「酸欠で意識を飛ばしました、一時的なものです。
但し、ソウルジェムはこちらで預かっています」

博物館に飛び込み、声を上げる牧カオルに愛衣はむしろ淡々と答えた。
513 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:33:36.63 ID:VZJbN5Sj0

「メイ、杏子、これはどういう事なのっ!?」

次に叫んだのは、かずみだった。

「改めまして、
関東魔法協会麻帆良学園学園警備魔法使い佐倉愛衣です。
浅海サキさんの身柄はこちらで預かります」
「なっ………」

かずみの後には残りのプレイアデスメンバーも揃っており、
平然と通告する愛衣に、カオルは絶句した。

「それは、随分横暴な話ね」

言ったのは、御崎海香だった。

「横暴かどうかは、彼女に確かめればすぐに分かります。
彼女が口に出さなくても確かめる方法は幾らでもあります。
我々は、魔法使いですから………
(サギタ・マギカ・ウナ・ルークスッ!)」
「きゃっ!」

愛衣がとっさに床に飛び込みながら無詠唱で光の矢を放ち、
その一撃を食らった宇佐木里美がのけぞる。

「里美っ!!」

カオルが叫んだ時には、
里美は横っ飛びした裕奈の魔法制限弾の連射を受け、
跳躍したマミと杏子に取り押さえられていた。
514 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:36:43.59 ID:VZJbN5Sj0

「危なかったぁ、メイちゃん撃ちそうになってた」

「タイプは違いそうですが、同士討ち系の魔法少女には
最近少々痛い目を見せられましたから。
巴さん、こちらは浅海サキ一人で十分です、
こちらが見えない様に拘束しておいて下さい」

「分かったわ」
「おいっ!」

愛衣とマミとのやり取りにカオルが声を荒げた。

「お前達、魔法少女だろ。
魔法使いにこんな事やらせておいていいのかっ!?」

「あなた達から確実な情報を引き出す、
と言う点では私達の利害は一致している」
「魔法少女同士でも随分ドンパチしてたからな。
興味があるのはこっちの身内がどう噛んでるか、それだけだ」

カオルの言葉に、マミが真面目に応じて杏子が鼻で笑う。

「えっと、メイ。サキも里美も、私の大事な友達で………」
「こちらも大切なお友達の安否がかかってる」
「我々としては、サキさんが知っている事を把握したいだけです。
手荒な事はしませんし、する必要もありません」

マミと愛衣が、怖々口を挟むかずみに告げる。

「明石さん、浅海さんを運んで下さい」
「了解、先輩」

愛衣の指示も、それに対する裕奈の返答も手堅いものだった。
515 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:43:44.11 ID:VZJbN5Sj0

「待てって言ってるだろっ!!」
「Shut up!!」

声を荒げて愛衣に迫ろうとしたカオルは、
愛衣の一喝を聞きながら箒の先を向けられていた。

「そもそも、気に食わないんです」
「は?」

ぐっ、と、一歩前に出た愛衣に、
箒を向けられたままのカオルがじりっと一歩下がった。
それを見て、愛衣はどん、と、箒の先で床を叩く。

「人道上、やむを得ないケースもあるのでしょう。
but いい加減な契約で強力な魔法をデタラメに使う。
私にとっては不愉快です」
「この………」
「今更何キレてんの?」

今度こそ愛衣に掴みかかろうとしたカオルの鼻先に槍の穂先が向けられ、
その出所を見たカオルの前で佐倉杏子が鼻で笑っていた。

「だから、私達魔法使いとも不干渉と言う事になったのでしょうね。
街の裏側で魔女を退治しているだけなら
こちらからどうこう言う筋合いでもありませんが、
それで済ませるには、目に余る」
「言ってくれるね、魔法使い」

応じたのは、神那ニコだった。

「しかし、よく無事にここまで入れたモンだね」
「ああ、ここのトラップの事?
なんか随分悪戯好きって感じで色々仕掛けてあったけど、
それはこっちも負けてないからね」

ニコの言葉に、魔法拳銃を振りながら裕奈が答える。
516 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:47:15.93 ID:VZJbN5Sj0

「それで、プレイアデスはどうするの?
交渉決裂なら答えは二つ。
この四人を力ずくで取り押さえてサキを奪還するか、
それともこのまま行かせるか」

ニコが指折りして仲間に迫る。

「一つ目の選択はお勧めしません。
私としても痛い目を見たいとは思いませんし、
既に報告を外部に預けてあります。
私からの連絡が途絶えた時点で、あなた達は麻帆良学園、
否、関東魔法協会の総力で潰されると思って下さい」

「月並み、だけど破るのは難しいカードね」
「それを理解したなら、無駄な抵抗はやめて下さい」

海香の言葉にそう応じて、愛衣は片手で掲げた箒をひゅんと回転させた。
炎を浴びた箒の先を、どん、と、床に叩き付ける。

「浅海サキさんの頭の中を一から十まで強制コピーされるのが嫌なら、
まず、この封印に就いて説明して下さい」

一瞬、博物館の床に広く火線が広がり、
床は複雑な紋様を刻んでぼうと輝き始めた。

==============================

今回はここまでです>>511-1000
続きは折を見て。
517 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:28:22.60 ID:0SoCioM80
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>516

「私達の魔法なのは分かるけど、かなり複雑な術式ね」

見た目で言えば、趣味のために糸目をつけない現金を丸ごとぶち込んだ
異界の博物館「アンジェリカ・ベアーズ」。
全体に贅沢過ぎるスケール、面積の中に、
更に一つ、二つのテディベアを陳列した清潔なガラスケースが
規則正しく林立する西洋風の高級意匠ホールの中で、
十分な横幅のあるレッドカーペットの通路に現れた魔法陣を見て巴マミが言う。

「コンセプトは空間と転移、そこまではなんとか分かりますが、
だからこそ、これ程の高度な術式、
作った術師の教え抜きに動かすのは危険過ぎる。
その本ですね」

佐倉愛衣が、御崎海香の持つ分厚い本に視線を走らせて言う。

「似た様なものを知っています。
魔法具によって検索した外付けの知識、魔法技術を使って、
本来は非常に緻密で高度、強力な術式を設計し、発動させた。
案内していただきましょうか?」
「分かったわ」
「海香」

難色を示して名を呼ぶ牧カオルに、海香は小さく頷く。

「巴さん、浅海サキさんの拘束を、
案内はこのメンバーでお願いします」
「お前らあっ!!!!!」
「やかましい」

リボンの繭から顔だけ出して絶叫する若葉みらいの鼻先に、
佐倉杏子が槍先をむける。
518 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:31:27.67 ID:0SoCioM80

「若葉みらいさん」

愛衣が、みらいの前にツカツカ近づきながら
生真面目な口調で声を掛ける。

「これは、最大限譲歩した結果です。
争いや危害は好みません、大人しく待っていて下さい」

指先を外側に向けた右掌にバスケットボール大の火球を乗せ、
愛衣は淡々と告げた。

ーーーーーーーー

海香が魔法陣の魔法を発動させ、魔法のエレベーターの様な移動を経て、
恐らく博物館の地下と思われる扉の向こうへと移動し、
佐倉愛衣チーム、巴マミチームは共に凍り付いた表情で立ち尽くした。

「な、んだよ?」

ようやく言葉を発したのは、佐倉杏子だった。
そこは、屋内の親水公園を思わせる、一本の太い通路があり、
その真ん中を水路が通りオブジェが設置された空間だった。
そして、その通路の両サイドには、大量のカプセルが林立している。
液体の入った大量のカプセルの中でどう見ても本物の人間、
十代の少女達が意識を失っていた。

「ソウルジェム、ここにいるのは魔法少女?」

水路の真ん中に設置された
湧き水のオブジェの中に大量のソウルジェムを見つけ、
巴マミが動揺を抑え込んだ口調で言う。

「ソウルジェムを沈めているオブジェの下に魔法陣。
封印の紋様みたいですけど、それだけでは………」

オブジェを調べていた愛衣が呟いた。
519 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:33:15.07 ID:0SoCioM80

「佐倉愛衣さん、明石裕奈さん」

その様子を見ながら、先頭を行く御崎海香が口を開いた。

「何が起きても対処出来る様に、腹積もりをして頂戴」

振り返った海香、カオル、ニコが愛衣達と向き合った。

「覚悟して聞いて欲しい」

そう行った海香が見ていたのは、巴マミの目だった。

「魔法少女は、魔女になる」
「何?」

目が点になったマミの代わりに、杏子が聞き返した。

「ソウルジェムの濁りが限界に達すると、
ソウルジェムはグリーフシードを生み、
魔法少女は、魔女になる」
「何を、言っているの?」

マミが、ぽかんとした口調で尋ねた。

「ソウルジェムの濁りを取るために、
私達魔法少女は魔女を退治してグリーフシード、魔女の卵を回収する。
そこまでは理解出来るわね」
「ええ」

海香の言葉に、マミが応じる。

「じゃあ、その濁りを取らずに限界迄濁ったソウルジェムがどうなるか、
あなた、知っていたかしら?」
「確かに、見た事ないな。
少なくともあたしはそんな非効率的な事はしないし」

マミに代わり、杏子が返答した。
520 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:34:48.94 ID:0SoCioM80

「ご、ごめんなさい、その話、本気で言ってるの?」

「ええ、大真面目よ。
私達は過去、実際に魔女になった魔法少女を見ている」

「その、魔女になった魔法少女、は?」
「退治した。ソウルジェムは魔法少女の本体、命であり魂そのもの。
そのソウルジェムがグリーフシードとなり、
魔女が生まれてしまった後では、もう取返しが付かない。
被害の拡大を防ぐためには、殺すしかない。これが現実よ」

「じゃあ、私達が退治している魔女は」
「使い魔が成長したものでなければ、
私たちすべての魔法少女の末路」

限界を迎えていたのは、海香と問答していたマミの表情だった。

「そん、な。じゃあ、私、美樹、さんに………」

次の瞬間、「レイトウコ」と
プレイアデス聖団が呼ぶこの空間に銃声が響いた。

「なっ!?」

箒を手放し両手を振る愛衣を後目に、裕奈がマミに向けた魔法拳銃が
マミのマスケット銃の銃弾に弾き飛ばされていた。

「!?」

次のマスケットを構えたマミが硬直する。
その射線には、裕奈が両腕を広げて立ちはだかっていた。

「なんだか知らないけど、
この娘達を傷つけるつもりっ!?」
「落ち着けマミっ!!」

裕奈と杏子の叫びを聞き、マミは荒い息を吐きながら銃口を下ろした。
521 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:38:57.60 ID:0SoCioM80

「大丈夫、メイちゃんっ!?」
「ええ、魔法銃に弾かれただけですから。想像以上の威力です」

マミの背後にそっと接近し、マミに「眠りの霧」をキメる直前に
恐慌した表情でマミが振り返り、
マミが発砲した銃口にとっさに魔法の箒を向けていた愛衣が青い顔をして言った。

「マミ、ソウルジェムを出せっ!」
「えっ?」
「いいから早くっ!!」

杏子に気圧される形でマミが従い、
杏子が手持ちのグリーフシードでマミのソウルジェムを浄化する。

「一つ貸しだからな。ここで濁られたら本気でヤバそうだから」
「そ、そう、魔女、魔法少女が魔女になる、って、
改めて聞くけど、本当なの?」
「ええ、本当よ」

改めての質問に、海香が根気よく答える。

「そん、な………キュゥべえ、どうして………」

「奴の正体は宇宙生物、希望が絶望に相転移して魔法少女が魔女になる。
その時に発生するエネルギーを回収して宇宙の延命に役立てている。
取り敢えずキュゥべえ自身はそう説明している。
彼らの発想に善も悪も無い、地球の人間の事なんて
そのための家畜、燃料だとしか思っていない。
嘘だと思うなら、キュゥべえに直接確かめてみるいい」

「あ、の、野郎………」

海香の説明にマミがすとんと座り込み、杏子が呪詛の言葉を吐いた。
522 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:41:03.43 ID:0SoCioM80

「あすなろ市を中心に発生していた少女失踪事件。
これがその真相ですか?」
「相当数はそうでしょうね」

愛衣の質問に海香が答えた。

「理由、教えていただけますか?」
「海香………」

背後から声をかけるかずみに、カオルが小さく頷いた。

==============================

今回はここまでです>>517-1000
続きは折を見て。
523 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:13:39.34 ID:0SoCioM80
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>622

ーーーーーーーー

<御崎海香の絶望>

以下略

「そうやって、絶望にとらわれ魔女の餌食になりそうになった私達を、
かずみは救ってくれた、命も、心も。
だから、私達も魔法少女となって、
かずみと共に「プレイアデス聖団」を結成した」

「最初は只、みんなで集まって、人に害を為す魔女を退治する、
楽しいパーティーだったよ」

御崎海香の説明に牧カオルが付け加え、巴マミが視線を落とす。

「だけど、飛鳥ユウリの魔女化によって私達は魔法少女の真実を知り、
魔法少女と言うシステムとの戦い、そして破戒を決意した」
「じゃあ、ユウリは………」

杏子の言葉に、説明していた海香は目を閉じて頷いた。

「ちょっと待て、かずみの記憶の事は?
こいつは………」
「かずみはかずみよ」

杏子の言葉を遮る様に海香が言った。
524 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:18:11.32 ID:0SoCioM80

「魔法少女の真実を知り、色々異常な状態で魔女との戦いが続いた。
そんな中で、かずみは一時行方不明になり、
医学的なものとも魔術的なものとも判然とせずに記憶を失って戻って来た。

佐倉杏子さん、あなたの言いたい事は分かる。
だけど、彼女の頭に記憶を完全に戻そうとすると、
現実問題として拒否反応が起きてかずみを苦しめる事になってる。

だから、彼女が受け入れている「かずみ」の名前と共に
今は無理のない生活を模索している段階。
その事を理解して欲しい」

海香がカオルと共に頭を下げ、杏子はそっぽを向いた。

「海香、カオル………」
「ええ、だから、今は無理をしなくていいの」
「そうだ、かずみには私達がついてる、
少しずつ思い出していけばいい」

不安を隠せないかずみに、海香とカオルが言った。

「彼女達は皆、魔法少女なんですか?」

改めて、周囲を見回した愛衣の問いに、海香が頷く。
その背景で、カオルが通路の奥にある巨大な円柱にすとんと着地していた。

「そうよ、だから私達は魔法少女狩り、とも呼ばれている」
「何、だよそれ………」

海香の言葉に、口角を上げた杏子の足がじりっと下がる。

「全部濁ってるのは偶然じゃないよね?」

水の中のソウルジェムをすくい、かずみが言った。
525 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:21:02.23 ID:0SoCioM80

「この魔法陣は、ソウルジェムと肉体を分断し、
休止させるためのもの」
「これ以上ジェムが黒くならないように?」
「そう、そして魔女化しないために、
彼女たちが人間であり続けるために」
「それだけじゃない」

かずみと海香のやり取りを、円柱の上に座ったカオルが続ける。

「ジェムを完全に浄化し、彼女たちを人間に戻す方法を見つける。
その日まで自分たちで戦い続ける。そう決めたんだ。
それがあたし達の、『魔法少女システム』に対する『否定』ってヤツさ」
「それじゃあ、あたし達の事も?」

快活なスポーツ少女の印象を離れた、物憂げですらあるカオルの言葉に、
問いかける杏子の手は僅かに強く槍を握る。

「ええ、本当であればこの中に加えたい。
だけど、魔法少女の中でも有力者で知られるあなた方が
魔法少女の真実を知った今、
敢えてそれをやる優先順位は低くなった」

「そりゃどうも」

海香の返答に、杏子が笑みに殺気を込めて答える。

「その方法が見つかる迄、こうやって眠り続けてる、って。
そうしないと魔女になる、から………」

少女達が液体に沈むカプセルを見回しながら、
裕奈は自分の言葉を頭の中で反芻する。

「Sleeping Beauty」
「Yes その時迄、王子様のキスを待って眠り続ける」

愛衣の呟きに、神那ニコが答えた。
526 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:24:43.74 ID:0SoCioM80

「だけど、王子様なんて待ってられない」

カオルが続けて言った。

「だから、私達はあらゆる手段でその方策を探し続けた。
この本でも足りなかった。
だから、魔法使いの知恵も借りようとした。
そちらの、麻帆良学園の図書館島にも侵入してね。
微かな情報から魔法使いの情報を少しずつ集めて、
図書館島なら役に立つ情報があるのではないかって」

海香がカオルの言葉に続いた。

「お役に立てましたか?」

「今の所は何とも言えない。
確かに、図書館島の奥地は私達にとっても危険過ぎる場所。
それでも少しずつ、
そちらの監視を掻い潜りながらの探索を続けていたけど、
何か強力な魔法の発動を察知して、
危険過ぎると言う事で撤退した、それっきりよ」

愛衣の問いに海香が答える。

「じゃあ、鹿目さん達、ゲートが起動した事は知らない、
そう言いたいの?」

「よく分からないけど、私達は図書館島で本を探していただけ。
それ以上の事は知らないわ。
魔法使いと関わる事も、思い当たるのはそれだけね。
そちらの秘密の文献に勝手に接触しようとしたのは
そちらにとっては不都合だったと、それは認める」

マミに対する海香の返答を聞き、
愛衣はすー、はー、と深呼吸した。
527 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:27:21.13 ID:0SoCioM80

「分かりました」
「え?」

愛衣の返答に、カオルが思わず声を上げた。

「前から申し上げていますが、元々魔法使いと魔法少女は不干渉です。
魔法少女同士の事であれば、我々が敢えて介入する事はありません。
図書館島を勝手に使われては困りますから、
その点は上に報告してしかるべく対処する事になると思いますが、
率直に言って、管轄違いの面倒事に巻き込まれるのは御免です。
後はそちらで片を付けて下さい」

「佐倉さ、メイさん?」
「お、おう」

言いかけたマミにちらっと視線を走らせ、杏子が頷いた。

「あんたらのご大層な志は分かったよ。
けど、風見野と見滝原には手を出すな。
少なくともあたしは、魔女なんかにならない様な上手くやる。
見滝原の魔法少女に手を出したら、
百戦錬磨の大ヴェテラン巴マミ先輩に踏み潰されるぞ」

「え?」
「なあ」

「え、ええ、そうね。理屈は分からないでもない。
だから、あすなろ市での事は敢えて口出ししない。
だけど、見滝原に、特に私の後輩達に手を出すと言うのなら、
黙って見ている訳にはいかないわ」

杏子から唐突に名前を出され、
戸惑いを見せていたマミも通告しながらペースを取り戻した様だった。
528 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:35:49.22 ID:0SoCioM80

「先程は言葉が過ぎました、ごめんなさい」
「いや、いいよ。こっちも色々まずい事はあったんだし」

円柱から大ジャンプして着地したカオルに愛衣が頭を下げ、
カオルは手を上下させてとりなす。
そのカオルの手が、バスケットボールを受け取った。
そこに書かれた、
「Yuna 2on2」の文字にカオルが顔を綻ばせる。

「時間があったら、赤外線でアドレスでもしたかったんだけどね」
「これ以上の深入りはお互いのためになりませんので」
「そうね、面倒をかけて悪かったわ」

裕奈と愛衣の言葉に、海香が応じた。

「大丈夫、かずみ?」

海香が、俯くかずみに声を掛ける。

「うん………魔法少女狩りはユウリのことがあったからなんだね?」

海香に肩を掴まれながらかずみが言い、
そんな二人に愛衣が一瞬鋭い視線を走らせる。

「………みんな疲れてる」

口を挟んだのは、オブジェの上のカオルだった。

「今日は、お開きに出来ないか?」
「見た所、そちらの御崎さん、神那さんがいれば
上のメンバーを縛っているリボンの拘束は解除出来そうですけど、
どうでしょうか?」
「Yes なんとかなると思うよ」

愛衣の言葉に、ニコが応じた。

「それでは、元の場所に戻って、そこで解散と言う事で」
529 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:41:54.79 ID:0SoCioM80

ーーーーーーーー

「巴さん」

「アンジェリカ・ベアーズ」を出た後の夜のあすなろ市内の路上で、
愛衣がマミに声をかける。マミの顔色は未だ良くない。

「大丈夫、ではないと思いますが」
「ええ、今でも吐き気がする。
だけど、ずっと知らないよりはマシ。お礼を言わないと。
それに、銃を向けたお詫びも」
「いえ、部外者が立ち入った事を。
それに、勝手に魔法をかけようとしたのはこちらですから」

マミと愛衣が互いに頭を下げる。

「頼むぜ」

口を挟んだのは杏子だった。

「見滝原の方は、
取り敢えずマミ先輩があいつらへの重石、って事になってんだ」
「ええ、有難う。そう仕向けてくれて」

にこっと笑うマミに、杏子はそっぽを向く。

「もういいわ。どっちにしろ、私には選択の余地なんてなかったんだし」
「?」

んーっと腕を伸ばすマミを、愛衣達は見ていた。

「小さな頃に、両親と一緒の車で交通事故に遭って、
子どもでも自分は死ぬんだってそう思った」
「それが、魔法少女契約の理由ですか」
「そう。本当なら家族みんなが助かる事を願うべきだったんだけどね。
それも、今更言っても仕方がない事よ」
「………死にそうになって命が助かる事を願う。
単純すぎてその善悪を考える事すら馬鹿げています」
「うん、他に言い様がない」

辛い微笑みを作るマミに愛衣が告げ、裕奈も素直に従う。
530 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:44:58.06 ID:0SoCioM80

「私達は部外者です。只、さっき相対してはっきり分かりました。
巴さんは常時魔女と戦う世界を、一生懸命生きて生き抜いて来た人だって」
「私なんて二回銃口向けられてるからね。当然分かるよ」
「そうじゃなきゃ、魔法少女なんて何年もやってらんねぇよ」
「じゃあ、そうして下さい」

杏子の言葉に、愛衣が言う。

「全てが上手くいかないなら、限りある生命で最もマシな選択を。
部外者としては他に言うべき事もありません」
「私は好きだけどね、マミさん達の事。
片が付いて気が向いたら又遊びに来てよ」

「そうさせてもらうわ」
「このかお嬢にもよろしくな」

「それでは、
私達はこれから少し報告のための打ち合わせがありますので」
「へーへー、こっからは魔法使いのお仕事ですか」
「すいませんがそういう事になります」

「鹿目さん達の事は結局振り出し」

杏子と愛衣のやり取りにマミが口を挟む。

「はい、この後の状況次第ですが、
私達も用事を済ませてなるべく早くこちらから連絡します」
「分かった。あくまで鹿目さんの安否が優先だから」
「それでは」

マミと愛衣の合意が成立し、魔法使いと魔法少女が左右の道に分かれた。
531 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:49:13.35 ID:0SoCioM80

ーーーーーーーー

「!?」

魔法少女と別れて少し進んだ所で、裕奈は後ろから愛衣に飛び付く。
愛衣は、脱力で脚が一度に崩れていた。

「す、すいません」
「大丈夫じゃないって、それ、メイちゃんの事だよねっ?」
「は、はい」

荒い息を吐きながら立ち上がろうとした愛衣が、
向きを変えて裕奈に抱き着いた。

「(めっちゃ震えてるんだけど)
あの、大丈夫じゃないって、熱とかある?」
「いえ、それは大丈夫、だと思います。
只、今になって、凄く、怖く、すいません」

切れ切れに言いながら俯く愛衣を、裕奈がぎゅっと抱き締めた。

「いいよ、あの場にいたら怖くて当たり前だよね。
私だって怖かったし、それに、
メイちゃんが矢面に立って、頭いいから余計にね」

愛衣が小さく頷き、ゆっくり呼吸を整えた。
そして、二人は近くに屋根つきのバス停ベンチを見つけ、腰かける。

「あ、すいません」
「ああ、いいよそのままで。お疲れ様」

裕奈に言われ、裕奈の隣に座った愛衣は
裕奈の腕に自分の体重を預け続ける。
532 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:52:30.24 ID:0SoCioM80

「ごめんなさい、あの、有難うございます。
私は言わば正統派の魔法使いの見習い、それだけです。
実戦慣れ、殺し合いをして来た未知の存在である魔法少女の集団相手に、
明石さんがいてくれたから辛うじて踏ん張れた」

「有難う。メイちゃん凄く格好良かった。
それで、凄く無理してた。
魔法少女相手に魔法協会、魔法使いを背負ってさ」

「明石さんが背中を守ってくれたから、
あの夏、あの世界を救う只中にいた3Aメンバーの明石さんが」

「それは、メイちゃんも同じでしょう。
あの時の事改めて確認したけど、高音さん達、
危険な現場に踏み止まって命懸けで戦い抜いた、メイちゃんも一緒に。
あの夏も、今回も、魔法協会、魔法使いとして
譲れないものがあるってみんなの背中に教えてもらってる」

「後輩に、余り格好悪い所は見せられないですから」
「そうだね。だから、メイちゃん、佐倉先輩が上に行く時には、
私は下から支えられる様に頑張るから」
「とても期待してます」
「あ、はは、参ったな」

苦笑いする裕奈の横で、愛衣は座り直し、んーっと伸びをする。
533 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:54:32.41 ID:0SoCioM80

「大丈夫?」
「はい。私の背中、明石さんが守ってくれるんでしょう?」
「うん」

裕奈の返事と共に、愛衣は立ち上がった。

「それじゃあ、余り時間がありません」
「そうだね」

裕奈が立ち上がった。

「それでは、もう一仕事、済ませましょう」
「OK Boss」

==============================

今回はここまでです>>523-1000
続きは折を見て。
534 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:17:14.48 ID:kTOh43GI0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>533

ーーーーーーーー

「楽しんでいただけましたか?」

魔法世界、メガロメセンブリアの高級ホテルのホールで、
照明が復帰する中でゲーデル総督が鹿目まどかに声をかけた。

「は、はい」

まどかは、ようやく気が付いたと言う状態でゲーデルの問いかけに応じる。

「それでは、ゲートの、旧世界への帰還の準備を行います。
準備中はこちらで部屋を用意しました。
何日もかかると言う事にはならないと思いますが、
刹那と共に寛いで待っていて下さい。
今なら個室風呂も使えますが、いかがですか?」

「えーと………」
「到着まで割と長かったですし、
折角ですからいただきましょう」
「はい」

ちらっとまどかが視線を送った桜咲刹那が素直に応じ、
まどかもそれに従った。
535 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:20:19.88 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

「ウェヒヒヒ………」

うつ伏せに岩盤浴をしながら変な笑いが漏れる辺り、
疲れているのだな、と、まどかは自覚する。
案内された個室風呂はちょっとした銭湯とでも言うべき規模で、
こうして岩盤浴もオプションについていた。
取り敢えず、色々あり過ぎたが大きな怪我も無く無事帰る事が出来そうだ、
と分かって少しほっとする。
そして、隣の刹那に視線を向ける。

(………ほむらちゃんに似てる?)

まどかの知る刹那は、優しい先輩だった。
一見凛々しい女侍だが、まどかにはしばしば優しく微笑みかけて、
何故か矢鱈と危ない事に巻き込まれるまどかを安心させてくれた。
そんな刹那が、静かにその身を休めている。
端正で、クールな横顔が、時間で言えば
ごく最近まどかのクラスに転入して来た転校生を連想させる。

「そろそろですね」
「はい」

砂時計を見て、二人は身を起こした。
536 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:24:59.81 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

「ウェヒッ!」

さっと掛け湯の後の水風呂に、
まどかは声を上げながら身を震わせる心地よい落差を堪能する。
刹那も、悪い汗を搾り取った後のその身を心地よく冷やして、
水風呂を上がる所だった。

(色、白い。京都の人だからかな?)

その刹那の後を追いながら、まどかは心の中で呟く。

最近温泉を共にした近衛木乃香もそうだったが、
こうして見ると刹那も如何にも肌理の細かそうな、
絹の様に色白な肌をしていた。

グラマーと言うタイプではない、
年齢的にはむしろ小柄で、普段着では華奢にも見える刹那であるが、
それを言うならまどかも同様である上に刹那の方が一つ年上である。

そんなまどかから見た刹那は、
全体に引き締まって均整の取れた如何にも凛々しい女剣士。
それでいて、客観的にも最近ぐっと女っぽくもなった、
そんな優しく魅力的な先輩だった。

「凄かったんですね」

ちょっとした銭湯程もある個室風呂の主浴槽で、
熱めの湯に浸かりながらまどかが言った。
537 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:27:27.81 ID:kTOh43GI0

「さっきの映画で刹那さん達、
あんな風に、ネギ先生達と一緒に
この夏休みにこの魔法世界を本当に救ってたって」
「実際、否定する程間違っていない内容だったとは言え、
ああして劇的に作られると少々照れますね」
「ウェヒヒヒ」

まどかの隣で刹那が言い、双方苦笑いを交わす。

「この魔法世界に来てから、なんか随分色々VIP待遇だと思ったら」

「まあ、大半はこれが理由ですね。
鹿目さんを巻き込んでしまった状況では本当にありがたい事です。
色々助かりました」
「本当に、こっちの世界に来て刹那さんが一緒じゃなかったらって、
今考えるとぞっとします」

「まあ、ある程度知識があれば本来はそれ程怖い場所でもないんですが、
本来、魔法に関わる人間しか来る事の出来ない場所ですので」

「そう、ですね。色々あったけど、
いい人達にも会えたって、そう思います」
「ええ、そういう事です。
それは我々が普段暮らしている世界と変わりません」
538 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:30:35.28 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

「サキ、サキっ」
「ん、んー………」

目を開いた浅海サキは、早速に若葉みらいに抱き着かれていた。
頭の回転を取り戻し、周囲を確認する。
身近にいるのは若葉みらい、宇佐木里美、神那ニコ、
馴染みのある面々だが、どうも足りない。
場所は、これ又馴染みのある「アンジェリカ・ベアーズ」の一角。
そう、あの魔法使いにやられた辺り

「魔法使いっ!!」
「ちちちちょっと待って、サキ、体の調子はっ?」
「大丈夫だっ!」

ぐわっと立ち上がろうとしたサキにみらいが叫び、
サキが怒鳴り返した。

「かずみはっ!?」
「海香とカオルが連れて帰った、色々あって疲れてたからね」
「じゃあ魔法使いはどうしたっ!?」
「帰ったみたいだよ、どうやら話が付いたからね」
「は?」

ニコの返答を、サキはぽかんと聞いていた。
539 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:32:45.61 ID:kTOh43GI0

「彼女達には「レイトウコ」を見せた、

基本的な事はバレてたからね。
それで、魔法少女が魔女になる事、魔女化を防ぐために、
完全な解決が出来る迄魔法少女狩りを行っている事を説明したら、
魔法使いは納得して帰って行ったよ。

これ以上危ない事には関わりたくない、
魔法少女だけの事なら魔法使いの管轄外だから勝手にしろってね。
図書館島の事だけ、これから厳しくなりそうだけど。
魔法少女の巴マミと佐倉杏子も、
縄張りの見滝原、風見野にさえ手を出さなければこれ以上口出しはしないって」

「なんだよ、人騒がせな………」

ほっと脱力しそうになったみらいが、ぎりっ、と不穏な音を聞いた。

「冗談、じゃない」
「えっ?」

サキの言葉に、みらいが聞き返した。

「あの、火文字の意味が分からないとでも言うのかっ!?
海香、カオルは何処にいるっ!?
かずみ、かずみを守らないとッ!!」

ニコは、狼狽そのものに言葉を吐き出し続けるサキと
ひんやり暗い眼光のみらいの姿を腕組みして見極めていた。
540 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:34:42.36 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

あすなろ市内のスーパー銭湯、
閉店時間が比較的遅いその施設のシャワーコーナーで、
佐倉愛衣と明石裕奈はシャワーを浴びていた。
二人がさっぱりとして振り返った所で、
タオル一本下げた御崎海香、牧カオルと遭遇する。

「来てくれたんだね」
「赤外線用のインクで書き込まれたアドレスと時刻。
それに付き合わざるを得ない理由もあったから」

裕奈の言葉に、頷くカオルの隣で海香が言った。
そこで、シャワーを離れた四人は、
まずは互いの持ち物を確認する。
タオルの他は、パクティオーカードまたはソウルジェムだけ。
取り敢えず、相手の戦闘開始には対応出来る事を双方確認する。

「それじゃあ、次の即売会向けの企画、聞かせてもらおっか」

浴室内の混雑は既にピークを大幅に過ぎていたが、
裕奈がチラと周囲に視線を走らせて言い、一同が小さく頷いた。

ーーーーーーーー

「取り敢えず、先程の博物館で私達とは決着した、
とは思っていないですよね?」

丁度無人だったサウナに愛衣、海香等四人が移動し、愛衣が口火を切った。

「佐倉さん、私の見る限り、
魔法少女の真実に対してあなたはかなり冷静だった。
知っていたの?」
「直接は知りません」

海香の問いに、愛衣が答える。
541 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:37:54.07 ID:kTOh43GI0

「見当は付きました」
「魔法少女が魔女になるって?」
「ですから、直接は知らなくても、
十分考えられる事態であると」

カオルの問いに、愛衣は答える。

「やっぱり、落ち着いてるな」
「それが、魔法の歴史ですから」

カオルの言葉に、愛衣は落ち着いた口調で続ける。

「魔法使いにはどう見えるのか、
忌憚のない所を聞かせてもらえるかしら?」

海香が尋ねた。

「私個人の意見で、魔法協会を代表するものではありませんが」
「聞かせて」

重ねて問うカオルに、愛衣は頷いた。
542 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:47:11.55 ID:kTOh43GI0

「メフィストフェレス」

愛衣の第一声に、海香は薄い笑みを浮かべる。

「キュゥべえが何者であれ、魔法少女の様な契約は悪魔の契約。
立場、経験上、私達はその事に現実感、リアリティを持っています」

「後からよく考えたらそうかも知れないけど、
事前に知らないで今迄の常識と言うか科学を
目の前で否定されたら引っかかるかもね」

「それで、見た目と声が反則ってのがね」

愛衣の言葉に裕奈が腕組みして言い、カオルが付け加えた。

「その様な都合のいい、絶対的な程の奇跡を売り歩く者がいたら、
間違いなく途方もない代償を支払う事になる。
まず、途方もない欲望を満たす術がある事はある、
但し、その契約は基本、身を滅ぼす。
稀代の術師であっても、捻じ曲げられ何倍もの力で戻って来る
条理の反動をまず避けられない、と言う事を前提にそう考えます。
情において忍びない事は多いと思います。
それでも、契約をして報酬を得ながらその代償を踏み倒そうとする事自体、
限界の中で少しずつでも進もうとする立場からは
随分と虫のいい話にも見えます」

「理屈、通りね」

「その様な契約が通常になった魔法少女の世界と
私達の世界がいつしか不干渉になったのも、
そのリスクと、それでも引き付けられる人の心に
直面し続けて来た結果なのかも知れない。
私は人の手で、少しでもよりよい事をしようと、
そのために、私は勉強を、修行を重ねて来ました」

「日本だけではないわね。
アメリカにもそうした所が?」
「あちらの魔法学校にも留学した事があります」
「あるんだ」

愛衣の返答に、カオルが愛衣を見直す。
543 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:50:21.88 ID:kTOh43GI0

「そ、この娘、メイちゃん、私よりも年下だけど魔法使いの先輩で、
魔法協会のエリート候補生だから
あんまり甘くみない方がいいよ」
「本当に頭の悪い相手よりは話が通じるのは助かる、
例え敵になったとしても」

裕奈の言葉に、海香は静かな微笑みと共に答えた。

「私達が学んで来たのは、先人達の失敗の歴史です。
欲望に溺れ力を欲し、一時の契約でその身を滅ぼした者、
耐えられない悲しみ、喪失感を諦める事が出来ず、諦めきれずに、
喪ったものを条理を超えて取り戻そうと足掻き続けた人達。
そこから、僅かな勇気を僅かにでも形にする事を学んで来た」

愛衣は、横に座る海香、斜め上に座るカオルを見据えた。
そして、愛衣は口を開く。






Rewrite emeth to meth






==============================

今回はここまでです>>534-1000
続きは折を見て。
544 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:21:25.94 ID:Ruj68JQ50
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>543

ーーーーーーーー

「タツヤくんお久しぶりー」
「こんにちはー」

その日の日暮れ後、鹿目家の玄関で、
腰をかがめた早乙女和子が鹿目タツヤに笑顔を向けていた。

「大きくなったねー」
「いつぶりだっけ? あっと言う間だなー」

タツヤの母親、鹿目詢子が腰に手を当ててカラカラ笑う。

ーーーーーーーー

「ごちそうさまー」
「ご馳走様でした」

あすなろ市内のビストロ「レパ・マチュカ」で、
同席した鹿目タツヤと早乙女和子がほぼ同時に挨拶をする。
三人とも評判のいいハッシュドビーフにアイスクリームも付けての食事だったが、
子ども向けにも作ってくれた料理にタツヤもご満悦だった。

ーーーーーーーー

「私まで悪いわねー」

詢子の運転する車内で、
時折チャイルドシートのタツヤとお話しながら和子が言った。

「知久は昔の友達と珍しく呑みで、まどかは学校公認の受験合宿だからな」
「ええ、色々あって予備校との合同企画のサンプル抽選に当たったから」
「仕事でもらったあすなろの地域クーポン、そろそろ有効期限なもんで」
「で、最後に一杯ひっかけて運転は私と」
545 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:23:44.54 ID:Ruj68JQ50

ーーーーーーーー

「おいおい、危ないぞ」

あすなろ市内のスーパー銭湯の脱衣所で、
脱衣も途中でたたたっと駆け出したタツヤに詢子が言う。
詢子が慌ててスカートをすっぽ抜いた時には、
タツヤはすてーんと床に伸びていた。

「うー」
「大丈夫?」

タツヤが顔を上げると、しゃがみこんだ千歳ゆまが覗き込んでいた。

「ほらほら、お姉ちゃんに笑われるぞ」
「うー」
「よしよし」

頭上に詢子の言葉を聞き流し、
唸りながら立ち上がったタツヤの頭をゆまが撫で撫でする。

「お友達かい?」
「うん」

そんなゆまに祖母が声をかけ、
ゆまはにぱっと笑って返事した。
546 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:27:31.35 ID:Ruj68JQ50

ーーーーーーーー

「Rewite emeth to meth」

スーパー銭湯の浴室で、詢子達が一風呂浴びてサウナに入ると、
丁度、四人の先客が何やら話し込んでいる所だった。

四人組は、詢子がドアを開けると、ちらとそちらを見てめいめい立ち上がる。
取り敢えず、娘のまどかと同年代かと、鹿目詢子は最初にそれを思う。

4人の少女達は詢子達とすれ違う様にサウナを後にするが、
恐らく2on2のチーム。
何処かぴりっとした緊張感を詢子は嗅ぎ取るが、
取り敢えず見た目はカタギの少女達で、
今の詢子には関わりのない事でもあった。

「ん?」

そして、サウナに入った詢子が来た道に目を向けると、
千歳ゆまがベンチによじ登っている所だった。

「おい………」

次の瞬間、詢子は、火のついた様な泣き声を聞いた。

「おいっ!」

そして、大声と共に頭を抱えて床にしゃがみこんだゆまに
詢子と和子が駆け寄る。

「どうしたっ!?」
「熱い、熱いっ」
「熱いっ? 何処が?」
「お手手」

ゆまは、すすり泣きながら右手をぶらんと差し出す。
547 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:29:23.18 ID:Ruj68JQ50

「んー、火傷はしてないな、
熱いの触ってびっくりしたか?」
「うん」
「よしよし、熱い所あるから気を付けろよー」
「よしよし」

タツヤがゆまを撫で撫でするのを見て、
詢子がくくっと笑いを噛み殺す。
それを見て、ゆまもにこっと笑みを見せた。

「おばあちゃんは………」
「ゆまちゃん」

ドアが開き、ゆまの祖母が入って来る。

「ああ、いたいた、ゆまちゃん」
「ああ、すいません。タツヤにくっついて来たみたいで」

ゆまの祖母と詢子がぺこりと頭を下げる。

「さ、一緒にお風呂入ろうね」

祖母が言うが、ゆまは首を横に振る。

「サウナ入りたいのかい?」
「うん」

「困ったねぇ、一緒に入りたいけどお婆ちゃん血圧がねぇ」

「ちょっとだけここで預かりましょうか?
この娘、意外と頑固でしょう。すぐに連れて行きますので」
「そうですか、すいません。
ゆまちゃん、こっちのお母さんの言う事聞くんだよ」
「うん」

「よーし、じゃあ、タオルの上にゆっくり座るの。
木の所は熱くないからなー。
ちょっとでも気持ち悪くなったらすぐ言うんだぞ」
「うん」
548 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:31:52.46 ID:Ruj68JQ50

ーーーーーーーー

「っつぅー………」

サウナと掛け湯で芯迄火照った佐倉愛衣の全身に、
水風呂の冷たさが突き抜ける。

「………………!?!?!?」
「にゃははー、脳味噌筋肉の割には結構脂肪分詰まってるねー」

ぶるりと身を縮めてその落差の心地よさに浸る愛衣に、
背後からそーっと接近していた牧カオルに背後から抱き着き、
両掌を前に回した明石裕奈がカオルの耳元で笑っていた。

「誰がだよっ!? 大体、それを言うなら、
あたしの背中に当たってるその凶暴な弾力はなんだっ!?」
「バスケットボールかにゃー?」
「それで、どんだけ揺らしてダンクしてんだっての」
「そーなの、最近運動のジャマでー」

「呪殺するぞ即席ホルスタインっ!
うらうらハンドリングハンドリングハンドリングーッ!」
「ハンドリングのハンドだっ、反則だにゃー」

「こほん。お子様の躾と言うか、
お子様以下の事は少し控えては?」
「すいませんすいませんすいません」

一足先に水風呂を上がった御崎海香が腕組みして二人を見下ろし、
その側で愛衣がぺこぺこ頭を下げるのを、
詢子が苦笑いして手を上下させる。
549 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:34:14.22 ID:Ruj68JQ50

「よいしょっと、君達きょうだいかなー?」

水風呂を上がった裕奈が、横並びに立つタツヤとゆまに声を掛け、
ゆまが首を横に振る。

「へえー、じゃあカップルかにゃー。
いい、ああ言う大人になったら駄目だからねー」
「一人でなーに言ってんだゴラアッ!!」

裕奈の背後から怒号が響き、
体を前に倒し、二人に視線を合わせていた裕奈を
指をくわえたタツヤがじーっと見ていた。

「いーい、こうやってやるだけやって
バックれる様な大人にだけはなっちゃ駄目だからなー。
で、君、サッカーやるの?」
「さっかーさっかー」
「おー、ボールは友達」
「ともだちー」
「よしよし」

しゃがみこんでタツヤの頭を撫でるカオルを、
ゆまがじーっと見ていた。

「ふふーん、年下の男の子を上手く手懐けるにゃー」
「人聞きが悪いっ、大体、アンタがふざけた事言うからだろうが」

「人のせいにするのー? やだねーこういうお姉ちゃん。
今度一緒にバスケしようか」
「何言ってんだあんたはっ!?!?!?
よーし、いい加減決着を………」
「望む所だにゃ………」

「………反省」
「して下さい………」
「「すいませんでした」」

燃え上がる炎とゴゴゴゴゴゴゴゴと言う効果音と
黒目の消えた両目をイメージ映像に、
腕組みしてV字の横並びに立つ海香と愛衣を前に、
裕奈とカオルは深々と頭を下げる。
550 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:36:08.87 ID:Ruj68JQ50

「まあ、友達困らせるのも程々にしとけよ、
やんちゃとセクハラも、って言うか今はセクハラとか普通に駄目だから」
「ほんとーにすいませんでした」

腕組みする海香に睨まれ、タツヤとゆまにじーっと見られながら
裕奈とカオルは体を折って深々と頭を下げ続け、
手をパタパタ上下させて苦笑いする詢子に愛衣ももう一度頭を下げる。

「ほら、行くぞタツヤ」
「ゆまちゃんも、お婆ちゃんの所に行こうか」
「「はーい」」
(お姉さん、じゃないよね………)

和子と談笑しつつ子どもを連れて行く詢子を見送りながら、
愛衣は心の中で呟く。
どうも母親の友人らしい女性も年相応に落ち着いた美人の部類に入るが、
あの母親は、もしかしたら元はいわゆるヤンママ、なのかも知れない。
子連れにしては若々しくスタイルのいい、溌溂とした美人だと、
愛衣は理屈に直せばそんな事を考えて、若輩ながら感心する。

ーーーーーーーー

「言っておきますが」

浴場を歩きながら一度とんとん肩を叩き、
はあっと息を吐いた愛衣が口を開く。

「さっきも言った筈ですが、もしここで私に何かがあれば、
確定的に困った事になるのはあなた達の方ですので」
「う、うん、まあ、
ちょっとした気の迷いって言うか、すいませんでした」

愛衣の言葉に、カオルは後頭部を掻いて笑って謝る。
551 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:39:00.21 ID:Ruj68JQ50

「ま、メイちゃんの背中は私が任されてるんで」
「だな」
「いい人ですね」

何故か裕奈と意気投合するカオルを見て、
愛衣が海香に声を掛ける。

「元気で友達思いで、そして本当は凄く賢い」
「そちらのパートナーも」

海香が言い、愛衣が頷く。

「カオルも、裕奈さんも。
小難しく考えてる横で、何が本当に大事なのかが
直感で分かるんでしょうね。
そして、それを貫く意思を持っている。
根性って言ってもいい」
「はい」
「じゃあ」

少し先を歩いていた裕奈が振り返って口を開いた。

「今度作るゲームの事、少し詰めようか」

==============================

今回はここまでです>>544-1000
続きは折を見て。
552 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/03(土) 03:10:11.77 ID:4xYS9yiD0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>551

ーーーーーーーー

「………」

あすなろ市内のスーパー銭湯フードコートの小上がりで、
ソフトクリーム片手に祖母の下に向かっていた千歳ゆまが
ふと視線を感じて振り返る。

「駄目だぞタツヤー、
さっき食べただろ、お腹ゴロゴロになるからなー」
「はいタツヤ君、たこ焼きフーフーするよ」

母親と、母親の友人の和子お     姉さんに呼び戻され、
鹿目タツヤがトテトテ別のテーブルに向かう。

「おいしー」
「じゃああたしも一つ。
ほらタツヤ、こっち一つ食うか? 塩とタレどっち?」
「運転しないからってあんまり飲み過ぎないでよ詢子」
「いやー、ここ飯もツマミも結構イケるって評判だからなー」

選り分けた焼鳥を見様見真似に爪楊枝で一つ頬ばっていたタツヤが、
もう一つ、タレ焼鳥をぷすりと刺して歩き出す。
553 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/03(土) 03:11:42.28 ID:4xYS9yiD0

「食べるー?」

すっと目の前に差し出されて、ゆまは目をぱちくりさせる。

「………」

くっくっ苦笑いする詢子の横で、和子は、
そう言えば、三人和気藹々なこちらをやけに見ていたなあの娘、
と、ふと思い返す。

「ええと………」

きょろきょろ見回したゆまは、祖母と詢子が笑って頭を下げるのを見て、
ぱくりと口に入れた。

「美味しい、有難う」
「ありがとー」
「どういたしましてだろー、
うちののプレゼント貰ってくれてどうもー」

カラカラ笑う詢子に、ゆまもにっこり笑って応じていた。

ーーーーーーーー

「頼む」

女湯の浴場で薬湯に浸かりながら、牧カオルは頭を下げる。

「かずみを助けて。
いや、かずみには手を出さないでくれ。この通りだ」

そんなカオルの頭が向いている先で、
佐倉愛衣は伏し目がちに首を横に振る。

「あなた達は和紗ミチルさんに救われた」

愛衣の声を聞き、カオルは顔を上げる。
554 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/03(土) 03:15:22.38 ID:4xYS9yiD0

「あなた達は和紗ミチルさんの導きで魔法少女になった。
和紗ミチルさんは明るく、優しく逞しいリーダーだった」
「あ、ああ、そうだ。ミチルはそんな、
掛け替えのないリーダー、仲間だった」

愛衣に迫る様に言うカオルの背後で、
御崎海香が僅かに眉を顰める。
もう、九割方無駄だと分かっていても、それでも、
相手の術中に飛び込んでいるカオルに対して。

「魔法少女は魔女になり、そして、
魔法少女に討たれてグリーフシードと言う形で糧となる」
「あ、ああ………」
「それでは、かずみ、とは誰なんですか?」
「かずみは、かずみだ」

厳しいぐらいに硬い愛衣の問いに、カオルは答えた。

「かずみはかずみ、
あたし達の大切な友達、大切な仲間だ。だから………」

「只、習っただけじゃない、アメリカ英語を使い慣れた日本人。
私が見たかずみさんです。

和紗ミチルさんは、アメリカに長期留学していますね。
義理の祖母の死をきっかけに帰国している。
集められるだけのサンプルで比較しても、
最新の電子的鑑定の結果では、かずみさんと和紗ミチルさんは同一人物。
少なくともその事を否定出来ない程度には外見が酷似している。

そして、昨年以前の和紗ミチルさんの周辺に、
双子の姉妹がいたと言う形跡は欠片も無い。
かずみは和紗ミチルのかずみ。記憶を喪った同一人物。
そう考えるのが一番自然です」

「そ………」
「科学しか知らない、知識でしか魔法を知らない人なら、
そういう結論を出したでしょうね」

言いかけたカオルに、愛衣は被せる様に言った。
555 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/03(土) 03:18:47.81 ID:4xYS9yiD0

「私は、かずみさんに触れています。
そして、あのレイトウコで、
説明が終わったその瞬間に立ち会っていました、
かずみさんと一緒に、魔法使いとして」

改めて、ぐっと前を見るカオルを愛衣は見返す。

「かずみさんは言っていました。
御崎海香さん、神那ニコさんは魔法分析の天才だと。
あの博物館、レイトウコを見て私は確信した。
魔法少女の魔法、未知の部分もあるけど、私達にも通じる部分もある。
高等魔法の莫大な知識を外付けして使う事が出来るあなた、御崎海香さん。
そして、科学とも融合して変化させ作り出す事が出来る神那ニコさん。
この二人の高等魔法技術を組み合わせて、私達が連想するのは」

「錬金術」

静かに言った裕奈を、主として喋っていた愛衣が振り返る。

「まあ、私は歴史と、
魔法の基になっている理論を勉強し始めたばかりだけど」

「そういう事です。伝説にカテゴライズされているものは別にして、
私達は歴史を見て来ました。
今の所は時の魔法と共に、魔法であっても一線の向こうにあるもの。
現在ではそうカテゴライズされている領域に挑んで来て、
現在に至る迄その結論を変える事が出来なかった、
極めて高度な魔法使い達が積み重ねて来たその歴史を」

その愛衣の目力は、元来気の強いカオルもたじろぎそうになるものだった。

==============================

今回はここまでです>>552-1000
続きは折を見て。
556 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:40:19.02 ID:ioJ43ves0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>555

ーーーーーーーー

「取り敢えず、刹那さんがごく最近、
このメガロメセンブリアにいた事は間違いないね」

魔法世界メガロメセンブリアのオープンカフェで、
美樹さやかが手帳片手に口にした。

「魔法のネカフェがあるとかって、
魔法世界がどんだけ普通の世界なんだって。
あの二人、このかさんと刹那さんが有名人だったから、
意外と早く絞り込めたけど」
「二人がまどかと行動を共にしていた情報も色々出て来てる。
情報の日時から言って、少なくとも桜咲刹那はこの街にいる筈………」

そう言って、ほむらはコーヒーカップに視線を落とす。
ほむらは明らかに焦っている。
さやかはその事を察していた。

「って言うか、ここまで色々調達するのに、
本格的に色々ヤバイ橋渡って来てたんだね転校生。
どう見ても普通の空港レベルな出入り口を時間停止でブッチするとか、
誰だよあんたなお下げ眼鏡の可愛い女の子について来たチンピラが
路地裏で謎のナイトにぼっこぼこにされて
情報と有り金巻き上げられる事件が続発して今に至るとか」

「可愛い女の子だと誰だとあんたは、になるのかしら?」
「少なくとも性格は。見た目は可愛いってより美人だし」

コーヒーカップを持ち上げてフリーズしているほむらを、
さやかはニシシと見ていた。
そんな二人いるテーブルに、とん、と手が置かれる。
557 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:43:09.58 ID:ioJ43ves0

「?」

ほむらとさやかが見た相手は若い女性。
後ろから見ると民族衣装風の被り物が長く垂れているが、
二人の目は、ずれたサングラスの向こうに見えるキツネ目と、
大胆に切れ込んだワンピースから
半ばはみ出したたわわな膨らみに吸い寄せられていた。

「尋ね人かなお嬢さん達?」

ーーーーーーーー

裕奈がついっと目で促し、魔法使い二人、魔法少女二人は
スーパー銭湯女湯の薬湯を上がって浴場の中を移動した。
一般的には大体美少女、と言ってもいい四人の少女が泡風呂に沈む。
四人は四角く深いタイプの、発泡音波刺激タイプの泡風呂に身を沈め、
所属ごとの2on2で向かい合う位置を取る。

「魔法協会は………」

海香が、伏せていた目を上げて口を開く。

「魔法協会は、一体どうするつもり?」

「私が知る限りの事が協会の耳に入れば、
私の推測では十中八九、関東どころか日本の魔法使いの総力を挙げてでも
あなた達は完全に無力化される」

「それじゃあ、かずみは………」

カオルは、湯に浸かりながらも青い顔で問う。

「率直に言って未知の領域、確実な予測は出来ません。
しかし、一つだけはっきりしているのは、
公共の福祉、そのための自然秩序を踏まえた対処をする事になると」
「待ってくれっ!」

湯を割って、カオルがざっと前に動く。
558 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:46:18.38 ID:ioJ43ves0

「待ってくれ、メイ、あんたも見ただろう、かずみに会ったんだろう?
かずみは、かずみは生きてるんだ、かずみはかずみなんだ。
大丈夫、大丈夫だ、かずみは大丈夫だ、
今回は上手く行ってるんだっ!」

「今回は?」

愛衣がぽつりと漏らした言葉に、
縋り付かんとしていたカオルが動きを止めた。

「今回は、ですか?」

いい加減のぼせを考えるぐらいに湯の中にあって、
明石裕奈は冷たい戦慄を覚えていた。

「どういう心算ですか?
一体、何様の心算なんですか?」

佐倉愛衣はサラマンダーを使役する火炎の魔法使いである。
だが今、前に出ようとする裕奈を腕で制して
体の芯から静かな声を発する愛衣がこの湯壺に齎しているのは、
絶対零度の戦慄だった。

ーーーーーーーー

「ちょっ!?」

メガロメセンブリアのオープンカフェで、
話を聞いて立ち上がるや走り出したほむらを、
支払いを済ませたさやかが追い駆ける。

「転校生、急ぎ過ぎっ………」
「………何故、気づかなかった………」

走りながら、ほむらは苦い声を発していた。
559 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:49:10.72 ID:ioJ43ves0

ーーーーーーーー

ざばっ、と、愛衣が立ち上がる。
そして、つかつかと移動し、掛け湯を浴びて水風呂にずぶんと身を沈める。
愛衣が戻って来るのに合わせる様に、他の三人も泡風呂を上がると、
丁度空いていたメイン浴槽で四人が合流した。

「ってる………分かっ、てる」

熱めの湯に浸かりながら、やや落ち着いたとは言え佐倉愛衣から
突き刺さる様な視線を向けられていた牧カオルが、伏せていた顔を上げた。

「分かってる。あたし達は何を言われようが文句の言えた筋合いじゃない、
そんな事は分かってる。
だけど、かずみは………かずみはかずみなんだ。
見ただろう、メイだって、優秀な魔法使いなら分かった筈だ。
かずみは生きている、だけど、まだあたし達がいないと、
だからきっと、きっとあたし達がかずみを………」

愛衣は、愛衣の両肩を掴もうとするカオルからざっと身を交わす。
最早、サスペンスであれば手近な鈍器が降って来る流れだった。

「メイ………」

つんのめった湯面から顔を上げ、
更に縋り付こうとするカオルの両肩を掴んだのは、裕奈だった。
その側で、愛衣は顔を伏せている。

「メイちゃんは優しい娘で、
佐倉愛衣先輩は真面目な魔法使いなんだ。
これ以上苦しめるって言うなら、
不肖の後輩が今すぐ黙らせる」

そして、裕奈が次に見たのは海香だった。
560 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:52:30.92 ID:ioJ43ves0

「私達の口を塞いで、ちょっとでも稼いだ時間の間に
かずみちゃんと姿を消す」

そう告げて睨み付ける裕奈を、海香は静かに見据える。

「そんな事を考えてるんだったら、
あんたらがどうにか出来るのは一人だけ。
例え、刺し違える事になったとしてもね」

裕奈の手が緩み、カオルがゆっくりと距離を取る。

「だから、教えてくれないかな。
あの日、図書館島で何があったのか」
「えっ?」

裕奈の言葉を、カオルが聞き返した。

「あの日、あのタイミングにあんた達が只、
本を探しに来たなんて信じられる訳がない。
元々、本題はそっちの方だからね。
これは本来私の仕事、メイちゃんは監督役だから。
元々、魔法使いは魔法少女には不干渉。
魔法少女しか関わっていない、って事なら深く詮索するのは面倒くさい。
そう考えてわざわざ報告書には書き込まない。
そんないい加減で半人前以下の魔法使いがいるかも知れない」

「ゆーな………」

近づこうとしたカオルを、裕奈は睨み付ける。

「半人前でも、流石に手ぶらで帰るって訳にはいかない。
手土産ぐらい持たせてくれないかな?」

そう言った裕奈が、からりとガラス戸が開く気配に目を向ける。
561 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:54:37.96 ID:ioJ43ves0

「あら」
「ありゃ」

声を出したのは、巴マミと明石裕奈だった。

「珍しい取り合わせだな」

マミの背後で杏子が言った。
その間に、メイン浴槽の面々は湯を上がってマミ達に接近する。

「そっちこそ、一緒に温泉とか来るんだ?」
「お仕事の帰り」

裕奈の言葉に、杏子がはあっと嘆息して言った。

「あれから魔女に出くわしてさ、
あたしは縄張り荒らしは御免だって言ったんだけど、
リアルタイムで死人出そうだったからこっちのマミ先輩がどうしてもってね。
どうする? 一戦交える?」

「遠慮しとく、今夜は疲れてるし面倒は御免って事にしておくわ」
「そりゃどーも」

海香の回答に、杏子が鼻で笑った。

「で、食いモンも旨いってから付いて来たんだけど、
密会って事でいいのかこれ?」
「そんな所ですね。図書館島がどれぐらい浸食されたのか、
少々短気な人達抜きで穏便にお話を」
「へーへー、それで不意打ち防止に
ソウルジェム一つの真っ裸で密談ね、用心深いこって」

真面目な顔でつらっと言う愛衣に杏子が言う。
562 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:02:50.84 ID:ioJ43ves0

「入りましょう、あちらにはあちらの都合があるんでしょう」
「そうさせてもらうか」

そう言って、マミは手近なジェットバスに入る。
手すりに腕を絡めてジェットを背中に当て、
マミは身を反らせてご満悦にんーっと唸る。

「おー、気持ちよさそう」

マミと杏子と裕奈が三連のジェットバスを堪能している間、
魔法使い一人とあすなろの魔法少女二人は
気泡超音波風呂で体を温める。
そうしながら、愛衣の視線は出入り口とは別のガラス戸をとらえていた。

ーーーーーーーー

「錬金術」

マミと杏子が裕奈と分かれ、メイン浴槽で本格的に体を温めていた頃。
涼しくなり始めた夜風に吹かれ、敷地内露天風呂に浸かりながら、
海香とカオルを見据えた愛衣が口を開いた。

「あなた達は錬金術を含む高度な儀式魔法を使いますね。
空間や封印の高度な儀式魔法を使う事が出来る。
ゲートを動かしたのは、あなた達ですね?」

「報酬は図書館島よ」

口を開いたのは、御崎海香だった。

「彼女は、前もって用意していたメモと
強力な魔除け札を装備して私達の前に現れた。
ええ、私達は一時期このあすなろ市を結界化して、
魔法少女契約を売り歩くキュゥべえを人の意識から排除して、
独自に開発したソウルジェムの浄化システムを使っていた」
563 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:05:30.80 ID:ioJ43ves0

「改めて、デタラメな魔法の規模。
あなた達は間違いなく儀式魔法を、
恐らくは外付けの膨大な魔法知識から欲した事を検索し、
表示されたやり方を成功させる程度には使いこなしている」

「ええ、それで合ってるわ。
もちろん色々研鑽はしたけど多くは私の固有魔法。
そんな箱庭に現れた彼女は、
既に私達ですら存在の認識を失っていた特殊システムを精査して、
その欠陥を教えてくれた。
その事が無かったら、私達は見せかけの浄化に騙されて、
とっくに全員魔女になって破綻していた」

「お陰で、かつての魔法少女を殺して
グリーフシードを得てソウルジェムを浄化する。
元の木阿弥で共食い生活に戻った訳ではあるけど、
こちらで作った画期的システムのつもりの欠陥に気付かずに、
解決したつもりがいつの間にか魔女になっていた、
なんて結果よりはマシだったかな」

「何を………」

海香に続くカオルの言葉に、
口を挟もうとした裕奈を愛衣が制する。

「彼女の提案、要求は、本来であれば私達のポリシーに反していた」
「ああ、ミチルが悔いた事を、更に付け加える。
その事に加担しようって話だったからな」
「だけど、図書館島へのアクセス権が魅力的だったのも確か。
犠牲によらないソウルジェムの浄化システムを確立する事、
そして、黄金よりも遥かに尊いものを生み出し、完成させるために」

ぐっと睨む愛衣に、海香とカオルは小さく頷いた。
564 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:10:02.59 ID:ioJ43ves0

「だけど、それ以上に、惹かれたのよ。
彼女は、そもそも私達が図書館島を欲したその気持ちを理解してくれた。
ゲートの分析、それ以前にあそこに到達する迄は
決して平坦な道のりではなかった。
それでも私達は、求められた通りにあの日、あの時に
求められた条件でゲートを発動させた。
それは、私達がそれをしたい、と思ったから」

「それは、理解してくれたから?」

裕奈の問いに、カオルが小さく頷く。

「私は彼女であり、彼女は私だった。
理不尽なシステムに奪われたなら奪い返し、
命を懸けて守り抜く。
決して退かず、諦める事無くそれをやり通したいと
心の底から願い、実行する。
決して引かない、引けない思いと行動。
苦しい、悔しい涙と熱い思い、戦い取り戻し守り抜く鉄の意志。
その全てに揺ぎ無く誠実であり、
名も良心も、そして元より自らの命も惜しまぬ者」

こちらを見据える海香の顔を見ながら、
ごくりを喉を鳴らした明石裕奈の顔からは
すーっと血の気が引いて行った。
565 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:11:48.42 ID:ioJ43ves0

ーーーーーーーー

「有難うございます」

桜咲刹那に緑茶の湯飲みを渡され、
ぺこりと頭を下げる鹿目まどかに刹那は優しく微笑んだ。
準備が整う迄と言う事で用意されたホテルのツインルームで、
まどかと刹那はツインのベッドに腰かけながらの一時を過ごしていた。

「あの話には、少々続きがあります」

刹那が口を開き、まどかは、
刹那に合わせる様にサイドテーブルに湯飲みを置いた。

「不老不死、と言うものをご存知ですか?」
「不老不死?」

聞いた事がある、と言うか恐らく知識はある筈だがピンと来ない。
それが鹿目まどかの実感だった。
そんなまどかに、刹那はすらすらと筆を走らせた和紙を渡す。

「老人………年を取らない、死なない、ですか?」

「その通りです。あなたが映画で観たあの戦いの最中、
激しい戦いの中で必要に迫られたネギ先生は、
闇の魔法と契約し、不老不死の身となりました」

「え? あの?」

二人はツインのベッドに座っていたが、
やはり認識が追い付かないまどかが目をぱちぱちさせて刹那を見て、
刹那は静かに微笑みを返した。
566 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:13:15.58 ID:ioJ43ves0

「だから、年を取らない、死なない、です。
実際には許容量を超えたダメージで死ぬ事もあるらしいですが、
大概の事では死にませんし、
多くの場合死の原因となる老いとも無縁の身となりました」

「えー、と、それってとっても、凄い、って言うか」

「ええ、古今東西の英雄、権力者の中には
その全てを懸けてでも欲した者もいます。
莫大な富と権力を得ながら、だからこそ、
それを永劫のものとしようとして、只一つままならぬ最期の時を恐れ、
見果てぬ夢を前に力尽きた者達が」

「でも………」

まどかが下を向いて呟いた。

「それを、不老不死になる、って、私は嫌だ」
「ええ、私もです」

まどかの言葉に応じて、刹那は優しく微笑みかけた。

「じゃあ、ネギ先生は?」

「ええ、それは、世界を救うためにやむを得ない事だった、と、
ネギ先生はそう覚悟を決めています。
ですから、ネギ先生はこれからもずっと、
私達教え子もその他の家族、知人も皆、
年老いて最期の時を迎えるのを子どもの身のままで見守る事となります」

刹那の言葉に、まどかは両手で口を塞ぐ。
そして、刹那に渡されたハンカチを目に当てた。
567 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:14:59.56 ID:ioJ43ves0

「そんなのって………」

「ええ、人の身として、それは本来とても辛い事です。
ネギ先生の様に、大勢の人達から慕われているなら尚の事、
その人達全てと別れても尚、生き続けなければいけない。
その事がずっと続くのですから。
しかし、ネギ先生はそれを受け容れて今、
二つの世界を救う為に奔走しています。
その計画の遠大さと障害の大きさを考えるならば、
魔法世界の英雄、王族の血筋であり、
自身天才的と言ってもいい才能を持つ
ネギ先生程の人物が不老不死でもなければ実現出来ない。
その事も又、辛い現実です」

「そう、ですか………」

淡々と言う刹那の言葉に、まどかはハンカチを握り、下を向く。
その静かな言葉に込められたものが、まどかにも伝わって来る。
恐らくこの人、このクールで優しい先輩も、泣いたのだろうと。

「この魔法世界、正確にはメガロメセンブリアのエリアを除いた大部分は、
火星を依代にした一種のエネルギー体、
その話は映画にも出て来ましたね」

「は、はい、確かそんな話が………」

「つまり、れっきとした生きている人間、或いは動物も草木も生きていて、
建物も何もかもが実在していながら、
それらは全て魔力から生じた言ってみればホログラム、
立体映像に魂が宿ってこの世界での物体としての存在を維持している。
そういう存在です」

「ホログラム、ですか? でも………
でも、みんな、そんな事分からないって言うか、
私も熊のぬいぐるみのおばさんとか、何人か会ったけど、
でも、みんな生きてて、心があって」

「その通りです」

一つ一つ言葉を組み立てるまどかに、刹那はふっと微笑んだ。
568 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:16:52.55 ID:ioJ43ves0

「その通りです。魔法世界に生きている者は誰も、
この世界で心を持ち生きて生活しています」

「ですよね」

「ですけど、その核となる魔力の枯渇により、
魔法世界の人々は、人々も動物も草木も建物も何もかも、
その世界そのものが消滅の危機を迎えた。
その解決策を巡る争いこそが、
夏休みに起きた私達、ネギ先生初め私達が戦った事件の本質です」

「消え、る、解決策………はい、確か、そんな映画だったと」

「ええ。まあ、元々通常の漫画の単行本に換算しても16巻程になる物語に
その背景事情等々を加えたものを総集編として
一本の映画に落とし込んだ力技でしたので、
一度に理解するのは難しいと言うのは理解できます」

「ウェヒヒヒ………」

「色々ありまして、この魔法世界の現実的滅亡を回避し、
魔法世界の土台となっている火星の現実世界のサイドを
緑溢れる惑星へと開発する事で、火星に宿る生命力、
そこから供給される魔力を育てて魔法世界を安定させる。
それが、ネギ先生が示した解決策です」

「火星、ですか? 確か火星って………」

「ええ、今の所、水や大気が辛うじて存在する程度の惑星ですが、
全世界の規模で対応すれば、
我々の世界の様な生きた世界を作り上げる事も理論上は不可能ではない。
ですから、そのとてつもなく遠大なプロジェクトの核となるためにも、
ネギ先生は不老不死となり完成を見届ける迄尽力する、
そういう事になりました」

「そう、ですか………」
「しかし、それだけでは間に合いません」
「間に合わない?」
569 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:18:34.80 ID:ioJ43ves0

「ええ、普通に考えても、火星が緑の惑星になるためには
とてつもない資金と労力、そして、時間がかかります。
あらゆる力を用いて縮めるにしても限度がある。
そして、計算上、どんなに早く計画が遂行されたとしても、
魔法世界の滅亡に追い付く事はあり得ない。
例え私達の全世界の総力を挙げたとしても、
計画が実現する前に魔法世界は滅亡します」

「それ、って、それじゃあこの世界は、ネギ先生が不老不死にっ」
「ええ、ですから、もう一人いるのです」
「もう一人?」
「神楽坂明日菜さん」

まどかの目を見て告げた刹那の言葉に、
まどかはちょっと記憶を辿る。
そう、自分も新・オスティアのパーティーで出会った快活な先輩。
あの時も、写真で見た時も、
それだけでも分かる木乃香の、そして刹那の親友に違いない人。
そして、さっき迄観ていた映画にも、確かにその人は登場していた。
それも、極めて重要なポジションだった筈。

「このかお嬢様と神楽坂明日菜さん、そしてネギ先生、
この三人がルームメイトだった事はお話ししましたね?」
「はい」

「幼稚園以来のエスカレーター組も多い麻帆良学園で、
アスナさんは小学校の途中からあの学園に転入しました。
最初はひどく不愛想で、本人はがさつな乱暴者だと言っていますが、
何時しか溌溂とした、体力自慢の元気な少女に成長したアスナさんは
クラスの中でも慕われる存在となりました。
特に、クラス委員長の雪広さんやこのかお嬢様とは、
出会った時からの親友として深い友情で結ばれています。
そして、昨年ネギ先生がこの学校を訪れた時、
最初に深く関わったアスナさん、このかお嬢様と
行き掛りで同居する事が決まり、お二人は丸で弟の様にネギ先生を愛しみ、
ネギ先生も二人の事をよきお姉さんとして慕っています」
570 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:20:16.03 ID:ioJ43ves0

まどかは、刹那の懐かし気な横顔を見る。
そう、まどかがパーティーで出会った時も、
あの可愛らしい、そして精悍な男の子、ネギ・スプリングフィールド。
そのネギと明日菜の関係は実に気楽な、
僅かな時間会っただけのまどかにも、仲の良い姉弟の様、
と言う刹那の言葉の真実がよく分かるものだった。

「本来は秘密である筈が、アスナさんにはネギ先生があの学校に来て即日に
ネギ先生が魔法使いだと言う事が発覚したと、
今思えば背筋が寒くなる笑い話です。

それからは、様々な魔法のトラブルに於いても、
アスナさんはネギ先生の最良のパートナーとなり、
アスナさんがネギ先生の背中を守り、
時に真面目過ぎるネギ先生を一喝しながらも
ネギ先生とアスナさんは深い信頼関係を結んで
様々なトラブルの解決にも尽力して来た。

アスナさんは、身寄りのない孤児でした。
知り合いの関係で麻帆良学園の学園長の保護下に入り、学園に入学した。
学園長からは構わないと言われながらも、
アスナさんは早くから新聞配達で少しでも学費を稼ぎ、
そうしながら出会った様々な人達と、幸せな学園生活を送っていました」

そう聞くだけでも、贅沢ではないが
苦労知らずでのんびり育って来たまどかは
あの快活な明日菜に畏敬を覚えてしまう。

「そんなアスナさんの過去は、先程の映画でも語られました」
「は、はい」

刹那の言葉に、まどかが記憶を辿る。
571 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:21:35.88 ID:ioJ43ves0

「アス、ナ………あれ? アスナ、って、お姫様………」

「はい。アスナさんは、黄昏の姫君、そう呼ばれていた魔法世界の姫君でした。
魔法世界の中でも極めて希少な能力を持つ血筋である故に、
その人格は実質封じられ、戦争に於ける兵器として利用されて来た。
ええ、利用されて来たんです。

子どもの姿のままの百年余りを経て、そんなアスナさんを救出したのが
ネギ先生の父、ナギ・スプリングフィールド、
加えて、このかお嬢様の父上、当時の青山詠春氏を含む一団「紅の翼」でした。

「紅の翼」に救出されたアスナさんは、魔法に関わる記憶を封印され、
一人の普通の女の子として麻帆良学園に入学しました。

しかし、再びの魔法世界でのトラブル、
それが一時的な戦争と言ってもいい規模に及び、
その中に巻き込まれて敵方の術式の核として利用される事となったアスナさんは
かつての記憶を取り戻し、そして、ネギ先生と共に
その素質を復活させて、魔法の世界を、救いました。
それが、あの映画で描かれていた事です」

「あ、あの、ウェヒヒヒ、ちょっとなんと言うか」
「ええ、付いて行けませんよね。
本人もそう言っていましたし私等も、はい」

「は、はい。なんと言うのか凄い人なんだなと」
「はい、凄い人であり、そして、本来であれば魔法の世界の中でも
とてもとても偉い、到底私等が近づく事等………
ああ、いけませんね。又怒られて、しまいます」

「刹那さん?」

はたと下を向いた刹那にまどかが声を掛け、
刹那は、その呼びかけに優しい微笑みで応じた。
572 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:23:03.83 ID:ioJ43ves0

「いえ、少々長いお話でしたので。
アスナさんは、ネギ先生と共に、この夏休みに発生した
魔法世界の滅亡危機を回避する事には成功しました。
しかし、魔法世界を支える魔力の枯渇により、
遠からぬ未来に魔法世界が滅亡する事に変わりはない。
それを回避するために、不老不死の身となったネギ先生は
魔法世界の依代である火星の開発に着手していますが、
時間が足りません、百年程」

「百年、ですか」

聞き返すまどかに、刹那が頷いた。

「正確には百年そのものではありませんが、
他に手を打たないとその間に滅亡は訪れる。
その足りない百年の時間、
魔法世界を維持するための礎となるのがアスナさんです」

「礎?」

「はい。魔法世界の姫君で特別な素質の血筋であるアスナさんが礎となり、
魔法世界の崩壊を遅らせる大規模な儀式魔法の中核となって
百年間の眠りに就く。
その事により百年の時間が稼げる。そういう計算なのだそうです。
実際に、あの映画でも描かれていた通り、
アスナさんはその血筋と修行によって、魔法世界の存在そのものを左右する
非常に特殊で強力な魔法を用いた事もあります」

「あの、百年の眠りって、それって………」

「おおよそ文字通りの意味です。
アスナさんは百年間俗世から切り離され、封印されます。
封印されて眠りに就き、その間に、
それまで培って来た人格、記憶も全て失って目覚める。
そう予測されています」

落ち着いた口調の刹那の説明を、
まどかはきょとんと聞いていた。
573 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:24:29.64 ID:ioJ43ves0

「詰まりは浦島太郎ですね。
ですけど、浦島太郎の場合は竜宮城に行く前の記憶があります。
しかし、目覚めるアスナさんはその記憶すら失っています。
果たしてどちらが幸せなのか」

「幸せ、って、そんな、そんなのってないよっ!」

最後に自嘲めいた笑みを聞き、まどかは叫んでいた。

「だって、だってあんな、アスナさんあんなに、
みんなと一緒に、あんな、笑って………」

多分、さやかであれば
もっとストレートに感情を発露して表現していたのだろう。
それが出来ない自分がもどかしくも、
まどかは、それでも、例え無駄でも、必死に伝えようとしていた。

「そうです」

まどかを見据える刹那の眼差しは、真摯だった。

「アスナさんは、幸せでした。
魔法世界の姫君として、只兵器として使われるばかりの百年を経て、
その記憶を封印して、麻帆良学園で一人の女の子としての人生を送っていた。
お嬢様や委員長さん、心の通じる親友や尊敬出来る高畑先生達と、
元気に、年相応の恋に悩み、そんな日々を送っていました。
そんなアスナさんがネギ先生と知り合い、魔法を知り、
ネギ先生の日本で最も身近なお姉さん、公私に渡るパートナーとして、
時に命懸けの戦いとなってもネギ先生や他の皆と共に先頭に立ち、
目の前で大事な人のために戦いを選んだ。
その中には、私も含まれていました。
アスナさんはお嬢様の、そして、私の、掛け替えのない友です」

「刹那さん」

既にして、先程辛うじてまどかの中で
ファイティングに沸騰していた気持ちは半ば以上萎えていた。
それは、刹那の言葉だから。
刹那がそう言うのであれば、本当の事であり、仕方がない事なのだろう。
刹那の言葉には、そう思わせるだけの誠実さがある。
574 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:26:32.08 ID:ioJ43ves0

「そんな、アスナさんだから、自らのルーツ、故郷、
そして、そこで出会った人々、自分を助けてくれた、
そのために命を懸けた人々、そうである人、
そうでない人達が生きる世界のために、自らの犠牲を選んだのです。
今迄出会い、共に歩んで来た人達との未来を失い、培って来た思い出を失い、
目覚めた時にはネギ先生以外の知り合いの誰もがその天寿を全うした後。
そうなったとしても、アスナさんはその道を、選ばれました」

「そんな………」

ふうっと息を吐き、説明を終えた刹那に、まどかが呟く。

「んな………そんなの、ってないよ………
あんまり、だよ………」
「ええ」

まどかの呟きに、刹那が反応した。
その刹那の呟きに、まどかは真実を見る。
決して、高潔な犠牲を是とする侍、
ではない一人の親友の、女の子の姿。

「どうにか………なんとか、出来ないんですか?」

まどかに問われた刹那は、小さく首を横に振る。

「アスナさんの性格上、魔法世界の滅亡を、
世界丸ごとに等しい人々の消滅を看過する、
と言う事はまずあり得ません。
問題は、魔法世界を支えるための莫大な魔力です。
一つの惑星の生命力に匹敵するだけの生命力が作り出す魔力。
火星に、魔法世界を維持できるだけの生命が定着する迄の百年の時間、
それを埋め合わせるだけの莫大の魔力、これが無ければどうにもなりません」

「惑星に匹敵する巨大な魔力、百年間、維持出来るだけの魔力」

真顔で、真摯に説明する刹那の言葉をまどかは繰り返す。

「ええ。しかし、そんな事は不可能です。
そんな魔力も生命力も存在しない、
そんなものを他で用意する事は不可能ですね」

そして、桜咲刹那は静かに微笑む。
575 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:29:12.31 ID:ioJ43ves0
















神様でも









ない限り
















576 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:30:32.64 ID:ioJ43ves0

==============================

今回はここまでです>>556-1000
続きは折を見て。
577 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:35:02.10 ID:eutMDHso0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>576

ーーーーーーーー

「あら」

スーパー銭湯のジェットバスで、
隣のコーナーに脚から入る明石裕奈を見て巴マミが声を上げる。

「又会ったね」
「ええ、話は付いたのかしら?」

泡の中にじゃぷんと体を沈める裕奈に、
マミはちょっと皮肉っぽく尋ねた。

「まあね。お陰さんで肩凝っちゃってさ」

そう言って苦笑いする裕奈にマミは目を細める。
マミから見て、自分の後輩にも似たタイプがいるが、
さっぱりと元気な女の子、に見えてその内心は多感で聡い。

「そうね、お仲間とか、ましてやそちらは組織。
もちろん本業の仕事もあって、
味方は有難いけど色々肩が凝る事も多いわよね」

裕奈に合わせる様にマミも手すりを握って、
噴射に当てた背を伸ばしながら一声唸り声を上げる。
そんなマミの横で、裕奈は舟を漕ぐ様に目を閉じて
かくんと下を向いていた。
そして、くくっ、と笑い声を漏らす。
578 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:41:44.28 ID:eutMDHso0

「くくっ、くっ、あはは………」

そして、いきなり水面から胸を浮かべる勢いでそっくり返り、
天を仰いで大笑いを始めた裕奈にマミはぎょっとした。

「ああ、ごめんごめん、ちょっとくすぐったくて、
お騒がせしましたー」
「そ、そう」

目が点になったマミの横で、
まだくすくす笑っている裕奈がばしゃばしゃと顔を洗った。

「ふふふ………ホンモノは違うねぇ」

ーーーーーーーー

「………大丈夫?」

敷地内露天風呂に丁度三つあった石窯風呂の一つで、
熱めの湯に浸かりながら牧カオルが尋ねる。

「今の所健康面に問題なし、
事によっては引きずり出すから準備して」
「ラジャー」

カオルの右隣りの石窯風呂に浸かった御崎海香と
牧カオルが大真面目に会話を交わす。
海香の右隣の石窯風呂では、佐倉愛衣はぽけーっと天を仰いでいた。
愛衣は、ぱんっ、と、両手で顔を叩き、下を向く。
そして、ばしゃっ、と顔を洗った。

「魔法少女の横紙破りプレイアデス聖団、そして………
今回も、先んじたのはあなた達、ですか」
579 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:42:52.69 ID:eutMDHso0

ーーーーーーーー

「あなたも、なかなか懲りませんね」

鹿目まどかが気づいた時には、
自分がいるホテルのツインルームの壁に小さな穴が一つ増え、
暁美ほむらの右手を右手で掴み反らした桜咲刹那の左の肘が
ほむらの腹に埋め込まれていた。

ほむらが痛覚を切る前に、刹那の指の一撃を受けたほむらの右手が
米軍制式M9拳銃を手放し、
ほむらの体はそのまま背中からベッドに叩き付けられた。

「ほむらちゃんっ!?」
「あなたの負けです、暁美ほむらさん」

魔法少女衣装の楯に伸びたほむらの右手に
刹那の長匕首の棟がぱあんと叩き付けられ、
匕首の切っ先がほむらの喉元、絶妙の距離に向けられた。

「無駄な抵抗はやめて下さい。
ここで限界を超えられると後が面倒ですから」

チラ、と、ほむらの左手を見た刹那の視線に気づき、
ほむらは全身を震わせて吊り上がった目を刹那に向けた。

「桜咲刹那、お前、知ってて、それで………」
「ほむらちゃん、っ………」
「桜咲刹那っ!!」

びっ、と、駆け寄ろうとするまどかに匕首が向けられ、
ほむらは今度こそ体勢を立て直した。

「………匕首・十六串呂」

刹那は、たっ、と飛び退いた。
と、思った時には、
ほむらのすぐ横を通り過ぎた何振りもの匕首が
ドドドドドッと壁に突き刺さっていた。
580 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:44:55.36 ID:eutMDHso0

「話は最後まで聞け。
鹿目まどかではない暁美ほむら一人、
邪魔をするなら斬り捨てる」

「白き翼の剣」がほむらに向けられ、
刹那の声は低く嘲笑的ですらあった。

「聞け」

思わず両手をベッドの上に乗せたほむらに、
瞬時に剣の柄元の刃をほむらの首に向け、
ほむらの胸倉を掴んだ刹那は覆い被せる様に言う。

「暁美ほむら、お前の負けだ。
そして、お前は決して私には勝てない。
それでも未だ目的を果たすつもりがあるなら余計な事はするな、
悪い様にはしない」

「桜咲刹那、あなたは、何を何処まで知っている?」

俗に言うメガほむ、あの頃の、吐き気がする程の恐怖が戻って来そう。
魔女、魔法少女相手に相当な修羅場を潜って来た筈、
ほむらがそう思い直しても、刹那の声音はそれだけ「本物」だった。

「魔法少女は魔女になる、これは、今から説明する話でした」
「え?」

ほむらを突き放し、立ち上がった刹那の一言に
まどかはきょとんとし、ほむらも刹那をぐっと睨み付ける。

「やはり、知っていた」

「神鳴流をなんだと思っている?
王城の地を守って来た退魔の剣。
窮兵衛と契約する魔法少女の実態等、
その歴史の中には幾らでも出て来る」

「あ、あの、刹那さん?」
「なんでしょうか?」

刹那の口調は丁寧に戻ったが、やはり、何処か事務的になった。
まどかはそう思った。
581 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:46:51.53 ID:eutMDHso0

「今、魔法少女が魔女になる、って」

「はい、魔法少女のソウルジェムが完全に濁り切ると、
ソウルジェムはグリーフシードを産み、
魔法少女は魔女になります。
こうなると元に戻す術はありませんから、
かつて希望を願った魔法少女は絶望を振りまき人を食らう祟りとして、
他の魔法少女に退治されて死ぬしかなくなる存在になります」

「ほむら、ちゃん?」

「桜咲刹那の言う事は本当よ。
嘘だと思うならキュゥべえに確かめてみればいい」

「そういう訳で、神鳴流では窮兵衛は人には過ぎた奇跡を売り歩き
人を魔性に変える禁忌の存在として、その関わりを禁じられてきました。
それは、現在では魔法の世界に於けるおおよそのコンセンサス、約束事です。
流儀によっては悪魔の契約と扱われている様ですね。
取り敢えず、まともな呪術、魔法の流儀では
窮兵衛、マギカ、魔法少女には関わらない。
長年の歴史、研究の中でそういう約束事が定着していたのですが、
先程も話した通り、今回は非常事態或いは異常事態です」

「それで、この魔法世界を救うために、桜咲刹那っ!」

「協会の内諾は得ています。
お金で済む事でしたら、非常識な程度の金額は用意します。
その上で、魔女になられては当然困りますから、
まどかさんの魔法少女としての活動は協会として全面支援します」

事務的な刹那の口調を聞き、まどかは、とさっ、と座り込む。

「騙されては駄目よまどかっ」
「騙して等いませんよ。
基本、デメリットは偽りはしなくても喋らない窮兵衛と違って、
私としては必要な情報は提供しました」
「ええ、そうね」

殺意の籠った目で刹那を見てから、ほむらはまどかに視線を向けた。
582 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:48:54.73 ID:eutMDHso0

「聞いての通りよ、まどか。
魔法世界の事は気の毒だと思うけど、元々まどかには関係の無い事、
それは魔法使いでどうにかすればいい。
それより、まどかが魔法少女になると言う事は、
何れ魔女になるリスクがあると言う事。
まどかの才能は大きい、大きすぎる。
だから、魔女になった時はとんでもない被害が出る事になる。
そうでなくても魔法少女がどれだけ危険な事かはまどかだって見て来た筈っ」

「そうですね」

ほむらの言葉に、刹那は、ふっとまどかに微笑みを向けた。

「まどかさんには関係の無い事ですね」
「そんな事、ない」

まどかは首を横に振り、ほむらは目を見開いた。

「ほんの短い間だったけど、魔法世界の人達は色々良くしてくれた。
それに、この世界の人達は、私達みたいに普通に生活して、生きてる。
もしも魔法世界が消滅したら、どれぐらいの人達が?」

「まどかっ!」

「ざっと十二億人。おおよそその人数が消滅します。

魔法世界の中でも数千万人は我々同様の肉体を持っていますから、
その人達は魔法世界と言う世界の消滅によって
通常の生物が住めない丸裸の火星に放り出される事になる。

既に魔法世界の崩壊自体は予見されている事ですから、
今のスケジュールでそれが発生した場合、
数千万人の難民が地球に押し寄せる事になる。
しかも、現状では公開されていない魔法の使用がデフォの難民集団です。

今の世界情勢を鑑みるに、その様な事が起きれば
世界大戦レベルの軍事衝突すら十分起こり得ます」

「桜咲刹那っ!」
583 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:49:55.11 ID:eutMDHso0

「私は、私が契約すれば、その人達は救えるの?
その人達のために、神楽坂明日菜さんは
ひとりぼっちにならなくても済むの? 刹那さんっ!?」

噛み付かんばかりのほむらに白き翼の剣を向けた刹那に、
まどかは強い口調で尋ねていた。

「どうですか窮兵衛?」
「十分だね」
「あ、う………」

その声を聞き、ベッドの上で動こうとしたほむらは、
剣の切っ先と、それと同じぐらいに鋭い刹那の視線に動きを止める。

「君の素質は桁違いだ、出来ない事なんてない、
万能の神にだってなれるかも知れない。
君の願いなら、魔法世界を百年維持し続ける事も十分に可能だね」
「ね、がい………」

ほむらの両手が、布団カバーをぎゅっと掴んだ。

「お願い、まどか。
お願いだから、魔法少女、魔法少女には、ならないで………」
「ほむらちゃん………」
「それが、あなたの願いですか」

刹那に静かに問われ、ほむらは顔を上げた。

「あなたは時間の魔法を使う。
そして、あなたの行動パターンには一つの目的が明確に存在している。
そこから考えるならば、あなたが今迄何をどうして来たか、
その結末がどうだったか、それを推測する事は難しくない」
「桜咲、刹那………」

歯噛みしながら刹那を殺せる程の視線を向けるほむらに、
刹那は微笑みを見せた。
584 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:53:37.99 ID:eutMDHso0

「もう、十分です」
「な、っ………」

「魔法少女の行き詰ったシステムの中、
あなたが我武者羅に突っ張って目的の為に戦い、
傷ついて来た事も容易に推測できます。
少女の一度の人生には過ぎる苦しみを味わって来た事も。
しかし、あなたには無理だ」

「………」ギリッ

「やり直しますか? 
しかし、そこに私がいたら、あなたに勝ち目はない。
スタート時点の経験が違い過ぎる。
守る者としては視野が狭すぎる。
だから、同じ標的を見ていた目にすら気づかない。

そうでなくとも、あなたの素質、あなたの今の人としての素質から言って、
何度やり直しても、むしろやり直しを繰り返す程に
脳に不確定要素が溜まり拭いきれなくなる。

私も仕事では機械を使わざるを得ませんが、
あなたの脳は過剰な経験が歯車に絡み付いて
既に最適化もクリーンアップも出来なくなっている。
魔法少女と言う困難の中で一人を守り抜く、
この目的を果たすためには、
どんなに繕ってごまかしてもあなたは………

………優し過ぎる。

もういいです、暁美ほむらさん」

「あなたに、何が………」
「後の事は、我々に任せて下さい」
「そんな、事が………」
「妨げるならその首もらい受ける迄。
私が大切なのは麻帆良で出会った仲間」

刹那は、静かな口調と共に、
改めて「白き翼の剣」の切っ先をほむらに向ける。
585 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:56:10.53 ID:eutMDHso0

「私が大切なのは、
麻帆良で出会った掛け替えのない仲間、掛け替えのない友」
「や、めて………」

震えるまどかの声を聞き、刹那は静かに切っ先を下げる。
だが、ほむらは動かない。
刹那はほむらの手の内を完全に知っている、
少なくともほむらはそう確信している。
そして、ここでほむらが僅かでも反撃の素振りを見せたなら、
その瞬間にほむらの左掌は打ち抜かれる、
それを避ける事は不可能である事も。

「勘違いしないで下さい。
何も人質を取って強要するつもりはありません。
そもそも、この窮兵衛は腐っても窮兵衛ですから、
そんな事をしたら契約の前提となる自由意志を疑われる危険があります。
只、邪魔はするな、と言っているだけです。
いいですね、暁美ほむらさん」

「まどか………分かるわよね………」

折れそうな心を叱咤し、懸命に、
刹那を睨み付けながらほむらが続けた。

「この女………桜咲刹那は、最初から、
最初からまどかを利用するつもりで私達に近づいた。
桜咲刹那と近衛木乃香は、まどかの性格を知っていて、
私達を足止めしゲートを暴走させて
この魔法世界へのまどかを連れ込んだ。
まどかの優しさに付け込んで、この世界を見せるだけで事は足りる、
そう読んでまどかの優しさを利用してっ!!!」

「三十点、否、五点も差し上げられません」

吐き捨てる様に叫んだほむらに、刹那が告げた。
586 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:57:52.41 ID:eutMDHso0

「このかお嬢様は、この件には一切関わってはいません。
皆さんを一度お誘いしたいと言うから、
こちらがそれに合わせて計画を組んだ迄です。
あの二人、美国織莉子と呉キリカが割り込まなければ
このかお嬢様をこちらに巻き込む事は無かった。
この点は、このかお嬢様を巻き込んでしまった事は
こちらにとっては完全に不都合でしかありません。
全ては協会の内諾の下で私一人が行った事です」

「あの二人とあなた達との関わりは?」

「分かっている事は、私達の邪魔をしていたと言う事だけですね。
どうやら予知能力者らしいのである程度の推測は出来ますが、
その様子だと、あなたも知っている相手の様ですね」

「多分、想像通りよ。
まどか、桜咲刹那にとっては95%以上大事な事でも、
私にとってはこの際どうでもいい事だわ。
大事なのは、まどかが利用されて、
それで大変なリスクを負わされる、
人間ですらないものにされようとしている。
それも、優しさに付け込み自由意志を名目にして
目の前に十二億人の人質を置いた卑怯な、悪辣なやり方でっ!
そんな話、乗る必要はない、断じて無いっ!!!
………どうしたのよ?」

「はい?」

「どうしたのよ? 私の言葉は、
邪魔にすら値しない、と言う事?」
587 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 04:03:32.31 ID:eutMDHso0

「まあ、先程も申し上げました通り、ここであなたに下手に手を出せば
自由意志に反する脅迫になりかねませんし。
それに、あなたが言う通りです。
ええ、既にあなたは私に負けた、
ここにいる時点で完敗が確定しているんです。
最早、今のあなたの言葉に結果を変える力は無い。
あなたはその事を一番、恐らく私よりも遥かによく知っている」

「あああ………」

絶叫と共に両手でベッドを叩いたほむらの側で、
刹那がふうっと息を吐いて、とんとんと自分の肩を叩く。

「私にとって大事なのは、
最小限のリスクでこの魔法世界が維持される事。
魔法世界が維持されない事にはアスナさんを救えない訳ですから、
私の願いはそれだけです。

そして、協会とも利害が一致している以上、
契約が成立すれば最悪の結果を免れるために全力でサポートします。
元々がどん詰まりに近い運命を背負った魔法少女。
急ごしらえに魔法を使う未熟な集団。優し過ぎる対象者。

私にとっては、私が大切な人達を救うための大事な大事な掌中の玉。
未熟者達のカオスに傷つけられず、
たった一枚のカードを変な事で切ったりされない様に監視して。
只でさえ不慣れな調略をそんな過ぎた力を持った未熟者達を相手に、
他人をその心まで監視し、誘導して目的を果たす。
そんな仕事は肩が凝るものです」

==============================

今回はここまでです>>577-1000
続きは折を見て。
588 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:09:46.25 ID:G5cVWyKb0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>587

ーーーーーーーー

ぼーやは強くなるだろう

お嬢様もお前も

まとめて奴に守ってもらうがいいさ

選べ

ーーーーーーーー

「暁美ほむら」

ベッドの上のほむらに向けて、刹那が斜めに視線を向ける。

「魔法世界を救える程の魔法少女、
魔女になればどういう事になるか、その程度の事は分かっています。
魔法協会としても、当然そんな事は望んでいない」
「魔女になる事を望んでいない?」

ほむらが、顔を上げて刹那を見る。

「まどかに魔法少女の契約をさせて、魔法世界を救って、
まどかを魔女にしない方法。
それなら、一番手っ取り早く簡単な方法が一つある」

ぞろりと黒髪を垂らして口にしたほむらに、
刹那は微笑みを向けた。
そして、その脚を膝からほむらのいるベッドに乗せる。

「!?」

刹那の手から放たれた長匕首が、
ほむらの魔法衣装のスカートをベッドに縫い付けていた。
589 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:11:47.63 ID:G5cVWyKb0

「そうですね」

あの頃、豊かな黒髪を二つに結んでいたあの頃の心が半ばぶり返した様な、
蛇に睨まれた蛙の様なほむらに対して、
刹那は真横近くまで近づいていた。

「こちらとしては、契約により魔法世界を救っていただけたなら用済み、
と言う事になりますね。
それどころかリスク要因が増えるだけ、
その規模は、安全装置の無い水素爆弾を大量製造したに等しい。
で、あるならば………」

「ほむらちゃんっ!!」

刹那がぼそぼそぼそ、と、口をきいた直後にまどかが悲鳴を上げる。

「諦めませんか?」
「あき、らめない。諦める、筈がない」

情けない、と、思った。
だが、屈辱なんてものは今までの長くも無い人生、
この胸の痛みと共に吐いて捨てる程味わった。
だから、頬にボロボロと落涙し、
軍用ナイフを持った手を刹那にねじ上げられ、
それでもほむらの返答は変わらない。
その返答を聞いた刹那は、微笑んでいた。

「安心して下さい」

ほむらを突き放し、
取り上げたナイフを左手に持った刹那が言った。

「取り敢えず気を確かにもって下さい。
ここでまどかさんに余計な心理的負担をかけないで頂きたい」

そう言って、刹那はグリーフシードを放り出す。
590 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:14:54.95 ID:G5cVWyKb0

「魔法世界の中でもここ、メガロメセンブリアは
「人間の国」ですから」

そう言ってふっと微笑んだ刹那の言葉を聞いて、
まどかは、それならあんな国とかこんな国とか
色んな国でもあるのだろうか、等とふっと考えていた。

「魔法協会は、それなりに人道的な組織です。
まして、魔法世界を救い魔法世界の姫である神楽坂明日菜を救い、
今後の魔法世界救済計画ひいては魔法の世界のキーとなる
ネギ・パーティー、魔法協会に途方もない益を齎す救いの女神。
それに驕る相手ならとにかく、
鹿目まどかさんの性格はあなたが一番よく知っている。
だから、あなたは安心していい」

「まどかに危害を加えない、そう誓えるの?」

「絶対、とは言いません。
私も体験しましたが、魔法少女と魔女の事は、
やはり我々魔法協会にとっても決して楽観出来る存在ではない。
ですから、最悪の事態に於いては、
最終的には公共の福祉に基づく対処をする事になります。但し………」

そう言って、刹那はベッドから長匕首を抜く。

「その時は、私の命もない。
それが私の、この仕事に関わった上での
退魔師としての矜持です」

そう言いながら、右手に握った長匕首の棟を、
左手に握った軍用ナイフで軽く叩いた。

「だから、鹿目まどかさんの事は、我々に任せて欲しい。
少なくとも、あなたに委ねるよりはいい結果を出す。
それは客観的な事実だ、守護者殿」

改めて頭を下げる刹那に、ほむらは下を向いて応じていた。
ナイフを放り出してふうっと息を吐いた刹那は、
ベッドの縁に座り直して隣のベッドに座るまどかを見る。
591 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:19:12.71 ID:G5cVWyKb0

「そういう事です。ひとまずここで私の仕事は終わりました。
もちろん、あなたが魔法少女として魔法世界の救済を願ってくれたならば
陰ながら身命を賭してそのアフターフォローの先頭に立つ事になりますが、
まずは、この段階での私の仕事は終了です。
暁美ほむらさんの言った通り、あなたは魔法少女になる前に、
この魔法世界と神楽坂明日菜さんの真実を知った。
後は、あなたの良心次第です」

刹那の言葉を聞き、まどかの両手がぎゅっ、と膝の上で握られた。

「聞いても、いいですか?」
「どうぞ」

刹那は、下を向いたまま尋ねるまどかに真顔で応じた。

「神楽坂明日菜さんは、刹那さんのお友達なんですか?」
「そうです」
「大切な、お友達なんですか?」
「ええ、そうです」

震える声で尋ねるまどかに、刹那は真摯に応じていた。

「アスナさんは私の剣の弟子。
しかし、人間的に、人生と言う意味に於いては、
あの人こそ師匠なのかも知れない」

「近衛木乃香さんと刹那さんとアスナさんは友達、
そうなんですか?」

「その通りです。このかお嬢様とアスナさんは、
初等部で出会って以来の掛け替えのない無二の親友同士。
このかお嬢様は、私にとって、アスナさんとは又違った意味で、
命に代えても守らなければならない大切な人であり、
私にとっての大切な友です」

「ネギ、先生は?」
「大切な人です」

ふっ、と、刹那の顔が綻んだ。
592 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:23:52.82 ID:G5cVWyKb0

「そうですね、先生であり、
英雄と言うべき偉大な魔法使いとして我々の先頭に立って来たリーダーであり、
そして、可愛い弟の様な存在。
アスナさんとこのかお嬢様も、
丸で本当の姉弟の様にネギ先生の事を可愛がっていた、
ネギ先生もそんなお二人を慕っていた、それは微笑ましい光景でした。
私も、些かながらその様な信頼を得られた、そう自惚れている所です。
ネギ先生にとっても、あの学校で最初に出会い、
パートナーとして行動を共にして来たアスナさんは
掛け替えのない大切な人です」

「詰まり、一周回って本当ん所は、
刹那さんが大切な友達を助けるためにまどかを利用した、
そういう話な訳ね?」
「まあ、そういう事にもなりますね」

いつの間にやら玄関から立ち入って立ち聞きしていた美樹さやかに、
刹那はあっさりと返答した。

「お陰様で、協会とも利害が一致しましたので、
公共的な目的がこちらの望みと合致した結果です」
「そうやって言っても、まどかの性格から言って断らないだろう。
それを見越してやってるんだよね?」
「命懸けの仕事に関わる関係者の性格を把握するのも仕事の内ですので」
「んー、刹那さん流石に鋭いからねぇ」

腕組みして、頷いて発言したさやかが片目を開けた。

「まどかの性格から言って、そのまま事情を説明してお願いしても
魔法世界の為、神楽坂明日菜さんのため、
むしろ進んで契約してくれたと思うんだけど、
刹那さんから見たら違うのかな?」

「いえ、私もそう思いますよ。
只、契約は一度切りのチャンス。
少々、些か、多少厄介な守護者もついていましたので
確実に結果が出る様に回りくどい手を打ちましたが」

刹那の返答を聞き、さやかは親指で顎を押す。
593 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:26:04.16 ID:G5cVWyKb0

「んー、分かっちゃうんだよね」
「何がですか?」
「まず、確認しておきたいんだけど、
魔法少女のソウルジェムが濁り切ったら魔女になる、
その事に間違いはないんだよねキュゥべえ」
「無いよ」
「どうして?」

あっさりと返答するキュゥべえにまどかが震える声で問いかける。

「どうして? どうして、私達を騙して、そんな事をするの?」

「騙してなんかいないよ。
人類がどう頑張っても叶える事が出来ない奇跡だって、
魂を差し出すだけの願いを叶えた、ちゃんとそう言った筈だ。
このまま行けば、この宇宙そのものを
維持するためのエネルギーが枯渇してしまう。
だから、僕らはそのエネルギーを補充するために魔法少女の契約を行っている」

「なんか、凄く話が飛んでないかな?」

さやかが、乾いた笑いと共にキュゥべえに剣の切っ先を向けながら言った。

「魔法少女が魔女になる、希望が絶望に相転移する、
その際のエネルギーを集める事で
宇宙を維持するためのエネルギーが補充できるんだ。
そのために、一番効率がいいのが思春期の少女だと言う訳さ」

「ひどいよ………」
「今すぐぶっ殺してやりたいんだけど、
今、僕らは、って言ったよね?」
「ええ」

さやかの言葉にほむらが応じる。

「こいつらは殺しても殺しても沸いて来る、
そしてその全てが全ての個体の
過去からの知識を引き継いでいるから時間の無駄よ。
それでも我慢出来なければ止めるつもりは全くないけど」
594 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:27:45.94 ID:G5cVWyKb0

「あっそ………やってくれたね、キュゥべえ。
確かに、恭介の事、マミさんの事も、
あんたの言う通りあり得ない奇跡ではあるんだけどさ」

「理解してくれて助かるよ」

そう言ったキュゥべえをギロリと睨み付けたさやかが、
刹那にふっと笑顔を見せた。

「いやね、刹那さんにボッコボコにされた未熟者が
魔法少女になった結果、って奴。
お陰さんで、魔法少女が魔女になる、って言われても
なんとかかんとか立ってられるけど」

「そうですか、ここで一仕事済ませずに済むのであれば何よりです。
私としてもそれだけ痛い思いをした相手に止めを刺すのは
気分がいいものでもありませんし、
これから契約していただくキーパーソンの幼馴染の大親友とあれば尚の事です」

「まあ、理由はどうあれ大事にしてくれてるって事で有難う。
それでさ、ゾンビにされた挙句魔女になるって言われて、
それが、まあこの口先詐欺師に騙された結果だって言っても、
それは自分が決めた事だって、そう言われると厳しいんだよね精神的に」

「………」

「命懸けの魔女退治してて、いつだって、何時でも24時間、
正義のヒーローさやかちゃんで、いられる訳じゃないんだから。
恭介の事だって、頭の中色々ぐちゃぐちゃになりそうだしさ。
それもみんな、あたしが自分で決めた事だって、
いや、まあ、その通りではあるんだからそれは受け容れるしかないんだけど。
まどかだってそうだよ。魔法少女にはそれだけのリスクがあって、
魔法少女としてこれから色々と考えなきゃいけない事もあるかも知れない。
だからさ」

さやかが、真顔で刹那を見直した。
595 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:29:34.18 ID:G5cVWyKb0

「だから、元々がこんなふざけた契約だもん、
たまには怨む相手でもいないとやってられない、
って事はあるよね」

ポーカーフェイスでさやかを見直す刹那に、
さやかはにこっと笑顔を向けた。

「どっちにしろ、こんな未熟者がこんな重い剣を持った、
そんなあたしに色々教えてくれた。
あたしの友達にも先輩にも良くしてくれた。
その事は心から感謝してるよ、有難う」

「行き掛り上、ですね。
キーパーソンが鹿目まどかさんで、
戦いに関わる集団でこの年頃の集団のメンタルは
色々と手がかかる、それが実利に直結するは経験上知っていましたから。
今回の任務のために障害となる事を整理しました」

「それで、この剣の重さ、知ってるんだよね。
あたしなんかよりもずっと」

さやかは、剣を鞘に納めながら刹那を見る。

「そんな刹那さんが、あたし達と一緒に戦って、
命懸けで色んな事を教えてくれた、危ない時に守ってくれた。
それって、あたしから見たら本物だから」

「………あなたでしたか」

静かに息を吐いた刹那が、つとさやかから視線を外し、言った。

「やっ」
「これは、あなたの仕業でしたか」

片手を上げて現れた、民族衣装風の被り物の女性。
まどか達とは学年一つ分しか違わない筈なのだが、
一見した印象は若い女性そのものだった。
596 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:31:52.23 ID:G5cVWyKb0

「最初に、このかお嬢様をこちらに合流させた。
美国織莉子に対抗するために、小太郎や楓も動かした。
そうやって、こちらの動向を把握しながら、
私の動きが3Aから切れない様に協力と言う形で巧みに手を打っていた」

「麻帆良パパラッチを出し抜こうとか、百年早いよ桜咲」

朝倉和美は、ずらしたサングラスの向こうで狐目を笑わせた。

「確かに、魔法関係でも公表出来ない情報ばかりが集まっていたと言う
あなたの取材力、情報力は侮れない。
しかし、違う」
「何が?」

刹那の言葉に、和美は唇の端を笑みで歪める。

「美国織莉子がこのかお嬢様をさらった時、
小太郎、楓の動きは素晴らしく速く、的確だった。
何よりも地理的条件の絞り込みが余りにも迅速だった。
それは、魔法ですか?」

「予知能力?」

ほむらの呟きに、刹那は微笑んで首を横に振る。

「確かに、占いは我々のカテゴリーにも存在します。
だからと言って、そう簡単に
ピンポイントに把握する事が出来るなら苦労はしません。
ええ、非常に難しい事ですね。
あの短時間にあれだけの精度の作戦行動、
その地理的条件を魔法だけで決定すると言うのは。
そうですよね?」

==============================

今回はここまでです>>588-1000
続きは折を見て。
597 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/25(日) 02:52:09.73 ID:6o4RPtiD0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>597

まどかは、もう一人増える気配に視線を向ける。

「長谷川千雨さん」

微笑みかける桜咲刹那に対して、
玄関側から現れた長谷川千雨は至って真面目な顔だった。

「状況から言って、相当早くから目を付けられていた様ですが、
何処で知ったんですか?」
「総督だよ」

勝手に椅子に座り込んだ千雨は、刹那の目を見据えて言った。

「メガロを中心に一定の普及が進んでいたとは言え、
「Blue Mars計画」の始動以来、
魔法世界でも科学的な演算、通信の必要性が飛躍的に高まった。
お陰さんで、今回私もこっちから使える通信ルート見つけて
旧世界側のバックアップもやってはみたが、
はっきり言って必要量に追い付くのは容易ではない状況だ、色々粗も出る。
私なんかは趣味でホワイトハッカーやって
セキュリティの穴やらなんやらを探してたんだけど、
その内、総督のルートの秘匿通信が妙に増えてる事に気付いた」

「あの人でしたか」

千雨の言葉に、刹那はにこにこと応じていた。

「元々「Blue Mars計画」自体が表面化していない訳だが、
裏のルートにしてもおかしい通信。
流出してるのか裏の裏なのか、相手はあの変態メガネだ。
又なんか悪巧みをしてるのか、
正直判断が付きかねたが、手遅れにする訳にもいかないからな。
それで探って行って出て来たのが正真正銘の悪巧みだったって事さ」
598 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/25(日) 02:55:19.75 ID:6o4RPtiD0
失礼、前レスのアンカ>>596で、
それでは続き

==============================

「やはり、魔法世界側の情報セキュリティーでしたか」

「ああ、あっちもこっちも世界規模の悪巧み。
こうなって来ると、科学的な通信、演算を大規模に使う事は避けられない。
私の見る限り、必要な所は旧世界側の超大国が
本気になっても破れない程度には強化されてるから
その辺は心配しなくてもいい。
只、私が知った内容が内容だ、当事者含めてナシ付ける必要は出て来たけどな」

「そのために、長谷川さんが裏で色々画策したと言う事ですか、
私を出し抜くために」

「その辺の事は、どこまでが私で何処迄が朝倉か
今となっちゃ自分でも分からん所もあるけどな」

穏やかな刹那と少々気だるげな千雨。
親しそうでいて、だからこそ、真剣。
そんなやり取りに、見滝原組は息を飲む。

「魔法使いは魔法少女に不干渉、私も最近知った事だが、
私なんかよりずっと昔から退魔師やってる桜咲が、
何がどうなってこんな事になった?」
「仕事で少々遠方に出向きましてね」

落ち着いた口調で尋ねる千雨に、
刹那も世間話を語る様に応じる。

「仕事自体は普通の物の怪退治でしたが、
そこでこの使い魔と行き会いまして」

「キュゥべえか?」

「ええ、なんでも素質があるから魔法少女になって欲しいと。
千雨さんの言う通り、神鳴流としても
窮兵衛とは関わり合いにならない事になっていますので
丁重にお断りしたのですが、
何故か麻帆良に戻る迄にちょこちょこ付き纏って来まして、
109匹目で暇潰しに話を聞いてみました」
599 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/25(日) 02:56:41.90 ID:6o4RPtiD0

「だからっ!」

怒号を発したほむらに刹那はにこっと微笑みかけ、
バン、とベッドを叩いたほむらは下を向いた。

「ええ、聞いてみましたよ。
何でも願いが叶う、と言うのなら、
アスナさんの運命を変える事が出来るか、
彼女の犠牲無しに魔法世界を救う事が出来るか、とね。
答えはノーでした。私の素質では無理だと」
「桜咲の素質では、か」

千雨の言葉に、刹那は笑って頷いた。

「但し、心当たりがあると。
流石の魔法少女でも余程の事が無い限り無理だけど、
たまたま偶然運良く最近神にも匹敵する莫大な素質を持つ
魔法少女候補の存在を察知したと。
只、彼女に接近すると、
窮兵衛の個体が謎の急死を引き起こすので
何者かに妨害されているらしいと」

刹那の言葉を聞きながら、ほむらは下を向いて歯噛みしていた。

「取り敢えず、裏の伝手を使って、
その対象者、鹿目まどかさんの人としての基礎情報を調査しました。
それと共に、ある程度の現実味がありそうだと考えた時点から
水面下で魔法協会内外でも協力者を得るための根回しも行いました。
それでも少々駒が不足しましたからね、
そちら側にいい人材がいないか、と言う事で、
窮兵衛からあすなろのプレイアデス聖団の情報も聞き出して」

「儀式魔法の発動と学園警備の目を引き付けるデコイ、一石二鳥か」
600 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/25(日) 02:58:18.08 ID:6o4RPtiD0

「お陰で、情報が漏れたとは言っても、
こうして最初に3Aの内内で話をする程度の時間は稼げました」

にっこり微笑む刹那を、千雨はぎゅっと睨み付けていた。

「もちろんリスクはあります。しかし、最善を尽くします。
既に魔法協会呪術協会の組織的協力を得る目途はついた。
鹿目まどかさんにも死ねと言っている訳じゃない。
リスク、負担はあります。
しかし、これが最善の手段だと確信しています」

「本気で言ってるのか?」
「本気です」

刹那を見据えて言う千雨に、刹那も笑みを抑えて真顔で応じた。

==============================

今回はここまでです>>597-1000
続きは折を見て。
601 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/27(火) 18:24:28.85 ID:DZytFv5H0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>600

千雨は、まどかに視線を向け、天を仰いだ。

「契約前に、知っておくべき事だろうな」
「何、ですか?」

まどかが尋ね、千雨は刹那を見るが刹那はポーカーフェイスを崩さない。

「鹿目まどかの魔法少女契約に伴い、
魔法協会内で裏のプロジェクトチームが動き出す。
今は魔法使いと魔法少女は不干渉、と言う事になってるが、
現実問題としてそうは言っていられない、ってな」

「ええ、そうよ」

千雨の言葉に、ほむらが口を挟んだ。

「もし、まどかが魔法少女となりの魔女になった時は、
それはこの世界そのものが滅亡する時。
魔法使いだろうが魔法少女だろうがどうにか出来る次元の話じゃなくなる」
「そういう事だ、これ以上の大義名分は無い。
ここを突破口に、魔法少女との関係自体を変えちまおうってな」
「魔法少女との、関係?」

さやかが言い、千雨と刹那を見るが、
苦り切った千雨に対して刹那は表情を変えない。

「魔法協会は、キュゥべえ、
インキュベーターと秘密協定を結ぶ、そういう事だ」
「インキュベーター?」
「キュゥべえの本名よ」

問い返すさやかに、ほむらが苦々しく言った。
602 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/27(火) 18:26:31.83 ID:DZytFv5H0

「インキュベーター、孵卵器。
つまり、魔女の卵を孵すのがあの宇宙生物の本当の役割だって事。
最初っからあいつらはそれが目的で魔法少女の契約を勧誘してる」

「その、インキュベーターとの秘密協定、って?」

「要は、魔法少女を魔法協会の管理下に置こうって話さ。
まあ、いっぺんに全部は無理だがな。
魔法協会とインキュベーターが情報交換をして、
新規の魔法少女を中心に支援と言う形で把握、管理する。
GPS付きの魔法少女は何れGPS付きの魔女となり、
その魂は優先的に女神様に捧げられる」

千雨にじっと見据えられ、まどかはきょとんとしていた。

「今の話は本当かしら?」
「否定する程間違ってはいませんね。
只、現段階で魔法少女界隈に流出したら事ですので
口外は無用に願います」
「桜咲っ!!」

ほむらの問いにしれっと答えた刹那が、
立ち上がった千雨に優しく微笑みかけた。

「支援する魔法少女に
魔女化のリスクを教えるのか教えないのか、曖昧だな。
情報を把握するだけ把握して、支援の有無はこちらの都合次第」

「そもそも、今迄は不干渉でした。
魔法少女達はこちらとは関わりなく魔法少女となり、
魔女となって散って行った」

真顔で言う刹那を前に、千雨は座り直す。

「それを、出発だけ支援しよう、と言う方針が現時点では支配的ですね。
そして、最悪の時は他に被害が出ない様に迅速に」

「そこで得られた果実は女神様の生贄にか」
「長谷川千雨」

しん、と冷えたほむらの言葉に、
千雨はまどかに向けて軽く左手を上げる。
603 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/27(火) 18:28:55.07 ID:DZytFv5H0

「だが、このまま行けば現実的にそういう事になる」

「そもそも、今迄は不干渉でした。
魔法少女達はこちらとは関わりなく魔法少女となり、
魔女となって散って行った。
世の中には、パン一切れで契約しかねない少女もまだまだ存在する。
もちろん、我々もそこまで阿漕な事をするつもりはありません。
しかし、現実的にこの暁美ほむらさんの様に、
一歩間違えれば世界征服すら視野に入る能力が
未熟な少女達に無造作に与えられ、
それが魔女となって更なる被害に繋がっている。
こちらとしては、全てを救えないのなら、
支援と不干渉を少々都合よく使い分けさせてもらう。
そういう事です」

「そうやって、孤立していた魔法少女を
魔法協会の裏側の管理下に置く。
魔法少女の情報を管理して、
少なくとも管理下の魔法少女に対しては迅速に対処出来る様に。
そして、最初の段階で、余り訳の分からない契約をされない様にも誘導する」

「私達から見たら、窮兵衛との契約によって得られる能力と言うものは
素質によってはデタラメにも程がありますから。
そんなものを組織にも関わらない未熟な少女達、
しかもその多くが孤立している、そんな少女達に無造作に与え続ける。
今迄この世界が無事で済んでいた事自体が奇跡とも思える話ですし、
実際神鳴流の歴史の中にもその瀬戸際と思われるものが存在しますからね。
その辺りの事はなんだかんだ言って窮兵衛が
地球と言うグリーフシードの養殖場を潰さない様にコントロールしていた、
とも考えられますが」

「今度はそっちでグリーフシード牧場を続けるって事か?
いや、その前の、養殖場の餌作りか。
こっち側、魔法世界じゃあ、
死刑囚による使い魔の養殖まで検討されてるって言うからな」

「長谷川千雨、今すぐその口を閉じなさい」
「今、知らなきゃ後悔じゃすまない」

青い顔で、下を向いて震え出したまどかの側で、
ほむらと千雨が睨み合いで応酬する。
604 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/27(火) 18:32:11.75 ID:DZytFv5H0

「だ、大丈夫、です」
「大丈夫、まどか?」

返答したまどかにさやかが声を掛ける。

「うん、あの、魔法少女は、色々と命懸けだった、それは見て来た。
何て言うか、真面目に考えたらその、
そういう事も、あり得るのかなって」

「魔法少女は、非常に不完全で不安定なシステムです。
そこに突っ込む私達の手が綺麗なままとは言わない。
只、あなたがこの世界の為に、
私の大切な友のために魂を捧げてくれると言うのなら、
私達はその誠意に応え、魔法少女を含む公共の福祉のために
最善を尽くす、それだけです。
そうであっても、それは決してあなたの罪ではない」

「そこが本音か」

呟いた千雨に、刹那が涼しい視線を向ける。

「なあ、桜咲、忘れてる事はないか?」
「なんでしょうか?」

「その、魔法使いすら凌駕するとんでもない力をコントロールする、
そんな計画を立ててる魔法使いも、
私らと、魔法少女達と同じ心を持ってる人間だ。
だからこそ、魔法使いは今迄魔法少女には関わらないで来た、って事を」

「もちろん分かっています。
しかし、最善の為には他に方法が無いんです」

そう言って、一秒、二秒、刹那は千雨を静かに見据える。

「私はうまくやる」

==============================

今回はここまでです>>601-1000
続きは折を見て。
605 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:42:19.80 ID:J+7Eoz/B0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>604

「で?」

宣言した刹那に、千雨は問い返す。

「それで、どうする?」
「どうする、とは?」

「あんたはどうするんだ? って聞いてるんだよ桜咲。
汚れた手も鹿目まどかの、利用される魔法少女の怨みも
全部てめぇで飲み込んで、それであんたはどうする?
神楽坂、近衛、ネギ先生、
大切な人達の幸せを優しく微笑んで遠巻きに見守るってか?」

「いけませんか?」
「いい悪い以前に無理だ」
「それか何故?」
「馬鹿かお前は?」

真顔で聞き返す刹那を前に、両眉を吊り上げた千雨が押し殺す様に言った。

「バカレッドは馬鹿は馬鹿でもあんたも知ってるレベルの大馬鹿だ。
そんな奴が今更見過ごすとでも思ってるのか?
お前があいつにとってそんなに軽い存在だと思える程お前は馬鹿なのか?」

そう言って、千雨は人差し指を立てながら立ち上がった。

「ここで問題だ、うちのクラスの中で、
一番長い間、一番深く、
あんたの事を見て来てあんたの事を大切に思って来た、
失いたくないと心から思ってる、それは一体誰だ?」

双方、不敵な笑みを交わす。
606 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:44:21.82 ID:J+7Eoz/B0

「だったら身を引いて姿を消すか。
大切な人達が幸せであればいい、それで自分も満足か。
私が知ってる桜咲刹那は誇り高き剣士であり、
心から友達を大事にする、とても誠実な、一人の女一人の人間だ。
だから、無理だ」

「あたしも、そう思う」

口を挟んだのはさやかだった。

「なんか、分かっちゃうんだけど、
刹那さんって剣は凄いけど、
その辺なんと言うか、実はかなりポンコツだと思う」

「正解だ」
「だから、隠し通す事なんて出来ないと思うし、
それに………」
「それに、なんです?」

強き剣士に真顔で問われ、さやかは言葉に詰まるが、
それでも、敬愛する師匠の、
大切な仲間の目を正面から見据える。

「それに………刹那さん」

さやかは一度下を向き、呼吸を整える。

「刹那さん。
刹那さんは、
本当の気持ちに向き合えますか?」

主観的時間、客観的時間も不明瞭な沈黙に圧倒され、
さやかはガバッと頭を下げた。
607 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:46:27.21 ID:J+7Eoz/B0

「ごめんなさいっ!
あ、あの、これ本当はあたしが言われた事で、
でも、刹那さんって、それだけの覚悟してる刹那さんが
友達を凄く大事にしてるのって凄く分かるし、
だったら、だったら、刹那さん本当に凄い人だと、
あたしなんかよりずっと強い人だとそう思うけど、
だけど、だから、刹那さん本当は優しくて情がある人だから、
だから、そんな一人で、そんな大切な友達を、大切な人を、
だからっ!!!」

さやかの叫びと共に、下を向いていた千雨が上を向いて笑い出した。

「当たり、正解だよく言った」
「だから、後悔なんて、して欲しくない。
それって、間違えたら、凄く辛いから………」
「弟子まで泣かせてんのかよ桜咲」
「弟子にした覚えはないんですけどね。
有難うございます、美樹さん」

ふうっと息を吐いて、刹那が応じる。

「確かに、そうしなければならない、
守るためには皆から離れなければならないかも知れない、
それはとても辛い事です。しかし、私は………」
「だから自己満してんじゃねぇ桜咲っ!!!」

怒号が言葉を遮った時、刹那は千雨に胸倉を掴まれていた。

「生憎だが、私はそれを認める訳にはいかないんだ。
ちょっとばかり関りが深過ぎてな。
自分達の為にあんたが傷つく、その事で自分が傷付く、
あのガキらにそんなモン背負わせる訳にはいかない。
そこん所、分かんねぇのかこの大馬鹿野郎は………
何がおかしい?」

「いえ、すいません。
恐らく、それは正解です」

静かに微笑み、認める刹那を前に、
千雨はゆっくり手を放す。
刹那は、静かに立ち上がった。
608 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:50:03.79 ID:J+7Eoz/B0

「ええ、あなたがネギ先生を本気で心配して発している言葉です。
そうであれば、それは間違いなく正しい事、
ネギ先生の真意に叶う事の筈です、あなたは正しい」
「って褒められた先から、
それでもやる、って意気込みはビンビン伝わって来る訳だけどな」

微笑む刹那に、千雨はギリッと歯噛みする。

「ですから、その時はネギ先生達をお願いします。
このままでは、アスナさんは私達と一緒の卒業式すら迎えられません。
アスナさんには、ネギ先生と、このかお嬢様と、その他の皆さんと、
魔法世界の闇の中から光へと生まれ変わった人生を、
そこで出会った人達と限りある人生を全うしてもらいたい。
皆さんにも、アスナさんと言う大切な人との思い出を、
これからも十年二十年、人としてその時が来る迄作り続けてもらいたい」

「だから、そこにはあんたがいないと駄目なんだっ!」

千雨は腕を振り、怒号した。

「あんたがいないと、だから………
なあ、桜咲よ、私には無理なんだよ。
あんたら四人の絆に入って行く、なんて事出来る立場じゃない。
だから、出来ればそっち側で解決して欲しかったがそれも無理だった」

「色々、仕組んでくれたみたいですね」

「小細工だよ。私にはそんな事しか出来ない。
そうだ、私にはそんな事しか出来ない。
だから、今更あんたに抜けてもらったら困るんだよ。
神楽坂だって、もちろん隠れて泣いてるかも知れない。
それでも、短くても残りの日々を目一杯お前らと過ごしてる。
桜咲、あんたを含めた仲間の事が大事だから、だから、そうしてるんだ。
それを桜咲、お前は又、
大切な人達を置き去りにして自己満足でひとりぼっちになる気か?
あんたが自分一人で抱え込んで、それで助けてやったって」

懸命に言葉を探す千雨に、刹那は深く頭を下げていた。
609 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:52:12.91 ID:J+7Eoz/B0

「長谷川さん、その時はネギ先生達の事をお願いします」
「だからっ! ………」

ぐわっと迫ろうとした千雨は、清々しい微笑みに息を飲んだ。

「駄目、なんですよ。
あなたは正しい、だってあなたが、長谷川千雨さんが、
ネギ先生達を、そして私の事を心から心配し、思ってくれている。
そうやって、ネギ先生から心からの信頼を寄せられた
あなたの言葉です。それは、正しい事です」

「ちょっと、私の事、買い被りが過ぎるんじゃないか?」

「いえ、これでもあなたよりは少々付き合いが長いもので。
それでも、駄目なんです。
私を、私に光を、幸せな世界に導いてくれたのはアスナさんです。
そのアスナさんが、ようやく手に入れた人としての幸せを根こそぎ奪われる。
それを看過するなんて、どうしても出来ない。
アスナさんに救われた私は、こんなやり方しか見つけられなかった。
ならば、それを貫くしかありません。
ですから長谷川さん、もし私の行いにより皆さんが傷付く様な事があれば、
その時はネギ先生達を、どうかよろしくお願いします。
それが出来るのは、あなたです」

「買い被るにも、程があるって………」
「鹿目まどかさん」
「はいっ!」

言葉も見つからず成り行きを見守っていたまどかは、
千雨に向けて深々と下げた頭を下げた刹那に名を呼ばれ、
まどかはぴょこんと飛び上がりそうになった。
610 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:55:49.25 ID:J+7Eoz/B0

「お願いします」

刹那は、深く頭を下げた。

「小細工をした事は謝ります。
どうか、どうか私の友の為に、
私の掛け替えの無い友の、せめて人並みの幸せのために、
あなたの魂を捧げていただきたい、お願いします。
あなたを魔女なんかにはしない、
私が身命を賭してあなたを守る、誓うと言うなら
神にも悪魔にも誓う、だから」

「そこまでだ」

一言一言、派手さはなくとも胸の中に沈む様な
重い嘆願を只、黙って聞いていたまどかの横から
千雨が口を挟んだ。

「鹿目まどかさん、契約は待て。
もう私らの立ち入る事じゃない、当事者に決めてもらう」
「当事者?」

千雨の言葉に、まどかが聞き返す。

「ああ、当の本人がこっちに来てるからな。
元々、そのつもりだった。
桜咲は一人で思い詰めて動いてたからな、
こいつらの絆は本当は私なんかが入り込めるもんじゃない。
だから、最初に近衛を合流させて、
そこからもなるべく3A単位に巻き込んで
それとなく穏便に収拾しようと画策はしたんだが、結果はこの様だ。
契約の前に、鹿目まどかってとんでもない女神様候補が
行き掛り上神楽坂明日菜の真実を知っちまったって事を
当の本人に伝えて判断を仰ぐ。
案外、泣いて縋られるかも知れないけどな。
だから、今日明日ぶっ壊れる世界じゃないし
神楽坂が礎になるのもまだ先だからそれまでちょっと待ってくれ」

千雨の言葉を聞き、刹那はどさっとベッドに座り込んだ。
そして、長谷川千雨は、つーっと顔を動かす。
その視線の先では、壁に小さな穴が空いていた。
611 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:58:29.26 ID:J+7Eoz/B0

「動くな」
「暁美、ほむらだったか?」

つーっと汗を浮かべてそちらを見る千雨の前で、
米軍制式M9拳銃を手にしたほむらはゆっくりベッドを降りていた。

「長谷川千雨、朝倉和美、桜咲刹那の邪魔は許さない」
「ちょっ、転校生っ?」
「ほむらちゃんっ!?」
「暁美さん? どういう事ですか?」

刹那が訝し気に尋ねる。

「………少し、疲れたのかしらね?」

ほむらは吐き捨てる様に言い、バッと黒髪を払う。

「桜咲刹那に尋ねる、
魔法協会は、まどかのために本当に協力するの?」
「はい、その内諾は得ています」

「桜咲刹那、あなたの身命を賭してまどかを守ると、
その事は本当に誓えるの?」
「誓います、その命に代えて!」

「ワルプルギスの夜が来る」

「魔法少女が対処する超巨大魔女ですね。
末法の京を破壊し尽くし神鳴流門下と妖刀ひなを用いた宗家の命、
その九割方を失ってようやく鎮圧したと言う記録も残っています」
「見滝原の、まどかの大切な人達が住む街を破壊しようとしている。
それがもうすぐ来る。その意味、分かるわね?」

「ええ、腕が鳴りますね」
「………やはり、少し、疲れてるのね。
こんな事を考えてしまうなんて」
「そ、そう、ほむらー、あなたつ………」

なんとかなだめようとした朝倉和美が、
チャキッと銃口を向けられ手を上げ直す。
612 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:00:04.62 ID:J+7Eoz/B0

「今更そんな甘い話に釣られるなんて、
今更、こないだ知り合ったばかりのエゴまみれの他人を、
信じようなんて」

「私のエゴを、信じて下さい。
あなたと利害が一致している、この一致が離れる理屈は最早存在しない。
信用出来ないのは私の力量ですか?」

「ふざけないで、人の事を散々散々散々いい様に
ぐっちゃぐちゃのぐちゃに弄び倒して凌辱しておもちゃにしておいて」

「あなたが相手では、先手必勝からのハメ技で心身共に音を上げる様に
徹底的に屈服させておかない事にはこちらが危なかったので、
実の所結構薄氷の上を渡る疲れる仕事でした」

「当然ね」

千雨と和美に銃口を向けながら、
ほむらの左手がファサァと黒髪をすくう。

「鹿目………まどか」
「うん」

ほむらの横目に、まどかはぐっと前を見て腹の底から答えていた。

「あなたは………
自分の人生が、貴いと思う?
家族や友達を、大切にしてる?」

「わ、私は………大切、だよ。
家族も、友達のみんなも、大切で、
とっても大切な人たちだよ」

過去に聞いた事がある、二度目の問いは、切羽詰まって聞こえた。
だが、まどかの答えは変わらなかった。
613 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:02:11.67 ID:J+7Eoz/B0

「やっぱり、少し、いや、結構疲れてるみたい。
まどかは優し過ぎるし
インキュベーターは余りに悪辣な上に物理的な対処が出来ないし。
ここまで来て、肝心な所で一歩妥協しよう、
それも、それもこの間出会った他人を信じて、
そんな事を考えるなんて。
それでも無理なものは無理、そう考えざるを得ないのかしら」

段々早口になりながら、
無造作に泣き笑いするほむらの左手が黒髪を払う。

「長谷川千雨、朝倉和美。
私の能力は暗殺に特化している。
もし、桜咲刹那のプランを妨害すると言うのであれば、
気が付いたら大変な報復を受けていた、と言う事を覚悟してもらう」

早口で告げるほむらを、千雨はぐっと睨み付ける。
何か、最後の最後で前提を誤った様な、
そんな息の詰まる様な焦りが千雨と和美の心を焦がす。

「そう。まどか、あなたの優しさは………
否定なんて出来ない。だって、まどかだから。
だから、私から伝えたい事がある」
「うん」

拳銃を構え、見るからにキリキリとしたほむらの言葉を、
まどかは真剣に聞いていた。
614 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:05:46.53 ID:J+7Eoz/B0

「この魔法世界、そして、ほんの少し出会っただけの神楽坂明日菜、
彼女に関わる人達の為にその魂を捧げ魔女と戦う価値があると思うなら、
命懸けの戦いのために、
この桜咲刹那の言葉、誠が信じるに値すると思うなら」

僅かに言葉を切ったほむらを、まどかは真剣に凝視する。












鹿目まどか。












あなたがそう信じる事が出来るのなら、










615 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:09:49.72 ID:J+7Eoz/B0



心から









そう思うのなら











魔法少女に








なりなさい








616 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:12:27.44 ID:J+7Eoz/B0

==============================

今回はここまでです>>605-1000
続きは折を見て。
617 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 04:21:36.20 ID:3ag/ROQG0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>616

「!?」

ほむらが気配に気づいた、と、思った時には、
ほむらの右手には強い打撃を受けて痺れが走っていた。

「が、っ………」

そして、拳銃を取り落とし、楯に伸ばそうとしていたほむらの右手が
激痛と共に動かなくなる。

「かはっ!?」

その時、桜咲刹那は愛刀「夕凪」を引き寄せていた。

居合には向かない野太刀であるが、
神鳴流補正で抜き打ちしようとした時には、
刹那が手を掛けた夕凪の柄は掌でぐいと押され、
刹那の腹には別の野太刀の柄が叩き込まれていた。

そして、気づいた時には、刹那の小柄な体は
たあんと床に投げ飛ばされていた。

床の上ですぐさま体勢を立て直し、
既にカードに戻っていた匕首・十六串呂を手にした瞬間、
刹那は己の前髪に触れる野太刀の刃を見ていた。

「確かとうこ先生、だっけ?」
「はい、麻帆良学園で会いましたね。
これ以上の危害を加えたくはありません、武器を置きなさい」

さやかの問いに葛葉刀子が答え、
刹那がカードを置き刀子が野太刀を鞘に納める。
618 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 04:24:19.55 ID:3ag/ROQG0

「つ、つっ」
「あー、関節外れてる。あたしも肩とかやった事あるし。
痛覚遮断しても動かないでしょ、
今、治癒したら戻ると思うから無理しないで」

地団駄踏みそうに焦るほむらに、さやかが駆け寄っていた。
そして、刀子を睨み付けたほむらだったが、
刀子の涼やかな視線に顔を背ける。

「格が違う?」
「黙りなさい」

ぼそぼそと言葉を交わす。
さやかの言葉は、ほむらにとってその通りとしか言い様がないものだった。
一度二度の奇策は通じるかも知れないが、
恐らく幼少時より体系的に鍛え抜かれたプロフェッショナルの戦闘集団
神鳴流の実力はほむらの心身、骨身に染みて理解していた。

「なかなか荒っぽいですね使者殿」

玄関側から現れたクルト・ゲーデル総督は、
背後に警備兵を従えて形だけ丁重な言葉を使いながら、
手にした野太刀が何時両断してもおかしくないオーラに満ちていた。

「抜かりましたね」

刀子が口を開く。

「そもそも私は近衛の使者ではない。
極秘計画だからこそ、簡単に私を通してしまった」
「なんだと?」

そのゲーデルの声は、さやかが震え上がるものだった。

「役儀により言葉を改めます。
神鳴流青山宗家名代葛葉刀子より申し渡す。
桜咲刹那、クルト・ゲーデル、控ぁえよぉっ!」

刀子の一喝と共に、床では桜咲刹那が美しい土下座を完成し、
クルト・ゲーデルも一瞬の驚愕の後に片膝をついた。
619 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 04:26:23.44 ID:3ag/ROQG0

「人払いを」

刀子の言葉にゲーデルが目で応じ、執事に率いられた警備兵が撤収する。

「桜咲刹那、その身柄を葛葉刀子預けとする。
以後、一切の任務を中止し神奈川宗家に直ちに出頭せよ。
これは、協会、近衛家に優先する青山宗家の命である。
逆らうならば直ちに流派追放、奉公構えの上で討伐を行うもの哉!」

「は、はっ………」

既に刀を収め、直立して宣告する刀子を前に、
刹那はぱくぱくする口から辛うじて返答していた。

「クルト・ゲーデル。
魔法少女利用計画を直ちに凍結し、
地球側協会よりの報せを待つ事を強く命ずる。
既にかの地で高き役目に就く貴公が青山家をどう思うかは知らず。
されど、この命に逆らうならば神鳴流門下に非ず。
その上、魔に与するものとして何者が立ち塞がろうと直ちに討伐するもの哉!」

ゲーデルが、バッ、と、流れ出した書状を受け取る。

「神鳴流青山宗家は、今後も引き続き窮兵衛に与する事を許さず。
もしこの上計画を続けると言う事であれば、
近衛家、協会、如何なる者であろうと、
窮兵衛と言う魔に与し人の世を危うくするものとして、
神鳴流が果たして来た退魔の任を遂行する事も辞さず。
この意志を強く付言するもの哉!!」

刀子による申し渡しに、ゲーデルが改めて頭を下げた。

「宗家は、本気ですね」
「そこまで、宗家は窮兵衛を認めないと言う事です」

書状を手にしたゲーデルの言葉に、刀子が告げた。
620 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 04:28:39.32 ID:3ag/ROQG0

「内輪揉め、でいいのか?」
「長谷川千雨、朝倉和美さんですね?」

千雨が呟き、刀子の呼びかけに二人は頭を下げた。

「今回の事は、言わば近衛一族による上からのクーデターです。
但し、木乃香お嬢様は関知していない筈です。
関東魔法協会の近衛近右衛門、
その娘婿である関西呪術協会の近衛詠春両代表、
魔法世界側はクルト・ゲーデル総督を頂点に、桜咲刹那を接点として
トップと一部の人間の間で秘かに画策された企てです。
本来、魔法使いと魔法少女は不干渉。
しかし、地球の存亡に関わる素質を持つ鹿目まどかさんが契約を行い、
しかも、そのために魔法世界と魔法世界の姫君が救われる。
刹那が予備調査の名目で接触中にその様な事が実際に起きてしまえば、
それは今ここにある危機であり恩義としてその様な対応は許されない。
あくまで行き掛り上の事として既成事実を作り、
そのまま、魔法協会による
魔法少女の管理と言う所に迄済し崩しに話を進めてしまう。
裏で準備を進めておいて、既成事実が発生し次第、
刹那の報告と言う形で直ちに理事会の承認を得て準備を実行に移す。
これが、今回の近衛一族の計画です」

「やっちまったモンは、仕方がない、か」
「その通り、そこが狙いでした」

千雨の言葉を、刀子は肯定した。

「その進め方自体も、恐らくは神鳴流青山家から
事前同意を得る事は無理だと言う事も一因と推測出来ます。
その通りです、神鳴流は決して窮兵衛を認めない。
古よりの人の世で退魔の任に当たって来た青山家として、
只の物の怪よりも遥かに恐ろしい人の欲得、愛憎に関わる
人の欲に途方もない力を与える窮兵衛は決して肯定してはならない。
例えその時の人の道にすら関わる、
今その時には美しい結果を出す事が出来る力であっても、
人には過ぎた力であると。
その事を歴史の積み重ねによりよくよく知っているからです」
621 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 04:31:19.31 ID:3ag/ROQG0

「人には過ぎた力、ね」

刀子の言葉に、千雨がふうっと息を吐いて言った。

「ええ、何とか3Aの中で収拾しようとしたあなた達には
必ずしも添えない事になりましたが」

「いえ、正直助かりました。
止めて止められる状況でもなかったので。
ええ、私らには無理、でした。
神楽坂を諦めろ、なんて」

千雨の言葉に、刀子は小さく頷いた。

==============================

今回はここまでです>>617-1000
続きは折を見て。
622 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 22:48:06.22 ID:3ag/ROQG0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>621

「さあ、刹那………」

促そうとした刀子は、詰まった様な声を聞いた。

「して、ですか………」
「刹那?」

「どうして、ここまで………
ここまで、進めた………アスナさんのため、ここまで進めた………
何故、アスナさん、なんですか………」
「刹那………」

「このままではアスナさんは、卒業式すら迎えられない。
今迄、麻帆良に来る迄の長い長い時間を兵器として使われて、
ようやく手に入れた幸せすら手放さなければならない。
どうして、駄目、なんですか………
誰かを不幸にする、少しは、負担になるかも知れない。
それでも、少なくとも今までの魔法少女よりも、
リスクをコントロールして、なのに、どうして、駄目なんですか?
どうしてアスナさんだけが、
どうしてアスナさんを助けては、いけないんですか………
私を助けてくれたアスナさんを、
私を、この光の中に導いてくれたアスナさん、どうして………」

「諦めるしか、なさそうね」

必死に抑えようとしても最早ままならない、
そんな刹那の溢れ出す感情を聞きながら、
ほむらがぽつりと言った。
623 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 22:51:21.40 ID:3ag/ROQG0

「この様子では、政治的に完全に包囲されているのでしょう。
協会そのものを敵に回した以上、私達は終わりよ桜咲刹那」

「刹那、今ならまだ穏便に収拾出来ます。
今回の事は、まだ宗家一人の胸に留まっている事。
近衛家が窮兵衛との提携を画策していた等と言う事が知れたら、
近衛家、窮兵衛、双方の力が魔法の世界の中で
政治的に値踏みされて収拾のつかない事態になる。
こちらでの収拾が済み次第、宗家が長と直談判して諦めさせる。
もし交渉が決裂するならば
離脱も辞さぬ覚悟で理事各位に檄文を発し理事会の招集を求める。
それが青山宗家の意向です。
あなたの事を咎める心算はありません」

落ち着いた言葉で説く刀子が、片膝をついた。

「窮兵衛の奇跡は、例えその時どれだけ美しく見えても、
人が扱う、まして人の権力が統べるには過ぎたものなのです。
この機会に魔法少女を取り込み、利用しようと言う
政治的、権力強化のための野心もあったのでしょう。
しかし、この企ての中心となった顔ぶれを見れば、
神楽坂明日菜さんを心から思っての事だと、
あの少女の幸せを心から願ったと、私は確信している。
魔法先生として、魔法使いとして一人の大人として、
あなたのその言葉、へこたれず、ただひたむきに守り続けて来た
刹那のその言葉を私は決して忘れない」

「見苦しい様を、失礼致しました」

渡された懐紙を顔に押し付け、刹那がようやくの言葉を発する。

「月並みな事しか言えませんが、神楽坂明日菜さんが
既にその覚悟を決めた、と言うのであれば、
せめて刹那が、お嬢様が、残された時間を価値あるものに」

刀子の言葉に、刹那は長く頷く。
624 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 22:53:29.01 ID:3ag/ROQG0

「鹿目まどかさん」
「はい」

「申し訳ありませんが、収拾する迄もう一度麻帆良にご同行下さい。
率直に申し上げて、少しの間軟禁させてもらいます。
調査と、万一の身の安全のためです。
なるべく短い間、学校や家族にはこちらで必要な手配を行います。
その後の事に就いては関係が切れる事になろうかと、
少なくともこちらからの魔法少女への支援は
期待出来ない状態になると心得て下さい」

「分かりました」

刀子の説明に、まどかが頭を下げた。

 ×     ×

日本、関東地方パーキングエリア。

「すいません、皆さんにも時間を取らせてしまい」
「いや、正直助かりました」

駐車場のマイクロバスの座席で、刀子の言葉にさやかが言った。

「特別機でイミグレーションの便宜までしてもらって。
ぶっちゃけ二重三重の密入国だし、帰りどうしようかと」
「無茶をします。もっとも、原因を作ったのはこちら側ですが
強き力を持つのなら、今後は身を慎む様に」

「はい、刹那さんからも散々教わりました」
「そうですか。
これから少し、調査のために麻帆良に留まっていただきます。」
「分かりました」

さやかと言葉を交わしていた刀子が、スマホを取り出した。
625 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/02(月) 00:28:00.55 ID:c/9+7ela0

失礼、中座した。
続き投下します

==============================


「いないとはどういう事ですかっ?」
「トイレの、中から鍵を閉めて、いつの間にかいなくなっていましたっ!」

通話の相手は、夏目萌だった。
魔法協会にも秘密裡に魔法少女の調査を継続していた夏目萌は、
今回声がかかり急遽の呼び出しで空港から刀子達に合流していた。

「あれ程気を付ける様に………探しなさいっ!」
「はいっ!!」

バスで刀子の声を聞きながら、
千雨はノーパソ型のアーティファクトを操作する。

「電話の位置情報………
もうここを出てる、道路沿い、車か?」
「まずい、ですね」

刀子が苦り切った声で呟く。

「まだ、こちらは組織で動ける段階じゃない、
協会の隠蔽用のラインを使って警察を動かしたりしたら」
「青山が動く前に近衛家が、か」
「口の堅い信頼出来る関係者を動かします。
彼女一人ですぐに何か出来るとも思えません」

千雨の言葉に、刀子は自分に言い聞かせる様に言った。
626 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/02(月) 00:30:58.36 ID:c/9+7ela0

ーーーーーーーー

一人の美女が、勝手知ったる大浴場に足を踏み入れていた。

墨絵の様に整った目鼻立ちには凛々しい力強さ。
艶やかな黒髪をすっぱりと切り揃えたショートヘアがよく似合う。
スポーツウーマンらしく引き締まった健康美は伸びやかな長身で、
それが、前時代語で言う花の女子大生、これから満開の盛りに向かう年頃。
雪の様に白い肌理細やかさに包まれた柔らかな力強さと矛盾なく同居して、
成熟した一人の女性の魅力を完成させる。

掛け湯代わりにシャワーを浴び、
タオルを頭に乗せて大浴場の熱い湯に浸かる。
そして、入口に視線を向けた。

目に付いたのは、自分のかつてを思われる素晴らしい黒髪だった。
目に入った、たっぷりとしたストレートの黒髪は烏羽の艶やかさ。

(しのぶぐらいか?)

心の中で呟くが、それは、今ではない。
あの、騒がしき青春の日々の事。
見るからに、昨日今日女性になり始めたと言う佇まいの華奢な少女。
見事な黒髪がよく似合う、目鼻立ちの整った美少女だが、
抜ける様に色の白い、全体に小柄で手折れそうに華奢な姿は
儚さすら感じられる。

(新入り、ではないんだろうな)

現れた少女は、シャワーで汗を流すと作法通り黒髪をタオルにまとめ、
大浴場にその身を沈めた。
627 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/02(月) 00:36:21.02 ID:c/9+7ela0

「お願いがあります」
「なんだ?」
「私の大切な友達、鹿目まどかを助けて下さい」
「随分、唐突だな」

「時間がありません。桜咲刹那の計画が実行に移されれば、
魔法協会としても放置は出来なくなる。
もし、まどかの契約だけ利用して、等と言う事をしたなら、
私はもちろん少なからぬ魔法少女が魔法協会と敵対する事になる。
魔法協会は総合力としては上だと、それはよく分かってる。
だけど、特化した魔法少女を、
特に役職に就く魔法使いは甘くみない方がいい」

「脅しかな?」

「その通りです。桜咲刹那の計画が実行されれば、
魔法協会の保護下に入ればまどかの魔女化のリスクは格段に下がる。
ゴキブリやウィルスに等しいキュゥべえのストーキングを
延々警戒し続ける必要も無くなる。
せめて人並みの幸せを、神楽坂明日菜さんと魔法世界を救った見返りとして、
魔法少女であっても、せめてその程度の見返りを得る事が、出来ます。
だから、どうかこの計画、黙認して欲しい………
お願いします」

「申し訳ないが、それは出来ない」

湯面に顔を付ける寸前の懇願に、静かな口調で返される。
628 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/02(月) 00:38:49.84 ID:c/9+7ela0

「その思いは、貴いのだろう。
刹那の思いも、貴い。
だからこそ、その、人々の思いに絶対の力を与える
窮兵衛と言うものを我々が、
例え裏側であっても認める事は許されない。
それは「ひな」の様なもの。
その歪みを使いこなせる程、我々は正しくも賢くもない」

ゆっくりと首を横に振り、染み入る様に告げる。

「そして、それだけの熱い思いは、
この程度のお説教で留まるものではないのだろう」

ーーーーーーーー

この日、神奈川県内の女子寮で発生した一つの爆発は、
浴室を中心に建物の半ば過ぎを爆散させた。

==============================

今回はここまでです>>622-1000
続きは折を見て。
629 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/03(火) 04:18:17.40 ID:UTAuJRe40
や、ら、か、し、た………

大変申し訳ないが、
色々粗と言うか間違いがあったのをそのまま投下した。

開き直って加筆修正版から投下します。
>>625以降は全削除扱いと言う事でお願いします(土下座)

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>624

「いないとはどういう事ですかっ?」
「トイレの、中から鍵を閉めて、いつの間にかいなくなっていましたっ!」

通話の相手は、夏目萌だった。
魔法協会にも秘密裡に魔法少女の調査を継続していた夏目萌は、
今回声がかかり急遽の呼び出しで空港から刀子達に合流していた。

「あれ程気を付ける様に………探しなさいっ!」
「はいっ!!」

バスで刀子の声を聞きながら、
千雨はノーパソ型のアーティファクトを操作する。

「電話の位置情報………
もうここを出てる、道路沿い、車か?」
「まずい、ですね」

刀子が苦り切った声で呟く。

「まだ、こちらは組織で動ける段階じゃない、
協会の隠蔽用のラインを使って警察を動かしたりしたら」
「青山が動く前に近衛家が、か」
「口の堅い信頼出来る関係者を動かします。
彼女一人ですぐに何か出来るとも思えません」

千雨の言葉に、刀子は自分に言い聞かせる様に言った。
630 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/03(火) 04:20:23.36 ID:UTAuJRe40

「探すぞっ!」

千雨が叫ぶ。

「朝倉、アーティファクトの用意。
何か分からないか近場を見てみます。
葛葉先生は見張りもかねて待機お願い出来ますか?」
「ええ、そうですね。分かりました」

ほんのちょっとの間虚を突かれた刀子が千雨の言葉に応じた。

ーーーーーーーー

パキャッ、と、軽快な音を立ててお食事中の明石裕奈は、
肉汁ジューシーなソーセージを堪能しながらスマホを取り出した。

「もしもし? 千雨ちゃん?」

裕奈の言葉に、オープンカフェの相席で
卵スープのカップを両手持ちしていた佐倉愛衣がぴっとそちらを見る。

「え? 何? 神鳴流の神奈川?」
「貸して下さい」

愛衣に言われ、裕奈は半ばひったくられる様にスマホを渡す。

「動きがあったみたいね」

近くのテーブルからは、
その愛衣と背中合わせの位置に座りながらの呟きが漏れる。
631 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/03(火) 04:22:03.31 ID:UTAuJRe40

ーーーーーーーー

一人の美女が、勝手知ったる露天風呂に足を踏み入れていた。

墨絵の様に整った目鼻立ちは穏やかな落ち着きを見せ、
セミロングの艶やかな黒髪を
素朴にまとめたポニーテールもよく似合う。

スポーツウーマンらしく引き締まった健康美は伸びやかな長身で、
それが、前時代語で言う花の女子大生、これから満開の盛りに向かう年頃。
雪の様に白い肌理細やかさに包まれた柔らかな力強さと矛盾なく同居して、
成熟した一人の女性の魅力を完成させる。

掛け湯を浴びて大きな岩風呂の温泉に身を沈め、
熱い湯に浸かりながら入口に視線を向けた。
目に付いたのは、自分のかつてを思われる素晴らしい黒髪だった。
目に入った、たっぷりとしたストレートの黒髪は烏羽の艶やかさ。

(しのぶぐらいか?)

心の中で呟くが、それは、今ではない。
あの、騒がしき青春の日々の事。
見るからに、昨日今日女性になり始めたと言う佇まいの華奢な少女。
見事な黒髪がよく似合う、目鼻立ちの整った美少女だが、
抜ける様に色の白い、全体に小柄で手折れそうに華奢な姿は
儚さすら感じられる。

(新入り、ではないんだろうな)

現れた少女は、掛け湯で汗を流すと作法通り黒髪をタオルでまとめ、
同じ岩風呂にその身を沈めた。
632 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/03(火) 04:25:11.93 ID:UTAuJRe40

「お願いがあります」
「なんだ?」
「私の大切な友達、鹿目まどかを助けて下さい」
「随分、唐突だな」

「時間がありません。桜咲刹那の計画が実行に移されれば、
魔法協会としても放置は出来なくなる。
もし、まどかの契約だけ利用して、等と言う事をしたなら、
私はもちろん少なからぬ魔法少女が魔法協会と敵対する事になる。
魔法協会は総合力としては上だと、それはよく分かってる。
だけど、特化した魔法少女を、
特に役職に就く魔法使いは甘くみない方がいい」

「脅しかな?」

「その通りです。魔法協会がまどかを利用するなら、
使い捨てにする事は魔法少女が許さない。
そして、桜咲刹那の計画が実行されれば、
魔法協会の保護下に入ればまどかの魔女化のリスクは格段に下がる。
ゴキブリやウィルスに等しいキュゥべえのストーキングを
延々警戒し続ける必要も無くなる。
神楽坂明日菜さんと魔法世界を救った見返りとして、
魔法少女であっても、せめて人並みの幸せを。
その程度の見返りだけでも、得る事が出来る。
だから、どうかこの計画、黙認して欲しい………
お願いします」

「申し訳ないが、それは出来ない」

湯面に顔を付ける寸前の懇願に、静かな口調で返される。
633 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/03(火) 04:29:34.87 ID:UTAuJRe40

「その思いは、貴いのだろう。
刹那の思いも、貴い。
だからこそ、その、人々の思いに絶対の力を与える
窮兵衛と言うものを我々が、
例え裏側であっても認める事は許されない。
それは「ひな」の様なもの。
その歪みを使いこなせる程、我々は未だ正しくも賢くもない」

ゆっくりと首を横に振り、染み入る様に告げる。

「そして、それだけの熱い思いは、
この程度のお説教で留まるものではないのだろう」

ーーーーーーーー

この日、神奈川県内の女子寮で起きた爆発は、
浴場を中心に建物の半ばを吹き飛ばしていた。

==============================

今回はここまでです>>629-1000
本当にすいませんでした。
続きは折を見て。
634 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/04(水) 03:28:40.97 ID:mR6TrP/f0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>633

ーーーーーーーー

時間停止を解除した暁美ほむらの背後で、
爆音と共に巨大な火柱が上がる。
次の瞬間には、ほむらは再び時間を停止していた。

(あれで終わり、とは思っていなかったけど)

そうして、女子寮「ひなた荘」の外に退避していたほむらが
大量の迫撃砲、対戦車携行ミサイルを並べ、次々と発射する。
停止した時間の中で、
ほむらとの繋がりを失った砲撃は空中でその動きを止める。
時間停止解除と共に、空中に留まっていた砲撃は、
尾を引いて上空を横切る火の玉に吸い込まれて行った。

ーーーーーーーー

(これで、少しは………)

起動を予測して近くの川に隠匿していたミサイルを落下させたり
燃料満載のタンクローリーを突っ込ませたり
やっぱり川の中に隠匿していた兵器を
キャスターから叩き込んだりした結果として、
裏山へと墜落するのを見届けたほむらが、
その辺りに設置した軍用プラスチック爆薬の起爆スイッチを押す。

地形が変わる程度の爆発を背景に、
一部外観の変わった「ひなた荘」玄関前で
ほむらはバッと黒髪を払っていた。

「神鳴流秘剣、百花繚乱」
「!?」

そして、振り返る途中で、
ほむらの体は桜舞い散る衝撃波に吹き飛ばされていた。
635 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/04(水) 03:30:56.98 ID:mR6TrP/f0

「刹那から聞いていなかったか?
神鳴流に飛び道具は通用しないと」

ほむらの手で×字に組んだジャングル・マチェットと軍用ナイフが、
デッキブラシの一撃を受け止めていた。

「随分、頑丈ね」
「あの程度でどうにかなっていては、
万万が一あり得る事が無いでもないかも知れない
でもないとも言い切れない事もないでもない
管理人は務まらないからな」

ーーーーーーーー

「流石に、奇策頼みに本家の相手は荷が重かったか」

この辺りは無事だった「ひなた荘」物干し台で、
フェイト・アーウェルンクスがすうっと右手を上げると、
周辺の空中に大量に浮遊していた石針が鋭く飛行した。

「!?」

次の瞬間、けたたましい大量の銃声と共に、
石針が空中で残らず粉砕される。

「確か、暁美ほむらの先輩だった、と記憶しているが?」

「ええ、そうね。
だから、後輩が道を誤ると言うのなら、
黙って見ている訳にはいかないわ。
悪い道へのお誘いは、やめていただけるかしら?」

「悪いが、こちらにはこちらの事情がある。
こちらの方が分がいい、と判断した」
「そう、じゃあ仕方がない」

屋根の上でフェイトに右側面を見せていた巴マミと
物干し台にいたフェイトが跳躍する。
それをだだっ広くなった露天風呂から
半笑いで見ていた佐倉杏子は、振り返り様に槍を振るっていた。
636 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/04(水) 03:34:03.08 ID:mR6TrP/f0

「おこぉーんばーんわー(はぁと)」

その甘い声を聞いた杏子は、
槍の石突で後ろを突きながら生理的にぞわっとするものを覚える。

「(あたしの鎖の巻き込みを「気」で払った?
うぜぇ、が………)出来るってかっ!?」
「少しは食べ応え、ありそうですなぁ」

はんなりと甘々な返しと共に、
振るわれた槍の柄が二振りの小太刀に受け止められた。

「あつつっ!」

その近くでは、さやかがびゅうっと二刀を振るい、
火の玉の様な娘が飛び退く。

「体に火を巻いてるってそーゆー魔法っ!?
なんかやったら速いしっ!」

ぶーたれながらも、さやかがとっさの判断で
回転斬撃を展開する。
間一髪、さやかは地中から伸びて来た大量の木の根を
巻き込まれる前に斬り払い、猶予を作った。
さやかが放った飛行剣の連打が、
地面を割って突き出した根にどがががっと防がれて
その向こうで立派な角の娘が次の動作に移る。
637 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/04(水) 03:35:46.78 ID:mR6TrP/f0

ーーーーーーーー

京都嵐山、桂川沿い

「渡月橋、やっぱ渡らないの?」
「ああ、絶対ヤバイだろうからな」

朝倉和美と長谷川千雨が言葉を交わした。

「近衛家が最後の抵抗を始めてやがる。
こっち側の世界のデジタル情報と偵察特化の情報戦で
辛うじて五分に持ち込んでるが、
そうじゃなけりゃとっくにあっちの手の者に抑えられてる」

「だったら、目立つ道はまずいってね」

「ああ、あっちこっち右往左往したが、目的を果たすぞ。
こっちに、神鳴流の先代とやらがいる。
囮役で釘付けになってる葛葉先生に代わって
直接ナシつけて即刻動いてもらう。これで決着だっ」

それぞれアーティファクトの情報を確認し、走り出そうとする。



どこに行くんですかー?

長谷川さーん、

朝倉さーん?



==============================

今回はここまでです>>634-1000
続きは折を見て。
638 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:05:55.79 ID:9QFqa/Py0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>637

「よう、何やってんだこんなトコで?」

修学旅行以来の京都府内での遭遇となった同級生相手に、
長谷川千雨はひくひくと引きつった笑顔で片手を上げる。

「ネギせんせーの幸せを取り戻しに来ました」
((あ、あかん奴だ))

とてもとても魅力的ににっこり微笑んだ宮崎のどかを前に、
長谷川千雨と朝倉和美は瞬時に悟っていた。

「そういう事です。
もちろんご協力いただけますよね長谷川さん、朝倉さん」

のどかの隣で、綾瀬夕映が断言する。

「悪いが、お前らの企みは魔法世界で潰えた」
「いいえ、まだです」

千雨の言葉に、夕映が反論した。

「今なら未だ間に合うです。
鹿目まどかさんの身柄を青山家からこちらで隠匿し、
改めて魔法世界の為の契約をお願いします。
今の所、青山家と近衛家が
互いに知らない振りでの暗闘をしているだけです。
鹿目まどかさんさえ契約してくれれば、
魔法協会も元のプランで追随せざるを得なくなるです」

「本気で言ってんのか、綾瀬、本屋?」
「もちろん、本気です」
「本気だよ、長谷川さん」
639 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:08:38.42 ID:9QFqa/Py0

「本屋、マジで言ってんのか?
このプランに乗るって事がどういう事だか分かってて言ってんのか?」

「今までだって、一時的に魔法協会と敵対する事になっても、
最後には結果で押し切って来たです。
今回もそれが出来ます。

鹿目まどかさんが自主的に契約してくれれば、
魔法世界もアスナさんも助かり、
世界的リスクから魔法協会も手を貸さざるを得なくなる。
私達の一存でやった事にしてしまえば
青山家も敢えてリスクを増やすだけの対処は出来なくなるです。

最悪の場合、青山家があくまで妨害するのであれば、
公共の福祉の名目で協会が制圧する名目も立ちます。
それも、今迄の魔法少女の不安定さから言えば、
むしろリスクの総量は低くなる許容すべきリスク管理です」

「そういう事を言ってんじゃねえっ!!」

夕映の淀み無さすぎる言葉とそれと裏腹の目の隈に、
千雨が言葉を叩き付ける。

「本屋、それがネギ先生の、神楽坂の意に沿う事だと思ってるのか?
魔法少女は誰かを犠牲にしないと成り立たない共食いのシステムだ。
そんなモンにカタギの女一人沈めた上に、
例え直接手を下さなくても他のが化け物になってくたばるのを見過ごして、
その魂を再利用して、そうやって神楽坂の人生を取り戻す。
そんな事を、あいつが望むと本気で思ってるのか?
ネギ先生と神楽坂が、残りの人生それで笑って過ごせると思うか?
お前なら分かるだろ本屋っ!?」

「分かるよっ!」

のどかから叩き返された言葉に、千雨の足が一歩退いた。
640 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:11:12.78 ID:9QFqa/Py0

「分かる、ネギせんせーもアスナさんも、そんな事は望まない。
ヒーローらしく精一杯戦って他のみんなを救おうとする、って。
だから………」

「だから、陰ながらお前らが手を汚して、
お前らが裏設定になって綺麗な物語を完成させる、ってか?」
「私は、その心算だよ長谷川さん」

澄んだ瞳で見据えられ、千雨は息を飲む。

「長谷川さん、お見事な差配でした。
のどかは、性格的に相当な心証が無ければクラスメイトの心は覗かない。
だから、あなたは疑う素振りを見せずに、
丸で魔法少女の肩を持つ様な強引な仕切りを行いながら、
図書館島の調査と言ううってつけの口実を使って
私達をメインの調査から外して行動に移った。
あなた達が動いた後に、麻帆良側で気付いた人間が
僅かにでもざわついた気配を見せなければ、
網を張っていた我々と言えども完全に出し抜かれていたです」

「いっぺん怪しいと思ったら容赦無し。
全情報丸見えの最短距離でここまで突っ切って来た。
敵に回すとおっそろしいね、本屋」

冗談めかした和美の言葉にも、
のどかは怯む様子を見せない。

「何が、大切な事か。
ルール違反、汚れた手段だったとしても、
絶対失いたくない事があるから。
そのためなら、今は迷っていられない迷わない」

「のどかは作戦面を、
参謀としての私を全面的に信頼してくれました。
何を覗くべきか、そのGoサインを出したのは私です」

「こんな時に覚悟完了しちゃってまぁ」

和美の言葉通り、のどかも夕映も退く気配を丸で見せない。
641 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:12:41.65 ID:9QFqa/Py0

「長谷川さん、朝倉さん、お願いだからここは諦めて、
そして、私達に協力して」

「そうです、お二人の力は是非にも必要なんです。
あなた達だってネギ先生、アスナさんの幸せを願い事に代わりは無い筈。
アスナさんがずっと一緒にいてくれるならば、
プランの上でも、ネギ先生にとっても私達にとっても、
そのメリットは計り知れないです。
アスナさんの事、ネギ先生の事なのです。
メリット、等と言う無粋な言葉は本来は必要ない筈ですよ長谷川さん」

それは、「只の人」を自覚する長谷川千雨を簡単に揺らす、
徹頭徹尾清々しいエゴイズム。

「長谷川、分かってるよね………」

和美が千雨に声を掛けた時、ざざざざっと気配を感じた。

「長谷川さんっ!」

(ち、近い近い近い本屋っ!
だからその前髪の向こう側、
なんでそんなに澄んでうるうるしてんだよっ!?
おまけにほっぺはほんのり赤いとかって!?)

「長谷川さんっ。お願いだから私の………
私の初恋を、悔いの無い戦いをさせて!」

「はい?」

「私は、ネギせんせーが好き」

(知ってるよ!!! クラス全員と同じぐらいっ!!!)
642 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:14:35.49 ID:9QFqa/Py0

「だから、何時か、私は何時か、
ネギせんせーの心を手に入れるために、誰かさんと、
多分、色んな人と戦わなければいけなくなる。
それだと絶対、アスナさんとは対等に戦わなければいけない。
アスナさんが欠けたら、アスナさんがいなくなったら、
私は心の中にしかいない人と戦わなければいけなくなる。
それは、一番厳しくて辛い恋愛小説だから………。
そうでなくても、今のネギせんせーからアスナさんを奪うなんて、
そんなお話、そんなネギせんせー、私は見たくないっ!!!」

「千雨さん?」

下を向き、笑いを噛み殺す千雨に、
夕映は低い声で尋ねる。

「ああ、流石は桜咲だってな」

千雨が、くっくっ笑いながら顔を上げる。

「守るために一歩引いて、だからこそよく見てやがる。
見事な人選だ。
お前らが選ばれて、私は選ばれなかった」

「私は、私が知識以外の分野で著しく偏った人間である事を自覚しています。
千雨さんは人として、一人の先輩として、
危うい道を進み続けるネギ先生を引き戻し、
後押ししてその道を照らし続けた。
千雨さんだからそれが出来たのです」

「私は、ネギせんせーから一人前の冒険者だと認めてもらっても、
それでも、ネギせんせーに守ってもらう側だった。
だから隣に立ちたいって一生懸命頑張ってる。
長谷川さんは、力に頼らないでそれが出来てる」

「だから、あなたにはあくまでネギ先生の一人の先輩として、
一人の、それも濃厚過ぎないアスナさんのクラスメイトの友人として、
刹那さんはそれを望んだ筈です」
643 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:17:08.95 ID:9QFqa/Py0

「ああ、だからあいつには、ふざけるな、
てめぇが抜けた後の事迄押し付けんじゃねぇって
怒鳴りつけてやったけどな」

「それでも、やらなければならないんです」

夕映が言い、千雨と睨み合う。

「改めて魔法世界崩壊の危機、それを回避する為、
そしてアスナさんの、ネギ先生の幸せを両立させる唯一の手段。
魔法少女と言うアダムのリンゴの導入と言う異常事態を前にしては、
危険を冒してでも我々の様に尖った意志と能力を貫かなければならない」

「アダムのリンゴ、あすなろ市のあの娘達も求めていたものだっけ」
「だから、協力出来たです」

和美の言葉に、夕映が返す。

「ええ、そうです。
一人の人間を人柱にしてそれを安寧それを秩序だと、
それが神の言葉だと言うのなら、
一人の友達の為、愛する人の為、只の人である私は出し抜いて見せる。
だからこそ協力する事が出来たのです」

「今、しかるべき場所に真実がそのまま伝われば………」

「少しばかり大きな戦いになるでしょうね。
基本、鹿目まどか云々がどうあれ、
あちらは魔法協会として許容するには只々危険過ぎますから」

「相変わらず、記事にならない情報ばっか集まる」

和美が言い、天を仰ぐ。

「ネギ先生のため、神楽坂のため………」
「勘違いしないで下さい」

千雨の言葉に、夕映が言った。
644 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:21:34.86 ID:9QFqa/Py0

「アスナさんがいない、アスナさんがいなくなったネギ先生。
その事に耐えられないのは私です。
ですから、鹿目まどかさん、
そして、今後数多の魔法少女の犠牲、負担を承知で、
私はアスナさんをこの世界に呼び戻す。
この世界でネギ先生と私達と一緒の人生を全うしてもらう。
そうあって欲しいから私はそうするのです」

「どうしてもかよ」

「その通りです、私達の手には、
その悲劇を、ネギ先生からアスナさんが奪われると言う悲劇を
回避する手段が握られています。
私はネギ先生が好きです。
だからこそ、ネギ先生にとってアスナさんがどれ程大切な人か、
その事も理解している心算です。
で、あるならば、
やらないで後悔するよりもやって後悔した方がいい」

宣言しながら、綾瀬夕映は、
スチャッ、と、
携帯用の魔法練習杖を取り出す。
千雨は息を飲む。

ネギ・パーティーでも上のグループが化け物揃いだと言うだけで、
特殊能力を抜きにしても、魔法使いとしてのこの二人は
初心者としては地獄の特訓を知るかなり高い水準。
少なくとも、同じく一応魔法使いに片足突っ込んでいるが
情報特殊能力特化である千雨が「喧嘩」をしていい相手ではない。
そして、ここまで動機が徹底していると、説得する理屈が存在しない。
645 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:23:05.90 ID:9QFqa/Py0

「………買い被り過ぎなんだよ………」

下を向いた千雨が、ぽつりと吐き出した。

「私だって見て来たんだよ、神楽坂とネギ先生、
それに、近衛に桜咲。
あそこから神楽坂が抜けて、その後どうするんだよ?
又、上手く距離を取りながらネギ先生が一人で行き過ぎない様に、
只でさえ難しいガキだってのに、神楽坂までいなくなって。
何だよ、それ。随分、私の事を買い被ってくれた。
いや、頼まれもしないのに、今更他人の振りも出来ない、
そんな私の問題か。私に、何が出来るってんだよ。
なあ、神楽坂、あのガキを、私を置いてくんじゃねぇよ馬鹿がっ!!!」

千雨が顔を上げる。

「あなただけの罪にはしない。
私も、のどかも刹那さんもいるです。
あの夏を、ネギ先生と共に戦った皆がいるです。
自分の大切な人のために。
私は、私の愛する人のために魔法少女を利用する。
だから長谷川さん、私達と共に」

夕映は、すっと右手を差し出した。

「悪を行い世界に対し僅かばかりの正義を成そう」
646 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:31:13.49 ID:9QFqa/Py0

千雨の足が、ふらっ、と、前に出た、
のか否か、千雨自身の記憶は定かではない。
その記憶が鮮明に戻るのは、夕映が左手の練習杖を振るった時からだった。

「風楯っ!!」

果たして、夕映は明後日の方向に魔法防壁を張り、
爆発音と共に周囲が白煙に包まれた。

「白き雷っ!!」

更に、夕映が攻撃魔法を展開するが、
千雨達に届く気配は全く無い。

「それが、君の愛かい?」
「風楯っ!!」

風が裂け、何かが衝突する音を聞きながら、
息を飲んだ千雨もステッキ状の「力の王笏」を振り出す。

「のどかっ!」
「かすった、だけだから」
「本屋っ?」

その声に、千雨は左腕を抑えるのどかに目を向ける。

「愛は無限に有限。だから私は無限に彼女に尽くす」

「あなた達は世界を救い、そして愛する者を救うと言う。
私はお父様の望んだ世界を、私は私の救世を成し遂げる」

==============================

今回はここまでです>>638-1000
続きは折を見て。
647 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:35:37.72 ID:LSWEkX6H0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>646

ーーーーーーーー

「おっとおっ!」

わざわざ京都まで出張し、低い姿勢から走り込んだ呉キリカが、
飛んで来た小さめの本を交わしながら標的へと突っ込む。

「!?」
「白き雷っ!!」
(二段構えねっ!)

まず、びゅうっと目を塞ぐ風が吹き抜け、
その後にキリカを襲う電撃をキリカ跳躍して交わした。

「速い、ですねっ」
「違うっ!」

綾瀬夕映の言葉を宮崎のどかが否定した。

「私達が遅くなってる」
「了解ですっ!」

のどかの言葉と共に夕映が液体の入った試験管を放り出し、
周囲が煙に包まれた。

「白き………」

そして、すすすっと移動して練習杖を振り上げた夕映の側で風が裂ける。

「!?」

夕映の近くの空中で、飛来した水晶球と空飛ぶ本が激突し、爆発が起こる。

「風楯っ!」

その時には、夕映はキリカの長爪の一撃を魔法防壁でやり過ごしていた。
648 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:39:18.57 ID:LSWEkX6H0

「ウエンテッ(風よっ)!!」

夕映が杖を振り、周囲に風が巻く。

「白き雷!!」

次の瞬間、美国織莉子は自分を狙った電撃をすすすっと交わし、
それに合わせる様にのどかが動く。

「!?」

のどかの前でキリカが振るった爪が、
のどかが広げた分厚い本をざっくりと切り裂く。

「誰を狙おうと言うのかな?」

そう言いながら腕を振り上げたキリカの前で、
夕映がのどかの前に立つ。
キリカは距離を取った。

(まずいですね)

のどかを背後に守りながら、夕映は心の中で呟く。

(この二人相手では決定打に欠ける。
千日手をしていては青山家に対策をとられてしまうです)
「夕映っ!」
「遅い遅いよっ!!!」

キリカの振るった右手の爪が
のどかの手にした魔法の本「いどのえにっき」に食い込み、
649 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:41:58.17 ID:LSWEkX6H0

「のどかっ!!」

余った爪の勢いで、のどかの左腕の流血が増加する。

「風楯っ!!」

そして、夕映の張った防壁がキリカの左の爪を弾き返す。

「このっ!」

キリカが本に食い込んだ長爪を無理やり引き抜き、
のどかが後ろに転倒しそうになる。

「のどか、今治癒するですっ!」

夕映が声を震わせている間、
のどかの目はキリカをしっかと捉えていた。
攻撃の速さと威力だけでは、魔法をそこそこ使えるが
武闘派と言う程ではない夕映ではキリカに勝てない。
のどかと言うレーダー抜きには。
650 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:43:45.25 ID:LSWEkX6H0

「?」

そして、夕映は気付く。
織莉子の視線が明後日を向き、
そちらの木陰に向けて大量の水晶球を放っていた。

「………!?」
「援軍みたいね」

織莉子が言った時には、頭に横長の角を持つ少女「環」が木陰を飛び出し、
そのドラゴン的外見と体質を持った少女は、
急遽本当にドラゴンになろうとした
その時には早速に呉キリカの襲撃を受けていた。
そして、それを這う這うの体で交わした環が今正に美国織莉子に迫る、
と、思った時には、織莉子の用意した水晶球が
環に向けて吸い込まれる様に真っ直ぐ飛行していた。

「か、はっ………」
「のどかっ!!」

夕映は、二つの事に気付いた。
キリカも又、明後日の方向に地を蹴ったと言う事と、
それを受ける様にのどかが駆け出した事を。

ーーーーーーーー

青山素子がひょいと身を交わし、飛んで来たジャングル・マチェットが
地面に突き立った木材に突き刺さる。

「いい判断だ。どの道飛び道具は通用しない。
ならば、貴様には過ぎた重さだったと言う事か」

そう言いながら、青山素子は、
突っ込んで来た暁美ほむらの斬撃をすいとやり過ごす。
ほむらはざざっと振り返って素子を狙おうとしたが、
その時には、瞬時に間合いを詰めた素子が振り下ろすデッキブラシが、
ほむらが右手に握る中型のグルカナイフに受け止められていた。
651 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:46:03.84 ID:LSWEkX6H0

「どうやら、マギカであってすら、余り腕力には恵まれていないらしいな」

そんな声を聞きながら、
ほむらは左手に握った軍用サバイバルナイフも加えて
ガチガチガチとデッキブラシの柄を受け止める。

きりきりきりと歯噛みしながら
辛うじてそれを成功させているほむらだったが、冗談ではない。
使っているのは素人でも武器は間違いなく玄人。
あの勢いで打ち下ろしたら
デッキブラシの方が真っ二つになっている位置関係の筈が、
ほむらが魔法少女の力で必死に堪えてようやくギシギシと均衡している。

「(それでも全然余裕、桜咲刹那も十分過ぎる強さだったけど、
これが青山宗家っ)
あああああっ!!!」

ほむらが、握った刃物を力任せに振るう。
その一瞬の隙に地面を転がり、楯に手を伸ばす。

「あああ………」
「未熟」

呼吸を整えながら止まった時の中を素子の真後ろに回り、
せめて鈍器な部分を振り下ろした、と思った時には、
ほむらはどてっ腹に叩き込まれたブラシの衝撃で
後方へと吹き飛ばされていた。

「か、はっ………」

魔力の急消耗を少しでも防ぐべく、
ほむらは吹き飛びながら時間停止を解く。

「貴様相手なら、髪に触れてからの刹那でお釣りが来る」
652 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:47:57.98 ID:LSWEkX6H0

ーーーーーーーー

「ティロ・フィナーレッ!!!」

ひなた荘上空で、砲弾が分厚い砂壁を粉砕する。
巴マミが肩にかけていた単発の大砲が消滅する。
その時には、柏手と共にマミの周囲に展開されたマスケット銃の一群が
マミの周囲を回転しながら発砲し、
フェイト・アーウェルンクスの放つ石針を砕きながら消滅する。
空中ですれ違った二人が一度屋根に着地し、
双方の遠距離攻撃を交わしながら地面へと降下する。

「!?」

ばいんっ、と、マミが黄色いバネに弾き飛ばされた。
それは、とっさに張ったリボンの渦巻き防御が、
地面から突き出した石の槍をギリギリでガードした結果だった。

「くっ!」

更に、空中のマミの前方でリボンが渦を巻き、
そのバリアを帯びたリボンが
フェイトの放った光線を受けて石化して砕け散る。

「ふむ」

フェイトは、目の前で石の剣に貫かれた巴マミの姿が
一滴の流血も無くリボンのバネと化すのを目の当たりにする。
フェイトは振り返り様、
しゅるしゅると自分に絡み付いていたリボンに石剣を叩き付ける。
マミは弾力のあるリボンからさっと手を放し、
リボンが瞬時に石に変化して砕け散る。
653 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:53:04.32 ID:LSWEkX6H0

ーーーーーーーー

「おいおい………っ!」

佐倉杏子の口からは、乾いた笑いも出なかった。
近くの空中で、フェイトが石針を、石剣を放ち、
マミがそれを交わし、使い捨て魔法で呼び出すマスケット銃で撃ち砕き、
フェイトが飛んで来るマスケットの銃弾を交わしながら
双方ひなた荘の館から館、茶屋、樹上、あちらこちらへ跳躍する。
そして、マスケットと石剣でガン、ギン、ガン、と撃ち合い砕き合いながら
双方ヒット無しで殴り合い、
又、バババッ、と、大量の銃弾と石針が空中で殺し合う。

「ティロ・フィナーレッ!!!」

降って来た巨大な石柱がマミの大砲の一撃に粉砕された時には、
マミとフェイトはそれぞれ、
空中で身をよじって銃弾と石剣を交わしている所だった。
それを下から眺めた佐倉杏子が大汗を浮かべ、槍を振るう。

「二刀連撃斬鉄閃っ!!」
「野郎っ!」

月詠が小太刀から繰り出す「気」の連続攻撃を、
杏子は大槍の一閃で弾き飛ばす。

「烈蹴斬、弐の太刀いっ!!!」

ずざざあっ、と、杏子の足が後ろへと滑る。

「やっぱ武器は選ばずかよっ」

杏子は、勢いに倒されそうになりながらも、
手槍サイズに縮めた槍の柄で月詠の蹴りを受け止めていた。
654 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:55:28.45 ID:LSWEkX6H0

「その大槍でうちの動きに付いて来る事が出来る、
いいですなぁ、もっともっとうちの事楽しませておくれやすぅ」
「戦闘狂かようぜえっ!!」

元々自覚的な功利主義者の杏子にとって、
最も面倒臭いタイプに絡まれた面倒がひたすら鬱陶しい。
もっとも、只の功利主義者だけなら
そもそもここにいない事はこの際無視している。

「小太刀の二刀流、ってのがアレだが、
てめぇも神鳴流かよ。
やたら強いし動きも似てやがる」
「そうですなぁ、あの人がなかなかかもうてくれんから
あんたで我慢しとくわ。
なんか、初めておうた気しませんしなぁ」
「てめぇなんか知るかっ!!!」
「そうですかぁ?」

と、意味不明な供述とこの状況で意味不明な甘々ファッションに身を包み、
それでいて意味不明な強さの剣術で襲撃して来る
フェイトのこの際腐れ縁な「月詠」を、
佐倉杏子はひたすら槍を振るって対抗する。

「ざーんてーつせーんっ!!」

跳躍した月詠を、鞭に変化した槍が鎖に変化しながら巻き取ろうとするが、
月詠の小太刀二刀から放たれた「気」がそれを弾き飛ばす。

「ざーんがーんけぇーんっ!!」
「とおっ!」

そして、着地した月詠にびゅうっ、と振るった杏子の槍はひょいと交わされ、
「気」を帯びた爆弾の様な一撃を、
持ち直した槍でバリアを張りながら辛うじて飛び退いて回避する。
655 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:57:44.13 ID:LSWEkX6H0

「ええですなぁ、まだまだ及ばんけど久しぶりになかなかの手応えや。
あの人かもてくれへんからうちもうたまらんさかい、
もっともっと楽しませておくれやすぅ」
「本気で、うぜぇ………」

杏子が次々繰り出す槍の高速刺突を、
何処ぞのダンスボーカルユニットを一人でやってる様な残像を残しながら、
色白の京女の頬をピンクに染め唇の端から液体を垂らして
ひょいひょい交わしている月詠を前に、
佐倉杏子は、右手の小太刀の柄頭を腹から下に押し付ける様な姿勢で
体をくなくな震わせている大量の月詠の残像から、
魔女とも違う背筋に来る何かを察していた。

「(まとめて)薙ぎ倒おぉすっ!!!」
「あはっ、大振りっ」
「!?」

杏子の横殴りの槍を月詠が跳躍して交わす。
そこまでは普通に予測出来る事だったが、
月詠はたんたーんっとばかりに
「宙を蹴って」杏子の視界から逃れにかかる。
確かに、杏子を含め人間の段階を超えた領域の世界では
あり得る事だと杏子も分かっているが、
訓練された月詠の移動は想像以上に鋭い。

「ちいっ!」

びゅうっ、と、
振り返り様に振るった槍の柄が斬り裂いたのは、残像だった。
杏子が槍を引き、突きの姿勢に入る。
月詠が、その一撃をするりと交わし、懐に入る姿勢に入る。
双方が必殺の一撃を意図した、刹那の時間が重なる。

「!?」
「おや?」

そんな二人に飛来する炎を帯びたブーメランの様な武器を、
杏子はざっと交わし、月詠は小太刀で弾き飛ばす。

「新手のマギカさんですかぁ?
えらい鼻息荒ろうおますけど」
656 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 23:04:31.79 ID:LSWEkX6H0

ーーーーーーーー

「このっ!」

さやかが放った剣の一群が、
地面から突き出した木の根にドガガガッと突き刺さる。
その木の根を飛び越えてさやかに向かった炎の塊を、
さやかは剣を振るって牽制する。

「あっつっつっつっつっ!!!」

そして、自分の周囲で着火する空気を二刀流の剣で振り払いながら、
さやかはその大元である「焔」に向けて駆け出す。

「回復魔法を使いながらの突撃。
だが、斬る事に躊躇があるのか?」
「いちお、怪獣ぐらいはぶった斬れる真剣だしね」

さやかの振るう剣を交わしてバラバラと炎をまき散らす
ツインテール少女「焔」の言葉に、さやかは吐き捨てる様に言った。

「所詮、平和な世界の甘ちゃんか」
「否定はしないけど、でも、ま、色々あるんだわっ!」

焔が跳躍し、さやかが放った剣がその下を突き抜ける。
びゅうっ、と、炎の帯と剣が交錯し、
ざっと距離をとって睨み合うさやかと焔。
657 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 23:05:53.07 ID:LSWEkX6H0

「大体、なんであたしが二対一なのよっ!?」
「貴様如き私達で十分と言う事だ」
「………まあ、理解は出張る、けどさあっ!!!」

宇を舞う黄色い先輩が
ドンドンドンドンドンと巨大なマスケットを上空へと発砲し、
空から降り注ぐでっかい石柱が砕け散り、
更に巨大なマスケットと言うかなんと言うか
大砲の一撃と共に大量の砂が爆散し
黄色い先輩のマスケットと学ラン白髪の石剣が
ガンギンガンと砕き合う天空の1シーンをさやかはチラッと伺い、
さやかの振るった二刀が放つバリアが焔の炎を弾き飛ばす。

「こんのっ!!」

そして、地面を突き破りさやかを締め上げにかかった木の根を、
さやかの剣が回転二刀流で破片に変える。

「あいつは?」

その瞬間の攻撃を覚悟していたさやかの目が、
「焔」を探して周囲を伺う。
658 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 23:07:02.83 ID:LSWEkX6H0

「ふんっ!」

三節棍の何倍かも分からない多節棍が
じゃららーっと一つにまとまり、槍へと変化する。

「こっちの方は、少しは出来るのか?」
「ま、あのヒヨッコよりはな。
ついでに言っとけば、そこそこハングリーだし」

焔の言葉に、槍を担いだ杏子が言葉を反してニッと笑った。

「なんだ、へばってんのかよ?」
「だからー、にーたいいちだってーの。
大体あんた、あっちはどうしたの?」
「ああ、通りすがりの武者修行に任せて来た」

肩で息するさやかの問いに、杏子が親指を後ろに向ける。

「いいからいいから私に倒されっチャー!」

「あはははっ! その動きも猪さんですなぁ、
勢いあって意外とお利巧。
牡丹鍋ぐらいは楽しめそうやっ!!」

さやかと杏子は、背中合わせになる。

「じゃあ、あいつの事頼める?」
「あんたは?」
「あっち、片付けて来る」

何が気に入らないのか、
既に得体の知れない植物ゾーンと化した一角の向こうに
さやかが剣呑な視線を向け、
杏子は唇の端に笑みを浮かべて跳躍した。

==============================

今回はここまでです>>647-1000
続きは折を見て。
659 :mita刹 ◆JEc8QismHg [sage]:2018/05/09(水) 22:41:26.91 ID:lTpqgo6B0
生存報告です
660 :mita刹 ◆JEc8QismHg [sage]:2018/05/29(火) 21:56:46.92 ID:W8x2w7zu0
生存報告です
661 :mita刹 ◆JEc8QismHg [sage]:2018/06/24(日) 02:37:35.75 ID:lFB6LBQq0
生存報告です
662 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:06:34.90 ID:fABXASRb0
お詫びと訂正です

>>283
恭介が驚きの声を上げる隣で、
仁美が力強くこちらを見るのを刹那は見ていた。

地面に戻った後、恭介が驚きの声を上げる隣で、
仁美が力強くこちらを見るのを刹那は見ていた。

>>509

膨大と言ってもいいぬいぐるみが
夜の博物館の棚に陳列されている光景にマミと裕奈が言葉を交わした。

膨大と言ってもいいぬいぐるみが、夜の博物館の
棚やガラスケースに陳列されている光景にマミと裕奈が言葉を交わした。

訂正以上、すいませんでした。

それでは最終回投下、入ります。
663 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:09:06.11 ID:fABXASRb0

==============================

>>658

ーーーーーーーー

(時間稼ぎ)

率直に言って、青山素子は哀れみを覚えていた。
暁美ほむらはスタン・グレネードを使って時間を稼ぎ、
素子から距離を取った。

客観的に言って、神鳴流剣士、
それも頂点にいる素子を倒すには白兵戦以外あり得ず、
現状のこの対戦での比較で言えば、
ほむらのそちらの素質、実力は絶望的だ。

先にも素子自身が言った通り、この実力差では、
例え一瞬、どんな隙があったとしても、
もちろん暁美ほむらのスタイル、能力を踏まえた上で、
ほむらが素子の髪の毛一筋触れた時点で
叩きのめされるのはほむらの方だ。

その僅かな時間稼ぎの間に、
ほむらは右手に持ったグリーフシードをしゅっと投げ捨てていた。
そして、ほむらが構えたのは木刀だった。
素子から見たそれは、見様見真似の正眼の構え、
それ以上でもそれ以下でもない。

とん、と、素子が跳んだ。
これで何度目か、周り一帯で爆発が起こる。
素子がすいと身を交わす。
大振りせず、脇構えからの突きを選んだ辺り、
流石に実戦経験だけはあると言う事か。

ではこちらも実戦で、と、素子はほむらの背中を無造作に蹴り飛ばす。
地面にダイビングしたほむらが木刀を杖に立ち上がるのを見て、
素子は構え直した。

「神鳴流奥義・ざんが………!?」
664 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:10:24.81 ID:fABXASRb0

ーーーーーーーー

「ティロ・フィナーレッ!!」

空中で、巴マミが抱えた大砲としか言い様の無いマスケットが
マミに迫る石柱を撃ち砕き、
マミの体はその反動で地面へと向かう。

「ヴァーリ・ヴァンダナ………」
「!?」

そして、水柱を上げて露天風呂に落下したマミが周囲を見回すと、
大量の掌がマミに掴みかかっていた。
それは、固形化した温泉で、
触手状に固形化した大量の温泉の先端に掌がついて
生物の様に蠢きマミに迫る。

「!?」

そして、マミは察する。
今ここに迫る灰色の霧に込められた禍々しい魔力を。

ーーーーーーーー

露天風呂が見た目観光間欠泉と化した爆発を目にしながら、
ファイト・アーウェルンクスが浴場にとん、と着地する。
その時には、空中に渦巻いた大量の石剣が
露天風呂を埋め尽くす勢いでドドドドッと降り注いでいた。

(ふむ)

そして、フェイトはするりと体をよじる。
その上を、強力な二発の銃弾が突き抜けた
665 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:11:56.95 ID:fABXASRb0

「紙一重だったわね、
もう少しで体ごと彫刻にされてたのかしら?」

マミが一挺ずつ両手に持ったマスケットが消滅し、
それと共に、マミの体にまとわりついていた灰色のリボンも砕け散る。
そしてフェイトは気付く。
露天浴場の中を、フェイトを包囲しながら
今尚増殖して埋め尽くす膨大な黄色いリボンを。

「まだだめよ、まだだめよ。
まだだめよ、まだだめよ。
まだだめよ………」

「契約により従え、奈落の王!!
地割れ来れ、千丈………」

ーーーーーーーー

「おい」
「ああ、うん、考えたら負けな奴だ」

ひなた荘前で、フェイトの従者「焔」と佐倉杏子が、
露天風呂の方向から察知した
天地を揺るがす何かに就いての見解をすり合わせる。
そして、相変わらずの不快音に顔を顰めた。

ーーーーーーーー

美樹さやかは、不快音と共にさやかを襲う衝撃波を
たんたんーっと交わしていた。
異様なジャングルと化しつつあるひなた荘周辺の一角で、
さやかの体がぶるるっと回転し、その両手に握られた刀が
地面から彼女を締め上げようと迫る木の根木の枝を斬り飛ばす。

「とおっ!」

そして、フェイトの従者「調」に身軽に迫るが、
さやかが調に飛び掛からんとしたそんな二人の間に、
ぼこっ、と樹木が突き上がる。
ぼん、ぼん、ぼんっと、地面から突き出す木々がさやかを襲い、
さやかはそれを交わし、斬り飛ばして調に迫る。
666 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:13:39.95 ID:fABXASRb0

「このっ!」

さやかが右手から放った刀が、地面から突き上がった樹に突き刺さる。
それを楯にした調がささっと移動し、
不快音と共にさやかに向けて衝撃波を放った。

身をよじったさやかを衝撃波が吹き飛ばし、
さやかの背後に現れた樹にさやかの背中が激突する。

「つ、っ………このっ!!」

ずるずると頽れたさやかを、
地面から伸びた硬い蔦の群れが拘束しようとする。
さやかは、剣を両手持ちにして力任せにそこから逃れる。
そこに襲い掛かる調からの衝撃波を、さやかは大きな跳躍で交わした。

(デタラメな)

跳躍したさやかが遥か上空から放つ剣に、調は心の中で呟く。
果たして、ヒュンヒュンと降り注ぐ剣は
調が呼び出した植物や地面に悪戯に突き刺さるだけだ。
さやかの着地を狙った衝撃波を、さやかは横っ飛びに交わす。

「!?」
「見えて来たんだよねー」

そして、さやかは、さやかを縛るために伸びる太い木の根に
刀の刃を叩き込み、更にその勢いで飛び上がる。
さやかは、魔法少女の馬鹿力を利用して、
次々とさやかを襲う木の根に刀を叩き込み、食い込んだままの刀を梯子代わりに
ひらりひらりと巨大植物の上へ上へと舞い上がっていた。

「くっ!」
「あらよっ!!」

その事に気付いた調が放った衝撃波も、
さやかは手近な植物を足場にひらりと交わす。
667 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:17:08.44 ID:fABXASRb0

「あんたのリズムっ!!」

そして、地面に突き刺さった刀の柄から柄へとたんたーんっと跳躍していた。

「く、っ!」
「そいっ!」

勢いをつけて跳躍をしたさやかを調が狙う、
その時には、さやかは調の背後に回って
調の脚を刀の棟ですぱーんと払っていた。

「つっ………」
「あんたはあたしを怒らせた」

そして、さやかは竜の角を誇るフェイトの従者、調から
得物を取り上げ仁王立ちして見せた。

ーーーーーーーー

「なん、ですか?」

京都桂川の川辺で、綾瀬夕映が呻いた。
そこでは、美国織莉子が両手を上げ、微笑んでいた。
それを見て、織莉子と対峙していた宮崎のどかもふっと力を抜く。

「流石に、厳しかったわね」

たった今までのどかの前に延々と無言で突っ立っていた織莉子が
使用したグリーフシードをひゅっと放り捨てる。
そして、織莉子の前に延々と無言で突っ立っていたのがのどかだった。

「で、これどうするの?」

腕組みした朝倉和美が言い、その隣で長谷川千雨が額に手を当て嘆息する。
二人の前では、フェイト従者の猫耳娘「暦」と呉キリカが、
「暦」が自分の得物を突き出し
キリカが飛び掛からんとしている状態で静止していた。
668 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:18:21.25 ID:fABXASRb0

「大丈夫ですか、のどか?」
「う、うん、大丈夫」

夕映に支えられ、のどかがよろりと立ち上がる。
単純戦闘力だけで言えば、夕映が介入する隙は幾らでもあった、
と言うか、実際夕映が動いた事もあるのだが、
その度に水晶球による完璧なカウンターを返され
却ってのどかを危険に晒した、と言うのが実際だった。
そんなのどかに、織莉子がざっ、ざっ、と接近する。

「大丈夫だから」

のどかは、夕映を制して織莉子に静かに近づく。
だが、織莉子とのどかがすれ違った途端、
のどかはすとん、と、膝をついた。

「のどかっ!!」

駆け寄った夕映は、真っ青な顔で荒い息を吐くのどかを見た。

「のどか? どうしたですか? 何かされたのですかっ!?」
「け、ないと………」
「?」

「すけ、ないと………ネギせんせー、
ネギせんせー、これから、ずっと、ずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとネギせんせーの事………」

「え、ええ、そうです、ネギ先生の事を、
私達がネギ先生の事を支えて、支え続けてっ」
669 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:20:24.83 ID:fABXASRb0

「おいっ!」

長谷川千雨が、のどかから離れた織莉子にざっと駆け寄る。

「本屋をどうかしたのかっ!?」
「世界の真実に近づいたのでしょう」

織莉子が、つらっと言った。

「彼女は強い娘なのですね。
それが彼女の世界の全てなら、
彼女は彼女の救世を貫くのでしょう。
私は、私の救世を成し遂げる」

通り過ぎる美国織莉子を、千雨は見送る事しか出来ない。

「のどかー、ユエー」
「ハルナっ!?」

聞こえて来た声に、のどかと夕映が振り返る。
そちらからは、手を振る早乙女ハルナと
にこにこ微笑む近衛木乃香が姿を現していた。

「朝倉から聞いてね、あんたらがこっちに来てるって。
それで、一っ飛びでこっち来てぶらぶらしてたんだけど、
あんたら見つけたって報せがあってさ」
「そうでしたか」

ハルナの説明に、夕映とのどかがははっと乾いた笑いを見せる。
670 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:22:26.63 ID:fABXASRb0

「で、用事は済んだ?」
「うん」
「そっか」

のどかの返事に、ハルナはニカッと笑った。

「じゃ、新京極で餡蜜でも食べてこっか」
「そうですね」

夕映がふっと笑ってハルナに答える。
そして、同じクラスの図書館探検部が四人、
合流してわちゃわちゃ楽しそうに歩き出す。
その様を眺め、千雨は呟いた。

「………これで、良かったのか?
ネギ先生? ………」

親し気な旧知のグループ、長谷川千雨の学園生活には、
少なくともつい最近迄は余り縁の無かったもの。
そんなものに背を向けた千雨が、つと天を仰いだ。

「神楽坂のいない世界。
死ぬ程世話が焼けそうだ」

ーーーーーーーー

「な、っ………」

素子が、瞬時にほむらとの間の距離を詰める。
ほむらの体は、素子の放った斬岩剣によって甚だしく吹き飛ばされていた。

(まともに食らった、いや、無策に突っ込んで来ただとっ!?)

「おいっ!? ………!?」

ほむらに覆い被さった素子は、次の瞬間、
ほむらの右手を掴んでいた。
素子は見ていた。カッ、と、見開かれた暁美ほむらの目を。
その時、近くの空が鋭く裂ける気を素子は察する。
671 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:24:34.77 ID:fABXASRb0

「う、ぐ、っ………」
「まだ動くっ!?」

ほむらの腕の力が、むしろ強まったのを素子は感じていた。
それでも、素子はほむらの腕の動きを簡単に封じ込め、
ざんっ、と、空から降りて地を踏みしめた脚を素子が見た時には
どんどんどんっ、と響く銃撃と共にほむらは首を横に折っていた。

「ゆーなさんっ!? これって、まさかっ!?」
「大丈夫、麻酔みたいなもん。
なんかしぶといから象でも倒れるって感じでやったけど、
マギカなら大丈夫でしょ」

「元の傷の方が問題だ、
マギカだから生きてはいるが、中身は見た目以上にまずい事になってる。
外傷が限界と言う事は、ソウルジェムも限界を超えるぞ」
「分かったっ!! ちょっと待ってよ転校生っ!!」

駆け寄ったさやかが明石裕奈と素子からの説明を受け、
慌てて対処を始める。

「魔法協会か?」
「はい。明石裕奈です」
「青山素子だ、助かったよ」
「って!? ちょっと、その腕っ!?」
「大した事はないさ………彼女に比べれば尚の事だ」

素子がぶらんと下げた左手の指先から伝い落ちる赤いものに裕奈が気づき、
座ったまま後ろを見たさやかも目を見開く。

「これ、か」
「エンゲージしては物騒だね」

さやかがほむらの右手薬指に気付き、
駆け寄った裕奈が、そこから伸びる折り畳み鎌刃に顔を顰める。
その手は、十分過ぎる血に染まっていた。
672 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:26:42.11 ID:fABXASRb0

「神鳴流には飛び道具は通用しない。
彼女は、私の斬岩剣に敢えて突進して来た」
「………自爆技?」

ほむらに向けて青い光を向けながらのさやかの呟きに
素子が頷いた。

「そっか………魔法少女は痛みを完全に消せる、
体が幾ら壊れても修復出来る………」
「優しいんだな」
「?」
「君が痛そうだ」

素子の言葉に、さやかは小さく頭を下げた。

「それじゃあ、素子さん腕出して」
「ああ、助かる。実際の所結構痛い」
「いや、色白美人ってレベル
通り越し始めてるから、早くしてあげて」

冗談ともなんともつかぬ言葉を交わしていた
三人が首を動かした視線の先で、低空飛行の火の玉と1BOXカーが
猛スピードの正面衝突ルートで突っ込んで来ていた。

間一髪、1BOXカーは奇妙な圧力で正面衝突を回避し、
明後日の方向へと消えて行く。
火の玉は一度お星様になる勢いで斜め上に上昇してから
車の後を追う様に戻って来た。
673 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:28:49.35 ID:fABXASRb0

ーーーーーーーー

「おい、大丈夫かっ!?」
「ええ、何とかね」

辛うじて痕跡を留めている露天風呂の中で、
佐倉杏子の声を聞きながら巴マミは頭を振っていた。

「なぁにやってんだよっ、
魔女の結界じゃあるまいに加減ってもん考えろ」
「考えてたら、今頃私はブロンズ像か肉片ね」

マミがキッと視線を向けた先では、
半ば煤の塊と化したフェイト・アーウェルンクスが
余り実戦向きではない従者である栞から
恭しく差し出されたスマートフォンを受け取っていた。

「我々が戦う理由は無くなったらしい」
「あらそう」
「まー、正直関りたくねー」
「賢明だな」

嘆息した杏子の言葉にフェイトの従者「焔」が言い、
マミは、鼻を鳴らして差し出した杏子の手を遠慮なく掴む。

マミの背後で、露天風呂が落下物の水柱を上げた。
少し離れた場所で、何かを言う間も無く突入して来た1BOXカーが
フェイトの右手の前で強制停車する。

マミがくるーりと振り返ると、
眼鏡の男が湯の中から顔を出す所であった。
マミの左手がちゃきっ、と、マスケットを掲げ、
杏子が槍を小脇に抱えた。
674 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:31:17.47 ID:fABXASRb0

「あ、どうも、お久しぶりです」

もう一度、露天風呂に水柱が上がった辺りで、
露天風呂に飛び込んで来た火の玉が、
リットル記号を描く様に上空に飛び上がり、
戻って来てようやく着地した。

「何やってんだ、お前?」

杏子が、しごく簡単な問いを発する。

「やぁーっと止まりました。大至急の到着の為に
無理くり魔力供給して来たもので。
あ、どうも、お久しぶりです」

今にも胃袋が引っ繰り返りそうな顔で
ふらふらと近づいて来た佐倉愛衣が
薄目を開けながらもぺこぺこ頭を下げていた。

ーーーーーーーー

「ひいいいっっ!!!」

さっき1BOXカーが突っ込んだ方向から戻って来た眼鏡男の姿に、
裕奈が悲鳴を上げて後ずさりする。

「余力があるならあっちも頼めるか?」
「りょーかい」

それに対して、素子は慣れた口調でさやかに頼む。
取り敢えず治癒魔法とグリーフシードでほむらの窮地を脱して
素子の治療も済ませたさやかもそれに応じて、
頭からダクダクダクと流血しながら接近して来る眼鏡男を迎えた。

「ああ、有難う」
「どうも」

成人過ぎの年上の男性のお礼にさやかもぺこりと頭を下げるが、
当たり前に治癒魔法を受けている辺り、
只者ではないともさやかは思う。
675 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:33:16.96 ID:fABXASRb0

「素子ちゃん、頼まれてたもの。
伝承の中の天変地異の記録を
その解釈から調べ直したら色々出て来たよ」
「そうか、有難う。助かったよ」
「ん?」

露天風呂を出てさやか達に合流しようとした杏子は、
隣のマミが浮かべた生温かい微笑みに気付く。
視線の先にいるのは青山素子、
先程露天風呂に突っ込んで来た眼鏡男に資料を渡され、
ぶっきらぼうに形式的なお礼を述べている様にも見えるが。

「確かに」

杏子も、ニッと笑みを浮かべた。
杏子の心の目にも、
素子の柔らかな微笑みが透けて見えていた。

「ん、んっ」

素子の咳払いを聞き、
マミは臍下丹田に根性を込めて真面目な顔を作る。

「そこまでですっ!!!」

杏子とマミが、最近聞き慣れた声に振り返る。
果たしてそこにいたのは佐倉愛衣で、
杏子達を追って来て、丸で箒に縋り付く様にしながらも
精一杯の大声を張り上げていた。

「ああ、久しぶりだな」
「お久しぶりです」

素子の言葉に、愛衣が頭を下げた。

「戦闘を中止して下さい、もう無意味です」
「中止以前に終了してるみたいだけどな」

杏子の言葉を聞き、愛衣は右見て左見てこほんと咳払いをする。
676 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:35:38.51 ID:fABXASRb0

「葛葉刀子先生を仲介に、桜咲刹那さんが正式に投降を申し出、
東西近衛家もそれを了承して計画は正式に中止しました。
「白き翼」から単独行動をとっていた
綾瀬夕映さん、宮崎のどかさんの離脱も確認。
これ以上の抵抗は無意味です」

「承る。御苦労だった」
「有難うございます」

素子の凛とした言葉に、愛衣が改めて頭を下げた。

「本当に、決着なのかしら?」
「そうだな」

マミの問いに素子が答えた。

「これから、近衛家と協議して改めて釘を刺す事になるだろうが、
組織として、近衛家として計画を進める事は最早不可能だ。
君達魔法少女には随分と迷惑を掛けて済まなかった」

「あなたは偉い、立派な方なのだと思います。
だから申し上げ難いのですが、この様な事は無い様にお願いします。
組織立って動いているあなた達を見て改めて思いましたけど、
魔法少女はそれぞれが自分達の為に願いを叶えて力を使っている本当の子ども。
私達だから未だ良かった事で、
今後、こんな事があれば今度こそどうなるか分かりません」

「耳が痛い。魔法、呪術に関わる者が申し訳なかった」
「いえ、こちらこそ生意気を言いました」

素直に応じて頭を下げる素子とそれに倣う愛衣を前に、
マミも頭を下げて応じる。
677 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:37:59.30 ID:fABXASRb0

「それから………」
「ん?」

「難しいかも知れませんが、桜咲刹那さんの事。
私から見て、その大半は本心だったのだと思います。
魔法少女を利用した、と言いながら、
私達を一時期の仲間と思って共に命を懸けた事も」

「大事な友達を助けるため、只それだけのために。
そのためならまどかや魔法少女に恨まれても
ルール違反で組織から追及されても、
あの真面目で優しい刹那さんがそれでもやろうとした。
それだけ大事な友達だったんだって」

マミの言葉に、さやかも続く。

「彼女にとっても、そうだったのかな?」
「詳しくは聞いてないけど、多分………」

素子が意識を失い横たわったままのほむらに視線を向け、
さやかもそれに同意した。

「分かっている………
刹那には、生まれた時から幾度も重いものを背負わせて来た。
刹那はそれに応えてくれた、本当にいい娘だ。
そんな刹那が、命懸け、その気高い心を汚してでも我が儘を通そうとした。
穏便に収めてくれた事、改めて礼を言う」

頭を下げる素子の言葉に、マミとさやかも礼で応じる。

「だが………」

ふと天を仰いでの素子の言葉に、マミ達は身構えた。
678 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:39:35.32 ID:fABXASRb0

「星が告げている」
「もしかして、陰陽術ですか?
星占いの?」

マミの言葉に、素子はふっと口元を綻ばせる。

「見滝原、なんだろうな」
「いい星?」

素子が呟き、マミの問いに素子は首を横に振る。

「大きく、禍々しいものが見滝原に迫っている。
神鳴流の歴史の中でも幾度か見られたものだ」

マミ達の表情が強張る中、
素子は、もう一度ほむらの顔を見た。

「………自分の願い。
未だ幼い身と心で、己の真実のために契約し、
命を懸けて魔法を使う少女達。
その道の先輩として、大人として人として、
不干渉、とばかりも言っていられないかも知れないな」
679 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:54:40.00 ID:fABXASRb0

 ×     ×

「あれっ?」

平和な放課後、麻帆良学園女子中等部エリアの一角で、
柿崎美砂は発見していた。

「ネギ君とアスナ?」
「あ、ホントだー」

隣にいた椎名桜子が美砂の視線の先を見ると、
確かに、ヨーロッパ風石畳の歩道を、
見知った可愛い男の子と長い付き合いのツインテール同級生が
仲良さそうに談笑して歩いていて、
そこにもう一人学ランの男の子も加わっている。

「ネギくーん、アスナー」
「あ、桜子さん」

桜子が快活に呼びかけて手を振ると、
ネギ・スプリングフィールドがそれに返答して神楽坂明日菜もそれに倣う。
「しばらく、アスナ、ネギ君」
「しばらく、柿崎」
「戻りました、留守にしてすいません」

ぱたぱたと合流し、美砂とネギ、明日菜が言葉を交わした。

「よっ、くぎみー姉ちゃん」
「くぎみー言うな」
「コタロー君も一緒に?」
「いや、さっきおうた所や」

桜子達と一緒にいた釘宮円と犬神小太郎の掛け合いを後目に
美砂がネギに尋ね、小太郎が説明した。

「ネギ先生、明日から学校?」
「はい、少ししたら又出張になりますが」

美砂の質問へのネギの返答に、
チア三人組はきゃーっとハイタッチする。
680 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:56:35.69 ID:fABXASRb0

「んー、又いなくなっちゃうのネギ君?」
「担任なのに申し訳ないです」
「まあー、ネギ君の事だからあんまり無理しないでよ」
「はい、有難うございます」

桜子、円とネギの会話をにこにこ眺めていた明日菜が、
右肩をぽんと叩かれて振り返る。

「これ、こないだメールで言ってたの」
「ありがとー、聞きたかったんだ。
ちょっと長く借りる事になるけど」
「いーよいーよ、こっちのちゃんとあるし」

明日菜が美砂からMDを受け取り、少しの間続く会話に、
明日菜もネギも他愛も無いと言う事の価値を噛み締めていた。

ーーーーーーーー

「ん? 夏美姉ちゃん?
ああ、帰ってる………買い物? ああ、分かった」

小太郎が、途中で手にしたスマホの通話を終える。

「ああ、ちょっと約束入ったさかい」
「分かった」
「行ってらっしゃい」

かくして、明日菜は小太郎と分かれ、ネギと共に歩き出す。
そして、ダビデ広場に差し掛かった辺りで、
ネギがたたたっと駆け出した。

「?」

明日菜がネギの行先に視線を向け、くすっと笑みを浮かべる。
かくして、神楽坂明日菜は、メガロ饅頭が後頭部に炸裂し、
最強の魔法の英雄が絶好調のチサメパンチに宙を舞う夫婦漫才を
大汗を浮かべて眺めていた。
そして、明日菜はこちらを向いた長谷川千雨に笑って手を掲げ、
千雨は、ちょっと首を傾げる様にして、照れた様にはにかんだ。
そんな千雨を背伸びする様に眺めていたネギに千雨が向き直り、
千雨がぷいっとそっぽを向くのにネギがつつつと合わせて移動する。
681 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:58:06.83 ID:fABXASRb0

「アースナッ!」

そんな様子をにこにこ眺めていた明日菜が、
幼馴染の朗らかな声を聞いて振り返った。

「只今、このかっ!」
「お帰りアスナ」

振り返り、元気良く手を振った明日菜に、
木乃香も元気良く、それでいて何処か品よく返事を返す。

「只今、刹那さん」
「お帰りなさい、アスナさん」

神楽坂明日菜は、温かな微笑みに迎えられた。

「見滝原に微笑む刹那」 −了−
682 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 04:01:12.05 ID:fABXASRb0

==============================

―後書き―

冒頭でお断りした変更点は、季節の事です。
まどかマギカは初夏なのですが、
ネギま!側はストーリー的に夏休み明けが必須でしたので、
後者に合わせさせていただきました。

さて、何を思って本作に手を付けたのかと言えば

流石に是は、ちょっとばかし叛逆したくなりました

「ネギま!」と「まど☆マギ」の組み合わせは
何時かやってみたいな、とは思っていたのですが、
「UQ HOLDER!」12巻ラストに当たるものを連載で見た時に、
これは、行くしかないなぁアハハハハ、
と、こちらの勝手で完全に不退転スイッチが入った次第。

しがない二次書きとしても少々思い入れのある二つの作品で、
涙を呑んだ娘と、決して諦めなかったが為に悪を成し悪に成った娘、
そんな物語がぎくしゃくと連結して
いっぺんやってみたくなった、と言う事です。

若干の楽屋話をしますと、
「駒が不足しましたからね」と言うのは正にその通りで。
この流れだと動かせる人間は限られる。結果、やはり確実なのは
「全知全覚コンビ」と言う事で、おおよそ考えた人選でも直接的な部分で
駒が足りない。それで辿り着いたのが本作の布陣と言う事で。
それでよくよく考えて見ると、内容から言ってあのグループ以上の適任者は
実はいなかったと言う行き当たりばったりぶり。

思惑の絡むストーリーで、出来るのは帳尻合わせだけ、はい、マジすいません、
な感じでキャラを動かし話を進めて行く内に、
なんか折々読み返すと色んな人のage sage乱高下が想像以上の弾けっぷりで
我ながら大丈夫か? となったり、最終決戦では懐かし過ぎる原作の二次を
うろ覚えでやるとこうなる、と言うのを覿面にやらかしてしまったり。
683 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 04:03:16.29 ID:fABXASRb0

本作を作ると決めた時には2017年夏迄には、と考えたりもしましたが、
この手の予定が当たった試しがない私が、色々と頭を抱えっぱなしの
凸凹進行と言う事になりまして。

そんなこんなでこちらがもたもたしている間に、
UQの原作の方が本命確定やらBADENDやらで
大変な事になってしまいましたが。

プロットは大方出来ていた筈なのですが、個人的事情もあって
本作最終回前に筆が止まり、UQ17巻分の原作に触れて
ようやく何かが腑に落ちての一挙投下作となりました。
何よりも、頭に浮かぶ微笑みの場面を文字にしようとする度に、
私の筆の力不足を痛感するばかり。
原作の偉大さを改めて仰ぎ見ながら、なんとかかんとかここまで漕ぎ着けた。
とにかく今回は、どう動く? 本当にそうするのか? 
二次としても把握出来ているのか? と、しまいまで迷いっぱなしで、
後はもう読む方が感じる事、と言うのが実感です。

少々お喋りが過ぎました。ここまで読んで下さった読者様と
勝手にお借りした原作に敬意と感謝を込めて。
縁がありましたら又何処かでお会いしましょう。

本作はここまでです。HTML依頼は折を見て。
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 15:14:47.40 ID:Mk+b7hTIO
拡散希望
【SS掲載拒否推奨】あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト



SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します


概略1

現トリップ◆Jzh9fG75HAは

混沌電波(ちゃおラジ)なるSSシリーズにより、長くの間多くの人々を不快にし

また、注意や助言問わず煽り返す等の荒らし行為を続けていたが

その過程でついに、ちゃおラジは盗作により作られたものと露呈した



概略2

盗作されたものであるためと、掲載されたシリーズの削除を推奨されたSSまとめサイト「あやめ2nd」はこれを拒否

独自の調査によりちゃおラジは盗作に当たらないと表明

疑問視するコメント、および盗作に当たらないとの表明すら削除し、

盗作のもみ消しを謀る


概略3

なおも続く追及に、ついにあやめ2ndは掲載されたちゃおラジシリーズをすべて削除

ただし、ちゃおラジは盗作ではないという表明は撤回しないまま

シリーズを削除した理由は「ブログ運営に支障が出ると判断したため」とのこと




SSまとめサイトは、SS作者が書いたSSを自身のサイトに掲載し、サイト内の広告により金を得ている

SSまとめサイトは、SSがあって、SS作者がいて、はじめて成り立つ


故に、SSまとめサイトによるSS作者に対する背信行為はあってはならず、

SSにとどまらず創作に携わる人全てを踏みにじる行為、盗作をもみ消し隠そうとし

ちゃおラジが盗作ではないことの証明を放棄し、

義理立てすべきSS作者より自身のサイトを優先させた

あやめ速報姉妹サイト、あやめ2ndを許してはならない



あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト


SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します
685 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/23(月) 23:49:13.03 ID:KF09Niap0
やらかした………確認したら過去作でも同じミスってた………
執筆のラストランで糸が切れて勢いで入れ替わったなこれ………

訂正です。

>>680
==============================
かくして、明日菜は小太郎と分かれ、ネギと共に歩き出す。
そして、ダビデ広場に差し掛かった辺りで、
ネギがたたたっと駆け出した。

かくして、明日菜は小太郎と分かれ、ネギと共に歩き出す。
そして、世界樹広場に差し掛かった辺りで、
ネギがたたたっと駆け出した。
==============================

すいませんでした。

それでは今度こそ失礼します
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