【ヤンデレCD】ヤンデレロンパ〜希望のヤンデレと絶望の兄〜2スレ目

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340 :♪Scotland The Brave feat.梅園穫 ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:22:28.34 ID:BdGFImAC0



ウメゾノ ミノル
「パ〜パ〜パパパパパパ〜パ〜パパパパパ〜パ〜パ〜パ〜パパパパ〜♪」



 梅園クンが陽気にスコットランドザブレイブを歌いながらシアタールームに入ってきて電気をつけた。
 ボクと綾瀬は抱き合ったまま固まってしまっている。


341 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:23:23.43 ID:BdGFImAC0



ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」



梅園クンは一枚のCDを棚から取り出すと、何事もなかったかのように悠々と出て行く。



ウメゾノ ミノル
「HEY野々原くぅん! サカってもイイけどサー、時間と場所をわきまえなヨー!」



 帰り際、右手を腰に当て、左手を前に突き出すポージングをして冷やかした。




342 :♪Scotland The Brave feat.梅園穫 ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:27:17.18 ID:BdGFImAC0


ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」



ウメゾノ ミノル
「パ〜パ〜パパパパパパ〜パ〜パパパパパ〜パ〜パ〜パ〜パパパパ〜♪」



 思考が完全にフリーズしてしまっているボクらを尻目に、梅園クンはスコットランドザブレイブを歌いながら去っていった。




343 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:28:21.53 ID:BdGFImAC0



ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「……戻ろうか」


コウモト アヤセ
「……うん」



気まずい雰囲気のまま、リフト乗り場へ向かった。
いや、きっとあれでよかったんだよ、うん。
梅園クンの言う通り、TPOはわきまえるべきだ。




344 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:29:15.75 ID:BdGFImAC0



コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「……」



 ゴンドラリフトの中でも沈黙が続く。
 ……どうすればいいんだろうね?
 思い返せばとてつもなく恥ずかしいことやってたし、言ってたし。
 水を差されたのは良くも悪くもボクらを踏みとどまらせてくれたわけだけど。




345 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:30:01.22 ID:BdGFImAC0



コウモト アヤセ
「……そういえば、なんだけど」


ノノハラ レイ
「なんだい?」


コウモト アヤセ
「澪のメールでもう一つ指示があったじゃない。すれ違ったゴンドラに誰が乗ってたか見てくれって。
 あれはどういう意図だったの?」



 まったく別の話題で気を紛らわそうとしてるのかな。そうだね、それに乗るとしよう。
 いつまでもこのままじゃ居心地悪いし。




346 :♪Become Friends ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:38:02.83 ID:BdGFImAC0



ノノハラ レイ
「すれ違ったゴンドラリフトの窓が真っ黒に見えるのは、綾瀬もさっき見たとおりだと思うんだけど。
 それが真っ黒に見えるだけで誰が乗っているかは分かるのか分からないのか、どちらなのか疑問に思ってね」


コウモト アヤセ
「結論は、誰が乗っているのかは見えないから分からない、ってわけね。でもどうして見えなくなるの?」


ノノハラ レイ
「多分、このゴンドラリフトの窓ガラスが偏光ガラスだからだよ」


コウモト アヤセ
「偏光ガラス?」


ノノハラ レイ
「偏光板ともいうね。まず前提として、光は波であり、粒子である。今回は、波の方に着目してほしいんだ。
 物理選択じゃない綾瀬にもわかりやすく言うと、本来バラバラである光の波の向きを、一定の向きにそろえるものなんだ。
 サングラスやスキーのゴーグルなんかに使われているんだよ。ギラギラした反射光をカットすることで、クリアな視界を確保するんだ」


コウモト アヤセ
「その偏光ガラスの仕組みは何となくわかったけど、それがどうしたっていうの?」


ノノハラ レイ
「偏光板には面白い特性があってね。特定の方向にそろえた光以外は遮断してしまうんだ。
 そのそろえる方向が直交していると、完全に光がシャットアウトされて、向こう側が何も見えなくなってしまうんだよ」


コウモト アヤセ
「えーっと、つまり、こっち側の偏光ガラスとあっち側の偏光ガラスで光をそろえる向きが直角になっているから、真っ黒にみえる、ってこと?」


ノノハラ レイ
「うん。そういう解釈でいいよ。
 わざわざ誰が乗っているのか分からないようにするあたり、モノクマの作為を感じざるを得ないね。
 どうせ表向きは、見渡す限り真っ白なこの雪山で反射光が眩しくならないように偏光板を使っていて、たまたま直交する向きになってしまった、とかいうつもりなんだろうけど」




347 :♪Become Friends ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 01:06:29.09 ID:BdGFImAC0


コウモト アヤセ
「誰が乗っているのか分からないことに、何か意味があるの?」


ノノハラ レイ
「誰が乗っていたのか確認できる場合、状況によってはアリバイが立証されるね。
 例えば、本館で事件があった場合、犯行当時に別館にいた人間にはアリバイが成立するわけだし」


コウモト アヤセ
「あ、そっか。誰が別館に向かっていたのかが解ればその人に犯行はできないし、逆に本館に向かった人は容疑者になるかもしれないんだ」


ノノハラ レイ
「そういうこと。それができなくなるってことは、事件解決の手掛かりが減るってこと。
 逆に言えば、犯行がしやすくなるってわけさ」


コウモト アヤセ
「やっぱり、澪はまた誰かが誰かを殺すと思ってるの?」


ノノハラ レイ
「そうであって欲しくないとは思ってるんだけどね。警戒はしておくべきだと思うんだよ。
 起こってしまったことに対しては、誰も、それを『無かったこと』にはできないんだからさ」




348 :一旦休憩入ります。昼頃からまた更新する予定です ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 01:16:08.81 ID:BdGFImAC0


コウモト アヤセ
「さっきも言ったけど、あまり気負わないでね?」


ノノハラ レイ
「解ってるって。ボクはボクの出来ることを、ボクの出来る範疇でやるだけなんだからさ」


コウモト アヤセ
「なら、いいんだけど……。そろそろ到着しそうね。覚悟はできてる?」


ノノハラ レイ
「え、何の?」


コウモト アヤセ
「……主人君に謝らなきゃいけないんじゃなかったの?」


ノノハラ レイ
「あー……、そういえばそうだったね。会ったときに謝るよ」


コウモト アヤセ
「自分から謝りに行きなさいよ、そこは」


ノノハラ レイ
「気が向いたら――、冗談だよ、わかったから黙って拳を構えるのはやめよう?」



 そんなやり取りをしているうちに、ゴンドラが本館側の乗り場に到着した。




349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/02(日) 08:17:55.40 ID:AH/yvqYS0

梅ちゃんwwww
350 :昼頃から更新するといったな、あれは嘘だ ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 16:52:40.02 ID:BdGFImAC0


オモヒト コウ
「よう」



 出待ちされてました。どうしよう?
 いや、平謝りしかない、かな?



ノノハラ レイ
「あー、そのー、ゴメンナサイネ?」


オモヒト コウ
「許すと思うか? 覚えてろよと言った筈だがな?」


ノノハラ レイ
「あ、あはは、はは……」



 綾瀬は……。



コウモト アヤセ
「……」フイッ



 くそっ、助け舟を出してくれないのか!



オモヒト コウ
「……」



 やべぇよ、あの顔マジでやべぇよガチギレじゃん。




351 :嘘ですごめんなさい遅くなって申し訳ないです ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 17:37:16.60 ID:BdGFImAC0


オモヒト コウ
「覚悟はいいか? 俺はできてる」


ノノハラ レイ
「逃ーげるんだよォー!」


オモヒト コウ
「ぶん殴ると心の中で思ったなら! その時すでに行動は終わってるんだ! 待ちやがれ!」


ノノハラ レイ
「断る!」


コウモト アヤセ
「逃げちゃダメでしょ?」



 え、ちょっと待って綾瀬掴まれたら逃げられないじゃんっていうか握力強いよ綾瀬。



ノノハラ レイ
「あ、綾瀬!? ボクを裏切るのか!? 売るというのか?!」


コウモト アヤセ
「ここは素直に殴られておきなさい。それが遺恨を残さない、“平和的な”解決方法だから」


オモヒト コウ
「安心しろ、ちゃんと手加減はしておいてやる。右ストレートでまっすぐ行ってぶっ飛ばすだけだからな」


ノノハラ レイ
「それちゃんと手加減してるって言わな――ホグぅ!」



 お、おま、腹パンはやめろって、腹パンは……。



オモヒト コウ
「――ったく、これに懲りたら、人をからかうのはやめるんだな」


コウモト アヤセ
「……私からもごめんなさいね。澪が迷惑をかけたみたいで」


オモヒト コウ
「気にするな。こいつの手綱は誰にも握れないだろうからな」



 うずくまるボクを尻目に公は本館に入っていった。
 手加減してこの威力とかヤバない?
 しばらくボクは動けなかった。




352 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 18:07:27.81 ID:BdGFImAC0



ノノハラ レイ
「酷い目にあったぜ……。綾瀬も見捨てるなんてあんまりだよぉ……」


コウモト アヤセ
「自業自得でしょ? 流石にやりすぎだと思ったら止めてたけど、あれくらいなら妥当だと思ったし」


ノノハラ レイ
「なんて時代だ。ここにボクの味方はいないのか?」


コウモト アヤセ
「私は何時だってあなたの味方だけど……、何も言動全てを肯定するのが味方じゃないと思うの。
 もしその人が道を踏み外そうとしていたらそれを正そうとする。そういうことができるのも味方なんじゃない?」


ノノハラ レイ
「くそっ、ド正論すぎて何も言い返せない!」



 本館に戻った。




353 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 20:42:48.21 ID:BdGFImAC0



 戻ったら戻ったで特にすることがないんだけどね。
 あの時の続きをするってムードでももうなくなっちゃったし。

ノノハラ レイ
「どうしようかな……」


コウモト アヤセ
「ねぇ、澪。梅園君のショーまでまだ時間があるみたいだし……、ちょっと付き合ってくれる?」


ノノハラ レイ
「いいけど、何をするのかな?」


コウモト アヤセ
「此処に来てから、ご飯はいつも用意してもらってるじゃない?
 だから最近全然料理してなくって、腕が衰えてないかなーって」


ノノハラ レイ
「なるほどね。それでボクは何を手伝えばいいのかな?」


コウモト アヤセ
「一緒に作るのも悪くないけど……、やっぱり私一人で作るよ。澪は待っててほしいな。
 それでね、味の感想を聞かせてほしいの」


ノノハラ レイ
「いいよ。あ、でも食レポとかには期待しないでほしいな」


コウモト アヤセ
「いつも通りの視点でいいの。逆にそこまでよいしょされちゃったらうさん臭いじゃない」


ノノハラ レイ
「ンンンンンン? なんか最近綾瀬が辛辣だぞぅ?」


コウモト アヤセ
「気のせいでしょ。そんなことより、早く食堂行こ?」


ノノハラ レイ
「わかった、わかったよ」



 食堂へ向かった。





354 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 21:21:57.40 ID:BdGFImAC0


ノノハラ レイ
「それで、献立は?」


コウモト アヤセ
「八宝菜にしようと思ってるの。中華、好きでしょ?」


ノノハラ レイ
「うん、大好きSA☆ ――ただし四川テメーはダメだ」


コウモト アヤセ
「あれ、辛いの苦手だったっけ?」


ノノハラ レイ
「麻婆豆腐とかが顕著なんだけどさ、日本のはね、抑えてあるからまだいいんだよ。
 本場のって殺人的に辛いの。あくまで個人的な感想だけど。少なくともボクの舌には合わなかった」


コウモト アヤセ
「そっか。えーっと、八宝菜は……」


ノノハラ レイ
「上海料理だね。あぁ、気にしなくていいよ。綾瀬の料理だったら四川でも美味しくいただくつもりだからさ」


コウモト アヤセ
「もう、そんなこと言って。ニンジン残しちゃダメよ?」


ノノハラ レイ
「うぐっ……、先回りされた……!」


コウモト アヤセ
「もう。そういうところは相変わらずなんだから」




355 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 21:54:03.20 ID:BdGFImAC0



 ――綾瀬料理中……――



356 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 22:16:59.06 ID:BdGFImAC0



コウモト アヤセ
「お待たせ〜」


ノノハラ レイ
「結果だ! この世には“綾瀬の料理が完成した”という結果だけが残る!」


コウモト アヤセ
「何の話?」


ノノハラ レイ
「いや? ただ何となくこのセリフを言わなきゃいけない気がしただけさ。
 やるしかGO! って感じで」


コウモト アヤセ
「……大丈夫?」


ノノハラ レイ
「ガチのトーンで心配してくれるのはありがたいんだけど、胸が痛くなるからやめて。
 変な電波受信したわけじゃないし、黄色い救急車が必要になったわけでもないから」


コウモト アヤセ
「なら、いいんだけど。冷めないうちに召し上がれ」


ノノハラ レイ
「いただきます」




357 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 00:22:05.40 ID:Tf1+ubjo0



ノノハラ レイ
「うん、美味しいね。いつも通りの綾瀬の味だ」


コウモト アヤセ
「そう? ありがと」


ノノハラ レイ
「うーん、やっぱりここは“うぅンまぁああああい!”とでもいえばよかったかな?」


コウモト アヤセ
「そこまで過剰なリアクションされると逆に反応に困るから。
 あと、澪の場合わざとらしくみえる」


ノノハラ レイ
「だよね、我ながらそう思う。でもすごい美味しいよ。箸が進む進む」



358 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 00:44:24.57 ID:Tf1+ubjo0


ノノハラ レイ
「ごちそうさまでした」


コウモト アヤセ
「お粗末様でした」



 あっという間に完食。お見事。



ノノハラ レイ
「腕によりをかけて料理をふるまってくれる幼馴染がいてくれてボクは幸せ者だよ」


コウモト アヤセ
「よろこんでくれてなによりね。ニンジンもちゃんと食べてくれたみたいだし」


ノノハラ レイ
「気づいたんだ。ニンジンと認識しなければ食べられるって」


コウモト アヤセ
「どういう事?」


ノノハラ レイ
「いやさ、前にね? 渚にニンジンがこっそり入ってるオムライス振る舞われたからね。
 食べた後指摘されてさ、その時は普通に食べれたことにびっくりしちゃって」


コウモト アヤセ
「……ふぅん? それで?」


ノノハラ レイ
「で、ニンジン入りオムライスは食べれたわけだけど、それはボクがニンジンが入っていないと思っていたから食べれたんじゃないかと思ったわけ。
 だからさ、ニンジンに対する認識を上書きすれば、従来のニンジン観――苦手意識をなくせると思って」


コウモト アヤセ
「ちょっとその発想はどうかと思う」




359 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:05:39.95 ID:Tf1+ubjo0


ノノハラ レイ
「それで、巨大な存在がピンクのナイトガウンを羽織っていると想像するように、呪いの絵画に口ひげを描き加えるように、ニンジンに対する認識を上書きしてみたんだ。
 手足と翼の生えたオレンジ色の根野菜キャラクターの肉片なんだって」


コウモト アヤセ
「それはそれでどうなの?」


ノノハラ レイ
「いやいや、それが効果抜群だったみたいでさ。
 あれだけ苦手意識を持っていたニンジンにシュールな笑いと親しみやすさを感じれるようになったんだ」


コウモト アヤセ
「それ、シュールな笑いは必要ある?」


ノノハラ レイ
「あれだよ、ヤンキーが捨て猫に餌をやってるのを見て“実は良いヤツなんじゃないか”とか勘違いするのと同じでさ、親しみやすさと苦手意識って共存できるんだよ。
 でもそのヤンキーの服がオペラ色だったら威厳もへったくれもないでしょ?」


コウモト アヤセ
「……なんというか、例えが遠くて分かりにくいけど、要するにもうニンジンは普通に食べれるのね?」


ノノハラ レイ
「一応はね。たまにニンジン見てあの間の抜けた姿が脳をかすめて笑いがこらえきれなくなる時があるけど、それ以外は問題ないかな」


コウモト アヤセ
「うーん。澪が好き嫌いしなくなったのはいいんだけど……、何かな、この、モヤモヤ」


ノノハラ レイ
「解決方法が特殊過ぎるからね、しょうがないよね」


コウモト アヤセ
「自分で言っちゃうんだ、それ」


ノノハラ レイ
「多分ボクぐらいなんじゃないかな、この方法実践できるの」


コウモト アヤセ
「多分一般人は発想すらできないから」


ノノハラ レイ
「つまりボクは特別な存在なのです」


コウモト アヤセ
「……うん、澪がそれでいいなら、それでいいんじゃないかな?」




360 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:08:29.72 ID:Tf1+ubjo0



 綾瀬との絆が深まった! やったね!



361 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:20:48.65 ID:Tf1+ubjo0


 ……そろそろ梅園クンのマジックショーの時間だ。別館に向かおう。



ノノハラ レイ
「じゃ、そろそろ行こうかな」


コウモト アヤセ
「……結局、梅園君も慧梨主ちゃんも来なかったわね」



 やっぱりというか、夕食の時間になっても二人の姿は見かけなかった。
 痺れを切らした亜梨主さんが碌に食事もとらずに別館に向かったりしたけど、それ以外は特に何もなかったね。



ノノハラ レイ
「ボクの想像が正しければ、あんなに取り乱すような事態にはならないと思うんだけどねぇ」


コウモト アヤセ
「自信満々に言ってるけど、本当に大丈夫なの?」


ノノハラ レイ
「梅園クンはそんなタマじゃないし……、慧梨主さんも解ってるはずだよ。信頼はしてるみたいだしね」


コウモト アヤセ
「だといいんだけど……」


ノノハラ レイ
「うじうじしてたってしょうがないじゃない。今は、梅園クンのお手並み拝見といこうぜ」



 別館の多目的ホールへ向かった。





362 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:36:17.13 ID:Tf1+ubjo0


 多目的ホールの前についたけど……、扉が閉まっている?
 集まったみんなもそのせいで足止めを食らってるみたいだね。



ノノハラ レイ
「えーっと、多分一番乗りしたであろう亜梨主さん、キミが着いた時にはもうこんな状態だった?」


サクラノミヤ アリス
「えぇそうよ! 鍵でもかけてるのかどれだけ叩いても全然開かないし!」


ナナ
「まだかしら?」


ノノ
「そろそろ時間なんだけどなー?」



――ガチャ



 鍵が開く音が聞こえたとみるや、亜梨主さんがすぐに扉に迫り、開けた。



ウメゾノ ミノル
「お待たせ……、って、どうしたのさ亜梨主、すごい剣幕だぜ?」


サクラノミヤ アリス
「慧梨主は?! 慧梨主はどこ?!」


ウメゾノ ミノル
「まぁまぁバラでも持って落ち着きなって。慧梨主なら、シアタールームで見かけたよ。今いるかどうかはわからないけど。
 慧梨主もマジックショーは楽しみにしてたから、ショーが始まるころにはきっと来るさ」


サクラノミヤ アリス
「……ふん! くだらないステージだったら、鼻で笑ってやるんだから!」


ウメゾノ ミノル
「おぉこわいこわい。……さて、みんなにもバラをプレゼントしよう。
 燃え盛る炎よりも真っ赤な情熱のバラを。返品は受け付けません」


ナナ
「きれいね。でも、こんな造り物じゃ物足りないわ」


ノノ
「どうせなら本物がよかったなー」



 みんなはバラを受け取りながら次々と入っていく。



363 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:40:33.91 ID:Tf1+ubjo0



マスタ イサム
「作りが雑だな……」


ユーミア
「これもモノモノマシーンの景品でしょうか?」


アサクラ トモエ
「人数分集めるまで回したのかな……」


オモヒト コウ
「特にこれと言って何の仕掛けもなさそうな造花だな」


タカナシ ユメミ
「あたしはお兄ちゃんからもらいたいなー」


ナナミヤ イオリ
「私は……、いえ、何でも」



364 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:46:03.83 ID:Tf1+ubjo0



ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん、今日は一日中、綾瀬さんと楽しそうに過ごしてたね?」


ノノハラ レイ
「……そうなるね。じゃぁ明日は渚と一日中過ごそうか?」


ノノハラ ナギサ
「えっ?! ……うん! 楽しみにしてるね!」


ノノハラ レイ
「じゃぁ、ほら、早く中に入ろう。――期待してるぜ梅園クン。あまり、失望させてくれるなよ?」


ウメゾノ ミノル
「どれだけハードル上げようたって、僕は僕なりのエンタメをするだけだよ」


コウモト アヤセ
「……」





365 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:51:45.16 ID:Tf1+ubjo0



 扉近くの花瓶に生けてあったバラを手渡ししていた梅園クンは、そのまま扉を閉めた。
 それと同時に、ホール全体の照明が消え、何も見えない闇が会場を支配する。



ナナ
「あら真っ暗」


ノノ
「これじゃ何も見えないよ」


アサクラ トモエ
「え、どうなってるの?!」


ユーミア
「マスター、周囲の警戒を」


マスタ イサム
「……演出の一つだと思いたいがな」


タカナシ ユメミ
「やーん、お兄ちゃんこわーい♪」


オモヒト コウ
「声色が全然おびえてる感じじゃないぞ夢見……」




366 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:54:44.73 ID:Tf1+ubjo0



 ステージ中央にスポットライトの光が差す。
 そこに照らされていたのはプレゼントでもらえそうな、リボンで装飾された箱だ。
 箱が、台の上に鎮座していた。



367 :Scotland The Brave Bagpipe ver. ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:56:40.65 ID:Tf1+ubjo0



 どこからともなく、バグパイプの音が聞こえてきた。



368 :テンノコエ. ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:59:12.63 ID:Tf1+ubjo0


――本日はここまで。


――ようやくマジックショーにこぎつけましたね。


――でもこれまだ二章の序盤なんですよ、予定では。


――要所要所は抑えつつカットも多用することを視野に入れた方がいいかもしれませんね。
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/04(火) 13:33:49.33 ID:y3RN29rSO
乙です。

>>手足と翼の生えたオレンジ色の根野菜キャラクター

センター試験ネタww

あとバグパイプと聞いて某チャーチルさんを思い出した。
370 :♪Scotland The Brave Bagpipe ver. ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/09(日) 23:22:17.06 ID:f4ilYHsF0



 箱の蓋がひとりでに外れて、箱の中から出てきた一本のロープが上へ40センチほど伸びて止まった。
 台の高さと合わせて、その高さおよそ人一人分といったところか。



ユーミア
「……あれは、ヒンズーロープ?」


アサクラ トモエ
「それってインドのマジックでしょ? 今流れてるのイギリスの曲じゃない?」


ノノハラ レイ
「インドはイギリスの植民地だったから実質イギリス」


オモヒト コウ
「ブラックすぎるぞ……。あと、スコットランドザブレイブはスコットランドの歌であって、厳密に言えばブリテンの曲じゃないからな?」


マスタ イサム
「まさかそれも含めたブラックジョークか?」


ナナ
「なんか難しい話してるわね」


ノノ
「よくわかんないや。それよりあのロープ、どうなってるんだろうね?」


サクラノミヤ アリス
「どうせ細い糸か何かで吊り上げてるんでしょ」


タカナシ ユメミ
「最初は蓋がしてあった箱の中にあったのに? そのあとロープに持ち上げられるみたいに蓋が開いたのに?」


サクラノミヤ アリス
「……蓋に切れ込みでも入れてるんじゃない?」


コウモト アヤセ
「あ、梅園君だ。いつの間に」


ナナミヤ イオリ
「あれは……、フラフープ?」



 梅園クンはステージの上手側の袖から中央に向かって、フラフープを掲げながら中央の台へ向かっていく。
 そしてフラフープを横に倒し、何度もロープの上で往復させ、バレエのように一回転もして見せた。
 ロープは糸で吊っているわけではないと、亜梨主さんの主張を否定するように。



371 :♪Scotland The Brave Bagpipe ver. ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/09(日) 23:28:21.13 ID:f4ilYHsF0



ノノハラ ナギサ
「……糸で吊ってはないみたい」


サクラノミヤ アリス
「〜〜〜〜〜ッ!」



 亜梨主さんは拳を握って震えている。それが怒りか羞恥によるものかはわからないけれど。
 梅園クンはフラフープを下に置くと、ロープを掴んで縋り付く。
 指を鳴らすのと同時にロープがさらに上へと伸びていき、それに掴まっている梅園君も天井に向かって昇っていく。



ナナ
「すっごーい!」


ノノ
「登ってみたいなー!」


ウメゾノ ミノル
「はーい! ということで! 今宵は不肖ウメゾノミノルのマジックショー! 是非ご覧あれ!
 最初に言っておくけど、色々と危ないから、良い子は中途半端な気持ちで真似しちゃ大ケガしちゃうぞ〜!
 あと! ショーの最中の無粋なツッコミは総スルーさせていただきまーす! ご了承くださーい!」



 ……予防線張られちゃったぜ。




372 :♪Scotland The Brave Bagpipe ver. ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/09(日) 23:38:22.86 ID:f4ilYHsF0



ウメゾノ ミノル
「さてさて皆様ー! 先ほどお渡しした真っ赤なバラをお持ちだと思いますがー!
 実はスデにそのバラにはある魔法がかけてあるのでーす!
 僕が合図を出すとー! 一本だけ本当に燃えまーす!」



 ステージのはるか上からボクらを見下ろし、梅園クンは大声を張っていた。
 バラが燃えるという言葉に反応して、みんなそれぞれの反応を見せている。
 バラを放り投げるもの、見つめるもの、持ちながらもできる限り遠ざけようとするもの、他人に向けるもの――と、様々だ。



ウメゾノ ミノル
「ではいきますよー! 1(アイン)! 2(ツヴァイ)! 3(ドライ)!」


サクラノミヤ エリス
「――きゃッ!」



 梅園クンの指が鳴って、慧梨主さんの悲鳴が聞こえる。
 振り向くと、慧梨主さんの持っているバラは花弁がロウソクのように燃えていた。




373 :テンノコエ ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/09(日) 23:39:23.13 ID:f4ilYHsF0


――本日は短いですがここまで。マジックショーはもう少しだけ続きます。おやすみなさい。



374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/11(火) 07:12:02.74 ID:TvtZgjuV0
思ったよりもちゃんとマジックしてるやん
375 :♪Colonel Bogey March ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/12(月) 20:41:53.60 ID:PWR61U+n0



ウメゾノ ミノル
「はい! というわけで! 選ばれたのは慧梨主でした!
 慧梨主にはこれからちょっと僕のアシスタントをしてもらいます!」



 火はすぐに燃え尽き、代わりのようにスポットライトが慧梨主さんを照らす。



サクラノミヤ エリス
「え、あ、はい」


サクラノミヤ アリス
「ちょ、ちょっと慧梨主! あんた今までどこ行ってたのよ!」


サクラノミヤ エリス
「その、シアタールームで映画を……。気づいたらこんな時間になってしまって。
 ギリギリで間に合ったよかったです」


ウメゾノ ミノル
「慧梨主―、早く来てくれないかなー?」



 いつの間にかロープから降りていた梅園クンが二人の会話を遮るように催促する。
 ……うん、だよね。やっぱりそういうことなんだろうとは思っていたけど。



サクラノミヤ エリス
「あ、ごめんなさいお姉さま、お兄さまが呼んでいるので」


サクラノミヤ アリス
「ちょっと!」



 慧梨主さんは亜梨主さんの制止を振り切ってステージに登る。



376 :♪Colonel Bogey March ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/12(月) 23:28:22.33 ID:PWR61U+n0


ウメゾノ ミノル
「さて、皆様、皆々様。取り出したるは手錠ならぬ指錠でございます。
 しかし、しかし、玩具とは言え拘束具としては申し分ない代物。両手の親指に嵌めてしまえば鍵がなければ外せませぬ。
 じゃぁ慧梨主、これを僕の両親指に嵌めてくれ」


サクラノミヤ エリス
「わかりました。……こうですか?」


ウメゾノ ミノル
「Bene(よし)! じゃぁ次は胸ポケットのハンカチを被せてくれ。僕の両手が見えなくなるように」


サクラノミヤ エリス
「これでどうでしょう?」


ウメゾノ ミノル
「あー、ちょっと右手側にずれてるね、もうちょっとこっちに寄せてくれないかい?」


サクラノミヤ エリス
「あっ、ごめんなさい」



 梅園クンはハンカチが中央に来るように端を手でつまんで位置を調節する。



オモヒト コウ
「ん?」


マスタ イサム
「おいおい」


377 :♪Colonel Bogey March ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/12(月) 23:44:25.54 ID:PWR61U+n0


ウメゾノ ミノル
「うん、良い感じ。それでは皆様ご注目! 今からこの戒めを解いて御覧に入れましょう!
 カウントダウン! スリー! トゥー! ワン!」



 梅園クンは右手を掲げて三つ数える。左手にはハンカチがかかったままだ。



アサクラ トモエ
「あ、あれー?」


ナナミヤ イオリ
「……? ……?!」


ウメゾノ ミノル
「アッ……ッセイ!」



 梅園クンは両手を広げ、指錠を外したことをアピールした。
 右手はハンカチに覆われているが、左手には外された指錠が握られている。



ナナ
「あ、あら?」


ノノ
「あれれー?」


コウモト アヤセ
「えっと、何? 何が起きてるの?」



378 :♪Colonel Bogey March ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 00:20:26.37 ID:7zYZ5Cb90


ウメゾノ ミノル
「ンンンンンン? 万雷の拍手が聞こえないなぁ? 見ての通り指錠から解き放たれたというのに?」



 それはそうだ。みんな驚きよりも困惑の色が強い。
 指錠を嵌められたのは確からしいけど、ハンカチを被せられた時点でもう外れていたんだから。
 予想以上に早い段階でそれが示唆されてしまったものだから、今更アピールをされても、という感が否めない。



ウメゾノ ミノル
「あー、そっかそっか。やっぱりみんな気になってるよね。どうやってこれを外したのかを」



 違うそうじゃない。



ウメゾノ ミノル
「じゃぁ特別にタネを教えてあげよう。とても簡単だから。
 実はね、鍵を隠し持っていたんだ。コレだよ」



 右手を覆っていたハンカチを取り払うと、確かに鍵が握られていた。
 成程確かに鍵を持っていればこのマジックは容易にできるわけだ。
 ――その鍵が遠目で見ても鍵の形をしているとわかるほどにとても大きいことに目を瞑れば、だけど。



379 :♪Colonel Bogey March ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 00:30:00.44 ID:7zYZ5Cb90



タカナシ ユメミ
「……?」


ノノハラ ナギサ
「あ、あれ?」



 もちろん、そんなものを出されても納得できるわけがない。
 あれだけ大きいものをどうやって鍵穴に入れるんだとか、そもそもそんな大きいものがハンカチの中、もっと言えば袖の中にさえも納まるわけがない。
 ツッコミどころが多すぎで渋滞してしまっている。



ウメゾノ ミノル
「あー……、やっぱりこんな地味な奴じゃダメだったかな。
 じゃ、次の演目――の前に、盆回し」



380 :♪盆回し ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 00:32:26.66 ID:7zYZ5Cb90



 軽快な音楽とともに部隊のカーテンが閉まっていく。
 次はきっと、大掛かりなマジックなんだろう。



381 :♪The British Grenadiers ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 00:39:59.02 ID:7zYZ5Cb90



 カーテンが開くと、ステージの中央には檻が設置されていた。
 人一人が入れそうなほどの、鳥かごのような形状の檻が一メートルほどの高さで吊るされている。
 檻に入るための階段も設置されていた。
 見るからに本格的な脱出マジックの舞台だった。



382 :♪The British Grenadiers ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 01:02:45.27 ID:7zYZ5Cb90



ウメゾノ ミノル
「さてさて、ではこれからこのケージに入り、脱出してみたいと思います。
 ちょっと見た目が鉄の処女(アイアンメイデン)っぽくて不穏な気がしますが」



 梅園クンは階段を上って檻の入り口を開けると、その中に入って自ら檻の中に閉じこもった。



ウメゾノ ミノル
「じゃぁ慧梨主、この南京錠でドアをロックしてくれるかな?」


サクラノミヤ エリス
「わかりました。――えっと、これでいいですか?」


ウメゾノ ミノル
「OK. これで僕は閉じ込められたね。じゃぁ次に、この檻のカーテンを閉めて僕の姿を隠してもらおうかな。
 脱出中の姿を、見せるわけにはいかないしね」


サクラノミヤ エリス
「わかりました」



 檻の手前側――ボクらが見ている面にはカーテンが束ねられていて、カーテンレールは檻を一周しているようだ。
 布の長さは檻よりも長く、ステージの地面すれすれまで伸びていた。
 慧梨主さんは手前からカーテンを引いていくと檻の裏手へ回って、カーテンと舞台の隙間から靴がギリギリ見える以外は姿が見えなくなった。


383 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 01:06:14.62 ID:7zYZ5Cb90



サクラノミヤ アリス
「……慧梨主?」



 その靴も階段の陰で見えなくなってからも、慧梨主さんの姿はどこにも見えない。
 ――つまり、慧梨主さんも忽然と姿を消した。



384 :♪Blooming Villan ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 01:25:19.22 ID:7zYZ5Cb90



 再び檻のカーテンの裏から靴が見えたのは亜梨主さんのつぶやきから十数秒ほど後だったか。
 とにかく、誰かが檻の裏からカーテンを持ちながら手前側に回ってくる。
 それはもちろん慧梨主さん――ではなく。
 どこぞの王子のような純白の衣装に赤いマントの貴公子スタイルに衣替えした、梅園クンだった。
 ご丁寧に目元を隠す赤いペストマスクまで被っている。



ウメゾノ ミノル
「お待たせ。期待以上は約束できただろ?」



 仮面で隠れていない口元は、悪役のようにシニカルな笑みを浮かべていた。



385 :♪Blooming Villan ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 01:36:27.18 ID:7zYZ5Cb90



サクラノミヤ アリス
「あ、アンタ! 慧梨主をどこへやったのよ!」


ウメゾノ ミノル
「無粋な突っ込みは総スルーって言っただろ?
 ――安心しなよ。ちゃんといるさ。この檻の中に。入れ替わったんだ、さっきね。
 どうしてできたのかは、解るだろ? これがマジックだからだよ」


サクラノミヤ アリス
「この――!」


ウメゾノ ミノル
「おっと、うかつな行動はするなよ。
 せっかくのステージを台無しにされたら、僕だって相応の仕返しをしなくちゃいけないからな。
 まぁ指でも咥えて大人しく待ってなって。
 ――さて、いい加減みんなもじれったく思ってるだろ? 檻の中がどうなっているのか。慧梨主はどうなっているのか。
 それじゃカウントといこうか。1(アン)! 2(ドゥ)! 3(トロワ)!」



 梅園クンが勢いよくカーテンをはぎ取るとそこには――変わり果てた姿の慧梨主さんがいた。



386 :♪New Classmate of the Dead ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 01:42:33.16 ID:7zYZ5Cb90


サクラノミヤ アリス
「え、慧梨主――!!」


コウモト アヤセ
「えっ、えぇ?!」


ノノハラ ナギサ
「きゃっ!!」


アサクラ トモエ
「うわぁ……」


ユーミア
「これは……」



 バニーガールに衣替えした慧梨主さんが檻に閉じ込められているという、絵面的には衝撃的な演出があった。
 羞恥からか、赤面しているのが遠目からでもわかる。
 梅園クンもイイ趣味してるなぁ。


387 :♪New Classmate of the Dead ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 02:05:24.68 ID:7zYZ5Cb90


ウメゾノ ミノル
「さて! マジシャンとアシスタントとして相応しい衣装に着替えたところで、次――というか、本日最後の演目だ!
 お楽しみは、これからなのさ!」



 梅園クンは意気揚々と舞台袖から寝台をひいてきた。
 簡易のストレッチャーのような、人一人が寝そべるのにちょうどいい平坦な台だ。



ウメゾノ ミノル
「おっと、その前に囚われのアシスタントを助け出さないとね。
 ――あぁ、いけない。南京錠の鍵をどこかに無くしてしまったのかな?
 まぁでも大丈夫。今の僕はマジシャンだからね。できないことはないんだよ」



 梅園クンは階段を上ると、マントで入り口付近を隠して檻の戸に手をかける。
 その瞬間、また一斉に照明が消えて、闇が視界を支配する。
 今度はすぐに照明が点いたけど、そこには檻の外に連れ出された後の慧梨主さんが寝台に寝かせられている光景があった。



ウメゾノ ミノル
「本日最後の演目は、人体切断ショー! 今からこの鋭利な剣で慧梨主の体を切ってしまおうと思います!」



 梅園クンが持っている直刀には、その鋭さを証明するためかパイナップルが刺さっていた。
 一度抜いて、パイナップルを空中へ放り投げて突き刺す。本物である十分な証拠だった。



ウメゾノ ミノル
「さぁさぁ、肝心なところはカーテンで隠してしまいましょうね」



 先ほど檻からはぎ取ったカーテンを、今度は仰向けに寝ている慧梨主の体を覆うように被せる。



ウメゾノ ミノル
「それでは参ります。1(ウーノ)! 2(ドゥーエ)!」



 大きく振りかぶって、真っすぐ慧梨主さんの胴体めがけて振り下ろされた剣は、寝台と平行になるように突き刺さっていた。



ウメゾノ ミノル
「あっ」



388 :♪New Classmate of the Dead ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 02:12:03.64 ID:7zYZ5Cb90



ウメゾノ ミノル
「……それでは不肖梅園穫のマジックショー、これにて閉会です! ありがとうございました!」



 焦ったように青ざめた梅園クンは、慧梨主さんに被せたカーテンで自分の体を隠すように前へ突き出すと、カーテンを後方へ翻した。
 その焦りようから、失敗して逃げ出したのかと思ったけれど――。
 カーテンで遮られた視界が晴れた先の景色は、寝台の上に腰かけた慧梨主さんがいるだけだった。
 さすが、というべきなのかな。最初から最後まで振り回され続けたわけだ。



389 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 02:36:59.18 ID:7zYZ5Cb90



サクラノミヤ エリス
「えっと、その……、私も着替えてきますね」



 終始顔を赤らめていた慧梨主さんはきっと更衣室へ向かったんだろう。
 多分梅園クンも更衣室で着替えているのかな。



コウモト アヤセ
「なんとういか、すごかったね。マジックショー」


ノノハラ レイ
「そうだね。即興にしては中々にいい出来だったんじゃないかな。息もぴったりだったしね」


ノノハラ ナギサ
「どういうこと?」


ノノハラ レイ
「慧梨主さんが姿を見せなくなったのは何時頃からだった?
 慧梨主さんがマジックショー開始直後に唐突に現れた理由は?
 あのマジックを成立させるためにはアシスタントの協力が不可欠なんだけど、それをどうクリアしたのか?
 これらを考えれば、おのずと答えは見えてくるよね」


コウモト アヤセ
「慧梨主ちゃんもグルだった、ってこと?」


ノノハラ レイ
「その通り。ショーの開始直後まで姿が見えなかったのは、多分それまでずっと梅園クンと練習していたからなんじゃないかな。
 それでギリギリまで粘ってたら皆が集まりだしたものだから、あのバラが活けてあった花瓶の台の中にでも隠れてたんだよ。
 ショーが始まってヒンズーロープにみんなの注目が向かってる間に台から出てさりげなくステージに近寄ったのさ。仕掛けのある、バラを持ってね」


ノノハラ ナギサ
「それはわかったけど、その後の三つのマジックにアシスタントの協力が必要ってどうすればいいの?」


ノノハラ レイ
「最初の指錠はちょっとわからないけど、檻からの脱出と人体切断は間違いなく協力してたはずだよ。
 檻に入るには階段が必要だよね? 重要なのは、あの階段なんだ。
 結論から言えば、あの階段の中は空洞で、しかも檻の底部とつながっていてそこから出入りできるようになっていたんだ。
 古典的なトリックだけど、檻を吊るしてカーテンで死角を隠す点と、早着替えの要素を混ぜたのは結構すごいと思うよ。
 それにあの檻、多分錠前ごと上にスライドして開けることもできるタイプの鉄格子だろうから、二回目の脱出も電気消せば簡単だし」


コウモト アヤセ
「人体切断の方は?」


ノノハラ レイ
「これも古典的なトリックかな。あの寝台、腰の部分が開くようになってて、そこから胴体の部分を沈めていけばいいんだ。
 それをカーテンで隠せば、剣で一刀両断したように見せることができる――ってところじゃないかな? 梅園クン?」



390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/13(火) 02:39:24.12 ID:RjxVtfqg0
https://youtu.be/9wCtuPy1v3A
ぶっちぃ!
ぶってぃっぱ
ぶちぃ!
う   

   
 ん
             ち

      ち
    ぃ
         !
391 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 02:45:58.28 ID:7zYZ5Cb90


ウメゾノ ミノル
「概ね正解、かな。それで、楽しめてもらえたかい?」



 貴公子スタイルからいつもの学生スタイルに戻った梅園クンが、入り口から入ってきた。



ノノハラ レイ
「結構ね。道具はどこから仕入れてきたんだい? 流石に全部手作りってわけでも、モノモノマシーン頼みってわけでもないだろ?」


ウメゾノ ミノル
「ステージ下の椅子とかしまうスペースあるだろ? そこにあったのを引っ張り出してきたんだよ。
 あとは色々とモノクマに頼んで」


ノノハラ レイ
「命知らずだねぇ」


ウメゾノ ミノル
「モノクマに正面切って喧嘩売ってる君には言われたくないよ」


ノノハラ レイ
「ははは、ぬかしよる。このマジックショーの本当の目的が、コロシアイ防止策なくせに」


ウメゾノ ミノル
「気づいてたんだ」


ノノハラ レイ
「まぁね。コロシアイのリスクを軽減する為に全員の行動を強制する。なかなかいい考えなんじゃないかな」


ウメゾノ ミノル
「そ、気に入ってもらえて何よりだ。――というわけで、次の企画、ヨロシクね、野々原君」


ノノハラ レイ
「……そうきたかぁ」



 梅園クンが投げてきたトランプのカードを受け止めてしまったボクは、とんでもないキラーパスを渡されたみたいな気分になった。



392 :テンノコエ ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 02:48:52.92 ID:7zYZ5Cb90


――長らくお待たせいたしました。本日はここまで。


――次回の更新も未定ですが、早めに二章を終えたいところですね……。


――それでは、おやすみなさい。



393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 02:02:19.18 ID:3kKgh9i20

   っ

  ち
                  い
        !ぶ
   っ

  ち
                  い
        !
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/15(木) 07:59:15.80 ID:RZLJ1tVv0
乙です
梅ちゃんやっぱいいキャラしてるわ
395 : ◆S7YK1FdmZg [sage saga]:2019/10/13(日) 00:51:27.74 ID:WEbGIDQM0


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん、その――」


ノノハラ レイ
「わかってるよ。明日は渚と過ごすと決めたからね。企画は明後日にするよ。何をするかはもう決めてあるしね」



 心配そうにボクを見つめる渚の顔が、すぐに明るくなる。わかりやすいなぁ。



ウメゾノ ミノル
「ふーん、もう思いついたんだ。何する予定なの?」


ノノハラ レイ
「お・し・え・な・い」


ウメゾノ ミノル
「えぇ〜? いいじゃん、ケチ」


ノノハラ レイ
「無茶振りされたことに関して、怒ってないとは言ってないよね?」


ウメゾノ ミノル
「O.K. その怒りはもっともだったね。だからそんなに凄まないでくれよ」



 そんなに怖い顔してるかな、今のボク。
 ……あぁ、そっか。そのセリフはボクじゃなくて――。



コウモト アヤセ
「……」



 綾瀬に言ってたんだね。


396 : ◆S7YK1FdmZg [sage saga]:2019/12/16(月) 00:24:15.04 ID:dmIstCaD0


ノノハラ レイ
「落ち着きなって綾瀬。梅園クンだって悪気があって言ったわけじゃないわけだし」


コウモト アヤセ
「悪気のあるなしじゃないと思うけど?」


ノノハラ レイ
「一応、梅園クンなりにも、ボクに期待してくれているってことでしょ?
 だったらそれに応えてあげないとね」


ウメゾノ ミノル
「微妙に上から目線なのがちょっと気になるけど、そこまで言うんだったら楽しみにしてていいんだね?」


ノノハラ レイ
「勿論。珠玉のエンターテイメントを用意すると約束しようじゃないか」


コウモト アヤセ
「……無理や変なことだけは絶対にしないでよ?」


ノノハラ レイ
「大丈夫大丈夫。その辺は任せておいてよ。大船に乗った気分でさ」


コウモト アヤセ
「その船、泥でできてない?」


ノノハラ レイ
「鉄製です」


ウメゾノ ミノル
「錆びてない?」


ノノハラ レイ
「キミ等一々ツッコミがキレッキレすぎない?」



 流石にボクでも傷つくことぐらいあるんだぜ?



オモヒト コウ
「お前らいつまでも残ってないで早くリフトに乗りに来いよ。何時まで待たせるんだ」



 どうやらボク等が話してる間にお開きになっちゃったみたいだね。
公のセリフを鑑みるに、皆戻ろうとしてるみたいだね。



ノノハラ レイ
「はいはい、わかったわかった。行くよ。待たせて悪かったね」



 ゴンドラリフトに乗り込んで本館に戻った。
 帰り道でも興奮やまぬ皆の喧騒をよそに、ボクが考えているのは明日からの事。
 どうしようかな?



ノノハラ ナギサ
「……」



 さっきからずっと渚がボクを見てるのは、気のせいじゃないよね。



397 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/02/23(日) 14:10:43.12 ID:Ui+L236p0



 本館、エスポワールの自室へ向かった。



ノノハラ レイ
「明日は渚とデートで、明後日には交流会……。明々後日の予定は……、まぁ、増田クンか公に任せればいいでしょ」



 今後の予定を寝る前に言葉に出して反芻する。これが予定を先延ばしにしない一番の方法なんだよね。
さーて、明日から忙しくなるわけだし、英気を養うためにもぐっすり寝る! お休み!
 ベッドに寝そべり、目を瞑って、枕と布団の柔らかさに身を委ねた。
 今日はいい夢が見れそうなんだよね。良いものを見たんだから、さ。




398 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/02/23(日) 14:41:14.94 ID:Ui+L236p0



――



???
「もういい。最初からこうすればよかったんだ……」



 やめて……。



???
「こうすれば、もう誰にも邪魔されないんだ……」



 やめて! もうやめて! お願いだから!



???
「ずっとずっと、一緒に居ようね。お兄ちゃーん!」



――



399 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/02/23(日) 15:39:10.31 ID:Ui+L236p0



 絶叫と共に跳ね起きた。
 心臓は頭の中にも響くくらいドクドクいってる。



ノノハラ ナギサ
「また……、あの夢……」



 ここにきてからずっと、あたしは同じ夢に魘されている。
 お兄ちゃんに包丁を振り下ろし、突き刺して――!



ノノハラ ナギサ
「どうして……。あたしはお兄ちゃんを殺すなんて、そんなこと……!」



 ありえない。あの女共にならともかく、どうしてこのどす黒い感情をお兄ちゃんにぶつけなきゃいけないの。



ノノハラ ナギサ
「酷い汗。シャワー浴びて着替えないと……。風邪なんてひいたら、お兄ちゃんに迷惑かけちゃう」



 このホテルの防音加工には本当に感謝しなきゃ。
 家ならさっきの声、絶対にお兄ちゃんに聞こえちゃってるし。
 今の時刻から考えても、朝のアナウンスにはまだ時間がある。
 これからの予定をお兄ちゃんにメールで送るのも、シャワーを浴びてからでも遅くない。


400 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/02/23(日) 16:36:58.51 ID:Ui+L236p0


 熱いシャワーを浴びながら、あたしはあの恐ろしい悪夢について考える。
 最初はいつも通りの日常。朝ごはんを作って、お弁当を作って、お兄ちゃんと一緒に学校に行って、晩ごはんを作って、お兄ちゃんと他愛のないお喋りをして――。
 ここで目が覚めれば、幸せな夢なのに。その後必ずいつも、いつもいつもいつもいつも、あの二人が邪魔をする。
 お兄ちゃんは学校に行く時間をずらすようになった。その隣にはいつも綾瀬がいた。
 帰宅部だったお兄ちゃんが園芸部に肩入れするようになった。
 綾瀬と、今はもうお兄ちゃんに忘れられたあの女の、あるいは、それらに関する話が多くなった。
 今も胸の中に渦巻いているどす黒い感情が、幸せだった日常を侵してくる。
 だから、幸せを取り戻すために、泥棒猫共を殺した。
 爽快だった。これであたしとお兄ちゃんの邪魔をする障害がいなくなったと思うだけで、あたしの感情は真っ白になる。
 ここで目が覚めても、まだいい。人殺しをしたという罪悪感はあるけど、そんなものであの頃の幸せは上書きできない。できるわけがないし、させない。
 問題は、続きがあるということ。質の悪いことに、最悪な結末を迎えることにも気づかないで、夢の中であたしはお兄ちゃんのもとに駆け寄るんだ。


401 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/02/23(日) 17:13:09.30 ID:Ui+L236p0



 まずは真相を知ったお兄ちゃんからの拒絶。これはまだ理解できる。誰だって人殺しには近寄りたくない。お兄ちゃんだって普通の人間なんだ。
 ――それが、夢から醒めたあたしの感想。でも夢の中のあたしはそうじゃなかった。
 お兄ちゃんならあたしを拒絶なんてしない。そんな、根拠と言えば“兄妹だから”というだけのあやふやな自信だけを頼りに、あたしはお兄ちゃんに全てを話した。
 邪魔者を抹殺し、証拠も隠滅したこと。嬉しそうに喋る夢の中のあたしに、現実のあたしは吐き気がする。
そんなサイコパスがお兄ちゃんの一番嫌いな人種だってどうしてわからないのかな。



402 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/02/23(日) 17:19:04.14 ID:Ui+L236p0


 次に二度とお兄ちゃんに邪魔者が近づけられないように、夢の中のあたしはお兄ちゃんを監禁する。
 これも一応、共感できる。邪魔が入る余地もない、お兄ちゃんとあたしだけの世界。お兄ちゃんの全てをあたしのものにできる。なんて素敵。
 それだけの力があるなら、と現実のあたしの頭の中をよぎるときもあるけど、すぐに掻き消える。お兄ちゃんは自由が好きなんだ。
 でも監禁する為に縛り付けるまではいい。足を砕くだけ砕いて、あとは何の治療もしないなんて夢の中のあたしは何を考えていんだか。
 お兄ちゃんを傷つけるなんて、夢の中のあたしであっても許せない。
 ついでにいえば、食事もそうだ。いくら手料理を食べさせたいからと言って、どうして脅すの? 馬鹿なの?
 夢の中のあたしながら死んでほしい。できるなら、この手で殺してしまいたい。それでこの悪夢が覚めるのなら、終わるのなら、あたしは喜んであたしを殺す。


403 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/02/23(日) 18:04:08.52 ID:Ui+L236p0



 最後に、お兄ちゃんはあたしよりも綾瀬を選んで、それをあたしは恨んで、お兄ちゃんを包丁で殺す。
 もう擁護できない。したくない。百歩譲って、綾瀬を選ばれたのが癪だというのは認めるけど、それがどうしてお兄ちゃんを殺すことにつながるんだか。
 このころになってくると、夢の中のあたしと現実のあたしの動きと意識にずれがでてくる。
 夢の中で喋り、動いているのは夢の中のあたしだけど、夢の中で考えているのはあたし、という感じ。
 だから、夢の中のあたしが、お兄ちゃんを殺そうとするのを、現実のあたしは心の中で、どうにかして止められないものかと叫ぶ。文字通り必死に。
 たとえそれであたしが死んでも構わないと思ったところで、結果は何一つ変わらない。
 夢の中のあたしの体は現実のあたしの思い通りにならず、結局夢の中でお兄ちゃんは殺される。ほかでもない、あたしの手で。
 お兄ちゃんを殺してしまった。救えなかったという実感を最後に、ようやく悪夢から解放され、あたしは目を覚ます。


404 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/02/23(日) 20:03:17.06 ID:Ui+L236p0



 一回ならまだいい。一時の気の迷いだと自分を慰めることができる。ただの悪い夢だと言い訳ができる。
 二回目はぞっとした。内容の過程も結果もまるで同じで、詳細まで覚えているなんて普通じゃない。けど、動機ビデオや脅迫文でそれどころじゃなかった。
 三回目は学級裁判の疲れもあって投げやりな気分になっていた。それでもお兄ちゃんを殺したのは文字通り夢見が悪い。
 そして四回目。もう寝るのが怖い。大好きなお兄ちゃんをこの手で殺してしまうなんて、夢の中でも耐えられない。
 今まではなんとか取り繕えてこれた。あたし自身びっくりするくらい顔に出さなかったと思う。
 お兄ちゃんにさえも、“ちょっと無理してるんじゃない?”ぐらいにしか思われないほどに。でももう流石にだめかもしれない。
 でも、お兄ちゃんにだけはこのことを知られるわけにはいかない。夢の中の話とはいえ自分を殺すような人間なんて、距離を取りたいに決まってる。
 おまけに、お兄ちゃんと綾瀬の距離がここでの生活を通じてやけに近い。それこそ、あの夢の中と同じように、正夢かと錯覚するほど。
 だからこそ、このどす黒い感情は絶対に抑えなきゃいけない。でないと、本当に正夢になってしまいそうな気がする。
 幸いなことに、今日は一日中お兄ちゃんと一緒に居られる。あたしが強めに出れば、二人きりになれるかもしれない。
 そうすればきっと、あたしはこの感情を白く薄めることができる。お兄ちゃんを大好きなあたしでいられる。夢ではなく現実の、本当のあたしでいられるんだ。



405 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/02/23(日) 20:22:43.31 ID:Ui+L236p0


 ちょっと長く考え事しすぎちゃったかな。のぼせて変な気持ちになってる。
 早くでなきゃ。そろそろ朝のアナウンスが鳴る時間だし。



――「キーン、コーン…カーン、コーン…」



モノクマ
「えーと、希望ヶ峰学園候補生強化合宿実行委員会がお知らせします。
 オマエラ、グッモーニン!本日も最高のコロシアイ日和ですよー!
 さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょ〜!」



 本当に、長く考えすぎてのぼせちゃったみたい。こんなにも長くシャワーを浴びるなんて。
 急いで着替えなきゃ。髪も乾かさないと。メールはドライヤー片手にすればいい。



『今日一日はあたしの手料理を味わってほしいからそれまで何も食べないでくれるかな?』



 ……ちょっとトゲのある文面かもしれないけど、これでお兄ちゃんにはあたしの意図を汲んでくれるはず。
 メールを送信して、と……。献立、考えなきゃ。
 絶対にお兄ちゃんを満足させるんだ。そして――。
 そして、あの幸せを、あたしとお兄ちゃんとの日常を取り戻すんだ。絶対に。



406 :テンノコエ ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/02/23(日) 20:26:46.93 ID:Ui+L236p0


――本日はここまで。


――大分間が開いてしまいましたね。どれもこれもインフルエンザとコロナってウイルスのせいなんだ。ただの詭弁ですが。


――明日も更新、できればいいなぁ、とは思っておりますが。


――それでは、おやすみなさい。


407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/24(月) 07:30:04.51 ID:t0cI0+7+0
渚ちゃん…
乙です
408 :Cool Morning ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/03/15(日) 23:25:01.41 ID:RTRt0YmW0



ノノハラ レイ
「餓死しそう」


オモヒト コウ
「そこまでかよ」


ノノハラ レイ
「っていうかボク一人だけ絶賛絶食中の目の前で飯テロが起きてるんだぜ。今にも胃と小脳が暴動おこしそう」


ウメゾノ ミノル
「I’m hungry. から I’m angry. になるわけだ」


ノノハラ レイ
「その口をあんぐりさせたまま戻らなくさせてやろうか。具体的に言うと顎関節を外すことで」


ウメゾノ ミノル
「ヒエェ」


マスタ イサム
「下手に近寄らない方がいい。目がマジだ」




 ……献立を考えてたら遅くなっちゃったけど、どうしよう。お兄ちゃんに悪いことしちゃったかな。



409 :Cool Morning ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/03/15(日) 23:26:51.46 ID:RTRt0YmW0



ノノハラ レイ
「あ、おはよう渚。早速で悪いけど早くご飯作って? ここまで待たせるんだから、期待して良いんだよね?」


ノノハラ ナギサ
「任せてよ。腕によりをかけるんだから!」



 ……ハードル高くしちゃったかな。お兄ちゃんの限りなく無表情に近い笑顔が逆に怖いけど大丈夫、大丈夫。平気平気。
 お兄ちゃんのこれくらいの要望なら十分に応えられるから。あたしに振り向いてもらうんだから。



410 :Cool Morning ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/03/15(日) 23:35:35.74 ID:RTRt0YmW0



ノノハラ ナギサ
「はい、召し上がれ」



 朝は時間をかけずにトーストにベーコンと目玉焼きをのせる。
 トーストにはバター、目玉焼きには醤油で味付け。



ノノハラ レイ
「ムグムグ……、いつもの朝食だね。家で食べてた時が懐かしくすらあるよ」


ノノハラ ナギサ
「……早くここから出られればいいね」


ノノハラ レイ
「そうなんだよねぇー。モノクマがねぇー、尻尾掴ませてくれないんだもんさぁー。
 嗚呼嗚呼困った困った」



 うん。お兄ちゃんも味に納得してくれたみたい。やっぱりお兄ちゃんの食べるご飯はあたしが作ってあげないと。



411 :Cool Morning ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/03/15(日) 23:57:28.91 ID:RTRt0YmW0


ノノハラ レイ
「ごちそうさまでした」


ノノハラ ナギサ
「お粗末様です」


ノノハラ レイ
「それで、この後はどうする? 渚はこれから何をする予定なのかな?」


ノノハラ ナギサ
「腕によりをかけてお昼と晩御飯の仕込みをしようと思うの。
 その、お兄ちゃんは暇しちゃうかもだけど」


ノノハラ レイ
「んー、なら渚が調理してるとこ見てようかな。
 家だとキッチン狭いから二人立つと身動きとれなくなっちゃうし」


ノノハラ ナギサ
「自分で言うのもあれなんだけど、見てて面白いことなんてないと思うよ?」


ノノハラ レイ
「いいのいいの。普段見れない光景を見れるのが面白いんじゃない。
 気配は消しておくから、ボクのことは気にしないでいいし」


ノノハラ ナギサ
「……ひょっとして、あたしの料理も真似しようとしてる?」


ノノハラ レイ
「あはは。バレちゃった? いいじゃん減るもんじゃなし」


ノノハラ ナギサ
「――まぁ、別にいいけど」



 ……お兄ちゃんにご飯を作ってあげる機会が減っちゃうじゃないなんて言いそうになっちゃった。危ない危ない。



412 :♪Cool Morning ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/03/16(月) 00:46:16.18 ID:Apz+JGTo0



ノノハラ ナギサ
「〜♪」


ノノハラ レイ
「……」



 お兄ちゃんの視線を感じるけど、これはこれで新鮮、なのかな?
 こんなに広いキッチンを使えるのは贅沢……って言いたいんだけど、ここに死体があったって思うとちょっとね。
 凶器になった左端の包丁は流石に使いたくない。洗ってあったとしても、別のものに変わっていたとしても。気分的に。
 いけない。そんなことで落ち込んでちゃ美味しい料理なんてできないじゃない。



ノノハラ レイ
「……レシピとか、あるじゃん」


ノノハラ ナギサ
「あるね。あたしはもう体が覚えてるからもうあまり見ないけど」


ノノハラ レイ
「調味料をさ、“適量”入れるとかって書かれてる時とかあるじゃん」


ノノハラ ナギサ
「あるね。大体これぐらいかなーって感覚で入れるけど」


ノノハラ レイ
「適量って何なんだよ適量ってよォー! その料理に適した量がわからねェーからレシピを参考にしようってのによォー!」


ノノハラ ナギサ
「ほら、味の好みって人それぞれだから、ね? 一人前はこの量だってきっちり決めちゃうと色々とうるさいんだよ、きっと」


ノノハラ レイ
「そっか、そりゃそうだね。利権とか色々絡んできそうだし」



 お兄ちゃんが話を切り出してくるのはあたしの手が空いてるときだけだし、やっぱりお兄ちゃんなりに気遣ってくれてるのかな。
 今日のお兄ちゃんは感情の起伏が激しいみたいだけど。今日はそんな気分なのかな。


413 :♪Cool Morning ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/03/16(月) 01:23:23.60 ID:Apz+JGTo0


ノノハラ ナギサ
「うん、完成!」

 お昼は豚バラ玉子あんかけ炒飯。晩御飯のビーフシチューも大体出来上がり。後はじっくり煮込むだけだし。
 お昼から晩御飯までの間は何しようかなぁ。お兄ちゃんと何を話そうかなぁ?



ノノハラ レイ
「わぁお、美味しそう。……うん、渚の動きは大体覚えたぞ。レシピは暗記できるし後はそれをボクの体格に最適化させれば――」


ノノハラ ナギサ
「あたしがいないときはお兄ちゃんが作ってもいいけど、あたしがいるときはあたしの料理を食べてほしいな?」


ノノハラ レイ
「うーん、ボクもいい加減妹離れをしなければならない気がしてきたぞぅ?」


ノノハラ ナギサ
「だーめ。まだまだお兄ちゃんはあたしから離れちゃ危なっかしいところがいっぱいなんだよ?」



 お兄ちゃんは芯があるように見えて、意外とその場のノリと勢いに流されやすいところもあるし。
 あたしが近くで見てないと、どこかへ行ってしまいそうになるんだから。


414 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/03/16(月) 01:24:07.44 ID:Apz+JGTo0



ノノハラ レイ
「そう言えば、さ」


ノノハラ ナギサ
「うん?」


ノノハラ レイ
「腕によりをかけるって言ってた割には、今日は得意料理作らないんだね」


ノノハラ ナギサ
「……何のこと、かなぁ?」


ノノハラ レイ
「唐揚げとか、ロールキャベツとか、オムライスとか、八宝菜とか。
 まぁ、新しいジャンルを開拓するっていうのもアリっちゃアリなんだけどさ。朝食があれだったからなんか恋しくなっちゃって」


ノノハラ ナギサ
「……っそ、それは、ま、また今度ね。うん。また、今度……」



 ――なんでここで夢の内容を思い出すのかなぁっ! あれは夢! 夢なの!
 現実じゃない! 本物じゃない! あれはあたしじゃない!


415 : ◆S7YK1FdmZg [!red_res saga]:2020/03/16(月) 01:27:38.18 ID:Apz+JGTo0



 お兄ちゃんを殺してしまうようなあたしなんて死んでしまえ!



416 :テンノコエ ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/03/16(月) 01:30:43.67 ID:Apz+JGTo0


――本日はここまで。


――いい加減さくっと非日常編に行きたいなぁ! 何回目だろうなぁこのセリフ!


――若干のダイジェスト感やキングクリムゾン感はご容赦くださいませ。


――それでは、おやすみなさい。


417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/20(金) 19:50:52.30 ID:ovvn3wjI0
乙です
渚ちゃん結構キてるなあ…
418 :♪Cool Morning ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/25(土) 22:22:08.85 ID:BpiXwtOd0



ノノハラ レイ
「――ねぇ、ちょっと。渚? いきなりボーっとして、本当に大丈夫?」



 気が付くと、お兄ちゃんがあたしの顔を見つめていた。



ノノハラ ナギサ
「えっ?! あ、う、うん。大丈夫大丈夫。平気平気」



 いけないいけない。うっかり弱音を吐くところだった。
 ましてあの夢の事なんて絶対に言えない。言えるわけがない。



419 :♪Cool Morning ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/25(土) 22:28:49.36 ID:BpiXwtOd0



ノノハラ レイ
「本当に大丈夫な人は自分からそんなセリフ言わないの。
 普通はね、そういう質問されたときは“どうしてそんなこと聞くの?”って聞き返すから」


ノノハラ ナギサ
「あぅぅ……」


ノノハラ レイ
「心配してるんだよ? これでもかなり」



 どうしよう。どうやってお兄ちゃんに納得させよう。いっそのこと全部正直に言っちゃおうかな。
 ――ダメ、それだけは絶対に嫌。お兄ちゃんに嫌われちゃう。
 でもお兄ちゃんに嘘を言うのもやだ。あたしはお兄ちゃんに嘘なんて吐きたくない。
 だから、あたしにとって都合のいい事実だけ、言う。



ノノハラ ナギサ
「ごめんね、最近ちょっと寝不足で……」



 これは嘘じゃない。あんな夢の所為で寝るのが怖くなって、夜はベッドに横たわっているだけの無駄な時間を過ごす時間になっている。
 ――結局は眠気に負けて、寝ちゃうんだけど。


420 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/25(土) 22:30:24.08 ID:BpiXwtOd0



ノノハラ レイ
「……ふぅん、そっか。駄目だよ、ちゃんと寝ないと。寝不足は色々なものに対して大敵なんだよ?」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃんには言われなくないな、そのセリフ」


ノノハラ レイ
「たっはー! その返しされると何も言えないぜ、ハハッ!
 ……でもおかげでよくわかったよ。寝不足の原因はボク絡みなんだね?」



 ――まるで心臓を氷の手で鷲掴みにされたような寒気がした。



421 :♪Rise of the Ultimate ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/25(土) 22:52:11.47 ID:BpiXwtOd0



ノノハラ ナギサ
「な、なんのこと、かなぁ?」


ノノハラ レイ
「動揺がモロに顔に出てる時点で自白してるようなものだけど、それでもすっとぼけるってことは……。
 そっか、よっぽどのことなんだね。じゃぁボクがこれ以上関わるのは逆効果かなぁ?」


ノノハラ ナギサ
「ち、違うの、お兄ちゃんは、全然悪くなくて、その、あたしが」



 これ以上お兄ちゃんに距離を取られたらあたしの心が耐えられない。
 だから、ここは何としてでもお兄ちゃんをつなぎとめておかないと。


422 :♪Rise of the Ultimate ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/25(土) 23:41:17.93 ID:BpiXwtOd0



ノノハラ レイ
「渚? どうしたの?」


ノノハラ ナギサ
「あ、あのね。お兄ちゃん。最近、その、綾瀬さん、と一緒じゃない?」


ノノハラ レイ
「しょうがないじゃん。何か他の皆がちょっと冷たいって言うか連れないって言うか、とにかく相手してくれないんだもん」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん、自分のことを省みることって大事だと思うの」


ノノハラ レイ
「はて? ボクのこれまでの行動の何処に不味いところがあるのかな?」


ノノハラ ナギサ
「……お兄ちゃんに自覚がないならしょうがないから、とりあえずおいておくね。
 とにかく、あたしが言いたいのは、その、あたしがお兄ちゃんの傍に居たいなって」


ノノハラ レイ
「んー、不味いところが気になるところだけど、そう言うならそういうことで良いよ。
 で、ボクの傍に居たいというのは……、綾瀬抜きでってこと?」


ノノハラ ナギサ
「……うん」


ノノハラ レイ
「今日だけじゃなくて?」


ノノハラ ナギサ
「……、……うん」


ノノハラ レイ
「いいよ、そういう日を作ろう。そういえば最近は構ってあげてなかったもんね」


ノノハラ ナギサ
「えへへ、ありがとう、お兄ちゃん」



 ――本当は今日からずっとがいいな。
 なんて喉から出かかった言葉を何とか飲み込めた。
 悔しいけど、綾瀬と一緒に居るお兄ちゃんは本当に楽しそうで、笑顔が眩しいから。



423 :♪Cool Morning ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/25(土) 23:48:48.07 ID:BpiXwtOd0



ノノハラ レイ
「おっと、話し込み過ぎちゃったかな。せっかくの料理が冷めちゃうぜ」


ノノハラ ナギサ
「あ……、そうだね。美味しいうちに召し上がれ♪」



 お兄ちゃんがあたしの料理を美味しそうに食べてくれる。これ以上の幸せを望むのは、今は辞めておこう。
 きっとそれが一番の正解なんだ。


424 :♪Cool Morning ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/26(日) 00:02:25.66 ID:0L/T9rdo0



ノノハラ レイ
「ごちそうさまでした」


ノノハラ ナギサ
「お粗末様でした」


ノノハラ レイ
「さぁて、渚。この後は暇でしょ? シチュー煮込むだけなんだし」


ノノハラ ナギサ
「うん。でも火は見ておかないといけないから」


ノノハラ レイ
「キッチンに居なきゃいけないんでしょ? まぁちょっと手間は取らせないからさ。
 それにやろうと思えばキッチンでも出来ることだし」


ノノハラ ナギサ
「それならいいけど……何をするつもりなの?」


ノノハラ レイ
「今日はずっと一緒に居るって言ったのは渚の方だろうに。
 いやなに、体調不良なのに美味しい料理を作ってくれた可愛らしい妹への、ボクなりの労いをと思ってね。
 まずはキッチンに行こう。話はそこからさ。食器も片付けなきゃだしね」


ノノハラ ナギサ
「え、あ、うん」



 あたしはお兄ちゃんの言われるがままにキッチンへ誘導された。



425 :♪Heartless Journey ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/26(日) 00:27:10.40 ID:0L/T9rdo0



ノノハラ レイ
「さて、渚。何処を貸してあげようか? 腕? 肩? 膝? なんなら胸でも構わないよ?」



 キッチンの椅子に腰かけたお兄ちゃんがそう言いながらもう一つの椅子を隣に引き寄せる。



ノノハラ ナギサ
「えっと、貸すって、どういうこと?」


ノノハラ レイ
「枕としてだけど?」


ノノハラ ナギサ
「え? えぇっ?!」


ノノハラ レイ
「ボクとして寝不足な妹に振る舞えるものなんてボク自身しかないわけだからね。
 火はボクが見ておくから安心して昼寝すると良い。その間の枕ってわけだ。
 まぁ居眠りなわけだからあまり寝心地はよくないだろうけれど」


ノノハラ ナギサ
「え、えっと、その、えぇ?!」


ノノハラ レイ
「あー、あれかな。寝顔見られるの嫌だったりする?」


ノノハラ ナギサ
「そ、それは別に構わなくもない、かな、とか、そう、じゃなくって、その」



 どうしよう。お兄ちゃんを枕にするなんて嬉しすぎるのに。
 それでもまたあの夢を見てしまったらどうしよう。そうなるともうお兄ちゃんに誤魔化せない。
 膝枕してほしいけど腕枕も捨てがたいしお兄ちゃんの肩に寄り添うっていうのも悪くないけど、じゃなくって。



ノノハラ レイ
「んー、やっぱりこういう行為もセクハラになるのかな。ごめんね渚変なこと言って。
 まぁとりあえず火はボクが見ておくから渚は部屋でゆっくり休んで――」


ノノハラ ナギサ
「肩! 借りるね!」


ノノハラ レイ
「おっ、おう。威勢のいい返事だ。右にする? それとも左がいい?」


ノノハラ ナギサ
「右で!」



 これはもうあれこれ悩まない方がいい。こんな滅多にないチャンスを逃すわけにはいかないもん。



426 :♪Heartless Journey ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/26(日) 00:39:29.59 ID:0L/T9rdo0



ノノハラ レイ
「どう?」


ノノハラ ナギサ
「……うん、なんだか、凄く落ち着く」


ノノハラ レイ
「そう、それはよかった」



 椅子に腰かけて、お兄ちゃんの右肩に頭をのせて体を預けると、お兄ちゃんの匂いに包まれているようで気分がいい。
 これなら、あんな夢は見ないかもしれない、なんて思いながら、少しずつ意識が遠のいているのが分かる。
 もう少し、この感覚を味わっていたい。そんな思いだけで微睡んでいる状態を続けている。
 心地良い。気持ち良い。嬉しい。幸せ。
 もう体の方が限界だったのか、あえなく意識を手放そうとしている。本当に勿体ない。
 ――でも、この温もりを感じながらなら、きっと……。



427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/26(日) 07:15:47.85 ID:CFXwWIxU0
乙です
渚ちゃんあらあらうふふ
428 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/26(日) 22:41:41.53 ID:0L/T9rdo0
―――



ウメゾノ ミノル
「おうおう、随分とまぁ仲がよろしいこと。妹さんはシエスタ中かい?」

ノノハラ レイ
「茶化しに来ただけなら帰ってくれないかな。
 渚を起こしたくないし、誰の許可を得て渚の寝顔を見ているんだい?」

ウメゾノ ミノル
「そんな殺気立たないでよ。そんなんじゃビビッてロクに話もできやしねぇ。
 いやさ、僕も料理を作ろうと思ってね。というか、せがまれちゃって」

ノノハラ レイ
「慧梨主さんに? それとも亜梨主さん?」

ウメゾノ ミノル
「両方、かな。イギリスに留学した時の事を話したら、
『じゃぁその“伝統的な味”とやらを振る舞いなさいよ』とか言われちゃって。慧梨主も期待で目をキラキラさせちゃって」

ノノハラ レイ
「……そう。それは、ご愁傷様」

ウメゾノ ミノル
「誰に対してのセリフかなそれは」

ノノハラ レイ
「ご想像にお任せします。で、どうすんの? まさかマジモンの英国料理作るつもり?」

ウメゾノ ミノル
「一応は、ね。ランチはもう済ませちゃったし、ディナーもあるから軽くつまめるパイを」

ノノハラ レイ
「星を見上げるのかな?」

ウメゾノ ミノル
「まさか。まぁ英国料理でパイと聞いたらすぐに思い浮かぶのはそれだろうけど。
 ――ミンスパイだよ。本当に色々な食材があるよねここには。ミンスミートもあるなんて」

ノノハラ レイ
「ポットニュードルもあるよ。あとマーマイトとか」

ウメゾノ ミノル
「警告しておくけど、興味本位で手を出していい代物じゃないからね?」

ノノハラ レイ
「遅かったね。サルミアッキに口をつけてるから。欲しい?」

ウメゾノ ミノル
「いいえ私は遠慮しておきます。
 ――いやほんとマジでシュールストレミングに耐えられるほどの生粋のスオミ人じゃないから、普通に無理だから」

ノノハラ レイ
「ちぇ。せっかく道連れが出来ると思ったのに」

ウメゾノ ミノル
「野郎と心中なんざ死んでも御免だっての。……で、君はこの鍋の火を見てるわけだ」

ノノハラ レイ
「そういうこと。手を出しさえしなければ、いないものとして扱ってくれて構わないぜ」

ウメゾノ ミノル
「触らぬ神に祟りなしって? 解ってるよ。こっちだって喧嘩は商売にしたかないし。
 その代わり、そっちも迂闊にちょっかいかけようものなら、命賭けてもらうからね?」

ノノハラ レイ
「おおこわいこわい。肝に銘じておくよ。さて、いい加減お喋りは辞めよう。男は黙ってこそさ。
 特に、今この状況じゃぁ、ね」

ウメゾノ ミノル
「All right. 眠り姫のお目覚めにはまだお早いってワケね。
 じゃ、ASAPと行きますか。こちらもお姫様方をお待たせするわけにもいかないし」



429 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/26(日) 22:50:12.61 ID:0L/T9rdo0



ウメゾノ ミノル
「Mission complete.後はこれを食べてもらうだけだ。
 で? さっきからずっと見てる君もこれが欲しいのかい?」


ノノハラ レイ
「いや、結構。キミの調理姿にちょっと気になることがあっただけだよ」


ウメゾノ ミノル
「……何さ」


ノノハラ レイ
「マジックの時もそうだけど、キミ、右利きの癖に精密な動き要求される動作は全部左手でやってるよね。何で?」


ウメゾノ ミノル
「……その答えを聞くには親密度が足りません」


ノノハラ レイ
「あっれぇ? ボクとキミって結構仲良しだと思うんだけど。そう思ってたのはボクだけなのかな?」


ウメゾノ ミノル
「それはそれ、これはこれ。僕自身の気持ちの問題だから。
 そんなに気になるなら、君が前の学級裁判の後に持ちかけてきた取引の詳細を教えてよ。交換条件だ」


ノノハラ レイ
「……じゃぁいいや、深追いしないでおくよ。そこまで気になるものでもないし、大方予想はつくしね」


ウメゾノ ミノル
「……君のような勘のいい奴は嫌いだよ、本当に。
 僕としては君が自分の計画を妹にも教えていないことに余計に腹が立つ」


ノノハラ レイ
「それが昨日見せてくれたキミのマジックの個人的な真意なのかな?
 “自分にはこんなにも自分を信用してくれる人がいる”っていう当てこすりのつもり?」


ウメゾノ ミノル
「……本当に、君って奴は。覚妖怪の類なのか?
 初めてだよ。あんな暗い個人的な感情を抱いてステージに立ったのは」


ノノハラ レイ
「失礼だな。ボクは人間だよ、あくまでもね。
 それにしても意外だな。君にもステージに立つ矜持とかあるんだ、そういうの。
 外交官としての趣味がマジックってのも意外だけど――」


ウメゾノ ミノル
「発言に気をつけな。それ以上は地雷原だ」


430 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/26(日) 22:54:36.71 ID:0L/T9rdo0



ノノハラ レイ
「……ふぅん? なるほどね。わかった。これ以上は踏み込まないでおくよ。キミ、怒らせたら怖いタイプだもん」


ウメゾノ ミノル
「なら、いい。――ほら」


ノノハラ レイ
「あれ、ボクいらないって言わなかったっけ?」


ウメゾノ ミノル
「いいから受け取りなって。本来ミンスパイは特別な日に食べるものなんだ。
 だから、これは僕が君に渡せる最大限の有効の証だよ」


ノノハラ レイ
「そ、要するに口止めってわけ。安くついたねぇ。ま、この場合は気持ちの問題なんだろうけど――。
 ……ん、この英国料理は偽物だ。食べられるよ」


ウメゾノ ミノル
「そりゃそうだ。英国料理が不味いなんてエスニックジョークはもう古いんだぜ。
 良い素材を使って適切な調理をすれば星を取ることだって夢じゃない」


ノノハラ レイ
「それ従来の調理法がダメだって皮肉ってる? 新手のブリティッシュジョーク?」


ウメゾノ ミノル
「ハハッ、ゲイリー。英国紳士は自虐なんてしないよ。皮肉のセンスは抜群なのは他人に対してだけなのさ。
 っと、油売ってる場合じゃないや。早いとこ持って行かないと」


ノノハラ レイ
「二人の反応が楽しみだなぁ。きっと亜梨主さんは微妙な顔して、慧梨主さんはぎこちない笑顔をキミに見せてくれるだろうぜ」


ウメゾノ ミノル
「……今しれっとディスられた気がする。まぁ、僕もそう豪語できるほど料理の腕に自信はないんだけどさ」


ノノハラ レイ
「一応人様にお出しできる味ではあるとだけは言っておくよ」


ウメゾノ ミノル
「そう言われると逆に不安になるんだけど?」


ノノハラ レイ
「おかしいな。素直な感想なのに」


ウメゾノ ミノル
「これまでの言動を思い出しなって。じゃ、僕はこれで」



ーーー
431 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/26(日) 23:40:55.59 ID:0L/T9rdo0



ウメゾノ ミノル
「……君は預言者か何かかい? 本当に言ったとおりの顔してたよ」


ノノハラ レイ
「彼女らがどんな反応をするのか、軽くシミュレーションしてみただけだよ」


ウメゾノ ミノル
「サラッととんでもないこと言ってるぞコイツぅ……。
 カッコいいところ見せようと思ったのにこれじゃ締りが付かねぇ……。
 こうなりゃヤケじゃヤケ」


ノノハラ レイ
「あまり騒がないでね。……ちょっと待って。
 キミがグラスに注いでるそれ、ボクの目には馬鹿でかいランチャームに見えるんだけど、気のせい?」


ウメゾノ ミノル
「飲まずにはいられない!」グビィー!!


ノノハラ レイ
「おぉ、戸惑いなく一気にいったねぇ」


ウメゾノ ミノル
「醤油だこれぇっー!!」ブーッ!!


ノノハラ レイ
「なんだ、血圧一気に上げて自殺でもするつもりなのかと思ったのに」


ウメゾノ ミノル
「ちゃうねん……。ペッシェヴィーノロッソかと思ってん……」


ノノハラ レイ
「キミは実にバカだなぁ。そんなものが未成年の手に届く場所にある訳ないじゃん。大体、匂いで気付きなよ」


ウメゾノ ミノル
「ですよねー。うげぇ、気持ち悪い……。水、水はどこじゃ……」


ノノハラ レイ
「そこに蛇口があるじゃろ?」


ウメゾノ ミノル
「يتدفق نهر النيل من عينيك」


ノノハラ レイ
「……なんて?」


ウメゾノ ミノル
「なんでもない。……ア゛〜……。死ぬかと思った。まだちょっとくらくらする」


ノノハラ レイ
「身から出た錆ついでに教えてあげるけど、服ガッツリ汚れてるから、早く洗ったほうがいいぜ」


ウメゾノ ミノル
「うぇ?! ……うげぇ、マジじゃん。うわぁ、醤油のシミとか目立つ上になかなか消えないとかホントマジ厄介な奴じゃん……。
 着替えてランドリールーム行こ……」


ノノハラ レイ
「お大事に」


ウメゾノ ミノル
「心にもないことを……。まぁいいや、それじゃぁね」



432 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/27(月) 00:09:55.96 ID:ow1ruDNi0
―――


 あたしはいま夢を見ている。
 お兄ちゃんとの何気ない日常を過ごす優しい幸せな夢。
 これが微睡みと知りながら、この光景を心の支えに出来るように、どうにかして心に焼き付けようとする。
 でも、この後の惨劇を知っているから、早く覚めてほしい。
 でも、もっとこの幻想に身を委ねていたい。いつまでもこうして揺蕩っていたい。
 でも、でも、と煩悶している間に、とうとうあの時間がやってきた。
 あたしとお兄ちゃんとの間に翳りができる瞬間。そろそろ覚めないと。
 早く、早く、早く早く! お願いだからもう覚めて!



―――

433 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/27(月) 01:15:22.15 ID:ow1ruDNi0



ノノハラ レイ
「渚、ねぇ、起きてってば、渚」


ノノハラ ナギサ
「――っ! お、おはよう、お兄ちゃん」


ノノハラ レイ
「うん、おはよう。寝心地はどうだった?」


ノノハラ ナギサ
「うん、おかげでぐっすり眠れたよ。ありがとう」


ノノハラ レイ
「そう、それはよかった。お兄ちゃん冥利に尽きるよ」


ノノハラ ナギサ
「どれぐらい、寝てたの?」


ノノハラ レイ
「そろそろ夕食の時間って感じだね。シチューもいい感じに煮込まれいるんじゃないかな」


ノノハラ ナギサ
「そ、そんなに寝てたんだ。じゃぁ、ちょっと鍋の様子見ないと」


ノノハラ レイ
「おいおい、そんないきなり立ち上がるなよ。立ち眩みとか考えなってば」



 お兄ちゃんの言葉もむなしく、あたしの体はそのまま倒れこんで――、いなかった。
 先回りしたお兄ちゃんに抱きかかえられたから。



ノノハラ レイ
「ほら、言わんこっちゃない。大丈夫?」


ノノハラ ナギサ
「あ、うん。ありがとう。と、とりあえずシチューの味見したいから鍋のところまでいきたいな」


ノノハラ レイ
「わかった。じゃぁ肩貸すから」


ノノハラ ナギサ
「う、うん……。ありがとう……」


434 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/27(月) 01:36:01.84 ID:ow1ruDNi0



ノノハラ ナギサ
「うん、上出来」



 あたしの納得できる味ができた。これならお兄ちゃんも喜んでくれるはず。



ノノハラ レイ
「それは楽しみだ。困ったな、ちょっと待ちきれなくなっちゃった」


ノノハラ ナギサ
「つまみ食いはダメだからね?」


ノノハラ レイ
「解ってるよ。まぁ、ボクとしてはいっぱい食べれれば満足だし」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃんはよく食べる方だもんね。ちょっと多めに作っておいてよかった」


ノノハラ レイ
「そうとあれば早速夕食だ。ビーフシチューがボクを待っている!」



435 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/27(月) 02:01:50.38 ID:ow1ruDNi0



ノノハラ レイ
「……ふぅ〜……、食べた食べた。ごちそうさま」


ノノハラ ナギサ
「結構余裕を持って作ったつもりなんだけど……、まさか本当に完食するなんて」


ノノハラ レイ
「ふふ、渚の料理は美味しいからね。満腹中枢が刺激されても食べ続けられるのだよ。
 ……さて、そろそろ明日の企画に向けて準備しないとね。手伝ってくれるかい?」


ノノハラ ナギサ
「結局何をするつもりなの?」


ノノハラ レイ
「映画鑑賞会をしようと思ってね。ポップコーンは必要でしょ? あとチュロスも要るかなぁ?」


ノノハラ ナギサ
「チュロスは手間がかかるしポロポロこぼれちゃうから、ポップコーンに絞った方がいいと思うな」


ノノハラ レイ
「そっか。じゃぁコーラも用意しないといけないなぁ。……いやまてよ? 別館の自販機にあったかな?
 あ、いや、なかったわ。コーラこっちにしかないわ。
 ってことは結構荷物がかさばっちゃうなぁ。何回か分けて運ぶか……、それともみんなに持ってきてもらおうかなぁ」


ノノハラ ナギサ
「みんなの見たい映画の好みもあるだろうし、あとでメールで聴いてみたら?」


ノノハラ レイ
「それもいいね。ボクのチョイスだとどうしても偏っちゃうし。
 でも最終的にはボクの独断と偏見でチョイスしようかな」


ノノハラ ナギサ
「主催者権限を乱用するのはよくないと思うけど……。発案はお兄ちゃんだし、良いんじゃないかな」


ノノハラ レイ
「そうと決まれば一斉送信だ。
 『明日は映画観賞会するつもりだから、応えられるかは別としてリクエストがあるなら返信よろしく』っと。
 さて渚、ちょっと忙しくなるかもだけど、ポップコーンづくりに手伝ってもらうからね」


ノノハラ ナギサ
「望むところだよお兄ちゃん」



 こうして、消灯時間間近までひたすらにポップコーンを作り続けた。
 何時間も映画を見るとあれば、しかもそれが14人ともなるとかなりの量を作らなきゃならない。
 誰がどれだけ食べるか分からないから、最悪お兄ちゃんに全部食べてもらうつもりで作っちゃおう。


436 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/27(月) 02:03:06.00 ID:ow1ruDNi0



こうして、あたしの楽しい一日は終わった。
昼寝した時もいいタイミングで起きることができたし、なんだか今日はいい夢を見れそうな気がする。


437 :テンノコエ ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/04/27(月) 02:05:28.38 ID:ow1ruDNi0


――本日はここまで。


――ようやく物語を動かすことができるぞ……!


――ヤンデレCD Re turnの情報も開示されたことですし、これからも更新速度を上げていかなくては。


――それでは、おやすみなさい。



438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/19(火) 23:05:35.98 ID:nZdKthTS0
渚ちゃんかわいいねえ
439 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2020/06/08(月) 00:06:57.72 ID:7JEoXNNe0


―――



???
「ヒトの身を捨て、機械の身体を得て、神の座に至る。成程確かにそれは面白い考えだ。
 ジュール・ヴェルヌ曰く、“人間の想像しうるものは必ず実現可能である”。まぁ、ラ・フュイ夫人の捏造らしいけど。
 後は……、ツァラトゥストラ、だったかな? “神は死んだ”と言ったのは。
 キミが想像し、創造しようとするのは新しい人の形かも知れない。それは認めるよ。
 でもね、妄想とは区別されるべきだ。その程度で座せるほど、真理は甘かないんだわ」


???
「くふふふふふはふぅうううう、何を宣うのかと思えばそんなセリフをあなたが、ですか?
 何の変哲もないただの凡人でしかない、あなたが」


???
「凡人だからこそだよ。人並みに神頼みするなんてままある話さ。それに一々応えられるかって話だよ。
 勿論、処理能力云々じゃない。そんな七面倒臭いことを押し付けられてたまるかってんだ。
 それはキミも同じはずだ。雑事に裂く時間があれば、主題に回したほうがいい。そういう人間だろ?」


???
「何を当たり前なことを。愛するものと共に過ごす。それ以外に何が必要なのですか?」


???
「――オーケー、どうやらキミとは宗教観からして根本的に解り合えないらしい。
 価値観がねじれの位置にあるなら、話が通じないのも頷ける。無為な時間だったね」


???
「全くです。どうしてあなたと話そうなどと思ってしまったのやら」


???
「気の迷いって奴だろ? ま、精々頑張りな。応援はしてやらないけど。
 ――ところで、その頓痴気な服装は素面でやってるのかい?」


???
「殺すぞ」



―――


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