【艦これ】大井さんの女子力事情

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66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:24:29.01 ID:TfwQBkSMO
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67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:24:33.83 ID:oAROVMK/O
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68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:24:39.64 ID:/49iVNWRO
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69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:24:44.59 ID:bT54j93/O
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70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:24:49.74 ID:Yt0xZ3OgO
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71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:24:54.68 ID:vIgBFodGO
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72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:25:02.10 ID:FRzhm1HOO
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73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:25:07.81 ID:pGjRaY7nO
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74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:25:12.70 ID:jD0e4isWO
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75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:25:17.45 ID:pXFoQzE/O
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76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/27(木) 22:25:57.17 ID:Ugt8L+Ki0

私はあの日以来大井さんのお尻を執拗に追い回している。

朝のランニングはやめて、シーグラス探しに熱を注いでいるということ。

どうしても探す場所は同じだから、シーグラスの先輩である大井さんを差し置いて前に出ることは言語道断だ。

従って大井さんの後ろを追う。致し方ないのだ。

手紙にはその行為は迷惑だからついて回るなと書いてあり、それと今夜浜辺に来てくださいとも書いてあった。

私はふらふらと椅子に座わる。なんだかお風呂上がりでのぼせたみたいだ。

そして確認の為、もう一度手紙の内容を見る。同じ内容だった。私は声ならぬ声を上げ足ををばたばたした。

なるほど実ったのか成就したみたいだ。大井さんにしてはなんて大胆なんだ。

もっとこう、お洒落なレストランに私を呼びつけて、指輪を入れたシャンパンを運ばせるなんて計画を練っていると思ってた。

珍しく私は化粧をしようと思った。自室に着くなり服を脱ぎ捨ててまず禊のため風呂に入る。いつもより丁寧に髪の毛を洗い、いつぶりかのトリートメントを丹念に塗りたくる。

77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:26:24.66 ID:cdJib6NoO
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78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/27(木) 22:27:14.50 ID:Ugt8L+Ki0
今日はここまでにします。そろそろ終わるのでまた頑張ります。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:27:56.42 ID:1xIEA8s/O
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80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:28:01.55 ID:oCd2TtZ3O
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81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:28:06.38 ID:KNlPDUBJO
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82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:28:12.02 ID:sp8/ofm6O
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83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:28:16.79 ID:71Bo7ekWO
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84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:28:24.06 ID:lNI4hebmO
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85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:28:29.27 ID:6bCVIuQ1O
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86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:36:04.40 ID:GosgO7ZkO
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 22:41:14.68 ID:IimmjvZyo
おつです
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 21:42:00.86 ID:jsurYAsW0

しかし困ったことなった。

風呂から上がり化粧台に着くなり私の手は止まったからだ。

目の前にある化粧道具を前にした瞬間、私は何から手をつけたらいいのかまるっきりわからなくなった。

私は化粧用品の裏に書いてある使用方法をひたすら確認する。どこに塗るのか、どんな効果があるのか、書いてあることはわかる。でもいくら読んだって順番がわからない。

いつもなら大井さんにアドバイスをもらいに行く私だけど、今回はそうはいかない。

下手に多く使うとかえって逆効果だと思い、確かこんな感じだったなと適当にファンデーションと口紅を塗る。そして完成。

したのはいいが、鏡に映っているのはまるで化け物。

ファンデーションをこれでもかと塗りたくったせいで顔が不自然に浮き上がり、唇はいつもより2センチましに広がっている。

ふと頭の片隅に真っ白な顔で、たらこ唇のおばけがよぎった。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 21:54:59.64 ID:jsurYAsW0

私は急いで風呂に舞い戻り顔をリセットする。

壁に手をつき、シャワーを浴びながら愕然としていると、大井さんが言っていた、ここの鎮守府の面々は女子力以前の問題だ。そう言っていた事が身に染みてよくわかった。

私は諦めた。もうどうしようもない。このままだ。

さてと、と。風呂から上がりもう一度髪を乾かして、軍服のボタンを締める。小休止と一服にコーヒーを飲みながら私は時計を確認した。

時刻に血の気が引いた。

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提督「ごめん大井さん!まった?」

大井「えぇ約束の時間からもう10分ぐらい待ちましたよ」

私が息を切らして到着すると、大井さんは苛立ちの矛先を地面に向け右足首でとんとんしていた。顔を見ると眉間には皺がよっていて、視線は私の心に突き刺さる。

提督「ほんっとすみません!」

私は両手を合わして頭を下げた。遅れた理由を話そうと思ったけど、まさか慣れない化粧に戸惑っていたなんて恥ずかしくて言えたもんじゃない。

大井「まったく、提督が時間に遅れるなんて珍しいですから、心配してたんですよ?」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 23:03:13.76 ID:jsurYAsW0

あぁもう髪の毛がぐしゃぐしゃじゃないですか。そう言って大井さんは私に近付いて髪の毛を整える。

いつも大井さんはいい匂いがする。なんて言うのだろう。女の子の匂い。これ以外に言葉が出てこないから困る。その匂いに今日はやけにどぎまぎする。いつもと変わらないのに、高鳴る心臓の鼓動が強すぎて張り裂けそうだ。

化粧も上手だなぁ。それに髪の毛の艶も私とは大違いだ。よく手入れしてるなぁ。

大井「提督、動かないでください。やりにくいです」

提督「ごめんなさい....」

大井「あと視線。気づいてますよ。あんまりじろじろ見られると恥ずかしいからやめてください.....」

そう言い終わると大井さんは私から離れ、そして、恥ずかしそうに顔を逸らした。私も大井さんに視線が気づかれていた事に恥ずかしくなって視線を逸らす。

長い長い沈黙が私と大井さんを覆い隠す。普段なら冗談の一つを言って大井さんを呆れさせるのに、なぜだか今は緊張しているせいで、いつもみたいに馬鹿な事が言えない。

でもそんな事を知らない大井さんは私の一言を待っている。そんな気がするからなんとか頭を捻る。



91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/30(日) 23:05:55.62 ID:jsurYAsW0
2日3日あたりになんとかお話を終わらせます。それで終わったら小ネタをやるって言いましたけど、内容はこの前に横須賀の軍港に行って軍艦の写真を撮ってきました。それらを貼っつけようと思ってます。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/30(日) 23:36:07.21 ID:jPweblZQo
待ってるぞ
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/01(月) 01:21:47.70 ID:4lmOYaTA0
おつおつ
まったり続けてくれてもいいのにw
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/09(火) 19:48:58.55 ID:wgnqeKgI0

提督「あっ!え、えっとさ。私を呼び出した理由ってなんなの大井さん?」

そう言った後に私は思った。なんてつまらない返しだと。

こんな重苦しい空気の中で、私は気の利いた返しをせずに、呼び出した理由を聞いたのか私は。意気地なし、へたれめ。

大井さんは私は見つめ、少し口を開く。そして数秒して話し始めると思ったけど、表情を変えないままゆっくりと口を噤んだ。

躊躇っているのかな。大井さんは。私に何かを伝える事を。

その何かに期待し私の胸はますます高鳴るけど、同時にそれはあり得ない事だって頭が理解している。

大井さんの中で私は「提督」であり、仕事上の付き合いでしかない。そのドライで親密な関係が私の頭を冷やすんだ。

栗色の髪が柔らかな潮風でそよいだ。月光を浴び、光を纏った髪の毛は毛先に向かうほど白銀を帯び、ゆらゆらと照り輝く。

乱れる髪の毛を煩わしそうに搔きあげる大井さん。そのアンニュイな表情はなぜだか神秘的だ。

大井「月が綺麗ですね。提督」

そう呟くと大井さんの瞳は私を真っ直ぐに見つめた。

提督「そ、そうね!空気も澄んでるし、雲は一つないから、よく月が見えるわね!」

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/09(火) 19:50:33.08 ID:wgnqeKgI0

そう言って私は笑う。そうするしか誤魔化す方法が思い浮かばなかったからだ。

誰だって意味がわかるあの謳い文句を言われたら動揺するに決まってる。

私はなぜだか親指の腹と人差し指の腹とでポニーテールの毛先を伸ばしたり弄ったりする。

大井さんの瞳は依然として私を見据えている。私は何を言ったらいいのだろう。さっぱりわからない。わからないからずっと弄り続ける。すると。

提督。

大井「私のことは、好きですか?」

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96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/09(火) 19:51:57.60 ID:wgnqeKgI0

意気地なし、へたれ、甲斐性なし。

私がここまでお膳立てしてるっていうのに、なんなのよ。

それらしい言葉を並べて提督の出方を伺っているっていうのに、それに便乗したりしない。上っ面だけを取り繕って事なきを得ようとしてる。

提督がそういう人間だってことは私は知っている。

だけど、ここぞって所は決めてほしい。そうならなくちゃ一歩も進めないじゃない。

大体何よ。約束の時間も守らないって。それに時間が掛かってるって事は服やお化粧やらしてくるって思ってたのに、いつもどおりじゃない。それに、それに。

挙げれば幾らでも出てくるこの提督への不満。

はっきり言って、いい所より悪い所の方が多い。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/09(火) 19:54:03.55 ID:wgnqeKgI0

でも初期艦としてこの人に付き従った私は、その数少ない良い所が、悪い所を打ち消すくらいに素敵な事だと。

それは、艦娘を人間として見ていないこと。

艦娘は人間だっていう人はいる。

私がこの提督に出会う前にそう主張する人間が数少ないけどいたからだ。

私はそれが堪らなく嫌だった。虫唾が走るほどに。

どう取り繕ったって艦娘は人間なんかじゃない。そんな事そこら辺にいる子供達に聞いたってわかること。

それなのに、艦娘は人間だなんて。目の前の現実を否定している。

頭の中ではわかっている筈なのに、受け入れたくない。そうやって私は他の提督とは違う、いい人だって思い込みたいだけ。

いいえ、違う。彼らは本心から艦娘は人間だって思っている。

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/09(火) 19:55:49.89 ID:wgnqeKgI0

期待や願望じゃなくて、心の底からそう思っているはず。

同じ目線で痛みを分かち合って、苦難を乗り越えるから、人間と変わらない。そう結論に至ったんだ。

でも私は、それが重い。

彼らが私に「人間なんだ」って求めることが。その期待にはどう頑張ったって絶対に応えられないから、心はすり潰される。

だから逃げ回るように色んな鎮守府を巡り回った。

そして出会った、この目の前で髪の毛を弄くり回す提督に。疑心暗鬼の塊で、どっちにも肩入れすることが出来ない半端者の人間。

一目でわかったわ。類は友を呼ぶっていうあれね。

陰気な空気を醸し出すこの存在は、私の本性と似ていると。そう思った。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/09(火) 19:59:10.90 ID:wgnqeKgI0

人として半端者の提督は、艦娘の扱いも半端だった。

それは指揮が下手くそってことじゃない。

しっかりと引き際をわきまえているし、勝負に出た時は必ず勝利を収める。

今まで見てきた多くの提督の采配よりも確実で、どうしてこんな辺鄙な鎮守府に配属されたのか理解できなかったほど、聡明で頼もしい。

じゃあ何が半端だったかというと、この提督は聡明すぎるがため、艦娘を「兵器」か「人間」かはたまた「艦娘」か、どう扱っていいのかわからず思い悩んでいた。

その考えが艦娘の扱いが半端だったというわけ。

今ならよくわかる。この提督は「人間」が苦手。それだから姿形が人間の「艦娘」に不信感を持っていた。でも艦娘を「兵器」として扱うのは良心が苛まれると。こう考えていたはず。

今までの提督とはまるで違った。どの人も艦娘を、兵器ならば兵器とし、人間ならば人間として扱っていたのに、そんな事に思い悩んでる人間は初めてだった。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/09(火) 20:01:20.15 ID:wgnqeKgI0

だけど私は物事は白黒つけたい性格で、そうやってうじうじする態度が目に見えて露わになった時、ついつい怒ってしまった。私の何か気にくわないのって。

その一件から提督の艦娘に対する感じ取り方がいい意味でも、悪い意味でも変わったと思う。

提督は私に気持ち悪いほどスキンシップを行うようになったし、なにより艦娘に対する見方が変わった。

扱いは今までと変わりはなかったけど、提督の艦娘を見る瞳は少しずつ不信から信頼に変わっていった。

それは提督が、艦娘は人間ではないという結論に至ったというわけ。

どうしてそう思えるのか。なにせ提督の人間嫌いは直っていないから。

艦娘を信用していても、人間として見ていない。その視点が私には心地いい。

取り繕うことなく自分を出せる人間は今の今までこの人しかいなかった。と私が気が付いた時、私はこの人の虜になっていた。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/09(火) 20:03:37.28 ID:wgnqeKgI0

北上さん、ごめんなさい。私は沢山存在する魅力的な「北上」さんよりも、唯一無二の存在である提督に惹かれてしまいました。

どうか、どうかこんな私を許してください。

そして私は、この人が私と同じ気持ちである事を託し、勝負に出る。

必ず掴み取ってくださいよ、提督。

大井「提督、私のことは好きですか?」

聞こえなかったとは言わせない。風にも負けず、しっかりと聞き取れるくらいの音量で問う。

それを聞き取ってしまった提督は、まあなんて情けない。顔を真っ赤にして髪の毛を弄る手も止まり、鳩が豆鉄砲を食らったみたい。

さぁどうやってこの問いを返してくれるの、提督は。

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102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/09(火) 20:07:27.58 ID:wgnqeKgI0
GW中に終わらせようと思ってましたけど彼方此方に行ったり、イベ掘りでまったく進みませんでしたごめんなさい。大井さんと提督の駆け引きはまだ続く予定です。
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/19(金) 09:12:15.27 ID:9VqVo/8no
これは楽しみですわあ
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 00:19:38.16 ID:c4JYKnfD0

昔々その昔。まだソロモンの悪夢がそれほど力を持っていなかった時。

昔々その昔。まだ双璧をなすもう一人も力を持っていなかった時。

昔々。まだみんなが弱かった頃に、私は覚悟したんだ。

大井さんを殺そうと。

提督稼業をする者、いつかは訪れるだろう災厄に私が直面したあの日、私は大井さんを殺そうとしたんだ。

その方法は至ってシンプルで、尚且つ、遠回しな艦娘への死刑宣告だ。

今からこの海域に行って敵を迎撃してきて。この命令一つで、私は、大井さんを殺そうとしたんだ。

私が大井さんからストレートな告白の促しを受けた瞬間。私は防ぎ混んでいたこの記憶がフラッシュバックした。

狼狽え呆けていた口が急に塞がり、一瞬にして顔が青ざめたはずだ。

ただでさえ低血圧な私は、その変化にくらりとしたのだから間違いない。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 00:20:16.07 ID:c4JYKnfD0

大井「どうかしましたか?提督?」

その変化に気がついたのだろう、心配そうに私の顔を覗き込む大井さん。

提督「ううん。なんでも、ないわ」

そう言って首を振る。私の変化した心境を悟られないようにするが、いかんせん大井さんは私の考え事をよく当てる。

しかし今回は察することはできないはず。なぜなら自分が一度殺されそうになっていることを知らないはずだからだ。

あの日、卑怯な私は大井さんへの死刑宣告を、いつも通りの指令の言葉に塗り替えたから知る由もない。

それに危機的状況にこの鎮守府が陥っていたなんて知らない可能性だってある。

だから急に甘々なムードから一転し、何やら急に蒼白した私への追求は終わらない。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 00:21:17.02 ID:c4JYKnfD0

大井「そんな嘘ついたってバレバレです。何が気になったのかちゃんと話してくれないとわからないです」

そう言うとぐいと私との距離を縮めてきた。

罪悪感からだろう。いつの間にか背中はねっとりとした汗が接着剤となり、服と皮膚が密着していた。

提督「だから、何でもないって」

自分でも驚くくらい冷ややかな声色。この八つ当たりにも似たこの言い様が私にできるだなんて思わなかった。

それに本人でさえ驚いたのだから、付き合いの長い大井さんだって相違ない。

びくりと背筋を震わせると、偏に見つめていた瞳を広げ、大井さんは初めて私から視線を逸らした。

そして苦しそうな表情を浮かべ、右腕を強く握りしめると、微かに開いた唇から、弱々しく言葉を吐き出す。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 00:23:12.46 ID:c4JYKnfD0

大井「.....引きました、よね。だって、女の子同士ですもんね。.....ごめんなさいさっきの話は忘れてください」

後退り、今すぐにこの状況から逃げだしたいと言わんばかりに勢いよく踵を返すと、大井さんは走った。

遅れて我に返った私は慌てて大井さんを追いかける。

提督「まって!!違うの大井さん!!」

私は大井さんの腕を掴みとる。

とても冷たかった。

大井さんの冷たさに私の異常な程高ぶっている体温が高い根こそぎ移ってしまいそうだと思うくらいに。

ふと私は大井さんは、一体いつからこの浜辺にいたんだろうと思った。

こんなにも冷え切っているのだから約束時間の何十分も前から、もしかしたら一時間くらいかもしれない。

今だ寒さが残る潮風を浴び続けていてのなら、この冷たさは何らおかしくない。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 00:32:54.28 ID:c4JYKnfD0

私はそんな大井さんの本心を無下にしようとしている。

気持ちは一緒なのに。本当は舞い上がってしまうほど嬉しいのに。秘密にした過去に蝕まれ、気持ちに応える資格がないと思っている。

あぁクソ。何だって私は愚かなんだ。

想い人を死に追いやろうとした真実を暴露し、拒絶されるのが怖い。

だったら最初からあんな作戦なんか計画するんじゃなかった。

でもそれは結果論だ。あの時一番強かった大井さんが敵を道連れ覚悟で出撃しなければ、今この時すら存在しなかったんだから。

それに結果論で締め括るなら大井さんは今こうやって生きている。なら難しいことなんてかなぐり捨てて、もう忘れてもいいじゃないか。

だから大井さんを捕まえても、ぐちゃぐちゃな考えのせいで、言わなくちゃいけない言葉ががんじがらめになる。私が捲したてる言葉は単なる喚き声にしかならない。

私の意味のわからない言い訳を聞いても、大井さんは振り返らない。

だからどんな表情をしているのかわからない。泣いているのかもしれないし、想い人がこんなにも情けのない奴の知って、落胆し、無表情かもしれない。

大井「.....もう、いいです」

この一言が、何よりも辛く心に響いた。

そして私は、これで大井さんを本当に掴みそこねたのだと知った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/22(月) 00:34:53.24 ID:c4JYKnfD0
中々時間がとれないので、中々進みませんですみません。書いてて楽しくなってきたので、思っていたよりも長くなりそうです。また頑張ります。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/24(水) 22:54:53.08 ID:DbQfPPCyo
丁寧な描写はよいぞお
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:25:28.19 ID:qNL29ZGy0

もう、いいです。そう言って振り返らず、そのまま歩み始めた大井さんの後ろ姿を、記憶の狭間から何度も呼び起こす。

風鈴の冷たい音色が執務室に響き渡る。透き通る音色に私は突っ伏していた机から顔を上げる。

誰もいない執務室。鎮守府の午後だ。

あれから1ヶ月たった。涼しさを含んでいた風は、今ではねっとりとしていて、皮膚にまとわりつくようになった。

そして風鈴の音色に微かに混ざる賑やかな声達。

これだから夏は嫌いなんだ。なんだか私だけ除け者にされているみたいで。

私だけ季節に取り残されているみたいで。すごく嫌だ。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:26:31.40 ID:qNL29ZGy0

私は足を執務机に乗っけ、帽子を顔に被せる。そして腕を組む。

夏だからってだらしないですよ、と大井さんの声。風鈴なんかよりも心の奥底に響き渡る声。

うちわ片手にだらしないと言いながら、私しかいないのをいいことに、勝手に私の冷蔵庫を開けてポッキンアイスを取り出している姿がある。

提督「そんなわけないじゃん」

私は一人呟く。大井さんがいるわけがない。大井さんはここにはいないのだから。

あれから私は、大井さんとは一度も言葉を交わしていない。

出撃の際、作戦概要を説明し軽い事務的な会話を含めると会話がないわけじゃないけど、無表情で、はいと軽く会釈するだけなのを会話とはいえない。
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:27:45.56 ID:qNL29ZGy0

秘書艦も辞めてしまった。代わりに誰か来るかと思っていたけど、誰もこない。

みんな自分のことで精一杯なのだろうか。それか私に人望が無いのかもしれない。

大体、手伝ってもらうのはなんだか気がひける。あれこれ考えていると胸がきりきりと痛み始めた。

私は三段目の引き出しを開ける。書類と筆記用具がごちゃ混ぜになっている奥底に手を突っ込む。

一つだけ質感が変わった。私は指先でそれを撫でる。すると痛みをあげていた患部は徐々に落ち着き始めた。

そうすること2分。私はそろそろ仕事に戻ろうと思い、引き出しをしまう。

代わりに使い慣れた真っ黒の万年筆を手に取る。万年筆をいつも握るポジションに指が滑り込むと、私は感傷には浸った。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:30:15.49 ID:qNL29ZGy0

懐かしい。この万年筆は大井さんの誕生日にプレゼントしたものだからだ。

7月15日。丁度今みたいにむしむしと熱苦しい夏の日に贈った万年筆は元は白と黒のセットだった。

それを選んだ理由はペアルックみたいで面白いと思ったからだ。

黒は私の。白は大井さんの。特注でキャップには私の本名と、大井さんの名前が筆記体で刻印されている。

渡す日はわくわくしたもんだ。大井さんは一体どんな反応をするのか、色々と考え夜もまともに眠れなかったくらいだからだ。

今でもよく覚えてるあの光景。なんなら一語一句間違えることなく大井さんが言った言葉を覚え、仕草、表情の全ても覚えている。何度も忘れないようリフレインしたからだ。

大井さんが万年筆を受け取って放った第一声は、ありがとうごさいます。と非常に喜んでもらえたが、刻印の説明をすると顔色が変わった。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:31:42.91 ID:qNL29ZGy0

冷ややかな視線を私に向け、なんで私の刻印はOiだけなんですか。提督だけ名前が長くてずるいです。と言った。

大井さんにしては珍しく駄々をこねる姿に私は腹を抱えて笑い、ならOi sanがよかったのと返したのだ。

それが癪に触ったのだろう、そういう問題じゃないですと叱られた思い出。

だからって大井さんはその万年筆を使わないような薄情な艦娘ではない。その日以来真っ白の万年筆以外のペンを使っているのを見たことがない。

それはほぼ絶縁状態に近い今でも同じで、やはりその万年筆を使っている。だから余計にわからない。今の大井さんとどんな距離感でいたらいいのか。

一人で思い出話に花を咲かすのを止める。

我に帰った私は、馬鹿みたいに山積みになっている書類の天辺を一束下ろし、黙々と作業を始めることにした。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:33:41.94 ID:qNL29ZGy0

来月分の資材申請書だ。1ヶ月毎にグラフ化されたそれぞれの資材の消費量を見ると、不自然に右肩上がりだ。

経験上、この鎮守府では戦艦に正規空母の艦娘はいないため、消費される資材は少ないはず。

気になって入渠と出撃の際に補充した資材を纏めた資料とで照らし合わせる。微妙に数が合わない。

まぁいつものことだけどね。気がついてないと思っているのだろう。

少しぐらいなら私だって目を瞑るけど、最近ちょろまかしている数が調子に乗って増え続けている。一体何に使っているのか知らないけど、近いうちに説明してもらおう。

そう思った矢先、扉が勢いよく開け放たれた。

球磨「提督ー生きてるクマかぁー?」

開け放たれた扉は、反動で元凶である球磨さんの元に戻っていくがそれを片手で受け止める。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:34:45.80 ID:qNL29ZGy0

提督「球磨さん、扉壊れるからそれやめてって言ってるよね」

球磨「元気そうでよかったクマ」

そう言うと球磨さんは扉を閉め私の言葉に耳を貸さずにづかづかと歩き、ソファに座り込んだ。そして足を組み左手を私に向けてくいくいとする。

どうやらアイスをご所望のようだ。

大体、球磨型の考える事は根っこの部分が似たり寄ったりだからわかりやすい。

それは積極的な大井さんと性格が真逆な、いつもアンニュイそうな北上さんだって同じことだ。

私はため息をつき、冷蔵庫に向かう。

冷蔵庫の中で山積みなっているポッキンアイスから球磨さんに渡すのを選ぶ。

実はこの奥に高めのアイスが入っていることは私以外誰も知らない。木の葉を隠すなら森の中、というわけだ。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:35:35.50 ID:qNL29ZGy0

球磨「大井とはうまくやってるクマか?」

なんの前触れもなく球磨さん言う。縛り付けられる様に、私の手はポッキンアイスを取ったところでぴたりと止まった。

手のひらに感じる冷たさとは裏腹に、体は熱く、心臓の鼓動は強く高鳴り始めた。動悸でめまいもした。

私は悟られないように、何も返答せず、取り出したポッキンアイスを折り、球磨さんに片方を差し出した。

ありがとうクマと言うと、球磨さんはポッキンアイスを一口齧り、咀嚼する。私も一口齧る。ぶどう味だ。

ごりごりと氷を噛み砕き、私も球磨さんも何も喋らない。

でも球磨さんは、隣に座れということだろう、ソファを叩いた。

それに従って私は球磨さんの左隣に座る。口火を切ったのは球磨さんだった。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:37:02.59 ID:qNL29ZGy0

球磨「....球磨は妹達の関係とか、他の艦娘の関係にはなるべく口を挟まないようにしてるクマ。なんでかわかるクマか?」

提督「巻き込まれたくないからでしょ」

球磨「そう。よくわかってるクマね。いくら可愛い妹達だとしても、交友関係は球磨には関係ないし、いざこざだって知らないクマ。自分達で解決しなくちゃいけない。球磨はそう思ってるクマ」

それに狭い交友関係を円滑に保つには、ある程度の距離感が必要だと思うクマ。

球磨さんはそう言い終わると食べ終わったプラスチックのゴミを、器用にゴミ箱に投げ入れる。

提督「そう思ってるんだったら、どうして口を挟むの?間に入れば面倒になるのは目に見えてるはずなのにさ」

言ってしまえばこれは一番たちが悪くて、思惑が交差しすぎて、がんじがらめになってしまう問題。恋の問題だ。

当事者も巻き込まれた第三者も結果としていい目をみないことが多く、球磨さんが一番避けていそうな問題なのに、どうして口を挟んだのだろうと私は思うと、口に出ていた。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:38:36.82 ID:qNL29ZGy0

球磨「見てて危なっかしいからクマね」

提督「危なっかしい?何がさ」

球磨さんは立ち上がると自ら冷蔵庫に向かう。

他に何かないクマかと、鼻歌交じりで冷蔵庫を物色する姿はさながら本物の熊だ。

私がその後ろ姿に目を凝らしながら、山積みしたアイスの底にある収納に気がつくなと念を送っていると、諦めたのか再びポッキンアイスを握りしめ戻ってくる。

球磨「大井は最近ちいさなミスが目立つクマ。別に大事になる様なレベルじゃないクマけど、いつもの大井ならありえないクマ。それをみんなは、たまにはそんな時もあるって締めくくってるけど、球磨はそうは思わないクマ。あれは前兆クマ。近いうちに絶対やらかすって思ってるクマ」

そう言うとポッキンアイスをへし折った。

私は唖然とした。あの大井さんがちいさなミスすることに。几帳面で真面目な大井さんはミスをする側ではなくて、ミスを見つける側だ。

私の癖を指摘するくらいに、その目は行き届いている。

嵐の前の静けさはみんな察知していても見て見ないふりをする。

それはその人の事がどうでもいいからではなく、現状問題無しと判断し、そのうち治るだろうと高を括るからだ。

危うい。球磨さんの言うとおりだ。大井さんはそのうち取り返しのつかないことをしでかしそうだ。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:39:35.03 ID:qNL29ZGy0

球磨「今回に限っては別問題クマ。下手したら大井がどうなるか、提督はわかってるクマね」

私はだんまりした。言葉が出てこないからだ。

球磨「提督、大井に何したクマ?」

そして私の隣に座った。ポッキンアイスを齧る球磨さんの姿はいつも通りだ。

だけど私を見据える眼光に微かに潜む殺気。妹を思う気持ち、仲間を思う気持ちが重なり合い、一人の艦娘の抜く末を案じているんだ。

私は拳を強く握りしめる。溶けたアイスが体温と気温を吸って生暖かい水となり、私の手をつたう。私はそれを舐めとり、溶けたアイスを飲み干す。

何から、話せばいいのか。私が大井さんから受けた告白の謳い文句を話せばいいのか。それに動転していたってことも。

それとも、かつて私は大井さんを作戦という言葉で包み隠して、明確な殺意を向けたことか。
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:41:02.55 ID:qNL29ZGy0

何から話せばいいのか考えあぐね、しどろもどろになる。

私の悪い癖だ。口下手な私はいつもこうやって話のねたの優先順位を見失う。

アイス二つを一気口にねじ込み、食べ終えた球磨さんは口を開いた。若干の冷気のせいで、この暑苦しい夏場なのに息は白かった。

球磨「.....だんまりクマか。まぁいいクマ。提督はそういう人間だってことは球磨も知ってるクマ」

提督「なにその言い方」

球磨「そのまんまクマ。提督はそういう人間だってことクマ。言いたいことをハッキリと言わないから勘違いされて、自分に自信がないから、いや違うクマね。次の答えがわかっているのにそれに乗っかろうともしない。それがお膳立てされていても同じクマ。ようは、意気地なしで根性無しの人間ってことクマ」

提督「ちがうよ!!!」

私は立ちがり球磨さんを睨みつける。

確かに私は意気地なしで根性無しだ。

だけど違う。それは違う。球磨さんは何も知らないから、そうやってとやかく言える。

現実はもっと複雑なんだ。そんな簡単に想いを伝えられないし、答える資格が私にはないのだから。

そんなこともわからない球磨さんに、簡単に言われたくない。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:42:18.41 ID:qNL29ZGy0

球磨「何が違うクマ。事実だクマ。違うって言うなら一人一人に聞いて回るといいクマ。私は意気地なしで根性無しかって。みんなそうだって言うクマ」

球磨さんも立ち上がると私の胸倉を掴む。いつもの私ならここで怖気付いてすぐに謝るだろう。

艦娘とやりあったって敵いっこないから。そもそも私は好戦的じゃない。

でも今回はなぜか違って私を掴む球磨さんの腕を掴み返していた。それには球磨さんも驚いたようで少しだけ戸惑う。

球磨「違うなら何したのか言うクマ」

提督「....それは、言えない」

球磨「じゃあ意気地なしクマ」

提督「うるさい!人の気持ちも知らないくせに!」

球磨「何様だクマ」

急に体が宙に浮いた。起こった現象に理解が追いつかず、妙な浮遊感が引き伸ばされたように続き、気がつくと私はソファに叩きつけられていた。

そういえば大井さんにも浜辺で似たようなことをされたなと、ふと思い出す。そして球磨さんは私の膝の上に対面するように脚を広げ座わった。

球磨「うちの可愛い大井をあんな風にしといて、何様だクマ?球磨が気を遣って助け船を出してるっていうのに、それも意固地になって突っぱねるなんて、いい加減にしろクマ。.....球磨はこんな雰囲気だから提督は気が長いと思ってそうクマね。今回はそれに免じて、最後のチャンスとしてもう一度聞くクマ。うちの大井に何したクマ?理由が理由なら、提督でも容赦はしないクマ」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:43:18.85 ID:qNL29ZGy0

瞳孔が完全に見開き一寸の動きも見せない。そして、ゆっくりと私の首元に球磨さんの手が忍び込んだ。

私は球磨さんを勘違いしていた。放任主義だと思い込んでいたけど、長女の責務として妹達を案じていたんだ。

そしてその責務から球磨さんは本気だ。嘘を言っていない。

返答次第では私は殺される。抵抗したって無駄だ。相手は艦娘なのだから。私はストレートに事実だけを述べることにした。

提督「大井さんに告白を促された」

球磨「それで?」

提督「それでってなにさ、驚かないの球磨さんわ」

球磨「別に驚かないのクマ。想定してたとおりクマ。問題はそこから先、提督が大井に何をしたのかってことクマね」

提督「まさか、勘違いしてない?私は大井さんに無理矢理手を出してないよ」

球磨「それも知ってるクマ。「根性なし」「意気地なし」の提督にそんなのはできっこないクマ」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/15(木) 01:49:12.38 ID:qNL29ZGy0
忙しかったので全くですみません。明日も更新する予定ですので頑張ります。大井さんのSSが心なしか増えてる気がするので嬉しい限りです。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/15(木) 01:58:18.21 ID:vrJtJIkyo
く、球磨さん
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/12(水) 01:51:03.07 ID:3WoN5Fuho
待ってる
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/27(木) 00:42:46.99 ID:8wtBZ2Zr0

それでなんて返したクマ。そう言い終わると球磨さんの手は私の首元から静かに消えた。

提督「覚えてない」

球磨「覚えてない?そんな馬鹿なことがあるクマか」

提督「本当だって。大井さんになんて言ったのか、まるで覚えてない」

球磨「つまりは、好きとも嫌いとも言わなかったってことクマか?」

提督「そうなるわ」

球磨「提督、一つ聞いていいクマか」

大井のことが本当に好きなのか。そう言い終わると球磨さんは私を訝しむ表情を浮かべるわけでもなく、怒りで我を忘れるわけでもない、ただ冷ややかな真顔を私に向けた。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/27(木) 00:43:23.26 ID:8wtBZ2Zr0

大井さんのことが好きか、嫌いか。球磨さんの問いはlikeかLoveかの問答であるのは確か。

その問いに対し、私は大井さんが好きだ。そしてその解については後者であり、愛の奉仕を一生かけて捧げることができると思っている。

風鈴が風になびき音色を奏でる。私の思考によって均衡していた静寂はそれを機に崩れ、私は球磨さんの問いに応じる。

提督「好きだよ。....うん、この返答じゃダメだね。私は大井さんを愛してる。愛してるよ」

球磨「どうしてクマ?提督はどうして大井が好きクマ?」

提督「好きに理由はいるの?私が大井さんを好きになる理由なら、言わずともわかるはずだよね」

球磨「違うクマ。球磨の聞きたいのはそういうことじゃないクマ。球磨が聞きたいのわ....。すまないクマ。気を悪くするのは承知で言うクマね。どうして、女の子の大井を好きになったクマ?」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/27(木) 00:44:46.25 ID:8wtBZ2Zr0

根本的な問題だ。私はそう思った。そう思うことができる余裕が私にあるのが不思議だけど。

普通だったらこんなにもストレートで、面食らう問い掛けをぶつけられたら、怒りに我を忘れてしまっても仕方がないはずだ。

それは私が同性愛者かを確認するための質問だからだ。なのに、私の頭の中は落ち着きを払っていた。

球磨さんは言葉を紡ぐ。ずっと不思議に思っていた疑問のはけ口をやっと見つけたかのように。

球磨「球磨は別に同性愛者がどうとか言わないし、差別意識もないクマ。こんなご時世だし仕方がないし、なにより、艦娘は愛情の矛先を提督か艦娘に向けることしかないできないクマ」

この時代、艦娘は差別の対象だ。理由は色々とある。

彼女達が人間紛いの兵器であることに生理的嫌悪を持つ人間がいたり、戦時中であるのに関わらず、兵器のくせに毎日欠かさず3食を取れることはおかしい、税金の無駄遣いだという浅ましい考えによるものだったりと色々だ。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/27(木) 00:46:54.12 ID:8wtBZ2Zr0

でもそういう人間はいつの時代にだっているし、何より、その声達の存在はとても大きい。

そしてその声達は次々に汚らしい言葉に文字に変わり、思想になり、しまいには伝染病の様に蔓延する。

そして触発された考えなしの人間は艦娘を無条件で非難するようになる。非難っていうものは、的外れであっても多少因果関係があると、気がつかないうちに心に潜り込み、徐々に肥大する性質がある。おかげで艦娘の肩身は狭い。

大体、戦時中だからって1日3食は可笑しいだなんて甚だおかしい。

自分達だって3食食べれるくせに。昔と何も変わりようの無い生活を送れているはずだ。物価は高くなったけど、お金さえあれば今でもなんだって食べられる。

そもそも艦娘が食べ物を摂取することがおかしいだと。彼女達が燃料や弾薬を補給するのは艤装を動かす為だ。エネルギー源は人間となんにも変わりない。

それに艦娘が深海棲艦と戦う理由なんて本当は存在しない。

本来なら、彼女達は暗い海の底で永遠にも近く眠り続け、緩やかに朽ちていくのを待つか、漁礁となって魚達の住処になるはずだった。

それなのに人間の身勝手な都合でもう一度海原を駆けさせている。そしてあろうことか、無関係にも関わらず、人間をその身で呈して守る献身的な艦娘を少しも労おうともしない。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/27(木) 00:48:29.85 ID:8wtBZ2Zr0

でもそういった現実はフィルターを介して意図的に排除される。

見たくないものは見ない。聞きたくないことは聞かない。真実ってものはいつだって弱いんだ。

艦娘は好意を人間に向けても帰ってこない。

故に艦娘の、人間に対する淡い恋慕は一方通行で終わることが多い。

なしくずしに恋の対象が艦娘に移り変わることだって何もおかしな話じゃない。艦娘は相思相愛になれる対象が少なすぎるんだ。

その現実が、艦娘の心には根付いている。それは球磨さんにだって同じはずだ。

球磨「でもそんな時代でも、球磨からみて提督と大井がおんなじ気持ちだっていうのは、一目瞭然クマ。それは球磨の見間違いクマか?」

提督「いいえ、見間違えなんかじゃないわ」

球磨「ならなんで大井にその気持ちを云えないクマ?好意をいくら行動で示したって、恋慕を成就するには言葉をで繋ぎ止めないといけないクマ。そんなこと、提督にだってわかるはずクマ!」

提督「球磨さん落ち着こうよ」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/27(木) 00:49:35.48 ID:8wtBZ2Zr0
球磨「いつまでもそうやってスカしてんじゃねークマ!うじうじばっかしやがって、お前がそうやってる間に大井がどんな気持ちかどうか考えたことがあるクマか!?」

大きく声を荒げる。そして立ちあがると再び私の胸倉を掴み取る。馬鹿みたいに強い力で私の意思とは関係なく無理矢理立ち上がらせた。

球磨「大井は、お前に拒絶されたんだって思ってるクマ!その心の負担を少しは考えたことがあるのかクマ!?」

提督「そんなことぐらいわかってるって!」

わかってる。わかってるって。どんな気持ちか。私がこんなにも憂鬱なんだから、大井さんの心情なんて痛いくらいにわかる。

毎日船酔いみたいに吐き気と頭痛に苛まれて、過去にあった幸せだった思い出を噛み締めては現実に苦しめられる。その心の負担なんか手に取るようにわかる。

球磨「いいやわかってないクマ!どうせお前のことだから感傷に浸って思い出に浸ってるクマ!そんな過去にを思い返す暇があるなら、さっさ今をなんとかしろクマ!」

首袖を掴む力が強くなる。でもそんな小さな変化よりも意識は心を読まれ、冷や汗が背中に溢れ出したことに向いていた。遅れて私は狼狽えるようにし反論してしまう。

提督「っ!!うるさい!何も知らないくせに!」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/27(木) 00:51:04.68 ID:8wtBZ2Zr0
だいぶ期間を空けてしまいました。エタらせず黙々と頑張りたいと思います。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 02:10:01.44 ID:z+VmcKHf0
おつ
待ってる
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 07:20:34.67 ID:t/iOAVR9O
おつ
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:23:33.82 ID:mhjGCyBT0

球磨「そうだ、何も知らないクマ。お前の過去に何があったかなんて知らないし、知りたくもない、興味もないクマ。だから一石投じることに躊躇いはないクマ。あぁ、やっぱもうめんどくさいクマ。提督、歯をくいしばれクマ」

五、四。球磨さんのカウントダウンが始まった。

突然のことで何が何だかさっぱりわからないけど、着々と数字はゼロに近づいていく。

嫌な予感に、必死に振り解こうと球磨さんの華奢な腕を掴み、力を込めるが、やっぱりというか、見た目とは裏腹な艦娘の握力を前にはうんともすんともいわない。

覚悟を決め、私は歯を目一杯のくいしばる。同時に瞼が閉じられ目の前が真っ暗になった。

暗闇の中、刻一刻と迫るその瞬間を私は待つ。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:24:47.34 ID:mhjGCyBT0

ゼロ。そう聞こえると何かが頬に当たり、爪切りで爪を切ったような切れのいい音が鳴った。

痛みはないけど、そんな音が私から鳴るのはどう考えたって体に悪い。

その衝撃で私は部屋の片隅まで飛ばされ壁にぶつかる。

鈍く肩に広がる痛みを感じ得ながら、ほっぺを球磨さんにビンタされたと知ったのは、球磨さんが足を突き出し、大きく開いた手のひらを宙に浮かべた状態で静止している姿を見てからだ。

私はじんじんと痛む頬に触れた。馬鹿みたいに痛かった。まるで自分指が注射針になってそれを突き刺したと思ったくらいにだ。それに今頃私の頬には球磨さんの手の平の跡が赤く残っているだろう。

球磨「これで少しは目が覚めたがクマ?」

提督「いや何が何だかさっぱりわかんないんだけどさ、球磨さん」

球磨「はあ、もう呆れたクマ....。まぁ、元々そんなのだったクマね....」
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:26:09.20 ID:mhjGCyBT0

球磨さんはそう言うと眉間の間を摘み、大きくため息をつく。ビンタされ、挙句の果てに馬鹿にされるのは意味がわからない。

いやわからなくないはずだ。自分の嫌な所は痛いほど知っているのだから。駄目な所はもうはっきりと分かり切っているのだから。

球磨さんは歩き始める。そして私が尻餅をつき、壁にもたれかかっている所までやってくると、私の目の前に同じく座り込む。そして赤く腫れ上がった頬に突然触れる。

提督「痛いんだけど」

そう私は言うが球磨さんは何の反応もない。無表情で、ずきずきと痛む頬を触り続ける。

球磨「痛かったクマか?」

提督「そりゃね。私も球磨さんを一発ぶん殴りたいくらいだよ」

球磨「そうかクマ」

そう言い終わると触るのをやめた。

私には球磨さんの考えがさっぱりわからない。

妹達の人間関係、もとい艦娘関係をどうでもいいといいながらしっかりと見守ったり、こうしていつまでも無表情で私を見据える。

球磨さんは何を考えているのだろう。その球磨さんの口はほんの少しだけ開き、静止する。
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:27:19.29 ID:mhjGCyBT0

球磨「提督、お前はほんと愛されているクマね」

そしてこう言った。

提督「何さ突然」

球磨「ほんと不思議クマね。みんなにお前に対してどう思っているかどうか聞くと、いい反応なんてないクマなのに。意気地なし、いつもヘラヘラしててムカつく、積極性に欠ける、観察してるといつも可笑しなことをするからネタに尽きない、あの歳なのに親心をくすぐられる、こんな感じばっかりクマ。でも、みんな最後にこうやって締め括るクマ。嫌いじゃない、好きだって」

独り言のように沢山の言葉が溢れ出している。

私は何も言えない。間を挟む余地もないし、この言葉達が意味する球磨さんの真意を知りたいからだ。

球磨「球磨だって色んな提督を見てきたクマ。クソみたいな奴だっていれば、艦娘と関わりを持とうとせず執務に没頭する奴、優しかった奴、それは色んな提督がいたクマ。大抵は、ろくな奴しかいないクマけど。別にお前は例外なんかじゃないクマ。その今までの奴らのうちの1人と変わらないクマ」

私も昔は執務に明け暮れていた。そうやって人間や艦娘と距離を取ることが私の生き方だったからだ。

そんな生活をしていたから、私は大井さんに怒鳴られた。言いたいことがあるならはっきり言えと。

私は今でも人間は苦手だ。だけど、艦娘との接し方はその日を機会を起点に変わったはずだ。よくも悪くも。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:28:43.98 ID:mhjGCyBT0

球磨「球磨は一度だって人間を信用したことないクマ。期待したって得られない、使い潰されるのが艦娘だからクマ。それは球磨以外の艦娘だって大差ないクマ。でも何でかクマね。お前だけは違うクマ。球磨だってみんなだってお前を信用してるクマ。だから特別な「提督」。球磨はみんなに愛されている提督には掴み取って欲しいクマ。ここまで駄目で駄目な提督なのに愛されている、あとは提督の勇気だけなんだクマ。一歩、一歩踏み出せば提督は摑み取れるんだクマ。そのことに球磨は気づいて欲しいんだクマ」

いつまでも幸せな今が続くわけじゃない。いつかは終わりが訪れるのかもしれない。

それは戦時中だからだけじゃない。様々な要因が私たちの繋がりの糸を断ち切ろうと、綻びを探しているだ。

私は、恐れてる。私の言葉によって全てを終わらせ、みんなに拒絶されてしまうことを。

例えそれが良き方向に舵を向けているって知っていても、ほんの僅かな不安が私を覆い隠す。

だから、自然にやってくることを望んでいた。でも訪れても私にはそれを掴みとる勇気が無いこと知ってしまった。あの月夜の海辺で。

私は、何度、同じことを繰り返すつもりなんだ。

本当はわかってるはずなんだ。私は、みんなから。

球磨「提督は、誰にも拒絶されないクマ。だから、大井の気持ちを踏みにじまないでほしいクマ。たとえそんな気がなかったとしても、結果として大井を拒絶しているクマ」
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:32:09.46 ID:mhjGCyBT0

ああ、やっぱり艦娘はすごい。なんでこんなに私の思いを読み取ることができるんだ。

そうだ、私はこれから先の人生、本気で向き合わないといけないだ。人の気持ちに正面から向き合い、艦娘と本気で心をぶつかりあう。

その為に、私は大井さんに本心からの気持ちをぶつけないといけないんだ。

提督「....球磨さん。私、行かないと」

壁に手をつき立ち上がる。その時に貧血でくらりときたけど、気をしっかりと保つ。

こんな事でへこたれてちゃ、この先何も変われやしない。もうやめにするんだ。向き合わないことや、後回しにすることは。

球磨「やっとかクマ。まったく、これで何も変わらなかったら本気で考えたクマよ...」

提督「何を考えてたのさ.... 」

球磨「気にすんなクマ。もう終わったことクマ。ほらさっさといくクマよ。善は急げクマ」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:33:41.31 ID:mhjGCyBT0

そう言いながら球磨さん床に大の字になって寝っ転がる。そして鬱陶しそうに手を払っている。

提督「....ちょっと待って!私化粧してないから!あぁえっと何からやるべきだったっけ...。そうだ!まず私室に戻らないと!いやでも戻ったってまたオバQじゃ....」

球磨「あぁめんどくさいクマね!ほんとお前は!そのまんまでいいクマ!どうせやり方わかりゃしないくせに、気取ったってしょうがないクマ!そのまんまでいいクマ」

球磨さんは立ち上がると私のお尻に一発蹴りを入れた。でも不思議と痛くはない。痛いんだけど、どこか優しげだ。

提督「このまんまでいいの球磨さん?」

球磨「いいクマ。大井は化粧無しのお前を好きになったんだクマ」

提督「服装はこれでいいの球磨さん?」

球磨「それ以外まともな服持ってるのかクマ?」

言えてる、私は私だ。飾りっ気無しで服で着飾るやり方も全然知らない、私だ。

大井さんそんな私を好きになってくれた、はず。まだわからないけど。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:34:34.44 ID:mhjGCyBT0

球磨「まったくもう行けクマ。もう球磨は何も知らないし、何も聞かないクマよー」

執務椅子に座り込み、足を机に乗っけて球磨さんは腕を後ろに組んだ。本当に何もする気はないってことらしい。

そうだ、行く前に私は大切な物を忘れていた。

私は執務机の三段目の引き出しを引っ張り出す。ごちゃ混ぜになった奥に手を突っ込み必要なあれを抜き取る。

まだ何かするのかと言いたげだった球磨さんの呆れ顔が、それを目にした瞬間、にやにやとし始めた。

球磨「やるクマね〜見直したクマ!それでこそ男クマ!」

提督「いや私女だから....」

しっかりとそれを握りしめ、私はポケットにしまった。準備はできた、後は私の勇気と気持ちしだいだ。
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:38:09.34 ID:jPp49MF80

扉まで歩きドアノブに手をかけた辺りで、私はここまで付き合ってくれた球磨さんにお礼をしないといけないと思った。

変わるきっかけをくれたんだ、今は大した物なんか渡せはしないけど、ささやかな前金として渡しておかないと。

提督「球磨さん。冷蔵庫の中にあるアイス何だけど、ポッキンアイス達の下に隙間があって、そこに高いアイスが隠してあるから食べていいよ」

球磨「ほんとかクマ!」

提督「お礼だよ。受け取っといて」

球磨「いやまだ食べないクマよ。提督の結果を聞いてから食べるクマ」

提督「そう。まぁいいや、じゃあ行ってくるね」

扉を開ける。この一歩で、私は変わる。変わらなくちゃいけない。踏み出す。

球磨「提督」

球磨さんの呼ぶ声に私は私は止まってしまった。いや仕方ないんだけどさ。幸先は良くない、心をの片隅でそう思ってしまった。

球磨「....さっきは殴ってごめんクマ」

提督「なに、そんなこと?ああでもしないと私は変わるきっかけを得られなかった。逆に私はありがとうって球磨さんに言うよ」

球磨「....そうかクマ」

提督「うん。もう行くね球磨さん」

球磨「よし!行ってこいクマ!ばしっと一発決めてこいクマ!」

幸運を。その言葉を背に、私は大井さんの元に向かう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:42:08.70 ID:jPp49MF80
なんかID変わってますけど一旦お終いです。ガチ体育会系球磨さんお疲れ様です。もう少しで終わります。がんばります。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/22(火) 01:22:10.03 ID:EljDIwyxo
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/24(木) 21:36:47.46 ID:u0fZkAxu0

大井っち?そういえば昼から見てないねぇ。あっ、そうだ大井っちで思い出したけど、大井っち今度はさぁ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

大井さん?見てないっぽい。そうだね、僕もみてないよ。

なになに恋の予感っぽい?今回ばかりは茶化したら駄目だよ、察してあげないと。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

大井?さぁ見てないわね。海岸沿いのどっかで黄昏てるんじゃないの?誰かさんのせいでね。

ま、急いでるみたいだからこれ以上は何も言わないわ。

でも、今回はしゃんとしなさいよ。後で幾らでも飲みに付き合ってあげるから、ついでにカツの一つや二つ揚げてもあげるわ。だから気張って行きなさい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

大井さんですか。...見てないですねぇ。...ダメですか?えぇ...ダメですか...。

みなさん2人の今後の行く末に興味津々なんですから、ここは私の記者魂が震え上がっ...。

あっ!まって!逃げないでくださいよぉ!!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

いえ、お見受けしませんでしたね。

提督、まぁまずはそこに座っていただいて。今、もう一度ぽとふを作っていたんですよ。それを食べてからお探しになられてわ?

急いでる?....腹が減っては戦はできぬ、急がば回れ。何事も性急にことを成すのは禁物ですよ。

まずは頭を冷やして、落ち着きを取り戻すことに専念してはいかがでしょうか。

と、いうわけで召し上がれ。え、また肉じゃがに見えますか....。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/24(木) 21:41:32.42 ID:u0fZkAxu0

海岸沿いに、大井さんはいない。

あの浜辺にも大井さんはいなかった。廊下にも厨房にもどこにも見当たらない。

手当たり次第あっちやこっちに走り回り、聞き込みをするけど、みんな知らないと言う。

外に設置されている自販機で水を買う。通常100円するけど、鎮守府補助で50円と今ならお得だ。

だけどそんなことはどうでもいい。乾ききっていがいがする喉に無理やり流し込む。どうせだったら頭だってこの水で冷やしてやりたい。

けど、後々のことを考えるとやめた。それにしても私は体力がない。グリーンカラーよりのホワイトカラーとして恥ずかしい。最近ランニングしてなかったせいか。

あれやこれやと散漫とした意識を集中させる。考える事は一つでいい。それは大井さんが一体どこにいるか。それだけでいい。

あと残るのは、大井さん兼北上さんの私室。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/24(木) 21:44:28.70 ID:u0fZkAxu0

艦娘寮は、昔懐かしき赤煉瓦の鎮守府長官官舎から500mくらい離れた場所にある。

艦娘寮は赤煉瓦ではなく、木造モルタルと軽量鉄骨、アパートと同じ材質でできており、外壁は緑の迷彩柄が施されている。

みんなからは不評で、ダサいから早くなんとかしろと言われているけど、艦娘寮が迷彩柄である理由は、全体を覆い隠すように植林された木々とで迷彩効果を高めるためだからだ。しっかりとした理由があるっていうのに、誰も納得してくれない。

私はなんとなく、大井さんがそこにいるとはわかっていたような気がする。

わかっていたけど、回り道を、あえてしたような気がしてならない。無意識に。

あまり深く考えないように頭を切り替える。考えたら、ネガティヴな気持ちになってしまいそうで、すごく嫌だ。

大井さんの言葉を借りて言うならば、そんなことを考えるよりもこれから先、私が大井さんになんて告白するのか考えた方が、よっぽど堅実的なんだ。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/24(木) 21:47:08.53 ID:u0fZkAxu0

私は大井さんを、私は大井さんが。

まぁ、なんだっていい。今どうせ考えたって、やっぱ意味はないんだから。

当たって砕けろ。玉砕あるのみだ。

残りの水を飲み込む。これで少しは回復した。

私は腕時計を確認する。時計の指針は天辺を過ぎ、ぐるりと半周し終える所まできていた。

よく耳をすますと、ひぐらしが夜の訪れを遠くの山から知らせている。

頭上にもくもくと広がる積乱雲が、夕焼け空の赤を背景に、うっすらと影絵になりつつあった。

今日が終わるのも近い、後回しはまずい。急がなければ。

ペットボトルをキャップと分け、ゴミ箱に放り込み、私は走った。何としてでも今日中に、大井さんにこの気持ちを伝えたい。何が何でも、そうしたい。

足が痛い、ふくらはぎが引きつって今にでもこむら返りをしそうだ。一歩一歩がこんなにも重く、足を前に出すことが苦痛なのは初めてだ。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/24(木) 21:48:11.06 ID:u0fZkAxu0

大井さん。大井さん。心で大井さんの名前を呼ぶ。

ありがたい小言が多い大井さん。私に対して注意深く警戒してるのに、肝心な所で気が抜けてしまい、あげく、その事にも気がついてない大井さん。実は嫉妬深い大井さん。

走れ、止まるな、止まるんじゃない。足の裏が痛んだ、大井さん。

水を飲んで少し回復したっていうのに、もう喉が乾き切って限界だ。でも生暖かな新鮮な空気が更に事態を悪化させようとしてくる。血が出そうだ、あぁ大井さん。

そうやって現実逃避していると、私は気がつかないうちに艦娘寮にたどり着いていた。

自販機からここまでの記憶がぽっかりと抜けきっていて、覚えているのは、ただ大井さんの名前を心で叫んでいた、それだけだった。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/24(木) 21:51:58.90 ID:u0fZkAxu0
展開に迷ったら投稿する。そうすればエタらないと気づいたので、すみません短くて。心が叫びたがっている提督さん頑張ってください。またがんばります。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/24(木) 22:54:28.62 ID:u0fZkAxu0
宣伝くさくてあれですけど、また長く空けるかもしれないんで今まで書いたSSをよければ。

鳳翔「大断捨離」
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1483417144/
艦娘と人間が家族みたいに過ごしたらこんな風になるといいなと思って書きました。

那珂ちゃんは申したい!
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1483949214/
捨て艦の那珂ちゃんのお話です。艦娘と人間の違いってなんだろうと思って書きました。

五航戦瑞鶴の暗躍
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1485521533/
安価物です。難しい話は無しでとにかく面白くなるように書きました。

【艦これ】深海の濃淡は僕と同じ
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1488290777/
短いです。抽象的に書いてありますけど、シズメシズメや渚を超えてなど聞いて、艦娘が何を思って沈んでいくのか、どうやって自分を見失うのか、艦娘は何者なのか。それを考えて書きました。

155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 18:49:55.28 ID:YHqaoFQ2o
エタらない、ウレシイ、まってる
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/15(金) 02:18:27.14 ID:4at+WzIq0

大井さんと北上さんの私室は二階の一番端っこにある。痙攣しそうな脹脛の意識を切り離し、私は痛みを殺す。

一段。一段と階段を登り、私はその一室の前に立つ。

ふと懐かしく感じたOiと、Kitakamiと書かれたピンクの表札の文字に、私はその時が本当に来たのだと実感する。

その表札の文字の周りには、じょうろと趣味の悪い魚雷のシールが貼ってある。

前々から大井さんが探していた魚雷のシール。どこにも売ってないと不満を漏らしていたのに、とうとう見つけたのか。

一体どこに魚雷のシールなんて売っているのだろう。拘りってのは本当に見境いがないと私は思った。

何度目かの深呼吸、肺に突き刺さる空気に少し私はむせる。若干鉄分の味、血の味がした。

インターフォンを押す。山から降りてきたひぐらしの声に混じり、機械的な音が響き渡った。

私は髪の毛を弄り始め、何から話そうか考えを巡らせる。
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/15(金) 02:19:27.61 ID:4at+WzIq0

そうやって風や汗のせいでしっとりと、ぐちゃぐちゃに絡まった髪の毛を解いているけど、なぜか全く大井さんはやってこない。

気がついてないのだろう。そう思った私はもう一度インターフォンを押す。

足音一つ聞こえない。大井さんは人を待たすのは嫌いだから、大体返事をしながらすやってくる。

だから私は大井さんが居留守を使っているんじゃないかと思い、確認の為ドアノブに手をかける。

もちろん大井さんがそんな不行儀をするはずないのだけれど。

うちの鎮守府は小規模だ。北方や南方、太平洋に晒された激戦区の鎮守府とは違い、付近で発見されたり、巡回で対敵した深海棲艦を殲滅することが主な業務。

時に大隊率いてやってくる場合もあるけど、そんなの稀だ。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/15(金) 02:22:45.75 ID:4at+WzIq0

そんな理由も相まって、うちの鎮守府に当てられる予算はいつもぎりぎりだ。

実のとこ、ぎりぎりなんかじゃなくて回せていない。削れるところは削って、節約できるところは節約してなんとか凌いでる。

いつもうちの経理担当さんが電卓を叩いては紙面の数字と、眼鏡越しににらめっこしている。本当に苦労をかけているなと思っている。これは企業努力ならぬ鎮守府努力だ。

だから艦娘寮はオートロック式ではなく鍵式だ。そんな所にまで予算は回せないのだ。

小耳に挟んだ話だと、他の鎮守府はオートロック式が主流になりつつあるらしい。うちはまだまだ先の話だ。

ドアノブを下げて引っ張ってみる。すると音を上げすんなりと扉は開けられた。

おかしい。几帳面な大井さんが鍵を閉めない訳がない。

開けたら閉める、食事中のペットボトルだって一度飲んだらキャップを必ず閉める。

よく北上さんにそう教育しているのだから。もちろん私も言われてるんだけどさ。そんな大井さんがずぼらをする訳ない。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/15(金) 02:25:00.05 ID:4at+WzIq0

まさか、大井さんに何か起きたのか。ふと脳裏を過ぎる球磨さんの言葉が私の動悸をさらに加速させた。

あれは前兆クマ。近いうちに絶対やらかすって思ってるクマ。

提督「大井さん!!」

我を忘れて部屋に飛び込んだ。玄関の段差に足を引っ掛け転びそうになったけど壁に手をついてこと無きを得る。

短い渡り廊下を抜け2DKの奥の一部屋。大井さんの部屋を勢いよく、文字通り転がり込むと、女の子の部屋特有の、甘ったるくも心地いい匂いが肺いっぱいに流れ込む。

ゆっくりと起き上がり周りを見渡す。恥ずかしながら、実は大井さんの部屋に入るのはこれが初めてなのだ。

恥ずかしい、物色されそうだから嫌だと遠回しに一度断られ、本音を呟かれてから私は訪れる機会を失っていた。

広がっていた景色はアジアンテイストの暖色系のカーペットに、小さく丸い木製のテーブルが置いてある。

卓上には緑の粘土板があり、懐かしいシーグラスが円形に積み重なっている。

横に接着剤があるのを見ると、大井さんは何かを作っているみたいだ。見当は私にはつかない。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/15(金) 02:26:10.46 ID:4at+WzIq0

見る限り、大井さんはいない。隠れているのだろか。それとも、何か大井さんの身に起きたのか。私はこの小さな一室から大井さんを探し出すことにする。

クローゼットを開ける。中には目がチカチカする四季折々の服が掛けてあった。

まだ着るのには早い冬物のコート類は、きちんとクリーニングに出してあり、ダニ防止用品と一緒にビニールの袋に保管されていた。

下には靴やバッグ。これもまた整理整頓されていて、大井さんが入り込む隙間はない。

ベットの下を覗いた。古今東西、ベットの下には見られたくない物が隠されているとかなんとか。

少し邪で、淡い期待を抱きながら覗いたのだけど、あったのは収納箱で中には雑誌が入っていた。

もちろん期待通りにはいかず、買い溜めたファッション雑誌に、終わらせた通信の資格教材が入っているだけだった。一応、布団もめくり中を確認しておいた。

立ち上がり指を顎につける。さて、大井さんは一体どこにいるだろうか。

161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/15(金) 02:33:06.42 ID:Vhjfmw2O0

もしかしたら北上さんの部屋かもしれない。そこに隠れているのかも。

ちなみに北上さんの部屋には入ったことある。あるのはベットと沢山のゲームだ。

最近はドイツの色んな仕事が体験できるシミュレーションゲームが流行りだそうだ。何が流行るかわからないね、ほんとうに。

大井「....何してるんですか」

提督「....大井さん?」

後ろで大井さんの声が聞こえた。驚いてゆっくりと、後ろを振り返ると、若干頬が引きつっていて、自販機で買ってきたのだろうペットボトルを床に落としている大井さんの姿がそこにはあった。

胸が高鳴った。あんなに焦がれて、東奔西走した大井さんが目の前にいる。

伝えたいことが山ほどあるんだ。謝りたいことだって馬鹿みたいにある。

臆するな、考えたら負けだ。その場の勢いで向かわなければ私は何もできないんだから。

提督「大井さん!私、大井さんに伝えたいことが!!」

涙で大井さんが霞む。私は駆け出して飛びついた。

大井「勝手に土足で踏み入るなぁあ!!」

気がつくと私は宙に浮いていた。人間危機的な状況になると、体感時間が引き伸ばされてとても長く1秒を感じるらしい。

そういえば前にも似たような事があったなと思い出す。そうだ、私が大井さんにあの浜辺で背負い投げされた時だ。

あの時と同じく、今回もどこか懐かしく感じるその大井さんの表情があった。

そういえば私、靴脱いでなかったわ。急いでたもんね、仕方ないよ。

こうして私の視界と思考はブラックアウトした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/15(金) 02:34:51.44 ID:Vhjfmw2O0
若干駆け足気味ですけど、そろそろクライマックスです。終わり方は考えてあるので、後は気合でしっかりと終わらせたいと思います。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/15(金) 07:57:33.22 ID:1FkU54d9o
乙、待ってるぞ
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 11:46:29.25 ID:hdqJBox50
今日は一日中暇ですのでゆっくりと更新していきます。もしかしたら今日中に終わるかもしれません。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/19(火) 11:47:48.91 ID:hdqJBox50
まず最初に視界に入ったのは、大井さんのうつらうつらとしている顔だった。

次の瞬間には落っこちて来そうな、私と真逆に平行した大井さんの風景に、寝起きでぼんやりとしていた私は、こう思った。

ああ天使がいるわ、早く堕天してこいと。

思考が一気に覚醒した。この状況が読み取れない。私は一体どんな体勢で大井さんを見ているんだ。

そういえば、どうやら私は寝っ転がっているみたいだ。お尻あたりが少し痛む。ついでに腰も痛い。

憶測を確かめるため、私は頭を左右に揺する。じゃりじゃりと髪の毛が何かに擦れる音がした。

今度は少し圧力を加えてみる。頭を押し返す、柔らかで弾力のある物が頭の下にある。

手を動かしてそれを触ってみる。とってもすべすべしてて心地が良い。

なるほど、これは大井さんの太ももだ。

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