佐野満「えっ?強くてニューゲーム?」

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128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/25(火) 00:26:09.75 ID:RPyutF6zO
期待せざるを得ない
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:49:39.94 ID:L6BVEgLS0
 >>127さん。申し訳ないです。じつはこのssを投稿する際に良い感じのタイトルを思いつけなかったんです。
 それで、それっぽいタイトルにしようということでこのタイトルにしました。
 正直、強くてニューゲームの意味を理解せずにつけちゃいました。どうか笑って許して下さい。
 
 それでは、今日の分の投稿を始めたいと思います。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:51:15.01 ID:L6BVEgLS0
第二部 十話目 ゾルダとガイ


 神崎士郎により開催されたライダー同士の戦いから既に一月半が

経過していた。

 残るライダーは11人。

 龍騎、王蛇、ガイ、ナイト、ゾルダ、ライア、タイガ、ベルデ、

オーディン、リュウガ、そしてアビス。

 ある者は手を組み、またある者は己の心の赴くままに戦いに臨む。

 全ては己の叶えたい願いのため、生き残るために彼等は戦う。

 だが、戦いは更に激化の一途を辿っていた...


〜〜〜〜〜


「ははっ。どーしたよ仮面ライダー。もっと楽しませてくれよ?」 
 
「confine vent!」

 夢ではない現実世界で今も戦いが繰り広げられていた。

 
 逃げ場もない、隠れる場所もない河川敷で一人のライダーが三人の

ライダーに追い込まれていた。

「クソッ...どうしてカードが使えないんだ!」  

「はぁ...バカな奴ってほーんと救いようがないよねぇ」

「北岡さんもそう思わない?」

「ああ。俺もそうだと思うよ。バカって罪だよなぁ」

 三人のライダーに追い詰められ、満身創痍の仮面ライダーアビスは

目の前に立つ二人のライダー、仮面ライダーゾルダとガイの罵倒を

浴びながら懸命にこの窮地を打開する策を考えていた。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:52:24.55 ID:L6BVEgLS0
 事の始まりは、いつもと同じあの金属音からだった。

 スーパーの朝のセールの帰りに、家に帰る近道として河川敷を自転車で

走っていた満は、突然背後から迫ってきた何者かに自転車ごと河原まで

吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた痛みに悶えながら、何事かと周囲を見回すと

「....」

 自分の200m後ろに緑色のミラーモンスターが立っていた。

「クソッ...敵襲かよッ...」

 不幸中の幸いだが、手も足も折れていない。

 しかし広大な河川敷には隠れる場所はおろか、逃げ道すら見当たらない。

「やられた...」

 変身して相手を叩かなければやられるのは自分だ。

 覚悟を決め、ポケットからデッキを取り出し川の水面にかざす。

「変身!」 

 瞬時にアビスに姿を変えた満は躊躇うことなく川の中に飛び込み

ミラーワールドへと戦場を移した。

132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:53:13.31 ID:L6BVEgLS0
「はぁっ!」

 全てが反転した景色の中、自分の立っていた場所に先日見かけた

灰色の防御力の高そうなサイのようなライダーの姿があった。

「strike vent!」

「strike vent!」 

 それぞれの得物を、アビスクローとメタルホーンを呼び出した二人のライダーは

にらみ合いながら自らの攻撃が届く間合いの距離を冷静に分析し続けていた。

 防御特化の白兵戦スタイルのガイにとって、1対1や遠い間合いからの

高水圧の水鉄砲の攻撃はさして脅威ではない。

 問題なのは相手の契約獣の地の利に押し負けすることだった。

 ガイこと、芝浦淳が佐野満の事を知り得たのは須藤雅史からだった。

 ハマったら本当に殺し合いをしてしまうゲームを製作してしまう程の

クレイジーな本性の淳は、このライダー同士の命懸けの戦いを、その裏に

ある黒幕の真の狙いを知る事なく、あくまでも合法的に人を殺せる

新時代のニューゲームという感覚で気軽にプレイしていた。

 最初は半信半疑で神崎士郎に言われたとおりに変身し、実際に鏡の中に

生息するそこそこ強いミラーモンスターをファイナルベントで一発で

葬り去ったとき、淳の身体を稲妻にも似た快感が走った。

「モンスターを殺したときでさえ、こんなに気持ちが良いのに...」

「ライダーを殺せばもっと気持ちよくなれるんじゃないのか?」

 完全に思考は狂人のそれだが、悪質な事に淳は前述のゲームをいじくり

プレイした人間が、今度はミラーワールドに出入りする人間の後を徹底的に

追尾するように改良してしまったのだった。

 そして、強キャラやボスキャラの前の前菜として目をつけたのが、

刑事、須藤雅史だったのだ。

 駒から通達される須藤雅史の一挙手一投足により、芋蔓式に二人目の

雑魚キャラ、佐野満が姿を現した事により、淳のゲームは第二段階に

移行した。

 即ち、雑魚キャラ討伐による経験値稼ぎである。
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:53:58.98 ID:L6BVEgLS0
 鏡の中でシザースのカードをのぞき見して、その全てを把握した淳は、

手駒の学生達に学内で刃傷沙汰を起こさせ、運悪くその事件を担当した

雅史をライダーバトルで合法的に葬り去ったのだった。

 しかし、満を調査していく内に思ったよりも底力を発揮した満が死線を

潜り抜ける内に、段々と目障りになってきた淳は、父親の知人にして仮面

ライダーである北岡秀一に助勢を頼み、今日ここに至ると言うわけである。

〜〜〜

「ふっ!」

 膠着する戦況に先にしびれを切らしたのはアビスの方だった。

 ガイの分厚い甲冑にではなく、頭部のみに狙いを定めた近距離狙撃。

「うぐぁっ!」

 視界を封じられ、たまらず右往左往するガイ。

 意表を突かれた不意打ちに狼狽しながらも、予め決めていた合図を

指定したポイントに身を潜めている護衛へと送る。

 アビスにとって敵の姿が見えない中、カードの枚数を減らされた状態で

長期戦に持ち込まれるのは一番避けたい事態であり、まして自分を襲った

連中の中でも一番防御力が高そうなガイが先鋒を務めているという事は...

(草むらに隠れて今も俺を狙おうとしているかも知れない...)

 助かるためには手段など選んでられない。

 アビスは悶えるガイの首に手を回し、強化された腕力でその首根っこを

締め付け始めた。

「うぐっ!がっ、がはっ...ぐ、ぐるじ...い」

 喉を潰されれば一貫の終わりだと言う事を理解しているガイは、それでも

必死に北岡の助けを信じて、その時がくるのを待ち続けていた。

 奥の手である特殊カード、コンファインベントは相手が直前に発動した

アドベントカードの効果を一度だけ無効化するカードだが、武器はでなく

自らの素手で首を絞めているライダーには全く効果がない。

 屈辱的だが、ここは助けが来るまで堪え忍ぶしかない。

 そして、その忍耐が報われるときが遂にやってきた。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:54:32.60 ID:L6BVEgLS0
「ん?!」

 ガイの首を絞めるのに夢中になっていたアビスの後ろから何か細い

紐のようなものが幾重にも巻き付いている。

「くけぇええええええええ!」
 
 その赤い色をしたものからベットリとまとわりつくような粘液が

出てきたことに気が付いたアビスだったが、時は既に遅く...

「がはっ!ぜぇ...ぜぇーっ、はぁーっ!」

 今度はガイではなく自分が逆に首を絞めつけられている状況へと

陥ってしまったのだった。

「げほっ...アハハハハハ!どーだ、これがライダーの戦いなんだよ!」

 咳き込みながらも、余裕を取り戻したガイは声高らかに目の前で

手も足も出ずにもがき苦しむアビスに嘲笑を向けた。

 アビスの首を絞めている存在がその姿を現す。

「けっけっけぇええええええええええ!!!」

 周囲に溶け込む保護色を脱ぎ捨てた化け物の名はバイオグリーザ。

 仮面ライダーベルデの契約獣にして忠実な僕である。

「執事さん。危なかったよ、ナイスアシスト」

「いえ、これが仕事っすから」

 後ろを振り返ったガイは、三人目のライダー、ベルデに率直に感謝した。

 その変身者、由良吾郎は手短にその感謝に答えた。

 バイオグリーザの手が首に巻き付く舌を引きはがそうとするアビスの

両手に掛かる。更に運の悪い事に、アビスの両手はモンスターの手によって

引きはがされ、その大きな左手でひとまとめにされてしまったのだった。

 いかにライダーとは言え、自分の倍以上の体躯を誇るミラーモンスターの

腕力には叶う筈もなく、そのままカメレオン型のモンスターは当然のように

得物の首を巻き付けた舌のまき付けを強め、窒息死させようとした。

 このまま死んでしまうかも知れない。

 酸欠になった頭が徐々に意識を手放しに掛かる。

 何かないのか?何か助かる方法は?

 その瞬間、アビスの頭に電撃のような閃きが走った。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:55:01.88 ID:L6BVEgLS0
 バシュッ!バシュッ!

「げええええええええええ!」 

 アビスバイザーから飛び出した水の刃が、バイオグリーザの足の指を

一瞬で切り落とす。咄嗟の出来事にモンスターはたまらず左手の拘束を

緩めてしまった。

 舌と手の拘束が緩んだアビスは今度は一か八かの追撃に移った。

 バカみたいに大口開けているバイオグリーザの口内に向けて、バイザーが

出せる限りの最高出力の高水圧弾をぶち込んだのだ! 

「うげええうごおおおええええええ〜〜〜〜〜!」

 頭の骨格が変わってしまうかのような物凄いショックを受けた

バイオグリーザは、あまりの激痛に地べたを転がり回った後、持ち前の

保護色を最大限に活用し、三人の目の前から姿を消したのだった。

「くそっ!もう時間がない!」

 身体から立ち上る淡い粒子が活動限界時間を告げる。

「Final vent」

 アビスになってからまだ一度も使っていない切り札を今ここで切る!

「この時を待ってたんだよッ!」 

「confine vent!」

「なにっ!」 

 コンファインベントを左肩にガイがベントインした瞬間、アビスの

ファイナルベントは一瞬でその効力を失ってしまったのだった。

「そんな!嘘だろ!?」

 ファイナルベントがその絶大な力を発揮する前に無効化されてしまった。

 そのショックに、アビスはしばし我を忘れ、呆けてしまった。
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:55:40.39 ID:L6BVEgLS0
「Advent!」

 ガイのバイザーに契約中のカードがベントインされる。

 忠実なガイの下僕、メタルゲラスは猛る闘志を咆哮に滲ませ、大声を

上げながらアビスを一瞬で吹き飛ばしたのだった。

「ぐああああああああああああッ!!」

 ダンプカーにはね飛ばされたような、全身がバラバラになりそうな衝撃が

アビスの身体を襲う。右手のアビスクローはぶつかった衝撃でどこかへと

飛んでいってしまった。

「ははっ。どーしたよ仮面ライダー。もっと楽しませてくれよ?」 
 
 全身を襲う痛みにアビスは悶えるしかない。カードを取り出して

バイザーに入れようとしても、指一本動かせない。

「ゴロちゃん。お疲れ様、あとは俺がやっとくからいいよ」

「もうゴロちゃんの変身時間、限界が近いだろ?」

「はい。では、お先に失礼します」

 ベルデの背後から、新たなライダーが姿を現す。ゾルダだ。

 自分やガイと異なり、まだミラーワールドでの活動限界時間を迎えて

いないゾルダは、何の躊躇いもなく自分のカードを銃型のバイザーに

ベントインした。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:57:11.30 ID:L6BVEgLS0
「shoot vent」 

 巨大なバズーカ砲、そのトリガーにゾルダの指がかかった。

 もう、勝ち目がないのは明白だ。

 あんな巨大なバズーカをこんな近くでぶっ放されたら、人間の肉体など、

木っ端みじん、欠片すら残らないだろう。
  
「クソッ...どうしてカードが使えないんだ!」

「はぁ...バカな奴ってほーんと救いようがないよねぇ」

「北岡さんもそう思わない?」

「ああ。俺もそうだと思うよ。バカって罪だよなぁ」

 悪足掻きすら出来ず、負け惜しみしか言えない目の前の雑魚ライダーに

ガイとゾルダは冷笑と同意をもって返答とした。

「悪いね。これもライダーバトルの一つの結末だからさ」

「死んでくれ。なぁに、一発で仕留めるからさ」

 まるで気軽に友人をゴルフに誘うような口ぶりでゾルダは躊躇う事なく

ギガランチャーのトリガーを引こうとした。が...

「strike vent!」

「なにっ!」

 背後から聞こえた電子音声により、ゾルダの集中力が途切れた。

 引き金に掛かった指が離れ、ガイと共に周囲を警戒する。

「くそっ!なんだ誰だよ、俺のゲームを邪魔する奴は?」

 姿の見えない敵にゾルダもガイも咄嗟の反応が遅れてしまった。

「Advent!」

 一瞬の油断が二人の命運を分けたと言っても過言ではなかった。

 アビスを囲むように立っていた二人の立ち位置があだとなってしまった。

 背後に迫る殺気にガイよりも早く反応したゾルダは、遅ればせながらも

同様に反応したガイの足下にギガランチャーを叩き付け、そのまま横へと

飛び退き、呼び出したライドシューターに乗り込んで、あれよあれよと

いう間にミラーワールドから間一髪で脱出したのだった。 

 ゆうに100kgを超えるバズーカ砲を爪先に落とされてしまったガイは、

自分の足の甲が折れた事を感じた瞬間に、頭の右横からスイングされた

巨大な虎の掌に意識を刈り取られたのだった。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:57:40.08 ID:L6BVEgLS0
「ほら、これ使って脱出しなよ?」

 悠々と身動きの取れなくなったガイの背後から、また新たなライダーが

姿を現した。

 仮面ライダータイガ。以前満がミラーワールドで戦いをのぞき見ていた

もう一人のライダーだった。

 タイガは大きな鏡をアビスの横に置き、それを使ってミラーワールドから

脱出するようにアビスを促した。

 アビスは消えかかった身体を引きずるようにして、その手鏡の中に

吸い込まれていった。

「お前...あの時の...」

 そう、あの時の殺し損ねたライダーが自分を見下すように立っている。

 僕は英雄になるんだ。という意味の分からないふざけた事を言いながら

いきなり自分の命を狙ってきたライダーとの決着は、ミラーモンスターの

乱入によってつく事はなかった。

 今度会ったら真っ先に殺してやると誓った矢先なのに...

「ねぇ知ってる?虎って執念深いんだよ?」 

「一度狙った獲物は、必ず仕留めて殺すんだ」

「一時はどうなる事かと思ったんだけど、見つける事が出来て良かったよ」

「Final vent!」

 待て!と声をあげる間もなく仮面ライダーガイは頭を串刺しにされた。

 ドクドクとマスクに空いた穴から大量の血液が流れ出す。

 タイガのファイナルベントは、契約獣デストワイルダーがその鋭い爪を

相手の身体に突き刺し、そのまま虎が獲物を狩るように、地面を引きずり

回し、最後にタイガの大きな爪でトドメを刺すえげつない技だった。

 しかし、頭を貫いて即死してしまったそのあっけなさに、当の本人達は

困惑を隠せなかった。
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:58:11.89 ID:L6BVEgLS0
「ダメじゃないか。デスト。頭を貫いたら遊べなくなっちゃうだろ?」

 不満げに喉を鳴らすデストワイルダーを頭を撫でて慰めたタイガは

ピクリとも動かなくなったガイのデッキから残りのカードを全て

引き抜いた。

「あっ、あったあった」

 満足げな笑みを浮かべたタイガの手には、もう一枚のカードの効果を

無効化する特殊カード、コンファインベントが握られていた。

「これ欲しかったんだ〜」

 デッキからカードを引き抜いた瞬間、ガイの変身が解ける。

 頭をスライスされ、物言わぬ死体となった芝浦淳は虚ろな目のまま、

白い虎に頭を丸かじりされはじめた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 どこからか悲痛な声が聞こえてきた。

 声の元にデストワイルダーが目を向けると、川岸から猛然と突進

してくる新しいミラーモンスターがいた。

 そう、主を失ったメタルゲラスだ。

 主の危機に駆けつけられなかった不忠者は、せめて主を殺した犯人を

八つ裂きにして復讐を果そうと、何も後先を考えずに猪突猛進ならぬ

犀突猛進しながら、その自慢の一本角でタイガを貫こうとした。

「デストワイルダー。アイツの動きを封じろ」

 信頼する主の命令にデストワイルダーは頷いた。
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:58:40.69 ID:L6BVEgLS0
「がおおおおおおおおおお!!!」

 猛虎の咆哮と犀の突進がぶつかり合う。

 かつて相対した蟹の契約獣なんかとは比較にならないほどの剛力で

メタルゲラスは押さえ込まれてしまった。

 首筋を噛まれ、腹部を貫かれた忠臣は恨めしげな視線でタイガを

睨み付け、断末魔の叫びを上げ続けていた。

「よかったね。デストワイルダー。お前に友達が出来るよ」 

 未だに寝取られた女のような女々しい悲鳴を上げ続けるメタルゲラスを

にこやかに見つめたタイガは、自分の相棒と遊んでくれそうな目の前の

元気の良いミラーモンスターを仲間に加える事を決めた。

 カードデッキから取り出した一枚のカードがメタルゲラスを吸い込む。

 プライドや主への想い、そして自慢の一本角を粉々に打ち砕かれた

メタルゲラスは一瞬のうちに、契約のカードの中に吸収されてしまった。

「先生、喜んでくれるかなぁ?」

 英雄の卵である自分を導いてくれる恩師の笑顔を思い浮かべながら、

仮面ライダータイガは意気揚々と充分な戦果をひっさげて、鏡の中の

世界から引き上げていったのだった。

 仮面ライダーガイ/芝浦淳、死亡 残り10人。

141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:59:06.68 ID:L6BVEgLS0
 第十一話 the alternative

 清明院大学大学院 401研究室

「う、うーん...」

 意識を取り戻した満がいたのは、全く来た事のない大学の一室だった。

「ここは...どこだ?」

 身体を起こして周囲を見渡す。

 窓という窓は黒いカーテンで閉められている。それどころか何かを

反射する者には全て何かしらの黒い覆いが掛けられているのだ。

(ああ...こうすりゃミラーモンスターは出てこれないよな)

 ソファーをくっつけた簡素なベッドから降りた満は、そこかしこに

物が散乱した研究室を歩き始めた。

「おや、お目覚めですか?」 

「ひぃっ!」 

 自分の背後、大きな黒板の隣にある扉から一人の男が姿を現した。

「あ、アンタ一体誰だ?!」

「これは失礼。驚かせてしまったようですね」

「私は香川英行。この研究室の主です」

 一分の隙も無駄すらもないその洗練された動きは、まるで全てが自らの

想定内だと言わんばかりの自信に溢れていた。

 研究室の一番端っこの黒いカーテンを男は引いた。

 シャッ!シャッ!シャーッ!

 研究室の全てのカーテンが開かれた時、満は自分に語りかけた人物の

顔をようやく直視する事が出来た。 
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:59:46.46 ID:L6BVEgLS0
 その男は、一言で言うならば理知的だった。

 全身から立ち上るカリスマが、目に見える自信という形で見える人間。

 それが目の前の男、香川英行に対して満が抱いた第一印象だった。

「香川さん、ですか。えっと...ありがとうございます」

「なにがでしょうか?」

 理知的だが、同時に温厚さすら感じさせる香川は、事情が掴めずに

きょとんとしている満の近くに歩み寄り、手に持っていた500mlのペット

ボトルのジュースを手渡した。

 キャップを開けて、口をつけて一気に飲み干す。

「一息つけましたか?」

「ええ。ジュース美味しかったです。ありがとうございます」

 混乱する心を静めた満は、一体どのように自分がここに来たのかを

香川に対して質問した。 

「さっき...河川敷で倒れていた僕を助けてくれたんですよね?」

「いえ、私はただ貴方をここで休ませただけです」

 自分も手に持っていたペットボトルのオレンジジュースを飲みながら、

香川は満が理解できるように、簡単に事情を説明し始めた。

「私の教え子がね、貴方を抱えてきたんですよ」

「河川敷を車で走っていたら、なにやら自転車が転がっている」

「怪しい。誰かが犯罪に巻き込まれたのではないのだろうか?」

「そう思って河川敷を探すと、貴方が倒れていたそうです」

「意識を失った貴方を起こそうとしても、中々目覚めない」

「かといって警察を呼んであらぬ疑いをかけられたくもない」

「それで僕をここに連れてきたと?」

「ええ。私は教授なんですよ。当然この大学の医学部にも顔が利きます」

「そうだったんですか...」

 色々と腑に落ちないことはあるものの、香川の言っている事は大体が

真実なのだろう。以前ミラーワールドがらみで警察に厄介になった

満としては、また警察に厄介になるのは避けたかったというのもあるし、

何よりも目の前の男が社会における一種の立場を確立した大人である

ことも香川を信用できる大きな安心としてあった。

(ふう...我ながら悪運が強いなぁ...運が良いんだか悪いんだか...)

 果たして目の前の人にライダーバトルの事を打ち明けても良いの

だろうかと思案に暮れた満は、ここでようやく自分の今着ている服が

先程まで着ていた服とは違う事に気が付いた。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:00:14.02 ID:L6BVEgLS0
(ま、まずい。デッキがない!)

 デッキがなければミラーモンスターやライダーとも戦えないし、財布の

中には、自分にとって決して無視できない財産を引き出せるカードだって

ある。

「すいません。あのっ、僕の私物はどこにありますか?」

「ああ、すっかり忘れていましたよ。どうぞ、こちらへ」

 色々と事情のありそうな初対面の男に動じる事なく、香川は落ち着いて

自分の使っている個室のデスクから、袋に保管していた諸々の満の私物を

そっくりそのまま返還したのだった。

「助かったぁ...本当にどうお礼を申し上げたらいいのか..」  

「何から何までこんな見ず知らずのフリーターに....」

「そうかしこまらないでください。困ったときはお互い様ですよ」

 財布も、家の鍵も、そしてカードデッキも全部揃っている。

 何も欠けていないし、何も壊れていない。

 唯一の後悔は、買い込んだ食料が全部おじゃんになってしまった事だが

今は自分の命があるだけ丸儲けだと満は自分を納得させた。

「佐野さん。これからなにか用事はおありですか?」

「あー、ないです。今はその...職無しのプー太郎でして...」

「そうですか、では...これから食事などいかがでしょう?」

「えっ、いや...悪いですよ。だって俺、お礼できないっすよ?」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:00:42.08 ID:L6BVEgLS0
 思ってもみなかった香川からの素敵な提案に、しかし満は首を縦に

振る事が出来なかった。

 見ず知らずの自分に、そうする義理がないにも拘わらず、まるで

そうするのが当然のように至れり尽くせりの対応をしてくれた香川に

対して何もお礼が出来ない自分が恥ずかしいと思ったからだ。

 しかし...

 ぐぅ。と空腹を告げる腹の音が、ごまかせない音を立てた。

 それは確かに満の耳にも、香川の耳にも飛び込んできた。

「丸二日寝込んでいるのに、ですか?」

「二日?!」

「ええ。貴方が眠ってから既に二日が経過しています」

「一日だけならば、ここで笑って送り出せるのですが...」

「二日も寝込んだ人間を空腹のまま送り出すのは偲びありませんので」

「ここは一つ、何かの縁と思っていただければ嬉しいのですが?」

「...はい。じゃあ、その...ご馳走になります」

 この立派な人にいつか恩が返せるときになったら、ちゃんと返そう。

 そう考えた満は、香川の申し出をありがたく受ける事にしたのだった。

145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:01:13.61 ID:L6BVEgLS0
 〜清明院大学 食堂〜

「あっ、香川先生だ!せんせーい!こっち向いて〜」

「やぁ。今日も元気だね。吉田さん」

「センセーかっこいー!デートして〜」

「木田さん。私を口説かないでください。妻子ある身ですからね」

 午後一時、少し遅めの昼食を取ろうとする香川の横には沢山の女子

生徒達が並んでいた。

 最終学歴が大学中退の満だったが、満の通っていた大学ではこんな風に

なれなれしく教授達に生徒達は近寄ってこなかった。

(うわぁ...人望あるんだなぁ...この人)

 女の子達が囲む香川の席に座る事に気後れした満は、遠目に生徒と

香川のやりとりを見守る事にしたのだった。

「海原君。就職活動はどうかね?良いところは見つかったかな?」

「それがさ〜。上場企業は全部ダメで中小しか受かんなかったんだよ〜」

「そうですか。でも、企業の名に甘んじてはいけませんよ」

「受かった企業を上場させるくらいのガッツを持たなくては」

「ちぇ〜。先生みたいに特別な才能があればなぁ〜」

「個性と才能は違いますよ。才能というのは努力の極致です」

「先天的に自らに備わっているのが、個性だと私は思います」

「はーい。よくわかんないけど頑張りまーす」

「ファイトですよ」

 生徒達がいなくなったのを見計らった満は、そろりそろりと香川の

座る席の隣に自分のトレイを置いた。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:01:52.18 ID:L6BVEgLS0
「いや〜。香川先生って凄いんですね〜」

「生徒さん達、みんな先生のことすっごく慕ってるじゃないですか」

「いえいえ、私はそんなに大したことをしていませんよ」

「教師として、自分の見識の範囲内で彼等に助言をしただけです」

 満の絶賛を謙虚に受け止めた香川は、満の持ってきたトレイをじっと

見つめながら、話題を逸らし始めた。

 満のトレイには、A定食とカツカレーの二つが乗っかっていた。

「おや、佐野君はカレーが好きなんですか」

「大好きですよ。あ、横浜カレーって知ってますか?」

 大盛りのカレーを口に運びながら、香川は満の振った話題に真摯に

答え始めた。 

「よく知っていますよ。私の家では年に三度ほどそのルーを使いますから」

「あー!そうなんですか〜?やっぱり分かる人には分かるんだ〜」

「俺のバイト仲間は皆バーモント、バーモントって口を揃えるんすよ」

「ほう、それは損をしていますね。コクの深さが分からないとは...」

「さっすが先生、お目が高い!」

「そもそもカレーというのは、辛くなくては始まりません」

 カレーうどんを綺麗に啜る香川は、満とカレー談義に花を咲かせていた。

 やれスープカレーは邪道だとか、カレーの隠し味に牛乳や果物は

不必要だとか、今まで食べたカレーの中で何が一番辛かったか、等等の

他愛もない話に熱中していたのだった。

 そのうち、カレー談義は香川の家族の話へと変わっていったのだった。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:02:21.73 ID:L6BVEgLS0
「ですが、家内や息子はどうにも辛いのが苦手らしく...」

「私は家で常に一人だけレトルトパウチのカレーなんですよ...」

「え?先生奥さんとお子さんがいるんですか?」

「ええ。ほら、この写真の小さい子が私の息子なんですよ」 

「裕太っていう名前なんですけどね。まだ小学生なんですよ」

「うわ〜。可愛いな〜。裕太君が羨ましいっすよ」

「俺の父親なんか...父親...なんか...」

 携帯電話の待ち受け画面には幸せそうな笑顔を浮かべている香川と

その家族の写真が写っていた。

「どうかしましたか?佐野君」

「あ、いえ...俺の親父はなんていうか嫌な奴だったんで」

「こんな感じに家族で写真なんか撮った事ないんですよ」

 思い出したくない思い出に蓋をした満は、心配そうに自分を見つめる

香川に無理矢理笑いかけて、席を立とうとした。

「香川先生。なにからなにまでありがとうございました」

「お礼はいつか必ずさせて頂きますので、これで失礼させて頂きます」

 話の合う相手との話を切り上げる事に残念そうな表情を浮かべながらも、

香川は深く満を引き留めようとしなかった。

 丁度昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったのを口実に、満は

香川に深々と頭を下げて、大学の食堂を後にしようとした。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:02:54.63 ID:L6BVEgLS0
「ああ、待ってください。佐野君、一つだけお願いがあるんです」

「はい?なんでしょうか?」

 自分に背を向けた満に、香川は声をかけた。

「いえ、大したことではないんですが」

「私が預かっていた荷物の中にあった、あの格好良い玩具」

「もう一度、見せて貰えませんか?」

「カードデッキのことですか...いいですけど...」 

 香川の言葉を疑う事なく、満はポケットの中からカードデッキを

取り出して、香川の前に置いたのだった。

「そうそう。これですよ」

「息子の誕生日が近くて...これ、なんていう番組の玩具ですか?」

「えっと...それは...なんでしょうね?」

 香川の言葉に答えを返せずに口ごもってしまう。

 なぜならこれは玩具などと言う生ぬるい物ではないからだ。

 これは鏡の向こうに渡り、ライダーや怪物を殺す為のライセンスだ。

 しかし、香川は脳天気にデッキの中からカードを引き抜いて、興味深げに

裏と表を交互にひっくり返し、目を輝かせながらじっと観察している。

「この二枚は、サメですか?」

「ええ。まぁそうですね。何の鮫かは分からないですけど」

「アビスハンマー...アビスラッシャー...」

 二枚の契約獣のアドベントのカードを見つめる香川の視線が徐々に

厳しい物に変わっていく。

「実はこれ、知人っていうか...ある人から貰ったんですよ」

 カードをじっくりと見ていた香川は、納得したように全てのカードを

満のデッキの中に入れ戻し始めた。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:03:27.75 ID:L6BVEgLS0
「胡散臭い人なんですけど...捨てるに捨てられなくて...」

 その瞬間、香川の顔から穏やかさが消えた。

「その胡散臭い人、というのは...神崎士郎と名乗りませんでしたか?」

「ど、どうして...香川さんがあの男の名前を...」

 愕然とした満は、自分の手元にデッキがない事に今更気が付いた。

 そして、耳元から聞こえるあの金属音。

 なんてことだ、助けて貰ったと今まで思っていた人間もライダーなのか?

「佐野君。どうやら私はこのまま君を帰すわけにはいかなくなりましたよ」

「どうです?ここは一つ、腹を割ってとことん話し合いませんか?」

 理知的な瞳の中に渦巻くある種の狂気にも近いその感情に、満は

黙って頷く事しか出来なかった...

150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:04:08.10 ID:L6BVEgLS0
 〜清明院大学大学院 401研究室〜


 大学の食堂から研究室に引き返した満を待ち受けていたのは、ただ者

ではない異様な雰囲気を纏った二人の学生だった。

「先生、お疲れ様です。そこにいるのが例のライダーですか?」

「ええ。そうですよ仲村君。彼が東條君が助けたライダーです」

「....」

 どうやら香川に話しかけた学生、どこか喧嘩腰で、触れれば切れる

ナイフのような鋭い目つきをしているのが仲村で、その仲村の後ろで

沈黙を守り、虎のような視線で自分を見つめているのが東條という学生だろう。

 満を自分のラボに連れてきた香川は、それなりに値の張りそうな革張りの

椅子に腰掛け、その両脇に東條と仲村を控えさせた。

「あの、香川先生...そこの二人の人は一体誰なんですか?」

「ああ、この二人は私の教え子です」

 満の質問に答えた香川は、仲村と東條に自己紹介を促した。

「仲村創だ。香川先生の下で大学院生をしている。よろしく」

「東條悟です。仲村君と同じく先生の教え子です。よろしく」

 素っ気ない自己紹介は信用のなさの表れとよく言う。

 いや、信用がない奴だと思われているだけならまだ良い。

 問題はこの三人がやろうと思えばいつでも楽に自分の命を容易く

奪えるほどの手練れだという事が問題なのだ。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:04:39.46 ID:L6BVEgLS0
「佐野満です。三日前は本当にありがとうございました」

「あの時助けて頂けなければ、俺死んでました」

「お二人には感謝してます」

 深々と頭を下げて、目の前の二人の反応を伺う。

「...良かったな東條。お前、感謝されてるぞ?」

「流石英雄。やることなすことがいちいち格好ついてるな」

「仲村君さぁ、そういう男の癖にネチネチしてるの女々しいよ?」

「何でも蔑むのは、人としてかなり未熟な証拠なんじゃないの?」

「なんだと!!」

「よしなさい!」

 どうやら香川の教え子は、香川に比べれば小物も良いところだ。

 仲村は心が狭く、東條は人に言えない闇を抱えているように見えた。

 香川に窘められた二人は、渋々その怒りを収めたのだった。

「仲村君。今のは君が悪い。東條君に謝りなさい」

「何でですか!トドメを刺せるときに刺すのは当然で...」

「人を殺す事を甘く考えるな!」

 香川の怒号が研究室を震わせる。

 その怒りに仲村は堪えきれないなにかをグッと飲み込んで、横にいる

東條へと頭を下げたのだった。

「すまない...言い過ぎた」

「別にいいよ。仲村君は僕とは違ってまっとうな人間だから」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:05:06.89 ID:L6BVEgLS0
 一言多すぎる所か、その一言で今更ではあるが、東條がライダーとして

既に他のライダーを殺していたことに満は気が付かされた。

「ふぅ...お見苦しいところを見せてしまいましたね」

「い、いえ...。香川先生も大変なんですね」

 正直な話、なぜ香川ともあろうひとかどの人間がこんな人として

癖のありすぎる二人を同士として迎えているのかが満には欠片ほどの

理解も出来なかった。
 
 しかし手を組むにしろ、組まないにしても、いずれ戦う事になるかも

しれない、この場にいる三人の真意を見極めなくてはならない。

 満は固唾を飲んで香川の言葉を待つ事にした。

「では、本題に入らせて貰いましょうか」

「佐野君。私達に貴方の力を貸しては頂けませんか?」

「えっ?!」

 それは初めてのライダーによる勧誘だった。

 城戸真司との出会いの時は、自分から彼の下に入る事を望んだが、

今回はそれとは異なる全く逆のパターンだった。

「先生、彼は信用できるんですか?」

「それを今から君達に判断して欲しいのです」

 東條が困惑を顔に浮かべながら、香川にその真意を問う。

 しかし香川は東條に選択を任せると答え、すぐさま話を戻した。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:05:36.83 ID:L6BVEgLS0
「佐野君。幾つか答えて欲しい事があります。いいですか?」

「は、はいっ!答えます」

「では、一つ目の質問です。佐野君は何のために戦っているんですか?」

「え、えっと...死なないためです。生きる為です」

「ほう。生きる為。ですか」

「では、生きる為にライダーを殺す覚悟を持った事はありますか?」

「そ、それは...分からない、です」

 自分は浅はかで、何かを変える事が出来ない人間だけど、復讐の

無意味さと報復の連鎖はいつまでも悪い方向に続いてしまうと満は

己を回顧した。

 神崎士郎に巻き込まれて満のライダーバトルは始まった。

 アイツのせいで、自分は何度も死にかけたし、罪のない人達が自分の

せいで命を落としてしまった。

 今でも神崎士郎の事は恨んでも怨み足りない。 

 だけど、望む望まぬに拘らずこのバトルに参加したライダー達を

殺すのは間違っていると、それだけは断言できる。

「そうですか。では言い方を少し変えてみましょうか」 

「多数を殺す事が出来る個の存在を殺さなければならないとき」

「その個を殺して、平穏が得られるのが確定しているなら」

「貴方は、それでも自分の戦いをやめる事が出来ますか?」

「それは...」 

 満のような人間にとって、善悪の二元論は難しい質問だった。

 何を成せば善となるか?何を成せば悪となるか?

 その二つを己の心の中の秤にかけて、人は未来を選びとっていく。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:06:17.93 ID:L6BVEgLS0
(もし、俺が...浅倉威と1対1で対峙したら...) 

 足りない頭で満は必死に考えた。

 今は亡き須藤から連続殺人犯がライダーとしてこの戦いに参加している事を

聞かされた時の事を思い出す。

 ただ自分の我欲の為に多くの人を殺害した奴は、まさに香川の言う

多数を殺す事が出来る個の存在と言えるだろう。

 自分はこの戦いを生き残るために戦うと言った。
 
 人殺しは正当化できない。例えどんな理由があったとしても、人が

人を手にかけた時から、その人は後戻りできなくなる罪を背負うことに

なってしまう。

 だが、浅倉を野放しにしてしまえば犠牲者の数は増え続ける。

(どう答えりゃ良いんだよ...) 

 こんな時、城戸真司であればきっと、それでも自分を貫き通すだろう。

 誰彼構わず救おうとして、その為に戦うんだ。と...

 自分には真司のような確固たる信念がないことがこれほど恨めしかった

ことはないと満は唇をかみしめた。

「俺は...その個を止められる力を持っているのが俺しか居なかったら」

「俺は、多分戦いに行くと思います」

「だけど!」

「だけど?なんですか?」

「俺は、弱いから殺されてしまうかも知れません...」

「死にたくないけど、先生の言う個がどれだけ悪い存在でも...」

「生き残りたいという想いが強い方が生き残るのではないんでしょうか」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:07:05.21 ID:L6BVEgLS0
 詭弁だ。

 聞こえの良い事を言っているように見えるが、その本質はただの

他力本願でしかない。満は自分の背後にいる人間の生きたいという想いを

自分の戦う理由に入れていない。

 どのような理由があっても、殺人は大罪だ。

 しかし自分しか守りたい者を守れる力を持っていない状況下で、そんな

あやふやな理由で武器を取っても、悪を排除する事は到底不可能だ。

 何故なら人の命は一つしかない。一度死ねば人は蘇らない。

「....」 

 しかし、その不条理を受け入れた上で悪と戦い勝利する者が必要なのだ。

 善でありながら悪を担い、可能な限り多くの人を守る存在が世界には

必要なのだ。

 それが、香川英行の掲げる『英雄』の姿だった。

 英雄とて完全な善ではない。

 掲げる善の中に悪を担うが故に犠牲を是とする、救う側の自己満足。

 即ち、大多数のよりよき明日の為の、少数の犠牲という全てを救えないが故の

諦念を第三者に肯定させる押しつけが香川の掲げた理想の矛盾とも言えた。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:07:37.12 ID:L6BVEgLS0
「佐野君。君は多数を救うための少数の犠牲を許容できますか?」

「私は、いや私達は...ミラーワールドを閉じる為、戦っているんです」

 遂に香川の口から、彼等が戦うための理由が明かされた。

 満はまるで金縛りにあったかのように身体を硬くして、香川の言葉に

耳を傾け続けていた。 

「ミラーワールドを閉じる方法を私は知っています」

「今の君には明かせませんが、それが成されれば全てはゼロになる」

「ミラーワールドは閉じ、ライダーバトルという殺し合いもなくなる」

「教えてください。その、ミラーワールドを閉じる方法を...」 

「今の俺に教えられないってことは、結局、綺麗事じゃ済まないんでしょ」 

「誰かを殺すんでしょ?ねぇ、そうなんでしょ?」

「お前!いい加減に...」

 あまりのしつこさに耐えきれなくなった仲村が、満を研究室から

放り出そうと立ち上がった。

「仲村君!良いんです。早いか遅いかの違いですから...」

 その行為を一喝して止めた香川は観念したように、教える筈のなかった 

方法を満に語った。
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:08:07.58 ID:L6BVEgLS0
「ミラーワールドとこの世界をつなぐ、いわば中間的な存在...」

「本来なら交わることのない二つの世界を行き来する人間がいるんです」

「一人は神崎士郎。そして、もう一人は彼の妹、神崎優衣」

「なぜ、神崎士郎は13人のライダーを戦わせる必要があるのか?」

「それは、彼の妹に新しい命を与えるためです」

「新しい、命?」

「ええ。にわかには信じがたい話ですが、その通りなんです」

「ライダーを戦わせ、最後の一人になったライダーの命を妹に与える」

「それがこの戦いの全てです。神崎士郎による壮大な自作自演です」

「そ、そんな...ありえない!そんなバカな事あって良いのかよ!」

 じゃあ、アイツの言葉を信じてライダー達は戦っているっていうのか?

 アイツのエゴのせいで、アイツが契約者達に渡したデッキのせいで、

一体何人もの命が奪われたっていうんだ?

「しょ、証拠は?そうだよ、そこまでいうなら証拠あるんだろ」

「ええ。この部屋と仲村君がまさにその証拠です」

 重い腰を上げた香川は腰を上げ、部屋の中をグルグルと歩き出した。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:08:51.13 ID:L6BVEgLS0
「ライダーバトルが始まる数年前、ある実験がなされました」

「昔ここは江島実験室と呼ばれ、神崎君はここに在籍していました」

「彼はここでライダーバトルの礎となる研究に取り組んでいました」

「ミラーモンスターやそれをコントロールする手段...」

「カードデッキのシステムを開発し、彼は全てを実用化させました」

「そして、最後にライダーのシステムの実用化の実験が行われたとき」

「ある事件が起きたのです」

「ミラーワールドからモンスターがこの世界に飛び出してしまったのです」

「モンスターは手当たり次第に人を襲い、多くの人が死にました」

「仲村君はその時の江島研究室の唯一の生き残りです」

「アイツのせいで、俺は仲間を失ったんだ」

「アイツさえ...アイツさえいなければこんなことにはならなかった」

「皆が死んだのに...なんでアイツはまだ生きているんだ...」

 仲村が悔しさを滲ませながら、香川の言葉の後を継いだ。

「なんで香川先生がこんなことを知ってるか不思議に思うだろ?」

「そうだよな。でも、この人は天才なんだよ」

「一度見たものを完全に記憶してしまう大天才なんだ」

「江島研究室がアイツのせいでなくなる前、先生は奴の資料を見た」

「何から何までを全部記憶した先生は、ライダーシステムを作った」

「アイツとは異なる、アイツに対抗するためのもう一つのシステム...」

「ライダーとは異なるもう一つの存在、オルタナティブだ」

「オルタナティブ?」

「そうだ。これを見ろ」

 仲村は涙に濡れた手にカードデッキとよく似た黒いデッキを取りだした。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:09:34.16 ID:L6BVEgLS0
「これを...先生が一人で作ったんですか?」

「正確には、東條君のデッキも参考にしました」

「僕も最初は驚いたけどね。でも、これで分かったでしょ?」

「本当なら首を突っ込まなくても良い事に先生は首を突っ込んだ」

「神崎士郎と無関係の筈なのに、それでも先生は危険を冒したんだ」

「君にその理由が分かる?」

「正義感、ですか?」

「そう。先生は英雄なんだ」

「他のライダーとは違う明確な意思を持ってこの戦いに臨んでいるんだ」

「我欲のために他人を蹴落とそうとするライダーが襲ってくる中」

「先生は戦いを止めたいという信念の元で戦っているんだ」

「誰かの命を平然と奪うような奴に先生の命を奪われてたまるか...」

「君もそう思うだろう?」

 コイツ、かなり危ない方向にいるイタイ奴だ。と満は率直に思った。
  
 まるで邪教の神を狂信する狂った宗教マニアのような、信仰の為なら

なにをしても許されるという狂気すら感じられる。 

 確かに香川の主張も分からなくはない。

 多数の為の少数の犠牲を必要な犠牲と割り切れば、ある程度の良識や

正義感を持っている奴なら、迷いながらも最後まで戦えるだろう。

 だが、この東條悟という男には確たる信念が何もない様に見える。

 ただその理想が綺麗だったから憧れた。そして運の悪い事に、自分を

高く買ってくれた香川の優しさを絶対視、いや神格化してしまっている。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:10:00.72 ID:L6BVEgLS0
 こういう奴は自分とその理想の乖離に気が付いた途端に、掌を返して

相手を裏切る奴だと、満は昔付き合っていた面倒くさい彼女の事を

思い出していた。

 勝手に自分の理想を押しつけるが、そのくせ自分の本音を打ち明ける

ことは絶対にないという、そんな匂いを敏感に満はかぎ取った。

 情緒不安定な浅倉予備軍、本性が獣な奴とはお近づきにはなりたくない。

 コイツとはなるべく二人きりにならないようにしようと満はそう心に

固く誓ったのだった。

 満面の笑みを浮かべるサイコ野郎は香川先生がいかに凄いのかを誰も

聞いていないのにべらべらとその後、仲村が切れて話を遮るまでの間、

ずっとしゃべり続けていた。

(城戸さんってやっぱり凄い人だったんだなぁ)

 しかし、今更元の鞘には戻れないだろう。

 真司の信念と相通じる信念はあるものの、ライダーの犠牲を許容できる

その精神性の違いから、この人達と真司は限りなく相容れないだろうと

満は推測した。

 その上で満は、ある決心をつけたのだった。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:10:46.26 ID:L6BVEgLS0
「香川先生。俺、先生とは真逆の信念の人を知っています」

「ほう、それは興味深いですね。聞かせてください」

「はい。その人は一回会ったきりなんですけど、不思議な人でした」

「戦わなきゃ生き残れないのに、戦いを止めようと躍起になってるんです」

「正直、先生の言ってる事のほうが俺としては納得しやすかったです」

「でも、1を捨てて多数を守る先生の主張を聞いているとき」

「俺の頭の中には、1を守って多数と戦うあの人の信念がありました」

「俺は、弱いけど...正直そっちの英雄の方が格好良いと思ってます」

「そう、ですか...確かに、それも立派な英雄の在り方かも知れませんね」

 それは、今更自分を変える事ができない香川の在り方と相反する

もう一つの正義の在り方だった。

 自分のしている事は限りなく正しい。

 弱者の犠牲の肯定というエゴに目をつむれば、必ずミラーワールドは

閉じられる。いや閉じてみせるという覚悟が香川にはあった。

 しかし、真司のそれは香川の方法よりも遙かに難しいにもかかわらず、

香川は心からそのもう一つの英雄の在り方を否定する事は出来なかった。

 なぜなら、それこそが...

「香川先生や仲村さん、東條さんのお話しを聞いて決心がつきました」

「俺、先生達の所でこの戦いを戦い抜きたいです」

「先生や城戸さんのような英雄に俺はなれない」

「だけど、俺は切り捨てられる1にはなりたくないんです」

「だから、皆さんの力になれるよう一所懸命頑張ります!」

 拳を握りしめた満は、決意も新たに己の道を選んだ。

 俺はまだ弱い。だから、少しでも生き残れる確率の多い側について

自分に出来る事を探してみよう。

 そう決意した上での自分の売り込みだった。
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:11:35.41 ID:L6BVEgLS0
「先生...俺は、コイツの事信じても良いんじゃないかって思います」

「ほう、意外ですね?君がそんな事を言うなんて」

 沈黙を破った仲村は、先程の剣呑な視線ではなく、まるで初めて

まともな人間に会ったかのような視線を自分に向けていた。

「俺や東條より、遙かにマシな奴だと思ったからですよ」

「正直な話、俺は神崎の計画さえ潰せればそれでいいと思ってます」

「先生の言う素晴らしい英雄像にもあまり興味はありません」

「だけど、この男は先生の理想に賛同して、庇護を求めていながら」

「何も考えないで戦う事なく、自分の意思で戦いを続けることを示した」

「打算と保身はあるでしょうけど、一応使ってみてはどうでしょうか?」

「ふむ。君はどう思いますか東條君」

「僕は...この人の事、あまり信用はできないです」

「他のライダーとつながっているかも知れないし、なによりも」

「多くを助ける為なら一つを犠牲する覚悟が足りなすぎると思います」

「僕はこれまで二人のライダーを殺しましたけど」

「この人には多分、そんな覚悟は殆どないように見えるし、むしろ」

「このままここから帰した方が互いのためになると考えます」

「勿論、僕は先生に従いますけど...今のが僕の本心です」

「なるほど...わかりました...」

 二人の意見が割れた以上、後は全て香川の判断へと委ねられた。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:12:27.41 ID:L6BVEgLS0
「佐野君。色々考えましたが、私達は貴方を迎え入れます」

「本当ですか!」

 満の想像以上の早さで香川教授は答えを出した。

「ですが、当分は仮採用期間ということで様子を見たいと思います」 

「そうですね...一ヶ月の期間でどうでしょうか?」

「一ヶ月間、私達の傍で私達の行動を見れば充分ですよね?」

「え、ええ。勿論です」

「いや〜、鋭い!あえて警告をすることで相手の気先を制する! 」

「感動しちゃうな〜。まさに先生はライダーの救世主ですよ! 」

「....」

「仲村君。堪えて。ここで怒ったら...あとは分かるでしょ?」

 調子に乗って香川にゴマをする満を目の当たりにした仲村は、先程の

自分の発言がいかに迂闊で浅慮なものだったのかを自覚し、早速後悔し始めた。

 珍しくもないが、仲村の短慮による失敗を見てきた東條は珍しく

仲間に当てこすりをぶつける事なく、本心から仲村を気遣った。

「...ああ、お前の言葉に耳を傾けたくはないが、そうだな」

 目の前に居る奴はそういう奴だから、キレたら負けだよ。

 暗にそう言った東條は、そのまま部屋から黙って出て行った。 
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:13:08.82 ID:L6BVEgLS0
「あれぇ〜?どうしたんですか東條せんぱーい」

「気にする事はありませんよ。彼は優秀ですが、シャイなんです」

「時々一人になって落ち着きたいと言っていましたから」

「そうなんですか〜。へぇ〜」

 先程の真剣な態度を180度かえた満を正視に耐えないと思った仲村も

ミラーモンスターを狩ってくるという最もらしい言い分をつけて、東條の

後を追うように研究室から出て行った。

「流石です先輩方!日常にあっても常に心は戦いの中」

「なんか俺、一人だけ場違いっぽく思えてきちゃいましたよ」

 佐野の褒めちぎりに若干のウザさを感じ始めてきた香川は、ここで

一つの保険をかけておく事にした。

「佐野君。これからの一ヶ月間は私達となるべく行動を共にし」

「ライダーとの交戦は、相手が本気で襲いかかるまで控えてください」

「今は、ミラーワールドの内部を探索したいんです」

「そうですよね。大丈夫です!」

 自分と仲村と東條の三人で見張っていれば、仮に目の前の男が変な気を

起こして、相手側に...特に神崎士郎に自分達の目的や情報を明かす事は

ないだろう。仮にそうだとしたら東條と仲村が黙っていない。
 
 しかし、往々にしてバカは想像の斜め上を行くとんでもないことを

しでかしてしまう。佐野満という男はそう言った類だ。

 では、バカの行動をできるだけ規制するにはどうすれば良いのか?

 答えは簡単だ。金で釣れば良い。 
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:13:40.86 ID:L6BVEgLS0
「では、報酬の話に移りましょうか」

「報酬?」

「ええ。ミラーモンスター一体を倒すごとに一万円でどうでしょうか?」

「一万円も?」

「ええ。ただし、私の見ている前でのみ。という条件付きですが」

 不定期ながらも、日給一万円という割の良いバイトは金に五月蠅い

満にとって無視できない程の魅力を放っていた。

 仮に一ヶ月に10回香川と行動を共にしたと計算する。

 一回のミラーワールドでのモンスターとのバトルで2,3体を葬れば

大体月給で20万円は軽く超えるだろう。

 しかも、これは個人間の金銭のやりとりだから、税金も何も掛からない。

 頭の中で素早く電卓を叩いた満は諸手を挙げて香川の提案に乗った。

「良いですとも!いや〜流石教授。懐も心も広い!」

「憧れるな〜」

 しかし、香川には別の狙いがあった。

 そう、東條と仲村と自分の戦力の温存である。
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:14:12.33 ID:L6BVEgLS0
 先程のやりとりで、満のカードデッキの情報を全て記憶した香川は

満が契約したモンスターが、実は合体モンスターが分裂した姿の

ミラーモンスターだということを、知識上すぐに探り当てた。

 ライダーの武器や盾のAPとGPの平均は2000であるのに対して、満の

カードには3000AP以下のカードは一枚も入っていなかった。

 まさに切り込み隊長にはうってつけである。

 ライダーに当てるのも良し、雑魚モンスターの大軍に当てるも良し。

 まさに戦力の温存にこれほどうってつけの人材は居ない。

 仮に怖じ気づいて逃げ出すとしても、中途半端な義務感で最後の

仕事を成し遂げてから、遺恨を残さないような形で辞めていくはずだ。

 誰も損をしない有益な関係を築いた上での協力関係ほど、恐ろしい物は

ない。何故なら互いの真意が見えないからだ。

 更に、神崎士郎の奥の手を香川英行は身を以て知っている。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:14:44.07 ID:L6BVEgLS0
 まず一つ目は、時を巻き戻すカード、タイムベントの存在。

 二つ目はミラーワールド最強のモンスター、ゴルドフェニックスと

その強力な眷属の存在。

 そして、神崎士郎のみが知るミラーワールドの中枢にしてあの世界を

存続させ続けているミラーワールドのエネルギー源、コアミラーの存在だ。

 既に仲村の使っているデッキと同スペックのオルタナティブのデッキは

量産済みで、その数は10を超えている。

 神崎士郎に見つかってそれらを全て壊されるというリスクを回避する為、

香川は自分の人脈をフルに使い、信頼できる協力者にそれらを分散して

預けていた。 

 手はずとしては、ライダーの数が残り五人を切ったところで香川が

協力者にしか分からない合図を出し、それを確認した協力者達が一斉に

この自分のラボに押し寄せて、神崎と残りのライダーを討つという手はずに

なっている。

 佐野の本当の役割は、神崎士郎のミスリードの誘発である。

 ライダーになる人間は、心のどこかに致命的な弱さを抱えている。

 お人好しだったり、死にたくないという生存本能だったり、人を殺して

自分の生を実感する破綻だったり、英雄になりたいという願望を心の中に

抱きながらも、英雄というのは何かという答えを持ち得なかったりする

そんな破綻者達がライダーバトルを加速させ続けている。

 故に、人間としては若干クズの部類には入るものの、ごく普通の人間の

価値観、自己保身や打算に走りながらも、ライダーバトルを肯定的に

捉えながら生き残るために他人を出し抜く満の雑草のような強さこそが、

神崎士郎の失敗を引き出す鬼手となり得る可能性に香川は賭けたのだった。
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:15:12.36 ID:L6BVEgLS0
 そんな香川の深く大きな計画の中に組み込まれた事をつゆ程も自覚

できなかった満は、深く考える事なく香川の手を取ったのだった。

「佐野君。長い事引き留めてしまって申し訳なかったですね」

「いえ!とんでもない。とても有意義な時間でした」

「俺!頑張ります!先生達に協力を惜しみませんから」

「ええ。期待していますよ」

 満が深々と自分に頭を下げ、研究室から出て行く前に自分の携帯電話を

書いた紙を渡した香川は笑顔を浮かべ、何度もペコペコと頭を下げる

満の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。

(さぁ、神崎君。君は私の一手にどう出るのかね?)

 多大な犠牲者を出すこの戦いを仕組んだ黒幕に、香川は一人その心の中で

静かに宣戦布告をしたのだった....
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:15:42.93 ID:L6BVEgLS0
 第十二話 予兆


〜花鶏〜


 喫茶店花鶏のテーブルで、うららかな日差しを浴びながら手塚海之は

安らかな一時を過ごしていた。

 秋山蓮はそんな手塚の珍しい姿に安堵を覚えていたが、徐々に手塚は

悪夢にうなされ、激しく動き始めた。

「おい!どうした手塚!」 

 慌てた蓮はテーブルから転がり落ち、なにやら大声で喚き始めた

手塚を抱え上げ、顔を叩いて正気に戻そうと試みた。

「手塚!おい手塚!どうしたんだ手塚!」

「はぁっ!はぁッ!」

 蓮の乱暴なビンタに無理矢理眠りから覚めた手塚は、真っ先に蓮を見、

それから安堵のため息をついた。

「何か悪い夢でも見たのか?」

 ぶっきらぼうだが、真剣に手塚の話に耳を傾けようとする蓮に対して、

手塚は手を乱暴に振りながら、強引に話を切り替えた。

「い、いや...なんでもない」

「少しストレスがたまっているんだろう。すまないが家に帰る」 

「ちょっと待て」

 その不自然さが腑に落ちない蓮は、急いで花鶏から出て行こうとする

手塚を引き留めようとした。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:16:23.39 ID:L6BVEgLS0
「どうしたんだ手塚!占いの次は千里眼か?」

 全く、どうしてコイツはどうでも良いときに勘が鋭くなるんだろうか?

 自分が見た悪夢は、まさにコイツが渦中にいるというのに...

「そうだ。俺の家が火事になってしまう夢を見たんだ」

「家には色々なものが置いてある。勿論、燃えたら困る物もな」

「だからってそれが今日というわけでもないだろう?」

「だが、俺の占いは良く当たる。今日は確かにその日ではないが」

「...雨の日だ。その日に俺の家は燃えるだろう」

「だろうって...」

 手塚の占いの精確さを知っているが故に、蓮は彼のやろうとする事に

それ以上深く突っ込む事ができなかった。
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:16:57.25 ID:L6BVEgLS0
「ああ。また明日」

 そっぽを向く仲間に手を振った手塚は、急いで花鶏からできるだけ

離れようと必死になった。

 曲がり角を曲がって、蓮が自分の姿を見つけられなくなった場所からは

走って走って走り続けて、そしてようやく3km離れた場所へと辿りついた。 
 全速力で走った為、喉が干上がっている。

 近くにあった自販機で一番安いペットボトルの水を買った手塚は

一息にその水を飲み干した。

(蓮...お前の運命は、必ず俺が...変えてみせる)

 断固たる決意を瞳に浮かべた手塚海之は、近くにあった電話ボックスに

入り、電話帳をめくり、あるページを探していた。

 手塚の視線の先、何人もの弁護士の電話番号が書かれているページの中で

一際目立つフォントで印刷されている番号があった。

「北岡、秀一...」

172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:17:44.39 ID:L6BVEgLS0
 〜どこかの倉庫にて〜

 深夜一時。

 人目に付かない倉庫の中で熾烈なライダーバトルが繰り広げられていた。

 相対するライダーのカラーは深緑と緑の二色。

 深緑のライダーの名前はゾルダ。変身者は北岡秀一。

 もう一人の緑色のライダーの名前はベルデ、変身者は高見沢逸郎。

 なぜ二人が戦っているのか?それはライダーだからである。

 例え二人の間にいかなる私怨が存在していようとも、命を賭けた

バトルロイヤルに参加している以上、そのようなモノは自分を鈍らせる

不純物でしかなかった。

「高見沢さ〜ん。もう観念して刑務所行きなよ〜」

「今から自首すれば五年程度の実刑で済ませるからさ。ね?」
 
「ばっ、化け物め...」

 さながら悪党を追い詰める正義のヒーローのような場面ではあるが、

生憎、この戦いには正義は存在しない。あるのは純粋な願いだけだ。

 秀一は自らの不治の病を取り除くこと。

 高見沢の願いは、超人的な力を手に入れること。

 願いを叶える権利を手に入れられるのは、たった一人だけ。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:18:26.29 ID:L6BVEgLS0
 邪魔になる人間を片っ端から消すのがこの戦いのセオリーである。

 特に、特殊能力で姿を消したり真似たりするようなカメレオンのような

嘘つきのくせに大物ぶる小物も勿論その中に含まれている。

「ふ、ふざけるなぁっ!てめぇ俺を誰だと思ってる!」

「俺は高見沢逸ろっ...」

「べらべら五月蠅いよ、もう。黙っててくれないかな?」

 マグナバイザーの銃口が火を噴く。

「ぎゃああああああ!!」

「こっすい真似するよね〜。ま、小物なりに善戦した方じゃない?」

 デッキから引き抜いた最後の一枚は、ベルデの持つ秘密兵器、己の姿を

一定時間消すことができる特殊カード、クリアーベントだった。

 自分の右腕の指を三本吹き飛ばされた高見沢は、まるで赤子のように

ヒーヒーと情けない声をあげながら、数十年ぶりに人前で尿を漏らした。

 そんな逸郎をどうでも良さそうにちらっと見た秀一は、最後のトドメを

刺しに掛かったのだった。

「ま、待ってくれ。こ、ころさなッ」

「Advent」 
 
 高見沢の懇願もどこ吹く風、秀一は自分の契約したマグナギガを

平然と召喚した。
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:18:56.45 ID:L6BVEgLS0
「マグナギガ。コイツの頭を吹き飛ばせ。胴体は潰すな」

 鋼の巨人マグナギガは主の命令に忠実に従った。

 腕のバズーカ砲の照準をベルデの頭にロックオンする。

「ぎべっ!」

 ぼんッ!

 轟音を立てながら、マグナギガはあっという間に高見沢逸郎の頭を

粉々に粉砕した。

「ふふん。使えるものは貰っておかなきゃね?」

 頭部を失ったベルデの身体が消える前に、秀一は素早くその腰から

デッキを引き抜いた。

「ねぇ、これってどうなのよ?反則じゃないよね?」 

「ああ。敗北したライダーのデッキの第三者への委譲を認めよう」

「そう来なくっちゃ」

 意味深な笑みを仮面の下で浮かべたゾルダは意気揚々と自分の帰りを

待ってくれている頼れる秘書の元に向かったのだった。


 仮面ライダーベルデ/高見沢逸郎、死亡 残り11人
 
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:19:23.47 ID:L6BVEgLS0
 〜ミラーワールド〜

「うああああああああ!」

「足りない...うああああああああああああ!」

「北岡ァ!北岡ぁあああああああああああああ!!!」

 夜と静寂が支配する山の中で、一人浅倉威は戦い続けていた。

 神崎士郎という男に窮地を救われた浅倉は、しかし一向に現れない

ライダー達にしびれを切らし始めていた。

 目の前には12体ものミラーモンスターが威を喰らおうとその牙と

武器と毒で一斉に襲いかかっていた。

 ゼノバイター。テラバイター、ゼブラスカル、バクラーケン、

ミスパイダーの5種類12体を相手取り、仮面ライダー王蛇は手に持った

ベノサーベル一本でモンスター達を殺そうと無謀な戦いを始めたのだった。
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:19:50.99 ID:L6BVEgLS0
「しゃあああああ!!」

 まず手始めに鋭い毒牙を首に突き立てようとしたミスパイダーが大きく

開けた口にベノサーベルを突き立てて、力任せに突き刺す。

 貫通とまでは行かない物の、ミスパイダーは脳幹付近を傷つけられ

まともに立ち上がれないほどの重傷を負う羽目になった。 

 続いてイカのような姿をした化け物が自分の首にムチのような獲物を

巻き付けようとしているのを察知した王蛇は、近くに居た馬モンスターを

盾にして急場をしのぐが、しかしその隙に乗じた二体のカミキリムシ型の

ミラーモンスターが、左右から大上段に構えたブーメランのような獲物を

威の肩めがけて振り下ろしにかかった。

「おおおおおおおおおおおお!!!!」

 瞬時に攻撃から回避に判断を切り替えた威は、左にいたゼノバイターの

横に生じた僅かな隙間に飛び込み、その背後へと回り込んだ。

「ぎっ?!」

 ベノサーベルを投げ捨てた王蛇は、一瞬でゼノバイターの首をねじり、

更になくなった自分の武器代わりに、今殺したモンスターの鋭利な刃付の

ブーメランを拾い上げ、後退しようとしていたテラバイターめがけて

滅茶苦茶に切りつけ始めたのだった。

「ぎいいいいいっ!ぎぃいいいいいいいいッ!」

 頭、腰、手、胴体。

 とにかく自分の目のつく範囲へと無尽蔵に振るわれるその暴力は

人を貪るミラーモンスターに恐怖心を植え付けさせるだけの圧倒的な

何かがあった。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:20:34.02 ID:L6BVEgLS0
「うおおおおおおおおおお!どうした!もっと俺を楽しませろ!」

 数の上では圧倒的に優位なモンスター達は、狂ったように暴れる

王蛇に恐れをなして、早くも撤退を始めたのだった。

「待てよ...もっと遊んでいけよ...」

 潰れた蜘蛛のようにピクピクと蠢くミスパイダーの首を逆方向に

蹴り飛ばした王蛇はデッキの中からファイナルベントを取りだした。

「Advent」

 バイザーの無慈悲な機械音声がこの場に存在する全てのモンスター達に

死刑宣告を下した。

「シャアアアアアアアアッ!!!」

「シューッ、シューッ...!」

 毒々しい紫色の身体を輝かせた王蛇の名を冠するライダーに相応しい

契約獣が現れる。

 コブラ型ミラーモンスター、ベノスネーカーである。

 主である浅倉同様に凶暴な性格をしたこの契約獣の主な武器は、口から

放つ強力な毒液と頭部両脇に生えた鋭利な刃だった。

「ぎゃあおおおおおおおおお!!!」 

 この場にいるどのモンスターよりもベノスネーカーは大きかった。

 口から吐き出される毒液の量も、その体躯に見合う量...モンスターが

浴びれば即死する致死量を大量に何度も吐き出せる上に、頭部の両脇から

沢山生えている刃とその刃の特性を全て引き出せるその長大な蛇身は

二足で走り去ろうとするミラーモンスターに難なく追いついては、その

鋭利な刃で足を切り落とす。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:21:02.59 ID:L6BVEgLS0
「シューッ、シューッ!シューッ、シューッ!」

 もっとだ!もっと殺させろ...

 ベノスネーカーの吐く息に滲む殺意に王蛇は微かに笑みを零した。

 強欲な奴だ。八体も瀕死にしておいてまだ欲張るのか...

「Final Vent」 

 王蛇は目の前で苦しむモンスター達にトドメを刺した。

 吐き出した毒液の暴流に乗りながら、一体、また一体と蹴り砕いては

蹴り砕き続け、それが最後の一体になるまでを延々と繰り返す。

 モンスター達の身体が砕かれた衝撃で次々に爆散する。

 ベノスネーカーは長い舌を伸ばし、そのエネルギー源を美味そうに

吸い込み始めた。

「足りない...もっとだ!もっと強い相手を俺に寄越せええええ!!」

「シャアアアアアアアア!!!」 

 血に飢えた蛇の王と、それを従えたライダーは抑えきれない本能のままに

次なる獲物を探して血祭りに上げる事を夢見ながら月に吠えた。 

179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:21:36.64 ID:L6BVEgLS0
第十三話 初任務 


 今回の探索範囲は、とある駅前に存在する大きな百貨店の地下駐車場

だった。

 香川曰く、神崎士郎の性格からして、コアミラーの配置場所、あるいは

コアミラーの配置場所のダミーと思われる場所にはライダーに見つかる

危険性を考慮した上で、充分な数の伏兵を忍ばせる筈であるとの事だった。

『コアミラーはライダー達が密集する場所の近くに必ず配置されています』

『今はまだ見つかりませんが、そのうち神崎君はボロを出す筈です』

 ミーティングの後、仲村と指定された場所に向かう前、満は香川から

今まで三人がミラーワールドで遭遇したミラーモンスターと出現場所の

傾向をまとめられた資料を香川から手渡された。

「神崎君の性格上、こちらが動く事は予想できるはずです」

「鏡の世界のコアに近づくにつれ、より強い敵を配置するでしょう」

「彼に忠誠を誓うモンスターやライダーをね」

「ってことは、そいつらが出現した場所を一つずつ潰していけば」

「おおまかに最終的な場所を絞り込める。そういうことですね?」

『ええ、神崎士郎は必ずその場所に自分に忠実な手下を置くでしょう』

 香川は目を輝かせて自分を見つめる満に念のために釘を刺した。
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:22:04.98 ID:L6BVEgLS0
『気をつけてください。次の三体のモンスターとは交戦しないように』

『ガルドストーム、ガルドサンダー、ガルドミラージュ』 

『この鳳凰のようなミラーモンスターが現状では一番強い野良です』

『貴方のモンスターも強いですが、それ以上に強いです』

『良いですね?』

「分かりました」

 しっかりと自分の成すべき事を頭にたたき込んだ満はお目付役の

仲村を車に乗せて、指定された駅前の百貨店の地下駐車場へ向かった。

「仲村先輩。さっきの話なんですけど」

「ああ、お前の言いたいのはコアミラーの配置を神崎が変えてるかだろ?」

「その通りだ。だけど先生の言っている事もあながち間違いじゃない」

 ハンドルを握る満に仲村は今までの探索の成果を教え始めた。

「お前が来る前、俺達は他の場所でコアミラーを見つけたんだ」

「えっ?!本当ですか」

「ああ。その時は古ぼけた廃工場の中にあったんだ」

「東條がまっさきに動いた。あれを破壊すれば全てが終わるからな」

「でも、出来なかったんだよ」

「...黒い龍、さっきの最強の野良モンスター、そして黒龍の契約者」

「そいつらと俺達は交戦して...命からがら逃げ帰ったんだ」

「手も足も出なかった。その時、俺は本当に死を覚悟したよ」

「....」

 重苦しい沈黙が車の中を包み込む。

「で、もう一度日を改めてその工場に向かったんだ」

「でも、その時には何もかもがもぬけのカラでコアミラーは消えていた」

「そういう事が既に二度あったんだ」

「そうなんですか...」
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:22:40.97 ID:L6BVEgLS0
 そうこうしているうちに、二人を乗せた車は探索地点である百貨店の

地下駐車場へとなんなく辿りついたのだった。

 軽自動車から降りた仲村は注意深く辺りを見回し始めた。

「佐野。神崎はこういう所に巨大な蜘蛛型を配置する傾向にある」

「目の前の敵を倒すのも大事だが、天井の警戒も怠るなよ?」

「はい!」

 つくづくあの時の判断は間違っていなかったな。と満は自らの判断を

自画自賛した。

 監視付とは言え、安心して自分の背中を任せられる仲間も居るし、

ミラーモンスターの出現場所や種類の詳しい情報もタダで手に入る。

 ずんずんと先を歩く仲村がその歩みを止めた。

 そこは駐車場と百貨店をつなぐエレベーターの前だった。 
 
「先に変身して鏡の中で待ってろ。俺は先生に報告入れるから」

「了解です。変身!」

 仲村の命令を唯々諾々として受け入れた満は、誰も近くに居ない事を

確認した後、デッキを自動扉の前にかざして変身した。

「じゃ、行ってきます!」

 ガッツを見せ、ミラーワールドへ入り込んだ後輩を見遣った仲村は、

ポケットから電話を取りだし、香川に定期連絡を入れた。

「仲村君ですか?どうしたんです」

「今、調査地点に辿りつきました。これから調査を開始します」

「了解です。東條君を今からそちらに送ります」

「そうですか。では、失礼します」

 短いやりとりの後、携帯の通話ボタンを切った仲村はカードデッキを

取り出して、満の後を追うようにミラーワールドへと入っていった。 

182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:23:10.17 ID:L6BVEgLS0
 〜ミラーワールド〜

「...」

 仲村と満は注意深く辺りを見渡し、現在地点の地下2階の駐車場から

もう一つ下の駐車場へと向かっていた。

 この百貨店の地下駐車場は地下三階まである。

 地下に作られた広大で見晴らしの良い人工の迷宮は、ミラーモンスターに

とってまさに絶好の餌場だった。

 車のガラスに身を潜め、獲物が自分の前に来るのを待つだけで労力を

消費する事なくコンスタントに空腹を満たせるからだ。

 加えて、100台を超える車よりも高い遮蔽物がないため、仮に自分達を

狩ろうとするライダー達が出現しても、自然とその視線は高低入り乱れる

車の後ろへと傾けられる。

 そんな魔窟に制限時間付きで少人数で足を踏み入れるとどうなるのか?

 地下三階の入り口に到達した二人を待ち受けていたのは... 
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:23:43.16 ID:L6BVEgLS0
「うわああああああああああ!!!!」

 巨大なクモの下半身を持つ半獣半人体の姿に進化を遂げたモンスターを

筆頭にした蜘蛛型モンスター達の手荒い歓迎だった。

 その数およそ8体。加えて天井には猿のような三つ目のモンスター達が

三体もいる。

 地の利と遠近距離戦に特化したミラーモンスターの大群が一斉に仲村と

満に襲いかかる。

「うろたえるな!」

「Advent!」 

 カードリーダーに契約モンスターのカードを読み込ませた仲村の後ろから

猛然と走ってくる人型の機械的な外見のモンスターが現れた。

「サイコローグ!やれ!」

 サイコローグは頭に付いている目らしき部分からミサイルのような

弾丸を乱射しまくり、更にその実力に相応しい怪力を発揮した。

「!!!!!!!!」

 徒手空拳で二足歩行型の蜘蛛型モンスターの頭をはじき飛ばし、近くに

あった軽自動車の扉を思い切り引っぺがして、盾代わりにして使えと

命じるように、乱暴にオルタナティブへその扉を投げつけた。

 そして自分は唸り声をあげながら、目の前の大型蜘蛛モンスターへと

巨大なランドクルーザーを盾にしながら猛然と突撃していった。

「な、なんつー馬鹿力だよ...」
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:24:13.00 ID:L6BVEgLS0
 仲村はドアを武器代わりにして、複数体のモンスターの攻撃を受けて、

いなし続け、致命傷を巧みに避けていた。

 ブンブンと力任せにぶん回された盾は、強烈なシールドバッシュとして

蜘蛛型モンスターの身体を軽々と吹き飛ばす。

 退路をあっという間に作り上げた仲村は、ディスパイダーと単騎で

渡り合うサイコローグの邪魔にならないようにモンスター達を

おびき寄せる。

「先輩!これを使って!」

「Sword vent!」

 仲村の作ってくれた隙に乗じ、満は二振りの大刀を呼び出し、そのうちの

一本をモンスターが一体も居ない背後へと投げ飛ばした。

「助かった!」

 飛び退いた先の通路の上の天井にぶら下がった猿型のミラーモンスター、

デッドリマーがオルタナティブに覆い被さろうとするも、最後まで

手放さなかった軽自動車のドアを蹴り上げたオルタナティブは、なんとか

無傷のままで新たな武器を手に入れることができた。

「先輩!下がって!」

 しかし、このままではじり貧も良いところだ。

 そう判断した満はここでようやく今まで隠していた奥の手、アビスに

なってから一度も使っていないファイナルベントを切る事にした。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:24:40.21 ID:L6BVEgLS0
「Final vent!」

 バイザーの電子音が二体の契約獣、アビスラッシャーとアビスハンマーを

呼び出し、その二匹を一つに束ねる。

「シャアアアアアアアアア!!!」

 眩い光と共に二匹のモンスターは一つに合体し、その真の姿を契約者の

眼前に初めて晒した。

 ホオジロザメを何倍にもデカくした巨体を悠然と宙に躍らせた合体

モンスター...アビソドンは、瞬く間にその姿をシュモクザメの姿へと

変化させ、天井に張り付いているデッドリマーめがけ、エネルギー弾を

無制限に乱発し始めた。

「ぎええええええええええ!!!」

 なすすべもなく見ざる、言わざる、聞かざるの状態になってしまった

哀れな三匹の猿はこんがり黒焦げになったところをアビソドンの大口に

飲み込まれ、一瞬で噛み砕かれた。

 巨大な鮫に恐れをなした蜘蛛たちは、蜘蛛の子を散らすように二人の

ライダーの攻撃圏内から離れようと全速力で逃げ出し始めた。

 しかし、

「accele vent!」

 それを逃すオルタナティブではなかった。

 サイコローグから授かった高速移動の力を持つカードにより、瞬く間に

三々五々に散らばった蜘蛛達に致命傷を与えては切り裂いていく。
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:25:17.93 ID:L6BVEgLS0
「アビソドン!」

 アビスの言葉に耳を傾けたアビソドンは一ヶ所にまとめられた獲物達に

躊躇なくエネルギー弾をぶつけ、爆発四散させる。

 爆散したモンスター達の身体からいくつものエネルギー塊が立ち上り、

それらを全て腹の中に納めた強大な契約獣は満足そうな唸り声を上げ、

悠々と駐車場から泳ぎ去って行ったのだった。

 残ったモンスターはサイコローグと戦うディスパイダーのみ。

 二本の剣を振り回し、ディスパイダーの足を土台にして飛び上がった

サイコローグはその無防備な頭の上からスラッシュダガーをたたき込む。

 頭の上から顎の下までを剣で串刺しにされたディスパイダーは

苦悶の断末魔を上げながらのたうちまわる。

 頭部から滅茶苦茶に飛ばされる毒針をかいくぐりながらサイコローグは

オルタナティブの元へと駆け寄った。

「Final vent!」

 カードリーダーに吸い込まれたカードが効力を発揮する。

 瞬時にその姿を人型からバイクへと変形させたサイコローグは、自らの

背中に主を乗せ、速さを超えた超加速のスピードで走り始めた。

 時速680kmで高速スピンをしながら、サイコローグとオルタナティブは

絶命必死の一撃をディスパイダーへとたたき込む。
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:25:49.25 ID:L6BVEgLS0
「ぎええええええええ!!!」

 それはまさにデッドエンドと呼ぶのに相応しい必殺技だった。

「オオオオオオオオオオオ!!!!」

 トドメを刺し、バイクから元の姿に戻ったサイコローグはバイクの

マフラーの排気音のような雄叫びを上げ、ディスパイダーのエネルギーを

吸収した。

「撤退しよう。どうやらここはハズレのようだ」 

 二人ともファイナルベントを使い切った状態でこれ以上の探索は危険と

判断した上での撤退だった。

「そうっすね。帰りましょうか」

 満もその判断に異を唱える事なく、そのまま来た道を引き返す事にした。

「?!」 

 しかし、戦いはまだ終わっていなかった。

 二人以外誰も居ないミラーワールドの中、満達が来た方向から新たな

足音が聞こえて来た。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:26:18.81 ID:L6BVEgLS0
「.....」

「おお...アイツの言った通りだったな..」 
 
「お前ら...戦う準備は出来ているようだな...」

「う、嘘だろ?」 

 戦力を消耗しきったこの時に一番会いたくなかった最悪のライダーが

満と仲村の目の前に姿を現した。そう、仮面ライダー王蛇だ。

「さぁ、殺し合おうぜ?お前らぁ!」 

 王蛇からは逃げられない。

 目の前に居る獲物達へと毒牙を剥いた悪の権化は、その顎を開いて

宙を舞って手負いのライダー達に躍りかかったのだった...。

189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:26:56.28 ID:L6BVEgLS0
〜〜

 体力、精神力、そしてカード。自分達とは対照的に全てが万全の状態の

王蛇が次に何を仕掛けてくるか不明である以上、王蛇の攻撃圏内に

留まるのは自殺行為に等しい。   

「散って!」 

「strike vent!」

 咄嗟に叫んだ満の声に反応した仲村は近くにあった車の後ろに身を隠す。

 対照的に満はストライクベントを呼び出し、懸命に仲村から自分へと

浅倉へと注意を惹き付けようとしたが...

「余計な事をするな!」

「Adbent!」 

 アドベントによって召喚された契約獣、ベノスネーカーがそれを阻む。

 それどころかミラーモンスターさえ切り裂くアビスクローの水撃を全部

受けながら、ベノスネーカーは一向にピンピンしている。

(くそ!このモンスターもあれか...上級モンスターってやつか)

 それを理解した満は、迷わず撤退を選んだ。

 しかし、ベノスネーカーは、地上に上がる通路に陣取って、アビスの

逃げ道をふさぎ、鎌首をもたげいつでも毒液を発射できるように構えた。

 ベノスネーカーにしてみれば、眼前に居るのはいつもの餌でしかない為、

必然的に今までの経験則に従った行動を取るのは当然だった。

 相手が疲れるまで適当に相手をして、相手が万策尽きた時点で捕食する。

 即ち、持久戦である。

 アビソドンでなければ、ベノスネーカーには対抗できない。 

 しかし、もうアビソドンは呼び出せない。
  
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:27:23.05 ID:L6BVEgLS0
「そうだ。しばらく遊んでいろ」

 水鉄砲を飛ばすだけのライダーを嘲笑った王蛇は、もう一人のライダー、

最初に自分が殺そうと決めたオルタナティブの捜索を悠々と開始した。

 ソードベントとファイナルベントを切った為、アビスの残りのカードは

二枚のアドベントとストライクベントの合計三枚だった。仲村のカードも

ソードベントとホイールベントの二枚しか残っていない。

「カードの残りの枚数なんて考えるな!逃げる事だけ考えろ!」

「逃げろ佐野!コイツは俺が食い止める!」

 そう叫んだ仲村はソードベントでスラッシュダガーを召喚し、猛然と

王蛇の後ろから斬りかかる。

「変わったカードだが、まぁいい...」

「Steal vent!」 

 牙召杖ベノバイザーに王蛇がベントインしたカードはライダーが持つ

アドベントカードの中で最もいやらしい効果を持つスティールベント、

強奪のカードだった。 
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:27:51.86 ID:L6BVEgLS0
「そらそらぁ!どうした?もっと抵抗してみろよ...オラァッ!!」

 オルタナティブの長柄の剣を奪った王蛇は、オルタナティブ以上に

そのスラッシュダガーの性能を引き出していた。

 超振動波を刀身に宿し、その斬撃に触れた物全てを粉砕する剣は、

性能上では神崎士郎製のライダーを上回る強化戦闘用スーツを、その刀身

から発せられる超振動波と重い一撃で軽々と粉砕する。

 本来なら両手持ちの大剣であるスラッシュダガーを王蛇は片手だけで

軽々と無軌道に振るい続けた。

「あがあっ!ぐっ、がぁっ!ああっ!」

 薙ぐ、斬る、突く、払う、打つ。

 刃、刀身、柄、棘と余す事なくスラッシュダガーの特性を生かした

滅多打ちは遂にオルタナティブのカードデッキを捉えてしまった。 

 ぱきぃん!

「ぐああああああああああああ!!!」

 左斜め上からデッキを切り裂かれたオルタナティブの変身が解ける。

「先輩!仲村先輩ッ!」 

 満は変身の解けた仲村の元へと駆け寄ろうとするが、それを防いだ

ベノスネーカーはその口から大量の毒液を噴射する。

「クッソオオオオオオオ!!!」

 アビスクローから吐き出される高水圧の水を地面に叩き付け、瞬時に

毒液の射程外から自らをはじき飛ばしたアビスは、青い炎状のエネルギー

波を纏ったスラッシュダガーに貫かれる仲村をただ見続ける事しか

出来なかった。 
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:28:25.43 ID:L6BVEgLS0
「ああっ...ああああああ!!!!」

 なすすべもなく炎に焼かれた仲村の残骸にベノスネーカーが食いつく。

「!」

 しかし、それによって隙が出来た。

 脇目も振らずに満は駆けだした。

「おい、どこに行く...戦いはまだ終わっていないぞ...」 

 ユラリと幽鬼のように立ち上がった王蛇は手に持っていたダガーを

満の背中めがけて全力で投げつけた。

「あぐぅっ?!」 

 脇腹を削ったその一撃は、満の恐怖心を掻き立てるのには充分だった。

「終わりだ...」

「Final vent!」

 王蛇のファイナルベントが発動する。

 アビスめがけて猛然と駆け出す王蛇の背後にベノスネーカーが追走する。

「だぁっ!」 

「シャアアアアアアアア!!!!」

 空中に飛び上がった王蛇の背後からベノスネーカーが勢いよく毒液を

吐き出し、その勢いに乗った王蛇は足をバタつかせながらアビスが

盾代わりに構えた右手の手甲を連続蹴りではじき飛ばしにかかる。

 猛毒をまとった王蛇の必殺技がアビスの身体に叩き込まれようとした、

まさにその時...
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:28:53.35 ID:L6BVEgLS0
「Freeze vent!」

 ベノスネーカーの動きが停止した。

「何?!」

 中途半端に吐き出された毒液により、本来の威力を出せなくなった必殺の

ファイナルベントは満のアビスクローをはじき飛ばし、その腹に二発の

連続蹴りを喰らわせただけに終わった。

「がはっ、ううぅぅうううううう...」

 骨を折られたような痛みが走るが、満はすんでの所で生き残った。

「逃げろ!早く!」

 振り返ると、そこにはもう一人の仲間が王蛇と相対していた。

「くっ....」

 辛くも命を拾った満は、呼び出したライドシューターへと乗り込み、

王蛇の毒牙から逃げ出す事に成功したのだった。

194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:29:22.26 ID:L6BVEgLS0
 〜〜〜〜〜〜

第十四話 英雄と怪物


「....お前、何者だ?」

「英雄。とだけ名乗っておこうか」

 日の光の当たらない地下で二人のライダーが対峙する。

 タイガと王蛇だ。

「ねぇ、僕の仲間を殺したのは...君なの?」 

「ああ。武器を奪って串刺しにして殺してやったぜ?」

 哄笑しながら王蛇は最後のカードをバイザーにベントインする。

「どうした?俺が憎いか?」

「別に...今から死ぬ相手にそういう感情なんか持つわけないじゃん」

「ただ、君みたいな人間はライダーに相応しくないと思うんだ」

「だからさ...死んでよ」

 無意味な挑発に乗る事なく、タイガは冷静に白召斧デストバイザーを

青眼に構えた。

「うああああああ!!!」

 雄叫びを上げる王蛇はなりふり構わぬ猛攻をタイガに仕掛けた。

 正面から斬りかかった王蛇とは反対の方向に身体をスライドしたタイガは

デストバイザーの刃を水平に倒し、斧の水平な面でベノサーベルを完全に

受け止めた。
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:29:49.40 ID:L6BVEgLS0
「やるな!」

「そうでも、ないけどっ!」

 先程の二人と違い、自分と同じ白兵戦を得意とするライダーとの戦いに

王蛇の心は燃え上がった。

 既に自分に残されたカードは一枚もない。

 このベノサーベルを失ってしまえば、その瞬間、死に喰われるだろう。

 だが、それがいい。

 もっと自分を死に追い込んでくれ!

 死と生の狭間で味わえる死の恍惚と生の渇望が俺を強くする!

 タイガの足を踏みつけ、転がるようにして距離を取る。

「ぐっ!」 

 タイガも王蛇が再び自分との距離を詰めてくる前に体勢を整えた。

「advent」

 デッキからタイガが選んだカードはメタルゲラスのカードだった。

 唸り声を上げたメタルゲラスがタイガの隣から姿を現す。

「メタルゲラス。アイツを半殺しにして捕獲しろ」

 有無を言わさぬその命令に忠実にメタルゲラスは従った。

 頭部に生えたドリル状の角は折れてしまったが、それでも両手に生えた

頑丈で鉄板をも切り裂ける鋭利な爪や巨体を活かした突進攻撃は未だに

健在である。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:30:16.69 ID:L6BVEgLS0
「ウゴオオオオオオオオオ!!!!」

「ぐはぁっ!」

 王蛇にタックルを仕掛け、ベノサーベルを吹き飛ばす。

 まるでダンプカーに追突された人間のように宙を舞う王蛇の落下地点に

メタルゲラスはすかさず走り込む。

「ブモオオオオオオオオオオ!!!!」

 身体がバラバラになりそうな衝撃を堪えて立ち上がろうとした王蛇の

頭を掴んだメタルゲラスは、そのまま近くにあった駐車場を支える巨大な

コンクリートの柱に無我夢中になって王蛇の頭を叩き付け始めた。

「がっ!ごっ!うっ、がっ!」

「フゴオオオオオ!ゴオオオオオオ!!」

 メタルゲラスは、王蛇の首の骨が砕けてブラブラと揺れているにも

拘わらず、一向にその執拗な攻撃の手を緩める事はなかった

「もういいよ。メタルゲラス」

 ようやく落ち着きを取り戻したメタルゲラスは、荒い息を吐きながら

ぐったりと動かなくなった王蛇の死体を取り落とした。

 充分すぎる成果に満足そうな笑みを浮かべたタイガは、最後のトドメを

さすためにカードからファイナルベントを取り出した。

「仲村君の死は決して無駄じゃなかった。彼は嫌な奴だったけどね」

 心の中で香川の教えを反芻した東條は、浅倉の凶行によって犠牲になる

多数を救うための少数の犠牲となったかつての仲間に鎮魂を捧げた。
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:30:52.47 ID:L6BVEgLS0
「さよなら」

 短く呟いたと同時にバイザーにファイナルベントが挿入される。

「final vent!」

 これでまた一歩英雄に近づいた。

 満足げな笑みを仮面の下で浮かべたタイガのファイナルベントはこの先

王蛇の身体を貫く事はなかった。

「Time vent」

 その瞬間、全ての時が巻き戻された。

 一分、二分、三分、そして四分前まで時が遡る。

 王蛇は死なず、逆に王蛇に死をもたらしたタイガの姿は見当たらない。

 そして..時はオルタナティブが王蛇に滅多打ちにされている所まで

遡ったのだった。

「ぐはっ!っこのおおおおおおお!」

 王蛇の力任せの斬撃に身をさらし続けていたオルタナティブが怒声と

同時に大ぶりの一撃を回避し、紙一重で命を拾った。

「Wheel vent!」

 デッキから最後の一枚を引き抜いたオルタナティブの元にバイクに

変形したサイコローグが駆けつける。

「面白い...来いよ...」

 王蛇との間に充分な距離を取ったオルタナティブは一瞬で王蛇にトドメを

させる速さにまでサイコローグの速度を調節する。

 しかし...
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:31:21.57 ID:L6BVEgLS0
「うわああああああ!助けてええええええ!!」

「佐野ッ!」

 ベノスネーカーに追われる仲間を仲村創は見捨てる事が出来なかった。

「なんだ逃げるのか!俺と戦えーっ!」

「誰が戦うかよ!」 

 王蛇に背中を向けたオルタナティブは猛スピードでベノスネーカーへと

突っ込んでいった。

「全く、少しは後先考えなよ...二人ともさ」

「?!」 

 王蛇の怒声の後に続いた氷のような無感情な声が時を凍らせる。

「Freeze vent」

 ベノスネーカーとサイコローグの動きが瞬時に停止した。

「わあああああああ!」

 時速100km以上で驀進していたオルタナティブの身体が宙を舞う。

 天井に背中を痛打した仲村だが、落下地点に駆けつけたタイガのお陰で

なんとか命を拾う事に成功した。
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:31:49.15 ID:L6BVEgLS0
「東條...お前、遅かったじゃないか」

「まずはお礼が先だと思うんだけどな」

「ったく...お前は本当に嫌な奴だな」

「助かったよ。ありがとう」

 自分を受け止めたタイガに不承不承といった感じでオルタナティブは

感謝の言葉を伝えた。

「東條、あと何枚カード残ってる?」

「四枚かな。でも、ここは...」

 怒りに燃え、自分達めがけて突進する王蛇を視界に捉えたタイガは、

デストバイザーを展開し、メタルゲラスのカードをベントインした。

「Advent」

「フゴオオオオオ!」

「じゃ、そういうことで...あとはよろしく頼んだよ」

 王蛇めがけて突進するメタルゲラスに囮を頼んだタイガは、停止した

ベノスネーカーの下で泡を吹いて気絶しているアビスを抱きかかえ、

悠然とミラーワールドから現実世界へと帰還したのだった。
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:32:21.90 ID:L6BVEgLS0
 〜〜〜

「先生、今回の探索場所でしたがやはりダメでした」

 ミラーワールドでの探索を終えた満と仲村は、先程の探索結果を香川に

報告していた。

「そうでしたか...ですが、危ないところでしたね」

「はい。浅倉威にも出くわしたし...本当に死ぬかと思いましたよ」

「いや〜本当に東條先輩が来てくれなかったらヤバかったですね。はい」

「ま、なにはともあれ、全員無事で良かったですよ」

「仲村君。オルタナティブのデッキを見せて貰えませんか?」

「え?ああ。はい」

 東條からオルタナティブのデッキを預かった香川は素人にはとうてい

理解できないほどの複雑な機器を持ち出して、その中にカードデッキを

差し込み、パソコンを叩いてなにやら分析を始めたのだった。

「えっと...香川先生は、なにやってるんですか?」

「ああ。佐野君は初めて見るんだっけ、これ」

「先生は天才なんだよ。疑似ライダーのデッキを作れるほどのね」

 東條が佐野の疑問に当然の答えを返した。

 前に東條の口から香川がオルタナティブのデッキを神崎士郎のデッキを

元に作り出したという事を聞かされていた満は、なんとなく凡人と選ばれた

人間の差というものを痛感していた。

「仲村君。もういいですよ」
 
「はい」
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:32:52.05 ID:L6BVEgLS0
 機械からデッキを取り出し、仲村へと返却した香川はしばしの逡巡の後、

三人の生徒達へと本題を切り出した。

「では、私の方からも報告があります」

 香川が真剣な表情で話を切り出す。

 デスクの引き出しを開けた香川は、一通の大きな封筒から何枚もの

写真を撮りだしては、一つ一つをグループのように分けながら配置した。

「三人がミラーワールドで調査をしている時、神崎士郎が動きました」

「....」

「これを見てください」

 一枚の写真を東條に渡した香川は、もう一枚の写真を仲村に渡す。

「先生、なんですかこれ?」

 満に写真を押しつけた仲村は神崎士郎の意図を掴みあぐねるあまり

不満げな声をあげながら香川に詰め寄った。

(神崎士郎と...これは、手塚さん?)

 仲村から渡された写真に目をやると、そこに写っていたのは満にとって

見知った顔である手塚海之だった。

 どこかの街中に姿を現した神崎士郎が、何かを手塚に手渡している。

「先生...一体神崎士郎は何をライダーに渡したんでしょうか」 

 東條から二枚目の写真を受け取った満は、そこに写っている人物に

驚きを隠せなかった。

「城戸さん...」

 かつて自分に救いの手を差し伸べた相手が神崎士郎から、何かを

受け取っている。一枚目の写真に比べ、二枚目の写真は何が手渡されて

いるのかを鮮明に映し出していた。

 それは、一枚のカードだった。
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:33:19.11 ID:L6BVEgLS0
「これを見て皆さんはどう思われますか?」

「どうって...うーん、依怙贔屓っすかね?」

「依怙贔屓って...でもなぁ...そういう見方もあるよなぁ」

 満を窘めようとした仲村も、案外的を射ているその指摘に悩みながらも

同意を示す。そんな二人の意見を元に東條はある仮説を立てた。

「依怙贔屓だけで済めば苦労しないよ」

「多分、神崎士郎はライダーバトルを早く終わらせたいんだよ」

「そう考えてみると、渡された二枚のカードは案外厄介かも」

「ってことはあの二枚は強化アイテムってことになる...のか?」

「おそらくは....東條君の言ったとおりでしょうね」  

「今まで傍観に徹してきた神崎君が動くという事は」

「あのカードは戦況さえひっくり返す切り札ってことになりますね」

「ええ。あの二枚はライダーの力を倍以上にするカードでしょう」

 ライダーバトルが始まってから、今日で3ヶ月が経過した。

 1ヶ月のペースで考えると13人の内、既に3人が平均して1ヶ月ごとに

脱落している計算になる。

 神崎士郎は1年間でライダーバトルに決着をつけろと言っていた。

 しかし、1年間も待ちきれない事情があったとしたら?
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:33:47.37 ID:L6BVEgLS0
「神崎の野郎....人の命を何だと思ってやがる...」 

 怒りに燃えた視線を香川に向けた仲村は歯を食いしばりながら、

手を震わせながら言葉を絞り出した。

「神崎優衣...あいつさえ、あいつさえ殺せば...」

「落ち着こうよ仲村君。確かに神崎兄妹はろくでもないけどさ」

「今の問題はライダーを強化するカードをどうするかってことでしょ?」

 そうだ。東條の言うとおりだ。

 もし二枚の内の一枚が、ライダーバトルに乗り気の奴の手に渡って

しまったら?それが浅倉威のような人殺しを楽しむ奴だったら...

「であれば、ライダーバトルに乗り気な人間の手には渡せませんね」

 決意を固めた瞳の香川が決断を下す。
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:35:51.80 ID:L6BVEgLS0

「佐野君、仲村君、そして東條君」

「はい」

「我々の次の方針を発表します」

「浅倉威を、我々の手によってライダーバトルから脱落させる」

 香川の言葉に東條が興奮する。 

「戦いは中盤に差し掛かり、既に三人が脱落しています」

「浅倉威は法では裁けない。しかし奴を野放しにすればまた人が死ぬ」

「そして、奴が現時点で最も手にかけやすいのが我々ライダーなのです」

「ですが、他のライダーが私達の提案に耳を傾けるとも限らない」

「手を組んだと見せかけ、漁夫の利を得ようとする輩もいる筈ですからね」

「なので、浅倉に手を出すのは彼が他のライダーと交戦中の時だけです」

 香川の言う事に間違いは見当たらなかった。

 多数のための少数の犠牲という理念を掲げた香川とそれに従う東條に

とって浅倉威は裁かれて当然の悪人なのだから。

 香川陣営に身を置く満にとってもこの判断には異を唱えることは

できなかった。

 しかし、一つだけ気がかりな事があった。
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:36:27.25 ID:L6BVEgLS0
 
「あの、香川先生。その...浅倉を倒した後はどうするんですか?」

「どうする?とは」

「えっと...他のライダーも浅倉と同じように...倒すんですか?」

 そう、それが気になっていた。

 香川の英雄像がいまいち掴めていない満だが、もし浅倉を全員の力を

合わせて葬る事が出来たとしたとしても、ライダーバトルはライダー達が

最後の一人になるまで続行される。

 今一番知っておかなければいけないのは、香川英行という『部外者』が

どこまでこのライダーバトルに介入するつもりなのか?という事だった。

 ミラーワールドにおけるこの戦いに、いつでも途中退場可能な立場に

ありながら、常人には理解不能な正義を振りかざして戦いに介入する

この男の正気の限界を知らなければならない。

「何言ってんの佐野君。ミラーワールドを閉じるのはそういう事でしょ」

「ライダーなんて僕と同じで、まともな人間なんかいないんだよ」

(意味わかんねぇよ。なんだよコイツ、昔なんかあったのか?)

 気味の悪い笑みを浮かべた東條は、仮面ライダータイガはどうやら

このライダーバトルを最後まで戦い抜く気が満々のようだ。 

「どのみちここにいる時点で君もライダーの犠牲を許容してるんだよ?」

「佐野君。最初にこう言ったよね」

「俺は切り捨てられる1になりたくないって」

「これって完璧に自己保身だよね?人を殺しても生きたいって事だよね」

「それとこれとは...話が別だろ...」

「だから僕達を利用しようと仲間になった。皆分かってるんだって」

 東條に図星を突かれ狼狽する満を仲村と香川はじっと見つめていた。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:36:57.47 ID:L6BVEgLS0
 確かに、いざとなったらライダーを倒さなければいけないとは薄々

考えていたが、それでも実際にそういう場面になって、果たしてそこまで

自分は生きる事に執着できるのか? 

 いや、それ以前に自分は誰かを殺す覚悟をしてさえいない。

 でも...やっぱり...人は、殺せない。

 満はなぜ東條が躍起になって自分を拒み、絶対に仲間に加えようと

しなかった理由をようやく悟った。

 香川も東條も仲村も誰かを殺さなければならない現実を受け入れている

からだ。

 満が憧れた真司の理想と、東條が心酔する香川の理想との違いがまさに

そこにあった。

 だからあの時、香川はあり得ない条件を提示したのか...

「...東條君。君が思っているほど私は聖人ではありませんよ」

「出した答えが間違っていた事もあるし。今も悩んで迷っています」

「佐野君。私はね、仲間の命を最優先、至上として考えています」

「そこに他のライダーの命が介在する余裕はありません」

 やっぱり、コイツらは本当にまともじゃなかった。

 神話の時代でもないのに、今時英雄になろうとする人間の精神構造が

最初からまともであるわけがない。
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:37:28.20 ID:L6BVEgLS0
「君の知りたかった私達の真意は全てここに集約されます」

「無論、ライダーバトルは最大限回避します」

「しかし、戦わなければ生き残れないのは等しく同じなのです」

「私も、君も、東條君も、仲村君も、そして他のライダーもです」

「引き返せるときはもうとっくに過ぎているんですよ」

「くっ....」

 何も言い返せずに黙った満に香川は厳かな声で、最後の機会を与えた。

「佐野君。そろそろ仮採用期間が終了します」

「続けるか、それとも辞めるのか?」

「自分の中で最後まで考え続けてください」

「では、今日は解散しましょう」 

「佐野君は、私から連絡があるまで待機していてください」

「はい...」

「よく考えて、後悔の残らない決断を下してください」

 結局、何も香川に言い返せなかった満は項垂れたまま、研究室を

後にした。

 覇気や生気がごっそりと無くなったその背中を見送った香川達は

より綿密に、より計画を確実な物とするための会議を再開したのだった。

208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:39:11.86 ID:L6BVEgLS0
 佐野君が香川陣営に上手く取り入った所で今日の投稿は一旦終わりにします。
 次の投稿は今日の夜か明日になります。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/26(水) 00:18:07.24 ID:M8oWzVTFO

展開が気になるな
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/27(木) 23:18:53.44 ID:uvG5UK3wO
まだか
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/28(金) 01:28:28.25 ID:SrD2OKeVo
これ、実は数少ないタイガが王蛇倒せるパターンだったやつなんじゃねぇの
ずりぃぞ神崎!!
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:34:40.37 ID:xchiMuX50
投稿が遅れてすいませんでした。これから投稿を始めたいと思います。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:35:28.98 ID:xchiMuX50
第十五話 覚悟

〜〜

「ただいま...」 

 久々に帰ってきたボロアパートは相変わらずの様相を呈していた。

 まさにゴミ屋敷寸前の懐かしい自分だけの居場所だ。

(はっ、まるでゴキブリの住処じゃんか...)

 片付ける気力も起きず、万年床のかび臭い匂いを放つ布団の中に

身を放り投げる。

 ばふん! 

「げっほ!げっほ!」 

 布団の中に溜まっていた埃やダニの死骸が一斉に舞い上がる。

「なんだよこれ!くっそ!ふざけんなよ!」

 目の中に入り込んだハウスダストが染みる。

 慌てて水道の蛇口を捻った満は顔を念入りに洗い、目に入ったゴミを

洗い流したのだった。

「そうだな...洗濯しなきゃダメだよな」

 実家を出てこのボロアパートに入居したのが19歳の秋だった。

 その時に買ったっきり、洗濯もなにもしていなかった。

「はぁ〜。ほんっと〜についてないよな〜」

「あーあ。もう嫌になっちゃったよ」
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:35:58.98 ID:xchiMuX50
 この数ヶ月、自分なりに少しは強くなれたかなと思っていた。

 しかし、世界はとても広かった。

 歪な正義感であっても、それを最後まで貫き通す断固たる決意を持つ

英雄の覚悟を説く男や、ライダーでありながらライダーとは戦わずに戦いを

止めようと奔走する男もいる。挙げ句の果てにはこの戦いの優勝候補の

一角である連続殺人鬼の様な奴もいた。

 まるで夢の中に放り込まれたような気持ちだった。

 何の力も持たない一般人である自分が、そんな奴等と命懸けの戦いを

繰り広げているなんて一体誰が予想できただろう。

「親父...教えてくれよ...」

「アンタ、一代で会社興したんだろ?」

「俺なんかよりもっと大変な思いしたんだろ?」

「なぁ...教えてくれよ」

 親のすねをかじり、将来の事を何も考えていなかった己の愚かさが

今になって恨めしいと思うようになっただけ、自分もヤキが回ったなと

満は溢れる涙をタオルで拭う。

 母もいない、兄弟もいない、頼れる友もいない。

 結局、虚しい人生だったなと満は涙をこぼした。

「父さん...父さん...」

 涙が溢れ、どうしようもないほどの悲しみが満を襲う。

 訣別したとは言え、たった一人の家族なのだ。

 不器用なりに、たった一人の息子との絆を失うまいと頑張っていた

あの姿に自分は応える事が出来なかった。嘘と怠惰でしか応える事が

出来なかった。
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:36:26.87 ID:xchiMuX50
 プルルルルル....

「なんだよ!放っておいてくれよ!」

 空気を読まない電話が満の邪魔をする。

「クソが!」

 怒り狂った満は電話から受話器を取り、乱暴に電話の向こうの相手に

詰め寄る。

「もしもし?どちらさまですか?」

「あ、よかった。佐野満さまですね」

「そうっすけど、どちらさまですか」

「申し遅れました。私、貴方のお父上の秘書を務めている佐藤と言います」

「あ!もしかしてしょっちゅう親父の家に来てた人ですか?」

「そうです。ああ、私の事を覚えて頂いていたんですね。満様」

 かつて家に来ていた父親の秘書の事を思い出した満は、なぜ自分なんかに

佐藤が電話をかけてくるのかの検討がつかなかった。

「えっと...佐藤さん?僕に電話って、親父になんかあったんですか?」

「...はい。落ち着いて聞いていただけますか」

「...大丈夫、だと思います」

 佐藤の確認に、最悪の事態を想像した満は震える手を握りしめた。

 この先、何が起きようと耐えるために。

 そして、その悪い予感は外れる事なく的中した。

「お父様が、倒れました。もう、長く...ありません」

216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:36:57.69 ID:xchiMuX50
 〜大学病院〜

 電話があった翌日、満はスーツに着替え、父の秘書である佐藤が寄越した

高級車に乗り込み、父が入院している大学病院に向かった。

(親父...)

 二年前に家を飛び出したきり、父親とは一切の連絡を取っていない。

 果たして今の父親がどのように変わっているのか?また、病室で再会

したときに、一体どのような言葉をかければいいのか?

 考えも、言葉もまとまらないままに車は遂に病院に到着した。

「佐野様。目的地に到着しました」

「あっ。うん...ありがとうございます」

 運転手に礼の言葉をかけた満は、入り口で待っていた佐藤と合流し、

父が入院している病室へと向かい始める。

 廊下を歩き、エレベーターに乗り込み、一階から最上階へ。

「満様。ここが社長の病室です」

「そうですか...」

 父がいるらしい804号室はどうやら個室らしい。

「あの、佐藤さん。親父はなんの病気で入院してるんですか?」

 その言葉に、佐藤は一瞬顔を歪めた後、一言呟いた。

「末期の肺ガンです」

「そんな...肺ガンって...」

 現実を受け止めきれずに、満は膝から崩れ落ちた。

「いつから、なんですか...」

「2年前から、です」

 弱々しい満の瞳を見据えた佐藤は、順を追って自分の雇い主の病状の

変遷を正確に話し出した。
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:37:24.31 ID:xchiMuX50
「社長の病気の予兆を初めて私ども幹部が認識できたのは二年前でした」

「本当に、唐突だったんです」

「会議中に激しく咳き込み、大量の血を吐き出したんです」

「医者が言うには、過度のストレスと大量の喫煙が原因と...」

(おい...それって、俺が家にいたときから発症してたんじゃ...)

 途切れ途切れに飛び込んでくる佐藤の話を聞きながら、満は自分が

まだ高校生の時の、家を追い出される前に共に過ごしていた父親の記憶を

頭の中から引っ張り出そうとしていた。

 しかし、ボロボロと涙を流す佐藤の言葉がそれを許さなかった
 
「二年前、社長が満様を勘当なされた時には病がかなり進行していました」

「どうして、そんな大事な事を俺に教えてくれなかったんですか?」

 動揺と怒りが混じった感情に突き動かされた満は目の前の男の胸ぐらを

ねじり上げ、壁に叩き付けた。

 真実を語らないうちに、自分の目の前から逃げ出さないように、懸命に

力を込めながら満は佐藤に食ってかかる。

「だって、ねぇ?そうでしょ?俺、親父の息子なんだよ?」

 厳しい父親だった。

 数少ない父との思い出を思い出しても、一緒にいて楽しかった思い出の

数よりも、怒鳴られて叩かれた辛い思い出の数の方が多かった。

 それでも、そうだったとしても...世界でたった一人の家族なのだから。
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:37:50.04 ID:xchiMuX50
「お袋も死んで、たった一人残った家族なんだぜ?」

「勘当されるようなバカ息子でも家族には変わりないだろ?」

「なぁ?!親父の頼みでも、息子に伝えるのが当然じゃないのかよ!」 

 だから、どうしようもないほど涙が溢れて止まらない。

 血を分けた家族でありながら、結局互いに歩み寄れないままに死を迎え、

たった一人の息子である自分を一人この世に置き去りにして、もう二度と

会えない場所へと旅立つ。

 そんな冷たい別離を受け入れなければならない悲しみがあっていいのか。

「申し訳ありませんでした!」 

「ですが、ですが...社長は、社長は....」

「満様に自分の無様な姿を見せたくないと...」

「これ以上、満様の人生の負担になりたくないから...頼むと...」

「関係ない!そんなの関係あるかよ!」

 長年父親の秘書を務めた佐藤の泣訴も、その真意も理解できる。

 息子には息子の、秘書には秘書に対してかける信頼の重要度の違いだって

理解できている。

 理解できているからこそ、割り切れないのだから。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:38:16.53 ID:xchiMuX50
「ああ...くそ...なんで、なんでこうなるんだよ...」

「俺は、俺はッ...幸せになりたかっただけなのに...」

 親子三人で漫然と、毎日を楽しく過ごしたかった。

 それだけでよかった。それだけが満の望んだ幸せだった。

 今となっては、その夢が叶う事はもう二度と無くなってしまった...

「...佐藤さん、親父はまだ意識があるんですか?」

「はい。ですが、最近意識の混濁が見られるようになって...」

「まだ、俺の事覚えていますかね...親父」

「ええ」

「そうですか...」

 体を震わせた佐藤は、それを最後に何も語る事なく口を閉ざしてしまった

 そんな佐藤を一瞥した満は、遂に父の病室のドアに手をかけた。

「厳しいだけで父親らしいことしてくれなかった親父だけど」

「それでも、俺にとってはたった一人の肉親なんです」

「佐藤さん」

「今まで、親父の事を支えてくれて本当にありがとうございました」

 自分に言い聞かせるようにして、満は後ろを振り返る事なく扉を開き、

父が眠る病室の中へと入っていった。

 背後から聞こえるすすり泣きが号泣に変わる前に、扉が閉ざされた。

220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:38:47.59 ID:xchiMuX50
〜病室〜

「親父、入るよ」

 ドアを閉めた満は、カーテンを開いて父が眠るベッドの前に立った。

 傍に置いてあったパイプ椅子に座った満は、変わり果てた父の姿に

衝撃を受けながらも、それでも必死に動揺を堪え、点滴が繋がっていない

左腕をそっと握りしめた。

「大分、やつれちまったんだね...」
 
 久々に再開した父は物言わぬ生ける屍へと成り下がっていた。

 自分の倍以上太っていたその身体は薬の副作用か、あるいは癌が全身を

蝕んだせいかは明らかではないが、もう既に完治が望めない程に、死の

香りがその身にまとわりついていた。

「...人が悪いよな。佐藤さんも、アンタも...」

「一目見て助からないって分かる所まで来ちゃってるじゃんか...」

 力なく微笑んだ満は、悲しい笑みを浮かべながら、いつ目が醒めるとも

分からない父に向かい、家を出た二年間の思い出を話しだした。
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:39:17.02 ID:xchiMuX50
「親父、アンタに怒られてさ、家を出て社会を見てきたよ」

「って言っても...まぁ、俺の出来る事なんてたかが知れててさ...」

「小中高でやってきたことの繰り返ししながら、毎日バイトしてた」

「何遍も怒鳴られて、叩かれて、家に帰ったら誰もいなくて...」

「そんな毎日をずーっと、家出てから二年間過ごしてきたよ」

 満の言葉に、微かに反応するかのように握られた左手が動き出す。

 ピクピクと動いた左腕に少し驚いた満が顔を枕の方向に向けると...

「おぉ....満、か」

 目を覚ました父親が自分を焦点の定まらない瞳で見据えていた。

「起きたんだね。親父」

「もう、先が長くないんだって?」

「ぁぁ...末期の癌らしくてなぁ...全身がもうおだぶつだ...」

 力なく微笑んだ父の顔にたまらないやるせなさを覚えた満は、今すぐ

逃げ出したくなる自分の心を懸命に押さえつけた。

 コイツさえ父親じゃなければ...

 あれだけ憎んで恨んだ相手が、今ではその憎らしささえ思い出せない程、

衰弱している。それが無性に悲しかった。
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:39:54.87 ID:xchiMuX50
「満...お前は今、何してる?」

「バイトだよ。掛け持ちしながら殆ど毎日バイトしてる」

「なにをまた...お前は、本当にキリギリスだな...」

「そんなこと、だから..勘当...されるんだ...」

「確かに、そうかもしれないね」

「だけどさ、勘当されて良かったかも知れない」

 息子の一言に驚いた父は、黙ってその先を促した。

 息子は、父の無言の催促に答えることにした。

「俺さ、将来は親父の会社で給料ドロボウでもいいやって思ってたんだ」

「だって憎まれる奴ほど長生きするって世間でよく言うだろ?」

「親父が生きてる限り、親父の会社は安泰だってそう思ってた」

「でも、それじゃダメだって気が付いたんだ」

「気が付くまでがすんげーしんどかったんだけどさ」

「どんなにしんどくても、腹括ってやりゃなんとかなるんだよ」

「だから、今の俺は昔と比べて強くなった。どう?凄いだろ?」

「み、満...」

 数ヶ月前の神崎士郎との出会いによって、幸か不幸か満の人生は

急変を遂げた。

 命懸けの戦いと、それに参加するそれぞれが叶えたい願いを持っている

ライダー達との出会い。そして、自分が力及ばずに守る事なく命を落とした

人々達の無念。

 今までの自分が持ち得なかった大切な『なにか』を戦いを一つ一つ乗り

越えて手にしながら、今日まで満は生き延びてきた。

 この先も生き残れるかは分からないけど、何も成し遂げられなかった

過去の自分よりかは何歩も前進できたとは思っている。   
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:40:28.21 ID:xchiMuX50
「そうかぁ...あの性根の腐った満が、ここまで変わるとはなぁ...」 

 しみじみと呟いた父の顔から険しさが取れ、代わりに柔和な微笑みが

浮かび上がりはじめて来た。

「満...俺は、ダメな父親だった」

「母ちゃんが死んで、その辛さを忘れるために仕事に逃げちまった」

「本当はお前のことを...一番に見てやらなきゃならなかった...」

「でも、どうしても...どうしても...素直になれなかった...」

「母さん、優しかったよね。母さんとまだ、別れたくなかったんだよね」

「親父、分かってたよ...」

「あぁあぁあああ...そうだった。俺は、母ちゃんを愛してた」

「お前が生まれて三年後に、白血病で死んじまったんだ...」

「俺は何も出来なかった...俺と結婚したばっかりに...アイツは...」

「違うよ、親父。それは違う」

「アンタが母さんを愛していたように、きっと母さんもアンタを愛してた」

「だって、俺の記憶の中の母さんはずっと俺とアンタに笑いかけていた」

「そうじゃなかったら、きっと母さんは笑ってくれなかったと思う」

 家族三人で過ごした記憶は数えるほどしかなかったけれども、それでも

父がいて、母がいて、そしてその二人の真ん中に自分がいた。 

 今は追憶の中ででしか、その薄れ行く思い出の名残を探せないけど。
 
 愛は確かに『心』の中に確かに残っていた。

 それだけで充分だった。それだけでもう、充分だった。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:41:09.94 ID:xchiMuX50
「親父、俺はもうアンタには会えないかも知れない」 

「俺も俺で、命懸けで戦わなきゃいけないところまで追い込まれてるんだ」

「だから、最後にこうやって話せて良かったよ」 

 離すまいと握りしめたその手をゆっくりと離した満は椅子から立ち上がり

父に背を向けて歩き出した。

 もう、ここに戻ってくる事はないだろう。

 覚悟を決めて、一歩前に踏み出す。

「み、つ、る....」

「....」

「がんばれ....」

「.....」

「親父。もう少しだけ悪さしてから俺もそっちに行くから」

 最後に一度だけ振り返った満は、何かを掴むように伸ばされた父の腕を

一瞥した後、病室から出て行った。

「満様...」

「佐藤さん。親父の遺言がどうか分からないけどさ」

「俺、親父の会社には一切関わらないから」

「親父が裸一貫で自分の会社をデカくしたように」

「俺も、俺の力で何かを手に入れてみたくなったから」

 深々と頭を下げた佐藤にそう言い残した満はエレベーターに乗り込んだ。

 誰もいないエレベーターが一階に辿りつくまでの間、満はつかの間の

孤独を甘受していた。
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:41:35.02 ID:xchiMuX50
 エレベーターが一階に到着する。

 扉が開いたその先に、広大な景色が広がっている。

 キィィィィ....ン、キィィィィ....ン

 耳に飛び込んできた金属音と、すぐ近くにある大きな窓ガラスから

数体のモンスター達が人間を攫おうと様子を伺っていた。

「戦え...戦え...」 

 あの日、あの時に神崎に言われた言葉を反芻しながら満は前を見た。

「神崎。お前の戦いが一人しか生き残れないものだとしたら」

「俺はその最後の一人になってやるよ」

「お前の願いは叶わない。いや、絶対に叶えさせない」

「だから」

 戦わなければ生き残れない。

「変身!」

 ポケットからデッキを取り出し、満は己が姿を戦士に変えた。

「行くぞぉおおおお!」

 己を鼓舞する雄叫びを上げながら、戦士は猛然と鏡の中へと駆け込む。

 覚悟を決めた満の顔からは、一切の容赦という物が消え失せていた。

226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:42:04.01 ID:xchiMuX50
第十六話 再会

 
「どこだ!どこにいる!」

 アビスに変身した満は反転した病院の大きなホールの中心に立ち、唸る

ような雄叫びを上げながら、近くにあったソファーを蹴り飛ばした。

 強化された脚の剛力に耐えきれずにソファーは中身をぶちまけて

轟音を立てながら、近くにあった自動販売機にぶち当たって壊れた。

「ブルルルルル....!!!!」 

 ゼブラスカル・アイアンが二階のロビーから不意打ちをかますべく、

音を殺して満の背後に飛び降りる。

「うらぁ!」

 振り向きざまに振るう左拳が空振りするが、アビスはそのままの勢いを

保ちながら、身体をかがめて左回転をしながら、ゼブラスカルの足を

ひっかけ、その重心を崩した。

「死ね」

 手早くモンスターの武器を引きはがしたアビスは、アビスバイザーで

ゼブラスカルの両目を潰し、股間に全力の蹴りを叩き込んだ。

「Strike vent」

「ギエエエエエエ!!」

 ミラーモンスターに性別はないが、それでも自分と同じ位の筋力で

全力の蹴りを叩き込まれて無事なモンスターは殆どいない。

 痛みに悶えるゼブラスカルを無理矢理立ち上がらせたアビスは、右手の

アビスクローによる零距離射撃でその頭を一瞬で切り落とした。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:42:32.13 ID:xchiMuX50
「Advent」

 バイザーから二枚目のカードを引き抜きベントインする。

 召喚されたのはアビスハンマーだった。

「飯だ。喰え」

 無機質な声でアビスハンマーに餌を蹴り飛ばしたアビスは、正面から

歩み寄ってくるライダーを見て歓喜の笑みを浮かべた。

 黒と青を基調としたライダー、そう...ナイトだ。

「アビスハンマー!」

 ゼブラスカルを平らげたアビスハンマーは、都合良く目の前に現れた

新しい餌の存在に歓喜の叫びを上げながら突撃していった。

「そうか...丁度良い」  

「Nasty vent」 

 ナイトがバイザーにベントインしたカードはナスティベント。

 超音波による敵の攻撃の妨害を目的とした補助カードである。

 頭を抱え込んだアビスハンマーから充分な距離を取ったナイトは自分の

バイザーに二枚目のカードを挿入し、油断なくその切っ先をアビスに

向けた。

「それで牽制のつもりか?」

 漆黒の大槍を構えたナイトと対峙するアビスは不敵な笑みを声音に

滲ませ、アビスクローの照準をナイトに合わせた。

「来い!」

「うおおおおおおお!」
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