佐野満「えっ?強くてニューゲーム?」

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228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:43:17.07 ID:xchiMuX50
 広々としたホールに二人のライダーの雄叫びが反響する。

 ナイトはトリックベントをベントインし、数によるアビスの撹乱を試みる。

 アビスは強化された脚力を生かし、縦横無尽にナイトの分身達の間を

かいくぐってはアビスクローとアビスバイザーによる二重砲火による

力押しの肉弾戦で分身達を相手取り、ナイト本体へと肉薄していく。

 作り出されたナイトの分身は本体を合わせて6体。

 対してアビスは召喚獣アビスハンマーを加えてたったの二人。

 いかにアビスがナイトよりも上の戦闘力を誇るとは言え、四人分の

戦力差を相手取るのは至難の業だった。

 しかし

 今まで自分達が倒してきたミラーモンスターの中には、その全力を

見せる事なく散ったモンスターもいるという事をナイトは失念していた。

「アビスハンマー!潜れ!」

「ッシャアアアアアアアアア!!!」

 満の契約獣の片割れであるアビスハンマーは水中、土中を問わずに時速

125kmの高速移動が可能なモンスターだった。

 そして、ミラーモンスターにとってコンクリートなど普通の地面と

大差ない程度の違いでしかない。

「なにっ!」

 一瞬のうちに姿を消したアビスハンマーに動揺を隠せなかったナイトは

まだ分身が無事である内に、本体を庇うように一ヶ所に集中する。
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:43:43.78 ID:xchiMuX50
「喰らえ!」

 分身達が一ヶ所に集まったそのチャンスを逃す事なく、満は最大出力の

アビスクローの水撃をナイトに見舞う。

「ぐああああああああ!」

 津波のような大きな波状攻撃により、あれだけいた分身達が次々に

その姿を消していく。

「そこか!」

 左の壁に勢いよく叩き付けられた最後の一体が本体である事を悟った

アビスはアビスハンマーにナイトを羽交い締めにするように指示を出し、

自分はその正面に陣取り、今度こそ確実に撃ち殺せるようにアビスクローの

照準をナイトの頭に当てた。

「ショオオオオオワアアアアアア!!!!」

「ぐはっ!」

 土中を伝って壁中から手と足を突き出したアビスハンマーはその怪力を

遺憾なく発揮し、ナイトの両腕と両足を捕まえ、羽交い締めにした。

 万力のように背後から絡みついてくるアビスハンマーに為す術もなく

ナイトは締め上げられ続けた。契約モンスターを呼び出そうにもカードを

入れるためのバイザーは先程の一撃でどこかに吹き飛んでいた。

 あっけなくついた決着に拍子抜けを隠せなかった満だが、気を取り直して

アビスクローによるナイトのデッキ破壊を試みる。

「これで終わりだ。じゃあな」  
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:44:19.45 ID:xchiMuX50
「待て!」

 だが、そうそう事が上手く運ぶ訳がなかった。

「手塚...」

「蓮。待ってろ、今助ける...」 

 病院の正面玄関から姿を現したのは、満の命を救った恩人である

手塚海之だった。

「手塚さん。邪魔しないで頂けますか」

「それは...出来ない」

 照準をナイトから離さないアビスに対して気負う事なく泰然とした態度で

ライアは説得を開始した。

「佐野。答えてくれ。本当に、争う必要があるのか?」

「誰が、誰と、何の為に、戦いを止める」

「それをハッキリさせて貰えませんか?」

「こう言う形で貴方と再会するのは不本意なんですけどね」

「コイツは以前俺の命を狙った。そして、ついさっきも俺に襲いかかった」

「ライダーバトルに乗り気な奴が返り討ちに遭った」

「ただそれだけの話。ということで納得しては貰えませんかね?」

 以前あったときの満とは全く違う冷酷な物言いに、手塚は内心の焦りを

隠せなくなり始めていた。

 あの日見た夢がもうすぐ現実になってしまう。

 何もかもが夢で見たのと全て同じ光景だった。

 ミラーモンスターを追ってミラーワールドに入った蓮が運悪くライダーと

遭遇し、手も足も出ない危機に陥り、最終的に命を落とすという最悪の

未来を回避しなければならない。

 だが、今の満は既に浅倉や北岡と同じ匂いしかしない。

 そう、ライダーの戦いに乗った側の人間しか出せない危険な匂いである。
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:45:14.16 ID:xchiMuX50
(蓮...)

 手塚の沈黙を戦意と受け取った満は、ナイトを食べたくて堪らない

アビスハンマーの待機を解こうとした。

「佐野。お前の問いに答えよう」

「蓮が、城戸が、俺が、お前と手を取り合うために争いたくないんだ」

「だから、頼む。この通りだ」

 あろうことか自分の足下にバイザーを蹴り飛ばした手塚海之は丸腰の

ままアビスに頭を下げた。

「......」

 以前、自分が真司と手塚に言った事を思いだした満は、アビスハンマーに

ナイトを離すように命令を下した。

 不満げな唸り声を上げたアビスハンマーは、不満タラタラと言った様子で

蓮から離れた。

「手塚さん。頭を上げてください」

「すまない。恩に着る」

 足下に転がっていたライアのバイザーを拾い上げ、その持ち主へと手渡した

アビスは、床に無様に転がるナイトを一瞥した後、鏡の方向に向かって歩き始める。

 どのみち、モンスターを倒すという目的を果した以上、新たな敵が

現れる前に退散するのは当然の決断だった。
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:45:44.42 ID:xchiMuX50
「待て!」

 自分の背後から聞こえた鋭い声にアビスは振り返った。

「なぜ俺にトドメを刺さなかった?」

「二人と、約束したからだ。出来るだけの手助けをすると」

「だから殺さなかった。別にあんたを助けるつもりは毛頭ないしね」 

 ナイトの血を吐くような叫びを一言で切り捨てた満は、そのまま

近くにあったガラスの中に身を投じて、現実世界へと帰還していった。

「くっ...何故だ、俺は、俺は...ッ」

「蓮...」

「来るな!」

 よろめきながら立ち上がった蓮が、吹き飛ばされた自分のバイザーの

元へと歩いて行く。 

 自分の見た予知夢と違う展開に焦りを隠せない手塚は、自分のバイザーを

拾い上げて戻ってくる蓮の姿を見守りながら、バイザーにカードを挿入し、

注意深く周囲を見回した。

 アドベント、ファイナルベント、コピーベント、そして神崎士郎から

戦いの円滑化という名目で渡された上級カード、サバイブを含めた

四枚が今の手塚の持っているカードだった。

(くっ、どこだ...どこにいるんだ) 

「蓮、もう良いだろう。早く戻ろう」

「手塚?危ない!」

「はっ?!」  

 顔を上げたナイトの叫びに後ろを振り返ったライアは、今まさに自分

めがけて自分の得物である鞭を叩きつけようとするミラーモンスターの

姿を視界の中に納めていた。
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:46:30.63 ID:xchiMuX50
「貴様はっ!」

 手塚にとって、そのモンスターは不倶戴天の仇敵だった。

 神崎士郎の忠実な駒の一体である鳳凰型モンスターのガルドサンダーは

瞬く間にその姿を火の鳥と化し、目にも止まらぬ猛スピードで空中を

飛び回りながら、執拗な攻撃をナイトに加えはじめた。

「蓮!逃げろ!今のお前じゃ無理だ!」

「ソイツの攻撃はお前のガードベントじゃ防げない!」

 最高時速580kmで自在に空中を舞う迦楼羅は、余す事なく自らの力を以て

主である神崎士郎の命令通りにライダーを一人でも多く減らすという

任務を忠実に執行しようとした。

 そして、運悪くナイトはその犠牲者に選ばれてしまった。

「くっ!」

「Advent」

 攻撃が届かない場所へと宙高く舞い上がるガルドサンダーに業を煮やした

ナイトはアドベントのカードを使い、自らの蝙蝠型の契約モンスターである

ダークウイングにガルドサンダーを地面に叩き落とすように命じた。

 だが、それは悪手でしかなかった。

「手塚!俺がアイツを地面に叩き落とす」 

「その隙にお前はファイナルベントで奴を仕留めろ!」

「ダメだ!ダークウイングじゃアレには勝てない」

「撤退だ!このままだと死ぬぞ!」

 ライダーバトルにとって一番避けたい事の一つに、ミラーモンスターとの

交戦中に自らのモンスターが格上のモンスターに食い殺されてしまうことが

上げられる。

 何故なら、契約モンスターが破壊されてしまえばライダーはブランク体に

戻ってしまう。最低限のミラーワールドを生き抜けるための装備だけに

なった所を他のライダーに発見されれば、それで一貫の終わりだからだ。

 一見、ライダーと契約するモンスターはミラーワールドに生息するミラー

モンスターの中でも、それなりに上位種の様にも思えるが、それでも

いかんとも埋めがたい性能差が存在している。

 何故なら、ミラーモンスターの中にも格という物が存在するからだ。
 
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:47:06.73 ID:xchiMuX50
 現実世界に存在する動物や昆虫が、幻想世界に存在する龍や不死鳥に
 
勝利できる道理等どこにもないのと同じように...

「ギーッ!ギーッ!」 

 ダークウイングの倍の体躯と実力を誇るガルドサンダーにとって、

蝙蝠の攻撃など蚊に刺されたにも等しいだけの徒労でしかない。

 口から吐き出された摂氏850℃の火球に翼を焼かれ、全身が炎に包まれた

ダークウイングの首を自らの尾羽で締め付けながら、ガルドサンダーは

地上15mの高さから一気に一番下までダークウイングを叩き付けた。

「ギギギッギャアアアアアアアア」

 為す術もなく断末魔の叫び声を上げながらダークウイングは固い地面に

頭ごと叩き付けられた。

 ダークウイングが敗れるという想定外の事態に蓮は呆然とするしか

なかった。頭が完全に潰され、原形を保てなくなった契約獣は数秒後には

轟音を立てながら爆散した。

「馬鹿な...」 

 エネルギー塊を捕食したガルドサンダーは、ナイトやライアの存在に

気を止める事もなく、悠々とその場から飛び去って姿を消した。

 デッキからナイトの紋章が消え、ブランク体へと逆戻りした蓮は

衝撃のあまり、その場に崩れ落ちた。

「しっかりしろ!蓮!まだ全部が終わったわけじゃない!」

「立て!立つんだ!蓮!」

 だが、今の蓮に手塚の声が届く事はなかった。

235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:47:53.22 ID:xchiMuX50
〜花鶏〜 

 土曜日の昼下がり、店主不在の花鶏で一人店番をしていた城戸真司は

茫然自失状態の秋山蓮とそれを抱える手塚に心底驚いた。

「ええっ!?じゃあ、なんだよ」

 事情を聞いても何も話そうとしない蓮の代わりに、手塚が事情を話す。

「蓮の契約モンスターが神崎の手下モンスターに喰われた」

「ちょっ、マジかよ...神崎の手下モンスターって...アレだよな?」

 身も蓋もない手塚の結論に面食らった真司は、心のどこかできっと蓮が

ムキになるあまり、契約モンスターに無茶な命令でも出したのではないの

だろうかと想像していた。

 手塚が言うには、蓮と共に行動していた際に近くにあった大きな病院から

モンスターが姿を現して人を攫う所を偶然目撃した為、二人で変身し、

ミラーワールドに引きずり込まれた人間を救出した後、ガルドサンダーに

遭遇したらしいとのことだった。

「俺と蓮は二手に別れてガルドサンダーを追いかけていった」

「そして、蓮は運悪くアビスに捕まってしまった」

「アビスって...もしかして佐野君の事か?」

「ああ。この前会ったときとは桁違いに強くなっていた」

「俺が蓮の元に辿りついたとき、蓮は壁に磔になっていた」

 蓮の強さを知る真司にとって、蓮が為す術もなく一方的に押し切られた

事はにわかには信じがたい出来事だった。

 現にこうして命からがら手塚に連れられて帰還した蓮を見ると、やはり

今自分が耳にした事は全て真実だと信じざるを得ない。
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:48:24.93 ID:xchiMuX50
「磔って...嘘だろ?じゃあ、蓮は一方的に追い込まれたのか?」

「おそらくは、な」
 
「だったらなんで蓮を助けたりしたんだ?」

「佐野は、蓮を助けたときにこう言っていた」

「俺と城戸に約束したから。と」

「約束って...あっ!もしかしてあの時のことか!」

 あの日の後味の悪い別れの時に佐野が言った言葉を真司は思い出していた。

 自分と手塚には感謝しているし、もしミラーワールドで出会ったら、

その時は自分に出来る範囲で手助けする。

「まさか、あの言葉が本当だったとはなぁ...」

 しみじみと呟いた真司はなにやら深く考え込みはじめた。

「城戸、何を考えている?」

「あ、いや。蓮の奴は大丈夫かなって」

「ほら、アイツ時々無茶するからさ。だから...」

「だから?なんだ?」

 蓮の分も俺達でフォローしなきゃな、と言葉を続けようとした真司の

肩越しから蓮の言葉が聞こえて来た。

 先程の失敗が余程答えたのか、後ろを振り返った真司の目に写った

蓮の顔には覇気というものが一切感じられなかった。

 しかし、瞳の中にはメラメラとした黒い炎が滾っていた。
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:49:01.28 ID:xchiMuX50
「俺があの佐野とか言う奴に負けるとでも思っているのか?」

「いやそういうわけじゃなくてさ、ほら、お前キレると暴走するじゃん」

「それに契約モンスターいなくなっちゃったんだろ?」

「だからさ、とにかく!お前は少し休め」

「何をバカな事を言っている。馬鹿め」

「なっ!俺はお前の事を心配してだな」

「いつ俺がお前達にそんな事を頼んだ」

「自分の事くらい、自分で片をつけてやる」

「あの青いライダーには手を出すなよ。アイツは俺の獲物だ」

「ちょっと待てよ、蓮!」

「さっきからお前何焦ってるんだよ!」

 真司のお節介を邪険にする蓮の本心も穏やかではない。

 ライダーバトルが本格化してから既に3ヶ月が経過している。

 神崎士郎の実験のせいで今も昏睡状態にある恋人の小川恵里の容態が

いつ急変するのかも分からない中、一刻も早くライダー同士の戦いに

勝利しなければならない。  

 確かに真司や手塚は今のところは信頼できる仲間と言える。

 きっと新しい契約モンスターを探すから手伝ってくれと頼めば、嫌な

顔をする事なく最後まで手伝ってくれるだろう。

 だが、今日の味方は明日の敵という諺がこれほどピッタリ当てはまる

状況下において、ライダーバトルに乗るか乗らないかのギリギリの所で

辛うじて踏みとどまっている蓮に、真司の親切はあまりにも際どかった。 
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:49:29.93 ID:xchiMuX50
 潮時だ。そう、蓮は思った。

 ライダーバトルが激化すれば、遅かれ早かれ手塚や真司と衝突するのは

目に見えている。新しい契約モンスターにもよるが、少なくともあの二人の

手の内を知っている以上は苦戦する事はないだろう。

 そもそも自分と違って、叶えたい願いの為に戦いに身を投じたライダー

ではなく、戦いを止める事を掲げてライダーの力を行使する真司や手塚と

相容れないのは当然の帰結だった。

(新しい契約モンスターを手に入れてからでも、遅くはない...か)

「城戸、手塚。頼みがある」

「今の俺は契約モンスターがいないブランク体のままだ」

「だから、新しい契約モンスターを探すのを手伝って欲しい」

「この通りだ」 

 どのみち、戦力としては申し分ないほどの実力を持つ二人が無条件で

自分のライダーバトルへの再起に手を貸してくれるという申し出を断る

理由はない。

 そう、無理矢理自分の中で結論づけた蓮は背中を向けていた真司と

手塚に向き直り、ぎこちなく頭を下げた。   

「そっかそっか。分かった。手伝うよ」 

「そうだな。俺達に任せろ、蓮」

 本心を見せない自分の言葉を本気で信じる仲間の視線にいたたまれなく

なった蓮は、そのまま言葉を二人と交す事なく重い足を引きずりながら

自室への階段を登り始めたのだった。

239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:49:59.81 ID:xchiMuX50
17話 謀略


〜河川敷〜

 その日は朝から土砂降りだった。

 轟々と音を立てながら、茶色い濁流が荒れ狂う。

「....」   
 
 そして、河川敷に生い茂る鬱蒼とした背の高い雑草の近くに、今にも

吹き飛ばされそうな段ボールハウスが乱立していた。

「......」

 ホームレス達が寄り集まってできたその集落に人影は全くない。

 それどころか豪雨でさえかき消せないほどの、夥しいほどの血液が

そこかしこに飛び散っていた。

「イライラするんだよ...」

 落雷と共に段ボールハウスから出てきた一人の男は、自分が引き起こした

この惨状を一顧だにする事なく、まるで下らない冗談を目の前で聞かされ

たかのような不機嫌な形相を晒していた。

 そう、浅倉威である。

 先日のタイガとの一戦における不本意な形での介入...確かに殺した筈の

相手が気が付いたらまるで時間が巻き戻されたかのように生き延びていた。

 それだけならば、まだ勘違いだと自分に言い聞かせられただろう。

 しかし、それならなぜ自分の頭の中に二つの記憶が混在しているのか?

 黒いライダーを殺して吠え猛った記憶と、黒いライダーとその仲間である

青いライダーを取り逃がして吠え猛った記憶があるのは何故なのだろうか?
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:50:42.28 ID:xchiMuX50
「どうでもいい...アイツとまた戦わせろ...」

 自分に一杯食わせた相手を葬らなければ、このイライラは収まらない。

「黒い奴と、青い奴、そして...白い奴だ」

 戦慄く五指に力を込めて拳を作った威は、特に自分が殺したいと希う

あの忌々しい英雄気取りのライダーの姿を脳裏に思い浮かべていた。

 タイガだ。

「来たか...」 

 喜悦の笑みを浮かべた浅倉が後ろを振り返ると、そこには雨に濡れる

事なく幽鬼のように立つ神崎士郎が現れていた。

「会いたかったぜぇ...お前に聞きたかったことがある」

「そうか。では、話せ」

「この前俺が殺し損ねたライダーの居場所を教えろ」

「黒い奴、青い奴、そして...白い虎みたいなライダーの居場所だ」

「いいだろう」

 神崎士郎の口から三人のライダーの拠点を聞きつけた浅倉は満面の

笑みを浮かべながら、主の消えた段ボールハウスの中へと入っていった。

「飲むか?」

「まぁ、飲まんだろうな」

 ひょっこりと顔を入り口から出した浅倉の手に握られていたのは、大きな

一升瓶だった。

 度の強い飲みかけの焼酎をラッパ飲みした浅倉は、赤くなったその顔で

神崎にも飲むように促した。

 神崎士郎は、答える事なくただ浅倉威の言葉を待っている。
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:51:09.51 ID:xchiMuX50
「なんだ、話はそれで終わりなのか」

「いや、最後にもう一つお前に贈り物がある」

「贈り物だと?」

 怪訝な表情を浮かべる浅倉に神崎士郎は一枚のカードを手渡した。

「なんだこのカードは?」

「これはサバイブというカードだ。端的に言えば強化カードだ」

「ほう...強化カードとは、中々珍しいな」

「ああ。お前にこのカードを預ける。好きに使え」

 神崎から受け取ったカードをしげしげと見つめた浅倉は、メラメラと

燃えさかる赤い炎を纏った鳥の羽の描かれたカードをデッキの中に

仕舞い込んだ。

「なぜこれを俺に渡した?」

「お前にはより多くのライダーを倒してもらわねばならない」

「ライダーバトルの円滑化に協力しろ」

「ああー...いいぜ?お前の思惑に乗ってやるよ....」

「お前が俺を楽しませる限り、俺もお前を利用してやる」

「そうか。では、役目を果せ」 

 そう言い残し、神崎士郎は陽炎のようにその姿を消した。

「サバイブ...ねぇ。なるほど、面白い」

242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:51:46.63 ID:xchiMuX50
〜北岡弁護士事務所〜

「さてと、ゴロちゃん。作戦会議と行こうか」

「はい。先生」 

 数ヶ月前に子供をひき殺した男の弁護を請け負った裁判の第一審で

依頼人の受ける社会的ダメージを最小限に抑える事に成功した秀一は

いよいよ本格的にライダーバトルに本腰を入れる事にした。

「じゃあまず、状況の整理から始めようか」 

「俺達がライダーバトルに参加してから3ヶ月が経過したよね」

「ええ。参加しているライダーは13人。そして既に三人が脱落しました」

 手際良くホワイトボードを取り出した吾郎は、そのボードに書かれている

三人の脱落したライダーの名前に×印をつけていく。

「脱落したのは、シザース、ファム、ガイの三人だったね」

「はい」

「で、今の所残っているのが...結構厄介な連中なんだよね」

 ボードに書かれている名前をしげしげと見つめながら秀一がペンを回す。

「虎、龍、蝙蝠、エイ、蛇、鮫、正体不明のライダーが二人」

 デスクから一通の封筒を取り出した秀一は、その中身を取り出して

吾郎に手渡す。吾郎はその書類に目を通した後、ホワイトボードに新しい

名前を二つ書き加えた。
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:52:20.01 ID:xchiMuX50
「コイツらの出方が読めないのが不安要素なんだよね」 

「香川英行とその仲間ですね」

「芝浦さんが言うには、神出鬼没でとても強いとか」 

「全く神崎も詰めが甘いよ」

「自分の研究資料くらいちゃんと完璧に管理してもらいたいね」

「ええ」

 疑似ライダーを含めると、現在ライダー同士の戦いに参加しているのは

最低でもおよそ12人と言う計算になる。

「はぁ、無駄な戦いはしたくないんだけどさ...」 

「コイツらを殺さないと後々後に響くのは目に見えるんだよね」

「そうですね。疑似とは言え、量産化に成功しているのは脅威です」

 およそというのは、これから先に香川が自分の持つデッキの量産化に

成功して、人を雇うことでライダーバトルを引っかき回すという最悪の

未来予想が出来るからだ。

 仮に自分と吾郎がカードを使い切った局面で香川の作り出した量産型の

疑似ライダー達にに出くわしてしまえば、その時点で秀一達のライダー

バトルは幕を下ろしてしまう。

 それがあと一人か二人かという局面なら、尚更やりきれない。

「それに浅倉もまだピンピンしてるしね」 

「お人好しの馬鹿の城戸は除外するとして...」

「やっぱり当面の問題は、香川と浅倉かなって俺は思うのよ」

 どのみち、正規参加者もあと10人も残っている。

 秀一としては、この初期段階の内に浅倉を仕留めたいのが本音だった。

 吾郎としても、秀一の命を付け狙う浅倉の存在は無視できない。が... 
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:52:52.69 ID:xchiMuX50

「やっぱり、気になりますか?」

「うん。あの二人よりも先にタイガって奴を先に仕留めたいんだ」

 タイガの奇襲によってガイが命を落としたあの日に秀一はそこにいた。

「俺もさ、カードは多い方だと思うんだよ。でもさ」

「相手のカードを無効化するカードを持つライダーは無視できない」

「ゴロちゃんも見てたよね?アイツがガイを倒した後の一部始終」

「アイツ、ガイのカードデッキから何枚かカード抜いてたでしょ?」

「で、その後契約がなくなったアイツのモンスターとも再契約した」

「となると今のライダーで最もカードを多く持っているのが奴だ」

「一人で八枚近いカードだったら、二人以上は相手取れるよね」  

「問題はどうやってタイガの利を潰していくか、ですよね」

 秀一と吾郎の話題は武器とアドベントとファイナルベントをそれぞれ

二枚ずつ保持し、更には相手を妨害する特殊なカードを二枚ないし三枚も

保持するタイガをどう仕留めるかへと移り変わっていった。
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:53:34.62 ID:xchiMuX50
「やっぱり俺としてはタイガと浅倉で削り合って欲しいのよ」

「で、消耗した二人を俺のファイナルベントで吹き飛ばす」

「これが一番ベストなやりかたなんだけどね」

「アイツら獣にそういう策は通用しないからなぁ」

「ねぇゴロちゃん。どうやったら二対一に持ち込めるかなぁ」

「遮蔽物が小さく、二対一に持ち込める場所が鍵ではないかと思いますが」

「うーん。それを考えると、かなり場所は絞り込めるよね」

「では地下通路や競技場のグラウンド等はどうでしょうか?」

「いいねぇ。ゴロちゃんが姿を消して俺がタイガを追い込んでいく」

「だけどなぁ、問題はどうやって連中を引きはがすかなんだよなぁ」

「状況にもよりますね」

 それから30分もの間、秀一と吾郎は作戦の内容を詰めていった。

「うん。これならかなり良い感じで浅倉もタイガも追い込めるね」

「ゴロちゃんと俺が入れ替わるなんてアイツら予想できないだろ」

「そうですね。きっと上手くいくはずです」

「よし、じゃあ城戸と愉快な仲間達は香川に丸投げしよう」

「で、俺達は浅倉を仕留める事を最優先に動く」

「運良く浅倉か香川を仕留められたら、次は東條を狙おう」

「了解しました」


246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:54:03.99 ID:xchiMuX50
〜清明院大学大学院〜

 香川が満と連絡を絶ってから、一週間が経過していた。

 その間、香川達はオルタナティブのデッキの改造やミラーワールドの

探検に時間を費やし、次なる戦いへと準備を備えていた。

 これまでのデータを元にした改良の結果、仲村のオルタナティブと香川の

ゼロのミラーワールドの活動時間は10分30秒にまで向上した。

「香川先生。そろそろ一週間が経過しますが良いんですか?」 
 
「何がですか?仲村君」

「佐野の事ですよ。いつまでも放っておく訳にはいかないですよ」

 東條が神崎優衣の監視で研究室に不在の時、仲村創はそれとなく佐野満の

これからについて香川に問いただしていた。

 どちらかというと満の事は信用できない人間だと思っている仲村だが、

それでも自分達に協力してくれる数少ない仲間と自然消滅するような形で

別れるのは忍びないと思っていた。
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:54:43.75 ID:xchiMuX50
「そう、ですね。仲村君の言うとおりですね」

「彼の事をいつまでも放っておく訳にはいきません...が」

「最終的に決断を下すのはもう少し後になりそうです」

「...やっぱり、アイツは信用できませんか?」

「いえ。彼の事は信じていますよ」

「君が東條君のことを理解し切れていないように」

「私も、彼の本質をまだ見極められていません」

 真意を見せず、煙に巻くような言い回しをする香川にどう言葉を返せば

良いのかを迷っている内に、東條が研究室に戻ってきたのだった。

「先生。今日の調査は終わりました」

「そうですか。では報告をお願いします」

 ミラーワールドの探索から戻った東條がとある通路の見取り図らしき

物にマーカーで印をつけ始めるのを見ながら、香川英行は先日電話した

協力者達の事を思い出していた。

 殺人事件被害者遺族の会という一定期間が過ぎると容疑者が判明しても

起訴できなくなる公訴時効制度の撤廃・停止を求めて結成された団体の

存在を香川に教えたのは仲村だった。

 時効による時の経過と共に遺族の被害感情は薄れるという考え方を

否定し、時効の停止・廃止を国や世論に訴えていく事を目的としたこの

団体の会員となった遺族達が直面した現実はあまりにも残酷だった。
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:55:16.86 ID:xchiMuX50
「東條君。例の作戦ですが、こちらから二つ報告があります」

 例えば、惨たらしく児童を殺した殺人鬼が心神喪失状態と判断され、

遺族達の必死の訴え虚しく、死刑を免れ、今ものうのうと刑務所の中で

余生を謳歌していたり、30年前に起こった一家惨殺事件に至っては、

今日になっても犯人の特定・逮捕には至っていない未解決状態という

有様である。

 そして、それは浅倉威によって引き起こされた殺人事件であっても

同様だった。

「例の作戦に参加するオルタナティブは私達を含めて六人になりました」

 数え切れないほどの殺人事件を起こしながら、僅か10年程度の実刑判決

しか下されなかった凶悪殺人犯を許せない人間は数多くいる。

 大切な人を失った遺族の悲しみはただでさえ計り知れないというのに、

死刑になって当然の鬼畜生がたった10年でまた野に放されることを一体

どうやって納得しろというのか。  

「配置はどうしますか?」

 中には、復讐は何も産まないと言い、気が狂わんばかりの後悔と慚愧を

抱えながら、殺された家族の無念を果す復讐を諦めた遺族もいる。

 だが誰が許せるというのだろう?

 罪を贖う事なく脱獄した殺人鬼を一体誰が許せるというのだ?

 そういった無念を抱える浅倉威殺人事件被害者遺族の会の人間達は

まさにうってつけの協力者達だった。
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:55:54.81 ID:xchiMuX50
「仲村君のチームが西側の出口に、私のチームが東側の出口に陣取ります」

 確かにライダーバトルに全く何の関係のない遺族達を巻き込むのは

香川とて気が引ける。

 だが、誰かがあの悪魔を殺さなければならない。

 香川の掲げる正義は、悪を担う覚悟を持つ正義である。

 死ぬしかない者が殺され、死ぬ理由のない者たちが救われたのであれば、

人は無力に打ちひしがれ、耐えきれない悲しみに心を切り裂かれても、

まだ生きる事を諦めずにいられる。

 死ぬ理由のない者達が殺され、死ぬしかない者が生き残った挙げ句に、

罪を償う事なく同じ過ちを繰り返しながら、なおも我欲の為に多くの弱者を

虐げるのだとしたら?

 誰かがその悪を食い止めなければならない。

 食い止める方法に正義も悪も関係なく、必ず悪を断たなければならない。

 誰に許されることもなく、ただただ正しさを成すために悪に身を堕とす

悲壮なまでの正義こそが英雄には必要なのだ。 

「東條君、もう一度聞きますよ?本当に本気なんですか?」

「はい。僕が先陣を切って浅倉を足止めします」

「...わかりました。危ないと思ったら、私達も加勢します」

「現状、私達のファイナルベントでは奴の契約獣を敗れません」

「くれぐれも、カードの使い所を間違えないでくださいね」

「はい」

 しかし、己が掲げた正義を為すには香川英行はあまりにも清廉すぎた。
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/28(金) 22:56:31.04 ID:xchiMuX50
(いけませんね。深く...考えすぎているようだ)

 止めどない思考にピリオドを打った香川は堂々巡りの答えの出ない

問いから目を背け、思考を切りかえた。

「二つ目の報告は、ライダーによる共闘の申し出についてです」

「共闘?誰ですか?」

「...北岡秀一。ゾルダからですよ」

「浅倉威を倒すという一点において共闘したいと申し出てきました」

「...真意が見えませんね」

 困惑と敵意を顔に浮かべた仲村と東條は、それぞれの意見を率直に

香川へとぶつけ始めた。

 まず最初に口を開いたのは仲村だった。

「先生。ゾルダは信用できませんよ。手を組まない方が賢明です」

「大方敵の敵は味方だけど、敵を倒したらお前らも敵だ」

「北岡秀一って人間はそういう人間なんですよ」

「覚えてますか?ゾルダのファイナルベントのこと」
 
「あんなのを狭い地下通路でぶっ放されたら俺達は全員死にますよ」
 
「それに東條が見たという、姿を消すライダーも油断できません」
 
「搦め手や奇襲が得意な奴は裏切る可能性だってある」
 
「だから、この作戦は俺達だけで遂行しましょう」  

 力強く拳を握りしめ、全てを自分達だけで片付けようと力説する仲村に

反するように、東條も自分の意見を述べ始める。 
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:57:31.44 ID:xchiMuX50
「先生。僕も仲村君の意見には大体賛成です」 

「だけど、やっぱりゾルダの力も借りたいのが僕の本音、かな?」

「東條!お前何言ってんだ!分かってんのか?え!」

「まぁ落ち着きなよ。仲村君。のど飴舐めたら?」

「いるか!」

 東條が差し出したのど飴を机に叩き付けた仲村は、少しだけ冷静さを

取り戻し、苛々しながらも話の先を促した。

「要するにさ、ゾルダと手下を分離させれば良いんでしょ?」 

「確かに狭い場所に姿を消すライダーがいるのは脅威なんだけどさ」

「僕達の側にも頼れる仲間がいるじゃない」

「先生。ここは佐野君に頼んで姿を消すライダーを始末しましょう」

「....」

「浅倉は北岡の所に必ず来ます。そして北岡の所に手下も控えています」

「どちらも周到なタイプだからこそ、奥の手を隠しているはずです」

「そして、二人とももう話が通じるような相手ではありません」

「確かにそうですね。北岡も浅倉もこれまで上手く生き延びていますしね」

「ではゾルダとその手下を上手く分断させるべきと?そういう事ですか」

「フリーズベントで凍った奴のモンスターを北岡は仕留めに来る筈です」

「数を生かして浅倉を仕留めるのならこれが一番かなと思います」

「時間切れギリギリまでゾルダに浅倉を追い込ませて仕留めさせる」

「で、僕達はその間に出口を塞いで二人を消滅にまで追い込む」

「鏡面となる物全てを取っ払ったトンネルの中でね」

「上手くいけば、三人の強敵を葬れますよ」

「どうしますか?先生」 
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:58:27.78 ID:xchiMuX50
 仲村の言う本来の作戦通りに事を進めるのか?

 それとも東條の言う通りに佐野と北岡の力を借りて浅倉を倒すのか?

 香川にも、決断の時が訪れる時がやってきた。

「仲村君。東條君」

「はい」

「佐野君を呼び戻します。その上で浅倉を倒しましょう」

 迷いながらも、香川は最終的に両方の策を取った。

「東條君と私とオルタナティブ軍団で浅倉を仕留めます」

「浅倉を仕留める。今回はそれだけを最優先にしましょう」

「ゾルダとその手下は今回だけは見逃しても結構です。なので」

「仲村君と佐野君には、ゾルダとその手下を仕留めて貰います」

「やるんですね。先生」

 香川から大任を任された二人の肩に重い期待がのし掛かった。

 浅倉も北岡も楽には勝たせてくれない強力なライダーである。

 しかし、
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:59:21.45 ID:xchiMuX50
「東條君。私の背中を君に預けます」

「だから、君の命を私に預けて欲しい」

「私が迷ったら、その時は君が私の為すべき事をしてください」

「先生...はい、はいっ!」 

 香川のその言葉に感極まった東條は歓喜の涙を流した。

 憧れていた英雄と遂に肩を並べ、正義の為に戦う事が出来る。

 誰かに求められる事なく、誰かに救われる事なく生きてきた青年の心が

奮い立つのにはそれだけで充分だった。

「仲村君」

「はい」

「もし私が倒れたら、東條君と佐野君のことをお願いします」

「北岡か浅倉が斃れた時、きっと神崎士郎は動くはずです」

「オーディンと黒い龍のライダーは単独では倒せません」

「三人で協力して、ミラーワールドを閉じてください」

「...それが、先生の遺志なら。俺が引き継ぎます」

 もしかしたら、このやりとりが最後になるかも知れない。

(いや、最後になんかさせてたまるかよ!) 
 
 仲村創は頭に浮かんだ気弱な考えをバッサリと切り捨て、前を見据えた。

 香川先生と東條と自分と、後は佐野の四人でこの悪夢のようなライダーの

戦いを戦い抜き、平穏な日々を取り戻すのだ。

(皆。待ってろ...必ず仇を取ってやるからな)

 復讐の時が遂に来た。

 神崎がどんな卑怯な手を使ったとしても、俺達は絶対に敗北しない。

「香川先生。東條」

「どうか、どうか勝って戻ってきてください」

「お願いします」 

 自分と香川の手を固く握った仲村の懇願に東條は驚きを隠せなかった。

 いつも意見が食い違い、ケンカが絶えない間柄だったが、それでも

どこか心の中では仲間意識があった。
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 22:59:51.07 ID:xchiMuX50
「仲村君。君は自分の心配をした方が良いと思うよ」

「正直な話さ、浅倉より君と佐野君の相手の方が手強いんだからさ。でも」

 しかし、いや...自分が仲村に抱いているのはきっと同族嫌悪なのだろう

 どこかひねくれていて、自分の価値観を正しさよりも優先させて暴走

するような危うさを仲村を見ると、未熟な自分を見せつけられているようで

素直になる事が出来ない。

 こうやって一方がもう一方に歩み寄ろうとする時には、それが特に顕著に

現れてしまう。

「東條君。仲村君の気持ちは無碍にしてはいけませんよ」

「君達の仲が悪いのは昔からですが、私達も昔からの仲間なのですから」

「そうですね...」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:00:17.69 ID:xchiMuX50
(今更仲村君と仲良くするのは遅いかも知れないけど...)

 香川の言葉に頷いた東條は、仲村の心臓に拳を突きつけた。

「ありがとう。仲村君」

「また明日ね」

 東條の『明日』という言葉に驚きながら、仲村創も東條がしたように

自分の拳を突きつける。

「ああ。また明日な」

 そう、全ては自分自身が生きて未来を掴む事に集約される。

 だから、戦わなければ生き残れない

「さぁ!始めましょうか。私達の戦いを!」

 最後の不安要素が霧消したことを確信できた香川は、まるで英雄が

開戦の角笛を吹き鳴らすように声を張り上げた。

「ライダーバトルを終わらせるための、戦いを!」 

256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:01:04.17 ID:xchiMuX50
18話 再契約


〜401研究室〜

「.......」

 満が香川に呼び出されたのは、前に別れた一週間後の事だった。

 深く息を吸い込み、前を見据えた満の瞳は一切の迷いが消えていた。

(親父...)

 あの日、満が最後に父の顔を見た9時間後、満の最後の家族は安らかに

息を引き取り、永遠の眠りに就いた。

(アンタの言葉を俺は覚えている。だから俺は後ろを振り返らない)  

(だから、見ていてくれ)

 揺らがぬ決心で扉を開いた満の前には、三人の仲間がいた。

「お久しぶりですね。佐野君」

「...」

「...」

 笑みを浮かべる香川と、その両脇に控える東條と仲村。

 以前会ったときよりも精悍になった三人の瞳の中にはギラギラと光る

野獣のような獰猛さの使命感が浮かび上がっていた。
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:01:51.70 ID:xchiMuX50
「お久しぶりです。香川先生」

「その様子だと、もう答えは出ているようですね」

「はい」

 自分が覚悟を決めたように、香川も仲村も、あとは何を考えているのか

全く分からない東條でさえも、何らかの覚悟を決めてここに立っている。

 負けられない。

 どういう理由があっても、ここで目をそらすわけにはいかない。

 意を決した満は香川を見据えて、あの日出せなかった答えを口にした。

「先生。俺は引き返しません」

 例えそれが、誰にも受け入れられる事のない思想や動機だったとしても、

ライダーとなった以上その宿命からは逃れられない。逃げる事はできない。

「ようやく分かったんです。自分がいかにいい加減だったかってことが」

 だったら最後まで戦い抜いてやろうじゃないか。

 それが満が迷いに迷った末に出した答えだった。

「誰かに守られるだけじゃ、きっといつか倒されてしまう」

 例え自分が生き残る確率が0を超えないとしても、そこに賭けなければ

生き残れないなら、俺は英雄になんかならなくてもいい。

「でも、ただやられるのを待つなんて悔しいじゃないですか」

 だったら一人の人間として、みっともなくあがいて戦って死んでやる。
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:02:22.78 ID:xchiMuX50
「だから、俺は自分が死ぬその時まで戦う事にしました」

「その上で、先生達に背中を預けたい。そう思ってここに来ました」

 誰かに踏みにじられて、その存在を忘れ去られていく雑草であっても、

最後の瞬間までにはどんなに小さくても譲れない矜持を持てれば、きっと

その生涯は無意味なんかじゃないんだ。 

 満の決意に、香川も自らの思いを明らかにした。
 
「佐野君。戦いが終わった時、私達四人が揃う事はもうないでしょう」 

 これからの戦いが犠牲なくしては勝ち抜いていけない程の苛烈な戦いに

なる。香川の口から出た言葉は、満や東條と仲村にそう思わせるだけの

深い重みがあった。

「戦いが終わった時、果たして何人がここに戻ってこられるのか」
 
「それは、私にも君にもわからない」
 
「しかし、私は誓いますよ」 

「私は最後まで自分が掲げた信念は絶対に曲げない」
 
 だが、満がようやく戦う理由を見つけたように、香川にもこの戦いを

降りる事が出来ない絶対的な信念がある。

「貴方が私に庇護を求めたように、今度は私も貴方に覚悟を求めます」

「佐野君。君は最後まで私達に協力してくれますか?」

「仲間として、一人の人間として、最後まで戦い抜いてくれますか?」

 断る理由は、もとよりどこにもなかった。

「誓います」

「その誓い、確かに受諾しました」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:03:16.79 ID:xchiMuX50
 満の前に立つ香川が一歩前に進んだ。満も負けじと一歩踏み出す。

 香川の脇に控えていた東條と仲村もその左右から一歩前に出る。

「ま、僕がいる以上、先生が死ぬ事なんてありえないけどね」

「抜かせ東條。英雄が油断して死ぬなんて珍しくもないだろうが」

「こらこら。二人とも縁起でもない事はいうものではありませんよ」 

 香川が突き出した拳に満は黙って自分の拳を突き合わせた。それに倣い、

東條と仲村も同様に拳を出して、二人の拳に突き合わせる。

「あれぇ、お二人とも前に比べたら随分と仲が良くなってませんかぁ?」

「そんな事ないよ。ま、仲村君より僕が大人になった証拠じゃないの?」

「はぁ?その言葉そっくりお前に返してやるよ」

「全く、仲が良いんだか悪いんだか...」

「さて、戦の前には腹ごしらえが必要と昔から言います」

「どうです?これからぱーっと街に繰り出して食事でもしませんか?」

「あっ。じゃあ焼肉が良いです」 

「何言ってんだ佐野。ここは高級寿司に決まってんだろうが」

「仲村君馬鹿なの?一貫500円以上する魚の切り身食べて何が楽しいの?」

「まぁまぁまぁ。そう険悪にならないでください」

「焼き肉にしましょう。さ、三人とも店に行く準備をしてください」

 笑顔を浮かべる三人を先に玄関で待つように指示した香川は満面の笑みを

浮かべる教え子達を笑顔で送り出した後、一人椅子に腰掛けた。
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:03:56.16 ID:xchiMuX50
「裕太...」

 デスクの傍らに立っている写真立てに写る最愛の息子と妻の笑顔が眩しい。

 神崎士郎はライダーバトルへの介入を止めない自分への牽制として、

最愛の家族を人質に取るはずだろう。

 英雄<じぶん>の覚悟を鈍らせるだけの例外的な価値が妻と息子にはある。

 おそらく、そうされてしまえばきっと自分は剣を振るう事を躊躇し、

英雄ではいられなくなるだろう。 

 だが、例えそれで自分が命を落としたとしてもきっとここにいる三人が

自分の遺志を引き継いでライダーバトルを、ひいてはミラーワールドを

閉じてくれるだろうと香川は信じる事が出来た。それだけが救いだった。

 15分立っても香川が姿を現さない事に不信感を抱いた仲村が研究室の

扉を開いて入ってきた。 

「先生?」

「ああ、すいませんね。ちょっと教務課と電話で話をしていました」 

「そうですか。車、出してるんで早く行きましょう」

「ええ。カーナビはついてますか?」

「勿論ついてますよ」

(何を迷っている。香川英行...お前はこうなることを予測していた)

(英雄として生きるのなら、その業も宿命も受け入れなければならない)

(だが...私は、この矛盾に答えを出せない...)

 きっと、この究極の二律背反こそが英雄になろうとした自分がこの先に

背負っていかなければならない十字架なのだろう。

 そう自嘲的な笑みを浮かべた香川は研究室を後にしたのだった。

261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:04:27.68 ID:xchiMuX50
ミラーワールド


 城戸真司と手塚海之は先日の一件で契約モンスターを失い、ブランク体と

なってしまった秋山蓮の新しい契約モンスターを探す為、今日もまた

ミラーワールドの中に入っていた。
 
「で、蓮はどんなモンスターと契約したいんだよ?」

「そうだな。再契約はお前の契約モンスター並の奴としたいな」

「ドラグレッダー並の?いるのかぁ?そんなやつ?」

 今までの経験と場所による地理的条件から考えられるライダーのミラー

モンスターとの遭遇率を総合的に吟味した結果、今日の探索場所は街中から

少し離れた場所にある自然公園の中に決定したのだった

「分からん。だが、もしかしたら同じ個体がいる可能性も否定できない」

「それもそっか」

 先頭を務める手塚は普段と変わらない蓮と真司のやりとりを聞きながら

注意深く周囲を見回していた。

 昨日の夕方、蓮に打ち明けられた事を思い出す。
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:05:10.20 ID:xchiMuX50
『蓮。お前、新しい契約モンスターはどうするんだ?』

『決まっている。鳳凰型モンスターを探しだして再契約する』

『...確かに、現状ではそいつらが一番強いモンスターだな』

『ああ。お前にとっては複雑かも知れないが、それしかないんだ』

『頼む。手伝ってくれ』

 蓮が契約しようと狙っているのはミラーワールドで最も強いモンスターに

数えられる鳳凰型モンスターだった。そして、そのモンスター達はあの

神崎士郎の忠実な手下でもあった。

(確かにミラーモンスターは執念深く、狙った獲物は取り逃がさない)

(この仮説が正しければ、先日のモンスターは蓮を付け狙っているはず)

(しかし、モンスターだって馬鹿ではないだろう)

(わざわざ俺達が揃っているど真ん中に姿を現す事などあるわけがない)

 ライダーバトルが始まってから既に3ヶ月が経過していた。

 真司も蓮もバトル当初の時から格段に腕を上げているし、そう易々と

それが例えミラーモンスターであったとしても後れを取るはずはない。

(大丈夫だ。まだ未来は動いていない)

(落ち着け、落ち着くんだ)

 後ろを振り返り、仲間達の安全を確かめる。

「城戸、少し声を落とせ」

「あっ、わりぃ!?」

 後ろを振り返った手塚の背後に乱立する木々の間から飛び上がる影を

視界の端に捉えた真司は、素早く蓮を自分の背後に隠した。
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:05:53.97 ID:xchiMuX50

「手塚ァッ!上だ!」

「?!」

 本能的に危険を察知した手塚は、今自分が立っている遊歩道の斜面に

なっていないほうの左側へと転がり、頭上からの攻撃を回避した。

「ギャアアオアアアアアア!!」

 体勢を崩したライアに狙いを定めたモンスターは、そのまま一気に

ケリをつけるべく、猛然と駆け出していった。

「Strike vent」

 ライアの窮地を見過ごすわけにはいかない龍騎は、カードをバイザーに

ベントインしてドラグクローを呼び出した。

「手塚!コイツは俺がやる!蓮を頼む!」

「すまん!」

 ドラグクローから吐き出される何発もの火球の一発がライアを襲った

モンスターの背中に直撃した。

 苦悶の叫びを上げたミラーモンスターは憎々しげに背後を振り返った。

 蓮の視線の先に立っていたミラーモンスターは、かつて手塚と真司が

協力して倒したモンスターと同種の鳳凰型モンスターだった。

 ガルドミラージュ。それが蓮の再契約したいモンスターの名だった。
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:06:40.57 ID:xchiMuX50
「アイツだ!城戸!アイツが俺の再契約したいモンスターだ」

「殺すな!無力化してくれ!」

「任せろ!」

 蓮の頼みに頷いた真司は、相手がまた空高く飛ぶ前に一気にケリを

つけるべく、アドベントのカードをデッキから引き抜き、自分の契約獣、

無双龍ドラグレッダーを呼び出した。

「ゴオオオオオオオオオオ!!!」

 その名の通り、ミラーワールドでも随一の強さを誇るドラグレッダーは

真司が自らに念じて伝えたように、ガルドミラージュの頭上に陣取り、

相手が逃げるに逃げられない状況を作り出した。

 コイツも運が悪いな。とドラグレッダーは内心そう思っていた。

 大方餌を探して群れから離れた所を一人でうろついていたところを

コイツら三人に見つかってしまったのだ。

 普通の人間ならともかく、ライダーかそうでないかの見分けくらいは

自分の仕える主から教わっているだろうに。

 そんなことを考えながら、ドラグレッダーは徹底的にガルドミラージュの

逃げ道を防ぎ続けた。

 遊歩道から外れた舗装されていない悪路を軽々と駆け抜けようとする

ガルドミラージュのジグザグ走行の先にピンポイントに火球を吐き出し

徐々に徐々に真司と手塚と蓮が囲めるように進路調整をする。 
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:07:07.49 ID:xchiMuX50
「しゃあっ!」

 ドラグレッダーの放った火球に飛び退いたガルドミラージュの頭に、

ドラグクローの火球が直撃した。

「ギエエエエエエエエ!!」

 頭がもげるほどの衝撃と熱にガルドミラージュはあえなく斃れた。 

「今だ!蓮」

 弱々しく動くガルドミラージュにのし掛かったライアと龍騎の言葉に

名もなきライダーは意を決して、契約のカードを取り出した。

「アアアアアアアアア.....」

 断末魔の叫びを上げたミラーモンスターは契約のカードへと一瞬で

吸い込まれた。

「蓮?どうだ?」

「ああ。問題ないようだ。見てくれ」

 何もなかったブランクのカードデッキに鳳凰の紋様が浮かび上がり、

蓮の右腰に現れた杖型の専用バイザーを確認した真司と手塚は喜びを

隠せなかった。

「良かったな蓮!これでまた戦えるな」

「ああ。お前らには感謝してる。本当にありがとう」

 飛び上がって小躍りする真司の肩に手を置いた蓮は、新しく出来た

自分のデッキからカードを引き抜いて、早速確認を始めた。

 ダークウイングと契約していたときのカードの枚数は6枚だった。

 果たして自分の手の中には、
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:07:46.92 ID:xchiMuX50
「おっ、六枚かぁ...」

 真司に言われるまでもなく、今の自分の手の中には6枚のカードが

しっかりと握られていた。 

 真司と手塚が周囲を警戒している中、蓮は手持ちのカードの種類を

確認し始めた。

 アドベント、ガードベント、ソードベント、ファイナルベントの四枚に

加えて、嬉しい事にトリックベントとコピーベントという前のデッキと

殆ど同じカードで構成されていたのだ。

(いける...これなら例え相手が北岡でも浅倉でもやれる!)

 心の中で固く拳を握りしめた蓮はアドベントのカードに封印されている

新しい相棒の名前を言葉にした。

「ガルドミラージュ...」

 先程封印したモンスターのAPは5500と中途半端な数値だったが、数値の

上では浅倉や真司の契約獣を僅かに上回っている。

 無論、今まで倒してきたモンスターのトータルで考えれば、今の自分は

大分劣るだろうが、そんなことは些末な問題でしかない。

「蓮。名前はどうするんだ?」

「名前?ああ、そうか。そう言えば忘れていたな」

「そうだな。契約モンスターからとってミラージュでいいか」

「ミラージュか...そうだな、蓮がそう言うなら俺達はそれでいいや」

 その瞬間、新たなライダーがここに誕生したのだった。

 仮面ライダーミラージュ。変身者は秋山蓮。

「よし、じゃあ帰るか」

 こうして、新たな力を得た秋山蓮は意気揚々と仲間達と共にミラー

ワールドから現実世界へと帰還したのだった。
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:08:15.05 ID:xchiMuX50
〜花鶏〜

 深夜二時、城戸真司は深い眠りの中にいた。

 書き上げた幾つかの記事を編集長に送り終わったのが午後11時だった。

 珍しく日をまたぐ事なく眠りにつける事を喜んだ真司は、自分の寝間着の

ポケットの中にカードデッキを入れ、一日の疲れを取るべく、ベッドに

潜り込んだ。

「Zzzz...」

「....」 

 そして、眠りに就いた人間はちょっとやそっとでは起きる事はない。

 ましてや深夜二時となれば尚更だった。

「真司...」

 花鶏で真司にあてがわれた部屋にある大きな鏡から一人の人間が

音もなく悠然と姿を現した。

 真司が眠るベッドの傍に佇むその男は、真司と瓜二つの姿をしていた。

「お前の体を手に入れるのは、まだ先にしてやる」

「だが、お前の力を借りるぞ...」

 そう呟いたミラーワールドの真司...城戸真一は邪悪な笑みを浮かべ、

自らのポケットの中からリュウガのデッキを取りだした。
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:08:46.50 ID:xchiMuX50
「....」

 そして、ベッドで眠る真司のポケットの部分に手をかざし、何かを

念じ始めると、数秒もしないうちに真司の龍騎のデッキが賭け布団の上に

姿を現した。

 真一は自分のデッキと真司のデッキを入れ替えたのを確認すると、先程

同様に掌をデッキの上にかざし、真司のポケットの中にリュウガのデッキを

忍び込ませる事に成功した。

「待っていろ...優衣」

 真一はそう呟くと、ズボンの左ポケットから一枚のカードを取り出し、

自分が使う龍騎のデッキの中へと忍ばせたのだった。

 そして、机の上に散らばった紙にペンを走らせた真一は、再び鏡の中へ

その姿を消したのだった。

 時を刻む時計だけが、全てを見ていた。

 
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:10:46.72 ID:xchiMuX50
 それぞれの陣営が着々と戦いの準備を進めている所で今日の投稿は終わりにします。
 第二部は次の投稿で終わりを迎えます。次の投稿は二日後以降になります。
 
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:14:34.11 ID:xchiMuX50
登場人物紹介 前編

城戸真司

 お人好しで誰ともすぐに仲良くなれる皆の人気者。
 劇中では手塚に命を救われた満と邂逅し、良好な関係を築けた他に、
本編同様ライダーバトルを止めようと仲間と共に毎日奔走している。

 しかし、繰り返された世界のズレにより本来出会うことのなかった
ライダー達との遭遇や台頭により、徐々に彼の行く道に暗雲と不幸が
立ち込み始める。
 
 ライダーとしての実力は高く、浅倉威や北岡秀一、芝浦淳などの
折り紙付の相手と交戦しながら、モンスター狩りを並行してこなし、
何度も生還する程の実力を誇るが、忘却の彼方からやってきたもう一人の
自分を名乗る男に龍騎のデッキを睡眠時に奪われてしまった。

 

仮面ライダー龍騎 契約獣はドラグレッダー

 龍型のモンスターであるドラグレッダーの力を与えられたライダー。
 攻守共にバランスが取れた五枚のカードを駆使し、状況に応じた
臨機応変な戦い方を取れるのが特徴と言える。
 
 所持カード
ソードベント
・ドラグセイバーを装備。2000AP。

ストライクベント
・ドラグクローを装備。2000AP。

ガードベント
・ドラグシールドを装備。2000GP。
 腕に装備する場合と両肩に装備する場合を選択可能。

アドベント
・ドラグレッダーを召喚。5000AP。

ファイナルベント
・ドラゴンライダーキックを発動。6000AP。
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:15:04.91 ID:xchiMuX50
秋山蓮

 仮面ライダーナイトに変身する青年。24歳。
 神崎士郎の実験のせいで意識不明の昏睡状態で病院で眠り続ける
恋人を救う為、ライダーになった。
 
 秋山蓮がライダーバトルに身を投じるのは一貫してそれが理由である。
 戦いの中で、目的は違えど城戸真司と手塚海之というかけがえのない
仲間を得たことで、命を奪い合う戦いに戸惑いを覚え始めている。
 そして戦いが進む中、徐々にその焦りが蓮を蝕んでいく。
 
 アビスとの二度目の邂逅の際に、アビスに完全に土をつけられた後に
突如現れたガルドサンダーに今までの鬱憤が爆発したかのように逆上し、
冷静さを欠いた判断により、契約モンスターであるダークウイングを
失ってしまった。

 第二部終盤、なんとか手塚と真司の助力の末にガルドミラージュとの
再契約を果すが....

仮面ライダーナイト 契約獣はダークウイング

 名前が示す通り、剣術を駆使した戦闘を得意としている。
 契約獣はコウモリ型のミラーモンスター、ダークウイング。

 所持カード

ソードベント
・ウイングランサーを召喚。2000AP。

ガードベント
・ウイングウォールを召喚。3000GP。

トリックベント
・分身(シャドーイリュージョン)を作る。1000AP。

ナスティベント
・超音波で相手をかく乱する。1000AP。

アドベント
・ダークウイングを召喚。4000AP。

ファイナルベント
・飛翔斬を発動。5000AP。

272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:15:45.99 ID:xchiMuX50
須藤雅史

 蟹さんの大好物、もといライダーバトルに参加した悪徳刑事。

 初登場は第三話だが、それから五話も経過しないうちに満との同盟を
果たせないまま仮面ライダーガイと交戦し、ストレート負けを喫した後、
デッキを破壊されてミラーワールドに消えていったライダー。

仮面ライダーシザース 契約獣はボルキャンサー

 ミラーワールドで一番最弱の蟹型モンスターの力を与えられたライダー。
 悲しいことにAP1000のシザースピンチではガイの分厚い鋼鉄の装甲に
傷一つつけることは出来なかった模様。

 ちなみにボルキャンサーはメタルゲラスと善戦したものの、最後は
自慢の爪をもぎ取られた後、地面に叩き付けられ爆散。
 そのあと、おいしくメタルゲラスに頂かれたようである。

所持カード

ストライクベント
シザースピンチを召喚 1000AP

ガードベント
シェルディフェンスを召喚 2000GP

アドベント
ボルキャンサーを召喚 3000AP

ファイナルベント
シザースアタックを発動 4000AP

273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:16:17.70 ID:xchiMuX50
北岡秀一

 不治の病を治し、永遠の命を得る為ライダーバトルに参加した弁護士。
 弁護士としてもライダーとしても実力は高く、何度も訪れた窮地を
頭と度胸と機転で切り抜けられる力量を持つ選ばれた側の人間。

 浅倉威の弁護を担当し、彼を無罪に出来なかったことから逆恨みされ
以降のライダーバトルで何度も付け狙われることになった。

 第一部終盤に初登場。仮面ライダーベルデにマグナギガの大砲で
引導を渡した後、そのベルトからベルデのデッキを引き抜き、自分の
忠実な秘書である由良吾郎にこれを譲渡した。

 以降第二部では吾郎と共にライダーバトルに本格的に参戦する。
 劇中では第二部序盤にガイとベルデと結託し、アビスの命を狙うものの
あと一歩のところでタイガの乱入に遭い、撤退する。
 その後、第二部終盤で再登場を果し、疑似ライダーでありながら
ライダーの命を狙ってくる香川陣営を危険視し、吾郎と共にその戦力を
削ぐ事を第一とし、浅倉威を葬るべく行動を開始する。
 

仮面ライダーゾルダ 契約獣は鋼の巨人マグナギガ

 全身武器庫の歩く水牛型ミラーモンスターの力を与えられたライダー。
 ゴチャゴチャした戦いを一方的に終了できるだけの高い火力と状況に
応じて使い分けできる様々な銃撃戦に特化した武器を持つ。

 所持カード

シュートベント×2
・ギガランチャー(2000AP)、ギガキャノン(3000AP)の2種類。

ガードベント×2
・ギガアーマー(3000GP)、ギガテクター(1000GP×2)の2種類。

ストライクベント
・ギガホーンを召喚。2000AP。

アドベント
・マグナギガを召喚。6000AP。

ファイナルベント
エンドオブワールドを発動。7000AP。

274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:17:32.56 ID:xchiMuX50
手塚海之

 城戸真司の仲間その2。街では結構有名な占い師。
 ガルドサンダーとの一騎打ちに勝利し、親友の仇を取った後も、
城戸真司と秋山蓮に協力し、謎多き神崎優衣を守る優しい男。

 劇中ではアビスを殺そうとするナイトを諫めたり、恐怖に震える満に
優しく手を伸ばす等の面が強調されているが、神崎士郎にとってそれは
余分な行為でしかなかった。

 第二部の中で神崎士郎からサバイブのカードを手渡される。
 戦いを好まない手塚にとって、サバイブはまさに凶兆だった。
 現在は真司と蓮のどちらかにサバイブのカードを託すかを迷っている。

仮面ライダーライア 契約獣はエビルダイバー

 海に住むエイのミラーモンスターの力を与えられたライダー。
 ナイト同様ライダーに飛行能力を与えられる数少ない契約獣。
 劇中では数少ない善のライダーであり、エビルダイバーのことも
大切な仲間と見做して、ミラーワールドでの戦いに臨んでいる模様。

 ちなみにエビルダイバーもそんな手塚になついている模様である。
 ミラーワールドの砂浜を歩くライアの横にふよふよと浮遊しながら
頭を撫でられ、嬉しげに体をくねらせる様子はミラーモンスターの中でも
最強の萌えを誇る。
 
 ぶっちゃけどこかの蟹畜生はコイツを見習うべきである。

 所持カード

スイングベント
エビルウィップを召喚 2000AP

コピーベント
相手、仲間の武器をコピーする

アドベント
エビルダイバーを召喚 4000AP

ファイナルベント
ハイドベノンを発動 5000AP

サバイブ〜疾風〜

ライダーに疾風の力を与え、強化する
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:18:28.41 ID:xchiMuX50
芝浦淳

 ゲームと現実の区別がつかない頭のねじが外れてる大学生。
 劇中ではシザースと真っ向勝負を演じ、デッキの差で勝利を収める。
 頑丈な装甲と相手のカードを封じる二枚の特殊カードと忠実な契約獣。
 俺の勝ちは揺るがねぇ。過信もここまで来れば一周回って愉快である。

 そして、彼の快進撃は第二部であっけなく幕を下ろした。
 アビスを追い込み、ゾルダのトドメの一撃が放たれようとしたその時、
 アドベントからのファイナルベントという教科書通りのタイガによる
奇襲攻撃の前に、仮面ライダーガイはあっけなく散った。

 その後、彼の死後に残されていた最後の一枚のコンファインベントと 
忠実な契約獣はタイガに全て奪われてしまった。
 無意味な戦いを演じ、無意味に散った彼の最後は誰の記憶にも残らない。
 
仮面ライダーガイ 契約獣はメタルゲラス

 西洋甲冑のような外観をしており、外見とは裏腹に動きは軽快そのもの。
 高い防御力とメタルホーンによる強引なゴリ押しで攻めていくパワー
スタイルだが、武器がメタルホーン一つしかないという時点でぶっちゃけ
詰んでいるというのは言わないお約束。(ヨーヨーよりかはマシだが)

 特殊カードのコンファインベントは強力ではあるものの、使い所を
間違えたり、あるいはサバイブのカードでモンスターが強化された際には
その効果を打ち消されるデメリットもある。
 結論、コイツはタイガの戦いを見習うべきだったと言わざるを得ない。 
 
 契約獣であるメタルゲラスもエビルダイバー同様に自分を相棒と
みなしてくれた飼い主に懐いていた。
 血も涙もないミラーモンスターだが、目に見えない絆というものは
時として種族を超えた愛を育むのかも知れない。

 草を食み、飼い主を肩に乗せて道路や河原、公園で元気いっぱいに
駆け回るメタルゲラスにとって芝浦淳という人間はかけがえのない大切な
存在だったのだろう。

 
 所持カード

ストライクベント
メタルホーンを召喚 2000AP

コンファインベント
相手のカードの効果を無効にする

アドベント
メタルゲラスを召喚 4000AP

ファイナルベント

ヘビープレッシャーを発動 5000AP

276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:19:35.13 ID:xchiMuX50
高見沢逸郎・由良吾郎

 ここではベルデに変身した二人の概要を記すことにする。

 前者はよせば良いのにライダーバトルをふっかけ、深夜の誰も来ない
倉庫でゾルダにフルボッコにされ、マグナギガに頭を吹っ飛ばされた
噛ませ犬である。

 後者は北岡秀一にかつて人生を救われた青年であり、病身の秀一の
身の回りの世話や護衛から秘書までを器用にこなす万能執事である。
 ライダーバトルに掛ける願いは秀一の病の快癒。
 ゾルダの懐刀として、またいざという時の秀一の代行者として今日も
由良吾郎は油断なく自らを鍛えるのだった。 


仮面ライダーベルデ 契約獣はバイオグリーザ

 カメレオンの契約獣の力を与えられたライダー。
 デッキの仕様はコピーベントやクリアーベントなどのトリッキーな
カードによる奇襲戦法をメインとしてライダーバトルを戦い抜く仕様。
 殺傷力はないものの、裏方に徹する由良吾郎氏にとってはまさに
これ以上ない程のデッキである。

 所持カード

ホールドベント
バイドワインダーを召喚 2000AP

クリアーベント 自身を透明化

コピーベント 相手の姿・武器をコピー

コントラクト モンスターと契約できるカード

アドベント
バイオグリーザを召喚 4000AP

ファイナルベント
デスバニッシュを発動 5000AP
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/28(金) 23:44:21.36 ID:xchiMuX50
ライダー紹介前編はこれでおしまいです。残り半分は次の時に投稿します
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/29(土) 10:53:21.94 ID:8SpQ7X5UO
おつおつ
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/29(土) 18:12:33.66 ID:9caP9LAzO
おつ
続き楽しみにしてるぞ
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/30(日) 11:41:11.79 ID:DSAJ+Ylu0
 お待たせしました。今日の分投稿します。
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/30(日) 11:42:08.58 ID:DSAJ+Ylu0
19話 〜生き残るために〜


〜北岡弁護士事務所〜


「ふぅ...朝から随分と騒がしいねぇ。ゴロちゃん」

「...検討はつきますが、どうしましょうか先生?」  

「そうだね。扉を蹴破られる前に電話しちゃおうか」

 朝九時、北岡弁護士事務所に緊張が走った。

 朝食を楽しんでいた秀一と吾郎は顔を見合わせ、今日が運命の日だと

確信した。

 玄関の監視カメラの映像を吾郎が確認した所、扉の前に立っているのは

まぎれもなく浅倉威ということが分かった。

 無言で電話を取った秀一が電話をかけた相手は香川だった。

(例の場所、ねぇ)

 秀一は皮肉めいた笑みを浮かべ、香川とのやりとりを思い出していた。

 浅倉を倒すという目的の下に一時的な休戦同盟を受け入れた秀一と

吾郎はここから3km離れた香川の指定した地下通路の事を思い浮かべる。

 地上から20mの深さにあるその通路は幅10m、高さ6mの、長さ1300m、

そして出入り口が2ヶ所しかない一方通行という浅倉を仕留めるには、

まさにうってつけの場所だった。
 
 香川によると既に浅倉を逃がさない細工は仕掛け終わり、後は秀一が

浅倉を誘導すれば全部香川の方で終わらせるという取り決めだったが、

秀一も香川もあわよくば互いの首をかっ切るような悪辣さをその策の中に

見いだしていた。 
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/30(日) 11:42:38.39 ID:DSAJ+Ylu0
「もしもし。香川です」

「おはようございます。北岡です。浅倉が来ました」

「そうですか。では奴を30分以内に例の場所に誘導してください」

「私達は今から現地ポイントで一時間待機しています」

「了解しました。では」

 電話を切った秀一は、吾郎を促して浅倉を招き入れた。

「北岡ァ...何をしている、俺と戦え...」

「浅倉、お前もっと身だしなみに気を遣えよ」

「うっ、鼻が曲がりそうだ。臭いよお前」

 鼻が曲がりそうな匂いと共に、浅倉威は土足で遠慮する事なく秀一の

事務所に足を踏み入れてきた。

 これまで何度か浅倉が自分の事務所を尋ねてきた時も臭かったが、今日の

浅倉は今まで以上にとんでもない匂いを撒き散らしていた。

「また何人か殺してきたのか。お前いい加減にしろよ」

「は。なんだ怖いのか?お前も直に腸をぶちまける羽目になるぞ?」

「これだから頭まで獣はいやなんだよねぇ」

「ま、いっか。浅倉、いい話と悪い話があるんだけど聞きたいか?」

「なんだ?話してみろ」

 浅倉の興味を誘う事に成功した秀一は、香川の魂胆は一先ず置いて、

自分の得意な口八丁で浅倉を罠にかけ始めた。
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/30(日) 11:43:23.30 ID:DSAJ+Ylu0
「まずいい話から。俺についてくれば最大三人のライダーと戦えます」

「ほう。で、誰がその戦いに参加するんだ」

「一人目は俺、二人目と三人目はお前の知っている奴だよ」

「そいつらの名前は?」

「さぁ。俺は知ってるけどお前に教えてやる筋合いもないからね〜」

「ふん。まぁいい。そいつらもまとめて倒すだけだ」

「北岡、案内しろ」

「まぁそう焦るなよ。まだ悪い話が残ってるんだからさ」

 どのみち、気が乗らなければここで北岡と一戦交えて殺し合うのも

一つの手ではあるが... 

(足りねぇ...北岡程度で足りるかよ...)

 どうせ喰らうなら一人よりも複数の方がいい。

 秀一の顔色が優れないものに変わった事に違和感を感じた浅倉は

とりあえず静観を決め込み、北岡の話に耳を傾ける事にした。
 
「で、悪い話って言うのが、ライダーバトルを潰そうとする奴の事」

「なに?どういうことだ?」

「簡単に言えば、俺とお前の決着に茶々を入れようとする奴がいるんだよ」

「城戸の事か?」

「いーや、違う。ゴロちゃん。写真持ってきて」

 手を叩いた秀一に傍で控えていた吾郎が一枚の写真を手渡す。

「コイツか...」

「そう、この眼鏡をかけた男がライダーバトルを潰そうと動いてるんだよ」

「俺もお前もなんだかんだ言ってライダーバトルに乗り気じゃん?」

「割と切実に叶えたい願いらしいものも一応は持ってるわけだし」

「....」
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/30(日) 11:43:53.00 ID:DSAJ+Ylu0
「ほう、それは見過ごせないな」

「だろ?俺も気にくわない。お前を[ピーーー]のは俺だからな」

「さてと、お前はどうする浅倉?」

「俺と手を組んで今からそいつらを殺しに行くか?」

「それとも、ここから背中を向けて別の奴の所へ向かうか?」

「答えを聞かせろ。浅倉。残り時間は後30分だ」

「はっ、考えるまでもない。お前も含めて全員殺してやる」 

「決まりだな。ゴロちゃん。車出して!」

 秀一の言葉に従った吾郎は、すぐさま外へと飛び出していった。

「英雄対怪物、か」 

「なぁ、浅倉。お前、怪物は英雄に勝てると思うか?」

 何気なく自らに投げかけられた言葉に、浅倉の脳裏に一人のライダーの

姿が浮かび上がってきた。

「そうか...お前か、お前が英雄か...」

 自分の獲物を横取りした挙げ句、あろうことか悠々と傷一つなく

自分から逃げ去っていったタイガの姿を浅倉は思い出していた。

「感謝するぜぇ...北岡...」

「お前の質問の答えはすぐ出してやる。楽しみにしてろ」

 そう吐き捨てた浅倉は吾郎が回した秀一の車に乗り込みながら、宿敵が

待ち受ける戦場へと想いを馳せるのだった。

285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/30(日) 11:44:25.92 ID:DSAJ+Ylu0
〜〜 

 遂にこの日がやってきた。

 世間を騒がした連続殺人鬼、浅倉威と戦う時が来たのだ。

 401研究室を出た四人は、浅倉を誘導するポイントの近くに停車している

ワゴンの中で最後のミーティングを始めていた。

「役割とそれぞれが為すべき事は、もう頭の中に入っていますね」

「はい」
 
 既に浅倉がここに来るまであと五分をきっていた。

 言葉を交す事なく、四人はただひたすらその時を待っていた。

「先生、時間です」

「では、皆さん。行動に移ってください」

 東條の一言に香川が頷き、車のドアを開ける。

「死ぬなよ、東條」

「君の方こそ」

 短く言葉を交した二人は、正反対の方向へと駆けだしていった。

「先生、どうか必ず勝ってください」

「ええ。その期待に、全力でお答えしましょう」

 満も仲村の待機する場所へと駆けだしていった。

 信頼できる仲間達を見送った香川の背後から、強烈な殺気を纏った

存在がゆらりとその姿を現した。
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:45:39.97 ID:DSAJ+Ylu0
「お前か...英雄の親玉っていうのは...」 

「ええ。名もなき英雄ですが、それも今日までです」

 遂に姿を現した浅倉威と対峙する香川英行。

 時刻は平日の午前9時43分。場所は清明院大学から遠く離れていない

人通りの多い大通りである。

「面白れぇ...典型的だが、悪くない」

 北岡に写真を見せられた時には気が付かなかったが、人の理から外れた

浅倉威は、香川を一瞥するだけで自分とは別のベクトルではあるものの、

目の前の相手も一筋縄ではいかない何かを持っている、人の域を踏み外した

とんでもない化け物だということを一瞬で悟った。

「ライダー同士、いざ尋常に勝負とはお互いガラでもないだろうが...」

「お前となら、かなりギリギリの所で愉しめそうだ」

「結構。どうせ死ぬなら互いの全てを出し切って死にたい物です」

 この戦いで自分と同じ土俵に上がって戦おうとするライダーと初めて

遭遇した浅倉の笑顔がますます獰猛さを帯びた凄惨な物へと変化していく。

「分かってるじゃねぇか...英雄サマよぉ...」

 尋常ならざる雰囲気の二人のオーラに気圧された何も知らない一般人が

海が割れるように、二人を避けて通り過ぎていく。

 まるで怪物と英雄の対決を妨げるものはいないとでもいうように...

「...変身!」 

 銃の早撃ちのようにカードデッキを取り出した香川と浅倉は

己の全てを戦いの昂揚に任せ、ライダーへと変身した。

「...変身!」

 二人が変身したと同時に、打ち上げ花火が空中で爆発する音が周囲に

響き渡る。それを合図に香川と浅倉の体は一瞬のうちに、ミラーワールド

へと吸い込まれていったのだった...。
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:46:14.63 ID:DSAJ+Ylu0
〜ミラーワールド〜 


 浅倉と香川の戦いが始まったその直後、北岡秀一と由良吾郎も同時に

ミラーワールドの中へと突入し、香川との『同盟』に則り、浅倉威を

今度こそこの世から消し去るべく行動を開始した。

「さて、それじゃあこっちもやりますかね...」

 ゾルダがバイザーに一枚ずつカードを挿入して自分の武器を呼び出す。

「Strike vent」

「Gurad vent」

「Copy vent」

 ゾルダが呼び出した武装はマグナギガの肩と頭部を模した手甲と肩を

守る盾だった。

「うん。中々似合うじゃない。ゴロちゃん」  

 利き手にギガホーンを、両肩にギガテクターを装着したゾルダに変身した

ベルデはうんうんと頷きながら完全武装した自分の姿にご満悦だった。

 元々奇襲特化型のベルデの戦い方はヨーヨーで敵の体の一部分を縛って

相手の体のバランスを崩したり、特殊カードであるコピーベントで相手の

姿と武器を模倣し、1対1で切り結んでカードデッキを破壊するか、あるいは

クリアーベントで姿を消して気配を殺しながら、ライダーの背後に音もなく

近寄り、ファイナルベントを喰らわせるような戦法しかとれない。

 簡潔にまとめるとベルデのカードは肉弾戦にはとても向いているとは

言いがたい代物だった。

 しかし、そのハンデを埋める武器を手に入れる事が出来たら?
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:46:50.09 ID:DSAJ+Ylu0
 その点、北岡秀一は周到だった。

 ゾルダが使う事のない二枚のカードをあえて先に使用し、ベルデにコピー

させる事で他のライダーとの間にある埋めようのない戦力差のカバーに

つなげられ、何よりも相手のミスリードを誘える利点も生まれた。

 最も、この作戦が完璧な物かと問われればそうでもない。

 ベルデの最大の切り札の一枚と言えるコピーベントは既に使い切って

しまったし、ギガホーンを失ってしまえば丸腰になってしまう。

 だから...

「戦力差は経験と奇策で補わなきゃね」

 ベルデに変身した秀一はそう呟いた。
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:47:16.48 ID:DSAJ+Ylu0
「ゴロちゃん、絶対に相手と交戦しちゃダメだからね」

「あくまでも俺達の狙いは浅倉一人なんだから」

「相手も一筋縄じゃ行かないと思うけど、逃げ続けてくれよ?」

「大丈夫です。絶対に逃げ切りますから」

 秀一の言葉にゾルダに変身した吾郎が頷く。

 香川の策が、予め全ての反射物を破壊した完全にほぼ逃げ場のない一方

通行の地下通路でタイガや量産型オルタナティブ達と徒党を組んだ上での

時間切れで浅倉を消滅させる二段構えの策であるのならば、秀一の策は

香川の策に便乗した上で戦いを乱戦に持ち込み、一人でも多くライダーを

引き連れ、地下通路の中におびき寄せた上でのファイナルベントによる

一斉掃射を狙う物だった。

「いたぞ!」

「じゃ、ゴロちゃん。任せたよ」 

 向こう側の歩道からアビスとオルタナティブを発見した秀一は吾郎の

負担を少しでも減らすべく、オルタナティブへと躍りかかっていった。

「先生。任せてください...」

 そう呟いた吾郎は残った自分めがけて突進してくるアビスを誘うように

近くにあった細い裏路地へと駆け込んでいった。


290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:47:45.55 ID:DSAJ+Ylu0
「始まったか...」

 ライダーバトルの今後の趨勢を決する大規模な戦いを現実世界の鏡から

覗きこむ二人の人間がいた。神崎士郎と城戸真一だった。

「香川め、中々よく考えたものじゃないか」

「全ての反射物を予め現実世界で破壊した上で浅倉をおびき寄せる策とは」

「そうだな」

「どうする?オーディンを出すのか?」

「ああ」

「そうか。俺は俺で動かせて貰う」

 神崎を一瞥した真一は龍騎に変身し、鏡の中へと戻っていった。

 そして、神崎士郎もこの戦いの結末を見届けるべく、ミラーワールドの

中へと入っていった。 

291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:48:25.34 ID:DSAJ+Ylu0
〜英雄と怪物〜

 遂に三者三様の戦いの幕が切って落とされた。

「Sword Vent」

「Sword Vent」

 まず最初に戦況が大きく動いたのは、香川と東條のチームだった。

 緩やかなスロープでにらみ合った香川と浅倉は、日の光が当たらない

薄暗い地下通路へと吸い込まれるように駆け下りていった。
 
「うおーっ!」

 力任せに振るわれるAP3000のベノサーベルの力任せで乱雑な一撃を

オルタナティブは殺傷力で劣るスラッシュダガーの特性を生かしながら、

数学の方程式を解くように最小限の解を以て躱しては捌ききる。

(体を躱し、体勢が崩れた時に浅倉は突きを多用する)

(足などの下段部分に対する斬撃対処としてはジャンプによる後方回避)

(ならば、反応できない速度で浅倉を切り刻む!)

 王蛇の攻撃パターンに対する最適な反撃を組み立てたオルタナティブは

一瞬の内に自らの攻撃パターンの中に浅倉の攻撃と同じ動作と荒々しさを

取り込んだ物へ変化させたのだった。

「?!」

 まるで鏡に映った自分のような攻撃をするオルタナティブに王蛇は

たちまち劣勢へと追い込まれていった。
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:48:52.95 ID:DSAJ+Ylu0
 ベノサーベルの攻撃力は確かに他のライダーと比較して高い。

 頑丈さと攻撃力そして王蛇たる浅倉の後退のねじが外された状態による

無謀な突撃が組み合わさる事で最悪にして最強の攻撃が生みだせる。

 いわば肉弾戦で相手の装甲を突き穿ち破壊する事に主眼を置かれた白兵

特化のソードベントと言える。

 一方で香川のスラッシュダガーはAP2000とベノサーベルよりも劣るが、

それを埋めるだけの途方もない才気を持つ香川によって魔改造された

サイコローグが得た新しい力がそのままスラッシュダガーに反映されている

状態と言える。

 香川に改造される前のサイコローグは、目からビームやミサイルを

出すこともなく、自分の武器であるスラッシュダガーからは炎を放つ事も

出来なかったAP5000のちょっと強いだけのミラーモンスターだった。

 だが、香川英行はミラーワールドに滞在する時間を犠牲にすることで

ミラーモンスターがライダーに貸し与える力の出力を上げることに成功した

 その副次的なものの結果として、サイコローグは突然変異じみた進化を

遂げることに成功したのだった。即ち、目からビームを放ち、武器から

青い炎を吹き出すようになったのだ。

 話は逸れたが、要は単純な攻撃力で勝る王蛇の暴力をオルタナティブの

圧倒的な知力と膂力が押さえ込んでいると言うわけである。
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:49:28.65 ID:DSAJ+Ylu0
 確かに浅倉は強い。

 死を恐れずに立ち向かう蛮勇はライダーの中で一位と言えるし、自らに

降りかかる危機を切り抜けるだけの悪辣なまでの狡猾さも持っている。

 しかし、それ故に浅倉威は香川英行を打破することが出来ない。

 何故なら、香川は浅倉の想定のその遙か上を行くからだ。

 トンネル内部、自分の背後から聞こえて来たオルタナティブとは異なる

もう一つの電子音声に王蛇はすぐさま反応することが出来なかった。

 自分を超える斬撃を繰り出す香川の太刀を捌ききれず、返しのついた

棘で体を抉られては退路を炎で塞がれて追い込まれる王蛇に背後に潜む

一番敵に回してはいけない相手への対処を考えられるだけの時間は

与えられなかったからだ。

「ぐああああああ!!」

 わざと作られた香川の隙に乗じて背後に開けた何一つ明かりのない地下

通路の中に飛び退き、距離を取ることに成功した王蛇の背中を鋭い斬撃が

切り裂いた。タイガによる暗闇からの奇襲である。

 一度目の斬撃は王蛇の強化スーツの背中を深々と切り裂き、切り裂かれた

箇所からは生身の肌が覗き、そこから大量の血液が飛び散った。

 二度目の斬撃は浅倉の足を突き刺すような攻撃だったが、浅倉は自分の

ベノサーベルをタイガに投げつけることでこれを回避し、考え得る限りの

最悪の結末を一先ず先送りにすることに成功したのだった。
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:50:11.12 ID:DSAJ+Ylu0
「Steel vent!」

 よろよろと立ち上がった王蛇は悪足掻きのつもりか、バイザーを開き、

特殊カードのスチールベントを使用し、タイガのデストクローを奪い、

間断なく攻防重視の構えを取り、仕切り直しを図った。

「チッ!判断を間違ったかも...!」

 アドベントを使い、デストワイルダーかメタルゲラスを召喚して浅倉を

捕らえた方が良かったかも知れないとタイガは後悔した。

 そうすれば次の一手にファイナルベントを使うことだって出来たはず。 

「いえ、上出来です。残り時間はあと7分あります」

「このまま消耗戦を続けましょう」

 王蛇が投げつけたベノサーベルを左手に持ったオルタナティブが頭に

血が登りそうなタイガの心を宥める。

「はい。先生」 

「Strike vent!」

 デストバイザーにもう一枚のストライクベントを挿入したタイガは、

右手にメタルホーンを構え、改めて目の前の王蛇へと向き直った。

「はぁ...はぁ...楽しいなぁ、ライダー同士の戦いってのはよぉ...」

「これだけでライダーになった価値は充分ある。そう思わねぇか?」

「化け物め...」

 王蛇の持つカードはあと二枚。

 対して、自分と香川のカードは合わせてあと10枚もある。

 しかし、これだけの優位性を確保しているのにも関わらず、タイガも、

オルタナティブも王蛇の発する得体の知れない何かに徐々に飲み込まれつつ

あった。
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:50:42.02 ID:DSAJ+Ylu0
〜ベルデVSオルタナティブ〜

「....」

「....」

 香川と東條が地下で浅倉との死闘を繰り広げている中、地上では二組の

ライダーによる戦いの幕が開いていた。

 道路を挟んで相対し、にらみ合う疑似ライダーと仮面ライダー。

「Accele vent!」    

 先に仕掛けたのはオルタナティブだった。

 宙高く舞い上がり、停車していたトラックのコンテナの上に飛び乗った

オルタナティブはスラッシュリーダーにアクセルベントを読み込ませ、

50m近くあった距離を一瞬で詰めることに成功したのだった。

「そう来たか!」

 ベルデのコピーベントにより、ベルデのバイザーはゾルダのバイザーと

同様の機能を備えるに至っている。

 故に、秀一はベルデのコピーベントが解けるまでの間、ゾルダとして

今までと遜色のない戦い方を迷うことなく取ることが出来る。

 空中から舞い降りたオルタナティブが、一瞬のうちに直線距離17mの

間合いを一気に詰めようとしたところに、偽ゾルダはマグナバイザーを

連射し、懐に入られないように一定の距離を保つ。
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:51:21.54 ID:DSAJ+Ylu0
(どっちが北岡で、どっちが影武者なんだ?)

 秀一が吾郎と入れ替わっていることを悟った仲村だが、もし自分が

相対している相手が姿を消すライダーがゾルダに擬態しているとしたら、

一瞬の隙を突かれる危険性も無視できない。

 何しろ、ライダーバトルの半分はファイナルベントの威力で決定するが

残り半分は運と相手の奇策が勝利を左右すると言っても過言ではない。

(浅いねぇ...ま、相手が頭悪い馬鹿で助かったよ)

(ゴロちゃん...頼むから死なないでくれよ...)

「じゃ、近距離戦行ってみようか!」

 動揺を敏感に感じ取った秀一は、一気に勝負を決するべく、ベルデが

最もその実力を発揮できる肉弾戦をオルタナティブへと仕掛けていった。

「Sword vent」

 しかし、オルタナティブも一瞬で迷いを捨て去りスラッシュリーダーに

ソードベントのカードを読み込ませ、武器を呼び出す。

「うおおおおお!」

 絶叫しながらオルタナティブは大上段に振りかぶった大剣をゾルダへと

叩き付けようとするも、ゾルダは軽やかなステップでこれを回避。結果、

地面のアスファルトが抉れ、小さなクレーターが出来た。

 なんて馬鹿力だ。

 内心で呆れたように呟いた秀一はギガホーンの砲口をオルタナティブの

頭に向けて、弾丸を撃ち出した。
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:52:17.34 ID:DSAJ+Ylu0
「っぁ!」

「へぇ、これってビームなんだ」

 ギガホーンから放たれた緑色の光線にニヤリと笑った秀一は両手に構えた

マグナバイザーとギガホーンによる精密な射撃で相手に攻撃をさせること

なく一方的な蹂躙を始めたのだった。

「うわあああああああ!!」

 圧倒的な経験差と実力差に圧倒された仲村は、歯痒い思いをしながら

防戦一方の最悪な状況に自分が追い込まれていることを悟った。

 前に出て斬りかかろうとすれば、小回りの利くマグナバイザーで牽制され

後ろに下がってカードを切ろうとすれば、火力で勝るギガホーンの光線が

それを許さない。

(考えろ、考えるんだ...なにか、なにか盾になるもの...盾?!)

 マグナバイザーの弾丸が自分の右肩をかすめた時、オルタナティブの

頭の中に一か八かの閃きが舞い降りた。

「調子に乗るな!」
 
 逃げることを止めたオルタナティブはゾルダに相対し、自分の持つ

スラッシュダガーに炎を込めた遠距離からの斬撃を見舞った。

「無駄だって言って...」

 悪足掻きをせせら笑うゾルダの顔が引きつった。

 今、自分とオルタナティブが戦っているのは幅4m程度の歩道だった。

 バイクに変身して相手を攻撃するオルタナティブにとって、この狭さは

脅威でしかないが、必ずしもその脅威が逆転に繋がらないとは限らない。
 
 オルタナティブの放った斬撃の対象はゾルダではなく、その近くに

あった大きく育った街路樹の幹だった。

「しまった!」

 ベルデのスペックはオルタナティブよりも劣る。

 それ故に一方的に銃撃を浴びせられるガードレールで保護された歩道を

秀一は戦場に選択したのだった。

 確かにその狙いは間違っていなかったし、オルタナティブの変身者である

仲村創の経験不足に上手くつけ込む形でゾルダに変身したベルデはここまで

戦いを優勢に進めることが出来たのだから。

「隙を見せたな。さぁ、正体を現しやがれ!」

 高さ5mを優に超える大木が自分の目の前に倒れ込んで来れば、当然

どんな人間であっても、すぐさまそこから飛び退いて距離を取る。

 だが、その距離こそが今のベルデの命綱に他ならなかった。

 そして、その命綱が切られた音が切り落とされた街路樹の向こうから

聞こえて来てしまった。
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:52:45.03 ID:DSAJ+Ylu0
「Advent!」

 猛烈な勢いで自分の元へと駆けてくる人型をしたオルタナティブの

契約モンスターが自分の頭部からビームを放ってやってきた。

 ミラーワールド二位の攻撃力を誇るサイコローグがやってきたのだ。

「やっば!」

「Clear Vent」

 近くにあったポストに身を隠した秀一は自分の悪運に感謝した。

 自分を捉えきれなかったサイコローグのレーザービームが直撃した

ビルの壁や車のボディがとんでもない音を立てて爆発したからだ。

(ふぅ...ヤバかったぁ...。今日はもう撤退した方がいいな)

(早くゴロちゃんと合流してミラーワールドから脱出しよう)

 間一髪でサイコローグに捕らえられ、殺される前に最後の奥の手を

切ることに成功した秀一は、息を殺してサイコローグとオルタナティブの

魔手から命からがら逃げ出した。

「くそがぁあああああああ!!!」
 
 自分の背後から聞こえる怒りの雄叫びに「おお、怖い怖い」といつもの

茶化すような笑みを浮かべた秀一はオルタナティブに見つからないよう、

慎重に吾郎の待つ戦場へと向かうことにしたのだった。

299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:53:14.41 ID:DSAJ+Ylu0
〜アビスVSゾルダ〜


 ライダーバトルの状況が目まぐるしく変わる中、最後の対戦は意外な

乱入者により、複雑な様相を見せ始めていた。

 遡ること八分前、オルタナティブと別れたアビスは路地裏に逃げ込んだ

ゾルダを追いかけて疾走していた。

 平均的なライダーが持つカードの枚数が5枚か6枚と仮定すると、既に

武装しているゾルダのカードの残りを4枚程度とアタリをつけたアビスは

躊躇なくアドベントのカードでアビスハンマーを呼び出し、ゾルダを

追いかけ捕獲しろと命令を出したのだった。

 地面や湖に潜れば時速125kmの速さで獲物を追跡するアビスハンマーに

とってライダーの脚力などたかが知れている。

 案の定、数十秒後にはアビスハンマーに足を掴まれたゾルダが、土中に

ひきずりこまれまいと必死の抵抗をしていた。

「ぐっ!くそっ!」

(あの時のゾルダと声が違う?そうか、そういうことか...)  

 道理でいつもと違う恰好をしていたと言う訳か。

 ガイとゾルダに殺されかけた時に、満は秀一と吾郎の声を一度だけ

聞いていたことが決め手だった。

 ゾルダの変身者とその手下は互いのデッキを交換して変身し、敵の目を

欺いて漁夫の利を狙っていた。そう考えるとつじつまが全て合う。
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:53:50.07 ID:DSAJ+Ylu0
「答えろ。偽ゾルダの変身者とどこで落ち合う予定なんだ」

「教えるわけ、ないだろ...」

「ふーん。そう言う事言っちゃうんだね〜」 

「アビスハンマー。こいつの体、もっと土の中に埋めて良いよ」 

 地面の下から気持ちの悪い唸り声が聞こえたと同時に、ゾルダの体が

まるで底なし沼に吸い込まれていくようにずぶずぶと沈んでいく。

 ゾルダの体の半分がアスファルトに埋まった所で、アビスハンマーが

俺の役目は終わったと言わんばかりに、地面の中から這いだし、アビスの

隣に黙って控えた。

「俺さ、アンタがどうなろうと別に関係ない訳なのさ」

「ライダーバトルに乗ってる側の人間なんだろ?アンタ達」

「黙って死ぬか、それともしゃべって生き延びるか選んで欲しいなぁ」

 脅迫とハッタリをかけ、ゾルダに変身したライダーに揺さぶりをかける。

「殺すなら、殺せ...」

「あーあ。じゃ、そうするわ」 

 これ以上話しても時間の無駄と悟った満は、躊躇なく地面の中で餌を

待ち侘びるアビスハンマーに食事の許可を出そうとした、が....
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:54:21.93 ID:DSAJ+Ylu0
「Strike vent!」

 雲の中から姿を現した深紅のドラゴンが満めがけて避けようがない

豪火球を吐き出したのだった。

「ッ!!アビスハンマー!俺を守れ!」

 そう言うなり、アビスハンマーの体を盾にしたアビスは背中から

アスファルトの地面に倒れ込み、アビスハンマーが逃げ出さないように

その両脇から手を入れて雁字搦めにして最低限のダメージだけで

切り抜けることを選択した。

 豪雨のように降り注ぐ火の玉は槍のように次々に地面に突き刺さり、

狙い誤ることなくアビスやアビスハンマーの体にも突き刺さった。

「ぐああっ!」

 豪火球を真正面から3発受けたアビスハンマーがあっけなく消滅する。

(誰だ!誰なんだ!)

 一言では言い切れない間柄の契約獣の片割れがいなくなったことに

傷つきながらも、ドラグレッダーによる空からの爆撃がようやく終わりを

迎えた。

 よろよろと立ち上がった満は、まるでゾルダを庇うような龍騎の攻撃の

仕方に違和感を感じながらも、姿の見えない敵からの再びの来襲に備え、

撤退を選ぶ。

(やばい...このままいけば作戦が全部ぶち壊されるかも知れない)

 元々この作戦は、香川陣営の四人と、浅倉と北岡とその手下の三人以外の

ライダーの介入は想定されていない前提で成立している。

 香川と東條のツートップが浅倉に後れを取るとは思えないが、その二人の

思考の外から相手が乱入してしまえば、当然戦況はひっくり返ってしまう。

 ここに残って八人目のライダーと戦うか、それともゾルダを殺して、

香川と東條の加勢に向かうのか?迷う時間はもう殆どない。
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:54:53.21 ID:DSAJ+Ylu0
「悪く思わないくれよ!」 

 アビスが選んだのは後者だった。

 どのみちゾルダの殺害は今回の作戦に含まれている訳だし、ここで強力な

ライダーを確実に倒しておけば、この先の戦いを優位に進められるのは

目に見えている。

「Strike vent」 

 由良吾郎は己の命運はここまでかと天を仰いだ。

 だが、天は彼を見捨てていなかった。

「Advent」

 アビスクローから水が発射される前に、アビスの体がまるで見えない

巨大な何かに突き飛ばされたかのように宙へと吹き飛ばされたのだった。

「うわああああああああ!!!」

 叫び声を上げながら路地裏から道路まで吹っ飛ばされたアビスを

目を丸くして見送った吾郎の頭上から懐かしいあの声が聞こえてきた。

「ゴロちゃん!」

「先生!よくご無事で!」

 クリアーベントの効果が切れたベルデが土の中に生き埋め寸前になった

ゾルダの横に立っていた。

「バイオグリーザ!ゴロちゃんを穴から出してくれ!傷一つつけるな!」

 カメレオンのミラーモンスターが契約主の言葉に従い、その強力な

腕力で土の中に埋め込まれたゾルダを掘り起こした。

「でも、どうしてここが?」

 秀一の肩を借りて立ち上がった吾郎は当然の疑問をぶつけた。

「城戸の奴がゴロちゃんの居場所を教えてくれたんだよ」

「城戸さんが?」

「ああ。龍騎に変身した奴が路地裏に入っていくのを見てね」

「そしたらなんとゴロちゃんがそこにいたのさ」

「そうだったんですか」 

 九死に一生を得た吾郎は、それでも何か腑に落ちないかのように

首をかしげていたが、とりあえず北岡と合流できた事を喜ぶ事にした。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:55:22.57 ID:DSAJ+Ylu0
「よし、見えてきたぞ!」

 自分達を追いかけてきたオルタナティブとアビスの姿が見えないことに

安堵した秀一と吾郎は、無事に自分達の車の場所へと辿りついたのだった。

「せーの!」

 車のガラスの中に身を投げた二人は、次の瞬間には現実世界への帰還を

果すことに成功していた。

「やった!やったぞゴロちゃん!!」

「良かった。無事に戻って来れたんですね」

 車内に戻った秀一と吾郎は喜びを爆発させて手を取り合った。

 思ったよりも疑似ライダーに手こずりはしたが、最悪の状況から

こうしてほぼ無傷での生還を果たせたのだ。何も言うことはない。

「先生。もう帰りましょう。あとは残った人達に任せれば大丈夫です」

「そうだね」

「浅倉は香川に、城戸が残りの二人を倒してくれれば万事OKと言う事で」

 香川の戦力を減らすことには失敗したものの、その戦力の底を見る事に

成功したゾルダとベルデの二人組は颯爽と戦場を後にして去って行った。


 こうして、戦いは次なる局面へと移り変わっていく。

304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:55:53.75 ID:DSAJ+Ylu0
二十話 〜Survive〜

 バイオグリーザに吹き飛ばされ、仕留められたはずのゾルダを仕留め

損ねたアビスは、よろよろと吹き飛ばされた場所から自分の身体を

起こした。

 顔を上げ、正面を見るとそこには赤い仮面ライダーが立っていた。

「どういうことだよ!城戸さん!」

「アンタと俺は協力関係にあるんじゃなかったのかよ!」 

「協力?何をバカな事を言っているんだ、貴様」 

 この前会った時とは、まるで違う別人のような冷酷な声にアビスは

身震いが止まらなかった。

 誰なんだ、コイツは。

 真司と全く同じ存在であることは分かる。

 だが、根本的な何かが決定的に異なっている。

「アンタ、一体誰なんだ...」

「俺か?俺は、城戸シンジだ」

 そんなことは分かっている。

 だが、先程から己を襲う悪寒の波は一体何なんだ。
 
 そんな満の内心の動揺を見透かすように、龍騎はアビスの問いかけに

答え始めた。

「俺は本当のシンジの片割れだ。お前の知る城戸真司は偽物だ」

「なにを、言ってるんだ...アンタ」

「俺は真司の中のもう一人の城戸シンジだ」

「アイツは俺の体を奪うどころか、全てを奪い去った」

 意味不明な独白をする城戸真司の本物を自称する怪しいライダーは

おもむろにデッキからカードを引き抜き、バイザーにベントインした。
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:56:20.39 ID:DSAJ+Ylu0
「Sword vent」

 地面に突き刺さった青竜刀を引き抜いた龍騎は狂ったような叫びを

上げながらアビスへと躍りかかった。

「止めてくれ!止めてくれよ城戸さん!俺はアンタの敵じゃない!」

「死ねぇ!」

 恐るべき速さの攻撃にアビスは為す術もなく追い詰められる。

 防戦一方のアビスは、必死にガードを固めて致命傷を避け続けるが、

龍騎は息切れすることなく防御の上から雨霰と拳と蹴りの暴力の暴風雨を

降らし続けた。

 ドラグセイバーを相手の左腿に打ち付け、がくりと左からバランスを

崩して倒れたアビスの左頭部に龍騎の全力の膝蹴りが吸い込まれていった。

 一瞬で意識を刈り取られたアビスはそのまま反撃に転じることなく、

そのまま固いアスファルトの地面に全身を叩き付けられた。

「あがっ!」

 こめかみを痛打し、余りの痛みに身動き一つ取れないアビスを一瞥した

龍騎はそのままトドメを刺すべく、アドベントで契約獣を呼び出した。

「ギャオオオオオオオオ!」

 無双龍ドラグレッダーの地を裂き、空を割る咆哮がミラーワールドに

響き渡る。

「終わりだ」

「Advent」  

 自分の隣から姿を現したドラグレッダーにアビスを放り投げた龍騎は

既に勝敗の決した勝負に興味はないというように、その場から離れようと

した。

 だが、アビスの近くをオルタナティブが通りかかることまでを龍騎は

想像することが出来なかった。 
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:57:27.69 ID:DSAJ+Ylu0
「Wheel vent」 

「うおおおおおおおおおおおおお!」 

 仲間を救うべく猛然とドラグレッダーの元へ突っ込んでくる仲村の

蛮勇に失笑を隠せない龍騎だったが、今更仕留めた相手を取りこぼすのも

愚かしいと思い直し、オルタナティブのファイナルベントが届かない

上空へと舞い上がるようにドラグレッダーに指示を出した。  

「うわああああああああ!!」

 龍騎を背中に乗せて、オルタナティブのファイナルベントを回避した

ドラグレッダーは後先考えずに突っ込んできた愚か者を仕留めるべく、

その顎を開いて、全てを灰燼に帰す炎の息吹を吐き出した。

 しかし、オルタナティブの後先考えない行為によって生じた僅かな隙に

アビスは目を覚まし、おぼつかない手でなんとか龍騎に対抗できる唯一の

カードをバイザーにベントインした。

「Final vent」

「シャアアアアアアアア!!」

 雄叫びを上げたアビスラッシャーと先程破壊されたアビスハンマーとは

別の個体が光を放ちながら合体する。

「佐野!おい、佐野!大丈夫か?」

「大丈夫...じゃ、ないかもしれない...です」

「逃げるぞ。早く乗れ」

 這々の体で満の傍にやってきた仲村は満が呼び出したアビソドンの

巨大な姿に圧倒されながらも、なんとかホイールベントで呼び出した

サイコローグが変身したバイクへと乗せることに成功したのだった。

 意識を失いながらも、しっかりと仲村の腰に手を巻き付けた満は

そのまま深い眠りに落ちていった。
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:57:58.22 ID:DSAJ+Ylu0
「ギャオオオオオオオ!」

「ゴオオオオオオオオオ!!」

 地上から飛び立ったアビソドンは陸海空の全ての状況に対応できる

形態へと己の姿を変化させ、空に待ち構える龍騎とドラグレッダーに

襲いかかっていった。

 ミラーモンスターにはおおよそ知性と呼ばれるものは備わっていない。

 しかし、神崎士郎がライダーバトルにおいて使役するミラーモンスターが

最低限の役割を果すようにカードに組み込んだ一種のプログラムによって

ある程度の優先順位というものが契約モンスターの行動を束縛している。

 例えばライダーが敵の攻撃を受け戦闘不可能に陥る、あるいは陥りかね

ない状況ならば、状況に応じて契約主を助けなければならないという

強制が契約モンスターには課せられている。

 故にアビソドンはそのファイナルベントの特性と神崎士郎が組み込んだ

プログラムにより、擬似的とはいえ図らずもオルタナティブとアビスの

殿を務める羽目になった。

 アビソドンから放たれるビームとミサイルの嵐をかいくぐりながら

龍騎は冷静に頭を使いながら、アビスとオルタナティブの持つ時間を一分

一秒でも多く奪うべくドラグレッダーを巧みに操った。

(リュウガのファイナルベントと同等とは...)

 アビスのファイナルベントのAPは7000。素の攻撃力はAP5000である。

 対するドラグレッダーのAPはAP5000。正面きってやり合えばどちらが

勝利し、どちらが敗北するのかは目に見えている。

 契約主のアビスが敵対するライダーと充分な距離を取ったと判断した

アビソドンは悠々と自分の強さをドラグレッダーに見せつけるように、

何処かへと泳ぎ去って行った。 
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:58:25.61 ID:DSAJ+Ylu0
一方、呼び出されるだけ呼び出された挙げ句、無駄骨を折らされた

ドラグレッダーは不機嫌そうな唸り声を上げながら、今にも取り逃がした

アビソドンを追いかけようとしきりに方向転換しようとしていた。

「....ドラグレッダー、もういい。下ろせ」

 だが、この状況こそが最もリュウガが望んだ状況だった。

 リュウガが降りた場所は香川と浅倉の一騎打ちの場所だった。

 ミラーワールドの存在である城戸真一に制限時間はない。

「さて、そろそろ残り三分という所か...」 

 地下通路の中へと足を踏み出そうとしたその時、

「そこまでだ」

 厳かな声の主が己の肩を掴んでいた。

「オーディン...」

「神崎士郎からの命令だ。ナイトとベルデを始末しろ」

「そうか。なら、俺はそれに従うまでだ」

 今日に至るまでその姿を一切見せる事のなかった13人目にして、最後の

ライダー、オーディンは何もせず、静かに去って行く龍騎を見送った後、

香川の指示に従った六人の量産型オルタナティブ軍団が地下通路へと

突入しようとしたその瞬間ゴルドフェニックスが現れ一瞬で焼き払う。

「Time vent」

 そして、時は全て神の思いのままに操られる。
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:59:09.40 ID:DSAJ+Ylu0
〜進化する王蛇〜


(オルタナティブ軍団がここに到着するまで、残り5分)

 浅倉威を作戦通りに追い込んだ香川英行の懸念は、自分が作り出した

量産型オルタナティブの突入するタイミングだった。

 一人では浅倉威を取り逃がす恐れがある。下手をすれば仲村や東條と

一緒に戦っても取り逃がす可能性も微かにだが存在している。

 故に香川英行は戦いの鉄則に倣い、数の暴力で王蛇を仕留めるという

シンプルだがとても合理的な手段に打って出た。

 量産型オルタナティブとオルタナティブの違いはアクセルベントと

ソードベント以外の三枚のカードの代わりにガードベントを二枚入れた

ヒットアンドアウェイの攻防を主眼にしたデッキ構成である。

 スペックはオルタナティブよりも一割程度劣るが、それ以外は90%の

性能を発揮できるように作り上げられている。

 ソードベントは自分達が使っているものよりもAPが500多い代物だし、

ガードベントは一撃ならどんな攻撃も防げるGP3000に設定してある。

 活動時間は9分31秒だが、王蛇の残り時間が三分を切ってしまえば、

そんな活動限界時間は些末事でしかない。

 決定力には欠けるが、集団戦でこそ彼等が真価を発揮する。
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:59:36.09 ID:DSAJ+Ylu0
そして、香川がこの量産型オルタナティブを託した相手というのが、

法では裁けぬ浅倉威に大切な人達を殺された遺族達だった。

 香川は仲村の言葉からヒントを得て、被害者遺族の会に足繁く足を

運び、その中から屈強な六人の男達を選び出したのだった。

 浅倉に殺された被害者の数は50人以上にも及ぶ。当然、被害者の

遺族達の数はその数倍にも及ぶ。

 彼等の事情はここでは割愛するが、ともかく香川英行は自らが選んだ

六人を完全に説得、信用させることに成功し、今日に至るまで他の仮面

ライダーに気が付かれることなく、量産型オルタナティブを一通り完璧に

使いこなさせる訓練をさせ続けた。

 そして、遂に彼等の苦労が報われる日がやってきた。

311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:00:08.33 ID:DSAJ+Ylu0
 王蛇に残された選択肢はあと二つだった。

 一つは闘争ではなく逃走。

 アドベントを使い、ベノスネーカーを召喚し、目の前の二人のライダーを

足止めさせた隙にそのまま地下通路から出てミラーワールドから脱出する。

 もう一つは逃走ではなく闘争。

 玉砕覚悟でファイナルベントを使い、タイガかオルタナティブを仕留め

神崎士郎から貰ったサバイブのカードで残り一人を仕留める。

「ふん...」

 壁際に追い詰められた王蛇は不敵な笑みを浮かべ、その毒牙にかける

最初の獲物をタイガにすることに決めた。

「ウオオオオオオオオ!!!」

 自分から見て左にいるオルタナティブの足へと右手のデストクローを

投げつけ、すかさず香川のフォローに入った東條へと踊りかかった。

 上から振りかぶって下ろされる虎の爪をタイガは右手のメタルホーンで

当然のように上段で受け、その威力を減衰させた上で王蛇の無防備な

土手っ腹めがけて強烈な前蹴りを浴びせた。

「ぐふっ!」

 10tを軽く超える蹴りを水月に諸に浴びせられた王蛇はマスクの中に

血反吐を撒き散らしながら、通路の真ん中へと吹き飛ばされた。
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:00:40.74 ID:DSAJ+Ylu0
「Final vent」

「シャアアアアアアアア!!」

 背後から猛然と迫るベノスネーカーが吐き出す毒液の奔流に乗った王蛇は

迷いなくバイザーにファイナルベントを叩き込み、タイガに対して必殺の

一撃を叩き込むことに全てを賭けた。

「はぁっ!」

 天井ギリギリまで飛び上がった王蛇にベノスネーカーが必殺の毒液を

吐きかけようとしたその時...

「Freeze vent」

 これ以上はないという絶妙なタイミングでタイガの秘中の秘である 

フリーズベントがその効果を発動させた。

 いかなるミラーモンスターの動きを停止させるカードの力により、

ベノスネーカーは一瞬で凍り付き、無力化された。

「何?!」

 初めて体験するカードの効力に反応が遅れた王蛇にたたみかけるように

タイガは攻撃の手を緩める事なく、ファイナルベントを挿入した。

「ガオオオオオオオオオオ」

 振り返った王蛇の腹に猛虎の爪が突き刺さる。

「グワーッ!」

 デストワイルダーに引き倒され、無様に地面を引きずられる王蛇の体は

あと十秒もしないうちに自分の契約獣と挟撃しようとするタイガの元へと

辿りついてしまうだろう。

「舐めるなーっ!」

 オルタナティブもタイガでさえも、もう王蛇は万事休すなのだと誰もが

確信していた。しかし、浅倉威は驚くべき方法で自らの窮地を脱した。

「ギャアアアアアア」

「なにっ!どうしたんだデストワイルダー!」

 自分の爪が浅倉威に届くまで、あと残り半分の距離という所でいきなり

デストワイルダーが左手を押さえて、地面に転がって消えてしまったのだ。
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:02:14.37 ID:DSAJ+Ylu0
「ありえない。なんでファイナルベントが無効化されたんだ?」

「ハハハ...窮地に追い込まれた毒蛇が獲物を噛まないわけがねぇだろ」 

 瀕死の重傷を負いながら、それでも立ち上がる王蛇の生命力の余りの

強さにオルタナティブとタイガも恐怖を禁じ得なかった。

「王蛇の...そうか、毒をデストワイルダーに」

 得意げに嘲笑する王蛇のベノバイザーのコブラの頭部の牙の部分に、

何か白い物がこびりついていた。それはデストワイルダーの毛だった。

 そう、王蛇は引きずられる最中に自由な右手でベノバイザーの牙を

デストワイルダーの右腕に突き刺したのだった。

 毒蛇が僅か1mg以下の毒で何百匹もの生物や人間を死に至らしめるのと

同様に、ミラーワールドで最強の致死毒を持つベノスネーカーの毒を

体内に注がれて無事なミラーモンスターはまずいないだろう。

「どこまでも...悪運の強いやつなんだ...」

「どうしたよ英雄サマ?俺を殺すんじゃなかったのか?」 

 瀕死の重傷を負いながらも、王蛇は戦況をゼロに戻す事に成功した。

「さぁ、殺し合いを始めようぜ...?」

 王蛇が最後の一枚をデッキから引き抜いた。

 その瞬間、地下通路の全てが烈火の炎に包まれる。





「Survive」





 燃え盛る劫火に煌々と照らされた棺桶の中で、絶対的な死の権化として

王蛇は新たな力を携え、不死鳥の如く全ての傷を癒やした完全無欠の

存在となって生まれ変わったのだった。

「さぁ...今度は俺がお前らを殺す番だ...」

 烈火の力を手に入れ新生したベノヴァイパーが戦いの終幕を告げる

第三のゴングを鳴らした。
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:06:35.31 ID:DSAJ+Ylu0
〜力の差を埋める『』〜

 神崎士郎の奥の手を得た浅倉威との圧倒的な実力差を敏感に感じ取った

香川英行は活動限界時間の迫るタイガに撤退を命じた。

 状況は浅倉威に傾きつつあった。

 神崎士郎から渡された強化カードを受け取らないライダーがいたとは

想定外にも程がある。
 
 しかも、予め量産型オルタナティブにセットしていた位置情報及び

生存確認システムが王蛇の強化と同時に全てロストしてしまったのだ。

 これ以上、東條を危険に晒すわけにはいかない。

 故に、香川英行は東條を逃がす為の血路を開く覚悟を決めた。

「東條君!逃げるんだ!」

「何でですか!先生」

「あれはもう君の手には負えない!オルタナティブを率いて撤退しなさい」

「嫌です!先生は僕に言いました!一緒に戦おうって!」

 たとえ浅倉威と差し違えてでも、香川の命は守り抜かなければならない。

 英雄にはなれなくても、英雄の盾になって死ぬことなら...それが浅倉の

魔手から大切な人を守る唯一の手段であれば、東條悟は躊躇うことなく

命を捧げられる。

「覚悟はもう決めている!カードだってまだ残って...」

「私には責任がある!君をこの戦いに巻き込んだ責任がある!」
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:07:16.46 ID:DSAJ+Ylu0
しかし香川は東條と共に戦うことを拒んだ。

 たった一人で目の前に立つ紅蓮の大蛇とその契約者を相手取って

その命を散らそうとしているのだ。

 意味が分からない。

 あれほど英雄になることは命を軽々なものとして扱ってはいけないと

常日頃から自分に説いていた香川が、今この時になってその言葉とは

真逆の行為を取ろうとすることが理解できない。

「東條君。英雄にはね、守らなければならないことがあるんですよ」

「かけがえのない仲間を失いそうになった時に自らが盾になる覚悟」

「力なき多くの者を守るために非情な悪を担う覚悟」

「そして、自分にだけは負けないという誓いを最後まで貫く覚悟」

「どうやら今日は君が私と肩を並べて戦うには早すぎたようですね」

 仮面の下に笑顔を隠した香川は、すがりつく東條の手を振り払い、

右手に持ったスラッシュダガーを両手で構えた。

「先生!先生ッ!なんで!なんで!」

 王蛇がサバイブに変身する前に仕留める機会が何度もあったにも拘わらず

何度も選択を間違えた東條は激しい怒りに襲われていた。

 でも、もうどんなに激昂しても過ぎた時は二度と戻ることはない。

「浅倉アアアアアアアアアアアッ!」

 香川の期待を裏切り、あまつさえその命を危険に晒した自分の愚かさと

どこまでも生き延びようとする王蛇の生き汚さに東條は怒っていた。

「ハハハハハハハハ!いいザマだなぁ英雄さんよぉ」

「その滑稽さに免じて、そら」

 地下通路を煌々と照らしていたサバイブで作り出された炎の障壁が

一瞬でベノヴァイパーに吸い込まれていった。

「十秒くれてやる。その間に生きるか、死ぬかを決めろ」 

 浅倉の悪辣なまでの慈悲にタイガはいかに自分が非力で無力なのかを

思い知らされた。

「東條君。約束を破って一人死んでいく私を、許してください」

「!!!」

 闘争を選んだ王蛇と真逆の選択をしたタイガは猫が尻尾を巻いて

大蛇から逃げ出すように、光り差す出口へと向かって走り出した。
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:07:53.81 ID:DSAJ+Ylu0
「ふぅ...」

 タイガが階段を登って地下通路から出て行くのを確認した王蛇は香川との

戦いを再開すべく、再び炎の障壁を展開して邪魔者が入らないように場を

整えた。

「良いんですか?」

「貴方にとって一人でも殺すライダーが減るのは好ましくないのでは?」

 絶体絶命の窮地に追い込まれているにもか関わらず、香川英行は余裕を

崩すことなく、目の前に立つ王蛇サバイブに好戦的な笑みを向ける。

「はっ、確かに獲物が減るのは業腹極まりない。が、奴は小物だ」

「俺が手をかけるまでもない」

「その点、アンタはアイツと違ってギリギリまで殺し合えるからな」 

「正々堂々からほど遠い貴方の口からそんな言葉が出るとはね...」

「ふふふふふふ...」 

「ハハハハハハハハ」

 策は破れ、孤立無援の絶体絶命の窮地に追い込まれながらも香川英行は

目の前のライダーとの戦いに、今までにない程に心が沸き立ち血が滾るのを

感じていた。

(結局、英雄も怪物も戦いにおいては等しくライダーということですか) 

「香川、気が付いているか?」 

「上を見ろ」

 浅倉が指さした方向に目を向けると、そこには現実世界で破壊した筈の

カーブミラー、天井についたガラス張りの照明器具、そしてトイレの中に

ある鏡まで苦心して浅倉威を追い込むために取り外し、破壊した全てが

時を巻き戻されたかのように蘇っていた。

「ハハハハハ。鏡の世界で鏡を壊すのはタブーらしいな」

「ふむ。どうせやるならフェアに殺し合え。ということですね」

「いや、神崎の奴が時を弄ったんだろう」 

 タイムベントの存在を浅倉威が知っている事に少し驚いた香川だったが、

時が巻き戻され、停止した状況に置かれた今こそが浅倉威を討ち取る

最後の機会なのだと改めて認識した。

「ええ、そういう事なら時が動き出すまで目一杯愉しめますね」

「ならば!獣同士、どちらかが死ぬまで存分に殺し合いましょう!」

 理性の箍とオルタナティブ・ゼロに掛けていたリミッターを全て外した

香川英行はデッキから今まで誰にも見せたことのないカードを引き抜く。

 
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:10:06.70 ID:DSAJ+Ylu0
「そうだ!お前のようなライダーを俺は待っていたんだ!」

 小賢しさや矜持を投げ捨て、怪物と同じ土俵に上がってきた香川英行に

歓喜の叫びを上げた浅倉威は夢中になった。 

「Sword vent」

 手甲型のベノバイザーツヴァイに王蛇サバイブはソードベントのカードを

挿入し、AP4500にまで破壊力を引き上げられたベノサーベルの強化版、

ヴァイパーブレードを召喚した。

 サバイブの力を得た新しいベノサーベルの形状は、サーベルに鞭と刀を

足した刀身が剣に近い形状をしていた。

 烈火の力を宿した刃の部分に炎が踊り、刀身の峰の部分には相手の刀身を

受け止め、手首の返しを利用して破壊する鋸歯がずらりと生え揃っている。

 そして刃の鋒から長く伸びるのは一刺しされれば絶命必至の猛毒を持つ

ベノヴァイパーの毒が含まれている伸縮自在の鋭い鞭だ。

 対するオルタナティブも負けてはいない。

 時を止められたことにより、浅倉を仕留めるために待機していた忠実な

量産型オルタナティブの援軍が見込めないことを理解した瞬間、香川は

ゼロにしかない特殊な暗号コードを解除し、緊急事態にのみ使える特殊な

カードを発動する。
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:10:33.78 ID:DSAJ+Ylu0
「Callsummon!」

 コールサモンと書かれた魔方陣の描かれたオルタナティブ・ゼロの

カードが効力を発揮する。

 そのカードは、半径100m以内に居る量産型オルタナティブの持つ全ての

カードをゼロの元に回収した上で、消耗したゼロの武器と防具を増やす

効果を持つまさに反則じみたカードだった。

 量産型オルタナティブが全てロストした上で、自分よりも戦闘力の勝る

ライダーに孤立無援の状態で対峙した状態でしか使えない最終手段だが、

その効果は決してサバイブに劣りはしない。

 今回引き連れてきた量産型オルタナティブは六体。

 そして彼等の持つカードは合計24枚。香川の残りのカードを合わせれば

なんと合計28枚もの武器カードがゼロの手中へと収まってしまう。

 神崎製のカードデッキは、破壊された瞬間に全てのカードがロストするが

香川製の量産型オルタナティブのデッキは破壊されたその時点で、未使用の

アドベントカードがオルタナティブ・ゼロのカードのストックとして

量子転送されるようになっている。

 王蛇サバイブの持つカードの合計枚数は特殊系三枚と武器系五枚の

合計8枚。単純計算にしておよそ4倍の差が王蛇とゼロの間に生まれた。

 この時点で王蛇サバイブがオルタナティブ・ゼロに勝る唯一の点が

契約モンスターであるベノヴァイパーだけという異常事態が生まれた。

 つまりこれは、香川の頭脳とオルタナティブがサバイブ無しで

神崎士郎のサバイブの力を凌駕したという証明に他ならない。
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:11:09.25 ID:DSAJ+Ylu0
「ハハハハハ!良いぞォ香川ァ!お前はやっぱり最高だァ!」 

「Guard vent!」 

 喜悦の叫びを上げながらマンホールの蓋を隙間なく6枚重ねたような

盾を呼び出したオルタナティブに王蛇サバイブは飛びかかっていった。

 右手に剣を、左手に盾を構えたオルタナティブはベノサーベルの先端の

鞭からにじみ出る毒液が己に掛かることのないように巧みに操っては

盾の頑強さを生かした突撃と撤退を織り交ぜた攻防を展開した。

 圧倒的劣勢を覆すべく、王蛇もサバイブで強化された力で香川の

シールドを力づくで破壊しに掛かった。

 10発目の攻撃でオルタナティブの盾の最下部が綻びを見せた。

 王蛇は一旦距離を置き、壊れた盾の部分に鞭を叩き付け、全てを溶かす

溶解毒をその先端から流し込んだ。

 地面を溶かし、有害な毒ガスを発生するベノヴァイパーの毒が霧となり

オルタナティブの周囲に立ちこめる。

 一息でも吸い込めばたちまち身動きが取れなくなるのは必至。

 オルタナティブも王蛇を追うように有毒ガスが発生した箇所よりも

前の場所へと飛び出した。

 王蛇とオルタナティブも次のカードをバイザーにベントインし、決定的な

優位性を相手に先んじて先取すべく動き出した。

「Accele vent」

「Strange vent」

 アクセルベントで自らを加速させたオルタナティブは破損して使い物に

ならなくなった盾の最下部を切り捨て、残り五枚となった盾を構えて

円盤投げの要領で王蛇へと投げつけた。
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:11:41.04 ID:DSAJ+Ylu0
「そんなもので俺を殺せると思ってんのか!!」

 怒りの声と同時にベノサーベルがまるでバターのようにシールドを

切り裂いた。炎と毒を纏った斬撃に真っ二つにされたGP3000を誇る大きな

盾はその原型を一秒たりとも留める事なく、跡形もなく消え去った。

「思ってませんよ!」

 アクセルベントの効力が切れる前の最後の高速移動で王蛇の背後に

回り込んだ香川は王蛇の右膝裏を切り裂くことに成功する。

 膝裏の防御しようのない急所を斬り捨てられた王蛇は溜まらず地面に

転げ落ちるはずだった...が。

「どこを見ている?」

 地面に倒れる前に霧のようにかき消えた王蛇がオルタナティブの背後から

先程と全く同じ攻撃を仕掛けてきた。

 恐るべきは王蛇の戦術眼である。

 アクセルベントの効力が失われた一瞬の隙を突くとはいえ、一目見た

相手の動きをトレースしたり、そこから攻撃パターンを割り出す香川の

裏をかくのは容易ではない。

「戦いってのは何が起こるか分からないから楽しいよなぁ?」 

 バイザーにベントインされ、カードリーダーに読み込まれたストレンジ

ベントは分身を生み出すトリックベントへと変化した。

 矢継ぎ早に繰り出される香川の攻撃を受け続ける分身と入れ替わった

王蛇サバイブは残り6体の内、3体を香川の拘束要員として向かわせ、

残り三体を自分の忠実な護衛として間断なく周囲を警戒させる。

「くっ!」

 背後からがっちり体を固められ、為す術もなく王蛇サバイブの分身に

滅多切りにされ続けるオルタナティブの装甲が徐々に剥がれ落ちていく。

(まずい!このままでは殺されるッ!)

 しかし、肩に手を回され、足首も拘束された状態でサバイブ状態の

ライダーにどう立ち向かえるというのか?

「楽しかったぜ、英雄さんよ」

「名残惜しいが、そろそろ決着つけさせて貰うぜ?」

 息を整え、ダメージから立ち直った王蛇サバイブはデッキからカードを

取り出し、見せつけるようにベントインした。
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:12:37.58 ID:DSAJ+Ylu0
「Advent」

 万事休すか。

 地面に波打ち浮かび上がる鏡面から、ウロボロスの如き蛇身と化した

烈火王蛇ベノヴァイパーが王蛇サバイブの傍らに召喚された。

 絡みつくようなその巨躯に禍々しい赤と紫の極彩色と炎を纏った巨大な

双頭のコブラは新たな力を得た歓喜の叫びを上げようとその大きな口を開き、

全てを溶かす万物熔解の黒炎弾を放とうとした。

「Confine vent」

 次の瞬間、脅威のアドベントモンスターはその姿を一瞬のうちにまるで

神隠しに遭ったかのように、忽然とその姿を消してしまったのだった。

 当然、ベノヴァイパーの攻撃は不発に終わる。

「どういう...ことだ?」

「こういう、ことさ!」 

「Advent!」

 この場にいないライダーの声が再び聞こえた時、炎の障壁が陽炎のように

揺らぎ、あり得ない乱入者が姿を現したのだった。

「東條!貴様ァアアアアアアア!」

 アドベントで呼び出したメタルゲラスの背中に隠れ、灼熱の防壁を

突破して香川の窮地に駆けつけたのは仮面ライダータイガだった。

「東條君...なぜ...」

 メタルゲラスが猛然と雄叫びを上げながら、王蛇サバイブの分身達に

単騎で突っ込んでいく。

 タイガも瞬く間に分身を片付け、先程の攻撃で傷つき、立てない程に

消耗したオルタナティブを抱きかかえ、王蛇の攻撃が届かない地下通路の

端へと回避した上で、その毒牙から仲間を守るように立ちはだかる。
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:13:11.36 ID:DSAJ+Ylu0
「誰かを守る英雄が、一人だけじゃいけないって誰が決めたんですか?」

「....」

「先生は犠牲になっちゃいけない人なんだ。だから僕は先生を守る」

「やりましょう。先生。あと一息です」

「東條君...分かりました!」

 最後の力を振り絞った二人のライダーは指し示したかのように己の

デッキからこの戦いの勝敗を決する為のの切り札を取り出した。

 そして展開されていた炎の障壁が消え去り、メタルゲラスの突進により、

一番端の出口にまで追いやられた王蛇サバイブも、この戦いに終止符を

打つべく、自らのデッキの中で最も攻撃力の高い切り札を、一際眩い炎の

輝きを放つファイナルベントをバイザーに挿入する。


「「「ハァ、ハァ、ハァ....」」」 

 
 命を賭けたこの戦いに終止符を打つ願い(チカラ)が

 躊躇わない勇気だけが、悪を滅ぼし未来を変える!

 

 「「「Final vent!!」」」



 再びその巨大な姿を現した烈火王蛇ベノヴァイパーはその姿を瞬時に

巨大なバイクへと変貌させ、自らの契約主と共に眼前の敵を破壊すべく、

猛毒と烈火の両方の性質を併せ持った漆黒の黒炎弾を吐き出しながら

前に向かって走り出す。
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:13:39.73 ID:DSAJ+Ylu0
 ポイズントルネードクラッシュ。

 技の威力はAP9000だが、王蛇が今までに契約獣に捕食させた大量の

ミラーモンスターのエネルギーを加算すると、その威力はAP10000を

軽く超え、眼前の二人のファイナルベントを合わせた数値にも肉薄する

可能性を秘めている。

 しかし、

「東條君!私に続け!」

「はいっ!」

 対するタイガとオルタナティブも負けてはいない。

 個々のファイナルベントの数値は確かに王蛇サバイブには届かない。

 しかし、どんなに強大な個が目の前に立ちはだかったとしても...

(先生は凄いや...だって、こんな時でも負ける気がしないんだから)

 二人なら信じられる。二人ならきっと乗り越えられる。

 強固な信頼で結ばれた師弟の絆が王蛇を凌駕する時が遂に来た。

324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:14:14.94 ID:DSAJ+Ylu0
 サイコローグがバイクに姿を変えたサイコローダーが目の前に迫る

ベノヴァイパーと同じ速度で横方向に高速スピンしながら突撃を掛ける。

 一見無意味なスピンのように思えるが、高速スピンによって生じた

強烈な風の防護壁により、ベノヴァイパーが吐き出した漆黒の豪火球は

悉く弾かれる。

 事ここに至っては、全てを天に任す他ない。

 これ以上の言葉はいらない。後は全力で正面からたたき伏せるのみ。

「……っ、アアアアアアアアアアアア、ハァァァァァ!」
 
 運命を切り裂く白銀の弾丸と

「行くぞオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」
 
 曲がることなく敵を貫く人犀一体の一撃を以て

「ウオオオオオアアアアアアアアアアアアアアア!!!」 

 命を貪り、永遠の戦いを望む無限の蛇身を今ここで貫く一撃とする!


 この間、時間にして僅か10秒。

 そして、三者三様の願いと想いを秘めた最後の一撃が激突した時、

停止していた全ての時が動き出した。
 
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:14:45.41 ID:DSAJ+Ylu0
 第21話 〜やがて消えゆく命の灯火〜


 ドゴオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 圧倒的な実力を誇る龍騎の乱入により、香川と東條の戦う場所から

離れた場所へと避難していた満と仲村は、サイコローダーから降りた時に

聞こえた爆音の方向へと互いの首を向けた。

「なんだあれは!!」 

 驚愕した満の言葉に、ひょっとしたら自分達があえて香川達の助太刀に

入れないように遠ざけられたのではないかと思い当たり、仲村創はその

顔を青ざめさせた。

「まさか、俺達はあのライダーに先生達と分断されたんじゃ...」

「ええっ!だったらまずいじゃないですか!」

 オルタナティブに搭載されているミラーワールド活動限界時間は

残り2分45秒。アビスに至っては一分も残されていない。

「戻りましょう!ライドシューターに乗ればまだ間に合います!」

 量子化の止まらないアビスはライドシューターを呼び出し、仲村を乗せ

香川達が交戦している地下通路へと引き返していった。

「間に合った!」 

「Sword vent」

「仲村先輩。俺、時間切れになるんで、これを使って下さい」

 大切な仲間達の無事を信じるアビスは、武器を失った仲村に自らの

二振りの剣を預け、一足先に近くにあった鏡の中に急いで飛び込み

現実世界へと帰還していった。

「頼む!二人とも生きていてくれ...」

 アビスの剣を携えたオルタナティブは地下通路の入り口の前に立ち、

躊躇うことなく仲間たちのもとへと走り出していった。

326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:15:28.00 ID:DSAJ+Ylu0
〜〜

「せんせい...いきて、ますか?」

「なんとか、ぶじ...ですよ」

 地下通路の戦いは英雄達に辛くも軍配が上がった。

 王蛇サバイブとオルタナティブのファイナルベントがぶつかりあう中、

タイガの捨て身のヘビープレッシャーが王蛇の頭部を貫き、結果、

生命活動を強制的に停止させられた王蛇とベノヴァイパーは同時に爆散、

消滅したのだった。

 その爆発の余波は凄まじく、駆けつけたオルタナティブが階段の傍で

倒れている二人を発見した時、余りの惨状に言葉を失う程の惨状が

目に飛び込んできたのだった。

 香川は何とか五体満足で命に関わる程の怪我を負う事はなかったが、

それは東條の挺身あってこその奇跡の生還だった。

「東條...お前...」

 香川を爆発の余波から守る為に身を挺したタイガの背中には、びっしりと

隙間もない程の瓦礫の破片が突き刺さり、一見して助からないと分かる程の

大量の血が流れている。

 それは王蛇の、怪物の最後の悪足掻きだった。

 サバイブの力が消失し、原形を留められずに消え去った王蛇サバイブの

ベノサーベルの刀身が深々とタイガの左肩部分に突き立てられている。

 更に両足には焼けただれながらも、しっかりと獲物に噛みついている

四匹もの小型の毒蛇が、その毒牙を突き立てていた。

 肉が腐り、ぐずぐずと溶けていく音がタイガの体から聞こえて来た。
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:16:00.84 ID:DSAJ+Ylu0
「とう、じょう君。とうじょう、君?」

 強かに頭を打った香川が混乱から戻る前に、バックルからデッキを

引き抜いたタイガの変身が強制的に解除される。

 変身解除された東條の体は、なぜそうなっても息があるのかを疑う程の

惨たらしい状態だった。

 王蛇の毒を注入された左半身は、その毒素によりほぼ溶けかけている。

 そしてその毒の猛威は留まることを知らず、比較的無事な右半身と

その血管に乗り、瞬く間に残る肉体を破壊しようとしている。

 東條悟にとっての唯一の救いは、全てが決した刹那の瞬間の中で、

尊敬する師の理想に殉じて死ぬことが出来る多幸感と、既にその体が

ミラーワールドにおけるタイムリミットを迎え、本格的な肉体の崩壊が

始まった事による身体を襲う王蛇の猛毒による地獄のような責め苦が

あと数秒で終わることだった。
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