('A`)はベルリンの雨に打たれるようです

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397 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 00:05:06.82 ID:W1r6lzRK0
《よし、現地に到着!

お嬢さん方、武運長久をお祈りするよ!》

《ニ号車、十号車、移送任務完了につき後退します!頼むよ艦娘さん、あいつら化け物をやっつけてくれ!!》

「ええ、任せてちょうだい!きっとこの国を、貴方たちの街を守ってみせるわ!

─────さて、と」

私達を“尻尾”が引っ込んでいった区画から直線距離200M程度の位置まで運んだ二台のパトカーは、屋根から降りた私達に激励の言葉を残してUターンする。

お姉様はサムズアップと満面の笑みでその声援に応えた後、一転して厳しい表情で正面───さっき、“尻尾”が引っ込んでいった辺りを睨んだ。

「Bismarck zwei、敵新型の正面───と、思われる場所に到着したわ。黒煙の噴出が未だに激しくて艦影を視認できない」

( ゚д゚メ)《ミルナ=コンツィよりBismarck zwei、負傷者や生存者は近くに残っているか?》

「……。

いいえ、見当たらないわ」

( ゚д゚メ)《確認感謝だ。

…………すまんが、“奴”に対して俺達陸軍ができることはない。お前達に全て任せる》

「あら、誰に物を言ってるのよ。このBismarck zweiに何もかも任せなさい!」

( ゚д゚メ)《俺達はこのまま右翼のパンコウ区に戦闘可能な部隊で転進、防衛線に参加する。

………艦娘部隊の、武運を祈る!》

………無線越しでも解るほどとても悔しそうなミルナ中尉の声だったけれど、判断はとても冷静で的確だ。

中央の増援に向かったレーベみたいに砲火力がそこまで高くない駆逐艦ならともかく、私やビスマルクお姉様のように重巡以上の等級になると主砲火力が高い故に友軍を巻き込む危険性が跳ね上がる。広く間隔が取れる海上ならいざ知らず、市街戦で陸軍と共闘する場合、敵の配置や攻勢によっては通常兵器の支援部隊の存在は寧ろありがた迷惑になることも多い。

だから、中尉が後退した部隊をそのままパンコウ区に転用してくれることはとてもありがたい。

ましてや、今回は相手が相手だ。
398 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 00:15:55.26 ID:W1r6lzRK0
「Prinz EugenよりCP、全艦隊戦力の敵新型艦包囲完了。ミルナ中尉以下陸戦隊も後退、離脱済みです。

………本当に、グラーフさん以外の全戦力を此方に回して良かったんですか?」

(=゚ω゚)ノ《問題ないよぅ。その代わり、Graf Zeppelinの艦載機による航空支援とポーランド軍の後続戦力は以後全てパンコウ区、フリードリヒ=スハイン区に回して右翼艦隊、中央のリ級eliteを打撃するよぅ。

寧ろ君達は正真正銘左翼に投入できる最大にして最後の防衛戦力だ。油断はしないで欲しいよぅ》

「できるわけないじゃないでしゅかぁ……」

………内心に渦巻く不安から台詞が口の中でひっかかり、なんとも奇妙な口調になってしまった。

私達艦娘を運用するにあたって、国際社会は公式・非公式を問わず様々な規則や条約を設けた。アイザック=アシモフの提唱したロボット三原則より発想を得た「艦娘三原則」や国家間での艦娘の奪い合いを避けるために設けられた「艦娘保有制限条約」のように正式に国際連合で会議を持って締結された物から、“資源確保や偵察任務に潜水艦娘を酷使するのはやめるべき……でち”という提唱者不明の怪文書(因みに誰も実行していない)まで数千を軽く超える。

その中の一つである、「同一種の艦娘を同艦隊内で運用してはならない」という規則は、法・条約的拘束力こそないもののある理由から全世界の海軍教本にも記載される基本中の基本だ。

“新型”を包囲する形で区内の離れた位置にレーベ達とマックス達は配置されているけれど、通信は連携を迅速に取るため各個が直接行っている。作戦後何の影響もないかどうかはかなりギリギリなように思う。

イヨウ中佐ほど優秀な人が、この教範を知らないということはあり得ない。にもかかわらず、多少の対策こそとられているとはいえ事実上その禁を犯してまで投入し得る戦力を全てトレプトゥ区に注ぎ込んだ。

「………………ッ」

つまり、さっきまでミルナ中尉たちが戦っていた敵の新型艦が「そこまでしなければいけない」とイヨウ中佐に判断させるほどの敵と言うこと。しかも私達は勝つ必要が無く、ドク少尉が無線で宣言した30分という時間が稼げれば十分であるにも関わらず。

……お姉様の前でみっともない姿を見せたくはないけれど、私は生唾を飲み下す音を止められなかった。

心底、恐い。だけど、私達は艦娘だ。

やるしか、ない。
399 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 00:26:41.54 ID:W1r6lzRK0
「………Bismarck zweiより包囲網各艦並びに護衛部隊、其方は異常ないかしら?」

《Z1-23、状況クリア!敵影ありません!》

《Z3-04、周辺に異常なし》

《Z3-08同じく》

《Z1-02、何もないよ》

《こちらZ3-11、穏やかなものだわ。

………不謹慎だったかしら》

お姉様が、レーベ達に連絡を取る。時間にして中佐達とのやりとりも含めてせいぜい2、3分しか経過していないはずだけど、しかし私にはその時間が何十倍も長く感じられた。

右翼と中央から聞こえてくる砲声や銃声、頭上を飛び交う戦闘機のエンジン音が市街地に木霊する中で、この辺りだけ奇妙な沈黙に包まれる。

「────!」

…………それまで何かに纏わり付いているかのような不自然な動きで一定の位置に渦巻いていた黒煙が、ブワリと揺れる。

「お姉s」

全て言い切る前に、私の視界は大きく開かれた口とその中に並ぶぎらぎらした鋭い歯に埋め尽くされた。

「─────Prinz, 下がりなさい!」

「きゃあっ!?」

『─────ア゛ア゛ッ!!』

ぐいっと首筋を猫のように引っ張られ、(また)情けない悲鳴を上げながら仰向けに地面に倒れて尻餅をつく。さっきまで私の顔があった位置で、巨大な顎がガチリと空を噛んだ。

「ふっ!!」

『ゴォアッ!?』

顎………いや、煙の中から伸ばされた尻尾の先を、お姉様は力一杯フックの要領で殴りつける。艤装の一部が鈍い音を立てて砕け、尻尾は呻き声を上げた後凄いスピードで再び煙の中に引っ込む。

─────だけど、今度はこれで終わらなかった。
400 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 01:00:20.88 ID:W1r6lzRK0
「お姉様!?」

「っ、大丈夫よ!じっとしてなさい!!」

鳴り響く轟音。煙を切り裂いて次々と飛来した砲弾から庇うようにして、ビスマルクお姉様が私の上に覆い被さった。

一発が至近で炸裂して泥を巻き上げ、もう一発が背後からお姉様を射抜く。

「うっ………」

幸い、かつて大英帝国を震え上がらせた戦艦の装甲は伊達ではない。障壁はお姉様の身体を爆風から完全に守り切った。

でも、全くの無傷というわけにもいかない。艤装から火花が飛び、お姉様を覆う障壁が一瞬黄色く明滅する。

(一撃で、小破まで……)

《Z1-23よりビスマルクさん!何が起きたの!》

《Z3-11より旗艦、攻撃準備はできてるわ!いつでも言って!》

「Prinz Eugenより各艦、座標同一で速やかに支援砲撃の再開を!私とBismarckが攻撃を受けて………!?」

指示を出す暇なんてなかった。お姉様が咄嗟に私を更に後ろまで投げ飛ばし、そこに新しく四発の砲弾が飛来する。

内一発が、直撃。当たり所が良かったのか障壁の色は黄色から変わらないものの、背負う艤装の端で機銃が小さく爆発して根本から吹き飛んだ。

「Feuer!!」

衝撃を何とか踏みとどまって耐えたお姉様が、主砲を放ち反撃する。

───けれど、38cm砲が炸裂するよりも僅かに早く、煙の中から飛び出してくる“人影”があった。

背後で爆炎をまき散らすお姉様の38cm砲弾など気にとめる様子すら無く、その影は小柄な体躯を更に小さく丸めて弾丸のようにお姉様めがけて突進する。

『────♪♪♪』

「あ゛うっ!?」

速い。反撃も、回避も、防御もままならずに跳躍と共に振り切られた尻尾がお姉様の腹部を殴打する。凄まじい打撃で浮き上がった身体は、着地と共に二、三歩後退って横倒しになった戦車の残骸にぶつかりようやく止まった。
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 01:38:32.91 ID:VKo8g0HA0
ミルナ中尉がマジで勇敢すぎる…
ドクは機転や幸運に恵まれて局面を切り抜けてるけど、それより前から部隊を率いて最前線で折れない精神的支柱としてあり続けるとか凄過ぎる
402 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 02:10:08.70 ID:W1r6lzRK0
「…………この!!」

なおもお姉様に肉薄しようとした“影”に向かって、膝立ちの状態から20.3cm連装砲を連射。迫る四発の砲弾を、“影”はバレリーナみたいに軽やかな動きで後ろに飛んで回避する。

そして、元々そうするつもりだったような迷いのない動きで今度は私に向かって突進してきた。

「なっ────きゃあっ!?」

慌てて機銃と副砲を放ち動きを止めようとしたけれど、驚くほど低い姿勢から弾丸のように飛び込んでくる動きに対応できない。“影”ほんの数歩で私との距離を零にして、そのまま大きな動作で尻尾を振りかぶる。

「うぁっ………!?」

顔スレスレを薙いだ尻尾の一撃を避けて崩れた体勢。予想だにしなかった白兵戦に混乱する頭はめまぐるしい動作に追いつけず、続けて放たれた回し蹴りが私の胸板を殴打した。

「けほっ────がっ、ゴホッ!?」

激痛と圧迫感に口から息が漏れる。後ろに流れた身体に、今度は背中から尻尾の一撃。無理やり引き起こされたところで、肘打ちが顔に、更に尾の追撃が脇腹に突き刺さる。

「………ブフッ」

口の中に広がる鉄の味と、生ぬるい液体の感触。こみ上げてくる吐き気と激痛が合わさって視界が激しく揺らぎ、脳が揺すられて立っていられない。

(何……なの……この、戦い方………)

ぐらりと前のめりに倒れかけながら、ぐちゃぐゃになった思考が脳内でぐるぐると回る。

陸であれ海であれ、砲雷撃戦で深海棲艦と戦うための教育と訓練を受けてきた私達。反艦娘団体の暴動に備えた対人戦の手ほどきも多少は受けているが、“同等の戦闘能力を持つ相手”との格闘戦など想定していない。

予想が全くつかない動きの数々に、対応がまるでできない。一方的に、嬲られる。

「痛っ…………」

膝を突いた私の頬に、拳がめり込む。血の味が更に濃くなるのを感じて、私の身体は裏拳によって地面に横倒しにされた。

『…………wwww』

降りしきる雨の中で、敵の尻尾がなんとも禍々しいシルエットを浮かび上がらせながら振り上げられるのが眼に映った。

動けない私の頭を噛み砕こうと、大口を開けた牙だらけの顎が迫ってくる。
403 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 02:37:21.89 ID:W1r6lzRK0

……………響いたのは、私の頭が噛み潰される咀嚼音、ではなかった。

『─────!?』

何か巨大なものが空を切る音。常軌を逸した大きさの打撃音と、堅い何かが砕ける鈍い音が間を置かず続く。逃れる術がなかったはずの痛みも死も訪れないことに訝しみ、恐る恐る眼を開けた。

「…………プリンツ、大丈夫かしら?」

荒い息で、それでも私に向かって背中越しに微笑みながら、ビスマルクお姉様が立っていた。手に何か棒状の、太く大きな物を持って構えている。

それが、へし折られた戦車の残骸の主砲だと気づくのに幾らかの時間を要した。

『────!!』

「…………っふ!!」

『ギァッ………』

距離を取っていた“影”が、再び自らの尾を伸ばしてくる。が、お姉様が手に構えた筒で跳ね上げるようにして下顎を殴打すると、形容しがたい不快な鳴き声を残して尾は自らの主の元に舞い戻る。

「Feuer!!」

『………』

流れるような動きで艤装を展開し、射撃。これは躱されたが、若干の警戒心を抱いたのか向こうは反撃せずに私達から僅かに距離を取った。

「それで?まだ戦える?プリンツ」

「………あ!はい!まだ何とか!

あの、お姉様………そんな戦い方、いったいどこで」

「zweiへの改装を受けるために日本に行ったときに、ちょっとね」

立ち上がろうとする私への射線を塞ぐ位置取りで筒を構え直しながら、お姉様はそういって肩を竦めた。

「なんとかっていう映画スターみたいなすっごい筋肉身につけたAdmiralから、色々教わったのよ。

……ま、まさか役に立つとは思わなかったけどね」
404 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 02:38:16.58 ID:W1r6lzRK0
ぎゃー予定位置までまにあわなかった……でも流石に寝ないと行けないので今回ここまでの更新です
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 02:50:22.16 ID:VKo8g0HA0
おつです!
相変わらず面白いし、どんだけヤバいんだよと…
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 06:58:26.28 ID:PGdKYvqDo
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 10:51:39.22 ID:7eZPfZhho

マッチョは偉大だった
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 15:40:34.97 ID:O9j3Ot4DO
なるほど、マッスル鎮守府でzwaiに改装されたのか…
なら直撃弾食らっても髪がアフロになるだけで済みそうだな。
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 19:36:01.42 ID:qyQLMCX70

マッスル鎮守府と聞いたらシリアス度が…
410 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 23:32:06.96 ID:W1r6lzRK0
「日本ですか………」

私がまだただの軍艦だった頃に、当時ハーケンクロイツを掲げていた祖国が同盟を結んだ海の向こうの国というのはなんとなく知っている。ただ、私は所謂【実装艦】とは違いドイツの国営工場で建造されたので実際に行った経験はない。

そのため、持っている知識は例えば“なぜか潜水艦娘達に倒錯した性的嗜好が覗える指定制服を着せるHENTAIの国”という断片的かつ真偽も微妙なものばかりだ。

………まぁお姉様のこの急激な変化(というより悪化)の具合を見る限り、ろくでもない一面がある国なのは間違いないと確信した。勿論歴史も民族性も完全無欠な国家なんてこの世に存在しないことは理解しているけれど、それにしてもこのかつての血盟者は瑕疵の方向性が一般的な国家と随分違う気がする。

などと、私が東洋の端っこに浮かぶ島国についてなんともいえない思いを抱えていると。

「来るわよ!!」

「えっ?」

“影”が、再び動いた。

「Artillerie!!」

「うんにゃあーーーっ!!?」

尻尾の先端で艤装が稼働し、此方に向けられた砲口。雷鳴みたいな音を響かせて向かってきた熱と鉄と火薬の塊を、私とお姉様は左右に飛んで避ける。

「ぶぎゅっ!?」

こういうとなんとも鮮やかに回避したようだけど、実情はだいぶ違う。最小限かつ的確な身のこなしで素早く射線から外れたお姉様と対照的に、私は低俗なコメディ・コミックの登場人物みたいな慌ただしさでバタバタと地面を這いつくばって爆心地から逃れた。

結果大いにバランスが不安定になっていた私は、爆風で押されたことによって再度水溜まりに頭から突んだ。
411 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 23:41:05.28 ID:W1r6lzRK0
次の攻撃が来る前にと慌てて泥を吐き出しながら立ち上がろうとした私は、後ろの───さっきまで私達が立っていた辺りの光景を目にして思わず悲鳴を上げた。

(なにこれ………一発の砲弾でこんな………)

巨人がスプーンでその一角をくり抜いたみたいに、ぽっかりと口を開ける穴。直系7〜8メートルはあるそれが先程敵艦が放った砲撃によるものだと理解した瞬間、全身に雨粒よりずっと冷たい汗が噴き出た。

こんな威力……私やお姉様でもまともに食らったら一溜まりもない。一撃大破だって十二分にあり得る。

「突入するわ。プリンツ、援護して!」

「ふぇっ!?や、Ja!」

新型の攻撃の威力はお姉様も十分に理解しているはずなのに、彼女は何の躊躇もなく戦車砲を(打撃武器として)構えて前傾姿勢で突貫する。私の顔からは更に血の気が飛んでいったが、同時にその気高く勇敢な姿に恐怖も私の身体から抜けた。

ドイツ海軍重巡洋艦Prinz Eugenともあろうものが、お姉様一人だけを戦わせるなどあってなるものか。

「Beginnen Feuerschutz!!」

『!!』

幸い、さっきの回避行動でお姉様の身体は射線から外れている。攻撃には直ぐに移れた。

僅かに角度を調整し、主砲2基4門を同時に射撃。

距離にして300Mに満たない、至近距離からの射撃だ。こっちが外す道理も、向こうが回避する暇もない。

───筈なのに。

『────!!!』

「くぅっ……!」

「嘘でしょ!?」

あり得ない反応速度で振られた尻尾に、砲撃が下から跳ね上げられる。打撃された場所が先端ではないため信管が作動せず、起爆しないまま私の砲弾はあらぬ方向へと舞い上がる。

そのまま咄嗟にガードの姿勢を取ったお姉様に蹴りが突き出され、これを筒で受けたお姉様の突進が衝撃で止まる。ほぼ同時に、ふっ飛ばされた砲弾がどこか遠くで立て続けに炸裂した。
412 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 23:52:12.13 ID:W1r6lzRK0
《Z3-11よりBismarck並びにPrinz Eugen、当艦付近に至近弾4!そっちの敵艦の砲撃なの!?》

「………うん!そんなところ!!」

胸にちくちくと突き刺さる罪悪感を勤めて無視しながら、水偵射出のカタパルトを構えAr-196改を空に撃ち上げる。

「Prinz Eugenより包囲網構成艦各員に通達!水偵を上空に上げた、感覚をリンクし弾着観測射撃にて敵艦に全火力を集中して!!」

《《《Jawohl!!》》》

基本的に艦種を問わず、艦載機はそれを出撃させた母艦以外で指示や収容、補給などを行うことはできない。ただし水偵や水戦、或いは日本の【サイウン】等の偵察機は、母艦以外───更に言えば駆逐艦や未改装の潜水艦のように本来艦載機を搭載できない艦種の子たちでも【視界共有】ができる。

勿論映像が安定しないなど母艦に比べると制限はかかるし、多数の艦娘と視界をリンクさせることは妖精さんにも大きな負担を強いる。

けれど、弾着観測射撃ができるとできないとでは攻撃効率に大きな違いが生じる。ここはもう一頑張りして貰うしかない。

「お姉様、水偵を発艦させてレーベ達とリンクさせました!駆逐艦隊による支援射撃可能です!」

「Ja! ありがとうプリンツ、貴女みたいなKameradin持てて幸せね!!」

『ッ!!』

私の報告に、あのまま白兵戦に突入していたお姉様は“影”と激しく打ち合いながらにやりと大きく口元を歪める。

……私に向けてのお褒めの言葉を伴った、大好きなお姉様の笑顔。

「……」

なのに、目にした瞬間、なぜか私の肩には小さな震えが走る。
413 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 00:05:48.56 ID:SQt7g1jh0
そのまま、“尻尾”の艤装に覆われた部分とお姉様が構える戦車砲が空中で何度か凄まじい速度で衝突する。

艦娘と深海棲艦の“白兵戦”、しかも片方は戦車の残骸を引き抜いたものが得物───見方によってはシュールとも、タチの悪いジョークとも取れる光景。

だけど相手もお姉様も、その動きは見とれてしまうほど洗練されて無駄がなく、そして激しかった。

「はぁっ!!!」

『ッッッッ!!!』

攻防の中で生じた一瞬の隙。お姉様が大きく腰を落とし、図太い戦車砲を勢いよく槍のように突き出す。

“影”はこれを尾の艤装部分で受け止めたが、衝撃までは殺しきれなかったのか身体が浮き上がり2,3メートル後ろにはね飛ばされた。

「「Feuer!!」」

『………!!』

機を逃さず、私とお姉様の艤装───15.5cm連装副砲が同時に火を噴く。流石に主砲を撃てるような距離ではないけれど、副兵装での射撃ならば威力的にこちらが巻き込まれる心配はない。

勿論威あの敵艦に大きなダメージは与えられない。でも、副砲とはいえはね飛ばされた矢先に砲撃を受ければ踏ん張りは利かないだろう。

転んで隙を作ることを嫌ったか、“影”は着弾の衝撃に身を任せて更に10メートル近く後方へと跳んだ。

「─────全艦、一斉射撃!!」

『!!!?』

その着地点に、連なり炸裂する五発の砲弾。やはりダメージは小さいけれど、予想外のタイミングに加えて上からの攻撃。おまけにAr-196改を用いた弾着観測射撃。

動きが完全に縫い止められる。

────そして、今度は彼我の距離も十分だ。

「「Feuer!!」」

38cm連装砲。

SKC34-20.3cm連装砲。

全門が一斉に火を噴き、砲弾が放たれる。

火柱が、天を焦がす。
414 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 00:53:14.24 ID:SQt7g1jh0
絶望的な状況下に置かれていた友軍を救援した後の包囲戦。完璧な誘導で敵艦の動きを制限したところへ戦艦と重巡による主砲射撃。

ど派手な爆発と、敵の姿を覆い隠す爆炎。

ハリウッド映画辺りなら、派手な演出や勿体ぶったBGMを施されて“実は健在だった敵艦”が観客の悲鳴やスクリーンに投げつけられるポップコーンと共に颯爽と再登場するのだろう。

《…………冗談でしょ》

現実にはそんな演出は存在しない。渦巻く焔と煙を尾で切り裂き悠然と“影”は再び現れた。水偵から妖精さんの眼を通してその様子を見た駆逐艦の一人が呆然とした口調で呻く。

影の………【彼女】の周囲を守る障壁が、火柱から出てくる直前オレンジ色に一瞬明滅する。流石に重巡洋艦と戦艦の一斉砲撃をまともに受けて損害を抑えることは難しかったようで、少なくとも中破レベルの大きなダメージは受けているらしい。

『─────♪』

なのに、【彼女】は笑っていた。

目深に被っていたフードを脱ぎ捨て。

先端の艤装部分から小さく火花を上げ続ける尾をゆらゆらと小刻みに震わせ。

人間や艦娘だったら“美少女”に分類されるだろう、幼さが残るけれど整った顔立ちに狂気を、狂喜を滲ませて。

【彼女】は、心底嬉しそうに満面の笑みで私達を見つめる。

少しだけ長く伸ばされた白い頭髪の隙間から覗く、玩具を見つけた子供みたいにきらきらと輝く眼が、真っ直ぐに私とお姉様を見つめる。何かを呟くようにして、青白い唇が動く。

………きっと、偶然だ。深海棲艦が人語を発したという話は、一度も聞いたことがない。

だけど私には、【彼女】の唇がこう言ったように見えた。


───アイツノイッタトオリダヨ。
415 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 01:44:42.98 ID:SQt7g1jh0
深海棲艦が作る表情としては、あまりにも“血が通っている”微笑み。

本当に人間や私達のものと遜色がない自然さなのに、溢れ出る狂気。

「────あぁ、やっぱり貴女も“此方側”なのね」

そして………私の隣に肩を並べるビスマルクお姉様も、【彼女】と同質の笑みを浮かべていた。

「あのAdmiralから、彼のKameradinのアオバから、貴女たちの存在は聞いている。戦い方を見て、薄々そうだと気づいていたわ」

「お姉様………?」

興奮気味に、お姉様は【彼女】を見つめながら捲し立てる。その口調は徐々に速度を増し、今や熱にうなされた重病患者のように夢見心地なものになっていた。

「ええそうでしょ?きっと貴女も気づいている。

そうよ、私達ははぐれ者。だけどそんなものは関係ない。私がどんな存在であろうとも、私がナチス・ドイツ海軍ビスマルク級1番艦、Bismarckであるという事実は変わらない。

この地がドイツであるという事実は変わらない。私が守るべき国であるという事実は変わらない!!」

台詞の最後は、ほとんど叫ぶようにして放たれる。お姉様は………Bismarck zweiは、どこか箍の外れた笑みと共に【彼女】に向かって手招きをする。






「Bismarckの戦い、見せてあげるわ!

さぁ、かかってきなさい!!」
416 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 02:31:32.19 ID:SQt7g1jh0




(`・ω・´)「…………以上が国防省の見解です、大統領」

(゚、゚トソン「………そう、ですか」

(`・ω・´)「南部ドイツ全域やライプツィヒ、ドレスデンなど主にドイツ国内で極局所的にはある程度優勢の地域も見られます。

しかしながら、現状よほど劇的な“何か”が起きない限り最早オーベル川以西のヨーロッパ失陥は確定したも同然です」

爪'ー`)「既にフランス・ドイツ・北欧の戦況は、“敵の攻勢をどの辺りで食い止められるのか”に重点を置く段階まで悪化しています。

特にフランスはコマンダン=テストのみとはいえ艦娘保有国。彼女らの損失は第二の防波堤である英国、はては合衆国の国防それ自体にも影響します」

(゚、゚トソン「………」

ハハ ロ -ロ)ハ「大統領閣下。本来なら我々も、“最後の手段”に打って出ることを本格的に検討しなければいけない立場です。

────ロシアが汚れ役を買って出てくれるというのなら、渡りに船だと私は考えます」

(-、-トソン「……………」

(`・ω・´)「大統領閣下、ご決断を」

(゚、゚トソン「…………在ロシア大使館に連絡を。それから、日本のミナミにもアポイントを取って下さい。

不測の事態に対する保険として、【海軍】出撃の手配をしておきましょう」

(`・ω・´)「かしこまりました、では」

(゚、゚トソン

( 、 トソン「…………この悪の帝国のどこが、世界の警察なのかしらね」
417 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 02:45:04.51 ID:SQt7g1jh0




《先程アメリカホワイトハウスでフォックス=カーペンター国務長官が記者会見を開き、ロシアの核兵器使用の意志を覆すことはできなかったと談話を発表しました。

この発表は事実上ロシア連邦のドイツに対する核兵器投射を黙認するという前倒しの宣言とみられ、先に同様の意思表明を行っていたイギリス、フランス、元々肯定的な立場だった中国も含めてこれで常任理事国は全てロシアの核兵器使用を認めた形になります。

これに対し日本、インド、台湾などアジア諸国からは非難声明が続出し────》
418 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 02:46:22.88 ID:SQt7g1jh0
今更新ここまで。……本当は前回更新時にここまで行きたかった(叶わぬ願い)
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 03:49:37.41 ID:wetHYdPSO
デェェェェェェェェェェェェン
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 10:44:08.92 ID:PBKsgKXo0
\ コマンドー /
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 15:55:42.87 ID:GS8rlehX0
>>419 こんな素晴らしいSSに出会えた私はきっと特別な存在なのだと感じました
422 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 00:02:30.88 ID:xO5NyUVn0






段差を踏み越えてジャンプした車体が、10メートルあまりの浮遊を経て着地する。ズンッと身体の芯に響いた震動を、歯を食いしばって耐える。

(;'A`)「チッ、ここもか!」

ちらりと前方の状態を確認し、舌打ちと共にハンドルを右へ。本来進むはずだった道路は隆起と砲撃によるクレーターで悲惨な有様になっていて、バイクのスリムさを考慮に入れても到底走れる代物ではなかった。

元々深海棲艦の爆撃や砲撃で道路事情が最悪であることを考慮に入れてのバイクチョイスではあったし、軍用のオフロード仕様なのである程度の荒れ地はツーの運転するエノクを下回る乗り心地にさえ目をつぶれば走破できる。

(;'A`)「……また!」

とはいえ、ベルリンの道路網は俺が想像していたよりもずっと「最悪」だった。ビルが崩れ落ちて隙間なく塞がれてる場所やさっきのように隆起やクレーターが多すぎて流石に走行できない場所が大通りから裏路地まで至るところに見受けられ、その都度“目標地点”への移動は遠回りになっていった。

(;'A`)「ここ───またか………!」

本来バイクの速度を考えれば大した距離ではない、多少経路が膨らんだところで増える時間は5分か10分かのレベルだ。

だが、ロシアの核兵器発射時刻やヨーロッパ全体の戦況、そして何より後方でリ級達に遅滞戦術を強いているだろうイヨウ中佐達の事を考えればその僅かな時間が身を焦がすほどにもどかしい。
423 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 00:11:24.22 ID:xO5NyUVn0
幾つかの角を曲がり、幾つかの道路の状態に苛立ちを募らせ、それでも少しずつ西へ西へと進む。

ツン、ジョルジュたちと別れてからおそらくまだ5分と経っていない。だが俺には、もう1時間は経ってしまったんじゃないかと錯覚するほど時の流れが早く感じられた。

(;'A`)(クソッ、こうなりゃ多少の悪路でも道自体があるなら強行するしかない……!慎重になってても時間が経ちすぎたら元も子もない────)

(;゚A゚)そ「うぉおおっ!?」

砲声。放置停車されていたものが吹き飛ばされたのか、火達磨のスポーツカーが一台眼前の十字路左手から現れる。

咄嗟にバイクにピタリと身を伏せながら僅かに車体を傾け回避。背中に熱を感じつつ、その十字路を駆け抜けた。

(;'A`)「……っ、あぁそうだよな!」

背後で、更に何台かの車が吹き飛ばされていく音が重なる。そしてその中に混じってなおはっきり聞こえる、異常に大きなガスの排気音。バイクや車にちっとも詳しくない俺だが、その音だけは聞き覚えがあった。

(;'A`)「そりゃあ完全放置とはいかないよな!!」

重巡リ級たちが此方に突入してくるときに使っていた、あのバカでかいギャング仕様のバイクが奏でていたものと同じだ。

『─────!!』

(;'A`)「っと!!」

背後から追ってくる“艦影”二つ。その片方が、左手の艤装を起動し弾丸を放つ。

再び身を伏せた俺の周囲で、無数の機銃弾が火花を散らした。
424 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 00:26:07.58 ID:xO5NyUVn0
『『────』』

('A`;)「………随分近未来的な造形だなオイ」

背後から追走してくる敵艦の外観を一言で表すなら、“より人間に近づいた軽巡ヘ級”だろうか。

両腕はヘ級同様完全に艤装と融合していて、後方から追撃してくる二隻はどちらも左手が機銃で右手が単装砲だ。頭部にマスクのようなものが被せられているという点も共通するが、此方は上半分のみの装着。鼻から下は装着物がなく、青白く血の気を微塵も感じさせないマネキンみたいな口元が剥き出しになっている。仮面の左側、眼の位置に穴は穴が開けられその中から覗く眼が青く光を放つ。

服装?はル級とリ級を足して二で割ったような組み合わせで、一昔前のセパレート水着のような形状の胸当てが肋骨の辺りまでをぴったりと胸部のラインを浮き上がらせながら覆う。少し縮れ気味の首筋辺りまでの長さになる髪が、雨の中で靡いていた。

ヒト型深海棲艦の一種、雷巡チ級。本来はヒト型と違って足を持たず、海上移動に極端に特化した機械ユニットが腰から下に直接装着されている。そのため過去確認されたチ級は、eliteやflagshipといった上位種でも出現箇所が海上に限定されており、人類や艦娘の間でもチ級は【雷巡】という艦種の特性も相まって海上限定の敵艦という認識だ。

………で、何の悪夢なのか今俺の後ろから追撃してくるチ級は、下半身を海上ユニットではなくバイクと結合させベルリン市街地の真っ只中を推定時速100kmオーバーで疾走している。

('A`;)「マイケル=ベイの映画かっての!!」

愚痴を飛ばしながら腰のホルスターからピストルを抜き、背中越しに当てずっぽうで引き金を引く。

『────!』

たまたま命中したらしく乾いた音が聞こえてきたが、チ級は他のヒト型同様障壁を持つ。当たり前だが、効果はない。
425 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 00:38:16.03 ID:xO5NyUVn0

『───! ───!!』

(;'A`)「……っ!」

右手後方で“気配”を感じ、ハンドルを握る手に力を入れる。俺が車体を左に寄せたのと、二度の砲声は同時だった。

本来進路上だった箇所で上がる二つの爆炎。ぱらぱらとコンクリート片が降り注ぐ。

『─────!』

(;'A`)そ「危ねぇっ!?」

すぐさま、真後ろに着いたもう一台から機銃掃射が放たれる。此方もハンドルを即座に右に切り、射線から逃れる。

(;゚A゚)「───どわぁっ!?」

がつんっと前輪に衝撃が走り、ひっくり返って転がっていた軽自動車を踏み台に再びバイクが宙を舞う。胃がひっくり返りそうな浮遊感をたっぷり一秒ほど味わった後、縮み上がった“タマ”を突き上げるようにして車体が地面を踏みしめた。

(; A`)「────っの!」

悶絶したくなるような痛みだったが、聞こえてきた打撃音がそれを許さない。

エンジンのギアを上げて加速する。猛スピードで路を駆けるバイクの直ぐ後ろ、ほんの1メートルほどの位置にさっき俺がジャンプ台にした赤い軽自動車が突き刺さった。

また車体を左へ。道路脇の家屋に砲弾が直撃し、飛んできた瓦礫も回避するため一瞬歩道に乗り上げる。放置された露店の木箱数個を踏みつぶし、道路に戻る際に台を足に引っかけて蹴倒す。

道路に散らばった幾つかのくだものを踏みつぶして、チ級達はなおも追ってくる。……違法改造バイクがベースになっているためか、どうも基本速度は向こうが上のようで差が詰まり気味だ。

(;'A`)(このまま肉薄され続けたら回避が間に合わなくなる………なら!)

意を決し、俺は次の十字路が眼に入った瞬間にハンドルを切り左に曲がった。
426 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 00:51:03.23 ID:xO5NyUVn0
通りに入った瞬間、今までと“質”が違う揺れを感じた。つんのめる形で後輪が浮き上がり、一瞬逆ウィリーのような状態になって数メートル走行する。

(;'A`)「おぉっとぉ……!?」

転倒しかけた車体をなんとか立て直し、そのまま前へ。

俺が突入した通りは、今までは走行を回避していたレベルの量の砲撃痕や隆起、陥没、放置車両などがある荒れ果てた道路。当然、移動の難易度は今までの比ではない。

バイクが浮き、揺らぎ、滑り、そこら中にぶつかる。車体のありとあらゆる装置やパーツが悲鳴を上げて、途切れない揺れが俺の肋骨を軋ませた。

(; A )「がぁっ!?」

突き出していた自動車のパイプにひっかかり、足の軍服が破れ脹ら脛の皮膚を裂く。鋭い痛み、だが視線を切ればたちまち大事故待ったなしだ。

『『────!!』』

当然、チ級も俺を追って通りに入る。乗用車を殴り飛ばし、水溜まりを蹴立て、速度を落とすことなく俺へと迫る。

『────!?』

『ア゛ア゛ッ!?!!!!?!』

そして、内一隻が悲鳴と共に空に舞い上がった。
427 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 01:13:34.65 ID:xO5NyUVn0
おそらく、雨水が溜まっていた砲撃痕に気づかず前輪を引っかけたのだろう。僅かに背後を振り返ると、まるで前転しようとしているかのように後輪を上に向けて飛翔するチ級の内一隻の姿が見えた。

『ギァアアアアッ!!?』

自身が意図しない形で跳躍してしまったチ級は態勢を立て直せず、そのまま道路脇のビルの一つへと突っ込む。横向きで支柱に衝突した際に「車体」がへし折れ、後ろ半分が脱落する。

『グアッ……アァッ……アァァ………』

前輪だけになった下半身では到底まともな着地などできず、転倒したチ級の身体は数メートルにわたり地面を転がった後街灯に腹をぶつけて止まった。

気絶したのか、或いは完全に撃沈できたのかをしっかりと確認する暇はない。ただ、あれだけ完全に移動手段が破壊されれば追撃はできない。

(;'A`)「よしっ!」

狙い以上の結果が生まれ思わず拳を握りしめる。

チ級の艤装がもしリ級達が乗っていたバイクと同系統のものであるとすれば、此方が乗るミリタリータイプと違って極端な荒れ地の走行は考慮に入れられていない可能性が高くなる。バイカーギャングの目的は基本的に示威行為であり、改造は自然速度を出すためのものに限定されるはずだ。人が殆ど通らない荒れ地を走るための対策が施されているとは考えづらい。

そのため此方の軍用オートバイでも走行が困難な地形におびき寄せられれば破壊とまではいかずとも距離を大きく開けるチャンスができると踏んでいたが、一隻が早々に完全脱落といい意味で計算が外れてくれた。
428 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 02:07:20.87 ID:xO5NyUVn0
まぁ、最高の結果が生まれたとはいえ危機が去ったわけではない。

『─────ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』

(;'A`)「っ、お盛んなことだな!」

過去に交戦した深海棲艦の行動パターンからある程度解ってきたことだが、あいつらは(特定の個体を除いて)“同族”の死や損傷に強い反応を示す場合が多い。後ろのチ級もどうやらその類いのようで、単装砲と機銃による攻撃の勢いが今までより更に増した。車や瓦礫が転がっていても、お構いなしにそれらも砲撃で吹き飛ばしながら追ってくる。

────あっという間に距離が詰められるが、今の俺にとっては寧ろありがたい。

('A`)「………」

一つだけ持ってきていた手榴弾を腰のベルトから取り外して、ピンを抜く。タイミングを計り、後ろに転がす。

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』

………チ級の沈黙の時に、解ったことは三つ。

一つ、上半身は例の障壁によって通常兵器ではダメージが与えられないが、下半身のバイク部分は何らかの理由で障壁の効果が及んでいない。

二つ、バイク部分については耐久力も高くない。

三つ、チ級は特に地上戦に不慣れなためか、不測の事態に弱い。

故に。

『ア゛ア゛ア゛───ヴアッ!!?』

('A`)「Fahr zur Holle」

冷静さを欠いた状態のもう一隻を破壊することは、これら三点を考慮すれば簡単だ。

ご丁寧に直進してきてくれたチ級の前輪が手榴弾の起爆によって吹き飛び、残った後輪部分に火が回った状態でチ級が転倒する様を一瞬だけ確認する。此方としては足さえ奪えれば十分なので、直ぐに視線を戻す。

『グア゛』

ただ、背後でもう一つ大きめの爆発が起きたのだけは音で理解できたが。
429 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 03:01:44.87 ID:xO5NyUVn0
(;'A`)「……撃破できたとはいえまた時間食ったなクソッタレ。いい加減“目的地”について欲しいもんだ」

(; A )「がっ──────!?」

呼吸が止まるほどの、信じがたい衝撃。さっきまでのチ級の砲撃が子供のお遊びになってしまうような、巨大な火柱が俺の左右で上がる。

高々と飛んだバイクは、奇跡的に転倒せずまた地面を走り出した。

(;゚A゚)(艦砲射撃………少なくとも戦艦クラス………正面から………!!)

ブレーキに伸びかけた手を引っ込めて、前方に目をこらす。

彼方で、微かに光が見えた。

(; A )「っつぅ………!!?」

今度は前方数メートルほどの位置で砲弾が炸裂する。揺れと土砂でハンドルを取られバランスを崩しかけるが、ギリギリのところで持ちこたえる。

(;'A`)「うぉあああああっ!!?」

三たびの砲撃。これは両側のビルに直撃した。崩れ落ちてきた瓦礫を、ワケのわからない叫び声を上げてギリギリのところで躱す。

────そして、見えた。

立ちこめる土煙の向こう側に。

俺が進んでいる、真っ直ぐな道の彼方に。

三つの、影が見えた。

まだ、顔が判別できるような位置ではない。見えるのはあくまでも人影だ。

だが俺は、確信を持って誰にともなく叫ぶ。

(#'A`)「────軽巡棲姫、捕捉!!」
430 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/26(月) 03:02:45.33 ID:xO5NyUVn0
今更新ここまでです。

次回、最終更新(予定)
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 08:16:53.86 ID:fKGdJm1A0
おつおつ
バイクチェイス?までこなし始めるとか、主人公もヤバいなあw
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 10:00:32.15 ID:aISb4hapo
おつ
主人公も順調に人外の域に入り始めてる感
とはいえこっからどうやって軽巡棲姫をどうにかするのかは想像がつかん
433 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/28(水) 22:30:37.41 ID:+IPvwG8p0
三つの光が、彼方で瞬く。

(; A`)「……っぐ……おぉっ………!!?」

押し寄せてきたそれは、鉄と火薬の暴風だった。

『『『─────!!』』』

軍艦3隻分の、機銃の一斉掃射。雨音が完全に掻き消され、アスファルトを弾丸が削り、火花がそこら中で飛び散る。道の脇に転がっていた車が蜂の巣にされて火達磨になる。背負っていたG36Cを一発が僅かに掠め、高い金属音が鳴った。

奴らの攻撃は“砲撃”を含まない。にもかかわらず、機銃掃射の衝撃のみで地面が揺れている。

(;'A`)「………っ、嘗めんな!!」

弾幕。まさにそれ以外の表現が思いつかない、膨大な数の火線が混ざり合う。

その真っ只中で、俺はバイクの速度を最大まで上げた。

(; A )「うおっ────!」

空気抵抗を、そして被弾面積を減らすため、限界まで運転席に身を伏せる。ハンドルを握る手と前方を見つめる両眼に全神経を集中し、張り巡らされる火線の隙間を縫うようにして駆ける。

『『!!!』』

(;'A゚)そ「ひっ……!」

迫る三つの艦影。両脇の二つが、砲声を伴う一際大きな光を放った。

ほとんど水平射撃で放たれた、二発の艦砲射撃。砲弾が炸裂する直前、ギリギリのタイミングで着弾点の傍を走り抜ける。

背中に吹き付けた爆熱に、情けない悲鳴が喉から漏れた。脳裏を走馬燈のような映像が駆け回り……その、ズボンが雨でびしょ濡れになっていることを死ぬほど感謝した。

それでも、ハンドルを放さない。速度を落とさない。

『………ッ!!』

奴らとの距離が、この間にも更に詰まる。比例して、火線も濃密さを増していく。

────彼我の距離、目測凡そ200M。ただの小さな点に過ぎなかった三つの艦影を、朧気ながらはっきり人間の形として視角が、脳が、認識する。

このタイミングだ。

(#'A`)「─────ぅおらぁあっ!!!!」

ハンドルを放す。車体から身体を起こす。背中のG36Cに手を伸ばしながら、KLX-250を前に蹴り出すかのような動きで座席から飛ぶ。

『───────!!!?』

物理法則に基づいた当然の帰結として、俺の身体はバイクから離れ宙を舞った。
434 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/28(水) 22:38:49.83 ID:+IPvwG8p0
(;゚A`)「ぶっ───ぉ」

一瞬の浮遊感を経て襲ってくる、全身をバカでかいハンマーでぶん殴られたような衝撃。息がつまり、チカチカと眼の奥で星が飛ぶ。

知覚の限界を超えた激痛にブラックアウトしかけた意識を繋ぎ止めたのは、なんとも皮肉なことに直ぐ後に続いた別の痛み。

(;゚A゚)そ「あづあああいでででででででで!!!??!」

慣性に従って路上を滑り出す身体。雨によって幾らか摩擦が減り、前後に防弾板を縫い込んだ最新式の軍服を着ているとはいえ気休めにもなりはしない。

すさまじい速度で擦れる背中の皮膚が破れ、血が滲み、摩擦熱が軍服を通して背骨を炙る。落下直後に味わった瞬間的な痛みに程度では及ばないものの、継続して襲ってくる激痛に精神が焼き切れそうになる。

(;メ'A )「………ッ、おぉっ!!」

歯を食いしばり、銃を構え、引き金を引く。狙う先は、運転手を失った後も走り続けるKLX-250───そのエンジン部分。

乾いた銃声が響く。此方に向けて放たれる無数の銃火の中で、ただ一筋、細い火線が逆方向に伸びた。

……これがアクション映画の一場面の光景だったなら、弾丸は見事に狙いの位置を貫いていたのだろう。だが、残念ながら俺はトニー=ジャーでも、ジェイソン=ステイサムでも、ジョシュ=デュアメルでもない。

(;メ'A`)「───クソッタレ!!」

放った弾丸はエンジンどころかバイクの車体にすら数発当たった程度で、残りの殆どは射線がばらけ見当違いの方向へと飛んでいく。

銃撃を受けてバランスを崩したKLX-250は横転し、50M程その状態のまま滑走した後カラカラと虚しい音を立てて奴らの足下で停止した。
435 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/28(水) 22:43:34.80 ID:+IPvwG8p0
『…………』

あれだけ激しかった銃撃が、まるで指揮者の合図を受けたオーケストラの演奏みたいにピタリと止まった。真ん中の“艦影”はおもむろに脚を持ち上げ、力なく地面に転がるKLX-250をそっと踏みしめた。

(メ; A`)「ゴホッ………ゲホッ……」

バイクから一拍遅れて滑走が止まった俺は、咳き込み、背中の激痛に耐えながらその光景を眺めている。

俺と奴らの距離は、あと150Mといったところだろうか。両側に立つ戦艦ル級二隻と、真ん中のヒト型が俺自身は初めて見る艦影────おそらく軽巡棲姫の姿形は解るが、この距離では流石に表情などを窺い知ることはできない。

『─────フッ』

(メ;'A`)「………Verdammt」

だが、俺は感じた。

奴は、俺のことを………いや、ベルリンでの人類の抵抗自体を嘲笑っている。

(メ; A`)(はっ………さっきまでのお返しってか)

そもそも、さっきの“派手だが当てる気はない”機銃掃射や艦砲射撃の時点で薄々勘づいていたことだ。空を高速で飛び回る戦闘機を追い払い撃墜するために張り巡らされる弾幕に、時速100kmにも満たないバイクが飛び込んだところで普通なら一瞬でスクラップになって終わる。

俺が単騎で飛び出したことは、リ級達の報告か空でポーランド軍に迎撃されている爆撃隊からの監視か、とにかく何らかの方法で旗艦である軽巡棲姫のところにも届いていたのだろう。

そして、これを俺達の「最後の攻撃」と見た(事実そうなのだが)軽巡棲姫は、シュパンダウ区からここまで出てきて俺を待ち構えていた。

散々に翻弄されて痛くプライドを傷つけられた報いを受けさせるために。

自らの手で、俺達の「最後の手段」を叩き潰してやるために。

死に物狂いでここまで来た俺に、最大限の絶望を突きつけるために。
436 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/28(水) 22:53:29.59 ID:+IPvwG8p0
思えば、チ級による追撃すら──あの二体が破壊されたことは予想外だったとしても──奴が俺をここに連れてくるための誘導だったのかも知れない。それだけ奴には俺が自分を狙っているという確信も、そして俺達の策を粉砕できる自信もあったのだろう。

『──────♪』

そして奴は今、その通りになったことで勝ち誇っている。散々手こずらせてきた俺達の、最後の希望を打ち砕いてやったと嘲笑っている。








(メ A )「……………ッ!」

────それが、“自分の中でそのつもりになっているだけ”だとは気づかなかったようだが。

(メ#゚A゚)「ああああああああああああああああああっ!!!!!」

喉を振り絞って絶叫し、全身の力を込めて立ち上がる。骨が軋み、傷から血が滲み、焼け付くような痛みが脳を震わせるが、その全てを無視して足を踏み出す。

ヒーローでもスーパーマンでも何でもない、痩せぎすで満身創痍の軍人の全力疾走。自分で俯瞰する余裕はないけれど、きっと無様で滑稽なフォームになっているとは予想がつく。

『……………!?』

それでも………なおも迫ってくる俺の姿に、軽巡棲姫が少しだけ後退ったように見えた。
437 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/28(水) 23:20:41.22 ID:+IPvwG8p0
構えたG36Cが、鉛のように重い。一歩踏み出す毎にのたうち回りたくなるような痛みに視界が霞む。

(#メ A )「あぁああああああああああああっ!!!!」

それらを耐え、誤魔化すために叫び続ける。声を出すことを止めれば、途端に意識が途切れてしまいそうだ。

前へ。前へ。前へ。

叫び、敵影だけを見つめ、走る。蹌踉めき、躓き、水溜まりに滑り、それでもとにかく進み続ける。

『…………』

彼我の距離、120M。

最初は戸惑い気圧された軽巡棲姫も、大声はただのハッタリでこの突貫を破れかぶれの特攻と踏んだらしい。動揺は直ぐに消え、此方に左手を向けた。

軽巡ト級を思わせる、巨大な顎を象った艤装が展開される。口の直ぐ上には4連装の魚雷発射管が、更にその上には単装砲と2門の対空機銃がごてごてとどこか不格好に突き出している。

どの艤装が使われるにしろ、生身に近い俺が食らえば跡形も残るまい。おまけに両サイドのル級も砲をこちらに向けていて、回避は難しい。

上等だ。こっちも、回避するつもりは毛頭ない。

(メ# A`)「っ!!!」

G36C、一連射。弾倉一つが空になるまで引き金を離さず撃ち放つ。銃から伝わってくる振動すら痛みに変わるが、歯を食いしばって耐える。

『……………?』

ただし火線は、棲姫にも両脇のル級にも向いていない。三隻の足下───KLX-250、その燃料タンクが、狙いだ。

『『『────!!?』』』

爆炎が、奴らの足下を焦がす。

彼我の距離、100M。
438 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/28(水) 23:46:12.95 ID:+IPvwG8p0
基本軍用車は燃えにくいディーゼルエンジンを主流にしているが、偵察を主な任務として足回りが重視されるオートバイに関しては殆どの場合ガソリンエンジンが採用される。無論ポーランド軍が同様の考えだとは限らないので一抹の不安はあったが、あの爆発、景気の良い燃えっぷりを見る限り杞憂に終わってくれたようだ。

『………ッ、…………!!』

無論、それなりの爆発とはいえ所詮バイク一台分。“軍艦”に大きなダメージを与えられるような規模にはどう考えてもなりっこない。だからこそ軽巡棲姫も、仮に俺の策が成功したとしても“撃沈はない”と踏み、前に出てきたといえる。

だが、至近距離で炸裂した爆光は、周囲でちらつく焔は、例えダメージにならなくても“動きを抑え、射線を遮る”目眩ましとしてはあまりに十分すぎる。

『『…………!!』』

軽巡棲姫からの指示か、ル級が機銃を放ち始める。だが、炎越しに放たれた弾幕は次々とあらぬ方向で火花を散らし、俺の周りにすらまともに飛んでこない。

(メ#'A`)「─────」

身体を丸め、姿勢を低くし、足を止めずに突っ込む。

彼我の距離、80M。

『…………!!!』

(#メ'A`)「っと!!」

『ッ?!』

ようやくル級の内一隻が態勢を立て直し、勢いを弱めていく炎の向こうで艤装を構える。───が、俺が左手に立ち並ぶビルの一つに銃口を向けると、其方に釣られて自ら射撃の機会を手放した。

(メ#'A`)凸「はっ、バーーーカッ!!!ゲホッ、ゴホッ!!」

さっきのバイクの件が頭にあったのだろうが、これはただのハッタリだ。間抜けに虚空を警戒するル級に中指を突き立ててやりながら、前へ進む。

互いの距離は、60M程になっていた。
439 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 00:27:57.36 ID:8fhCldZ+0
『ギィッ………!』

ここにきて、目の前の三隻も焦燥を露わにした。俺の前進が「やけくそのkamikaze」なんかじゃないことに、「KLX-250による自爆攻撃」が二重の目眩ましであることに、ようやく奴らも気づいたのだろう。

『ア゛ア゛ア゛ッ!!!』

あからさまに苛立った声で、軽巡棲姫は俺に再度艤装を向ける。

(メ#'A`)「はっ、不機嫌だなお姫様!!」

軽巡棲姫は目元をゴーグルのようなもので覆っており、他のヒト型に輪を掛けて表情が読みにくい。だが、上げられた声には苛立ちと、俺への殺意が溢れていた。

そりゃそうだ。奴らはあれだけはっきりと人類を見下している。艦娘に比べて、少なくとも陸の俺達は恐れるに足らない存在だと蔑んでいる。

そして、その自分たちに遙かに劣るはずの存在に翻弄され、幾度も策を破られ、同族を殺され、今また自らの思惑さえ逆手に取られて追い詰められている。

苛立たないはずがない。焦らないはずがない。

軽巡棲姫にしてみれば、この行為は憂さ晴らしなのだろう。何らかの策を弄そうとするこざかしい陸の猿を、自らの一撃で吹き飛ばしてやろうという八つ当たり。

─────だが。

(#メ'A`)「遅えよ」

全ては、賭けだった。

もしも軽巡棲姫が、中核艦隊を引きずり出されたことに対する苛立ちを抱いていなければ。

もしも俺達の策を自ら潰す方向に動かなければ。

そしてなにより、もしも俺が軽巡棲姫ののど元までたどり着けなければ。

一つでもズレれば、何かもが瓦解した分が悪いどころではない危険な賭け。

だが、俺達はその賭に勝った。

(#メ'A`)「チェックメイトだ化け物ぉおおおお!!!!!」

叫び、全身を躍動させ、腰から取り出した【切り札】を──────フラッシュバンを奴らの足下に投げつける。

彼我の距離は、50M。

『『『────アアアアッ!!!?』』』

閃光と、爆音。

三隻の動きが、再び止まった。
440 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 00:58:27.43 ID:8fhCldZ+0
(#メ゚A゚)「ぅおあああああああああああっ!!!!!」

最初で、最後のチャンスだ。ル級だろうが軽巡棲姫だろうが、とにかく一隻でも衝撃から立ち直ればもうこっちに手立てはない。攻撃された瞬間に、ドク=マントイフェルという存在は木っ端微塵でゲームオーバーだ。

叫び、走る。全身の力を一滴残らず絞り出しながら、駆ける。

彼我の距離は、40M。

(; A )「クッ、ソッ、がァあああああああああ!!!!」

全身が悲鳴を上げている。脳が苦痛を、限界を認識しないようにと叫び続けるが、その叫びがまた体力を削る。

距離、30M。

(;メ A )「     !!!」

視界が揺れる。耳が機能を失い、自分が何を叫んでいるのかすら解らない。

それでも、脚だけは前へと進み続ける。

距離、20M。

(;メ A )

脚の感覚が消える。揺れる視界と、フラッシュバンの衝撃から立ち直ろうと蹲り頭を振る軽巡棲姫の姿が近づいていくことだけが自分がまだ前に進んでいると教えてくれる。

残り、10M。

『    !!!』

軽巡棲姫の上半身が起き上がった。よろめき、長い髪を振り乱し、それでも左手の艤装を持ち直し、ソレを身体の手前まで持ち上げる。

『     !?』

5M。艤装を構えようと此方に向き直った棲姫の口元が何かに怯えるように引きつった。

1M。脚がもつれ、地面に倒れ込みかけた身体を、伸ばした手が何かに引っかかってギリギリのところで支える。妙にひやりとした感触に、僅かな心地よささえ覚えつつ身体を前へと投げ出す。

もう、視界にも何も映らない。ただ、自分が何かを抱擁していることだけ理解する。

0M。

俺の耳元で、誰かが叫ぶ。

『──────コナクテイイノニ……ナンデクルノヨ…………クルナ、来るなぁああああ!!!』
441 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 00:59:35.17 ID:8fhCldZ+0



(メ'A`メ)「断る」



442 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 01:00:41.72 ID:8fhCldZ+0




─────俺は手元のナイフを、ソイツの首筋に突き立てた。


443 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 01:22:39.93 ID:8fhCldZ+0






ξメ;゚听)ξ《此方フリードリッヒスハイン=クロイツベルク区よりCP、重巡リ級eliteが戦線を離脱!繰り返す、リ級eliteが突如戦闘行動を中止し戦線を離脱!》
  _
(メ;゚∀゚)《レーベの様態を確認しろ!かなり手酷くやられたぞ!》

(;メ><)《防壁状態赤色、大破状態ですが脈拍有り!少なくとも処置を行えば十分回復できるんです!》

(;メ//‰ ゚)《部隊損害が大きすぎて追撃は不可能!これより艦娘を含めた負傷者を回収し後退を開始する!》

(;゚д゚メ)《右翼、パンコウより全部隊に通達!敵艦隊、後退を開始!!》

《高層観測班よりCP、敵の爆撃編隊が退いていきます!また、近隣ですが市外の複数区域残存部隊との通信が取れました!通信妨害が消滅!!》

《少尉だ、マントイフェル少尉がやってくれたんだ!!》

《Hurra!! Hurraaaaaaa!!!!》

無線で、歓喜の雄叫びと情報伝達の声が飛び交い混ざり合う。砲声も銃声も止まないけれど、それらすら興奮を抑えきれない人々の声でしばしば掻き消されている。

私でも、それらが示す事実は直ぐに気がつき胸が激しく高鳴った。

敵の旗艦が────軽巡棲姫が、あの通信を入れてきた少尉の手で撃沈されたんだ。
444 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 02:02:08.22 ID:8fhCldZ+0
「お姉様、市内中央、右翼の敵艦隊並びに航空隊が離脱を開始!敵旗艦軽巡棲姫が撃沈された模様です!」

「ええ、私にも聞こえたわ…………さて、見知らぬ敵艦さん」

『─────』

お姉様は、手元の戦車砲を一度振りかぶって目の前の“新型”に突き出す。

「中央と右翼の貴女のお友達は退いたみたいだし、爆撃隊も尻尾を巻いて逃げていく……。このままだと、空からも陸からもここにわんさか援軍が来ちゃうわよ?

私とプリンツもまだまだ余裕はあるし、流石の貴女もマズいんじゃないかしら?」

………お姉様はこう言うけれど、これはほとんど虚勢に近い。

“新型”の……【彼女】の現在の損傷状態は、相変わらず橙色───即ち中破。対して此方は、私が小破でお姉様が中破。

状況だけを見れば互角だけど、その実向こうはあの不意打ち以降まともに損害を受けていない。着実にダメージが蓄積されている私たちは、明らかに押されている───どころか圧倒的に不利だ。

おまけに、周囲に展開しているレーベ達支援部隊の残弾も心許ない。向こうの高すぎる戦闘力を考えると、たとえ援軍がやってきたとしてそれらごと薙ぎ払われる可能性すらある。

「さぁ、どうするの?」

『………………wwww』

一歩踏み出して問いかけるお姉様を見つめ、【彼女】は突然今までのものとは毛並みが違う笑顔………“狂気”が抜けた、まるで遊び疲れた子供みたいな邪気のない笑顔を浮かべた。

「っ!!」

「きゃあっ!?」

ズンッ、と地面が揺れて、辺りに煙が立ちこめる。それは、【彼女】が足下に砲撃を行ったために発生したもの。

『♪』

ジャアネとでも言うように手を上げて。

煙の向こうに、【彼女】の姿が消えていった。
445 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 02:27:01.67 ID:8fhCldZ+0
………しばらく奇襲を警戒して身構えるが、10秒、20秒と時間が過ぎても何も起こらない。

息が詰まるような、何時間にも感じられる数十秒が過ぎ去った。

「────Bismarck zweiより支援艦隊各位に通達。敵新型艦の離脱を確認。状況を一時終了せよ」

《《《Jawohl!!》》》

「────ぷはっ」

お姉様のその声を聞いて私は、ようやく肩の力を抜くことができた。…………肩だけじゃなくて腰まで抜けてしまい、泥濘の地面にお尻をビタンと着いてしまったのはご愛敬ということにしておきたい。

「Prinz? ちょっとばかりそれはドイツの“れでぃ”として端なさ過ぎるんじゃないかしら?」

「あ、あはは………」

お姉様に窘められて、照れ隠しに頬を掻きながらもう一度立ち上がる。

「すみませんお姉様、思わず安心してしまって」

「……ま、その点は無理もないわ。私もアイツの強さには驚かされたもの」

視線の先は、煙の向こうに…………【彼女 】が消えた先に向けられる。

お姉様の表情からは既に安堵が消えていた。

「アイツとは間違いなくまた戦うことになるわ………次は負けないわよ。何てたって、この私だもの!」

「………はい!」

自信に満ちあふれたその言葉に「いつも通り」の雰囲気を感じ取り頷きつつも、私の脳裏にはふと、別の疑問が張り付いた。

<ええそうでしょ?きっと貴女も気づいている。

そうよ、私達ははぐれ者。だけどそんなものは関係ない>

お姉様が【彼女】と砲火を本格的に交える前に叫んだ、あの言葉。

<私がどんな存在であろうとも、私がナチス・ドイツ海軍ビスマルク級1番艦、Bismarckであるという事実は変わらない。

この地がドイツであるという事実は変わらない。私が守るべき国であるという事実は変わらない!!>

あれはいったい、どういう意味だったのだろう……?
446 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 03:10:24.30 ID:8fhCldZ+0





(メメ A )

傷だらけで倒れる一人の男。その傍に【少女】は立っていた。

身長は、130cmあるかどうかといったところ。極東の島国をどことなく想起させる、古めかしい衣服────人類間では“着物”と呼ばれる服に身を包む。【少女】の同族達に共通する、人工的な艶やかさを持つ頭髪を右側に垂らし、錨を連想させる髪留めでまとめている。

全体的に黒を基調とした衣服故に、彼女のとびきり白い肌と、着物の所々を纏める白い襷がよく映えた。

『…………』

【少女】は、眠り続ける男の顔を、どこか楽しそうに覗き込む。つんつんと指先で突いたり、頭髪を手で梳いてみたり、力なく伸ばされる腕に組み付いてみたり。

そんな、眠る恋人を眺める女子のような他愛のない動作を、降りしきる雨を気にとめる様子も無いまま続ける。

『………♪』

一通りそれらの動きを堪能した後、【少女】はゆっくりと名残惜しそうに立ち上がった。

その場を立ち去ろうとした【少女】は、はたと何かに気づいて踵を返す。男の耳元まで唇を近づけ、彼女は小さな声でささやく。

次ハ、私トモ。

ふわりと袴の裾を翻し、【少女】は雨の中を今度こそ男の傍から立ち去っていく。

(メメ A )

後には、雨に打たれる一人の男と、うなじに深深とナイフが突き刺さった一つの屍体。


そして、頭部を吹き飛ばされた二つの屍体が転がっていた。
447 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 03:27:34.35 ID:8fhCldZ+0







(=#゚ω゚)ノ「どういうことだよぅ!!!!」

絶叫が、テントの中に響き渡る。

(=#゚ω゚)ノ「もう一度言えHQ!!同じことを、もう一度、僕にはっきり聞こえるように言ってみろよぅ!!」

先程まで市内の他の部隊同様歓喜に沸いていた面影は、最早微塵も見られない。雨音を押し潰して聞こえてくる外の歓声とは対照的に、イヨウ以外の全員は呆けたような表情で立ち尽くしている。

深海棲艦からのベルリン奪還────誰もが不可能だと考えていた事象を、彼らは成し遂げた。払われた犠牲は決して小さくなかったが、圧倒的に劣る戦力での軽巡棲姫撃沈という大戦果も上げての勝利。

それはドイツはおろかヨーロッパ全土の苦境を救う勝利であると誰もが信じていたし、実際状況はそうなるはずだった。

《………イヨウ、現場を見ていない私が、お前の気持ちを“理解する”等とは口が裂けても言えない。そして実際私も、お前達にこの命令を下すことは心底から辛い。

何より私自身が、ベルリンの奪還によって戦況を打開できると信じていたからだ》

だが、南部の暫定総司令部と連絡がついた彼らに、一番最初に総司令官が突きつけた命令は。

(;`∠´)《しかし、今は状況が変わったんだ………!》

ドレスデン以北のドイツ領全域の───ベルリンの放棄撤退だった。
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 03:54:14.20 ID:HZWikPiTO
疑問なんですが、なぜ軽巡棲姫の体にナイフが刺さるんでしょうか? 機関銃やミサイルが通用しないほど障壁の防御力は高いはずでは?
もしナイフが刺さるほど体が柔らかくて、かつ死ぬなら、拳銃が当たっても死ぬのでは?
そうなると普通の人間と変わらないんじゃないですかね……


449 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/29(木) 03:56:35.58 ID:8fhCldZ+0
>>448
今後の展開のネタバレになっちゃうのでくわしくは書けないんですが、ただ中途に発生したリ級との格闘戦でヒントは出てますね
450 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 04:14:11.58 ID:8fhCldZ+0
(;`∠´)《お前ほどの男だ、おそらくルール地方の……艦娘艤装工場を中核とした区域の惨状はとっくの昔に予測済みだろう!

それと同様の事態が!!コペンハーゲンで発生している!!!》

(=;゚ω゚)ノ「………っ」

ベル=ラインフェルトのここまで悲壮な声を、イヨウ=ゲリッケは長い付き合いの中で初めて聞いた。そしてその声によって、彼はようやく“それ”を現実として受け入れた。

(=;゚ω゚)ノ「………南部への退却の経路は」

(`∠´)《……まずオーデル川でポーランド軍と合流、共同防衛線で深海棲艦の侵攻部隊に備えてくれ。ポーランドが崩壊すればドイツ・イタリアは完全に孤立しヨーロッパの全土失陥が決定的になる。逆に、奴らはポーランド軍が健在である限り横やりを恐れてドレスデン以南への侵攻は鈍化するはずだ。

既にリーンウッド首相が渡りを付けてポーランド以外にチェコ、イタリア、スイス、オーストリア、クロアチアとの連合軍結成が確定している》

(=゚ω゚)ノ「………やるねぇ、あの首相」

何よりも大きいのはスイスの連合軍参加だ。戦力的な面と言うよりは、“永世中立国が禁を破って戦線に参加した”という点が大きい。各国と連携を取るに当たって、足並みを揃える際の大きな材料となる。

(=゚ω゚)ノ「なかなかの腹芸だ、日本のミナミやアメリカのトソンとタメはれそうだよぅ」

(`∠´)《その辣腕ぶりを見届けるためには、何としてもドイツを国家として残す必要があるがな》

(=゚ω゚)ノ「全くだ。…………」

長い沈黙が、二人の間に横たわる。

(=゚ω゚)ノ「………勝てるかね、この戦争」

(`∠´)《さぁな》

イヨウの問いは、彼のものとは思えぬほど不安げなもので。

ベルの答えは、彼のものとは思えぬほど投げやりなものだった。









(`∠´)《私には解らんよ》
451 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 04:43:56.88 ID:8fhCldZ+0




【棲姫】は怒り狂っていた。

結果として、彼女の策は成功した。だがその内容は、“完璧”にはほど遠い。

予想を遙かに超える数の同胞が、ある街で屍となった。

強い力を持つ同胞が、その街ではよりによって“人間”に殺された。

彼女にとって、別段同胞が幾ら死のうが知ったことではないし、“全の意志”がどれほど彼女に賞賛を送ろうが関係がない。

ただ、彼女の完璧を乱されたことが。

彼女の誇りを傷つけられたことが。

彼女を怒り狂わせている。

イツカ、報イヲウケサセル。

【棲姫】──────人類からは“空母棲姫”と呼ばれているその個体は、暗い怒りを胸に宿しつつ眼前の同胞達に進撃を命じる。

優に千を越える“群れ”が、かつてデンマークと呼ばれた国の境から溢れ出た。
452 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 05:19:44.91 ID:8fhCldZ+0






《CNNより緊急報道です。先程ロシア軍が、ルール地方に戦略核兵器を発射したと正式に発表致しました》

《ロシア政府は予定より三時間早い核兵器使用の決断について、国防上絶対に必要なことだったと談話を出しています》

《ファルジャジーラの取材に対し、ロシア外交部は「必要な措置だった」の一点張りです》

《ルール地方には多くの生存者が取り残されていたとみられ、国際的な非難は免れないでしょう》

《東欧の親ロシア政権国でも今回の件については難色を示す国が多く、国際的な孤立も危ぶまれています》

《日本、アメリカの両国はこの件について沈黙を守っており、先日締結した3ヶ国協定への影響を考え様子見の姿勢を貫くようです》

《イギリス政府はロシアの処置に対して“我が国としてはロシアの立場にも共感できる面がある”と一定の理解を示しています》

《戦車道博覧会への需要を見越してヨーロッパに投資していた戦車道関連企業の株が軒並み暴落し、ニューヨーク市場は大混乱の様相を呈しています》

《5000万人を越えるとも言われる避難民の受け入れ先をどうするかなど、フランス・ドイツを始めヨーロッパ諸国は大きな問題を抱えることになるでしょう》

《デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクは連絡が全土で完全に途絶えた状態であり、米軍の増援作戦も失敗した今生存者の安否が気遣われます》
453 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 05:42:09.27 ID:8fhCldZ+0




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454 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 05:42:52.04 ID:8fhCldZ+0
《事件発生から四日と2時間が経過しましたが、事態沈静の見通しは全く立っていません》

《ロシアの核兵器投射後も深海棲艦の進軍速度に変化はなく、フランス・ドイツにおける深海棲艦の展開量は10000を越えるとみられています》

《フランス政府はパリの完全陥落を受け、オルレアンに総司令部を置いた最終防衛ラインを策定。スペイン陸軍と共同で全戦力をこのラインに集結しました》

《ヴィルヘルム=スハーフェン鎮守府を始め北部鎮守府との連絡は全て途絶しており、ドイツ軍は全保有艦娘の約80%を損失したとみられます》

《行方不明となっているマモン元帥が深海棲艦の侵入を隠蔽していた可能性が浮上、ドイツ海軍に国際的な批難が集中しています》

《ドレスデン以南のドイツ領は深海棲艦の侵入をベル=ラインフェルト陸軍大佐の指揮下なんとか食い止め、壊滅を免れています》

《ドイツ、イタリア、スイス、オーストリア、ポーランド、チェコ、クロアチアからなる東ヨーロッパ連合軍はドイツ陸軍のベル=ラインフェルト大佐を陸軍総司令官に、イタリアのデレ=フェデレ海軍中佐を海軍統合提督に指名しました。この陸海両軍の異例の大抜擢は、年功や階級ではなく実力を重視した人選であり連合軍がヨーロッパの奪還を諦めていないという意志の表れでしょう》

《ロシア国内では先日の核兵器使用を追求する抗議デモや集会が連日のように行われていますが、徐々にこれらは過激さを増しており、警官隊、陸軍との衝突による死傷者も出ています》
455 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 05:47:51.12 ID:8fhCldZ+0
(゚、゚トソン《欧州の失陥は人類の甚大な損失であり、我々は何としてもこれを奪還しなければなりません。インド洋に到着した我がアメリカ軍と自衛隊の合同艦隊も含めて、まさに人類の力を結集する必要があります》

(#^Д^)《南政権はアメリカに追従しヨーロッパに自衛隊と艦娘を送り出しましたが、これは帝国主義の復活です!!南政権は、皆さんの危機を煽り、また、大日本帝国を造ろうとしています!!》

(゚、゚トソン《今回ヨーロッパにおいて、深海棲艦は人類側の警戒網をすり抜け、明確に我々の裏を掻く形で電撃的に侵攻してきました。彼らの動きは知性的であり、極めて危険なものです》

(#^Д^)《深海棲艦には高い知能がある個体もいるそうです!なら話し合いができるじゃないか!それをしないのは、政権の怠慢だ!!!》

(゚、゚トソン《ベルリンとパリは敵の手に落ちました。ストックホルム、マドリードも時間の問題です。そして彼らの侵攻はワルシャワ、ロンドン、モスクワ、ニューヨーク、北京、東京へと続いていきます》

(#^Д^)《だいたい遠い遠いヨーロッパは我々に関係ない!何のために行くのか!!ただ戦争がしたいだけじゃないのか!!》

(゚、゚トソン《最早、深海棲艦の脅威は過去のものではありません》

(#^Д^)《深海棲艦に脅威なんか無い!皆皆与党の嘘だ!!》
456 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 05:50:24.71 ID:8fhCldZ+0

(゚、゚トソン《明らかに、全世界が戦時下にあります》

(#^Д^)《戦争をもう一回起こさないように、皆で声を上げていこうじゃありませんか!!!!》
457 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 06:08:49.92 ID:8fhCldZ+0






「…………君の名前は、よく知っているよ。正直、君ほどの戦車乗りが志願してくれるなら、これほどありがたいことはない」

「そして、君は年齢その他の条件も満たしている。本来私に、君が軍に入隊することを止める権利はない。

否、寧ろ歓迎しなければならないのだろうな」

「なら、早く手続きを終えてちょうだい。私は拉致されたり銃で脅されたりして、無理やりここに来たわけじゃない。明確に私の意志でここに居るわ」

「…………」

「なんなら、国歌でも歌って見せる?」

「……………君は、まだ若い。未来がある。戦争なんかに身を投じるべきじゃない」

「………」

「それに、こんなことは言いたくないが君はあのチームで差別されていたとも聞く。六年前、制海権・制空権が世界規模で一時的に喪失される前にこの地に来たばかりに、日本に帰ることができなかった、とも」

「…………」

「君がもし、君を差別した人々を見返すために志願したというのなら、私は君の志願書を破り捨てなければならない。私の役目は軍を勝たせることではあっても、若者を死に急がせることではないからね」
458 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 06:22:49.91 ID:8fhCldZ+0
「………貴方の言うとおり、見返してやりたいという気持ちが無いと言えば嘘になる。差別してきた奴らが憎くないなんて、絶対に言えない」

「でも、私にバカなことをしてきたのは“そいつら”であってドイツそのものじゃない。ハインみたいに理解してくれた奴も、一緒に肩を並べて“私の戦車道”に付き合ってくれた子たちも居る」

「何より、私よりもっともっと酷いことを言われても、もっともっと深くこの国を愛して、守ろうとしている人たちが居る。実際に私を守ってくれた人たちが居る」

「だから私は、逃げたくない。ここで、この国のために戦いたい」

「………これほど残酷な言い方もないが、君の血は半分が日本人だ」

「ええ、でももう半分はドイツ人よ」

「…………はぁ」








(`∠´)「────東欧連合軍にようこそ。歓迎するよ、エミ=ナカスガ2等義勇戦車兵」

「……Jawohl!!」
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 06:41:58.56 ID:3J4unSTmO
ワカッテマスが投げ飛ばされた時点で、姫級に対抗するには超超至近距離からの攻撃しかないとは思ってたけど……
まさかバリアの下がほぼ生身だとはおもわなんだ。
460 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/29(木) 07:10:11.23 ID:8fhCldZ+0
まだ完結はしてないんですが一度仮眠取ります申し訳ない
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 08:24:12.40 ID:FMbGMF0Oo
欧州陥落か
世界観的に厳しいだろうけどパンツじゃないから(ryな彼女たちも参戦しそうな情勢だな
フミカネ陸海空連合とか胸熱だがそうなると敵航空隊もやばいことに
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 08:56:30.21 ID:sWSo+EJA0
寝落ちしてたorz…本当に長時間お疲れ様です!

もしやと思っていたけど、ドクもよく無謀な賭けに勝ってくれた…
形はどうあれ、突如として踏みにじられた多くの犠牲者と戦友のためにも一矢報いて、結果的に決定した撤退に対応できてそれの犠牲者も未然に防げてるなら…
本人の意志はどうあれ英雄化待った無しなのが可哀想だけどw

ただそれでもしくじってしまう…というより人類側に打開策すら無かったのか、一般人には犠牲の面でしか見れないにしろ、戦い守る層にしてみれば、禁じ手中の禁じ手ですら通じなかった絶望感と切迫した現状がどれ程なのか
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 09:47:19.78 ID:ybuudotNO
>>449
ご回答ありがとうございます
464 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 10:54:55.53 ID:8fhCldZ+0








北欧が人類の領土ではなくなってから、今日で十日目になる。

ワチャワチャと内輪揉めが大好きな人類にしては珍しいことに、ドイツ・イタリア・ポーランドを主力とした【東欧連合軍】は極めて迅速に設立された。また抽出された防衛戦力は瞬く間に最前線に展開し深海棲艦の津波のような攻勢を何とか押しとどめている。

ドイツ軍の残存艦娘戦力が僅か18隻という致命的な損害を被っていたため絶望的な戦況が予想されたが、イタリアが自軍艦娘の他国派遣に全く“渋り”を見せなかったことやオーベル川におけるポーランド軍の頑強な抵抗、米軍・スペイン軍の全面的な協力によってフランス戦線がギリギリのところで踏みとどまったことなどが相互に影響し最悪の結末を免れていた。

(=゚ω゚)ノ「────とはいえ、絶望的なんて言葉すら生ぬるい状況であることには変わりないよぅ」

机の上に広がったヨーロッパ全域の地図を指さしながら、イヨウ中佐は断言する。

(=゚ω゚)ノ「我々ドイツは艦娘の大半を北部戦線で損失し、頼みの綱のイタリアは練度はともかく数の面で決して潤沢とは言い難い。対し、深海棲艦側は展開数だけで優に10000隻超という途方もない戦力が欧州に展開しつつある。コペンハーゲンとルールに築かれた奴らの橋頭堡───【泊地】を攻略しない限り、我々に勝ち目はない」

〈::゚−゚〉「ですが、我々の保有戦力ではどれだけつぎ込んだとしても敵制圧区域への浸透は不可能です。火力、数、場合によっては機動力においてすら我々は上回られかねません」

(=゚ω゚)ノ「無論、我々の戦力のみで攻勢に移れるとはベル達上層部もこれっぽっちも考えちゃ居ないよぅ」

イッシ=ストーシュル少佐の問いに、イヨウ中佐の指がイタリアへと伸びる赤い矢印を指し示す。
465 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 11:03:42.30 ID:8fhCldZ+0

(=゚ω゚)ノ「日本、アメリカを中心に、現在世界各国でヨーロッパ反攻作戦に向けた国際的な統合軍設立の動きが高まっているよぅ。実際日本からは、既にインドを経由して空母機動艦隊と先遣編成された艦娘部隊がイタリアに向かっている。

また、太平洋を通してアメリカ東海岸にも空母艦娘が集結しつつある。カナダやブラジルも協力を表明した。

日米海軍を中核とした、【人類連合軍】の集結完了。そこまで現戦線を何としても維持し続けることが、今後の僕らの任務だよぅ」

ξ;゚-)ξ「……気の遠くなりそうな話ね」
  _
(;゚∀゚)「長丁場とかそういうレベルじゃねえなこれ。何ヶ月どころか、下手したら年越すぜ」

ジョルジュとツンが、中佐の言葉に呻き声を上げる。特に陸海空路全てが機能せずフランスへの帰国の術を失っているツンからすれば、その解決が遠い先とはなかなかハードな現実だろうな。

ξ゚听)ξ「……」

('A`)「……?」

ξ*゚听)ξ「…………んっん!」

眼が合った。赤面された。咳払いされた。

え?何?ズボンのチャックでも開いてたか?
  _
( ゚∀゚)「死ね」

('A`)「えっ」
  _
( ゚∀゚)「死ね」

やだ……同僚が凄く恐い……。
466 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 11:33:27.73 ID:8fhCldZ+0
undefined
467 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 11:39:28.39 ID:8fhCldZ+0
イヨウ中佐は、現ドイツ軍の最前線をなぞる。口調は砕けたものだが、その眼差しは刃のように鋭かった。

(=゚ω゚)ノ「我々機動迎撃大隊の役割は、ドイツ戦線における敵艦隊への臨機応変な対処。ま、有り体に言っちまうなら便利屋だよぅ。

深海棲艦の攻勢に対し、常に不利な地点を補強し、戦況を互角以上に持っていく………とりあえず、休暇申請が絶望的に降りないことだけは確かだよぅ」

('A`)「……休暇なんざない方がマシですよ。うっかり休もうものなら病室で一週間の素敵なバカンスをプレゼントされかねない」

(=゚ω゚)ノ「それもそうだよぅ」

ブリーフィングルームの中が笑い声に満ちたが、俺からすれば割と本気で笑い事じゃない。

つーかあんな怪我だったのによく1週間で戦線復帰できたな俺。アレか、ドイツの技術力はって奴か。

(=゚ω゚)ノ「とはいえ、我々の手元にはリスボンやベルリンを生き抜いた歴戦の精鋭部隊と貴重な戦車、機動車両が相当数配備されている。

加えて、アメリカ軍の命令で一時的に東欧連合軍に身を置くことになったサイ大尉の部隊も後日合流予定だよぅ」

( ゚д゚ )「例の新設部隊の件はどうなりました?ほら、対ヒト型に特化した白兵部隊の編成は?」

(=゚ω゚)ノ「残念ながらアレは白紙化したよぅ。フランス軍が身を以て無謀さを示してくれたからね」

(;'A`)「…………」

別段俺に責任のあるものではないし、イヨウ中佐もそんな意味で口にしたわけではないだろう。それでも、なんとも言えない罪悪感に居心地が悪くなる。

俺が軽巡棲姫を文字通りの白兵戦で仕留めたという話は、ベルリン放棄が決定したその日の内にヨーロッパ全土を駆け巡る。

砲弾や銃弾は完全に防ぐが人間の身体は障壁を透過できる、そして障壁下の体表硬度は人間のそれとかわらず、急所も共通している───もたらされたこれらの情報は、原理の追求もそこそこに巨大な衝撃を軍部に与える。

そして、それに窮地の極みにあったフランス軍が飛びついた。

膨大な数の深海棲艦によって全方面の防衛線が崩壊し錯乱状態にあったフランス軍は、あろうことか即席の銃剣突撃隊を編制して戦艦タ級flagshipを旗艦としたパリ侵攻部隊に突撃させちまった。

……結果については“パリが人肉のミンチでまみれた”とだけ伝えておく。

俺のあの軽巡棲姫に対する一撃は、心理の隙を突き、油断を突き、はったりをかまして辛うじて加えたものだ。いわば搦め手につぐ搦め手と運の産物であり、正攻法からはほど遠い。

そもそも、針鼠のように武装した軍艦に肉弾突撃をかけたとてたどり着く前に圧倒的な火力で殲滅されるのがオチだ。加えて深海棲艦は膂力でも人間を凌駕しているため、肉薄に成功してもなお対処される可能性も十分にあり得る。

結局のところ、よほど完璧に奇襲をこなすか、向こうがまともに身動きが取れない地形におびき寄せて多少の犠牲に目をつむり強襲するか、或いは尋常ならざる手練れの兵士が肉薄に成功するか、まぁどれも現実味のない話だ。
468 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 11:57:46.04 ID:8fhCldZ+0
(=゚ω゚)ノ「……さて。このように、我が部隊は今後深海棲艦と戦うにおいて非常に優秀な戦力が揃っている。ストーシュル少佐とデレ中尉指揮下の戦車隊、コンツィ中尉指揮下の機動車両部隊、そしてヴォーグルソン大尉指揮下のアメリカ海兵隊………僕の稚拙な指揮を補ってあまりある、最高のメンバーと言っても過言ではない部隊だ」

(Bд )「」

中佐の言葉を聞いて、ミルナ中尉の顔に青い線が降りる。

……あの人真面目だからなぁ。大方、中佐が拙いなら自分の指揮はどうなんだと本気で反省してしまっているのだろう。

(=゚ω゚)ノ「しかしながら、敵は何せ地上を闊歩する軍艦だ、しかも今や数においても我々に対して優勢となっている。人員がどれほど優秀であっても、対処できるレベルには限りがある。

そのため────我々は根本的な“火力”も補わなければならない」

('A`)「………え?」

ここで何故か、イヨウ中佐は俺に視線を転じた。

とてつもなく、イヤな予感がする。

それこそ、リ級がバイクで突っ込んでくる直前とどっこいどっこいの、イヤな予感が。

(=゚ω゚)ノ「諸君、喜ぶよぅ。

我々は、世界で初めて艦娘・陸軍の正式な混合部隊として設立することになった」
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 12:12:46.50 ID:NjeCeOwCo
おっ、陸軍提督の誕生か?ww
470 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:21:26.08 ID:8fhCldZ+0
 
……扉を開けてブリーフィングルームに入ってきたそいつは、ずかずかとホワイトボードの前まで進み出て腰に手を当て仁王立ちになる。

肩が露出し、身体にピタリと張り付いた“HENTAI”仕様の軍服。目深に被るアイゼンクロイツを付けた軍帽の下から、見るからにやる気に満ちあふれた両眼が俺達を見つめていた。

(=゚ω゚)ノ「彼女は我が隊で最も部隊運用が高い者に───ドク=マントイフェル少尉の指揮下に入って貰う。上層部、本人ともに許可は取っているよぅ。なお、君に拒否権はない」

(ノA`)「」

ξ;゚听)ξ「」

恐れていた事態、恐れていた中佐の言葉に額を抑えた。何故かツンも身体を強張らせていたが、その理由を考える余裕がないほど強烈な目眩が俺を襲う。

提督のまねごとってだけでも割と勘弁願いたいのに、よりによって「こいつ」か。

俺の気持ちを知ってか知らずか、かつて戦艦フッドを海の藻屑に変えた“ドイツ海軍最強の艦娘”は満面の笑みで俺に右手を差し出した。

「Bismarck zweiよ。

これからはKameradじゃなくてAdmiralと呼んだ方がいいかしら?」

('A`)「勘弁してくれ………」

絶望的な気分で差し出された手を握り返しながら、俺は深く深くため息をついた。






('A`)「昇進なんてまっぴらゴメンだよ。休暇の次にな」

…………心の底から、マンドクセぇ。
471 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:22:10.37 ID:8fhCldZ+0
〜('A`)はベルリンの雨に打たれるようです〜

完!こr
472 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:23:27.05 ID:8fhCldZ+0





.
473 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:23:55.36 ID:8fhCldZ+0





.
474 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:24:30.65 ID:8fhCldZ+0






( T)「『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』『パラノーマル・アクティビティ』を代表とした、あえてドキュメンタリー風に撮られた映画を『モキュメンタリー』と言う」

よう、俺だ。何やってるかって?
趣味でやってる俺の映画論の授業だ。受講者はクソ映画四天王しかいない
教科書は主に荒木飛呂彦大先生の著書を使用している。ええ事書いてんやでこれ……

( T)「武器人間もこの手法で撮られた映画で……と、時間か」

不知火「構いません。続きを」

( T)「いやお前らこの後五十鈴と対潜訓練あるだろシバき回されるぞ。俺が」

不満顔なお三方には悪いが、五十鈴は本当に俺のことシバき回しかねないので中途半端ではあるが授業を切り上げる
天龍は多少遅れても甘いのにあいつはマジで色々と厳しい。サマーシーズンは水着でうろついてる癖に

( T)「では来週も受けてくれるかな?」

\いいともー/

( T)「はい、お疲れ様でした」

毎度お決まりのやりとりで締め、三人は談笑しながら教室を出る
その背中を見送った後、黒板消しを手に取り板書を消そうとすると

叢雲「司令官」

入れ替わりに、いつも以上に厳しい顔をした我らが初期艦にして副司令艦の叢雲が声を掛けてきた
あれ……?俺なんか怒られるような事したっけ……?
475 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:26:19.12 ID:8fhCldZ+0
(;T)「す……すいません……」

叢雲「何が?」

とりあえず謝っといたが、どうやら叱りに来たようではないらしい

(?T)「怖い顔して入ってくるからだろ……笑えよベジータ」

叢雲「誰がM字ハゲよ」

(?T)「サイヤ人の王子に対する酷え風評被害。どうしたよ」

叢雲「海軍本部から連絡よ」

(?T)「シカトしとけ」

叢雲「アホか。ロマさんからなんだけど」

持ってた黒板消しが手から滑り落ち、膝に白粉を粧す
嘘だろ……クソめんどくせえ……

(;T)「クソめんどくせえ……」

叢雲「出てる出てる本音出てる。着歴見てみたら?」

ポケットに突っ込んでいたスマホを確認してみると、三件の着信履歴が表示される
このまま無視してFGOの種火集めに興じたい所だが、更に面倒になるので嫌々掛け直す他ない
そもそも叢雲が伝えに来た段階であの野郎はこいつに直接電話をしたんだろう
人の弱みに付け込みやがって。三日三晩耳元で羽虫が飛び回ればいいと思った

(?T)「やだぁ……めんどい……」

叢雲「ガキか。早く掛けなさい緊急の用かもしれないでしょ?」

(?T)「時雨に受け答えさせたい……」

叢雲「ロマさんの知能レベルがあのバカと同じになるじゃない。いいから早く!!」

(?T)「ハァ……」

着歴を無視して時雨に電話を掛ける

時雨《死ね》

(?T)「お前が死ね」

コール一回もしないうちに、スピーカーから罵倒が返ってくる。何なのこいつ

(?T)「M-1教室、ダッシュで来い」

時雨《お前が来い》

(?T)「叢雲が怒ってるぞ」

叢雲「ちょっと」

通話が切れ、慌ただしい足音が近づいてくる
これだからバカは扱いやすくて助かる

時雨「ごめんなさい!!」

叢雲「アンタと同じ反応じゃない」

(?T)「お前が怖いのが悪い」
476 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:27:57.33 ID:8fhCldZ+0
叢雲「さっさとロマさんに掛けなさい。次はキレるわよ」

時雨「お、怒ってるんじゃないの?」

叢雲「怒ってないわようるさいわね。三つ編み毟り取るわよ?」

時雨「やっぱり怒ってるじゃないか!!」

これ以上のおふざけは許されなさそうだ。観念して着歴を押す
数回のコールの後、うんざりするほど耳にした聞き覚えのある低音ボイスが返ってくる

(?T)「死ね。俺だ」

《なんだ貴様第一声から。てめえが死ね》

時雨「誰に電話してるの?なんで僕呼ばれたの?」

叢雲「ロマさんよ」

時雨「なんであの野郎への電話で僕が呼び出されなきゃいけないのさ……」

叢雲「嫌がらせじゃない?」

時雨「僕に対する?あいつに対する?」

叢雲「両方」

(?T)「おう、おう……いや、暇だけど……おう、今その辺ヤバいんだってな」

(?T)「えっ、えっ?はっ?ええ……急過ぎへん……?」

時雨「またサプライズ出撃かな?」

叢雲「ロシア」

時雨「へっ?」

叢雲「ロシア正規軍への助っ人として駆り出されるわ」

時雨「……遠くない?」

叢雲「サバンナちほーの時よりマシでしょ」

時雨「どうして知ってるのさ?」

叢雲「真っ先に私に電話が掛かって来て一切合切説明されたから」

時雨「提督って最高責任者だよね?」

叢雲「その筈よねぇ」

(?T)「ハーーーーーーーーーー……拒否権ないんだろどうせ……クソが……すぐにヤンジャン読めねえだろ……」

(?T)「いや我が輩も辛いって知らねーよお前はそれが本業だろうが」

叢雲「アンタもそれが本業よ」

(?T)「黙ってろ叢雲。わーったよクソが行けばいいんだろ行けば」

(?T)「ちなみに俺も戦……ですよね知ってました椅子に座り過ぎていぼ痔になれ」

(?T)「装備そっちで用意しとけよ俺なんも持ってかねえからな。は?余裕ですし?深海棲艦なんて素手で余裕ですし?」
477 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:30:30.64 ID:8fhCldZ+0
( T)「……はい、はい、ああ、うん、解った。ああ、そんじゃあ現地で」

( T)「ああ待て!!ちょっと電話代わるから!!」

電話を切ろうとした奴を止め、スマホを時雨に渡す

( T)「ロマだ。嫌がらせしろ」

時雨「任せろ。もしもしいぼ痔マン?時雨だy切ったよあの野郎」

( T)「連れねえな……」

時雨「白露型一の美少女にこの仕打ちは無いんじゃないかな?」

( T)「やかましい」

叢雲「ロマさんもアンタらのお遊びに付き合うほど暇じゃないんでしょ」

電話の相手は、海上自衛隊一等海尉にして『海軍』准将
百隻の深海棲艦を相手取り、犠牲者0で快勝した『イツクシマ作戦』の立役者にして
かつて戦場を共にした旧知の仲であり、キングダム初期の軍師になる前の河了貂萌えのド変態クソ野郎

( ФωФ)

杉浦六真である
勝手見知った仲からは、『ロマ』と呼ばれている

( T)「ロシアかぁ〜〜〜〜……またややこしい場所でよォ〜〜〜〜……」

叢雲「ウチが駆り出されるって事はよっぽど切羽詰まってるようね」

( T)「リスボン沖以来どこもかしこもガタガタになってんからなぁ……」

そろそろかとは予感していたが、実際指令が来ると気持ち的にしんどい
無駄に数だけは多いクソザコ深海ナメクジの癖に俺を煩わせないでほしい。無条件で死んでほしい

( T)「ハァ〜〜〜〜〜〜……時雨」

時雨「ヤダ」

( T)「ピロシキ食いに行くぞ」

時雨「絶対ヤダ」

( T)「行くぞ」

とは言え、これも仕事だ

( T)「叢雲、六人ほど見繕ってくれ。派手な戦だ。とびきりイカれた連中を連れて行く」

叢雲「既に。はい」

叢雲は小脇に抱えていたタブレット端末を差し出す
こいつの仕事の早さには毎回舌を巻く。俺いらんのとちゃうか?

( T)「ハハァ、ご機嫌なメンバーだ。お相手が可哀想にならぁ」

叢雲「とっくに収集掛けて会議室で待機させてるわ。さっきすれ違った不知火も今し方」

( T)「よし、ブリーフィングが済み次第状況開始だ」

時雨「本当に僕も行くの?」

( T)「行くぞ」

時雨「おやつは何百円まで?」

( T)「遊びに行くんじゃねえんだぞ。だが、まぁ……」

( T)「千円まで許可する」
478 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:32:42.30 ID:8fhCldZ+0
〜('A`)はベルリンの雨に打たれるようです〜

完!これ
479 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:36:20.82 ID:8fhCldZ+0
というわけで、ほぼほぼ二ヶ月にわたる激闘、皆様のおかげで無事完走させていただきました。更新の合間合間に入る支援レスの数々、本当に心の底から嬉しく励みになりました。

特にスランプで更新が出来ない日が続いたときなどは、読んでくれる人、待っていてくれる人がいるということは本当に嬉しいことでした。

でもマッ鎮の人にムカデ人間にされそうなんです助けて
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 12:38:34.72 ID:GzCy2QqfO
激しく乙
なんだろう日本が出てきただけで負ける気がしない
481 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:42:22.48 ID:8fhCldZ+0
で、通知事項としては見ての通りあの「地獄の血みどろマッスル鎮守府」とシェアワールドをさせていただけることとなりました。正直お話を持ちかけられたときの驚きは例えようがないもので、本当に嬉しい限りです。マッ鎮さんあらためてありがとうございます。

でも人肉饅頭とムカデとピンクフラミンゴは勘弁して下さい。

ではまた次回、マッ鎮とのシェア作品か(,,゚Д゚)(*゚ー゚)の日常回か、どちらかでお会いできればと思います。

ご静聴、ご助言、支援、誠にありがとうございました。
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 12:43:52.22 ID:+rrjBt9SO
乙乙
楽しく読ませてもらったよ
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 12:48:33.10 ID:ckgzNNpro
お疲れ様でしたー。
凄く面白かったので過去作とか次回作書いたときはぜひ教えて欲しい
484 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:54:26.04 ID:8fhCldZ+0
過去作一覧

歌丸「お待たせ致しました」提督「大喜利のコーナーです」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464871917/

ダージリン「こんな言葉を知っていて?大喜利はいいぞ」歌丸「三枚やって」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1469614519/

( ^ω^)はホームレスのようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1488188452/

( ・∀・)戦車道連盟広報部のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1488284987/

( ´_ゝ`)流石な鎮守府の門番さんのようです(´<_` )
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489148331/

( ^ω^)戦車道史、学びます!のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489304048/

川 ゚ -゚)艦娘専門店へようこそ!のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489478497/

('A`)が深海棲艦と戦うようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489759020/

( ^ω^)戦車道史、教えます!のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490100561/

|w´‐ _‐ノv空に軌跡を描くようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490532219/

l从・∀・ノ!リ人 流石なれでぃたちの大騒動のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491313655/

( ^ω^)その時、戦車道史が動いた!のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491739394/

川д川 ある鎮守府が呪われたようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493264370/
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 12:59:05.85 ID:TkbMXNYAO
ムカデとシェアワールドとか世界観ぶっ飛ぶ予感しかしねぇwwwww

乙! 次も全裸待機してます!!
486 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 12:59:47.75 ID:8fhCldZ+0
この作品は、地獄の血みどろマッスル鎮守府、鬱田ドクオ、ss速報vip、シン・ゴジラの提供でお送りしました
      r ‐、
      ( T)        r‐‐、
     _,;ト - イ、      ∧('A`)∧  
    (⌒`    ⌒ヽ   /,、,,ト.-イ/,、 l  
    |ヽ  ~~⌒γ⌒) r'⌒ `!´ `⌒)  
   │ ヽー―'^ー-' ( ⌒γ⌒~~ /|  
   │  〉    |│  |`ー^ー― r' |
   │ /───| |  |/ |  l  ト、 |
   |  irー-、 ー ,} |    /     i
   | /   `X´ ヽ    /   入  |
487 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/29(木) 13:00:47.57 ID:8fhCldZ+0
では、HTML申請して参ります
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 13:08:08.37 ID:sWSo+EJA0
本当にお疲れさまでしたw
こんだけワクワクしながら読めたのも久々だったし、最後まで楽しめました!
それにしても特進どころじゃない大抜擢には笑った…ただでさえ満身創痍なのに更なる死地に叩き込むとか司令部も容赦ないw

日本側の参戦…と言うかあの一行を戦場に引きずり出したらどうなるやらw
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 13:09:52.54 ID:NjeCeOwCo

面白かったよ。次回も期待してる
しかしドクオ君、深海棲艦相手にフラグ立てて、今度は艦娘が部下に
これはもうハーレム物の主人公ですね間違いない(白目)
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 13:27:10.11 ID:ckgzNNpro
ありがとー読んでくる
世界観の繋がりはある感じなのだろうか

改めて完走本当にお疲れ様でした
人間側の泥臭い抵抗が最高に燃えたよ
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 13:42:27.81 ID:qsHyyaUuo
ドクの主人公補正がとどまるところを知らない
いやー楽しかったです、長い間お疲れ様

っておいちょっとまてあんたマッスル鎮守府の人だったのかよ
どうりで文章力あるなと思ったよ畜生め!
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 13:42:57.10 ID:qsHyyaUuo
ってよく読んだら本人じゃなくてシェアワールドねなるほど
493 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/29(木) 13:50:31.94 ID:8fhCldZ+0
大切なことを書き忘れていたので追記

>>475-477はマッスルさんご本人に寄稿いただきました。重ね重ねありがとうございます
494 :筋肉 [sage]:2017/06/29(木) 17:13:51.63 ID:ImP/4hwOO
マッスル鎮守府を書いてる者です。感想お疲れ様です
この度、世界線を共有させて頂くことになりました。恐れ多いわ
設定云々で微妙な矛盾が生じるかも知れませんが、僕が書いてる物は基本ゆるふわなのであんまり気にしないでください

幽霊をブチのめし妖怪と乳首相撲をしオマール海老に殺されかけプリキュアみたいな格好で不思議の国を大冒険し巨大タコに犯されかけ乳首の感度が3000倍になった( T)がこのガチな世界でどう活躍するのか今から楽しみです


マッスル鎮守府本編はいつものゆるふわギャグ路線で突き進みますので今後ともよろしくお願いいたします
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 18:26:55.13 ID:a1fsoQO4O
お前が書いてるのはゆるふわギャグじゃなくてがちむちマッスルじゃねーかwwwww

シェアワールドでの活躍も楽しみにしてます!!!
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 01:41:50.06 ID:+FUP+ey00
乙乙乙乙
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