「校庭にドラゴンが出現しました」

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1 :踏切交差点 ◆uw4OnhNu4k [saga]:2017/05/13(土) 23:45:40.05 ID:ZH0ZAxJN0
「3年1組の駒棋くん、3年4組の引森さん、3年7組の重波くんは放課後まで卵を守り抜いてください」

校内に放送が流れると同時に、重波(しげなみ)は席から立ち上がり窓際まで走った。

1秒前まで一緒に授業を受けていたクラスメート――のみならず全校生徒――は消滅していた。

校舎の4階から校庭を見ると、巨大な竜が出現していた。

「お前は……フロストドラゴン!!」

重波は、かつての想い人であった竜神まきなの描いたらくがきを思い出し、叫んだ。


・5th dragon
「フロストドラゴン(gelida draco)」
出身:西洋の竜
体長:12.2m
重さ:22ton
特徴:全身が氷で覆われた白銀の竜。冷たい地域に生息する。氷の息吹はあらゆるものを凍結させる。
まきなとの思い出:他の竜がキャンプファイアーを楽しんでいるのを遠くから見ていると、抜け出してきてホッカイドウの話を聞かせてくれた。


「準備はできてるな!!」

重波は廊下で大声を出して尋ねた。

「僕はね!だけど引森さんが学校に来てない!」

また不登校だ。

「しょうがない。二人で行くぞ!」

「毎回ながら緊張するね」

二人の男子生徒は窓を開け、校舎の4階から校庭に向かって飛び降りた。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1494686739
2 :踏切交差点 ◆uw4OnhNu4k [saga]:2017/05/13(土) 23:55:07.04 ID:ZH0ZAxJN0
数日に1度のペースで投稿します。
登場人物が多いため(4人程度)、特徴に基づいた名前をつけています。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/14(日) 00:00:32.65 ID:S7gli32O0
いきなりでなんぞと思うでしょうが、急に体調を崩しました……。すみませんが後日続きを投稿します。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/14(日) 10:38:23.26 ID:S7gli32O0
人の命は地球よりも重い。

かどうかは、測ったことがないから知らないけれど。

「……5円玉は161グラム。10円玉は590グラム。1円玉は115グラムあると思う」

1枚あたりの1円玉の重さは1グラム。
5円玉の重さは3.75グラム。
10円玉の重さは4.5グラムである。

「ありがとう」

お母さんが電卓を取り出し計算をした。

「ちょっと割り切れないけど。だいたい1,641円ね。じゃあ、バイト代として500円あげる」

「やった」

毎度のことながら、報酬がかなり多い。

「間違ってたらごめん」

「今から数えるから大丈夫よ。誤差の分だけあんた英単語覚えなさい」

「俺数えた意味なくね」

「ダブルチェックよ」

母親は嬉しそうに笑った。

3枚の新聞紙の上にそれぞれ置かれていた1円玉、5円玉、10円玉を親の貯金箱に戻し、報酬の500円玉を受け取った。


アルバイトに時間は1分も要さなかった。

新聞紙の上に親の貯めた小銭を撒き、”新聞を持つことで小銭の重さを測った”。

俺には、物の重さを正確に測る才能があった。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/14(日) 10:53:36.36 ID:S7gli32O0
「ねえ、お母さん。俺向いてる仕事何かなぁ」

「飲食店は上手くいくでしょうね。お皿に盛るグラム数が決まってるらしいわよ。マニュアル通りにいつも同じ量乗せられたらすぐにバイトリーダーになれるわよ。ああ、でもあんた手順覚えるの向いてないわねぇ」

萎えるようなことを母が言ってきたのを無視して返答する。

「大金を稼げるようなのはないの。ほら、完全記憶能力のある人がポーカーで大儲けしたっていう映画あったじゃん。俺もこの能力使って派手なことできないかな」

「変なことに使うんじゃないわよ」

母親はたしなめた。

「能力っていうのは人に役立て信頼されるために使うものなの。インチキで自分だけ得をしてたら、人の信頼を失ってしまうわよ」

「インチキじゃないよ。絶対音感を持ってる人が音楽家を目指すのと方向性は同じだって」

「ならいいけど。あんたが学校に通ってるのは、その才能を磨く方法を考えるのと、誰のために使うか使い道を学ぶためであることを忘れちゃだめよ」

「うるさいなぁ。RPGの長老かよ」

「ふふっ、なによそれ」

母親は小銭を数えながら笑った。

1円玉を10枚ずつ重ねて並べていた。

まだ時間がかかるだろうなと思った。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/14(日) 10:58:50.65 ID:S7gli32O0
>>5
ポーカーじゃなくてブラックジャックでしたね。映画『レインマン』より
7 :踏切交差点 ◆uw4OnhNu4k [sage]:2017/05/23(火) 00:47:55.56 ID:oTqPGl/00
しばらくかけていなくて申し訳ありません。
仕事の都合で続きを書けるのは来月になりそうです。
8 :踏切交差点 ◆uw4OnhNu4k [saga]:2017/05/27(土) 13:15:40.34 ID:aQxRiDg/0
男子と女子の机と机の間には、いつも微妙な隙間が空いている。

この隙間は、学校に恨みを持つ悪魔が創り出していると聞いたことがある。



うちは公立中学校で、30人のクラスが7クラスほどある。

地域には3つの公立小学校があって、それぞれの小学校の生徒がこの中学校に進学する。

僕の小学校のあるA地域は、田舎の雰囲気は強いが土地や家屋の値段が高く、裕福な家庭に育った生徒が多く、治安も良い。

B地域は、A地域の近くにあり、より裕福な層が多い。有名な企業の社長も住んでいることで有名だった。頭の良い小学生も多く、私立の中学校に進学することが多い。

そんなわけで、A地域の生徒も、B地域の生徒も、小学生なりの問題は抱えながらも、健全な小学校生活を送ることができた。

C地域は、問題だった。

治安も悪く、荒れていることで有名だった。

小学校高学年の時に友達と、C地域に探索に出かけたことがある。

これといった暴力的な現場にこそ遭遇はしなかったけれど。

ゴミの散らかった町並みや、一人で悪態をつぶやいているおじさんなんかを見ているうちに、心が疲れてしまった。

町の雰囲気が濁っていると感じた。

1時間ほど自転車を漕いで着ける地域が、何故こんなにも違ってしまっているのかと驚くくらいに、あらゆるものが汚かった。

帰り道はみんな無言だった。


中学校に進学して、C地域の人と合流したからだとは断言できないが。

1クラスに最低1人、不登校になっていた。

幼馴染の引森も、いじめられて学校に通わなくなってしまった。

出身で人を差別してはいけないというまっとうな倫理観を踏みつけて、C地域の生徒を毛嫌いしていたが。

そんな僕が一生の恋に落ちた女の子もまた、C地域出身の生徒だった。
9 :踏切交差点 ◆uw4OnhNu4k [saga]:2017/05/28(日) 15:28:16.68 ID:5eIwWQUS0
「ゴミ箱の中に入ってるガムを食べさせられる。教科書を田んぼ横の用水路の中に捨てられる。授業中に後ろから髪の毛をハサミで切られる。C地区の小学校で実際にあった話だよ」

C地区出身の生徒がどこか自慢げに話した。

「A地区出身もB地区出身もいいやつばっかでびっくりしたよ。先生の言うことも真面目に聞いて、自習の時間に黙って自習していた時は頭おかしいんじゃないかって思ったな」

「Cだって全員が不良なわけじゃないだろ?」

「そりゃそうだ。C地区の荒れた空気が元々嫌いだった奴もいる。だから中学に入って、AやBの出身者と仲良くつるみ始めるようになる。クラスの数も多いから、小学生時代の同級生ともばらばらになっちまうしな。品の良い奴らと出会って、ほっとしたやつも多いだろうよ」

実は俺もそのうちの一人なんだ、と、細眉のクラスメートは笑った。

「それでも悪い奴らは悪いままだ。7クラスあって、最低一人は不登校になってるんだぜ?多いクラスだと3人だと」

「そうらしいね」

「それでも俺らは1年生の時はうまくやっていたと思わないか?あの事件からだよ、クラスが荒れ始めたのは。あの、神隠しの……」

その時先生が教室に入ってきて、クラスメートは話を中断した。

「席に戻るわ。授業が始まっちまうからな。真面目に聞かないと」

いかにも嘘っぽい言葉を吐いて、席に戻っていった。授業中に彼を見てみたが、机に伏せて寝ていた。



7組は平和だ。

女子の間にわだかまりはあるし、不登校の女子生徒も一人いるが、激しいいじめや学級崩壊とは無縁だ。

ありふれた普通のクラスだった。

呪われた、4組と違って。
10 :踏切交差点 ◆uw4OnhNu4k [saga]:2017/05/28(日) 16:01:01.61 ID:5eIwWQUS0
10年程前、憤怒の果てに自殺した学生がうちの中学にいたらしい。

学年や性別などは聞く噂によってまちまちだけど、どの噂でも共通する箇所があった。


4組の学生だったということ。

激しいいじめを受けていたということ。

C地区出身の学生だったということ。


それからというもの、若手教師の退職や、生徒の不登校が著しく増えたそうだ。

地方の新聞に載るような軽犯罪を生徒が起こすこともあった。

鉄道会社による地域開発により、B地区周辺の利便性が増し、移住者数も増え、毛並みの良い学生も増えてはきたのだが。

それでも、その学生の自殺以来この学校には不穏な空気が漂っているという。

いつまでも雨が降らない灰色の雲のような、不気味な静けさが。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 16:40:47.26 ID:5eIwWQUS0
ところが。

奇跡とでも呼ぶべき出来事が、自分たちが中学1年生の時に起きたのだった。

同学年の1年間の不登校者、0人。

新入生が2年生に進学するまでの間、不登校になった学生が全クラスで1人も現れなかった。

校長先生や教頭先生は、長年の環境改善への取り組みの結果だと朝会で自慢げに話していたけれど。

現場の教師は、何かいつもと違うイレギュラーが生じたのだと思っているようだった。

実際に、2年生にあがったら、4月に一人の女子生徒が"行方不明"になり。

それを皮切りに、教師へのいじめ、教師によるいじめ、自殺未遂をした生徒、不登校の生徒が急激に増加し、以前よりも、暗い空気の立ち込めた学校になってしまったのだけれど。

1年生の間は、A,B,C地区の生徒が、いずれも、平和に、幸せな共存生活を共有していたのだった。

そう。

行方不明になった女の子こそイレギュラーな存在で。

慈悲深き心と、愛おしき笑顔の持ち主で。

その子が、現在机上にある理論や数式を超えた感性を以て全てを好転させていたのだと思う。

存在するだけで周囲の人々が幸せになるような。

そんな、重さを持った女の子だった。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 16:56:28.44 ID:5eIwWQUS0
【2年前】

「沼の底から 泡がいくつもあがってきた」

「兎と杵の休火山などもはっきり映し」

「月だけひとり。動かない」

「ぐぶう」

「と一と声。蛙がないた」

黒板の前で、草野心平の『河童と蛙』、を音読し終えた僕らの班は、拍手を受けて席に戻っていった。

班ごとに音読をするという授業内容だった。

"ぐぶう"

4人の班で3分以上の音読をする中、僕が喋ったのはその一言だけだった。

席に戻ると、俺ではなく、B地区出身の駒田君が不満を言った。

「『立った。立った』しか言ってないんだけど僕」

女子二人を見ると、クスクス笑いを堪えていた。

「思春期だもんね」

C地区出身の女子が言ったその言葉に、俺の幼馴染である引森は一層クスクス笑って、顔を赤らめてさえいた。

これだからC地区出身のノリは嫌なんだ、そう心につぶやいて、竜神まきなのクスクス笑いを授業が終わるまで聞いていた。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 17:31:20.93 ID:5eIwWQUS0
「駒田くん、将棋の教室の都合で最近中々学校にも来れてなかったでしょ?忙しそうだったじゃない。だから気を利かせて音読の範囲は極力短くさせてあげようってまきなが言ってたの」

学校からの帰り、ちょうど自宅付近で出くわした引森と話していた。

「極端だろ!というか俺も短くする必要ないだろ!」

「ほら、一人だけだといじめみたいでかわいそうだって」

「本番当日まで大丈夫大丈夫って言ってたから、暗唱しないで教科書見ながらやるつもりなんだと思ってたよ」

俺はため息をついた。

「そうは言っても正直楽しんでたろ」

「ちょっとだけね。だって、ぐぶうしか言わないんだもん。それに、駒田くんも……」

引森は思い出したようにまたクスクスと笑った。

「今の班、楽しいね。中学にあがるのって凄い不安だったけど。まきなみたいな親友が出来てよかった」

「もう親友か。入学したばっかだろ。これだから女子は」

「月数は関係ないの。誕生日何あげたら喜ぶかなぁ」

「近いんだっけ?」

「12月25日」

「遠っ!しかもクリスマスかよ!」

「一緒に祝ってあげようよ。でもその頃には彼氏さんができちゃうかなぁ?」

「しらねーし」

「あんな美人さんの隣の席になって幸せなスタートですねぇ」

「興味ねーし。1番窓際の後ろの席になれたのは嬉しいけどな。少年漫画の主人公ポジションだから」

「まきなはヒロイン?」

「知らねえって」

「何と戦うの?色欲?」

「テロリストだよ!」

「いたっ!」

俺はヘルメット(自転車通学者に装着が義務づけられている)をかぶったまま引森に頭突きをした。

たしかに。

学校は、退屈だけど、毎日たのしかった。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 18:02:28.92 ID:5eIwWQUS0
「ねえねえ」

「何?」

「これは?」

英語の授業の時間中、隣の席の女子が小声で話しかけてきて机を指差した。

「机」

「This is a desk.じゃなくて!」

「発音流暢過ぎない?」

「そんなことはどうでもいいの!」

隣の席の女子が何を聞きたいかわかっていた。

「引森さんから聞いたよ。あなた、物の重さ測れるんでしょ?」

「あいつすぐ嘘つくからなぁ」

斜め前に座っている幼馴染が舌打ちをした。

「そんなことないでしょ。あのさ、この机って」

「7kg」

俺は持たずに答えた。

「えっ?」

「椅子は4kg。俺の筆箱は220g程度。小学生の時から何度も聞かれてるよ」

「本当にわかるの?」

「1g単位だとけっこう外すけどね。この前も1円玉何枚か数え間違えたし」

「1円玉?」

「えーっと、うちにある貯金箱で……」

「複数の1円玉を紙か何かの上に乗っけて、総重量から1円玉1枚あたりの重さで割って数を求めたってこと?」

「ええと…………多分そう」

相手の理解力のはやさに少し遅れをとった。

「すごいなあ。1円玉って1枚どれくらいの重さなの?」

「ちょうど1gらしい」

「へー!」

かなり興味を惹かれたようだった。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 18:26:22.86 ID:5eIwWQUS0
「天才なんだね」

「俺なんかただの体重計だよ。天才は駒田だよ」

駒田は今日も、将棋の教室の都合で学校を欠席していた。

「将棋の世界で生きることになるかもしれないらしい。朝方に帰宅する時に、出勤するサラリーマンの群れに逆らって帰宅したこともあるって言ってた」

「着々と狂気の道に進みつつあるね。凄いなぁ。ねっ、引森」

「えっ、わたし?」

引森が少し驚いて振り返った。

「天才男子二人に囲まれて私達も大変だね」

「うーん、重波は天才というより努力家だからなぁ」

「そうなの?重波くん?」

「努力家じゃないって!俺はただの天才だって!」

「さっきと言ってること違う」

引森は不意打ちでこういうことを言ってくるから困る。

よく言えば天然で、悪く言えば空気が読めなくて、人によってはそれを不快に思うことがあるみたいだけど。

俺はこの幼馴染から、心を救って貰うことの方が多かった。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 18:41:43.26 ID:5eIwWQUS0
国語の授業の時間になって、俺は気になることを隣の席の女子に聞いた。

「なんで引森のこと苗字で呼んでるの?」

「重波くんだって苗字で呼んでるじゃん」

「男と女じゃ別だろう」

「なんかさ。苗字で呼んでるのに仲が良いってギャップがいいじゃない」

「引森は下の名前で呼んでるじゃん」

「それは、私が私の苗字をあんまり好きじゃないって言っちゃったからだよ」

そう言うとシャーペンを手に持ち、俺のノートに名前を書き始めた。


竜神(りゅうじん)まきな。


「竜の神だよ。人間なのに。自己紹介の時にいつも恥ずかしいんだって」

「確かに珍しい苗字かも」

「しかも、西洋のリュウの字だよ。確かに一時期西洋で過ごしてたけど」

「西洋のリュウ?過ごしてた?」

「ほら、二種類漢字があるでしょう」

そういうと竜神は、"竜"と"龍"と書いた。

「"竜"は西洋のリュウを指すの。人間と仲が悪くて、ヨーロッパの森の中に住んでいて、ゲーム機の中で戦ってる方。一方、"龍"は東洋のリュウを指すの。人間から讃えられていて、中国の雲のかかった山の頂に現れて、7つのボールから飛び出してくるような方。いいのかな、東洋の人間なのに」

「龍の字だったら毎回書くの大変じゃない?」

「うーん……」

竜神まきなは考え込んだあと口を開いた。

「まあ、漢字にとらわれず、仲良くやりましょう。人間さん」

魅力的な笑顔だった。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 19:51:33.66 ID:5eIwWQUS0
学校。

多種多様な価値観を持つ、別の環境で育った大勢の、理性が未成熟な人間が、1年中同じ密室で拘束され続ける場所。

人間関係でつらい目にあっても、耐え難きことを耐えても報酬なんかなくて。

国の秘密機関から、高額な報酬と引き換えに依頼でもされないと精神的にやっていけないような生活を、孤独に無給で送っているような学生もたくさんいて。

脱獄した大人たちが「やっぱりあそこはおかしかった」ということもあるくらいだけれど。

世界中の先人達が一生懸命システムを考えて。

思春期に、同年代の同性と、異性と、共に学ぶ場所をつくってくれて。

大人になってから見ても大嫌いなその4階建ての建物を見て芽生える感情の中には、切なさも多分に含まれていて。

失われたもの、手に入れたかったものと同時に。

自分が手に持っていた大切なもの、自分がほしいと思っていた輝きがあったことにも気付かされる。

だから。

ここだけは、守り抜かなければならない。

次回「1匹目の竜」

自分が好きな人が好き物ならば、自分がそれを大嫌いであっても守るよ。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/11(日) 12:58:15.65 ID:0B6uKpBO0
「1時間目は自習をしていてください」

朝のホームルームの時間に担任から告げられ、理科の授業が突然休みになった。

担任の先生が出ていったあと、クラスのみんながおしゃべりをはじめた。

「部活の朝練で早く来た友達が言ってたんだけど。理科の先生、校門の前で立ち止まってたらしいよ」

「鬱病じゃね?多分帰ったんだよ」

30才付近の、女性の先生だった。

「4組で授業する時学級崩壊してるらしいよ」

「うちらはまだいいよね。寝てるだけだし」

「ウケる」

「やっぱうちらの学校てさ、腐ってるよね」

女子二人が話していた。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/11(日) 13:27:48.25 ID:0B6uKpBO0
「目覚まし時計を止める。二度寝をする。親に叩き起こされる。朝食をとる。朝の排泄をする。ヘルメットをかぶり、自転車に乗って学校に行く」

「友達と話す。授業中に寝る。昼頃お腹が痛くなって、個室に行ってからかわれるのが嫌だから、校舎の隅の無人のトイレまで行って排泄をする」

「午後の授業も寝る。部活に行く。ヘルメットをかぶり、自転車に乗って家に帰る」

「夕飯を食べる。歯を磨く。夜の排泄をする。携帯を4時間近くいじったあと、寝る」

「なんなんだろうな。やってることは正しいけど。俺らの毎日って、何者かに支配されていないか」

「知らないけどさ。1日のスケジュール説明に重波の排泄事情を挟む必要はないでしょ」

久しぶりに駒田(こまだ)と一緒に帰った。

「それに、授業ちゃんと受けなきゃ駄目でしょ。授業中寝てるから何のために学校行ってるのかわからなくなるんだよ」

「何のために学校に行ってるのかわかってたら勉強するよ」

「ふーん」

「駒田こそ、勉強ちゃんとしてんのかよ」

「あまりしてないけど、成績はトップだからなぁ」

「ぎょぴー!」

「そこはうざいとか言って突っ込んでよ」

駒田は将棋の教室に通いながらも、学業を疎かにはしていなかった。

というよりも、学業が疎かになってしまう程度であれば、棋士としての才能もなかったことになるのだろう。

「駒田は棋士を目指すの?」

「うーん……」

「なりたくないの?」

「なれないかもしれない」

「どうして?」

「僕より年下で、僕なんかじゃ全く歯が立たない人がいる」

「でも駒田より歳上で、駒田に全く歯が立たない人もいるんだろ?」

「下を見ればきりがないよ。あれ、この場合は上を見ればって言えばいいのかな。とにかくさ、迷ってるようじゃ駄目なんだ。迷ってるうちにさされてしまうのは、棋士も騎士も一緒だよ」

自転車を漕ぎながら駒田は言った。

「親は自由にしろって言ってくれてるんだけどね」

駒田は、B地区出身の生徒である。

両親ともに一流大の出で、お父さんは医者をしているらしい。

「こんな情けないこと言いたくはないんだけどさ」

「うん」

「1年生の頃に戻りたいよ」

「情けないこと言うなよ」

そんなこと、こっちだって毎日思っているよ。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/11(日) 13:38:21.80 ID:0B6uKpBO0
朝、学校の廊下を歩いて教室に向かっていると、突然右肩に衝撃が走った。

同時に笑い声が聞こえた。

「ほら、謝れよ!」

「土下座しろよ!」

2組の男子生徒が、なよなよした男の子を突き飛ばしたらしく、たまたま僕にぶつかったらしかった。

僕は軽く頭を下げて、苦笑いしながら逃げていった。

歩く途中に4組の前も通ったが、男子数人で誰かの机と椅子をガムテープでぐるぐる巻きにしていた。

6組の前を通った時は、着席している一人の女の子を数人の女子が囲んで、髪の毛を結びに結んでとても変な髪型にしていた。

7組に着くと、みんな喋っているか寝ているか漫画を読んでいるだけだった。

「おはよう」

「おはよう」

挨拶を交わして、談笑をする。

隣の教室で戦争が行われているのを知っているから、平和なこの教室がどれだけありがたいかを知っている。

それでも、他国の戦争はあくまで他国の戦争で、他人事には違いなかった。

今日も授業中席に座りながら、何故自分が今席に座っているかを考えて、答えは出そうもないので寝て、1日が終わってしまった。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/11(日) 13:54:04.79 ID:0B6uKpBO0
「ひきこもり様の、おなーりー」

アニメなんかを見ていると、主人公の男の子がキレて女の子を守ろうとするシーンがある。

大切な人が傷つけられたり、侮辱されたりして、喧嘩をしに行く。

そんなこと、現実でできるものなのだろうか。

そうするべきなのにできなかった作者の悔恨が絵になっただけでは?

「ほら、あんた。いつ消えんのよ」

昼休みのこと、廊下で数人の女子が一人の女子を囲んで笑っていた。

4組の女子生徒だった。

「授業中にこっそり抜け出してここから飛び降りてよ」

「そしたらあんたの親友と同じところに行けるかもしんないよ」

「神隠しふたたび!」

酷いいじめを受けてるにも関わらず、へへ、やめてよ、と力なく笑う女の子とふと目が合った。

幼馴染の、引森だった。

久しぶりに登校して、再びいじめられていた。

僕は咄嗟に目を反らして、友達と校庭に遊びに向かいに行った。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/11(日) 14:09:58.49 ID:2FCUzv0yO
本物のクソスレって誰も相手しないんだな
勉強になったわ
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/11(日) 18:33:19.13 ID:0B6uKpBO0
ガシャン。

家に着いた時。

自転車をとめていると、隣家から激しく自転車のスタンドを蹴る音が聞こえた。

何か言いたいのだろうか。

助けてくれなかったことへの怒りだろうか。

見過ごしたことへの不満だろうか。

幼馴染の感情にどう応えればいいのかわからず。

そのまま、家の中に入ってしまった。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/11(日) 18:44:24.17 ID:0B6uKpBO0
悲しい1日のはじまりだった。

朝学校に向かう途中、信号で立ち止まる。

押しボタンのところに、ガムがついていたので押すことが出来ず、車がいなくなったタイミングで信号無視をしてわたる。

学校に着くと、自分の思ったとおりの話題でいっぱいだった。

「神隠しの日だ」

2年生の4月の出来事だった。

噂によると、数学の授業中に指名されて黒板に回答を書いていたまきなが、突然消滅してしまったそうだ。

警察も捜査に来たが、校舎から飛び降りた様子もなく、まきなだけが消滅し、行方はわからないままだった。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/11(日) 18:53:43.95 ID:0B6uKpBO0
神隠しの話題について友達が盛り上がっているのを黙って聞いたまま、担任の先生が教室に入ってきた。

そして、昨年の全校朝会でも行った、馬鹿げた儀式の説明をしてきた。

「本日は、竜神まきなさんが行方不明になってしまった日です。無事であることを願い、全校生徒で祈りを捧げます」

すると、放送スピーカーから音声が流れてきた。

「生徒の皆さんは、1分間目を瞑って、竜神まきなさんのご無事を祈ってください」

沈黙が始まり、生徒は戸惑いながら目をつむり始めた。

黙祷、とでも言わんばかりだった。

「(探したいものがあるなら、目を瞑ったら余計見つからないのに)」

そんな不満を心でつぶやきながら。

周囲にあわせて、じっとまきなのことをおもったのだった。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/11(日) 19:03:18.57 ID:0B6uKpBO0
「(……まだかな)」

長く感じた。

1分間とっくに経っている。

「(合図とかないのか?)」

薄目を開けてみた。

前の席の生徒が、消滅していた。

目をはっきりと開けた。

「う、うそだろ」

見渡すと、教室中の人間が、誰もいなくなっていた。

「な、なんだよこれ!みんな神隠しに遭ったっていうのかよ!」

「俺以外、みんな……」

「どうして、俺だけ残されてるんだ?」

「もしかして、俺だけ、神隠しに遭ってしまったのか?」

動揺した。

心臓が激しくなった。

「い、いたづらとかじゃねーのか。クラスのやつらが仕組んだとか」

「不謹慎過ぎるだろ。おい、誰かいねーのかよ」

廊下に出て歩いてみるが、他の教室にも生徒はいなかった。

「誰か、いねーのかよ!!」

キーン、という音が鳴った。

『校庭にドラゴンが出現しました』

放送スピーカーから声が聞こえた。

『戦闘態勢を整え次第至急校庭に向かって下さい』

懐かしい声だった。

「まきな!!」

1年前のこの日、神隠しに遭った竜神まきなの声だった。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/11(日) 19:39:36.82 ID:Qxjur+qZO
誰も興味ないような近況報告が無駄に多い。
会話や描写で無駄&冗長なものが多い。
12レス目で2年前に視点が飛んでから戻ってきてない。
28 :踏切交差点 ◆uw4OnhNu4k [sage]:2017/06/11(日) 22:05:49.06 ID:0B6uKpBO0
読んでくださっている方々へ。


簡単な流れだけつくってからスレを立て、いざ書いてみたのですが、自分でも思うような物語にならずに苦悩していました。
上手く行ってる時に感じるような、自分で自分の物語の続きが気になるから書く、というような状態になることができずにいました。
最後まで書くのが誠意だと思っていましたが、30日経って27レスまでしか進んでいない現状を鑑み、スレを落とすことにします。
次回投稿する際には、既に何十レス分か書き終えた状態で投稿したいと思います。


期待してくださった方々、申し訳ございませんでした。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/13(火) 07:32:41.30 ID:tBMZ3OY/O
別に誰も期待してないから気にしなくていいよ
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/14(水) 19:11:36.06 ID:23o6zL0to
こういう話題にすらならない純粋なクソスレって悲しいよね
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 00:34:20.94 ID:4USo6O1Mo
待てばつづきがよめるんです?
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