魔王「リインカーネーション」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/11(日) 16:08:59.00 ID:LZdsXNJDo
続きが愉しみ
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/11(日) 22:18:46.17 ID:3SZ+PfozO

【詰所】

盗賊「男ばっかだな。きちんと掃除しろよ」

警備兵「少し黙ってろ」

盗賊「ハイハイ。分かったから睨むなよ」

警備兵「…チッ…着いて早々で悪いが、君は何故狙われているんだ?」

王女「……あの、今更言うのも何ですが兵士さんはわたしが王女であると信じるのですか?」

警備兵「信じたわけではない。ただ、君とそこにいる猿が狙われてることは確かだ」

警備兵「君が宿屋で話していた白い騎士とやらに関しても同様の見解だ」

警備兵「千年も前のことはともかくとして、犯人が白銀の甲冑を身に着けていたことは疑いようのない事実だからな」

王女「……なる程、あくまで事件解決の為ということですか」

警備兵「その通りだ。その為に、君が王女だと仮定して話を進めようというわけだ」
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/11(日) 22:35:21.21 ID:3SZ+PfozO

盗賊「何だそりゃ?」

盗賊「そんなの信じてんのと変わんねえじゃねえか。あんたって本当に素直じゃないんだな」

警備兵「黙ってろ。次に口を開いたら自慢の二枚舌を三枚に下ろすからな」

盗賊「ハイ」

警備兵「……さて、お聞かせ願おうか」

王女「先ほど話した通り、わたしは長らく一つの部屋で生きてきました」

王女「ですので、王宮の内情については詳しくありません。それでもよろしければお話しします」

警備兵「それでも構わない。思い当たることがあれば話してくれ」

王女「……明確な意思を持って狙うとするなら、兄以外には考えられません」

王女「輪転器とは王の力を継ぐ器。本来であれば実子である兄が次期の王になるはずでした」

警備兵「実子である兄? ちょっと待ってくれ。ということは、君はまさか…」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/11(日) 23:03:24.93 ID:3SZ+PfozO

王女「ええ、お考えの通りです」

王女「魔王である父とわたしに血の繋がりなど一切ありません」

警備兵「……これはまた、とんでもない話だな」

盗賊「そうなのか?」

警備兵「王の血は途切れることなく今日に至る。純血であり神聖なる存在。それが常識だ」

警備兵「彼女の話が本当なら、俺はとんでもない秘密を聞いてしまったことになる……」
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/11(日) 23:07:13.17 ID:3SZ+PfozO

盗賊「ビビってんのか?」ニヤニヤ

警備兵「お前はニンゲンだから笑っていられるだろうが、国を揺るがす事態に発展する可能性も十分に有り得る」

警備兵「民は王を神の如く崇め、唯一無二の存在としている。魔王とは、そういう存在なのだ」

盗賊「へ〜、そうなんだ。それよりさ、姫様って姫様になる前はどうしてたんだ?」

王女「遊牧民の子だったような気がするのですが、王宮に入る前後の記憶が曖昧なのであまり…」

盗賊「……そっか。あっ、悪い。続けてくれ」

警備兵「では、兄が暗殺者を差し向けていると? 白い騎士も彼が?」

王女「断言は出来ませんが、その可能性は高いと思います」

王女「他所から連れて来た見ず知らずの娘に力を継がせるなど許せないでしょう?」
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 00:03:16.36 ID:Xz0S6i1pO

警備兵「確かに…」

盗賊「で、どうすんだ?」ニヤニヤ

警備兵「…チッ…お前は王家の跡継ぎ問題を街の警備隊がどうにか出来ると思うのか?」

盗賊「出来ねえだろうな。おまけに犯人の目星も付いてねえ、正に八方塞がりってやつだ」ウン

警備兵「随分と能天気な奴だな。事の重大さを分かっての台詞なら尚更だ」

盗賊「まあまあ。跡継ぎ問題とかは置いといて、罪のないうら若き女性が狙われてるんだぜ?」

盗賊「だったら警備隊としてやるべきことは決まってるんじゃねえの?」

警備兵「守るしかない、か? 確かにその通りだ。だが、お前に言われると無償に腹が立つな」
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 00:04:36.94 ID:Xz0S6i1pO

盗賊「ニンゲンだから?」

警備兵「口の減らない小僧だからだよ」

盗賊「そうかい。ところで、俺と姫様の後に街に入った奴は調査したのか?」

警備兵「当たり前だ。既に調べてある」

盗賊「あ、そうなんだ。でも、その様子じゃ進展なしみたいだな」

警備兵「お前が厩に馬を預けた直後に入った男がいてな。そいつで確定かと思ったんだが証拠は出なかった」

盗賊「参考までに聞いとくけど、その男はどんな奴だった? 右手に火傷してなかったか?」
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 00:06:35.95 ID:Xz0S6i1pO

警備兵「何故それを…」

盗賊「決まりだな。そいつが犯人だ」

警備兵「何を言ってる? その男は甲冑はおろか武器の類も一切所持していなかったんだぞ?」

盗賊「白い騎士が使ってた武器の話は聞いてたか?」

警備兵「籠手と剣が一体化したようなもの。だったか? それがどかしたのか?」

盗賊「犯人は馬の死体と厩の主の死体を運ぶ時、その武器を外したんだ」

盗賊「パタってのは籠手の中に握りのある武器だ。籠手ごと外すしかない。つまりは素手」

盗賊「で、火を放った。その時に火傷したんじゃねえかと思ってさ」
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 00:19:20.95 ID:Xz0S6i1pO

警備兵「面白いが決定打に欠けるな」

盗賊「でも、疑わしいのはそいつしかいない。いっそ正面切って行ってみるか?」

ガチャ…ガチャ……ザッ…

警備兵「!!」

王女「ま、まさか……」

盗賊「姫様、奥に隠れててくれ」

王女「は、はいっ」サッ

コンコンッ…

警備兵「何故俺だと分かったのかと聞いた時、お前は足音で分かったと言ったな」

盗賊「あ?」

警備兵「甲冑の音に気付かなかったのか? 全く、肝心な時に役に立たない耳だな」

盗賊「あのなぁ、扉の前に来て初めて聞こえたんだぜ? それまでは馬の足音しか聞こえなかった」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 00:38:02.37 ID:Xz0S6i1pO

警備兵「…チッ…まあいい。用意はいいか?」ザッ

盗賊「どうする気だ?」

警備兵「扉ごと奴をぶっ飛ばす。その間に彼女を連れて逃げーー」

『夜分に申し訳ない。少しばかり訊ねたいことがあるのだが宜しいか?』

盗賊・王女「あっ…」

警備兵「どうした?」

盗賊「え〜っと。なんつーか…知り合い? 出来ることなら二度と会いたくなかったけどさ」

警備兵「……お前の仲間じゃないだろうな?」

盗賊「違う違う。俺とは真反対の正義の味方だよ。かなり暑苦しいけどね……」
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 00:52:14.42 ID:Xz0S6i1pO

警備兵「いいんだな?」

盗賊「まあ、問題はあるけど今の状況なら何とかなる。大丈夫だ」

警備兵「……今開ける」

『おお、有難い。では、失礼する』

ガチャ…

騎士団長「ん?」

警備兵「……王宮騎士か?」

盗賊「よっ!」

騎士団長「なっ…き、貴様ァ!姫様は!姫様は何処だ!! まさかーー」

盗賊「姫様、呼んでるぜ? 出てこいよ」

ガタガタッ…

王女「お、お久しぶりです」ヒョコッ

騎士団長「ひ、姫様!? よ、良かった。本当に良かった。ご無事で何よりです……」
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 01:08:14.17 ID:Xz0S6i1pO

盗賊「あのさ、頼みがあるんだけど」

騎士団長「誰が貴様の頼みなど聞くか!この場で引っ捕らえてーー」

王女「き、聞いて下さいっ!!」

騎士団長「ひ、姫様?」

騎士団長「(あの大人しい姫様が声を張り上げた? 顔付きもどこか頼もしくなられたような…)」

盗賊「手短に話すから良く聞いてくれ。この街で殺人事件が起きた。犯人は姫様を狙ってる」

盗賊「犯人の目星は付いたけど姫様を一人にするわけにはいかない。守ってくれる奴が必要なんだ」

盗賊「犯人は手練れだ。おそらく警備隊だけじゃ足りない。あんたの力が必要なんだ。力を貸して欲しい」
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 01:22:52.33 ID:Xz0S6i1pO

騎士団長「………」チラッ

王女「事実です。どうか、信じて下さい」

騎士団長「……分かりました。姫様の頼みとあらば断るわけには行きません」

盗賊「いや〜、助かったよ」

騎士団長「貴様に礼を言われる筋合いはない。姫様に感謝するんだな」

王女「あの、先ほどから気になっていたのですが、どうやってこの街に来たのですか?」

騎士団長「それが、何と言ったらよいのか。馬の導きとでも言いますか……」
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/12(月) 01:27:16.50 ID:Xz0S6i1pO

王女「馬の導き?」

騎士団長「ええ、そこの賊が逃走する際に乗っていた馬です」

騎士団長「いきなり帰って来たかと思えば、付いてこいと言わんばかりに走り出しましてな」

騎士団長「これは何かある。そう思って追い掛けてきた次第であります」

カカッ…カカッ…

白馬「………」

盗賊「(やっぱりそうか。賢い馬だとは思ってたけど、まさかここまでとは思わなかったな)」

王女「は、白馬さんっ!」タタッ

白馬「………」カカッ

ゴチンッ…

王女「あたっ…でも良かった。無事だったのですね。本当に心配したんですよ?」

白馬「(別にあなたの為じゃないわ。彼の役に立ちたくて走っただけよ)」フンッ
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 01:28:25.36 ID:Xz0S6i1pO
また明日
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 07:22:35.03 ID:35T3vRLMo
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 10:04:09.02 ID:e2KMnnIMo
しろうまさんかっこいい
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 22:44:06.00 ID:kf1lpa/w0
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/14(水) 00:05:51.42 ID:CqWIlVceO

【玉座の間】

将軍「宜しいのですか父上」

老人「何がだ?」

将軍「騎士団長が独断で輪転器を追った件についてです。支障が出るかも分かりません」

老人「それならばそれでよい。あの男ならば遅かれ早かれそうするであろうと思っていたからな」

将軍「これも予定通りですか」

老人「予定通りとは言えぬが想定していた通りの動きだ。その程度で計画が狂うことはあるまい」

将軍「………」

老人「焦るな。誰もが思惑に沿って動くわけではない。して、白騎士は?」

将軍「街に入りましたが接触はまだのようです。結果は明日までに出ることでしょう」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/14(水) 00:10:55.95 ID:CqWIlVceO

老人「フッ、そうか……」

老人「どのような結果が出るか楽しみだな。これ程まで朝を待ち遠しく思うのは久方ぶりだ」

将軍「……父上はあのニンゲンを随分と買っているようですね。期待するに値する男でしたか?」

老人「それを確かめる為に白騎士を遣わした。場合に寄っては今夜で終わってしまうだろう」

将軍「……それにしては落ち着いていますね。父上には既に見えているのですか」

老人「見えてなどおらんよ。ただ、確信めいたものを感じるのだ。奴は必ず蘇るとな」

将軍「それは、中にいる者がそう言っているのですか。それとも父上個人が?」

老人「どうなのだろうな。王の力を継いでから随分と経つ。最早どちらがどうであるかなど分からんよ……」

将軍「……父上、これが王の悲願であることは重々承知しております。ですが、無理はしないで下さい」
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/14(水) 00:41:50.96 ID:CqWIlVceO

老人「無理などしておらん」

老人「儂とて出来ることならば早く手放したいところだが夜が明けるまでは何とも言えん」

老人「確信はある。だが、奴がそうでなかった場合は次を待つことになるだろうな……」

将軍「………」

老人「転生に次ぐ転生。幾人もの魂を渡り歩いて千と余年が経ち、遂に相応しい器が現れたのだ」

老人「儂はただ、此度の転生が長く苦しい旅路の末であることを切に願う。王からの解放をな」

将軍「力は? そうなった時、王の力はどうなるのです?」

老人「分からん。相応しき者へと渡るか、或いは願いを叶えて消えるか。そのどちらかだろう」
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/14(水) 01:10:22.79 ID:CqWIlVceO

将軍「っ、失礼します」ザッ

老人「待て」

将軍「何でしょうか」

老人「それ程までに王の力を欲するのならば奪ってみせよ。お前が何を目論んでいようと止めはせん」

将軍「有り難う御座います」

老人「但し、此度の輪転器は一つではないことを忘れるな。野望を叶えたいのなら、焦らぬことだ」

将軍「……はい。分かっております」

ーーー
ーー


王女「えっと。というわけで今に至ります」

騎士団長「何と、そのような残忍な事件が起きていたとは…しかも将軍が関与しているなど……」

王女「まだそうと決まったわけではありません。あくまでも、そうする可能性が高い人物を述べただけです」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/15(木) 00:45:17.19 ID:2R8Uw+FOO

騎士団長「………」

王女「……あの、申し訳ありません。急にこんな話をされては混乱しますよね…」

騎士団長「……謝ることなどありません。ただ、整理するには時間が掛かるかと思います」

警備兵「(それはそうだろう。街の警備隊である俺ですら動揺を隠せないでいるんだ)」

警備兵「(極めて近しい立場。王宮にいた者にとってその衝撃は計り知れないものだろう)」

警備兵「(血縁ではないという事実。輪廻転生機の正体。王位継承の裏で蠢く策謀)」

警備兵「(王に仕える騎士団)」

警備兵「(その団長である彼にとって、これらを一辺に理解しろと言うのはあまりに酷な話だ)」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/15(木) 01:15:34.80 ID:2R8Uw+FOO

騎士団長「姫様は…」

王女「?」

騎士団長「姫様は姫様です。血縁がどうだと言われても、私にとって姫様は姫様なのです」

騎士団長「輪転器であったことも王位継承の件についても私にしては…その、何と言いますか…」

騎士団長「それら全ては些細な事。と言ってしまうと語弊がありますが、何も変わりません」

王女「何も…変わらない?」

騎士団長「先程も申し上げた通り、姫様は姫様です。私が姫様に抱くものは幾らかも変わってはおりません」

盗賊「へ〜。気の利いたこと言えるんだな。もっと不器用かと思ってたよ」

警備兵「話の腰を折るな。猿は黙っていろ」

盗賊「……あのさ、その猿って呼び方はニンゲン呼びから昇格したの? それとも見下してんの?」
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/15(木) 01:36:59.77 ID:2R8Uw+FOO

警備兵「それくらい自分で考えろ。猿」

盗賊「猿と話せるってことはあんたも猿ってことになるわけだけど、それについてはどう考えーー」

警備兵「黙ってろ」

盗賊「はぁ〜、話にならねえな」

警備兵「何故だか分かるか? それは俺が猿ではないからだ。そもそも話になるわけがない」

盗賊「あんた友達いないだろ」

警備兵「うるさい」

王女「フフッ…」

盗賊「えっ?」

王女「あっ、ごめんなさい。何だかんだ言いながら楽しそうにお話していたので、つい笑ってしまいました」
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/16(金) 19:27:05.40 ID:qg/nRbuLO

警備兵「良かったな。笑われて」

盗賊「あんたも笑われてんだよ!」

王女「フフッ…」

騎士団長「……姫様、一つ聞いておきたいことがあります」

王女「は、はい。何でしょう?」

騎士団長「……昨晩、その男に連れ去られた時のことです。私は二人の会話を聞いていました」

王女「!!」

騎士団長「気を失う直前のことでしたから聞き間違いではないかと思っていました。いや、そう思いたかった……」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/16(金) 19:53:30.79 ID:qg/nRbuLO

騎士団長「姫様、どうかお答え下さい」

騎士団長「外へ出たのはご自分の意思ですか。それとも、その男に誑かされーー」

王女「違います」

騎士団長「!?」

王女「外へ出たのは、わたし自身の意思です。わたしが決めたことです」

騎士団長「っ、やはり…そうでしたか。何とはなしに、そんな気はしておりました」

王女「えっ?」

騎士団長「ご自分ではお気付きにならないでしょうが、とても晴れやかな顔をしています」

騎士団長「私はそのような顔を…何の屈託もなく笑う姫様を見たことがありません。感情を露わにするお姿も……」

騎士団長「そんな姫様を見て嬉しく思う反面。何も知らなかった自分を情けなく思います」
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/16(金) 20:48:53.23 ID:qg/nRbuLO

騎士団長「姫様、申し訳ありませんでした」ザッ

王女「そんなっ…頭を上げて下さい。迷惑を掛けているのはわたしなのに……」

騎士団長「謝らなければならない理由はそれだけではありません。実はその…」ガサゴソ

王女「?」

騎士団長「何かしらの手掛かりになるかも知れないかと思い…姫様の部屋からこれを……」スッ

王女「そ、それは…か、返して下さい!!」バッ

騎士団長「申し訳ありませんでした!!」

王女「……見ましたか?」

騎士団長「そんなまさか! 婦女子の日記を盗み見るなどするわけがありせん!!」
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/16(金) 20:52:03.18 ID:qg/nRbuLO

盗賊「本当かぁ?」

騎士団長「貴様のような盗人に言われたくはないわ!! その日記は姫様の為に隠していたのだ」

盗賊「姫様の為?」

騎士団長「そうだ。中に重大な機密情報が書かれていたとしたら大変だからな。何者かに持ち出される前に私が守っていたのだ」

盗賊「言ってることはともかく、やってることは盗人そのものじゃねえか」

騎士団長「喧しい!!」

王女「あのぅ、本当に見てないですよね?」

騎士団長「勿論です!誓って見ておりません!!」
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/16(金) 22:58:02.40 ID:qg/nRbuLO

王女「(はぁ、良かった……)」

警備兵「諸々の状況整理は終わったな。で、お前はどうする。行くのか?」

盗賊「場所さえ教えてくれればな。あんたと団長さんは此処に残って姫様の警護をしてて欲しい」

警備兵「一人でやる気か?」

盗賊「ああ、俺の戦だからな。当然、向こうもそのつもりでいる。だから、俺が終わらせる」

警備兵「………」

盗賊「それとも何か? ニンゲンの俺に手を貸してくれる奇特な奴がいんのか?」

警備兵「……場所はお前がいた宿とは真逆。街の西側にある宿だ。さっさと行け」

盗賊「分かった。そいつが当たりかどうか分かんねえけど、とりあえず行ってみるよ」
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/16(金) 22:59:55.98 ID:qg/nRbuLO

盗賊「……姫様を頼む」ボソッ

警備兵「ああ、任せろ。彼女は我々警備隊が責任を持って警護する」

王女「ま、待って下さい!!」タッ

ガシッ…

王女「!?」

騎士団長「……姫様、なりません」

王女「一人で行くなんて危険過ぎます!! 彼は怪我をしているのですよ!?」

盗賊「大丈夫。すぐに帰って来るよ。それまでは此処で待っててくれ。んじゃ、行ってくる」ザッ

王女「泥棒さーー」

ガチャ…バタンッ…
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/16(金) 23:02:03.36 ID:qg/nRbuLO

王女「……何故ですか」

警備兵「何故とは?」

王女「先程はわたし達を保護すると言ったではありませんか。それなのに何故……」

警備兵「君を保護するとは言った。だが、二人を保護するとは言っていない。協力するともな」

王女「そんなっ…」

警備兵「外を知らないから仕方がないかもしれないが、我々とニンゲンには埋められない溝がある」

警備兵「加えて言うなら奴は大罪人だ。罪人同士が殺し合おうが知ったことではない」

警備兵「どちらが死のうと結果的に罪人一人が消えてくれるなら安いものだ。違いますか?」

騎士団長「………」

王女「っ、そんなの間違っています。姿形は違えど我々もニンゲンも同じーー」
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/16(金) 23:15:11.40 ID:qg/nRbuLO

警備兵「黙れ」

王女「!!」ビクッ

警備兵「これまで何の苦労もなく温々と過ごしてきた奴に何が分かる」

警備兵「向こう側で行き場を無くした屑共が流れ込み多くの犯罪を犯しているのが現状だ」

警備兵「それを……言うに事欠いて我々とニンゲンが同じだと? 笑わせるな」

警備兵「ニンゲンが死んで喜ぶ奴は数多くいるだろうが悲しむ奴などいやしない」

警備兵「そもそも君が外へ出なければこのような事態にはならなかった。それを忘れるな」

王女「わたしはただ…」

警備兵「君が何を思おうが起きた事実は変わらない。分かったなら黙っていろ『お嬢さん』」

王女「…っ、はいっ…」キュッ

騎士団長「(姫様が思っているほど、外は美しい世界ではない。私を含め、彼のような考えを持っている者が大半だ)」
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/17(土) 00:21:30.80 ID:JDKwS+7HO

騎士団長「(ただ、少なくとも…)」チラッ

警備兵「………」コクン

騎士団長「(やはりそうか。少なくとも彼だけは協力するつもりでいた)」

騎士団長「(しかし、警備隊である彼がニンゲンに手を貸せば立場は危うくなる)」

騎士団長「(奴はそこまで考えて一人で行くと言ったのか? だとしたら……)」チラッ

王女「………」

騎士団長「(だとしたら姫様が信頼するのも分からなくはない。あんなニンゲンはこれまで見たことがない)」

騎士団長「(……姿形が違えど、か。もしそうであれば、どれだけ良い世界になっていただろう)」

ーーー
ーー


盗賊「(……そういや、一人で歩くのは久しぶりだな。いや、そうでもねえか)」

盗賊「(大した時間は経ってねえはずなのに、姫様とは長いこと一緒にいたような気がする)」
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/17(土) 12:43:12.97 ID:Ldb6e3ZbO
警備兵イケメン過ぎる
C
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/17(土) 22:33:14.96 ID:A50nUZETO

トコトコ…

盗賊「っくし! 冷えてきたな」

盗賊「(しっかし静かだな。街の皆様方はお布団の中でぐっすりか。羨ましいぜ)」

盗賊「(さっさと終わらせたいとこだけど、どうなるもんかな。一応準備はしてきたけど上手く行くかどうか……)」

ブワッ…ヒュゥゥゥ…

盗賊「なんだ…今の風……」ゾクッ

シーン…

盗賊「(……気味が悪りぃ)」

盗賊「(一瞬で空気が重苦しくなった気がする。まるで沼の中に沈んでくような感じだ)」

盗賊「(首筋にジリジリきやがる。全身が粟立つのが分かる。向こうで何かが起きたのか?)」
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/17(土) 22:42:19.57 ID:A50nUZETO

トコトコ…

盗賊「っくし! 冷えてきたな」

盗賊「(しっかし静かだな。街の皆様方はお布団の中でぐっすりか。羨ましいぜ)」

盗賊「(さっさと終わらせたいとこだけど、どうなるもんかな。一応準備はしてきたけど上手く行くかどうか……)」

ブワッ…ヒュゥゥゥ…

盗賊「なんだ…今の風……」

シーン…

盗賊「(……気味が悪りぃ)」

盗賊「(一瞬で空気が重苦しくなった気がする。まるで泥沼の中に沈んでくような……)」

盗賊「(ッ、首筋にジリジリきやがる。全身が粟立つのが分かる。向こうで何かが起きたのか?)」
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/17(土) 23:02:08.93 ID:A50nUZETO

盗賊「(にしては悲鳴の一つも聞こえねえな)」

盗賊「(一体何なんだ? 街の雰囲気すら一変したような気がする。嫌な予感しかしねえ)」

盗賊「………」ザッ

盗賊「(この街、こんなに暗かったか? 街並みはそのままなのに全く別の場所に感じる)」

盗賊「(もし…もしこれが奴の放つ気配だとしたら奴は人じゃない。勿論『こっち側』の奴でもない)」

盗賊「(ツノだとか牙だとか耳だとか尻尾だとか、そんな話しじゃねえ。正真正銘のバケモノだ)」

盗賊「……ッ…何にせよ、行かなきゃ始まらねえか」ダッ

ーーー
ーー


盗賊「(……着いた。辺りは静かだな)」

盗賊「(でも、空気は重苦しいいままだ。宿屋の中は…この中はどうなってる?)」ザッ

ガチャ…ギィィィ…
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 00:25:15.79 ID:17lus0uEO

盗賊「…ッ…酷え…」

ビチャッ…ビチャッ…

盗賊「(滅茶苦茶だ。何をどうしたらこんな風になるんだ? 天井も壁も床も全部血で……)」

ズルッ…ドシャッッ…

盗賊「ッ、いい趣味してるぜ」

盗賊「(まともな死体は一つもありゃしねえ。飛び散った肉片が壁や天井に張り付いてやがる)」

盗賊「(血の雨でも降ったような…ってのは正にこのことだろうな。あっという間に血塗れだ)」

ゴトッ…

盗賊「!?」バッ

「ひっ…た、助けてくれ。頼む。もう止めてくれ。私は何もしていないんだ」
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 00:27:12.79 ID:17lus0uEO

盗賊「落ち着け。やったのは俺じゃねえ」

「分かってる。そうじゃない。違う。違うんだ。あいつが、白い騎士が来る。出て来る」

盗賊「……出て来る? それよりあんた、その手の火傷はーー」

「違うっ! 私じゃない。私じゃないんだ。出て来るんだ。勝手に…出て来るおぇぇッ…」

盗賊「お、おいっ。しっかりしろ!!」

「はな…でろ…ばだでろ…離れろ。いげ、もう。もう。だめだ。ぐる…ででぐるっ!!」

盗賊「ちっ!!」バッ

「おげぇぇッ…ぎ、ぐるででぐる腹がか突きやぶってぐぼぁっ…」ガクガク
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 00:34:22.04 ID:17lus0uEO

盗賊「(何だ? 口から何かが…)」

ゴバッッ!

白騎士「…ハァァ…やれやれ、脱ぐにも一苦労だな」

盗賊「なっ…」

白騎士「これはこれは…随分と見苦しい所を見せてしまった。どうした?顔色が悪いぞ?」

盗賊「……通りで見付からねえわけだ。まさか甲冑が人を着てるとはな」

白騎士「驚いたかね?」

盗賊「ああ、吐き気がするほどにな」

白騎士「はははっ、恐怖を植え付けるには良い演出だっただろう?」

白騎士「これは戦に必要不可欠な技術であり、戦場を彩る数少ない芸術でもあるのだ」

盗賊「悪りぃけど全く共感出来ねえな。俺とあんたじゃ美的感覚が違い過ぎる」
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 01:13:30.39 ID:17lus0uEO

白騎士「そうか。それは残念だ」

盗賊「(マズい。完全にやられた。この野郎、俺が来るのを待ってやがったんだ)」

盗賊「(まともにやって勝てる相手じゃねえ。何とかして此処から出ねえと……)」

白騎士「此処は狭いな。やはり屋外、開けた場所にすべきだったか」

盗賊「(ッ、今しかねえ!!)」ヒュッ

ドガンッ!

白騎士「……逃げたか。面白い奴だ」

白騎士「しかし、あんなものは見たことがないな。武器も戦も変わったと言うわけか」

ーーー
ーー


盗賊「(外へ出たのはいい。この先はどうする? どうやって勝つ? 考えろ。考えるんだ)」ダッ
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 01:53:11.68 ID:17lus0uEO

盗賊「(甲冑の隙間。関節部位…突けるか?)」

盗賊「(そもそも近付けるかどうかも怪しいもんだ。とにかく、今はこのまま距離をーー)」ゾクッ

ズドンッ! パラパラッ…

盗賊「…っぶねえな」

白騎士「よく避けた。褒めて遣わす」

盗賊「そりゃどうも。つーか色々おかしいだろ。どうやったら甲冑着けたまま飛べんだよ」

白騎士「そういった常識や限界は自らを拘束する枷でしかない」

盗賊「答えになってねえよ」

白騎士「常識に囚われるなということだ」

白騎士「凡人は往々にして限界を定め自らに枷をする。不可能などないというのに」

盗賊「あんたの動きはヒト科の範疇を超えてんだよ。少しは弁えろ」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 20:54:09.00 ID:ru+hyu8uO

白騎士「弁える必要などない」

白騎士「勝利するには何者をも寄せ付けぬ力が必要なのだ。その為には理の外へと踏み出さねばならない」ザッ

盗賊「(武器は姫様の言ってた通りだ。刃は長く厚い。籠手でいなせるような代物じゃない)」

白騎士「……故に進む。進み続ける。ただひたすらに、勝利のみを求めて」トッ

盗賊「(また跳びやがった。身が軽いとかって話じゃねえぞ!!)」

ドギャッッ! 

盗賊「…ッ、跳ぶわ走るわ…とんでもねえ奴だな。中身入ってんのか?」スタッ

白騎士「知りたいのなら勝利して確かめろ」

盗賊「(……やっぱり、こいつは半端じゃねえ)」

盗賊(石畳を砕いて地面を抉りやがった。刀身が根本までぶっ刺さってる)」

盗賊「(斬擊や打突の類じゃねえ。ぶん殴るって表現が一番しっくりくる)」
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 21:05:31.78 ID:ru+hyu8uO

白騎士「………」ズッ

盗賊「(相手は甲冑装備。素早さなら勝てると思ってたけど、ぎりぎりだな)」

白騎士「眼が良いな。実に良い眼をしている」

盗賊「そりゃそうさ、まだまだ夢見る年頃なんでね。綺麗なもんだろ?」

白騎士「ハハハッ! 夢、夢ときたか。そうだな、夢を抱くのは良いことだ」

盗賊「……あんた眼はどうだ?」

白騎士「何?」

盗賊「あんたはその兜の奥でどんな眼をしてる? あんたの眼は何を見てる?」
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 21:28:36.22 ID:ru+hyu8uO

白騎士「無論、輪転器」

盗賊「なら、こんな道草食ってる暇はねえと思うけどな。行かれても困るけど」

白騎士「民草の血肉は喰らったが道草は食っていない。求めるものは目の前にある」

盗賊「あんたが求めてんのは俺との戦か? 戴冠の戦だっけ? 俺の冠が見当たらねえけどな」

白騎士「案ずるな。此処に在る」

盗賊「……まるで意味が分からねえ。あんたは何なんだ? 生きてんのか?死んでんのか?」

白騎士「難しい質問だな」

盗賊「千年も前に死んだって聞いたぜ。死には勝てず、甲冑を身に付けたまま眠ったってな」

白騎士「あの輪転器から聞いたのか。しかし、私の時代の書物が残っているとは考えられん」

白騎士「大方、後期の者が好き勝手に書いたのだろう。過去に泥を塗るような脚色は好かんな」
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 21:59:53.17 ID:ru+hyu8uO

盗賊「脚色?」

白騎士「他に何が書いてあったかは知らんが、ただ一つだけ確実に間違っている点がある」

盗賊「何がだよ」

白騎士「私は負けてなどいない」

盗賊「……あんた、すっげー頑固だな」

盗賊「本物かどうかは分かんねえけど、本物並みに勝利に餓えてんのは間違いなさそうだ」

白騎士「私を真似られる者などいない。後にも先にも、私は私だけだ」

盗賊「自分でそんなこと言うなんて随分と驕り高ぶった御方だな。王様に喧嘩売ったってのも頷けるぜ」
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 22:28:33.57 ID:ru+hyu8uO

白騎士「そうでなくてはならない」

盗賊「?」

白騎士「夢を抱き夢を叶えようとするのなら、敗北は決して許されない。勝ち続けるしかない」

白騎士「貴様もそうであろう? 得難きを得るべく歩き続けているのだから」

盗賊「………」

白騎士「故に驕り高ぶり、故に限界を定めず、己が往く道を妨げる者は徹底的に排除する」

白騎士「積み上げた勝利。勝利の上の勝利。全ては私が到達せんとする場所に辿り着く為に」

盗賊「……その為なら何をしても許されるってか?」

白騎士「私以外に私を赦す存在はいない。私を赦せる存在などいてはならない」

盗賊「ああそうかい。なら、今からでも俺に謝る準備しとけ。絶対に許さねえけどな!!」ヒュパッ
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 01:02:46.17 ID:DF1P7wLNO

グルンッ…ギチッ!

盗賊「あんたの首を貰う」グイッ

白騎士「……実戦で鞭を使うとは少々驚いたな。だが、その程度で首は取れんぞ」ブチンッ

盗賊「んなことは分かってるさ」

白騎士「(何の武器も無しに向かって来るか。何か策があるのだろうが……)」スッ

盗賊「(あの構え、突いてくるか斬ってくるか判断出来ねえな。けど、行くしかねえ。懐に潜る)」

白騎士「敵が特殊な武器を扱う場合、その特性を殺す。先を取り懐に潜る。基本だな」

盗賊「(ッ、腰を落としやがった)」

白騎士「鞭による奇襲。予想外の武器を扱った割に攻め手は教科書通りか」
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 01:24:34.36 ID:DF1P7wLNO

盗賊「(下からの突き。直線攻撃。半歩外)」

ゴッッ!

盗賊「(ッ、脇腹掠めた。危ねえ、もう一歩踏み込んでたら腹に風穴空いてたな)」

白騎士「(二度。たった二度見ただけでこれを見切るか。流石はーーー)」

ズドッッ!

盗賊「(入った。普通なら、これで終わる。つーか終わってくれ)」

白騎士「……ミセリ…コルデ…か」ガクンッ

盗賊「……あんたに対して慈悲の気持ちはないけどな。痛いなら無理しないで倒れてくれねえか」

白騎士「フッ、フフッ…これで確信したぞ。やはり貴様で間違いない」ズッ

ガシィッ!

盗賊「がッ…まだ動けんのかよ。俺のことはいいから…先に…逝ってろ!!」ジャキッ
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 01:52:50.67 ID:DF1P7wLNO

白騎士「!?」

ズギャッッ!

白騎士「……これはジャマダハルに似ているな。まさか籠手にまで武器を仕込んでいるとは」

ミシッ…ミシミシッ…

盗賊「ぐっ…ガハッ…無理すんな。安らかに眠れ」

白騎士「こうも痛みが酷くては眠れんよ。かえって目が覚めた」ググッ

盗賊「ッ、さっさと逝け。冥府の船頭に渡す金がねえなら後で代わりに出してやる」

白騎士「此処まで来てのだ。二百年も待てんな」

盗賊「頑張っても五十年だ。向こうで待ってろ。つーか何で死なねえんだよ」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 02:04:59.08 ID:DF1P7wLNO

白騎士「!?」

ズギャッッ!

白騎士「……これはジャマダハルに似ているな。まさか籠手にまで武器を仕込んでいるとは」

ミシッ…ミシミシッ…

盗賊「ぐっ…ガハッ…無理すんな。安らかに眠れ」

白騎士「こうも痛みが酷くては眠れんよ。かえって目が覚めた」ググッ

盗賊「ッ、さっさと逝け。冥府の船頭に渡す金がねえなら後で代わりに出してやる」

白騎士「此処まで来たのだ。二百年も待てんよ」

盗賊「頑張っても五十年だ。向こうで待ってろ。つーか何で死なねえんだよ」
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 02:45:38.77 ID:DF1P7wLNO

白騎士「知りたいのならーー」

盗賊「勝利して確かめろ…だろ?」ニヤッ

白騎士「ほう、この状況になって尚も笑うか。まだ何か策があるというのか?」

盗賊「ゲホッ…さあ…どうだろうな」

白騎士「出来ることならばもう少し付き合いたいところだ。しかし、私には時間がない」

盗賊「なに…言ってんだ?」

白騎士「(あれだけ喰らってもこの程度しか保たんとはな。此処では駄目だ。あの場所へ行かなければ……)」ダンッ

ズガンッ!ズガンッ!ズガンッ!

盗賊「ガハッ…(ったく、こんな夜更けに民家の壁ぶち破るなんて何考えてんだ。常識ってもんはねえのか)」

盗賊「(それより、何で心臓刺されてんのに走れるんだ。手応えはあった、外したはずはねえ)」

ズガンッ!ズガンッ!

盗賊「(ッ、今ので完全に傷が開いたな。痛み止めも切れた。すっげー痛え)

盗賊(背中縫って貰わねえと…姫様、怒るだろうな……あ〜、頭が回らねえ…)」
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 20:12:21.56 ID:TdQm0sKQO

ダッダッダッ…

白騎士「ぐっ…」ブシュッ

ボタボタッ…

白騎士「(……最早己の肉体さえ儘ならぬか)」

白騎士「(だが終わらんぞ。終わりなど認めん。この私に終わりなど訪れるはずがない)」

白騎士「(死など存在しない。あってはならない。私は不滅でなくてはならないのだ)」ダンッ

バリンッッ!

『な、何だぁ!?』

白騎士「ハァァァ…」クルッ

『ひッ…ひぃぃッ!!』

白騎士「(これでは駄目だ。これでは足りぬ。今は喰らう時間すら惜しい。急がねば)」タッ

ドガッッ!パラパラッ…

『て、天井が……な、何だったんだ今のは……』
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 22:09:39.80 ID:TdQm0sKQO

白騎士「………」ズダンッ

盗賊「…ゴフッ…ゲホッゲホッ…何を焦ってんだ。まだ夜は始まったばかりだってのによ」

白騎士「フッ、そうだな。これは始まりの夜だ。新たな始まり、終わりではない」

盗賊「何を言ってんのかさっぱり分かんねえ。俺にも分かるように言ってくれよ」

白騎士「話すより見せた方が早い。理解出来るかは別としてな」ダンッ

盗賊「(また跳びやがった。ったく、どんな跳躍力してんだ。つーか高え、着地出来んだろうな)」

ビョゥゥゥ…

白騎士「欲したものは必ず手に入れる。何があろうと、必ず……」

盗賊「(……今、何か言ったな。風に遮られて良く聞こえなかったけど……)」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 23:44:36.35 ID:TdQm0sKQO

ビョゥゥゥ…

盗賊「(……つーか、この状況はマズいな)」

盗賊「(この高さだ。首根っこ掴まれたまま着地されたら間違いなくボキッといっちまう)」

盗賊「(仕掛けは済んでる。今ならやれるか? いや、風に邪魔されちまうのがオチだ……ん?)」

白騎士「………」ブシュッ

盗賊「(……何でか分かんねえけどさっきから出血してんな。俺が刺した場所以外からも血が溢れ出てる)」

盗賊「(掴む力もかなり弱まってる。今なら内肘を刺して振り解けるんじゃねえか?)」

盗賊「(でもなぁ、これは流石に高すぎる。下に何か…落下の衝撃を逃がせる何かがあれば……)」チラッ

盗賊「(……あった。どうせこのまま落ちたら首折れて死ぬんだ。やるしかねえ)」
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/21(水) 00:34:02.37 ID:Eyhl8jLIO

盗賊「……あんた、流れ星は見たことあるか?」

盗賊「消える前に願いを三度唱えれば、その願いは叶うらしいぜ。間に合えばだけどな」

白騎士「……何を言っている」

盗賊「見せてやるよ、流れ星。三度唱える時間があるか分かんねえけどな!!」ヒュッ

グサッッ!

白騎士「ぐっ!?」ズルッ

ビョゥゥゥ…

盗賊「ふ〜っ…これで思いっ切り空気が吸える。よしっ…」

盗賊「助かりますように助かりますように助かりますように助かりますように!!」

盗賊「(何だよ、案外簡単に言えるじゃねえか。一回多く言ったけど、流れ星の願いって叶うのかな……)」

ビョゥゥゥ…

盗賊「(……まあ、なるようになんだろ)」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/21(水) 01:26:14.42 ID:Eyhl8jLIO

ボフッッ!

盗賊「……願っといて良かった」ガサッ

盗賊「(あの野郎が跳んだ先に牧場がなかったら死んでたな。あちこち痛えけど生きてりゃいいや……)」

盗賊「……ん、何だありゃ?」ザッ

盗賊「(地面が淡く光ってる。これは焦げ跡? ってことは遺体があった場所か)」

盗賊「(妙な紋様もあるな。あの野郎、儀式でもしたのか? やっぱりまともじゃねえな)」

ズダンッッ!

盗賊「!?」クルッ

白騎士「落ちた時は少々肝を冷やしたが、そこまで運ぶ手間が省けたな」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/21(水) 20:23:32.38 ID:rDYNLnmxO

盗賊「……早かったな。願いごとは唱えたかい?」

白騎士「願いとは叶えるものだ。唱えるだけでは叶わない。私の願いはそう安いものではない」

盗賊「……その願いってのは何人殺せば叶うんだ。そこまでして叶えたい願いってのは何なんだよ」

白騎士「直に分かる。ここからが戴冠の戦だ」ザッ

盗賊「(相変わらず何言ってんのか分かんねえ。輪転器が狙いじゃねえのか?)」

盗賊「(そもそも何で俺と戦う必要がある? あの爺さんに殺せって命令されたのか?)」

白騎士「冠を戴くのは勝利者のみ」ブシュッ

盗賊「(……まあ、それはいい。それより、何であの出血で動ける。歩くたびに甲冑から死が噴き出てーー)」

白騎士「往くぞ」ダンッ

盗賊「(鎧通しでぶっ刺した。心臓も貫いた。それなのに、まだこんな動きが出来んのかよ)」
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/21(水) 22:40:57.74 ID:rDYNLnmxO

白騎士「………」グオッ

ブンッッ!

盗賊「(さっきと同じだ。ぶん殴るような大振り。これを避けてもう一度中にーー)」

白騎士「先の攻撃に眼が慣れたようだな。撒かれた餌とも知らずに」

盗賊「回っ…くっ!!」

ザンッッ!

盗賊「…はぁっ…はぁっ…くそっ…」ガクンッ

白騎士「(咄嗟に身を捩ったようだが傷は深い。だが、眼は生きている)」

白騎士「(要らぬ小細工をされると厄介だ。もう一押し、際の際まで追い詰める)」ダンッ

盗賊「(ッ、気を保て集中しろ。大きく動くな小さく躱せ。まだ終わらねえ、勝ち目はある)」
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/21(水) 23:37:15.71 ID:rDYNLnmxO

白騎士「(眼が変わったな)」ズッ

盗賊「(突き。よく見える。これは誘いだ。飛び込んだ瞬間に肘を曲げて背中を刺すつもりか)」

白騎士「(……縦ではなく横に動いた。この程度の誘いには乗らんか)」

白騎士「(深傷を負えば勝負を急くだろうと思ったが、中々に冷静な男だな)」

盗賊「…ハァッ…ハァッ…」ジャリッ

白騎士「(諦めた様子は微塵もない。まだ勝とうとしているのか、面白い)」ヒュンッ

盗賊「(野郎、さっきとはまるで違うじゃねえか。一撃の力押しを止めて繋げて来やがった)」

ザシュッッ…ジリッッ…

盗賊「(ッ、しかも途切れねえ。これを全て躱し切るのは無理だ。どうしても小さいのを貰っちまう)」

盗賊「(このままじゃ受けてちゃマズい。何とかしてえけど、ああもくるくる舞われたら付け入る隙もねえ)」
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/21(水) 23:43:07.79 ID:rDYNLnmxO

白騎士「(眼が変わったな)」ズッ

盗賊「(突き。よく見える。これは誘いだ。飛び込んだ瞬間に肘を曲げて背中を刺すつもりか)」

白騎士「(……縦ではなく横に動いた。この程度の誘いには乗らんか)」

白騎士「(深傷を負えば勝負を急くだろうと思ったが、中々に冷静な男だ)」

盗賊「…ハァッ…ハァッ…」ジャリッ

白騎士「(諦めた様子は微塵もない。まだ勝とうとしているのか、面白い)」ヒュンッ

盗賊「(野郎、さっきとはまるで違うじゃねえか。一撃の力押しを止めて繋げて来やがった)」

ザシュッッ…ジリッッ…

盗賊「(ッ、しかも途切れねえ。これを全て躱し切るのは無理だ。どうしても小さいのを貰っちまう)」

盗賊「(このまま受けてちゃマズい。何とかしてえけど、ああもくるくる舞われたら付け入る隙もねえ)」
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 00:39:28.96 ID:kbFSV2H3O

白騎士「(この眼、機を窺っているな)」

白騎士「(私にも時間はない。何もさせぬまま、このまま押し切る)」グンッ

盗賊「(ちっ、まだ上がんのかよ。くそっ、速過ぎる。これ以上は避けきれねえ……)」グラッ

白騎士「(血を失いすぎたか。捉えたぞ)」

グサッッ!

盗賊「………」ガクンッ

白騎士「右肩を貫いた、利き腕はもう使えまい。この戦、私の勝ちだ。後はあの場所ーー」

盗賊「籠手は右手にあるからな。こうするしか方法はなかった。膝を突いたのは隠す為だ」

盗賊「俺の持ってる爆弾は小せえし威力も高くない。でもな、近距離で二つ三つ爆発させれば話は別だ」
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 01:20:04.03 ID:kbFSV2H3O

白騎士「何?」

盗賊「……あんたはすぐに鞭を引き千切ったけど、巻き付いた部分は首に残ってる」

盗賊「鞭の先には爆弾を括り付けてある。甲冑を着けてても首を吹っ飛ばせるくらいにはな」ジュッ

白騎士「!!」バッ

盗賊「今更取ろうとしても遅えよ」ヒュッ

白騎士「(蹴り飛ばして距離をーー)」

盗賊「(このままじゃ俺まで巻き込まれる。後ろにーー)」

ドガンッッ!

盗賊「…はぁっ…はぁっ…危ねえ」

盗賊「(タイミングが良かった。跳んだ瞬間に蹴り飛ばされてなかったら巻き込まれてたな)」
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 20:46:41.08 ID:yQJdRAdIO

白騎士「(この眼、機を窺っているな)」

白騎士「(だが、私にも時間はない。何もさせぬまま、このまま押し切る)」グンッ

盗賊「(ちっ、まだ上がんのかよ。くそっ、速過ぎる。これ以上は避けきれねえ……)」グラッ

白騎士「(血を失いすぎたか。捉えたぞ)」

グサッッ!

盗賊「………」ガクンッ

白騎士「右肩を貫いた、利き腕はもう使えまい。この戦、私の勝ちだ。後はあの場所にーー」

盗賊「こうするしか方法はなかった。左手さえ動けば着火出来るからな」

白騎士「……何?」

盗賊「俺の持ってる爆弾は小せえし威力も高くない。でもな、近距離で二つ三つ爆発させれば話は別だ」
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 20:51:08.50 ID:yQJdRAdIO

白騎士「だから何だとーー」

盗賊「あんたはすぐに鞭を引き千切ったけど巻き付いた部分は首に残ってる」

盗賊「その鞭の先には爆弾を括り付けてある。爆発すれば甲冑を着けてようが首を吹っ飛ばせる」ジュッ

白騎士「!!」バッ

盗賊「今更取ろうとしても遅えよ」ヒュッ

白騎士「(蹴り飛ばして距離をーー)」

盗賊「(このままじゃ俺まで巻き込まれる。後ろにーー)」

ドガンッッ!

盗賊「…はぁっ…はぁっ…危ねえ」

盗賊「(タイミングが良かった。跳んだ瞬間に蹴り飛ばされてなかったら巻き込まれてたな)」
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 20:56:50.38 ID:yQJdRAdIO

盗賊「ッ、詰め所に…戻らねえとな……」フラッ

盗賊「(くそっ、意識を保つのがやっとだ。気を抜いて倒れたらそのまま逝っちまう)」

ガシャッ…

白騎士「…ゴボッ…ガフッ…」

盗賊「(おいおい冗談だろ。首吹っ飛んでんのにまだ生きてんのかよ。頭が胸元まで垂れ下がって……)」

白騎士「……右肩を狙わせたのは武器を封じる為か。利き手を失ったのは私の方だったと言うわけだ」ザッ

盗賊「(有り得ねえ。今に分かったことじゃねえが、あいつは本物のバケモノだ)」

白騎士「ゴフッ…鞭を使ったのは先を取る為ではなく、初めからこれを狙ってのこと……」

白騎士「全ては確実に仕留める為の布石。堪え忍び、息を殺し、この時を待っていた。そうであろう?」

盗賊「(もう、声も出ねえな。ここまで来ると笑えてくるぜ)」

白騎士「見事、実に見事。褒めて遣わす。それでこそ私の輪転器に相応しい」
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 22:44:29.67 ID:yQJdRAdIO

盗賊「(何? 今、何て言った?)」

白騎士「私は終わらん。私に死は訪れない。新たな血と肉を得て、私は再び歩き出す」ダッ

盗賊「(……ざけやがって、あんなのどうしろってんだよ。もう策は尽きた。避けようにも体が耳を貸さねえ)」

白騎士「ハハハッ! 体が歓喜に震える。久しい、久しいぞ。そうだ、そうであった」グオッ

盗賊「イカレ野郎が……」

ガシッッ!

盗賊「ぐッ…ゲホッ…」

白騎士「求めるものは苦難の果てにある。それこそが勝利。私の求めるもの」

ダッダッダッ…ドサッ!

盗賊「(ぐっ…この場所は遺体があったとこか? 何だ、さっきより光が……)」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 23:59:23.58 ID:yQJdRAdIO

白騎士「これで準備は整った」

盗賊「(まさか男に覆い被さられる時が来るなんてな。これが美女なら諦めも付いたのに……)」

ゴシャッ! ズルリ…

盗賊「(今の音は何だ? 垂れ下がった頭が邪魔で何も見えねえ)」

白騎士「今こそ、転生の時……」

ゾブッ…

盗賊「(ッ、何だ。腹ん中に何かが入ってくる。くそっ、すっげえ痛え…力が抜けてく……)」

盗賊「(寒くて冷たくて眠い。今目を閉じたら、さぞや気持ち良く眠れるんだろうな)」
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 00:25:52.20 ID:U0wfq6ijO

白騎士「貴様の死が、私の新たな始まりだ」

盗賊「(……ああそうか、これが死ってやつか。何か、妙に落ち着くな。悪くねえ気分だ)」

盗賊「(死ぬのはいい。どうせいつかは死ぬんだ。でも、こんな奴に殺されんのは御免だ)」

白騎士「さあ眠れ。私の器として生まれたことを光栄に思うがいい」

盗賊「……そんなに死ぬのが怖いのか。あんた、案外臆病な奴なんだな」

白騎士「まだ減らず口を叩けるとはな。だが、もうじき終わる」

盗賊「……口さえ動けば上等さ。口さえ動けば、喉元に齧り付けるからな」

ガブッッ! ブチブチッ!

白騎士「がッ!?」

盗賊「(これで死ぬかどうか分かんねえ。ただ、やれることはやる。死ぬまで諦めねえ)」
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 01:28:35.59 ID:U0wfq6ijO

白騎士「…ゴブッ…よ…ぜ…やめろ」

盗賊「………」ギチッ

白騎士「やめろォォォッッ!!」

盗賊「………」グイッ

ブチブチッッ! ゴロンッ…

白騎士「」ドサッ

盗賊「……どんな奴でも死ぬときゃ死ぬんだよ。憶えとけ」

ガシャンッ…

盗賊「?」チラッ

盗賊「(兜が外れたのか。つーか、あの顔……まあいいや。何かもう、色々疲れた……)」
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/23(金) 01:33:10.41 ID:U0wfq6ijO
また明日
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/23(金) 05:31:57.08 ID:ZRDtCuwJo
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 00:28:28.78 ID:/HbUbsMAO

【これまでのあらすじ】

王の秘宝、輪廻転生機。通称『輪転機』

輪転機を狙って王宮に忍び入った盗賊だったが、宝物庫で目にしたのは寝間着の女性であった。

状況を飲み込めずにいる盗賊に対し、彼女は自分が王女であること、探し求める輪転機が自分であることを告げる。

輪転機とは輪転器。王の力は器を変えて代々受け継がれているのだという。

「わたしを盗みますか?」

盗賊は面倒事になるからとその場を立ち去ろうとするが、駆け付けた騎士に取り抑えられてしまう。

暗殺未遂で処刑を言い渡された盗賊は独房へと入れられたが、さして気にすることもなく看守と談笑していた。

そこへ老人(魔王)が現れる。老人は看守に下がるように言い、盗賊に語り始めた。

「儂の体は長くは保たない」

王位継承の時は刻々と迫っており、この時期になると輪転器暗殺を企む輩が現れる。

何故にそんな話をするのかと問う盗賊に、今や王宮内部の者達は信用出来ないのだと言う。
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 00:30:23.78 ID:/HbUbsMAO

「儂の娘を、輪転器を盗んでくれ」

王の力が輪転器へと渡るまで彼女を守って欲しい。それが、魔王の依頼であった。

盗賊はその依頼を引き受けると夜に脱獄。再度王宮へと忍び込み、宝物庫にて王女と再会する。

まさかの再会に驚く王女。

彼女は輪転器であることを受け入れながらも、外界への憧れを捨てきれずにいた。

「今から外に出て星を眺めようと思ってるんだけど、良ければ一緒にどうかな?」

盗賊の言葉に大きく心を動かされる王女だったが、自分の我が儘で混乱を招くことを恐れ、決断を下すことが出来ない。

いっそ何も言わず連れ去ってくれたなら。そんなことを考えている間に騎士達の足音が迫っていた。

それでも王女の答えを待つ盗賊。曰く、無理矢理に攫うような真似は好きではないらしい。

「きみは輪転器なんて無機質なモノじゃない。きみは、生きてる」

この言葉により、王女は王宮を出ることを決意する。

「……今からでも、間に合いますか?」

盗賊は王女の願いを叶える為、傷を負いながらも王宮から脱出するのであった。
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 00:33:44.81 ID:/HbUbsMAO

逃亡中、失血により盗賊が落馬してしまう。

王女の手当てによって傷は塞がったものの盗賊に意識はなく、失血と寒さに身を震わせていた。

「迷う必要なんてない。この人を死なせはしない」

文字通り命を賭して王宮から連れ出してくれた盗賊を救う為、王女は服を脱ぎ、冷え切った体に寄り添った。

一夜が明け、添い寝の甲斐あってか盗賊は意識を取り戻す。

「行くって、何処へ……」

「姫様の自分探しに決まってるだろ?」

こうして、二人は街を目指した。

盗賊は追っ手が来ないことを不審に思いながらも馬を走らせ、街に到着。

王女は門番によるニンゲンへの差別を目の当たりにし、これが世の常識なのだと実感する。

一触即発と思われたが、賄賂によって門を潜り抜け、二人は街に足を踏み入れた。

「な、何だか目が回りそうです」

王宮とは全く違う景色に驚く王女。街の人々はそれぞれがそれぞれの生活をしていた。
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 00:38:06.17 ID:/HbUbsMAO

変装用の服を買い。遅めの朝食。

朝食を終え、預けていた白馬を迎えに行こうとするも、何やら騒ぎが起きていた。

見れば厩の辺りに煙が上がっており、急いで駆け付けると野次馬の会話が耳に入る。

『ついさっき兵士の会話を聞いちまったんだが、厩舎の主が焼け死んでたって話だ……』

厩へ近付くと警備兵に呼び止められ、二人は厩の中へと案内される。

警備兵によると盗賊の馬のみが逃げ、他の馬は全て斬殺されたと言う。

そして、壁には盗賊に向けた殴り書きがあった。

「我が王冠は貴様の手に在り。貴様の王冠は我が手に在る。さあ、戴冠の戦を始めよう」

盗賊はその意味が分からぬまま、気を失った王女を背負い宿屋へと向かったのであった。
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/24(土) 00:52:53.17 ID:/HbUbsMAO

目覚めた王女は、外へ出たことを悔いていた。

「泥棒さんに傷を負わせたのも、厩舎の主さんを死なせてしまったのも、わたしの我が儘が原因です」

これ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。王宮に戻る。そう言い出した王女に、盗賊は全てを打ち明けた。

王の依頼内容。輪転器暗殺を企てている存在。何処へ行こうとも君は命を狙われるのだと。

それを聞いた王女は、これまでの行いは全て依頼の為だったのかと涙ながらに問い質す。

「あの時、きみに一目惚れしたんだ。今まで見た何よりも綺麗で、誰よりも輝いて見えた」

更に泣き出す王女であったが、徐々に落ち着きを取り戻し、事件のあらましについて盗賊に訊ねた。

話を聞く内に、王女はある人物を思い出す。それは千年も前に没した白い騎士。

犯人と戦うことを決意した盗賊。その助けになればと思い、王女は語り出した。

王女が白い騎士について話し終えると、盗賊は部屋の前にいた警備兵を招き入れた。

警備兵は王女の言葉を信じ、宿屋よりは安全だと言い、二人を詰め所へと案内する。
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 02:02:22.81 ID:/HbUbsMAO

詰め所へ到着した後、盗賊は犯人について警備兵に訊ねたが進展はなかったという。

特に怪しいのは盗賊が馬を預けた直後にやって来た男。盗賊の言うように右手に火傷はあったが何も所持していなかったとのこと。

盗賊がその男に会いに行こうとした時、突如王宮騎士団長が現れる。何故此処が分かったのかと問う王女に、馬の導きだと答える騎士団長。

騎士団長の背後から現れたのは白馬。白馬は逃げ出したのではなく、盗賊の危機を報せる為に走ったのだった。

盗賊は二人に王女を任せ、詰め所を後にする。宿屋に到着し足を踏み入れると、中は血の海であった。

宿泊客全員が殺害されたかと思ったが、犯人と思しき男のみが生きていた。

男は何かに怯えるように小刻みに震えている。盗賊が近付こうすると、男の絶叫と共に何かが現れた。

男の体を突き破って現れたのは白い騎士。白銀の甲冑を着た男が犯人かと思われたが、甲冑が人を着ていたのだ。
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 02:11:01.38 ID:/HbUbsMAO

長い戦いが始まった。

一度距離を取ろうとするが追い付かれ、接近戦を余儀なくされる。

石畳ごと地面を穿つ圧倒的な力に戦慄しながらも間一髪で避け、鞭による奇襲を仕掛ける。

攻撃を掻い潜り鎧通しで刺し貫き、更には心臓を貫くが白い騎士の動きは止まらない。

白い騎士は動揺する盗賊の首を掴み、盗賊を盾に家屋を次々と突き破り、屋根を蹴り跳んだ。

盗賊は内肘を突き刺し空中で拘束を解き、牧場に落下。藁の山に救われる。

焼け跡が淡く光っていることに疑問を持つ盗賊だったが、直後に白い騎士が牧場に降り立ち再び戦いが始まる。

先程とは打って変わり舞うように斬り付けてくる攻撃に付いて行けず、袈裟に斬られてしまう。

身を捩って体勢を立て直したものの白い騎士の猛攻は収まらず、遂には右肩をも貫かれる。

膝を突き敗北したかに見えたが鞭に仕掛けていた爆弾を誘爆させ、首を吹き飛ばすことに成功。

しかしそれでも白い騎士を倒すことは叶わず、遺体現場に組み伏せられてしまう。

盗賊は死を覚悟したが、垂れ下がった首の繊維に齧り付き、白い騎士の頭部を引き千切ろうと試みる。

やめろと叫ぶ白い騎士の声が届くことはなく、頭部を引き千切られ完全に沈黙。

死闘の末に勝利したものの、盗賊は深い微睡みに落ちたのだった。
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 02:21:06.13 ID:/HbUbsMAO
普通に続き書けば良かった。また明日。
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 17:06:25.49 ID:paZgWt6xO
あらすじとか必要ないから本編書いてくれよ
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 19:19:14.57 ID:sMx/A2h3o
投下おつ
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 00:04:27.76 ID:vxyR53DYO

【詰所】

コンコンッ…

警備兵「誰だ?」

『事件現場の見張りを担当している者です。報告があります』

警備兵「その場で話してくれ」

『裏手の牧場にて白い騎士とニンゲンが交戦。両者共に死亡したかと思われます』

王女「そんなっ!! あなた達は一体何をしてーー」

警備兵「黙っていろ」

王女「!!」ビクッ

『何か問題でも?』

警備兵「いや、何も問題ない。それより死亡したと思われるとは何だ? 生存確認は?」

『いえ、しておりません。その必要はないと判断しました』
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 00:09:42.97 ID:vxyR53DYO

【詰所】

コンコンッ…

警備兵「誰だ?」

『事件現場の見張りを担当している者です。報告があります』

警備兵「その場で話してくれ」

『裏手の牧場にて白い騎士とニンゲンが交戦。両者共に死亡したかと思われます』

王女「そんなっ!! あなた達は一体何をしてーー」

警備兵「黙っていろ」

王女「!!」ビクッ

『何か問題でも?』

警備兵「いや、何も問題ない。それより死亡したと思われるとは何だ? 死亡確認は?」

『いえ、しておりません。その必要はないと判断しました』
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 00:42:24.95 ID:vxyR53DYO

警備兵「……今から行く。医者を手配しておけ」

『その必要はないかと思いますが』

警備兵「念の為だ。死亡していた場合は医者の診断書が必要になる」

警備兵「後になって報告書に時間を取られると面倒だ。早い内に済ませたい」

『それもそうですね。了解しました』ザッ

タッタッタッ…

警備兵「申し訳ない。お聞きの通り急用が出来たので少しばかり外します」

騎士団長「ああ、了解した」

王女「…………」

警備兵「では、失礼」ザッ

ガチャ…パタンッ…

王女「……これも、外では当たり前のことなのですか?」
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 01:26:38.04 ID:vxyR53DYO

騎士団長「姫様、聞いて下さい」

王女「彼等は警備隊なのでしょう!? 警備隊とは守る立場にある方々ではないのですか!?」

王女「先ほど報告に来た方は現場にいたと言っていました!彼等なら助けられたかもしれない!!」

騎士団長「(姫様……)」

王女「……助けることは出来なくともお医者様は呼べたはずです。なのに放って置くなんて、わたしには理解出来ません」

王女「それも、あんなにも平然としていられるなんて……何故ですか? 彼がニンゲンだからですか?」

騎士団長「……そうです。ニンゲンとは我々にとって『その程度』の存在なのです」
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 10:16:53.48 ID:OvgkZgD8O

王女「っ、何故そこまで…」

騎士団長「守る立場だからこそです。我々のような者にとって、ニンゲンとは犯罪者でしかない」

王女「全てがそうと言うわけではないでしょう?中には善良なニンゲンもいるはずです」

騎士団長「確かにそうでしょうな。全てのニンゲンが悪であるとは思いません。民間人の中には親しくしている者もいるかもしれません」

騎士団長「しかしながら、私のような立場にある者は犯罪を犯すニンゲンしか知らない」

王女「知らない?」

騎士団長「知らないと言うより、仕事上悪党を相手にすることが圧倒的に多いのです」

騎士団長「その為、私や警備隊の彼等にとってニンゲンとは悪であるという考えが根付いた」

王女「……余りにも偏った考えです。そこに救うべき者がいるのなら種族など関係ないはずです」

騎士団長「そうでしょうな。私もそうあるべきだと思います。しかし、世に平等などない」
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 10:41:01.77 ID:OvgkZgD8O

騎士団長「この際、はっきりと言っておきます。姫様が仰っていることは綺麗事です」

王女「!!」

騎士団長「差別もあれば偏見もある。それはニンゲンに限ったことではありません。此方側でも起きていることなのです」

騎士団長「耳や尻尾を持つ者を獣だと迫害する者もいれば、私のように角がある者を野蛮だと罵る者もいる」

王女「………」

騎士団長「……ニンゲンによる殺人事件が起きた場合、そのご家族は誰を憎むと思いますか?」

王女「いきなり何をーー」

騎士団長「彼等は犯人ではなく、ニンゲンという種族そのものを憎みます」

王女「…………」

騎士団長「同族による殺人事件ならば犯人を憎むでしょう。しかし、種族が違えば種族を憎む」
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 11:09:19.00 ID:OvgkZgD8O

王女「……わたしには、分かりません」

騎士団長「そうでしょうな。姫様には書物で得た知識しかない。彼等が与えられた痛みを見たことがないのですから」

王女「……っ」キュッ

騎士団長「彼等警備隊はその痛みを知っている。何度も何度も見てきたことでしょう」

騎士団長「そして、一度根付いたものは消えることはない。種族の違いとはそれ程までに大きい。姫様、これが現実なのです」

王女「だからニンゲンである彼を見殺しに? ニンゲンならば見殺しにしても構わないと?」

騎士団長「………」

王女「……被害者の家族は犯人ではなくニンゲンそのものを憎む。そう言いましたね」
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 14:30:44.28 ID:OvgkZgD8O

王女「そのお言葉を返すようですが」

王女「わたしはニンゲンという種族に救われたのではありません。わたしは彼というニンゲンに救われたのです」

王女「彼は彼です。自由で優しい、温かい心を持った…わたしの……」ポロポロ

騎士団長「………」

王女「……彼は境界線を飛び越えて、種族を飛び越えて、わたしをわたしとして連れ出してくれた」

王女「まだ二日と経っていないけれど、彼は短い間に沢山のものを見せてくれたのです……」フラフラ

ガシッ…

王女「離して下さい。彼に会いに行きます……」

騎士団長「なりません。姫様を守ると約束しました。これは奴の頼みでもあります」

王女「…っ…うぅ…わたしは、まだ彼に何も……与えられてばかりで…何も……」ポロポロ
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 23:17:08.89 ID:BGtx0UxZO

王女「お言葉を返すようですが」

王女「わたしはニンゲンという種族に救われたのではありません。わたしは彼というニンゲンに救われたのです」

王女「彼は彼です。自由で優しい、温かい心を持っています。彼は…彼はわたしの……」ポロポロ

騎士団長「………」

王女「……彼は境界線を飛び越えて、種族を飛び越えて、わたしをわたしとして連れ出してくれた」

王女「まだ二日と経っていないけれど、彼は短い間に沢山のものを見せてくれたのです……」フラフラ

ガシッ…

王女「離して下さい。彼に会いに行きます……」

騎士団長「なりません。姫様を守ると約束しました。これは奴の頼みでもあります」

王女「…っ…うぅ…わたしは、まだ彼に何も……与えられてばかりで…何も……」
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 00:47:45.00 ID:b2rVHaqQO

騎士団長「姫様、落ち着いて下さい。まだ奴が死んだと決まったわけではありません」

騎士団長「此処を出る前に警備兵が医者を手配させたのを憶えていますか?」

王女「……ええ、死亡診断書とやらを書いて貰う為でしょう?」

騎士団長「いえ、私はそうではないと思います。彼は奴に助力するつもりでしたからな」

王女「えっ…」

騎士団長「おそらく、報告書や診断書云々は医者を呼ばせる為の方便」

騎士団長「どうにかしてあのニンゲンを助けたい……」

騎士団長「などと言った所で聞く耳を持たなかったでしょう。あのように言うしかなかったのです」
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 01:00:42.58 ID:b2rVHaqQO

王女「では、兵士さんは泥棒さんを……」

騎士団長「ええ、助けるつもりです。死亡確認していないのであれば、まだ分かりません」

騎士団長「ですが、先程の報告者は確認するまでもない言っていました。となれば相当の深傷を負っていると見て間違いないでしょう」

王女「……助かる可能性はあるのですね?」

騎士団長「可能性はありますが助かるか否かは分かりません。そればかりは運としか……」

王女「……なら、待ちます。あのっ、先程は取り乱してしまって申し訳ありません」ペコッ

騎士団長「そ、そんなっ、姫様が謝ることなどありません!! 謝らなければならないのは私です。姫様に対してあのような過ぎた口をーー」

王女「お気になさらないで下さい」

王女「あれは警備隊の方々や此方側が抱えている様々な問題。それらを教える為に言って下さったのでしょう?」
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 01:30:13.97 ID:b2rVHaqQO

騎士団長「………」

王女「現実。そう言われた時は頭をがつんと殴られたような気がしました」

王女「差別について納得は出来ませんが、現実に起きていることとして受け入れようと思います」

王女「ですから、謝ることなどありません。いつまでも無知なままでは駄目ですから」

騎士団長「姫様……」

王女「外は美しい世界だとばかり思っていました。これからは気を付けなければなりませんね」

騎士団長「これから? それは一体どういう……」

王女「泥棒さんが帰って来たら、また旅に出ることになると思いますから」
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 01:45:03.02 ID:b2rVHaqQO

騎士団長「ですが、生きているかーー」

王女「ええ、生きているかどうかなど分かりません。だからこそ、信じて待ちます」

王女「泥棒さんはすぐに帰ってくると言っていました。だから、きっと大丈夫。きっと……」

騎士団長「(姫様のこんなお姿は見たことがない。たった一日で随分とお変わりになられた)」

騎士団長「(……いや、姫様が変わったのではない。私が姫様のことを何一つ知らなかったのだ)」

騎士団長「(私にとって、姫様があの部屋にいるのは当たり前だった。姫様が苦しんでいることなど知る由もなかった)」

騎士団長「(……違うな。もっと言うなら、私は知ろうとすらしていなかった)」
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 01:54:56.19 ID:b2rVHaqQO

王女「……どうか、彼をお救い下さい」

騎士団長「(内向的で読書が好きな少女。勝手にそう思い込んでいたが、どうやら違っていたようだな)」

騎士団長「(おそらく、これこそが本来の姫様なのだろう)」

騎士団長「(泣きもすれば笑いもする。感情を露わにするのは変化ではない。当たり前のことだ)」

騎士団長「(しかし、また旅に出たいなどと言い出すとは。出来ることなら一刻も早く王宮へ戻って欲しいが……)」チラッ

王女「……お願いします。彼をお救い下さい」

騎士団長「(奴が生きて帰ったらどうするべきか……今の内にどちらを選ぶか決めておいた方が良さそうだな)」
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 01:55:43.99 ID:b2rVHaqQO
また明日
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 18:48:26.80 ID:kq6tQuAQO
姫がいくら盗賊庇おうが犯罪者だしな城に侵入する建物破壊する兵士を傷つける……
うん、ゴミ野郎だな盗賊
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 20:11:22.65 ID:4ZwKmF14O
ついでに言えば姫様誘拐してるし白馬盗んでるし門番に賄賂渡してるし白騎士のことなんて殺しちゃってるしな
とんでもない極悪人だよ
393.88 KB Speed:0.2   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)