魔王「リインカーネーション」

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337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 07:45:00.80 ID:6mn+ZYD/O
そんな描写ないけど>>336には何が見えてるの?
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 07:50:15.27 ID:NTKWR3S9o
誰一人傷付けてない上に城を破壊して雇用を生み出す有能盗賊。
なお白馬は、厩舎が爆破された際に見捨てられたところを、盗賊が回収しただけの模様。
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 19:46:34.50 ID:ojhQIDIBO

【厩舎】

『おい、これ見ろよ』ジャラッ

『こ、こいつは凄え。それ全部金貨かよ。このニンゲンは一体何者だ?大した身なりじゃないが……』

『そんなことはどうだっていい。それよりどうだい? 二人で山分けにしないか?』

『おいおい。死人から剥ぎ取る気か?』

『人聞きの悪いこと言うなよ。どうせ使い道がないんだ。このままじゃ金が泣いちまうだろ?』

『……まあ、それもそうだな。今なら誰にもバレやしない。今のうちに頂いちまおう』

『へへっ、現場の見張りなんて退屈で仕方なかったが、まかさこんなご馳走にありつけるとはな』

『ああ、これで当分は遊んで暮らせる。いっそ警備隊なんぞ辞めてーー』

ザッ…

『『!!?』』

警備兵「厩の前に姿がないから何をしているかと思えば二人揃って死体漁りか」
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 20:38:40.39 ID:ojhQIDIBO

『何だよ。文句あんのか?』

警備兵「いや? 別に文句はない。ただ、考えていた筋書きと異なる展開なので少々困っている」

『筋書き?』

『まさか独り占めにする気じゃねえだろうな?』

警備兵「……勇敢な警備隊員が殺人鬼に襲われていたニンゲンを助け、殺人鬼を打ち倒した」

警備兵「忌むべきニンゲンをも救おうと奮闘した警備隊員は街の英雄となり、更には莫大な報奨金を手に入れる」

警備兵「事件は解決。警備隊全体の評価も上がる。とまあ、こう考えていた」
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 20:41:16.51 ID:ojhQIDIBO

『ちなみに、その勇敢な警備隊員ってのは?』

警備兵「お前達以外に誰がいる?」

『……いまいち信用ならないな。あんたは何をしに来た』

警備兵「そこの白い騎士に警備隊が使っている剣を刺しておこうと思ってな」

『何でだよ?』

警備兵「そこのニンゲンに手柄を横取りされては警備隊の面子が潰れるだろう?」

『誰もニンゲンがやったなんて思わねえだろ』

警備兵「甲冑を見てみろ。見る奴が見れば誰がやったか分かる。そのニンゲンが使ったのは特殊な武器のようだしな」
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 20:44:42.18 ID:ojhQIDIBO

『た、確かにそうかもしれねえな』

警備兵「そこで、警備隊が殺したという確固たる証拠が必要になるわけだ」

警備兵「だが、『今のところ』そんな証拠は何処にもない。さて、どうする」

『なる程、読めたぜ。なければ作れば良いってわけだな?』

『そういうことなら俺達の剣を使ってくれ』ザクッ

警備兵「そうか、それは助かる。二本ともしっかり刺しておこう。報告書にもそう書いておく」

『裏切ったらただじゃおかねえぞ』

警備兵「そんな馬鹿な真似はしない。そんなことをすれば俺も終わるからな」
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 21:00:25.78 ID:ojhQIDIBO

『共犯ってわけだな。後は頼むぞ』

警備兵「ああ、そうだ。ちょっと待て」

『『?』』

警備兵「名誉の負傷だ。受け取れ」

ヒュッヒュッ…ブシュッッ…

『いぎゃあああ!!』

『ひ、ひぃぃっ!! 腕、腕が!!』

警備兵「傷がなければ不審がられる。それも必要な証拠だ。さっさと医者に行け。血相を変えてな」

『か、肩を貸してくれ』

『ッ、早くしろ。行くぞ』

タッタッタッ…

警備兵「富と名誉の為なら斬られても文句一つ言わないか。欲深い奴らだ」

警備兵「……しかし、奴等が英雄か。あの傷が癒えたら、酒場あたりで女相手に得意気に語るのだろうな」
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 21:04:10.97 ID:ojhQIDIBO

『共犯ってわけだな。後は頼むぞ』

警備兵「ちょっと待て」

『『?』』

警備兵「名誉の負傷だ。受け取れ」

ヒュッヒュッ…ブシュッッ…

『いぎゃあああ!!』

『ひ、ひぃぃっ!! 腕、腕が!!』

警備兵「傷がなければ不審がられる。それも必要な証拠だ。さっさと医者に行け。血相を変えてな」

『か、肩を貸してくれ』

『ッ、早くしろ。行くぞ』

タッタッタッ…

警備兵「富と名声の為なら斬られても文句一つ言わないか。欲深い奴らだ」

警備兵「……しかし、奴等が英雄か。あの傷が癒えたら、酒場あたりで女相手に得意気に語るのだろうな」
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 22:13:11.39 ID:ojhQIDIBO

警備兵「…チッ…まあいい。おい、人払いは済んだ。もう出て来ていいぞ」

ガサガサッ…

医師「………」

警備兵「何をしてる。さっさと始めろ」

医師「あんたも警備隊だろ? 何でそこまでしてニンゲンをーー」

警備兵「いいからさっさとしろ。それから、来る途中にも言ったはずだ。お前に拒否権はない」

医師「……例の件、本当に見逃してくれるんだろうな」

警備兵「ああ、助けることが出来たらな」

医師「っ、畜生。何でニンゲンなんか治療しなけりゃならないんだ……」ブツブツ

カチャカチャ…ヂョキヂョキ…

医師「……酷いな。脈はあるが助かるかどうか分からんぞ。適切な処置をしても見込み薄だ」
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 22:28:15.00 ID:ojhQIDIBO

警備兵「…………」

医師「も、勿論全力は尽くす。けどな、助からなくても文句は言うなよ」

警備兵「文句は言わないが口が滑るかもしれないな。怪しげな薬を売り捌いて違法に利益をーー」

医師「分かった!分かったよ!! やれば良いんだろ!!」

キュポンッ…バシャバシャ…

警備兵「今の液体は?」

医師「消毒と止血剤だ。微量の麻痺毒も混ぜてある。体が跳ねるかもしれないから抑えててくれ」

警備兵「分かった」ガシッ

医師「しっかし、この傷で生きてるのが不思議なくらいだ。普通ならとっくに……ん?」

警備兵「どうした?」

医師「臍の辺りに何かが刺さってる。何かの破片のようだが……まずはこっちだな」
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 23:00:51.59 ID:ojhQIDIBO

ジクジク…

医師「……なあ、やっぱり聞かせてくれないか」

医師「何でニンゲンを助ける? あんたは今まで何人ものニンゲンを取っ捕まえてきた」

医師「殺したことだってあるはずだ。それなのに何故だ? どうにも理解出来ない」

警備兵「お喋りな医者だな。まずは自分の口を縫ったらどうだ」

医師「真面目に聞いてるんだ。答えくれ」

警備兵「……偽りの名声を得る為に斬られる奴。誰かの為に命を張る奴。お前ならどっちを取る」

医師「それは後者だろうよ。ニンゲンじゃなければな」

警備兵「そうだな、ニンゲンじゃなければ隠れて助ける必要もなかった。あんな奴等に手柄をくれてやることも……」

医師「……あんたがそこまでして助けるなんて今でも信じられない。そんなに良い奴なのか?」
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 23:06:09.07 ID:ojhQIDIBO

警備兵「いいや、悪党だ。王宮に侵入して王の秘宝を盗もうとして捕まった」

医師「そんな馬鹿な……冗談だろ? そんなことしたってんなら既に処刑されてるはずだ」

警備兵「…………」

医師「……マジなのか?」

警備兵「ああ、これ以上詳しくは言えないがな」

医師「だったら尚更だ。何で助ける?」

警備兵「馬鹿だからだ」

医師「は?」

警備兵「このニンゲンは此方側の女の為に命を張って戦った。たった一人で、助けを求める素振りも見せずにな」

警備兵「まるで種族なんぞ関係ないように振る舞って、当然のように一人で戦いに行ったんだ」

医師「それでこのザマってわけか。正しく馬鹿で愚か者だな。満足げな顔しやがって……」
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 23:37:58.77 ID:ojhQIDIBO

警備兵「気に入らないだろ?」

医師「気に入らないな。この顔を見てると腹が立ってくる。いけ好かない奴だ」

ビクンッ!

医師「っ、始まったか。しっかり抑えててくれよ」

警備兵「ああ、分かっている」ガシッ

医師「……その女ってのはさぞかしイイ女なんだろうな。男を馬鹿にさせるくらいに」

警備兵「そんな魔性ではない。確かに美しいが世を知らぬ箱入り娘だ。純粋で疑うことを知らない」

医師「そういう女の方がそそるのかね。まあ、分からんでもないな。守りたくなるってやつか?」

警備兵「かもしれないな。俺は御免被るが」

医師「何でだい?」

警備兵「彼女と共にいれば命が幾つあっても足りないからだ。傍にいれば『こうなる』」

医師「何でまた、そんな厄介な女に……」

警備兵「言っただろう。馬鹿なんだよ、こいつは……だから何としても助けたい。そして、俺が捕まえる」

医師「……そうか、なら協力しないとな。こんな凶悪犯をあの世に逃がすわけにはいかない」
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 00:13:48.96 ID:uSRogMXUO

ジクジク…ヌリヌリ…

医師「……よし。後は破片だけだな」

警備兵「これは?」

医師「白銀のように見えるな。しかし妙だ。出血が全くない。刺さっていると言うより、めり込んでいるような……」

医師「とにかく引き抜いてみるしかない。金属片というのは厄介だからな。これで挟んで……」カチッ

ズズ…ズルリ…

警備兵「……長いな。こんなものが腹に入っていたのか」

医師「まるで結晶柱のようだ。綺麗に磨き上げられてる。それより見てくれ、引き抜いた箇所には傷一つない」

警備兵「こんなことが有り得るのか? 傷を負わせずに杭を打ち込むようなものだぞ?」

医師「……何かは分からないが、下手に触らなくて正解だった。小瓶に入れておこう」
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 00:16:58.82 ID:uSRogMXUO

医師「(しかし気味が悪いな)」

医師「(微かに脈があるような気がする。まるで生きているようだ……)」

カチャカチャ…カランッ…キュッ…

医師「ふ〜っ、これで終わりだ。最善は尽くした」

警備兵「いや、まだ終わっていない。運ぶのを手伝え」

医師「…ハァ…ああ、分かったよ。しかし当てはあるのか?」

警備兵「ある。そこの荷車に乗せて運ぶぞ。急げ」

医師「まったく、本当に人使いの荒いお人だな。俺は医師だぞ? 走るのは馬の仕事だ」

警備兵「さっさとしろ。準備は良いな?行くぞ」

医師「準備もなにも拒否権は無いんだろ? 分かってるよ」ハァ

ガラガラガラ…
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 00:58:13.61 ID:uSRogMXUO

ーーー
ーー


『気でも狂ったか白騎士よ』

『私は正気だ。ただ、仕える人物を間違えた。私が仕えるべきは貴様ではない』

『呑まれたか。哀れな男だ……』

『哀れ? 哀れだと? 貴様に私を哀れむ資格など微塵もない。貴様も所詮は王の傀儡だ』

『……我が国の英雄の最期がこれか。やはり渡すべきではなかったな』

『何とでも言うがいい。私が仕えると決めたのは生涯ただ一人。彼女だけだ』

『聞け、白騎士。彼女はもういないのだ。正気を取り戻せ、それに呑まれるな』

『ならば待つまでだ。百年だろうと千年だろうと待ち続けよう。彼女は必ずや蘇る』
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 01:40:31.20 ID:uSRogMXUO

『……最早何を言っても無駄なようだな』

『私が勝利を捧げるべきは彼女のみ。勝利は我が手に在り。いざ、参る』

盗賊「ッ!!」ガバッ

ゴツンッ!

盗賊「(ッ、いってえ!! 体中が痛え!!)」

盗賊「(あ〜痛え。ていうか暗いし狭いな。これは蓋か? 足で押してみるか)」ググッ

ギギィッ…ガコンッ……

盗賊「(開いた…けど薄暗いな。此処はどこだ? つーかこれ棺桶じゃねえか。死んだと思われたのかな)」

盗賊「(でも、毛布が掛けてあるってことは生きてるの分かってて棺桶に入れたってことだよな)」

盗賊「(……端っこに机と椅子がある。机の上にあんのは姫様の日記か?)」

盗賊「(ってことは姫様は無事なのか。でも何だってこんなとこにーー)」

コツコツ…ガチャッ…

王女「泥棒さん、林檎と葡萄の絞り汁を持って来ました。少しでも栄養を取らなーー」ポトッ

盗賊「………えっ〜と、お帰りなさい。いや、ただいま?」
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 01:42:03.36 ID:uSRogMXUO
また明日
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 01:48:09.76 ID:uSRogMXUO

『……最早何を言っても無駄なようだな』

『私が勝利を捧げるべきは彼女のみ。勝利は我が手に在り。いざ、参る』

盗賊「ッ!!」ガバッ

ゴツンッ!

盗賊「(ッ、いってえ!! 体中が痛え!!)」

盗賊「(あ〜痛え。ていうか暗いし狭いな。蓋でもされてんのかな? 足で押してみるか)」ググッ

ギギィッ…ガコンッ……

盗賊「(おっ、開いた…けど薄暗いな。此処はどこだ? つーかこれ棺桶じゃねえか。死んだと思われたのかな)」

盗賊「(でも、毛布が掛けてあるってことは生きてるの分かってて棺桶に入れたってことだよな)」

盗賊「(……端っこに机と椅子がある。机の上にあんのは姫様の日記か?)」

盗賊「(ってことは姫様は無事なのか。でも何だってこんなとこにーー)」

コツコツ…ガチャッ…

王女「泥棒さん、林檎と葡萄の絞り汁を持って来ましたよ。少しでも栄養を取らなーー」ポトッ

盗賊「………え〜っと、お帰りなさい? いや、ただいま?」
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 01:49:13.69 ID:uSRogMXUO
また明日
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 02:06:07.16 ID:GTF8G2J50
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 20:09:32.91 ID:C1mbaYfEo
凄い引き込まれるな
一気に読んで追いついた
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/29(木) 00:28:09.35 ID:Qgswn/tEO

王女「泥棒さん…グスッ…よかった……」ペタン

盗賊「お、おいっ…」

王女「お医者様に意識が戻らないかもしれないって言われて、傷も酷いし体はとっても冷たくって……」ポロポロ

盗賊「……そうだったのか」

王女「わたしを連れ出してくれたあの日から泥棒さんは傷を負ってばかりです。本当に、本当にごめんないっ」

盗賊「この傷は姫様に負わされたものじゃない。姫様が謝ることはないよ」

王女「でもっ、わたしは何もしてあげられない。あなたに与えられてばかりで何も……」

盗賊「姫様、自分のことをそんな風に思ってたのか。そんなことないのに」

王女「へっ?」

盗賊「俺は姫様に色んなものを貰ってる。だからさ、そんな悲しい顔しないでくれ」
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/29(木) 01:18:49.55 ID:Qgswn/tEO

王女「…グスッ…何をです?」

盗賊「えっ? 何って何が?」

王女「わたしに貰っていると言いました。わたしは泥棒さんに何かを与えているのですか?」

盗賊「何って言われると上手く言えないけど、傍にいてくれりゃあそれでいいよ」

王女「……あ、ありがとうございますっ」カァァァ

盗賊「よっと」スタッ

王女「あっ、急に動いては体に障ります。まだ横になっていないと……」

盗賊「んなこと言われてもな。さっきから腰を抜かして立てないんだろ? ほら」スッ
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/29(木) 01:54:11.40 ID:DEEXV1bcO

王女「(左手。やっぱり右手はまだ……)」

盗賊「どうした?」

王女「い、いえっ。何でもありません……」スッ

ギュッ…グイッ…

盗賊「そういや、さっき何か落としたみたいだけど。あぁ、これか?」ヒョイ

王女「あ、それは軟膏です。右肩の刺し傷と胸の切り傷、それから背中にも塗るようにとお医者に渡されました」

盗賊「へ〜、そりゃありがたいな」

王女「後はこれを頂きました。葡萄や林檎をすり潰して作った飲み物です」

盗賊「美味そうだな、早速飲んでもいいか?」

王女「ええ、どうぞ。ゆっくりと飲んで下さいね?」スッ

盗賊「ん、分かった。んっ…ゲホッゲホッ…」

王女「だ、大丈夫ですか!?」

盗賊「ゲホッ…悪い。気を付けて飲んだつもりだったんだけどな……」
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 00:38:09.00 ID:J4JnjP9PO

王女「っ、泥棒さん」

盗賊「けほっ…けほっ…ん?」

王女「ちょっとずつ。口に含んでからゆっくりと飲んでみて下さい」

盗賊「そうするよ……んっ…お〜、めちゃくちゃ美味いなこれ。じわってくる」

王女「……よかった。さっきは口に含んだ量が多かったので体が驚いたんだと思います」

盗賊「胃とか弱ってんのかな。腹は減ってんだけど、この調子じゃ食うのは無理そう…ッ」クラッ

王女「!!」

ギュッ…

盗賊「っと……悪い、ちょっとふらついた。もう大丈夫だ。一人で立てる」

王女「……無理はしないで下さい。立っているだけでも負担は掛かります。横になりましょう?」
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 01:14:47.02 ID:J4JnjP9PO

盗賊「えっ、せっかく棺桶から這い出たのに永眠しろとーー」

王女「泥棒さん、掴まって下さい。それから永眠とか言わないで下さい。そういう冗談は嫌いです」

盗賊「ハイ、ゴメンナサイ」

王女「んっしょ…」ギュッ

トコ…トコ…トサッ…

王女「ふぅ…大丈夫ですか?」

盗賊「あ、うん。つーか姫様に運ばれるのはこれで二回目だな。ありがとう」

王女「………」キュッ

盗賊「?」

王女「……こんな聞き方は狡いですけれど、泥棒さんは後悔していませんか?」
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 02:20:47.37 ID:J4JnjP9PO

盗賊「人生に?」

王女「………」

盗賊「冗談、冗談だから。で、何に後悔してるって?」

王女「それはその……『こうなって』しまったことに。です」

盗賊「ない。これっぽっちもない。そもそも俺が攫ったんだ。後悔なんてするわけない」

盗賊「姫様は後悔してんのか? あの時、外に出たいなんて言わなかったら良かったってさ」

王女「外に出たことに後悔はありません。けれど、それによって巻き込まれ命を奪われた人がいます」

王女「あの時、泥棒さんはわたしの人生だと言ってくれました。その時、わたしは自由に触れたいと思ったのです。自分の思うように生きてみたいと……」

王女「でも、自由とは無関係の方々まで巻き込んで手にするものなのでしょうか……」
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 18:14:17.61 ID:RlZ2n5szO

盗賊「人生に?」

王女「………」

盗賊「冗談、冗談だから。で、何に後悔してるって?」

王女「それはその……『こうなって』しまったことに。です」

盗賊「ないよ。これっぽっちもね」

盗賊「姫様は後悔してんのか? あの時、外に出たいなんて言わなかったら良かったってさ」

王女「……外に出たことに後悔はありません。けれど、それによって命を奪われた方がいます」

王女「泥棒さんはわたしの人生だと言ってくれました。そう言われた時、わたしは自由に触れてみたいと思いました。自分の思うように生きてみたいと」

王女「でも、それは無関係の方々の命を奪ってまで欲するべきものなのでしょうか……」
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 18:16:46.04 ID:RlZ2n5szO

盗賊「かなり思い悩んでるみたいだけど、姫様が自分を責める必要は全くないぜ?」

盗賊「殺しの動機は分かんねえけど、命を奪ったのは紛れもなく白い騎士の仕業なんだ」

王女「でも、犯人はわたしを狙ってこの街にーー」

盗賊「その前提から間違ってる。奴は姫様を狙ってこの街に来たんじゃない。俺を狙って来たんだ」

王女「……えっ」

盗賊「俺も最初は姫様を狙って来たもんだと思ってたよ。でも違ったんだ」

王女「あの、何故そう言い切れるのですか?」

盗賊「奴は俺のことを輪転器だと言った」

王女「!?」

盗賊「びっくりだろ? 奴は初めから俺を狙ってたんだ。実際、姫様のとこに向かう素振りは一切見せなかったしな」
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 21:10:32.16 ID:RlZ2n5szO

王女「い、意味が分かりません。何で泥棒さんを輪転器だなんて言ったのでしょう?」

盗賊「さあね、俺にもさっぱりだ。でも、奴は確かに輪転器と言った」

盗賊「私の器として生まれたことを光栄に思え。今こそ転生する。そう言ってたよ」

王女「ですが、輪転器とは王のみが所持するものなのですよ?」

盗賊「ああ知ってる。だからこそ秘宝って呼ばれてるわけだしな。でも、それだけじゃない」

王女「?」

盗賊「奴にとどめを刺した時、あるものを見たんだ」

盗賊「血を流し過ぎて頭がおかしくなったのか幻覚を見たのかもしれない。それを踏まえた上で聞いてくれ」

王女「えっ…は、はい。分かりました」

盗賊「意識を失う直前、奴の顔を見た」

盗賊「……俺と同じ顔。まるで水面に映したみたいにそっくりだった」
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 22:49:24.35 ID:RlZ2n5szO

王女「冗談…ではないのですね」

盗賊「ああ、朦朧としてたけどはっきりと憶えてる。兜が外れたと思ったら俺の顔が出てきたんだ」

盗賊「……まあ、だから何だって話なんだけどさ。でも同じ顔なんて気味が悪いだろ? 輪転器だとか言われるしさ」

王女「……今のお話を疑うつもりはないですが、顔や白騎士について確かめる術はありません」

盗賊「確かめる術がない? 遺体が消えてたとか?」

王女「い、いえ、そうではありません」

王女「王宮関係者である騎士団長さんも立ち会って身元を確認したらしいのですが、判別不能だったと言っていました」
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 23:12:43.97 ID:RlZ2n5szO

盗賊「えっ、何で?」

王女「……遺体が枯れ果てていたらしいのです。まるで血の一滴まで吸い取られたように」

盗賊「んな馬鹿な!! あんなに元気に飛び跳ねてたってのに中身は干涸らびてたってのかよ」

王女「兵士さんや騎士団長さん。警備隊の皆さんも同じ反応をしていました。あり得ない…と」

盗賊「ってことは白騎士については何も掴めなかったのか。益々わけが分からなくなったな」

王女「……そうですね。様々な思惑が蠢いているような気がします」

盗賊「(あの爺さんが嘘吐いてんのか? それとも将軍が裏で何かやってんのか?)」

王女「………」キュッ

盗賊「(……家族に命を狙われてるかもしれないんだ。血の繋がりがなくても、そう考えるだけで辛いだろうな)」

盗賊「(姫様は巻き込んだって言ってたけど、巻き込まれたのは俺達の方なんじゃねえか? 何かもっと、大きなものに……)」
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/02(日) 01:56:05.18 ID:If7cuYzZO
飽きた?
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 23:32:06.85 ID:uwchgiKz0
まってる
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 18:07:10.88 ID:/nEX0JHPO

盗賊「………」ウーン

王女「泥棒さん? どうしました?」

盗賊「あ〜。いや、何でもない。さっきのやつまだ残ってるかな。喋り過ぎて喉が渇いてきた」

王女「あっ、はい。まだありますよ」スッ

盗賊「ありがとう。んっ…あ〜、美味い。ところで姫様、俺はどのくらい寝てた?」

王女「丸二日です。あの夜、兵士さんとお医者様がこの教会跡地に運んでくれたのですよ?」

盗賊「……そっか。じゃあ後で礼を言わねえと。姫様にも面倒掛けちゃったな」

王女「いえ、そんなことはありません。わたしにはこれくらいしか出来ませんから……」

盗賊「そんな風に言うなよ。俺はその『これくらい』ってやつに助けられたんだからさ」ニコッ

王女「……泥棒さん…」

盗賊「それに、長いこと此処に居て様子を見ててくれたんだろ? そこの机に日記あるし」
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 18:15:41.22 ID:/nEX0JHPO

王女「それはその、色々ありまして……」

盗賊「色々って?」

王女「……街のお医者様がニンゲンに付きっきりで看病することは出来ないと仰ったのです。今にも息絶えようとしているのにですよ?」

盗賊「そ、そうなの?」

王女「はい。それでわたし、恥ずかしながら怒鳴ってしまいまして……泥棒さんの命を救って下さった恩人に対して何て失礼な真似を……」

盗賊「ま、まあそれは仕方ねえさ」

王女「……仕方がない?仕方がないとは何が仕方ないのですか? 死んでいたかもしれないのですよ?」

盗賊「(怖っ!!) い、いや、俺みたいなニンゲンを看病したら気が触れてると思われちまうだろ?」

盗賊「死にかけのニンゲンを助けようとしてくれただけでもありがたいもんだよ。軟膏とかもくれたしさ」
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 19:09:41.02 ID:/nEX0JHPO

王女「……泥棒さんは傷付いたりはしないのですか?」

盗賊「ニンゲンの扱いに?」

王女「ニンゲンの扱いではありません。ニンゲンに対する接し方に。です」

盗賊「接し方…ね。こっち側じゃあ随分と変わった言い方だな。初めて聞いたかもしんねえ」

王女「っ、やはり酷いのですか?」

盗賊「別に酷いとは思わない。こっちにはこっちの常識ってもんがある。だろ?」

王女「……わたしには…あなたを殺してしまう常識など必要ありません」

盗賊「姫様?」

王女「ニンゲンだから助けない。ニンゲンだから一人で戦わせる。ニンゲンだから死んでも構わない。ニンゲンだからっ……」キュッ
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/08(土) 19:38:02.65 ID:bUPlqLnM0
きた!
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 20:46:11.91 ID:/nEX0JHPO

盗賊「そう言ってたの?」

王女「……はい。差別や偏見はニンゲンに限ったことではない。それはこちら側でも起きていることなのだと言われました」

王女「泥棒さんにはこちら側に思うところはないのですか? そういったものに対して……」

盗賊「ん〜、何だか難しい話だなぁ。あのさ、これって俺個人の考えでいいんだろ? ニンゲンとして。とかじゃなくてさ」

王女「はい。泥棒さんの考えを聞かせて下さい」

盗賊「俺はこっちも向こうも変わりないと思うよ? 良い奴はいるけど悪い奴はもっといる」

盗賊「確かに風当たりは強いけど、初めて会った奴といきなり仲良くなんて出来ない」

盗賊「姫様だって初対面の奴に『同族なのでお友達になりましょう』なんて言われたら戸惑うだろ?」

王女「そう…かもしれませんね」

盗賊「なっ? だから種族なんて関係ないのさ。そんなのは性格の不一致ってやつだよ」
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 21:06:45.13 ID:/nEX0JHPO

王女「……性格だけではないと思います」

盗賊「そりゃあ根付いた差別なんかが邪魔するかもしれないけど、良い奴は良い奴さ」

盗賊「ツノがあっても尻尾があっても牙や爪があっても、そこは絶対に変わらない」

王女「そうなのでしょうか……」

盗賊「そうさ。だって実際に助けてくれたのはニンゲンじゃないだろ?」

王女「それは…そうですけれど……」

盗賊「姫様は難しく考え過ぎだよ。種族は違っても男は男。女は女」

盗賊「どのくらいの種族がいるのか知らねえけど性別は二つしかない。必要なのは愛だよ、愛」ウン
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 21:44:21.42 ID:/nEX0JHPO

王女「あ、愛!?」

盗賊「だってそうだろ? 種族が違っても綺麗な女性は綺麗な女性なんだ」

盗賊「ツノが生えていようが尻尾が生えていようが綺麗な女性だという事実に変わりはない」

盗賊「男は女性を守るべきだし女性は男を優しく包み込む存在であるべきだ。と私は思うわけだよ」

盗賊「そう考えれば種族間の問題なんて些細なもんさ。そう思うだろ?」

王女「……何だか、やけに饒舌ですね。言い慣れているように思えます」

盗賊「……これは種族の垣根を越えて仲良くなる為の必要技能なんだ」

王女「綺麗な女性と。ですか?」ニコッ

盗賊「いやいやいや? 俺は別にーー」

王女「泥棒さんが眠っている間、あのお店の看板娘さんから色々な話を伺いました。先日お見舞いに来てくれたんですよ?」ニコッ
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 22:16:07.03 ID:/nEX0JHPO

盗賊「へ〜、そうなんだ。それは嬉しい限りですね」

王女「ええ、わたしも嬉しかったです。ニンゲンとしてではなく本質を見ている方でした。あのような方がもっといれば良いのにと心から思います」

王女「ところで、とってもお上手なようですね。女性を口説くのが」

盗賊「姫様、それは違う。あれは行き違いというか擦れ違いというかアレがアレなんだよ」

王女「フフッ、何がですか?」

盗賊「……え〜っと。ほら、アレだよ。気になる女性に微笑みかけられると俺に惚れてるんじゃないかと思ったりするやつだ」

盗賊「あのキツネ娘は俺が助けた時に掛けた何気ない言葉をそのように捉えたのだと思います」ハイ

王女「勘違いさせるような言葉を言ったのではないのですか? 例えば……」

王女「俺はきみの尻尾は綺麗だと思うぜ? 他の奴等が何を言ってるか知らないけどさ。とか」

王女「尻尾にその模様がなかったら俺ときみがこうして出会うこともなかった。とか」

王女「きみが特別だから尻尾も特別なんだよ。きっと天が二物を与えたのさ。とか」

盗賊「(……あのキツネ、都合のいいとこだけ切り取って姫様に話しやがったな)」
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 23:25:00.85 ID:/nEX0JHPO

王女「……本当に色々なことを聞きました」

盗賊「?」

王女「思い立ったらすぐに動く。何かあれば所構わず飛び込む。無茶ばかりしていると」

王女「根付いた差別や偏見などどこ吹く風、種族も境界線も飛び越えて何処までも自由に……」

盗賊「そんなに考えてねえよ。やりたいことをやってるだけさ」

王女「……大凡の者はそのようには出来ません。何故です? 何故そのように生きられるのですか?」

盗賊「単純な話さ。こういう奴なんだよ、俺はね」

王女「……それでは答えになってませんよ。ずるいです」

盗賊「でもさ、そんなもんだよ。行きたい場所へ行って、見たいものを見る」

盗賊「俺がやってるのはそれだけさ。余計な荷物は肩に載せないようにしてるんだ」
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 23:33:23.52 ID:/nEX0JHPO

王女「余計な荷物?」

盗賊「差別だとかそういうもんだよ。そんなもんベタベタくっつけてたら身動き取れなくなる」

王女「………」

盗賊「くぁ…ごめん。急に眠たくなってきたから寝るよ」ゴソゴソ

王女「あっ、はい。申し訳ありません。傷が痛むのに長話に付き合わせてしまって……」

盗賊「そんなことないよ。多分さっきの飲み物に何か入ってたんだと思う。姫様も疲れてるだろ? 早めに休んだ方がいいぜ」

王女「……はい、そうします。ゆっくり休んで下さい」

盗賊「ん、お休み……」

王女「あ、ちょっと待って下さい。包帯の取り替えと軟膏を塗らないと」

盗賊「あ〜、そっか。じゃあ、お願いします」ムクッ

スルッ…パサッ…

王女「(酷い傷。何度も見たけれど、見るたびにそう思う。治るまでにどれだけの時間が……あれ?)」
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/09(日) 00:12:19.83 ID:LVRUYPaNO

盗賊「…スー…スー…」カクンッ

王女「あっ…」

ポフッ…

王女「ふぅ、危なかった。無理をさせてしまいましたね。後は任せてゆっくりと休んで下さい」

スルスル…ヌリヌリ…

王女「(右肩と胸の傷は勿論、背中の傷にもまだ熱がある。触れていると火傷しそう)」

王女「(聞きたいことは沢山あったけれど、こうして生きているのならそれだけで……)」

盗賊「…ん…」ビクッ

王女「(やはり痛むのでしょうか。泥棒さん、ごめんなさい。もう少しで終わりますから)」

盗賊「…くす…ぐったい…」

王女「(ふふっ、くすぐったかったんですね。何だか赤ん坊みたい……)」
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/09(日) 00:28:35.82 ID:LVRUYPaNO

盗賊「…ん〜……」

王女「(そう言えば看板娘さんが言っていましたね。こんな無防備な姿はそうそう見られるものじゃないって)」

盗賊「…スー…スー…」

王女「………」スッ

プニプニ…

王女「(体は引き締まっているけれど頬は柔らかい。黒髪、おでこ、瞼、鼻筋、唇……)」

王女「(顎から首をなぞって鎖骨から胸板に……)」

盗賊「……寒…い……」

王女「(っ、わたしは何を……早く終わらせて服を着せないと……でも、何だかおかしい)」

王女「(早く傷が癒えて元気になって欲しいのに、ずっとこのままでいられたらなどと考えてしまう……そんなこと駄目なのに)」

ズキッ!

王女「っ、違う。わたしは何も間違っていない。ずっと二人きり。そう、この人はわたしのーー」
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/09(日) 17:44:47.80 ID:zCyzYusgO
面白いですね、乙ー
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:14:12.29 ID:axYEm/xEO

【玉座の間】

老人「首尾はどうだ。順調か」

将軍「それは父上が一番良く分かっているでしょう。私が改めて報告せずとも感じているはずです」

老人「ああ分かっている。分かっているからこそ、お前の口から聞きたいのだ」

将軍「……全ては父上の目論み通りですよ。奴は白騎士に勝利しました。辛勝ではありますが」

老人「納得出来ないと言った顔だな。まだ信じられぬか?」

将軍「いえ。白騎士に期限が迫っていたとは言え、奴は最後まで一人で戦い抜き勝利した。その戦術と技量は認めざるを得ません」

将軍「加えて意志の強さ。抗い難い死の誘惑をも撥ね除ける力を持っている。相応しい器だとは思います」
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:17:08.65 ID:axYEm/xEO

老人「ふむ。ならばその顔の陰りは何だ?」

将軍「認めざるを得ない男ではあります。しかし、奴はニンゲン。器として保つのか否か。そこが気掛かりでなりません」

老人「白騎士に勝利したのが何よりの証明だと思うがな。現に呑まれてはいまい?」

将軍「それは三騎士の全てに通じることです。その結果、彼等は呑まれている」

老人「呑まれたのは彼女を求めたからに他ならない。だが此度は違う」

老人「長い長い時を経て、遂に二つの輪転器は揃ったのだ。求めるものが傍らにあるのなら呑まれはせんだろう」

将軍「輪転器が輪転器の狂いを抑えると? 不確定なものに縋るのは如何かと思いますが」
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:19:34.38 ID:axYEm/xEO

老人「フッ、抑える。か」

将軍「……何か可笑しいことでも?」

老人「お前は誰かを愛したことがあるか?」

将軍「質問の意味が分かりません。それとこれと何の関係がーー」

老人「良く聞け。もう二度と会うことは叶わぬと悲観に暮れていた。その最中に思い人と再会出来たらどうする?」

将軍「……戸惑うでしょうね。もう二度と会えぬはずだったのですから」

老人「悲観に暮れていた時が千年ならばどうだ? いや、もっと長い時ならばどうする?」

将軍「……想像も出来ません。父上、この問いの意図は何です?」

老人「結論から言えば抑えることなど出来はしないと言うことだ。何せ千年以上も煮詰めた愛だ。止める術などありはせんよ」
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:43:04.47 ID:axYEm/xEO

将軍「あの二人を引き合わせたのは、その狂いを抑える為だったのでは?」

老人「それもある。が、儂の目的は王の力からの解放。あの二人を引き合わせたのもその為だ」

将軍「……今のは父上自身の言葉ですか?」

老人「ああ、これは紛うことなく儂の言葉。彼女の愛を垣間見た、王の声だ」

将軍「千年以上も愛し続けるなど常軌を逸している。そんなものを見続けるなど苦痛でしかないと思いますが」

老人「……王の力を継承をした者の宿命だ。だが、直に解放される。このまま何の邪魔も入らなければな」

将軍「………」

老人「その様子だと上手く行っていないようだな。早めに手を打つものと思っていたが」

将軍「時を計っているだけです。輪転器の破壊はより一層慎重にすべきだということが今の会話で分かりました」

老人「計っている間にも時は回る。頭の中で策を巡らすだけでは何も得られぬぞ」
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:44:43.86 ID:axYEm/xEO

将軍「急かしているようにしか聞こえませんね」

老人「助言しているだけだ。父としてな」

将軍「父の言葉といえども助けにならぬものを助言として受け取るわけには行きません」

老人「フッ、そうか。ならば好きにするがよい」

将軍「元よりそのつもりです。では……」ザッ

ギギィ…パタンッ…

将軍「(奴は負傷している。父上が次の騎士を動かす前に一度仕掛けてみるのも手だ。騎士団長のお陰で口実は出来ている)」

将軍「(こういった場合は挑発に乗った方が面白い。如何なる状況だろうと楽しむ。苦境など苦境と思わなければいい)」

将軍「(明らかに不利な戦であろうと常に有利であるような心持ちで動く。心に余裕があれば戦術の幅も広がる)」

将軍「………そうですよね、父上…」ポツリ
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/16(日) 00:15:00.68 ID:M5pIqeUiO

【詰め所】

警備兵「……ハァ」コトッ

警備兵「(報告書を書こうにも何と書けば良いのか分からない。この二日で何枚無駄にしただろうか)」

警備兵「(事実は事実。起きた事をそのまま書けば良いのだろうが、問題はその事実というやつだ)」

警備兵「(干涸らびた遺体が殺人を犯したなど誰が信じる? これではまるで作り話。創作だ)」

警備兵「…チッ…もう面倒だ。やはりそれらしく現実的に書いた方がーー」

ガチャッ…バタンッ…

騎士団長「……はぁ」

警備兵「お疲れのようですね。団長殿」

騎士団長「それは君もだ。隈が酷いぞ」

警備兵「創作のような事件をさも現実の事件のように創作するのに四苦八苦していましてね」
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/16(日) 14:44:16.94 ID:luxEjUDrO
乙ー
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 00:55:23.55 ID:1R/q2gQOO

騎士団長「報告書か。こんな街の警備兵にしておくには勿体ない程に勤勉だな」

警備兵「お褒め頂き光栄です。団長殿は彼女の付き添いを?」

騎士団長「うむ。あのような輩と二人きりにするわけにはいかんからな。今ならば問題ないだろうが」

警備兵「ということは、奴はまだ?」

騎士団長「ああ、未だ目覚めてはいない。姫様もいつになく思い悩んだ顔をしておられた」

警備兵「……そうですか。ところで彼女は何処に?」

騎士団長「医師の所へ送り届けた。今頃は奴の経過などを話していることだろう」

警備兵「一人で置いてきたのですか。この二日間、片時も離れずに護衛していたというのに」

騎士団長「今日もそのつもりではいたのだが、私が傍らにいると姫様の気が休まらないと思ってな……」
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 01:12:13.63 ID:1R/q2gQOO

警備兵「まあ、そうでしょう」

騎士団長「?」

警備兵「いや、湯浴みにさえ付いて来られればそうなるでしょう? 流石にあれは度が過ぎていますよ」

騎士団長「ぐっ…し、しかしだな……」

警備兵「ご心配なさるお気持ちは分かりますが彼女の素性は知られていません。もう少し楽にしたらどうです?」

騎士団長「それは自分でも思う。しかし敢えて手を抜くだとか肩の力を抜くだとか、そういう類のことは昔から苦手なのだ」

騎士団長「戦闘や訓練ならば出来ないこともないのだが、こういった任務だと中々な……」

警備兵「(厳密には任務ではない。それを任務と捉えて行動するあたりが正に堅物だ。良く言えば勤勉。悪く言えば融通が利かない)」

警備兵「(ただ、部下に好かれる男だということは分かる。思いやりがすぎる嫌いはあるが……)」
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 01:39:52.03 ID:1R/q2gQOO

騎士団長「同じく隊を率いる君に聞きたい」

警備兵「は、はぁ。何でしょう?(こんな街の警備隊と王宮騎士団を一緒にしていいのか……)」

騎士団長「君はいつもどうしている? 癖のある連中をまとめるのは疲れるだろう」

警備兵「まとめてなどいませんよ。事件が起きた時は私が勝手に推理して勝手に解決しているだけです」

騎士団長「何? では、これまで起きた事件の全てを一人で?」

警備兵「ええ、大体は。私ような奴に付いてくる者はいません。ここでは変わり者ですから」

騎士団長「うぅむ、街の平和の為に尽力する者を変わり者扱いか。まるでなっとらんな」

警備兵「……警備隊とは言っても自警団に毛が生えた程度ですからね。仕方がないですよ」

警備兵「隊長はかなり高齢の方で腰痛を理由に長らく休んでいますしね」

騎士団長「高齢ならば若い者が代わればいいではないか。彼は次期隊長を指名しなかったのか?」

警備兵「……実のところ何度も頼まれてはいるんですがね。独断専行の自分には隊長など務まらないと固辞しています」
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/17(月) 02:10:30.43 ID:5HwslOvro
乙ー
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 02:17:42.74 ID:1R/q2gQOO

騎士団長「いかんな」

警備兵「?」

騎士団長「如何なる集団だろうと長は必要だ。頼るとも頼らざるとも部下の自由だが、長がいれば個々が締まる」

騎士団長「警備隊の面々を見たが、俺がやらずとも誰かがやるだろうという雰囲気に満ちている。その『誰か』というのが君だ」

警備兵「………」

騎士団長「有能が故に同僚と馴染めないのなら、才を活かして上に立つべきだ」

警備兵「親身になって頂いて恐縮ですが、私は人を束ねるような器ではないので……」

騎士団長「束ねずともいい」

警備兵「どういうことです?」

騎士団長「上に立つ者が成果をあげれば勝手に付いてくる。君の場合、同じ立場だからいかんのだ」
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 02:24:38.98 ID:1R/q2gQOO

警備兵「はぁ、そうなんですかね」

騎士団長「ああ、断言出来る。君と似た奴が王宮で隊長をやっているからな」

警備兵「(意外と懐が深いんだな。輪を乱す者は許さない徹底した規律を持つ集団かと思っていたんだが……)」

騎士団長「そいつは腕は良いが口数が少なくてな……」

騎士団長「誰よりも献身的なのだが人目に付かないようにしていたものだから誰もそれに気付かなかった」

警備兵「では、どうやって隊長に?」

騎士団長「周りが放っておかなかった」

警備兵「?」

騎士団長「倒れたのだ。何もかも自分で出来るものだから無理が祟ったのだろう。それをきっかけに皆が気付いた」

騎士団長「訓練用の武器の手入れや管理。それらを知らぬ間に片付けていた存在にな」
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 02:28:11.86 ID:1R/q2gQOO

警備兵「………」

騎士団長「何でも出来るが頼ることを知らん。口数も少ない。ならば皆で支えよう……という運びになったようだ」

警備兵「そうなるとは限りませんよ。私と彼では環境が違う」

騎士団長「うむ、そうだな。しかし、このままでは機能しなくなるぞ」

警備兵「まあ、考えてはみますよ。それより、そろそろ迎えに行った方が良いのではないですか?」

騎士団長「そ、そうであった!! 早く行かなくては……では、失礼!!」ザッ

ガチャッ…バタンッ!

警備兵「慌ただしい人だ。しかし、あんな風に話したのは初めてだな。あれも彼の人柄の為せる業か……」

警備兵「……俺にああいったことは出来ない。そもそも上に立つなど柄じゃない。やはり一人の方が性に合ってーー」

ガサッ…バサバサッ…

警備兵「……いや、やはり事務員くらいは欲しいな。あまりお茶を飲まなくて綺麗好きでうんと真面目な奴がいい」
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/17(月) 02:36:23.61 ID:1R/q2gQOO
今日はここまで
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/17(月) 13:53:28.51 ID:5HwslOvro
乙ー
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 18:28:13.70 ID:LEa1hsVBO
ーーー
ーー


医師「……何でまたそんなことを」

王女「深い理由などありません。ただ、あの人にはもう少しだけ休んでいて欲しいのです」

王女「あの日からというもの傷を負ってばかり。ゆっくりと眠る間も、傷を癒やす間もありませんでしたから……」

医師「だから嘘を? まだ二日しか経っていないから今はそれで凌げるかもしれないが長くは続かないぞ?」

王女「ええ、分かっています。でも、せめて人の手を借りてでも動けるようになるまでは休んで欲しいのです。だから協力をーー」

医師「悪いが無理だ。俺の立場も危ういんだ。警備兵の旦那には何かあったらすぐに報告しろと言われてる」
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 18:51:45.06 ID:LEa1hsVBO

王女「っ…どうか、お願いしますっ」

医師「………ハァ…分かったよ。あんたのような美女にそこまで頼まれちゃあ断れん」

王女「!! あ、ありがとうございますっ……」

医師「一つ聞いても良いか?」

王女「え、ええ。わたしが答えられる範囲であれば……」

医師「なに、そう難しい話じゃない。俺個人の興味から来る極々単純な質問だ」

王女「?」

医師「お嬢さん。あんたはあいつに惚れてるのか? あのニンゲンに」

王女「はい。わたしはあの人を愛しています。もう、随分と前から……」
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 18:54:20.07 ID:LEa1hsVBO

医師「………」

王女「あの、どうかしましたか?」

医師「い、いや、あまりに素直に答えたもんだから面食らった。付き合いは長いのかい?」

王女「……どうなのでしょうね」ポツリ

医師「?」

王女「自分でも分からないのです。とても長かったような、ほんの瞬きの間だったような気もします」

王女「気付いた時にはあの人を愛していました。この思いは決して叶わぬこととは分かっていながら、わたしはあの人を愛してしまった……」

医師「(叶わぬ恋か。それはそうだろうな。ニンゲンと恋に落ちるなど許されるはずがない)」

医師「(美人な上に家柄もかなり良さそうだ。きっと親が猛反対したんだろう)」
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 18:56:21.84 ID:LEa1hsVBO

医師「………」

王女「あの、どうかしましたか?」

医師「い、いや、あまりに素直に答えたもんだから面食らった。付き合いは長いのかい?」

王女「……どうなのでしょうね」ポツリ

医師「?」

王女「自分でも分からないのです。とても長かったような、ほんの瞬きの間だったような気もします」

王女「気付いた時にはあの人を愛していました。この思いが決して叶わぬことと分かっていながら、わたしはあの人を愛してしまった……」

医師「(叶わぬ恋か。それはそうだろうな。ニンゲンと恋に落ちるなど許されるはずがない)」

医師「(美人な上に家柄もかなり良さそうだ。きっと親が猛反対したんだろう)」
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 19:33:01.48 ID:LEa1hsVBO

王女「あの日のことは、今でも忘れられません」

医師「(なんて深い悲しみに満ちた顔だ。というか、これは若い女が出来る表情じゃない。何というか、まるで未亡人のような……)」

王女「……ごめんなさい、あの人とのことは上手く言葉に出来ません。本当に沢山の…色々なことがありましたから」

医師「そ、そうか。色々と大変だったんだな。済まないな、立ち入ったことを聞いしまって……」

王女「いえ、そんなことはありません。今のわたしはあの人に寄り添って生きていける。それだけで幸せですから」

医師「…ハァ…まったく、そこまで言ってくれる女がいるなんて心底羨ましいぜ」

医師「奴が起きたら今の言葉を直接言ってやれ。痛みを忘れて飛び跳ねて喜ぶだろうよ」

王女「そ、そうでしょうか?」

医師「何を言ってんだ? そこまで言われて喜ばない野郎がいるわけがないだろう?」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 20:11:54.91 ID:LEa1hsVBO

王女「……難しい人ですから」

医師「そうなのか? 話を聞いた限り馬鹿で向こう見ずで楽天的な奴だと思っていたんだが」

王女「そう見えるだけで内面はしっかりしていますよ? 白い騎士との戦いに臨んだのも熟考した上でのことです」

王女「そうでなければ白い騎士を相手に五体満足で勝つことなど出来なかったでしょう」

医師「……まあ、確かに」

王女「考え無しに思えて実はそうではないのです。あの人はあの人なりにしっかりと物事を見ているのですよ?」

医師「分かった分かった。負けたよ。だからそんなに熱く愛を語らないでくれ。このままじゃ胸焼けしそうだ」

王女「そ、そんなつもりで話していたわけではありません!」カァァ

医師「ハハハッ! 済まないな。あまりに熱心に語るもんだからからかいたくなった」

王女「真面目に話していただけなのに……」

医師「(……やけに大人びてると思えば恥じらう少女のように顔を赤らめる。こういうとこにやれらたのかね)」
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 20:44:53.50 ID:LEa1hsVBO

カランッ…カタカタ…

医師「っ、またかよ。本当に気味が悪いな。何なんだよこいつは……」ガシッ

王女「………」

医師「驚いたろ?」

王女「えっ……あっ、はい。とても驚きました。申し訳ありません。突然のことで声も出なくて……」

医師「こんなものを見れば誰でもそうなる。俺も初めて見た時はそうだったからな」

医師「一見普通の結晶に見えるが生き物みたいに動きやがる。興味深いがそれ以上に不気味でな……」

王女「……あの、それをどこで?」

医師「これは奴の腹から取り出したものだ。半ばまで突き刺さっていたんだが傷一つなかった。まったく奇妙なもんだよ、こいつは」カランッ

王女「っ、もし宜しければその結晶を頂けませんか?」

医師「はぁ? 何だってこんなもんを?」

王女「既にご存知だと思いますがあの人は泥棒です。そのような珍妙な品には目がないのですよ」
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 21:48:39.27 ID:LEa1hsVBO

医師「泥棒?」

王女「え、ええ。そうです。ご存知だと思っていましたが……」

医師「(……そう言えば、警備兵の旦那が王宮に忍び込んだとか言ってたな。詳しくは教えちゃくれなかったが)」

王女「……あの、駄目でしょうか?」

医師「いや、別にやるのは構わんよ。置いていても不気味なだけだ」スッ

王女「あ、ありがとうございますっ。急に譲ってくれなどと言って申し訳ありませんでした」

医師「礼も謝罪もいらんよ。元々は奴の腹に刺さってたものだからな」

王女「………」ギュッ

医師「大層嬉しそうだが泥棒ってのはそんなものでも喜ぶのか? 変わってるんだな」

王女「……こういった曰く付きの品を蒐集するのが好きな人なので……」

医師「世の中にはそういう奴がいるみたいだが俺にはさっぱり理解出来んな。何がいいのやら……」

医師「しかし、あんたのようなお嬢さんが泥棒に恋をするなんて信じられんよ」
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 23:00:45.40 ID:LEa1hsVBO

医師「しかも奴はニンゲンだ。尚更疑問だよ」

王女「種族の違いなど些細なことです。同族であっても見るに堪えない争いを起こします」

王女「種族の繋がりなど脆い。今この瞬間にも同族の手によって苦しんでいる方もいるでしょう」

医師「………」

王女「そんな世界で誰を信頼し、誰を愛するのか。それはとても難しいことです」

王女「けれど、わたしは幸運にも彼のような存在に出会えました。この人だけは失いたくない。そう思える存在に……」

王女「彼が何者であろうと、わたしは最期まで共にいるつもりです。それがわたしの望みですから」

医師「(夢見る年頃。良いとこのお嬢さんかとばかり思っていたが、どうやら間違っていたようだ)」

医師「(まさかこんな覚悟を持っていたとは思いもしなかった)」

王女「?」

医師「(まったく、立派な女性だよ。歳で判断するもんじゃないな……)」
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 23:09:59.66 ID:LEa1hsVBO

ガチャッ!

医師「!?」

騎士団長「ひ…お嬢様!!!」

王女「!!」ビクッ

騎士団長「良かった。入れ違いになってしまったのかとーー」

医師「…ハァ…心配して来たのは分かるが驚かさないでくれ。お嬢さんの心臓が止まったらどうする?」

騎士団長「も、申し訳ない……」

王女「あの、何かあったのですか?」

騎士団長「いえ、異常はありません。お迎えに上がりました」

王女「そ、そうですか……」

騎士団長「お嬢様、もうじき日が暮れます。宿に戻りましょう」
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 23:38:52.15 ID:LEa1hsVBO

王女「え、ええ。分かりました」

騎士団長「さあ、行きましょう。何があるとも分かりませんからな」

医師「なあ、警護の人」

騎士団長「……警護? あ、ああ。私に何か?」

医師「いや、随分と過保護だと思ったもんでな。彼女はそんなに良いとこのお嬢さんなのか?」

騎士団長「良いとこのお嬢さんだと……貴様、この方を誰だと思っている」

医師「いや、だから良いとこのお嬢さーー」

騎士団長「喧しい!! いいか、1度しか言わぬから良く聞け!! この方は畏れ多くもーー」
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 23:41:27.87 ID:LEa1hsVBO

王女「あ、あのっ!」

騎士団長「如何しまし………」ハッ

王女「落ち着きましたか? では、そろそろ行きましょう」

騎士団長「は、はい。そうですな」

王女「お騒がせして申し訳ありません」

医師「え? あ、ああ……」ポカーン

王女「それから、お話を聞いて下さってありがとうございます。では、今日はこれで失礼します」

バタンッ…

医師「何がなにやら。まるで嵐のようだったな……」ポツン
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/20(木) 01:28:19.25 ID:GasoOL9so
乙ー
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/23(日) 07:10:00.25 ID:RQkqjq3cO
エタ
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:17:19.57 ID:Y3JrDDfTO

トコトコ…

王女「………」

騎士団長「(う、うぅむ。何か気を悪くさせるようなことをしてしまったのだろうか)」

騎士団長「(先程から何も言わず俯いたままだ。やはり湯浴みに付いていこうとしたのが悪かったのか……)」

王女「……騎士団長さん」

騎士団長「な、何でしょうか?」

王女「好きな人はいますか?」

騎士団長「は…えっ!? 姫様、今なんと?」

王女「何かを犠牲にしても守りたいと思う。真っ先に思い浮かぶ。そういった方はいますか?」
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:19:25.36 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「い、いえ、おりません」

王女「それは何故です?」

騎士団長「何故と言われましても。職務上、愛や恋に現を抜かす暇などありませんので……」

王女「今はそうでしょうけれど恋をしたことはあるでしょう?」

騎士団長「……それは、まあ…騎士になってから交際したことはありませんが」

王女「苦しくはないのですか?」

騎士団長「そんなことはありません。職務の方が大事ですので」

王女「……そうですか。わたしは苦しかったです」ポツリ
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:30:20.95 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「姫様?」

王女「自分の気持ちを押し殺し、あの場所に閉じ籠もっているのはとても苦しかった」

王女「皆の為に諦めた自分の想いや願い。それらを見続ける毎日でした。あの日から、ずっと……」

騎士団長「………」

王女「こうして再び外に出られるだなんて想像もしていませんでした。もう二度と…そう思っていましたから」

騎士団長「……王宮に戻りたくはないと?」

王女「ええ、そうですね。出来ることならこのままでいたいと思っています」

騎士団長「(っ、姫様のお気持ちも今ならば分かる。しかし、騎士としてやるべきはーー)」

王女「けれど」

騎士団長「?」

王女「けれど、そうもいかないことは分かっています。いずれは戻らなければならないでしょう」
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:33:05.55 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「いずれは? それは一体どういう?」

王女「騎士団長さん、一度だけ我が儘を聞いてくれませんか? 一度だけの頼み事です」

騎士団長「……それは、内容によります」

王女「そんなに険しい顔をしなくても大丈夫ですよ。そう難しい話ではありません」

王女「彼が目を覚ますまで待って欲しいのです。彼が目覚めれば王宮に戻ります」

騎士団長「何故そこまでして……」

王女「愛しているからです」ニコッ

騎士団長「なっ…」

王女「わたしがこんなことを言うなんて意外ですか?」

騎士団長「い、いやいやっ! そういうことではありません。奴は悪党、無法者ですぞ!?」
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/24(月) 01:52:13.57 ID:Y3JrDDfTO

王女「ええ、言われずとも分かっています。ですが、それとこれとは話が別です」

王女「彼がわたしを救ってくれたことに変わりはないのです。受けた恩を返すくらいはさせて下さい」

騎士団長「し、しかし…」

王女「とても意地の悪い言い方になりますが、如何にニンゲンとはいえ恩人を見捨てるような真似が出来ますか?」

騎士団長「うぐっ…それは……」

王女「騎士団長としても個人としても、そういった人道に背くようなことを出来るような人とはとても思えませんが……」

騎士団長「わ、分かりました。少しばかり時間を下さい。今すぐには答えられません」

王女「……考えて下さるだけでもありがたいです。先程は意地の悪いことを言って申し訳ありませんでした……」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 02:15:30.09 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「いえ、姫様の仰る通りです」

騎士団長「恩人に対して何も返さぬというのは私も如何なものかと思います」

王女「……ありがとうございます。騎士団長さんが来てくれて良かったです。他の方ならどうなっていたか…」

騎士団長「姫様、まだそうすると決めたわけでは……」

王女「そ、そうでしたね……」

騎士団長「(もう一度あの医師に奴を診断して貰わなければ。その結果次第で決めることにしよう)」

騎士団長「(あまりに長く掛かりそうな場合は姫様には申し訳ないが諦めて頂く他ない)」

トコトコ…

騎士団長「そろそろ宿に着きますな。私は部屋の前にいますので何かあれば仰って下さい」

王女「あのぅ…それなのですが、あれから宿も変更して部屋も広いですし中にーー」

騎士団長「何度も言いましたがそれは出来ません。ましてや姫様と同じ部屋に入るなど決してーー」
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 02:21:14.20 ID:Y3JrDDfTO

王女「湯浴みには付いてこようとしたのに。ですか?」

騎士団長「そ、それははそれ。これはこれです。出掛ける際は必ず同行します。湯浴み以外は……」

王女「フフッ…ええ、そうしてくれると助かります。他の女性客の方達も驚いていましたから」

騎士団長「申し訳ありませんでした。姫様が刺客に狙われているかと思うと周りが見えなくなってしまって」

王女「いえ、わたしだけならばよいのです。ただ、他のお客様にまでご迷惑を掛けるのはちょっと……」

騎士団長「………」

王女「どうしました?」

騎士団長「いえ、何でもありません。さ、宿に着きましたぞ。入りましょう」
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 02:27:10.11 ID:Y3JrDDfTO

王女「は、はい。そうですね」トコトコ

騎士団長「(世辞にも姫様が泊まるに相応しい宿とは言えん。にもかかわらず文句一つ言わず、それどころか他の宿泊客のことまで配慮して……)」

騎士団長「(以前に王族関係者の警護をした時とは天と地の差。あのような輩には姫様の爪の垢でも煎じてーー)」

王女「どうしたのですか? 冷えてきましたし入りましょう? 風邪を引いたら大変ですよ?」

騎士団長「………」ジーン

王女「?」

騎士団長「姫様のことは命に代えてもお守りいたします。御安心下さい」ドンッ

王女「へっ?」

騎士団長「さ、入りましょう。冷えてきましたからな。風邪を引いたら大変ですぞ?」

王女「は、はぁ……」
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/24(月) 15:10:11.92 ID:CLbC6O0Eo
乙ー
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 12:31:53.54 ID:q/U8JrihO

【宿屋】

騎士団長「(愛している。か)」

騎士団長「(あのような快活な笑顔を見るのは初めてだ。恋する乙女とは正にあのことだろう)」

騎士団長「(……だが、あの表情の奥にはそれだけではない何かがあるような気がする)」

騎士団長「(会話の最中には気にならなかったが、今になって妙な違和感を覚える)」

騎士団長「(どう表現すればいいのか分からんが。何というか、姫様らしくなかった)」

騎士団長「(何も知らぬのにらしくないと言うのもおかしな話だが、何かが引っ掛かる)」

『今はそうでも恋をしたことはあるでしょう?』

『何かを犠牲にしても守りたいと思う。真っ先に思い浮かぶ。そういった方はいますか?』

騎士団長「(………あたかも年上の女性と話しているような……そうだ。違和感はそこにある)」
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 12:46:48.53 ID:q/U8JrihO

騎士団長「(からかうのとはまた違う)」

騎士団長「(母親から恋人が出来たのかと訊ねられた時のような。そんな感覚……)」

騎士団長「(あの時の姫様は少女と言うにはあまりにも大人びていた。表情や口調。それらが目上の者に対するものではなかった)」

騎士団長「(道に迷う若者に物腰柔らかく語り掛けるような。あれは、人生を『知っている者』特有のーー)」

コツコツ…

警備兵「随分と難しい顔をしていますが、どうかしましたか?」

騎士団長「いや、少し気になることがあってな。それより、君は何故此処に?」

警備兵「これを届けに来ました。団長殿宛てです」スッ

騎士団長「書簡? こ、この印は……」カサッ

警備兵「……では、私はこれで失礼します」
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 13:32:35.65 ID:q/U8JrihO

警備兵「(王宮からの書簡……)」ツカツカ

警備兵「(大方、彼女を連れ帰れという指示か何かだろう。だが何故だ。何故、騎士団長がこの街にいることを知っている?)」

警備兵「(彼は独断でこの街に来たと言っていたはずだ)」

警備兵「(当初は何かしらの密命を帯びているのかとも思ったが彼は人を騙すような……いや、そんな器用な人物だとは思えない)」

警備兵「(彼が王宮に報せた様子も無い。情報交換をしているとしたら先程の反応はあまりに不自然だ)」

警備兵「(ならば、王宮に情報を流している何者かが街に潜伏していると考えるのが自然だろう)」

警備兵「(……書簡の内容には非常に興味を引かれるが、これ以上の詮索はすべきではないな)」

警備兵「(俺には俺の、彼には彼のやるべきことがある。早く詰め所に戻って報告書の続きでも書くか)」ガチャリ
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 13:35:35.51 ID:q/U8JrihO

ドタドタドタッ!

警備兵「ん?」クルッ

ガシッ!

警備兵「!!?」

騎士団長「…はぁっ…はぁっ…ま、待ってくれ」

警備兵「ど、どうしたんです? 血相を変えて……」

騎士団長「頼みがある」

警備兵「は、はい?」

騎士団長「事情は説明する。しかし此処ではまずい。姫…お嬢様には申し訳ないが部屋で話そう」

警備兵「いや、急にそんなことを言われましても。それに、まだ協力するとは一言もーー」

騎士団長「頼むっ!この通りだ!!」ザッ

警備兵「……一大事。ですか」

騎士団長「……ああ。一大事だ」

警備兵「……分かりました。では、急ぎましょう。表情から察するに時間もなさそうだ」
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/28(金) 03:27:34.28 ID:5n2/RwoyO
乙ー
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/28(金) 23:59:43.96 ID:wa2XofG2O

ーーー
ーー


盗賊「………殺す?」

看板娘「そ。不要になった輪転機の破棄。それから輪転機が輪転器であることを知る者の抹消」

盗賊「つまりは姫様と俺を殺せってことか。依頼に裏があるとは思ってたけど随分と急だな。それは爺さんが?」

看板娘「違う違う。王サマの息子、将軍だよ」

盗賊「あ、そう。まあ、それはどっちでもいい。それより足洗ったんじゃなかった?」

看板娘「あれ、足洗ってるとこなんて見せたっけ? 一緒にお風呂入ったことないよね?」

盗賊「……見られてなくても風呂に入ったら足は洗えよ。清潔感のない奴は嫌われますよ?」

看板娘「失礼な。ちゃんと隅々まで洗ってるよ。なんなら嗅いでみる?」
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 00:14:47.72 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「魅力的な提案だけど遠慮しとくよ。で?」

看板娘「ん? 何が?」

盗賊「何がじゃねえよ。質問の意味分かってんだろ。お前はどっちの味方なんだ?」

看板娘「あたしが敵に見えるわけ? 敵はこんなにペラペラ喋らないよ」

盗賊「……王宮の奴等に情報売ってた癖に良く言うぜ」

看板娘「あたしが売らなくても奴等なら直に嗅ぎ付けてた。それに、そのまま売ったわけじゃないから安心して? 現にこの場所まではバレてないし」

盗賊「はぁ…お前、王宮の奴等相手に偽情報掴ませてたのか。相変わらずだな」

看板娘「全部が嘘ってわけじゃないよ。真実7の嘘2。創作1って感じ」

盗賊「……比率なんかどうでもいいんだよ。いいのか? また前みたいなことになっちまうぞ」

看板娘「大丈夫。そうはならないしヘマもしない。何せ、これが最後の仕事だからね」
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 00:26:10.92 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「……何でだよ」

看板娘「?」

盗賊「せっかく表に慣れてたのに何で戻っちまったんだ。真っ当な人生に飽きちまったのか? あんなに憧れてたってのによ」

看板娘「……あんたのこと嗅ぎ回ってる奴がいたんだ。あんなの見ちゃったら仕方ないでしょ?」

盗賊「だったら俺に直接言えば良かっただろうが。危険を犯して情報流した意味が分かんねえ」

看板娘「ちょっとでも向こうの足を遅らせようと思ってさ。駄目だった?」

盗賊「駄目っつーか、せっかく手にしたもんを簡単に手放すなよ。店の制服似合ってたのに勿体ねえな……」

看板娘「……今の暮らしを手に出来たのはあんたがいたからなんだ。だからさ、少しくらい恩返しさせてよ」
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 01:11:48.45 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「返される恩がデカ過ぎんだよ」

看板娘「そう? あの時と同等のものを返そうとしてるつもりなんだけどね」

盗賊「そもそも恩を売ったつもりはねえ。だから返す必要なんかないんだ」

看板娘「あんたがそう思ってても、あたしにとってはそうじゃない。返すなら今しかないの」

盗賊「……今を捨ててまで返すもんじゃないだろ。もう少し後先考えろよ。嫁に行くとか色々あるだろ」

看板娘「結構前から嫁ぎ先は決めてるんだけど相手が乗り気じゃないからね〜」ニコッ

盗賊「……職業柄、収入が不安定なんだ。結婚するなら安定した収入のある男にしときなさい」

看板娘「はぁ、いつもそうやってはぐらかすんだから……罪な男だよね、あんたってさ」

盗賊「そりゃあ常日頃から罪深いことばっかやってるからな。何たって泥棒さんだし」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 01:59:22.06 ID:3Ro3ad/0O

看板娘「……あの、さ」

盗賊「ん?」

看板娘「姫様のこと、本気なの?」

盗賊「どの辺から本気なのか分かんねえけど、今までにないくらい欲しいと思ってる」

看板娘「これでもかってくらいに本気だね。泥棒のクセに姫様に心奪われたわけだ」ニヤニヤ

盗賊「ん〜、そうかもしれねえな。上手く言えねえけど姫様は何か違うんだよ」

看板娘「………そっか。やっぱりそうだよね。うん、分かった」
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 02:04:41.32 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「分かった?」

看板娘「気にしないで、こっちの話だから。それより動けるよね?」

盗賊「そんな風に聞かれたら「はい」としか言えねえだろ。向こうの手筈は整ってんのか?」

看板娘「勿論。向こうには騎士団長と警備兵がいるからね。色々あったけど何とか協力する方向に持っていけたよ」

盗賊「……良く信用してくれたな」

看板娘「事情を説明したら分かってくれたよ。警備兵には過去のことを根掘り葉掘り聞かれたけどさ……」

盗賊「そりゃそうだろうな。で、どうすんだ? 策は練ってあんだろ?」

看板娘「うん。あんたと姫様を今夜中に奴等の手の届かない場所に逃がす」

盗賊「そんなとこあるっけ?」

看板娘「一つだけね。こっち側で王の力が一切及ばない安息の地ってやつがね」
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/29(土) 02:18:19.93 ID:e21hpOA8O
乙ー
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 02:56:36.16 ID:rEyUOzjxO

盗賊「分かった?」

看板娘「こっちの話。それより動けるよね?」

盗賊「そんな風に聞かれたら「はい」としか言えねえだろ。向こうの手筈は整ってんのか?」

看板娘「勿論。向こうには騎士団長と警備兵がいるからね。かなり苦労したけど何とか協力する方向に持っていけた」

盗賊「……良く信用してくれたな」

看板娘「事情を説明したら分かってくれたよ。警備兵には過去のことを根掘り葉掘り聞かれたけどね……」

盗賊「そりゃそうだろうな。で、どうすんだ? 策は練ってあんだろ?」

看板娘「うん。あんたと姫様を今夜中に奴等の手の届かない場所に逃がす」

盗賊「えっ、そんなとこあんの?」

看板娘「一つだけあるんだ。こっち側で王の力が一切及ばない唯一の安息の地っやつがね」
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