魔王「リインカーネーション」

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45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 22:13:30.37 ID:r0gIcZfKO

盗賊「どうかな?」

王女「(今すぐに頷きたい。此処から連れ出してと叫びたい。でも、わたしが居なくなったら沢山の方に……)」チラッ

盗賊「………」

王女「(同意なんて求めずに連れ出してくれたら…っ、やっぱり、わたしは弱虫で臆病者だ)」

王女「(こんな時になっても他人に身を委ねようとしている。わたしには、何も変えられない)」

王女「(今こそが変わる機会なのに。それなのに……わたしは……)」

ガチャガチャ…

王女「っ、兵が来ます。逃げて下さい」

盗賊「そりゃ無理だ」

王女「ご自分の置かれている状況を理解しているのですか!? 殺されてしまうかもしれないのですよ!?」

盗賊「そんなことは百も承知さ。おそらく牢にぶち込まれることなくその場で殺される」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/29(月) 22:16:09.97 ID:wnXFQb9SO
>>44
アスペ
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 22:41:24.07 ID:r0gIcZfKO

王女「なら何で!!」

盗賊「だって、きみの返事を聞いてないだろ?」

王女「っ…わたしのことなんてどうだって良いではないですか!! もっと自分のことを…」

盗賊「そうだね。全く以てその通り」

盗賊「きみの場合、俺なんかの心配をせずに自分のことを考えるべきだ。きみの人生なんだからさ」

王女「(……わたしの…人生…)」

盗賊「それに、攫うとは言ったけど無理矢理ってのはあんまり好きじゃないんだ」

盗賊「きみが外へ出たいって言うなら、どんなことがあっても連れ出してみせる。部屋に戻りたいって言うならそれでもいい」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 23:16:43.13 ID:r0gIcZfKO

王女「………」

ガチャガチャ…

盗賊「……もう一つだけ。きみは輪転器なんて無機質なモノじゃない。きみは、生きてる」

王女「!!」


『『『賊め!姫様を離せッ!!』』』


盗賊「(うじゃうじゃ来やがって。まあ、道は塞がれたけど天井高いし何とかなるか)」

王女「……あの」

盗賊「ん?」

王女「まだ、間に合いますか?」

盗賊「勿論さ。何事も遅すぎるなんてことはない。出来ればもう少し早くして欲しかったけどね」ニコッ

王女「……クスッ…わたしも星空を見たいです。だから…だから、此処から連れ出して下さい」ギュッ

盗賊「分かった。じゃあ、責任を持ってお連れするよ。星空の見える場所に」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 23:52:11.19 ID:r0gIcZfKO

盗賊「さて、と。じゃあ、ささっと行きますか」

王女「(何でこんなにも余裕を持っていられるのでしょう? まるで、こういった状況に慣れているような……)」

盗賊「姫様、そのまましっかり掴まってくれ。それから深く息を吸って息止めて」

王女「は、はいっ」

『『『もう一度言う、姫様を…』』』

盗賊「絶対に離しません」ポイッ

ボフッ…ブワッッ…

『煙玉? こんなもので逃げられ…何だ…眼が…痛ッ!?』

『ゲホッ…ゲホッゲホッ!! 涙が止まらん!!何だこれは!!』
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 00:05:51.39 ID:DGgZ3uF7O

盗賊「よっ…」ヒュッ

王女「(奥の柱に鞭を絡ませた…一体何を…)」

盗賊「おっさん、悪いけどちょっと肩貸りるぜ?」タンッ

『ゲホッ…上だ!上にいる!天井を狙え!!』

『馬鹿、止せ!! 姫様に刺さったらどうする!!武器を下げろ!!』

グサッ…

盗賊「ッ…」ダッ

王女「(凄い、壁を走ってる。私を抱き抱えているのに……最初から、こうするつもりで…)」

盗賊「……ッ!!」グラッ

ズダンッ…

盗賊「ふ〜っ、何とか上手くいったな。姫様、怪我はねえか?」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 00:36:32.67 ID:DGgZ3uF7O

王女「は、はいっ。大丈夫です」

盗賊「なら良かった。さて、増員が来る前にずらからねえとな。しっかり掴まってろ」

王女「………」ギュッ

盗賊「ッ…じゃあ、行くか」ダッ

王女「(……風を切る音がする。それから、彼の鼓動も…)」

盗賊「(背中が痛え。こりゃあ結構深いな、後で縫って貰わねえと……)」

王女「どこか痛むのですか? 顔色が…」

盗賊「たまに顔が紫色になる体質なんだ。だから気にしなくて良い。それより聞きたいことがあるんだ」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 01:02:18.47 ID:DGgZ3uF7O

王女「何です?」

盗賊「姫様って裁縫とか出来る人?」

王女「え、ええ。刺繍や編み物などは好きですから多少は…ですが、何故そんなことを?」

盗賊「いや、何となく聞いただけ。俺、料理と裁縫出来る人が好きなんだよ」

王女「そ、そうですか……(案外、普通の人なのかも…)」

盗賊「(感覚がなくなってきてる。視界もぼやけてきやがった。けど、もう少し…もう少しで……)」

王女「ところで、何故上に向かっているのですか?」

盗賊「正門はがっちり固められてる。一階からは無理だ。でも、下りなきゃ逃げられない」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 01:03:41.17 ID:DGgZ3uF7O

王女「では、どうやって脱出を?」

盗賊「あの大窓から飛び降りる。丁度あの真下に厩舎があるんだ」

王女「へっ? 今までずっと上へ上へと走っていましたよね? 結構な高さがあるのでは…」

盗賊「準備はしてあるから大丈夫」

盗賊「さ、破片入らないように目を閉じて。それから舌噛まないように口も閉じてな」

王女「んッ…」

盗賊「じゃあ、行ッ…くぜ!!」ダッ

ガシャンッ!
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/30(火) 13:21:13.24 ID:yTB1hwJs0
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:20:38.40 ID:coyGi7G7O

盗賊「くッ!!」ヒュッ

ガギッ…ギシッ…ギシギシッ…

盗賊「ふ〜っ…姫様、大丈夫か?」

王女「ぅ〜…」

盗賊「(気ぃ失っちまったか。でもまあ、暴れられるよりはマシだな。後は壁伝いに…)」ギュッ

ギッ…ギシッ…

盗賊「(厩舎に兵が集まり始めてる。厩舎の側にある見張り塔の兵もいるな…よし…)」

王女「んっ…っ!!」

盗賊「静かに。大丈夫、大丈夫だよ。しっかり掴んでるから落ちたりしない」

王女「で、でもっ…」ビクビク

盗賊「俺は絶対にきみを離したりしない」

盗賊「だから落ち着くんだ。きみが暴れたら星を見る前に二人揃ってお星様になっちまう」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:21:53.64 ID:coyGi7G7O

盗賊「そんなの嫌だろ?」

王女「!!」コクコク

盗賊「……高いとこは嫌い?」

王女「……ど、どうやらそうだったみたいです。今初めて知りました」ムギュゥ

盗賊「……そっか」

盗賊「(自分のことさえ知らないか。そりゃそうか、部屋から出たことねえんだもなんな…)」

盗賊「(しかし、こうも抱き付かれちゃ動けねえ。本来なら喜ぶべきとこなんだろうけど、こんな場所じゃあ素直に喜べねえな)」

王女「………」ギュゥゥ

盗賊「……姫様と同じで、星も高所恐怖症だったりしてな」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:24:35.55 ID:coyGi7G7O

王女「?」

盗賊「たまに落ちてくるんだ。うっかり足を滑らせた間抜けな奴が綺麗な尾を引きながら」

盗賊「いや、もしかしたら地に足を着けたかったのかもしれない……」

盗賊「そりゃあもう凄い速さで落ちてくるんだぜ? 願いを唱える暇なんてありゃしない」

王女「……それって…流れ星…のことですか?」

盗賊「うん。あいつらってさ、一体何処に向かってんだろうな? 無事に着陸出来てりゃいいけど」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:26:20.17 ID:coyGi7G7O

王女「フフッ…やっぱり変な人…」

盗賊「少しは落ち着いた?」

王女「…ええ、先ほどよりはだいぶ…取り乱してしまって申し訳ありません……」

盗賊「いいって、気にすんな」

盗賊「それより姫様、こんな場所で悪いけど一つ頼まれてくれないかな」

王女「わ、わたしに出来ることなら」

盗賊「そんな顔しなくても大丈夫さ。まずは腰の革鞄に紐の付いた玉が入ってるから取り出してくれ」

王女「分かりました。んっしょ…ん〜っっ! あっ、取れました! これですか?」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:27:13.71 ID:coyGi7G7O

盗賊「うん、それで合ってる」

王女「あのぅ…これってもしかして…」

盗賊「あ〜、うん。そうだね。姫様の想像通りのものだと思う」

王女「ど、どうすればいいのでしょうか?」ガタガタ

盗賊「火を着けて厩舎の屋根の上に落とすだけでいい。右腕の手甲に擦り付ければ点火出来る」

盗賊「見ての通り俺は両手が塞がってる。これはきみにしか出来ないんだ」

王女「……わたしにしか、出来ないこと…」

王女「(だ、大丈夫。きっと出来る。此処は厩舎の真上。高さはあるけれど外すことの方が難しいくらいだもの)」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:33:19.57 ID:coyGi7G7O

王女「(……だけど、万が一…)」

王女「(万が一狙いが逸れて兵の方々に当たったら…それに、急に風が吹いたりしたら……)」ガタガタ

盗賊「(あ、震えてる)」

盗賊「(大方、下にいる奴らに当たったら…なんて考えてんだろうなぁ)」

盗賊「(こんな時まで他人の心配か。優しいと言うか悠長というか……)」

王女「(やっぱり、わたしには出来…えっ?)」

盗賊「ん? どうかした?」

王女「いえっ、何でも……」

王女「(手のひらに血が…勿論わたしのじゃない。おそらくこれを取り出した時に付着したもの……)」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:36:16.22 ID:coyGi7G7O

王女「(…じゃあ、これは…)」

盗賊「?」

王女「(……きっとあの時。兵の頭上を跳び越えた時に刺された…なら、彼はあの時からずっと……)」

王女「(余裕なんてないはずなのに、わたしを怒鳴ることもせず気遣って……それになのに、わたしは…)」

盗賊「姫様?」

王女「やります。もう、大丈夫です」

盗賊「いや、別に無理しなくても…」

王女「出来ます!」

盗賊「そ、そう? じゃあ、早速お願いします」

王女「(右腕の手甲に導火線を擦り付けて……)」ジュッ

王女「(後は、落とすだけ)」パッ
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 22:31:15.19 ID:coyGi7G7O

コツン…ドガンッ!

『な、何だ!?』

『マズい!今の音で馬が!!』

盗賊「馬達よ、夜遅くに走らせて悪いな。姫様、助かったよ。降りるからじっとしててくれ」

王女「はい」ギュッ

盗賊「(なんか顔付きが変わったような気がする。気のせいか?)」

王女「………怪我、してますよね?」

盗賊「……あ〜、うん。背中をちょっと小突かれた」

王女「小突かれた程度で血は出ません。背中を刺されたのでしょう? 早く手当てをしないと」

盗賊「気持ちは嬉しいけど今は此処から抜け出すことだけ考えろ。俺のことは気にすんな」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 22:35:01.19 ID:coyGi7G7O

王女「でもっ…」

盗賊「じゃあ、頼んでもいい?」

王女「ええ。わたしに出来ることであれば何でも言って下さい」

盗賊「後で俺の背中縫ってくれない?」

王女「分かりました」

盗賊「えっ?」

王女「えっ? どうかしました?」

盗賊「いや、冗談のつもりだったんだけど……本気? かなり気分悪くなると思うよ?」

王女「気分が悪くなる程度であなたの傷が塞がるなら安いものです」

盗賊「(自分より他人か。優しさとはちょっと違うのかもしれないな)」
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 23:44:11.61 ID:coyGi7G7O

王女「………」ギュッ

盗賊「(そうか、怖いのか。誰かが傷付くこと、傷付きを見ることが…)」

盗賊「(あんなに躊躇っていたのに爆弾を投げたのも、自分が逃げ出す為じゃなく俺の傷を知ったから?)」

盗賊「(まったく…あの爺さんは何でこんな娘を選んだんだ? いや、この娘だからこそか?)」

王女「……下は、凄い騒ぎになっていますね」

盗賊「そりゃそうさ。王女様が攫われたんだぜ?」

王女「輪転器です。彼らにとっては…」

盗賊「そうかな、姫様が輪転器だってことを知らない奴だっているんだろ?」

王女「ええ。けれど、何故か他人事のように見えてしまうのです。わたしのことなのに、別の何かを捜しているような……」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 23:48:49.50 ID:coyGi7G7O

盗賊「じゃあ、自分探しだな」

王女「自分探し?」

盗賊「だって姫様は自分のこと知らないだろ? 高所恐怖症だってことも知らなかったしな」

王女「………」

盗賊「きっと迷子になってる。なら、きちんと捜してあげないとダメだ」

盗賊「自分は何が好きで何が嫌いなのか。得意なことや苦手なこと。他にも色々ね」

王女「……自分探し…わたしに見つけられるでしょうか?」

盗賊「きみにしか見つけられない。だから迎えに行こう。外に出て、探しに行くんだ」

王女「……あなたは、本当の本当に不思議なニンゲンですね」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 23:51:37.27 ID:coyGi7G7O

盗賊「じゃあ、自分探しだな」

王女「自分探し?」

盗賊「だって姫様は自分のこと知らないだろ? 高所恐怖症だってことも知らなかったしさ」

王女「………」

盗賊「きっと迷子になってるんだ。なら、きちんと捜してあげないとな」

盗賊「自分は何が好きで何が嫌いなのか。得意なことや苦手なこと。他にも色々ね」

王女「……自分探し…わたしに見つけられるでしょうか?」

盗賊「きみにしか見つけられない。だから迎えに行こう。外に出て探しに行くんだ」

王女「……あなたは、本当の本当に不思議なニンゲンですね」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 00:13:09.12 ID:WrFUAt64O

盗賊「そうかな?」

王女「ええ、わたしたちともニンゲンとも違うような気がします」

盗賊「よっ…」

スタンッ…

盗賊「ようやく地に足付けられたな。さて、続きは星を見ながら話そうか」

王女「いえ、傷を縫うのが先です。縫いながら話しましょう」

盗賊「ははっ、分かった。じゃあ、馬を探すから付いてきてくれ」

王女「馬ですか? 馬は先ほどの爆発で全て逃げ出したのでは?」

盗賊「あれは兵士を追っ払う為にやったんだ。一頭くらいはいるはずだ。肝の据わってる奴が…」

『こ、こらっ!暴れるな!!』

『そいつは相手にするな。誰の言うことも聞きやしない駄馬なんだ。それより賊を捜…ぐはっ!』
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 00:49:50.40 ID:WrFUAt64O

王女「……いましたね」

盗賊「……ありゃあ何人か殺ってるな」

王女「逞しい白馬ですね。ちょっと青白いですけれど……あれは雄でしょうか?」

盗賊「いや、あれは雌だな」

王女「見ただけで分かるのですか?」

盗賊「つぶらな瞳してるからな」ウン

王女「えっ?そんな理由で判断するんですか?」

盗賊「今のは冗談。でもあれは確かに牝馬だ。きっと男性社会でストレス溜まってるのさ」

盗賊「牝馬ってのは若い頃は粗暴なもんなんだ。さっきみたいな扱いするから男性不信になるんだよ」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 01:19:41.99 ID:WrFUAt64O

王女「……あれに乗る気ですか?」

盗賊「そうだね。どうやら一番肝が据わってるのは彼女みたいだから」

王女「だ、大丈夫でしょうか?」

盗賊「大丈夫だって、俺の後ろにいてくれ」

スタスタ…

白馬「……」ギロッ

盗賊「夜更けにごめん。きみと話がしたいんだけど…ちょっといいかな?」

王女「(凄い、暴れ馬に話しかけてる。でも動物と会話だなんて出来るのでしょうか?)」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 01:21:33.38 ID:WrFUAt64O

白馬「……」

王女「(あ、何か満更でもない感じ。やっぱり女性だったんですね……)」

盗賊「ありがとう。実は、この王宮から出たいんだ。きみが力を貸してくれれば出られる」

盗賊「その後……きみが良ければだけど、丘の上で星空を眺めながら干し草でもどうかな?」

白馬「……」フイッ

王女「(あぁっ…)」

盗賊「そっか、残念だよ。邪魔して悪かったね。それじゃ…さようなら」クルッ
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 01:24:36.60 ID:WrFUAt64O

王女「(あっさり引き下がった? あれ、馬の様子が……)」

白馬「……」グイッ

盗賊「どうしたの?」

白馬「……」グイグイ

盗賊「離してくれ、僕には時間はないんだ。本当はきみが良かったけど、きみが嫌なら仕方ない」

盗賊「女性に無理強いするようなことはしたくないんだ。さあ、離してくれ」

白馬「……」コテン

王女「(甘えた感じで彼の肩に頭を乗せた!? あれは乗せてもいいということなのでしょうか?)」

盗賊「ありがとう、僕なんかの為に……悪いけど、彼女のことも乗せてやってくれないかな?」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 01:27:19.58 ID:WrFUAt64O

白馬「………」チラッ

王女「こ、こんばんは」

白馬「…フーッ…フーッ…」

王女「(もしかして嫉妬!? 馬って凄い!!)」

王女「わ、わたしは別にそんなつもりはないです。どうか乗せて下さい。お願いします」ペコッ

白馬「………」フンッ

王女「(は、鼻で笑われた。何だかよく分からないけど悔しい……)」

盗賊「さあ、行こうか」スッ

王女「わたしが前なんですか?」

盗賊「後ろで俺に掴まってたら変に見られるだろ? きみはあくまで俺に攫われるんだから」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 01:50:15.18 ID:WrFUAt64O

王女「……そうでしたね。分かりました」

盗賊「じゃあ、行こうか」

ガガッ…ガガッ…

王女「(うわぁ、景色が凄い速さで変わっていく。馬ってこんなに速かったんだ!!)」

盗賊「(大門の前には槍兵と騎兵の壁か……)」

盗賊「(あの爺さん、何がなんでも俺を討ち取れって言ったんだろうな)」

盗賊「(依頼がバレないように警備を増やせとは言ったけど、ここまでやれとは言ってないぜ)」

盗賊「(槍兵は騎兵を崩せば何とかなる。戦う必要もない。隊列さえ崩せればそれでいい)」

ガガッ…ガガッ…

盗賊「どっちの馬が優れてるのか」ジュッ

盗賊「度胸試ししようじゃねえか」ブンッ

ドガンッ!ドガンッ! ブワァッ…

王女「土煙で前が!」

盗賊「そりゃあ向こうも同じさ。このまま突っ切る!!」

ガガッ…ガガッ…

盗賊「良しッ、隊列は乱れた!! 跳べッッ!!」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 02:07:24.84 ID:WrFUAt64O

王女「(月が目の前に…本当に飛んでる)」

盗賊「越えた!このまま突っ走るぞ!!」

ヒュッ…ドッッ…

盗賊「ぐっ…」クルッ


射手「……………」


盗賊「(見張り塔? あんなとこから当てやがったのかよ。バケモンかアイツは)」

王女「どうかしましたか?」

盗賊「ッ、いや、何でもない。前見てろ。このまま行けるとこまで行くぞ」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 02:08:58.98 ID:WrFUAt64O

王女「は、はいっ!」

ガガッ…ガガッ…

盗賊「(やっぱり報酬は貰おう。何がなんでも貰おう。これじゃ流石に割に合わねえ)」ボタボタッ

ガガッ…ガガッ

王女「かなり遠くまで来ましたけど、これからどうしますか?」

盗賊「……まだだ。もう少し…走る…」

王女「もう無理はしないで下さい。早く傷の手当てをしないと……」クルッ

盗賊「…………」

王女「あのっ、聞いてま…!!?」

盗賊「…………」グラッ

ドサッ…ゴロゴロ…
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 02:11:16.78 ID:WrFUAt64O
また明日
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 04:20:32.00 ID:TvKBxbBaO

面白いよ
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 17:35:24.56 ID:gZZNvJr/0
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:19:22.76 ID:vgh55vgsO

盗賊「(あれ、何で寝転んでんだ?)」

盗賊「(……あぁ、そっか。馬から落ちたのか。あちこち痛え。矢傷に刺し傷。それから打撲)」

盗賊「(まあ、あんだけのことやったんだ。命があるだけマシだと思わねえとな)」

ガガッ…ガガッ……

盗賊「(あ〜あ、戻ってきちまった)」

盗賊「(ったく、そのまま逃げりゃあいいのに。今にも追っ手が来るかもしれないんだぜ?)」

盗賊「(…って言っても無駄なんだろうな。つーか少しは疑え。こんな奴を簡単に信じちゃ駄目だ)」

王女「泥棒さん!!」

盗賊「(何だよ泥棒さんって…まあ、間違っちゃいないけどさ。にしても間抜けな響きだな)」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:23:05.18 ID:vgh55vgsO

王女「今行きます!んっしょ…きゃっ!」ズルッ

盗賊「(あっ、落ちた。馬に乗ったのも初めてなんだろ? あんまり無理すんなって……)」

王女「いたた…っ…泥棒さん!!」タッ

盗賊「(もう泥棒さんでいいから落ち着けって。そんなに走ると転んじまう)」

王女「はぁっ、はぁっ…泥棒さん!しっかりして下さい!!」

盗賊「(悪い。声が出せないんだ)」

王女「わたしの声が聞こえているなら瞬きを二回して下さい!!」

盗賊「(へ〜、凄いな。そんなのどこで覚えたんだ? そういや部屋には本が沢山あったな。読書家?)」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:35:08.56 ID:vgh55vgsO

王女「良かった。意識はあるみたい」

王女「っ、酷い傷…失血も酷い。早く手当てをしないと……」

王女「(でも、こんな所で手当てしていたらすぐに見つかってしまう。そうなったら彼は……)」

盗賊「?」

王女「(っ、そんなのは絶対に嫌。わたしが何とかしなければ彼は死んでしまう)」

王女「(わたしが助けるんだ。他の誰でもない、自分自身の手で。もう、人任せにはしない)」

王女「(とにかく、何処か身を隠せる場所に移動しなければ。手当てをするにもそれからだ)」

王女「(ここに来るまで通ってきた道にそれらしい場所は……!!)」

王女「(少し戻ってしまうけれど、先ほど通った橋の袂の坂を下って川辺に行けば…)」

王女「(でも、戻って見つかったりしたら……)」

盗賊「…ハァッ…ハァッ……」

王女「(っ、今更怖じ気付くな臆病者。見つかったら、その時に考えればいい)」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:49:12.73 ID:vgh55vgsO

盗賊「(なに考えてんだ?)」

王女「泥棒さん、今から運びます。もう少しだけ頑張って下さいね?」

盗賊「(馬に乗せる気なのか? 止めとけ、姫様には無理だって)」

王女「んっ…おもいっ…」

盗賊「(おいおい…無茶すんなよ)」

王女「わたしが助けるんだ。絶対、絶対に助ける。わたししか、いないんだから……」

盗賊「………」

王女「…はぁっ…はぁっ…ん〜っっ!!」

ドサッ…

盗賊「(……本当に乗せやがった。以外と根性あるんだな)」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:52:50.75 ID:vgh55vgsO

王女「…はぁっ…はぁっ…」

王女「白馬さん、もう一度だけ背に乗せて下さい。彼を橋の袂まで運びます」ヨジヨジ

白馬「……ブルルッ…」

ガガッ…ガガッ…

王女「あのっ、ありがとうございます!」

白馬「………」フンッ

盗賊「(律儀か。馬相手に何してんだよ)」

王女「すぐに着きますから待ってて下さいね。きっと…ううん、絶対大丈夫ですから」

ガガッ…ガガッ……

盗賊「(……なあ、姫様。俺を変わり者だって言ったけどさ、きみも十分変わってるよ)」

ガガッ…ガガッ…

王女「あ、あの橋です! あそこから下りて下さい!!」

盗賊「(あ〜あ、こんな娘が魔王になんのかよ。今のままでいいのに、勿体ねえなぁ……)」

ガガッ…ガガッ…ガガッ…
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 21:39:38.34 ID:J6McHLMVO

ド根性お姫さま
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 00:01:15.66 ID:yC23JsdKO

【玉座の間】

老人「そうか、捕り逃がしたか」

騎士団長「陛下、誠に申し訳ありません。全ては不覚を取った私の責任でございます」

老人「済んだことだ。もうよい、頭を上げよ」

騎士団長「ですが姫様を…」

老人「よいと言っている。して、彼奴はどうであった」

騎士団長「?」

老人「直接対峙したのはお主のみ。彼奴が強者であったのかと聞いておるのだ」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 00:04:12.80 ID:yC23JsdKO

騎士団長「強者であります。紛うことなく」

騎士団長「刃は交えておりませんが、戦の最中であって沈着冷静。機転も利く男です」

老人「……ふむ。そうか…」

騎士団長「しかし陛下、何故にそのようなことをお聞きになるのですか?」

老人「……初代王の傍らには、常に一人の騎士がいた」

老人「闇夜にあって幾千の敵を討ち。屍から屍へと渡り歩くその姿はあたかも鴉のようであったという」

老人「彼の者は畏敬の念と共に死の騎士と呼ばれ。多くの騎士に崇められていたそうだ」

老人「王は彼の者を半身の如く信頼し、深く愛していた。添い遂げることは叶わなかったがな」

騎士団長「……そのような話は初めて聞きました。如何なる文献でも見かけたことはありません」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 00:19:20.33 ID:yC23JsdKO

老人「そうであろうな……」

老人「これは輪廻する力に宿る王の記憶。いや、王ではなく一人の女の記憶やもしれん」

老人「幾度もの輪廻。長らく探し求めていた相応しき器。あれを得た時の歓喜たるや…フッ…フフッ…」

騎士団長「へ、陛下?」

老人「そう怪訝な顔をするな。安心しろ、呆けたわけではない。これは事実なのだ」

老人「そして、偶然か必然か。或いは輪廻か……我が娘を奪い去った男は鴉と呼ばれている」

騎士団長「……何故にそのような話を私に?」

老人「お主は期待を裏切らぬ男だからだ。これまでも、現在もな」

騎士団長「は、はぁ…」

老人「……もう下がってよいぞ」

騎士団長「姫様の捜索は…」

老人「追う必要はない。何もせずとも、あれは近々帰って来る。必ず、必ずな……」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 01:28:43.19 ID:yC23JsdKO

【川辺】

盗賊「………」

王女「(革鞄には消毒薬と包帯、針と糸が入っていた。それに、体には数え切れない傷痕……)」

王女「(刺し傷に切り傷。それから火傷。命に関わるようなものも数多くあった)」

王女「……はぁ」

王女「(矢も抜いて傷口も縫って…本で見た薬草を傷口に貼って止血も出来た。後は目覚めを待つだけだ)」

盗賊「…スー…スー…」

王女「泥棒さん。あなたはいつもこんな怪我をしているんですか?」

王女「そんなに沢山の傷を負ってまで手にしたい物って何ですか?」

王女「男の人だからですか? ニンゲンだからですか? わたしには、そこまでする意味が分からないです……」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 01:34:15.87 ID:yC23JsdKO

盗賊「…ッ…ぅぅ…」

王女「(震えてる。先ほどよりも冷えてきているし、何より血を流し過ぎたから)」

王女「(わたしが羽織っていたものを被せたけど、これだけでは足りない……)」

王女「(でも、どうしよう。彼の服は血塗れだったから洗ってしまったし……)」

盗賊「…ハァッ…ぅぅ…」

王女「…………」パサッ

ギュゥゥ…

王女「(迷う必要なんてない。こうすれば温められる。この人を死なせはしない)」

王女「(あなたはあの場所からわたしを連れ出してくれた。傷を負い、血を流してまで……)」

盗賊「………」

王女「泥棒さん。わたし、まだ星を見ていないんです」

王女「一緒に星を見よう。そう言ったのはあなたでしょう?」

王女「……生きて下さい。お星様になんかなっちゃ駄目ですよ…」ギュッ
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 01:35:33.97 ID:yC23JsdKO
また明日
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/01(木) 18:07:56.69 ID:do/w+HRCo
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/01(木) 21:49:50.85 ID:8I1ke8g50
盗賊と姫様の見た目気になるな
盗賊は軽装だけど、鞭やら手甲やら爆弾やら結構色々仕込んだ装備?
姫様は寝間着にケープか何か羽織っただけで持ち物特に無しかな
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 23:49:30.16 ID:zp8uLoG+O

盗賊「(ここは…つーか姫様…)」

ムギュゥ…

盗賊「!?」ビクッ

王女「…スー…スー…」

盗賊「(……通りで温けえわけだ。ったく、臆病なのにやることは大胆だな)」

盗賊「(包帯…手当てまでしてくれたのか。嫌なもん見せちまったな……)」

王女「…っ…ん〜っ…」

盗賊「………」

王女「…スー…スー…」

盗賊「………起きるか。え〜っと…服はあそこか」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 00:26:58.63 ID:oNb79cG2O

盗賊「危ねっ…」フラッ

ボフッ…

白馬「…ブルルッ…」

盗賊「そっか、きみも一晩中傍に居てくれたんだね。ありがとう。助かったよ」

白馬「……」コテン

盗賊「昨日は無理させて悪かったね。怪我してなくて良かったよ」

白馬「……」スリスリ

盗賊「…っくし! ごめん。もう少しこうしていたいけど早く服着ないと…」ザッ

盗賊「(濡れてる。汚れもねえ。姫様、服まで洗ってくれたのか……)」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 00:53:45.01 ID:oNb79cG2O

盗賊「(コートだけ羽織っとこ)」バサッ

王女「…スー…スー…」

盗賊「(まさか攫った相手の世話になるなんて思いもしなかったな……)」

盗賊「っくし! 寒っ…枯れ枝集めて火でも起こすか。早いとこ服も乾かさねえとな」

ーーー
ーー


パチッ…パチパチッ…

王女「…んっ。あれっ…泥棒さん?」

盗賊「お〜、こっちこっち」

王女「(良かった。いなくなってしまったのかと…)」

盗賊「どうした?早くこっちに来て一緒に火に当たろう。服着てからな」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 01:22:50.42 ID:oNb79cG2O

王女「えっ……あっ!!」イソイソ

トコトコ…トスン…

王女「えっと…おはようこざいます」

盗賊「うん、おはよう。傷の手当てから洗濯まで、何から何までありがとう」

王女「いえっ、そんな…」

盗賊「……きみがいなかったら、こうして朝日を拝むことなんて出来なかったと思う」

盗賊「あっ、こういう場合は朝日なんかより姫様を拝むべきなのかもな」ウン

王女「クスッ…泥棒さんが生きてて良かったです。体はどうです? ふらついたりとかは…」

盗賊「血ぃ流し過ぎたからなぁ。たらふくメシ食って寝ればその内に治るさ」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 02:10:33.19 ID:oNb79cG2O

王女「………」

盗賊「いや、本当に大丈夫だから!そんな顔すんなって!!」

王女「でも、傷を負ったはわたしのーー」

盗賊「傷を負った俺が間抜けだからさ。きみのせいじゃない。この話はこれで終わり」

王女「………」

盗賊「さて、と。服も乾いたしそろそろ行こうか」ザッ

王女「えっ? 行くって何処へ……」

盗賊「何処へって、姫様の自分探しに決まってるだろ?」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 02:13:06.84 ID:oNb79cG2O

王女「………」

盗賊「いや、本当に大丈夫だから!そんな顔すんなって!!」

王女「でも、傷を負ったはわたしのーー」

盗賊「傷を負ったのは俺が間抜けだからさ。きみのせいじゃない。はい、この話はこれで終わり」

王女「………」

盗賊「さて、と。服も乾いたしそろそろ行こうか」ザッ

王女「えっ? 行くって何処へ……」

盗賊「何処へって、姫様の自分探しに決まってるだろ?」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 02:28:45.31 ID:oNb79cG2O

王女「(彼は本当に何なのだろう?)」

王女「(あんなにも酷い傷を負っているのに、わたしの何倍も疲弊しているはずなのに……)」

王女「(何故こんなにも、瞳をきらきらと輝かせていられるのでしょう?)」

盗賊「まずは姫様の服を買って、それからメシも食わねえとな」ウン

王女「(まるで昨夜のことなどなかったかのよう。はしゃいでいる子供のような、そんな笑顔…)」

盗賊「姫様も腹減ってるだろ?」

王女「えっ? は、はい…」

盗賊「じゃあ行こうか。俺が外を案内するよ」ニコッ

王女「(彼といれば、わたしもこんな風になれるのでしょうか? 彼のように、自由に……)」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 02:49:06.77 ID:oNb79cG2O
>>92
盗賊は軽装備で複数のウエストポーチ?のようなものに色んな道具を入れています。
所持しているのは鞭と爆弾と催涙玉。それから縄に鉤爪の付いてるやつ。他の武器などは後から出てくると思います。

姫様は寝巻きの上に白熊みたいな、もふもふしてるやつを羽織ってるだけです。

また明日。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/02(金) 03:15:56.70 ID:+s1RSyp0O

もふもふお姫さま
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 21:09:29.73 ID:zq6/qIcJO

【街道】

ガガッ…ガガッ…

王女「わぁ…凄いなぁ…」

王女「(どんどん景色が変わっていく。わたし、本当に外に出たんだ)」

王女「(青空には先ほどより輝きを増した太陽が。ふわふわとした雲は泳いでいるようにも見える)」

王女「(白馬さんが地面を蹴って体が浮くたび、わたしも空を飛んでいるような…そんな気分になる)」

ガガッ…ガガッ…

王女「(ほのかに香る土の匂い。風に揺られる草花。それから挿絵とは全く違う、本物の緑……)」

王女「(何処を見ても何を聴いても心地良い。此処には…外には全てが詰まってるんだ)」

盗賊「姫様、気分はどうだい?」

王女「とっても楽しいです! でも、まだ信じられません。何だか、ちょっとだけ怖いんです」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 21:50:18.16 ID:zq6/qIcJO

盗賊「怖いって何が?」

王女「……昨日までとは違いすぎるからです。望みが叶うなんて思いもしませんでしたから」

王女「それから、こうも思うのです。もしかしたら、これら全ては夢なのではないか…と」

盗賊「人なんて夢遊病者みたいなもんさ。寝てる奴も起きてる奴も、みーんな夢を見てる」

王女「……誰もが、夢を見る…」

盗賊「そ。でも大丈夫、姫様は起きてるよ。流石の俺も人様の夢にまでは入れない」

盗賊「万が一これが夢でも、姫様の夢は誰にも盗めないよ。これは、きみだけの夢だからね」

王女「……もし、もしですよ? 二人一緒に同じ夢を見ていたらどうします?」

王女「これは夢で、現実では牢に入れられてたりしたら? そう考えると、わたし……」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 21:55:28.43 ID:zq6/qIcJO

盗賊「ははっ、面白いこと考えるなぁ」

王女「わ、笑わないで下さい。これでも真剣に考えてるんですから……」

盗賊「分かった分かった。そんなに不安な声出すなよ。旅立ちの朝なんだぜ?」

王女「だって…何だか怖くて……」

盗賊「……もし夢だったら、だっけ?」

王女「は、はい。泥棒さんならどうしますか?」

盗賊「う〜ん。そうだなぁ…夢の終わりまで一緒にいればいいんじゃないの?」

王女「どうしてです?」

盗賊「夢の中で一緒なら、目が覚めた時も傍にいるかもしれない。そしたら、またすぐに連れ出せるから」

王女「じ、じゃあ! もし別々の場所で目が覚めてしまったらどうしますか?」

盗賊「その時はきみを捜して連れ出すよ。そんで、夢の続きを見る。一緒にね」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 00:04:51.98 ID:jI8nlcmOO

王女「(一緒に、夢の続きを…)」カァァ

盗賊「少しは落ち着いた?」

王女「えっ、ええ。安心とは少しばかり違うかもしれませんが、もう大丈夫です」

盗賊「?」

王女「(随分と前に読んだものだから題名は思い出せないけれど、似たような台詞があった)」

王女「(確か…身分の違いから引き離され、それでも互いを愛し続けた男女の物語……)」

王女「(彼女は思い人に会えぬ辛さから心を病み、自害。遠い地にいた彼は、ある日彼女が自害したことを知る)」

王女「(彼女の死を知った彼は嘆き、絶望し、世を憎んだ。何より、強引にでも彼女を連れ去らなかったことを後悔した)」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 00:10:17.59 ID:jI8nlcmOO

盗賊「おっ、見えてきた」

王女「(彼も遂には毒薬を飲んで自害してしまう。そんな、悲劇的な物語)」

王女「(もう眠ろう。わたしは夢を見るのだ。何度でも何度でも。あの日に夢見た、彼女との夢の続きを……)」

王女「(毒薬を飲む直前の台詞だけれど…いえ、だからでしょうか。今でも心に残っている)」

盗賊「そろそろ着くか。あ〜、ハラ減ったなぁ」

王女「…………」

ギュッ…

盗賊「どうかした? まだ怖い?」

王女「いえ、そうではありません。少しばかり体が冷えてしまいました」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 00:16:30.73 ID:jI8nlcmOO

盗賊「寒いのか? こんなに日が照ってんのに?」

王女「いえ、寒くはありません。熱いくらいです」

盗賊「あ〜、昨日はかなり無理してたからな。もしかしたら熱があんのかも……」

王女「……熱、ですか…」

盗賊「もう少しで街に着く。それまでは何とか我慢してくれ」

王女「あっ、急がなくても大丈夫です。こうしていれば、すぐに良くなりますから……」

盗賊「えっ? よく分かんねえけど本当に大丈夫なんだな?」

王女「ええ。心配させてしまうようなことを言って申し訳ありませんでした」

盗賊「何かあったら正直に言ってくれよ? 無理して倒れたら元も子もねえからさ」

王女「(自分は傷を負っても何も言わなかったのに…もっと自分を大事にしないと駄目ですよ……)」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 00:25:37.90 ID:jI8nlcmOO

盗賊「姫様?」

ギュゥゥ…

盗賊「痛い痛い痛い!! 何!?どうした!?」クルッ

王女「……いえ、別に。何でもないです」プイッ

盗賊「はぁ!?」

王女「何でもないですよ?」ニッコリ

盗賊「そっ、そうですか。ならいいですけども……」

王女「前を見ないと危ないですよ? もし落馬してしまったら傷が開いてしまいますからね」

王女「また縫って欲しいのなら構いませんけれど、怪我はして欲しくないので早く前を見て下さい」

盗賊「そ、そうします(笑顔こわっ! 何かしたっけ? まるで分かんねえ)」

王女「(きっと、何を言っても聞いてはくれないでしょうね。あなたは、優しい人だから……)」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 01:20:31.60 ID:jI8nlcmOO

王女「………」

盗賊「(急に黙っちまった。にしても、追っ手が来ねえのは妙だ)」

盗賊「(王宮ではあんだけ警備固めて俺を取っ捕まえようとしてたってのに……)」

盗賊「(あの爺さんなら、俺との関与を少しでも疑われないように大勢使って追わせるはずだ)」

盗賊「(……やっぱり、あの爺さんにも何か裏がありそうだな)」

盗賊「(儂が死んで力の印刷が済むまでとか何とか言ってたけど、それだけじゃねえような気がする)」

盗賊「(……王の輪転器か)」

盗賊「(もう少し調べてみた方が良さそうだな。姫様にも知らされてねえ事実がありそうだし)」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 01:29:08.00 ID:jI8nlcmOO

王女「泥棒さん?どうしました?」

盗賊「いや、何でもねえ。それよりさ、街に着いたら服買うけどどんなのがいい?」

王女「服ですか? 特にこだわりはないので、どんなものでも構いません」

王女「あっ、これからは移動することが多くなると思いますので、動き易いものが良いすよね?」

盗賊「あ〜、そうだな。じゃあ旅人みたいな格好にするか」

王女「でも、よろしいのですか?」

盗賊「何が?」

王女「……わたしはお金品など一切持っていないので、泥棒さんに負担が掛かるでしょう?」

盗賊「そんなの気にすんな。高い物は買わねえしさ。でも、服で誤魔化せっかなぁ」

王女「?」

盗賊「何て言うか…気品?みたいのが邪魔しそうなんだよ。仕草とか口調とか」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 01:31:36.37 ID:jI8nlcmOO

王女「泥棒さん?どうしました?」

盗賊「いや、何でもねえ。それよりさ、街に着いたら服買うんだけどどんなのがいい?」

王女「服ですか? 特にこだわりはないので、どんなものでも構いません」

王女「あっ、これからは移動することが多くなると思いますので動き易いものが良いですよね?」

盗賊「あ〜、そうだな。じゃあ旅人みたいな格好にするか」

王女「でも、よろしいのですか?」

盗賊「何が?」

王女「……わたしは金品など一切持っていないので、泥棒さんに負担が掛かるでしょう?」

盗賊「そんなの気にすんな。高い物は買わねえしさ。でも、服で誤魔化せっかなぁ」

王女「?」

盗賊「何て言うか…気品?みたいのが邪魔しそうなんだよ。仕草とか口調とか」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 01:34:35.48 ID:jI8nlcmOO

王女「では、教えて下さいませんか」

盗賊「教えるって何を?」

王女「泥棒の仕草です。泥棒さんのようになるにはどうすればよいのでしょう?」

盗賊「っ、あははっ! 姫様にゃ無理だって、なれっこねえよ」

王女「な、何故ですか?」

盗賊「そういうところだよ。真面目だし高所恐怖症だしさ」

王女「……なら、泥棒以外で…」

盗賊「いや、そう言われてもなぁ……まあ、街に入ったら一緒に考えようぜ?」

王女「分かり…ました……」

盗賊「(何で落ち込んでんだろ。また何か考えてんのかな。夢とか何とか言ってたし…)」

王女「(本気だったのに、あんなに笑わなくたっていいじゃないですか……)」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/03(土) 01:35:21.48 ID:jI8nlcmOO
また明日
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/03(土) 01:57:38.99 ID:AvIYN9lto
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/03(土) 06:02:52.85 ID:FggD4TT2O
盗賊が鈍感キャラなのは違和感あるな
牝馬はコマしてるのにw
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/03(土) 07:44:13.28 ID:gg6fNRybO
盗賊が鈍感なわけではなく互いに考えてることが擦れ違ってる
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/03(土) 12:40:52.64 ID:FvJOLbsjO
REDSTONEのシーフで再生される
C
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 20:30:45.91 ID:JZOH/8mGO

盗賊「見ろよ姫様。あれが街の正門だ」

王女「あ、あれが正門ですか? それにしては飾りっ気もなくて小さいような気が……」

盗賊「はははっ!そっか、小さいかぁ」

盗賊「でもまあ、王宮の大門を見ちまった後じゃそう思うのも仕方ねえかもな」

盗賊「でもさ、あの街の中には王宮にはないものが沢山詰まってる。絢爛豪華とは程遠い街だけどさ」

王女「入ったことがあるのですか?」

盗賊「ん〜、何度かね。他にも候補があったんだけど、見知った顔もいるから此処にしたんだ」

王女「(……見知った顔? というか、泥棒さんは何で『こちら側』に来たのでしょうか?)」

王女「(王の秘宝。宝具を求めてやって来たと言っていたけれど、ニンゲンである彼が何故…)」
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 20:34:26.89 ID:JZOH/8mGO

盗賊「あっ…」

王女「?」

盗賊「街に入る時に検査みてえなのがあるんだ。姫様は普通にしといてくれ」

王女「えっ!? あのっ、普通と言われましても一体どのようにしたら良いのでしょうか?」ワタワタ

盗賊「そんなに慌てなくても大丈夫さ。そのままでいいってことだから」

王女「は、はぁ…」

盗賊「但し!」

王女「はいっ! 何でしょう?」

盗賊「何があっても馬から下りないように。何があっても俺が何とかするから」

王女「……分かりました。無茶はしないで下さいね?」

盗賊「心配しなくても大丈夫さ。簡単に通れるさ、簡単にね」
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 22:25:53.24 ID:JZOH/8mGO

王女「(そう簡単に行くでしょうか……)」

王女「(こちら側の者はニンゲンに対して敵対的。とは言わないまでも友好的とは言い難い)」

王女「(国家で認定されているような商人ならば問題はないでしょうが、彼のようなニンゲンには風当たりは強いはず……)」

王女「(……けれど、これら全ては本で得た知識でしかない。実際に目の当たりにしたわけではないから何とも言えない)」

門番「はい、そこで止まって下さ…何だ、ツノ無しか……」

王女「(あぁっ、露骨に嫌そうな顔してる。やっぱりこれが普通の反応なんだ……)」

盗賊「角が立たないようにしてるんだ。何事も丸く収まるようにね」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 22:36:57.91 ID:JZOH/8mGO

王女「(な、何で挑発するようなことを…)」

門番「そうか。だが残念だったな。たった今、お前の不用意な発言で角が立った」

門番「さあ、今すぐに馬を下りろ。ニンゲンに見下ろされるのは大嫌いなんだ」

盗賊「はいはい」ザッ

門番「……連れがいたのか。女、お前も下りろ」

王女「(ど、どうしよう。下りなきゃ何をされるか分からない。でも泥棒さんは下りるなって…)」

門番「聞いているのか!さっさとしろ!!」

盗賊「まあまあ落ち着けよ。今なら円満に解決出来るぜ?」ポンッ
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 22:38:16.53 ID:JZOH/8mGO

門番「気安く触るな」バシッ

盗賊「やれやれ、一方的に嫌われてちゃ会話もままならねえな。今なら円満に解決出来るのに」

門番「お前はもう黙ってろ。次に口を開いたら牢にぶち込むからな」ジャキッ

盗賊「………」

王女「(つ、剣を抜いた!もう耐えられない。早く下りないと…)」

門番「………」ツカツカ

王女「(き、来た! ど、どうしよう……)」オロオロ

門番「ん?何だこの馬? まるで青ざめたような毛色だな。気色の悪い」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 22:41:06.49 ID:JZOH/8mGO

白馬「………」ピキッ

盗賊・王女「あっ…」

門番「あ?」

ドガッ!

門番「ぐぇッ!?」

盗賊「そうやって外見で判断すっからそうなるんだよ。色だのツノだの尻尾だの耳だの…挙げればキリがねえ」

門番「こ、この野郎……」

盗賊「おいおい、何怒ってんだよ。蹴られたのはあんたが彼女を侮辱したからだろ?」

盗賊「これからは気を付けた方がいいぜ? 女性ってのは繊細なんだからさ」

門番「言われんでも分かるわ!こちとら妻子持ちじゃボケ!!」ダッ

盗賊「あ、そうなんだ。じゃあ、これで美味いもんでも食わせてやれよ」ピンッ
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 22:43:54.08 ID:JZOH/8mGO

門番「あだっ!? これは…き、金貨!?」

盗賊「言ったろ、円満に解決出来るって。ニンゲン嫌いでも金貨は好きだろ?」

門番「………」

盗賊「で、通ってもいい?」

門番「……とっとと行け。気が変わらんうちにな」

盗賊「あんたが話の分かる人で助かったよ。さて、行こうか」

白馬「……ブルルッ…」

盗賊「大丈夫さ、気色悪くなんかない。彼にはきみの魅力が分からないんだよ」

王女「(まったく動じてない。わたしなんて、まだ脚が震えてるのに……)」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 22:45:40.49 ID:JZOH/8mGO

盗賊「よっ…じゃあ行こう」

門番「………」

盗賊「あ、そうだ。ご家族によろしく」ニコッ

門番「……うるさい。さっさと行け」

盗賊「分かった分かった。でも、そんなに怖い顔してると子供に嫌われるぜ?」

カカッ…カカッ…

門番「(金貨三枚。家族分ってわけか。もう一枚足りないんだが、まあいい……)」

門番「(しかし妙な奴だったな。口の減らない奴だったが、怒る気も失せてしまった)」

門番「……帰りにせがまれてたおもちゃでも買って行くか。それから、嫁にも…」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 23:20:07.48 ID:JZOH/8mGO

ガヤガヤ…

王女「うわっ、人が沢山いますね」

盗賊「賑やかだろ?王宮の連中は時計仕掛けで決まった動きしかしないけど、此処の連中は違う」

盗賊「いや、この街に限ったことじゃない。それぞれがそれぞれの生活をしてるんだ」

王女「な、何だか目が回りそうです」

盗賊「はははっ、慣れるには時間が掛かるだろうな。さて、服を買いに行くか」

カカッ…カカッ…

王女「(皆さん、とっても活き活きとしている。王宮の静けさとはまるで真逆……)」

王女「(それぞれがそれぞれの生き方をして、行きたい場所へ向かって歩いている)」

王女「(わたしと泥棒さんも、周りから見ればそのように見えているのでしょうか?)」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/03(土) 23:59:50.88 ID:JZOH/8mGO

カカッ…ピタッ…

盗賊「はい、此処が服屋」

王女「何だか怪しげな場所ですね。あまり人気もないですし、お店も暗そうな感じで……」

盗賊「ここらの店は大体こんなもんさ。実際怪しげなもの売ってるしな。骸骨とか」

王女「骸骨!? 何に使うのですか?」

盗賊「さあ?飾ったりすんじゃねえの? 此処はそういう物好きが来る場所なんだ」

王女「……あの、この店は大丈夫なのですか?」

盗賊「う〜ん。割と普通、なのかな?」

王女「割と…普通……」

盗賊「大丈夫大丈夫。俺も此処で服買ったことあるから。変装用のやつ」スタッ
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 00:02:15.23 ID:cunM1KS2O

王女「変装?」

盗賊「まあ、入ってみりゃ分かるさ。さ、掴まって」スッ

王女「あ、申し訳ありません。まだ一人では下りられなくて……」ギュッ

盗賊「昨日今日で出来るようになるのは無理だ。少しずつ覚えていけばいい。よっ…」

スタッ…

王女「(少しずつ、かぁ……)」

盗賊「さ、入ろうぜ」

王女「白馬さんはどうするんです? 置いていくのですか?」

盗賊「ちょっとだけ待っててもらう。あんまり待たせないようにささっと済ませよう」

王女「そうですね。一人は危ないですし……白馬さん、ちょっとだけ待ってて下さいね?」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 00:03:12.28 ID:cunM1KS2O

盗賊「ほら、行こうぜ」

王女「は、はいっ。白馬さん、ちょっと行って来ます」ペコッ

白馬「………」イラッ

ゴツンッ…

王女「あうっ…す、すぐに来ますから」

ゴツンッ…

王女「あうっ…な、何で頭突き…」

ゴツンッ…

王女「あたっ…」

盗賊「(何やってんだ。つーか、やっぱ変わってんなぁ……)」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 01:04:10.93 ID:cunM1KS2O
ーーー
ーー


王女「どうでしょう?」

盗賊「う〜ん。似合わないわけじゃないけど、やっぱり違和感があるな」

王女「そうですか……」

王女「出来れば泥棒さんのような服装が良かったのですが、駄目でしょうか?」

盗賊「いや、駄目ってわけじゃないんだ。何て言うか、隠せてないんだよ」

王女「隠せていない? 何をです?」

盗賊「街に来る途中にも言ったけど、気品っていうか姫様の感じが隠せてない」

盗賊「これから追っ手が来るって考えたら、違和感なく見付かりにくい服装が良いだろ?」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 01:06:02.29 ID:cunM1KS2O

王女「確かにそうですよね……」

盗賊「う〜ん……あ、これとかどうかな?」スッ

王女「それは、修道服…ですか」

盗賊「俺みたいなもんと一緒にいるのは違和感あるだろうけど、姫様単体で見た時は違和感ないと思うんだ」

盗賊「言葉遣いや仕草もこれ着てれば自然に見えるはずだ。いい案だろ?」

王女「そうですね……ただ、人の眼を欺く為に修道服を着るのはどうなのでしょうか?」

盗賊「……まあ、そのくらいなら神様も目を瞑ってくれるさ。神には誓えないけどね」

王女「フフッ…分かりました。それにしましょう。あまり時間を掛けたら白馬さんに悪いですし」

盗賊「じゃあ決まりだな。一応こっちも買っとくか。姫様が気に入ったやつ」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 01:10:18.89 ID:cunM1KS2O

王女「そんなっ、一着で十分です」

盗賊「せっかく来たんだ。買わなきゃ損だろ? 着るかどうかは別としてさ」

王女「買わなきゃ、損?」

盗賊「だってそうだろ? 外に出てから初めての買い物だし記念みたいなもんだと思えばいい」

盗賊「それに、あって困るもんでもないだろ? 姫様が泥棒になれるかは別としてさ」ニコッ

王女「い、いつか似合うようになります!」

盗賊「ははっ、そっかそっか。じゃっ、楽しみにしとくよ。気長にね」

王女「(意地悪……)」

盗賊「そんじゃ、会計済ませて早くメシ食いに行こうぜ。腹減り過ぎてくらくらしてきた」ザッ

王女「(……何故だろう。薄暗くて変な場所だけれど、とっても楽しくて胸の奥が騒がしい)」

王女「(わたしはお買い物が好きなのでしょうか? それとも服選びが好きなのでしょうか?)」

王女「(どうなんでしょう。もしかしたら、どちらも好きなのかもしれない……)」

王女「(うん、きっとそうだ。いつかまた、こんな風にお買い物が出来たらいいなぁ……)」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 01:11:38.89 ID:cunM1KS2O
また明日
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 02:09:52.70 ID:k/kZxvatO
頭突き可愛いなww
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 02:23:16.24 ID:NxtN5HVm0
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 07:42:58.52 ID:cQbeti0Jo
牝馬かぁ馬のマ◯コ めちゃくちゃ綺麗なんだよなぁ……
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 21:07:56.02 ID:zg2KpDPrO

【訓練場】

騎士団長「う〜む……」ウロウロ


『今朝からずっとあの調子だ。いつもなら稽古を付けて下さるのに……』

『姫様の安否を考えているのだろう。賊を捕り逃がしたのは自分の責任だとも言っていたよ』

『……そうか。出来ることならば、いつもの溌剌とした団長に戻って欲しいものだ』

『そうだな。あのような姿を見るていると俺まで沈んでしまうよ……』


騎士団長「(追わなくともよい、か。陛下は何を考えておられるのだろうか? 分からん……)」

騎士団長「(何やらお考えがあるようだが、単に我々騎士団ではなく隠密隊に任せたとも考えられる)」

騎士団長「(何より不可解なのは、何故にあのような話を私にしたのか。ということだ)」
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 21:09:28.31 ID:zg2KpDPrO

【訓練場】

騎士団長「う〜む…」ウロウロ

『団長は今朝からずっとあの調子だな。いつもなら稽古を付けて下さるのに……』

『姫様の安否を考えているのだろう。賊を捕り逃がしたのは自分の責任だとも言っていたよ』

『……そうか。出来ることならば、いつもの溌剌とした団長に戻って欲しいものだ』

『そうだな。あのような姿を見ていると俺まで沈んでしまうよ……』

騎士団長「(追わなくともよい、か。陛下は何を考えておられるのだろうか? 分からん……)」

騎士団長「(何やらお考えがあるようだったが、単に我々騎士団ではなく隠密隊に任せたとも考えられる)」

騎士団長「(何より不可解なのは、何故にあのような話を私にしたのか。ということだ)」
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 21:11:08.42 ID:zg2KpDPrO

騎士団長「(初代王と鴉の騎士……)」

騎士団長「(いや、死の騎士だったか。調べてはみたものの、これと言った成果はなし)」

騎士団長「(それ程の人物であれば騎士団創設の記録に残っているはずなのだが、そのような記述は見当たらなかった)」

騎士団長「(まあ、それはいい。何より気掛かりなのは姫様の安否。しかし、姫様はあの時……ん?)」

射手「………」

騎士団長「どうした? 貴様にも弓兵隊の指導があるだろう?」

射手「……もう昼だ。休憩中」

騎士団長「む、もう昼時か。それは気付かなかったな……ところで、何の用があって此処へ?」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 21:12:51.58 ID:zg2KpDPrO

射手「……当てたが、逃がした。私のせいだ」

騎士団長「そんなことはない!! 私がしっかりしていれば姫様は攫われずに済んだのだ!!」

騎士団長「何よりも姫様を優先すべきだった。なのに、あろうことか戦いに熱くなって……」

射手「……あまり、気に病むな。お前が気落ちすると団の志気が下がる。これ食え」

騎士団長「弁当。貴様が作ったのか?」

射手「……料理すると雑念が消える。それ食って元気出せ」

騎士団長「っ、済まない。気を遣わせてしまったようだな。心遣い、感謝する」ペコッ
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 21:16:49.91 ID:zg2KpDPrO

射手「……別にいい。いいから食え」

騎士団長「うむ。ありがたく頂こう」パカッ

射手「……美味いか?」

騎士団長「ああ、美味い。しかし意外だな、貴様に料理が出来るとは微塵も思わなかったぞ」モグモグ

射手「……練習したから」

騎士団長「ん?」

射手「……別に何でもない。たくさん食え」

『団長はいつになったら気付くのだろう。手作り弁当だぞ?』

『さあな。射手さんは口下手だし、うちの団長は煩悩を捨てろとか言う人だし』

『……俺達も食堂で昼飯食おうか。婆さんのしょっぱい手料理だけどな……』

『……そうだな。お二人の邪魔しても悪いし、そうするか』
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 21:38:11.51 ID:zg2KpDPrO


騎士団長「………」モグモグ

射手「……何か、あったのか」

騎士団長「ああ。俺の聞き間違いかもしれんが、姫様はあの時……」

射手「……どうした。らしくない」

騎士団長「始めに言っておくが、この話は他言無用で頼む。まだ誰にも話していないことだ」

射手「……分かった。約束する」

騎士団長「あの夜…鞭で脚を取られ転倒した時、朧気ながらに二人の会話を耳にしたのだ」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 21:39:52.68 ID:zg2KpDPrO

射手「……二人とは?」

騎士団長「奴と姫様だ。奴は姫様に一緒に星を見ようなどと言葉巧みに誘ったが、姫様はそれを拒否した」

騎士団長「しかし、君は無機質なモノではない。生きている。そう言われると姫様は……」

射手「……なんだ。言ってくれ」

騎士団長「ッ、此処から連れ出して欲しいと、そう言ったのだ。そこで私は気を失ってしまった」

射手「……姫様は、自ら望んで?」

騎士団長「いや、先ほども言ったが私の聞き間違いかもしれん。そう決めるにはまだ早い」

騎士団長「それに加え、気になることがもう一つある。陛下が追っ手を出さなかったことだ」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 21:53:11.72 ID:zg2KpDPrO

射手「……賊を刺激しない為。そう聞いた」

騎士団長「あくまで個人の考えだが、奴が姫様を殺すとは到底思えない」

射手「……奴は切れてる」

騎士団長「ああ、確かに異常だ。二日続けて王宮に侵入するなど正気の沙汰ではない」

騎士団長「だが対峙してみると、どうにもそのような狂人や異常者の類には見えなかった」

騎士団長「それに、あれだけの警備体制を行き当たりばったりで抜け出せるはずがない」

騎士団長「今朝、侵入手口と脱出手段を聞いた。聞けば聞くほど、良く練らたものだと思ったよ」

射手「……結局、何が言いたい」

騎士団長「奴は姫様を連れ出す為だけに忍び込んだのかもしれん。事実、金品の類は一切盗まれていない」
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