【アイマス】とあるバーとアイドル達

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1 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:45:21.42 ID:vaSvTruRo

私はとあるバーのマスター。

長年この仕事を続けているが、時折珍しいお客様も訪れる。

例えば、彼女。

「ボク、こういうところに来るの初めてなんです」

夕方のまだ早い時間に訪れたのは、
中性的な見た目で男女問わず人気のアイドル、菊地真。

初めてのバーに一人で来るとは、なかなか肚が座っている。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1496479520
2 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:47:24.28 ID:vaSvTruRo

どうやらこの店は同僚に教えてもらったらしい。確かに心当たりは二三ある。

「何を飲みますか?」

「二十歳になったばかりなのでよくわからなくて…大人っぽいのを飲んでみたいな、とか」

「かしこまりました」

こういったリクエストはこちらとしても嬉しいものだ。存分に知識と技量を発揮できる。
3 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:48:34.01 ID:vaSvTruRo

グラスに氷を入れて冷やしつつ、カクテルを作る。

シェイカーに入れるものは
ブランデー2、コアントロー1、レモンジュース1

氷を入れて、心地よい音と共にシェイクする。私の見せ場でございます。

グラスの氷を捨て、注ぐ。

「お待たせしました」そっとグラスを差し出す。

「サイドカーです」
4 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:49:33.86 ID:vaSvTruRo

「ありがとうございます……うわぁ…綺麗…」

トパーズのような薄橙に彼女は目を輝かせる。グラスを手に、一口含む。

「すごい、飲みやすいですね」

「ええ、甘みがあって女性でも飲みやすいカクテルです」

「なんか、フルーティな感じ」

「ブランデーはブドウの蒸留酒、コアントローはオレンジの皮を用いたリキュールですので」
5 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:50:34.92 ID:vaSvTruRo

こくり、こくりと口に含み、その度に彼女は頬を緩ませる。

「しかし、度数が高いのでお気をつけて。このカクテルは別名"女性殺し"とも呼ばれていますから」

「そうなんですか」

「お客様はお綺麗なのですから、はしたないお姿は似合いません」

「あはは、ありがとうございます。気をつけますね」
6 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:51:29.05 ID:vaSvTruRo

酒が回ると彼女も徐々に饒舌になってきた。

「でね、その女優さんが言うんですよ『お子様ねぇ』って」

「おやまあ」

「それで、ボクだって大人の女性なんだぞ!って思って」

「ここにいらっしゃったのですね」

「はい……すいませんそんな理由で」

「いえいえ、どんな理由であれ、来てくださるのはありがたいことです」

彼女はにへらと頬を緩ませる。
7 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:52:32.47 ID:vaSvTruRo

「しかし、うちに来る必要もなかったかもしれませんね」

「え?」

「あなたは既に、立派な大人の女性ですから」

彼女はきょとんとしたあと、

「ありがとうございます」可愛らしい笑顔を浮かべた。
8 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:53:03.60 ID:vaSvTruRo

「マスター、もう一杯頼んでもいいですか?もう一杯、大人っぽいカクテルを」

「かしこまりました」
9 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:54:06.50 ID:vaSvTruRo

ロックグラスに大きめの氷を一つ。溶けにくいので長く楽しめる。

そこにウィスキーを流し入れる。氷の表面がつやつやと褐色に光る。

さらにそこにアマレット、杏仁のリキュールをほんの少し入れ、
甘いアーモンド香を纏わせる。

最後にマドラーで少し混ぜて、完成

「どうぞ、ゴッドファーザーです」
10 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:54:52.44 ID:vaSvTruRo

「ありがとうございます、ウィスキーですか?」

「ええ、ウィスキーにアマレットで風味付けしたものです」

「アマレットって……」

「杏の核のリキュールです。杏仁豆腐の兄弟と思っていただければ」

「なるほど……いい香り……いただきます……」

ちびりと一口含む。舌の上で転がし、飲み込む。
11 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:56:02.50 ID:vaSvTruRo

「うはぁ…おいしい…なんかすごく濃厚で、複雑な味がする」

「ウィスキーは熟成されるときに複雑な香りを持つんです。
そこにアマレットが更に深みを与える。
ほんのりと柔らかな甘みを乗せた大人の一杯になっています」

「あ、でも喉があっついや」

「度数は高いのでゆっくり召し上がってください」
12 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:56:40.41 ID:vaSvTruRo

カラカラとグラスを揺らしながら、彼女は話す。

「大人っぽさって何なんですかねぇ」

「さぁ…実のところ私にもわかりません」

「そうなんですか?」

「子供の頃に憧れた記憶はありますが」

「ボクから見たら立派な大人ですよ」

「さぁどうでしょうか」

彼女の唇にはグラスに残った氷が触れ始めていた。
13 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:57:15.70 ID:vaSvTruRo

最後に残った褐色の蜜を彼女はぐいっと飲み干した。

「ごちそうさまでした」

「今日はいかがでしたか?」

「うーん…楽しかったけど、大人に近づけたかは微妙ですね」

「そうですか、では是非また」

「はい!また来ます!…その時には大人になれていればいいけど」

「またお待ちしておりますね」
14 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:59:06.21 ID:vaSvTruRo

彼女は会計を済ませて帽子を深くかぶり、帰っていった。

去り際の笑顔は、まだあどけなさの残る少女のようだった。



それから少し立ったある日、私はテレビで彼女を見た。

『私だって…女なのよ!』

迫真の演技。これはこれは、立派な女優じゃないか。と、
私はテレビの前で一人、拍手を送るのだった。
15 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 17:59:45.78 ID:vaSvTruRo

私はとあるバーのマスター。

長年この仕事を続けているが、時折珍しいお客様も訪れる。

例えば、彼女達。

「お久しぶりです。マスター。二人なんですけど大丈夫ですか?」

「あのぅ…私、こういうところ初めてで…」

「大丈夫ですよ。どうぞ」

今日の主役は彼女らしい。

「さて、何を飲みますか?」
16 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 18:00:15.25 ID:vaSvTruRo

【とあるバーと黒髪乙女】
17 : ◆b2/ys3/tgw [sage]:2017/06/03(土) 18:01:08.35 ID:vaSvTruRo
菊地真編はこれで終わりです。
まだ書き溜めがあるので、九時ごろになったらまた投稿します。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/03(土) 19:12:56.50 ID:MAP7Uf+NO

良いな
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/03(土) 19:13:14.99 ID:670iO/eno
たんおつ
アイドルがバーに行くやつ時々立つけど何時も面白い
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/03(土) 19:15:32.82 ID:xi27fmtW0
ええね!
21 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:06:51.24 ID:vaSvTruRo

私はとあるバーのマスター。

長年バーを経営していると、時折珍しいお客様も訪れる。

「あまーいお酒が飲みたいの」

今日のお客様は超人気者。

連続ドラマからバラエティ番組まで引っ張りだこのアイドル、星井美希さん。

「では、カシスオレンジなど」

「あは、いいね。じゃあ、それくださいなー」
22 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:09:33.96 ID:vaSvTruRo

注文を受け、グラスに氷を入れる。

カシスリキュールを注ぎ、その上からオレンジジュースをゆっくりと満たしていく。

マドラーの背を利用し、綺麗な層を作る。

オレンジとバイオレットのコントラストは、南の島の鮮やかな夕焼けを連想させる。

グラスの縁にオレンジを飾り、ストローを刺せば、完成。
23 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:11:29.19 ID:vaSvTruRo

彼女はじっと、その工程を見つめていた。

頬杖をついて、ぼんやりと。

口元はきゅっと、閉じていた。

「カシスオレンジです」

無地のコースターと共に差し出す。

「ありがとうなの」

彼女は姿勢を変えぬまま、目線をこちらに向ける。

その笑みには何か含むものを感じたが、詮索することは野暮だと思った。
24 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:12:05.62 ID:vaSvTruRo

黒いストローをくるくる回すと、グラスの中はじわりと薄紅色に染まっていく。

それは先ほどまでとは違う、春の朝焼けのようにも見えた。

ストローを指で摘んで咥え、一口含む。

舌の上で転がし、飲み込む。

さすが天性のアイドルと言うべきか、その全ての動作が絵になる。

「うん、甘くておいしいの」
25 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:15:48.60 ID:vaSvTruRo

「お口に合いましたようで」

小皿に移したナッツをグラスの隣に置く。

彼女はグラスの色を眺めながら、カラカラと氷を回す。

うつむき加減の瞳が、店内の薄明かりに反射して光る。

「マスターは奥さんいるの?」

アーモンドを摘んで、眺めながら彼女は聞いた。

「はい。もう何年になりますかね」
26 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:16:16.41 ID:vaSvTruRo

「そうなんだ」

そう言ってアーモンドを口に投げる。

カリッという小気味よい音がした。

「今日ね、結婚式だったの」

「ほほう、それはおめでとうございます」

「あ、ミキの、じゃないよ?ミキのプロデューサーの、結婚式、だった」

彼女が式を上げるとなればどんな騒ぎになるのか、検討もつかない。
27 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:16:57.15 ID:vaSvTruRo

乾いた口をお酒で潤しながら、彼女は続ける。

「プロデューサーもね、お嫁さんも、キラキラしてて、すっごい……すっごい、綺麗だった」

光景を思い出すように、彼女はグラスに両手を添え、呟くように言った。

「女性にとって、また特別な式なんでしょうね」

そう言うと彼女は、そうだね、と笑った。
28 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:39:31.02 ID:vaSvTruRo

「羨ましかったな。お嫁さん」

「憧れますか?」

「それもあるけど……うん、そうだね。ちょっと憧れちゃうかも」

少し残ったお酒を啜ってから、彼女は続ける。

「ミキも、同じ場所に立ちたかったな、って」

「いつか立てますよ。同じ様に」

私はそう返したが、彼女は俯き、氷を回すだけだった。
29 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:42:51.63 ID:vaSvTruRo

「何かお飲みになりますか?」

空いたグラスを下げながら聞く。

声に反応しこちらに向いた彼女の顔は、
頬が仄かに赤く染まり、大きな瞳は酒で少しだけ潤んでいた。

「じゃあね、さっきよりもう少し強いお酒がいいな」

悪戯な笑顔で彼女は言う。

「今日のミキのイメージで」

「かしこまりました」
30 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:44:35.68 ID:vaSvTruRo

ミキシンググラスに氷を入れ、氷の角を取る。

そこにバーボンを40cc、スイートベルモットを20cc、ビターズを少し多めに2振り。

氷を溶かさぬよう素早くステア。

カクテルグラスに移し、真っ赤なチェリーを添える。

最後にレモンピールを空で捻れば、完成。

「どうぞ、マンハッタンです」
31 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:45:10.79 ID:vaSvTruRo

彼女は自分の腕に顎を据えて、私の手元をじっと見つめていた。

グラスを差し出すと顔をこちらに向けて、口元で笑った。

「ありがとう」

琥珀色のグラスに真っ赤なチェリーが沈む。

金色のピックがきらびやかに店内の明かりを反射する。

彼女は真横からグラスを見つめ、

「きれいだね」

一言呟いた。
32 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:45:46.86 ID:vaSvTruRo

顔だけこちらに向けて、彼女は聞いた。

「ミキのイメージ?」

「本日の、とのことでしたので」

彼女はようやく体を持ち上げる。真上からグラスを見下ろす。

「キラキラの棘が、真っ赤な心に刺さってるのかな?」

金のピックをグラスの縁に沿わせながら彼女は言う。

「底まで沈んで、かわいそう」
33 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:46:39.77 ID:vaSvTruRo

彼女は瞳を伏せたまま、口元だけで笑う。

「いいえ、そうではありません」

「?」

彼女の頭に疑問符が浮かぶ。

「そのグラスは全てお客様です。真っ赤な心も、金の輝きも」

私は続けた。

「普段の輝きは心の奥底にある確かな信念から、という事です。
 お客様の心は、綺麗な琥珀色をしてらっしゃる」
34 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:47:09.76 ID:vaSvTruRo

気がつくと彼女はこちらをじっと見つめていた。

純粋な瞳に思わず顔を背ける。

柄にもないことした。私は何事もなかったかのように作業を続ける。

「そっか」

彼女は呟き、微笑んだ。

「ありがとうなの」

美しくも可愛らしい満面の笑みに、私は無言のまま小さく会釈を返すことしか出来なかった。
35 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:47:55.53 ID:vaSvTruRo

彼女はグラスに顔を近づける。

「いい香りだね」

「フレーバードワインのベルモットを使っておりますので。ハーブ、ニガヨモギの香りですね」

「そっか……いただきます」

そっと口を付け、一口含む。

じんわりと口の中に広がる風味とアルコール感を確かめながら、ゆっくりと飲み込んだ。

「うん、美味しいの」
36 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:48:54.01 ID:vaSvTruRo

「ありがとうございます」

「コクがあって、まろやかな感じ」

「スイートベルモットを多めにしましたので、味が少し柔らかくなっております」

「あと……ちょっとだけほろ苦いね?」

「少しだけ、苦味を増やしてみました」

「そっか、"今日のミキ"、だもんね」

彼女はグラスを持ち上げ、眺める。
37 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:49:40.38 ID:vaSvTruRo

彼女は暫く考え、一言。

「…うん、ぴったりかも」

また酒を含み、頬に手を当て、舌の上で転がす。

「さすがマスター、って感じ」

こちらにウインクしてみせる。

「ありがとうございます」私はそう一言返した。

彼女は酒の余韻がまだ残るうちに、金のピックをつまみ、赤いチェリーを口に運んだ。
38 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:50:26.97 ID:vaSvTruRo

「甘いチェリーともよく合うね」

「コクがありますので、甘味と相性は良いかと」

彼女は一口ずつ、ゆっくり味わいながらグラスを傾けていく。

「うん、でもやっぱり苦い」

徐々に独り言が増える。

「苦いね」

顔は赤く、瞳は潤む。

「苦いよ」

私は何も言わず、何も聞かず、

ハンカチをグラスの隣に置いた。
39 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:51:17.30 ID:vaSvTruRo

グラスが空になると、彼女は札を一枚置き、コートを羽織った。

「お釣りはいらないの。お話、聞いてもらったから」

サングラスをかけ、こちらにウインクする。目が赤いのは、お酒のせいだろう。

「今日はありがとうなの」

「いいえ、またお待ちしております」

手を振って彼女は店の外へ消えた。
40 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:52:11.17 ID:vaSvTruRo

数ヶ月後、テレビのニュースは星井美希一色だった。
どの番組でも同じ見出し。

「星井美希、電撃結婚」
「お相手は超人気タレント」
「きっかけはドラマの共演か」

連日私のバーはその話題で持ちきりだった。

私は街でもらった号外を見ながら、一人感心する。

「女の子の立ち直りは早いなぁ」と。
41 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:52:48.54 ID:vaSvTruRo

私はとあるバーのマスター。

長年この仕事を続けていると、時折珍しいお客様も訪れる。

例えば、彼女達。

「久しぶり、マスター。今日はツレがいるんだ」

「いらっしゃいませ。お久しぶりです」

「うっひょー……本当にバーだ…」

席へ案内し、私はいつものように聞く。

「さて、何を飲みますか?」
42 : ◆b2/ys3/tgw [saga]:2017/06/03(土) 21:53:20.37 ID:vaSvTruRo

【とあるバーと金色の女王】
43 : ◆b2/ys3/tgw [sage]:2017/06/03(土) 21:55:28.16 ID:vaSvTruRo

星井美希編
これにて完結です。

もう一つお話がありますので、
あと少しだけお付き合いください。

23時前くらいからまた始めます。

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