【モバマス時代劇】依田芳乃「クロスハート」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:05:28.90 ID:MOtOUAlZ0
ネタが浮かんでしまったので投稿。

短いので、もう一個短編をくっつけた。
そちらの舞台は、明治〜大正期の巴里。

第1作 【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作 【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」_
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」 
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
第6作【モバマス時代劇】向井拓海「美城忍法帖」
第7作【モバマス時代劇】依田芳乃「クロスハート」

読み切り 
【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」 
【デレマス時代劇】塩見周子「おのろけ豆」
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
【デレマス時代劇】二宮飛鳥「阿呆の一生」
【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」
【デレマス時代劇】大原みちる「麦餅の母」
【デレマス時代劇】キャシー・グラハム「亜墨利加女」
【デレマス時代劇】メアリー・コクラン「トゥルーレリジョン」
【デレマス時代劇】島村卯月「忍耐剣 櫛風」


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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:05:59.39 ID:MOtOUAlZ0
依田芳乃は、隠れ吉利支丹の村で過ごしていた。

行き当たりではない。狙いをすませてやってきた。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:06:54.53 ID:MOtOUAlZ0
 この村は、実際は見廻によってすでに発見されている。

 しかし、その日の当直の者が村の事を報告せず、秘匿していた。

 彼女達は見返りに、金品や男…時には女を要求している。

 村人達は命が惜しく、泣く泣くそれらを差し出す。

 芳乃は、ここに憎悪を見出した。

 自身の剣を伝えるためには、それが必要だった。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:07:21.31 ID:MOtOUAlZ0
 だが、村人達は頑なに剣を覚えようとしなかった。

 “しすたあ様”の教えに反するからだという。

 この村には、外国人の宣教師がいた。

 名前はクラリス。貧しい地方の出身で、姓はないという。

 彼女が、村人達に非暴力を訴えているらしい
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:08:02.99 ID:MOtOUAlZ0
「隣人愛、ですかー?」

 自身を害する隣人を、なぜ愛さなければいけないのか。

 芳乃は彼女に問うた。

「そうです。

 痛みに痛みを返すだけでは、何も生まれません。

 どうしようもない悲しみが広がっていくだけです…」

 クラリスはそう答えた。

 どうしようもなく、愚か。

 芳乃は思った。しかし口には出さなかった。

 クラリスは、どことなく川島に似ていた。

 それがどこかは、この時はわからなかった。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:08:39.98 ID:MOtOUAlZ0
村は大して裕福というわけではなかったが、皆手を取り合って、

助け合って生きていた。

余所者で、吉利支丹でもない芳乃にも親切にしてくれた。

それゆえ、芳乃は歯がゆかった。

彼女達に、自分の剣を授けられないのが。

魂を懸けられるような深い絆。

それが第三者の悪意で壊されるとき、そこに憎悪が生まれる。

その憎悪が、剣の鬼を育てる。

芳乃はその鬼を増やしたいと強く願う。

及川藩に、自身が復讐するために。

だが一方で、自分のようになってほしくないとも思う。

この二律背反が芳乃の心に、ずっと前から巣食っていた。

7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:09:27.65 ID:MOtOUAlZ0
クラリスがある日、見廻に連れて行かれた。

その時初めて、村人達は抵抗の姿勢を見せたが、

クラリス自身が彼女達を制した。

貴女達の苦痛を、私も分かち合う、と。

涙を流す村人達を、芳乃は冷めた目で見ていた。

「茶番、でしてー…」

悪意のある隣人のために、貢物を差し出す村人とクラリス。

それを遠慮なく貪る見廻達。

芳乃の心のざわめきが、ますます大きくなった。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:10:08.76 ID:MOtOUAlZ0
後日クラリスは、ぼろぼろになって帰ってきた。

何をされたかを尋ねる者はいない。

村のほとんどの人間が、経験したことなのだ。

芳乃は、やつれたクラリスに尋ねた。

「憎い…ですかー?」

彼女は、少し黙った。

「復讐したい、ですかー?」

芳乃はまた尋ねた。

しかしクラリスは首を横に振った。

その瞳には、強い光があった。

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:10:44.42 ID:MOtOUAlZ0

最悪の現実を直視してもなお、そこに留まろうとする覚悟。

芳乃は気づいた。

この“強さ”が、川島と似ているのだ。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:11:10.90 ID:MOtOUAlZ0
しかし彼女には、川島のような力がない。

だから村人達を守るのではなく、

ただ寄り添うことしかできない。

ならば、そこには刀が必要だ。

芳乃は、クラリスの頰を両手でつつんで、

おでこをくっつけた。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:12:39.56 ID:MOtOUAlZ0
「私は神も仏も、信じていないのでしてー」

芳乃は目を閉じた。

その分、肌の感覚が鋭敏になり、

額から、クラリスの鼓動が伝わってきた。

あたたかかった。

「きっと浮世には、地獄だけがあるのでしょうー…」

クラリスは何も言い返さない。

黙って、芳乃の言うことを聞いてくれていた。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:13:41.88 ID:MOtOUAlZ0
「その地獄の中で、皆がそなた達のように生きられるわけでは

 ないのですー…」

ふと、1人の弟子のことが頭をよぎった。

雫のように温かく、川島のように優しく、

芳乃のように憎悪に飲まれた女。

彼女はいま、どうしているだろう。

「私は、不器用だから…私なりに、貴女を守るのでしてー」

そう言った芳乃の頰を、クラリスの手が包んだ。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:14:34.66 ID:MOtOUAlZ0
「…貴女の心を、どうすれば癒す事ができますか?」

芳乃は、答えることができなかった。

答えようがなかった。

クラリスの馬鹿馬鹿しいくらいの優しさが、

胸の奥を揺らした。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:15:13.21 ID:MOtOUAlZ0
その夜、馬にまたがった見廻が村を訪れようとしていた。

上役に、村のことが露見したのだ。

そして、その上役は自分も一枚噛ませろと言ってきた。

だから、見廻達は彼女の所望通り、

毛色のちがった女を献上することにした。

クラリス。極東の片田舎で、隣人愛を説く女。

我らが、再び、たっぷり“愛”について教えてやろうではないか。

上役は、下卑な顔でそう言っていた。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:15:42.65 ID:MOtOUAlZ0
「ちっ。アタシらの分け前が減るじゃないか」

見廻りの1人が舌打ちした。

もう1人は肩をすくめた。

そんな彼女達の目の前に、剣士は現れた。

「こんばんは、でしてー」

見廻達はその剣士を知っている。

依田芳乃。

数週間ほど前から、あの村に滞在している女だ。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:16:30.92 ID:MOtOUAlZ0
「今日は、このまま帰っていただけないでしょうかー」

芳乃はそう言った。

見廻達はげらげら笑った。

「すまないな。

 アタシ達もそうしたいのはやまやまなんだが」

「藩主の飼っている犬が、どうしても若い異国女の

 肉を喰らいたいと、そう仰っているのでな」

芳乃はその言葉を聞いて、うっすらと笑った。

「それじゃあ、躾が必要なのでしてー」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:17:15.79 ID:MOtOUAlZ0
 そうだな、と言いかけた見廻の首が、地面に落ちた。

「貴様っ!!」

 残った方が抜刀した。

 芳乃は剣を力なく下げ、彼女に問うた。

「そなたは、犬? それとも、剣士…どちらですかー?」

「私は剣士、侍だ!!」

 激昂した女が馬上から、刀を振るった。

 しかし芳乃はすでに、馬を飛び越え、

 彼女の真上にいた。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:17:43.17 ID:MOtOUAlZ0
「剣士の足は、4本もないのでしてー」

 受けの太刀は間に合った。

 しかし、膂力と強度が足りず、その頭は柘榴のように咲いた。


 翌朝、ある藩の見廻組に所属する、

 3人の女の死体が川で発見された。

 死体は縄でくくりつけられ、

 「非人」という貼り紙がしてあった。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:20:51.01 ID:MOtOUAlZ0
【デレマス近代劇】速水奏「Acnes Doppel Mi 」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:22:06.59 ID:MOtOUAlZ0
太平が終わり、新たな混沌が生まれる少し前。


速水奏は、巴里の夏を歩いていた。

故郷とは毛色のちがった暑さ。

気温自体は涼しいが、とにかく日差しが強い。

唇に垂れた汗を、奏は舌で舐めた。

すると、町の男達が奏を見た。

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:22:51.09 ID:MOtOUAlZ0
美しい女に、仏蘭西の男は関心を払わずにはいられない。

深い海のような髪。

しっとりと甘い色をした肌。

整った目鼻。形の良いあご。

そして唇。

薄すぎず、厚すぎすぎず。

丁度よく、ふっくらしている。

ほんのり桜味がかって、ふにふにと柔らかそうだ。

濡れるように、 つらつらと輝いている。

男達は奏に、その唇に釘付けだった。

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:23:27.99 ID:MOtOUAlZ0
美しいって罪ね。

奏が自分でそう思っていると、カフェで

小難しげな本を読んでいる金髪娘と目があった。

「Bienvenue à Paris(巴里へようこそ)!」

彼女は陽気な声で、投げキッスをした。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:23:56.48 ID:MOtOUAlZ0
奏は軽く帽子を上げた。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:24:51.39 ID:MOtOUAlZ0

巴里の路面は、日本と異なり石畳である。

なので洋靴で歩くと、こつこつと音がする。

こんな道を下駄で行ったら、さぞ愉快だろう。

「ここ…かしら」

奏は、日本人学生が集まるアパルトメントの前に立った。

呼び鈴を2回鳴らす。

ほどなくして、大柄な仏蘭西女が出てきた。

「ハヤミさん?」

少しぎこちなかったが、日本語だった。

「ええ」

「ヨうコソ、巴里へ!!」

彼女は、大きな腕で奏を抱きしめた。

この国は、いちいち距離が近いのね。

苦笑しながらも奏は抱き返した。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:25:34.83 ID:MOtOUAlZ0
奏が寝泊まりするのは3人部屋で、

すでに2人が入っているという。

奏がドアをノックすると、小柄な日本人の少女が出てきた。

「…どちら様、ですか?」

「大家さんから聞いてないのかしら」

「あの人適当ですから…多分寮のみんな、

 あなたのこと知りませんよ」

あの大らかさは、

仕事のストレスの低さが原因だったのね。

奏は苦笑した。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:26:06.99 ID:MOtOUAlZ0
「私は速水奏、今日からここでお世話になるわ」

「橘ありすです。橘と呼んでください」

「それじゃあ、ありすちゃん。

 部屋に入れてくれるかしら」

ありすは頰をふくらませながらも、ドアを大きく開けた。

こういったからかいに、

慣れているのかもしれない。

部屋は、仏蘭西の平均的なアパルトメントより狭かった。

ベッドが3つに書棚が1つ。

それらが、ぎゅうぎゅうに押し込められている。

しかし、日本よりはずっと広い。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:26:41.62 ID:MOtOUAlZ0
「“ぼんじゅーる”、奏」

ベッドに寝そべっていた女が、唇を突き出して

挨拶をした。

「Bonjour、塩見さん」

 奏も軽く挨拶をして、ベッドに腰掛けた。

「周子でいいよ。

 ところで奏はさー、陸路で来たの?」

 周子が唐突に尋ねてきた。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:27:29.52 ID:MOtOUAlZ0
 はあ、と奏は首をかしげた。

 日本から仏蘭西へ行くのには、大概みな、

 亜墨利加を経由して海路でやってくる。 

 答えあぐねていると、ありすが助け舟を出してくれた。

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:28:59.96 ID:MOtOUAlZ0
「塩見さんは、大陸横断鉄道のことが気になっているんですよ。

 …まあ、あの車両に乗れるのは、

 一握りの富豪か政府の高官ですけど」

 大陸横断鉄道。

 中国の上海から、西班牙(スペイン)の馬徳里をつなぐ、

 前代未聞の鉄道網。

 各国政府からは反対の声が上がったが、

 道楽的でかつ辣腕の資産家達が、彼らを丸め込んで建設させた。

 そこを走る列車もとにかく手がかかっていて、

 食料と水さえ供給されれば、一生そこで暮らせるほどだという。

 乗り込めるのは、富と権力を併せ持つのみ。

 いや彼らでさえも、予約で半年以上待たされるらしい。 

 半端な名家の学生など、駅で門前払いを食らうだろう。

 「一度でいいから、乗ってみたいなー」

 ベッドの上をごろごろしながら、周子が言った。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:29:43.28 ID:MOtOUAlZ0
彼女はあと数週間で、日本に戻ると言う。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:30:10.98 ID:MOtOUAlZ0
 ある夜。

 青年将校は、自身の部屋でそわそわしていた。

 年は20。士官学校を卒業したばかりである。

 学業と訓練に熱心に打ち込み、女を寄せ付けず、真面目一筋の男。

 そのせいで、同期では唯一の童貞。

 下半身が据わってないと敵と戦えんぞ、と周りからからかわれた。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:31:05.33 ID:MOtOUAlZ0
 しかし、女を口説いて寝室に連れこむような度胸がなく、

 このままでは女体を知らぬまま仏印に派遣される。

 自分の目の届かないところで、息子が女を知ったらまずい。

 箍が外れて問題など起こすやも。

 そう思った父親の海軍大将は、彼に娼婦をあてがってやることにした。

 息子の晴れの舞台であるから、ただの娼婦ではない。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:31:39.80 ID:MOtOUAlZ0
 “東洋の椿姫”、城ヶ崎美嘉。

 幼い頃日本の両親に売られ、

 船に揺られて巴里の娼館まで運ばれてきた。

 似たような境遇の者が多かったから、虐められることもなく、

 娼婦としての教育もしっかり施された。

 だが、彼女は他の娼婦とは決定的に違うところがあった。

 東洋のエキゾチックな容貌もそうだが、

 美嘉はとにかく賢かった。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:32:23.39 ID:MOtOUAlZ0
 語学は日本、仏蘭西の他に、

 独逸、英語、伊太利亜、羅甸すべてに堪能である。

 芸術面では、古典文学や戯曲に対する造詣が深く、

 巴里の知識人達を唸らせている。
 
 また、最近天文学の勉強も始めて、論文を読み漁り、

 著名な学者と文通することもあるらしい。

 チェスや骨牌も非常に上手く、相手を退屈させない。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:33:17.91 ID:MOtOUAlZ0
 また、日本人の血のせいなのか、ちょうどよい気遣いができる。

 言われる前に煙草に火をつけ、

 ちょうど飲みたいドリンクが、頼む前に部屋に届く。

 仕事でつらいときなどは、何も尋ねず、
 
 黙って胸を貸してくれる。

 人種がどうとかではなく、美嘉は人間として素晴らしかった。

 巴里の男達だけでなく、女達も彼女のもとを訪れる。

 その城ヶ崎美嘉が、今夜自分の相手をしてくれる。

 しかも、わざわざ青年の屋敷にやってくるのだ。

 どれほど金がかかったのか分からない。

 青年は生まれて初めて、父に感謝した。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:34:23.63 ID:MOtOUAlZ0
ドアがノックされる。

 青年は、椅子を蹴るように立ち上がって、開けた。

「こんばんはっ☆」

 城ヶ崎美嘉だ!!

 来るのはわかっていたのに、青年は驚き、歓喜した。

 彼女は20年ものの

 スコッチウィスキーとグラス2つを抱えていた。

 青年の好みである。

 しかし周りの目もあって、

 ここのところ全く飲んでいなかった。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:35:05.20 ID:MOtOUAlZ0
「入っていい?」

 青年はこくこくと頷いて、美嘉を部屋に入れた。

「あはっ、緊張してる〜?」

 美嘉はテーブルにグラスを1つだけ置いた。

自分は飲まないつもりだろうか。

「それじゃあ、お酒の力を借りて解しちゃおっか☆」

 美嘉がウィスキーを注ぐ。

 黄金色の液体が、グラスに満たされる。

「2人の夜に…」

 美嘉がグラスの縁に口づけをした。

 そして、青年に差し出す。

 女性にまったく免疫のない彼にとっては、

 すでに卒倒しかねないほど官能的な仕草だった。

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