【モバマス時代劇】依田芳乃「クロスハート」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:35:51.89 ID:MOtOUAlZ0
1週間後。昼。

 池袋晶葉は、大学の研究室で親友と語らっていた。

 相手は一ノ瀬志希。

 晶葉は阿蘭陀の工科大学から、彼女を訪ねてきた。

「このまえ発表した本、うまくいってるじゃないか」

「暇つぶしに書いただけなのにね〜♪」

「私達の暇つぶしで天文学史が変わるのか…」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:37:04.79 ID:MOtOUAlZ0
 2人は数ヶ月ほど前、講義のために伊太利亜の大学に行った。

 そしてその夜、学生らと共に天体観測をした。

 星などに一切興味がない2人であったが、横の関係を広げておくのは、

 学会で生き残っていくために必要であった。
 
 集まった学生達も、特に天文学の専門というわけではないようで、

 各々勝手な道具で星を見ていた。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:37:44.76 ID:MOtOUAlZ0
 晶葉と志希は、望遠鏡も天文図も持っていなかったので、

 草むらに寝そべって、ただ夜空を見上げていた。

 宇宙には無数の星々があって、

 中には地球と同じような惑星もあるという。

 そこにも、自分達のような人間がいるのだろうか。

 社会や学会のしきたりを鬱陶しく思って、

 たまに馬鹿をやるような…。

41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:38:14.63 ID:MOtOUAlZ0
 2人がそんなことを思っていると、ある学生が騒ぎ出した。

 天文図の星が見つからないという。

 彼の天文図を皆が見ると、それは紀元前に記された

 ものであった。ギリシャの実家から持ってきたのだという。
 
 それじゃあ、図の方が間違っている。

 学生達は大笑いした。

 しかし、晶葉と志希は興味を持った。
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:39:05.88 ID:MOtOUAlZ0
 星には寿命があり、やがて消える。

 この仮説を証明するために、2人は膨大な量の天文図を、

 古文書から最新のものまでかき集めた。

 さらに晶葉は、天体望遠鏡と観測手法に暇つぶしで工夫をした。

 志希は天体の運行軌道の予測を、仕事の片手間に行った。

 その結果、いくつかの星が人類の観測史の中で

 消滅していることが確認できた。 
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:40:33.54 ID:MOtOUAlZ0
 この結果は、『星の見る夢』と題された論文として出版された。
 
 超新星自体は既に発見されていたので、新しい発見とは言えなかった。

 注目されたのは過程だった。

 運行を予測するために志希が作った数式。

 精緻な天体観測を行うために晶葉が作り出した道具と、その運用法。

 天文学会に衝撃が走った。

 しかも2人は部外者だった。

 一ノ瀬志希の専門は薬化学。

 池袋晶葉は機械工学。

 年老いた天文学者などは、がっくりと項垂れたという。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:41:40.36 ID:MOtOUAlZ0
「まあ、お金で自分の研究が進むならいっか〜♪」

 志希はフラスコにコーヒーを注ぎながら、けらけら笑った。

 皮肉なことに、彼女の専門の研究はまったく反響がない。

 東洋の天才児として、鳴り物入りで大学に招かれはしたが、

作っているのは珍妙な薬品ばかり。

 「長時間日光に当てると発火する液体、
 
  無味無臭の睡眠薬…誰かに恨みでもあるのか?」

 手紙に記されていた薬品について、晶葉が苦笑しながら尋ねた。

 志希は他人を恨むような、人間的な倫理を持っていない。

 それを晶葉は嫌というほど知っている。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:42:09.50 ID:MOtOUAlZ0
「にゃーっはっは! 趣味だよ、趣味!」

「趣味で危険物を作らないでもらいたいな…」

晶葉がそう言うと、志希はまたけらけら笑った。

「薬品を危険にするのは、人間の扱い方だよ〜?」

46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:43:55.52 ID:MOtOUAlZ0
研究室の外で、数人の学生達が耳を立てていた。

東洋を、いや今や世界を牽引する2人の天才。

関心を払わずにはいられない。

「日本語…でございますか、ありすさん?」

そのうちの、浅黒い肌の女が言った。

「橘です…ちがいます」

「それじゃあ一体…」

研究室の中で聞こえるのは、奇妙な単語の羅列だった。

日本、仏蘭西どころか、

どこにも存在しない言語のようだった。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:44:24.85 ID:MOtOUAlZ0
「羅甸語のアナグラムみたいですね…」

ありすが言った。

「じゃあ、ただその入れ替え方がわかれば…」

英国からの留学生がさっと紙とペンを取り出して、

言葉をいくつかメモした。

しかし、会話を聞いていると、一回も同じ単語が出てこなかった。

これでは並び替えができない。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:45:09.55 ID:MOtOUAlZ0
「どうやらお2人は、

 各単語のアナグラムを数十パターン作って、

 それを一定時間で切り替えているみたいですね…

 私の予想では、60パターンを一分きっかりに…」

 ありすがそう説明すると、周りは絶句した。

「なんでそんなこと…」

「さあ、天才の考えることはわかりませんね」

ありすが肩をすくめると、その姿を見て皆が苦笑した。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:46:08.52 ID:MOtOUAlZ0
一ノ瀬志希が昼食のためにテラスへ出ると、

人だかりができた。

仏蘭西の学生達だけでない。

余所の大学からも研究者が、連日詰めかけているし、

論文を読んだ一般人もサインを求めてやってくる。

その様子を、速水奏は呆れながら見ていた。

大学に入って5日ほどだが、すでに慣れた光景である。

一ノ瀬志希は、サインを絶対にしない。

作った薬品や数式が、自身の筆跡のようなものだから。

彼女はいつだか、講義の時にそう言っていた。

本当に尊敬しているなら、彼女の邪魔をしなければいいのに。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:47:34.04 ID:MOtOUAlZ0
奏が人だかりを横目にサンドイッチをかじっていると、

その集団がぐんぐん自分に近づいてきた。

「ねーねー奏ちゃん、お星様は好き?」

「名前を覚えていただいて、光栄ですね。

 貴女のことも、星のことも全く興味ありません」

奏は相手の方をまったく見ずに、そう言った。

人に注目されたくなかった。

「それじゃあ好きになるよう努力して♪」

志希は話をまったく聞かずに、そう言った。

そして懐から本を取り出し、表紙に口づけをした。

『星の見る夢』。タイトルにはそう書いてある。

志希はそれを、奏に差し出した。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:48:11.58 ID:MOtOUAlZ0
「感激しちゃうわね…」

奏はそれをざっと流し読みすると、後ろの草むらに放り投げた。

すると、捨てられた本に人が群がった。

「にゃーはっは! それが正解!

 その本に価値なんてないんだから!!」

 志希は大笑いして、奏の前から去った。
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:50:21.23 ID:MOtOUAlZ0
 夕刻。
 
 大学から戻ると、寮の前に軍人が数人立っていた。

 奏が踵を返すと、その背後には警官がいた。

「カナデ・ハヤミ君だね?」

 警官が手帳を見ながら、奏に言った。

「君を国際スパイ容疑で逮捕する」

「スパイ…?

 一体なんのことだか…」

 しらを切ろうとした奏に、軍人がある名を言った。

 速水奏の“本名”だった。

「日本の外交官(いろぼけ)が、ベッドで女に漏らしたんだ。

 実は、日本にもスパイがいる。

 そのスパイが留学生を偽って、近日中に入国してくると」
 
 奏は大笑いした。

 いくらなんでも、間抜けすぎる。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:50:48.23 ID:MOtOUAlZ0
留置所で、奏は尋問を受けた。

 と言っても、あちら側がほとんど事情を知っていたので、

 奏は首を動かすだけでよかったのだが。

「極東の小国にスパイとはな…ひょっとして、ニンジャの末裔か」

 奏は頷いた。

 それがおかしかったのか、相手の軍人は笑った。

「お前が狙っていたのは、『亜細亜戦略大綱』に間違いないな」

 奏は首を縦に振った。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:52:03.38 ID:MOtOUAlZ0
 亜細亜戦略大綱。

 仏蘭西政府と海軍が草案した、対露戦のための軍事計画書。

 その中には、英米と協調して日本を占領すべし、という内容が

 記されたという噂がある。

 日本政府および軍部としては、

 喉から手が出るほど欲しい情報の塊であった。

「着任して早々、

 外交官(どあほう)のせいで捕まるとは思わなかったな」

 奏は苦笑して、また頷いた。
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:52:48.14 ID:MOtOUAlZ0
「覚悟はできているな」 
 
 軍人の男が言った。

 スパイが露見した場合、情報を吐かされた後、

 適当な罪状で銃殺される。

 捕虜とはちがい、情けはかけられない。

「逃げようと思っても無駄だ。

 この留置所には何人も警備がいる。

 裏の森でも、巡回の者が脱走を警戒しているからな。」 

 それを聞いて、奏は弱々しく首を横に振った。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:53:39.53 ID:MOtOUAlZ0
 また1週間後。昼前。

 陽気な金髪娘が、図書館で本を読んでいた。

「フンフンフフーンフンフフー♪」

 タイトルは『星の見る夢』。

 彼女は、ページをペラペラめくって、

 ノートにペンを走らせていた。

 その速度は凄まじく、周りの者の目を引いた。

 そして小一時間すると、彼女はある発見をした。

「私、羅甸語読めないみた〜い♪」

 そしてページを開きっぱなしにして、陽の当たる席に放置して帰った。

 割に奥まった席だったので、司書もその本に気づかず、

 しばらくそのままになった。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:54:29.57 ID:MOtOUAlZ0
 その夜。

 橘ありすは、塩見周子に不安げな顔で言った。

「速水さんが、偽の渡航書(ビザ)で入国なんて…」

 スパイだと公表するされることはなく、

 表向きの罪状は、そのようになっていた。

 他の日本人留学生にいらぬ不安を与えるし、

 他のスパイを逃してしまうかもしれないからだ。

「まあ、人生いろいろあるからね。

 菓子屋の娘が、財産争いで海外に飛ばされることもあるし」

 周子はからりとした声で言った。

 同室の友人に対する感傷など、まったく感じさせなかった。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:55:04.04 ID:MOtOUAlZ0
「ひょっとしたら、軍人に口説かれたのに

 無理に抵抗したから捕まったのかも」

「そんな…」

 ありすは悲しげな表情になった。

 権力を傘にきて、関係を迫る軍人。

 断れば渡航許可を取り消すと迫る。

 異国からきた、後ろ盾のない女にとっては、

 ありえない話ではない。

「奏さんを助けないと…」

 ありすは周子の言葉を信じ込んで、拳を握った。

「こらこら、可能性の話だって。

 それに…留学生の私達でどうにかできる問題じゃない」

 周子は、どこか遠くを見るような目をして言った。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:56:42.02 ID:MOtOUAlZ0

 1週間後、また夜。

 留置所の裏の森は、いつもより明るかった。

「これだけ明るきゃあ、吸血鬼も灰になるかな」

 中年の警備員が言った。

 この森には吸血鬼が潜んでいるという噂があった。

 それは女の吸血鬼で、男を誘惑して血を奪うのだと言う。

「やめてくださいよ…不謹慎です」

 若手の純情そうな警備員が諌めた。

 森が明るいのは、巴里で最も大きな図書館が炎上しているからであった。

 貴重な資料文献を運び出すために、司書や知識人たちは

 逃げずに中にいるらしい。

 そのせいで、消火だけでなく

 人命の救助のために更に人手が必要になった。

 留置所の人間も駆り出された。

 燃え広がれば、巴里中が火の海になってしまうからだ。

 よって、現在の巡回は非常に手薄である。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:57:34.16 ID:MOtOUAlZ0
「そういえば、あの話聞いたか、例の童貞将校」

 「ああ…知ってますよ」
 
20まで童貞を貫いた青年将校が、親の金で高級娼婦を呼んだ。

城ヶ崎美嘉。巴里が恋する東洋の椿姫。

しかし青年は勧められた酒に酔って、

結局朝まで眠ってしまったという。

美嘉に指一本触れることなく。

「いくらなんでも、勿体無いよなぁ」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:58:21.45 ID:MOtOUAlZ0
 そう中年男が言った時、草むらがガサガサ音を立てた。

 2人がそこに注目すると、年若い金髪娘が出てきた。

「フンフンフフーンフンフフー♪」

「君、ここで何を…」

 そういう若年警備の口を、中年警備が塞いだ。

 この森は、実は恋人達が逢瀬を

 重ねる場所としても非常に有名だった。 

 そこで、“なにを”は無粋で、下品でもあった。

 しかし中年男は、あえて下卑な顔で尋ねた。

「“お楽しみ”だったかい?」

「ううん。これから〜♪」

 娘のほうは、あっけんらんと陽気に答えた。

 それに肩透かしを食らったのか、中年男は肩をすくめた。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:58:58.75 ID:MOtOUAlZ0
そして、行ってよろしいというように手を振った。

「ほな、さいなら〜♪」

 娘が警備の2人とは反対方向へ歩んで行った。

「巴里が燃え、恋人達の愛も燃え上がる…」

「不謹慎ですって!!」

 冗談に、若年警備がむきになって注意をする。

 しかし、そのあと2人で、いい女だったなと

 同時に後ろを振り返った。

 その首が地面に落ちるのも、ほぼ同時だった。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 10:59:37.22 ID:MOtOUAlZ0
 宮本フレデリカは、日本人と仏蘭西人のハーフだった。

 名家に生まれた母が、日本人の父と駆け下ちする形で結婚した。

 そして、フレデリカが生まれた。

 絹のようになめらかな金髪。

 白く、ミルクのような肌。

 そして翡翠のように輝く瞳。

 彼女に日本人的な特徴はまったくなかった。

64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:00:26.93 ID:MOtOUAlZ0
 しかし、フレデリカが名前を名乗ると、皆彼女を差別する。

 仏蘭西で大きくなった。仏蘭西語は完璧だ。

 性格だって社交的な方だと、自分で思う。 

 なのに、半分日本人の血が入っていると言うだけで、

 フレデリカは仲間外れにされる。

 彼女は仏蘭西社会のなかで孤立する

 内部の部外者(インサイドアウトサイダー)だった。

65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:00:53.70 ID:MOtOUAlZ0
 自分も娼婦だったら、みんなに愛されたのかな。

 時々フレデリカは思う。

 娼館という特殊な世界であれば、異種の血はむしろ武器になる。

 城ヶ崎美嘉の成功の一因は、東洋のエキゾチックな魅力だった。

 しかし、娼婦など両親が許さない。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:01:34.19 ID:MOtOUAlZ0
フレデリカには、物事をまっすぐに見ない癖がついた。

 なにごとにもとらわれず、馬鹿みたいに陽気に生きる。

 だから彼女は、図書館が、巴里の街が燃えようとも気にしない。

 人を殺すことにも、なんの躊躇もない。

 「フンフンフフーンフンフフー♪」

 フレデリカは、若い男の死体に近づいた。

 そして、首の断面に近づいて、血をちゅるちゅる吸った。

 その横を、速水奏がぎょっとした顔で通り過ぎた。

67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:02:03.39 ID:MOtOUAlZ0
 速水奏が脱走した。

 それを知った軍部は、巴里中を血眼になって探した。

 無論脱走を防ぐべく、港にも軍が駐留し、

 乗員や荷物がくまなく調べられた。

 しかし、奏は見つからなかった。

68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:02:31.05 ID:MOtOUAlZ0
 池袋晶葉は、親友からの手紙を受け取った。

 しばらく日本へ帰るという。

 一ノ瀬志希にもホームシックがあるのか。

 晶葉は肩をすくめて、手紙を焼き払った。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:03:29.42 ID:MOtOUAlZ0
 城ヶ崎莉嘉は、巴里の娼館の前で呆然としていた。

 生き別れた姉を探しにやってきたが、ごく最近

 莫大な手切れ金を払って娼館を出たのだと言う。

「おねえちゃん…」

 姉を呼ぶ声は、焼け焦げた巴里の街へ吸い込まれていった。
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:03:57.01 ID:MOtOUAlZ0
橘ありすは、部屋の中で1人うずくまっていた。

塩見周子は帰国してしまった。

そして、速水奏は留置所から帰っていない。

ひどい孤独に耐えかねて、隣の部屋のドアを叩いた。

安部菜々は、ありすをよく可愛がってくれる。

塩見周子とも親しい間柄だった。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:04:36.79 ID:MOtOUAlZ0
「ハーイっ!」

人参色の髪をして、給仕のような服をきた女が出てきた。

「あら、ありすさん。

 どうしたんですか?」

「えっと…その…」

寂しかったから来た、とは口が裂けても言えない。

ありすはまごついた。

その様子を見た菜々は、何も言わずありすを部屋に入れてくれた。

そして、カチリと鍵の閉まる音がした。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:05:04.66 ID:MOtOUAlZ0
宮本フレデリカの両親は、

娘の部屋で書き置きを発見した。

『ちょっと世界をまわって、お星様を見てきます』

意味はわからなかったが、

どうせすぐに帰ってくるだろうと、

その時は母親も父親も、深く考えなかった。

しかし、これが永遠の別れになった。

73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:05:47.99 ID:MOtOUAlZ0
速水奏は、大陸横断鉄道の車両に乗り込んでいた。

ここが捜査の死角だった。

豪華な客室列車は権力者達の圧力で調べることができない。

さらに、半年前から予約が必要なら、

突然逃げ出したスパイが使えるはずがない。

そう考えられていた。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:06:52.63 ID:MOtOUAlZ0
奏は自身の個室のドアを開いた。

すると、中には4人の女がぎゅうぎゅうに押し込められていた。

「一等客室にようこそ!!」

金髪娘が、陽気な声でいった。


75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:08:01.08 ID:MOtOUAlZ0
日本の軍部では、以前からスパイの重要性が訴えられていた。

しかし、「大和の武人には、卑劣で陰険な諜報活動はそぐわぬ」

という主張が、陸軍上部から出された。

これを聞いて、海軍の将校らは苦笑した。

戦国時代には忍がおり、合戦の大局を左右したとされている。

幕末期には倒幕側護国側問わず、

ひっきりなしに間諜が出入りし、情報が交錯した。

言うなれば、“卑劣で陰険な行為”こそが、国を作り、また守ってきたのだ。

大和の武人など、徴兵を円滑にすすめるための方便に過ぎない。

しかし、いまや軍部がその方便に呑まれてしまっている。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:08:31.87 ID:MOtOUAlZ0
もはや会議の体をなさない、罵倒の応酬の中で、

ある者が言った。

「男子がだめなら、女にやらせてみては…」

 大日本帝国に初めて、国家による諜報組織が誕生したのは、

 間も無くのことであった。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:09:01.03 ID:MOtOUAlZ0
おしまい
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/10(土) 11:14:42.21 ID:5g/0rsJCO
男女入れ替わり設定消えた?
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/10(土) 11:15:24.62 ID:MOtOUAlZ0
あとがき
人権団体からの抗議を震えながら待つ。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/10(土) 11:33:21.28 ID:MOtOUAlZ0
うん。少なくとも、二つ目の短編の中では、通常世界。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/10(土) 18:28:36.88 ID:9DrBG9vB0
想像以上に早く続きが見れてびっくり
どちらも楽しませていただきました
特にスパイLippsは短編で終わらせるには惜しく続編を期待したいところです
デレマス近代劇と書いてあるから前作とは別人だとは思うけれどこちらの菜々さんは天膳様仕様だったりするんでしょうか?
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/10(土) 23:12:36.55 ID:MOtOUAlZ0
>>81

…まあ、それはご想像にまかせます。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/10(土) 23:14:22.37 ID:MOtOUAlZ0
「Acnes Doppel Mi」は、そのままでは意味が通らない文章です。

気づいたお方は、胸の中にそっとしまっておいてください。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/10(土) 23:14:55.25 ID:A3VRONbko
妹は燃え盛るパリの中で姉を想いながら☆になったのか……
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/10(土) 23:31:03.64 ID:xOkE6xCjo
Lippsはハニトラとか似合うな、フレデリカが責任者に思える…かのバーチャロンの薔薇の三姉妹が責任者が三女だし
二人の男殺したのは周子or美嘉どちらかな

芳乃は憎悪と優しさの板挟みになってたのか…本性は優しい人だしね
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/11(日) 11:03:39.87 ID:789j2irc0
忍耐剣はいずこへ?
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/14(水) 16:48:09.77 ID:J8BHlMJK0
近代劇でジョーカーゲーム思い出した
Reason Triangleがずっと頭に鳴り響きっぱなしだった
40.11 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)