本田未央「Re:サンセットノスタルジー」

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1 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:44:48.27 ID:5UUNa7QZ0



 つないだ両手は、汗でしっとりと湿っていた。

 イベントの舞台袖。眩いスポットに上がる直前。

 登場のBGMが、かかり出していた。

 何度経験しても、この瞬間は緊張する。胸の高鳴りが体を伝って直接鼓膜を揺らす。誰にも気付かれないようにゆっくり唾を飲む。

 客席からの熱気。お客さんたちが待ち望んでいるのを感じる。

 その期待に応えられるだろうか。本当に、少しだけその不安がよぎる。

 だけどそれは表には出さない。

 変わりに、両手を強く握り返した。


「二人とも」


 声をかけると、両側から私の顔を覗いてきた。

 ぱっちりと開いた大きな瞳と、強い意志を感じさせる釣り目がちな瞳。

 私は二人に頷いた。


「さあ、行くよ」


 二人がそれぞれに返事を返してきた。とっても力強く、心強く。
 
 高いヒールの靴で一歩前に踏み出し、私たちはお客さんの前に飛び出した。

 お客さんの歓声が上がる。

 精いっぱいの笑みを浮かべ、両手を高く振りながら私は言った。






「みなさーん。私達、ニュージェネレーションでーす!!!」






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2 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:47:48.07 ID:5UUNa7QZ0



 心地よい汗は拭うのすら恋しかったけど、乙女がいつまでも汗だくなのはよろしくない。

 スタッフさんから受け取ったタオルで、額をつたっていた汗をふきとった。

 お礼を言って、タオルをスタッフさんに返す。


「お疲れ様。よかったですよ」


 女性スタッフさんの言葉に、私は自然と笑みが零れた。


「えへへ、ありがとうございます」


 気分はすっきり。頬にはまだ熱気が残っていた。

 甘い熱気だ。アイドルにならなければ、きっと一生感じられなかった心に染みる喜び。
 
 顔を上に向け、私は目をつぶってその余韻に浸る。頬が緩んでしまう。

 透き通るようなエメラルド色の海に浮かんで、まばゆい太陽を全身に浴びたって、きっとこの気持ち良さには敵わない。


「みーおーちゃん」


 耳をくすぐった声に、私は目を開けた。

 島村卯月。しまむーだ。彼女にしか咲かせられない満開の笑顔が私の顔を覗き込んでいた。

 私と一緒に舞台に立っていたから、顔には火照りと疲労があったけど、しまむーの輝きは色あせるどころか、何倍にも輝いていた。


「お疲れ様です。今日もとっても良かったですよ」

「いやいや、しまむーだって。流石ですなー、登場直後のドジっ子アピールで、お客さんの心をがっつり掴むとは


 桃色だったしまむーの頬が、真っ赤なリンゴ色に染まり変わった。

 名乗り出た直後、しまむーは舞台上で盛大につまずいたのだ。今のように顔を赤くしたしまむーにお客さんは大受けだった。


「先に言って欲しかったなー。そしたら、私も一緒に可愛くこけられたのにー」

「あれはワザとじゃなくてですね。その、えっと……」

「未央。卯月を困らせないで」


 わたわたするしまむーの後ろから、黒いストレートの長髪の少女が言った。

 汗を拭きながら飲み物を飲んでいるだけなのに。こう、凄く様になっている。

 渋谷凛こと、しぶりんだ。




3 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:49:13.25 ID:5UUNa7QZ0


 この三人がニュージェネレーション、通称ニュージェネのメンバーだった。


「いやあ、ゴメンゴメン。しまむーが可愛過ぎてついさー」

「卯月も気を付けてよね。足でも捻ってたらミニライブ、台無しになってたかもしれないんだよ。怪我しなかったから良かったけど」

「ゴメンなさい……」


 かなり気にしていたのか。しょんぼりしてしまったしまむーに、しぶりんがあからさまに動揺した。


「えっと、いや。怒ってる訳じゃないんだけど。そんな落ち込まないでよ」

「心配してるんだよね。しまむーが怪我したらしぶりん、夜も眠れなくなっちゃうもん」

「そこまでじゃないけど……でもまあ、そういうこと」

「だけど、顔真っ赤にしたしまむーは可愛かったよね?」

「うん、可愛かった」

「ちょっと、二人ともー!?」


 頷き合った私としぶりんに、照れ隠しみたいにしまむーが怒った。


 開かれていた控え室の扉から、プロデューサーが顔を覗かせた。片手にはスマホが握られている。誰かと電話中らしい。


「お喋りもいいけど、未央は早く着替えろよ」

「あれ、プロデューサー。労いの言葉もなし?」

「さっき言ったろ。未央はこの後にラジオ収録あるんだから、急いでくれ」

「わかったよ、もー」


 プロデューサーはすぐに電話へ戻った。たくさんのアイドルのプロデュースをしているだけあって、いつも忙しそうだ。

 そんなプロデューサーに、これ以上迷惑をかける訳にはいかないか。

 着替えた私は、一足先に控え室を後にした。

 片づけをしているスタッフの合間を縫って会場を出る。

 四月も中旬なのに、沁みるような寒さが身をとらえた。

 冬が名残惜しそうに居座っていた。

 日は落ち始め、街灯に照らされた街路樹の桜の木の下を人々が足早に歩いている。

 桜はまだ花咲いており、ビル群の景色を艶やかに飾っていた。



 風に木々がそよぐ。

 桜吹雪が春の都心に舞い上がった。



4 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:50:43.25 ID:5UUNa7QZ0




 プロデューサーは車でラジオ局まで送ってくれると、別の現場に向かった。


「階は分かるよな?」

「もっちろん」


 私は一人でラジオ局に入ると、エレベーターで収録のある階へ向かった。

 エレベーターを出たすぐ目の前に、局の番組ポスターが並んで張られていた。

 柔らかな頬笑みがポスターの中から私に向けられている。

 高森藍子。あーちゃんのラジオのポスターだ。

 今日はそのラジオのゲストだった。

 ウェーブのかかった深い栗色の髪を後ろで結んで、ゆったりとした服でリラックスした笑みを浮かべている。


 ポスターも可愛いが、本物の方がもっと可愛い。

 でも私の眼は、その隣のポスターに向けられていた。

 穏やかなあーちゃんのポスターとはま逆。


 『新番組!』と謳われたポスターでは、三人の少女が思い思いのポーズで立っていて、ともかく元気いっぱいという感じだ。

 その中央で大きく両手を広げる子。

 後ろで髪を結んでいるのはあーちゃんと一緒だけど、髪は黒くウェーブもかかっていない。耳の前に垂らした髪は短め。

 なによりも、その弾ける笑みはあーちゃんとは全然違っていた。


「あ、未央ちゃん!」


 声に振り返ると、まさにその少女が立っていた。



 矢口美羽。みうみうだ。




5 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:52:17.29 ID:5UUNa7QZ0


 ポスター同様の満面な笑みを浮かべていたけど、今は髪の毛をお団子に結んでいる。

 みうみうは一人ではなかった。同じポスターに映った眼鏡の少女が並んでいた。


「お、出たなニューウェーブ!」

「そっちこそ、ニュージェネレーション!」 

 笑いながら言いあったのは土屋亜子ことつっちー。

 ニューウェーブというアイドルユニットをメインで活動している子だった。ユニット名がニュージェネと似ているから、会うたびに互いにからかい合ったりしていた。

 私はポスターに目を向ける。


「うまくいってるらしいね『ブエナ・スエルテ』」


 それはみうみうとつっちー、それに喜多日菜子こと日菜子ちんの三人で最近組んだユニットだった。

 評判は上々のようで、この春からラジオの看板番組も始まったと聞いていた。

 みうみうがぶいっとピースサインを作る。


「えへへ、そうなんだー。さっき収録があったんだけど、たくさんおハガキ貰ってさ。もー嬉しくて!」

「『ハラハラして耳が離せません』って言うのは、喜んでええのかな?」


 苦笑しているつっちーに私は頷く。


「いいのいいの。どんなことだろうとファンの心さえ掴めればね」


 ともかく、聞いてみようと思わせるのが大事なのだ。

 その点、みうみうと日菜子ちんのペアはこう、刺激的だ。

 二人は良くも悪くも突っ走ってしまう性質の子だから。

 ラジオで暴走する姿が目に、もとい耳に容易く浮かんだ。




6 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:53:17.44 ID:5UUNa7QZ0


 私の想像は、つっちーの反応から間違いではないのが伝わってきた。


「美羽ちゃんと日菜子ちゃん相手にするアタシの苦労も考えて欲しいわ」


 つっちーは苦笑しながら息をつく。


「そう? 楽しそうじゃん」

「なんなら未央ちゃん、変わってみる?」

「それは遠慮しようかな」

「えー、遠慮しないでよ?!」


 みうみうがびっくりしたように肩を落としたけど、すぐに開き直って。


「でも一回ぐらい変わってみるのも面白くない? どっきり企画でニューウェーブとニュージェネレーションを間違えちゃった、的な!」

「はいはい、いつかね」

「亜子ちゃん釣れない!」


 ドヤったみうみうをあっさり流した。流石のつっちーだ。


 やがて日菜子ちんもやってきて、三人はエレベーターに乗り込んだ。



 扉が閉まる前に、みうみうが小さく手を振ってきた。


「じゃあね、未央ちゃん」




7 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:55:10.89 ID:5UUNa7QZ0


 私はあーちゃんの控え室へ向かう。中を覗き込むと、あーちゃんがなにかを読んでいた。

 台本ではない。雑誌のようだ。

 振り返ったあーちゃんは、嬉しそうに微笑んだ。


「未央ちゃん、お疲れさま」


 やっぱり実物が一番可愛い。


「あーちゃん。今日はよろしくね」

「うん、こちらこそ。未央ちゃんがゲストに来るの、楽しみにしてたんだ」

「私もだよー」


 あーちゃんとは、もう一人、日野茜こと茜ちんを加えた三人で『ポジティブパッション』というユニットで活動している。

 そうでなくてもプライベートで会うことは多いが、こうして個人番組にゲストで来るのは、いつもと違うわくわくがあった。

 私はあーちゃんが閉じた雑誌の表紙に目を落とす。二十代向けのファッション雑誌のようだ。

 あーちゃんがふだん読むような雑誌ではなかった。


「ふうん。『貴方の「カッコいい」を見つけよう』ねー」


 表紙に書かれていた煽り文句を声に出して読む。


「あーちゃんそう言うの目指してたり?」

「えっ? ああこれ。そんなんじゃないって」


 あーちゃんは雑誌を手に取るとぱらぱらとページをめくった。中央付近のページを私に見せるように開く。



 私は眼を丸くした。

 そこには、ピアノに背を預けて立っている一人の女性が写っていた。

 長くて滑らかな髪の毛に、整った顔立ち。何気ないように首をかしげている立ち姿は自然であるのに、ピアノに乗せた指先一つとってもキレイに決まっていた。

 そう感じるのは、カメラマンの腕だけが良いからだけではないだろう。


 彼女自身の努力の賜物だ。




8 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:56:12.61 ID:5UUNa7QZ0


 そのキレイさにちょっと嫉妬を覚えて、でもその嫉妬が不愉快なものでないのは、彼女をよく知っているからか。

 松山久美子。くみちーだった。


「これ、くみちーじゃん」

「そう、久美子さんから今度雑誌に連載が乗るって教えてもらったの」

「くみちーと仲良かったっけ?」

「前にイベントで一緒になってから、少しだけ。このカフェ、久美子さんに連れていってもらったことあるんだ」

「へえ」

「素敵なカフェなの。オリエンタルな感じでね」


 雑誌を受け取った私は、書かれていた文章を軽く目を通す。これが初回らしい。

 次のページには雨の中、カフェでゆったりと過ごしてるくみちーが写っていた。

 『雨だからこそ、自分とじっくり向き合える』。


 それから、雨の日のおしゃれなんかを色々書いてあった。くみちーらしい記事だ。

 最近はこういうモデルの仕事も増えているようだった。

 くみちーの仕事を、あーちゃんのお陰で見つけられたのは嬉しかった。二人が仲良くやっているという話も。でも。


(あーちゃんに教えて、私には教えてくれなかったんだ)




9 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:57:46.49 ID:5UUNa7QZ0


「今度一緒にどうかなって……未央ちゃん?」

「えっ、なに?」


 私は顔をあげてあーちゃんを見る。あーちゃんは首を傾げていた。


「どうかしたの。なんだか、ボーっとして」

「え、いや。そんなことないって……このカフェでしょ。いいよね。今度一緒行こうよ!」


 ぎこちなく笑った私を、あーちゃんは不思議そうに見つめていたけど。


「変な未央ちゃん」


 そう、優しく綻んだ。






 収録は気楽な雰囲気で進んでいった。

 番組には何回もゲストに出ていたし、ラジオのディレクターや放送作家さんとは他の番組でも顔を合わせる人たちだった。

 砕けた感じで、でも崩し過ぎないで。だけどやっぱり喋り過ぎちゃって、収録は少し押していた。

 リスナーからのメールコーナーのことだった。


 今月のテーマは、春らしく『初心』。


 交互にメールを読むことにしており、次は私の番。

 放送作家さんから受けとったメールに目を通した。




10 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:00:12.98 ID:5UUNa7QZ0

「続いては、PN・『春よ去るな』さん。
『藍子ちゃん、ゲストの未央ちゃんこんにちは』、
はい、こんにちはー。
『お二人とも今では押すに押されぬ人気アイドルで、ファンの皆さんからたくさんお便りを貰っていると思います』。
いやいや……
『それで質問なのですが、今でも最初に貰ったお便りのことなどは覚えているでしょうか。また、そのお便りは現在も持っているでしょうか?』。
だって」

「お便りですか」

「あーちゃん覚えてる?」

「もちろん覚えてるよ。それにこの番組の最初に読んだメールも」

「へえ。どんなの?」

「えっと、どっち? 普通に貰ったのか、このラジオか――」

「ラジオが気になるかな」

「ラジオはね、嬉しかった。ラジオのレギュラーはこれが初めてで、すっごく緊張してたからさ」

「初めてのが今も続いてるって凄いよね」

「いや、そんな……えっと、それでメールなんてくるのかなって不安だったから、お便りがきてるって聞いた時。すっごく、すっごく嬉しかったの」

「どんな内容だったの」

「まずは番組スタートおめでとうってあって。それから質問があったの」

「どんなの?」

「『好きなお寿司のネタはなんですか』って」

「ちょっと待って。作家さんなんで最初にそれ選んだの? 最初の手紙の内容がお寿司のネタって……え? 『本田さんは?』。作家さん誤魔化しててない?」

「聞きたいな私も。未央ちゃんは覚えてる? 最初の手紙」

「覚えてるに決まってるじゃん。手紙は今でもちゃんと持ってるし。『応援しています。活動を頑張ってください』って。アイドルになったばっかで、あの頃はさ……」

「あの頃は、なに?」

「そのー……デビューした頃は、色々苦労したって話」




11 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:01:49.05 ID:5UUNa7QZ0


 夕食はいらないというと、お母さんは不満そうな顔をした。

 ご飯はあーちゃんと食べて帰ると連絡していたのに、お茶ぐらいだと勘違いしていたらしい。

 唐翌揚げは明日のお弁当のおかずになるだろう。

 部屋に入ると私はベッドに腰をかける。窓の外はすっかり暗い。居間からはテレビと両親の笑い声が聞こえてきた。

 私も自室のテレビの電源を入れる。地方局の番組でユッキーが下町案内をしているのが映し出された。

 テレビをBGMに部屋着に着替える。ぼんやりとテレビを観ていたが、テレビラックの小物入れに視線を落とした。

 その引き出しを開ける。中には封筒が二つ入っていた。淡い水色の封筒と、どこにでもある茶封筒。

 水色の封筒は、初めてのファンレターだった。

 前はこの引き出しをファンレター入れに使っていた。喜ばしいことに、その引き出しでは入りきらなくなって別の大きな箱に移したけど、これだけはここから移す気にはなれなかった。

 貰った時は嬉しかった。読んでは閉まって、また開いては読んでを繰り返した。

 そんな頃を思い出し、頬が綻ぶ。

 でも、いつしかそんな事はしなくなった。

 慣れというのもあるだろう。今でもファンレターを貰うのは嬉しいし、ちゃんと目も通す。

 だけど初めてというのはやはり特別で、だからここから移さなかった。


 でも、ここに入れたままの理由はそれだけじゃない。


 気がつけば、私の顔からは笑みが消えていた。




12 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:03:05.60 ID:5UUNa7QZ0


 茶封筒に手を伸ばして、中身を取り出す。

 入っていたのは一枚の写真だった。

 三人で映っている写真だ。

 ニュージェネとも、ポジパとも違う。


 裏にはその当時に考えたばかりの各人のサインと共に、ある言葉が添えられていた。




『三人で、星を目指して』




 私と、くみちーとみうみう。


 サンセットノスタルジーの写真だった。




13 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:04:56.36 ID:5UUNa7QZ0


 私がアイドルになったばかりの頃、会社自体も試行錯誤を繰り返していた。

 様々なアイドルの可能性を探していると、プロデューサーからは聞かされた。

 その一環で、沢山のアイドルとユニットを組んだりした。それは今でも変わらないけど、前はもっと頻繁だった。


 その中で、みうみうとくみちーと組んだのがサンセットノスタルジー。サンノスだった。


 年もバラバラで、ユニットでは私が真ん中。偶然にも私も三人兄弟の真ん中だから、立場は一緒だ。

 ユニットは、けっこううまくいっていたと思う。

 私にとって初めての専用衣装も、このユニットで作ってもらったものだ。

 オレンジとクリーム色の意匠は、夕焼けとその空に浮かぶ雲の色のよう。

 体のラインに合わせた、ちょっとセクシー衣装だった。

 その衣装を着て何度かミニイベントも行った。


 初めて貰ったファンレターも、サンノス活動の時のものだった。


 サインも一緒に考えた。初のイベントの前、ファミレスで何時間もこもって、あーでもないこーでもないと言いあって。実際は殆ど雑談をしていただけで、最後に無理やり決めたサインも、おふざけが過ぎてボツになった。

 写真に書いたサインと寄せ書きは、そのイベントの後だと思う。

 初めてのイベントの成功を祝って。

 そしてこれからの私たちの発展を願って。



 でも、気がつけばサンノスでの活動はなくなっていた。

 ニュージェネレーションに、私の活動がシフトしたのもあると思う。

 くみちーやみうみうも、それぞれの場所で活躍するようになっていった。




14 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:07:06.41 ID:5UUNa7QZ0




 サンセットノスタルジーの活動が減って、二人と会う機会も減った。

 完全に疎遠となったわけではない。

 会えば話もするし、みうみうとはよくメールのやりとりがあった。


 もちろんくみちーとも。


『雑誌に載ってたお店、昨日行ってきたよー!』


 朝。登校中にふと思い立ち、くみちーにメッセージを送った。

 学校についてから確認すると返信が来ていた。


『雑誌って連載のこと? 見てくれたんだ!』

『あーちゃんから聞いたの。教えてくれないなんて水臭いぞ〜』

『ゴメンゴメン。藍子にはレッスンが一緒になった時に話したんだ』


 返信を書いている時に、またメッセージが送られてきた。


『誰と行ったの。まさかデート?』

『あーちゃんとだよ』

『やっぱりデートじゃん』

『なになに、妬いてるの?』


 チャイムと同時に、先生が教室にやってきた。私はスマホをしまった。



 
 一限目を終えて、スマホを確認する。新しいメッセージが三つ。一つは茜ちん。残り二つがくみちーだ。


『なに言ってんのよ、馬鹿』


 その五分後のメッセージ。


『妬いてる訳じゃないけど、今度一緒に遊び行かない? 予定が合えばだけど』


 もちろん。と私は返信した。




15 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:08:10.63 ID:5UUNa7QZ0



 だから、別に寂しいとかは思わない。

 ずっと昔、お母さんが言ったことがあった。

 私が幼稚園のときだ。

 もう何年もあってない友達がいると聞いたとき、幼かった私には信じられなくて、それって友達なの? と尋ねたことがあった。


 当然よ。とお母さんは答えた。



 だから私も言い切れる。

 今でも二人は大事な仲間で、友達だ。

 お母さんと比べたら遙かに頻繁に会っているし、やりとりだってしているのだから。




 それでもふと、考えることがある。

 あの衣装は今どこにあるのか。


 ダンボールに入れられ、棚にしまい込まれている衣装を、たまに想像することがあった。




16 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:09:53.43 ID:5UUNa7QZ0




 もっとも、考えたところでどうということはない。



 ニュージェネにポジパ、他にもソロのお仕事に学業。

 日々は慌ただしく過ぎていく。

 八月には、会社の大型合同ライブも決まっていた。



「ライブ、楽しみですね!」


 五月の初め、ある温かな陽気の日。

 早くも夏を呼び込みそうな、熱気あふれる元気な声が室内に響き渡った。

 日野茜、茜ちんだ。


 ちょうど今日、私たちポジパも正式にライブに出ることを言い渡されたのだ。


 私と茜ちん、そしてあーちゃんの三人は事務所でお茶を楽しんでいた。

 茜ちんが向かいのソファーで。私とあーちゃんは並んで座っていた。

 もっとも、元から私達三人の名前は発表されていたし、なんとなく予想はしてたけど。

 それでもプロデューサーから言われれば、身は引き締まるものだ。


「ほんとだね。どんなステージになるのかな」


 あーちゃんも同じ気持らしい。私の横で浮かぶ優しい笑みに、私も釣られて頬が緩む。


「そりゃあもう。私達らしいイケイケなパッション溢れる感じだろうねえ」

「そうです!! パッションでボンバーでファイヤーな感じです!」

「ファイヤーな感じかー」

「ファイヤーですよ! 火柱どんどんあげましょう!」

「えっ、本当の火を使うの?」


 目を丸くするあーちゃん。私も頬を引きつらせた。

 茜ちんは元気いっぱいだけど、たまに思考が突っ走る。




17 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:11:54.92 ID:5UUNa7QZ0


「あはは……そこはまあ、要相談だね。でも元気いっぱいな感じになるのは間違いなし」

「二人の全力についてけれるように、私もレッスン頑張らなきゃ」

「いいですねー! ならば藍子ちゃん、今から河原に走りに行きましょうか!」

「いや、それは……この後インタビューあるから遠慮しとこうかな」

「そうですか……お仕事ならば仕方ありませんね」


 腕を組んだ茜ちんは納得するように頷いた。思考はいつも全力だけど、けっこうブレーキの利きもよい。

 そんな茜ちんに対して、あーちゃんは一見のんびりしている。正反対のようで、実際に正反対だけど、これでなかなかバランスのよいのだ。まさしく静と動という感じ。

 走りすぎる茜ちんをあーちゃんが加減して、のんびり過ぎるあーちゃんを茜ちんが引っ張ってる。

 お互いに足りてない部分を補いあってるとも言えるかも。

 私は、二人の間を行ったり来たり。引っ張ったり引っ張られたりだ。


「だから今度、ね」


 そう言ったあーちゃんに、茜ちんは元気よく返事をした。

 扉が開かれる。穏やかな表情の女性が入ってきた。若くてアイドルみたいだけど、アイドルではなく事務員さん。

 プロデューサーのアシスタントをしているちひろさんだ。


「よかった、三人ともまだ事務所にいたのね」




18 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:12:50.14 ID:5UUNa7QZ0


「どうかしたんですか?」


 私が尋ねると、ちひろさんは胸元で抱えていたファイルから一枚の紙を取り出した。


「はい、これ」

「これは?」

「夏のライブの件でね。その時に色々なコラボを予定してるんだけど、その案をアイドルの皆さんからも募っているの」


 ちひろさんは説明しながら、茜ちんとあーちゃんにも紙を渡した。


「つまり、私たちがコラボしたい相手を指名できる。ってことですか?」


 あーちゃんは紙に軽く目を通してから、確認した。


「言えば絶対に叶う。なんてことはないですけど」

「へえ……」

「本当なら、さっきプロデューサーさんが渡すはずだったんですけど、忘れてたみたいで」

「ああ、プロデューサーも疲れてるのかなー」


 まだまだ若いのに、心なしか白髪が増えてるように思えた。若白髪というのか。



「もし、なにかやりたいことがあったら私かプロデューサーに言ってくださいね。別に強制って訳じゃないですけど。なにかあれば、ね」




19 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:14:38.25 ID:5UUNa7QZ0





 あーちゃんの仕事の時間に合わせて、私達は夕方頃に部屋を出た。

 大きな窓から差し込む輝きが、廊下をみかん色に染めていた。

 日は長くなり始めていたけど、まだ短い。


「新しい企画かあ」


 あーちゃんは紙を手に持ったまま、廊下を歩いていた。


「こういうの、ちょっと面白そう」

「あーちゃん、なにかやってみたいこととかあるの?」

「うーん。そうだねえ」


 視線を宙に彷徨わせたまま、少し歩みが遅くなる。私達はその速さに自然と揃えた。

 どんな相手の名前が出るのか、興味深く待ってたけど。


「決まってることで、今の私は精一杯かな」


 あーちゃんは微笑みながら、小さく首を振った。

 謙遜でも遠慮でもなく、きっと本音だろう。

 ライブでやるのはポジパだけじゃない。ソロの曲や全体曲など、それぞれで色々と決まっている。

 私だって、ポジパより先にニュージェネが決まっていた。

 そして、ライブだけに集中する訳にもいかない。普段の仕事だってこなさなければならないのだから。


「二人と違って、ちょっと体力も自信がないしね」

「そんなことはありませんよ! 足りないなら頑張ればよいですから!」


 そう言った茜ちんに、あーちゃんは素直に頷いた。


「うん。だからその頑張りを、ポジパの舞台に向けたいと思ってさ」

「なるほど。それならそれでも良いと思います! 頑張り方は様々ですからね!」


 二人のまっすぐ過ぎる会話に、私もつい笑ってしまう。


「茜ちんはなにかあるの?」

「私ですか? 今は特にありません!」

「ないんかーい!」

「ふふっ、茜ちゃんらしい」


 優しく微笑んだあーちゃんの視線が、私に向けられた。


「未央ちゃんは?」




20 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:16:25.65 ID:5UUNa7QZ0


「私は……うーん」


 思わず唸ってしまう。いざ言われてみると、急には思いつかないものだ。

 色々やってみたいことはあるような気がするけど、すぐにどれとも出てこなかった。


「そうだねー……」


 ふと、窓からの風景が目に入った。

 ビルの合間から眩く、オレンジ色の太陽。


 夕暮れの景色。


 不意に、あの写真が脳裏によぎった。

 写真の裏に書かれた三つのサイン。

 その中央の言葉。




『三人で、星を目指して』




「どうしたのですか、未央ちゃん?」


 気付けば、私は歩みを止めていた。

 少し先であーちゃんが、それから茜ちんがこちらを振り向いた。


「……ゴメン、二人とも先に帰ってて。ちょっと忘れものしちゃってさ。とりに戻るよ」

「待ってよっか?」

「いいって。あーちゃんはお仕事でしょ。じゃあまた明日!」


 呆然としている二人を尻目に、私は踵を返した。

 煌く黄昏の陽光に照らされながら、私は廊下を進んでいく。

 廊下にはあたしの駆ける音だけが響いていた。

 胸の高鳴りは、駆け足のせいなんかじゃない。

 全速力には程遠いのに、呼吸が苦しくなる。

 ある部屋の前で、あたしは立ち止まった。


 ネームプレートにはプロデューサーの名前が掲げられている。




21 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:17:48.37 ID:5UUNa7QZ0


 胸の鼓動は止むどころか、ますます強くなっていた。

 あたしは一度、二度と深呼吸をして息を整える。

 まだ鼓動は早いけど、さっきよりは落ち着いた。


 なんだか初舞台の時を思い出した。あの時も、舞台を上がる前に扉を開けた。

 あの時は、扉を開けたのは誰だっただろうか。よく思い出せない。。

 みうみうか、くみちーか。


 それとも私か。


 ドアノブに手を伸ばし、扉を開いた。

 思わず驚いてしまった。
 プロデューサーも同じだ。どうやら丁度部屋を出るところだったらしい。

 扉の前ではち合わせる形になった。


「どうしたんだ未央」

「あのさ、ほら。あの企画のこと」


 普通に話そうと思ったのに、私の声は少しうわずっていた。なんだか嫌になってしまう。

 もしかしたら、あーちゃん達と別れた時もうわずっていたのかも。

 プロデューサーは目を細めたが、察しがついたようですぐ頷いた。


「ああ、ライブの奴か。ちひろさん、紙は渡さなかったのか?」

「そうじゃなくてさ。あれって、なんでもいいんだよね?」

「? まあな。基本的には」



「昔にやったユニットでも?」

「昔のユニット?」




22 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:18:57.38 ID:5UUNa7QZ0




 眉をひそめたプロデューサーを見上げて、私は言った。





「サンセットノスタルジー。もう一度できないかな」





 それはあの写真の裏に書かれた言葉。

 私たちの忘れものにもう一度、手を伸ばすため。

 窓の外に映る景色は青く染まり出し、星が一つ瞬いていた。






23 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:23:58.56 ID:5UUNa7QZ0





 待ち合わせたのは、事務所の最寄り駅だった。

 学校帰りの私は、駅前の雑踏の中にその姿を探した。

 彼女がいたのは駅の近くの銅像の前だ。

 向こうはすでに私に気付いていたようで、こちらに手を振っていた。私は彼女の元に駆け寄る。


「お待たせ、くみちー」

「やっほー、未央」


 松山久美子、くみちーだ。


 くみちーは鎖骨ほどまで出ている口の広いブラウスの上から、ノ―カラージャケットを着て、下は細いデニムのパンツ。いつもより砕けた服装だった。


「今日はカジュアルな感じだね」

「こういう私もありだと思わない?」

「もちろん」


 カジュアルでも、だらしなくならないでちゃんと決まっていた。


「似合ってるよ。凄く」

「そう? ありがと」


 私が褒めると、照れる仕草も見せずくみちーはニッとはにかんだ。


「未央も似合ってるわよ、その恰好」

「ありがとうだけど、今さら褒める?」


 学校帰りなのだから、学生服にいつものパーカーだ。

 くみちーも見慣れた姿なのだか。


「あら、褒めたのに嬉しくないの?」


 今度はおどけるように笑ってみせた。どうも、私をからかってるらしい。

 こう見えて、くみちーは結構お茶目だ。


「いやいや、全くもって光栄でございます。久美子様に褒めて頂けるとは。未央ちゃん、感動で涙が零れそうです」

「うんうん。苦しゅうない苦しゅうない」



 そう言ってから、どちらともなく笑い出した。




24 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:25:41.97 ID:5UUNa7QZ0


 笑いが波のように引くと、くみちーが言った。


「久しぶりだね」

「うん、久しぶり」


 連絡をとりあっていたし、お互いの活動は見ていたはずだ。

 言うほど久しぶりという気はしないけど、こうやって会うのは久しぶり。

 だから、やっぱり久しぶりでいいのだと思う。


 私たちは駅の近くにあったチェーンの喫茶店に入った。

 カウンターでアイスコーヒーを注文して、空いている席に座って近状報告をし合った。


「そうそう、あの雑誌の連載、なんかいい感じだよね」

「読んでくれたんだっけ?」

「うん」

「自分が読んだことのある雑誌に連載が載るなんて、思ってなかったよ」


 くみちーは苦笑していた。自分でも信じられないという風に。


「それもアイドルとしてなんてね」

「そっか、くみちーってモデル志望だったもんね」

「まあね。モデルの方は落ちちゃったけど」


 私はくみちーの姿が見やすいように少し椅子を引いた。

 アイスコーヒーを飲みながら首を傾げるくみちーの姿を、指で作ったフレームで切り取る。


「どうしたの?」

「いや、もったいないことをしたなーって思っただけ。今のくみちーなら、トップモデル間違いなしだよ」




25 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:26:46.90 ID:5UUNa7QZ0


「調子いいこと言って。褒めてもなにも出ないわよ」


 呆れるようの笑いながら、くみちーは頬杖を掻いた。

「でも、落ちて良かったかも。落ちた時は悔しかったけど、だからアイドルになれたし。アイドルの方が、色んなことを沢山経験できて、だからもっとキレイになれたからさ」

「いろんな経験っていうのは……空を飛んだりとか?」


 くみちーは以前、番組の企画で人力飛行機を作ったことがあった。


「もちろんそれもね。それにやっぱりライブとかさ……未央は想像できた? 歌って踊る自分の姿を」

「私は最初からアイドル志望でしたから」

「ああ、それもそっか」


 アイドルオーディションを受ける子は、アイドル志望だからオーディションを受ける。当然だ。

 そう言う意味で、くみちーはちょっと変わっていた。

 少なくとも、最初はアイドルオーディションなんて受ける気がなかったのだから。


「ライブと言えば」


 と、くみちーは言った。


「夏のライブ。未央も出るんだよね?」

「とーぜん。くみちーもでしょ?」

「とーぜん」


 その答えは知っていた。ポスターに名前が出ていたのを見かけていたから。

 くみちーも、私の名前には気付いていただろう。




26 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:27:59.03 ID:5UUNa7QZ0


「未央はニュージェネは当然として……後はポジパ?」

「それは企業秘密です」

「同じ会社じゃん」


 別に教えてもいいのだけど、なんだか黙ってた方が面白く思えて、私は笑って誤魔化した。


「くみちーは?」

「私はビューティーアリュールで。あとは……おいおいね」

「お互い大変ですな」

「まあ、アイドルですから。でも忙しいのはプロデューサーもね。昨日も夜遅くまで残ってたし」


 なにげなく口にした言葉が、私はちょっとひっかかった。


「へえ。なんでくみちーは知ってるの?」

「なにが?」

「遅くまで残ってたこと。まさかプロデューサーが仕事終わるまで待ってたとか?」

「違うわよ、もう」


 否定しながらも、ちょっとだけ頬を赤くした。

「えっと……自主練習してたの。ステップ、うまくいかないところがあって」


 誤解を解くため仕方なし、とでもいうようだった。いつまでやってたか尋ねると、本当に遅い時間まで残っていた。


「で、帰る時に覗いたらプロデューサーまだいたんだ」

「ふーん」


 自主練習をしていたのは嘘じゃないだろう。くみちーは負けず嫌いで努力家だ。

 一人居残りレッスンをしていてもおかしくない。

 けど、レッスンルームとプロデューサーの部屋は離れている。

 顔を出しにいく理由はないし、言い方からして、プロデューサーが居るかどうかも分からないのに行ったようだ。



 野暮な詮索はやめておこう。




27 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:29:05.25 ID:5UUNa7QZ0


「無理し過ぎないでよ。くみちー、たまに頑張りすぎるんだから」

「平気よ。今日は休みって分かってたし」


「それに」と、ちょっと馬鹿にしたように笑んでみせた。


「未央にだけは言われたくないわね」


 そんなことはない。とは言い返せなかったので、私は苦笑を返して話を戻した。


「プロデューサーはその後も残ってたの?」

「うんうん。もう帰るって言ったから途中まで車で送ってもらったわ。遠回りになるから、いいって言ったのに」


 呆れるように言いながら、口元は少し緩んでいた。

 車で送ってもらったのだから、話す時間はたっぷりあったはずだ。

 色々な話をしたんじゃないのか。


「……なにか話したりした?」

「別に? 普通よ。最近の仕事のこととか」

「私のこととかは?」

「少しは話題に出たけど……なにかあったの?」


 意図を分からないようで、くみちーは首をかしげる。

 私は、ずっと気になっていたことを口にした。



「例えば……サンノスのこととかは?」


 すぐさま私は後悔した。



「サンノス……?」




 くみちーの反応は、知りもしない人の名前を聞いた時のようにぼんやりしていたから。






28 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:30:31.58 ID:5UUNa7QZ0


 そんな不安は、あっという間に払しょくされた。


「まさかサンノス、ライブに出れるの?!」


 前のめりになったくみちーに、私は面喰ってしまった。

 思わずのけ反った私を、くみちーの瞳はしっかりとらえていて。

 私は、頬が緩んでしまった。


「ちょっと。なに笑ってるのよ」

「いやあ、なんていうか……ホッとしたからかな?」

「どういうこと?」

「あはは、ちょっと待って。順を追って説明するから」


 私はまずサンノスの企画をプロデューサーに提案したことを言った。


「なるほど……私、全然思いつかなかったな」

 感心したように言ったくみちーだったけど、すぐに首をひねる。

「でも、そんな話が出てるんなら、プロデューサーも一言いってくれれば良かったのに」

「プロデューサーも期待させちゃダメだと思ってるんじゃない?」

「どういうこと?」


 くみちーの綺麗な眉間に、皺が寄った。







 提案した直後だった。

 プロデューサーは短く唸ってから部屋の中へ戻っていった。

 机の上に坐りながら、両手を合わせて思案しているプロデューサーに、私はちょっと驚いた。

 プロデューサーはサンセットノスタルジーの時から私たちのプロデューサーだった。

 私同様に、思い入れがあると思っていた。

 だから、肯定してくれると考えていたけど。



   無理だよ。



 返ってきたのは純粋すぎる否定だった。




29 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:31:44.31 ID:5UUNa7QZ0


 呆気にとられ、失望がじんわりと心を染めた。

 そんな。となんとか言葉を捻り出した私に、プロデューサーは事務的に述べた。




「まず、この企画はあくまで新しい組み合わせを探すためにやることだ。基本的には提案が新しいユニットだけだ」

「なにそれ!」


 私がプロデューサーの口調を真似ながら言うと、くみちーが声を荒げた。

 何人かのお客さんが、私達に目を向けてきた。


「プロデューサーが、嫌って言ったの?」

「そう言ったわけじゃ……」

「無理って言ったんでしょ。それって嫌ってことじゃい」


「だからだから。コンセプトから外れてるってだけだし。あくまで事務的にというかさ。無理っていったけど、一応考えてはみるともいったし」

「一応、でしょ?」

「まあ……うん」


 痛いところをついてくる。

 確かに、素気ないプロデューサーの態度は諦めろと言っているように私の耳に響いた。

 楽観的に考えすぎていたのだ。

 あそこまでプロデューサーに冷たく突き放されたのは初めてで、だから不安だった。


 これでくみちーも乗り気でないなら、一人よがりなのではと考えてしまって。

 そうじゃないと分かってホッとしたけど、よく考えれば事態が好転したわけもない。

 私はコーヒーを口にした。


「プロデューサーが、そう言うなんて」


 目を伏せたくみちーが、物憂げに呟いた。

 それから口元に手を当て、色々な想いを巡らせているように眼を細める。

 プロデューサーに拒絶されたことが、くみちーもショックだったようだ。


「でもほら、可能性はゼロじゃないんだからさ」


 気休めで口にした言葉など、まるで聞いていなかった。


「……私、納得いかない」


 そう言うと、くみちーは席を立った。




30 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:33:15.44 ID:5UUNa7QZ0


「行くわよ、未央」

「ちょっと待って。行くってどこに?」

「事務所。プロデューサーに理由を聞いてくる」


 決意を込めたくみちーの言葉に、私は呆気に取られた。


「理由って……それは今回の企画が、あくまで新しいユニットを目的としてて」

「未央はそんな説明で納得してるの?」

「……そういうもんなのかなって」


 だってそうではないか。プロデューサーが言ったならば、そういうものだと納得するしかない。

 でも、くみちーは違った。


「私は納得できないわ。新しいユニットがなんなの? サンノスだって魅力的なユニットだよ。そりゃあ、活動は長い間してないけど……」


 くみちーは視線を逸らした。

 けど、すぐに向き直った瞳には、強い意思が籠っていた。


「それでも、魅力は負けてない。負けてなかった。私たちだから見せられる輝きがあった。私は信じてる。サンノスの輝きを、私たちの輝きを信じてる」


 くみちーの言葉に、胸の奥がかっと熱くなった。


「それにさ。サンノスどうこうを除いても、その対応って……おかしいよ」

「プロデューサーの対応が?」


 私は首をひねる。くみちーはなにがひっかかったらしい。私は特におかしいとは思わなかったけど。


「……未央って、私がアイドルオーディションに受かったときのこと、知ってるよね」




31 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:38:35.81 ID:5UUNa7QZ0


「まあ」


 くみちーはそもそも、アイドルのオーディションなんか受ける気がなかった。

 最初はモデル部門のオーディションを受けたのだ。

 ところが、そのオーディションに落ちてしまった。でも諦めがつかないで歩いていると、アイドルオーディションを発見した。


「普通さ、他のオーディションに落ちたからって飛び込みでオーディションを受けて。そんな子を合格させるかな?」


 それをやった本人の口からいうのもなんだが、まあそうだ。オーディションとは、書類審査の後に集団面談がある。

 ところが、くみちーは書類審査をすっぽかして、オーディションに乗り込んだのだ。

 そしてくみちーは合格した。

 合格を告げたのは、プロデューサーだった。


「私、凄い無茶したよね。それは今でもそう思う。でも、そんな無茶な私を、プロデューサーは受け入れてくれた」


 静かに、思い出を噛みしめるようにくみちーは言った。


「プロデューサーはいろんな可能性を探してくれるものでしょ? どんな無茶でも、私たちをちゃんと考えて、信じてくれる……なのに、まず無理なんて言うかしら?」


「それは……」


 確かにそうだ。


 ストレートな拒絶がショックで気付かなかったが、よく考えれば少し変だ。

 私の提案はコンセプトからずれていたかもしれない。

 でも提案は単なる提案。会議にかける前に、企画の一つをあそこまではばっさりと切り捨てるのはいくらなんでも妙だ。


「だから思うの。もしかしたら、なにか理由があるんじゃないかって。理由があるなら、それを聞きたいじゃない?」


 私は自分からしか状況を考えていなかったのかもしれない。

 だから、プロデューサーに拒否された時点で、考えるのをやめていた。

 でも、拒否した理由が別にあったのではないか。

 業務的ではない、プロデューサーという立場から見た理由が。

 もしそんなものがあるなら、私も知りたかった。

 席を立つと、くみちーに頷いた。


「行こう。プロデューサーに、理由を聞きに」

 


32 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:39:41.13 ID:5UUNa7QZ0


 幸いにも、集合場所は事務所の最寄駅だ。

 私とくみちーがつく頃には夕焼けがうっすらと空を染め始めていた。

 プロデューサー室に向かおうとしたけど、その必要はなかった。

 ちょうど入口のエントランスでプロデューサーの姿を見かけたから。

 仕事の連絡を確認しているのか。スマホに目を落としながら歩いてきた。


「プロデューサー」


 声を掛けたくみちーに、プロデューサーは顔をあげた。


「久美子、それに未央。どうしたんだ」

「話があるの」

「悪い今は急いでるんだ。また今度に――」

「大事な話なの」

 そのまま通りぬけようとしたプロデューサーの足が止まった。私とくみちーの顔を伺ってから、スマホで時間を確認していた。


「お茶する時間はないからな」

「分かってる」


 茶化すように言ったプロデューサーに、私は薄い笑みを返した。


「それでなんだ。話って」

「サンノスのこと」


 くみちーが切り出すと、プロデューサーの顔から感情がさっと抜けた。


「今話せることはないぞ。企画会議は来週の予定だ」


 プロデューサーは言った。私に話した時のような、あくまで業務的な口調で。


「でもプロデューサーは期待できないと思ってる」


 きみちーきっぱり言いきった。




33 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:41:00.77 ID:5UUNa7QZ0


「そうでしょ?」

「……ああ」

「どうして?」

「それは……」


 プロデューサーは言葉を濁す。


「無理じゃないと思うさ」

「私が提案したとき、プロデューサーはっきり無理って言ったじゃん」

「あのときは、そりゃ……」


 プロデューサーは撤回するわけでもなく、否定もしない。煮え切らない態度に、私は少し腹が立った。


「なんで無理って言ったの。なんで無理って決めつけたの」

「決めつけたわけじゃない。今回の企画は新しいユニットを探すためのもので――」

「そういうのは聞きたくないよ」


 くみちーがプロデューサーに詰め寄る。


「私達が納得すると思ったの? 企画書に書かれた言葉を並べれば素直に引き下がるって」

「……」

「そんな訳ないでしょ。貴方はみんなのプロデューサーなんだから。私たちを納得させてよ。未央にあんなことを言った理由を、教えて」


「ねえ、プロデューサー」


 私はつとめて静かに口を開いた。


「理由があるんでしょ? どうして無理って言ったのか。だって、ちょっとした提案を頭から否定するなんて、プロデューサーらしくないもん。その理由を聞きたいんだ、私」


 嘘いつわりのない、私の思いだった。事務所にくる道中で考えたことだ。

 私たちアイドルとプロデューサーは、同じ場所にいるようで、少し違う場所にいる。

 その少しの距離が、見えている世界を一変させる。

 私の世界を、私からしか見ていなかった。でもくみちーに言われて気付けた。

 同じ景色を見ていても、私とプロデューサーでは見え方が違うことに。

 きっとそれが、断った理由に繋がっているはずだ。


 だから、それを教えてほしかった。





34 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:43:44.66 ID:5UUNa7QZ0


「……この後な、美羽の番組を見に行くんだ」

「? みうみうの」

「ブエナ・スエテルが出演する。社内でも評判良くてな、ちょっと頑張ってもらわなきゃならんかもしれん」


 みうみうの話題が出たことに困惑した。みうみうもサンノスの一員だ。でも、それが今のとどう関係があるのか。


 くみちーも言葉の意味をつかみかねているようだった。


「……それがどうかしたの、プロデューサー?」

「久美子も、昨日は遅くまでレッスンしてただろ」

「そうだけど」

「一昨日は雑誌の写真撮影。その前はビューティーアリュールでコスメイベント、その前はバラエティにも出演してる」

「ちょっと、プロデューサー?」


 くみちーの問いには答えず、プロデューサーは私に目を向けた。


「未央は一昨日は友紀や李衣菜とラジオがあったろ? それにポジパの新曲にニュージェネもだってある。みんな大忙しさ」


 なんとなく、プロデューサーの言いたいことが見えてきた。


「忙しいから……時間がないから無理って?」


 だから今さらサンノスの為に時間を割けないといいたいのか。

 でも、プロデューサーは首を横に振った。


「優先度の問題だ。お前らがサンノスを大事に思う気持ちは嬉しい。でも、今あえてやってほしいことじゃないんだ。
 
 今の『お前達らしさ』には、合ってないんだ」



 少し考えてから、私は言った。



「……イメージの問題ってこと?」


 プロデューサーは首肯した。




35 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:45:19.56 ID:5UUNa7QZ0


 イメージがアイドルという職業で、どれだけ大事なのかは分かっている。

 それは分かりやすさであったり、神秘性であってり、親しみやすさであったり。

 作りだすのは難しく、崩れるのは簡単だ。

 つまり、今の私たちのイメージに、サンノスは合わないといいたいのか。

 プロデューサーは続ける。


「俺たちはお前たちを預かってる義務がある。お前たちを輝かせる義務がな。やらせたいことは、全部やらせたい。でも、そういかないこともある……分かってくれ」


 言ってから、プロデューサーはちらりと腕時計を確認した。


「悪い、ホントに時間がやばいんだ。ここで――」

「ちょっと、待ってよ」


 歩み出そうとしたプロデューサーの腕を、くみちーが掴んだ。


「なんだよ」

「私たちじゃ……」


 くみちーは言葉を途切った。その後を続けるのがためらっているようで。

 それでも、くみちーは口を開いた。


「サンノスじゃ輝けないって言いたいの、プロデューサー?」




 その返答に、耳を疑った。


「……理解されない輝きもある」




36 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:46:52.49 ID:5UUNa7QZ0


 そんな言葉をプロデューサーから聞くとは、思ってもいなかったから。

 最初から、理解されないのが当然のような言葉。挑む前から諦めている。

 そう聞こえた。

 くみちーも一緒だったようだ。呆然としたくみちーと私から、プロデューサーは気まずそうに視線を離した。

 ゆっくり腕を動かし、くみちーの手から滑り抜ける。


「じゃあ、行くよ」


 プロデューサーは背を向けて歩き出した。時間がないことを思い出したのか、建物を出る直前には小走りになっていた。

 まるで、私たちから逃げているようにも見えた。




「……た」

 聞き取れないような小さな言葉を、くみちーが漏らす。くみちーはプロデューサーの消えた方に目を向けたまま固まっていた。

 顔はなんだか険しい。


「くみちー……?」

「あったまきた! なにそれ!」


 ロビー全体に響き渡るような声に、私は目を白黒させた。


「ちょ、ちょ、ちょ。くみちー落ち着いて……?!」

「落ち着けですって!? あんな言い方ある?!」

「分かるけど、うるさいから?!」


 通りがかった社員さんや受付のお姉さんがぽかんと口をあけていた。

 くみちーもそれに気付いてくれたようだ。

 バツの悪そうな顔をしてから、わざとらしく咳払い。


 それから、くみちーは憮然と口を開いた。声のボリュームを落として。


「決めたわ、未央」

「なにを?」


「なにがなんでも、やるわよ。サンセットノスタルジー」




37 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:47:47.48 ID:5UUNa7QZ0


「え、でも」


「聞いたでしょ、プロデューサーの言葉。サンノスじゃ輝けない? イメージと合わない? 全部勝手に決め付けて。そんなのって……ないよ」


 くみちーが震えながら拳を握り締めていた。


「未央は悔しくないの?」

「悔しいに決まってるよ、でも……」


 くみちーの気持ちは、私も十分に理解できる。

 私だって、やりたいからプロデューサーに提案したのだ。


「だからって、どうすればいいの。事務所だっていろいろ都合があるし」


「プロデューサーに思い知らせるのよ。サンノスの輝きを。私たちから目が離せなくなるぐらい、輝けるってことを証明するの」


 くみちーの答えはシンプルで、力強い。

 ただ問題はあった。

 その方法だ。


「どうやって思い知らせつもりなの?」

「プロデューサーをぎゃふんと言わすの!」


 自信たっぷりに言いきったくみちーを、私は見つめていたけど。



「だから……どうやって?」

「ぎゃ、ぎゃふんはぎゃふんよ」


 つまり、特に考えはないらしい。

 ちょっと呆れてしまったけど、なにもしないよりはよいかもしれない。

 ボーっと立ち止まっているより、少しでもジタバタした方が、きっと思いは伝わる。


「うん、そうだね。考えよう。プロデューサーをぎゃふんと言わす手を、さ」


 だから、私はそう答えた。







38 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:51:35.30 ID:5UUNa7QZ0
 



 くみちーと別れた後、レッスンをしてから家に帰った。テレビを見ながらご飯を食べて、それからお風呂に入った。

 温かなお風呂の中で、くみちーと約束したこと考える。


「ぎゃふんと言わす手ねー」


 言葉にするのは簡単だが、なかなか難しい問題だった。

 正直、プロデューサーから言い分を聞かされ、私は少しすっきりしていた。

 私たちがここまでこれたのは、自分だけの力だなんて思っていない。プロデューサーや、事務所の努力があったからこそ。

 プロデューサーの口ぶりからして、サンノスがどうでもいいから、そう言った訳でないのは伝わっていた。

 いろいろな戦略があって、今のサンノスは既に外れてしまっている、ということだろう。

 一度外してしまったものは、よほどのことがない限り戻すことはない。

 外した状態でうまくいっているならば、尚更だ。

 くみちーだって、きっとそれは分かっている。

 分かっているけど、やっぱり納得できない。

 私も一緒だ。


(でも、最初からそう言ってくれれば良かったのに)


 そこも、ちょっと納得できないところだった。

 ちゃんとした理由があったなら、私が提案した時点で、はっきり言って欲しかった。

 しかも諦めさせるためだろうか。別れ際のプロデューサーの言葉は、褒められたものではなかった。

 だからこそ、くみちーに同意した。

 プロデューサーをぎゃふんと言わしたかったから。

 サンノスの輝きを、見せつけるために。



「でもねー」


 気持ちは焦れど、その案が浮かぶものではない。





39 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:52:47.05 ID:5UUNa7QZ0


 足を伸ばしてゆっくり考えるほど、ウチのお風呂は広くなかった。

 膝をちょっと丸めて、意味もなく足を湯船から出してみたり。


「いっそお色気で……?」


 私やくみちーはもちろん、実はみうみうだってよいものを持っている。

 それを武器にしない手はないだろう。周りに止められそうな予感がするが。

 くみちーはみうみうにも連絡すると言っていた。

 私も少しみうみうと話したかった。後で、電話かメールでもしよう。

 お風呂から出ると、食べようと思っていたプリンがなくなっていた。帰りにコンビニで買って来たものだ。

 考えごとには甘いものが必要だというのに。


「お母さん、私のプリンは?」

「プリン? 知らないわよ」


 となれば、思いつくのは弟だった。


「ちょっと。私のプリン食べた?」


 部屋を覗き込む。弟はスマホで動画を見ていたけど、私が来たのに気付いて慌てて画面を机にうつぶせて置いた。


「勝手に入ってくんなよ、姉ちゃん」

「私のプリンは?」

「はあ? プリンなんか知らねえよ」

「嘘ついたら承知しないぞ」

「そんな嘘ついてどうすんだよ。冷蔵庫の奥に入ってるんじゃねえの」

「かなあ」


 そう言って去ろうと思ったけど。


「……変なの見るのも、程々にしろよなー」


 弟だって、そういうのに興味を持つのもおかしくない。男子だもの。

 ニヤついた私に、弟は顔を赤くした。


40 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:55:33.37 ID:5UUNa7QZ0


「はあ。そんなんじゃねえよ!」

「またまた。男の子だねー」

「ちげえよ。ほら!」


 伏せていた画面を私に向けてくる。動画に直接コメントが流れる有名な動画サイトだった。

 確かにエロサイトではない。うちの会社も、何個か動画サイト内にチャンネルを持っていた。


「って言うかその動画、うちの会社の番組じゃん」

 見覚えのあるセットだった。月替わりでうちのアイドルが出演している番組だ。

 生放送番組で、放送時間はもう過ぎていたが、この動画サイトは次の放送まで自由に見直せるようになっていた。

 よく見ると、停止した画面に映っていた三人は見覚えのある三人。


 『ブエナ・スエルテ』だ。

 今月はこの三人らしい。プロデューサーが言っていた番組とは、このことだったのか。


「なに、あんたブエナ・スエルテのファンなの?」

「そう言う訳じゃねえけど。ダチに見ろって言われたんだよ。美羽ちゃんも出てるし、まあ見ようかなって」


 押しはみうみうか。弟ながらなかなか見る目がある。


(今度、サインぐらい貰って来てやろうかな)


 かわいい弟の為に、少しくらい労を取るのも悪くはない。

 なんてことを考えながら、私はスマホを弟に返した。



「っていうか姉ちゃん。この話マジなの?」

「なにが」

「ほら。姉貴が美羽ちゃんと活動してた奴」

「サンノスのこと?」


 なんでその話題が出るのか。私は不思議に思った。




41 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:56:54.50 ID:5UUNa7QZ0


「そう、それ。夏のライブに出るの?」


「はっ?」


 私は眼を丸くした。

 私がサンノスの件を提案したことは家族には話していない。

 というかプロデューサーとくみちー以外には話してないし、そもそも一回目の企画会議は来週と聞いてる。

 出れるか分からないからこそ、私は湯船にのぼせそうになるまで頭をひねっていたのだ。


「それは、どうだろうなー。こう言うのって、家族でも言える話じゃないし……」

「でも。ほら」


 弟は動画の再生バーを少し戻してまた画面を見せてくる。


 画面には画面に流れるコメントの奥では、みうみうが話していた。




『実はですね……サンセットノスタルジーが、夏のライブで復活するかもなんです!』




「うえっ?」


 間抜けな声が出てしまった。

 画面には驚きのコメントが大量に流れていたが、それ以上の????が私の頭を流れていた。


(私の知らない間に決まってた? いやいや、だから企画会議もまだだし。もしかしたら密かに上の人が復活の企画をしていて、それをみうみうだけが知っていて……ってそんな訳がないよね)


 様々な状況を鑑みてみると、簡単な答えが導き出されるわけで。


 このセリフ、完全にみうみうの暴走である。

 色々まずいんじゃないのだろうか。

 お風呂で温まっていた体から血の気が引いて、一気に涼しくなった。




42 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:58:07.41 ID:5UUNa7QZ0


 私は自分の部屋に駆け込んでスマホに手を伸ばす。

 着信通知も後回しにメールを打とうかと思ったけど、面倒になって電話した。

 その電話に、すぐさまみうみうが出た。


「あ、未央ちゃん」


 みうみうの声には苦笑やら泣きそうやらなんとも言えない苦い響きがあった。

 挨拶もそこそこにあたしは要件を切り出した。


「ちょっとちょっと、なんであんなこと番組で言っちゃったの!?」

「言っちゃった!」

「聞いちゃったよ! そしてびっくりしちゃったよ!?」

「サ、サプライズ成功!」


 心臓に悪いサプライズだ。しかもサプライズした側の声は震えてるし。


「サプライズって言うより……不意打ちって感じだね」

「不意打ちかー……久美子さんと同じ感想だ……」

「くみちーからも電話あったの?」

「うん、番組中にプロデューサーの方に」


 どうやらくみちーは生で視聴していたようだ。そりゃあすぐさま電話もする。

 私だって、生放送中に観ていたら、みうみうに掛けてからプロデューサーに掛け直す。

 たぶん、私のスマホにあった着信はくみちーからだったのだろう。


「プロデューサー、怒ったでしょ?」

「うん。すっっっっごく怒ってた」

「だろうねえ……」


 当然だ。アイドルが決まってもいないことを決まったというのは、コンプライアンス的に色々アウトだろうし。

 監督責任はプロデューサーにむけられるだろう。




43 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:59:22.12 ID:5UUNa7QZ0


 頭を抱えながら必死に言い訳を述べたあと、上司から散々雷を頂くことになるはずだ。

 プロデューサーの内心は十分に察せられた。

 でもみうみうには言わなかった。

 現時点でも、ちょっと後悔の念が浮かんでいたから。

 これでプロデューサーが怒られるなんて言うのは追い打ちになってしまう。それはなんだか心苦しかった。

 みうみうだって分かっているかもしれない。分かってるなら、なおさら私から言わなくていいだろう。

 だから代わりに、私は質問を繰り返した。


「なんで言っちゃったの。番組で、しかも生放送だし」



「だって、わたしもやりたかったから!」



 叫ぶようなみうみうの強い言葉に、私は声を詰まらせる。

「サンセットノスタルジーで、舞台に立ちたかったから。未央ちゃんもそうだから、プロデューサーに企画を提案したんでしょ?
 その話を久美子さんから電話で聞いて、わたしすごくうれしかったの。で、ぎゃふんと言わせる手を考えてって言われてね、だから……」

「みうみう……」


 健気な声で言われてしまえば、それ以上私もなにも言えなかった。

 なによりも、その気持ちが心に響いてしまって。


(ただ、なんというか……ちょっと大胆すぎだなー……)


 凄いのだけど、もうちょっと考えてほしいというか。

 プロデューサーどころか、私達までぎゃふんと言わせる一手だった。

 奇襲効果はてきめんだ、多方向に。


「あ、ちょっと待って」


 みうみうの声が遠くなった。誰かと話している。

 少しして電話口から聞こえてきたのは、プロデューサーの声だった。




44 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:00:13.80 ID:5UUNa7QZ0


「未央か?」

「プロデューサー。その、なんとうか……」

「やられたね、全く。お前らには」


 プロデューサーの声にも疲れの響きがあった。


「お前らというか、みうみう一人というか……」

「ぎゃふんと言わせようとしたんだろ。その点じゃ大成功さ」

「……で、どうなのかな」

「なにが」

「ぶっちゃけ、みうみうの発言の影響は?」

「知らないよ」


 内心ドキドキして聞いたが、返ってきたのは素気ないというか、雑な返事だった。


「なるようにしかならないさ」


 投げやりな言葉だ。悪いのはこっちだが、流石に気に触った。


「ねえ、ちょっと酷くない? その言い方さ。そりゃあ勝手にやっかもだけど……」

「……そうだな、すまない」


 疲れたようにプロデューサーは息をついた。

 私は眉をひそめる。なんだか様子が変だ。みうみう以上に元気がない。

 もしかしたら、もう誰かしらからお怒りの電話をもらったのかも。


「私も……ゴメン」


 そう思うと、自然と言葉が漏れた。責任の一端は私にもあるから。


「いや、いいさ。実際に影響はまだ分からないが、個人的な意見を言わせてもらえれば、不用意な発言はよくない。叶うか分からないことを言って、ファンをぬか喜びさせるのはな」




45 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:01:14.79 ID:5UUNa7QZ0

 
「だけど、ファンのみんなだって反応は悪くないんじゃない? ほら、動画見たけど、結構喜んでるコメント多かったし」


 動画サイトのコメントには、期待したくなる程度には肯定的な意見が並んでいた。

 でもプロデューサーは冷静だった。


「一応は、だけどな。ああいうのはノリで肯定コメントを出すけど、実際はどれくらい喜んでるかは分からないって」

「まあ……かも」


 そういう記憶は私にもある。特に興味がなくても、その場の雰囲気で同調して、後で少しだけ後悔したりとかもなくもない。匿名性の高いネットの場ならなおさらだ。


「まあやっちゃったもんは仕方ない。もうネットニュースにもなっちまったし」

「マジ?」

「ともかく、どうなるかは分からない。それだけは肝に銘じておけ。あんま無茶な行動だけは勘弁してくれよ」


 疲れたように言ってから、プロデューサーは電話をみうみうに戻した。


「あのさ。やっぱり未央ちゃんも、怒ってる?」


 みうみうが不安げに聞いてきた。そんなことを聞くというのは、自分の行動に自信がないからだろう。

 自信がないなら、やらなければいいのに。


 私は呆れて、少し笑ってしまった。

 まるでサンノスを提案したときの私と一緒だ。




46 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:02:04.81 ID:5UUNa7QZ0


「……みうみう」


 私は深く深く息をついた。電話の向こうにも聞こえるように、大げさに。


「ナイスアシストに決まってるよ、みうみう!」

「未央ちゃん……」


 電話口から安堵が漏れる。私は落ち着かせるよう、つとめて穏やかに言った。


「ただ、もうもうちょっと相談してね。だってこれって、私達の問題なんだから」


 それから少し話をして、私は電話を切った。

 息をつく。

 さて、これがどういうことなるか。

 思わぬ展開に驚いたが、こうなっては仕方がない。

 みうみうの行動が、凶とでるか吉と出るか。

 一末の期待と不安を抱きながら、ベッドに倒れ込む。

 そんなとき、お母さんが部屋に覗き込んだ。


「お父さん白状したわよ。プリン、食べたって」


 プリンのことなど、すっかり忘れていた。







 翌日、学校での反応は大したものではなかった。




47 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:15:56.57 ID:5UUNa7QZ0


 ニュースを見て、やるんだと聞いてくる子はいた。

 まだ分からないと素直に伝えると、へえと曖昧に唸っただけだった。そんなものだろう。

 問題は事務所の方だった。

 放課後、事務所にむかう私は少しだけ気が重かった。

 この件に対して、どんな反応をされるのか。それが不安だった。

 みうみうとの電話の直後、私はくみちーにも電話をかけた。


 くみちーは意外にも冷静というか、淡白な反応だった。

 びっくりし過ぎて、呆気にとられていたのだろうか。

 くみちーだってそんな反応だ。

 この電撃的発表は、事務所の仲間にどう受け入れられているのか。

 何人かからは驚きや応援のメッセージが送られてきていた。

 まだ未定だと返信すると、今度は困惑や驚愕が返ってきた。


 気になるのは、メッセージを送ってこなかった子たちだ。

 ニュージェネとポジパのメンバーも、みんな後者だった。


 人ごみのなか、気付けば一人ため息が漏れていた。

 そんな私の背中を、誰かがポンと叩く。

 少しだけ、どきりとした。


 しぶりんだ。


「おはよ、未央」


 しぶりんはイヤホンを外しながら私と並んで歩きだした。




48 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:17:07.97 ID:5UUNa7QZ0

「しぶりん今日レッスンあったっけ?」

「うんうん、卯月と事務所で待ち合わせてるの。今日は卯月、朝から仕事だったし」

「どっか行くの?」

「美術館。貰い物で余ったチケットがあったから誘ったんだ」

「私も誘ってよー」

「未央、絵なんて興味あるの?」

「もちろん。ダヴィンチにロダン、ミケランジェロにミセス・バーネット!」

「最後のは小説家じゃない?」


 しぶりんは呆れるように笑ったけど、




「ねえ未央。サンセットノスタルジーの話ってホント?」


 やはりその話題はでるだろう。

 私は少し気まずくなったが、つとめて明るく笑って見せた。


「ああ、やっぱり知ってた?」

「ニュースになってたもん、知ってるよ」

「知ってたなら、メッセージでも送ってくれれば良かったのに」

「どうして? 会った時に聞けばいいでしょ」


 もっともだ。それから私は、かいつまんで事情を説明した。


「美羽、凄いことしたね」


 しぶりんは目を瞬かせていた。感心と驚きがごっちゃになっているようだった。


「いやあ、これには未央ちゃんもびっくりですよ」

「でも、未央もサンノスをまたやりたいんでしょ?」


 その藍みがかった瞳が、心の内を覗かんとするように私を射抜いた。


 私は、静かに頷く。


「うん」

「ふうん」


 本当になんでもないように、しぶりんは微笑んだ。


「だったら、私は応援するよ」

「……ありがとう、しぶりん」




49 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:18:34.27 ID:5UUNa7QZ0


 エントランスにはまだしまむーはいなかった。

 私はしぶりんと別れを告げて事務所の中を進んでいく。

 しぶりんの態度に、ホッとしていた。

 同じユニットのメンバーから、肯定的な言葉を貰えたから、気が楽になった。

 先ほどより軽くなった足取りで廊下を歩いていく。

 更衣室の前だった。


「あっ」


 眼鏡をつけた一人の少女が、ベンチに腰かけてドリンクを飲んでいた。つっちーだ。どうやらレッスン終わりのようだ。


「やっほー、ニューウェーブ」

「あ……未央ちゃん」


 なんだか変だった。普段のように軽口を返してくれない。それどころか、表情がこわばったようにも見えた。
 つっちーはぼんやりと私を見てたけど、やがていつものように笑顔を浮かべた。

 少しだけ、胸がざわついた。


「もう、昨日はびっくりしたでー」

「あはは、サンノスのこと……だよね?」


 驚くのは当然だった。つっちーはみうみうと一緒に番組に出ていたのだ。あの後、改めて動画を見たが、みうみうの発言した瞬間、隣に座っていたつっちーの驚きようといったらなかった。


「ほんまあんなこと言うなら、前もって相談してて欲しかったわー。未央ちゃんは知ってたん?」

「いやいや、まさか。知ってたら流石に止めてるって」

「じゃあ美羽ちゃん言うとおりなんだ」

「みうみうはなんて?」

「自分一人でやったって。美羽ちゃんはいい子やけど、たまにぶっ飛んだことするから心臓に悪いわ」



 つっちーは胸元に手を当てて、大げさに息をついた。




50 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:19:59.15 ID:5UUNa7QZ0


「いやいや全く」

「ほんまさ。美羽ちゃん、いい子だもん」


 気がつけばつっちーの顔から笑顔が消えていた。真剣な瞳が私を捉えて離さなかった。


「未央ちゃん、美羽ちゃんを利用とかしてないよね?」

「へ?」


 私は呆気にとられる。全く理解出来なかった。

 言葉の意味は分かる。ただその言葉が意味する事柄が、私とみうみうとの関係にまるで当てはまらなかった。

 少なくとも私の中では。


「えっと、利用って……?」

「美羽ちゃん、いい子だからさ。本当は未央ちゃん達がやりたいことの為に、美羽ちゃんを巻き込んでるとかないん?」

「ちょ、ちょっと待ってよ。なんでそうなるの?」


 つっちーの言葉に頭がいよいよ混線してきた。必死に解きほぐしながら、選びだした言葉を口へなんとか引っ張り出した。


「昨日のことだったら、みうみうが勝手にやったことだし」

「でも、ぎゃふんと言わせたかったんちゃうん。Pちゃんのこと」


 それはたぶん、くみちーがみうみうに話したのだろう。プロデューサーをぎゃふんと言わせたいと。そしてそれがみうみうからつっちーに伝わった。そういえば、プロデューサーもぎゃふんと言っていたと今さら気付いた。

 そしてあの行動をみうみうはとった。

 みうみうは確かに、サンセットノスタルジーで舞台に立ちたいと言った。

 だけど、それにはどこか私達の押し付けがあったのではないか。

 少なくとも、つっちーはそう感じているらしい。



「アタシな、美羽ちゃんのことめっちゃいい子やと思ってる。だからもし、未央ちゃん達が美羽ちゃんを利用しようとしてるなら、アタシ……許せへんよ」




51 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:21:07.46 ID:5UUNa7QZ0


「私がみうみうを利用する訳なんかないでしょ?」

「本当にそうって言いきれるん?」

「当り前でしょ」


 それだけははっきりと伝えたかった。

 私だって、みうみうがいい子なのは十分に承知していた。利用するなんて、そんな思いはどこにもなかった。

 というか、利用するにしてもあんな突飛な真似はとらせないだろう。普通。

 更衣室の扉が開く。中から垂れ目がちな少女が現れた。

 全体的にふんわりとした雰囲気をしている彼女は、日菜子ちんだ。


「お待たせしました……おやおや? 未央さんもご一緒でしたか」

「あ、お疲れ。日菜子ちん」


 日菜子ちんは私と亜子ちゃんを交互に目を向ける。それからだらしなく頬が緩んだ。


「ふむふむ……このなんとも言えない空気……許されない恋の匂いを感じますね」

「なんでそうなるねん!」


 つっちーも無視してむふふと笑った日菜子ちんは、両頬に手を添えて視線を宙に彷徨わせた。


「それか、大事な人を奪い合う二人……妄想がとまりませんねえ……」

 日菜子ちんは乙女なロマンチストですぐに妄想に浸ってしまう。

 突っ走るという意味では、茜ちんと同じタイプの子だった。

 呆れるようにつっちーが息をついた。


「もう、アホ言っとらんと早く行こ。美羽ちゃんも待ってるよ」

「みうみうもいるの?」

「そうです。日菜子達でお茶会なのですよ〜。乙女の秘密の花園です……」

「ファミレスが乙女の花園なんて聞いたことないで」




52 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:22:10.29 ID:5UUNa7QZ0


 立ち上がったつっちーは、未だ妄想の世界に浸っていた日菜子ちんの腕を掴む。


「ああ……強引なのも悪くないですね……」

「だーかーらー!」


 そのまま日菜子ちんを、つっちーは引っ張っていく。


「それから、未央ちゃん」


 去り際に、つっちーは振り返った。



「ほんま、頼むよ」


 頼むというのはみうみうのことで、でもそれはいい意味での「頼む」ではない。

 無茶をさせないでほしい、ということだろう。

 そう言われてもと思っても、私はなにも言い返すことはできなかった。


 つっちーが角を曲がって視界から消えた直後だった。


「お疲れさまです、亜子ちゃん!」


 元気な声が陰から聞こえてきた。姿を見なくても誰なのか分かるボーナスクイズだ。

 姿を現したのは、正解。茜ちん。


 そしてあーちゃんだった。

 茜ちんは私に気付くと、元気に声をだす。


「お疲れさまです、未央ちゃん!」

「あ、お疲れさま。茜ちん、あーちゃん」

「お疲れさま」


 駆け寄ってきた茜ちんは、私の様子を察して「ふむ?」と首をかしげた。


「なにかあったのですか、未央ちゃん?」

「え、いや。なんでもないって」


 そんな茜ちんと違って、あーちゃんはマイペースに歩いてきた。


 今日はこの三人でのレッスンだった。




53 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:23:43.93 ID:5UUNa7QZ0


 更衣室に入って着替えを始める。

 茜ちんはテキパキと着替えた。背は一番小さいけど、胸はけっこう大きかったりする。

 着替えを終え、ロッカーのなかに置いた鞄を整理していた茜ちんの隣では、白いブラウスをあーちゃんが脱いでいた。控え目な胸を、これまた控え目なピンクのインナーが包んでいた。


「そう言えば、そうですよ!」


 スマホを見ていた茜ちんが、思い出したように要領の得ない言葉を叫んだ。


「サンセットノスタルジー復活とは、本当なのですか!?」


 茜ちんはスマホの画面を見せてくる。昨日の発言に関するネットのニュースだ。私もその記事には目を通していた。


「まだ確定じゃないし、どうなるか分からないけど」


 言いながら、私は目端であーちゃんを捉えた。あーちゃんは胸元に運動用のシャツを抱えたまま僅かに顔を俯けていて、表情は見えなかった。


「確定ではないのに、公表してしまったのですか?」

「あれはみうみうの独断というか」

「おお……それはなかなか度胸があるというか……いいのですか?」

「よくはないかな。プロデューサー怒ってたっぽいし」

「それはいけませんね……突破力は大事ですが。監督の言うことを聞かないと、ところによっては干されてしまいますから」


 茜ちんは腕を組みながら悩ましげに眉を寄せた。


「あのプロデューサーに限ってそれはないと思うけど」

「しかし、決まっていないならなぜあんな公表を?」

「決まってないから、かな。ほら、今度のライブの際のコラボを募ってる話あるでしょ。その企画で、プロデューサーにサンノスのことを提案したんだ。それの後押しをなればいいって思ったみたい」

「なるほど」


 私の説明に、納得するように頷いていた茜ちんだけど、その首が横に傾いた。


「はて。では誰がサンノスのことを提案したんですか?」



 当たり前の疑問だった。





54 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:24:34.54 ID:5UUNa7QZ0


「それは――」



「未央ちゃんだよね」



 袖を通したシャツの伸ばしながら、あーちゃんが言った。

 私は驚いてあーちゃんを見た。

 あーちゃんは私なんて気にしていないように、淡々と準備を進めていた。


「ほう、未央ちゃんがですか! それは本当なのですか?」

「そうだけど……あーちゃん、くみちーから聞いたの?」


 当たり前だがニュースを見ても私が提案者であることなどは一言も出ていない。あーちゃんが知っているならば、くみちーから聞いたかと思ったが。


「うんうん。ただ、そうかなーって思っただけ」


 そう、あーちゃんは笑った。


「やっぱり、そうだったんだ」


 その笑顔は、いつものあーちゃんのはずだったのに、いつもと違うように思えた。


「藍子ちゃん?」


 同じものを茜ちんも感じたのか、あーちゃんを不思議そうに見つめていた。


「待たせてごめんね。ほら、早くレッスンに行こっ」


 そう促したあーちゃんは、先に更衣室を出ていった。




55 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:26:25.39 ID:5UUNa7QZ0





 ストレッチの間も、あーちゃんはいつものようにふるまっているのに、どこか距離を感じた。

 言葉にならないぎこちなさが漂ったまま準備を続けていたが、レッスンが始まればそんなものは消し飛んだ。

 なにもかもが滞りなく進んで、だからこそ胸のざわつきは広がっていった。

 レッスンもあっという間に終わり、私達は更衣室へ戻ってきた。

 スマホにはメッセージが入っていた。しまむーからラテアートの写真、美嘉ねえから予定確認。


 そしてメールがみうみうから。


『今、事務所にいるの? なら会いに行っていい?』


 どうやら、つっちー達から聞いたらしい。つっちーとのやりとりが頭にひっかかったが、昨日のこともある。

 近いうちに会おうとは約束していたが、具体的な日取りは決まっていなかった。

 私は了承のメールを送った。


「未央ちゃん、藍子ちゃん。これからご飯を食べに行きませんか!」


 既に着替えを終えていた茜ちんが、鞄を肩にかけながら聞いてきた。

 少し乱れた髪型を気にしていたあーちゃんは、手を止めて頷いた。


「いいよ。私は」

「ゴメン、私パス。この後ちょっと用事入っちゃって」

「そうですか。それは残念です」


 素直にがっかりしてから、茜ちんは襟元を確認。鞄をかけ直した。


「では私は喉が渇いたので先に出ていますね。自販機の前で待ってますので!」

「うん、わかったよ」


「では」と元気に言ってから茜ちんは更衣室を後にした。




 残されたのは私とあーちゃんだけ。




56 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:27:08.56 ID:5UUNa7QZ0


 二人きりになるように、茜ちんが気を使ってくれたのか。

 そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 どちらにせよちゃんと話すチャンスだ。

 黙々と着替えるあーちゃんに、私は尋ねた。


「……ねえ、あーちゃん。怒ってる?」

「どうしたの、いきなり」


 手を止めたあーちゃんは、私に不思議そうに首をかしげた。


「いや、なんか朝から様子がおかしくないかなって……思って」

「怒るなんてことないよ。それに、なんで怒ったと思ったの?」

「それは……」


 私は上手く答えられなかった。こっちから聞いておきながら、あまりにも情けない。

 結局、あーちゃんから切り出されてしまった。


「サンセットノスタルジーのこと?」

「……かな。やっぱり」


 私だって予想はついていた。なのに、いざ言おうと思うと口がいうことを聞かなかった。


 あーちゃんは微笑んだ。


「なんで怒ってると思ったの? 私達に秘密で進めてたから?」

「秘密って訳じゃ……第一、まだ企画段階だしどうなるか」

「でも、企画を提案したのは未央ちゃんでしょ?」

「だから、その……」


 謝ろうかと思ったが、言葉は喉でつかえる。

 そもそも、なにを謝るというのか。悪いことをしたわけではないのに。



 悪いことをしたと、私は思ってしまっているのか。




57 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:28:10.65 ID:5UUNa7QZ0


 言いあぐねた結果、できあがった会話の空白は沈黙が埋めることになった。


「あの時だよね」


 沈黙を退かしたのは、あーちゃんだった。


「忘れものって言った時。あの時に言いに行ったんだよね」


 驚きのあまり言葉を失う。そこまで見抜かれていたなんて。私の反応を見て、あーちゃんは笑んだ。

 その仕草は、ひどく寂しそうで胸が痛くなった。




「私ね、別にいいと思うよ。未央ちゃんのやりたいことを私が止める権利はないし……でもさ、未央ちゃんはそんなに抱えることができるの? ニュージェネもあって、ポジパもあって……」

「あーちゃん……」

「私は、ポジパだけで精いっぱいだよ」


 静かに呟いたあーちゃんの瞳は私を捉えていた。

 瞳に瞬いた悲しげな煌きに、息が詰まった。

 それもつかの間。視線を逸らしたあーちゃんは、小さく俯くと荷物を抱えた。


「じゃあね、未央ちゃん」


 去り際に言った時には、私と目を合わせようともしなかった。
 






58 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:29:10.19 ID:5UUNa7QZ0


 私は事務所のソファーに坐りながら、夕暮れの景色を眺めていた。

 遠くで鳥が隊を組んで飛んでいった。あれはなんの鳥なのだろうか。分からないが、太陽を背にシルエットを作る鳥たちに目を奪われていた。


 部屋には私一人だった。

 自販機で買ったドリンクを傾ける。サイダーの甘さが炭酸と一緒に口の中をべっちゃりと塗りつぶした。


(そう言えば、美嘉ねえにまだ連絡返してないや)


 でも、返信する気にもならなかった。私はソファーに沈み、眼をつぶった。

 更衣室でのあーちゃんの顔が頭に浮かぶ。


(あれはないでしょ……私)


 もっとうまいやり方があったはずだ。ちゃんと説明すれば、あーちゃんだって分かってくれたと思う。

 ただ、そのもっとうまいやり方というのが、全然思いつかなかった。

 思いついたとしても、既にあとの祭りだけど。

 自己嫌悪が蛇みたいに思考に巻きついてくる。考えをめぐらせようとするたび、ゆっくりと締め上げてきた。

 こう言う時は、変に考えない方がいい。短いなりのアイドル人生で学んだことだ。

 レッスンで疲れた体が合わさって、私はゆっくりと意識が遠のいていった。


「うりゃ!」


 そんな意識が、即座に覚醒した。

 背後から誰かが覆いかぶさってきたのだ。

 びっくりして顔を上げると、まんまるな眼が私を見下ろしている。


 みうみうだった。




59 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:30:13.97 ID:5UUNa7QZ0


 奇襲に成功したからか、満足げに眉を吊り上げていた。


「ふっふっふ、隙だらけだよ未央ちゃん!」

「みうみう、ほっぺ揉まないで」


 しかしみうみうは頬から手を離さない。手のひらで押すようにもみ続けた。


「未央ちゃんお疲れでしょ? 寝てたみたいだし、ここは癒し手の美羽の癒す手で癒してあげるね」

「言葉被り過ぎてよく分かんないことになってるから」


 私もみうみうの頬に手を伸ばす。手のひらではなくつまんで引っ張った。


「よく分かんないことは言うのはこの口かな〜?」

「みおひゃんいひゃいいひゃい」

「あはは」


 頬を弄るのをやめて坐りなおした私の首に、ほっぺを赤くしたみうみうが後ろからギュッと抱きついた。すぐ横にある顔は笑顔から一転、落ち込んだ表情を浮かべている。


「もー、未央ちゃん。プロデューサーに怒られたよー」


 耳元でみうみうが囁くように言った。


「可哀そうに。ほら泣かない泣かない」


 ナデナデすると、みうみうの頭はなすがままに左右に揺れた。


「さっきはさー」

「うん?」

「亜子ちゃんにも呆れられちゃったんだー」

「ファミレスで会ってたんだっけ?」

「そうなの」



 去り際のつっちーの顔が、頭の中をよぎった。



「……ねえ、みうみう。本当にサンノスでライブに立ちたいと思ってる?」




60 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:31:28.39 ID:5UUNa7QZ0


 撫でるのを止めて私は尋ねた。みうみうは不思議そうに私の顔を覗き込んだ。


「どうしてそんなこと聞くの?」

「いやあ、押し付けちゃったかなって思って」


 みうみうはいい子で、まっすぐだ。ちょっと暴走気味なくらい。

 つっちーに言ったとおり、私は決してみうみうを利用しようなんか考えていなかったし、これからもそうしたいとは思わなかった。

 でも、その行動を取らせた一因が私にあるのは間違いない。

 もしそれが、私の為にやったことならば。


 その返答は、力強い抱擁だった。


「立ちたいに決まってるでしょ」


 とっても力強く、ちょっと首が締まって苦しいほどだ。


「だからあんなことやってプロデューサーに怒られたんだよー」


「思い出したらまた落ち込んできた」そう言ってがっくりとうなだれ、巻きつく力も弱まって息が楽になった。


「本当に?」

「もう、しつこいよ未央ちゃん。昨日も言ったけど、わたしもやりたいの!」


 怒っているようにも、拗ねているようにも聞こえる口調だった。

 みうみうはそういう子だった。

 皆を笑顔にするのが好きで、でもそれは自分がしたいからしている。

 誰かに言われたらといって、素直に従うタイプじゃない。

 なにかをやるにしても、自分で納得してからやる。結果はともかくだけど。

 私はまたみうみうの頭をなでた。さっきよりも優しく。


「ゴメン、変なこと聞いてさ」

「いいけどさー……」


 美羽はしょんぼりした様子で私の肩にぐったりと顎を乗せてくる。


「やらなかった方が、よかったかな?」

「ちょっとー。さっきまでの元気はどうしたの?」


 コロコロと表情が変わるのは可愛いが、気分もコロコロと変わり過ぎだ。




61 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:32:37.61 ID:5UUNa7QZ0


「やっといてなんなんだけど……もしかしたら、わたしのせいでサンノスがライブに出るの、難しくとかならないかな?」

 実際に的を射た悩みだった。可能性の公表がプロデューサーの背中を押すことになるとは決まっていない。逆の可能性だってある。その行為を嫌って、サンノスの出演を拒む方向に進んでもおかしくなかった。

 それでも、私は微笑んだ。


「電話でいったじゃん。みうみうのやったのは、チョーナイスアシストだから」

「だったら良いけど……」


 みうみうは眼を細めた。まだ気になることがあるようだ。


「なになに、私のこと信じられないの?」

「そうじゃなくてさ……その」


 なにか言いづらそうに人差し指を私の前で合わせていた。どうもおかしい。

 後悔は後悔だが、先ほどとは毛色が違った雰囲気だ。


「どうかしたの?」

「……えっとね。久美子さんとプロデューサー、わたしのせいで喧嘩しちゃったかも」

「はあ?」


 思ってもない方向だった。


「えっと、喧嘩? どうして」

「本当に喧嘩してる訳じゃあないかもだけどさ。わたしが放送で言った後に、久美子さんからプロデューサーに電話がかかってきたっていったでしょ。その電話の後にプロデューサー落ち込んでたみたいで」


 あの時のプロデューサーの態度を思い出す。あきらかに声に元気がなかった。

 てっきり、偉い人に怒られたのかと思ったけど。


 そう言えば、直後にくみちーに電話をかけたときもそうだ。

 くみちーも素気ないというか、心ここにあらずだった。


 二人の態度は、喧嘩してしまったせいということだったのか。




62 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:35:15.08 ID:5UUNa7QZ0


「どうして喧嘩したの?」

「それは分かんないよ。わたしは生放送中だったし、電話の時はプロデューサー、スタジオの外に出てからさ。ただ、後でスタッフさんから喧嘩してたみたいって聞いたの」


 はあ、とみうみうはため息を漏らした。


「二人が喧嘩したのも、やっぱりわたしのせいかな」

「それは、たぶん違うと思うけど」


 原因を聞いてはみたが、大方の予想は出来ていた。確かにみうみうの一件はきっかけだったかもしれない。でもそれ以前から、くみちーはサンノスの件でプロデューサーに不満を募らせていた。

 それが予期せぬ形で爆発してしまったのだろう。

 だが、みうみうの起こした行動は、多分みうみうが考えるより周囲に影響を与えている。


(つっちーや……あーちゃんとか)


 つっちーから頼むと言われたことを思い出した。

 だからという訳ではないけど、一応言っておいた方がいいだろう。


「みうみうや」

「どうしたのですかな、未央ちゃん?」

「お主のせいではないが、今回のような独断は今後、控えていただきたいものですなー。せめて未央ちゃんか久美子ちゃんに相談をするべきでありますよ」

「ははあ、肝に銘じておきます」


 ふかぶかと頭を垂れたみうみうに、私はうむうむと頷く。


「ところで、みうみうよ。もう一つ良いか?」

「なんでございましょうか」

「いい加減、離れてくれないかな?」

「離れたくないと申したら、如何いたしますかね!」

「喋り辛いから。普通に座って」




63 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:36:29.05 ID:5UUNa7QZ0


 みうみうは私の向かいに腰かけた。


「ともかく、今回はみうみうの落ち度はまるでない。おっけー?」

「おっけー」

「しかし今後、なにかしらサンノスのことで行動するなら、前もって相談すること。おっけー?」

「おっけー!」


 みうみは背筋を伸ばし、びしっと大袈裟に敬礼した。

 敬礼した手を、今度は背筋よく上げた。


「それで未央ちゃんさん。さっそく提案があるんだけど!」

「なにかな?」

「まずは一回、三人で集まってみませんかね!」

「ほうほう。その意図は?」

「三人で集まりたいから!」

「おっけー、採用!」


 私はびしっとみうみうを指さす。みうみうも乗りに乗って「やったー」と思いっきり喜んでみせた。

 早速くみちーにメッセージを送った。内容は、少し悩んで結局みうみうの言ったまま。


『三人で集まりたいから集まらない?』


 ともかく、色々な話も三人でいるときで、ということに。


 時間もまだ早かったので、私とみうみうは少し遊ぶことにした。


「今年の夏用の薄着、まだ買ってないからさ」

「みうみう、けっこう服のセンスいいもんね」

「えへへー、そうかな?」

「そのセンスがギャグに生かされないのが、未央ちゃん不思議でならないよ」

「それはね、ファッション雑誌にギャグに関するコラムが載ってないからだよ!」

「当り前だよね、それ」




64 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 21:37:42.63 ID:5UUNa7QZ0


 駅近くの繁華街のお店に入って、お互いに試着し合ってみたりした。

 買う気はなかったけど、何点か気にいってしまい、けっきょく買ってしまった。



 気がつけば、すっかりいい時間になっていた。


 解散することにして、電車に乗り込む。

 途中まで私とみうみうは同じ方向だ。

 しばらく取り留めのない会話をしていたけど、いつしか私とみうみうの視線は車窓に向けられていた。


 まばゆい夕焼けの景色。

 でも、他に景色を見ている人はいない。

 みんな本やスマホを見ている。




「ねえ、未央ちゃん」


 私は車窓から、みうみうに視線を移す。みうみうの横顔は穏やかに、あどけなく。

 夕焼けの眩しさに、少しだけ目を細めて。


「サンノス、うまくいくかな」


 私はすぐに答えられなかった。みうみうは、独り言みたいに続けた。


「わたしやりたいな、サンノス。またみんなで、舞台に立ちたいよ」

「……私もだよ」



 私たちの交わした言葉は、電車の揺れる音にかき消され、誰にも届くことはなかった。




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