裕美「火曜シンデレラサスペンス劇場?」

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83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:36:01.43 ID:9TDtueb30
――『   』


藍子「智絵里ちゃーん、智絵里ちゃーん!! いませんかー?」

藍子「うーん、こっちにはいないですね。智絵里ちゃん、プロデューサーさんのこと考えていたなら、もしかしてって思ったのに」

藍子「さっきユッコちゃんに連絡が繋がったから、そっちで智絵里ちゃんが見つかってくれていればいいんですけど……」


藍子「他の場所、まだありましたっけ? プロデューサーさんが行きたがって――」




ドスッ!!



……
…………
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:36:27.34 ID:9TDtueb30
――13時46分 『親水公園』(ムーンテラス)

裕子「智絵里ちゃん、落ち着きましたか?」

智絵里「……まだ、自分でも……納得、できなくて……プロデューサーさんが……」

裕子「智絵里ちゃん……」

早苗「……」

早苗(この様子……アイドルらしく演技、とは思えないわね。殺人を通して情緒が不安定になっている、可能性も無くはないだろうけど……)

prrrr! prrrr!

早苗「ん、仕事用の電話……2人とも、ちょっとアタシ離れるけど、そこから動いちゃダメよ」

裕子「は、はい」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:37:12.03 ID:9TDtueb30
早苗「はい、片桐です」

ボス『早苗か。少し遅くなったが昨日の話、ある程度CGプロダクションの所属アイドルの業務履歴が出た。急ぎだろうから口頭で話そうかと思っていたが……』

早苗「さすがボス! うちの会社はみんな揃って動き早いですからね」

ボス『ん、外にいるのか。掛け直すか?』

早苗「いえ、今ひと段落ついたところなので大丈夫です。あまり人目も多くない場所にいますし」

ボス『分かった。ならひとまずは目立った内容だけ話す。まずは三船美優からだ』

ボス『三船美優、26歳、事務所所属2年目のアイドルだ。直近の彼女の仕事は3件あるが、そのうちの1件の仕事、女性向けファッション誌MiuMiuの特集記事だ』

ボス『特集記事の為に彼女の写真を数枚撮ったらしいが、一部の内容が彼女として不本意な……まあ言ってしまえば肌の露出が極端に多い水着姿での撮影があったらしい』

ボス『E−MODEというメーカーから提供された新商品らしいが、まあオレも調べてみたら……むぅ』

早苗「ちょっと、その長い鼻が更に伸びてるのが電話越しからでも分かるんですけど!」

ボス『おっと、すまんすまん。まあその撮影をするか、しないかでスタッフと被害者を交えて相当揉めたらしい』

ボス『被害者のほうもどうやらスタッフ側の意見だったようで、彼女も最後まで拒否はしていたみたいだが、まあ撮影はしたらしい』

ボス『三船美優についてはこれくらいだ。芸能界は詳しくないが、これくらいの話ならありがちだとは思うがな』

早苗「そうですね……まあ、そのときは怒ったりするとは思うけど、後まで引きずるほどかと言われると……」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:38:12.47 ID:9TDtueb30
ボス『まあ、一応な。次、高垣楓、25歳。所属4年目のアイドル。彼女についてだが、ここ最近事務所側で一度受けた仕事は6件あったらしい』

早苗「一度受けた仕事?」

ボス『その後、6件中4件は事務所側からのキャンセル、または中止になっている。いくつか業務先に確認してみたが、本人の体調不良や、仕事の出来が良くなかったらしい』

ボス『彼女は事務所の中でも稼ぎ頭のようで人気も中々、現場での評判も良いようだが最近の実績とはあまり紐付かない内容で気になったものでな』

ボス『あと、ほんの数日だが、仕事の日に事務所に来なかったときもあったらしい』

早苗「ボイコットですか?」

ボス『結果的にそうなったらしく、その日受けていた仕事はナシになっているそうだ。この部分に関しては詳細な調査はまだ済んでいない』

早苗「最近の実績が評判に伴ってない……まあアイドルだって人間ですし、スランプくらいはありそうですけど」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:38:49.41 ID:9TDtueb30
ボス『そうだな。オレたちも似たようなものだし……次、鷺沢文香、所属2年目のアイドルだ』

ボス『彼女に関しては直近1件、7月23日にお台場のダイバーシティでミニライブを行ったらしい』

ボス『ダイバーシティのフェスティバル広場を借りて行ったみたいだが……スタッフに確認したところ、どうやら失敗があったとのことだ』

早苗「失敗?」

ボス『広場の中に、施設へと続く踊り場のある広い階段があるんだ。そこがステージになっていたみたいなんだが、まあステージ中に一般客の児童が数名が入ってきたらしくてな』

ボス『現場にいた被害者やスタッフも何人かは抑えたらしいんだが、すり抜けてステージまで行ったのが数名いたらしく、彼女は子どもたちに気を取られて足を滑らせたらしい』

早苗「あー……7月23日って土曜日ですね。ガキんちょは夏休みに入ったばかりの時期だし、学校のみんなで出かけて……なんてありますね」

早苗(あった、スマホのエンタメニュースサイトの過去ログ……CGプロ鷺沢文香、ダイバーシティでミニライブを開催するも一般客の立ち入りにより中断……)

ボス『で、そのミニライブなんだが被害者のほうで急遽入れた仕事らしい。ダイバーシティ側に確認したところ、6月頃に突然話があったとのことだ』

早苗「突然入れた仕事……1ヶ月前か。絵描いた話になりますけど、短い期間で段取り組んだ仕事が調整不足で、それが原因でミスになったとしたら……」

ボス『まあ、多少なれどステージに立った本人も思うところはあるだろうな。当時の詳しい状況に付いては何とも言えないが』

早苗「なるほど……ボス、後の2人は?」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:39:23.14 ID:9TDtueb30
ボス『緒方智絵里と高森藍子でいいか? 2人については特に目立つネタが出ていない。堀裕子についても同様だが……』

早苗「あー、堀裕子ちゃんはいいです。あと、緒方智絵里ちゃんもいいかな……とりあえず、分かりました」

ボス『数名、容疑者から外れそうか?』

早苗「智絵里ちゃん、今回の事件でちょっと参ってるみたいで……まあ、今はそう見えるってだけです。確証が取れたらお話しますよ」

ボス『分かった。オレのほうも、先日の強盗殺人の報告と残処理が済んだら急いで熱海に行く。あまり無茶はするなよ』

早苗「了解。それじゃ失礼します」ピッ!

早苗「ふぅ……」

裕子「あ、終わりました?」

早苗「ええ、一応ね」

智絵里「……」

早苗「ゴメンね待たせちゃって。とりあえず旅館のほうに――」

prrrr! prrrr!

89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:39:49.56 ID:9TDtueb30
早苗「また? ゴメン、また電話掛かって……」ピクッ!

早苗(刑事さんから……)

ピッ!

早苗「はい、片桐です」

刑事『片桐刑事……』

早苗「はい、智絵里ちゃんの件なら、親水公園のムーンテラスに――」

刑事『……やられました』

早苗「え?」

裕子「……?」

刑事『観光客から熱海署に、熱海城付近の道路脇の森のそばで人が倒れていると通報がありました。花の湯の裏なので、現場に人を置いてこちらのほうで向かいましたが……』


刑事『……高森藍子ちゃんを、死体の状態で発見しました』


――
――――
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:40:32.54 ID:9TDtueb30
――女子寮(裕美の部屋)

裕美「あーあ、藍子ちゃんも死んじゃった」

裕美「藍子ちゃんを殺した犯人、誰なのかな……一緒に智絵里ちゃんを探してたみたいだけど」

prrrr! prrrr!

裕美「電話……もしもし、藍子ちゃん?」

藍子『はい、藍子ですっ♪ えへへ、私死んじゃいました』

裕美「死んじゃったね。まだ藍子ちゃんの死体、映ってないけど……」

藍子『頑張って死体の演技したんですよ。ちゃんと死んでるように見えるといいなぁって』

裕美「そ、そうだね……私、藍子ちゃんは死なないかなって思ってたんだけどなぁ。ユッコちゃんと一緒にいたから」

藍子『私も台本見たとき、ビックリしちゃいました。ユッコちゃんがサイキックパワーで活躍する場面、一緒に出たかったんですけどね。ちなみに、誰が犯人だと思いますか?』

裕美「うーん……ま、まだ考え中……」

藍子『番組の後半のCMで、Sボタンのシグナル連動機能で犯人を予想して当てようってキャンペーンが出てくると思いますから、それまでに予想しておいてくださいね♪』

裕美「Sボタン連動……あ、リモコンのこのボタンかな?」

藍子『当たったら抽選でプレゼントがもらえるみたいですから、頑張って予想してくださいねっ! そろそろCM終わりますし、電話切りますね』

ピッ!

裕美「Sボタン連動、ちゃんと予想できるかな……」


――
――――
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:41:04.66 ID:9TDtueb30
――14時11分 熱海市曽我山『熱海城』(道路脇)


藍子「……」


智絵里「藍子ちゃん! 藍子ちゃん!! あいこちゃ……あ……ああああああ……」

楓「智絵里ちゃん、落ち着いて……智絵里、ちゃん……」ギュッ……

美優「そんな……どうして、こんな……」

文香「何故……Pさんに続いて、この……ような……」

裕子「あいこ……ちゃん……」


刑事「ガイシャは刃物で胸部を数回刺されています。恐らく、一度刺された後にホシに抵抗したのかもしれませんが……」

早苗「……」

刑事「遺留品を確認しましたが、財布の中身は無事、首に掛けられているカメラは壊れていますね」

刑事「ホシがガイシャを刃物で数回刺した際に、カメラに刃物が当たったか……」

早苗「もしくは、狙って壊したか」

刑事「……であれば、ホシはガイシャが所持していたカメラに、自分の姿が写っているのを知っていた、ということになりますが」

早苗「いえ……」チラッ
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:41:31.43 ID:9TDtueb30



智絵里「えぐっ……うっ、うううう……」

文香「藍子さん……」

楓「……」

美優「誰か、こんなことを……」



早苗(もし藍子ちゃんのカメラに犯人が写っているなら、その内容はあの4人のうちの誰かがプロデューサーを殺している現場が直接撮影されてなきゃおかしい)

早苗(犯人が藍子ちゃんを殺した上でカメラも壊したということなら、犯人は犯行の現場を写真に収められたと思っているはず)

早苗(だけど、藍子ちゃんからそんな話は無かった。殺人現場をカメラに収めているなら、藍子ちゃんからその話が出ていないのはおかしいもの)

早苗(つまり藍子ちゃんは気付かずに犯行現場に気付かずにシャッターを切ったか、もしくは犯人の勘違いか……)

早苗「……でも、カメラのこの壊れよう……中の基盤まで割れているわ」

刑事「ええ、データの取り出しは出来ないでしょうな……」

早苗「……」スッ……

裕子「……」ピクッ!

早苗「……」コクリ

刑事「そろそろ鑑識が到着しますし、それまで現場は――」

早苗「そうねー! 鑑識が到着するなら現場検証でここら辺調べることになるから、ひとまずみんなは旅館に戻ってもらおうかしらねー!」

楓「えっ?」ピクッ
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:42:11.67 ID:9TDtueb30
早苗「刑事さん、悪いけど他の人の車使わせてもらってもいいかしら? みんな智絵里ちゃんを探してた流れでこっちに来たみたいだし、みんな一緒に戻ってもらいましょう?」

刑事「え、ええ……連れてきたうちの者に送らせますが……」

早苗「ユッコちゃんはさっきお願いしてたアレ、まだ終わってないから、アレが終わってからアタシが旅館まで送ってあげるからちょっと待っててねー」

裕子「わ、わかりました」

美優「ユッコちゃん……?」

文香「あの……一体、何のお話を……」

裕子「ゆ、ユッコはですね! 早苗さんに連れられて何だか確認とか道案内とか色々あったんですけどね、今日一日、はい!」

美優「え、えええ……?」

早苗「まあまあまあ、ユッコちゃん暇そうにしてたから、春日町の事件調べるついでに連れてったのよ。ほらほら、他のみんなは鑑識の邪魔になるから早く旅館戻って頂戴」

裕子(ご、誤魔化すのが無理やりすぎる……)


……
…………
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:42:37.99 ID:9TDtueb30
――14時19分 『熱海城』(道路脇)

刑事「では現場検証のほうはよろしく……何かあれば、俺たちのほうも作業に入る」

鑑識「分かりました。では作業開始します」


早苗「……しくじったわ」

刑事「ええ、まさか2度目が起きてしまうとは……大変申し訳ない、こちらのほうで厳重に監視しておくべきでした」

早苗「それを言うなら油断してたアタシも同じ……いえ、過ぎた話はひとまず置いときましょう。ガイシャの遺留品ですけど、鑑識が纏めた後の物、少し確認してもいいですか?」

刑事「構いませんが……私のほうでも見ましたが、遺留品は財布と携帯電話、カメラ、パスケースくらいしか……他の荷物は旅館でしょうな」

早苗「それでいいわ。ユッコちゃん!」

裕子「は、はい!」


早苗「すみません鑑識さん、遺留品纏めた物、確認してもいいですか?」

鑑識「はい。刑事さんが見つけた物であればビニールに入れてそこのカゴに纏めていますので……」

早苗「このカゴね……」

裕子「……早苗さん、これですか」

早苗「ええ、藍子ちゃんのトイデジ。さっき刑事さんと話して、犯人がこれを故意に壊したどうか……」

裕子「藍子ちゃんが、犯人を写真に収めていたってことですか?」

早苗「ちょっと望み薄だけど、その可能性もあるわ……できる?」

裕子「……はい」グッ!

早苗「それじゃあお願い。ビニール越しだけど、この状態で触って頂戴」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:43:15.16 ID:9TDtueb30
裕子「……」スッ……

ドクンッ、ドクンッ……

裕子(藍子ちゃん……藍子ちゃんが、どうして殺されなきゃならないのか……お願いします、ユッコに、藍子ちゃんが見たものを……)

裕子「……」キィィィン!



――堀裕子は本物のエスパーである。物体に触れることで、それに触れていた人の思いや強い思念を読み取ることが出来るのだ。



藍子『えっと、いまの時間は……間に合いそうっ!』

裕子(藍子ちゃんが走ってる……ここは、旅館の外……?)

藍子『はぁっ、はぁっ……間に合いました! 丁度良いタイミング……』

裕子(藍子ちゃんが、カメラを構えた……構えた先に映っている景色……旅館と、空と……真っ白な……)

藍子『はい、チーズ♪ 今日も1日、頑張ってくださーい』

裕子(藍子ちゃんは、嬉しそうに手を振って……)


裕子「!?」ビクッ!

早苗「……何が見えたの?」

裕子「藍子ちゃんが旅館の近くでカメラを構えて……見えた景色は、旅館と、空と、真っ白な……飛行船」

早苗「旅館と飛行船?」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:44:08.08 ID:9TDtueb30
裕子「でも、藍子ちゃん……ずっとユッコたちと一緒にいたのに、どこで……」

早苗「……そうか、飛行船」

裕子「え?」

早苗「ちょっと待って。えっと、確か念のため登録していたはず……」

prrrr! prrrr!

早苗「あ、もしもし? 熱海観光協会ですか? すみません、お聞きしたいことがあるんですけど……」

裕子「早苗さん?」

早苗「はい……はい、そうでしたか。ありがとうございます。失礼します」

ピッ!

早苗「ユッコちゃんが今見た内容……多分、昨日の14時頃の藍子ちゃんの行動よ」

裕子「昨日、ですか? でも昨日ユッコたちは海に……」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:44:49.81 ID:9TDtueb30
裕子「違う、ユッコと智絵里ちゃんはウォーターパークで遊んでたけど、藍子ちゃんは1人で喫茶店に……もしかして……」

早苗「やっぱり。藍子ちゃんは何の目的か知らないけど、ユッコちゃんたちが海で遊んでる間に1人旅館に戻っていた」

早苗「そこでカメラを構えていた藍子ちゃんの姿を、ベランダでプロデューサーを殺した直後の犯人が偶然見つけた、か……」



藍子『あれ、みなさんベランダで何見てるんですか?』

智絵里『い、いまね、飛行船が飛んでて……白くて大きい風船みたいな……』

藍子『そうだったんですか? いいなぁ……私も見てみたかったです』



裕子「……そういえば藍子ちゃん、見たがっていました。広告の飛行船が空を飛んでるところ」

裕子「藍子ちゃんは見逃して、残念そうにして……」

早苗「何時頃?」

裕子「ユッコたちが旅館に来てすぐだったから……夕方の4時過ぎ、だったはず……」

早苗「ビンゴね。観光協会に電話したら、広告飛行船は1日に4回、姫の沢公園から飛ばしてるみたい」

早苗「姫の沢公園から朝日山公園近くまで飛ばして一巡りするのに1時間。午前は10時と12時に、午後は14時と16時に飛ばしてるみたいね」

早苗「多分、飛行船が飛ぶ時間は喫茶店の人にでも聞いたんでしょうね。旅館に戻ったのは、旅館と一緒に写真に撮りたかった……てとこかしら」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:45:28.98 ID:9TDtueb30
裕子「でも藍子ちゃんはそんなお話、一言も……」

早苗「つまり藍子ちゃんにとって、写真を撮ったこと以上の事が無かったのよ。少なくともその時点では」

早苗「だから、もし藍子ちゃんが後でトイデジの画像データを確認したときに、プロデューサーを殺している犯人の姿が写っていたとしたら……」

裕子「そんな……」

早苗「だから殺したんでしょうね。実際に写真に写っていなくても、後で藍子ちゃんが思い出したときのことを考えて」

裕子「……おかしくないですか?」

早苗「え?」

裕子「だって! こんな短い間にプロデューサーも殺して、藍子ちゃんまで殺すなんて……もう、犯人はユッコたちの中の誰かに決まってるじゃないですか!」

裕子「もし、もしユッコが犯人だとしたら、藍子ちゃんが気付いていないなら、どこかでカメラだけ壊して、藍子ちゃんは殺さないのに……」

早苗「……そう、そうね。そうするわよね」

早苗「おかしいのよ。最初の犯行はアリバイの確認が取れている……つまり、犯人はある程度犯行時刻を計算した上で行動してプロデューサーを殺害している」

早苗「だけど絞殺を偽装しようとした刺殺の手順が、つい最近起きた別の殺人事件の手順を踏んでいる」

早苗「そして2回目の犯行。これは2回目の殺人を行った時点でアウト。容疑者は大幅に絞られて外部犯の可能性は限りなく低くなる」

早苗「アタシの傍にいたユッコちゃんと、時間的に見ても智絵里ちゃんに犯行は無理。となれば、残りの3人のうちの誰かになる……」

早苗「トイデジの壊し方もお粗末ね。ストラップで首からぶら下げているトイデジに器用にナイフを突き立てるなんて難しい」

早苗「藍子ちゃんを殺した後に別に壊したのは明らか……最初の殺人以外、やることが行き当たりばったりすぎるわ」

裕子「行き当たりばったり……?」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:46:31.97 ID:9TDtueb30
早苗「ええ、途中から計画性ある犯行だとは思えないもの」

早苗「少なくとも、アタシはユッコちゃんと今日1日みんなのアリバイ確認をしていたときは、犯行自体は計画されているものかと思っていたわ」

裕子「そ、それなら……途中から計画が無くなったんじゃないですか?」

早苗「は?」

裕子「だ、だって、ユッコだってお仕事のときに台本が頭から抜けちゃったときとか、アドリブで何とかしようとしますし……」

裕子「学校のテストも、途中までは頑張ってテスト勉強して内容覚えても、あとのほうは飽きちゃって適当になったり……」

早苗「……であれば、犯人がプロデューサーを殺害した以降の行動に、何かしら穴があるはず」

裕子「そうなんですか?」

早苗「プロデューサーを殺害するまで……もしくは殺害した後の行動まで計画していたとしても、犯行手順……特に犯行内容の偽装がお粗末過ぎるわ」

早苗「藍子ちゃんの件もあるし、犯人はプロデューサーを殺害した直後は冷静でいられないはず……その後の行動に何かしらの穴があってもおかしくないわ」

裕子「どうしますか? もう一回確認してみます?」

早苗「そうね。とりあえず……もう一度みんなのアリバイを確認しなおしてみましょう。まずは……駅員の記憶が曖昧だった文香ちゃんからね」

……
…………
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:47:17.73 ID:9TDtueb30
――14時59分 『サンレモ公園』(バス停)

裕子「なんでタクシー降りてバスに乗るんですか?」

早苗「駅員の証言が曖昧だったもの。文香ちゃんはバスで移動していたっていうし、とりあえずバスでの移動時間を1つずつ確認して行こうかと思って」

裕子「なるほど……バスは移動する場所や時間が決まっていますし、そこで文香さんや駅員の人のお話とズレていればおかしいですからね」

早苗「ま、そういう事。おっと、バスが着たわね」


……
…………
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:47:46.84 ID:9TDtueb30
――15時 『サンレモ公園』(バス内)

裕子「お願いしまーす」スッ

早苗「……」スッ

ピーッ! ピーッ!

早苗「あら?」

運転手「あーお客さん、すみませんけどもう一度タッチしてくれませんか?」

早苗「よっと」スッ

ピーッ! ピーッ!

早苗「うっそなんで?」

裕子「もー、何やってるんですか早苗さーん」

早苗「タッチが反応してくれないのよ……もうっ!」

運転手「あっ、お客さんそれダメですよ! こっちじゃ使えませんって」

早苗「え? あっ! あーそっか、TOICAってこっちじゃ使えないんだ……めんどくさ」

裕子「何ですかそれ?」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:48:12.50 ID:9TDtueb30
早苗「名古屋のICカードよ。東京はSuicaでしょ? もう……ユッコちゃん、熱海駅までいくら?」

裕子「えええ……」

運転手「熱海駅はですねぇ……」

早苗「んっとに……小銭あったかしら」

裕子「んーと、えーっと……あっ! これなら――」カサッ……


裕子「……」


早苗「はい、どうもごめんなさいね。こっちあんまり来たこと無かったから……」ピッ!

裕子「……早苗さん」

早苗「ん? なにユッコちゃん?」


裕子「ユッコ……犯人、分かっ……た……」


――
――――
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:50:32.67 ID:9TDtueb30
――女子寮(裕美の部屋)

裕美「ユッコちゃん、犯人分かったんだ」

裕美「えーっと、確かあの時見た内容だと……こうなってたから……」

裕美「あ」


『Sボタン連動キャンペーン! 裕子ちゃんと一緒に犯人を当てよう! 正解者の中から抽選で素敵な商品をプレゼント!』


裕美「あっ、あっ……Sボタン連動の画面が出ちゃった」


『熱海で起きた殺人事件、犯人は次のうち誰? 対応するリモコンのボタンを押して答えてね!』

『S.美優 E.楓 K.文香 I.智絵里』


裕美「S、E、K、Iのボタンから選ぶんだ……うーん……選択肢、この中だとたぶん犯人は……この人かな?」ピッ!


『回答しました』


裕美「正解してるかな……? プレゼント、何もらえるんだろう?」


――
――――
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:55:02.03 ID:9TDtueb30
――15時22分 『熱海駅』

裕子「やっぱり……」

早苗「そうね。ユッコちゃんの話の通りなら……これでホシは決まりね」

早苗「もし捨てていたら……いえ、多分大丈夫ね。本人も気付いていないはず」

裕子「でも、どうしてこんなこと……」

早苗「分からないわ。アタシのほうも、ボスに色々確認してもらっているけど……まあ、後は本人に直接聞きましょう」

裕子「……はい」

早苗(あとは、本人が素直に認めてくれるか……)

……
…………
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:55:35.07 ID:9TDtueb30
――16時08分 『花月 花の湯』、花影館4階(401室)

美優「えええっ……?」

楓「犯人が……」

文香「分かった……のですか?」

智絵里「……」

早苗「ええ」

裕子「そ、その、ユッコと早苗さんで色々調べていたので……」

刑事「ちょ、ちょっと待ってください片桐刑事、そのお話は――」

早苗「ごめんなさい。まだここではって話だったけど、どの道2人目の被害者が出た時点で言うべきだったとも思いますし……」

美優「な、何の……お話ですか?」

裕子「プロデューサーと、藍子ちゃんが殺されて……偶然、旅行にきていたユッコたちの中で2人も殺されるの、おかしいじゃないですか」

裕子「だから、春日町で起きていた殺人事件の犯人じゃなくて……他に、2人を殺した犯人がいる……」

文香「ですが……どうして、外部犯ではないと……」

早苗「プロデューサーの首に引っ掻き傷と、右手の爪先に比較的新しい血が付着していたの。胸を刺された人間が自分の首を引っ掻いてるのっておかしくないかしら?」

早苗「つまり……プロデューサーは絞殺された後、ナイフで胸を刺されていた。春日町で起きた殺人事件と同じように見せるために、ね」

美優「どうして、そんなことを……」

早苗「そう。外部犯の犯行だと思わせ、プロデューサーと藍子ちゃんが1人でいるところを狙って殺した」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:56:11.96 ID:9TDtueb30




早苗「詳しく聞かせてもらえないかしら? 高垣楓……ちゃん」


楓「……っ!?」



107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:56:47.46 ID:9TDtueb30
文香「か、楓さんが……」

美優「Pさんと、藍子ちゃんを……」

智絵里「う、うそ……」

楓「……わ、私なんですか? どうして、私が?」

早苗「細かい話の前に、今回の殺人……楓ちゃんがどうして、プロデューサーと藍子ちゃんを殺害したのか」

早苗「プロデューサーはある程度計画した殺人、藍子ちゃんは口封じのため」

刑事「計画殺人と、口封じ……ですか?」

早苗「ええ、順番に説明するわ。まずプロデューサー殺害の件から」

早苗「8月6日、楓ちゃんはユッコちゃんたちと11時にサンレモ公園から徒歩で移動。途中で美優ちゃんと商店街に行ったけど12時50分には水族館のアクアパラダイスに入場した」

早苗「それから13時20分、ショーの会場時間に合わせて二人は入場」

早苗「楓ちゃんはそのとき、美優ちゃんと別れたタイミングで引き返して花の湯に戻ったの。そこで仕事から戻ってきて、部屋のベランダで休んでいるプロデューサーを14時頃に殺害」

早苗「あとは14時30分のショー終了時間までにアクアパラダイスに戻って、ホールの外で美優ちゃんと合流したのよ」

美優「ちょっ……ちょっと待ってください」

早苗「ん?」

刑事「片桐刑事、今の話は……」

早苗「簡単でしょ?」

刑事「いえ、簡単……まあ、簡単に話してくれましたが……」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:57:14.71 ID:9TDtueb30
楓「そ、そんなこと……できません。私、ちゃんとショーを見ていましたから……」

早苗「本当? ショーを見る前に抜け出して旅館に戻ったんじゃなくて?」

楓「だって……水族館から出て、もう一度入るときは受付の人に話て、券にスタンプを押してもらわないとダメなんですよ?」

楓「ほら、私の半券……スタンプも、美優ちゃんと同じ時間に押してもらってるだけで……」

早苗「へぇー……」



早苗「なんで再入場のやり方、知ってるの?」

楓「っ!?」



裕子「楓さんも美優さんも、水族館に入ってからは一度も外に出てないんですよね?」

美優「そ、そう、ね……」

裕子「それならどうして、再入場のやり方を知ってるんですか? 早苗さん、一度も再入場のお話してませんでしたよ!」

楓「そ、それは……ほ、他の人が、受付で再入場をしていたときの話が、たまたま聞こえて……」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:57:43.66 ID:9TDtueb30
早苗「まぁそれもあるかもしれないわね。でも今は行楽シーズン、ショーのホール入場で2人が人の波に飲まれるくらい混雑している水族館よ?」

早苗「水族館の入り口なんて、人の出入りも多いだろうし、受付したらすぐ移動しないと邪魔になるし……のんびり他の人の会話なんて聞いてるタイミング、ある?」

文香「ですが……偶然耳に入った、ということも……それに、楓さんの持っている半券には、スタンプが……」

早苗「そう、そのスタンプ……楓ちゃん、以前もあの水族館に来たことあるでしょ? しかも……同じ時間に」

刑事「お、同じ時間!?」

楓「……」

早苗「そう。プロデューサーの殺害は、以前から楓ちゃんが計画していたこと……今回のアリバイ作りのために、事前に一度、熱海に来てたんでしょ?」

早苗「別の日の同じ時間に水族館の受付で、半券に12時50分のタイムスタンプを押してもらう。スタンプは時間だけで日付は押されていないもの、これで誤魔化すことができるわ」

早苗「これに関して言えば、水族館側の管理が甘いというか……何日に来たか分からないと、それはそれで困ると思うんだけどね」

文香「つまり……楓さんは、水族館に入場した時点で……12時50分のスタンプが押されている半券を2枚……持っていたということですか?」

早苗「そう。プロデューサーを殺害してから、水族館に戻って、再入場したときは古い半券にスタンプを押してもらって再入場した」

早苗「あとは、まあ半券なんて小さい紙だし? 細かく千切って捨てればまず分からないわね」

楓「……どうして」

早苗「ん?」

楓「どうして、私が……水族館に一度来たことがあるって、言えるんですか……」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:58:16.03 ID:9TDtueb30
楓「私は、今回の旅行で……初めて、熱海に遊びに来たんです。それなのに」

裕子「……」ビクッ!

早苗「……その台詞、聞きたくなかったわ」

楓「え……?」

早苗「……ユッコちゃん」

裕子「楓さん……花火大会の日、ビール祭り楽しみにしてましたよね?」

楓「そう、ね……だって、ビールがたくさん飲めるなんて……」

裕子「そうですよね。ユッコ、今日は早苗さんと駅前にも行って、パンフレットも見たんですよ」

裕子「熱海に来たとき、楓さんがユッコにパンフレット見せてくれたの思い出して1枚貰ってきました」ゴソゴソ

裕子「これ、熱海の観光マップと一緒にビール祭りと花火大会のお知らせが載ってて……楓さんも、まだパンフレット持ってますよね?」

楓「そうそう、私もこれを見てビール祭りが凄く楽しみになって……」ゴソゴソ

楓「みんなでビールを飲みながら、花火を見れたらなぁって――」



裕子「……楓さん、楓さんが持っているパンフレットに書かれてる……海辺のあたみマルシェって、なんですか?」

楓「え……?」

111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 20:59:46.14 ID:9TDtueb30
美優「あたみマルシェ……確かに、楓さんの持っているパンフレット、ユッコちゃんと同じページを開いているけど……」

早苗「ユッコちゃんのパンフのページには、花火大会とビール祭りのお知らせ。楓ちゃんのパンフには、あたみマルシェとビール祭りのお知らせ……」

文香「何故……パンフレットの内容が……」

刑事「……あぁっ!? あたみマルシェの時期っていえば……!」

楓「あ……ぁ……」

早苗「そう。このパンフレットに記載されているあたみマルシェの時期は5月29日、ビール祭り……春のビール祭りは5月13日」

刑事「そうだ、親水公園のビール祭りは毎年、春と夏でそれぞれ開催されていたか……!」

早苗「近い時期だから、楓ちゃんのパンフレットには一緒にお知らせが載ってるのね。観光協会に確認したら、あたみマルシェも花火大会も、年間行事で何度かあるみたいだけど」

早苗「花火大会は夏が一番人気があるから夏のパフレットには大々的に載せるみたいだけど、その時期以外は他のイベントのお知らせをピックアップするみたいね」

刑事「た、確かに、マルシェも花火大会も定期的に開催されるイベント、観光客は花火大会の日程は事前に調べてから旅行に来るだろうから……」

早苗「そう、夏以外は他のイベントをピックアップしたほうがいいってことね」

楓「そんな……」

裕子「……楓さん、熱海に来たのは今回が初めてだって……それなのに、どうして春のパンフレットを持ってるんですか?」

楓「う……」

早苗「プロデューサーの殺害計画を立てるために……一度熱海に来たって事ね」

楓「……」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:00:14.44 ID:9TDtueb30
美優「……ち、違い、ます」

早苗「ん?」

美優「楓さんは……Pさんを、殺して……いません」

裕子「えっ!?」

美優「だって……楓さんは、Pさんのこと……好き、なんですから……殺すはず、ないです……!」

早苗「は……?」

美優「そう、ですよね……楓さん? 楓さん、ずっと……Pさんのこと……」


楓「……美優さんが、私に……そんなこと言うんですか?」

美優「え……?」



楓「……もう、前にここに来たことがバレちゃったら、どうしようもないですよね」ゴソッ

パサッ……

文香「それは……」

裕子「あっ、プロデューサーのネクタイ……」

楓「私が、以前あの人にプレゼントしたんです。去年の……あの人の誕生日、だったかしら」

早苗「……ソレを使って、首を絞めたってことね」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:01:09.97 ID:9TDtueb30
楓「ええ、丁度良かったんです。昨日あの人が身につけていたネクタイが、私がプレゼントしたものだったなんて……最後まで、私の手で殺すことが出来たんですから」

裕子「……どうして、プロデューサーを殺したんですか」

楓「知ってました? ユッコちゃんも、文香ちゃんも、智絵里ちゃんも……あの人、再来月には私たちのプロデューサーじゃなくなるんですよ。海外に行って別のお仕事をするってお話しで」

智絵里「え……?」

文香「……知りませんでした」

楓「私は……あの人のことが、ずっと好きで……初めてのお仕事から、ずっと……今まで……」

楓「あの人は私がお仕事で成功すると喜んでくれる、一緒に笑ってくれる……だから、私はずっと頑張ってきました。あの人の傍で……ちょっと嫌なお仕事でも、あの人のためならって」

楓「だけど、突然私の担当から外れることになったって言うんです。俺がいなくなっても楓さんなら大丈夫ですって……おかしいですよね、私……あの人のためにずっと頑張ってきたのに」

楓「私は、Pさんとずっと一緒にいたかった。一緒だから、ずっと仕事だって頑張れた……いなくなってほしくなかった」

早苗「だから、最近の楓ちゃんの仕事は……」

楓「失敗したり、サボっちゃえば、あの人も私のことを心配して……まだ一緒にいてくれるかと思って」

楓「だけど、あの人は私を見捨てようとして……あの人のために、ずっと頑張ってきたのに……だから、私は……」

智絵里「……藍子ちゃんは」

裕子「智絵里ちゃん……」

智絵里「藍子ちゃんは、どうして殺したんですか……! 藍子ちゃん、何も、悪いことなんて、してないのに……」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:01:41.73 ID:9TDtueb30
楓「……見られたから」

文香「見られた……?」

楓「私が、ベランダであの人を殺して、ナイフで刺したとき……たまたま、見つけたんです」


藍子『早く戻らないと……!』


楓「カメラを手に持って、走っていった藍子ちゃんの姿……藍子ちゃんのカメラに、私があの人を殺している姿を撮られて……」

楓「だから智絵里ちゃんがいなくなったとき、みんなで探しに外に出たとき、藍子ちゃんを殺して、カメラも……一度Pさんを刺したから、もういいかなって思って」

裕子「……違うんです、楓さん」

楓「違う?」

裕子「藍子ちゃんは……楓さんとプロデューサーを写真に撮ったわけじゃないんです。旅館と……飛行船を撮りに来ていたんです」

刑事「旅館と飛行船? 飛行船……広告のヤツですか」

裕子「最初に旅館にきたとき、プロデューサーたちがベランダから飛行船を見てたみたいなんです。そうですよね、智絵里ちゃん?」

智絵里「う、うん……」

裕子「ただ、藍子ちゃんは偶然見逃して……残念そうにしていました。後で早苗さんと一緒に、サンビーチの喫茶店の人に聞いたんですけど」

裕子「藍子ちゃんは、ユッコと智絵里ちゃんが水上アスレチックで遊んでいる間に、店員に飛行船が飛んでくる時間を聞いて……14時頃に1人で旅館に戻っていったんです」

裕子「あの飛行船、午後は14時と16時に飛んでるみたいなんです。14時は楓さんがプロデューサーを殺した時間……」

裕子「旅館と飛行船を一緒に撮ったのは……多分、みんなで泊まっている旅館と一緒に、思い出に残したかったからだと思います」

楓「そんな……」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:02:08.08 ID:9TDtueb30
早苗「そうね……もうカメラは壊れて、データも確認できないけど……楓ちゃんがカメラに写ってる可能性は、低いわね」

楓「じゃあ、私は……」

文香「藍子さんを、殺す必要は……なかった、と……?」

早苗「ええ、恨みがあるのなら、プロデューサーだけで……」

美優「違います!」

早苗「え、また?」ピクッ

美優「Pさんを殺す必要だって……無かったんです。楓さんは、Pさんのことが好きで……Pさんも、楓さんのことが、好きだったんですから……!」

裕子「うぇっ!?」

楓「……嘘、ですね。私、知ってるんですよ? Pさんと美優さんが、お互いのことを好きで……隠れて、2人で会っていたことも」

美優「私は……ずっと前に、Pさんに振られていますから」

楓「え……」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:03:01.70 ID:9TDtueb30
美優「しばらく前から、Pさんに相談されていたんです。自分が担当から外れる前に、楓さんの喜んでくれる仕事を取りたいって」

美優「それで、2人で色々調べて……熱海の、別の温泉旅館の宣伝のお仕事をって……Pさんが昨日お仕事に行ったのも、そのお話があって……」


美優『明日の熱海……お仕事の打ち合わせ、花火大会の次の日ですよね?』

P『先方にはその日に約束していますからね。1日はみんなで楽しんでください』

美優『そうですか……でもやっぱり、せっかくの旅行なのにお仕事は……』

P『楓さんには、長いこと随分と頑張ってもらいましたから。大変な仕事も、嫌な仕事も……だから、俺がここを離れる前に、せめてお礼にと思って』

P『海外のプロデューサー研修、期間も長いですし……だけど、俺もしっかり勉強してこないと』

P『最近は楓さんの成長に、俺が追いつかなくなってきてると思う場面が多い……これからも、楓さんの力になれるように、俺自身が成長しないとダメですから』



美優「自分が海外に行く前に、最後に楓さんに喜んでもらいたい……それで、海外のお仕事が終わって戻ってきたら、また一緒にお仕事をしたい……そう言ってて」

楓「そんな……P、さん……」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:03:49.42 ID:9TDtueb30
裕子「……多分、プロデューサーが昨日、楓さんがプレゼントしたネクタイを締めていたのも……きっと、楓さんのためのお仕事のお話だったから……」

楓「あ……あああ……私、Pさん……藍子ちゃんに……なんて、ことを……」

楓「私、は……ただ、Pさんに……う、あ……あああああ……」

早苗「そう……だから、最後まで悩んでいたのね、楓ちゃんは」

裕子「悩んでいた?」

早苗「今回の殺人……プロデューサーを殺害するところまでは、アリバイのための準備もされていた」

早苗「だけど、殺害後の行動、偶然起きていた別の殺人事件に合わせて外部犯に見せかけようとする行動をしたり」

早苗「それなのに藍子ちゃんも殺して、容疑者の幅を狭めるようなことをしたり……後のほうになればなるほど見えてくる、無計画な行動」

早苗「だから……楓ちゃんは最後まで躊躇っていたのね。プロデューサーを殺すか、殺さないか……好きな人だったから」

楓「Pさん……P、さん……」

早苗「……細かい話は、署のほうで聞かせてもらいましょうか。刑事さん、悪いけど……お願いできるかしら」

刑事「はい。高垣楓さん……よろしいですね?」

楓「うっ、うううう……はい……」

裕子「楓さん……」


……
…………
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:04:17.18 ID:9TDtueb30
――8月8日 10時31分 『熱海駅』(改札前)

美優「みんな……忘れ物、無いわよね?」

智絵里「はい……」

文香「藍子さんの、荷物は……」

早苗「藍子ちゃんの荷物は、熱海署のほうにご両親が来てるからそのまま引き取ってもらうことになってるわ」

裕子「そうですか……あの、早苗さん」

早苗「ん、なに?」

裕子「その、今回のこと……ユッコ……」

早苗「なーに言ってんのよ。ユッコちゃんが色々頑張ってくれたおかげで助かったところもあるんだから」

裕子「……楓さん、どうなるんでしょうか」

早苗「そうね……しばらくは静岡県警のほうで身柄は預かるけど、そのうちに警視庁のほうに引き渡されると思うわ」

早苗「その後については……まあ、裁判もあるし、なるようにしかならないけど……みんなのほうも大変ね」

美優「私たちのお仕事もそうですし、事務所のほうも……どうなってしまうんでしょうか……」

早苗「事務所の社長と相談ね……まあ、今までと同じようにはならないだろうけど――」



ボス「おーい、早苗ー!」


119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:05:04.81 ID:9TDtueb30
早苗「あっ、ボス! 遅いですよ!」

ボス「いやあすまん、夜中には熱海署のほうに到着していたが、色々事件の話を聞かせてもらっていてな……」

早苗「もうっ……アタシが熱海署から旅館に戻った後に来るんだから……」

文香「ボス……?」

早苗「この人のあだ名よ。中署では部署が違えどみんなからそう言われている人でね。その昔は地獄のなんたらって異名で恐れられてたのよ」

ボス「みなさんが今回の事件の……早苗から話は聞いています。大変な思いをされたようで……」

智絵里「藍子ちゃん……」

文香「……」

ボス「今後の事務所については、一度警察側からもお話があると思いますので、事務所の代表の方とはその後ということで……」

早苗「まあ、仕方が無いわね……こればっかりは、アタシたちのほうじゃどうしようもないし」
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:05:46.90 ID:9TDtueb30
ボス「ところで……堀裕子君、だったかな?」チラッ

裕子「は、はいっ! サイキック美少女アイドルユッコです!」ビシッ!

ボス「今回の事件、キミの証言から事件の真相に辿り着いたと聞いている。オレの立場としては、早苗が一般人に付きっ切りで協力を依頼していたのは感心出来ないが……大したものだな」

早苗「うげっ、それはまあ……見逃してほしいんですけど」

裕子「いえ! これもすべてサイキックパワーのおかげです!」

ボス「ふむ……推理力がずば抜けているのか……良さそうな人材じゃないか。将来、刑事という仕事に興味は?」

裕子「へっ?」

早苗「ちょっとボス! アタシの旅行先だからって珍しく現場に来たなーって思ってましたけど、ユッコちゃんをヘッドハンティングしないでくださいよ!」

ボス「はははっ、いいと思ったんだがな」

裕子「あ、あの! ユッコはサイキック美少女アイドルなので、そこに刑事も付くのは少々大変かなと……」

文香「サイキック美少女、アイドル刑事……」

裕子(まあ、推理力じゃなくて本当にサイキックパワーなんですけどね……)

早苗(ユッコちゃんのサイキックパワー、ボスに話しても信じてもらえないかしらねぇ……)

智絵里「ゆ、ユッコちゃんも、私たちと同じ、あ、アイドルですから……!」

早苗「もうっ! ホント、ボスは変なところで嗅覚が鋭いんですから」

ボス「ま、冗談はこれくらいにしておこう。今後については進展次第、追ってこちらから連絡する。早苗、オレたちはみなさんの見送りが済んだら、一度熱海署に戻るぞ」

早苗「ラジャー……はぁ、結局アタシの休暇、丸潰れなんですけど」

ボス「全部は無理だが、今月中にまた調整してやる。もう少し我慢してくれ」

早苗「まあいいですけど……今度の打ち上げとは別に、焼肉でも奢ってくださいよ?」

ボス「分かったわかった」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:06:14.03 ID:9TDtueb30
美優「それじゃあ……私たちは、これで……」

早苗「ええ、みんなも大変だったと思うけど……そのうちアタシのほうから様子、聞かせてもらうから」

文香「はい……短い間、でしたが」

智絵里「お世話に……なりました……」


裕子「早苗さん……」

早苗「ユッコちゃん……まあ、正直に言うとね、アタシ最初はユッコちゃんのこと、ただのアホの子だと思ってたのよね」

裕子「えっ、ひどくないですか?」

早苗「あははっ! まあ、何だかんだ短い間に組んだコンビだったけど……結構悪くなかったわよ」

裕子「そうですか……いえ、ユッコとしては喜んでいいのかよく分からないんですけど……」

早苗「ま、いいじゃない。これからも色々あるだろうけど……頑張ってね。サイキックアイドルさん」


裕子「そこはサイキック美少女アイドルって言ってください!!」


……
…………
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:07:11.42 ID:9TDtueb30
――その後、愛知県名古屋市中区、中警察署

「ダメだな……地図で並べてみても、ホシの移動ルートが特定できん。押収した証拠品の中だけでは、手がかりも掴めん」

「もう一度駅前に行って聞き込みをしますか?」

「いや、前回の電話で、ホシは何かしらの手段を使って警察の動きを把握しているのは明らかだ」

「ここで下手に動けばこちらの動きが察知される可能性のほうが高い。ホシが誘拐した子どもたちの身代金を要求している期日までは日があるが……」

早苗「どうにも手詰まりね……あ、そうだ」

「どうした早苗?」

早苗「ちょっと電話してきます! すぐ戻ってきますから!」


……
…………
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:07:58.79 ID:9TDtueb30
――東京都港区赤坂、事務所(事務室)

裕子「えええええ〜!! またユッコは名古屋に行かなきゃならないんですかぁ!?」

早苗『ゴメーン、犯人の自宅から押収した証拠物品いくつかあるから、またサイキックパワーでちょちょいっとお願いできる? いま手詰まりしてるのよね』

裕子「いえいえいえ、ようやくユッコも新しい事務所に移ってさあこれから! ってときなんですけど!?」

早苗『まだ仕事ないんでしょ? ならいまのうちに……ダメ?』

裕子「このままじゃユッコはサイキック美少女アイドル刑事どころか、サイキック美少女シャチホコアイドル刑事になりそうなんですけど……」

早苗『いや名古屋だからってシャチホコはちょっと……これも人助けのためだと思って、ね?』

裕子「はぁ……分かりました。それじゃあ夕方から新幹線で向かいます」

早苗『やった! ありがとうユッコちゃん大好きっ♪ 夕方来るなら夜中になるだろうし、ホテルこっちで取っておくから!』

裕子「もう……ひつまぶしもお願いしますよ」

早苗『分かった分かった。頼りにしてるわよー? サイキックアイドルさん♪』

裕子「だからサイキック美少女アイドルですって! 美少女足りないですから、美少女!」



――
――――
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:08:43.32 ID:9TDtueb30
――女子寮(裕美の部屋)

裕美「終わった……犯人、楓さんかぁ」

prrrr! prrrr!

裕美「あ、電話……もしもし?」

楓『もしもし、凶悪殺人犯です。今はみんなでテレビ見ながらビール飲んでます』

裕美「あはは……」

楓『楽しんでくれましたか? 私は……犯人の役ってやったことなかったので、お仕事は楽しかったんですけど……』

裕美「う、うん、面白かった……私も、誰が犯人かなーって、予想しながら見てて……」

裕子『あ、楓さん! 裕美ちゃんなら代わってください……あ、裕美ちゃんですか! ユッコの活躍見てくれましたか!?』

裕美「ユッコちゃんに代わった……み、見てたよ。なんだか、早苗さんのほうが活躍してたように見えたけど……」

裕子『そうなんですよねぇー……番組タイトルがユッコの名前なのにこれじゃ詐欺ですよ詐欺!』

裕美「そ、そうだね……」

裕子『そうそう、今みんなでドラマが終わった後の反省会やってるんですよ、裕美ちゃんもどうですか?』

裕美「え、私? ドラマ、出てないけど……」

裕子『いいじゃないですか。こういうのはみんなで話して一緒に盛り上がりましょうよ!』

裕美「それじゃあ、いまから居間に行こうかな……ちょっと待っててね」

裕子『はーい、待ってまーす!』

ピッ!

裕子「……ユッコちゃんたち、楽しそう……私も、何かドラマのお仕事こないかなぁ」


……
…………
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:09:09.12 ID:9TDtueb30
――翌日、東京都某所、収録スタジオ(通路)

「それじゃあ昼食の後で、インタビューの続きお願いしまーす!」

裕子「はーい」

楓「お昼が終わったら、ここに戻ってきますので」

文香「お昼ご飯……どこで、食べましょうか……?」

智絵里「ち、近くのお店……喫茶店とか、あったかな……」

藍子「確か来る途中に、1件見かけましたよ」

裕子「いやぁ、サイキックアイドル堀裕子シリーズ、次の話も決まって雑誌のインタビューも入ってと調子良くてユッコも大満足ですよ!」

智絵里「そ、そうだね……次のお話、ユッコちゃん……どこで収録なのかなぁ」

文香「次のお話も……頑張ってださいね」

裕子「もちろんですよ!」


楓「あら……Pさんと、美優さんは……」キョロキョロ

楓「……」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:09:40.77 ID:9TDtueb30


P「どうでしたか今回の仕事、インタビューも終わって」

美優「はい……とっても、良い経験になりました……」

P「それならよかったです。今回の美優さんの役、俺もぴったりだと思っていましたし」

美優「ありがとうございます。あ、そうだ……」

P「なんですか?」

美優「その、今回は撮影で……みんなと熱海まで行きましたけど……今度、お仕事じゃなくて……熱海、行きたいなあって……」

P「……そ、そうですか。それなら……どこか、旅館でも予約しますか」

美優「いいんですか? それじゃあ……お願いします。ふふっ♪」

127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:10:10.01 ID:9TDtueb30
楓「……」

裕子「楓さーん、何やってるんですかー? 早くご飯食べに行きましょうよー」

楓「……」

藍子「楓さん?」

楓「あ、はい。いきましょうか、お昼ごはん」

文香「Pさんと、美優さん……撮影のほうは、まだ終わっていないのでしょうね」

智絵里「わ、私たちの撮影、時間掛かっちゃったもんね……」

裕子「待ってたらお昼終わっちゃいますし、ユッコたちは先に食べちゃいましょうか」




楓「……」ギリッ……



……
…………
………………
……………………
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 21:10:56.54 ID:9TDtueb30
おわり


釣り公園までダッシュするのが一番疲れます。
HTML化依頼出して終了。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/23(金) 21:20:04.61 ID:FmUeUU8P0
おっつおっつ、不穏な終わり方なんですがこれは一体
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/23(金) 21:33:26.15 ID:jzyiU8+Eo
おつおつ
主題歌を教えて下さい
火サスだけに
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 02:17:53.44 ID:z8ZoS7Gz0
乙乙。
推理モノなんか久しぶりに読んだわ。そういえば、関ちゃんは正解したんかな?
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/18(金) 00:39:10.25 ID:oPaRT7eSO
>>130

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