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【デレマス時代劇】木場真奈美「親子剣 屠龍」
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78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 01:34:35.56 ID:WFdAiEj50
行為が終わったあと、押しつぶされるような沈黙が訪れた。
それに耐えかねて、男は部屋に備え付けてあった、PS2を起動した。
『FINAL FANTASY X』のソフトが入っていて、ゲームが始まるとすぐ、
物悲しげなメロディーが流れた。
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 01:35:01.06 ID:WFdAiEj50
しばらくその音色に耳を傾けた後、あいは男に尋ねた。
「私達の友情も、幻想だったのかな…」
男はモニターから目を離さずに答えた。
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 01:35:27.96 ID:WFdAiEj50
「俺が幻に見えるのか」
あいは、彼の背中にキスをした。
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 01:36:02.43 ID:WFdAiEj50
おしまい
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/10(月) 01:42:23.81 ID:Xdhnan0so
おかえり
乙
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 01:49:19.86 ID:WFdAiEj50
まだまだ続く
明日(今日)中にもう一作
タイトルは「Like,Enemy,Hands」
大筋は書き上がってるからあとは細かな調整
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/10(月) 02:30:12.65 ID:iSNoR5xR0
おかえりなさい
待っていました
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:16:15.59 ID:WFdAiEj50
【デレマス現代劇】木村夏樹「Like,Enemy,Hands」
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:17:16.95 ID:WFdAiEj50
意外なことに思われるかもしれないが、
幼い頃の木村夏樹は内向的で、
あまり自分の意見を口に出さない子どもだった。
けれども言いたいことは人並み以上にあって、
いつも胸の内に不快なとっかかりが居座っていた。
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:18:10.26 ID:WFdAiEj50
夏樹が6歳になった頃。
家族でキャンプに向かう車中。
皆あまり口数の多い方ではなくて、それでは寂しいから、
父親は音楽をかけた。
レンタルショップで適当に借りて来た、洋楽のオムニバスCD。
陽気であるけれども、軽薄で意味不明な言葉の連なり。
夏樹はもじもじ、足をすり合わせた。
退屈。
しかし、ある曲がかかった時、彼女の心臓は飛び跳ねた。
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:20:22.62 ID:WFdAiEj50
The Clashの『White Riot』。
英語、若干のコックニー訛りで、しかも喚くような声。
幼い夏樹に聞き取れる訳がない。
だが、今までの歌とは違う。
何かを伝えたい、というようなささやかなものではなく、
“俺の言葉を叩きつけてやる”という、暴力的なまでのエゴ。
夏樹の心はギリリ、ギリリと締め上げられた。
曲が終わったあとも、彼女の脳内でジョー・ストラマーの叫びが
繰り返し、繰り返し響いた。頭痛を覚えるほどに。
夏樹はシートの上で、こてんと横に倒れた。
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:21:37.83 ID:WFdAiEj50
びっくりした家族が彼女を病院に担ぎこんだから、
結局、キャンプ計画は流れてしまった。
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:23:19.86 ID:WFdAiEj50
その日から夏樹の性格は一変した。
端的に言えば、かなり我儘になった。
とはいっても同世代の子どもに比べれば、
子どもとしての分を弁えたものであった。
親ができないことは望まなかった。
ただし、できるだろうと夏樹が考えたものについては、
脛にかじりついてでもねだった。
The Clashのアルバムを借りてくることだったり、
自分用のラジカセを買ってもらうことであったり…。
夏樹が欲しがったものの中で1番の大物は、
フェンダー社製『“ストラマ”キャスター』、テレキャスター。
憧れのジョーが、塗装がボロボロに剥がれるまで愛用したエレキギターだ。
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:24:27.68 ID:WFdAiEj50
当時の定価で8万円ほど。
実勢価格になると、6万円前後まで下がる。
さらに中古をオークションなりリサイクルショップなりで探せば、
3万円以内でうまく収まるだろう。
夏樹はこっそり父親のPCを使って調べた。
さらに家事を熱心に手伝い、小遣いもこつこつ貯め、
大好きだったおやつの購入を親に辞めさせ、
誕生日プレゼントも三回固辞して機を伺っていた。
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:24:57.59 ID:WFdAiEj50
夏樹が9歳になった頃、彼女はようやくギターを手に入れた。
子ども用ではなく、大きくなっても使えるように成人用を
購入してもらった。
しかし、何かが奇妙だった。
若干ボディが大きい。
弦を軽く撫でてみると、丸く太い音が出る。
テレキャスターには無いはずのトレモロがくっついている。
ボリューム/トーンのつまみがちがう。
しばらくぺたぺたさわってみて、夏樹は気づいた。
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:25:23.33 ID:WFdAiEj50
『ジャズマスター』じゃん。
ボロくてもテレキャスターならいいか、とおもったけど、
ジャズマスターだよ!!
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:27:59.11 ID:WFdAiEj50
両親に抗議しようと試みたが、悪気はなかったのだと思い止まって、
しょうがないから彼女は
おんぼろのジャズマスターでギターを始めた。
強くピッキングすると、細いゲージの弦がブリッジのコマから外れる。
セレクターの据わりが悪い。
トレモロのせいで弦のテンションが弱くなる。
幼い夏樹には複雑すぎるトーンコントロール回路。
ノン・レフティ(右利き仕様)。
なんど癇癪を起こしてギターを放り投げようとしたか、彼女自身にも知れない。
とはいえ、せっかく両親が買ってくれたものだから乱暴には出来ず、
辛抱して練習を続けた。
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:29:32.91 ID:WFdAiEj50
こまめに修理を重ねながら、ジャズマスターとの付き合いが5年程になった頃。
両親は娘が予想以上に演奏にのめり込んでいることと、
彼女が弾いているのがテレキャスターではないことに気づき、
ギターの買い替えを提案した。
しかし夏樹にとってのジャズマスターは、既にかけがえのない存在になっていた。
面倒なところも、ボロくて一寸カッコ悪いところも、
どのトーンの中にも、どこかにくぐもった歪みがあるところも。
ジャズマスターは半身どころか夏樹そのものだった。
もうこのギター以外では、自分の口でさえも、何も表現できないような気さえした。
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:30:42.56 ID:WFdAiEj50
高校に上がると、夏樹は軽音楽部に入った。
その頃の彼女は驚異的な技術を身につけていたから、
多少の嫉妬はありつつも、部活の中心人物になった。
しかし、夏樹は思い通りの演奏をすることはできなかった。
楽器という点では同好の士といえど、見ている方向は全く違う。
皆はきゃあきゃあ言いながら、
ポップスやアニメソングの拙いアレンジに甘んじていた。
夏樹はそれに逆らえなかった。
学校は社会の杜撰なパロディで、オブラートに包まず彼女に圧力をかけてきた。
くだらねえ。つまんねえ。
夏樹は、人前では笑顔を振りまきつつも、
家に帰ると毒づいた。
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:31:35.32 ID:WFdAiEj50
そんなある日彼女はモニター越しに、ある女に出会った。
松永涼。
ロックなアイドルというテロップがあって、それに夏樹は鼻白んだ。
その涼が、ユニットメンバーとともに
きゃぴきゃぴしたアイドルソングを歌った後、
おもむろにエレキギター、しかもテレキャスターを取り出して
劈くようなサウンドを響かせた。
夏樹は余興かと思ったが、そのあとスタッフに取り押さえられていた。
メンバーは「またか…」という顔で肩をすくめていた。
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:32:26.44 ID:WFdAiEj50
衝撃を受けた。
連れ出される直前、涼は叫んだ。
「本当のアタシをぶち撒けさせろ!!」
夏樹はリモコンをモニターにぶつけた。
信じられねえ!
ありえねえ!!
彼女は相棒のギターを抱えながら、
父親のバイクを奪って東京まで飛ばした。
そして美城プロダクションのドアを蹴破るように開けた。
夏樹が18の頃である。
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:33:14.23 ID:WFdAiEj50
夏樹は涼と同じ“ロックな”アイドルとしてデビューした。
しかし、二番煎じだと揶揄されることはなかった。
率直に言えば、夏樹の演奏技術は涼を凌駕していた。
涼は元々とあるバンドのボーカルをしていて、
ギターを本格的に始めたのはごく最近のことであった。
それでも夏樹は、涼に失望することはなかった。
わざわざアイドルになって、ロックを貫こうとしていることにも、
疑問を持たなかった。
夏樹には、敵が必要だったのだ。
憎み叩き潰すのではなく、お互いの魂を懸けて、
どこまでも遠くまで突っ走れるような。
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:34:03.08 ID:WFdAiEj50
それを再確認できたのが、2人が初めて声を交わした時だった。
「ボーカル志望だって聞いたが、どうしてギターを?」
自己紹介するでもなく、夏樹はそう尋ねた。
涼は別段気分を害した風でもなく、答えた。
「アイドルとしての“松永涼”をぶった切って、アタシを見せるには、
なにかしらのスイッチが必要だったんだよ。
声だけじゃない、何かが。
……まったく、ジャニス・ジョプリンみたいにはいかないねえ」
コイツは自分と同類だ。夏樹は確信した。
本当はただ叫びたいんだ。
でも、それが出来ないから、何かにすがるんだ。
「アンタは敵だ」
「そっか」
夏樹の挑戦に対して、涼はくっきりと笑みを浮かべた。
彼女も永らく、待っていたのだ。
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:34:59.55 ID:WFdAiEj50
それから2人はことあるごとにぶつかった。
企画側が対立を煽ったこともあったが、基本的には一方が、
もう一方の活動に鼻先をつっこんでかき回す。
それはライブへ乱入する・されることが
あらかじめスケジュールに組み込まれるほど常態化していて、かつ熾烈だった。
互いのファンがそれを楽しんでいるところもあって、
事務所は小言を言うものの、
衝突を積極的に回避しようとはしなかった。
涼の演奏技術はめきめきと上達していった。
夏樹の歌唱力も、相手に迫るほどに研鑽されていった。
2人は親睦を深めるようなことは一切しなかった。
互いの魂を擦り合わせるほどに、
自身が研ぎ澄まされているのを感じていてから。
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:36:21.75 ID:WFdAiEj50
けれども1つの舞台に立つ両者は怒っていたり、
鬼気迫るような表情をしているわけではない。
ただ、その時間が楽しくて、
楽しくてしょうがないという顔をしている。
だからこそ、彼女達を止めることができない。
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:39:11.23 ID:WFdAiEj50
運命という残酷な力学のほかには、誰1人として。
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:40:18.78 ID:WFdAiEj50
夏樹は御茶ノ水駅を出て、行きつけのスタジオまで急いだ。
最近の仕事先は無駄に気が利いていて、
ギターでも何でも向こうが用意してしまう。
ロック=ストラトキャスターって、どうにかならないもんか。
しかもレフティ。
夏樹は歩きながら、肩をすくめた。
同じエレキギターといえど、
ジャズマスターも弾かなくなれば腕が錆び付く。
今日は目一杯可愛がってやらないと…そう思いながら夏樹は、
片手に抱えたギターケースを、もう一方の手で撫でた。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:41:07.01 ID:WFdAiEj50
その時、歩道に一台の自動車が突っ込んだ。
速度はあまり出ていなかったが、予想外のことであったので夏樹は動けず、
とっさにギターを両手で庇った。
身体が軽く、後ろへ撥ね飛ばされた。
夏樹はすぐに立ち上がって、自身の相棒の安否を確認しようとした。
しかし、ケースがうまく開けられない。
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:41:45.92 ID:WFdAiEj50
指先がぬるぬると赤黒く濡れていて、
しかも長さが足りなかった。
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:42:57.81 ID:WFdAiEj50
切断された指先は回収されたが、歪に変形していて縫合できなかった。
夏樹の目の前は真っ暗になった。
右手は2本の指でピックが握れさえすればいい。
だが、左手は押弦のために全ての指を使う。
ギタリストとしても、アイドルとしても、もう…。
両手を除けば怪我はなかった夏樹だが、精神的な苦痛が甚だしく、
自室に篭るようになった。
彼女のプロデューサーや他のアイドル、友人らが心配して尋ねてきたが、
誰1人として彼女の部屋に入れなかった。
入れたとして、どのような言葉をかけてやればよいのかも、
誰にも分からなかった。
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:43:32.88 ID:WFdAiEj50
夏樹はバスタブに溢れんばかりのお湯を張った。
そして浴びるように酒を飲んだ。
くそっ、27歳だったらなあ。
そんなことを考えながら、夏樹はふらつく足で立ち上がって、
湯面を見つめた。
こんな“つら”しながら、ひとりぼっちで死ぬのか。
彼女は自嘲気味に笑った。
この気持ちを、たとえば渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で
ギターをかき鳴らしながら叫べたら、夏樹は自殺など考えなかっただろう。
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:45:07.66 ID:WFdAiEj50
鈍った頭で意を決して、バスタブにそろりと足を浸けたとき、
玄関から物音がした。
鋲打ちのブーツ。身長は160cm、体重は47kg…。
類稀なる音感と直感で、夏樹はその主の察知した。
ポストに、何かが乱雑に投函される。
夏樹はひどい目眩を覚えながらも、這うように浴室を出た。
足音は遠ざかっていく。
扉にめりこんでいたのはBlack Sabbathの、『Black Sabbath』だった。
しかも1970年の初回レコード。
夏樹は感動よりも怒りを覚えて外に出たが、すでに誰もいなかった。
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:49:06.45 ID:WFdAiEj50
彼女は死のうとしていたことなど忘れて、自室に戻った。
ムカムカしながら、年季の入ったレコードプレイヤーに円盤を据える。
スタイラスを溝に噛ませ、再生開始。
ひび割れたような音色が部屋に響く。
これはレコードが老朽化しているためであったが、
それが『黒い安息日』の演奏にマッチして、
より恐ろしげなサウンドとして仕上がっていた。
トニーのギターはやっぱりすげえ…。
夏樹はぽーっとしながら、耳を傾けた。
弦のテンションを下げた、重く潰れたような音。
のちのヘヴィ・メタルに多大な影響を与えた、偉大なギタリストの1人。
バーミンガムの出身で、「ボーカル以外全員募集」というオジーの貼り紙を見て
サバスの前身となるアースに参加した。
ギタリストとして本格的に活動する前は工場で…。
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:49:33.16 ID:WFdAiEj50
その時、夏樹の脳内に電流が走った。
「“やるしかないのに、そんな簡単なことのわからない人間が多すぎる”…」
そう呟きながら、夏樹は再び外の世界へ飛び出した。
事故から守り抜いた相棒と共に。
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:51:16.92 ID:WFdAiEj50
一ヶ月後、夏樹は舞台に立っていた。
指の長さは綺麗に揃っている。
愛和義肢製作所謹製の指先。
演奏用に特別な素材が用いられていて、適度な硬さがある。
今日は、復帰後初のライブである。
進行は全て夏樹に一任されている。
第一曲目は、夏樹が初めて作詞作曲したパンク・ロック。
アップテンポであるが、単純なスリーコードによる構成。
事故前でのライブでも、何度も披露した思い出深い作品である。
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:52:01.85 ID:WFdAiEj50
しかし、夏樹の指は思うように動かなかった。
そもそも自分の指先でなく、弦を抑える感触もぶれている。
以前のような演奏が出来るはずがない。
一小節が丸ごと飛んだ。間抜けな音が出た。
観客席から、疲れ切ったようなため息が出た。
夏樹は歯軋りした。身体が大きく震えた。
演奏が拙いことが悔しかった。
さらにそれよりも、自分がもう二度と、
松永涼と戦うことが出来ないのが辛かった。
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:52:36.18 ID:WFdAiEj50
本当に、ダッセえ。
引き際を誤って醜態を晒すミュージシャンを、夏樹は軽蔑する。
今からでも遅くない…。
沈痛な面持ちで、彼女は演奏を止めた。
引退、そんな言葉が喉から出かかった。
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:53:02.12 ID:WFdAiEj50
だが音楽は止まっていなかった。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:53:35.64 ID:WFdAiEj50
この舞台に、夏樹1人では広すぎる舞台に、
もう2人目のギタリストがいるからだ。
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:54:20.72 ID:WFdAiEj50
「てめえ」
夏樹は相手に声をぶつけた。
涙がギターネックに降り注いだ。
「曲パクってんじゃねーよ……!」
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:54:48.12 ID:WFdAiEj50
松永涼は不敵な笑みを浮かべた。
「でも、こっちの方が上手いだろ?」
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:55:55.15 ID:WFdAiEj50
夏樹は涙を拭った。震えは、既に止まっていた。
「てめえの下手くそなギターのせいで、いつもの調子が出なかったんだよ!!」
二重の旋律が、夏の青空に吸い込まれていった。
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:56:21.44 ID:WFdAiEj50
おしまい
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/10(月) 22:56:53.21 ID:WFdAiEj50
これで区切り
依頼出してくる
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/11(火) 00:50:53.84 ID:Q9rP2tMe0
乙乙。
クッソかっこいいわ
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/12(水) 13:47:35.14 ID:f2yzpgWT0
これぞ時代劇P
もう時代劇だけじゃないから劇Pとでも呼ぶべきか
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/15(土) 22:42:14.58 ID:rTJg6wpy0
今回はどの話が一番面白かった?
今までのでもいいけど
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/18(火) 22:19:39.91 ID:VhGgqFWA0
逆に
>>1
はどの話が自分で一番面白いと思う?
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/20(木) 09:50:57.11 ID:DcCL43Cu0
阿呆の一生
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1496413176/
ダブルブラインド
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1498119245/
この二本かな
おのろけ豆も好きなんだけどねえ
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/20(木) 10:21:25.67 ID:DcCL43Cu0
今回の話だとあいさん
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