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【モバマス】P「土をかぶったプリンセス」
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1 :
◆77.oQo7m9oqt
[sage saga]:2017/07/15(土) 20:06:37.85 ID:+jykf0ly0
地の文メイン。
独自設定あり。
未熟者ゆえ、口調等に違和感があるかもしれません。
どうかご了承ください。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1500116797
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/07/15(土) 20:07:35.46 ID:+jykf0ly0
1.
誕生日、ってのを手放しで喜べなくなったのは、一体いつからだったろう。二十歳になったときは酒と煙草の解禁に小躍りしたものだが、それ以降は歳を重ねる、ともすれば死に近づく自分が嫌になる気持ちの方が強かったように思う。
生まれ落ちてから三十を数えた年は、年初からロクなことがなかった。
前年末に買った宝くじは四桁の当たりすらなかった。政権が代わって酒税と煙草税が上がった。春頃についでとばかりに消費税も上がった。さして給料が上がる訳でもない昇進を果たし、責任が増した。好きな球団はクライマックス・シリーズに進むこともできなかった。
挙げ始めれば止まらないほどに散々だった。
三十になるその日、誕生日を祝う人はいなかった。親元から離れて十年以上が経っていたし、自分で家族を作る努力もしていなかった。男やもめの職場の同僚には、そんな可愛げのあることをしてくれる奴はいなかった。交友のある人たちもまた同様だ。
ただ、たまたまのプレゼントをしてきた友人がいた。昔からの付き合いのある男だ。こちらの誕生日を祝う意図はなかったんだろうが、奇しくもそれはその日だった。
渡されたのは、一枚の薄っぺらな紙。
履歴書だった。
「人手不足なんだろ? こいつ、雇ってやってくれねえかな」
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/07/15(土) 20:08:16.33 ID:+jykf0ly0
確かに人は足りていなかった。昇進して管理者側に回っていたから、人材の補強も自分の仕事の一つ。
友人は信用できる奴だった。だから、ありがたい、とその履歴書を受け取った。
受け取って、目を通して……それから、少しだけ頭を抱えた。おい、友人よ。
履歴書に載っているのは、彼ではなく彼女だった。
それはいい。珍しいがないことじゃない。
彼女の年齢はまだ十五歳だった。
それもいい。若過ぎるが、若いのはありがたい。
彼女の学歴は、最終が中卒で終わっていた。
それもいい。珍しくもない。
彼女のアルバイト歴は、空欄だった。
それもいい。珍しくもない。
彼女の履歴書の写真は、金髪だった。
それもいい。珍しくもない。
ついでに、サイドには綺麗な刈り上げが作ってあった。
それもいい。珍しくもない。
彼女の履歴書の写真は、屈託無い笑顔でピースを掲げている自撮り写真だった。
それも、まあ、いい。珍しい、というか、さすがに見たこともないが、自分は特段気にしない。
それぞれを別個に持っているだけなら、別になんのためらいもなく雇っただろう。何分人手不足だから。
ただ、これら全てを兼ね備えている人物を雇うのはどうなんだ、と思うところがあった。何分人手不足なんだから、と言ってもだ。
大丈夫なのか、どういう繋がりなんだと尋ねると、
「知り合いの子でさ、仕事探してんだって。大丈夫かって何がよ。ああヘーキヘーキ、良い子だから」
少し迷ったのち、結局履歴書に書いてある電話番号に電話をかけた。信用できるはずの友人を信じた結果だった。信用できるはずなんだ。
電話口に出たのは、声にあどけなさの残る少女だった。
採用したい旨を告げると、意味のわかりづらい若者言葉が返ってきた。完全に理解するのは三十路の野郎には難かったが、おおむね喜んでいるんだろうことはわかった。
いつから来れるかを尋ねると、いつでも、ということだった。
明日の朝から来てくれと返し、電話を切った。
まったく、これがとんだバースデーギフトだった。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/07/15(土) 20:09:10.47 ID:+jykf0ly0
2.
翌日、やってきた彼女はおおむね写真から得られるイメージ通りの子だった。裏地がヒョウ柄の黒パーカーに、下はブルーのショートデニム。若者の洒落には詳しくないが、可愛らしいカジュアルスタイルだと思った。ジャージやスウェット、作業服ままで平気で出勤してくる男とは違う。
彼女は出会い頭、無邪気な声で言った。
「ちょりーっす! 今日からお世話になりまーす。よろしくちゃーん親方っ☆」
敬語の下手な子だった。だけど、それを不快には感じなかった。敬語の使えない新人が入ってくることは珍しくもなかったから、おそらく慣れもあったんだろう。
よろしく、と返した。
親方という呼ばれ方がなんとなくむず痒かったから、周りと同様に監督と呼ぶよう言った。
「えー? でもでもー、カントクよりは親方のがカッコいいぢゃん! ダメなん?」
そんなところでゴネられるとは思っていなかった。
まあ監督だろうが親方だろうがこの現場で指すのは現場監督である自分以外にいないか。むず痒さは我慢しよう。
構わない、と告げた。
「いぇーい☆ おーやかたっ!」
嬉しそうに呼ぶ彼女をどうしていいかわからず、頭をかいた。うちは土建屋だ、しんどいぞと脅すようなことを言ってみた。
「体力には自信あるし! ヘーキっしょ!」
楽観的だな、と思った。この笑顔がどれぐらいで曇るだろうと意地の悪いことが頭をよぎった。入ってから数週は、みな死体のような顔色で帰っていく。自分もそうだった。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/07/15(土) 20:09:46.30 ID:+jykf0ly0
ツナギへの着替えを仮設小屋で済ませてもらった。
いざ仕事を始めるにあたって、新人研修を誰が務めるのかで少しばかり現場が揉めた。
彼女は久しぶりに入ってきた女性の新人だった。髪型や濃いめのメイクのせいでアイドルやモデルのような一般的な可愛さからは離れていたが、顔立ちは愛らしかった。どうもそのあたりが原因らしい。
適当な若い男衆に任せるつもりだったが、そうすると他から文句が生まれる。それならばと熟練のベテランをあてがおうとすると、そんな面倒なこと若いのに任せろと拒否された。
一番丸く収まる手を考え、結果やむをえず自分自ら研修に当たることにした。
彼女は華奢な体格だった。力仕事は向きそうもない。しかし、基本的に体力勝負の仕事ばかりなウチの職場ではやってもらうしかない。
初日は、単純で、比較的楽な部類に入る土砂の運搬を教えた。重機で掘り返した地面の土をシャベルで猫車に移し、運搬用のトラックへ運ぶ。それをひたすらに繰り返すだけ。
大丈夫か、と確認すると、
「えっ、ねーねー親方、これねこぐるまって言うん? マジ?」
一輪式の手押し車を見つめながら、そんな的外れな問いが返ってきた。
そうだ、と応えた。
「なにそれ超ウケる! めちゃカワじゃん、ヤバたん!」
えらくご機嫌に、彼女ははしゃいだ。
なんとも新鮮に感じた。そんなくだらないことに、よくそうも心を振れさせられるものだと。
そういう感覚は大切にすべきなのかもしれない。ただ、仕事はしてもらわないと困る。
「……あっ、申し訳ー。やるやる、ちゃんとやるぽよ!」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/07/15(土) 20:10:31.14 ID:+jykf0ly0
うわべだけの判断ならば、彼女はあまり真面目そうには思えない。だからしばらくは、別の作業をしながらも彼女の仕事姿を遠巻きに見守っていた。
比較的、楽なだけで、彼女に任せた仕事は決して楽ではない。シャベルで土砂を掬うのも、猫車を運ぶのも、トラックに運んだ土砂を移すのも全身を使う重労働だ。
正直、三十分もてばいいと思っていた。名門野球部に所属していたと言って二年前に入ってきた男がいるが、彼は確か一時間経ったあたりで手を抜き始め、一時間半で作業を止めた。
どうなることやら。期待は薄かった。
しかし、それを謝らなければいけないなと反省することになった。
彼女は、一時間経っても、一時間半経っても、作業の手を緩めることさえしなかった。
脇目も振らずに愛らしい猫車に土砂を積んでは、運搬用トラックへとせっせと運ぶ。
無論ペースが際立って早いわけもない。男がやるよりも一度に運べる量は少ないし、運ぶ速度もやや遅め。
それでも、彼女が力を尽くしているのは一瞥しただけでわかった。手を抜く様子すらない。
いい意味で期待を裏切ってくれた。
一度休憩してもらおうと手招きで呼んだ。
「んー? どったん親方。……あっ、もしかしてー、アタシなんかミスったりしちゃった系?」
ミスなどあるはずもない。首を横に振った。
この現場では作業員は各々の裁量で勝手に休みを取る。だから、一時間半に一度ぐらいは軽い休憩を取っていいと伝えた。それと、昼休憩は一時間、十二時からだということも。
「そなんだ? りょーかいちゃん!」
彼女は軍手のはまった手でひたいの汗を拭った。
夏はとうに終わって暑さはしばらく感じていない。しかし、彼女の顔には珠のような雫がいくつとなく流れていた。
真面目なんだな、と冗談めかして言った。
「へ?」
浮かんだのはぽかんとした表情だった。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/07/15(土) 20:11:14.24 ID:+jykf0ly0
「新人なんだしー、大したことできないんだから手え抜くなんてありえんてぃーっしょ。ふつーじゃね?」
彼女はなんてことないように言った。
自分はどうだったろう。あまり思い出したくない。
新人なんだからとその立場に甘え、できないことを正当化する人は多いように思う。だから、少なくとも普通ではないはずだが。
「まあ確かにキツヤバだけど! まぢ予想以上だったわー」
へらっ、と笑った。来た時の笑顔と、まだなんら変わりもしなかった。
見張っている必要もないだろうか。
そう判断して、上がり時間までその場の作業を任せた。彼女一人で終わる量ではなかったから、できるところまででいいと伝えて自分は別の仕事に取り掛かった。
その日の作業は思っていた以上に順調に進んだ。工期や工事計画を組み直す必要もなさそうだ。
夜と夕方の間とも言える時間に作業は一旦終える。
朝から勤務していた同僚たちは上がる時間だ。
そういえば、彼女に終了時間は伝えていなかったな、とその元へ走った。
彼女は言いつけ通りにずっと働いていたようだった。西日を横身に受けながら猫車を押している。やはり積もる疲労には勝てるわけもない。遠目からでも身体がガタガタになっている様子がわかった。
「……あっ、親方〜。なに? 終わりなん?」
顔にも疲労の色が出ていた。お疲れ様、どうだった? と尋ねた。聞くまでもないことだ。
「いやもー、マジヤバたん。色んなとこパンパンだよ〜」
愚痴を言いつつも、彼女は笑顔だった。もちろん疲れのせいか朝ほどの元気なものではなかったが。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/07/15(土) 20:12:56.86 ID:+jykf0ly0
休憩所、更衣所を兼ねた仮設のプレハブ小屋に彼女を連れて戻った。
普段ならば終業時間になれば自由に早々に帰っていく同僚たちは、今日はそこに残っていた。理由は言うまでもなく彼女なんだろう。
「えっ、歓迎会? ……いやー……それはエンリョしたいかも? あっ、うれちーよ? うれちーんだけど、今日はもーまっすぐ帰りたい系だからさー」
彼女のための歓迎会を考えていたらしい。が、彼女自らの手によってその計画は頓挫した。囲んでいた若手の作業員たちが軒なみ肩を落とす。
既に店の予約もしていたらしい。急遽キャンセルするのは気がひける、と男衆だけで行くようだ。監督もどうかと誘われた。誘いは非常に嬉しいが、この後まだやらなければいけないことが残っている。泣く泣く断った。
皆の背中を見送る。下手な昇進をしていなければあちら側にいられたのに、とため息をついた。
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クオリティの高いサービスを貴方に
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