白石「あ、あきら様……?」あきら「……白石」

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70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 22:58:55.36 ID:isIyEqglO
山田「……それで、白石くんは僕に何の用?」

白石「え、あ、はいっ。社長に直接お願いするのも、道理がなってないんですが……」

白石「社長に、紹介したい女性がいるんです」

山田「おお、結婚かい」

白石「えっ」

後藤「おめでとうございます、式はいつ頃をご予定でしょうか」

山田「スピーチなら任せてくれたまえよー、
   往年の山田節を披露してあげよう……あ、ギャラは貰うからね?」

白石「うわ〜それは是非とも聞いてみたい……ってそうじゃなくて!」

白石「ウチで一人、デビューさせて欲しい子がいるんです」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:00:02.20 ID:isIyEqglO

山田「なんだ、やっと白石くんも腰を据えて仕事をする気になったかと思ったのに……」

山田「……というか、ウチがいま人とってないのは、知ってるよね?」

白石「承知の上です。面接だけでも、受けさせてもらえないでしょうか」

山田「…………うーん」

白石「……」ゴクッ

 …………。

後藤「……社長、ご提案が――」

おかみ「はい、おまちどう。味噌煮定食3つね」カタッ

山田「おっ、きたきた。……あ、後藤ちゃん、話はあとで聞くから。
   今はありがたく味噌煮をいただこうじゃないか」

白石・後藤「…………」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:01:37.27 ID:isIyEqglO

 ――――

山田「はぁー、美味しかった。おかみさん、おあいそで」

おかみ「はいはい」

 …………

 ……

 …

 プゥーーーーーーー…

 トウフー トウフー シノザキヤノートウフー

山田「おっ、いいねぇ。最近は見なくなったね〜豆腐屋さん」

白石「確かに見ないっすねー」

山田「古き良き絵だね……」

白石「そうですね……」

 …………。

後藤「……あの、白石さんまで社長と和まないで下さい」

白石「えっ? ……あ」

山田「ごめんごめん……それで後藤ちゃん、提案ってなんだい?」

後藤「はい、研修生制度の導入です」

山田・白石「研修生制度?」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:03:18.52 ID:isIyEqglO

後藤「プロの前段階と言えばいいでしょうか。
   ウチと懇意にしていただいている養成学校がある以上、
   それを利用しない手はありません」

後藤「ウチの事務所は中堅からベテランが多い分、
   小さな仕事を引き受けにくいというデメリットがあります」

山田「ふむ、確かに」

後藤「研修生制度でそこを補填することによって、
   活動範囲を広げることが出来るのではと考えています」

後藤「そもそも、いきなりプロへ上がらせるのは今のご時世に合いません。
   社長の考えは古すぎます」

山田「そんなはっきり言わなくてもいいのに……」

後藤「研修生という肩書きの元で小さな仕事をこなし、
   プロの仕事を間近で見られるような環境をウチでも作るべきです」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:04:08.30 ID:isIyEqglO
後藤「つきましては、養成学校から希望者を募ると共に、
   白石さん紹介の女性にもお声を掛ける……というのはいかがでしょう」

白石「おおっ、後藤さんグッドアイディ〜ア!」

後藤「ただし、オーディション形式になると思いますが」

白石「おお……まあ、そうですよね……」

後藤「……いかがでしょうか、社長」

山田「ふ〜む……なるほどねぇ……」

白石・後藤「…………」

山田「……よし、分かった! やってみようじゃないか!」

白石「っ……!」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:04:55.95 ID:isIyEqglO

山田「甲斐田くんから色々言われてたからねぇ……
   『ウチは仕事が振りづらい』だの何だのって。
   これを機に、色んな仕事を取っていこうじゃない」

後藤「では、企画書と資料は明日中に纏めておきます」

山田「白石くん、そういうことだ。君の彼女には今のとおり伝えておいてくれるかな?」

白石「はいっ! ありがとうございます――
   って彼女じゃないです全然そんなんじゃないです」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:08:04.21 ID:isIyEqglO

 ――――

山田「ふぅ……久々の勝負だね、僕はあまり好きじゃないけれど」

後藤「時が移ろえば変化を強いられる……
   逆に今までやってこれていたのが不思議なくらいです」

山田「嫌だねぇ……年を取ると保守的になってしまって」

山田「……だからこそ、あの子のような行動力は魅力的に思えてしまう」

後藤「…………」

後藤「社長だけではないですよ、そう思っているのは」

山田「…………」

山田「……ところで」

後藤「何でしょう」

山田「白石くんのあの反応、後藤ちゃんどう思う?」

後藤「クロですね」

山田「あ、やっぱり?」

後藤「はい、どう見てもクロです」

山田「これは、オーディションが楽しみになってきたね」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:11:25.90 ID:isIyEqglO

 ――――

高屋「どうでした?」

白石「ん、何とかなりそうだよ」

高屋「おおっ、さすが白石さんですー」

白石「多分、後々高屋ちゃんも忙しくなると思うけど」

高屋「えっ?」

白石(なんか、想像以上に大事になってしまった)
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:12:19.29 ID:isIyEqglO

 ――――

 ―あきら宅―

 ピロピロピロリンッ

あきら「……」

―─――
白石
うちの事務所で研修生制度を取り入れることになった、
そのオーディションに特別参加していいって

詳しい日時はまた連絡する(^o^)
――――

あきら「……」

あきら(……マジでチャンス持ってきやがった、しかも堅実に)

あきら「……あたしが、再デビュー」

あきら「……」ボフッ

あきら「〜〜〜〜〜〜〜っ!!(どうしよ〜〜〜〜〜!!)」バタバタ
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:13:38.01 ID:isIyEqglO

 ――――
 ――

 ―とある居酒屋―

 ワイワイガヤガヤ

甲斐田「よう白石、おめえが発端でなかなかデカいことするらしいじゃねえか」

白石「えっ、いや別に……具体的な意見を出したのは後藤さんすから」

甲斐田「ああ、あのクールちゃんね……」チビッ

白石「そう言えば甲斐田さん、後藤さん苦手って話してましたね」

甲斐田「まあな……」

 …………。

甲斐田「それでよ、ひろみちゃん……いや、小神あきらのことだけどよ」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:14:26.65 ID:isIyEqglO

白石「げっ、どこからその情報を……」

甲斐田「おめえのジャーマネから」

白石「……」

甲斐田「昔からの知り合いってのは知ってたが、まさかそれがあの女とはな」

白石「……? なんか、やけにあたりが強いっすね」

甲斐田「……」

甲斐田「……白石」

甲斐田「小神あきらは、諦めとけ」

白石「えっ」

 ――カランッ
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:15:19.50 ID:isIyEqglO

 ――――

 ワイワイガヤガヤ

白石「……どういう、ことっすか」

甲斐田「……」

白石「いや、ちゃんと説明してもらわないと。いくら甲斐田さんからでも、
   いきなりそんなこと言われたって……」

甲斐田「おめえが昔に、それこそ俺と出会うより前に
    あいつとつるんでたことは知ってる」

甲斐田「……情が移るだろうけどな、互いに身を滅ぼす羽目になるぞ」

白石「――っ、違いますっ。俺は……」

甲斐田「……あれはな、もうアイドルにはなれねえと俺は思う」

甲斐田「白石、この前におめえに言ったよな。
    『白石が白石でいる限りは、仕事はなくさせねえ』って」

白石「……」

甲斐田「……あの女は、『小神あきらでない道』を一度選んじまったんだよ」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:17:26.47 ID:isIyEqglO

 ――――

 ガタンゴトン―

白石「……」

 ――

「一度自分に嘘を吐くとな、なかなか元には戻れねえ」

「まあ、この話はまた追々な。……忠告を無視してあいつを庇うなら、
 覚悟しておけよ。先に言っておくが、かなりしんどいぞ」

 ――

白石(甲斐田さんの言うことは多少無茶はあっても、
   間違ってるなんてことはなかった)

白石(……あいつ、何をやったってんだ)

白石「……」

 テレレンッ

――
高屋かな
オーディションの日時が決まりました!
ちょうど一週間後の◯月□日の13時に、
ウチの事務所の二階でやるそうです!

あきら様にそうお伝え下さいー( ´▽`)
――

白石「……」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:18:24.37 ID:isIyEqglO
 ────
 ――

 …………
 ……
 …

 もう一度、もう一度チャンスを下さい!
 次はちゃんとやりきってみせます!

 いやぁ、僕も期待してたよ? だけどねえ……

 放っておけ

 ディレクター……

 老婆心ながらに忠告しておくがな、お嬢ちゃん。
 おめえさん、キャラが死んじまってるよ



 それじゃあ――ただの人形だ



 …
 ……
 ………

あきら「──っ!」バッ

あきら「…………」

あきら「夢見わっるー……」ガリガリ
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:19:10.98 ID:isIyEqglO

 …………。

あきら「……どうすれば良かったんだよ」

 ピロピロピロリンッ

あきら「……」スッ

──
白石
話がしたい
──

あきら「……」スッ ススッ

――
あきら
うん、あたしも飲みたい気分
――

あきら「……」

あきら「……はぁ、あたしらしくない」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:20:13.01 ID:isIyEqglO

 ――――

 ―その日の夜 桜蘭坂―

白石「――とのことだ。決まった後に聞くのもアレだが、その日空いてるか?」

あきら「うん……」

白石「……あんまり乗り気じゃなさそうだな」

あきら「別に……昼間にちょっと嫌なこと思い出しちゃっただけ」

 ゴクッ ゴクッ ゴクッ…

白石「……」


 小神あきらは、諦めとけ


白石「……あのさ、小神――」

あきら「――ぶはぁ! ほら、あんたまでしおらしくならないでよ。今日は飲むぞ〜!」

白石「……」

あきら「ほらっ、ジョッキ持てって」

白石「……そうだな、とりあえず飲むか」


 結局。俺はその日、最後まで話を切り出せなかった。

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:21:22.58 ID:isIyEqglO

 ――――

 ―とある駅前―

白石「じゃあ、メールに送ったとおりだから。来週は頼むな」

あきら「任せとけって、絶対受かってやるからさ!」フリフリ

白石「……」


 杞憂に思えてきたから――と言ったら、語弊がある。

 すべてを忘れたかったから。
 考えたく、なかったから。

87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:22:10.01 ID:isIyEqglO

白石「……小神っ」

あきら「あん? なんだよー」


 だから俺は――


白石「……大丈夫だ、うん、大丈夫だから」

あきら「お……おうっ、分かってるって」

 なんの根拠もない励ましを、無責任に投げかけることしか出来なかった。



 そして、オーディション当日――


88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:23:32.20 ID:isIyEqglO

 ――――
 ――

 ―とある放送局―

白石「……」ソワソワ

高屋「白石さーん、仕事に集中してくださーい」

白石「あ、ああ……」

高屋「うふふ、そんなに気になりますかー?」

白石「いや……まあ、大丈夫だろ。あいつなら」

高屋「信頼してますねー。それじゃあ、白石さんはお仕事の方を頑張りましょうねー」

白石「はいはい……」

白石「……」チラッ

白石(ラジオが終わる頃には、オーディション始まってるな)

白石(……頑張れよ)
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:24:13.40 ID:isIyEqglO

 ――――

 ガチャッ

白石「お疲れ様でしたっ」

ディレクター「おう、お疲れー。来週は二本撮りだから頼むわ」

白石「はいっ」

白石「……さて、今日は大人しく事務所に帰るかな――」ソソクサ

高屋「白石さんっ!」

白石「っ!? ど、どうしたのいきなり大声出して……」

高屋「小神さんが、まだ会場にいらしてないらしいです」

白石「……えっ」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:25:15.81 ID:isIyEqglO

 ――――

 タッタッタッタッタッ――

白石「はっ、はっ、はっ、はっ――!」

 ――

「オーディション開始の三十分前には集合だったんですが、
 小神さんだけまだ来てないみたいです……」

「もしかして、日時を間違えたとか……――あ、白石さんっ!」

 ――

白石「ちくしょう、あのバカっ……!」

 prrrrr… prrrrr…

白石「っ……」

白石「……ダメかっ」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:26:42.72 ID:isIyEqglO

 ――

「一時間だけ待ってください! 必ず連れて行きます!」

『そうは言われましても……』

『良いんじゃないかな』

『社長……』

『僕、ドラマチックな展開が好きだからさ。
 ただ、間に合わなかった時はしょうがないじゃ終わらないよ?』

『これは白石くんの信用にも繋がるんだから。そこは承知しておいてね』

「っ……ありがとうございます!」

 ――

白石「っ……はぁ、はぁ……!」

白石「とは言っても、あいつが行くところなんて分からない……!」

 任せとけって、絶対受かってやるからさ!

白石「……どの口が言ってんだよ、あいつは――!」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:27:32.15 ID:isIyEqglO

 ――――

 プゥーーーーーーーーーー……

 トウフー トウフー シノザキヤノトウフー

 キィ…… キィ……

あきら「……はぁぁぁぁ」

あきら(なにやってんだよあたしは〜〜〜〜〜!)

あきら(ちゃんと行こうとしたのに! なんでこんなとこでショボくれてんだよ!)

あきら「……あ〜〜〜〜〜〜」ガリガリガリガリ

あきら「はぁ……」

あきら(…………バカだな、あたしって)

あきら「……」

あきら「……」チラ…

あきら(もう、オーディション始まってる……)

あきら「……こりゃ、もう顔合わせらんないなぁ」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:30:15.30 ID:isIyEqglO

 prrrrr… prrrrr…

あきら「っ……!」

 着信:白石

あきら「……」

 ピッ

白石『……――おい!! 今どこにいるんだっ!!』

あきら「っ……声でけえっつうの」

白石『何してんだよ!? せっかくのチャンスなのに!』

あきら「……もういいんだよ。あたしには、やっぱり無理だって」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:33:27.12 ID:isIyEqglO

 ――――

白石「お前、何言って……、っ!」

 タッ―

あきら『結局さ、あたしに業界は向いてないの』

 タッタッタッタッタッ――

白石「まだやってもいないのに何言ってんだよ……
   迎えに行くから、オーディション出ようぜ」

あきら『一回やめた人間が再復帰なんて出来るわけない』

白石「何人もいるじゃねえか、そんな人間」

あきら『毒舌アイドルなんて売れない』

白石「ア、アウトローだけど……それでもいいだろ、面白いって」

あきら『二十代半ばなんてもうおばさん』

白石「全国の三十路に謝れ」

あきら『……もう、あんたに迷惑かかってるし、今さら顔なんて出せないってば!』


 ――互いに身を滅ぼす羽目になるぞ


白石「っ……だったら、尚更だよ! こんなところで足踏みしてんなよ!」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:34:14.84 ID:isIyEqglO

白石「まだ間に合うんだよ、チャンスは手を伸ばせば掴める距離にあるんだよ!」

あきら『……ねえんだよ』

あきら『もう……手を伸ばす力もねえんだよ』

 ――――

あきら「二年前に……小神あきらは死んだ」

あきら「抜け殻のあたしに、そんな力……ねえんだよ……!」

白石『小神……』

あきら「だから、もう……――」

白石『だからって、諦めんのかよ』

あきら「っ……」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:35:52.19 ID:isIyEqglO

白石『そんな、往生際のいいような女じゃねえだろ』

あきら「……」

白石『今のお前が無理だって思ってても……俺は、諦めさせないぞ』

白石『無理じゃねえんだよ。たかが二十数年生きただけの人間が、
   自分で引いたラインで物事決めつけんな』

白石『確かに、怖いよ。俺だって数年間やってきたけど、
   今でも先のことなんて見えねえ』

白石『お前もそうなんだろうよ……だったら俺が、前を照らしてやる。
   精一杯、照らすからさ』

白石『もう一回だけ、上を目指してみようぜ』

あきら「っ……、……」

あきら「…………何でさ、そんなあたしにこだわるんだよ」

白石「前にも言っただろ――……』



白石「……――俺は小神の、アシスタントだからだ」ザッ



あきら「っ――!」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:36:44.94 ID:isIyEqglO

 ――――

 ―事務所近くの公園―

あきら「……あんた、なんで」

白石「ここら辺の雰囲気、いいだろ。古き良き日本らしさが残っててさ」

あきら「っ! ……」

 トウフー トウフー シノザキヤノトウフー

白石「小神、オーディションに出よう。まだ間に合うから」

あきら「……」フルフル

白石「っ、なんで……」

あきら「白石……芸能界ってさ、自分がいなくなってくように感じてこない?」

白石「……」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:38:27.77 ID:isIyEqglO

あきら「人気がなくなっていくから、段々と人が見てくれなくなるから……
    そう思うのは、まあ当たり前なんだけどさ」

あきら「違う、そうじゃないんだよ」

あきら「人気がなくなっていくと、なにが悪いのか、
    なにが原因なのかすら分からなくなってくるんだ。
    それで……人気をとるために、自分自身を偽っていって……」

あきら「本当の意味で、自分が消えていく……死んでくんだよ」

あきら「それが……あたしは、イヤ……もうイヤなの……!」

白石「小神……」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:39:41.94 ID:isIyEqglO

 …………。

あきら「あたしは人形じゃない、小神あきらっていう一人の人間なんだ。
    芸能界にはもういないけど、確かにここにいる……だから――!」

あきら「あんただけでも、いいから……」



あきら「お願いだから……あたしを、見てよ……!」



白石「……」

あきら「……っ、じゃないとあたし、もう……」

白石「……小神。俺がなんで今までやってこれたか、分かるか」

白石「お前が、いたからだよ」

あきら「ふぇ……?」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:44:14.85 ID:isIyEqglO

 ――――

白石「俺にとって初めての仕事が、『らっきー☆ちゃんねる』だった」

白石「まだ右も左も分からなかった俺は、
   ヘタを打たないように必死に取り繕ろうしかなくてさ。
   心の底から、お前が羨ましかった」

あきら「っ……」

白石「飾らない小神あきらに、実はずっと憧れてたんだ。
   まあ、結局あんなかたちで終わっちまったけどさ……」

白石「だから、こうやって涙ながらに袖まで掴まれたら……
   昔のお前とのギャップが凄すぎて、色んな感情が湧き上がってきて……」

白石「正直、マジで抱き締めてあげたい」

あきら「…………キモいぞ、白石……」

白石「……」
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:45:37.42 ID:isIyEqglO

白石「……うん、分かってる……それでいいんだよ」

白石「その反応こそが、小神あきらだと思う。お前なんだと思う。
   俺は、そんなお前が好きだ」

あきら「…………」

 …………。

あきら「…………は、はぁっ?///」

白石「昔みたいなお前を、見せてくれよ」

白石「もしやり切る勇気がないなら、俺が後押ししてやる。
   辛くなったら、酒にでもなんでも付き合ってやる。
   それでも無理そうなら、ずっと近くにいてやる」

白石「だからさ……――行きましょうよ、あきら様」スッ
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:46:37.77 ID:isIyEqglO

 ――――

 ─事務所内 オーディション会場─

後藤「……そろそろ一時間です」

山田「ふむ……白石くんから連絡は?」

高屋「き、来ていません」

高屋(白石さん、私は絶対来るって信じてますから……)

 ガチャッ――

白石「す、すみませんっ。遅く――」

あきら「遅くなって、本当にすみませんでした――!」バッ

白石「っ! ……小神」

白石「……社長、遅れてしまってすみません。小神あきらのオーディション、
   今からやって頂いてもよろしいでしょうか」

後藤「白石さん。それよりも連絡を待っていたんですよ、私達は」

白石「い、急いで来たので……すみません」

山田「まあまあ後藤ちゃん、こうやってちゃんと連れてきたことだし……
   よし、分かった。すぐにでもオーディションをやろうじゃないか」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:48:24.50 ID:isIyEqglO

 ────

 ─事務所 ロビー─

 シーーーーーン…

白石「……」

白石(ギリギリ、本当にギリギリセーフってやつだな……)

白石「…………あせったぁぁ……」

高屋「白石さ〜〜〜ん!」ピョーン

白石「うおぉっ!? た、高屋ちゃん……」

高屋「私、本当にどうなるかって……白石さんがクビになったら……
   どう゛じよ゛う゛っでぇーー……!」ボロボロ

白石「……ごめん、心配させて」

高屋「もう、こんなこと絶対に許しませんから……!
   マネージャー命令ですー……!うわーーーん……!!」

白石「わ、分かったから……もう大丈夫だから、ねっ?」

白石(高屋ちゃんのおかげで、ヤキモキしてる余裕もなくなったな……)

白石(……今度こそ、頑張れよ)
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:49:30.28 ID:isIyEqglO

 ────

あきら「〜♪」

あきら「〜〜……、ありがとうございました」

後藤「……」

山田「ふむ……一つ訊きたいんだけど、
   小神ちゃんは何を想って歌ったんだい?」

あきら「何を……ですか?」

山田「うん。声撮りには、何かしら気持ちがのっているもんだ」

山田「君の歌からは、何かただならぬ想いが伝わってきたよ」

あきら「…………それは──」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:50:54.84 ID:isIyEqglO

 ────

 ガチャッ

山田「いやぁ、終わった終わった」

あきら「……」

白石「小神っ! ……どうだった?」

あきら「……まあ、うん」

白石「だ、ダメだったのか……?」

あきら「うるさい、もう帰るから」スタスタ

白石「えっ……って、おいっ」

あきら「本日は、本当にありがとうございました」ペコ

山田「はい、お疲れ様」

 ガチャッ …バタン

白石(あの反応……やっぱり…………)

後藤「送っていかないんですか」ズイッ

白石「ッ!? いきなり横に立たないで下さい……」

山田「送らないと、男なら」ヒョイ

高屋「はやぐいっでくだざい」ズビ…

白石「……」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:53:21.55 ID:isIyEqglO

 ────

あきら「……」

「おーい! 待てってばー!」

 タッタッタッタッタッ─

あきら「っ! ……ついてくんなって」

白石「いや、どうしたんだよいきなり……」

あきら「……」

あきら「……から」

白石「えっ?」

あきら「また連絡するから──!!」タタッ

白石「えっ!? お、おい──! ……って、行っちまった」

 …………。

白石「……ま、マジでやばかったのか?」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:59:01.01 ID:isIyEqglO

 ────

 タタタタタッ─

あきら「はっ……はっ……!」

 タタッ… タッ…

あきら「…………はぁ」

あきら「……」

 ──

「小神ちゃんは何を想って歌ったんだい?」

「それは……──感謝です」

「ほう……感謝ね」

「はい。こうして、遅刻してきたにも関わらず
 オーディションのチャンスを頂けている今に」

「今まで鳴かず飛ばずでも、私を支えてくれていたファンのみんなに」

「…………私の傍にいてくれている、あの人に向けての」



 「これ以上ない、感謝を込めて歌いました」ニコッ


108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/07(月) 23:59:51.54 ID:isIyEqglO


「……うん、いい答えだね」

 ──

あきら「……」

 …………。

あきら「……〜〜〜〜っ///」


109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/08(火) 00:00:28.37 ID:Jdg4/cpRO

 ────
 ──



 それから、二週間後。
 小神あきらは新人タレントとして、俺のラジオに登場することになり。

 ネットでは『らっきー☆ちゃんねるのコンビ再び?』とそこそこ騒がれ、
 そのおかげなのか、ちょこちょこと彼女に仕事が舞い込んできた。



『うまくやれてるらしいじゃねえか』

「はい、何とか仕事は来ているみたいっす」

『……俺は、お前を見くびってたのかもしれねえな。
 あの女のこと、しっかり守ってやるんだぞ』

「……はいっ」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/08(火) 00:01:27.12 ID:Jdg4/cpRO


 そして何故か、俺にも仕事がちょくちょく来るようになって。
 その連鎖は、事務所全体に伝わっていき──ちょっと、みんなの給料が増えた。

 社長は移転するとか言っていたけど、それはまだまだ先の話のようだ。



「いやぁ……ホント、うちがこんなに活気付くとはねぇ」

「ひとえに、白石さんのおかげですか」

「もちろん後藤ちゃんにも感謝しているよ〜」

「ありがとうございます」

「…………ところで、あの二人最近はどうなの」

「その話ですが、高屋の掴んだ情報では──……」

111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/08(火) 00:02:21.15 ID:Jdg4/cpRO



 話は少し戻って、小神の話。

 勢いに乗った彼女はそれはもうたくさんのオーディションに参加して、
 もちろんそれなりに落ちている。

 ただ、決して諦めたりしない…………いや、嘘を吐いた。
 いつも、酒の場では弱音しか吐かない。
 文句は毎度タラタラだ。

 ただ――遅咲きではあるけど、まだまだ大きな壁はあるけど。

 でもきっと、大丈夫だ。

112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/08(火) 00:03:24.74 ID:Jdg4/cpRO



「…………」



 何故なら――



「…………」

「…………おい」



 何故……なら…………



「なんか……すっげぇ恥ずかしいこと言ったんだな、俺……」

「今さらかよ、ばーか」



 第二話『衝動』 / おわり



https://www.youtube.com/watch?v=hIMj4XLP1e0


113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/08(火) 00:06:12.29 ID:Jdg4/cpRO
十年も経ったんだなぁと感慨に浸りつつここで完結です
二人のその先はどうなるのか、そんなことを妄想しつつまた書きたくなったら書くということで乙!
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/08(火) 01:05:34.10 ID:r9MKpLL/o
おつ
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/08(火) 01:40:50.06 ID:BvNdrl5A0
おつおつ
よかった
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/08(火) 11:14:39.23 ID:riSfWBBio
おつ
あきらと白石コンビほんとすき
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/08(火) 19:11:31.51 ID:3X4+6c1A0

いいね
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/08(火) 21:45:35.72 ID:0Kf1EIPfO
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 19:00:47.85 ID:toyHdHxho
あぁこう言う雰囲気たまんねぇな
乙乙面白かった
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