【リゼロ×異世界食堂】スバル「洋食のねこや……だと?」

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1 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:38:39.12 ID:/cyQKcBwo
プロローグ

 ロズワール邸の朝は早い。

 朝の日差しよりも早く、屋敷の使用人たちは目覚め、身支度を済ませてから各々が朝の仕事に取り掛かる。

 屋敷の主の朝食の支度に掃除、洗濯、買い出しと、日のある内に出来る仕事を迅速に、着実にこなしていく。

 この屋敷にいる使用人は今、三人だけ。

 家事全体を取り仕切る双子のメイドと、一人の使用人。

 これは、そんな使用人――ナツキ・スバルの元に訪れた一つの平和の物語。
 
 魔獣の森の一件が片付き、平穏な日々を送っていた彼に訪れた、一時の安らぎの物語である。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1502671118
2 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:42:16.86 ID:/cyQKcBwo
ロズワール邸、午前

 食糧や調味料と言った買い出しを済ませたスバルが屋敷に戻り、それらを調理場に仕舞い終えた時の事。


スバル「よっこらせ……と、ふぅ、これで午前中の買い出しも終わったな」

レム「お疲れ様です、スバルくん、お茶をどうぞ」

スバル「おおレム、悪いな、時間かかっちまった」

レム「いえ、量も結構ありましたし、大丈夫ですよ」

スバル「しっかし、急にこれだけの買い出しが出るなんて、ラムのやつ、一体何考えてんだ?」

レム「あれ、スバルくんはご存知なかったんですか?」

スバル「……何の話だ?」

レム「実は……」

ラム「近々、この辺りに嵐が来るからその準備よ」

スバル「どわっ、いきなり出てくるなよラム……え、嵐だって?」

ラム「そ、毎年この時期になるとここら一帯は外にも出られないぐらい酷い嵐が発生するのよ」

レム「嵐になると村でもお買い物はできなくなりますからね、それに備えての買い置きだったんですよ」

スバル「なーるほど、そういう理由か」
3 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:43:07.09 ID:/cyQKcBwo
ラム「この後は嵐に備えてお屋敷の補修作業があるから、いつまでもサボってないで準備をなさい、バルス」

スバル「へいへい……今日はいつも以上に肉体労働だな」

 お茶を飲み干し、スバルは勢いよく立ち上がる。

 ロズワール邸で使用人として働く事数日、スバルもレムとラムからのこの扱いにはすっかり慣れていた。


スバル「さーてと、一息着いた所でお仕事再開と行きますか……で、まずは何をすればいいんだ、先輩」

ラム「そうね……まずはラムとレムのお茶を用意して頂戴」

スバル「って、自分はサボる気満々かよ!」

ラム「失礼ね、ラムとレムは今から休憩よ」

スバル「ああ、そう……」

レム「スバルくん、レムもお手伝いします」

スバル「ありがとな、でも大丈夫だよ、レムは姉様と待っててくれ」

スバル(……使用人として、お茶ぐらいはしっかり淹れられないといけないしな)

 こうして穏やかな日常は過ぎて行く。

 時にラムにどやされ、時にレムに褒められつつも、ナツキ・スバルの使用人生活は今日も続いて行くのであった。
4 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:44:17.77 ID:/cyQKcBwo
―――
――


 ラムの指示に従い、スバルはレムの協力の元、ノコギリで木板を切り、釘とトンカチで指定された個所を補修して行く。

 ロズワール邸は由緒正しくも古い屋敷という事もあり、広大な屋敷の補修個所は壁、窓枠、天井を含め数十、数百に及んでいたが、スバル達はそれら嵐の被害を受けそうな箇所を片っ端から補修して行った。

 そして、腕と足腰を痛める肉体労働が続くこと数時間。


スバル「ふぅ……あとは天井裏が終わればとりあえず午前の仕事は一区切りか……」

レム「はい、頑張りましょう!」

 人一人がやっと入れるかどうか怪しい、狭い天井裏。

 そこに大工道具を持ちこみ、スバルは魔法石の明かりを頼りに補修作業を進めて行く。
5 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:44:48.28 ID:/cyQKcBwo
スバル「げほっげほっ……ううぅ、埃がすげえな」

レム「スバルくん、大丈夫ですか?」

スバル「大丈夫だ! なんとかなる!」

 そうして作業を進める事数分、やっとの思いで仕事を完了させ、天井裏からスバルが這い出て来る。


レム「お疲れ様です、スバルくん」

スバル「ぁ〜〜……さ、さすがに疲れた……」

ラム「バルス、お疲れ様……って、酷い恰好ね」

 泥に塗れた顔を拭っていると、様子を見に来たラムが声をかけて来た。

 そのラムの言葉通り、スバルの姿は今着ている服を含め、髪の毛から足先まで全身が埃と汗にまみれている。
6 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:45:41.47 ID:/cyQKcBwo
スバル「今の今まで埃っぽい所で肉体労働してたんだ、むしろ勲章と言って欲しいね」

ラム「はぁ、そんな恰好でお屋敷の中を出歩かれる訳にもいかないわ、せっかくお掃除した所がまた汚れてしまうじゃない」

スバル「それもそうだな……とりあえず着替えっか」

ラム「午前中の仕事もひと段落ついたようだし、一度休憩にしましょう。バルスはお着替えついでにお風呂で汗を流してらっしゃい」

スバル「ああ、そうさせて貰うよ」

レム「じゃあ、レムはお風呂とお着替えの用意をしてきますね」

スバル「ああ、サンキュな、レム」
7 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:46:47.55 ID:/cyQKcBwo
―――
――

 そして、いつもより早い風呂で汗を流し、レムの用意した着替えを済ませてしばらく。

 庭園でまったりとした一時を堪能していた時の事。


レム「すみません、代えの燕尾服がなかったのでスバルくんの私服をご用意しました」

スバル「いや、むしろこれで大丈夫だよ、ありがとう、レム」

 風呂上がりに洗濯したての着馴れたジャージ。これで冷たいコーヒー牛乳でもあればもう言う事は無いのだが、そこまでの贅沢を望む程今のスバルは強欲ではなかった。


レム「スバルくんのその服、すごく不思議ですよね、軽くて柔軟性があって、それでいて生地はすごく丈夫にできていて……」

スバル「あー、まぁ、ルグニカじゃまず見ない服だろうなぁ」

 確かに、ポリエステルやら化学繊維で編み込まれた現代のジャージは、この世界ではオーバーテクノロジーと呼ばれても良い程の技術の産物だろう。

 反面、この世界にはスバルの世界には存在しえない『魔法』と呼ばれる術が一般に認知されていたりもする。どちらの世界も技術的な面で言えばオーバーテクノロジーという認識に差異はなかった。
8 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:47:35.33 ID:/cyQKcBwo
レム「スバルくんの生まれ育った国の事、レムはもっと聞きたいです」

スバル「……そっか、どんな事が聞きたいんだ?」

レム「そうですね……食生活の事とか聞いてもいいですか?」

スバル「食生活ね……」

 食事……。その国や地域柄によって異なる、人が生活を営む上で最も基本となる文化の一つだろう。

 それはこの異世界でも変わる事は無い、人が人として生活を営む限り、そこには様々な文化と風習が生まれ、歴史を作って行く。

 この世界に来て、幾重もの時を重ねる事数日。スバルもこの世界の習慣にはすっかりと馴染んでいた。
9 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:48:57.33 ID:/cyQKcBwo
スバル「そうだな……まず、俺の国の食事の代表と言えば……」

 スバルが二〜三思考を巡らせ、声を出そうとしたその時だった。


エミリア「あら、スバルにレム、こんな所にいたのね」

 スバルの背後から銀髪のハーフエルフ、エミリアが声をかけて来た。

 その肩にはパックの姿も見え、普段と変わらぬエミリアの姿がそこにあった。


スバル「ようエミリアたんにパック、ははは、今日も可愛いなぁ」

レム「エミリア様、如何なさいましたか?」

エミリア「少し休憩にね……それで、庭園を見たらスバルとレムの姿が見えたから。……二人は何のお話をしていたの?」

レム「今、スバルくんの国の食生活についてお話を聞いていたんです」

エミリア「わぁ、楽しそう、私も聞きたいわ」

パック「僕も僕も! スバル自身の話ってなかなか聞く機会ないからねー」

スバル「そ、そっか……それじゃあ良ければ聞いてくれ、俺の国の食文化についてだったな」

 エミリアとレム、パックの期待もあり、スバルは嬉々として自分の国、日本の食生活について語り始めた。
10 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:50:40.66 ID:/cyQKcBwo
スバル「やっぱ、俺の国の食事の基本と言えば米だよな」

レム「コメ……ですか」

エミリア「一体、どういう食べ物なのかしら?」

スバル「へへへ、米ってのはいうのはだな……」

 そして、スバルの話は止む気配を見せず続く。

 日本人の魂とも呼べる米、それに合う大豆を中心とした味噌や醤油といった調味料。

 異国との交流と食文化が重なり、日本独自の進化の末に生まれた料理、肉じゃがと、その根本となった料理、カレーなど。

 他にもハンバーグやスパゲティ、果てはパフェといったデザートの話まで。

 スバルの好物を中心に、エミリアとレム、パックはその異世界の食の話に聞き入っていた。
11 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:51:31.06 ID:/cyQKcBwo
レム「スバルくん、その、肉じゃが……というのは、どんな食材で作るんですか?」

スバル「ジャガイモ……あ、ここじゃタライモっていうんだっけか、そいつの皮を剥いて醤油とダシで煮詰めてだな……」

エミリア「なんだか美味しそう……是非一度、食べてみたいわ」

スバル「調味料さえあれば俺でも作れるんだけどな……っても、中学ん時に調理実習で作ったきりだけど」

エミリア「あの、前にスバルが作ったマヨネーズじゃだめなの?」

スバル「マヨネーズは確かに俺的には欠かせないソウルフードの一つだ、きっと肉じゃがにも合う……が、肉じゃがの調理過程には含まれないんだよなこれが」

レム「そう、なんですか……」
12 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:52:53.66 ID:/cyQKcBwo
 スバルがこれまで当り前のように食べ馴染んできた料理とその作り方を、レムはその完成図と味を頭の中でイメージしながら聞いていた。

 同様にエミリアも、スバルが話す料理のイメージを頭の中で膨らませてはいたが、それでも結びつかない点が多く、スバルの話す異国の味にただ興味と想像を膨らませていたのだった。

 そして、どれほど話していただろう。

 喋りすぎてやや乾燥しかけた口内をスバルがお茶で潤していたとき。スバルのお腹に低い音が鳴り響く。

 ――ぐぅぅぅ……。


スバル「つうか……飯の話してたら腹減って来た……久々に食いてえな、米……」

 住む世界と国が違えば食文化が変わるのも当然。そして、ルグニカでは専ら洋風料理……つまりパンが主食だった。

 スバル自身、今の食事に不満は無いが……、それでも、長く親しんできた米を久しく食していないと言う事を思い出し、自分の世界の食事に遠く懐かしさを感じていた。

 幸運な事に、この世界の食材はかつての世界に酷似している点が多く、そしてスバルは試行錯誤の末、この世界には存在しえないマヨネーズすらもレム達の協力の元で作り出す事に成功していた。

 なれば、きっと醤油やケチャップの作製も可能だろうと思い、一つ目標を立ててみる。


スバル(今度は醤油とケチャップも作ってみよう……そうなると大豆やトマトが必要だよなぁ……あれ、醤油ってどうやって作るんだっけ……)
13 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:54:00.69 ID:/cyQKcBwo
 ――ぐぅぅぅ……

 懐かしい食事とその味を思い出すと、再びスバルのお腹が鳴った。

 それもその筈、スバルもレムも、今朝早くに朝食を済ませてから先程まで絶えず体を酷使していたのだ、休憩時間に飲むお茶以外を一切取り入れていない胃袋がここいらで空腹を訴えたとしても、何ら不思議ではなかった。


レム「そういえば、もうお昼ですね」

エミリア「もうそんな時間なのね……そろそろ昼食にしましょうか?」

スバル「そうだなぁ……じゃあ、そろそろ戻るか……」

 スバルが立ち上がり、昼食の準備に取り掛かろうとした時。


ラム「あー、バルス、ここにいたのね」

レム「姉様、どうかなさったんですか?」

スバル「よぉラム、どうした? 恐い顔して」

ラム「バルス、あなたはお使いも満足にできないのかしら?」
14 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:55:38.54 ID:/cyQKcBwo
 憤慨と言ったような表情でスバルを睨むラム、その手には今朝スバルが任された買い出しのリストが握られていた。


スバル「え、何、俺なんかやった?」

ラム「買い出しを頼んだリンガ(リンゴ)の数が足りなかったわ」

スバル「ん……? あ、やっべ、数間違えちまった」

 スバルが買い出しリストに書かれていたリンガの欄を見る。

 そこには、スバルの世界の公用語に例えれば『1』と書かれているように見えたが、実際には『10』の数がそこに書かれていた。

 スバルのミスはいわば、この1と10を間違えただけなのである。

 ロズワール邸でエミリア達と過ごすようになり、その合間を縫ってはこの世界の公用語を学んでいたスバルではあったが、数字の1と10を間違える初歩的ミスをするとは思ってもみなかった。

 走り書きしたメモの字が見辛かっただの、買う物が多くて気が回らなかった等、言い訳は幾つか浮かんだが、エミリアやレムの手前……何よりも、先輩であるラム向けてそれを言う事は自分を下げると思ったので口にはせず、真摯に受け止め事にする。
15 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:56:44.22 ID:/cyQKcBwo
スバル「悪い、確かに、リンガ一個だけってのも何かおかしいなとは思ったんだよな」

ラム「疑問を感じたのならきちんと確認なさい、これでは、バルスに任せられる仕事も限られてくるわ」

スバル「ああ、ラム、悪かった。次からはちゃんと確認するから許してくれ」

エミリア「ラム、スバルも反省してるみたいだし、許してあげて」

ラム「まぁ、バルスも反省してるみたいだからこれで終わらせるけど、次からは気を付けて……あとそれと、バルス、今すぐ足りない分を買い出しに行ってきて頂戴」

スバル「そうだなぁ、こればっかりは俺に責任があるしな。分かった、今から村まで行ってくるよ」

レム「でしたらスバルくん、私も一緒に行きます。姉様、いいですか?」

ラム「まぁ、昼食の仕込みは朝の内にレムがやってくれてたし、ロズワール様とエミリア様のお食事ならラム一人でも問題は無いけど……」
16 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:58:06.51 ID:/cyQKcBwo
エミリア「だったら、買い出しのついでに村で食事を取ってきたらどうかしら? スバルもレムもお腹空いてるでしょ?」

スバル「そうだなぁ……」

レム「レムは、スバルくんにお任せします」

ラム「エミリア様が言うのであればラムは構わないわ、レムと食事に食事を済ませて来ても大丈夫よ……それにその方が、洗い物も少なくて済むし」

スバル「じゃあ、お言葉に甘えるとすっか」

 確かにここからアーラム村までは結構かかる、行きと帰りの時間の他、買い出しにかかる時間を考慮し、更にその後食事を作る手間暇まで考えたら、とてもこの腹が持つとはスバルには思えなかった。

―――
――


スバル「じゃあ、行ってくるよ」

レム「なるべく遅くならないようにしますね」

ラム「行ってらっしゃい」

エミリア「レム、気を付けてね。スバル、あまりレムに迷惑をかけないようにね?」

スバル「子供かっ、俺は!」

エミリア「あははっ、気を付けて行ってらっしゃーい」

 そしてスバルとレムはアーラム村に向けて歩を進める。

 先程の話の続きをしながら賑やかに村へと向かうレムとスバルのその足取りは、とても軽やかなものだった。
17 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:58:50.17 ID:/cyQKcBwo
―――
――

 アーラム村に到着し、手早く買い出しを済ませる二人。

 危うく売り切れる所だったリンガの詰め込まれた袋を手に、スバルとレムは昼食を取る為の店探しをしていた。


スバル「っかし、飯屋なんてあんのかここ」

レム「どうでしょう、レムも姉様も普段はお屋敷で食事を済ませてますから、外食は初めてで」

スバル「まぁ、それもそっか」

 屋敷では基本レムとラムが食事の用意をするので、レムにとって屋敷の外で食事を取ると言う事は、エミリアの付き添いで遠くの国へ出かける時を除き、基本的にあり得る事ではなかった。ましてや、メイザース領内にいながらわざわざ外で食事を取ると言う事自体、レムにとっては初めての体験だった。

 そして、スバル自身も、この世界でレムと共に外食をするという事は初めての体験でもあった。
18 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 09:59:36.20 ID:/cyQKcBwo
スバル「ん、あの扉……」

レム「スバルくん、どうかなさいましたか?」

スバル「いや、あんな所に扉なんてあったっけ?」

 スバルの目線の先。そこには、さっきまで無かった扉が一つ。


レム「ほんとですね……見落としていたんでしょうか?」

 スバルとレムがその扉に近付く。

 扉には、レムが見た事のない奇妙な生き物を模した看板と、これまたレムには見慣れない文字が書かれていた。


レム「異国の文字でしょうか、初めて見る文字ですね……何と書いてあるんでしょう」
19 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 10:00:10.61 ID:/cyQKcBwo
 レムが疑問の声を上げる。そこには、スバルの国……日本の文字で


 “洋食のねこや”



 と書かれていた。

 その字を見た瞬間、スバルの身体が硬直する。
20 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 10:01:51.68 ID:/cyQKcBwo
スバル「日本語……」

レム「え、何ですか? スバルくん」

スバル「なあレム、ここ、入ってみようぜ」

レム「へ、あっ、スバルくん?」

 レムの手を引き、スバルは扉の中へと入って行く。

 スバルの世界の母国語……日本語で書かれた不思議な看板。

 この世界で日本語を目にするなんて、スバルには思ってもみなかった事だ。

 それがどういう事を意味するのか分からなかったが。それでも、スバルは入らずにはいられなかった。

 自分がこの世界に来る前、当り前のように使っていた日本語、その日本語で書かれた『洋食』の二文字。

 きっと、ここには俺が求めていた物がある。直感的にスバルはそう感じていた。
21 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 10:05:10.93 ID:/cyQKcBwo
―――
――


 扉を開けた瞬間、チリンチリンと鳴り響く鈴の音。

 それに合わせ「いらっしゃいませ!」と叫ぶ元気なウェイトレスの挨拶。

 やや広めの店内から覗かせるそのウェイトレスの少女の姿に、レムの表情が僅かに強張る。

 スバルが扉を開けた瞬間に感じた奇妙な違和感に伴い、二人を出迎えたウェイトレスの少女のその頭から覗く、山羊の様な角と、微かに感じる魔族特有のその波動……。

 先の魔獣の一件もあり、レムがウェイトレスの少女に対し、強い警戒心を露わにする。


レム「魔の者……スバルくん、下がってください」

アレッタ「へ? あ、こ、これは……」

 手に取ったトレイで自身の角を隠し、僅かにうろたえるウェイトレスの少女だった。

 レムの眼光に気圧され、身体が凍ったように動かなくなり、その表情は完全に怯えてしまっていたが、それを見かねたスバルがレムを宥める。
22 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/14(月) 10:05:49.49 ID:/cyQKcBwo
スバル「落ち着けよレム……いきなり失礼だろ」

レム「ですが、スバルくん……」

店主「アレッタさん、どうした?」

 店の奥から店主と思わしき男が顔を覗かせる。

 やや大柄な体つきに髭の整った顔立ちと、清潔感の溢れる調理服がその背恰好にはとても良く似合っている。

 レムもスバルも、一目でその男がこの場を仕切っている店主だと言う事が理解できた。


アレッタ「あ、マスター……」

 状況を察した店主がレムとアレッタを交互に見て一言告げる。
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