神通「カリブの、海賊?」【艦これSS】

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

55 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:11:46.82 ID:sE/Vv+Mi0



バルボッサ「どうだジャック? これがこの剣の力だ!」


ジャック「そりゃまぁ、お花の都で人気のヴォードヴィリアンになれそうだ」


バルボッサ「パリの酒は好かん。……あばよ、ジャック」







ギブス「バルボッサァ!!」




突如乱入したギブスは、手に持っていたナイフをバルボッサに向かって思い切り投擲する。
一瞬虚を突かれたバルボッサだったが、冷静にロープを操り、それを受け止める。



バルボッサ「ギぃブス! お前も死にたいか!?」


ジャック「お前はどうなんだ?」



一瞬の隙をついて、ジャックはピストルをバルボッサに向けた。



バルボッサ「……猪口才。ずぶ濡れの銃がこの雨で打てるか?」


ジャック「試してみるか? また俺に撃ち殺されるかもな」


バルボッサ「乾く暇があればな」




互いが互いに殺せる武器を持っている。二人は相手の出方をうかがうように静止した。
緊張。それが最高潮に達した時、バルボッサが動いた――




56 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:12:19.80 ID:sE/Vv+Mi0




ギブス「ジャック!!!」


突然、指を差し大声を上げるギブス。釣られて二人は指の先を見る。




バルボッサ「おい……」


ジャック「嘘だろ」




真っ黒な竜巻が、今にもフーチー号全体を飲み込もうと迫っていた。





ジャック「あ、こりゃマズい――」







言うが早いか、ジャックたちは竜巻に飲み込まれて、視界を失った。








57 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:12:47.87 ID:sE/Vv+Mi0





















58 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:13:31.97 ID:sE/Vv+Mi0
太平洋 海上//




フィリピン海と西太平洋の境界線。
フィリピン沖で成果のなかった一同は、拠点をグアム・マリアナ諸島側に移した。
焼かれるような暑さに耐えながら、海上をひた走る。

当然見落としのないように三人とも注意を払ってはいるが、
水平線遠くまで見渡せるこの海では、船がないこともすぐにわかってしまい、
その何もない景色が、よけいに気力を奪う。



天龍「あ゛ぁーー!! くそーーー! せめてボートでもなんでもいいから居ろよ!!」


天龍の叫びが呼んだのか、パシャリと水面から大きめの魚が跳ねる。


漣「魚がいましたねぇー」

天龍「いたなぁー」

漣「正直むっちゃミラクルでワロタ」


娯楽のない海上だからか、暑さで消耗しながらも無駄口で煽る漣。
天龍も慣れたもので、怒るでもなくそれに合わせている。


神通だけはその軽口に参加せず、海上を見渡している。
ただ、真面目に取り組んでいるというよりも、その瞳はどこか虚ろげだ。



59 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:14:26.97 ID:sE/Vv+Mi0





漣「おや?」



ミラクルを笑っている途中で、漣が何かに気づいたように見やる。
天龍たちも何事かと漣の視線の先に目を向けると、確かになにか見える。
先ほどまでは何もなかったように思えた水平線の先に、いつのまにか
不審な影が見える。


船であろうか? しかし高さはあるが、全長があまりにも短くみえる。



天龍「漁船、か?」

神通「それにしては……」


軍艦ではない。しかし漁船にすれば無駄に大きすぎる。
どこかの国の特務艦だろうか? そうすると声をかけていいのかと迷ってしまう。



天龍「ま、行ってみよーぜ。遠巻きに見て、ヤバそうなら通り過ぎりゃいい」

漣「さんせー」

神通「まぁそれならば……」




三人は不審船に近づくために、少しだけ加速した。






60 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:16:04.88 ID:sE/Vv+Mi0
フーチー号 甲板//





フーチー号は穏やかな波に揺られていた。
快晴だというのにその船はまるで嵐にでもあったかのようにズブ濡れであった。
甲板には打ち上げられたかのように何匹か魚が飛び跳ね、弱っている。
そんな中、その生き物は魚たちとは違い甲板を自由に動き回っていた。

気づけば見知らぬ船に打ち上げられてしまった。あの竜巻に飲まれたからだろう。
そう思いながら、気ままに歩いていると、不意に目の前に巨大な顔を見つけた。
驚いたその生き物は自らの武器を以って力いっぱい挟んだ。


ジャック「!? いででででで!!」

唇を力いっぱい蟹に挟まれたジャックは意識を取り戻す。力づくでその蟹の爪をこじ開けると、
怒りのままに放り投げた。投げられた蟹は樽にぶつかるが、硬い甲羅で覆われているためか
まるで効かないとばかりに、再び気ままな横歩きを始めた。


ジャック「このクソ蟹めっ!」


そう言った直後、ジャックは自分の境遇を思い出す。そうだ、こんな蟹に構っている暇はない。
今はバルボッサと海戦の最中なのだ! そのことを思い出したジャックは腰から剣を抜き、
辺りを見渡す。が、そこには誰もいなかった。ジャックの船員たちも、あのゾンビ兵も、
バルボッサの「復讐号」でさえ。




ジャック「おい! 誰か返事しろ! ギブス! いるか!?」



61 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:17:12.29 ID:sE/Vv+Mi0



その声に応える者は誰もいない。船も、海域も、いたって静かなままであった。
そんな状況であったからだろう。ジャックはようやく周囲にまで気を配り、気づいた。


ジャック「……ここはどこだ?」


ジャックの頬を汗が伝う。冷や汗ではない。暑いのだ。夏はもうとっくに過ぎたはずだ。
秋となり、気温も随分下がっていたと思うのだが、ここはありえないほど暑かった。

とりあえず剣をしまい、汗をぬぐう。


こんな猛暑の中、甲板で寝ていたからだろう。
酷く喉が渇いていたジャックは、とりあえず船内に入ろうとした。


……その時である。




ジャック「!?」





ガタン、と散乱した樽の一角から崩れるような音。




ジャックは目を凝らす。カニなどではない、生きた人影。そして、義足。

ジャックはすぐさま剣を抜き低い体勢で迫る。樽の山の中の人物はようやくジャックに
気づき、慌てて剣を振るうが、重いその剣は小回りが利かない。




先に剣を突きつけたのはジャックだった。






62 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:18:04.83 ID:sE/Vv+Mi0




バルボッサ「不意打ちとは卑怯者め!」



ジャック「お前にいわれたかないね!」




奇しくも先ほどと真逆の構図になってしまった。千載一遇の機会が、無情にも嵐によって逆転されてしまった
バルボッサは悔しそうにジャックを睨み付ける。




ジャック「さぁ、ヘクター。剣を置け。今なら孤島に島流しで許してやる」


バルボッサ「フン、俺を侮るなよ?」


クイ、とバルボッサは静かに剣を揺らす。すると少しずつ、船のロープがジャックに迫ってきた。


ジャック「やめとけ、殺されたいのか」


バルボッサ「だったら刺してみろ。その瞬間に貴様を縛り上げてやる」




バルボッサの言うことは正しかった。彼はジャックが攻撃に移る隙に操ったロープを叩きつけることができた。
また、ロープ操作を遮ろうと剣を奪い取ろうとすれば、これもその隙をついて、剣でジャックを切り裂けた。




63 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:19:53.09 ID:sE/Vv+Mi0



ジャック「……チッ」


バルボッサ「ははは! どうだ、実に便利な代物だろう?」


ギブス「あぁ全くだ」

バルボッサ「なっ!?」



後ろからこっそりと、障害物の陰に隠れて近づいていたギブスがバルボッサを抑え込む。



二人「ギブス!」


ジャック「よくやった!」
バルボッサ「貴様っ!!」


ギブス「へへぇ、良い剣だ」



ジャックと拮抗していたバルボッサにとって、不意打ち気味で現れたギブスをはねのける術はなく、
いとも簡単に自慢の剣を奪われてしまう。



バルボッサ「くそっ!」

ジャック「いい気味だなヘクター。ギブスくん、彼を丁重にふんじばって差し上げて」

ギブス「アイ! キャプテン! それっ!」



バシィン! と強烈な音を立てて戦闘で千切れた縄梯子が樽山を吹き飛ばす。
バルボッサのように剣を振るったが、予想外の挙動をしてしまう。



ジャック「誰がシュラウド暴れさせろって言った!」

ギブス「あ、あれ? これ難しいなオイ」

バルボッサ「はっ、お前と俺とでは頭の出来が違うのよ」



渋々ロープを持ってきてバルボッサを縛り上げたギブス。
バルボッサは大人しく縛られたが、内心では眈々と抜け出す機会をうかがっていた。





64 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:20:31.58 ID:sE/Vv+Mi0



















65 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:21:20.70 ID:sE/Vv+Mi0
大西洋 海上//




神通「……漁船ではありませんね」


船の形をきちんと視認できる距離までたどり着くと、三人はその船の異様さに言葉を失っていた。



漣「特務艦、……てか特殊艦?」

天龍「もう不審船でいいだろ。わかりやすいし」


漣「いやいや、あれそんな言葉で片づけていいんですか? いうなればあれでしょ、ほら、」



天龍「んー」




漣「……海賊船?」





66 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:22:15.00 ID:sE/Vv+Mi0




三人が見ていたのは、なんというか「海賊船」と形容できるような船であった。
海賊船といってもソマリアや東南アジアの要所で幅を利かせた反社会的勢力の様なものではなく、
一言で言えば、映画や漫画の、古い海賊をテーマにした作品に出てきそうな船であった。



天龍「んんーー……」

漣「あれですかね? 船のコスプレ? 的な?」



なにかのイベントにしたって、こんな島から離れたところの、しかも行方不明が多数出ている海域で
何をしているのかという話である。
色々と不審な所がありすぎる船であったが、見ているだけではなにも終わらない。




天龍「とりあえず、接弦してみるか。念のため、各艦、近接戦闘用意」



そういうと、天龍は腰に差した刀を抜く。三人の中で旗艦を務めている天龍の指示に従い、
漣と神通も近接武器を手にする。漣は制圧に特化した警棒で、神通は天龍と同じく刀型の装備である。





天龍「各艦、突入」





三人は勢いをつけて海上を滑る。






67 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:22:42.23 ID:sE/Vv+Mi0
フーチー号 甲板//





ギブス「船長! こりゃもう無理であります!」

ジャック「泣き言を言うなぁ! 口ではなく、知恵と身体と心を動かせっ!」


怒鳴りながら大きく剣を振るうと、また意味もなく縄梯子がひとりでに振り回される。


ジャック「こんのクソ剣め!」

ギブス「ジャック! どうすんだ!」

ジャック「キャプテンだ!」

ギブス「キャプテン・ジャーック!」

ジャック「黙ってろ船員ギブス!」

ギブス「アイ・アイ・キャプテン!」


ギブスは軽く舌打ちすると船内に戻る。



68 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:23:17.84 ID:sE/Vv+Mi0



バルボッサ「船長をお探しかな? スパロウ君?」


ふてぶてしく笑うバルボッサ。


ジャック「いいや。ヘクター航海士君。立場をわきまえたまえよ」

バルボッサ「はっ、航海士! 船一つ満足に動かせない無能な船長の下につく酔狂はいまい」

ジャック「あ、そう。なら僕ちゃん無能だから、大事な大事な捕虜を海に放り投げちゃうことだってあるかも」

バルボッサ「やってみるがいいさ。だがそうすれば最後、貴様らも終わりだ」


ここにきて、二人は奇妙な拮抗状態にあった。
ギブスを従え、戦力的には一手多いジャック。本来ならば、宿敵バルボッサを殺してしまうチャンスであったが、
今この船には、彼ら3人しかいなかったのである。どういう原理か、あの嵐のあと、敵味方問わず船員たちはみな
忽然と消えてしまった。これが陸ならまだいいが、ここは海上のど真ん中である。たった2〜3人では、まともに
船を動かすことすらできない。遭難まっしぐらである。




69 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:23:49.67 ID:sE/Vv+Mi0



バルボッサ「ほら、さっさと俺にその剣を返せ。なぁに悪いようにはしないさ」


悔しいことに、解決できるのはこの男しかいない。何度目かの説明になるが、黒ひげから奪ったこの件には
船を操る力がある。そしてそれは本来、縄梯子だけではなく、船全体をたった一人で前進させられるほどの
力をもっているのである。この場で頼りになるのはこの男しかいなかった。だが、この男は賢く、残忍だ。
魔剣を奪い返せば、そのまま船を乗っ取り、今度は自分たちがいつ放り投げられるか分かったもんじゃない。


ジャック「やだね。お前にだけは船長の座はくれてやらない」

バルボッサ「まぁ気が変わるのを待ってやる。だが早くしろよ? 俺は気が短いんだ」

ジャック「だーったらご自分のご自慢のお船にお戻れ」

バルボッサ「今はこの『パールもどき』で満足してやる」

ジャック「パールもどきとは失敬な。この船にはフーチー号って名前がある」

バルボッサ「フーチーねぇ……。お前のお古のアバズレを抱くのは、まぁ、我慢してやる」

ジャック「なんだ? 名前が気に食わないか? だったらお前好みにソフィーって名前にでもしてやろうか?」

バルボッサ「ぬかせ。後、どの辺がソフィー(智慧)だ。」


とりあえずバルボッサを解き放つのは無しとして、なにか他の策はないかと智慧を絞るジャック。
逆境やアクシデントには慣れっこである。今回も鼻歌交じりに解決して見せよう。









70 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:24:55.98 ID:sE/Vv+Mi0



そんな思索に耽っていると、海の方から、妙な音がした。

ジャックの知っている音の中ではうまく言い表せる言葉は無いが、それは人間や、船や、
海の生き物が出す音ではないと思った。強いて言えば、アクシデントをもたらす類の音だ。



バルボッサ「おい、この音はなんだ!」

ジャック「知らんよ。……何もいませんように」




ジャックは一瞬目を瞑り、祈る。



が、その祈りもむなしく、目を開けた先には、
海を滑るようにして動く、小さな女の様な生き物が走り回っていた。



71 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:25:51.83 ID:sE/Vv+Mi0



バルボッサ「ジャーック! 何がいる!?」

ジャック「分からん! 人魚、じゃないな。海を立ったまま滑ってる!
     見た目は一人バンシーみたいなのがいる! とにかく化物どもだ!」



バンシーとはアイルランドにいる、長い黒髪を持つ女の妖精であり、死を予告する者である。



ジャック「冗談きついぜ……」



複数のバンシーが来るのは勇敢な人物の死を告げる時だったか、とぼんやりした知識で思い出す。
どっちにしろ、現地人のもとにしか来ないはずであるが、来てしまったものは仕方ない。



バルボッサ「取りつかれたら終いだぞ! 解け!」

ジャック「乗せやしねえよ!」



ジャックは剣を抜き、構える。


ここにきて、ようやく相手も武器を持っていることに気づく。
一層気を引き締め、切り結びの瞬間に致命傷を負わせるつもりでいた。



72 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:26:37.47 ID:sE/Vv+Mi0



バンシーたちは加速のパワーを生かして、そのまま跳躍。


甲板に勢いよく乗り込んで来る。

剣の達人であるジャックは着地の一瞬を見計らって心臓を突き刺す。


眼帯のバンシーが無防備になった瞬間を突き刺したその一撃は、
絶対不可避の必殺技ともいえる一撃であった。




が、





天龍「っ、なんだこいつら!?」

ジャック「!?」





ジャックの一撃は逸れてしまった。


いや、逸れたというよりも、刺さり切らず刃が表皮を滑って行ってしまったように見えた。
この怪物は剣が効かない。そう気づいて戦法を変えようとしたときには、後ろから突っ込んできた長髪のバンシーに
剣の峰打ちをたたきつけられ、ジャックは意識を失った。




73 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:27:09.63 ID:sE/Vv+Mi0




















74 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:28:28.54 ID:sE/Vv+Mi0
フーチー号 前方甲板//





天龍「サンキュー、神通」

神通「いえ」



いの一番に切りかかってきた男を制圧すると、三人は船に乗り込んだ。
一瞬の剣術では完全にこの男に後れを取ったが、そもそも人間の剣では艦娘に傷などつけられない。
やぶれかぶれの一撃というわけでもなかった。一体何がしたかったのだろうか。

天龍は不思議に思ったが、一応ここが敵陣であることを思い出し、気を元に戻す。




漣「あれ? ほかに乗員いないんですか?」



先ほどの男に手錠を掛け、身動きを抑えた漣が寄ってきた。
この男意外に誰も出てこないがどうなっているのだろう? ほとんど人の気配がしない。
たった一人で船を動かしていたわけではないだろうし……。



そう思って甲板を歩くと、中央で柱に括り付けられている男がいた。



75 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:29:14.08 ID:sE/Vv+Mi0



天龍は二人にアイコンタクトを取ると軽く警戒しながら近づく。
捕虜を囮にワッと敵が殺到するか、それともこの囮自体が敵か。


神通は周囲を警戒し、漣は懐から本を取り出し、待機。
天龍が男に話しかけた。



天龍「あー、ヘイ、ミスター!」



日本語発音だがはっきり聞き取れそうな英語で話しかける。
すると






バルボッサ「Oh, Banshees! I owe you my life!」




髭の男がにこやかこちらに話しかけてくる。敵意はないかもしれない。
とりあえず天龍は剣呑な雰囲気を解く。それと同時に漣が本を持ってくる。



76 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:30:23.29 ID:sE/Vv+Mi0




漣「普通に英語ですね。ちょっと待ってくだっさい」



漣がその本を開くと、ページの中の「英語」という項目が光っている。
指でそれに触れると、一瞬本全体が光に包まれ、複数の妖精たちが漣たちの傍による。



漣「これでよし、と。ちなみにさっきのは『おぉバンシー諸君! 君らは私の命の恩人だ!』ですって。
  やっぱり捕虜かなんかですかね? てかバンシーってなんぞ?」





漣が手にしていたのは意思伝達用装備「外国語通訳妖精一型」。


各国間での円滑な意思疎通を行うための初期の翻訳ツールであり、
相手が一言目にしゃべった言語に合わせて、妖精が常時日本語で聞き取り、
話せるようにしてくれる補正してくれる便利な品物である。


但し、仕様上、一言目だけは事後対応での翻訳となる為、
最初の一文のみ、本に文字として浮かび上がるようになっている。


ちなみに前線で使われてい二型は、一人ひとり設定していく必要はなく、タブレットが、相手の情報を読み取り、
勝手に最適な通訳をしてくれるという。便利なものだ。





バルボッサ「バンシーとはヨーロッパの妖精のことだが、君たちはそうでないようだ」



漣「妖精! 妖精ですってよ! 漣が、漣たちが、妖精だ!」





妖精と呼ばれて悪い気はしない漣。




77 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:31:31.05 ID:sE/Vv+Mi0



天龍「で、オッサンはなにもんだ?」

バルボッサ「……、悪いが、素性もわからない相手には名乗れない。
      君たちが妖精ではないのなら、名前を知ったものを海に引きずり込む怪物かもしれないからな」

漣「怪物!?」


怪物と呼ばれてショックを受ける漣。



漣「漣は……、妖精になれない……!」

天龍「漣うるっせえ。……怪物なんてそんな大層なもんじゃねえよ。
   オレは日本帝国海軍所属の艦娘、横須賀鎮守府の軽巡・天龍だ。後ろの二人もそう。漣と神通だ」

バルボッサ「……」



会釈する二人を見て、少し考えこんだ後、バルボッサは口を開く。



バルボッサ「私はヘクター・バルボッサ。プロヴィデンス号の指揮を任されたイギリス海軍提督だ」



バルボッサはとっさに嘘をついた。天龍の言っていることは半分以上分からなかったが、
とにかくどこかの国の軍属であることは分かった。ならば名乗るべきは海賊ではなく天下のイギリス海軍である。

78 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:32:17.95 ID:sE/Vv+Mi0





天龍は目をむいた。嘘か真かわからないが、事実だとすれば大ごとである。


神通「イギリス海軍、ですか?」

天龍「失礼ですが、なにかご身分を証明できるものは?」

バルボッサ「義足の中に国王直筆の公文書がある。取り出すので縄をほどいてくれないか?」


天龍は刀を抜き、縄を切る。
すると、時を同じくして後ろから怒り交じりの叫び声が聞こえてきた。




ギブス「Hey! Jack! "CAPTAIN"Jack Sparrow!!!」



不審者の仲間と思しき男の声に漣は手元の本に目をやる。
自動通訳が始まり、一言目の文字が浮かび上がる。


『キャプテン』ジャック・スパロウ。


恐らくはこの船の船長だろうか。
船室から大柄で白髪の髭を蓄えた男がやってくると、
三人は武器を構える。刺さるようなプレッシャーを感じたギブスは、不味いと思ったのか剣を抜こうとする。
が、操舵のために駆け回っていたせいで、邪魔な剣はどこかに置いてきてしまったようだった。



しかたなくギブスは両手を上げる。



79 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:34:09.50 ID:sE/Vv+Mi0



バルボッサ「ジョシャミー・ギブス。彼もまた英国海軍出身だ。下っ端だがな」



意外にも、ここで助け舟をだしたのはバルボッサであった。嘘はついていない。事実ギブスは元イギリス海軍出身で
現海賊という経歴の男だ。しかしバルボッサに助けられる義理もないのに、とギブスは不思議そうな目でバルボッサをみる。



バルボッサ「ギブス君! 見張りの敵は彼女たちが倒してくれたらしい! これで我々は安全に帰れるぞ!」



バルボッサとしては、気絶していて、既に彼女らと敵対行動をしたジャックは無視でよかった。

だがギブスは放っておけば海賊であることを包み隠さずばらされるかもしれない。
ジャック同様に、この男との付き合いは長いのだ。
なので早急に抱え込んで、余計なことを言わせないようにする。これがバルボッサの機転だった。



ギブスもまた、いつもジャックの傍にいるせいか、こういう機転への対応は優れている。
バルボッサの意図を素早く察知すると、あたかも囚われのイギリス海軍兵士のようにふるまった。




80 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:35:02.81 ID:sE/Vv+Mi0



ギブス「はっ! 私はジョシャミー・ギブスと言いまして、かの名高き英国海軍の末席を賜っております!」

バルボッサ「そしてこれが英国王ジョージ2世から賜った王命。その命令書と私掠船許可証だ!」



バルボッサは義足の奥から折りたたんだ命令書をだした。
黒髭の船を奪った後、高揚する気分に任せて提督任命書を破り捨てたが、
冷静になってハッタリか何かに使えるかと思い、他の証書を一応保管していたのが幸いした。



天龍「確かに。……英国王ジョージ2世か。今のイギリスのトップってこんな名前だったのか」


ここに現代イギリス人か、そうでなくてもイギリスを知るものが居れば、この命令書がいかなるものかわかってしまったのだろうが、
幸か不幸か、ここにいる誰もが、現在のイギリス王の名前など知る由もなかった。



天龍「さて、後はそいつか。神通、叩き起こしてやってくれ」

神通「わかりました」


バルボッサ「そいつはジャック・スパロウ。奴はイギリス海軍ではないので、尋問もお好きなだけどうぞ」




81 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:35:47.24 ID:sE/Vv+Mi0





神通は指示を受けると、甲板にのびているジャック・スパロウの額を、刀の鞘でかるく小突いた。



ジャック「……!」




何度か繰り返しているとジャック・スパロウという男が目を覚ます。
反射で戦闘を続行しようとするが、自分の手に手錠がかけられていることに気づき、大人しくなる。


通訳装備をもった漣が近くに寄ってきたので、神通はマニュアル通りに話しかける。









神通「Who are you?」




お前は何者だ、と。
男の目を鋭く見つめ、比較的優れた発音の英語で質問をする。








82 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:37:00.40 ID:sE/Vv+Mi0






ジャック「…………」




それを聞かれたジャック・スパロウは少し考えた後、
不敵な笑みを湛えて、こう言った。


















ジャック「 Pirates of the Caribbean 」











返答は英語。自動通訳により、言葉が日本語にして浮かび上がった。



その意味は――。










83 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:37:33.04 ID:sE/Vv+Mi0
















神通「カリブの、海賊?」











ジャック「そう、お分かり?」

















84 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:38:02.33 ID:sE/Vv+Mi0





























85 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:38:31.09 ID:sE/Vv+Mi0























                    艦隊これくしょん × パイレーツ・オブ・カリビアン























86 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:39:05.48 ID:sE/Vv+Mi0




















            ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
                    パイレーツ・オブ・カリビアン  Ψ  船の娘と竜の海域
            ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽





















87 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:39:46.45 ID:sE/Vv+Mi0





























88 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 00:43:03.71 ID:sE/Vv+Mi0
とりあえず今日はここまで。

もう既に1/5を投稿してるので、最終的には大体この5倍位のレス数になると思います。
多分1日のうちにたびたび不定期に更新して、お盆の内に完結する予定なので、どうぞよろしくお願いいたします。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 00:59:36.78 ID:vjfqpszAO
おつつ
面白い!
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 01:02:52.89 ID:yjvNAO5h0
乙です
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 05:48:39.47 ID:Vaw4d4Iw0
パイレーツは齧る程度の知識しか知らないにわかだけとボリュームすっげえ…
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 12:23:28.40 ID:r+1vFofFO
まだ全部読んでないけど期待
93 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:12:22.65 ID:sE/Vv+Mi0
ごめんなさい、前書きに入れ忘れてましたが、


A・C・クリスピン『パイレーツ・オブ・カリビアン 自由の代償』


のネタおよび微ネタバレが多数あります。


映画シリーズの前日譚に当たり、東インド貿易会社に雇われていた
キャプテン・ジャック・スパロウが海賊の焼印を押されてブラック・パール号
の船長となる過程を描いた作品です。

あれ? こんな設定&つながりあった? みたいなのは
大体この小説が元ネタです。勿論読んでなくてもSS内で説明するので大丈夫かと思います。


でも面白いので、是非ご購入ください。竹書房文庫より販売されております。

94 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:14:50.54 ID:sE/Vv+Mi0
では、今日も始めていきます。


13:20からスタート。

キリの良いところまで投稿して休憩→投稿
の繰り返しになります。いかんせん文量が多いので、追いつける速度で行ければと。

上手くいけば、夜から最終決戦開始から終わりまで一気に行きます。

どうぞ、よろしくお願いします。


95 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:20:08.02 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 港//




ジャックたちの乗る海賊船は、無線で呼ばれた駆逐級の通常艦によって、
天龍率いる捜索隊の現拠点地であるここ、グアム基地まで曳航されてきた。


帝国海軍の軍事拠点として使用されているこのアプラ・ハーバーは、
南側のオロテ半島を天然の要害とした入り江に作られており、北側には
サンゴ礁を利用して防波堤が築かれている。

大戦中期は、戦線を広げた帝国占領下で「大宮島」という名で呼称されていたが、
世界的な対深海棲艦の連合戦争が始まるとともに、対外戦略の一環として、
占領地の名前を元の「グアム」に戻したという経緯がある。


かつては南方戦線に置ける要地の一つであったが、
戦線が広がるとその重要性は薄れ、現在はメラネシアと共に
主戦場であるポリネシア戦線の補給経由地点として活用されている。


とはいえオーストラリアがほぼ奪還されつつある今、
フィリピン〜ニューギニア〜オーストラリアのルートが確立されており、
比較的海面と拠点にするには小さい島々が多いこのミクロネシア海域の戦略的重要性はやや落ち着きつつある。



要するに、現状、この基地は戦争の波の及ばない、内側にある基地だということだ。




96 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:20:35.14 ID:sE/Vv+Mi0




ジャック「なんだこりゃ……」


マストに簀巻きで吊るされたジャックが、船の上からその基地を見て驚く。
無理もない。彼らの居た時代の基地とは、比ぶべくもないほど立派な威容だ。

やや僻地となりつつあるとはいえ、やはり元要地。
帝国海軍の警備府が建設されたこの地は、海の王者たる英国の、一級基地に勝るものだった。


赤レンガで建築された本部は、いくつかの建物で囲われ、その多くに金属が使われている。
半島と防波堤に備え付けられた内外交互に並んだ砲は、カルバリン砲がつまようじに見える大きさだ。
そして極めつけは、船。木ではない、鉄か何かで作られた、巨大な船。あれにはどんな大砲も聞かないし、
近寄れば簡単に藻屑と化すだろう。それが6隻もある。ジャックは内心冷や汗をかいた。

自分はとんでもない連中に捕まってしまったのではないか。ちらりと下を見ると、バルボッサやギブスも、
表情だけは冷静だが、目が明らかに動揺していた。


実際、この船というのはただの輸送艦であるのだが、そんな事実を彼らは知らない。



97 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:21:49.59 ID:sE/Vv+Mi0



そんな生きた心地のしないクルージングを終え、フーチー号と海賊3人が港に着く。


曳航してきた船員達に天龍は敬礼をし、不審者たちの引継ぎを行う。


風と波に揺られて、振り子のようになるジャック。
その様子と、船の異様さのせいで、軍務についていた港の軍人たちは騒然とし、
その多くが好奇の目を向ける。ジャックは男に注目されても嬉しかない、とばかりに嫌そうな顔をした。


近代的な軍艦が居並ぶ中で、圧倒的に違和感のある、余りに時代錯誤な黒塗りの帆船。
ここグアムで初めて乗り込んできた帆船が、1521年の冒険家マゼランのものだとするならば、
恐らく今日ここに乗り込んできたジャックらのフーチー号は、最後の帆船となるだろう。



そんな招かれざる客たちの元に、話し終えた艦娘たちが寄ってきた。




98 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:22:52.81 ID:sE/Vv+Mi0



天龍「さってと、じゃあバルボッサ提督殿、ギブス一等兵殿。
   グアム警備府の司令官の元にご案内致しますので、こちらへ」

バルボッサ「了解した、行くぞギブス君」

ギブス「お、おう」


ギブスはバツの悪そうに、目だけでジャックを見る。
ジャックは目ざとくその視線に気づき、口を大きく開けて威嚇する。
「この裏切り者!」と言われている気がしたが、よくよく考えれば
自分もこれ以上のことをよくされているなと思い、ギブスはバルボッサに着いていった。



99 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:24:00.39 ID:sE/Vv+Mi0


一人残されるジャック。いや、それを下から見上げている神通もいた。




ジャック「お嬢さーん、いつまでも俺をこんな市場の鶏肉みたい吊るさないでくれ。
     チキンだと思われちまう」


神通「……早く降りてきてください」


ジャック「それはいい考えだ。だけど見てくれほら! この哀れな姿を!
     解いてくれなきゃ無理だ」


神通「御託はいいです。早く降りてきなさい」



ジャック「なら手伝ってくれ」



神通「……、腕ごと斬り落としたら……、そうですね謝ります」




100 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:25:26.16 ID:sE/Vv+Mi0



冷たい目で近接装備である刀を抜く。ジャックはそれをみて、これは通じないと判断し、
後ろ手で持っていたロープの切り目を放す。ジャックは簀巻きから解放され、
器用に甲板に着地する。と同時に、袖からカミソリが一枚落ちた。


ジャック「気づいてたなら先に言え。無駄な時間だった!」


神通「あなたのせいでしょう? それに、逃げようとしたって無理ですよ。
   どうせ貴方は私に勝てないんですから」


ジャック「あ、そう。でもそれは……、傲慢というものだ、お嬢さん!」




ジャックは手にしていたロープを投げる。さっきまで自分が捕まっていたロープだ。


首は無理だろう。だが胴や、腕の一本でも捕まえられば御の字だ。

それは首輪に繋がるリードの様になって、相手の動きをコントロールできる。
そうなれば後はジャックのペースだ。かつてのコロッセオのレティアリイの様に、
限られた武器とスペースで相手を翻弄し、無力化できる。





ジャック「……よぉし、捕まえた」


神通「……」




101 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:26:55.68 ID:sE/Vv+Mi0



だが、ジャックの思惑は外れる。ロープが神通の腕に絡まったところまでは良かった。
しかしジャックがそれを引っ張って体勢を崩そうとしたところで、まったく動じない。
それどころか神通が軽く腕を引くと、ジャック手から恐ろしい勢いでロープが引き抜かれる。


余りの勢いに、ジャックが手に摩擦熱を感じるころにはロープは完全に神通のものとなっていた。



戦況は逆転。ジャックは両手の拳を握りしめ、慣れない徒手空拳で神通に向かう。
それをみて神通は、ロープを持つ両手の拳を握りしめ、それを引きちぎった。
ジャックの両手の拳は開かれ、それらを上げて降参した。


ジャックはロープの張力など知らないが、怪力自慢の大の男でさえ、それを引きちぎるのは難しいと知っている。
それをこんな細腕の女が、とさすがのジャックも絶句する。


102 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:27:28.53 ID:sE/Vv+Mi0



神通「では、ついてきてください」


ジャックは勢いよく何度も頷いた。



神通「あ、それとロープが切れましたので、これでいいですね?」




曳航してきた駆逐艦から引っ張り出してきた長尺の鎖で、ジャックの腕全体をグルグルに巻き付ける。

そうして船から降り、引っ張られていくジャックを兵士たちは敬礼で見送った。
その敬礼は、一糸乱れぬ揃い方をしている。よく訓練されていると思った。




ジャック「どこの国も、兵隊ってのは気が真面目過ぎるな」


神通「気が違いすぎているあなたよりマシかと」




ジャックはそのまま神通に連行されていった。



103 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:29:02.76 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 港・資材倉庫の傍//





天龍「暑っついなぁ……」

漣「それにキッツイです……」



神通がジャックを連行している頃、
天龍と漣は少し離れた資材倉庫の日陰で一息ついていた。

戦闘など無いに等しかったが、炎天下の中の長時間探索で彼女たちの体力はかなり奪われていた。
この後の予定は、本格的に気温の上がる午後一番を2時間ほど休憩し、再び日が落ちるまでの間、再捜索である。
一時休憩が入るとはいえ、成果のない遠征を繰り返すのは精神的にも肉体的にもキツかった。



104 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:29:39.49 ID:sE/Vv+Mi0



漣「まぁでも今日は成果なしってわけでもなかったじゃないですか」

天龍「んー、あれは成果って言っていいのか?」

漣「いいんですよ。そういうことにしとけば恩賞で休みが貰えるかも」

天龍「お前はいっつも休むことばかりだな」

漣「当たぼうですよ。こんな激しく厳しい世の中だからこそそういうの大事ですよ!
  天龍さん、前線の時のハードワーカー思考が戻ってきてますよ?」

天龍「あぁー、ブラックだなー」

漣「私服もね」

天龍「るせい」

漣「オシャレしましょうよ、オサレ。女子なんすから」



貴重な休憩時間を、そんなおしゃべりに費やす女子二人に、
もう一人の女子が近づいてくる。


天龍「お!」

漣「吹雪ちゃん、チッス」



105 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:30:33.52 ID:sE/Vv+Mi0




挨拶をされて寄ってきたのは黒髪をうなじで一本結びにした、制服姿の少女。
名前を吹雪といい、漣と同じ、帝国海軍所属の駆逐艦娘であった。



吹雪「お疲れ様です、天龍さん、漣さん。
   なんだか凄いことになってますね」

天龍「なー、オレも流石にビビったわ」



言うまでもなく、それはあの時代錯誤の海賊船の話である。



吹雪「あんなの少尉の研究資料でしか見たことないですよ」


漣「漣は漫画でしかみたことないです」



天龍「てか、あの短髪の少尉さん、そんな研究してんのか?」


吹雪「民俗学をよく勉強されてますよ。民話がメインで、海賊の資料はその一環だとか」


漣「民俗学ってよく知らないですけど、海賊と関係あるんですかねぇ?」


吹雪「少尉は各方面に勉強熱心ですからね」




106 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:32:12.78 ID:sE/Vv+Mi0



理解はしたようだが、その表情は尚も冴えない。
この様子をみて天龍が首をかしげていると、吹雪が決心したような目で口を開いた。



吹雪「神通さんは、その、どうでしょうか?」


天龍「?」


吹雪「その、大丈夫でしょうか、なんて」



要領を得ない天龍に、漣小さな声で補足する。



漣「ほら、吹雪ちゃんは新人時代に神通さんたちのお世話になってるんですよ。
  それに、こないだ救助したのもこの子です」



それを聞いて、天龍は得心する。
こういう時、情報通の漣は役に立つ。


107 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:32:57.96 ID:sE/Vv+Mi0




吹雪「……」



不安そうに天龍を見る吹雪。実際、神通の予後は良好かどうか怪しい。
肉体面で言えば、奇跡的にも上手くいった。限られた物資の中で、竜骨交換、
人間でいう背骨を新しいものに交換するという超難手術を行って成功させた工兵たちの腕の賜物である。

精神面で言っても、たかが数か月で戦闘に参加できるほど回復して見せたのは凄い。
文字通り血反吐を吐くリハビリを行っているさまは、鬼気迫るほどだと評判であったし、
事実天龍もそれを一度見たことがある。

そういう意味では、帝国軍人の見本になるほど、立派な生きざまであると言える。



天龍「……」



が、天龍から見ればあまりそれを良いものと思ってはいなかった。
元々の性格もあるのだろうが、あまりに笑わない。公私問わず会話にも参加しない。
任務中でもいまいちぼんやりしていることがある。しかし、リハビリの戦闘訓練や、
激戦区の情報を聞くと、刺すような恐ろしい目をする。恨みかと思えば、そうでもないらしい。


天龍はこれを、あまり褒められた状態ではないと思っていた。



108 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:33:49.72 ID:sE/Vv+Mi0



吹雪「……、あの?」


天龍「……ま! 神通はピンピンしてるよ。さっきも鎮圧の際にあいつに助けられたしな!」


吹雪「そう、ですか」


吹雪を不安にさせるわけにもいかないので、天龍は元気づけようとそう答える。
それにこういうのは時間経過が大事だ。必ず改善させる自信がないならば、
しばらく下手に触らないで置いておく方が断然ましだ。
実際に戦闘や長期探索任務にもへこたれないほどピンピンしているのは確かなのだ。

だが、吹雪の声色は優れない。
聡い子なのだろう。もしくは自分で事前に神通の情報を仕入れていたか、その両方か。



吹雪「ありがとうございます。……皆さん、お疲れでしょう。
   工作部に仮設ドッグを手配しておりますので、ごゆっくりしていってください」



吹雪はそういって頭を下げると、忙しそうに去っていった。
相次ぐ遭難で、ただでさえ人材が少ない後方地帯には人手が不足しているのだろう。
吹雪はこの警備府の運営の多くに携わっているようだ。



109 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:36:13.53 ID:sE/Vv+Mi0



漣「ちょっとちょっと、今サラッと凄いこと言ってましたよ彼女!」


ウキウキした様子で話しかける漣。


漣「こんな所で補給・休憩カッコカリ出来ると思いませんでしたよ」




ここグアム基地は、正式にはグアム諸島警備府と呼ばれる。
警備府とは、簡単に説明すれば、規模の小さい鎮守府といった所である。



基本的に機能としてはほぼ鎮守府と同様の機構で、現在では重要区域の各地に根拠地として設置されている。


ただ、規模が小さいためいくつか機能縮小がされている。例えば、鎮守府と違い艦娘が何人もいないこと。
ここでは艦娘は吹雪がいるだけで、島の治安は海兵団が行い、輸送も通常艦が行っている。
基本的に深海棲艦が駆逐された地域では、この程度の戦力でなにも問題ない。



110 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:36:58.07 ID:sE/Vv+Mi0



だが、一つだけ問題があるとすれば、それは整備組織であるドッグがないことだ。


工作部という科はあるのだが、艦娘の気力体力を回復させるだけの設備はない。
鎮守府がホテルや旅館だとすれば、ここはカプセルホテルであった。
吹雪はそのカプセルホテルに、彼女たちが休めるだけの設備を仮設したのである。



漣「警備府は工廠がないからその辺諦めてましたけど、仮設ドッグとは吹雪ちゃん気が利きますねぇー」

天龍「気ぃ使わせたかねぇ」

漣「お、天使か?」


天龍「んじゃま、神通戻ってきてないけど、とりあえず休憩しますか」

漣「うっす!」




111 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:37:59.00 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 営倉//




ジャック「待て待て、そう引っ張るな! 腕が折れちまう!」


ジャラジャラと過剰なまでに鎖で腕をまかれたジャックが、神通に引っ張られている。
なんとかついて行っているが、速足の神通に対し、ジャックは前のめりだ。



神通「この程度で折れたりしません」

ジャック「まさか! ロープを引きちぎるような女が何言ってる!」

神通「……、折れませんよ。試してみますか?」



そういうと神通はグイっと鎖を引っ張る。たまらずジャックは体勢を崩し地面に激突する。
倒されたというよりも、振り回されたようだった。事実、彼は一瞬宙に浮いていた。



112 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:38:52.86 ID:sE/Vv+Mi0


ジャック「ぐえ!」


神通「ほら。折れてないでしょう?」


ジャック「……あ、ほんと。……でもほら、心が折れた」



そういってヘラヘラ笑うジャックを、神通は片手で立たせる。



神通「なら好都合ですね。シャキシャキ歩いてください」

ジャック「アイ、アイ」


そういわれてわざとらしくシャキシャキ歩き出すジャックだったが、
直ぐに元のヨレヨレの歩き方に戻ってしまう。
神通が振り向いてにらみつけても、目を大きく開け、あたかも「なぜ睨まれたのか不思議だ」と
言うような表情をしていた。


この状況で、この男は何を煽ってきているのか。呆れた神通は無視して歩き出す。



113 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:39:34.43 ID:sE/Vv+Mi0



ジャック「おいお嬢さん。俺を助けてくれ。ほら、見方によれば、俺は哀れな漂流者さ」

神通「私たちは自国の活動水域での調査任務中でした。その私たちに剣を向けた時点で
   あなたは我が国の法律に違反しております。その時点で漂流者ではなく、犯罪者です」


ジャック「そうだ剣といえば! あの眼帯の女にはなんで俺の剣が効かなかった?」

神通「はい?」


ジャック「結構業物だったんだが……」

神通「私たちの身体にそんなもの効くわけないでしょう?」



神通は、こいつは何を言っているのだろう、という目でジャックを見た。
何度も繰り返すが、上陸地点の地形を変えてしまう艦砲射撃を受けても
戦闘続行できる艦娘に、あの様な鉄片が通ると本気で思っていたのだろうか?
時代錯誤の珍妙な格好といい、この男、まさかタイムスリップでもしてきたのではないか?



神通「……」



114 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:40:35.77 ID:sE/Vv+Mi0



と、そこまで考えて頭を振る。いくら何でもそれはない。
どうせどこかの異常者の類だろう。悲しいことだが、長い戦火に晒され、耐えて耐えてを繰り返してきた
人々の中には、たまにこうして精神を病んでしまう人間がいるのだ。
そう思うと、多少の同情もわくというものだが、度重なるこの男の不遜な態度のせいで苛立ちの方が勝った。


そうやって考え事をしている神通にジャックは何度も話しかける。



例えば、「主は言いました。人を許しなさい、怒りから解放されたとき、貴方はヴァルハラに旅立つのです」
と教義をごちゃまぜにした宗教的な説得を。

例えば、「これは何かの間違いなんだ。勘違いで君たちに食って掛かったが、傷つけたりもしなかったろう!?」
と冤罪だという主張。

例えば、「分かってるか? お前が敵に回したのが誰か。あの最悪の海賊、キャプテン・ジャック・スパロウだぞ?」
と脅しをかけた。



しかし、基本的にどこかズレた説得が神通の心に届くはずもなく、ついに牢屋の前まで来てしまった。



115 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:41:10.51 ID:sE/Vv+Mi0



ジャック「わかった。降参だ。俺の集めた金銀財宝をくれてやろう」


文無しのジャックに払える財宝などなかったが、これが精一杯だった。
だがやはり神通は気にせず、牢屋の戸を開ける。



ジャック「わかったわかった、何が欲しい?」


もうどうしようもないとばかりに白紙委任状を出すジャックに、
神通は一瞥してこう答えた。




神通「ほしいものなんてないですよ」


ジャック「……へぇ、」




ここにきて、ジャックの雰囲気が変わった。
さっきまで慌ただしく許しを乞うてきただけの男が、急に薄気味悪く口元を歪ませた。



116 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:41:58.93 ID:sE/Vv+Mi0



神通「……なんですか?」

ジャック「欲しいものがない、ね。確かに真面目を気取っちゃいるが、
     俺の経験上、そんな奴は心に何かを隠し持ってる。……実際に、」



ジャックはグイ、と神通に顔を近づける。



ジャック「お前のその死んだような目の奥には、激しい炎の光が宿っている。
     ドス黒く、薄暗く。自分で気づいてないかもしれないが、お前は何かを欲してる」



分かったように、と黙らせることはできたかもしれない。
しかし神通はなぜかこの男の語りに飲まれた。図星だったからかは自分でもわからない。
自分でも、今の自分が何を欲しているかわかっていない節がある。


神通は、ジャックの言葉から意識を外せないでいた。



ジャック「それが何かは俺にも分からん。だが、それを知る手助けはしてやる」



そういうと、両手が塞がれたまま器用に身を揺する。すると懐から何かが地面に落ちた。
ジャックに促されて拾うと、それはコンパスであった。



117 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:42:37.52 ID:sE/Vv+Mi0




ジャック「ただのコンパスじゃない。そいつは北を指さない。しかし、持ち主の真に求めるナニか、
     その方角を示してくれる……」



自分たちが使う羅針盤も、妖精が動かすデタラメなものであったが、このコンパスは更にデタラメだ。
そんなことがあるのか? しかし、どこかの国が、そういうデタラメなものを作ってしまったのかもしれない。
現実に開発できたなら、それはオカルトではなく、最先端技術と呼ぶのだ。


神通は恐る恐るコンパスを握りしめ、強く願う。



すると、カリ、と針が勝手に動く音がした! ジャックが満足そうに笑う。
神通は慌ててコンパスを見た。




118 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:44:17.14 ID:sE/Vv+Mi0




神通「……」



ジャック「?」


神通「これはなんです?」


ジャック「見せてみろ……、ん、あれ?」




針はどこを指すでもなく、グルグルと回っていた。



自分の欲しいものは周囲を高速回転しているのだろうか。そんなハズはない。
論理的に考えて正しい回答は、この男が嘘をついていたということだろう。



神通「返します」




神通は牢屋の中にコンパスを放る。そのコンパスはジャックにとっても大事なものだったので慌てて拾いに行く。




ジャック「そんな馬鹿な!」


ジャックは手錠のつながった手でコンパスを拾う。
すると回転していた針は止まり、針は北を指した。



神通「馬鹿話は聞き飽きました。二度とよしてください。もう会うこともないでしょうが」




そういって神通は牢屋の扉を閉め、鍵をかける。
去っていく神通に向かって、ジャックはいくらかの希う言葉を叫んだが、頑として振り返らなかったため、
終いには罵詈雑言が、牢屋全体に反響していた。








119 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:45:06.72 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 応接室//





ギブスとバルボッサが海兵に案内された場所は、基地の応接室だった。
来客を通す場所である為綺麗な部屋だが、絢爛というほどではない。
少なくとも、バルボッサはイギリスの提督時代、もっと豪華絢爛な部屋を多々見てきた。



だが二人は、熱い視線で部屋全体を見る。調度品にはさして興味もなかったが、
透き通るようなガラス窓や、松明とは比べものにならないほど明るい照明、
そして極めつけは、部屋に入ると同時に驚いたが、室内を冷気で満たすエアコン。

それ以外にも、この部屋に来るまでに、とにかくよくわからないものが沢山あった。
奇妙な世界に誘い込まれた二人は、先導してきた水兵が退室した後、
ひたすらに辺りのものを探りまわっていた。




吹雪「……何をしていらっしゃるんですか?」



吹雪が入ってきたのは、ギブスの剣がエアコンの吹き出し口に差し込まれようとしている所だった。
ギブスとバルボッサは中に何が入っているのかを興味津々で調べていたが、吹雪が入ってきて、
不味いところを見られたと思ったのか、勢いでごまかそうと、勢いよく吹雪に近づいた。




120 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:46:22.22 ID:sE/Vv+Mi0




バルボッサ「やぁやぁ、侍女の方。私はプロヴィデンス号の指揮を任されたイギリス海軍提督だ」

ギブス「俺はギブスです! 同船の一等航海士をしております!」



ギブスの自己紹介にバルボッサが憎々し気に目を開く。下士官だと何かと不利になると思ったのか、
彼は自分の身分を高く偽るつもりだ。とはいえここにいるのは皆海賊であったし、
バルボッサも下手に反論して自分の立場を危うくするわけにもいかないので、
怒りを飲み込み、したり顔のギブスに笑顔で反応する。



吹雪「我が国の軽巡である天龍から、事の経緯は聞き及んでおります。
   そして申し訳ないのですが、身分を示すものを、再度拝見してもよろしいでしょうか?」

バルボッサ「あぁ、構わないとも」



バルボッサは懐に入れなおしておいた命令書を吹雪に手渡す。
受け取った吹雪は、一瞬で表情を変える。



121 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:49:35.61 ID:sE/Vv+Mi0



ありていに言って、その書類はおかしかった。
偽造だとかそういうレベルではない。あの海賊船を形容する言葉を借りるならば、
とにかく時代錯誤だ。まず紙質からして羊皮紙だし、文法もいささか古い。
だがそんなことは重要でない。なによりもあり得ないことが一点ある。



吹雪「あの……」


バルボッサ「すまないね! 長旅が続いて紙がくたびれてしまっているだろう?
      一度祖国イギリスに帰れば新調してもらえるかもしれん」



バルボッサはそんな吹雪の様子を見て、内心焦りを覚える。
この書類は紛れもなく本物だが、プロヴィデンス号はとっくにホワイトキャップ湾で人魚たちに沈められ、
提督業は一度失効している。なにより最終的には、イギリスを裏切り、気ままな海賊家業に戻っている。
ここがどこだかわからないが、そういう情報が知られているとまずい。特におそらくこの侍女はアジア人だ。
アジア人はとにかく情報通が多い。商人として、労働者、下男下女として、奴隷として、あちこちに散らばっているからこそ、
それだけの数の情報網があるからだ。


しかも、この侍女がどれだけ重用されているかは分からないが、応接間に通した客に一番最初に
挨拶に来た辺り、そこそこ腕利きの侍女なのだろう。下手なことを告げられると非常にまずい。



122 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:51:58.08 ID:sE/Vv+Mi0



吹雪「あの! そうではなく、この署名なんですけど……」


バルボッサ「なにかね? あぁ、ジョージ2世国王がどうかされたかね?
      あぁ国王陛下のことを知りたいか? 国王は、そうだな。甘いものが好きだ。なぁギブス君?」


ギブス「あ、あぁ! そうだな。あとはあれが好きだ。水とか!」


バルボッサ「ハハハ、ギブス君!」



バルボッサは吹雪から見えない角度でギブスを「沈黙するか死ぬか選べ」と口の動きだけで脅した。
言うまでもなく、生命の泉関連の話は、バルボッサの嘘がばれるとっかかりになりかねないので、
余計なことを言わせるくらいなら、ただ頷くだけにさせるほうが何倍もマシであった。



だがそんなやり取りも吹雪には関係ない。問題はそこではなかった。



123 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:52:59.39 ID:sE/Vv+Mi0



吹雪「あの、ジョージ2世、ってあのジョージ2世ですか? ハノーヴァー朝の第二代国王の?」


バルボッサ「あ、あぁ。そうだが?」



一応、偽とはいえイギリス提督の前で国王を呼び捨てにするこの侍女には一瞬驚いたが、
教養のなさゆえの無礼かと納得しかける。



吹雪「あの、それはどういう意図でおっしゃられているんでしょうか?」



しかし、そうではない。理由は分からないが、なぜかこの侍女は突っかかってくる。
バルボッサこそ、吹雪の意図が分からず困っていると、吹雪は続けた。





吹雪「ハノーヴァー朝といえば、イギリスが海を制し、覇権国家として君臨した時代の王朝で、
   ジョージ2世はその時の国王です」


バルボッサ「君臨、した?」



124 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:53:29.02 ID:sE/Vv+Mi0



その説明的な口調と、過去形の言い回しに混乱始めるバルボッサ。
ギブスはとうに混乱している最中だ。革命でも起こったのか?
吹雪はそんな二人に止めをさした。




吹雪「えぇ。彼は今から250年近く前に君臨し、生涯を終えた歴史上の人物です」




そうですよね? とそれが共通認識とばかりに聞き返してくる吹雪。
しかしバルボッサはそれに言葉を失う。




ギブス「ま、待ってくれ。なん、どういうことだ?」



その狼狽具合に、ついに不信感が弾けそうになる吹雪。
吹雪の目が険しくなる。



125 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:54:25.35 ID:sE/Vv+Mi0




そんな空気の中、部屋に白い制服と軍帽を着けた男が入ってきた。




吹雪「少尉!」


少尉「彼らがそうかね?」




吹雪はその少尉と呼んだ黒髪の男に駆け寄ると、焦った様子で小さく耳打ちをする。
しかしその男は「大丈夫だ」と一言だけ告げ、バルボッサとギブスの前に立つ。
吹雪はその横に立って説明し始めた。




吹雪「とりあえず聞きたいことは色々ありますが、一先ず置いておきます」


ギブス「……なぁ、そいつが責任者なのか?」


吹雪「……、えぇ、現在、当鎮守府は前任の司令官が事故で行方不明になり、
   現在は臨時で、前任の推薦と基地内の支持によって、少尉が司令官代行を務めております」




本当にイギリス海軍の提督であれば、話を円滑に進めるため、こうした説明も必要だったろうが、
この時代錯誤の仲間たちにこんな説明をしてもまともにわかるのだろうか?



そう思った吹雪だったが、男たちを見ると、神妙に聞き入っていた。



126 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:55:28.08 ID:sE/Vv+Mi0



少尉「もう大丈夫だ。吹雪君、退席してくれて構わない」


吹雪「えぇ!? で、ですが……」



「危険です」と小さく耳打ちする吹雪。
どこの誰とも知れない、見た目海賊の様な大男と二人と、比較して小柄な少尉を同じ部屋に
放置するなど、殺されるのではないかと恐ろしくてできない。



少尉「大丈夫だ。ここで私を殺すことでどういうことになるか、彼らとて分からないわけではあるまいよ」


吹雪「しかし……」


少尉「大丈夫だ、安心しなさい吹雪君」


吹雪「うぅ、く……んむ」



127 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:56:01.77 ID:sE/Vv+Mi0



小さく唸って悩む吹雪だったが、少尉の意思を変えられないと悟ったのか、
肩を落とし、退室していった。


残されたのは、男3人。





バルボッサ「…………」


ギブス「…………」




少尉「では、諸君。少し話をするとしよう」






128 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:56:30.53 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 廊下//





吹雪「うぅん……」


余りに怪しい二人組と少尉を同じ部屋に置いてきてしまった吹雪は、
未だに後ろ髪をひかれながら、うつむき、唸っていた。

少尉が良いと言ったからといって本当に行ってしまってよかったのだろうか。

あの人は人手不足のこの基地にあって期待のホープとして扱われている人だ。
ただでさえ前任の責任者を海難事故で失っているグアム基地において、
ここで少尉があの不審者に怪我をさせられるようなことがあれば一大事だ。


戻るべきだろうか、いやしかし。




そんな風にうんうん唸って注意が散漫になっていたからだろう。
角から出てきた人影を見落とし、吹雪は軽くぶつかってしまった。



吹雪「あ、っと、ごめんなさい」


神通「いえこちらこそ、……」



129 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:57:28.07 ID:sE/Vv+Mi0



一瞬、空気が凍る。吹雪は急に現れた神通を見て極度に緊張し、なんとも言えない表情をする。
神通も神通で、なんとでも読み取れるような微妙な表情で吹雪を見た。


沈黙。


せめて何か言ってくれれば吹雪も返せるものの、こうなってしまってはなんと声をかけていいかわからない。



神通「…………」


吹雪「……あの!」



耐えきれずに言葉を発したのは吹雪。だが勢いで口を突いただけで、
何を話すかはなにも考えていない。狼狽した表情で場を取り繕おうとして、
必死で言葉を絞り出した。



吹雪「え、と、……、……身体! ……、お身体は、大丈夫、です、か?」



それは吹雪が本心で気にしていたことではあったが、
余り触れるべきではないような重い会話をしてしまい、言ってから頭を抱えたくなった。



130 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:58:22.11 ID:sE/Vv+Mi0




神通「私は、……大丈夫ですよ」


吹雪「あ、あはは、よかった、です」




神通の言葉は、暗に他の姉妹や随伴艦は大丈夫ではなかったことをさしているのか。
それとも何の意図もなく「私は」と言っただけなのか。吹雪の知る神通はそんな重々しい皮肉の
ようなことを言う人ではないので無意識のうちからでた言葉なのだと知っているが、
無意識だからこそ、そういう意図を胸に押しとどめているのが発露したのではないかと不安になる。



吹雪「それでも、神通さんが大丈夫なら、それだけでも良かったです」



吹雪の一言は、どちらの意図であっても通じる言葉だった。
どんな意味があったとしても、神通だけでも生きてくれたことは喜ぶべきことだったのだから。

吹雪は、川内や那珂とも親しかった。特に川内とは師弟の様な関係であり、神通もそれをよく知っていた。
だからこそ、あの海戦での悲劇は吹雪を大いに悲しませた。


それでも、あんな戦争の中、神通だけでも生きていてくれたことが、何よりもうれしかったのだ。



それは吹雪の偽らざる本心であった。



131 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:59:00.36 ID:sE/Vv+Mi0



神通「そうですね……、」





神通がぼんやりした目で続ける。




神通「私だけが、二人を置いて、生き残ってしまった……」



吹雪「ぁ……っ」




ついに、吹雪の表情が完全に固まる。
穏やかそうに話していた顔は、冷や汗を垂らし、徐々に沈痛な面持ちに代わっていく。

その様子に、自分が何を言ったのかようやく認識した神通は、
ハッとした表情に戻る。




神通「あ、ご、ごめん、なさい……」




流石に神通もこんなことまで言うつもりではなかったのか、すぐさま謝罪する。
しかし、そうやって口をついて出るほど、それが本音であったのだとわかり、
吹雪の心は更に追いつめられる。




漣「ふっぶきちゃーん!」



132 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 13:59:53.86 ID:sE/Vv+Mi0



消えてなくなりたくなるような陰鬱な雰囲気を霧散させるようにして、陽気100%の漣の声が割って入る。

工作部の倉庫に仮設した風呂から上がったところらしい天龍・漣が吹雪を見つけて声をかけた。




漣「仮設ドック超よかったですよ! 庭に置くプールみたいなアレ」

天龍「そんな小さくないだろ」

漣「訂正、アメリカ人が庭に置く200ドルくらいのでっかいプールみたいなアレ」




久しぶりの安らぎを経てテンションの上がる二人だが、
神通を見つけ、やってしまったという顔になる。



天龍「あー、っと……」



沈鬱たる空気が4人を纏いだす。



133 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 14:00:35.09 ID:sE/Vv+Mi0



さすがにどうにかしなければと思ったのだろう。
やや強引だが、吹雪は神通に「そういえば」と言って慌てて仮設ドックを進める。
神通は黙って頷くと、そのまま行ってしまった。



残されたのは、気まずそうにする3人。



吹雪「あ、あはは、すみません。ちょっと仕事が残っているので、
   ちょっと、戻りますね。ごめんなさい!」



天龍「あ、ちょっと」




吹雪「ごめんなさい」


言い留める暇もなく、吹雪は去っていった。




天龍「あー……」

漣「……、まぁなんていうか、……あーこれはキツイキツイ」



事情をある程度察することができるからこそ、
彼女たちはどうしていいかわからなかった。






134 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 14:01:10.20 ID:sE/Vv+Mi0













135 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 14:03:56.29 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 営倉//





営倉に閉じ込められていたジャックは、
牢屋で何とか脱出しようと手始めに手錠の解除を試みていた。

ここの牢屋は自分がいつも閉じ込められるところとは違い、
ご丁寧に水場とベッドまでついていた。水場など、恐るべきことに、
取っ手を動かすと透き通った新鮮な水が出てくるのだ。

しかし、一方で脱出に役立ちそうなものは何一つなかった。
壁も継ぎ目一つない石でできており、鉄の柵も錆び一つなかった。


そんな整った牢屋の中、しばらく手錠と格闘したジャックだったが、
一向に外れる気配がしなかった。少し休憩を取ろう。
牢屋の暑さと疲労でダウンしたジャックは、水を飲もうと取っ手をひねる。
するとザザーと勢いよく水が流れだす。直接口をつけるのは難しかったので、手ですくって飲んだ。



ジャック「うん、美味い」



清潔な水なのだろう。透き通るようなそれはトルトゥーガの泥水とは違う。
意外とここの牢屋は貴族高官用なのかもしれない。そう思うと悪い気はしないジャックだった。




ジャック「ウチにもこういう水飲み場が欲しいな」




持って帰れないだろうが、せめてこの名前だけでも憶えておこうと全体を見回す。
すると簡単に名前が見つかった。






ジャック「TOTO、……トト、か。エジプトの神だな。つまりこいつはエジプト製か」




蓋を閉じ、ジャックは忘れないようにと記憶にとどめておいた。






136 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 14:04:43.73 ID:sE/Vv+Mi0




そんな牢屋生活を満喫しているジャックのもとに複数の足音が迫ってきた。
ジャックは気を取り直して入口付近を見つめる。


入口の扉が開くと、男は部下を外に待機させ、一人、牢屋の前に立った。




少尉「変わった不審者がいると聞いて、どんな顔をしているかと見に来たが……、」



柵を隔てて見下ろしているのその男は、ジャックより一回り小柄であった。
黒の短髪で少し焼けた肌。歳は決して若くなく、その振る舞いはどこか威厳がある。






少尉「着ている服が流行遅れだな、海賊?」





137 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 14:05:23.67 ID:sE/Vv+Mi0



牢屋の薄暗さと、一見した見た目では全く気付かなかったが、青い目と、
その隠しきれない嫌味な声に、ジャックは驚きを通り越し、笑ってしまった。



ジャック「お偉いさんが、まるで一兵卒の様な恰好をしていかがなされたんです?」

少尉「まるでもなにも、本当に一兵卒のようなものだ。ただの勘定係だよ」


ジャック「なんだ、特赦でも出してもらおうとおもったんだが」

少尉「君に? 私が? 冗談を言え。君が私に何をしたか思い出してみたまえ」



138 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 14:05:54.83 ID:sE/Vv+Mi0



ジャック「一生懸命働きましたとも」

少尉「一生懸命、宝を隠蔽し、積み荷を逃がし、船を奪って逃走した」

ジャック「古い記憶だ。酒飲んでわすれちまった」

少尉「そしてなにより、」





ガチャン、と格子の鍵が開く音がした。






少尉「私を殺した」





139 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 14:06:30.90 ID:sE/Vv+Mi0



鍵を開けたのはもちろん短髪の男。
だが手枷までは外そうとはせず、依然として見下すように立っている。

ジャックは見上げながら、この男がウィッグを外したところは久しぶりに見たと
どうでもいい感想を抱いていた。



少尉「立ちたまえ。ついてこい」

ジャック「俺は部下じゃない。命令するな」

少尉「部下さ。さもなくば犯罪者だ。ここから生きては返さん」



140 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 14:07:08.41 ID:sE/Vv+Mi0



ジャック「ケツでも差し出せばよろしいので?」

少尉「ツケを差し出せばよろしい。私に対する数々の負債のな」

ジャック「パールを燃やすのはナシだぜ、卿?」



少尉「卿はやめろ。もう昔の私ではない」

ジャック「じゃあ今日からなんて呼べばいいので?」 






ベケット「カトラー・ベケット少尉と呼べ。ここでの私の呼び名はそれだ」







141 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 14:07:38.44 ID:sE/Vv+Mi0





















142 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 14:11:29.23 ID:sE/Vv+Mi0
サントラが終わったので、一旦休憩。

次は15:20くらいから再開予定です。


ざっとやって見た感じ、

15:20→一時間くらい投稿、休憩→
17:20→一時間くらい投稿、休憩→
20:00→終わるまで、って感じの投稿予定になりそうです。


143 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 15:19:37.20 ID:sE/Vv+Mi0
再開
144 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 15:20:02.25 ID:sE/Vv+Mi0






少し、世情の話になる。






世界規模で展開した深海棲艦との大戦争は、人類から多くの命と生活を奪った。
戦争初期は未知の敵に対するまともな戦略が練られず、制海権、制空権と奪われていき、
人類は生きる余裕を完全に奪われてしまった。

戦争中期には、人類が艦娘という対抗策を生み出し、苛烈な戦闘の中、
多くの英雄と、多くの死亡者と、多くの損失を生み出し、多くの勝利を重ねた。

そして、人類がようやく優位にたった現在、戦争後期たる今は、殲滅戦の名のもと、
広い戦線で最終戦争が行われている。


そうやって失い続けて勝利した人類に今立ちはだかる問題は人的資源の圧倒的不足である。


戦線から離れた、内地と呼ばれる戦争のないテリトリーに回せる人材が世界的に足りなかった。
そんな状態で意外にもいち早く譲歩したのが海軍である。自国の軍は自国の人間で構成することが
当然であったが、世界連合戦の様相で、各国の人間や艦娘が入り混じって力を合わせて戦ったこともあり、
世界的に海軍の多国籍化が進んだ。特に、地域防衛の際、現地で有能な人間を軍に入れることは
少なからずあることだった。




そんな状況で、ベケットは一気に実力で少尉まで上り詰めた。





145 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 15:21:01.65 ID:sE/Vv+Mi0





もともと、父と反目して家出し、大した後ろ盾もなく入った東インド貿易会社で
一躍幹部に躍り出、最後は英国貴族となり、会社重役として、国王代理に任命され、
東インド貿易会社大艦隊の総督となった男だ。


そんなベケットからしてみれば、こんな非戦闘区域の島の、主計科の少尉など、
さしたるものでもなかったはずだ。



現代知識が欠けているという不利があったが、記憶喪失を装い、
短期間で周りが違和感を抱かない程度の常識を身に着け、
数年たった今では、一角の知識人の様な扱いを受けている。
昔、東インド会社の時代に、3年間、日本の江戸支社で働いた経験も生きた。




一時代で頭角を現した人間というのは、どの時代でもそれなりにやっていけるようだ。





146 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 15:21:57.01 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 外国人士官区//





ベケット「と、まぁ、かいつまんで言えば、このようなものだ」



手にしていたティーカップを音を立てずに置くと、ベケットは一息をついた。
カップは決して安物には見えず、部屋の造りからも、ベケットが地位以上尊重されていることが分かる。



ギブス「それで、俺たちはどうすればいいんです? ベケット少尉」

ギブスも似合わない紅茶を一飲みし、カップを置く。


バルボッサ「とりあえず俺たちは、いまいち状況が呑み込めていないのだよ、ベケット少尉」

バルボッサも紅茶を瀟洒なソーサーに置く。意外と様になっている。


ジャック「同感だ。……、あと俺も飲みたい、ベケット少尉」



ジャックの両手は依然手枷がはめられていて、目の前に置かれた菓子と紅茶にありつけないでいる。
甘いものが好きというわけではないが、一人だけお預けというのが気に食わなかった。



147 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 15:23:28.13 ID:sE/Vv+Mi0



ベケット「別にどうもしなくていい。ただ質問に答え、必要な時に力を貸してくれればいいだけだ」

ジャック「おいおい、この泣く子も黙るキャプテン・ジャック・スパロウ様を捕まえて
     ただグータラしてろって命令は良き上官とはいえないぜ、ベケット少尉」

ベケット「逆に、貴様らがこの海域で何ができるのかという話だ。言っておくが、ここは貴様らがいた
     カリブの海とはまるで違う」

バルボッサ「だろうな。ここはどこだ? 中国か?」

ベケット「東アジアの、グアム諸島だ。現在の支配国は日本という国になる」

ギブス「ニホン、ねぇ聞いたことのない国だ」



ベケット「船乗りならば、長崎か江戸という名なら聞いたことはないか?」



あぁ、と納得する一同。



ベケット「ここはその日本だ。そして時代は200年以上後の異なる未来だ」



一気に納得から遠ざかる一同。



148 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 15:24:18.58 ID:sE/Vv+Mi0



ギブス「まるで意味が分からねえ……」

ベケット「そうかね? 目が覚めたら見知らぬ土地にいた、目が覚めたらありえない時間が経っていた。
     そうした話は神話・民話・逸話・噂話として、いくらでもあるだろう?」

ギブス「だけど所詮ホラ話だ!」

ベケット「だがそういう中にこそ真実がある。現に私たちはこうして時間を飛んできた。
     例えばニューネーデルラントの民話などにもあったろう。リップ・ヴァン・ウィンクルという男が……、
     いや、失礼。あれは十九世紀の話だった」

ギブス「十九世紀!」



ギブスが手をたたく。十八世紀に生きた彼にしてみれば、一世紀先の未来の話が当たり前に出てくる
今の会話にどうしようもない滑稽さを覚えたのだ。



バルボッサ「その程度で驚くな。ベケット卿の、いや失礼。ベケット少尉の話なら、いまは21世紀だ」

ベケット「そうとも。今は21世紀。2017年、8月だ」

ギブス「2017年!」


ギブスが再び手をたたく。もうおかしくてたまらないといった様子だ。
バルボッサは静かにギブスをにらみつけた後、ベケットに言った。


149 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 15:25:38.57 ID:sE/Vv+Mi0



バルボッサ「重要なことはここがどこで、今がいつか、ということではない。世界の果てでなければな。
      問題は、なぜ、そしてどうやって俺たちがここに来たのか、どうやって帰れるのか、だ」


バルボッサの真剣な発言に流石のギブスも笑いが引っ込んだ。
特に「どうやって帰れるのか」というのはかなりの死活問題だ。視線がベケットに集中する。



ベケット「……、ふむ、」



少し悩んだしぐさをして、ベケットは続けた。



ベケット「どうやって帰れるのかは知らん。が、見当はつく。それはなぜ、どうやって来たかという質問につながる話だ」




意外にも、ベケットはその問いに対する答えめいたものをもっていたようだ。


バルボッサ「続けろ」


ベケット「NOだ。Can'tといっていい。推測は立つが、決定的な証拠を見つけていない」



150 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 15:26:22.69 ID:sE/Vv+Mi0


ギブス「それでもいいじゃねえか」


ベケット「残念だがギブス君。私はこの日本という国で、あやふやなことは明言しないという術を身に着けたのでね」


ギブス「坊ちゃん役人みたいなことを言いやがる! ジャック! お前もなんとか言ってやれ!」

ジャック「熱っっつ!!」



会話に参加せず、手枷のついた両腕で器用に紅茶を飲んでいたジャックは、驚いた拍子に
カップの中身をを自身にぶちまけてしまったようだ。


ギブス「ジャック! お前はずっと何やってんだ!」

ジャック「ギブス! お前は急に何すんだ!」


ベケット「では、反論はなしということで」

バルボッサ「…………」

ベケット「まぁ安心したまえ。何も君たちを帰さないと言っているわけじゃない。
     時が来れば帰れるのを手伝うし、手伝ってもらうことになるだろう。
     こちらとしても国籍不明の海賊に居座れていては都合が悪い」


151 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 15:26:59.77 ID:sE/Vv+Mi0



ベケットはこの件はこれ以上喋れないと言わんばかりに口を閉じた。
だが決して答えないというよりは、本当に答えられないといった様子だった。



バルボッサ「では質問を変えよう。民話や逸話には俺たちの様に、異なる世界、異なる時間を
      飛んできた人間がいたということだが……、この辺りでもそういった伝説があると思っていいのかね?」

ベケット「まさに君たちや、私がそうだな」


ギブス「そういえば、アンタも俺たちみたいに船で飛ばされたのか?」


ジャック「ギブス君、よしてやれ。少尉がそんな便利なもんに乗ってたわけないだろう?」


バルボッサ「あぁそうだ、砲撃で木っ端みじんになったのだからな」


ベケット「なった、のではなく、させたのだろう君たちが。木っ端みじんに」



それを聞いて、海賊3人は不謹慎に笑った。ベケットは冷静に努めようと一度深く呼吸し、切り替える。



ベケット「私は、君たちに船を挟撃された。そのエンデヴァー号が轟沈し、私自身も海底に沈んでいくだけだった。
     だがあるところで急に反転したのだ」

ジャック「反転?」



ベケットが語りだしたのは、世界を超えてきたときの話。
三人が身を乗り出す。気が付けば別世界にいた彼らにとっては貴重な証言だ。



152 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 15:29:05.89 ID:sE/Vv+Mi0



ベケット「そうだ。なんといえばいいのか。重力……、海そのものがひっくり返るような感覚だ。
     その感覚に身を任せていると、大海原に出て、そこを偶然遠征に通りかかった吹雪君に助けられた。
     ほら、ちょうど先ほど君たち二人と話していた娘だよ」


ギブス「まて、助けられたってえと、まさかアイツも海を滑れるのか?」


ベケット「あぁ、彼女も滑れるぞ。彼女や、それから君たちをここに連行してきた三人も、
     艦娘と呼ばれる、船の魂を宿した現在最強の兵器たちだ」



懇切丁寧な説明だが、海賊3人はほとんど話に追いついていない。
この短時間の間に、ここは別世界の未来だの、女の形をした兵器だの、理解しがたいことが沢山あったからだ。

海賊たちの時代では、女を船に乗せるのは危険だと言われていたが、まさか女が船を乗せる時代が来るとは。



ベケット「分からずとも良い。要するに、彼女たちは君たちよりずっと強いと考えておけばいい。
     そして私はその彼女たちを指揮する立場にある。状況を、分かってくれたかね?」


153 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 15:30:06.64 ID:sE/Vv+Mi0



3人の中でも、ひときわジャックは思い切り頷く。彼も話を半分ほどしか理解できていなかったが、
少なくとも、剣も通らず、圧倒的な怪力をもつあの女共が、普通の人間である方が驚きだった。
よく分からないが、ユダヤ教のゴーレムみたいなものだろうか。


ベケット「詳しくは手記に記載してある。その本棚の左上だ。
     君たちが現状を知りたいのなら、取って読みたまえ。
     どうせしばらくは何もできることはない」


立ち上がり、本棚からいくつか本を斜め読みするバルボッサ。
きちんとした背表紙の本もあれば、明らかに個人の手で纏められた資料集などもあり、
製作年もバラバラであった。



ベケット「貴重な資料だ。汚すなよ」


ギブス「これ全部が別世界に転移した逸話の記録なのか?」


ベケット「いや、それは全体の1割だ。それ以外にも、さっき言ったような、
     各地の神話や民話、このあたりの伝説が主だ。あとは海賊の記録とかな」


154 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 15:31:10.19 ID:sE/Vv+Mi0



ギブス「またそれは、何のために?」


ベケット「4年前に私がこの世界に飛ばされた理由を知りたくてね。
     まぁ、そういった方面から読み解くアプローチを試みていたわけだ。
     事実、私がこの世界が別世界だと気づいたのは、海賊の資料からだった。
     この世界の歴史には、我々の記録はない。あれほどの大規模な戦争も、語られてはいない」


歴史書がすべてをカバーすることはないにしろ、ここにいる4人は、いずれも世界の岐路となる、
大きな戦いを経験した者たちだ。ギブスは置いておくとしても、最悪の海賊と言われたジャックも、
東インド会社のトップになったベケットも、イギリス公認の私掠船船長となったバルボッサの記述も、
どんな小さな情報一つものこっていないとなれば、それは過去に存在しなかったということ。
つまり、それが存在した世界ではないということだ。


ジャック「なるほどねぇ。猶更この世界とやらに愛着がなくなった。
     お前が研究を始めたのも、こっから帰る方法を探してのことか?」


ジャックのその一言に、ベケットは向き直る。



ベケット「いや、最初はそうしようと色々方策を探して、そういう伝説を聞き集めた。
     だが、戻っても死ぬだけだと思い、帰るのは辞めた。今ではライフワークの一つだ」


バルボッサ「そして過去の遺物を掘り漁る、ホラ話の研究家になったわけだ」



512.57 KB Speed:0.2   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)