球磨「面倒みた相手には、いつまでも責任があるクマ」

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464 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:16:13.88 ID:xVa5x4Ph0


「……42年6月のミッドウェー海戦から、全てが狂った」


ふと、目の前の廊下の角の先、誰かの話声が漏れてきた。

精鍛な声色かつ何処か泥臭さが少ない口調から察するに、若い海軍士官だろうと、中将は考えた。


「……赤城、加賀、蒼龍、飛龍……正規空母四隻を失ったのが大きかった」

「……撤退時に三隈を失った事もな」


中将は廊下の角を曲がらず、丁度、三人の士官たちの死角になる位置の壁に、音も無くもたれかかる。

そうして、その手に持っていた資材管理帳簿を開きながら、廊下で話す若い海軍士官たちの悲痛な叫びに耳を傾けた。

青褪めた声で話を続ける海軍士官たちは、近場の影に自身の上官である中将が居るとも知らず、話を続けていた。

465 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:22:32.66 ID:xVa5x4Ph0


「ソロモンでは、加古、龍驤、比叡、衣笠、綾波、霧島、暁、夕立……サボ島では吹雪、叢雲、古鷹……その後は由良、高波、天龍か……ああ、畜生っ……! 自分で言ってて頭が痛い……!」

「昨年の冬だけで、夕雲、望月、初風、川内、夕霧、大波、巻波、冲鷹が沈没し、伊号第19は行方不明らしい……」

「嘘だろ……!」


その言葉を聞いた中将は、もの悲しさを溜息と一緒に吐き捨てた。


何故だろうか。

中将には、この若い海軍士官たちの嘆きが、中将自身が発した言葉の様に思えてならなかった。

466 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:24:29.90 ID:xVa5x4Ph0


「それでも……俺たちに出来る事は何かないのか……! ……形はどうあれ……俺は最後まで戦うつもりだ……!」

「気持ちは痛い程分かるが、一寸落ち着けって……! それに、後詰の俺たちに一体何が出来るっていうんだ……!? 敗戦は免れないって言うのに……」

「敗戦が何だって言うんだっ!? 戦争に負けたからと言って、俺は米国の奴隷になるつもりなんて毛頭無いぞっ!!」

467 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:30:45.97 ID:xVa5x4Ph0


その一人の若い海軍士官の言葉に、ふいと、中将は昔一度だけ会った事のある、魅力と才能に溢れた壮年の男の事を思い出した。

あの男は当時、かなりの社会的地位を持ち、時の政治家たちとも繋がりがある男だったが、当時の世論とは裏腹に、この国の敗戦を語った。

そして開戦直前にあの男は突然、全ての地位を投げ捨て、田舎に家と畑を買い、そして暫くの後、疎開した。


最初、腰抜けと世間から嘲笑されてはいたが、今にして思えば、その先見の明に脱帽せざるを得なかった。

それぐらいの政治感覚と先見の明が中将にも無かった訳ではないが、軍人と言う立場、そして自分自身の想い、その信念に反する事は中将自身が許さなかった。

468 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:31:32.07 ID:xVa5x4Ph0



『もしお互い、生きて終戦を迎えたら……この戦争に、提督と球磨の想いに、どれだけの意味や価値があったのか、お互いに見つけた答えを、交わさないか?』


469 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:33:17.88 ID:xVa5x4Ph0



そしてそれ以上に、中将には決して反故に出来ぬ「あの娘」との「約束」がある。

中将はその約束を交わした時、いや戦争が始まるずっと昔から、「あの娘」に対しての自分自身の想いを素直に認めていたのだ。


470 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:33:51.25 ID:xVa5x4Ph0


「……人生は戦いなり、か」


ぽつりと、中将の口から言葉が漏れた。

471 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:35:33.73 ID:xVa5x4Ph0


よくよく考えたらあの男は、癇癪持ちの癖して憶病とも言えるほど繊細な精神の持ち主の様であるから、単に血を見るのが怖かったから疎開したとも言える。

だがあの男は、決して「戦い」に背を向けて逃げる様な男ではなさそうだ。

あの類は、中将と同じく、自分自身の想い、その信念の為なら、己が精神、ましてや命さえも厭わずに戦う事が出来る心を持った男だ。

恐らくはあの男も、あの男なりの信念があってその道を選んだのだろう。

472 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:38:10.08 ID:xVa5x4Ph0


「私もあの男も、そしてあの娘も……いや皆が各々の信念を纏って……形はどうあれ、必死に戦っているのだろうな……」


気が付くと、海軍士官たちの話声は既に遠退き、しんとした空気が、廊下へと降りていた。

パタンと資材管理帳簿を閉じ、再び歩を進めた中将は、静かに廊下の角を曲がったが、其処には既に誰の影も無かった。


くたびれた廊下、その視界は暗褐色に塗られ、寂しくドンヨリとした空気が圧し掛かっており、四角の窓から夕陽だまりが、ぽつり、ぽつりと落ちていた。

時々、窓の外に映る枯れ木を抱いた黄昏の空を眺めながら、中将は仕事場である、管理部長室へと、再びコツコツと軍靴を鳴らした。

473 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:38:40.65 ID:xVa5x4Ph0



――――その日の夕映えは、血液を垂らした様に、紅く滴り、広がっていた。


474 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:40:21.67 ID:xVa5x4Ph0


 ……………………………… 


――――1944年1月、1730、軍需監理局、管理部長室。


コンコン、コンコン、と管理部長室の扉が4度の繊細精強な物音を立てた。


「入れ」

「失礼致します、中将閣下」


管理部長室の扉を開けたのは、若い陸軍将校だった。

小柄な中将とは違い、陸軍らしく筋骨隆々な出で立ちである。

陸軍将校は、柔らかな物腰で扉を閉めると、業務机に座っている中将を見据えた。

475 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:41:51.83 ID:xVa5x4Ph0


「件の主要軍需会社生産管理に関する資料を持って参りました。それと幾つか中将閣下が本部に頼まれた資料も届いております」

「ああ、ありがとう。そこの棚に置いといてくれ」

「承知致しました」


そうして脇に抱えていた資料を、資料棚の端へと並べていった。


「いつもすまない」


資料を棚へと均一に整頓する陸軍将校を尻目に、万年筆を書類に走らせながら、中将は答える。


「いえ、私でよろしければ何時でもお声掛け下さい」


資料を並べ終わった陸軍将校は、堅物厳格ながらも敬意を含んだ陸軍式敬礼を中将に投げかけた。

476 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:43:10.14 ID:xVa5x4Ph0


実の所、この陸軍将校は、海軍出身で、更に突慳貪な態度を取る中将に対し、最初はあまり良い印象を持ってなかった。

だが陸軍将校は、何度か会話を重ねていく内、中将に対しての印象を改める事になる。

この激動の時代において中将は、やや偏屈者ではあるが、理知的に物事を見据る慧眼を持った人物である事を知るに至る。

故に陸軍将校は、中将の事を尊敬に値する人物であると、高く評価していた。


そして近頃では、こうして中将直々の司令を受ける事についても、やぶさかでは無かった。

最も中将が陸軍将校の事をどう思っているかは知らなかった。

477 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:44:04.69 ID:xVa5x4Ph0



――だけど、毎回毎回、僕を指名する辺り、それなりに僕の事を買ってくれているのだろうか。

――いや、ある意味では似た者同士なのかもしれない。


478 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:44:49.38 ID:xVa5x4Ph0


陸軍将校は、中将に対し、なんとも言えない親近感を抱いていた。


「中将閣下、つかぬことをお伺い致しますが……」

「何だ?」


だからこそ、時々こうして会話を挟む事が出来た。

だからこそ、陸軍将校は尋ねた。

479 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:46:07.92 ID:xVa5x4Ph0



「中将閣下は、戦前に『軍艦・球磨』の艦長をなされていたとの事で」


陸軍将校が運んできた資料群。

その中、各種軍艦艇戦時日誌資料の中に『軍艦・球磨』の資料が紛れ込んでいたからだ。


480 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:47:00.58 ID:xVa5x4Ph0


「そうだが、それが何か?」


ピタリと、万年筆を走らせるのを止め、何処かドスの利いた声で中将は、陸軍将校に返答した。

余りの恫喝的な声に、陸軍将校は狼狽しながらも、口を開いた。

481 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:48:08.88 ID:xVa5x4Ph0


「いえ、その……艦長として乗艦なされた際、どの様な心境だったのかを、お聞きしたくて……」


それを聞いた中将は、頬杖を付き、そっぽを向きながら、ぶっきらぼうに口を開いた。


「どの様な心境と言われても、所詮は軍務の延長だ。士官の転勤など日常茶飯事だろう。それに軍艦の艦長など、偉くなる為の箔付けに過ぎん」

「なっ……!」


その返答に若い陸軍将校は、天下の海軍中将にあるまじき言動では無いかとムッとした。

482 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:49:12.71 ID:xVa5x4Ph0


――中将閣下、お言葉ですが……!


だが、その言葉が口に出される事は無かった。

ふと、陸軍将校は、普段の中将とはどこかズレた返答に違和感を覚えた。

先程のドスの利いた声といい、普段は目線を合わせて話す中将だが、「軍艦・球磨」の話題が出たとたん、先程から目を合わせようともしない事に、陸軍将校は疑問に思った。

483 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:50:03.37 ID:xVa5x4Ph0


「それで何故、君はその様な事を私に聞く?」


だが先程まで、目線を逸らしていた中将。

その中将は、いきなり射抜く様な眼差しで陸軍将校を捉え、声色を低くして話の続きを促した。

484 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:50:45.37 ID:xVa5x4Ph0


「え、ええと……」


その眼差しに陸軍将校は、少なからず戦慄した。


その時の中将の目の鋭さは、鷹の目そのものであった。

一寸でも下手な事を口走ったら掴み殺してやると言う気概さえ伺えた。

485 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:52:00.71 ID:xVa5x4Ph0


だが、下手な事を言うつもりは毛頭なかった陸軍将校は、慎重に言葉を探しながら。


「……実のところ、私は熊本県の球磨群出身でして」


――――中将を見据え、「軍艦・球磨」についての己が思い出を語った。

486 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:53:13.84 ID:xVa5x4Ph0


 ……………………………… 


「ほう。それで?」


気立ては良いが、少々お喋りなこの若い陸軍将校の話を、中将は「興が乗った」と言わんばかりに言葉を返した。

その中将の返事に陸軍将校は、「待ってました」と言わんばかりに、目を輝かせて思い出を語った。

487 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:55:16.44 ID:xVa5x4Ph0


「軍艦・球磨……やはり自分自身の郷の名前が付いた軍艦には自然と熱が入るものなのですかね……! 水雷戦隊の旗艦を担う、最初の艦として建造され、あの長門型を超える9万馬力という大出力! そして、その馬力から生み出される36ノットという超高速!」


中将は、他の出世欲に駆られる若者と違い、自己の信念を強く持つ、今のご時世で珍しいこの若者を高く買っていた。

この陸軍将校を事ある毎に指名していたのは、純粋にこの若者の事が気に入ってたからであった。

488 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:57:28.19 ID:xVa5x4Ph0


「列車以上の拘束力を持ち、14センチ砲7門と53センチ連装魚雷発射管4基の強武装を携え、他の水雷戦隊の追随を許さないその気概! まさに熊本人の気概そのものを体現したかの様でした!」


いや、それどころか、ある意味では似た者同士なのかもしれないと言う親近感を、中将は陸軍将校に対して抱いていた。


「それはもう少年の時は、本当に感動しましたよ! あの時の感動は今でも忘れません! 今では旧艦扱いではありますが、それでもなお、彼の地でその武勇を振う雄姿は、胸踊ります!」

489 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:58:08.64 ID:xVa5x4Ph0


――それにしてもこれは、些か、気恥ずかしい。


中将は自分が褒められている訳でもないのに、とても誇らしく思えた。

陸軍将校の言葉のせいで、静かに零れ落ちた笑みを隠す為、中将は書類へと向かった。

490 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/25(金) 23:59:04.70 ID:xVa5x4Ph0


「正直、申し上げますと、私も他の陸軍連中と同じく、海軍連中はあまり好きではありません……ですが、『軍艦・球磨』や他の艦艇は違います! とても誇り高い限りです……!」


陸軍将校の話を静かに聞き入りつつ中将は、航空機及び関連兵器生産受注書に捺印し、民間地方鉄道網整備計画書に署名していった。

思いの外、作業が捗った。

491 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:00:32.14 ID:xlUQQs3U0


「そう……だからこそ……」


しかし陸軍将校に目もくれず、書類へと向かい、万年筆を滑らす中将。

その為、中将はこの陸軍将校の様子に気付かなかった。

492 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:01:41.84 ID:xlUQQs3U0



「だからこそ……」


この若い陸軍将校が、手を握り締めて、歯を食いしばって俯いていた事に。


493 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:02:11.10 ID:xlUQQs3U0



この若い陸軍将校が、悔しげに口を開いた事に。


494 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:02:58.15 ID:xlUQQs3U0




「……先日、軍艦・球磨が沈んだ事は、本当に残念でなりません」



495 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:03:33.73 ID:xlUQQs3U0




「……は?」



496 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:04:31.06 ID:xlUQQs3U0



そして、若い陸軍将校のこの言葉に、中将は凍て付き、絶句した。


陸軍将校が口にした、軍艦・球磨の轟沈。


497 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:05:09.72 ID:xlUQQs3U0



――――その、突然の訃報に。


498 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:06:18.86 ID:xlUQQs3U0


その言葉を聞いた中将は、時計の針が止まり、世界が突然終わった様な絶望感を覚えた。


自分の心臓が突然誰かに掴まれ、ぶち抜かれた様な喪失感を覚えた。


胸の中を蠢蠢とのたうち回る感情を吐き出したくて、剃刀で喉を掻き切られた様に、ひゅうひゅうと、息を洩らした。

499 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:07:17.80 ID:xlUQQs3U0



「……中将閣下?」


そして愛娘の訃報を伝えた、この若い陸軍将校の呼び掛けに、ぷつり、と何かが切れ、箍が外れた音を中将は聞いた。


500 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:08:02.65 ID:xlUQQs3U0



「……ふざけ……るな……」


――――中将は理知的、冷笑的、高踏的、そして利己的に生きてきた人生で初めて、理性を失った。


501 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:09:14.85 ID:xlUQQs3U0


 ……………………………… 


「ふざけるなっ!! そんな筈があるかっ!?」


寸秒の後、突如として顔を上げ、腹の奥底から沸き出す様な怒号を張り上げた中将は、手に持っていた万年筆を机に叩き付け、書類を撒き散らし、椅子を蹴り倒しながら立ち上がると、飛び掛かる勢いで若い陸軍将校に迫り、その胸倉を掴み上げた。

502 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:10:11.46 ID:xlUQQs3U0


「……ぅぐっ!?」

「あの海域で大規模な戦闘は発生していない筈だっ!! 出鱈目を抜かすなっ!!」


この若い陸軍将校は体躯も良く、中将よりも一回りも大きかったが、その身体が半分中空に浮く程、掴みかかった中将の腕力は強く、万力で締め上げられた様であった。


「ぐっ……! 本当です、中将閣下……!」

503 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:11:24.82 ID:xlUQQs3U0


陸軍将校は戦慄した。

確かに自分よりも階級が高い上官に掴みかかられては、恐怖を覚えるのは至極当然である。

しかしそれを抜きにしても、只ならぬ中将の鬼気が、陸軍将校を唯々恐怖させた。

この小柄な初老の上官の何処にこんな力があるのか、陸軍将校は唯々畏怖していた。

504 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:12:18.48 ID:xlUQQs3U0


「先日11日……! 対潜戦演習時……! マラッカ海峡沖……! 英国潜水艦の雷撃を受けて……!」


その恐怖から逃れる為、陸軍将校は己が知っている事実だけを端的に述べていった。

505 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:13:08.72 ID:xlUQQs3U0


「そんなことが……! あって……! たまるか……!」


その残酷な現実を聞いた中将は、青褪めた表情を更に紺に染めた。

506 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:13:50.67 ID:xlUQQs3U0


「そんなことが……あって……たまるか……」


その顔色は白く、もはや血は巡っていないぐらい蒼白であった。

それと同時に、陸軍将校の首根っこを掴んでいた中将の手から力が抜けた。

507 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:14:35.88 ID:xlUQQs3U0


「コホッ……ガハッ……!」


陸軍中将は、咳き込みながらその拘束から逃れた。


「何をなさるのですかっ……!? 中将……閣下……?」


危うく意識を失いかけそうになり、思わず声を荒げた陸軍将校は、襟を正し、先程まで自分を締め上げていた中将に正対し、見据えた。

508 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:15:15.94 ID:xlUQQs3U0


「……」


しかし、先程まで陸軍将校を掴んでいた中将。

その中将の姿に衝撃を受けた陸軍将校は、先程まで死にかけていた事さえも一瞬にして忘れてしまった。

509 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:16:31.23 ID:xlUQQs3U0


「中将……閣下……」

「……」


その場で項垂れている今の中将の姿は、見るに堪えない程、痛々しい姿であったからだ。

陸軍将校の呼び掛けにも応じず、中将は暫くの間、咎人の様に首を垂れていた。


そうして不気味な程しんと静まり返る管理部長室には、沈黙と緊張の糸が走っていた。

510 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:17:48.09 ID:xlUQQs3U0


「……」


暫くの沈黙の後、中将は陸軍将校に背を向けると、ふらつきながら、先程まで座っていた、所々にインク跡や書類が散乱する机へと向かう。

蹴り倒した自身の椅子を弱々しく引き起こし、骨が無くなった様にその椅子に腰かけると、窓の外へと視線を投げかけていた。

511 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:18:37.09 ID:xlUQQs3U0


「すまな……かった……」


そして悲しみを押し殺した声で、陸軍将校に言葉を吐き、中将は謝罪した。

512 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:19:54.25 ID:xlUQQs3U0


「いえ……私こそ……中将閣下が激高される程、軍艦・球磨が思い入れ深いモノであったとは知らずに……配慮に欠けた事を……」


陸軍将校は、先程掴まれた事が当然の結果である様に、中将の無念を共感しながら、自分の非を詫びた。


「いや、君は何も……悪くない……ただ……ただな……」


中将は陸軍将校に対して、更に言葉を探していたが、悲しみが中将の思考を邪魔しているせいか、それが口に出される事はなかった。

513 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:20:35.70 ID:xlUQQs3U0


「すまないが……暫く、一人きりにさせてくれ……」


その言葉の後、中将は一切の口を閉ざし、唯窓の外へと目線を投げ捨てていた。

514 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:21:39.22 ID:xlUQQs3U0


「承知致しました……失礼致します、中将閣下……」


逆鱗に触れてしまったという事よりも、中将の打ちひしがれた姿に胸を痛めた陸軍将校は、震える手で敬礼し、とぼとぼと、管理部長室を後にした。

515 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:22:34.12 ID:xlUQQs3U0


 ……………………………… 


「……確かに、あの娘は後方任務とは言え、戦地の真っただ中に居る……無論、この瞬間は覚悟していた……だが……」


落日の陽が光を失い始め、透きとおる鮮やかな柿色の光が、管理部長室の窓から降り注ぐ。

そうして斜陽が誰を責める事無く、中将の居る部屋を照らしていた。

516 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:23:11.73 ID:xlUQQs3U0



「約束はどうした……」


中将の膝には、ぽつりぽつりと、悲しみの雫が、滴り落ちていた。


517 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:23:53.54 ID:xlUQQs3U0



「答え合わせはどうした……」


中将の瞳からは、弔いの涙が、人知れず静かに流れていた。


518 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:25:09.75 ID:xlUQQs3U0



「親より先に死ぬ奴があるか……この親不孝者め……」


血の様に深い紅から、青褪めた様な紫、そして濃紺へと表情を変えていく、日没の刻。


中将は一刻ずつ姿を変える夕闇に、あの日見た「軍艦・球磨」の笑顔を、何度も何度も思い浮かべていた。


519 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:26:39.92 ID:xlUQQs3U0


 ……………………………… 


『軍需管理部長――――海軍中将。充員召集解除(解雇)トス』


――――半年後、召集解除の通達が言い渡された中将は、儘、軍を去った。


中将は敗国の将ではあったものの、「海軍中将」というかなりの社会的地位が、その手には残っていた。

また、その地位相応の財産、食糧難ながらも食っていけるだけの財産が、その手には残っていた。


動乱の最中、公における成功を手にし、この時代における最良の形で、中将は退役した。

この戦時中、誰もが中将の事を羨ましく思ったであろう。

520 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:27:13.02 ID:xlUQQs3U0



だが、軍需省時代に中将と最も親しかった陸軍将校は、退役時の中将の事を、後にこう語った。


521 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:27:50.60 ID:xlUQQs3U0



――――その時の中将の顔。

――――それは紛れも無く「全てを喪った男の顔」であった、と。


522 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:31:39.71 ID:xlUQQs3U0


 ……………………………… 


――――その後も戦争は続き、それは悲惨を極めた。


戦艦・武蔵、並びに扶桑、山城、金剛など、数多の艦艇を喪った、「レイテ沖海戦」における「日本艦隊の終焉」。

戦艦・大和、並びに矢矧、浜風、磯風、霞、朝霜を喪った「坊ノ岬沖海戦」。


国ひいては親兄弟を護る為、その先の平和への礎に自らならんとし、自ら望んで兵器として組み込まれた「特攻」。

「硫黄島」「本土大空襲」「沖縄戦」、軍人はおろか民間人さえも巻き込んだ「本土決戦」。

523 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:32:59.38 ID:xlUQQs3U0



戦争を終わらせる為の大義名分か、一種の民族浄化か、それとも科学者の好奇心故の罪の産物か。

人類史における、ありとあらゆる人間の業と言う業を集約し、広島・長崎へと投下された「原子爆弾」。


524 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:34:30.85 ID:xlUQQs3U0


どれも「倫理観」という言葉の意味を根底から覆し、癒えぬ傷痕として深々と歴史書に刻まれた、一つの時代の濁流であった。


――――そして歴史書に綴られた、この戦争における、その後の顛末はこうである。

525 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:35:43.50 ID:xlUQQs3U0


――――1945年8月15日。


昭和天皇による『大東亜戦争終結ノ詔書』の音読放送、通称『玉音放送』が全国民に向けて放送され、日本の降伏が国民へと公表される。


――――1945年9月2日。


「米戦艦・ミズーリ」にて、『降伏文書』に正式調印。

連合国軍最高司令部(GHQ)の占領時代が始まる。

526 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:36:23.11 ID:xlUQQs3U0


――――その歴史舞台の表。


日本の過去を裁く為、様々な「正義」があった。


――――その歴史舞台の裏。


日本の未来を護る為、様々な「戦い」があった。

527 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:37:57.90 ID:xlUQQs3U0


――――それから6年後、1951年9月8日。


『サンフランシスコ講和会議』にて、『平和条約』及び『旧日米安保条約』への署名。


――――1952年4月28日。


先の『サンフランシスコ講和会議』にて署名された、『平和条約』及び『旧日米安保条約』の発効。

連合国軍最高司令部(GHQ)占領時代の終焉。


これにより日本の主権が回復する。

528 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:38:55.84 ID:xlUQQs3U0



――――そうして一つの時代の戦争が、幕を閉じたのであった。


529 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:40:24.24 ID:xlUQQs3U0



 ……………………………… 
 ……………………………… 


530 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:41:59.34 ID:xlUQQs3U0


『昨晩のアメリカ航空宇宙局、NASAの発表によりますと、3日に行われたアポロ9号地球周回飛行のミッション成功の結果に伴い、予定通り5月には、アポロ10号の月周回飛行。7月には、満を持してアポロ11号の月面着陸を予定して……』


「……」

531 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:43:36.64 ID:xlUQQs3U0


――懐かしい夢を見た。


中将は、ラジオから漏れていた報道の音で目を覚ました。

中将は退役後、独り東京の郊外で余生を過ごしていた。

532 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:44:24.99 ID:xlUQQs3U0


「……球磨」


中将は懐かしい夢を見た。

戦前、自身が艦長を務め、戦時中に度々言葉を交わした、あの娘の夢。


そう、一時たりとも忘れ得なかった、「軍艦・球磨」の夢を見ていた。

533 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:46:30.29 ID:xlUQQs3U0


「結局……答え合わせが出来なかったな」


ふいと、自身の頬に手を触れてみると、涙がすぅと伝っていたのが分かる。


「貴様と約束した通り……私はちゃんと答えを見つけておいた」


中将は、一つ悲しみを吐き捨て、誰に語る訳でも無く口を開き、果たされなかった約束の答えを口にした。

534 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:49:44.68 ID:xlUQQs3U0



「確かに戦争には負けたが、私やこの国の者たちはこうして生きている……戦争を否定する者も当然多く居たが、それでも戦った者たちの想いを継ぐ者が現れた。この国の未来を護る為、占領を背負い、全能の権威を持って横暴を振う連合国軍最高司令部(GHQ)と必死に戦った男が居た。いや……敵であろう筈のGHQの人間にだって、日本を愛し、その未来を憂い、陛下をお救いした男が居た」


そう呟きながら、中将は杖を突き、思う様に言う事を聞かなくなった脚を引き摺りながら歩き、扉を開けて、自宅の庭へと出る。


535 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:51:46.89 ID:xlUQQs3U0


「私たちやあの娘の想いは、形は違えど、今でも立派に後世に引き継がれてる……それだけで、私は満足だ。もう未練はない」


しかし、その中将が呟いた言葉。

その言葉とは裏腹に浮かべた表情には、一つの後悔の念を孕んでいた。

536 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:52:36.33 ID:xlUQQs3U0


「いや、だが……私の心残りは……ただ……」


中将は庭に備え付けられた椅子に座ると、静かに蒼空を見据えた。


その蒼空は、水平線の果てまで続くであろう、暗雲一つない群青であった。

温かな陸風が、優しく中将の元へと吹き込んでいた。

537 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:53:07.05 ID:xlUQQs3U0



――そして中将は、吹き行く陸風に心情を語った――。


538 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:54:29.42 ID:xlUQQs3U0


「ただ……あの娘に『さようなら』と言いたかった……私たちには、さようならを言う機会さえ無かった」


一面に広がる大空が私を包み込んでいる。

まるであの日、初めてあの娘と言葉を交わしたあの日。

539 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:55:11.44 ID:xlUQQs3U0


「せめて、最後にもう一度だけ傍に居て、話をしたかった……あの娘の声色を聴いていたかった」


そして短い間だが、一緒に駆け抜けた、あの激動の時代の海原の様だ。

540 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:56:23.13 ID:xlUQQs3U0


「もう少し、あの娘と一緒にこの時代を生きたかった……あの娘はこの現代の様子を見て、一体何を思うだろうか」


あの時のあの娘は、私たちの想いを乗せ、凛とした姿で勇敢に海原を進んで行った。

541 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:58:00.38 ID:xlUQQs3U0



「だが、それでも……それでも私は、あの娘に私自身の想いを託して、あの娘と共に戦う事が出来た事……あの娘と共に過ごせた事……それだけで、私が生きた意味は十分にあった……十分に、価値があったんだよ……」


涙で揺らぐ太陽。

あの太陽、あの娘と過ごした輝かしいあの日々は、あの太陽の様に眩かった。

軍艦・球磨の艦長を務め、共に激動の時代を駆け抜けたあの日々は、今でも誉に思う。


542 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:59:05.83 ID:xlUQQs3U0


「……25年か……随分、長い事待たせてしまったな……」


そして、あの娘との思い出、その清らかな愛情の記憶を胸に、私は空へと還れる。

543 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:59:37.78 ID:xlUQQs3U0


「私は答えを見つけた」


もう一度、あの娘に会える。

544 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:00:17.29 ID:xlUQQs3U0


「今からそっちに行くよ、球磨」


そして再会したらこう言ってやる。

545 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:00:46.74 ID:xlUQQs3U0



――この親不孝者、と――。


546 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:01:48.00 ID:xlUQQs3U0



瑠璃色に彩ったこの蒼空の海の向こうに、きっとあの娘が居る。

中将はそれだけを信じ、静かに、唯眠る様に静かに、軍艦・球磨の夢の続きを見ながら、その生涯に幕を下ろした。


547 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:02:59.57 ID:xlUQQs3U0



 ……………………………… 
 ……………………………… 


548 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:03:40.93 ID:xlUQQs3U0



――この深い水底から、球磨はもうずっと答えを求め続けていた。


549 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:05:04.91 ID:xlUQQs3U0


軍艦・球磨は、何かを掴みたくて手を伸ばそうとする。

沈み行く意識に抗い、この深い海底から必死に手を伸ばした。

澱み、蝕み、そして儚く散っていく意識に負けない様に、軍艦・球磨は想いを繋ぎとめていた。

550 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:05:56.63 ID:xlUQQs3U0


沈められた敵に対しての憎しみからではない。

「答えを得たい」と言う、その想いから。

551 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:07:01.66 ID:xlUQQs3U0



――――この戦いに、この想いに、自分やあの人が生きた意味に、どれだけの価値があったかを。


552 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:07:37.80 ID:xlUQQs3U0


その答えを得る為に。

提督との約束を果たす為に。

軍艦・球磨は答えを求め続けた。

553 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:08:06.15 ID:xlUQQs3U0



しかし軍艦・球磨には、その最後の願いすら許されなかった。


554 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:08:50.24 ID:xlUQQs3U0



 ……………………………… 
 ……………………………… 


555 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:09:28.07 ID:xlUQQs3U0



――私は……何年、何十年、此処で過ごしたのだろうか。


556 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:10:45.40 ID:xlUQQs3U0


軍艦・球磨は何時しか、答えを得るのを諦めていた。

軍艦・球磨は、そう心変わりする程の時間。

余りにも長い時間を、独りこの海底で過ごした。

557 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:11:28.82 ID:xlUQQs3U0


それでも軍艦・球磨は、この閉ざした世界で、在りし日の提督や共に戦った人達と過ごした、あの輝かしい日々の夢の続きを見ていた。

何時までも忘れない様に、消えない様に、失わない様に、必死に記憶を心へと手繰り寄せ、必死にかき集めた。

558 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:12:08.97 ID:xlUQQs3U0



――私に想いを託してくれた、提督の想い。

――私と運命を共にした、あの人達の想い。


559 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:13:14.47 ID:xlUQQs3U0


それだけが、軍艦・球磨の慰めだった。

それだけが、軍艦・球磨の心の在り処だった。


想いを馳せた、遠い遠いあの日々。


それだけが、軍艦・球磨の全てを優しく受け入れてくれた。

それだけが、軍艦・球磨の脆弱な心を優しく満たしてくれた。

560 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:14:33.33 ID:xlUQQs3U0



――提督。


561 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:15:17.92 ID:xlUQQs3U0


そしてそれでもなお、暗く透明な揺り籠に抱かれながら、軍艦・球磨はいつも夢見ていた。

軍艦・球磨は、在りし日の提督に貰った軍帽を抱き、ずっと待ち続けた。

いつか答えを抱いて、提督の元へとゆける日が来る事を。

562 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:16:21.65 ID:xlUQQs3U0



――でも……独りは寂しいよ……。

――でも……独りは切ないよ……。


563 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:16:49.32 ID:xlUQQs3U0



軍艦・球磨は孤独に抗えず、独りずっと泣いていた。


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